ただの自己満足の物語 (かんごりん)
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前編
不思議な夢を見ていた。
目の前には髪の色以外は俺と全く同じと言ってもいいほどそっくりな姿だが、全身包帯だらけ、しかも左腕が存在しないという奇妙な男がいた。
「なあ、シュヴィ———俺、未練たらたらだよ・・・・・・しまらねぇ旦那で、すまんな」
———誰だ、あんたは?
当然返事が返ってくるはずもなく、男は一人続ける。
「あぁちくしょ———やっぱコロンに土下座してでも、おまえを抱きたかったよシュヴィ」
———
男はそう呟いた後、しばらく考える様なそぶりをしてから首を横に振る。
「いや、やっぱねぇな・・・・・・そこは強がれねーわ・・・・・・はは・・・・・・」
続きを見ようとしたところで、
世界がグワン、と揺れた。
(嘘だろ? こんないいところで眼が覚めるのかよ・・・)
意識が覚醒していく。
今も何か独白し続けている男の姿を見ながら、俺は最後にこれだけは知りたかった。
———なあ、あんた一体どこの誰なんだ
そこで完全に目が覚めた。
★
「・・・・・・死にたく、ない・・・・・・死ねない・・・・・・それでも、殺す、なら———」
シュヴィは、ポツポツと・・・・・・だが決然とした表情で言い放つ。
———彼我戦力、考察。
———彼、天翼種ジブリール。 戦力未知数———平均天翼種の倍と仮定。
———我、機凱種『解析体』戦闘力特化機体『戦闘体』の出力32%未満。
また、我には機凱種の最大の武器である連結体———支援機不在。
使用可能な武装は連結解除の為、全身二七四五一のうち、四十七のみ。
算出勝率———絶無。 だが———リクの言葉が思考を過ぎる。
———確率論に『○』は———ない———。
「【読込】 コード1673B743E1F255スクリプトE起動——— 【典開】 ———」
同時展開出来る全ての武装を典開させ———シュヴィは宣言した。
「———全武装・・・・・・戦力、戦術、戦略を賭して・・・・・・命乞い、開始する」
「おや? 機凱種は撃破要因を解析し模倣する種のはずでございますが———」
だがシュヴィの宣戦布告を、ジブリールは———神さえ嘲る顔で、答える。
「もしやどなたか笑い殺されたので? 非常にユニークでございますねぇ❤」
そのゾッとする顔でこちらを見られた瞬間、シュヴィは思わず、
(・・・たす、けて リク)
★
「・・・シュヴィ?」
何故かは分からないが妙な胸騒ぎがして、俺は最愛のパートナーの名を口にする。
「あっ! 目を覚ましたのねリク!」
しかし、返ってきたのはいつもの無機質な声ではなく、正反対の快活で明るい姉コロンの声だった。
俺は声の聞こえた方を向こうとして、ピタリと動きが止まる。
(・・・待て、何で天井が見えてる? それに今コロンは俺が目を覚ましたと言ったか?)
だんだんと思考が覚醒していき、自分の現状を理解した瞬間、俺は飛び起きた。
「シュヴィ! おいコロン、シュヴイはどこだ!?」
「り、リク?」
起き上がるなりすぐに大声を張り上げた俺にコロンはビクッと身を竦ませる。
だが、そんなコロンの様子に構わず俺はコロンへと詰め寄る。
(こんな大事なときに暢気に俺は寝てたのか!? ・・・いや、今はそんなことよりシュヴィだ___ここにいないってことはまさか!?)
最悪の事態を想像し、内心では激しく動揺しながらも、できるだけ平静さを装い、コロンからの返答を待つ。
だが、コロンからの返答は悪い方で俺の予想通りのものだった。。
「シュヴィちゃん? ・・・そういえばさっきから姿を見てないような___って、何をしてるのリク!? 安静にしてないと駄目に決まってるでしょ!!」
その言葉を聞いた瞬間、俺はベットから立ち上がろうとして失敗した。
その原因は俺の身体のあちこちを蝕んでいる黒灰による腐敗からくる痛みだ。
コロンが慌てた声を上げ、俺の身体を優しく押して再びベットへと寝かそうとしてくるが、
ガシッ
左手を失った俺は残った右手でコロンの腕を掴み、痛みに呻きながらも目だけはしっかりとコロンを見据える。
「ど、どうしたのリク?」
俺の気迫に何かを感じ取ってくれたのかコロンは問いかけてくる。
「・・・・・・険かもしれないんだ」
「えっ?」
「シュヴィの身が危険かもしれないんだ! 俺が・・・俺があいつを助けに行かねぇと!」
俺はそう叫び、ベットからコロンにもたれかかるような形で何とか降りる。
そのままふらつきながらも何とか出口を目指すが、目の前にコロンが立ちはだかった。
「・・・どいてくれ」
「どういうことか説明してリク」
両手を横に広げ、絶対に通さないという意思を感じさせる瞳でコロンは俺を見据えてくる。
今はコロンと話している時間すら惜しかった俺はコロンを押しのけようとするが、
「・・・リク?」
コロンはその場から全く動かず、むしろ俺の行動を訝しんでいるようだ。
情けないことに今の俺には目の前の女一人押し退ける力すら残されていないらしい。
押し退けることに失敗した俺は身体全体を使って押し通ろうとしたが、両肩をガシッと掴まれ、身動きを封じられてしまう。
「・・・どけよ」
「イヤ、私一人振り払えない程衰弱してる身体で何処に行く気?」
自分から出たのが信じられないくらい底冷えする声にコロンは一切物怖じすることなく言い返してくる。
「頼むからどいてくれコロン・・・、こんな事してる間にもシュヴィの身に危機が迫ってるかもしれないんだぞ!?」
「まともに動くことすら出来ないあなたに何が出来るって言うの!? そんな状態でシュヴィちゃんのところにかえって迷惑なだけに決まってるじゃない!」
コロンのその言葉を聞いた俺は奥歯をギリッと噛み締める。
悔しいがコロンの言っていることはまぎれもない真実だ。
こんな状態・・・いや、例え万全の状態であろうとも
だが、俺は確かに聞いたんだ。
———たす、けて リク
ただの夢だったかもしれない、俺が勝手にシュヴィが^_^そう言っている様に考えただけかもしれない。
けど、例えそうだったとしても、シュヴィが俺に助けを求めている可能性が1パーセントでもあるかもしれないなら俺は行かなきゃならいない。
最愛の人が自分に助けを求めている、ボロボロの身体を引き摺ってでも無理をするには十分過ぎる理由だ。
しかし、
「がはっ!」
「リク!!」
どれだけ固い決意を固めようと身体の方は既に限界だった。
再び動こうとしたその時瞬間、身体中を走った激痛に自分でも堪えきれずに膝をつき、口から血を吐き出してしまう。
そのまま前のめりに倒れそうになった俺を泣きそうな顔でコロンが慌てて支え、
「———っ! ———ッ!」
何事かを言ってきているが、無理をしたせいか耳が聞こえなくなっている。
(・・・動けよ俺の身体。 動いてくれよちくしょう)
血が足りてないのか意識も朦朧としてくる。
朦朧とする意識の中で最早自分自身へ悪態をつく気力さえなくなりながら、俺は
(・・・頼むよ神様。 こんな時だけ頼って都合がいいのは分かってる、こんな俺にできることならなんだってする。 だから・・・だから!)
神、とは人に望まれ願われることによってその姿を創り、顕す。
ただの迷信かも知れないが、やれるだけのことはやりきろう。
・・・本当ならこんな人任せはしたくなかった、できることならこの役目は自分でやりたかった。
(シュヴィを・・・・・・俺の大事な人を助けられる力を持った神様、どうかあいつを守ってやってくれ!!!)
そう祈り終えると同時に、
『よお、
聞こえる筈のない心地の良い幻聴が耳に入り、俺は意識を失った。
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