天空の乙女達 ―La Sylphide― (土居内司令官(陸自ヲタ))
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AGL.00

 大量の戦車が、土煙を巻き上げて進む。ざっと30両はいるだろうか。その他にも、LAV-25装輪装甲車が随伴している。

 ハッチやキューポラには、ブレザーやカーディガンといった制服に身を包んだ女子高生の姿があった。乗っているのは、M551 シェリダン軽戦車やM1A1HA エイブラムス主戦車だ。

 

 

 

〔アルテミス6、タリー(目標視認。タリホーの略)。蒼勅学館と思われる戦車軍団を発見〕

〔懲りませんねぇ。アルテミス4よりオウル02へ。ナルガイ峡谷付近に味方ではない戦車軍団を発見、攻撃する。いいですか? 応援を呼ばないでくださいよ。これは、私達の取り分ですから!〕

 3機の双発・双垂直尾翼の大型戦闘機が急降下する。先頭は、黒・灰・白の3色迷彩、2番目は灰色、3番目は黒色だ。

 先頭が、M551 シェリダン軽戦車目掛けて30mm機関砲を発射、戦車が大破して乗員が飛び出した。

 コクピットの少女は、操縦桿を引く。透き通るような白い髪と肌、右目にはAH-64D アパッチロングボウに使われるような先進表示システムがあった。端から見れば、女子高生がモノクルをしているようだが、乗っているのは普通ではない。最大速度はマッハ2を超える、超音速の大型格闘戦闘機――スホーイ Su-35S フランカーE――である。

 

 先頭のSu-35S フランカーEが機首上げ、上昇する。そして、後続の機体――F-15MJ イーグルとF-15K スラムイーグル――がM551 シェリダン軽戦車目掛け、20mmバルカン砲を発射した。

 その時、受動警戒装置が警鐘を鳴らした。レーダーアラート、チャフを撒きながら旋回する。

〔これ以上好きにはさせないよ、『戦処女』!〕

〔ようやくエスコートファイターの到着ですか。アルテミス4、エンゲージ!〕

「5」

〔6!〕

 Su-35S フランカーEが胴体下の増槽を捨てる。

〔いつも思うけど、フランカーに増槽なんているの?〕

〔気分ですよ気分〕

 そして3機は、4機のF-8E クルセイダーとすれ違った。

 

 F-15MJ イーグルとF-15K スラムイーグルは左旋回、一方Su-35S フランカーEは右旋回しながら上昇する。

 F-15MJ イーグルとF-15K スラムイーグルは左バレルロールを打ち、降下する。2機のF-8E クルセイダーがそれに続く。

 一方、上昇したSu-35S フランカーEは急降下、2機のF-8E クルセイダーに襲い掛かる。

〔遅い! アルテミス4、FOX2、FOX2!〕

 Su-35S フランカーEは2発のAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを連続発射。しかしF-8E クルセイダーはフレアを撒いてブレイクする。

 

 F-15MJ イーグルとF-15K スラムイーグルは左右にブレイク、F-8E クルセイダーも二手に分かれる。

 左へ旋回したF-15MJ イーグルはアフターバーナーを焚き、F-8E クルセイダーを加速させる。2機は高速シザース機動、しかしそこへF-15K スラムイーグルが襲い掛かる。F-8E クルセイダーのパイロットは後ろを振り返り、フレアを撒く。

 F-15K スラムイーグルの広角ヘッドアップディスプレイに、F-8E クルセイダーが入った。兵装選択、ガン。AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルのシーカーマークの代わりにガンレクティクルが現れ、F-8E クルセイダーを囲むターゲットボックスと重なった。

〔アルテミス6、FOX3!〕

 F-15K スラムイーグルの20mm M61バルカン砲が作動、F-8E クルセイダーの左主翼と胴体が穴だらけになる。そして、パイロットは緊急脱出した。

 

 F-8E クルセイダーの胴体下面のエアロブレーキが展開、減速する。しかし、Su-35S フランカーEの方向舵が左右に作動して、2機は低速飛行を行う。

 そこへ、もう1機のF-8E クルセイダーがやってくる。Su-35S フランカーEはエンジンをミリタリーへ、同時にフラップを上げて加速する。

 加速したSu-35S フランカーEはF-8E クルセイダーを追い抜いた。2機のF-8E クルセイダーはSu-35S フランカーEを追い掛ける。

 が、Su-35S フランカーEは突然機首上げ、機体全体で抵抗になり、急減速する。そして、2機のF-8E クルセイダーは衝突を回避するためにエルロンロール、Su-35S フランカーEを追い越した。

 Su-35S フランカーEは機首を下げ、2機のF-8E クルセイダーをロックオン、再び2発のAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射した。1発は左のF-8E クルセイダーを、もう1発はLOAL(発射後ロックオン)機能で右のF-8E クルセイダーを追い掛ける。

 

 

 

 F-15K スラムイーグルの受動警戒装置が警告を発した。コクピット情報のアラートランプが点灯、ロックオンされた。

「フレア!」

 後席の白いYシャツ姿の女性WSO(兵器システム士官)が叫び、前席のキツネ色のカーディガンを着た女性パイロットがスロットルレバーのボタンを押した。

 F-15K スラムイーグルの胴体下面からフレアが撒かれ、機体は左バレルロールを打った。

 

 後ろについたF-8E クルセイダーは、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射出来なかった。今発射したとしても、必ずフレアに妨害されるからだ。

 

〔遼子! バックアップはまだ!?〕

「今後ろを取った」

 F-15K スラムイーグルを追い掛けるF-8E クルセイダーの後ろに、F-15MJ イーグルがついた。兵装選択、SRM(短距離ミサイル)。ヘッドアップディスプレイにミサイルシーカーマークが現れ、ターゲットボックスと重なる。

 F-8E クルセイダーはフレアを撒く。しかし、F-15MJ イーグルに乗った、赤いブレザーを着た長い茶髪の少女は構う事無くミサイルレリーズを押した。

「アルテミス5、FOX2」

 F-15MJ イーグルの右主翼下から1発のAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが発射された。しかし、少女は兵装選択レバーを「SRM」から「MRM(中距離ミサイル)」に切り替え、再びミサイルレリーズを押した。

 F-15MJ イーグルの胴体下から、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが発射される。先に発射されたAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルはフレアに引きつけられるも、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルのアクティブレーダーは確実にF-8E クルセイダーを捉える。そして、近接信管を作動させた。

 




次回登場機

F-15MJ イーグル
トーネードEF.3


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Tranche1 彼女達の大空
AGL.01


 太平洋に浮かぶ大陸、通称・幻夢大陸。余りにも他の島から離れ過ぎているため、第二次世界大戦まで、その存在は知られていなかった。そして、日本とアメリカはこの大陸を奪い合い、未知の生態系が築かれていたこの大陸を、焦土にしてしまった。

 

 

 

 それから70年余り――

「こちら、アイオロス16。TACネーム・ランス、パーソナルネーム・イーグル503。オウル02、朱矢学院と思われる威力偵察機を発見した。増援の必要無し。これより攻撃する」

〔あっ! イーグル503! 位置と数を教えよ!〕

「どうせそのデカい円盤で位置は分かってるでしょう?」

 右目にモノクル状の先進表示システムを着け、赤いブレザーを着た少女は、操縦桿を倒す。

 

 

 

 編隊飛行する2機のトーネードEF.3の受動警戒装置に反応が出る。

〔CAP(戦闘空中哨戒)機かしら? ちょっと反応が早くない?〕

「さっきから嫌と言うほどAWACS(空中警戒管制機)のレーダーを探知している。来てもおかしくは無いだろう」

 その時、コクピットに警報が鳴った。「レーダー波を受信」ではなく、「レーダー波が指向されている」という意味の、甲高い音。つまり、ロックオン警報だ。

「マジかよ、躊躇無くMRM(中距離ミサイル)を撃つ気だ!」

〔IFF(敵味方識別装置)に反応の無い機は遠慮無くミサイルをぶっ放すでしょう、普通?〕

「確かにな。ショーン、敵機は何処だ?」

「上だ。こっちのレーダーには映らない位置にいる。ケリー、機首を上げろ。アーロン、スクランブルエンゲージだ」

「分かった。ギルド14、マスターアーム・オン(交戦準備)! エンゲージ(戦闘開始)!」

 2機のトーネードEF.3は機首を上げ、パルスドップラーレーダーで敵機を捉える。

「レーダーコンタクト! ギルド14、FOX3!」

〔ギルド23、FOX3!〕

 2機の胴体下から、1発ずつAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが発射された。

 

 

 

 トーネードEF.3目掛け、降下する双発・双垂直尾翼の単座戦闘機――F-15MJ イーグル――の受動警戒装置がロックオン警報を鳴らす。少女は素早く2発のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルをリリース、直後に増槽を切り捨て、チャフを撒きながら旋回する。

 スロットルレバーを奥へ倒し、アフターバーナーを焚く。2基のP&W/IHI F100Jターボファンエンジンの可変ノズルが開き、アフターバーナーの炎が噴き出す。

 

 

 

 ピィーッ!

 トーネードEF.3の機内にミサイル接近警報が鳴った。2機は主翼下の2本の増槽を捨て、チャフを撒いて回避機動に移る。

 

 お互いがミサイルをかわし、さらに近付く。

 少女はスロットルレバーの兵装選択レバーを「MRM」から「SRM」へ動かす。ヘッドアップディスプレイにでかでかと出ていたロックオン可能範囲円がミサイルシーカーマークに変わる。

 

「ケリー、先に行け! 奴は俺が相手する! ショーン、ドッグファイト(格闘機動戦)だ!」

「OK、キルスコア(撃墜・撃破記録)は山分けといこう」

 2機のトーネードEF.3は分かれ、主翼にティーカップを描いたトーネードEF.3は降下、一方の真っ黒なトーネードEF.3は上昇し、F-15MJ イーグルへ向かう。

 やがて、視界にF-15MJ イーグルが見えた。素早くヘッドオンでAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射する。

 

 再びF-15MJ イーグルのコクピットにミサイル接近警報が鳴る。AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルで撃ち返し、フレアを撒いて回避する。

 そして、すれ違った。

 黒いトーネードEF.3はバレルロールし、背面降下。一方のF-15MJ イーグルは左旋回、黒いトーネードEF.3目掛け上昇する。

 再びすれ違う。黒いトーネードEF.3の2人は首を回し、F-15MJ イーグルを探す

「消えたぞ!?」

「アーロン、左にはいない!」

 アーロンと呼ばれた黒髪の男子高校生は操縦桿を倒し、再びバレルロールで背面を下へ。

 すると、いた。こちらに機首を向けたF-15MJ イーグルが。

「――っ!?」

 そのまま海目指して急降下。F-15MJ イーグルも続く。

 海面が近付き「プルアップ(機首上げせよ)」という警告音声が、黒いトーネードEF.3のコクピットに響く。

 2機は機首を上げ、海面を掠める。

 F-15MJ イーグルのヘッドアップディスプレイに、黒いトーネードEF.3が大写しになった。兵装選択、ガン。ヘッドアップディスプレイのミサイルシーカーマークがガンレクティカルに切り替わり、黒いトーネードEF.3と重なる。ガンレクティカルの距離計は射程内を示す。

「アイオロス16、FOX3」

 F-15MJ イーグルの20mm M61バルカン砲が唸った。黒いトーネードEF.3の右主翼と垂直尾翼が粉砕され、パイロットとWSO(兵器システム士官)が緊急脱出した。

 

 緊急脱出した黒髪の男子高校生――アーロン=シンディ――は飛び去っていったF-15MJ イーグルを睨んだ。

 

 

 

 左主翼にティーカップを描いたトーネードEF.3の受動警戒装置が、ロックオン警報を鳴らす。

「シックスオクロック! きっとさっきのイーグルよ!」

「じゃあアーロン達はやられたの!?」

 ティーカップのトーネードEF.3はアフターバーナーを焚く。が、飛んできた2発のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルは近接信管を作動させ、撃墜した。

 

 赤いブレザーの少女は、ふうっと息を抜き、こう宣言した。

「こちらアイオロス16。TACネーム・ランス、パーソナルネーム・イーグル503。朱矢学院の威力偵察機を全機撃墜。コール・RTB(帰投宣言)」

 

 

 

 やがて、滑走路が見えてきた。着陸許可が下り、F-15MJ イーグルはフラップを下げる。機首を上げ、ランディングギアを下ろす。エアロブレーキ通常展開、タッチダウン。エアロブレーキ最大展開、トゥブレーキ作動。

 機首側面に黒く「503」、左主翼上面に突撃槍、赤く塗られた右垂直尾翼に白百合の花が描かれた、IRST(赤外線追跡装置)を備えたF-15MJ イーグルがエプロンへやってくる。しばらくタキシーウェイを走り、大量に並んだ掩蔽壕の1つの前に止まる。すると、整備員達が駆け寄ってきた。

 少女はキャノピーを開け、シートベルトを外す。そして背負っていたパラシュートを外し、それを手にF-15MJ イーグルから、掛けられた梯子で降りた。

 整備員と一言二言交わし、用意されていた三菱 パジェロ――もとい、73式小型トラック(新)もしくは1/2tトラック――の運転席に座り、エンジンを掛けた。

 

 アクセルを踏み、掩蔽壕や格納庫、そして93式近距離地対空誘導弾(近SAM)や11式短距離地対空誘導弾(短SAMⅡ)、L90 35mm対空機関砲、VADS 20mm対空バルカン砲を尻目に、巨大な建物目指して走る。そして、建物の正面に回り込んだ。広々とした駐車場に73式小型トラック(新)を止め、巨大な建物に入った。

 廊下を進み、「補給処」と書かれた部屋――というより別棟――に入る。そして、「航空科」と示されたカウンターに向かった。

「おや、遼子ちゃん」

 カウンターでスマホを弄り、首から「松平 恋香」と書かれたネームホルダーを提げた、クリーム色の髪の女子高生が顔を上げた。

 長い茶髪の少女は、クリーム色に向かってこう言った。

「私のイーグル503に、アムラームを4発、サイドワインダーを1発、それから20mm弾を90発」

 そう言われ、クリーム色は電卓を叩いた。

「540ポイント」

「待って、今日は2機しかキル(撃墜)してないの」

「でも、制度が制度だからね」

「500に値切って」

「補給科に友情割引制度は無いよ」

「ケチ」

「おぉう、二言目がそれかい……『お願いします、恋香様。あなたの従順なるメイドとなりますから値切ってくださ〜い』と、可愛い声で言ってくれたら300にしてあげる」

 少女はクリーム色にチョップを繰り出し、汚物を見るような目で言った。

「もう540でいいわ」

 




次回登場機

F-15MJ イーグル


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AGL.02

 太平洋に浮かぶ絶海の大陸、幻夢大陸。70年前の激戦地は、今なお激戦地であった。

 

 

 

「遼子ー! 遼子ったらー!」

 茶髪ロングの少女に、彼女と同じブレザーを着た黒髪の少女がやってきた。長い黒髪を後ろで1つにまとめている。

「何?」

「今日もフリーで出てったって!? 『私と一緒に飛ぼう』って約束したじゃない!」

「でも、街へ遊びに行ったじゃない」

「……それは、その、遊びたいから……」

 茶髪ロングは溜め息をつく。そして、口を開いた。

「これから2時間のアラート待機なんだけど」

「……遼子ー!」

 

 

 

 幻夢大陸で今なお続く戦争、その原因は軍需企業であった。絶海の大陸の利用手段、さらに帰属で手をこまねいていた各国に対し、アメリカのある企業がこう提案した。

「恒久的な戦争を起こし、兵器の実験を行えばいい」

 これに、世界中の企業が賛同したのだ。

 

 そして、世界各国から留学してきた高校生によって、戦争が継続されている。

 

 彼女、土岐代 遼子もその内の1人だった。

 

 

 

 今、2人はアラート待機を行っている。

 リクライニングチェアに座り、夜食を頬張りながら、ひたすら敵機を待つ。

 遼子はテレビを見る。そこには、精密誘導爆撃を行う映像が流れていた。

【アメリカ海軍機、中東某国にて空爆作戦】

 隣の女子高生――柴門 美紀(しもん みき)――はスマートフォンでネットサーフィンをしていた。土岐代は好物の柿の種(ピーナッツ 0%)を口に放り込み、噛み砕く。

「敵さん来ないねー」

「そんなもんでしょ」

 2人は軽く会話した。

 

 学校間の戦争、と聞くと物騒だが、死者はほとんど出ない。使われるのは実演弾と呼ばれる一種の麻酔弾であり、兵器や建物を破壊するが、人体には悪影響は無い。

 そして、生徒達はポイントを稼ぐために戦う。撃墜、もしくは撃破を行う、または指定されたミッションを行えばポイントを稼げる。そして、このポイントで弾薬を購入したり、学校の外の市街地(城下町と呼ばれる)で使ったりできる。

 エンゲージメント(交戦事項)と呼ばれる戦闘が3つあり、生徒達はこれを行っている。

 1つ目は「ストライクエンゲージ」で、学校が定めたミッションを行う。主なものとして、「他校領域への偵察」、「他校領域への侵攻」等。稼ぎは多く、支援も多いが、危険性が高い。

 2つ目は「スクランブルエンゲージ」で、侵攻してきた他校勢力を迎撃する。待機を行うだけでもポイントが入るので、「お得」である。

 最後が「フリーエンゲージ」、つまり「自由に戦闘せよ」である。

 

 

 

 2時間のアラート待機も、あと2分で終わる。が、待機所に警報が響いた。

《スクランブルエンゲージ発令! スクランブルエンゲージ発令! ベクター(方位)290より8機! アラート待機班は緊急発進!》

「来やがったか!」

 美紀が叫ぶ。そして2人は待機所を飛び出し、直結したアラートハンガーへ。そこに並んだ2機のF-15MJ イーグルに掛けられた梯子を登り、シートベルトを絞める。整備員が梯子を外し、エンジンを始動させながらキャノピーを閉じる。整備員達がミサイルの装着を確認、安全ピンを外してパイロットに見せる。遼子は確認し、コクピットの兵装管理ディスプレイを見る。主翼下に4発のAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイル、胴体下に4発のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルと1本の増槽を装着しているのを確認する。

〔アイオロス13、アイオロス16。離陸許可が下りた。ランウェイ00Lから離陸せよ〕

〔アイオロス13、コピー(了解)〕

「アイオロス16、コピー」

 2機のF-15MJ イーグルがアラートハンガーから出る。片方の機体番号は「503」、右垂直尾翼は赤く塗られ、白百合の花が描かれ、左主翼には突撃槍が描かれている。もう片方の機体番号は「382」、そして機体全体が紫色に塗られている。2機とも、機体各所に青い丸が描かれている。

 2機は滑走路に並び、エンジンを吹かす。

〔行くよ! アイオロス13、テイクオフ!〕

「アイオロス16、テイクオフ」

 2機はフラップを下げ、アフターバーナーを焚いて滑走する。そして、飛び上がった。

 




次回登場機

F-15MJ イーグル
F-100C スーパーセイバー
F-105D サンダーチーフ


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AGL.03

 飛び立った2機のF-15MJ イーグルのヘッドアップディスプレイに、JADGEシステムで送られてくる迎撃目標方位が映される。

〔アイオロス隊、こちらトレボー。迎撃数8、相対高度750、下方。あと3分で接触する〕

 学園の管制放送室から指示が下りる。遼子と美紀はAN/APG-63V3 AESAレーダーをルックダウンモードへ。

「アイオロス16、レーダーコンタクト。スクランブルエンゲージ」

 2機のマスターアームスイッチがオンになり、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルによる牽制攻撃を開始する。

 2機は2発ずつ発射し、エアロブレーキを開いて旋回する。

 

 

 

 計4発のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが飛んできて、3機のF-105D サンダーチーフと1機のF-100C スーパーセイバーを撃墜する。

 4機のF-100C スーパーセイバーとF-105Dサンダーチーフは増槽や爆弾を切り捨て、2機のF-15MJ イーグルを視認した。

 

〔アイオロス13、セパレート・タンク!〕

「アイオロス16、セパレート・タンク」

 2機は増槽を投下、ヘッドオンでAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射する。

 F-100C スーパーセイバーとF-105DサンダーチーフもAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射、散開する。

 2機と4機はフレアを撒きながら離れていく。遼子は首を回し、敵機を見る。操縦桿を操作し、機体を操る。

 2機のF-15MJ イーグルは右旋回、4機を追って降下する。夜間でも、機体のIRSTが敵機を捉え、その映像を右目の先進表示システムに映す。

 ヘッドアップディスプレイにF-105Dサンダーチーフを捉え、兵装選択レバーを「SRM」へ。ターゲットボックスとシーカーマークが重なった。

「アイオロス16、FOX2」

 遼子はミサイルレリーズを押し、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射した。F-105Dサンダーチーフはフレアを撒くが、旋回が遅かったために命中する。

 

 美紀のF-15MJ イーグルが右旋回、F-100C スーパーセイバーを追い掛ける。2機共エアロブレーキを開き、ギリギリの旋回戦を行う。やがて、ヘッドアップディスプレイにF-100C スーパーセイバーが入った。スロットルレバーを少し押し、加速させる。物凄いGに息が止まり、視界が暗くなる。ようやくターゲットボックスとガンレクティカルが重なり、美紀はトリガーを引いた。

「アイオロス13、FOX3!」

 20mm M61バルカン砲が唸り、F-100C スーパーセイバーが粉々になった。

 

 遼子の後ろに、2機のF-100C スーパーセイバーがつく。遼子は後ろを振り返りながら、フレアを撒いて回避する。

〔遼子、こっちは1機キルしたよ!〕

「今2機に追い掛けられてる!」

〔分かった、援護に向かう!〕

 遼子は操縦桿を思い切り引き、同時にスロットルレバーを手前に引いてエアロブレーキを開く。上昇したF-15MJ イーグルは背面のまま降下、一気に2機のF-100C スーパーセイバーを突き放す。

 ある程度降下した所で機体を水平に戻す。F-100C スーパーセイバーを見失ったが、向こうもこちらの位置は分かっていない。遼子は頭の中で3Dマップを描き、F-100C スーパーセイバーの位置を予想、その方向へ顔を向ける。

 右目の先進表示システムと連動してIRSTが動き、F-100C スーパーセイバーを捉えた。再び遼子はミサイルレリーズを押し、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射、F-100C スーパーセイバーを撃墜した。見れば、美紀ももう1機のF-100C スーパーセイバーを撃墜していた。

 

 2機のF-15MJ イーグルは編隊を組み直し、学園へと方位を変えた。

 




次回登場機

F-15MJ イーグル


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AGL.04

 2機のF-15MJ イーグルはランディングギアを降ろし、アプローチに入る。エアロブレーキを開き、タッチダウン。ウィリー滑走の後に前脚を付けて減速しきる。

 エプロンに入り、パーキングブレーキをセットしてキャノピーを開く。そして、2人は降りた。

「やあやあ、お2人さん」

 そこへ、補給科のクリーム色――もとい、松平 恋香がやってきた。

「マッちゃん、何か用?」

 美紀が親しげに問うと、恋香は含み笑いを見せた。

「いやね、格安のサイドワインダーが手に入ったから、お得意さんに売ろうかなーってね」

「いくら?」

 遼子が「またか」という顔をしながら尋ねると、恋香は答えた。

「50発で1000ポイント!」

「1発20ポイントって……半額以下じゃない!?」

「それ、まさかロケットブースターがイカレてないでしょうね?」

 あまりの安さに、美紀は驚き、遼子は呆れる。

「馬鹿言わないで! この松平 恋香様が飛ばないミサイルを売った事があるとでも!?」

「でも、不良品のシーカーの所為で目標を追い掛けないサイドワインダーを渡されたぜ」

 突然、1人の男子高校生が割り込んできた。遼子は彼の名字を呟く。

「赤峰……」

「赤峰 大希! 何であたしの商談を邪魔する訳!? その程度で恨むなんて器小さ過ぎよ!」

「当然だ。不良品を使わされてみろ、こっちは命懸けで戦ってんだ。航空科全員から袋叩きにされたくなきゃ、ちゃんとした奴を売れ」

 そして去っていった。恋香は握り拳の親指を立て、それを地面に向ける。

「ふんだ、文句言うなら買わなきゃいいのに」

「マッちゃん、ちょっと話があるんだけど」

 怒り心頭な恋香に、美紀が話し掛けた。

 

 

 

 翌日、ホームルームにて――

「全員、揃っているな?」

 遼子達の教室に、スーツ姿の女性教師が入ってきた。

 生徒達は一斉に起立し、敬礼する。――机に伏せているただ1人を除いて。

「来鳥、起きろ」

 女性教師が小突く。そして、長いウェーブがかった黒髪の少女が、頭を上げた。

「眩しい……」

 そして、また頭が机に着地した。

 

 朝の教室に、何かをひっぱたく音が響いた。

 

 

 

 ここ、青衝学園では――というより、幻夢大陸にある高校は全て単位制を取っている。それも、「ストライクエンゲージに一定数参加する」か、「所定のポイントを払う」かのどちらかが必須条件である。

 そして、今日もストライクエンゲージが行われる。

 

「どうせ、3年の先輩方の弾除けでしょ? 1年はセイバーやスターファイターで基礎教練なのに……」

「勝手に出撃して、追い掛けてきたF-16をF-104で返り討ちにした癖に」

「それは遼子もでしょう? まさかイーグルをキルするとは思わなかったわ」

 2人は、駐機場に並んで止まったF-15MJ イーグルのコクピットで話していた。

 すると、整備員が準備が整ったのを知らせた。その手には8本の安全ピン。

 遼子はキャノピー開閉ボタンを押し、キャノピーを閉める。APU(補助動力装置)起動、電力を溜めて左エンジンのタービンブレードを回す。GE/IHI F100Jターボファンエンジンが唸り始め、エンジン回転計の針が回る。右スロットルレバーを前へ倒し、右エンジンも始動させる。

 広域通信システム起動、メインミッションコンピューター・オールグリーン、マスターアームスイッチ・オフ、FCS(射撃統制システム)異常無し、レーダー・チェック、ジャイロコンパス・OK、INS(慣性航法装置)・応急規正、兵装・AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイル 4発、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイル 4発、20mm M61バルカン砲 940発、増槽 3本。

〔フジタワーからアイオロス1、2。Cleared for takeoff!〕

 見れば、滑走路から2機のF-15MJ イーグルが編隊離陸していく所だった。片方は炎をイメージした派手な塗装、もう片方は青色の洋上迷彩が施されていた。

 

 

 

〔アイオロス13、16。Cleared for takeoff!〕

 2機はアフターバーナーを焚き、トゥブレーキを解除、滑走を始める。

 

 そして、飛び上がった。

 




次回登場機

F-15MJ イーグル
F-1
F-2A バイパーゼロ
F-4EJ改 ファントムⅡ
EF-2000
F-104S スターファイター
E-2C ホークアイ


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AGL.05

 離陸したアイオロス隊28機は上空で編隊を組み、他校のテリトリーへ向かう。今回の目標は、参矢学園という学校だ。しかし、彼らアイオロス隊(戦術航空科 2年67組)の任務は「SEAD(防空網制圧)」であり、後からやってくる3年生のチームが爆撃を行う。

〔要は、おいしい所は3年がかっさらっていくって訳ね〕

〔柴門、私語を慎め。第1攻撃隊はARM(対レーダーミサイル)を放って反転、第2攻撃隊は敵SAM(地対空ミサイル)を破壊、爆撃隊はその後から突っ込め。戦闘隊は敵機迎撃に集中。後は銭勘定しながら勝手にやってろ! アタック!〕

 部隊を束ねる、学級委員の赤峰 大希がそう指示し、28機は海面を掠める低空飛行を開始する。

 すると作戦を援護する、管制航空科所属のAEW(早期警戒機)・E-2C ホークアイが警告を発した。

〔オウル07からアイオロス隊、多数の敵機を確認した。方位270、距離120(km)、相対高度2000、上よ〕

〔アイオロス1、了解した。戦闘隊、上昇して迎撃を開始しろ!〕

 直ちに8機の戦闘隊所属のF-15MJ イーグルとF-2A バイパーゼロが増槽を捨てて上昇を開始する。

 遼子と美紀も、操縦桿を引いて上昇する。レーダーコンタクト、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルの射程に入った。

〔ECM(電磁妨害)開始! レンジオン(射程内)、アイオロス1、エンゲージ! FOX1!〕

 赤峰のF-15MJ イーグルがAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを発射、後続の機もAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを続いて発射する。

 

 敵機――F-104S スターファイターとEF-2000――は黙っていなかった。EF-2000は即座にAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを放って反撃、そしてチャフを撒きながら増槽を捨てて回避機動に移る。

 

 大量のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルがすれ違い、続々と命中していく。

 F-104S スターファイターに命中したかと思うと、今度はF-2A バイパーゼロの左主翼が抉り取られる。遼子はミサイルをかわし、機体を上昇させる。EF-2000を捉え、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射した。しかし、フレアを撒いてかわされる。EF-2000を追い掛け、遼子のF-15MJ イーグルも降下。しかし、F-15MJ イーグルのRWR(受動警戒装置)が警鐘を鳴らした。コクピット正面パネル右側の電子戦ディスプレイを見れば、後方からF-104S スターファイターにロックオンされていた。

 操縦桿を引き、同時にチャフ散布。F-104S スターファイターが発射したAIM-7 スパロー中距離空対空ミサイルを回避する。

〔アイオロス13、FOX2!〕

 美紀のF-15MJ イーグルからAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが発射され、F-104S スターファイターに直撃した。

 遼子は操縦桿を左へ倒し、EF-2000の追跡を再開する。完全に後ろを取り、ヘッドアップディスプレイ越しに捉えた。兵装選択レバーを「SRM」にし、シーカーがFCSによって目標を識別した。

「アイオロス16、FOX2」

 ミサイルレリーズを押し、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射した。EF-2000はフレアを撒き、エアロブレーキを開いて急旋回、しかし遼子はそれを狙っていた。一気に機体を近付け、兵装選択を「GUN」にする。

「アイオロス16、FOX3!」

 

 

 

 2機のF-2A バイパーゼロが計8発のAGM-88 ハーム対レーダーミサイルを発射、直後に反転する。その後から、AGM-65 マーベリック対戦車ミサイルやハイドラ 70mmロケット弾ポッドを懸架したF-2A バイパーゼロやF-4EJ改 ファントムⅡ、F-1がやってくる。

 スパダ・アラミス短距離地対空ミサイルを捉え、緑地迷彩柄のF-2A バイパーゼロがAGM-65 マーベリック対戦車ミサイルを発射、さらにSIDAM25対空装甲車へと胴体下の30mm GPU-5/Aガトリング砲ポッドで攻撃を仕掛ける。F-4EJ改 ファントムⅡも、ハイドラ 70mmロケット弾ポッドで攻撃しようとするも、オトマチック対空戦車の76mm対空弾を喰らって木っ端微塵になり、代わりにF-1が20mm M61バルカン砲で破壊する。

 次々と攻撃隊と爆撃隊が犠牲になり、残っている爆撃隊は、F-2A バイパーゼロとF-4EJ改 ファントムⅡが1機ずつだけとなった。

「たった18発の爆弾か」

「ま、やれる事をやるだけでしょ」

 2機は低空侵攻のまま、参矢学園の校舎へ向かう。

「爆撃コンピュータ、オールグリーン。自動モードでアタック、FCSオーバーライド」

「クリア」

 F-4EJ改 ファントムⅡの前席の男子高校生から、FCS操作権が後席の女子高生へ移る。座標入力、爆撃コンピュータが投下点を計算し、前席のヘッドアップディスプレイに表示される。

「来鳥、一斉に投下するぞ」

〔了解〕

 隣の真っ黒なF-2A バイパーゼロから返事が返ってきた。

 ヘッドアップディスプレイに表示された地点に到達し、主翼下の6発のMK82 500ポンド爆弾が自動で切り離された。F-2A バイパーゼロも、12発のMK82 500ポンド爆弾を切り離した。

 




次回登場機

F-15MJ イーグル
C-130H ハーキュリーズ


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Tranche2 渡り鳥の条件
AGL.06


 青衝学園 第4滑走路へ、アイオロス隊の機が帰還する。

 2機のF-15MJ イーグルがエプロンへタキシング、機体を止めてエンジンを切った。キャノピーオープン、梯子が掛けられ、2人は機体から降りた。

「さて、マッちゃんの奴をとっちめないと」

 指をポキポキ鳴らしながら、美紀がそう言う。なので、遼子が尋ねた。

「何で? ミサイルが飛ばなかった?」

「いや、ちゃんと飛んだし、シーカーもイカレてなかったんだけど、信管がバカになってて、命中しても爆発しやしない。しかも、持ってったサイドワインダー4発全部よ! いくらなんでもブチ切れるわ!」

 そうまくし立て、補給科へ向かう美紀を見送り、遼子は寮へ向かった。

 

 

 

 自分の寮の部屋へ入り、ベッドへ身を投げる。空中戦の後は、いつも体がだるい。

 ベッドの側の勉強机には、物理の本やF-15MJ イーグルのマニュアル、空中戦についての資料が散乱していた。棚には、F-15J イーグルとF-104J 栄光の模型や、かつての幼馴染との写真が入ったフォトフレームが置いてあった。

 遼子は体を起こし、写真を見る。

「蒼空(そら)……」

 

 

 

 翌日、校長室へ遼子が呼ばれた。

 既に、部屋には美紀や、同じクラスの来鳥 杏子(きとり あんず)、暮 玖人(くれ くひと)、和久 尚紀(わく なおき)、和見 犀羅(わみ せいら)、担任の多円 裕恵(たえん ひろえ)、また他クラスの生徒や教師もいた。

 そして、校長の他にも、世界各国の空軍将校の姿があった。

「校長、全員揃いました」

 多円先生がそう言い、初老の男性校長が頷いた。

「集まってもらったのには、訳がある。青衝学園が誇るエース級のパイロットである君達を、新設するクラスに特別編成する」

 その言葉に、生徒達は戸惑う。

「待ってください、たったこれだけで飛行隊を作るつもりですか?」

 美紀が口を開く。しかし、校長は首を横に振った。

「話はこれからだ。各国空軍の提案で、士官学校のエリートを一緒にここで研修させる。そのためにも、こちらからもそれ相応の生徒を出す事にした」

「世界各国って……それぞれの国の企業が後援している学校があるのに?」

 玖人の質問に、多円先生が答えた。

「あくまでも企業だ。それに、これは国際交流を兼ねている。だから、1つの学校に集めるんだ」

「話は以上だ。明日、その学生達が来るので、出迎えるように。そんな派手でなくていい。質問は、多円教官に訊くように」

 

 

 

 突然の事だった。遼子や美紀、杏子、玖人達はクラス替えとなったのだ。

 

 第1滑走路へ、緑地迷彩柄のC-130H ハーキュリーズが着陸する。参矢学園攻撃で撃墜され、捕虜となった生徒達を乗せている。

 遼子は、自分のF-15MJ イーグルが格納されているシェルターへ向かった。いつも通り機首を撫で、梯子を登って席につく。硬めの座面に、手作りのヘッドレストクッションに頭を預けて瞳を閉じる。すると、声が聞こえた。

「あなたが天才イーグルドライバー?」

 まぶたを開け、声が聞こえた方を見ると、F-15MJ イーグルの側に長い白髪の少女が立っていた。

 




次回登場機

F-15MJ イーグル
F-1
F-2A バイパーゼロ


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AGL.07

 遼子達が新設された、戦術航空科 2年69組に組み込まれて数日、遼子は愛機・F-15MJ イーグルをプリチェックを行っていた。

「遼子、またここにいましたか」

 また声がした。見れば、F-15MJ イーグルの機首の側には、長い白髪の少女――ニーカ=レービナ――が立っていた。

「何か?」

「よくイーグルの所にいるなーって」

「パイロットとして、愛機のコクピットほど落ち着く所は他に無いでしょ? それで、用件は?」

「あぁ、学校案内をしてもらいたいんです」

「……その辺歩いている奴をとっつかまえれば?」

「流石に、よく知らない人には頼めませんよ」

「私だって、『よく知らない他人』なんじゃない?」

「何言っているんですか。貴女と私は、既に『バディ』ですよ? 同じアルテミス隊の、4番と5番を担当する」

「……それもそうね」

 遼子は立ち上がり、梯子を降りた。

 

 

 

 2人は掩蔽壕の並ぶ機体保管場所から、滑走路へ向かう。滑走路の向こうにある校舎へ行くには、滑走路の下にある地下通路を通る必要がある。

 ジェットエンジンの音が聞こえ、見上げれば1機のF-2A バイパーゼロがランディングアプローチに入っていた。F-1を想わせる緑地迷彩が施された機体は、確実に滑走路を捕らえて制動する。

 エプロンへタキシング、キャノピーが開くと同時にパイロットが叫んだ。

「松平! 今すぐ燃料とマーベリック、20mmと30mmを積んでくれ!」

 それは、アルテミス隊 23番機を務める暮 玖人だった。彼のF-2A バイパーゼロの胴体下には、30mm GPU-5/Aガトリング砲ポッドが、主翼下にはAGM-65 マーベリック対戦車ミサイルの三連装ランチャーが吊されていた。

「はいはい。作業班! 急いであげて!」

 地上で待機していた恋香が叫び、整備員達が73式大型トラック(新)(3 1/2tトラック)からAGM-65 マーベリック対戦車ミサイルや20mm焼夷弾、30mm徹甲弾を運び出し、玖人のF-2A バイパーゼロに積み込む。

「だいぶ忙しそうね」

 遼子がそう言うと、恋香が反応した。

「そりゃ、黒鷲高等学院の戦車隊が近付いているからね。対地攻撃の絶好のチャンスであり、私にとっても稼ぎ時! これほどまでにWin-Winな事は無いわ!」

 恋香が力説し、ニーカがちょっと引く。

 するとそこへ、1機の真っ黄色なF-1がランディングアプローチに入ってきた。左エンジンから黒い煙がもくもくと上がり、あちこち被弾している。

 タッチダウン、しかし左主脚が折れ、F-1の左主翼が地面に叩き付けられる。壮大な火花が上がり、左主翼が折れた。

 ようやくF-1が止まり、待機していた特殊消防車が消火剤をF-1に掛ける。キャノピーが開き、中から黒髪ボブヘアの女子生徒が飛び出した。

「あーもう! 買ったばかりの機体が!」

 すっかりスクラップ確定状態になってしまったF-1を見ながら、黒髪ボブヘアが地団駄を踏む。すると、誰かが野次を飛ばした。

「お前がヘタクソなんだよ!」

「誰よ!? ケンカ売ってんの!?」

 すっかり冷静さを無くした黒髪ボブヘアに対し、恋香が言う。

「F-1、安くしとくわ」

「不良品売りつけないでよ!? 不良品だったら、補給処を爆撃するから!」

 

 一方で、玖人のF-2A バイパーゼロの準備が整った。

 再び滑走路へタキシング、幸いF-1は滑走路の右側でクラッシュしたので、左半分が開いている。水平尾翼、方向舵、フラップ、エルロンの確認を行い、管制塔に離陸する事を告げる。

「アルテミス23、テイクオフ!」

〔こちらフジタワー! ランウェイ18Lは封鎖中だ! クラッシュしてるの、見えてるだろ!?〕

「うっせー! こちとら時間がねぇんだ!」

 F-2A バイパーゼロがアフターバーナーを点け、滑走を始める。クラッシュしたF-1の横をすり抜け、F-2A バイパーゼロは飛び上がった。

 

 

 

「ねぇ、遼子。尋ねていいですか?」

「何?」

「ここの人達って、結構無茶するのですか?」

「見ての通りよ」

 




次回登場機

F-15MJ イーグル
F-2A バイパーゼロ
T-4改 アタックドルフィン
Su-35S フランカーE
F-15K スラムイーグル
F-22A ラプター
MiG-29SMT ファルクラムE
F/A-18C レガシーホーネット
MiG-19P ファーマー
F-5I サーエゲ


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AGL.08

 玖人のF-2A バイパーゼロが、アフターバーナーを焚いて飛んでいく。主翼にはAGM-65 マーベリック対戦車ミサイルが6発、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが2発、増槽が2本ぶら下がり、胴体下に30mm GPU-5/Aガトリング砲ポッドとスナイパー照準ポッド、ランターン航法ポッドが装備されていた。

 玖人はコクピットのマルチディスプレイをいじり、左を兵装管理、右を電子戦、下を対地照準モードに設定した。

 眼下の原っぱを、大量の戦車や装甲車が走っている。既に、いくつかの攻撃機や攻撃ヘリコプターが攻撃を加えていた。対空車両は既に破壊し尽くしており、戦車達は文字通りの「的」である。

 軽攻撃機・T-4改 アタックドルフィンがAGM-65 マーベリック対戦車ミサイルを発射、さらに胴体下の25mm GAU-22/Aガトリング砲ポッドでK21歩兵戦闘車を破壊する。

 玖人も、スナイパー照準ポッドを使ってK2主戦車を狙う。射程内、サイドスティックのミサイルレリーズを押した。

 次々とターゲットを定め、それらへAGM-65 マーベリック対戦車ミサイルを放っていく。やがて、AGM-65 マーベリック対戦車ミサイルが尽きると、今度は30mm GPU-5/Aガトリング砲ポッドを使い、地上目標を破壊する。

 その弾も尽きると、更に20mm M61バルカン砲をも使い、攻撃を続ける。

「ざっと1万は稼いだな」

 墓標の如く上がる黒煙を背に、玖人は呟く。左マルチディスプレイを航法モードにし、青衝学園を目的地に指定して針路を変える。

 その時、コクピットに警報音が鳴り響いた。

「ん?」

 電子戦モードの右マルチディスプレイを見れば、正面からロックオンされていた。

(友軍機? IFFを発してみるか)

 玖人はスロットルレバーのIFF質問発信ボタンを押し、質問波を発信する。そして応答は、無かった。

「敵機かよ! 最悪だ!」

 増槽投下、チャフ散布。中距離ミサイルが来るかもしれないために急激な機動を行う。

「こちらアルテミス23! 近所のブラザー、聞こえているか!? トレボー、応援を求む! ポイント、フォックストロット・オメガ4013! ……毎度の事ながら、聞こえてんのか聞こえてないのか、嫌んなるな」

 玖人はぼやきながら、スナイパー照準ポッドのFLIRをズームアウト、J/APG-2 AESAレーダーを自動索敵モードにする。

 機体の全周囲警戒レーダーがミサイルを探知し、フレアとチャフを撒きながら回避機動に移る。

 

 何とかミサイルを回避した。しかし、まだロックオン警報は外れていない。

「くそう!」

 左マルチディスプレイをレーダースコープにし、下マルチディスプレイを兵装管理モードへ。残る武装は2発のAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルだけだ。

 

 

 

〔アルテミス4から9、ポイント、フォックストロット・オメガ4013付近に敵機発見との報告があった。直ちに発進し、オウル01の指示に従え〕

〔アルテミス4、コピー。皆さん、行きますよ!〕

 Su-35S フランカーEがエンジンを吹かし、離陸態勢を整える。

〔アルテミス・スクワッド2、Cleared for takeoff!〕

 Su-35S フランカーE、F-15MJ イーグル、F-15K スラムイーグルがアフターバーナー点火、離陸していく。

〔アルテミス・スクワッド3、Cleared for takeoff!〕

 そして、F-15MJ イーグル、F-22A ラプター、MiG-29SMT ファルクラムEも続いた。

 

 

 

「くっ!」

 玖人は首を回し、後ろを振り返る。真後ろには、F/A-18C レガシーホーネットがいた。

 フレア散布、急旋回。しかし、F/A-18C レガシーホーネットは食らいついてくる。サイドスティックを左へ捻り、F-2A バイパーゼロを左旋回させる。同時にスロットルレバーのDyモードスイッチを押してCCV機動モードへ。サイドスティックを引いてF/A-18C レガシーホーネットをオーバーシュートさせる。ヘッドアップディスプレイに捉え、兵装選択を「SRM」へ。シーカーマークがターゲットボックスと重なり、甲高い音が鳴った。

「アルテミス23、FOX2!」

 F-2A バイパーゼロの右主翼端からAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが発射された。F/A-18C レガシーホーネットはフレアを撒くも、距離が近かったために命中する。

 しかし、機体のRWR(受動警戒装置)はまだ警鐘を鳴らしていた。振り返れば、MiG-19P ファーマーとF/A-18 ホーネットにそっくりな、F-5I サーエゲが追い掛けてきていた。

「畜生! ここまでか!」

 玖人は叫んだ。

 しかし、MiG-19P ファーマーとF-5I サーエゲは突然方位を変え、F-2A バイパーゼロから遠ざかっていった。

 レーダースコープを見ると、友軍機が迫ってきていた。機数、6。

〔こちらアルテミス4、ニーカ=レービナ。クヒトさん、大丈夫ですか?〕

「アルテミス23、損害は無い。応援、助かったぜ」

 




【どーでもいいこと】

作中の日本人の名前って、遼子を除けば元ネタ有り。



次回登場機

F-15MJ イーグル
Su-35S フランカーE
F-15K スラムイーグル
F-4EJ改 ファントムⅡ
F-14D スーパートムキャット
MiG-31BM フォックスハウンド
F-22A ラプター
MiG-29SMT ファルクラムE
EF-2000
ラファールC
F-CK-1C 経国改
ミラージュ2000-5 Mk.2
JAS-39C グリペン
殲-10A ファイアーバード
F-16E デザートファルコン
F-35A ライトニングⅡ
テジャス MK2
F/A-18F スーパーホーネット
トーネードIDS
F-2A バイパーゼロ
F-3A 心神飛龍
F-35AJ ライトニングⅡ


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AGL.09

 青衝学園へ、出撃した飛行機達が帰ってくる。

 玖人のF-2A バイパーゼロがタッチダウン、ドラグシュートを開いて止まる。他の機も続々と着陸した。

 

 

 

 教室から、編隊離陸していくF-15MJ イーグルが見える。しかし、窓を閉じ切れば音はあまり聞こえない。

「空賊の連中か。また厄介なのが出て来たな」

 和久 尚紀がそう言い、犀羅が頷く。

「Airborn bandit?」

 アメリカからやってきた少女――セシリー=オリビエが尋ねる。すると、美紀が解説した。

「どの学校にも属さない武装勢力よ。各校の領域を荒らすだけでなく、時にはヘリボーンで物資を略奪する事もある、厄介な連中よ」

 すると、緑髪のギリシャ人少女のソフィー=ペルサキスが口を開いた。

「だったら、その空賊とやらの拠点を空爆で吹き飛ばしゃいいだろうが」

「無理よ」

 すると、犀羅が反論した。

「空賊の拠点は大量にある上、高度に擬装されている。1つ潰しても、いつの間にか直っていたりするし」

 その時、教室に多円教官がやってきた。

「アルテミス隊は全員いるな? 緊急のストライクエンゲージだ」

 

 

 

 夜、青衝学園 第3滑走路に灯りが灯った。そして、双発・双外反角付垂直尾翼の戦闘機・三菱重工 F-3A 心神飛龍やF-35AJ ライトニングⅡが飛び立っていく。

 その後、1機のF-4EJ改 ファントムⅡが滑走路に進入した。機首側面には「320」とシャークティース、インテークマークが、垂直尾翼には「サイドワインダーミサイルが突き刺さったハート」が描かれていた。

 前席には、黒髪を2本左右に出した袴姿の少女――西川 辰美(にしかわ たつみ)――、後席には茶髪サイドアップの真っ赤な小袖姿の少女――水沢 美香(みずさわ みか)――が座っていた。

〔Artemis1, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis1, takeoff!〕

 GE/IHI J79ターボジェットエンジンが唸り、アフターバーナーを焚く。そして、離陸していった。

 

 その後に、F-14D スーパートムキャットが滑走路に進入する。

 機首側面に「201」、全体に砂漠迷彩が施されているが、垂直尾翼は黒く塗られ、犬のマスコットキャラクターが描かれていた。

 前席には金髪サイドダウンの白人少女――リン=コーツ――が、後席には特徴的な縮れ毛をポニーテールに纏めた黒人少女――アーリン=マルティネス――が座っていた。

〔Artemis2, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis2, takeoff!〕

 GE F110ターボファンエンジンがアフターバーナーの炎を曳き、F-14D スーパートムキャットは主翼を広げてフラップを下げ、飛び立った。

 

 次に、黄緑色のMiG-31BM フォックスハウンドが滑走路に進入した。機体全体が黄緑色に塗られ、主翼端だけ黄色に塗られていた。機首側面には「79」とシャークティース、垂直尾翼には「R-37 アロー長距離空対空ミサイルを加えた猟犬」が描かれていた。

 前席には、白い肌に真っ黒なショートボブの少女――ダリア=アフマートワ――が、後席には白金の前髪を上で留めたミディアムロングの少女――イアンナ=バクーニナ――が座っていた。

〔Artemis3, cleared for takeoff!〕

〔понимание, Artemis3, takeoff!〕

 アビアドビガーテル D30F6Mターボファンエンジンがアフターバーナー点火、41tもの巨体が動き始めた。フラップダウン、機首上げ、そして飛び上がった。

 

 その後に、Su-35S フランカーEが滑走路に進入する。黒・灰・白の積雪地帯迷彩が施され、機首側面に「926」、垂直尾翼に鶴が描かれている。

 コクピットには、長い白髪の少女――ニーカ=レービナ――が座っていた。

〔Artemis4, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis4, takeoff!〕

 サトゥールン リューリカAL-41F1Sターボファンエンジンが唸り、アフターバーナーを焚く。そして加速、地面を蹴って猛鳥のように上昇していった。

 

 次にF-15MJ イーグルが進入、各可動翼を動かす。

 機体は白っぽい灰色の制空迷彩だが、左主翼上面に白銀の突撃槍、垂直尾翼は真っ赤に塗られ、白百合の花が描かれていた。機首側面には「503」の文字。

 コクピットの、赤色ブレザーの茶髪ロングの少女――土岐代 遼子――が離陸許可を求める。

〔Artemis5, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis5, takeoff.〕

 P&W/IHI F100Jターボファンエンジンの可変ノズルが開き、アフターバーナーの炎が噴き出す。そして、白銀の鷲は飛び立った。

 

 直後、F-15K スラムイーグルがタキシングしてきた。機体は真っ黒だが、垂直尾翼は青く塗られ、羽ばたくカモメのシルエットが白抜きされていた。機首側面には「894」とF-86F セイバーのシルエット。

 前席には、狐色のカーディガンを着た茶髪ハーフアップの少女――ペク スヨン――と、白いワイシャツに紺色のミニスカートの黒髪ロングポニーテールの少女――タム チェファ――が座っていた。

〔Artemis6, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis6, takeoff!〕

 GE/STW F110Kターボファンエンジンの可変ノズルが開き、アフターバーナーを焚く。そして、飛んでいった。

 

 その後、もう1機のF-15MJ イーグルが滑走路に進入した。

 全体が青紫色に塗られ、機首側面には「382」、垂直尾翼にはウサギの頭のシルエットが描かれている。

 コクピットには、長い黒髪を後ろで1つに纏めた少女――柴門 美紀――が操縦桿を握っていた。

〔Artemis7, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis7, takeoff!〕

 P&W/IHI F100Jターボファンエンジンが唸り上げ、アフターバーナーの炎を曳いて加速する。機首上げ、機体が持ち上がりギアアップ、フラップアップ。

 

 そしてF-22A ラプターがタキシングする。前縁フラップ、後縁フラップ(下げ翼)、エルロン(補助翼)、ラダー(方向舵)、水平尾翼を動かし、止まる。

 機体は黒と赤のモザイク調の塗装が施され、エアインテーク上面にはF/A-18C レガシーホーネットのLERXフェンス(整流板)のようなレーダーリフレクター(電波反射板)が着いていた(第5世代戦闘機には、学校間協定により、レーダーリフレクターの装着が義務付けられている)。機首側面には「226」とシャークティース、垂直尾翼には大鷹のイラストが描かれていた。

 コクピットのピンク髪サイドアップの少女――レイラ=ハリソン――がスロットルレバーを握り締める。

〔Artemis8, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis8, takeoff!〕

 P&W F119ターボファンエンジンからアフターバーナーの炎が噴き出し、滑走を始める。ラダーと水平尾翼が動いて機首上げ、そして猛禽類は餌を求めて羽ばたいた。

 

 その後に、MiG-29SMT ファルクラムEが滑走路に進入する。

 機体は深紅色に塗られ、機首側面には「938」、垂直尾翼には「柱の棒を携えたツバメ」のイラストが描かれていた。

 パイロットの、碧色髪シニョンの少女――ファイナ=アルギニナ――はコクピットの左マルチディスプレイを機体状態表示モードから兵装管理モードに切り替えた。

〔Artemis9, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis9, takeoff!〕

 クリモフ RD33MKターボファンエンジンが唸り、アフターバーナー点火。機首を引き上げ、飛び立っていく。

 

 そして、EF-2000、ラファールC、F-CK-1C 経国改が滑走路に進入して並んだ。EF2000の右主翼上全面にはイタリア国旗、機首側面には「369」、垂直尾翼には「矢をつがえた弓」が描かれている。

 ラファールCの右主翼は青色、胴体は白、左主翼は赤色に塗られ、真っ白な垂直尾翼にはブドウが描かれている。機首側面には「93」の文字。

 一方のF-CK-1C 経国改は、洋上迷彩が施され、機首側面には「49」とシャークティース、レドームは黒く塗られていた。

 EF-2000のコクピットに座る、メガネを掛けた金髪アップの少女――ベアトリーチェ=カリエラ――は、ラファールCに乗る、ちょっと跳ねが多い金髪ロングの少女――リアーヌ=ル=ランジュレ――と、F-CK-1C 経国改の焦げ茶髪お団子の少女――湯 梨嬌(タン リィジャオ)――と合図を出し合い、離陸許可を求めた。

〔Artemis10, 11, 12, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis10, takeoff!〕

〔Roger, Artemis11, takeoff!〕

〔Roger, Artemis12, takeoff!〕

 3機のエンジンノズルからアフターバーナーの炎が噴き出し、トゥブレーキが解除される。そして滑走を始め、飛び立った。

 

 そして、ミラージュ2000-5 Mk.2、JAS-39C グリペン、殲-10A ファイアーバードが滑走路に並んだ。

 ミラージュ2000-5 Mk.2は全体をオレンジ色に塗られ、垂直尾翼には「交差した2本の剣(クロスボーン)」が、機首側面には「5」と記されていた。

 JAS-39C グリペンは全体を浅黄色に塗り、垂直尾翼にはグリフィンのイラスト、機首側面には太陽のイラストと「29」がある。

 殲-10A ファイアーバードは派手な真っ赤な塗装が施され、垂直尾翼には不死鳥のシルエット、機首側面には「786」とある。

 ミラージュ2000-5 Mk.2に乗った、毛先の跳ねた緑髪ショートヘアの少女――ソフィー=ペルサキス――は、JAS-39C グリペンの金髪おさげの少女――ナタリー=マイエル――と殲-10A ファイアーバードの黒髪夜会巻きの少女――林 美玲(リン メイリン)――とコンタクトを取った。

〔Artemis13, 14, 15, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis13, takeoff!〕

〔Artemis14, takeoff!〕

〔Artemis15, takeoff!〕

 3機はアフターバーナーを焚き、離陸していく。

 

 その後に、F-16E デザートファルコン、F-35A ライトニングⅡ、テジャス MK2が滑走路に進入する。

 F-16E デザートファルコンには、Su-34 フルバックのような淡い洋上迷彩が施され、垂直尾翼にはライオンのシルエット、機首側面には「908」。

 F-35A ライトニングⅡは真っ白に塗られ、垂直尾翼にはイギリス国旗(ユニオンジャック)、機首側面には「1」。そして、本来無いはずのヘッドアップディスプレイが装備されていた(学校間協定で、オフ・ボアサイト交戦能力は封じられているため)。

 テジャス MK2は全体にトラ柄が施され、垂直尾翼には仏塔のイラスト、機首側面には「263」。

 F-16E デザートファルコンの、紫髪ロングの少女――ラマール=ジブリール――は、F-35A ライトニングⅡに乗った、程よく日焼けし、ウェーブ掛かった金髪サイドダウンの少女――シャロン=アルフォード――と、テジャス MK2の褐色黒髪サイドポニーの、サリーを着た少女――イーシャ=ハッサン――と合図を出し合い、スロットルレバーを握る。

〔Artemis16, 17, 18, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis16, takeoff!〕

〔Artemis17, takeoff!〕

〔Artemis18, takeoff.〕

 GE F110ターボファンエンジン、P&W F135ターボファンエンジン、GE F414ターボファンエンジンが唸り、アフターバーナーを焚く。そして、離陸していった。

 

 その後に、F-4EJ改 ファントムⅡ、F/A-18F スーパーホーネット、トーネードIDSが滑走路に進入する。

 F-4EJ改 ファントムⅡは、オシドリ(繁殖期のオス)の模様を胴体と主翼に施し、垂直尾翼にはワシのシルエット、機首側面には「100」と記されている。

 一方のF/A-18F スーパーホーネットは、機体全体に新撰組の半被の模様、青い垂直尾翼には「侍にゃんこ」のイラスト、機首側面には「655」とあった。

 そして、全体をベージュ色に塗られたトーネードIDSの垂直尾翼には「銛を振りかざした悪魔」、右主翼上面には箒に跨がった魔女のシルエット、機首側面にはシャークティースと「103」とあった。

 F-4EJ改 ファントムⅡの前席に座った、赤色ブレザーの男子高校生――和久 尚紀――は、後席の茶髪ウェーブポニーテールの女子高生――和見 犀羅――、そしてF/A-18F スーパーホーネットの、金髪を両側で編み込んで後ろで纏めた少女――ローナ=エンバリー――と、オレンジ髪ツインテールの少女――セシリー=オリビエ――、そしてトーネードIDSの、ディアンドルを着た金髪ベリーショートの少女――アデリナ=ペーツェル――と、黒髪アップの少女――パメーラ=キルステン――と合図を出し合った。

〔Artemis19, 20, 21, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis19, takeoff!〕

〔Artemis20, takeoff!〕

〔Artemis21, takeoff!〕

 GE/IHI J79ターボジェットエンジン、GE F414ターボファンエンジン、TU RB199-34Rターボファンエンジンがアフターバーナーを焚き、滑走。機首を持ち上げ、離陸していった。

 

 その後に、3機のF-2A バイパーゼロがタキシングしてきた。

 1機は零式艦上戦闘機 二一型を思わせる塗装で、全体が真っ白で、レドームを黒く塗り、主翼にある青丸の学籍記号を囲むようにでかでかと赤丸が描かれている。胴体後部には2本の赤い横線、垂直尾翼には黒字で「赤城」、機首側面には「161」。

 もう1機は、レドームは白いがそれ以外には緑地迷彩が施され、垂直尾翼には「爆弾を抱えたサンタクロース」、機首側面には「186」。

 最後の1機は真っ黒で、垂直尾翼のコウモリのシルエットを黄色く縁取りしたものと機首側面の「116」を除けば、変わったものは無かった。

 零式艦上戦闘機 二一型風F-2A バイパーゼロに乗った、黒髪ショートヘアの少女――永店 圭子(ながせ けいこ)――、そして緑地迷彩F-2A バイパーゼロの男子高校生――暮 玖人(くれ くひと)――、真っ黒F-2A バイパーゼロの黒髪ウェーブロングの少女――来鳥 杏子(きとり あんず)――はアイコンタクトを取り合った。

〔Artemis22, 23, 24, cleared for takeoff!〕

〔Roger, Artemis22, takeoff!〕

〔Artemis23, takeoff!〕

〔Artemis24, takeoff.〕

 GE/IHI F110Jターボファンエンジンの可変ノズルが開き、アフターバーナーの炎が噴き出る。そして、3機は離陸していった。

 




【どーでもいいこと】

名前の由来

・柴門 美紀…「エリア88」の主人公の相棒(紫門って、『しもん』とも『さいもん』とも読めるんだよ)。
・西川 辰美、水沢 美香…「ファントム無頼」の320号機。
・和久 尚紀…あれ、何だっけ?
・和見 犀羅…「機動戦士ガンダム」のGファイター乗り。
・永店 圭子…「エースコンバット」のTACネーム「エッジ」。
・暮 玖人…「エリア88」の対地攻撃担当ヒゲダルマ。
・来鳥 杏子…「エリア88(TV版)」のミラージュF1乗りと、「リトルアーモリー」の銃火器整備担当。
・松平 恋香…「エリア88」の、トイレットペーパーから核弾頭、クレムリン宮殿まで用意してくれる銭ゲバ爺さん。
・赤峰 大希…「黒子のバスケ」から(思いついただけ)。
・多円教官…「エリア88」の、英国海軍で海賊を率いていた眼帯の人。



次回登場機

F-15MJ イーグル
Su-35S フランカーE
F-15K スラムイーグル
F-4EJ改 ファントムⅡ
F-14D スーパートムキャット
MiG-31BM フォックスハウンド
F-22A ラプター
MiG-29SMT ファルクラムE
EF-2000
ラファールC
F-CK-1C 経国改
ミラージュ2000-5 Mk.2
JAS-39C グリペン
殲-10A ファイアーバード
F-16E デザートファルコン
F-35A ライトニングⅡ
テジャス MK2
F/A-18F スーパーホーネット
トーネードIDS
F-2A バイパーゼロ
F-3A 心神飛龍
F-35AJ ライトニングⅡ
F-14A トムキャット
F-4F ファントムⅡ
F/A-18C レガシーホーネット
AV-8B+ ハリアーⅡ
F-35B ライトニングⅡ
Yak-38M フォージャー
Yak-141M フリースタイル
E-767改


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アルテミス隊

1 F-4EJ改 ファントムⅡ(ヒャクリ320)

 西川辰美(イーグレス)

 水沢美香

 320

 

2 F-14D スーパートムキャット(マーベリック)

 リン=コーツ(イオラス)

 アーリン=マルティネス

 201

 

3 MiG-31BM フォックスハウンド(ストレートブリー)

 ダリア=アフマートワ(セカンドサイト)

 イアンナ=バクーニナ

 79

 

4 Su-35S フランカーE(ダーティクレイン)

 ニーカ=レービナ(スノーフェアリィ)

 926

 

5 F-15MJ イーグル(イーグル503)

 土岐代遼子(ランス)

 503

 

6 F-15K スラムイーグル(インパクト894)

 ペク=スヨン(シーガル)

 タム=チェファ

 894

 

7 F-15MJ イーグル(ミッドナイト)

 柴門美紀(ラビットヘッド)

 382

 

8 F-22A ラプター(ネクロダンサー)

 レイラ=ハリソン(バーサーカー)

 226

 

9 MiG-29SMT ファルクラムE(レッドスワロー)

 ファイナ=アルギニナ(サファイア)

 938

 

10 EF-2000 タイフーン(トリコローリ)

 ベアトリーチェ=カリエラ(ネアポリス)

 369

 

11 ラファールC(ホワールウィンド)

 リアーヌ=ル=ランジュレ(インスローラ)

 93

 

12 F-CK-1C 経国改(オーキス)

 湯梨嬌(タン リィジャオ)(オーキッド)

 49

 

13 ミラージュ2000-5(キメリカルオレンジ)

 ソフィー=ペルサキス(アスィーナ)

 5

 

14 JAS-39C グリペン(チェイストグリフィン)

 ナタリー=マイエル(イバリェント)

 29

 

15 殲-10A ファイアーバード(フェニックス)

 林美玲(リン メイリン)(ショーロン)

 786

 

16 F-16E デザートファルコン(ブロードソード)

 ラマール=ジブリール(アラビアンレディ)

 908

 

17 F-35A ライトニングⅡ(ホワイトパール)

 シャロン=アルフォード(エミュー)

 1

 

18 テジャス MK2(ブリンドルデルタ)

 イーシャ=ハッサン(シンドバッド)

 263

 

19 F-4EJ改 ファントムⅡ(ショータイム)

 和久尚紀(アイビス)

 和見犀羅

 100

 

20 F/A-18F スーパーホーネット(ブルーナイト)

 ローナ=エンバリー(フシミ)

 セシリー=オリビエ

 655

 

21 トーネードIDS(シースキマー)

 アデリナ=ペーツェル(ブラックウィッチ)

 パメーラ=キルステン

 103

 

22 F-2A バイパーゼロ(ニューゼロ)

 永店圭子(エッジ)

 161

 

23 F-2A バイパーゼロ(タンクバスター)

 暮玖人(カール)

 186

 

24 F-2A バイパーゼロ(バットウィング)

 来鳥杏子(アニーミア)

 116

 



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AGL.10

 夜空に、大量の戦闘機の編隊が飛んでいる。その後方には、青衝学園 管制航空科所属の空中警戒管制機・ボーイング E-767改が飛んでいた。主翼下にECCM(対電磁妨害)能力向上のための電子戦ポッド、胴体下面にチャフ・フレアディスペンサーを装備する改造が施されている。

 その機内には、生徒会 邀撃管制官の女子生徒――橋立 沙紀(はしだて さき)――がいた。

 じっとレーダー観測員の後ろからレーダースコープを見つめ、敵機が来ないか見張っていた。

「あの、橋立先輩」

 レーダー観測員の女子生徒が口を動かした。

「反応があれば伝えますから、ちょっと離れててくれませんか?」

「……私、臭う?」

「いえ、そうでは……(だってこんな綺麗な人に近寄られると、食べられそう……)」

 

 

 

 総勢50機にも及ぶ編隊は、全てレーダーを切り、密集して飛んでいた。月明かりが機体を照らす。

 やがて、F-3A 心神飛龍の機首下IRSTに敵機が映った。同時に、F-14D スーパートムキャットの受動警戒装置が反応を捉える。

〔バッカス4よりオウル01、ヴィジュアルインサイト(目標視認)。1機だ〕

〔アルテミス2、パッシブコンタクト。F-14系が1機〕

 

 E-767改の作戦管制ディスプレイに、その情報が反映された。

「F-14、という事は空賊のFAC(戦線空中管制機)だ。オウル01からオールピース、ストライクエンゲージ発令、オールウェポン・フリー!」

 

 沙紀からの指示で、F-3A 心神飛龍のウェポンベイ(兵器倉)が開き、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが発射された。敵機も、AIM-23 セジル中距離空対空ミサイルで撃ち返す。

 一斉に50機が増槽を投下(第5世代機は、学校間協定でステルス性能に制限が課せられている)、チャフを撒きながら散開する。

 空賊のFACであるF-14A トムキャットにAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが直撃した事で、セミアクティブレーダーホーミングのAIM-23 セジル中距離空対空ミサイルは誘導されなくなり、ただの無誘導ロケット弾と化す。

 

 その時、E-767改の巨大ロートドームに収められたAN/APY-2 パルスドップラーレーダーが、地面からのクラッター(ノイズ)に紛れて高速で移動する物体を見つけた。

「オウル01からオールピース、下方に敵機、数は30。方位310、相対高度8000!」

 

 一気に26機のF-3A 心神飛龍とF-35AJ ライトニングⅡが急降下する。

〔バッカス1、コピー! アルテミス隊は降りてくる必要は無いわ! 我々で全機落とす!〕

 そう言われ、アルテミス隊は動けなかった。

〔あーあ、結局3年がおいしい所を持っていく〕

 美紀が文句を言う。続くように、ソフィーも言った。

〔全くだ。せっかく第4世代最強の格闘戦闘機の実力を見せてやろうと思ったのに〕

〔はぁ? 第4世代最強はこのファルコンに決まってるでしょう?〕

 ソフィーの言葉に反論するラマール。

〔あんたのF-16はUAE向け近代化改修機のE型、第4.5世代機だろうが〕

〔母体は第4世代よ! 無尾翼デルタなんて時代錯誤もいい所よ!〕

〔フライバイワイヤだから、無尾翼デルタでも強いに決まっているだろうが!〕

〔ちょっとちょっと! 第4世代といったら、このイーグルを忘れてない!?〕

 たまらず乱入する美紀。

〔〔イーグルは格闘戦向けじゃないだでろしょうが!〕〕

〔イーグルだって格闘戦は出来るんだって! ねぇ、遼子!?〕

「何で私に飛び火するの」

〔はっ、ワシなんてネコに食われる運命なんだから、格闘戦なんて無茶をするな〕by リン。

〔そんなアメリカがやったDACTの結果なんて信じないし! トムキャットなんて私だけでも充分よ!〕

 思いっきり喧嘩中。

 

 降下するF-3A 心神飛龍とF-35AJ ライトニングⅡの編隊が、空賊の編隊とすれ違う。

 直ちに機首上げ、空賊のF-4F ファントムⅡとF/A-18C レガシーホーネットを捉えた。が、F-35AJ ライトニングⅡの全周囲ミサイル警戒装置が迫り来るAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを捉えた。

〔何処から!?〕

〔フレアだ! 5時方向から接近!〕

〔駄目だ、脱出する!〕

 数機が被弾し、パラシュートが空に浮かぶ。見れば、眼下の森から戦闘機が浮き上がってきていた。

 

〔――だいたい、可変翼とはいえ重量でプラマイ0――〕

〔バッカス2からアルテミス隊! 敵に囲まれた! 応援を――〕

 直後、無線が途切れる。アルテミス隊リーダーの辰美が口を開く。

〔ほら、喧嘩は止めたらええのに。元気がええのんはええ事どすが、今は敵機やで〕

 すぐに24機は急降下、バッカス隊の支援に向かう。

 が、アルテミス隊も敵機に囲まれた。

〔道理でお尻が痒かった訳か。疲れたわ。あれはAV-8 ハリアーよ〕

 ダリアが、森の中から出てきた戦闘機を見ながら言う。

〔それに、Yak-38とYak-141、F-35Bもいる〕

〔古今東西のVTOL(垂直離着陸)機大集合ね〕

 美香がそう言った。辰美は部隊に指示を出す。

〔今はバッカス隊の援護先やで! 吹っ切れ!〕

 

 F-3A 心神飛龍がAV-8B+ ハリアーⅡの後ろについた。レーダートラックモードでAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルをロックオン、ヘッドアップディスプレイのシーカーマークとターゲットボックスが重なる。

〔バッカス15、FOX2!〕

 開いていたサイドウェポンベイから、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが発射される。が、AV-8B+ ハリアーⅡはフレアを撒きながら、ベクタードスラスト機動をしてミサイルをかわした。

〔ちっ!〕

 F-3A 心神飛龍がAV-8B+ ハリアーⅡを追いかけ左急旋回。3枚パドル式推力偏向ノズルで急激な旋回を行う。が、そのF-3A 心神飛龍の正面からYak-141M フリースタイルが回り込み、すれ違い様に30mm GSh-30-1機関砲を叩き込む。

〔バッカス15、ベイルアウト!〕

 男子生徒が股の間の黄色い脱出ハンドルを引き、緊急脱出した。

 

 遼子がAV-8B+ ハリアーⅡを捉え、ボアサイトモードでAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを使いロックオン、直ちにミサイルレリーズを押した。しかし、AV-8B+ ハリアーⅡはフレアを撒き、ベクタードノズルでジャンプ機動をしてかわす。

「……!?」

 遼子は驚きながらも、兵装選択レバーを「GUN」に切り替え、レーダートラックモードで照準、トリガーを引いた。見事、AV-8B+ ハリアーⅡは20mm M61バルカン砲の弾幕を喰らって裁断される。

〔ハリアーやフリースタイル相手では、セオリーは通用しいひんわ。アルテミス隊に選ばれた、鍛え上げた勘だけが頼りやで!〕

 辰美がそう言いながら、AIM-7 スパロー中距離空対空ミサイルをYak-141M フリースタイル目掛けて発射した。

〔ほうら、上へ跳ねるか……〕

 急旋回を行うYak-141M フリースタイルを見ながら、辰美は兵装選択レバーに指を掛ける。そして、Yak-141M フリースタイルの右主翼のエルロンが上がった。

〔右や!〕

 F-4EJ改 ファントムⅡ機首下の20mm M61バルカン砲が唸り、Yak-141M フリースタイルが粉砕された。

 ほぼ同時に、F-14D スーパートムキャットが発射したAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルをかわしたAV-8B+ ハリアーⅡを、MiG-31BM フォックスハウンドがAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルで仕留める。

〔つまりビデオゲームみたいなもんね〕

 ダリアがそう言いながら、スロットルレバーを握る。そして、操縦桿を引きながらスロットルレバーを押した。

〔見てなさいよ……ハリアーやフォージャーほど小回りが効かなくても、スピードが遥かに違うって事を教えてやる!〕

 

 MiG-31BM フォックスハウンドがアフターバーナーを曳き、ほぼ垂直に上昇する。あまりの加速度に、RIO(レーダー邀撃士官)のイアンナは息が出来ない。

 ダリアは操縦桿を引き、機体をハイループ旋回させて急降下する。

「イアンナ、ターゲットをアムラームでロック!」

「да、毎度無茶してくれるわ」

 乱れた息を整えながら、イアンナはレーダースコープを弄る。3機のF-35B ライトニングⅡとYak-38M フォージャーをロックオンした。

 そして、ダリアはミサイルレリーズを押した。胴体下面に4箇所あるR-33 エイモス長距離空対空ミサイル用ハードポイントを改造した、4基のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイル用二連装ランチャーから3発のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが発射される。

 ロックオンされた機は、チャフを撒いて回避機動に移る。Yak-38M フォージャーが回避のためにバレルロールを打って急降下、ミラージュ2000-5 Mk.2とJAS-39C グリペン、殲-10A ファイアーバードがそれに続く。

 

 森を掠めるような低空飛行で、Yak-38M フォージャーが飛ぶ。AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルのアクティブレーダーは生い茂った大木に対して近接信管を作動させた。

 しかし、ミラージュ2000-5 Mk.2がしつこく追い掛ける。

「逃がすかよ!」

 兵装選択を「GUN」にし、トリガーを引く。機首下の連装30mm DEFA554リボルバーカノン砲が弾丸をばらまき、Yak-38M フォージャーの左主翼が千切れた。

 

 F-15K スラムイーグルが、F/A-18C レガシーホーネットをロックオンした。

〔アルテミス6、FOX2!〕

 左主翼からAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが発射される。が、F/A-18C レガシーホーネットはここぞとばかりにフレアを撒きまくって急旋回、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルをかわす。

〔サイドワインダーが1発いくらすると思ってんだ! 素直に当たれよ!〕

〔そんな無茶な要求、通る訳無いでしょう〕

 怒るスヨンを、チェファがなだめる。そこへ、警告が飛び込んできた。

〔テミス6、ブレイク、ブレイク!〕

 即座にスヨンは操縦桿を左へ倒し、チェファは首を回して後ろを見る。

〔シックスオクロックに35! フレア!〕

〔ガッテム!〕

 F-15K スラムイーグルの胴体下面からフレアが撒かれ、機体は左急旋回。

〔アルテミス4、FOX3!〕

 F-35B ライトニングⅡの後ろにSu-35S フランカーEが回り込み、30mm GSh-30-1機関砲を発射した。

 

 遼子のF-15MJ イーグルが、アフターバーナー全開で上昇する。振り返れば、2機のYak-141M フリースタイルとF-4F ファントムⅡが追い掛けてきている。フレア発射、バレルロールをして急降下する。

「こちらテミス5、敵2機に追い掛けられている!」

〔テミス7、バックアップに回るわ! レイラ、ファイナ、ついてきて!〕

〔8、コピー!〕

〔9、コピー!〕

 美紀のF-15MJ イーグル、レイラのF-22A ラプター、ファイナのMiG-29SMT ファルクラムEが駆けつける。その時には、遼子はさらに4機のF/A-18C レガシーホーネットに追い掛けられていた。

 

 計6機に追い掛けられ、受動警戒装置と後方警戒レーダーが鳴り止まない。

「……くっ!」

 一気に操縦桿を引き、同時にスロットルレバーをアイドルまで引く。半径の小さいハイループを行い、F-4F ファントムⅡの後ろを取った。

「FOX3!」

 トリガーを引き、20mm M61バルカン砲を発射、F-4F ファントムⅡを撃墜する。しかし、まだ後ろに5機もいる。そして、フレアが遂に弾切れになった。

「しまっ……!」

 直後、機体が衝撃で震えた。F-15MJ イーグルは錐揉みに陥り、意図せず急降下する。高度計の針が、反時計回りにぐるぐる回る。

 

〔ミサイルの豪雨を喰らいな!〕

 F-22A ラプターが、一斉に残っていた2発のAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルと3発のAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを発射する。そして、遼子を追い回していた5機に直撃する。

 見れば、遼子のF-15MJ イーグルは錐揉みで不規則にぐるぐる回りながら落ちていた。美紀は目を見開き、遼子のF-15MJ イーグルを見る。

(左主翼が……!?)

 遼子のF-15MJ イーグルの、左主翼が存在すべき所からは、燃料の霧が吹き出ていた。

「テミス5、ベイルアウト、ベイルアウト! 遼子、今すぐ脱出して!」

 

 しかし、その声は遼子の頭に届いていなかった。錐揉みに陥り、両方のエンジンが緊急停止、さらに燃料残量が勢いよく減っている。

 遼子は左ラダーペダルを踏みつけ、同時に操縦桿を押す。機体の回転運動が止まり、機首が素直に地面の方を向いた。しかし、コクピットに衝突回避警報が鳴り響く。そのため、遼子は操縦桿を思いっきり引いた。

 何とか、F-15MJ イーグルは高度1200mで水平飛行に移行した。APU始動、左エンジンの回復を試みながら、燃料漏れの酷い箇所への給油をストップする。兵装管理ディスプレイを見ると、左主翼に1発残っていたはずのAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが無くなっていた。

(50ポイント無駄にした……!)

 左エンジンが回復し、ターボファンの鼓動が吹き返す。燃料残量が心許ないので、右エンジンの回復は諦めた。

 

〔最後の1機!〕

 F-35A ライトニングⅡとテジャス MK2がF-35B ライトニングⅡをロックオンした。そして、2機は1発ずつAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルを発射する。

 F-35B ライトニングⅡはフレアを撒くも、その隙にF-16E デザートファルコンが近付き、20mm M61バルカン砲で撃墜した。

 




【どーでもいいこと】

・橋立 沙紀…「エリア88」の基地司令。

 辰美のセリフは、ネット上のサイトを使っているため、もしかしたら間違っているかも。



次回登場機

F-15MJ イーグル
????????????????????
F-4VG改 ファントムⅡ
F-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡ


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Tranche3 死を運ぶ鷲
AGL.11


 青衝学園の滑走路が見えてきた。遼子のF-15MJ イーグルのランディングギアが下り、フラップが下がる。

〔アルテミス5、こちらフジタワー、ランウェイ00Rへの着陸を許可する〕

「アルテミス5、コピー」

 遼子はスロットルレバーのスピードブレーキスイッチを押し、エアロブレーキを開く。しかし、通常のランディングアプローチの倍のスピードが出ていた。なので、アレスターを下ろした。

 着陸指標を捉え、慎重にスロットルレバーを引く。エルロンを上げ、降下。滑走路の中ほどで後輪が接地し、アレスターがアレスティングワイヤーを捕らえる。前輪が地面に叩き付けられ、機体が止まった。

 遼子はキャノピーを開き、被弾の具合を見ようと左主翼を振り返る。そして、気付いた。

「嘘……」

 F-15MJ イーグルの左主翼は、根元から無くなっていた。

 

 

 

 翌朝、遼子のF-15MJ イーグルは恋香によって引き取られた。

「片翼を失ったイーグルなんて、誰が買うの?」

「そりゃ、史上2番目の『片翼の鷲』だからね。オークションに出せば、博物館とかが高値で買い取ってくれるよ」

 予備機用大型ハンガーの中の、片羽のF-15MJ イーグルを見ながら恋香が言った。するとそこへ、辰美、美香、尚紀、犀羅の4人がやってきた。

「松平はん、うちらに売りたいものがあるって――」

「そうそう、新しいファントムⅡが手に入ったから、エリートさん達に売ろうとね」

 辰美の言葉を遮り、恋香は片羽のF-15MJ イーグルの隣に置かれた2機を指差した。

 片方は、エアインテーク側面に全遊動式カナード翼を装備し、もう片方は低翼から高翼可変後退翼になっていた。

「三菱重工 F-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡと、マクドネルダグラス F-4VG ファントムⅡ……まぁ、VGの方は日本企業の改造を加えた『F-4VG改』だけど。両方共、スーパーホーネットのF414を移植し、グラスコクピットと、VG改はAN/APG-79(V)X AESAを、EJ改二はAN/APG-83 セイバーAESAを積んでいるわ」

 

 両方共、F-4E ファントムⅡを母体とし、出力向上、そして排気煙減少のためにGE F414ターボファンエンジンを装備、そしてグラスコクピットを導入していた。

 エアインテーク側面の全遊動式カナード翼を除けば、外見上の違いが無いF-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡは、レーダーをAN/APG-83 セイバーAESAレーダーに換装し、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイル運用能力を獲得している。また、フライバイワイヤを導入しているが、あくまでもカナード翼の制御のため、CCV機動は出来ない。

 一方のF-4VG改 ファントムは、低翼から高翼可変後退翼に設計を変えているため、ぱっと見Su-24 フェンサーに見える。主翼は自動制御で後退角を決められ、トーネードのように可動式ハードポイントを備える。その他にも主翼付け根にもう1つ固定パイロンを備え、F-14 トムキャットより多く装備出来る。レーダーはAN/APG-79(V)X AESAレーダーを持ち、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイル運用能力を手にしている。

「F-4の面影、機首にしか残ってへんわ」

「元々F-14の開発研究のために試作されたのを、機首をとっかえて改修したからね。でも、運動性能は向上しているはずよ」

 辰美のぼやきに、恋香が返した。

 4人は2機のファントムⅡを眺めたり触ったりしている中、遼子が恋香に問う。

「私の代替機は?」

「ご心配なく。ちゃんとボーイングから届いているって」

「ボーイング? 三菱じゃなくて?」

 すると、恋香は予備機用ハンガーの奥へと歩き出した。遼子もそれに続く。

「元々雷酉(らいゆう)高等学院向けに提案されてたんだけど、その雷酉が蹴ってね。それでここに流れ着いたのよ」

 そして、恋香が立ち止まった。そこにあるのは、真っ黒なF-15 イーグルだった。

 機首下にはF-35 ライトニングⅡのIRSTを装備、エアインテーク側面にはコンフォーマル型燃料タンクが付いている。が、一番目を引くのは、主翼についている、AH-64 アパッチのAGM-114 ヘルファイア対戦車ミサイル用四連装ランチャーのような四連装ランチャーである。

「F-15C 2040エンハンスドイーグル、空中SAMサイト(地対空ミサイル陣地)を目指した機体よ。エンジンは出力向上のためにGE F110を、レーダーはF-22のものを転用し、同時多目標攻撃能力を向上。武装は、胴体下面と主翼付け根に計16発のアムラームと、主翼端に計4発のサイドワインダー、20mm M61バルカン砲も残ってる。機体重量が増えているから、いくら推力偏向ノズルが付いてるからって旋回戦は無理よ。主翼に8発のアムラーム付けたままじゃ、8G制限を掛けられるからね」

「分かった。で、いくら?」

「あのF-15MJを買い取って、まだ代金支払ってないからねぇ……F-15MJの半額、でいいかしら?」

 すると、遼子は頷いた。

「交渉成立ね。じゃ、機体はあなたのシェルターに送っとくわ」

 




[どーでもいいこと]

架空機元ネタ

・F-15C 2040エンハンスドイーグル···現在、ボーイング社がアメリカ空軍に提案中の「ミサイルキャリアー」、F-15 2040C イーグル。F-22A ラプターが捉えた敵機に、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルの弾幕を浴びせる。本来は、コンフォーマル型燃料タンク装備と機体寿命延長だけだが、独自に推力偏向ノズルとIRSTを装備させてみた。

・F-4VG改 ファントム···F-4の後継として、マクドネルダグラスが提案した可変翼型ファントム。

・F-4EJ改二 モダナイズドファントム···モデルはイスラエル・IAI社が開発したトルコ空軍のF-4E ファントム ターミネーター2020と、F-4C ファントムを母体としたフライバイワイヤ技術研究機・62-12200号機。

 両方共グラスコクピットにしているのは、作者の趣味。エンジンは、スーパーファントム計画で予定されていたP&W PW1120ターボファンエンジンに問題が発覚したため、GE J79ターボジェットエンジンより小さく、かつハイパワーな、GE F414ターボファンエンジンを選択した。



次回登場機

F-15C 2040エンハンスドイーグル
F-4VG改 ファントム
F-4EJ改二 モダナイズドファントム
F-4EJ改 ファントム
F-1
ラファールC
ラファールB
ミラージュF1E
E-2C ホークアイ


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AGL.12

 「青空迷彩」と呼ばれる、薄い水色の迷彩塗装を施した、青衝学園の早期警戒機・E-2C ホークアイのAN/APS-145 リニアアレイレーダーに反応が出た。

 機内の邀撃管制官――早瀬 未玖(はやせ みく)――は、直ちに生徒会室に報告する。

「オウル07からCP、味方ではない複数の航空機を発見した。ポイント、デルタ・オメガ2826、方位210から150へ、速度マッハ0.8、高度220。敵性と思われる」

〔CP、了解。オウル07、CAP(戦闘空中哨戒)機とSC(スクランブル)機を3機ずつ向かわせる。You have control!〕

「I have!」

 

 

 

 空中哨戒中だった、2機のF-4EJ改 ファントムⅡと1機のF-1が、E-2C ホークアイからの管制を受け、針路を変えた。3機共、空対空ミサイルと増槽をフル装備している。

〔レダ1、コピー。スクランブルエンゲージをコール〕

〔オウル07、スクランブルエンゲージ発令。オールウェポン・フリー!〕

 

 

 

 青衝学園の滑走路から、3機が編隊離陸していく。機種転換訓練のために出撃していくF-4VG改 ファントムⅡ、F-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡ、F-15C 2040エンハンスドイーグルだ。

〔トレボーからアルテミス1、5、19。スクランブルエンゲージが発令された。慣れない機体だろうが、方位210へ向かってくれ。オウル07が管制を行っている〕

〔アルテミス1、コピー。皆はん、ターンレフト。性能テストを兼ねた迎撃任務やで!〕

「了解」

〔コピー!〕

 

 

 

 E-2C ホークアイの誘導を受け、F-4EJ改 ファントムⅡはルックダウンモードのAN/APG-66J パルスドップラーレーダーで捉えた。

〔相当な数だ、俺らだけじゃめった打ちにされるな〕

〔構うか。キルされる前提なら、少しでもポイントを稼ぐだけよ〕

 そして2機のF-4EJ改 ファントムⅡはレーダー波を目標に指向してロックオン、AIM-7 スパロー中距離空対空ミサイルで牽制攻撃を行う。

 

 発射された計2発のAIM-7 スパロー中距離空対空ミサイルは、反射波に沿って舵を切る。

 しかし、AIM-7 スパロー中距離空対空ミサイルは別のミサイルとすれ違った。

 

 F-4EJ改 ファントムⅡのパイロットが、何かに気付いた。

〔12時下方からミサ――〕

 直後、F-4EJ改 ファントムⅡは炎上、パイロットとWSO(兵器システム士官)のパラシュートが空に浮かぶ。

〔ミサイルだ! ブレイク、ブレイク!〕

 生き残ったF-4EJ改 ファントムⅡとF-1は増槽を捨て、フレアとチャフを撒きながらバレルロールを打って回避機動を取り、飛んできたMICA IR中距離空対空ミサイルをかわす。

 途中で誘導母機が撃墜されたり、回避機動を取ったため、2発のAIM-7 スパロー中距離空対空ミサイルはただのロケット弾と化した。

 そして、2機は多数のラファールCやミラージュF1Eとドッグファイトに突入した。

 

 

 

 アルテミス隊の3機が遅れてやってきた。そして、低空を移動する攻撃機を発見した。

〔アルテミス1、スクランブルエンゲージ!〕

 マスターアームスイッチを押し、安全装置を解除、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを選択する。

「アルテミス5、FOX1」

 F-15C 2040エンハンスドイーグルからAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが次々と発射され、それぞれが別々のターゲットへ向かっていく。

 

 狙われたラファールBやミラージュⅢEは爆弾や対レーダーミサイル、増槽を捨ててチャフを撒き、回避運動を取る。しかし、ミラージュⅢEや一部のラファールBに命中していく。

 

「全部は無理だったか……!」

〔遼子はん、仕方ないで。全機、ドッグファイトに移るで!〕

 3機は増槽を捨て、5機のラファールBとすれ違い、ドッグファイトに突入する。

 

 

 

 F-4EJ改 ファントムⅡが右旋回、ミラージュF1Eを追い掛けて降下する。

 ヘッドアップディスプレイ上で、ターゲットボックスにガンレクティカルが重なりそうになるが、あと一歩というところで重ならず、激しい機動を取る。

「頂きぃ」

 パイロットの人差し指が、操縦桿のガントリガーに掛かる。

 

「頂くのはこっちよ」

 F-4EJ改 ファントムⅡの後ろを取ったラファールCのパイロットが、サイドスティックのガントリガーに触れる。ヘッドアップディスプレイには非追跡モードのガンファンネル(機銃照準線)が映し出され、F-4EJ改 ファントムⅡと重なる。そして、ラファールCの30mm M791リボルバーカノン砲が火を噴いた。

 



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AGL.13

 5機のラファールBとすれ違い、3機は一斉に左旋回を行う。

「……やっぱり、イーグルより重い!」

 操縦桿を引きながら、遼子はそう思う。何せ、僚機にすら引き離されそうになっているからだ。

〔2機が下に行ったで! 5、19はそっちを頼む!〕

「5、コピー」

〔19、コピー!〕

 2機は右旋回に移り、ラファールBを追って降下する。

 

 主翼を広げたF-4VG改 ファントムⅡが、左旋回するラファールBを追尾する。

「もらった!」

 辰美がガントリガーを引き、20mm M61バルカン砲を発砲する。

 放たれた砲弾の連なりは、ラファールBの左主翼を断ち切った。が、その時に後ろを見ていた美香が警告を出した。

「辰美! ブレイク、ブレイク! 後ろに2機ついた!」

 咄嗟に辰美は操縦桿を左へ倒し、背面に移ってから急降下する。主翼がフライトコンピュータによって自動的に後退するが、辰美は主翼後退角手動操作レバーを回し、最大角へ広げさせる。そして、高度600mの所で操縦桿を思いっ切り引いた。

 F-4VG改 ファントムⅡは地面すれすれで水平飛行に移った。しかし、2機のラファールBが追い掛けてくる。

 

 

 

 2機のラファールBを、F-15C 2040エンハンスドイーグルとF-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡが追い掛ける。

 遼子はレーダーを切り、IRSTによる照準に切り替え、AIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルでロックオンする。

 ラファールBはフレアを放出し、発射される赤外線ホーミングミサイル対策を行っている。そのため、遼子はスロットルレバーの兵装選択レバーを「SRM」から「MRM」に切り替え、ミサイルレリーズを押した。

 そして、F-15C 2040エンハンスドイーグルの右主翼外側の二連装ランチャーからAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが、胴体下の二連装ランチャーからAIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルが発射された。

 ラファールBのフレアによってAIM-9 サイドワインダー短距離空対空ミサイルが外れるも、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルのアクティブレーダーシーカーがラファールBを捉え、舵を切る。そして、近接信管を作動させた。

 

 F-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡがラファールBを追い掛ける。レーダートラックモードで照準、ガンレクティカルがターゲットボックスと重なった。

「テミス19、FOX3!」

 F-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡの機首下の20mm M61バルカン砲が唸り、ラファールBを蜂の巣にした。

 

 

 

 F-4VG改 ファントムⅡは機首上げ、フレアを撒いてバレルロールを打つ。

「後方にまだ敵機!」

「減速する!」

 F-4VG改 ファントムⅡの胴体下エアロブレーキが展開、一気に急減速する。

 が、ラファールBもカナード翼が動き、減速する。

「駄目だ、離れない!」

 美香が叫び、辰美はスロットルレバーを奥へ押し込む。

 GE F414ターボファンエンジンがアフターバーナーを曳き、一気に機体が加速する。

 

 ラファールBのIRSTがF-4VG改 ファントムⅡのアフターバーナーを捕捉、MICA IR中距離空対空ミサイルのシーカーもこれを捉えた。

「FOX2!」

 

 F-4VG改 ファントムⅡの機内に、ミサイル接近警報が鳴った。

「まずい、シックスオクロック! 1発よ!」

「回避する!」

 操縦桿を左へ倒し、左バレルロール。スロットルレバーを「MAX」から「IDOL」へ引き、アフターバーナー解除。フレア/チャフ射出ボタンを押してフレア散布、フラップを下げ位置に固定し、一気に左急旋回させる。

 

 アフターバーナーの炎を見失うが、MICA IR中距離空対空ミサイルのシーカーはF-4VG改 ファントムⅡの機影を捕捉、しかし一瞬フレアに惑わされた事で飛行コースが変わってしまった。

 

「回避した!」

「せやけどまだやで!」

 辰美はスロットルレバーを「MIL」まで押し、失ったエネルギーの回復を行う。

 

「あのファントムもどき、手強い!」

「技術実証機の癖にね!」

 F-4VG改 ファントムⅡを追い掛けるラファールBの2人のフランス少女が言葉を発した。

 

 F-4VG改 ファントムⅡが一気に右旋回へ。ラファールBも続くが、そこでF-4VG改 ファントムⅡが左旋回へ移行、ラファールBとシザース機動を始めた。

 ヘッドアップディスプレイにラファールBが入る。しかし、あと少しでガンレクティカルに重なる所で逃げられる。

「ちょこまか動きな!」

 辰美が怒鳴る。激しいGによって呼吸が乱れ、滝のような汗が流れる。

〔こちらアルテミス5。西川、加勢する〕

「そらありがたい事やなぁ、遼子はん」

 シザース機動にF-15C 2040エンハンスドイーグルが加わり、更に乱戦になる。

 激しい機動の最中、ようやくF-15C 2040エンハンスドイーグルのヘッドアップディスプレイのガンレクティカルと、ラファールBが重なった。

「アルテミス5、FOX3」

 遼子は操縦桿のガントリガーを引いた。

 



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AGL.14

 F-4VG改 ファントムⅡが主翼を広げてランディングアプローチに入った。

 ギアダウン、フラップダウン。胴体下面のエアロブレーキを開いてスポイラーを立てて降下した。そしてタッチダウン。しばらくウィリー滑走して減速し、誘導路へタキシングする。

 その後に、F-4EJ改二 モダナイズドファントムⅡが着陸、F-15C 2040エンハンスドイーグルに着陸許可が下りた。

 遼子はギアレバーを操作し、ランディングギアを下ろす。同時にフラップを下げ位置へ。エアロブレーキを開いて減速、エルロンを立ち上げて降下する。

 エアロブレーキ最大展開、タッチダウン。F-15E ストライクイーグルより重い為、慣れ親しんでいたF-15MJ イーグルより滑走速度が速い。ウィリー滑走を続け、速度が落ちきった所で前輪も接地、ディスクブレーキを作動させた。

 誘導路へ移動し、誘導員の指示で駐機場の指定された場所に機体を誘導させる。停止し、パーキングブレーキ作動、エンジンの出力を一瞬上げて排気、その後にエンジンを切った。キャノピー解放、シートベルトを外した。

 遼子は息を吐き出し、空を仰いだ。青空が視界いっぱいに広がる。

 

 その時、空襲警報が鳴った。

 

 

 

〔オウル07からCP、ビンゴヒューエル(燃料残量低下)〕

〔CP了解。オウル01へ指揮をシフトする〕

〔オウル01、コピー。未玖、後は任せなさい〕

〔コピー。沙紀、任せたわ〕

 

 E-2C ホークアイが青衝学園へ帰投し、代わりにE-767改 ジェイワックスが警戒任務に就く。

 そして、早速レーダーに反応があった。

「オウル01、レーダーに反応。機数18、高度3000、速度(マッハ)0.7。エリアLC-8517より方位090へ移動中」

〔了解、CAPとSCをそちらに向かわせる! You have control!〕

「I have!」

 

 

 

 空中戦闘哨戒中だった、1機のF-15MJ イーグルと2機のF-2A バイパーゼロが針路を変えた。

〔アイオロス1、コピー。迎撃に向かう〕

〔アイオロス11、コピー〕

「アルテミス23、コピー」

 それは、アイオロス隊の赤峰と柿里、そしてアルテミス隊の暮だった。

〔オウル01からCAPへ。方位からして蘭西女学館と思われる〕

〔ロス1、了解。つまりフランス機か〕

「舐めてかかんなよ。レダ隊が瞬殺されたって聞いたぞ」

 F-2A バイパーゼロのサイドスティックを握り締めた暮がそう警告すると、無線越しに赤峰が鼻で笑ったのが聞こえた。

〔そいつは面白い。ミラージュのお手並み拝見とするか〕

「面白い? 正気か?」

〔どうしたんだよ、暮? アルテミス隊に異動して、無鉄砲な性格が改心したのか?〕

〔はっ! 赤峰の言う通りだぜ――レーダー警報? しまっ――〕

 直後、柿里の乗っていた灰色のF-2A バイパーゼロが爆発した。

「柿里ぉ!」

〔アイオロス11、イジェークト! 畜生、今年に入って8機目のF-2が!〕

〔命があるだけマシと思え! チッ、ラファールのMICAミサイルか!?〕

 2機は増槽を捨て、散開した。

 



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AGL.15

 F-15MJ イーグルとF-2A バイパーゼロは上昇、雲に飛び込んで隠れる。レーダースコープから敵機が消えるが、E-767改 ジェイワックスからの戦術データリンク リンク16によって戦術情報管理モードのメインディスプレイに位置情報が転送されてくる。

〔暮、行くぞ〕

「おうよ」

 玖人はサイドスティックを握り締める。既にヘッドアップディスプレイはドッグファイトモードになっていた。

〔そういや、ドッグファイトでの成績は、アイオロス隊最下位だっけか?〕

「やめてくれよ。事実だが」

〔ま、これも運だな。せいぜい落とされないように気を付けな〕

「余計なお世話だ!」

 そして、2機は急降下した。

 

 

 

 レーダースコープに映っていた3機が2機に減り、更にその2機もレーダースコープから消える。

「ふっ、何が『1機で3機分の仕事をする』だ。RWRを過信し過ぎだ」

 編隊を組んだラファールC達は一斉に増槽を捨て、散開した。

 

 

 

 2機は雲を抜けて急旋回、戦術データリンクを参考にしてラファールCの編隊の後ろに着いた。

〔オウル01からオロス1、テミス23。敵機が散開した。おまけに、方位260、6時方向にアンノウン。サイズとレーダー出力からAWACSだろう。位置がバレているかもしれない、気を付けろ〕

〔オロス1、コピー。ならコソコソする必要はねぇな。さっきからRWRが『E-3』って点滅しながら五月蝿かったしな〕

 2機はIRSTとJ/AQQ-2前方赤外線捜索ポッドによる受動探査を止め、AN/APG-63V3 AESAレーダーとJ/APG-2 AESAレーダーをオンにする。

 ロックオン、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルを発射した。

 

 ラファールC達はチャフを撒き、AIM-120 アムラーム中距離空対空ミサイルをかわす為に回避機動を取る。

「クトーリーダーから全機、鴨が罠に掛かった!」

 合図と共に、一気にラファールC達は旋回した。

 

「暮、こいつはマズいぜ」

〔あん?〕

「これは、罠だ」

 赤峰は、戦術情報管理画面を見ながら言った。そこには、F-15MJ イーグルとF-2A バイパーゼロを取り囲むように包囲を狭めるラファールC達が映っていた。

 

「たった2機、もし仮に1機で3機分の働きをしたとしても20機には敵うまい。奴らを血祭りにしてやれ!」

『ヤー!』

 それドイツ語。

 

「こんなに数が多いと、サッチウィーブは使えやしねぇ。各個撃破していくしかねぇ!」

〔だな! アルテミス23、エンゲージ!〕

「アイオロス1、エンゲージ!」

 2機は散開、ラファールC達を迎え撃つ。

 



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