夢を見る不死 (粗製の渡り鳥)
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プロローグ:目覚め

 光が薄れていく。

 

 それに乗じ、闇もまた深まる。

 

 生も死もない灰の世界に変革をもたらし、恵みを、滅びを、光を、闇を与えてきた"最初の火"が、今まさに終わりを迎えようとしている。

 

「始まりの火が、消えていきます……すぐに暗闇が訪れるでしょう」

 

 傍で火の最後を看取る"火防女(ひもりめ)"が嘯く。

 

 艶やかに、赤く火照(ほて)る花々が咲き誇る。遠征に出向いたのだろうロスリックの騎士たちの武具が墓標の様に突き立つ、荒涼とした"最初の火の炉"。

 彼の地の守り手である、はじまりの火を継いだ神のごとき"薪の王たちの化身"。神の王グウィンから紡がれてきた薪の王(火継ぎの贄)───王たちの(生きた証)への執念から成ったであろうそれは打ち倒され、今や陰りゆく火ばかりが場に熱と音を放っていた。

 

「……そして、いつかきっと暗闇に、小さな火たちが現れます……王たちの継いだ残り火が……」

 

 彼女は告げる。

 長きに渡り、幾多の薪の王たちを糧に無理な延命を続けてきた火の時代は、今、この瞬間に幕を降ろし、新たな時代が産声をあげるのだと

 

 言葉を返す事なく、ただ佇み火の消えゆく様を見つめ続ける。

 最早、火の粉すら飛ばさない燃え殻は小さく揺れ動くばかりで、空に刻まれる人の証(ダークリング)によく似た悍ましい日輪もまた、呼応する様に暗く染まり掠れてゆく。

 世界に満ちていた(呪い)は失われ、暗闇が辺りを覆いだす。

 深く黒く染まる闇は、しかし決して害を成すものではなく、優しさすら感じる様で心地が良い。

 

 何度も見た。何度も経験した。

 それでもそれは暖かく、どこか(ソウル)に安らぎを与えてくれる様な気さえして、いつからかこの光景しか目指さなくなった。

 

 だがぬくもりの中、胸の内に異物が生じた。底冷えする様な寒気が。

 

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 終わりと、そして始まりの合図だ。心が躍る。

 

 しかし同時に、一抹の寂しさを感じてしまう。

 

 

 

 ───灰の方、まだ私の声が、聞こえていらっしゃいますか?

 

 ()()()()()()()()()

 

 

 

 気が付けば言葉を発しようとしていた。

 

 その耳に届いたか、口がまともに動いたかさえ定かではなく、この返事自体、何の意味も持たない。

 ただそれでも、これで最後になると思うと言葉を返さずにはいられなかった。

 

 思えばロードラン、ドラングレイグの地では最後を誰かと共に迎える事などなかった。

 

 ただ1人、あの寒さに震えていた。

 

 故にこれは、きっとただの感傷なのだろう。

 

 このロスリックの地と、そこで出会ったものたちに対する若干の名残惜しさから、自然と漏れてしまったのだ。

 

 辺りは暗く最早何も見えない。聞こえない。凍てつく寒さに凍え、感覚が失われてゆく。

 単なる痛みとは比べようもない、酷く恐ろしい喪失感に埋め尽くされる中、微かに、声が聞こえた様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───さようなら、灰の方……貴方に()の導きがあらんことを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸の内、魂に火を灯す様な、暖かく柔らかな音色だった。

 

 幻聴だったのかもしれない。しかし確かに、聞こえたのだ。

 

 全身を氷漬けにされるような怖気のする感覚に苛まれながらも、その言葉をしかと脳裏に焼き付ける。

 

 記憶力は十二分にあり、特に意識せずとも忘れることはないだろうが、何故だろうか、魂に宿したこの熱が、そうさせるのか。

 

 それとも、傍に感じていた、(ほの)かなぬくもりに気を当てられたのか。

 

 全くに度し難く、しかし悪くはない感覚を覚えながら、俺の意識は失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光だ。

 

 眩しく、鮮烈な光に包まれている。

 

 それはあまりに力強く、瞼を透過し瞳を焼くようで少しばかり煩わしい。

 

 代わりに先程まで感じていた寒さもぬくもりも、骨の内から焼けるような感触も今はなく、前回前々回よりも控えめな気怠さが少し残る以外に身体に不調はない。

 

 ゆっくりと目を開く。

 

 そこは記憶にない、見知らぬ場所だった。

 

 空に位置する燦然(さんぜん)とした輝きは、白く透き通るようでいて力強く、熱を持つ。

 

 それは最早、先程まで見えていた陰り溶けたような暗い穴ではない。

 

 暗闇はなく、ただ光が満ち溢れている、全くの新世界。

 

 ロスリックの時代、その先の未来へと飛んだのだろう。

 

 また、新たな冒険が始まるのだ。

 

 未知の戦いが待っているのだ。

 

 そう思うと歓喜に魂が打ち震える。

 

 期待と興奮に胸を躍らせながら身を起こす。

 

 同時に、ほんの一抹の、些細な寂寥感(寂しさ)を胸の内にしまい込む。

 

 今はただ、前を向いて歩き出そう。

 

 どんな困難が待ち受けていようと構わない。

 

 その悉くを避け、あるいは潰し、突き進んでみせよう。

 

 この身は朽ちる事のない、不死人(アンデッド)なのだから。

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 

 

失われてゆく

 

肉体も精神も零れ落ちてゆく

 

だがそれで良い

 

幾ら人を超えた身であろうと人の形に囚われていては()()の後釜となる事しか出来ぬ

 

それでは

 

彼女を守れない

 

あの老醜が成したのだ

 

いつかまた繰り返すに決まっている

 

ならば完全に切り離す

 

私の身ではそれしか出来ない

 

世界が無事に残ったとしても業は失われるだろう

 

故に

 

あの世界からこの場所に辿り着く者など永久に現れはしない

 

彼女は何者にも脅かされず眠る事が出来る

 

その為に捨ててしまおう

 

歪で身勝手な自我も

 

狂おしい程に破滅的な衝動も

 

悍しく醜い、下卑た情欲も

 

苦しく切なく、それでいて熟れ腐った恋心も

 

ただひとつを残し全て捨ててしまおう

 

 愛

 

ただ無償の愛だけがあればいい

 

もう彼女に求める事などない

 

もう十分に貰った

 

彼女の声を聞いた時から

 

朧げに姿を捉えた時から

 

己という器から溢れてしまう程に

 

己が如何に異常であるか理解出来る程に

 

彼女に与えられてきたのだから

 

 

 

もう終わりは近い

 

思考能力も消え失せ 概念に近い存在に成り果てるだろう

 

誰も気付けないよう 辿り着けぬよう この場所を覆い

 

彼女を包み込みぬくもりを与える

 

ただそれだけの存在

 

だが

 

それだけで幸せだ

 

1番大切な(ヒト)

 

愛を捧ぐ事が出来るのだから

 

 

 

最後に()()に願おう

 

最初で最後の神頼みだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうか

 

 

 

どうか 愛おしい彼女(ヒト)

 

ずっと幸福な夢を見ていられますように

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 ある世界で

 

 定められた二つの結末、そのどちらかにしか行き着く事のない物語が、また一つ幕を下ろした

 

 その終着点は本来の結末の片割れに似て、しかし、決定的に異なる結果をもたらす事になる

 

 再び世界に浸透していた禁忌の業、その根幹の完全な喪失

 

 神そのものが永久に失われたのだと、後に人々は知る事になる

 

 北方に位置する伝承の神殿より現れた、世界の要であった者が語ったのだ

 

 常軌を逸した何かが起こり、全ての脅威と霧、それを生み出した()が消え失せたこと

 

 霧の中、健在であった者たちが自身を含め記憶に欠損があること

 

 業も神も、最早戻る事はないことを

 

 世界はあるべき形を取り戻し、私たちは未来を得たのだと

 

 老いさらばえ、渇き、死の淵にありながらも強い意志を発する要人は、魂を震わせ声高々に、そう宣言した

 

 かくして世界は平穏と自由を取り戻した

 

 困惑の中、多くの者が歓喜する傍ら、拠り所を失った者たちがいた

 

 新たな一歩を歩み出した世界の裏

 

 業と神の消失により失墜した者たちは暫しの間、あるいは生涯を賭けて神を探し求めたが、何者も神に辿り着く事はなかったという

 

 

 

 

 

 神は眠る

 

 遥か昔、子であった者と共に

 

 誰も知り得る事のない、知ろうと(まみ)える事のできない次元の内で

 

 他次元の上位存在であろうと手出しの出来ぬ深い濃霧の中

 

 彼らは終わりの無い幸せな夢を見ている




 







※ここから先はソウルシリーズの用語の解説、本編のわかりにくい部分の補完、作者の見解の書き置きなので読み飛ばしていただいて構いません

自分から見ても本編の内容はソウルシリーズ未プレイの方に大変不親切に感じたのでちょっとした説明や分かりにくい部分の補完のコーナーを設けました

自然に本編の中で説明できれば良かったのですが主人公の気質と自身の技量の無さが相まって無理でした…
おそらく面白みも少ないうえ、原作のネタバレも多いため注意してください

本編以上に雑に書き殴るので読みにくいとは思いますが、更新も展開ものろまな本編と異なり、執筆に大した時間はかからず、半ば趣味で書いてる部分もあるので、本編の執筆には問題は出ないと思います
他に分からない点や気兼ねなく感想欄で尋ねてください
原作厨なのでフロム公式が出した情報と明確に異なる点も発見されたなら教えてくれるとありがたいです


また、考察…というか個人的な見解も載っけておこうと思います
こちらは確たる証拠の無い妄想も混じった妄言みたいな物ではありますが、私ではない誰かが、限りなく正解に近い答えを見出す手助けとなれるかもしれないので載せておきます

これより下は前半が用語やわかりにくい部分の解説、後半が見解です。
ある程度見分けやすいように区切っているので、興味のない方はどうぞスルーしてください


ーーーーー



最初の火

ゲーム「ダークソウル 」の核とも言える存在。
灰色の岩と大樹と、朽ちぬ古竜ばかりがあった灰の時代に、無からおこったのか、どこからか現れたのか、その火は突如として燃え盛り世界に大きな影響をもたらした。
世界に対し強い影響力を持ち、光と闇、生や死といった様々な概念を対となる形で生み出し世界そのものに定着させた他、燃え盛る事で正の影響を、火が衰える事で負の影響をもたらしていたとされる。
また、闇より生まれ、それでいて火に惹かれた幾匹かのモノに、強大な力を秘める王のソウルを与えた。
"ダークソウル"とは、この王のソウルの一種である。


不死人

何度死のうと蘇る力とダークリングという印を持つ人間の呼び名。
単に不死と呼ばれる場合も多い。
主に不死の成れの果ての1つとされる篝火を起点に復活する。
不死人は死ぬと今までに得た固定していないソウルなどを失うが、それを取り戻す力も有している。
また、死の際に大抵の異常を跳ね除ける活力を持つ。
彼らは死や時間の経過によって脳、或いは魂にダメージを負い、人間性の流失が起こる。
それに伴い発見力の低下、物忘れが激しくなるなどの症状が現れ始め、限界を超えると壊れてしまい亡者という自我を失った忌まわしい化け物となる。
亡者となった後も症状は進行し、最終的には身体を動かす事も出来ない朽ちぬ屍や灰となる。
亡者となると多くの者はまともなソウルを持つ人間=生者に襲いかかるようになり、それ故に不死でない一般の人間は亡者化していない不死人であろうと同じ様に忌み嫌う。
ただ、作中に登場する非不死人はごく僅かな上に不死人に対する偏見を持っていない者ばかりなため、プレイヤーはそういったヘイトの全容を把握する事は出来ない。
多くの者は呪いだと認識しているが、実際は祖先から受け継いできたダークソウルの力が発現しただけであり、人間の真の姿と言う者もいる。
最初の火が消えかける度に増える。


火防女

篝火という、不死人が死した際に復活するいわゆるリスポーン地点を守る者。
火や闇に干渉する術に長けているが、火防女と成る者は人間性の闇に身体を蝕まれ、視覚を失う上に何処かしら醜くなるようで甲冑やローブで肌を隠す者が多い。
また、特定の条件を満たせば、篝火だけでなく不死の超越者である亡者の王や世界の根幹を成している最初の火にまで干渉できる。
人でない者でも成れる。


薪の王

消えようとする最初の火を存続させる為に焚べられ、薪の代わりとなる存在を表す呼び名。
最初の薪の王でもある神、太陽の光の王グウィンが後世へと火を紡いでゆくために仕組んだシステムの犠牲者。
火が消えかける度に現れる、闇の王と成り得る力を秘めた不死人が主に選ばれる。
格の高いソウルの持ち主こそが薪として望まれるためか強者が多い。
薪となった者のソウルの質が良い程火が長く保つが、その間全身、骨の内までも熱に焼かれるような痛みに苛まれ、自我を失うかソウルが燃え尽きるまで酷く苦しみ続ける。
薪であるが故に火を纏う。


グウィン

闇より生まれたモノの一匹。
最初の火に惹かれ、王のソウルを見出したという。
神族の王であったが、単に、大王・光の王と呼ばれる事が多い。
最も強いソウルの王であり、太陽の光とも称される雷を扱う。
最初の火が起こった灰の時代の終わり、火の時代の始まりに、野心からか、それとも恐れからか、一族や他の王のソウルを見出したモノたちと共に、朽ちぬ岩の古竜に対し戦いを挑みこれを討ち倒し、火の時代を築き上げた。
多くの配下に慕われ、数多くの一族を支えた偉大な王であり、その傍ら、ある蛇と鱗のない竜を友とした。
始めて最初の火が消えかけた際、自らを火の薪とし、また、自らの子と友たる蛇に薪の調達を託したとされる。
人間を恐れている。


王たちの化身

多くの名も知れぬ薪の王たちの化身。
最初の火へ干渉しようとする主人公の前に最後の壁として立ちはだかる。
薪の王の集合体であるために多様な戦闘スタイルを持つ。
「ダークソウル(リマスタード)」「ダークソウル2」で色々な武器やスペルを自分で使っていたりオンライン上で他者と多く関わった者程好きに、或いは嫌いになれる。
多様なスペルを扱うが唯一闇属性を伴う術だけは見られない。
また、主人公が入手する事が出来る化身の装備は化身自身とは大きく異なる。
パッケージなどを飾っていたブロードソードらしき直剣や灰を握る黒く焦げた騎士のデザインもまた異なるなど未だ謎が多い。
神の如きその身には、確かに血が流れている。




最初の火により生み出された闇から産まれた存在。
「ダークソウル 」の神族は世界の始まりからいた訳ではなく、人々の思いから産まれた訳でもないため大して特別な存在ではない。
だが、人間などと違い力を持って産まれた影響か、上位存在を気取り世界の支配権を賭けて竜に挑んだ他、人間が力をつけ歯向かわないように管理しようとした。
全体としては他種族を利用したり排除したりするような利己的な者が多いが、中には例外もいる。
上記の神族の他に、かつて人であった英雄が後の時代に信仰の対象として祭り上げられ神格化した例もある。
王たちの化身に似て命ある神として新たに生じたのか、或いは人々が伝承に見出した架空の神かは不明。
大抵の神族は闇に弱い。


ダークリング

不死人の証。
この(サイン)を通す事で、不死人はソウルを代償に自らの死と篝火への帰還を成す。
故郷への帰還を叶える、高位の聖職者の使う偉大な奇跡「家路」と似た効果ではあるが、この輪は、不死人が骨になってなお惹かれる篝火を故郷と捉えるのだろうか。
その火の封は神の枷だと考えられている。


何度も見た。何度も経験した。

「ダークソウルシリーズ」は周回制のゲームであり、エンディング後に物語の冒頭から再スタート出来るのだが、次の周には一部アイテム以外の全てを持ち込む事が出来る。
これだけだと強くてニューゲームといった具合に聞こえるだろうが、同時に敵も強くなる上に増えたりもする(残念ながら増えるのは2のみ)。
なので基本的に俺TUEEE!なんて事は出来ない。
現実は無情である。
今作の主人公はエンディング→振り出しに戻るを繰り返しながらも「ダークソウル」を1→2→3と辿ってきた設定である。
ゲームでの敵の強さは8周目でカンストする。


ソウル

命の根源に近いもの。
生命を持つ者全てが持ち、その営みにも深く関わる。
身体や武具の強化の他、売買やゴーレムの製造など様々な分野で活用される。
それ故かソウルの力に魅入られる者も少なくない。


ロードラン

ダークソウル(R)の舞台
神代の時代の、古い王たちの地。
かつての栄華を垣間見ることはできるが、既に多くの神々から見限られ僻地となっている。
亡者と成り、朽ち果てるまで外界と隔離された監獄に囚われていたはずだった呪われた不死の化け物───主人公がある不死の騎士によって救い出され、彼の願いに導かれるようにして辿り着くことになる。
使命を託された主人公は願いのため、或いは唐突に降って湧いた余生を有効に使うために、駆け巡る。
己のため、使命のために戦う不死たちの裏では、人間を駒とし神や蛇が暗躍している。


ドラングレイグ

ダークソウル2の舞台
ある戦争により滅び失われた地
かつての栄華は最早失われているが、武器に魔法、ゴーレムや人造竜など、ソウルを活用した高度な技術の産物は未だ数多く機能している。
不死の呪いをどうにかしたい主人公が、呪いをどうにかできるという眉唾物の噂にて語られていた朽ち果てた門を探し出し、その先に突如として発生した謎の渦潮に身を投げる事で辿り着くことになった地。
嘲笑われたりあやふやな指示に翻弄されながらも主人公はめげずに突き進むがどうにもならなかった。
しかし、ある日を境にドラングレイグには差異がもたらされ、ある賢者との問答の末主人公はもう一つの道を得ることになる。


ロスリック

ダークソウル3の舞台
未だ燃え尽きぬ薪の王たちの故郷が流れ着く地
かつて、最初の火の存続のため、多くを捧げたロスリック王家の治めていた国でもある。
滅びゆく間際にあり国も人も荒れている。
いつか、どこかで尽きたはずの主人公が火のない灰として再び立ち上がり、積み重ねられた火継ぎの先で最古の火継ぎの再現を成すために駆け巡る。
やがて王狩りと呼ばれた先、主人公は未だ朽ちぬ蛇たちの思想のもとに、あるいは自らの手で見出した答えを胸に、全ての始まり(終わり)の地へと導かれる。


記憶力は十二分

「ダークソウル」のレベルアップは幾つかある能力値の内から1つだけ選び、ソウルを経験値代わりにそれを成長させるという形式の物であり、上げられる能力の中には記憶力もある。
そのため、能力値をひたすらに振り続ければ脅威の記憶力99という暗記の天才を生み出せる。あるいは、その先も可能なのだろう。
なお、ゲーム中ではスペル枠を増やす以上の事は記憶力の意味はない場合が多い。
余程の魔法狂いか化身コスでなければメリットは少ないので、実際に記憶力をカンストさせるようなプレイヤーは殆どいないものと思われる。
当たり前だがゲーム中の主人公の実際の記憶力はプレイヤーに依存する。
エレベーター落下事故などには気を付けよう。


能力値

ソウルによって上昇させる事ができる。
総合的な能力の高さはレベルとも呼ばれる。
それはソウルの記憶であり、一度その者の肉体を巡ったソウルはずっと記憶に刻まれる。
それは強さであり、ある種の呪いでもある。


ダークソウルの主人公

不死の中でも極めて異常な存在。
不死人、火の無い灰と呼ばれる。
人を、竜を、神を、王を殺す者。
不死としては打たれ弱いが、どれ程の強者が相手であろうと必ず討ち滅ぼし、前へと進み続ける。
その心が折れぬ限り





また、囲んで叩くと死ぬ。


(アレ)

死という概念を持たない、ただ使命の為に存在し続けた無慈悲で愚かな超越者(要人)
彼の人物に対し終わり無き苦悩を与え続ける事で無限のソウルを得る事が可能である。
だが、それを実行する者もまた相応の苦悩を、もしくは虚無を味わう事となる。


(神)

獣と呼ばれる世界の異物。
ソウルに飢え渇き、ただ貪るために様々なモノを生み出した。
それは人々にとっての悪意であり奇跡である。
この作品の世界線では()()のついでに幸せな眠りを得ることになる。


(彼女)

神が生み出した古く強力な脅威の一つ。
要人に封じられ獣に対する駒となり長い時を生き永らえてきた。
ただ殺し奪う者として生み出され、後にそれを否定され神殿という小さな世界に封じられ続けたが故に、人に似た姿でありながら純真な存在となる。
()にとっての全ての欲の象徴。
獣が人々にとっての神であったのならば彼女は()にとっての神となるのだろう。
柔らかくあたたかい愛に包まれた彼女は、もう決して目覚める事はない。
形のない愛に抱擁され、永劫の時の中、彼女は終わる事のない幸せな夢を見続けている。


ーーーーー



火の炉のロスリック騎士

3の最初の火の炉ではロスリック騎士の剣や槍が墓標のように突き立っている他、兜や盾なども散乱している
彼らについての詳細を知り得る事は出来ないが、「王たちの化身」の兜や鎧の意匠を見るに最新の薪となったのだろう
彼らは何故火の炉にて果てたのだろうか
贄として産まれ育ち、ただ薪として消費されるはずであった王子ロスリックを新たな王と認められず、離反し集い、本来の国、ロスリック王家の在り方に殉じ使命感から薪となったのか
王子を聖王と認め、忠誠か、あるいは同情から責務を譲り受けようとでもしたのか
いずれにせよ、それを語る者はいない
きっと、彼らの犠牲など語るべきでなく、語る価値すら無かったのだろう


薪の王(王たちの化身)グウィン

火の終わりを恐れ、闇の者たる人を恐れ、人の間から生まれるであろう、闇の王を恐れ、世界の理を恐れた
最初の火の炉にて、消えかけの燃えがらとなった彼は、どこか亡者に似て、朽ち渇いた身で最後の敵として巡礼者の前に立ちはだかる
遥かな時を超えた先、王たちの化身に宿ってまで
薪の王の試練として、あるいは闇の王から火を守るために剣を振るったのだろうか
もしくは、ソウルへの渇望、火への執着、人への恐れといった、もっと根本的なモノが彼を突き動かしたのかもしれない

ある古い言葉(ウェールズ語)で白色を表す


空に浮かぶダークリング

人によく似たそれは、輝かしくも悍ましい
最初の火が歪み、火の一側面でしかなかった闇が強まった事が原因なのだろう
その日輪は太陽の光の王、もしくは最初の火自身が世界に施した火の封なのだろうか
それとも、()こそが最初の火の本質であったのだろうか
仮に、人と最初の火の本質が同様のモノであったのならば、ダークリングがソウルと人間性を消費したように、火にとっての世界とは、そこに住まう者たちとは、不死人にとってのソウルであり人間性なのだろう
最初の火は、世界を犠牲に自らの死を望んだのだろうか

あるいは

誰も知らぬ、火の「故郷」へと帰ろうとでもいうのだろうか


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根無し草
第1話:ベイグラント


騒がしい主人公ですが、どうかご容赦を



 眼が覚めるとそこは草木が生い茂る林だった。

 

 木々は疎らであり、陽光が辺りに溢れ立ち眩む程に眩しい。

 

 空を見上げれば、燦々(さんさん)と輝く太陽とどこまでも広がる青空が広がっていた。

 

 

 

 正直に言って驚いた。

 

 今までの人生で───少なくとも記憶している範囲では、この様な雄大で清々しく晴れ渡る空など見た覚えが一度もなかったからだ。

 

 ここは、ロスリックの代で火継ぎが成され一時の安息を得た世界なのか、それとも火継ぎが終わり、小さな火たちに照らされている世界なのか。

 ただ、少なくとも最初の火が簒奪(さんだつ)された世界ではないだろう。確信はないがそう思う。

 

 こんなにも太陽は明るく、光り輝いているのだから。

 

 長い、長い旅路を経てようやく見つけた、最も望ましいと思えた火の時代の終わらせ方。それが成就したのか、もし成されたのならその上でどの様な世界へと変化を遂げたのか。

 少しばかり気になったが……きっと今気にするべきではない。

 

 いずれにせよ答えはすぐに得られるだろう。これまでのように。

 

 そう思い立ち、念のため保険(惜別の涙)をかけ()()を整える。

 そうして、周囲の警戒だけを意識しながら何も考えず始めの一歩を踏み出した。

 

 

 

 少し歩を進めた。

 

 林は虫の歌声や鳥のさえずり、風による草木のざわめきが響くばかりで至って静かであった。

 

 細心の注意を払ってはいるが時折小動物が此方を伺う様子が感じ取れるのみであり、敵と成り得るだろう亡者や獣の姿は見当たらない。

 少なくとも近辺では目視が可能な敵は発見できなかった。

 "メッセージ"や怪しげな壁すら見つからないため、両の手に携えた得物は未だ振るわれる事なく小綺麗なままだ。

 

 思えば、今まで散々廻ってきた3つの時代、それぞれの始まりの地には姿形は違えど必ず亡者がうろついていた。

 

 だがここにはそういった気配が微塵も感じられない。

 木の陰に伏兵が潜んでいる訳でもなく、盛り上がった茂みから化け物が出てくる訳でもない。

 ごく小さな虫は見られたものの特別な力を有していそうなモノは見当たらず、極めて平穏である新たな景観を味わう以外に刺激がない。

 警戒が全て無駄であるように感じられ、なかなかに辛い。

 不穏さや辛気臭さ、陰鬱さなどは一欠片もない、緩やかで穏やかな空気に呑まれ、どうしようもなく気が抜けそうになる。

 

 しかし、警戒を緩めてはいけない。

 始まりの地であっても、敵意を剥き出しにした怪物が待ち構えていたり降ってきたりするものだ。

 

 その上、現在生命力がかなり低下している。

 

 今回は少し気怠い程度であり、運が良いのか悪いのか……力の喪失は生命力だけで済んだようだ。

 しかし、装備の関係上、それだけでもだいぶ致命的だ。

 

 故に、初めて訪れる場所で慎重さを欠く事などあってはならない。

 そう自分を戒める傍ら、何処かソウルの内で、何故だか心が揺さ振られるような感触がした。

 

 

 そうして探索を続けていると、大きな木とそれにもたれかかるように座して動かない甲冑が目に入った。

 警戒しながらも近づき、様子を伺うが中身は無く空洞であり、至近距離に達しても動きだす事はなかった。……残念だ。

 

 気を取り直し、改めて甲冑を眺めてみる。

 大木に寄りかかる様は一見眠りに陥った、あるいは息絶えた騎士のそれにしか見えない。

 遠目からではとても空洞とは思えないその様子は、ロスリックの領地で見られた主を失った甲冑たちを思い起こさせる。

 だが、朽ちたあれらとはどうやら異なるようだ。

 

 無手だが、錆や傷一つなく中々に良質な中装程度の金属鎧。

 

 ロスリック騎士たちが残した抜け殻のような甲冑とは異なり、内に含まれるソウルが大地に溶けだすなどして、取得不可能な代物に変化している訳ではない。おそらく入手は可能だろう。

 布地部分など殆どない、無骨ながらも洗練されたデザインが目を引く。

 見た事のない珍しい装備でもあり、なかなか収集欲の刺激される一品であるように見受けられる。

 

 入手しよう。

 

 そう思った側から警戒を解き甲冑に手を伸ばす。

 兜、鎧、腕甲、足甲、それぞれを拾い上げ、まとめてソウルの内にしまい込む。

 

 はて、入手したはずだが、いつもと違い何故だがその物が持つ名称を認識できなかった。まあ、急いでいる時や他所ごとを考えている時にはよくあるものだ。気にしても仕方ない。

 

 早速着替えてみようか。いや、後からでも問題ないだろう。どういった武器が似合うだろうか?

 内心喜ばしく思いながらそんな考えを巡らせる中、どの様な代物か探るためソウルを通して少しばかり調()()()

 

 何気なくとった行動だった。

 数えきれぬ程繰り返してきた習慣であった。しかしだからこそ、その行動の結果に目を見開いた。

 

 それが何であるか、何もわからなかった。

 

 本来なら対象が持つ情報を把握できたはずだ。

 今までなら由来、付与されている効果、元の持ち主についての情報など、名称以外にも多かれ少なかれ何かしら引き出す事が出来るはずだった。ごく一部の情報しか読み取る事が出来ない場合もあったが、何もわからないなどという例外はこれまでになかったはずだ。

 

 だが、今し方手に入れた甲冑は何も読み取れなかった。ただの1つも。

 由来や特徴どころではない。名称も、性能も、鎧であるか、そもそも防具であるかすら把握出来なかった。

 目や手触りから得た情報から甲冑自体は認識できたが、ソウルによる解析ができないとは異常だ。

 

 あらゆる生命の源となるソウル。今までは、その微かな残り香から幾らかの情報を読み取る事を可能としていたのだが……再度調べようがどうにも読み取れない。

 元よりソウルの扱いに関しては特に秀でている訳ではなかったが、それでもこの様な経験は今までになかったものであり、少し……驚いた。

 

 まさか時代の移り変わりによりソウルを用いた力が変質したとでもいうのか?

 

 慌てて右手に握り締めている"盗賊の短刀"を見る。

 

 結果、何も問題なく読み取る事が出来た。

 間違いなく、この俺の、俺だけの短刀だ。

 

 少しばかり安堵する。

 だがこの甲冑、どうするべきか。

 次に装備するか誰かに渡すかしようと機会ができた時、おそらくだが、その都度手間取るだろう。これをそのままソウルの内で管理したくはない。これまでアイテムは名称から記憶し、認知してきたのだから呼び名程度は付けておきたい。

 ふと頭に、ある者たちの名が浮かび上がる。

 

 "喪失者"

 

 あれらとはまた異なるがこの甲冑にはその名が相応しいと、そう思えた。だが同じ名で認識してしまうと区別しづらいという問題が出る。

 ならばどうしようか?……いつか身に纏う防具だ。呼び名を心の内で考える程度なら許されるだろう。

 

 "失われた騎士"

 

 名すら無い甲冑一式を、その名で認識する事を決める。

 甲冑に名を与えてやる事などできないが、問題あるまい。勝手に呼ばせてもらうだけだ。

 同じ名を名称として持つアイテムが出ない限り、この名で認識するとしよう。

 

 

 そうやって1人、物を考えていると後方から草を踏む足音が聞こえてきた。

 足取りは此方に向かってきているが、緩やかに近寄ってくるそれに気配を殺そうとする雰囲気はない。

 徘徊する亡者か何かかと思い振り向くと、そこには1人の男がいた。

 

 

「……君は……人間かい?」

 

 

 目を向けた先にいたのは、眼鏡をかけ、青と黒を基調とした服装の白髪の男。

 襲い来る気配はなく、少なくともまともな思考の持ち主である事が察せられた。

 

 その男から発せられた、唐突な質問。

 独りごちたような、消え入ってしまいそうな、そんな声色での問いかけ。

 

 それは無意識の内、意図した発言ではなかったのだろうか。

 振り向いた不死を目に捉えた男の表情は何故か青ざめ、驚愕と困惑で彩られていた。

 

「……あぁ、そうだ」

 

 それに対し、嘘偽りを交える事なく返答する。最良の選択など、現時点で解るはずもないため肯定せざるを得ない。

 

 そもそも、"初対面の相手"に取り繕う必要もないだろう。

 

 どうでるか。

 

 どこぞのハゲ頭(パッチ)のように問答だけで敵対する、などという事態は勘弁してほしいのだが……

 そんな考えを浮かべながら───(ほの)かな懐かしさを噛み締めながら、今一度見据えてみる。

 男の表情は未だに強張り、動揺からか微かに瞳が揺れ動いていた。

 

「そうか……いや、失敬。初対面なのに悪いね……申し訳ない」

 

 人間であるとの答えに、男は一瞬の間を置き仕切り直すように謝罪の言葉を重ねてくる。その態度はどこかぎこちない。

 

 それにしても珍しい。

 いきなり質問した程度の事で態々(わざわざ)謝るとは……今までこの程度の事で詫びを入れる者などほんの一握りしかいなかったものだが、この男は大層な教養の持ち主なのだろう。

 

 それともこの地ではこれが普通なのだろうか。

 

 ルールやマナーの持つ力というのは非常に厄介な物で、時に命より重い。断りのない質問には気を付けた方が良いのかもしれない。

 予め注意を受けなければ知った事ではないが。

 

「言い遅れたがはじめまして、僕は森近 霖之助(もりちか りんのすけ)。近場で古道具屋を営んでいる者だ。……よければ君も、名前を……何者であるかを教えてほしい」

 

 森近霖之助(モリチカリンノスケ)……随分と長い名前だ。

 

 それにしても、何者であるかを問うか。

 ドラングレイグの地にて交わした老婆達との問答を思い出す。

 ただの人間ではない事は既に察していると伝えたいのだろうか?

 確証がある訳ではないようだが。

 

 どうすべきか。

 

 悩む程の事ではないが、言葉に困る。

 無難に適当な名を名乗り、当たり障りのない返答を選択するという手もある。

 だが誠実さに欠ける上、自身としても好ましいとは思わない。

 だとすれば、返す言葉はあの時と───あの老婆達へ向けたものと変わらない。

 

「……名前は覚えていない。とうの昔に忘れてしまった」

「すまないが答えられない」

 

 この時代における不死人への認識を把握しておきたいが為に、不死人である事に()()()拘りを持つが故に

 

「だから、適当に"不死(アンデッド)"とでも呼んでくれ」

 

 己は不死人であると、あからさまに伝えてみる。

 舌の根も乾かぬうちに慎重さをかなぐり捨てていく。

 

 無論悪手ではある……が、この時代に生きる者がどう反応するか、そして、最悪の場合出くわすであろう不死狩りの"ロイドの騎士"、あるいはその後継がどれ程のものか。

 未だ一度も(まみ)えたことのないそれらを知りたいという欲求、そして好奇の熱には逆らえなかった。

 

不死(ふし)……わかった。そう呼ばせてもらうとしよう」

 

 返答は実に当たり障りのない物だった。

 ただ何か思う所があったのか青衣の男(モリチカリンノスケ)はただ静かに目を細めたように見て取れた。

 

『魂喰らいの化物である』

 そう明かしたに等しいにも関わらず、男は一切の負の感情も晒す事はなかった。

 しかし、同じ不死たちのように当たり前の事として流す訳でもなく、火防女(ひもりめ)を自称した老婆たちのように嘲笑うでもない。

 感性の違いか、はたまた不死人に抱く印象がこの時代では根本的に異なるのか、今まで出会ってきた者達とはまた違った反応であった。

 

 再度気まずそうになりながらも、何かしら含む物のある目で見つめてくる。

 不死を知らない訳ではないようだが、その目には恐怖も侮蔑も映らない。疑問と好奇の念、そして微かな憐憫を浮かべているようにすら見えた。

 

「ところで聞きたい事があるんだが、この辺りで西洋風の甲冑を見かけなかったかい?」

 

 話は切り替わる。

 どうやら先程の甲冑を探していたようだ。

 

 あれについての詳細は未だ不明だが……現段階では明け渡しても構わないだろう。今渡して問題が出ようと次に活かせば良いだけの話だ。

 そう考えながら、まず兜を、次に鎧を手元から出す。

 

「これの事か?」

 

「……間違いない、それだよ」

 

 一瞬、男の表情が強張り言葉を詰まらせる。

 この甲冑は男にとって何か特別思い入れのある物であったのかもしれない。

 それとも、これが何かしらの力を秘めた逸品であった為に関心を示したのだろうか?

 

 どちらにせよこれを己の所有物であると主張出来そうにない。

 憤りから敵対されるにしても、落胆の意を持ちながら許容されるにしても、明確なメリットが見えない。

 興味を(そそ)るような、魅力あるデメリットもない。

 

 ここで強情な態度を取り、心象を悪くさせるよりは素直に渡す方が得策と言えるだろう。

 

「今、何もない空間から取り出した風に見えたが、それも君の"能力"かな?」

 

「……そうかもしれない」

 

 ほう、と感嘆するように息を吐く男に対し思わず間の抜けた声が出かけるが、男の真剣な面持ちを確認し必死に抑える。

 

 出された防具と此方へ、交互に視線を送りながらの疑問。

 

 全くもって予想だにしなかった言葉に動揺する。

 

 一瞬何を言っているのか判別が付かなかった。

 顔を合わせる事なくやりとりを行っていたなら冗談として受け取っていただろう。

 

 だが違う。

 

 彼は本当に知らないのだ。

 

 一目見ればわかる。

 

 これは茶化すつもりで発言した者のする顔ではない。

 

 自らの知らない、未知にして埒外(らちがい)な力を目の当たりにした者のそれである。

 

 ソウルについての知識を持っていないとでもいうのだろうか?

 もしかすると、先程の反応も甲冑に向けてのものではなかったのかもしれない。

 

 ただ、ソウルの内から防具を取り出しただけ。

 獣や理性なき亡者でさえ活用する、技術とすら呼ばない単なる動作。

 一定以上の知恵ある存在が行える行動の一端であり、能力というには(いささ)か難がある。

 

 自身としては、道具の使用と大差ない、大した事のない行為だと認識していた。少なくとも、一般の人間であろうと当たり前に行う事の出来る行動を選択したつもりであったのだが……。

 

 困った事だ。これから先どのように行動すればよいか、まるで見当がつかない。これまで以上にこちらの常識が通用しないと考えても良いだろう。

 

 

 まあ、よくよく考えれば不思議な事ではないか。

 

 火の時代、1つの年代の内ですら、世界の法則は乱れ狂っていたのだ。

 たとえ世の根幹を成す概念であろうと変質し、失われる可能性は今までも十分にあったはずだ。時の流れ、火による差異がもたらす変革など、今更気にする事ではない。

 

 

 考えすぎか。

 

 小さく溜息を吐き、一旦思考を切り上げる。

 

 今後について、多少の不安はあるが特別心配がある訳ではない。先へ先へと、ただ進む事さえ出来るのなら、それだけで上等だろう。

 それより男の目当ての品を差し出す方が先だ。話はこちらから切り出すべきか。

 

「……で、どうする?」

 

 "能力"について聞き、何か考えるような素ぶりを見せる男に、少し間を置いて兜を突き付ける。

 

「渡せと言うなら譲るが」

 

「いや、君が手に入れたのなら何も言う事はない。ただ、少し聞いてみただけだよ。別に僕の物という訳でもないからな」

「最近この辺りに色々な物が打ち捨てられていてね……大半は既に回収していて、その甲冑も回収しようと考えていたのだけれど」

「君が拾った物だ。君の好きなようにするといい」

 

「……わかった」

 

 どうやら持っていて構わないようだ。読みは外れたが都合が良い。

 

 そうとなると試しに一式着込みたい所だが……人目につく場所での早着替えは控えるべきだろう。

 まだ、この男が特別物を知らないだけという可能性も残っているが、根拠の無い勝手な推測で決めつけるなど不用意が過ぎる。

 実際、完全に失われた訳でなくとも秘匿されているという可能性もある。

 

 大体着るだけならいつでも出来る。

 

 それに初めての地での旅は着慣れた黒革の装束でこなすと決めているのだ。今はいいだろう。

 

 それよりも……

 

「他にも回収したと言ったが、どのような物があった?」

 

「……武具、指輪、鉱石、とにかく色々な物があったな。特に変わった特徴もない物からかなり特殊な物まで、様々な種類の物が散乱してたんだ」

「こんな所……無縁塚でもないのに、それも一度に大量の物品が放り捨てられるなんて今まで見た事なかったんだが……全くもって驚かされたよ」

 

「なるほど、中々に魅力的だ」

 

 色々な物があったと言った。

 

 それも一箇所に。

 

 普通こういった野外でアイテムを取得する場合、大抵は人間などの亡骸、宝箱、または何かの残骸から得る事が多い。

 その上大量に落ちているとなると屍に限られてくる。おそらくは何かしら致死性の高い罠か強敵でも配置されていたのだろう。

 

 もしかすると、この男はそれらの障害を突破した強者なのかもしれない。

 この男自身が障害という可能性もあるが……

 

 ただ、放り捨てられていたとも言った。

 

 言葉通りに取るなら誰かが捨てていったのだろう。

 

 余ったアイテムを貯めておく事も売る事もなく、捨てる者はそれなりにいる。

 収集癖のあるこの身はせいぜい所持限界を超えた物を仕方無しに放置する程度だが、中には好んで放り捨てる者もいるのだ。

 

 確かに、捨てるという行為は何の生産性も伴わない訳ではない。時には所有者が気まぐれに放り捨てた(ぶつ)が、巡り巡ってそれを必要とする者の手に渡る事もあるだろう。

 

 それに加え捨てた物体は、時と場所によっては理解の域を超えるような、不可思議な現象を起こす事もある。

 

 例えば、ロードランの地では捨てた物が時空の歪みにより世界を巡るという現象があった。

 それだけでなく、誰かの手に渡る事もなく、幾度も時空を超え力を得たアイテムは、"精霊"と呼ばれたモノの一種に変異するという法則もあり、その奇怪さとユニークさから興味本位で捨てる者も多かった。

 

 ドラングレイグの地では打って変わって負の影響の強い現象が起こるようになっていた。

 廃棄物は世界を巡る事も変異する事もなくなったが、代わりに空間に対し影響を及ぼす力を得た。

 その力はアイテムを複数遺棄する事で初めて発揮される。

 所有物を幾つも捨て世界に固定すると、その空間に負荷がかかるようになるのだ。

 

 実際に、他世界に入り込んだ者がそれを利用し、その世界の主たちに対する嫌がらせ、もしくはせめてもの抵抗として行う事もあった。

 負荷が極まると、周囲に存在する者全てを緩慢な時空へと誘う、異常な環境が生まれるため、巻き込まれた者は廃棄物を撤去するまで苦労する羽目になる。

 意地の悪い真似ではあるが、品のない外道を相手取る際ならあまり労力をかけずとも一泡吹かせられるため悪くない手法かもしれない。俺の好みではないが。

 

 この地でアイテムの投棄はどういった意味を持つのか不明だが、物を捨てても上記のような特殊な事態が発生しないロスリックの地であっても、物を捨て置く輩は一定数存在したのだ。ここでも単純に誰かが捨てていったとしてもおかしくはない。

 

 だがそれ以上に興味を覚える。

 

 "無縁塚"についても気になるが、やはり関心は正体不明のアイテム群に向けられる。

 

「……それらの品々を見せてもらう事は可能か?」

 

 見たい。そして知りたい。

 

 どのような見た目か。どのような効果を持つのか。どのような情報を内包しているのか。どのような由来があるのか。

 

 新天地の物なのだから当然今まで見てきた物とは異なる可能性が高い。今までの経験上半分以上は未知の代物だろう。

 集める事で(えつ)(ひた)る訳ではないが、可能なら譲り受けるか購入するかしたい。

 今現在、自身にとってそれなり以上に価値ある情報源となるのは間違いないのだから。

 先程古道具屋と名乗っていたことを踏まえれば、おそらく交渉は可能だと考えられるが……無理なら今回は諦めよう。

 

「構わないよ。すぐそこの僕の店に置いてある。見る分には特に言う事はない」

「店内に一通り置いてあるから是非見ていってくれ。一部はもう商品として出しているから欲しいと言うなら代価が必要だけど……寄ってくれるかい?」

 

いいだろう(YES)

 

「随分と食い付きがいいな君……まあ、関心を持ってくれるのはありがたいが」

 

 許しが出た。

 

 思わず即答したのに対し、男は苦笑とまでは言わないが……控えめに呆れているようでいてどこか喜ばしげな表情を見せる。

 購買欲の高さを評価してもらえたようだが、正直に言えばこの男の望むような取引相手になれるかなど自分でもまだわからない。

 

 手持ちのソウルでは買いきれない可能性も、下手をするとソウルでの売買自体出来ない可能性もある。その時はどうにか物々交換に持ち込むしかあるまい。

 幸い、古い時代の遺物なら有り余る程に貯蔵している。所持している物の古道具としての価値など今まで考えた事もなかったが、質はともかく数だけは揃えられている自信がある。

 

 ここが、最初の火が生まれたばかりの時代、原初の神代でもない限り、右に出る者は殆どいないと考えていいだろう。

 

「……ところで、店はどこに?」

 

「なに、僕の店はすぐそこ、あの辺りだから安心してくれたまえ」

 

 そうか───そう一言呟き、おもむろに遠眼鏡を取り出して眺めてみる。

 

 なるほど、確かに木造らしき建造物が見える。

 一瞬、全体を垣間見てから遠眼鏡を収納すると何やら感心した様子の男が目に入った。

 

「便利なものだ……それにしても"遠眼鏡"か。珍しい」

「うちにも幾つか置いてあるが……ここでする話でもないな。じゃあ、行こうか」

 

 少々の物珍しさを感じながら、軽く頷き応答する。

 

 店売りの遠眼鏡というのは何気に初めてである。

 こちらの遠眼鏡はどのような代物なのだろうか?少し期待を膨らませながら男の後に続いた。

 

 

 

 実際に古道具屋、香霖堂は目と鼻の先と言ってもよい程に近場にあった。

 先程の開けた場所は店の裏手に位置していたようだ。

 先導され店の正面にまで回り込んできた訳だが、自身の目では見た事のない外観の家屋である事はわかった。

 多くの刀使いの出身地であった東国の建築物に似ているようにも思えるが、残念ながら大工ではないので明確な区別はつかない。

 

 現在、店に辿り着いた際に店主である森近霖之助から、店内を一度整理させてくれと言われたため大人しく待機している。

 暇潰しがてら店の外装を観察しているが、これはこれで悪くない。

 

 物珍しく、見ていて飽きないというのもあるが、好奇心だけで観察している訳ではない。

 別に何者かが隠れ潜んでいないか心配している訳でもないが、一見、何の変哲も無い家屋にも妙な仕掛けが隠されている場合もある。

 見逃して何か不都合が起こるのも気に食わないため、中に入る前に一旦確認しておきたかった。

 初めて訪れる場所であるからには気楽に行きたい所だが、どうせなら見逃しの無いようにしたい。

 

 繁々と店を眺めながらそんな事を頭の片隅で考えていると、カランカランと耳当たりの良い音を立て店の戸が開かれた。

 

「待たせてすまないな。さあ、入ってくれ」

 

 声に応じ、少々暗く感じる店内へと立ち入る。

 ついでに軽く見渡してみると、店主である森近霖之助とある程度予想していた通りの商品と(おぼ)しきアイテム群、そして、見た事どころか知識にすらない謎の物体が目に入った。

 

 先程までは、年代物の武具や置物といったオーソドックスな物品の他、何か珍しい物や変わった物が置かれているのだろうか……などと安直に考えていた訳だが、予想は良い意味で裏切られた。

 

 謎の物体は大小様々であり、文字らしき物が刻まれた複数の突起が付いた物体、鏡のように光を反射しながらもその内にどこまでも黒い暗闇を秘めたオブジェなど、見た目だけでは何なのか判断しづらい、何かよくわからないものばかりで非常に興味を唆る。

 

 それらの全く見当もつかない物の大半が共通して箱や板に見える形状である事も気になるところだ。

 

 長く生きてきた自負があるために驚愕もひとしおではあるが、見ただけでは何であるか予想すら出来ない物体というのは実際多いものだ。そういった未知の異物の発見も旅の楽しみなのは確かだ。

 最初に大きく年代を跨いだ頃、ドラングレイグで鉱石か鍵代わりかと思い込んで、雫石を手にした時は驚嘆したものだ。

 

 気を取り直し、また少し見回してみる。

 

 薄暗く埃っぽい空間ではあるが、個人的には神の都や偉大なる王の宝物庫よりも数段魅力的に見えた。……とは言っても、どちらも寂れ、(すた)れていた地域だったのだから比較対象として適切とは言えないが。

 

 早く手に取り調べてみたいというはやる気持ちはあるが、ここは店だ。売り物に勝手に手を出す訳にもいくまい。

 

 すぐに店の主へと向き直ると、対面した彼は仕切り直すように迎え入れた。

 

「いらっしゃいませ。ようこそ、香霖堂へ」












※解説のコーナーを設けましたが私の解釈は大体、ACID BAKERY氏の考察、考えがベースとなっている部分も少なくないです
自身でこうだと断定、希望している部分も一応ありますが、引用となるものもあるので、ソウルシリーズについてもっと知見を深めたいという方がいるなら是非彼の方のブログやTwitterを拝見していただきたい
こんな後書きなんかよりよっぽど面白いのでおすすめします

ついでに先に書いておきますが「一時の安息を得た世界」に関しての記述はその他の項目と異なり、原作のテキストに基づかない不確かな記述があります

※ここからは蛇足なので解説まで読み飛ばしてもらって構いません

ロスリック城に世界蛇像が置かれている事から、血の営みなんかも含めて旧体制時代(エンマ派)の行いには某口臭蛇の手が及んでいる可能性が高い+カアスがダクソ3開始直前まで関わっているのだから対になる彼の痕跡が残っていてほしい、という願望があったため王の探求者の名を出しましたが、実際のところ世界蛇像はカアスを模した物だという可能性も考えられます
こちらも作中のテキストでは明確な繋がりが見出せませんが、王子ロスリックの聖王着任後の火継ぎに対する遅延行為は亡者の王を見出すまでの時間稼ぎにもなる事を踏まえてカアス側と利害が一致しているため、何らかの協力関係を築いた可能性も一応あります
どちらにしろ裏づけとなるテキストが無さそうなので憶測で書きました許してくれ…許して…くれ…

また、本当は「深海の時代と小さな火たち」についての見解も載せたかったのですが文量が膨らみ過ぎて書くのがキツかったのでまた別の機会にします
現実の深海と熱水鉱床なんかの関係に置き換えられるんじゃないかと思ったんですが…やっぱりブラボと同じく現実の知識と結びつけようとすると面倒ですね…


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一時の安息を得た世界

ロスリックが国として当初から掲げていた目的、神族や王の探索者と呼ばれた蛇の見えざる手が入っていただろう計画に乗り、火の無い灰がはじまりの火を継ぐ者として薪となった結末。
その先に予想される世界。
その平穏が例え偽りの物であったとしても、救われる者がいるのなら価値はあるだろう。

やがて誰も救われぬ世界になるとしても


最初の火が簒奪された世界

亡者の国ロンドールの協力により幾重もの呪いを、死を重ね続けた不死の超越者───亡者の王を器とし最初の火を迎えた先にある、人間、もしくは蛇が台頭するであろう世界。
闇撫でと呼ばれた蛇は(呪い)を糧と見なしたのだろう。
呪いは火が強くなる程に強くなる。逆もまた然りと。
火の簒奪により変質した太陽は、暗い穴となってなお明るく、人の世を照らす。
その時代は永劫のものとなるだろう。

(火の炉)が機能し続ける限り


(最初の火が簒奪された世界)

火に惹かれた亡者が、ただ目先の熱に魅入られた世界。
****にとっては未知の結末。
ロンドールの名の下で行われた大義ある簒奪とは異なり、火を消し、看取る最中の火防女を凶刃にかけ、最初の火を奪い取るようにして胸に(いだ)く終わり。
その衝動的な行いは世界全てに多大な影響をもたらすだろう。
灰が狂気に身を委ねた先にあるのは破滅なのだろうか。
だが、原点を辿ればきっとそれは、最も人間らしい最期なのだろう。
人への羨望、あるいは愛の意志を持った人間性の闇は、愛を、ぬくもりを求めるようにして追いすがり、己のモノにしようとでもいうのか、命ごと奪い取ろうとする。
醜く悍しいそれもまた人間の側面であり、故に灰は焦がれたのだろう。
全ての計画を、願いを、希望を踏みにじる形で生じたこの結末は、誰にも望まれなかったが故に誰もが予想し得ない可能性を秘めた幕引きでもある。
誰も知らぬ未来は最良のものとなる可能性もあり得るのだ。

例え、それが薄汚い欲望から成ったものであろうと


小さな火たちに照らされている世界

瞳なき火防女に瞳を与えることで生まれる選択肢へ身を委ね、最初の火を火防女と共に人為的に消した先にあるだろう世界。
火が消えた世界は永遠に続く暗闇となるという。
それは、悍しい人食いであった薪が予見したという深海の時代なのだろうか。

この選択は、これまで火の時代の礎となり焼かれ灰と化した薪の王たちに対しての、また、再び火の時代が息を吹き返すことを夢見て終末に生きた者たちに対しての裏切りである。
対となる蛇たちがそれぞれ打ち立てた計画の元実行された選択とは異なり、計画性のない、暗い闇の中にただ希望を抱くような一種の逃避ともとれる愚行。
不確かなものを信じ自身の全てを、世界の命運すらベットにした賭けなど最早正気ではない。
だが、火防女はその先に小さな火たちを見出したと言う。

先が見えずとも、その暗闇はきっとあたたかい


惜別(2での名称)・惜別の涙(3での名称)

詠唱者が死に(ひん)した時、一度だけ踏みとどまらせる効果を付与するスペル。
死にゆく者の今わの際に、残してゆく者との別れの時間を与えるための奇跡。
そして、死を前にした戦士に、今一度反撃の機会を与える奇跡。
温かな優しさが生み出したであろうこの奇跡は、まさしく希望の光として人々の内に輝く。
故に、その希望を踏みにじるため、血に酔った人狩りは(みな)、薄い小さな刃を隠し持つのだ。


メッセージ

橙の助言ろう石により残される伝言(メッセージ)
目に見えない無数の世界、それらがわずかに重なり合う時、言葉は現れるという。
薄く光る(ろう)で描かれたメッセージは他世界に送られ、その世界のプレイヤーに情報を、或いは感情を伝えることができる。
メッセージが評価を受けることで書き込んだ者はHPを回復する。
時の流れの淀んだ地で不死人が互いに助け合うための手段であり、騙し合うための手段でもあり、また、感情を発露するための手段にもなり得る。


怪しげな壁

隠し扉。
殴ったり調べると隠し部屋や新たな通路が開ける。
ロードランやロスリックでは幻であるため殴る必要があり、ドラングレイグでは破壊式の幻?の壁も存在するが少なく、多くは仕掛けによって動作しているため調べて起動する必要がある。

余談
同系統の作品であるデモンズやブラッドボーン も殴れば開いたため、ダクソ2の仕様は独自のものだと思われ欠点として非難されることもあるが、実際はフロムソフトウェア・デモンズソウルの原点であるキングスフィールドの仕様に先祖返りしていただけなので個人的には好ましいと思っている。
初周は全て取り逃したが…


生命力

主にHPを司る能力値。
HPとは生きる力。気力を指す。
生物であるかないかに関わらず、ソウルを有する者全てが持ち合わせる。
「ダークソウル」において生あるものは気力が()つ限り形を失わず、また、死に至る事はない。
生命力溢れる者は、例え心臓を抉られようが、頭蓋を砕かれようが簡単には死なないだろう。
また、"冷気"への耐性に影響する。


力の喪失

この作品の主人公は、時をまたぎ舞台を移る際に、毎度、何らかの能力値が最低値まで下がる現象に見舞われている。
今回は生命力が非常に低い値となっているようだ。


情報の読み取り

この能力をダークソウル主人公が有してるかは定かではない。
が、それに近い何らかの能力を有していなければ、主人公が知る機会のなかった情報(鍵・アイテムの使用方法など)を知っているといった不都合な点が出る場面もあるため、この作品の主人公はアイテムから情報を読み取れる事になっている。


盗賊の短刀

幅の広い片刃の短刀。
斬りつけることを主眼した武器であり、盗賊や追い剥ぎなど、賤しいものたちが扱う。
****が好んで使う武器でもある。
同種の短刀のうちでただ一つ、15段階まで強化されたそれの柄には、同種の短刀と異なり何かが埋め込まれている。
残り香すら残らぬそれを覚えている者はいない。


喪失者

ある探求者が生み出した罪の1つ。
原罪の落とし子としてその身と世界を失った彼らは、他の不死が主となる他世界に寄る辺を求めるという。
ある時を境に、世界の主の命を脅かす闇霊としてドラングレイグ各所で現れ始めた。
亡者としての深度が進む程、不死の内に潜む死が、呪いが濃くなる程に力を増す大剣や鎌を扱う。


パッチ

ロードラン、そしてロスリックで出会うことになる、盗賊衣装に身を包む商人を装ったハゲ。
面の皮が厚い恥知らずの追い剥ぎだが、品揃えは悪くない。
気合を入れて蹴り落とした相手に銀猫(落下ダメージ無効)の加護を付与する不思議な足を持つ。
蹴りを得意とするため、どうしてもイラつくなら意趣返しに蹴りつけてやろう。
聖職者を酷く憎んでいる。
火の時代の行き着く(袋小路)では優れた戦士に成長、或いは退化した姿を見ることができる。
本質はお節介焼きのお人好しなのだろう。


ロイドの騎士

主神とされる神、ロイドの名の下に不死狩りを行なっていた者たち。
本来、人の世界では不死は呪われた化け物であり、それを狩るロイドの騎士は英雄ですらあったという。
シリーズ作中では最後まで相見える事はなかったが、彼らの護符はシリーズ皆勤賞を果たしている。
彼らの護符は多くの場合、不死同士の殺し合いの場でよく使われる他、ある神族(貪欲者)に対しても大きな効力を発揮する。


早着替え

ソウルシリーズでは着替えが早い。
主人公が装備を替える際、何かを外し、脱いで、付け替え、着替えるという描写が存在しないのだ。
「兜を被っている」状態から「仮面を付けている」状態などに即座に移行できるため、鎧甲冑を着ていた正統派な騎士が少し目を離した隙に、宝箱を被ったパンツ一丁の変質者になっていたりするのがごく稀に見られる。
作中で早着替えするNPCはブラッドボーンにはいたものの、ダークソウルでは見られなかったため主人公以外もできる技能なのかは不明となっている。


黒革の装束

なめらかな黒革の装束。
音を殺し、闇に隠れる後ろめたい盗人の装いとして知られる。
防御効果はあまり高くない。


精霊

時空の歪みの影響を受け、捨てたアイテムや失われた人間性が、ベイグラントと呼ばれるシステムの下で変異し生じる存在。
アイテムの精霊、人間性の精霊が確認されており、他の世界への繋がりがある場合、ごく稀に、世界をさまようそれに遭遇できる。
倒すことでランダムなアイテム、または人間性を得る。


世界の主(ホスト)

重なり合った世界のずれの中心にいる存在。
他世界と密接に繋がり合い、幾人もの不死人が関わり合う環境を形成した不死を指す。
ホストとも呼ばれる。
協力者・侵入者といった他世界の存在(クライアント)を招き入れ、助け合い、あるいは戦い合うといった形で触れ合う交流の場を提供する役割を持つ。
ホストは出会った不死たちと様々なものを共有し経験する事になる。
その経験は良くも悪くも得難いものであり、時に輝かしい思い出を残してくれるだろう。


遠眼鏡

使用により遠くのものを視認、または近くのものを詳細に見ることができるアイテム。
また、弓の照準と同じ仕様であるため、魔法や旧式のクロスボウの狙撃用外付け照準機として活用できる。
武器として扱われたドラングレイグ産遠眼鏡はまた別の性質を持っていたが、異質なその力は、ある時を境に失われたという。


雫石

ソウルが結晶化してできた石。
砕くことで穏やかに続く回復の効果を得られる。
鈍く輝く、ソウルの亡骸とも呼ばれるそれは、歳月を経るごとに輝きと回復の力を増す。
ダークソウルでは2作目の時代にのみ見られた。


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ロイド

法の剣を司る主神
グウィンの叔父とされる
白教の信仰対象であり、その名の下に行われる裁きの決闘は酷く恐れられたという
しかし、グウィンのルーツは火がもたらした闇にあり、本来なら"叔父"など存在しない
彼は何者なのだろうか
ダークソウル3の時代では、ロイドは傍系にすぎず、主神を僭称(自称)したのだとする論調まで存在するが、真相は不明

ある古い言葉(ウェールズ語)で灰色を表す

……ある世界(絵画)において、"灰"とは世界の真名であり、その名の由来となった英雄を指す言葉でもある
もし、その(お嬢様の絵画)世界が最初の火の物語(ダークソウル)に繋がるのだとしたら…
ロイドとは原初の神、創造神の片割れに位置する、真の神を指し示しているのかもしれない


蛇が追い求めた夢

死ぬ毎に人間性の闇を失い、無尽蔵に溜まり続ける呪いに蝕まれようと人であり続ける英雄が、最早人と呼べぬ常軌を逸した存在がもし存在するのなら、もしその身の内に火を内包したのなら、それに宿る(呪い)を薪にできたなら、火を絶やすことなく()の時代が到来するのではないか
そう、闇撫でのカアスは考えたのだろうか
新たな道を見出した蛇は、しかし道半ばで倒れた
彼がどのような世界を望んだのかを明確に知る術はない
小ロンドやウーラシールの顛末(てんまつ)を考慮すると亡者の時代は良いものとなるなど到底思えないかもしれない

だが、彼が導こうとした人間は皆愚かであった
蛇は人間の愚かしさを理解していなかったために、人を信じ過ぎたが故に失敗したのだろうか
結局のところ、人間自身から見ても度し難い、人の欲というものを考慮してしまえば彼を悪だとは断定できなくなる
もしかすると、主人公が亡者の王としての道を選んだ先には、これ以上にない程に良い時代が築かれるのかもしれない
何の確証もなく、もしあり得たとしてもロンドールが愚を(おか)さずに存続し続けることが大前提となるが…

存外、蛇の見た夢は

優しく、温かなものなのかもしれない


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第2話:香霖堂

「ざっとこんなものだ」

 

「……ほう」

 

 香霖堂へと入店後、一通りの見物を終え一息つく。

 

 驚いた。

 安直な感想しか捻り出せなかったが、あまりにも豊富な品揃えには圧倒されざるを得なかった。

 

 これまで、彼の火による影響が色濃い時代の中でしか旅をしていなかった事もあるが、それを考慮しても取り扱う品の幅が想定を超えているように思えた。

 真っ当な魔法(スペル)こそ見当たらなかったものの、その単純な物量には純粋に感動する他ない。

 

 先程始めに目に付き注目した不思議な物体に関しては、店主の商品の紹介を耳に入れながら流し見た程度でしかないため、まだどういった物かはわからない。

 単純にそれらの持つ名と用途を聞いてどういった物か想像付かないというのもあるが……そもそもこれまで手に入れてきた物と明らかに違う。言うなれば趣向品だろうか? 

 

 この店に置いてある多くの物は戦闘に役立つ類いの代物ではない。戦いの場に於いて不要な……手持ちのアイテムで言うと七色石などに近い小道具のようである。

 

 手を出したい欲はあるが今の己には手に余るだろう。第一これらの趣向品以外にも魅力的な品は多い。今品定めすべきは、やはり先日降って湧いたという収集物か。

 

 店内の一角、特に目を引く宝の山に目を向ける。

 

 ごく最近拾い集めたと言っていたそれは、元々店頭に置かれていた物とはだいぶ毛色(けいろ)が異なっていた。

 遠眼鏡を始めとして、他の店売りの品に趣が近い物もある程度混ざっているのだが数が少ない。武具を始めとした戦闘に用いる物が占める割合が多く、どうしようもなく目立つ。そのためか、この一角は異質な雰囲気を放っていた。

 

 まず、武器についてはブロードソードなど、どの年代にも見られた見慣れた物もあれば見慣れぬ武器もある。それだけに留まらず、到底店売りの品に見えない雰囲気を感じさせる物まである。

 また、派生強化が施されているのだろうか? "竜のロングソード"の銘を持つ直剣を始めとした、名称と読み取れる情報に若干の差異が認められる代物まで置かれている。

 次に、防具についても中々質の良い物が揃っているように見える。ドラングレイグで出会った防具屋(マフミュラン)が記憶と人格を犠牲にして得たレパートリーにも匹敵するだろう

 

 なんともありがたいものだ。

 

 今までの常識が崩れ去る程に豊富な品揃え。

 異常だとも感じられるが、己の見聞の狭さがそうさせるのだろうか? 

 

 ロスリックにて大いに世話になった物売りの老婆の品揃えはこれに匹敵するものであったが……それは旅の途中で自身が手にした遺灰を幾度も手渡す事により成されたものだ。始めからここまで多くの品々を取り揃えていた訳ではない。

 

 ましてや立派な一軒家を構え種類を問わず品物を陳列する正統な店など見た事がない。その多大なる物量と蠱惑(こわく)的な珍品とに圧倒される。

 

「凄いな……」

 

 自然と、賞賛の言葉が漏れ出た。

 

 単純にして粗末な言葉であるが構わない。

 言葉など、飾らずとも伝われば良い。

 

「驚いて貰えて何よりだ。流石にこれで全てという訳ではないけど、少々扱いに困る性質の物もあってね……まあ、この辺りでも珍しい物も多い。じっくり見ていってくれ」

 

 そう言って年季の入った椅子に座る男。

 

「あぁ、頼むから勝手な持ち出しはやめてくれよ」

 

 手近な棚から一冊の本を取り出しながら、注告を付け加えるその顔貌(がんぼう)は───何故だろうか、ほんの少し、小さく緩んでいた。

 

 

 

 品物を手に取り、鑑賞し、戻す。そしてまた次の品を手に取る。

 

 普段とは違い、ただ流し見るように、手短に。

 

 一つ一つ丁寧に調べたい気持ちもある。

 だが、少々興奮の度合いが強過ぎたのだろう。はやる気持ちを抑えきれない。

 

 こちらに来てから未だに一度も戦闘が発生していないからだろうか。

 常日頃戦いに身を置いていたせいだろうか。

 身体の内、底の底で燻る物がある。

 

 比較的平穏であったドラングレイグの次にここに至ったならばまた違ったのかもしれない。だが、ロスリックからとなると害意にも敵意にも晒されない時間が長く、どこかこそばゆいような気さえする。

 それにここまで穏やかなのだ。

 もしかすると───

 

 これ以上はやめておこう。

 

 始まったばかりだろうに、期待など抱くべきではない。

 過ぎた先読みなど、無意味でつまらないだけだ。

 

 

 

 今は品定めに専念するとしよう。

 

 武具については現時点では必要としていない。買い占めるのは次の機会にしてもいいだろう。ただ消耗品と指輪については別だ。

 

 特に月の名を冠し生命を癒す効果を持つ薬草と()2()5()()の指輪の内の5つ。どちらもこれまで発見してきたアイテムとは質の異なる代物だと推察出来た。出来れば今回入手しておきたいものだ。

 

 鍵の類いも置いてあれば買い占めてやりたかったのだが……残念ながら店頭にはそれらしき物は見当たらなかった。

 鍵付きの南京錠なら取り揃えてあったが、根無し草の身で錠など何にかけるというのか。ネズミの王と()わしたものに近い誓約があるなら使いようもあるだろう。しかし今の自身にとってはゴミクズに等しい品だ。

 後々手に入れておきたいとは思うが、今まで通りに過ごすならばそれは活用される事の無い死蔵品(単なるコレクション)にしか成り得ないだろう。

 

 一応の目星は付いた。

 現時点で購入出来るかどうかは不明だが、聞いてみなければわからないだろう。

 あとは読書に没頭しつつある店主へ掛け合うだけだ。

 

「店主、買う物が決まった」

「ん?」

「こちらを頼む」

 

 まずは小綺麗に陳列された各種指輪を、次に三日月の名を与えられた草の束を指し示す。

 

「この指輪全種と、三日月草を10本だ」

「それで、一つ聞きたいことがあるのだが」

「ここでは(ソウル)で取引出来るだろうか?」

 

 

 

「……(たましい)?」

 

 若干柔らかく見えた表情は再度硬く強張りだす。

 

「こちらでは取り扱っていないか……」

 

「……すまないが、魂を通貨代わりにする商いはこの辺りじゃ聞いた事がない。他所でも同じだろう。地底でなら話は変わるかもしれないが、あまり期待しない方が良い」

 

「そうか」

 

「……僕は少なくとも純粋な人間ではないが、魂を食い物にするような存在でもない」

「魂を質に入れるとでも言うのなら霧の湖に行く事をお勧めする。あそこには悪魔(あくま)や吸血鬼の住む館がある。君の取引にも応じてくれるだろう」

 

悪魔(デーモン)か」

 

 地図がいるなら言ってくれ、店主はそう切り上げ退出を促す。

 

 結構だと答える傍ら、思い悩む。

 

 困った。

 ソウルが使えないとは……これでは無一文の乞食とそう変わりない。

 

 いや、しかしまだ手は残っている。

 

「では、物々交換はどうだ?」

 

 売って得た資金で買うという選択肢もある。しかし少々面倒だ。故に次に提示するのは物々交換。売り買いの手間など、交換と比べ誤差の範囲だとは自分自身思いはするが……

 それに貨幣を得た場合、反射的に握り潰してしまう危険もある。

 銀の硬貨辺りならおそらく問題はないだろうが、銅貨や金貨は粉砕する機会が多々あったため無意識にやらかす可能性がある。ロスリックで物売りの老婆を相手に売れる物を聞いていた時、久々に銅貨を取り出した瞬間粉々に握り砕いてしまい、何とも言えない表情をされたのは記憶に新しい。

 貨幣を得るなら人目に付かない場所で慣らしてからにしたい。

 

 さて、良い返事は貰えるだろうか。

 

「……良いとも。だけどそれ相応の価値がある物をお願いしたい」

 

 承諾は取れた。だが、相応の価値か。

 

 悩ましい。

 薬草はともかく指輪に釣り合う物を出せるだろうか。

 

「先程も言ったように、これらの指輪は全てがマジックアイテム。しかも一部は幻想郷では滅多に見かけないレベルの上等な品だ。そちらもわかってると思うが、値が張るよ」

 

「承知の上だ」

 

 それくらいは理解している。

 商人と客との関係は平等ではない。

 

 こちらの相場は把握していないが、同じ指輪を買う際と売る際には大きな差が出るだろう。もしかすると途方も無い額に値する対価を要求してくるかもしれない。

 だが、こちらから提案しておいて無理だと言うつもりはない。場合によっては底なしの木箱の封を切る事も視野に入れている。

 

 対価として、まず最初に差し出すべきは指輪だろうか。

 大抵の物はそこそこの値が付くはずだ。

 特に似た効果を持つ指輪の価値を知る事が出来れば指標になるかもしれない。

 

 出すならば貴重ではなく、ある程度は価値が見込める物が望ましい。

 手放すにしろ、売りに出すにしろ問題ない類いの指輪を各種1つずつ用意し、同時に出した適当な(ソウルの)器にまとめる。

 次は有り余っている防具一式だろうか? いや、もしかするとここでは防具の派生強化も可能かもしれない。だとすれば次は───「いや、君、少し、少し待ってくれ」

 

「……なんだ」

 

「交換と言ったが……いきなりこんな大量に突き付けられても困る。100以上ある上に全部マジックアイテムじゃないか……」

 

 店主は困惑しているのだろうか? 

 目頭を押さえ溜め息をこぼしている。

 

「だが、これだけでは釣り合うまい」

 

「……君がどれだけの価値を見出したのかは知らないが、僕としては公平性に欠ける取引はしたくない」

 

 公平性を重視する商人など初めて見た……なんとも義理堅い店主だ。

 

 しかし……

 

「指輪の予備はまだ有り余る程ある。こちらとしては全部引き取ってもらっても構わないのだが「40、いや30種でいい。僕としてはそれで十分だ」……わかった」

 

「だが、これだけの数の中から見繕うのは骨が折れる……そこでだ。問題がなければ一旦預けさせてくれ。一晩経ったら残りは返す。こちらの指輪については明日引き渡すことになるけど、いいかい? こっちの三日月草を今渡す分には構わないんだが」

 

「……一晩か。わかった。感謝する」

 

 手間が掛かるなら尚更全部で良いのだが……そう言いたかったが店主が何か言いたげな顔をしていたのでやめた。

 一挙に畳みかけられ了承してしまったが、考えてみれば店主の不安もわからないでもない。あちらとしても粗悪品や偽装品を掴まされる可能性等を考慮しているのだろう。

 己自身は売買で騙された経験は無いが、確か詐欺と言ったか……知識としては持ち得ているため引き下がる。

 

 それにもしかするとこれは予約という奴なのではないだろうか? またしても新たな体験ができた。マスクと接している口元の感覚が変化する。幸先の良さに自然と頬が綻んだのだろう。

 過度に期待も膨らんでしまうが仕方のないことだ。

 

「とりあえず三日月草は渡しておく。あとこの器も持ち帰ってくれ。これ以上は流石に手に余る。他にも何か取引がしたいのなら、話は別だけれど」

 

「いや、今はいい。では、また」

 

「そうか。じゃあ、またのご来店を」

 

 

 

 外に出た。

 

 閉められた戸から発せられた、どこか心地よい響きを耳に受け、店を後にする。

 

 しばらく歩き、堪らず「歓喜」する。

 

 まさか対価が30ばかりの指輪で済むとは思わなかった。

 客に優しいロスリックでも、売買となると指輪の30や40売った程度ではあの量の指輪は買い取れなかっただろう。

 もしかすると彼の蛇(フラムト)酒呑み(ガヴァラン)以上に渋い値を付けられるかもしれないとも懸念(けねん)していたが、要らぬ心配だったようだ。

 物々交換を申し込んだのが幸と出たのだろうか? 何はともあれ、良い買い物ができて良かった。

 

 また、同時に店主から何気なく発された言葉に内心湧き立つ物を抑えきれない。

 

 先程、一晩と言った。

 

 あの言葉が真実なら、この地……幻想郷だったか。ここではおそらく、最初の火がまともな期間にあったとされる昼と夜の移り変わりが体験できるのだろう。

 時の経過と共に地平線に、あるいは水平線に日が沈み、月が現れ、そして再び日が出てきて月が隠れる。

 そんな()()な変革が空の上で繰り広げられる様を遂にこの目に焼き付けられる日が来るとは……やはり今回は運がいい。

 ロスリックで見たくはなかった光景(火の時代の行き着く果て)を目の当たりにさせられた分のツキがここに来て回ってきたのだろうか? 

 あぁ、この地を一通り歩き尽くしたら1日の移り変わる模様を飽きるまで、いや、感動が落ち着くまで眺め過ごしてみたいものだ。

 

 やはりこの地は素晴らしい。

 ロードランからドラングレイグに飛んだ時と同じ感覚を覚える。

 あの時も困惑と歓喜、興奮の渦に呑まれおかしくなったものだ。

 

 そういえばドラングレイグに移る際、何かを思い出しかけた覚えがある。

 

 おそらくはロードランに訪れるよりも、不死院に収容されるよりも前の記憶。

 

 ()に似た感覚に身を包まれる中、目の前に赤子を抱えた誰かが座っていて、衝動的に手を伸ばしたのだったか。

 

 それは手が届く前に溶けるようにして消えたが、一体なんだったのだろうか。

 

 まあ、そんな昔の記憶など今想っても仕方あるまい。

 とにもかくにも、この抑えきれぬ好奇の熱を発散しなければならない。こんな様ではまず間違いなく無様な死に様を晒すだろうが……仕方あるまい。

 じっとしていて冷める性分でない事など、己自身よく弁えているのだから。







魔法(スペル)

術書やスクロール、物語から得ることができ、不死人は篝火を介して記憶することでそれを扱うことができる。
魔術、奇跡、呪術、闇術に別れ、発動には触媒(杖、タリスマンなど)を要する。
時の流れにより大きく変異していった概念の1つである。


七色石

虹のように綺麗な輝きを放つ、温かな熱を帯びた石ころ。
置くと音と輝きを残す。
放つ輝きは七色の色を持ち、稀に八色目もあるという。
道標として活用できる他、人の身では確実に死に至る高度から落下する際、音に変化が生じる性質を持ち崖際などの探索にも役に立つ。
また、暴力を賜わなければどのような奇行でも見て見ぬふりをしてくれる優しい友人(NPC)たちや、他世界からの訪問者に対しての飾り付けに使うこともできる。
弔いの碑として扱うも良いだろう。
たとえ亡者にその意味が伝わらなくとも。


ブロードソード

斬ることを目的とした、幅広の直剣。
この直剣はこれまでの物(他のブロードソード)と異なり、技量に秀でた者ほど真価を発揮できるようだ。


竜のロングソード

派生強化が施された単なるロングソード。
竜から生み出される武器、ドラゴンウェポンではない。
刀身に炎の力を宿している、
その火は竜を由来とする力なのだろうか。


マフミュラン

優秀な防具屋。
彼自身の防具もまた優秀である。
プレイヤーがソウルを与えすぎると自分を見失う。


物売りの老婆

祭祀場の侍女と呼ばれる不思議な商人。
他者の遺灰から、故人が所持していた物を見出す力を持つ。
遺灰を渡す度に品数が増える。
黒く、しかし暗くない過去の祭祀場で唯一対話ができる人物でもある。
その存在が末期の最初の火の異常性を示しているのかもしれない。
火防女以上に得体の知れぬこの老婆は、しかし夢を追い果てた遺灰に対してのみ(人間性)を剥き出しにする。


未だに一度も戦闘が発生していない

ダークソウルの物語の始まりに戦闘は付き物である。
作中には避けては通れぬ戦いも多いため、アクションゲームに不慣れな人間のためにも始まりの地には基本的な行動を覚える場(チュートリアルエリア)が用意され、戦闘を行うことになる。
ドラングレイグでは形式が少々異なり、最初のエリアでの戦闘を行わず旅立つことが可能な他、基本を習う前に強力な敵と戦うことも可能だったりする。


全25種の指輪

ロードラン、ドラングレイグ、ロスリックに存在した指輪とは異なる。
効果が類似した物は幾つかあるようだが、どれも成り立ちが異なるようだ。
もし失われた騎士が秘匿者へ協力していたならば、仇の名を冠する指輪も含まれていただろう。


ネズミの王

ネズミや獣人、果ては亡者までもが忠誠を誓う地の下の王。
何もかもを求むるがために、何も得られぬ。その人間のあり方(人間性の性質)を愚かと呼び、哀れむ。
裏切りを許さないと言うものの、背信の(のち)、再誓約しようとも変わらず期待を抱いてくれる他、会話を蔑ろにされようとも気にせず見送る。
ダークソウルシリーズでは珍しく寛大な器の持ち主である。
配下のネズミには毒に加え石化の呪いの力を持ち、ぬくもりの火を宿した者もいる。
不死人でも喰らっていたのか、それらは獣でありながら性質としては亡者(死を宿す者)に近い。
王もまた同様である。
いつか、人間と共に、平和を生きる時を夢見ている。


ネズミの王の誓約

ネズミの王の領地に訪れた他世界の不死をしもべたちが用意したテーマパークへと招待し、共にアトラクションを楽しむというもの。
様々なギミックを事前に用意し作動させておくと、より質の良い歓迎ができるようになる。
人気はない


ゴミクズ

何の価値もないゴミクズ。
常人であれば使い道など見出せぬだろう。
だが、妙な価値観を持つ者の目には、確かに価値ある物として映る。
それは他人が決めるものではない


三日月草

月齢(げつれい)の名を持つ薬草の一種。
HPを少量回復する。
同系統の薬草として半月、後月、満月、新月、暗月の名を冠する物が存在する。


硬貨

ソウルシリーズでは基本的に硬貨その物は通貨として利用できない。
ロードランではそれなりのソウルと両替が可能な硬貨が、ドラングレイグ・ロスリックでは大した値で売却はできないが消費アイテムとして使用できる錆びついた硬貨があった。
錆びついた硬貨は砕くことで一時的に運を高める事ができ、ドロップアイテムを発見しやすくなるといった、ささやかな幸運を手繰り寄せる力を得る事ができた。
後に"発見力"を高め、富をもたらす物へと変化したせいか、"運"の値に影響を受ける武器の力を高める事はない。


発見力

"運"が秘める力の一端。
敵を倒したときに、その死体にアイテムを発見できる力。
錆びついた硬貨を砕くと高まる他、金蛇や貪欲者、亡者の残り香や万物の運命と関わりがあるとされる番竜などの力を宿す装備品を身につける事でも上昇する。
ソウルシリーズでは死んだ者相手であろうと、他者が身につける物は直接、物理的に取ることができない。
故に、発見力に関わる代物は時として重宝される。




能力値の一種。
「ダークソウル3」において運の値は、アイテムの発見力、呪いを主とした耐性に関わる他、出血や毒の力、亡者の派生強化が施された武器や「本当に貴い者の剣」の力を高める効果を持つ。
火の無い灰はこれを力として己が身に定着させることができる。
人は(すべか)らく何かに惹かれ、渇望する。
"運"とは人が求めるものを、あるいは運命を手繰り寄せる力でもあるのだろう。
人の本質的な力であるそれは、人の本質…人間性の力なのだろうか


底なしの木箱

底の抜けた不思議な木箱。
貪欲者の烙印とも呼ばれる、古い愚かな神の成れの果て。
いくらでもアイテムを入れることができる。
本来は制限があったようだが、今は変質し、無限の拡張性を持っているようだ。


差し出した指輪

その多くは非常に優れた力を秘めている。
本来なら世界に2つも存在しないはずの物も含まれている。
だが、時と世界を繰り返し巡る者にとってのそれは、大して価値ある物ではないようだ。


ソウルの器

自らの内に宿るソウルを預けることのできる器。
ソウルによる強化がなされていなかった頃の常人の身を基礎とし、能力値の振り直しができる。
不死人と成った当初の値から振り直すため、純粋に魔法に傾倒し打たれ弱く育った魔術師がタフな脳筋戦士に転換することも可能となる。
ドラングレイグの地では火防女らしき老婆の手を借りることで活用できた。
しかし、全てを限界まで極めた者にとっては無用の長物だろう。
火の無い灰もまた、ソウルの器と呼ばれる。


派生強化

武器に属性の付与や性質の変換を行う強化。
特殊な種火と、それを扱える腕を持つ鍛冶屋の手が必要となる。
この強化により性質が大きく変わる武器もあれば救われる武器もある。
救いようのないモノ(産廃)もある。


「歓喜」

ジェスチャーの一種。
「跳ねる歓喜」とも呼ばれ、ほんの少し飛び跳ねながら全身を使い喜びを表現する。
特殊な不死同士の助け合い、または殺し合いの場でよく見られる。


フラムト

世界蛇と呼ばれる竜のなりそこないの一種。
友であった太陽の光の王グウィンの名の下、王の探求者として最初の火の薪を得るため不死を導いてきた他、薪の王に相応しい人間を人工的に作り出す計画にも関わっていたようだ。
安値ではあるものの買い取りを行ってくれるロードラン唯一の協力者であり、アイテムを食べる形でソウルに変換するなど独自のサービスを提供してくれていた。
協力(利用される)関係ならば役に立つ存在なのは確かだ。
しかし、恐ろしい口臭の持ち主であり、彼の企てた非情な計画と全く関係ない所で1人の不死を間接的に殺している。
片割れの闇撫でと呼ばれる世界蛇を嫌う。


ガヴァラン

元々は戦士であったらしい商人。
安値ではあるが買い取りを行ってくれるドラングレイグ唯一の協力者。
ゲルムと呼ばれる流浪の民の出。
言葉が鈍っているのか、四六時中飲んでいる酒らしき飲み物で前後不覚になっているのか、元々言葉が不自由なのか不明だが、片言でしか話せない。


ーーーーー



錆びついた硬貨のもたらすモノ

ある神の姿が刻印された硬貨がもたらすモノ、ドラングレイグでのそれは"運"であった

しかし、ドラングレイグからロスリックへと時代が推移する際、錆びついた硬貨(銅貨・金貨)から読み取れる情報は少しばかり変容した
神への言及がなくなり、もたらす運は発見力へ、幸運は富へと変わったのだ
この差異は、時の移ろいにより錆びついた硬貨がもたらす力の質が変化した事を表しているのか
あるいは元来の解釈に間違いがあり、それが正された事により生じたのか
もしくはそのどちらでもないか

語る者はなく、知る由もない

そもそも、この変化に大した意味合いなど無いのかもしれない

ただ、「ダークソウル3」において錆びついた硬貨がもたらすモノ
それはロスリックで主人公が新たに手にし、自身に定着させソウルの記憶に刻めるようになった力、"運"そのものに影響を与える類いのモノではなかった

きっと人間性に近く、しかし決定的に異なるモノなのだろう

それだけは確かだ


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第3話:篝火

捏造バグ技注意




 儀式に都合の良い開けた空間、その中心で適量の不死人のソウルと帰還(不死)の骨片を幾つか取り出し円形に並べ、握り砕き粉状にした骨片を振りかける。

 

 次に奇跡"太陽の光の恵み"を詠唱、永続的な回復の効果を持つ装備と術により治癒力を高めた後、暗い呪術の火を灯した素手の拳を突き入れ、にじみ出る炎で全体を包み変性を促す。

 

 そうしてソウルと骨、自身の手を侵し燃え上がる火の内に、微かに発現した(しるし)を見出す。

 

 それを焼け爛れた手で掴み取り、上方へと引き抜いて固定。

 

 火の中心から拳へ向け、尾を引くようにして燃える徴は次第に赤熱した螺旋を描く。

 

 渦を巻き、ゆらめく火が剣に似た形状を形作ったのならば完成は近い。

 

 熱に溶け崩壊と再生を繰り返す腕から、ぬくもりの火によく似た感触を感じたら手を離す。

 

 螺旋の剣を中心に火種が爆ぜ、暗くゆらめいていた炎が骨片と共に赤白く染め上げられた。

 

 手製の篝火の完成だ。

 

 

 

 炎は、それを扱う者が求めるものをもたらす。

 

 これは原罪の探求者アンディールがもたらした差異、そして呪術"ぬくもりの火"に発想を得た業だ。

 

 ドラングレイグの地にて見出した手法がこちらでも通用して良かった。

 自由に、自身に都合の良い場所を選び篝火を生じさせる、不死にとって破格の価値を持つ儀式。失敗を繰り返し、千回程度死を重ねた末に編み出したそれは、時代を超えようと使用感に変わりはない。

 これまでの(篝火)と同様に、しかし異なる煌めきを見せる篝火を前に、改めてその真価を実感する。

 

 

ー数刻前ー

 

 

 

 少々困ったことになった。

 

 店を出た後、周辺をうろついてみたが篝火が見つからない。

 そもそも亡者にすら出会えないのだ。果てた不死人の名残でもあるそれが見つかる訳もないか。

 

 最後に"敵意の感知"も試してはみたが……放たれた光は周囲に敵性なしと示す(まっすぐ上方へ飛んでゆく)ばかりであり、やはりと言うべきか、いつも以上に役に立たなかった。視認不可能な遥か上空、それも己の真上に敵が位置している可能性を考慮しなければ、亡者どころか敵対的な存在すら周囲にはいないという訳だ。

 

 本当に困った。

 ロスリックでの最後の戦闘、前哨戦として闇霊と戯れる中で消費した分と、王たちの化身との戦いにより消耗したエスト瓶の補充がしたい。そして、それ以上に中継地点を確保したい。

 次に復活する地点は過去の経験から察するにこの地に初めて足をつけた場所となるだろう。道は記憶しているが、遠いな。香霖堂からもだいぶ離れていたはずだ。行き来が不便なのはいただけない。

 ここで何らかのミスにより死に、戻るとなると少々面倒だ。

 

 それだけならまだいい。

 もし、ここからまた別の場所・空間に飛ばされるようなことがあればさらに面倒な事になる。

 この状況でそういった事態に陥るのは避けたい。

 

 面倒だ不便だと不満を並べてみたが、何も利便性だけが問題という訳ではない。

 

 明日、香霖堂に来るよう言われたのだ。

 

 初めての予約を、約束を反故(ほご)にする訳にはゆくまい。

 

 誓約でも何でもない口約束に過ぎないが、俺にも意地というものがある。

 約束事をこちらから破るのは気分が悪い。相手にされるのであれば、さして問題ではないのだが……

 

 ならばどうするべきか。

 

 手立てはある。

 無いなら作るしかない。

 

 

ー ー ー

 

 

「……」

 

 篝火の前で座り込み、規則的に揺れる炎を見つめる。

 

 静かに燃える篝火。

 周囲には煌びやかな火の粉が、舞い踊るようにして、飛び交う。

 その光景は、不死人に安らぎを与える故郷の風景ともいえ、己も時に、記憶にかすりすらしない"生まれ"を意識する程に郷愁を覚えるものである。

 

 あぁ、しかし不純物が入るとうまく浸れぬものだな。

 忌々しさから、そう思う傍で、また温かな光を宿した火の粉が噴き上がる。

 

 篝火ではなく、己の左腕そのものから

 

 

 

 仕方なしに林の中、甲冑が置かれていた場所、その広けた空間に篝火を置いた。

 

 これでどうにかある程度の備えは済んだ訳だが……火を起こす際、反動で左腕が(ほころ)んでしまった。

 

 炎熱から赤く火照り、崩れ、変容した腕。

 

 幾重ものしなやかな線が絡み合い、腕に近い形を成したそれは木の枝や根の様相に似て、人の身の一部としては少し異様に見えるかもしれない。

 イザリスの魔女、その成れ果て(混沌の苗床)から生じた灼熱の触腕を思い起こさせる、異形の腕だ。

 

 かろうじて形を維持しているものの、衝撃に弱く、途方もなく脆い。当然ろくに物も持てない。

 呪術の火を筆頭とした、重量を持たない物なら最低限扱う事は可能ではあるが……悲しいことに本当に最低限の事しかできない。

 

 同じように綻び、鞘により辛うじて形を保っている状態でありながら、それなりに頑強なうえ恐ろしい切れ味を持つ綻び刀とは類似点こそあるが根本的に異なり、素手やダークハンドで殴るにも適さない。

 脆すぎるのだ。

 重量のある触媒を用いない、火や闇に限った呪術ならばギリギリ運用は可能ではある。しかし、術の発動毎に崩れ去り鈍痛を残す腕など、余程鈍重な相手でなければ役立てるのは難しいだろう。

 その他にも問題があり、正直使い物にならない。

 

 近場に亡者が1人でもいたのなら、"儀式剣"の流用によりあまり不都合のでないやり方で篝火を生み出せたのだが……仕方あるまい。

 

 手製の篝火を発現させるとだいたい同じような症状が出る。

 分量から火の加減、配置まで工夫して手法を構築した結果、約2割の確率でリスク無しに作れるようにはなったが、どうしてもそれ以上成功率を高めるのは無理だった。布教した相手は尽く成功させていたというのに……開発者の1人としては嘆かわしいものだ。

 

 これまでは、失敗したとしても一人旅なら自分しか困る事がなかった。そのうえ死ねば治るので大した問題ではない。だからこそ、あまり気にした事がなかった。

 ……今まではそうだったのだが、今は自決と落下死だけはしたくない。不便ではあるが、しばらくはこのままで行動せざるを得ない。

 

 まあ、択を狭めた旅路というのもそう悪い物ではない。ひたすらに死を遠ざける遊びのない旅と異なり、まだ自由にできる余地が残されている。

 今回は生命力以外何も失っていないのだから、片腕が使えなくて丁度良いと考えよう。

 

 篝火のぬくもりでエストを満たし、立ち上がる。軽くだがこの地の篝火の在り方(仕様)の確認も終えた。

 今回はロードランと同じく、篝火を介すだけでソウルによる強化が可能なようだ。

 ありがたい。

 これならば、旅の途中であろうと底まで下がりきった生命力をいつでも引き上げる事ができる。未だ伸び代のある、他の能力値へソウルを回すにしても篝火だけで可能なのは嬉しい。まだ不明な部分も多いが、後で暇ができたら調べればいいだろう。

 

 それよりも今は戦いたい。

 罠にハマってくたばるのもいいかもしれない。

 

 

 いや、違うだろう。

 

 興奮のあまり思考がおかしくなってきている気がする……我ながら落ち着きが無さすぎた。早く死にたいものだ。

 

 慎重に歩んでゆくつもりであったがどうにも抑えが効かない。

 

 短く息を()き、ほつれた骨肉が腕の形を保てるように黒革の手袋をはめ直す。

 炎熱は既に引いてこそいるが、熱の痛みは未だ冷めやらない。嵐や太陽に焼かれるよりはマシではある……が、毒より強く、熔鉄や混沌のマグマで足を焼く程度の痛みはある。

 煩わしいのは確かだ。けれども、腕が使えない事に比べ些細な問題に過ぎないので気にはしない。大した痛苦ではなく、単に感覚があるだけで害もない。

 故に耐え忍ぶ。痛みだけで死ねる訳でもないのだから。

 

 それにしても厄介なものだ。

 一度死ねばこの痛みも、胸の内に燻る熱もどうにかなるはずだが、死ぬにしても何か良い場所、良い相手を探す必要がある。

 頭を覚まし痛みを癒す。それだけのためにここ(幻想郷)での初の死を───最期となる可能性を秘めた死を、くだらない物にしたくはない。

 

 さて、篝火はできた。もう憂いはないだろう。

 

 しかし次はどこへ行くべきか。

 先程の古道具屋の話に出た湖の館に出向いてみるべきか。別の方角に足を運ぶのもいいかもしれない。どこに繋がるか見当も付かない道を見つけ進んでみるのもまた一興だ。

 単純に効率だけ考えれば、今持ち歩いている固定されていないソウルをすぐにでも活用できそうな館を目指すべきだろうが、そちらに直行するのは流石に気が引ける。

 不便な状況の中でこそ得られる楽しさも確かに存在するのだ。一度脱すれば再度味わうのは難しい苦境が、今目の前に置かれている。勿体ないと思う気持ちから、やはり迷いが生じてしまう。

 

 何とももどかしい。

 

 

 ……一旦切り替えるか。

 

 "失われた騎士"の甲冑を全て身につけてみせる。

 程よい重み。どこか身に覚えのある感触だが……気のせいだろうか? 

 そこそこの重量を感じながら前転、間を置いて走り込む。感覚的にしかわからないが、どうやらスタミナの回復が若干阻害されるようだ。重量のある防具に多い特性だな。

 他に何か特殊な効果は……特に感じない。

 少なくとも、ソウルをより貪欲に吸収する力や背後から受ける痛みを軽減する力など、自身のよく知る能力と類似した感覚はない。確証はないが、特殊な個性は持ち合わせていない可能性が高いだろう。

 

 各種属性に対しての耐性も把握しておいた方がいいかもしれない。

 

 まずは出血からにしようか。

 右手に一振りの刀"血狂い"を取り出そうとし、やめる。

 

 気が散り失念していたが、血狂いを正しく活用するには両の手が必要だ。しかし左手が使い物にならない。これでは計測の続行は難しいだろう。

 毒、猛毒なら問題ないが……興が削がれた。今回はここまでにしておくか。そう綿密に計測する必要もない。

 

 少しばかり熱を発散できたので作業を取りやめる。……発散ではなく萎えただけかもしれないが、頭は冷めたのだ。それで良しとしよう。

 

 次の行動に身を移すため、元の黒革の装束を身に纏いフードを被る。……この甲冑、全てを確認し終えた訳ではないが、体感だけで言えばなかなか悪くない。性能としては騎士、否、無名騎士の甲冑に近いものを感じた。初めて着た感覚がしなかったのもそのせいだろう。多くの鎧にとっての弱点となる打撃、それ以外の物理的な攻撃を防ぐには良いかもしれない。

 

 今度、店に置いてあった異様な武器と共に着込んでから改めて計測しようか。

 香霖堂にて目にした、先程の甲冑に似た得体の知れぬ3種の品々を思い出す。

 

 直剣と刺剣、それに中盾。

 

 その3種だけはどれも由来が分からず、名すら失われていた。

 何故だろうか。

 どういった経緯を経て、何を失ってこうなったのか。あるいは何かを得たのだろうか。

 現段階では何もわからない。今まで得てきた知識の外にある物なのだろう。

 

 興味深い。

 いつかその正体に辿り着きたいものだ。

 

 

 

 香霖堂前へと戻る。

 

 林並木の通りに一軒だけ構えられた店。遠目からでも相応に目立ち、把握しやすい。出発地点としては上等だ。

 

 次はどういった行動をすべきか……少々思い悩んだが、ひとまず考えなしに放浪してみる事にした。

 先がわかる旅路は十二分に堪能している。冒険がしたいのなら、未知を既知のものとしてゆく過程をこそ大切にするべきだろう。

 

 とりあえずは店の正面から見て左側の方角へ進んでみようか。進路はその時々、気ままに決めればいい。

 新天地への期待と明日を楽しみに思う気持ちでまた胸がいっぱいになる。

 

 同時に、左腕が熱を持つ。

 不快な感覚と苛立ちから来る衝動を抑え、奥歯を噛み締める。

 

 好ましくない傾向だ。

 昂ぶる感情は時として熱を伴う。今この状態では危険なうえ、これ以上は流石に鬱陶しい。

 

 仕方なしに適当な(イザリスの)杖を出す。杖を触媒に、余剰分となる情動を込めた"人間性の闇"をまとめ、塊にし、地面へと放り捨てる。

 正規の闇術により成されるものとは異なる、僅かな意志すら与えられなかった歪な闇。

 その光点()は定まる事なく、明滅(瞬き)を繰り返しているだけで何も認識していない、ただそこにある(生きている)だけの無害な重しだ。

 大きく肥大化したそれは、追い求める対象を見出す事なく、何者にも惹かれぬが故に何の力も持たない。

 ただ重さに釣られ地へ落ち、同時に弾け、大気に広がる事も大地に染み込む事もせず、最初から存在しなかったかのように跡形もなく掻き消えた。

 

 これでしばらくは大丈夫だろう。感情の処理にはやはりこれが手っ取り早くて良い。

 そう思い、数歩ほど足を進めところで前方から来る人影に気付く。

 

 一瞬遠眼鏡で垣間見る。

 

 黒と真紅、そして薄青い空の色が際立つドレスを纏い、簡素なフードを被った人らしき者が視認できた。手包を下げ、こちらへ向かい歩いてきているようだ。

 

 亡者ではない。先程の古道具屋と同じくまともそうに見える。朗らかな雰囲気を放つ様子を見るに、おそらく敵の可能性は低い。

 何かしら考え込んでいたのか、ある程度近づくまで思案している様子であったが、こちらに気付くと女は軽く会釈し声をかけてきた。

 

「こんにちは」

 

「……こんにちは」

 

 気さくな雰囲気の女だ。

 少し迷い、一礼と共に口頭で返事をする。

 一瞬、"人面「こんにちは」"で返答を行おうかと考えたが……やめておく。

 声を発する木彫りの人面など、知らぬ者には驚かれるかもしれない。ネジの外れた不死人同士の交わりの場でもないのだ。無難に行こう。まずは───

 

「あの、ごめんなさい。ひとつ聞いてもいいかしら?」

「今日ってこの辺りで何かイベントでもあったりしたの? なんというか、匂いが濃いのだけれど」

 

 ……こちらから話を伺いたいと思ったが先手を打たれてしまった。質問を受けたが、今は答えを有していない。

 それにしても匂いについて問われるとは、今まで考えた事もなかった。悪臭の類いならば慣れ親しんでいるため多少嗅ぎ分けられるかもしれないが、それ以外となると……特徴的で、尚且つ匂いの元と接する機会が多くなければ分別は難しいだろう。己の鈍い鼻では覚えのない匂いなど、濃さどころか何の匂いが漂っているのかすら判別がつかない可能性もありえる。

 これではまともに答えられそうにない。

 

「わからない。すまないが、まだこの辺りには詳しくない」

 

「あら、そうなの? 手間取らせて悪かったわね」

「……もしかして外から来た人だったり?」

 

 疑問が解消されず残念がっているのか、女は少しばかり口角を下げる。しかし、代わりに何か勘付いたのだろうか。また質問を投げかけてきた

 

「……その通りだ」

 

「やっぱり? 着物の質とかまるで違うものね」

 

 納得する素振りを見せ、うなずく。

 どうやらこの黒革の装束はこの地では特異な物らしい。これまではどの地でも見かけたものだが、もしかするとこの地では見ない物なのかもしれない。ロスリックに移ったら全く見かけなくなった放浪者の装束のような例もある。地域や時代が違えば仕方ない部分もあるだろう。

 今後も服装について言及されるだろうか? 少々気になるな……着替えるつもりはないが。

 

「もし道とか、色々わからなくて困ってるならそこのお店の人を頼りなさい」

「私はちょっと手助けする訳にはいかないんだけどね。香霖堂さんなら……まあ悪い人じゃないから、たぶん助けになってくれるわよ」

 

 あの人、お節介焼きだから。

 女はそう呟いて笑顔を見せた。

 

 助け舟、なのだろう。あの男は確かに頼れると思う。

 

「いや、問題ない」

「先程厄介になったばかりだ。頼りにするのも程々にしておきたい」

 

「もう尋ねたの? そう、ならよかったわ」

「この道をずっと行くなら危険もないでしょうし、人里までそう遠くないけど気をつけてね」

 

 どこか納得した表情を見せる女。再度、小さく会釈し歩き始める。

 こちらも一礼を返し前へと進む。

 

 親切な人物だ。正直な話、どうせなら危険な道を教えてほしかったのだが、わざわざ聞くものでもないか。名前を聞いておきたいとも思ったが、今は話込む余裕はない。また次の機会にでもしよう。

 

 人里……本来外からやって来た者は人里を目指すのが定番なのだろうか。話から察するにまともな者が寄り合う場なのだろう。訪れる時が楽しみだ。

 

 まとまりのない思考を続ける最中、何事もなくすれ違う。

 

 刹那、微かに匂う。

 記憶にある種の香りだ。

 

「……お店でセールでもやってたのかしら」

 

 小さくひとりごち、店へと進み次第に遠ざかってゆく女の残り香に、僅かながら想いを馳せる。

 

 獣の匂い、これは狼の物だろうか? 

 少し薄く、それでいて人に近い。だが確かに香るそれに、どこか似た匂いのした者を思い出す。

 

 灰となり燻っていたあの男(ホークウッド)を。

 

 英雄に、竜に夢見た狼を。

 

 英雄になどならなかった彼は、おそらく逸話など残していないだろう。

 だが、彼に熱を与えた伝説、そして彼自身の誇りでもあった同志、彼の友たちの話ならば、もしかすると耳に入るかもしれない。

 

 この地では聞く事が出来るだろうか? 

 

 彼らが焦がれた伝説を

 

 彼ら自身が築いた物語を

 

 

 

 

ーーーーー

 

 

 

 

 閑散とした店内、古びた椅子に座る白髪の男が一人、指輪を手に取り物思いにふけっていた。

 閉ざされた空間、静寂に包まれ、男もまた時が止まったように静止していた。

 

 その静けさは突如として打ち払われる。

 

 ───カランカランカラン

 

 ほっかむりを被った女が無遠慮に押し入ってきた。

 何を思ってか、入って早々に辺りを見回し、不思議そうな顔をして疑問符を浮かべている。

 

「……あら?」

 

「……今泉君か」

 

 どこか幼さを残す女は、当てが外れたといった様子で被り物を外し、手ぐしでそのなめらかな張りのある髪を労る。

 すると、解きほぐされた髪の中から獣の耳が現れた。

 

 人狼だ。

 

 狼女とも呼ばれる女、尋常な人から外れたその姿に、しかし男は一瞥(いちべつ)するのみで大して興味を示すことはない。

 

「昼間から入り浸るのは遠慮して欲しいんだけどね」

 

「んー変ねえ……」

 

「どこが変なんだい?」

 

 男は気怠げに応答を返しながらも作業を取りやめ、対面する。

 作業の再開に備えてか、向き直りつつも乱雑にまとめ置かれた指輪を片手間で整理し並べてゆく。

 

「人間の匂いがとんでもなく濃かったから……てっきり人里に売り込みにでも行って、団体さんを連れて来たのかなーなんて思ったの」

 

「僕がそんなに意欲的な物売りに見えるか?」

 

「うーん……見えないわね!」

 

「……」

 

 自覚はあるのか、目を逸らし嘆息する店主。

 ただ、匂いについては彼自身思う所があったのか、何やら考える素振りを見せる。

 

「匂いか……人間の匂い以外に、何か感じるものは?」

 

「え? ちょっとわからないかも。人の匂いが濃すぎて……本当になんなの?」

 

「そうかい……いや、それならいいんだ」

 

 怪訝な目で見つめる人狼に気にするなと声をかけ、指輪を眺める。

 

「あら、綺麗な指輪……他にも見慣れない物がたくさん……なんだか凄いことになってるわね」

「……ちょっと、多過ぎじゃない? 香霖堂さん……なんでこんなに……」

 

 今度はからかい半分、どこか心配そうに伺ってくる。コロコロと表情を変える様はまるっきり子供だ。

 頭の片隅でそう思いながらも、舐めてもらっては困ると言いたげに店主は口を開く。

 

「泥棒を見るような目を向けるのはやめたまえ……心配はいらないよ。タダ同然で手に入れはしたが、どれも拾ったり交換して得た物だからね」

 

「そう? まあ、私なんかが口を出す事でもないわね」

 

 皆早く来ないかなぁ。

 そう呟いてテーブルに着き、くつろぎだす人狼と、人里から買ってきたのだろう菓子包みを横目に、店主は手にした指輪を置く。

 

 

 台所を荒らされぬうちにティータイムの備えでもするかと、席を立つ傍ら、ふと思い出す。

 先程取引した奇怪な青年。

 外来人にしては異常な男から確かに感じたもの、あれはおそらく───

 

 

 











デモンズリメイク楽しみ…でした

今話から実装した後書きに関しては気が向いたら読んでくれると幸いです

※ここから先は読み飛ばしてもらって構いません

解説の方は、原作のテキストやデザイン、演出、小ネタ、原作者の言及に基づいた物なので、時たまくっついている作者の余計なポエム部分以外は、ソウルシリーズを知る上で最低限役に立つと思います
作者自身うろ覚えな箇所も多く、少なくとも再確認する際役立ったので、ソウルシリーズをまともにプレイした方にも読む価値があるかもしれません
無駄に長いのでおすすめはしませんが

この主人公は色々感動したり郷愁に浸ったりする事の多い側面を持つものとして形作ったのですが、無駄に描写が加算されていって表現するのに疲れますね
まあこういう亡者野郎の物語を書きたくて始めたので仕方ないんですけど…


ーーーーー



篝火(不死人製)

骨と灰、歪な螺旋の剣を中心に、害のない火とぬくもりを放つ火。
記憶を失い、自らの生まれすらも忘れた不死人が最後にすがる寄る辺。
一種の不死人の成れの果てでもある。
体力と特定アイテムの消耗の回復、長距離移動の中継等、幾つもの役割を持つ。
篝火の炎に対し、働きかける力を持つ代物を幾つかくべる事もできる。
火の勢いは呪いと関わりがあるとされ、熱の大きさで周辺に存在するモノの質が変化する。
不死人以外には認識できない。
また、篝火は他の篝火と繋がりがあり、分かち難い。

最初の火によく似ている


不死人のソウル

亡者となり、遂に動かなくなった不死の遺した主なきソウル。
砕く事で、遺した者に相応しい程度のソウルを獲得する。
個として形を持ったソウルは、入手した者が死亡したとしても失われる事がないため、蓄えとして重宝する場合もある。
本来、それ以上の用途はない。


帰還の骨片

燃え尽き、白い灰となった骨片。
最後に休息した篝火に還る力を持つ。
篝火の薪は不死人の骨であり、その骨は稀に帰還の魔力を帯びる。
旅を道半ばで終えたものであれば、特に。
不死は骨となって尚、篝火に惹かれるという。
旅の続きを求めているのだろうか。
それとも、帰るべき場所への郷愁がそうさせるのだろうか。
骨は何も語らない。


太陽の光の恵み

回復の力を持つ魔法の一種。
大王グウィンの子、太陽の光の王女が与えた特別な奇跡。
周囲の者を含め、HPをゆっくりと大きく回復する。
不相応に術者への負担が大きいため、対となる、ある奇跡と比べ使い勝手が悪い。
王たちの化身が扱う奇跡でもある。


詠唱

魔法の発動に必要。
必ずしも発声が必要な訳ではなく、主人公含め無言で詠唱する者も多い。
詠唱速度は魔法によって異なる他、触媒にも影響される。
舌使いにでも影響するのか、技量に比例して速度が変化する場合もある。
基本的に詠唱破棄はできないが、抜け道はある。


呪術の火

呪術の祖、イザリスの魔女とその娘たちによって生み出された炎の触媒。
他社に分け与える事も可能。
呪術師にとって火は特別なものであり、大抵は一生を共にし、大事に育て続ける。
彼らにとって、火は半身であり、分かち合ったものは火の血縁となるのだとされる。
ロードランでは使用に必要な技能がなく、触媒の強さだけに呪術の威力が左右されたので、魔法に詳しくない純粋な戦士にも重宝された。
しかしドラングレイグ以降、炎自体が理力・信仰といった能力値にも影響されることになり、性質・運用法共に変化している。
触媒の種類が極端に少なく、基本となる呪術の火を統合するとシリーズで合計4種しか存在しない。
ただ不死との親和性が高いのか、うち2種は不死専用とも呼べる代物となっている。


呪術

炎を(さか)し、それを御する業。
イザリスの魔女たちが、魔術から派生させる形で編み出した魔法の一種。
主に炎の力を扱う。
純粋な炎の力以外に幾つかの派生があり、"火"をベースに、酸や猛毒といった侵し蝕む力としての毒。
炎を体内に取り込む形で作用させる、内なる力の活性。
過去、人間性に呼応して強まる性質を有していた、原初の生命ともされる混沌。
半ば、火その物でもあったが独自に確立した人間性由来の闇。
大まかに分け、これら4種が呪術として扱われる。
また、癒しの力を持つぬくもりや、炎に惹かれる生命に作用し術者の駒とする魅了、混沌を応用したとみられる岩、火であって火と異なる性質を持つ罪の炎、火と闇の複合属性となる咆哮も含まれる。
呪術を扱うのなら、炎を畏れなくてはならない。
畏れを忘れた者は、炎に飲まれ、すべてを失うだろう。


暗い呪術の火

呪術の火の一種。
この古い古い炎は、使用者に対し、力へのより強い渇望を求める。
死を重ね、深い呪いを宿す亡者ならば真価を発揮する事ができるだろう。
最大まで力を引き出せば、通常の呪術の火を若干上回る程度の火力を得られるのだ。
呪い(体力半減)の対価に見合う力ではないだろうこれは。
極まった亡者以外には到底使いこなせる代物ではないが、特定の条件下でならばまともな運用が可能であった。
己を高め戦いを楽しむため、ひたすらに死合い続ける亡者の下であれば、この火はきっと輝けるだろう。


ぬくもりの火

持続的な癒しの力を持つ唯一の呪術。
害意のない、柔らかな火を起こし、それに触れた者を敵味方関係なく回復する。
ある時を境にこのスペルは変容し、全魔法中で最高峰となる回復量を持つに至ったという。
特定の場(盆踊り会場など)では忌み嫌われている。
失われた呪術の一つであり、癒しの力を持つ呪術は体系化されず途絶えたようだ。
炎は力の証であると共に、知恵とあたたかさの象徴でもあるとされる。
炎は、それを扱う者が求めるものをもたらすのだ。
ぬくもりの火は、その最たる例といえるだろう。


原罪の探求者アン・ディール

火と木からなる人の異形。
ドラングレイグにて、ある時を境に主人公に干渉するようになる。
呪いを超えようとした不死に興味を示し、人の在り方について問いかけた。
かつて、因果に挑み、常軌を逸した研究により幾つもの秘儀を生み出し、しかし、望みは叶わず全てを失ったという。
大王グウィンが成した封により、偽りの生を送る事になった人間に変革をもたらしたかったのだろうか。
彼は、想定を超えて足掻き続けた主人公に対し、答えを求め、ドラングレイグの最奥"渇望の玉座"にて最後に待ち構える。


アン・ディールがもたらした差異

篝火の位置の変更。
あるエリアにて、過去、大階段の下の狭いスペースに置かれていたはずの篝火が、アン・ディールの参入後、階段の前の広場へと移動した事変を指す。
この変更そのものは大した問題とは呼べないが、干渉不可能だと認識していた存在に対し、今まで持っていた固定概念を揺るがす出来事であったためか、主人公の記憶に深く刻まれている。
なお、ドラングレイグではその後、様々なものの位置が変化し、最早別物と化した世界が出現した。


敵意の感知

索敵の効果を持つスペル。
裏切り者を追う奇跡とされ、目標へゆっくり向かう光を放ち、その場から最も近くにいる敵の一体、または侵入してきた闇霊の位置を知らせる。
闇霊の対抗馬となる、ある青い霊体から放たれる事が多い。
待ち伏せをしている敵や、闇霊の数の把握には役立つが、目標を捕捉する光の性質上、高低差が小さく障害物の少ない平地以外では活用が難しい。
使い道がない訳ではないが、ノロマで壁や床を通過すれば認識できなくなる光など、とてもではないが普段使いはできないだろう。
大して価値のあるスペルではないが、特定の条件下では非常に重宝される。


闇霊

赤黒く光る、ソウルによって形成された霊体。
侵入、あるいは召喚によって他世界へ入り込み、その世界のずれの中心にいる者、世界の主(ホスト)と呼ばれる不死人の殺害を目的とする。
侵入者は無差別な相手を襲い、召喚された者は果たし合いを望む者と死合い、殺す。
役目を全うした闇霊は、人を保つために必要な糧を得られる。
例外はあるが、基本的にホストとその協力者以外には干渉できず、また、干渉される事もない。
単純にホストとその協力者の抹殺を第一に動く者が多いが、その他に、人間性豊かな者(プレイヤー)を含むと多種多様な闇霊が存在する。

(例)
生き汚く嫌がらせに徹する者。程々に力を抜き、または全力でホストを楽しませるために、道中の壁として殺意なく敵対し道を阻む者。道化を気取り命をかけて茶化す者。出来る限りのサポートをホストに施し、敵対者の旅路を助ける者。友好的に接し騙し討ちを狙う者。主催者兼観客のホストが用意した(道場)に招集され、ホストの意向を許容し従い、闇霊同士での決闘・乱闘を行う者。わざわざ侵入しておいて隠れ、あるいは擬態し自分勝手な隠れんぼを楽しむ者。多数で少数を嬲り殺す悦楽に魅入られ、見知ったホストの下、犬と呼ばれる同好の士と共に獲物となる無知な部外者(侵入者・協力者)を狩る者。特殊な条件下であえてホストとの共闘を選び、もしくは協力者(白霊)として侵入し、共に冒険する者。
この他にも幾つかあり、人の数に比例して個性的な闇霊が散見できる。

源流は闇撫でのカアスの誓約、ダークレイスにある。


エスト瓶

いつ誰が作ったのか知れぬ鈍い緑色の硝子瓶。篝火でエストを溜め、飲んで体力を回復する。
不死人の宝とも呼ばれ、不死の世界に灯る篝火と大きな関わりがあるようだが、その意味はとうに失われている。
人間性・エストのかけらによりエストを蓄える容量を増やす強化や、火防女の魂やとある不死の骨粉・遺骨の力をエストをより濃いものとし、回復量を高める強化を追加で施す事ができる。
ロイドの護符を受けると封じられ、中身のエストが出てこなくなるようだ。
妙な味がするという。


エスト

おそらく不死人を起源とする篝火の熱やぬくもり、またはそれが持つ力を指す言葉だと思われる。
死の名残の解放と引き換えにも得られる。
死、もしくは生の力そのものとも考えられなくもないが…ダークソウル作中ではエストその物について一切説明がなく(仮)、言及が避けられている節があるため、詳しくは不明。


誓約

何かしら特殊な力を持つものとの間に取り交わす契約。
人から獣、果ては神族や竜との間に結ぶ事もある。
多くの場合、誓約者はそれぞれ特定のもの(人間性・敵対者の死など)を捧げる事により、利益や戦いの場を得る事ができる。
時代が移るごとに、より緩く手軽なものへと変わっていった。
一部の誓約は捧げ物の数・誓約者間のランキングが公開されるせいか、30〜100程度で利益が打ち止めになろうとも止まる事なく、千から万単位まで捧げ続けランクを競うような酔狂な亡者を生み出した。
基本的に他世界との関わりの中で捧げ物を見出す誓約が多く、そのためだろうか、単身で捧げ物を収集しようとすると地獄を見る。


イザリスの魔女

闇より生まれたモノの一匹。
グウィン同様、最初の火に惹かれ、王のソウルを見出したという。
古い時代、頂点に位置していた古竜を滅ぼした者の一人でもあり、呪術の開祖でもある。
単にイザリスと呼ばれる場合も多い。
後年、1度目に最初の火が消えかけた際、自らと一族の力で新たな最初の火を創造しようとし、失敗。
混沌が生まれ、魔女は混沌の苗床という、火と樹木、そして虫の要素を持った異形へと成り果てる。
火から得た力に執着したのか、ただ火に惹かれ、魅入られたか、定かではない。
その成れの果て(混沌の苗床)は多くの不死から忌み嫌われている。


綻び刀

ロスリックの地、その果ての果てで手に入れられる刀。
神の忠実な僕であった、ある古い竜の末裔を象徴する武器。
かつて流麗な刀身をもっていたとされるが、不死人の処理をし続け闇に侵された竜と同様に黒く染まり、蝕まれ、既に根本から綻びはじめている。
鞘なくば、脆くも崩れ去るだろう。
闇の閃光を乗せた、高速の斬撃や地を這う衝撃を放つ事ができる。
耐久性は低いが、ドラングレイグでの旅(片端から装備が壊れていく環境)を経験した者にとっては大した問題とならないかもしれない。


ダークハンド

ロードラン、ロスリックの地で入手できた拳武器。
ダークレイスたちの業であり、それらを唆した世界蛇、闇撫でのカアスの遺産。
ダーク(闇の)ソウルにより人間性を奪う吸精の業をなす。
また、暗く、赤く透き通る波紋を生じさせ、特殊な盾としても活用できる。
本来なら吸精は人間性と生きる力、HPを奪う力を発揮するが、ロードランではいつからか、無傷で人間性のみを奪い取るようになった。
また、後にカアスが起こした亡者の国、ロンドールのダークハンドはHPのみを奪う。
主人公と本来の持ち主との間でモーションの格差が激しい武器の一つでもあり、主人公が扱う場合、対象に対し吸精が成功すると熱烈な抱擁とキスに近い動作を行う。
見てくれ(仕草)は少しあれだが、変質者か情熱的な人間を演じたいなら悪い武器ではないだろう。
ただ、ロンドール産の物は能力値次第では必殺の威力を備えるため、純粋な戦闘以外での使用は差し控えよう。

人の腕は頭部の次に人間性の闇の影響を受けやすく、また、濃い呪いは人の腕を生むという


儀式剣

蝕夜を引き起こし、世界を闇に包む儀式、または闇に包まれた世界への侵入に必要となる、螺旋の剣。
ロンドールの契りの剣ではない。
ロスリックの地で手に入れる可能性のあった、しかし本来なら手にするはずのない代物。
形状は篝火の螺旋剣と同様。
闇と炎の名を冠する物が存在し、亡者の遺体に突き立てる事で効果を発揮する。


ひたすらに死を遠ざける遊びのない旅

ノーデスと呼ばれる苦行(縛りプレイ)の一種。
ドラングレイグの地ではこれを、あるいはノー篝火を完遂する事で個性的な指輪を得る事ができた。
慎重な人間や余程優秀な者なら意識せずとも達成する事が可能だが、下手でなくとも色々と雑な人間には困難を極めるだろう。




炎・混沌の嵐の名を冠する呪術を指す。
地に拳を突き立て、力を巡らせる事で術者を中心に広範囲を火柱で焼き尽くすといった形式の物。
"生命の残滓"、"嵐の嵐"といった類似した特徴を持つ闇術も存在する。


太陽

「封じられた太陽」の名を持つ呪術を指す。
アン・ディールの秘儀により生まれた、最高峰に位置する魔法の一つ。
大爆発で周辺を焼き尽くす巨大な火球を放つ。
負荷は大きいが非常に使い勝手が良い。


熔鉄

高音により溶けた鉄。
この話では熔鉄の城の、溶鉱炉に似た環境下で生じた、固形化したマグマに近い足場を指す。
対策なしではすぐに焼かれきり死ぬだろう。
何故か宝箱が置いてある場合が多い。
城の跡地であり不自然ではないが…


混沌

呪術の祖をも飲み込んだとされる炎。
この話ではイザリスの廃都に広がる、マグマに近い足場を指す。
対策なしではすぐに焼かれきり死ぬだろう。
かつてはチカチカ光り、イザリスに挑む不死の目すら焼いたとされる。
何故かこのマグマ地帯には竜の死骸の下半身が大量に沸いている。
かつてイザリスの魔女たちが焼いた古竜の成れの果てだろうか…
下半身は酷く攻撃的であり見た目によらぬ速さで跳び回るため、無闇に動くと対策をしても死ぬだろう。


どこか身に覚えのある感触

ロードランの地で手に入れる可能性があったロードラン産のフリューテッド装備の感覚。
フリューテッドシリーズは本来なら手にするはずのない代物であり、主人公は現在所有していないが、朧げながら感覚だけは身体が覚えていたようだ。
ロードランの旅の最中、いつか失ったのだろう。


血狂い

ある誓約者の古い刀剣。
嘘かまことか、『血狂いに斬れぬものなし』とまで呼ばれている。
腹を切り、定量のダメージと出血を自身に課す代わりに、自らの血でその刃を染め、一時的に刀身に血を纏わせ異様なまでの切れ味を手に入れる。
強みはあるが、短小なうえ素の火力が刀としては最低、エンチャント「血狂い」も持続時間が短く、かつては15秒で「正気」に戻っていた。(現45秒)
再び血に狂うにも切腹は隙が多く、戦闘中の掛け直しは容易ではないため非常に扱いづらい。
自決用・HP調整用の武器としては優れている。
また、半ば禁じ手に近いがエンチャント中に武器を変更し、他種の素で強い武器(血狂い以外の刀など)で血狂いをキメれば真の力?を発揮し、異様なまでの火力を手に入れられるだろう。


異様な武器

ロングソード・メイルブレイカー・カイトシールドの名を有していた武器。
失われた騎士の側に共にあり続けただろう代物。
鎧と同じく形以外の情報が失われている。
大して面白味のない凡百の品でありながらも、不死が持つ、限界を超えた強化を施され、伝説と呼ぶに相応しい力を秘めた武器に似たものを感じる。


イザリスの杖

遥か昔、呪術や混沌が生まれる以前、呪術の大元となった炎の魔術を扱うためにあった杖。
ロスリックの代に変質し、魔術に作用する"理力"だけでなく奇跡に作用する"信仰"にも強く影響を受けるようになる。
おそらくは、性質は違えど炎を扱っていた過去を持つが故に、時の流れで理力と信仰の値に影響されるようになった()術の変化に伴う形で、信仰による補正を得たのだろう。
闇術に極めて高い適正を持ち、術士の能力値次第では最高峰の触媒になる。
また、リーチの長さや物理的な威力の高さから、打撃武器としての適正も無駄に高い。
術士との戦闘中、近距離まで詰めたところで徐にぺしりとはたかれ、想定を超えたダメージを負い、あるいは殺され度肝を抜かれた者も少なくはないだろう。


人間性

人の本質、人らしさの象徴。

誰も知らぬ小人が見つけた王のソウル(ダークソウル)
それは、世代を超えて受け継がれ、同時に薄まり、分かたれていったダークソウルの欠片であり、名残なのだろう。
薄く白光に包まれた、目のような一対の光点を浮かべた闇。
あるいは、薄光を放つ、まばゆい光と暗い闇を内包する光体とも形容できる見た目を持つ。
その形は人の影に近い。
優しくあたたかな人間ほど、人間性に富む。
そうでなくとも、死体を漁るか、殺し奪う事でも増幅する事が可能。
物質として固定化されたものは、砕く事で使用者の内に人間性を取り込み、癒しの力を得る事ができた他、誓約対象に捧げる事ができた。
砕き吸収した人間性は篝火に捧げられる他、発見力・防御力・呪い耐性の上昇や、特定の武器や混沌の呪術の力を高める効果を持つ。
アイテムとしてはロードラン以外で存在を確認できなかったが、時の流れと共に変質したのだろうか。
ドラングレイグ・ロスリックでは、似た形や役割を持ち、しかし異なる力を宿したアイテム(人の像・残り火)が存在する。

あたたかく、ふわふわとしている


人間性の闇

人間性の側面、あるいは人間性そのもの。
呪いと対になる存在。
最初の火によって生み出され、光の対となる概念として位置付けられた闇とはおそらく異なる。
暗く、静謐(せいひつ)で穏やかなそれは、しかし鮮烈な光のような姿も見せる。
人間性は悍しい力を秘め、全ての生ある者、その本質を蝕み削り、時に深い狂気に導き、時に異形へと変容させ、時に殺す。
神族が酷く恐れるその力は、人間自身にとっても過ぎた毒となるだろう。
同時に多様な可能性を秘め、扱う者が求めるものをもたらす。
姿形は人間性と同一のものだが、表面化させる際、場合によって違った色合いを見せる。
人間性の闇は質量を持ち、闇術で扱い敵対者に放つ場合、その重みから盾を打ち崩し、衝撃により活力(スタミナ)を削る力を有する。。

また、闇術により羨望や愛といった意思を持たせ、情念の塊として確立した人間性の闇は、仮そめの意思によって目標に惹かれ、執拗に追い続ける性質を帯びるようになる。
闇に近い、もしくは闇から派生したと考えられる魔法も同様に。
他に深淵沸きと呼ばれる、生命を持った人間性の闇もまた近い性質を宿し、情やぬくもりでも求めているのか、人間性同士で集い群れをなす。
もっと確かな生命を持つ者が来れば、惹かれるようにして向かい、寄り添おうとする。
中には躊躇するように距離を取る個体もいるが、最後には必ず近寄ってくるだろう。
こうした性質こそが人の本質なのだろうか。
時の流れの中、少なからず変質してきたが、おそらく本質的な部分に変わりはない。


闇術

人の歪みの表れともされる魔法。
操るには意志が重要となる。
この術を知る者は、親しみと温かさ、誰もが知るような懐かしさに触れるという。
その多くは禁術とされている。
他の魔法と異なり専用となる系統の触媒を持たず、それぞれの術が魔術・奇跡・呪術の一種としても扱われるため、術の系統ごとに杖・タリスマン(聖鈴)・呪術の火といった異なる触媒を用意する必要がある。
存在が確立されていなかった頃、原初の闇術は純粋に魔術の一種、または呪術の一種として存在し、能力値に受ける影響は既存の魔法と大差がなかったものの、物理と魔力、または物理と火が混じり合った異常な属性を持つ魔法であった。
だが、技術の進歩か、はたまた時代の推移に伴い変質したのか、ドラングレイグの代あたりからは純粋に闇としての属性を確立したようだ。
ドラングレイグ以降、火とは異なる形だが、闇自体も理力・信仰といった能力値にも影響されることになり、性質・運用法共に変化している。

純粋な闇以外に幾つかの派生があり、"人間性の闇"をベースに、蝕みそのものも含む、猛毒や失望といった蝕む力としての毒。
闇を肉体に作用させる、力の活性・変質。
自身を含め、周囲にいる者や大気、場そのものに作用する環境型。
ソウルを必要とし、生命そのものに作用する共鳴・吸精。
深淵の闇より見出された人間性の火。
人智の届かぬ暗闇に沈む、ダーク(暗い)ソウルを見出し扱う深み・澱み。
大まかに分け、これら6種が闇術として扱われる。
余談だが、原初の闇術を除くと複合属性を持つ魔法は、火と闇が混じる咆哮以外に存在しない。


人面「こんにちは」

奇妙な人面の彫られた古木。
地面に投げ落とすと砕け、同時に声を発する。
ただそれだけの品。
ある巨人に彫りこまれたそれは、確かな名工の技を感じさせる。
…この人面は「こんにちは」のようだ。
使用すれば「こんにちは(Hello)」と野太い声を発するだろう。
よく見ると親しげな顔にも見える。


ネジの外れた不死人

ダークソウルシリーズの主人公。
その中でも他世界との交流に慣れ、順応した者。
ドラングレイグで必ず出会える一部の協力者と侵入者も含まれる。
ダークソウルでは余裕のない人物が多く、協力・敵対関係にあってもコミュニケーションは最低限に留まる者が多いが、他世界感の交流を重ねた者は時に過激なコミュニケーションを取り出す事がある。
無意味に盾や武器をパタパタさせる、回転しだす、過剰に人面を投下しだすなど、コミュニケーションの一環でせわしなく動き回る事が多い。
中には死体への糞投げやスカート覗きなど、正気でありながら異常な行動をとる者もいる。
この作品の主人公も、そうした存在と相対した場合は呼応して類似した行動をとるだろう。
当然だが、時と場所を弁えなければ見て見ぬ振りをされる。


悪臭の類い

おっさんの体臭から下水道の匂い、血や油溜りのキツい香り、毒や酸の瘴気、腐敗臭に死臭、病いや糞により猛毒の気を持った汚臭。
そういった臭気を嗅ぐ機会の多い巡礼者は、鼻を悪くしてしまう事もあるだろう。
この作品の主人公はそういった悪臭に慣れた結果、逆に良い香りに鈍感になってしまったようだ。
おそらく味覚にも影響が出るだろう。


放浪の装束

放浪者一式
あてのない旅人、彷徨い人の装束
ロードラン・ドラングレイグの地に存在した装備。
ダークソウル1・2主人公の初期装備の1つでもある。
ロスリックでは失われてしまった(リストラの憂き目にあう)
薄手だが丈夫な革で作られ、風雨を凌ぐには適している。
何故か女性が装備する際は襟元にファーが付く。


ホークウッド

ロスリックで出会うことになる、心折れた脱走者。
火の無い灰の一人。
狼の狩りにも似た二刀流の使い手であったが、いつからか技を捨て、凡庸な大剣と粗末な盾のみを得物としている。
諦めの境地にあり、不貞腐れ口も悪いが、決して腐りきってはいない。
古い時代、醜悪な悪を狩り封じ、悍しい深淵を打ち砕いたという神話の英雄、狼騎士アルトリウス……その伝説に憧れ後継となろうとした旅団、ファランの不死隊。
深淵の監視者とも呼ばれたその一団に属していた彼は、狼血をその身に宿す、薪の王に足る者の一人でもあった。
古い仲間たちの死後、悲嘆の先に彼は姿を消す。
だがサインを介した霊体という形で、協力者として力になってくれるだろう。


人の匂い

生物的な匂いではない、もっと根本的な部分から放たれるもの。
精神に重きを置く存在である妖怪は、特に強く感じとるだろうが、尋常の生き物には感じ難いだろう。


香霖堂に現れた人狼

最近(妖怪基準)香霖堂の一角を占拠しているらしい謎の人狼。
「人間当てゲーム」という、人狼ゲームの亜種となる妖怪用の遊戯の主催者らしい。
考案者は相談相手の香霖堂さんらしい。
お茶会形式で開催されているこの遊戯は中々に好評らしい。
何故人間もそこそこ訪れる香霖堂で開催しているのか、誰がお茶を入れているのかは不明。
『東方文果真報』参照


ーーーーー



篝火作成

魔術・呪術を扱う師弟、闇術師、失われた術の使い手といった他の術師や元火防女の老婆の手を借り、主人公が4割程度自力で作ったらしいバグ技的な何か
協力者の数と質を考えると4割という数値は大きいが、実際の所、主人公が術士としての能力やセンスに特別優れていた訳ではない
この割合は、主人公が一連の研究の主導者兼被験者であり色々無理をして様々な負担を呑んだ点、古い時代の篝火や最初の火を知る者である点など、研究への総合的な貢献度の高さからくる評価を見積もり雑に算出したものである
センス自体は大して秀でていないため、協力者の力添えがなければどれだけ長い時を重ねても成功には至らなかっただろう
なお、高い確率で発生してしまう失敗は、時代を移る際、主人公本人に定着した99を超える人間性+αによって引き起こされるものであり、他の者は確実な成功が約束される
また、腑分けした暗い呪術の火を与えられた者は戦技に近い技術としての使用が可能となり、アイテム消費無しにソウルと触媒の耐久値を引き換えに作成することができたという
主人公本人は無限に近い物資を蓄えているためそれを知ることはない


敵意の感知

この奇跡の真価は狩りにある
透明な姿で音も立てずじっとしている亡者、目の届きにくい高所などで羽を休めたまま動かない蛾などを筆頭に、通常の攻略では気づきにくい敵を探し当てるには重宝する
また、ある特殊モブ(陽の鐘楼の狂戦士)を対象としたマラソンランナーの苦行の助けとなる他、侵入や召喚で誘い込んだ者を狩るモブ枯らし出待ちホスト一行といった外道供の役にも立つだろう


封じられた太陽

"ダークソウル"において、太陽の名とは、元来神々や彼らの見出した雷に与えられるものであり、呪術の火として扱われる事の多かった炎にその名を用いるケースは、封じられた太陽とある指輪以外に存在しない
おそらくは、火と太陽を結びつける考えは異常なものなのだろう。
かの探究者は、何を思い、火に太陽の名を与えたのだろうか
ただ、ロスリックの代で最初の火が限界を迎え始め、その影響からかダークリングに近いモノと化した太陽を見るに、探究者の考えもおおむね真実に近い代物であったのだと考えられる


痛みだけで死ねる訳でもない

痛みという感覚は、現実では時にショック死を引き起こす
これに対し不死人は、どれ程の痛みを伴おうと活動そのものに支障が出る事がない
痛みを覚えさせる生の指輪というアイテムや、その身に薪の王の火を宿させる残り火にデメリットが無い点から、おそらくは肉体・精神共に異なる構造をしているのだろう


ホークウッド

ファランの不死隊の死後、塞ぎ込んだ状況を打開したかったのだろうか、彼は古竜への道を歩み完全な竜体を目指そうとする
求めたのは竜という逸脱した存在への昇華、生命の超越だろうか
それとも、理由付けが欲しかったのだろうか
死に場所を探していたかつての同志たちのように
最後に彼は、いつか捨てたはずの剣技──短刀・大剣の二刀による狼の狩りを取り戻し、竜体を司る石を賭け主人公と決戦の地で果たし合う
彼は待ち続けるだろう
彼自身が勝利し、完全な竜体を勝ち取ったとしても変わらずに
目的を終えたはずの身で去る事もなく
ただ己が敗れ、死に至る時まで
ずっと昔、共に夢を追った友たちの死に場所で


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第4話:怖気

 圧倒される

 

 その眼に映るものに

 

 

 

 

 

 木々に囲まれた通りを進んだ先。

 フードの女とすれ違って以降、まともな者どころか敵も死体も見当たらない。どこか異様な林道を怪訝に思いながらも歩いていると、遠景に微かながら建造物が垣間見えた。

 募った痛みと焦燥感を抑え事前確認のため(好奇心から)遠眼鏡で捉えてみれば、仰天せざるを得ない光景が広がっていた。

 

 

 

 凄まじい数の……それもまともそうな人間が遠眼鏡越しに蠢いている。20……いや30か? 

 

(多すぎる……)

 

 異次元ともいえる景色に改めて時代の隔たりを認識させられる。

 

 関所だろうか? 

 ユニークな形状の門の付近、開かれた扉辺りに大人数の人間が群がっている。

 何かしら作業をしている様子であり、数人の人間が金槌に近しい得物を手にしている事から門の建築、または修繕でも行なっているのだろう。

 知識不足から正確には判別できないが、働き手、そして少数ではあるが番兵らしき者も確認できる。他にも人がいるようだが……やはりよくわからない。

 

 視界が小刻みにぶれる。

 微細な震えが止まらない。

 不安定な足場や段差の上にいる訳でもないだろうに、おかしな事だ。

 "夢"でしか見た事のないような景色を前に、身体が石化したかの如く動かない。

 

 話し、かけられるのか? これで……

 まさか尻込んでいるとでもいうのか? 未曾有の事態とはいえ、いや、しかし───

 

「もし、そこの方」

 

 

「随分と熱心な様子でしたが、人里に何か御用かしら?」

 

 女の声。

 

 外部からの刺激に反応したのか、ようやく身体が自由を取り戻す。

 そこからは早かった。

 さっと遠眼鏡を仕舞い、反射的に回避まで行おうとする身体を抑える。下手に跳びのいてしまえば会話も続かないものだ。

 全身を駆動させんとする衝動を殺し、素知らぬ風体で声のする方を向く。

 

 林道の脇、茂みを隔てた先に声の主はいた。

 緑色にも見える、青味がかったドレスの女。

 濃い青に彩られた髪、後頭部に二つの輪を浮かべたかのような妙な髪型をしており、不思議と目を惹かれる。

 女はどこか貼り付けたようにも見える笑みを浮かべ、こちらの応答を待っているようだった。

 

「……珍しい光景だから眺めていた」

 

「なるほど。確かに私も門の修繕をじっくりと目にした覚えなどありませんからね……眺めたい気持ちも理解できます」

 

 女から感じるのは警戒、ただ一色のみ。隠すのが上手いようで他の感情、思惑は一切見えてこない。

 意図して繕っているのだろうその笑みは、仮面と表現しても差し支えない。

 

 女の笑みからは、取り繕いが下手くそであった気の抜けた守銭奴(リーシュ)のような拙さは一切感じられない。反対に偽装の名手であったろういつかの貴婦人(デュナシャンドラ)のような精巧さや、それが醸し出していた得体の知れない気色悪さは感じられない。敢えて見せるわざとらしさと纏う雰囲気がそうさせるのか、素体の作りの良さもあってか芸術的とさえ形容できる仕上がりに見えた。

 

「人里といったか。興味深いが、今はまだ用はない。足を運ぶつもりもない……闘技場でもあれば話は変わるが」

 

 闘技場。

 殺し殺される中、技を磨き武を競い己を高めるための場だ。そういった試練や死合の場で最初の死を遂げるなど、中々得難い経験であろう。見た事のない初見殺しに鉢合わせて完封されるというのもきっと悪くないはずだ。

 街への立ち入りへはまだ躊躇があるが、闘技場での死を望めるのであれば踏み越えられないものでもない。

 

「ふふっ、物騒な方……闘技場ですか。残念ながら、この辺りには無いと思いますよ」

 

「そうか」

ありがとう(Thank you)

 

 返答の直後、間の抜けた低い声が辺りに響く。

 

 気が付けば、無意識に人面「ありがとう」を投げ落としていた。

 先程まで気が動転していた事もあり、つい手が動いていた。……何ともまあ、余計な真似をするものだ。

 

「あらあら、面白い道具ですね……。礼には及びませんわ。お気になさらず」

 

「……!」

 

 

 

 驚愕する

 思いもよらぬ女の応答に

 

 人面に、反応があるだと? 

 挨拶(ジェスチャー)を返してくれるロスリックの火防女ですらろくに反応しなかったというのに。

 

 驚きのあまり言葉が出ない。

 まさか生身の者が人面に応じてくれるとは……

 

「どうかされましたか?」

 

「……いや、珍しい反応だと……そう感じただけだ」

 

 ……過剰に驚いてばかりいるように思う。

 

 考えてみれば、ジェスチャーなどロスリックの地に至るまで、他世界の不死以外は誰も大した反応を示さなかったではないか。

 巡り続けた先、ようやく人面文化に時代が追いついただけのこと。

 そう考えれば順当とも言えよう。

 

 だが、今回は特にこれまでと異なる点が多いように感じる。

 目の前の女にしてもそうだ。

 後髪が輪のように結われた髪型、濃い青に染まった髪色。どちらも実に興味深い。

 

 青い髪、それ自体に驚きはない。他世界の不死を含めれば見かけない事もなかったからだ。しかし、世界の重なりにより直接関わりを持つ事ができ、対話による交流が可能であった者たちの中には今まで1人もいなかった。

 面白いものだ。

 

 こうした変化を考えると、全身原色の色彩に富んだ肌を持つ者にも直に会えるかもしれないという期待を抱かざるを得ない。いつか会ってみたいものだ。

 改めて、多くの未知がこの先に待ち構えていることを実感する。

 

 間を置いて女はまた口を開く。

 いっそ仮面のようにすら感じる笑みをわざとらしく見せつけ、一歩二歩と近づく。

 一体何を問おうというのか……

 

「ところで、どうして里に立ち寄らないのですか?」

 

 単純な質問、疑問はもっともだろう。

 もし仮に、人里が此度の旅の拠点とも呼べる場所であるなら愚行にも程がある。

 

 しかし───

 

「腕に自信があるのでしょうか?けれど、調べもなしに動かれては苦労しますよ?」

 

 「承知している。だが……」

 

 先程の光景……今もなお衝撃が残っている。

 ()()()()()であった。未だに呑みこみ難い。

 言葉にし難く、言い淀む。

 

「……折角の新天地だ」

 

 ……このまま待たせる訳にもいくまい。

 仕方なしにもっともらしい理由を立ち上げる。嘘ではないのだから、問題はないはずだ。

 

 実際手探りな旅は不便ではあるが……だからこそか、味わい深く得難いものでもある。未知は新鮮なままに味わいたい。

 

 故に

 

「あえて情報を得ず探索したい」

 

「それで人里には行かないと?」

 

「人里とやらには足を運びたい気持ちはあるが……俺にはまだ早い」

 

 無論、先程見えた人々から聞き回りたい欲求はある。

 しかし出入り口付近だけであれだけの人間がいるのだ。杞憂であろうが、聞き取りだけで今後の全てを知りかねないという懸念もある。

 情報を得てからでは、知った後では旅路で得られる産物が幾らか味気ない物へと変わってしまう。

 未だ己の呪い(本質)が失われていないのなら、これからもこの身は永い時を彷徨(さまよ)い巡り続ける事になるのだ。価値ある体験を自ら捨てる気にはなれない。

 

「……そうですね。知らないものをあえて知らないままに楽しむ、理解できなくはないです。けれど、後で後悔される事のないように。取り返しが付かなくなってからでは遅い……そうでしょう?」

 

「後悔か」

 

「はい」

 

「……理解していない訳ではない」

 

「ならよいのですが。では、お気をつけて」

 

「ああ」

 

 ……用が済んだのだろうか。女は立ち去ろうとする。

 気遣いを無碍(むげ)にするのは心苦しいが仕方あるまい。次に出会う際、何かしら埋め合わせができたなら良いが。

 

「……あぁ、それと」

 

 去り際、距離を置いた女は微かな声、変わらぬ笑顔で(うそぶ)いた。

 

「あなたの企みがなんであれ……我が主、太子様の機嫌を損ねるものでなければ私は構いません。それでは」

 

 ……疑われていたという訳か。

 大方、里への襲撃でも企んでいると見做されたのだろう。

 

 考えてみれば無理もない。

 ある程度通じ合えた者同士、至近距離での使用であればともかく、遠距離から遠眼鏡を使っていたのだ。長射程の魔法や投擲、旧式ボウガンによる狙撃など、単体で狙いを定めるには困難を極める類いの攻撃でも目論んでいたと取られても仕方あるまい。

 遠間から長時間の視察を行なっている者など、不審が過ぎる。他者の目を欺く力(幻視の指輪)を使っていないだけマシだとは内心思うが、観ているだけであろうと一方的に狙撃を受けても文句は言えまい。

 

 ならどうするべきか。

 決まっている。

 

「待ってくれ」

 

 まだ対話を続けるべきだ。訂正する必要がある。

 対話が可能であるならまだ決定的な決別ではないはずだ。忠告で済まされているうちに最低限誤解は取り除きたい。

 

「まだ、何か?」

 

 女は立ち止まる。耳を傾け、こちらの言葉を待ってくれている。聞く耳を持ってくれるとは……ありがたいものだ。

 

「……人里とやらを狙っていた訳ではない。まともな者と敵対するつもりはない」

 

 では何故?

 女はそう言いたげに目を細める。それ相応の言い訳を求めているのだろう。

 

 であれば

 

「……俺は不死(アンデッド)だ」

 

 己の素性を明かすべきだろう。

 言葉を飾る必要はない。

 

「まあ!そうだったのですか」

 

「だからこそ、人里への出入りは遠慮したい」

 

「理由を聞いても?」

 

 あらあらと、別段驚きもないといった様子で相槌がうたれた。

 続きを促す女の表情、薄らとした笑みは幾らか柔らかなものへと変わっていく。物怖(ものお)じしない様子からして事前に見当を付けていたのだろうか?やはりこの時代の不死はまともな者ばかりなのか、はたまたこの女の肝が据わっているだけなのか……だが悪印象なく受け入れてくれたのだ。何であれ、ありがたい。

 

「……立ち入りたい気持ちはあった。だが、不死の身で真っ当な人間の集団と接するのは危険が伴うのではないかという懸念もあった。問題がなかったとしても手間だろうと考え、尻込みしたのもある。遠眼鏡で眺め続けていたのはこうした迷いがあったからだ」

 

 思案していただけだなどと言い逃れはしない。

 出し惜しみすべき場面ではないだろう。

 

「悪意はなかったが、無礼な振る舞いであったことに変わりはない。不埒な輩と断じられるのも当然の行動だ。非礼を詫びよう」

 

 正体と思惑を明らかにし、謝罪する。

 悪い意味でも反応されかねないため、これまでとは違い無駄な人面やジェスチャーは抑えたが、通じるだろうか。

 通じると信じたい。

 

「そうでしたか……いえ、お気になさらず。他意がないのでしたらこれ以上とやかく言う事はないです。奇異な行動はともかく、礼儀のなっていない者ならこの辺りでもよく見かけますし」

 

「そうか……」

 

 どうやら誤解は解けたようだ。失笑混じりではあったが赦しを得られた。

 どことなく女の(あざけ)りの笑みからは親しみを感じさせられる。きっと、眼前の不審者に対してのものではない。おそらく脳裏に浮かんだであろう知人か何か(親しい礼儀知らず)へのものだろう。

 嬉しく思う反面、無礼者が多いと聞き、若干の憂いを覚える。

 ごく最近まで度々足を運んでいた遊…戦場(灰と澱みの溜まり場)が脳裏によぎるが……そう心配することはないか。不快な下衆ならばともかく、流石に品性の下限、その権化のような輩などそうは逢えまい。

 

「しかし本当に……」

 

 どこか楽しげな失笑をやめた女は目を合わせ近寄り、ぐいと顔を近づける。女が注目しているものは己の目だろうか。目玉など、観入る物でもないだろうに。

 僅かな思案の後、距離を空け一礼しだした。

 何の真似だというのか。

 

「失礼。私の知る不死の方々とは随分(ずいぶん)異なるようですね。納得はできました。こちらも決めつけるような物言いをしてしまって、ごめんなさい」

 

「気にする事はない。此方が悪かったのだから」

 

「ふふっ、そう言っていただけるとありがたいです」

 

 女は頬を緩ませ、柔らかなスカートを揺れ動かしながら、軽くステップを踏むようにして距離を置く。

 鮮やかとも称せるだろう布地の舞い方に、感嘆の声が漏れかかる。ドラングレイグやロスリックのドレスでもこうはなるまい。陰ながら時代と共に変異し続けてきた布揺れ。いつかの板状のマントを筆頭に論外と言う他ないロードランから始まり、遂にここまで来たとは……感慨深い。後で持ち込んだ衣類も同様に(ひるがえ)ってくれるか検証するとしよう。

 しかし納得がいったようで良かった。

 喜色を声にのせ応じる女の姿に、少し、胸がすくような感触を覚える。

 

 傍ら、ほんの少し違和感を覚える。

 口から出た言葉は事実だ。問いへの答えとしては差し支えない。

 だが本音とは異なるのだろうか。何か納得がいかない。こういった物事を考える力がソウルで練り上げられた理力で養えたなら良かったのだが……

 

「どうやら、私の思い違いだったようですね。ですが里へ寄る際は注意した方がいいですよ。そのままでは門番どころか退治屋まで出張りかねませんからね」

 

「そうか……だが何故だ」

 

「何故、ですか」

 

「残念ながら、何が不味いのか己では判別できない。教えてくれると助かるのだが」

 

「……正直に言わせてもらっても?」

 

「……構わない」

 

 笑みを抑え、どうしたものかと首を(かし)げる女。

 やはり不審が過ぎたか?怪しげな者は通行禁止といったしきたりでもあるのだろうか。

 思い当たる節が多すぎる。これは自身で思い悩むより、何が不味かったのか問う方が懸命だろう。

 安直な発想を浮かべる中、一歩、後ろへと足を送りながら女は呟いた。

 

「臭い」

 

「……」

 

「普通の人間の臭いじゃないんですよ。あなたのそれは」

 

 一歩、また一歩と遠のいてゆく。

 先程と変わらぬ微笑みを浮かべ、女は後ずさる。

 

「あなた……どれだけ殺したんですか?」

 

 

 







不安定な足場や段差

ゲーム「ダークソウル」では足場によって、または立ち位置によって意図せずガクブル震え出す現象が発生する。
きっと次元の基礎となる 本物の神の一種(ゲームエンジン)か何かがそうさせるのであろう。
シリーズ通して消えかけた最初の火によって次元の歪みが出ているため、その影響と考える事も可能かもしれない。


守銭奴

聖女を自称する色々と雑な中年の女。
出会う事になるドラングレイグでは主要な奇跡の売り手であり、幾つかの奇跡を売ってくれる。
しかし割高。
話していると勝手にボロを出してあたふたしたり、相手が目を閉じていないと成り立たない雑な手品の真似事を奇跡と称して押し売るなど、呆れの域を通り越して見ていて微笑ましい。
ただ、聖女を騙るだけあって信仰高い者には好感を示す事もあるようだ。信仰心自体は本物なのだろう。
隠し事が下手、宗教家としても少々知識不足であり素だと口も悪いが、本気を出すと非常に強く、ドラングレイグのまともな者の中ではトップクラスの実力を持つ。
きっと故郷では有名人


いつかの貴婦人

ドラングレイグ王城で巡礼者を待ち受ける巨大な婦人。
ドラングレイグの王ヴァンクラッドの王妃であり、"玉座"への異様な執着を見せる。
駒として巡礼者に指図し何やら企んでいた。
アン・ディールの創造したゴーレムの一種であるとある竜を偽りの神と呼ぶなど興味深い一面も見せるが、言葉数が少なすぎるためか不明な点は多い。
本性の他は力を求めた事、ドラングレイグの荒廃の元凶である事、性格が悪い事しかわからない。
野望のため利用した巨人を貶したりする辺り、おそらく口も悪い。


闘技場

比較的お行儀の良い死狂いの戦士たちが武を競い、己と階級を高め名誉を得るために挑む場所。報酬のために挑む場合もある。
制限された時間内、場や形式によって若干異なるルールに則った戦いであれば、どのような武器、戦法であろうと問題ないため、時折地獄と化す。
場所・時代によっては異なるが、1対1でどちらかが死ぬまで殺し合う形式、同じくタイマンでどちらがより相手を殺せるかを競う不死人の特性を活かした形式など、幾つか形式があり、チーム戦や乱戦といった複数人で行う形式の物も用意されている。
複数戦形式はそれぞれ識別が付きやすいよう別種の霊体化を施される場合があり、戦場が無駄にカラフルになりやすい。
一部戦法が用いられた場合を除けば戦いの場としては悪くはないのだが、サインを仲介したホスト・闇霊間の合意決闘や道場と比べ手頃でないためか過疎が目立ちやすい。
NO MERCY(情け無用)を推奨されるため外道も少なくはないが、単なる戦いの場でなく、戦士なりのコミュニケーションの場でもあるのだ。
最低限の礼節は守るべきであろう。
お互いの名誉のために


人面ありがとう

奇妙な人面の彫られた古木。
使用すれば「ありがとう(Thank you)」と野太い声を発するだろう。


原色マン

おそらくネジの外れた不死人の一種。
濃いブルーベリー色の怪人や明るく映えるオレンジ色の妙な人参の化け物などがいる。
大体半裸の変質者が多い。


幻肢の指輪

闇霊の派閥の1つ、ロザリアの指に与えられる指輪。
遠く離れた者から、装備者の姿を隠す。
他種の指輪と併用すれば、その隠密性は非常に厄介なものとなる。
単純な奇襲や逃亡時に役立つ。
プライドを持たず、卑怯(臆病)者の(そし)りを受けようと構わないのであれば、中・遠距離からの狙撃に使用するもの手だ。
最も狙撃手対策にもなる都合上、同業同士であれば大して驚異とはならない。
悪質な力と忌み疎む者も多いが、遥か昔、ロードランに在った不可視の力(霧の指輪(全盛期))と比べれば、だいぶ有情な部類だろう。


理力

魔術や呪術といったスペルを使用するために必要な能力値。
魔術の威力も高める他、呪術や闇術、一部の武具や魔法防御にも影響する。
物事を理解する力を養う効果はない


ーーーーー



灰と澱みの溜まり場

様々な戦士が入り混じる戦いを好んだ亡者たちが吹き溜まる戦場
世界の主と戦い殺すためにやってくる闇霊
己を試すため世界の主の助け船として戦場に居座り続ける白霊
薪の王である神喰らいと呼ばれた腐肉の汚塊を守護する守り手
それらを狩り殺す悦に魅入られ、使命も果たさず延々と留まり、有利な状況での遊戯を求める狩人気取りとその猟犬
時折現れ、清涼な風のように過ぎ去っていく使命の殉教者(一般通過ホスト)や、時たま遊びの場としてふらりと立ち寄る物好き以外は、一つの場に囚われてしまったが故か…余裕がない者も多く、半ば亡者に近い無礼な糞垂れも少なくはなかった
今もなお彼らは囚われ続けている


板状のマント

ロードランでの旅路の最中、銀騎士と呼ばれた者たちの鎧を拝借し、装備した不死人の背中に貼り付いた板
本来の持ち主の背では優雅に揺れはためくのだが…何故だろうか、海藻の乾物にも似たそれは、新たな主の背ではろくに動かない
しかし、時代の流れか、火の変質が生んだ差異か、ロスリックの時代において遂に華麗に翻るマントへと生まれ変わったという
当時、銀騎士に魅入られただろう者たちは救われたのだ
代償に失われた物(銀騎士の剣・槍の消滅)があったとしても、彼らは幸せ者だろう


旧式のボウガン

ロードラン時代のボウガン
弓とは異なり狙撃に適した構えができないため、狙い撃つ能力に劣る
単体で精密射撃ができない理由は不明
弓とボウガン、または撃ち出す矢とボルトの作りの違い故か、ソウルが何かしら影響を及ぼしているのか、神がボウガンを愛さなかったとでもいうのだろうか…おそらくは、ずっと昔、また別の世界で下った罰なのだろう
一部のボウガンは近〜中距離において有用ではあったが、射撃兵装にも関わらず遠距離を不得手とする意味不明な武器であったのは事実であり、時折心無い(正気の)者から貶され、嘲笑の的となった
だが遠眼鏡と併用することで擬似的な狙撃が可能…欠点を克服できるのだ
ボウガン最高の長射程を誇る素晴らしきスナイパークロス、そして全てを見通す遠眼鏡が合わされば──弓など恐るるに足らず
そう信じた者もきっと、いつか何処かにいただろう
スナイパークロスに可能性(身の程を弁えない夢)を見た亡者は、しかし、もう何処にもいない


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第5話:鈍麻

誤字報告ありがとうございます





「酷く臭うんです」

 

 

「汗臭さや泥臭さ、焦げ臭さだとか、そういった類いの臭いが混じり合っているだけじゃない」

 

「濃い……血肉と汚物の臭い。()えた腐臭に死臭」

 

「でたらめに混ぜ合わせた薬品なんて生やさしい物じゃない。長い時、そして冒涜を積み重ね、穢れ尽くした呪物より酷い香り」

 

「どれ程浴びて、どれ程染み入ればこれほどの醜悪を(かも)し出せるのでしょう」

 

 

「……」

 

 晴れ渡った空の下、虫や鳥獣のさざめきの中、寄せてはかえす波の()のように心地よい声が響く。

 

 こちらの出方を伺っているのだろう。女はゆっくりと歩み始める。警戒の対象だろう己には近づく事なく、遠ざかる事もなく、回り込むように足を運ぶ。

 

「そんな(匂い)を纏っているような人間が、人里に入ろうとしている。里の人々はどう思うでしょうか」

「無闇に人を襲うつもりがないのであれば、人間との関わりを持ちたいのであれば、最低限、抑える事をお勧めします」

 

 (ささや)くように、(さえず)るように、己へと言葉をかける青いドレスの女。

 死角へと入った女は、静かに返答を待っていた。

 

 

 言葉を失う。

 

 

 どれだけ殺したか……

 

 そう問われると、少し困る。

 

 正確には不明だが、記憶している数だけでも答えるべきか……それを大まかに告げるべきか、詳細に伝えるべきか思案する傍ら……

 

 "臭い"

 

 それについて……他者から正当だろう評価、予想だにしない衝撃に打ちのめされてしまった。

 

 ……失念していた。この盗賊の装束は未強化の物の中で1番着込んでいたはず。

 思えば、これまで一度も手入れした事がなかった。他者の装備(バンホルト・逃亡騎士)の臭いなら己自身も着用や確認の度、気になりはしたが……己そのものが発する臭いなど全く省みなかった……。

 これまで出会ってきた者たちは何も言ってくれなかった。それどころか気にする素振りすら見せなかったが、おそらく皆、大なり小なり同じような旅路を送ってきたために配慮したのだろう……だが、これは……思いのほか堪える。

 

 事実、今まで身分の高い者に汚らわしいと言われた事は少なからずあった。人を超えた嗅覚を持つ(ネズミの王)には直球でくさいとさえ言われた覚えもある。

 だがしかし、あれは人や不死の匂いそのものに対しての発言であったはずだ。かの優しき王の苦言は人間嫌いを拗らせていたために出たものでもあった。

 そう認識したからこそだろう。おそらく、その時は特に何も感じず流してしまったように思う。

 

 何故だろうか。振り返ってみると中々に心苦しい。

 とっさに、無駄な"土下座"や"命乞い"と共に許しを乞おうとする体を押さえつけ、女へ向き直り一礼と共に謝罪する。

 

「……申し訳ない。自分自身の臭いなど気にした事もなかった……少し待ってくれ」

 

「……」

 

 表情こそ変わらないものの、物言いたげな雰囲気を漂わせる女に一言入れ、全力で思考を働かせ己が内で持ち物を探る。

 

 臭いを抑えるには、どうする?

 濃い臭い(バンホルト臭)で誤魔化すなど論外……だが……ふと、水洗という語句が思い浮かぶ。

 

 これだ。

 

 ファロスの仮面

 

 多量の水を涙のように流し体を水浸しにするかの面であれば、汚れを洗い流し臭いを薄めるには丁度良いのではないか?

 だが、水だけで清められるだろうか……聖水はどうだろう?汚れだけでなく穢れまでどうにかできそうな雰囲気はある。

 ともかく、身を清めるに有用そうな聖水瓶を揃え臭気の根源だろう装備品を身体ごと洗浄する事に決めた。

 

 しかし、臭いという観点から振り返ってみると中々に多種多様な汚物に塗れてきたものだと、内心郷愁(きょうしゅう)が湧く。

 闇や呪いにも散々あてられた装備でもあるから、その辺りも気を使った方がいいかもしれない。

 ある時期までは聖水など、生者すら焼く物騒な投擲兵器としか認識していなかったが……いつからだろう、時の流れの中で変質し、亡者とその性質を宿した者のみを焼くようになった。以降は、その水飛沫に清涼感すら感じるようになったものだ。

 これまで清める手段として扱う事などなかったが、もしかすると、己が感知出来なかっただけで臭い消しの効果まで兼ね備えているかもしれない。

 そうであれば、ありがたいものだ。

 

 聖水瓶を手元に出す準備を整えた。

 ドレスの女が注視する中、試しに瓶を一つ、頭上で砕く。

 程よい清涼感が頭から足まで染み渡る。左腕が痛む。

 続けて二つ割ってみせる。

 焼かれる腕からじゅうじゅうと不穏な音が鳴るが、明確なダメージはない。特に支障はないだろう。

 聖水瓶の消費はひとまず3つに留め、仕上げにファロスの仮面を被る。

 頭に装着した面は頭部を起点に多量の水を垂れ流し、即座に聖水の名残ごと体表面を洗い流す。

 ここまですれば、あるいは……

 

「どうだろう、臭うだろうか」

 

 さあ、どうしたと両腕を広げ問う。体を包み込む爽やかな清涼感がそうさせるのか、何故か根拠のない自信が湧き立った。

 それに対し、青いドレスの女は目を丸くし静かに驚く。

 

 まさか、好き好んで臭気を纏っていたとでも思われたのだろうか?

 いや、気持ちは分からなくもない。

 バンホルトから友好の証として、あまり好ましくない臭い──穢れた瘴気や糞、充満する呪いとはまた異なるそれ──を放つ装備を手渡された時には思わず眉を(ひそ)めた覚えがある。

 戦友とすら呼んでくれた気の良い友であったが、くれた装備は妙な匂いをできる限り記憶したくなかったがためにそう着用することはなかった。

 友であっても許容しがたいのだ。初対面の彼女の反応も臭いに対してのものだとすれば、正しい物だと受け止める他あるまい。

 

 

「え、えぇ?……そ、そうね」

 

「……」

 

「……」

 

「……やはり駄目か」

 

 女はどこか困惑した面持ちで固まっていた。

 沈黙、自然が奏でる音と、ぱしゃりぱしゃりと己から発せられる流水の音だけが耳に響く。

 

 何故だ。

 

 いや、理解できなくはない。

 ドラングレイグの地で目指す事になった不死の超越、王冠を巡る旅の最中、初めてファロスの仮面を被った者と出会った時、何故だろうか、近寄りがたいものを感じたものだ。

 発汗も無しにずぶ濡れになり、常時体から流水を垂れ流し続ける様はある種異様に映るだろう。

 そもそも言い回しもまずかったかもしれない。聖水の感触と大量消費はドラングレイグ以来であったためか、つい、当時と同様の気概(軽いノリ)で話してしまった。

 

 ……まだ臭っているだけかもしれない。

 もう一度聖水瓶の使用を試み「待っ、お待ちください」ようとするが、女に静止をかけられる。

 

「その……匂いは、確かに……落ちたように感じます……「!」生理的でない気配まで薄れて、代わりに何か……不思議な焦げ臭さが増しているような気もしますけれど……」

 

「つまり、焦げ臭さ以外は問題ないと」

 

「え……はい。少なくとも最低限は」

 

「……そうか」

 

 どうやら成功したようだ。

 初の試みであったが、過程はともかく結果的には確かな成功を収める事ができた。

 またひとつ、未知を己が物とした歓喜を噛み締め我が身を震わせる。

 

 "両手歓喜"!

 

 女は再び硬直した。











 バンホルト

月光のように、蒼く輝く刀身を持つ大剣を振るう戦士。
気に入ったのだろう防具を長く身に付け続けたせいか、すこし臭う。
他者の手助けを行う傍ら、蒼の大剣の真の力を見出すために修練と旅を重ねたという。
主人同様特別な才を持たない剣は、しかし、彼にとっての伝説であった。
その妄執は、ドラングレイグの玉座(頂き)にも届き得る


逃亡騎士

不名誉な逃亡騎士団。
惨めな逃避の末、散り散りにはぐれたのだろう。
ロスリックの地では野垂れ死んだ者、追いはぎに身をやつした者が見られる。
身に纏うボロ布の内、隠された金彫の意匠と黒金の甲冑からはかつての栄誉が窺えるだろう。
ただ追手に、恐ろしい苦痛と死に怯えるなら、少しでも楽な余生を送りたいなら、甲冑(騎士の証)など捨て去ればよいものを
だが、彼らは最後まで手放さなかった


土下座

土下座。
許しを乞うジェスチャー。
ロードランの時代から途絶える事なく受け継がれてきた誠意ある謝罪の形の1つ。
誠実で常識ある(調子が良く胡散臭い)男たちから教わることができる。


命乞い

体全体を使い大げさに許しを乞うジェスチャー。
土下座より気持ち発生の早さに優れ、大振りであるために伝わりやすさで勝る、可能性がある。
降伏や謝罪の際には若干のアドバンテージを得られるだろう。


ファロスの仮面

目から涙を流し続ける仮面。
身に付けた者はずぶ濡れになる。
水に濡れる事で火に強く雷に弱くなる。
体表の油や毒液を洗い流す事も可能。
また、どれだけ水浸しになろうとも仮面を外せば水気は瞬時に消え失せる。
どこから来て、どこへ行ったのだろう


聖水瓶

亡者の類いのみを焼く、神性を持つとされる清らかな水を込めた瓶。
癒しの水とまで呼ばれていたらしきそれは、不死人の亡者だけでなく、不死の肉を摂取したとみられる一部の呪いに蝕まれた獣などをも害する。
亡者に効果を持つのではなく、亡者の根源である呪い()その物に作用する力を持つのだろう。
かつては、癒しの水の名とは相反する恐ろしい(呪いとは無縁な者をも蝕む)力を秘めていた。
それは神の悪意なのだろうか


どうだろう

どうだろう、見えるだろうか?


さあ、どうした

両の手を広げ相手を迎える堂々とした歓迎、または挑発に用いられるジェスチャー。
過剰なフレンドリーさと堅さを併せ持ち、妙なわざとらしさ、胡散臭さが滲み出る。


発汗

"激しい発汗"の名で知られる、多量の汗を放つよう身体に働きかける呪術。
混沌の魔女ではなく人間が編み出したという。
それは原初の呪術とは異なるあり方を持ち、体内で炎を作用させる呪術の基礎となったとされる
炎の力を取り込み、内なる力を活性化させる形で発動する。
この汗は炎を和らげ、だが水とは異なり雷をよく通す性質を持たない。


両手歓喜

体全体を使い喜びを表すジェスチャー。
足から手まで余す事なく力をみなぎらせ、勢いよく縦に伸びる。
準備運動代わりに扱う者もいるかもしれない。



ーーーーー



激しい発汗

見てくれが悪いためか、ドラングレイグでは見苦しい術として扱われていた
汗を出しきった末に放置すれば、おそらく体臭にも相応に影響を与える…かもしれない
呪術の火の性質か、術者である人間(小人が秘める人間性)の影響か…これによって発生する汗は水とは大きく異なる性質を持つようだ
しかし、脱水症状のような行動に悪影響を及ぼす体の異常は一切引き起こされることはない
小人は生物として、現実のものとは根本的に異なるのだろう


???

汚れ
穢れ
芳醇な香りの中、満ち溢れる醜く邪な気、死の気配
死に触れる機会の多い者から見ても、常軌を逸している
正しい者は、それを良しとしまい
正しく、しかし寄り添える者がいたとして
おぞましいものを受け容れるものは、より醜悪なおぞましいものに他ならない
であれば、目の前のそれは──


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第6話:かわ炙り

この作品では幻想郷の地理を話の都合に合わせて滅茶苦茶にしています
できるだけ原作に寄せた作品にしたい気持ちはありましたが…無理でした。許してくれ…許してくれ…
そしてこの話では、ある種の生理的嫌悪感を抱きかねないネタ・セクハラ染みた行為が描写されています。
苦手な方は読み飛ばしていただきたい。
ダクソ2の鍋島テキストまで尊重したい一フロム好きとしては、直視せず避けて通る道を選ぶことができませんでした。
本当に申し訳ない




『妖怪の山』

 

 ある川の岸辺。

 

 半裸の男が1人、奇妙な()き火の前でへたり込み、項垂(うなだ)れる。

 竿状武器(ポールウェポン)を用い、不恰好に組み上げた物干し場。その粗雑な構造物の下には、数本の松明(たいまつ)が突き立てられ辺りを照らす。

 吊り下げられた衣服が灯りに鈍く照らされ、含んだ水気に不審な光沢を映していた。

 

「……」

 

 水に濡れ、"一向に乾く気配のない"衣類を前に男は困り果て……熱に火照る異形()を軋ませ、半ば逃避する形で数刻前のやりとりを思い返す。

 

 

 

 

 

『申し訳ない』

 

「いえ……その、お気になさらず」

 

 青いドレスの女は、どこか疲れた様子で人面の声に応答する。

 

 不躾が過ぎた。

 張り詰める程の警戒、全く信用していない者の手前だと言うのに、些か配慮に欠けていたようだ……悪戯に刺激するような真似をしてしまったことを自覚する。

 攻撃はしていない、前もって禁じられた行動を起こした訳でもないが、この土地で通常不可能だろう真似を行ったのだ。不可解に思うのも無理はない。

 ドラングレイグ、ロスリックでもその土地で入手や習得、否、(まみ)えることすら不可能な武具や魔法を用いた場合、良い反応などされるものではない。

 自身と近い境遇にあるだろう理から(ネジの)外れた不死人からは、不可思議な……罵倒を意味するだろう思念のようなものが送られてきたケースすらあった。

 それぞれの時代に定着していた者たちはそう問題としないでくれたが、こういった真似も控えた方が良いかもしれない。

 

「……もうひとつ謝りたい。どれだけ殺したか……殺した数は答えられない」

 

「そんなところだと思っていましたわ」

 

「故に数えきれない程に、としか答えられない。正確な数を覚えていないからだ」

「記憶している範囲で答えるにしても、問題がある」

 

「……」

 

 女は口を閉ざす。

 何を望むか。女が、この地が人にどうあれと望むか。提示されなくては郷に従うことすらできない。

 ならば

 

「お前の言う殺しの基準がわからない。……獣や虫、植物や竜は除くべきか、死霊、石、亡者は人の数に入るのか、聞かせてくれ」

 

「……んー?」

 

 静かに聞くばかりであった女は唐突に目を伏せ、目頭を抑えて険しい顔で考え込む。要領を得ないと困っているのだろう。

 確かに、(こす)い言い回しだ。

 きっと適切ではない。

 だが誠実に対応しては、いらぬ混乱が生じてしまう

 

「申し訳ない。……ずるい問答だった」

 

「ふ、ふふ……謝る必要はありません。私の質問が意地悪でしたし。それに今の言葉で十分……納得できましたわ」

 

 十分……か

 

「いいのか?」

 

「はい。これ以上は聞きません。私は、ただ通りすがっただけの仙人ですからね。あまり聞かれたい内容でもないでしょ?……うから」

 

「……伝わったなら、それでいい」

 

 一瞬、素顔が見えた気がしたがまた隠れてしまった。やはりまだ信じるに値しない相手と捉えているのだろう。

 少しして、女はふっと笑う。

 

「少し、ホッとしています」

 

「……」

 

「あなたがどういったものか、正直まだわかりません……現代まで封じられてた線もありでしょうか?引きこもっていたのかもしれませんけれど」

「ただ、些か常識に欠けるとしても、私や近しい者にとって不利益な存在ではないと、そう思えました」

 

「そうか」

 

 女は知ってか知らずか、知らぬ者を煙に撒くためのそれを受け入れてくれた。

 変容する生命、人間(小人)の一人として、"人間"には分け隔てなくありたいが故のごまかしだったが、あえて乗ってくれたとみなすべきか。

 感謝は……声にし伝えるなど無粋だろう。

 

「しかし、匂いはもう少し気にした方が良いかもしれませんね。危険な香りは抑制できたようですが、方向性は違えど乞食より臭うのは問題かと」

 

「すまなかった」

 

「そうですね。替えの服でもあれば……」

 

 替え、替えの服か。

 あるにはあるが……

 

「……」

 

 確かに、用意はある。

 まさか洗浄して尚臭うとは……かけ流しだけでは足りないか。おそらく己本体の洗浄も必要であったとは思うが、衣服だけでも替えるべきだと言いたいのだろう。

 ならば着替えるという択をとるべきだ。

 今、ここで。

 

「……確認したい。すまないが、手伝ってはもらえないだろうか」

 

「匂いの、ですか?ふふっ、いいですよ?」

 

ありがとう(Thank you)

 

 感謝を込めて人面を放る。

 これ以上、言葉など飾る必要はない。

 では着替えるとしよう。

 人面が声を発すると同時に、ロードランで入手しソウルの内に秘めたっきりの、未使用の盗人一式に切り替える。

 

「…………?匂いだけ変わりましたね。一体何を……」

 

「同様の物は何着か備えがある。今新品に切り替えた所だが、どうか」

 

「……まあ良いでしょう」

 

 未使用の黒革の装束は余りある。

 この一式は、己の記憶を確固たるものとした時期以降のものだ。

 これまでの渡りで記憶力が低下しなかったおかげで覚えていられた。

 最も着込んだ未強化の一式で巡りたかったが、この際拘りは抜きだ。

 

「んー……さっきの浄化した服の方がマシ、かもしれません。混沌とした匂いではなくなりましたが、死臭が強すぎます」

 

「そうか」

 

 持ち主の気の影響でしょうか──そう(こぼ)す女に捕捉を入れる。

 

「古い死体から入手した物だ。おそらく前の持ち主の名残だろう」

 

「あーそういった経緯なら仕方ありませんね」

 

 けどその匂い、私は嫌いじゃないですよ──事もなげに女は言う。……どうやらこちらでも死体漁りは問題ないようだ。

 だが少々、気落ちする。気にしたことはなかったが、死も臭うのだな……。

 

「こちらはどうだ」

 

「あら、また着替えたのですか?お早いことで」

 

 次の一式の確認を促すと、今度は臭いがより薄いのか、先程より近づいてくる。

 

「」

 

 何かしらの臭いを察知したのだろう。近寄っていた女は刹那の間に離れていた。

 仮面のような笑みだ。

 目を伏せた満面の笑顔。

 何故か、女に似つかわしくない妙な圧力を感じた。

 

「これはずっと昔、ある梯子(はしご)職人から購入した物だ……先程より反応が強いな。何故だ」

 

「いえ、お気になさらず。ただ、先程までとは異なる、その、想定していなかった類いの臭いだったもので、つい」

 

 ……汚物や呪いの類いではないということか。

 

「では、こちらの方がマ「さっきの方がよかったです」……ではなかったか。申し訳ない」

 

(……ギリガン)

 

 思いがけず不意を打ってしまったことを詫びる。

 ドラングレイグの盗人の装束。これはいつかの超常的な梯子男から購入したものだが、何かが女の気に障ったようだ。

 思い返せば、彼は臭気の強い場に居座りがちであったような気もする。

 汚染された大地に(そび)え立ち、毒物を()み上げるために設立された塔。ネズミの領域やロクでもないモノ溢れる地下空間に通ずる大穴の淵。既に己の嗅覚はまともでないために意識こそしなかったが……売り物にそれら由来の異臭がこびり付いていても不思議ではない。

 

 もう1組、ロスリック産の物も用意するべきか迷い……やめる。

 引き合いに出さなくともよいだろう。

 次を提示できるだけの自信は、既に欠片も残ってなどいなかった。

 

「もう、最初に浄化した服でいいじゃないですか?あれならしっかり洗濯するだけで不審者感も抑えられそうですし……」

 

「洗濯」

 

「もう人ざ……なんですか?」

 

「洗濯といったか」

 

 

 洗濯。

 洗浄の真似事などではない。

 大多数の人間にとっての日常、(せい)の原風景。

 遠く忘れ去ったろう、己の未知。

 

 

 

 

 

 そうして女──青娥娘々(セイガニャンニャン)と名乗った者に、近場で井戸代わりに使える水場はないか尋ね、勧められた山へと赴いた訳だが……

 

「……」

 

 程なくして辿り着いた川辺。

 "知識"を頼りに、万全を期し新品の一式を対象とし聖水瓶を取り入れながら行った手洗いを主とする洗濯。

 形だけの模倣ではあったが、過不足こそあれ最低限の水準を満たすことはできた……そう思いたい。

 

 しかし

 

「……」

 

 おかしい。

 遅すぎる……これは。

 時間は十分に経過しているはず。

 だというのに、(うるお)いが全く失われない……水気とはこうも保たれる物だったか?これも差異の一種とするなら……ならばどうする?

 いや、まだ余計な試行錯誤をする段階ではない。そもそも、青娥娘娘の助言を全うしたとも言い切れまい

 彼女は言っていた……風通りの良い場所で焚き火に当てる、そうすればより早く乾くと。

 

 水に火を……か。

 覚えている限りでは、水に濡れた状態で焼かれたとして、今まで乾きが早まったような経験は皆無だ。

 この地では異なるのかもしれないが、実証は難しいだろう。松明を筆頭に武具の火はあまり役に立たず、己の一部に等しいせいか直に呪術で焼こうが変化は見られなかった。

 近場に火葬場や溶岩のような火の手もないため、環境も頼れない。

 ぬくもりの火は少なからず効果があるように感じられたが、あまりに遅すぎて誤差でしかない。

 

 他には何がある?

 火の当て方、火の……

 

「………………!」

 

 考えが巡る中、遂に天啓(てんけい)を得る。

 危険だがやる価値はある。

 これで手違いを起こし、死んだとしても……まあ、そう悪くはない。

 火に当てるとはおそらく……

 

 静観をやめ、立ち上がり準備を始める。

 右手にタリスマンを持ち出し、篝火を生じさせた時のように下準備を行い、万が一に備え生命を活性化させる。

 連続して呪術の火に持ち替え、ダメ押しにぬくもりを放ち、継いで術を詠唱。

 熱が渦巻く。

 呪術の火から生じた、激しく燃え盛る炎。

 その煌めきを、己へと深く突き立てる。

 "身を焦す炎"

 選んだのは、己に火を宿し、自身共々周囲の者を焼く呪術。

 

「……」

 

 今、己が試せる中で最も効率的な脱水法。

 

 それは───

 

 己自身が火となることだ











AC6、素敵でした
エルデンdlcも待ち遠しいですね…

人によってはだいぶ不快だろうこの話のネタは、今後の懸念点として個人的にどうしても気になったのでここで解消させてもらいました
黒革(盗人)一式じゃなければ触れずに済んだろうと思いますが、この主人公の背景を考えると盗人が最も適していたために見なかったことにせずぶち当たりました。
すまねぇ


ーーーーー



乾く気配

不死人の世界(ダークソウルの舞台)では、濡れた状態の解除は大抵数十秒で済むのが常識であった。
この地ではどうやら異なるようだ。
男は法則の違いを理解してなお、自身の常識に縛られた。


死臭
不死人たちにとって、おそらく特別取り上げる程の物ではない。
仮に各アイテムの解説が不死人の所感だとするならば、そう捉えていいだろう。
死に続けた先朽ち果て、年月を経た亡者が纏う汚らしいボロ切れ、その残り香でようやく触れる程の鈍麻。
そこかしこに死体が捨て置かれた地を彷徨うのだ。
死の臭いになど、当てられるべきではない。
嗅ぎ取れぬならそれでよい


ギリガン

ドラングレイグの地にて渡し屋の名で知られた肥満気味の梯子職人。
独特な構えを持つ二刀流の使い手。
類稀な梯子作製技能と常識を持つ。
寵愛の女神に愛されて(製作陣の玩具にされて)いたのか、合計4つの奮闘(ムービー)を見せる他、他登場人物と異なる個性を持つようだ。
技への敬意からか、致命の一撃であろうとあえてノーガードで受け入れる度量の持ち主。
ロスリックの地でも最期までその在り方は不変であったようで、灰の方(3主人公)もまた敬意を払い(面白がってか)その作法を模倣したという。
また、謎の臭そうなアイテムを売っている。
きっと、皆疲れていたのだろう。


身を焦がす炎

自らの身体を炎に包み、近寄るものを焼き尽くすドラングレイグの呪術。
当然ながらそれなりの危険を伴い、燃えている間はHPが減少する。
効果範囲は非常に狭い。
拳のリーチにすら劣るため、至近距離でも相手への密着を常に意識しなければならない。
攻撃手段として用いるには正気を失う必要があるだろう。
しかし、灯りとしての適正も多少持ち合わせており、足元を僅かに照らす。
火の光を異様に嫌い、松明の使用を固く禁じる者たちとも分かり合える、節度ある照度を誇る。
一見、使い物にならないゴミのように見えるが、ドラングレイグ産松明と異なり水に強い点は十分に長所となり得る。
時間経過と自身に付与する魔法などの上書きでしか消火できない特性から、暗所の水場であれば(わら)よりは(すが)りがいがあるだろう。
加えて瀕死に至るまで追い詰めた敵への追撃、油に塗れた渓谷への放火、ネジが何本か外れた不死同士でのコミュニケーションでは明確な役割を持てるため、使い道はある部類。
惜別(死に際に持ち堪える手段)がドラングレイグより重宝されていたロスリックであれば、あるいはもう少し輝けたかもしれない。
また、無知で理性的な不死へのこけおどしに使える。
死に体でなければ恐るるに足らずとも、人は異常を恐れるものだ。


ーーーーー



竿状武器

あるいは長柄武器
槍や薙刀、斧槍を始めとした長物
長柄の鎌や(くわ)といった農具も含まれる
おそらく竹竿も含まれるだろう
デモンズソウルでは槍を含まない長柄武器を指す
ダークソウルではひとまとめに斧槍とされ、用いられなかった
何故だろうか、他世界に干渉するメッセージにおいて武具の呼称としては最も好まれたという


不可思議な思念

ファンメール
ある種の思考の持ち主にとって、それは攻撃の道具である
誰の"駒"でもなかったろうこの不死は、火の異常に触れたからだろうか、いつしかそれを受け取る資質を手に入れたという
だが、自らの声を届ける術は持たなかったようだ


"人間"には分け隔てなくありたい

この不死は、人間の形から外れてしまったなれの果て、あるいは人のなり損ないをすら、全て人間として見ていたいようだ
多くは人間の可能性の産物であったからだろう
小人は皆、本来は無秩序な生であったのだから
枷と共に生きていようと、その末裔には変わりない
であれば───


死体漁り

きっと問題になるだろう


身を焦がす炎

自らを焼きつくして得られるものになど
縋るべきではない
我欲からであれば良い
だが、それが他者への献身だというのなら
それはきっと、いつか呪いになる


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