変身空母 赤城 (作者アアアア)
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一話 赤城、初変身

ハーメルンでは、初投稿です。
最後まで読んでくれると嬉しいです。


「上層部の指令で新型の艤装が送られてきた」

「新型の艤装?」

 

 提督の言葉に疑問を持つのは、栗色の長い髪と、赤い弓道着を纏った正規空母、一航戦の赤城。

 現在、彼女は、提督からの呼び出しを受け、この執務室へとやって来ていた。

 

「ああ、何でも海上での行動を犠牲に、地上での行動と身体能力に特化させたものらしい」

 

 一呼吸置いた後、提督は続けて話す。

 

「君も知っているだろう、地上の深海凄艦の事を」

「はい」

 

 深海棲艦。現在、海を支配している異形、人ならざる者の事である。

 名前の通り、海でしか活動しないはずなのだが、ここ数日、陸地で見つけたという報告が出ており、どの鎮守府も手をこまねいていた。

 

「君を呼んだのは、陸地の深海棲艦の討伐、ゆくゆくは指揮を任せたい」

「討伐……は、ともかく、指揮と言うのは?」

「艤装の開発者、確か博士と呼んで欲しいと言っていたな……。曰く、研究を重ねて、量産化、ひいては部隊の発足ためだとか」

「俺も協力したい所だが、海上での戦いもあるからな……」

 

 提督は、椅子に座ったまま上を見て呟く。

 

「しかし提督、なぜ私を選んだのですか?」

 

 赤城の問いかけに対し提督は、右手人差し指で1を作り言う。

 

「1つは、戦闘経験が多い」

 

 続けて、中指を出す。

 

「2つは、人望が厚いそして……」

 

 右手を広げ、赤城に向けて微笑む。

 

「君が一番信頼できるから」

「フフッ。提督らしいですね」

「では、早速だが工廠で明石と博士に会ってほしい。そこから詳しい話を聞いてくれ」

「了解!」

 

 背を伸ばし、素早く右手を額の方へ持って行き敬礼のポーズをとった。

 

 

 

 さっそく、工廠にやって来た赤城を待っていたのは、開発を担当し艦娘でもある明石、白衣の男性、長い髪を左頭部に纏めたサイドテールに大人びた顔つき、青い弓道着を着た空母、加賀の三人だった。

 

「ああ、赤城さん、来てくれましたね!では、早そ……」

「やーやーやー、君が赤城君かぁ!」

 

 明石の台詞を途中で遮り、白衣の男性が二人の間に入る。

 男はさらに語る。

 

「そこの二人から特徴を聞いていたんだが、やはり想像通りの美人!ただ、少し顔にあどけなさが残るかな」

「え……えっと、貴方が博士ですか?」

「如何にも! 私はこういう者だ!」

 

 そう言うと男は、一枚の名刺を差し出した。

 

「あ、どうも」

 

 赤城は名刺を受け取るとそれを見つめる。

 

「見ての通り、私にもちゃんと名前がある。しかし、まあ、気軽に博士と呼んでくれたまえ。いやむしろ、呼んで欲しいかな」

「はい、ではよろしくお願いしますね、博士」

 

 赤城は満面の笑みで返した。そして、加賀が口を開く。

 

「それで、博士。貴方が用意したという新型の艤装というものはどこにあるのかしら」

「そういえば、加賀さんはどうしてこちらに?」

「艤装のメンテナンスに来た所をそちらの博士に赤城さんの事を教えてほしいと頼まれまして……」

「折角だし、君も艤装を見ていくかい?」

「まぁ、そうさせてもらうわ」

 

 加賀達のやり取りが終わると明石は、レンガほどの大きさの機械を持ってきた。

 

「では、赤城さん、こちらが艤装となっております!」

「……これが?」

 

 艤装とは、本来大きな主砲を手に持ったり、背負ったりする物のはずなのだが、差し出されたのは、小さな機械一つ、赤城が声を失うのは当然なのかもしれない。

 

「彼女も最終調整に協力してくれたんだ。さぁ、早く見せてくれ!」

「腕に当てるだけでいいですよ!」

「え、えぇ……」

 

 二人の鬼気迫る勢いに押され、赤城は機械を左腕に当てる。すると勢い良くベルトが飛び出し、彼女の腕にガッチリと固定され、体が一瞬こわばる。

 

「後は、電源を上げて、起動ボタンを押せば装着できますよ」

「へぇ……凄い……」

 

 赤城も警戒心がなくなったのか腕に巻かれた装置をまじまじと見つめる。

 そして、言われた通り電源を上げる、すると力強い太鼓の音色が発せられ、響く。

 

「こ、これは!?」

「待機音だ!さぁ、起動を!」

 

 博士は、赤城の疑問をすぐに返すと装着を促す。

 

「は、はい。これ……でしょうか?」

 

 恐る恐る、起と書かれたボタンを押す、すると……

 

「え!?」

 

 赤城の目の前に、赤く半透明の一着の服が浮かび上がる、それは形からして可愛らしく特に、スカートが短く、フリフリとしていて、下には、靴と靴下、上には、蝶々結びの赤いリボンが二つ。

 服の出現と共に、近くいた博士と明石が離れると……

 

「きゃ、きゃあ!」

 服が赤城目掛けて、水平移動をして、驚きのあまり、顔を両腕で塞ぐ。

「博士、やりましたね!」

「おお、素晴らしい!」

「……え?」

 

 二人の歓喜に赤城は恐る恐る自身の姿を見る。

 そこには、先程の服一式をまとった自分がいた。

 

「こ、これがですか?」

「ああ、ここまで来るのにどれだけ時間を掛けたか……」

「すいません」

 感激している博士に対して、加賀が声をかける。

「服装が変わっただけで、装備が見えないのですが?」

「質問か……いいだろう!」

「は、はぁ」

 

 博士の目の色の変わりようから、質問を間違えたと思う加賀を無視し語り始める。

 

「まず、この装備に艤装は必要がない!なぜならこれは、装着者の身体能力を大幅に上げるのだからな!さらに、持ち運びにも良し!主砲で施設や森林を破壊する事がない!これこそ至高!まだ、これ以外にも……」

「あ、あの」

「質問かい!?」

「なぜこの格好を……?」

「私の趣味だ……やはり、魅力があるものが着けると違うな……!」

「そうですか」

 

 博士の迫真の語りに困惑していた加賀だったが、趣味と聞いた瞬間、呆れてなのか真顔になった。

 

「それでは、次はどうすれば?」

「ではまず……」

 

明石が言いかけた所で、工廠に設置してあるレーダーが音を鳴らしだした。

明石はレーダーを確認すると言う。

 

「深海棲艦を捕捉!場所は……内陸部の町!?」

 

この鎮守府から内陸の方には、大きな町があるのだが、なんとそこに深海棲艦が現れたのだ。

 

「赤城君!体の調子は!?」

「問題ありません!」

「行くのだ!今の君なら町に走りで行くのも容易いはずだ!」

「は、はい!」

「赤城さん!気を付けて!」

「ご武運を!」

 

親指を立てて見送る明石の激励を最後に赤城は工廠を飛び出し、鎮守府の門も抜け、町へ向けて走り出した。

この時赤城は、どれだけ全速力で走っても息切れしない体に驚きつつ、自分の恰好を忘れていた。

 

 

 

一方、町では、逃げ惑う人々と避難勧告を促す艦娘であふれていた。

 

「何だあれは!?」

 

一人が、指を指して叫ぶ。

それに合わせ、皆、指した方を向きざわめく。

当然である、コスプレをした女性が全速力で深海棲艦の方へ走っていくのだから。

 

「見つけた!一航戦赤城、参ります!」

 

異形の前に立ち塞がり、名乗り上げる赤城。

幸い、相手は軽巡ホ級と駆逐イ級が二体。

油断さえしなければ勝てる相手だ。

 

「……!」

 

ホ級は部下二体に指示を出すと赤城に襲い掛かる。

しかし、これを避けると右の拳に力を込める。

 

「はっ!」

 

掛け声ともに、パンチを放つとイ級は小さく爆発して消滅、しかし、残ったもう一体が赤城にかみつくが。

 

「これぐらい!」

 

一瞬で振りほどくと、右手をまっすぐに伸ばし、チョップを当てる。

するとイ級は、真っ二つになり爆破、消滅した。

残されたホ級は赤城の強さに驚き、恐れ、悪あがきと言わんばかりに主砲を撃った。

 

「!?」

 

しかし、赤城はそれを受け止めていた。

さらに、その主砲を相手に向けて返した。

ホ級は爆発するが倒すまでには至らず、大きく怯む。

そこへ、赤城は近づき腰を落とし左手を前に突き出し、右手に拳を作る。

 

「はぁ!」

 

渾身の一撃を受けホ級は、爆発、消滅した。

 

「すごい……これが……艤装の力……」

 

銭湯後、自身の両手を見て呟く赤城。

そこを人々が囲む。

 

「コスプレ?」

「ふざけている訳じゃないんですよね?」

「カワイイ~」

「す、すいません!」

 

人々の台詞から今の恰好を思い出した赤城は顔を真っ赤にして、顔を隠して、人混みをかき分け、鎮守府へ帰って行った。

 

 

 

鎮守府へ戻った赤城は早速博士に物申す。

 

「あ、あの~博士」

「何かな?まさか不備が!?」

「い、いえ不備はないです!ただその……見た目を変えてもらえないかなと……」

「うん、無理」

「そ、そんなぁ~」

 

赤城の叫びが工廠に響いた。




あらすじの通り日曜8時に更新していきますのでよろしくお願いします。


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二話 加賀、戦力入り

第二話です。


 赤城の初陣から数日後、鎮守府内では、彼女が地上の深海棲艦を倒した事、その時の姿が話題になりつつも、赤城が新型艤装の第一号に選ばれた事で、新たに発足された第一地上隊の隊長になった事が優先的に発表された。

 昼の甘味処間宮にて加賀は椅子に座り、俯き一点だけを見つめていた。

 

「こんにちは!加賀君!」

「いいえ」

「やっぱり君は美人だなぁ!赤城君が可愛い寄りなら加賀君は綺麗ってところかな?」

「いいえ」

「おまけに実力者!」

「いいえ」

「赤城君と共に!」

「赤城さんは強いので大丈夫です」

 

 口数を極力減らし、関わりを必死に断とうとしているのは、正規空母の加賀。

 そして、この男、自称、博士。

 今、何をしているのかというと、加賀を二人目の装着者にするべく、契約を促す生物の如く必死の勧誘を行っている。

 

「あ、加賀さん。って、博士もまだ勧誘しているんですか?」

 

 そこへ、赤城が現れる。

 

「赤城さん、助けて頂戴」

「博士……、まだ、加賀さんに頼んでいるのですか?」

「だって、君と波長合うの彼女しかいないし、それに、折角一緒に作った作った、二番機が使われないなんて……、嫌だ!」

「加賀さんも無理矢理は嫌だと思いますが」

 

 博士の熱弁に引きつつも話を聞く赤城は、ここで話題を変えだした。

 

「そういえば、もうすぐ性能テストの時間ですが、準備の方はどうですか?」

「え、……あぁー!忘れてたぁぁ!」

 

 そう叫ぶと、席から飛び上がり、走って、甘味処を飛び出す。

 

「済まない、すぐに準備を終わらせて来る!そこで、ゆっくりしていてくれ!」

 

 赤城は、空いた加賀の隣の席に座った。

 

「赤城さん、ありがとうございます」

「いえ、それほどでも……、でも、どうして博士を嫌うのですか?」

「……そんな風に見えたのかしら?」

 

 赤城の疑問を疑問で返すも、彼女は胸の内を語った。

 

「あの人は、どこか胡散臭く、とてもじゃないけど信用出来ないわ。赤城さんこそ、なぜそこまで信頼できるの?」

 

 赤城はそれに対して、申し訳なさそうにしつつ言う。

 

「実は……、私も博士を完全に信じている訳ではありません」

「えっ、じゃあ……」

 

 加賀が言いかけると同時に博士が駆け付けた。

 

「赤城君!準備が出来たから来てくれ!」

「はい!」

「あっ……」

 

 赤城は席を立つと加賀に軽く頭を下げ言う。

 

「すいません加賀さん、時間が出来たら聞きますから」

「赤城さん……」

 

 

 

「どうか、よろしくお願いします」

 

 街にて、二人組に深々と頭を下げ、頼み込む女性。

 二人組の一人は、茶髪の癖っ毛混じりのショートヘア、もう一人は青みがかった髪、豊満な胸囲を持つ女性二人だった。

 今は、仕事が休みからか普段着で過ごしている所を頼まれた。

 

「はい、我々にお任せください!」

 

女性に自信満々に返すと二人組はその場を離れた。

 

「で、どこを探すの?」

「まずは、街全体?」

「だね!」

「蒼龍は南側をよろしく。1時間半後にここに集合で!」

 

そんなやり取りの後、二人は別れて行動を始めた。

 

 

 

 赤城、博士は艤装の性能を見るため訓練場にいた。

 二人以外にも、黒のロングヘアに眼鏡の艦娘、大淀もいる。

 

「では、準備はよろしいですか?」

「はい、問題ありません」

 

 すでに、変身を終えた赤城はサンドバッグの前に立ち言う。

 

「では……、始め!」

 

 合図と同時に赤城はサンドバッグをひたすら殴り始めた。

 更に、そのスピード、パワーはすさまじく、サンドバッグはただ、殴られ、大きく揺れるしかなかった。

 

 

 

 テストも半ばまで来た所で、訓練場に一人の影が現れる。

 サイドテールに青の弓道着の加賀だ。

 

「赤城君、調子は?」

「大丈夫です。まだ、できます」

 

 この時、赤城は普段とは違い真剣な眼差しをしていた。

 当然、遠くから様子を伺う加賀には、表情が見えない。しかし、彼女はそれを雰囲気だけで感じていた。

 

「……加賀?」

 

 突如、後ろから声を掛けられて、体を揺らすとすぐに後ろを向く。

 そこには、提督。

 驚いた加賀は、一瞬、テストをしている面子の方を向くと、すぐ、提督と目を合わせて。

 

「し、失礼します」

 

 と、去って行った。

 

 

 

 訓練場のすぐ外、加賀は壁にもたれていた。

 

「加賀」

 

 再び現れた提督に対して深々と頭を下げて言った。

 

「先ほどは、失礼いたしました」

「いやいい。それよりも、何で遠くから見てたんだ?」

「その……、邪魔をする訳にもいけませんし……、あの人がいましたし……」

「らしいな。博士はまぁ……、気持ちは分からなくともないかな」

「え?」

「加賀に装備して欲しいって、頼まれたんだが、俺も加賀が相応しいと思う」

 

 提督の台詞に思わず加賀は、強気な口調で言った。

 

「でしたら、なぜ命令等を出さなかったのですか?聞けば、答えていました」

「無理矢理やらせるわけにいかないだろ」

「赤城さんと同じ事言ってる……」

 

 俯き呟く加賀に対して、提督は続ける。

 

「折角だから、赤城の昔話でも聞くか?」

「赤城さんの?」

「ああ、昔、面接あっただろ?」

「ええ、私もやりました」

「周りは海のため、国のため、と似たり寄ったり言ってる中、赤城はこんな事言ったんだ」

 

 提督は一呼吸置き言った。

 

「理由は思いつきません。しかし!人々が困っている所は見たくありません!だから、守るために艦娘になりたいんです!ってな」

 

 真面目で大人しい赤城がそんな青臭い事を言っていた事に驚きと疑問を隠せない加賀。

 その時、赤城が訓練場から飛び出してきた。

 

「赤城さん!」

 

 叫ぶ加賀に対し提督は言う。

 

「気になるのなら今から、聞いてみたらどうなんだ?今日は休みだろ?」

 

 そう言うと、訓練場に入っていった。

 

「提督……」

 

 

 

人気の全くない廃工場、赤城はここで深海棲艦を目撃したという通報を聞きやって来ていた。

 

「た、助けて!」

 

声の方を向くと、雷巡チ級が子供に主砲を突きつけ、重巡リ級がそれを眺めていた。

 

「やめなさい!」

 

赤城は叫びながらチ級に突進し、さらに近くにいたリ級も殴る。

 

「逃げて!」

 

子供はすかさず入り口へ駆ける。

 

「赤城さん!」

 

そこへ、加賀も駆けつける。

リ級はニヤリと笑うと入り口にいる加賀、子供へ向けて主砲を向ける。

 

「危ない!」

 

二人の前に飛び出すと同時に砲弾が放たれ赤城に直撃した。

 

「あぁ!」

「!」

 

激しい爆風と轟音、煙が晴れると負傷した赤城の姿が。

 

「加賀さん……、その子を……」

「はい……、必ず戻りますから……!」

 

そう言って、加賀は子を抱えて、工場を飛び出した。

 

 

 

工場から少し離れた所、二人組が加賀を見つけ叫ぶ。

 

「加賀さん!ってその子は!?」

「飛龍!蒼龍!」

 

声を掛けてきたショートヘア、飛龍と一緒にいる蒼龍。

 

「この子、どこにいたんですか!?」

「近くの廃工場よ。でも、ちょうどいいわ。この子をお願い」

「え?」

 

加賀は子供を蒼龍に渡すと二人に背を向ける。

 

「よーしよし。お姉ちゃんがついているからね~」

「加賀さん、どこに行くんですか?」

「赤城さん……!」

「えっ!?赤城さんがいった……」

 

加賀は、飛龍が言い終える前に去ってしまった。

 

 

 

「きゃああああああ!」

 

一方赤城は深海棲艦に追い詰められ、吹き飛ばされた衝撃で腕に付けた装置が外れ、離れたところまで飛び、赤城の体が一瞬光ると元の姿に戻ったしまった。

 

「う、うぅぅぅ……」

 

悶える赤城、勝利を確信した二体。

そこへ、一人、装置を拾い、装着する者がいた。

 

 

 

 加賀は左手を頭の左側に持って行きもう片方の手で腕に巻かれた装置を起動させる。

 三味線の軽快の音色が響く。

 突然の音に嫌悪感を出し、怯む深海棲艦。

 

「加賀さん……」

「私が、戦います」

 

 加賀は左手を頭の右側にまで持って行き、右手も装置に添える。

 

「変身」

 

 その台詞を言うと、ボタンを押し、薙ぎ払う様に大きく左腕を振り左に水平に大きく伸ばす。

 目の前には、青く輝く半透明のドレス、加賀の方へ動き、装着される。

 加賀の姿は、赤城の恰好を青にしたもので、サイドテールの髪留めも派手な青のリボンになっていた。

 左腕を腰に、右手を前に出し名乗る。

 

「一航戦加賀、いざ」

 

 手負いのリ級、手負いのチ級向かって歩き出すと、チ級も加賀に向かって走り出す。

 リ級が目の前まで来ると加賀は、右手を伸ばし、相手の胴体を切るように大きく振った。

 

「……っふ!」

 

 その掛け声と共に、チ級の体は大きく裂け、地面に伏すと爆発、消滅した。

リ級も主砲を撃とうするがそれよりも速く加賀が目の前に現れ、青白く光る手刀で切り付ける。

体を大きくのけぞると加賀は、大きく踏み込み肩から斜めにリ級を二つに裂いた。

そして、爆破、跡形もなく消えた。

 

「加賀さん……」

 

倒れたまま呟く赤城。

 

「赤城さん、私は覚悟を決めました。一緒に戦って下さい」

「……いいんですか?」

 

赤城を抱きかかえつつ加賀は続けて言う。

 

「人のためとは何か知りたいんです。それに、赤城さんに全てを押し付けるわけにはいけません」

 

それに対し赤城は。

 

「ありがとうございます……」

 

 

 

二人は気づくことはなかった人影が一人呟く。

「加賀さん、あんな格好するんだ……」




【艦娘】
深海棲艦に唯一対抗できる存在。
艤装を装着できる素質のある者が選ばれると、艦の名前を模したコードネームを与えられて、全国に点在する鎮守府に配属される。
コードネームは、たとえ血縁者同士であってもそれで呼ばなければいけない。
素質は生まれつき、手術等で得ることが可能。
ちなみに、一部では、公務員並みに安定した職業とも言われている。


この様に、今後は、あとがきで本作の独自の設定をまとめますので、良ければ目を通して下さると幸いです。


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三話 二航戦、参戦

今回は少し短いですが楽しんでいただけると幸いです。


 湯船の中、飛龍は考えていた。

 先日、加賀の変身をこっそり見てしまった事からどの様に過ごせばいいのか悩んでいた。

 

「飛~龍!」

「あ、蒼龍だ」

「……反応薄すぎない?」

 同期で仲の良い蒼龍に後ろから肩を掴まれつつ声を掛けられる。

「何か悩みでもあるの?」

「いや~、そこまででもないんだけどね」

「ないんだけど?」

「うん、実は……」

 

 飛龍は加賀が廃工場でコスプレを披露した事を話した。

 

「それって、加賀さんが子供を助けた時だよね?まさか加賀さんが……」

「でしょ、あの鉄仮面とか影で言われている加賀さんだよ」

「私も見てみたかったな~」

 

 二人が話してると、髪を下した加賀と赤城が入ってきた。

 

「私の陰口が聞こえた様な気がしたのだけど」

「えっ!?何も!」

「私も気になりますね、どんな話を?」

「いえいえ!それほどの話ではありませんから!」

「あっ、飛龍!」

 

 飛龍は逃げるように銭湯を出て行ってしまった。

 

「怪しい……」

 

 蒼龍はそれを睨んでいた。

 

 

 

「二人共、本当にありがとう!」

「い、いきなりなんですか?」

「これを見てくれ!」

 

 工蔽にて、博士に呼び出された、湯上り一航戦は、四つの変身装置を見せられる。

 二人の物とは少し差異があるが、紛れもなく同じ物である。

 

「これは?」

「念願の正規版だよ!長かった……三人の協力が無ければここまでこれなかった……」

「待って頂戴、三人と言うのは?」

 

 博士の矛盾を指摘する加賀。

 彼も思い出したように言う。

 

「ああそうだ、加賀君が着ける前に何人か志願者がいてね、その内一人の子に試させたんだ。完成したし、声でも掛けようかな?」

「そ、そうだったんですか……」

 

 博士に反応する赤城を横に、加賀は口を開く。

 

「その一人が着けるとして、あと三つ、当てはあるの?」

「そこで、お願いだ。君たちが三人の人を選んできてほしい」

「私達がですか?」

「それだけ、君の慧眼に期待しているんだよ」

 

 すると、警報が鳴り出し、工蔽にいた明石が叫ぶ。

 

「お二人共!深海棲艦が二体現れました!場所は鎮守府から南西の森の方です!」

「何!?二人共!」

 

 博士が声を出す頃には二人の姿はなかった。

 そこへ、一人が現れる。

 

「博士!」

「君は……!正規版ならもう完成しているぞ!」

「やった!それじゃあ早速……」

「やっぱり、そう言う事!」

 

 突如現れたツインテールの人影が叫ぶ

 

「げぇ!?」

「?君は?」

「友達。ねぇ、これは一体……」

 

 問い詰めようとした所で、博士が言う。

 

「友人か……教えてもいいんじゃないかな?」

「えぇ……」

 

 

 

 森の中にて。

 戦艦タ級とル級が徘徊している。

 そこへ、一航戦の姿が。

 赤城は、右手を装置に添え、左手を左上に上げる。

 加賀も左手を頭の右側に構え同時に叫ぶ。

 

「変身!」

 

 ドレスを装着し早速挑む。

 しかし、戦艦特有の耐久力とパワーを前に、苦戦を強いられてしまう。

 

「加賀さん!大丈夫ですか?」

「ええ、何とか、一対一では危険です。個別に狙いましょう」

「しかし、最低でも三人はいないと分断が……」

 

 戦力不足を呪う二人、その時。

 

「赤城さん!加賀さん!」

 

 突然の叫びに四人は思わず声のした方を向く。

 そこには、二航戦の二人の姿があった。

 

「もう一体は私たちに」

「任せて下さい!」

 

 そう言うと、二人は手に持った装置を左腕に当てる。

 するとベルトが飛び出し、左腕に固定された。

 

 

 

 二人は装置の電源を上げる、すると飛龍からサックス、蒼龍からフルートの音色が鳴り出す。

 飛龍は両手の爪を立て、手首と手首を合わせて右手が上になるように前に突き出し、蒼龍は、左手を頭の高さまで持って行き、同時に叫ぶ。

 

「変身!」

 

 飛龍は、両手を半回転させ装置を起動させつつ自身の胸に引き、すかさず、右手の爪を立て、左手を右肘に持って行き、両腕で龍の形をとると黄色の衣装が。

 蒼龍は、装置を起動させると頭の横で腕を小さく交差させ一回転させ、両手首を合わせて天に向けて伸ばすと緑色の衣装が。

 目の前で浮かび上がって、二人に装着される。

 

「二航戦飛龍、勝負!」

「二航戦蒼龍、負けないんだから!」

 

 飛龍は拳を握り、構え、蒼龍は、片足を上げて構える。

 

 

 

 先に動いたのは飛龍、ル級の目の前まで、突っ走るとそのまま、タックルで相手を怯ませる。

 一瞬の隙を突き、懐に飛び込みさらにそこへ胴体へ目にもとまらぬ速さでパンチを打ち、確実に体力を削っていく。

 

「蒼龍!」

「了解!」

 

 掛け声と同時に一気に距離を取りそこへ、蒼龍がル級の脳天にかかと落としを直撃させる。

 二人の連携に呆然としている三人。

 赤城は思い出したように叫ぶ。

 

「加賀さん!私達も戦いましょう!」

「え!えぇ……!」

 

 二人はそれぞれ、拳と手刀を使いタ級に立ち向かう。

 

「飛龍!そろそろ決めよう!」

「言うと思った!」

 

 二人のキックを受け、息を切らすル級。

 二航戦が高く飛ぶと、飛龍は右足、蒼龍は左足で相手の頭目掛けて、回し蹴りを放ちつつ同時に叫んだ。

 

「ツインドラゴンキック!」

 

 大技を受けた、ル級は吹き飛び、地面に倒れると爆破し、消えた。

 

「はぁ!」

 

 一方、一航戦は、二対一で優位になったからか、タ級を追い詰めていた。

 そして、トドメに、高く飛び、両肩にパンチとチョップを打つ。

 タ級も吹き飛び、爆破、消滅した。

 

 

 

「ふふん、どうですか?」

「まさか、二人が選ばれるとは思っていませんでした」

「いえ、赤城さん。博士は三人選んでほしいと言っていました。どちらかが、これを使った事があるという事になるわ」

「あ、それ、私です……」

 

 飛龍は申し訳なさそうに言う。

 

「でも飛龍って何で大切な事、隠してたの?」

「えっ、だって恰好が……」

「え~、カワイイじゃんこれ!」

「そうじゃなくて……知り合いに見られるのがなんか……」

 

 二航戦のやり取りを聞いていた加賀は自分の恰好を思い出し、顔が一気に真っ赤になるが一同に背を向ける。

 

「加賀さん?」

「な、なんでもないわ」

 

 加賀の顔はしばらく赤いままだった。




【鎮守府】
提督の指揮の下で動いている艦娘達の拠点。
規模が大きいほど、施設、待遇が良くなるが同時に過酷な訓練、戦闘を強いられる。
赤城達が所属するのは、最も大きい横須賀から離れた中堅の鎮守府となっている。
部屋は、2~4名の同室、工蔽、銭湯、訓練場、執務室の最低限のもののみとなっている。


次回で、変身するメンバーは全員出ると思います。


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四話 五航戦、抜擢

「さて……」

 

 鎮守府の一室、会議室にて、加賀は机に資料や履歴書を置き、椅子に座っていた。

 隣には、上司である提督、両端には二航戦の蒼龍、飛龍が横一列に座っている。

 

「提督、わざわざ協力していただきありがとうございます」

「いやいい、俺も加賀が誰を選ぶか気になってな」

「それで加賀さん、選ぶ基準はどうするの?」

「もしかして、衣装が似合う人?」

「貴方達……、洋服選びではないのだからそんな事で決める訳が無いでしょう」

 

 飛龍の疑問と蒼龍の冗談に呆れつつ、声を出した。

 

「では、これより、正規装着者の面接を始めます」

 

 

 

 一方、赤城は、鎮守府付近の海上に現れた深海棲艦を新人教育も兼ねて討伐に来ていた。

 恰好は、普段から着ている赤の弓道着、艤装も弓を装備して、新入り達の先頭に立ち進んでいる。

 

「……ふぅー……!」

 

 呼吸を整え矢を掴んだ手で弦を引く。

 

「はっ!」

 

 手を放すと、矢は空へと飛んでゆき、戦闘機に変わる。

 飛行機達は、敵艦隊に近づき、弾の雨を浴びせる。

 そして、一方的に襲われた者達は、爆炎を出しながら沈んでいった。

 

 

 

 数時間後、赤城達の艦隊は深海棲艦を全滅させ、鎮守府に帰投した。

 その時、一緒にいた一人、腰まで届くほど長く、白銀色の髪を持った空母が呟く。

 

「やっぱり一流よね、赤城さんは」

「でも、私もこの調子なら赤城さんに追いついちゃうかもね」

「もう!瑞鶴、調子に乗らないの」

 

 二人のやり取りを聞いていたのか、赤城が話に入る。

 

「二人共、初めての出撃はどうでしたか?」

「はい、まだ学ぶべき所が多く、改善すべき部分もあり、とても良い機会になりました」

「私は、今回で大きく自信を付けました。次も必ず勝ちます!」

「二人共いい反応ですね。では、弓道場に戻って、鍛錬を行ってください」

「はい!」

 

 二人は威勢の良い返答をすると、弓道場へと行った。

 

 

 

「はぁ……」

 

 十数人の候補者の面接を終えた加賀は、相応しい人が見つからず頭を抱えていた。

 

「悩んでるようだな、蒼龍飛龍、お前らは誰がいいと思う?」

「う~ん、扶桑さんかな?頼りになりそうだし」

「やっぱ、龍田!確か、薙刀を嗜んでいるって書いてあったよね?」

「だ、そうだ。この意見を入れつつ赤城と考えてくれ」

「……分かりました。近日中には必ず決めます」

 

 席から立ちあがり、部屋を去ろうとしている所で提督が呼び止める。

 

「加賀!」

「なんでしょうか?」

「これを持っていけ」

 

 加賀に差し出されたのは、艦娘の履歴書のコピーだった。

 

「え、こ、これは……」

「コピーだ、外へ持ち出さないを条件にするなら、渡そう」

「……ありがとうございます」

 

 少し迷ったが、加賀は提督の協力に甘える事にした。

 その後、自室に戻った加賀は、受け取った履歴書を熟読していた。

 その時、二人の艦娘に興味を持ち、神妙な顔で読み始めた。

 

『艦名翔鶴 家族構成妹一人 艦種正規空母 本名……』

『艦名瑞鶴 家族構成姉1人 艦種正規空母 本名……』

「五航戦……」

 

 加賀は思わず声を出していた。

 

「い、いえ、赤城さんと相談しないといけないわね」

 

 そういって弓道場へ向かった。

 

 

 

 弓道場では、赤城の視察の下、先程の二人が矢で的を正確に射貫く鍛錬を行っていた。

 そこへ、加賀が現れる。

 しかし、加賀は、二人の様子、特に深緑色のツインテールを見ると嫌そうな顔をして口を開く。

 

「まだまだね、翔鶴、弦の引きが弱いわ、瑞鶴、貴方のやり方は、型に全く当てはまってないわ」

「えぇ!?」

「んな!?どういう事よそれ!?」

 

 手厳しいコメントに困惑する二人を横目に赤城に話しかける。

 

「赤城さん、装着者の事で話が」

「分かりました」

 

そういうと、一航戦の二人は、その場から出て行った。

歩きながら、それぞれの考えを語る二人。

 

「加賀さんは気になる人はいましたか?」

「私は五航戦が……赤城さんは?」

「私は……」

 

 

 

二人の秘密の相談から、数日後、五航戦は提督に呼び出され、執務室に行く途中だった。

 

「配属場所についてかぁ……」

「どうかしたの?」

「ほら、この間のいちゃもん鉄仮面の事よ!舞い上がっている所であんな事言われたらたまったもんじゃないわ!」

「加賀さんの事?」

「もし、あの人と一緒になったら……って知っているの?」

「私達の師になるのかだから名前ぐらいはちゃんと言いなさい!」

「……はぁい……」

 

そんなやり取りをしているうちに、執務室につく。

翔鶴はドアを四回ノックしてから入った。

 

「失礼します!」

 

礼儀正しく執務室へと入る。

そこには、提督以外にも、赤城、加賀の姿があった。

 

「二人共よく来てくれた」

 

横一列に並んだ二人に話す。

 

「突然だが、お前達には、地上の赤城部隊に入ってもらいたい」

「あの、提督地上と言うのは……?」

「話すと長くなるからな……赤城達から聞いてくれ」

「提督さん、私も質問」

「何だ?」

「なんで私たちなんですか?」

「赤城と加賀の推薦だ」

 

そう提督が言うと、一航戦が二人の前に立つ。

 

「私は、二人から、力強さを感じ決めました出来ればあなた方と共に戦いたいです」

 

真剣な表情で語る赤城を見た翔鶴はこういった。

 

「分かりました!微力ではございますが協力させてください!」

「それで、瑞鶴、貴方はどうするの?」

「あ、姉がそういうなら……」

「そう……、じゃあ、私は貴方の矯正に力を込める事にしましょうか」

 

そう言った、加賀に対して、瑞鶴は叫ぶ。

 

「な、なんでこの人なのよッーーーー!!」




【地上戦用の艤装】
 博士が開発した装着者の身体能力を大幅に上げる新兵器。
 現在、出回っているのは以下の二つ。
【試作型】
最初に作られた型。出力が凄まじく力もあるが、負荷も大きいため、付けられる艦娘が限られてくる。後、外れやすい。
【正規版】
試作型から力を取り、安定を取ったもの。
新しく正規版同士での通信機能が加えられ、また外れにくくなった。それでも、駆逐艦や軽巡洋艦が付けるのは不可。


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五話 龍鶴四人、鍛錬する

「それじゃあ、二人共準備はいい?」

「あの……、本当に掛け声は必要なのでしょうか……?」

「いるって!」

「嘘だ……、絶対楽しんでる……」

 演習場にて、明石達三人の指示を聞き、五航戦の二人は、左腕に巻かれた装置の電源を上げ、自身の足元に向ける。

 すると、装置から、ピアノの美しい音色とエレキギターの激しい音が響きだした。

 装置を起動させると、二人の前に二着の衣装が現れ、それぞれのポーズを取り始めた。

 翔鶴は、かかととかかとを合わせて、目を瞑り、両手をゆっくりと広げる。

「変身」

 両手が、腰の高さにまで到達した時、そう言って拳を握る。

 それと同時に、衣装が翔鶴の方へ迫り、装着され、ゆっくりと目を開けた。

「五航戦、翔鶴。……こんな感じでしょうか?」

 瑞鶴もまた、ポーズをとっていた。

「変身!」

 起動と同時に、すかさず、右手を左前に突き出す。

「ふっ!」

 直ぐに、右手を引き、左手を右前に出す。

「せいっ!」

 そして、腕を交差させたまま、頭上に揚げて叫んだ。

「はぁっー!」

 それと同時に、両手を腰まで戻して、装着された。

「五航戦、瑞鶴。とりあえず、変身完了っと」

 二人の姿は、白を基調として、所々に赤が使用されているシンプルなものだった。

「結構シンプルだね」

「それじゃ、私達も紹介するかな!」

「蒼龍、飛龍あまり無茶させないようにね」

「分かってるって!」

 そう言って、明石のそばにいた装置を巻いた二航戦が五航戦の前に立ち、構えをとり同時に叫ぶ。

「変身!」

 手早くポーズをとり、装着する。

「では……、始め!」

 明石の開始の合図と共に、二対二の実技による鍛錬が始まった。

 先日、一航戦で、メンバーの隊長でもある赤城と、同僚の加賀に目を付けられた事で、五航戦も地上での戦いにも参戦する事になってしまった。

 姉の翔鶴は、元々真面目な性格と言う事もあってか、周りの言葉を素直に聞き、確実に力を付けていた。

 しかし、妹の瑞鶴は、技術には問題はなくとも、一つだけ大きな不満があった。

「そこまで!」

 明石の声を聴き、手を止める四人。

「瑞鶴って、力とか結構ある?パンチが少し重かったんだけど……」

「そりゃ、鍛えたんだもの!」

「はぁ……はぁ……」

「大丈夫?」

「は、はい……、蒼龍さん、どうでしたか?」

「翔鶴は……、力が足りないって感じかなぁ?」

 五航戦の戦い方を評価する二航戦、そんな中、飛龍が言う。

「それよりも、瑞鶴が素直で良かったよ」

「ん?それって……」

「いや~、加賀さんが、碌に言う事を聞かないかもしれないって言うもんだからちょっと不安で……」

「あの人、そんな事を……」

 瑞鶴の大きな不満、それは、加賀の存在であった。

「瑞鶴、もしかして加賀さんが……」

 蒼龍が言いかけると、瑞鶴も言い出した。

「嫌いよ!ここに配属が決まる少し前にも因縁を吹っ掛けられたし……」

「ず、瑞鶴……」

「今だから言えるけど、あの人、人を褒めることが出来ないのよ。それに……」

「瑞鶴!」

 翔鶴に怒鳴られ、口を閉ざす瑞鶴、怒声混じりに話し続けた。

「過酷なのは分かるけど、それが相手を罵倒していい理由にはならないでしょう?」

 妹を窘める姿を見て、蒼龍は飛龍に耳打ちをする。

「いいお姉ちゃんだよね」

「分かる」

 

 

 

 一方、赤城と加賀は、工蔽で博士の話を聞いていた。

「博士、本日はどの様な理由でこちらに?」

「まず、君達に言わなければならない事がある」

「なんでしょうか?」

「つい先日大本営に呼び出されてね、当分の間、顔を出せそうにないんだ」

 申し訳なさそうにしている博士はそのまま話を続ける。

「そこで、私の助手をここに置かせて欲しい、装置の修理が出来る人は、限られるからね」

 赤城はそれに笑顔で答える。

「ええ、構いませんよ。博士の関係者でしたら尚更協力します」

「赤城さん……いいんですか?」

「はい、いざという時には、私が責任を取ります」

「ああ……ありがとう、近いうちに来るから受け入れてくれ。それじゃあ……」

 博士は、俯き工蔽を去って行った。

「博士……寂しそうでしたね」

「私には、研究結果を間近で見れなくて悲しんでいるようにしか見えなかったわ」

 そんな会話をしつつ赤城はこれから来るであろう博士の助手について考えていた。



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六話 助手、自己紹介

近いうちに、いくつかの回を修正すると思います。


「本日から、皆さまの支援をさせていただくリエです!どうぞよろしくお願いいたします!」

六人の拠点といっても過言ではない工蔽にて、一人の少女の声が響く。

元気よく、笑顔で話す姿に、赤城も微笑みながら返す。

「深海棲艦討伐隊、隊長赤城です。こちらこそよろしくお願いします」

赤城は後ろに並んでいる、五人の方を向き話し続ける。

「こちらが、私と同期の加賀さん」

何も言わず軽く頭を下げる加賀。

「黄色の着物を着たのが飛龍、緑の着物の子が蒼龍」

「よろしく」

そう言いつつ片手を上げる飛龍、一緒に手を上げる蒼龍。

「そして、先日入ったばかりの翔鶴と瑞鶴です」

「正規空母の翔鶴です。ご協力、誠にありがとうございます」

「瑞鶴よ。よろしく」

深々と頭を下げる翔鶴と挨拶だけの瑞鶴。

「わぁ……皆さん、とても綺麗な方々ですね!」

「え、綺麗だなんてそんな……」

「あはは、飛龍、顔がにやけてるよ」

「いやいや、蒼龍もそうじゃん」

二航戦と瑞鶴の漫才を他所に赤城は言い出した。

「リエさん、こちらは初めてですか?」

「はい」

「でしたら、私が鎮守府全体の施設をお教えしましょうか?」

「はい!お願いします!」

「では、行きましょう」

赤城は加賀の方を向き頼む。

「では加賀さん、四人をよろしくお願いします」

「はい」

そう言って出て行く二人、加賀はリエの方を姿が見えなくなるまで見つめていた。

 

 

 

赤城が出て行って数分後、深海棲艦の出現に備えて、待機を出した加賀ら五人は工蔽で各々、過ごしていた。

何かを熱心に読む加賀。

動きの確認をしている五航戦。

世間話をする二航戦。

その時、工蔽内で警報器がけたたましい音を出した。

明石が叫ぶ。

「深海棲艦出現!場所は……え!?鎮守府のすぐそば!?」

それを聞いた五人は艤装を片手に工蔽を飛び出した。

「蒼龍は赤城さんに伝えて!残りは私についてきて頂戴」

「了解!」

蒼龍と離れ四人は走りながら叫んだ。

「変身!」

敷地外に出た一行の前に立つのは六体の深海棲艦、何も言わず四人は立ち向かって行った。

 

 

 

赤城達が駆け付ける頃には、戦いは既に終わっており、二人は加賀達の無事を見て安堵した。

そこへ、リエが言った。

「すごいです!皆さんが深海棲艦を倒しちゃったんですね!見たかったなぁ……」

「ふふん、どーよ!」

勝利の興奮冷めあがらぬ中、加賀はリエだけをただ見つめていた。

 

 

 

その日の夜、加賀は一人、外へ出て星を見ていた。

そこへ、赤城が現れる。

「加賀さん?」

「あら、赤城さん」

「どうかしたのですか?」

「いえ、ただ星が見たくて……赤城さんは?」

「私は、食材を買って戻る所で……しかし」

続けて赤城は語る。

「加賀さんが星を見ていると言う事は、何か考え事があるのですか?」

「……赤城さんはそういう事には鋭いのね……」

「隊長ですから」

加賀は一呼吸置くと口を開く。

「では、はっきりと言いましょう」

「はい」

「私は、リエさんを信用していいのか迷っています」

「う~ん、取り敢えずは信用するのはどうでしょう」

「根拠は?」

「ありません。しかし、疑ってばかりだとかえって不安なってしまいます」

「根拠が必要ないなんて……赤城さんって純粋な所がありますね」

赤城は一瞬、ばつが悪い表情をすると話題を変えようとした。

「いえ、そんな……何か、悩みはありませんか?相談に乗りますよ」

「そうね……悩みじゃないけど……」

こうして、二人は門限まで星々の下で語り合った。




今回で主要人物は全員出たと思います。


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七話 赤城、奮戦

 巨大な轟音、火の海、瓦礫の下には、一人の少女が下敷きとなっていた。少女の向かいにも、同様に下敷きとなった男女がいる。女性は意識を失っており、男性は少女の名前を言い

 ながらその大きな手を伸ばす。

 

「う、うう……」

 

 少女もまた答える様に小さな手を伸ばす。しかし、降ってきた瓦礫が二人の思いも、大きな手も潰した。

 

 

 

 

「……!」

 

 目を覚ました赤城、当然、周りは燃えておらず、自室の布団の中にいた。静かに布団から出ると、隣の布団で眠る加賀を他所に窓へと近づき、外を神妙な顔で眺める。

 

「また……何かが……」

 

 

 

 翌日、間宮亭にて、赤城は加賀、たまたま出会った提督と共に、食事をとっていた。

 

「そういえば、加賀さんはなぜ、協力してしてくれるようになったのですか?前は嫌がっていたのに……」

「以前、提督から聞いたのですが……、赤城さんは艦娘になったのは、人を守りたいからだと聞きました」

「え……」

「ん?」

 

 加賀の淡々とした返答に凍る赤城、しかし、提督は、特に気した様子を見せず二人の話に耳を傾けていた。

 

「赤城さんが、青臭い事を考えていたのか気になって、それを知るためになりました」

「な、な……」

 

 態度を変えず話す加賀に、赤城は叫んだ。

 

「なんで、それを言うんですか!?」

 

 赤城は顔を赤くして隣にいる提督の胸倉を掴み、激しく揺すりながら続けて言う。

 

「提督!以前に言いましたよね!?私の過去最大の失態だけは、誰にも語らないでほしいと!どうして!寄りにもよって加賀さんに言ってしまうのですか!?」

「あ、あの……」

「ま、待て!」

 

 提督に言われ、息を切らしつつ揺らしを止める、しかし、手は依然胸倉を掴んだままだった。

 

「俺がお前を受け入れたのは、心の底からの言葉、そこを気に入ったからだ」

「あの頃の私は青かったんです!」

「じゃ、じゃあ、お前は入った頃と変わったのか?」

「当たり前です!もう、可笑しな事も言いませんし、国のために戦えます!」

 

 胸倉から手を放すと、加賀の方を向き、両肩を掴む。

 

「加賀さん!見ていてください!私は!変わったんです!」

「は、はい……」

 

 赤城の鬼気迫る姿に、押される加賀。残った料理を一気に平らげると、赤城は急ぎ足で会計を済ませると出て行ってしまった。

 

「うわぁ……提督、何やらかしたの?」

「店内中響いてましたよ……」

 

 偶然店内にいた蒼龍、翔鶴が二人に近づき話しかける。

 

「いや、俺はただ加賀に、赤城の秘密を教えただけだ」

「最低だなぁ……」

「秘密を晒すのは流石に……」

 

 好き勝手言う二人に対し、提督は得意げに言う。

 

「赤城自身は嫌がっているが、俺はそういう所が気に入ったんだ。だから、好きになってほしくてな」

「ほかに、方法があったんじゃあ……」

 

 蒼龍は提督を睨んだ。

 

 

 

 それから、時間が経ち夜。

 食材を買いに町に出かけていた赤城は、あるものを見た。

「姉ぇチャンよぉ……こんな時間に出歩いてるとあぶねぇぞ……」

「旦那、どうします?」

「……」

 二人組のガラの悪い男に少女が絡まれていた。

「何とか……言えや!」

 拳を振り上げた所で一人の女性がその手を掴んだ。

「そこまでです」

「何だぁ……?」

「鎮守府所属、正規空母の赤城です」

「そんなウソが俺に効くと……」

「だ、旦那! コイツ、いつかこの辺でふざけた格好で、深海棲艦を殴り殺した奴ですよ!」

「え!?」

 本物の艦娘に戸惑うリーダー格の男。

 一方、赤城はその時を思い出し、一瞬、顔をしかめたが、笑顔になり、口を開く。

「試してみますか?」

「旦那ァ、逃げましょう! 艦娘じゃ色々、分が悪い!」

「く、くそぅ」

 赤城に怯えて男達は逃げだし、赤城は少女に声を掛ける。

「大丈夫ですか?」

 そう言って手を差し伸べた赤城だったが。

「何?」

「え?」

「突然、出てきてスカした事言って、ヒーロー気取り?」

「そ、それは……」

「そういうの凄い迷惑だから!」

 そう言うと、少女は立ち上がり走り去っていく。

 赤城は、その光景をただ見る事しか出来なかった。

 

 

 

「赤城さん、上の空だけど何かあったんですか?」

「あ、いえ……大したことではないのですが……」

 

 翌日、少女に言われた事が心に残っていた赤城は工蔽で上の空になっている所を加賀に気づかれていた。

 

「昨日、女の子を助けたんです。そしたら、迷惑だと言われて……」

「まぁ、私達艦娘を高給取りだの、税金泥棒だのと心無い事を言う輩もいるでしょう。しかし、相手をしていては身が持ちませんよ」

「気にしない方がいいのでしょうか?」

「ええ」

「でも、あの子……寂しそうでした」

「……たとえそうだったとしても、私達は深海棲艦を倒すために艦娘の道を選んだんです。人を救うのは、無理があると思います」

 

 加賀にバッサリと言われて、赤城は物憂げな顔で艤装を眺める。その時、午後二時を知らせるチャイムが鳴ると立ち上がり言った。

 

「すいません。街の方に見回りに行ってきます」

「お気をつけて」

 

 加賀に送られて街に来た赤城は巡回中に昨日の少女を見かけた。

 

「あの子は……!」

 

 赤城は彼女の後を追いかけて、廃工場に入っていく。少女は赤城に気づくと突っかかて来た。

 

「また、アンタ?」

「ええ、昨日はちゃんと家に帰りましたか?」

「そんな訳ないじゃん」

「……家に帰らないと親御さん心配されますよ?」

「今度は説教?そういうのも迷惑だから」

「違います。心配して言ってい……」

「だから、そういうのが迷惑だって言ってんの!」

 

 少女は怒鳴ると、走り去ってしまい、赤城はそれを黙って見るしかなかった。

 

 

 

「では、見回りに行ってきますね」

「お気を付けて~」

「いってらっしゃーい」

 

 翌日、蒼龍、飛龍に見送られ、街に来た赤城はコンビニで肉まんを二つ買い、廃工場に向かった。

 

「やっぱりここにいましたか」

「……しつこいよアンタ」

「今日は手ぶらじゃありませんよ、ほら」

 

 そう言って、赤城は手に持った袋から肉まんを出し見せつける。

 

「二つありますし、一緒に食べませんか?」

「いらない」

「そうですか、美味しいのに……」

 

 そう言って、赤城は手にした肉まんを頬張る、それを見ていた少女は聞く。

 

「……肉まんだけ?」

「そうですが……他の物が良かったですか?」

「私は餡まん以外は食べないわよ!」

「餡まんですか……」

 

 赤城は少し考えると言う。

 

「分かりました。少々お待ちください」

 

 赤城は少女に袋を押し付けて、廃工場を飛び出すとコンビニに飛び込み、餡まんを買い再び少女の元へ向かう。

 

「お待たせしました。餡まん、ありましたよ」

「本当?」

 

 袋を差し出した赤城から袋を取り上げると中を覗き怒鳴った。

 

「こんなものいらないわよ!」

「え!?さっき餡まんがいいと……」

「こんな安物、見たくもない!」

「……すいません」

「大体、お腹もすいてないのに安物を押し付けられる身にもなりなさいよ!」

 

 そう言って、袋を地面に叩きつけようと腕を大きく振り上げたその時、少女の腹の虫が廃工場に響く。

 

「……」

「……すいているじゃないですか」

 

 微笑む赤城に言われ、腕をゆっくり下ろすと、中から餡まんを取り出し、乱雑に置かれたドラム缶の上に座ると貪りだした。赤城も少女の隣に座り押し付けた方の袋からもう一つの肉まんを出し、食べだす。

 

「……」

「……よっぽどすいていたんですね」

 

 黙って必死に貪る姿に呟く赤城。少女が食べ終えると赤城にまたしても突っかかる。

 

「アンタさぁ……またヒーロー気取り?」

「違います。貴方が寂しそうに見えて心配だったので……」

「それをヒーロー気取りって言うのよ!」

「違います!私は英雄を気取っていません!」

「だったら何で関わるのよ!」

「心配だからです!」

「余計なことって言っているでしょ!」

 

 少女はまた怒鳴ると、赤城に袋二つを押し付けて走り去ってしまった。

 

 

 

「それでは、今日も見回りに行ってきます」

「お気を付けて」

 

 今度は瑞鶴、翔鶴に見られて赤城は工蔽を出て行く。ドアが完全にしまった所で瑞鶴が姉に聞く。

 

「最近赤城さん、この時間帯に見回りに行きたがるよね」

「確かに……何かあるのかしら?」

 

 ここ数日での赤城の様子に疑問を持ち始めた二人、そこへ加賀が話に入って来た。

 

「修行をしなさい、五航戦」

「今は休憩中です~それに私達若いので、すぐにでも出来ます~」

「瑞鶴!すいません。瑞鶴、上司に対して失礼よ!」

 

 加賀の台詞を煽りで返す瑞鶴を論する翔鶴。更に二航戦の二人もやって来る。

 

「確かに私も気になっていたんだよね~」

「もしかして、タイムセール的なイベントに出る為に!?」

「はぁ……赤城さんが勤務中にそんな事をする訳が無いでしょう」

 

 加賀は、蒼龍の大外れな推理に頭を抱えるのであった。

 

 

 

「……もう何も言わない」

「ええ、今日も来ましたよ」

 

 いつもの廃工場で出会う、いつもの二人。今日の少女はドラム缶の上に座り赤城に対して特に何も言わない。赤城は昨日と同様、彼女の隣に座った。

 

「ここ、好きなんですか?」

「一人になれるからね、アンタが来るまで好きだった」

「でしたら、今度は二人でも好きになれる場所にしましょう」

 

 少しの静寂の後に、赤城が思い切って聞いた。

 

「そろそろ、教えてくれませんか? ご家族の事を……」

「教えた所で私を救えるの?」

「言ってくれなきゃ、絶対に出来ませんよ」

 

 少女は嫌々語りだした。

 

「かあ……あの人、私が小さい時に離婚してその後に変な男とくっついたの」

「まぁ……」

「あの女、再婚したと思ったら、二人がかりで叩いてくるし……」

「……すいません。思い出させてしまって……」

「いいよ、二人共死んだし」

「死……?」

「昔、深海棲艦が襲撃した時、私を置いて二人だけで逃げようとした所をズドン!……ってね」

「……すいません」

「は?何でアンタが謝るの?」

「私が不甲斐ないばかりに親御さんを奪ってしまって……」

「こことは違う場所だから」

 

 再び訪れた静寂。今度は少女がそれを破った。

 

「アンタはさぁ、何で艦娘になったの?」

「私がなった理由……」

「やっぱ高給だから?」

「……人を守るため?」

「やっぱ、ヒーロー気取りだねアンタ」

 

 それだけ言うと少女は立ち上がり去ろうとする。しかし、赤城は叫んだ。

 

「明日には!明日にはこの答えを出します!だから、明日も来てください!」

 

 少女は赤城の方を見て彼女の叫びを聞くと何も言わずに去って行った。



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八話 赤城、奮戦(後編)

今回は前回と繋がっているので、七話を閲覧してから見るのを勧めます。
(最近、時間が取れない……)


「はぁぁぁぁぁぁ!」

 赤城の渾身のパンチを受け、爆散する深海棲艦。

「赤城さん、最近、気合が入っているわね」

「そうでしょうか?」

 先程の深海棲艦が最後だったらしく、会話を始める二人。

「それに、よく町に行くし……何かありましたか?」

「大したことじゃありませんよ」

 そう言いつつも少女に言われた言葉が赤城の中に未だに残っていた。

 

 

 

 数日後、赤城は例の如く町にパトロールに行っており、五人はそれぞれ、戦いに備えていた。

 その時、警報が鳴り、明石が叫ぶ。

「深海棲艦出現! 場所は町中、現在赤城さんが一人で抗戦しています!」

 五人は、艤装を装備して、出動した。

 

 

 

「あぁ!」

 戦艦レ級に吹き飛ばされ、そのはずみで艤装が外れ、赤城は元の姿に戻ってしまった。

 落ちてしまった艤装を拾い上げるレ級。

 ニヤリと口角を上げると彼女は艤装を装着、起動させ黒のドレス姿となる。

 瞬間、赤城の目の前まで走り左腕に蹴りを入れ、さらに腹にボディーブローを撃った。

「ごっがあぁぁ!」

 腹を押さえ吹き飛ぶ赤城、それと同時に少女を人質にとる。

「私が……」

 赤城は呟く。

「私が艦娘になったのは……正義でも、義務でも、偽善でもない……!」

 そのまま自身の体に鞭打つ様にゆっくりと立ち上がり叫んだ。

「人を! 命を守るためになった! それ以上の使命も、それ以下の理由もない!」

 そう叫ぶと、無謀にもレ級に向かって走り出した。

 赤城のタックルを受け、怯んだ隙に少女の腕を掴み、一気に引き寄せる。

 しかし、レ級は二人を葬ろうと回し蹴りを放った。

 すかさず、自身を盾に少女を守る赤城。

 その時。

「赤城さん……なぜ、この様な無茶を……」

 レ級のキックは加賀の両手によって止められていた。

 さらに、二航戦、五航戦の四人も駆けつけ、一斉にレ級に襲い掛かった。

 加賀は、レ級の艤装が外れるとすかさず、それを拾い、赤城に向かって投げた。

 赤城は少女の前に立つと彼女の方を向き小さく微笑む。

 腕の痛みを堪えて、艤装を装着し、ポーズを取り叫ぶ。

「変身!」

 それと同時に、装置を起動させると赤城の姿が変わった。

「ふぅー……」

 目を瞑り、左足を前に出す。

 その足をゆっくり上げると力強く地面を踏んだ。

 すると、赤城は高く飛んだ。

 その後、空中で態勢を変えて、右足を大きく相手に突き出す。

 後は、重力、勢いによってスピードを上げて、相手に迫る。

「はぁぁぁぁぁ!」

 赤城の圧倒的な力と速さを持ったキックが、戦艦レ級の体に直撃。

 レ級は悶絶した末、爆発、塵一つ残らず消えた。




今年中に直さないと……
追記
駄目でした。
これが今年最後の投稿になると思われます。


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九話 加賀、調査を始める

新年あけましておめでとうございます。
本年も本作をよろしくお願い致します。


「提督、少し相談があるのだけど」

 

 加賀は今、執務室で提督と個人的な相談をしていた。

 

「どうした、今の環境に不満があるとか?」

「いいえ、唯、気になることがありまして」

「気になる事……艤装か?博士か?人間関係か?」

「今は……博士ね。あの人について何か知らない?」

 

 椅子にもたれ掛かり、自身の知っている全てを語る提督。

 

「博士か……俺が聞いた話だと艤装の開発に配属される前には、別の班にいたらしいが、それが調べても見つからないんだ」

「不明の経歴……ですか……ありがとうございます」

「俺からも質問いいか?」

「……答えられる範囲でしたら」

 

 顔色一つ変えない加賀に、提督は背もたれから背を離し、神妙な顔で聞いた。

 

「なぜ、博士を調べる?信用か?好意か?それ以外か?」

 

 顎に手を当て少し考えると加賀は、口を開いた。

 

「そうですね。はっきり言って、艤装に一個人の趣味を導入するような方は信用が出来ません」

「良くも悪くも、生真面目な加賀らしいな」

「悪くも、と言うのはどういう事なのかしら?」

 

 それに対して、提督は一息置き、話す。

 

「加賀、お前はあと少しだけ馬鹿になれ。あの赤城も実は馬鹿な所があるんだぞ」

「ど、堂々と貶したわね……」

「俺は赤城のそこを好きになったからな」

 

 提督は笑いながら、両手を頭の後ろに回した。

 

 

 

 もはや、彼女達の拠点になった工蔽に戻っても、加賀は、神妙な顔をしていた。

 椅子に座り、艤装を見つめつつ提督の言葉を思い返す彼女に一声。

 

「あれ、加賀さんいたんだ」

 

 声の主は瑞鶴で赤城はその後ろで小さくお辞儀をした。

 

「瑞鶴、あなたこそ赤城さんと何をしているの?」

「あ、それは、私が」

 

 赤城は二人に説明を始める。

 

「先日、鎮守府付近にも深海棲艦が現れたでしょう。町中にも現れた事もありますし……しかし、瑞鶴も翔鶴も結構力をつけてくれたので、今後は、三人二組、二人三組といった様に、二人以上で組を作って行動する方針に決めました」

「加賀さん、もしかして忘れてた?」

 ニヤつきながら話す瑞鶴に加賀も負けじと返す。

「いいえ、憶えています。しかし赤城さん、瑞鶴はまだまだなので、鎮守府付近の警戒だけで良いではないでしょうか?」

「まだ、私が弱いって言いたいの!?」

「ええ」

 

 加賀の煽りに怒りを露にする瑞鶴に対し、赤城が仲裁する。

 

「まぁまぁ。あの加賀さん、私、これからこの子の訓練をさせるから、何かあったら、教えてくれませんか?」

「え、あの、瑞鶴は私が担当だったのでは……」

「今回は特別です」

「そ、そうですか……分かりました」

「では、訓練場にいるのでよろしくお願いします……」

 

 少し寂しそうにしている加賀を他所に二人は出て行った。

 そこへ、一人の少女、もとい博士の助手のリエが近づき、笑顔で話す。

 

「振られちゃいましたねぇ」

「いいえ」

 

 その時、加賀は、彼女なら何かを知っているのではないかと思い、質問をした。

 

「突然、すいません」

「はい!何でしょうか!」

「博士の過去ついて何か知らないかしら?」

 

 リエは笑顔で元気よく答えた。

 

「博士は、今は艤装の研究、開発をしています!昔は人の精神を変えてしまうとても恐ろしい研究をしていました!」

「何ですって……!」

「ごめんなさい……博士には黙っている様に言われましたが我慢できなくて……」

「いえ、ありがとう」

 

 そう感謝していた加賀だったが、どうしても違和感が拭えなかった。

 

 

 

 

「変身!」

 

 艤装を起動させ姿を変える、赤城、瑞鶴。

 訓練場にやって来ていた二人は、早速鍛錬を始めた。

 開始と同時に瑞鶴は赤城目掛けて飛び蹴りを放つ。

 

「はぁ!」

 

 瑞鶴の先制キックを横転で避けると、直ぐに立ち上がり、赤城は瑞鶴の動向を伺いだした。

 

「せい!せい!ふっ!オラオラ!はぁ!」

 

 パンチ、キックを連続で撃つが全てを受け止める赤城。

 

「ぐっ……らぁ!」

 

 力を込めて撃ったであろう大ぶりのパンチも止め、赤城は少し距離を取った。

 

「ふっ!」

 

 そこから、赤城は小さいキックを瑞鶴の弁慶の泣き所に当てた。

 

「いっ?!」

 

 瑞鶴が顔を歪めつつ、赤城にパンチを撃つが、それも止められてしまった。

 

「……瑞鶴って」

「えっ?」

 

 瑞鶴の拳を握りつつ赤城が口を開く。

 

「この戦い方は我流?」

「まぁ……はい……」

 

 それぞれ拳をぶつけあいながら、語り合う二人。

 

「確かに力は皆の中では一番かもしれませんね」

「鍛えてますから!」

「……これが終わったら話でもしませんか?」

「分かりました」

 

 

 

 鍛錬が終わり変身を解いた二人は早速、話を始めた。

 

「本当に力がありますね、手がまだ痺れています」

「ありがとうございます」

「それに態度、瑞鶴ってもしかしてかなりの自信家?」

「ええ……そうですか?」

 

 頬を掻いて満更でもなさそうな瑞鶴。

 それに対して赤城は呟く。

 

「……強くなりなさい」

「勿論!いっそのこと、最強でも目指そうかな?」

「……この後はどうしますか?」

「んー、素振りでもしますよ」

「ああ、それでは、私はこれで……」

 

 瑞鶴の姿に何も言わない赤城だったが、去り際に突然言い出した。

 

「瑞鶴」

「はい!」

 

 瑞鶴、赤城の方を向く。

 

「実は、加賀さんに貴方の指導をするようにお願いしたのは私なんです」

「えぇ!?」

 

 驚く彼女を無視し、話し続ける赤城。

 

「なぜ私が加賀さんを担当に回したのか、それをよく考えてください」

「教えてはくれないですね……」

「はい、これは自分で見つける事に意味がありますから」

 

 そう言うと、赤城は訓練場から去って行った。

 

「鉄仮面と組まされた理由……?」

 

 瑞鶴は一人腕を組み、まだ分からぬ答えに頭を抱えるのだった。




年明けに平成ジェネレーションズ、見てきました。


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十話 二航戦、恥知らず

今回はファンタジー溢れる回になったと思います。


「やたらとリアルな人形が置いてある店が出来た」

「リアルってどのぐらいよ?」

「生きてるように見えるというか……本物?」

「なぜ、疑問形?で、店の特徴とかは?」

「雰囲気は不気味だけど綺麗で、赤いレンガの壁が特徴」

 

 翔鶴の休日、そんなありきたりな話を彼女は、通りすがりに聞いた。

 

「人形……折角だし、行ってみようかしら」

 

 そう呟くと、気ままに街をうろつきつつ赤いレンガの壁の店を探し始めた。店探しは一日続くかと思われたが翔鶴の予想以上に早くに見つける。店は噂通り、綺麗でお洒落な雰囲気を醸し出していたが、どこか怪しく、危険な感じも出している。しかし、今の彼女は恐怖心よりも好奇心が勝っていたため、店内に入っていった。ドアに取り付けられていたベルがお客様を歓迎するように鳴る。店内は全体的に薄暗く、所狭しに人の等身大の人形が置かれており、彼らもまた歓迎しているように見えた。

 

「すみません。誰かいらっしゃいますか?」

 

 翔鶴がそう言うと、女性の声が囁かれる。

 

「いらっしゃいませ」

「きゃ、きゃあ!」

 

 耳元で声を掛けられ思わず声を挙げる翔鶴。

 

「何かお探しで……」

「え、えっと……」

 

 何かを言いかけた店主に戸惑う翔鶴。

 

「綺麗………丁度いい!モデルになって頂戴!」

「え、えぇ!?」

 

 そう言うと、店主は翔鶴の後ろに回り、背を押し始めた。

 

「さぁさぁ、遠慮なさらず!」

「あ、あの……」

 

 元々、押しの弱い性格の翔鶴は断る事も出来ずに店内の奥に連れ込まれてしまう。

 

「ほらほらほら」

「あの、私、まだ何も……!」

 

 翔鶴の返答を無視して、店主は彼女の衣服を引っぺがすとある衣装を無理矢理着させた。

 

「儚げに見えるけど、その心に強いものを感じる。そして、相手への奉仕心!この格好しかない!」

「こ、これって……」

「大丈夫大丈夫、一回だけモデルになってくれればいいから」

 

 翔鶴は今、黒の靴、白の靴下を履き。フリルの付いたカチューシャを付け。銀のお盆を持ち。黒の服と白のエプロンのメイド服を着せられていた。店主はカメラを片手に真剣な眼差しで翔鶴を見る。

 

「じゃあいくよー。はいチーズ」

 

 

 

 翌日、工蔽にて加賀は神妙な顔で、ノートを見ていた。

 

「怪しい情報は大体、纏めれたのけど……」

 

 先日、博士は過去に危険な実験に携わっていたと聞き、独自に調査を始めた加賀。そして、彼女が神妙な顔になっているもう一つの原因は。

 

「加賀さん、瑞鶴と飛龍が戻りましたよ」

「ありがとう、次は私達ね」

 

 赤城が憂いを帯びた顔をする。

 

「……翔鶴、何処に行ってしまったのでしょうか……」

 

 翔鶴が昨日から連絡が取れずにいた。総出で探しに行きたくも、深海棲艦との戦闘、鎮守府の地上での防衛があるため全員がこの場を離れるわけにはいかず、五人はローテーションを組んで行動せざるを得なかった。瑞鶴は項垂れ、飛龍、蒼龍は励ましている。

 

「翔鶴姉……翔鶴姉……」

「瑞鶴、少し休んだら?さっきから探しに行き続けているし」

「……動いていないと落ち着かない……」

「瑞鶴……」

 

 そんな三人に加賀が入り込む。

 

「二人共、どんな風に探したの?人にも聞いたの?」

「当たり前でしょ!!みんな、最後に街で見たって言ってたんだから!!」

「飛龍、そうなの?」

「はい、いろんな人に、翔鶴の特徴を聞いたんですが、どの人も街中で見たと言っているので、多分、街の何処かにいるんじゃないかなって思います」

「分かったわ。何かあったら私か、赤城さんの携帯電話に連絡を頂戴」

「加賀さん!私も!」

「瑞鶴!あなたは一度休んでください!」

 

 瑞鶴はまた捜索に出ようとしたが赤城に止められる。それでも食って掛かる瑞鶴だったが。

 

「でも!」

「瑞鶴!隊長命令です。休んでいてください」

「……分かりました」

 

 赤城の威圧に耐えられず、首を縦に振る瑞鶴。

 

「それでは、行ってきます」

 

 赤城はそう言うと、加賀と共に、街へと向かった。

 

 

 

 街に着いた二人は早速、聞き込み、施設をしらみつぶしに当たった。しかし、真新しい情報も得られず、途方に暮れる事に。そんな二人の目に、赤いレンガの壁の店が。

 

「赤城さん……あそこ調べた?」

「いいえ……行きましょう!」

 

 そう言って二人は店内へと入っていった。

 

「いらっしゃい」

「失礼します」

 

 店内にいる店主に対して、軽く会釈をする二人。

 そして、自己紹介を始めた。

 

「突然の来店、申し訳ございません。正規空母の加賀です」

「同じく正規空母、赤城です」

「その自己紹介……艦娘ですね。本日はどの様な用件で?」

 

 店主が微笑みながら言うと、加賀は一枚の写真を見せる。

 

「私達の部下が昨日から姿が見えないんです。こちらがその写真なんですが……」

「この方は……ああ、すぐ奥にいますよ」

「本当ですか!?」

 

 赤城が驚いた顔をする。

 

「今から、用意しましょう」

「ありがとうございます!」

「ご協力、感謝い……?」

 

 目を瞑り頭を下げる加賀。用意という言葉に違和感を覚えた加賀だったがその時には一足遅く、赤城は目を開けていたため、人形の様に固まり動かなくなっていた。

 

「赤城さん!?」

「……出来れば、着替えてから固めたかったんですが……」

 

 店主の肌が徐々に白くなり、瞳が緑色に染まる。

 

「貴方は一体……!」

「進化した深海棲艦……地上棲艦とでも名乗っておきましょう」

「赤城さんと翔鶴を戻しなさい」

「コトワル!」

 

 そう言って飛び掛かる地上棲艦、加賀も胴を大きく逸らし回避を続け、すかさず艤装を取り出したが。

 

「フンッ!」

「……!」

 

 相手のパンチを受け、艤装を落としてしまった。さらに、回避中に店の出入り口を塞ぐように地上棲艦が立っており、加賀はやむを得ず奥の方へ逃げる。店内の奥へ逃げ込んだ加賀の目に入ったのは、地上棲艦の被害者達、その中には、翔鶴の姿もあった。

 

「翔鶴……」

 

 拳を強く握ると彼女の携帯電話が突然鳴り出し、すかさず電話に出る。

 

「手短に」

『加賀さん!瑞鶴が逃げ出した!』

「なんですって……!」

『私たちが油断している内に飛び出したみたいで……』

「艤装を三つ持って、赤いレンガの壁の店に来なさい。翔鶴を見つけたわ」

『えっ!?加賀さん一体……』

 

 話しの最中にも関わらず、後ろに迫って来た地上棲艦を肘で衝き、相手の方を向き構えを取る。

 

「……ナンノマネダ」

「一航戦加賀、いざ」

 

 

 

 街を彷徨う瑞鶴。そんな彼女の目の前にも例の店が現れる。そこへ、二航戦の二人も駆けつけた。

 

「瑞鶴!ちょうどよかった!」

「蒼龍、飛龍!」

 

 瑞鶴が二人に気づくと飛龍はすかさず、艤装を投げ渡す。

 

「これは!?」

「忘れ物!何でもここに翔鶴がいるらしい!」

「一緒に翔鶴を助けよ!」

「二人共……ありがとう!」

 

 三人は艤装を装着し、ポーズをとると叫んだ。

 

「変身!」

 

 姿を変えた三人は店へ突撃した。

 

 

 

「翔鶴姉ぇぇぇぇ!」

 

 入り口を突進で破壊した瑞鶴はそのままドアが開きっぱなしの店内の奥へと消えていった。

 

「瑞鶴、前に出すぎ!」

「……これが姉妹パワーかぁ」

 

 瑞鶴の姿に困惑する二人。ふと飛龍が足元を見ると、丸められた紙切れが一枚。彼女はそれを拾い上げ開くと、文字が書かれていた。

 

『メ・ミナイ』

「めみない?」

「め・みない?」

 

 文字を声に出して読む二人、すると意味に気が付いたのか、叫んだ。

 

「目、見ない!」

「あああぁぁぁぁぁ!」

 

 それと同時に、奥から瑞鶴の断末魔が響いた。そして、地上棲艦がガチガチに固められた瑞鶴を引きずって現れた。

 

「アイツが……」

「目を合わせないように!」

 

 その為に二人は、無謀にも目を瞑ったまま戦い始めた。当然、手も足も出ず、二人は店内の奥へと逃げる。地上棲艦が何故か、追う素振りを見せなかったことから、飛龍はすかさずドアを閉め、鍵を掛けた。

 

「これからどうするの!?」

「蒼龍はこの辺を調べて!私は……!」

 

 恐る恐る、のぞき窓に顔を近付ける。そこで、彼女が見たのは瑞鶴をいじり倒す地上棲艦の姿だった。

 

「アイツ……何やっているの?」

「飛龍!」

「どうだった?」

「出口どころか、窓一つないよ」

「アイツを倒さなきゃ出られないってことかな……」

「どうしよう……」

 

 地上棲艦を見つめる飛龍は何かを思いついた。

 

「……私にいい考えがある」

「ほんと!?」

「うん、耳貸して」

 

 そう言って、自身の作戦を小声で伝える飛龍。

 

「えぇ~!?やだやだ!」

「ワガママ言わない!しょうがないでしょ!これしか浮かばないんだから!」

「……分かったよ」

 

 不服な顔をして飛龍のアイデアに乗る蒼龍、飛龍もまた作業を始めていた。作業中の飛龍の前に赤城と加賀の人形が、二人はそれぞれ、赤の着物と青の着物を着せられていた。

 

「赤城さん……加賀さん……失礼します」

 

 

 

 少しして、地上棲艦が持っていた鍵を使って二人のいる場所へと入ってきた。

 

「ナ!?」

 

 視界に飛び込んできたのは、衣装どころか下着もはがされた大量の人形達だった。

 

「アイツラ~……!」

 

 苦労して作った作品をいじられ、憤る地上棲艦。ふと人形達の中から影が動き、飛び掛かる。

 

「ツカマエ……!?」

 

 しかし、そこにいたのは加賀の人形。

 

「おおおおぉぉぉ!」

「やあああぁぁぁ!」

 

 戸惑う棲艦の顔面にパンチとキックが直撃した。

 

「ゴッ……!」

「蒼龍!急いで!」

「分かっている!」

 

 飛龍は何処かへと行き、蒼龍は、足元にある適当な服を拾うと相手の頭に被せて視界を奪う。

 

「こんな恥知らずなこと、二度とやらないからね!」

 

 今二人の恰好は、人形達の中に隠れるため、同じ格好をしていた。

 

「蒼龍!」

「ん。ありがと」

 

 飛龍は別の場所に隠していた艤装を投げ渡す。

 

「ン……グ……!」

 

 目を隠している布を取ろうとするが固く結ばれていてびくともしない。

 

「変身!」

 

 二人は姿を変えると協力して、パンチ、キックを放つ。そして、満身創痍になった所で、構えを取り叫んだ。

 

「ドラゴン……パンチ!」

「ドラゴンキック!」

 

 二人の大技を受けた地上棲艦は爆破、塵一つ残らず消えた。それと同時に、被害者達も元の人間へと戻っていった。

 

「あ、あの、何で私……」

「二人共、ありがとうございます」

「翔鶴姉ぇぇ!」

「あ!ヤダ!ず、瑞鶴見ないで頂戴!」

 

 同時に騒動も起きたが。

 

 

 

 被害者達も救い、仲間も取り戻した一行は元の恰好になって工蔽に帰って来ていた。

 

「地上棲艦……確かにそう名乗ってました」

 

 加賀は自身が見た物を五人に教えていた。

 

「喋るやつって初めてじゃない?」

「これまでのものと関係があるんでしょうか?」

 

 各々、感想を呟く中、赤城が口を開く。

 

「人を固めるもの以外いると思われます。今後は何か違和感を覚えたら、必ず伝えてください」

「了解!」

 

 戦いは激化の一途を辿り始めた。



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十一話 空母部隊、敗北

 どこかの研究室。

 部屋の中央には、一人の艦娘がおり、傍には白衣の複数の男女の姿が。

 

「それじゃあ、起動させてくれるかな?」

「分かった」

 

 男性の指示に素直に答えて、左腕に巻かれた装置を起動させる。

 すると、彼女の体が光に包まれ、光が消えるとフリフリのドレスを身につけていた。

 

「おおお!」

「研究は成功だ!」

「おぅ!?」

 

 それぞれ歓声を上げる人々と突然の事に驚く、駆逐艦の娘。

 

「良し!君は、報告。君はレポートの作成。君は……」

 

 男は周りの者達に的確な指示を出しそして本人は。

 

「私は……連絡だ!」

 

 

 

「地上棲艦……確かにそう言ったのか?」

 

 鎮守府の執務室にて。椅子に座り、疑問を投げかける提督。

 視線の先には、赤城と加賀が背筋を伸ばして真剣な顔で立つ。

 

「はい、私達が聞いたわけではありませんが蒼龍、飛龍の二人がそう言っていました」

「特徴は恐らく、人に化けられる事、普通の深海棲艦が持たない謎の力を持っている事だと思います」

「それで見た目は深海棲艦か……」

 

 顎に手を置き考え込む提督。

 

「今できる対策としては街に憲兵を配置するぐらいか……」

「艦娘は……ダメですよね……」

「ああ、街中で主砲を撃ち合うものなら大惨事は確実だ」

 

 三人は、この場で何ができるのか考えていた。

 その時、提督の机の上に置かれた電話が鳴り出した。

 

「すまない、電話いいか?」

「どうぞ」

 

 加賀から許可をもらい受話器を手に取りそれを耳に当てた。

 

「こちら……」

「提督君!久ぶりだね!アッハッハッハ!」

「その声は……博士!?」

 

 博士のノリと再会に驚き、思わず声を挙げる提督。

 同室にいる赤城と加賀もまた両者の顔を見合うほど驚き、提督に近づいた。

 

「す、すごい嬉しそうですね……」

「ああ、分かるかい!?知りたいかい!?」

「いい研究結果が見つかったのですか?」

「概ね正解だ!正しくは私の艤装の量産化が始まったぞ!」

「本当ですか!?」

 

 受話器の一部を押さえて二人に語り掛けた。

 

「博士の艤装の量産が始まるらしい」

 

 それだけを言うと再び受話器を耳に当てた。

 

「まぁ!」

 

 両手を合わせて喜ぶ赤城とそれ見る加賀。

 

「ぜひ!君から六人に伝えてほしい!」

「いえ、赤城と加賀なら今、そばにいます。変わりましょうか?」

「何だってそれは本当かい!? ぜひ!」

 

 提督はまた、受話器を押さえ二人に差し出し言った。

 

「博士がお前達と話したいらしい」

「分かりました」

 

 差し出された受話器を手にした赤城はそれを耳に当てると、博士の声を聴いた。

 

「お電話変わりました、赤城です。博士、お久しぶりです」

「赤城君!いやー久しぶりだね!いきなりだが、質問はあるかい!?」

「そうですね、量産された物についてでしょうか?」

「量産型は性能は多少落ちるが、軽巡洋艦や駆逐艦の娘でも装備が出来ると言う事かな」

「配備はいつ頃になりますか?」

「最初は横須賀になる可能性が高いからな……そちらに届くのはかなり後なるのかもしれない」

「そうですか……」

「あの、赤城さん」

 

 博士と赤城の話の間に入ったのは加賀。赤城も加賀の話を聞くために受話器を押さえた。

 

「私も博士に聞きたい事あるの。変わってくれないかしら」

「分かりました」

 

 再び耳に当て話始める。

 

「すいません。加賀さんに変わります」

「分かった」

 

 そう言って赤城は、受話器を加賀に差し出した。

 

「加賀よ」

 

 手にし、開口一番にそう言う。

 

「加賀君も久しぶり」

「……お久しぶりです」

「君の聞きたいことは?」

「以前、貴方は艤装以外の研究をされていたそうね。それについて聞きたいのだけど……」

「私の言える事はその研究はすでに凍結され、班も解体された。それにあれは元々危険な物だったんだ。ここで言えるのはこれぐらいかな」

「そうですか」

「以上かい?」

「ええ、提督に変わります」

 

 加賀は受話器を耳から離し、提督に出した。

 

「お電話変わりました」

「ああ提督君。話はそれだけだから」

「あ、はい」

「時間が出来たら、話し合おう」

「はい!それでは」

「じゃ」

 

 そう言って提督は受話器を戻した。

 

「加賀さん今のは……?」

「加賀……話してなかったのか?」

「……すいません」

 

 工蔽に戻った二人は、加賀は自身の知っている、電話で聞いた情報を教えた。

 

「博士の過去ですか……」

 

 

 

 一方、街の中心部にて、警備に回っていた翔鶴と瑞鶴はうつろ気な顔の女性を見かけた。

 女性は二人を見つけるとゆらゆらと迫り、声を掛ける。

 

「アナタ……カンムス?」

「あの、貴方は?」

 

 何も言わない女性。その時、彼女の瞳が真紅色に輝き肌もどんどん白くっていき瑞鶴は叫んだ。

 

「こいつ……!地上棲艦!」

 

 地上棲艦は口角を上げるとその姿を変える。翔鶴は周りの危機を感じ叫ぶ。

 

「逃げてください!皆さん、今はこの場から離れてください!」

 

 地上棲艦は本来の姿に戻る。そして、その姿に二人は目を見開いた。

 

 

 

「地上棲艦出現!場所は街の中心部!?ってこの反応……!?」

 

 通信が入って来て驚きを隠せない明石。

 

「加賀さん!」

「はい!赤城さんは四人に連絡を!」

 

 二人はそう言いながら工蔽を飛び出した。

 携帯電話を取り出し、飛龍に連絡を取る。

 

「飛龍!? 今すぐ、街の中心部に行って下さい!」

「分かってます! この状況は……!」

「……何かあったのですか!?」

「赤城さん! あれを……!」

 

 加賀に言われて街の方の空を見ると、視線の先には世界の終わりを見せる様に真っ赤な空が広がっていた。

 

「……変身!」

 

 艤装を装着し姿を変えた二人は、急ぐのであった。

 

 

 

 逃げ惑う人の雪崩に逆らって街の中心部へ向かう蒼龍、飛龍。

 大きく広がった場所の中心にはリーダーだと思われる、港湾棲姫。

 周りには、大量の駆逐艦、軽巡洋艦がおり、リーダーを守るように動いている。

 二人は、あらかじめ腕に巻き付けた艤装に手を近付け叫んだ。

 

「変身!」

 

 翔鶴は、張り手やビンタ、時には、相手を掴み別の敵に向けて投げ飛ばしている。

 瑞鶴は何度も殴るが相手はビクともしていない。

 それもそのはず、今一行が相手をしているのは、深海棲艦の中でも上位の存在、姫だったのだから。

 

「二人共! 今来たよ!」

「蒼龍さん! 飛龍さん!」

 

 蒼龍の声に喜びを隠せない翔鶴。

 

「うわああああああ!」

 

 しかし、それと同時に姫に殴り飛ばされた瑞鶴が三人の方へ転がってきた。

 

「三人共、今は雑魚を全滅させよう!」

「了解!」

 

 飛龍の指示に従い駆逐、軽巡の一掃始めた四人。

 パンチ主体の飛龍、キック主体の蒼龍、投げとビンタの翔鶴、喧嘩スタイルの瑞鶴ならば、この程度なら問題なかった。

 そして、残るは港湾棲姫だけになる。

 

「よ~し! やりますか! 瑞鶴!」

「了解!」

 

 そういって、飛龍、瑞鶴は姫へと突っ込んだ。

 姫は巨大で鋭い爪を持つ腕を振り回し、抵抗する。

 しかし、振るのやめ、掴みにかかってきたことで二人は、捕まってしまった。

 そのまま、腕を大きく振りかぶって二人を壁に叩き付ける。

 その衝撃で、瑞鶴のみ変身が解けてしまった。

 

「嘘ッ!?」

「蒼龍! 翔鶴!」

 

 姫が二人に夢中になっている間に後ろに回り込んでいた蒼龍らが不意打ちを当てる。

 それでも、大した効果にはならず、薙ぎ払われてしまう。

 瑞鶴、飛龍は二人の応援のために、相手に立ち向かって行く。

 瑞鶴は、再び変身をしようと艤装の起動ボタンを押した。

 

「えっ……!?何で!?」

 

 変身が出来ず、瑞鶴は必至になって何度も起動ボタンを押すが、反応は全くあらずその際に、姫が目の前に現れる。

 

「ひっ……!」

 

 瑞鶴が気付くころには手を大きく上げ爪で切り裂こうとしている所だった。

 

「瑞鶴!」

 

 その間に割って入った翔鶴は瑞鶴を抱きしめ、相手に背を向けた。

 凶刃は彼女の背中を裂き、大きな傷を作り、翔鶴もまた意識を失った。

 

「翔鶴姉……!?翔鶴姉!?」

「瑞鶴! 何やってんの!」

「翔鶴連れて早く逃げて!」

 

 飛龍、蒼龍が姫の腕を押さえ促す。瑞鶴はただ、泣きながら姉を背負って戦場から逃げ出した。

 

 

 

 赤城と加賀が駆け付けた頃には、地面に倒れた二人と未だに、健在の姫がいた。

 

「蒼龍! 飛龍!」

 

 赤城は叫び二人に近づく。

 

「キョウハコレマデ……」

「……? 何ですって?」

 

 姫はそう呟くと黒く染まり、地面へと溶けていった。

 それと同時に空は先程とは、嘘みたいに青空を見せる。

 

 

 

「翔鶴姉……二人共……」

 

 あの後、瑞鶴は駆け付けた憲兵に助けられ、二航戦もまた、赤城達により助けられた。

 現在は、鎮守府の医務室にて眠っている。

 瑞鶴はその姿を只々悔しそうに見つめる事しか出来なかった。



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十二話 瑞鶴、覚醒

「退院、おめでとう」

 

 執務室で提督が声を掛けるのは姫との戦いで負傷した三人。

 

「治療で暫く勤務が出来なくて、本当に申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げる翔鶴。それに対して提督は優しく返す。

 

「いや、謝る必要はない。それよりも、傷は完全に治ったのか?」

「もちろん! 見ての通りです!」

「ふふん。どーよ!」

 

 自信ありげにポーズをとる蒼龍と飛龍。

 

「なら良いんだが、何かあったらすぐに言うんだぞ」

「はい!」

 

 

 

「はい! 艤装、直りましたよ!」

 

 そう言って、リエは新品の様に光る艤装を瑞鶴に差し出した。

 

「ありがとう! それにこんなに綺麗にしてくれて……」

「いえいえ、サービスです!」

「今度こそ、やって見せる!」

「頑張って!」

 

 瑞鶴は直った艤装を片手に工蔽から出て行った。

 

 

 

 地上棲艦が現れたと言う通信を受けた六人は、早速、現場に向かう。

 そこには、六体の戦艦レ級がいた。

 既に、変身していた六人はそれぞれ、レ級に挑む。

 戦況は、大きく変わらず進んでいるように思われた。

 

「うぐっ……!?」

 

 病み上がりによる、腕の痛みと視界の歪みに顔をしかめる飛龍。

 それを見た相手は一気に飛龍を攻める。

 その結果、飛龍は変身が解けてしまった。

 人数が減った事により、一行は一気に劣勢に追い込まれていき、遂に戦える者が瑞鶴だけになってしまう。

 その時、不思議なことが起こった。

 

「うおおおおおおああああああああっ!」

 

 突然の雄叫びに動きを止め声の主である瑞鶴を見つめる。

 瑞鶴は咆哮を上げると、彼女の白と赤のドレスが黒と灰色に染まっていく。

 

「……瑞鶴?」

 

 翔鶴は恐る恐る様子を伺う。

 

「ふぅぅぅ……」

 

 彼女が呼吸を整えたその時、全員の視界から瑞鶴が消えた。

 そして、次に見たのは宙へと吹き飛ばされるレ級の姿だった。

 思わぬ攻撃に悶えるレ級、困惑する空母達、驚きを隠せない五体のレ級。

 

「だあああああああ!」

 

 瑞鶴の怒涛はまだ終わらない。近くの一体の胸倉を掴み頭突きを撃った。

 更に後ろにいるもう一体にみぞおちを肘で撃つ。

 胸倉を掴んだまま吹き飛んだレ級の方へ、投げ飛ばした。

 今度は赤城達の前に現れ、二体の頭をそれぞれの手で掴むとレ級の頭と頭を激しくぶつけ合わせるとた。

 怯えて動けなくなっている、最後の一体に早歩きで近づくと、顔面を殴り気絶させ、レ級の山に投げ飛ばす。

 六体を一ヶ所に纏めたのを見ると瑞鶴は高く飛び、空中で右手で拳を作り、左手で右手首を掴むと相手に向かって落ちていった。

 

「あああああああああ!」

 

 大槌を撃つように右手を振り下ろすと、地面にひび割れを作り、その衝撃でレ級達を2メートルほど打ち上げる。

 さらに瑞鶴は、この内の一体の足を掴むとレ級を振り回し、周りの五体を薙ぎ払う、手にした一体は少し離れた場所に蹴り飛ばした。

 

「ギャアアアアアア……」

 

 全員が断末魔を上げると大爆発を起こし消滅した。

 激しい爆風に目を瞑り、腕で顔を塞ぐ五人。

 巻きあがった煙が払われると瑞鶴が一人、立っていた。

 

「これが……新しい力……」

 

 自身の両手を見て呟く瑞鶴。そこへ翔鶴、蒼龍、飛龍の三人が立ち上がり、それぞれの体の痛みを押さえて彼女に近づくと、口を開く。

 

「ず、瑞鶴……大丈夫なの?」

「す、すごいよ! 大活躍じゃん!」

「やるじゃん! 私も早く怪我、直さないとなー……瑞鶴ばっか活躍しそうだし!」

 

 真っ先に体の心配をする翔鶴、二航戦は瑞鶴を称賛していた。

 それに対して、瑞鶴は得意げに胸を張りながら言う。

 

「大丈夫大丈夫! 全部、私がやっちゃうから!」

「瑞鶴……本当に?」

 

 心配そうに見つめる翔鶴。そこへ、赤城、加賀もまた寄ってきた。

 

「どうですか? 赤城さん、加賀さん?」

「貴方……それは一体?」

「さぁ……何か叫んだら出たというか……」

「瑞鶴……翔鶴の言う通り本当に……」

「兎に角! これで、問題はないはずです!」

 

 赤城の反論を遮り、得意げになっている瑞鶴。

 赤城と加賀はそれを不安そうに見ていた。



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十三話 瑞鶴、墜ちる

今更となりますが、
GOWEST様 Nakaji様 宣彰様 めろろ様 権田原助左衛門様
お気に入り登録ありがとうございます。


「はぁ! せい!」

 

 街の近くの岩場、六人は、大量に現れた地上棲艦と乱闘を繰り広げていた。

 およそ50体はいるが、殆どが駆逐艦、軽巡洋艦のため特に問題なく、更に瑞鶴が新たな力を得たこともあり余裕で殲滅は進み、残った数は片手で数えられるほどになった。

 ここまでは優位に進んでいた。

 

「赤城さん! やっちゃって!」

 

 リーダー格のル級を取り押さえた飛龍が叫ぶ。

 

「はい!」

 

 そこへ、赤城がジャンプキックを放つため、ル級の方を向き、腰を落とした。

 その時、「邪魔!」と瑞鶴が赤城を突き飛ばし、ル級目掛けてジャンプをすると、宙で拳を握り、相手の脳天に向けて落とす。瑞鶴が迫ってきた所で、飛龍は手を離し、二人から逃げる様に跳んだ。彼女のパンチは直撃し、ル級は頭を押さえて悶える。そこへ、瑞鶴は更に頭を掴み、地面に叩き付けると、軽く蹴って仰向けにすると、腹や顔を力強く踏みつけ始めた。

 

「痛たた……」

「赤城さん!」

 

 予想外の横やりに、突き飛ばされ、尻もちをついた赤城、そこへ、二体のホ級が囲む。しかし、すぐさま現れた加賀が手刀で二体を切り裂いた。ホ級は真っ二つになり爆破。ル級も、瑞鶴のえげつない猛攻に耐え切れず爆散し、塵となった。

 

「楽勝、楽勝」

「瑞鶴……」

 

 これまでの彼女では考えられない言動にかける言葉が浮かばない翔鶴。一方、瑞鶴は楽しそうな雰囲気を出しつつその場を離れようとした。

 

「待ちなさい」

 

 しかし、加賀はそれを許さなかった。瑞鶴の手首を掴み問い詰める。

 

「あんな滅茶苦茶な戦い方、私は教えていません」

「我流だけど?」

「そう。上司を突き飛ばしてでも出しゃばるのが、貴方のやり方なのね」

「アイツ相手なら、一人で十分だし」

「はぁ……今の貴方には協調性が全くないわ。この調子なら、赤城さんと相談して外れてもらいます」

「嫉妬? 後輩に先を越されたかってそんな事するんだ?」

 

 今の煽りに、流石に憤りを感じた加賀は、抑揚を変えず言った。

 

「私が五航戦如きに嫉妬するわけないでしょう。特に愚者には」

「何ですって!? あんた、どんだけ人の足元見れば気が済むの!?」

 

 加賀の手を振り払い、殴ろうとした。

 その時、「瑞鶴! 止めて!」翔鶴の一言に一瞬、手を止める瑞鶴。

 

「ちょ!? 瑞鶴、それはマズイ!」

「抑えて! 抑えて!」

 

 飛龍、蒼龍もまた瑞鶴を押さえ、加賀から引き離す。

 

「はぁ……気分が悪いわ」

 

 瑞鶴は二人を払い、変身を解くとそのまま去って行ってしまった。

 

「加賀さん、大丈夫でしたか?」

「ええ……」

「瑞鶴……どうして……」

 

 彼女の落ちぶれっぷりに五人の間に重い空気が流れた。

 

 

 

 問題の日から六日前、瑞鶴のドレスが黒と灰色に染まった日の翌日。

 

「では、これから性能テストを行いますね。瑞鶴さんは、位置についてください」

「はい」

 

 大淀の指示に従い、テストに参加する瑞鶴。結果は、これまでの記録を塗り替えてしまい、見学に来ていた六人の内五人を唖然とさせていた。

 

「わ、私の最高記録が……」

「お、おぉもぅ……」

 

 蒼龍、飛龍と順に呟く。

 

「わぁ~、凄いです!」

 

 唯一、唖然していなかった助手のリエは、笑顔で嬉しそうに答えた。

 

「でもどうして、急に姿が変わったんでしょうか?」

「きっと、瑞鶴さんの強い想いが奇跡を起こしたんですよ!」

「感情で強くなったという事? にわかに信じられないわ」

「思いや強さは時に常識では考えられない、不思議な事を起こすんです!」

 

 赤城、加賀の疑問を感情論で片付けると、瑞鶴は手を振りつつ一行の方へ叫んだ。

 

「翔鶴姉ぇ!」

「ふふふ……」

 

 翔鶴は、瑞鶴のはしゃぐ姿に微笑みつつ、水入りのボトルとタオルを持って走っていく。

 

「はい、どうぞ」

「ん、ありがと」

 

 瑞鶴は、変身を解くと、ボトルとタオルを受け取った。

 

「お二人は、とっても仲が良いんですね!」

 

 いつの間にか翔鶴に付いて来ていた、リエが言う。

 

「ええ、瑞鶴は私の可愛い妹ですから、大事にしていきたいんです」

「わ、私の目の前で言うかな? 普通」

 

 翔鶴の告白に顔を赤らめる瑞鶴。

 

「姉妹で艦娘かぁ……いいなぁ……」

 

 姉妹の仲睦まじい様子を三人は遠くから見ていた。ここで、一人いない事に気づいた飛龍は加賀に聞く。

 

「あれ、赤城さんは?」

「提督と話がしたいと、執務室に行ったわ」

 

 

 

「艤装が強化される現象か……」

「はい」

 

 執務室にて瑞鶴の身に起きた異変を話す赤城。

 

「提督、博士との連絡は取れないでしょうか?」

「それが、ここ数日電波の調子がおかしいんだ。今は、明石が調べているが、直るのは先になりそうだ」

「なぜ……」

「ただ、幸いにもレーダーは生きているそうだから、探すのは問題ないらしい。兎に角、今言えるのは、彼女の様子を見て、場合によっては止める事だ。頼んだぞ」

「了解!」

 

 赤城は敬礼を取った。

 

 

 

 それから数日間、赤城は瑞鶴の様子を伺い始めた。

 普段は大人しいが、戦闘中は人が変わった様に残酷な仕打ちも平気で行うようになっていき、やがてそれは、日常生活にも及んでいった。

 それは、問題の日から二日前の出来事だった。

 

「あんたを倒す」

「何を言っているの?」

 

 訓練中だった加賀と瑞鶴。そんな中彼女は、唐突に加賀に挑戦状を叩きつけた。

 

「文字通り、で、私が勝ったら、もう二度と指図を受けない。負けたら何でも聞く。これでどう?」

「はぁ……下らない事を言っていないで素振りでもしたらどうなの?」

 

 そう言って背を向けた瞬間、瑞鶴は加賀の後頭部に向けて殴りかかった。

 気配を感じた加賀は、すぐさま振り向き、拳を受け止めた。

 

「錯乱でもしたのかしら?」

「もう少しだったんだけどなぁ……」

「……もう一度言います。素振りでもしていなさい」

 

 そう言い残すと、訓練所から去って行った。

 

 

 

 問題の日から翌日。

 赤城と加賀は自分達の部屋で、瑞鶴の今後について考えていた。

 

「私はすぐにでも外すべきだと思います」

「でも、私は瑞鶴を信じたいです。あの子、翔鶴と一緒にいる時は大人しいのよ」

「しかし、一度、戦場から離すべきです」

 

 残す派の赤城と外す派の加賀が、意見を述べ合う。そんな中、赤城は疑問をぶつけてみる。

 

「加賀さんって、どうして彼女の前では厳しい態度をとるのですか?」

「……翔鶴と瑞鶴。通称、五航戦と言うのは知っていますか?」

「はい」

「私は先代の五航戦お二人と約束をしました」

「先代……確か、私も色々と教わりました。引退際には、人々の盾になれと言う言葉もいただきました」

「ええ、私はその時、自分達の名前を継ぐ者が現れたら、今度は君が導いてほしい。と約束しました」

 

 加賀は窓の外を眺める。

 

「一目見た時に分かりました。二人は私を越える。と、だからこそ真っ当に強くなって欲しいんです」

「加賀さん……」

 

 加賀の心中を知った赤城は一つの提案を出す。

 

「では、こうしましょう。今の言葉を瑞鶴の前で言うんです。後はその後の行動で決めましょう」

「え……今の事を言うんですか?」

「確かに、加賀さんは口下手でシャイなのは、私も知っています。大丈夫ですよ! 私と話していると思って話せば!」

「それは、無理があるのでは……?」

 

 その時、赤城の携帯電話が鳴り出した。赤城は出る。

 

「私です。赤城です」

『あ! 赤城さん!』

 

 声の主である明石は続けて言う。

 

『地上棲艦が現れました! 場所は廃工場と海岸です! 廃工場には飛龍、瑞鶴。海岸には蒼龍、翔鶴が行っています』

「分かりました! 廃工場に加賀さんを向かわせます。私は海岸に行きます」

『よろしくお願いします!』

 

 そう言って、通話を切ると、話を聞いた加賀と共に、艤装を手に取ると、現場へ出動した。

 

 

 

 海岸へ駆けつけた赤城は、数体の地上棲艦と交戦する蒼龍、翔鶴の元へ走りながら叫んだ。

 

「変身!」

 

 ドレス姿に変身すると飛び蹴りを放つ。駆逐艦達をねじ伏せていき、戦艦タ級だけになる。翔鶴は助走つけると、高く飛び、宙で態勢を整えると二本の足を突き出し、踵を当てる様にキックを放った。翔鶴のキックを受けたタ級は、爆発、消滅した。一方、廃工場に着いた加賀もまた三人で地上棲艦と戦っていた。ここでも瑞鶴のラフファイトが目立っていたが何とか全滅させたその時、事が起きる。

 

「ず、瑞鶴、話があるのだけど……」

「ウオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 瑞鶴が雄叫びを上げたかと思うと突如、加賀に襲い掛かってきた。咆哮に怯んでいたからなのか、加賀は瑞鶴の初撃を受けてしまう。身の危険を感じた飛龍は艤装の通信機能を作動させて叫んだ。

 

「瑞鶴が! 瑞鶴がおかしくなった!」




闇落ち・悪落ち展開は、アンチ・ヘイトタグをつけるべきでしょうか?


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十四話 翔鶴、叫ぶ

今回から一行の戦いは更に過酷な方向へと進んでいきますが大丈夫でしょう


「瑞鶴!瑞鶴!」

 

 飛龍は必至に呼びかけるも加賀への攻撃を止めず、加賀も攻撃を塞いでいる。

 

「ああもう!」

 

 飛龍もまた呼びかけを止め瑞鶴に殴りかかった。加賀は胴体を大きく動かし、避けれないものは手刀で塞いでいた。

 

「瑞鶴。これ以上するなら貴方への攻撃を始めます」

 

 加賀なりに警告を出すが、それでも襲い掛かる瑞鶴。

 

「……分かりました」

 

 加賀は早速、守りに使っていた手刀で瑞鶴を思い切り切り付けた。

 

「!?」

 

 凄まじいスピードで切り付けたからか、彼女の片腕に小さな切り傷が出来る。一瞬、動揺したが、瑞鶴はひるまず加賀の足に蹴りを入れる。

 

「ぐっ!」

 

 重い蹴りに思わず、片膝をついてしまう加賀。そこへ、瑞鶴は加賀の顎目掛けてアッパーを打ち込んだ。しかし、それを両腕で塞ぐ。だがアッパーの威力は凄まじかった。それは、加賀の体が衝撃で飛び上がり廃工場の二階にまで吹っ飛ばされるほどに。加賀が飛んで行ったのを確認すると瑞鶴は両足に力を込めだした。

 

「瑞鶴!この!落ち着けって!」

 

 後ろから飛龍が羽交い絞めにするが、それを振りほどく。更に、みぞおちに肘を打ち込んだ。

 

「ごっ……!」

 

 瑞鶴の一撃に悶える飛龍、その隙に瑞鶴は加賀の方へと飛んで行ってしまう。

 

「飛龍!」

「飛龍さん!」

 

 入り口の方から蒼龍、翔鶴の声が聞こえる、振り向くと赤城ら三人が走ってきていた。蒼龍は悶えている飛龍の背中をさすりつつ言う。

 

「飛龍!大丈夫!?何があったの!?」

「ず、瑞鶴が上に……」

 

 赤城は辺りを見渡す。そして、二階への階段が目に入る。

 

「あれで行きましょう!」

 

 蒼龍は飛龍を肩に抱え、四人は階段を登って行った。辿り着いた先では加賀が一人奮闘していた。

 

「飛龍、ここで待ってて」

「瑞鶴!もう止めて!」

 

 翔鶴は叫びながら彼女に向って走る、その後を追う様に走る赤城と蒼龍。すかさず、翔鶴と追いついた蒼龍が押さえつける。しかし、それでも抵抗し続け、二人はまた叫ぶ。

 

「瑞鶴!お願いだから言う事を聞いて!」

「私達が分からないの!?」

 

 彼女らの声は届かず、二人を振りほどく。

 

「えっ!?」

 

 更に、瑞鶴は蒼龍の胸倉を掴み一階へと投げ飛ばした。

 

「わああああああ!」

 

 蒼龍は一階まで落とされ全身を打った衝撃で変身が解けてしまう。

 

「そ……蒼龍!」

 

 みぞおちの痛みを堪えて、叫ぶ飛龍。

 

「あぁ!」

 

 加賀もついに限界が来たのか、壁まで吹き飛ばされてしまった。壁にもたれてうめき声を上げる加賀にゆっくり近づく瑞鶴。しかし、ここで赤城が何かを思いついた。翔鶴の両肩を掴み言う。

 

「翔鶴!ごめんなさい……!歯を食いしばって!」

「……!はい……!」

「瑞鶴!」

 

 赤城の考えを信じ、歯を食いしばって目を瞑る翔鶴。瑞鶴に向けて叫ぶ赤城。それに対して振り向く瑞鶴。次の瞬間、赤城は、翔鶴の頬にビンタを撃った。

 

「!」

 

 それを見た瞬間、瑞鶴は赤城に飛び掛かってきた。

 

「瑞鶴……」

 

 赤城は腰を落として、左手を瑞鶴の方へ突き出し、拳を作った右手を腰に近づける。

 

「いい加減にしなさい!」

 

 左手を腰へ引きつつ右手を瑞鶴の腹に向けて放った。

 

「がっ……!?」

 

 強烈な一撃により意識を失う、それと同時に変身が解けた。

 

「赤城さん……瑞鶴は……?」

「大丈夫です。気絶させただけです」

「すいません、憲兵の方々を呼んでもらえませんか?」

「分かりました」

 

 そう言いつつ赤城は地面に倒れた彼女の腕に巻かれた艤装を外す。翔鶴もまた艤装の通信機能で憲兵を呼び出した。

 

「翔鶴……先ほどはすみませんでした……」

「いえ、瑞鶴を止められるなら……なんだってします……!」

「翔鶴……」

 

 

 

 少しして、駆け付けてきた憲兵により簡易的な治療の後、四人は鎮守府に担ぎ込まれる。三人は大事には至らなかったが瑞鶴は、目を覚まさず治療室で眠り続けていた。

 

「加賀さん、もう大丈夫ですか?」

「まだ、腕が痛むわ」

 

 鎮守府の一室に集まった五人、加賀は腕をさすりつつ言う。飛龍も顔に絆創膏や湿布貼っていた。

 

「瑞鶴……」

「翔鶴、心配するのは分かるけど……」

「今はリエちゃんから話を聞かないとね……」

 

 本調子になれない二人と終始俯いている翔鶴。そこへ、リエが血相を抱えて入ってくる。

 

「皆さん!お待たせしました!」

「リエさん!何かわかったのですか!?」

「はい!まずはこれを見てください!」

 

 赤城に聞かれて、リエは六枚の紙を机の上に広げた。内容は艤装を使い変身した際の六人のコンディションについて書かれている。

 

「これは?」

「皆さんが変身した時の体調を記録したものです!」

「いつの間にこんなものを……?」

「最初から入っていましたよ?こんな形で役に立つとは思いませんでしたが……」

 

 加賀の疑問に答えるリエ、そのまま続けて言った。

 

「まず、これを見てください。これは心拍数や波長をグラフにしたものです。とりあえずこの赤城さんのものは特に問題はありませんが、瑞鶴さんのを見てください」

 

 リエは瑞鶴のものに指を指した。

 

「見ての通りおかしくなっています。それで……その……」

「どうしたの?」

 

 彼女の歯切れの悪さに口を開く飛龍。リエは一呼吸置き、意を決したように言った。

 

「深海棲艦と同じものでした……」

「……つまり?」

「瑞鶴さんは……深海棲艦になってしまったんです……」

「嘘……」

 

 蒼龍の台詞答えると、翔鶴が呟く。

 

「そんなの嘘よ!」

 

 翔鶴が声を荒げる。

 

「でも、本当にこの結果になったんです!だから……あの人はもう……」

 

 そう言って顔を見られたくないのか一行に背を向けるリエ。その時、赤城がふと窓を見ると一瞬だけ見慣れたツインテールが見えた。

 

「瑞鶴……?」

「赤城さん?」

「翔鶴は治療室へ!後の人は私、リエさんと一緒に工蔽へ!」

「り、了解!」

 

 赤城の唐突な指示戸惑いつつも四人はそれに従った。

 

 

 

 工蔽に辿り着いた五人、しかし、部屋は特に荒れていなかったが窓が開いていた。

 

「艤装は何処に!?」

「確か、机の上に……」

 

 そう言って、長机に指を指した所で叫ぶ。

 

「あ!」

 

 机を見た三人、蒼龍が真っ先に近づき言った。

 

「艤装が五個しかない!」

 

 それと同時に、息を切らしつつ翔鶴が工蔽に入ってくる。

 

「ず、瑞鶴がいません!」

「リエさんはここで、艤装がないか探して下さい!私達は、探しに行ってきます!」

「はい!」

 

 飛龍は翔鶴に艤装を投げ渡し、それぞれの艤装を手に取ると、工蔽を出た。

 最後尾にいた加賀が出ようとした時、リエが呼び止める。

 

「加賀さん!」

「なにかしら?」

「よろしくお願いします!これ以上被害が及ぶ前に瑞鶴さんを……!」

「……」

 

 彼女は何も言わず出て行った。

 

 

 

 瑞鶴を探して近辺の森にやって来た加賀と翔鶴。その時、翔鶴の艤装の通信機能が作動する。

 

「!瑞鶴!?」

『加賀はいる?』

「ねぇ!瑞鶴なの!?」

『加賀はいるって聞いているの!』

 

 彼女はの怒鳴り声に怯む翔鶴。しかし、加賀はそれに答えた。

 

「ええ、ここに」

『ちょうどいいや。そこから近いし今から行くよ』

「ちょっと、瑞鶴!どういう事なの!?答えて!」

 

 結局、翔鶴の事は何も答えず通信が切れる。一方、加賀は何故、交信だけで自分達の場所が分かったのか考えていた。

 

「久しぶり」

 

 宣言通り、瑞鶴が二人の前に現れる。

 

「瑞鶴……」

 

 二人が同時に言う。

 

「翔鶴。皆さんに連絡を」

「はい!」

「さて……瑞鶴」

 

 瑞鶴を睨みつけた。

 

「瑞鶴……貴方にそんな歪んだ力を得て欲しくなかった……」

「今更上司顔しないでよ。散々馬鹿にしたくせに」

「そ、それは。いえ……」

 

 少し考えて言った。

 

「確かに貴方をこうしてしまったのは私の責任です。だから、私が処理します」

「加賀さん……?」

「やる気?いいよ来なよ」

 

 そう言って二人は艤装を腕に巻き、電源上げると構えをとる。

 

「変身」

 

 姿を変える加賀。瑞鶴は左腕を起点に全身が青白い炎に包まれたかと思うと姿を変えた。

 

「加賀さん!止めて下さい!」

「瑞鶴も止めて!」

 

 翔鶴は二人に必死に呼びかけるが、戦いを始めてしまった彼女らを止めることはできない。そこへ、赤城らが駆け付ける。

 

「翔鶴!加賀さん!一体何が!?」

「ああ、赤城さん!二人を!」

 

 悲痛に叫ぶ翔鶴。一方、加賀は高く飛び二本の足でキックを瑞鶴はパンチを打とうとしていた。

 

「もう止めてぇぇぇぇ!」

「翔鶴!」

 

 翔鶴は叫びながら、二人の間に入った。加賀は軌道を変えようとしていたが変えられず翔鶴に当たりそうになる。そこへ、赤城が翔鶴を抱きかかえ飛んだ。それと同時に瑞鶴のパンチが加賀に直撃する。

 

「ぐっ……あぁ」

 

 吹き飛び、木の幹に体を打ち付けると意識を失った。瑞鶴は勝ち誇った顔をすると、去ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 

 飛龍はすかさず瑞鶴の腕を掴むが突然、彼女は黒いもやをだしつつ霞のように消えてしまった。驚きのあまり自分の手を見る飛龍。

 

「瑞鶴……どうして……」

 

 両膝を地面に落とし俯き項垂れる翔鶴、そして。

 

「どうしてええええええええ!」

 

 彼女の叫び泣きが響いた。



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十五話 加賀、翔鶴、横須賀に行く

 私達は今、何処かの森を彷徨っている。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 彼女も息が絶え絶えになっている。それもそのはず、この子は加賀をねじ伏せた後、当てもなく只々歩き、時々現れる地上棲艦を倒す以外の事をしていないのだから。

 心配になった私は聞いた。

 

「瑞鶴、そろそろ休んだら?」

「必要、ない……!」

 

 全然聞かないなあ。

 

「でも……ね?」

「いらないって言ってるでしょ!」

 

 ここで、死なれたら困るのよお!

 

「強者にも休息は必要でしょ?」

「戦い続けていればいつかは……!」

「いつ?」

「いつか!」

 

 やっぱりあいつか……。

 

「加賀も倒したし、仕上げにあがりましょう」

「仕上げ?」

「今度こそ翔鶴を殺すの」

「……」

「分かる?あの時翔鶴、お姉さんは加賀の味方をしたの、最後の邪魔者である彼女を消せばもう誰も瑞鶴に逆らわない。欲しかった力と最強の称号が貰えるのよ?」

「……そこまでしなくてももう、持っている……!」

 

 くっ……二回も自我を奪ったのは、やりすぎたかしら……。

 いえ……翔鶴さえいなければ、全て上手くいくのに……。

 まあ、彼女の外見は徐々に私に似てきているからもう長くないでしょう。

 体が得られる。これほど素晴らしい事はないわ。

 

「う……あぁ……」

 

 そう言うと、瑞鶴は木の根に足を引っかけ、顔から派手に転ぶと動かなくなった。

 嘘!?ここで!?誰かー!

 また操る?いえ、意識がないと操れないし……。

 あっ……そうだ。最初からこうすれば良かったんだ。

 私は、一か八か、彼女の腕に巻かれた装置の電源を付けた。けたたましいエレキギターの音が響く。

 一般人……一般人こい……!

 

 

 

 森の別のエリア、現れた三体の地上棲艦に対峙するのは、三人の艦娘。

 一人は柿色のセーラー服に黒のスカート、白いマフラーとツーサイドアップの髪をなびかせている。

 もう一人は、似た服装に、頭の後ろに大きな緑色のリボンをつけており。

 最後の一人は、二人の間に立ち、得意げに腕を組む。

 そして、三人の共通点は、艦種は軽巡洋艦、腕にあの量産型の艤装を巻いてある事だった。

 中央に立つ彼女を筆頭に、艤装の電源を上げる、それぞれ、口笛、竹笛、ボーカル付きの可愛らしい曲が流れだす。

 センターの彼女は踊るようにステップをとりつつ一回転して艤装を起動させるとすかさず右手でピースを作り顔まで持って行き、ポーズを取る。

 

「変身!那珂ちゃん、オンステージ!」

「変身!」

「変身……!」

 

 両端の二人、神通は艤装が巻かれた左腕を腰に当て、右手で起動させると、ゆっくり右手を前に突き出し、川内は、艤装を起動させると、目を瞑り両手を広げる、そのまま腕を動かし、体の前で小さな円作るように動かすと左手を右手首に添え、人差し指と中指を立てた右手を顔の前に構えると目を見開き叫んだ。

 三人の体が光ったかと思うと、三人の服装が一気に変わる。

 更に、目の前に、一丁の銃が現れた。

 三人は迷わずそれを手に取ると地上棲艦に向けて発砲する。

 ある程度打つと、川内、神通は銃身とグリップを掴み、曲げる。

 棒の様な形にすると、銃口部分から刃が飛び出す、神通は刀を持つ様に、川内は逆手に持つと相手に突撃していった。

 

 

 

 これまでにない新兵器の効果もあって、すぐに決着はついた。

 

「ようし、お疲れー!」

「んー!はぁ!」

 

 那珂は体を大きく伸ばし、川内は銃剣を手元で器用に回しつつ言う。

 一方、神通は自分達の拠点である鎮守府に連絡していた。

 その時、三人の耳にエレキギターの音が微かに聞こえてきた。

 

「……?今の聞こえた?」

「うん」

「どうするんですか?」

「良し!私が見てくる。神通は取りあえず提督に伝えといて」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫、大丈夫」

 

 そう言って、川内は森の中へと消えていった。

 

 

 

「もしかしたら、この辺りにはもういないのかもしれません……」

 

 一方、赤城は、地上棲艦との闘いの合間に、失踪した瑞鶴の捜索を行っていた。

 神妙な顔で地図を見つめる、その時、蒼龍と飛龍が現れる。

 

「赤城さん、調子はどうですか?」

「何かわかりましたか?」

 

 その問いに赤城は何も言わず、首を横に振った。

 

「そうですか……」

「……翔鶴は?」

「私は……大丈夫ですよ……」

 

 音もなく工蔽に現れた翔鶴の姿にさらに空気が重くなる。

 今の彼女は髪も荒れ、瞳は真っ赤になりくまもでき、足取りもおぼつかない。

 

「赤城さん……手伝いますよ……」

「翔鶴、何度も言うけど……今は体を休めてください……」

「あの子は……瑞鶴は私の唯一の肉親なんです……あの子まで居なくなったら私は……」

「翔鶴……」

 

 その時、地上棲艦の出現を伝える警報が鳴り響く。

 

「だああ!こんな時に!」

「皆さん!場所は一ヶ所ですが、かなり数が多いです!」

「……全員出動ですね……」

「え、でも翔鶴は?」

「それは、私にお任せください!」

 

 赤城は、少し考えて飛龍、蒼龍、加賀の四人での出動を決める。

 翔鶴をどうするのか聞いた蒼龍に答えたのは、リエだった。

 

「リエさん!よろしくお願いします……」

「はい!皆さんも頑張って!」

 

 赤城は、携帯電話を取り出し加賀に連絡を取りつつ飛龍、蒼龍と共に、現場へ向けて走り出した。

 リエはそれを見送ると、翔鶴に近づく。

 

「翔鶴さん、大丈夫ですか」

「いいえ」

「そうでしょうね」

「今……私はどうしたら……」

「本当は分かっているんじゃないんですか?」

「え?」

「全ての元凶は加賀さんだって」

「そ、それは……」

「だって、加賀さん、捜索にも消極的ですし」

「加賀さんにも、何か考えがあって……」

「その考えで、皆さんの命を奪おうとしているんですよ!きっと!」

 

 反論できずに、しどろもどろになる翔鶴、そこへ、吹き込む様に加賀への悪意を伝える。

 翔鶴は、ただ頭を抱えるしかなかった。

 

 

 

「はああああああああ!」

 

 海岸、赤城は、現れた地上棲艦に途中で合流した加賀と共に、キックを放った。

 赤城の片足、加賀の両足を使ったキックは、地上棲艦を貫き、爆破させる。

 

「これで全てですか?」

 

 残党が現れる気配を感じないと加賀は去ろうとしたが、それを飛龍が止める。

 

「加賀さん!待って下さい!」

「何かしら」

「加賀さんは……今何をしているんですか?」

「調査よ」

「一体何の!?」

「……瑞鶴を襲った現象よ」

「げ、現象?なぜ、そんな事を?それに現象って……」

 

 飛龍が言いかけた所で、蒼龍の艤装に連絡が入る。

 

「もしもし」

「蒼龍?今その場に全員いる?」

「うん」

「それじゃあ、三人にも伝えて、提督が話があるから執務室に来てって」

「翔鶴は?」

「我々から、伝えておきました」

「分かった」

 

 明石からの連絡を切ると蒼龍は三人に話の内容を伝えた。

 

「提督の話?」

「取り敢えず行ってみましょう」

 

 赤城を先頭に四人は鎮守府へと戻っていった。

 

 

 

「皆、よく集まってくれた」

 

 提督の呼びかけに、集まった五人、提督は続けて言う。

 

「瑞鶴が見つかった、何でも別の鎮守……」

 

 そう、言いかけた瞬間、翔鶴が目を見開き、提督に掴みかかった。

 

「瑞鶴は!瑞鶴はどこにいるんですか!?」

「ちょ、翔鶴!落ち着いて!」

「……横須賀だ」

「横須賀!?」

 

 揺さぶられつつも放った、提督の一言に驚きを隠せない五人だった。

 

「よ、横須賀って……ここから、かなり離れているわよ!?」

「一週間近く歩いて、横須賀……無茶しすぎでしょ……」

「何でも、近所で行き倒れていた所を保護してくれたらしい」

 

 飛龍、蒼龍の驚きを聞きつつ、提督はさらに続けて言う。

 

「加賀、翔鶴。横須賀まで彼女を迎えに行ってくれないか?」

「!」

 

 提督の提案に再び驚く加賀、翔鶴。

 しかし、二人からでた言葉は意外なものだった。

 

「提督、加賀さんは連れて行かなくても良いではないでしょうか?」

「はい、ここは翔鶴だけで十分かと……」

「これは、上官命令だ!反論は一切受け付けない」

 

 普段は見せない強気な態度に体をこわばらせる五人、提督はさらに言う。

 

「報告は以上だ。加賀と翔鶴は出発の準備が出来次第、俺に言ってくれ」

 

 五人は何も言えずただ、立っているしかなかった。

 

 

 

 



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十六話 加賀、再会する

 夕暮れ時、一台の車が道を行く。

 

「見えてきましたね」

 

 車に揺られつつ、窓から見える景色に感想を呟く加賀、翔鶴もまた、横須賀鎮守府が目に入り、呟く。

 

「……はい」

 

 昨日と出発前に三人としたやり取りを思い返しつつ二人を乗せた車は滞りなく横須賀鎮守府へと入っていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 昨日、提督に加賀と共に横須賀へ向かう様、命令を受けた翔鶴、しかし、心労、リエの言葉、加賀の態度から彼女への不信感が強くなっていた。

 

「翔鶴、さっきから俯いているけど大丈夫なの?」

「え、ええ……」

 

 赤城加賀の共同部屋で翔鶴のケアも兼ねて、今後の計画の会議を行う事になった五人。

 提督は確かに加賀と翔鶴を抜擢したが、加賀はそれを蹴ろうとしていたそれを気にした蒼龍は疑問を投げかける。

 

「加賀さん、どうしてあの時断ろうとしたの?」

「私がここを離れたら誰が鎮守府周辺を守るんですか?」

「それだけですか?」

「……わざわざ二人で迎えに行くまでもないでしょう……」

 

 飛龍の問いかけには、目を逸らしつつ答える加賀。

 赤城は、過去に瑞鶴と森の中で戦った事について聞いた。

 

「私からも良いですか?」

「赤城さん? どうぞ」

「何故、あの時、瑞鶴を蹴ろうとしたんですか?」

「それは……」

「瑞鶴が邪魔だったから」

 

 加賀の代わりに答えたのは閉口していた翔鶴。

 

「瑞鶴が気に入らないからその為に……!」

「翔鶴!?」

「あの子は……あの子は貴方に殺されたようなものです!」

「翔鶴!」

 

 翔鶴の突然の罵倒に驚きを隠せない、三人。更に翔鶴は続けて言う。

 

「以前、貴方は瑞鶴に協調性が無いと言いましたよね? でも、本当に無いのは加賀さんの方ではないですか?」

「翔鶴! 熱くなりすぎ!」

「落ち着いて!」

「……」

「何か言ったらどうですか!」

 

 憤る翔鶴に無表情で聞く加賀、そして言った。

 

「……彼女を放っておけば被害が拡大する恐れがあった……私は最善の選択をしたつもりです」

「!」

 

 その台詞を聞いた瞬間、翔鶴は、立ち上がり、凄まじい剣幕で加賀の胸倉を掴み、壁に叩き付ける。

 しかし、加賀は全く抵抗しない。

 

「翔鶴!」

「……だ……!」

「……せいで……!」

「貴方のせいで瑞鶴はぁぁぁぁぁ!」

 

 二航戦の制止を無視し、叫び、右手を大きく上げる翔鶴。しかし、翔鶴のビンタは加賀には届かなかった。

 彼女の手を止めたのは赤城だった。

 

「翔鶴! いい加減にしなさい!」

 

 普段では出さないであろう赤城の怒鳴り声に動きが止まる四人。

 

「あ……あああぁぁぁ……!」

 

 自分がした事に気づき、加賀から手を放して仰向けに倒れると、両手で顔を押さえて泣き出した。

 

「ごめんなさい……私……私は……」

「……」

「……」

 

 何も言わず、背中をさする赤城、何も言わないだけの加賀。

 

「すいません。蒼龍、飛龍、加賀さんを別室に連れて行ってくれませんか?」

「わ、分かりました」

「すいません加賀さん、こちらへ」

「はい」

 

 加賀を連れ二人は外へ連れて行った。

 

「うぅ……うぅぅぅぅ……!」

 

 赤城は翔鶴が大人しくなるまで手を握り、さすり続けた。

 

 

 

 一方、加賀は蒼龍、飛龍の共同部屋にいた。二人の部屋も一航戦同様、畳の敷かれた和風のものとなっている。

 

「加賀さん、どうしてあんなことを……」

「……私は、思った事を言っただけよ」

「思った事って……」

「……艦娘として、人を守る。だから私は、あの状況で一番の行動をとりました」

「それ、本当ですか?」

「何ですって……」

 

 飛龍の問い詰めに淡々と答える加賀、しかし、蒼龍が口を開く。

 

「加賀さん……それって嘘ですよね……?」

 

 蒼龍は加賀を睨みつけながら言った。

 

「それが加賀さんの本心だったら……私、あなたを心の底から軽蔑します」

「加賀さん、私達が貴方を嫌う前に答えてください」

「本心の……訳……ないでしょう……!」

 

 蒼龍に嘘を見破られ、飛龍に追い詰められ、加賀は本心を少し漏らす。だが、それを聞いた蒼龍は睨むのを止め微笑む。

 

「……良かった。加賀さんは加賀さんだ」

「何故、私が嘘だと分かったの?」

「私達も赤城さんほどではないけど、長い付き合いじゃないですか!」

「加賀さんって、理屈っぽいよね」

「だよね!」

「どういう事かしら?」

「時には、感情に身を任せるのも大事って事!」

「感情論ですか?」

 

 蒼龍の最後の一言に首を傾げる加賀。飛龍はそれを無視して聞く。

 

「じゃあ、加賀さんの隠し事、教えてもらおうかな?」

 

 

 

「落ち着きました?」

「……はい」

 

 嗚咽を吐きながらも、落ち着きを取り戻した翔鶴。

 

「先ほどはすいませんでした」

「赤城さん?」

「貴方の前で、瑞鶴の話をしてしまって……」

「そんな、元はと言えば、自制が出来ていない私に責任があります!」

「翔鶴、貴方もしかして、謝り癖がついている?」

「す、すいません……」

「やっぱり……それは、早くに直した方がいいですね」

「すいませ……あっ」

「ふふっ」

 

 謝罪からの談笑となった二人の空気。そんな中、翔鶴は、恐る恐る聞く。

 

「赤城さんは、もし、大切な人を失ったらどうするんですか?」

「大丈夫ですよ」

 

 赤城は、微笑みながら言う。

 

「私の大事な人は簡単に負けたりしない。私はそう信じています」

「でも、もし負けてしまったら……!」

「私が救い、守ります!」

「赤城さん……」

「瑞鶴は強い。私に頼らなくても乗り越える。そう信じています」

「私も強くなれますか?」

「なれます! その気持ちと優しさ、自信を失わない限り!」

 

 赤城の根拠はないが、安心感を与えてくれる言葉に勇気づけられる翔鶴だった。

 

 

 

 翌日の昼、加賀、翔鶴は三人に見送られ、送迎車に艤装を詰め込め乗ると、横須賀へ向かった。

 鎮守府からはかなり距離があり、着くころには既に日も暮れ始めてた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 車から降りた二人は、待っていた艦娘に連れられ、横須賀鎮守府の執務室に入った。

 

「ほぉ、お前達があいつの送った艦娘か」

 

 机に両足を置きふんぞり返る、白の軍服を両肩にかけているタンクトップの男。その人の前で、起立の姿勢を崩さない二人。

 

「俺様はここ、横須賀を担当している者だ。短い付き合いになるかもしれないがよろしく頼む」

「航空母艦、一航戦加賀、短期間ですがよろしくお願いします」

「同じく航空母艦、五航戦翔鶴、よろしくお願いします」

「翔鶴……あいつは確か、姉をよこすとか言っていたなお前か」

「はい! 瑞鶴は何処に!?」

「独房だ。それと今の奴を見る覚悟はあるか?」

「……はい……!」

 

 

 

 横須賀提督と共に、独房へやって来た。横須賀提督は一番奥の扉の前で足を止めると言う。

 

「ここだ」

「瑞鶴……」

 

 扉の窓から中を覗く翔鶴は手で口を押さえ息を飲んだ。

 ベッドで横たわっている彼女は、今、深緑色だった髪は漆黒に染まり、瞳も真紅に輝き、肌も深海棲艦の様に色白になっていた。

 その時、翔鶴と目が合った瑞鶴が叫ぶ。

 

「翔カク姉ェェェ!」

「瑞鶴!?」

「だあああ、来るな来るな来るな来るな来るな!」

「瑞鶴!? しっかりして!」

 

 ただ事ではないと見た加賀もまた、窓を覗くその時。

 

「加ガさアアアアアア!」

「!?」

 

 思わず、扉から距離を取る二人、瑞鶴は扉を蹴破ろうと何度も蹴りを入れる。

 

「とんでもない反応だ……!」

 

 提督は二人の前に立ち、警戒した。

 その時、提督の方へ一人の艦娘が走ってき、耳打ちをする。

 

「分かった」

 

 彼女の話を聞くと、二人の方を向き言う。

 

「近くで、地上棲艦が現れたらしい、腕も見たい。行ってくれるか?」

「分かりました。翔鶴、行きましょう」

「はい……」

 

 加賀に言われて独房を離れようとする二人、翔鶴は去り際に呟いた。

 

「瑞鶴……すぐに戻るからね……!」

 

 

 

 横須賀鎮守府周辺、現れた大量の地上棲艦を討つべく、駆け付けた二人は変身し姿を変えると奴らに立ち向かった。

 着実に数を減らしていっている中、彼女が現れた。

 銀の髪、ツインテール、眼鏡、左腕に巻かれた試作型の艤装、黒の衣装に褐色肌の武人。

 

「ここか」

「貴方は!?」

「相棒から話は聞いた、武蔵参る!」

 

 武蔵はそのまま相手の目の前に現れ、右ストレートを放つ、地上棲艦は数メートル飛ばされると、大爆発を起こし消滅した。

 

「一撃で!?」

 

 加賀と翔鶴の驚きを無視して、変身せず、生身で地上棲艦を葬り、そのまま残りの数体の地上棲艦を消す。

 武蔵は、唖然とする二人に近づき自己紹介を始めた。

 

「大和型二番艦、戦艦武蔵だ。よろしく頼む」

「航空母艦、加賀です」

「お、同じく翔鶴です」

 

 その時、一人の男性が息を切らしつつ走ってきた。

 

「貴方は……!」

「武蔵君! 艤装の調整が終わってないのに……勝手に……出るなんて……」

「すまない。彼女らにも色々、見せたくてな。だが、艤装は使わずに済んだぞ」

「生身で倒したの!? って彼女ら……?」

 

 そう言って顔を上げる、そこには見慣れた顔が一人。

 

「……加賀君」

「お久しぶりです。博士」

「知り合いですか?」

「艤装の開発者よ」

「……何故、君がここに?」

「私は、持てる技術をもって貴方を調べました。しかし、大きな結果は得られませんでした。私がここに来たのは貴方の過去を直接聞きだすためです」

「加賀君……」

「部下の死の遠因を作りかけている貴方に……!」

「遠因……?」

「以前、リエさんから、貴方の過去の実験を聞きました。そして、一度、瑞鶴の艤装が壊れました。その日からよ、彼女が変わったのは」

「そんな事が……」

「さぁ、教えてもらいましょうか。全てを」

 

 加賀は博士を睨みつつ言った。




次回もお楽しみに


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十七話 加賀、過去を知る

最近、赤城の扱いがぞんざいになっている気がする……


「ここだ、入ってくれ」

「失礼します」

 

 キョロキョロと首を動かす翔鶴を最後尾に加賀は、博士について行き横須賀鎮守府の研究室へと入った。

 自身の鎮守府では中々、見られないような機器が並んでいる。

 

「少し待ってくれ」

 

 そう言って博士は机の上に散らばった、機械、資料全てを一気に隅に寄せ、椅子を三つ用意した。

 

「まぁ、座って」

「失礼します」

 

 翔鶴もお辞儀をすると、加賀と同じように礼儀正しく座った。

 

「それでは、まずは何を聞きたい?」

「それでは、過去に行った実験について、教えてもらいます」

「……分かった」

 

 一呼吸置くと博士は、口を開く。

 

「昔、二つの研究が進められていた。一つは今、君たちの着けている艤装、まあ言い換えれば持ち主の肉体強化。もう一つは、過去の人物の意識、記憶を取り込み、心身共に強化する研究だ。私は前者を大きく推したのだが、乗ってくれる人が少なくてね……」

「もう一つの方には参加されなかったのですか?」

「いや、知識の共有という形で、時々呼ばれていたね」

「当時の写真とかは……」

「あるよ。ほら」

 

 そう言って、博士は二枚の写真を取り出し、二人に見せた。

 

「これが、当時の私だ」

 

 一枚の写真内に、数人の中央に立つ男性に指を指す博士。

 

「……本当に人がいなかったのね」

「まぁ、もう片方の研究が人気だったからね」

 

 博士がもう一枚に目線を動かすと、それに合わせて二人の目線も動く。その時、翔鶴はもう一枚の写真の中央に立つ、目が虚ろな女性を見ると目を見開き強く言った。

 

「こ……この人です!」

「え?」

「加賀さん。以前、私と瑞鶴は、目の前で人が姫になって襲い掛かってきた事がありますよね」

「ええ……私と赤城さんが駆け付けると、逃げる様に消えていったわ」

「姫になった人……間違いありません。この人です!」

「それは本当なの?」

「この顔……忘れるはずがありません!」

「まさか!?彼女はあの事件で亡くなったはず!遺体だって出た!」

「あの事件……?」

 

 二人だけで話を進めている途中、衝撃的な事を言う博士、翔鶴も反論する。

 

「そんな!じゃあ私が見たのは……!」

「待って頂戴。あの事件というものをまだ、聞いてないわ」

「……そうだった。では、話そう」

 

 博士はゆっくりと口を開き、全てを話し始めた。

 

「私が携わった研究、艤装班は、問題の研究、精神班と対立していたんだ」

「対立?何故?」

「上層部の予算が原因だね、資金も無限じゃないからどちらに投資するか……ってね」

「そもそも何故、新しく研究を行う必要があったんですか?」

「確かに、艤装の種類はかなりありますよね」

「艦娘になれる人は限られてくるからね。少しでも、増やせる可能性を上げたかった……と私は思っている」

 

 博士は上を向いて一言漏らす。

 

「この時、精神班班長、西谷里惠はとても焦っていたな……」

「西谷里惠……先程の女性ですか?」

「ああ、そして私が艤装班班長だった」

「里惠とリエ……名前が同じね」

 

 加賀は誰にも聞こえない小さな声で呟く。

 

「結果を急いだ彼女は深海棲艦を生け捕りにして、奴らの意識を取り込むという計画を企画してしまったんだ」

「何ですって……!」

「これは聞いただけの話だが、最初の内は何人かの研究員が志願して、自らが実験体になったらしい」

「そ、それでその方たちは?」

「ほぼ全員が失踪したらしい」

「そうですか……」

「それで、計画はどうなったの?」

「ある日、研究所の爆発が起きた。私も憲兵と共に駆け付けると、中は荒らされ、研究員の惨殺体と綺麗な遺体、はっきりと言えるのは、生きた人間はいなかった」

 

 俯き、写真を見つつ言った。

 

「残された資料と結果を調べてみると、彼女は死刑囚や犯罪者も研究材料にしていた事が分かった。彼女の人間性等、以上の事から、この研究の凍結が決まった。」

「すみません。私達はそのような話は聞いてないのだけど?」

「それに、人体実験をしていたあたりで、かなり危険だと思いますが……誰も気づかなかったんですか?」

「大本営で完全黒な実験していた事を公にするわけないだろう。後は、提出された論文と比較すると、全く異なっていた」

「隠蔽と虚偽の報告……ね」

「それから暫くして、地上にも深海棲艦が現れるようになった。そのおかげか、上は予算を艤装班に一気に投資してきたよ」

 

 乾いた笑いをするこぼす博士。

 

「これが、私の知る全てだ。ほかに、質問はないかい?」

「瑞鶴は……瑞鶴は助かるんですか?」

「本物の論文には、成功した人、元に戻った者は、誰一人いなかったらしい……」

「そんな……!」

「……他は?」

「……そうね。どうやって意識や記憶を取り込んだのか、知っている範囲で教えて頂戴」

「確か、最後に行われた実験ではそれらをデータ化させて、機器を通して入れる。というものだったね」

「でーた?」

「……記録の事ですよ」

 

 翔鶴に耳打ちされる加賀。軽く咳き込み、普段の毅然とした態度になる。

 

「……そう」

「二人共、ほかには?」

「いえ、特には……」

「……」

 

 そう言った所で、突如ドアが開き、武蔵が入ってきた。

 

「加賀と翔鶴はいるか?」

「武蔵君?」

「こちらにいますが……?」

 

 突然の訪問に驚きを隠せない二人、それを無視して話を続ける武蔵。

 

「瑞鶴に会いに行かないか?」

「!分かりました……!」

「待って、私達が行けばまた刺激しかねないわ」

「心配するな。今度は私が監視に付く」

「……分かりました。しかし、彼女に何かあったら……」

「言ったろう。心配するな」

「……では、失礼します」

 

 一礼すると立ち上がり、武蔵の方へ行く加賀、翔鶴もまた、頭を下げると、武蔵の方へとついて行った。

 

 

 

 三人は廊下で話をしながら、独房へ向かっていた。

 

「あの……」

「どうした?」

「瑞鶴とは、どの様な関係何ですか?」

「ああ、元は川内、うちにいる艦娘が、近所で行き倒れていた所を保護して、医務室で寝かしたまでは良かったんだが、目を覚ました途端、暴れだしたんだ。それを私が沈めた事で、瑞鶴……いや、あいつは私の言う事は聞くようになった事から監視役になったんだ」

「すいません……」

「何故謝る?」

「私の不注意で瑞鶴が迷惑をかけて……」

「お前も彼女も悪くないだろう……それに、瑞鶴から二つの気配感じるんだ」

「二つ……?」

「彼女と深海……いや地上棲艦か、今は、棲艦の方が勝っているみたいだな。だが、完全に支配されたわけではなさそうだ」

「気合で自我を保っていると言う事?」

「まあ、そうだろうな」

 

 そんな話をしている内に、独房入口前に立つ三人。

 

「よし、行くぞ」

「すいません武蔵さん、加賀さんと二人きりで話をしたいので、先に行っていてもらえませんか?」

「……早め……いや、少し長めでもいいぞ」

 

 武蔵は少し考えると、言いかけた言葉をすかさず訂正して言うと、独房へ入っていった。

 

「それで、何かしら?」

「加賀さんは……瑞鶴を信じていますか?」

「あの子が戻ってくる事?」

「はい」

「……彼女次第、ね」

「瑞鶴は強いと思いますか?」

「それも彼女次第ね」

「瑞鶴は、加賀さんの大切な人に入っていますか?もし、いなくなったら……」

「何を言い出すの?」

「答えてください!」

「……そうよ」

 

 目を逸らしつつ、話す加賀。そこへ、翔鶴は最後の質問を放った。

 

「加賀さんはどうして、瑞鶴を蹴ろうとしたのですか……」

「……」

 

 加賀は何も言わず、ドアノブを握る。

 

「加賀さん!」

 

 加賀はそのまま、独房へと入っていく。

 

 

 

 翔鶴に頼まれ一足早く入室した武蔵はドア越しから、瑞鶴と話を始めた。

 

「調子はどうだ?」

「……最悪ですよ……」

 

 簡易ベッドに横たわる瑞鶴。

 

「そうか、それよりも二人が来たぞ」

「武蔵さん」

「どうした?」

「私、もう加賀さんにも翔鶴姉にも会えないよ……」

「何故だ?」

「……こんな体で、暴れまわって……散々迷惑かけて……加賀さんにも蹴られそうにって……」

「縁でも切られたとでも思っているのか?」

 

 溜息をこぼす武蔵は優し気に論し始めた。

 

「加賀は簡単に見捨てる奴には見えないし、翔鶴は肉親のはずだろ?第一、ここまで来ないしな」

「でも……」

「よし、良い事を教えてやろう。整理がつかない時には、深呼吸をして全神経を集中して耳を澄ませ、そうすれば道は見えるはずだ」

「耳を澄ます……」

「試してみると良い」

 

 話をしていると、加賀と翔鶴が独房へと入ってくる。

 

「瑞鶴!」

「!……翔鶴姉……!」

「久しぶりね」

「加賀さん……」

 

 翔鶴は言葉を選びながら、慎重に言った。

 

「瑞鶴……その……大丈夫?私に何かできる事はない?」

「……」

「……何か言ったらどうなの?」

「……何でここまで来たんですか?」

「姉だからよ!それ以外に何があると思っているの!?」

「私は、上司として、それだけよ」

「二人共……」

「言いたい事は今のうちに言った方がいいのではないか?」

「何ですって……?」

 

 武蔵の一言に、反応する加賀。

 

「いや、説得力が薄く感じられてな」

「……敵わないわね」

 

 加賀は目を瞑り、意を決した様に、告白した。

 

「私がここに来たのは、貴方に謝るためです」

「謝る?」

「先日、貴方を傷つけようとした事です。本当にごめんなさい」

 

 そう言って深々と頭を下げる加賀。

 

「加賀さん……」

「そして、私の勝手で知らないうちに傷つけていた事を今になって知りました」

「勝手?」

「はい、これは先代の五航戦の話なのですが……」

 

 その時、武蔵の携帯電話から着信音がなりそれに出る。

 

「私だ……そうか、人数は?……分かった」

「どうかしたのですか?」

「奴らがまた来た。来てくれるか?」

「……分かりました」

「……瑞鶴、また来るからね」

「しかし、奴ら波状攻撃のつもりか?」

 

 それぞれ、色々言いつつ独房を出た。

 

 

 

 三人が部屋を出てからそれなりに立つわね。はぁ~、長かった……本当に……。

 

「!また!」

 

 久しぶり。

 私だって、考えているのよ?

 

「もう、出てこないで!」

 

 分かっているんでしょう。もう長くないって。

 

「そ、そんな事はない!」

 

 見栄ね。あんたはこれから私と成り代わる。

 

「嫌よ!そん……んぐぅ……あぁ!」

 

 頭を押さえて悶えても無駄。これからは、私が瑞鶴として戦ってあげるわよ。

 

「嫌だ……嫌だ……」

 

 深海棲艦になってね!

 

「嫌あああああああああ!」

 

 叫ぶと彼女は糸が切れたように倒れる、体は……よし動かせる。

 

「ヤッタ!ヤッタゾ!」

 

 私は飛び跳ねると、扉を蹴飛ばす。蹴り一回でドアは見事にひしゃげて、そこから脱走する。

 

「コレガ、艦娘ト深海棲艦ノチカラカァ……」

 

 私は、自分の体を見つつ言った。




次回もお楽しみに


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十八話 瑞鶴、復活

瑞鶴編は今回でラスト


 横須賀鎮守府から離れた海岸、加賀、翔鶴は武蔵と共に、現れた地上棲艦に挑もうとしていた。

「変身」

「変身!」

 艤装を装備し姿を変え、二人は大群の中へと飛び込む。

 一方武蔵は不敵な笑みを浮かべた。

「これぐらいの相手なら、必要ないな」

 指の関節を鳴らしつつ歩いて迫る武蔵、飛び掛かってきたチ級の攻撃を首を逸らして避けると腹部に蹴りを入れる。すかさず、地面を蹴りチ級と共に大群の中へと入った。更に近くにいる者にパンチを一撃づつお見舞いする。後ろからの不意打ちも後頭部に目が付いているのかと疑りたくなるに簡単に避け、回し蹴りや胸倉を掴み頭突きを撃った。

「翔鶴!こっちに投げろ!」

「は、はい!」

 武蔵に命令され、近くにいたル級の腕を掴むと、一本背負いの要領で彼女の方へ投げた。

「ル級か……いい判断だ」

 飛んできた地上棲艦を見て呟くと、アッパーを当て、3メートルほど打ち上げる。残っている相手の方を睨むと、落ちてきたル級を残党の方へ向けて殴った。

「フンッ!」

 ル級は殴り飛ばされ、飛んだ先にいる相手も巻き込み、一掃する。

 加賀もまた手刀を構え、回転切りを放ち、自身の周りにいる地上棲艦を殲滅した。

 辺りの敵を一掃しても、警戒を続ける二人を他所に武蔵は、携帯電話の着信に気づきそれに出る。

「武蔵だ。提督か、どうした」

 黙って、彼の考えを聞く武蔵。説明が終わったのか、口を開いた。

「そうか。お前の案に賭けよう」

「どうかしたんですか?」

「全員、ここで待機だ」

 

 

 

 一方、横須賀鎮守府では、瑞鶴の脱走に加え、周辺の地上棲艦に追われていた。

「内側は手薄。楽勝ね」

「手薄?それは違うわ」

 声の方を見ると、亜麻色のポニーテール、赤色のスカート、白の服、長さの違う靴下をした女性が現れる。

「誰?」

「名乗った方がいいかしら?」

「どっちでもいい……かな!」

 そう言うと、意識を完全に奪われた瑞鶴が女性に襲い掛かった。しかし、女性は瑞鶴の腕を掴み、外へ投げ飛ばした。

「わああああ!」

 そのまま、グラウンドに飛ばされ転がる、そこへ女性が歩いて迫る。

「話は、提督と武蔵から聞いたわ。貴方は私一人で十分だと」

「カンムスノチカラヲエタ!ワタシハサイキョウダ!」

「そう」

 腕に艤装を巻き起動させると言った。

「変身!」

 その音声と共に、大和の姿が紅白のドレス姿になる。

「戦艦大和。推して参る!」

「ヤマト?」

「後、私には妹がいるの。武蔵って言うのだけれど……」

「!」

 武蔵の姉、これだけで地上棲艦を警戒させるには、一番の言葉だった。危機を察したのか、森の方へと逃げ出す。

「逃がさないわ」

 一瞬で瑞鶴の前に現れ、ビンタを撃つ、更に腕を掴み、鎮守府の門の方へ飛ばす。

「イイィ!」

 今度は海岸の方へ、逃げようとする。しかし、大和はそれを追いかけず見逃すのだった。

「提督、良かったのですか?」

 変身を解き、携帯電話で提督と連絡を取る大和。

「ああ、海岸の方に行ったのなら問題ない」

「海岸には何が?」

「武蔵らがいる」

「大丈夫ですか?」

「三人を信じろ」

 

 

 

 海岸で待機していた三人の前に瑞鶴が現れる。

「カガァ……ショウカクゥ」

「……来たか」

「瑞……鶴……」

「瑞鶴!あなたはそんな事をする子じゃないはずよ!」

「ズイカクゥ?アイツハシンダヨ」

「死んだ……?」

「そんな訳ない!私を置いていくなんて!」

「イマナラカテル……オマエタチニナァ!」

「ほぉ……試してみるか?」

 そう言うと、武蔵は艤装を巻き力強く呟く。

「変……身!」

「変身」

 姿を変える武蔵と青白い炎を纏いながら変身する瑞鶴。互いに睨み合うと走り出して、拳と拳をぶつけ合った。

「瑞鶴!耳を澄ませ!」

「ダカラシンダト……」

 そう言いかけた時、胸を押さえて苦しみだした。

 

 

 

「……ここは?」

 瑞鶴が気が付くと、夕焼けが眩しい海岸にいた。

「瑞鶴!」

 声のする方を向くと、翔鶴が手を振りながら走ってきている。

「翔鶴姉!って確か、私……」

「大丈夫!それは、私が倒したから」

 両手を広げ、微笑む翔鶴。

「だから……来て……」

「翔鶴姉……」

 ゆっくりと彼女に近づこうとした時。

「…………せ」

「瑞鶴?」

「……何かが聞こえる……」

 そう言って、ゆっくり目を瞑り、全神経を耳に集中させた。

『瑞鶴!耳を澄ませ!』

「耳?」

「瑞鶴!それ以上聞いてはいけない!」

『瑞鶴!瑞鶴!』

「翔鶴姉?でもここにいるし……」

「それは罠よ!」

『瑞鶴は強気だけど、誰よりも私の事を考えてくれる!分かってくれている!』

 目を閉じてまま、声のする方、海へ向かって歩き出す。

『あなたは、私にはないものを持っている!』

『翔鶴……』

「今度は加賀さん?」

「待ちなさい!」

『貴方がいるべき場所はそこではないでしょう。今すぐ戻りなさい……!』

『瑞鶴!子供の頃言ったでしょう!私がお姉ちゃんを守るって!それで私は、あなたを守ると誓った!』

「私が翔鶴よ!たった一人の姉よ!?惑わされないで!」

 瑞鶴の体は、腰まで海水に浸かっておりこのまま歩けば、沈んでしまう所まで来ていた。

『あなたは私の……』

 一歩ずつ、歩みを進める。

『愛おしくて……』

「止めなさい!」

「放せ!」

 翔鶴は瑞鶴を羽交い締めにして止めるが、彼女がそれを払う。

『頼もしい……』

「行かないで!」

 ついに彼女は首から下が沈む所まで来てしまった。

『守るべき……』

「聞くな!」

『大切な……』

「私の言う事を聞けええええ!」

『たった一人の……』

「ズイカアアアアアアアアク!」

『妹よ!』

 この声を最後に瑞鶴は沈んでいく。赤く輝く海面から離れていき、暗い海の中へ落ちていく、しかし、彼女は暗闇で微かに光る何かに向けて手を伸ばした。輝きは大きくなり、やがて彼女を包む。

 

 

 

「うわっ!」

「ガァ!」

 その時、瑞鶴の体から、半透明の人影が飛び出し、その衝撃で、吹っ飛ぶ。

「!?」

「何だ!?」

 驚きの声を出し人影が飛んで行った方を見ると瑞鶴がいた。

「瑞鶴?」

「加賀さん?武蔵さん?ってなんなのよこれ!?」

 二人を見て、半透明になった自身見て困惑してしまう。

「ショウカクゥ!」

 突然の大声の方を向く一行。

「オマエサエ……イナケレバ……」

 瑞鶴の体をした地上棲艦はゆっくりと立ち上がり、翔鶴に襲い掛かった。

「オマエサエイナケレバアアアアアア!」

「翔鶴姉!」

 姉の危機に翔鶴の前に飛び出す瑞鶴、相手の振りかぶった一撃に片膝をつくが両手でそれを押さえる。

「瑞鶴!」

「今度こそ……守ってみせる!」

「それでいいわ。戦いなさい、瑞鶴!」

「自分の周りには誰がいるか、何の為に力を求めるか、何故、艦娘になったか。思い返しながら拳を振れ!」

「はい!」

 私の周りには翔鶴姉しかいないと思った。上司を疎ましく思う時もあった。地上棲艦に打撃を繰り出しつつ自身の思いを拳に纏い撃つ。

「私が艦娘になったのは!」

 そう言いかけた時、相手の一撃を受け、飛ばされる、そして止めと言わんばかりに突っ込んできた。

「瑞鶴!」

「待ちなさい」

「しかし!」

「これは、あいつの戦いだ。出る幕はない」

 瑞鶴の劣勢に加勢しようとするが、それを加賀らが止める。そして、瑞鶴は地上棲艦が目の前に来た所でストレートを腹に向け放ちつつ叫んだ。

「姉を守るためだあああ!」

 瑞鶴の狂いなき一撃は地上棲艦の意識だけを貫き、致命傷を与える。

「ズイカァク!」

「……何?」

「コウカイスルヨ……ワタシヲウシナッタコトヲ……」

 そう言うと、彼女の体から黒い霧が出て行き、消滅した。それと同時に半透明の瑞鶴も消える。

「瑞鶴!?」

 驚く翔鶴だったが次の言葉で更に驚いた。

「やった!戻れた!」

 自身の精神が元の体に戻り、彼女の中の地上棲艦が消えた事で肌は健康的な色に、瞳も真紅でなくなり、髪も漆黒から深緑色に戻れた。

「瑞鶴!」

 翔鶴は瑞鶴の方へ走っていき、身動きが取れなくなるほど力強く抱きしめる。

「もう離さない……」

「翔鶴姉……?」

「絶対に離さないから!」

「だから……だから……」

「うん…………ゴメン……」

「う……うう……うわあ……ああああああああああああああ!」

 声を荒げて泣き出した翔鶴に武蔵は微笑み、加賀は背を向けて空を見上げると何も言わず、目じりを拭った。

 

 

 

「ご迷惑をかけて本当に、すみませんでした!」

 横須賀提督に頭を深々と頭を下げる三人。しかし、彼は尊大な態度だが、穏やかな声で言った。

「いやいい、それよりも、俺様に謝るより先にすべき事があるだろう?」

「えっと……何か?」

「察しが悪いな。大和!」

「はい」

 提督の右隣に立っていた大和が電話を差し出す。

「瑞鶴、出ろ」

「は、はぁ」

 そう言って、受話器を手に取り耳に当てると聞きなれた声が聞こえた。

『赤城です』

「赤城さん」

『瑞鶴……瑞鶴なの!?』

「はい!」

『良かった……今二人にも変わりますね!』

 そう言うと、赤城は蒼龍に受話器を渡す。

『瑞鶴!大丈夫!?』

「ええ、まあ、はい」

『うう~、良かったぁ~』

『蒼龍!ちょっと私にも聞かせて!』

『あ!ちょっと!』

『瑞鶴!久しぶり!』

「あ、久しぶりです」

『良かったあ~、加賀さんと翔鶴、やったんだね』

「二人だけじゃないです。武蔵さんにも助けてもらいました」

『飛龍返して!』

『いいじゃんいいじゃん。もう少し』

『ケチ!良いから渡して!』

『二人共!喧嘩をするなら私が出ます!』

「……聞いてますか?」

『すいません。二人共すごく嬉しいみたいで……』

「あの、赤城さん……」

『はい』

「私、艦娘でいていいんでしょうか……?」

『……』

 少しの沈黙の後、再び赤城が口を開く。

『早く戻って来てください。その答えへのヒントは、直接私が教えます』

「……分かりました」

『……すいませんが、加賀さんに代わってもらえないでしょうか』

「はい」

 何も言わず、加賀に受話器を渡す瑞鶴、そばにいる翔鶴は瑞鶴の言葉の意味を聞いてみる。

「瑞鶴……さっきのは……?」

「……言葉通り。散々迷惑を掛けた私が、艦娘をやり続けていいのかなって……」

「瑞鶴……」

 赤城と今後の話をする加賀の後ろで、五航戦は負い目と戦っていた。




次回、ギャグ回


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十九話 蒼龍、七変化

kiki000様、お気に入り登録ありがとうございます。


『加賀さん、お疲れ様です』

「ええ、ありがとう」

 

 現在、横須賀鎮守府にいる加賀は、赤城と電話越しで話をしていた。

 

『二人と話は出来ましたか?』

「あまり……赤城さんも私の性格を知っているでしょう……」

『……私がお膳立てしますから、必ず言って下さい』

「……ありがとうございます。唯……」

『ただ?』

 

 一呼吸置き、加賀は言う。

 

「赤城さん、すいませんが先に二人をそちらに戻します。私は、もう少し横須賀にいるつもりです」

『……何かあったんですか?』

「瑞鶴を襲った現象、地上棲艦の誕生、これら解く為に、数日ほど時間が必要だと思われるので」

『……分かりました。今、そばに提督もいらっしゃるので変わりますね』

 

 赤城は携帯を提督に渡した。

 

『変わった、俺だ』

「……お久しぶりです。突然だけど、鎮守府の通信機器の調子はどうなの?」

『……変わらないな、これも、俺の携帯からだしな』

「修理は進んでないんですか?」

『いや、明石曰く、ちゃんとやっているんだが、何故か進めても、また調子が悪くなっているらしい』

「そう……それで暫くここにいたいという話なのだけど……」

『そうだな、有休という形でなら問題ないな』

「有休……あまり時間は取れないわね」

 

 少しの沈黙の後、先に声を発したのは加賀。

 

「分かりました。二日。二日ほど用意できないかしら?」

『二日だな。分かった、だが一つでも結果を出せる様にしてこい』

「言われなくてもそのつもりよ」

『だな。赤城に戻そう』

「はい」

 

 提督は電話を赤城に渡した。

 

『お休み、採れたみたいですね』

「ええ」

『折角ですから、何かお土産でも買って来てくれませんか?』

「何故?私は遊びに来たわけではないのだけど」

『瑞鶴が戻った記念ですよ』

「必要ありますか?」

『偶には、皆で楽しく過ごしたいじゃないですか』

「はぁ……」

 

 

 

「お世話になりました」

 

 九十度の角度で綺麗にお辞儀をする翔鶴。瑞鶴もまた、翔鶴ほどではないが、礼儀正しく頭を下げる。

 

「何かあったらアイツに話せ、いざという時には、俺様達も手伝ってやってもいいぞ」

「二人共、機会があったらじっくり、お話をしましょうね」

「瑞鶴、私の言葉、忘れるなよ?」

 

 横須賀提督、大和、武蔵に見送られる二人、しかし、この場に加賀の姿はなかった。

 それに疑問を持つ瑞鶴は、辺りを見渡しながら言う。

 

「加賀さんは何処に行ったんですか?」

「確か……博士と調べ物するからと、資料室へ……」

「そうですか……」

 

 下を向く瑞鶴。

 

「そろそろ、出た方がいいんじゃないか?」

「……分かりました。瑞鶴、行きましょう」

「……うん」

 

 二人は送迎用の車に乗り込むと走り出した。それを見守る五人、三人は、近くで見ていたが遠くから、見ていた人物が二人いた。

 

「行かなくて良かったのかい?」

「会えなくなる訳ではないので構いません」

「……行ってあげても良かったとうもうけどなあ……」

「兎に角、時間がありません。ここから、全ての物を調べましょう」

 

 そう言って、資料室内の大量の棚に収められた数え切れないほどの資料、論文を見渡す。加賀は、ノート、複数のペンを机に置くと、棚の資料を手に取った。

 

 

 

「愛しの後輩ちゃ~ん!お帰り~!」

「わわっ!」

 

 鎮守府の工蔽に戻って来た瑞鶴を待っていたのは、蒼龍の熱い抱擁。しかも、顔を胸に押さえつける様に抱きしめてきた。

 

「二人共、お帰り」

「!飛龍さん!個人的な事で、鎮守府を離れていて本当に申し訳……」

「謝り癖は、直した方がいいと言ったはずですが?」

 

 片手を上げながら、歯を出して笑う飛龍、謝罪をしようとした所で、赤城が微笑みながら現れた。

 

「赤城さん……」

 

 すこし考えた所で言う。

 

「私達を待って下さってありがとうございます!」

「はい、どういたしまして」

 

 頷きながら答える赤城。そんな中、五人の前に一人の女性が現れた。

 

「失礼します。艦娘の方はいらっしゃいますか?」

「……私達がそうですが?」

 

 赤城がそう言うと、眼鏡にスーツの女性は近づいて一枚の名刺を差し出す。

 

「艦娘これくしょん……?」

「ご存知ですか?」

 

 赤城が首を傾げていると、蒼龍が説明を始めた。

 

「私、知ってますよ!」

「そうなのですか?」

「艦娘のグラビア集です。皆、レベルが高いって人気で。ただ不定期刊行なんですけど……」

「説明ありがと。それで、緊急のモデルを探していたのだけど……」

 

 緊急という言葉から、何かを察した赤城は疑問を問う。

 

「何かあったのですか?」

「そちらの山城さんにモデルになってもらう予定だったのですが、体調を崩されてしまったみたいで……」

「日を改めるというのは……?」

「締め切りが迫っていてやるにやれないんですよ……」

 

 記者は続けて言った。

 

「確か、皆さん、艦娘ですよね。協力してください!」

 

 両手を合わせて頼み込む記者。それに対して、五人は言った。

 

「すいません。写真のお仕事は……」

「写真って……撮られるときは、動いちゃダメなんでしょ?パスかなぁ」

「私も……写真写りは良くなくて……」

「別に……いいかな……」

 

 赤城、飛龍、翔鶴、瑞鶴の順に答える。

 

「はい!私、やってみたいです!」

 

 手を挙げて、声を出す蒼龍を見ると記者は目を輝かせて両手を握る。

 

「ありがとう!じゃあ早速行きましょう!」

「え!?あの、ちょっと!」

 

 嬉しそうに蒼龍の手を握ると、そのまま、彼女を連れ出そうとした。

 

「すいません!まだ、私達、勤務時間なんですが!」

「大丈夫です!すぐに終わりますから!」

 

 赤城も止めようとするが勢いに押され、彼女を許してしまった。

 部屋に取り残された四人。そんな中翔鶴は話を切り出す。

 

「あの、お二人共、相談があるのですが……」

「翔鶴姉!?」

 

 

 

「ここは?」

 

 鎮守府の部屋の一室に連れてこられた蒼龍は思った事をそのまま言う。

 

「今日のために、部屋を借りたのよ。さぁ、そこに立ってポーズを取って!」

「フッ……こんな感じですか」

 

 決め顔で普段の弓道着で弓を片手にポーズを決めるが、記者は不服そうな顔をしていた。

 

「貴方……化粧してる?」

「え!まぁ、はい」

「必要ないわね」

「え」

 

 そう言うと、記者はタオルを取り出し蒼龍の顔を擦りだす。一瞬で綺麗に落ちて彼女はすっぴんになってしまった。

 

「や、やだやだ!何するんですか!?」

「うん、可愛い」

「そうじゃないです!」

 

 顔を両手で隠して訴える蒼龍を無視し、言い続ける。

 

「大丈夫!ほら、自信を持って、普段通りに振舞って!」

「うぅ~、やったら直していいですか?」

「考えとくから、早く!」

 

 恐る恐る、顔を覗かせつつ言った。

 

「航空母艦、蒼……ごめんなさい無理です!許して!」

「どうしてそんな恥ずかしがり屋に……」

「だって、すっぴんじゃあ、可愛くないし……皆、魅力的だし……」

 

 腕を組み、考える記者。彼女は何か思いついたのか、案を出した。

 

「じゃあこうしましょう。軽く何枚かとって慣らしていきましょう」

「お化粧は案にはないんですね……」

「それは、私のポリシーに反するから」

 

 そう言いつつ、記者は、沢山の服を取り出して笑顔で蒼龍に見せつける。

 

「じゃ、まずはどれで慣らす?」

「えぇ……」

 

 服のセンスに少し引いた蒼龍だった。

 

 ──────メイド服

 

「あぁー!良い!」

「お、お帰りなさいませご……うう……無理!」

「無理じゃない!」

 

 無理矢理、メイド服に着替えさせられた蒼龍は悶えていた。

 

「ていうか寧ろ良い!恥じらい良い!」

「えぇ……」

「引き顔は微妙かな……」

「着替えていいですか?」

「後、三枚!」

「そんなぁ~」

 

 ──────浴衣

 

「うん。悪くないわ」

 

 髪を下ろし、右手にはりんご飴の模型、反対の手には内輪持った姿を披露する蒼龍。

 

「私も、これはいいかな……」

 

 そう言いつつも、内輪で口元を隠す蒼龍だった。

 

「じゃあ何か言って!デートっぽい事!」

「待ってたよ……えへへ、似合……うぅぅぅぅ!」

「まだダメか……」

 

 ──────制服

 

「先輩……私……あなたが……好きです付き合って下さい!」

「グッド!」

「……言い切れた!」

 

 ツインテールにセーラー服姿の蒼龍は、嬉しそうに跳ねながら言った。

 

「でも、まだこれはグッド。どんどん行くわよ!」

「ま、まだやるの?」

 

 ──────ОL

 

「今日の会議での君、凄くカッコよかったよ。この調子でよろしくね」

 蒼龍は、紙の束を右手に、眼鏡、スーツ姿でウィンクをした。

 

 ──────婦警

 

「深海棲艦規制班の蒼龍だ!お前達全員、逮捕する!」

 

 ──────バニーガール

 

「ねぇ~、いくらにするの?全部賭けて、大当たり引いたら……惚れちゃうかも……チュッ」

 

 ──────ウェディングドレス

 

「……嬉しいなぁ……夢じゃないんだよね。私、蒼龍は貴方を夫として、共に歩むと誓います」

「……尊い……優雅……最高……」

 

 ──────弓道着

 

「こうですか?」

「ああ、そうそう」

 

 普段の弓道着になった彼女をひたすら撮りまくる記者。

 

「……」

 

 ある程度撮ると、カメラを睨み始め、こう言った。

 

「……良し、撮影終了!良いのが沢山取れたわ」

「ありがとうございました!」

「自信ついた?」

「少しは……」

「やっぱ、無い方が似合うのに、なんでメイクなんてしたの?」

「……何て言うか……私、メイクをすると、生まれ変わったみたいで嬉しく感じるから?」

「ふーん、変身したい、的な?」

「まぁ、そうかも」

「……形から入って、変わるタイプと……とにかく完成したらこちらにも送るわね」

 

 

 

「……以上です」

「そんな事が……」

「……赤城さんは私をどう思いますか?」

 

 工蔽にて、翔鶴から、横須賀であった事を聞かされ、驚きを隠せない飛龍、黙って聞く赤城。

 

「瑞鶴、以前に言った、私があなたの教育係に加賀さんを選んだのは分かりましたか?」

「……すいません。まだ……」

「……加賀さん、言ってなかったんですね……」

「加賀さん……何かあったんですか?」

「ええ、実は瑞鶴って、昔の加賀さんに似ている所が結構あってね……」

「それが、選んだ理由ですか?」

「いえ、加賀さんがある事に気づいた事で、辞めるのも考え直してくれました」

「加賀さん、辞職しようとしてたの!?」

 

 加賀の過去に驚く三人を傍に、赤城は話し続ける。

 

「まぁ、飛龍が入る前の話ですからね。……心から変わりたいと思えば、実行に移す。私から言えるのはこれだけです」

「赤城さん……考えさせてください……」

 

 そう言って、瑞鶴は立ち上がり、工蔽から、去って行ってしまった。

 

「瑞鶴……」

「今、瑞鶴が出て行ったけど何かあったの?」

 

 彼女と入れ違いに蒼龍が戻ってくる。

 

「ほんとに早く、終わったね」

「私は、思った事を言っただけ、最後は彼女自身が決める事です」

「そうですよね……あの蒼龍さんはどう思いますか?」

「何が?」

 

 三人は、先程まであった事を話した。

 

「そんな事が……」

「それで、蒼龍さんは、どうすれば良いのか聞きたくて……」

「まずは、とりあえず形からかなぁ」

「形?」

「うん、いつもと違う自分になる。変身だよ!」

「変身……」

 

 呟き、俯く翔鶴。少しして、勢いよく立ち上がると言う。

 

「それです!私、良い事を閃きました!」

 

 翔鶴は工蔽を飛び出す。赤城は、そんな翔鶴の姿を見て微笑んだ。

 

 

 

 五航戦の部屋、机が二つあり、片方の前には瑞鶴が座り、物鬱げに一冊の雑誌を見つめている。

 

『週刊アッセン 今、工場が熱い! 履歴書付属』

 

 求人誌だ。瑞鶴は自身が許せず、艦娘を止めようか考えていた。その時、ドアをノックする音が聞こえてきて、慌てて、求人誌を座っている座布団の下に隠す。それと同時に、翔鶴が部屋に入って来た。

 

「お、お帰り!」

「ただいま」

 

 胸に紺と茶の布を大事そうに抱えていた事から、瑞鶴は聞き出す。

 

「それは?」

「今は……教えられないかしら」

「え~何それ」

 

 翔鶴は小さく呟いた。

 

「とりあえず形から……か」



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二十話 駆逐艦、緊急参戦

 加賀が横須賀鎮守府の資料室で閲覧を始めてから二日が経った。この日は彼女が採った有休の最後の日、何としてでも、結果を残そうとする。

 

「………」

 

 加賀は、ただ黙ってひたすらに、ノートと論文を見つめ、怪しい部分を色付きのペンで囲っていく。

 

「加賀君、言われた物は全て片付けたよ」

「………」

「加賀君?」

「………ありがとうございます」

 

 顔を動かさず淡々と続けて言う。

 

「資料は纏められましたか?」

「私を誰だと思っている?」

 

 そう言って、得意げにノートを見せる。

 

「すいません見せてもらいませんか?」

「分かった」

 

 博士は、加賀にノートを差し出すと受け取り、比較を始めた。それぞれが気になった情報を見て、新しい知識、得ようとしていた。

 

「へぇ、加賀君はそこを……こういうのは、やっぱり性格が出るもんだねぇ」

 

 黙って、両者の記録を睨む。

 

「すいません」

「何だい?」

「リエさんは何者なんですか?」

 

 リエ……艤装の整備の為に鎮守府に配属された博士の助手の少女。

 

「彼女は私の助手だが」

「知っています。彼女の過去についてどこまで知っていますか?」

「私の記憶だと、確か以前説明した精神班に入り浸っていたらしいが……」

「入り浸る?何故?」

「確か、ここに書いたはずだけど?」

 

 加賀からノートを取り上げ、問題のページを見せる。加賀はそれをまた黙って睨む。

 

「これは……日記?」

「一部だけだけどね」

「もしかしたら……彼女……」

「それ。譲ろうか?」

「ありがとうございます」

 

 私物を纏めて立ち上がると加賀は続けて言った。

 

「二日間のご協力、感謝頂きます」

「……帰るんだね」

「はい。真相に辿りついたので、大手を振って帰れます」

「それは良かった。向こうに付いたらよろしく伝えておいてくれ」

「分かりました」

 

 頭を下げると、加賀は資料室から出て行った。

 

 

 

 

「最近、翔鶴姉が隠れて何かしているような気かするんだよね~」

「そうなの?」

 

 工蔽で飛龍と瑞鶴は会話をし、赤城は明石と共に、お届け物の封を開けていた。

 

「凄い数ですねこれ」

「そうですね、まさか六つも付けてくれるなんて……」

「何を見ているんですか?」

 

 蒼龍が顔を覗くと地上用艤装が六つ置いてある。

 

「博士が以前に話していた、量産型の艤装が届いたんですよ」

「つ、使っている所を見てみたい……!赤城さん!当てはありますか!?」

「はい、丁度一人協力してくれる娘がいて、後の五つは追々決めていこうと思います」

 

 その時、工蔽内に設置してある内線のチャイムが鳴り出した。

 

「おっと、失礼します」

 

 蒼龍と赤城の脇を抜け、通信機に近づき、やり取りを始める。

 

「明石です。はい……瑞鶴ですか?今そこに……はい、分かりました」

 

 明石は内線で誰かと話し終えると瑞鶴に声を掛けた。

 

「瑞鶴、提督が呼んでたわよ」

「提督さんが?」

「また何かやらかした~?」

「な!?違いますよ!」

「とにかく、今から、執務室に行ってみたらどうですか?」

「分かりました。行ってきます!」

「行ってら~」

 

 飛龍と明石に見送られ、工蔽を出る。

 執務室に入った瑞鶴が見たのは、席に座る提督と包装された何かを大事そうに抱える翔鶴の姿。

 

「えーっと、提督さん、話って……」

「瑞鶴、話は翔鶴から聞いた」

「あ、ああ!あー……」

「どうする?辞めるか、続けるか」

 

 言い訳をしようとしたが何も思い浮かばず、声を出すだけになる。

 

「お前は、負い目を感じているようだが、赤城達は気にしていないぞ」

「……そうなの?」

「次に俺個人から言えば……お前の止めるっていうのはな、逃げるって言う事なんだよ」

「逃げ……」

「今回、騒動を起こしてどう思った?」

「周りに散々、迷惑をかけました……」

「今後はどうしたい?」

「……」

「何故艦娘になった?」

「……」

「瑞鶴?」

「強くなれれば、守れると思ってた……」

「誰を守るんだ?」

「翔鶴姉をだよ!でも……何も出来なかった……」

「瑞鶴……」

 

 傍にいる翔鶴は暗い表情で呟く。

 

「翔鶴、お前から言いたい事は?」

「瑞鶴……子供の頃から、私の事を想ってくれてたわね。そして、心配をかけていたのかもね……」

「でもね、私は大丈夫。だってお姉ちゃんだもの。だから……私以外の人達を守ってあげて……」

「もちろん、これは私の勝手。だから、最後に決断するのは貴方よ」

「瑞鶴、もう一度聞くぞ。今ここで、艦娘を止めるか、新しい動機を作って戦うか」

「……私は」

 

 目を瞑り、拳を握る。

 

「赤城さん、加賀さん、皆……」

 

 そして深呼吸をして叫んだ。

 

「私は、今度こそ大切な人達を守ります!守ってみせます!」

 

 目の色を変え、真剣な眼差しで、提督を見つめる瑞鶴を見て安心した提督は、表情を柔らかくして言う。

 

「……もう、大丈夫だな。翔鶴!」

「……はい!」

 

 目尻を拭いつつ、一つのプレゼントを差し出す。

 

「……これに、あなたの新しい誓いに込めましょう」

「誓い?」

「そう、これになりたい自分を込めるの。変身よ!瑞鶴!今こそ変身して生まれ変わるの!」

「……やってみる!」

「……ええ、出来るわ、私の……妹なんだから!」

「着替えるなら自室でな」

 

 自室に戻った瑞鶴は早速、包装を破る。中から、一着の茶色のミニスカート、紺の弓道着と翔鶴の服装とは色違いの服が現れた。

 

「……」

 

 紅白の弓道着を脱ぎ捨て、渡された服に袖を通す。姿見の前に立ち呟く。

 

「……よし!」

 

 

 

 一方、工蔽には、ウェーブがかった赤髪にベルトのバックル部分がライトになっている艦娘が腕と足を組み、強気な態度で座っていた。

 

「今日はわざわざ、ありがとうね。嵐」

「ああ、いいよ。それで、俺の艤装ってのは?」

「これです」

 

 そう言って、一つの艤装を渡す。

 

「レンガみたいだな」

 

 艤装を手に取り、感想を漏らす嵐。

 

「これを腕に巻き、起動させるんです」

「腕に巻く?」

 

 首を傾げつつ、左腕に当てると、艤装が巻かれる。

 

「すごいなこれ!起動は……これか!」

 

 立ち上がり、起と書かれたボタンを押す。嵐の体が一瞬輝くと、赤と黒のドレス姿になった。自身の姿に驚きの声を出した。

 

「な、なんだこれ!?」

「下、スパッツになっているんだ」

「おい!見るなよ!」

 

 いつの間にか後ろに回り込んでいた蒼龍にスカートの中を覗かれる。

 

「なぁ、恰好どうにかならないのか?」

 

 赤城にせがむ嵐、それに対し蒼龍、赤城は言う。

 

「可愛いからいいじゃない」

「いずれ慣れますよ」

「それが嫌なんだよ!」

 

 そんな嵐を無視して赤城は言う。

 

「私達がしっかり教育していきますから、覚悟してくださいね」



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四ノ一話 作者、路線変更を試みる

本日は四月一日ですね。
突然ですが、変身空母赤城は路線変更を行います。
そこで、本文に新しい路線をお試しで書きました。
好みの物があれば、是非教えて下さい。
其の一 ちょいエロ×スポーツ
其のニ アイドル×デスゲーム
其の三 学園×ラブコメ


其の一

「ワレワレハコレイジョウ、ムエキナアラソイヲノゾマナイ」

 深海棲艦のその降伏宣言を切っ掛けに、全ての国家は、奴らの領海を与えるという形で、長きに渡った人と異形の戦いは幕を閉じた。

 そして、一つのスポーツを広げる。それは全世界で流行り、盛り上げるほどの存在となった。

 入り組んだアリーナ、中には金網が張られ、木箱やドラム缶、階段もある。

『さぁ、本日は優勝候補ナンバー1の超強豪チームが弱小……失礼しました。元・弱小チーム六人とぶつかる!ご期待ください!』

 控室、そこには六人の影がいる。

「皆さん!準備はいいですか!」

 赤のビキニを纏い、背中にマシンガン型の水鉄砲を背負う赤城が叫ぶ。

「はい」

 青のワンピース型の水着を着こなし、スナイパーライフル型の水鉄砲を抱える加賀が言う。

 ニヤつきながらサムズアップをする黄ビキニの上にジャンパーの飛龍。

 両手を握り、乳を揺らす緑ビキニの蒼龍。

 白のビキニにパレオを巻いた翔鶴。

 黒の短パンビキニの瑞鶴。

「空母水撃部隊!作戦開始!」

 六人は戦場へ向かった。

 

『さぁ、戦いが始まって、ある程度経ちました。今後はどうなるのか!?』

 実況の解説を他所に乱闘を繰り広げる十二人。

 そんな中、一人の女性が赤城を誘う様に手を振る。

「赤城さん!」

 蒼龍は赤城、目掛けて飛んできた水をもろに受けたその時、彼女の水着上下が弾け飛んだ。

『蒼龍逝ったーーーーーー!!』

「やだやだぁ!!」

「赤城さん!ここは私達に任せて下さい!」

「はい!」

 加賀に言われて、単身の女の元へ向かう。

「久しいですね……」

「……」

 それぞれ、銃を構え睨み合う二人。

「行くぞ!」

「いざ!」

 

 

 

其のニ

「ん……くぅ……!」

 冷たいコンクリートの床から起き上がり瑞鶴は、辺りを見渡す。

 彼女の名前は瑞鶴。姉の翔鶴と共にアイドルとなり、今をトキメク、姉妹アイドルとして売り出されていた。

 この日は、新曲のCDの発売記念のライブに行く途中だった。

「翔鶴姉……何処?」

「んん……」

 瑞鶴が姉を求めると、周囲から声が聞こえるその時、部屋の照明が付き全てを晒す。

「何!?」

 驚きを隠せない十四人の目の前に置かれた、液晶に仮面をつけた人物が浮かぶ。

『いきなりこのような仕打ちをして本当にすいません』

「全くだ。何の真似だ?」

 人物に反応を示したのは、ロシア生まれで、北国の戦姫の異名を持つアイドル、グラーフ・ツェッペリン

『取り敢えず、自己紹介でもしてて下さい』

「お前な……!」

 一行はグラーフを止めると、この場の面子の確認を始めた。

 テレビで見ない日ないほどの大物アイドル、一航戦の赤城と加賀。

 最近売れ出した、中堅アイドル、二航戦の飛龍、蒼龍。

 姉妹アイドル、五航戦。

 五航戦のライバルのルーキーアイドル、雲龍、天城、葛城の三姉妹。

 先程、説明したグラーフ。

 ドラマで引っ張りだこで最近歌も始めた、イントレピッド。

 声優からアイドルという変わった経歴を持つアクィラ。

 大物読者モデル兼アイドル、サラトガ。

 全世界美人コンテスト優勝者、アークロイヤル

 自己紹介を一通り終え分かった事は全員、アイドルと言う事だけだった。

『終えましたね。では、まず二つの事を言いましょう一つは……』

 間を置き、説明をする。

『ここを出られるのは二人だけ。二つ目は……』

 そして、常識ではありえない事を言った。

『皆さんに命懸けのゲームをしてもらいます♪』

「何を言っているの?」

 加賀はドッキリだと思ったのか物申す。

「悪趣味なドッキリなら今すぐ止めなさい」

『はぁ……黙ってろよクズ』

 人物の豹変と共に加賀の横腹が何処からか撃たれる。

 悶える加賀。傷口を押さえる赤城。ある者は怯え、言葉を失った。

『とっとと次の部屋行けよ。そこで詳しく話すからさ』

 加賀は、赤城に抱えられて、ほかの面子も怯えながら次の部屋へと進んだ。

 

 

 

其の三

 学校で、同級生で学校一の美人と名高い翔鶴に思いを寄せる貴方。

 そんなある日、彼女の妹である後輩の瑞鶴が現れます。

「私が、翔鶴姉に紹介しようか?」

 瑞鶴を通して距離を縮める二人。

 しかし、貴方はそれと同時に、瑞鶴の本心もしってしまいます。

 さらに、先輩である一航戦やクラスメイトの二航戦まで現れ……。

 学園ラブコメ。艦これ:パッションorビューティフル? ご期待ください。




本日は四月一日、エイプリルフール。
即ち、路線変更は嘘。

変身空母赤城は毎週日曜、朝八時に更新しております。
そろそろ、黒幕の正体を明かして、倒して完結、といきたいと思いますので、最後までよろしくお願いします。


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二十一話 飛龍、振り回される

嘘ネタを考える位なら、本編を進めるべきだと思いました。


「ただいま戻りました」

 

 執務室に加賀の声が響く。

 

「ああ、おかえり。何か成果は出たか?」

「ええ、おかげ様で」

「それは良かった」

「後は相手を黙らせる。確実な証拠か発言があれば……」

「……何を言っているんだ?」

「提督、私の推理では、この艤装に関わった人物が、地上棲艦の現象を引き起こした黒幕だと視ております」

「……聞かせてもらおう」

 

 机を挟んで加賀は自身の推理を提督に披露した。

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

 今度は工蔽で加賀の声が響く。

 

「お帰りなさい!加賀さん」

「ええ」

 

 赤城に迎えられ微笑む。その後ろには二航戦、五航戦の四人が立つ。

 

「いきなりで申し訳ありませんが、お願いがあるんです」

「何かしら?」

「先ほど、量産型の艤装が届いたんです」

「はい!これです!」

 

 加賀は、蒼龍が差し出した艤装を手に取ってまじまじと眺める。赤城が口を開いた。

 

「ようやく届いたのね」

「そこで、また面接を行おうと思うのですが……」

「私にも、参加してほしいと。分かりました」

「ありがとうございます」

 

 加賀は赤城の依頼を快諾した。

 

「では、今回の対象は?」

「一人はもう決まりましたから……駆逐艦の娘を五名です」

「分かりました」

「他に人は……」

「私達だけで大丈夫でしょう。二航戦はあまり当てになりませんし、五航戦は今は人を見る目が無いでしょう」

「まぁ、五航戦の抜擢は、実質二人がやっちゃった様なもんだしね」

「見る目が無……!いや、確かにそうだけどさ……」

 

 飛龍は頭を掻きつつ言い、瑞鶴は例のごとく突っかかろうとしたが、言葉を抑える。

 

「貴方……服装といい、台詞といい、私がいないうちに何かありましたか?」

「私が作りました」

「そう。赤城さん、ほかの物は?」

「それでしたら、こちらに」

 

 得意げに言う翔鶴を軽く流し、工蔽の奥に消えた。

 

 

 

「全員、せいれーつ!」

 

 数日後、赤城不在時の教育係に選ばれた飛龍は七人を並べる。

 

「各自、名前を言えー!」

「嵐だ!」

「萩風です」

「響だよ」

「睦月です!」

「如月よ」

「卯月ぴょん!」

「五航戦、瑞鶴!」

「よーし!」

 

 名前を言わせた後、腕を組み、眺める。

 

「飛龍さん、どうして瑞鶴さんがいるんですか?」

「うーん、瑞鶴君は特別訓練を受けてもらうためかな」

「そういう事。よろしく」

「はい」

 

 如月の疑問に答える飛龍。彼女は瑞鶴に近づき、耳打ちをする。

 

「蒼龍突き落とした恨み忘れてないから」

「あはは、すいません……」

 

 ニヤつきながら、瑞鶴の耳元で囁いた。

 

「よーし!今日から、艤装を付けての訓練を始める!」

「まずは……」

「変身!オープンアップ!」

 

 飛龍の指示を無視して、睦月が変身、それを皮切りに五人も姿を変える。

 

「皆、何やってるの!?」

 

 瑞鶴の困惑の声も無視して、それぞれ好き勝手を始めてしまった。

 

「ちょ、ちょっとちょっと!」

「ぴょん、うーちゃん可愛いぴょん?」

「うふふ、可愛い可愛い」

「へぇ、変わった格好だね」

「睦月パーンチ!睦月ィィィクーッ!」

「俺が相手してやるぜ!」

「ああもう!言う事を聞けーーー!」

 

 訓練所に飛龍の叫びが木霊した。

 

 

 

「はぁ、赤城さん……どうすれば良いんですか?」

 

 夜、間宮亭でテーブルに伏し、愚痴をこぼす飛龍。

 

「ふふ、育成って、案外大変だと分かりましたか?」

「そりゃあもう……翔鶴も瑞鶴もスゴイ物分かりのいい子だったんだなって……」

「飛龍ってもしかしたら……あの子達になめられてるのかも……」

「嘘!?」

 

 赤城のあんまりな結論に驚きを隠せず起き上がり、どうすれば良いのか聞いた。

 

「え!?それじゃあ最悪、一生言う事聞いてくれないって事じゃん!どうすればいいんですか!?」

「一生は流石に……でも、親身に接したり、大きい所を見せつければいいんじゃないでしょうか」

「大きい……」

 

 飛龍はそう呟き、自分の体や、裏で乳牛と言われている蒼龍ほどではないが、それなりにはある胸を見つめる。

 

「あ、いえそういう意味ではないです」

「あはは、ですよねー」

 

 飛龍は、苦笑いをしつつ両手を頭の後ろに回す。それに対して、赤城は優しく答える。

 

「とにかく、行動、台詞を選んでいくだけでも評価は少しずつでも上がりますよ」

 

 続けて赤城は言う。

 

「後は、石の上にも三年。チャンスは必ず巡ってきます。それを見逃さなければ、必ず!」

「んー、やってみます」

 

 

 

 更に数日後、飛龍のグダグダな教育はある程度進んでいたがそれでも皆を戦場に出せる程ではなかった。

 そんな中、飛龍と瑞鶴の艤装から連絡が入る。

 

「はい。飛龍です」

『大淀です。地上棲艦が現れました。場所は、廃工場と森の方です』

「分かりました。私は廃工場、瑞鶴には、森の方に向かわせます」

『了解しました』

 

 通信を終えると、飛龍は六人の方を向き叫ぶ。

 

「真面目に訓練しててよ!絶対、動かないでよ!」

 

 飛龍は六人に釘を刺すと瑞鶴と共に、出撃した。

 

 

 

 廃工場に現れた地上棲艦と一人、交戦する飛龍に六つの影が現れる。

 

「へぇ、やるわね」

「そろそろ、俺達の力を見せつけてやらないとな」

「そうだね」

 

 睦月達は飛龍の警告を無視して来てしまっていた。

 

「睦月の力、見るにゃしい!」

 

 睦月は変身し、がむしゃらに腕を振り回しながら、突進していくが一瞬で吹き飛ばされてしまう。

 

「睦月!?」

 

 飛龍は驚きの声を出すと同時に、ほかのメンバーが来ていることに気が付いた。

 

「ああもう!」

 

 そう言いつつ、一行を守りながら、戦い始めた。

 何とか、最後の一体まで減らしたが、その相手はレ級、苦戦を強いられ、遂には変身が解けてしまった。そして、止めと言わんばかりに高く飛ぶと、飛龍に向けてキックを放った。

 

「飛龍さぁぁん!」

「はぁぁぁぁぁ!」

 

 その時、睦月の叫びと同時に、赤城のキックが迫っていた地上棲艦に直撃し怯ませる。また、蒼龍も駆けつけてきた。

 

「赤城さん!」

「飛龍!」

「ごめんなさい。遅れてしまいました」

「いえ。大丈夫です!」

 

 飛龍は、怯んだ地上棲艦を睨みつつ言う。

 

「蒼龍!赤城さん!よろしく!」

「うん!」

「はい!」

 

 飛龍はが叫ぶと、両脇に並んだ二人も叫ぶ。それぞれ、艤装を腕に巻き付けるとポーズを取り叫んだ。

 

「変身!」

 

 艤装を起動させると、姿を変える。

 

「もう、カッコ悪い所は見せられないね!」

 

 飛龍は、相手に一気に迫り連続パンチをお見舞いする。しかし、レ級はそれを軽々と躱すが後ろから迫って来ていた赤城には気づかなかった。赤城の脳天目掛けたパンチを初撃に、連続で攻撃を入れてダメージを与えていく。更に、飛龍が、強力な蹴りを入れ弱らせる。

 

「飛龍!」

 

 二人が叫ぶと、相手にデンプシーロールをひたすらに打ち込んでいく。十発入れた頃には、立つのもやっとな程なっており、飛龍も息を切らしながらレ級に近づきアッパーを打ちながら叫んだ。

 

「ドラゴンアッパー!」

 

 レ級は三メートル程飛ばされると、爆散、消滅した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 口呼吸するほど体力を消耗した飛龍に駆逐艦達が近づく。

 

「すごいすごい!」

「うーちゃんにも、やり方教えて!」

「ハラショー、私も知りたいな」

「えっ、よ、よーし!良いけど厳しいよ?」

「はい!」

 

 二人は、ニヤけつつ色々言う飛龍を見つめる。

 

「もう、大丈夫そうですね」

「そうですね」

 

 駆逐艦の娘達から慕われる飛龍を見つめつつ語り合う赤城と蒼龍だった。



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二十二話 リエ、晒される

十日以降には時間が取れそうなので、これまでの話の加筆をするかもしれません。


「あのー、加賀さん?」

「何かしら?」

「最近、何していますか?」

「藪から棒に何ですか?」

「あ!その特に意味は無いですよ!ハハハ……」

 

 工蔽で椅子に座り、戦術書を読む加賀に声を掛けてきたリエを睨む。

 

「だって聞いちゃったんですよ……加賀さん、昔の事調べているって」

「……確かにそうだけど」

「止めた方がいいと思います!」

「何故?危険だから?」

「そうですよ!」

「心配ありがとうございます。ですが、私は解決をしないと落ち着かないもので」

「……後悔しますよ」

 

 それだけ言うと、リエは去って行った。

 

「加賀さん、さっきリエさんが出て行きましたが何かありましたか?」

「いえ、それよりも明日の午前五時、空いていますか?」

「起きようと思えば起きれますが……何か?」

「そこで話します」

 

 

 

「赤城さん」

「……分かってますよぉ……」

 

 午前四時三十分、加賀に起こされ、時計を見た赤城は瞼を擦りつつ言う。

 

「まだ、五時じゃないですか……」

「三十分前行動です」

 

 既に出かける準備をした加賀に起こされ、布団から出ると、普段の道着に着替え出かけた。

 

「……それで話というのは?」

「……ここはあまり人が来ませんからね」

 

砂浜に座り、朝日を待つ二人。

 

「相当大切な事ですか?」

「はい、これは提督にも話した事ですが……」

 

加賀は先日、上司に話した推理を語った。

 

「本当ですか?」

「いえ、まだ確証がありません。何か罠を用意出来れば……」

「罠、ですか」

「赤城さんでしたらどの様にしますか?」

「……私でしたら、罠より饒舌の方が勝つと私は思います」

「駆け引きと語彙ということ……?」

「……そうですね」

 

朝日が昇り始めた頃、誰かが走ってくる。その人は近づくと声を掛ける。

 

「やぁ、響だよ」

「基礎体力作り?」

「鍛えないといけないからね」

 

 響はそれを言うと、右手を顔の斜め上に持って行くと横切るように振る。

 

「それでは、頑張って下さい」

「そうするよ」

 

 響は走って行くとその後を追う様に、五航戦がやって来た。

 

「加賀さん……?」

「ああ二人共、来ましたか。加賀さんから話があるそうですよ」

 

 加賀は赤城の方を掴むと、瑞鶴に背を向けて聞く。

 

「赤城さん、以前言っていたお膳立てというのは……」

「はい。ここで真面目に話す機会はそうそう無いと思いまして」

「はぁ……」

「では、私はこれで」

 

 立ち上がると赤城は、笑顔で去って行き、三人が残される。

 

「……座りなさい」

「え?」

「話があるのよ……」

 

そう言われ、加賀の両脇に座る鶴姉妹。

 

「何から話せばいいかしら……」

「えっと……」

 

気まずい空気が生まれる。

 

「あ、あの!」

「翔鶴?」

「瑞鶴の事、どう思いますか!?」

「ちょっ、翔鶴姉!いきなりそれは……」

「大事な後輩よ」

 

やり取りを終えると、二人は再びジョギングを始めるために去って行った。それから数十分間、朝日を堪能した加賀は呟く。

 

「あの子達の訓練にでも見に行こうかしら……」

 

 

 

「え!?加賀さん!?」

「そうよ」

「な、なぜここに……」

「私が訓練所に来ては行けないと言うのですか?」

「だって、駆逐艦の娘達が怯えるといけないし……」

 道を塞ぐように加賀の前に立つ瑞鶴。

「貴方こそ、そこをどきなさい。それとも、サボっている所を隠しているのですか」

「皆、真面目にしてますって!」

「尚更ね。見せなさい」

 

 加賀が右に体を逸らせば、瑞鶴は左に、左なら右に逸らし防衛戦を繰り広げる。しかし、加賀が小さく左に動くと、瑞鶴が大きく右に動く、その隙にガラ空きになった方から、入っていった。

 

「あ!」

「あら?」

 

 加賀が見たのは、赤城と飛龍を教官に真剣に取り組んでいる姿だった。その時加賀に気づいた睦月が指を指して叫ぶ。

 

「あ!鉄仮面!」

「は?」

「睦月ちゃん!?」

 

 睦月の一言に一瞬で真顔になり、一気に近づく。

 

「鉄仮面の加賀です詳しい話を教えてください」

「えーと、瑞鶴さんが加賀さんは、表情がぜんぜん変わらなくて、仮面をしてるみたい。って!」

「む、睦月ちゃん。それぐらいでいいんじゃないかなぁ?加賀さんもつまらないでしょ?」

「そ、そんな事はあり、ありませんよ」

「顔、引きつってるよ」

 

悪意のない笑顔で話す睦月に対して瑞鶴の顔は笑顔だが真っ青に染まっていた。

 

「……」

「あー!すいません!調子に乗ってました!あー!あー!」

 

加賀が瑞鶴にヘッドロックをかましていた時、赤城の携帯に電話がかかって来た。

 

「私です。赤城です」

『赤城さん!助けて!』

「何かあったのですか!?」

『地上棲艦がそこに……ああ!』

 

それを最後に通話が切れる。しかし、その電話に違和感を覚えていた。

 

「加賀さん!」

「どうしましたか?」

「先ほど電話がかかって来たのですが……」

「内容は?」

「リエさんが地上棲艦に襲われたとの事なんですが……轟音や叫び声が聞こえてなくて……」

「演技でしょうか……」

 

瑞鶴を解放し、二人は話をしていると明石が訓練所に入って来て叫んだ。

 

「街に姫が現れました!急いで!」

「はい!」

「待って。赤城さん、飛龍は憲兵の方を連れて、遅めに来てください。瑞鶴、翔鶴を向こうで合流するように言って頂戴」

「わ、分かりました」

 

加賀の指示に従い、翔鶴に連絡を入れると、二人は現場へ向かった。

 

 

 

「ウオワアアアアアア!」

 

現場で暴れまわる姫を見ると、加賀は叫ぶ。

 

「瑞鶴!翔鶴!三人で戦うわよ!」

「はい!」

 

 加賀の指示に従い、叫ぶと、艤装を取り出し腕に巻き付ける。そして、各々構えを取ると叫んだ。

 

「変身!」

 

 加賀は青の翔鶴は白と赤のドレス姿になり、瑞鶴は弓道着と同様の色、紺と深緑のドレス姿になった。

 

「五航戦翔鶴、舞います!」

「五航戦瑞鶴、絶対勝つ!」

「一航戦加賀、いざ」

 

三人は、連携プレーで攻めて行き、体力を削っていく。姫は両腕を広げ三人を挟む様に腕を振るが、それぞれの腕を加賀、翔鶴が塞ぎ空いた胴に瑞鶴の渾身のパンチが入る。一撃を受けて、数メートル吹き飛ぶと、黒の靄を出して逃げられた。

 

「アイツ……どこ行った!」

「遠くには行ってないはずよ」

 

周辺を捜索していると、三人は行き倒れていたリエを発見する。

 

「うう……」

「リエさん!?」

「リエ!?」

 

 リエが身体の所々から血を流しつつ歩いている。それを見た五航戦は、走り寄り介抱する。

 

「何かあったの?」

「加賀さん!吞気に見てないで手伝ってよ!」

「私にも、何が何だか……憶えてないんです……」

 

 淡々と話しながら歩いている加賀に物申す瑞鶴を無視して加賀は言い続けた。

 

「そうですか……折角ですから、私の与太話でも聞いて下さい」

「加賀さん!」

「何故、瑞鶴が豹変したのか、何故地上棲艦が現れたのか、何故過去に事故は起きたのか」

「加賀さん?」

「その答えは唯一つ」

 

 眉を動かさず言い続けて、しばしの沈黙、そして口を開く。

 

「リエ、いいえ。西谷里惠、貴方が黒幕だからよ」

 

 周囲にまた沈黙が流れる。

 

「西谷里惠……?でもあの人は……!」

「翔鶴姉知ってるの?」

「黒幕? か、加賀さん何を言っているのですか? 私、被害者ですよ?」

 

 両手を振って無罪を主張するリエを無視して加賀は推理を始める。

 

「確かに、被害者のフリなら容疑から外れる事が出来るものね」

「フリじゃないです!」

 

 破けた衣服から腕の傷、足のアザを見せた。

 

「これも、これも、全部、姫にやられたんです!」

「何故それを知っているの?」

「え?」

「赤城さんの口頭では、貴方が地上棲艦に襲われたとしか聞いていない。姫だなんて言ってないわ」

「赤城さんが間違っていたんですよ……」

「……この話では埒があきませんね……」

 

 加賀は少し考えて言った。

 

「では、最初に瑞鶴の一件をお話しします」

「あれはきっと博士が……!」

「瑞鶴と同じ艤装を使っているのは三人。しかし、その三人には異変は起きていません」

「……まだ不思議な事が起きていないから?」

「いいえ、瑞鶴の艤装にしか仕込みを入れられなかったから」

「仕込み、いつそんな事を……?」

「一度、彼女の艤装が変身できないほど大破しましたね。あの時です」

「確か、私達が姫に襲われた時ですか?」

「ええ」

 

 翔鶴の疑問に答えると、トリックを話す。

 

「まず、姫になります。恐らくここで、全員の艤装を壊すのが狙いだったのでしょう。しかし、力量を誤り瑞鶴の物しか出来なかった。後は艤装の整備に便乗して細工を施す。これで……」

「待って下さい! だから何で私が姫と言う事を前提で話を進めるのですか!?」

「進めてないわ。これはあくまで推理よ」

「ふ、二人も見てないで何とか言って下さいよ!」

 

 困惑をする瑞鶴、しかし、翔鶴は難しい顔をしたかと思うと聞く。

 

「あの、私からもいいですか?」

「何ですか?」

「以前、リエさんは加賀さんは元凶だ、って言っていましたよね?でも今は、博士になっている……矛盾していませんか?」

「!」

 

 図星だったのか暫し考える、そして言った。

 

「私もこっそり、博士を調べたんです!」

「調べた?何故?」

「加賀さんが心配だから!それなのに……犯人呼ばわりなんて……」

「まだ、犯人とは言ってないわ」

 

 加賀は第二の推理ショーを始めた。

 

「次に地上棲艦の誕生の経緯何ですが……翔鶴!横須賀鎮守府で過去に行われていた実験は憶えてますか?」

「え!?はい、確か、艤装の開発と人の意識に別の人の意識を入れる実験?」

「そう、貴方はこの時得た深海棲艦の意識を記録にして、取り入れる方法を体得した。この技術を使って、先程言った事をすれば……」

「……もう、私を犯人扱いするのは何も言いません。でも、人が深海棲艦になるなんてありえますか?」

「?貴方がそうじゃないの?」

「違うって言ってるでしょ!!」

「研究結果」

「!?」

 

 加賀の揺さぶりに激しく動揺すると追い打ちをかける。気の動転からか言ってしまった。

 

「横須賀に残ってましたよ」

「あれはちゃんと燃やし……あ!」

「日記という形で残ってましたよ。貴方を慕い、尊敬し、体を奪われた少女の!」

「……」

 

 ゆっくり立ち上がると、傍にいる五航戦を払うと、リエの体が黒い靄に包まれ、目が虚ろ気な女性にそこから姫になった。二人は急展開の連続について行けていない。

 

「リエ……!?」

「リエさん……!?」

「ウオオオオオオオオ!」

「加賀さん!」

「……」

 

 飛びかかり巨大な爪を加賀の頭上に振り下ろそうとした。しかし、何者が姫の顔にキックを放ち直撃。地面に叩き落される。

 

「リエさん……」

「赤城さん!?」

「私達もいるよー」

 

 叩き落された姫とは違い、着地した赤城は人外を睨む。後ろから二航戦も駆けつける。

 

「疑りたくはなかったです……」

「手負いの状態で万全の三人に勝てる自信はありますか?」

「……」

「動くな!憲兵だ!!」

 

 加賀の脅しに黙り込んでいると、姫は二十人ほどの憲兵に取り囲まれる。

 

「たった今、貴様が化ける所を記録させてもらった!」

「……はぁ、そうですか」

 

 彼女は特に抵抗もせず拘束され、連行される。かに思われた。

 

「逮捕だなんて……ほんと、馬鹿だね!」

 

姫は霞となって消え、憲兵達は動揺する。しかし、赤城は大声で指示を出す。

 

「隊長の方は記録を大本営に! 十二名は私達と捜索を! 残りの方は鎮守府で防衛をお願いします!」

「俺はそのつもりだ!」

 

遂に元凶が現れ、戦いは佳境に入ろうとしていた。




次回、最後の戦いが始まる


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二十三話 空母部隊、襲撃される

これまでの変身空母赤城
突如として現れ、海を支配した異形、深海棲艦。
本来ならば、海にしか現れない奴らが地上に進出した。
地上での戦闘の隊長に抜擢された赤城は仲間達と共に新たなる脅威に立ち向かう。
すれ違い、裏切り、様々な困難を越え、そして真相に辿り着いた。
残された敵は後一人。彼女達の運命は……


「はぁぁぁ!」

 

 赤城と飛龍の渾身のキックを受けた、地上棲艦は爆散、消滅した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息を切らす赤城と飛龍。そこへ、非情にも連絡が入る。

 

『……地上棲艦出現。場所は、海岸、廃工場、高架下。どうしますか?』

「ここからだと……分かりました、海岸から向かいます」

『……赤城さん、昨日から連戦じゃないですか、そろそろ休んだら……』

「そうだよ!このままだと過労死しちゃうって!」

「いえ、ここで休んだらもう起き上がれないような気がするんです」

「働きすぎて二度と起きれなくなったら意味ないでしょ!」

「……それでも!」

「赤城さん!」

 

 

 

 事の始まりは、一週間前に戻る。

 地上棲艦の生みの親が、全ての元凶がリエである事を特定した一行。しかし、連行の際に脱走、憲兵と協力して周囲の捜索を行ったが結局、彼女は見つからなかった。神妙な顔で工蔽に戻った四人は今後の方針、リエの動向について考えていた。最初に言ったの蒼龍。それに返したのは翔鶴だった。

 

「それで、これからどうするの?」

「そうですね……あの人は正体を知られた以上、なりふり構わず襲ってくるかもしれません……」

「うん、だとしたら気を付けないとね」

 

 四人が頭を抱えている中、赤城と加賀が入って来た。

 

「横須賀鎮守府と経由して大本営からリエの今後が決まったわ」

「あれ、通信機の機能は?」

「提督が個人用の電話で伝えてくださいました」

「提督が横須賀の方と親交がある方で助かったわ」

「それで、どうだったんですか!?」

「西谷里惠は戦犯に認定され、リエさんは、深海棲艦という扱いになった事で、撃破要請が上がりました」

「深海棲艦扱い……」

 

 二航戦の疑問に答え、深海棲艦扱いという言葉に他人事では無いからか暗い顔をする瑞鶴。

 

「貴方達は何を話していたの?」

「ああ、今後はどうしようかなって話してました」

「私からは……」

 

 赤城は五人に指示を出した。

 

「今は様子見。これまでと同じように、地上棲艦を倒していきましょう」

 

 しかし、翌日から、全国での地上棲艦の出現頻度が減少した。だが同時に赤城らの鎮守府での遭遇率が大きく跳ね上る。それから、時は現在に戻る。

 

 

 

 何とか、地上棲艦を全て倒して、鎮守府に帰って来た二人は満身創痍だった。

 

「飛龍!赤城さん!」

 

 待機していた蒼龍と加賀に迎えられると同時に赤城は倒れた。

 

「赤城さん!」

 

 同時に声を出すと物音を聞き加賀と明石が駆け付けると、脈を確認する。

 

「……大丈夫。眠っているだけみたい」

「びっくりした~」

「……無茶ばかりして……!」

 

 加賀の怒り混じりの安堵の声を漏らす。彼女もまた地上棲艦の猛攻に疲弊していた。それは、二人だけではなくこの場にいる十二人の艦娘全員である。

 

「もう疲れたー!」

「うーちゃん辛いぴょん!」

「睦月ちゃん、卯月ちゃん、皆そうだから言っちゃダメよ」

「はぎぃ、無事か?」

「私はね、それより皆さんはどうですか?」

 

 響に至ってはハンカチで顔を覆い椅子に座ったまま眠っている。

 

 

「……あっ!」

 

 暫くして赤城はソファの上で目を覚ますと、明石に必死に聞く。

 

「明石さん!地上棲艦は!?」

「……今は大丈夫ですよ。でも教えてください」

「何をですか?」

「何故、そこまで必死になっているんですか?」

「艦娘だからです」

「そんな事務的な……」

「私が救える人は私が救う。その為に艦娘になったんです!」

「……でも、無理だけはしないで下さい。赤城さんは一人で戦っている訳ではないのですから……」

「……善処します」

『頑張ってる~奴隷諸君』

 

 突然の通信に反応しモニターを見ると、リエがニヤつきながら声を掛けていた。リエの声を聞き空母ら五人も寄って来て最初に瑞鶴が叫んだ。

 

「リエ!」

『後悔してる?力を失った事』

「そんな訳ないでしょうが!」

「リエ、貴方にはまだ聞いて無い事があります」

『何ですか~』

「何故、地上棲艦を生み出したの?」

『……深海棲艦ってなんだと思う?』

「そんなの、人類の敵でしょ!」

「えっ……あっははははははは!!」

 

 飛龍の回答を聞くとリエは大爆笑する。

 

『バ~カっじゃないの?あれはね、進化なのよ!』

「……進化?」

 

 蒼龍は疑問を浮かべつつ言う。

 

『そ。彼女達の様になれば人類は水を克服し更に力も手に入る、最高でしょ?おまけに私が水陸両用にした。これで無敵よ』

「そんな事……ありえません!」

『まあ、あんた達は新しい世界にはいらないのだけど』

「何をするつもりですか!?」

『これから分かるよ。それじゃ』

 

 通信が切れると同時にレーダーが反応する。

 

「地上棲艦出現!場所は……!?」

「どうしたの!?」

 

 明石が黙り込んだ事を気にした瑞鶴達はモニターを見る。その光景を見て一同は明石同様、言葉を失う。何故なら、地上棲艦が姫を筆頭に五百体ほどの大群を引き連れて鎮守府を囲む様に進軍していた。

 

「明石さん!」

「!はい!」

 

 赤城に叫ばれ、我を取り戻した明石は早速、提督にこの情報を見せる。

 

『マズイな……』

「提督!ご決断を!」

『……鎮守府を捨てる!総員!撤退準備をしろ!戦える者は残って撤退の支援をしろ!』

 

 戦える者……それは、これまで何度も死線を越えたが疲弊した空母部隊と地上に配属されて日も浅い駆逐隊の計十二人の事を指していた。それでも、彼女達はそれぞれの想いを胸に叫ぶ。

 

「了解!」

「皆さん……」

「明石さんも、急いで……!」

「いえ!ギリギリまでここに残って、皆さんのサポートをさせてもらいます!」

 

 赤城は明石に避難を促すが彼女の熱い眼差しに押され言う。

 

「……分かりました。その代わり、死なないで下さい」

「大丈夫ですよ!腕っぷしには自信ありますし、それに赤城さんが守ってくれるんでしょう?」

「はい!」

 

 明石にそれを言うと十一人の方に振り返る。

 

「皆さん。この戦いは、見ての通り生きて帰れるか分かりません。戦えない方は今すぐ避難をしてください。もし、私に付いてきてくれるのなら……死なないで。それが命令です」

 

 頭を下げる赤城に加賀は優しく答える。

 

「愚問ですね。赤城さん」

「加賀さん?」

「この子達の目を見て頂戴」

 

 頭を上げると、空母達の瞳には、守護と闘志を宿し、駆逐達の瞳には少しの恐怖心を混じらせつつも、闘志が宿っていた。

 

「誰も赤城さんを一人にするつもりは無いようですね。それに、私も逃げも隠れもしません」

「皆さん……ありがとう……」

 

 全員が残ると言う答えに思わず涙ぐむ赤城に加賀は彼女の心を煽る。

 

「さぁ赤城さん、時間がありません。指示を!」

「……それぞれ二人一組で行動!二航戦、駆逐隊は移動用の車の護衛、五航戦は逃げ遅れた方の捜索、私と加賀さんは執務室に行きます!」

「了解!」

 

 敬礼を取ると、工蔽を飛び出し、艤装を取り出し、腕に巻き付ける。艤装を装備すると叫んだ。

 

「変身!」

 

 六着の衣装が現れそれぞれの体に装着される。駆逐隊も負けじと叫ぶ。睦月は右手で顔を隠しつつ腕でLの字を作って叫んだ。

 

「変身!オープンアップ!」

 

 如月は右手を腰に左腕でVの字を作って叫ぶ。

 

「変身!」

 

 嵐は艤装の起動と同時に両手を顔の前に持って行くと印を組み呟く。

 

「変身……!」

 

 響は左腕に巻かれた艤装を額に近付ける。

 

「……」

 

 卯月は起動させると両手を開きすかさず、左手を前に右手を胸に置いて叫ぶ。

 

「ラビット変身!ぴょん」

 

 萩風は、右手を前に突き出し、左手を腰に添えると、左手を顔の前に出し、艤装を起動させ、両方の手の平と平を合わせると叫ぶ。

 

「変身」

 

 赤城は全員が変身したのを確認すると叫んだ。

 

「皆さん……行きましょう!」

 

 

 

「皆!乗れ、乗れ!」

「慌てない、押さない、走らないを忘れないで!」

「如月ちゃん!そっちは!?」

「定員よ!発進させて!」

「皆!騒がないで!全員乗る分はあるから!」

 

 車の護衛に回った六人はそれぞれ励ましつつ艦娘、非戦闘員達を車に乗せていく。そんな中、響が呟く。

 

「赤城達は大丈夫か?」

 

 

 

 一方、一航戦は執務室に来ていた。

 

「提督!」

「二人共!」

「ここは危険です。お逃げ下さい」

「断る。俺はここの提督として最後まで残る義務がある」

「でしたら、私達と一緒に動いてください」

「分かった」

 

 提督を説得させると微かにだが声が聞こえる。

 

「……ん」

「ん?」

 

 微かな声に気づいた赤城は執務室を出て外を眺める。視線の先には飛龍が手を振っていた。それを見た提督は執務室に戻っていく。

 

「飛龍!」

「赤城!これを使え!」

 

 戻って来た提督は赤城に拡声器を渡す。

 

「拡声器?分かりました!」

 

 電源を上げると叫ぶ。

 

「飛龍!全員の避難は終わりましたか!?」

 

 それに対して、飛龍は、両手で丸を作る。

 

「終わっているそうです、行きましょう」

「ああ」

 

 執務室があるのは鎮守府本館の三階、三人は階段を下りていく。二階に着いた時外からまたしても声が聞こえた。

 

「四人共!?ぐっ……!」

「四人!?」

「……明石さん……!」

 

 一階に着くと、姫が両手に飛龍と明石を掴み壁を破って侵入してきた。

 

「元気ですかー?」

「リエ……!」

「赤城さん……加賀さん……ごめん……負けちゃった……」

「飛龍!」

 

 姫は既に意識の無い明石と飛龍を捨てるように三人の前に投げると、部下達に顎を使う。地上棲艦達は、同じく敗北した蒼龍、翔鶴、瑞鶴も投げ捨てる。

 

「なんて事を……!」

「折角だから、私と戦いなさい。そしたら一人を除いて助けてあげるわ」

「……私が行きます」

「赤城!」

 

 罠と分かっていても、全員を救う為に挑発に乗る赤城。しかし、前以上に強くなっておりパンチ一発で、吹き飛ばされてしまう。

 

「がっはぁ!?」

 

 吹き飛ばされた衝撃で変身が解けてしまう。赤城は再び変身しようと艤装を起動させるが反応しなかった。

 

「そんな……!?」

「壊れたの?かわいそーに」

「……まだ……戦える!」

 

 そう言うと、赤城は大量の地上棲艦を押しのけて、落ちている鉄パイプを拾うとがむしゃらに振り回す。しかし、生身では地上棲艦の腕力には敵わず数体を叩いたが大きなダメージを与えられず、取り押さえられてリエ、もとい姫の前に突き飛ばさる。その姿を見た姫は口角を上げると言う。

 

「死ね」

 

 イ級が腹部に噛みつくと赤城は顔を痛みで歪める。

 

「ぐっ……!」

「赤城さん!」

 

 それに乗るように、大量のロ級、ハ級が彼女を取り囲み腕、足にも噛みつき赤城は叫んだ。

 

「うわああああああああああああああ!」

「赤城!」

「赤城さああああああああああああん!!」

 

 蹂躙される赤城を前に叫ぶ加賀。その時、一台の大型車が飛び込んできた。

 

「赤城君!」

「博士!?」

「響もいるよ」

 

 加賀の驚きの声と同時に響は車内から手に持ったボールを投げる。ボールは高音を発しながら爆発すると、煙幕を起こす。高音に驚き、イロハの三種が赤城から口を放す。その隙に、提督、加賀、博士が意識の無い人を抱えると、車に飛び乗り、鎮守府を脱出した。

 

「助かりました」

「即席とはいえ、役に立って良かった」

「提督……これからはどうするんですか?」

「響、避難は出来たのか?」

「うん。犠牲者もいないし、皆、街に着いているはずだよ」

「……街に行こう。反撃の用意をしないとな……」

 

 加賀は傷だらけで眠る赤城の頭を撫でながら、今後の事を聞いていた。



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二十四話 提督、作戦敢行

七話を大幅に加筆しました。
お時間があれば、是非そちらも見て下さい。


「んん……」

 

 赤城は何処かの和室で目を覚ました。

 

「ここは?」

 

 上体を起こして周囲を見渡す。周りには畳まれた複数の布団が重ねてあるだけ、赤城は布団を畳むと出入り口にあるスリッパを履き外へ出る。

 

「赤城さん!?」

 

 部屋を出てすぐに、廊下にいた明石が驚きの声を出し、すかさず、松葉杖を床に突きつつ近づいて来た。

 

「赤城さん、体調は大丈夫ですか!?」

「え!?ええ、まあ。それよりもここは……?それに、加賀さん達は?」

「……ここの事、現状については提督が詳しく説明してくれます。来てくれませんか?」

「……分かりました」

 

 移動中赤城は、明石の頬に貼られた湿布、頭と左足の包帯を見て呟く。

 

「酷い怪我……ごめんなさい……」

「……皆さんと比べればこんなの軽い方ですよ!」

「え?」

「赤城さん……気づいてないんですか?」

 

 そう言われ、赤城は自分の体を確認するため見て、触り始める。頭、両腕、両足には包帯が巻かれ、更に、道着をたくし上げて見ると、腹部にも包帯が巻かれていた。

 

「あ、あれ、これって……」

「全身を噛まれて軽傷だなんて……お医者様も相当運が良かったと仰ってましたよ」

「……!皆さんは!?」

「無事ですよ。今は会えませんが」

 

 やり取りをしていると別室に着き、明石はノックをした。

 

「提督。明石です。入室よろしいでしょうか」

「ああ、入ってくれ」

 

 ドアを開けて部屋に入っていく明石。赤城もその後について行く。室内には、八つの長机で円卓を作り、それに合わせてパイプ椅子が置かれており、その一つに提督が座っている。

 

「提督。赤城さんが目を覚ましたよ!」

「赤城!良かった……本当に……」

「提督……何が起きているんですか?」

「傷を癒す時間も必要だろう、ゆっくりしていけ」

 

 提督の台詞の後に沈黙が起きる。その後、再び口を開く。

 

「と、言いたい所だが、そんな訳にもいかないんだ」

「はい。私も眠っている訳にもいきませんから」

「ではまず、何を聞きたい?」

「ここは何処ですか?」

「街にある公民館だ。町長が避難をしてきた我々を受け入れてくれたんだ。ちなみに、襲撃から五日は経っている」

「私、そんなに眠っていたんですね……」

 

 赤城は己の不甲斐なさを呪うと、また質問を投げかけた。

 

「現状は?」

「かなり悪い。我が鎮守府の艦娘全員が例の艤装をローテーションで使っているが、資材も艤装も避難の際に、僅かに持ち出せただけで、もうすぐで底をつく。その上、地上棲艦の街への侵攻は日に日に増していってる。おまけに、避難民もそれに合わせて増えている。奴ら本気で街ごと俺達を消すつもりだ」

「加賀さん達は?」

「既に目を覚ましている。最も、現在計画している鎮守府奪還とリエ撃破作戦の為に、事務職だけさせているが……」

「作戦……ですか……」

「……後で話そう。今は皆に会ってやれ」

「……分かりました」

「明石、案内をしてやってくれ」

「分かりました」

 

 明石と共に執務室の代用である会議室を出て廊下を進む。赤城が連れてこられた場所は、体育館だった。

 

「これは……」

 

 館内の光景で言葉を失う。床全体にビニールシートを敷き、その上で、辛そうな顔をする人々、慌ただしく動き回る人、額にタオルを乗せて眠る人、多くの市民が苦しんでいる。赤城は、慌ただしく動く人をよく見ると知り合いだと気づき、走って近づく。

 

「加賀さん!」

「館内では静かにしてください」

「あ……すいません」

「赤城さん!?」

「貴方もよ」

「あ……すいません」

 

 加賀に論されいる所に翔鶴が近づくと彼女も論された。

 

「二人共、怪我は……」

 

 二人の姿を見て、恐る恐る聞く。加賀は両頬に湿布、額に包帯を、翔鶴は右腕全体に包帯を巻き、片足を引きずっていた。

 

「私は問題ありません」

「私も、最近歩けるようになって……あと少しで、また本調子になれると思います」

「少なくとも二人は無事……飛龍達は?」

「工蔽……いえ、倉庫にいます」

「私がご案内します」

「大丈夫なの?」

 

 翔鶴が名乗り出たのに対して加賀は心配をする。しかし、本人は笑顔で返す。

 

「はい、リハビリも兼ねてですから」

「ありがとうございます」

「では赤城さん、こちらへ」

 

 翔鶴に連れられ赤城は倉庫の前に立つ。翔鶴はドアの前に立ちノックをする。

 

「博士、翔鶴です」

「ああ、翔鶴君か、入りたまえ」

「失礼します」

 

 倉庫の内部は一部の艤装と機材が置かれており、室内には博士の指示の元、蒼龍が記録、飛龍、瑞鶴が開発を行っていた。

 

「赤城君、久しぶりだね」

「こちらも、お久しぶりです。今は何を?」

「残された艤装の調整だね、後は……切り札の開発か……」

「切り札?それよりも資材は?」

「……戦える者が外に出た際に、見つけたらなるべく持って帰るように言っているのだが、あまり収穫できていないな……」

「そうですか……」

 

赤城が俯ていると三人が寄ってくる。

 

「赤城さん、目を覚ましたんですね!」

「すいません!私が力不足なばかりに……!」

「赤城さん!怪我は大丈夫なの?」

「はい、大丈夫ですよ」

 

蒼龍、飛龍、瑞鶴に心配されるも笑顔で対応していた時、遠くから大勢の人の怒鳴り声が聞こえてくる。

 

「すいません。見に行ってきます」

 

気になった赤城は皆を置いて声の方へ向かった。来た先には、複数の男性が会議室に押し入り、提督らを問い詰めていた。

 

「被害に日に日に増すばかり、どう責任取るんだ!」

「提督だったら、とっととアイツらを殲滅させろよ!」

「何の為の艦娘だ!」

「皆さん落ち着て下さい!」

「我々にも考えがありますから!」

「何をしているんですか!?」

 

赤城はその光景に思わず叫ぶと、男性の何人かが迫って来る。

 

「お前艦娘か!?働けよ!」

「税金泥棒が!誰のせいで俺達の生活が壊れたと思ってるんだ!?」

「おかげで俺の街も心もボロボロだ!」

「……すいません」

「悪いと思っているなら、死んででも、奴ら皆殺しにしろ!」

「……すいません」

「謝るぐらいなら……!」

「待って!」

 

俯き、謝るだけの赤城と憤る市民の間に入るように声が響く。そこには赤城が過去に助けた少女がいた。

 

「赤城は何か考えがあるんでしょ!」

「考え……?」

「貴方は……!」

 

少女との再会に驚きを隠せない赤城に少女が近づき耳打ちをする。

 

「そうでしょ?」

「提督が先程……」

「だったら、お得意の感情論で黙らせなさいよ」

 

それだけ言うと、少女が離れる。赤城は思い切って言った。

 

「皆さん、我々は近日、地上棲艦を討ち、鎮守府を奪還する計画を進めております」

「本当か!?」

 

赤城がそういうと全員の視線が提督に集まる。

 

「はい、しかし、彼女らの体調、準備を考慮して二日後に敢行を予定しています」

「今すぐにでもやれ!」

「止めなさい」

 

男が怒鳴ると一人の老人が現れる。

 

「怒りの矛先は、彼女ではなく、異形に向けるべきではなでしょうか?」

「し、しかしこのままでは……」

「我々にも出来る事はあるでしょう」

「奴らと戦えと言うのですか!?」

「違います」

「じゃ、じゃあ……?」

 

老人は間を開けて叫んだ。

 

「提督殿とお嬢さんを信じて大人しく待ってろ!」

「は、はぃぃ!」

 

老人の気迫に押され、男達は撤退。提督はすかさず感謝した。

 

「ありがとうございます、町長。助かりました」

「いえ、私からも謝らせてくれ。皆、気が立ってるんだ」

「はい、必ず成功させます」

「そちらのお嬢さんは?」

 

町長は赤城に向き聞く。

 

「はい!お任せください!」

 

 

 

それから、二日後、作戦の決行日が訪れ、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の六人は憲兵の運転する車の中で作戦の最終確認を行っていた。

 

「作戦はシンプルに敵地に乗り込んで親玉を倒す……か」

「あのー……もし失敗でもしたら……」

「私達に明日は無い。これだけは確実よ」

「あー、すいません……」

 

会話が弾まない車内、しかし、それを変えたのは赤城だった。

 

「……皆さん、絶対勝ちましょう」

「……はい」

「絶対に勝ちましょう!いえ、勝ちます!」

「あ、赤城さん?」

「私達は何物にも負けない!」

「赤城さん?」

「屈しない!」

「ちょ、赤城さん?」

「復唱とかどうでしょうか?」

 

赤城の自己暗示に引いている中、憲兵が呟く。

 

「必ず守る!」

「……必ず守る」

「加賀さん!?」

 

加賀の復唱を皮切りに全員が復唱会が始まった。そして、車は鎮守府の門前で止まる。降りる六人の瞳には、闘志が宿っていた。

 

「いい顔だ……皆さん!ご健闘を祈ります!」

 

憲兵は、それだけ言うと、走り去って行った。地上棲艦が六人に気づき睨む。

 

 六人は一列に並ぶ、艤装取り出しそれをを左腕に当てる。すると勢い良くベルトが飛び出し、彼女らの腕にガッチリと固定される。そして叫ぶ。

 

「変身!」

 

 たった六人で百以上の軍勢に立ち向かう為に赤城は再び叫んだ。

 

「全員、突撃!」

 

 彼女の台詞を開戦の合図と見たのか、地上棲艦と六人が走り出し激突し始めた。

 

「赤城さん、どうしますか!?」

「ここで体力を使う訳にはいきません。このまま突っ切ります!」

「短期決戦って事ね!」

「でしたら、ここは私が!」

 

 赤城の指示にすかさず翔鶴が前に出る。地上棲艦の先頭を走っていたリ級の腕を掴むと、鎮守府の入り口の方へ投げる。何体かを倒せたがそれでも、行くことはできず赤城は叫ぶ。

 

「翔鶴の支援、もしくは道を作って下さい!」

 

 赤城が言うと、早速、赤城は翔鶴に迫って来ているイ級に弓を構えて引き金を引く。すると、赤の光弾が飛び出し、直撃すると吹き飛び爆散。

 

「赤城さん!後ろ!」

 

 蒼龍に言われ、後ろを向きつつ弓に付いた刃でチ級を切り裂いた。

 

「いいよ!進んでいる!」

 

 飛龍の鼓舞で士気を上げつつ六人は入り口の前に立つ。そんな中赤城は周囲を見て、叫んだ。

 

「挟撃をします!加賀さん、蒼龍、翔鶴は二階へ飛んで下さい!」

「挟撃?どうやって?」

「……分かりました」

 

 赤城の読みを見たのか素直に従う加賀は二人を連れ、二階まで高くジャンプすると、外から手刀で近く窓際を彷徨っていた地上棲艦を切り裂く。奇襲に動揺している中、赤城ら三人が、階段、踊り場、廊下にいる大量の地上棲艦を薙ぎ払いながら階段を上がって来た。

 

「あー……確かに挟み撃ち」

 

 赤城の意味を知った蒼龍は一人呟く。そんな蒼龍を置いて、五人は三階へ向かう。

 

「あ!?ちょっと待って!」

 

 六人は三階に上がり、赤城はすぐ左に走り出す。

 

「赤城さん!どちらへ!?」

「執務室です!恐らく彼女はそこにいるはずです!」

「……行ってみましょう……!」

 

 赤城の案に乗り、一行は提督のいた執務室へ飛び込む。内部には、我が物顔で提督の机に腰を下ろしているリエがいるだけだった。

 

「ハーイ」

「リエ……!」

「来てくれて嬉しいなぁ……街を壊すのは私も嫌で嫌で……」

 

 わざとらしく涙を拭う動きをするリエに瑞鶴は怒鳴る。

 

「白々しいわよ!」

「ほんっと、五月蠅い鶴ね。お姉さんの教育が悪いのかしら?」

「貴方は、瑞鶴を殺そうとして……妹をこれ以上愚弄しないで!」

「そっちの二人もそう。馬鹿な回答を披露してくれた飛龍さんに、提督さんの雑魚ドラゴン。相手を見極める頭も無いの?」

「アンタ!調子に乗ってんじゃないわよ!」

「この……!」

 

 リエの煽りに憤る四人を抑え、加賀も煽りで返す。

 

「口を開けばそればかりですね。口先のみ鍛えて強くなったつもりですか?」

「……そんな訳ないでしょうが!」

 

 そう叫ぶと、執務室の出入り口に壁が現れ七人は閉じ込められる。

 

「アンタらも進化を受け入れなさい!それとも、人を辞めたくないっていうの!?」

 

 リエの問いかけに瑞鶴、翔鶴が言う。

 

「アンタらみたいになったら、破壊をするだけになるんでしょ!?死んでもお断り!」

「私は、この子の為にも、皆さんの為にも……貴方を倒します!」

 

 続いて、蒼龍、飛龍。

 

「弱くないよ!あ、でも、リエが私に負けたら、雑魚にも勝てないって事になるんだよね……よ~し!」

「今ここで倒して、アンタの言う進化っていう考えを壊して見せる!」

 

 最後は加賀、赤城が叫んだ。

 

「リエ、貴方は大きな間違いを語っています。深海棲艦は人類の進化ではなく、殺戮兵器に退化しているに過ぎません」

「はい。そして、私は……艦娘は、守護の存在……!私の後ろに人々がいるのなら、必ず貴方を討ち果たします!」

 

 語りを聞いたリエは鼻で笑いながら反する。

 

「ハッ!馬鹿を言うもの大概にしなさいよ!」

 

 腕を大きく開き、禍々しい気を放つ。リエの気迫に押されても赤城は叫ぶ。

 

「皆さん!行きましょう!!」

「はいッ!!」

 

 赤城の鼓舞に五人は大声で、力強く答えると一斉にリエに向かって走り出す。

 

「あっはははははははは!!」

「だああああああああ!!」

 

 一体の笑い声と六人の咆哮が鎮守府を越えて、街にまで響いた。




次回、最終回


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最終話 空母部隊、永遠なれ

今後の方針、本作の追記、修正をしつつ、新作の検討(おそらく、アズレン、ラブライブ辺り?)


「だあああああ!!」

 

 六人は勇ましく叫び立ち向かう。瑞鶴、飛龍がパンチを打ち、赤城、加賀が両側面に周りキックを打つ。しかし、リエはそれよりも速くパンチを打って前二人を吹き飛ばすと、両端のキックをそのまま塞ぎ、薙ぎ払う。リエがゆっくり歩いて来た所を翔鶴が前に立ち、掴もうとするが、逆に掴まれ、かかと落としを放つために宙に上がった蒼龍目掛けて投げた。それでも六人は立ち上がり挑む、しかし、リエは赤城の腕を掴むと、彼女が弓を放し明後日の方向飛んで行っても、彼女を振り回し、五人を一掃。赤城自身も五人を飛ばすと床に叩きつけた。

 

「がっは!」

 

 六人は衝撃で変身が解け、リエはそのまま赤城の腹に足を置き軽く力を込める。

 

「言い残す事はある?」

「……ありません」

「ふーん」

 

 興味なさそうに聞くが、赤城はリエの片足を掴み、腹に置かれた足を退かそうとしながら叫ぶ。

 

「生きて、貴方を倒す為です!」

「こいつ……!」

 

 手を振り払い、足を大きく上げると、蒼龍は手元に赤城の弓に気づいて、拾い上げると引き金を引く、一発の光弾がリエの肩に当たり、爆発する。赤城もすかさず、転がって、拘束から抜けた。

 

「赤城さん!」

 

 蒼龍の叫びに振り返ると、弓を投げ渡した。それを受け止めると、リエに斬りつける。それでも決定打にはならず、斬っても大きな傷にはならず、リエの攻撃を弓で塞いでも飛ばされてしまう。

 

「しつこいんですけど」

「……まだ……戦える!」

 

 六人は立ち上がり、それぞれ叫ぶ。

 

「変身!」

 

 衣装がボロボロになっても立つ六人。先頭に立った赤城は後ろの五人に向けて呟く。

 

「皆さん……!」

 

 赤城は、五人の姿を見た後、リエに向き、叫ぶ。

 

「一航戦赤城、参ります!」

「一航戦加賀、いざ」

「二航戦飛龍、勝負!」

「二航戦蒼龍、負けないんだから!」

「五航戦翔鶴、舞います!」

「五航戦瑞鶴、絶対勝つ!」

 

 叫ぶと六人は再び立ち向かう。突進する瑞鶴と飛龍。

 

「ふんっ!」

 

 ストレートのパンチを打つが二人は二回目と言う事もあってかそれを見切った。腰を落としタックルを放つと二人がかりで壁に押さえつける。

 

「蒼龍!翔鶴姉!」

 

 瑞鶴が叫ぶと、蒼龍、翔鶴がキックを打ちダメージを与えた。

 

「貴様!」

 

 腕を動かし抵抗を始めた所で放すと今度は翔鶴と蒼龍が押さえつける。

 

「早く!」

「二人共、今です!」

 

 今度は瑞鶴は胸倉を掴んで顔面をひたすら殴り、手を放すと、飛龍が腹にデンプシーロールを打ち込む。

 

「うがああああああ!!」

 

 咆哮をあげ、拘束を無理矢理解くと、加賀に斬りつけられる、更に腕を掴まれ、部屋の中央にまで突き飛ばされる。

 

「やあああああああああ!!」

「んぎいいいいいい!」

 

 そこへ、赤城が脳天目掛けて、拳を落とした。その威力は凄まじく、執務室にも、その下の階にも穴が開き、そのままリエは落ちていった。しかし、それと同時に衝撃からか、鎮守府の崩壊が秒読みの状態になる。

 

「逃げましょう!」

「はい!総員、退避!」

 

 赤城の指示に走り出そうとした時、翔鶴が足を押さえて悶える。

 

「翔鶴姉!?」

「す、すいません……足が……」

「私が運びます!」

 

 赤城は翔鶴に近づき、肩を貸すと、ゆっくり立ち上がり、歩き出そうしたその時。

 

「……お前だけでも」

 

 聞き覚えのある声に構える四人。

 

「お前だけでも……お前だけでも!!」

 

 その怒声と共に穴から複数の腕が伸び、赤城へと迫る。すかさず赤城は、翔鶴を突き飛ばす。

 

「赤城さん!」

 

 全員が叫ぶと、赤城は腕に囚われつつも叫んだ。

 

「逃げて下さい!後は必ず私が倒します!」

 

 それだけ言うと、赤城は穴に引きずり込まれていった。

 

「赤城さん!」

「加賀さん!?」

 

 しかし、加賀はその後を追う様に穴に飛び込もうとする。

 

「貴方達は行きなさい」

「しかし!」

「命令よ!そして、私達の事を必ず報告しなさい」

「加賀さん!」

 

 部下達の制止振り切り、加賀は赤城の後を追いに行った。

 加賀は穴へと落ちている二人を見つけると、手刀で赤城を縛る手を斬ると解放する。

 

「加賀さん!?」

「単体行動は危険です」

「……ありがとうございます!」

 

 地面に着き二人は辺りを見る。

 

「ここは?」

「恐らく、鎮守府の地下でしょう」

「まさか、うちに地下があったなんて……」

 

 話していると、リエが襲い掛かるが二人は負けじと立ち向かった。

 

 

 

 満身創痍の四人は屋外を徘徊する地上棲艦から隠れつつ、半壊した工蔽に入り込む。

 

「はぁ……はぁ……とりあえず休もう……」

「赤城さん……」

 

 幸いここには相手はおらず、飛龍の指示で一度、休みをとってから進もうとしていた。しかし、翔鶴は赤城の事が気掛かりだった。

 

「……やっぱり、お二人を置いていけません……!」

 

 床に座り、壁にもたれ掛かった翔鶴は立ち上がろうとするが、足の痛みに耐えきれず、両膝を落とす。

 

「翔鶴姉!無理しないで!」

「けれど、お二人が!」

 

 言い争う二人他所に飛龍は大破した機器の中に弦の切れた弓を見つける。

 

「艦載機!艦載機を飛ばそう!」

「艦載機!?でも、あるの?」

「それを今から探すの!翔鶴、やってくれる?」

「はい!」

 

 飛龍の提案に乗った三人は崩れた工蔽内をくまなく探す。

 

「あった!?」

「弓があったよ!ちゃんと弦もついている」

「甲板もあった!でも、無事だったのは」

「爆撃機がありましたが……」

「どうしたの?」

「六機だけですね……」

 

 蒼龍の叫びに対して、飛龍は弓、瑞鶴が甲板、翔鶴が爆撃機を見せる。

 

「心もとないなぁ……」

「一人、一か二、操ればいけるかな……」

「私に撃たせて下さい!」

「分かった。頼んだよ!」

 

 飛龍は翔鶴に弓を渡す、翔鶴も片膝をついた状態で構え叫ぶ。

 

「全機、突撃!」

 

 六機が大きく開かれた穴から飛びだって行った。

 

 

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 リエは叫びながら、執拗に赤城の顔、腹を殴る。動かなくなったのを確認すると、そのままぶん投げ、壁に叩き付けた。衝撃で壁が崩れ赤城が下敷きになったのを見ると、今度は地に伏せ、悶えている加賀の方を向く、歩いて近づくと首根っこを掴み、宙に浮かばせる。

 

「ああっ!」

「うふふ……」

「う、うぅぅ……」

 

 徐々に絞める力を増していき、それに比例して加賀の僅かな抵抗も弱くなっていく。

 

「加賀さんを……放しなさい……!」

 

 瓦礫をどかしつつ赤城が這い上がる。その姿に驚いたリエは叫ぶ。

 

「何故倒れない!?」

「私の……すべき事だから……」

 

 赤城は頭から血を流しつつ、口元の血を拭うと言い放った。

 

「私は、幼少期に大切な人を失いました。その時から、人を守る力を求めるようになって……そして、艦娘になったんです!だから……人々は私が守ります!!」

「それもここで終わりだあああああ!!」

 

 その時、六機の爆撃機が駆け付け、リエの周りを飛び始めた。降り注ぐ爆撃に対しリエは必至に手を振り回す。

 

「このっ!邪魔だ!」

「誰が……!?」

 

 加賀が呟くとリエは、それぞれの手で全ての爆撃機を掴んだ。

 

「よし!」

 

 小さく喜ぶと、そのまま握りつぶす。その時、赤城が弓を腰に構え、リエの腹に向かって突進してきた。

 

「はああああああ!!」

「がっ!?」

「は!」

「ぎっ!?」

「まだ!」

 

 腹に刺さった弓を捻り、更に深々と刺す。そこへ追い打ちをかける様に何度も引き金を引き、光弾をひたすら打ち込んだ。

 

「貴様あああああ!!」

 

 潰した爆撃機を投げ捨て、赤城に拳を振り下ろすがそれを横に転がって回避する。

 

「許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない!許さない……!!」

 

 体の所々が爆発している中、腹の弓を抜こうとするが弓の返しにより抜けず叫ぶリエに対して加賀も叫ぶ。

 

「赤城さん!」

「はい!」

 

 加賀の指示に二人は飛び上がると、赤城は、空中で態勢を整え右足を突き出し、加賀は宙で一回転すると両足を突き出す。リエはそれを見て弓を抜くのを止めて、キックに備えて構える。

 

「はああああああ!!」

 

 二人はそのまま、三本の足で渾身のキックを放った。キックは腹に刺さった弓に当たると更に深く刺さる。リエは震える手で、二人の手を掴もうとするが、二人の勢いに負けるが耐える。

 

「うおおおおおおお!!」

 

 しかし、弓を抜こうと手を伸ばした時、弓は胴を貫通し、そこへ、三本の足が入った。そのまま、二人も貫通し腹に巨大な穴が開く。

 

「でやああああああああああ!!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!!」

 

 赤城と加賀の狂いなき一撃を受け、腹部に風穴を開けられると、リエは断末魔を上げて大爆発。弓もろとも跡形もなく消えた。爆破地点を後ろにそれぞれ呟いた。

 

「やりました」

「この勝利で慢心しては駄目……これからも守っていくためにも……!」

 

 その時、鎮守府の崩落が更に進み、二人はそのまま大量の瓦礫に埋もれてしまった。

 

 

 

 どれ程の時間が経っただろうか、二人は辛うじて作ったスペースで生きながらえていた。

 

「加賀さんは……何故助けに来てくれたんですか?」

「え?」

 

 赤城の台詞に疑問を持つ加賀。

 

「……私にも分からないわ」

「加賀さんって嘘が下手ですよね」

「……どういう意味ですか?」

「私を守ってくれるために来てくれたんではないのですか?」

「……今思えば、感情で勝手な行動だったわ……」

「でも、嬉しかったです」

 

 赤城に微笑まれ、加賀は思わず目を逸らす。

 

「赤城さん」

「はい」

「以前、私は提督から、少し馬鹿になった方がいいと言われました」

「言葉の意味は分かりましたか?」

「……ええ、けれどこれじゃ、あの子達に示しが付かないわね……」

「いえ、付くと思いますよ」

 

 赤城は一呼吸置き言った。

 

「すいません。少し眠いので眠ってもいいですか?」

「赤城さん」

「……」

「赤城さん?」

 

 目を瞑り、答える前に動かなくなった赤城に、加賀は聞き返す。

 

「赤城さん!加賀さん!」

「赤城!加賀!」

 

 その数分後、上司、部下が瓦礫を退かしに駆け付け、そのおかげで、地上からの光が差し込み、二人を包んだ。

 

 

 

 あれから暫くして、地上棲艦の出現頻度は全国的に大幅に減少し、出現しても、相手が弱く、駆逐艦だけでもどうにかなった。鎮守府は全壊したため、簡単な拠点を横に設置、そこで施設の修復もしつつ深海棲艦との戦いにも備えていた。

 

「……以上が本日の戦果です」

「ご苦労、今日はもう上りか?」

「ええ、行きたい所もありますから」

「久しぶりに楽しんでこい」

「ええ」

 

 加賀は提督に微笑を見せるとそのまま、去って行った。

 

 

 

 街では、鶴姉妹が仲良く歩いていた。翔鶴の足の状態も完治し、元気そうだ。二人はある人物に会う為に大きな焼肉店へと入っていった。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

「いえ、約束があって来ましたが、飛龍という方はいますか?」

「飛龍様……、お客様、お名前は?」

「翔鶴です。この子は瑞鶴です」

「……はい、確かに承りました。こちらへどうぞ」

 

 店員に連れられて、二人は個室に入る。

 

「ごゆっくりどうぞ」

「おおー、来たね!」

「二人も今のうちに決めちゃって!」

 

 個室には飛龍、蒼龍の龍コンビがおり、メニュー表を片手に二人を誘う。

 

「何にする?」

「勝手に決めてていいんでしょうか……?」

「大丈夫、大丈夫!赤城さんなら何でも喜んでくれるって!」

 

 飛龍は笑いながら、軽く返す。

 

「赤城さん、まさか退院したら、焼肉を食べたいなんて……」

「夜は焼肉っしょ!ってね」

「いや、そんなハイテンションではなかった思う」

 

 瑞鶴は赤城の考えに微笑み、飛龍は蒼龍のノリに突っ込む。

 

「こちらへどうぞ」

 

 外から聞こえた声に、反応すると二人の人が入って来た。それを見て叫ぶ。

 

「赤城さん!」

「加賀さん!」

 

 喜びの声を上げる四人。赤城と加賀はそのまま、席に座る。

 

「すいません。遅れました」

「いえいえ、赤城さんも退院おめでとうございます!」

「ええ、これからもまた頑張らないといけませんね。加賀さんも、お迎えありがとうございます」

「いえ、当然です」

 

 赤城がそれぞれに感謝している中、翔鶴は恐る恐る聞く。

 

「その……怪我はどうですか?」

「そうですね。日常生活が送れる程度には直りましたが、戦線に出られるのはまだ先になりそうです」

「そうですか……」

「それよりも、今日はたっぷり食べましょう!肉は頼んでおいたので飲み物を選んでください!」

「あ、ありがとうございます!そうですね……」

 

 蒼龍に押されて、注文を始める二人、暫くすると、六杯のコップが卓上に並べられた。

 

「来た来た!」

 

 同じタイミングで肉も着き、それぞれコップを握ると、宙に掲げて六人の歓声が響いた。

 

「乾杯!」




今回で変身空母赤城は完結です。
半年間の応援ありがとうございました!



以下、個人的な話
執筆自体は初めてではないですが、無事に完結まで持って行くことが出来たのは、今作が初めてです。これも全て、毎週見に来てくれている読者様があって出来た事だと私は思います。完結まで進めて、自身の作品を見直して、何処が良いか悪いかも確認でき、本作は私の黒歴史でもあり、自慢になりました。
他には……空母の娘って魅力的な人が多いですよね。










以下、更に個人的な話
メインにした六人のイメージとしては。
赤城……クール気取り、頼もしくて、可愛い(24歳)
加賀……クール、仕事は出来ても、関係づくりが出来ない(24歳)
飛龍……コメディリリーフ、しかも有能(19歳)
蒼龍……セクシー要因、おっぱいが大きい(19歳)
翔鶴……清楚、ヒロイン力なら最強(18歳)
瑞鶴……最年少、能力が最も高いが精神が未熟(17歳)

もっと技術があったら、雲龍達や大鳳、グラーフもゲスト枠で参戦させていたかも。
コメント次第では続編をやろうかな……
では、改めてここまで読んでくださってありがとうございました!次回作で会えたら会いましょう!


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