終焉の聖騎士伝説~オメガモンとなった青年の物語~ (LAST ALLIANCE)
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Database(設定集)
登場人物&設定紹介 vol.1


少し早いですが、設定集の投稿となります。
今日は章管理の機能を使い、第1章を付けました。タイトルは曲名です。
『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の第1期の1stオープニングテーマですが、マンウィズは個人的に大好きなバンドです。
野外フェス(しかも前の方)で見ましたが、すげぇ盛り上がりました。
平野耕太先生の『ドリフターズ』の1話1話のタイトルが曲名なので、それをリスペクトする形ですが、規則性や拘りを持たせていきます。
では設定集をお楽しみ下さい。



【主人公紹介】

 

・八神一真(やがみかずま)

 

名前の元ネタ

 『デジモンアドベンチャー』の主人公の八神太一と、『仮面ライダー剣』の主人公の剣崎一真から。

 

略歴

 地元の中小企業に勤める25歳の青年。8月1日のデジモンの日に友人の石田武蔵と共に聖地巡礼をしている途中、ディアボロモンの襲撃に遭って一度は命を落とした。

 しかし、オメガモンと一体化する事で復活し、ディアボロモンとの戦闘に突入。苦戦しながらも勝利を収めた。

 翌日に”電脳現象調査保安局”の主任、桐山鏡花と共に”電脳現象調査保安局”の本部に赴き、薩摩廉太郎に”電脳現象調査保安局”に入局を依頼される形となり、局員としてデジモンとの戦いに参戦する事となった。

 

人物

 明朗快活で裏表のない性格だが、人生経験の問題でドライな一面がある。真面目で冷静である反面、胸に熱い物を秘めている。

 正義感や使命感が強い為、自分がオメガモンとなったから戦わなければならない、皆を守らなければならないという強い思いを持っている。その思いが強い使命となり、自らに課している危うさもある。

 戦闘経験自体は皆無だった為、オメガモンに助けられている形となっている。しかし、オメガモンの秘奥義を一時的に引き出せた為、何らかの隠された力がある様子。

 

 

 

・オメガモン

 

世代/超究極体

 

属性/ワクチン種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/ガルルキャノン、グレイソード

 

・プロフィール

 ウイルスバスターであるウォーグレイモン・メタルガルルモンが、善を望む人々の強い意志によって融合し誕生した“ロイヤルナイツ”の一員である聖騎士型デジモン。2体の特性を併せもつデジモンで、どんな状況下でも、その能力をいかんなく発揮することのできるマルチタイプの戦士である。ウォーグレイモンの形をした左腕には盾と剣が、そしてメタルガルルモンの形をした右腕には大砲やミサイルが装備されている。背中のマントは、敵の攻撃を避ける時や、飛行するときに背中から自動的に装着される。必殺技は、メタルガルルモンの形をした大砲から打ち出される絶対零度の冷気弾で敵を凍結させる『ガルルキャノン』。また、左腕には無敵の剣『グレイソード』が装備されている。

 

・略歴

 かつての“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)” でバグラモンとタクティモンを相手に奮戦するも、秘奥技たる『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』をイグドラシルによってクラッキングされ、バグラモンに倒された聖騎士。

 データの宇宙で“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”を見届け、輪廻転生の準備に入ろうとした所を何者かによって転移させられ、八神一真と一体化する形で新生。

 ディアボロモンを苦戦しながらも倒した事で、人間界とデジタルワールドを巻き込んだ大戦に参加する事となった。

 

・人物

 一人称は「私」。光や善を良しとし、邪悪なる者を倒す、正統派な聖騎士。自らの正義を貫く為に戦うが、弱者や人々に寄り添う守護神的な一面も見せる。

 強敵との死力を尽くした戦いを望む武人でもあり、弱者への一方的な暴力を心底嫌っている為、例え命令でも無視する高潔な精神を持つ。

 聖騎士としては寡黙、謙虚、控えめな態度をしており、一真に対しても一歩引いた態度で立たせている。要は騎士道を重んじ、主君に対しては忠義を誓う聖騎士の中の聖騎士。

 

・能力

 超究極体の名に恥じない実力者。最高峰の剣技と、卓越した戦況把握能力、死ぬ最後の一瞬まで正義を貫く在り方から、スーパーオールラウンダーと呼ばれている。

 武器は右手の大砲と左手の聖剣とシンプルではあるが、超越した攻撃力と破壊力を所有している。

 生前には『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』が使えたが、“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”にて使用不能に陥り、敗北した。それでも一真によって特定の条件下でのみ使用可能となった。

 

 

 

【主要人物紹介】

 

・桐山鏡花(きりやまきょうか)

 

略歴

 ”電脳現象調査保安局”の主任。その正体はバグラ軍の最高幹部の三元士だった、『七大魔王』の一角、『色欲』を司るリリスモン。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”では、オメガモンとは敵だった関係。何故人間側に付いたのか、人間界に来たのかは現時点では謎。

 

人物

 人間体は長身でクールな性格の美女。バリバリのキャリアウーマンだが、部下の一真の心配をしたり、色々な事を教えたりする姉御肌。

 ちなみに司る大罪のおかげで、好みの男性を見てはワクワクが止まらないらしい。それに加え、仕事場から外に出ては沢山の男性を魅了しているとの事。

 

 

 

・薩摩廉太郎(さつまれんたろう)

 

略歴

 ”電脳現象調査保安局”の本部長。『デジモンセイバーズ』に登場した薩摩さんその人。警察官として働き、天寿を全うした後、この世界に転生した。転生させた人物や目的は現時点では謎。

 

人物

 内に秘めた熱い闘志を武器に、デジタルワールドと人間界双方の平和を守る、厳しくも熱い男。厳格さと優しさを併せ持つ理想の上司。転生前に比べて穏やかになったらしい。

 

 

 

・クダモン

 

世代/成長期

 

属性/ワクチン種

 

種族/聖獣型

 

必殺技/弾丸旋風(だんがんせんぷう)、絶光衝(ぜっこうしょう)

 

プロフィール

 聖なる薬莢を常に巻きつけて離さない聖獣型デジモン。左耳のイヤリングに聖なる力を日々溜めていると言われ、蓄えた力が大きいほど次の進化に影響があるという。冷静沈着な性格をしており、戦いにおいても的確に状況判断を行って、戦いを優勢に進める。逆に劣勢になった場合は薬莢の中に入り、身を固める防御技も持っている。必殺技は身体を回転しつつ薬莢ごとぶつける『弾丸旋風(だんがんせんぷう)』と、ピアスから発する大きな輝きで目を眩ます『絶光衝(ぜっこうしょう)』。

 

略歴

 薩摩のパートナーデジモン。転生前はデジモンと人間の無益な争いを避ける為に使者として人間界へ送ったデジモンの一体。いつも薩摩の肩に乗っているが、本人曰くそこが一番落ち着くとの事。

 正体はネタバレになる為に省略するが、転生後も薩摩と一緒にいられるという事で内心で狂喜乱舞していた。ちなみに転生前に会得し、お披露目出来なかったバーストモードがあるらしいが……?

 

 

 

【用語紹介】

 

・『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』

 

説明:戦いにおいて一瞬にして先を読み、対応出来てしまう究極の力。あらゆる状況下でのオメガモンの戦闘センスとポテンシャルが極限まで高められ、引き出された能力。胸部の紅い宝玉によって戦場における様々な情報が分析され、予測された無数の結果が直接オメガモンの脳に伝達され、未来を見せる能力。そしてその未来を実現させる為に、力を最大限に引き出す。

 

 

 

・電脳現象調査保安局

 

説明:通称はDATS。人間界における電脳現象(=デジモンが関係している出来事)を調査し、解決する為に国家が立ち上げた特殊チーム。その存在は世間には秘密にされており、局員にはディーアークとタブレットが支給される。給料や福利厚生が良い超優良な職場。

 

 

 

・デジモン化

 

説明:デジモンとなった人間にのみ発生する現象。デジモンの能力を行使した事による肉体面・精神面での疲弊。力を使えば使う程進行し、最終的には人間としての精神が死に、完全なデジモンになる。何らかの処置で回復もしくは進行を止めることが可能だが、詳細は不明。

 



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登場人物&設定紹介 vol.2

前回の紹介が第0話~第3話が中心でしたが、今回は第4話~第7話に登場したキャラやデジモン。必殺奥義を紹介していきます。
定期的に設定集は投稿していくので、よろしくお願いします。
章管理の方でもMAN WITH A MISSIONの曲、『Databese』に変更しました。
テレビアニメ『ログ・ホライズン』のOP曲として使われた曲です。
第2章に使う曲のタイトルはまだ決めていません(汗)


【登場人物・登場デジモン紹介】

 

・工藤優衣(くどうゆい)

 

名前の元ネタ

 『デジモンクロスウォーズ』の主人公の工藤タイキから。

 

略歴

 ”電脳現象調査保安局”に勤める26歳の女性。物心つく前に両親を失い、天涯孤独の身となった為、児童養護施設で過ごして来た。そこで様々な子供達や憧れの職員と出会い、将来は大学に行き、児童福祉系の仕事に就く為の勉強をする事を夢見ていた。

 ある日、ダークドラモンの襲撃に遭ってアルファモンとなり、”電脳現象調査保安局”にスカウトされ、高校卒業後は社会に出て働いている。今は仕事をしながら“寿司処 王竜剣”の店主をしている。

 

人物

 

 社交的な性格で姉御肌。“お姉さん”や“お姉さま”と呼ばれる事が圧倒的に多い。本人は言わせた覚えがないのだが。自分という存在に対しては何か思う事があるらしく、時折複雑な感情を見せている。

 唯一鏡花ことリリスモンには頭が上がらず、勝てない相手。これは仕事等の色々な所でお世話になった事が関係している。時々強引な一面も見せるが、基本は優しくて母性的な女性。

 アルファモンになってからは数々の武勇伝を打ち立て、魔術師・召喚師としてもかなり優秀な側面を見せている。

 

 

 

・アルファモン

 

世代/究極体

 

属性/ワクチン種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/聖剣グレイダルファー、デジタライズ・オブ・ソウル

 

・プロフィール

13体存在すると言われるネットワークセキュリティの最高位、聖騎士“ロイヤルナイツ”の1体である。聖騎士でありながら、聖騎士への抑止力的な存在だと言われており、通常時は姿を現すことはなく、蒼いマントを翻す“孤高の隠士”とも呼ばれ、“空白の席”と呼ばれる所に位置する“ロイヤルナイツ”である。戦いにおいては過ぎ去った戦いを瞬間的に取り戻す究極の力「アルファインフォース」の能力を持つため、アルファモンの攻撃は一瞬にして終わるが、実際には何回の攻撃を繰り出したかは分からず、理論上、敵が倒れる最後の一撃だけを見ることになる。両手からデジ文字の魔方陣を展開して攻撃と防御を行う。必殺技は魔法陣の中心に突き刺さった光の収束を抜き、敵を貫く『聖剣グレイダルファー』と、背中の翼を広げて飛翔し、上空より巨大な魔方陣を展開して、異次元より伝説上のモンスターを召喚する『デジタライズ・オブ・ソウル』。

 

・略歴

 『DIGITAL MONSTER X-evolution』で登場したアルファモン。オメガモンにX抗体を渡した時に力を失ったが、ホメオスタシスによって優衣と一体化する事で転生した。

 優衣がダークドラモンに殺されそうになった所を『Alpha-Gain-Force(アルファ・イン・フォース)』で助けた為、優衣の心臓は『電脳核(デジコア)』となっている。

 

・人物

 一人称は「俺」。聖騎士らしくない、ざっくばらんでフランクな口調が特徴。礼儀作法は身に付けているが、それが見られる場面が数少ない。優衣との仲は良好。

 戦闘スタイルは魔法剣士だが、グレイドモンの二刀流の戦い方も会得している。使うのは聖剣グレイダルファー。

 

 

・アルファモン

 

世代/究極体

 

属性/ワクチン種

 

種族/NODATA(聖騎士型)

 

必殺技/究極戦刃王竜剣

 

・プロフィール

アルファモンが放ったデジ文字の魔法陣の作用により、オウリュウモンが奇跡的な進化を遂げて剣になった姿。オウリュウモンは、さらなる戦闘力が追求された実験体「プロトタイプデジモン」の究極体であり、剣になったことで、その戦闘力の全てが攻撃だけに専念される。王竜剣の一振りは、言わば究極体デジモンに内包された全パワーを扱うことであり、並みのデジモンで振れる剣ではなく、並みのデジモンが受け止められる剣でもない。

 

 

 

・カオスデュークモン

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/暗黒騎士型

 

必殺技/デモンズディザスター、ジュデッカプリズン

 

・プロフィール

ウィルス種としての本能に目覚めた、デュークモンのもう一つの姿。その精神・思考は完全にダークサイドであり、デジタルワールドに災いをもたらす“デジタルハザード”以外の何者でもない。デュークモン同様に高純度の“クロンデジゾイド”を精製した黒い魔鎧を纏い、右手は魔槍「バルムンク」に、左手は魔盾「ゴーゴン」になっている。まさに、デュークモンとは対極をなす存在である。必殺技は魔槍の強力な連打攻撃『デモンズディザスター』と、左腕の魔盾から全てを腐食させる暗黒波動を放つ『ジュデッカプリズン』。

 

・略歴

 クオーツモンの部下……と思いきや、別のデジモンに仕えている暗黒騎士。オメガモンの強さを確かめたり、意味深な言葉を言ったり、色々と謎の多いデジモン。

 

・人物

 自分の正義と信念を持ち、主に仕える忠義の騎士。明晰な頭脳と冷静な判断力、そして鋭い洞察力を持ち合わせている。実力もオメガモンと同等クラスで、しかもデュークモン・クリムゾンモード的な切り札を持っている。

 

 

 

【オリジナル奥義紹介】

 

・エクスプロージョン……アルファモンが使用する初級魔術。任意の場所を大爆発させる。

 

・スプラッシュレイザー……アルファモンが使用する初級魔術。凄まじい水流を放つ。

 

・メテオバレット……アルファモンが使用する初級魔術。任意の数の火炎弾を放つ。

 

・アイスランサー……アルファモンが使用する初級魔術。任意の数の氷の槍を放つ。

 

・グレイソード……オメガモンの左腕に装備されている聖剣。“万象一切灰燼と為せ”という言葉を宣言すると、刀身から太陽の火炎を発する聖剣となる。周囲一帯を“ムスペルヘイム”に変える程の熱量と輝きを併せ持っている。

 

・ガルルキャノン……オメガモンの右腕に装備されている聖砲。“蒼天に坐せ” という言葉を宣言すると、全てを凍結し、破壊する聖砲となる。周囲一帯を“ニブルヘイム”に変える程の冷気と輝きを併せ持っている。

 

・怒涛たる勝利の聖剣(グレイソード)……解放状態のグレイソードを用いた必殺奥義。太陽の火炎を集約して灼熱の波濤に変える。これにより、オメガモンは自身の卓越した技量でグレイソードを自由自在に操ることで、あらゆる攻撃を焼き尽くし、あらゆる敵を消し去る事を可能とする。

 

・燦然たる勝利の聖剣(グレイソード)……解放状態のグレイソードを用いた必殺奥義。巨大な灼熱の刃を生み出し、太陽の膨大な熱量と輝きを併せ持ち、触れた全ての対象を消し去る。また、周囲を灼熱のエネルギーと火炎を以て焼き尽くす。

 




次の設定集の投稿は第8話~第10話のまとめを予定しています。
バグラモン一家とデジタルワールドの情勢が中心になりますが、どうぞよろしくお願いします。今週中に第14話を投稿するので、楽しみにしていて下さい!

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!


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登場人物&設定紹介 vol.3

今回は第8話~第10話までの登場人物&設定紹介になりますが、都合上バグラモンファミリーの紹介になりました。
本編で登場したデジモン(オリジナル設定ある個体に限る)のまとめなので、暇がある時に読み返して下さい。

p.s.タイトルの数字を間違えていたので、訂正しました。すみません!


・バグラモン

 

世代/クロスウォーズ(究極体の上位クラス相当)

 

属性/なし(ウィルス種?)

 

種族/魔王型

 

必殺技/アストラルスナッチャー、スカーレットブラッドワイン、インビジブルスネークアイズ

 

・プロフィール

元々は死を司る高位の天使型デジモンであったが、理不尽な世界の理(ことわり)に絶望し神に謀反した。その時に神の罰を受けて片目と半身を永遠に失い、以降は霊木から削り出した義体を半身の代わりとしている。長い義手の右腕は霊体を掴むことができ、生きているデジモンの身体から魂だけ抜き去る。抜かれた魂はバグラモンの自由で天国へも地獄へも、他のデジモンの身体にも送り込むことができ、「アストラルスナッチャー」と呼ばれるバグラモンの得意技である。失った片目の代わりにはめ込んでいる大粒のルビーは、デジタルワールド内ならばどこでも覗き見る力「インビジブルスネークアイズ」を秘めており、この能力によってバグラモンは知りたい情報を瞬時に知ることができる。このことからバグラモンは「死を司る賢者」としてデジタルワールドで広く知られている。神へ謝罪すればバグラモンの罪は許されるのだが、バグラモンが神の元へ再び下ることはない。なぜならば、バグラモンは神の造った『理不尽な世界の理』に替わるものを探求し続けており、『新たな理』によって世界から神を追放することを目的として生きているからだ。

 

・略歴

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”のバグラ軍皇帝。ホメオスタシスからその実力とバグラ軍を作り出した経験、カリスマ等を買われて転生。

 人間界では獏良幸太郎という名前で生活している。世界的な科学者・研究者として知られているが、バグラモンの力と前世の経験を持っている為、有事の時に“電脳現象調査保安局”と連携し、新生バグラ軍を立ち上げる事を約束している。

 

・人物

 一人称は「私」。悪の皇帝であり、ラスボスだけど誰よりも優しい魔王様。大切な人や身内を想う心は本物であり、誰かの為に戦える強さを持っている。

 実は怒らせると怖いデジモンランキング第1位なので、獏良家では絶対にバグラモンを怒らせないように取り決めがされている程。

 

・能力

 戦う場面が少ないが、前世でタクティモンと二人でオメガモンを倒した実力者。主に“インビジブルスネークアイズ”による相手の分析と予測と、“アストラルスナッチャー”による攻撃が中心。

 

 

 

・タクティモン

 

世代/クロスウォーズ(究極体の上位クラス相当)

 

属性/なし(ウィルス種?)

 

種族/魔人型

 

必殺技/壱の太刀、弐の太刀、参の太刀、タネガシマ、鬼神突、星割り

 

・プロフィール

「蛇鉄封神丸」と呼ばれる無双の剣を持つ武人デジモン。「蛇鉄封神丸」には星を真っ二つにする程の禍禍しき力が封じられており、この剣を抜くことは星の崩壊を意味する。ゆえにタクティモンはこの剣を抜かずに闘うが、それでも脅威の破壊力を発揮する。一つ大地を突けば地震を起こし、二つ突けば亡者の兵を百人呼び覚まし、三つ突けば衝撃波と共に周囲の地面を瓦解させる。これほどの威力を秘めた「蛇鉄封神丸」は誰にでも扱える剣ではない。それだけでもタクティモンの実力の深さがうかがい知れる。 武人としての実力もさることながら、「知謀、泉が如く湧くがごとし」と言われるほど計略と戦略に長けており、タクティモンの真の実力は腕力ではなくその知謀にある。タクティモンが軍団を率いるとき、既に勝敗は決しており「闘う前に勝利が決まっている」と言われる。様々に張り巡らされた計略によりタクティモンが戦場に立つ時にはすでに絶対的な有利さが保証されているのだ。

 

・略歴

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”のバグラ軍幹部、三元士の1体。バグラモン達と共に転生した。

 人間界では禎島拓郎という名前で私立の高校教師を務めている。担当科目は数学で、剣道部の顧問。全国大会の常連であり、教え子達を優秀に育てている事から“GTT(グレート・ティーチャー・テイジマ)”と呼ばれている。

 一真やパラティヌモンといった様々な強豪と戦えるようになり、何だか毎日活き活きしているとバグラモンは言っている。

 

・能力

 身の丈もある大太刀“蛇鉄封神丸”と、背中の大砲“タネガシマ”が主な武器。単体で複数の聖騎士を圧倒した実力者だが、転生して更に強化された。“蛇鉄封神丸”の封印を解除すると、相手の特殊能力を封じる力が発動するようになったらしいが、現時点ではまだ詳しい事は分かっていない。

 

 

 

・リリスモン

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/魔王型

 

必殺技/ファントムペイン

 

・プロフィール

女性の姿をした魔王型デジモンで“七大魔王”デジモンの一体でもある。元々はオファニモンと同種族だったと考えられており、堕天して “暗黒の女神”と呼ばれるようになった。妖しくも美しい容姿で相手を惑わし、その誘いに乗ったものは必ず死が与えられるといわれる。“暗黒の女神”の名に相応しく、悪に対しては寛大であるが善に対しては冷酷非道の施しをする。右腕の魔爪「ナザルネイル」は触れるもの全てを腐食させる。必殺技は暗黒の吐息で相手の体を蝕む『ファントムペイン』。この呪い受けると体の末端からデータが消失し、死してなお、その痛みに苦しむといわれている。

 

・略歴

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”のバグラ軍幹部、三元士の1体。バグラモン達と共に転生した。

 “電脳現象調査保安局”の主任、桐山鏡花の正体。一真や優衣の上司であると同時に、良き理解者。バグラモンとは夫婦同然の生活を送っている。何気に凄い。

 

・能力

 『七大魔王』の一角だけあって究極体の上位クラスの強さはあるが、本人は戦闘より諜報や指揮官の方を得意としている。その為、転生してからは前線に出ず、後方支援や指揮を取る事が増えた。

 

 

 

・ブラストモン

 

世代/クロスウォーズ(究極体の上位クラス相当)

 

属性/なし(データ種?)

 

種族/鉱物型

 

必殺技/ダイアモンドマシンガン、ダイアモンドヘッジホッグ、プリズムフラッシュ、クリスタルブレス

 

・プロフィール

鉱物の体を持つ超重量級デジモン。壊れても壊れても再生する硬質クリスタルの鎧をまとい、多彩にして高威力の技を誇ってゆっくりと移動する姿は難攻不落の動く要塞そのものである。その光り輝く体とパワー故に、自らを“もっとも美しく気高き存在”と呼んでいる。強烈なパンチと共に体中のクリスタルをマシンガンの様に打ち出す「ダイアモンドマシンガン」は一発で数百の敵を一掃し、硬い身体と重量を活かした「ダイアモンドヘッジホッグ」は身体を丸めて転がるだけだが、その下敷きになって原型を留ていられるものなど存在しない。太陽光を体中に取り入れ、超高熱・高圧縮のレーザーを吐き出す技「クリスタルブレス」は日中しか使えないのが唯一の欠点であるが、欠点を補って余りうる破壊力を見せつける。

 

・略歴

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”のバグラ軍幹部、三元士の1体。バグラモン達と共に転生した。

 人間体は若本大輔。声は声優の若本さんそのまんま。簡単な嘘に信じてしまう程単純な思考であり、その思考故に思い込みが強いが、時折核心を突いた鋭い一言を言う事もある。

 普段は公立高校の用務員を務め、休日は畑で野菜を作っている。何気にしっかりした仕事をしている。

 

・能力

 圧倒的パワー、強固な装甲を誇るパワーファイター。パワーと防御力で言えばタクティモンを遥かに凌駕している。1体で大軍勢と同等レベルの実力者。

 ちなみに転生してからはタクティモンと毎日稽古に励んでいる為、実力は前世より遥かに上がっている。

 

 

 

・ホープナイトモン

 

世代/クロスウォーズ(完全体の上位クラス相当)

 

属性/なし(ワクチン種)

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/ツインブレイズ

 

・プロフィール

スカルナイトモンが聖騎士となった姿。「騎士たる者は闘わなければならない。闘う以上勝利しなければならない。但し、出来れば正々堂々とした戦いで勝利したい」というポリシーの元に行動しており、勝利という結果を重要視しながら正々堂々という課程も重要視している。身体のサイズを活かした戦いを得意とし、相手の懐に飛び込んで「ツインブレイズ」を振るう様は、勇ましい聖騎士と思える活躍を見せる。

 

・略歴

 元スカルナイトモンであり、バグラモン達と共に転生した。人間界では大学の教授を務めており、とある事件を切っ掛けに有名人となった。

 前世の悪行は忘れておらず、聖騎士となって転生出来た事に感謝している。タクティモンとの修行でスカルナイトモンの頃より力が上がっている。

 

・能力

 ホーリーナイトモンの姿で戦闘を行っている為、この姿で戦う事は極稀だが、それでも究極体とも普通に戦う事が出来る実力者。

 

 

 

・セイントアックスモン

 

世代/クロスウォーズ(完全体の上位クラス相当)

 

属性/なし(ワクチン種)

 

種族/聖獣型

 

必殺技/エアスライサー

 

・プロフィール

ホープナイトモンと義兄弟の杯を交わした弟分で、素早い動きと無限の体力に満ちた屈強の闘士。義兄であるホープナイトモンに忠実に従っており、勝利を得るため義兄を信じて闘っている。「走る稲妻」と異名を取るほど電光石火の動きを見せ、トップスピードでは残像が見えるほど素早い。弱点だった細かい動きも克服している。必殺技は光速で敵の間を駆け抜け、斬られたことすら気付かせない程の斬撃を繰り出す「エアスライサー」。

 

・略歴

 元デッドリーアックスモンであり、ホープナイトモン達と共に転生した。普段は畑仕事に勤しんでいるが、ホープナイトモンの危機に一早く駆け付ける忠臣。

 

・能力

 ホーリーナイトモンの姿で戦闘を行っている為、この姿で戦う事は極稀だが、それでも究極体とも普通に戦う事が出来る実力者。

 

 

 

ホーリーナイトモン

 

世代/クロスウォーズ(究極体の上位クラス相当)

 

属性/なし(ワクチン種)

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/ツインブレード、ショルダーセイバー、セイントキャリバー

 

・プロフィール

義兄弟の杯を交わしたホープナイトモンとセイントアックスモンが融合した姿がホーリーナイトモンである。義兄の知略と義弟の行動力が一体となったホーリーナイトモンは一級の戦士となる。突く・斬る・払う・投げると状況に応じた使い分けができる「ツインブレード」を扱うホーリーナイトモンの腕前は非常に高く、正面から堂々と闘ってホーリーナイトモンを倒せる実力者は少ないと言われている。それだけの実力を持ちながらホーリーナイトモンは勝利を勝ち取る為なら決して諦めず、何度傷付こうと立ち上がる強さを持っている。できるなら敵にまわしたくない相手である。

 

・略歴

 元ダークナイトモンであり、バグラモン達と共に転生した。文字通り立派な紳士。前世の自分、もといダークナイトモンは“あれは自分の反転した姿”と言っている。上手く割り切れる程、成長したようだ。

 

・能力

 二刀流の剣士。パラティヌモンとの違いは扱う剣が大剣である事。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』級の実力を持っている。

 




皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

予想以上に長くなったので、世界の情勢とかそういうのは次回のまとめに回します。
次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!


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登場人物&設定紹介 vol.4

今回は第11話~第13話までの登場人物&設定紹介になります。
前半はオリジナルデジモンの紹介、後半は世界観の説明になります。

これで今年の投稿は終わります。
つい最近から投稿し始めましたが、思っていた以上の反響があって嬉しいです。
来年はもっと面白い話を書けるように頑張りますので、引き続き応援よろしくお願いします。

p.s.今更になって挿入投稿の機能と予約投稿の機能を知りました。


・パラティヌモン

 

世代/超越体(オリジナル設定 究極体の更なる上の世代)

 

属性/ワクチン種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/アルビオン・ブレイズ、ロイヤルストレートスラッシュ

 

・プロフィール

遥か昔、古代デジタルワールドで起きた長きに渡る大戦を終わらせた“聖騎士王”。この世界に平和と自由をもたらした後、深き眠りに付いたと言われている。全ての聖騎士型デジモンの原型とされており、彼らの力が分割して受け継がれていると謳われている。当時の資料の悉くが紛失している為、詳しい事はまだ明らかになっていない。必殺技は背中の翼から光を放ち、光の砲撃を撃ち出す『アルビオン・ブレイズ』と、聖剣パラティヌス・ソードから繰り出す『ロイヤルストレートスラッシュ』。

 

・略歴

 かつてデジタルワールドで300年に渡って続いた“厄災大戦”を終わらされた英雄。戦後は存在を危険視したイグドラシルによって封印されたが、ホメオスタシスによって封印を解除され、彼女を主君として再び甦った。

 現在は“電脳現象調査保安局”の一員として勤務しながら、オメガモンの良き盟友となっている。人間体は金髪でナイスバディな女性。名前はアルトリウス・ペンドラゴン。

 

・人物

 一人称は「私」。律儀で丁寧、負けず嫌いな性格。いわゆる委員長属性。その正体はアーサー王。久し振りの人間界な為、色々な事に感動したりしている。普段は沈着であるが熱くなりやすい面も有るのだが、そこがまた良い。

 アーサー王だった頃は王様として生きて来た為、その威厳と風格は衰えるどころか、逆に強くなっている。無意識の間にオーラが自動で流れている。実は人間界に存在するあらゆる神話や武器のデータを練り固められて生まれた神造デジモン。

 

・能力

 聖剣パラティヌス・ソードを使う双剣士。背中の翼から展開する光、もとい“光の翼”による超神速の機動戦と、パラティヌス・ソードから繰り出す無双の剣技が最大の武器。

 武器と戦い方がシンプルだが、そのシンプルな戦術を極限まで鍛えている為、オメガモンをも圧倒している。ルーン魔術を時折使う等、まだまだ明らかになっていない所も多い。

 

 

 

【世界観説明】

 

・この作品のデジタルワールドはイグドラシルが東と北側、ホメオスタシスが西と南側を統治している。他の作品に比べてかなりイレギュラーな状況。

→元々はイグドラシルの単独統治だったが、“厄災大戦”の勃発の原因となった。その後はホメオスタシスの建造に伴い、現在のスタイルとなった。

→しかし、どちらがデジタルワールドを統治するか、どのように人間界と接していくかで意見が分かれており、いずれ争いになる事が目に見えている。イグドラシルは革新的で攻撃的。ホメオスタシスは温和で保守的。完全に真逆。

→今はどちらも戦いに向けて準備をしている。ホメオスタシスがオメガモン達を転生させているのはその為。

 

・厄災大戦……300年に渡って続いた次元規模の大戦。行きすぎたイグドラシルの統治に反発したデジモン達の武力蜂起によって始まった。激戦の末、文明が大きく後退する程の壊滅的打撃を受けた。

→パラティヌモンはその戦いを終わらせるためにイグドラシルによって造られたが、人間を素体に造ったという事実が明るみになるのを恐れて封印された。

→パラティヌモンの正体はアーサー王。アヴァロンに向かっている最中、次元の歪みに飲み込まれてデジタルワールドに来た。彷徨っていた所、イグドラシルに助けられて戦いの事を知り、パラティヌモンとして転生した。

 

・超越体……人間とデジモンの融合体でありながら、デジモンを超越した存在。『電脳人間(エイリアス)』とも呼ばれている。人間に『電脳核(デジコア)』を移植し、適合に成功した者の事を指している。パラティヌモンと共に戦った13体のデジモンがそうだが、厳密に言えば、八神一真ことオメガモンと工藤優衣ことアルファモンも同じ。

 

 




次の設定集はカオスモンが中心になるかと思いますが、先ずは本編の更新が先になります。今までは3話ずつの設定集でしたが、次回はもう少し増えるかもしれません。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

それでは皆さん良いお年を。LAST ALLIANCEでした!


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登場人物&設定紹介 vol.5

今回は第14話~第20話までに登場したオリキャラや奥義の紹介です。
ちょっと範囲が広がったのは文字数に達しなかったからです。ご理解下さい。

次の設定集投稿は第26話を投稿し終えてからになります。
第1章全ての設定集を投稿し終えた後、第2章に移行します。


・カオスモン

 

世代/超究極体

 

属性/ワクチン種

 

種族/特異型

 

必殺技/覇王両断剣、ダークプロミネンス

 

・プロフィール

通常、ジョグレス時には、2体のデジモン同士のデジコアが完全に融合し、新たなデジモンに生まれ変わるが、カオスモンは、ジョグレス前のデジモンのデジコアをそれぞれ保持し、非常に不完全な状態でその姿を維持している。カオスモンとは、「存在し得ない」デジモンのコードネームであり、デジタルワールドの“セントラルドグマ”(中心原理)では絶対にありえない特異(バグ)である。極めて不安定な存在のため、寿命が非常に短く、デジタルワールドの管理システムが放つバグを排除するプログラムが走るために寿命が短くなってしまうと推測される。このカオスモンはバンチョーレオモンとダークドラモンがジョグレスして生まれたものと見られており、両腕にそれぞれのデジモンの面影を見ることができる。必殺技は、「バンチョーアーム」に装備された「BAN-TYOブレイド」から繰り出される無敵の一刀両断『覇王両断剣』と、「ダークドラアーム」に装備された「ギガスティックキャノン」から自身のデジタル細胞を打ち出す『ダークプロミネンス』。

 

・略歴

 カオスデュークモンが対オメガモン用に造り出したデジモン。バンチョーレオモンとダークドラモンをジョグレス進化させ、人間界から拉致した人間を素体にした。“デジクオーツ”で何度もオメガモンの前に姿を現し、苦戦させた。

 

・人物

 一人称は「私」。悪役らしく冷酷で残忍。自分が不利だと思ったら直ぐに退却する潔さを併せ持っている。

 

・能力

 オメガモンと同等クラスの実力者。『ダークプロミネンス』はギガスティックキャノンから暗黒エネルギー弾を撃ち出す技になっている。戦い方が似ていたり、武器が一緒だったり、何かとオメガモンと共通点が多い。

 

 

 

・ベルゼブモン

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/魔王型

 

必殺技/ダークネスクロウ、ダブルインパクト

 

・プロフィール

多くの悪魔型デジモンを統べる能力を持ちながら、あえて孤高の存在を守る魔王型デジモン。“七大魔王デジモン”の一人で、その気になれば闇の軍団「ナイトメアソルジャーズ」の頂点に立てると言われているが、そのベルゼブモンでさえも凌駕する程の魔王型デジモンも存在すると言われている。愛用のショットガン「ベレンヘーナ」を持ち、巨大なバイク型マシーン「ベヒーモス」を乗りこなす。性格は冷酷にして無慈悲であり、非常にプライドが高いが、決して群れたり弱者を攻撃することはない。得意技は鋭い鉤爪を振り上げて敵を切り裂く『ダークネスクロウ』。必殺技は二丁のショットガンを連射する『ダブルインパクト』。

 

・略歴

 『デジモンテイマーズ』に登場したベルゼブモンと同一個体。ホメオスタシスによって転生した。人間界に来てからは高橋誠と言う名前で、ベルゼ株式会社の社長を務めている。

 

・人物

 一人称は「俺」。普段は悪ぶってはいるが、根は優しくお人好し。慣れない社長に悪戦苦闘しながら頑張っている。社員からの信頼を厚く、世間の理想の上司ランキングで常にトップを維持している程。ちなみに休日の過ごし方は愛車(?)のベヒーモスの整備や、大好物のラーメンの食べ歩き。

 

・能力

 『七大魔王』の中では中堅クラス。両手の鋭い鉤爪と2丁のショットガンを武器に使っている。ベヒーモスを乗り回し、時々物凄い運転技術を見せる事もある。

 

 

 

・ベルゼブモン・ブラストモード

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/魔王型

 

必殺技/デススリンガー、カオスフレア

 

・プロフィール

力と精神を極限にまで高めた究極魔王。邪悪に進化したのとは違い、より安定した精神状態を保ち、凶々しかった3つの赤眼は緑色になっている。通常時とは桁違いのパワーとスピードを発揮し、背中から漆黒の4枚の翼を生やしている。この姿になったベルゼブモンの前に、もはや敵は存在しないとまで言われている。右腕がブラスターと一体化しており、強烈なエネルギー波を放ちあらゆるものを原子分解してしまう。得意技は右腕のブラスターから破壊の波動を放つ『デススリンガー』、必殺技は前方に魔方陣を描き、その中心に向かって破壊の波動を放つ『カオスフレア』。

 

 

 

・アルフォースブイドラモン

 

世代/究極体

 

属性/ワクチン種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/シャイニングVフォース

 

・プロフィール

古代デジタルワールドから伝わる、ある“予言”の中だけに登場する伝説上の聖騎士デジモン。その“予言”にはネットワークの守護神“ロイヤルナイツ”の出現が書かれており、“ロイヤルナイツ”と呼ばれるデジモン達は、デジタルワールド最大の危機の時に“予言”の元に集うと言われている。アルフォースブイドラモンは“ロイヤルナイツ”の中でも神速のスピードを持ち、その動きを追える存在は皆無である。またクロンデジゾイドの中でも希少な存在で最軽量のレアメタル“ブルーデジゾイド”製の聖鎧に身を包み、空を裂き、大地を割る。両腕に装備した“Vブレスレット”から武器やシールドが展開する。必殺技は胸のV字型アーマーから掃射される光線『シャイニングVフォース』。

 

 

・略歴

 漫画版『デジモンクロスウォーズ』に登場したアルフォースブイドラモンと同一個体。ホメオスタシスによって転生した。人間界に来てからは“電脳現象調査保安局”のアメリカ支部に勤務している。

 

・人物

 一人称は「ボク」。聖騎士といった肩書にあまり慣れておらず、支部の局員達からは相変わらず威厳を出すように注意されている。過去にパートナーとデジタルワールドを周り、一度や二度世界を救ったことがある。また、少々子供っぽさがある。最近の趣味は人間界のアイスクリームの食べ比べ。

 

・能力

 神速のスピードを活かした超機動戦を得意としている。その強さはオメガモンと同等クラス。ちなみに単独で『超究極体(フューチャーモード)』になれるらしい。転生後は修行の成果で両腕のVブレスレットから展開した光の盾から光の弾丸や砲撃を撃てるようになった。

 

 

 

【オリジナル奥義紹介】

 

・ブリザードトルネード……アルファモンが使用する初級魔術。冷気と氷で出来た竜巻で出来た竜巻を放つ。

 

・ダブルトレント……元々はオメガモンの必殺奥義なのだが、スレイプモンも必殺奥義として使用している。彼の場合は聖盾ニフルヘイムから超低温のブリザードを、聖弩ムスペルヘイムを灼熱の光を放つ。

 

・フォトン・グレネイド……アルファモンが使用するカウンター奥義。魔法陣で相手の攻撃を吸収し、集束・増幅して撃ち返す。

 

・聖突……オメガモンが使用する剣技。“聖なる刺突”の略称。通常の刺突を繰り出す壱式、突き下ろしを繰り出したり、跳躍して繰り出す弐式、跳躍しながら繰り出したり、突き上げを繰り出す参式、零距離から放つ零式の型がある。

 

・ヘビープレッシャー……アルファモンが使用する中級魔術。周囲一帯の空気を操作して重圧で押し潰す。

 

・ボルケーノメテオ……アルファモンが使用する中級魔術。相手の足元から灼熱の業火を放ち、周囲一帯を焼き尽くす。

 

・シャイニング・レイ……アルファモンの必殺奥義の1つ。相手の足元に光の魔法陣を展開し、相手を聖なる鎖で拘束しながら聖なる波動で攻撃する。

 



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登場人物&設定紹介 vol.6

今回は第21話~第26話までに登場したオリキャラや奥義の紹介です。
次回の投稿も設定集(『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』中心の)となります。
次の設定集に持ち込むのも考えましたが、第2章に入ってからも色々と書く事がありそうなので先に投稿します。



・デーモン

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/魔王型

 

必殺技/フレイムインフェルノ

 

・プロフィール

多くの悪魔型デジモンや堕天使型デジモンを率いる魔王型デジモン。デーモンは元々はデビモン等と同じく天使型デジモンであり、その中でも特にレベルの高い存在であった。しかし、デジタルワールドの善の存在(恐らくはデジタルワールドを構築した人間)に対して、反逆あるいは猛威を振るったためダークエリア(消去されたデータの墓場)へとデリートされてしまった。彼等は、いつの日かデジタルワールドを征服し、善の存在への復讐を誓っている。また、その反逆戦争の時に彼等を率いた、究極体の中でも最強だった「超究極体デジモン」を密かに復活させようと企てている。必殺技は、超高熱の地獄の業火『フレイムインフェルノ』。この技を受けると、跡形も無く燃やし尽くされてしまう。

 

・略歴

『デジモンアドベンチャーVテイマー01』に登場したデーモンと同一個体であり、その転生体。人間界では“デーモン大暮閣下”という名前で暮らしている。ロックバンド『DEMON』のボーカル、コメンテーター、ラジオのパーソナリティー等、様々な活躍を見せている。

 

・人物

 「ドゥハハハハハハハッ!!!!!」という独特の高笑いが特徴。でも素の性格は腰が低くて律儀。ボーカリストとして凄まじい歌唱力を持ち、シャウトやデスボイスも余裕でこなせる。サービス精神も旺盛。最近はラーメンの食べ歩きが趣味らしい。悩みは贅沢が出来ない事。

 

・能力

 『七大魔王』の一角だけあり、戦闘能力は高い。前世では超究極体に進化する事が出来たが、今は何と単独で超究極体に進化する事が出来る。

 

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ルーチェモン・フォールダウンモード

 

世代/完全体

 

属性/ウィルス種

 

種族/魔王型

 

必殺技/パラダイスロスト、デッド・オア・アライブ

 

・プロフィール

聖と魔を併せ持つ究極の魔王型デジモンで“七大魔王デジモン”最強の存在。超古代に反逆戦争を起こし、多くの魔王型デジモンと共にダークエリアに封印されていた。その力は他の究極体をも超え、“神”と呼ばれる存在に匹敵すると言われている。全てのものを慈しむ神のような一面も持ちながら、この世界全体を破壊せんとする悪魔の様な相反する存在である。そのためこの世界を一度破壊し、新たなる新世界を創造することを目論んでいた。必殺技は打撃の乱舞で敵を空高く舞い上げたあとに、敵の四肢を固定して地面に叩きつける破壊技『パラダイスロスト』と、聖と魔の光球で立体魔方陣を作り出し敵を封じ込める『デッド・オア・アライブ』。この魔方陣に閉じ込められると完全に消滅するか、大ダメージを負うか1/2で決まってしまう。

 

・略歴

『デジモンフロンティア』に登場したルーチェモンと同一個体であり、その転生体。端正な顔立ちを活かして俳優やモデル業をしているが、それらはあくまで副業。本業はヴィジュアル系ロックバンドのリーダー兼ボーカル。その絶世の美男子たる顔立ちから奏でる歌声とデスボイスは女性のみならず、男性からも圧倒的な支持を受けている。

 

・性格

 本業では傲慢な魔王キャラなのだが、副業や素では真面目な好青年。芸人魂を持ち、毎回ライブでは様々なパフォーマンスをしている。最近の趣味は写真撮影。デーモン大暮閣下と同じく、悩みは贅沢が出来ない事。

 

・能力

 『七大魔王』の一角かつ最強だけあり、戦闘能力は最強クラス。『パラダイスロスト』はネタにされる為、滅多に使わない。

 

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ベルフェモン・スリープモード

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/魔王型

 

必殺技/エターナルナイトメア、ランプランツス

 

・プロフィール

ダークエリアの最深部に封印されているといわれる魔王デジモン。強大すぎる力を持つため、デジタルワールドのシステムによって、データをスリープ状態にされているといわれているが真偽は定かではない。深い眠りについているため、自ら攻撃を繰り出すことは出来ないが、寝息だけでデジモンにダメージを与えることが可能であり、そのためベルフェモン:スリープモードの寝込みを襲うことは容易ではないだろう。必殺技は、安らかな寝息から発動する『エターナルナイトメア』と、体に巻きついた鎖から発する黒い炎『ランプランツス』。睡眠不足であれば『エターナルナイトメア』はお勧めである。永遠の眠りを約束してくれるだろう。

 

・略歴

『デジモンセイバーズ』に登場したベルフェモンと同一個体であり、その転生体。寝具を専門に扱う大沢寝具株式会社の社長。広告のキャッチコピーと社長たる自分自身を武器として売り込む事により、今凄まじい勢いで発展している。決め台詞は「僕と一緒に 寝 な い か ?」。自称“昼寝王ネルガメッシュ”。

 

・性格

 魔王らしくない温和で優しい性格。落ち着いて達観しているが、実際はかなり適当な所もある。昼寝道に目覚めた事で、事あろうに睡眠や昼寝を他人に薦めるが、本人の身体を心配している為。

 

・能力

 『七大魔王』の一角かつ最強だけあり、戦闘能力は最強クラス。必殺奥義の他に、転生してから会得した『魔王の寝具(ベッドギア・オブ・ベルフェゴール)』を使用している為、単体で見たら作中最強クラス。

 

ーーーーーーーーーー

 

・アルティメットカオスモン

 

世代/究極体

 

属性/なし

 

種族/特異型

 

必殺技/ブロウクンデストロイ、ウルティマバースト

 

・プロフィール

バンチョーレオモン、ダークドラモン、ヴァロドゥルモン、スレイプモンの4体が融合し誕生したデジモン。強大な力を一度に4つも融合した歪みで、身体のパワーバランスが取れず力のほとんどが両腕に集約したため巨大な大きさとなっている。またデジコアを身体の中に収めることができず、両肩に2つ剥き出しの状態で現れている。抑えこむことの出来ない力は全身から漏れるように流れ出ており、成長期デジモン以下はその力だけで近づくことさえ出来ないという。必殺技は大型なデジモンさえも軽く握り潰してしまう威力を誇る『ブロウクンデストロイ』と、デジコアからエネルギーを一気に解放し敵に放つ『ウルティマバースト』。

 

・略歴

 カオスモンが究極進化した姿。その巨大な身体とパワーでオメガモン達を追い詰め、一度はオメガモンの進化を解除させた(何気に進化解除に追い込んだのは初めて)。一真を瀕死の重傷に追い込んだが、“デジモン化”の進行を承知の上で再度究極進化したオメガモンと、アルファモンに追い詰められた。最後はオメガモンによって『初期化(イニシャライズ)』され、元々の人間の姿となった。

 

・能力

 巨大な身体による防御力と、巨大な腕による攻撃が中心。それでいて融合している4体のデジモンの必殺奥義も使用可能なチート級の強さ持ち。

 

ーーーーーーーーーー

 

・ブラックウォーグレイモン

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/魔王型

 

必殺技/暗黒のガイアフォース

 

・プロフィール

“漆黒の竜戦士”として恐れられる、ウィルス種のウォーグレイモン。ウィルスバスターズのウォーグレイモンとは信条も主義も全て正反対であるが、彼なりの“正義”のために存在している。卑怯や卑劣なことを嫌い、同じウィルス種でも低俗なデジモンは仲間だとは思っていない。どういった経緯でウィルス化してしまったのかは謎で、背中に装備している“ブレイブシールド”には勇気の紋章が刻まれていない。必殺技はウォーグレイモンと同じ『ガイアフォース』だが、この世に存在する“負の念”を一点に集中させて放つ『暗黒のガイアフォース』である。

 

・略歴

『デジモンアドベンチャー02』に登場したブラックウォーグレイモンと同一個体であり、その転生体。何者か(=ミレニアモン)から逃走している最中、“デジクオーツ”に迷い込んだ。パラティヌモンと戦って善戦の末に敗北。“デジクオーツ”の端末に倒される所をパラティヌモンに庇われた事で、オメガモン・Alter-Bへと究極進化を果たした。

 

ーーーーーーーーーー

 

オメガモン・Alter-B

 

 

世代/超究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/ガルルソード、グレイキャノン

 

・プロフィール

ブラックウォーグレイモンが大切な何かを守りたいと強く願い、究極進化を遂げたデジモン。ウォーグレイモンの亜種“ブリッツグレイモン”、メタルガルルモンの亜種“クーレスガルルモン”が融合し誕生したオメガモンの新たな一面。“ロイヤルナイツ”に所属するオメガモンとは別の個体であるが、2体の特性を併せ持ちマルチタイプな性能は変わず、強さも同等である。ブラックウォーグレイモンが究極進化をした為に身体は黒いが、中身は立派な聖騎士で強さもオメガモン・Alter-Sよりも格上。必殺技はブリッツグレイモンの形をした砲塔からプラズマを撃ち抜く『グレイキャノン』、さらに『ガルルソード』は剣中央に溜めるエネルギー量で斬撃力が変化する。最大チャージしたガルルソードの斬撃に切れぬものはない。

 

・略歴

 元ブラックウォーグレイモン。“デジクオーツ”の端末との戦闘を経た後、パラティヌモンの提案もあって現在は“電脳現象調査保安局”に勤務している。

 

・性格

 普段は穏やかで落ち着いているが、戦闘時は勇敢な一面を見せる。自分を助けてくれたパラティヌモンには恩義を持って、先輩たるオメガモンこと八神一真には後輩として接するという常識人な所もある。

 

・能力

 まだ進化したばかりで慣れない所もあるが、前世でウォーグレイモンとインペリアルドラモンを相手に引き分けた実力は本物。グレイキャノンとガルルソードを用いた戦い方で敵を倒す。

 

ーーーーーーーーーー

 

【オリジナル奥義紹介】

 

・魔王の寝具(ベッドギア・オブ・ベルフェゴール)……ベルフェモン・スリープモードが保有する寝具と言う名前の武器。攻撃・防御共に使える枕(睡眠にも使えます)、飛行・防御用に仕えるマント、相手の攻撃を受け流して跳ね返す布団、長距離移動用のベッド等を取り出したり、時には射出する事が出来る。必殺奥義として“枕投げ”とか“布団叩き”がある……らしい。

 

・エアスライサー(ウインドカッター)……アルファモンが使用する初級魔術。無数の風の刃を飛ばす。

 

・レイジング・サンバースト……アルファモンが使用する上級魔術。相手の頭上に巨大な火炎球を作り上げ、それを落として相手を焼き尽くす。

 

・ヒールウィンド……アルファモンが使用する治癒魔術。味方の疲れを癒し、エネルギーを回復させる風を起こす。

 

・スパイラルメテオ……アルファモンが使用する中級魔術。螺旋を描く灼熱の火炎を放つ。

 

・デジタライズ・オブ・ソウル……アルファモンが使用する必殺奥義。2つの型がある。1つは魔法陣から緑色の光線を放つ。もう1つは上空に巨大な魔法陣を展開して、異次元より伝説上のモンスターを召喚する。

 

・神雷(しんらい)……アルファモンの必殺奥義。相手の頭上に描いた巨大な黄金の魔法陣を描き、その中央から巨大な神の裁きを放つ。

 

・初期化(イニシャライズ)……オメガモンの究極奥義。グレイソードの刀身に触れた物の構成データを初期化して消し去る。

 

・カラドボルグ……パラティヌモンが保有する神具の1つ。ドリルのように螺旋を描いたような刀身が特徴の聖剣。アルスター伝説の名剣。“振り抜いた剣光によって丘を三つ切り裂いた”という伝承の通り、刀身から虹の如き剣光を伸ばす事が出来る。必殺奥義『虹霓轟く螺旋の聖剣(カラドボルグ)』は触れた物を空間切断する虹色の剣光を放ちながら、相手を斬り裂く。

 

・Paladin・System(パラディン・システム)……パラティヌモンが保有する特殊能力。基本的には『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』と同じ。リアルタイムで推移する戦況を分析・予測し、導き出された最良の戦術、及び実行後予測されるであろう結果を脳に直接伝達する特殊能力。更に導き出された未来を実現させる為に身体強化を施す事も出来る。

 

・アブソリュート・ゼロ……アルファモンが使用する上級魔術。任意の場所を瞬間凍結させる。

 

・Alpha-Gain-Force(アルファ・イン・フォース)……アルファモンの特殊能力。戦いにおいては過ぎ去った戦いを瞬間的に取り戻す究極の力。アルファモンの攻撃は一瞬にして終わるが、実際には何回の攻撃を繰り出したかは分からず、理論上、敵が倒れる最後の一撃だけを見ることになる。これを応用して時間停止や超加速等も出来る。

 



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登場人物&設定紹介 vol.7

今回は第1章の終盤に登場した転生組の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の紹介です。
次回の投稿からいよいよ第2章がスタートします。


・デュークモンX

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/ロイヤルセーバー、ファイナル・エリシオン、ジークセイバー

 

・プロフィール

オメガモン、マグナモンと共に聖騎士型デジモンは“ロイヤルナイツ”と呼ばれている。“ロイヤルナイツ”とはネットワークセキュリティの最高位に位置するデジモンで、このデジモン達を前にセキュリティを破るのは絶対に不可能である。ウィルス属性でありながらネットの守護神という矛盾を内包した存在であり、万が一でもバランスが崩れると危険な存在にもなりうる。99.9%の高純度“クロンデジゾイド”を精製して造られた聖鎧を纏い、右手は聖槍「グラム」、左手は聖盾「イージス」になっている。騎士道を重んじ、主君に対しては忠義の士である。必殺技は聖槍「グラム」から繰出す強烈な一撃『ロイヤルセーバー』と左腕の聖盾「イージス」から全てを浄化するビームを放つ『ファイナル・エリシオン』。

■X抗体によるデュークモンのデジコアへの影響

騎士としての忠義を貫き、聖なる戦いに身を投じるデュークモンは遂に、至高の聖鎧(せいがい)、聖槍(せいそう)、聖盾(せいじゅん)を授かるに至った。レアメタルである“レッドデジゾイド”、“ブルーデジゾイド”、“ゴールドデジゾイド”、そして現状最高純度を誇るクロンデジゾイドを組み合せた聖なるハイブリッド装具である。より聖なる力を発揮するようにフォルムが一新され、聖槍「グラム」より放たれる光の槍は聖なる力で増幅、長大化し『ジークセイバー』という新たな必殺技を身に付けている。尚、X抗体を獲得する前のデュークモンの赤いマントは、勇者レオモンに与えたと言われている。

 

・略歴

 『Digital Monster X-evolution』に登場したデュークモンXと同一個体であり、その転生体。現在は“電脳現象調査保安局”のオーストラリア支部に所属している。

 

・人物

 一人称は「このデュークモン」。聖騎士たる厳格な口調と威風堂々たる姿をしているが、素の性格は可愛い所があるらしい。人間に来てからはパンが大好物となり、喫茶店歩きをするのが密かな楽しみとなっている。

 

・能力

 X進化している為、通常のデュークモンより強い。戦い方は通常時と大差ないが、聖槍グラムを自由に伸縮出来るようになった事から、戦術の幅が広がった。

 

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・ロードナイトモン

 

世代/究極体

 

属性/ウィルス種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/スパイラルマスカレード、アージェントフィアー

 

・プロフィール

全てのナイトモンを統べる王であり、“ロイヤルナイツ”の一員でもある聖騎士型デジモン。ロードナイトモンは善悪の基準よりも、自らの考える“正義”に忠実であり、そのための手段は選ばない。“力による支配”であれ、それが一定の平和をもたらすのであれば、ロードナイトモンはそこに価値を見出すのだ。任務の遂行には冷酷無比な一面もあり、弱者に対する慈悲は無い。必殺技は鎧から伸びる4本の帯刃で敵を切り刻む『スパイラルマスカレード』と、瞬時に相手の懐に入り込みゼロ距離から右腕のパイルバンカーで衝撃波を撃ち出す『アージェントフィアー』。

 

・略歴

 漫画版『デジモンクロスウォーズ』に登場したロードナイトモンと同一個体であり、その転生体。現在は“電脳現象調査保安局”のイギリス支部に所属している。

 

・人物

 一人称は「私」。マイペースなナルシスト。ちょっと変態チックで、非常に能天気でナルシストな性格であり、戦闘中でも呑気に歌っていたりする。それでも立ち振る舞いや姿勢は聖騎士その物。『デジモンフロンティア』に登場したロードナイトモンの事を「あんな奴私じゃない! 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の恥晒し!」と言っている。

 

・能力

 トップクラスのスピードと、最高の技量を誇る近接戦闘が武器。「蝶のように舞い、蜂のように刺す」がモットー。

 

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・デュナスモン

 

世代/究極体

 

属性/データ種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/ドラゴンズロア、ブレス・オブ・ワイバーン

 

・プロフィール

聖騎士“ロイヤルナイツ”の一員で、飛竜の能力を持つ。ロイヤルナイツの中でも特異の存在で、忠誠心が強く、自らの考える正義に見合った主君に絶対的に仕える。例えそれが「悪」と呼ばれる存在でも自らが考える正義の為に命をもいとわない。そのため騎士道・武士道精神が強く、忠義や信義、礼儀を重んじる性格である。竜の様な強靭なパワーと、高純度のクロンデジゾイド製の竜鎧で無双の強さを誇る。必殺技は両手の平から十闘士と同じ属性のエネルギー弾を発射する『ドラゴンズロア』と、全身のエネルギーを巨大な飛竜のオーラに変える『ブレス・オブ・ワイバーン』。

 

・略歴

 漫画版『デジモンクロスウォーズ』に登場したデュナスモンと同一個体であり、その転生体。現在は“電脳現象調査保安局”のイギリス支部に所属している。

 

・人物

 一人称は「私」。礼儀正しい性格で剛直な武人。好きな食べ物はリゾット。ロードナイトモンとは腐れ縁であり、相性が良い。『デジモンフロンティア』に登場したデュナスモンの事を「今度会ったら制裁してやる!」と言う程。

 

・能力

圧倒的な火力で敵を駆逐する殲滅戦を得意としている。『ドラゴンズロア』は相手の攻撃を両手で受け止めて撃ち返す使い方も出来る。これはロードナイトモンの戦い方を見て学習したらしい。

 

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・クレニアムモン

 

世代/究極体

 

属性/ワクチン種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/エンド・ワルツ、ゴッドブレス

 

・プロフィール

ロイヤルナイツの中で最も礼節をわきまえたデジモン。完璧主義者であり、イグドラシルの指令に対しての任務達成率はロイヤルナイツデジモンの中でも1・2を争うほどである。敵と戦うときは常に一騎打ちで打ち破ることが彼のポリシーであり、敵が強敵であればあるほど彼の悦びは至上のものとなる。クレニアムモンの鎧はイグドラシルからコード操作されており、ブラックデジゾイド化している。彼自身が鎧のデータにアクセスすることで、武器や楯を鎧から生み出すことが可能になっている。必殺技は、魔槍「クラウ・ソラス」を高速回転させることで、超音速の衝撃波(ソニックウェーブ)を放つ『エンド・ワルツ』。この技を受けた者は、衝撃波により全てのデータが粉砕されるまで、「踊り」続ける。また、魔楯「アヴァロン」は鉄壁の全方位防御『ゴッドブレス』を発動し、3秒間だけどんな攻撃も無効化することができる。

 

・略歴

 漫画版『デジモンクロスウォーズ』に登場したクレニアムモンと同一個体であり、その転生体。現在は“電脳現象調査保安局”のオーストラリア支部に所属している。

 

・人物

一人称は「私」。厳つくて悪者顔に見えるけど、中身は凄く良い聖騎士。毎日トレーニングを欠かさない鉄人であり努力家。趣味はトライアスロン。『デジモンセイバーズ』のクレニアムモンの事は「私の若い頃だ。あれくらい弾けていたな……」と言って、周囲を驚かせたと言う。

 

・能力

実直な古兵。老練な技と無尽蔵な体力で敵軍に消耗を強い続ける。技術もあり、スタミナ抜群な為、敵味方両方に“絶対に戦いたくない相手”と恐れられている。長期戦になればなる程恐ろしい聖騎士。ちなみに“デジクオーツ”での戦いも最後まで前線に立っていた。

 

ーーーーーーーーーー

 

・ドゥフトモン

 

世代/究極体

 

属性/データ種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/アウススターベン、エルンストウェル

 

・プロフィール

他のロイヤルナイツでさえ一目置く屈指の戦略家である聖騎士型デジモン。各々信じる道を持つロイヤルナイツを統率する類まれなる能力を持っている。自ら戦闘にも赴き“レオパルドモード”となり戦場を駆ける。必殺技は、頭上で弧を描き振り下ろすビームの刃、消滅の剣『アウススターベン』と、爆発的なエネルギーを放つ破壊の剣『エルンストウェル』。

 

・略歴

 漫画版『デジモンクロスウォーズ』に登場したドゥフトモンと同一個体であり、その転生体。現在は“電脳現象調査保安局”のアメリカ支部に所属している。

 

・人物

一人称は「私」。クールで落ち着いている参謀。趣味は読書、将棋、チェス。人間界に来てからは頭を使うクロスワードパズルやナンプレを毎日こなしている。『デジモンセイバーズ』のドゥフトモンの事を「力=正義ではない。スマートではないな」と辛辣に言っている。

 

・能力

クールな策略家。他者を動かしてスマートに戦略目標を達成することを好む。戦う事は苦手ではないが、どちらかと言うと策略を張り巡らせる方が得意な変わり者。

 

ーーーーーーーーーー

 

・スレイプモン

 

世代/究極体

 

属性/ワクチン種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/ビフロスト、オーディンズブレス

 

・プロフィール

デジタルワールドの守護者「ロイヤルナイツ」の一員である聖騎士型デジモン。人型デジモンが多い「ロイヤルナイツ」において、異形とも言える獣型のシルエットを持っている。大きな防御力を誇る「レッドデジゾイド」の鎧を全身にまとっており、究極体デジモンといえどもスレイプモンにダメージを与えるのは容易ではないだろう。6本の脚は優れた機動力を持ち、大柄な体格から想像もつかないほどの瞬間高速移動を行うことが可能である。スレイプモンはデジタルワールドの北極付近の分厚い氷の下に眠る超古代遺跡の警護を行っており、この遺跡にはデジモンの創生にかかわる重要なプログラムデータが封印されていると言われている。必殺技は、左手の聖弩(せいど)「ムスペルヘイム」から放たれる灼熱の光矢『ビフロスト』と、右手の聖盾(せいじゅん)「ニフルヘイム」を使って気候を操り極低温のブリザードを発生させる『オーディンズブレス』。

 

・略歴

『デジモンセイバーズ』に登場したスレイプモンと同一個体であり、その転生体。現在は“電脳現象調査保安局”の本部に所属している。普段はクダモンの姿で薩摩の肩に乗り、ボディーガードを務めている。

 

・人物

一人称は「私」。性格はクールで大人びており、部下達に的確なアドバイスを与えてくれる。薩摩同様局員達からは一目置かれている。

 

・能力

主に超高速移動からの射撃戦を得意としている。オメガモンの奥義『ダブルトレント』を使えるようになった。ちなみにバーストモードになれます。

 



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登場人物&設定紹介 vol.8+外伝小説の予告

今回は第27話~第29話まで登場したデジモン・オリキャラの紹介です。
それに加えて、いつか書きたいなと思っている『Fate/Grand Order』とのクロス小説の予告編を書きました。いつ書くかはぶっちゃけ考えてません。
本編の息抜き・行き詰まりに書いてみようかなと考えているので。

p.s.もし書いて欲しいという希望があるなら、本編と同時並行しながら書きます。
  活動報告(感想欄だとややこしい事になりそうだから)にメッセージお願いします。




・ガンクゥモン

 

世代/究極体

 

属性/データ種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/鉄拳制裁・地神!神鳴!神馳!親父!(じしん!かみなり!かじ!おやじ!)、ちゃぶ台返し

 

・プロフィール

聖騎士型デジモンで「ロイヤルナイツ」を継承されたデジモン。デジタルワールド最南西部に居を構えるとされているものの、同じ場所に留まることは稀で、次代を担わせるハックモンを連れ、デジタルワールドの各地を旅しながら異変や混沌の兆候を潰して回っている。存在を見せることが少ない他のロイヤルナイツとは違って現地に降り立って活動しており、気心知れたデジモンも数多くいる。自身のロイヤルナイツとしての称号をハックモンに継がせるべく過酷な試練を与え、道中もシスタモン姉妹にハックモンの鍛錬を任せている。頑固な性格故に厳しくハックモンに接するその態度は、他のロイヤルナイツに負けない一人前になってほしいとする優しさの裏返しである。ガンクゥモンには身体から浮き出す〝ヒヌカムイ〟が常にいて、言葉は出さないが問答無用で手を出す。必殺技は、誰彼かまわず口答えをする者を思いっきり殴る『鉄拳制裁』、ガンクゥモンの怒声『地神!神鳴!神馳!親父!』で〝ヒヌカムイ〟が天誅を下す。さらに地面をクロンデジゾイド製ちゃぶ台ごとひっくり返す『ちゃぶ台返し』があり、ちゃぶ台に乗った地面もクロンデジゾイド製の硬度となる。〝ヒヌカムイ〟自身も成熟期からの進化過程にあり、そのパワーが覚醒した時、敵と認知されたいかなるデジモンも存在しえないとされている。

 

・略歴

 一真達人間界の発展に伴って成り立ったとあるデジタルワールド。その守護神たる『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。現在は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に所属しながら裏切り、ホメオスタシス側に付いている。

 

・人物

 一人称は「私」。古き良き父親的な性格。デジタルワールドを支えながら、ハックモンを一人前のデジモンに育て上げ、後に彼が乗り越えるべき最大の壁として立ちはだかる役割を務めている。普段は大らかで優しく、仲間想いな性格。

 

・能力

 戦う時は徒手空拳。〝ヒヌカムイ〟やクロンデジゾイド製ちゃぶ台等で戦う聖騎士。ただ聖騎士と言うより、『巨人の星』に登場する星一徹に近い。

 

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・ジエスモン

 

世代/究極体

 

属性/データ種

 

種族/聖騎士型

 

必殺技/轍剣成敗(てっけんせいばい)、シュベルトガイスト、アウスジェネリクス

 

・プロフィール

セイバーハックモンの胸のクリスタルが輝き完全を超えた究極の姿となり、ネットワークセキュリティの最高位とされる「ロイヤルナイツ」の称号を得た聖騎士型デジモン。デジタルワールド各地に起こる異変や混沌の兆しを感知する能力を備え、どのロイヤルナイツよりもイチ早く駆けつける。単独で行動するよりも近くのデジモンやシスタモン達と連携し対応にあたるという、ロイヤルナイツでも稀なチームでの活動を行うのは他者を信頼し、自分への過信を行わないためである。師であるガンクゥモンのヒヌカムイを見て習い、ジエスモンも修行の中で「アト」「ルネ」「ポル」の3体を習得している。ジエスモンの指示で動くが自立行動もでき、敵への直接攻撃、ジエスモンの援護、他デジモンの救済など侮れない行動能力を誇る。必殺技は高速移動しながら腕の刃で敵を瞬時に斬り裂く『轍剣成敗』、敵からのあらゆる攻撃を「アト」「ルネ」「ポル」と共に九つの刃で迎え撃つ全方位カウンター技『シュベルトガイスト』。自分のデータを一時的に書き換え、物理限界を超えた活動を可能にする『アウスジェネリクス』は身体能力がデジタルワールドの法則に縛られないため、いかなる敵であろうとジエスモンに傷ひとつ付けられずに屈する。

 

・略歴

 一真達人間界の発展に伴って成り立ったとあるデジタルワールド。その守護神たる『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。現在は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に所属しながら裏切り、ホメオスタシス側に付いている。

 

・人物

 一人称は「俺」。聖騎士らしくないフランクな一面を多く見せているが、これは普段から沢山のデジモン達と触れ合っている為。聖騎士らしく振る舞う時は振る舞う。メリハリやオンオフの切り替えが上手い。

 

・能力

 両腕の刃から繰り出す卓越した剣技と機動力が売り。〝ヒヌカムイ〟を上手く使いながら複数対一の戦闘に持ち込み、確実に殲滅する戦術を得意としている。

 

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・ノルン・イグドラシル

 

名前の元ネタ

『デジモンネクスト』の登場人物、美樹原ノルンから。

 

略歴

デジタルワールドの神様、イグドラシルの良心であり、もう1つのホストコンピューター。マキによるクーデターで世界樹から追い出されるが、ガンクゥモンとジエスモンに助けられてホメオスタシスに匿われた。現在は人間界に逃亡して一真と共に過ごしている。

 

人物

 温和で優しく、明るいが責任感の強い神様。全てのデジモンにとって優しい世界を創ろうとする理想の神様だが、ノリ・リズム・タイミングが良い一面がある。

 

ーーーーーーーーーー

 

・マキ・イグドラシル

 

名前の元ネタ

『デジモンアドベンチャー tri.』の登場人物、姫川マキから。

 

略歴

デジタルワールドの神様、イグドラシルのもう1人の人格。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を掌握してクーデターを起こし、世界樹を乗っ取った。現在は『NEOプロジェクト・アーク』を遂行させているが、実はとあるデジモンと一体化している。

 

人物

 仲間思いで曲がりなりにも理想を掲げ、それに向かって突き進む行動力と統率力を持っている。自分が確実に出来ると思う所までは行動を起こさず、下準備を欠かさない慎重な所もあるが、任務に失敗した部下に処罰を与える等、厳しい一面もある。

 

ーーーーーーーーーー

 

――――ここからは外伝の予告です(時系列は第2章終了後)―――

 

「ホメオスタシス様、どのような御用でしょうか?」

 

「先日の件はありがとうございました。邪神を完全に倒した……とまでは行かないでしょうが、活動を再開するには少なくとも時間がかかるでしょう。実は貴方に世界の危機を伝えたくて呼びました」

 

「世界の……危機!?」

 

 デジタルワールドと人間界の存亡と未来をかけた大戦。邪神を倒して戦いを終わらせ、一時の平和を満喫していた八神一真。

 彼は在る時、ホメオスタシスに呼び出される。彼女の口から呼ばれた理由。それは世界の危機を救うと言う新たなる任務。

 

「僕はオメガモン。通りすがりの聖騎士だ。よろしくね」

 

「俺は藤丸立香。よろしくな、オメガモン」

 

「私はマシュ・キリエライトです。よろしくお願いします、オメガモンさん」

 

 ホメオスタシスから依頼された任務。それは異なる世界の消滅を防ぐ事。人類史に立ち向かう運命との戦い。デジタルワールドを守る為の戦い。

 『カルデア』のマスターの藤丸立夏と、デミ・サーヴァントのマシュ・キリエライト。彼らと手を取り合いながら、共に特異点を回る戦いに赴く。

 

「僕は聖騎士となり、強大な力を得た。君達で言う神霊クラスで、皆を、世界を守れる力を。でもその代わりに大切な物を失った。人間でいる事を、人間の頃当たり前だと信じていた日々を……だから立夏君。君にも同じ思いをさせたくない。だから僕は君の剣となり、銃となる事を決めたんだ」

 

「その言葉が言えるなら、オメガモン。貴方は人間です。人間の心を持っているから……人間のふりをしている聖騎士じゃなくて、人間だと胸を張れる聖騎士だと俺は思います」

 

「そうか……僕はまだ人間なんだ。ありがとう」

 

 時には一般人であり、人類最後のマスターとして戦いに赴く藤丸立香を支えながら。

 

「マシュさん。戦いが怖いのは誰だって同じだ。戦う事は僕だって怖い。悩む事はないよ」

 

「オメガモンさんもですか!?」

 

「最初は僕も君と同じだった。正直ね、不安と恐怖しかなかったから。実は僕も君のマスターと同じだった。だから気持ちが分かる。戦場に行かなければならない。戦わなくてはならない。自分しかいない。自分が戦わないと世界を守れない。そういうプレッシャーで、戦う事を怖がるのは当然だ。間違いじゃない」

 

「でもどうしてオメガモンさんは戦えるのですか?」

 

「力があるかないかの問題じゃない。大事なのは“心”だ。戦う事が怖いと思えるからこそ、戦う事の出来ない皆の為に戦える。それが一番大切だと僕は思っている。マシュさん、もし君が戦う事が怖くても、それでもマスターの為に戦えるのなら、君はもう立派なサーヴァントになっているよ」

 

 時には主人公の力になろう、主人公の役に立とう、と頑張るマシュ。戦闘で弱気になる彼女を勇気づけながら。

 

「お前は恐れている……自分が人間ではない事、それが仲間に知られる事を」

 

「クソオオオォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「やはりこの世界でもお前が黒幕なのか、ミレニアモン!」

 

「この世界でも貴方が邪魔をするのか……オメガモン!」

 

 戦いの中でオメガモンを襲う試練。自分が人間でも、英霊でもない存在。それを知られる事。仲間を助けられなかった事。そして再び邪神との戦いが待っていた。

 

「特異点は全て消滅した……残っているのはお前だけだ、ミレニアモン!」

 

「私と貴方は戦う事でしか語り合えない!」

 

 人理と世界を守る為、そして宿敵と戦う為、オメガモンは立香とマシュと共に異なる歴史を様々な英霊達と共に駆け抜ける。

 これは異世界の仲間と共に、“終焉の聖騎士”が『聖杯探索(グランドオーダー』を行う物語。人類を守るために永きに渡る人類史を遡り、運命と戦いながら未来を取り戻す史上最大規模の戦い。

 




どうでしたか? 『Fate/Grand Order』とのコラボ小説の予告編は。

 オメガモンの一人称やキャラが違う!とか、またミレニアモンが黒幕かよ!?とか言いたい事は沢山あるとは思いますが、取り敢えず読みたいかどうかをお聞かせください。
出したい英霊は色々といますが、僕のポリシーで”スマホゲーは無課金でやる”という事で、敵対した英霊・共闘した英霊(多分全部は出せないかも)が味方になると思います。
それと章をクリアした報酬でもらえる英霊も。
 或いは『インフィニット・ストラトス』の原作を入手したら、コラボ小説を書きたいと思っています。
ただオメガモン……もとい一真君の出番は減りますし、主役は一夏君とオリキャラの2人になります。
オリキャラを出す理由は一夏君だけだと、ちょっとありきたり過ぎると思っただけです。
それに一夏君は比較的順風満帆そうに見える(僕の主観)のですが、対照的にオリキャラは色々と上手く行かず、悩んでばかりなキャラにしたいです。
一真君は2人を支える兄貴分というか、縁の下の力持ちポジションになります。
学校の用務員・整備士ポジションです。教師は没にしました。
やっぱり原作主人公は立ててなんぼ。アンチ・ヘイト要素は少なめ、もとい無い方向で行く予定です。

では後書きはこの辺にして、次回をお楽しみに。
LAST ALLIANCEでした!

p.s.実は『Fate/Grand Order』のおかげで、この小説のスタイルが確定しました。
何気に恩人なんです。


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第1章 Raise your flag(デジクオーツ編)
第0話 終焉の聖騎士


皆さんお久し振りです。LAST ALLIANCEです。
「にじファン」時代でもそうでしたが、この場所でもデジモン小説を書いていく事を決めました。Pixivでもマルチ投稿しているので、そちらもよろしくお願いします。
今回は第0話という事で序章となります。話が本格的に始まるのは次回からになります。



 かつて、電脳世界(=デジタルワールド)に1体の聖騎士がいた。終焉の聖騎士と呼ばれ、“神の双璧”と謳われる程の実力を持った聖騎士だ。その名前をオメガモンと言う。

 月のように全てを優しく照らす優しさと、太陽のように熱く燃える勇気を併せ持つ彼は、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の中でも最強無敵の実力を誇った。その実力は神の領域に足を踏み入れており、その気になれば世界を滅ぼす程と一部では言われている程だった。

 しかし、世界に絶望した元大天使の皇帝率いる軍団との戦いで皇帝と魔人に秘奥義を封じられ、健闘虚しく倒されてしまった。それでも皇帝と魔人を最後まで苦しめる程の健闘を見せた。

 自分が死んでも聖騎士は諦めなかった。例え肉体は滅んでも、自分の意志を継ぐ者が必ず現れ、皇帝率いる軍団を必ず倒すと信じていたから。

 事実彼の考え通りになった。データの一部は平和になった電脳世界の頂点から魂のロックを響かせ、世界中をドハッピーに盛り上げる王様を目指す少年に引き継がれた。そして後に運命に導かれるように、人間界から何人かの少年少女達が電脳世界へとやって来た。

 こうして、後の電脳世界の歴史に刻まれる“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”と呼ばれる大戦争が起きた。

 結果だけを言おう。壮絶な戦いの末に、少年を中心とした絆の軍団が“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”に勝利し、電脳世界を平和な世界へと作り替えた。

 野外ライブを開催して大勢の観客の前に魂の歌声を響かせる少年。その様子を青空から見守る聖騎士は、ようやく自分の使命が終わった事を感じ取った。

 

(あぁ、やっと私の戦いが終わった……これで何も思い残す事はない)

 

 そう独りごちて死を受け入れて消滅し、輪廻転生を果たす準備に移ろうとしたその時、その運命を認めないと言わんばかりに聖騎士の体を優しく包み始めた。

 

(なっ、これは……!?)

 

 突如として自分自身を包み込む優しい光。それに聖騎士は驚きながら戸惑いの声を内心で上げたと同時に、聖騎士の姿はその空間から消失した。

 聖騎士は知らなかったのだが、その光は転生の光。聖騎士をここではない別世界に新生させようという何者かの意志だ。

 

(お願いします、オメガモン……貴方の力で”彼”を、人間界とデジタルワールドを助けて下さい)

 

 その空間に響いたのは一人の女性の声。穏やかで優しく、慈愛に満ちた声。声の主は電脳世界の神様。温和で保守的なデジタルワールドの安定を望むホメオスタシス。

 彼女がオメガモンを転生させた理由は何なのか。この時は後に人間界を巻き込む戦いが起きる事を夢にも思わなかったのだった。

 

 




文字制限等もあり、「Pixiv」に投稿した内容とは少し違います。
この小説は比較的展開を遅めにし、その分ゆっくり・丁寧に書いていこうと思います。
次回は人間界に舞台を移し、一人の青年がオメガモンになる過程を書いていきます。
予定では3~4話かかります。戦闘込みなので。
では次回はいつになるのか分かりませんが、お楽しみに。
LAST ALLIANCEでした!

p.s.1話における文字数は多分5000字以上2万字になると思われます。



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第1話 聖騎士新生

いよいよ今回から本格的に話が始まります。
この小説はデジモンのゲーム(『リ・デジタイズ』や『サイバースルゥース』のストーリー)を参考にしながら、デジモンらしさを追求していこうと思います。
第1話は聖騎士の新生がタイトルになっていますが、日常の崩壊と非日常の襲来がメインとなっています。ではお楽しみ下さい。


「ふぁ~あ、よく寝た……」

 

 綺麗に整理整頓されている和室。その中で一人の青年が目を覚まし、起き上がりながら大きな欠伸をし、軽く伸びをする。

 八神一真(やがみかずま)。地元の中小企業に勤める25歳の青年。彼は意識を覚醒させながら立ち上がり、視界がはっきりするまで少し遠くを眺める。

 響き渡る目覚まし時計の機械音声(アラーム)が一真の意識を覚醒させた。彼が使う目覚まし時計の機械音声(アラーム)はとあるアニメのオープニング曲。

 そのアニメを毎週欠かさずチェックしている一真の大好きな曲なのだが、もう少し聴いていたいという思いを抑え込み、目覚まし時計の上側のボタンを押し、機械音声(アラーム)を止める。

 

「今日は8月1日。楽しみだな……」

 

 布団から出た一真はカレンダーを見て、今日の日付を確認する。8月1日。一真にとって、この日は友人と会い、色々と楽しい事をする予定なのだろう。

 ウキウキしながら時間を確認すると、置き時計の2つの針は7時と30分の所を指していた。出発する時刻までかなり余裕がある。

 それまでにやる頃を頭の中でリストアップさせながら自室のドアを開けると、玄関のチラシ入れに入っている新聞を取り、リビングへと足を運ぶ。

 

(今日は休日だからまだ誰も起きて来ないよね……)

 

 一真の部屋は1階にあり、彼の両親の部屋は2回にある。一真は眠気覚ましのコーヒーを入れると、新聞を静かに読み始める。

 傍から見ると、何処にでもいる父親のような気がしないでもない。チラシにも目を通すあたり、何かこだわりがあるのだろう。

 

「やっぱり最近は物騒なニュースが多いな……」

 

 一真は溜息を付きながらリモコンを手に取り、操作してリビングに設置されているテレビの電源を付け、ニュース番組にチャンネルを合わせる。

 ニュース番組では昨日あったニュースが報道されている。テレビの画面にはアナウンサーが使っているマイクを右手に持っている男性記者が映っている。

 

『昨夜六時半過ぎ、こちらのマンションから巨大なクワガタのような生物が飛んでいるという目撃情報がありました。警察が調べた所、従来のクワガタとは何もかもが違うと言われている為、更なる目撃情報の収集と調査が進められています』

 

 ニュースの内容は昨日の夕方、とあるマンションから謎に包まれたクワガタのような姿をした新種の生物が目撃されたという事だ。

 テレビ画面には新種の生物の目撃者が住んでいる大きなマンションが映し出され、画面右側のテロップには『新種の生物、またも発見される』と書かれている。

 

「最近このようなニュース、多いな……」

 

 一真は朝食の準備をしながらテレビ画面を見ているが、溜息を付いている。あまり良いニュースではないと考えているのだろうか。

 ここ最近は未確認・新種と思われる生物の目撃情報が相次いでいる。直に何か事件になる事が目に見えているのだろう。だからこそ一真の表情は険しい。

 オーブントースターに食パンを2枚入れて焼きながら、冷蔵庫からベーコンとマーガリンを出す一真。彼はコンロのスイッチを付け、フライパンを熱しながら油を敷いた。

 

(でも新種の生物って一体何だろう……?)

 

 ニュースの内容に耳を傾けながら、一真はフライパンで焼いたベーコンをお皿に移し、チーンと音が鳴ったオープントースターから2枚の食パンを取り出し、お皿に乗せる。

 その2枚のお皿を食卓の上に置き、飲みかけのコーヒーが入っているコーヒーカップを持って来ると、1人だけの朝食を始めた。

 朝食を終えた一真は洗面所で歯を磨いて顔を洗うと、自室に戻って布団を押し入れに片付けてから外出用の服装に着替える。

 クリーム色の洋服箪笥の引き出しの1つを開き、その中から白いTシャツを取り出し、その引き出しを閉める。

 それからその下の引き出しから紺色のジーンズを取り出して引き出しを閉めると、ジーンズにベルトを通す。

 着ているパジャマを脱いで取り出した服を着ると、着ていたパジャマを抱えて洗面所に行き、洗濯カゴの中にパジャマを入れると、そのまま自室に戻る。

 カバンの中にスマートフォンや免許証等の必要な物を一通り入れると、一真は玄関に足を運び、スニーカーを履く。

 そして誰も起きていないにも関わらず、律儀に挨拶をしてから駐車場に泊めてある自分の車に乗り、家を出た。

 

「行ってきます!」

 

 これが一真の休日。家にいてのんびり過ごす時もあれば、こうして外出する時もある。彼の日常はこの日も続く……筈だった。

 

 

 

 8月1日は祝日ではない。それでも一真にとっては大切な記念日。何故なら8月1日はデジモンの日と呼ばれているからだ。

 『デジモンアドベンチャー』で選ばれし子供達が初めてデジタルワールドに旅立った記念日。それがデジモンの日。デジモンファンにとって、この日はアニメのデジモンシリーズ全体の記念日とされている。

 この年の8月1日は例年通りの熱い夏。太陽の日差しが照り付け、歩行者の中には日傘を差したり、帽子を被ったり、団扇で仰いだりしている人がいる。

 歩行者を見守るように広がる青空。そこでは綿菓子を思わせるような複数の入道雲が泳いでいる。まるで下にいる人間達に構わないと言わんばかりに。

 空に届けと言わんばかりに立ち尽くす数々の建物。その室内には冷房によって形成された冷たい空気が流れている。そこは外の熱さを遮断し、涼しく心地よい場所となっている。

 

「着いたか……時間には少し早かったな」

 

 左手首に付けている腕時計をチラ見し、現在の時刻を確認する。今は9時30分。一真は友人と喫茶店の前で待ち合わせをしている。

 車は喫茶店の隣にあるパーキングに泊めてある。そこは料金が安く、使い心地が良い為、色々な目的で使われている。

 

「にしても人多いな……休日の朝だからか?」

 

「よぉ、遅くなって悪いな」

 

「そんなに待ってないよ、武蔵」

 

 一真の所に来たのは石田武蔵。一真の親友であり、待ち合わせの相手。挨拶代わりにハイタッチを交わす。

 待ち合わせを済ませると、一真の車に乗った2人。一真が運転席に、武蔵が助手席に座り、エンジンを吹かしてアクセルを足で踏み、デジモンメモリアルとして聖地巡礼のドライブへと向かっていく。

 

「なぁ一真、今日のニュース見たか?」

 

「見たよ。マンションで巨大なクワガタっぽい謎の生物が目撃されたって奴だろ?」

 

「あれさ、他にも目撃した奴がいるんだけど、そいつの『Twitter』を見る限り、どうもあれクワガーモンっぽいぞ?」

 

「確かなのか? それ」

 

「あぁ。これだ」

 

 信号が赤信号になり、青信号に変わるのを待っている間、武蔵は一真と昨日のニュースについて話をし始める。

 武蔵がスマートフォンの画面を見せると、その画面には昨日の夕方に目撃された巨大なクワガタっぽい謎の生物が映し出されていた。

 

「……確かにクワガーモンだな。というか、クワガーモンって 『デジモンアドベンチャー』で選ばれし子供達が初めて戦ったデジモンだろ? 正確に言うと、彼らのパートナーデジモンだけど」

 

「あぁ、もしかしてデジタルワールドから遥々祝いに来てくれたのかもな」

 

「だと良いけど。ここ最近はよく自然災害が起きるけど、それはあくまでこの世界の話。デジタルワールドという異世界の話になると、話が複雑になる。それに……嫌な予感がするんだ」

 

「それを言うな。お前の言う嫌な予感は高確率で現実になるからさ」

 

「分かった。言わないように気を付けるよ」

 

 悪い事が起こりそうな時にだけ、一真の直感は冴え渡る。それは昔からだ。良くも悪くもその直感に一真や友人達は助けられた。

 平和。戦争や内乱がない状態。それはきっと今のような状態の事を指すのだろう。ありふれた日常。それこそが一真や武蔵にとっての平和なのかもしれない。

 そのありふれた日常を侵食しようと、次第に迫り来る非日常。だからこそ、せめて今だけでもこの平和な時間を楽しんでいたかった。

 平和ボケと言われても仕方ない。戦争や内乱といった争い事はないに越した事はないのだから。

 

 

 

 ゆりかもめの一日乗車券を購入し、デジモンの聖地を巡礼している一真と武蔵。時間は午後0時となった。

 日差しが次第に強くなるに連れて、東京都民も飲む水の量と、タオルで汗を拭く回数が次第に増えて来た。

 その上気温が高くなると、熱中症の恐れが出て来る。それを知っている一真と武蔵はチェーンのラーメン店に入り、昼食を取っている。

 既に彼らの目の前には醤油ラーメンの大盛りが入っている大きな丼が2つ、餃子が盛られているお皿が1つ置かれている。

 

「なぁ、もしこれがデジタルワールドと人間界が繋がったとしたら、どうする?」

 

「どうするも何も僕らには何も出来ないよ。成熟期なら自衛隊でもどうにかなるけど、完全体以降は米軍呼んでもキツイし。というか最悪、世界滅びるよ?」

 

「まぁ、『シン・ゴジラ』のような事になったら嫌だしな……」

 

 夢見がちな武蔵と比べ、一真は現実的だ。大学卒業後に入社した企業をパワハラで1年で退職し、就職活動で苦労しながらも、ようやく今の職場に辿り着けたのだから。

 いつまでも夢を見ている時間もないし、そういう事を語れる年代でもない。それを理解しているからこそ、どうしても言う事が現実的かつ理論的になってしまう。

 

「僕らはただの一般市民だ。何も出来ないよ。政治家や警察、自衛隊じゃないんだから」

 

「じゃあさ、これはどうよ? ある時、究極体デジモンになったとしたら」

 

「そのデジモンによるな。ピンキリいるし、まぁ無難なのは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』だな。基本負けないし」

 

「……相変わらず、お前と話していると面白くも何ともないよ」

 

「悪いな。見て来た物で色々あったから……」

 

「冗談だよ。お前のような友達がいて俺は嬉しいよ」

 

 申し訳なさそうに謝る一真を見た武蔵はラーメンを啜り始め、一真も同じく目の前のラーメンを啜り始める。

 ちなみのこのチェーン店のラーメンは全国でも美味しいと評判の名店であり、2人がよく来るお店である。

 

 

 

 ラーメン店を出た2人が引き続き聖地巡礼を続けていると、突如として2人の上空に巨大な黒い穴が出現した。

 突如として発生した巨大な黒い穴。それを目にした誰もが立ち止まり、中には指を差したりする人もいる中、一真と武蔵も立ち止まった。

 

「何だ?」

 

「ワームホールか?」

 

 一真の呟きが正解と言わんばかりに、巨大な黒い穴もといワームホールの中心から一体の“何か”が地上に向けて落下し、危なげなく地上に二本の足を着地させる。

 その“何か”の姿を見ようと、周囲にいた誰もが“何か”を目にした途端、驚きと恐怖で固まる事しか出来なかった。

 

「おいおい、マジかよ……一真、お前の予感……やっぱり当たったな」

 

「あぁ、当たったよこの野郎。しかも最悪の可能性だ。よりにも寄って来たのが悪魔(ディアボロス)だしな……」

 

「勘弁してくれよ。究極体デジモン……ディアボロモンじゃねぇか!」

 

 目の前に降り立ったのは悪魔。名前の元ネタとなったのはディアボロス。ギリシャ語で悪魔という意味の単語。

 悪魔の外見はオレンジ色の髪を棚引かせ、胸にエネルギー砲と思われる砲身が埋め込まれ、関節と言う部分が存在しない長い腕を持っている。その名前はディアボロモン。

 名前を知らなくても、その不気味な外見と全身から溢れる強大なオーラで周囲にいた人々は助けを求めて逃げ出したり、中には腰を抜かして倒れ込み、その場から動けなくなった者もいる。

 

「どうする?」

 

「どうするって言っても、あいつ僕の方をじっと見ているぞ? 武蔵、お前なんかどうでも良いみたいだ。あいつは僕を殺したいらしい」

 

「まさか“近くにいたお前が悪い”みたいな感じか?」

 

「まぁそういう事だ」

 

 思わず笑いたくなる程、状況は最悪だ。ディアボロモンは一真の方をジッと見つめ、今にも飛び掛からんと言わんばかりの勢い。

 一真はこの場所から逃げ出したいのだが、究極体が宿す世界を滅ぼす程の強大な力、圧倒的なオーラと殺意、何を考えているか分からない視線に腰を抜かし、夏にも関わらず、寒気を感じている。

 胸の動悸と全身の震えが止まらない。これが究極体。デジタルモンスターの進化の最終段階。ピンからキリがいるが、世界に影響を及ぼしたり、最悪世界を滅ぼす規模の威力を持った攻撃力を持っている者が数多い。

 ディアボロモンはその中でも中堅~上位クラスに名を連ねる実力者。その上厄介な特殊能力を秘めている。

 

「武蔵、動けるか?」

 

「何とか……この場所から逃げ出す事は出来そうだ」

 

「そうか……なら君は逃げろ。僕を見捨ててくれ」

 

「なっ!? 何を言っているんだ……お前を見捨てる事なんて出来る訳が……」

 

「頼む。僕はもう……駄目だ」

 

「一真お前……」

 

 武蔵は気付いた。一真はディアボロモンに殺意を向けられた時点で詰んでしまった事を。その証拠に一真は動く事が出来ず、その場に座り込んでいるままだ。

 走って逃げる事が出来る武蔵と、走って逃げる事が出来ない一真。この時点で一真は運命を受け入れた。

 

「僕を見捨てて逃げてくれ。せめて武蔵、君だけでも……」

 

「何ふざけた事言ってんだ! ここでダチを見捨てたら、俺は一生後悔する事になる! ほら立て! 一緒に逃げて明日を生きるぞ!」

 

「武蔵、危ない!」

 

 動けない一真を立たせながら自分の肩を貸して逃げようとする武蔵。彼の目の前に迫り来るディアボロモンに気付いた一真は、武蔵を助けようと突き飛ばした。

 ディアボロモンの右手の爪が一真の胸を貫き、辺り一面に血の花を咲かせる。思わず時間が停止したような錯覚。それ程の速さでディアボロモンが動いた。

 

「ガッ、アァッ……」

 

「一真ァァァァーーーーーーーー!!!!!!」

 

 周囲に響くは武蔵の叫び声。右手の爪が引き抜かれ、一真は自分が流している血の海の中に倒れ込んだ。

 武蔵はディアボロモンが見ているにも関わらず、一真を抱き起すと、一真は口から大量の血を吐きながら武蔵の顔を見る。

 

「一真しっかりしろ! お前はこんな所で死なないよな!?」

 

「死なないと言いたいけど、ちょっと無理だね……もう駄目だ。視界が霞んで何も見えないよ……」

 

「一真! 一真!」

 

「武蔵……僕の分まで生きろ。ありがとう……こんな僕の友達でいてくれて」

 

「一真ァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 一真は武蔵に激励と感謝の思いを伝えると、目を閉じて安らかな顔をしながら深い眠りに付いた。

 目の前で死んだ親友。八神一真。彼を心から大切にしている武蔵は大粒の涙を流しながら、慟哭に満ちた叫び声を上げた。

 

 

 

(ここは……)

 

 一真が目を覚ました場所。そこは上下と前後、それと左右。ありとあらゆる所が真っ黒な空間。辺りをキョロキョロと見渡しながら、一真は自分が死んだ時を思い出していた。

 

(僕は友達を庇って死んだ。その事に何の後悔も無ければ、未練もない。でもただ一つあるとすれば……最後まで当たり前の日常で生き、当たり前の日常の中で死にたかった)

 

 一真は自分が死んだ事に対して負の感情は抱いていない。人間はいつかは死ぬと割り切っているからだ。

 しかし、未練はあった。それは平和な日常で生き、ありふれた日常の中で死にたかったという願いだ。

 

(日常が理不尽な悪意によって破壊され、多くの人が巻き込まれていく。それが何より許せない。僕に力があれば何とか出来たのに……)

 

(力が欲しいか……?)

 

(誰だ!?)

 

 右手を見ながら悔しい思いをする一真。そんな彼の耳に何処かから何者かの声が聞こえて来た。

 その声が聞こえて来た方向と、その声の主を探そうと一真は辺りを見渡すが、声の主は分からず、方向さえも掴めない。

 

(あの悪魔を倒す力が欲しいか……?)

 

(欲しいよ……力さえあれば僕はあの悪魔を倒し、皆を守れるのに……)

 

(そうか。その思いは本物だな)

 

 謎の声が聞こえたと同時に空間を眩い光が照らしだし、真っ黒な空間は真っ白な空間へと作り替えられる。

 その空間の中央に立っている一真。彼の前におぼろげな白い影が現れた。しかし、一真には分かる。その影が一体誰なのかという事が。

 

「貴方は……!」

 

「初めまして、と言うべきだな。私はオメガモン」

 

 白い影はオメガモンと名乗り、一真を唖然とさせた。一真にとってオメガモンは絶対的な英雄であり、憧れでもある。

 

「オメガモン……僕は八神一真と言います」

 

「一真か、良い名前だ」

 

 優しく微笑むオメガモン。彼は聖騎士として完璧だった。忠義も厚く、余程の事がない限りは裏切らない。性格も良い。その上無敵の力を誇っている。

 そんな彼にも未練があった。それは“最後まで盟友達と共に戦えなかった事”だ。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”が始まる前、敵の首領と幹部との戦いで倒された。2人がかりで、しかも秘奥義を封じた上で。

 彼は最後まで盟友達と共に戦うどころか、“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”に参加する事さえも出来なかった。

 彼の波動(コード)は次世代を担う少年に引き継がれ、彼の意志を継いで電脳世界を平和な世界に戻した。それに関して言えば、何の悔いもない。

 ただ、最後まで盟友達と戦う事が出来なかった事に未練がある。その思いを汲んだのか、何者かが遣わせた。オメガモンは少なからずそう思っている。

 

「貴殿の願いは悪魔を倒し、皆を守る事だな?」

 

「そうです。貴方の願いは?」

 

「今度こそ最後まで戦い抜く事だ。確かに戦う事は出来た。でも盟友達と共に戦えず、一人孤独に死んだ。だからこそ私は願う。次は必ず死ぬまで生き、最後の一瞬まで戦い抜く事を。それが例え戦いであっても、己の運命でも構わない」

 

 オメガモンが抱く真摯な思いと願い。それに胸を打たれ、一真は次に何を言おうか考える事が出来なくなった。

 その時。目の前の風景が変化した。死ぬ最後の一瞬に見た風景。目の前にいるのはディアボロモン。どうやら一度時間が巻き戻り、同じ時間に来たらしい。

 

「ディアボロモン……!」

 

「怖いのだろう? 悪魔が。ディアボロモンが。当たり前の日常を破壊しようとする悪意が。戦え! 勝利しろ! それしか道がない!」

 

 目の前に存在する破滅の悪魔。戦わなければならない。でもその方法が分からない。思わず立ちすくむ一真に、オメガモンは叱咤激励をする。

 一真がディアボロモンと相対すると、目の前に一本の剣が地面に突き刺さっている事に気が付いた。それは真っ白い聖剣。刀身に何かの文字が刻まれている。

 

「オメガブレード……!」

 

「聖剣を引き抜き、戦え!」

 

 オメガモンの言われるがままに、オメガブレードの柄を持って引き抜こうとする一真。しかし、余程地中に深く埋まっているのか、一真はオメガブレードを引き抜く事が出来ず、終いには尻餅を付いた。

 恐怖で震える一真に歩み寄るオメガモンは、彼を見下ろしながら声をかける。その声色は何も変わっていない。

 

「どうした? 戦いたくないのか?」

 

「違う! 戦いたいけど、怖くて出来ないんだよ! 僕は本当に悪魔に勝てるのか、いやそもそもオメガブレードを使って戦えるのか……不安で心配で、怖いんだよ! 自分が使うであろう剣や力が、あいつの力が怖くて戦いたくても戦えないんだ!」

 

「何かと思えば、そういう事だったのか。それで良い。その心を忘れないでくれ」

 

 戦う事への恐怖や不安。自分への情けなさで涙を流す一真。彼の頭を優しく撫でながら。オメガモンは宥め諭すように一真に話し掛ける。

 それは聖騎士からの教え。戦うという行為への心構え。聖騎士としてどう在るべきか。その授業のように思える。

 

「聖騎士にとって一番大事なのは戦いを恐れる事だ。戦う事は私だって怖い」

 

「えっ? オメガモンも?」

 

「そうだ。私にとって最後の戦いは秘奥義を封じられての戦いだった。いわば全力を出せない戦いだった。一真、貴殿は自分と相手の力を怖いと言った。不安で心配でどうしようもなかったのだろう。それで良い。それが正しい。それが一般人たる貴殿の感覚だから。でもそうは言っていられない。こうしている間に悪魔は人々を殺戮しているだろう。貴殿がやらずして誰が皆を守るのか?」

 

「……あぁ、もう1度やってみる!」

 

 心の中に巣食う不安や心配、恐怖といったネガティブな感情や思い。それらを全て気合で捻じ伏せ、一真はもう1度オメガブレードを手に取る。

 刀身が途中まで大地に深々と埋まっている聖剣の柄を掴み、引き抜く為に全身の力を込める。目の前の悪魔を倒す為に。

 もう迷いはない。オメガブレードの柄をしっかりと両手で握り締め、一気に引き抜こうとするが、中々抜けない。

 

「クソッ、抜けない!」

 

 全力を出しても抜けるどころか、1ミリたりとも動かない。まるで埋まっている刀身を何者かが掴んでいるみたいだ。

 でも抜かなければならない。抜かなければ誰かが死ぬ。それに対抗する為に必要なのは力と意志。それをオメガモンから今教えられた。

 

「一真。求められているのは貴殿の決断。求めているのは貴殿の意志。例えもう二度と平和な日常に戻れないとしても、もう当たり前の暮らしが出来なくなるとしても、剣を取って戦う意志はあるのか? その思いは本物なのか?」

 

「……例えこの剣が使えなくても、抜く事なら出来る筈だ! 僕に戦う意思があるのなら……戦えない皆の為に僕が戦う!」

 

 一真の思いに応えるように、オメガブレードはいとも簡単に抜けた。刀身から発する光を受け、目の前の悪魔が消え去っていく。

 

「抜けた……!」

 

「合格だ。貴殿は私の力を振るう資格があると分かった」

 

 オメガモンから告げられた合格証明。それをぼんやりと聞きながら、一真は意識を手放した。オメガブレードが消滅し、聖剣から発せられる光が優しく彼を覆い包んでいる。

 それに気付いた時、一真は意識を手放した。まるで光が一真を現実世界へと送り届けるように。それまでゆっくり休むように告げているようだった。

 

 

 

「ッ!?」

 

「何だ?」

 

 突如として発生した現象にディアボロモンは動きを止め、武蔵が一真の方を見る。何時の間にか血の海は消え去り、一真の身体は光り輝いている。

 一体何が起きているのか。それを考えていると、一真の身体は青空へと舞い上がり、巨大な光の卵へと変化し、静かに上空に浮かび始める。

 先程はワームホールが出現し、今度は巨大な光の卵。周囲一帯にいる誰もがジッと見つめる中、光が次第に消滅し、その中から1体の聖騎士が姿を現した。

 

「マジかよあれって……!」

 

 その聖騎士は地上に向かってゆっくりと降下し、危なげなく地面に二本の足を着地させ、顔の前で交差させていた両手をゆっくりと振り下ろす。

 その聖騎士の姿を見ようと、周囲一帯に集まっていた誰もが目にする中、聖騎士の事を知っている武蔵は興奮を隠さず、大声を上げた。

 

「最高じゃねぇか! 一真の奴、オメガモンになりやがった!」

 

 その聖騎士は全身を純白に輝く聖鎧で身を包み、背中に内側が赤色で、外側が白いマントを羽織り、右肩に金色の三本の突起が付いているアーマーを装着し、右手が蒼い狼を象った籠手となっている。

 左肩には勇気の紋章を象った黄金の盾―『ブレイブシールドΩ』を装備し、左手が黄金の竜を象った籠手となっている聖騎士。

 聖騎士の名前はオメガモン。2体の究極体デジモン、ウォーグレイモンとメタルガルルモンが世界中の人々の平和を願う強い思いで融合合体して誕生した。

 究極体を超えた究極体。超究極体。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に名を連ねる最強無敵のデジモン。

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”が始まる前に命を落としたが、八神一真を依り代にして憑依する形でここに新生した。

 

「すげぇ!」

 

「かっこ良い~!」

 

「美しいわ~!」

 

「綺麗……」

 

 神話に登場しても何一つおかしくない荘厳な美しさ。圧倒的な力。それらを兼ね揃えたオメガモンに誰もが圧倒されている。

 ディアボロモンは強い。自分達の想像を遥かに超えた強さを持っている事を。それは分かる。だが、それ以上にオメガモンの方が遥かに強いという事が彼らにも分かった。

 

(何で僕がオメガモンになれたか、オメガモンが僕を選んだかは分からない。でも僕はオメガモンになった。これは事実だ)

 

 一方のオメガモンこと一真は自分の両手を見ながら感覚を確かめ、目の前にいるディアボロモンと正対する。

 光と闇。善と悪。とある別世界から始まった因縁。その戦いがこの人間界でも始まろうとしている。

 

(僕がやる事は決まっている。やれる事を全力でやるだけ。先ずはディアボロモンを倒す!)

 

 右足を一歩前に踏み出し、両拳を握り締めながら構えを取るオメガモン。ディアボロモンからの重圧は相変わらずだが、全く何も感じていない自分に気が付いた。

 空間をも覆い尽くす殺意を叩き付けられても、全く動じていない。むしろ昂っている自分がいる。兜の中で苦笑いを浮かべながらも、決意を固めたのか表情を引き締める。

 オメガモンという聖騎士は人間界で新生した。そしてこれが始まるのは八神一真ことオメガモンの初陣。その相手は因縁の相手、ディアボロモン。

 




当たり前だった日常が崩壊し、非日常が到来した第1話。
ある意味ではありきたりの展開だったと思います。
この小説のオメガモンは漫画版『デジモンクロスウォーズ』のオメガモンと同一個体という設定です。あんまり関わっていませんでしたが(苦笑)
次回はオメガモンVSディアボロモンです。お楽しみに!


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第2話 聖騎士の初陣

これで3話連続でタイトルに聖騎士が付いてしまった……次でもうラストにします。
今回で話のストックが無くなったので、次の投稿は少し時間が空きます。
直ぐにでも投稿したいですが、何しろ展開を考えないとなので……
では盛りだくさんの第2話、お楽しみ下さい!



 東京湾の近く。既に多くの人々が集まっているその場所では、2体のデジモンがゆっくり間合いを取りながら、睨み合いをしている。

 聖騎士ことオメガモンは目の前の悪魔を絶対倒すという強い思いを持ち、悪魔ことディアボロモンは、目の前の聖騎士を憎しみに満ちた視線で睨んでいる。

 彼らが考えている事は1つだけ。どのようにして目の前の相手と戦うのか。要は相手との戦い方だ。

 

(参ったな……戦いにくい)

 

 オメガモンこと八神一真。彼は目を横に動かし、周囲の状況を確認する。目の前にディアボロモンがいて、自分達で取り囲む形で多くの人間達がいる。

 この状況はオメガモンにとって好ましくない。理由はシンプルだ。自分が戦いにくいだけでなく、大勢の無関係の人々を巻き込む事となってしまう。そういう意味で“戦いにくい”と内心で呟いた。

 ちなみに、一真の親友たる武蔵は既に少し離れた所にいる。中々空気が読めるのか、デジモンに関する知識が豊富なのか。どちらにせよ、オメガモンにとって嬉しい限りだった。

 

(そう言えば、この場所の近くに東京湾があったな。あそこは海だから広い。そこに場所を移し、戦いを始めよう。先ずはそこからだ)

 

 この場所で戦っても両腕に装備されている武器を使用出来ない上に、大勢の人々を巻き込んでしまう。先ずはディアボロモンを戦いやすい場所に移動させる。

 そこからディアボロモンを倒せば良い。最初にやるべき事を決めたオメガモンの闘志が静かに昂る一方、ディアボロモンの憎悪が蒼い炎の如く燃え上がる。それを知らせるように、空気が焦げるような匂いが立ち込めて来た。

 それは2体の究極体デジモンの凄まじい闘志のぶつかり合い。そこに雄叫びも、動作もない。しかし、闘志をぶつけ合うだけで周囲一帯の空間を戦場に作り替えていく。

 2体の究極体デジモンを取り囲んでいた人間達。彼らは静かにその場所から後退し、安全と判断出来る場所まで離れた。

 それを横目で見ていたオメガモンが感謝するように頷くと、彼の目の前を一陣の風が吹いていった。

 

「ギャァァァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 

「勝負だ、ディアボロモン!」

 

 風が吹き終えた瞬間、戦いが始まった。ディアボロモンは雄叫びを上げながら、オメガモンに向けて突進を開始する。

 ただ突進するのではない。全身を丸めて地を這うように転がる状態で。その状態で突進し、相手を蹴散らす技。それがディアボロモンの得意技の一つ、“ページファルト”。

 

「(準備が良くて助かるよ!)行くぞ!」

 

 オメガモンは半歩下がって助走を付けると、“ページファルト”状態のディアボロモンに向けて駆け出していく。

 一体何をするのか。人々が見守る中、オメガモンは右足を大きく蹴り上げ、ディアボロモンを上空高く打ち上げる。

 

『えぇ~!?』

 

 驚愕と困惑が入り混じった声を上げる人々に構う事なく、オメガモンは屈伸をして空高く飛び上がり、ディアボロモンの真下に入る。

 ディアボロモンが自然落下を開始したその瞬間、オメガモンも後方宙返りを行い、右足でディアボロモンを東京湾の海面に向けて蹴り落とす。

 

『おお~!』

 

(成る程。一真は戦場を移したかったんだな……確かにここだと戦いにくいし)

 

 サッカーのプロ選手顔負けのオーバーヘッドキックに歓声が上がる中、オメガモンは東京湾の海面に向けて急降下し、そのまま海面の上に浮かび上がる。

 オーバーヘッドキック。サッカーにおいて、地面に背を向けた状態のまま、空中にあるボールを頭より高い位置でキックする事。

 これで戦場を移し、人々に危害をもたらす心配なく存分に戦う事が出来る。それを感じた一真が見守る中、海中に沈んだディアボロモンが立ち上がった。

 

 

 

「ウオオォォォォォォォーーーーーー!!!!」

 

「ギャァァァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 聖騎士と悪魔の戦いが本格的に始まった。2つの巨大な力がお互いを喰い破らんと言わんばかりに、真正面からぶつかり合う。

 オメガモンは裂帛の気合を上げながら、ディアボロモンに向けて突進していく。その速度は神速の領域。目にも止まらぬではなく、目にも写らぬ超速度。

 突進の余波で周囲に膨大な量の海水を撒き散らしていく中、ディアボロモンは両腕を伸ばしてオメガモンを攻撃していく。

 ケーブルクラッシャー。伸縮可能な腕を伸ばし、五本の爪で相手を粉砕するという、ディアボロモンの得意技。

 

「ハァッ!!」

 

 目の前から迫り来るディアボロモンの両手。オメガモンはそれをスケート選手のような華麗で最小限の動きで回避し、一気にディアボロモンとの間合いを詰める。

 幾ら伸縮可能とは言えど、伸ばしたり、縮めたりするのに若干の時間が必要になる。そのタイムラグを利用して接近し、与えられる間にダメージを与える。シンプルだが、非常に効果的な作戦だ。

 オメガモンは上半身を捻って右肘を曲げると、身体の捻り戻しを利用し、強烈な右ストレートをディアボロモンの左頬に打ち込む。

 

「ガァッ!!」

 

 どうやら渾身の一撃だったのだろう。ディアボロモンはダメージよりも、頭に凄まじい衝撃が襲い掛かった為か、動きが止まってしまった。

 そのチャンスを逃すオメガモンではない。動きが一時停止しているディアボロモンの腹部に左フックを叩き込み、今度は右アッパーでディアボロモンを打ち上げる。

 この後もオメガモンはパンチやキックといった攻撃を繰り出し続けるが、それを見ている武蔵は疑問に感じた。

 

(何で一真の奴、グレイソードを使わないんだ?)

 

 実の所、一真はオメガモンとしての初の初陣、オメガモンは久し振りの戦闘なので色々な意味で戦闘に慣れていない。

 それに加えて、ディアボロモンの戦闘スタイルも関係している。彼のパワーは究極体の中では然程高くないが、スピードは割りと高い方だ。速度はそうでもないが、敏捷や素早さではトップクラスと言っても良い。

 その相手には確実にダメージを与える事が出来る攻撃が無難だ。グレイソードのような武器は止めに使うべきだろう。幾ら左手に装備されるとは言え、振るうのにそれなりのエネルギーを使うのだから。

 

「ウオオォォォォォォォォォォーーーーーー!!!!!」

 

「ギアァァァァァァァーーー!!!!!」

 

「すげぇ!」

 

「あの白い奴押しているぞ!」

 

「このまま押し切れ!」

 

「この勝負もらった!」

 

 次々と、しかも確実にディアボロモンにダメージを蓄積させていくオメガモン。その姿に観戦している誰もが息を呑み、その勇姿に圧倒されながらも応援の声を送る。

 本来のオメガモンの力を出せれば、ディアボロモンなど一撃で倒す事が出来てもおかしい事はない。今のオメガモンはブランク等の様々な要因もあって本来の力を出す事が出来ないでいる。

 それでもディアボロモン相手に優勢でいられるのは、基本性能の高さと一真の戦闘センスもあるのだろう。

 しかし、ディアボロモンの中では憎悪の念が増してきている。元々、彼は何者かに八神一真の抹殺を命じられ、任務を果たしたかと思ったら、計算外の事態に陥っているのだから。

 自分の手で死ぬ筈だった人間が、自分を消し去ろうとする聖騎士になった。しかもその聖騎士によって、これから殺されようとしている。その事実にディアボロモンは憎悪に満ちた雄叫びを上げた。

 

「ギャァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!」

 

「何だと!?」

 

『なっ!?』

 

 その雄叫びに応えるように、海中から2本の長い腕が飛び出し、オメガモンを拘束しようと伸びていく。

 突然の事態に一瞬だけ動きが止まってしまったオメガモン。二本の長い腕によって拘束されてしまった。やがて海中からもう1体のディアボロモンが姿を現した。

 その隙に距離を取ったディアボロモン。隣の海面が盛り上がり、その中から更なるディアボロモンが2体姿を現す。

 

「どういう事だよ!?」

 

「何でもう3体いるんだ!?」

 

「まさか……分身出来るのか!?」

 

「何てことだ!」

 

「折角良い所まで来たのに!」

 

(まさか海中に沈んだ僅かな時間で自分をコピーさせていたのか……海中なら誰にも気づかれないし、任意のタイミングで奇襲を仕掛ける事が出来る。何て奴だ!)

 

 人々が戸惑いや悔しさに満ちた声を上げる中、武蔵はディアボロモンの特殊能力を思い出し、悔しそうな表情でオメガモンを見つめる。

 ディアボロモンの特殊能力。それは自らを大量にコピーする能力。しかも数秒間で大量のコピーを作り出す事が可能。

 武蔵の考え通り、ディアボロモンは先程海中に沈んだ時、自分のコピー体を2体作り、海中に伏せていた。後は任意のタイミングで奇襲するだけだ。

 ディアボロモンは不気味な見た目に反し、狡猾な策士だ。初めて存在が明らかになった個体の場合、アメリカ合衆国の軍事基地の軍事コンピューターに侵入し、核ミサイルを発射したのだから。

 

「クッ、離れろ!」

 

 ディアボロモンのコピー体による拘束。何とか逃れようと力を込めるオメガモンだったが、ディアボロモンは右手の爪をオメガモンの首筋に突き刺した。

 そしてオメガモンの体内に何かが注入される。それは強力なウィルス。相手を弱体化させたり、動きを封じたり等何でも出来る便利なウィルス。鋭い爪から強力なウィルスを敵に埋め込む技。それは“ウィルスダウンロード”だ。

 

(何だ……力が……出ない……)

 

 羽交い絞めにされている状態に加え、ディアボロモンのコピー体に強力なウィルスを注入され、身動き一つ取れなくなったオメガモン。

 ディアボロモンのコピー体が更に力を込めて抑え込むと、3体のディアボロモンはまたとないチャンスの到来に歓喜の笑みを浮かべると、胸部に内蔵されている砲身の照準をオメガモンに合わせる。

 そして周囲一帯に存在するエネルギーを砲身に集束させ、砲身の内部でエネルギーを弾丸状に形成し、凝縮すると、次々とオメガモン目掛けて撃ち出す。

 

「グアアアァァァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 カタストロフィーカノン。胸部の発射口から強力な破壊エネルギー弾を発射する、ディアボロモンの必殺技。

 それを3体同時に次々と撃ち込む。十発。ニ十発。三十発。何発撃ち込んだのか途中で数えるのが嫌になる程、3体のディアボロモンは破壊エネルギー弾をオメガモンに向けて撃ち込まれていく。

 純白に輝く聖鎧が次第に凹み、傷付いていく。オメガモンの全身から爆炎と黒煙が立ち込める中、聖騎士の口から苦痛に満ちた叫び声が聞こえて来る。

 

「……」

 

 もうそろそろ良いと判断したのだろう。3体のディアボロモンが砲撃を撃つ事を一旦中止すると、爆炎と黒煙の中からオメガモンの姿が見えて来た。

 その姿に誰もが絶望しながら息を呑んだ。純白の聖鎧の至る所が傷付き、ボロボロになっているオメガモン。つぶらな空色の瞳から光が完全に消滅している。目から光が失われているとは正にこの事だ。

 聖騎士を羽交い絞めにしているディアボロモンは更なる追い打ちをかけてきた。オメガモンの背中にぴったりと張り付く。

 一体何をするつもりなのか。人々は不安と恐怖に満ちた視線で見つめる中、オメガモンの背中に張り付いたディアボロモンは、ニヤリと不気味な笑みを浮かべながら全身のエネルギーを開放し始める。

 

「まさか……!」

 

 その様子を見た武蔵は直ぐに理解した。ディアボロモンがこれから行おうとしている事に。どのような技を繰り出そうとしているのかを。

 オメガモンの背中に張り付いたまま、ディアボロモンが全身のエネルギーを全て解放したその瞬間、ディアボロモンの身体は大爆発を引き起こした。

 

「自爆したぞあいつ!?」

 

 ディアボロモンが発動した得意技。その技名はパラダイスロスト。全身の全てのエネルギーを解放し、自爆する技。俗に言う自爆技だ。

 それを見た誰もが悲鳴に満ちた声を上げたり、中には恐怖と狂気でワナワナと体を震わせ、その場に崩れ落ちる女性もいる。

 大爆発によって生じた黒煙と爆炎。それらが徐々に晴れていくと、全身がズタボロになったオメガモンが姿を現した。

 ディアボロモンのコピー体が羽交い絞めにしていたのが身体の支えとなっていたが、今はもうそれがなくなった。オメガモンはそのまま力なく崩れ落ち、海面に倒れると共に海中に沈んでいく。

 

「嘘だろ……オメガモンが、一真が負けた」

 

 海中深くに沈んでいくオメガモン。それを目の当たりにした武蔵は目の前の現実が信じられなかった。目の前で友人を失い、オメガモンとなって復活した。そのオメガモンが負けた。つまり、一真が負けた事になる。

 何も出来ない自分が悔しい。本当に親友を失う事が悲しい。武蔵は崩れ落ち、瞳から大粒の涙を流していく。

 

 

 

(真っ暗な世界だ……僕はまた死んだかな?)

 

 全てが真っ黒に染まった虚無な世界。そこに再びやって来た一真。ゆっくりと落ちて来る彼は、ぼんやりと自分の死について考える。

 オメガモンとなったこの場所から飛び立った筈が、短時間で再びこの世界に戻ってしまった。その事を深く恥じながら思う事があった。

 

(僕はこの場所を知っている。僕がオメガモンと出会い、オメガモンとなった場所。ここから新しい僕が始まった。僕はオメガモンになったんだ。なら……やる事は決まっている)

 

 右手を前に翳して真っ黒な世界を真っ白な世界に書き換えると、再び一真はその世界から飛び立つ。内面世界から現実世界に戻る為に。

 再び立ち上がり、ディアボロモン達を倒す。負けないように抗う。そうやって生きて来たのが八神一真。現在(いま)も、そしてこれからも変わらない一つの真実。

 

 

 

『ッ!』

 

「何だ!?」

 

 突然海面の一部が盛り上がり、誰もが驚いてその場所に視線を向ける。それは勝利を確信し、雄叫びを上げていた3体のディアボロモンも同様だった。

 海水が巻き上がる中、ズタボロになりながらもオメガモンが立ち上がった。満身創痍としか言えない状態だが、まだ戦える事に誰もが希望を抱き、中には感動で泣き出す者もいる。

 

「(こんな所で終われないよな……まだ始まったばっかりなんだ。僕達のストーリーって奴がよ。なぁ終われない……フフッ。じゃあ行きますか!)ウオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

『ッ!!』

 

 オメガモンが内心で自分を鼓舞しながら雄叫びを上げると、胸部に埋め込まれた紅い宝玉が眩い輝きを放つ。

 その瞬間、オメガモンの全身を覆い尽くす程の膨大なエネルギーの奔流が発生し、周囲一帯に凄まじい量のエネルギーが渦巻く。

 一体何が起きているのか。戦っていた3体のディアボロモンだけでなく、東京湾に集まっている大勢の人々や、武蔵が見つめる中、渦巻くエネルギーの中でオメガモンの瞳が空色に輝き、光を取り戻す。

 

「戦う気力がある限り負けたとは言えない……本当の戦いはここからだ!」

 

「そうだ! ぶちかませオメガモン!」

 

 オメガモンの声は若い男性の声色。しかし、そこには荘厳たる威風堂々とした聖騎士らしさがある。武蔵の歓喜に満ちた声が響く中、ボロボロになっていた純白の聖鎧があっという間に元通りになっていく。

 胸部の紅い宝玉によって戦場における様々な情報が分析され、それらから予測された結果が直接オメガモンの脳に伝達されていく。これにより、オメガモンは未来予測を行えるようになった。

 

(どうやら失われた秘奥義が一時的に使用可能となったようだな……)

 

 オメガモンは左腕を軽く振るい、黄金の竜の頭部を象った籠手から一本の聖剣を射出した。聖剣の名前はグレイソード。刀身にデジモン文字で『オールデリート』と刻まれている。

 腰を深く落としながら右肩を前に出しながら右手を伸ばし、グレイソードの刀身を地面と平行にしながら左肘を引いて剣先を相手に向け、右手を刀身に少し重ねる構えを取る。

 

「『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が一員……“終焉の聖騎士”オメガモン、行くぞ!」

 

 名乗りを上げながら体重を前方に移動させると同時に、先程の戦いとは比べ物にならない程の超速度で突進を開始したオメガモン。

 3体のディアボロモンは完全に動きが止まっている。オメガモンの突然の復活。そして超強化。計算外の事態は立て続けに起きた事で、脳の思考速度が完全に処理速度を超え、パンクしてしまったからだ。

 オメガモンはディアボロモン達に構う事なく、目の前にいたディアボロモンの胸部に向けてグレイソードを突きだす。

 突進の勢いと強化された力、そして上半身の捻りによって生み出される必殺の刺突。それがディアボロモンの胸部の砲身を貫いた。

 

「ハアッ!!!」

 

「ガァッ!!」

 

 胸部を刺し貫かれたディアボロモンは苦痛に満ちた叫び声を辺りに響かせるが、オメガモンは構う事なく左腕を振るい、近くにいたディアボロモンに向けて投げ付ける。

 自分自身を何とか受け止めたディアボロモンだったが、その時の衝撃でバランスを崩し、海面に膝を付いてしまう。

 その間にオメガモンはグレイソードを横薙ぎに構え、周囲一帯のエネルギーを刀身に集束させていく。

 誰もが感じ取った。凄まじい量のエネルギーを。それを行使するオメガモンの圧倒的な力を。でも確信している。あの聖騎士は悪魔を倒すと。

 刀身が青白く光り輝くグレイソードを横薙ぎに振るいながら、オメガモンは聖剣の名前を声高らかに叫ぶ。

 

「グレイ……ソーーードォォォォッ!!!!」

 

 左横に薙ぎ払われた聖剣から放たれたのは青白い斬撃。巨大な刃の形をしたエネルギー波と言えば分かりやすい。

 放たれた一撃は2体のディアボロモンに向かって襲い掛かる。その超速度を前にして、回避する事が出来ないディアボロモン達。

 彼らは叫び声を上げる時間を与えられないまま、青白いエネルギー波に呑み込まれ、データ粒子に変わりながら消滅していった。

 

「す、すげぇ……!」

 

「やっぱすげぇよオメガモン!」

 

『……』

 

 中には歓声を上げる者もいるが、彼らは少数。大多数の人々はオメガモンの圧倒的な強さの前に言葉を失い、ただ圧倒されている。

 先程まではダメージを与えるだけで精一杯だったディアボロモン。それを復活してからはたった2回の攻撃で倒した。しかも最後の攻撃は凄まじいとしか言えない程の威力と規模を持っている。

 残る1体の悪魔を睨むオメガモンに対し、ディアボロモンは完全に恐怖で竦み上がり、何も出来ずにいる。

 

「ガアァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

 元々、ディアボロモンはネットワーク上のあらゆるデータを吸収して進化と巨大化を繰り返し、電脳世界(デジタルワールド)で破壊の限りを尽くして来た悪いデジモン。

 多くのデータと知識を吸収してきたから自らを全知全能の存在と思い込み、破壊と殺戮を楽しんで来たが、自分のアイデンティティーの崩壊どころか命の危険に晒されている。

 ディアボロモンは周囲一帯のエネルギーを集束し、胸部の砲身で砲弾の形にして連射していくが、それに対してオメガモンは冷静に対処する。

 横薙ぎに構えると同時に左横に振るい、破壊のエネルギー弾をディアボロモンの胸部に向けて跳ね返す。

 

「ガァッ!!」

 

 まさか自分の技でやられるとは思っても見なかったのだろう。ディアボロモンは胸部にカタストロフィーカノンの直撃を喰らい、完全に動きを停止した。

 ディアボロモンの弱点。それは防御力の低さ。スピード(機動力)の代償なのかどうかは分からないが、強力な一撃が急所に一度でも直撃すれば、かなりのダメージを受けてしまう。

 その隙を突かないオメガモンではない。右腕を軽く振るい、右手である蒼い狼の籠手から巨大で黒光りする砲身を展開する。

 砲口をディアボロモンに向けると共に照準を合わせ、体内に貯蔵しているエネルギーを砲身に集束させる。そして砲弾の形に圧縮させると共に凝縮させ、技名を宣言した。

 

「ガルルキャノン」

 

 発射されたのは一発の青いエネルギー弾。その内部には膨大な量の破壊エネルギーが凝縮しており、それが超速度でディアボロモンに向かって直進していく。

 先程の攻撃で動けなくなったディアボロモンが最後に見た物。それは自分に襲い掛かる青いエネルギー弾だった。

 その直後に青いエネルギー弾はディアボロモンに命中し、内部に凝縮されていた破壊エネルギーが炸裂する。

 大爆発を引き起こしながら周囲一帯に黒煙と爆炎を撒き散らし、ディアボロモンをデータ粒子に変えながら消滅させていく。

 

「敵の波動(コード)の完全消滅を確認。……戦闘終了」

 

『ウオオオオォォォォォォーーーーー!!!!』

 

 ディアボロモンの波動(コード)を探知して感じられなくなった事を確認すると、オメガモンは両腕の武器を戻して戦闘終了を告げた。

 悪魔は聖騎士によって倒された。その事実を知った人々は歓喜に満ちた歓声を上げ、武蔵は親友たる一真ことオメガモンを見つめていた。

 

 

 

 時刻は午後3時30分。東京湾でのオメガモンとディアボロモンの戦闘が終わり、慌ただしくやって来たマスコミが目撃者に取材を進める中、東京湾から離れたとある公園のベンチで一真は寝ている。

 オメガモンから戻った後、一真は初めての戦闘の疲労とデジモンに究極進化した事によるフィードバックもあって、意識を失った。

 それをマスコミに気付かれないように、武蔵は一真を運んで公園のベンチに寝かせ、その隣に座っている。自動販売機で買って来た飲み物を両手に持っている状態で。

 

「よぉ、おはようさん。一真……オメガモン」

 

「武蔵……か」

 

 静かに目を覚ました一真にいつものように声をかける武蔵。憧れと親しみを込めて彼がなったデジモンの名前を口にすると、一真は苦笑いを浮かべながら起き上がる。

 武蔵が手渡したキンキンに冷えたペットボトルの天然水を受け取り、蓋を開けると共に口を付けて、中身を流し込むように一気に飲んでいく。

 

「ありがとう。誰か巻き込まれた人はいた?」

 

「お前が戦場を移してくれたから、死人や怪我人はゼロ。今はマスコミの取材が始まってるから、お前をここに連れて来た。まぁショックやら何やらで念の為に病院に行ったり、検査入院している人はいるだろうさ」

 

 武蔵が一真を東京湾から遠ざけた理由。それは一真の為だ。一真がオメガモンになってディアボロモンを倒した事が分かると、マスコミは連日のように取材しに来る為、一真とその家族のメンタルをすり減らす事が目に見えている。

 それに加え、オメガモンは世界を滅ぼす力を持っている。核兵器が全く通用しない為、軍事力においてオーバースペック過ぎる。その力を悪利用されるのを防ぐ為、そこまで考えた上で武蔵は一真を運んだ。

 

「そうか……でも皆が無事で本当に良かった。武蔵も……ごめんね」

 

「良いさ。そりゃ色々とハラハラしたけど、お前とオメガモンは本当によくやった。戦うのはすげぇ怖かったと思うよ。でもそれを振り切って最後まで戦ったんだ。お前は本当にすげぇよ一真」

 

「戦ったのは僕じゃなくてオメガモンだ。勘違いするな。僕が凄いんじゃない。オメガモンが凄いんだ」

 

「いや……そうだけどさ、お前が戦った事には変わりないからつい……」

 

「気持ちは分かるよ。ありがとう」

 

 初めての戦闘を終えてかなり長めのお昼寝を取っていた一真。おかげで車を運転して帰れるだけの体力が戻っている。

 凄まじい回復力としか言えない。それはきっと一真に憑依しているオメガモンのおかげなのだろう。

 

「さて、こっからどうする?」

 

「帰ろう。パパラッチには付き合いたくないし、もう用事は済んだから」

 

「そうだな。今日はもう帰ろう」

 

「家まで送っていくよ。ここから近いんだろ、君の家?」

 

「ありがとうな。お前は普段からそういう気遣いを会話に活かせれば、もっとモテるのに本当にもったいないな……」

 

「すみませんねぇ。中々モテなくて」

 

 一真は根が優しく、他人を思いやれる良い青年。武蔵に気遣いを見せると、武蔵は照れ隠しも含めて笑顔を見せながら軽口を叩き合う。

 その後は真っ直ぐ一真の車が置いてある駐車場に向かい、車に乗って真っ直ぐに帰り道を進んでいく。

 

「そう言えば、一真。お前……脳とか大丈夫か?」

 

「うん。今でも頭痛はするよ。何か……直接頭の中に沢山の物を流し込まれている感じがするし」

 

「間違いない。お前、ディアボロモンの猛攻撃から復活した時あったろ? 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を使っていたんじゃないかな?」

 

「マジで!? それヤバい奴じゃん!」

 

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』。それは戦闘において一瞬で先を読み、状況に対応出来てしまう究極の力。

 あらゆる状況下でのオメガモンの戦闘センスとポテンシャルが極限まで高められ、引き出された能力。

 

「でもさ、その力はX進化しないと使えない筈だよ?」

 

「いや漫画版のクロウォのオメガモンは使えた。クラッキングされたけどね。それにオメガシャウトモンの公式設定から推測すると、多分X進化しなくても使えるんじゃないかな?」

 

「流石デジモン博士だな……」

 

 デジモン博士とも言われている武蔵の考え。それには不思議と説得力があり、一真は頷く事しか出来なかった。

 “『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を全身に纏ったことで黄金に輝き、キレのあるシャープな体付きとなっている”とされているが、そもそも纏えるエネルギーなのかを突っ込みをいれたくなる紹介文だ。でも気にしてはいけない。なにしろ公式の紹介文なのだから。

 

「でもさ、フィードバックが来ているという事はかなり負担がかかるんだろ? 嫌だな~廃人になったり、半身不随になるのは」

 

「というか人間としての精神が死ぬんじゃないかな? あまり使わないように気を付けてくれ」

 

「そうします……」

 

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』は確かに究極の力だが、代償は付き物だ。一真が頭痛を起こしている時点で理解できるだろう。

 情報量の多さから使用者の脳や精神に多大な負担をかけ、使い続けると、一真の身体に重大な障害を負わせることになる可能性が高い。最悪の場合、人間としての精神が死んで“デジモン化”してしまう可能性も在り得る。

 

「着いたよ。忘れ物はないよね?」

 

「あぁ、今日は本当にありがとうな」

 

「どういたしまして。またね!」

 

「ああ、またな!」

 

 車内で真面目な会話をしていると、武蔵の自宅に到着した。玄関の前に車を停めると共にハザードランプを押すと、武蔵は荷物を持って車から降りた。

 お互いに手を振って別れの言葉を交わすと、一真は車を走らせて自宅を目指す。それを武蔵は見つめながら、自分達を守った一真とオメガモンに改めて感謝した。

 

 

 

 デジタルワールド。デジタルワールドと人間界は相互関係で成り立っている。一真達が生きる人間達があれば、そこにデジタルワールドもまた存在する。

 そんなデジタルワールドの何処かで、2体のデジモンが話をしている。しかし、時間帯や場所の問題の為、姿や名前が一切分からない。

 それでも分かる事がある。1体は超巨大なデジモンであり、もう1体のデジモンは騎士のような姿をしている事が。

 

「ディアボロモンは失敗したか……まぁ予測はしていたが」

 

「はい。あの青年に憑依する形でオメガモンが復活しました。しかもあのオメガモンは……」

 

 話の内容は人間界であったオメガモンとディアボロモンの事。どうやら何らかの形で観戦し、一部始終を把握しているようだ。

 それに加え、話の内容から推測すると、彼らがディアボロモンを人間界に送り込んだ黒幕のように思える。

 超巨大なデジモンが上司で、騎士のような姿をしたデジモンが部下なのだろう。どう考えても悪役としか見えない。

 

「“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”があった世界の個体なのだろう? バグラモンと全力を出したタクティモンを以てしても、正攻法では倒せなかった圧倒的な強さの……」

 

「はい。間違いありません。確かに人間に憑依して復活した事と、長いブランクがあった事もあって、弱体化しています。本来の力をまだ出せていませんが……それでも戦いの途中から見せた力はあの時の……」

 

「そこから先を言うな。私は想像したくない……」

 

「失礼しました」

 

 騎士のようなデジモンの言葉を、超巨大なデジモンが遮る。その表情は恐怖に染まっており、冷や汗を掻いている。

 一方の騎士のようなデジモンは涼やかな表情をしている。オメガモンと戦いたがっているようだ。

 

「では私が直接人間界に赴き、オメガモンと戦いましょう。そして現時点での強さを確かめてきます。我々の計画には邪魔かもしれませんが、もしかして我々の仲間になってくれるかもしれません」

 

「成る程。お前が言うのなら間違いないな。後はお前に任せる。奴を殺すか、見逃すかも含めて。頼んだぞ、カオスデュークモン」

 

「了解しました、クオーツモン様」

 

 騎士のようなデジモンことカオスデュークモンは恭しく頭を下げると、超巨大なデジモンことクオーツモンは満足そうに頷いた。

 しかし、超巨大な身体のクオーツモンは気が付かなかった。カオスデュークモンが邪悪に満ちた笑みを浮かべていた事に。

 人間界で繰り広げられたオメガモンとディアボロモンの戦い。それはオメガモンの勝利に終わったが、この戦いは全ての始まりとなった。人間界とデジタルワールドを巻き込んだ、光と闇の戦いの最初の一歩に。

 




今回の戦闘解説の方を少々させて下さい。
デジモンが使った技の詳細は地の文で紹介していますが、基本的に得意技・必殺技を中心にしていきます。
オメガモンが放ったグレイソードの斬撃。あれは『X-evolution』で使った物ですが、分からない人は『BLEACH』の主人公、黒崎一護の必殺技の『月牙天衝』をイメージして下さい。
今回は今後の展開に関わるであろう単語も出しましたし、当面の敵と思われるデジモンも出したので、盛りだくさんでした。元々、導入部ラストを予定したので。

次回の投稿は少し日を空けます。ストックが無くなったので。
キャラと設定紹介は第3話の後に投稿します。

次回予告

オメガモンとなった事で、今後の事で思い悩む一真。
そんな彼の所に”電脳現象調査保安局”の者がやって来る。
それは一真にとって本当の意味での非日常への招待状。
果たして一真の答えは? そして現れたデジモンに対してオメガモンは?

第3話 スカウトされ、転職する聖騎士

そこ、タイトルがリアル過ぎるとか言わない!


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第3話 スカウトされ、転職する聖騎士

どうも。実際にオメガモンになったら、色々と生活するのに大変そうだと思うLAST ALLIANCEです。
今回はかなり意外なキャラ達が登場しますが、これもこの小説の特徴です。
ではお楽しみに!


「朝か……」

 

 8月2日。この日は月曜日。社会人にとって、月曜日は凄く嫌な曜日だ。休日から平日に引き戻され、労働を余儀なくされるのだから。

 不安や心配で落ち込む人もいるが、今回の八神一真の場合は違う。何しろ状況が余りにも特殊過ぎる。

 

(そうだ……僕は昨日死にかけてオメガモンとなった……)

 

 時刻は6時。普段なら30分後に目を覚ましている一真だが、この日はいつもよりも早く目を覚ました。

 その理由の出来事。ディアボロモンの襲撃で死にかけ、オメガモンとなって復活。そこからディアボロモンとの戦闘に突入し、苦戦しながらもディアボロモンを倒す事に成功した。

 昨日は戦闘による疲労と、能力を使用した事によるフィードバックで早めに休んだ。寝たのは9時。そこから9~10時間睡眠を取ったと言える。

 能力を使用した事によるフィードバック。それは頭痛という形で起きていたが、目を覚ました時には無かった。どうやらキチンと休めば治る仕組みになっているみたいだ。

 

「もう僕は人間でなくなった……戻れないんだな昨日までの日常に……」

 

 起き上がった彼は両親に気付かれないよう、静かに涙を流した。オメガモンとなった彼はもう戻れなくなった。当たり前だと信じていた日常に。

 その証拠が一真の心臓。ディアボロモンによって殺された時に破壊され、オメガモンとして新生した時、人間の心臓ではなくなった。

 心臓は心臓なのだが、それはデジモンの心臓。その名前は『電脳核(デジコア)』。人間の心臓とは同じ音を、それでも人間とは違う鼓動を確かに鳴らしている。

 オメガモンが繋いでくれた命。それは実感しているし、感謝はしている。それでも代償が大き過ぎる。もう二度と取り戻す事が出来ない物と引き換えだったのだから。

 

「でも前に進まなきゃ……これは現実なら受け入れるしかない。これからどうなるかは分からないけど、僕はやれる事をやるだけだ。そして死ぬまで生きる」

 

 それでも彼は前に進む。自分の命を繋ぎ止めている聖騎士の為にも。“戦えない全ての人々の為に戦う”と決めた自分の為にも。そして助けを求める人々の為にも。

 目覚まし時計の上側のボタンを押して機械音声(アラーム)を止めると、ティッシュで目の部分を拭いて立ち上がると、リビングへと向かっていく。

 

「おはようございます」

 

「おはよう……あら、今日は早いのね。昨日しっかり眠れた?」

 

「おかげ様で」

 

 リビングに入ると、両親に挨拶する一真。それに答えたのは母親の八神涼子。大人の色気を漂わせる為、買い物に出ては必ずナンパされる程の美しさだ。

 しかし、彼女のマイペースぶりに付いていけず、心をバキバキに折られる人が続出している為、一部では“ナンパ殺し”の異名を持っている。

 

「一真、昨日の白い騎士がニュースに出ているぞ~?」

 

「そうだね……(言えないよなぁ。その白い騎士が僕でしたなんて)」

 

 父親の総司がニヤニヤと話し掛けると、一真は苦笑いを浮かべた。まさか昨日の白い騎士が自分だった事を口が裂けても言う事は出来ない。

 ニュース番組では昨日のオメガモンとディアボロモンの激闘が報道されている。その映像を見た一真は何かに気が付いた。

 

(変だなぁ……東京湾にいた誰かが撮っていたとは思えないくらい、精密な映像なんですけど)

 

 その映像はまるで近くで撮っていたと思える程、とても臨場感がある。まるで特撮番組を見ている気分になれる程に。

 こうして見ると戦闘の自分の未熟さを突き付けられるが、仕方がない。何しろ昨日が初めての戦闘だったのだから。がむしゃらに、必死に戦うしか無かった。

 後オメガモンの能力を使えた為か、後半はディアボロモンを圧倒する事が出来たが、そのフィードバックが大きかった。

 

(強くならないとな……心も、体も)

 

「2人共、朝ご飯出来たわよ~!」

 

 一真がそう思っていると、朝食の準備が終わった事を涼子が伝える。その知らせを聞いた2人は食卓に備え付けの椅子に座り、手を合わせてから朝食を食べ始める。

 朝食を食べ終えた一真は洗面所で歯を磨く。心臓が『電脳核(デジコア)』に変わったぐらいで、それ以外に変化はない。そう思っていた。そう信じていたかった。

 

「……あれ? 僕って髪染めていないよな?」

 

 髪をよく見ている一真。僅かではあるものの、銀色のメッシュが入っている。彼の髪は短めだからこそ、余計に目立ってしまう。

 一真は髪を染めた事は一度もない。元々の黒い髪をずっと維持し続けて来た。それなのに僅かに髪が銀色に染まっている。考えらえる理由は一つだけしかない。

 

―――“デジモン化”が始まっている。

 

「勘弁しろよ……もう少しだけ人間でいさせてくれよ」

 

 その事実に打ちのめされ、目の前が真っ暗になった一真。やはり昨日の戦いで能力を使ってしまった。

 それでも両親を心配させまいと思ったのだろう。気を取り直してうがいをしてから顔を洗い、自室に戻って布団を押し入れに片付ける。

 そこからパジャマを脱ぎ、仕事用の服に着替える。一真の仕事用の服はスーツ。白いシャツの上にワイシャツを着てボタンをかけると、ネクタイを結んでズボンを履く。

 上着は手に持ち、車の中に吊るしてあるハンガーにかける。それが一真のやり方。しわがつかないようにする為だ。

 先程まで着ていたパジャマを抱えて洗面所の洗濯カゴの中に入れると、そのまま自室に戻って充電していたスマートフォンを仕事用のカバンの中に入れる。事前に財布や免許証は入れてある。

 玄関で革靴を履いて会社に向かおうとしている一真だったが、彼の自宅の前に一台の車が泊まった。その車はランボルギーニの車。

 その車の助手席から一人の女性が降りて来た。その女性は鋭い釣り目をしていて、黒い長髪をしている。スーツが似合う長身で、メリハリがあるボディラインが特徴。

 彼女が玄関のドアの目の前に立ってインターホンを鳴らすと、これから仕事に出掛けようとしていた一真が応対する。

 

「は~い!」

 

「すみません。貴方は八神一真さんですね?」

 

「はい。私が八神一真ですが、どちら様ですか?」

 

 その女性を一目見た瞬間、一真は気が付いた。彼女はデジモンである事を。しかも究極体デジモンの中でもかなりの実力者である事を。

 まさかディアボロモンと同じく、自分を抹殺しに来たのか。そう思って表情を強張らせるが、女性は懐から名刺を取り出し、一真に差し出す。

 

「初めまして。私は桐山鏡花(きりやまきょうか)。”電脳現象調査保安局”の主任をしています」

 

「”電脳現象調査保安局”……?」

 

 女性の名前は桐山鏡花。”電脳現象調査保安局”の主任。聞き慣れない組織の名前に一真が戸惑っていると、鏡花はニコリと微笑んだ。

 一体何を言いたいのか。それを考える一真だったが、鏡花は笑顔を崩さぬまま、一真の手を取った。

 

「えっ?」

 

「急でごめんなさい。実は貴方を本部に連れて来いと言われているので、ちょっと良いでしょうか?」

 

「いや仕事があるのですが……」

 

「あぁ、会社さんには事前に連絡しておきました」

 

「えぇっ!?……分かりました」

 

 何という手回しの良さ。自分が社会人で、何処の企業に勤めているのか。初対面なのにそれを知っている。恐らく事前に調べたのだろう。

 企業にはあらかじめ連絡をしてあると言われた為、何処か安心できるが、一体何の用事で自分を連れて行こうと言うのか。それが不安で仕方がない。

 それでも行くしかない。”電脳現象調査保安局”の本部に。自分が何の為に呼び出されたのか。それを知ってから決断しても遅い事は何もない筈だ。

 悩んだ末に答えを告げる一真。答えは最初から決まっていた、それでも悩んでいたのは相手が何者なのか分からなかった為。

 ランボルギーニの車の後部座席に乗った一真はシートベルトを締めると、鏡花から受け取った名刺を見る。そこに書いてある”電脳現象調査保安局”が気になり、鏡花に聞いてみる。

 

 

 

 

「鏡花さん、貴女のいる”電脳現象調査保安局”はどういう組織ですか?」

 

「簡単に言うと、この世界で起きている電脳現象を調査したり、解決している組織よ?」

 

「電脳現象?」

 

「昨日現れたディアボロモンのように、ここ最近デジモンが人間界で目撃されている。私達はそれを電脳現象と呼んでいるの」

 

 どうやら敬語は普段から言い慣れていないから、慣れていなかったのだろう。一真の質問に鏡花は普段の様子で答えていく。

 電脳現象。それはデジタルワールドこと電脳世界と関りがあると思われる現象。この場合はデジモンが人間界に迷い込んだ事を指している。

 

「何で人間界にデジモンが? ディアボロモンは分かりますけど……」

 

「昨日のディアボロモンは貴方狙いだったみたいね。でもいつものは違う。実は最近デジモン達が人間界で目撃される回数が増えてきているの。デジタルワールドにいる仲間と原因を調査しているけど、どうも答えが出ていないの」

 

「人間界とデジタルワールドが融合するんですか? 或いはデジタルワールドで何かが起きているとか……」

 

「う~ん、色々考えられるけど、確かな裏付けがない限りは机上の空論になるわ……」

 

 一体デジタルワールドで何かが起きているのか。鏡花達は一連の電脳現象の裏で起きている事が気になるのだが、それが分からない以上、とにかく調査活動を積み上げていく事しか出来ないでいる。

 

「でも一つだけ分かっている事がある。今回の黒幕はデジタルワールドを支配するだけでなく、人間界にも手を出そうとしている。その証拠が昨日よ。ディアボロモンを送り込み、貴方を消そうとした」

 

「何で僕なんですか?」

 

「そこまでは分からないわ。でも貴方はオメガモンとなり、ディアボロモンを倒した。凄い立派よ? だって貴方みたいにデジモンになれる人間なんかこの世界にはいないから。けどこれで奴らに目を付けられる。ここからが本当の戦いよ?」

 

「はい。分かりました」

 

 鏡花達が分かっている事。今回の事態には黒幕がいて、デジタルワールドと人間界を狙っている事。その黒幕の正体と目的までは分からないが。

 その上でディアボロモンを倒した一真を褒めるが、ここから本当の戦いが始まると忠告をする。鏡花の表情は真剣その物だから、説得力がある。

 

「ところで鏡花さん。貴女はリリスモンなんですね」

 

「正解。よく分かったわね」

 

「昨日オメガモンになりましたから。貴女を見ただけでシルエットが思い浮かびましたよ」

 

 鏡花の正体はリリスモン。『七大魔王』の一角であり、『色欲』を司る魔王型デジモン。『七大魔王』とは悪魔・暗黒系のデジモン達の頂点に立つ七体の魔王型デジモン。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に対抗出来る力を持った数少ないデジモン勢力の一つだが、まとまりの無さが最大の弱点だ。

 

「よく『七大魔王』が人間界に来る気になりましたね。しかもちゃんとした仕事出来るのが驚きですよ……」

 

「そう思うでしょ? でもね、一真君。今のデジタルワールドは大変な事になっているの。私達のいるダークエリアも例外じゃないから、バルバモンとリヴァイアモンの皆も人間界に来て、それぞれ仕事をしているわ。いつか紹介するけど」

 

「えぇっ!?」

 

 どうやら事態は思っているよりも深刻らしい。ダークエリアにいる『七大魔王』の過半数が人間界に来ているのだから。

 普通なら絶対に有り得ない事態。だからこそ深刻なのだが、『七大魔王』の面子が真っ当な仕事をしている姿を想像する事が出来ない。

 一真は事態の深刻さは理解してはいるものの、それよりも先に『七大魔王』がまともに仕事をしている姿を想像出来ず、頭を抱え込んでいる。

 

「何か色々とあるんですね……頭が痛いです」

 

「そう言えば、一真君。貴方……“デジモン化”が始まっているでしょ?」

 

「ッ!」

 

 鏡花ことリリスモンの真剣な表情。その瞳に触れて欲しくなかった事実を言われ、一真の表情が強張る。

 一真の髪に入った銀色のメッシュ。それを目にした時点で鏡花は気付いていた。一真の身体で“デジモン化”が発生している事を。

 

「……やっぱりね。昨日使ったでしょ、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』」

 

「はい……すみません」

 

「誰も貴方を責めたりしないわ。貴方は初めて戦った。しかも相手は究極体のディアボロモン。よく頑張ったわ。能力を使ったのは仕方ない事よ。これから頑張って、二度と能力を使う必要がないくらい強くなりましょ?」

 

「はい!」

 

 本来、鏡花ことリリスモンは悪に対しては寛大だが、善に対しては冷酷非道の施しをすると言われている。

 しかし、立場が立場なのか、或いは人間界で生きる中で様々な苦労を積み重ねたのか。優しくも厳しいお姉さん的キャラとなっている。

 

「実は昨日の戦いを私も観させてもらった。ディアボロモンが来た時から倒されるまで、独自の方法で。だから今日のニュースにその時の映像をリークしたの。皆に今起きている事実を知って欲しくて」

 

「そうだったんですか……」

 

「さてもうそろそろ近付いて来たわよ? 貴方の転職先の”電脳現象調査保安局”が」

 

「転職先!?」

 

 鏡花があっさりと言った“転職先”という言葉。確かに会話の流れ的には正しいのかもしれないが、いきなり言われると、心の準備がまだ出来ていない。

 一真が口をポカーンと開けた状態で固まっていると、それを見た鏡花がクスクスと意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「今日は挨拶代わりの顔出しだから、それが終わったら企業さんに行って退職の手続きをしてもらって」

 

「あっ、はい……」

 

「私達は貴方を正社員として迎え入れるわ。ようこそ、”電脳現象調査保安局”……通称“DATS”へ」

 

 鏡花から差し出されたパンフレットを受け取った時、一真の中で“ピシリ”という音が聞こえると同時に、“バリン”という大きな音が鳴り響いた。

 この音は当たり前だと信じていた日常が崩れ去り、非日常が訪れたという知らせ。もう二度と今までの日常には戻れない。そうパンフレットには書かれているように思えた。

 

 

 

 

 

「私は薩摩廉太郎。”電脳現象調査保安局”、“DATS”の本部長だ」

 

「薩摩のパートナーのクダモンだ。よろしく」

 

 鏡花に案内され、本部長室に入室した一真。彼を出迎えたのは常にサングラスをかけた、厳しくも熱い男性―薩摩廉太郎。

 もう1体は薩摩の肩に乗っているクダモン。左耳にイヤリングを付け、聖なる薬莢を常に尻尾に巻きつけ、白い狐のような姿をした小型のデジモン。

 

「八神一真です。又の名を……“終焉の聖騎士”オメガモン」

 

「うん。君の事は鏡花から聞いている。昨日はありがとう。おかげで大勢の人々が守られた」

 

「やはりオメガモンの波動(コード)を宿しているだけあって、凄まじいな」

 

「薩摩さん、一つ質問良いですか?」

 

「なんだ? 答えられる範囲内だったら何でも答えるぞ?」

 

「薩摩さん……大門大という人物と一緒に居ましたか? 何か同じ名前の人を知っているので……」

 

 一真が丁寧に自己紹介をすると、薩摩は昨日のディアボロモンとの戦いの事を感謝して頭を下げ、クダモンは一真を見ながら感心する。

 そんな2人を見て一真は手を挙げると、質問の許可を薩摩に求める。それを薩摩が了承すると、一真は目を光らせて質問をする。

 

「そうだが、それはどうかしたか?」

 

「やはり思った通りだ。貴方はこの世界の人間じゃない。別世界から転生したのか、連れて来られたのか……どちらにせよ、僕が知っている薩摩さんだという事が分かりました」

 

「よく分かったな、一真君。君の言う通り、私はこの世界にどういう訳か転生した薩摩廉太郎だ。クダモンもデジタルワールドから派遣されてきた」

 

「マジですか……あの有名人と一緒に仕事が出来るなんて夢みたいです」

 

「私も最初は驚いたよ。私のいた世界の出来事が物語として伝えられているんだからな。でも生きてくうちに思ったよ。そういう世界があってもおかしくないと」

 

 薩摩廉太郎。彼は『デジモンセイバーズ』の舞台となった世界の出身。全てが終わった後は警察官として働き、天寿を全うしたが、何者かによって転生させられ、”電脳現象調査保安局”、“DATS”の本部長としてまたデジモン関係の出来事と戦っている。

 彼のパートナーデジモンはクダモン。正体はオメガモンと同じ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員であり、『デジモンセイバーズ』の時は人間達を監視する目的でイグドラシルにより送られたスパイだった。

 人間がデジモンにとって善き存在なのか、悪しき存在かを見極めるのかがその任務だったが、監視を続けている間にその心には人間への親しみが生まれた。イグドラシルが人間全滅を決定した後はイグドラシルに反旗を翻して人間側に付き、かつての仲間と対立した。

 今回は最初から人間側として何者かによって派遣されてきたと薩摩は説明するが、一真はその言葉に何かの引っ掛かりを感じた。

 

「派遣されてきた? えっ? クダモンことスレイプモンも別世界から来たんですか?」

 

「それは私から説明するわ。デジタルワールドはこの世界が相互関係で成り立っているの。どちらかの世界が存在するから、もう片方も存在出来る。でもどちらかが滅びれば、もう片方の世界も自然に消滅するの」

 

「そんな……そんな理不尽なシステムで良いんですか!?」

 

「“生命は運命られた時の中で生きるべし”。これがデジタルワールドの掟よ」

 

「僕は認めません。例え死ぬと分かっていても、最後の一瞬まで美しく生きていたい。その為なら泥臭く抗いますよ」

 

「……貴方がオメガモンに認められた理由が何となく分かった気がするわ」

 

 人間界とデジタルワールドの相互関係。それはお互いがいてからこそ初めて成り立つ。そのシステムの為、どちらかが滅びれば、もう片方が自然消滅してしまう。

 その在り方に納得行かないのが一真。彼は真剣な表情で自分の考えを伝えると、鏡花が優しく微笑んだ。

 

「あれ? じゃあ僕がなったオメガモンはデジタルワールドの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の?」

 

「違うわ。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”の時のオメガモンよ? 何か懐かしいと思ったら、そういう事だったのね。私から見たら久し振りと言った所ね」

 

「やっぱり……という事は……」

 

「えぇ、そうよ。私ことリリスモンも“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”を経験しているわ」

 

(マジかよ……今回の事態はヤバさも規模も過去最高じゃん)

 

 鏡花ことリリスモンはバグラ軍の最高幹部、“三元士”として、“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”に関わった。オメガモンとは敵だった関係だった為か、直ぐに彼の正体に気付く事が出来た。

 頭がパンクしそうになる情報量だが、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』で脳に直接送られる情報量に比べれば、どうという事はない。

 きちんと整理したものの、今回の一件は一真が知っている出来事以上の深刻さと規模を兼ね揃えている。正直頭を抱えたくなる。

 

「なので、是非君の力を合わせて人間界とデジタルワールドの平和を取り戻したい。もちろん何もしない訳ではない。局員として迎え入れ、正当な報酬を渡そう」

 

「えっ……?」

 

 薩摩が差し出したのは雇用契約書。雇用主と使用者の両者間で、労働条件を明らかにする為に交わす契約書。

 その内容を見た一真は驚いた。先ず条件が良過ぎる。国家公務員と同等以上の給料。ボーナスも年2回ある。しかも相当な金額だ。今の仕事より高給取りになる。

 更に週休2日制である為、土・日曜日は休日。休日に仕事があったら振替休日あり。残業は認めない。必ず定時上がり。とにかく凄く条件の良い職場だ。命の危険さえ無ければ。

 

「下の名前を書く欄に名前を書いてくれ」

 

「書くしかありませんよね。答えは最初から出ていますから」

 

 オメガモンになった以上、オメガモンとして戦う道はない。既に答えは出ている。一真は書類に目を通してから、懐のポケットから取り出したボールペンを書いていく。

 それが終わって薩摩に手渡すと、薩摩は満足したように頷き、鏡花に渡した。鏡花は一度退室してプリンターでコピーし、原本を薩摩に、コピーを一真に渡した。

 

「一真君。君もこれで“DATS”の一員となった。その証としてこれを渡そう」

 

「これは……」

 

 薩摩が一真に渡した物。それはディーアーク。デジモンのアニメ・漫画シリーズの主人公達が所持する小型のコンピューター。

 デジヴァイスの一種であるディーアーク。それは”電脳現象調査保安局”、“DATS”との連絡用ツール。

 

「これで連絡を取り合おう。今日は顔合わせだから、職場に行って退職の挨拶をするように。鏡花君、後は頼んだぞ?」

 

「分かりました。薩摩本部長」

 

 鏡花に案内されて本部長室から退出した一真。その後ろ姿を見送る薩摩とクダモン。彼らは内心で考えている。

 今回の事態の黒幕の事を。一体何を考え、何をしようとしているのか。それでも戦うしかない。一真を巻き込んだとしても、人間界とデジタルワールドを守らなければならないのだから。

 

 

 

 

 

「そうか……”電脳現象調査保安局”に勤務するになったのか。残念だな……やっと慣れて来た時だったのに」

 

「本当に……すみません」

 

 台番株式会社。一真が長く、辛い再就職活動の末に内定を勝ち取り、やっとの思いで入社した企業。そこの応接室で一真は社長の姫矢准二に挨拶をしていた。

 改めて自分の口から退職理由と明日から”電脳現象調査保安局”に勤務する事を説明すると、准二は穏やかに笑いながら了承した。

 准二にとって一真は実の息子のように可愛がり、やがては会社の幹部になって欲しいという思いもあった。

 しかし、一真は人間として、デジモンとしてこの世界を守る為に戦う道を選んだ。その意志を尊重した上で、一真の背中を押している。

 

「良いよ。自分の道を歩めば良いんだ。例え人間でなくても、人間の心を持ち続ける限り、君は人間だ。何か困った時があったら、いつでもここに来てくれ。私はいつでも待っているよ」

 

「姫矢社長……ありがとうございます!」

 

 准二は実の息子を病気で失うという辛い経験を味わっている。その為、実の息子と何処か似ている一真を可愛がってきた。

 例えデジモンになっても、人間の心を持ち続ける限り、自分は人間である。その格言を胸にした一真のディーアークの電子音が鳴り響き、一真はディーアークの電子画面を見る。

 

“とある山中でクワガーモンが目撃され、とある村に向かって進んでいる。避難活動が始まったが、間に合うかどうかが分からない。クワガーモンを撃退して欲しい”

 

 それがディーアークに映し出された内容。薩摩からの指令。ここから離れたとある山中にある村に向かっているクワガーモン。

 村の住民の避難活動が進められているが、その村は高齢者が多く、中々避難活動が完了しない。そこで、クワガーモンを撃退するように、一真に指令が下された。

 倒すのではなく撃退し、デジタルワールドに連れ戻すのだろう。どうやらクワガーモンは何らかの理由でデジタルワールドから人間界に迷い込んでしまったみたいだ。

 

「どうやら早速仕事が入ったみたいだね。いってらっしゃい」

 

「姫矢社長……行ってきます!」

 

 一真は仕事内容を一通り把握すると、懐にディーアークを戻し、准二に深々と挨拶してから応接室から退室する。

 会社の前で立ち止まり、オメガモンに究極進化しようとした一真が見た物。それは新しい場所に向かおうとしている自分を見守る社員達の姿。

 一真は社員全員に愛されていた。何事にもひたむきで取り組み、常に学習しながら成長していくその姿に刺激され、全員が前を向いて努力し続ける。

 これも全ては一真のおかげ。だからこそ、彼らは一真を送り出す。これまでのお礼とこれからの活躍を願って。

 

「(皆さん……本当にありがとう。僕は皆が笑顔でいられるように戦う!)行くぞ。究極進化!」

 

 社員全員に向かって深々と頭を下げ、笑顔を浮かべながらサムズアップをした一真。彼は深呼吸をして落ち着かせると、オメガモンに究極進化しようと精神を集中させる。

 その思いにオメガモンが応えるように、『電脳核(デジコア)』が鳴動すると共に純白に輝き始める。“究極進化”の言葉が一真がオメガモンになる時の合図。

 純白に輝く光が膨れ上がる共に、一真の身体が変わり始める。『電脳核(デジコア)』に宿っているオメガモンの情報を自らの身体に読み込ませながら、書き換えていく。

 そして書き換えた情報を流出させながら、戦闘経験を蓄積させる。保有能力を具現化させ、保有している武器を実体化させる。これが人間からデジモンへの究極進化のプロセス。

 

「オメガモン!!!」

 

 一真がオメガモンへの究極進化を終えると、純白に輝く光が消え去った。そしてその場から飛び立ち、クワガーモンのいる場所へと向かっていく。

 ディーアークから立体地図として詳細な情報を送られているが、オメガモンには不要だった。何故ならデジモンの『波動(コード)』を探知する能力を持っているからだ。

 強豪デジモンなら全員所有している能力でクワガーモンのいる場所を突き止めると、その場所の方角に向かって一直線に飛んでいく。

 

 

 

 

とある山中。村に向かってゆっくり進んでいく、1体のデジモンがいた。赤い色の甲殻で体を覆ったクワガタ虫のような姿をした昆虫型デジモン。クワガーモン。

 その目の前に危なげなくオメガモンが降り立つと、クワガーモンは立ち止まる。オメガモンの全身から放たれる威風堂々とした威圧感。それに圧倒されている。

 

「クワガーモン、ここから先は通す訳には行かない!」

 

 若い男性の声だが、聖騎士らしい威厳と迫力に満ち溢れているオメガモンの声。その決然たる口調と大きさが意志の強さを物語っている。

 それでもクワガーモンは前に進む。進むしかないと言わんばかりに。戦えと言う本能に従う様に。

 

「(戦うつもりか……ならば!)勝負だ、クワガーモン!」

 

 本当は平和的に行きたかったが、相手がその気なら仕方ない。オメガモンは戦闘態勢を取りながら、クワガーモンに不可視の波動を叩き付ける。

 自らの『波動(コード)』を相手に放って無力化させたり、動きを止めたりする技。大抵のデジモンならば戦意を失ったりするが、クワガーモンはそうではない。

 目の前で戦う気が満々なクワガーモンを見て、オメガモンはやはり戦闘が不可避である事を突き付けられる。

 

「クワアアァァァァァッ!!!!」

 

「ウオオォォォォォォーーーーー!!!!」

 

 始まったクワガーモンとオメガモンの戦い。頭部の巨大な鋏で攻撃するクワガーモンと、両手の籠手で防御するオメガモン。

 相手は成熟期デジモンのクワガーモン。しかも倒すのではなく、デジタルワールドに送還する事が目的。これまで数多の強豪デジモンとの戦闘経験が豊富なオメガモンでも、このようなスタイルは初めてな為、何処か戸惑い気味だ。

 しかもここは人間界。デジタルワールドなら全力を出す事が出来るが、人間界はそうではない。人間界とデジタルワールドは世界の強度とかが違う。全力を出せば世界の危機は約束されたような物だ。

 

(このクワガーモンのパワーは……成熟期を上回っている!)

 

 オメガモンが防戦に徹している理由はもう1つある。クワガーモンの強さに驚いているからだ。本来、クワガーモンは成熟期。オメガモンが全力を出せなくても余裕で倒す事が出来る進化段階。

 しかし、それを一段階上回る完全体級の強さ。どういう理由なのかは分からないが、オメガモンを押している。頭部の巨大な鋏でオメガモンの左手を挟み、力を込めながら破壊しようとする。

 

(どんな理由があってこの世界に迷い込んだのかは分からない。だが、だからと言って無関係な人々を巻き込んで良い理由にはならない!)

 

「クワァッ!?」

 

 正義感の強い一真の性格と、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の使命、そして自らの正義を信じて戦うオメガモンの在り方。この三つが重なり合った時、『電脳核(デジコア)』が鳴動し、オメガモンの力を上昇させていく。

 胸に宿すのは熱い闘志。それを反映するかのように、オメガモンの左手たる黄金の竜の眼が輝き、灼熱の火炎が宿っていく。

 その余りの熱量に熱さを感じ、クワガーモンは飛び退こうとするが、オメガモンは追い打ちをかける。右膝蹴りをクワガーモンの腹部に叩き込み、クワガーモンを蹴り飛ばす。

 

「私の、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の力を見せてやる!」

 

 オメガモンが力強く構えを取りながら言い放つと、立ち上がったクワガーモンが巨大な頭の鋏を光らせながら突進して来る。

 それを見たオメガモンは姿勢を低くしながら駆け出し、左ストレートをクワガーモンの腹部へと叩き込む。

 

「ガァッ!!」

 

「フン!!」

 

 腹部に走る衝撃と苦痛。息が詰まり、動きを止めたクワガーモンにオメガモンは更なる追い打ちをかける。

 低い姿勢のまま飛び上がりながら、強烈としか言えない右アッパーでクワガーモンを打ち上げ、右回し蹴りで蹴り飛ばす。

 それでも立ち上がるクワガーモン。中々のタフさだが、それでもフラフラしている。これ以上の戦闘続行は無意味だとオメガモンは判断すると、右手の狼の頭部の口部分から黒光りする巨大な大砲を展開する。

 

「ガルルキャノン!!!」

 

 砲口をクワガーモンに向けると共に照準を合わせ、右腕に宿る絶対零度の冷気を砲身の内部に流し込む。

 砲弾の形に圧縮させると共に、絶対零度の冷気を極限まで凝縮させる。一発の冷気弾が出来上がったのを確認し、必殺技名を叫んで絶対零度の冷気弾を発射する。

 絶対零度の冷気弾。その内部には絶対零度の冷気が凝縮しており、それが超音速でクワガーモンに向かって襲い掛かる。

 

「クワァッ!!」

 

 クワガーモンの胸部に絶対零度の冷気弾が命中したと同時に、クワガーモンの全身が一瞬で氷漬けとなった。

 これで任務は終了。オメガモンはクワガーモンの氷像を抱えて飛び立ち、”電脳現象調査保安局”へと向かっていった。

 

 

 

 

「これは何とも凄い昆虫標本だな……」

 

 ”電脳現象調査保安局”。任務を完了させたオメガモンから後の事を頼まれると、薩摩は“氷漬けにされたクワガーモン”を眺めている。

 後でデジタルゲートを開き、デジタルワールドに送還するのだが、オメガモンのやり方に薩摩は舌を巻いている。

 

(流石としか言えないが、気になる所があるな……後で調べてみる必要があるな)

 

 それはオメガモンがピンチや防戦から一気に巻き返す事。しかも引き金は強い思い。間違いない。一真は『アルフォース』と呼ばれる力の持ち主だ。

 デジモンの強い大切な物を想う気持ちや喜びや楽しみなどで発生し、強力な回復能力や進化を促す聖なるオーバーライト。それが『アルフォース』。

 薩摩は独自に調査する事を決めた。八神一真がオメガモンとなって、一体何がどうなったのかという事を。

 




今回は『デジモンセイバーズ』から薩摩さん&クダモン、漫画版『デジモンクロスウォーズ』からリリスモンが登場しました。
デジモンオールスターズみたく、色んなアニメ・漫画作品からキャラやデジモンを出していきたいです。皆さんが違和感がない形で。
次回は主人公&用語紹介になりますが、第4話の執筆と同時並行で進めます。
では次回をお楽しみに! LAST ALLLIANCEでした!


次回予告


”電脳現象調査保安局”に初出勤し、仕事を覚えていく一真。
彼に届いた一通の挑戦状。それはカオスデュークモンからだった。
砂漠で行われる聖騎士と暗黒騎士の一騎打ち。果たして……?

第4話 暗黒騎士の襲来


暖かい感想やコメント、総合評価を出来ればお願いします。
作者の執筆意欲が増しますので。


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第4話 暗黒騎士の襲来

元々デジモン小説は『Pixiv』様で書いていたのですが、今回からその小説のヒロインだった女性(一部設定変更あり)が登場します。無論ヒロインとして続投させています。
今回の小説は2クール(=全26話)で1章を目標に書こうと思っています。
その方が読みやすいですし、切れ目が分かりやすいかなと考えた上で決めました。




 ”電脳現象調査保安局”に氷漬けにしたクワガーモンを送り届けたオメガモン。彼は車を置いてある場所に向かうと、一真の姿に戻って自宅へと帰宅した。

 その日の夕食。一真は勇気を出して伝えた。昨日ディアボロモンに一度殺された事。オメガモンとなって復活し、ディアボロモンを倒した事。

 今日は”電脳現象調査保安局”に転職が決まり、明日から勤務する事。台番株式会社に退職の挨拶を済ませた事。クワガーモンを撃退した事。

 その全てを話し終えた一真は、両親を心配そうに見つめる。この2日間で慌ただしく、色々な事があったのだから。頭の中で整理しなければならない。その上、この現実を受け入れなければならない。

 

「そうなんだ。あのディアボロモンという悪魔と戦ったオメガモンは、一真だったのね」

 

「凄いじゃないか。立派に戦ったんだ。しかも倒したんだろう?」

 

「……えっ?」

 

 予想外の反応だったのか、一真はポカンとなった。人間ではなくなった自分は両親から拒絶される。そう思い込んでいた。

 しかし現実は違う。両親はディアボロモンと戦い、倒した事を誇りに思っている。一真はそれに戸惑うしかない。

 

「だって僕は人間じゃなくなったんだよ? どうして平気でいられるんだ?」

 

「私はオメガモンがどういうデジモンなのかが分からない。そもそもデジモンが一体何なのかよく分からないから……でも一真は私達を守る為に戦っている。それは事実。だって……例えデジモンになっても、一真は一真だから」

 

「母さん……」

 

「それにデジモンになって何か変わったのか? 何も変わっていないじゃないか。オメガモンになって戦っている事くらいしか変わりないのに」

 

「父さん……」

 

 母親の涼子と父親の総司の言う通りだ。一真は何も変わらないし、変わっていない。悪い事は何一つしていない。むしろ称賛されて当たり前の事をした。

 人間の中にも良い人間と悪い人間がいるように、デジモンの中でも正義のデジモンと邪悪なデジモンもいる。

 オメガモンは邪悪なデジモン達と戦う存在。しかも世界を守る大事な組織に所属し、己が掲げた正義を貫く聖騎士。

 そんなデジモンに息子がなった。そうなった息子を疑う事は出来ない。何故ならディアボロモンと戦い、苦戦しながらも倒した実績があるのだから。

 

「だから私達は一真を信じ続ける。デジモンになった一真を。誰かの為に戦う一真を」

 

「もう俺達の言われたように生きる事はない。好きなように、やりたいように生きなさい。一真、それがお前の俺達への最大の親孝行だ」

 

「ありがとう……母さん、父さん……」

 

 誰かを守る為に戦い始めた一真を信じる涼子。自分の好きな事や、やりたい事をするように言って背中を押す総司。

 2人の愛情と優しさを感じ取り、一真は静かに涙を流した。誰かを助けたいと言う心があれば、自分はまだ人間でいられる。そう思えたからだ。

 

「所で、その”電脳現象調査保安局”でどういう仕事をするの?」

 

「ブラックじゃないかどうか見極めなければ……」

 

 しんみりとした優しい雰囲気から、元通りの家族団欒な雰囲気に戻った八神一家。両親が”電脳現象調査保安局”について尋ねると、一真は鏡花と薩摩から渡された書類の全てを手渡した。

 その書類を受け取った両親は一つ一つ見ていきながら、表情を変えていく。色々と思う所があるのだろう。

 

「良い職場じゃない。給料も高いし、福利厚生もしっかりしているし……」

 

「胸を張って仕事をするんだよ?」

 

「はい!」

 

 優良企業で働いている両親ですら、”電脳現象調査保安局”は良い所と言い切った。仕事内容は仕方ないが、それ以外は二重丸。

 新しい職場で働く自分を応援する両親。その期待の重さに押し潰されそうな気もしたが、何とか頑張ろうと思う一真だった。

 

 

 

「これから朝礼を始める。今日は新しい仲間が来たから、皆に紹介しようと思う。1日に現れたディアボロモンを倒したオメガモン、八神一真君だ。では一真君。一言頼む」

 

『おお~!』

 

 ”電脳現象調査保安局”の本部。そこは一真の自宅から車で30分程の所にある。車での通勤範囲内である為、一真は前職と大差ない生活スタイルでいける事となった。

 両親の見送りを受け、初出勤してきた一真。薩摩から出勤・退勤のやり方を教わり、朝礼に参加している。

 ちなみに、出勤・退勤のやり方はパソコンの画面にディーアークの画面をかざす事。たったそれだけだ。タイムカードは不要。流石はデジタルモンスターなだけはある。

 朝礼では薩摩から紹介されている一真。前職よりも人数の多い職場なのか、かなり緊張している。大勢の前で紹介され、歓声が上がる中、一真は自己紹介を始める。

 

「八神一真です。今日から勤務する事となりました。今紹介にありました通り、オメガモンに究極進化出来ますが、一昨日なったばかりなのでまだまだ未熟です。この職場では僕が知っている有名なデジモンや方々がいるので、憧れている方々と一緒に仕事が出来るのはとても光栄に思います。一緒に働く中で戦い、毎日成長していきたいです。これからよろしくお願いします!」

 

 物腰が柔らかく、丁寧でいて、心の中に情熱を抱く一真の自己紹介。それを聞いた誰もが拍手を送る。新しい仲間が出来たのも嬉しいが、それ以上に一真の人柄が伝わって来る良い自己紹介だったようだ。

 

「そういう訳だ。一真君はこれからの戦いに欠かせない貴重な存在となる。大切に育てていこう。では朝礼はここまでだ。各自、仕事に励むように!」

 

『はい!』

 

 薩摩の号令の下、局員達は一斉に仕事を始めていく。一真はと言うと、歩み寄って来た1人の女性と話をしている。長いストレートの黒髪に、釣り目をしたナイスバディな女性。彼女の名前は工藤優衣。

 

「初めまして。私は工藤優衣。この職場はね、最初の頃は先輩とペアを組んで仕事をするの。一人前になるまでの間だけど……でも貴方と私はタメだから遠慮なく話し掛けて欲しいな」

 

「初めまして、優衣さん。しばらくの間よろしくお願いします」

 

「もぉ、そんなに固くならなくて良いのに……じゃあ仕事を説明するわね」

 

 優衣が用意したのは1台のタブレット。それを操作すると、映像のタイトルと再生ボタンが表示された。

 ”電脳現象調査保安局”の局員には、1人につき1台のタブレットとディーアークが支給される。そういう決まりとなっている。

 

「これって……」

 

「一真君の最初の仕事。ディアボロモン戦とクワガーモン戦の映像を観ながら振り返り、レポートとして提出する事。午前中の仕事ね? 終わったら私に出して。私が席を外していたら、他の人に報告してね?」

 

「分かりました。でも……具体的にどういう事を書けば良いですか?」

 

 レポートはタブレットで入力し、それを印刷して優衣に提出すれば良い。仕事の内容は極めてシンプルなのだが、一真は分からない事があったのか、優衣に質問する。

 分からない事があったらきちんと質問をする一真。その姿勢に感心したのか、優衣は

目を細めながら答える。

 

「そうね……反省点とか上手く行った事とか、感想で良いわ」

 

「分かりました。早速始めます」

 

「頼んだわよ?」

 

 早速ディアボロモン戦を観始める一真。気になった所を一時停止してからメモを取っていく。その書いた内容をレポートを書くのに参考にする為だ。

 初戦闘は先ず戦場を移し、大勢の人々が戦闘に巻き込まれるのを防いだ。この心掛けは良かった。今後も続けていかなければならない。

 

(出来れば自力で展開出来れば良いけど、今はまだ無理だな……)

 

 次に最初からグレイソードを使わなかった事が気になった。幾ら初戦闘とは言えど、自分の武器を使わなかったのはどうなのか。

 武器は使わないと使い方も分からないし、性能や使える技も把握出来ない。これは気を付けなければならない。

 

(それにディアボロモンの狡猾さに結構やられたな……でも最後には勝てた。やはり相手の情報を知り、そこから考えられる戦術を対策しないと)

 

 スペックで見れば格下だが、特殊能力等を含めると、オメガモンに匹敵するレベルとなるディアボロモン。その相手に苦戦しながらも勝利した。初めての戦闘にしては上出来の方だが、これからの戦闘を考えると、完璧でなければならない。

 反省点や気付いた事を書き進めていくと、メモ用紙も既に書ける所が無くなった。次のメモ用紙を用意し、クワガーモン戦の反省点や気付いた事を書き始める。

 

(クワガーモン戦は相手が何か強かったし、指令が指令だったから戦いにくかったな……それに場所も悪かった。やっぱりオメガモンの姿で戦うのって難しいな……)

 

 クワガーモン戦は人間界で戦う事や、オメガモンとしての戦闘の難しさを痛感させられた。何しろ、人間界は究極体デジモンが戦いやすい世界ではない。戦いやすい場所なら幾つかあるが、それは限られている。

 その上、オメガモンは世界を滅ぼす力を宿している。その強大な力を振るうには色々な制約がある。それを痛感させられた。戦闘スタイルを考えたりする等の。

 

(良し。これで出来た。後は印刷して渡そう)

 

 それから映像を観終えると、メモ用紙を観ながらレポートを打ち込んでいく。その速度は早く、一真が集中している事が分かる。

 レポート自体は30分もしない間に完成した。書く内容を決めるのに時間こそかかったが、それでも午前中いっぱいはかからなかった。

 

 

 

「よく出来たレポートね、上出来よ?」

 

「ありがとうございます」

 

 優衣は仕事で外出していた為、一真はリリスモンこと鏡花主任にレポートを提出した。鏡花は一通り目を通し、サムズアップをしながら感想を言った。

 一真は頭を下げてお礼を言う。ちなみにメモ用紙はノートに張り、記録を取っていくとの事。勉強熱心な性格のようだ。

 次の仕事を鏡花に尋ねようとした瞬間、局員全員のディーアークが鳴った。一真も慌てて取り出し、画面を見ると、そこにはこう書かれてあった。

 

“砂漠地帯に究極体デジモンの反応あり。早急に調査に向かって欲しい。なお、必要であれば戦闘も許可する”

 

「究極体デジモン……」

 

「一真君、行ける?」

 

 人間界にまたも現れた究極体デジモン。その文字に一真が険しい表情を浮かべると、その顔を覗き込むようにして鏡花が尋ねる。

 現状では究極体デジモンに対抗出来る戦力がそんなにいない。自然に一真が行く流れになるが、一真は直ぐに決断を下す。

 

「答えは最初から出ています。僕以外いないのなら……僕が行きます」

 

 鏡花に自分が赴くと伝え、一真は踵を返して走り去る。その姿を見送る鏡花は不安に感じる事があった。

 一真は戦う事を使命だと思っている。仕事だから仕方ないと言われればそこまでだが、何処か危うい一面がある。そう感じたから、鏡花は不安に思うしかなかった。

 

 

 

(誘っているのか、私を……?)

 

 砂漠地帯に向かうオメガモン。これで飛行での移動は2回目になるが、自力で空を飛べるのは心地良い。これが戦闘の為の移動で無ければ猶更なのだが。

 目的地に近付いたその時、まるで槍で突き刺すような殺意を感じた。そしてデジモンの『波動(コード)』を。この気配は間違いない。紛れもなく『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と同等以上の実力者。

 その正体は知らないが、オメガモンにはそのデジモンの言いたい事が理解出来た。その証拠に頭の中に声が聞こえて来る。

 

―――この世界で新生した聖騎士よ。私を倒してみせろ!

 

「やはり私を狙いに来たか……」

 

 オメガモンが砂漠地帯に降り立つと、待ちくたびれたと言わんばかりに一体の暗黒騎士が立っている。

 全身を漆黒に輝く魔鎧で覆い包み、右手に長大な魔槍“バルムンク”を持ち、左手に円形の巨大な魔盾“ゴーゴン”を持った暗黒騎士。その名前はカオスデュークモン。

 

「初めまして、と言うべきか。人間界で新生したオメガモンよ。私はカオスデュークモン」

 

「何が目的でこの世界に来た?」

 

「別に人間達を殺しに来た訳でも、世界を破壊しに来たのではない。オメガモン、お前の力を調べに来た」

 

「何だと……?」

 

 自分を狙いに来たまでは予測する事が出来た。しかし、力を試しに来たと言われたのは意外だった。オメガモンがその意図を探るように訝しむと、カオスデュークモンは苦笑いを浮かべながら答える。

 

「私が仕える主はお前と近しい存在なのだ。もしかしてあのお方と仲良くなれるかもしれない。それを確かめに来ただけだ」

 

「お前の主が何者なのか。それは分からないし、興味もない。だがこの世界とデジタルワールドには手出しさせない!」

 

「その強がりも今の内だ。いずれ分かるだろう。人間達の醜さと愚かさを」

 

「どういう事だ?」

 

「いずれ分かる。そう焦るな」

 

 カオスデュークモンは右手に持っているバルムンクの槍先をオメガモンに向けてから、構えを取った。

 オメガモンも黄金の竜の頭部を象った左手からグレイソードを射出し、腰を落としながら横薙ぎに構える。

 

「行くぞ、オメガモン!」

 

「来い、カオスデュークモン!」

 

 聖騎士と暗黒騎士による一騎打ち。その決闘の開幕を告げたのはカオスデュークモンが繰り出した攻撃。稲妻を思わせる速さと鋭さを併せ持つバルムンクの刺突。

 対するオメガモンは右足を一歩踏み込むと共に、グレイソードを左斜め上にかけて振り上げ、バルムンクの軌道を逸らした。

 受け流された魔槍がオメガモンの頭の左横を通過している間に、オメガモンは左足を一歩踏み込む。そこから大上段に掲げたグレイソードを振り下ろす。

 

「ハァッ!!」

 

「ムッ!!」

 

 カオスデュークモンは左手に持っているゴーゴンで防ぎながら、右手に持っているバルムンクを構え直す。

 そこからバルムンクを振り下ろしてオメガモンの白兜を叩き潰そうとするが、オメガモンは左足を蹴り上げ、バルムンクの軌道を再び逸らす。

 

「喰らえ!」

 

「グッ!!」

 

 尽かさずオメガモンは右拳を突き出し、カオスデュークモンの左頬に強烈な右ストレートを叩き込む。

 思わずよろめいたカオスデュークモンだったが、直ぐに体勢を立て直し、背後に飛び退いて後退する。オメガモンに追撃のチャンスを与えさせない為だ。

 

(ディアボロモンと戦っていた時より力が戻っているな……大したものだ)

 

(今はまだ小手調べだろう。次からギアを上げて来る)

 

 構えを取り直しながら、両者はゆっくりと間合いを取る。カオスデュークモンはオメガモンの力が戻ってきている事を感じ取り、オメガモンはカオスデュークモンがまだ本気を出していない事に気が付いた。

 今度はオメガモンから仕掛けるつもりだ。深く腰を落としながらグレイソードの剣先を相手に向けながら、刀身に軽く右手を添えた構えを取る。

 

「私も舐められた物だな。槍を使う相手に刺突を使って来るとは」

 

「舐められたかどうかは喰らってから言うんだな!」

 

 カオスデュークモンが溜息を付きながら構えを取り直すと、オメガモンはその構えを取ったまま、突進を開始。そこからグレイソードを突き出す。

 閃光の如き速さと威力の刺突。これにはカオスデュークモンも驚きを隠せなかったが、咄嗟にゴーゴンで防ぐ。

 

「(速い! それに強烈だ!)フッ!!」

 

 それでも衝突の瞬間にゴーゴンで捌いたのは流石としか言えない。そこから無防備となったオメガモンの胸部目掛け、バルムンクを突き出す。

 しかし、初撃を迎撃されるのを予測していないオメガモンではない。上半身を捻り、左肩のブレイブシールドΩで攻撃を防ぐ。

 更に上半身をもう1度捻り、左腕に力を溜めながらグレイソードを突き出し、渾身の力を込めた刺突を繰り出す。

 

「ハアァァァッ!!!!!」

 

「グァッ!!」

 

 左手に持っているゴーゴンで防ぐカオスデュークモン。しかし、オメガモンのパワーまでは防ぎきる事が出来ず、苦痛の声を上げながら吹き飛ばされる。

 咄嗟に空中で体勢を立て直して着地する一方、オメガモンも力強く構えを取り直す。カオスデュークモンは決めた。ここからギアを上げていくと。

 

(この短期間の間にここまで力を取り戻していたのか……それとも元の性能なのか。いずれにせよ、ここで取り除かない限り、危うい気がする!)

 

(ッ! カオスデュークモンの『波動(コード)』の凄みが増した……やはり今までは小手調べだったのか!)

 

 カオスデュークモンは力を一段階上げると、それを証明するかのように全身から凄まじい不可視のエネルギーが放出される。

 それを感じ取ったオメガモンは気付く。やはり先程までは手を抜いていたと。ここからが本番であると。

 

 

 

「ここからが本当の戦いだ!」

 

「ッ!?(速い!)」

 

 両手に持つ武器を構え直したカオスデュークモン。その姿が突如として消失したと思った瞬間には、オメガモンの目の前に姿を現していた。

 瞬間移動したと錯覚してもおかしくない程の超速移動。その勢いに乗りながら、カオスデュークモンは力強い気迫と共に、目にも写らぬ速度でバルムンクを連続で突き出す。

 一撃だけでも並大抵の究極体デジモンを葬る速度と威力が込められているが、それが連続して放たれている。しかも神速で。

 

「ハアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

「クッ!!」

 

 オメガモンは前に一歩踏み出して間合いを詰めながら、グレイソードを最小限の動きで振るい、バルムンクによる連続刺突を受け流していく。

 それを見てニヤリと笑うカオスデュークモン。邪悪なエネルギーをバルムンクの槍先に集束させ、オメガモンに向けて突き出すと共に、邪悪なエネルギーを放つ。

 

「カオスショット!!!」

 

「グァッ!!」

 

 カオスショットを咄嗟に両腕を交差させて防ぐオメガモン。直撃は免れたが、それでも吹き飛ばされる。

 空中で体勢を立て直すオメガモンを見逃す程、カオスデュークモンは甘くはない。即座に追撃に移行した。

 

「クルーエルバルムンク!!!」

 

「チィ!」

 

 カオスデュークモンは軽く跳躍して体を高速回転し始める。これによって漆黒の竜巻となると、オメガモンに向けて突進を開始する。

 吹き荒れる漆黒の竜巻。オメガモンは空中に浮かびながら構えを取り直し、襲い掛かる漆黒の竜巻と対峙する。

 自分に向かってバルムンクが突き出されている事に気付き、グレイソードを左斜め下から左斜め上に振り上げ、バルムンクの軌道を逸らすと共にカオスデュークモンを空高く打ち上げた。

 

「デュークチャージ!!!」

 

「グァッ!?」

 

 急降下の勢いと共に振り下ろされるバルムンク。オメガモンは左肩のブレイブシールドΩで防ぐが、デュークチャージを防ぎきれず、防御した上から斬り下ろされた。

 胸部に縦一文字の斬り傷が刻まれ、体勢を崩すオメガモン。その目の前に着地したカオスデュークモンは、暗黒のエネルギーをバルムンクの槍先に集中させ、暗黒の魔槍を構えながら一歩前に踏み込んだ。

 

「デモンズディザスターーー!!!」

 

「ガアアアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

 一瞬で繰り出された魔槍による連続刺突。それがオメガモンの全身に叩き込まれ、苦痛に満ちた叫び声が砂漠に響き渡る。

 デモンズディザスターを叩き込んだカオスデュークモンが睨む中、オメガモンはゆっくりと崩れ落ち、そのまま倒れ込んだ。

 目の前には地面に倒れ込んだオメガモン。それを見下ろしながら、カオスデュークモンは息を整える。

 

(ここで仕留めるか、味方にしないと危ない気がする!)

 

 直接槍と剣を交えた事で、カオスデュークモンは理解した。オメガモンはまだ本調子ではない事を。確かに力その物は本物で同等なのだろう。戦闘経験も全て所有している事も間違いない。

 しかし、まだブランクを埋め切れていない。それに加え、人間としての精神(こころ)が追い付いていない。人間たる青年が戦うと言う行為にまだ慣れていないのか、それとも戦う事に戸惑っているのか。

 だからこそ、今回の戦いは全てにおいて一枚上を行く事が出来た。それでも最初はオメガモンの持つポテンシャルと実力の高さを見せ付けられた。その事実がカオスデュークモンに危機感を抱かせている。

 今の内に、未熟の内に倒すか、味方にしなければならないと。ダウンしている今の内にどうにかしないといけないと。

 もし次に相まみえた時、オメガモンは更なる強さを以て自分を倒すだろう。その時は最低でも自分と互角以上に渡り合う強さになるに違いない。最悪の場合、“切り札”を使わないと勝てないだろう。

 確実に勝利を掴むのならば、最悪の可能性を消し去る必要がある。カオスデュークモンはバルムンクを突き立てようと、一歩前に踏み出した。

 

 

 

(クッ……立たないと殺される……!)

 

 オメガモンは立ち上がろうと全身に力を込めるが、中々起き上がれないでいる。デモンズディザスターが急所にも繰り出された為か、思うように力が入らない。

 究極体デジモンとの戦闘は2回目。ディアボロモンの時は相手の攻撃力の低さと、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』に助けられたが、カオスデュークモンのように、戦闘スタイルが似ている相手だと、そうもいかない。

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を発動しようにも、どうやら発動条件があるのだろう。何も起きない。

 何とか真上を見上げると、カオスデュークモンの無機質な目と合った。彼の瞳に宿るのは殺意。バルムンクを構えており、これから自分の首を刺し貫かんとしている。

 

(ここまでか……)

 

「デジタライズ・オブ・ソウル!!!」

 

「ッ! まさか……!」

 

 突き出されたバルムンク。何も出来ないオメガモンは静かに目を閉じ、数秒後に迫り来る自らの死を受け入れようとする。

 しかし、オメガモンの死を認めないと言わんばかりに、突如として何処かから何者かの声が聞こえて来た。

 同時に緑色の光線がカオスデュークモンに向けて放たれ、カオスデュークモンは咄嗟にゴーゴンで防ぐ。咄嗟に後退する事も忘れない。

 

「貴方は……!」

 

「まさか!」

 

 突如として感じ取られた巨大な『波動(コード)』。オメガモンとカオスデュークモンが同時に声がし、光線が放たれた方向を見ると、そこには右手を突き出した1体の聖騎士が立っていた。

 漆黒に光り輝く聖鎧に身を包み、背中に内側が青く、外側が白いマントを羽織り、背中に翼のような物を備えた聖騎士。

 それは聖騎士団(ロイヤルナイツ)の一員でありながら、聖騎士への抑止力的な存在と言われている存在。通常時は姿を現すことはなく、蒼いマントを翻す“孤高の隠士”とも呼ばれ、“空白の席”と呼ばれる所に位置する聖騎士。名前はアルファモン。

 

「俺の名前はアルファモン」

 

「馬鹿な……アルファモンとは名前は知られてはいるが、実在しないと言われている……言わば、神話の中の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』!」

 

「しかし、俺はここに存在する。オメガモンを助る為に駆け付けた。カオスデュークモン……俺の仲間を傷付けた落とし前を付けてもらおうか」

 

 予想外の相手の乱入に動揺しているカオスデュークモンに対し、アルファモンは静かな怒りを見せる。その怒りにカオスデュークモンのみならず、オメガモンも思わず震え上がる。

 そのやり取りを聞いていたオメガモンは理解した。アルファモンは自分の味方だという事と、アルファモンの力はカオスデュークモンを上回る事に。

 カオスデュークモンと戦う前に、アルファモンは左手を輝かせてオメガモンの頭の上に置く。すると、オメガモンの体力やダメージが瞬時に回復された。

 

「ありがとう……」

 

「礼には及ばないよ。貴方はここでゆっくり休んでくれ」

 

 アルファモンは歩きながら両手で魔法陣を描き、中心から光が集束して出来た聖剣グレイダルファーを引き抜き、構えを取る。

 両手に握る武器を構えるカオスデュークモン。その足元を聖剣グレイダルファーで指し示しながら、アルファモンは一言呟いた。

 

「エクスプロージョン」

 

「何!? グッ!!」

 

 その瞬間、カオスデュークモンの足元が大爆発を引き起こした。巻き起こる黒煙と爆炎。辺りに飛び散る砂。

 咄嗟に左手のゴーゴンで防いだカオスデュークモンとの間合いを詰めると、アルファモンは両手に握る聖剣グレイダルファーで斬りかかる。

 

「ハアアアアアァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!」

 

「チィ!!」

 

 先程までのオメガモンを圧倒した勢いは何処へ行ったのか。そう疑ってしまう程、カオスデュークモンは防戦一方に追いやられる。

 理由は幾つかある。1つ目はアルファモンとカオスデュークモンのスペック差。2つ目はアルファモンの剣技は防御・反撃を許さない程苛烈でありながら、見ている者を魅了する美しさがあるからだ。

 どうやらアルファモンには一個前のグレイドモンのデータがあるのだろう。グレイドモンは双剣グレイダルファーで戦う剣士。二刀流で戦う時、その剣技は神速になるが、制御不能に陥り、理性を保ったまま戦う事が出来ない。それを克服したようだ。

 

「(まさかアルファモンが出て来るとは……流石にこのままじゃキツイな)今日はここまでにしよう。オメガモンの力を知る事が出来ただけでなく、アルファモンと剣を交える事が出来た。これで貴重な戦闘データを持ち帰れる」

 

「このまま逃がすと思うか?」

 

「逃がさせてもらおう」

 

 カオスデュークモンが背中に羽織っている蒼色のマントを翻すと、カオスデュークモンの姿が消失した。まるで何かのマジックみたいに鮮やかな小技としか言えない。

 暗黒騎士の『波動(コード)』が完全に消失した事を確認し、戦闘が終わった事を感じたアルファモン。背後にいるオメガモンに一声かける。

 

「帰ろうか」

 

「……あぁ」

 

 自分を圧倒した相手を歯牙にかけなかったアルファモン。その実力の高さに驚きつつも、その正体が気になるオメガモン。

 2体の聖騎士はその場から飛び立ち、”電脳現象調査保安局”に向けて帰投する。この日の戦闘はオメガモンこと一真に戦う事の難しさを突き付ける結果となった。

 




敵キャラとヒロインの登場で影が隠れましたが、主人公初敗北&殺されかけるお話でした。やっぱり序盤での苦戦は付き物です。だって戦闘経験少ないですし……その方が成長具合が分かりやすくて良いですよね?
ちなみにこの小説のアルファモンはアニメ・漫画で見せた技以外に、テイルズシリーズのような魔法を駆使したり、モンスターを召喚したりとかなりフリーダムになっています。
活動報告は書くネタが出来たら書きます。毎回書いても反応ないですし……

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。
では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

カオスデュークモンとの戦いの翌日。
工藤優衣は一真を別世界に連れ、一緒に山登りをさせる。果たしてその真意は?
そして激突するオメガモンとアルファモン。戦いの勝者は?

第5話 空白の席の主による修行


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第5話 空白の席の主による修行

今週ラストの投稿です。この小説での文字数最多記録更新です。
今回はヒロインによる修行回。色々と詰め込みました。
ヒロインとは?と思われるかもしれませんが、ヒロインの形は人それぞれ。
こういうヒロインもありだと思います。

ではお楽しみ下さい。


「ありがとう、優衣さん。一真君を助けてくれて」

 

「どういたしまして。でも……まさかカオスデュークモンが来るとは思ってもみなかったです」

 

 ”電脳現象調査保安局”の本部長室。そこでは薩摩と優衣が話をしている。一真を助けた事にお礼を言う薩摩と、肩を竦めながらそれに答える優衣。

 優衣は一仕事を終えた時に薩摩からの連絡を受け、オメガモンとカオスデュークモンが戦う砂漠地帯に向かった。そこでオメガモンを助けてカオスデュークモンを圧倒した。

 

「カオスデュークモンが?」

 

「はい。敵も本気です。オメガモンの力を調べに来たと思ったら、オメガモンを殺しにかかっていました。つまりは……」

 

「オメガモンの事を脅威に感じたという事だな?」

 

「そうなります」

 

 クダモンは優衣の言葉を繋げる。その答えに頷いて答える優衣と、困ったように思案する薩摩とクダモン。

 確かにオメガモンの力は戦いを経験する度に戻ってきている。それは事実だ。だがその速度が現状に追い付いていない。

 

「明日は私が一真君を鍛えます。それくらいは大丈夫ですよね?」

 

「あぁ、問題ない。好きにしたまえ」

 

「ありがとうございます」

 

 そこでアルファモンとして戦っている優衣が、先輩として一真を鍛える事にした。その決断に薩摩が了承すると、優衣は早速修行メニューを考える為に本部長室を後にした。

 その様子はまるで恋する乙女のようだった。何しろ鼻歌交りでスキップしていたのだから。薩摩とクダモンはお互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべていた。

 

 

 

(仲間ね……まさか私に仲間が出来るとは思ってもみなかったわ)

 

 その日の夜。優衣は自室のベッドに寝転がりながら一真の事を考えていた。自分と同じ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員のデジモンになれる青年。オメガモンの力を持ち、戦い始めた新人局員。

 優衣にとって後輩であると共に同じ仲間。共通項が多いのだから。年齢も同じ。これは何かの偶然なのだろう。

 

(それに明日は一真君を独り占め出来るんだし♪ 思い切ってデートしようかな? でも先ずは修行しないと……一真君には強くなってもらわないと困るから。いずれ殺される事になる。あの時のように……私がアルファモンになった時のように)

 

 優衣はベッドの近くに置いてある写真立てを手に取ると、悲しそうな表情でその写真を見た。その写真には十数人の子供達と優衣、数人の大人が写っている。彼女はそこで眠りに付いた。自分がアルファモンになった時の事を思い出しながら。

 工藤優衣。彼女は物心つく前に両親を失い、天涯孤独の身となった。親戚もいなかった彼女はに入れられ、そこで生きるしかなかった。

 そこで出会ったのは様々な事情を抱えた子供達。両親に見捨てられ、心に深い傷を負った子供。両親から愛情を注がれず、暴れる事でしか意志を伝えられなかった子供。離婚等の問題で何もかもが敵と思い込み、憎しみを持ってしまった子供。

 彼らと共に過ごす事に戸惑いながらも、優衣は生きるしか無かった。そんな時、1人の施設の職員との出会いが彼女の運命を変えた。

 

(私もあの人のようになりたい……)

 

 その職員は優衣にとって父親と思える存在だった。太陽のように明るく皆を笑顔にし、月のような優しさを併せ持つ男性。その名前は堀江淳史。

 堀江の事を父親のように慕うようになってから、優衣は穏やかで優しい少女へと成長していった。それから色んな子供達と真正面からぶつかり合い、その上で分かり合った。

 優衣は中学生の頃に現実を知った。18歳を過ぎたら、つまり高校を卒業する時には児童養護施設から出ていかなければならない事を。その上で決断した。子供達が笑顔で暮らせる社会にする為に、堀江のような大人になる為に、大学に行って児童福祉系の仕事に就く為の勉強をする事を。

 しかし現実は非情だった。優衣が高校を卒業する年の夏、デジモンが彼女のいる児童養護施設を襲撃して来たのだから。

 突如として玄関が轟音と共に吹き飛ばされた。何事かと思って職員達と優衣が向かうと、そこには1体のデジモンがいた。

 全身に青色と黄色の装甲を身に纏い、右手に手甲と一体化した槍を装備したサイボーグ型デジモンーダークドラモン。デジタルワールドの機械化旅団“D-ブリガード”の最終決戦兵器と推測されている。

 あくまで噂の域を出ない情報だが、コードネーム“BAN-TYO”と呼ばれる“目標”を排除する作戦で撃墜されたタンクドラモンが回収され、“D-ブリガード”の研究機関においてダークドラモンへと進化したと言われている。

 究極進化の際に大量の“ダークマター”が使用されたらしく、進化後に暴走・逃亡し、現在は“D-ブリガード”もダークドラモンの消息をつかめていないらしい。今でもコードネーム“BAN-TYO”を探し、彷徨っていると言われている。

 

「俺の名はダークドラモン。工藤優衣は何処にいる?」

 

「優衣ちゃんに何の用だ!」

 

「用のない人間は消えろ」

 

「ウワァッ!」

 

 ダークドラモンはつまらないと言わんばかりに右腕を振るい、堀江を吹き飛ばす。幸い、殺すつもりは無かったのか、地面に強く叩き付けられる結果となった。

 目の前の相手は誰がどう見ても人間ではない。ただ目標を殺すだけしか知らない殺戮兵器。自衛隊でも歯が立たず、核爆弾でも倒せないような相手。

 職員達が恐怖で動けない中、ダークドラモンはゆっくりと優衣の所に歩み寄る。そして優衣を見下ろし、残忍な笑みを浮かべる。

 

「冥土の見上げ話として教えておこう。お前はデジモンになる力と素質を宿している。分からんだろうがな」

 

「デジモン……ですって!?」

 

「こいつは驚いた……その反応から察するに、俺達デジモンの事を知っているようだな。お前がなれるのはただのデジモンじゃない。デジモンの中でも最強と言われている『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。その抑止力でもあり、名前は知られていながら決して存在することが無いと言われた、言わば神話の中の聖騎士だ」

 

「そのデジモンってアルファモンの事!?」

 

 児童養護施設にいる間、子供達と一緒になってテレビアニメを観ていた優衣。彼女は有名どころのデジモンならば分かる。

 自分がデジモンになれる素質を持っている事に驚いたが、取り分け驚いたのはそのデジモンがアルファモンだったという事。

 

「正解だ。いい冥土の土産になっただろう? 自分の運命を呪いながら死ね!」

 

「優衣ちゃん!」

 

(私……このまま終わるの? 大切な物を知らず、ようやく知り始めたばかりなのに理不尽な力によってそれを奪われてしまうの? 嫌だ。私はまだ何もしていない。勉強も、仕事も、恋も、結婚も……このまま終わるのは嫌だ! 私は絶対……諦めない!)

 

 目標である優衣を抹殺しようと、ダークドラモンはギガスティックランスを突き出す。それを阻止しようと手を伸ばす堀江。目を閉じて死を覚悟する優衣。

 しかし、彼女は終われない。自分にはしなければいけない事が、やりたい事があるのだから。叶えたい夢がある。それらをするまで自分は死ねない。死ぬ事は許されない。だから諦めない。諦めたくない。

 そう思った瞬間、優衣の全身から眩く輝く光が放たれ、ダークドラモンを吹き飛ばしながら彼女を覆い包んでいく。

 

 

 

(私、死んだのかな……?)

 

(いや死んでいない。貴女はまだ生きている)

 

 優衣が目を覚ました場所は真っ黒な空間。自分が死んだと思い込み、俯く優衣の目の前におぼろげな黒い影が現れた。

 若い男性の声だが、威厳がありながら親しみが込められている。その矛盾に戸惑いながらも、優衣は目の前を見る。

 

(え~と、貴方は?)

 

(俺の名はアルファモン。聖騎士さ)

 

(えぇ、知っているわ。貴方の事……貴方が私の中に宿った力なんでしょう? ダークドラモンから聞いた)

 

(そうか……それなら理解が早い。その前に俺がどういう経緯でこの世界に来たのかを簡単に話そう)

 

 おぼろげな黒い影、もといアルファモンは優衣にゆっくりと話し始める。自分がこの世界に来るまでの経緯を。

 アルファモン、もといドルモン。彼はイグドラシルによって創られた実験体デジモン。X抗体を持っている為、他のデジモンから狙われたり、拒絶されたりしてきた。

 それでも様々なデジモンとの出会いや経験を経てアルファモンとなり、デジタルワールドの危機を解決する大活躍を見せた。

 ドルモンとして復活した時にアルファモンの力は失われたが、どうやらドルモンとアルファモンに分離したらしい。それが何者かによってこの世界に導かれたとの事。

 

(そうなんだ……貴方も大変だったんだね)

 

(貴女も大変だったみたいだな……俺はよく分からないけど、貴女は凄いと思う。だからこそ主に認めたいが、俺を受け入れると、貴女はもう今までの日常には戻れない。辛く険しい闘いの日々が待っている。それでも良いか?)

 

(……私にはもう帰る日常がない。施設を出ても先が見えない日々を送る可能性がある。だったら貴方と共に戦い続ける道を進むわ。それに……私は両親がいない。貴方のような人がいて、一緒にいられるのはとても嬉しいし)

 

(そうか……ならばここに契約は完了した。これより俺の運命は貴女と共にあり、貴女の運命は俺と共にある。よろしく頼むよ)

 

(よろしくね、アルファモン)

 

 優衣とアルファモンが握手をした瞬間、真っ黒な空間に光が差し込む。その中を優衣とアルファモンは手を繋ぎながら、進んでいく。

 現実世界。優衣の全身から放たれた眩い光が消え失せると、優衣がいた場所には1体の聖騎士が立っている。

 全身を漆黒に光り輝く聖鎧で覆い包み、背中に内側が青く、外側が白いマントを羽織り、背中に翼のような物を備えた聖騎士。彼の名前はアルファモン。

 

「馬鹿な……アルファモンになっただと!? そんな馬鹿な事があるのか!?」

 

「随分な事をしてくれたな、ダークドラモン。落とし前を付けてもらおうか!」

 

「抜かせ! 目標は速やかに排除する!」

 

 背中の噴射口から青い光を放ちながら、アルファモンに向けて突進を開始するダークドラモン。その感情に満ち溢れた突進と、最後まで作戦を遂行しようとする強い意志。

 その在り方に目を細めるも、アルファモンがダークドラモンを倒す事は変わりない。  ダークドラモンの目の前から姿を消し、ダークドラモンの背後へと回り込む。発動したのは瞬間移動。

 

「何!? 何処だ!?」

 

「ここだよ」

 

 目の前にいた筈の目標を失ったダークドラモンが動きを止めると、アルファモンは自分に注意を向けようと一言呟いた。

 当然の事なのだが、その一言を聞いたダークドラモンは振り返る。完全に虚を突かれたダークドラモン。アルファモンはその顎を右足で蹴り上げ、宙に打ち上げながら左回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

「クッ……! やるじゃねぇか!」

 

 蹴り飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、多少後退しながらも地面に着地したダークドラモン。流石としか言いようがない。

 ここで終わるデジモンではない。先程以上のスピードで突進を開始し、アルファモンに向けて右手に仕込んでいる槍を突き出す。

 

「ギガスティックランス!!!」

 

「フッ!!」

 

 アルファモンは頭を少しだけ動かしてギガスティックランスを躱しながら、左手でデジモン文字を刻みながら緑色の魔法陣を描く。

 その魔法陣から数発の緑色の光線が放たれ、ダークドラモンの全身に直撃しては確実にダメージを与えていく。

 

「グァッ!! グウウゥゥゥゥゥッ!!!!!!」

 

「吹き飛べ! デジタライズ・オブ・ソウル!!!」

 

『……』

 

 後退しながら仰け反るダークドラモンに、更に追い打ちをかけるアルファモン。緑色の魔法陣から緑色の波動を放ち、ダークドラモンを吹き飛ばす。

 圧倒的な力でダークドラモンを追い詰めていくアルファモン。その様子に子供達と職員達は言葉を失う。目の前にいる聖騎士は優衣。それは分かっている。自分達を守る為に戦っている。その事実を認め、現実を受け止めている最中だ。

 

「召還! 聖剣グレイダルファー!!!」

 

 立ち上がっている最中のダークドラモンに近付きながら、アルファモンは右手で魔法陣を描く。その中央に右腕を入れて光の集束を引き抜き、聖剣グレイダルファーを召還する。

 そこから剣戟が開始される。間合いではダークドラモンの方は優位に立っているが、ダークドラモンは押し負けている。

 その理由は2つある。1つ目はタイムロス。間合いにおいて優位に立つ事は、攻撃する回数と速度が鈍る事を意味している。槍を突き出した後、突き出した槍を戻すという作業が必要不可欠になるからだ。

 2つ目は両者の実力差。総合スペックで見ると、アルファモンがダークドラモンを上回っている。タイムロスを利用しながら間合いを詰め、確実に攻撃を当てていく。

 20回程斬り合った所でアルファモンがダークドラモンを蹴り飛ばし、左手で魔法陣を描く。その中央に左腕を入れて聖剣グレイダルファーを引き抜き、2本の聖剣を十字に構える。2刀流の構えだ。

 

「クロス……ブレード!!!」

 

 アルファモンは神速の勢いで突進を開始し、ダークドラモンに向けて十文字に構えた聖剣グレイダルファーを振り抜く。

 それをギガスティックランスの一閃で弾くダークドラモン。何とか力を振り絞ってアルファモンを上空高く打ち上げるが、それこそがアルファモンの狙いだった。

 

「グレイドスラッシュ!!!」

 

 大上段から振り下ろされた2本の聖剣グレイダルファー。ダークドラモンはX字に斬り傷を刻まれ、苦痛に満ちた叫び声を上げながらデータ粒子へと変わっていく。

 そのまま消滅していくのを静かに見守るアルファモン。2本の聖剣グレイダルファーを戻し、背後にいる人間達に微笑む事で戦闘の終了を告げた。

 

 

 

 それから1ヶ月後。修理された玄関を眺める優衣の目の前で、一台のランボルギーニの車が泊まった。

 車から降りて来たのはスーツ姿の女性―桐山鏡花。優衣は鏡花から”電脳現象調査保安局”に来ないかとスカウトされた。一旦返事を保留し、堀江等の職員と相談した結果、”電脳現象調査保安局”で仕事をする事を決めた。

 しかし、幾つか条件を定めた。勤務開始は高校卒業後。それまでの間は児童養護施設で過ごす事。これは子供達といられる時間を全うしたいと言う優衣の希望だった。

 そして訪れた最後の日。別れを惜しむ優衣と子供達は全員大泣きし、それに職員達も貰い泣きする程だった。それから”電脳現象調査保安局”に勤務し、今に至る。これが優衣の過去であり、彼女の歩んできた人生だ。

 

「そうだったんですね……」

 

「その後は仕事しながら修行に明け暮れたわ。色んな世界に行ったし……」

 

 次の日。”電脳現象調査保安局”に出勤した一真。朝礼を終えて昨日の戦いのレポートを書き終え、鏡花に提出し終えた。その段階で休憩室に入り、コーヒーを飲みながら優衣の過去話を聞いている。

 それから優衣ことアルファモンは異世界に行っては、数々の神話を打ち立てた。“ウィッチェルニー”で炎・地・水・風の4つの属性の魔法を全てマスターした。あらゆる世界に存在する聖獣・魔獣・神獣と戦い、お互いを認め合って配下にしてみせた。

 他にもまだまだあるが、一真は理解した。工藤優衣ことアルファモンは規格外の存在である事を。彼女に比べると自分はまだまだだという事を。

 

「それでね、一真君。今日はこの後の仕事は全部カットしてもらったわ」

 

「えっ!? 何でですか?」

 

「ちょっと用事が出来たの。私に付き合ってもらうわよ? い・い・わ・ね?」

 

 優衣から唐突に告げられたこの後の予定。その内容に一真は驚き、固まってしまう。この後の仕事は全て無しになり、優衣と一緒に行動する事になったのだから。

 これが健全たる男性ならデートとかそういう事を期待するだろう。しかし、ここは仕事場。”電脳現象調査保安局”の仕事内容から、推測するに答えは自然と出て来る。

 

「でも……」

 

「い・い・よ・ね?」

 

「はい……でも優衣さんの仕事のお手伝いですか?」

 

「違うわ。これは貴方にとって必要な事よ?」

 

「私に……ですか?」

 

「昨日一真君はカオスデュークモンと戦った。最初は圧倒したけど、相手は手抜き。ギアを上げてきたらあっさりやられた。これじゃあ困るの。後々の戦いでは。だから今日は私の修行に付き合ってもらうわよ?」

 

 一真の普段の一人称は“僕”だが、仕事の時は“私”に切り替えている。不思議そうな表情の一真に、少し真剣な表情をしながら優衣が答える。

 優衣の指摘に一真は言葉を失い、項垂れた。昨日帰宅してから初めての敗北を味わい、殺された経験から戦う事に対して恐怖を抱いてしまったからだ。

 正直、今の一真は戦う事に対して恐怖心を抱いてしまった。でも優衣はそんな自分を見捨てず、強くさせようとしてくれている。それは素直に感謝しなければならない。

 

「ありがとうございます……」

 

「緊張しなくて良いわ。ちょっと内容がハードだけど……それでね、ここではない別の世界で修行するからちょっと待ってね……」

 

 そう言いながら優衣は両手でデジモン文字を刻んで魔法陣を描くと、一真と共に異次元の世界へと向かっていった。

 アルファモンとなってデジモンの力を行使できるとは言えど、単独での次元移動は中々出来る事ではない。工藤優衣、恐るべし。

 

 

 

 一真と優衣が来た世界。そこは誰もいない無人世界。雲一つない晴れ渡った青空が広がっている。修行には最適な場所とも言える。

 修行という事になっているが、傍から見ればデートやピクニックにしか見えない。一真も昨日の戦いを切っ掛けに更に強くなろうと、自分を奮い立たせる。

 

「良い天気ね……絶好の修行日和よ?」

 

「はい……」

 

 早速山登りを開始する一真と優衣。優衣は楽しそうだが、一真は真剣だ。それでも心は晴れ渡っていく。木々の間から差し込む木漏れ日。風が吹くと共に葉と木が揺れたり、擦れたりする音。

 優しい景色と優しい音が心を癒していく。少なくとも一真にはそのように感じる事が出来た。これが全身で自然を感じるという事なのか。

 

「この世界にはよく来るんですか?」

 

「まぁね。修行もそうだけど、疲れた時とか癒されたいと思った時は、必ず来るようにしているよ?」

 

 2人が山登りをしている理由。それは体力作り。スポーツでもそうだが、大事なのは体力だ。ましてや戦いになると、体力や精神力が物を言う時もある。

 それに足腰を鍛えるトレーニングも兼ねている。歩き始めてから直ぐに理解した一真と、いつも歩き慣れた道を進む優衣は楽しく山道を登っていった。

 数時間後、山の頂上に座り込む一真と優衣。途中で一真が挫けそうになるが、自分を奮い立たせて持ち直した。

 

「しんどいな……ちょっと休ませてください」

 

「良いわよ? でも思っていたよりもやるじゃない。オメガモンの力を持っているだけあるわ」

 

 息を切らしながら、座り込む一真。余裕そうな笑みを見せる優衣。しかし、この数時間で2人が通ったコースは凄まじい。

 ロッククライミングや軍隊の訓練をジョグレス進化したような障害物ばかり。200メートル以上ある坂を全力ダッシュ。崖から崖に飛び移る。

 優衣は全く止まらずに出来たが、一真はそうはいかなかった。多少止まってしまったが、オメガモンになった事で身体能力が向上したのか、優衣の予想よりも上手く出来た。それでも翌日は筋肉痛間違いなしなのだが。

 

「慣れて来たのでしょうか? まだ数日しか経っていませんし、数回しか究極進化してませんが……」

 

「一真君、貴方きっと……“融合率”が高いのよ」

 

「“融合率”……?」

 

 一真がオメガモンになってまだ数日しか経過していないが、それなりに戦う事も出来、身体能力が向上している。

 その事実を優衣は一真のデジモンとの“融合率”が高いと分析した。“融合率”という聞き慣れない単語に一真が首を傾げると、優衣は答え始めた。

 

「デジモンとの相性とか同調率の事よ? 低いと適応負荷で身体がもたないし、逆に高いと“デジモン化”の進行が早まるけど」

 

「……やっぱり何事も程々がちょうど良いんですね」

 

 “融合率”はデジモンとなった状態を数値化した値の事だ。元々持っている資質である程度決まるが、それを唯一引っ繰り返せるとしたらその人の精神状態。

 怒りや強い思いによって闘志が高まれば上昇するし、恐れや迷いを抱いて闘志が失われると、低下する事もある。

 それでもある程度高くないと話にならない。低いとデジモンの適応負荷が起こり、デジモンの力が発揮出来ないどころか、フィードバッグで自滅する事だってあるからだ。

 

「そうね。だって……一緒にここまで来れたじゃない。後ろを見て」

 

「わぁお……」

 

 後ろを振り返った一真が目にした瞬間、言葉を失った物。それは絶景としか言えない程、神秘的に美しい風景だった。

 山の頂上から見える圧倒的な大自然。白い雪を帽子のようにかぶっている山々。轟音と共に流れ落ちる巨大な滝。きっと精神統一等の修行にはもってこいなのだろう。その先にあるのは巨大な湖。太陽に照らされてキラキラとした輝きを放っている。

 

「すげぇ……!」

 

「辛い事や苦しい事の後には必ず楽しい事や幸せな事が待っている。世の中はそういう物よ?」

 

 一真が住んでいる都会とは違い、空気が澄み渡っている。少し冷たい風が吹き渡るが、それが汗や上がった体温で火照った身体を静めていく。更に足元に目を移すと、美しい花々が咲いている。まるで世界を映し出すように。

 一生懸命になって辛い道や苦しい障害を乗り越えた先。そこに待っていたのは誰も目にした事のない素晴らしい景色。何時の間にか一真は感動のあまり泣き崩れ、それを優衣が優しく見守る。

 

 

 

 お昼の時間となった。大自然を眺めながらの昼食。ピクニックと言えばお弁当箱の中に入っている美味しいメニュー。

 そこまでは共通項なのだが、問題なのは中身だった。普通ならば唐揚げや卵焼き、タコさんウィンナーが来るのだが、優衣が用意したお弁当箱の中にはお寿司が入っていた。これには一真もびっくりだ。

 

「優衣さん、何でお寿司?」

 

「あぁ~ごめんなさい。私ね、実は親戚がいたの。その人がお寿司屋さんをやっていて、休日はそのお手伝いをしているからつい……」

 

「これはその親戚の方が握ったんですか?」

 

「違うわ。私が握った」

 

「そうですか。じゃあ頂きます!」

 

 先程までのトレーニングでお腹が空いたのだろう。一真は手を合わせ、優衣の握ったお寿司を食べてみる事にした。

 一真はグルメな人間。舌が肥えている為、食事にはうるさいのだが、一貫のお寿司を食べた瞬間に無言となった。

 

「……すげぇ。美味しい。何も言えねぇや」

 

「ありがとう。これでも回らないお寿司屋さんで修行しているの。今の職場がなくなっても食べていけるように」

 

「そうですか……僕は前の仕事の社長からいつでも戻って来て良いと言われていますけど」

 

「良い職場に巡り会えたのね。羨ましいわ。私はこの職場しか知らないから……」

 

 遠くを眺める優衣の瞳は何処か寂しそうでいて、一真の事を羨んでいるように見えた。優衣の過去を今朝聞いた一真は、何とも言えない複雑な表情となりながらも深くは問い詰めなかった。

 その後は一緒にお寿司を食べ、十分程休憩してから山を下りていく。その最中に一真は優衣に一つ質問をする。

 

「優衣さん。昨日のアルファモンは優衣さんでしたよね?」

 

「そうよ? でも私はそこまで強くない。だからこそ毎日こうして修行している。色んな事をやっているわ」

 

「僕はどうやったら強くなれますか?」

 

「……と言うと?」

 

 一真の唐突な質問。どう答えて良いのか。それとも一真の真意を探りたいのか。優衣は一真に話を続けるように促す。

 優衣に促される形で、一真は話を再開する。そこにはオメガモンとして戦う事への戸惑いや苦悩があった。

 

「僕はまだ戦うという事が分かりません。怖いんです、戦うのが。悪い奴を懲らしめるのは抵抗ありませんけど、でも昨日のカオスデュークモンとの戦いで格の違いを見せられました。アルファモンの戦いでも……こんな僕でも強くなれるのか、足手まといにならないのか、不安で仕方ないんです……」

 

「それで良いわ」

 

「……はい?」

 

「最初は誰だってそういう物よ。全く気にする事はない。誰だって自分が一番大事だから、自分が傷付く事を怖がるのは当たり前の事。貴方は誰かを思いやる優しい人。そしてその人の為に戦える強い心を持っている。それは私も理解しているわ。ディアボロモンの戦いを観たからこそ私も分かったの」

 

 優衣は一真の抱える戦いへの戸惑いや恐怖をありのまま受け止め、否定しなかった。それが一真の強さに繋がると考えているからだ。

 誰だって戦う事は怖い。それは優衣だって同じ。最初は今のように強くなかった。でもそれを乗り越えた先に今の強さがある。優衣に出来て一真に出来ない事は何一つない。

 

「誰かを思いやり、誰かの為に戦う事が出来る人が弱い事はない。貴方は強い。だって、貴方はオメガモンだから」

 

「僕が強い……?」

 

「えぇ。貴方にも分かる時が来る。大切な人が出来て、その人を守る時とか。でもだからこそ、今感じている恐怖や戸惑い……それに優しさを忘れないで欲しいの。戦えない人々の為に戦うと決意したのなら、その人達に寄り添いながら戦う事が求められる。そして何より自分を大事にする事。貴方は誰かの為に戦うから、自分の事を顧みない気がするから」

 

「はい……おっしゃる通りです」

 

 会ってまだ時間が経過していないにも関わらず、優衣は一真の性格を見抜いていた。分かりやすい訳ではないが、アルファモンの力も関係しているのだろう。

 或いは寿司職人としてカウンターからお客さんの仕草や会話を見たり聞いたりして、観察眼を養ったようだ。

 

「それにね。前に進む事を恐れていたら、何時まで経っても強くなれないわ。それに相手とも分かり合えない。凄く悲しい事だけど、何事にもとにかく挑戦してみる事も大事。私達は年齢的にまだ若いから、まだまだチャンスがあるわ」

 

「前に進む……ですか」

 

「そう。私もアルファモンになりたての時は剣術の練習に明け暮れたり、独学で魔法を学ぼうと色んな世界で修行を重ねた。何事にもとにかく挑戦して来た。傷ついたりするのを分かった上で挑戦し、色んな相手と戦って来た。そうしている内に分かったの。強い心……精神力の強さが大事な事を。例え何度傷付いても立ち上がる強い心。それは直ぐに出来る物じゃない。でも鍛える事で手に入るわ」

 

「鍛える事……」

 

「そうね。貴方に必要なのは経験ね。先ず色んな事をやってみる。色んな事を知る。何事も勉強よ? けど貴方はいつか私を超える聖騎士になれるわ。強くて優しい聖騎士に」

 

「ありがとうございます……」

 

 優衣は一真に忠告をした。“空虚な聖騎士になってはならない”と。確固たる正義と思いが無ければ、オメガモンの力に翻弄されて虚しい勝利しかもたらさない。

 流石に真意までは伝わったかどうかまでは分からないが、一真は優衣の言葉を胸に刻み付けた。

 

 

 

 広大な草原に降りて来た一真と優衣。ここからが一真にとって本番。優衣ことアルファモンと戦わなければならない。

 草原の中央で対峙する2人の人間。真剣な表情を浮かべている優衣と、戸惑いを浮かべている一真。

 

「さて、模擬戦を始めましょうか」

 

「どうしても……やらないといけないんですか?」

 

「決まっているじゃない。貴方の為よ。貴方の心に巣食う闇を解き放つ。それが私の使命。最後まで貫く! 究極進化!!!」

 

 優衣は『電脳核(デジコア)』に内包されている力を解き放ち、光を膨れ上がらせながら進化の繭を形成する。

 繭の中で優衣の身体が変貌していくと共に巨大化していく。アルファモンの情報が優衣の身体に読み込まれ、身体情報を流出させながら戦闘経験を蓄積される。保有能力を具現化し、再現させる。これが人間からデジモンになる事の意味。いわゆる究極進化。

 

「アルファモン!!!」

 

「戦うしかないのなら……仕方ないか。究極進化!!!」

 

「そうだ。それで良い」

 

「オメガモン!!!」

 

 姿を現したアルファモンを目の前にし、ようやく一真も戦う意思を固めた。優衣と同じように、『電脳核(デジコア)』に内包されている力を解放して進化の繭を形成し、オメガモンへと究極進化する。

 姿を現した2体の聖騎士。同じ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。それが模擬戦とは言えど、戦う事になる。屈指の好カードと言えるだろう。

 戦う気力に満ち溢れるアルファモンと、何処か戸惑っているように見えるオメガモン。そんな対照的な2体の聖騎士が戦いの準備を始める。

 

「聖剣グレイダルファー、召還!」

 

 アルファモンは両手で魔法陣を描き、中心に手を入れて突き刺さっている光の収束を引き抜いた。聖剣グレイダルファー。それを両手に握り締め、目の前で十字に構える。いつもの二刀流の構えだ。

 対するオメガモンも戦闘態勢を整えた。右手を前に突き出し、メタルガルルモンの頭部を象った右手の口部分からガルルキャノンを展開する。

 更に左腕を振るい、ウォーグレイモンの頭部を象った口部分からグレイソードを射出させてかた左手を後ろに引き、地面と水平に構える。

 

「行くぞ!」

 

 先に動いたのはアルファモン。左手に握る聖剣グレイダルファーを振り上げ、地面を這う黄金の剣圧をオメガモンに向けて放つ。

 牽制の一撃であり、力試しの一撃でもある。それを前にしたオメガモンは空高く飛び上がり、急降下の勢いと共にグレイソードを突き下ろして来る。

 

「ハァッ!!」

 

 耳をつんざくような金属音と轟音が鳴り響くと共に、2体の聖騎士の周囲から凄まじい破壊の衝撃波が撒き散らされていく。

 アルファモンは右手に握る聖剣グレイダルファーを下段に構え、振り上げる事でグレイソードの軌道を捻じ曲げる。

 しかしそれだけでは終わらない。オメガモンはグレイソードを弾かれた勢いを利用し、背中に羽織っているマントを翻しながらアルファモンの背後に回り込み、後頭部に向けてグレイソードを薙ぎ払う。

 

「ッ!」

 

 アルファモンは背後を振り返り、迫り来るグレイソードに驚きながらも、直ぐにその場から飛び退いて後退する。

 そして左手に握る聖剣グレイダルファーの剣先をオメガモンに向け、魔法陣を描く事なく魔法を発動させ、凄まじい水流を放つ。

 

「スプラッシュレイザー!!!」

 

 回避するのか。それとも迎撃するのか。選択肢は2つある。オメガモンは回避する事を選択し、スプラッシュレイザーを回避する。そこから迎撃するという選択を取った。

 ガルルキャノンの砲身の内部で自らの生命エネルギーを圧縮させ、砲弾形に凝縮したエネルギーを連射していく。合計3発の青色のエネルギー弾がアルファモン目掛けて襲い掛かる。

 

「フフフッ……」

 

 しかし、ガルルキャノンの連続砲撃は無駄打ちに終わった。アルファモンの姿が消失し、先程までいた場所を3発の青いエネルギー弾が虚しく通過していった。

 ただ姿を消したのではない。周りの風景に溶け込むようにして姿を消した。まるでカメレオンのように。

 周囲一帯に『波動(コード)』を放ちながら、突然の奇襲に警戒しながら辺りを見渡すオメガモン。その背後にアルファモンが現れ、左手でデジモン文字を刻んで魔法陣を描く。

 

「グアァァッ!!!!」

 

 突如として出現した紫色の魔法陣。そこから伸びた4本の鎖に四肢を捕らえられ、魔法陣に磔にされたオメガモン。

 紫色の魔法陣からは凄まじい電撃が放たれ、オメガモンに苦痛の叫び声を上げさせる。その上、拘束した相手のエネルギーを吸収する事も出来る。

 

「(パワーを上げる……この拘束から逃れる為に!)グッ……ウオォォォ……!」

 

 魔法陣の拘束から逃れようと、オメガモンは全身に力を溜め始める。それに応じて拘束力が強まっていくが、口から苦しそうな呻き声を上げながらも、力を溜め込む。

 次第に大きく、はっきりしていくオメガモンの声。それに応じて力が増していく。誰が聞いてもはっきりと、確実に分かるレベルで。

 その瞬間、オメガモンの全身から純白の閃光が放たれる。それはアルファモンを驚かせ、背中に羽織っているマントで防がせる程強烈にして鮮烈。

 

「オメガバーーストッ!!!」

 

 オメガモンが放った技名はオメガバースト。エンシェントグレイモンの必殺技。強烈な閃光を放つと共に、周囲数キロを破壊する超爆発を引き起こす物。

 その輝きは超新星爆発を思わせ、そのスピードは回避する事を絶対に許さない程、凄まじい。その爆音が響き渡ると共に、世界を静寂が包み込む。模擬戦の一切の音さえも消し去る恐ろしい技。

 大地は瞬く間に蹂躙され、アルファモンが全身に纏っている漆黒の鎧にも傷が刻まれ、中には罅が入っている所もある。

 最早“技”ではない。“天災”の領域だ。抗う方法はない。それに耐えるか、同じ“天災”で迎え撃つだけ。それ程までに圧倒的な力。破壊による蹂躙。

 

 

 

「やるものだな……だがここからが本当の戦いだ」

 

 立ち上がったアルファモンは宣言する。ここからが本当の戦いだと。今までは腕試しだったようだ。

 更なる進化を宣言した途端、全身を覆い尽くす程の膨大なエネルギーの奔流が発生し、アルファモンの周りにエネルギーが渦巻く。

 

「ウオォォォォォーーーーー!!!!! アルファモン、突風進化(ブラストエボリューション)!!!」

 

 渦巻くエネルギーの中でアルファモンの両眼が輝く中、アルファモンの真の力が解放される。エネルギーの繭が消失した後、リミッターを解除したアルファモンが姿を現す。背中の黒い翼のような物から黄金の翼が生えている。

 それはアルファモンが放ったデジ文字の魔法陣の作用により、オウリュウモンが奇跡的な進化を遂げた姿。その名はアルファモン・王竜剣。

 

「アルファモン・王竜剣!!!」

 

 ついに本気を出したアルファモン。昨日の戦いの展開によく似ている。もしかすると、昨日の戦いを知った上で自分を鍛えに来たのか。そう思っても無理はない。

 オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構えるが、先程のオメガバーストで使用したエネルギーにより、体力が半分以下にまで落ちた事に気付いた。

 このまま長期戦に持ち込むと危ない。ガルルキャノンの砲撃は最小限に止め、なるべくグレイソードによる近接戦に持ち込むしかない。

 それを理解した上で自分にオメガバーストを使えるように仕向けたのか。だとしたら、目の前の相手は恐ろしい。強い上に頭も切れる。完全なる格上。正攻法では勝てる確率は限りなく低い。

 

(それでも戦うしかない!)

 

 オメガモンが自分を奮い立たせながら闘志を燃やす中、アルファモン・王竜剣は左手でデジモン文字を刻み、魔法陣を描いてその中心から王竜剣を引き抜く。

 王竜剣を両手で握り締めると同時に突進を開始。オメガモン目掛けて大上段から王竜剣を振り下ろし、オメガモンはそれをグレイソードで受け止める。

 

「(な、何というパワーだ!)グアアアァァァッ!!!!!」

 

 受け止めたまでは良かったが、問題はここからだった。受け止めきれず、防御した上から斬り下ろされた。アルファモンが振り下ろした王竜剣。それが凄まじい程重く、まるで宇宙を斬り裂かんと言わんばかりの一撃だった。

 王竜剣ことオウリュウモン。彼は元々更なる戦闘力を追求した実験体の“プロトタイプデジモン”の究極体。彼が剣になった事で、その戦闘力の全てが攻撃に集約される。

 王竜剣を振るう事はオウリュウモンに内包された全ての力を扱う事。なので、王竜剣は普通のデジモンでは使う事すらできず、並大抵のデジモンがまともに戦える剣でもない。

 そんな凄い武器を振るう聖騎士相手に正攻法では勝ち目がない。そう判断したオメガモンは斬り傷が出来た事に顔をしかめつつも、後方に跳んで距離を取る。

 

「逃がすか……メテオバレット!!!」

 

 しかし、アルファモン・王竜剣はオメガモンに休む時間を与えない。王竜剣の剣先を向け、3発の火炎弾を撃ち出す。

 グレイソードを横薙ぎに振るい、三日月型の剣圧を飛ばして3発の火炎弾を消し去るオメガモン。だが、メテオバレットはアルファモン・王竜剣にとってオメガモンを攻撃するのではなく、オメガモンに隙を作らせるだけに放った初級魔術。

 

「ッ……!」

 

「―――黄鎧」

 

 グレイソードを構え直したオメガモンが見た物。それは大河の土砂流のごとく荒れ狂いながら、突進して来るアルファモン・王竜剣。

 防御しようとするも時既に遅し。自然災害としか言えない巨大な土砂流の台風を思わせる、斬撃の嵐。それに斬り刻まれ、オメガモンは地面に倒れ込んだ。

 

「思い上がるなよ、オメガモン。俺とさえまともに向き合う事の出来ない貴方が、これから先に待ち受ける戦いで勝ち残れる筈がない!」

 

「アルファモン……私には貴方と戦う理由がない!」

 

「まだそんな事を言うのか……理由はある! 強くなる為だ。貴方は何の為に戦う!」

 

「戦えない人々の代わり……力のない人々を守る為に!」

 

「なら何故守ろうと決めた!」

 

「私が守りたいと思った理由……」

 

 オメガモンの心を深く抉っていくようなアルファモン・王竜剣の質問。それはまるで、優衣が一真にしているような感じだった。

 守りたいと決めた物ははっきりしている。だが、戦う理由がはっきりしていない。それが今の一真であり、今のオメガモン。

 

「今の貴方に足りないのは正義と、それを支える信念。それがない聖騎士は虚しい聖騎士だ。ならばここで終わらせるのがせめてもの救い……覚悟! 究極戦刃王竜剣!!!」

 

 刀身に黄金の光を纏わせた王竜剣で斬りかかるアルファモン・王竜剣。対するオメガモンは何も出来ず、自分に振り下ろされる王竜剣を見つめる。

 

(私は悔しかった……盟友達と最後まで戦えなかった事が。秘奥義を封じられ、敵の幹部と首領に倒されたのが。だから私は託した。私が倒せなかった敵を……必ずや私の力を継いだ誰かが倒すと)

 

 もし聖杯戦争にオメガモンが参戦するとしたら、叶えたい願いは“最後まで戦い抜く事”だろう。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”の前の戦いでバグラモンとタクティモンに倒され、仲間達と最後まで戦い抜く事が出来なかった。

 オメガモンの心残りであり、果たしたい願い。それがどういう訳か知らないが、新生して果たすチャンスを掴む事が出来た。

 

(それが一真と一体化してチャンスを掴んだ……そのチャンスを手放したくない。私が戦う理由は……一体何の為に? 何の為に今まで戦って来た? 誰かに押し付けられたのではない。義務や使命の為……? 違う。私が戦う理由は一真の為だ。彼の大切な物を奪った代わりに、彼が大事にしていた物を守る為に戦う! それが私の戦う理由だ!)

 

 目の前から迫り来る王竜剣。それをグレイソードで受け止めるオメガモン。その瞳は光が灯り、アルファモン・王竜剣を思わず唸らせる程。

 オメガモンは一真と一体化し、彼が大切にしていた物と引き換えに新生した。ならばやる事は決まっている。いや最初から決まっていた。

 

「ほぉ……」

 

「私は義務や使命で戦って来た訳じゃない。人を、デジモンを、世界を守りたいという思い。皆を愛しているから私は戦っている!」

 

「そうだ! それで良い! それだよ、貴方が戦う理由は!」

 

 グレイソードを振り抜きながら、力強く宣言するオメガモン。吹き飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、アルファモン・王竜剣は着地した。

 その表情は何処か楽しそうに見える。ようやくオメガモンこと一真がスタートラインに立てた。そんな気がするから。

 

「私はこの世界で甦った事で大事な事を忘れていた。私が戦う理由を。そして一真の事を。究極進化出来るようになっただけで戦えると思っていた。自分の事ばかりで、一真の事を理解しようとも、彼に宿る力を引き出そうとしない、私の愚かさが分かったよ。ブランクさえ埋めれば、また生前のように戦えると思い込んでいた自分が情けない!」

 

「オメガモン……」

 

「人間は道具じゃない。我々と同じだ。それぞれ名前がある。人間とデジモンは同じ。今を生きる者達。手を取り合い、共存出来ると私は信じている。私は一真の大切な物を奪ってしまった。私の大切な物を取り戻した代償に。だから守りたい。せめてこの世界の人々の命を、日常を、世界を! その為に私は戦う!」

 

 オメガモンが叫ぶと共に胸部に埋め込まれた紅い宝玉が眩い輝きを放ち、全身を覆い尽くす程の膨大なエネルギーの奔流が発生し、周囲一帯に凄まじい量のエネルギーが渦巻く。

 戦場における様々な情報が分析され、予測された結果が直接オメガモンの脳に伝達されていく。『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』が発動した証だ。

 

(何だ……この文字?“万象一切灰塵と為せ”……? 一真、これが君の力なのか?)

 

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』で伝達された謎の言葉。首を傾げるオメガモンがグレイソードを見ると、刀身がギリギリと唸りを上げている。まるで未知なる力に歓喜のあまり震えているように。しかも灼熱の火炎が噴き出すおまけ付きだ。

 どうやらグレイソードの力を引き出す言葉のようだ。居合抜きのような構えを取り、オメガモンは力強く宣言する。

 

「“万象一切灰燼と為せ”!」

 

 宣言と共に解放されたグレイソードに秘められた力。刀身の全体から太陽の灼熱が発せられ、2体の聖騎士の周囲一帯が火炎に包まれる。

 これが人間とデジモンが一体化した事で得た新しい力。それにオメガモンのみならず、アルファモンですら驚いた。

 

「これが……オメガモンの新しい力……!」

 

「そのようだな。貴殿も新しい魔法を習得出来たみたいだ。行くぞ、ここから反撃開始だ!」

 

 先程と同じ刺突の構えを取り、心を昂らせるオメガモン。火炎で温度が上がっている地面を強く踏み締め、前進すると共に突撃を開始。

 強化された脚力と全身の瞬発力を最大限に活かした踏み込み。それが爆発的な加速となり、瞬間的に神速の領域に足を踏み入れる速度を叩き出す。

 草原を駆け抜ける純白の閃光。その巨体が凄まじい破壊を撒き散らしながら、神速超過の衝撃波で背後を薙ぎ払う。

 

「フッ!」

 

(さっきより力が上がっている! スピードも、何もかもが!)

 

 突き出されたグレイソードを王竜剣の一閃で弾くアルファモン・王竜剣。先程より総合スペックが上昇している事に気付きつつも、反撃する事も忘れない。

 返す刀で大上段から王竜剣を振り下ろす。先程までならこのカウンターをオメガモンは喰らっていた。しかし、今のオメガモンは違う。

 弾かれたグレイソードを振るって王竜剣の斬撃を受け流し、大きく一歩を踏み込みながらグレイソードを薙ぎ払う。

 

「グァッ!!」

 

 初めてアルファモン・王竜剣に入ったダメージ。確かな手応えを感じるオメガモンとは対照的に、アルファモン・王竜剣の顔は険しくなる。

 今の斬撃は太陽の火炎で焼き払われたような物。太陽の熱量を鎧越しに感じつつ、直ぐに後退しながら距離を空ける。

 グレイソードの間合いから逃れながらも、王竜剣の間合いの範囲内。その絶妙な距離を保ちつつ、アルファモン・王竜剣は斬り掛かる。

 

「“燃え上がれ”!」

 

「何!?」

 

 オメガモンが吠えると同時に、太陽の灼熱は灼熱の波濤となった。驚くアルファモンの攻撃を受け流し、返す刀で斬り付ける。

 攻防一体の灼熱の波濤。それを卓越した剣技で自分の手足のように自由自在に動かす事で、オメガモンはあらゆる攻撃を受け流し、あらゆる敵を焼き尽くす事が出来る。

 

「アイスランサー!!!」

 

 更にまた距離を取ったアルファモン・王竜剣。どうやら先程のような斬り合いを捨てて、遠距離から魔法の攻撃に切り替えたようだ。

 完全に状況は逆転した。それでもアルファモン・王竜剣は戦いを諦めない。左手でデジモン文字を刻み、空色の魔法陣を描く。

 

「アイスランサー!!!」

 

(何のつもりだ……この魔法攻撃は無意味なはずなのに。まさか!)

 

 魔法陣から放たれた複数の氷の矢。グレイソードを薙ぎ払い、灼熱の波濤で瞬時に消し去る。予定調和の如き結果。それにオメガモンは引っ掛かりを覚える。

 一体何を考えているのか。そう思った瞬間、予測結果が伝達される。それを見る暇も与えないのか、目の前にアルファモン・王竜剣が出現し、王竜剣を薙ぎ払って来る。

 

「永世竜王刃!!!」

 

「グレイ……ソォォォォーーーーーーードッ!!!」

 

 放たれた王竜剣の渾身の薙ぎ払い。オメガモンはグレイソードを下段に構えると共に深く腰を落とし、強靭な足腰から来る反動をグレイソードに乗せ、カウンター攻撃として灼熱の波濤で焼き尽くす。

 太陽の熱量と輝きを併せ持った斬撃。それを前にしては、流石のアルファモン・王竜剣も沈むしか無かった。模擬戦はオメガモンの逆転勝利。新たなる力を得た堂々たる勝利だった。

 

 

 

 ”電脳現象調査保安局”の何処かにあると言われているお寿司屋。それは“寿司処 王竜剣”。優衣が店主をしているお寿司屋。

 一真との修行を終え、仕事を終わらせた優衣。彼女は仕事が終わった後、“寿司処 王竜剣”を開いて寿司を握っている。

 

「成る程。……修行の方は成功したという事か」

 

「はい。経緯はどうあれ、一真君はオメガモンになりました。修行が成功してくれないと困ります」

 

「随分と辛辣……でもないな。事実として、今デジタルワールドと人間界に危機が訪れている」

 

「でも彼は歴代最強のオメガモンになるでしょう。間違いないです」

 

「つまりは強いという事か……大事に育てなければ」

 

 この日のお客は薩摩&クダモン。彼らに寿司を振る舞いながら、優衣は一真の修行の全てを報告した。その結果に満足している薩摩と、ドライな一面を見せる優衣と、険しい表情のクダモン。

 彼らは気付いている。今デジタルワールドと人間界に危機が訪れている事。現在起きている現象がそれを裏付けている。

 




 この小説のヒロイン、工藤優衣。
『Pixiv』様で書いていた前の小説では、寿司職人・お姉さま・滅茶苦茶強いヒロインでしたが、この小説でも引き続きこの路線で行こうと思います。
ただ設定は若干変えてあります。アルファモンが『X-evotuion』出身だったり。
 いきなり主人公の修行回が来ましたが、これは職業=聖騎士という事もあり、一種の新人研修(内容はアレだけど)として結構スパルタ的だったと思います。
でもこうでもしないといけない事情がありますが、それは次回以降説明します。
それと色々と詳しい話も進めていこうと思います。
 次回から本格的なスタート(やっとです。始まるのが遅いとか言わないで下さい)になるので、お楽しみに。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

次回予告

新人研修(?)が終わり、いよいよ本格的に動き出す事となった一真。
現在起きている人間界とデジタルワールドの危機を説明され、不安を抱くも早速来た案件に挑む事に。

第6話 聖騎士の初陣 プールの悪魔


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第6話 聖騎士の初陣 プールの悪魔

今回の話は第1章の終盤までのスタイルを確立させる大事な話です。
基本的に『時を駆けるハンターたち』を参考にしていますが、所々変更しています。
序盤はヤバい設定を投下していますけど、どちらかと言うと説明回でもあります。

ではお楽しみ下さい!



 ”電脳現象調査保安局”のトレーニングルーム。そこには最新鋭の設備が整っているが、その一角にあるランニングマシーンでは一真が走り込みをしている。

 優衣ことアルファモンと模擬戦をした次の日から、新人研修に突入した一真。軍隊式の訓練や座学を経て、ようやく新人局員として働き始めた。月末に初めての給料を貰い、早速親の為に引き出して手渡した。実に親孝行な一真だ。

 仕事が一段落した為、今は身体を鍛えている。やる事がないからではない。これからの戦いに備え、今の内にやれる事をやる。そう考えた上で走っている。

 以前行った山登りの成果なのか、或いは模擬戦でオメガモンの力を更に引き出させた事による恩恵なのか。いや新人研修による賜物なのだろう。身体能力がまた向上している。

 

(そう言えば“デジモン化”の影響がない……やっぱりディアボロモンとの戦いの時は力に慣れる為に起きたみたいだな。身体が慣れて来たみたいだし……それにグレイソードの力も僕が引き出したっぽいから何もなかったし……)

 

 元々体育会の部活動に入っていた為、一真自身はトレーニングを行う事に全くの抵抗がない。増してや、オメガモンの為に、確固たる正義と信念の為に戦うのであれば猶更だ。

 走り込みの中で銀髪の髪に触りつつ、”電脳現象調査保安局”に入局して1ヶ月の間に起きた出来事について振り返っていた。

 この1ヶ月間の間に様々な事があったが、デジモン関係の出来事は無かった。だから一真も安心して研修に励む事が出来た。

 正局員として働き始めたのは今日が最初。先程まで人間界とデジタルワールドの現状について話を聞いていた。

 

「初めまして、一真君。僕はウィザーモン。デジタルワールドの在り方や人間界との関わり合いについて研究している学者さ」

 

「テイルモンよ。へぇ~貴方が優衣の言っていた人ね。良い男じゃない」

 

「ありがとうございます!(マジかよ……まさかリアルでこの2体のデジモンにお目にかかれるとは! デジモン万歳!)」

 

 講師は魔法使いのような姿をした魔人型デジモンのウィザーモン。そして助手はネコのような姿をした聖獣型デジモンのテイルモン。

 この組み合わせに生粋のデジモンファンたる一真は内心大喜びしているが、内面を押し隠して姿勢を正す。

 これから大切な話がある。一体何が起きているのか。自分が戦う相手は誰なのか。為すべき事は何なのか。それを知らなければならない。

 

「一真君。これから話す話は大事な話だから注意して聞くように。先ず、今現在何が起きているのかを説明するね」

 

 ウィザーモンが合図を送ると、テイルモンがタブレットを動かす。すると、一真の目の前のスクリーンにパワーポイントが出現する。

 そこに書かれているのはデジモンの出現に関する情報。デジモン達は何故どのようにしてデジタルワールドから人間界に来ているのか。その理由だった。

 

「今は人間界にデジモン達が目撃されたりしているけど、その理由は“デジクオーツ”という世界が原因なんだ。人間界とデジタルワールドを繋ぐ道、その中間にある世界なんだ」

 

「“デジクオーツ”……そこはオメガモンの姿でいけますか?」

 

「いけるよ? オメガモンは次元を越える能力を持ち、様々な世界を行ったり来たり出来るから」

 

 人間界とデジタルワールドの中間にある世界、“デジクオーツ”。デジタルワールドからその世界に迷い込み、人間界に来るパターンが多い。

 その場所にはオメガモンの姿でいけるという事。次元を越える能力を持っている為、様々な世界を行ったり、世界に来たりする事が出来るからだ。

 

「一応“デジクオーツ”には専用のゲートがあって、そこから入る事も出来るけど、デジモンが開通させたルートからも行けるんだ」

 

「と言う事はこの世界とデジタルワールドは繋がっている事になるんですか?」

 

「それは分からないけど、可能性は無きにしも非ずだね」

 

「“デジクオーツ”が無くなれば、人間界とデジタルワールドを繋ぐ道はどうなるのか。それはまだ分からないわ。でも“デジクオーツ”の存在が分かったのはつい数日前。貴方が撃退したクワガーモンを調査した結果なの」

 

 オメガモンがクワガーモンを撃退して冷凍標本にして持って来た時、ウィザーモンとテイルモンの方で解析を行った。

 その結果、“デジクオーツ”の存在が明らかになった。それでも一真には疑問がある。幾つか気になる事があるからだ。

 

「分かりました。ですが気になる事がもう1つ。誰がクオーツモンを復活させたかという事です」

 

「それは僕達でも分からない。でも分かる事がある。クオーツモンのデジモンが奪われ、シャウトモン達皆が負けたという事だ」

 

「何ですと……!?」

 

 クオーツモン。デジクオーツを生み出した張本人であり、一真が今回の事態の黒幕と考えているデジモン。

 増大し続ける人間界のデジタルパワーによって生まれた歪みのような存在だったが、クロスハートとバグラモンの戦いで生じたエネルギーによって自我を持ってしまった。

 自身の体を粒子化してばら撒いて人間界に“デジクオーツ”を広げ、吸収して自身を強化するためにデジタルワールドからデジモンを“デジクオーツ”に引き入れた。

 戦いの結果、最終的にデジタマになり、現在はシャウトモンによってデジタルワールドで保管されていた。しかし、何者かによって奪取され、復活してしまった。シャウトモン達は倒されると言う事実込みで。

 

「どうやら事態は思っているより深刻みたいですね。だから優衣さんは僕に……」

 

「そういう事みたいだね。話はここまで。それじゃあ休憩にしよう」

 

 これがウィザーモンとテイルモンから話された内容。それは一真の心に突き刺さる。戦うべき相手。やるべき事。それでも一真は進む道を選ぶ。

 相手はクオーツモン。そして彼を蘇らせた黒幕もいる。これから待ち受ける過酷な戦いに向けて、一真は己を鍛え上げようとトレーニングルームへと向かっていった。

 

 

 

「デジモンの『波動(コード)』?」

 

「えぇ。それが光が丘高校から放たれているの」

 

「僕の母校から……?」

 

 昼食を食べ終え、仕事に戻った一真のディーアークに反応があった。その反応を鏡花と一緒に見ると、光が丘高校からデジモンの反応が感じられた。

 光が丘高校。それは一真が通っていた進学校。まさか、母校でデジモンの『波動(コード)』が発せられているとは思ってもみなかったのだろう。

 

「どういう事なのか調査してきて欲しいの。貴方の母校なら話が早いでしょ?」

 

「分かりました。行ってきます」

 

「アポはこっちでするから頼むわよ」

 

 ”電脳現象調査保安局”の仕事の1つ目。デジモンが関わる電脳現象の発生に気付いた時、現場に向かって調査活動をする。

 一真が現場に赴こうと自家用車が置いてある駐車場まで向かっている最中、鏡花が電話で光が丘高校に連絡を入れる。これで準備は万端。

 ここから光が丘高校まで30分程。一真の心は闘志で滾る。卒業生として後輩達を助ける為に。オメガモンとして正義を貫く為に。

 

「君が我が校の卒業生、八神一真君か」

 

「はい。よろしくお願いします。藤宮校長」

 

 高校の応接室。卒業生の一真とは初対面となる藤宮孝也。彼が今の光が丘高校の校長先生だ。一真が卒業した数年後に校長先生となった。ちなみに一真の時は相川和也校長だった。

 早速藤宮校長から聞き込みを開始する一真。流石に生徒の名前は個人情報とプライバシーの観点から聞く事はしなかったが、一体どのような生徒達なのかを聞き出した。

 話を一通り聞き終えた一真は母校を後にし、立ち寄ったコンビニの駐車場に車を泊め、スマートフォンで鏡花に報告する。

 

「……以上が校長先生から聞いた話でした」

 

『成る程ね……生徒達の集団失踪事件が起きていて、被害者は皆何か悩みや不安を抱いているのね』

 

「はい。勉強や部活、受験とか……どうやら犯人は彼らの抱く負のエネルギーを吸収し、強くなっていると思われます」

 

『中々の知能犯ね。そのデジモンがいそうな場所は分かったの?』

 

「プールから『波動(コード)』を感じました。恐らくプールに潜伏しているみたいです。今は手出しできませんでしたが、夕方~夜なら……」

 

『水中戦が得意なデジモンね……分かったわ。一度戻って来て』

 

 校長先生から話を聞き、学校中を歩き回って調査した結果、一真は今回の事件の全貌を掴みつつあった。

 犯人は水の中に生息しているか、水中戦が得意なデジモン。狙っているのは何らかの事情で心に負の感情を抱いている生徒達。狙う理由は極めてシンプル。自分が強くなる為。

 報告を終えた一真は”電脳現象調査保安局”に戻り、鏡花・ウィザーモン・テイルモンと作戦会議を行う。確実に犯人を撃退し、デジタルワールドに連れ戻す為にも。

 

「……成る程。これは手強い相手だね。何か作戦はあるのかい?」

 

「あります。卒業生だった時の経験を活かす時です!」

 

「どうやって?」

 

「僕が生徒に変装するんです!」

 

 一真は鏡花・ウィザーモン・テイルモンに作戦を説明する。まだ実家には高校生の時に着ていた制服が眠っている。しかもデザインは今でも変わっていない。

 その為、着こなしてそれ相応の振る舞いをする。特に将来の不安を抱えている姿を見せる事で。相手を誘い出し、その上でオメガモンに究極進化して“デジクオーツ”に引き込み、撃退してデジタルワールドに連れ戻す。

 作戦は極めてシンプル。だからこそ鏡花・ウィザーモン・テイルモンは疑問に思う。果たしてこの作戦で上手く行くのかと。

 

「僕の直感は悪い時に当たりますが、“奴は必ず今夜仕掛ける”と囁いています。恐らく力を欲する為に、そして今まで成功しているので必ず来るでしょう」

 

「分かったわ。この案件、貴方に一任するわ」

 

「ありがとうございます」

 

 鏡花から作戦を一任され、深々と頭を下げる一真。早速作戦を行う為に自宅に戻り、高校時代の制服を用意する。その表情は最早一人前の戦士にしか見えない。

 生徒達が失踪する時間帯は毎回決まっている。夕方~夜にかけて。部活動や勉強に専念している時間帯だ。

 

 

 

「ハァ~困ったなぁ……この成績じゃ志望校には合格しないよ」

 

 夕方。時間帯は大体午後の6時と言った所か。光が丘高校の玄関から1人の男子生徒が出て来た。彼が手にしているのは模擬試験の結果。

 一見成績が良く、有名な大学に入れそうな感じがする結果表。しかし、第一志望の大学の判定はCランク。どうやら思ったより手応えが無かったようだ。

 男子生徒は顔を俯け、どうすれば良いのか途方に暮れる。今は9月。本番のセンター試験は1月の中旬。頑張ればまだまだ可能性が見えて来る。それでも悲観しているのには何か理由があるのだろう。

 

「僕の志望校、結構人気だからな……勉強法とか時間とか色々見直さないときついぞ、これ。まぁ頑張ろう」

 

 理由は志望校にあった。彼が目指しているのは上位の国立大学。レベルや志望者も多く、合格するには並大抵の努力では無理だ。

 これで勉強方法等の見直しを迫られる結果となった。結果表をカバンの中に入れ、男子学生は自宅に向かって歩き出す。

 その男子生徒をプールの中から見つめている影があった。彼を捕らえようと触手が伸びていくが、男子生徒は触手を掴み取った。

 

「成る程……こういう手口で生徒達を拉致していたのか」

 

「!?」

 

 犯人であるデジモン。彼の手口は至ってシンプル。自分を強化する負のエネルギー。それを心に宿している生徒を拉致する。

 潜伏場所は学校のプール。9月に突入し、水泳の授業はもう行われていない。それを利用しての犯行だった。

 

「もうお前の好きにはさせない! 一緒に行こうか、“デジクオーツ”に! 究極進化!!!」

 

 男子生徒に扮した一真が吼えると共に、全身を覆い尽くすと言わんばかりの光が放たれ、一真とデジモンの周囲を包み込むかのように光が渦巻く。渦巻く光の中で一真の黒い瞳が空色に輝き、一真は叫ぶ。

 渦巻く純白の光はやがて光の繭へと変わると、そのまま消えていった。一真はオメガモンに究極進化しながら“デジクオーツ”に向かっていった事となる。

 

 

 

「ここが“デジクオーツ”か……」

 

 初めて“デジクオーツ”に来たオメガモン。デジタルワールドとも、人間界とも異なる風景を見て目を細める。

 一真が知っている“デジクオーツ”。それは荒廃した人間界のような世界。或いはゲートが開かれた人間界の場所を模した地形や建造物がある。

 そうなると、学校やプールやグラウンドがある世界になる筈だ。しかし、目の前の風景は違う。広がるばかりの大海。全然話が違う。

 

(奴のテリトリーか?)

 

 思案しているオメガモンに突然襲い掛かる2本の触手。海中から放たれるが、オメガモンは直ぐに躱し、触手を伸ばして来た相手を睨む。

 触手を放って来た相手。今回の事件の犯人。それは背中に2本の触手を生やした悪魔のような姿をしたマリンデビモン。

 

「貴様が犯人だったか……マリンデビモン」

 

「おのれ……オメガモン。貴様のせいで私の計画が!」

 

「何の罪もない学生達を拉致した事を、このオメガモンは許さない!」

 

「ギルティブラック!!!」

 

 マリンデビモンは口から猛毒を含んだ墨を放つ一方、オメガモンはウォーグレイモンの頭部を象った左手を振るい、グレイソードを射出する。

 射出したグレイソードを左横に薙ぎ払い、青白い剣圧を飛ばして猛毒を含んだ墨を消し去ると、マリンデビモンは猛毒を含んだ墨の弾丸を連射して来る。

 左肩のブレイブシールドΩで防ぎながら、反撃のタイミングを伺っているオメガモンは気付いた。完全体のマリンデビモンが究極体に匹敵、もしくは同等の力を持っている事に。

 

(まさか生徒達の負のエネルギーを吸収し、パワーアップしたのか?)

 

「考え事している余裕はあるのか!」

 

 言葉と共に突き出された1本の触手の攻撃を胸部に受けるも、オメガモンは身に纏う純白の聖鎧でダメージを受けない。

 それでも衝撃までは無効化出来ず、オメガモンの動きは一瞬止まってしまう。その隙を逃さず、マリンデビモンは2本の触手によるラッシュを繰り出す。

 オメガモンは最小限の操作でグレイソードを振るいながら触手を弾いていくが、マリンデビモンはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

 その真意を探ろうとオメガモンが険しい表情をした途端、2本の触手で聖騎士の右手を絡め取り、そのまま海中へと引き摺り込んでいく。

 

「何!?」

 

「海の中じゃ力は発揮出来まい!」

 

 海中で対峙するオメガモンとマリンデビモン。聖鎧は錆びず、マントは水に濡れないが、流石に海の中では戦いにくい。

 何よりマリンデビモンは名前の通り、水中戦や海中戦を得意としているデジモン。幾らオメガモンでも不利なフィールドに連れ込まれた事になった。

 一応オメガモンも海中戦はこなせるが、経験があり、戦い方を知っているマリンデビモン相手には一苦労だ。ましてや、何らかの理由で強化されているのでなら猶更だ。

 

「ハァッ!」

 

「遅い!」

 

 グレイソードを構えて斬り掛かるが、海中にいる為か動きが遅く、キレがない。マリンデビモンに躱され、2本の触手の攻撃を今度は腹部に受ける。

 然程動じないオメガモンに、マリンデビモンは更なる追撃に出る。猛毒を含んだ墨の弾丸を連射する事で、オメガモンを防戦に追いやる。

 ギルティブラックを左肩に装備しているブレイブシールドΩで防ぎながら、初めての海中戦に苦戦するオメガモンは考える。

 

(幾ら奴のスペックが上がっているとは言え、所詮は金メッキ。でも先ずはここから抜け出す……いや私だけ逃れても意味がない。攻撃が海中にいるマリンデビモンに当たらなければ意味がない。何とかこの場所をマリンデビモンにとって不利な場所に書き換えれば……)

 

 オメガモンに考えさせる時間を与えてはいけない。そう言いたげにマリンデビモンはオメガモンを攻撃する。

 グレイソードと2本の触手。お互いの武器で戦う2体のデジモン。しかし、海中戦のエキスパートでもあるマリンデビモンが優勢に立っている。

 

―――駄目だ……このままじゃレギュラーになれない……部活なんて止めてしまいたい。

 

―――成績が伸びない……これでは志望校に手が届かない。

 

―――次のテストで高得点を取らないと駄目だ。留年しちゃうよ……

 

(これは生徒達の声! マリンデビモンが強くなった理由はやっぱりこれか!)

 

 “デジクオーツ”に迷い込んだデジモンは、一部の例外こそあれど、人間の心に影響される。人間の悪い心に影響されれば、負の感情を爆発させたかのような行動を取り、人間界に厄災をもたらす。

 今回の場合、高校生達の心に巣食う闇を利用する形で、マリンデビモンが生徒達を拉致して自分の力を底上げさせている。

 

「貴様……何の為に生徒達を誘拐した!」

 

「決まっているだろう? 強くなる為だ。人間達はこいつらのようにすげぇパワーを持っているからな……」

 

「私利私欲の為だけに生徒達を利用するとは……この生徒達は目の前の現実と戦い、負けないよう抗っている。その思いを踏み躙ろうとする悪魔は……このオメガモンが許さない!」

 

 一真が見ていた模擬試験の結果はかつて自分が受けた物。自分も同じ思いをしてきたから、彼らの抱える事情が分かる。

 それに付け込み、自分の私利私欲の為だけに利用しているマリンデビモン。その悪事を許す事が出来ないとオメガモンが言い放つと、メタルガルルモンの頭部を象る右手の目の部分に光が灯る。

 

「“蒼天に坐せ”!!!」

 

「何!?」

 

 オメガモンが右手に宿るメタルガルルモンの力を解放した瞬間、周囲の風景が一変した。海水が一瞬で凍り付き、周囲一帯に絶対零度の冷気が流れる世界へと変わった。

 ニブルヘイム。北欧神話の九つの世界のうち、下層に存在するとされる冷たい氷の国。ギンヌンガガプと呼ばれる亀裂を挟み、ムスペルヘイムの北方にあるとされる世界と成り果てた“デジクオーツ”。

 あまりの寒さに動きを止めたマリンデビモンと、平然としているオメガモン。これでマリンデビモンの戦術は封じた。先程までの戦い方も封じた事になる。

 

「貴様……汚いぞ! こんな真似をして!」

 

「そういう貴様も同じ事をしていただろう? これで振り出しに戻ったな」

 

「クソッ、でも強くなった俺は究極体級の力を得た。お前なんかに負けねぇ!」

 

「マリンデビモン。今の貴様を言い表すならこの言葉がお似合いだ。“身の程知らず”と」

 

 言葉を言い終えると同時にマリンデビモンの触手が襲い掛かるが、オメガモンはそれをメタルガルルモンの頭部を象った右手で弾き、グレイソードを横薙ぎに振るう。

 腹部に真一文字の斬り傷を刻まれ、吹き飛ばされるマリンデビモン。刻まれた斬り傷を触りながらも、目の前の現実を受け入れられないでいる。

 

「何故だ!? 何故こうも押される!」

 

「貴様の力が偽りだからだ!」

 

 究極体級の力のマリンデビモン。究極体デジモンの中でも、最強の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員のたるオメガモン。力の差は歴然だ。

 その後もグレイソードの連続斬撃でマリンデビモンは追い詰められるが、自分が拉致してきた生徒達から負のエネルギーを吸収し、力を更に高めながらエネルギーを回復した。

 

(まずい! このままでは生徒達が危ない! 短期決戦で仕留めなければ……それ以前にエネルギー源となっている生徒達とマリンデビモンを隔離しなければ!)

 

 オメガモンは負のエネルギーを吸収し続けるマリンデビモンより、拉致されてきた生徒達の心配をする。このままでは彼らが危ない。そう判断したからだ。

 先ずは生徒達から負のエネルギーを放出させないようにする。それがマリンデビモンの強化の阻止と、生徒達の保護へと繋がる。

 メタルガルルモンの頭部を象った右手の口部分から巨大な大砲を展開し、砲口を生徒達のいる場所に向ける。

 右手に宿す絶対零度の冷気を砲身の内部で凝縮させ、砲弾形に圧縮して撃ち出す。絶対零度の冷気弾が生徒達のいる場所の地面に着弾すると、彼らを覆い包むように拡散する。そうして出来上がったのは絶対零度の氷壁。

 

「これでもう生徒達には手出しできまい!」

 

「クッ、だが貴様を倒せば問題ない!」

 

「それはどうかな?」

 

 オメガモンはガルルキャノンの弾種を冷気弾からエネルギー弾に切り替えると、体内に貯蔵してある破壊エネルギーを砲身の内部で凝縮させ、砲弾形に圧縮してマリンデビモンに向けて撃ち出す。

 胸部にエネルギー弾を喰らい、吹き飛ばされるマリンデビモン。オメガモンは直ぐに追撃に出る。一瞬で距離を詰め、左手に宿っているウォーグレイモンの力を解放する。

 

「“万象一切灰塵と為せ”グレイソード!!!」

 

「グアァァァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

 解放すると同時に、刀身が太陽の灼熱に纏われたグレイソードを大上段から振り下ろし、マリンデビモンを斬り下ろしながら焼き尽くす。

 これが戦いの終わりを告げる一撃となった。オメガモンはデジタルワールドへ繋がるゲートを開き、マリンデビモンを送り返した。そして拉致された生徒達と共に“デジクオーツ”から脱出し、人間界へと戻っていった。

 

「俺、レギュラーを目指してもう1度頑張るよ! そんで目指すは全国制覇!」

 

「志望校に合格する為に、これからも頑張るわ!」

 

「留年だけはしねぇよう、ちゃんと授業を受けるぞ!」

 

(一緒に頑張ろうな、皆)

 

 数日後。光が丘高校の近くを歩く一真が見たのは、自分が“デジクオーツ”から救出した生徒達が活き活きとしている所だった。

 ある生徒は部活動に、ある生徒は大学受験に、ある生徒は留年回避に勤しんでいる。誰もが色々な問題を抱えつつも、現実と向き合って精一杯生きている。

 その様子を見た一真はニコリと微笑み、その場から歩き去る。自分がした事の達成感や、確かな手応えを感じながら。

 

 

 

 話を変える事を許して欲しい。この人間界には鏡花ことリリスモンやウィザーモン、テイルモンがいるが、実はもう何体かデジモン達が暮らしている。その一部を紹介しよう。

 

「ここを直して……良し。これで動くかな?」

 

 とある休日。白衣を着ている人間がコンピューターの修理を終え、タオルで額の汗を拭っている。彼の名前は獏良皇太郎(ばぐらこうたろう)。

 一真が住んでいる街の郊外にある大きな家に住んでいる研究者の男性。実はかなりの有名人であり、世界的にも名前が知れ渡っている。

 

「起動は……良し。操作の方も……完璧。修理は終わりました」

 

「ありがとうございます、バグラ先生!」

 

「先生はよしてくれ。私はしがない研究者だ」

 

 獏良が依頼人から先生と呼ばれているのには理由がある。彼は科学者であり、研究者。ノーベル賞も幾つか取っており、様々な技術や便利な道具を発明しては実績を残している。その知識と実力を賞賛され、“生きる神話”や、“人間国宝”と言われている。

 とは言えど、本人は人格者である為、常に謙遜している。それが余計に彼の株を爆上げしている要員になっているのは皮肉な話だ。

 

「陛下、ただいま戻りました」

 

「お帰り、タクティモン」

 

 帰宅して来たのは1人の男性。獏良にタクティモンと呼ばれたが、人間界での名前は禎島拓郎(ていじまたくろう)。有名私立高校の数学教師であり、剣道部の顧問。渋い顔つきだが、オーラが凄まじい。

 分かりやすい説明と的確な指導で毎年ハイランクな大学の合格者を出しつつ、剣道部を毎年全国制覇に導いている超優秀教師。クラス担任でもあり、様々な悩みや事情を抱えた生徒に寄り添い、彼らを導いている為、保護者からも非常に人気が高い。

 一部ではGTT(グレート・ティーチャー・テイジマ)と呼ばれているが、本人は全く意識していない。

 

「という事はブラストモンも戻って来たな?」

 

「はい、その通りです」

 

「ただいま~買い物してきたぞ~!」

 

「お帰り、ブラストモン」

 

 ブラストモンと呼ばれた男性は若本大輔(わかもとだいすけ)。筋肉質で優しそうな男性で、普段は建築会社に勤めている。

 人間離れしたパワーと純真な性格で会社の人気者であり、休日は農業に勤しんでいる事から、“最強若本”と言われている。ちなみにメロンをプレゼントすると、喜びのあまり踊り出すという謎の行動パターンがある。

 

「ただいま~あら、皆もう帰って来たの?」

 

「リリスモン、お帰り~!」

 

「あぁ、我々もちょうど今帰って来た所だ」

 

「兄上、ただいま戻りました」

 

「お帰り、弟よ」

 

 そこに帰宅したのは鏡花ことリリスモンと獏良の弟の遼太郎。遼太郎は一真が卒業した大学の教授。学部が違ったから会う事は早々無かったらしい。

 獏良一家の夕食。彼らは目の前の美味しい料理を食べながら、酒を酌み交わす。しかし、話している内容はシリアスだった。

 

「リリスモン。今の情勢はどうなっている?」

 

「ようやく電脳現象の原因が分かりました。“デジクオーツ”……デジタルワールドの歪みが人間界に悪影響をもたらしています」

 

「最近の怪事件やデジモンの目撃情報はそういう事だったのか……」

 

 拓郎ことタクティモンの表情が曇ると、皇太郎達の表情も曇る。彼らはこれが厄災の前兆だと感じ取っているからだ。

 タクティモン。武人デジモンの数万年分の怨念のデータを練り固めて作られ、ゼロアームズ<オロチ>のデータを元に建造された刀“蛇鉄封神丸”を振るう武人。その実力はオメガモンに勝るとも劣らない。

 

「保安局の皆は本当によく頑張っています。特に一真君ことオメガモンが……」

 

「君が言っていたあのオメガモンか。私とタクティモンが倒したあの……」

 

「えぇ。あの時に確実に強くなっていますわ。今の彼が希望の光。誰が転生させたのかは分かりませんけど……」

 

「恐らくはホメオスタシス(デジタルワールドの安定を望む者)だな……」

 

 一真ことオメガモンの事を言われ、皇太郎とタクティモンの表情が気まずくなる。かつての因縁の相手との再会。恐らく在り得る事から、会った時にどう言葉をかけて良いのか正直分からないからだ。

 その途端、食卓に嫌な雰囲気が流れる。その空気を察した遼太郎は話題を逸らそうと、皇太郎に話し掛ける。

 

「兄上。今回の背後には七大魔王が関わっていると思います」

 

「フム……その可能性は無きにしも非ずだな」

 

「私はバルバモンじゃないかと思います」

 

「同感だ。今デジタルワールドに残っているのはバルバモンとリヴァイアモンだけだ。リヴァイアモンは身体も大きい上にパワーもある。ただ……策略家ではないな」

 

「あの……俺、馬鹿だからこういう難しい問題はよく分からないけど……バルバモンは多分違うと思う」

 

『?』

 

 手を挙げながら、大輔はゆっくりと自分の意見を伝える。その内容に全員が首を傾げ、大輔の方を見ると、大輔は考えをまとめながらゆっくり話していく。

 大輔ことブラストモン。かつてはデジタルワールドの北方の山地で天災のごとく恐れられていたが、気まぐれな性格で簡単な嘘に騙される“愛すべき馬鹿”。

 しかし、根は優しく純真で、自分が馬鹿である事を自覚している。本人が自覚していないだけで、実は頭の回転は悪くない。

 

「俺が知っているバルバモンは……策略家。自分が必ず勝てる状況を作って動く……そういうイメージがある。俺のように突っ走る事しか知らない奴じゃない」

 

「確かに……デジモンキングのシャウトモン相手に無策で挑む事はしない筈だ」

 

「となると、黒幕は別にいるという事だな? でもこれ以上考えても机上の空論となる。ここまでにしよう」

 

 シリアスな話はここまで。皇太郎はお開きを宣言すると、途端に食卓は賑やかなムードが流れ始めた。

 

 

 

「ここにいましたか、皇帝陛下」

 

「あぁ。ここは私が気に入っている場所だからな」

 

 夕食が終わった後、皇太郎は満天の星空を見上げながら一人考え事をしている。そこに来たのは鏡花。

 皇太郎は自分が気に入っている場所で誰かと話したり、酒を酌み交わす事が大好きな一面がある。中々風流だ。

 

「何か考えていましたね?」

 

「そうだ。何故私がこの世界に転生したのかを……その理由を考えていた」

 

 皇太郎はそう言いながら右腕に目を落とす。彼の右腕は義腕のようになっているが、これは彼の生前に関係している。

 獏良皇太郎。又の名をバグラモン。かつて“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”にて、バグラ軍を率いた皇帝。バグラ軍を創設する前にデジタルワールドの神に戦いを挑むが、敗れて裁きの雷を受けて右半身を失った。

 辺境の地に堕ちた所、偶然発見した世界樹“イグドラシル”を発見し、その一部を削り出して作り上げた義肢で補った。

 

「私は堕天使。大罪人。前の世界では歴史に刻まれたであろう大戦を起こしたのだから。私がもっと……人間とデジモンの可能性を信じていれば、こんな事には……」

 

「いえ、陛下。貴方は正しかった。貴方が立ち上がらなければ、世界は変わる事がなかった。貴方は何一つ間違えていませんでした。少なくとも……私はそう思います」

 

「ありがとう。どうやら……私がこの世界に来た理由が少し分かった気がするよ。前世の償い。きっと転生してくれた神様がもう1度チャンスを与えてくれたみたいだ」

 

 バグラモンがバグラ軍を創設した理由は、別にデジタルワールドを支配したり、神に復讐したりする為ではない。悪に生まれたデジモン達の拠り所を作り、世界の行く末を見極める力を得る為だ。

 彼がいたデジタルワールドにはこのような決まり事があった。一度その姿に生まれたデジモンは死ぬまで性質を変える事は無く、善は善、悪は悪として生きなければならないという不平等な在り方。

 そして、悪に生まれたデジモンは世界を呪うことを宿命づけられ、いつか必ず正義の元に全ての名誉を奪われて滅ぼされるという理不尽な在り方。

 バグラモンは弟のスカルナイトモンを見てデジタルワールドの在り方に疑問を持ち、何度も神に詰め寄ったが、何も変わらなかった。その後に反逆し、堕天する事になった。

 

「リリスモン。結果的に、君を戦いに巻き込んだ事になる。済まない」

 

「いえ、この世界に来てからいつかは戦いに参加しなければならないと思っていました。それに……また陛下とこうして一緒にいられるだけで私は幸せです」

 

 実の所、鏡花ことリリスモンは”電脳現象調査保安局”の創設メンバーの1人。優衣にとっては姉御みたいな物。一真から見れば信頼できる上司。バグラモンからすると奥さん。

 様々な顔を持ち、色々なキャラを見せているリリスモン。デジタルワールドから人間界に来て、様々な苦労を積み重ねた結果、色んな意味で成長したと言えるだろう。

 

「随分な物好きだな、君は」

 

「陛下には負けます」

 

「アハハハッ、そうか。そうだな……私は今度こそこの世界と、デジタルワールドに沢山の希望をもたらし、眩い光で照らしたい。それが私に出来る事であり、前世の償いでもあり、彼らが魅せた可能性を更に繋げる事だと信じている」

 

 バグラモンが行っている研究は全て信念の為に行っている。人間の心に希望をもたらし、その光で照らす。皆が前を向いて生きられるように。生まれて良かったと心から思えるように。それが彼なりの前世の償いだ。

 リリスモンも同じだ。来たるべきデジタルクライシスに備え、他の七大魔王の面々と共に”電脳現象調査保安局”を創設した。他の面々は今では別々の道を歩んでいる。

 

「それに……私達は1人ではない。手を取り合い、共に立ち向かえる仲間がいる」

 

 バグラモンとリリスモンの他に、タクティモンとブラストモンもいる。更にはスカルナイトモン改め、ホープナイトモンもいる。

 彼らは前世の記憶と力を持っている。タクティモンは元々持っている武力と智謀、ブラストモンは凄まじいパワーと強靭な防御力、ホープナイトモンは聖騎士の力と相棒の聖闘士アックスモンがいる。

 

「また長い時間を共に生きると思うが、これからもよろしく頼むぞ?」

 

「はい。こちらこそ」

 

 少し離れた所で見守るタクティモン、ブラストモン、ホープナイトモンも思わず笑顔になる中、バグラモンとリリスモンは夫婦のように寄り添う。

 こうして何らかの理由で転生し、何らかの理由でデジタルワールドに来たバグラモン一家。彼らが一真ことオメガモンと再会し、戦いに参戦する日はそう遠くない。

 




第1章は1話完結型のデジモン絡みの事件が中心となります。

・基本的な流れ

デジモン関係の事件が起きる→調査する→犯人を突き止める→オメガモンが戦う→勝利してデジタルワールドに送還する

 こんな感じです。大雑把に書きましたが。
そしてオメガモンという最強のデジモンが主人公なので、どうしたらバトルが盛り上がるかという事を考えると、同格以上の相手を出し続けるのは限界があります。
そこで相手を何らかの方法で強化したり、オメガモンに全力を出させないように話を展開させるようにしました。特に第1章は。第2章からは違くなりますけど。
でも第1章でもそういう制約なしのバトルは今後も何回か書いていく予定です。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化しますので。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

ロボット開発に携わる社員達にムゲンドラモンの誘惑がささやかれる時、”デジクオーツ”のゲートが開く。
調査にあたる一真とテイルモンが見た物はブレイクドラモンだった。
果たしてムゲンドラモンの目的は!?

第7話 ムゲンドラモンの誘惑 ブレイクドラモン大暴れ!





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第7話 ムゲンドラモンの誘惑 ブレイクドラモン大暴れ!

先日初めて感想を頂きました。
そこで期待と指摘を受けたので、これからもっと皆さんが楽しめる物語を書いていこうと決めました。楽しめているかどうかは分かりませんけど。

ようやくタイトルがデジモンアニメっぽくなりました。
まだ第1章も本格的に始まったばかりなので、第26話まで勢いを維持しながら頑張ります。
お気に入り登録数も20を達成したので。

ではお楽しみ下さい。


 ”電脳現象調査保安局”のトレーニングルーム。筋トレを終えて一息付いていた一真の所に、薩摩が来ている。

 理由は一真と話をする為。まだまだ新人局員の一真と話をする事で、少しでも職場に馴染めるよう、薩摩も色々な取り組みを行っている。

 

「オメガモンの力と戦い方に慣れて来たみたいだな」

 

「薩摩本部長……」

 

「毎日よく頑張っている。感心するよ」

 

「いえ……僕は不器用で努力型なので、毎日こうする事でしか強くなれないので……」

 

「それで良いんだよ。君は自分の性格を理解した上で強くなろうとしている。ただ突っ込むだけしか知らない猪武者じゃない。自分と向き合い、精一杯努力して前進している。立派な物だよ」

 

 一真は薩摩の話を聞きながら、右手に持っている『ウイダーinゼリー』を飲む。彼にとって、『ウイダーinゼリー』は必需品。カバンの中には複数入っている。

 戦闘はいつ何処で行われるか分からないから、エネルギー補給は重要。その考えから一真はいつでも飲めるよう、ズボンのポケットに入れている。

 

「まだ力を手にして少ししか経っていないのに、凄い成長ぶりだな」

 

「はい。やっぱり毎日努力しているからだと思います」

 

「それにオメガモンとの“融合率”もあるだろう。少し測定しても良いかな?」

 

 薩摩の頼みを受けて、一度身体検査を受ける事となった一真。その後は定時までかかったが、結果は次の日に出た。

 結果が記された紙を見ている一真と薩摩。その結果に一真は胸を撫で下ろし、薩摩は信じられないと言わんばかりの表情をしている。

 

「良かった……“デジモン化”が思っていたより進んでいない」

 

「“融合率”が高い……化け物か?」

 

 薩摩が信頼を置く程、検査結果は正確で鮮明。しかし、その結果が凄かった。“デジモン化”が進行せず、“融合率”が過去最高レベル。化け物としか言いようがない。

 この時点で一真は化け物レベルなのだが、問題なのはここから更に伸びる可能性を持っている事。しかもまだ未知の力を秘めている可能性もある。

 この力を悪しき者達に利用されてしまう。それを防ぐのも本部長たる自分の仕事。近いうちに“デジクオーツ”で何かが起きようとしている。その危機に立ち向かう聖騎士を支えようと、薩摩は決意を新たにした。

 

 

 

 日本山田工業株式会社。そこはロボット開発に力を注いでいる企業だが、同時にブラック企業として知られている。

 ブラック企業。それは数年前から社会問題になっているが、元々は若者を大量に採用し、過重労働・違法労働・パワハラによって使い潰し、次々と離職に追い込む成長大企業の事を指している。

 或いは従業員の人権を踏み躙るような全ての行為を認識しつつも、適切な対応をせずに放置している企業。将来設計が立たない賃金で私生活が崩壊するサービス残業を強制し、若者を使い捨てる所がブラックと言われる理由だ。

 今研究室ではロボットの操作実験が行われている。ショベルカーを模したようなロボットが、四角いプラスチックの容器をショベルで掬い上げている。

 

「良いぞ……この調子だ!」

 

 社員達が真剣で、かつ期待を込める視線で見守るが、突如としてロボットの動きが止まってしまった。まさかの事態に固まる社員達。

 直ぐにロボットを手に取り、その原因を探る。原因はオーバーヒート。出力の上げ過ぎにあった。社員達は肩を落とすしかない。

 

「駄目だ! このままじゃ商品化どころか、ノルマを達成できない!」

 

 社員の嘆き。それはロボットの商品化のみならず、自分達に課せられたノルマを達成できない不安と絶望から来る物だった。

 少ない人員と設備。限られた時間と予算。上司からのプレッシャーと無理難題。条件が厳しい中、社員達は必死でやりくりしているが、どうしても限界が来てしまう。設計図を床に叩きつけてしまう程、彼らは限界に来ていた。

 

「何だ?」

 

 突然、社員達のいる研究室に電子音が鳴り響く。それは備え付けのコンピューターに1通の電子メールが届いた証。

 もしかして上司からまたプレッシャーをかけられるのではないか。不安と共に画面を開いてみると、そこにとある映像が映し出された。

 

『こんにちは。初めまして……日本山田工業株式会社の皆さん。私はムゲンドラモン。皆さんは優秀なロボット技術をお持ちと聞いて、このような形でお願い事をしに来ました』

 

「お願い事……?」

 

『私は今とあるロボットを作っていますが、どうも人手不足で思っていたより作業が進みません。ちなみに設計図はこちらです』

 

「凄い……こんなロボットを!?」

 

 その映像はビデオレター。送り主はムゲンドラモン。彼は自分が作っているロボットの制作のお手伝いをして欲しいと言っている。

 その設計図が映し出されると、誰もが画面を凝視する。設計図に書かれているのはとあるデジモンだった。

 

『このロボットを皆さんと一緒に完成させたいです。もし手伝って頂いたら、そのお礼としてこのロボットを皆さんにプレゼントします。お好きに使って下さい』

 

「これがあれば上司もギャフンと言うに決まっている!」

 

『ただ……このロボットを作る部品や組み立て方法が少し特殊なので、皆さんを特別な場所にご案内します。“デジクオーツ”という場所に……』

 

 ムゲンドラモンの目が赤く輝いた瞬間、社員達の目が変わった。まるで何かに憑依されたかのように。何かに取り付かれたように。

 そして彼らはコンピューターの中に吸い込まれていき、“デジクオーツ”へと向かっていった。ムゲンドラモンの頼み事を叶える為に。

 

 

 

 ”電脳現象調査保安局”の仕事は肉体労働が中心になると思うだろう。一真ことオメガモンの戦いを見ていれば、誰だってそう思っても仕方ない。しかし、実際の所は“戦う”という仕事はそこまで比重を置いていない。

 仮にも国家が立ち上げた場所。書類仕事が中心になる。普段はデジモンに関する情報を集めたりしている。

 

「変ですね……このニュースは」

 

「でしょう?」

 

 仕事中にも関わらず、新聞を読んでいる一真と鏡花。だがこれも立派な仕事。新聞や雑誌、聞き込みでデジモンの情報を集めているのだから。

 彼らが見ているのは新聞の一面。そこには日本山田工業株式会社の社員が出社して来ないというニュースが書かれている。

 

「彼らは皆ロボット開発に携わっている共通点持ち……何か理由がありそうですね」

 

「もしこのニュースにデジモンが関わっているとしたら……大変な事になりそうよ」

 

「この前のマリンデビモンの事もありますし……しかもマシーン型のデジモンは結構手強い相手ばかりですから、聞き込みに行きましょうか」

 

「そうね。この件は貴方とテイルモンに任せるわ」

 

 鏡花に今回の案件を一任された一真とテイルモン。ちなみにテイルモンの人間界での名前は荒木真央。人間体は大人の女性。

 その昔、テイルモンは人間界に迷い込んだ事があり、その時知り合った人間の少女と暫くの間、デジタルワールドを冒険していた事がある。

 ある程度人間界に詳しい為、”電脳現象調査保安局”の創設にも関わり、リリスモン達に人間界の常識等を教えた事もある。

 

「ごめん下さ~い」

 

「は~い」

 

 その日の夕方。とある一軒のお家のインターホンを押した一真。その隣にテイルモンこと真央がいる。彼らが訪問したのは日本山田工業株式会社の社員の1人で、ロボット開発に携わっている立川時雄の家。

 彼らを出迎えたのは奥さんの立川友里恵。スーツ姿の1組の男女を見て不安そうになるが、それを察した一真が優しく話し掛ける。

 

「初めまして。我々は”電脳現象調査保安局”の者です。申し訳ありませんが、今日の朝刊で貴女の旦那さんの名前が出ていたので、何かお力になれるかと思い、お邪魔しました」

 

「そうですか……主人は帰って来たばかりなので、上がってお茶を飲んで待ってもらっても良いですか?」

 

(変ね……新聞では出社しないとあったけど、話を聞く限りでは普通に仕事をしている感じ。どういう事かしら?)

 

 真央は新聞の記事の内容と、友里恵の話の間にある隔たりに気付いた。出社しないと書かれている筈が、出社している事になっている。

 何か裏技を使っているようだ。真央が1階で友里恵と話をしている間、一真は2階で時雄と話を始めた。

 

「何か用ですか?」

 

「(怖い人だな……ブラック企業に勤めていると、心を壊してしまうのかな?)実は新聞に時雄さんの名前が出ていたので、何かお力になれるかと思い、話を伺いに来ました」

 

 友里恵の話だと、時雄は温和で優しい人柄との事。しかし、目の前の時雄は違う。まるで人が変わったかのような印象がある。

 まるで何かに追い詰められているような気がする。声を聴いただけで怖い人だと一真には感じられた。

 

「早く終わらせてくれませんか? 私は今忙しいんです」

 

「忙しいと言われても……」

 

「俺は今お前と話をしている暇はないんだ! 俺の夢を邪魔するな!」

 

 頭に血が上っているのか、短気になっている時雄の姿を見た一真は静かに立ち去った。この状態での話し合いは難しいと判断したからだ。

 普段はおとなしい筈なのに、何故気難しい人になったのか。仕事が彼を追い詰めているのか。それとも別の事情があるのか。明らかに異常だ。

 友里恵と話を終えた真央と共に家を出ると、近くのコンビニでお互いに話し合う一真。彼らは決めた。明日の朝、時雄が家から出た後に何をしているのか。それを調査する事を。

 

 

 

 翌日。いつもより早く出勤し、”電脳現象調査保安局”に顔を出した後、立川家の近くで張り込みをしている一真と真央。

 彼らの目の前を時雄の車が通過していく。ここまで見れば普通に会社に出勤していると思うだろう。そこまでは良かった。

 

「あれ? 近くのコンビニに停まったぞ?」

 

「コーヒーとか何かを買っているんじゃない? ブラック企業だから労働時間長くなるし、ましてやロボット開発に携わっているから、尚更だと思うわ」

 

「そうですね……僕はブラック企業みたいな所で働いていたのでその気持ちがよく分かります」

 

「そう言えば、一真君って転職したのよね? どうして新卒で入った会社辞めたの?」

 

「辞めた理由は幾つかありますけど……やってて成長出来ないと思ったからです」

 

 一真は転職経験持ち。新卒で入った会社を辞めた理由はキャリアアップを望めない事。先輩達を見ても死んだような顔で毎日働き、同じ仕事を延々とやっていくだけ。

 永遠に同じ仕事をやって、同じ日々を過ごすのか。しかも給料もそこまで高くないし、休日もそんなに多くない。そんな職場にいるより、もっと自分を伸ばせる職場で活躍した方が良いのではないか。そう思い、剣崎は2年未満で仕事を辞めた。

 そこから先は終わりの見えない再就職活動に突入したが、何とか再就職に漕ぎつく事が出来て今に至る。

 

「色々大変な事や辛い事はありましたけど……でも今は充実していると思います。あの時は生きているようで、死んだような毎日を過ごしていましたから」

 

「そうなんだ……アンタも大変だったのね。よく頑張ったわ」

 

「はい。……ん? テイルモンさん、時雄さんの車がお家に戻っていきますよ?」

 

 一真の昔話が終わったと同じ頃、時雄の車が駐車場を出て自宅の方に向かっていく。それが一体何を意味するのか。真央は直ぐに気付いた。

 余談だが、一真は基本的にデジモンでも“~さん”と付けて呼ぶようにしている。仕事でデジモンとの付き合いはあるが、礼儀正しさは相変わらずのようだ。

 

「本当ね……さては、奥さんが仕事に行った時間になるまでコンビニで適当に過ごし、奥さんが仕事に行った時間を過ぎたら家に戻るつもりね?」

 

「何という事だ! それは俗に言うサボりって言う奴じゃないですか!」

 

「家に戻って自室で何をしているのか……調べに行くわよ!」

 

 時雄の乗った車を静かに追いかける一真と真央。時雄に気付かれたら今までの自分達の行動が無意味になるからだ。

 駐車場に車を泊め、鍵を挙げて家の中に入る時雄。流石に彼の後に続いて家には入る事は出来ない。一真と真央は2階の窓から時雄を監視する事にした。

 

「パソコンで作業をしているわね……一体何の作業かしら?」

 

「テイルモンさん、あれ!」

 

 一真が指差したのは時雄のノートパソコン。画面が光り輝き、時雄の姿が消失すると共に画面の中へと消えていく。

 これが意味する事は1つ。彼のノートパソコンは“デジクオーツ”に繋がるゲートとなっている事だ。

 

「“デジクオーツ”へのゲート!?」

 

「急ぎましょう! 光が消える前に!」

 

 一真と真央は急いで立川家に入ると、2階の時雄の部屋に向かい、パソコンの光に向かって飛び込んでいく。傍から見れば不法侵入なのだが、友里恵にもしもの時は家宅捜査すると言っていたので、その辺は問題ない。

 

 

 

「あれ? 本当なら時雄さんの部屋みたいな風景になるのに……この前と言い、どうも“デジクオーツ”が変わったみたいだな。何処か別の場所に連れて来られた……みたいな」

 

「恐らく特定の場所に引き込む事が出来るデジモンなのね……今回の相手は」

 

「となると相手は……究極体」

 

「えぇ。しかもこの風景は“メタルエンパイア(鋼の帝国)”。今回の相手は強敵よ、一真君」

 

「マジですか……」

 

 一真と真央が到着した“デジクオーツ”。その風景は時雄の部屋ではなく、まるで人間界にあるような工業地帯のようだった。

 真央ことテイルモンはその風景を“メタルエンパイア(鋼の帝国)”と言ったが、これはデジモン達が所属している勢力の1つとして有名だ。

 デジタルワールドのフォルダ大陸の峡谷にある工業地帯に栄えている。最初の頃は小規模だったが、今では『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が警戒する程の大勢力となった。

 最初の頃はアンドロモンの思考回路やボルトモンの暴走、メタルグレイモンの肉体の腐敗等の問題を抱えていたが、研究者達の努力によって克服された。負荷に耐えて腐敗しなくなったメタルグレイモン、思考回路の問題を解決したハイアンドロモンを誕生させた。

 そして徐々にマシーン型、サイボーグ型デジモンは世界に広まっていくに連れて、勢力は“帝国”と呼ばれる領域に達した。

 そんな矢先に四大竜が接触し、“帝国”に竜型デジモンのデータを提供してきた。その意図は今でも明らかになっていない。これにより、“帝国”は“竜と機械の融合”という技術革新を迎えた。

 対空迎撃用のメガドラモン。機動力を犠牲にした代わりに、攻撃力が強化されたギガドラモン。陸戦用のメタルティラノモン。水中戦用のメタルシードラモン。これらを開発し、急激に勢力を拡大していった。

 そして当時の科学の粋を集めた最高傑作ムゲンドラモンを生み出した後、技術の進歩を踏まえた上で、以前開発したデジモンを改造したカオスドラモン、ギガシードラモン等を生み出した。

 

「そう言えば時雄さん達は? この近くにいる事は確かなんだけど……」

 

「一真君。デジモンの『波動(コード)』を探る方法を教えるわ。先ず右手か左手、どっちでも良いから力を溜めてみて」

 

「力を? 分かりました……」

 

 一真は真央の言葉を聞くと、利き手である右手に力を溜め込む。それに呼応したのか、一真の右手に蒼い光が灯った。

 デジソウルとはまた違う蒼い光。オメガモンの右腕のメタルガルルモンをイメージしているようだ。

 

「その蒼い光でデジモンの『波動(コード)』を探ってみて」

 

「成る程……ここからはデジモンの力が必要。時雄さんの居場所を探る為にも、という事ですか?」

 

「それもあるけど、オメガモンの力に慣れる事が一番よ」

 

「……ここから左に進んだ所から何か巨大な『波動(コード)』を感じます。行きましょう!」

 

 一真と真央は『波動(コード)』が発せられる場所へと向かう。そこは巨大な格納庫みたいな所。恐らく中では何らかのデジモンが造られているみたいだ。

 相手は十中八九究極体デジモン。激戦になる事を自分に言い聞かせ、一真は真央と共に格納庫の扉の前に立つ。

 

「マジか……ブレイクドラモンかよ!?」

 

「あそこ……時雄さん達がいるわ。新聞に載っていた人達もいる。どうやら“デジクオーツ”に来て、ブレイクドラモンを造っていたのね」

 

 2人が目撃したデジモン。それは頭部と背中にドリル、両腕と胸部にショベルを装備した四足歩行の竜のような姿をしたブレイクドラモン。

 彼らの周りには時雄達がいる。彼らは“デジクオーツ”に来てからずっと、ブレイクドラモンを造っているみたいだ。

 

「でもブレイクドラモンが時雄さん達を呼び込んだとは考えにくい……」

 

「てことは別の誰かという事になるわね……」

 

 一真の指摘通り、今回はブレイクドラモンが犯人ではない。ブレイクドラモンは優れた機械性能を持っているが、生体パーツがゼロに近いほど減少している為、意思や感情は失われている。そんなデジモンが人間達を“デジクオーツ”に引き込める訳がない。

 ブレイクドラモンを見ながら考え込む真央の目の前で、今回の犯人ことムゲンドラモンが姿を現し、時雄達に声をかける。

 

「流石は皆さん。実に優秀です。素晴らしいロボットがもう少しで完成します。このロボットが完成したら、貴方達の実力は世界に認められたも同然!」

 

「ふざけるな! あのデジモンが人間界に来て動いてもみろ。とんでもない事になる!」

 

「ちょっと! 一真君!」

 

 ブレイクドラモンが一体どういうデジモンなのか。それを知っている一真はムゲンドラモンと時雄達を止めようと走り出す。それを慌てて真央が追いかける。

 このままブレイクドラモンの完成を許し、人間界に連れて行けば大惨事となる。事前に潰しておかなければならない。その直感が一真を戦いへと駆り立てる。

 

「誰だ? 連れて来た覚えのない人間が何故ここにいる?」

 

「簡単だよ。“デジクオーツ”のゲートをくぐってここに来た通りすがりの聖騎士だ」

 

「お前……八神一真!」

 

「知り合い……でもなさそうだな」

 

 ムゲンドラモンと時雄達の目の前に姿を現した一真。時雄の反応を見たムゲンドラモンが目を細める中、真央が質問をする。

 不気味そうにニヤリと笑いながら、ムゲンドラモンは真央の質問に正直に答える。嘘偽りない本心で。

 

「どうして“デジクオーツ”に彼らを連れて来たの?」

 

「このロボットが彼らのお役に立つと思って、事前に集めた部品を使って開発をお願いしたのです」

 

「嘘を言うな! このデジモンで人間界を侵略するつもりだったんだろう!」

 

「嘘ではない!!!」

 

『ッ!?』

 

 はっきりと、かつ強く答えたムゲンドラモン。その勢いに一真と真央が押されると、ムゲンドラモンは話し始める。

 自分が時雄達にブレイクドラモンの製造の手伝いを依頼した理由を。そこに込められた切なる願いを。

 

「私は“デジクオーツ”から見ていた。素晴らしいロボットを開発しようと頑張っている彼らの事を。でも彼らは少ない予算で、少ない部品で延々と働き続けている。それだからか成果が上がらない。彼らを見ている内に私は思った。何とかしてあげたいと。何とか彼らが報われるような、そんな手助けをしたいと。でも残念な事に、この“デジクオーツ”では手助けになるようなデジモンを作る技術はなかった。そこで私は……」

 

「ブレイクドラモンを造ろうと思った……という事か?」

 

「そうだ。ブレイクドラモンは欠陥品。戦う事に関して言えば完成品だが、それ以外は欠陥品。だから感情を持たせた上で工事や建設に使えるようにしたいと思った。だが私一体で作り、完成させるには時間がかかり過ぎる上に無理がある。だから……」

 

「時雄さん達に頼んだという事?」

 

 ムゲンドラモンは悪いデジモンではなかった。“デジクオーツ”から時雄達の事を見て、彼らの手助けをしたいと思って行動した。

 例え色々な所に突っ込みがあるとは言えど、その思いは本物だった。そんなムゲンドラモンの思いが正しい事を証明するように、時雄達は口々に援護射撃をする。

 

「そうだ! ムゲンドラモンさんは俺達に親身になってアドバイスしてくれた。時には褒めたり、注意したりして本当に働いている実感があった!」

 

「人間界に戻る時も最後まで見送ってくれたし、時々差し入れも持ってきてくれた。今の職場じゃ絶対に考えられないよ」

 

「俺達を何より大切にしてくれているし、励ましたりしてくれる。そんな上司だからこそ、俺達は協力したいと思った!」

 

「確かにこのロボットは危険かもしれない。でもムゲンドラモンさんは俺達の為に動いてくれたんだ。気持ちは分かるけど、俺達だって意地がある!」

 

『……』

 

 彼らは洗脳された訳ではない。ムゲンドラモンに強制された訳ではない。皆ムゲンドラモンの為に、自分達の為に働いてブレイクドラモンを完成させようとしている。

 ムゲンドラモンが理想の上司過ぎる。余程今の職場が問題だらけなのだろう。一方的に相手が悪いと言えなくなり、一真と真央は押し黙るしかない。

 

「もしお前達がブレイクドラモンに手を出そうと言うのなら……私は皆の為にお前達と戦う!」

 

「僕は貴方と戦いたくはない。でも……僕はオメガモンだ。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員だ。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は自分の信じる正義と信念を掲げている。僕は僕自身が信じる正義を貫く為に、皆の心を解き放つ為に貴方と戦う!」

 

「そうか。倒せるものなら倒してみろ!」

 

「やってやるさ。究極進化!!!」

 

 ブレイクドラモンと時雄達の為に戦うムゲンドラモンと、自分が信じる正義の為に戦う一真ことオメガモン。話し合いの解決は最早無理だ。

 ムゲンドラモンは右手のムゲンハンドを構えて突進を開始し、究極進化を終えて姿を現したオメガモンはグレイソードを射出して構え、戦闘に突入していく。

 ムゲンハンドとグレイソードをぶつけ合う2体の究極体デジモン。その一方で真央は時雄達を止めようと説得する。

 

「今の内にここから出るわよ!」

 

「駄目だ! 俺達はこのロボットを完成させる事が仕事なんだ! 仕事を途中で放り投げる奴が何処にいる!」

 

「その通りです! 皆さん。まだ未完成ですが、ロボットを動かしましょう!」

 

 真央ことテイルモンの説得も虚しく、ブレイクドラモンが起動してしまった。凄まじい雄叫びを上げるブレイクドラモン。

 自身の体にダメージを負うことも恐れず、朽ち果てるまで破壊を繰り返す究極の破壊竜がここに降臨した。

 

 

 

「ここを離れて! 危ないわ!」

 

「やった! 動いたぞ!」

 

「凄いぞ我々のロボットは!」

 

「(クッ、このままでは戦いにくい!)ならば……!」

 

 真央が時雄達に逃げるように言っても、自分達が作り上げたロボットがついに動いたという事実に歓喜し、時雄達はその場で喜んでいる。

 その場から逃げないでいる人間達。ムゲンドラモンとブレイクドラモンという2体の究極体デジモン。状況は最悪だ。力を満足に振るえない。

 そう判断したオメガモンは一石を投じる。ガルルキャノンを展開し、格納庫の一角に照準を合わせ、青いエネルギー弾を撃ち込む。

 これで格納庫は木っ端微塵に破壊され、広い場所に出る事が出来た。これで少しは思うように戦える。そう判断し、構えを取り直していると、ブレイクドラモンは左右のショベルアームで攻撃を繰り出す。

 

「フッ!!」

 

 グレイソードを横薙ぎに一閃してショベルアームを弾くと、オメガモンはブレイクドラモンとの間合いを詰めようと、一歩前に踏み出す。

 しかし、その動きを見逃すムゲンドラモンではない。背中に装備してある2門のキャノン砲から砲撃を撃ち込み、オメガモンの動きを牽制する。

 近付けないのであれば、間合いを保ちながら砲撃を撃ち込めば良い。そう割り切ると、オメガモンはガルルキャノンから青いエネルギー弾を連射するが、ブレイクドラモンの左右のショベルアームが振るわれ、次々と四散されていく。

 

「凄い! 期待以上の強さだ!」

 

「∞(ムゲン)キャノン!!!」

 

「インフィニティボーリング!!!」

 

 時雄達が歓声を上げる中、ブレイクドラモンはそれに応えるように攻撃を繰り出す。左右のショベルアームから怒涛のラッシュを繰り出し、オメガモンを防戦に追いやり、ムゲンドラモンの攻撃へと繋げる。

 背中の2門のキャノン砲から放たれた超弩級の砲撃。オメガモンはそれを背中に羽織っているマントで防ぐと、それを見たブレイクドラモンが追い打ちをかけていく。

 体中のドリルを全稼動させ、山を一撃で木っ端微塵に破壊する攻撃を次々と繰り出す。最小限の動きを以て、オメガモンは次々と躱していく。

 

「そこだ!」

 

「やっつけろ~!」

 

「追い込め!」

 

「グァァァッ!!!!」

 

「ちょっと待って! 皆目を覚まして! よく見て、貴方達が作ったロボット……ブレイクドラモンを! 貴方達の仕事はあんな破壊兵器を作る事なの!?」

 

 真央の言葉を受け、目の前で繰り広げられている戦いを見つめる時雄達。ムゲンドラモンとブレイクドラモンの連携の前にオメガモンは次第に追い詰められ、ついにブレイクドラモンの攻撃を受けてしまった。

 初めてダメージを受けて吹き飛ばされたオメガモン。立ち上がるその様子を見て、ようやく時雄達は目を覚ました。自分達が作った物の本質を。自分達が本当に作りたかった物は一体どういう物なのかを。

 

「アタシは貴方達がどういう過酷な状況で仕事をしているかまでは分からない……でも、オメガモンは、一真君は目の前の現実に抗おうと必死で戦っている。貴方達はどうなの?」

 

「自分の力で出来る事をしている……そうだ! 私達が作りたかったのはこんなロボットじゃない!」

 

「破壊兵器じゃなくて、皆を幸せにするロボットだ!」

 

 言われるがままに、一体それが何なのか分からないままにブレイクドラモンを作ってしまった時雄達。一方、ブレイクドラモンの事を理解した上で破壊しようと戦っているオメガモン。完全に正反対。

 やっと時雄達の目が覚めたが、同じようにムゲンドラモンの目も覚めようとしている。時雄達を見て自分が間違っていたと悟ったのか、それともオメガモンの必死な姿に影響されたのか。それは分からないが、どちらにせよ、良い事には変わりない。

 

「私がやりたかった事……そうだ。私は時代遅れと言われる事が怖くて、悔しくて、皆を見返そうとしていた。でもそれは自分の力でやり遂げないと意味がない!」

 

「そうだ! それだよ! やっと目を覚ましたなムゲンドラモン!」

 

 ムゲンドラモンが“デジクオーツ”に来た理由。それは“メタルエンパイア(鋼の帝国)”の当時の最高傑作から時代遅れの遺産となるのが怖くて、皆を見返そうとした事。

 悔しさや惨めさから今回の事件を起こしたが、ようやく大切な事に気付けた。ムゲンドラモンはオメガモンに深々と頭を下げる。

 

「済まない、オメガモン。私は大変な事をしてしまった……」

 

「謝罪は良いよ。とにかくまずは……」

 

「グオオォォォォォォォォォッ!!!!」

 

『ッ!?』

 

 突如として雄叫びを上げるブレイクドラモン。全員が一斉に破壊竜の方を見ると、ブレイクドラモンが暴走を始めた。

 ムゲンドラモンは“未完成”と言っていた理由。それはブレイクドラモンの暴走抑制の為の装置や措置をまだ取っていなかったからだ。その証拠に、ブレイクドラモンが暴走を始めてしまった。

 

「オメガモン、私を一緒に戦わせて欲しい。こうなったのも全て私の責任だ。落とし前は私の手で付ける!」

 

「あぁ、行こう。2人でブレイクドラモンを倒そう!」

 

「応! 無限の機械竜、ムゲンドラモン!」

 

「終焉の聖騎士、オメガモン!」

 

『参る!』

 

 共闘するべく、一緒に並び立つオメガモンとムゲンドラモン。お互いに名乗りを上げると、同時に一歩前に踏み出した。

 同時に突進を開始するオメガモン。左腕に宿っているウォーグレイモンの力を解放し、グレイソードを太陽の聖剣に変えていく。

 

「デストロイドラッシュ!!!」

 

「“万象一切灰塵と為せ”グレイソード!!!」

 

「グオオォォォォォォォォォッ!!!!!!!」

 

 ブレイクドラモンは左右のショベルアームを超高速で怒涛のラッシュを繰り出すのに対し、ムゲンドラモンが背中のキャノン砲から砲撃を撃ち出し、ショベルアームを弾いていく。

 その隙にオメガモンはグレイソードから灼熱の波濤を生み出し、横薙ぎに一閃してブレイクドラモンを薙ぎ払いながら焼き尽くす。

 

「決めるぞ、ムゲンドラモン!」

 

「了解!」

 

 オメガモンはガルルキャノンを構えると共に、ムゲンドラモンは背中のキャノン砲の照準をブレイクドラモンに合わせる。

 砲身の内部に集束されていく凄まじいエネルギー。チャージが終わると共に、2体の究極体デジモンは同時に砲撃を撃ち出す。

 

「ガルル……」

 

「∞(ムゲン)……」

 

『キャノン!!!』

 

「グオオオオオォォォォォォォォォッ!!!!!!!」

 

 オメガモンの大砲から撃ち出された蒼い光の波動と、ムゲンドラモンのキャノン砲から撃ち込まれた超弩級の砲撃。

 それが二方向から同時にブレイクドラモンに命中し、ブレイクドラモンは苦痛に満ちた雄叫びを上げながら、データ粒子に変わって消滅していった。

 ブレイクドラモンが消え去る様子を見ている時雄達。彼らは自分達が作り上げたロボットが消えるのを寂しそうに見ているが、その内心は新たなる一歩を刻めた恩人たるオメガモンとムゲンドラモンへの感謝に満ちていた。

 

 

 

 数週間後。新聞では日本山田工業株式会社に関する記事が出ていた。ブラック企業だったのが優良企業へと変わったのだ。

 働き方や予算のかけ方と言った全てを根本から見直し、社長等の重役も一新し、再スタートを切った。そして時雄達はロボットを完成させる事が出来た。

 設計や部品を根本から見直した以上に、ムゲンドラモンの教えもあったのだろう。見違えるレベルの成長を遂げていた。

 

「どうやら上手く行ったみたいですね。彼らの作ったロボットが皆を幸せに出来ると良いです」

 

「あのムゲンドラモンはどうなったかしら……」

 

「大丈夫ですよ。ムゲンドラモンは運命と戦い、必ず勝利します。だって……だって、戦いの中で改心出来たんですから」

 

 休憩室で新聞を読んでいる一真とテイルモン。彼らの話題はムゲンドラモン。あの後、デジタルワールドに戻ったムゲンドラモンは、真っ直ぐに“メタルエンパイア(鋼の帝国)”に向かっていった。

 己自身と向き合い、己の運命と戦いながら打ち勝つ為に。一真は予感している。ムゲンドラモンが必ず運命に打ち勝ち、きっとまた会える事を。

 

「そうよね……しっかし、アンタも凄いわね。“デジクオーツ”で暴走している人間やデジモンを救うなんて。流石はオメガモンって事かしら」

 

「違いますよ。凄いのはオメガモンで、僕は全然凄くないです。でも……僕は人間を、デジモンを愛しているんです。だから戦えるんです。それを教えてくれたのは優衣さんですけど」

 

「どうやらアンタは生粋のデジモンバカみたいね……」

 

「ありがとうございます。最高の褒め言葉です」

 

「フフッ」

 

 楽しそうに談笑している一真とテイルモン。今回の事件で一緒に行動し、解決に導いた事から、お互いに認め合う関係になった。

 それを少し離れた所で見守るウィザーモン。彼は仕事があるのか、その場から立ち去りながら、内心一真にエールを送った。

 




今回の敵として登場したムゲンドラモン。
書いている途中で何だか良い奴になってしまいました。
最初は人間を利用するベタな悪役にする予定でしたけど、気が付いたらこんな事に……こういう事もあるんですね。
何だか1話だけの登場がもったいなくなったので、第1章の終盤に再登場させる事を書いている内に決めました。名前が変わるかもしれませんが。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

とある休日。鏡花の実家に行くよう誘われた一真。
そこで待っていたのはかつての宿敵、バグラ軍の幹部との再会。
明かされるデジタルワールドで起きている事と、バグラモン達が人間界に来た理由。
そして急遽行われたオメガモンとタクティモンのバトル。
今世界を越えた、因縁の戦いが始まる。

第8話 因縁の再会 オメガモンとバグラモンファミリー


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第8話 因縁の再会 オメガモンとバグラモンファミリー

今回は”デジクオーツ”関係の事件をお休みし、オメガモンとバグラモン一家との因縁の再会を書きました。
更にデジタルワールドの事や色々な事を書いた説明回であり、重要な回となりました。補足説明は今後していきます。



 “電脳現象調査保安局”のランチルーム。そこでは局員が昼食を取りながら、何気ない雑談に花を咲かせている。

 一真は実家暮らしである為、自分でお弁当を作って持って来ている。彼の目の前に座っているウィザーモンとテイルモンは、食券を買って頼んだ物を食べている。

 

「そうでしたか……2人にはそういう過去があったんですね」

 

 一真はウィザーモンとテイルモンの過去話を聞き終えた所。彼らは『デジモンアドベンチャー』と、漫画版『デジモンクロスウォーズ』に登場した個体と同一。

 ウィザーモン。彼程数奇な運命に生きたデジモンはいない。デジタルワールドの長い旅の果てに倒れた彼は、とあるデジモンに命を救われた。そのデジモンは選ばれし子供のパートナーデジモンだった。

 そのデジモンとパートナーを邪悪な攻撃から庇った事で、彼は最初の死を迎えた。しかし、彼は完全に死んだ訳ではなかった。残骸があちらこちらに散らばり、長い年月をかけて友達となったデジモンによって再生された。

 そんな時に立ち会った“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”では、子供達と共に行動した。その終盤で復活した終末の千年魔獣の秘密を見抜いたものの、友達を庇い、今度は時空の彼方へと吹き飛ばされた。

 そこで彼は知った。自分がこの戦争に子供達を導く役割を担っていた事を。自分がした事が皇帝の目論見や、神の予言すらも超える奇跡を起こした。その役割を終えて友達の所に向かっている最中、このデジタルワールドに転生した。

 

「でも驚いたわね……アンタがなっているオメガモンが私達に関わりのあるオメガモンだったのは」

 

「うん。もしかして僕達の出会いも何か運命だったのかな?」

 

 テイルモンもまた数奇な運命を歩んだデジモン。選ばれし子供のパートナーデジモンだったが、邪悪なデジモンに出会って部下になった事で、彼女は自身の使命を忘れていた。

 そんな時に自身のパートナーと出会ったが、その過程で一人の友達を失ってしまう。長い年月を経た後、彼女は友達と再会する為に旅に出た。友達と再会し、後一歩で復活する所で再びその友達と別れてしまった。

 それが“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”の終結間近で起きた悲劇。しかし、彼女は諦めない。友達との再会を信じて旅に出て、デジタルワールドに転生して友達と再会する事が出来た。

 

「どうやら、ここにいるデジモンの共通点は“全員転生している”という事みたいですね。2人はオメガモンの事を知っているんですか?」

 

「そりゃあもちろん。有名人だからね」

 

「アタシも。でも一真君。アンタがなっているオメガモンはこんなもんじゃない」

 

 テイルモン曰く、一真が究極進化して戦うオメガモンはまだまだ当時の力を取り戻していないとの事。

 世界を滅ぼす力を宿す無数の悪魔を一瞬で消し去り、数万ものデジモンを瞬く間に殲滅する程の力を持っているとされている。

 その活躍と実力を誰よりも知っているのがテイルモンとウィザーモン。彼らから見れば、一真はまだまだ未熟。

 

「アンタがなっているオメガモンはもっと強いわ? つまりまだ伸びしろがある。アンタを鍛えるのもアタシ達の仕事なのかもしれないわね」

 

「……それは重々承知しています。2人は何の為に戦うんですか?」

 

 テイルモンから聞いた話は事実だった。一真自身、オメガモンの力はこんな物ではないと思い、常日頃からトレーニングに励んでいる。

 しかし、努力すればする程、オメガモンの凄さを突き付けられる。それでもめげないのが一真らしさなのだが。

 

「僕は時空の彼方から戻ろうとしていた時、転生する事が出来た。しかもテイルモンに再開する事も出来た。きっと何か意味がある。究極体デジモンに進化出来るのも……だから僕は学者として、デジモンとして出来る事をやるだけさ」

 

「アタシは変わらないわ。やれる事をやる。それだけよ?」

 

「僕は今なっているオメガモンの事がよく分かりません。どうして僕を選んだのか。何をさせたいのか。分からない事が多過ぎます。だからこそ知りたいんです。オメガモンの事を。人間として、デジモンとして生きながら……僕は答えを探したいです」

 

「良いんじゃない? そういう生き方も」

 

「僕も好きだな。そういう生き方は」

 

「ありがとうございます」

 

 テイルモンとウィザーモンに背中を押される形で、これからどうしていくかを考える一真。戦いの中に生きる事もそうだが、自分自身の事を知る事から始めようと考えた。

 先ずは自分がなっているオメガモンの事を。本来の強さや性格、築き上げた神話等。その全てを知る所から始まろうとしている。

 

 

 

「一真君。明日から2日間休日だけど、何かする事ある?」

 

「そう言えば今日は金曜日。明日と明後日はお休みでしたね……」

 

 この日の仕事を終えた一真と鏡花。この日は金曜日。それを思い出した一真は2日間の休日をどのように過ごすのかを考えていなかった。

 何も考えていなかった訳ではない。毎日色々な事があって、気が付けばもう週の終わりに差し掛かっている。それを思い出させられた為、改めて休日に何をしようか考え始める。

 

「う~ん、デジモンの事は忘れて気晴らしに出掛けたり、美味しい物を食べたりとか……でしょうか?」

 

 ありきたりではあるものの、実に人間らしい過ごし方。それを聞いた鏡花は、微笑ましく思いながら提案する。

 自分の実家に遊びに来ないかと。それは自分の事や原点、家族となっているデジモン達を紹介する事を意味している。

 

「一真君は実家から車で通っているんだった……そうだ。良かったら明日、私の家に遊びに来ない?」

 

「鏡花さん……リリスモンさんのお家に? 良いんですか?」

 

「えぇ。私がここで働いている理由や、この世界に来た理由、大切な家族が分かるわ」

 

(今の一言で何となく察しが付いたけど……そう言えば、リリスモンさんについて僕は全く知らない。いや知ろうとしていない……それは仲間として、同じデジモンとして良くないんじゃないかな?)

 

 一真はふと思い出した。鏡花ことリリスモンについて自分が殆ど知らない事を、何一つ知ろうとしない事を。

 初対面の時から詳しい話を聞いていない。きっと何かの事情があってデジタルワールドを離れ、この世界に来たと思っていた。でも実際の所は分からない。あくまで憶測だけで考えていたから。

 

「分かりました。明日はお邪魔させて下さい」

 

「ありがとう! 待ち合わせ場所は行き付けの喫茶店で9時で良いかしら?」

 

「はい。大丈夫です」

 

 こうして明日はリリスモンの実家に行く事になった一真。この時、まさか因縁の相手と再会する事になるとは微塵も思っていなかった。

 そこでデジタルワールドで起きている異変、リリスモン達が人間界に来た理由を知る事になろうとは知る由もなかった。

 

 

 

 次の日。喫茶店で待ち合わせをした一真と鏡花。鏡花の車の助手席に乗ると、一真は彼女の実家へと向かっていく。

 待ち合わせの喫茶店は鏡花のお気に入りで、紅茶とトーストメニューがお薦めとの事。一真も知っている喫茶店でもある。

 

(どんなお家なんだろう……何か街の外れにあるみたいだけど)

 

 助手席から見る景色。様々なビルや建物といった都会的な物から、家や田んぼといった田舎的なイメージへと移り変わる。

 

「どうしたの一真君? 何か考え事をしているの?」

 

「いえ……鏡花さんのお家が気になってつい……」

 

 運転席から声を掛けて来た鏡花。その声に微笑みを浮かべながら答え、一真は引き続き助手席から見える景色を眺める。

 

「そう。これから向かうのは私の実家だけど、絶対に驚くわ。色々あるから」

 

「まぁそうでしょうね……僕を誘うくらいなので、何かがあるのは分かっていますけど」

 

「貴方の勘は鋭いから……もしかしてこれから向かう先に誰がいるのか。それさえも分かっているのかもしれないわ」

 

「確信はありませんけど、何となく分かります」

 

 一真と鏡花が雑談に話をしながら十分後。彼女が運転する車は実家もとい、バグラモンファミリーの家に到着した。

 その家は豪邸に匹敵する程大きいが、そこまで豪華ではない。正直見掛け倒しに近い。大きくて広いだけで、後は普通の家と何一つ変わらない。

 

「ただいまー! ブラストモン、帰って来たわよー!」

 

 鏡花は車を駐車場に泊めると、畑にいる大柄で筋肉質の男性に向けて自身の帰宅を伝える。余程実家に帰って来た事が嬉しかったのだろう。仕事中よりも活き活きしているように見えた。

 彼女の声に気付いた大輔と言う名前の男性。彼は鏡花の姿を見ると、手を振りながら駆け寄って来る。

 

「ブルァアア!!!! リリスモンお帰り~!」

 

(何かキャラの濃そうな奴が最初から来たぞ~!?)

 

 帰りを祝福するように喜ぶ大輔。“ブルァアア”という口癖と自己主張の激しい外見。それだけで一真は理解した。キャラの濃い男性だと。

 ふと大輔から発せられるデジモンの『波動(コード)』を探ってみると、知っているデジモンの存在を特定する事が出来た。

 

「鏡花さん……大輔さんってもしかしてブラストモンですか?」

 

「そうよ? 華麗なるブラストモン様よ?」

 

「か、華麗なるブラストモン様!?」

 

「ブルァアア!!!! そうだ……俺こそが華麗なるブラストモン様だ!」

 

 若本大輔はブラストモンの人間体。ちなみに“華麗なるブラストモン様”と呼ばれているのは、バグラモンが呼び始めたからだ。

 名付け親曰く、“何かそう呼ばないといけない気がした”との事。一体バグラモンに何があったのか。

 

「八神一真です。又の名をオメガモンと言います」

 

「ブルァアア!? オメガモン!? 止めろ! 止めてくれ~!」

 

「……鏡花さん。華麗なるブラストモン様に一体何が?」

 

「前世でオメガモンと戦った時にボコボコにされたのよ、その時の事が今でもトラウマになっていて……」

 

「……そりゃトラウマになりますね」

 

 自己紹介をした一真がオメガモンだという事を知り、ブルブルと震え始める大輔。その様子を見て首を傾げる一真に、鏡花は彼のトラウマを説明する。

 圧倒的パワーと強固な装甲でデジタルワールド最強の生命体の一角で、単身で一軍に匹敵するとも言われ、“天災”と表現される戦闘力を誇るブラストモン。

 一撃一撃の攻撃が必殺の域であり、気合を入れた一撃は凄まじい物になるが、オメガモンとの戦闘はトラウマになる程、酷い事になったらしい。何があったかは分からないが、とにかくボコボコにされた事は分かる。

 

「ブラストモン、大丈夫。彼は貴方を傷付けないわ。私達の味方よ」

 

「良かった……俺は若本大輔。ブラストモン。よろしく!」

 

 簡単な嘘に信じてしまう程単純な思考であるが、その思考故に思い込みが強いブラストモン。一真が味方である事を知り、安心したように胸を撫で下ろした。

 大輔ことブラストモンは一真と握手を交わす。そのゴツゴツしたような大きく、温かい手は彼の性格を伝えているように思えた。

 

 

 

「そう言えば陛下とタクティモンとホープナイトモンは?」

 

「タクティモンは道場にいて……陛下とホープナイトモンはお買い物に行っている」

 

「すみません。ホープナイトモンとは……」

 

「聖騎士になったスカルナイトモンの事よ?」

 

「何と……そういう事でしたか」

 

 聖騎士のような白い鎧の体となったスカルナイトモン。流石に縁起が悪いのか、ホープナイトモンという名前に改名したそうだ。デッドリーアックスモンもセイントアックスモンに改名した。

 その事を知り、驚きを隠せない一真。彼とバグラモンはお買い物に出ており、タクティモンは道場で修行しているみたいだ。相変わらずの武人。生前から何一つ変わっていない。

 一真達が道場に向かうと、その中央でタクティモンが座禅を組んで瞑想をしている。道場には極限まで張りつめたような雰囲気が流れている。

 

「タクティモ~ン。ただいまー!」

 

「む、帰って来たかリリスモン」

 

 鏡花が声を掛けると、タクティモンは目を空けて立ち上がる。家の中だからか、普通にデジモンの中でいる。大輔ことブラストモンは外にいたからか、人間の姿をしていた。

 

「そこにいる人間はもしや……」

 

「八神一真ことオメガモンです。リリスモンさんがいつもお世話になっています」

 

「ほぉ、君がリリスモンの言っていたオメガモンか。私はタクティモン。禎島拓郎。こちらこそいつもリリスモンがお世話になっている」

 

 お互いにお辞儀をして自己紹介をする一真とタクティモン。それが終わると、タクティモンは道場に置いてある2本の木刀を持ち、1本を一真に手渡す。

 

「早速だが、オメガモンとしての君の力を見せてもらおう」

 

「マジですか……はい。お手柔らかにお願いします」

 

 お互いに木刀を握り締めながら構え、正眼の構えを取る一真とタクティモン。その様子をリリスモンに究極進化した鏡花と、ブラストモンが見つめる。

 先に動いたのはタクティモン。ノーモーションで突進を開始し、開始早々に自身の誇る必殺技を叩き込む。

 

「鬼神突!!!」

 

「ガァッ!!」

 

 強烈な刺突を腹部に受け、苦痛の声を上げながら吹き飛ばされる一真。道場の壁に叩き付けられ、落下すると共に地面に倒れ伏せる。

 地面に叩き付けられた衝撃と腹部から伝わる強烈な痛み。それに耐えながら立ち上がり、手放した木刀を掴んで構えを取り直す。

 

(何という威力……これでもまだ手加減している。本気を出したあいつとバグラモンを圧倒したオメガモン……どんだけ化け物なのかが分かって来たよ)

 

「まだ終わらんぞ……鬼神突!!!」

 

 再度繰り出された鬼神突。横に飛んで躱し、側面からカウンター攻撃を繰り出そうとする一真だったが、それをタクティモンは予測していた。

 左横から迫り来る木刀を横薙ぎの一閃で弾き、返す刀で鬼神突を放つ。咄嗟に木刀を左斜め上に振り上げ、鬼神突の軌道を逸らす事で受け流す。

 

「少しは出来るようだな……だがまだまだだ。お前はオメガモンの力を一部しか引き出せていない。私の知るオメガモンはこんな物ではない!」

 

「あぁ、その通りだ。僕はまだオメガモンの力を全然引き出せていない。だからこそ知りたい。オメガモンの本当の力を。本当の強さを」

 

「そうか。実は私も知りたい。私と言う武人が何処までの力を持っているのかを。試してみたいのだ。私の限界を」

 

「つまり悪人ではないという事だな?」

 

「そういう事になる。それにリリスモンからお前の事は聞いている。私はお前を強くしたい。強くなったお前に挑むのではない。人間界とデジタルワールドの最後の希望、オメガモン。お前を育てたいのだ」

 

「分かった。なら期待に応えて見せる!」

 

 木刀を構えながら目を閉じ、集中する一真。オメガモンに究極進化する感覚を思い出したその瞬間、彼の黒い瞳から空色の光が放たれた。

 その意味に気付いたタクティモンは注意深く木刀を構えると、一真が先程とは比べ物にならないスピードで突進し、木刀を振り下ろして来る。

 

「速くなった!」

 

「ブルァアア!!!! 何が起きたんだ~!?」

 

 斬り下ろしを躱し、瞬間移動で一真の背後に回り込むタクティモン。その気配に気付き、一真は木刀を振るうが、タクティモンは再び瞬間移動で一真を攪乱させる。

 オメガモンの力を使っているのか、直ぐにそのスピードと動きに慣れた一真は反撃に出た。木刀を振るってタクティモンと数合斬り合う。

 先程は一方的にやられたが、今は互角。一真本人が一番驚いている中、タクティモンは背後に大きく飛び退く。

 

「そろそろ陛下とホープナイトモンが戻って来るだろう。この一撃で決着を付けるぞ!」

 

「あぁ、行くぞ!」

 

 同時に駆け出すタクティモンと一真。タクティモンは鬼神突を繰り出し、一真は全力で木刀を振り上げる。

 交差する両者。ぶつかり合う2本の木刀。どちらかの木刀がバキリと折れ、上空高く打ち上がる。一真の足元に突き刺さった。

 勝者はどちらなのか。リリスモンとブラストモンが目にした物。それは根元から折れた木刀を振り上げた一真と、一真の喉元に木刀を突き付けるタクティモンだった。

 

「私の勝ちだな」

 

「僕の負けだな……」

 

「驚いたな。オメガモンの力を引き出し、戦闘経験を蓄積させたとは……」

 

 一真は敗れたとは言え、タクティモンに恐ろしいと思わせた。オメガモンの力を行使しながら戦闘経験を蓄積させた。言わば、オメガモンを自らの身体に憑依させて戦っていたという事になる。

 木刀が折れてさえいなければ、まだまだ勝負は分からなかった。タクティモンは内心では冷や汗を掻き、見ていたリリスモンとブラストモンは唖然としていた。

 

「ブルァアア……リリスモン、一真って凄い奴なのか?」

 

「オメガモンになれるだけだと思っていたけど……こういう事も出来るのね。凄いわ……あら、陛下が戻って来たみたいね。話はその後にしましょう」

 

 獏良兄弟の乗っている車が駐車場に停まったのを見たリリスモンの言葉を聞き、一真達は道場を後にした。

 

 

 

 時刻は正午を過ぎ、昼食を食べる時間となった。バグラモン一家と共に昼食を食べている一真。今日は客人を招く為、リリスモンが張り切って豪華料理を作った。

 食事をしながらバグラモン達と話をしていると、次第にバグラモン一家の事が分かって来た。大部分は一真の予想通りだった。

 

「やはり……別のデジタルワールドで死んだ後、別のデジタルワールドで新生。その後に人間界に来たという事でしたか。よく馴染む事が出来ましたね……」

 

 バグラモン一家の面々は別のデジタルワールドで死んだ後、何らかの理由でこのデジタルワールドに転生。その後は人間界に来た。問題なのは人間界に来た経緯。それを知りたい一真が話を振ると、バグラモンが真剣な表情で答え始める。

 彼の口から明らかになったデジタルワールドの真実。何故七大魔王やバグラ軍の幹部達が人間界に来たのかが。

 

「でもどうしてデジタルワールドからこの世界に?」

 

「イグドラシルが関係している」

 

「イグドラシルが?」

 

 イグドラシル。オメガモンやバグラモン一家が生きたデジタルワールドの先代の神。かつてデジタルワールドの安定の為に人間界を消滅させようとした過激で攻撃的な性質を問題視され、破棄された。

 今はその失敗を教訓に建造された温和で保守的なホメオスタシスがデジタルワールドの神を務めている。その存在を忘れ去られた現在でも、莫大な量の過去のデジタルワールドの記録が保管されている。

 半身を裁きの雷で焼かれて喪失したバグラモンは、このイグドラシルの一部を削り出し、失った半身を補った事で莫大な知識と強大な力を得た。

 

「私達が転生したデジタルワールドは少々特殊なのだ。イグドラシルとホメオスタシスが分割統治している。ホメオスタシスは温和で保守的なのだが、イグドラシルは過激で攻撃的。デジモンと人間の共存を拒み、世界のリセットを考えている」

 

「ッ……! イグドラシルにまともな奴はいないんですね」

 

「そのようだな。実は“デジクオーツ”に来ているデジモン達もイグドラシルが支配する地域のデジモン達が多い。それだけイグドラシルの統治に問題があるようだ」

 

「そういう事でしたか……という事は皆さんが人間界に来たのも……」

 

「そうだ。リリスモン以外の我々はイグドラシルが統治する地域出身。ウィザーモンやテイルモンもだ。私はイグドラシルのやり方が長続きしないと思い、タクティモン達とリリスモンを連れてこの世界に来た。ホメオスタシスの治める地域に逃れるという選択肢もあったが、それが出来なかった。イグドラシルには『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』がいる」

 

「最悪じゃないですかそれ……!」

 

 デジタルワールドの真実を話すバグラモンの言葉。そこには凄まじい怒りと、深い悲しみが込められている。

 リリスモン以外のバグラモン一家はイグドラシルが統治する地域の出身。前世でイグドラシルの行いを見ていたバグラモンは、このデジタルワールドでもイグドラシルが変わらないと分かると、直ぐに行動を起こした。

 しかしここで疑問が残る。何故人間界に来たのか。バグラモン達は何故転生したのか。転生させたのは一体誰なのか。

 

「それに私は人の心に宿る可能性を信じている。希望の心は未来への虚無感や絶望の心を克服できると。前世で私はそれを信じる事が出来ず、長きに渡る戦乱を起こし、弟や数多くのデジモン達を巻き込んでしまった。無論オメガモン……君もだ。その罪を私は償っていない。可能性を気付かせてくれた少年達が生きる世界を消させはしない。そう思った私は人間界で虎視眈々と来たるべき戦いの時に備えた」

 

「そして我々は出会った。優衣さんことアルファモン……そして一真君。君にもだ」

 

「他の七大魔王の連中に声を掛けると、バルバモンとリヴァイアモン以外は賛成していたわ。イグドラシルによる支配が相当嫌だったみたいね……」

 

 この人間界に来たデジモン達の共通点。それは何らかの世界から転生して来たという事だった。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”が起きたデジタルワールドの出身が今の所多いが、それは何かの偶然だろう。

 

「ようやく分かりました。オメガモンがこの世界に転生し、僕と一体化した理由が」

 

「ほぉ。その話を聞こう」

 

「ホメオスタシスの戦力増強の為です」

 

 オメガモンが自分に宿る形で転生した理由を一真は理解した。簡単に言えば、ホメオスタシスによる戦力増強。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に対抗する為だ。

 

「オメガモン達の共通点。それは一度別の世界で死んだ事。彼らをこの世界に転生させたのはいずれ来るであろうイグドラシルの戦争に備える為です。増してや、バグラモンさん方々の力は強い。戦力としては申し分ない。テイルモンさんとウィザーモンさんも単体で究極体に進化出来ますし、優衣さんは言わずもがな」

 

「成る程。では重ねて質問する。何故君と優衣さんの場合、人間に宿る形で転生したと思う?」

 

「聖騎士の力という水を入れる『器』を確保する為ですよ。優衣さんがなっているアルファモンはイグドラシルがドルモンに進化の光をもたせた事でなれました。つまり、進化の光を宿す『器』として優衣さんが選ばれた。僕の場合は……『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』をイグドラシルによって封じられた事に対する対抗措置だと思います。人間とデジモンが融合して新しい力がもたらされたという伝説があるくらいなので、それに賭けたのでしょう」

 

 一真の分析力と洞察力にバグラモンは舌を巻く。自分達の話と、周りの面々の情報。それだけで答えを導き出した。

 バグラモンは悟った。一真ことオメガモンは絶対に敵にしたくないと。強い上に冷静。頭も悪くない。

 

「最後に一つ聞きたい事がある。私とタクティモンの事は今でも恨んでいるのか?」

 

「いえ、恨んでいません。確かに敵討ちする事がオメガモンに筋を通す事かもしれませんが、それをオメガモンが望んでいるとは考えにくいです。それに、今は世界の危機。こんな所で味方同士で争っている暇は在りません」

 

「そうだな……その通りだ。私はかつて剣を交えた君と、今度は手を取り合いたいと思っている。それはどうかな?」

 

「はい。喜んで」

 

 一真とバグラモンは固く握手を交わし、“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”の時から続いていた因縁をリセットした。

 このまま良い流れになるかと思われたが、そうは行かないのが世の中という物だ。タクティモンがバグラモンに進言をする。

 

「陛下。武人たる私の我が儘を許して下さい。八神一真と……オメガモンと戦わせて下さい」

 

「タクティモン。君の考えを聞こう」

 

「はい。陛下が戻って来られる前、彼と道場で手合わせをしました。人間でありながらデジモンの力で強化された事もあり、中々の善戦を見せました。結果は敗北でしたが、私は彼を鍛えれば相当の物になると確信しました。まだオメガモンの本当の力を見ていません。どうか戦う許可をお願いします」

 

「成る程……良かろう。タクティモン。存分に戦うが良い」

 

「承りました、陛下」

 

 どうやらタクティモンは飢えていたようだ。この人間界に来てから、自分が全力を出せる相手との戦いに。やはり彼は武人だったようだ。

 デジタルワールドではいたようだが、思うような戦いが出来なかったのだろう。何しろ、イグドラシルが統治した地域で暮らしていたのだから。

 

「一真君は大丈夫か?」

 

「ここまで来たらやるしかないでしょう。答えは出ているんです。最初から」

 

「分かった。戦える場所を用意しよう」

 

 闘志を滾らせるタクティモンを見て、やる気を決めたのだろう。一真が戦う意思を見せると、バグラモンは静かに微笑む。

 元バグラ軍の皇帝。人間の心の可能性を信じていたように、オメガモンの可能性を見てみたくなったのだろう。

 昼食を終えた一真達は戦えるような場所へと向かっていく。そこで結界を張り、かつての大戦から続いていた因縁に終止符を打つ戦いを行う為に。

 

 

 

 一真がオメガモンに究極進化を終える一方、タクティモンが鎖で厳重に封印された鞘込めの巨大としか言えない刀を召喚する。

 その刀の名前は『蛇鉄封神丸(じゃてつふうじんまる)』。『ZERO-ARMS:オロチ』のデータを参考に、デジタルワールドを分断する為にバグラモンによって建造された。

 その強力で禍々しい力を宿しているが為に、デジタルワールドをゾーンごとに分断した後はバグラモンにより鞘に封印されて力を抑えられている。

 

「私が審判をしよう。では……はじめ!」

 

「バグラ軍の幹部。三元士が一人、タクティモン!」

 

「『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が一員、終焉の聖騎士、オメガモン!」

 

「参る!」

 

「行くぞ!」

 

 審判たるバグラモンが振り上げた右腕を大きく振り下ろした瞬間、オメガモンとタクティモンによる決闘が始まった。

 お互いに名乗りを上げると同時に一歩を踏み込み、凄まじい勢いを以て突進を開始。両社は一瞬で間合いを詰める。最初に仕掛けたのはタクティモン。両手に握る『蛇鉄封神丸』を振り下ろす。

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!!」

 

 それを迎撃するオメガモンは聖剣を右側から左斜め上にかけて振り上げ、『蛇鉄封神丸』を弾きながら、タクティモンの懐に入る。

 『蛇鉄封神丸』は両者の身長と同等か少し大きいくらいのサイズ。大きな槍を振るう戦士との戦いの感覚。間合いを詰めれば長所を活かす事が出来ない。しかし、それは人間界の常識だ。デジタルワールドの常識ではない。

 

「『参の太刀・天守閣』!!!」

 

 タクティモンは弾かれた『蛇鉄封神丸』を地面に叩き付け、オメガモンの足元から巨大としか言えない岩石の天守閣のお城が伸びて来た。

 自分のピンチを咄嗟の機転で乗り切るタクティモン。“知謀、泉が如く湧くがごとし”と言われるほど計略と戦略に長けている。

 しかし、それはオメガモンも同じ足元から突然出現してきたお城を足場に使い、空高く跳躍し、体を反転させながら巨大な大砲から青いエネルギー弾を連続で撃ち出す。

 咄嗟に防御態勢を取ったタクティモンが爆発で発生した黒煙と爆炎の中に姿を消していく中、オメガモンは地面に降り立つ。

 

「『タネガシマ』!!!」

 

 黒煙と爆炎を突き破るように、突然放たれた砲撃。それはタクティモンの背中にある大砲から撃ち込まれた物。

 オメガモンがグレイソードを一閃して砲撃をかき消すと、目の前から岩石で出来た天守閣のお城が襲い掛かって来る。

 

「『参の太刀・改! 地槌閣(ちついかく)』!!!」

 

「何!?」

 

 突然の奇襲に驚きつつも、オメガモンは冷静に対処する。ガルルキャノンの照準を合わせ、青いエネルギー弾を撃ち込み、地槌閣を木っ端微塵に破壊する。

 しかし、それをタクティモンは予測していた。オメガモンとの間合いを一瞬で詰めると、渾身の力を込めた刺突を繰り出す。

 

「『壱の太刀・鬼神突(きしんとつ)』!!!」

 

「グァッ!!」

 

 咄嗟に左肩を前に突き出して防御するが、タクティモンのパワーと『蛇鉄封神丸』の衝撃、そして『鬼神突』の威力の前に耐え切れず、オメガモンは吹き飛ばされる。

 左肩の『ブレイブシールドΩ』で『鬼神突』を防いだ為、ダメージと衝撃を軽減していたから直ぐに立ち上がれた。

 

「どうやら貴様は私が全力を出さねば、可能性は見えて来ないみたいだ。陛下、賜ったこの剣の封印を解く許可を頂きたい。武人の我が儘でござる。何卒!」

 

「良かろう! 君の全力をもってオメガモンの力を解き放つが良い!」

 

「ならばこちらも……“万象一切灰塵と為せ”! グレイソード!!!」

 

 バグラモンの許可を受け、タクティモンは『蛇鉄封神丸』の封印を解いた。抜刀された『蛇鉄封神丸』。その刀身は翼のように見えるし、蛇の目が刻まれているようにも思える。

 背中に光の円が展開されており、タクティモンの全身から漆黒のオーラが発せられている。背後に見え隠れする巨大な蛇が。それはまるで八岐大蛇に見える。

 それに対抗し、オメガモンも左腕に宿るウォーグレイモンの力を解き放つ。巨大な聖剣は太陽の聖剣となり、その刀身から太陽の灼熱が発せられ、周囲一帯を灼熱地獄へと書き換えていく。

 

「ほぉ、それが新しい力か……」

 

「そうだ。相変わらずと言った所だが……何かが違うな」

 

「無論だ。人間界に来てから毎日鍛錬を重ねている。今の私はかつて敗れたシャウトモンEX6とシューティングスターモンに勝てると言える」

 

「成る程……その漆黒のオーラは妨害系の能力だな」

 

 タクティモンが放つ漆黒のオーラ。それは相手が発動した特殊能力の一切を封じ、無効化する恐ろしい効果持ち。

 しかし、『蛇鉄封神丸』の封印を解除していない時は発動出来ない。『蛇鉄封神丸』の封印を解除した後に発動した特殊能力は無効化出来ない。そういった制約がまだまだある。

 

「貴様の秘奥義にかなり苦戦したからな……対イグドラシルを想定して会得した新しい力だ!」

 

「ならば存分に見せてもらおうか!」

 

「無論だ! 『伍の太刀・五稜郭(ごりょうかく)』!!!」

 

「『怒涛たる勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

 タクティモンが『蛇鉄封神丸』を振るった瞬間、無数の斬撃がオメガモンに向かって襲い掛かる。あらゆる方向から襲い掛かる漆黒の斬撃の嵐。

 それに対し、オメガモンは太陽の聖剣の刀身から灼熱の波濤を生み出し、全力で薙ぎ払う事で漆黒の斬撃の嵐を消し去る。

 

「何と……!」

 

タクティモンはバグラモンによって、数万年分の武人デジモン達の無念の残留魂魄のデータを練り固めて作られたデジモン。

『蛇鉄封神丸』の封印を解き、鞘から抜刀した状態では三体以上の聖騎士を同時に圧倒し、シャウトモンX7をも退けるという桁外れの力を誇る。

 しかし、そのタクティモンをも驚嘆させる程、オメガモンの力は凄まじい。生前の力が戻っているのか、或いは新しい力に目覚めているのか。

 

(この感覚は一体何だ? 私は戦う事を楽しんでいるのか? 今まで感じて来なかったこの感情……一体どういう事だ!?)

 

自身の中から湧き上がって来る感情。戦う事が楽しい。強い相手と戦う事が楽しい。前世では有り得ない感情。それに戸惑いを覚える中、バグラモン達はオメガモンの戸惑いにとある一つの仮説を立てる。

 

「オメガモンの力がタクティモンとの戦いで少しずつ上がってきているな……」

 

「ブルァアア!!!! どういう事だぁッ!?」

 

「戦いの中で成長しているって事よ。今まで戦った相手は一部を除けば、オメガモンより弱い相手。今まで思うような戦いが出来なかった事に内心不満を抱いていたようね。でもタクティモンという自分と同等以上に戦える相手が現れた事で、オメガモンの奥底に宿っていた戦闘本能が目を覚ました。そうとしか考えられないわ」

 

 デジタルモンスターことデジモン。彼らは基本的に野生の本能による闘争心が強い種族であり、“戦闘種族”や“戦う種”とも称されている。

 それはオメガモンも例外ではない。心の奥底では強い相手との死力を尽くした戦いを望んでいるようだ。

 

「つまり……オメガモンの力が上がっているという事? でもどうして?」

 

「デジモンはデータの集合体。成長出来る可能性があるとすれば……心しか考えられない。人間の心とデジモンの心を持っている事。それがあのオメガモンの強み。デジモンという枠組みを超えた存在、いわば超越種」

 

 オメガモンが急激にパワーアップしてきた理由。それはオメガモンの存在その物。人間の心とデジモンの心の2つを持っている事にあった。心とは人間のみならず、生物において最も必要な物。そして強くなる為にも。心失くして強くなる事など有り得ない。

 ディアボロモン戦とアルファモンとの模擬戦で感じた強い思い。それがオメガモンにかつての秘奥義を発動させ、一時的かつ爆発的な力の上昇をもたらして来た。

 

「これで終いにするぞ! 『無の太刀! 六道輪廻(ろくどうりんね)』!!!」

 

「『燦然たる勇気の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

 タクティモンは蛇鉄封神丸(じゃてつふうじんまる)を正眼に構え、全てのエネルギーを込めながら前のめりに大回転する。

 放たれたのは螺旋のように渦を巻いた巨大な漆黒の斬撃。対するオメガモンは太陽の聖剣から生み出される灼熱の波濤を集束する事で、左腕に巨大な灼熱の刃を作り出し、それを全力で振り下ろす。

 激突する両者の必殺奥義。眩い光が満ち溢れ、周囲一帯の全てを破壊し尽くす。これが究極体の戦い。世界の終焉を思わせる程の見るも無惨な光景だけが残っている。

 

「……引き分けのようだな」

 

「あぁ。良き戦いだった」

 

 結果は引き分け。お互いに全力を出せた良き勝負に、オメガモンとタクティモンは握手を交わし、お互いの健闘を称え合う。

 こうして、オメガモンはバグラモン一家との前世の因縁を断ち切り、新しい一歩を刻む事が出来た。彼らと共に戦う時は直ぐそこまで近付いている。

 




今回はデジタルワールドの”神”、何故バグラ一家や七大魔王達が人間界に来たのか、何故聖騎士達が人間と一体化する形で新生したのかについて回答しました。
ちゃんとした答えになっていましたか? 

これからの展開にも少しだけ触れましたが、第2章はイグドラシルVSホメオスタシスの代理戦争になります。新生バグラ軍VS『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』という形です。
そこでも新キャラは幾つか出てきます。
次回は”デジクオーツ”関連の事件に戻りますが、いよいよバグラモンファミリーのメンバーが参戦します。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

ホープナイトモンこと獏良遼太郎。彼が教授を務める大学で事件が起きた。
授業に出席する生徒達が次々と体調不良を起こす中、その原因がデジモン絡みだという事が明らかになる。とある女子大生の心とデジモンの力。
生徒の危機にオメガモンとホープナイトモンが立ち上がる!

第9話 生徒を救え! ホーリーナイトモン降臨!


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第9話 生徒を救え! ホーリーナイトモン降臨!

先にお知らせを1つさせて下さい。
近いうちに投稿する話でオリジナルデジモンを出します。
今後もオリジナルデジモンを出す予定ですが、出す時はその都度連絡します。

どうも文字数が1万をいくのがやっとなので、もう少し話の内容や地の文を練り込もうと思う今日この頃。少しずつで良いので、頑張っていきます。



 オメガモンこと一真と因縁の再会を果たした次の日。自室でホープナイトモンは考え事をしていた。彼は大学の教授を務めている事から、本棚にはびっしりと本が入っている。

 兄であるバグラモンと生前で因縁があったオメガモン。その聖騎士が人間と一体化する形で復活した。しかも自分の勤務している大学の卒業生。

 

(兄上達が転生した理由は分かる。でも聖騎士の姿で私が転生した理由は一体何だ……?)

 

 ホープナイトモンは考えていた。自分が何故聖騎士になった上で、転生したのかを。彼はバグラモンと共にデジタルワールドで過ごしていたが、世界情勢の問題で人間界に移住してきた過去がある。

 彼はデジタルワールドに転生してからもずっと、自分が転生出来た理由について毎日考えているが、思うような答えに辿り着いていない。生前は暗黒騎士で決して許されない外道な事をしたからなのか。

 

(一真君は“ホメオスタシスの戦力増強の為”と言ったが……どの道イグドラシルとの戦争は避けられそうにないか)

 

 ホープナイトモンはいずれ来るであろうデジモン達との戦いに備え、毎日タクティモンと共に修行を重ねている。そのおかげで、今は三元士レベルにまで強さが上がっている。

 話に出た一真はと言うと、タクティモンのいる道場で剣術の修行をしている。理由は簡単だ。来たるべき戦いの時までに強くなりたい。その思いだ。

 

「先ずは基本の型から教えよう。斬撃は九つの種類がある。上から下に振り下ろす唐竹斬り。相手の左肩から右脇腹にかけて振り下ろす袈裟斬り。相手の右肩から左脇腹にかけて振り下ろす逆袈裟斬り。右から左に水平に振るう右薙。左から右に水平に振るう左薙。右脇腹から左肩にかけて振り上げる左斬り上げ。左脇腹から右肩にかけて振り上げる右斬り上げ。舌から上に振り上げる逆風。そして刺突。これが基本となる九つの斬撃だ」

 

 元々、タクティモンは武人デジモンの数万年分の怨念のデータを練り固めて作られたデジモン。今は怨念を力として行使しているが、武人デジモンのデータを使って兵法書を書いたり、剣道の先生をしている。

 

「さてこれから教えるのは攻撃や防御等の基本技。剣術の基本が全て集約されたシンプルな型。壱の型。極めれば無駄のない剣術となる。さぁ始めるぞ!」

 

「行きます!」

 

 お互いが竹刀を握り締め、剣術の稽古を始めた一真とタクティモン。道場には竹刀を打ち合う快音が鳴り響く。

 

 

 

「……以上が僕の考えです」

 

 休日明けの月曜日。“電脳現象調査保安局”の会議で、一真は鏡花ことリリスモン達から告げられた事実を踏まえ、自らの意見を伝える。

 自分がオメガモンになった理由。何故転生したデジモン達がこの世界に集結しているのか。その全てを皆の前で堂々と発言した。

 

「成る程な……そう考えていたとは」

 

「確かに……私も疑問に思っていたが、そういう事だったのか」

 

 薩摩とクダモンは一真の説明に理解を示している。彼らも自分達がこの世界に来た理由を考えていたが、どうにも分からない事が多過ぎる。

 それが今回一真の口からホメオスタシスによる戦力増強と言われ、ようやく納得する事が出来た。デジタルワールドの情勢も踏まえた上で。

 

「そうなんだ……まさか私がなっているアルファモンにもそういう秘密があったなんて……」

 

「黙っていて済まない。でも隠し通すつもりじゃなかったんだ……まだ話す時期じゃないと思って」

 

「そうそう。まさか早い時期に真実を知ったのは意外だったわ……リリスモン。アンタ、何のつもり?」

 

「教えたのは私じゃないわ。でも遅かれ早かれ、一真君と優衣さんは知る必要があった。自分達の事を……戦う理由を」

 

 “電脳現象調査保安局”の中で、デジタルワールドから来たのは鏡花ことリリスモンと、テイルモンとウィザーモンだけ。

 クダモンは生まれてからずっと薩摩と一緒に居る。これはイレギュラーとしか言えないが、今後の事を考えると、ある意味妥当かもしれない。

 

「鏡花さん。でも本当なんですか? 一真君の言葉は」

 

「えぇ、大半が事実よ。私達の方でも“デジクオーツ”内のデータを調べているんだけど、これまで観測されてきたデジモン達の殆どが、イグドラシルが統治する地域から来ている」

 

「どうして“デジクオーツ”に来ているんですか?」

 

「逃れる為よ。イグドラシルの支配から」

 

 デジモン達は好きで“デジクオーツ”に来ている訳ではない。“デジクオーツ”に来て、人間界の様子を見て、そこでようやく自分の意志で考えて行動している。

 マリンデビモンやムゲンドラモンがその典型的な例だ。それ以外のデジモンも何かしらの理由があって動いている。

 心の奥底にあるのはイグドラシルから逃れる為。しかし、イグドラシルが嫌ならホメオスタシスが治める地域に行けば良い。そう考える薩摩だったが、テイルモンの言葉がその疑問に答えを出す。

 

「イグドラシルから逃れようにも、検問とか監視網が厳しすぎる。仮に潜り抜けても、秩序に反したという理由で『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に始末される。それが精一杯よ」

 

「何と言う事だ……」

 

「ダークエリアは干渉こそ無かったけど、いずれイグドラシルの魔の手が来るのは時間の問題だったわ。だから会議を開いて皆に聞いたの。“このまま残って滅びる時まで好き勝手するか、人間界に逃れて反撃のチャンスを待つか”を。前者を選んだのはリヴァイアモン。後者を選んだのは私達。それ以外の道を選んだのはバルバモン。リヴァイアモンはそもそも動けないし……身体の問題で。バルバモンは“儂は儂で好きにする”と言っていたわ」

 

「それ以外の皆は人間界に来た……他の皆は?」

 

「それぞれが真っ当な仕事をしているわ。ただ……色々突っ込み所があるけど」

 

 リリスモン以外の『七大魔王』で、人間界に来ているデジモン達は全員自分の道を進んでいる。真っ当な仕事に就いているとの事。

 彼らが一体何をしているのか。それを知るのはまだ先になるが、予想の斜め上を行っている為、誰もが驚く事になるだろう。

 

「でも“デジクオーツ”に関する事件が終わったら、次はイグドラシルと全面戦争か……気が休めないわね」

 

「共通点が共通点だからね……確かに僕らは別の世界で一度死んで、デジタルワールドに転生した。それがホメオスタシスの仕業で、理由がデジタルワールドの安定の為か。実にあの神様らしいよ」

 

「巻き込まれる方はたまったものじゃないけどね……でも今は“デジクオーツ”の方を優先しましょう」

 

 “電脳現象調査保安局”の主要メンバーは理解した。“デジクオーツ”をどうにかした後は、イグドラシルとの全面戦争が待っている事を。

 それまでは“デジクオーツ”関連の事件に専念する。結論が出たところで解散となり、それぞれが仕事に戻っていった。

 

 

 

 東京首都大学。一真の母校たる国立大学。旧七帝大にワンランク劣るものの、それでも難関国立大学に長年君臨している。そこにはホープナイトモンこと獏良遼太郎が教授として勤務している。

 大学の掲示板にとある1枚の大きな紙が張り出されている。それは順位の結果。大きなテストや課題が終わり、その結果を記している。

 

「また下がった……どうして成績が上がらないんだろう?」

 

 その結果を見てショックを受けている女子大生。彼女の名前は須原美穂。経済学部2年生。順位は学年で7位と中々優秀そうに見える。

 しかし、美穂は落ち込んでいる。その理由は2つある。1つ目は高校生の頃、学年で常に1位を取り続けて来た為、その栄光を忘れられないでいる事。2つ目は1年生の頃より順位が下がった事。1年生の頃はトップ5をキープしていたが、ついに陥落した。

 

「私より前の人がいなくなれば良いのに……」

 

 勉強のやり方を変えたり、もっと努力しよう等の前向きな考えが出来ない程、美穂はネガティブに陥っているみたいだ。

 自分より良い成績を残している人がいなくなれば、自分が自然と一番になる。そう呟いた美穂の足元から“デジクオーツ”が広がり、枝やツタが美穂に向かって伸びていく。

 

「貴方は私の事を分かってくれるの? ありがとう……」

 

 その枝やツタを伸ばしているデジモンを見た美穂は微笑むと、彼を受け入れるように両手を伸ばした。彼女の瞳からは既に光が失われていた。

 それから数日後。獏良遼太郎のマクロ経済学の講義の時間に異変が起きた。遼太郎がパソコンを操作しながら、学生達に失業率の説明をしている。

 

「であるからして、この場合は……」

 

 遼太郎の説明を聞いている美穂が怪し気に微笑むと、突如として一人の生徒が石のように固まり、そのまま気を失った。

 真面目に講義を受けていたのに一体何があったのか。その様子の変わりようと物音に周りにいた生徒達が動揺し、中には悲鳴を上げる女子大生もいる。

 

「どうした! 何かあったのか!」

 

「何だよおい!」

 

 それを切っ掛けに次々と生徒達が気を失い、倒れ込んでいく。突然の事態に生徒達がざわついていると、遼太郎は何かに気付いた。

 この講義室の何処かからデジモンの『波動(コード)』が感じられる。しかも“デジクオーツ”のゲートが開かれている。

 それに加えてこの教室からいなくなった生徒が1人いる。彼女は須藤美穂。今日は大学に来ている事は確認している。これはきっと何かある筈だ。

 

「(これは一大事だ! リリスモンに伝えなくては!)直ぐに他の先生を呼んで来る! 君達は待機するんだ!」

 

 遼太郎は講義室を出てスマートフォンを懐から取り出し、“電脳調査保安局”にいるリリスモンこと鏡花に電話をする。

 要件は簡単。デジモンの仕業と思われる事件が起きた事。しかもそれが自分の教えている授業だという事。

 

「リリスモンか! 緊急事態だ! デジモンに関する事件が起きた!」

 

『ホープナイトモン!? まさか貴方の大学で!?』

 

「そうだ! 授業中に生徒が次々と体調不良となった。犯人は私の授業に出ている生徒で、しかも“デジクオーツ”が大学の敷地内にある! 至急応援を寄越して欲しい!」

 

『分かった! 一真君を向かわせるわ!』

 

「ありがたい。じゃあ!」

 

『気を付けるのよ!』

 

 遼太郎は大学の他の教授や職員に授業中に起きた事を正直に報告しながら、美穂が何処にいるのか探している。

 彼の直感が囁いている。今回のデジモンは美穂の心の何かに反応した事を。それが解決の重大なヒントになっている。

 

 

 

「一真君! 東京首都大学で“デジクオーツ”の反応が確認されたわ! 直ぐに向かって!」

 

「僕の母校で!? 分かりました直ぐに向かいます!」

 

 書類仕事をしていた一真は鏡花の連絡を受けると、直ぐに駐車場に向かって車に乗って東京首都大学に直行する。

 大学の駐車場に車を泊めて直ぐに出て、“デジクオーツ”の反応を探り始める。その前に1人の金髪の美男子が姿を現した。

 

「君が八神一真君か……」

 

「お前は何者だ? 初対面な筈なのに何故僕の事を知っている!」

 

 初対面である筈なのに、自分の事を知っている人物。それに違和感を覚えながら、一真は相手の『波動(コード)』を探る。

 

「君の心は美しい。自らが戦う理由や使命を理解している。でもその反面、自分がなっている聖騎士を羨んでいる。彼のように上手く戦いたいと思っている。努力すれば努力する程、輝きは増して自分が小さく思える」

 

「どういう意味だ!」

 

「そのままの意味だよ? 八神一真……いや、オメガモン」

 

「カオスデュークモン……お前だったのか!」

 

 金髪の美男子が不敵な笑みと共にそう言い放つと、周囲の景色が一変して“デジクオーツ”となった。自力で“デジクオーツ”に行けるデジモンだと気付くよりも前に、一真は目の前のデジモンの正体に気付いた。

 目の前にいるデジモンはカオスデュークモン。かつて砂漠地帯で戦い、自分を後少しで殺す所まで追い詰めた因縁の相手。

 

「究極進化!!!……オメガモン」

 

 迷わずオメガモンに究極進化する一真。ここに暗黒騎士と聖騎士による2度目の戦いが繰り広げられようとしている。

 最初の戦いは暗黒騎士が圧倒して後一歩の所まで追い詰めたが、果たして今回は一体どうなるのか。

 

「君は用事があって来たみたいだ……少し私と遊んでもらおうか」

 

「悪いがお前との遊びに付き合う程、私は暇ではない。速攻で切り上げる」

 

「そうか……なら強くなった君の力、見せてもらおうか」

 

 カオスデュークモンは右手に魔槍を、左手に魔盾を握り締めながら構えを取る一方、オメガモンは右腕の大砲と左腕の聖剣を装備する。

 言葉を言い終えたカオスデュークモンが動き出す。一瞬でオメガモンの懐を侵略し、魔盾を構えながら距離を詰めて来た。

 そのまま『ゴーゴン』で殴り付けるが、オメガモンはカオスデュークモンの構えを見ただけで、一体何をするのか予測していた。左肩に装備している『ブレイブシールドΩ』で魔盾の攻撃を防ぐ。

 

「ほぉ、良い反応だな。だが甘いぞ!」

 

 オメガモンの反応速度と対応力に舌を巻きながらも、カオスデュークモンは更なる攻撃を繰り出し続ける。

 右手に握る『バルムンク』の先端に暗黒のエネルギーを集中させ、オメガモンに向けて突き出し、暗黒のエネルギー波を放つ。

 

「『カオスショット』!!!」

 

「ムッ!!」

 

 背中に羽織っているマントで暗黒のエネルギー波を防ぎながら、オメガモンは背後に飛び退く。カオスデュークモンに更なる追撃を許さない為だ。

 それでもカオスデュークモンは攻撃の手を緩めない。右手に構えた魔槍を突き出し、突進を開始して来る。

 

「そうはさせない!」

 

 カオスデュークモンの勢いを削ごうと、オメガモンは右腕の大砲の照準を合わせ、カオスデュークモンに向けて青いエネルギー弾を撃ち出す。

 暗黒のエネルギーを纏わせた魔槍で貫いて破壊されるが、それでも黒煙と爆炎が巻き起こる。それらを隠れ蓑に使いながら、オメガモンは横に滑るように移動を開始する。ガルルキャノンからエネルギー弾を連射していく。

 

(効かないと分かっている攻撃を繰り返すとは……何のつもりだ?)

 

 左手の魔盾で連続砲撃を防いでいくが、カオスデュークモンは内心でオメガモンの考えを探っている。

 それに答えるように、オメガモンは目を細めて不敵な笑みを浮かべる。カオスデュークモンの足元に狙いを定め、一瞬の溜めを作ってから青いエネルギー弾を撃ち出す。

 青いエネルギー弾は地面に着弾すると同時に、カオスデュークモンの周囲一帯に夥しい破壊を撒き散らしていく。

 

「これは……!」

 

 咄嗟に左手に持っている魔盾で防ぐカオスデュークモン。彼は気付いた。今の一撃が散弾型エネルギー弾だという事に。

 青色のエネルギー弾の中には小型のエネルギー弾が多数凝縮されており、炸裂する事で通常よりもすさまじい破壊力を見せる。

 

「驚いたな……まさかこの短期間で成長するとは」

 

「一つ貴様に質問したい事がある。クオーツモンのデジタマを奪い、クオーツモンを蘇らせたのは貴様か?」

 

「違う。私ではない。私はデジモンキングのシャウトモン達相手にやり合える程、強いデジモンではない」

 

「と言う事は貴様が仕えるデジモンが黒幕という事だな? そのデジモンは誰だ!」

 

「悪いがそれは教えられない。今日はここまでにしよう。また会おう、オメガモンよ」

 

 カオスデュークモンは当初の目的を達成したのか、オメガモンの目の前で姿を消し、“デジクオーツ”から去っていった。

 それを見て暗黒騎士の『波動(コード)』が完全に消えた事を確認すると、オメガモンは大学の中に入るべく、一歩を前に踏み出した。

 

 

 

「何だこれは? 巨大な植物に支配されているみたいだ……」

 

 大学の建物の中に入ったオメガモン。彼が目にしたのはあらゆる所を侵食している蔦。まるで植物が文明を侵食しているみたいだ。

 今回の事件の犯人は植物系のデジモンかもしれない。そう思いながら講義室に入ってみると、何人かの生徒に蔓が巻き付いている事に気付いた。

 

「成る程。蔓で動きを封じながら、エネルギーを吸収しているのか。あくどいやり方だ」

 

 何人かの生徒はまるで石像のように動かない。それに加えて活力を吸収されている。本当ならグレイソードで蔦を斬って、生徒達を助けてあげたいのが本心。

 しかし、オメガモンはこの事件の犯人を突き止める事を優先した。感情ではなく理論で動く。それがオメガモンという聖騎士だ。

 

「蔓の先にデジモンがいる……だがこれ以上先には進めない」

 

 大学の構内を駆け抜け、一通り蔓の事を調査したオメガモン。彼は蔓の終着点に辿り着き、この先にデジモンがいる事を考える。

 犯人を炙り出すにはどうすれば良いのか。オメガモンは考える。大学の至る所にある蔦その物がデジモンの一部だとしたら。しかもデジモンは正体を見せていない。かなり手強い相手になるだろう。

 一方の遼太郎。彼は図書室で須藤美穂を見つけた。声を掛けようとすると、彼女が何かを呟いている事に気付いた。

 

「1~7位の皆が消えた。これで私が一番よ! アハハハハハハッ!!!!!」

 

「何を言って……ハッ! まさか須藤さん……君が!」

 

「そうです。大学に進学するまでは常に私は学年トップ。でも大学ではトップではなくなった。悔しくて、惨めで……だから私より出来の良い生徒を消してやってるんです!」

 

「だからと言って、やって良い事と悪い事がある筈だ! それが分からない君ではない! 目を覚ますんだ!」

 

「先生は分かってくれますよね? 自分より輝いている人が直ぐ近くにいて、自分の矮小さを思い知らされる。自分だけ取り残されるような、そんな気持ち……」

 

「ッ!?」

 

 まるで自分の心の奥底を言い当てられたような錯覚。自分にどうにか出来るのか。彼女を救う事が出来るのか。それを考えながら遼太郎は険しい表情となる。

 その頃、“デジクオーツ”にいるオメガモンは蔓を見ながら考え事をしている。これまでの戦いで分かって来た事。それは相手の戦術や特徴を理解する事。

 今回の相手は植物系のデジモン。枝のような触手や蔦が広がっている。そうして自分のテリトリーを拡大していく。厄介なのは本体が何処にいるのか分からない事。

 

(まるで森の中に迷い込んだみたいだな……待て。今回の犯人はジュレイモンではないのか? 可能性は在り得るが、さてどうやって確かめるか……)

 

 極めて厄介な相手なのは分かった。相手が誰なのかは何となく分かって来た。問題なのはどうやって本体を見つけ出すか。

 その方法を考えながら目の前に広がる蔦を見ると、オメガモンは左腕を振るい、ウォーグレイモンの頭部を象った籠手から大剣を射出する。

 

「あまり使いたくはない手段だが……許して欲しい」

 

 オメガモンは大上段に掲げた聖剣を振り下ろし、蔦を真っ二つに両断する。蔦が身体の一部だとすると、痛みがフィードバックして苦しむ事となる。

 数秒後、何処かから苦痛に満ちた声が聞こえて来た。これで本体の居場所が明らかになった。オメガモンは直ぐに向かっていく。

 同じ頃。人間界では、突如として美穂は頭を抱えながら苦しみ始めた。“デジクオーツ”で傷付けられた事で、フィードバックが来た事を意味している。

 彼女の足元から“デジクオーツ”に繋がるゲートが開かれ、遼太郎は迷わず飛び込みながら、ホープナイトモンの姿となった。

 

 

 

 図書室から大学の中央にある広い場所に来た美穂とホープナイトモン。明らかに様子がおかしい美穂を見て、ホープナイトモンは出方を伺う。

 全身から人ならざる者のオーラが出ている。彼女はデジモンに憑り付かれている。ホープナイトモンの目でも、それは確かだった。

 

「よくも……よくも!」

 

「まさか……ジュレイモンと一体化していたのか!?」

 

 今回の事件の犯人はジュレイモン。大きな樹木のような姿をした植物型デジモン。枝のような触手や蔦を伸ばして来ると、ホープナイトモンは双剣を両手に握り締め、振るいながら斬り裂いていく。

 しかし、人間と疑似的な一体化をしているジュレイモンは全体的なスペックが上昇している。それに加え、一体化をしている美穂を助けなければならない。そういった要因もあり、ホープナイトモンは戦いにくそうにしている。

 一瞬の隙を突かれて触手に拘束され、エネルギーを吸い取られていく。その時に美穂によって心の奥底で抱いている思いが暴かれた。

 

「私は自分より出来の良い人達に嫉妬していました。その心が私のエネルギーです。ジュレイモンが私に力を貸してくれました。今では一心同体だから、何でも出来る!……先生は分かってくれますよね?」

 

「違う! それはただの思い上がりだ! 誰かを蹴落とし、羨んでも何の解決もしないじゃないか!」

 

「よく言いますね……先生も同じ事をしたくせに!」

 

「ッ!」

 

 ホープナイトモン、もといスカルナイトモン。かつて強制デジクロスで様々なデジモン達を取り込み、強化していた。美穂が理解者として口にする一方、美穂の気持ちを理解しながら止めようとしている。

 

「バグラモン……」

 

「何!?」

 

「先生はお兄さんがいて、心の底から羨んでいるんですね。兄は偉大な発明家であり、世界的に有名。なのに自分は大学の教授止まり。常に兄と比較され続けている事への苦悩や焦りが渦巻いている……安心して下さい。お兄さんは必ず仕留めますから」

 

「兄上を……兄上を傷付ける者は誰であれ許さない!!」

 

「そうだ! 例え誰であろうと、世界に厄災をもたらす者は許さない!」

 

 若い男性の威厳に満ちた声。それが響き渡ると共に青白い三日月形の刃が飛来し、ホープナイトモンの触手を消し去った。

 直ぐに距離を取るホープナイトモンの隣に降り立ったのはオメガモン。前に人間体として会った事があるが、デジモンの姿はこれが初対面となる。お互いに簡単に自己紹介を済ませ、並び立つ。

 

「貴方がホープナイトモン……?」

 

「あぁ、初めましてオメガモン」

 

 迫り来る触手を薙ぎ払おうとホープナイトモンが双剣を構えるが、オメガモンは灼熱の火炎を纏わせた左手を地面に打ち付ける。

 これによって発生したのは灼熱の炎壁。ジュレイモンと言えど、迂闊に攻撃出来ない。触手や蔦を伸ばせば、灼熱の火炎で焼き尽くされる事が目に見えている。

 

「『チェリーボム』!!!」

 

「そう来たか……」

 

「奴の力が上がっている……そう簡単には行かないようだな」

 

 ジュレイモンは直ぐに頭部の茂みに生える禁断の木の実を投げ、それらを爆発させる事で灼熱の炎壁を消し去った。

 その行動にオメガモンが表情を険しくさせる一方、ホープナイトモンは注意深く双剣を構える。

 

「もう1度先生のエネルギーを吸収してあげるわ!」

 

「先生?」

 

「彼女は私の授業に出席している。普段の成績に伸び悩んでいる事から、今回の事件が起きた!」

 

(成る程。デジモンに取り付かれたのではなく、心でデジモンを動かしているような物なのか。デジモンは人間の心に良くも悪くも影響を受ける。暴走する事もある……のか)

 

 今回の事件は今までの事件とパターンが違う。今まではデジモンが人間の心を利用しているが、今回は人間の心がデジモンの心を利用している。完全に正反対。

 

「オメガモン。ここは私に任せてくれないか?」

 

「ホープナイトモン……」

 

「彼女は私の生徒だ。教師たるもの、生徒を導く物。そして道を誤った時は必ず引き戻す。それが真の教師だ!」

 

「分かった。何かあったら援護するよ」

 

 ホープナイトモンの真剣な眼差しを見て、オメガモンはその覚悟を悟った。後方に飛び退くと、それを確認したホープナイトモンが美穂を説得し始める。

 その姿を見たオメガモンは“真の教師”という物を感じ取った。教育問題が叫ばれる昨今、このような教師は世に珍しい。

 

「美穂さん、もう止めよう。そのデジモンから離れるんだ!」

 

「嫌です。私は離れません。先生なら分かってくれると信じていたのに!」

 

「確かに私は羨ましかった……兄上や皆が輝いているのを見ていたから。だが、それが誰かを蹴落としたり、傷付けて良い理由にはならない!」

 

「違います! 先生も私と同じ! 先生が私に力を与えると信じているのに……」

 

 ホープナイトモンもとい、スカルナイトモン。彼はバグラモンの弟であり、大天使だった兄とは違い、人の絶望の心をその魂に反映して生まれたデジモン。生まれた時から世界を呪うことを宿命づけられ、世界から忌み嫌われ、蔑まれ憎まれ続けて生きてきた。

 前世の事を今でも色濃く覚えている為に美穂に揺さぶられるが、それを跳ね除けながら説得を続ける。

 

「それは昔の話だ! でも今は違う……私はかつて取り返しの付かない罪を犯した。それは他でもない私のせいだ!……兄上や皆と一緒にいて、一緒に生きたかった!前はそれが出来なかったけど、今はそれが叶っている。もうこれ以上大切な物を失いたくはない!」

 

「……ホープナイトモン」

 

「変わるしかない自分自身が! 自分の力でピンチをチャンスに変えるしかない! 他の人を羨んだり、憎んでも何も起こらない! 自分で行動してやれる事をやろう! 今自分に出来る事を精一杯やるんだ! 今からでも遅くない! 戻って来るんだ!」 

 

 ホープナイトモンの熱い言葉。熱い説得。それはまるで太陽のようだ。熱いようでいて、暖かい。その説得に美穂の心の闇が消え去っていく。

 その様子を見守るオメガモンは驚いていた。前世では悪辣極まりなかった暗黒騎士から、今では聖騎士になっているのだから。

 

「ごめんなさい先生……」

 

「良いんだよ、美穂さん」

 

 瞳から大粒の涙を流しながら、正気に戻った美穂。素早く触手と蔦を掻い潜り、双剣を振るって彼女を助けると、ホープナイトモンは優しく頭を撫でる。

 安心させる為の行動だったようだが、美穂は今のでホープナイトモンに惚れてしまったようだ。その様子を見ていたオメガモンは苦笑いを浮かべる。

 

「オメガモン。美穂さんを頼む。後は私が倒す。来い、セイントアックスモン!」

 

 ホープナイトモンの声と共に、“デジクオーツ”に現れたのはセイントアックスモン。義兄弟の杯を交わした弟分で、素早い動きと無限の体力に満ちた屈強の闘士。義兄に忠実に従っており、勝利を得るため義兄を信じて闘っている。

 

「ウオォォォォォーーーーー!!!!! ホープナイトモン! セイントアックスモン! ジョグレス進化!!!」

 

 ホープナイトモンが大声を上げると共に、全身を覆い尽くす程のエネルギーの奔流が発生し、ホープナイトモンとセイントアックスモンの周囲一帯にエネルギーが渦巻く。

 渦巻くエネルギーの中で、ホープナイトモンとセイントアックスモンがジョグレス進化する。エネルギーの繭が消失すると、そこには1体の聖騎士が立っていた。

 

「ホーリーナイトモン!!!」

 

 純白に光り輝く聖鎧に身を包み、左肩に巨大な刃を装備し、腰に鞘込めの双剣を装備した聖騎士。その名前はホーリーナイトモン。

 神話に出てもおかしくない程美しく、威厳のある姿に美穂がうっとりする一方、オメガモンは初めて見るデジモンの目を細める。

 

(聖騎士になったホーリーナイトモンか……)

 

「『チェリーボム』!!!」

 

「『ツインブレード』!!!」

 

 ホーリーナイトモンは両手に双剣を握り締める一方、ジュレイモンは頭部の茂みに生える禁断の木の実を投げつつ、触手と蔦を伸ばして来る。

 危ないと美穂が叫ぼうとした次の瞬間、ホーリーナイトモンの姿が消滅し、次の瞬間にはジュレイモンの背後に現れている。

 一体何があったのか。オメガモンと美穂が見つめていると、ジュレイモンがゆっくりと倒れ込んだ。あの一瞬で斬撃を叩き込んだようだ。恐ろしい剣技。恐ろしい速度。

 勝負は一瞬で終わった。ジュレイモンはデータ粒子に変わりながら、デジタルワールドへと強制送還されていった。

 

 

 

 それから数日後。大学の遼太郎の部屋では、遼太郎と美穂が話をしていた。あの後、生徒達は只の体調不良という事が分かり、3日以内で元に戻ると言われた。

 その3日が経過し、今では遼太郎も安心して講義を行えるようになった。生徒達も相変わらず活き活きとしている。

 

「先生、この前はありがとうございました。でもその時の事をあまり覚えていなくて……」

 

「私は何も知らないよ。君が一体何をしたのか。だって確かな証拠がないじゃないか」

 

「そうですけど……でも先生が必死で何かを伝えようとしていたのは覚えています。もう1度やり直そうと思います」

 

「そうか……良かった」

 

 次のテストで美穂はトップ5に返り咲いた後、初の学年1位を取る事になるのは別の話になる。そして、遼太郎もテレビ出演をする程の知名度を誇る教授になる事も別の話になるだろう。それらはこれから未来の話になるのだから。

 




”デジクオーツ”関連の事件にバグラモンファミリーのメンバーが参戦。
最初はホープナイトモン、もといスカルナイトモンでした。
彼のテーマソングを改めて聞きましたが、今の彼には合わないです。
次回も”デジクオーツ”関連の事件にバグラモンファミリーのメンバーが参戦します。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

突如として発生した辻斬り騒動。犯人は剣道部の高校生が関係している。
調査していく一真とタクティモンは意外な事態に直面する。
果たして犯人は?

第10話 聖なる刺突 聖突誕生!


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第10話 聖なる刺突 聖突誕生!

12月に突入しました。今年も残りあとわずか。第1章の完結は来年になります。
という訳で第10話。もう少し文字数が欲しいので、もっと頑張らないとと思っています。



「298、299、300!」

 

 早朝のとある高校の道場。その中で一心に竹刀を素振りしている高校生がいる。彼の名前は最上竜馬。剣道部のエース。

 来週は剣道部の新人戦がある為、早朝練習で汗を流している。恐らく全国大会出場を決める大一番の相手は私立東京第一高校。タクティモンこと禎島拓郎が率いる剣道部。

 

(俺は強くなりたい……先輩達が行けなかった全国大会に行く為に! もっと強く! もっと速く!)

 

 竜馬は高校2年生。剣道部の新部長となり、先輩達が出来なかった事をやりたいという思いで練習に打ち込んでいる。それは全国大会出場。今年の都大会の決勝では惜しくも敗れ、全国大会出場を逃した。

 その時の無念を胸に抱く竜馬が素振りを続けていると、彼の携帯電話が光り輝き、周囲の風景が“デジクオーツ”に書き換えられていく。

 

「何処だここは……?」

 

「勝負!」

 

「ッ!」

 

 現れたのは背中にぬいぐるみを背負い、顔に仮面を被り、両腕に木の籠手を付け、両手に木刀を握る魔人型デジモンのヤシャモン。繰り出された唐竹斬りを竹刀で受け止め、お互いに背後に飛び退いて距離を取る。

 

「何者だ!」

 

「俺はヤシャモン。君は?」

 

「最上竜馬だ」

 

「竜馬……君は強くなりたいのか?」

 

「そうだ。俺は剣道部の新部長として全国大会に出場したい! 先輩が果たせなかった夢を叶えたい!」

 

 竜馬の目と太刀筋だけで、ヤシャモンは竜馬の性格を理解した。真っ直ぐで嘘偽りのない性格。彼なら強くなる為の修行をさせても良いだろう。そう判断した。

 

「成る程……良き覚悟だ。君の夢の実現を手伝いたいな。それなら俺が稽古を付けよう」

 

「お前が……? 本当に出来るのか?」

 

「疑っているみたいだね……ならば見せてやろう!」

 

「行くぞ!」

 

 剣道着姿となった竜馬と、木刀を両手で握り締めるヤシャモンが対峙する。両者の間を一陣の風が吹いた時、両者が同時に動き出す。

 

「面!」

 

「遅い!」

 

「……一本だな」

 

「あぁ、俺の負けだ」

 

 竜馬が面を打とうと構えたその瞬間、ヤシャモンは面と胴と籠手の三か所を一瞬で、しかも同時に攻撃した。結果は竜馬の完敗。全く考えてもいなかった結果に竜馬は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「俺に稽古を付けさせて下さい!」

 

「良かろう。一つ約束してくれ。正しき剣の道を歩む事を。その力で誰かをむやみやたらと傷付けない事を」

 

「はい! 分かりました!」

 

 熱心な弟子が出来た事が嬉しいのか、ヤシャモンは優しく微笑んだ。それから竜馬と共に稽古に打ち込んでいく。

 同じ頃、この日もタクティモンの道場で一真が剣術の稽古を受けている。ここ数日間は剣術の基本を骨の髄にまで叩き込まれた。

 至る所に痣や擦りむいた痕がある。それだけタクティモンに打ち込まれ、鍛えられた事を示しているが、一真はこの程度では屈しない。諦めが悪く、最後の最後まで諦めない往生際の悪さが彼の取り柄の1つだからだ。

 

「基本のおさらいはここまでにして、今日は新しい型を教えよう」

 

「よろしくお願いします、師匠!」

 

 タクティモンは内心で思う。“まさか自分がかつての敵を鍛えているとは”と。かつては敵として壮絶な死闘を繰り広げた2体のデジモンが、今では剣術の稽古をしている。これも年月の為せる技だろう。

 一真は基本の型は一通りマスターした。これからも復習していくが、そろそろ新しい段階に進んでも良いだろう。そう判断したタクティモンは新しい型の説明に入る。

 

「今日教えるのは剣術の使い手同士の戦闘用の型だ。弐の型と言う。決闘に用いられると言えば分かりやすいかな? フェイント等に重点が置かれている。剣捌きの精度は非常に高く、疲労も最小限で済む。真正面から斬り合うだけが剣術ではない」

 

 優雅だが、実践的な型。攻撃性と変則性が特徴な剣術を習得しようと、一真は今日も稽古に励んでいく。その師匠たるタクティモンは一真の姿勢を好ましく思っている。

 勉強熱心な努力家。道場には1時間以上前に来て、ウォーミングアップやストレッチを済ませ、素振りをしながら剣術の復習をしている。それを数回眺めた事がある為、タクティモンは自分が率いる剣道部員も見習う所があると思った程だ。

 

 

 

 数日後の土曜日。タクティモンが顧問を務める剣道部の練習試合が行われている体育館に、一真とバグラモンファミリーが来ている。

 体育館には剣道部員の良い声と竹刀の音が響き渡り、一真はタクティモンとの剣術の稽古を思い出している。

 

「一真君もあの子達みたいに頑張っているわね。凄いわ……」

 

「はい。今は教わっている剣術を少しずつではありますが、習得しています。25歳でまだ若いからでしょうけど……でも彼らのような若い人を見ると、僕ももっと頑張らないとだなと思います。僕はまだ若いですし、これからもチャンスがあると思います」

 

「相変わらず真面目ね……何だかタクティモンが増えたみたいだわ」

 

「? 一真君、あそこだ……」

 

 一真が鏡花と話をしていると、皇太郎がとある部員を指差した。タクティモンの剣道部の部員を圧倒する強さを見せる相手。

 皇太郎が指差した部員。東京明館高校の最上竜馬。団体戦では全国大会出場を逃したが、個人戦では全国大会で3位入賞を果たした強者だ。

 

「彼がどうかしました?」

 

「タクティモンが言っていた強者、最上竜馬君だ。彼からデジモンの『波動(コード)』を感じる……」

 

「デジモンの『波動(コード)』を? 確かに……」

 

「もしかして“デジクオーツ”に関する事件の起きる前兆かもしれん。チェックしておこう」

 

「ですね……」

 

 竜馬からデジモンの『波動(コード)』が発せられるのを、皇太郎ことバグラモンは感じ取り、それを一真に伝える。

 一真もそれに気付くと、竜馬を警戒するように目を細めたその日の夜、稽古を終えて帰宅している剣道部員達の前に1人の武者が現れた。

 

「私と勝負しろ……!」

 

「何だお前は!」

 

「俺達は疲れているんだ……他を当たってくれ」

 

「帰れ帰れ!

 

「逃げるのか?」

 

 剣道着を羽織り、竹刀を構える謎の少年。出稽古で疲れている剣道少年達が勝負から逃れようと口々に言うと、少年は彼らを煽るように不敵な笑みを浮かべる。

 その様子を見て不快感を感じたのか。それとも勝負を受け入れたのか。剣道少年達は竹刀を取り出し、両手に握りながら構えを取る。

 

「仕方ない。その勝負、受けて立とう」

 

「防具を付けろ!」

 

「お前の竹刀なんざ、掠りもしねぇよ」

 

「その決断を後悔させてやる! 行くぞ!」

 

 剣道少年は目の前の相手が自分より弱いと侮っているのか、防具を一切つける事なく勝負をしようとしている。

 勝負の結果は武者の圧勝。一瞬で剣道少年達を完膚なきまでに倒し、勝利を確信してから何処かに去っていった。

 

 

 

 それから1週間後。獏良家の道場で剣術の稽古に励もうとしている一真。彼はタクティモンと共に真剣な表情で何かを話している。

 

「辻斬り騒動?」

 

「あぁ、私が教えている高校生の友達で強い剣道少年がいるのだが……彼らが被害に遭ったそうだ」

 

「何と…幕末じゃあるまいのに」

 

 辻斬りとは武士等が街中等で通行人を刀で斬りつける事。中世から見られたが、特に戦国時代から江戸時代の前期にかけて頻発していた。1602年(慶長7年)に徳川家が辻斬りを禁止し、犯人を厳罰に処する事でようやく収まりを見せた。

 辻斬りをする理由としては、刀の切れ味を実証する試し切りや、単なる憂さ晴らし、金品目的、自分の武芸の腕を試す為といった様々な理由が挙げられる。また、1000人の人を斬ると悪病も治ると言われる事もあった。これを千人斬りと言う。

 

「出稽古の帰りに襲われて、全員があっという間にやられたそうだ。しかもズタボロになるまでやられていて、その時のトラウマでもう2度剣道をしたくないと言わさせている程だ」

 

「何と言う事だ……!」

 

 タクティモンから辻斬り騒動の事を聞き、一真は遣る瀬無さに拳を握り締める。彼らの心にも傷を負わせ、大切な物を取り上げた。

 その罪は許す事が出来ない。恐らくデジモンの仕業。“デジクオーツ”が関係しているだろう。となると、犯人は最上竜馬しか考えられない。

 

「聞いた話によると、身長と体格が高校生らしい。お面を被っていたから顔までは分からないが、普通なら考えられない強さだったらしい。これは本人から直接聞いた部員の話だ」

 

「このまま見逃すと被害者が増え続けてしまう……早い段階で止めないと!」

 

「あぁ、今回は君に協力しよう。部員が巻き込まれたらたまったものじゃないからな」

 

「ありがとうございます!」

 

 こうしてタクティモンの協力を得た一真は動き出す。犯人の可能性が高い最上竜馬が通っている高校の道場。その前で待ち伏せし、彼が出て来るのを静かに待つ。

 部活を終えて出て来た竜馬。その後を拓郎と一真が静かに追うと、竜馬が唐突にスマートフォンを取り出し、“デジクオーツ”へのゲートを開いた。

 

「行くぞ!」

 

「はい!」

 

 竜馬の後を追って“デジクオーツ”へのゲートに入り込み、“デジクオーツ”に足を踏み入れた拓郎と一真。そこで彼らが目にしたのは意外な光景だった。

 防具を付けてヤシャモンの稽古を受けている竜馬。それだけを見ると、物凄く真っ当にしか思えなかった。

 

「……あれ?」

 

「何か……違うな」

 

「もっと腰を入れろ! 鍔競りから引き籠手!」

 

「面!!!」

 

「もっと声を出せ!」

 

「胴!!!……あれ? 禎島先生と貴方は……?」

 

 想定外の光景を見てお互いに首を傾げる一真と拓郎。背後を振り返り、意外な訪問者に驚きを隠せずにいる。

 2人の人間から発せられるデジモンの『波動(コード)』を感じ取り、ヤシャモンは警戒するように2本の木刀を構える。

 

「“電脳現象調査保安局”、八神一真。最近起きている辻斬り騒動の調査をしている。何か心当たりはないか?」

 

「竜馬君。君を疑うつもりはないが、君からはデジモンの『波動(コード)』が探知された。ここ最近起きている事件はデジモンが絡んでいる。我々は君が犯人ではないかと思っている。正直に話して欲しい」

 

「確かに俺が疑われても仕方ありません。でも禎島先生、一真さん……俺は剣道で誰かを傷付けるような真似は絶対にしていません! それをヤシャモン師匠と約束したんです!」

 

『ヤシャモン師匠……?』

 

 自分が疑われている事に理解を示しつつも、自分はしていないとはっきりと言い切った竜馬。彼の言葉にあった“ヤシャモン師匠”という単語に引っ掛かりを覚えると、ヤシャモンが説明を始める。

 

「彼を弟子にした時、俺は約束した。“正しき剣の道を歩み、その力で誰かをむやみやたらと傷付けない事”を。今回の事件の犯人は竜馬ではない。それは師匠の俺からも言わせてくれ」

 

「あぁ、分かった。疑って済まなかったね……」

 

「良いんです。疑われても仕方ない立場にいるので……その代わりに実は俺なりに調べた事を教えます」

 

 竜馬は一真、拓郎、ヤシャモンに見えるように大きな紙を広げると、ペンを出して彼らに説明する。今回の事件について。今まで何処の誰が狙われ、次に誰が狙われているのかを。

 

「今まで狙われているのは俺の高校の近辺の学生ばかり。高校生や大学生ばかりが狙われています。中には俺の先輩や友達がいて、俺もいつかは狙われる……そう思って普段は剣道の道具を師匠に預け、師匠との稽古に励んでいます」

 

「犯人は君の剣道部の中にいると?」

 

「と思って聞き込みをしてみたんですが……どうやらそれが違うんですよ。犯人は人間離れしたスピードとパワーを持っていて、しかも実体がないんです」

 

「実体がない……? 幽霊、それとも亡霊なのか?」

 

「そこまでは分かりません。俺も聞き込みを中心に集めて整理した情報なので……でも今回の事件に俺も協力させて下さい。先輩や友達が狙われて、いずれ俺が狙われるのなら……その前に俺達の手で犯人を懲らしめましょう」

 

「竜馬君……君の思いは分かるが、相手は強いぞ?」

 

 剣道部の顧問として、高校の教師として竜馬に忠告する拓郎。その姿はタクティモンを彷彿とさせている。

 その思いを理解しながらも竜馬は伝える。自分の意志と考えを。流石は剣道部の新部長だけある。

 

「分かっています。それに……剣道少年達ばかりを狙っているなら、俺を囮にしても構いません。今部活も自粛中なので……部員皆の為にも、いえ剣道少年の皆の為にも俺は正しき剣の道を貫きたいです!」

 

「拓郎殿。こうなった竜馬は誰にも止められない。師匠の俺からもお願いしたい。今回の辻斬り騒動の解決に、彼の力を役立てて欲しい」

 

「……分かった。こちらも無理させない範囲の協力をお願いする。一真君、それで良いか?」

 

「分かりました。責任は僕が取ります」

 

 今回の事件解決に竜馬&ヤシャモンが協力する事になり、“デジクオーツ”内で2人の人間が剣道・剣術の修行を始める。

 竜馬が竹刀を打ち込み、それをヤシャモンがチェックしながら修正点を指摘していく。その適切なアドバイスを聞きながら、竜馬は何度も竹刀を振るう。

 一方、タクティモンは一真に剣術の型を教える。この型はタクティモンが独自に考案した物であり、他では習う事の出来ない貴重な型でもある。

 

「今回教えるのは跳ね返しや防御を重視した参の型。この場合は独特の構えを取る」

 

「おおっ……」

 

 タクティモンはそう言うと、左手を前に突き出しながら右手を大きく後ろに引き、弓を引き絞ったような独特な構えを取った。

 これが防御主体の参の型。先読みと反射神経を利用して相手の攻撃を跳ね返したり、受け流したりする事で、自分を守りながら反撃する。カウンターを両立させた型でもある。完璧に極めれば集団戦や格上相手にも対応出来るだけでなく、十分通用する事も出来る。

 

「さぁ行くぞ!」

 

「はい!」

 

 強くなりたいという思いは敵味方関係ない。その純粋な思いを持つ者こそ、本当に強くなる事が出来る。

 だからと言って強さだけを追い求めてはいけない。大事なのは力としての強さではなく、心の強さ。心の強さを剣や銃に乗せる事。それが力に繋がる。

 

 

 

 それから1週間後。高校の道場を出て、部活帰りを装った一真と竜馬が帰宅を始める。最初は竜馬だけが囮になる話だったが、心配に思った一真が付き添う形となった。

 周囲がすっかり暗くなった頃、一真と竜馬の目の前に竹刀を構える鎧武者が現れた。辻切騒動の犯人だ。

 

「勝負!」

 

「来たぞ」

 

 警戒するように目を細めながら竜馬に促すと、竜馬は静かに竹刀を構える。一真も同様に竹刀を構えると、跳躍して後方宙返りをして鎧武者の背後に着地する。

 これで挟み撃ちとなった。例え正面の竜馬を撃退したとしても、一真が残っている。その逆もまた同様だ。

 

「面!!!」

 

「胴!!!」

 

 面を繰り出す竜馬に対し、鎧武者は胴を繰り出す。勝負が付くかと思われたその時、竜馬は持っていた竹刀を手から放し、両手で鎧武者の振るう竹刀を掴み取った。

 驚きの表情を浮かべる鎧武者が竜馬の手から竹刀を離そうと力を込めた瞬間、背後から一真が竹刀を振り下ろす。その竹刀には橙色のエネルギーが纏われており、この一撃で鎧武者を消し去るつもりだ。

 

「喰らえ!!!」

 

「ギャアァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

 一真の竹刀から繰り出された面。それを喰らった鎧武者は苦痛に満ちた雄叫びを上げながら、データ粒子と変わって消滅した。

 竜馬の言う通り、鎧武者は実体のない影だった。ならば本体は一体何処にあるのか。そう思っていると、周囲一帯が“デジクオーツ”へと変わっていく。

 

「お前はザンバモン……!」

 

 一真達の目の前に現れたのは1体のデジモン。全身を黄金の鎧で身を包み、下半身が馬と一体化している騎馬武者のような姿をしたザンバモン。

 ムシャモン軍団の将軍として君臨している猛将でありながら自ら軍団の先頭に立ち、敵に切り込んでいく戦い方を好むデジモン。

 

「お前の仕業だったのか! 何故このような事を……!」

 

「私のパワーアップに人間の強い欲望を使っただけだ。剣道や柔道、武術をしている奴らの“強くなりたい”というエネルギーを利用させてもらった。その成果を今から見せてやろう!」

 

「下がっていてくれ竜馬君。ここから先は僕の戦いだ」

 

「はい! 頼みます、一真さん!」

 

 今回の事件の犯人はザンバモン。彼は配下のムシャモン達を人間界に送り込み、剣道少年等の“強くなりたい”という心の欲望をエネルギーに変え、それを糧に自らを強化しようと目論んだ。

 ザンバモンは右手に巨大な斬馬刀を、左手に妖刀を握り締める一方、一真は隣にいる竜馬に下がるように言った。自分達の戦いに巻き込みたくないという一心だ。

 竜馬はその考えを理解し、タクティモンとヤシャモンと共に少し離れた所で一真とザンバモンを見守る。

 

「ザンバモン! 人の心を利用して得た偽りの強さなんかに僕は負けはしない! ウオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 一真がザンバモンに宣言してから雄叫びを上げると、全身を覆い尽くす程の膨大なエネルギーの奔流が発生し、一真の周りにエネルギーの繭が形成された。

 初めて見る光景に竜馬とザンバモンとヤシャモンが一真を見つめていると、エネルギーの繭の中心で一真の両目が空色に輝き、咆哮を上げる。

 

「ウオォォォォォーーーーー!!!!! 究極進化!!!!」

 

 一真が咆哮すると同時にエネルギーの繭が光り輝く。やがてエネルギーの繭が消失すると、そこにはオメガモンが立っていた。

 信じられないと言わんばかりに竜馬とヤシャモンが目を見開く中、ザンバモンは左手に握る妖刀の剣先をオメガモンに向ける。

 オメガモンも右腕のメタルガルルモンの頭部を象った籠手から巨大な大砲を展開し、左腕のウォーグレイモンの頭部を象った籠手から聖剣を射出し、剣先をザンバモンに向けた。

 ゆっくりと動きながら間合いを取っていく2体の究極体デジモン。時折オメガモンは片足を一歩踏み込んでフェイントをかけ、ザンバモンに攻撃するタイミングを狂わせる揺さぶりをかけている。

 それだけでなく、聖剣を構える位置を変えたりしながら突撃するタイミングを伺っていると、ザンバモンが下半身となっている騎馬を疾走させる。

 

「行くぞ!」

 

「来い!」

 

 突進を開始するザンバモンに対し、オメガモンは右手を前に突き出しながら左手を大きく後ろに引き、弓を引き絞った防御主体の参の型を取る。

 間合いに入ったと同時に、ザンバモンは右手に握る斬馬刀を振り下ろす。斬馬刀。騎馬上から敵騎馬めがけての突きや斬り払い、または馬上から歩兵に向けての突きや斬り払いを行う武器。

 オメガモンは上半身を捻りながらグレイソードで受け止め、その状態から最後まで振り切る。斬馬刀を弾きながら、右斬り上げが繰り出された。

 

「チィ!!」

 

 咄嗟に背後に飛び退いて右斬り上げを躱し、距離を取るザンバモン。体勢を立て直しながらオメガモンを睨む。

 叩き付けられる殺意にオメガモンはビクともせず、グレイソードを下段に構える。このバトルでは必要最小限の動きしか取っていない。防御主体の参の型。その戦い方の教科書通りに動いている。

 

「オオォォォォォォーーーーー!!!!!」

 

 ザンバモンは凄まじい速度でオメガモンとの間合いを詰めると、今度は左手に握る妖刀を振るう。

 下段に構えたグレイソードを右斜め下から左斜め上に振り上げ、左斬り上げで妖刀を受け流し、オメガモンはそこから斬り合いに移行する。今までは防御の型を取っていたが、今度は決闘の型に移行する。

 左手首のスナップを効かせた重く鋭い斬撃。それをザンバモンの左側に集中させる事で、防戦一方に追いやる。

 

「すげぇ……」

 

「圧倒的じゃないか……」

 

(成る程……取り回しの難しい斬馬刀の方に攻撃を集中させているのか。大した者だ)

 

 目の前の戦いに言葉を失う竜馬とヤシャモンの隣で、タクティモンはオメガモンの戦い方を見て目を細める。

 オメガモンは斬撃の全てを斬馬刀を握っている左側に集中させている。斬馬刀は威力こそ大きいが、取り回しが難しく、小回りが効かない。それを利用して片側に攻撃を集中させる事で、ザンバモンを防戦一方に追い込んで戦いを優位に進めていく。

 しかし、このまま終わるザンバモンではない。両手に握る2本の刀を交差しながら斬撃を防ぐと、そのままの勢いでオメガモンに斬り掛かる。

 

「フッ!」

 

 オメガモンは聖剣で交差斬りを防ぎながら鍔迫り合いに移行する。傍から見れば2本の剣で押しているザンバモンの方が有利だが、基本性能で言えばオメガモンの方が格上である為、オメガモンが有利となっている。

 それを示すように、聖騎士は左腕のエネルギーを瞬間的に解放させ、左腕のパワーを増強させる。その勢いと共に左腕を振り切り、ザンバモンを押し返した。

 とは言えど、ザンバモンも歴戦の戦いを潜り抜けた強者。素早く体勢を立て直すが、そこから更なる追撃にオメガモンが出た。

 右腕の大砲の照準をザンバモンに合わせ、青いエネルギー弾を連続で撃ち出す。ザンバモンは右手に持つ斬馬刀を振るい、次々とエネルギー弾を斬り裂いていく。

 

「遅い!」

 

 オメガモンは聖剣を下段に構えると同時に、一瞬でザンバモンとの間合いを詰める。聖剣を振り上げ、右斬り上げを繰り出す。

 それに対し、ザンバモンは右手に握る斬馬刀を振り下ろす。斬馬刀と聖剣が激突する次の瞬間、突如としてオメガモンの姿が消えた。

 

「後ろか!」

 

 背後に感じた巨大な『波動(コード)』。それを頼りに背後を振り返り、ザンバモンは左手に握る妖刀で唐竹斬りを防御した。

 妖刀を振り抜いてオメガモンを弾き飛ばすが、オメガモンは空中で体勢を立て直して地面に着地すると同時に、弾き飛ばされた勢いを使って空中に飛び上がる。

 

「『グレイソード』!!!」

 

「『打首獄門』!!!」

 

 聖剣を大上段に掲げ、自身の生命エネルギーを刀身に流し込んで一気に振り下ろす。青白いエネルギーの刃がザンバモンに向けて放たれ、一直線に飛来していく。

 迎撃するザンバモンは右手に持つ巨大な斬馬刀“龍斬丸”を振るい、青白いエネルギーの刃を真っ二つに斬り裂き、消し去っていく。例え相手が防御していようとも、巨大な刀身で鎧ごと斬り落とす威力を持つ必殺技だ。

 その隙に地面に着地したオメガモンを牽制するように、ザンバモンは左手に握る妖刀の剣先を向けるが、オメガモンは臆する事なく聖剣を横薙ぎに構えつつ、突進を開始する。

 

(消えた……?)

 

「後ろだ、オメガモン!」

 

 先程のオメガモンと同じように、ザンバモンは突如として目の前から姿を焼失した。その居場所を探そうと『波動(コード)』を放つと、背後に妖刀を構えたザンバモンが出現した。

 ヤシャモンの声を聞いて居場所を特定出来たオメガモンは背後を振り向き、振り下ろされた妖刀を左肩に装備している聖盾で防ぎ、受け流しながら体勢を崩していく。

 左腕の聖剣を横薙ぎに構え、右から左に賭けて一閃し、バランスを崩したザンバモンに右薙の斬撃を叩き込む。

 

「グハァッ!!」

 

 苦痛に満ちた叫び声を上げ、横一文字に刻まれた斬り傷が痛む事を感じながらも、ザンバモンは反撃の一手を繰り出す。

 右手に持つ斬馬刀を大上段から振り下ろすものの、オメガモンは右手たるメタルガルルモンの頭部を象った籠手を翳して受け止める。

 甲高い金属音が周囲一帯に鳴り響く中、オメガモンは右腕を振るって斬馬刀を弾き、右足でザンバモンを蹴り飛ばす。

 

「馬鹿な……私は人間の心のエネルギーを得て強くなった! それなのにどうしてこうも押されている!」

 

「強くなったのは確かだ。でもそれは本当の強さではない。偽りの強さだ。自らを鍛え上げて会得したのではなく、他人の力を奪い取って得た強さ。そんな金メッキが本物に勝てる筈がない!」

 

 強く言い放ったオメガモンは右腕の大砲を構え、青色のエネルギー弾を連射しながら、ザンバモンとの距離を詰めていく。

 右手に持つ斬馬刀を振るって連射砲撃をかき消し、ザンバモンも突進を開始するが、その時には既に正面にいた筈のオメガモンが消えていた。

 オメガモンは一体何処にいるのか。ザンバモンは突進を止めて周囲を警戒していると、何処かから何発もの青いエネルギー弾が飛来して来る。

 

「何!? クッ!!」

 

「我が聖剣と共に踊れ! 『ソード・オブ・ルイン』!!!」

 

 先程と同じように斬馬刀を振るって連続砲撃をかき消すが、それがオメガモンに付け入る隙を与えてしまった。ザンバモンの背後にオメガモンが現れ、大上段に掲げた聖剣から究極剣舞を繰り出す。

 神速で繰り出された究極剣舞。全身を斬り刻まれたザンバモンの鎧に無数の斬り傷が刻まれ、地面に倒れ伏せる。

 

「やりましたか?」

 

「まだだ。最後まで気を抜くな」

 

 ヤシャモンの言葉通り、ザンバモンは最後の力を振り絞って立ち上がった。右手に握る斬馬刀を構えながら、オメガモンに向けて突進していく。

 オメガモンは腰を深く落としながら半身の姿勢を取り、聖剣の刀身を地面と水平に保ちながら左肘を引いて剣先を相手に向ける。更に右手を前に突き出し、聖剣に重ねるようにして置いた。

 戦いの最初に取っていた参の型に似ているが、若干異なる構え。その構えを取ったまま、ザンバモンに向けて凄まじい速度で襲い掛かる。

 

「『打首獄門』!!!」

 

 ザンバモンが右手に持つ巨大な斬馬刀を振り下ろすよりも前に、オメガモンは左腕の聖剣を突き出す。

 一瞬という刹那の時間に交差する2つの武器。結果は“龍斬丸”はオメガモンの左手で止まり、聖剣はザンバモンの『電脳核(デジコア)』を刺し貫いた。

 ザンバモンはデータ粒子に変わりながら消滅していき、“デジクオーツ”からデジタルワールドへと戻っていった。

 

「勝ちたい・強くなりたいという欲望は時に人を迷わせる。本当の強さは自分を日々鍛え上げる事で手に入る。本当の勝利は正々堂々と戦って初めて得られる物だ。それが本当の強さとなる」

 

「はい!」

 

「今のは紛れもない聖なる刺突だった……技名を付けるとしたら『聖突』かな?」

 

 オメガモンとザンバモンの戦いを見届けたヤシャモン。彼が竜馬に教えを授ける一方、タクティモンはオメガモンの事を頼もしそうに見守っていた。

 タクティモンが命名した『聖突』。この必殺剣技はオメガモンの戦いを支えるだけでなく、オメガモンの代名詞となる技となるのだった。

 

 

 

 それから数日後。行われた剣道の新人戦。竜馬率いる東京明館高校が見事全国大会出場を決め、拓郎が顧問を務める私立東京第一高校は惜しくも決勝戦で敗れた。その決勝戦を一真も観戦しに来ていて、試合が終わった後に竜馬に会って話をしている。

 

「竜馬君。全国大会出場おめでとう。優勝目指して勝ち進め!」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「竜馬。一撃に全てを込めた良い面だった。修行の成果が出ていたぞ?」

 

「いえ……師匠のおかげです」

 

 一真の他に変装しているヤシャモンもいる。試合を観ながら竜馬を応援し、試合終了後には素直に褒め称えた。

 ヤシャモンはあまり弟子を褒めない性格なのだろう。それだけに竜馬は謙遜しながらも、嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「もう俺から教える事はない」

 

「俺は強くなる事を考えていましたが、一歩間違うとザンバモンのようになっていたかもしれません……これからは正しき剣の道を歩みます」

 

「そうだな……剣道は奥が深い。個人競技のように見えるけど一緒に特訓し合う仲間や、導き諭す先生がいる。色んな人がいて成り立っているんだな世の中は……」

 

 今回の事件で分かった事がある。それは“デジクオーツ”に関する事。今までは人間の心に付け込んで悪さをするデジモンばかりだったが、中にはヤシャモンのように純粋な人助けをしているデジモンもいる。

 ヤシャモンはこの後“デジクオーツ”を経由し、デジタルワールドに戻っていった。進化した彼と再会するのはまた別の話だ。

 




最近『BLEACH』や『Fate』の小説を読みましたが、ああいう話を書けるようになりたいと思いました。小説家で食べていく気はないですが、純粋に憧れます。
さて次回なんですが、いよいよオリジナルデジモンが登場します。設定もそれなりに練り込みました(ありそうでなかったみたいな感じです)

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

タクティモンの薦めでデジタルワールドに行く事を決めた一真。
彼の前に現れたデジモン。その正体は一体!?
2体の聖騎士の戦いの果てに待っている物は……!?

第11話 パラティヌモンの剣 聖騎士VS聖騎士


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第11話 パラティヌモンの剣 聖騎士VS聖騎士

今回からオリジナルデジモンが登場します。
私は『Pixiv』でメインに活動をしていますが、そこで書いていた小説で登場したデジモンのリメイク版です。ここからレギュラー出演になりますが、後で小説情報を編集します。
それと章の名前が若干変更されたので、分かりやすくなった筈です。
もう少しで1クールが終わりますが、2クール目最初の第14話から展開が加速するので、引き続きよろしくお願いします!



「これで剣術の一通りの型となる。どうだったかな?」

 

「はい。おかげでより戦いの幅が広くなりました」

 

 とある休日。一真はタクティモンの道場で剣術の稽古を終えた。今日は肆の型と伍の型をタクティモンから教わり、実戦練習を行った。これで一通りの型は習得した事になる。

 肆の型は最もアクロバティックな型。体術と攻めに重点を置いたフォーム。一言で表現するならば、“ヒットアンドアウェイ”。全身の柔軟性と瞬発力とを駆使し、超速移動を行いながらあらゆる方向から相手に素早い連続斬撃を行う。

 アクロバティックな動きで体格差を補う事ができ、威嚇・牽制の効果も高い。しかし、それが通じない格上の相手には無意味であり、動作の大きさから隙も多く、大きな危険を伴う型でもある。

 伍の型は剣技と力による斬撃を重視する粘りの型。強い剣の振りが特徴。強打や振り抜き、連続攻撃や力押しで相手の防御を突破して攻め込んでいく超攻撃型の剣術。相手の攻撃の跳ね返しも、防御よりも攻撃に使用される回数が多い。

 

「一真君。リリスモンから聞いたが、明日もお休みの筈だ。君は一度デジタルワールドに行くべきだ」

 

「デジタルワールドに? そう言えば僕は一度も行った事ありませんでした……」

 

 タクティモンは一真にデジタルワールドに行く事を推奨する。一真はデジタルワールドが一体どのような所なのかを知らない。何しろ行った事がないのだから。

 元々彼がなっているオメガモンはデジタルワールド出身。人間界で転生したから、デジタルワールドの事は分からないでいる。

 これから来るであろう戦いだけでなく、デジモンとしてデジタルワールドを見る事は極めて重要になる。そう判断した上で、タクティモンは一真に提案した。

 

「あぁ。君がなっているオメガモンもそうだ。一度その目で見て来るが良い。世界の真実を」

 

「はい。そうさせて頂きます」

 

 イグドラシルとホメオスタシスによる分割統治。デジタルワールドがどのような世界なのか。そこに生きるデジモン達の存在。デジモンであるにも関わらず、それらを知らない一真は目を輝かせている。

 同じ頃。デジタルワールドの何処かにある暗い空間の中。茶髪のショートヘアーの女性がとあるデジモンと話をしている。彼女の名前はホメオスタシス。

 デジタルワールドのセキリティシステムで、デジタルワールドの安定と繁栄の為に光と闇のバランスを監視している。基本的には保守的で温和な神様なのだが、時々ぶっ飛んだ決断を下す事もある。その決断で周囲を混乱させ、振り回す事もしばしば。

 

「正気ですか!? あのデジモンの封印を解除すると……」

 

「はい。こうでもしないと私は……いえ人間界が危ないです」

 

 ホメオスタシスと話をしているデジモン。巨大で長い半透明な体をしていて、全身に十二個の『電脳核(デジコア)』を浮遊し、四つの瞳を持ち、長い鬚を棚引かせ、蒼く輝く角をしたチンロンモン。

 彼はホメオスタシスの決断に耳を疑うが、ホメオスタシスは人間界を守護する為にとあるデジモンの封印を解除すると告げた。

 ホメオスタシスの決断に秘められた覚悟を読み取り、チンロンモンは反論する事が出来なかった。仮に反論したとしても、言い返される事が目に見えていたからだ。

 

「そこまでして……人間界を守りたいのですか?」

 

「はい。それにイグドラシルを止める為には、オメガモンの力が必要不可欠です。ですが、彼女の力もまた必要となるのです。かつて厄災大戦と呼ばれた戦いを終わらせた聖騎士の力が」

 

「皮肉な物ですね。かつてイグドラシルが封印したデジモンを貴女が解き放つのは。分かりました。私は他のデジモン達にこの事を伝えます」

 

「ありがとうございます」

 

 ホメオスタシスが封印から解き放つと決めたのは、かつてイグドラシルが封印した1体の聖騎士。

 厄災大戦。創世期のデジタルワールドで起きた次元規模の電脳大戦。行き過ぎたイグドラシルの統治を切っ掛けに勃発し、300年にも渡る長き戦いの末に、文明が大きく後退する程の壊滅的な打撃をもたらした。その聖騎士は電脳大戦の終結に大きく貢献した。

 しかし、その後は強大過ぎる力を危惧された為、イグドラシルによって封印された。その封印を解除した上で、ホメオスタシスは来たるべきイグドラシルとの大戦に備え、戦力に取り込もうと言うつもりなのだろう。早速ホメオスタシスはその場所へと向かっていく。

 デジタルワールドの中心部の奥深くに位置する空間。デジモン達の間では、“カーネル(神の領域)”と呼ばれている場所がある。そこはオファニモン、セラフィモン、ケルビモンの『三大天使』が守護している。

 その最も奥深くにデジモン達は干渉するどころか、近付く事を禁止されている場所がある。その場所は絶対触れてはならないと言うように、雁字搦めに封印されている。封印の中にいるデジモンを無数の鎖に封じる為に。

 

(……私を起こしたのは誰でしょうか? この場所に声を届かせる力と意志を持つのは神々しか考えられません。イグドラシル……いえ、ホメオスタシスでしょう。まさか私を封印した神が助力を願うとは考えにくい……)

 

 その場所にいるデジモンは世界に名前と正体を知られては良くないのか。その姿さえも覆い尽くす程の長さと太さを両立する程の鎖で雁字搦めに封じられ、ゆっくりと眠りについていた。

 しかし、デジモン達が決して干渉出来ない場所に“何か”が起きた。何者かのエネルギーと一つの切実な想いがそのデジモンを目覚めさせた。赤くつぶらな瞳で周囲をキョロキョロと見渡す。

 

(もう充分休暇は楽しませてもらいました……そろそろ目覚めるとしましょう)

 

 何処からともなく届いて来た願いに応えるように、そのデジモンは自分自身を拘束していた鎖を木っ端微塵に破壊し、その姿を完全に現した。

 同時に悲鳴と苦痛を上げるように、空間が軋みを上げながら崩壊していく。何としてもそのデジモンを世界に解き放つ事だけはさせない。そう言わんばかりに無数の鎖が伸びていくが、そのデジモンが一睨みしただけで無数の鎖が破壊されていく。

 そして崩壊していく空間を斬り裂かんと黄金の聖剣が振るわれ、デジモンを拘束していた場所が完全消滅した。神によって封じられたそのデジモンは空間から飛び立っていく。

 

―――おはようございます。私はホメオスタシス。貴女の封印を解除させてもらいました。

 

「ホメオスタシス……一体何のつもりですか?」

 

 デジタルワールドに降り立とうと飛んでいる最中、デジモンの目の前に突然ホメオスタシスが姿を現した。

 自分の封印を解除したのはやはりホメオスタシスだった。そう思いながらも、その意図を探る為にホメオスタシスに問い掛ける。

 

―――貴女の力が必要になったのです。実は……

 

「……良いでしょう。経緯はどうあれ、貴女には私をこの場所から解き放ってくれた恩があります。それを返すまで、私は貴女に仕えます」

 

―――分かりました。早速の頼み事なのですが……

 

「了解しました。少し興味が湧いてきました」

 

 ホメオスタシスからデジタルワールドの現状を大まかに聞き、そのデジモンはホメオスタシスに協力する事を決めた。

 その理由が例え何であれ、ホメオスタシスは自分を封印から解き放ってくれた恩人。その恩人に仕える事を決めた。早速ホメオスタシスから依頼を頼まれて挑む事となり、全速力で地上に向かっていく。

 

 

 

 デジタルワールド。そこはコンピュータネットワーク上に存在する電脳空間。デジタルモンスター、もといデジモン達が生きている世界。

 近年の研究で明らかになった事がある。それは広大な空間に浮かぶ惑星のような球状の世界な事。地球と同じように大陸や海が存在する事。人間界に存在するコンピュータサーバーの役割を持っている事。

 見渡す限り岩や荒野が広がる場所。そこをオメガモンは静かに歩き続ける。転生してから初めて見るデジタルワールドに、心をウキウキさせている。

 デジモンとのバトルの時にしかならないオメガモンの姿。戦いの事を忘れてのんびりと過ごす事の出来る休日。伸び伸びと自分の好きなように動ける現状に喜びを覚え、デジタルワールドを観光する事を決意して歩き続けている。

 

「おかしいな……数時間歩いているのに、デジモンの『波動(コード)』を全く感じられない。どうやらイグドラシルが統治する地方みたいだな。完全な外れだ。せめて1体でも多くのデジモンに会って、色々話を聞きたいのだが……」

 

 オメガモンが歩き始めてから数時間。まだ1体もデジモンに会っていない。どうやら自分がいるのはイグドラシルが統治する地方のようだ。

 どうやら厳格な決まりでデジモン達は縛られ、思うような日々を過ごせないでいるのだろう。デジモン達に同情したくなる程だ。

 或いは自分のいる場所が問題なのか。そう思いながらオメガモンはカチャ、カチャという金属音を鳴らしながら歩き続ける。

 

「ッ!」

 

 オメガモンは突如として巨大過ぎる『波動(コード)』を探知し、足を止めながら『波動(コード)』が感じられる方向に目を向ける。

 今まで感じた事のない巨大としか言えない『波動(コード)』。まるで世界その物を体現しているとしか思えない程の濃密さ。自分よりも遥かに強大で格上の存在が近付いている。そう確信したオメガモンの目の前に、1体のデジモンが舞い降りた。

 その見た目は天使その物だが、敵対する相手には魔王としか見えない。その二律背反を思わせるデジモンだった。

 

「君は……(聖騎士だと……!? 私の知らない聖騎士がこの世界にいたのか!?)」

 

「貴方は……(彼がホメオスタシスの言っていたオメガモンですか……)」

 

 そのデジモンを一言で言うなら聖騎士。白銀に輝くシンプルでスマートな細身の体格。白銀を基調としながら、所々に青色のアクセントが施されている聖鎧を身に纏っている。

 背中には一対の翼が備わっていて、両腕に籠手を付け、両腰には鞘込めの聖剣が帯びられている。赤くつぶらな瞳が特徴の聖騎士。

 その美しくも威風堂々とした姿にオメガモンが圧倒される一方、デジモンはオメガモンの姿を確認してから前に向けて歩き始める。自分に似ている姿をしているオメガモンの存在に興味を抱いたのだろう。

 

「私はオメガモン。君は何者だ? 初めて見るデジモンだが……」

 

「私はパラティヌモン。初めまして、オメガモン」

 

 デジモンの名前はパラティヌモン。聖騎士でありながら、穏やかで可愛らしい女性の声でオメガモンに話しかける。

 女性な聖騎士に違和感を覚えながらも、オメガモンはパラティヌモンに挨拶をする。少なくともオメガモンの記憶(メモリー)の中にはパラティヌモンというデジモンは存在しない。その事を疑問に覚え、パラティヌモンの笑顔を静かに見つめ続ける。

 同時に『波動(コード)』を解析しながら正体を探っていると、解析結果が出る前に、笑顔を浮かべているパラティヌモンがオメガモンに質問を始める。

 

「オメガモン。貴方は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員である筈です。どうしてこんな所を歩いているのですか?」

 

「私はこの世界の出身ではない。別のデジタルワールドで死んで、人間界で転生した身。デジモンなのにデジタルワールドを知らないのはどうかと思い、友人に薦められる形で来た」

 

「フフッ。良き友達がいるのですね」

 

 パラティヌモンの声音は優しく、無条件に甘えたくなる蠱惑的な物。女性らしい仕草を時折見せるパラティヌモンに、オメガモンは好意を抱いた。

 正確には八神一真が好意を抱いたと言えば良いのだろう。どうやら好みの女性のタイプだったらしい。

 

「さっきまで歩いていたが、デジモンには会っていない。そんな時に君に会えた」

 

「そうですか……デジモンに会えないのは残念でしたが、初めて会えたデジモンが私で嬉しかったです。実は私も初めて会えたデジモンが貴方ですから」

 

「何と……どういう事だ?」

 

 パラティヌモンはオメガモンの話に喜びを見せながら、同じように初めて会えたのがオメガモンである事を喜ぶ。

 その言葉に首を傾げるオメガモン。彼女は一体どういうデジモンなのか。その答えがようやく彼女の口から明らかになる。

 

「私は神を超える力を宿していた為、神によって封印されて深く長い眠りに付いていました。それが何らかの理由で目覚め、封印から解き放たれました。貴方がこの世界に来た目的はまさか観光だけですか? いえ、きっと違います。貴方の心の奥底には戦いたいと言う強い思いがあるのを感じます」

 

「戦いたいと言う思い……」

 

「貴方が望むのは死力を尽くした戦い。でもそれが出来ずにいて、内心フラストレーションが溜まっている……幾ら聖騎士と言えど、デジモンである事には変わりありません。戦いたいのでしょう、強いデジモンと」

 

 パラティヌモンはオメガモンの本心を言い当てた。オメガモンは満足するまで戦えた事が少ない。特に転生してからそれが顕著になっている。

 1体の聖騎士ではなく、1体のデジモンとして心の底では強敵との死力を尽くした戦いを望んでいる。

 

「私もちょうど戦いたかったのです。ブランクを埋める為にも……」

 

「私も戦いたかった所だ。強い相手との死合を通じて、より自分を高める為に」

 

「決まりですね。お互いに死合ましょうか」

 

 パラティヌモンはまだ封印から解かれたばかり。相当なブランクがあり、戦いの勘といった何もかもを忘れているまっさらな状態。

 その状態から全盛期に戻ろうとしているつもりだ。腰に帯びている2振りの聖剣―パラティヌス・ソードの柄を掴むと共に鞘から引き抜き、構えを取る。その姿は聖騎士のようでいて、魔神にも思えてしまう。

 相手は戦う気に満ち溢れている。それが分からないオメガモンではない。相手が戦うつもりであれば、こちらも戦うしかない。そう割り切り、戦闘態勢に移行する。

 いつものように右腕を振るい、メタルガルルモンを象った右手から大砲を展開する。それから左腕を掲げながら、ウォーグレイモンを象った左手から聖剣を射出した。

 ニコリと微笑むパラティヌモンと、目を細めるオメガモン。2体の聖騎士の戦い。まるで何かの運命に導かれたかのように、この戦いの幕が上がった。

 

 

 

「『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』、発動……ッ!(何て情報量の多さなんだ……相当な格上だ!)」

 

 オメガモンが静かに呟くと、胸部の紅い宝玉が光り輝く。脳内に無数の情報が伝達されていくが、今回伝達される情報は過去最高を更新した。

 その情報量の余りの多さはオメガモンの表情が歪んでしまう程だった。それは僅か一瞬だったが、直ぐに根性で持ち直した。

 ディアボロモン戦とアルファモンとの模擬戦。その時に脳内に直接伝達された情報量とは桁が違う。相手は確実に格上の聖騎士。能力を発動させて正解だったようだ。

 

「戦闘レベル、ターゲット確認。戦闘を開始する」

 

「本気で行きましょう!」

 

 先手を取ったのはパラティヌモンの方からだった。背中の翼から青い光を放ちながら、オメガモンに向けて凄まじい勢いで襲い掛かる。

 そのスピードは超神速の領域。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』最速のアルフォースブイドラモンや、デジタルワールド最速を誇るメルクリモンを遥かに超えている。それ程までに凄まじい機動力を見せている。

 

(スピードが速い……だが捕捉出来ない事はない!)

 

 オメガモンの脳内にはあらゆる情報が直接伝達されている。真っ直ぐに迫り来るパラティヌモンを捕捉すると共に右腕の大砲を構え、砲撃を撃ち出す体勢に移行する。

 自らの体内に貯蔵している生命エネルギーを砲身の内部で圧縮し、極限まで消滅エネルギーを砲弾状に凝縮したエネルギーを撃ち込む。

 目にも写らない速度で迫り来る青いエネルギー弾。それを見ても回避する気配を見せず、パラティヌモンは尚も突進して来る。オメガモンの撃ち込む砲撃に向けて。

 

(回避しないとは何のつもりだ……?)

 

 パラティヌモンに青いエネルギー弾が命中したのを見て、オメガモンは彼女が攻撃を回避・迎撃しなかった事に疑問を感じ、目を細めながら首を傾げる。当然の事ながら警戒する事と、構えを取る事は忘れていない。

 次の瞬間に脳内に直接伝達された予測結果。その内容を知ったオメガモンは驚愕で目を見開いた。思い描いていなかった未来だったからか。

 青いエネルギー弾が命中した事で発生した爆炎と黒煙の中から、パラティヌモンが現れ、オメガモンの目の前に一瞬で姿を現われた。

 

「ッ!(無傷だと!?)」

 

「成る程。どうやら状態は思っていたより良さそうですね」

 

 オメガモンが驚いたのは砲撃が命中したにも関わらず、パラティヌモンが無傷だった事だ。スピードが速い聖騎士はその代償に防御力が低くなりがち。それを知っているからこそ、砲撃を撃ち込んだが、パラティヌモンの防御力は予想以上に高かった。

 砲撃が直撃した部分を軽く触り、体の状態を確認したパラティヌモン。オメガモン目掛けて右手に握る黄金の聖剣を振り下ろす。

 

「ハァッ!!」

 

「チィ!!(エネルギー弾が駄目なら……!)」

 

 パラティヌモンの唐竹斬りを後方に跳ぶ事で回避しながら、オメガモンはパラティヌモンにもう1度砲撃を撃ち込むと、照準を合わせる。

 エネルギー弾は通用しなかった。同じ手は二度も使わない。砲身のナイフに自身の生命エネルギーを集束させる。砲身の内部で圧縮する。プロセスはここまで一緒だが、違うのはここからだ。

 砲弾の形に凝縮させず、圧縮した消滅エネルギーを大砲から撃ち出した。青いエネルギーの波動砲。世界を灰塵と為す熱量と破壊力を持った純粋破壊の巨大な奔流。

 パラティヌモンは砲撃を左手に握る聖剣だけで受け止める。刀身は真っ二つに折れるどころか、軋みすら上げない。相当頑丈に出来ているようだ。そのまま右薙ぎに払って砲撃を消し去った。

 

(これで復活したばかりなのか……封印される理由がよく分かったが、封印される前はどれだけ強かったんだ!?)

 

 特殊能力を使用している為、オメガモンの基本性能は上昇している。そのオメガモンですらダメージを与えられないパラティヌモン。これでブランクがあるとは信じられない。

 封印される理由は分かった。ここまで強いのなら何かしらされてもおかしくない。では封印される前は一体何処までの強さだったのか。考えるだけで恐ろしい。

 右腕の大砲から撃ち出す砲撃が通用しない事が分かり、表情を険しくさせるオメガモンとは対照的に、パラティヌモンの赤くつぶらな瞳が輝く。

 

「成る程。貴方も人間と一体化しているのですね? 道理で『波動(コード)』が特殊だと思ったら……」

 

「まさか……!」

 

「分かるのですよ。私と貴方は同じですから」

 

 まだ出会ったばかりなのに、戦いを始めたばかりなのにも関わらず、パラティヌモンはオメガモンの秘密に気付いて言い当てた。

 自分と同じ。つまりは人間と一体化したデジモンとなる。一体どういう事なのか。そう考えながらも、オメガモンは近接戦に移行する事を決めた。

 深く腰を落としながら聖剣の剣先を相手に向け、左ひじを曲げてから刀身に軽く右手を添える独特の構えを取った。必殺剣技の『聖突』の構えだ。

 

「ほぉ……(あの構えは一体……?)」

 

「行くぞ!」

 

 その構えを見て感心しているのか、パラティヌモンは目を細めた。それでも警戒はしているようだ。両手に握る聖剣を注意深く構える。

 目の前にいたオメガモンが突然消失したと思ったら、一瞬で間合いを詰めて来た。移動したと気付かせない、消失したと錯覚させる程のスピードで突進したのだ。

 

(瞬間移動……ですか)

 

「『聖突・壱式』!!!」

 

 目にも写らぬ速度で突き出された聖剣を、パラティヌモンはあっさりと弾き返した。左手に握る聖剣を左斜め上に振り上げて『聖突』を弾き、右足を一歩踏み込みながら右手に握る聖剣を突き出す。

 教科書通りの双剣士。片手の剣を防御、片手の剣を攻撃に使っている。それを予測していないオメガモンではない。

 

(良い刺突ですね……でもまだ甘い!)

 

「そう来ると読んでいたよ」

 

 オメガモンは『聖突』を最初から捌かれる事を踏まえた上で、『聖突』を繰り出した。これまでの攻防で分かる。パラティヌモンが自分よりも格上の相手だという事が。総合性能で劣っている事が。

 それでも必殺の剣技を繰り出したのには理由がある。それは距離を詰める事。オメガモンはパラティヌモンの行動を逆に利用し、カウンターを叩き込もうとしている。

 『聖突』を弾かれた勢いに負けないよう左足で踏ん張りながら、左足を支点にしながら回転して刺突を躱すと共に、パラティヌモンの背後に回り込む。

 

「ッ!(ほぉ、そう来ますか……)」

 

 パラティヌモンの後頭部に向けてオメガモンは全力で聖剣を薙ぎ払うが、パラティヌモンはオメガモンの『波動(コード)』でカウンターに気付いた。

 背後を振り返り、右手に握る聖剣で左薙ぎを受け止めるパラティヌモン。カウンターに気付かれた事に表情を険しくさせるが、オメガモンは聖剣を最後まで振り切ろうと左腕に込める力を強める。

 同じく聖剣を振り抜こうとしたパラティヌモンは右足から回し蹴りを繰り出し、オメガモンを蹴り飛ばす。空中で体勢を立て直したオメガモンは危なげなく地面に着地した。

 これで一度仕切り直しとなった。2体の聖騎士はお互いの武器を構え直しながらお互いの出方を伺う。

 

(速い上に正確……しかもこれでまだ全力ではない。底が見えない相手だ……)

 

 オメガモンがパラティヌモンの強さに戦慄を覚えながら、聖剣を構えながら時折フェイントを織り交ぜる。

 パラティヌモンの強さは速度と剣技から来ている。動きだけでなく、攻撃や反応速度が速い。それに最高峰の剣技が合わさり、近接戦闘においては他の追随を許さない。シンプルであるが故に至高の強さ。

 それだけではない。まるで未来予測を使用しているかのように、相手の攻撃に対して的確に動きながら、一つ一つ対処している。

 

(私が封印された後に誕生したオメガモン……まさかここまでの実力者だったとは)

 

 オメガモン相手に余裕を見せているパラティヌモンだが、実際の所はオメガモンの戦い方や強さに感嘆の念を抱いている。

 一閃しただけで幾千もの敵を消し去る聖剣と、一撃で全てを粉砕する威力の聖砲。卓越した剣技。一瞬にして未来を予測し、あらゆる状況に対応出来てしまう究極の力。

 彼女がイグドラシルによって封印された後、オメガモンは誕生した。自分が活躍した当時のデジモンのデータしかないパラティヌモンにとって、後の時代で活躍したデジモンとの戦いは刺激になる。その相手が強いデジモンであれば猶更だ。

 戦いを通じながら感覚を取り戻していくパラティヌモンとの戦い。今度はオメガモンの方から仕掛けて来た。

 

 

 

「(遅い! これでは遅い! パラティヌモンの反応速度を超越しろ!)ウオオォォォォォォーーーーー!!!!!」

 

 オメガモンは左腕の聖剣を力強く振るいながら、連続斬撃を繰り出す。相手の防御を一撃で斬り崩すような、一撃の威力を重視した斬撃。それが目にも写らぬ速度を以て、嵐の如く襲い掛かる。

 パラティヌモンは両手に握る聖剣で全て捌いた。刺突を弾き、薙ぎ払いを受け流し、それ以外の斬撃を悉く防いでいく。聖剣の操作と身のこなしには一切の無駄がなく、必要最小限の動きだけでというおまけ付きだ。

 攻撃しているのはオメガモン。それにも関わらず、戦いにおいて優位に立っているのはパラティヌモン。こうなっている理由は幾つかあるが、基本性能はそこまで差はない。

 幾らパラティヌモンの基本性能が高くても、封印を解除されたばかりでまだ病み上がり状態。オメガモンは『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を発動している状態に加え、戦闘経験で幾分か優っている。

 最大の理由は戦闘技術。パラティヌモンはそれだけでオメガモンを圧倒している。相手の視線の先、身体の動き、斬撃の軌道。相手の動きの全てを見た上で、正確に動きながらその先を行っている。まるでコンピューターのように計算された戦略的な戦い方をしていると言えるだろう。

 まるで剣技を存在の根底にまで刻まれているみたいだ。全ての攻撃が次の攻撃への布石となっている為、全てが意味なく、無駄のない攻撃となっている。基本性能の高さと剣術の2つだけで、オメガモンを圧倒している。

 

「(私に勝利を見せろ!)行くぞォォォォォォーーーーー!!!!!」

 

「ッ!」

 

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』の強度を更に強めた証に、空色の瞳から眩い光が放たれた。世界を震撼させる程の雄叫びを上げながら、オメガモンは超神速の速度で突進を開始する。

 警戒するように表情を引き締めるパラティヌモン。右斜めに聖剣を振り下ろして先手を打つが、オメガモンは聖剣から右薙ぎを繰り出して弾き、返す刀で逆袈裟斬りを繰り出しながら、左腕に宿っているウォーグレイモンの力を解き放つ。

 

「“万象一切灰塵と為せ”! グレイソード!!!」

 

 ウォーグレイモンの頭部を象った左手の目の部分が光り輝くと共に、聖剣の刀身から巨大な太陽の灼熱が発せられる。

 周囲一帯が覆い包まれた事で、気温が急上昇を始める。これにはパラティヌモンも驚愕を覚え、一度後退して様子を伺う。

 

「ッ!?」

 

 パラティヌモンは気付いた。オメガモンが左腕に宿している力を解き放った事で、オメガモンの基本性能が爆発的に上昇した事を。

 そしてこの場所も太陽の灼熱によって変わりつつある事も。まるでムスペルヘイムにいるようだ。灼熱世界。北欧神話における、世界の南の果てにある灼熱の国。

 

(成る程。2体のデジモンが合体したデジモンなんですね……にしても凄いです。単独で太陽と同等の輝きと熱量を併せ持つ灼熱を宿すとは……)

 

 オメガモンはウォーグレイモンとメタルガルルモンが、善を望む人々の強い意志によって融合し誕生したデジモン。

 左腕に聖剣と聖盾を装備しているが、ウォーグレイモンの力を宿したのは武器だけではない。炎熱属性。太陽の灼熱という強大な力を宿している。

 その事実に驚愕しながらも闘志の昂りを隠せないパラティヌモンの目の前で、オメガモンはグレイソードを構える。

 

「『怒涛たる勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

(何というパワーとスピード……これがオメガモンの力!)

 

 聖剣から迸る太陽の灼熱が強大になりながら集束され、灼熱の波濤が刀身から生み出されていく。その聖剣を下段に構えながら、オメガモンはパラティヌモンとの間合いを一瞬で詰めながら斬り掛かる。

 これによって攻守が切り替わった。オメガモンが優勢に立ち、パラティヌモンが劣勢となる。攻守は先程と変わらない。オメガモンは灼熱の波濤を生み出すグレイソードを振るいながら、文字通り怒涛の攻撃を繰り出していく。

 先程までは余裕で捌いていた斬撃。それが今では凌ぐだけで精一杯になった。太陽の灼熱に焼き尽くされないよう、パラティヌモンは防戦に徹する事で精一杯だ。

 

「ハァッ!!」

 

(これは最早技でありながら“天災”の領域……!)

 

 オメガモンの繰り出す斬撃は剣術でありながら、天災となっている。その恐ろしさを感じながらもパラティヌスモンは踏み止まる。

 その防御を斬り崩そうと、力強い踏み込みと共に灼熱の斬撃が放たれた。全てを焼き尽くすと言わんばかりの左薙ぎ。

 受け流そうとするパラティヌスモンの右手から、パラティヌス・ソードが宙を舞う。持ち主の手から弾かれたと理解するよりも前に、オメガモンがグレイソードを振り下ろす。

 

「受けて頂く!」

 

「そうは行きません!」

 

 普通であればここで詰んだと誰もが思うだろう。しかし、現実はそう簡単には行かない物だ。パラティヌモンは左手に握る聖剣にエネルギーを送り込み、刀身から黄金の光を伸ばしながら振り上げる。

 黄金の光は灼熱の波濤を消し去ると共に、グレイソードを弾いていく。そのままオメガモンに直撃すると思われたが、オメガモンは咄嗟に後退して距離を取った。

 

(ここに来て隠し玉か……厄介だな)

 

(今の攻撃を躱すとは……流石ですね)

 

 パラティヌス・ソード。非常に斬れ味の良い黄金の聖剣なのだが、エネルギーを刀身に流し込むと、刀身から黄金の光を伸ばす事が可能となる。無論斬撃として放つ事も出来るだけでなく、黄金の光で対象を消し去る事も出来る。

 果たしてあの黄金の光を超える事が出来るのか。『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を使うと、脳内に最良の直接戦術が伝達される。正直成功するかどうかは分からないが、この戦術をやるしかない。

 

(次の一撃に全てを込める!!)

 

 オメガモンは覚悟を決めると共にグレイソードを下段に構え、刀身から生み出していた灼熱の波濤を消し去った。

 パラティヌモンも次の攻防でこの戦いが終わる事を確信したが、オメガモンの行動と構えを見て疑問に覚える。今の構えを見て考えると、突進してグレイソードを振り上げるだけにしか思えない。

 単純な戦術は自分には通じない。真っ向勝負でも余裕で粉砕されると理解している筈だ。それにも関わらず、オメガモンは構えを解く事をしないで、全ての力を込めて自分を打倒しようとしている。

 パラティヌモンも相手の行動を分析・予測した上で、予測された未来への対処法や結末を脳内に直接伝達させようとするが、そのような暇があったら目の前の戦いに集中する事を考え、思い止まった。

 お互いに次の攻防で決着をつける為に全ての力を集中させ始める。2体の聖騎士の気迫が混ざり合い、ムスペルヘイムと化した世界が更に熱くなると、オメガモンが超神速の勢いでパラティヌモンに向けて突進を開始した。

 

「ハアアアアアアアアァァァァァッ!!!!!!!」

 

(最後は真っ向勝負で来ますか……面白い!)

 

 真正面から突進して来るオメガモンを見ると、パラティヌモンは左手に握るパラティヌス・ソードを振り下ろそうとするが、その直前にオメガモンはグレイソードを振るい、目の前に灼熱の炎壁を展開する。

 目の前に突然出現した灼熱の炎壁。パラティヌモンは戸惑いながらも直ぐにオメガモンの考えを悟り、パラティヌス・ソードから黄金の光を伸ばしながら一閃し、灼熱の炎壁を瞬く間に消し去る。

 その隙にパラティヌモンの背後に移動したオメガモンだったが、パラティヌモンは事前に予測していたのか、慌てる事なく右手に握るパラティヌス・ソードをオメガモンに向けて横薙ぎに一閃する。

 

「何!?」

 

 パラティヌス・ソードがオメガモンに直撃する直前、グレイソードから太陽の灼熱が発せられた。同時にグレイソードから斬り上げが繰り出され、太陽の灼熱が推進剤となってオメガモンの攻撃速度を速める事となった。

 オメガモンの戦術は極めてシンプル。刀身の内部に太陽の灼熱を凝縮させたグレイソードを構えながら相手に向けて突進し、灼熱の炎壁を展開して隠れ蓑に使う事で相手の背後に回り込む。そしてグレイソードの刀身から太陽の灼熱を発しながら、相手を斬り上げながら焼き尽くすという戦術。

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』で伝達された戦術は成功した。パラティヌス・ソードは受け流され、返す刀でグレイソードを斬り下ろす。

 

「これで終わりだ!」

 

「貴方が、です。『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

「ガアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 しかし、伝達された戦術によって運命られた勝利は訪れなかった。パラティヌモンは左手に握る聖剣を振り下ろしてグレイソードを地面に叩き付け、右手に握るパラティヌ・ソードから黄金の光を伸ばしながら、全力で斬り下ろした。

 初めてにして致命傷とも言える大ダメージ。それを真正面から受けたオメガモンは崩れ落ち、その場に倒れ伏せる。

 

「今の戦術は悪くありませんでしたが、後一歩でしたね。私が貴方の先を行っていた。それだけです。貴方の敗因は1つだけ。物凄くシンプルな理由。戦い方でも実力差でもありません。正直そこまで差はありませんでした。ただあるとすれば……“自分より強い相手との戦闘経験の少なさ“です」

 

 グレイソードを地面に突き刺し、杖替わりにしながら立ち上がろうとするオメガモンに、パラティヌス・ソードを突き付けながらパラティヌモンは告げる。

 戦い方や実力差はそこまでなかった。途中からは良い勝負になっていたのだから。最後に勝敗を分けたのは格上相手との戦闘経験があるかないか。それだけだった。

 

「……そうか。私の負けだな」

 

「はい。私の勝ちです」

 

 オメガモンはあっさりと敗北を認めた。普段であれば往生際の悪さを見せるが、同時に潔さを併せ持っている。そこが聖騎士としての在り方なのかもしれない。

 パラティヌモンとの戦いで転生して初めての敗北を刻まれたオメガモン。この時の悔しさを胸に抱き、再戦する時までに強くなろうと胸に誓うのだった。

 




LAST ALLIANCEです。最新話如何でしたか?
 パラティヌモンの名前の元ネタはパラティヌス。ラテン語の聖騎士と言う単語から取りました。パラディモンを最初は考えましたが、露骨すぎるので没にしました。
 パラディオモンも検討しましたが、最終的にパラティヌモンにしました。遊戯王でパラディオスというエクシーズモンスターがいて、一時期使っていたので考えてはみました。

 パラティヌモンのデザインは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に登場したガンダムバエルを参考にしました。好きなんですよ、バエル。二刀流でシンプルなデザイン。しかもかっこ良い。乗っている人の声が櫻井さん。うん、最高だね!
 中身は『新機動戦記ガンダムW』のガンダムエピオン。武器がエレガントですが、めっちゃ強いです。ゲームではどうなんですかね? あんまり詳しくないので分かりません。
 後分からないと言えば、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』。具体的にどういう能力なのかが分からないので、『新機動戦記ガンダムW』のゼロシステムを参考に書いています。ぶっちゃけそうとしか思えない。

 次回の前半はパラティヌモンについて深く掘り下げます。後半は秘密です。今考えていますので少しお待ちを。第13話を投稿したら設定集を投稿する予定です。
 
皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
 あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。
というか真面目に感想とか評価が来ないので、若干不安になっています。
 書いていて自信がなくなるというか、本当に皆読んでいるのかという疑心暗鬼にかられるので……せめて「もっと他のキャラにスポット当てて!」とか、「もっと独自の色を出して!」とかみたいな感じのご意見ご感想を下さい。誹謗中傷はノーセンキュー。
欲しいのは暖かいご意見ご感想だけなので。アドバイスも欲しいです。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

パラティヌモンから明かされる誕生秘話とデジタルワールドの歴史。
それを聞いたオメガモンは来たるべき大戦に向けて己を鍛える事を決意する。
そして人間界に現れた1人の女性。彼女の正体は?

第12話 明かされる世界の歴史 新たなる相棒


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第12話 明かされる世界の歴史 新たなる相棒

どうも。僕が住んでいる所では雪が降り始めました。寒いです。
暖かい物を食べたり、モンスターエナジーにハマったりしてますが、皆さんモンスターエナジーは1日2本までにして下さい。健康の為にも。

という訳で第12話です。パラティヌモンの正体と設定を明かしていきます。
正直やり過ぎ感はありましたが、気にせず突っ走ろうと思います。



 デジタルワールドの荒野。そこはつい先程まで2体の聖騎士による戦闘が繰り広げられ、大地が焦土と化し、至る所が破壊し尽くされた場所と変わり果てた。

 その場所にいるのは2体の聖騎士。ダメージと体力を癒した敗者のオメガモンと、聖剣を鞘に戻した勝者のパラティヌモン。適当な大きさの岩を見付けて椅子替わりに座り、パラティヌモンが話を始める。

 

「オメガモン。貴方はこのデジタルワールドの事は全く知りませんよね? 戦いを始める前にこの世界の出身ではないとおっしゃってましたね? 別のデジタルワールドで死んで、人間界で転生したと」

 

「あぁ、そうだ。このデジタルワールドで何が起きているかは分かるが、詳しい歴史が分からない」

 

「では最初は私が造られた経緯について話しましょうか」

 

(造られた経緯……?)

 

 オメガモンはこのデジタルワールドで誕生したデジモンではない。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”があったデジタルワールドの出身。出身世界で戦死し、人間界に転生した為、このデジタルワールドの歴史は全く分からない。

 今現在何が起きているのはバグラモン達から聞いて理解している。それを踏まえ、パラティヌモンは自分の事を話していく。

 ただオメガモンが引っ掛かりを覚えたのは“造られた経緯”という単語。それだけで分かった。パラティヌモンは普通のデジモンではない事が。

 

「かつてこの世界では厄災大戦という次元規模の大戦がありました。勃発した切っ掛けは行きすぎたイグドラシルの統治に反発したデジモン達の武力蜂起……私はイグドラシルによってその大戦を終結させる為に造られました。300年も長きに続いた大戦は何とか終わりました」

 

「300年も続いたのか!?」

 

 300年も続いた厄災大戦と呼ばれる大戦を終結させる為、イグドラシルによって造られた神造兵器。それがパラティヌモンの正体。

 激戦の末、文明が大きく後退する程の壊滅的打撃を受けた大戦。それを終わらせたパラティヌモンは英雄扱いされてもおかしくない。それが何故製造主たるイグドラシルによって封印されたのか。パラティヌモンは話し始める。

 

「私が封印されたのは神を超える力を持っていた為です。将来的に私が脅威になると判断されましたが、それは表向きの理由。本当の理由は別の所にありました」

 

「本当の理由?」

 

「戦いの最中に言いましたよね? “貴方も人間と一体化している”と」

 

「あぁ言っていたが……まさか!」

 

「そう。私も貴方と同じ……いえ貴方の原型となったデジモンです」

 

 パラティヌモンが封印されたのはデジタルワールドの将来の為。その強大な力がいずれ厄災となる事を恐れ、イグドラシルが封印した。だがこれは建前だ。

 本当の理由は別の所にある。それはパラティヌモンの正体。オメガモンと同じく、人間と一体化したデジモンという事に関係している。

 

「私の原型……?」

 

「はい。私は貴方達聖騎士型デジモンの原型。後の時代の聖騎士のデータは私の模造品。派生形です。直接剣を交えて確信しました」

 

「何だと……!」

 

 パラティヌモンの正体。それはオメガモン達聖騎士型デジモンの原型。プロトタイプ。聖騎士型デジモンの始祖。種族は古代聖騎士型。

 それなら聖騎士相手に優位に立てる理由も分かる。全ての聖騎士型デジモンの原型となったのだから、彼らを束ねる“聖騎士王”と謳っても過言ではない。

 

「じゃあ君と一体化した人間は……!」

 

「貴方も名前くらいは聞いた事がある筈です。アーサー・ペンドラゴン。アーサー王です」

 

「馬鹿な……!」

 

 アーサー・ペンドラゴン。かの有名な『アーサー王伝説』に登場する円卓の騎士の一人であり、ブリテンの伝説的君主。選定の剣を引き抜き、不老の王となった騎士王。

 その偉大なるアーサー王がデジモンになった。しかも自分がつい先程まで剣を交えた相手がそのアーサー王。オメガモンは驚愕と歓喜のあまり笑う事しか出来なかった。

 

「まさか……貴方がかの有名なアーサー王だったとは……えっ? でも女性……」

 

「はい。私は女性です。男装をして男性らしく振る舞っていましたが、色々大変でした……」

 

「(それは色々と大変だっただろうな……)でも何故デジタルワールドに?」

 

「あれは厄災大戦の末期になりますね……」

 

 パラティヌモン、もといアーサー王が話し始める誕生の経緯。『アーサー王伝説』の通り、アーサー王はカムランの丘で自分の息子たるモードレッドを討ち滅ぼしたが、自らも傷を負って膝を折った。

 息を引き取る直前、聖剣エクスカリバーを湖の乙女に返還するべく、最後の腹心たるベディヴィエールに預け、現世から退場した。その後は死後において運ばれた地―アヴァロンに向かう。その筈だった。

 

「アヴァロンに向かっている最中、次元の歪みに飲み込まれ、この世界に来ました。何日も食わず飲まずで彷徨っていた所、イグドラシルに助けられました。そこで事情を話した所、謝罪を受けて厄災大戦の事を知りました」

 

「元々はイグドラシルの統治が原因で起きたのだろう? 何故協力した?」

 

「では貴方に聞きます。仮にイグドラシルを殺しても、誰が代わりに統治するのですか? 代替案もないのに、好き勝手な事を言うのは止めなさい」

 

「……すみませんでした」

 

 パラティヌモンが怒りを見せながら睨み付けると、オメガモンはあっさりと引き下がった。流石はアーサー王だけある。

 彼女がイグドラシルに協力した理由。それはイグドラシルに助けられた恩を返す為。国を滅ぼした自分が、今度は世界を守る。その大義もきっと関係していたのだろう。

 

「私は戦いを終わらせたいというイグドラシルの思いや、荒れ果てた世界を見てかつてのブリテンを思い出しました。例え国を滅ぼしたとしても、私は王でした。王として戦いを終わらせなければならない。そう思い、イグドラシルに戦いに参加させて欲しいと頼みました」

 

「それで今の姿に?」

 

「はい。流石にアーサー王の姿ではデジモンとは渡り合えなかったです。とは言えデジモンになる方法も無かった為、私はイグドラシルに頼みました。“私をデジモンにして欲しい”と」

 

「ッ!」

 

 アーサー王は自ら志願してデジモンとなった。その覚悟の強さに胸を打たれたオメガモンの目の前で、パラティヌモンは話を続ける。

 まるで過去の自分の行いを懺悔するように。自分自身の歩みを振り返るように。過去を思い返しながら話しているように見えた。

 

「イグドラシルは私に『電脳核(デジコア)』の移植手術を行い、人間界に伝わるありとあらゆる神話や伝説のデータを使って肉体を再構成させました。そうしてデジモンとして生まれ変わった私は、新たにパラティヌモンという名前を授かりました」

 

 中世および初期近代ヨーロッパの多くの国で見られた、一定の高位にある騎士。それが聖騎士。パラティヌスというのはラテン語で聖騎士と言う。

 しかし、ここで疑問が生じる。何故人間界に伝わるありとあらゆる神話や伝説のデータを使って肉体を再構成させたのか。長きに渡って続いた厄災大戦の為に世界は疲弊し、存亡の危機に瀕していた。

 世界を救うには誰かが大戦に終止符を打たなければならない。その為には単体で戦いの勝敗を決める圧倒的な力が必要とされていた。その為にイグドラシルはアーサー王をデジモンに転生させると共に魔改造を施した。

 その圧倒的な力で厄災大戦を終結に導いた英雄。それにも関わらず、イグドラシルはパラティヌモンを封印した。その理由をパラティヌモンは話し始める。

 

「私が封印された本当の理由。それは私の存在が“禁忌”に当たるとされたからです。厄災大戦後、イグドラシルの抑止力としてホメオスタシスが建造されました。そして東側をホメオスタシスが、西側をイグドラシルが統治する時代となりました。ここで1つの問題が出てきました」

 

「貴女の存在か?」

 

「それもありますが、私のようなデジモンをイグドラシルが13体造っていたのです」

 

「13体も!?」

 

「私を含めたデジモン達。イグドラシルは“超越体”と呼んでいました。デジモンという存在を超えたデジモンとして……それが明らかになると、色々まずい事になりますから」

 

 厄災大戦が終了した後、パラティヌモン達13体の“超越体”デジモンは、彼らの存在が明らかになる事を恐れたイグドラシルによって封印された。

 一番の理由は“人間を素体として利用した事を隠す為”だ。厄災大戦を終結させた英雄達が実は人間だった。それが明るみに出ると、再び厄災大戦のような次元規模の大戦が勃発してしまう。それを防ぐ為、厄災大戦の終了後に封印されたのだ。

 しかもパラティヌモン以外の13人の人間は人間界から全員連れて来られた。彼らは『電脳核(デジコア)』の移植出術の成功作。人間にとって『電脳核(デジコア)』は異物。身体に移植する時に身体は拒否反応を起こし、拒絶反応に蝕まれる。その過半数が移植して身体に馴染ませる途中で精神に変調をきたしたり、適応負荷を起こして死亡した。

 例え適応出来たとしても求められている結果を残せないと、そこに待っているのは“死”だけ。最終的に生き残った者は数百人中僅か13人。それでも最初の予想を上回る結果だった。移植された『電脳核(デジコア)』に適合した13人は人間とデジモンの融合体でありながら、デジモンを超越した存在として覚醒した。

 超強化された身体能力と特殊能力の開花。人間というアナログとデジモンというデジタルの融合。神による前代未聞の非人道的な実験。神によってデジモンに作り替えられた人間。彼らは『電脳人間(エイリアス)』と呼ばれている。

 

「そもそも私は人間を素体にし、イグドラシルによって造られた神造デジモン。貴方は心臓が『電脳核(デジコア)』で、オメガモンに進化出来る人間。似ているようで実は違いましたね……」

 

「悪かったな。似てなくて……」

 

「いえ、すみませんでした。私の封印を解除したのはホメオスタシス。彼女に人間界に行って、オメガモンに接触するように頼まれました。でもその必要はなかったです」

 

「ホメオスタシスが? よく封印されている場所が分かったな……」

 

 パラティヌモン達を封印した後、イグドラシルは彼らのデータの全てを消去した。しかし、厄災大戦を調査している時、ホメオスタシスはパラティヌモンの存在を知った。

 それから独自に調査した結果、パラティヌモンが封印されている場所に辿り着き、封印を解除した。そして今に至る。

 残る13体の“超越体”デジモンが何処に封印されているのか。それは分からないが、パラティヌモンを味方にする事が出来たのは大きい。

 

「それでこれからどうする?」

 

「ホメオスタシスに報告してきます。貴方は?」

 

「私は人間界に戻るよ」

 

「ではこれにて失礼します」

 

「あぁ、また何処かで」

 

 オメガモンと別れた後、パラティヌモンは何処かへと向かっていく。そこはホメオスタシスがいる場所。彼女の目的は極めてシンプル。任務完了の報告をしに行く事だ。

 任務完了の報告を終えると、ホメオスタシスはパラティヌモンにもう1つの任務を頼んだ。その内容に驚きながらもパラティヌモンは了承し、その場から消え去った。

 

 

 

 それから数日後の”電脳現象調査保安局”の本部。この日の朝礼では薩摩本部長が局員達に新人を紹介する事となった。

 そこには一真もいる。数か月前は自分も同じような事をされた。そう思うだけで微笑みを浮かべていると、薩摩が新人局員を紹介し始める。

 

「今日は新しい仲間が来た。皆に紹介したい。では自己紹介の方をお願いします」

 

「皆さん初めまして。アルトリウス・ペンドラゴンです。これからよろしくお願いします」

 

『おぉ~!』

 

(えっ……?)

 

 新人局員の名前はアルトリウス・ペンドラゴン。長い金髪に王としての気品を感じる緑色の瞳。ビジネススーツの似合う長身でスタイルの良さが輝く女性。

 女性局員の入局に男性局員は歓声を上げる中、彼女の正体を知っている一真は固まる事しか出来なかった。

 

「アルトリウスさんは日本に来たのは初めてだが、日本語は話せる。皆仲良くするように。朝礼はここまでにして仕事に励もう!」

 

『はい!』

 

「一真君、ちょっと本部長室に来てくれ。話がある」

 

 薩摩の掛け声で朝礼は終わって局員達が仕事を始める中、一真は薩摩に呼ばれて本部長室に向かっていく。

 本部長室に入ると、薩摩に座るように促されて座った一真。何処か真剣な顔をしている薩摩にとある頼まれ事をされた。

 

「アルトリウスさんの正体は分かるよな?」

 

「はい。パラティヌモン。かつて厄災大戦を終結させた英雄の1体。あのアーサー王です」

 

「ホメオスタシスから伝達があったのだが、彼女を人間界に寄越したようだ。理由は人間界の事を知ってもらう為だ。その為に一真君、君とペアを組んで欲しい。彼女と剣を交え、親しくなった君にしか出来ない事だ」

 

 それはパラティヌモンの相方になる事。彼女は日本の事を全く知らない。何しろアーサー王という、今でいうイギリスの出身なのだから。

 元々この職場では新人は先輩とペアを組んで仕事をしているが、一真の場合はあまりペアを組まないで仕事をする事が多かった。こればかりは仕方ない。ペアを組んだ優衣にも事情があるのだから。

 これからは本格的なペアとなる。一真とアルトリウス。オメガモンとパラティヌモン。これからの戦いでは重要となる2体の連携や親密度を上げようと言う魂胆だろう。

 

「分かりました。それで何をすれば良いですか?」

 

「デートだな」

 

「デート? ドライブしたり、一緒にご飯食べたり……とか?」

 

「そこは君に任せるよ」

 

 今日の仕事はアルトリウスとのデート。果たしてデートが仕事となって良いのか。苦労して働きながら収入を得ている労働者に申し訳ないと思いつつ、一真は駐車場でアルトリウスを待った。

 待ち合わせを済ませて一真の車に乗ろうとすると、アルトリウスは初めて見た車を物珍しそうに見つめる。

 

「オメガモン……いえ、一真。これは何ですか?」

 

「車と言う乗り物。移動手段として使うんだ。乗るには免許が必要だから誰でも乗れる訳じゃないけど」

 

「これが人間界の乗り物……機械で出来ているんですね」

 

「そりゃね。デジモンのような超合金じゃないけど、安全性と乗りやすさはピカイチだね」

 

「おお~!」

 

 人間界は物凄く久し振りだが、現代の世界は初めてなアルトリウス。車に乗って一真が運転席に、アルトリウスが助手席に座る。シートの座り心地に夢中になるアルトリウスを見て苦笑しながら、一真はシートベルトを付ける。

 シートベルトを目にしたアルトリウスは不思議そうな様子で一真を見つめたが、自分も付けようと思い、一真の動きを見てシートベルトを付けた。エンジンを吹かしてアクセルを足で踏み、デートもといドライブに出掛けていく。

 

「薩摩さんから聞いたよ。ホメオスタシスが派遣したんだって?」

 

「はい。人間界の事を学んで来いと言われました」

 

「そうなんだ。人間界はデジタルワールドと違うし、この世界も色々と変わっているから慣れないと大変だけど……」

 

「その所は上手くやりますよ」

 

 隣にいるのはあの伝説のアーサー王。それにも関わらず、一真はフランクに話す事が出来ている。これもオメガモンになった影響か。

 信号が赤信号になり、青信号に変わるのを待っている間、一真はホメオスタシスがパラティヌモンを派遣した事を知り、嬉しく思いながらホメオスタシスの狙いを探った。

 ホメオスタシスは来たるべき大戦に備え、戦力を増強している。人間界はいわゆる避難所として使っているのだろう。

 

「どうかな? 久し振りの人間界、始めて来る日本という国は」

 

「活気が溢れていますね。何もかもが私の時代から進歩していますし、変わらない物もあります」

 

「まぁ変わった物もいくつかあるんだけどね……」

 

 それからドライブをしていると、お昼ご飯を食べる時間となった。久し振りの人間界での食事となる為、一真はあまり外れのない食事をしようと考えた。

 そこで向かったのはとあるカレーハウス。そこでカレーライスを頼んだのだが、アルトリウスは特盛りを頼んで一真を唖然とさせた。

 

「アルトリウスさん。厄災大戦では他にも13体デジモンが造られたそうだけど、現存しているのは何体?」

 

「それが分からないんですよ……封印される時に13体のデジモンのデータを消去されたので……でも何体かは戦死しているので、全員はいないと思います」

 

「そうなのか……けどイグドラシルの事だから、戦死した何体かのデジモンを復活させようと何か企んでいるのでは?」

 

 イグドラシルは神とも呼ばれる絶対的な存在のホストコンピューター。ホメオスタシスとの来たるべき決戦では厄災大戦で投入した13体のデジモンを使うのではないか。

 そう考えるこそ、一真は厄災大戦で戦死した何体かのデジモンを蘇らせる可能性を考えた。その意見にアルトリウスも頷く。

 

「その可能性はありますね。私は彼らの上位存在ですが、だからと言って安心出来ません。彼らを従える特殊能力もないので……」

 

「そうか……用心するしかないか」

 

 どうやらホメオスタシスと同じく、イグドラシルの方も戦力を整えているようだ。来たるべき決戦の時までに力を高めなければ。改めてそう思う一真だった。

 昼食自体は穏やかに進んだ。アルトリウスは初めて食べるカレーライスの特盛に満足し、一真も行き付けのカレーハウスの味を楽しんだ。

 

 

 

「ここが“デジクオーツ”なんですね……」

 

「そうだ。ここが普段の私の戦場だ」

 

 “デジクオーツ”。そこは人間界を荒廃させたような異世界。やって来たのはオメガモンとパラティヌモン。パラティヌモンの場合、初めて来た“デジクオーツ”に目をキラキラ輝かせている。

 この異世界にもデジタルワールドと同様にデジモン達が生息しているが、高確率で人間界で事件を起こしている。それを事前に防ぐ為、時々デジタルワールドに強制送還する為に戦う事もある。

 

「何だかデジタルワールドとも、人間界とも違う空気ですね。2つの世界が合わさったような……」

 

「人間界とデジタルワールドの狭間の世界で、世界の歪みだからな……敵デジモンを2体確認。これより交戦に入る」

 

 目の前に現れたのは2体のデジモン。全身を黄金と灰色の装甲で身に纏い、右手に刃を、左手に手錠と火炎放射機を装備したゴクモン。上半身から緑色の触手を伸ばし、至る所に目があるアルゴモン(究極体)。

 2体の聖騎士は顔を見合わせて頷くと、それぞれの敵に挑む。パラティヌモンはゴクモンに、オメガモンはアルゴモン・究極体へと向かっていく。

 ゴクモンは右腕の刃を構えながら迎撃態勢を整える一方、パラティヌモンは両腰に帯びている双剣―パラティヌス・ソードを引き抜き、両手に握り締める。

 

「ハァッ!!」

 

 先に仕掛けたのはゴクモンの方からだった。右腕の刃を振り下ろし、パラティヌモンを一刀両断しようとする。

 パラティヌモンは右手に握る聖剣で受け止めた。ゴクモンはそのまま鍔迫り合いを行って相手を斬り裂かんとするが、パラティヌモンは右腕を振るい、ゴクモンを弾き飛ばす。

 空中で体勢を立て直して着地したゴクモン。パラティヌモンは背中の翼を広げて青い光を放出しながら、距離を詰めていく。

 左手に握る聖剣を振り下ろし、それをゴクモンが右腕の刃で受け止めた事で始まった斬り合い。ゴクモンは容赦なく右腕の刃を降り抜き、パラティヌモンを防戦に追いやる。

 

(これが“デジクオーツ”内での戦闘……!)

 

 パラティヌモンは初めての“デジクオーツ”での戦闘に慣れていないせいか、少し戸惑うような動きを見せている。それがゴクモンに付け入る隙を与えている。

 “デジクオーツ”に迷い込んだデジモン達の大半は人間の悪い心に影響され、負の感情を爆発させたかのような行動を取り、人間界で悪さをしてしまう。その悪い心によって生まれた負のエネルギーで自身を強化する事もある。

 ゴクモンの場合、犯罪者と警察の心によって強化されている。指名手配犯の悪しき心や、警察の腐敗や汚職にまみれた爛れた心。それがゴクモンを強化している。

 彼は元々指名手配犯リストのデータから生まれた逃亡者デジモン。実は自分が賞金首なのだが、犯罪者狩りをしている不思議な悪人。その在り方が犯罪者と警察の人間の悪い心に影響されたようだ。

 

(ですが、この程度で屈する私ではありません!)

 

 ゴクモンが右腕の刃で斬り掛かって来たのを、パラティヌモンは左手に握る聖剣を振るって弾きながら、右手に握る聖剣を突き出す。

 赤くつぶらな瞳を輝かせたパラティヌモンに対し、素早く距離を取ったゴクモン。彼は左手の火炎放射機から地獄の業火を放つ。

 

「『蛇炎煉獄(じゃえんれんごく)』!!!」

 

(この程度の火炎……オメガモンに比べたらどうという事はありません!)

 

「ッ!?」

 

 太陽の灼熱という力をグレイソードに宿すオメガモンと一度剣を交えた以上、地獄の業火ではパラティヌモンには届かない。その証拠に、パラティヌモンは右手に握る聖剣を薙ぎ払い、『蛇炎煉獄』を斬り裂いた。

 それを目の当たりにしたゴクモンは、驚愕のあまり動きを止めてしまった。その隙に左手に握る聖剣にエネルギーを流し込み、刀身から黄金の光を伸ばしながら薙ぎ払う。

 ゴクモンは咄嗟に跳躍して黄金の光を躱すが、その隙にパラティヌモンとの間合いを詰めて右手に持つパラティヌス・ソードで斬り掛かる。

 体勢を立て直している最中だった為、若干反応が遅れてしまった。それでもゴクモンは右腕の刃でパラティヌス・ソードを受け止める。

 そのまま地面に着地しようとするが、それを見逃すパラティヌモンではない。左手に握る聖剣にエネルギーを流し込み、刀身から黄金の光を伸ばしながら突き出す。

 

「ッ!!」

 

「終わりです! 『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 黄金の光に貫かれ、沈黙するゴクモンを右手に握るパラティヌス・ソードで斬り下ろし、戦いを終えたパラティヌモン。

 彼女は考える。“デジクオーツ”という人間界でもなく、デジタルワールドでもない異世界で戦うオメガモンの事を。彼はデジタルワールドでの戦闘が初めてだった。それでも最後までよく戦った。

 ならば自分はどうなのか。初めての“デジクオーツ”という異世界で戦いには勝利したが、オメガモンの事を見下せるのか。そんな事は出来はしない。お互いに切磋琢磨しながら力を高めていくべきではないのか。

 

(どうやら私は良き盟友に巡り会えたみたいですね)

 

 パラティヌモンは思った。自分はオメガモンという盟友を得た事を。お互いに切磋琢磨しながら上を目指せる相手が出来た事に。

 いつかオメガモンが自分と同等以上の格と実力を併せ持つ聖騎士となり、剣を交える日が来るまで彼の支えになる事を決意した。

 

 

 

 パラティヌモンとゴクモンが激戦を繰り広げているのと同じ頃、オメガモンはアルゴモン(究極体)と戦いを繰り広げていた。

 アルゴモン(究極体)が上半身に生えている無数の蔦を触手として伸ばす一方、オメガモンはグレイソードを掲げながら左腕に宿っている力を解き放つ。

 

「“万象一切灰塵と為せ”! グレイソード!!!」

 

 グレイソードの刀身から太陽の火炎が発せられると共に、“デジクオーツ”内の気温が急上昇し、ムスペルヘイムとなっていく。

 目にも止まらぬ迫り来る無数の触手に向けてグレイソードを一閃し、太陽の火炎で焼き払うと共に、右腕のガルルキャノンの照準をアルゴモン(究極体)の足元に合わせた。

 同時に青色のエネルギー弾が撃ち込まれる。アルゴモン(究極体)の視界が爆炎と黒煙に覆い包まれる中、バランスを崩したアルゴモン(究極体)が転倒する。

 その隙を見逃すオメガモンではない。アルゴモン(究極体)との間合いを詰めようと突進を開始する。その最中、次元をも歪ませてしまう程の威力を持った破壊光線が、爆炎と黒煙を突き破って放たれた。

 

「『ディストーションライン』!!!」

 

「フッ!!」

 

 オメガモンはグレイソードを居合抜きのように構え、刀身から発する太陽の火炎を伸ばす。相手の攻撃を消し去りながら、相手を攻撃する魂胆だ。

 グレイソードが横薙ぎに一閃されて太陽の火炎が放たれ、『ディストーションライン』を焼き尽くしてアルゴモン(究極体)に迫り来る。

 回避しようにも、目にも止まらぬ速度で殺到する灼熱の大波となって襲い掛かっている。左右には逃げられない。下は時間的に無理。残るは上だけ。咄嗟に跳躍して太陽の火炎を回避するが、それがオメガモンの狙いだった。

 

(そこしか逃げ場はない!)

 

「グアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

 一瞬溜めを作ってからガルルキャノンから青いエネルギー弾を撃ち出す。アルゴモンに向かって直進していく砲撃。突然エネルギー弾が爆裂し、小型エネルギー弾となってあらゆる方向からアルゴモン(究極体)に襲い掛かる。

 格闘戦の能力をも増幅させた代償に巨大化したアルゴモン(究極体)に、次々と小型エネルギー弾が直撃していく。アルゴモン(究極体)が苦痛の声を上げる中、口を大きく開いて無数の光線を放つ。

 

「『テラバイトディザスター』!!!」

 

「効かないぞ!」

 

 オメガモンはグレイソードを薙ぎ払って『テラバイトディザスター』を四散させ、返す刀で一閃し、太陽の火炎でアルゴモン(究極体)を焼き尽くした。

 “デジクオーツ”内での戦闘も慣れて来たのか。或いはパラティヌモンとの戦いを経て少しずつ力を取り戻して来たのか。それはオメガモンにも分からない。でも分かる事がある。戦いを経験する事に強くなっていると言う事だ。

 

 

 

「どうだった? 初めての“デジクオーツ”での戦いは」

 

「はい。その……正直慣れなかったです」

 

 “電脳現象調査保安局”に戻って来た一真とアルトリウス。アルトリウスは“デジクオーツ”内での戦闘について振り返った。

 相手は格下のデジモン。それが強化されていたとは言え、やりにくさもあった。最終的には勝てたが、オメガモンこと一真の苦労が理解出来た。勝って当然の相手。勝たなければならない。その重圧の中で戦っている。

 自分は何も知らずにいた。厄災大戦の頃とはまた違う大変さがある。その相手の考えを知らずに、自分の意見を押し付けていたのではないか。アルトリウスは内心で自問自答をすると、一真に自分の思いを話す。

 

「一真。私は貴方が普段どんな戦いをしているのかが分かりました。私は貴方を見ていて、ランスロット卿やガウェイン卿を重ねていました。それに胸が熱くなりました。貴方とは良き盟友になれそうです」

 

「良き盟友か……僕も同じ事を考えていたよ。オメガモンになって仲間は出来たけど、友達は出来ていないから。初めての友達だね、よろしく。アルトリウスさん!」

 

 こうして一真とアルトリウスはお互いを認め合う良き盟友となった。彼らはお互いにまだ始まったばかりの聖騎士。最強の聖騎士コンビが誕生し、ここから運命が加速していく。

 




LAST ALLIANCEです。最新話楽しんでいただけましたか?

パラティヌモンの設定(特にアーサー王部分)は『ドリフターズ』を参考にしました。
僕は好きですよ? 平野先生が大好きなので。
今回からパラティヌモン=アルトリウスがオメガモン=一真の相棒として参戦しました。
何気に相棒ポジがいなかったので、ちょうど良かったです。

次回は第1クール締め括りとして、”寿司処 王竜剣”での話を書きます。
えっ? ネタが分からない? 漫画版『デジモンクロスウォーズ』を読もう!

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

”寿司処 王竜剣”。そこは工藤優衣が店主のお寿司屋さん。
集ったデジモンと人間たちがお寿司を食べながらトークを繰り広げる。
果たして何を話すのか?

第13話 戦士達の交流会


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第13話 戦士達の交流会

どうも。皆さんこんにちは。
『鉄血のオルフェンズ』で好きなガンダムはバルバトスとバエルなLAST ALLIANCEです。
今回は第1クール修了、第1章の折り返しという事で新キャラを登場させた座談会っぽい何かをお送りします。
書くネタがないんじゃないです。第14話から展開が加速するので、燃料を補給しているだけなんです。それだけです。次は設定集を投稿します。


 “電脳現象調査保安局”の本部の何処か。そこにはとあるお寿司屋がある。仕事が終わる頃に開店し、局員達の憩いの場所となっている。

 店主は工藤優衣ことアルファモン。親戚の寿司職人の下で働きながら腕を磨き、その成果をこのお寿司屋で披露している。そのお店の名前は“寿司処 王竜剣”。

 “寿司処 王竜剣”はいつも“電脳現象調査保安局”の局員達で大盛り上がり。その中に彼らがいた。八神一真とアルトリウス。“電脳現象調査保安局”が誇る最強戦力であり、人間界の希望となっている聖騎士だ。

 来ているのは2人だけではない。彼ら以外にカウンターに座っている者がいる。鏡花ことリリスモン。薩摩とクダモン。ウィザーモン。テイルモン。彼らの共通点は“電脳現象調査保安局”の中心となっているメンバーばかりだ。

 

「リリスモン久し振り~!」

 

「あら、ベルフェモンじゃない。久し振り!」

 

 そこに現れたのはリリスモンと同じ『七大魔王』。可愛らしいぬいぐるみのような姿をした魔王。『怠惰』を司るベルフェモン・スリープモード。

 強大すぎる力を持つ為、デジタルワールドのシステムによって、データをスリープ状態にしながら、ダークエリアの最深部に封印されていた。

 

「初めまして、僕はベルフェモン。昼寝王ネルガメッシュとは僕の事だよ?」

 

 ベルフェモン、もとい昼寝王ネルガメッシュ。パラティヌモン以外の面々は彼とは一度会っており、そのキャラの濃さを嫌と言う程心に刻まれた。

 これでこの日の予約は全員来た。リリスモンが全員の集合を確認して優衣にアイコンタクトをすると、優衣は目の前に折り詰め寿司を出す。その豪華な内容に誰もが目を輝かせるが、一番はアルトリウス。彼女は“寿司処 王竜剣”の熱狂的なファンだ。

 今回の企画の趣旨は“電脳現象調査保安局”の交流会。普段言えないような事を気軽に喋ったり、愚痴をこぼしたりしてはめを外し、明日からまた頑張るエネルギーとする為だ。

 

「この中で新入りはアルトリウスさんだな。どう? 今の生活は」

 

「おかげ様で慣れて来ました。皆さんは親切なので……」

 

「それは良かった」

 

 律儀で丁寧でとことん真面目で、負けず嫌いな委員長キャラ。それがアルトリウス。彼女はかつてはアーサー王だったが、今では“電脳現象調査保安局”の局員。

 立場や仕事が変わった事で戸惑う事が今でもあるが、十二分にやれている。盟友の一真と薩摩には話していたが、アルトリウスは自分の事を誰にも話していない。この機会に全て話してしまおう。そう思い、リリスモン達に全てを話し始める。

 

 

 

 全てはデジタルワールドの創世記から始まった。イグドラシルの統治が原因で勃発した厄災大戦。その大戦を終わらせる為にイグドラシルによって造られた聖騎士。全ての聖騎士型デジモンの原型となったデジモン。

 その素体となった人間はアーサー王。アヴァロンに向かう途中でデジタルワールドに来てしまい、厄災大戦に心を痛めて協力を申し出た。彼女を素体に人間界に伝わる神話や伝説のデータを練り固めて誕生したのがパラティヌモン。

 厄災大戦を終結させた英雄だったが、その強大なる力を脅威に感じたイグドラシルは封印した。人間を素体にしてデジモンを造ったという事実を隠蔽する為に、パラティヌモンは二度とデジタルワールドに出て来る事はない筈だった。

 しかし、ホメオスタシスが彼女を封印から解き放った。その恩を返す為に、そして盟友となったオメガモンの為に、オメガモンが守る世界を守護する為にパラティヌモンは戦う事を決め、戦いの日々を送っている。

 

「素敵な生き方ね……その気持ちは分からなくもないわ」

 

「そうだね。僕らも自分の信じる生き方をしているし……」

 

「流石は騎士王、アーサー王。格が違うな……」

 

 アルトリウスの決意を聞いて微笑むテイルモンと、頷くウィザーモン。クダモンは感嘆したように呟く中、一真以外の誰もがアルトリウスの思いと決意を受け止めた。

 騎士王から聖騎士王となったアルトリウス、もといパラティヌモン。今でもなお放つ王のオーラ。『七大魔王』のリリスモンとベルフェモンですら圧倒されている。

 

「そう言えば前に一真さんから“デジモン化”について話を聞きましたが、私なりの仮説を立てました」

 

 アルトリウスが話し始めたのは“デジモン化”について。一真は『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を初めて使った時に髪が染まったが、それ以降能力を使っても何の変化も見られなくなった。

 その事を不思議に思った一真はアルトリウスに相談した。過去の戦闘データを見たアルトリウスは、この場所で答えを言おうとしている。

 

「思うに“デジモン化”は限界を超えた時に進行すると思われます。普段はリミッターがかかっているのですが、それを解除した時とか……」

 

 一真の場合、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』に適応する為に“デジモン化”が起きた。常に脳に直接伝達される予測結果が与える負担は大きく、人間たる一真には耐えられない。

 そこで“デジモン化”を促す事で、特殊能力を使用していても適用出来る状態にしたのではないか。そのようにアルトリウスは考えるが、同時に危惧している事もある。

 それは一真ことオメガモンの力が上昇していく事。そうなると新たなる奥義や特殊能力を会得するだろう。それらを制御する為に“デジモン化”が進行したり、リミッターを解除すると、“デジモン化”の進行は自然と行われる事となる。

 

「避けては通れぬ道か……“デジモン化”は」

 

「だから私は優衣さんに警告しているんだ。あまりアルファモンの力を使わないようにと」

 

 一真だけでなく、優衣も“デジモン化”する可能性もある。しかし、彼女は一真が来てから戦場に立つ機会が一気に減った。それでも異世界で修行しているが。

 彼女が異世界で修行し、魔法剣士としての戦い方をしている理由。それは『Alpha-Gain-Force(アルファ・イン・フォース)』の使用による、“デジモン化”の進行を抑える為。

 “デジモン化”を抑える薬は開発されていない。その為、今は出来るだけ特殊能力の使用を抑える事で落ち着いている。

 

 

 

「次は私が行こうかしら」

 

 アルトリウスの次は工藤優衣の番。彼女はお寿司を握る手を一度休め、自分の事を話そうとしている。

 工藤優衣。“創世の聖騎士”アルファモン。普段は仕事をしているが、異世界に修行しに行ったり、お寿司のネタを仕入れに行ったりと、かなりフリーダムな女帝。

 しかし、それが許されているのはきちんとした理由がある。彼女の生い立ちや過ごして来た日々に関係している。

 物心つく前に両親を失い、天涯孤独の身となった優衣。当時親戚もいなかった彼女は、児童福祉施設で生活するしかなかった。そこで様々な事情を抱えた子供達や憧れる職員と出会い、児童福祉系の仕事に就くという夢を抱いていた。

 ある日、ダークドラモンの襲撃を受けてアルファモンとなった事で、“電脳現象調査保安局”の局員として働いている。優衣がデジモンになった背景は誰もが想像しているより重く、歩んできた人生も壮絶だった。

 

「私と一真君は望んでデジモンになったんじゃない。デジモンになるしかなかった。でないと今こうして生きていられない。私は弱い」

 

 一真と優衣はお互いに凄まじい力を秘めているが、彼らはデジモンになる事で今を生きられる共通点がある。

 デジモンの襲撃を受けてなったとは言えど、優衣は自分の事を“弱い”と言った。デジモンとなる事でしか生きられない、デジモンの力を振るう事でしか存在意義を示せない自分の事を嘲笑うかのように。

 

「“デジモン化”は私や一真君のような不安定な存在を、安定にする為のやり方なのかもしれない。人間は生身。これ以上強くなりたいならデジモンになれ。そう言っている気がするわ」

 

 優衣の話になった途端、全員が押し黙った。特に一真。アルトリウスのように人間の身体を素体にし、デジモンとして再構成された訳ではない。心臓が『電脳核(デジコア)』なだけの不安定な存在。それが優衣と一真。

 テイマーとデジモンの関係の薩摩とクダモン。テイルモン達デジモン。イグドラシルによって完全なデジモンとなったアルトリウス。誰もが優衣と一真の抱える苦悩を思い知り、静かになった。

 

「一真君。優衣ちゃんを支えてあげて。あの子……普段はお姉さんらしく振る舞っているけど、本当は自分という存在を誰よりも理解しているからナイーブなの」

 

 リリスモンは優衣の姉貴・母親的存在。時々バグラモンの家に招く事もあり、いつか彼女を養子入りさせようか真剣に考えている。

 そう考える程、優衣は危うい所もある。戦いから遠ざけているのがその証拠だ。普通の女性として暮らして欲しいと思っているのだが、そう上手く行かないのが現実だ。

 

「分かりました。僕に何が出来るかは分かりませんが、やれる事はやります」

 

「……ありがとう、一真君」

 

(何でしょうかこの胸を刺すような痛みは……優衣さんを見ていると、どうして一真さんの事を想うのでしょうか?)

 

 一真はリリスモンの頼みを了承した。自分に出来る事をやる。シンプルにそう話した一真の思いを受け、優衣は嬉しくなったのか、涙目になりながら頭を下げる。

 リリスモン達が微笑ましく見守る中、アルトリウスは何かを感じた。今まで抱いた事のない感情。それが一体何なのか戸惑いを感じていた。

 

「でもここに来てお仕事したり、お寿司握ったり、修行したり……色んな事をしている中で分かった事がある。世の中私みたいに悩んだり、苦しんでいる人が沢山いる事に。だから私も負けていられない。前に進まないと……」

 

「僕もオメガモンとなって戦って、ここで働いていく中で色々な事を学びました。いつかは“デジモン化”して人間でなくなるかもしれませんが、その時まで、いやそれからも自分の生き方を貫いていきたいです」

 

 高卒で社会に出た優衣。彼女は生きる事とは自分自身を作っていく事だと考えている。自分の意志があるから、辛い過去を背負って明るい未来に向かって歩いていけるから。

 自分の確固たる意志さえあれば、誰だって生き方は自分で決める事が出来る。その生き方が自分自身となる。

 答えは全て自分の中にあった。生きていく事に意味や理由など必要ない。何故なら生きるという事に意味があるのだから。

 

「この話はここまでにしましょう?」

 

「あぁ、こういう雰囲気はあんまり好きじゃないからな」

 

 優衣の話はここまで。しんみりとした雰囲気になった為、一度仕切り直しとなった。全員お寿司を食べてから再開する事にした。

 アルトリウス、優衣の次は薩摩とクダモン。彼らの話はこの場所にいる全員が知っている為、特に言う事は無かった。一真はクダモンに今だから言えるあの話を求める以外は。

 そこで明らかになったクダモンが人間界にスパイとして選ばれた理由。最初はデュークモンが選ばれていたが、ギルモンに退化するとエンゲル係数が鰻登りになる為、スレイプモンに変更になった。その理由を聞いた誰もが大笑いするしかなかった。

 その後はテイルモン&ウィザーモン、一真が続いた。一真はオメガモンになる前の話で全員を盛り上げた。

 

 

「次は私ね。まぁ知っている人はいると思うけど、詳しくは話していなかったわね……」

 

 リリスモンは自分の過去について話し出す。これまで大雑把に話して来た事はあるが、詳しく話すのは意外にもこれが初めて。

 『七大魔王』の一角であり、“色欲”を司るリリスモン。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”が起きたデジタルワールドの出身であり、オメガモンとは敵同士だった。

 快楽主義だが、相手を分析する冷静さを併せ持つリリスモン。直接的な戦闘能力は『七大魔王』の中でも下位クラス。得意としているのは頭を使う事だから。

 それでも怒った時に発揮するパワーは凄まじく、また怖い為、ある意味『七大魔王』最強と呼ばれている。やはり女性は怒らせると怖い。

 淫乱と暴虐。それがリリスモンの本質。背徳の化身で邪悪な存在である為、触れる事も近づく事も傅く事さえも許されず、かつては高尚で神聖な存在であるバグラモンに支配され、弄ばれる事に背徳的の感情を抱き、酔いしれて喜んだという側面もある。

 バグラモンに恋をしたが、前世では彼の死によって失恋。転生した後は『七大魔王』としてダークエリアで暮らしていたが、来たるべき大戦に備えて人間界に逃れた時にバグラモンに再会し、今では夫婦同然の関係。それからは“電脳現象調査保安局”を立ち上げ、主任をしている。

 

「最初からバグラモンと一緒じゃなかったんですね……」

 

「ごめんね。これはちゃんと伝えてなかったわ。『七大魔王』なんだけど、バグラ軍の幹部なの今の私は」

 

 一真はリリスモンの事を誤解していた。転生した時からバグラモンと一緒だったと勘違いしていた。その勘違いがようやく直った。

 本当は『七大魔王』としてダークエリアで暮らしていたが、人間界に来た時にバグラモン達と再会した。バグラ軍は幹部こそ全員集合したが、肝心の要となる兵隊が誰もいない状況となっている。

 

「という事はバグラ軍再結成も時間の問題だな……バグラモンとは何度か話しているが、面白い事になりそうだ」

 

「ですね……『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と『七大魔王』がいる時点で前世よりも強力になってますし……」

 

 実は対イグドラシルを見据えて、薩摩はバグラモンと何度も話をして新生バグラ軍の創設を計画し、実現に向けて始動している。

 もし現実となった場合は凄い事になりそうだ。数は少ないが、質が凄い。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と『七大魔王』。彼らに準じる実力者もいるし、厄災大戦を終わらせた英雄もいる。勝てない相手はいない。そう言い切っても何一つおかしい事はない。

 

「バグラモンがリーダーで、副リーダーは薩摩さん。総隊長はアルトリウスさんで、戦闘隊長は一真君と優衣さん……という所まで決まっているよ?」

 

「随分と決まっていますね!?」

 

「いつ何が起きるか分からないからね……」

 

「まだメンバーが増えるから今の所はこんな感じだな……」

 

 具体的な所まで決まっているのに驚く一真だが、テイルモンは冷静だった。デジクオーツで何が起きるか分からない上に、イグドラシルが何かを仕掛けてくるかが分からない。

 それを見据え、今の内に有事に対して備える必要がある。その判断から新生バグラ軍の創設に向けて動き出している。

 

 

 

「さて最後は僕か。まさか大トリを飾るとは……」

 

「よりによって一番キャラが濃い奴が残ったか……」

 

「私はベルフェモンとは初対面なのですが、何か関係があるんですか?」

 

「それがあるんだよ……じゃあ話していくね?」

 

 実はベルフェモンも転生組に含まれているが、彼の場合は少し事情が異なっている。何故なら彼はある意味では被害者なのだから。

 彼は『デジモンセイバーズ』の舞台となったデジタルワールドの出身。とある遺跡にあった箱の中でデジタマの状態のまま封印されていたが、倉田明宏に本編開始の7年前に発見された。野望の実現の為に人間界に持ち帰って研究され、デジモンの生体エネルギーを注入されて復活し、倉田に利用される事となった。

 深い眠りに付いている為、意識を持っていない。つまり自分の意志とは関係なく、倉田に完全に利用されていたと言う事になる。最初はデジモン制御装置でコントロールされていたが、それが破壊された事で行動不能となった。しかし、倉田自身が融合した事で本来の姿に覚醒した。

 意志は最初こそ倉田だったが、一時的にベルフェモンが取り戻したが、倉田が執念で意志を支配し、時空振動爆弾を取り込む事で時空を斬り裂く力を得たが、最終的にはシャイングレイモン・バーストモードと大の前に敗れ去った。

 

『……』

 

 事情を知っている薩摩&クダモンと一真もそうだが、それ以外の面々もベルフェモンに同情したくなった。彼は確かに人間界を破壊したが、それは倉田に操られていた為。自分の意志で何かをしていない。

 『七大魔王』という事から忘れがちだが、彼もまた倉田の被害者。薩摩&クダモンと一真ですら冷静に考えてみたら、確かに被害者だったと思うしかなかったから。

 

「ちなみに大門大を恨んでいたりする?」

 

「恨む? いや彼は恨んでいないよ。最初から僕を倒す為に戦いを挑んできたから。恨むとしたら倉田かな? 僕を利用するだけ利用して意志を支配するなんて……おかげで全力を出せなかったじゃないか」

 

「全力を出していたら勝てたと?」

 

「う~ん……どうかな? 勝てたと思うけど、実際の所は分からないな」

 

 ベルフェモン曰く、“倒された時は全力ではない”との事。無理もない。意志を無理やり倉田に支配されたのだから、信頼も何もあった物ではない。

 もし全力を出していたらどうなっていたか。想像したくはない。でもベルフェモンは大門大を恨んでいない。自分を利用し、意志を乗っ取った倉田を恨んでいると言ったから。

 

「この世界では一体何を?」

 

「それはね……」

 

 転生後はスリープモードでダークエリアの最深部に封印されていたが、リリスモンによって封印を解除されて人間界に連れて来られた。

 生きていく術を知らないベルフェモンは最初こそ物凄く苦労したが、ある日天職に巡り合えた。それは通販番組のメインキャスター。商品の使用法を実演しながら、利点・価格などの情報を提示し、商品の紹介を行う。その直後、申し込み先・問い合わせ先を紹介するお仕事だ。ベルフェモンはその中でもベッドや枕等の寝具を専門としている。

 他にもコメンテーターやリポーター等、マスメディアで活躍しているベルフェモン。メインは通販番組だが、寝具との出会いがきっかけだった。

 

「僕は最初リリスモンの所にお世話になっていたけど、寝る時に使っていたベッドや枕の感触に虜になってね……それで目覚めたんだ。人間やデジモンも睡眠が重要。睡眠失くして一日は成り立たないと。それに仕事中に昼寝できる時間があって、その時に昼寝をしたらその後の仕事がスムーズに終わって、昼寝の大事さを学んだんだ。決意したんだ。僕は昼寝王になると」

 

 色々とツッコミどころは満載だが、ベルフェモンは真っ当な仕事をしている。通販番組に携わる傍ら、寝具を取り扱う会社を立ち上げ、その社長をしている。

 設計から全て自分が立ち会い、お客様目線に立った商品開発をしている為、年々業績が上がっている。しかも週休二日制で残業は少ない。給料も良いし、賞与もある。社長が魔王である事以外、優良企業としか言いようがない。

 

「僕はベルフェモンだけど、昼寝王ネルガメッシュでもある。そこを忘れないでね?」

 

「あぁ……あの時はボコボコにやられたよ」

 

 一真が思い出すのはパラティヌモンとの戦いの次の日。その時に初めてベルフェモンに出会ってバトルを挑んだのだが、その実力の高さに敗れた。

 パラティヌモンとのバトルが良かったと思えるくらい、ベルフェモンが使う戦術がオメガモンにとって予想外で、対応する事が出来なかった。

 

 

 

「オメガモン。君が挑むのは昼寝王ネルガメッシュ。寝具を極めた者。恐れずかかってこい! 」

 

「望む所だ。昼寝王の力、見せてもらおうか!」

 

 “デジクオーツ”の中で戦闘を始めたオメガモンとベルフェモン。先に仕掛けたのはオメガモンの方からだった。

 『聖突』の構えを取り、目にも止まらぬ速度で突進を開始する。直線的な動きだが、傍から見れば純白の流星であり、視認出来る速度ではない。仮に出来たとしても、それは残像にしか過ぎない。

 オメガモンが突進しているにも関わらず、ベルフェモンは不動のままだ。勝負を捨てているように思われても仕方ない。だが実際は違う。眠っているように見える目は、しっかりとオメガモンを捕捉している。ベルフェモンは動かないのではない。動けない訳でもない。そもそも動く必要がないだけの話。

 

「『聖突・壱式』!!!」

 

 オメガモンがグレイソードを突き出した次の瞬間、“ボフン”という間の抜けた音が“デジクオーツ”内に響き渡る。

 グレイソードはベルフェモンが何処かから取り出した枕によって受け止められた。必殺の剣技たる『聖突』を受け止めたという事は、ベルフェモンの武器であろう枕もまた凄まじい性能を秘めている。オメガモンの攻撃を受けたにも関わらず、ビクともしないのだから。

 

「馬鹿な……枕で『聖突』を受け止めただと!?」

 

「ただの枕ではない! この枕は高反発だけど柔らかめで、首をしっかり支えて安定した眠りをお届けする。戦いの時は相手の攻撃を受け止め、その威力と衝撃を跳ね返す!」

 

「何だと!? グアアァァッ!!!」

 

 枕が反発したと同時に、オメガモンの左腕に『聖突』を放った時に生じた衝撃と力が跳ね返され、左腕に凄まじい苦痛を感じたオメガモンは後退する。

 そこに追い打ちをかけるベルフェモン。自分の近くを浮遊している枕をオメガモンに向けて飛ばして来た。“枕投げ”ならぬ“枕飛ばし”。それを顔面に受けたオメガモンは吹き飛ばされる。

 立ち上がったオメガモンの目が闘志に燃える。相手がふざけているのではない。エキセントリックな戦い方を魅せ、圧倒的としか言えない強さを見せつけている。相手が強ければ強い程、オメガモンの闘志は昂っていく。

 

(これならどうだ……!)

 

 オメガモンはグレイソードを下段に構え、ガルルキャノンの砲口を相手に向ける構えを取った。相手を牽制する構えだ。

 警戒するように目を細めるベルフェモンの目の前に、オメガモンが現れた。一瞬で間合いを詰め、グレイソードを下から振り上げる。

 それに対し、ベルフェモンは体に巻きついた鎖を解き放って迎え撃つ。身体から放たれた鎖が聖剣の軌道を捻じ曲げた。

 そこから始まったのは聖剣と鎖による乱舞。お互いが繰り出す攻撃を防御しつつ、攻撃を繰り出していく。

 これは純粋な技術の戦い。これでお互いの“必殺技無しでの技量”はある程度見せた。ここからが“必殺奥義を含めた全て”の戦いとなる。

 

「“万象一切灰塵と為せ”!」

 

 グレイソードの刀身から発せられる太陽の火炎。オメガモンが聖剣を振るう度にベルフェモンに襲い掛かるが、ベルフェモンは背中に羽織っているマント、もとい毛布で太陽の火炎を消し去った。

 驚愕するオメガモンの目の前で、ベルフェモンは毛布を薙ぎ払う。すると、毛布から太陽の火炎が放たれ、瞬く間にオメガモンを呑み込んでいく。

 ベルフェモンの毛布は飛行と防御を両立させるアイテム。手に持って使用すれば、攻防一体の武器として使う事が出来る優れものとなる。

 

「チィ!!」

 

 太陽の火炎で焼き払われ、純白に輝く聖鎧の至る所に傷が刻まれているオメガモン。追い打ちをかけるように、ベルフェモンは自分の周囲に無数の枕を出現させ、一斉射出を行ってオメガモンを沈めた。

 これがオメガモンとベルフェモンの戦いで起きた全て。ベルフェモンの前にオメガモンは敗北を喫した。特殊能力を使わせる事なく、純粋な実力でオメガモンを下したベルフェモンの実力。恐るべしとしか言う事が出来ない。

 

 

 

「……」

 

 アルトリウスはベルフェモンの実力の高さに言葉を失った。昼寝道に目覚める前では、『七大魔王』の中でも中堅クラスだが、昼寝道に目覚めてからは『七大魔王』のトップクラスの実力者となった。

 しかも初めての対戦とは言えど、オメガモンを下した。自分の盟友をほぼ完封したと言って良い実力。アルトリウスも無言になるしかなかった。

 

「私もベルフェモンと戦ったけど、何も出来なかったな~」

 

「誰もが通る道よね……」

 

 ベルフェモンに完封されたのはオメガモンだけではない。アルファモンやタクティモン、ブラストモンにホーリーナイトモン。人間界に来た誰もが必ずは経験している。

 果たしてアルトリウスことパラティヌモンはどうなるのか。誰もがそう思う中、ベルフェモンが話題を切り出した。

 

「取り敢えず皆の事は分かったから、今後の事を考えよう。“デジクオーツ”の事もあるし、イグドラシルの事もある。僕達には出来る事があるし、やりたい事だってある。先ずはこれからの事を考えよう」

 

 人間界に来てから一番変わったのはベルフェモン。今まではダークエリアで封印されて1000年に1度の周期で永き眠りから覚め、本来の姿を取り戻して暴れ回る。力が尽きたら封印されての繰り返し。その在り方を内心では嫌がっていた。

 今では昼寝道に目覚め、人間界で伸び伸びと生活をしている。ある意味一番馴染んでいると言えるだろう。

 

「私は仕事をしながら有事に備え、新生バグラ軍の創設を進めるよ」

 

「この中で皇帝陛下と話せるのは私と薩摩本部長。新生バグラ軍の件は私達で進めるわ」

 

 薩摩&クダモン。リリスモン。彼らは“電脳現象調査保安局”の幹部であり、バグラモンと共に新生バグラ軍の創設に向けて動き出している。

 彼は“電脳現象調査保安局”の仕事をこなしつつ、デジタルワールドの情勢の緊迫化に伴い、有事に備えている。

 

「私はお寿司を握ったり、異世界を渡って情報を仕入れたりするわ」

 

 優衣はお寿司のネタを異世界から仕入れているが、これには理由がある。異世界での情勢や情報を仕入れ、幅広い見分を得る為。

 仕入れたネタをお寿司に使い、仕入れた情報を様々な部分で使う。何気に異世界に渡る能力は貴重なので、普段から積極的に使っている。

 

「僕とテイルモンは仕事に打ち込むしかないね。調査や研究に」

 

「これから何が起きるか分からないし……」

 

「それは私もですね。悪さをするデジモンを退治する。それが私に出来る事です」

 

「僕とアルトリウスさんが実働部隊だからしっかりしないとだな……」

 

「僕は……昼寝道を究めるだけだ」

 

「それじゃあ今日はここで解散だな」

 

 ウィザーモンとテイルモンは“電脳現象調査保安局”の調査・研究担当。様々な事を調査・研究している。いわば後方担当。しかし、どちらも究極体デジモンに究極進化出来る為、いざという時に戦う事も出来る。

 一真とアルトリウスは実働部隊。デジモンの事件を調査したり、“デジクオーツ”に入って戦闘を繰り広げている。

 “電脳現象調査保安局”の一員ではないベルフェモン。彼はマイペースに行きながらも、有事の時には協力すると言っている。

 交流会はここで一度解散となり、後は座談会に突入した。全員お寿司を食べながら弾けまくり、憂さを晴らしたと言われている。

 




LAST ALLIANCEです。最新話投稿しました。

今回の目玉は昼寝王ネルガメッシュことベルフェモン。
『デジモンセイバーズ』で登場した個体が転生したという設定ですが、昼寝道に目覚めた事で作中最強クラスの実力者になりました。
そして新生バグラ軍は第1章の終盤、最終決戦で実現します。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

カオスデュークモンは対オメガモン用に1体のデジモンを造った。
そのデジモンがオメガモンに牙を剥く!
果たしてその正体は!?

第14話 混沌の騎士 カオスモン襲来


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第14話 混沌の騎士 カオスモン襲来

今回から第1章の中ボスとなるデジモン、カオスモンが登場します。
この後数回登場しますが、大ボスはクオーツモンです。

今回からアニメで言う第2クールに突入したので、別の曲を聴きながら作業しています。
最近メインで活動しているサイト様で、小説の書き方なる物を見付けたので、読みながら更に読みやすく、面白くなるように勉強中です。

これが高評価が沢山もらえる等の目に見える形での結果になれば良いですけど(苦笑)



 デジタルワールドの何処か。そこにいるのはカオスデュークモン。彼は目の前で佇んでいる1体のデジモンを見て満足そうな顔をしている。

 

「ついに完成したぞ、対オメガモン用のデジモンが!」

 

 カオスデュークモンが造ったのは対オメガモン用に用意したデジモン。見た目は騎士のような姿をしているが、兜や鎧といった大事な物が存在していない。しかも単眼。外見だけでなく、存在自体も歪に見えてしまう。

 それでも全身から放たれるオーラはオメガモンに匹敵するか、同等以上の力を秘めている。何しろ、そうなるように造られたのだから。

 

「バンチョーレオモンとダークドラモンを用意するのに時間はかかったが、無事に完成した。カオスモンが」

 

 カオスデュークモンが造ったのはカオスモン。カオスモンという名前はデジモンではない。通常のジョグレス進化をする場合、2体のデジモンの『電脳核(デジコア)』が完全に融合し、新たなるデジモンに生まれ変わる。

 しかし、中にはジョグレス進化をする前のデジモンの『電脳核(デジコア)』をそれぞれ保持し、非常に不完全な状態となる。限りなく低い確率の話だが。

 カオスモンとは“本来であれば存在しない”デジモンのコードネームであり、デジワールドの『中心原理(セントラルドグマ)』では絶対に有り得ない存在でもある。

 

「本来であれば失敗作なのだが、これは成功作だ。何故ならオメガモン……八神一真のデータを利用したからな。1人の人間を生贄に使って、カオスモンという名前のデジモンを造り上げた。我ながら素晴らしい作品だ」

 

 先述した通り、カオスモンは極めて不安定な存在だ。デジタルワールドの管理システムが放つ『特異(バグ)』を排除するプログラムが流れる為、寿命が短くなってしまう。

 それを解消する為、カオスデュークモンは2度に渡るオメガモンとの戦闘で持ち帰ったデータを解析し、人間とデジモンの融合体『電脳人間(エイリアス)』を造り上げようと考えた。それを対オメガモン用のデジモンとする為に。

 人間界から拉致した1人の人間。彼にバンチョーレオモンとダークドラモンの『電脳核(デジコア)』を移植し、不安定な存在でありながらも、完全なデジモンとなったカオスモンを造り上げた。

 造り上げる時にオメガモン戦で得た戦闘データと経験を埋め込み、戦闘に関してはド素人なのに戦えるようにした。非人道的な行いだが、カオスデュークモンは自分が仕える主に依頼されて仕事をした為、罪悪感を全く抱いていない。

 

「さぁ “デジクオーツ”に行け、カオスモン! 憎きオメガモンをお前の力で倒してみせろ!」

 

 カオスデュークモンの言葉に頷いたカオスモンはその場から飛び立ち、“デジクオーツ”へと一直線に向かっていく。その理由は只一つ。自らの存在を証明する為に。八神一真ことオメガモンを抹殺する為に。

 

 

 

 “デジクオーツ”をパトロールする前、デジモンに関する事件がないかどうかを調査する為、一真とアルトリウスは聞き込みを行っている。

 今回訪れたのはとある大衆食堂。名前は『ぽかぽか食堂』と言い、“皆を幸せにする”と謳われる、優しくて温かいおふくろの味で有名なのだが、2人が『ぽかぽか食堂』に入った途端、“デジクオーツ”に入り込んだ。

 

「いきなり“デジクオーツ”になった……」

 

「あれは……!」

 

 “デジクオーツ”に入り込んだ一真と、何かに気が付いたアルトリウス。彼らが目にした物は1体のデジモンに脅されながら、料理を作っている『ぽかぽか食堂』の店主だった。

 その隣にいるデジモンはメフィスモン。巨大な雄羊の頭をした堕天使型デジモン。彼を倒そうと前に一歩踏み出すアルトリウスに、真剣な表情をした一真が話し掛ける。

 

「アルトリウスさん、この近くに究極体デジモンの『波動(コード)』を感じた。そっちを調査して来るから後は頼んだ」

 

「分かりました。ご武運を」

 

 一真がその場から走り去ると、アルトリウスはパラティヌモンに超越進化してゆっくりとメフィスモン達の方に歩み寄る。

 突如として近付いて来る巨大な『波動(コード)』。それに気付いたメフィスモンがパラティヌモンの方を見る。

 

「その人を放してもらいましょうか」

 

「私が何をした?」

 

「戯言を。お店の主人を脅しているではありませんか」

 

「フッ、どうやら話は早いようだな。私はこんな所で死ぬつもりはない!」

 

 メフィスモンが死の祝祭を祈祷する暗黒の呪文―ブラックザバスを唱える一方、『ぽかぽか食堂』の店主がパラティヌモンの方に駆け寄って来た。

 安心するように優しく抱き締めると、戦闘に巻き込まないように指で宙に文字を刻み、店主をすっぽりと覆い包むドーム型の結界を張った。

 パラティヌモンが刻んだのはルーン文字。ルーン魔術。それは北欧から古くから伝わる魔術の1つ。数々の神話や伝説のデータを保有している為、パラティヌモンはルーン魔術を使う事が出来る。

 

「お前のような相手に剣を抜く必要はない。魔術で充分だ」

 

「ほざけ! 『デスクラウド』!!!」

 

 メフィスモンは全てを腐食させる暗黒の雲をパラティヌモンの真上に発生させ、その雲から暗黒の波動を降り注がせる。

 真上から降り注ぐ暗黒の波動。つまらなさそうな表情のパラティヌモンは上を見上げ、右手を伸ばして暗黒の波動を受け止めた。正しく言えば、右手の平から聖なる光を発生させた上で受け止めている。

 

「何!?」

 

「喰らえ。『ストレートフラッシュ』」

 

「グアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 パラティヌモンは右手の平を前に突き出し、聖なる光をメフィスモンに向けて放つ。『ストレートフラッシュ』。それはパラティヌモンの相手の攻撃を吸収し、光に変換しながら収束・増幅して跳ね返す攻防一体の得意技。

 その攻撃に呑み込まれ、メフィスモンは苦痛の雄叫びを上げながら消滅したと思った次の瞬間、メフィスモンが立っていた場所には巨大なデジモンが姿を現していた。

 山の様に大きく、強靭な四肢を持つ魔獣。その下半身には全てを飲み込む程の大きな穴があり、そこはダークエリアの深淵に繋がっていると謳われている。

 

「ガルフモンか……」

 

「『デッドスクリーム』!!!」

 

 ガルフモンは下半身にある巨大な口を開き、聞いた物全てを殺す程の悲痛な死者の叫び声を放ち、パラティヌモンを攻撃する。

 『デッドスクリーム』を受けてもビクともしないパラティヌモンを見て、ニヤリと不気味な笑みを浮かべながら、ガルフモンは巨大な右腕を振るって攻撃するが、パラティヌモンは右手だけで受け止めた。

 

(この程度の相手には剣を使う必要はない。せいぜい使っても……ルーン魔術一回だけだ)

 

「ガハッ!!」

 

 ガルフモンは左腕を振るうが、パラティヌモンは右腕に力を込めて弾いた。そのまま跳躍し、ガルフモンの顔面に右回し蹴りを繰り出す。

 反撃しようと両腕から攻撃を繰り出すガルフモン。その攻撃を余裕で躱すと、ガルフモンの両拳は地面にめり込んだ。その状態から引き抜くには若干のタイムラグが必要となる。その隙を逃すパラティヌモンではない。

 再び跳躍すると共に、今度はガルフモンの巨大な腕を足場に使って目の前に躍り出て、左ストレートを顔面に叩き込む。

 

「グハッ!!」

 

(成る程。巨体だけあって随分とタフだな……それに人間の力を何らかの方法で利用して強化した。厄介だが、この程度はどうという事はない)

 

 ガルフモンは巨体だけあり、理性や知性やスピードを代償に強大な力を得た。それに加え、『ぽかぽか食堂』の店主を利用して力を増した。

 人間の欲望を利用したのではない。人間が食べる食事を利用して力を得た。知性が高く、策士家でありながら残虐極まりない性格だが、流石に強化の方法がシンプルでありながら定番過ぎる。そこまで人間界の食事は美味しいのか。アルトリウスには分かるのだが、パラティヌモンには分からない。

 繰り出した巨大な左拳を受け止められたガルフモン。押し潰そうと力を込めるが、パラティヌモンはもう片方の腕で左拳を攻撃し、そこから怒涛のラッシュを繰り出していく。

 

「『ブラックレクイエム』!!!」

 

「耳障りだ!」

 

 何処からともなく聞こえて来た荘厳な歌声。『ブラックレクイエム』。この歌を聞いたデジモンは程なく死に至り、そのデータは2度と修復する事が出来ないと言われている。

 しかし、その歌声を耳障りと一蹴したパラティヌモンは左足から回し蹴りを繰り出し、『ブラックレクイエム』を中断させながらガルフモンを攻撃していく。

 『ぽかぽか食堂』の店主はパラティヌモンの強さに圧倒された。純粋に強い。小細工抜きに強い。自分を脅した堕天使より強い。天使のように美しく、魔王のように恐ろしい側面を持つ聖騎士に見惚れてしまった。

 

「『F(アンザス)』」

 

「ギャァァァァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 パラティヌモンがルーン文字を宙に刻む、ガルフモンの全身を灼熱の火炎が覆い尽くし、文字通り魔獣を焼き尽くしていく。

 彼女の考え通り、物理攻撃でダメージを与えて最後はルーン魔術で充分だった。その後は“デジクオーツ”から出て、『ぽかぽか食堂』の店主を送り届けて任務を完了させた。

 

 

 

「この辺から感じるんだよな……」

 

 パラティヌモンがガルフモンと戦闘を開始したのと同じ頃、一真は究極体デジモンの『波動(コード)』を探っていた。

 この地点から究極体デジモンの『波動(コード)』を感じる。一真が注意深く周囲を伺っていると、突然足元に『暗黒物質(ダークマター)』のエネルギー弾が撃ち込まれた。

 

「ッ!?」

 

 エネルギー弾が地面に着弾した事で発生した黒煙と爆炎。それに呑み込まれ、自分に向けて砲撃が撃ち込まれた事に表情を険しくさせながらも、一真はオメガモンに究極進化を行い、黒煙と爆炎を切り裂いた。

 姿を現したオメガモンに向けて再び砲撃が撃ち込まれるが、オメガモンは左手に装備したグレイソードを振るい、砲撃を四散させながら消し去る。

 

「フフフ……」

 

「……誰だ?」

 

 オメガモンがエネルギー弾が撃ち込まれた方向に目を向け、注意深く構えを取っている中、周囲一帯に男性の不気味な笑い声が響き渡る。

 デジモンのようでいて、人間の男性でもある不思議な声。それに首を傾げながら目の前を睨み続けていると、目の前から単眼の騎士のような姿をし、右手が獅子で、左手が機械竜を象った籠手をしているデジモンが姿を現した。

 

「我が名はカオスモン。オメガモン……お前を抹殺する為に生まれたデジモンだ」

 

「私を抹殺する為に生まれた、か……(この『波動(コード)』、間違いない。私のように人間とデジモンを融合させたカオスモン。誰が造ったかは知らないが、命を弄ぶ非道な輩を許す訳には行かない!)」

 

 現れたのはカオスモン。対オメガモン用に造られたデジモン。一目見て、『波動(コード)』を感じ取っただけでオメガモンは分かった。

 このデジモンは自分と同じだという事に。自分と同じ人間とデジモンの融合体。人間に『電脳核(デジコア)』を移植した存在だという事に。

 オメガモンは一瞬悩んだ。カオスモンは倒せる。だがカオスモンとなった人間を救う事が自分には出来るのか。それでも戦うしかない。何故なら相手は敵。自分を抹殺する為に生まれ、その使命を遂行する為にここにいるのだから。

 グレイソードを振るい、刀身から青白い刃のエネルギー波を放つと、カオスモンは右手に仕込まれているBAN-TYOブレイドを装備する。それを振り上げる事で青白い刃のエネルギー波を一刀両断し、消し去った。

 

(成る程……力は私と同等か。やってくれるな……)

 

 今の攻防でオメガモンには分かった。カオスモンの力は自分と同等以上。とんでもない強敵が出現した事に戦慄を覚えながらも、闘志を昂らせる。

 オメガモンの心理状態に構わず、カオスモンは左腕のダークドラアームに装備したギガスティックキャノンを展開し、砲撃を撃ち出す。

 

「ッ!!(砲撃の威力、反応速度……どれを取っても私と同等か!)」

 

 カオスモンが撃ち出す砲撃を左肩に装備しているブレイブシールドΩで防ぎ、オメガモンはグレイソードの剣先をカオスモンに向けた。

 これは自分の敵と認識し、これから戦うという証。それを受けたカオスモンは全く動じない。両手に装備した武器を構える。

 

「例え逃げたり、抵抗したとしても無駄だ。私はお前の影だからな」

 

「影だと? どういう事だ」

 

「光と影。お前という光がある一方で、私と言う影が存在する」

 

「笑わせるな。お前の名前はカオスモン。混沌という名前を冠しておきながら、自分を影と言い切るのか。思い切りが良過ぎるぞ?」

 

 カオスとは英語で“混沌”という意味がある。それにも関わらず、カオスモンは自分の事を影と言い切った。その意味が分からないながらも、オメガモンはカオスモンの言葉を皮肉交じりに言い返す。

 

「理由がどうあれ、お前が私の影なのは分かった。影は光でかき消すまで。我が剣と銃を以て、お前を削除する!」

 

「フフフッ、果たしてそれが出来るかな? ならば見せてもらおうかオメガモン……お前の力を」

 

 お互いに剣先を相手に向けながら宣言した事で、戦う意思を示し合う。オメガモンの闘志が太陽の火炎の如く燃え上がる一方、カオスモンもまた静かに闘志を滾らせる。

 大気が焼かれているような匂いがする。それは2体の究極体デジモンの闘志のせめぎ合いによる物だ。雄叫びや裂帛の気合もなく、静かに周囲一帯をお互いの闘志で染め上げていく。ここは今から戦場となる。それを“デジクオーツ”その物に告げているようだ。

 お互いに突撃を開始した事で、オメガモンとカオスモンは戦闘を始めた。聖剣が大気を切り裂けば、大剣が雄叫びを上げる。2つの巨大で強大な力が真正面から激突し、せめぎ合いを行う。

 

「ウオオォォォォォォォォォーーーーーーーーー!!!!」

 

「ハアァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!」

 

 オメガモンとカオスモン。2体の究極体デジモンはお互いに神速のスピードを以て、相手に向かって突進していく。その途中で空高く飛び上がり、同時に大剣を振り下ろす。

 グレイソードとBAN-TYOブレイドが空中で激突したその瞬間、辺りに甲高い金属音が鳴り響くと共に、凄まじい衝撃波が撒き散らされていく。その衝撃波が“デジクオーツ”の大地を薙ぎ払う。

 一瞬だけ交差し、先程まで先程まで相手が立っていた場所に背を向けながら着地した二体のデジモン。振り返ると同時に腕に装備されている大砲の照準を合わせ、砲身にエネルギーを集束させながら砲撃を撃ち込む。

 

(やはりか……カオスモンが放った『ダークプロミネンス』は普通ではない)

 

 ガルルキャノンから撃ち込まれた青いエネルギー弾と、ギガスティックキャノンから撃ち出された暗黒エネルギー弾。2体のデジモンの中心で激突し、周囲一帯を呑み込む程の超爆発を引き起こしながら、そのまま広範囲を薙ぎ払う。

 黒煙と爆炎が発生し、衝撃波が流れ込んでくる中、オメガモンは改めて確信する。このカオスモンはオリジナルより強く、またイレギュラーである事を。

 『ダークプロミネンス』。それはカオスモンの必殺技の1つ。本来であれば、左腕のダークドラアームに装備されたギガスティックキャノンから、自身のデジタル細胞を撃ち出す危険極まりない必殺技なのだが、このカオスモンの場合は違う。

 ダークドラモンの必殺技の1つ、『ダークロアー』。ダークマターをエネルギー弾として撃ち出す技の上位互換となっている。

 

「『ダブルトレント』!!!」

 

「『エンド・オブ・パラドックス』!!!」

 

 2体のデジモンは次の攻撃を繰り出す為に、一度両手に装備している武器を戻した。オメガモンが右手に絶対零度の冷気を纏い、左手から灼熱の火炎を発する一方、カオスモンは右手から眩い光を放ち、左手から暗黒の闇を発生させる。

 オメガモンが右手を地面に叩き付けて絶対零度の冷気を放てば、カオスモンも左手を地面に打ち付けて暗黒の闇を放つ。絶対零度の冷気と暗黒の闇はお互いの中心で激突し、お互いを呑み込まんと言わんばかりにせめぎ合う。

 続けてオメガモンは左手を地面に打ち付けて灼熱の火炎を放ち、カオスモンも右手を地面に打ち付けて眩い光を放つ。

 激突し合う両者の必殺奥義。結果は引き分け。先程のように超爆発が発生する。黒煙と爆炎が巻き起こり、衝撃波が流れ込んでくると共に周囲一帯を薙ぎ払う。

 

「うぉおおおおおおっ!!!!」

 

「ハアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 同時に黒煙と爆炎を切り裂き、相手に向けて突撃していくオメガモンとカオスモン。彼らはお互いに大剣を構えると、同時に振り抜いて剣戟を開始する。

 『クロンデジゾイト』の超合金と闘志がぶつかり合い、火花を散らす。そこに相手への憎悪や同情はない。あるのはお互いを絶対に倒すという強い意志と、強者と戦う事への純粋な歓喜の2つだけだ。

 十合目の激突の後、オメガモンが動き出す。グレイソードを振るうと見せかけて、突然右足からハイキックを放つ。斬撃だけでなく、体術による攻撃を繰り出し始めた。

 

「クッ!!」

 

 それに対応出来たカオスモン。咄嗟に身を屈めて右ハイキックを躱すと、BAN-TYOブレイドを左横に薙ぎ払う。

 繰り出された左薙の斬撃に対し、オメガモンは左肩を前に突き出した。左肩に装備しているブレイブシールドΩで防ぎ、そのまま突進して聖盾でカオスモンを殴り付ける。

 聖盾で顔を殴られ、たたらを踏んで後退するカオスモン。追い打ちをかけるように、オメガモンはグレイソードを振り上げ、右斬り上げを繰り出す。

 

「ガァッ!!……おのれ!」

 

 右斬り上げで胸部に斬り傷を刻まれたカオスモン。左手で胸部を抑えながら数歩後退するが、その表情は苦痛に耐えている様子が手に取るように分かる。

 追撃に出ようと間合いを詰めるオメガモンを牽制するように、カオスモンは左足をオメガモンの胸部に向けて蹴り抜く。

 

「ムン!!」

 

 咄嗟に立ち止まりながらも、オメガモンは左ミドルキックを左手で受け止める。ウォーグレイモンの頭部を象った籠手で防御したのを見て、カオスモンはオメガモンを一刀両断しようとBAN-TYOブレイドを振り下ろす。

 右手となっているメタルガルルモンの頭部を象った籠手で受け止めたのを見て、カオスモンは不気味に笑いながら、至近距離にも関わらず、ギガスティックキャノンの照準をオメガモンに合わせる。

 本当の狙いに気が付いたオメガモンの表情が険しくなるが、時既に遅し。オメガモンを嘲笑うように、カオスモンはギガスティックキャノンから暗黒エネルギー弾を撃ち出す。

 

「『ダークプロミネンス』!!!」

 

「しまっ……ガアァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!」

 

 至近距離で、しかも両腕が塞がっていた。その状態で『ダークプロミネンス』の直撃を喰らい、オメガモンは苦痛の声を上げながら吹き飛ばされる。

 地面に叩き付けられ、立ち上がっている最中のオメガモンに追い打ちをかけようと、カオスモンはもう1度ギガスティックキャノンから暗黒エネルギー弾を撃ち込む。

 

「もう一度喰らえ!」

 

「フッ!!」

 

 一度喰らった攻撃は二度も効かない。そう言いたげにオメガモンは暗黒エネルギー弾に向けてグレイソードを一閃し、暗黒エネルギー弾を四散させながら消滅させる。

 胸部が傷付きながらも、純白の聖鎧にはそこまで傷が付いていない。その状態のオメガモンは立ち上がり、力強く構えを取り直す。

 カオスモンはギガスティックキャノンの照準をオメガモンに合わせ、一瞬溜めを作った後、巨大な暗黒エネルギー弾を撃ち出す。

 オメガモンに向けて進んでいく途中で、巨大な暗黒エネルギー弾は無数の小さな暗黒エネルギー弾に分裂し、あらゆる方向から襲い掛かる。

 

「クッ、“万象……」

 

「させるか!」

 

 オメガモンは無数の小型暗黒エネルギー弾を見てグレイソードを下段に構え、左腕に込められているウォーグレイモンの力を解き放とうとするが、それに気付かないカオスモンではなかった。

 何故なら“デジクオーツ”内で収集したオメガモンの戦闘データが埋め込まれた事で、グレイソードに込められている強大な力の事を知っているからだ。

 グレイソードの刀身から太陽の火炎を発し、小型暗黒エネルギー弾の全てを消し去るつもりなのだろう。そう考えたカオスモンはギガスティックキャノンの砲口をオメガモンの足元に向け、暗黒エネルギー弾を撃ち込む。

 

「グワアァァァァァァァァァァーーーーー!!!!!(まさか私の戦闘データまで持っていたのか!?)」

 

 暗黒エネルギー弾が足元に着弾した事で、超爆発が巻き起こると共に爆炎と黒煙が発生する。衝撃波が流れ込む中、オメガモンの動きは無理やり止められ、一瞬の行動を封じられる事となった。

 その場に立ち尽くす事しか出来ないオメガモンに向かって小型暗黒エネルギー弾は容赦なく直撃し、周囲一帯に超爆発を引き起こしていく。

 全身に小型暗黒エネルギー弾の直撃を次々と喰らい、苦痛の叫び声を周囲に響かせるオメガモン。超爆発で発生した黒煙と爆炎の中に姿を消していった。

 当然の話だが、小型暗黒エネルギー弾の一発一発の威力は『ダークプロミネンス』には及ばない。しかし、それが無数かつあらゆる方向から襲い掛かれば、『ダークプロミネンス』に勝るとも及ばない脅威となる。

 

「クッ……」

 

「脆すぎる……これがお前の力なのか? 正直期待外れだ……我が混沌の力で息絶え、消え去るが良い。お前が守ろうとしている世界と共に……」

 

「……!」

 

 黒煙と爆炎が消え去った後、無数の小型暗黒エネルギー弾の直撃を全身に喰らい、純白の聖鎧の至る所が傷付いているオメガモンが姿を現した。

 全身にダメージと物凄い衝撃を立て続けに受けた為、項垂れながら片膝を付いている。その状態のオメガモンにゆっくりと歩み寄り、カオスモンはBAN-TYOブレイドを突き付けながら言い放つ。

 しかし、カオスモンの言葉がオメガモンという炎に油を注ぐ結果となった。グレイソードを振り上げてBAN-TYOブレイドを跳ね除け、ガルルキャノンから砲撃を撃ち込んだ。

 

「馬鹿な!? グアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 予測出来なかったオメガモンの反撃。胸部に青いエネルギー弾の直撃を喰らい、苦痛の叫び声を上げながらカオスモンは吹き飛ばされる。

 立ち上がったオメガモンが力強く構えを取り直す中、カオスモンは立ち上がってBAN-TYOブレイドを構えた。

 

「ハァアアアアアアアアアアアーーーーー!!!!!」

 

「ウオオオオオオオオオーーーーー!!!!!」

 

 お互いに武器を構えながら同時に突撃を開始すると、オメガモンとカオスモンは大剣を鋭く降り抜き、先程と同様に剣戟に移行する。

 既にエネルギーをそれなりに消費しているが、まだまだ戦闘続行と言わんばかりに大剣を振るう中、カオスモンが突然オメガモンの胸部に向けて右回し蹴りを繰り出して来た。

 両者の実力が互角である以上、剣戟では決着を付けられない。それを理解しているからこそ、両者は斬撃以外の攻撃を織り交ぜている。

 オメガモンが半歩下がって右回し蹴りを躱すと、カオスモンは素早く間合いを詰めながらBAN-TYOブレイドを突き出して来る。

 グレイソードを一閃してBAN-TYOブレイドを弾き、返す刀でオメガモンはカオスモンの胸部に向けて聖剣を薙ぎ払う。

 

「グァァッ!!」

 

 グレイソードによる右薙によって、胸部に横一文字の斬り傷を刻まれたカオスモン。斬り傷を刻まれて表情を歪めながらも、オメガモンの更なる追撃に備えて後方に飛び退き、一度構えを取り直した。

 カオスモンはBAN-TYOを振り上げ、青白い刃の形をしたエネルギー波を放つが、オメガモンはグレイソードを一閃して両断し、そのままの勢いに乗る形でカオスモンとの間合いを詰める。

 オメガモンが攻撃を仕掛けるよりも前に、カオスモンはオメガモンに向けて左ハイキックを繰り出す。

 素早く身を屈めて躱しながらグレイソードを下段に構え、オメガモンは左斬り上げでカオスモンを上空高く打ち上げる。

 

「グァッ!?」

 

「『アルティメットアッパーカット』!!!」

 

 上空高く打ち上げたカオスモンに、オメガモンはガルルキャノンから砲撃を撃ち込む事で追い打ちをかける。

 空中で体勢を立て直したカオスモンが、目の前から迫りくる青いエネルギー弾をBAN-TYOブレイドを振り下ろして一刀両断していると、その真上にオメガモンが姿を現し、グレイソードを振り下ろして来る。

 

「何!?」

 

「“万象一切灰塵と為せ”」

 

 咄嗟にBAN-TYOブレイドで受け止めるカオスモン。お互いの大剣は砕け散る事なく、身体も吹き飛ぶ事なく、芸術的とも言える均衡を見せた。そのまま鍔迫り合いに移行する。

 オメガモンはグレイソードに込められている力を解き放ち、刀身から太陽の火炎を発しながら振り切り、カオスモンを吹き飛ばす。

 たまらないと言わんばかりに吹き飛ばされたカオスモンだったが、そこはやはり究極体デジモンだった。地上に危なげなく着地した。膝を付く事もなく、表情を全く変えずにBAN-TYOブレイドを構え直した。

 オメガモンも地上に降り立つと共に『聖突』の構えを取り、地面に降り立った時の衝撃を瞬発力に使いながら、カオスモンに向けて突進していく。

 

「『聖突・壱式』!!!」

 

 突き出されたグレイソードを前方に飛び上がって躱しながら、カオスモンはBAN-TYOブレイドを振り下ろす。

 しかし、その直前にオメガモンは突き出した左腕を直ぐに戻し、真上にいるカオスモン目掛けてグレイソードを突き上げる。

 

「それで避けたつもりか! 『聖突・参式』!!!」

 

「グハァッ!!」

 

 『聖突・参式』を胸部に喰らったカオスモンは苦痛の声を上げながら、地面に落下すると共に倒れ伏せた。

 対空迎撃用の『聖突・参式』。上空にいる相手に向けて跳躍しながら、突き上げを繰り出す型。跳躍で避けられた場合に追撃される時に用いられる。

 カオスモンに止めを刺そうとグレイソードを大上段に掲げ、そのまま振り下ろすオメガモン。自分に向けて振り下ろされた聖剣を間一髪で躱し、カオスモンは背後に大きく飛び退いて間合いを空けた。

 BAN-TYOブレイドを振り上げて青白い三日月形の剣圧を飛ばすが、オメガモンはグレイソードを振り上げ、青白い三日月形の剣圧を両断しながら消し去る。

 それと同時にカオスモンとの間合いを一瞬で詰め、グレイソードを大上段から振り下ろし、相手に構え直すタイミングを与えない素早い唐竹斬りを繰り出す。

 

「ガァァッ!!!」

 

「まだまだ!」

 

 胸部に縦一文字の斬り傷を刻まれたカオスモンは数歩後退するが、その隙を見逃すオメガモンではない。直ぐにグレイソードを下段に構え直し、左斬り上げを繰り出してカオスモンに追い打ちをかけ、左足でカオスモンを蹴り飛ばす。

 カオスモンが立ち上がるよりも前に、オメガモンはガルルキャノンの照準を合わせながら砲身の内部に青色のエネルギーを集束していく。

 そして集束したエネルギーを解放しながら一方向に押し出す事で、青い光の波動砲としてカオスモン目掛けて撃ち出した。

 

「ガアァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

 青い光の波動砲は直進し、カオスモンを呑み込んでいく。通常ならばこれでカオスモンを倒す事が出来るだろう。しかし、オメガモンはそこまで考えていない。

 今の一撃は決定打にならなかった。その証拠に、全身の至る所にダメージを受けたカオスモンが姿を現した。

 

「ハハハハハハハ……大したものだな、オメガモン。最後まで諦めずに戦い続けた勇気と闘志。 それでこそ戦う意味がある……今日はここまでだ。また楽しませてもらおう……」

 

「待て!!」

 

 オメガモンの制止を振り切るように、カオスモンは周囲一帯の風景と同化するように消えて、“デジクオーツ”から去っていった。

 それを見守る事しか出来なかったオメガモンは両手に装備した武器を戻し、カオスモンが立っていた場所を見つめながら呟いた。

 

「カオスモン……奴を造った黒幕と、利用されている人間は一体誰なんだ?」

 

 カオスモンを造ったのは誰か。そして利用されている人間は誰なのか。カオスモンを倒しながら、人間を救わなければならない。

 そんな二律違反とも言える使命を果たすのがオメガモン。新たなる敵の出現に心が重くなるのを感じながら、オメガモンはパラティヌモンの所へと戻っていった。

 




第1章の後半戦が今回からスタートしました。
前半は”デジクオーツ”での事件が中心でしたが、後半は『七大魔王』の話とか色々な事を書いていくので、”デジクオーツ”はあくまで舞台としての扱いになります。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

カオスモンとの戦いの後、スランプに陥ったオメガモン。
彼を救う為に優衣はとある人物に依頼する。
果たして誰なのか。そして熱き拳はオメガモンに届くのか。

第15話 日本一の喧嘩番長参戦!




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第15話 日本一の喧嘩番長参戦!

今回は皆大好き喧嘩番長が参戦します。
今年も残り僅かとなり、投稿出来るのも後2,3回になりそうです。
でも最後までよろしくお願いします。


 “デジクオーツ”でのカオスモンとの初戦闘から数日後。一真ことオメガモンの戦いは何処か精彩を欠いた物となっていた。

 まるで戦う事に戸惑っているように、相手を倒す事に戸惑っているような動きが多くなり、格下相手に苦戦する事が多くなった。

 幸いパラティヌモンという最強の相棒がサポートしているから、今の所はどうにかなっているが、好ましくないとは言えない状況だ。

 “電脳現象調査保安局”に戻って来たオメガモンは進化を解除せず、“寿司処 王竜剣”に向かった。お寿司を注文してそれが出されても、手を付けずに一人項垂れている。

 

(どうしたものかな……答えが出れば良いのだが)

 

 表情を険しくさせる中、オメガモンはふと自虐的な笑みを浮かべている事に気付いた。自分は悩んでいる筈なのにどうして笑っているのか。

 今まで何の悩みもなかった自分が転生して悩むようになった。自分は弱くなった。そう思っているだけなのかもしれない。

 

「お悩みの様ですね……」

 

「何か悩んでいるわね、オメガモン」

 

 隣の席に座ったのはパラティヌモン。彼女はオメガモンが悩みを抱えている事を見抜いていた。見抜いてはいたが、それが一体何なのかが分からず、少し様子見をしていた。

 そしてその悩みが分かり、パラティヌモンも動き出した。彼女だけではない。アルファモンこと工藤優衣も同じだ。

 

「悩んでいる……か」

 

「はい。ここ最近の戦いは貴方らしくありません。溜息が多いですし、上の空でいる事も多い。何かに悩んでいるとしか思えません」

 

「何かあったの? 私達で良ければ話して。皆オメガモンの力になりたいの」

 

 隣で戦いを見て来たパラティヌモンも、“寿司処 王竜剣”を中心に見ている優衣もオメガモンの事を心配している。

 それは盟友として、仲間として。或いは一人の女性として。何れにせよ、オメガモンは色々な人から大切に思われている事は事実だ。

 2人の仲間、2人の女性を前にしてオメガモンはゆっくり話し始める。最近になって抱えているとある悩みを。本人にとってはつまらない悩みだったとしても、2人にとっては重要な悩みだった。

 

「成る程……」

 

「まぁ避けては通れぬ道よね……」

 

 オメガモンの悩みは先日初めて戦ったカオスモンの事だった。自分と同じく、心臓が『電脳核(デジコア)』となっている人間。『電脳人間(エイリアス)』相手は今回が初めてであり、どのように戦えば良いのか正直分からなくなった。

 ちなみに、カオスモンの事はパラティヌモンや優衣達は知っている。オメガモンが初めて戦ったその日に話を聞いたからだ。

 カオスモンは倒さなければならない相手だが、カオスモンとなった人間は助けなければならない。その二律違反。その矛盾を両立しなければならない。そのプレッシャーと重圧に押し潰されそうになっている。

 

「どうして悩んでいるんですか? 答えは最初から分かっているのに……」

 

「今の私ではカオスモンとなった人間を救うどころか、カオスモンを倒せない……そう思ったからだ」

 

「確かオメガモンの戦闘データや戦い方をインプットしているのよね?」

 

「あぁ。強さも互角以上だから……参ったよ。今の私では撃退するのに手一杯だから」

 

 完全にネガティブな状態となり、弱音を吐きながら項垂れている。生前からどんな強敵や逆境にも恐れず、勇猛果敢に立ち向かって来たオメガモン。

 しかし、同時に八神一真という人間でもある為、繊細で壊れやすい人間の心を得た。自分は一体どうすれば良いのか。数多の死線を潜り抜けたオメガモンでも、答えを出す事が出来ないでいる。

 

「どうすれば良いのか? 誰も何も教えてくれない。誰か答えを教えてくれ……」

 

 苦悩と焦りがオメガモンの心を苛んでいる。その言葉と様子にパラティヌモンと優衣はお互いに顔を見合わせ、どうすれば良いのかを考える。

 叱咤激励すれば良いのか。それでも仮に叱咤激励した所で何になるのか。一真のメンタルをオメガモンが引き摺っている。“デジモン化”が内面的にも進行しているとは言えど、流石に見過ごす事は出来ない。

 

「オメガモン。私は貴方の思いが分かります。貴方にとって最大の困難かもしれませんが、それで立ち止まる程貴方は弱くないと信じています」

 

「そういう悩みを抱えているのは自分に力が足りていない事を自覚している証。つまり自信が足りていない事。自信を持って前に進めるよう、自分を信じてみて」

 

 オメガモンを初めて盟友と認めたパラティヌモン。盟友として誰よりも強さを知っているからこそ、彼の強さを最後まで信じ抜く事を決めた。

 優衣もその後に続いた。“寿司処 王竜剣”から戦いを見守り、同じ職場の仲間を信じている。お姉様として、そのポジションに君臨しているだけの事はある。

 

「まぁ頑張るしかないか……」

 

 溜息を付きながら、オメガモンは微笑みを見せた。今の所は悩みが和らいだだけ。根本的な悩みの解決にまでは至っていない。

 それに気付かないパラティヌモンと優衣ではなかった。彼女達はオメガモンの為に動き出そうと心に決めた。

 

 

 

 かつてとある人間界に“生きる神話”と謳われている喧嘩番長がいた。その拳であらゆる神話や伝説を打ち立てて来たが、その拳で相手と語り合う事で様々な困難を真正面から粉砕し、多くの者達と分かり合って来た。

 ブラックデジゾイド製の聖盾を破壊した。『七大魔王』を倒した。イグドラシルを殴り倒した。拳だけで何度も世界を救った救世主。その後も、彼は相棒と共に世界を回り、好きなように大暴れをしている。

 彼に送られたのは『BAN-TYO』という称号。5体のデジモンにしか名乗る事を許されなかった伝説の称号。それをデジモン達から送られた。人間であるにも関わらず、喧嘩番長としてあらゆる争いや危機を解決して来た事に対する感謝の表れ。

 

―――傷付き合う事を恐れるんじゃねぇ。それを恐れたら分かり合う事なんて、出来る筈がねぇ。

 

―――力は借りたり、与えたりするもんじゃない。力は……合わせるもんだ。

 

 数多くの名言や珍言を残している彼だが、言葉の1つ1つには打ち立てた神話や伝説といった人生の全てが凝縮されている。拳で語り、理解し合ってきた喧嘩番長、もとい漢の名前は大門大と言う。

 “寿司処 王竜剣”での会話から数日後。大門大のいるデジタルワールドに降り立った優衣は、とある人物とデジモンと会っていた。

 年齢が二十代ぐらいで赤いシャツを着た精悍な顔をした男性―大門大。それに並ぶようにいるのは、両手に赤い紐のようなものを付けた黄色いトカゲの姿をしたアグモン。

 

「久し振り~大君、アグモン君!」

 

「優衣姉さんも久し振りだぜ!」

 

「優衣~!」

 

 久し振りの再会なのだろうか。お互いに再会を喜び合い、ハイタッチを交わす。優衣は異世界に行っては自分が握ったお寿司を配達している。

 大門大&アグモンも常連客であり、毎回沢山注文して来る。その分の食費は別の所から落ちているが、そこから先は言わぬが花だろう。

 

「はい、これ。今月分のお寿司よ」

 

「おお~ありがとうな! いつ見ても、いつ食べても優衣姉さんの握るお寿司は天下一品だぜ!」

 

「兄貴、俺の分の大トロ、残してくれよ!?」

 

「もちろんだぜ!」

 

 優衣は異世界へのお寿司を配達しているが、そのメインは情報収集。お寿司を売り回り、ネタとなるお魚を仕入れながら色んな世界を回っている。

 その関係で異世界の友人が一番多く、彼らとは戦いを通じて分かり合って来た。大門大&アグモンも例外ではない。

 

「ねぇ、大君とアグモン君。いきなりで大変悪いけど、2人にしか頼めないお願いがあるの。頼んでも良いかな?」

 

「俺達にしか頼めないお願い?」

 

「聞いてみようぜ、兄貴」

 

「あぁ、先ず聞いてみる。それから考えるぜ」

 

 優衣には普段から美味しいお寿司を食べさせてもらっているのか、大とアグモンは割とあっさりと了承してくれた。

 とは言えど、先ず話を聞いてから自分達がやるかどうかを考える。以前はあっさり引き受けていたが、経験を積んできた事で落ち着いて来たのだろうか。

 

「実はこの前から来ているオメガモンなんだけど……」

 

 優衣は一真ことオメガモンの事を大とアグモンに話した。カオスモンとの戦い以降、戦う事に対して迷いを抱え込んだのか、どうも調子を崩しているみたいだ。

 自分達でどうにかするのが一番なのだが、こういう時には大とアグモンが適任。そう考えた上で、優衣は大とアグモンに依頼した。

 

「……分かった。要はオメガモンの悩みを吹き飛ばせば良いんだろ? 久し振りに強ぇ相手と喧嘩出来るぜ!」

 

「もちろん無料とは言わないわ。報酬も用意するわ。“王竜剣”での夕食費を無料にするってのはどう?」

 

「兄貴、これは受けようぜ!」

 

「あぁ! 人助けにもなるし、美味しいお寿司を食べれるし、一石二鳥だぜ!」

 

「決まりね。頼んだわよ」

 

 報酬はその日の“寿司処 王竜剣”での無料の食べ放題。大とアグモンは二つ返事で了承し、優衣は満足気にニコリと微笑んだ。

 彼らは具体的な場所と日時を決める。数日後の“デジクオーツ”。そこでオメガモンの悩みを聞いて答えた上で、拳で分かり合う。結局は平常運転だった。

 

 

 

 それから数日後。“デジクオーツ”に来たオメガモンとパラティヌモン。彼らは事前に優衣からここに来るように言われていた。

 何故自分達が呼び出されたのか。そもそもどうして自分達なのか。全く分からず、困った顔をしていると、そこに優衣が現れた。

 

「約束した通り来たわね」

 

「優衣殿。これは一体?」

 

「何故私まで呼ばれたのですか?」

 

「オメガモン。これから貴方の悩みを解決してくれる兄貴が来るわ。パラティヌモンは初対面になるから、失礼のないように」

 

 自分の悩みを解決してくれる人物が来てくれる。それはオメガモンにとってとてもありがたい事なのだが、引っ掛かる所があった。“兄貴”という言葉。その言葉から導き出される答えは1つ。あの偉大なる喧嘩番長が来たと言う事だ。

 緊張するオメガモンと、言葉の意味が分からずキョトンとしているパラティヌモンの目の前に、大門大とアグモンが姿を現した。

 

「大門大……兄貴!?」

 

「よぉ、オメガモン! 俺は大門大。日本一の喧嘩番長だ!」

 

「俺は兄貴の一の子分、アグモンだ!」

 

 威勢よく名乗りを上げる大とアグモン。これがもし一真だったら大興奮のあまり泣きだし、サインを求めたり、写真を撮る等暴走していただろう。

 しかし、オメガモンは違う。冷静を装っているが、内心では感激している。尊敬している英雄の1人に会う事が出来たからだ。

 

「オメガモン、この方はどちら様ですか?」

 

「パラティヌモン、聞いて驚くな。大殿は拳1つで数々の神話を打ち立てた喧嘩番長。究極体デジモンだけでなく、『七大魔王』に『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』、そしてイグドラシルを殴り倒した最強の喧嘩番長だ」

 

「はい!?」

 

 オメガモンから告げられた事実。それは大門大の武勇伝。ただの人間が拳1つでここまでの神話を打ち立てられるのか。そう思いながらパラティヌモンは大とアグモンを見る。

 大とアグモンはニコリと笑っている。どうやら本当の事らしい。パラティヌモンは呆然となるしかなかった。

 

「人間ですよね……?」

 

「失礼だな。何処からどう見ても俺は人間だぞ?」

 

「嘘です! 人間ではありません! 人間の皮を被ったデジモンです! 貴方は大門大ではありません! マサルダイモンです!」

 

「おいおい! 確かにそう言われる事は多いけど、よりによって真正面から言われると何か凹むぜ……」

 

 パラティヌモンから人間ではなく、デジモン扱いされた大門大。本人はまんざらでもなさそうな様子だが、気持ちは分からなくもない。

 『七大魔王』に『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』、イグドラシルを殴り倒す人間は普通なら有り得ない。目の前にいる例外中の例外、大門大を除いて。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。オメガモンだ。よろしく」

 

「パラティヌモンです」

 

「おぅ、話は優衣姉さんから聞いているぜ」

 

 大は優衣から全てを聞いていた。八神一真、もといオメガモンの事を。彼がデジモンになった経緯、これまでの戦いといった全てを。そしてカオスモンとの戦いを通じた今、超えなくて前に進めない壁に塞がれている事を。

 ちなみにパラティヌモンの事も聞いている。厄災大戦を終わらせる為に造られた事や、正体がアーサー王である事。イグドラシルによって封印され、ホメオスタシスによって封印を解除された事も。

 しかし、今回はオメガモンの悩みを解決する事が中心となっている。大とオメガモンが適当な所に腰掛けると、大はオメガモンに話し掛ける。

 

「オメガモン……俺はお前の悩みを聞いて殴り飛ばすつもりはねぇ。むしろ悩みを聞いて良かったと思ったぜ。“主君思いなんだな”と、“良いデジモンなんだな”と思えた」

 

「あぁ、兄貴が漢の中の漢なら、オメガモンは聖騎士の中の聖騎士だぜ!」

 

「ッ……!」

 

 大の言葉を聞いたオメガモンは驚くと共に耳を疑き、大の顔を見る。大に幻滅されると思ったからだ。如何に聖騎士と言えども、実際の所はデジモンに変わりない。

 しかし、大は幻滅しなかった。オメガモンの悩みは当たり前の物だったから。もっと難しい感じの悩みならまだしも、大やアグモンも共感できる内容だった。

 

「“デジモン化”の事も全部優衣姉さんから聞いた。オメガモン……お前は一真を戦わせたくないんだろ?」

 

「ッ!」

 

「図星のようだぜ、兄貴。思っていた通りだ」

 

 喧嘩番長だけあって、喧嘩の事しか考えていないように見える大。勉強は正直出来ない方だが、決して馬鹿ではない。何しろデジモン研究の第一人者である超生物学者の大門英の息子だけあり、戦闘では時折鋭い勘を見せて危機を脱していた。

 それに非常に家族・仲間想いで人情深い一面がある。アグモンが“兄貴”と呼んで慕っているのにも理由がある。

 

「本当は一真がお前になる事を望んでいなかったんだろう? 一真と一緒にいる内に、性格が自分にそっくりな事に気付いたから……」

 

 オメガモンは一真を戦いに巻き込みたくなかった。一般人という事もそうだが、性格が似ているからこそ、余計に責任を感じてしまう。

 本心を言い当てられた事に驚きながらも、俯いて静かに話を聞くオメガモン。それを優衣とパラティヌモンは静かに見守る。

 

「前世で秘奥義をクラッキング……だっけか? されたのに一真の力でまた使えるようになった。一真が新しい力をくれた。でもお前は成長していく自分の力を抑えようとしている。何故か?……一真を戦いから遠ざけて、傷付いて苦しませないように。“デジモン化”でいずれ殺す事になるから……違うか」

 

「……そうだ。全部当たりだ」

 

「けどよ、そんなんじゃお前は何時まで経っても前に進めねぇ」

 

 大はオメガモンの心を理解しながらも、その上でバッサリ切り捨てた。ここが本番。ここからが大門大の真骨頂。

 それを理解しているオメガモンと優衣は真剣な表情となり、パラティヌモンも静かに見守る。その顔はアーサー王その物だった。

 

「俺にはお前の悩みが分からねぇ。でも悩んでいる理由は分かる。きっと父さんも同じ悩みを持っていたと思う」

 

 大門大の父親、大門英。誰よりもデジタルワールドを愛した男。とある事情でデジタルワールドを旅している途中、数々の伝説を打ち立てた。この親にして子供あり。

 旅の途中でバンチョーレオモンと拳で語り合い、意気投合した事でパートナーになり、数年後にイグドラシルと対面したが、この時期に倉田明宏によるデジモン虐殺事件が発生してしまった。

 それから倉田による横暴によってイグドラシルに処刑されるが、バンチョーレオモンの策略で自分の命をバンチョーレオモンに託し、パートナーと一心同体となって行動していた。それを知っている為、大はオメガモンの悩みに理解を示していた。

 

「でも、父さんは俺に色んな事を教えてくれた。バーストモードの事も、力の事も……それはやっぱり、父さんはバンチョーレオモンの事を認めていたからだと今になって思うぜ。オメガモン。お前は一真の事を信じているよな? 一真が新しい力を教えてくれるのに、お前はそれを嫌がるのか?」

 

「それは……」

 

「本当に一真の事を気遣うなら一真を信じろ。パートナーとデジモン。信じ合う事で力を合わせ、それが物凄ぇ力を生むんじゃねぇのか?」

 

 これまでの戦い、これまでの喧嘩の中で培った大の考え方。物凄く説得力があり、オメガモンでなくても納得せざるを得ない。

 オメガモンは一真を傷付けたくないあまり、自分一人で無理をしていた。それがカオスモンとの戦いで一気に表面化されただけの話だ。

 

―――オメガモン。僕の事は気にしないで、好きなようにしてくれ。

 

「だが君を巻き込むわけには行かない!」

 

―――何言っているんだ? 僕は本当ならあの時死んでいる筈だった。でもオメガモン、君に助けられて今こうして生きていられる。僕の命はオメガモンから貰ったも同然。だから僕はオメガモンの為に全てを捧げる。

 

 一真の戦う理由はかなり歪な物であり、それは本人も自覚している。“デジモンの襲撃に遭い、デジモンとなった”自分は戦わなければならないという使命感。しかし、人間を、デジモンを誰よりも愛しているからこそ、一真はオメガモンとして戦っている。

 デジモンの中で小さい頃から憧れて来たオメガモン。彼の背中を追いかけて聖騎士を目指し、世界を守る為に戦うその生き方は、“オメガモンになろうとしている人間”その物だった。彼はデジモンの襲撃によって人生を狂わされた被害者でもある。

 だからこそ、自分のような人が二度と生まれないように戦っている。それにも関わらず、カオスモンという被害者が生まれた。しかも対オメガモン用に造られたデジモンとして。それが一真に耐え切れず、その思いにオメガモンが同調してしまった。

 

―――オメガモン。僕達は人間を、デジモンを、世界を守る為に戦っている。僕達がすべき事は何だ? 前に進みながら戦い続ける事だ。何を迷う事がある? カオスモンを、カオスモンになった人を救おうよ。

 

「分かっている……だが!」

 

―――僕も一緒に戦う。君だけを戦わせはしない。僕がそばにいる。僕が付いているから、使ってくれよ僕の力を。“デジモン化”を阻止したいんだろ? 僕を殺したくないんだろ?だったら僕の力を使ってくれ。君の力と合わせれば、大抵の敵はどうにかなるんだから。

 

 オメガモンの事を信頼している為、オメガモンの姿になった後は一真の意識は眠ったままだった。しかし、今回は例外だ。オメガモンを叱咤激励する為に、より信頼を強固な物にする為、普段の鬱憤を晴らすようにかなり喋る。

 主君とも言える人物からの叱咤激励を受け、立ち止まるオメガモンではない。涙を流しながら感謝を示し、もう1度戦おうと決意を新たにする。

 

「一真……ありがとう。やっと迷いを断ち切る事が出来た」

 

―――礼を言うのは僕の方だよ。ありがとう、オメガモン。

 

 大門大と一真の叱咤激励を受け、立ち直れたオメガモン。前に進もうと心に決めれば、誰だって前に進む事が出来る。

 これから挑むのは一つの戦いであり、一つの決闘でもある。相手は大門大&アグモン。日本一の喧嘩番長。

 

「そんじゃあ、やるか」

 

「あぁ、始めよう」

 

 大門大とアグモンは立ち上がり、オメガモンと向き合う。これはオメガモンが悩みと言う名の試練を乗り越えたかどうかを試すテスト。

 オメガモンは聖騎士としてではなく、1体のデジモンとして戦いに挑む。その目は真剣その物。相手は今まで戦って来た中でもトップクラスに強い。気を抜けば負ける事が目に見えているから、必死になるしかない。

 先に動いたのは大とアグモン。彼らは拳を振り上げながら飛び掛かって来た。その行動の意図を見抜き、オメガモンは両手を構える。

 

『ウオォォォォォォォッ!!!!!』

 

「クッ!!(何という一撃! これが最強の喧嘩番長とその相棒の力の一端なのか!?)」

 

 大の右拳が凄まじい衝撃と共に放たれた。それをウォーグレイモンの頭部を象った左手で受け止めるが、オメガモンの表情は険しく、同時に苦しそうに見えた。

 ただの拳の一撃だが、実際には究極体デジモンを一撃で戦闘不能に追いやる程の威力と重さを兼ね揃えている。続けてアグモンの拳をメタルガルルモンの頭部を象った右手で受け止めるが、こちらも成長期デジモンの範疇を超えた凄まじい一撃だった。

 防御したものの、それでも衝撃で後退してしまう程の威力と重さだった。それにオメガモンが驚いていると、大とアグモンは殴られた衝撃から立ち直っている最中のオメガモンに追撃するように、左拳を叩き込む。

 

『ハアァァァァァァァァァッ!!!!』

 

「ッ!!」

 

 大とアグモンの拳を左肩のブレイブシールドΩで防いだオメガモンは、そのまま聖盾で殴りかかるが、その直前に大とアグモンが後方に飛び退いて地面に着地した。

 オメガモンが構えを取り直している間に、大はシャツのポケットからオレンジ色と黒色の細長い形をした小さな機械―デジヴァイスバーストを取り出すと、アグモンに向ける。

 

「行くぞ、アグモン!!!」

 

「応! 兄貴!!!」

 

 アグモンが力強い言葉で答えると、大はオメガモンを殴った時からオレンジ色の輝きを発する右手を機械の上部分に押し当てる。

 それと同時に、デジヴァイスバーストの液晶部分に“ULTIMATE EVOLUTION”の文字が浮かび上がった。大はその状態のデジヴァイスバーストをアグモンに向け、オレンジ色の光を放つ。

 

「デジソウルチャージ!!! オーバードライブ!!!」

 

「アグモン進化ァァァァーーーーーーー!!!」

 

 デジヴァイスバーストから放たれたデジソウルを全身に浴びたアグモンが叫ぶと、その体はデータ粒子へと一時変換され、巨大化を始める。

 現れたのはシャイングレイモン。背中に赤い十二枚の機械のような翼があり、胴体に赤い鎧を身に纏い、その中心には青い宝玉が付けられている。両腕には黄色い籠手を付け、巨大な尻尾の先に刃のような形をした光輪を付けた光竜型デジモン。

 

「シャイングレイモン!!!」

 

(来たか……シャイングレイモン!)

 

 オメガモンが左手にグレイソードを装備して構えを取る一方、大はシャイングレイモンの肩に飛び乗り、シャイングレイモンは両拳を握り締めながら構えを取る。大も戦う構えを取っている。

 対するオメガモンは『聖突』の構えを取った。お互いにゆっくりと間合いを取りながら、攻撃のタイミングを計り始める。

 

 

 

「ウオオォォォォォーーーー!!!!!」

 

 優衣とパラティヌモンが見守る中、オメガモンとシャイングレイモン&大のバトルが始まった。先に仕掛けたのはシャイングレイモン&大。

 シャイングレイモンは背中の翼を広げながら突進を開始して来た。その突進の勢いを乗せつつ、オメガモンに向けて右拳を放つ。

 オメガモンは僅かに身体を動かして躱し、グレイソードをシャイングレイモンに向けて突き出そうとするが、そうはさせないと言わんばかりに、シャイングレイモンの肩に乗っていた大がオメガモンに飛び掛かる。

 

「そうはさせねぇ!」

 

「ッ!」

 

 大が飛び掛かって来たのはオメガモンを攻撃するだけでなく、シャイングレイモンを攻撃しようとする事を牽制する為。その意図に気付いたオメガモンは表情を険しくさせながら、シャイングレイモンとの間合いを空けようとする。

 しかし、今度はシャイングレイモンが身体を回転させながら尻尾を振り抜いて来た。目にも止まらぬ速度で迫り来るのは、先端に刃のような形をした光輪が付いた巨大な尻尾。

 グレイソードを振るってその一撃を弾き、その勢いを以てガルルキャノンの照準を合わせて砲撃を撃ち込もうとするが、その直前に前方から強大なエネルギーの集束反応に気が付いた。

 目の前にいるのはシャイングレイモン。地面にしっかりと両足を付け、背中の翼を大きく広げながら胸元に凄まじいエネルギーを集中させている。その構えは必殺技の構えだと知っているオメガモンは、ガルルキャノンの照準をシャイングレイモンに合わせる。

 

「グロリアスバーーースト!!!」

 

 シャイングレイモンは極限にまで集めたエネルギーを球状に圧縮・凝縮させた上でオメガモンに向けて放つ一方、オメガモンもガルルキャノンから青いエネルギー弾を撃ち込む。

 2つの攻撃は両者の中心でぶつかり合うと、周囲一帯を呑み込む程の超爆発を引き起こしていく。巻き起こる黒煙と爆炎がオメガモン達を包み込み、拡散する衝撃波が優衣とパラティヌモンに襲い掛かるが、彼女達は平然としながら目の前の戦いを見守る。

 暫く流れる静寂を切り裂いたのはオメガモン。『聖突』の構えを取りながら黒煙と爆炎を突き破り、シャイングレイモン目掛けてグレイソードを突き出す。

 

「『聖突・壱式』!!!」

 

「ハアァァァァァッ!!!」

 

 シャイングレイモンは『聖突・壱式』を横に躱して左腕を振り下ろそうとするが、オメガモンはその直前にグレイソードを薙ぎ払う。

 『聖突』は例え相手が横に躱して反撃しようとしても、横薙ぎの斬撃に移行出来る。その強みがある為、オメガモンは『聖突』を多用している。

 『聖突』の派生攻撃に気が付いたシャイングレイモンは直ぐに攻撃を中断し、左腕に付けている籠手で防御しつつ、右拳による一撃を放つ。

 メタルガルルモンの頭部を象った籠手となっている右手で受け止めながら、オメガモンは左手にエネルギーを込める。ウォーグレイモンの頭部を象った籠手の目の部分が光を放ち、グレイソードの刀身から太陽の火炎が発せられる。

 

「……ハァッ!!」

 

「クッ!!」

 

 オメガモンはグレイソードを横薙ぎに降り抜き、多少強引な形ではあったが、シャイングレイモンを弾き飛ばす。

 空中で危なげなく体勢を立て直し、地面に着地したシャイングレイモンが大に呼び掛けると、大はデジヴァイスバーストを懐から取り出し、横に付いているセンサー部分に右手を当てる。

 

「兄貴!!」

 

「応、任せろ!」

 

 長い間共に戦い続けた事で、大とシャイングレイモンは阿吽の呼吸でお互いの考えを読み合う事が出来るようになった。

 シャイングレイモンは右腕を地面に叩き付けると、そのまま地面の中に右手を入れて“何か”を掴み取り、大地から引き摺り出した。

 

「ウオオォォォォーーーー!!!! ジオグレイソーーード!!!!!」

 

 シャイングレイモンが雄叫びを上げながら地面から引き摺り出した武器。それはジオグレイソード。中心に柄が存在して、その両端から刃が左右に伸びている双刃の大剣。大地の力が込められた金色のダブルセイバー。

 自分の武器を召喚し終えたシャイングレイモンは、ジオグレイソードの剣先をオメガモンに向けると、オメガモンは弓を引き絞るような参の型の構えを取り、お互いに相手に向けて全速力で飛び掛かる。

 

「ウオオオオォォォォォォーーーーーーーー!!!!」

 

 シャイングレイモンがジオグレイソードで何度も斬り掛かるが、オメガモンはその連続斬撃を悉く弾いていく。グレイソードの最小限の操作だけで。

 攻撃が通用しないどころか、見切られている。どんなに強力な攻撃でも、相手に当たらなければ意味は無い。

 とは言えど、シャイングレイモンは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員との戦闘経験はある。相手はデュークモンとクレニアムモン。しかし、今戦っているオメガモンは彼らよりも強い。大とシャイングレイモンはそう感じている。

 

「これが本来のオメガモンの力……?」

 

「えぇ。貴女も知っているバグラモンとタクティモン。あの2人が全力を出しても倒せなかった程の強さがあった。秘奥義をクラッキングされてようやく倒す事が出来た程……多分本来の強さなら貴女と互角以上に渡り合えるんじゃないかしら?」

 

「そこまで強かったのですか……」

 

 本来であれば、パラティヌモン級の強さを誇るオメガモンだったが、秘奥義が失われたまま転生した事、全力を出さなくても勝てる相手との戦いが中心な事等から、真の実力を発揮する機会に恵まれなかった。

 しかし、アルファモンやパラティヌモンにタクティモン、自分と同等以上の敵―カオスモンとの戦いを通じ、次第に実力を発揮する機会が増えて来た。そして今回の大&シャイングレイモン戦でかつての感覚を取り戻しつつある。

 パラティヌモンはバグラモンとタクティモンと会った事があり、タクティモンと剣を交えてお互いを認め合う仲となっている。その一目置いているタクティモンですら勝てなかった全盛期に、少しずつ立ち戻ってきている。

 

(優衣の言った通りだ! これが一真の、オメガモンの真の力なのか!?)

 

「『聖突』!!!」

 

「ガァッ!!」

 

「シャイングレイモン!!」

 

 今度は伍の型に移行し、オメガモンはジオグレイソードを弾く程の力強い連続斬撃を繰り出しながら、シャイングレイモンを押し込んでいく。

 オメガモンの圧倒的なまでの強さにシャイングレイモンが驚いている一瞬の隙を突き、オメガモンはシャイングレイモンの胴体目掛けて『聖突』を繰り出す。

 『聖突』を咄嗟にジオグレイソードで受け止めたシャイングレイモンだったが、その威力と衝撃に耐え切れず、吹き飛ばされて地面に倒れ込んだ。大が助けに入ろうと駆け出すが、オメガモンはガルルキャノンの砲口を向けて大を牽制する。

 

「『シャイニングブラスト』!!!」

 

「フッ!!」

 

 兄貴たる大の危機に何もしないシャイングレイモンではない。慌てて立ち上がり、背中の赤い十二枚の翼を光り輝かせながら突進を開始した。

 シャイングレイモンが立ち上がった事に気付いたオメガモンがグレイソードを構え直していると、シャイングレイモンの光り輝く翼が襲い掛かって来る。

 オメガモンがそれをグレイソードで受け止めると、今度はシャイングレイモンがジオグレイソードを突き下ろす。その突き下ろしを右手たるメタルガルルモンの頭部を象った籠手で受け止めた。

 

「兄貴! 今だ!」

 

「応、任せろ!」

 

 しかし、これでオメガモンの両腕を封じた事になる。シャイングレイモンの声に答えた大はオメガモンに向けて駆け出し、跳躍しながら飛び掛かった。

 大の右拳がオメガモンの胸部目掛けて叩き込まれ、直撃する形となった。目の動きだけでしか表情が分からない顔が歪む。

 

「オラアァァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「グァァァッ!!!!」

 

 子分・舎弟・相棒。様々な言い方はあるが、シャイングレイモンが作ってくれたチャンスを無意味にする大ではない。このチャンスを活かし、更に左拳を叩き込んでオメガモンを吹き飛ばした。

 その様子に優衣は苦笑いを浮かべ、パラティヌモンは呆然となる。ただの人間がデジモンを、しかもオメガモンを殴り飛ばした。その事実がパラティヌモンには信じられず、オメガモンの話が事実だと改めて告げる結果となった。

 

(これが大門大の実力……神をも殴り倒したのは本当だったみたいですね)

 

「シャイングレイモン!! 行くぞ!!」

 

「あぁっ! 頼むぜ、兄貴!」

 

 大が左手に構えるデジヴァイスバーストの液晶画面。そこには“ULTIMATE EVOLUTION”という文字が映し出されていたが、今は“BURST EVOLUTION”という文字へと変化した。

 それと同時にデジヴァイスバーストの左側のセンサーに、大はゆっくりと右手を滑らせながら大声で叫ぶ。

 

「チャージ!!! デジソウル……バーースト!!!!」

 

 その瞬間、大のデジヴァイスバーストから凄まじい量のデジソウルが溢れ出し、シャイングレイモンに降り注いでいく。

 デジソウルの中でシャイングレイモンの姿が変化していく。全身が赤色と白色に染まっていくと共に、背中の機械的な翼は凄まじい炎が吹き上がる火炎の翼へと変わる。

 同時にシャイングレイモンの頭上に太陽を思わせる火炎球が出現すると、シャイングレイモンは右手で炎で出来た剣を、左手で円形の炎の盾を引き抜いた。

 

「シャイングレイモン!!! バーストモーード!!!」

 

(来たか……バーストモード!)

 

「あれは……一体!?」

 

「バーストモード……究極を超えた力よ」

 

 一目見ただけで分かる強大な力。それを全身から放つシャイングレイモン・バーストモード。それを目にしたオメガモンは獰猛な笑みを浮かべ、初見のパラティヌモンは驚く。

 共通しているのは一時的に自身の限界を突破しており、何かしらのエネルギーをオーラとして纏っていると言う事。厳しい経験から得られるその姿を維持出来る時間は僅かだが、爆発的な力を操ることができる。

 ありとあらゆるデジモンに当てはまる共通の進化であり、デジモンの新たな可能性とも言える。これが大とアグモンが手にした究極を超える力。バーストモード。

 

「“万象一切灰塵と為せ”!」

 

 オメガモンの闘志に応じるように、グレイソードが軋みを上げながら灼熱の火炎が噴き出していると、抜刀する動きと共に刀身から太陽の火炎から発せられた。

 同時に“デジクオーツ”が“ムスペルヘイム”に書き換えられ、周囲一帯が太陽の火炎に覆い包まれていく。

 

「バーストモードは人間とデジモンの絆によってもたらされた究極の力。ならば、私は人間と一体化した事でもたらされた超越の力で迎え撃つ!」

 

「行くぜオメガモン!」

 

「こっからが本当の漢の喧嘩だ!」

 大を肩に乗せたシャイングレイモン・バーストモードと、オメガモンは同時に突撃を開始し、お互いの武器を同時に振るう。究極を超えたデジモンと超究極体デジモン。その決闘、もとい一騎打ちが今ここに始まった。

 

 

 

「ハアァァァァァァァッ!!!」

 

「『怒涛たる勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

 シャイングレイモン・バーストモードは瞬時にオメガモンとの間合いを詰め、火炎で出来た大剣を振り下ろす。

 唐竹斬りをグレイソードで受け止めながら刀身から灼熱の波濤を生み出し、グレイソードを振るってシャイングレイモン・バーストモードを弾き飛ばす。

 尽かさずガルルキャノンの照準を合わせ、右腕に宿っている絶対零度の冷気を圧縮させ、砲弾形に凝縮させた冷気弾を撃ち込む。

 しかし、太陽級の高エネルギー火炎オーラを纏ったシャイングレイモン・バーストモードには通用しなかったようだ。左手の火炎盾で防がれただけでなく、一瞬で溶かされた。

 

(どうやら解放状態じゃないと駄目みたいだな……だがバーストモードは短期決戦用。決して長続きしない。一気に決着を付ける!)

 

「オラアァァァァァァァーーーーーーー!!!」

 

 オメガモンが考え事をしていると、シャイングレイモン・バーストモードの肩から大が飛び掛かり、オメガモンに殴りかかりに来た。

 グレイソードを振るって目の前に灼熱の炎壁を展開し、大が接近できないようにしながら『聖突』の構えを取り、オメガモンは飛び上がる。

 

「『聖突・弐式』!!!」

 

 上空から放たれる刺突、もとい突き下ろし。“正真正銘の牙突”を灼熱の火炎剣を振るって弾き、返す刀で突き上げた。

 上半身を捻って躱すオメガモンに、大の追撃が入る。先程は灼熱の炎壁で接近出来なかったが、今度はオメガモンの間合いまで接近し、飛び上がって殴りかかる。

 シャイングレイモン・バーストモードは灼熱の火炎剣を横薙ぎに振るい、大の右拳をブレイブシールドΩで防御するオメガモンに斬りかかる。

 完全に注意を大の方に向けられたオメガモンは胸部を灼熱の火炎剣で焼き払われ、吹き飛ばされていくが、吹き飛ばされている途中で体勢を立て直し、危なげなく着地する。

 

「『トリッドヴァイス』!!!」

 

 シャイングレイモン・バーストモードが火炎弾を連射すれば、オメガモンはグレイソードを一閃して灼熱の波濤で消し去る。

 その間に距離を詰めたシャイングレイモン・バーストモードが灼熱の火炎剣を突き出すのに対し、オメガモンはグレイソードを振り上げて刺突を弾き、返す刀で聖剣を振り下ろすが、シャイングレイモン・バーストモードは左手の灼熱の火炎盾で防ごうとする。

 しかし、それを予測していないオメガモンではなかった。左手に力を込めて太陽の火炎を伸ばし、灼熱の刃として防御の上から直撃させた。

 

「グアアァァッ!!!!」

 

「オオォォォォォォォォーーーーーー!!!!」

 

 太陽の火炎で焼き払われた相棒の危機を見逃す喧嘩番長ではない。大はもう1度オメガモンに接近してから跳躍し、右拳を叩き込もうとするが、それに気付いたオメガモンはその場所から離れる。

 大の拳による一撃は当たれば強烈だ。しかし、当たらなければどうという事はない。それに加え、大は単独での飛行は出来ない。攻撃してからまた攻撃するまでのタイムラグがどうしても発生してしまう。それを突かれた形となった。

 後退して構えを取り直すシャイングレイモン・バーストモード。オメガモンはグレイソードを下段に構えて一瞬で間合いを詰め、グレイソードで斬り掛かろうとするが、先手を打つようにシャイングレイモン・バーストモードが灼熱の火炎剣を突き出す。

 その一撃をグレイソードの一閃で弾きながら間合いを詰めると、オメガモンはグレイソードを振るい、灼熱の波濤でシャイングレイモン・バーストモードを焼き払う。

 

「グアアァァァァァァァァァァァァーーーー!!!!!」

 

 灼熱の剣閃。それを受けたシャイングレイモン・バーストモードは地面に倒れ込み、アグモンに退化した。

 しかし、まだ戦いは終わっていない。大門大が残っているのだから。刀身から発している太陽の火炎を内部に凝縮させ、大門大との喧嘩に応じようと構える。

 大がオメガモンに向けて駆け出し、その勢いのまま高く跳躍して全力で殴り掛かるのに対し、オメガモンもグレイソードを横薙ぎに一閃する。

 

「ウオォォォォォォッ!!!!!」

 

 大は全力を込めた右拳を繰り出した。その一撃には必ず相手を殴り飛ばすと言う強い意志が込められている。今までどんな相手を殴り飛ばして来た拳を、オメガモンはグレイソードを以て迎え撃つ。

 やがて眩い光が満ち溢れ、周囲一帯を呑み込む程の超爆発を引き起こした。爆炎と黒煙が次第に和らぎ、消え去った後には片膝を付いたオメガモンと、地面に大の字になって倒れ伏せている大がいた。

 この決闘、もとい喧嘩はオメガモンの辛勝に終わった。にも関わらず、大は満足気な笑顔で立ち上がり、アグモンの状態を確認してからオメガモンの所に歩み寄る。

 

「悩みは吹っ切れたか?」

 

「あぁ、おかげ様で。ありがとう……大殿、アグモン」

 

「俺は優衣姉さんの頼みを受けただけだ。何もしてねぇよ」

 

「また拳を交えようぜ!」

 

「フッ。その時までに強くなるよ」

 

 オメガモンは大とアグモンと拳を合わせ、再戦の約束を果たした。新しい一歩を刻むと共に、全盛期の頃の状態にまた一歩近付いた。

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を使わなくても、大門大とアグモンに勝てた。この事実はオメガモンにとって大きな自信となり、それが彼をまた前に進める大きな切っ掛けを与えてくれた。

 




LAST ALLIANCEです。最新話如何でしたか?

今回で文字数が最多記録を更新しました。
いつもは1万字を超えるのがやっとなので、珍しい事で驚いています。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

”電脳現象調査保安局”に来たタイキ&タギル。
彼らの口から語られるのはクオーツモンのデジタマが奪われた真相。
果たして誰が盗んだのか。そしてオメガモン達とのバトルは一体!?

第16話 時を駆ける出会いと戦い


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第16話 時を駆ける出会いと戦い

今年も残り数日で終わると思うと、何だか寂しくなってきました。
来週に投稿出来るにしても2話か3話が限界なので、今年中に第1章の完結は無理です。
来年の1月には完結できるかと思います。
今回は『デジモンクロスウォーズ 時を駆ける少年ハンターたち』からゲストが出演します。お楽しみに!


 “デジクオーツ”で大&アグモンと熱いバトルを繰り広げたオメガモン。彼らはその後、“電脳現象調査保安局”の何処かにある“寿司処 王竜剣”で夕食を取っている。

 カウンター席と座敷で構成されているシンプルな造りとなっている普通の寿司屋。冷蔵庫とショーウィンドウを兼ねたカウンターのガラスケースの中には、様々な寿司種が並べられている。

 カウンター席に座っているオメガモン、パラティヌモン、大、アグモン。彼らの目の前で優衣は寿司を握る。魚を包丁で捌き、シャリを握ってネタを上に乗せる。一見単純作業に見えるが、実際はとても繊細な作業。優衣の表情は真剣その物。

 オメガモン達は息を呑みながら、優衣の寿司を握る工程を見守る。職人服に身を包んだ彼女の手際は良く、熟練されている。つけ台と呼ばれる木製のカウンターに何個か寿司を置いていくと、順番にオメガモン達の目の前に置いていく。

 

「はい。お決まりの並です。大君とアグモンはこちらね」

 

『おお~!』

 

 目の前に置かれたお寿司を見て感嘆に満ちた声を上げるオメガモン達。彼らはセットメニューの“お決まり”の並盛りを注文した。

 何気にお寿司を食べるのは初めてのオメガモンとパラティヌモン。彼らは初めて目にする食べ物に目をキラキラ輝かせている。デジタルワールドでは決して食べる事のない食べ物だからだ。

 そんな2体の聖騎士に構う事なく、大とアグモンはお持ち帰り用の寿司桶に入っているお寿司を食べている。ちなみに4人前。普段から優衣の握るお寿司を食べている彼らだが、格別に美味しいらしく、何度食べても飽きないと絶賛している。

 

「頂きます……」

 

 恐る恐る右手で箸を取り、お寿司を挟んでワサビ醤油に付け、口に運ぶオメガモン。何回か咀嚼して飲み込んだ瞬間、世界が停止した。オメガモンの身体に衝撃が走ったからだ。

 半分残ったお寿司を口の中に入れ、ゆっくり咀嚼してから飲み込む。動作はとても単純。言葉にすればシンプル。しかし、オメガモンの中を“何か”が満たしていく。

 気が付けばオメガモンは泣いていた。知らない間に、頬を一筋の涙が伝っていた。オメガモン本人が戸惑う中、優衣は優しく答える。

 

「あれ、おかしいな……悲しくもないのにどうして泣いているんだろう?」

 

「美味しい物を食べれたから涙が出たと思うわ」

 

 思えば、生前はお寿司のような美味しい食べ物を口にした事がない。そもそも、食事をした事があるのかさえも怪しい所だ。

 人間となった事で、オメガモンは食べる喜びを知った。それは嬉しい事。楽しい事。命に感謝する事。“食”を通じてオメガモンはまた1つ勉強賢くなった。

 

「美味しいです、このお寿司は……」

 

「だろう? 優衣姉さんの握る寿司は天下一品だぜ!」

 

 アーサー王ことパラティヌモン。彼女もまた初めて食べるお寿司の美味しさに涙を浮かべていた。わさびの辛さは関係ない。彼女が生きた時代にはお寿司がなく、仮にあったとしても食べる事が出来なかった。

 大が満面な笑みを浮かべながら言い切る程、優衣が握るお寿司は美味しい。食べた皆を幸せにすると謳われている為、異世界からの注文がひっきりなしに来ている。

 なので優衣は嬉しい悲鳴を上げながらお寿司を握っている。とは言えど、アルファモンたる彼女はこの程度でへこたれない逞しい女性なのだが。

 

「魚を生のまま食べるという発想、お酢を効かせたご飯の上にのせる斬新な食べ方。わさびというスパイス……う~む、お寿司とは奥深いです」

 

「なぁ、パラティヌモン。俺は優衣姉さんから話は聞いていたけど、何か色々大変だったみたいだな……」

 

 大は優衣からパラティヌモンの事を一通り聞いていた。厄災大戦を終わらせる為に、アーサー王という人間からパラティヌモンというデジモンになった事。厄災大戦終了後、イグドラシルによって封印された事。

 彼女の過去に思う事があったのだろう。大はしんみりしたような表情をしている。パラティヌモンは言葉に頷きながら、ゆっくり答え始める。

 

「はい。今になって思い出すと、イグドラシルに振り回されたなと思います」

 

「イグドラシルが悪いとは言わねぇけど、俺の所でもちょっとあったしな……」

 

 パラティヌモンの言葉に頷きながら、大は複雑そうな表情を浮かべた。イグドラシルを殴り飛ばした彼だが、その経緯を辿れば悪いのは元々自分達人間。それでもデジモンとの絆を最後まで信じて神に勝利した。

 そのような経緯がある為、イグドラシルに振り回されたパラティヌモンにある種の感情を抱いた。同じイグドラシルに振り回された仲間として。

 

「確かにイグドラシルは行き場の無かった私を助け、デジモンにしてくれた恩があります。ですが、世界を滅ぼす厄災になるのなら、私は排除するだけです」

 

「そうか。つまりアーサー王としての生き方を貫き続けるつもりか……俺は良いと思うぜ? そういう生き方には憧れる」

 

 パラティヌモンは生前のアーサー王としての生き方を選んだ。善なる者を救い、悪しき者を倒す。それが誰であっても、彼女は考え方を曲げるつもりはない。例え相手が自分を救い、自分を造った神であっても。

 大は一度決めた生き方を貫かんとするパラティヌモンの強さを認めた。彼もまた一度決めた生き方を貫き通しているからだ。その後も“寿司処 王竜剣”では大達による雑談と談笑が続いていた。

 

 

 

 それから数日後。“電脳現象調査保安局”には2人のお客が来ていた。彼らは皆異世界からの来訪者。この世界の出身ではなく、別の人間界からやって来た。

 2人の人間に会っているのはオメガモンとパラティヌモン。普通であれば一真とアルトリウスの人間の姿で会っているが、今回は特別な事情でデジモンの姿となっている。

 と言うのも、今回来ている2人の人間はヒーロー。かつて人間界とデジタルワールドを襲った危機や戦乱を解決した英雄。しかし、彼らはまだ中学生。この時期は勉強やスポーツに打ち込んでいる。

 それでも世界を越えてやって来た。これには理由があった。それは彼らの沈鬱そうな表情を見れば少しずつ変わって来るだろう。

 

「俺、明石タギルって言います」

 

「ガムドラモンだ! よろしくな!」

 

 全体は茶色だが、前髪が赤い独特の髪色をし、額にゴーグルを掛けている少年。彼の名前は明石タギル。デジモンハントに勤しんでいるが、クオーツモンをハントした経験持ちの実力者。

 そんなタギルのパートナーデジモンはガムドラモン。額にX字の傷跡が刻まれ、上半身に赤い服を着て、背中に2枚の小さな翼を生やし、尻尾がハンマーの形をした紫色の小竜型デジモン。デジモン界のスーパースター、もとい王者を目指す、熱い心の持ち主。タギルとの仲は極めて良好。

 

「工藤タイキです。初めまして」

 

「聞きてぇか? 聞かせてやるぜ……デジモンキングの俺の名を! 俺の名はシャウトモン! てめえらのハートに刻んどきな!」

 

 茶色の髪をし、額にゴーグルを掛けている少年は工藤タイキ。デジタルワールドと人間界を救った英雄。クロスローダーを使い、デジモン達をデジクロスさせる事が出来る司令官(=ジェネラル)。デジモン達の間では伝説の存在として語られている。

 冷静かつ礼儀正しく挨拶をしたタイキとは対照的に、相手を威圧するように挨拶をしたのはタイキのパートナーデジモン。その名はシャウトモン。赤い小さな竜の姿をしているが、全身が傷だらけで、胸に装甲を纏い、腰にベルトを巻き、黄色いスカーフを首に巻いた“キング”の風格を漂わせている。

 

「私はオメガモンだ。よろしく」

 

「パラティヌモンと言います」

 

 オメガモンとパラティヌモンはビジネス的に簡単な自己紹介をする。そもそも、タイキ達と会って話を聞く事は彼らの仕事。

 実はタイキ達をこの世界に連れて来たのは優衣のおかげ。彼女は“デジクオーツ”に関する事や、何故“デジクオーツ”がこの次元でも出来たのかを知るヒントを得る為、タイキとタギルを人間界に連れて来た。彼女はと言うと、オメガモンとパラティヌモンの後ろに控えている。

 2体の聖騎士型デジモンが無意識に流している威圧感とオーラ。それを削減するように見守る優衣のおかげで、タイキ達は平静さを維持出来ている。

 

「遠い所をわざわざ来てくれてありがとう。してその用件は?」

 

「優衣さんから聞きました。この世界でも“デジクオーツ”があると。その原因は俺達にあるんです。だから俺達も協力したいと思って来ました」

 

 ―――やはりそうか。タイキ達がいるという事実と彼らの目的を重ね合わせたオメガモンは、内心予測通りだったと言わんばかりに目を細める。

 オメガモンは知っている。“デジクオーツ”を発生させている原因となっているクオーツモン。彼はデジタマとなってシャウトモンがデジタルワールドで保管していた。

 しかし、何者かによって奪取され、その時の戦いでシャウトモン達は敗北した。その事実は知っていたが、詳細までは知らない。今回はその詳しい部分を知るチャンス。そう確信し、質問をしてみる。

 

「話はこちらも知っている。クオーツモンのデジタマを奪われ、戦いにも負けた。だがこちらは詳しい事を知らない。詳しい事を話してもらえないか?」

 

「それは俺の口から話すぜ。そもそも俺がしっかりしていれば、こんな事にならなかった筈だ」

 

 シャウトモンはゆっくりと話し出す。クオーツモンのデジタマが奪われた経緯を。その内容にオメガモン達は真剣な表情をしながら聞いていく。

 切っ掛けはとある1体のデジモンがデジタルワールドに姿を現した事。彼はクオーツモンのデジタマが保管されている場所に侵入し、クオーツモンのデジタマを奪取する事に成功した。

 そこに駆け付けたのは『クロスハート』と『ブルーフレア』の連合軍。彼らがデジクロスをしようとした瞬間、彼らは異次元に幽閉されてしまった。その後に異次元が解除され、そのデジモンの姿がなかった。

 

「シャウトモン。貴方は何も悪くありません。あの時は相手に何もかも先手を取られました。そういう時もあります。割り切って前に進むしかありません。それに諦めてはいけません。貴方達はどんな時も諦めず、前に進み続けて来た。このまま立ち止まっていて良いのですか?」

 

「ヘッ、そうだなパラティヌモン。俺はデジタルワールドの“キング”だ。王様がしょげていたら、皆もしょげてしまう。前に進まねぇとだな!」

 

 シャウトモンがデジタルワールドの“キング”なら、パラティヌモンは聖騎士を統べる“聖騎士王”。同じ王様として思う事があったのか、彼女なりにシャウトモンを励ますと、シャウトモンは笑顔を初めて見せた。

 確かに同じ王様だが、シャウトモンよりパラティヌモンの方が風格がある。何しろ元々はかの有名なアーサー王だったのだから。

 

「タイキ殿、タギル殿。君達が戦ったデジモンはどういうデジモンだった?」

 

「え~と、四本の腕に背中には巨大なキャノン砲があって、その上にオーラみたいな物を纏っていたような……」

 

「確かミレニアモンと名乗ってましたね……」

 

「ミレニアモンだと!?」

 

 タギルの言葉から予感を感じてはいたが、タイキの言葉でその予感が現実の物となり、オメガモンは驚くしかなかった。

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”が起きたデジタルワールドでは、ミレニアモンの事は“古のデジタルワールドを暴虐のもとに支配した千年魔獣”として伝えられているが、同時に狡猾な知恵者だった事も合わせて伝えられている。

 ―――とんでもないデジモンが黒幕だったとは。全ての黒幕の正体が明かされ、ミレニアモンに危機感を抱いたオメガモン。表情を険しくさせていると、シャウトモンがある頼み事をして来た。

 

「オメガモン。俺から頼みがある。俺と手合わせしてくれ。俺達はミレニアモンに負けたけど、お前達なら勝てると信じている。俺は“キング”としてそれを確かめなければならない」

 

「おれっちからも頼むぜ! このまま負けたままじゃあ終われねぇ!」

 

 シャウトモンとガムドラモンの頼み。それはオメガモンとパラティヌモンと手合わせする事。しかし、2体のデジモンはそれぞれ違う意図でお互いに提案して来た。

 デジタルワールドの“キング”たるシャウトモン。彼はオメガモン達ならばミレニアモンを倒せると確信し、彼らを信じた上で試そうとしている。流石は王様と言ったところか。言葉には説得力がある。

 一方のガムドラモンはデジタルワールドのスーパースターを目指すと言う生き方から、今よりももっと強くなろうと努力している。彼らの願いは意図こそ違えど、純粋で否定されるような物ではない。

 

「分かった。ならば“デジクオーツ”で勝負しよう」

 

 シャウトモンとガムドラモンの思い。それを汲み取ったオメガモンは彼らと戦う事を決めると共に、“デジクオーツ”に場所を移す事を提案した。

 パラティヌモンが頷くと共に、シャウトモン達もまた頷いた。満場一致の可決となり、一行は“デジクオーツ”へと向かっていく。

 

 

 

 “デジクオーツ”。タイキ達曰く、“自分達の時と同じ”な異世界。そこに来たオメガモン達は早速模擬戦を始めようとしている。

 最初の対戦カードはタギル&ガムドラモンとパラティヌモン。口論の末に最初にバトルに挑むタギル&ガムドラモンと、オメガモンから譲られたパラティヌモン。戦いを始める前から早速対照的な両者だ。

 目の前の聖騎士を相手に闘志を燃やすタギル&ガムドラモンに対し、パラティヌモンの方は冷静沈着を貫いている。しかし、その内心では人間界とデジタルワールドを救った英雄と戦える事に歓喜し、剣気を滾らせている。

 

「さて始めましょうか」

 

「あぁ、行くぜガムドラモン!」

 

「応!」

 

 目の前にいるのは別世界のスーパーヒーローとその相棒。赤くつぶらな瞳を輝かせ、興奮を隠しきれないパラティヌモン。彼女の一言や言葉も同様に興奮を隠しきれず、今から始まる戦いを心から楽しみにしている。

 対するタギル&ガムドラモンが思い出すのはミレニアモンとの戦い。いや戦いとは呼べない。ミレニアモンが時空を圧縮して生み出した異次元に一時的に幽閉され、勝負をする事なく敗北したのだから。

 戦いに敗れたのならまだ分かる。自分達が力を出し切ったのだから。でもあの時は違う。力を出す前に負けた。相手の作戦とは言えどそれが歯がゆく、タギルは当時その事実を受け入れる事が出来なかった。

 タイキや天野ユウや最上リョウマ。色んな仲間のおかげで再びデジモンハントに挑めるようになった。二度と当時のような悔しくて惨めな思いをしたくない。その思いを胸に抱きつつ、タギルは自分のクロスローダーを懐から取り出す。

 

「ガムドラモン、超進化!!!」

 

「ウオオォォォォォォーーーーー!!!!」

 

 闘志を言葉に変えながらタギルが叫ぶ。それはガムドラモンを戦闘態勢にする為のキーワード。彼らの世界で言う超進化とは、“人間の感情が高ぶったとき、そのソウルパワーによりデジモンが進化する事”を指している。

 タギルの言葉と共に、雄叫びを上げるガムドラモンの身体を眩い光が包み込み、ガムドラモンの身体を書き換えていく。

 ガムドラモンの身体が大きくなり、全身に特殊ラバー装甲のバトルアーマーを着衣し、尻尾の先端に銀色の刃を付けた竜が姿を現した。現れたのはアレスタードラモン。ガムドラモンが超進化した姿。

 

「超進化!!! アレスタードラモン!!!」

 

 アレスタードラモンが両拳を握り締めながら構えを取る一方、パラティヌモンは両腰からパラティヌス・ソードを引き抜く。黄金の刀身の双剣。それがパラティヌモンの唯一の武装だが、それだけで充分。

 パラティヌモンが双剣を構えると同時に、アレスタードラモンが駆け出す。それを迎撃するパラティヌモンも一歩を踏み出した。

 

 

 

「『マッハフリッカー』!!!」

 

 先に攻撃を繰り出したのはアレスタードラモンの方からだった。力強い気合が籠もった雄叫びと共に、両腕をしならせながら怒涛のラッシュを繰り出していく。

 一撃だけで目にも止まらぬ速さで繰り出されている為、無数の残像を残している。更に、一発一発が必殺の領域に達している威力が込められている為、直撃すれば確実にダメージを受ける事が目に見えている。

 しかし、アレスタードラモンの猛攻をパラティヌモンは躱し続ける。攻撃の1つ1つを見切りながら、最小限の動きを以て。しかも涼やかな表情を浮かべている。

 

「アレスタードラモンの攻撃が当たらない!?」

 

「パラティヌモンは私より強いし、何より戦い慣れている。攻撃を当てて、ダメージを与えるのは少し厳しいぞ?」

 

「何て強ぇデジモンなんだ!」

 

 少し離れた所で見守るオメガモン達。アレスタードラモンの猛攻を軽やかな動きで躱していくパラティヌモンの姿にタイキは驚くが、彼女の強さを知っているオメガモンは当たり前のように答える。

 シャウトモンが視線を向ける中、パラティヌモンは『マッハフリッカー』を中断したアレスタードラモンとの間合いを詰める。そこから先程のお返しと言わんばかりに、パラティヌス・ソードから怒涛の連続斬撃を繰り出していく。

 オメガモンと戦った時は、聖騎士らしく優雅で鋭い斬撃を繰り出して来た。しかし、アレスタードラモンには彼の性格に合っている斬撃を繰り出していく。一発一発が相手を吹き飛ばす程の威力が内包されている。

 

「アレスタードラモン、一度体勢を立て直せ!」

 

「分かったぜ、タギル! 『フロッグショット』!!!」

 

 アレスタードラモンはタギルの指示を聞いて頷き、一度体勢を立て直す事にした。パラティヌモンの一瞬を突いて左横に跳んで唐竹斬りを躱し、尻尾と一体化した鋭い刃―テイルアンカーを振るう。

 迫り来るテイルアンカー。パラティヌモンが右手に握るパラティヌス・ソードを振るって弾いている間に、アレスタードラモンは後方に飛び退いて体勢を立て直すと共にパラティヌモンとの距離を空ける。

 

「喰らえ! 『スピンカリバー』!!!」

 

 アレスタードラモンは空高く跳躍すると共にテイルアンカーを巨大化させ、身体を一回転させながらテイルアンカーを振り下ろす。

 上を見て襲い掛かる巨大化したテイルアンカーに気付いたパラティヌモン。彼女が行った行動は右手に握るパラティヌス・ソードを翳す。たったそれだけの行動だが、テイルアンカーを受け止めた。

 オメガモン以外の誰もが驚愕で目を見開く中、パラティヌモンは表情を変える事なくパラティヌス・ソードを振り下ろし、アレスタードラモンを墜落させる。

 

「グァッ!!」

 

「立て。勝負はここからだ」

 

 地面に叩き付けられた衝撃と苦痛に表情を歪めるアレスタードラモン。彼を見下ろしながら、パラティヌモンは左手に握る聖剣の剣先を突き付ける。

 左腕で聖剣を払いのけ、アレスタードラモンは立ち上がる。その目に燃え上がる闘志は全く衰えていない。むしろ更に昂っていく。

 

「行くぜパラティヌモン! 『プリズムギャレット』!!!」

 

「『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 アレスタードラモンは身体を一回転させながら光を纏い、無数の光の竜となりながらパラティヌモンに向けて突進を開始する。

 対するパラティヌモンは左手に握るパラティヌス・ソードを鞘に戻し、両手で聖剣を握ると共に刀身にエネルギーを流し込み、刀身から眩い黄金の光を伸ばす。

 右足を一歩踏み込むと共に、大上段に掲げたパラティヌス・ソードを一気に振り下ろして光の斬撃を放った。

 真正面から激突し、お互いを喰い破ろうとせめぎ合う2つの必殺奥義。無数の光の竜と光の斬撃。お互いに全力を込めた途端、2つの巨大な力が反発し合うように、眩い光が満ち溢れながら超爆発を引き起こした。

 咄嗟にオメガモンが背中に羽織っているマントでタイキとシャウトモンを守る程、その超爆発は凄まじかった。爆炎と黒煙が周囲一帯に拡散され、破壊を撒き散らす衝撃波がオメガモン達に襲い掛かった程だったから。

 眩い光が止み、超爆発の影響が収まると、自然に黒煙と爆炎も消えていく。その中から現れたのはパラティヌス・ソードを振り下ろしたパラティヌモンと、地面に倒れているガムドラモンだった。

 

「良き勝負でした。貴方の名前と力、しかと覚えます」

 

「負けちまったけど、お前との勝負楽しかったぜ!」

 

 パラティヌス・ソードを腰の鞘に戻しながらパラティヌモンが微笑むと、それに釣られてガムドラモンも笑顔で答える。

 戦いを近くで見ていたタギルだけでなく、少し離れた所から見守っていたオメガモン達も思わず笑顔にする程、パラティヌモンとガムドラモンは爽やかで清々しい笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「それじゃあ次行くか」

 

「あぁ、行こう」

 

 パラティヌモンとガムドラモンの激戦の次は、オメガモンとタイキ&シャウトモンの戦い。彼らは前に進み、お互いに向き合う。

 シャウトモンは“デジモンキング”としてオメガモン達を見極める為に、オメガモンは“デジモンキング”と戦う為に。

 タイキが自分のクロスローダーを懐から取り出して叫ぶと、シャウトモンは雄叫びを上げながら超進化を開始する。

 

「シャウトモン、超進化!!!」

 

「ウオオォォォォォォーーーーー!!!!」

 

 シャウトモンの身体が大きくなると共に全身が黄金に輝き、キレのあるシャープで流麗な身体つきとなった。シャウトモンの未来の姿であり、超進化したその名前はオメガシャウトモン。

 その姿を目にしたオメガモンの『電脳核(デジコア)』が鳴動する。別個体だが、“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”で自分のデータの一部を受け継いだシャウトモンと同じ『波動(コード)』を感じたようだ。

 

「超進化!!! オメガシャウトモン!!!」

 

―――なぁオメガモン。あいつは君の力を引き継いだデジモンなんだろう? だったら先輩として見せてやろうぜ、君の力を。余計な物は全部取り外すから、好き放題暴れてくれ。

 

 自分の力や『波動(コード)』を受け継いだデジモン。そのデジモンに会えただけでなく、戦う事が出来る。その喜びを感じているのか、或いは同じ『波動(コード)』に共鳴しているのか。

 どちらにせよ、分かる事がある。オメガモンにとってこの戦いは運命であると。一真もそれを感じ、リミッターを解除して全力で戦う様に促した。

 これで最大出力となったオメガモン。その証に空色の円らな瞳から眩い光が放たれ、そのままの状態でオメガシャウトモンとのバトルを始めた。

 

「俺から行くぜ! 『ヘビィメタルバルカン』!!!」

 

 アレスタードラモンとパラティヌモンの戦い同様に、先手は『クロスハート』の2人のパートナーデジモンが取った。

 オメガシャウトモンは溢れ出る程の友情への情熱を火力に変え、黄金の弾丸をオメガモンに向けて連射していく。

 敵を寄せ付けない鉄壁の弾幕でありながら、直撃したら瞬く間に蜂の巣に変える連続砲撃。オメガモンは左腕から出現させたグレイソードを横薙ぎに一閃し、『ヘビィメタルバルカン』をオメガシャウトモンに向けて跳ね返す。

 

「グオォォォッ!!!!!」

 

 咄嗟に両腕を交差して防御態勢を取るオメガシャウトモン。跳ね返って来た『ヘビィメタルバルカン』に耐えているが、流石に自分の攻撃を跳ね返して来る事は予測していなかった。

 爆炎と黒煙に包まれながら、驚愕と苦痛の表情を浮かべるオメガシャウトモン。その間にオメガモンは右腕からガルルキャノンを展開し、一瞬の溜めを置いてから青色のエネルギー弾を撃ち込む。

 『ヘビィメタルバルカン』に耐え切ったオメガシャウトモンに、オメガモンが撃ち出した青色のエネルギー弾が襲い掛かる。それに気付いたタイキが叫ぶと、オメガシャウトモンは砲撃を睨む。

 

「オメガシャウトモン!」

 

「分かってる!」

 

 オメガシャウトモンは砲撃をかき消そうと右腕を振るうが、右腕とエネルギー弾がぶつかり合ったその瞬間、エネルギー弾に内包されていた膨大な量の破壊エネルギーが、炸裂すると共に爆裂した。

 無数の小型エネルギー弾となり、あらゆる方向から襲い掛かっていく炸裂弾。オメガシャウトモンに直撃する度に凄まじい破壊を撒き散らしていく。

 

「グアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

「オメガシャウトモン!」

 

 苦痛の表情を浮かべるオメガシャウトモンが、爆炎と黒煙の中に姿を消していく中、オメガモンは『聖突』の構えを取り、オメガシャウトモンに向けて突進を開始する。

 爆炎と黒煙を貫くと共に、オメガシャウトモン目掛けてグレイソードを突き出すが、オメガシャウトモンはグレイソードを両手で受け止めた。

 引き剥がそうにもオメガシャウトモンが力を込めている為、そう簡単には引き剥がす事が出来ない。勝ち誇るオメガシャウトモンが全力でオメガモンを投げ飛ばすとすると、先にオメガモンが仕掛けた。

 上半身を限界まで捻り、その状態から零距離で強烈な威力の『聖突』を放った。これがオメガモンの奥の手、『聖突・零式』。胸部に喰らったオメガシャウトモンは吹き飛ばされるしか出来ない。

 

「これがオメガモンの力……」

 

「王様が一方的に……」

 

 オメガモンの圧倒的な力を見ているタギルとガムドラモンが言葉を失う。パラティヌモンは腕組みをしながら戦いを見守る。

 オメガシャウトモンより強く、それどころか勝負になっていない。オメガシャウトモンが繰り出す攻撃は届かない。逆にオメガモンの攻撃はオメガシャウトモンに確実にダメージを与えていく。

 地面に叩き付けられて倒れ伏せたオメガシャウトモンは立ち上がり、両手を胸の前で合わせながら勇気の情熱を火炎弾に形成し、オメガモンに向けて放つ。

 

「『ハードロックダマシー』!!!」

 

 放たれた勇気の火炎弾に目を向けながら、オメガモンは横薙ぎにグレイソードを構え、居合抜きの如く薙ぎ払う。

 『ハードロックダマシー』は瞬く間にかき消されたが、先程の攻防でオメガシャウトモンは自分の攻撃はオメガモンに通用しない事に気付いていた。今の一撃はオメガモンの注意を逸らす為の囮に過ぎなかった。

 オメガモンとの間合いを素早く詰めながら、高く跳躍すると共に闘志の情熱を込めて黄金の刃に形成していく。

 両足から鋭いキックを放ちながら黄金の斬撃を繰り出すも、弓を引き絞る構えの参の型を取ったオメガモンはグレイソードを降り抜き、『ビートスラッシュ』を受け流す。

 

「『ビートスラッシュ』!!!」

 

 更にガルルキャノンの照準を合わせてエネルギー弾を撃ち込まれるが、オメガシャウトモンは『ヘビィメタルバルカン』を放って相殺し、後方に危なげなく着地しながら体勢を立て直す。

 息を上げながら表情を険しくさせるオメガシャウトモンに対し、オメガモンは表情を一つも変えずにグレイソードを構え直す。

 

「やっぱ強ぇな……デジタルワールドの正義の意志を守護する騎士団の一員だけあるぜ」

 

「……そうか。君達の世界の私はそういうポジションなのだな。生憎だが、私はホメオスタシス様に仕え、デジタルワールドの自由と平和を守る『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員だ」

 

「成る程な。世界変われば色々違うって訳か。戦ってみて分かったぜ。俺はお前より弱ぇ。今までずっとタイキや皆に助けられてここまで来た。けどよ、俺は信じている。今は弱くてもいつかは強くなれる。仲間の可能性を、自分の可能性を信じているから。それが真のキングだ!」

 

 オメガモン相手に啖呵を切るオメガシャウトモン。何度も攻撃を喰らったものの、黄金の輝きは相変わらずだ。オメガモンから授かった力、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を全身に纏っているからだ。

 伝説の“進化”を与えられて手に入れたこの姿。その力を与えたのは目の前にいるオメガモン。そのデジモンに無様な姿は見せられない。

 

「行くぜオメガモン! 『オメガ・ザ・フュージョン』!!!」

 

―――もっと渡すから使ってくれ。まだまだ行けるだろう?

 

「あぁ。束ねるは太陽の火炎。全てを消し去る灼熱の奔流。喰らえ、『転輪する勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

 オメガシャウトモンは全身に『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』の力を引き出したオーラを身に纏い、凝縮させながらオメガモンに向けて放つ。

 対するオメガモンはグレイソードを横薙ぎに構え、刀身の内部に極限まで凝縮した太陽の火炎を抜刀すると共に解き放ち、灼熱の奔流として放った。

 激突する2つの必殺奥義。オメガモンの姿をしたオーラと灼熱の奔流。お互いを打ち破ろうとせめぎ合うが、一真のバックアップを受けたオメガモンに軍配が上がった。

 灼熱の奔流はオメガモンの姿をしたオーラを呑み込み、そのままオメガシャウトモンを焼き尽くしていった。

 オメガモンが両手の武器を戻すと共に灼熱の奔流が消え去ると、そこには退化して地面に倒れ伏せているシャウトモンがいた。

 

「シャウトモン、大丈夫か!?」

 

「平気だ。……ちょっと最後のはヘヴィーな攻撃だったけどよ」

 

 心配そうにタイキが駆け寄るが、シャウトモンはタイキを元気づけるように笑顔を見せる。流石はオメガモンのデータの一部を受け継いだだけはあるみたいだ。冗談を言えるのだから。

 シャウトモンはオメガモンとのバトルを通じて何かを学んだようだ。一方的にやられただが、それが逆にシャウトモンを刺激させた。何しろ、相手は自分と関りのあるオメガモンだったからか。

 

「楽しかったぜ、オメガモン。お前達ならクオーツモンを、ミレニアモンを倒せる。俺はそう思った。だって“デジモンキング”の俺を倒したんだからな!」

 

「ありがとう。そう言われたからには負けられないな」

 

 シャウトモンはゆっくりと立ち上がり、オメガモンと握手しながら激励の言葉を贈った。その言葉にオメガモンは苦笑いを浮かべた。

 クオーツモンとミレニアモンは強敵だ。これから戦う強敵を倒せると言われた以上、倒すしかなくなる。しかも言った相手が“デジモンキング”というおまけ付き。これには重圧を感じるしかない。

 

「では俺達はそろそろ帰ります。親に心配かけさせたくないので……」

 

「そうだな。気を付けて帰るんだよ?」

 

 そろそろ頃合いだ。そう悟ったタイキは自分達の世界に帰る事を言い出すと、オメガモンは優しい表情となった。

 今回の出会いと戦いは運命とも言えた。本来であれば有り得ない出会いと、対戦が出来たのだ。結果はどうであれ、お互いに満足する事が出来た。

 

「そっちの世界でも頑張って下さい。また会える気がしますが、その時は今よりも強くなって下さいね?」

 

「あぁ。その時は今回の借りを返してやるぜ!」

 

 再戦の約束をして別れた一行。オメガモンとパラティヌモンは異世界の英雄と戦えた事に歓喜を覚えながら、改めてこれから待ち受ける戦いに負けられないと心を引き締め、今よりも強くなる事を誓う。

 彼らは知らない。この後に待ち受ける最終決戦で、『クロスハート』の面々と共闘する事になる事を。それはまた別の話となる。

 




 久し振りにデジモン小説を書いていて思いました(=『Pixiv』では以前に別の小説を書いていました)が、当時より文章力こそ上がりました。そこは良い所です。
 でも書いていて、もう少し濃密な描写を書けるようになりたいです。特に戦闘描写で思いました。何というか同じような文章が続いてしまうので、そこは課題だと思います。
 なので他の作者様の小説を読んで勉強したり、『小説の書き方』みたいな講座(?)を見てもっとより良い小説を書けるようになりたいです。今は無理でも、いつかは出来るようになります。

 今回はポイントが幾つかありますが、先ずはクオーツモンを復活させた犯人が明らかになりました。秋山遼と因縁のあるミレニアモン。でもオリジナル設定の別個体です。
 クオーツモンのデジタマを奪い、復活させた目的は第1章で話せるかどうかは今の所分かりませんが、ラスボス予定なのでその所はしっかり考えます。

 続いてシャウトモンとガムドラモンのバトルですが、超進化したオメガシャウトモン&アレスタードラモンは完全体の設定にしています。あれで究極体だったらインフレが凄い事になります(汗)
 大体クロスウォーズで初登場したデジモンを世代に当てはめようとすると、色々と難しいんですよ……皆さんはどう思いますか?

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

人間界に来てから企業の社長をしているベルゼブモン。
”デジクオーツ”に来た彼と一真の前に、因縁の相手が現れる。
果たしてそのデジモンは一体誰なのか!?

第17話 因縁を断ち切れ! ベルゼブモンが行く!


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第17話 因縁を断ち切れ! ベルゼブモンが行く!

どうも。やっぱり他の作者様の小説を読むと、モチベーションが上がるというか勉強になると改めて思ったLAST ALLIANCEです。
今回は『デジモンテイマーズ』のベルゼブモンが登場します。
ある意味デジモン版『ドリフターズ』みたいな感じになっていますが、敵も敵で豪華な面子にしたいです。色んな意味で。



「そうか。そっちは今そういう事になっているのか。成る程……こっちものんびりしていられないな。ありがとよ、それじゃあ」

 

 とある企業の建物の社長室。椅子に座りながら電話をしていた青年は受話器を戻し、溜息を吐いてから青空を見上げる。

 青年の名前は高橋誠。その正体は『七大魔王』の一角であり、“暴食”を司るベルゼブモン。リリスモンと同じく、デジタルワールドから人間に逃れて来たデジモン。

 彼も転生組の1体だが、彼の場合は少し事情が異なる。彼は『デジモンテイマーズ』の舞台となった世界の出身。ちなみに『デジモンテイマーズ』組は今の所彼1体だけという寂しいおまけ付きだ。

 

(前世じゃこういう充実した生活は出来なかったな……転生出来た事には感謝してもしきれねぇぜ)

 

 誠もといベルゼブモンは自分の前世を振り返る。今思えば悪くなかったが、心から充実していたとは言えないからだ。

 強大な力を求めてしまった為に過ちを犯した前世。その過ちとは自分に説得を試みたとあるデジモンを殺害してしまった事。その過ちは転生した今も彼を苦しめている程、心に刻まれている。

 しかし、その過ちを知って再び戦いに身を投じる決意を固めた。自分を信じてくれる人の為に。その思いを胸に抱いた事で正当な進化を経て、最後まで戦い抜いた。パートナーも得るという嬉しいおまけ付きもあった。

 デジタルワールドに戻ってからは『七大魔王』の一角に選ばれ、“暴食”を司るようになった。本人は大食いキャラではないのに。それからはベヒーモスに乗りながらデジタルワールドを放浪し、困っているデジモン達を助けたり、悪いデジモンを撃退したりした。

 『七大魔王』らしくない魔王型デジモン。そう言われる事が沢山あったが、悪ぶっているようで、根本はお人よしな性格から、様々なデジモンに慕われてきた。本人は極めて不本意だったのだが。

 しかし、彼にも死が訪れた。寿命が来た。この世界にはもういない1体のデジモンの事を想いながら。レオモンに謝罪したいと心から願いながら。

 

「社長、八神一真さんがお見えになりました」

 

「分かった。直ぐに向かう」

 

 誠が前世の事を振り返っていた時、社長室のドアをノックする音が聞こえて来た。前世の振り返りを終えると、社長室に社員が入って来る。

 社員は誠に一真がやって来た事を伝えた。誠の机にはメモ書きがあり、そこには今日一真が来る事が書いてある。それを見て頷き、社員の後に続く誠。この日も会社の社長として仕事に励んでいる。

 

 

 

「初めましてになるな、八神一真。いやオメガモンと呼ぶべきか」

 

「どっちでも良いです。好きなように呼んで下さい」

 

「まぁそう固くなるなよ。フランクに行こうぜ? 俺達は同じデジモンなんだから」

 

「私は人間です」

 

「そう言うなよ。リリスモンから紹介はあったけど、改めて自己紹介をするぜ。俺は高橋誠。ベルゼブモンだ。よろしく頼む」

 

「八神一真です。よろしくお願いします」

 

 応接室。そこに案内された一真は誠と会っている。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と『七大魔王』。本来であれば敵対しているのだが、こうして話をしている。イレギュラーとしか言いようがない。

 フランクな誠と真面目な一真。水と油。正反対な両者だが、ここはビジネス。お互いに割り切りながら握手を交わす。

 

「驚いたか? 『七大魔王』が人間界にいて真っ当に暮らしていると聞いた時は」

 

「まぁ最初は。でも事情を聞いたら納得出来ました」

 

「だろう? 俺もデジタルワールドの情勢を見ていて嫌になってな……」

 

 誠は転生した後にデジタルワールドで何をしていたかを話した。転生後も生き方を変えなかった。ベヒーモスに乗りながら放浪し、困っているデジモン達を助けたり、悪いデジモンを撃退した。本人の意図とは裏腹に、色んなデジモンから慕われる結果となっても。

 しかし、自由な生き方を愛しているベルゼブモンには分割統治が耐えられなかった。ホメオスタシスは良い。過ごしやすいと思えたから。イグドラシルが問題だった。税金やら何やらで旅しにくいと感じたからだ。

 そんな時にリリスモンから人間界に一緒に行かないかと誘われた。最初はリリスモンの悪巧みを疑ったが、話を聞いてみたらそうでもなく、応じる事にした。

 

「その後に社長になった……と。でもどうして社長に?」

 

「まぁ色々あったんだよ……」

 

 人間界に来たデジモン達全員が直面する最大の壁。それはどうやって生きていくのかという事だった。それはリリスモン達も例外ではなかった。

 “電脳現象調査保安局”には入らず、自分自身の生き方を模索する事を決めたベルゼブモン。彼はとある株式会社に入社して働く事となったが、その実態に言葉を失った。

 社員の多くが生活難や就職難等の様々な事情を抱えながら入社している。もし何かしらのハンデを抱えていると、非正規社員として扱われる事が確定されている。当然の事ながら給与や福利厚生は悪い。

 例えどれだけ優秀でも、非正規社員というだけで正社員からは常に不当な差別やパワハラを受けていた。それに憤りを感じた誠は内部告発を行って正社員達と重役を追い出し、自分達で新しい会社を立ち上げた。

 その会社が今自分が社長を務めているベルゼ株式会社。生活難や就職難等の様々な事情を抱えた人達の受け皿となり、彼らがまともな生活を送れるようにしている。週休二日制で福利厚生もバッチリ。社員達も仲が良いホワイト企業だ。

 

「そうだったんですか……凄い行動派なんですね」

 

「まぁ俺と一緒に働いている奴らの話を聞いていたら、上の奴らを許せなくなってな……人の上に立つのは俺のキャラじゃねぇけど、俺がやらねぇと誰がやるんだって話になる。だから社長をやっている。まだ慣れねぇけどよ……」

 

 実はベルゼ株式会社の立ち上げは当時の新聞でビッグニュースになり、お昼のワイドショーでも一時期かなり取り上げられた程だ。

 それ以来、誠はマスコミを毛嫌いするようになった。質問が同じでしつこい、自分にしつこくまとわりついてくる等、あまり良い思い出が無かったみたいだ。

 ウニのように立たせた短髪の端正な顔立ちの青年は当時を振り返り、溜息を付いた。社長はまだ慣れない。自分が務めるようなポジションでも無ければ、やるような性格ではないと分かっているからだ。

 それでも社長を務めているのは社員達の信頼がある為。社員達を気遣う優しさと大らかさ、時には叱る厳しさを併せ持つ理想の上司。そんな誠と共に仕事をしたいから、毎年数多くの社員が入社して来る。流石は『七大魔王』。

 

「そっちはどうなんだ? “電脳現象調査保安局”の新人局員さん」

 

「最低でも週に1回は“デジクオーツ”で事件が起きているので、その解決に追われています」

 

「オメガモンは忙しいってか? それに書類仕事やら何やらあるから大変だな……」

 

 一真曰く、最低でも週に1度は“デジクオーツ”関連の事件が起こっているとの事。その解決に奔走している為、時折眠くなってコーヒーやエナジードリンクのお世話になっていると言っている。

 それに“電脳現象調査保安局”では日常業務等で書類を書いたり、提出しなければならない。高給取りな仕事程大変で、同時に責任が付いて回る。世の中とはそういう物だ。

 

「それで……今日はこういう話をしに来たんじゃねぇんだろ?」

 

「あぁ、失礼しました。初対面だったのでつい話が長くなりましたね……」

 

「別に良いぜ。こういう機会だから普段はこうして話せねぇからな……」

 

 このままでは話が長くなってしまい、一真が来た用件を忘れそうだ。そう思った誠が話を切り出すと、一真は申し訳なさそうに頭を下げる。

 それでも誠は気にせず、優しく微笑む。普段は話す事が出来ない立場にいる為か、デジモンなのかは分からない。それでも一真との話を楽しんでいるのは確かだった。

 

「今日来たのはリリスモンさんから頼まれたんです。この“デジクオーツ”の報告書を渡しに来ました」

 

「おっ、ありがとう!」

 

 一真がベルゼ株式会社に来て、誠に会った理由。それはリリスモンから託された“デジクオーツ”の報告書を渡す為。彼女以外の『七大魔王』が“デジクオーツ”についてあまり知らない為、有事に備えて勉強してもらおうと作成していた。

 それを最初に渡したのがベルゼブモン。一企業の社長である為、直ぐに目を通し、内容を大まかに理解すると、一真に頼み事をして来た。

 

「一真。俺を“デジクオーツ”に連れてってくれ。リリスモンがこういう事をしてきたって事は、戦いが近いって事だろう? 俺も腹を括らねぇといけねぇな……」

 

「でも社長なんですよね? 大丈夫なんですか?」

 

「そうだな……休日にしてくれ」

 

「そうしましょう」

 

 その頼み事は自分を“デジクオーツ”に連れていく事。誠は“デジクオーツ”の存在を知っているが、入った事はない。一真に案内人を依頼するという事になる。

 流石に社長を務めている為、平日は良くない。休日に“デジクオーツ”に入る事を決めると、用事はここで終わりとなった。

 

 

 

 数日後の休日。“デジクオーツ”に入ったベルゼブモンと一真は、“デジクオーツ”の中を歩きながら辺りを見渡し、風景を見ている。

 

―――何だか嫌な所だな。『デ・リーパー』の中を思い出してしまう。

 

 ベルゼブモンはそう独り言を呟く。荒廃した人間界のような世界。それは前世での人間界にいた時に戦った『デ・リーパー』を思い出させてしまう。今でもトラウマになっているのだが、それを思い出してしまうのが耐えられない。

 その証拠に“デジクオーツ”に入ってからずっと顔をしかめている。それに気付いた一真は話を振る事で、ベルゼブモンの気持ちを紛らわそうとする。

 

「どうやら気に入らないみたいだね」

 

「ああ。前世でも来た事があるんだが、どうにも駄目だ。俺にはこの場所が耐えられねぇ。居づらいじゃなくて景色が嫌いだ」

 

「確かに……ん? デジモンがいる」

 

 仕事の場所ではないから、一真はベルゼブモンに対して普通に接している。それからもう少し歩いていた時、一真がデジモンの姿に気が付いた。

 自分達の方に歩いて来るデジモンが1体。この『波動(コード)』は究極体級。一体どのデジモンが近付いているのか。そう思いながら注意深く前を見ていると、『波動(コード)』の主が現れた。

 

「お前は……!」

 

「レオモン……」

 

 ベルゼブモンが驚き、一真が感心するように目を細めたデジモン。それはベルゼブモンと因縁のある相手。黄金の長髪を棚引かせ、逞しい上半身の筋肉を覗かせ、下半身に黒色のズボンを履き、左手に黒いベルトを巻き、腰の一振りの刀を携えた獣人型デジモン。

 百獣の王、気高き勇者と呼ばれているレオモン。まさかの再会にベルゼブモンは驚きのあまり固まってしまい、身動きを取る事が出来なくなった。

 

「ベルゼブモン、お前の悪しき魂を浄化する! 樹莉の為にも!」

 

『ッ!』

 

 ベルゼブモンと一真にとって嫌な予感が当たった。目の前にいるレオモンは『デジモンテイマーズ』に登場したレオモンと同一個体。

 確かにレオモンらしい言葉を言っているが、彼らの知るレオモンだったら言わない事を言っている。強さと優しさを兼ね備えたデジモンで、ベルゼブモンと対峙した時も、戦いよりも対話の道を取った。

 それを知っているからこそ、一真とベルゼブモンは戸惑っている。目の前にいるレオモンは果たしてあのレオモンなのか。確かに姿は本物だが、心は本物なのか。

 その答えを確かめる暇など与えないと言わんばかりに、レオモンはベルゼブモンに向かって駆け出す。ベルゼブモンと一真に言った事は事実だった。その証拠に、ベルゼブモンに殴り掛かって来たのだから。

 

「クッ!!」

 

 右腕を翳して攻撃を防御するが、その威力と重さに後退りしてしまう。ベルゼブモンの表情が右腕から伝わる苦痛と衝撃によって歪んでいく。

 成熟期である筈なのに、今の一撃は究極体デジモンの攻撃に近いレベルの攻撃だった。何らかの理由でレオモンの力が上がっている。“デジクオーツ”の影響なのか。或いは別の理由があるのか。そこまではベルゼブモンにも、一真にも分からない。

 究極体デジモンの攻撃を片腕で受け止めた。流石のベルゼブモンも無傷だとしても、衝撃までは無効化出来ない。

 

「『破砕蹴り』!!!」

 

「ガハッ!!」

 

 ベルゼブモンが体勢を立て直すよりも前に、レオモンの追撃が入る。腹部に強烈な蹴りを受け、苦痛に満ちた声を上げながらベルゼブモンが吹き飛ばされる。

 それでも危なげなく着地し、両足のホルスターから銃口が2つあるショットガン―ベレンヘーナを抜き、レオモンに照準を合わせながら連射して弾幕を張る。

 これならレオモンは接近しにくいだろう。必殺奥義を使おうとしても、タイムラグがあるから確実に銃弾を受ける事となる。普通のデジモンであれば、無数の銃弾を迎撃する方を優先させる。

 しかし、レオモンはそれを正面から迎え撃つ。腰に帯びている意思を持った妖刀―獅子王丸を抜刀し、弾丸を斬り払いながらベルゼブモンとの間合いを詰めていく。

 

「何だと!?」

 

 驚愕の表情を受け止めたベルゼブモンはベレンヘーナからの連射を中断し、右手に握るショットガンを足のホルスターに素早く戻す。

 レオモンは勇気あるデジモンだと知っていたが、パワーだけでなく、反応速度まで究極体デジモンと同等にまでなっているとは。益々目の前のレオモンが本物かどうか疑わしくなって来た。

 

「『ダークネスクロウ』!!!」

 

 胸の中に抱く疑念を消し去ろうと、ベルゼブモンは右手の鋭い鉤爪を振り上げてから一気に振り下ろす。それは前世でレオモンを殺害した時に使用した必殺奥義。トラウマになっているかもしれないが、今はそれどころではない。

 それをレオモンは迎え撃つ。振り下ろされる鋭い鉤爪を左手に握る獅子王丸で受け止めながら、空いている右拳を突き出す。

 咄嗟に背後に飛び退きながら、ベルゼブモンは左手に握るベレンヘーナから銃弾を撃ち込むが、レオモンは高く跳躍する事で回避する。自然落下の勢いと共に獅子王丸を振り下ろして来た。

 

「グァッ!?」

 

「ベルゼブモン!」

 

 胸部から腹部にかけて縦一文字の斬り傷を刻まれたベルゼブモン。右手で斬り傷を抑えながら、背後に飛び退いて構えを取り直す。

 どういう理由かは分からないが、究極体級の強さになっているレオモン。ベルゼブモンはトラウマ関係で全力を出せない。この2つの要因で、ベルゼブモンは格下の相手に追い詰められている。

 それを誰よりも分かっているからこそ、一真は歯がゆい思いをしている。これが“デジクオーツ”の戦い。相手は格下だが、何らかの理由で強化されている。今回もまた例外ではなかった。

 

「『獣王拳』!!!」

 

「『ハートブレイクショット』!!!」

 

 レオモンが右拳を突き出すと共に、右拳から黄金の獅子の形をしたオーラが放たれる。それをベルゼブモンは左手に握るベレンヘーナから銃弾を撃ち込み、かき消しながらレオモンとの距離を詰める。

 そのまま右手の鉤爪を振り下ろすが、獅子王丸に受け止められながら懐に入られてしまう。更には至近距離から『破砕蹴り』を受け、続けて無数の黄金の獅子のオーラを喰らい、吹き飛ばされる。

 

「『百獣拳』!!!」

 

「ガアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

「ベルゼブモン!」

 

 もしこの状況を見ている者がいるとしたら驚くだろう。究極体デジモンのトップクラスで、『七大魔王』の一角が成熟期デジモンに圧倒されているのだから。

 吹き飛ばされて地面に叩き付けられたベルゼブモン。見ていられなくなり、一真が助太刀しようと駆け寄るが、ベルゼブモンは立ち上がりながらそれを制止する。

 

「一真……これは俺の戦いだ。手を出すんじゃねぇ。俺は力と言う目先の物を追い求め、一度全てを失った……俺を救おうとしたデジモンも、傍にいるべき仲間も、一緒に居るパートナーも……だから今度こそ失いたくない! 今ある大切な物全てを! それを失うくらいだったら……全てを奪おうとする奴らと俺は戦う!」

 

 ベルゼブモンの言葉。それは前世でのトラウマを乗り越えようとする漢の決意。それを裏付けるように、ベルゼブモンの身体に変化が訪れる。

 赤い眼が緑色となり、背中から漆黒の4枚の翼を生やし、右腕に巨大なブラスターを装備したベルゼブモン。力と精神を極限にまで高めた究極魔王。その名前はベルゼブモン・ブラストモード。

 

「ベルゼブモン・ブラストモード!!!」

 

「すげぇ……!」

 

 一真が思わず感嘆の声を漏らす程、ベルゼブモン・ブラストモードはかっこ良く、圧倒される物があった。

 『デジモンテイマーズ』を放映当時に見ていた一真は、今でも大好きなデジモンの1体にベルゼブモンを挙げている。そのベルゼブモンに会えただけでなく、ブラストモードを見る事が出来た。生粋のデジモンファンとして狂喜乱舞してもおかしくない。

 

「行くぜ、レオモン! これが俺が得た本当の力だ! 『デススリンガー』!!!」

 

 ベルゼブモン・ブラストモードの反撃開始。それを告げたのは右腕のブラスター砲から撃ち込まれた砲撃。破壊の波動砲―『デススリンガー』。

 それを左手に握る獅子王丸を振るってかき消すが、レオモンの視界に入っていた筈のベルゼブモン・ブラストモードの姿が何時の間にか消えていた。

 一体何処にいるのか。周囲をキョロキョロと見渡すレオモンの背後に、ベルゼブモン・ブラストモードは現れると共に、左手の鉤爪を振り下ろす。

 

「『ダークネスクロウ』!!!」

 

「クッ!!」

 

 獅子王丸で受け止めるレオモンと鍔迫り合いを行う。先程までならば一方的に推し負けていたが、今は精神状態が安定している為、本来の力を発揮する事が出来る。

 鍔迫り合いを制し、レオモンの胸部に斬り傷を刻ませると、左足で蹴飛ばして距離を空ける。次の必殺奥義で確実に仕留める為に。

 

「やっぱりお前は本物じゃねぇ……俺が本気を出した途端、急にやられ始めた。俺の知っているレオモンはそんな弱いデジモンじゃねぇ! 強いし、憧れる……そんなデジモンなんだ! 『カオスフレア』!!!」

 

 ベルゼブモン・ブラストモードは右腕のブラスター砲で円を描きながら前方に魔法陣を描き、その中心に向けて破壊の波動砲を撃ち出す。

 中心を通過した破壊の波動砲は巨大な波動砲となり、レオモンを呑み込んでいく。データ粒子に変わりながら消滅していくレオモンだったが、その表情は何処か優しそうだった。

 

―――ありがとう、ベルゼブモン。もう大丈夫そうだな。

 

「レオモン!」

 

―――この世界のオメガモンよ。皆を、世界を頼む。

 

「はい!」

 

 どうやらレオモンは心配していたようだ。自分のパートナーだった少女は勿論だが、自分が最後まで説得し続けた相手を。

 戦いを通じて理解した。ベルゼブモンはもう大丈夫だと。前世でのトラウマを乗り越え、本当の力と共に前に進んでいける。それが分かった以上、もう戦う理由はなかった。

 一真にも激励の言葉を贈る所が、レオモンの性格を表している。直立不動で力強く一真が答えると、レオモンは完全に消滅していった。

 

 

 

「まさか呆気なくやられるとはな……」

 

 ベルゼブモン・ブラストモードと一真の耳に聞こえて来たのは、心底から不愉快そうな声だった。その内容と声に苛立ちを覚えながら背後を振り向くと、そこには1体のデジモンが立っていた。

 そのデジモンはオメガモンこと一真の宿敵。対オメガモン用にカオスデュークモンが造ったカオスモン。一真は宿敵の登場に、ベルゼブモン・ブラストモードは大切なデジモンを侮辱された事に表情を険しくさせる。

 

「私の予想だと倒せないまでも、ベルゼブモンにかなりのダメージを与えると思っていたが、予想は大外れ。何とも使えないデジモンだな……」

 

「お前……俺の弱みに付け込むとは良い度胸してんじゃねぇか!」

 

 予想が外れた事に落胆しつつ、レオモンの事を侮辱したカオスモン。それに怒りを見せるベルゼブモン・ブラストモードと、それに同調するように一真はカオスモンを睨む。

 しかし、彼らの様子に構う事なくカオスモンは話を続ける。何という図太い神経の持ち主なのだろう。素体となった人間の影響か、或いはカオスデュークモンによる物なのか。

 

「気付いていたか。そう。このレオモンはかつてお前が殺した個体。そのデータの残滓を利用して再構築させ、私の方でブーストさせた。だが結果は御覧の通りだ」

 

「自分達の都合で命を弄ぶ外道が……僕は絶対に許さない!!」

 

 誰かの心の傷を利用しただけでなく、死者を弄ぶ外道な行い。それを見せ付けられ、知らされた一真の怒りは凄まじかった。

 まるでオメガモンが乗り移っているみたいに両目が空色に輝く。オメガモンと“一体化”が進行していると言わんばかりに言い放つと、一真の全身を眩い黄金の光が包み込み、巨大な光の繭を形成していく。

 暫くして光の繭が自動で消滅していくと、その中からオメガモンが姿を現した。その眼光には全てを威圧し、殺意だけで相手を戦闘不能に追い込むレベルの怒りが込められている。

 

「この前のようには行かないぞ?」

 

「今度こそ抹殺してやろう!」

 

 オメガモンが左腕からグレイソードを出現させて構えるのに合わせて、カオスモンも右腕のバンチョーアームからBAN-TYOブレイドを装備して構える。

 お互いの剣を装備して構えた2体のデジモン。暫しの間、睨み合いを行う。機は熟したと判断した瞬間、同時に大剣を振るって青白い刃の形をしたエネルギー波を飛ばす。

 カオスモンはこれまでの戦闘データによって造られた為、当然の事ながら前回の戦闘データを持ち帰っている。データによればオメガモンと自分のデータは互角。このまま行けば相殺間違いなし。そう思い込んでいたが、数秒後にはそれが自分の思い込みだった事を教えられた。

 

「何だと!?」

 

 2体のデジモンが同時に放った攻撃は中心でぶつかり合い、超爆発を引き起こす。ここまではカオスモンは予測する事が出来た。しかし、予測の範囲内を超えた出来事が起きたのはここからだった。

 超爆発で発生した破壊を撒き散らす衝撃波。それが全てカオスモンの方に襲い掛かって来た。慌ててBAN-TYOブレイドを振るってかき消すが、その表情には驚愕と困惑がはっきりと刻まれている。

 

―――命ある者は常に前に進み続ける。昨日までのデータを書き換える勢いで。

 

 オメガモンとカオスモンの差。確かに彼らは同じ存在。人間に『電脳核(デジコア)』を埋め込んだ『電脳人間(エイリアス)』。しかし、何が彼らを分けているのは。

 それは“『電脳核(デジコア)』を埋め込んだ人間をどう扱っているのか”という事。オメガモンの場合は一真との確かな信頼関係があり、人間とデジモンを“融合”させたような動きを見せている。

 一方、カオスモンは存在自体が不安定という理由もあるが、存在を安定させる為に人間というパーツが必要という考え方となっている。幾らカオスモンが強くても、人間とデジモンが融合してもたらされる新しい力に勝てる筈がない。

 

(そんな馬鹿な事があって良い筈がない! 私はオメガモンを倒す為に造られた……倒さなければならない相手に、オメガモンに負ける筈がない!)

 

 カオスモンは黒煙と爆炎を突き破り、突進して来たオメガモンに向けてBAN-TYOブレイドを振り下ろす。

 それを左肩のブレイブシールドΩで受け止めた事で、オメガモンとカオスモンはお互いの剣をぶつけ合う凄まじい剣戟を開始した。

 2本の剣が激突する度に発生する衝撃波で周囲一帯に凄まじい破壊をもたらすが、剣戟でもオメガモンが圧している。相手を吹き飛ばす程の凄まじい威力の斬撃を以て、カオスモンを確実に押し込んでいく。

 

(以前戦った時よりオメガモンの力が上がっている……!)

 

 カオスモンは剣戟の中で以前の戦闘の時より、オメガモンの力が上がっている事に気付いたが、正確に言うと、オメガモンの力が前世の頃に戻ってきている事となる。

 バグラモンとタクティモンの2体で、しかも秘奥義を封じての辛勝。前世では相当な強さを誇っていたみたいだ。アルフォースブイドラモンが“最強の聖騎士”と言っていただけの実力者だけある。

 斬り合っている途中で、カオスモンは自分の劣勢を受け入れた。しかし、それは剣戟に限っての話。それ以外の攻撃方法を織り交ぜれば、まだ自分にも勝機がある。そう考えた上で体術を織り交ぜた攻撃を繰り出す。

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!」

 

 十合程斬り合った所で、カオスモンがオメガモンに向けて右足を蹴り抜いて来るが、オメガモンは全く動じずに迎撃する。右足蹴りを左手で防ぎ、そのまま左腕を振り抜いてカオスモンの右足を弾く。

 オメガモンの左手はウォーグレイモンの頭部を象った籠手となっている。左肩にはブレイブシールドΩが、口部分にはグレイソードが装備されている。正に攻防一体。

 不意打ちに動じなかった聖騎士を見て、表情を歪めるカオスモンに追い打ちをかけようと、オメガモンはグレイソードを振るう。繰り出された袈裟斬りを背後に飛び退いて躱しながら、カオスモンは左腕のダークドラアームからギガスティックキャノンを展開した。

 照準をオメガモンに合わせて暗黒エネルギー弾を撃ち出すが、オメガモンはグレイソードを一閃して砲撃をかき消し、横に移動を開始しながらガルルキャノンを展開する。

 

「『覇王両断剣』!!!」

 

 ガルルキャノンから撃ち込まれた三発の青いエネルギー弾。その全てをBAN-TYOブレイドの一閃で消し去り、カオスモンはオメガモンとの距離を詰める。

 右腕の大砲から砲撃を撃ち出すのを中断し、オメガモンはグレイソードを構える。間合いに入り込んだカオスモンがBAN-TYOブレイドを振り上げれば、オメガモンはグレイソードを振り下ろして迎撃する。

 グレイソードによって地面に叩き付けられたBAN-TYOブレイド。それを見て表情を歪めたカオスモンだったが、次の瞬間には勝ち誇るような笑みを浮かべる。その笑みに怪訝そうな顔をオメガモンがすると、カオスモンは空高く跳躍した。

 自然落下の勢いと共に、BAN-TYOブレイドが振り下ろされる。オメガモンは跳躍の時点でグレイソードを横薙ぎに構えていたが、その瞬間に左足を一歩踏み込んでグレイソードを薙ぎ払う。

 

「クッ!!」

 

 僅かな時間の間、激突するグレイソードとBAN-TYOブレイド。制したのはグレイソード。聖剣の薙ぎ払いが大剣を弾くと共に、カオスモンを吹き飛ばす。

 空中で体勢を立て直しながらギガスティックキャノンの砲口をオメガモンに向け、カオスモンはギガスティックキャノンから暗黒の波動砲を撃ち出すが、オメガモンは砲撃と正対して平然としている。

 グレイソードを反対方向から一閃し、暗黒の波動砲を四散させるが、その間にカオスモンは体勢を立て直して再びオメガモンとの間合いを詰める。近接戦闘に持ち込むつもりなのだろう。オメガモンはガルルキャノンから青いエネルギー弾を撃ち込んで牽制する。

 

「ハァッ!!」

 

 砲撃を躱しながら、突進の勢いと共にBAN-TYOブレイドを突き出すカオスモン。対するオメガモンは右手を突き出して刺突を受け止めながら、一歩踏み込んでグレイソードをカオスモンの頭上から振り下ろす。

 背後に飛び退いてオメガモンが繰り出した唐竹斬りを避けながら、カオスモンはBAN-TYOブレイドを振り下ろすも、その直前にオメガモンの右足に蹴り飛ばされた。

 蹴り飛ばされたものの、後方に跳躍したカオスモンはBAN-TYOブレイドを振り抜いて斬撃を飛ばすも、振り上げられたグレイソードによって一刀両断されて四散された。

 

「フフフ……前よりも力を増したようだな。 今日はここまでにしておくが、まだまだ私を楽しませてもらおう」

 

「待て!」

 

 そろそろ頃合いだと判断したようだ。カオスモンは負け惜しみにも聞こえる言葉を残し、“デジクオーツ”に溶け込むようにして姿を消した。

 カオスモン相手に終始優勢に立ち、圧倒的な力を見せたオメガモン。今回は相手に逃げられてしまったが、収穫や手応えもあった事も事実。ベルゼブモンと共に“デジクオーツ”から去っていった。

 




他の小説を読んでいると、しっかりした原作に基づいて書いているから書きやすいんだろうなと思う所があります。こっちは話を全て作らないとなので……本当に大変です。
その中で骨太な話を書ける作者様が凄いと思いますし、そうなりたいと思っています。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントや応援メッセージ、高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

来たるべき決戦に備えて模擬戦をするオメガモン達。
果たしてどのような模擬戦をしているのか?
そして現れるかつての盟友。その正体とは?

第18話 盟友との再会 アルフォースブイドラモン


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第18話 盟友との再会 アルフォースブイドラモン

思っていたより早く最新話が完成したので投稿させて頂きます。
タイトルの通りアルフォースブイドラモンが登場しますが、このアルフォースブイドラモンは一体どういう個体なのか。タイトルと元ネタ知っている人は分かるとは思いますが。

最近は色んな作者様の小説を読んで勉強をしていますが、思った事が1つ。
「土俵が違う」と。殆どの作者様は原作の流れに沿いながら話を書いています。
その分書きやすいですし、内容も詰め込めます。
こっちは全て話を作らないとだから大変。内容の濃さが違うんだな~と思いました。
でもオリジナルで面白い話を書いている人がいるので、その辺はやっぱり実力が物を言うと思います。

でも皆さんが面白いと思えるようなお話をこれからも書きますし、文章の方も向上していけるよう努力しますので、どうぞよろしくお願いします!



 “電脳現象調査保安局”の訓練室。究極体デジモンが死力を尽くせるように最新最強の補強がされているこの部屋で、模擬戦が始まろうとしている。

 今回の模擬戦は3対3のチーム戦。個人戦ではなく団体戦。ストリートバスケのような感覚に近いが、訓練室の端にはサッカーゴールが置いてある。そのサッカーゴールの前に、3体ずつ、合計6体のデジモンが立っている。

 

「では始めましょうか」

 

「あぁ、いつでも良いぞ?」

 

 パラティヌモン、テイルモンが究極進化したオファニモン、クダモンが究極進化したスレイプモンの『アーサー王』チーム。オメガモン、アルファモン、ウィザーモンが究極進化したメディーバルデュークモンの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』チーム。

 これは鬼ごっこや缶蹴りといった遊び、3on3やフットサル等のスポーツを参考にした模擬戦。何れ来るであろう“デジクオーツ”での決戦や、イグドラシルとの対戦に備えた集団戦となっている。全員の表情が真剣となっている。

 ルールは幾つかある。制限時間は1時間半。40分になった所で10分間休憩。その間に作戦会議は可能。訓練室という密閉されている場所である為、もちろんの事ながら飛行は禁止。

 勝利条件も幾つかある。制限時間内までサッカーゴールの手前に置いてあるボールを守り抜く事。相手チームを全滅させる事。制限時間以内にサッカーゴールの中にボールを入れる事。相手チームより多くのメンバーが健在である事。

 そして特別ルール。戦闘不能になる目安として、全員の胸に圧力センサーが取り付けられている。これが一定の数値になると、曲が鳴るようになっている為、例え戦闘可能でもリタイア扱いにされる仕組みだ。両チームは戦力に若干の偏りこそあるが、ルールによってそれが緩和されている。

 

「スタート!」

 

 リリスモンの合図で模擬戦が始まった。先制攻撃を繰り出したのは『アーサー王』チームの方から。狙う対象はサッカーゴールを守るように立つオメガモン。3体の中で一番厄介なオメガモンを先に潰してしまおうという作戦。発案者はリーダーであるパラティヌモン。

 アルファモンとメディーバルデュークモンも十分厄介なのだが、未来予測が出来、パワーと攻撃力が高いオメガモンが一番厄介。そう考えたパラティヌモンは最初に一斉攻撃を繰り出す事で、出鼻を挫こうと考えた。

 

(成る程……先に私を潰しに来たか。その考えや良し。だが甘い!)

 

 オメガモンは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』チームのリーダー。自分が真っ先に狙われる事も当然想定済み。パラティヌモンの性格を理解しており、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』でも予測済みだった。

 左腕を横薙ぎにして構えながらグレイソードを出現させ、迎撃態勢を瞬時に取るオメガモン。最初に飛来した灼熱の光矢を聖剣の一閃で四散。その状態からグレイソードの刀身から太陽の火炎を発し、続けて放たれた五個のクリスタルの結晶を焼き尽くす。

 オメガモンのディフェンスはまだ止まらない。右腕を軽く振るってガルルキャノンを展開し、最後に放たれた黄金の聖光を青いエネルギー弾で相殺させる。

 この一連の動作は流れるようにスムーズであると同時に、自然な動きだった。完全に予測済みだったのか、或いは身体が自然と動けたのかまでは分からない。

 

「これが今のオメガモンの力……前世の頃に大分近付いています」

 

「流石に厄介だが、我々の担当ではない」

 

 悠然と立つオメガモンを見たオファニモンは気付いた。聖騎士の力が前世の頃に戻りつつあると。先ずは前世の頃の強さに戻す事が自分達に課せられた使命。それをホメオスタシスから事前通達されていた。

 スレイプモンは自分のいたデジタルワールドのオメガモンの強さを思い出し、同意するように頷く。流石に異常過ぎる強さではなかったが、他のメンバーより頭一つ抜けている強さがあった。

 オメガモンの相手は彼らではない。パラティヌモンが相手をする事になっている。彼らの相手は接近して来たアルファモンとメディーバルデュークモン。

 

「私がメディーバルデュークモンの相手をするので、アルファモンをお願いします」

 

「その方が良いだろう。分かった」

 

「そうはさせないぞ? “冷気の嵐よ、吹き荒れろ”! 『ブリザードトルネード』!!!」

 

 『アーサー王』チームの作戦。先制攻撃で相手チームの出鼻を挫き、それぞれ1対1の戦闘に持ち込んで各個撃破していくスタイル。先制攻撃から立ち直っている間の奇襲が要だったが、オメガモンによって挫かれた為、第二段階に移行。

 1対1の戦闘に持ち込んで各個撃破しようとするが、それをアルファモンが阻止する。水色の魔法陣を描き、呪文を詠唱して冷気と氷で出来た竜巻を放つ。

 完全詠唱。呪文を詠唱しないで放つ“詠唱破棄”に比べて時間がかかるが、その分威力が上昇する。これでもアルファモンの中では初級魔術だ。

 

(こっちの作戦を予測した上での行動ね。2対2の戦闘に持ち込むつもりなら……こっちだって!)

 

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』チームの戦術は『アーサー王』チームとは正反対。先にオファニモンとスレイプモンを戦闘不能に追い込み、総力戦でパラティヌモンを潰すという作戦。

 それに気付いたオファニモンは2個のクリスタルを召喚し、2つの冷気と氷で出来た竜巻に向けて放つ。クリスタルは『ブリザードトルネード』を粉々に粉砕するが、周囲一帯に氷が弾け飛ぶと共に、冷気が充満していく。

 

「やってくれるな……最初からそのつもりだったのか」

 

 スレイプモンも『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』チームの戦術に気付いて表情を険しくさせるが、直ぐに攻撃を放つ。

 左腕に装備している聖弩ムスペルヘイムと、右手に持っている聖盾ニフルヘイムを構えると、スレイプモンは聖盾ニフルヘイムを地面に打ち付ける。

 

「オメガモン直伝! 『ダブルトレント』!!!」

 

「クッ!!」

 

「そう来たか!」

 

 一直線に放たれたのは極低温のブリザード。続いて聖弩ムスペルヘイムが打ち付けられ、地面を這う灼熱の光が放たれる。所々違いはあるものの、オメガモンが得意としている奥義『ダブルトレント』だった。

 氷と炎の二重攻撃。それをアルファモンは魔法陣を展開して防ぐ。メディーバルデュークモンの目の前にもう1つの魔法陣を展開するのも忘れていない。

 『ダブルトレント』を魔法陣で防ぎきったが、これで終わりではない。2つの魔法陣が眩い輝きを放ち、同時に中心から光の波動が放たれる。

 

「『フォトン・グレネイド』!!!」

 

 『フォトン・グレネイド』。魔法陣で相手の攻撃を吸収し、集束・増幅して撃ち返す攻防一体のアルファモンのカウンター奥義。

 まさかのカウンターに驚きながらも、オファニモンとスレイプモンは躱した。今回の模擬戦は相手の攻撃を防御してはいけない。防御すれば、衝撃が伝導して圧力センサーが反応するからだ。だから迎撃・回避の二択しか選ぶ事しか出来ない。

 

「聖剣グレイダルファー、召還!!!」

 

 アルファモンは魔法陣の中心に突き刺さった光の収束を抜き、メディーバルデュークモンは右手に握る魔槍デュナスを構える。

 彼らはオファニモンとスレイプモンとの2対2の戦闘を開始させた。お互いに相手チームを戦闘不能に追い込み、残る1体を潰す事だけを考えながら。

 

 

 

「貴方の相手はこの私です」

 

「かかって来い」

 

 ボールを守るオメガモンの前に姿を現したパラティヌモン。両手にパラティヌス・ソードを握り締め、今にも斬り掛からん勢いだ。対するオメガモンは悠然と構えている。

 オメガモンという強敵を突破してみせる。今からそれを証明して見せる。その思いを証明するように、パラティヌモンは右手に握るパラティヌス・ソードの剣先を突き付け、オメガモンに向けて突進していく。

 先手必勝と言わんばかりに背中の翼の形をした推進機を稼働させ、光の翼を展開しながら得意としている近接戦闘に持ち込む。突進の勢いを乗せながら。右手に握るパラティヌス・ソードを振り下ろす。

 一撃でも必殺奥義級の威力を誇るパラティヌモンの攻撃。それを受ければ圧力センサーが反応し、かなりの数値が出てしまう。しかし、それは真正面から防御した場合。真正面から斬り合えなければ、弾いたり、受け流してしまえば良い。

 戦いとは常に全力でぶつかり合う事ではない。時には少ない力を駆使して効率よく勝利を勝ち取る状況も求められる。

 

「成る程。ですが甘い!」

 

 パラティヌモンが振り下ろしたパラティヌス・ソードを、グレイソードを左斜め上にかけて振り上げて受け流す。聖剣は弾かれ、オメガモンの身体に多少の衝撃が走るが、それを根性で押し切る。

 しかし、それを予測していないパラティヌモンではない。弾かれた勢いを使って右足を支点にしながら踏み止まり、左手に握るパラティヌス・ソードを横薙ぎに一閃する。

 オメガモンは左斜め上から右斜め下にかけてグレイソードを振り下ろし、袈裟斬りを繰り出して聖剣を地面に叩き付けた。その時に生じた衝撃がパラティヌモンの左腕に伝わり、圧力センサーに数字が出てしまう。

 それでもパラティヌモンは攻撃を繰り出す。右手に握るパラティヌス・ソードを逆手に持ち替え、刀身を叩き付けるように聖剣を振り下ろした。

 

「グァッ!?」

 

 咄嗟に左肩のブレイブシールドΩで防御したオメガモンだったが、ボールの直ぐ近くにまで後退してしまう。それ程までに今の斬撃には強烈な威力が込められていた。

 構えを取り直すオメガモンは圧力センサーを見ると、そこには決して少なくない数値が出ている。後数発喰らえば戦闘不能扱いとなってしまう。攻撃を喰らう前に、戦闘不能に追い込まれるよりも前に勝負を決める必要がある。

 

―――流石だなパラティヌモン。近接戦闘では右に出る者はいないな。

 

 改めて盟友の強さに感嘆するオメガモンだが、ここで止まる訳には行かない。前世の頃の力を取り戻している事、タクティモンとの稽古、一真との一体化といった様々な要素により、着実に力を増している。

 それでも実力自体はパラティヌモンの方が格上だ。厄災大戦を終わらせた英雄であり、アーサー王でもある“聖騎士王”。しかも本領を見せていない。それでもオメガモンは闘志を燃やし、グレイソードを構える。

 

「『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 パラティヌモンはパラティヌス・ソードを構えると共に、刀身にエネルギーを注ぎ込んで眩い黄金の光を伸ばしながら、オメガモンを攻撃する。

 あらゆる守りを消し去り、あらゆる敵を薙ぎ払う一閃。アーサー王が振るった聖剣の光を思わせる輝きが放たれる。

 対するオメガモンは左手に力を込め、ウォーグレイモンの頭部を象っている籠手の目の部分を輝かせる。これで左腕に宿るウォーグレイモンの力が連動し、刀身を伸ばす事が出来るようになった。

 刀身から発する太陽の火炎を伸ばし、黄金の光を呑み込みながら焼き尽くす。あらゆる概念を焼き尽くし、万象一切を灰塵にする太陽の火炎。それをパラティヌス・ソードで両断し、パラティヌモンは双剣を十文字に構える。

 

―――流石ですね、オメガモン。かつての貴方は“最強の聖騎士”。益々戦うのが楽しみになって来ました。ですが、私はアーサー王。“聖騎士王”の称号にかけて、負ける訳には行きません!

 

「『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 全身が眩い光に包まれながら、パラティヌモンは一筋の閃光となって突進する。それは眩い星の光であり、黄金の輝きを放っている。

 『ロイヤルストレートスラッシュ』。それはパラティヌモンが誇る必殺奥義。刀身から光を放つパラティヌス・ソードで相手を斬り伏せる。しかし、パラティヌモンは聖剣を振るって光を撃ち出すのと、自分が光となって相手を両断する2種類の新しい型を編み出した。

 封印される前の活躍、厄災大戦ではパラティヌス・ソードだけで戦場を渡り歩いていた彼女ならではのアイディアだ。1つの必殺奥義を極めた“聖騎士王”。

 

「ならば……『運命られた勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

 オメガモンは新たなる必殺奥義で迎え撃つ。刀身から発していた太陽の灼熱を刀身の内部に極限まで凝縮させ、グレイソードの刀身を橙色に輝かせる。

 これが運命られた勝利を掴み取る為の聖剣。刀身に触れた物全てを太陽の灼熱で消し去る最強の聖剣が、目の前から迫りくる黄金の閃光と激突する。

 吹き飛ばされたのはパラティヌモンの方だった。吹き飛ばされ、地面に叩き付けられたと共に圧力センサーから音が鳴り、彼女が戦闘不能に陥った事を全員に知らせた。

 それと同じ頃、スレイプモンとオファニモンも倒された。これにより、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』チームの勝利が確定した。

 

 

 

「オメガモンは前世の頃の力が戻ってきているわね」

 

「いや……皆の方が凄いよ」

 

「私も自作の剣以外の武器を使わないと勝てなくなりましたね……」

 

 模擬戦の終了後、全員集合の反省会が行われる。オメガモンの力が戻っている事が一番の収穫だが、パラティヌモンの弱点が少し見えた。

 単純ゆえに極めれば至高を体現するかのように高い戦闘力を発揮しているが、装備面で言うと、他の聖騎士型デジモンと同水準であり、特殊能力持ちのオメガモンやアルファモンに劣る部分がある。

 しかし、まだ明らかになっていない所もある為、何らかの特殊能力を隠し持っている可能性も無きにしも非ずだ。

 

「でもオメガモン……身体の方は大丈夫か? “デジモン化”の進行が気になるけど」

 

「一真殿の話によると、髪の色の変化はないらしい。だが……目に見えない変化が訪れているらしい。物や景色を見た時に脳内に伝達される情報量が多くなったと」

 

「感覚や動きがオメガモンに近付いているという事……ですね?」

 

「あぁ、徐々にオメガモンに近付いてきている。目に見えない形で」

 

 “デジモン化”。デジモンとなった人間にのみ発生する現象。デジモンの能力を行使した事による肉体面・精神面に訪れる変化。力を使えば使う程“デジモン化”は進行し、最終的には人間として死を迎え、完全なデジモンになってしまう。

 髪や瞳の色が変わる等の目に見える変化はないが、目に見えない形で“デジモン化”の進行が進んでいる。

 

「今度はメンバーを変えようか」

 

「そうだな。そうしよう」

 

 このようなタイプの模擬戦は非常に効果的で実戦的。お互いの実力を知った上で、どのように戦っていくのか。それによって戦略や戦術、連携を養っていくのだから。もちろん自分の力を鍛える為にも。

 特に普段は事務仕事をしているテイルモン、ウィザーモン、クダモンにとってはこのような実戦的な模擬戦は有り難い。何しろ前線に立つ機会がない為、戦いの勘を忘れがちになるからだ。

 

 

 

 それから数日後。南方のとある島でデジモンの強大な『波動(コード)』が探知されたという報告を受け、一真は単身南方のとある島に赴いて調査活動を始める。

 一真が訪れたその島は観光に適してはいるが、旅行するにはかなり高額な島。島に到着すると共に、“デジクオーツ”に入った一真。その風景を見た彼は驚くしかない。

 日本だけしかないと思われていた“デジクオーツ”。それが外国にもあるという事が。どうやら世界規模の問題になっている。

 

(“デジクオーツ”はもう世界中に広がっている……世界各国でデジモンが暴れ出す日が近いうちに来るのか!?)

 

―――来たな、デジモンの力を秘めた人間よ。

 

 一真が一人危機感を募らせていると、突然脳内に若い男性のような声が聞こえて来た。それと共に、一真の目の前に1体のデジモンが姿を現した。

 胸にV字の形をしたアーマーを装備していて、“ブルーデジゾイド”製の聖鎧で全身を覆い包み、背中に巨大な蒼い翼を生やして、両手首に腕時計のようなアイテム―Vブレスレットを装備した聖騎士型デジモン。その名前はアルフォースブイドラモン。オメガモンと同じく、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。

 

「アルフォースブイドラモン……お前は……いや君はまさか!」

 

「久し振りだね、オメガモン……いや今は八神一真と呼ぶべきか」

 

 あまりにも懐かしい『波動(コード)』を感じ、動揺している八神一真。その様子を見て微笑みながら、アルフォースブイドラモンはかつての盟友に話し掛ける。

 かつてホメオスタシスが予言した“赤黒の双頭竜(=ミレニアモン)”の侵攻を防ぐ為に捜索活動をしていたが、突如現れたバグラ軍との戦いで敗北した。デジタルワールドの崩壊に巻き込まれた時に人間界に飛ばされてしまい、帰れなくなってしまった。

 人間界の瓦礫の中でひっそりと暮らしていた時、タイキと出会ったのだが、“蛇鉄封神丸”に込められた瘴気によって修復能力を阻害され、タクティモンとの戦いで受けた両目の傷が癒えていなかった。要は失明状態だった。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に加入して日が浅いのか、それとも性格なのか、師匠や聖騎士といった肩書にあまり慣れていない。弟子達から威厳を出すように一人称を“私”と直されているが、本来の一人称は“ボク”。過去にパートナーとデジタルワールドを周り、一度や二度世界を救った事がある。外見に寄らず、意外と子供っぽさがある。

 

「久し振りだな……盟友(とも)よ」

 

「また会えて嬉しいよ! 君もこの世界に来ていたのは本当だったんだ!」

 

 ホメオスタシスに聞いたのか、それとも何らかの理由でかつての盟友の復活を知ったアルフォースブイドラモンと、かつての盟友との再会を喜ぶ一真。

 世界を越えたが、彼らの友情は変わらない。それでも変わってしまった物もある。オメガモンが八神一真という人間に一体化した事だ。

 

「ボクはアメリカ支部で、君は東京本部。まさかこんな形で会えるとは思ってみなかったよ」

 

「変わらないな、君は。相変わらずボクと言っている時点で分かったよ」

 

「えっ? あっ、しまった~! でも君は変わったね……人間と一体化して、しかも“デジモン化”までさせているから」

 

「そうだな……既に一真殿と私の喋りが混ざっているよ」

 

 既に一真の“デジモン化”は目に見えない形で進んでいる。口調がオメガモンっぽく、聖騎士らしくなりつつあるから。

 それに気付いたアルフォースブイドラモンが寂しげな顔をすると、一真も肩を竦めながら答える。一真なのか、オメガモンなのか分からない存在となっている。

 

「秘奥義は大丈夫? クラッキングされたみたいだけど……」

 

「おかげ様で秘奥義は戻ったし、また使えるようになったよ。所で、アメリカ支部にいると言ったけど、どういう事なんだ?」

 

「実はね、ボクとデュナスモンとロードナイトモンとクレニアムモンとドゥフトモンは、“電脳現象調査保安局”の外国にある支部にいる。“デジクオーツ”の事件はこっちでも調査しているんだ」

 

 アルフォースブイドラモン等の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々は、“電脳現象調査保安局”の外国支部にそれぞれ着任している。担当エリアが幾つかあるからだ。

 一番メンバーが充実している東京本部はアジア全体、アルフォースブイドラモンとドゥフトモンがいるアメリカ支部は北米と南米、ロードナイトモンとデュナスモンがいるイギリス支部はヨーロッパとアフリカ、クレニアムモンがいるオーストラリア支部はオセアニア地方を担当している。

 

「そうなんだ。やっぱり外国は似たような所なのかな?」

 

「それが違うんだ。一番大事なのは日本。外国に来ているのははぐれデジモン。まぁ間違えて“デジクオーツ”に来てしまった、言わば運の悪いデジモン達。だから日本に人員を回しているんだ」

 

「何だと? どうして日本だけが?」

 

「そこまでは分からないよ……ごめんね」

 

 “電脳現象調査保安局”の本部は東京にあるのだが、その理由は“デジクオーツ”関連の事件が多く起きるから。

 では何故東京で“デジクオーツ”関連の事件が多く起きるのか。そこまではアルフォースブイドラモンにも分からない。

 

「そうだ。ここで話をしている暇はないんだ。実はこの島から強大な『波動(コード)』が探知されたから、その調査に来たんだよ!」

 

「あっ、そうなんだ。それ……ボクです」

 

「君かよ!?」

 

 この島で探知されたデジモンの強大な『波動(コード)』。それはアルフォースブイドラモンが発する物だった。一真はズッコケるしかない。

 実はオメガモンに話があるから来て欲しいという連絡が本部に伝達されたが、手違いで他の支部に行ってしまった。ある意味一真の取り越し苦労と言える。

 

「ごめん! 任務自体はもう終わりなんだけど……久し振りに君と戦いたいんだ。どれだけ強くなったのかを見せてもらおうか」

 

「僕とか……良いだろう。このまま帰るのも気が引けるからな」

 

 アルフォースブイドラモンの優しい瞳が聖騎士の物に変わる。途端に全身から凄まじい威圧感と圧倒的なオーラが溢れ出す。それを目の当たりにした一真の目が鋭くなると共に、オメガモンへと究極進化を行う。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員であり、かつての盟友が今ここに相まみえようとしている。お互いに再会出来た事に、また一緒に戦える事に歓喜を感じている。

 

「オメガモン。ボクは本気だ。リミッターを外して本気で来い!」

 

「良いだろう。それが君の望みなら……!」

 

 アルフォースブイドラモンは右腕のVブレスレットから光の剣を照射し、左腕のVブレスレットから左肘を覆い尽くす光の盾を形成した。

 オメガモンも左手のウォーグレイモンの頭部を象った籠手の口部分からグレイソードを出現させ、右手のメタルガルルモンの頭部を象った籠手の口部分からガルルキャノンを展開する。これで両者の戦闘態勢が整った。

 

 

 

「行くぞアルフォースブイドラモン!」

 

 珍しく闘志を剥き出しにしているオメガモンが先制攻撃を繰り出す。先手必勝と言わんばかりにガルルキャノンの照準を合わせ、連射砲撃を撃ち込んでいく。

 アルフォースブイドラモンは左腕を翳し、Vブレスレットから形成している光の盾―テンセグレートシールドで防御した。そこから左腕を突き出し、テンセグレートシールドから光の弾丸を連射する。

 

「何!?」

 

「こういう使い方もあるのさ!」

 

 前世では見られなかった戦い方に戸惑いの声を上げながら、オメガモンは背中に羽織っているマントで光の弾丸を防ぐ。

 その隙を逃すアルフォースブイドラモンではない。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』最速を誇る超スピードで間合いを詰め、右腕のアルフォースセイバーで斬り掛かる。

 

「『アルフォースセイバー』!!!」

 

 全身を覆っていたマントを背中に戻したオメガモン。グレイソードを翳してアルフォースセイバーを防御し、そのままグレイソードを振るって弾くと、返す刀でアルフォースブイドラモンの胸部を斬り付ける。

 横一文字に斬り傷を刻まれたアルフォースブイドラモンは後退し、胸に刻まれた斬り傷を触れながら、不敵な笑みを浮かべている。

 

―――秘奥義を使っていないからどうなのかなと思ったけど、全然心配ないね!

 

 アルフォースブイドラモンは秘奥義の『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を使わず、普通に戦っているオメガモンに違和感を覚えていた。

 前世では常に秘奥義を発動させ、相手に隙を与えない苛烈な戦い方を見せていたが、今は秘奥義を発動していない状態でありながら、前世と遜色ない実力を見せている。これで秘奥義を発動したら瞬殺される未来しか見えない。

 

―――この重圧感と威圧感、懐かしいな。むしろ前より上がっている!

 

 オメガモンから発せられるプレッシャーとオーラ。それを真っ向から受けても不敵な笑みを一切崩す事なく、アルフォースブイドラモンは左腕を突き出し、テンセグレートシールドから光の砲撃を撃ち出す。

 本来であれば、テンセグレートシールドは防御技。腕のブレスレットから聖なるオーバーライトのバリアを作り出す。例え破壊されても、攻撃が届く前にバリアを再構築する事が出来る能力を持っている。

 しかし、転生したアルフォースブイドラモンは、テンセグレートシールドを攻撃技に転用出来るように修行した。シールドのように展開しながら、光の弾丸や砲撃を撃てるように魔改造しただけある。

 

―――アルフォースブイドラモンも強くなっている。“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”を潜り抜けただけあるな。

 

 オメガモンは光の砲撃を躱しながら、瞬間移動を思わせるスピードを以てアルフォースブイドラモンに向けて接近していく。

 その隙にアルフォースブイドラモンは必殺奥義の準備を終えていた。胸部のV字型アーマーにエネルギーを集束し、そこから眩い光線を放つ。

 

「『シャイニングVフォース』!!!」

 

(この距離でこの状況……避けられないか! ならば……!)

 

 迫り来る『シャイニングVフォース』。距離と時間で考えれば回避は難しい。残された選択肢は迎撃・防御。オメガモンは防御しながら前進し、カウンターを叩き込む選択肢を選んで実行に移した。

 背中に羽織っているマントで『シャイニングVフォース』を防ぎつつ、突進を続行してアルフォースブイドラモンの目の前に姿を現した。マントを背中に戻し、グレイソードを大上段から振り下ろす。

 アルフォースブイドラモンにダメージを与えたかと思いきや、唐竹斬りは虚しく空間を通過する。聖剣が捉えたのは残像だった。既に本体はオメガモンの背後に回り込み、左腕の光の盾から光の弾丸を連射してオメガモンを牽制する。

 オメガモンはガルルキャノンを装備している右手から絶対零度の冷気を発し、冷気の盾を形成して光の弾丸を防ぎながら様子を伺う。

 

(そろそろ仕掛ける時だな……!)

 

(行かせてもらおうか!)

 

 仕掛けて来たのはアルフォースブイドラモンからだった。神速を活かしてオメガモンの目の前から消えると、突然オメガモンの目の前に姿を現してアルフォースセイバーを振り下ろして来た。

 オメガモンは右足を前に一歩踏み込み、左肩を翳して受け止めた。左肩に装備しているブレイブシールドΩを以て。その状態でガルルキャノンの砲口を向け、至近距離であるにも関わらず、砲撃を撃ち込む。

 後退しながらの砲撃で、しかも通常弾から拡散弾を撃ち込んだ。アルフォースブイドラモンにエネルギー弾が直撃すると共に砲撃が炸裂し、全身に凄まじい破壊が撒き散らされる。

 

「グアアァァッ!!!!!」

 

 これにはアルフォースブイドラモンも耐えられなかった。踏ん張る事も出来ずに後方へと吹き飛ばされるしか無かった。それでも空中で体勢を立て直し、着地したのは流石としか言えない。

 この時点で時間切れとなり、オメガモンとアルフォースブイドラモンはお互いの健闘を称え合い、自分達の場所へと戻っていった。

 




 今回はバトルメインの回でしたが、ちょっとした工夫を入れた実験回でした。
模擬戦は『時を駆けるハンター達』のストリートバスケの場面を見て、「ちょっと使えるのかな?」と思って取り入れてみました。内容はどうあれ、こういうアプローチの仕方は良かったと思います。

 アルフォースブイドラモンの『テンセグレートシールド』からの攻撃は、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』のビームシールド、もとい『ソリドゥス・フルゴール』の設定を参考にしました。
”ビームを敵機に接触させることで攻撃に用いる事やビーム砲として射撃を行う事も可能”とあったので、「じゃあ取り入れるか」と思いました。

 このように色々なアプローチを取り入れながら、少しでも面白くなれば嬉しいです。
次回は初めての前後編です。文字数自体はそこまでありませんが、内容で区切ろうと思ったので、前後編となりました。
『時を駆けるハンター達』の『海底大冒険! 夢の財宝デジモンを探せ』を少しこの作品風にアレンジしたお話となります。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントやアドバイス、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

パラティヌモンがはぐれデジモンをデジタルワールドに送り返した海上に、海底遺跡が出現した。
その調査をアメリカ合衆国から依頼される形となった一真達。
その行く手を阻むデジモン達は!?

第19話 海底大決戦! 遺跡の謎を調査せよ! 前編


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第19話 海底大決戦! 遺跡の謎を調査せよ! 前編

今日から3日間連続投稿します。
次回は既に出来ていますが、文字数としては一つにまとめれば良かったと思います。
でも内容と展開的に2つに分けた方が良いと思い、前後編に分けました。
文字数は少ないですが、読みやすいかと思います

それではお楽しみ下さい。


 太平洋の何処かの海上。その場所を模した“デジクオーツ”で激闘を繰り広げている3体のデジモンがいる。片方はパラティヌモン。巨大なデジモンの『波動(コード)』を探知し、“電脳現象調査保安局”の本部から駆け付けて来た“聖騎士王”。

 もう2体のデジモンは頭部に巨大なツノを生やした海蛇のような姿をしたデジモンーメガシードラモン。“デジクオーツ”の海に迷い込んだデジモン達。

 

「『メイルシュトローーーム』!!!」

 

 2体のメガシードラモンが咆哮を上げると同時に、穏やかに流れていた海面が突如として荒れ狂い、パラティヌモンに向けて物凄く冷たくて大きな津波が襲い掛かる。

 パラティヌモンは両手に1本ずつ握るパラティヌス・ソードを構えた。左手に握る聖剣を振るって津波を消し去ると、背中の翼から光を放ち、光の翼を形成してから突進を開始する。

 超速度で突進して来る“聖騎士王”に対し、2体のメガシードラモンは巨大なツノの先端に電撃を集中させて一気に放つ。

 

「『サンダージャベリン』!!!」

 

「ハァッ!!」

 

「グガァァァァァァァァァーーーー!!!!」

 

 パラティヌモンは右手に握るパラティヌス・ソードを振るい、放たれた2発の電撃を1体のメガシードラモンに向けて跳ね返す。

 まさか自分が繰り出した必殺奥義が跳ね返って来るとは微塵も思っていなかったのだろう。メガシードラモンは苦痛の声を上げ、データ粒子に変わりながら消滅していった。死んだのではなく、デジタルワールドに戻っていったのでご心配なく。

 もう1体のメガシードラモンは自分の仲間がやられた事に激怒し、即座に巨大なツノの先端に電撃を集中させ、『サンダージャベリン』を放とうとする。

 

「貴様! 我が同胞を! サンダー……」

 

「遅い!」

 

 パラティヌモンはメガシードラモンが『サンダージャベリン』を放つ時間を与えなかった。瞬間移動としか言えない機動力で接近し、左手に握るパラティヌス・ソードを振り下ろした。

 頭から真っ二つに斬り下ろされたメガシードラモン。苦痛の声を上げる事も出来ず、データ粒子となって消滅しながら、デジタルワールドへと戻っていった。

 2体のメガシードラモン、もとい外れデジモンをデジタルワールドに戻したパラティヌモン。彼女はデジモンの『波動(コード)』が探知されない事を確認し、人間界に戻って来た。

 そのまま“電脳現象調査保安局”に戻ろうとすると、何らかの遺跡らしき物が目に入り、思わず動きを止めてしまう。アーサー王だった頃は海を見る事も出来ず、このような遺跡を見る事も無かったのだから。

 そしてその海底遺跡を発見したのはパラティヌモンだけではなかった。何処かの国の人工衛星の1つもまた海底遺跡の存在を捉えていた。

 

 

 

「以上が海底遺跡を発見した経緯となります」

 

「ありがとう、パラティヌモン」

 

 “電脳現象調査保安局”の会議室。アルトリウスはプロジェクターに昨日の戦闘報告を行った。普段ならする必要がないのだが、今回は海底遺跡を発見した為、このような形で報告する事となった。

 映像が終わって頭を下げるアルトリウス。薩摩は労いの言葉をかけて下がらせると、本題に入ると言わんばかりに真剣な表情となる。

 

「と言う訳でパラティヌモンが海底遺跡を発見したのだが、これをアメリカの人工衛星も発見していた。今日皆に集まってもらったのは他でもない。実はアメリカ支部から海底遺跡の調査を我々に依頼して来たのだ」

 

「調査を? 何で我々に?」

 

 薩摩が告げたのは“電脳現象調査保安局”のアメリカ支部からの依頼。海底遺跡の調査を本部に依頼して来た。

 その意図が全く分からない一真が質問して来た。アメリカは自分達で調べないのか。調べる気がないのか。それとも調べる事が出来ない何かがあるのか。訝し気な表情を浮かべている。

 

「理由は幾つかある。場所の問題だ。海底遺跡は太平洋にあるのだが、どちらかと言うと、日本に近い所にある。それなら本部に依頼すれば良い。そう思ったのだろう」

 

「そして一番の理由が……外れデジモンがいるからだ。アメリカの大統領はデジモン相手に米軍を使っても犠牲者を出すだけだと理解している。そこはアメリカ支部がしっかりしている証だ。だから人員が充実している我々に調査の依頼をして来た。それだけの話だ」

 

 薩摩とクダモンが順番に説明していく。1つ目の理由は海底遺跡の場所。アメリカより日本に近い所にある為、本部に任せようというつもりだ。

 2つ目の理由は外れデジモンの存在。デジモンはデジモンを以て制する。その考えから、“電脳現象調査保安局”にアメリカの大統領がわざわざ依頼をして来た。

 

「そういう訳で海底遺跡の調査を頼まれた。遺跡の調査を優衣さん、鏡花主任、ウィザーモン、テイルモンに頼んである。その護衛を一真君とアルトリウスさんにお願いしたい」

 

「分かりました。海底遺跡の周辺にいる外れデジモンは今の所何体いますか?」

 

「今の所は5体確認されている。どれも海中を縦横無尽に動き回れるデジモン。つまり、海で力を発揮する海系デジモンだろうな。しかも3体は完全体で、残る2体が究極体デジモンだ」

 

「マジですか……数多いですし、海系デジモンとか勘弁して欲しいです」

 

 一真が頭を抱えるのも無理はない。デジタルワールドには沢山のデジモンが存在するが、その中でもなるべく戦いたくない相手が海系のデジモン達だからだ。

 飛行出来ないデジモン達は移動手段として海系のデジモン達に協力を頼む。もし彼らと信頼関係を築けないと、移動手段を失ったも同然の証となる。

 人間界の海もそうだが、球体形のデジタルワールドにおいて、海という場所は全体の過半数を占めており、海系に属するデジモンから見れば自分達の力を存分に発揮出来る最高のフィールドであり、それ以外のデジモンから見れば戦うにはリスクがある場所という事となる。

 

「確か完全体の海系デジモンって身体が大きいデジモンばかりでしたよね? 昨日戦ったメガシードラモンのように」

 

「全員が全員そうじゃないけど、大半はそうだよ? ホエーモンがいない事を願いたいよ……」

 

 デジモンの中で唯一成熟期と完全体という2つの世代が存在しているホエーモン。その違いは必殺奥義。成熟期は高圧水流を敵に向かって放つ『ジェットアロー』だが、完全体は大津波を引き起こす『タイダルウェーブ』。恐ろしい必殺奥義だ。

 ホエーモンのように海系デジモンは基本的に海で活動している為、常にパワーが引き上げられている。完全体デジモンや究極体デジモンと戦うよりも面倒だ。

 

「とにかく“デジクオーツ”の外れデジモンはデジタルワールドに連れ戻す。それが一真君とアルトリウスさんの仕事。優衣さん達は遺跡の調査だ。分かったな?」

 

『はい!』

 

 今回はイレギュラーな仕事となった。何しろ外国から頼まれた仕事。これを成功させれば“電脳現象調査保安局”は躍進間違いなし。でもやる事はいつも通りだ。一真達局員は表情を引き締め、会議室を退出していく。

 

 

 

 次の日。太平洋のとある会場。蒼く広がる海の上を一台の船が進んでいる。その船には優衣、鏡花、テイルモン、ウィザーモンが乗り、その上をオメガモンとパラティヌモンが護衛するように飛んでいる。

 

「良い天気ね……」

 

「そうですね!」

 

 鏡花は快晴と言える天気に微笑み、優衣はその声に頷く。テイルモンは海を眺め、ウィザーモンは飲み物を飲んでいる。

 そんな中、オメガモンは数日前に受けたバグラモンの診察の事を思い出していた。その時に“デジモン化”の進行具合を突き付けられた。

 バグラモンの『インビジブルスネークアイズ』で一真の身体の状態を調べ、データ化した上で印刷した診断結果。そこには『電脳核(デジコア)』から電脳神経が全身に向けて伸び、人間の体組織と融合している事が書かれてある。

 つまり、一真が強くなる度に『電脳核(デジコア)』が身体を侵食し、最終的には一真は人間ではなくなり、デジモンに変貌させる事となる。

 

―――このまま戦い続ければオメガモンになるのなら、その運命に抗う。僕はいつも負けないように抗って来た。その生き方はこれからも変わらない!

 

 立ち止まらずに突き進む。オメガモンとして戦い続けている一真は、飛行しながら違和感を覚えていた。

 海底遺跡に近付いているにも関わらず、外れデジモン達の『波動(コード)』を感じる事が出来ない。この近辺にいる事は事前に確認済みだが、何の動きがない。まるで自分達を待ち構えているように。

 同じ事を考えていたパラティヌモンも突然止まった。それを見た優衣達が慌てて船を止めると、オメガモンは目の前を見ながら真剣な表情となった。

 

「こちらに近付いてくるデジモンの『波動(コード)』を5体確認。パラティヌモン、頼めるか?」

 

「任せて下さい。皆さんは海底遺跡の方を優先して下さい。私はデジモン達を相手したら直ぐに行きます」

 

「そっちはお願いするわ!」

 

「ご武運を」

 

 パラティヌモンはその場に浮遊したまま、飛行しているオメガモンと優衣達が乗った船を見送る。彼らは海底遺跡に向かって急いでいく。猛スピードで突き進んだ結果、何の妨害もなく、海底にあった古代の遺跡へと辿り着いた。

 優衣達が海底遺跡を乗り込んで調査を行っている間、オメガモンは突然の奇襲に備えて海底遺跡の周辺を警護している。

 

 

 

―――『ヘルダイブ』!!!

 

 その頃、パラティヌスモンは6体の外れデジモンと激闘を繰り広げている。最初に現れたのは2体のハンギョモン。半漁人を思わせる容姿をしていて、手にトレントという名前のモリを握り、ウェットスーツに身を包んだ水棲獣人型デジモン。

 突き出されたモリ、もといトレントを左手に握るパラティヌス・ソードを翳して受け止め、それを振り抜いて弾き飛ばす。

 

―――『ストライクフィッシング』!!!

 

 2体のハンギョモンは空中で体勢を立て直し、パラティヌモンに向けて全力でトレントを投擲するが、パラティヌモンは右手に握るパラティヌス・ソードを振るって弾き飛ばすと、背中の翼から眩い光を放って突進を開始する。

 1体目のハンギョモンとの間合いを詰めると、右手のパラティヌス・ソードを突き出して胸部を貫くと同時に、左手のパラティヌス・ソードを横薙ぎに払って2体目のハンギョモンの胴体を切り裂いた。

 一体何が起きたのか。どのような攻撃が繰り出されたのか。それらに気付く事が出来ないまま、2体のハンギョモンはデータ粒子に変わりながら、デジタルワールドへと戻っていく。

 次に姿を見せたのはアノマロカリモン。周囲一帯に暴風雨を巻き起こす。その暴風雨を切り裂き、パラティヌモンが目の前に迫り来ると、アノマロカリモンは尻尾の刃を振るって牽制する。

 

――――先程の私の戦い方を見て学習しましたね。

 

「『スティンガーサプライズ』!!!」

 

『テイルブレード』を軽やかな動きで避けながら、パラティヌモンはアノマロカリモンが自分の戦い方を見ていた事に気付いた。

先制攻撃を繰り出して以降は自分を近付けさせないような動きを取っている。剣が届く範囲に踏み込ませてはいけないと察したようだ。

アノマロカリモンは左右の前肢をクロスさせて鋭い刃形の斬撃を飛ばすと、パラティヌモンは左手に握るパラティヌス・ソードを下から振り上げ、一刀両断すると共に消し去ると共に光の翼を展開する。

 そのままアノマロカリモンとの間合いを一瞬で詰め、右手に握るパラティヌス・ソードを大上段から振り下ろし、アノマロカリモンを斬り下ろす。

 

(残るは究極体の2体……!)

 

 データ粒子に変わりながら、デジタルワールドに戻るアノマロカリモン。それを見ても構えを取る事なく、パラティヌモンは周囲を警戒する。

 現代に蘇って暫く経った為、パラティヌモンはかつての戦い方を完全に思い出せている。背中の翼から光を放ち、光の翼を展開した超機動戦。あらゆる物質・概念を斬るパラティヌス・ソード。シンプルでありながら最強の力を示しているが、それはパラティヌモンの技量があって成立している。

 

「来たか!!」

 

 パラティヌスモンは2体の究極体デジモンの『波動(コード)』を探知した瞬間、その場から素早く離れた。

 その場所を凄まじい水飛沫を上げながら閃光が通り過ぎる。天に向かって海から立ち昇る閃光。ここからが本当の戦い。そう感じたパラティヌスモンはパラティヌス・ソードを構える。

 閃光の立ち昇った地点から海全体を揺るがすほどの振動が響き出す同時に、その場所から巨大な水柱が立ち昇る。

 パラティヌモンが水柱に目を向けた瞬間、水柱の中から大きな2つの声が大気を震わせながら聞こえて来た。

 

『グガアァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!』

 

 一際大きな2つの叫び声が水柱の中から響いた瞬間、水柱は吹き飛んでその中から2体の究極体デジモンが姿を現した。

巨大な全身を黄金の金属で覆い、鼻先が砲塔の形をしているメタルシードラモンと、メタルシードラモンよりも巨大な全身を金属で覆い、鼻先が砲塔の形をしているギガシードラモンが姿を現した。

 

「成る程……そういう事か。ならば先手必勝!」

 

 パラティヌモンはメタルシードラモンとギガシードラモンに向けて接近するが、それに気付いたメタルシードラモンとギガシードラモンは海中に潜る事で、自分達の姿を隠した。当然の事ながらパラティヌモンは止まるしかない。

 海中を自由自在に動き回り始めたメタルシードラモンとギガシードラモン。狙いは只一つだけ。パラティヌモンの攪乱。

 

―――これでは攻撃が出来ないな……

 

 パラティヌモンは完全にお手上げ状態となった。海中に潜れば良いのだが、自慢の機動力と剣技を活かす事が出来ない。

 遠距離用の攻撃手段はあるが、海中まで届くかどうかが分からない。そもそも当たるかどうかさえも怪しい。

 

「『スカイウェーブ』!!!」

 

「『ギガシーデストロイヤー』!!!」

 

 メタルシードラモンは背部にある発射口から無数の対空エネルギー弾を放ち、ギガシードラモンは口部の大砲からエネルギー魚雷を放つ。

 2体の究極体デジモンから同時に放たれた必殺奥義。パラティヌモンは光の翼を展開しながら『スカイウェーブ』を避け、『ギガシーデストロイヤー』をパラティヌス・ソードで両断して突進を開始した。

 

「『ヘルスクイーズ』!!!」

 

 パラティヌモンを何があっても接近させてはいけない。それをハンギョモンとアノマノカリモンの戦いを見て、メタルシードラモンとギガシードラモンは気付かされた為、あらゆる手段でパラティヌモンの接近を封じる。

 メタルシードラモンが雄叫びを上げると同時に全身が光り輝き、海から巨大な水柱が幾重にも出現した。無数の巨大な水柱がパラティヌモンに向けて襲い掛かり、躱しながらパラティヌモンは突進を続ける。

 

「『アルティメットストリーム』!!!」

 

 パラティヌモンが突進を続ければ、メタルシードラモンも攻撃を続ける。鼻先の砲身から巨大なエネルギー砲を撃ち出す。

 無数の巨大な水柱の隙間を縫うように迫り来る『アルティメットストリーム』。それをパラティヌス・ソードを振るって四散させ、パラティヌスモンは背中の光の翼からエネルギー弾を連射する。

 

「『アルビオン・ブレイズ』!!!」

 

 メタルシードラモンは慌てて海中に潜り、『アルビオン・ブレイズ』を躱す。光のエネルギー弾が着弾する度に、大きな水飛沫が巻き起こる。

 その隙にパラティヌスモンは突撃を開始する。それを阻止しようと、メタルシードラモンは鼻先の砲身から『アルティメットストリーム』を撃ち出そうとするが、ここでパラティヌモンが勝負に出た。

 光の翼の出力を一時的に上昇させると共に一気に加速。メタルシードラモンの目の前に姿を現し、左手に握るパラティヌス・ソードを鼻先の砲口に突き刺した。

 

「グウォォォォォォォォォーーーーーーー!!!」

 

「これで終わりだ! 『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 『アルティメットストリーム』を撃ち出す直前だった為、メタルシードラモンの鼻先の砲身の内部ではエネルギーが暴発し、大爆発を引き起こした。

 苦痛の声を辺りに響かせるメタルシードラモン。その鼻先の砲口はひしゃげて使い物にならなくなり、『アルティメットストリーム』は封じられてしまった。

 先程の攻撃でパラティヌス・ソードの1本を手放した為、パラティヌモンは右手に握るパラティヌス・ソードを両手に握り締め、刀身にエネルギーを送り込む。

 刀身から黄金の光が伸びるパラティヌス・ソードを振るい、メタルシードラモンを一刀両断するパラティヌモン。彼女の目の前で、メタルシードラモンはデータ粒子に変わりながらデジタルワールドへと戻っていく。

 

「おのれ……! よくもメタルシードラモンを! 『スカイウェーブ』!!!」

 

 目の前でメタルシードラモンがやられた事に怒りながら、ギガシードラモンは背部にある発射口から無数のエネルギー弾を放つ。

 メタルシードラモンを撃退するのにパラティヌス・ソードの1本を失い、手持ち武器の半分を失ったパラティヌモン。光の翼を輝かせながらエネルギー弾の弾幕を掻い潜り、ギガシードラモンに接近する。

 

「『ギガシーデストロイヤー』!!!」

 

「『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 ギガシードラモンは口部の大砲からエネルギー魚雷を撃ち出すが、パラティヌモンはそれを回避しながらギガシードラモンの前に躍り出て、黄金の光を放つパラティヌ・ソードを振り下ろした。

 データ粒子に変わりながら、デジタルワールドに戻っていくギガシードラモンを見てから、パラティヌモンは聖剣を腰の鞘に戻して海底遺跡の方へと向かっていった。

 




今回は主人公の”デジモン化”について書きましたが、1章終了の時点でかなり進行する予定となっています。
『鉄血のオルフェンズ』第1期終了時点で、主人公の三日月さんが片目の視力が衰え、右腕が動かなくなるという状況に陥った……とまでは行きませんが、そういう状態に持っていきます。その時に僕が何を伝えたいかを書きたいと思います。

次回はこの続きから始めます。
皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントやアドバイス、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

では次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!


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第20話 海底大決戦! 遺跡の謎を調査せよ! 後編

今日の投稿で年内の本編の投稿はラストになりますが、明日は設定資料を投稿します。
来年の1月で第1章終了と、第2章開始を目指します。



 パラティヌモンがはぐれデジモン達と戦いを繰り広げているのと同じ頃、海底遺跡から少し離れた所でオメガモンはカオスモンと戦っている。

 必殺の剣技たる『聖突』の構えを取るが、何時もの『聖突』の構えとは少しだけ異なっている。普段ならばグレイソードを突き出すよう構えるのだが、今回はグレイソードを突き下ろすように斜め上の上段に構えている。

 

「お前との戦いもこれで3回目だ。そろそろ決着を付ける!」

 

 カオスモンとの戦闘も今回で3回目となる。いい加減終わらせたい。オメガモンはそう思いながらカオスモンに向かって突撃を開始し、グレイソードを突き下ろす。

 『聖突・弍式』は基本的には壱式と同じだが、斜め上の上段から突き下ろす形で繰り出す為、重力がかかる分威力も上がっている。

 

「『聖突・弍式』!!!」

 

 『聖突・弍式』を胸部に喰らったカオスモンは吹き飛ばされるが、体勢を立て直して、その勢いを使って空高く飛び上がる。

 オメガモンは即座に『聖突』の構えを取り、カオスモンを追って上空高く飛びあがるのに対し、カオスモンは左腕のダークドラアームからギガスティックキャノンを展開し、暗黒エネルギー弾を撃ち込もうとする。

 

「『聖突・参式』!!!」

 

 その直前にオメガモンがグレイソードを下から突き上げて来た。グレイソードは再度カオスモンの胸部に直撃し、カオスモンの攻撃を強制的に中断させた。

 『聖突・参式』。それは対空迎撃用の『聖突』。上空にいる相手に向かって下から突き上げる形で繰り出す。『聖突』跳躍で避けられた際に追撃するためのカウンター。

 右足から繰り出した踵落としでカオスモンを墜落させるが、カオスモンはギガスティックキャノンの照準を合わせ、オメガモンに向けて暗黒エネルギー弾を撃ち込む。

 

「ハァッ!!」

 

 オメガモンはグレイソードを一閃して暗黒エネルギー弾を四散させ、そのまま降下して海面に浮かび上がる。

 グレイソードを構える聖騎士を見たカオスモン。右腕のバンチョーアームから出現させたBAN-TYOブレイドを突き出し、オメガモンに向かって突撃を開始する。

 突き出されたBAN-TYOブレイドをオメガモンが弾いた事で、2体の究極体デジモンによる凄まじい剣戟が始まった。お互いに砲撃を撃つ時に自らの生命エネルギーを使っている為、なるべく近接戦闘で決着を付けようとしている。

 20回程斬り合うと、オメガモンはグレイソードを振り上げ、カオスモンを上空へと打ち上げる。ガルルキャノンの照準をカオスモンに合わせ、砲撃を連射しながら追い打ちをかけていく。

 

「『アルティメットアッパーカット』!!!」

 

「グウウゥゥゥッ!!!!」

 

 ガルルキャノンから撃ち込まれる連射砲撃を、両腕を交差させて耐え切ったカオスモンはBAN-TYOブレイドを振り下ろし、青白い刃の形をしたエネルギー波を飛ばすが、オメガモンはグレイソードの一閃でかき消した。

 その間に地上に降下したカオスモンはオメガモンの目の前に躍り出ると、BAN-TYOブレイドの刀身に極限まで研ぎ澄ました気合を纏わせ、一気に振り下ろした。

 

「『覇王両断剣』!!!」

 

「クッ!!」

 

『覇王両断剣』をグレイソードで受け止めたオメガモン。グレイソードの刀身から太陽の火炎を発しながら、自身のパワーを増強させる。

 右足を一歩踏み込み、左腕を振り抜いてカオスモンを吹き飛ばす。しかし、カオスモンは空中で体勢を立て直し、危なげなく海面に浮かび上がった。

 そこから再度斬り合いが始まる。カオスモンがBAN-TYOブレイドを振り上げれば、オメガモンはグレイソードを振り下ろす。斬り合いの最中、至近距離でガルルキャノンの照準を合わせ、オメガモンはガルルキャノンから青いエネルギー弾を撃ち出す。

 

「グアアァァッ!!!!」

 

 流石に斬り合いの最中で、しかも至近距離から撃ち込まれた砲撃を回避する事は出来なかったカオスモン。

 後方に吹き飛ばされるが、それでも空中で体勢を立て直して海面に浮かび上がり、オメガモンの足元に向けて暗黒エネルギー弾を撃ち込む。

 

「何!?」

 

「『ダークプロミネンス』!!!」

 

 凄まじい水飛沫が巻き起こり、オメガモンの視界が遮られる。その隙にカオスモンはギガスティックキャノンの砲身に暗黒エネルギーを集束させ、照準をオメガモンに合わせて暗黒エネルギーの波動砲を撃ち出す。

 暗黒エネルギーに呑み込まれていくオメガモンを見て、カオスモンは勝ち誇るような笑みを浮かべた。

 

「フン。他愛ない。所詮、どんなに吠えようが足掻こうが究極の混沌には及ばなかったな」

 

「それはどうかな?」

 

 暗黒エネルギーの波動砲に呑み込まれたオメガモン。純白の聖鎧に傷一つ付いておらず、平然と海面に浮かび上がっている。

 『ダークプロミネンス』に呑み込まれたにも関わらず、オメガモンは無傷で立っている。その事実にカオスモンが驚愕を覚えていると、オメガモンはガルルキャノンの砲身に生命エネルギーを集束させ、青色の波動砲として撃ち出した。

 

「グガアァァァァァァァァァーーーーー!!!!」

 

 苦痛に満ちた叫び声を上げながら、青色の波動砲に呑み込まれたカオスモン。青い閃光に呑み込まれた後、空間に溶け込むようにして姿を消していった。

 今回もカオスモンを倒す事は出来なかったが、撃退する事には成功した。次こそは倒せるように頑張ろう。そう思いながら、オメガモンは海底遺跡の方に向かって飛んで行った。

 

 

 

 その頃、海底遺跡に辿り着いた優衣、鏡花、ウィザーモン、テイルモン。優衣はアルファモンに究極進化し、彼らと共に遺跡の内部に侵入した。

 遺跡の内部は元々海底にあっただけに暗く、光が一切存在しない。アルファモンは右手から光を放ち、灯りとして他の面々の先頭に立つ。

 奥に進んでいくと、眩い光に包まれた。その眩さに目を閉じ、目を開けた次の瞬間には“デジクオーツ”に入り込んでいた。

 

「“デジクオーツ”!?」

 

「恐らくこの遺跡自体が“デジクオーツ”に繋がっていたみたいね。パラティヌモンの存在に反応したのか、それとも戦いの余波を受けたのか。何れにせよ、海底から浮上してきたのは確かよ」

 

「戦いが無ければずっと海底に沈んだまま……でも“デジクオーツ”が残されたままとなる。難しい所だね……」

 

 今回の“デジクオーツ”は海中洞窟のような世界となっている。道を進み、周囲を見渡しながら鏡花とウィザーモンは意見を言い合う。

 特にウィザーモンが活き活きとしている。元々、彼はデジタルワールドの在り方や人間界との関わりあいについて研究している学者。学者として、人間界にある遺跡や建物に興味を示している。

 

「でもどんな遺跡なんだろう? アトランティスとかムー大陸とか……」

 

「まぁ素人の俺達には分からない。だって入って早々に“デジクオーツ”になったから……」

 

「そうね……ッ! 誰かいるわ……静かに近付きましょう」

 

 アルファモン達が奥へと進んでいくと、甲高い金属音が鳴り響いた。この先にデジモンがいて、何かをしている。

 皆が足音を立てず、静かに進んでいく。特にアルファモンはカチャ、カチャという金属音を鳴らさないように気を付けている。

 奥に辿り着いた時、目の前には異世界が広がっていた。沈没船のような物が至る所に散乱し、暗闇に包まれた洞窟のような世界。

 

「ここは……船の墓場!?」

 

「思い出した……そう言えばここ最近原因不明の船の沈没事故が起きていたわ」

 

 鏡花が思い出したのはここ最近起きたニュース。その内容は船が次々と沈没し、生還者どころか船の残骸さえも残らない謎の沈没事故。

 彼女達が見ているのは沈没して来た船の墓場のようだ。海底遺跡と関係ないし、それどころではない。そう思いながら周囲を見渡していると、そこに1体のデジモンが姿を現した。

 奇怪な姿をした人型のデジモン。それは“海底の破戒僧”と呼ばれる邪神デジモンであり、その名前をダゴモンと言う。身体の色を風景に擬態させ、ずっと潜んでいた。

 

「フハハハハハッ!!!! 愚かな人間とデジモン達よ! 我が力の糧となるが良い!」

 

「“業火よ、弾けろ”! 『メテオバレット』!!!」

 

 アルファモンは左手に橙色の魔法陣を描き、中心から三発の火炎弾を放つが、ダゴモンは右手に三つ又の鉾を召喚すると共に振るい、『メテオバレット』を消し去る。

 反撃と言わんばかりに左手の触手を伸ばし、アルファモンを攻撃する。それに対し、アルファモンは魔法陣を描き、中心に突き刺さった聖剣グレイダルファーを引き抜き、触手を薙ぎ払う。

 鏡花、ウィザーモン、テイルモンを先に行かせた後、水色の魔法陣を描いてすさまじい水流を放った。

 

「今の内に行くんだ! 『スプラッシュレイザー』!!!」

 

「効かぬわ! 私は“デジクオーツ”にいるデジモンの、しかも人間達のデータを吸収する事で更なる強さを得た。外れデジモンのデータも吸収し、更なる強さを手にする!」

 

 『スプラッシュレイザー』は三つ又の鉾によって防がれ、アルファモンの繰り出した初級魔術は悉くダゴモンには届かない。

 外れデジモンを利用した上での力の強化。何の罪もない人間達を海中に沈め、自らの力にしていた。その所業を聞いて何も感じないアルファモンではない。銀色の魔法陣を描き、ダゴモンの周囲一帯の空気を操作して重圧で押し潰そうとする。

 

「“怒りの重圧よ、全てを押し潰せ!” 『ヘビープレッシャー!!!』」

 

「グッ!! これは……!」

 

 攻撃が予測できなかったダゴモンは全身に襲い掛かる重圧に負けないよう、両手に三つ又の鉾を握り締めながら踏ん張る。その隙を逃すアルファモンではない。

 中級魔術を繰り出した後は、更なる追い打ちをかける。赤色の魔法陣を描き、ダゴモンの足元から灼熱の業火を噴出させる。

 

「“紅蓮の業火よ、燃え上がれ!” 『ボルケーノメテオ』!!!」

 

 足元からの突然の奇襲。それに加え、灼熱の業火に呑み込まれたダゴモンは焼き尽くされるしかない。

 アルファモンの魔法攻撃の真髄はバリエーションの豊富さ。様々な属性の、様々な魔法を繰り出す事が出来るだけでなく、相手のあらゆる場所から任意のタイミングで繰り出す事も出来る。

 

「これで止めだ! “聖なる光よ、悪しき魂を消し去れ!” 『シャイニング・レイ』!!!」

 

 アルファモンの必殺奥義が炸裂した。足元に光の魔法陣が展開され、ダゴモンを聖なる鎖で拘束しながら聖なる波動で攻撃する。

 この一撃が決定打となり、ダゴモンはデータ粒子に変わりながらデジタルワールドに戻っていった。

 

 

 

 数日後。海底遺跡の調査が本格的に始まり、テレビでは連日ニュース番組やワイドショー等で取り上げられている。

 その様子を“電脳現象調査保安局”の食堂で見ている一真とアルトリウス。彼らの話題は別の事だった。

 

「それにしても……他のデジモンを利用し、データを吸収したデジモンが現れたのは大きかったな」

 

「戦いはここからが正念場ですね」

 

 カオスモンとの決着。クオーツモンとの決戦。これから待ち受ける戦いに思いを馳せながら、彼らは今日も仕事に打ち込んでいく。

 




はい。今回は割とあっさりめの話でした。
第22話から怒涛の展開になるので、それに備えて少し軽めの話を書きました。
今思うと1話にまとめても良かった気がします。これは失敗でしたね……

次回は来年に投稿します。戦闘はなしです。
人間界にいる七大魔王について軽く触れようかなと考えています。

皆さん、よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントやアドバイス、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

次回予告

とある事情で人間界に逃れた『七大魔王』達。彼らは一体何をして暮らしているのか。
ある者は社長、ある者は芸能人、ある者はミュージシャンとして生きている。
果たしてその真相は?

第21話 憤怒のラジオ 傲慢なロック 怠惰の睡眠


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第21話 憤怒のラジオ 傲慢なロック 怠惰の睡眠

皆さん新年明けましておめでとうございます。
今年もLAST ALLIANCEとこの小説をよろしくお願いします。

新年最初のお話は『七大魔王』について。
人間界で暮らしている彼らが何をしているのかについて軽く触れました。


 とあるデジタルワールドに魔王がいた。その魔王は伝説の存在と謳われている超究極体の復活を目論み、デジタルワールドと人間界の2つの世界の支配を企んだ。

 超究極体デジモンの育成を人間界から呼んだテイマーに託したのだが、そのテイマーが反逆して超究極体デジモンに吸収されてしまった。

 しかし、魔王は死んでいなかった。超究極体デジモンの内部で生存しており、超究極体デジモンのデータを内部で改竄すると共に、融合して自分が超究極体になった。最終的に人間界から来た勇者とそのパートナーデジモンに倒され、野望は消え去った。

 

「『デーモン大暮閣下のラジオレクイエム』!!!」

 

 ホメオスタシスによって転生したデーモン。彼は人間界では“デーモン大暮閣下”という名前で生きている。自身が率いるロックバンド『DEMON』のボーカル、コメンテーター、ラジオのパーソナリティー等、様々な活躍を見せている。

 近年明らかになった研究結果では、“全ての平行世界に存在する『七大魔王』は本来の力を等分された封印状態である”事が明かされた。

 果たしてどれ程の平行世界が存在するのかは分からいないが、これまでの事例で見ても全力の1割、下手をすれば万分の一も発揮していない事になる。しかも、何処かの世界で『七大魔王』の一角が滅ぼされると、別の世界の七大魔王の力が増す仕組みになっている。

 このようなシステムはイグドラシルやホメオスタシスが構築した物ではなく、事象の摂理による物として自然に出来上がった。もし『七大魔王』を全滅させようと考えているなら、その者は摂理を乱したとして消し去られる運命にある。

 前世で倒された為、前世よりも遥かに強化されたデーモン。彼はラジオ番組の収録をしている。自分がパーソナリティーを務める看板番組。

 

「ドゥハハハハハハハッ!!!!! 貴様ら、今週もやって来たぞ! パーソナリティーのデーモンだ!」

 

 開始早々に独特の笑い声と共に自己紹介をするデーモン。彼のキャラの濃さとインパクトは最強であり、初めて聞いたリスナーをも魅了する。

 本来は知的で落ち着いた性格。ハイテンションなのはキャラ作りの為。その2つのキャラを上手く使いこなせている。

 

「皆さんこんばんは! アシスタントのスカルサタモンです!」

 

 デーモンの人間界での活動を支えるスカルサタモン。彼はラジオのアシスタントであり、マネージャーであり、ロックバンドではベースを担当している。“電脳現象調査保安局”の面々とは繋がりがある為、重宝されている。

 悪魔の見た目とは裏腹に腰が低く、礼儀正しい性格である為、密かなファンもいるスカルサタモン。暴走したデーモンのストッパーでもある。

 

「今日は秋らしく過ごしやすい一日だった。秋と言えば食欲、芸術、スポーツと言われるが、実は数日前にこの近くに美味しいカレーハウスを見付けてな……そこのカレーがまた美味しくて……」

 

「閣下、その話は後にして先に進めましょう」

 

「ムッ、そうだったな。最後まで番組にお付き合いしてくれるとありがたい。今日はこの曲から始めよう。『Raise your flag』!」

 

 デーモンの欠点は2つある。1つ目は一度語り出すと止まらない事。このようにストッパーがいないと、幾らでも話せると言うマシンガントークが自慢なのだが、それが短所にもなっている。

 2つ目は怒らせると怖い事。“憤怒”を司るだけあり、一度怒らせると誰も止める事が出来ない。なので、デーモンを怒らせてはいけないとデジモン達の間で、しかも『七大魔王』の間でも取り決めとなっている。

 

「まさか人間界に一番馴染んでいるのがデーモンだったとは……」

 

「意外、としか言いようがありません」

 

 “電脳現象調査保安局”の本部。その本部長室で『デーモン大暮閣下のラジオレクイエム』を聴きながら、薩摩と鏡花は話をしている。

 鏡花は自分と同じ『七大魔王』の一角で、人間界に溶け込めているデーモンの適応力の高さに驚きを隠せないでいた。

 ちなみにこの『デーモン大暮閣下のラジオレクイエム』はかなり人気のラジオ番組であり、番組には毎回五千通ものお便りが寄せられている。

 

 

 

 とあるデジタルワールドに天使がいた。しかし、その正体は魔王。伝説の十闘士によって封印されていたが、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』によって完全復活した。デジタルワールドと人間界の支配を企むが、最後は現代に蘇った伝説の十闘士によって倒された。

 ホメオスタシスによって転生したルーチェモン・フォールダウンモード。彼はその端正な顔立ちを活かして俳優やモデル業をしているが、それらはあくまで副業。本業はヴィジュアル系ロックバンドのリーダー兼ボーカル。

 その絶世の美男子たる顔立ちから奏でる歌声とデスボイスは女性のみならず、男性からも圧倒的な支持を受けている。しかも芸人魂溢れるパフォーマンスを毎回ライブでたっている為、インディースでありながらオリコンランキング1位の常連となっている。

 アイドルを押しのけてであり、CD単体の売上だけでランキングの1位を取っている為、ロック好きにはたまらない。

 

「伝説を作ろう!」

 

「やってやるぞ!」

 

 ルーチェモン・フォールダウンモード率いるロックバンドは『セブンスヘブンズ』。ボーカルのルーチェモン、リズムギターのデビモン、リードギターのデビドラモン、ベースのイビルモン、ドラムのネオデビモンの5人組。

 毎日スタジオで練習しながら曲作りをしているが、きちんとした仕事についている為、ライブを行うのは基本的に土日だけ。それでいて人気を勝ち取れている。それでも長い下積みと苦労を積み重ねて来た。

 最初から上手く行った訳ではない。最初のライブの観客は僅か3人。思うような曲が出来ず、観客が増えず、上手く行かない事ばかりで迷走する機会もあった。それでもファンが少しずつ増えていくに連れて、次第に良い曲が出来るようになって今に至る。

 

「行くぞ!」

 

『はい!』

 

 ライブ開始前、全員で円陣を組んで気合を入れる『セブンスヘブンズ』の面々。ルーチェモンの掛け声に応え、全員でハイタッチを交わして気持ちを高めていく。

 彼らのロゴは“傲慢”を司るルーチェモン・フォールダウンモードの紋章。元ネタを知っている面々は苦笑いを浮かべている。

 

 

 

「凄い熱気ですね……これが生で聞くロックサウンドなんですね」

 

「そう! すげぇ盛り上がるぜ!」

 

 デーモンとルーチェモン・フォールダウンモードの対バンライブが行われているライブハウス。沢山の観客に混ざって盛り上がっている一真とアルトリウス。

 アルトリウスは至る所でダイブやサークルピットが見られる光景に目を丸くする一方、一真はノリノリで楽しんでいる。

 実の所、一真はロック好きで家にエレキギターとアンプとエフェクターの機材を一式持っており、時々自分が演奏した曲を動画サイトに投稿している。

 

「対バンライブ、お疲れ様でした!」

 

「お疲れ様でした」

 

 対バンライブの終了後。ライブハウスの一室で、一真とアルトリウスはデーモンとルーチェモン・フォールダウンモードと話をしている。

 対バンライブ。それはミュージシャンやバンドやアイドル等の歌手が、ライブを行う際に、単独名義ではなく、複数のグループと共演する事。

 対決や競い合うという意味合いは薄く、単に一緒にライブを行う共演者という意味で使われることが多い。共演ではあるが、基本的に各グループにそれぞれ時間が割り当てられ、一緒に演奏をするセッションなどが行われる事は少ない。

 対バンを行う理由は2つある。1つ目は興行自体を成功させる為。単独では多くの集客を見込めない場合、複数のバンドで集まる事で集客を増やし、興行の成功を目指す。

 興行が失敗した場合でもその損失を分散させることができ、リスクを小さくできる。単独でも興行を行えるミュージシャンでも、単純に会場等の規模を大きくできたり、競演による相乗効果や新たなファンの獲得を狙える。つまりは一石二鳥。

 2つ目は労力の削減。1つのライブやイベントを行うためには様々な準備を必要となる。複数の出演者で集まる事によって、1グループの労力を小さくすることができる。また、限られた時間の中でそれぞれの演奏時間も短くなる為、純粋にそのライブでの演奏に伴う労力も減少させることができる。

 

「ドゥハハハハハッ!!!!! 初めましてだな! 私はデーモン大暮閣下だ!」

 

「私はルーチェモン。一真君、アルトリウスさん。今日は我々のライブに来てくれてありがとう」

 

 人間界での芸名、もとい通称は“デーモン大暮閣下”なデーモン。一真とアルトリウスを前にしても、相変わらずのハイテンションなキャラを演じている。

 一方のルーチェモン・フォールダウンモードは落ち着きを見せ、一真とアルトリウスにお礼を伝える。中々のカリスマ性だ。

 

「一真君。ロックバンドはライブが命なんだ。幾らCDを買ってくれても、ライブに来てくれないと意味がない。ファンやお客さんがライブに来てくれるから、我々は今ここにはいない。本当に感謝しているよ」

 

「我々はライブに来てくれる皆を大切にしている。だからなるべく触れ合いたいし、色んな事を話したりしたい。その思いを受け取ってくれて本当に嬉しい」

 

 デーモンとルーチェモン・フォールダウンモードは、とてもファン思いなミュージシャンとして知られている。

 デジタルワールドから人間界に来て仕事探しに悩み、たまたまテレビで観た音楽番組を見て勇気づけられ、自分達も彼らのようになりたいと憧れを抱き、ロックバンドを結成して音楽業界で生きていく事を選んだ。

 しかし、現実は厳しかった。初めてのライブでは全くお客さんが来ず、ステージ代が入らずに大赤字。当時はお金が全くなく、リリスモンから譲られた炊飯器とブラストモンからもらったお米や野菜だけを持ってライブを行っていた程。

 それを知ったお客さんが可哀そうに思ったのか、おかずを差し入れてくれた。その為、デーモンとルーチェモン・フォールダウンモードはファンの皆に感謝の念を抱き、心から大切に思うようになった。それは今でも全く変わらない。

 ただ、この下積みと苦労が思わぬ所で弊害を生んだ。2体の魔王は贅沢が出来なくなってしまった。実は下積みの頃の夢はコンビニ弁当を買って食べるくらいになる事。当時は今のような人気がなく、安定した収入も無かった為、コンビニ弁当が高くて買う事が出来なかった。それくらいお金に苦労していた。

 ライブやイベントの移動手段もそうだ。つい最近になって新幹線で移動する事が出来るようになった。それまではずっと機材車に全てを詰め込んでいた。楽器や人間、デジモンも。その状態で日本各地を移動していた。

 

「僕の方こそありがとうございます。まさか普段聴いていて、動画サイトにも演奏動画を上げているバンドの方とお会いできるなんて……夢みたいです!」

 

「そうなのか……後でチェックしないとだな」

 

「我々のメンバーが見たらどう言うのかな?」

 

 その後は音楽の話や“デジクオーツ”関連の話をした一真達。帰りにグッズ売り場に行き、一真はTシャツやタオルを購入し、アルトリウスはCDをまとめ買いした。

 社宅に帰宅してからは『DEMON』と『セブンスヘブンズ』の曲を聴き始めるアルトリウス。どうやら新しいファンが1人増えそうだ。

 

 

 

 かつてデジタルワールドに魔王がいた。その魔王の前世を一言で言えば、“不運”としか言う事が出来ない。とある遺跡にあった箱の中でデジタマの状態のまま封印されていたが、邪悪な科学者に発見され、自分の意志とは関係なく振り回されたのだから。

 デジモンの生体エネルギーを注入され復活したが、人間界の王になるという野望に利用された。制御装置にコントロールされていたが、制御装置を破壊されてしまい、コントロール行動不能に陥った。しかし、邪悪な科学者が融合する事により、本来の姿となった。

 最終的に喧嘩番長とその一の子分に倒された悲劇の魔王。彼は死ぬ間際に思った。“せめて来世では自分の意志で生き、自分の意志で死にたい”と。

 

―――この枕で快適な睡眠を や ら な い か ?

 

 街の至る所に貼られている広告には枕と可愛らしいマスコットキャラが描かれているが、そのマスコットキャラの名前はベルフェモン・スリープモード。

 『七大魔王』の一角であり、寝具を専門に扱う大沢寝具株式会社の社長。広告のキャッチコピーと社長自らの出演により、今凄まじい勢いで発展している。

 愛らしい姿とは裏腹にしっかりした経営戦略と社員を大切にする優しさ、そして自ら身体を張る芸人力。全てを持ち合わせた理想の社長の1人。そんな彼は同じ社長のベルゼブモンと居酒屋で酒を飲んでいる。

 

「へぇ~そっちは順調なんだ」

 

「あぁ。おかげ様でな」

 

 焼き鳥を食べながらお酒を飲み、お互いの会社について話しているベルフェモン・スリープモードとベルゼブモン。

 同じ『七大魔王』の一角であり、社長をしている為、週に一度は居酒屋で話をしている仲となっている。普通ならば有り得ないが、これも人間界が成せる業なのかもしれない。

 

「でも僕らが社長になるなんて思ってもみなかったな……僕は前の社長の推薦、君は乗っ取り。手段や目的は違えど、なった以上は最後まで責任を果たさないとだね」

 

「あぁ、そうだな……それに俺も“デジクオーツ”関連の事件に巻き込まれた。一真やアルトリウスの話によると、何か決戦が近付いているような気がすると言っている。真っ向勝負だ。俺達も行かねぇとだな」

 

「う~ん、出来れば昼寝で解決したいけど……そうは言ってられないか」

 

 ベルフェモン・スリープモードは“昼寝道”を究めている。人間界に来た時はリリスモンの床に居候していたが、その時に使っていた枕やベッド等の寝具に魅入られ、睡眠で世界を平和にするという大それた野望を掲げた。

 もちろん叶うはずがない事は分かっている。それでも睡眠を通じて誰かを幸せにしたいという思いは本物だ。大沢寝具株式会社に入社し、様々な寝具の開発や営業に携わる事で会社の利益向上に貢献してきた。

 高齢の前社長から推薦を受け、社長として働いているベルフェモン・スリープモード。睡眠は人を堕落させるのではなく、人をより良くさせるという考えの下、常に快適で使いやすい寝具の商品開発に携わっている。

 前世は喧嘩番長に倒された為か、今は実力が遥かに上がっている。“王の寝具(ベッドギア・オブ・ベルフェゴール)”という特殊能力を会得し、現在はオメガモン・パラティヌモンクラスの実力者となった。

 

「“デジクオーツ”関連の事件はクオーツモンって奴の仕業だ。奴がいつ仕掛けて来るかは分からねぇけど……だから今の内に備えているってリリスモンが言っていた」

 

「有事の為にか……僕らも戦わないとか。戦うのは嫌だけどね」

 

 ベルフェモン・スリープモードは戦う事が怖いのではない。嫌なだけだ。出来れば話し合いや昼寝で解決させたいと思っているし、過去にもそうやって生きて来た。

 しかし、いずれ戦場に立つ日が近付いている事は事実だ。ベルフェモン・スリープモードの表情が引き締まるのがその証拠だった。

 




今回も割とあっさりめの話でしたが、色々とネタ要素満載でした。
デーモンの芸名は閣下のオマージュです。はい。それ以外何もありません。
ルーチェモンは何が良いかなと思ったら、ビジュアル系のミュージシャンが良いと思ったので取り入れました。
ベルフェモンは元から寝具を武器にして戦う設定を考えていました。
そこからネタキャラにしつつ、強キャラにさせました。実は作中最強クラスです。

次回はカオスモンとの決着を付けます。戦闘Onlyで長いです。

皆さん、今年も感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントやアドバイス、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

次回予告

ある日来た一通の手紙。それはカオスモンからの決闘の申し出だった。
念の為にアルファモンと共に”デジクオーツ”に来たオメガモンは、カオスモンとの決着を付けるべく激戦を戦う。
その先に待ち受ける結末は!? 果たしてどちらが勝つのか!?

第22話 カオスモンとの決着 全てを初期化する聖剣


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第22話 カオスモンとの決着 全てを初期化する聖剣

今回はカオスモンとの決着を書いた回となりました。
これが最終回で良いような気がしましたが、まだラスボスが残っています。
カオスモンはいわば中ボス。この後に決戦が待っています。


 “電脳現象調査保安局”の郵便ポスト。そこには様々な封筒やハガキが入っているが、この日入っていた一つの封筒から何やら曰く付きの匂いがしていた。

 と言うのも、その封筒の送り主がカオスモンからだった。別に何の仕掛けもない、直筆のお手紙。ただ問題なのはその内容だった。

 

――――“デジクオーツ”で待っている。オメガモンと一騎打ちで決着を付けたい。

 

「薩摩本部長。カオスモンと決着を付けさせてください」

 

「それは駄目よ、一真君。相手はカオスモン。一騎打ちと見せかけて何体か刺客を用意しているわ」

 

 丁寧な字で書かれたシンプルな内容。対オメガモン用デジモンとして生まれたカオスモンは、ついにオメガモンを倒す為に本気を出すつもりでいる。

 それに応じないオメガモンこと一真ではない。本部長室で薩摩と鏡花に自分の思いを話すが、一真の身を案じた鏡花が牽制した。

 確かに鏡花の言い分にも一理ある。相手はカオスモン。突然の奇襲やデジモンを利用した悪巧みは朝飯前。何をしてくるか分からない相手に単独で挑むのは危ない。

 

「私が一緒に行きます。それで良いですよね?」

 

「優衣さんが一緒なら大丈夫だな。分かった。後は任せるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 一緒に居た優衣が一真と同行する事を提案すると、薩摩は了承した。これでもしもの事があっても大丈夫な筈。そう思った上での了承だ。

 一真は深々と頭を下げて本部長室を後にし、優衣と共に“デジクオーツ”に向かう。到着すると同時にオメガモンに究極進化。少しの間歩いていると、カオスモンが立っている広い場所に着いた。

 

「待っていたぞ、オメガモン。お前と決着を付けるのを」

 

「そうか。アルファモンがいるのはお前が何かを企んでいると思っただけだ」

 

「……だと思った。私は一騎打ちしか頭にない。オメガモン、お前を倒す。それが私が造られた理由だ。今日こそ私の手で葬り去る!」

 

「良いだろう。今度こそ私の手で倒すだけだ」

 

 これは因縁を終わらせる為の戦い。二体の究極体デジモンは睨み合いを開始する。お互いに今度こそ相手を倒すと誓い、必ず勝つと闘志を燃やす。

 それぞれ構えを取り、対峙しながらゆっくりと間合いを取り始めるオメガモン。2体のデジモンの高まり続ける闘気。アルファモンは声を出さずに2体の姿を見守る。

 “デジクオーツ”に一陣の風が吹いたそ瞬間、戦いの火蓋が切って下ろされた。オメガモンは左腕からグレイソードを、カオスモンは右腕からBAN-TYOブレイドを出現させて突進を開始した。

 お互いの武器を鋭く振り抜き合う2体の究極体デジモン。甲高い金属音を鳴らし、凄まじい衝撃波を撒き散らす剣戟が始まった。凄まじいスピードで動きながら、それ以上の速度で大剣を振るい続ける。

 既に3回も繰り広げられ、繰り返されてきた剣戟。唯一異なる点があるとすれば、この戦いで全てが決まるという事。この戦いで決着が付く。この戦いで勝利者が生まれる。例えその結末が一体どうなるのか分からなくても、今は構わない。大切なのは目の前の相手を倒す事。たったそれだけの事を考えながら、相手を打ち倒そうと凄まじい剣戟を繰り広げる。

 オメガモンが薙ぎ払ったグレイソードを、カオスモンはBAN-TYOブレイドで受け止める。その瞬間、激しい火花が辺りに飛び散り、甲高い金属音が辺りに響き渡る。

 

「(三回戦って全て逃げられているからな……今度こそ勝利する!!)ウオオォォォォォォォォオッ!!」

 

 本来であれば、オメガモンはカオスモンとの戦いを心の底から楽しみたかった。自分と似たような姿をしていて、似たような戦い方をしている。自分を更なる高みに導いてくれている事をこれまでの戦いで感じ取っていた。

 しかし、カオスモンは自分の敵。カオスデュークモンが造り出した自分を抹殺する為のデジモン。オメガモンは感情を押し殺しながらグレイソードを振るう。

 聖騎士と混沌の騎士の戦いは更に激しさを増していく。お互いに大剣を相手に向けて振るい続け、それによって甲高い金属音が辺りに木霊し続ける。

 剣戟の中で動きが見られた。オメガモンはグレイソードを振り下ろし、カオスモンはBAN-TYOブレイドで受け止める。防御状態となったカオスモンの胸部を右足で蹴り付け、カオスモンを蹴り飛ばす。

 

「そこだ!」

 

「グァァッ!!!」

 

 カオスモンが体勢を立て直すよりも前に、オメガモンは追い打ちをかける。右腕のガルルキャノンを展開し、カオスモンの胸部に照準を合わせて青色のエネルギー弾を撃ち出す。

 空中で体勢を立て直している最中だったカオスモン。胸部に青色のエネルギー弾の直撃を喰らい、更に後方に吹き飛ばされるが、体勢を立て直して上手く着地した。地面に足がめり込むも、その勢いを使って突撃を開始する。

 BAN-TYOブレイドを突き出しながら迫り来るカオスモン。それに対し、オメガモンもグレイソードを下段に構えつつ、姿勢を低くして突進する。カウンターの構え。

 BAN-TYOブレイドの刺突を躱し、飛び上がりながらグレイソードを振り上げる。左斬り上げを喰らったカオスモンだが、直ぐに持ち直してBAN-TYOブレイドを振るってオメガモンを後退させる。

 

「おのれ……!」

 

 カオスモンはダメージを受け、斬り傷を受けた事に怒りを覚え、オメガモンに向けてギガスティックキャノンからダークプロミネンスを連射し始める。

 次々と迫り来る暗黒エネルギー弾。オメガモンは瞬間移動に近いスピードで動き回って避けていく。地面に着弾する度に超爆発が巻き起こり、黒煙と爆炎が発生するが、構う事なくカオスモンに向けてガルルキャノンから砲撃を撃ち込む。

 黒煙と爆炎で視界が遮られた事もあり、青いエネルギー弾を胸部に喰らったカオスモンは後方に吹き飛ばされるが、空中で体勢を整えて海面に危なげなく着地した。

 

「これまでの分を精算してもらおうか!」

 

 カオスモンはBAN-TYOブレイドを振り下ろし、青白い三日月形のエネルギー波を放つが、オメガモンはグレイソードを薙ぎ払ってかき消し、“縮地”を発動してカオスモンの目の前に姿を現した。

 “縮地”。それは距離を縮める事で長距離を瞬時に移動する技能。瞬時に相手との間合いを詰めたり、相手の死角に入り込む体捌きの事も言う。

 その技能を使って一瞬で間合いを詰めたオメガモン。大上段から一気にグレイソードを振り下ろすが、カオスモンはBAN-TYOブレイドで受け止め、右足を蹴り抜こうとする。

 それに気付いたオメガモンは身体を回転させながら地面を蹴り、自分から後方に跳びながらガルルキャノンの照準を合わせ、カオスモンに向けて砲撃を撃ち込もうとエネルギーの集束に入る。

 

「させるか!」

 

「クッ!!」

 

 カオスモンは咄嗟に右足でオメガモンのメタルガルルモンの頭部を象った右手の顎部分を蹴り上げ、ガルルキャノンからの砲撃を不発に終えようとする。

 まさかの攻撃に多少ふらつきながらもオメガモンは持ち直し、グレイソードを左横に薙ぎ払ってカオスモンを追い払った。

 その間に『聖突』の構えを取ったオメガモンはカオスモン目掛けて突進を開始し、地面に着地したカオスモンはギガスティックキャノンの照準を合わせ、一瞬の溜めを置いてから巨大な暗黒エネルギー弾を撃ち出す。

 巨大な暗黒エネルギー弾は直進している途中で爆裂し、無数の小型エネルギー弾となり、次々とオメガモンに襲い掛かる。

 オメガモンは咄嗟に飛び上がって回避し、急降下しながらグレイソードを突き下ろして『聖突・弐式』を繰り出す。

 

「『聖突・弐式』!!!」

 

「グハッ!!」

 

 胸部に『聖突・弐式』を喰らってよろめくカオスモンを右足で蹴り飛ばし、ガルルキャノンからの砲撃で追い打ちをかけようとしたが、その前にカオスモンが空中で体勢を立て直して着地し、一瞬でオメガモンとの間合いを詰めて来た。

 BAN-TYOブレイドを振り下ろして唐竹斬りを繰り出すも、オメガモンはメタルガルルモンの頭部を象った右手の籠手で受け止める。それと共にグレイソードを一閃するが、カオスモンもダークドラモンの頭部を象った左手で受け止める。

 闘志と力が真っ向からぶつかり合う。その拮抗状態を先に破ったのはカオスモン。右足でオメガモンの胸部を蹴り付け、BAN-TYOブレイドを振り上げて青白い巨大な刃の形のエネルギー波を飛ばす。

 

「これはどうだ!」

 

 空中で体勢を立て直して着地しつつ、オメガモンはガルルキャノンを構えて青白い巨大な刃の形のエネルギー波の真ん中に向けて砲撃を撃ち込む。

 青いエネルギー弾は青白い巨大な刃の形のエネルギー波を消し去ったものの、多少威力と勢いを減衰しながら、カオスモンに向かって直進していく。

 カオスモンがBAN-TYOブレイドを振るって青いエネルギー弾をかき消している間に、オメガモンは両腕の武器を一度戻して力強く構えを取る。その瞬間、右手から蒼く煌めく絶対零度の冷気が発せられ、左手から橙色に輝く太陽の火炎が燃え上がる。

 

「ダブル!!!」

 

「グァッ!」

 

「トレントッ!!!」

 

 最初に地面に打ち付けられたのはメタルガルルモンの頭部を象った右拳。そこから蒼く煌めく絶対零度の冷気が放たれ、カオスモンを呑み込んでいく。瞬く間に瞬間凍結され、動く事すら出来なくなったカオスモンに追い打ちをかける。

 続けてウォーグレイモンの頭部を象った左拳が地面に打ち付けられた。橙色に輝く太陽の火炎が放たれ、カオスモンを焼き尽くす。

 これが『ダブルトレント』。オメガモンの得意技の1つ。冷気と火炎を交互、もしくは同時に繰り出す奥義でもある。

 

「まだだ!」

 

「しぶといな……!」

 

 『ダブルトレント』を喰らっても、まだまだ戦闘続行出来るカオスモン。そのしぶとさに敬意を払いながら、オメガモンは『聖突』の構えを取ってから突進を開始する。

 カオスモンはギガスティックキャノンから暗黒エネルギ―弾を連射するが、オメガモンは神速のスピードで全て回避し、グレイソードを突き出して『聖突・壱式』を繰り出す。

 BAN-TYOブレイドを薙ぎ払って『聖突・壱式』を迎撃すると、カオスモンは返す刀で燃え上がる程熱い魂を刀身に纏わせたBAN-TYOブレイドを振り下ろす。

 

「『覇王両断剣』!!!」

 

「チィ!!」

 

 咄嗟にメタルガルルモンの頭部を象った右手を翳して受け止め、更なる追撃を受けないように自ら後方に跳躍したオメガモン。

 カオスモンとの距離を空けたオメガモンはグレイソードを斜め上に構えながら、『聖突・弐式』の構えを取る。対するカオスモンもギガスティックキャノンを構え、暗黒エネルギー弾を連射していく。

 それらを跳躍で回避しながら上半身を回転させ、オメガモンは上半身の捻り戻しを上乗せした『聖突・弐式』を繰り出す。

 『聖突・弐式』をBAN-TYOブレイドで受け止め、カオスモンはオメガモンとの鍔迫り合いを始める。先程も行っており、このままでは何にもならないと分かっているオメガモンは行動を起こした。

 左足を薙ぎ払ってカオスモンの右足を崩す。これでカオスモンの体勢を強引に崩し、下段に構え直したグレイソードを振り上げ、右斬り上げを繰り出した。そこから右足でカオスモンを蹴り飛ばす。

 

「グァッ!!」

 

「畳み掛ける!」

 

 吹き飛ばされながらも体勢を立て直したカオスモン。ギガスティックキャノンを構えて暗黒エネルギー弾を撃ち込むが、オメガモンはグレイソードを薙ぎ払って暗黒エネルギー弾をかき消す。

 その間に地面に着地したカオスモンは神速のスピードで間合いを詰めると、オメガモンの胴体目掛けてBAN-TYOブレイドを薙ぎ払う。

 左肩に装備しているブレイブシールドΩで左薙ぎを受け止めるが、その間にカオスモンはオメガモンの胴体にギガスティックキャノンの砲口を突き付けていた。零距離砲撃を撃ち込むつもりだ。

 

「そうはさせるか!」

 

 咄嗟に右足でカオスモンの左手を蹴り上げ、ギガスティックキャノンからの砲撃を強制中断させたオメガモン。その隙にグレイソードを横薙ぎに構えて振るい、カオスモンの腹部に横一文字の斬り傷を刻み付ける。

 更にガルルキャノンを構えて砲撃を撃ち込んで追い打ちをかけると、『聖突・弐式』の構えを取って突進を開始する。

 オメガモンの連続攻撃から持ち直したカオスモン。既にダメージの蓄積も相当な物となり、エネルギーの残量も半分を切っている。それでも諦める事なく、ギガスティックキャノンから暗黒エネルギー弾を撃ち出す

 身体の状態はオメガモンも同じだった。ダメージこそないが、残りのエネルギーが半分くらいになっている。早めに決着を付けたい所だ。

 暗黒エネルギー弾を『聖突・弐式』でかき消し、ガルルキャノンを構えながら一瞬の溜めを置いてから巨大な青いエネルギー弾を撃ち込む。カオスモンに向けて直進する途中でいきなり破裂し、四方八方へと散弾のように弾け飛んで一斉に襲いかかって来る。

 

「グアアアァァァァァッ!!!!!」

 

 あらゆる角度から一斉に着弾していく度に、カオスモンは苦痛に満ちた声を上げていきながら、大爆発で発生した煙の中に姿を消していった。

 大爆発で発生した黒煙と爆炎が消え去ると、そこには全身の至る所にダメージの痕が存在しているカオスモンが立っている。しかし、その赤い単眼が光を放った瞬間、カオスモンの『波動(コード)』がより強大な物となった。

 

 

 

―――まさかリミッターを解除したのか!?

 

 “超越体”、もとい『電脳人間(エイリアス)』。パラティヌモンと彼女と共に戦った13体のデジモン以外の面々は通常リミッターを付けて戦っている。

 これは彼らが不完全やイレギュラーな形で『電脳核(デジコア)』を移植された為、人間の身体に重度な障害を与える事を危惧した上での安全装置となっている。それを外して戦うと、強大な強さを得る反面、身体にかかる負荷が大きくなる。

 そこまでして自分を倒したいのか。オメガモンはカオスモンとなってしまった人間を救う事を決意している為、目の前の光景を険しい表情で見ている。自分がそう仕向けてしまったのか。そこまで追い詰めてしまったからか。

 それでもやる事は変わらない。カオスモンを倒して人間を助ける。そう決意してグレイソードを横薙ぎに構えると、先程まで目の前にいた筈のカオスモンの姿が消失していた。

 注意深く周囲に『波動(コード)』を放っていると、背後に物凄く巨大な『波動(コード)』を感じ取り、オメガモンは背後を振り返った。

 

―――速くなった!?

 

 反応速度と移動速度の向上。それを感じたオメガモンの目の前には、赤い単眼から眩い光を放つカオスモンがいる。BAN-TYOブレイドが振り下ろされ、グレイソードで受け止めるも力負けしそうになる。

 単純なパワーも上がっている。そう感じたオメガモンはパワーにはパワーで対抗するしかないと感じた。左腕に込められているウォーグレイモンの力を解き放つ共に、刀身から太陽の火炎を発しているグレイソードを振り抜く。

 

「“万象一切灰塵と為せ”! グレイソーーード!!!」

 

「クッ!!」

 

 弾き飛ばされたカオスモンは空中で体勢を立て直して着地し、ギガスティックキャノンから暗黒エネルギー弾を連射する。

 先程よりも強化された暗黒エネルギー弾。オメガモンはグレイソードを振るって目の前に灼熱の炎壁を展開して砲撃を防いでいく。

 その灼熱の炎壁を隠れ蓑に使いながら“縮地”を発動し、カオスモンとの間合いを詰めたオメガモン。低い体勢のままグレイソードを下段に構え、カオスモン目掛けて振り上げながら右斬り上げを繰り出す。

 素早い身のこなしと反応速度で躱すカオスモン。追い打ちを掛けようと、オメガモンはガルルキャノンからエネルギー弾を連射していく。

 地面を素早く駆け抜けながら青いエネルギー弾を回避し、一気に加速してオメガモンとの距離を詰めたカオスモンはBAN-TYOブレイドを薙ぎ払う。

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!!」

 

 オメガモンはグレイソードでBAN-TYOブレイドを受け止めると同時に、刀身から発している太陽の火炎を噴射させ、灼熱の刃を形成する。

 その状態のグレイソードを振り抜いてカオスモンを弾き飛ばし、『聖突』の構えを取って突進しようとするが、その直前にカオスモンが体勢を立て直し、ギガスティックキャノンから暗黒エネルギー弾を撃ち出す。

 太陽の火炎を発する灼熱の聖剣と化したグレイソードを一閃し、暗黒エネルギー弾を消し去るオメガモン。左手にエネルギーを込めて連動させ、ウォーグレイモンの頭部の目の部分を光り輝かせる。

 これによって刀身の長さを調節出来るようになった。太陽の火炎を伸ばしながらグレイソードを全力で薙ぎ払い、カオスモンを太陽の火炎で焼き尽くした。

 

 

 

「“癒しの風よ、祝福を与えろ”! 『ヒールウィンド』!!!」

 

 戦い終えたオメガモンは激戦の疲れと、エネルギーの消耗で片膝を付いた。アルファモンは治癒魔術を使って疲れを癒し、エネルギーを回復させた。

 ようやく宿敵との戦いに終止符を打つ事が出来た。しかもその相手に勝つ事が出来たのだから。オメガモンの表情は何処か柔らかく、微笑んでいるように見えた。

 

「アルファモン……ありがとう」

 

「お疲れ様。さぁ、カオスモンの素体となった人間を助けよ……何だと!?」

 

 しかし、現実はそう簡単には行かなかった。そう甘くなかった。何故ならオメガモンとアルファモンの目の前で、突然ボロボロの姿となったカオスモンが立ちあがったからだ。

 あれだけの攻撃を喰らってもまだ戦えるのか。オメガモンがそう思う中、カオスモンは赤い単眼を輝かせながら言い放つ。

 

「フフフッ、ハハハハハハハハハハハハッ!!!!! 流石だなオメガモン! だがこれで終わったと思うなよ? お前は私の真の力で倒してやる!」

 

「真の……力!?」

 

(リミッター解除は先程使った……まさか!)

 

「ウオオオォォォォォーーーーー!!! カオスモン!!! 超究極進化!!!」

 

 オメガモンが辿り着いた答え。先程の戦いでリミッター解除は使った。残る手段は超究極進化だけだ。カオスモンは進化体がある。まさかそれになるつもりではないのか。

 それは正解だった。目の前にいるカオスモンを覆い尽くすかのように膨大なエネルギーの奔流が発生し、カオスモンの周囲に凄まじいエネルギーが渦巻く。まるで竜巻のように渦巻くエネルギーの中で、カオスモンは単眼を赤く輝かせながら叫ぶ。

 叫ぶと同時にエネルギーの奔流に包まれたカオスモン。やがてエネルギーの奔流が消失すると、新しいデジモンが立っていた。

 

「アルティメットカオスモン!!!」

 

 両肩に2つの『電脳核(デジコア)』が存在し、巨大な両腕を持ち、全身から禍々しいオーラを放っている巨大なデジモン。アルティメットカオスモン。

 抑え込む事の出来ない力は全身から漏れるように流出しており、2体の聖騎士ですら警戒している程だ。強大な力を一度に4つも融合した歪みによって、身体のパワーバランスが取れず、力の殆どが両腕に集約した事で歪な姿となってしまった。

 

「まずいな。これはとんでもないデジモンだ!」

 

「俺達で倒そう。『エアスライサー』!!!」

 

「そうだな!」

 

 一目見ただけで分かった。アルティメットカオスモンはとんでもないデジモン。存在その物と強さが。オメガモンとアルファモンは2人がかりで戦う事を決めた。

 そもそもそうしないと勝てない相手だと言う事も分かっている。アルファモンは左手に緑色の魔法陣を描き、無数の風の刃を飛ばす。オメガモンは右腕のからガルルキャノンを展開し、青いエネルギーの波動砲を撃ち込む。

 しかし、2体の聖騎士の攻撃はカオスモンには届かなかった。当たりはしたが、ダメージを受けていない。アルティメットカオスモンは平然としている。

 

「“大地を照らす日輪よ、敵を焼き尽くせ”!『レイジング・サンバースト』!!!」

 

 アルファモンは橙色の魔法陣を描き、頭上に巨大な火炎球を作り出してアルティメットカオスモンにぶつけ、オメガモンはガルルキャノンから絶対零度の冷気の波動砲を撃ち出す。

 それでもアルティメットカオスモンはビクともしない。それどころか2体の聖騎士の攻撃を煩わしく思い、オメガモンを巨大な右手で掴み取った。

 

「『ブロウクンデストロイ』!!!」

 

「グアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「オメガモンを離せ! 『サンダーボルト』!!!」

 

「そんなに離して欲しければ離してやるぞ? それっ!!」

 

 大型なデジモンさえも軽く握り潰してしまう威力のパワー。その力で握られ、全身に凄まじい苦痛を感じる中、オメガモンは叫び声を上げる事しか出来ない。

 オメガモンのピンチを見過ごすアルファモンではない。黄色の魔法陣を描き、アルティメットカオスモンの右腕目掛けて雷を落とす。

 『サンダーボルト』を右腕に喰らっても、平然としているアルティメットカオスモン。巨大な右手に掴んでいるオメガモンをアルファモン目掛けて放り投げた。

 

「グァッ!!」

 

「グッ!!」

 

 激突しながら吹き飛ばされる2体の聖騎士。アルファモンはともかく、オメガモンは『ブロウクンデストロイ』のみを喰らったにも関わらず、瀕死のダメージを受けた。

 カオスモンとの戦闘では殆どダメージを受けなかった。今回初めてのダメージを受けたが、アルティメットカオスモンのパワーの凄まじさを思い知る結果となった。

 アルファモンは直ぐに立ち上がる事が出来たものの、オメガモンが若干フラフラな状態だった。ダメージをかなり喰らい、体力を削られた。

 

「“癒しの雨よ……」

 

「させるか! 『ダークロアー』!!!」

 

 左手に桃色の魔法陣を描き、アルファモンは治癒魔術でオメガモンが受けたダメージと体力の回復を行おうとするが、それをさせるアルティメットカオスモンではない。

 巨大な左腕の手の平をアルファモンに向け、ダークマターのエネルギー弾を撃ち出す。アルファモンは右手で描いた魔法陣で『ダークロアー』を防ぎ、増幅・集束して『フォトン・グレネイド』として撃ち返す。

 

「『フォトン・グレネイド』!!!」

 

「『オーロラアンジュレーション』!!!」

 

 アルティメットカオスモンは『フォトン・グレネイド』を右腕を振るってかき消しながら、もう1本の右腕の掌から星をも砕く威力を持った浄化の光を放つ。

 『オーロラアンジュレーション』。それはアルティメットカオスモンを構成しているヴァロドゥルモンの必殺奥義。星をも砕く威力を持つと云われており、光速で放たれるために回避はほぼ不可能と謳われている。

 その標的はオメガモンだったが、左腕から出現させたグレイソードを振るって『オーロラアンジュレーション』を四散させる。しかし、今の攻撃はオメガモンの注意を逸らす為の布石。いわば囮だった。

 

「『ブロウクンデストロイ』!!!」

 

「ガアァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 オメガモンを巨大な右手で捕らえ、握り潰そうと力を込める。再び全身に凄まじい痛みが襲い掛かり、オメガモンは声を上げる事が精一杯だった。

 やがてオメガモンは沈黙した。白兜から空色の円らな瞳が消え去り、項垂れた聖騎士を地面に向けて投げ付けるアルティメットカオスモン。地面に叩き付けられ、一度宙に舞い上がってからオメガモンは地面に倒れ込んだ。

 その全身から眩い純白の光が発せられると、オメガモンは一真の姿へと戻った。意識を失い、至る所がボロボロになっている。瀕死の重傷を負った状態で、一真は倒れ伏せている。

 

「オメガモン……一真君!」

 

「フハハハハハハハハッ!!!!! これでオメガモンを倒した……次はお前だアルファモン! 『ダークロアー』!!!」

 

「クッ! “風の刃よ、全てを切り刻め”! 『ウインドカッター』!!!」

 

 アルファモンは一真に治癒魔術を施そうとするが、それをアルティメットカオスモンが妨害する。左手の平からダークマターのエネルギー弾を撃ち出す。

 それを右手で描いた魔法陣で防ぎ、増幅・集束して『フォトン・グレネイド』として撃ち返しながら、左手で緑色の魔法陣を描き、無数の風の刃を飛ばす。アルファモンとアルティメットカオスモンの戦いが始まった。

 

 

 

(一真、これ以上の戦いに君の身体は耐えられない……)

 

 全てが真っ黒に染まった虚無な世界。そこは一真の内面世界。ゆっくりと落ちながらやって来た一真の目の前に、オメガモンが現れた。

 オメガモンが告げたのは一真の肉体の事。命の意見を警告されている。一真の人格・自立性を尊重する、モラルや理性を持ったオメガモン。それでも完全な融合が出来ていない。

 

―――僕が君と完全に融合していないからか?

 

(それもある……だがカオスモンとの戦闘で受けたダメージが危険レベルに達している)

 

―――僕が死んだら君はどうなるんだ?

 

(間違いなく消滅する。君と一緒に)

 

 “デジモン化”。それは『電脳核(デジコア)』と完全な融合を果たせていない人間をデジモンにさせる為に起きる現象。その現象が起きているという事は、一真が完全なオメガモンになりきれていない事を示している。

 一真が死んだらオメガモンも死ぬ。肉体を共有し合っている以上、避けては通れない道だからだ。その答えを聞いた一真は叫ぶ。

 

―――それじゃあアルファモンやパラティヌモン……皆はどうなる!? 嫌だ! 駄目だ! 僕はまだ死にたくない! ここで終わりたくなんかない! アルファモンが、優衣さんが戦っているのに尻尾巻いて逃げれない! このまま終われない!

 

(一真……君は)

 

―――僕は守りたい世界がある! 守りたい人々がいる! 共に戦うデジモンがいる! 皆を置いて先には死ねない! なぁオメガモン! 君だってそうだろ!? 前世では最後まで戦えなかったじゃないか!

 

(ッ!! そうだ……私もそうだ。盟友達と共に最後まで戦えなかった。1人だけ皆を置いていった……)

 

 一真とオメガモンの願いはリンクする。最後まで戦い抜く事。それが2人の抱く願い。それが偶然にも一致した。

 一真の場合はオメガモンとして戦い抜く事と、カオスモンとの決着を付ける事の2つ。オメガモンの場合は前世では叶わなかった願いを果たす事。もしかしたら似た者同士なのかもしれない。

 

―――まだ終われないよね?

 

(あぁ……まだ終われない!)

 

―――だったら寄越せオメガモン。君の力を!

 

(ッ! しかし……!)

 

―――何言ってんだ? 僕は君と共に生きるしか道はないんだ。それに君からもらった命なんだ。僕の全ては君の為に使わなければならない。

 

 一真は考えている。ディアボロモンに殺されて死ぬ筈だった自分は、オメガモンとなる事で生き永らえた。ならばオメガモンの為に自分の全てを使わなければならない。何とも自己犠牲的な考えだ。

 その考えの上でオメガモンの力を更に引き出そうとするが、当然の事ながらオメガモンは拒否する。“デジモン化”の進行を危ぶんだからだ。それでも一真はオメガモンに力を引き出させようとする。

 

(分かった。だが無理はさせない!)

 

―――あぁ。だが絶対に勝てよ?

 

(無論だ)

 

「『ビフロスト』!!!」

 

「“穿て、灼熱の螺旋”! 『スパイラルメテオ』!!!」

 

 オメガモンと一真が内面世界で話を終えたのと同じ頃、アルティメットカオスモンはもう1本の左腕の掌から灼熱の光矢を放ち、アルファモンは魔法陣で防ぎながら『フォトン・グレネイド』として撃ち返す。

 それと同時に右手で赤色の魔法陣を描き、螺旋を描く灼熱の火炎を放つ。その中級魔術ですらアルティメットカオスモンには通じない。

 

「ッ!?」

 

「一真君!」

 

 そんな時、突如として一真の方から巨大な『波動(コード)』が探知された。戦いを中断して一真を見るアルファモンとアルティメットカオスモン。彼らの目の前で、一真はゆっくりと立ち上がる。

 一真の復活にアルファモンは喜び、アルティメットカオスモンは悔し気に表情を険しくさせながら言い放つ。

 

「この死にぞこないが! 今度こそ引導を渡してくれる!」

 

「おい……オメガモン。良いから寄越せ、君の全てを」

 

 しかし、アルティメットカオスモンの言葉は一真には届かない。彼の右目の瞳は黒色から空色になっている。しかも空色の輝きを光り放っている。

 戦いが始まる前は違ったが、一真はカオスモンとの負けられない戦いに自ら“デジモン化”する道を選んだ。同時に黒い髪の一部が銀色に染まっていく。

 

「まだだ……もっと……もっと……もっと寄越せ!!! 究極進化!!!」

 

 心の底からの叫び。子供の頃から憧れて来た聖騎士と共に戦う夢。その思いが力を渇望し、皆を守りたい、世界を守りたいと願い続ける。

 その為なら自らを差し出そう。例え死ぬ事になっても、皆の為に戦い抜く。それが自分の使命であり、戦う理由。生きる意味を言葉に乗せながら一真は叫ぶと、全身を覆い尽くす程の眩い光の奔流が発生する。一真の周囲で渦巻く光の中で、一真の片目が空色に輝いた。

 アルファモンとアルティメットカオスモンが光に覆い包まれた一真を見つめていると、光が消失して聖騎士が立っていた。

 

「オメガモン!!!」

 

 全身を純白に輝く聖鎧で覆い尽くし、背中に内側が赤色で、外側が白いマントを羽織り、右肩に金色の三本の突起が付いているアーマーを装着し、右手が蒼い狼を象った籠手となり、左肩には勇気の紋章を象った黄金の盾―『ブレイブシールドΩ』を装備し、左手が黄金の竜を象った籠手となっている聖騎士。

 聖騎士の名前はオメガモン“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”で命を落としたものの、ホメオスタシスによって転生した“最強の聖騎士”。その名前はオメガモン。

 

 

 

「馬鹿な……お前はもう究極進化する体力が残っていなかった筈だ!」

 

「関係ない。私の力は守りたい物を守り、信じる正義を貫く為にある。それが分からないお前に私は負けない!」

 

「私は究極の混沌だ! 誰にも負けはしない! 『オーロラアンジュレーション』!!!」

 

「オメガモン、反撃開始と行くぞ! “光弾けろ”! 『エクスプロージョン』!!!」

 

 オメガモンのまさかの復活に動揺しながらも、アルティメットカオスモンは左手の平から星をも砕く威力を持った浄化の光を放つ。

 左腕からグレイソードを出現させたオメガモンは横薙ぎに振るい、『オーロラアンジュレーション』をアルティメットカオスモンに向けて跳ね返す。

 それと同時にアルファモンも黄色の魔法陣を描き、魔法で攻撃していく。アルティメットカオスモンの胸部に大爆発を引き起こす。

 

「グァッ!!……何のこれしき! 『オーディンズブレス』!!!」

 

「“万象一切灰塵と為せ”! グレイソーーード!!!」

 

 跳ね返って来た『オーロラアンジュレーション』と、巻き起こった大爆発を受けてアルティメットカオスモンは初めてダメ―ジを受けた。

 それでも直ぐに持ち直し、両手の平をオメガモンとアルファモンに向けて周囲一帯の気候を操り、超低温のブリザードを発生させて2体の聖騎士を凍らせようとする。

 しかし、その企みをオメガモンが阻止する。ウォーグレイモンの頭部を象った籠手の目の部分を光り輝かせ、グレイソードを太陽の火炎を発する聖剣にしていく。

 途端に“デジクオーツ”は“ムスペルヘイム”となった。世界の南の果てにある灼熱世界の前では、超低温のブリザードは瞬く間に無効化されてしまう。

 

「おのれ……『ビフロスト』!!!」

 

「お前の攻撃は受けない!」

 

「そういう事だ! 開け、異世界の門よ! 我が同胞を呼び出せ! 『デジタライズ・オブ・ソウル』!!!」

 

 オメガモンがグレイソードを薙ぎ払って灼熱の光矢を跳ね返している隙に、アルファモンは背中の翼を広げて飛翔すると、上空に巨大な魔法陣を展開して、異次元より伝説上のモンスターを召喚した。

 そのモンスターは四足歩行の獣のようでいて、竜のような見た目をしたモンスター。ドルグレモンのような見た目をしている。アルファモンはそのモンスターの背中に乗り、オメガモンの援護に回る。

 

「システム・オメガ……『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』発動……!」

 

 オメガモンの言葉と共に、胸部の紅い宝玉が光り輝いた。それは『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』発動の証。

 分析・予測された戦闘状況への最適な対応を直接脳に伝える特殊能力。戦いにおいて一瞬にして先を読み、対応出来てしまう究極の力。あらゆる状況下でのオメガモンの戦闘センスとポテンシャルが極限まで高められ、引き出された能力。

 

「グッ!! そう簡単には行かないか!……『バーンバンチョーパンチ』!!!」

 

 胸部に『ビフロスト』の跳ね返しを喰らいながらも、アルティメットカオスモンは右拳に燃え上がる程の熱い魂を込め、オメガモンに向けて右拳を突き出す。

 空高く飛び上がって『バーンバンチョーパンチ』を躱しながら、オメガモンは体を反転させて右腕のガルルキャノンを展開し、青いエネルギー弾を連射する。

 狙うのはアルティメットカオスモンの両肩。そこは2つの巨大な『電脳核(デジコア)』が露出している。いわばアルティメットカオスモンの弱点だ。相手の弱点を集中的に狙わない理由はない。

 アルティメットカオスモンもそれを理解している。左拳に気合を極限にまで研ぎ澄ませて突き出そうとするが、異世界のモンスターと彼の背中に乗ったアルファモンがそれを見逃さず、攻撃を繰り出して来た。

 

「ガアァァァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

「“世界に開闢の光が満ちる時、邪悪は終焉する。混沌の門が開かれる時、天の裁きが落陽に至る!”落ちろ、『神雷』!!!」

 

「ガアァァァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

「『オメガソード』!!!」

 

 モンスターが口から放った光線。アルファモンがアルティメットカオスモンの頭上に描いた巨大な黄金の魔法陣。その中央から放たれた巨大な神の裁き。その2つがアルティメットカオスモンを呑み込んでいった。

 アルティメットカオスモンが今までの中で最大の苦痛に満ちた咆哮を辺りに響かせる中、オメガモンはグレイソードを天高く掲げ、刀身に生命エネルギーを注ぎ込んで純白に輝く聖剣にしていく。

 オメガモンは自身が装備しているグレイソードから伝わる力と権能を感じながら、苦痛に苦しみ続けるアルティメットカオスモンに向けて、グレイソードを構えると共に突進を開始する。

 

「ウオオオオォォォォォォーーーーーーー!!!!!」

 

「『ウルティマ・バースト』!!!」

 

 自分に向かって全速力で突進して来るオメガモン。その存在に気が付いたアルティメットカオスモンは全身にエネルギーを溜め込み、『電脳核(デジコア)』からエネルギーを一斉解放しながら放つ。

 しかし、オメガモンは『ウルティマ・バースト』を全身に喰らっても怯む事なく、苦しむ事なく、傷を負う事なく突進を続ける。モンスターとアルファモンが同時に叫ぶ中、オメガモンはグレイソードを突き下ろす。

 

「グオオオオォォォォォォォーーーーーーー!!!!!」

 

「いっけぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!」

 

「『初期化(イニシャライズ)』!!!」

 

 オメガモンが突き下ろしたグレイソード。その剣先が深々とアルティメットカオスモンの頭部に突き刺さった瞬間、アルティメットカオスモンの動きが止まった。まるで完全停止したかのように。

 そしてオメガモンがグレイソードをアルティメットカオスモンの胸部から引き抜くと同時に、グレイソードが刺さっていた部分からデータ粒子に変わって消滅を開始する。

 『初期化(イニシャライズ)』。本来はインペリアルドラモン・パラディンモードの必殺奥義。オメガブレードで敵を一刀両断し、構成データを初期化して消し去る必殺奥義だが、かつてオメガブレードだったオメガモンはその力を引き継いだ。

 今までは使用する事が出来なかったが、八神一真の力で発現する事が出来るようになり、今回初めて使用した。全身がデータ粒子に変わりながら消滅していくアルティメットカオスモン。その中から1人の人間が姿を現した。

 

「彼が……カオスモンの素体だった人間!?」

 

「みたいだな……」

 

 地面に落下していく人間をキャッチしたオメガモンと、駆け寄って来たアルファモンはその人間を見た。その人間は男性。眼鏡をかけ、顔中ニキビだらけで太っている。いわば“オタク”や“ニート”と呼ばれる典型例だろう。

 恐らく何らかの理由でカオスデュークモンに選ばれ、カオスモンにされてしまった被害者なのだろう。彼を保護しなければならない。そう思ったオメガモンはアルファモンと共に“デジクオーツ”を後にした。

 




出来れば1万5千字~2万字を目標にしたいLAST ALLIANCEです。
その為にはドラマパートをもっと書けるように、描写を増やしていかなければと改めて思います。濃密な文章と描写を目標としているので。

これで一真の”デジモン化”は更に進行します。
この分で行くと第26話で完全なオメガモンに……!?
果たして一体どうなるのかも楽しみにしていて下さい。

次回はこれまでのバトルが終わり、最終決戦に入る重要な回となります。
主人公は諸事情で不在です。

皆さん、今年も感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメントやアドバイス、モチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

次回予告

人間界で起きたとある現象。
その犯人はブラックウォーグレイモン。
パラティヌモンはいつもの通り戦いに移行するが、ここでまさかの事態が発生。
ついに現れる邪悪なる存在。それに立ち向かうブラックウォーグレイモンが進化する!

第23話 漆黒の竜人 ブラックウォーグレイモンからの悪い知らせ



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第23話 漆黒の竜人 ブラックウォーグレイモンからの悪い知らせ

今回のゲストは『デジモンアドベンチャー02』に登場したブラックウォーグレイモンです。
これまでのバトルが終わり、最終決戦に入る重要な回になりますが、前回の続きから入ります。一真の”デジモン化”の進行具合と、カオスモンの素体となった人間の紹介です。

次回から最終章3部作(平成ウルトラマンよろしく)に入りますが、最後までお付き合いの方よろしくお願いします。



「ただいま戻りました」

 

「お帰り。……その人は?」

 

 “電脳現象調査保安局”に戻って来た一真と優衣。彼らはつい先程まで“デジクオーツ”でカオスモンと、そしてカオスモンが超究極進化したアルティメットカオスモンとの激闘を繰り広げていた。一真はカオスモンとなった人間を背中におぶっている。

 一真と優衣を出迎えたのは桐山鏡花。“電脳現象調査保安局”の主任であり、『七大魔王』の一角にして“色欲”を司るリリスモン。彼女は無事に帰って来た一真と優衣に笑顔を見せながら、一真の背中で眠っている男性に目を向ける。

 

「カオスモンだった人よ。名前とか全然分からないけど……」

 

「カオスモンだった人……という事はカオスモンを倒せたの!?」

 

「はい。アルティメットカオスモンになりましたけど、優衣さんと共闘して倒せました」

 

「良かったじゃない! 凄いわ一真君! 優衣さんもありがとうね!」

 

 一真はカオスモンとの激闘について話し出す。最初は一騎打ちでカオスモンを倒したものの、復活したカオスモンがアルティメットカオスモンに超究極進化してアルファモンとの共闘に移行した。

 アルティメットカオスモンの猛攻に進化を解除されるが、気合と根性で復活してアルティメットカオスモンを初期化し、カオスモンの素体に使われた人間を救出する事が出来た。

 

「でも……“デジモン化”は進みました。何か右目と右腕、右足……右半身の感覚がおかしくなって……見えるんですよ。動かせるんですよ。でも感覚が違って……」

 

「えっ!?……ちょっと待って!? 髪の毛も右半分が銀色になっているじゃない!? 直ぐに検査よ検査! その人も一緒に!」

 

 『初期化(イニシャライズ)』と『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を使用した為か、一真の“デジモン化”は進行した。右目と右腕と右足。右半身の感覚がオメガモンの物に近付いているという状況に陥ったのだから。

 一真の勝利を喜んだのも束の間、彼の言葉を聞いただけで深刻さを理解した鏡花。彼女は一真を保健室に向かわせ、直ぐに一真の身体を検査させた。

 

 

 

「一真君は?」

 

「身体がもう能力や奥義を使う事に耐えられない。相当“デジモン化”が進んでいる……後2,、3回能力を使ったら完全にオメガモンとなるわ」

 

 1時間後。カオスモンとの戦闘の疲労からか、ベッドで眠っている一真。既に検査は終了し、その結果用紙が出ている。一真の近くで優衣と鏡花は顔を見合わせながら、結果用紙を見ている。

 “デジモン化”が相当進行している。身体自体が激化する戦闘や使用する能力や奥義に耐えられないからだ。後数回でも特殊能力や必殺奥義を使えば、一真は完全なオメガモンに成り果ててしまう。

 

「ところでもう1人の彼は?」

 

「異常は何も無かったわ。完全な無傷。心臓も、何もかもが普通の人間よ? 数日安静にしていれば普通に退院出来そう」

 

「良かった……一真君、グッジョブね。“デジクオーツ”の件が片付いたら休暇を与えようかしら」

 

「うっ、うぅ……」

 

 カオスモンの素体となった人間。『初期化(イニシャライズ)』の影響のおかげか、完全な人間に戻る事が出来た。一真は“デジモン化”の進行を代償に、その人間を救った。

 その事実に多少安心している優衣と鏡花の目の前で、その男性の意識が戻った。閉じていた目が開かれ、天井を見上げる。

 

「此処は……何処だ?」

 

「ここは“電脳現象調査保安局”。私は桐山鏡花。“電脳現象調査保安局”の主任」

 

「初めまして。私は工藤優衣。貴方は?」

 

 鏡花と優衣は自己紹介をすると、2人の姿を見た男性は息を呑んだ。絶世の美女が目の前にいる。それだけで言葉が何も出ず、固まってしまった。

 それでも男性は答える。相手が自分の事を知りたがっている。自己紹介して来たのだから、自分も自己紹介しなければならない。そう思って自己紹介をする。

 

「俺は櫻井竜也です」

 

「竜也君……貴方は自分がどうしてここにいるのか分かる?」

 

「分からないです……教えて下さい」

 

「(カオスモンだった記憶まで初期化されたのね……)分かったわ。全て話すわ」

 

 眼鏡をかけ、ニキビだらけで肥満体型の男性―櫻井竜也。彼は鏡花から告げられた事実を全て聞き、顔を真っ青にさせながら現実を受け入れるしかなかった。

 カオスモンという対オメガモン用デジモンとなり、オメガモンこと八神一真を抹殺しようとした事。その過程で他のデジモンを利用した事。最後の戦いでアルティメットカオスモンとなり、一真に救われた事。

 あまりにも非現実的な事が立て続けに起こり、それを理解するには時間がかかったものの、竜也は全てを受け入れた。何故なら数時間前までの自分だったからだ。

 

「そんな……俺がカオスモンに、デジモンに……化け物にされたなんて……」

 

「残念だけど事実よ? 今は元通り人間に戻れたわ。隣で寝ている八神一真君……オメガモンのおかげで。彼は自分の力を使って命がけで貴方を助けた。でも私達は知りたいの。貴方が一体どういう人間で、どうしてカオスモンになったのかを」

 

「分かりました。覚えている範囲内で話します」

 

 櫻井竜也。23歳。元々はニキビも無ければ、スマートな体型の好青年だった。大学卒業後、とある株式会社で働いていたが、1年と少しで退職してしまう。

 その理由は同じ職場の人間から受けた嫌がらせだった。何の理由もなく、理不尽な嫌がらせに耐え切れず、社長に言っても取り合ってくれなかった事から、彼は会社を辞めて再就職するしか無かった。

 人間が悪の道に進む時、そこには必ず何かしらの外部的な要因がある。竜也は再就職活動を始めるが、両親との不仲や中々決まらない就職先もあり、次第に暴飲暴食となって今の体型となってしまった。

 ひきこもりとなってしまい、両親に見捨てられた竜也。そこにやって来たのはカオスデュークモン。彼は竜也に1つの提案をした。それは悪魔の囁きであり、悪魔との契約だった。

 

―――このまま社会に、両親に見捨てられるくらいだったら見返してやれ。実は君にしか頼めないとある実験がある。その実験を受けて協力してくれれば、君の願いは何でも叶える。

 

 引きこもりから抜け出したい、今の自分を変えたい。また前みたいに働きたいと願っていた竜也は、カオスデュークモンの頼みを二つ返事で了承した。

 その結果、バンチョーレオモンとダークドラモンの『電脳核(デジコア)』を移植され、カオスモンとなってオメガモンと戦い続けた。

 しかし、カオスモンとなってから人間の姿には戻れず、自分がカオスデュークモンに利用されていた事には薄々気が付いていた。

 

「俺はとんでもない事をしてしまいました……自分が情けないです」

 

「竜也君。確かに貴方がやった事は許されない事。でも貴方は誰も殺していないし、何かを傷付けた訳でもない。まだやり直せるわ」

 

「何を悩んでいるのかまでは分からない。でも貴方と同じような悩みを抱えた人は世の中には沢山いるわ。色んな人と話をして自分で考え、そして決めた答えを貫けるようになろう」

 

「私達は仕事があるからここで失礼するわ。何かあったら呼んで良いよ」

 

 鏡花と優衣が病室から出ていくと、一人残された竜也は考える。自分はこれから何をどうすべきなのか。どのように生きていけば良いのか。

 先ずは就職する事。そして元の体型に戻す事。でもその前にカオスモンになった事とどう向き合っていくのか。それらの事を考える。

 

「でも先ずは……八神一真さん。オメガモン……ありがとう」

 

 それでも最初にする事がある。自分を助けてくれた八神一真ことオメガモンにお礼を伝える事。彼は隣で寝ているが、それでも伝えるしかない。

 起きた時にまた改めて伝えよう。そう思って竜也はもう1度目を閉じた。人間として生きている事に感謝しながら。

 

 

 

 それから数日後。オメガモンこと八神一真が検査入院で戦線離脱した為、パラティヌモンが“デジクオーツ”関連の事件に対応する事になったが、何の事件も起きずにこのまま平穏無事に終わると思われた。

 しかし、そうは行かないのはこの世の中だ。ある日、とある山道を走っていた車がカードレールに衝突するという事故が起きた。車の運転席に乗っていた男性は、“黒い竜のような人間を見た”と目撃証言を残している。

 

「“黒い竜のような人間”……間違いなくブラックウォーグレイモンよね」

 

「鏡花もそう思うか。私もそうだと思う」

 

 “電脳現象調査保安局”の本部長室。新聞を読みながら薩摩と鏡花が話している。話題は数日前に起きた出来事。“黒い竜のような人間”の正体は恐らくデジモン。その名前はブラックウォーグレイモン。

 “漆黒の竜戦士”として恐れられる、ウィルス種のウォーグレイモン。ウォーグレイモンとは考え方や思想も全て正反対だが、自らの正義の為に生きている。卑怯や卑劣な事を心底嫌い、同じウィルス種でも低俗なデジモンは仲間だとは思っていない。どういった経緯でウィルス化してしまったのかは謎で、背中に装備している“ブレイブシールド”には勇気の紋章が刻まれていない。

 しかし、謎が幾つか残る。そのブラックウォーグレイモンが“デジクオーツ”に迷い込んだとして、どうして人間界に干渉して来るのか。とても干渉してくるようなデジモンには思えないからだ。

 

「パラティヌモンに調査を依頼しよう。恐らく何かがあるな」

 

「えぇ。そうしましょう」

 

 薩摩はパラティヌモンに“デジクオーツ”の調査を依頼した。それはブラックウォーグレイモンが絡んだ事件の調査の依頼に他ならない。

 そして薩摩の予感は当たっていた。今回の事件は今までの事件と決定的に異なる所があるという事が。

 

 

 

 とあるデジタルワールドに1体の漆黒の竜人がいた。彼は普通のデジモンではなく、ダークタワーという呪いの塔が百本集って生まれた。いわばダークタワーデジモンと呼ばれるデジモンだった。

 存在するだけで世界のバランスを崩す呪われたデジモン。悪い事をした訳ではなく、ダークタワーから生まれてしまった事が彼の不幸だった。しかし、最大の不幸は普通のダークタワーデジモンにはない“心”を持っている事。

 “心”を持った事で彼は苦しんだ。何故自分は生まれたのか。何故“心”を持ってしまったのか。その答えを探している最中、とあるデジモンから諭された。至った過程が何であれ、如何なる存在にも必ず意味があると。

 自分の存在を許容出来る世界を探して様々な世界を放浪したが、そんな世界は存在しなかった。自身の生まれの決着を付けようと自分を生み出した者を抹殺しようとしたが、3体のパートナーデジモンとの戦いで心を動かされた。

 殺す事ではなく、説得する事に考え方を変えたが、真の黒幕から人間を庇って致命傷を受けた。最後の力を振り絞り、ダークタワーで出来ていて、世界に悪影響を与えている自分の身体の性質を使って消滅した。デジタルワールドと光が丘とのゲートを封印する為の生贄となった。

 ブラックウォーグレイモンの死後、デジタルワールドの封印を行った地にて、ブラックウォーグレイモンを模した文様が現れた。ブラックウォーグレイモンは自分の存在意義に対して何らかの答えを見つける事が出来たのだろうか。それは誰にも分からない。

 

「貴方がブラックウォーグレイモンですね?」

 

「そうだ。俺の名前を知っているお前は何者だ?」

 

 “デジクオーツ”を低空飛行で移動しているパラティヌモン。彼女の目的はブラックウォーグレイモン。彼から人間界で起きている事件の聞き込み調査を行い、場合によっては戦闘を行ってデジタルワールドに戻さないといけない。

 彼女の目の前に1体のデジモンが現れた。黒い漆黒の体に白色の髪を棚引かせ、鈍く光る銀色の頭部に胸当てを付け、全身を漆黒の鎧で覆い包み、背中に翼のような物を装備し、三本の鍵爪の様な刃を装備した肘まで覆う手甲を両腕に装備したデジモン。

 

「私はパラティヌモン。ここ最近人間界で起きている事件について調査をしています。最近人間界で貴方に似た姿をしたデジモンが目撃されていますが、何か心当たりはありますか?」

 

「あぁ、そのデジモンは俺だ。人間界で事件を起こしたみたいだな。それは謝ろう。済まなかった」

 

 そのデジモンこそがパラティヌモンが探していたブラックウォーグレイモン。早速聞き込み調査を行うと、ブラックウォーグレイモンはあっさりと自白した上で謝罪した。

 これはとても珍しいケースだ。大抵のデジモンは自分の罪を認めず、悪足掻きとして攻撃して来るが、ブラックウォーグレイモンは正反対の行動をした。

 

「……意外ですね。自白するなんて」

 

「隠した所でどうせバレるのが分かっているからな。俺だって事件を起こしたくて起こした訳じゃない。俺はただ逃げたいだけなんだ」

 

「逃げたいだけ? それはどういう事ですか?」

 

「俺が恐れているのはとあるデジモンが人間界とデジタルワールドを支配する事。俺は一度死んだが蘇った。だが蘇らせたデジモンの目的を知ってしまったから逃げている。俺の邪魔をするのなら……お前を倒す!」

 

 まるで何かに追い詰められているようだ。そんな感じがするブラックウォーグレイモンは両腕に装備したドラモンキラーを構え、パラティヌモンに向けて駆け出す。パラティヌモンを倒して人間界に逃亡するつもりだ。

 戦闘は避けられないと悟ったパラティヌモン。両腰に携えているパラティヌス・ソードを引き抜き、背中の翼から光を放出させながら突進を開始する。

 

 

 

『ウオォォォォォォォォーーーー!!!!!』

 

 パラティヌモンとブラックウォーグレイモン。2体の究極体デジモンは相手との間合いを詰め、お得意の近距離戦に持ち込んだ。

 パワーと突進の勢いを乗せながら、パラティヌモンはパラティヌス・ソードを振り下ろし、ブラックウォーグレイモンはドラモンキラーを突き出す。

 お互いが繰り出した武器の一撃が激突した瞬間、甲高い金属音が鳴り響くと共に当たりに凄まじい衝撃波が撒き散らされ、周囲一帯を悉く薙ぎ払っていく。

 その中でパラティヌモンとブラックウォーグレイモンは一度背後に飛び退き、両腕の武器を構え直しながら相手の様子を伺う。

 

―――このブラックウォーグレイモンは強い。普通のデジモンでもない。

 

 パラティヌモンはブラックウォーグレイモンが普通のデジモンではない事を見抜き、その強さを剣を交えて直接感じていた。

 このブラックウォーグレイモンはダークタワーデジモン。“心”を持ったダークタワーデジモン。しかもウォーグレイモンとインペリアルドラモン・ファイターモードの2体がかりでようやく引き分けに持ち込んだ程だった。

 

―――久し振りに強い相手に出会えた。最後に戦う相手としては悪くない。最高だ!

 

 それはブラックウォーグレイモンも同じだった。前世では戦えなかった自分よりも強い相手、それがパラティヌモン。この戦いが自分にとって最後の戦いと決めているブラックウォーグレイモンにとって、最後の相手が強敵である事に歓喜を覚えた。

 再開する両者の戦い。先に仕掛けたのはパラティヌモンだ。刀身にエネルギーを込めながら振り抜き、パラティヌス・ソードから黄金の光を伸ばす。

 

「何!?」

 

 ブラックウォーグレイモンが両腕を交差し、ドラモンキラーで黄金の剣光を防いでいる隙に、パラティヌモンは背中の翼から光を放出させると共に一気に加速した。

 一瞬で相手との距離を詰めた勢いを両腕に乗せながら、両手に握るパラティヌス・ソードを連続で突き出す。

 両腕のドラモンキラーで連続刺突を防いでいく中、ブラックウォーグレイモンは右足を蹴り上げる。それをパラティヌモンは左手に握る聖剣で防ぎ、右手に握るパラティヌス・ソードから刺突を繰り出した。

 それを左腕のドラモンキラーで防ぎつつ、ブラックウォーグレイモンは右腕のドラモンキラーを振り下ろす。

 

「『ドラモンキラー』!!!」

 

「ハァッ!!」

 

 パラティヌモンは左手に握るパラティヌス・ソードで受け止め、その刀身から黄金の光を伸ばしながら一気に振り抜いた。

 その一閃をブラックウォーグレイモンは咄嗟に頭を下げて躱し、左腕に装備しているドラモンキラーを突き出した。パラティヌモンは半歩下がって避けると、右手に握る聖剣を振り上げて右斬り上げを繰り出す。

 

「ウオオオォォォォーーーー!!!!!」

 

 咄嗟に背後に飛び退き、パラティヌモンが右斬り上げを躱したブラックウォーグレイモン。構えを取り直して一瞬で距離を詰め、右腕のドラモンキラーを振り抜く。

 パラティヌモンは左手のパラティヌス・ソードで受け止めると共に、右手に握る聖剣を下から振り上げて逆風斬りを繰り出す。

 それに対してブラックウォーグレイモンは右膝に付けている膝当てで逆風斬りを受け止め、右足を蹴り抜いてパラティヌモンを後退させると、一歩踏み込んで右腕のドラモンキラーを振るう。

 左手に握るパラティヌス・ソードを逆手に持ち替えて攻撃を防ぎ、パラティヌモンは右手に握る聖剣を振り下ろして唐竹斬りを繰り出すが、ブラックウォーグレイモンは両腕を瞬時に背中に回した。

 

「『ブラックシールド』!!!」

 

―――背中に付いている物は盾だったのか!

 

 ブラックウォーグレイモンは背中に翼のように装備されている2つの物を両腕に装着して前に突き出し、盾のように合わせながら唐竹斬りを防ぐ。

 背中に装備されていたのが盾になるアイテムだと気付いたパラティヌモン。その隙にブラックウォーグレイモンはブラックシールドを背中に戻し、空高く飛び上がって両腕のドラモンキラーを頭上で合わせて高速回転しながら自身の体を漆黒の竜巻に変え、パラティヌモンに向かって突撃を開始する。

 

「ウオオオォォォォーーーー!!!!! 『ブラックトルネード』!!!」

 

「『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 それを見たパラティヌモンはパラティヌス・ソードの1本を両手に握り締め、刀身から黄金の光を放ちながら全力で振るう。

 漆黒の竜巻は空中で凄まじい速度で回転しながら、黄金の光は眩い輝きを放ちながら真正面から激突する。周囲一帯に凄まじい衝撃波が撒き散らされる中、2体の究極体デジモンはお互いを負かそうと更に力を込める。

 竜巻の速度は上がり、大きさも巨大になる一方、黄金の光の輝きも増していき、その太さも巨大になっていく中、2つの巨大な力が反発し合った結果、超爆発が巻き起こる。

 

「グワッ!!」

 

「ガァッ!!」

 

 パラティヌモンとブラックウォーグレイモン。両者の力は拮抗していたようだ。轟音を辺りに響かせながら漆黒の竜巻と黄金の光が消滅し、2体の究極体デジモンはお互いに吹き飛ばされた。

 地面に叩き付けながらも先に立ち上がったのはブラックウォーグレイモン。両手の間に赤いエネルギー球を作り上げ、パラティヌモンに向けて投げ付ける。

 立ち上がったパラティヌモンが左手に握るパラティヌス・ソードを振るい、赤いエネルギー球をかき消している隙に、ブラックウォーグレイモンはパラティヌモンとの間合いを詰めて右腕のドラモンキラーを振り抜く。

 

「『ドラモンキラー』!!!」

 

「チィ!!」

 

 右手に握るパラティヌス・ソードで受け止めながら振り抜き、ブラックウォーグレイモンを弾き飛ばすが、ブラックウォーグレイモンは空中で体勢を立て直して着地すると共に、両手の間に赤いエネルギー球を作り上げて投げ付ける。

―――また先程と同じ攻撃か。そう思いながらパラティヌモンが聖剣を振るって赤いエネルギー球をかき消している間に、ブラックウォーグレイモンはパラティヌモンとの間合いを詰めて右腕のドラモンギラーを突き出した。

 左手に握るパラティヌス・ソードで受け止めながら、パラティヌモンは右手に握る聖剣をブラックウォーグレイモンの胸部目掛けて薙ぎ払う。たたらを踏んで後退するブラックウォーグレイモンを右足で蹴り飛ばすおまけ付きだ。

 

「『ウォーブラスター』!!!」

 

 蹴り飛ばされながらも立ち上がったブラックウォーグレイモン。更なる追い打ちをかけるようとパラティヌモンは背中の翼から光を放出するが、ブラックウォーグレイモンは両手の間にエネルギー弾を作り上げ、連続でパラティヌモンに向けて撃ち出す。

 背中の翼から光を放出しながら超神速移動を開始し、『ウォーブラスター』を一瞬で掻い潜ったパラティヌモンが目にした物。それは大気中に存在している負の力を両手の間に集中させているブラックウォーグレイモンだった。

 

「『ガイアフォース』!!!」

 

「『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

 ブラックウォーグレイモンは赤く光る巨大なエネルギー球を投擲する一方、パラティヌモンは全身を黄金の光で覆い包んで突進していく。

 『ガイアフォース』を真正面から打ち破るつもりだ。2つの必殺奥義はお互いを撃ち破ろうと鬩ぎ合うが、若干の拮抗を打ち破って黄金の光が突き進み、ブラックウォーグレイモンと激突した。

 

 

 

「……俺の負けか」

 

 激戦を制したのはパラティヌモン。敗者のブラックウォーグレイモンは地面に倒れ伏せている。立ち上がる力が残されていないようだ。

 真っ向勝負で敗北したのは何気にこれが2回目。数少ない敗北経験となったが、何処か寂しそうにしている。

 

「さぁ俺を殺せ。敗者である俺をお前は好きに出来る」

 

「殺す? それは出来ません。敗者を殺すのは私の流儀ではありません。敗者を丁重にするのが私の流儀です」

 

「フッ、変わった奴だなお前は」

 

「貴方には言われたくないです」

 

 ブラックウォーグレイモンは敗者である自分を殺すようパラティヌモンは頼むが、パラティヌモンは自分の正義に反すると言って即座に却下した。

 それどころかブラックウォーグレイモンの手を取って立ち上がらせた。しかし、ここで異常事態が起きた。本来であればここでブラックウォーグレイモンはデジタルワールドに強制送還されるのだが、何時まで経ってもその兆候が見れない。

 

「何故です? 何故デジタルワールドに戻らないのですか?」

 

「俺はデジタルワールドに戻れない。いや……そもそも戻る世界なんて存在しない。パラティヌモン、俺は普通のデジモンではない。ダークタワーという黒い塔が集まって生まれたダークタワーデジモンなんだ」

 

 このブラックウォーグレイモンはダークタワーデジモン。どういう訳か復活して何者かから逃げていた。これは完全なイレギュラーな事態だ。

 一体誰が何の為にブラックウォーグレイモンを蘇らせたのか。そのヒントを得ようと、パラティヌモンはブラックウォーグレイモンに質問を始める。

 

「ダークタワーデジモン……そういうデジモンなのですね、貴方は」

 

「あぁ。それに……俺を蘇らせた奴から逃げている最中、俺は正常なデータを失った。元々正常なデータなどないがな……今の俺はデータの抜け殻、デジモンの出来損ないに等しい」

 

「そんな事はありません! 貴方はデジモンです! 例え普通のデジモンでないとしても、ダークタワーデジモンだとしても、貴方はブラックウォーグレイモンと言う名前の立派なデジモンです!」

 

 本来であれば、今のブラックウォーグレイモンは生きているだけでもやっとな状態。それでもパラティヌモンと互角以上に渡り合えた。

 その理由は“生きたいという意思”にある。例え今はデータの抜け殻だったとしても、元々がダークタワーデジモンだとしても、生きたいという強い願いを否定する事は誰にも出来はしない。

 

「優しいんだな……パラティヌモンは。俺を蘇らせた奴は恐ろしいデジモンだ。俺を生贄に捧げ、邪悪なるデジモンを蘇らせようとしている」

 

「邪悪なるデジモン……?」

 

「奴は俺の全てを奪う為に、俺のデータを吸収しようとした。だから俺は隙を見て逃げて来た。奴に見つかったら取り込まれてしまう。そいつの名前は……」

 

「ッ! どうやら口封じをしに来たようですね……」

 

「邪魔ナデジモンヨ……消エ失セロ!」

 

 パラティヌモンとブラックウォーグレイモンの目の前に現れた者。それは山のように巨大で得体の知れぬ何かだった。デジモンの命を吸収する邪悪なる存在。

 上半身が山で、下半身が岩石、胴体がデータ粒子で出来たデジモンなのかよく分からない化け物。赤い瞳を輝かせ、赤い閃光をブラックウォーグレイモンに向けて放つが、パラティヌモンは右手に握る聖剣を振るってかき消す。

 それを見ても化け物は怯まない。どうやらパラティヌモンとブラックウォーグレイモンの戦いを見ていたようだ。今度は超音波を放って来た。

 

「グアアアアァァァァァッ!!!!!」

 

「頭が痛い……!」

 

 脳に凄まじい苦痛が伝わって来たのか、パラティヌモンとブラックウォーグレイモンは片膝を付きながら苦しみに満ちた声を上げる。

 その隙を見逃す化け物ではない。全身から触手を伸ばし、パラティヌモンとブラックウォーグレイモンを捕らえようとする。

 パラティヌス・ソードを振るって触手を弾き返すパラティヌモンだったが、先程の戦いのダメージで動けなくなったブラックウォーグレイモンを庇い、触手に捕らわれてしまった。

 

「クッ、しまった!」

 

「パラティヌモン!」

 

「私の事は気にせず逃げて下さい……人間界には沢山のデジモンがいるので、彼らに助けを求めればどうにかなります! また会う時は……良き仲間として共に戦いましょう!」

 

 万物を一刀両断するパラティヌス・ソードですら、弾き返すのがやっとの強度を持つ化け物の触手。しかも神速の速さで放たれる。更には頑丈に出来ている。

 そのまま化け物に取り込まれそうになるパラティヌモン。彼女を助けようと動こうとするブラックウォーグレイモンだが、身体は動かない。片膝を再び付いてしまった。

 

 

 

(俺は失うのか? 折角出来た仲間を……あの時と同じじゃないか!)

 

 ブラックウォーグレイモンが思い出したのは前世の死に際。選ばれし子供達の家族を守る為に致命傷を負い、最後の力を振り絞って“人柱”になった時の事。

 あの時はウォーグレイモンや八神ヒカリといった誰もが悲しみ、涙を流していた。きっと今の自分も彼らと同じなのだろう。

 

(俺を救おうと、助けようとしているデジモンがいる……そのデジモンは今にも死にそうなんだ! 動け! 動いてくれ俺の身体! 助けたいと思ったデジモンが出来たんだ!)

 

―――僕達、友達になれると思う。いや、きっとその為に君は心を持ったんだ!

 

―――そこへ至るまでの過程がいかなる物であったとしても、その存在には必ず意味があるのだ。

 

―――生きるってそういう事だもん! 何でも上手く行くとは限らない……みっともない……もう皆の前に顔を出せないと思ったって、それでも我慢して生きていかなきゃならないんだ!

 

(俺は決めたんだ。無様でも生きると。俺にも守りたい物がある! 誰でも良い。もう1度俺に戦う力を与えてくれ!)

 

 ブラックウォーグレイモンが強く願ったその瞬間、全身を覆い尽くすかのように膨大な光の奔流が発生した。

 一体何が起きたのか。化け物は触手を一度停止させた。パラティヌモンも見つめる中、周囲一帯に渦巻く光の中でブラックウォーグレイモンは叫んだ。

 

 

(これは……進化の光!? ありがとう……もう大丈夫だ。俺はこれからも生きる。これからも戦う。生きる意味を与えた皆の為に!)

 

「ウオオオオォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーー!!!!!! ブラックウォーグレイモン!!! 超究極進化!!!」

 

「馬鹿ナ!?」

 

「超究極進化!?」

 

 ブラックウォーグレイモンが上げた雄叫びの意味。“超究極進化”という単語に耳を疑った化け物とパラティヌモンが信じられないという顔をしている中、ブラックウォーグレイモンは光に包まれていく。そして光が消失した後に新しいデジモンが姿を現した。

 全身を漆黒の聖鎧で身を包み、背中に内側が青色で、外側が漆黒のマントを羽織り、右腕に漆黒の肩当てを付け、右手がブラッククーレスガルルモンの頭部を象った籠手となっている。左肩に漆黒の盾―『エレックシールドΩ』を装備し、左手がブラックブリッツグレイモンの頭部を象った籠手となっている。

 

「オメガモン・Alter-B!!!」

 

『ッ!?』

 

 ブラックウォーグレイモンが進化した聖騎士の名前はオメガモン・Alter-B。オメガモンの亜種であり、新たなる可能性。オメガモンとは別個体だが、2体のデジモンの特性を併せ持ち、マルチタイプな性能は変わず、強さも同等な聖騎士型デジモン。

 超究極進化を終えたオメガモン・Alter-Bの姿を見て、その進化体にパラティヌモンは目を見開き、化け物は驚愕の声を上げるしかない。

 

「有リ得ナイ……オ前ハ進化出来ナイ筈ダ!」

 

「確かに今までの俺なら進化する事が出来なかった。だがお前達がデータの大半を吸収してくれたから、俺は進化する事が出来た。これだけは礼を言うよ」

 

「オノレ……!」

 

 ブラックウォーグレイモンは強くなれるとは言えど、本来であれば進化どころか成長もする事が出来ないダークタワーデジモン。

 しかし、“心”を持ったダークタワーデジモンであり、データの大半の吸収された事で進化する事が出来た。ダークタワーデジモンではなく、1体のデジモンに新生する事が出来た。これは何気に凄い事だ。

 

「パラティヌモン、今助けるぞ!」

 

「グオオオオッ!!!!」

 

 オメガモン・Alter-Bは左腕を軽く振るい、ブラックブリッツグレイモンの頭部を象った籠手から巨大な砲塔を展開した。パラティヌモンを捕らえている触手に照準を合わせ、プラズマ弾を撃ち込む。

 プラズマ弾は触手に直撃してパラティヌモンを解放した。化け物が苦しみの声を上げる中、パラティヌモンは空中で体勢を立て直して着地する。

 

「ブラックウォーグレイモン……なんですね」

 

「心配をかけたな。でももう大丈夫だ。2人で奴を倒そう!」

 

 オメガモン・Alter-Bの言葉に力強く頷いたパラティヌモン。彼女の右手には鍵の形をした一振りの剣が握られている。それを空間に差し込み、捻る事で“何か”の鍵を開けた。

 その鍵剣が消えた代わりに、1本の剣を取り出した。螺旋を描いたような刀身が特徴の聖剣。聖剣の名前はカラドボルグ。アルスター伝説の名剣。

 カラドボルグを握った途端、パラティヌモンが放つ『波動(コード)』がより強大さを増していく。それは隣にいるオメガモン・Alter-Bですら圧倒し、化け物が震え上がる程。これが本来のパラティヌモンの力なのかもしれない。

 厄介なパラティヌモンを先に潰そうと思ったのだろう。化け物が赤い瞳から光線を放って来ると、パラティヌモンは右手に握るカラドボルグを一閃した。

 

「“轟け”! 『カラドボルグ』!!!」

 

「グオオオオッ!!!!」

 

 同時にカラドボルグの刀身から虹の如き剣光が伸びていく。“振り抜いた剣光によって丘を三つ切り裂いた”という伝承がある聖剣。その一閃が赤色の光線を消し去り、化け物の胴体を薙ぎ払う。

 そこに追い打ちをかけるのはオメガモン・Alter-B。空高く飛び上がり、自由自在に移動しながらグレイキャノンからプラズマ弾を連射していく。集中的に狙うのは化け物の弱点と思われる胴体部分。

 カラドボルグの剣閃とプラズマ弾。2体の聖騎士型デジモンの連続攻撃を胴体部分に喰らっていくが、化け物は持ち直して口部分から赤色の巨大な閃光を放つ。

 

「ウオオオオッ!!!!」

 

「良し! 決めるぞ!」

 

 オメガモン・Alter-Bは右腕から黄金の聖剣を出現させた。その聖剣の名前はガルルソード。それを薙ぎ払って化け物に向けて赤色の巨大な閃光を跳ね返す。

 顔面に強烈な一撃を受けて動きを止めた化け物。それを見た2体の聖騎士型デジモンは止めを刺そうとお互いの武器を構え、エネルギーを注ぎ込む。

 

「『虹霓轟く螺旋の聖剣(カラドボルグ)!!!』」

 

「『グレイキャノン』!!!」

 

「ギャアァァァァァァァァァーーー!!!!!」

 

 パラティヌモンはカラドボルグを薙ぎ払い、触れた物を空間切断する虹色の剣光を放ち、オメガモン・Alter-Bは左腕のグレイキャノンからプラズマ砲を撃ち出す。

 胴体を一刀両断されながら空間切断され、プラズマ砲に呑み込まれた化け物は苦痛に満ちた雄叫びを上げながら、超爆発の中に消えていった。その後にデータ粒子が周囲一帯に拡散されていく。

 

 

 

「これからはどうしますか?」

 

「分からない。俺は別のデジモンとなり、追っていた奴を倒した。行く場所も帰る場所もない」

 

「でしたら私のいる所に来ませんか? そこは人間とデジモンが共に仕事をしているので」

 

「人間界にそんな場所があるとは……ありがとう。少しは生きる道が見えて来た」

 

 戦いを終えた後、パラティヌモンとオメガモン・Alter-Bは話をしていた。問題はオメガモン・Alter-Bの今後。行く場所もない。帰る場所もない。そんな彼はこれからどうすれば良いのか。悩むしかない。

 そこでパラティヌモンが提案したのは“電脳現象調査保安局”に来る事。そこから仕事も出来るし、社宅もあるから人間界で暮らしていける。彼女も普段は社宅暮らし。

 その提案に目を細め、了承したオメガモン・Alter-Bと共にパラティヌモンは“デジクオーツ”を後にする。共に歩きながらパラティヌモンは考える。

 

―――決戦の日が近付いている。戻ったら薩摩さん達に報告しなければ。

 

 パラティヌモンの考えは当たっている。今回の事件はこれまでのようなバトルの終焉を告げ、最終決戦に向けた戦いの激化を意味していた。

 ブラックウォーグレイモンは特に悪い事はしていない。結果的には邪悪なるデジモンの存在を示唆した功労者だからだ。しかもオメガモン・Alter-Bとなり、自分達の味方になってくれた聖騎士。

 疑問があるとしたら1つだけ。何故あのような事をしたのか。リスクを承知の上で逃げ続けたかったのか。その答えも1つだけだ。邪悪なるデジモンの存在を一人でも多くの者に伝えようと考えた為。

 とにかく今回のような事態は十二分に有り得る。自分に隠されている特殊能力を使えるようにしなければ。そう思って自分を奮い立たせるパラティヌモンだった。

 




LAST ALLIANCEです。最新話読んでいただいてありがとうございました。
今回はブラックウォーグレイモンが登場し、まさかの進化を行ったサプライズな回となりました。個人的に大好きなんですよ、ブラックウォーグレイモン。

なのでこの小説でも出したいと思っていて、でもどうせ出すなら進化させてあげたいと思っていました。ファンサービスなのかエゴなのか分かりませんが。
デジモン図鑑を見ながらガイオウモンにしようかなとか、やっぱりX進化かなとか思っていたら、気が付いたらオメガモン・Alter-Bに決まってました。
公式設定とはかなり違う設定となり、後で設定集で紹介しますが、単純に言えば”黒くなっただけのオメガモン・Alter-S”となりました。
オメガモン・Alter-Sも第2章で出ます。出します。それは確定しています。

そしてパラティヌモンの真の力の一部が明かされましたが、以前『Pixiv』でも似たようなデジモンを出していました。知っている人は分かるでしょうけど。
でもかなり強過ぎたので設定を変えたり、制約を付けたりしました。
下手なチートキャラはあんまり良くないです。はい。

それと今回”デジモン化”について触れましたが、相当ヤバい状態です。
普段から戦っていたら嫌でもああなります。仕方ないです。
第1章が終わる頃には完全にオメガモンになってます。
この作品では、”デジモンとなる事・力を得る事=人間を捨てる事・日常生活を捨てる事”という事になってます。序盤の一真がそうでしたけど。
等価交換の法則というか、デジモンとの契約となります。
今回本格的に登場したカオスモンの中の人=櫻井竜也。彼も第2章で再登場します。

久し振りに長い後書きとなりました。
普段からこれくらい書きたいですし、本編の方ももう少し頑張れると思いました。

皆さん。よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。
最近はちょっと寂しいので本当に頂ければかなり頑張れます。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

人間界が”デジクオーツ”に書き換わる現象が発生。その犯人はデクスドルグレモン。
”デジクオーツ”からの宣戦布告に、オメガモン達が立ち向かう!
初戦の相手はデクスモン。果たしてどう戦うのか!?

第24話 最終決戦開始! 聖騎士連合VSデクスモン






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第24話 最終決戦開始! 聖騎士連合VSデクスモン

今回からいよいよ最終決戦開始の回となります。先ずは前編から。
ちなみに最終決戦なのは”デジクオーツ”だけでなく、主人公の八神一真にとっても最終決戦となります。

ではお楽しみ下さい!



「今日でやっと退院か……」

 

 カオスモンとの最終決戦から1週間が過ぎたある日。一真は“デジモン化”の進行具合の検査を行い、それから1週間安静にするように鏡花から告げられた為、渋々“電脳現象調査保安局”の病院に入院していた。

 その1週間が過ぎてようやく退院出来るようになった。久し振りに外の空気が吸う事が出来る。それだけで一真は安心している。

 退院の手続きを終えて病院を出て、“電脳現象調査保安局”の本部長室に向かっていく道中、一真は2体の聖騎士型デジモンに会った。

 

「パラティヌモン、お疲れ様!……えっと、どちら様ですか?」

 

「お疲れ様です、一真さん。退院されたんですね。良かったです」

 

「初めまして。俺はオメガモン・Alter-B。元ブラックウォーグレイモンだ」

 

「えっ?……えぇ~~~~~~~!?!?」

 

 2体の聖騎士型デジモンはパラティヌモンとオメガモン・Alter-B。パラティヌモンとは毎日会っている為、他愛のない会話が出来ている。

 しかし、オメガモン・Alter-Bとは初対面となる上に、本人の口からその正体が明かされた為、一真でも驚くしかなかった。

 苦笑いを浮かべたパラティヌモンは一真に全てを説明した。ここ最近起きていた事件はブラックウォーグレイモンが犯人だった事。彼は邪悪なデジモンから逃げていた事。“デジクオーツ”の端末との戦闘でオメガモン・Alter-Bに超究極進化した事。

 

「そうだったんだ……何て呼べば良いかな? 僕はオメガモンだけど、フルネームだと長いし……」

 

「Alter-Bと呼んでくれ。君の事はパラティヌモンから聞いている。オメガモンとなった人間……先輩としてよろしく頼む」

 

「えぇっ!?」

 

「頼みますよ先輩」

 

「先輩言うな!」

 

 オメガモン・Alter-Bは名前が長い為、“電脳現象調査保安局”ではAlter-Bと呼ぶ事となった。オメガモンとして、“電脳現象調査保安局”の局員として先輩となった一真。パラティヌモンとオメガモン・Alter-Bに弄られ、これ以後弄られ役として定着するようになった。

 その後は3人揃って本部長室に入室した。一真は退院の報告を、パラティヌモンとオメガモン・Alter-Bは“デジクオーツ”での戦闘の一部始終を報告した。“デジクオーツ”での戦闘を終えた後、必ず本部長室に来て報告をしなければならない。

 

「一真君は退院おめでとう。また戦わせるのは酷だけど、済まないな」

 

「いえ、気にしていないです。先ずは“デジクオーツ”をどうにかしないとなので」

 

「パラティヌモンはお疲れ様。初めて本気を見せたみたいだな。その力、次の戦いでも見せて欲しい」

 

「分かりました」

 

「ブラックウォーグレイモン……オメガモン・Alter-Bか。色々大変だったみたいだな。だがここに来たからにはもう大丈夫だ。安心してくれ。後で詳しい話があるから担当の者に聞くように」

 

「あぁ。ありがとう」

 

 一真、パラティヌモン、オメガモン・Alter-B。彼らに一言ずつ労い等の言葉をかける薩摩。言葉を聞き終えると、オメガモン・Alter-Bは鏡花と共に本部長室を後にした。社宅等の詳しい説明を別室で受ける為だ。

 本部長室にいる一真、パラティヌモン、薩摩、そして薩摩の肩に乗っているクダモン。4人は顔を寄せ合い、今回の戦闘について話し合いを始める。

 

「敵の様子はどうだった?」

 

「“デジクオーツ”の端末らしき物が出て来ました。敵は本気です。近いうちに決戦があるでしょう」

 

「そろそろですね……何かワクワクします!」

 

「あぁ。今から備えよう。明日にでも決戦に挑めるように」

 

 一真、パラティヌモン、薩摩、クダモンは明日にでも決戦が始まっても大丈夫なように、改めて決戦計画を見直し始める。

 事前に配布されている決戦計画。誰が何を担当するのか。そういった確認は何度行っても悪い事は何一つないからだ。

 

 

 

 それから三日後の朝。一真は自宅から自家用車で“電脳現象調査保安局”に向けて出勤していると、目の前の景色が何かおかしい事に気が付いた。

 目の前に広がる道路や建物、そして人間。あらゆる物がデータ化されて“デジクオーツ”に取り込まれている。いや街その物が“デジクオーツ”となっている。

 

「“デジクオーツ”だと!? 馬鹿な……僕は出勤しているだけなのに!」

 

「キシャアァァァァァァァッ!!!!!」

 

 まさかの光景に一真は驚きながらも近くの駐車場に入って車を停め、車内から出て“デジクオーツ”となっている街を呆然と見ていると、そこに1体のデジモンが雄叫びと共に襲い掛かって来た。

 頭に銀色のアーマーを付け、背中の四枚の赤い翼を生やした四足歩行の竜のような姿をしたデジモン。デクスドルグレモンが一真に襲い掛かって来た。

 

「一真さんに手を出すな!」

 

「キシャアァァァァァァァッ!!!!!」

 

 不意打ちを仕掛けて来たデクスドルグレモン。何者かの声が聞こえて来ると同時に、蹴り飛ばされて地面に叩き付けられた。

 デクスドルグレモンは立ち上がろうとするが、その者は右足でデクスドルグレモンの頭を踏み付け、右手に握る聖剣を『電脳核(デジコア)』に突き刺す。

データ粒子に変わりながら消滅していくデクスドルグレモンを見てから、一真は自分を助けてくれたデジモンを見上げる。

 

「パラティヌモン!」

 

「お礼を言うなら後にして下さい。今はそれどころではありません。デクスドルグレモンが大量発生しているのです」

 

「何だと!?」

 

 一真を助けたのはパラティヌモン。社宅を出て“電脳現象調査保安局”に出勤しようとしていた所、“デジクオーツ”になりつつある街を見て調査活動を独自に開始した。

 その途中でデクスドルグレモンの襲撃に遭うが、これを返り討ちにして調査活動を続行していた時、一真のピンチを見て駆け付けて来た。そして今に至る。

 パラティヌモンの言葉を裏付けるように、一真の頭上をデクスドルグレモンの大群が通り過ぎ、その腹部から緑色に輝く粒子を放っていく。

 

「しかもデクスドルグレモン達はこの街を“デジクオーツ”に変えています。お腹から降り注ぐあの粒子で人間界を“デジクオーツ”に書き換えているみたいです」

 

「な、何と言う事だ……!」

 

「今までは人間界とは別に“デジクオーツ”という世界がありました。しかし、今デクスドルグレモン達の大群は人間界と“デジクオーツ”を融合させています。この世界は“デジクオーツ”となった人間界……に成り果ててしまいました。もう元に戻る世界はなさそうですね……」

 

 デクスドルグレモンの大群の腹部から降り注ぐ緑色に輝く粒子。それは人間界を“デジクオーツ”に書き換える効果を持っている。

 今までの“デジクオーツ”は人間界とは別の世界だったが、ついに“デジクオーツ”は人間界を侵略し始めた。これがその第一歩。

 何の予兆もなく、突然始まった侵略。デクスドルグレモンを倒す事しか出来ないパラティヌモンと、何も出来なかった一真は心底から悔しそうな表情を浮かべる。

 

「それなら人間界の皆はどうなるんだ!?」

 

「分からないです。この街だけでなく、世界中のデータ全てを書き換えているので……何処かに消されたか、或いは取り込まれたとしか考えられないです」

 

「そんな……! ハッ! 父さんと母さんも消されるのか!? そんなのあってたまるか! パラティヌモン! 両親を助けに行く! ちょっと付き合ってくれ!」

 

「分かりました。乗って下さい!」

 

 デジモンとなっている一真やパラティヌモン達は大丈夫だが、それ以外の人間達はデータ化されて“デジクオーツ”に取り込まれている。

 その事実に気付いた一真が思い出したのは何よりも大切な家族の存在。家族想いな一真は両親の事を心配し、彼らを助けようとパラティヌモンに頼んだ。

 普段から家族想いな一面を見せていたのだろう。パラティヌモンは一真の頼みを了承し、一真を自分の肩に乗せて一真の家に向かって飛び始める。

 一真の家はまだ“デジクオーツ”に取り込まれていないが、その周囲をデクスドルグレモンが飛び回っている。いずれ“デジクオーツ”に取り込まれるのも時間の問題だ。

 

「奴らは私が食い止めます。今の内にご両親を!」

 

「済まない! 頼んだぞ!」

 

 パラティヌモンの肩から飛び降り、自宅に入る一真。それを確認したパラティヌモンは両腰の鞘からパラティヌス・ソードを引き抜き、デクスドルグレモンの大群との戦闘を始める。

 一真が直ぐにリビングに入ると、そこには防災グッズや非常用持ち出し袋を抱えた一真の両親がいた。これから避難する所だったようだ。

 

「一真! 貴方仕事は!?」

 

「そんな事よりも今は緊急事態だ! この世界が“デジクオーツ”という世界に取り込まれている! 詳しい話は後でするから今は逃げよう!」

 

「わ、分かった!」

 

 一真の必死な顔を見て、事態の深刻さを悟った両親。玄関から外に出たその時、彼らを数体のデクスドルグレモンが取り囲んだ。

 パラティヌモンがデクスドルグレモンの大群と戦闘を行っている隙に、別のデクスドルグレモンが一真を襲いに来たとしか考えられない。究極進化しようにもこの状況ではする事が出来ない。両親を玄関の中に入るように伝えると、一真はデクスドルグレモンを睨みながら、空色の右目から光を放って叫ぶ。

 

「僕の大切な人に……手を出すな!」

 

「キシャアァァァァァァァッ!!!!!」

 

 一真の両手の指から青いエネルギーの刃が伸び、それを見た一真は驚きながらもデクスドルグレモンの1体に向けて斬りかかった。

 合計10本の青いエネルギーの刃に斬り刻まれ、デクスドルグレモンの1体はデータ粒子に変わりながら消滅していった。

 今の技は『カイザーネイル』を再現している。ワーガルルモンの両腕の鋭い鍵爪で相手を切り裂く必殺奥義。

 

「(どうやら僕はオメガモンの進化前のデジモンの力を使えるのか……良いだろう。存分に使わせてもらう!)『メガフレイム』!!!」

 

 “デジモン化”の進行に伴い、一真はオメガモンの進化前のデジモンの技を人間の姿でも疑似的に使用する事が出来るようになった。

 一真は早速試運転に入った。先ずは右手に火炎を出現させて砲弾の形にすると、デクスドルグレモンの1体に向けて投げ付けた。

 今の攻撃は『メガフレイム』。口から超高熱火炎を吐き出し、全てを焼き払うグレイモンの必殺奥義だ。

 『メガフレイム』を顔面に受けてよろめくデクスドルグレモン。その間合いを一瞬で詰め、再び両手から青いエネルギーの刃を発生させ、デクスドルグレモンを斬り刻む。これでもう1体のデクスドルグレモンを片付けた。残るは2体。

 

「『コキュートスブレス』!!!」

 

 一真は両手を獣の口を作るようにして合わせ、前に突き出して全ての物を氷結させてしまう絶対零度の冷気を放つ。

 『コキュートスブレス』に呑み込まれたデクスドルグレモンの1体。瞬時に生命活動を停止し、そのまま氷解していく。

 最後に残ったデクスドルグレモンを倒そうと、一真は大気中に存在する全てのエネルギーを両手の間に集中させ、超高密度の橙色の高熱エネルギー弾を作り上げて投擲する。

 

「『ガイアフォース』!!!」

 

 『ガイアフォース』を喰らったデクスドルグレモンがデータ粒子に変わりながら、消滅していく。その様子を見ている一真の髪が銀色に染まっていく。左側の前髪部分。

 本人はそれを一切気にする事なく、オメガモンに究極進化して玄関に隠れていた両親を肩に乗せて飛び立った。

 

 

 

「街の全域が“デジクオーツ”化されましたね……」

 

「あぁ。パラティヌモン、先程はありがとう。私を助けてくれただけでなく、我が儘に付き合ってくれて」

 

「大丈夫です。親友の頼みは応えるので。それに家族を第一に考えるのは当たり前ですよ」

 

 両親を休ませる為に一度ビルの屋上に降り立ち、街全体を見渡しているオメガモンとパラティヌモン。彼らは既にこの街が“デジクオーツ”となっている事に気付いて表情を険しくさせる。

 自分達が暮らしている街が異世界に変わり果てている。その現実に2体の聖騎士も表情を険しくさせるのも無理はない。

 その話の中でオメガモンがパラティヌモンにお礼を言う。自分を助けてくれた事と、自分の我が儘に付き合ってくれた事。それに対してパラティヌモンは何喰らぬ顔で応じる。

 

「それにしてもパラティヌモンさんは凄いです。こんな状況でも冷静に戦えるなんて……」

 

「前にもこういう事があったのかい?」

 

「いえ、私は元々アーサー王でしたのでこういう事には慣れていました。王たる者、心を動かさずに冷静でいなければ、騎士や民にも動揺が伝わってしまいます。なので心を押し殺し、沈着冷静に対処していました。そうしていると、自然に慣れちゃいました」

 

「息子から聞いていたよ。君がアーサー王だったという事に」

 

「流石ね~一真も見習ってほしいわ」

 

 一真の母親―八神涼子の言葉に照れながらも、苦笑いを浮かべるオメガモン。そんなオメガモンを見て笑顔を浮かべる涼子、総司、パラティヌモン。

 そこに1体のデジモンがやって来た。この前“電脳現象調査保安局”に入ったばかりのオメガモン・Alter-B。どうやらオメガモンとパラティヌモンを探していて、見つけた為、迎えに来たようだ。

 

「無事だったのか……良かった!」

 

「はい。おかげ様で!」

 

「それよりどうしたんだ?」

 

「集まって欲しい。至急作戦会議を行う」

 

 オメガモン・Alter-Bの真剣な表情。それを見たオメガモンとパラティヌモンはお互いに頷き合い、直ぐに“電脳現象調査保安局”に向かっていった。

 余談だが、オメガモンは肩に両親を乗せての移動となり、その間は3体の聖騎士による雑談タイムとなった。それに一真の両親が入り、オメガモンは終始大変だった事は言うまでもないだろう。

 

 

 

 “電脳現象調査保安局”の会議室。そこには既にデジモンが集まっている。薩摩とクダモン。リリスモン、ベルゼブモン、ベルフェモン・スリープモード、デーモン、ルーチェモン・フォールダウンモードの『七大魔王』。

 バグラモン、タクティモン、ブラストモン、ホーリーナイトモンのバグラファミリー。テイルモン、ウィザーモン、パラティヌモン、オメガモン・Alter-B、アルファモン、オメガモン。合計15体のデジモンと1人の人間が会議室にいる。

 

「全員集まったな……これから会議を始める。今日集まってもらったのは他でもない。今日の朝……午前七時五十分過ぎに起きた異常事態の事だ。皆も目にしたはずだ。変わり果てたこの街の事を」

 

 スクリーンに映し出されたのは変わり果てた街の現状。恐らく薩摩はドローンを複数飛ばしながら撮影しているのだろう。

 今日の朝に突然起きた現象。人間界が“デジクオーツ”へと書き換わり、融合しているという現象。全員が真剣な表情を浮かべながら話を聞いている。

 

「デクスドルグレモンの大群によって人間界が“デジクオーツ”となりつつある。同様の事例が支部でも確認されている。幸いな事に、何らかの形でデジモンと関わった者だけは街が“デジクオーツ”になってもデータ化されなかった」

 

 一真の両親がデータ化されなかった理由。それは何らかの形でデジモンと関わったからだ。彼らの場合、一真がオメガモンとなった為、常日頃からオメガモンと関わっているも同然となる。だからデータ化を免れた。

 同様の例は他にもあるのだが、今彼らは避難所となっている場所にいる。そこは高校の体育館。“デジクオーツ”化を免れた数少ない場所は、今では避難所として使われている。

 

「早くこの事件を起こしたデジモンを倒さないと……と言いたいけど、避難所にいる皆はどうするんだ?」

 

「それは大丈夫よ? ベルゼブモン、ベルフェモン、デーモン、ルーチェモンで守るから。でもまだ増えているから、私とウィザーモンもそっちに行くかもね……」

 

「私とホーリーナイトモンは学校の先生だから生徒の安全を優先しなければならない。悪いが戦いには出られない」

 

 今回は全員が戦いに出られる訳ではない。人間達を守る最後の砦となる面々が必要になるからだ。それを担当するのはベルゼブモン、ベルフェモン、デーモン、ルーチェモン、タクティモン、ホーリーナイトモンの6体だ。

 必要に応じてテイルモンとウィザーモンも担当する事になる。それにリリスモンと薩摩とバグラモンが指揮を取る為、実質的な戦力はクダモンが究極進化したスレイプモン、ブラストモン、パラティヌモン、オメガモン・Alter-B、アルファモン、オメガモンの僅か6体だけとなる。

 

「今回の相手は“デジクオーツ”その物を操る強敵。とんでもない相手だ。もしかしてこの前に俺とパラティヌモンが戦った相手と関係があるのかもしれない」

 

「私もAlter-Bの意見に賛成します。上半身と下半身の岩はデジモンのデータを吸収していました。デクスドルグレモンも今まで戦ったデジモンとは色々と違いました」

 

「やはり敵は本気だな。これが“デジクオーツ”との最終決戦であり、一真が人間でいられる最後の戦いになる。例え一真がいなくなっても、私の中で生き続ける。いや私の中で生きている。ならば私は最後まで戦い抜く。それが在るべき姿だ」

 

 “デジクオーツ”という世界その物との最終決戦。リリスモンと薩摩とバグラモンが指揮を取り、スレイプモン、ブラストモン、パラティヌモン、オメガモン・Alter-B、アルファモン、オメガモンが前線で戦う。

 ベルゼブモン、ベルフェモン、デーモン、ルーチェモン、タクティモン、ホーリーナイトモン、テイルモン、ウィザーモンは後方支援。この役割分担でついに最終決戦を迎える事となった。

 

 

 

「人間界のエネルギーを利用して“デジクオーツ”に書き換えているとしたら、真っ先にデクスドルグレモンの大群を倒さないといけない。奴らは普通のデジモンではない」

 

「あぁ。先ずはデクスドルグレモンの大群を殲滅しよう!」

 

 空を覆い尽くす程のデクスドルグレモンの大群。彼らに立ち向かうのはスレイプモン、ブラストモン、パラティヌモン、オメガモン・Alter-B、アルファモン、オメガモン。

 地上にいるのはスレイプモンとブラストモン。残りの4体は空中で迎え撃つ。最初に仕掛けたのはアルファモンだった。

 

「“光弾けろ”! 『エクスプロージョン』!!!」

 

「ウオオオオオォォォォォォーーーーー!!!!!」

 

 アルファモンが黄色の魔法陣を描き、目の前にいるデクスドルグレモン達を爆発させると、パラティヌモンが背中の翼から光を放出させながら突進を開始する。

 両手に握るパラティヌス・ソードが煌めく度に、デクスドルグレモンが瞬く間にデータ粒子となって消滅していく。

 パラティヌモンがデクスドルグレモンの大群相手に無双を繰り広げている間、残りの面々はデクスドルグレモンを掃討し始める。

 

「『グレイキャノン』!!!」

 

「“蒼天に坐せ”! 『ガルルキャノン』!!!」

 

「『ビフロスト』!!!」

 

「『ダイアモンドマシンガン』!!!」

 

 オメガモン・Alter-Bは左腕を軽く振るい、ブラックブリッツグレイモンを象った右手からグレイキャノンを展開し、プラズマ弾を撃ち込む。

右腕を振るってガルルキャノンを展開し、メタルガルルモンの力を解き放ったオメガモン。途端に世界が“ニヴルヘイム”へと変わり、絶対零度の冷気が吹き荒れる冷たい氷の世界となった。

 オメガモンの力で次々と凍結するデクスドルグレモンの大群。僅かな衝撃だけで粒子レベルに消滅していく中、スレイプモンとブラストモンは必殺奥義を繰り出してデクスドルグレモンを殲滅していく。

 このまま行けば終わると思われたが、そう簡単には行かないのが世の中だ。突如として“デジクオーツ”の端末が姿を現した。

 

「あれがこの前の奴か……」

 

「そうだ。それに見ろ!」

 

 その数は単体ではなく無数。その無数の“デジクオーツ”の端末と、デクスドルグレモンの大群が融合を始める。緑色の粒子の中から巨大な1体のデジモンが姿を現した。

 それは背中に赤い翼を六枚生やし、巨大な両腕を持ち、竜に似たような頭部をした四足歩行の巨大なデジモンーデクスモン。

 

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

「デ、デクスモン……」

 

 デクスモンは他のデジモンと違って『電脳核(デジコア)』を持たない為、デジモンに分類されないプログラムの類で仮の姿で現れるが、実体が無いデジモンである。

 『電脳核(デジコア)』を探知して体内に取り込んで分解し、二度と再構成出来ないように処理するという『プロセス0』から『プロセスF』を永遠に繰り返す。

 単純なプログラムなのだが、倒すことは不可能な領域の存在だと推測されている。『電脳核(デジコア)』が無ければ活動を停止させるが、『電脳核(デジコア)』がある限りその活動を止めない。

 

「デクスモンは私とアルファモン、パラティヌモンに任せろ。皆は一度引いて状況を報告するんだ」

 

「分かった。頼んだぞ!」

 

 スレイプモン、ブラストモン、オメガモン・Alter-Bを戦場から離脱させたのには理由がある。彼らを休ませ、この後の戦いに備える為だ。

 デクスモンと正対するオメガモン、アルファモン、パラティヌモンの3体の聖騎士。アルファモンが後ろに下がって後方支援を担当し、オメガモンとパラティヌモンが斬り込む。最強の布陣だ。

 

 

 

「“万象一切灰塵と為せ”! 『グレイソード』!!!」

 

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 オメガモン達とデクスモンの戦いが始まった。オメガモンはウォーグレイモンの力を解き放ち、グレイソードの刀身から太陽の火炎を放つ。

 先制攻撃を仕掛けたのはデクスモン。目の前の敵を叩き潰そうと巨大な右腕を振り上げたその瞬間、2体の聖騎士の姿が突如として目の前から消失した。

 

「“大地を照らす日輪よ、敵を焼き尽くせ”!『レイジング・サンバースト』!!!」

 

 アルファモンは橙色の魔法陣を描き、デクスモンの頭上に巨大な火炎球を作り出してそのまま落とした。

 巨大な火炎球が爆裂して灼熱の火炎の雨として降り注ぐ中、オメガモンとパラティヌモンはデクスモンの背後に姿を現した。

 オメガモンは刀身から太陽の火炎を放つグレイソードを、パラティヌモンは刀身から黄金の光を伸ばすパラティヌス・ソードを同時に薙ぎ払う。

 確かな手応えを感じた2体の聖騎士デジモンだったが、デクスモンにダメージをそこまで与えられなかった。デクスモンの身体はオメガモン達よりも巨大な為、耐久力が異常なまでに高くなっている。それだけに通常攻撃ではダメージを与える事は出来ない。

 

「ガアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 デクスモンからすれば、今の一撃など大した事はない。それでも怒りはする。周囲に凄まじい雄叫びを上げながら、背後を振り返ってオメガモンとパラティヌモンを睨む。

 邪魔な2体の聖騎士を追い払おうと巨大な左腕を薙ぎ払うが、目の前にいた筈の2体聖騎士は再び姿を焼失させた。

 デクスモンの身体の大きさは50メートル以上。かなりの巨体でパワーは凄まじいが、スピードはそうではない。スピードではオメガモン達の方がデクスモンを上回っている。

 その隙を突かないオメガモンとパラティヌモンではない。パラティヌモンは背中の翼から光を放出させ、一瞬でデクスモンの懐に入り込み、デクスモンの足元をパラティヌス・ソードで薙ぎ払った。

 

「ハァッ!!」

 

 ガクッとデクスモンが躓きながら地面に勢い良く転倒する。パラティヌモンが繰り出した斬撃を受けた事でバランスを大きく崩したからだ。

 五十メートル以上する巨体が地面に倒れ込んだ衝撃。それによって物凄い轟音が鳴り響き、周囲一帯のビル群が倒壊していく。その中にはデクスモンに覆い被さるように倒れたビルもある。

 

「(後はこのまま一気に押し切る!)“輝ける光よ、地上の全てに裁きを下せ”! 『シャイニング・ジャッジメント』!!!」

 

「『怒涛たる勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

 ここで畳み掛けることを決めたアルファモン。デクスモンが転倒している千載一遇の好機をこのまま見逃さず、一気に上級魔術を叩き込んで “勝機”を手繰り寄せる。

 自分の真上に純白に輝く巨大な魔法陣を展開し、その中央から光の波動を撃ち出すと同時に、オメガモンもグレイソードの刀身から攻防一体の灼熱の波濤を生み出す。そしてグレイソードを薙ぎ払い、灼熱の波濤でデクスモンを焼き尽くす。

 太陽の如き膨大な熱量と輝きを放つ灼熱の波濤。周囲一帯を砕し、巻き込みながら火砕流のように焼き尽くす。更に灼熱の余波が周囲に降りかかり、デクスモンを中心とした広範囲が太陽の火炎によって焼き尽くされた。

 

 

 

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

『ッ!?』

 

 これでデクスモンを倒した。いや倒せなくても大ダメージを与えた筈だ。そう思っていたが、その幻想は突如響き渡った雄叫びによって木っ端微塵に壊された。それと共に白い超高温の蒸気の幕が瞬く間に四散し、デクスモンが姿を現した。

 全身の所々に焼き尽くされた場所はあるが、それでもあれ程の一撃を受けておきながら致命傷と思えるような傷を一切負っていなかった。

 巨大な光の波動と太陽の灼熱と輝きに呑み込まれ、焼き尽くされながらもデクスモンは未だに難攻不落の城として聳え立つ。

 

「システム・オメガ……『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』発動……!」

 

「ドライブ・パラディン……『Paladin・System(パラディン・システム)』発動!」

 

 オメガモンは直ぐに特殊能力の使用を決意した。胸部の紅い宝玉が光り輝かせ、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を発動させる。

 パラティヌモンも特殊能力の発動を宣言する。彼女の赤い瞳が青色に変わり、虹色のオーラが全身から放たれる。発動されたのは『Paladin・System(パラディン・システム)』。

 『Paladin・System(パラディン・システム)』。リアルタイムで推移する戦況を分析・予測し、導き出された最良の戦術、及び実行後予測されるであろう結果を脳に直接伝達する特殊能力。更に導き出された未来を実現させる為に身体強化を施す事も出来る。

 

「ガアアアアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 狂気と憎悪に塗れた雄叫びを上げながら、デクスモンはオメガモンとパラティヌモンに向けて襲い掛かり、出鱈目としか言えない膂力に任せて巨大な両腕を振るう。

 巨大な両腕の薙ぎ払いを回避し、デクスモンの背後に回り込んだ2体の聖騎士はデクスモンの機動力を封じようと攻撃を開始した。

 デクスモンが背中に生やしている赤い翼。それを攻撃しようとグレイソードが一閃され、パラティヌス・ソードが振り下ろされる。灼熱の波濤によって焼き尽くされ、黄金の剣光によって一刀両断された。

 デクスモンは怯んだような雄叫びを上げたものの直ぐに持ち直し、背後にいる2体の聖騎士目掛けて巨大な両腕を振るう。

 

『ハアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!』

 

 視認どころか気配を察知出来ない程の超速度を以て、2体の聖騎士はその場所から完全に姿を消失させた。これにより、デクスモンの巨大な両腕から繰り出された薙ぎ払いは空振りに終わった。

 その隙にデクスモンの真正面に姿を現したオメガモンとパラティヌモン。お互いの聖剣から目にも写らぬ速度の連続刺突を繰り出す。

 先程の攻撃が空振りに終わった直後に繰り出された超神速の連続刺突。それを胸部に集中的に喰らい、デクスモンは怯むしかなかった。その隙にオメガモンはグレイソードを振り上げ、左斬り上げを繰り出す。

 狙うのはデクスモンの左腕だ。太陽の灼熱に呑み込むと共に焼き尽くされ、デクスモンの左腕は消滅した。

 

「グアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!」

 

「これはおまけだ! “雷よ、落ちろ”! 『サンダーボルト』!!!」

 

 左腕を焼失し、苦痛と怒りに満ちた雄叫びを上げるデクスモン。それを見たアルファモンは魔法陣を描き、デクスモンの頭上から一筋の雷を落とす。

 頭部に攻撃を喰らったデクスモンに、2体の聖騎士は更なる追い打ちをかける。オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構え、聖剣から発している太陽の火炎を伸ばし、左手に巨大な灼熱の刃を作り上げる。

 パラティヌモンも右手に握るパラティヌス・ソードから黄金の剣光を伸ばし、オメガモンと共に突進を開始した。同時に2体の聖騎士はお互いの聖剣を薙ぎ払い、デクスモンを攻撃した。

 

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「“彷徨える魂よ、氷に抱かれて永遠の眠りに付け”! 『アブソリュート・ゼロ』!!!」

 

 しかし、左腕を失ったデクスモンがこの程度で止まるはずがない。何度も攻撃を喰らいながらも戦う事を止める事なく、全身に凄まじい量の暗黒エネルギーを溜め込む。

 一斉解放してオメガモンとパラティヌモンに攻撃しようとするが、それをアルファモンが妨害する。水色の巨大な魔法陣を描きながら上級魔術を繰り出して来た。

 アルファモンが右手を突き出すと、デクスモンは瞬間凍結した。何の前触れもなく、突然の事だった。その隙にオメガモンは太陽の火炎を発するグレイソードを振り下ろし、パラティヌモンは黄金の剣光を伸ばすパラティヌス・ソードを薙ぎ払う。

 

「グオオオオオオオオォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 凍らされた後に焼き尽くされた。これは流石のデクスモンですらたまらず、苦痛に満ちた叫び声を上げるしかない。それでも持ち直して残っている右腕を振るう。

 オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構え、再び刀身から攻防一体の灼熱の怒涛を生み出す。グレイソードを薙ぎ払ってデクスモンの攻撃を受け流し、返す刀で聖剣を一閃してデクスモンの胸部を焼き尽くす。

 それを見逃すパラティヌモンではない。左手に握るパラティヌス・ソードから黄金の剣光を伸ばしながら薙ぎ払い、デクスモンの右腕を斬り飛ばした。

 

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 

「『怒涛たる勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

「『ロイヤルストレートスラッシュ』!!!」

 

「『デジタライズ・オブ・ソウル』!!!」

 

 ―――そろそろ止めを刺す頃合だ。そう判断したオメガモンはガルルキャノンの照準を合わせ、デクスモンの足元に向けて絶対零度の炸裂冷気弾を撃ち出した。

 絶対零度の炸裂冷気弾デクスモンの下半身の一部に直撃すると同時にその周囲を瞬間凍結させ、デクスモンの動きを封じた。

 身動きの一切を封じたデクスモン。オメガモンは攻防一体の灼熱の波濤を生み出すグレイソードを薙ぎ払い、パラティヌモンは黄金の剣光を伸ばしている聖剣を振り下ろし、アルファモンは右手の平から緑色の光の波動を放つ。

 3体の聖騎士の総攻撃。それを真正面から喰らったデクスモンは地面に倒れ込んだ。このままデータ粒子に変わって消滅するのかと思いきや、データ粒子に変わったものの、そこから新たなるデジモンに再構成を開始した。

 

「姿を変えるのか?……いや違う。戦いはこれからか」

 

「あれが“デジクオーツ”の戦いのラスボス。最後にして最大の強敵……あのデクスモンは仮の姿だったみたいですね」

 

「あぁ。俺達はまんまとやられた。これで奴に戦闘データを取られてしまった……」

 

 この戦いは最終決戦への序章に過ぎなかった。相手は“デジクオーツ”の最後にして最大の強敵。言わばラスボス。

 3体の聖騎士が戦ったデクスモンは仮の姿。そのデクスモンと戦った事で戦闘データを与えてしまった。その事実に気付いたアルファモンは悔し気な顔をしている。

 

「あれが史上最悪のデジモン……クオーツモン。“デジクオーツ”の生みの親」

 

 ついに姿を現したクオーツモン。上半身と下半身が岩石で出来ていて、中央に光り輝く目がある不気味な姿をしているデジモン。果たしてデジモンと呼んでも良いのか。そういう雰囲気を纏っている。

 そんなクオーツモンと正対するオメガモン、アルファモン、パラティヌモンの3体の聖騎士。いよいよ最終決戦が本格的に始まろうとしている。

 




LAST ALLIANCEです。今回から後書きのやり方をちょっと変えます。
本編に出したデジモンや内容の裏話を話していきます。

・一真=弄られ役

序盤でパラティヌモンとAlter-Bに弄られましたが、これからも時々弄られます。
皆さん暖かい目で見守って下さい。

・デクスドルグレモンの大群

『時を駆ける少年ハンターたち』ではディアボロモンが出ましたが、この小説で一度出しちゃったので、『X-evolution』からデクスドルグレモンを出しました。
デジタルワールドを破壊し尽くした彼らが、人間界をデジクオーツに換えていく。
我ながら随分と皮肉な話を書いた物です(苦笑)

・無事だった一真の両親

『時を駆ける少年ハンターたち』では”デジクオーツ”絡みの事件に関わると、データ化されなくなるという設定でしたが、ここでは一度でもデジモンと関わるとデータ化されなくなるという設定に変更しました。
データ化に対する抗体が生まれたという解釈でお願いします。

・デジモンの技を使用出来た一真

これは言うまでもなく”デジモン化”の進行がかなり進んでいる証拠です。
使ったのはワーガルルモンの『カイザーネイル』、グレイモンの『メガフレイム』、メタルガルルモンの『コキュートスブレス』、ウォーグレイモンの『ガイアフォース』。
メタルグレイモン・メタルガルルモンの一部の技は使えません。ミサイル系統ですが。

・避難所

そこではアルファモンが握ったお寿司や、ブラストモンの自家栽培の野菜で作った豚汁とおにぎりが炊き出しで食べれます。
盛って配っているのはデーモン大暮閣下やルーチェモン達。意外に大好評。

・デクスモン

こちらも『X-evolution』から登場。
デクスドルゴラモンでは大きさ・強さ的にきつい(役不足的な意味で)ので、デクスモンにしました。
公式設定では倒せない(アルファモン以外には 実際には不明)デジモンですが、今回はクオーツモンが生み出した的な意味もあり、かなり弱体化しています。

裏話はこんな感じにします。
今回は先ず前哨戦となるデクスモン戦を書きましたが、次回はデジモン軍団との戦いを書きます。
『時を駆ける少年ハンターたち』では歴代主人公が登場しましたが、この小説ではそれ以上の出血大サービスをします。何をするかはお楽しみに!

皆さん。よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。
最近はちょっと寂しいので本当に頂ければかなり頑張れます。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

ついに始まったクオーツモンとの最終決戦。
デジモン軍団に挑むオメガモン達だが、相手の数と物量に押される一方。
そこに助っ人がやって来る!

第25話 異世界の英雄大集合! 夢のデジモンオールスターズ!


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第25話 異世界の英雄大集合! 夢のデジモンオールスターズ!

第25話です。お待たせしました。
最近のアニメはここで第1クールが終わりますが、この小説では次回第26話で第1章が終わります。早いですね……今回はタイトルの通りです。ちょっとしたお祭りです。



 デクスモンとの激闘をしたオメガモン、アルファモン、パラティヌモンの聖騎士連合。一度薩摩達の所に戻り、状況報告を行った。

 デクスドルグレモンを掃討している最中、“デジクオーツ”の端末が沢山出現して1つになり、デクスモンとなった。そのデクスモンを倒したのだが、クオーツモンとなって今に至る。その一部始終を薩摩に報告する。

 

「我々はデジモンとなっているか、デジモンの力を持っているか、デジモンに関わっているか。その3つのどれかに該当するかでデータ化されていない。だが、それ以外の世界中の人々がデータ化されている」

 

「クオーツモンがまた動き出したな……」

 

 一度軽食を取って休んでいるオメガモン達と薩摩は複数のドローンが撮影している映像を観ている。それはクオーツモンの状況。彼は今何処かに向かって動き出している。

 薩摩達がいる場所と、データ化を免れた人々がいる避難所。そこはパラティヌモンが刻んだルーン魔術と、アルファモンが発動した魔法によって守られている。

 これから最終決戦が本格的に始まるという事もあり、避難所にいたデジモン達も薩摩の所に集まって来た。その代わり、避難所の守りはアルファモンが手懐けている異世界のモンスター達が担当している。子供のお守り等も含めて。

 

「そろそろ話した方が良いな。何故我々がデジタルワールドから人間界に来たのか。その本当の理由を」

 

「本当の理由……?」

 

 バグラモンが話を始める。自分達がデジタルワールドから人間界に来た本当の理由を。全てはパラティヌモンが誕生する切っ掛けとなった厄災大戦の頃に遡る。

 厄災大戦の終了後、過激で攻撃的な性質を問題視されたイグドラシルの抑止力として、温和で保守的なホメオスタシスが建造された。ここでデジタルワールドの在り方や人間界との接し方を巡り、イグドラシルとホメオスタシスが対立した。考え方が正反対だから致し方ないのだが、問題はここからだった。

 デジタルワールドを統治する神は1体だけ。これはどのデジタルワールドに共通している掟だ。デジタルワールドが2体の神による分割統治に移行した事で、自然と何処かで負荷が生じるようになった。

 その結果、デジタルワールドの“歪み”のエネルギーが生まれてしまい、人間界に迷い込むデジモンが生まれてしまった。これが外れデジモンの誕生理由にも繋がる。

 

「ここからが本題だ。今回のクオーツモンの誕生理由を話そう」

 

 クオーツモンは元々増大し続ける人間界のデジタルエネルギーによって生まれた“歪み”のような物だったが、タギルとガムドラモンの大活躍によってデジタマとなった。

 しかし、ミレニアモンがクオーツモンのデジタマを奪い、デジタルワールドの“歪み”のエネルギーと本来の活動源となるエネルギーを吸収させた事で、クオーツモンが復活してしまった。

 クオーツモンは自分の身体を粒子化させて拡散し、人間界に異世界こと“デジクオーツ”を作ると共に拡大させていった。迷い込んだデジモンが通常より強大になるのもその影響を受けていたからだ。

 自らの強化の為に、デジタルワールドから次々とデジモン達を引き入れた。“デジクオーツ”に迷い込むデジモンがいるのはその理由だ。データを奪う為に。

 

「成る程。だから“デジクオーツ”の事件がこの街だけで沢山起きていたのですね。そもそも本体のお膝元なので」

 

「だから我々は人間界に来た。ホメオスタシスの頼みで……“デジクオーツ”を消し去る為に」

 

 バグラモン達がデジタルワールドから人間界に来た本当の理由。それは人間界にまたしても発生した“デジクオーツ”を消し去る為。ホメオスタシスからの依頼だ。

 イグドラシルが統治する地域の出身で住みにくさもあった。息苦しさもあった事も事実だ。ベルゼブモン、ルーチェモン・フォールダウンモード、ベルフェモン・スリープモード、デーモン。4体の『七大魔王』はホメオスタシスとは何も関係はない。あくまで大義名分が欲しかっただけの話だ。

 リリスモンと薩摩が“電脳現象調査保安局”を立ち上げた理由。それは“デジクオーツ”や、デジモン関係の有事等の来たるべき時に備える為だ。バグラモン達が直接手を出さなかった理由。それは“電脳現象調査保安局”があるからだ。

 何れ生まれるであろう最強のデジモンに“デジクオーツ”を消し去り、クオーツモンを倒させる。それがバグラモン達の思い描いたシナリオ。その最強のデジモンこそがオメガモンとアルファモン。パラティヌモンは彼らの成長を促す為に蘇ったような物だ。

 

「そういう事だったのですか……」

 

「ッ! 大変だ! クオーツモンから次々とデジモンが生まれている!」

 

 全ての謎が解き明かされた事に納得して理解していたその時、クオーツモンが動き出した。クオーツモンから無数のデジモンが生まれ、オメガモン達の方に向かって来る。ドローンからの監視映像だ。

 頭に兜を付け、背中に四枚の羽根を生やし、四本の腕と尻尾を生やしたキメラモン。獣のような下半身と甲虫のような外殻をし、背中に2枚の巨大な翼を生やしたヴェノムヴァンデモン。両肩に生体砲を装備したベリアルヴァンデモン。背中に巨大なキャノン砲を装備し、右手にドリルのような爪を、左手に三本爪を装備したムゲンドラモン。

 その4種類のデジモンによって構成されたクオーツモンの軍勢。それがオメガモン達を駆逐しようと進軍を始めた。

 

「ヴェノムヴァンデモンにキメラモンにベリアルヴァンデモンにムゲンドラモン……何という事だ!」

 

「クオーツモンのコピー能力……それが進化している。オリジナルと変わらない戦闘力を皆秘めている!」

 

「俺達の力を見て物量戦に切り替えたか……薩摩さん。以前決めた通り、俺達を中心に迎え撃つプランで良いな?」

 

「あぁ。私とバグラモンは指揮を取る。頼んだぞ!」

 

 元々決めていた防衛計画。そこにはオメガモン達を中心としたデジモン達で迎え撃つという事が書かれている。バグラモンと薩摩は後方で指揮を取る。

 ついに始まった最終決戦。クオーツモンと彼が率いる大軍勢に立ち向かうのは14体のデジモン。ベルゼブモン、ベルフェモン・スリープモード、デーモン、ルーチェモン・フォールダウンモードの『七大魔王』。タクティモン、ブラストモン、ホーリーナイトモンのバグラファミリー。テイルモン、ウィザーモン、パラティヌモン、オメガモン・Alter-B、アルファモン、スレイプモン、オメガモン。

 

 

 

 目の前にいるのは無数のデジモン。キメラモン、ヴェノムヴァンデモン、ベリアルヴァンデモン、ムゲンドラモンの4種類のデジモンで構成された軍勢。

 これから戦おうとしているオメガモン達だが、彼らの様子を他所にデーモン大暮閣下と、ルーチェモン・フォールダウンモード達は何かの準備をしている。

 合計10体のデジモンが楽器や機材をビルの上に設置し、チェックに入っている。明らかにライブをするとしか思えない。

 

「閣下、一体何をするつもりなの?」

 

「ドゥハハハハハハッ!!!!!! 見て分からないのか? ライブをするのだ!」

 

「いや……そうなんだけど……」

 

「リリスモン。お前は分かっていない。ミュージシャンは戦争の時も、災害の時も歌を通じて誰かの支えになったり、誰かを勇気づけて来た。そう。ぶれてはいけないのだ。何があってもぶれてはいけないのだ。だから我々も決してぶれない! こういう時だからこそライブをするのだ! ドゥハハハハハハッ!!!!!!」

 

『我々の歌を聞けぇ!』

 

 何というミュージシャン魂なのだろう。何というロック魂なのだろう。流石は閣下。流石は『七大魔王』の一角だ。これが人間界に生きる逞しい魔王の在り方。

 デーモン大暮閣下とルーチェモン・フォールダウンモードはマイクを取り、リズム隊の方を振り返る。力強く頷き合い、観客が誰もいない中での演奏を始めた。ツインボーカル。トリプルギター。ツインベース。ツインドラム。そしてDJ。

 『DEMON』と『セブンヘブンズ』のコラボ。『七大魔王』が率いる最強バンドの豪華コラボ。デーモン大暮閣下の美声とデスボイス。ルーチェモン・フォールダウンモードの美声とシャウト。骨太なリズム隊の演奏。これが普通のライブなら大盛り上がりだ。

 

「こんな時にライブって……あ、あれ?」

 

「何だ……身体の底から力が湧いてくる……」

 

「おっ、おい! あれを見ろ!」

 

 彼らの演奏は決して無意味ではない。オメガモン達の力を底上げしつつ、クオーツモンが生み出したデジモンの大軍勢の悉くを消し去っている。

 その理由はデーモン大暮閣下達が使用している機材にある。この日の為に、バグラモンと共に音響兵器を開発していたのだ。外見と中身はライブやレコーディングで使える普通の楽器なのだが、安全装置を外すだけで広範囲の大群を消し去る程の超強力な音響兵器へと変わる。その効果は絶大としか言えない。何しろ一般人が使っても究極体デジモンを撃退する事が出来るのだから。

 味方の士気を鼓舞しながら敵を倒す事が出来る音響兵器。欠点は機材の準備に時間がかかる事だが、そこまで大した弱点ではない。

 

「皆、閣下とルーチェモンが応援しているんだ! 後に続くぞ!」

 

『ウオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!』

 

 デーモン大暮閣下とルーチェモン・フォールダウンモードの演奏。それは戦闘用BGMと言っても良いだろう。それを背中に受けながら、オメガモン達はクオーツモンが生み出したデジモンの大軍勢に向けて突進を開始する。

 幾ら『DEMON』と『セブンヘブンズ』がコラボしても、クオーツモンは次から次へとデジモンを生み出して来る。気休め程度にしかならないのが現実だ。

 

「良い皆? 気合入れて戦いなさい! そもそも数が違うのよ? まともに戦っても磨り潰されて終わるだけよ!」

 

「それを言われても何もならん!」

 

「あぁ! 前回より難易度が上がっている時点でね!」

 

 リリスモンは前線に立って味方を見渡しながら、一人一人に的確に指示を飛ばす。タクティモンは両手に握る巨大な太刀―『蛇鉄封神丸』を振るい、一度の攻撃で自分の周りにいたデジモン達を一掃する。

 そんなタクティモンが悪態を付く中、ウィザーモンが究極進化したメディーバルデュークモンは、両手に握る最強魔槍―『デュナス』をムゲンドラモンに突き刺す。

 今回の最終決戦は工藤タイキや明石タギル達が経験した戦いより難易度が遥かに上がっている。味方の数と質は上がっているが、それに比例するかのように難易度も上がっているみたいだ。

 

「まぁどの道、この物量では磨り潰される未来しかない!」

 

「そう言うなよホーリーナイトモン。ところでこの戦いの後、一緒に昼寝をやらないか?」

 

「お、良いね! そうしよう!」

 

 ホーリーナイトモンは両手に握るツインブレードを振るい、キメラモンとベリアルヴァンデモンを斬り裂く。彼は分かっている。このままでは物量で押し切られるという事が。

 その弱気を消し去るのがベルフェモン・スリープモード。口癖を言いながら周囲一帯に枕の雨を振らせ、キメラモンとムゲンドラモン達を一撃で沈めていく。

 『魔王の寝具(ベッドギア・オブ・ベルフェゴール)』。様々な寝具を異空間に収納している為、異空間に接続して自由自在に取り出したり、射出する事が出来る。

 その特殊能力を使い、攻防一体に使用出来る枕を無数射出する。それだけで軍勢を倒していく。流石は“昼寝王ネルガメッシュ”だ。

 

「私達の目的はあくまでクオーツモンに辿り着く事。それまではとにかく道を作る!」

 

「歪みとして消し去るのは“デジクオーツ”とクオーツモンだけだ!」

 

 テイルモンが究極進化したオファニモン。彼女は右手に握る槍を振るってヴェノムヴァンデモンを消し去りながら、自分の周りに浮遊している水晶をキメラモン達に向けて放ち、一気に複数体のデジモンを倒していく。

 オメガモン・Alter-Bは左手から展開しているグレイキャノンからプラズマ弾を撃ちながら、右手から出現させているガルルソードを振り下ろし、ベリアルヴァンデモンを一刀両断しながら前に進む。

 

(閣下とルーチェモンの音楽攻撃と、皆のステータスの高さ。少しずつだけど前に進めている。これからいけるわ!)

 

 一番高いビルから戦況を見守るリリスモン。『DEMON』と『セブンヘブンズ』の鼓舞と音波攻撃。全員の高いステータスと一撃で複数のデジモンを倒せる攻撃力の高さ。

 数で劣るのならば質で凌駕するしかない。全員が必死になって戦っている。目指すはクオーツモンに辿り着く事。先ずはそこからだ。

 

「でもよ、これじゃあどうにもならねぇぜ!」

 

「『七大魔王』が弱音を吐くか?」

 

「うるせぇよ!」

 

 軽口を叩き合うのはベルゼブモン・ブラストモードとスレイプモン。事前にブラストモードになったベルゼブモンは、右腕のブラスター砲から破壊の波動弾を連射し、次々とデジモン達を消し去っていく。

 スレイプモンは大柄な体格から想像もつかない程の瞬間高速移動を行いながら、的確にデジモン達に攻撃を当てる。

 

「次々から次へと出て来る! うっとおしいな! “怒りの重圧よ、全てを押し潰せ!” 『ヘビープレッシャー』!!!」

 

「ブルアアアアアァァァァァッ!!!!! 『ダイアモンドマシンガン』!!!」

 

 アルファモンは苛立ちを覚えながらも銀色の魔法陣を描き、この街全域の重力を操作し、凄まじい重力の奔流でクオーツモンとその軍勢を押し潰していく。

 クオーツモン自体にそこまで入っていないが、今の『ヘビープレッシャー』で相当な数のデジモンが駆逐された。クオーツモンによって補充されるが、それでも若干のタイムラグが必要となる。

 右拳を突き出すと共に、ブラストモンは全身のクリスタルをマシンガンの如く撃ち出して目の前にいるデジモンを一掃する。

 

「久し振りだな……こういう戦いは!」

 

「ハアアアアアァァァァァッ!!!!!」

 

 クオーツモンが次々と生み出しているデジモンの軍勢を蹴散らし、道を切り拓いているのは2体の聖騎士型デジモン。パラティヌモンとオメガモン。

 パラティヌモンは背中の翼から光を放出させながら超速機動で動き回り、目の前の敵を次々とパラティヌス・ソードで斬り伏せていく。

 オメガモンは太陽の火炎を発するグレイソードで周囲の敵を焼き尽くし、ガルルキャノンから青いエネルギー弾を撃ち出す。

 全員が奮戦している為、瞬く間にデジモン達の軍勢を殲滅出来ている。しかし、その間にクオーツモンはデジモン達を生み出し続ける。何れは物量で押し切られる。幾ら質で凌駕していても数が少ない。

 このままの勢いを果たして最後まで維持出来るのか。何時になったらクオーツモンと戦えるのか。そう思い出した瞬間、助っ人がやって来た。

 

 

 

「『ドラゴンインパルスX』!!!」

 

「『ファイナル・エリシオン』!!!」

 

 突如として出現した巨大な光の竜がデジモン達を蹴散らし、何処かから放たれた光の波動砲がデジモンの軍勢を消し去る。

 一体誰が来たのか。敵なのか味方なのか。誰もが空を見上げると、2体の聖騎士型デジモンがゆっくりと降り立つ。

 胸にV字の形をしたアーマーを装備していて、“ブルーデジゾイド”製の聖鎧で全身を覆い包み、背中に巨大な蒼い翼を生やして、両手首に腕時計のようなアイテム―Vブレスレットを装備したアルフォースブイドラモン。

 背中に赤いマントを羽織り、全身を純白に輝く聖鎧で覆い包み、右手にビームで出来た長大な聖槍を持ち、左手に円形の聖盾を持ったデュークモンX。“電脳現象調査保安局”のアメリカ支部とオーストラリア支部からの助っ人だ。

 

「何とか間に合ったみたいだな!」

 

「このデュークモン……たった今オーストラリア支部より助太刀に来た」

 

「アルフォースブイドラモン! それにデュークモンも!」

 

 どうやら外国にいたデジモンの軍勢を倒し終えたのだろう。東京にある本部の助太刀に次々と支部にいる『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が駆け付けている。

 アメリカ支部からアルフォースブイドラモンの他にもう1体の聖騎士が駆け付けた。獣のような兜を被り、茶色を中心にした色合いの鎧を身に纏い、背中に白い翼を生やしたドゥフトモン。

 イギリス支部からも2体の聖騎士が助太刀に来た。全身をピンク色と黄金の鎧で身を包み、右腕にパイルバンカーを装備したロードナイトモン。竜の装飾が垣間見られる鎧で全身を覆い包み、背中に紫色の翼を生やしたデュナスモン。

 オーストラリア支部所属のもう1体の聖騎士。“ブラックデジゾイド”製の聖鎧に身を包み、自らに悪そうな顔をしているクレニアムモン。本人の為に言うが、礼儀正しくて大らかな性格をしている。

 

「支部にいる『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の皆が来たよ。もう大丈夫だ!」

 

「オメガモン、パラティヌモン。今戦っている者と共に休憩しろ。ここはこのデュークモン達に任せてもらう!」

 

「待て! 相手は倒しても倒しても増え続けるんだぞ! 幾らデュークモン達でも……」

 

「助っ人は僕らだけじゃないんだな……!」

 

 アルフォースブイドラモンの言葉を裏付けるように、次々とデジモン達が降り立つ。最初に降り立ったのはオメガモン(レジェンド)。両肩に乗っているのは八神太一と石田ヤマト。小学生時代での登場だ。黄金色に輝く4枚の翼を生やした鳳凰のような姿をしたホウオウモン。背中に武之内空が乗っている。

 巨大な角と鋏を持ち、背中に2枚の羽根を生やし、黄金の甲殻をしているヘラクルカブテリモン。泉光子郎のパートナーデジモンのテントモンの究極進化体。薔薇を象ったような衣装に身を包んだ大人の女性のような姿をしたロゼモン。隣には太刀川ミミがいる。

 背中にモーニングスターを背負い、両肩に毛皮を羽織っているヴァイクモン。その肩には城戸丈が乗っている。『デジモンアドベンチャー』に登場する選ばれし子供達とそのパートナーデジモンの究極進化体。

 

「なっ!? 嘘……だろう!?」

 

「嘘じゃないんだな……これが」

 

 驚愕するオメガモンと、ニヤニヤ笑うアルフォースブイドラモン。その近くに全身を漆黒の装甲で身を包み、背中に2枚の翼を生やしたインペリアルドラモン・ファイターモードが降り立つ。両肩には本宮大輔と一乗寺賢が乗っている。

 目の辺りにヘッドスコープの様な機械をつけ、腰にベルトを巻き、両腕に鳥の翼を想わせる様な羽を付けたシルフィーモン。隣には八神ヒカリと井ノ上京がいる。

 土偶のような顔と体を持ち、背中に天使のような羽を持ったシャッコウモン。もちろん高石タケルと火田伊織も一緒だ。

 

「異世界の英雄達が来たのですか?」

 

「呼んだのは儂らじゃよ」

 

 そこに現れたのは時計屋のおじさんと彼のパートナーデジモン。時計のような姿をしているクロックモン。異世界の英雄達を呼んだのは彼らだった。

 デジモンハントのルールブックを所持し、クロックモンとともにハンター達の動向を監視するなど、デジモンハントの中核に関わっていた。その理由はデジモンハンターを育成し、ゲームバランスを調整する事。

 真の目的はクオーツモンによる人間世界の支配を阻止する事。デジモン達がクオーツモンに吸収される前に、ハンター達によって確保して守ろうとした。その為にクロックモンの力を借り、別次元の世界を救った救世主達を助っ人として呼び寄せた。

 今回も変わらない。クロックモンの力を借り、別次元の世界を救った救世主達を助っ人として呼び寄せる。自分達の世界から奪われたクオーツモンのデジタマ。復活したクオーツモンとの因縁にケジメを付ける為。

 

「確かクオーツモンを倒したのも……」

 

「儂はあくまで手助けをしただけじゃよ。じゃがのぉ、この世界でクオーツモンが復活した事を聞いて助けに来たのじゃよ。ケジメを付けに来たとも言う」

 

「助かります!」

 

 パラティヌモンと時計屋のおじさんの視線の先に現れたデジモン。全身を白銀の聖鎧で身を覆い包み、背中に赤いマントを羽織り、右手に聖槍―グラムを、左手に聖盾―イージスを持ったデュークモン。緑色の装甲に全身を覆い包み、両肩が顔が書かれた砲塔になっており、背中にウイングがあり、全身に無数の武器を装備したセントガルゴモン。

 右手に金剛錫杖を持ち、尻尾を生やし、頭に狐の帽子のような物を被ったサクヤモン。特撮物に出てきそうな正義の味方のような姿をし、首に長く赤いマフラーを巻いたジャスティモン。『デジモンテイマーズ』からも助っ人がやって来た。

 

「これ……夢だよな?」

 

「夢じゃねぇぜオメガモン! 助けに来たぜ!」

 

 続けて助太刀に来たのは背中に太陽のような物を背負い、上半身が赤く、下半身が青い鎧に身を包んだスサノオモン。『デジモンフロンティア』からの助太刀だ。

 オメガモンに声を掛けたのは大門大。背中に赤い十二枚の機械のような翼があり、胴体に赤い鎧を身に纏い、その中心には青い宝玉があり、両腕には黄色い籠手を付け、巨大な尻尾の先に刃のような形をした光輪を付けたシャイングレイモン。

 全身を青色の鎧で覆い包み、狼のような顔をし、背中に赤色のマントを羽織り、両手には三本爪を備えた籠手を持っているミラージュガオガモン。彼の右手にはトーマ・H・ノルシュタインが乗っている。藤枝淑乃とロゼモン(2006)ももちろん来ている。

 右翼が漆黒、左翼が真っ白で両手の爪が鋭く、左腰に鞘込めの刀を携えたレイヴモン。野口郁人のパートナーデジモン、ファルコモンの究極進化体。

 

「俺達も来ました、一真さん!」

 

「後は俺達に任せろ!」

 

「今の内に休んで下さい!」

 

「お前は最後の切り札だからな!」

 

 最後に来たのは『デジモンクロスウォーズ』から。工藤タイキ、蒼沼キリハ、天野ネネ・ユウ姉弟が地面に着地する。彼らが乗って来たのはシャウトモンX7。

 そして人間界とデジタルワールドが誇るスーパースターもやって来た。明石タギルと全身に特殊ラバー装甲のバトルアーマーを着衣し、尻尾の先端に銀色の刃を付けた竜のような姿をしたアレスタードラモン。

 彼らは異世界の英雄。デジタルワールドと人間界を救った英雄達。いやデジモンを知っている者なら知らない筈がない。デジモンオールスターズだ。

 

「……オメガモン?」

 

「パラティヌモン、私は今猛烈に感動している。やっぱあれだ……死んだら駄目だな。世の中、辛い事や苦しい事も沢山あるけど……生きてたら必ず凄い事があるんだな」

 

 オメガモンの顔は涙と感激でぐしゃぐしゃになっている。“デジモン化”が進行している為、オメガモンのままでも一真の意識が混ざりつつある。

 異世界からデジモンオールスターズが自分達を助けに来たのだ。生粋のデジモンファン・デジモンマニアの八神一真は感激し、感動のあまり涙を流す事しか出来ない。

 

「オメガモンは一度下がって休め」

 

「……大兄貴!? 何を言っている! まだ私は……」

 

「薩摩さんから伝言がある。救援が駆け付けたから皆が後退し、休憩に入ったって。そろそろ全員が着く頃だ」

 

「そうか。それなら最後の一踏ん張りと……」

 

「そうじゃねぇ。お前の戦いはこれからだ。こいつら全員殴り飛ばしたって終わりじゃねぇ。オメガモン……お前の戦いはクオーツモンを倒す事だ。俺との約束だ。こいつら殴り飛ばすのは俺達の戦いだ。俺との約束を果たせ、オメガモン」

 

「……分かった! 後は頼んだ!」

 

 支部の面々とデジモンオールスターズの参戦により、今まで戦って来たアルファモン達は一度後退して休んでいる。ちょうど全員が後退し終えた事だ。

 オメガモンも戦おうとするが、それを大が制した。この世界最強の英雄のオメガモン。彼の力はクオーツモンを倒す為の最後の切り札。

 尊敬している大兄貴に諭されて従わない一真ことオメガモンではない。大とシャイングレイモンに深々と頭を下げ、その場から飛び立った。

 本当ならデジモンオールスターズと共に戦いたかった。それは個人的な感情。オメガモンはクオーツモンを倒すと言う全体の目標を優先させた。

 

「パラティヌモン、お前も下がれ!」

 

「シャウトモン、貴方は誰に物を言っているのですか?」

 

「お前も疲れている。連戦続きの身体でどうするんだ。ここは俺達『クロスハート』が引き受ける! 行けアーサー王!」

 

「済みません……!」

 

「任せろ! 俺はデジモンキングだ。お前の戦いはまだ終わっていねぇ。休んでクオーツモンとの決戦に備えろ!」

 

 シャウトモンX7もパラティヌモンを下がらせる。食い下がるパラティヌモンを一喝し、悔し気な表情をさせながらも後退させた。

 かつてクオーツモンとの戦いを経験して来たシャウトモン。自分達の不手際でこのような事態になったケジメは付ける。その巨大な背中がそう告げていた。

 

「皆、行くぞ!」

 

『ウオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!』

 

 オメガモンとパラティヌモンが後退したのを確認すると、アルフォースブイドラモン達『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と、デジモンオールスターズはデジモン達との軍勢との戦闘を開始した。

 先程まで戦っていた誰もが目の前で繰り広げられる戦闘を見つめる。それは戻って来たオメガモンとパラティヌモンも例外ではない。

 

 

 

「『シャイニングVフォース』!!!」

 

「『ジークセイバー』!!!」

 

「『ブレス・オブ・ワイバーン』!!!」

 

「『スパイラルマスカレード』!!!」

 

 アルフォースブイドラモンは胸部のV字型アーマーからV字型の眩い光線を掃射し、目の前のベリアルヴァンデモン達を消し去る。

 それによって出来た道を突き進みながら、デュークモンXは聖なる力で増幅させて長大化した聖槍グラムを振るい、次々とキメラモン達を薙ぎ払う。

 別の場所で戦っているデュナスモン。彼は全身に満ち溢れているエネルギーを巨大な飛竜のオーラに変え、ムゲンドラモン達に向けて放つ。

 その超火力でビル群ごとデジモン達を消し去った事で道が切り拓かれた。その道を瞬時に突き進むロードナイトモンの目の前に、次々とヴェノムヴァンデモン達が姿を現す。

 それを見てもロードナイトモンは怯まないし、動じる気配もない。桃色の聖鎧から伸びている4本の帯刃の中から1本ずつを片手で掴み取り、一瞬で斬り刻んだ。

 

「『ヴォルケンクラッツァー』!!!」

 

「『エンド・ワルツ』!!!」

 

「『ガルルキャノン』!!!」

 

 レオパルドモードとなったドゥフトモン。右前足で地面を強く踏み鳴らし、大地から超高層の岩盤を出現させてデジモン達を突き上げる。

 孤立したキメラモン達に追い打ちをかけるのは2体の聖騎士型デジモン。クレニアムモンは両手に持ち直した魔槍クラウ・ソラスを高速回転させ、超音速の“衝撃波(ソニックウェーブ)”を放ちながら、竜巻を作り上げてその中に敵を巻き込んでいく。

 “衝撃波(ソニックウェーブ)”で全てのデータが粉砕されるまで“踊り”続けるデジモン達を一瞥し、肩に太一とヤマトを乗せたオメガモン(レジェンド)は右腕を軽く振るい、ガルルキャノンを展開して砲撃を撃ち込み、ムゲンドラモン達を殲滅する。

 

「『スターライトエクスプロージョン』!!!」

 

「『アークティックブリザード』!!!」

 

「『ローゼスレイピア』!!!」

 

「『ギガブラスター』!!!」

 

 街全域を飛び回っているホウオウモン。その神々しい4枚の翼から降り注ぐのは黄金色の粒子。それを浴びたベリアルヴァンデモン達のデータは浄化され、消滅していく。

 別の場所で戦っている3体の究極体デジモン。ヴァイ苦悶は周囲一帯の大気を瞬間的に絶対零度にし、ムゲンドラモン達を急速冷凍させた。後は氷像と成り果てた彼らを倒すだけの簡単な作業だ。

 ヴァイクモンは両手に握るモーニングスター、もといミョルニルで打ち砕き、ロゼモンは右手に握る鞭の切っ先で1体ずつ確実に仕留める。

 ヘラクルカブテリモンは巨大な角と鋏で纏めて氷像を打ち砕いたり、黄金のエネルギー砲を放ってまとめて薙ぎ倒したりの大活躍を見せる。

 

「『ポジトロンレーザー』!!!」

 

「『トップガン』!!!」

 

「『アラミタマ』!!!」

 

 他の所で戦っている『選ばれし子供達』とそのパートナーデジモン達。インペリアルドラモン・ファイターモードは右腕に装備している砲身からレーザー砲を撃ち出す。

 その中、シルフィーモンは両腕を前に突き出してエネルギー弾を撃ち出し、シャッコウモンは両目から焦点温度が10万度に達する赤い破壊光線を放つ。

 

「『バーストショット』!!!」

 

「『八雷神(やくさのいかづち)』!!!」

 

「『ロイヤルセーバー』!!!」

 

「『飯綱(いづな)』!!!」

 

「『ジャスティスキック』!!!」

 

 別の場所で戦っているのはテイマーズとスサノオモン。空中にいるセントガルゴモンは全身の銃火器の照準をデジモン達に合わせ、一斉発射する。

 スサノオモンは両手に持っている『ZERO-ARMS:オロチ』を天上に掲げると、『ZERO-ARMS:オロチ』から光の剣が放たれ、それが破壊の稲妻となって地上にいるデジモン達に向かって降り注ぐ。

 2体の究極体デジモンの必殺奥義によって、クオーツモンに続く道が切り拓かれる。そこを突き進む最中、再びデジモン達が出現する。デュークモンは右手に握る聖槍グラムを突き出し、ムゲンドラモンを仕留める。

 サクヤモンは腰に携えた4匹の管狐でキメラモン達を攻撃し、ジャスティモンはヴェノムヴァンデモンを飛び蹴りで颯爽と倒した。

 

「ウオォォォォォォォッ!!!!!」

 

 別の場所で戦っている面々なのだが、ここでは大門大が平常運転だった。シャイングレイモンの肩から飛び上がり、ベリアルヴァンデモンを殴り飛ばす。

 しかも殴り飛ばしたベリアルヴァンデモンが周囲にいたキメラモンやムゲンドラモンを巻き込んだ為、一気に複数体ものデジモンを殴り飛ばした事となる。

 流石は大門大。『七大魔王』や『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を殴り倒し、更にはイグドラシルを殴って世界の危機を救った英雄。人間界とデジタルワールドの喧嘩番長。

 

「『グロリアスバースト』!!!」

 

「『フルムーンブラスター』!!!」

 

「『フォービドゥンテンプテイション』!!!」

 

「『ブラストウィング』!!!」

 

「『クロスバーニングロッカー』!!!」

 

「『スピンカリバー』!!!」

 

 シャイングレイモンは背中の翼を大きく広げながら胸元に凄まじいエネルギーを集中し、極限にまで集めたエネルギーを球状に圧縮・凝縮させて放つ。

 ミラージュガオガモンが全身のエネルギーを溜め込み、胸の口部から超弩級の砲撃を放つ一方、ロゼモンの周囲一帯には無数の美しい薔薇の花が咲き誇る。

 この必殺奥義はロゼモンの究極にして禁断の誘惑。これを受けたデジモンは無数の薔薇の花に包まれ、美しくデータ破壊される。

 レイヴモンが左翼でムゲンドラモンを切り裂く中、シャウトモンX7は平和を願う熱い魂でマクフィルド社製のマイクに灼熱の火炎を灯し、目の前にいるヴェノムヴァンデモンに向けて大きく振り下ろす。

 アレスタードラモンは一回転しながらテイルアンカーを巨大化させ、巨大化させたテイルアンカーでベリアルヴァンデモンを一刀両断した。

 

 

 

「デュナスモン、秘奥義でクオーツモンを焼き尽くせ。皆は巻き込まれないように一度後退しよう」

 

「皆! これからド派手な秘奥義を繰り出す! 直ぐに後退してくれ!」

 

「さぁ巻き込まれたくないから直ぐに逃げよう!」

 

『はい!』

 

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』とデジモンオールスターズの参戦によって、一気にクオーツモンが生み出し続けるデジモンの軍勢が駆逐されていく。

 ―――そろそろ良いだろう。そう思ったバグラモンはデュナスモン以外の全員を一度後退させた。状況はクオーツモンと彼を守るデジモンの軍勢がいる場所に来た所だ。

 バグラモンの指示を受けた全員が後退し終えたのを確認し、デュナスモンは両腕を交差させながら全身に力を溜め込み始める。

 

「『ドラゴンコライダー』!!!」

 

 デュナスモンが両腕を広げると、その全身から無数の飛竜のオーラが出現し始める。彼らはクオーツモンがいる周囲一帯を覆い尽くしていく。

 両腕を前に突き出しながら、デュナスモンは自身の力をクオーツモンと言う巨大な一点に集中する。今だと思った瞬間、秘奥義名を叫ぶと共に巨大な温度爆発を引き起こした。

 『ドラゴンコライダー』。それはデュナスモンが誇る最強の秘奥義。その威力は瞬間的に恒星のコア程の超高温に達し、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』屈指と言われている。

 威力が余りにも強過ぎる為、乱戦になると使えない事や、連射が出来ないと言う欠点があるが、世界をも滅ぼしかねない強大な威力がある事から、こういう時に重宝されている。

 

「……流石に本体にはそこまでダメージが入らなかったか。残りのデジモンは一掃出来たが」

 

「これで数でも駄目だと学習したね。何か仕掛ける前にこちらから仕掛けよう!」

 

 デュナスモンが繰り出した『ドラゴンコライダー』。クオーツモンの周囲一帯を木っ端微塵に破壊し尽くしたが、肝心の本体にはそこまでダメージが入らなかった。クオーツモンは依然として健在のままだ。

 しかも本体が変身を始めた。中心に不気味な瞳がある地球のような球体。その下部分を支えるように黄金の巨大な四本の足が支えている。これがクオーツモンの真の姿。

 クオーツモンが次に何かを仕掛ける前に、こちらから仕掛ける。アルフォースブイドラモンの言葉に誰もが頷き合った。

 




LAST ALLIANCEです。今回も本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・”デジクオーツ”誕生の理由

これはある意味とばっちりですが、ホメオスタシスは尻拭いをしようと努力しました。
でもイグドラシルは何もせず。この意味は次章で明らかになります。

・デジモンの軍勢

デジモンのチョイスは『クロスウォーズ』の漫画・アニメです。
漫画版で登場したムゲンドラモン・キメラモン。
アニメで登場したヴェノムヴァンデモン・ベリアルヴァンデモン。
1体1体が本物です。単体でも強いですが、軍勢で来られたら……恐ろしい!

・デーモンとルーチェモンのライブ

これ実は一度書いてみたかったです。デーモンの芸名はご存じ小暮閣下のリスペクト。
バンド名とメンバー、担当はぶっちゃけ適当。
デーモン大暮閣下はメタル・ハードロック。ルーチェモンはビジュアル系。
『我々の歌を聞けぇ!』は思いっきりオマージュです。はい。やっちゃいました。

・音響兵器

人間でも簡単に究極体デジモンを撃退出来る。開発者はバグラモン。
効果は味方の力を高めたり、ダメージ・体力回復。それと敵にダメージ。
機材の準備に時間が掛かるけど、それを除けばパーフェクト。

・援軍として来た『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』

デュークモンX以外は漫画版『デジモンクロスウォーズ』と同一個体。
デュークモンXは『X-evolution』出身。イメージCVは野沢さん。

・『デジモンオールスターズ』

文字通りのオールスターズ(アニメ作品に限る)です。
『デジモンアドベンチャー』のオメガモンには(レジェンド)と付けたり、『デジモンセイバーズ』のロゼモンには(2006)と付けて分かりやすくしました。

・感激で泣き崩れるオメガモン

”デジモン化”の進行がかなり進んでいる証拠です。
デジモンファン・デジモン好きなら誰もが涙しますし、歓喜しますよね。
だってテレビの向こう側にいた憧れの英雄達が自分達を助けに来てくれて、しかも直接会う事が出来たので。

・執筆時に聞いていたBGM

MAN WITH A MISSIONの『Raise your flag』とKANA-BOONの『fighter』です。
デジモン関係の曲も聞いていましたが、メインはこの2曲です。
戦闘場面は『fighter』をひたすら聞いていました。

・〆はデュナスモンの『ドラゴンコライダー』

『クロスウォーズ』の漫画版に登場したデュナスモンの秘奥義。
あれは初めて読んだ時、目が点になりました。ここでも炸裂しました。

裏話はこんな感じにします。出血大サービスは如何でしたか?
次回はオメガモンVSクオーツモンの最終決戦です。果たして一真の”デジモン化”は!?

皆さん。よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!


次回予告

クオーツモンの人間界侵略を食い止めようと、時間停止を行うアルファモン。
全員で時間を維持している間に、オメガモンはクオーツモンの体内に突入する。
果たして最終決戦の軍配はどちらに上がるのか!?

第26話 栄光の究極進化 









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第26話 栄光の究極進化 

今回で第1章最終話です。長いようであっという間でした。
次の投稿は設定集で、その次が第2章開始となる第27話となります。


 ついに姿を現したクオーツモンの本体。それを見上げるアルフォースブイドラモンの達の所に、休んで気力・体力共に万全なオメガモン達が来た。

 ―――これが今までの事件を起こした黒幕であり、ラスボスなのか。そう思うオメガモン達を不気味な一つ目で見下ろしながら、クオーツモンは口を開く。

 

「我が名はクオーツモン。よくここまで辿り着いたな。だがここでお前達は終わりとなる。今こそ人間界は“デジクオーツ”となる。私その物に変えてやる。その時、不完全な生物たる人間は全てデリートする!」

 

「えぇ。貴方の言う通りです。確かに人間は不完全ですよ。それは肯定します」

 

「そうだな。デジモンから見れば人間は不完全。そう思われても仕方ない」

 

『ッ!?』

 

 クオーツモンの宣言はともかく、クオーツモンが言った“不完全な生物たる人間”という単語にパラティヌモンとオメガモンは同意した。

 その部分は否定する所だろう。2体の聖騎士以外の誰もが内心そう思い、詰め寄ろうとしたその時、パラティヌモンとオメガモンは話を続ける。

 

「何時だって戦争は起きますし、犯罪も起きますし、色々な問題を抱えています。貴方のようなデジモンからしてみれば人間は不完全でしょうね」

 

「人間がデジモンになって能力を酷使し過ぎたら、人間として死ぬ一歩手前になる。あぁ、人間は不完全だな」

 

 パラティヌモンは前進しているのか後退しているのか分からない現状を指摘し、オメガモンは“デジモン化”の事を自虐的に言う。

 確かにクオーツモンの言い分には一理あるだろう。しかし、だからと言って通るとは言っていないし、通らせない。それがパラティヌモンとオメガモンの次の言葉だった。

 

「ですが、不完全は完全より絶対良いです。何故なら不完全とは完成されていない状態。今よりも悪くなるかもしれませんが、これから良くなる可能性もあります。まだ試してもいないのに、その可能性を捨てて完全になろうと言う考えは傲慢ではありませんか?」

 

「それに人間とデジモンが力を合わせた時、想像を超えた素晴らしい力が生まれる。その力で英雄の皆は世界を救って来た。お前の言葉は人間とデジモンの絆を否定する。ここにいる皆の歩みを否定する。つまりは我々に対する宣戦布告と受け取って良いのだな?」

 

 思い当たる節がある面々は力強く頷いた。その筆頭がバグラモンだった。前世の彼は試していた。人間の希望の心は未来への虚無感や絶望の心を克服できるかを。つまりは可能性を信じていたと言う事となる。

 “巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”を通じて可能性を否定していたが、最終決戦では可能性を信じる事が出来た。クオーツモンの言葉は自分の前世を否定する事になる。これにはバグラモンですら異を唱えたくなる。

 それは『デジモンセイバーズ』の面々も同じだ。イグドラシルとの最終決戦の時に啖呵を切った。喧嘩もすれば憎しみあったりもする。それは間違った歩みなのかもしれない。でも傷付く事を恐れていたら前には進めないし、分かり合う事も出来ない。

 それでも人間の思いはデジモンを強くする。デジモンは人間に夢と勇気を与える。お互いに分かり合える。お互いに歩み寄れる。クオーツモンの言葉は人間とデジモンの絆を、英雄達が歩んだ道を否定する事となる。

 

「不完全だから失敗する時もあります。転んで怪我をする事もあります。時には道に迷う事もあります。それでも私達は失敗を認めて正し、前に進みます。一人一人にしかなれない完全な存在になる為に。クオーツモン。人間は強い。不完全だからこそ強い。お前が人間をデリートする事は不可能だ!」

 

「あぁ、その通りだ。クオーツモン、お前は負ける。でもそれはお前が弱いからじゃない。人間と、デジモンと……そして皆の絆にお前は負ける!」

 

「フハハハハハハハハッ!!!!! よく言ったなこの世界のデジモンよ! だが私は“デジクオーツ”に迷い込んだデジモンのデータだけでなく、“デジクオーツ”に来たデジモンのデータを吸収した。つまりはお前達のデータを吸収した事となる。私はそのデータを使い、私自身の肉体を作り上げた。私の中にはこの人間界の全てのデータが入っている! 私はこの世界全てを書き換える充分な存在となった!」

 

 パラティヌモンとオメガモンの啖呵。それを聞いた誰もが力強く頷く中、クオーツモンは勝ち誇るような笑みを浮かべる。

 今のクオーツモンは実体を持ちながら、人間界の全てのデータを内包した言わば無敵の存在となった。世界を単独で書き換える存在になったと豪語しても、パラティヌモンとオメガモンは全く動じない。

 

「変わるのだよ……この世界は。そう完全な世界に! 人もデジモンも全て新しいデータに書き換える……そして新しい一つの世界に生まれ変わるのだ!」

 

「嫌ですよ、そんな『人類補完計画』みたいな事は」

 

「よく分かるなそのネタ……」

 

「この前テレビを観ていたらやっていました」

 

「あぁ、そうなんだ」

 

 『人類補完計画』。それは『新世紀エヴァンゲリオン』に登場する重要なキーワード。知恵の実しか持たず、出来損ないの群体として生き詰まった人類を、生命の実と知恵の実の二つの実を持つ完全な単体生物へと人工進化させる計画。

 パラティヌモンはこの前地上波で放映されていたのをテレビで観ていた為、その内容を知っている。こんな状況でも軽口を叩き合える2体の聖騎士の目の前で、クオーツモンの本体と言える中心に不気味な一つ目がある黒い球体が動きを見せた。

 

「クオーツモンが地面に潜っていくぞ!」

 

「おい、残った物を見ろ!」

 

 クオーツモンは突如として地下深く沈み始めた。そのまま何処かに向かっていく。恐らく目的地点は地球のコア。地球を丸ごとデータ化するつもりだ。

 残った黄金の巨大な四つ足から破壊のエネルギー波が拡散していく。世界が塗り替わってしまう。人間とデジモンが全て消去される。それをさせないと言わんばかりに、アルファモンが動き出す。

 

「コード・アルファ……『Alpha-Gain-Force(アルファ・イン・フォース)』、発動!」

 

 アルファモンは魔法陣を描いて自らの特殊能力、『Alpha-Gain-Force(アルファ・イン・フォース)』を発動した。

 戦いにおいて過ぎ去った時間を瞬間的に取り戻す究極の力。アルファモンの攻撃は一瞬にして終わるが、実際には何回の攻撃を繰り出したかは分からない、何故なら相手は自分が倒れる最後の一撃だけを見ることになるからだ。

 クオーツモンが地中深く沈む直前まで時間を巻き戻す。まだ破壊のエネルギー波は放たれていない。攻撃するなら今しかない。ただ問題なのはアルファモンだった。

 

「実はこの能力……初めて使うから身体が慣れない……」

 

「何やっているんですかアルファモン!」

 

 アルファモンこと工藤優衣。実は『Alpha-Gain-Force(アルファ・イン・フォース)』を発動したのは今回が初めてだ。その強大過ぎる力をまだ制御する事が出来ていない。

 その証拠に表情が険しく、物凄く必死そうにしている。巻き戻した時間を維持している為、普段の余裕そうな態度が消え失せている。

 しかし、誰もアルファモンを責めない。人間界が“デジクオーツ”になる前に時間を止めてくれた。その止まった時間を維持している。これは大仕事だ。責める余裕があったら今頃自分達でどうにかしている。

 それを見かねたパラティヌモンはルーンを刻み、アルファモンの身体能力を一時的に上昇させる。更にアルファモンの隣に舞い降り、自らも巻き戻した時間を維持するのに協力し始める。2体の聖騎士は両手を前に突き出している。

 

「パラティヌモン!」

 

「貴方が時間を止めているのに、私だけ何もしない訳には行きませんよ!」

 

「そうだな! その通りだ!」

 

 パラティヌモンの行動を見たデジモン達が一斉に動き出す。アルファモンが巻き戻した時間を少しでも長く保とうと、全身からエネルギーを放出し始めた。

 デジヴァイス等を持った人間達はと言うと、手にしたデジヴァイス等の液晶画面から光を放ち、デジモン達をサポートしている。

 デーモン率いる『DEMON』と、ルーチェモン・フォールダウンモード率いる『セブンヘヴンズ』の2大ロックバンド。目の前にいる人間達とデジモン達を支えようと、演奏を再開させる。

 

「皆耐えろ! 力の続く限り……クオーツモンを倒した後はたらふくお寿司を食べさせるから!」

 

「皆さん! アルファモンの、優衣さんの握る特上寿司が待っていますよ!」

 

「駄目だと思ったらそこに布団を敷いたら休んでくれ! その分僕らが耐える!」

 

 一番前にいるアルファモンとパラティヌモンが奮闘する中、ベルフェモン・スリープモードは彼女達の目の前に枕に大量に並べ、バックアップを行いながら布団を敷いていく。

 エネルギー切れになると分かったら、敷いてある布団に入って仮眠を取る。人数こそ減るが、その分ベルフェモンが寝具を置いて補充するから問題ない。

 それに加え、この危機を乗り越えてクオーツモンを倒せば、アルファモンが握る極上寿司を満足するまで食べる事が出来る。これには何が何でも頑張るしかない。

 

「でもこの後はどうすれば良い? このまま耐えるだけじゃ何にもならないぞ!」

 

「オメガモン! クオーツモンを倒せ! 今この状況で動けるのはお前だけだ!」

 

「ッ!」

 

 大門大の言葉に全員が頷いた。オメガモン以外の全員が、アルファモンが巻き戻した時間を維持している。そうなると消去法でオメガモンがクオーツモンを倒すという大役を任されるしかない。

 この世界にいるデジモン達と異世界の人間達とデジモン達。彼らが力を合わせて一つの危機に立ち向かっている。その危機を招いた厄災を止めるのはこの世界最強のデジモンしかいない。それがオメガモンこと八神一真。

 

「だが皆を置いて私だけ行ける筈が……」

 

「俺達が何時まで維持出来るか分からない……俺達の頑張りを無駄にしない為にも、人間界の為にも、皆の為にも行くんだ! オメガモン、クオーツモンを倒せ!」

 

「オメガモン! 今こそ超えるのです! 私を……英雄達を!」

 

 頑張っている皆を見捨てる事は出来ない。そう言って尻込みしているオメガモンを、アルファモンとパラティヌモンは駆り立てる。

 アルファモンはオメガモンの正義や信念を重んじる一面に訴え、パラティヌモンは常日頃からデジタルワールドの英雄達を尊敬している一真の心に訴える。

 

「オメガモン! 君は決めたんだろう!? この世界を、この世界に生きる皆を守るって……こんな所で立ち止まって良いのか!?」

 

「行ってくれオメガモン! ここは俺達でどうにかする! 立ち止まらないで、先に行ってくれ!」

 

「このデュークモン達の力と思いを其方に託す!」

 

「分かった……ここは皆に任せる。頼んだぞ! 必ずクオーツモンを倒して戻って来る!」

 

 アルフォースブイドラモン、八神太一、デュークモンXの叱咤激励を受け、オメガモンはようやく心を決めた。

 クオーツモンがいる方向に向けて飛び立っていく。それを見送ったアルファモン達は、引き続き時間の固定と維持に全てのエネルギーを注いでいく。

 

ーーーーーーーーー

 

―――ここから先は時間との勝負だ! システム・オメガ……『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』……発動!

 

 クオーツモンに向かって神速のスピードで飛行するオメガモン。胸部の紅い宝玉を輝かせ、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を発動すると、一気に加速してクオーツモンの内部に侵入した。

 その間にもクオーツモンによる“デジクオーツ”への書き換えが進められている。“電脳現象調査保安局”の各支部でもそれを食い止めようと、様々な作戦が行われているのは言うまでもない。

 クオーツモンの体内。一言で言うならばデータの海。人間界のありとあらゆるデータがそこにはあった。

 

「ようこそ我が体内へ。この星最後の形ある生物よ。さぁ我が一部となるのだ!」

 

「それは無理だな。何故なら私がここに来たのは……お前を“完全消去(オールデリート)”する為だ! “万象一切灰塵と為せ”! 『グレイソード』!!!」

 

 現れたクオーツモンは六つの目を持った顔をしている。不気味な外見だ。そんなクオーツモンを前にしても、オメガモンの闘志は揺るがない。むしろ昂っていく。

 ウォーグレイモンの頭部を象った左手からグレイソードを出現させると共に、左腕に込められたウォーグレイモンの力を解放した。

 グレイソードの刀身から太陽の火炎が発せられると共に、その超高温の火炎によってクオーツモンの体内が“ムスペルヘイム”となった。

 

「な、何だこれは!? 熱い! 熱い! 熱い! 熱い! 熱い~!」

 

「それは当然だ。何故なら太陽の熱量と輝きを放っているからな!」

 

 クオーツモンはその余りの熱さと熱気に耐えられず、苦痛に満ちた叫び声を上げながら、その原因を作り上げたオメガモンを触手で攻撃する。触手の先端はクオーツモンの不気味な顔となっている。

 しかし、オメガモンは当たり前だと言わんばかりに、グレイソードを一閃する。剣圧と共に太陽の火炎が放たれ、一撃で複数の触手を焼き尽くしていく。

 続けて放たれた触手。それを迎撃するべく、右手のメタルガルルモンの頭部を象った籠手からガルルキャノンを展開する。青いエネルギー弾を撃ち出し、触手を次々と破壊した。

 

「許せん! お前達は絶望の中に消し去ってやる!」

 

「この程度の絶望などいつでも乗り越えて来た! 絶望の中に消え去るのはお前だクオーツモン!『怒涛たる勝利の聖剣(グレイソード)』!!!」

 

 怒りに燃えるクオーツモンは更に触手を放つ。その数は先程までの倍以上。その速度も目にも止まらない。

 しかし、オメガモンはこのような攻撃は日常茶飯事。自分も繰り出すし、相手も繰り出して来た。そのような死線を潜り抜けて来た。今更驚く事など何一つない。

 グレイソードから発している太陽の火炎。それを一度消し去り、今度はグレイソードから攻防一体の灼熱の波濤を生み出す。太陽の灼熱を常に放つグレイソードを全力で薙ぎ払い、一気に触手を焼き尽くした。

 

「消え失せろ!」

 

「ガアァァァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

 

 グレイソードから生み出している攻防一体の灼熱の波濤。オメガモンは1度それを消し去って刀身の内部に凝縮させ、自分の真下にいるクオーツモンの顔にグレイソードを突き刺した。それと同時に、太陽の火炎を解放してクオーツモンを焼き尽くす。

 突き刺さったグレイソードと太陽の火炎。そのダブルパンチを受けたクオーツモン。苦痛に満ちた声を辺りに響かせて消滅していった。それに呼応し、オメガモンの視界に移る景色も変わっていく。

 

―――まだクオーツモンを倒した訳ではない。本番はここからだ。気を抜くな。

 

 クオーツモンを倒したのか。オメガモンはそう思いながら周囲に殺気を放ちながら警戒していると、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』がそう告げた。

 胸部の紅い宝玉で超高度な情報分析と状況予測が行われる。それによって予測結果がオメガモンの脳に直接伝達されるが、どの予測結果も今の戦いでクオーツモンを倒したと言う未来がなかった。

 これが意味する事は1つ。クオーツモンとの戦いはまだ終わっていない。ここからが本当の戦いになると言う事だ。

 

「見事だよ! その圧倒的なまでの力には私では勝てる筈がない!」

 

「それはどうも。ならばおとなしく消え去るが良い!」

 

「……これでもその台詞を言えるのかな?」

 

 まるでオメガモンの事を馬鹿にしているように、クオーツモンはオメガモンの圧倒的な力を褒め称える。

 自分を挑発している事を理解しながらも、目の前の相手を倒すしかないオメガモン。グレイソードを薙ぎ払おうと横薙ぎに構えたその瞬間、クオーツモンは6本ある腕の中から1本の腕の手の平を突き出して来た。

 その手の平を見たオメガモンはグレイソードを薙ぎ払えず、そのまま動きを止めるしかなかった。クオーツモンの手の平には、吸収された一般市民の男性の顔が現れていた。

 

『止めろ! 止めてくれ! 俺はまだ死にたくないんだ!』

 

「これは私の中にいる人間のデータだ。ほら他にも……」

 

 クオーツモンが見せたのは他にも吸収された一般市民達。それを目の当たりにしたオメガモンは攻撃する事が出来ない。

 戦う力のない一般市民を守る自分は、戦う力のない一般市民を攻撃する事が出来ない。しかし、攻撃しないとクオーツモンは倒せない。そのジレンマに悩んでいるのだ。

 

『ここは何処? 誰か助けて!』

 

『怖いよ~!』

 

『出してくれ!』

 

「おのれ……何て外道な!」

 

 オメガモンは耐えている。『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』が指し示す未来。それがオメガモンにクオーツモンに攻撃するという選択肢を促している。

 クオーツモンの手の平に現れた一般市民の顔。彼らから救いを求める声と、恐怖や不安を伝える声が聞こえて来る。どうにかしたくてもどうにも出来ないこの状況。それに対して何も出来ない自分が腹立たしい。それがオメガモンの内心。

 

「生きたままデータ化されたと言うのか……!」

 

「そうだ。データは生きたまま新鮮さを保たないと意味がない。皆ここにいるぞ?」

 

「止めろーーーー!!!!」

 

 クオーツモンは触手を無数伸ばしながら吸収した人間の顔を見せながら、触手を変形させて木の枝のように枝分かれさせる。

 何も出来ない自分への腹立たしさと吸収された人々の声。それらに耐え切れず、オメガモンは叫び声を上げるしかない。

 

「さぁ私を攻撃してみろ……だが私に攻撃をすれば、私の中にいる人間やデジモン達が苦しみ、傷付く事となる。私と共に死の恐怖を味わう事となる」

 

「クッ……」

 

「どうした? 其方から来ないのなら私から行くぞ!」

 

 吸収した人間の顔を見せている触手で攻撃するクオーツモン。その攻撃を迎撃・防御する事はオメガモンには出来なかった。

 人質作戦という絡め手を使う事でクオーツモンはオメガモンに勝利した。負けたオメガモンはデータの海に沈み、そのまま海中深く沈んでいくしかなかった。

 

ーーーーーーーーー

 

 クオーツモンによってデータの海に沈められたオメガモン。一真の姿に戻ってしまい、次第に身体がデータ粒子となっている。そう簡単にデータ化されないのは何とか気合と根性で耐えているからだ。

 自分は今クオーツモンの体内で消化されている真っ最中。その現実を認識しながら両手を見ている一真。進化する体力さえも無くなった彼はこのまま沈んでいく事しか出来ない。

 

―――自分はこのままクオーツモンの体内で消化されて消えてしまうのか。家族や仲間も救えず、一人孤独に死んでいくのか。そんなの僕は認めない!

 

 弱気になった瞬間、一真の心臓もとい『電脳核(デジコア)』が鼓動を刻み始めた。同時に一真の全身から黄金の光が放たれた。

 オメガモンに究極進化する時は純白の光を放つが、今回だけは違う。何かを感じる。まるで懐かしい何かを。自分の原点。何故オメガモンに憧れたのか。何故オメガモンが好きなのか。その答えを改めて思い出させられる。

 

―――僕がオメガモンを好きなのは、映画館で観て一目惚れしたからだ。神々しくて、美しくて、それでいて圧倒的に強い! ああいうヒーローに子供の頃憧れていたんだ!

 

 一真の原点。彼の中のオメガモンのイメージ。それは『僕らのウォーゲーム!』に登場したオメガモン。原点にして頂点。別格とも言える存在。人類の味方。守護神。デジモンを超越したデジモン。

 しかし、それは皆の頑張りが起こした奇跡。最後まで諦めない者だけにしか起こせない奇跡。そうした努力の果てに起きるべくして起きた物。

 

―――オメガモンになった時、一番の目標に掲げたんだ。あのオメガモンになるって、別格にして最強、原点にして頂点のオメガモンになるって誓ったんだ! だから少しでも近づきたくて、手を伸ばしたくて今まで努力して来たんだ! 

 

 一真は今まで数々の戦闘を経験し、努力を積み重ねて来た。その理由は『僕らのウォーゲーム!』に登場したオメガモンを超える為。その為に死んだ気になって努力を積み重ねて来た。全てはオメガモンとなった日に掲げた夢を叶える為。

 次第に一真の心に流線形の闘志が戻って来た。この戦いに負けたくない。負けられない理由がある。人間界で今も戦っている皆の為に。勝利を信じて待っている両親の為に。そして無謀とも言える夢を掲げた自分自身の為に。

 

―――このまま終われない。終わりたくない。皆の為にも。仲間の為にも。家族の為にも。世界の為にも。まだ止まれない。止まりたくない。なぁオメガモン。君だってこのまま終わりたくないだろう?

 

―――あぁ、一真殿。私もまだ終わりたくない。私は戦える。戦う気力がある限り、負けたとは言えない!」

 

―――それじゃあ行きますか! これが最後の戦いだ。行けるかオメガモン?

 

―――勿論だ! 一真殿も行けるか?

 

―――あぁ。僕は最後まで諦めない。最後の一瞬まで……命、燃やすぜ!

 

 一真の頭部に残っていた黒髪が銀色に染まり、左目が空色に染まる。これで完全なる“デジモン化”が完了した。それに構う事なく、身を覆い尽くす程の眩い黄金の光の奔流の中で、空色の瞳を輝かせながら一真はオメガモンに超究極進化を行う。

 姿を現したのは1体の聖騎士。全身を純白に輝く聖鎧で覆い尽くし、背中に内側が赤色で、外側が白いマントを羽織り、右肩に蒼い肩当てを付け、右手にメタルガルルモンの頭部を象った籠手となり、左肩に勇気の紋章を象った黄金の盾―『ブレイブシールドΩ』を装備し、左手がウォーグレイモンの頭部を象った籠手となっている。

 

「オメガモン!!!」

 

 その聖騎士の名前はオメガモン。平和を願う人々の強い意志によって誕生した聖騎士。人間界の最後の希望が今ここに復活した。

 絶体絶命の危機にも関わらず、絶対に諦める事を知らない八神一真。例え自分が人間でなくなっても、完全なオメガモンになったとしても守りたい物がある。自らの正義と信念を貫く為、この戦いに終止符を打つ為、一真は負けられない戦いに自ら完全なる“デジモン化”を受け入れた。

 

ーーーーーーーーー

 

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』。胸部の紅い宝玉を輝かせてもう1度発動させると共に、全身に黄金に輝く聖鎧として身に纏うオメガモン。オメガシャウトモンの公式設定の応用だ。

 クオーツモンの体内を超神速のスピードで突き進んでいく。目的地はクオーツモンの中心核。『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』によって、直接脳内に伝達される予測結果。指し示す未来。その実現に向けてオメガモンは突き進む。

 

「これか!」

 

 辿り着いたクオーツモンの中心核。それは緑色の巨大な球体。醜悪としか言えない本体に比べて、中心核は意外とシンプルで綺麗に見える。

 オメガモンは迷う事なくクオーツモンの中心核に突入する。そこに見えたのは漆黒の長方形のような形をした物体。それがクオーツモンの『電脳核(デジコア)』。

 しかし、それは無数の緑色の長方形のような形をした物体によって覆い尽くされてしまう。つまりは隠されたという事だ。

 

「馬鹿な!? お前はあの時データの海に沈めた筈! 進化も解除されたのに、どうして復活したんだ!?」

 

「昔から往生際だけは悪いのでな!!」

 

「ならばこれはどうだ!」

 

 オメガモンの目の前に出現したクオーツモンの本体は驚いた。先程自分の攻撃でデータの海に沈め、しかも進化が解除された事をこの目で確認したにも関わらず、どうして復活する事が出来たのか。その現実を受け入れる事が出来ないでいる。

 全ては一真が諦めず、自分自身で起こした奇跡。それを否定するように、クオーツモンは再び人質作戦に打って出た。周囲一帯に出現させた無数の緑色の長方形のような形をした物体。そこに吸収された人々の顔を出現させた。

 

「また同じ手か……」

 

「どうだ! これなら攻撃出来まい!」

 

「確かに先程までの私だったら攻撃する事は出来なかった。だが今の私は違う。もう私は迷わない。迷っている間に事態が悪くなる……戦う事でしか道が拓けないなら、私が切り拓く! 戦えない全ての人々の為に!」

 

 オメガモンは言い放つと共に、左腕を力強く振るう。左手のウォーグレイモンの頭部を象った籠手。その口部分からグレイソードを出現させる。

 クオーツモンの中心核に突入する直前、オメガモンは見ていた。『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』が指し示す可能性の1つを。それは完全に“デジクオーツ”と化した人間界。“デジクオーツ”と成り果てた地球。

 自分がクオーツモンを倒せなかった・クオーツモンを攻撃する事を躊躇した事で訪れるであろう未来。それを回避する為、オメガモンは人間やデジモン達が苦しみ、傷付く事となる事を承知の上で、クオーツモンを攻撃しようとしている。

 

「良いのか!? 私を攻撃する事が何を意味しているのか分かっているのか!?」

 

「分かっている。だが神を殴り飛ばした喧嘩番長が言っていた。“傷付く事を恐れていたら、分かり合う事は出来ない”と。大兄貴、私は貴方の言葉に従う!」

 

「おのれ……ならば!……って何だと!? 個々のデータが勝手に動いた!? させるか!」

 

 先程通用した人質作戦がもう通用しない。動揺が走るクオーツモンに更なる追い打ちがかかる。今までクオーツモンの中心核を構成していた無数のデータ。今まで1つに繋がっていたそれらが、突如として分裂を始めた。

 予測不能の事態が立て続けに起こり、終いには自分自身と言う存在を維持する事が出来るかどうかという瀬戸際に追い詰められたクオーツモン。

 個々のデータをオメガモンに向けて放って来た。それに対し、オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構え、一閃してクオーツモンを構成していた個々のデータを跳ね返す。

 

「ウオオオオォォォォォォーーーーー!!!!!」

 

「馬鹿な!? グアアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

『いっけぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!』

 

 自分を構成していた無数のデータの跳ね返し。その直撃を喰らったクオーツモンが苦痛に満ちた叫び声を上げる一方、人間とデジモン達の声援を受けながら、オメガモンはクオーツモンの『電脳核(デジコア)』がある中央に突入した。

 オメガモンが真っ先に目にした物。漆黒に蠢くクオーツモンの『電脳核(デジコア)』。グレイソードを大上段に掲げ、刀身に生命エネルギーを流し込んで純白に光り輝く聖剣―『オメガソード』とした。

 

「止めろぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!!」

 

「だが断る! 『初期化(イニシャライズ)』!!!」

 

「グアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 クオーツモンの『電脳核(デジコア)』に向けて、グレイソードが振り下ろされた。その刀身に触れた部分。その構成データを初期化しながら消去が始まる。

 オメガモンがその場から飛び上がると共に、人間界を書き換えていた“デジクオーツ”が初期化され、やがて消滅していった。

 

ーーーーーーーー

 

「オメガモンが勝った……!」

 

「終わったんだな!」

 

 同じ頃、巻き戻した時間を食い止めている面々も“デジクオーツ”の初期化と消滅に気が付いていた。目の前に広がる“デジクオーツ”が消え去り、今日の朝まで存在していた人間界の景色が顔を出し始めたからだ。

 既に大半の英雄達とデジモン達がベルフェモンが敷いた布団の中で眠っている。それ程までに全力を出し切った。『DEMON』と『セブンヘヴンズ』に至っては、その場に放心したかのように倒れ込んでいる。

 最後まで残っていたのは残り僅かな面々。その中でパラティヌモンとアルファモンが喜びの声を上げていると、クオーツモンの体内から脱出したオメガモンが姿を現し、ゆっくりと降り立った。

 

「約束通り戻って来たぞ! クオーツモンを倒した! 皆は大丈夫?」

 

「大丈夫……と言いたいですけど、大半がお昼寝中なので何とも言えないです」

 

「オメガモン。君のおかげで世界は救われた。いや……皆のおかげだな。ここにいる皆の。時間と世界を越えてやって来た歴代の英雄の皆さん。共に戦ったデジモンの皆。俺達仲間……ここにいる皆が力を合わせたからクオーツモンを倒す事が出来た」

 

「そうだな。ここにいる皆が一つになって戦ったからクオーツモンを倒す事が出来た。皆はヒーローだ!」

 

「中でもオメガモンがスーパーヒーローだ! おい皆! 俺達の英雄、オメガモンを胴上げしようぜ!」

 

『わっしょい! わっしょい! わっしょい! わっしょい! わっしょい!』

 

 大門大の言葉を切っ掛けに、アルファモン達はオメガモンの所に駆け寄って胴上げを始めた。威勢の良い掛け声と共に宙に舞い上がるオメガモン。その表情は柔らかく、何処か楽しそうに見える。

 ただ何回か宙に舞い上がった後で全員が一斉に下がった為、地面に叩き付けられて文句をタラタラ言っていたのはご愛嬌だ。彼らを暖かく見守っているのは燦然と輝きを放つ太陽だったのは言うまでもない。

 

ーーーーーーーーーー

 

 この日の昼食はかつてない大盛況となった。『寿司処 王竜剣』では異世界の英雄達が大集合し、工藤優衣が握る極上寿司を堪能している。

 八神太一とアグモン、石田ヤマトとガブモン、武之内空とピヨモン、泉光子郎とテントモン、太刀川 ミミとパルモン、城戸 丈とゴマモンの『デジモンアドベンチャー』組。この面々の中でお寿司が大好きなのは、食いしん坊のアグモンと普段からお魚を食べているゴマモンの2体だ。

 本宮大輔とブイモン、井ノ上京とホークモン、火田伊織とアルマジモン、一乗寺賢とワームモン、高石タケルとパタモン、八神ヒカリとテイルモンの『デジモンアドベンチャー02』組。ここでは大輔とブイモンが沢山のお寿司を食べているが、そのテーブルにはオメガモン・Alter-Bが座っている。

 

「えぇっ!? じゃあAlter-Bはブラックウォーグレイモンだったの!?」

 

「そうだ。最初はブラックウォーグレイモンのまま復活したが、色々あってこの姿に究極進化した」

 

「進化出来たんだ……良かったね。やっと僕達の仲間になれたんだから」

 

「あぁ。やっと皆と一緒になれた。ありがとう」

 

 元ブラックウォーグレイモンのオメガモン・Alter-B。彼は前世で関りのあったワームモンとお寿司を食べながら、この世界に来てからの事を話している。やっと皆と同じになり、仲間になる事が出来た。スタートラインに立って新しい道を歩み始めている。

 それを暖かい雰囲気で見守る『デジモンアドベンチャー02』組。遠くで見ている一真は生粋のデジモンマニア。原作では観れなかった光景を見て号泣している。

 別のテーブルに座っているのは『デジモンテイマーズ』組。松田啓人とギルモン、李健良とテリアモン、牧野留姫とレナモン、秋山遼とサイバードラモン。彼らの席にはベルゼブモンが座っている。

 

「そうなんだ、今ベルゼブモンは社長をしているんだ~」

 

「似合わねぇと今でも思っているけどよ、これはこれでありだと思っているぜ?」

 

 啓人とベルゼブモンが話し込んでいる中、ギルモンは沢山のお寿司を、レナモンは稲荷寿司を食べている。何とも微笑ましい光景だ。

 神原拓也、源輝二、織本泉、柴山純平、氷見友樹、源輝一の『デジモンフロンティア』組。彼らの座っているテーブルはかなり混沌としている。ルーチェモン・フォールダウンモード、デュナスモン、ロードナイトモンが座っているからだ。

 

『別個体がご迷惑をおかけして本当にすみませんでした!』

 

「い、いや……もう良いよ」

 

「そ、そうか……だがもし奴に会う機会があったら、制裁の『ブレス・オブ・ワイバーン』だな」

 

「全くだ。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の恥晒しには、怒りの『アージェントフィアー』だ」

 

「こ、これが本来の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』なんだね……」

 

「2人が味方だったら心強かったのに……」

 

 拓也達から別個体がやらかした事を聞き終えたデュナスモンとロードナイトモン。2体の聖騎士は土下座をし、別個体の代わりに謝罪する。それは拓也ですら頭を上げて欲しいと言うレベルの様式美があった。

 それに加え、別個体に会ったら制裁をするとまで言っている。その様子に拓也達は若干引いている。その様子を眺めながら、ルーチェモン・フォールダウンモードは黙々とお寿司を食べている。

 『デジモンフロンティア』組とは対照的に、『デジモンセイバーズ』組は家族みたいな一体感の雰囲気の中、食事と団欒をしている。

 

「いやぁ~やっぱり喧嘩の後に食べるお寿司はうめぇな!」

 

「兄貴大活躍だったな!」

 

「何か……前より強くなっていたよね?」

 

「マスター。貴方の考えは正しいです」

 

「私とクダモンは大の暴れっぷりを聞いてはいたが、実際に見たら言葉を失ったよ」

 

「流石としか言えなかったな」

 

 大門大とアグモンが凄まじい勢いでお寿司を食べる中、トーマ・H・ノルシュタインとガオモン、薩摩とクダモンは大の強さに呆れて言葉を失っていた。

 実は、『デジモンオールスターズ』の中で単独でデジモン撃破数が一番多いのは大門大だったのだ。普通にキメラモンやムゲンドラモンをぶん殴り、ヴェノムヴァンデモンやベリアルヴァンデモンを拳だけで倒す人外ぶりを発揮した。

 明らかに以前より強くなっている大門大。シャイングレイモンをバーストモードに当たり前のようにさせている時点で何かがおかしい。

 

「へぇ~これを無料で譲ってくれるんだ!」

 

「うん。今日頑張ってくれたお礼だよ。これで快適な安眠を貴女に!」

 

「結構効くのよねこれ……」

 

「おれも欲しい……」

 

「拙者も……」

 

 彼らのテーブルに座っているベルフェモン・スリープモード。淑乃とララモン、イクトとファルコモンに自身が開発した枕を売り込んでいる。

 中でも賑やかなのは『デジモンクロスウォーズ』組。何故ならメンバーが一番多いからだ。工藤タイキと陽ノ本アカリ、剣ゼンジロウと蒼沼キリハ、天野ネネと天野ユウの天野姉弟。そして明石タギル。

 デジモンもまた多い。シャウトモンとバリスタモンとドルルモン。スターモン&ピックモンズ。ベルゼブモン(クロスウォーズ)とメルヴァモン。スパロウモンとダメモン。グレイモン(クロスウォーズ)とメイルバードラモン。ガムドラモン。

 他にも時計屋のおじさんとクロックモン、バグラモンとリリスモン。タクティモンとブラストモンとホーリーナイトモン。彼ら大人組は世間話に花を咲かせている。

 別のテーブルにはウィザーモンとテイルモンとデーモン大暮閣下。そのまた別のテーブルにはアルフォースブイドラモン、デュークモンX、クレニアムモン、ドゥフトモンの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』。避難所にいた人間達も一緒だ。

 

「一真さん……貴方は完全に“デジモン化”してしまいましたか……」

 

「クオーツモンとの戦いでね……でもこれからも人間として、デジモンとして生きていけるから大丈夫さ」

 

 目の前で楽しそうに話し、美味しそうにお寿司を食べている皆を眺めている一真とアルトリウス。一真の髪の色は完全に銀色となり、瞳の色も空色となった。完全な“デジモン化”が完了した。一真は身も心も完全なデジモンとなってしまった。

 その事実に悲しみを覚えるアルトリウスに、一真は優しく微笑みかける。人間の頃の記憶や人格は残っている為、人間の姿でいる間は八神一真として生きていく事が出来る。

 

「はい。またこれから新しい戦いが始まりますね……」

 

「あぁ。でも今はこの宴を楽しもうよ」

 

 アルトリウスは先を見ていた。今日はこのまま休みとなったが、また明日から新しい仕事が待っている。新しい戦いも起きるだろう。

 それに頷きながら、一真はアルトリウスに『現在(いま)』を楽しもうと提案する。それに頷いたアルトリウスは笑顔を浮かべ、一真と談笑をしながらお寿司を食べ続けた。

 




LAST ALLIANCEです。今回も本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・最終決戦

たった一人の最終決戦(ドラゴ〇ボールではありませんが)。
オメガモン=最後の切り札。名前的な意味もあって。

・最初のクオーツモンとのやり取り。

『仮面ライダーディケイド』のアギトの世界のやり取りを参考にしました。
何だかんだで好きですよ、ディケイド。
でもオリジナルに対するリスペクトが足りない所は絶対に許さない!

・特殊能力に抗う

クオーツモンに攻撃しろという促しと、一般市民に攻撃出来ない感情のせめぎ合い。
一度は負けましたが、これがオメガモンの強さです。

・仕切り線

今回から場面転換として仕切り線を入れました。
見にくかったら感想で一言お願いします。或いは代替案を。

・一真の原点

『僕らのウォーゲーム!』に登場したオメガモンへの憧れ。
デジモンファンなら誰しも同感する筈。
一真の中でのオメガモンの絶対的なイメージであり、目標でもあります。

・”デジモン化”完了

ついにデジモンとなってしまいました……イメージで言うと、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のグレイズ・アインや、『機動戦士ガンダムUC』の真ユニコーンガンダムでしょうか。

・賑やかな昼食

”電脳現象調査保安局”の食堂を貸し切っての祝勝会。
原作アニメと関連した顔合わせもチラホラありますが、ファンサービスです。


 裏話はこんな感じにします。今回で第1章は終わりとなります。
 途中から原作に基づいた内容になりましたが、何だか好評だったのでこの調子で第2章も突き進みたいです。第2章は完全オリジナルになるので、投稿速度は以前より落ちます。でも良い話を書けるように頑張りますので、皆さん引き続きよろしくお願いします。

皆さん。よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

それでは第2章をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!


次回予告

”デジクオーツ”事件から1年後。人間界・デジタルワールド共に新たなる動きがあった。
一体何処で何が起きたのか。そして今何が起きているのか。
一真達を取り巻く状況・変化した物とは?

第27話 新たなる予兆


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第2章 Chase the Light!
第27話 新たなる予兆


お待たせしました。今回から第2章が始まります。
第2章はイグドラシル・『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』との戦いが中心で、舞台が途中からデジタルワールドになります。
その第1話は戦闘はなく、第1章の後何が起きたか等の説明になります。
では本編をお楽しみ下さい。



 “デジクオーツ”事件。それは“デジクオーツ”に関係した電脳現象の総称。犯人は地球を“デジクオーツ”にしようとしたクオーツモン。オメガモンがクオーツモンを倒した事で“デジクオーツ”は消滅し、世界は元通りとなった。

 これによって世界は少しずつではあるものの、確実に変わり始めた。これまで“デジタルモンスター”という概念は存在していたが、その存在が世の中に明るみとなった。

 “電脳現象調査保安局”は“デジクオーツ”事件で一躍名を上げ、ついに国家が立ち上げた特殊チームから、国家直属の独立行政法人へとランクアップした。それに伴い、本部・支部のパワーバランスを均等にする為、人員の異動が行われる事となった。

 “デジクオーツ”事件の終結に伴い、本部の人員整備が行われた。新参者のオメガモン・Alter-BはデュークモンX・クレニアムモンがいるオーストラリア支部へと異動となった。

 しかし、デジモン関連の事件が終わった訳ではない。未だに人間界の至る所には沢山の外れデジモンがいる。オメガモン達の戦いはまだまだ続く。

 

「この世界に帰って来るのは半年ぶりだな。先に本部に顔を出そう。話はそれからだ」

 

 “デジクオーツ”事件終結から1年が過ぎようとしていたある日。“電脳現象調査保安局”の本部を見上げる青年の姿があった。まだ年齢も若い。26歳になったばかりだ。銀色の短髪をウニのように立たせた青年。その瞳は空色。

 “電脳現象調査保安局”の本部にいる局長。彼にこの世界に帰還した事を報告する為に、その青年は歩き出す。彼の名前は八神一真。“終焉の聖騎士”オメガモンとなった人間であり、デジモンでもある『電脳人間(エイリアス)』。

 クオーツモンを倒し、“デジクオーツ”事件の解決に大きく貢献した一真は、“終焉の聖騎士”の二つ名を持ち、半年間の異世界を渡り歩く武者修行に出ていた。その武者修行を終え、出身世界に戻って来た。彼の背中でオメガモンが羽織っているマントが翻っている。

 

「久し振りだな、一真。どうだった? 半年間の異世界での武者修行は」

 

「とても勉強になりました。異なる世界の人々と触れ合い、語り合い、共に戦う事。異なる世界の言語や文化を知る事。全てが僕にとっての宝物です」

 

 “電脳現象調査保安局”の本部長室。本部長となっている薩摩廉太郎に報告をしている一真。彼は“デジクオーツ”事件の解決に大きく貢献したが、休暇と更なる自己研鑽も兼ねて半年間の武者修行の旅に出掛けていた。数々の異世界を渡りながら。

 一真に“終焉の聖騎士”と言う二つ名を授けたのは薩摩だった。それだけ一真の実力を認めていると言う事になる。彼曰く、“大門大とトーマ・H・ノルシュタインを足して2で割ったような青年”との事。

 あらゆる世界を渡り歩いた一真。“デジモン化”した事によって、オメガモンが保有する能力を使う事が出来るようになった。次元を越える能力を持ち、様々な世界を行き来する事や、世界に干渉する事だって出来る。

 それらの能力を使ってあらゆる犯罪組織や海賊等を壊滅させて来た。時には言葉で改心させて真っ当な組織に変えたり、時には武力を以て二度と機能しないようにさせた。もちろんオメガモンに超究極進化せずに。

 最後に訪れた世界では治安維持組織が世界を治めていた。しかし、長きに渡る平和の中で当初の理念を失って腐敗し、その余波は民衆にも差別や貧困という形で蔓延していった。それを見て憤りを覚えた一真は行動を起こした。

 組織の腐敗を全て調べ上げ、それを白日の下に晒しながら民衆による革命を起こし、民主的な組織として再編させた。その先導に立った一真はその世界の英雄となり、その世界の歴史を大きく動かした。

 しかし、異世界出身の自分が干渉するのはここまでとある程度の線引きはしていた為、後の世界はその世界の人々に託して自分の世界に戻っていった。統治も上手く行くように様々なアドバイスをしたおかげで、その世界は今では以前よりも遥かに暮らしやすくなった。皆が前を向いて希望を抱けるように。

 現在も自分が訪れた異世界の面々と文通をしているという一真。暇を見て沢山書くようにしているが、仕事をしながらになるので中々上手く行かない。

 

「そうか。良い経験となったな……」

 

「そちらの方は順調ですか?」

 

「あぁ。おかげ様で。皆頑張っているよ。ただ……ここ最近外れデジモンの出現件数が多くなっている」

 

 薩摩が渡したのは一冊の報告書。そこには一真が異世界旅行に出掛けている間、人間界に出現した外れデジモンのデータと事件の顛末が事細かに記されている。一真はそれを手に取り、1ページ1ページを丁寧に読んでいく。

 人間界の至る所に出現している外れデジモン。“電脳現象調査保安局”の各支部でもどうにかしているが、中々減る予兆が見えない。その中で、パラティヌモンは“彼らは人間界で悪さをしたい訳ではなさそうです。ただ何かから逃げているだけに思えます”と独自の意見を述べている。

 

「原因はイグドラシルでしょう。この世界に来る前、デジタルワールドに行きました。ガンクゥモンとジエスモンに会って少し詳しい話を聞けました」

 

「おっ、そうか。詳しい話を聞こうか」

 

 一真は3日前の事を話し出す。場所はデジタルワールド。オメガモンに超究極進化していた彼は、デジタルワールド最南西部にいるガンクゥモンの住居に来ていた。

 クロンデジゾイド製のちゃぶ台。座布団に座っているオメガモンの所に来たのは2体の聖騎士。身体から“ヒヌカムイ”を浮き上がらせ、赤い髪をし、目の部分をバイザーで覆い、背中に白いマントを羽織り、底の高い下駄を履いたガンクゥモン。

 全身を白銀の聖鎧で覆い尽くし、背中に赤いマントを羽織り、両腕に鋭い聖なる刃を装備したジエスモン。

 

ーーーーーーーーーー

 

「済まない。待たせたな、オメガモン」

 

「初めまして。“終焉の聖騎士”。君の活躍は聞いているよ?」

 

「いや私もついさっき来たばかりだ。初めまして、ガンクゥモン。ジエスモン。私がオメガモン……八神一真だ」

 

 ガンクゥモンとジエスモンと初対面となるオメガモン。座布団から立ち上がって彼らと握手を交わし、再び座布団の上に座る。

 お互いに『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。オメガモンは“巡り会いの戦い(クロスウォーズ)”があったデジタルワールド、ガンクゥモンとジエスモンはこのデジタルワールドの出身だ。

 

「そちらの調子はどうだ?」

 

「う~む、そうだな……相変わらずだ。やっている事は変わらないが、今起きている事態が深刻だから何とも言えないな」

 

 ガンクゥモンはデジタルワールド最南西部に居を構えるとされているものの、同じ場所に留まることは極稀れと言われている。

 何故なら次代を担わせるハックモンを連れ、デジタルワールドの各地を旅しながら異変や混沌の兆候を潰して回っているからだ。

 存在を見せることが少ない他の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』とは違い、現地に降り立って活動しており、気心知れたデジモンも数多くいる。その仲間とも言えるデジモン達から様々な情報を聞いている。

 それでも今回の事態はガンクゥモンにも余りにもイレギュラーであり、対応に困っている。後手に回っているのが実情だ。

 

「ジエスモンは?」

 

「俺もだよ。正直休みたいぐらい毎日働いている」

 

 ジエスモンはデジタルワールド各地に起こる異変や混沌の兆しを感知する能力を備え、どの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』よりも素早く駆け付ける。

 単独で行動するよりも、近くのデジモン達やシスタモン達と連携して事態に対応している。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の中でも稀なチームでの活動を行うのは他者を信頼し、自分への過信を行わないからだ。

 

「何か異変の兆候とかを見付けたのか? 外れデジモンの出現理由とか……」

 

「見付けていたら我々でどうにかしている。どうにも出来ないから悩んでいるんだ。外れデジモンの件は。誰が・何時・何処で・どうやって・何故人間界に行くのかが分からないんだ。予測不能なんだよ」

 

「そうか……済まないな」

 

「いや良いよ。ただその代わり、こっちはある意味ビッグニュースを手に入れた」

 

 そう言ってジエスモンがオメガモンに何かを見せた。それは昨日の新聞。デジタルワールドにも新聞が存在しており、全てデジモン文字で書かれている。オメガモンとなった一真はもちろん読む事が出来る。

 その一面記事を読んでいるオメガモンの表情が険しくなる。写真に大きく出ているのはロードナイトモン。自分と同じ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。このデジタルワールドを守護する聖騎士だ。

 

「ロードナイトモンがデジモンを撃退した!?」

 

「正直私もどうかと思ったのだよ。だがな、オメガモン。最近は各地のデジモン達が突如として自我を失い、凶暴化するという現象が起きている。様々なデジモンが被害を受けていて、我々はその対処に追われている。戦わずに正気に戻せれば良いが、それが中々難しくてな……私もまだまだ修行不足のようだ」

 

「イグドラシルもようやく重い腰を上げたんだ。他の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に凶暴化したデジモンを撃退し、最悪倒して良いと指令を下した。正直助かると言えば助かるけど、かなりやり方が強引過ぎるから俺達はその後始末に追われていてね……困ったもんだよ」

 

 オメガモンが読んだ新聞の一面記事。そこにはマグナモンが自我を失い、凶暴化したデジモンを撃退したと書かれている。

 ガンクゥモンとジエスモンは溜息を付きながら、その裏話を話し始める。今までは彼らとその仲間達で事態に対処していたが、イグドラシルが重い腰を上げて他の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に凶暴化したデジモンを撃退し、最悪倒すように命令を下した。

 それはそれで非常に助かるのだが、ガンクゥモンとジエスモンはその後始末に追われている為、余計な仕事が増えたと言いながら困ったような笑みを浮かべている。

 

「今人間界に外れデジモンが現れているのも、デジモンの凶暴化が関係しているかもしれない。“この世界にいると凶暴化してしまう。だったら人間界に逃げよう”と。もし凶暴化したデジモンが人間界に現れてもみろ。そうしたら大変な事になるぞ?」

 

「気を付けて。今起きているこの事態には何か裏がありそうだから」

 

「分かった。ありがとう」

 

 ガンクゥモンは現在ホメオスタシスが治める地域に住居を構えている。ホメオスタシス側はガンクゥモン、イグドラシル側はジエスモンという分担制となっている。

 2体の聖騎士からデジタルワールドの現状と、外れデジモンの増加に関する裏話とヒントを得たオメガモン。ガンクゥモンの住居から出ると、そこには3体のデジモンがいた。

 赤色の装甲に全身を包み、右腕にドリルのような爪を、左腕に三本爪を装備し、背中に2門のキャノン砲を装備しているカオスドラモン。背中に4枚の白色と青色の翼を生やし、腰に2体の生体砲を装備したパイルドラモン。『GAKU-RAN(ガク-ラン)』を肩に羽織り、二足歩行の獅子のような姿をしたバンチョーレオモン。

 

「? 君達は……」

 

「久し振りだな、オメガモン。俺はカオスドラモン。元ムゲンドラモンだ」

 

「俺はパイルドラモン。ヤシャモンが進化した」

 

「俺はバンチョーレオモン。まぁ……曰く付きだ」

 

 カオスドラモン、パイルドラモン、バンチョーレオモン。彼らは“デジクオーツ”事件でオメガモンと関りがあったデジモン達の進化体だ。

 ブレイクドラモンを人間達に作らせたムゲンドラモン。彼はカオスドラモンに進化する事が出来た。今は『鋼の帝国(メタルエンパイア)』で重役を担っている。

 剣道部員に剣の道を教えたヤシャモン。彼はパイルドラモンに進化し、今はジエスモンの片腕として大活躍をしている。

 ベルゼブモンの前に姿を現したレオモン。彼は『デジモンテイマーズ』に登場した個体と同一個体なのだが、ホメオスタシスによって転生した。『デジモンセイバーズ』に登場したバンチョーレオモンと融合する形で。

 

「久し振りだな、皆」

 

「あぁ、元気そうで何よりだよ」

 

「クオーツモンを倒したんだって? 凄いよ。ホメオスタシス様が言っていたよ」

 

「人間界に戻るのだろう? 気を付けて」

 

「ありがとう。皆も元気で。また会おう」

 

 3体のデジモンと軽い立ち話をしたオメガモン。彼らは新しい道を歩みながら、ガンクゥモンとジエスモンに協力している。

 彼らとまた会える日は近い。そして共に戦う日も何時か来るだろう。そう思いながら、オメガモンはデジタルワールドを後にした。

 

ーーーーーーーーーー

 

 それから1週間後。“電脳現象調査保安局”の本部の会議室。そこでは1ヶ月に1度、各支部の代表を集めて定例会議が行われている。そういう決まりになっている。

 今回はアメリカ支部からアルフォースブイドラモン、イギリス支部からロードナイトモン、オーストラリア支部からデュークモンX、そしてデジタルワールドからジエスモンが来ている。本部からは薩摩&クダモンが参加している。

 ジエスモンの口からデジタルワールドの現状とデジモン達の凶暴化、外れデジモンの増加について一通り話が行われた。その話の後、最初にアルフォースブイドラモンが口を開いて話し合いが始まった。

 

「お疲れ様、ジエスモン。それで……デジタルワールドは実際の所どうなんだ?」

 

「今日の定例会議の為に3日間デジタルワールドを旅して、色んなデジモン達から聞き込み調査をした。やっぱり凶暴化は1日に何十件も起きている。デジモン達でどうにか出来る物や、俺達『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』で解決する物もある。良い修行にはなるけど、流石にな……」

 

「大変なんだね、そっちも。こっちは外れデジモンが出たら出動しないとだし……しかも毎日のように」

 

「お互い色々と大変な事ばかりだな……こっちも凶暴化の件が片付いていない。向こうの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』も一部を除いて動く気配が全くない。恐らくは……」

 

「あぁ、ジエスモン。このデュークモンも同じ事を考えた」

 

 ジエスモンとデュークモンXが内心で考えた事。それはイグドラシルが『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々を何らかの方法で強化し、ホメオスタシスとの戦いに備えていると言う事だ。

 イグドラシルはこのデジタルワールドの神。過激で攻撃的な性質を問題視されてホメオスタシスが建造された。ホメオスタシスとは対立関係にあり、これを切っ掛けに全面戦争を行おうとしているのではないか。それがジエスモンとデュークモンXの考えだった。

 デジモンと人間の共存を拒んでいるどころか、デジタルワールドの為に人間界を消し去ろうとしているのではないか。その為に人間界を崩壊させ、デジタルワールドに取り込もうとしているのかもしれない。

 

「でもイグドラシルは直ぐには動けない筈だ。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の強化には時間が掛かる筈だ。全員を動かさないのはそういう事情があると俺は考えている」

 

「ジエスモン。デジタルワールドの動きは君とガンクゥモンに一任する。何かあったら私に連絡を入れて欲しい。一真君……オメガモンもこの事を知っている」

 

「はい。デジタルワールドには俺達の仲間達が各地にいるので、動きがあったら直ぐに分かります。お任せ下さい」

 

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の中では、まだ年齢的・経験的に若いジエスモン。仲間に対しては聖騎士とは思えないフランクな口調だが、“電脳現象調査保安局”の本部長たる薩摩には丁寧口調だ。

 “デジクオーツ”事件が終結して1年。再び人間界でデジモンが関係した戦いが始まろうとしている。誰もがそれを感じている。

 

「今回の事を知っているのはここにいる皆と一真君……オメガモンだけだ。他の皆にはまだ言わなくて良い。何時か必ず言わなくてはいけない時が来る事は分かっているが……あまり局員皆の不安を煽らせたくないんだ」

 

「分かりました。俺はデジタルワールドに戻ります」

 

「頼んだぞ、ジエスモン」

 

 “電脳現象調査保安局”の定例会議が終わり、各支部から集まった聖騎士達は戻っていく中、薩摩とクダモンは真剣な表情をしながら考え事をしている。

 ジエスモンとガンクゥモン。共にこのデジタルワールドの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』なのだが、イグドラシルには仕えていない。人間界に対する考え方や統治に付いていけず、ホメオスタシス側に付いた。貴重な戦力である。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ウオオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!」

 

「『風の守護壁(ウィンド・ウォール)』!!!」

 

 同じ頃。“電脳現象調査保安局”の本部。会議室から少し離れた訓練室では、模擬戦が繰り広げられている。対戦カードはパラティヌモンと、ウィザーモンが究極進化したメディーバルデュークモン。

 パラティヌモンは右手に握るパラティヌス・ソードを薙ぎ払いながら、刀身から黄金の剣光を伸ばして攻撃するのに対し、メディーバルデュークモンは目の前に風の防御壁を展開して防御する。

 そして右手に握る究極魔槍―デュナスに突風を纏わせて振るう事で、破壊力を伴った暴風としてパラティヌモンに向けて撃ち出す。

 

「ハァッ!!」

 

「やっぱり迎撃されるか……パラティヌモン!」

 

「攻撃からの構え直しが遅い!」

 

 パラティヌモンに向けて襲い掛かる凄まじい暴風。それに対し、“聖騎士王”は左手に握るパラティヌス・ソードを振るい、剣圧を放って打ち消す。

 右手に握る聖剣の剣先を突き付けながら言い放ち、背中の翼から光を放出させて突進を開始する。お得意の近接戦闘・超速機動戦に持ち込むつもりだ。

 それをさせてはいけない。メディーバルデュークモンは何度もパラティヌモンと模擬戦を行っている為、彼女の戦い方を一通り学習している。

 デュナスの戦斧部分に突風を纏わせて振り下ろし、無数の風の刃を放つ事でパラティヌモンの全身を斬り刻もうとする。

 

「なっ!?」

 

 しかし、パラティヌモンは迫り来る無数の風の刃を見た。その隙間をどう掻い潜るかを一瞬で判断すると、背中の翼から放出している光の量を爆発的に増やすと同時に加速。

 無数の風の刃を掻い潜り、一瞬でメディーバルデュークモンの前に姿を現すパラティヌモン。驚きの表情を浮かべるメディーバルデュークモン目掛け、右手に握るパラティヌス・ソードを振り下ろす。

 相手に何もさせない超神速のスピードと剣技。これがパラティヌモンの最大の武器。相手の攻撃を躱し、攻撃態勢から戻ろうとしている間に仕留める。これが基本戦術。

 攻撃を防御する事はあるが、全くと言って良い程攻撃が当たらない。それは卓越した反射神経、反応速度、剣技があるからこそ。必要最小限の動きで攻撃を躱し、相手の急所を攻撃して仕留める。

 剣技その物はかつてアーサー王だった頃に培ってきた。身体に染み付いた技術は今でも生きている。ガウェイン卿やランスロット卿の強さには及ばないが、それでも“デジクオーツ”事件の終結に貢献しただけの事はある。

 

「ハアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

「クッ!!」

 

 振り下ろされたパラティヌス・ソードをデュナスの戦斧部分で受け止めて弾き返し、返す刀でデュナスを突き出すが、パラティヌモンは身体を回転させながら躱し、メディーバルデュークモンの喉元に聖剣の剣先を向けた。

 勝負あり。チェックメイト。メディーバルデュークモンは観念した様子で降参の意を示し、模擬戦を終わらせた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 “電脳現象調査保安局”の社内食堂。模擬戦を終えたパラティヌモンとウィザーモンはテイルモンと共に、昼食を取っている。

 パラティヌモンが食べているのは日替わり定食。この日は白飯・味噌汁・生姜焼き・サラダ・漬物のセット。パラティヌモンは白飯を大盛りにしている。ウィザーモンはカレーライスを食べ、テイルモンはかけうどんを食べている。

 

「相変わらずパラティヌモンは容赦ないわね……」

 

「何言っているんですか? これでも手を抜いている方ですよ?」

 

「とてもそうには思えないんだけど……」

 

 パラティヌモンは相変わらずだ。2振りのパラティヌス・ソードのみを使用し、日本各地に出現している外れデジモンを撃退している。

 その合間にテイルモンとウィザーモンと模擬戦を繰り広げている。“デジクオーツ”事件の功績が認められ、パラティヌモンは“聖騎士王”という称号を授けられた。

 ウィザーモンは“電脳現象調査保安局”の研究部長となり、テイルモンは彼を支える研究副部長となった。人事異動で昇格したのだ。

 

「“デジクオーツ”事件が終わって1年。相変わらず外れデジモンは出現しています。何時何処に現れても大丈夫なように日頃から鍛錬を行わなければなりません」

 

「そうね……優衣さんもデジタルワールドに出張しているし」

 

 工藤優衣ことアルファモン。彼女は“創世の聖騎士”という称号を授かったが、今は“電脳現象調査保安局”にはいない。

 彼女は今デジタルワールドにいる。薩摩本部長の命令を受け、ガンクゥモンとジエスモンのお手伝いをしている。それと共に“寿司処 王竜剣”に必要な新年なお魚を仕入れている為、“寿司処 王竜剣”は只今休業中だ。

 何故優衣がデジタルワールドにいるのかは一般局員には明かされていない。知っているのは各支部の代表とガンクゥモンとジエスモン、そして薩摩本部長と鏡花主任と一真。極一部の面々しか分からない。

 

「優衣さんがデジタルワールドに出張したのには何かありますね。恐らくデジタルワールドで何かが起きているのでしょう」

 

「或いは僕達の知らない何かが進んでいるか……こればかりは分からないね」

 

 この機密事項はパラティヌモンにも分からない。まだ入局して日が浅いからだ。テイルモンとウィザーモンも同様だ。まだ機密事項は明かされていない。

 しかし、彼らは感じている。優衣が今現在いるデジタルワールドで何かが起きていると言う事に。そして戦いが近付いている事も。

 

ーーーーーーーーーー

 

「この車に乗るのも久し振りだな……」

 

 次の日。人間界に帰還して早々に一真は仕事に出ている。今彼が乗っているのは自家用車ではなく、“電脳現象調査保安局”の営業車。

 政治家や官僚、一般市民にデジモンの事を教えながら交流を深めると言う仕事が新たに増えた。これも“電脳現象調査保安局”が名を上げたからだ。

 今は就職活動に勤しむ学生やその両親達から圧倒的な支持を受けている為、厳しい就職前線を潜り抜けた学生達が沢山入って来る。何時かは“電脳現象調査保安局”の名前が無くなり、異なる組織となるだろう。

 一真やパラティヌモン達がデジモン達と戦っている為、彼らが戦場に立つ事はない。しかし、“デジクオーツ”事件のような事があれば、前線に立たなければならない。その事を理解している学生が果たしてどれだけいるのだろうか。

 

―――物の上っ面だけしか見れない人が世の中まだまだ多いと言う事か。僕はそうなりたくないし、そうならないようにこれからも気を付けて行こう。

 

 彼らはネームバリューや給料や福利厚生だけを見たに違いない。仕事内容は決して楽ではない。人の命を守る仕事。外れデジモンを撃退したり、巻き込まれた人間の救助。肉体労働が中心となる。

 その為、入局してからは基礎体力を付ける意味も兼ねて、新人教育が1ヶ月間行われている。人間界で言う自衛隊のような役割を担っている。対デジモン用自衛隊。

 一真はオメガモンとなった。しかも『僕らのウォーゲーム!』に登場したオメガモンに憧れている為、誰かを守る仕事は適職だったと言える。

 

―――まぁ僕も人の事を言えないんだけどね。今は充実した毎日を過ごせているけど、それが出来るのは一握りの人間だけだし。

 

 1ヶ月間の新人教育の後、薩摩本部長の立ち合いの下でテストが行われる。本当に“電脳現象調査保安局”の局員として務められるかどうか。技能や心構えを確かめるテストだ。

 デジモンと人間の命を守る仕事だ。守る側も命を賭ける覚悟を持たなければならない。生半可な覚悟ではこの先やっていく事は出来ない。

 そして一番必要になるのは力だ。助けた人間達と共に生還する事が出来る実力。仕事が出来るかどうか。力と言うよりも本人の実力となる。

 1ヶ月間の新人教育で意欲を確かめ、その後の確認テストで才能と実力を確かめる。やる気・才能のない人間より、やる気・才能のある人間の方が必要になる。例えどちらかが欠けていても、本人の努力と周囲の教育次第では伸びる事が出来る。

 

―――オメガモンになってからは色々と苦労したな。人間とデジモンの狭間で悩んだけど、完全なオメガモンになった今はそうでもないし……

 

 人間として、デジモンとしてしっかり生きている一真。ただ、やはり人間としての生活が身体に染み付いている為、日常生活は人間の姿で、戦闘の時だけオメガモンの姿でいる事が多い。やはりその所には拘りがあるのだろう。

 皆が毎日生きていく中で何かと戦っているが、それは目に見えない何かと戦っている事が多い。仕事や勉強等の目に見えない・触れない何かと。普段から戦っているのはスポーツ選手や軍人。

 デジモンは普段から戦いをしているが、一真も“デジクオーツ”事件で戦い続けた。その結果、力が強大となり、“デジモン化”してしまった。このような経験は二度と誰にもさせたくない。その一心で異世界旅行をしながら、己を鍛え続けて来た。

 

―――でも先ずは僕に出来る事をしよう。さぁ仕事だ。仕事。

 

 一真が営業車を走らせて向かっている場所。そこはとある高等学校。これから体育館に集まった全校生徒の目の前で、デジモンに関する特別授業を行う。

 気持ちを入れ替えて目的地に向かう一真。彼の新たなる仕事が始まったと同時に、新しい戦いもまた始まろうとしていた。

 

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・第2章の時間軸
第1章の1年後です。

・第1章の後の“電脳現象調査保安局”の動き

国家が立ち上げた特殊チームから、国家直属の独立行政法人へとランクアップ。
→これによって局員の地位や給料、福利厚生が良くなりました(前も良かったけど)
→でもやる仕事や責任感が増えました。それに加え、新卒採用も行う様になりました。
→要は国家機密の精鋭部隊だったのが、開かれた組織になったと言う事です。

・人員異動
→オメガモン・Alter-Bはオーストラリア支部に異動。第2章に出ますよ?

・一真の帰還
”終焉の聖騎士”という称号を授かり、半年間異世界を渡り歩く武者修行に出ていました。これは外伝ネタ・コラボとして使えるかな?と思って入れました。
→外伝をするとしたら『インフィニット・ストラトス』や、『Fate/Grand Order』になります。
→特に『Fate/Grand Order』だとオメガモンの姿で大暴れ(神霊クラスの実力者)しちゃうので、活躍は程々に抑えようと考えています。

・外れデジモンの出現&イグドラシルの動き
第2章の序盤のメインとなります。
→ガンクゥモンとジエスモンは第2章で初登場しましたが、彼らは味方です。転生組ではありませんが、ちゃんとした味方です。
→第2章のラスボスですが、クオーツモンと違って積極的に動いています。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を”とある方法”を使って強化している時点で。

・カオスドラモン・パイルドラモン・バンチョーレオモン
第1章で登場したデジモン達の進化体です。
→彼らは皆ガンクゥモン・ジエスモンの仲間で、特にバンチョーレオモンは強大な戦力となっています。

・一真の苦悩(?)
元々は人間だった一真。今も人間の姿にはなれますけど。
デジモンとなった自分と、人間だった自分の狭間の葛藤を書いてみました。


裏話はこんな感じになります。今回は説明回だけあって話自体は動いていません。
次回も話自体はそこまで動かない予定です。

皆さん。よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

外れデジモンと戦う一真だが、刻まれた破壊の爪痕は大きかった。
そんな一真達の前にとある人物が現れ、今起きている現象について話し始める。
その頃、デジタルワールドには新たなる動きが見られようとしていた。

第28話 動き出す事態の中で


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第28話 動き出す事態の中で

今回の話ですが、次回予告で書いた内容と若干変更した箇所があります。
話の流れをスムーズ、かつ自然な物にしたかったので変更しました。

今回から人間界とデジタルワールドで事態が動き始めます。
この事態は一本の線で結ばれていますが、一体どういう事なのか。
それは本編の中で明かしていきますのでお楽しみ下さい。


「『デーモン大暮閣下のラジオレクイエム』!!!」

 

 “デジクオーツ”事件が終結して1年後。“電脳現象調査保安局”は組織的に大きく発展すると共に仕事量が増えたが、人間界に来ているデジモン達の中には事件が起きていた頃と全くと言って良い程、変わらない生活を送っている者もいる。

 その中の1体がデーモン大暮閣下。この日もまたパーソナリティーを務めるラジオ番組の収録が始まろうとしている。

 

「ドゥハハハハハハハッ!!!!! 貴様ら今日も始まったぞ! 今日も吾輩、お昼ご飯が美味しい豚骨醤油ラーメンだったデーモン大暮閣下と……」

 

「……ここ最近ラーメン大好き大暮さんに付き合わされているスカルサタモンです」

 

「では早速この曲から始めたいと思います。『Chase the Light!』です、どうぞ!」

 

 人間界で随一の人気を誇る『デーモン大暮閣下のラジオレクイエム』。ここ最近になってデジタルワールドでも放送が始まり、ホメオスタシスまで熱心なリスナーとなっている。

 実は番組を聴いたジエスモンがデジタルワールドでも聴けるように交渉してみた所、本人がノリノリで了承したと言う。ジエスモンのおかげなのだが、サービス精神の塊たるデーモン大暮閣下も流石としか言いようがない。

 最近になってラーメンの食べ歩きを行っているデーモン大暮閣下。これは本人の趣味ではなく、ラーメンを食べ歩きながらそのお店を紹介する番組が始まったからだ。その司会役を担当しており、番組のロケでこの日もラーメンをお昼ご飯に食べて来た。

 スカルサタモンがグロッキーになっている理由。それは毎日のようにラーメンを食べている為、たまには違う物が食べたいからだ。確かに人間界の食事は美味しいのだが、流石に毎日同じような物を食べていると、流石に飽きて来る。

 

「Are you ready!?」

 

『ウオオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!』

 

 同じ頃、ルーチェモン・フォールダウンモード率いる5人組ヴィジュアル系ロックバンド、『セブンヘブンズ』はとある音楽番組の収録を行っている。目の前にいるのは沢山のオーディエンス。完璧な生演奏。ライブの盛り上がりをお茶の間にお届けする。

 観客は男性と女性が半々。ちょうど良い比率だ。ルーチェモン・フォールダウンモードの声に観客達が応える。黄色い歓声と野太い歓声。それに満足気な笑みを浮かべながら、ルーチェモン・フォールダウンモードは左拳を掲げた。

 

「さぁ宴の始まりだ! 全力で楽しめ!」

 

 観客を煽りながら歌うルーチェモン・フォールダウンモード。止まる時間の方が少ない程、かなり激しく動き回るリズムギターのデビモン。コーラスをしているリードギターのデビドラモン。アクティブに動きつつ、スラップを織り交ぜた弾き方で魅せるイビルモン。激しさと正確さを内包するドラミングで曲を支えるネオデビモン。

 彼ら5体のデジモンが『セブンヘブンズ』。単独で野外フェスを開催する所まで登り詰めているが、未だに全員贅沢が出来ない奇妙なヴィジュアル系ロックバンドだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「これは……酷い」

 

 その頃、デジタルワールドでは新たなる事態が起きていた。その事態を目の当たりにしているのは工藤優衣。彼女はつい先日からデジタルワールドに来ている。

 薩摩本部長からデジタルワールドへの出張を命じられたが、これは建前だ。本音はイグドラシルの動向を探る為。つまりは密偵だ。

 そこでガンクゥモンやジエスモンと協力しながら、イグドラシルの動向を探る。それと共に『寿司処 王竜剣』のネタを仕入れている。この日は新鮮な魚を仕入れる為にウェブ島に来ているのだが、彼女は目の前に広がる光景に言葉を失っていた。

 荒地となったウェブ島。島全体に『波動(コード)』を放ってみたものの、住民のデジモン達の反応は無かった。全員消し去られた事となる。

 

「という事はジエスモンの方も駄目っぽいわね……」

 

 問題なのはこれが初めてではないと言う事だ。ジエスモンも場所こそ違えど、内容が同じ依頼を受け取った。つい先程その場所に向かった。今頃は到着している頃だろう。

 同時多発的となる今回の襲撃事件。一体何が起きているのか。優衣は右手に持っている依頼状に目を落とす。

 

 

依頼人:ゴツモン

 

依頼内容:謎の集団がウェブ島に来てデジモン達を殺戮し始めました。その姿が全く見れなかったので、誰が何の為にしたのか全く分かりません。お願いします。謎の集団を見付けて退治して下さい。

 

 

「助けられなくてごめんね……」

 

 優衣は悲し気な表情を浮かべながら一言呟いた。謎の集団が突如としてデジモン達を殺戮し始めた。その理由は。誰が一体何の為に。恐らく依頼状が届いた時にはゴツモンを含めたデジモン達は殺戮されていたとしか言えない。

 自分がもう少し早く来ていれば、1体でも多くのデジモンを助ける事が出来たのかもしれない。そう思う優衣だったが、彼女はこの依頼状を受け取って直ぐにウェブ島に来た。やれるだけの事はやった。ただ間が悪かっただけだ。

 

「優衣さん!……そっちも駄目だったか」

 

 そこに来たジエスモン。彼も別のデジモンからの依頼状を受けて他の場所に向かったのだが、どうやら向かった場所も同じような有り様だったのだろう。優衣の表情と変わり果てたウェブ島。それを見たジエスモンは瞬時に状況を理解し、無言になった。

 自分達が来るよりも前に、向かう場所にいた全てのデジモンが殺戮された。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の中では、年齢的にはまだまだ若手の2人。遣る瀬無い表情をお互いに浮かべている。

 

「もしかして……これってイグドラシルの仕業なのかな?」

 

「イグドラシルが? どうして?」

 

「確か『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に凶暴化したデジモンを撃退しろと言ったんでしょ? それでも収まらないから、凶暴化が確認されたデジモンごと消しちゃえ……みたいな話になって……」

 

「でもだからと言って……いや在り得ると言えるかもしれないなこれ」

 

 外れデジモンが歪みを通り、人間界に来ていると言う事態が起きている中、デジタルワールドでも外れデジモンによる被害が報告されている。ジエスモン達はその対処と処理に追われている。

 今まではジエスモンとガンクゥモンと仲間達で対応していたが、つい最近になってイグドラシルも協力するようになった。他の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に凶暴化したデジモンを撃退し、最悪倒して良いと指令を下した。

 しかし、だからと言って凶暴化したデジモン以外のデジモンを殺戮する理由にはならない。例えそれが被害の拡大を防ぐ為だったとしても。

 

「つまり、今回イグドラシルは何かしらの動きを見せて来たと言う訳だな? 先に言うけど、イグドラシルと『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』……奴らと戦うには相当の覚悟がいるよ? 何しろ世界を相手にする物だから……クオーツモンとは違う」

 

「実力と格を兼ね揃えたデジモン揃いだからね……しかもイグドラシルというラスボスもいる時点で分かってはいるけど」

 

 ジエスモンはイグドラシルが何かしら仕掛けて来たと考えている。いよいよホメオスタシスを潰しに、人間界の崩壊に動き出したのか。そう考えている為、表情が真剣となっている。それは優衣も同じ。

 クオーツモンとの戦い。クオーツモンと言う本丸さえ潰してしまえば、勝利が確定した立戦いだった。しかし、今回は違う。質と量が逆転している。量は多いけど、質が低いクオーツモン。量は少ないけど、質が高いイグドラシル。完全な正反対だ。

 

「しかも連携やチームワークも強い聖騎士達。それが『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』。恐らくイグドラシルの事だから何らかの強化を施していると思うけど……」

 

「そうね……これからどうする? 貴方とガンクゥモンが裏切っている事も、私がこの世界にいて色々やっている事も向こうに気付かれているかもしれないし……デジタルワールドで花火が上がるか、人間界で花火が上がるか。どちらにせよ、時間の問題よ?」

 

「あぁ。ガンクゥモンや一真君達には俺から伝えておくよ。人間界で何かが起きても構わないって。俺達は何時でも準備が出来ていると」

 

「頼むわ。私達も来たるべき戦いに備えないとね」

 

 優衣とジエスモン。彼らがイグドラシルと『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』との激突が近付いていると感じ取っていたが、彼らが考えていた通り、自分達の行動はイグドラシル達に気付かれていた。

 デジタルワールドの何処か。世界樹イグドラシルがある場所。そこには『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と、1人の女性がいた。銀色のショートヘアーに黄金の瞳をした美女。彼女の名前はマキ・イグドラシルと言う。

 

「全員揃ったかしら?」

 

「いえ、凶暴化したデジモンの排除で来れないのが何体かいます」

 

「分かりました。イグドラシル様。人間界にいるデジモン達なのですが……強い相手ばかりだと伺いました。それは本当ですか?」

 

「えぇ。今度の相手は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に『七大魔王』、それに『厄災大戦』で活躍した英雄もいる。今までの相手とは訳が違う……幾ら私の方で貴方達を強化したと言っても、気合を入れないと此方がやられるわ」

 

 マキの質問に答えたのはマグナモンX。黄金の超金属“クロンデジゾイド”製の聖鎧に身を包んだ聖騎士。このデジタルワールドの『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員。彼はマキの事を“イグドラシル様”と呼んでいる。

 続けてマグナモンXが質問をすると、マキは真剣な表情をしながら答える。それを見た聖騎士達の間に緊張感が走った。相手は自分達と同じ聖騎士や魔王達。しかも『厄災大戦』で活躍した英雄もいる。それを聞いただけで真剣になるしかない。

 

「1年前にクオーツモンを倒しただけあって、かなり強いわ。オメガモンを筆頭にアルファモンやデーモン……そしてパラティヌモンもいる。皆が皆一騎当千の強者よ? 油断も慢心も出来る相手じゃないわ」

 

「上等ですね! ところでイグドラシル様。既に動いていますよね? 人間界に逃れたもう1人の貴女を捕らえるのに誰を送りました?」

 

「ベイリンとシグムンドを送ったわ。奴は必ず取り返さないと。今話した事は不在の聖騎士を含め、皆に伝えて。どちらにせよ、今回は大規模な戦争になりそうね。私とホメオスタシス。デジタルワールドと人間界。世界を巻き込んだ大戦になるわ……ローラン、グラーネ、フェルグス。ちょっと私の用事に付き合ってくれるかしら?」

 

『はい!』

 

 マキは既に人間界に刺客を送り込んでいた。人間界に逃げ込んだもう1人のイグドラシルを連れ戻す為に、2体の聖騎士を人間界に派遣した。そして何かを思い付いたのだろう。3体の聖騎士を呼び出した。

 今回の戦いはイグドラシルとホメオスタシスという2人の神だけではなく、デジタルワールドと人間界の未来をかけた大戦となる。その始まりは直ぐ近くに迫って来ていた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 デジタルワールドで来たるべき大戦に向けて着々と準備が進んでいる頃、人間界では早速その前哨戦が始まろうとしていた。

 とある高等学校でデジモンに関する特別授業を行っていた八神一真。特別授業を終えて営業車で“電脳現象調査保安局”の本部に戻っている最中、何か強大な『波動(コード)』を感じた。

 

―――何だこの反応は?

 

 この『波動(コード)』は今までとは少し異なる。デジモンではない。かと言って人間でもない。一体誰なのか。そう考えながら、『波動(コード)』が探知された方向に向かって営業車を走らせる。

 『波動(コード)』が探知された場所。そこは広大な運動場だった。駐車場に車を停めて誰もいないグラウンドに出ると、そこには1人の女性が倒れていた。

 僅かに揺れる三つ編みの金髪。それはまるで金色の絹糸のようだ。幻想的な美しさを誇る芸術品に心を奪われた一真がその女性に歩み寄ろうとすると、上空から1体のデジモンが一真の目の前に降り立った。

 

「……ロードナイトモン!?」

 

「如何にも。私はロードナイトモン・ベイリン。ベイリンと呼んで下さい」

 

 そのデジモンの名前はロードナイトモン。流線形独特の滑らかな曲線美の聖鎧を身に纏う聖騎士。聖鎧の色は薔薇色。両肩から伸びているのは金色の帯刃と装飾。右手に持っているのはパイルバンカー。杭打ち器。

 そのロードナイトモンの個体名はベイリン。人間界にいるロードナイトモンの個体名はオリヴィエと言う。恐らくはデジタルワールドにいる個体なのだろう。一体人間界に何をしに来たのか。倒れている女性と何か関係があるのか。そう考えた一真はベイリンに質問をする事を決めた。

 

「一体この世界に何をしに来ました?」

 

「私は争いに来ていません。その女性を引き渡して下さい。そうすれば直ぐに立ち去りますので」

 

「この女性を? 理由を聞かせて下さい」

 

「良いでしょう。このお方はノルン・イグドラシル。デジタルワールドの神」

 

 ベイリンの話によると、一真の目の前で倒れている女性はノルン・イグドラシル。デジタルワールドの神様。

 ホメオスタシスと対立している筈の彼女が何故人間界に来たのか。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』がどうしてこの世界に来たのか。突然の事態に訳が分からず、一真はベイリンから事情を聞き出す事に専念している。

 

「彼女はもう1人のイグドラシル。しかも世界樹の中心部なんですよ。我々にとってとても大事な存在……出来れば引き渡して欲しいのです。私は人間界で悪さをしたくないですし、争いたくもない。何事も平和的解決が望ましいですよね?」

 

 ノルンはもう1つのイグドラシル。つまりはホストコンピューター。しかもイグドラシルの重要部分を司っている。何故人間界に逃げて来たのかは分からないが、取り敢えず事情は分かった。ベイリンはノルンを連れ戻しに来たのだろう。

 それでもベイリンの言い分は分かる。人間界で悪さをしたくないし、争いたくもない。それは彼の本音だ。何事も平和的解決は望ましい。

 

「そちらの事情は分かりました。おっしゃる通りです。ですが、こちらにも事情があります。彼女がイグドラシルならば、今こちらで起きている外れデジモンの出現に対して聞きたい事があります。それに……デジタルワールドの神が人間界に逃亡し、聖騎士が連れ戻そうとしている。これは明らかに何かがあります。はいそうですかと言って引き渡す訳には行きません」

 

「……交渉決裂のようですね。貴方のような勘の鋭い人は嫌いです。多少武力を用いても彼女を連れ戻せ。それがマキ様の指令……死にたくなければ彼女を引き渡して下さい」

 

 ベイリンの言葉に同意しながらも、一真はやんわりと断った。ノルンがイグドラシルの主要部分だとすれば、外れデジモンの事に関して何かを知っているだろう。

 それにデジタルワールドの神が人間界に逃亡している時点で只事ではない。彼女を『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が連れ戻そうとしている事もそうだ。増してや、それはイグドラシルの指令だと言う事にも。

 ノルンから話を聞き出さなければならない。デジタルワールドで何が起きているのか。何故イグドラシルが逃亡して来たのか。

 ベイリンは話が平行線のまま進んでいる事に気付き、武力を用いてノルンを連れ戻す事を決めた。右手に握り締めたパイルバンカーを構える一方、一真は安全と思われる所にノルンを横たえ、そのままベイリンの所に戻って来た。

 

「ほぉ、人間たる貴方が聖騎士たる私に挑みますか。随分と身の程知らずではないですか?」

 

「そう言えば自己紹介してませんでしたね。失礼しました。僕は八神一真と言います」

 

「八神……一真!?」

 

「又の名を……オメガモンと言います。超究極進化!!!」

 

 人間の姿で自分と戦おうとしていた一真の姿を見たベイリン。彼は馬鹿にするように嘲笑うが、一真の名前を聞いた途端、その嘲笑は消え失せた。

 クオーツモンを単独で倒した聖騎士。マキが人間界で一番警戒するように何度も忠告していたデジモン。それが自分の目の前の相手だった。その相手を思い出したからだ。

 一真の雄叫びと共に全身を覆い尽くす程の膨大な光の奔流が発生し、一真の周囲一帯に眩い光が渦巻いていく。周囲一帯に発生した光の中で一真の両目が空色に輝き、超究極進化が始まった。

 ベイリンが純白の光に包まれた一真を見つめていると、純白の光が消え去り、その中からオメガモンが姿を現した。

 

―――こ、これがこの世界を守護するオメガモンなのか……!

 

 八神一真が超究極進化したオメガモン。その全身から放たれている圧倒的としか言えない威圧感とオーラ。ベイリンは圧倒されるしかない。まるでイグドラシルと相対していると思えるからだ。

 それでも戦うしかない。自分はマキからノルンを連れ戻すように命令されたからだ。ベイリンは姿勢を低くしつつ、右手に握るパイルバンカーを構える。

 

「『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』……ロードナイトモン・ベイリン!」

 

「八神一真……オメガモン・パラディン!」

 

『行くぞ!』

 

 オメガモンも左手のウォーグレイモンの頭部を象った籠手の口部分からグレイソードを射出し、横薙ぎに構える。お互いに名乗りを上げ、ゆっくりと間合いを取りながら動き出すタイミングを伺い始める。

 ホメオスタシスとイグドラシルの代理戦争。人間界とデジタルワールドを巻き込んだ大戦。その前哨戦が始まろうとしていた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「う……う~ん……」

 

 2体の聖騎士の一騎打ち。それが始まろうとしている時、気を失っていたノルンが目を覚ました。周囲をキョロキョロと見渡し、自分が人間界に来る事が出来た事に気付き、安堵の溜息を付いた。

 すると、直ぐ近くから轟音が鳴り響いて来た。その正体を探ろうと駆け寄ってその場所を目にした瞬間、ノルンは言葉を失った。2体の聖騎士が戦っていた事に。

 先手を打ったのはベイリンだった。先手必勝と言わんばかりに、オメガモンの視界から消失した。消失したのではない。目にも写らぬスピードで移動したのだ。移動した痕跡さえも残さない、移動した事を気付かせない、消失したと錯覚させる程の超スピードを以て。

 頑丈で身軽な聖鎧と、驚異的な機動力を以てオメガモンとの間合いを一瞬で侵略し、ベイリンは上半身を逸らしながら右足を一歩踏み込み、限界まで引き絞った右腕を目にも写らぬ速さで突き出した。

 

「『アージェントフィアー』!!!」

 

 放たれたベイリンの必殺奥義。オメガモンはパイルバンカーに向かって一回転し、身体を外側に捻る事で『アージェントフィアー』を躱した。

 目にも写らぬ速さで繰り出された必殺奥義。しかし、彼はそれと同等以上の攻撃を放てる上に、これまで何度も潜り抜けて来た。これくらいどうと言う事はない。

 これでベイリンは右腕を前に突き出した無防備な状態となった。オメガモンはグレイソードを下段に構え直し、一気に右下から左上にかけて振り上げる。

 鋼鉄がぶつかり合う甲高い金属音が鳴り響くと共に、2つの武器が激突した事で鮮烈な火花が周囲に飛び散る。

 何かに気が付いたベイリンが顔を上げた瞬間、彼の手から離れたパイルバンカーが緩やかな放物線を描きながら宙を舞い、轟音と共に地面に墜落した。

 

「馬鹿な!?」

 

「貰った!」

 

 表情の一切を伺えないベイリンの仮面。しかし、言葉と様子を見るに、驚愕しながら混乱しているに違いない。

 全力を以て繰り出した一撃があっさり躱され、カウンターを叩き込まれた。その事実に打ち震えるベイリンに、オメガモンは直ぐに追撃に出た。

 大上段からグレイソードが振り下ろされた。唐竹斬りがロードナイトモンの聖鎧に縦一文字の斬り傷を刻み付け、ベイリンを吹き飛ばす。

 

―――何てパワーだ……!

 

 ベイリンはマキによって基本スペックを限界まで上昇されている。『電脳核(デジコア)』を調整された、いわばドーピングを施された状態。通常の個体よりも速く動けるし、頑丈で必殺奥義の威力も大きい。

 反応速度等の身体能力も同様に上がっているが、オメガモンはその上を言っている。元々の個体差もあるが、一番は中身の問題だった。

 オメガモンは1年前の“デジクオーツ”事件、そして異世界での武者修行を経て今の実力を手に入れた。それに加えて一真が“デジモン化”した事で、人間とデジモンが完全に融合した最強形態となっている。

 対するベイリンは『電脳核(デジコア)』に改造手術を施され、限界まで力を引き出された疑似的なX進化状態。しかし自分と同等以上の戦闘経験が少ない。その差が出ている。

 カチャ、カチャという金属音を踏み鳴らしながら、ベイリンに歩み寄るオメガモン。グレイソードで止めを刺すつもりなのだろう。迎撃する為に立ち上がり、聖鎧から伸びている4本の帯刃の中から2本の帯刃を掴み取り、構えを取ったベイリン。

 グレイソードの剣先をベイリンに向けたオメガモン。これから止めを刺そうと言う時に、突如として何処かからエネルギー弾が撃ち込まれた。

 

「『ドラゴンズロア』!!!」

 

 何処かから撃ち込まれた2発のエネルギー弾。それを右手となっているメタルガルルモンの頭部を象った籠手を翳し、受け止めるオメガモン。

 その隙にベイリンの隣に降り立ったのは1体の聖騎士。禍々しい漆黒の竜のような姿をしたデュナスモンX・シグムンド。彼もノルンの連れ戻しをマキに命じられた聖騎士だが、違う場所を探索していたようだ。

 

「遅れて済まない。ノルンは?」

 

「見付けて確保しようとしたが、八神一真の邪魔が入った。気を付けろ、シグムンド。奴は強いぞ?」

 

「あぁ、お前のそのやられようを見れば分かる。あのオメガモンだな……」

 

 隣り合うベイリンとシグムンド。それに合わせ、オメガモンも構えを取り直す。メタルガルルモンの頭部を象った右手の口部分からガルルキャノンを展開する。

 シグムンドは右手に持っている筈のパイルバンカーが違う所にあり、聖鎧に斬り傷を刻まれたベイリンを見ただけで、オメガモン・アルビオンの強さを理解した。

 

「シグムンド、援護を頼む! さっきは失敗したが、今度こそ!」

 

「分かった! 私は奴の足を止める!」

 

 聖騎士の戦い。その第2ラウンドが始まった。2対1。数の上では不利だが、オメガモンは負ける気はしない。何故なら自分自身を信じているから、

 ベイリンは先程と同じく瞬間移動を思わせる程の超機動力で突進を開始し、シグムンドは両手を前に突き出し、手の平から何時でもエネルギー弾を撃てる構えを取った。

 前衛のベイリン。後衛のシグムンド。実に理想的な布陣。それに対し、オメガモンも目にも止まらぬスピードで移動する。ベイリンに突進するのではなく、とある場所に向かって。そこにはベイリンとシグムンドが連れ戻そうとしている人物がいた。

 

「何を血迷って……!」

 

「止めろシグムンド! 撃つな!」

 

「これでも撃てるかな?」

 

―――駄目だ! マキ様からはノルンを連れ戻すように命令を受けたが、無傷で連れ戻さなければならない! もしダメージを受けたら、『NEOプロジェクト・アーク』の進行に大きな影響が出る!

 

 オメガモンが止まった所。その近くには戦いを観ているノルンがいる。彼女を守ろうとする心意気が見えると共に、人質にしているようにも見える。

 ―――連れ戻そうとしている女性を撃てるのか? そう言いたげに目を細めるオメガモン。ベイリンはシグムンドに攻撃をしないように声を張り上げるが、これにはきちんとした理由がある。

 マキからは人間界に逃亡したノルンを連れ戻すように命令された。それと共に、何があっても傷付けないようにきつく言われた。つまり無傷で連れ戻せと言う事だ。マキが遂行している『NEOプロジェクト・アーク』。それに大きな影響が出るからだ。

 それに加え、オメガモンはベイリンの話を覚えている。ノルンはもう1人のイグドラシルであり、ホストコンピューターの主要部分。自分は傷付いても一向に構わないが、ノルンを傷付ける訳には行かない筈。そこまで考えた上で心理的な揺さぶりをかけた。

 

―――さてどう来るかな?

 

「貴様……イグドラシル様を人質に、女性を人質に取るとは何て卑怯な!」

 

―――その女性を連れ戻そうとしている奴に言われたくないな……

 

 オメガモンの作戦と強さに気付いているベイリンの制止を聞かず、シグムンドは怒りを見せながら突進を始める。それを見たオメガモンは内心で独り言ちる。

 騎士道・武士道精神が強い為、卑怯な事を許せないシグムンド。彼はオメガモンの心理的な揺さぶりにまんまとかかった。

 

「止めろシグムンド! 私とお前の2体がかりで……」

 

「行ける! 『ドラゴンズロア』が使えなくてもオメガモンなど……」

 

 シグムンドの言葉を遮るように、オメガモンはガルルキャノンの照準をシグムンドに合わせ、ガルルキャノンから青いエネルギー弾を撃ち出した。

 それを左手の平で受け止めたシグムンド。『ドラゴンズロア』として撃ち返そうとしたが、目の前にいた筈のオメガモンが消失している事に気が付いた。

 攻撃を中断して周囲一帯を警戒するように睨むシグムンドの背後に、オメガモンが現れてグレイソードを横薙ぎに一閃する。

 

「後ろだシグムンド!」

 

「何!? グァッ!!」

 

―――浅かったか? いやベイリンの邪魔さえ無ければ行けてたかもしれない。

 

 シグムンドはベイリンの声に背後を振り返り、自分に向かって振るわれるグレイソードの存在に気が付いた。間合いを一瞬で侵略し、至近距離まで踏み込んでいた。

 ベイリンの声が無ければ、気付く事は出来なかった。視認はおろか、気配を察知する事すら出来ない超速度。その超神速のスピードでオメガモンは移動していた事になる。

 咄嗟に受け止めようとしたが、シグムンドは踏ん張れずに吹き飛ばされた。力負けしたとしか言えない。それを見たオメガモンも手応えの無さに表情を険しくさせた。

 ―――やはりベイリンの邪魔が無ければ、シグムンドにダメージを入れる事が出来た。そう思っているオメガモンとの間合いを一瞬で詰め、ベイリンは聖鎧から伸びている2本の帯刃を手に取って斬りかかる。

 

「我々2体を相手に互角以上に渡り合うとは……流石は“終焉の聖騎士”様だな!」

 

「そういうお前達こそ、普通ではないな。何らかの強化を施されている。だが、本当に強いのは人間とデジモンの絆だ!」

 

 グレイソードで2本の帯刃を受け止めた事で、そのまま鍔迫り合いに移行する。一見すれば体格では明らかにオメガモンの方が有利だった。

 そして身体能力・基礎スペックの時点でもオメガモンの方が上だ。右足を一歩踏み込むと共に大地を踏み砕き、気合を轟かせながらグレイソードを振り切る。

 たまらないと言わんばかりにベイリンが吹き飛ばされる中、その隙に追撃に出ようとするオメガモン。その聖騎士を牽制するように、先程の攻撃から立ち直ったシグムンドが両手の平からエネルギー弾を連射する。

 

「ベイリン!」

 

「済まないシグムンド!……何て反応速度だ!」

 

 地面を素早く駆けながら、オメガモンは『ドラゴンズロア』を避け続ける。ベイリンがその機動力と反応速度に驚いていると、オメガモンがグレイソードを振り上げた。

 地面を斬り上げて石礫を飛ばすと共に、巻き起こった土煙で自身の体を覆い隠しながら、ベイリンとシグムンドを攪乱させる。

 

「無駄だ! 俺の火力を以てすればこの程度!」

 

「奇襲に気を付けろ!」

 

 シグムンドが必殺奥義で土煙をかき消そうとするのを、ベイリンが制止するが、その判断は正しかった。何故ならシグムンドの目の前に姿勢を低くしたオメガモンが姿を現し、グレイソードを振り上げて来たからだ。

 気配を探知する事が出来ない超速度。目の前に発生していた土煙。完璧とも言える奇襲をまともに喰らい、シグムンドは吹き飛ばされるしかなかった。

 

―――ここまでのようだな。今の我々ではオメガモンを倒すどころか、任務を遂行する事は出来ない。

 

 ベイリンは悟った。自分達では目の前にいる聖騎士を、オメガモン・アルビオンとまともに戦う事が出来ないと。マキの指令を完遂する事は出来なかったが、チャンスは幾らでもある。次こそは必ず倒せる準備を整えなければならない。

 そう思ったベイリンは立ち上がっているシグムンドの肩に手を置いた。シグムンドがベイリンの顔を見ると、ベイリンは首を横に振った。その仕草にシグムンドは俯く事しか出来なかった。

 

「シグムンド。大丈夫か?」

 

「あぁ、何とか……」

 

「このまま撤退しよう」

 

「……でもマキ様の命令が」

 

「我々ではノルンを連れ戻すどころか、オメガモンに勝てない。ここは一度退却しよう」

 

「……そうだな」

 

 このままではノルンを連れ戻すどころか、オメガモンに負ける未来しかない。そう感じたベイリンは、シグムンドに一度デジタルワールドに戻る事を提案した。

 シグムンドは頷いてベイリンと共にその場から飛び立ち、デジタルワールドに戻っていった。それを見たオメガモンは追撃に出なかった。

 

―――戦いは五分の勝ちを持って上となし、七分を中とし、十を下とす。

 

 これは戦国大名の武田信玄の考え方だ。五分の勝利であれば、緊張感も残って次への励みに繋がる。しかし、七分では油断が生じてしまい、完全勝利では、おごりが生じ、次の戦いで大敗してしまう恐れがある。

 確かに敵は倒せる時に倒した方が良い。しかし、敢えて倒さずに自分の脅威を相手陣営に植え付け、心理的な揺さぶりをかける事もまた戦略だ。

 2体の聖騎士が飛び去った後のグラウンド。そこには凄まじいとしか言えない程の破壊の爪痕が刻まれていた。無造作で、無秩序で、方向性が全く感じられない。何かを破壊しようと思って破壊したのではなく、戦闘における余波や衝撃等による物だ。

 単純な余波だけで周囲のフェンスは粉砕され、地面は至る所がクレーターに変わり果てている。これで当分の間野球の試合どころか練習は行えない。改めてデジモンの戦いの凄まじさを突き付けられた。

 

「これは酷いな……」

 

 この戦いはオメガモンの勝利に終わったが、軽い小競り合い・前哨戦に過ぎない。しかし、その程度でこの有り様だ。目の前の現実が嫌と言う程、突き付けて来る。

 今までは“デジクオーツ”で戦っていたから、被害を気にする事なく戦う事が出来た。しかし、これからは違う。ディアボロモン戦のような気遣いをしなければならない。

 既に新しい戦いが始まっている。現実を受け入れるしかない。まもなく“電脳現象調査保安局”の駆除班が来るだろう。オメガモンは一真の姿に戻ると、ノルンと向き合った。

 

「初めまして。八神一真です」

 

「助けて頂きありがとうございました。私はノルン・イグドラシルと言います」

 

「ノルンさん。詳しい話が色々と聞きたいです。“電脳現象調査保安局”に僕の上司がいるので、お話の方をお願いします」

 

「はい。私もその為にこの世界に来ました。よろしくお願いします」

 

 お互いにお辞儀をし合う一真とノルン。奇跡的に無事だった駐車場。そこに停めてある“電脳現象調査保安局”の営業車に乗る一真。

 ノルンを助手席に座らせ、“電脳現象調査保安局”の本部に向かっていく。この出会いが運命を加速させていく事になるとは知らずに。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・変わらない物もある
前回は“電脳現象調査保安局”の変化を書きましたが、今回は対照的にデーモン大暮閣下とルーチェモンの生活を書きました。第1章の頃と変化有りません。
彼らが戦いに加わるかどうかは現時点では不明です。

・優衣さんが目にした物

熱心なデジモンファンなら分かるとは思います。
ちなみにウェブ島はデジモンのゲームで登場した地名です。

・マキ・イグドラシル

今回の黒幕です。ラスボスかもしれません。
見た目のイメージは『Fate/Grand Order』のジャンヌ・オルタをイメージして下さい。
名前の元ネタは『デジモンアドベンチャー tri.』に登場する姫川マキです。

・聖騎士の個体名

今回の敵は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』がメインになるので、混ざらないように個体名を付けました。伝承や神話の中から適当にチョイスしました。
今回分かったのはロードナイトモン=ベイリン、デュナスモンX=シグムンドです。
ちなみに人間界にいるロードナイトモン=オリヴィエ、デュナスモン=ミズガルドです。
主人公のオメガモンの個体はパラディンです。

・聖騎士の強さ

今回の敵たる聖騎士達はX進化出来るデジモンはX進化しています。
それに加え、マキに『電脳核(デジコア)』を調整されて基礎スペックと身体能力を限界まで高められた反則仕様となっています。
今回は相手が悪かった・任務が任務でしたが、これからその恐ろしさを書いていきます。

・『NEOプロジェクト・アーク』とノルン・イグドラシル

次回以降詳しい事を書いていきます。
今回は『デジモンアドベンチャー tri.』の要素を入れています。


裏話はこんな感じになります。
話自体はそこまで動かない予定が、書き直している最中にかなり進みました。次回も進むと思います。戦闘はない予定ですが。

皆さん。よろしければ感想・評価の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が超進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

一真が保護したノルン・イグドラシル。
彼女の口からデジタルワールドで起きている事態・マキの目的等が語られる。
一方、事件の調査をしている優衣の所にマキの魔の手が……!?

第29話 2人のイグドラシル





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第29話 2人のイグドラシル

第27話に引き続き、今回も説明回となっています。
今回は一体何処で何が起きているのか・どういう理由で起きているのかについて説明していきます。
デジモンっぽいサブタイトルが多かった第1章に比べて、第2章はシリアスが強いからか、真面目なタイトルで行こうと考えています。

次回の投稿は設定集になりますので、よろしくお願いします。

p.s.UAが10,000を突破し、お気に入り登録数が50を突破しました! 評価も入りました!
これも日頃から応援して下さっている皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!!!


 東京都内のとある高等学校。そこでデジモンに関する特別授業を終えた八神一真。営業車で“電脳現象調査保安局”の本部に戻っている最中、強大な『波動(コード)』を感じて1人の女性を助けた。

 その女性の名前はノルン。デジタルワールドの神様であり、ホストコンピューターのイグドラシルの良心。その主要部分。彼女を連れ戻そうとデジタルワールドから2体の聖騎士が刺客として派遣された。

 ロードナイトモン・ベイリンとデュナスモンX・シグムンド。八神一真ことオメガモン・アルビオンが彼らを退ける事に成功し、彼女は一真と共に“電脳現象調査保安局”の本部に向かった。その本部長室にいるのは一真、ノルン、薩摩本部長、クダモン、鏡花だけだ。

 

「初めまして。私はノルン・イグドラシルと言います。デジタルワールドの神であり、ホストコンピューターのイグドラシルです」

 

『イグドラシル!?』

 

 薩摩本部長、クダモン、鏡花はノルンの自己紹介に驚くしかない。まさか目の前にいる美女がイグドラシルだとは信じられない。

 ホメオスタシスと対立している筈なのに、どうして人間界に逃亡して来たのか。彼らは共通の疑問を抱いた。

 

「どうしてデジタルワールドの神様が人間界に!?」

 

「それは……私が追われているからです」

 

「追われている? 誰に? どうして?」

 

「もう1人のイグドラシル……マキに追われています。お願いです。彼女を止めて下さい。彼女は今、何者かと一体化しています」

 

 ノルンは自分の事を正直に話し始める。元々、イグドラシルはデジタルワールドの創世期に建造されたホストコンピューター。人間とデジモンはどう関わるべきか。どう接するべきか。人間との関わり合いに悩みながらも前進している良き神様だった。

 元々人間界とデジタルワールドの共存を心から望み、人間とデジモンは分かり合えると信じていた。ノルンとマキの姉妹のように仲の良い2人の人格による共同統治。しかし、ある日マキは1体のデジモンと出会って見てしまった。人間によって悪用され、命を弄ばれ、殺され続けるデジモン達の不幸を。デジタルワールドを荒らす人間達の横暴を。

 デジモンの未来を守る為、デジタルワールドの為を想う強い心が、そのデジモンの考えを認めてしまったのだろう。マキはそのデジモンと一体化し、その時から過激で攻撃的な人格となってしまった。

 ノルンが良心で、マキが良心の無い抜け殻。マキの行き過ぎた統治をノルンが止める事が出来ず、彼女のやり方に反発したデジモン達が武力蜂起を行い、『厄災大戦』が勃発した。これが『厄災大戦』の勃発の原因だった。

 

「元々イグドラシルは貴女とマキさんで共同統治していた。マキさんのやり方が悪すぎて『厄災大戦』が起きたと」

 

「はい。その時にパラティヌモンが誕生しました。アーサー王だった彼女をデジモンにしたのは私です」

 

「成る程……」

 

 『厄災大戦』の最中、アヴァロンに向かっていたアーサー王が、時空の歪みに巻き込まれてデジタルワールドに流れ着いた。

 異世界に迷い込んだ彼女を救い、パラティヌモンに転生させたのはノルンだった。その後、パラティヌモンは13体のデジモン達を率いて『厄災大戦』を終結させた。

 

「あの戦いが終わった後、大戦の反省を踏まえてホメオスタシスが建造されました。イグドラシル……私達は破棄される予定でした。でも原因は私達の共同統治にあるとされ、私達は破棄されませんでした」

 

「多分ホメオスタシスはノルンさんとマキさんを消したくなかったのでは?」

 

「それもあると思います。話を戻しますが、マキはイグドラシルの力の全てを没収され、ホメオスタシスと私の分割統治に移行しました」

 

 『厄災大戦』の終結後、ホメオスタシスが建造された。それに伴ってマキはイグドラシルの力の全てを没収され、ホメオスタシスとノルンの分割統治になった。

 しかし、これがデジタルワールドに負荷をかける結果となった。“デジクオーツ”を生み出す原因の1つにもなってしまったのだから。

 

―――デジタルワールドを統治する神は1体だけ。

 

 これが全てのデジタルワールドにおける鉄則。止むを得ないとは言えど、この鉄則に背いた事で、デジタルワールドから大量の“歪み”のエネルギーが生まれてしまった。それに伴い、人間界に迷い込むデジモンが発生し、外れデジモンの出現理由となった。

 ここまではバグラモンの話の通りだ。彼はクオーツモンとの決戦直前、“デジクオーツ”と自分達が人間界に来た理由を話した。

 しかし、矛盾している所もある。デジタルワールドの在り方や人間界との接し方を巡り、イグドラシルとホメオスタシスが対立していた。この部分は一体どういう事なのか。

 

「今から5年前……くらいでしょうか。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』がクーデターを起こしました。首謀者はマキ。彼女は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を率いてイグドラシルを掌握し、私を抹殺しようとしました」

 

「何て事を! 力を没収された恨みでしょうか……」

 

「はい。そうだと思います。私はガンクゥモンとジエスモンに助けられ、ホメオスタシスに匿われました。確かその時からでしょうか。バグラモン達が転生したのは……」

 

「そういう事でしたか……やっぱりか」

 

 今から5年前。マキは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を率いてクーデターを起こし、ノルンを抹殺しようとした。

 ノルンは逃亡してガンクゥモンとジエスモンに運良く助けられ、そのままホメオスタシスに匿われた。ノルンの話を聞いた彼女は事態を重く見て、来たるべき決戦に備えて過去に活躍したデジモン達を転生させ始めた。

 オメガモン達が転生した理由。それは彼らの推測通りだった。イグドラシルことマキの決戦に備える為。言わば戦力増強の為。

 

「一真君。暫くの間彼女を君の家に泊めてくれないか? もしもの事に備えておかないと」

 

「えっ!? わ、分かりました!」

 

「ありがとうございます!」

 

 その後もノルンから詳しい話を聞いた一真達。薩摩本部長は一真にボディーガードも兼ねて、暫くの間彼女を自宅に泊める事を依頼した。本当ならば“電脳現象調査保安局”の寮に泊めたいが、もしもの事に備えてノルンを一真に託そうと言うつもりだ。

 目の前にいるのはデジタルワールドの神様だが、絶世の美女でもある。その女性を暫くの間家に泊める。と言う事は一つ屋根の下同居する事になる。年齢は25歳で止まったが、年齢=彼女いない歴の一真にとって、この提案は雷に打たれたような衝撃だった。

 とは言えど、上司からの命令には逆らえない。戸惑いながらも一真が了承すると、ノルンは感謝するように深々と頭を下げた。

 一真にノルンを頼むと念押しをしてから下がらせた薩摩本部長とクダモン。彼らの表情は真剣だ。ついに事態が動き出したと気付いたからだ。

 イグドラシルが2人いる事実。1人が善で、1人が悪。その善の人格が人間界に逃亡して来た。一気に事態が加速した。そう考えるしかない為、薩摩本部長とクダモンは真剣な表情をしながらこれからの対応策を考え始めた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「酷い……ここもなのね」

 

 同じ頃。デジタルワールドのディレクトリ大陸。その北西部にある街に降り立った工藤優衣。その街は活気があって商売繁盛で有名なのだが、その活気が消え失せたのは目の前の惨状が告げていた。

 何者かによって破壊され、完全に荒れ果てた街。生存者がいないかどうか。念の為に荒地を歩き回る優衣だったが、残念ながら生存者は誰一人としていなかった。

 

「皆殺されちゃったのね……しかも犯人は街を砲撃で破壊したと」

 

 優衣はその場にしゃがみ込み、魔法陣を展開した。一体街で何が起きたのか。それを解析していると、犯人と思われるデジモンがこの街を砲撃で焦土に変えた事が明らかになった。

 その証拠に街の至る所が破壊し尽くされている。これまで起きた事件は街を何らかの方法で破壊し、デジモン達を殺戮していった。ある事件は灼熱の火炎。別の事件は超低温のブリザード。今回の事件は強烈な砲撃。

 

「共通点は街が破壊され、デジモン達が殺戮されている事。まるでデジモン達を粛清しているみたいね……待って! 粛清って事はまさか!」

 

 優衣の中に宿っているアルファモンが告げている。今回の事件は別世界で起きた出来事に極めて酷似していると言う事に。

 かつての因縁。『プロジェクト・アーク(箱舟計画)』。またそれがこの世界で実行されようとしている。

 

「同じような事が多発的に起きている。襲われた街や島はバラバラ。同一犯ではない……黒幕は一緒だけど。これはデジモン達を粛清しつつ、私達を誘っているような物ね。と言う事は……!」

 

「よくぞ気付いたな工藤優衣。いや……こう呼ぶべきかアルファモン」

 

 突如として優衣の目の前に姿を現したのは3体の聖騎士。所々に金色の装飾が施された“ブルーデジゾイド“の聖鎧に身を包み、胸部にV字型アーマーを備え、背中に青い翼を生やし、両腕にVブレスレットを装備したアルフォースブイドラモンX・ローラン。

 六本の脚を持ち、赤いレッドデジゾイド製の聖鎧で身を包み、左腕に聖弩ムスペルヘイムを握り締め、右腕に聖盾ニフルヘイムを装備したスレイプモン・グラーネ。

 “ブラックデジゾイド”製の聖鎧に身を包み、見るからに悪そうな顔をしているクレニアムモン・フェルグス。彼らは優衣を取り囲むようにして姿を現した。

 

「その依頼状は確かに事実を告げている。だが、依頼主は依頼状に書いてあるデジモンではない。我々だ。工藤優衣……貴女を誘き出す為の罠だったのだ」

 

「やっぱりそういう事だったか……私達は貴方達の作戦にまんまと引っ掛かったと言う事ね」

 

「その通り。ガンクゥモンとジエスモンの裏切りはイグドラシル様……もといマキ様は全てお見通しだ。無論、お前がこの世界に来ている事もな」

 

「それも見抜かれていたか……やっぱりとは思っていたけど、改めて言われると流石にきついわね」

 

 優衣が右手に握っている依頼状。それは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の罠。工藤優衣を誘き寄せる為の罠だった。

 イグドラシル、もといマキは全て分かっていた。ガンクゥモンとジエスモンの裏切りと、この世界に工藤優衣が来ている事に。

 

「我々がここに来た目的は1つ。お前を生け捕りにする事。人間界にはロードナイトモン・ベイリンと、デュナスモンX・シグムンドが向かった。大事な任務があってな」

 

「私1人を捕らえる為に大勢のデジモンを殺戮するなんて……堕ちた物ね、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』も」

 

「何とでも言え。マキ様は人間界を消滅させる決定を下した。そしてホメオスタシスと奴に味方するデジモンを排除し、新たなるデジタルワールドを作る計画を立てられた。それが『NEOプロジェクト・アーク』だ」

 

 アルフォースブイドラモンX・ローラン、スレイプモン・グラーネ、クレニアムモン・フェルグス。3体の聖騎士が来た理由は1つ。優衣を生け捕りにする為。

 そしてイグドラシルことマキは人間界を消滅させる決定を下し、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』にデジモン達を殺戮するよう命じた。

 ホメオスタシスと彼女に味方するデジモン達を抹殺し、その上で自分を中心とした新たなるデジタルワールドを作る。『NEOプロジェクト・アーク』が始まっていた。

 

「ふざけた事言わないで! 私達人間が一体何をしたの!? デジタルワールドの危機を招いた事はしていない! “デジクオーツ”だって、元はと言えばこの世界の歪みが原因じゃない! なのに人間を消すなんておかしいわ!」

 

「確かにお前の言う通りだ。そして今から説明を始めよう。マキ様、説明をお願いします」

 

「ありがとう、フェルグス。下がって良いわ」

 

「貴女は……!」

 

「初めまして。私はイグドラシルのマキ。私から事情を説明させてもらうわ」

 

 優衣の目の前に現れたのはイグドラシルのもう1つの人格。銀色のショートヘアーに黄金の瞳をした美女。攻撃的で過激派の考えを持ったマキ。

 彼女は優衣に話し出す。自分がどういった存在なのかを。そして『NEOプロジェクト・アーク』の詳細を。

 

ーーーーーーーーーー

 

 その頃。人間界。一真は自家用車の助手席にノルンを乗せて自宅へと戻った。玄関に入った一真を出迎えた両親はノルンを見て、ついに一真に春が来たのかと勘違いをした為、一真はその勘違いの訂正にアタフタする場面が見られた。

 それから夕食の時間となり、一真はノルンに食卓の椅子に座って待つように伝えると、夕食のお手伝いを始めた。この日の夕食はカレーライス。直ぐに一真がノルンの目の前にお皿とスプーンを置いた。

 

「これは……?」

 

「カレーライスです。熱いので気を付けて食べて下さい」

 

 八神一家とノルンは頂きますを言ってから、夕食を食べ始めた。初めて食べる人間界の食事。いや食事と言う物はノルンにとって初めてなのかもしれない。興味津々といった様子で、ノルンはスプーンで白飯にカレーをかけて口に運んだ。

 その直後、ノルンの目に涙が溜まった。初めての食事で美味しい物を食べた。この感激、この喜びはデジタルワールドでは決して体験する事は出来なかった。生まれて初めて体験する事が出来た。

 彼女はあっという間にカレーを食べ終えると、一真にお代わりを要求した。その様子を見た一真は唖然となりながら、彼女のお皿にカレーと白飯をよそって来た。

 

「凄い食べっぷりですね……」

 

「はい! この世界にはこんなに美味しい食べ物があるなんて知りませんでした……申し訳ありません」

 

「いやいや、もっと食べて良いんですよ?」

 

 胃袋が満たされていくに連れて、思考に力が回せるようになったのだろう。ノルンは顔を真っ赤に染めながら、深々と頭を下げる。

 それを見た一真の父親たる総司がノルンの前にお皿を差し出すと、彼女はその好意に甘える事にした。その後は合計5杯お代わりし、一真を終始唖然とさせた。

 その後は食後のコーヒーまでご馳走された。八神家全員がブラックで飲む中、ノルンは大量のミルクとお砂糖を入れ、胸やけがしそうな程甘くなったコーヒーを飲んでいた。

 

「ノルンさん……と言ったね? 一体何者なんだ? 一真が連れて来たって事はデジモン関係だと思うけど……」

 

「はい。私は……」

 

 ノルンは総司の質問に答え始める。自分がデジタルワールドの神、イグドラシルだと言う事。とある事情で監禁されていたが、味方に助けられた事。デジタルワールドで起きている事を伝えようと、人間界に来た事。

 その答えに心底から驚いた一真の両親。まさか目の前にいるのは、別世界の神様だとは思わなかった。暫くして納得したように何度も頷いたが。

 

「一真さんには本当に助けられました。この前の“デジクオーツ”も彼の力が無ければ、今頃地球は“デジクオーツ”となっていたでしょう。本当にありがとうございます」

 

「一真はデジモンに襲われそうになったのを助けられました。そして世界を救った事は本当に誇りに思いますが……人間でなくなった事を聞いた時は本当に悲しかったです。人間である事を捨てて、私達と世界を守ったとは言え」

 

「親が死に、子が死に、孫が死ぬ。息子はその自然法則から逸脱し、超越した存在になってしまいました。確かに一真自身が選んだ道ですが、そう選ぶしかなかったように思えます。だから私達はデジモンの事を好きになれません。息子を人間でなくした化け物を、息子から大切な物を奪った者を私達は許せません」

 

「貴女にこんな事を言っても、何にもならない事は分かっています。でも私達は少なくともそう思っています。大切な息子をここまで変えてしまったデジモンの存在を、受け入れる事は出来ません。確かに良いデジモンもいるのも事実でしょう。それでも親にとって大切な子供をここまで変えた事を私達は許せません」

 

 一真の両親はオメガモンとなった息子の事は誇りに思っている。デクスドルグレモン達に襲われそうになった所を助けられ、世界の危機を救った英雄となったのだから。

 しかし、デジモンの事は好きになれないし、許せないでいる。息子から大切な物を奪い、人間を止める事を迫ったからだ。親として子供の幸せを願うのは当然の話だ。

 一真は止めようとしたが、両親の鋭い眼光の前に引き下がるしかなかった。ノルンは両親の思いを真摯に受け止めているのか、俯いたまま一言も言わなかった。謝罪の言葉も。反論する意見も。彼女なりに責任を感じているようだ。

 その後、一真がお風呂に入っていた所、ノルンが全裸で入って来ると言うハプニングがあり、まさかのスタイル抜群の美女と一緒にお風呂に入ると言う羨まけしからんな体験をしたが、一真は終始たまったものではなかった。

 ノルンは常に一真の身体に密着していた為、一真は理性と感情の狭間で戦っていた。そのせいか、途中でのぼせてしまった。ノルンが慌てて助けなければ、一真は間違いなく死にかけていただろう。

 そして一真の自室で寝る事になったのだが、ここでも問題が発生した。一真のベッドは1人用のベッド。シングルベッド。如何にも狭苦しい。人間1人だったら寝れるレベルだが、流石に2人はきつい。もしも2人が寝るとしたら、相思相愛の恋人のように密着するしかないだろう。

 

「私が床で寝ます」

 

「いやいやいや! 神様を床で寝かせる訳には行きません!」

 

「でも貴方は明日お仕事があるので、休んだ方がよろしいかと」

 

「そうですけど、貴女も逃亡の疲れがあるので寝た方が……」

 

「では一緒に寝ませんか?」

 

 その言葉に一真は一瞬固まった。頬を赤くしながら目を逸らすと、ノルンに強制的にベッドに連れられ、一緒にベッドの中に入る。

 ノルンは一真を抱き枕にするように抱き締めながら、一真の頭を自分の豊満な胸に埋めさせる。一真は顔を真っ赤にさせ、理性と感情の間で再び戦う。目の前にはノルンの豊満な胸があるのだから。

 

「お休みなさい、一真さん」

 

「お休みなさい、ノルンさん」

 

 目の前でノルンに優しい声で囁かれ、慈母のような微笑みを見ながら瞼を閉じた瞬間、一真の意識は断絶した。夢を見る余裕もなく、奈落の底に墜落していく気分で深い眠りに付いた一真。

 その寝顔を見ながらノルンも深い眠りに付く。一真の頭を撫でながら、彼の幸せを心から願う様に子守唄を歌いながら。

 

ーーーーーーーーーー

 

―――昨日の夕方、再び外れデジモンが出現しました。お台場周辺に2体出現しましたが、“電脳現象調査保安局”の活躍によって撃退されました。怪我人は一切出ておりませんが、羽田空港の全便欠航を中心とした交通機関への影響は甚大で、素早い対応策が求められています。

 

 翌日。“電脳現象調査保安局”の本部では、誰もが朝のニュースを見ている。昨日出現した外れデジモン。それに伴って発生した膨大な被害。アナウンサーが淡々と読んでいる。

 映し出されている映像には暫く使い物にならなくなり、夥しい破壊の爪痕が刻まれた羽田空港の滑走路があった。

“電脳現象調査保安局”の局員達は誰しもが心を痛めていた。被害を拡大させないように食い止めたものの、それでも被害が出てしまった。それも目に見える形で。

 

―――それに加え、昨日は都内の運動場に2体のデジモンが現れ、そこでも“電脳現象調査保安局”の活躍によって撃退されました。怪我人は一切出ておりませんが、当分の間運動場は使用出来なくなりました。デジモンは私達人間の想像を遥かに超えた存在。その強大な力を改めて思い知る事となりました。

 

―――これじゃあ僕らも外れデジモンと同じ扱いとなる。僕らは外れデジモンと戦ってデジタルワールドを追い返しているのに。仕事をしているだけなのに。

 

 一真と2体の聖騎士達の激闘によって、当分の間使用不可能となった運動場。一真はニュース映像を見ているが、改めて自分達の戦いがもたらした破壊の凄まじさを見せ付けられ、溜息を付いていた。

 自分は既に人間ではなくなった。デジタルモンスターと言う人間を遥かに超えた存在となった。もし人間界でデジモンに関する事件が起きなくなったらどうするのか。その問いが一瞬脳裏を過ぎった。

 

―――ここ最近またデジモンが現れるようになったんですよね? また現れると思うと……不安で仕方ないです。

 

―――子供が怖がるので二度と出て来て欲しくないです。“電脳現象調査保安局”の皆さんも大変でしょうが、頑張って下さい。

 

―――大河原内閣は朝から臨時閣議を開き、“電脳現象調査保安局”だけでなく、警察や自衛隊と連携し、今後の対応を協議する事となっています。

 

 街の人々の声を流した後、アナウンサーは政府の今後の対応を話した。それを聞いた一真はその場から立ち去り、本部の廊下を歩き始める。

 その隣にはアルトリウスがいる。彼女も昨日外れデジモンと戦っていたが、羽田空港を当分の間使用不能に追い込んだ犯人と言える。

 お台場の上空に出現したディノビーモンと戦っている最中、間違えて羽田空港に墜落させてしまった。そのまま戦闘に突入してデジタルワールドに追い返す事には成功した。

 アルトリウスは今日のニュースを沈痛そうな様子で見ていた。それには理由がある。“電脳現象調査保安局”の新人局員。その父親が羽田空港にいた為、怪我をして今は入院中と本人から聞かされていたからだ。

 人間の中にはデジモンの存在を迷惑に思ったり、人間界からいなくなって欲しいと思っている者もいる。死んで欲しいと思っている心無き者もいる。彼らは果たして守られるべきなのか。守って良い人間なのか。それは一真にも、アルトリウスさえも分からない。

 

ーーーーーーーーーー

 

「初めまして。私はノルンと言います。デジタルワールドのホストコンピューター、イグドラシルです。これからお伝えするのは現段階で分かっている事の考察。そしてもう1人のイグドラシル……マキがこれからやろうとしている事です」

 

 “電脳現象調査保安局”の本部にある会議室。そこに集まったのは“電脳現象調査保安局”の主要メンバー。ノルン、鏡花、ウィザーモン、テイルモン、一真、アルトリウス。

 薩摩本部長とクダモンがいないのだが、彼らは政府に召集されて臨時閣議に参加しているからだ。臨時閣議に向かう直前にノルンの方から薩摩本部長とクダモンには説明したものの、その他の面々にはまだ説明をしていない。

 ノルン本人が説明しようとしているのは主に3つ。外れデジモンの出現理由。デジタルワールドで何が起きているのか。マキがこれから何をしようとしているのか。

 

「先ず最初に外れデジモンが現れている件について説明しています。調べた所、主に東京都を中心に出現していますね。そしてその影響でお台場を中心とした電波障害が発生していて、電波障害が起きた直後に原因不明の停電が起きているそうです」

 

「電波障害? 停電? 一体いつから?」

 

「一真君が戻って来る1ヶ月前くらいからよ。ちょうどその時から外れデジモンが出現される頻度と、もたらされる被害が比例するようになった」

 

 現時点で分かっている事が幾つかある。1つ目はお台場を中心に電波障害が発生している事。それに加え、電波障害が発生した直後に原因不明の停電が起きている。

 発生し始めたのはここ最近から。一真が人間界に戻って来る1ヶ月程前。その時から外れデジモンが出現される頻度が増え、それに伴って被害が拡大していった。

 

「この電波障害は有線以外のネットワークで大きな不具合を起こしています。携帯電話、スマートフォン、テレビ放送の受信障害。それらが発生しています」

 

「電波障害は外れデジモンの出現と関りがある……そう言いたいのですね?」

 

「はい。その通りです。“デジクオーツ”事件終了後、外れデジモンが出現したケースを一通り見させて頂きました。それらには何の共通点がないように見えますが、実は外れデジモンの出現には一つの共通点があります。彼らは皆、デジタルワールドの歪みに巻き込まれて人間界に来ています」

 

「“デジクオーツ”と何か関係はありますか?」

 

「ありません。そもそも“デジクオーツ”は消滅しています。 この歪みは“デジクオーツ”とは違う形でデジタルワールドと繋がっている。だから人間界にデジモンが現れているんです」

 

 電波障害は日常生活において重要な部分にダメージを与えている。スマートフォンやテレビ放送。それらに影響を及ぼしている為、一般市民にとってかなり迷惑となっている。既に生活に必要不可欠なアイテムとなっているからだ。

 そして外れデジモンにも共通点があった。彼らは何らかの理由で発生した空間の歪みを通り、人間界に来ている事だ。ちなみに“デジクオーツ”は既に消滅している為、今回の事態とは何の関係もない。

 

「歪みは言わばもう1つのデジタルゲートみたいな所ですね……」

 

「そうです。歪みを通じて人間界に来たデジモン。彼らは皆凶暴化していて、戦闘力も一世代上になっています。アルトリウスさんは一番分かっていますよね?」

 

 ノルンの質問にアルトリウスは頷いた。一真が異世界に武者修行に出掛けている間、彼女が外れデジモンと戦い続けていたのだから。

 これまで戦って来た外れデジモン。全員が皆凶暴化していて、戦闘力も一世代上に強化されていた。アルトリウスは苦戦こそしなかったが、周囲一帯に被害を出さないよう苦労していた。今回のような事が起こらないように。

 

「この歪みは“デジクオーツ”事件が終結した後に生まれた物です。その歪みを通ってデジモンが人間界で暴れています。ここ最近頻度と被害が大きくなり始めていますが、これはデジタルワールドで起きている事態が関係しています。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』がデジモン達を殺戮しているからです」

 

『ッ!?』

 

 ノルンが告げたデジタルワールドの現実。外れデジモンの出現頻度と被害の拡大。それはデジタルワールドで起きている事態と関係していた。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』によるデジモン達の殺戮。予想外の答えに一真達の表情が固まった。それを見たノルンは話を続ける。

 

「『プロジェクト・アーク』はご存知ですか?」

 

「はい。でもそれが何か関係があるのですか?」

 

「実はデジタルワールドでもデジモン達の凶暴化が起きているのです。その原因は歪みではありません。Dプログラム。マキが放ったプログラムにあります。感染したデジモンを凶暴化させ、その周囲にいたデジモンも凶暴化させる効果があります」

 

「ガンクゥモンやジエスモンが言っていた件ですか。自作自演じゃないですかそれ!」

 

 デジタルワールドで発生しているデジモン達の凶暴化。その原因はDプログラムにあった。デジモン達を凶暴化させる為にマキが放ったプログラム。

 感染したデジモンを凶暴化させるだけでなく、感染者の近く・周囲にいるデジモンも凶暴化させる効果を持っている。

 ガンクゥモンとジエスモンが対処しているデジモンの凶暴化。その黒幕はマキ。イグドラシルによる自作自演だった。

 

「デジモン達を凶暴化させた理由は1つだけ。デジモン達の抹殺の大義名分が欲しいからなんです。『NEOプロジェクト・アーク』。これをマキが推し進めています。デジタルワールドをリセットし、人間界を崩壊させて新たなるデジタルワールドを作る計画。今は第2段階に移行しているでしょう。全てのデジモンを凶暴化させ、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に抹殺されている頃です」

 

「もしかして外れデジモン達はこれから逃れようと……」

 

「恐らくそうだと思います。私は『NEOプロジェクト・アーク』の全てを知っており、イグドラシルの主要部分でもあります。だからマキは私を捕らえようとしました。口封じと、完全なイグドラシルの掌握も兼ねて」

 

 『NEOプロジェクト・アーク』。セキュリティの要となる『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と、その他の選ばれたデジモン達以外の全てのデジモンを抹殺し、人間界を崩壊させて新たなるデジタルワールドを作り上げる計画。

 『プロジェクト・アーク(箱舟計画)』と違うのは人間界を崩壊させる事。ただし、人間は全員抹殺する訳ではなさそうだ。

 

「と言う事は外れデジモンが出現する回数も増えてきますね……デジタルワールドに追い返さず、保護しなければ」

 

「はい。マキはまたこの世界に聖騎士を派遣すると思います」

 

「既に戦いは始まっていると言う事ですね……」

 

 ここにいる誰もが気付いている。マキ陣営との戦いは既に始まっている事を。外れデジモンが出現すると共に、聖騎士の刺客達がやって来る事を。

 出来る事はある。各支部と連携を取りながら対処する事。外れデジモンや聖騎士達と戦う事。負けないように抗う事。早速それぞれが出来る事をしに向かっていった。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・デジモンと一体化したイグドラシル

元ネタは『デジモンネクスト』ですが、あの時は『七大魔王』のバルバモンが一体化していた。果たして今回は……?

・真逆なイグドラシル

マキ=『厄災大戦』の勃発の原因を作る ノルン=パラティヌモンを造った
同じ創造ですが、意味合いが全然違います。

・『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の罠

今回の黒幕、マキがやろうとしているのは『NEOプロジェクト・アーク』。
デジモン達を粛清し、人間界を崩壊させて統合して新世界を創る事。
『プロジェクト・アーク(箱舟計画)』のパワーアップ版です。

・一真とノルン

終始ノルンに振り回されていますが、一真は年齢=彼女いない歴で、ノルンが絶世の美女なので対応に困っているだけなんです。ノルンは大食いで甘党、慈愛の女神様です。

・一真の両親

親として人間として生きて欲しかった。息子が幸せになって欲しい。
そう思うからこそ、デジモンになってしまった事を誰よりも悲しみ、デジモンにさせた事を誰よりも怒っているのです。

裏話はここまでになります。今回は少なめでした。
まだ話自体も始まったばかりなので、多い時と少ない時の波がありますが、引き続きよろしくお願いします。

皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

マキの口から語られる計画に憤慨する優衣。
アルファモンに究極進化して戦闘に突入するが、果たして……!?

第30話 堕ちた聖騎士


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第30話 堕ちた聖騎士

今回は物騒なタイトルですが、タイトルのまんまです。
昨日は設定集を投稿しましたが、外伝の予告をしたので真面目に書き始めようか検討しています。オメガモンの出番・見せ場は必要最小限かつ彼にしか出来ない仕事(空を飛ぶ相手担当)みたいな物に留めます。でしゃばるのは良くないので。
ステータスは抑えめ(FGOだと普通にありそうな感じ ☆5)にしてますし、正直戦闘よりも英霊達の交流や皆のサポート(主に精神面)をメインにする予定です。

活動報告もこの後書きますが、ちょっとアンケートの方を実施します。
『Fate/Grand Order』の小説を読みたいかどうか。
今読みたいか時系列に沿って読みたいか(第2章終了後)。
この2つを聞きたいです。感想欄にはコメントせず、活動報告にお願いします。
良いですか? 感想欄ではなく、活動報告にお願いします。



 デジタルワールドのディレクトリ大陸。その北西部にある街。そこは今では荒地に変わり果てている。その荒地で工藤優衣はマキ・イグドラシルと対面していた。

 マキの後ろには3体の聖騎士がいる。アルフォースブイドラモンX・ローラン。スレイプモン・グラーネ。クレニアムモン・フェルグス。

 

「イグドラシル! 一体どういうつもりなの!?」

 

「どういうつもり? 私は新しいデジタルワールドを作る下準備をしているだけよ?」

 

「ふざけないで! 何の罪もないデジモンを一方的に殺戮する事の何処が、新しいデジタルワールドを作る下準備なのよ!? 今の世界に何か不満がある訳!?」

 

 新しいデジタルワールドを作る下準備をしているマキと、その行いを非難する優衣。議論は完全に平行線となっている。3体の聖騎士は2人の議論を見守るだけだ。

 優衣は『プロジェクト・アーク(箱舟計画)』の事は全く知らないが、目の前にいるイグドラシルが非道な所業を行っている事は分かる。だからこそ許す事が出来ない。

 

「大有りよ。今のデジタルワールドはホメオスタシスとの分割統治。デジタルワールドを治めるのは1体の神だけ。これが鉄則。私はその鉄則に基づいて新しいデジタルワールドを創ろうとしているだけよ? どうして責められなきゃいけないのかしら?」

 

「冗談じゃないわ!確かにその鉄則は守らなければならない……でもだからと言って、その鉄則がデジモン達を殺戮して良い理由にも、世界を作り替える理由にもならない! 貴女の勝手な理由で世界を滅ぼさせはしない!」

 

 マキの言う通り、デジタルワールドを治めるのは1体の神様だけだ。今は2体の神様で分割統治している為、自然と負荷がかかっている状態となっている。マキの言い分にも一理ある。間違った事は言っていない。

 しかし、間違った事は行っている。幾ら道理を通そうとしても、やって良い事と悪い事がある。その分別も出来ないのか。優衣が指摘するのはその部分だ。

 

「そう……貴女は知らないのね。私が何者なのかを。良いわ。話してあげる」

 

 マキ・イグドラシル。ノルン・イグドラシルの妹。『厄災大戦』の原因を生み出し、今はイグドラシルの大半を掌握している

 人間によって悪用され、命を弄ばれ、殺され続けるデジモン達の不幸。デジタルワールドを荒らす人間達の横暴。それらを見てしまい、そのデジモンの考え方を認めて一体化した事で今の人格となった。

 彼女の行き過ぎた統治の結果、『厄災大戦』が勃発した。終結後、ホメオスタシスが建造されると共に、マキは力を奪われると共に追放された。それからはノルンとホメオスタシスによる分割統治が始まった。

 しかし、5年前に『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を率いてクーデターを起こし、イグドラシルを掌握してノルンを抹殺しようとした。

 

「ふ~ん、まぁ言い分にも一理あるかもしれないけど、だからと言って私は曲がらないわ。貴女の計画を邪魔させてもらうから」

 

「待って。話を最後まで聞いて。私は貴女達とは争いたくないの」

 

「急に何? 私を生け捕りにするつもりなんでしょう? 突然態度を変えるなんて貴女は本当に神様なの? あ、そっか。貴女は神様だけどデジモンなのよね? だったら一体化しているデジモンを引き摺り出せば良いんだ……そうすれば貴女は元通りになるから一件落着。後はそのデジモンを倒せば良いから。私はそういうの得意だから任せて?」

 

「い、いや……それよりも提案があるの。貴女や八神一真は凄い力を持っているし、人格もしっかりしている。出来れば戦いたくないし、殺したくないの。私と一緒に来ない? 私が創った新しい世界を一緒に守りましょう?」

 

 ヤンデレみたく狂気に満ちた様子で、早口でまくし立てる優衣。彼女を見ているマキだけでなく、ローラン・グラーネ・フェルグスの3体の聖騎士ですら冷や汗が止まらない。

 若干引きながらも優衣に提案をするマキ。彼女は二度と人間やデジモンが争わない世界を創りたいと思っている。その為にデジモン達を殺戮し、人間界を崩壊させてデジタルワールドと統合させる。

 今の人間・デジモンは邪悪な心に満ちている。お互いに争う事を止めようとしない。全てを滅ぼし、自らの手で新たなる人間・デジモンを生み出す。そして自分がその新世界の支配者となる。そういうシナリオだ。

 

「嫌よ? 今の世界で満足しているし、今の世界だからこそ守りたいと思えるんだから。貴女の考えに乗るつもりはないわ?」

 

「交渉決裂ね……仕方ないわね。ローラン、グラーネ、フェルグス。彼女を捕まえなさい。ただし殺しては駄目よ?」

 

「了解!」

 

「御意!」

 

「お任せを!」

 

「ふ~ん、寄ってたかってかよわい女性を傷付けるのね。良いわ。そっちがその気ならこっちもやってやろうじゃない。究極進化!!!」

 

 マキは心底から残念そうな表情をすると、3体の聖騎士が戦闘態勢に入った。ローランは右腕のVブレスレットから光の剣を出現させ、グラーネは右手に握る聖盾と左腕に装備している聖弩を構え、フェルグスは双刃の巨大な魔槍を握り締める。

 優衣が闘志を燃やすと共に、全身を覆い尽くす程の膨大な光の奔流が発生し、彼女の周囲に眩い光が渦巻き始めた。

 マキと3体の聖騎士が見つめる中、渦巻く光の中で優衣の瞳が赤く輝くと同時に究極進化が始まった。光が消失した後にはアルファモンが立っていた。

 右手でデジモン文字を刻んで魔法陣を描き、中心に突き刺さった光の収束―聖剣グレイダルファーを引き抜くアルファモン。3対1と言う数の上では不利な戦いが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「『デジタライズ・オブ・ソウル』!!!」

 

「この程度の攻撃は効かないよ!」

 

「グラーネ、マキ様を頼む!」

 

「分かった!」

 

 先手を打ったのはアルファモン。左手の平を前に突き出し、緑色の魔法陣を描いて緑色のエネルギー弾を連射する。展開されたのは緑色のエネルギー弾による弾幕。

 無数の緑色のエネルギー弾が襲い掛かるのに対し、2体の聖騎士が迎え撃つ。ローランとフェルグスが迎撃し、グラーネはマキの護衛。

 ローランは右腕のVブレスレットから出現させた光の剣を、フェルグスは両手に握る魔槍クラウ・ソラスを振るい、緑色のエネルギー弾を次々と弾き返す。

 その間に“縮地”を発動させたアルファモン。その両手には2本の聖剣グレイダルファーが握られている。一瞬でローランとフェルグスの目の前に出現し、2本の聖剣グレイダルファーを相手の頭上から振り下ろす。

 

「『グレイドスラッシュ』!!!」

 

「クッ!!」

 

「ムン!! 凄い力だが、このまま押し返してくれる!」

 

 ローランはVブレスレットから出現させた光の剣で、フェルグスは魔槍クラウ・ソラスで『グレイドスラッシュ』を受け止めた。

 そのまま鍔迫り合いに移行する3体の聖騎士。その中でフェルグスは右手で持っているクラウ・ソラスに左手を添えて両手で握り締め、薙ぎ払いながらアルファモンを弾き返そうとする。

 それに気付いたアルファモンだったが、フェルグスの努力を嘲笑うようにニヤリと笑う。その笑みに気付いたマキが叫んだ。

 

「ローラン、フェルグス! 気を付けて!」

 

「遅い!」

 

「何!?」

 

「グアッ!!」

 

 マキの言葉に2体の聖騎士が反応するよりも先に、アルファモンが仕掛けて来た。聖剣グレイダルファーは元々光が収束して出来た聖剣。その光を解放して光の波動として両手の平から放った。

 至近距離から放たれた光の波動。幸いにもそれぞれの武器に向けて放たれた為、ダメージを受ける事は無かった。その代わりに2体の聖騎士は吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直して着地する。

 

―――奴らはマキ・イグドラシルの手によってX進化させられただけでなく、強化を施されている。

 

 ここまでアルファモン有利に進んでいるが、彼は気付いていた。目の前にいる聖騎士達はマキの手によって強化されている事を。その証拠に直ぐに立ち上がり、武器を構え直した。普通ならここまで立ち直りは早くない。

 それはマキ達も同じだった。目の前にいるアルファモンは強い。人間とデジモンの一体化。それがどれ程の強さをもたらすのか。改めて思い知らされた。

 

「あのアルファモン、中々侮れないね」

 

「聖騎士らしいかどうかは置いておいて……とにかく強い。それに戦い方が上手い」

 

 ローランとフェルグスはアルファモンの強さと戦慣れに舌を巻いた。自分の武器で攻撃をしたかと思えば、その武器を相手への追撃用に利用して来た。

 全ての行動に一切の無駄がない。一つの攻撃が次の攻撃に繋がり、同時にもしもの保険となっている。戦運びが上手いとも言える。

 再び2本の聖剣グレイダルファーを召喚し、両手に握り締めるアルファモン。それを見たフェルグスは魔槍クラウ・ソラスを握り締めながら、ローランに告げた。

 

「ローラン、ここは私に任せてもらおうか。あのアルファモンはクレニアムモン・フェルグスが一騎打ちで倒す!」

 

「分かった。でも危なくなったら介入するからね?」

 

「私が死にそうになった時は頼む」

 

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員、クレニアムモン。彼には戦う事にポリシーを持っている。敵と戦う時は常に一騎打ちで挑み、その上で打ち破る事。その相手が強敵であればある程燃え上がり、相手を倒した喜びは至上の物となる。

 始まったアルファモンとフェルグスの一騎打ち。先に動いたのはアルファモンの方からだった。左手に握る聖剣グレイダルファーの剣先をフェルグスの足元に向け、刀身を青色に光らせながら魔法を繰り出す。

 

「“巻き起これ、水流”! 『スプラッシュ』!!!」

 

「この程度の魔法など!」

 

 フェルグスは半歩下がり、自分の足元から噴き上がった水流を躱すと共に、両手に握る魔槍クラウ・ソラスを振るって噴き上がる水流をかき消す。

 その間にアルファモンはもう1度“縮地”を発動する。両手に握る聖剣グレイダルファーを構えながら、フェルグスとの間合いを一瞬で侵略した。

 

「ウオオオオォォォォッ!!!!!」

 

―――速い!?

 

 裂帛の気合を上げながら、アルファモンは聖剣グレイダルファーから交差斬りを繰り出した。フェルグスは咄嗟にクラウ・ソラスで斬撃を受け止め、魔槍を振るってアルファモンを弾き飛ばす。

 空中で体勢を立て直し、地面に着地したアルファモン。背中に羽織っているマントを翻しながら再び“縮地”を発動して、距離を詰めて2本の聖剣グレイダルファーから連続斬撃を繰り出していく。

 フェルグスは魔槍クラウ・ソラスで防御するが、その攻撃速度と威力に驚く。神速の剣技。まるで理性を失ったかのような苛烈な連続斬撃。威力は凄まじいとしか言う事が出来ない。一撃一撃が重くて鋭い連続斬撃。

 

「たかが斬撃程度、我が魔槍で弾き返してくれる!」

 

「―――ッ!」

 

 右足を一歩力強く踏み込むと共に、フェルグスは魔槍クラウ・ソラスを全力で薙ぎ払ってアルファモンを弾き飛ばす。

 たまらないと言わんばかりにアルファモンは吹き飛ばされるが、空中で体勢を立て直して危なげなく着地する。それを見てフェルグスは追撃に出た。

 両手に握る魔槍クラウ・ソラスを高速回転させ始める。ヘリコプターのプロペラのような高速回転が始まった。

 その動作を見たアルファモンの表情が険しくなっていく。フェルグスの行動を見ただけで、次に来る必殺奥義が一体何なのかが分かったからだ。

 

「『エンド・ワルツ』!!!」

 

「フェルグス、本気だね……」

 

「流石にこれなら……」

 

「『フォトン・グレネイド』!!!」

 

 放たれたのは“衝撃波(ソニックウェーブ)”。それが超音速でアルファモンに襲い掛かる。これを受けた相手は衝撃波によって全てのデータが粉砕されるまで、文字通り踊り続ける事となる。

 しかし、アルファモンは動じない。迫り来る超音速の“衝撃波(ソニックウェーブ)”に対し、左手に握る聖剣グレイダルファーを一度消して左手の平を前に突き出す。

 デジモン文字を刻み、魔法陣を描いて『エンド・ワルツ』を真正面から受け止めるアルファモン。魔法陣で受けた衝撃やエネルギーを吸収しながら増幅させ、巨大な光の波動として撃ち返した。

 

「何!?」

 

「『エンド・ワルツ』を跳ね返した!?」

 

「おのれ……!」

 

 クレニアムモンが誇る最強の攻撃技。必殺奥義の1つ。それをあっさりと防いだだけではなく、カウンターとして跳ね返して来た。

 その事実にフェルグスとローランは驚愕し、グラーネとマキも表情には出していないものの、アルファモンの戦術の上手さに舌を巻いている。

 魔楯アヴァロンを使おうにも、ブラックデジゾイド化されている聖鎧のデータにアクセスし、そこから生み出すと言うプロセスを経ない限りは使えない。時間的にアウトとなる。残された手段は回避・防御・迎撃の3択だった。

 フェルグスは3択の中から迎撃を選択した。高速回転させていた魔槍クラウ・ソラスを構え直し、迫り来る巨大な光の波動に向けて一閃する。巨大な光の波動は四散され、瞬く間に消え去っていった。

 

「ほぉ、中々やるじゃないか。流石としか言えない。堕ちても『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』だけの事はあるか」

 

―――こっちは必殺奥義を使っているのに、アルファモンはまだまだ余裕を見せている。これが実力と格の差なのか……

 

 得意のカウンター奥義を迎撃されたにも関わらず、相手の実力を推し量れたのか、まだまだ余裕を見せているアルファモン。それに対し、フェルグスは必殺奥義を用いても押されている状況に焦りを見せている。

 アルファモンが使用したのは普段使っている聖剣と攻撃技、初級魔術とカウンター奥義のみ。この他にもまだまだ引き出しがある為、氷山の一角に過ぎない。

 

「フェルグス。貴方に1つ聞きたい事がある」

 

「何だ?」

 

「貴方達はマキ・イグドラシルの行動に何も思わないのか? 何の罪もないデジモンを殺戮し、人間界を崩壊させて新世界を創る。本当にそれが正しいと思っているのか?」

 

「……本当に人間とデジモンが平和に暮らせるのならば、私は何も言わない。そのやり方がどうあれ」

 

「……そうか」

 

 アルファモンはフェルグスに質問をする。マキ・イグドラシルの推し進めている計画に対し、何も思わないのかと。

 フェルグスは答える。そのやり方がどうであれ、本当に人間とデジモンが平和に暮らせるのならば正しいと。その答えにアルファモンは何か引っかかるような物を感じたが、この場は頷いた。

 

「どうやら堕ちたと言っても、誇りまでは失っていないようだな」

 

「あぁ。そこまで堕ちていないぞ?」

 

「そこまでよ、フェルグス。お喋りが過ぎるわ。それに貴方達じゃアルファモンには勝てないみたいね。下がりなさい」

 

「分かりました」

 

 アルファモンはフェルグスの答えを聞いて理解した。フェルグスは聖騎士としての誇りを失っていない。彼自身の正義に従いながら行動している。

 その様子を苦々しく見ていたマキはフェルグスを下がらせた。どうやらフェルグスが余計な事を話したのだろう。

 

「イグドラシル。貴女には聞きたい事が沢山ある。貴女と一体化したデジモンの正体を教えてもらえないか?」

 

「それは出来ない相談ね。もう1度聞くわ。工藤優衣……アルファモン。私と一緒に新しい世界を創らない? 今推し進めている『NEOプロジェクト・アーク』に参加しなくて良いから」

 

「何回も言わせるな。俺はこのデジタルワールドと人間界を守る。相手が例え神であっても、俺の正義は揺るがない。それにここで俺を倒したとしても、人間界にいるオメガモン達が貴女を倒す。彼らの力を甘く見ない事だな」

 

「甘く見ていないわよ? だからこうするの」

 

「しまっ……!」

 

 マキが右手の平を翳した瞬間、アルファモンは意識を失ってその場に倒れ込んだ。マキの合図を受けたローランがアルファモンを担ぐ。その場から飛び去るマキ、ローラン、フェルグス、グラーネ。

 人間界では八神一真ことオメガモンが2体の聖騎士を退けたが、デジタルワールドではマキ・イグドラシルが工藤優衣ことアルファモンを連れ去った。

 

ーーーーーーーーーー

 

―――“創世の聖騎士”アルファモンこと工藤優衣。マキ・イグドラシルに敗北して連れ去られる。

 

 ガンクゥモンからもたらされた連絡。その事実が“電脳現象調査保安局”に伝わり、一真達主要メンバーの間に衝撃が走った。

 『寿司処 王竜剣』の店主であり、皆の頼れるお姉さん的存在。人間界にいるデジモンの中でも最強の一角。そんな彼女が相手陣営に連れ去られてしまった。

 それによる戦力の損失と、相手陣営が次に何をするか。それを考えて決める為に、薩摩本部長とクダモンは会議室に主要メンバーを呼び寄せた。

 

「オメガモンは上手くやってくれた。向こうの聖騎士2体を退けてノルンさんを助けた。だが、こっちは優衣さん……アルファモンが負けて捕らわれた。戦略的に見れば我々の勝利、戦術的に見たら向こうの勝利だ」

 

「優衣さんは大丈夫なんですか?」

 

「ダメージを受けた痕跡は無かったらしい。捕らえられたと言うのが引っ掛かるけど」

 

「捕らえられたと言う事は、マキは優衣さんを自分の戦力に取り込むつもりでしょう。彼女は一切の無駄を嫌う性格です。優衣さんを殺す手間と労力よりも、優衣さんを味方にする方を優先させる筈です」

 

 薩摩がジエスモンの連絡を皆に伝えると、この場所にいる誰もが押し黙って嫌な雰囲気が流れ始めた。ノルン以外の誰もが優衣の強さを知っている。幾ら相手が神様だったと言えど、敗北したと言う事実を認めたくない。

 その中でノルン・イグドラシルは分析する。マキは優衣を捕らえて殺すより、捕らえて味方にするだろうと。彼女は一切の無駄を嫌う合理主義者な一面がある事を、ノルンは知っている。

 

「問題はこれから動くかだな……代わりに誰かをデジタルワールドに派遣しようか」

 

「その必要はないです。実はジエスモンとガンクゥモンの仲間達が、マキが治める地域の各地でレジスタンスを結成しました。それでも人員や規模はそこまで大きくありませんが……」

 

 優衣がデジタルワールドに来た前後から、ジエスモンとガンクゥモンの仲間となっているデジモン達が、レジスタンスを結成した。

 マキが治める地域の各地で『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に抗おうと、感染デジモンに対処しようとしているが、まだ出来たばかりな為、人員や規模がそんなに大きくないのが実情だ。

 

「僕が行きます。優衣さんを連れ戻す為にも」

 

「私も行かせて下さい」

 

「駄目だ。一真君とアルトリウスさんはまだデジタルワールドに行く時じゃない。人間界にいるんだ。優衣さんが敵になる可能性が出てきた以上、我々の最大戦力の君達を失う訳には行かない。切り札は常に最後まで残しておく物だ。仲間を、デジモン達を信じよう」

 

 他の支部にいるデジモン達をデジタルワールドに派遣すると言う選択肢もあったが、それをすると守りが薄くなる。そのリスクを考えた薩摩は、一真とアルトリウスを諭して人間界に残るように伝える。

 薩摩本部長の言葉を受け、その意図と正しさを理解した一真とアルトリウスは頷き、無言となった。2人は上司の言葉に歯向かうような人物ではない。

 

「ですが、向こうからもまた聖騎士達が来ますよ?」

 

「その時は一真君とアルトリウスさんの出番だ。頼んだぞ!」

 

『はい!』

 

 再びマキが聖騎士達を刺客として人間界に派遣した時、一真とアルトリウスが迎え撃つ事が決まった。会議は終わった後、一真とアルトリウスはトレーニングルームに向かい、次なる戦いに備えて準備を始めた。

 同じ頃。デジタルワールド。情報樹イグドラシルがある場所。そこにはマキ・イグドラシルと『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が集まっている。

 

「アルファモンを捕らえて戦力には出来ましたね……でもベイリンとシグムンドがダメ―ジを受けましたが、2人は大丈夫ですか?」

 

「心配ないわ。ただ一週間は安静にしてもらおうと考えているの。任務に失敗した処罰も兼ねて」

 

 彼らの目の前には聖騎士1体が楽々入れるカプセルが設置されている。そこに入る事で傷を癒したり、快適な睡眠を取る事が出来る。

 入っているのはアルファモン、ベイリン、シグムンドの3体の聖騎士。アルファモンは“デジモン化”を強制的に加速させて力の底上げをしつつ、洗脳処置を施して自分の味方に引き入れている最中だ。ちなみに気を失ったままだ。

 ベイリン・シグムンドの2体は傷を癒しつつ、疲れを取る為に眠っている。マキは1週間の安静を考えている。人間界に逃亡したノルンを連れ戻すと言う任務に失敗した罰も兼ねている。

 

「今の醜い世界も、人間界もやがてはマキ様が治める新世界となる。人間とデジモンが共存する素晴らしい理想が実現した、美しい世界がもう少しで完成する……あぁ、そう考えると待ち遠しいねフェルグス!」

 

「あっ、あぁ……そうだな」

 

「どうかしたフェルグス? アルファモンを一騎打ちで倒せなかった事を悔やんでいるの?」

 

「はい……出来れば一騎打ちで倒したかったです」

 

「仕方ないわよ。貴方はよく頑張ったけど、今回は相手が悪かった。それだけの話だから気にする必要はないわ」

 

 マキ・イグドラシルが推し進めている『NEOプロジェクト・アーク』。その実現を待ち遠しく思うローランと対照的に、フェルグスは何処か浮かない表情を浮かべている。

 その様子を見たマキ。彼女はフェルグスがアルファモンを一騎打ちで倒せなかったからだと思い、慰めるように声をかけた。

 

「そうだぞ、フェルグス。我々はデジタルワールドの秩序と平和を乱す輩と戦っている。そして、マキ様の推し進める計画を邪魔する者を消し去るだけだ」

 

「そうだな……済まない。ありがとう。ところでマキ様……ガンクゥモンとジエスモンはどうするのですか?」

 

「あぁ~あの2体ね。今は放っておく。確かに裏切り者だけど、自分達が信じる正義の為に戦っているんでしょう? 今回は信じる正義が違うだけ。でも然るべき時に手を下すわ」

 

 グラーネとマキの言葉を聞いたフェルグス。彼は自分を納得させ、マキに自分達を裏切ったガンクゥモンとジエスモンの事を質問した。

 マキは少し考えながらフェルグスの質問に答える。2体の聖騎士の裏切りを容認しつつも、何れは粛清するつもりでいる。それが何時になるかは分からないが、今の所は手を出すつもりはなさそうだ。

 

「承知しております。マキ様に背く者は反逆者ですから」

 

「そういう事。ローランとグラーネも休んで。お疲れ様。他の皆は引き続き『NEOプロジェクト・アーク』の遂行に励んで頂戴」

 

『はい!』

 

「フェルグス。貴方には特別任務を与えるわ」

 

「……?」

 

 ローランとグラーネに休むように伝えると、マキは他の聖騎士達に『NEOプロジェクト・アーク』の遂行に励むように命令する。

 聖騎士達は頷いたその場から立ち去っていく。それを見届けたマキはフェルグスに特別任務の説明を始めた。その内容に驚きつつも頷き、フェルグスは特別任務を遂行するべく歩き出した。

 その場に1人残ったマキ。アルファモンが入っているカプセルを暫しの間見つめると、満足そうに頷いてカプセルを開けた。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・マキと一体化しているデジモン

悪い奴ではありません。ただ自分の生まれや経験もあって過激な考え方に至っただけです。
そのデジモンもまた被害者なんです。

・ヤンデレじみた優衣さん

作者がヤンデレ好きだからです(オイ)
神様さえも怖がる程、狂気と恍惚に満ちてました(汗)

・『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が強くない?

この章の敵なのに……と思われるかもしれませんが、マキ・イグドラシルの手によって後で強化手術受けます。

・何かありそうなフェルグス

今回の章のキーデジモンの1体、クレニアムモン・フェルグス。
何気に主要な位置にいます。何故なら……?

・アルファモンが敵に!?

これでオメガモンVSアルファモンの対戦カードが実現。
『デジモンアドベンチャー tri.』の終盤のバトル再び!?

・優しくも厳しいマキ

攻撃的で過激な所があるけど、上司としては理想的です。
ちなみにフェルグスに与えた特別任務と、最後の行動の答えは次回以降明かされます。

裏話はここまでになります。今回も少なめでしたが、文字数と内容の問題です。
ここから展開が加速しますので、楽しみにしていて下さい。

皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

パラティヌモンがフェルグスと戦っているのと同じ頃、ノルンと街を歩いていた一真はとある人物と再会していた。そんな時、ノルンを連れ戻す為に新しい聖騎士が現れた。
その聖騎士は何と工藤優衣ことアルファモン!
大切な仲間を前に一真は!?

第31話 折れた聖剣





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第31話 折れた聖剣

久し振りの本編の投稿です。今回も物騒なタイトルですが。
第2章は始まったばかりですが、結構波乱というか怒涛の展開ばかりで果たして52話まで持つかどうか(内容的に)不安ですが、頑張ります。お茶を濁す事は絶対にしません。

以前言っていた『Fate/Grand Order』の外伝、もといコラボ小説はアンケートの結果、書く事を決定しました。
本編の合間(アイディアが浮かばない時)に書きますが、投稿し始めるのは第2章終了後になります。
時系列が第2章終了後になりますし、ネタバレを含んでいるのでその方が良いだろうと判断したからです。



 主要メンバーが集った会議が終わった後、パラティヌモンは背中の翼から青色の光を放ちながら、目にも止まらぬ速さで飛行している。

 外れデジモンや『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の出現に備えてパトロールをしているのだが、太平洋の海上を飛行している最中、目の前の無人島からまるで突き刺すような殺気を感じた。パラティヌモンは飛行を止めて空中に浮遊する。

 

「ッ! 誰かが誘っているみたいですね……面白い」

 

―――私は此処にいる。この世界の聖騎士よ、私と戦う勇気はあるのか?

 

 パラティヌモンには分かる。この『波動(コード)』は間違いなく『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の物だと言う事が。その聖騎士の名前や顔は分からないが、パラティヌモンにはその聖騎士の言おうとしている事が理解出来た。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の出現に備えてパトロールしているのだから、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の出現に対処しなければならない。

 パラティヌモンは『波動(コード)』を感じた無人島に真っ直ぐに向かった。その島の中心には1体の聖騎士が立っている。

 

「お前がデジタルワールドから来た聖騎士だな?」

 

「如何にも。私は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の一員、クレニアムモン・フェルグス」

 

 パラティヌモンの問いに答えたのは1体の聖騎士。禍々しい骸骨の意匠が刻まれた紫色の聖鎧。“ブラックデジゾイド”製の聖鎧に覆われたクレニアムモン・フェルグス。

 彼はマキ・イグドラシルから特別任務を依頼された。それは“オメガモン・パラティヌモンのどちらかの足止め”だ。デジタルワールドから聖騎士が人間界に来れば、必ずどちらかがやって来る。どちらが来るかは分からないが、どちらかを足止めする事。

 残りのもう片方は、強化して洗脳処置を施したアルファモンとマキが倒す。そうして一気に人間界の最強戦力となっている2体の聖騎士を仕留める作戦だ。

 

「私はパラティヌモン。お前の主君、マキ・イグドラシルが起こした『厄災大戦』を終わらせた」

 

「パラティヌモン……我々聖騎士の偉大なる始祖。この世界で最高の強敵に出会えた事。光栄の極み!」

 

「まさか後輩と戦う事になるとはな。敵なのが残念だがこれも戦争。仕方ない」

 

「同じ戦場を共に戦えなかったのが残念だが、まさかこのような形で私の願いが叶うとは……有り難い限りだ」

 

 フェルグスは背中のウェポンラックに腕を伸ばし、マウントされた三角形状の刃の2本の大剣を連結させ、両柄に刃が付いた1本の巨大な刃を握り締める。

 魔槍クラウ・ソラス。その刃をよく見ると、鋸のようなギザギザとなっている。マキ・イグドラシルによって施された改造なのだろう。

 パラティヌモンは両腰の鞘込めの聖剣―パラティヌス・ソードを抜刀し、構えを取ると同時に背中の翼を広げ、青い光を放出させ始める。

 お互いの武器を握り締めるパラティヌモンとフェルグス。その一騎打ちはパラティヌモンが突進を開始したと同時に始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 パラティヌモンとフェルグスが戦闘を開始したのと同じ頃、一真はこの日が仕事が特にない為、人間界に逃亡して来たノルンの護衛も兼ねて自分が住んでいる街を案内している。

 一真はフツメン。ノルンは美女。傍から見れば釣り合わないような感じだが、当の本人達は全く気にしていない。

 

「結局さ、またデジモン関連の事件が起きているんだろう?」

 

「だと思うけど詳しい事が全く分からねぇ。“デジクオーツ”事件だって終わってから、“実はこういう事件が起きました”みたいな感じで分かったからな……」

 

「マジ迷惑なんだけど……起きる事は仕方ないと思うけど、ちゃんとその度に報告して欲しいな」

 

「さっさと事件終わってくれねぇかな? でないと安心して寝る事だって出来ないからさ……」

 

 一真とノルンは街中を歩いている。老若男女。色々な人々とすれ違う中、2人組の男性の会話に2人の足が止まる。彼らがデジモンの話をしていたからだ。

 “デジクオーツ”事件の存在や詳細が明らかになったのは、事件の終結後。世間にデジモンがいると言う事実が明るみになった事で、世論は“電脳現象調査保安局”にもっとデジモンの情報を流すように促すようになった。

 以前に比べてデジモンの情報を流すようにはしているが、やはり一般市民はもっと色々な事を知りたがっている。クオーツモンとの最終決戦の時の経験。データ化されてクオーツモンの一部となった。それを二度と味わいたくないからだ。

 

「この街も変わったんですよ、1年前に比べて」

 

「そうなんですか? 1年前って、確か“デジクオーツ”事件があったと言う……」

 

「はい。その時にこの街だけでなく、世界中が“デジクオーツ”となりました。人間も、建物、景色も、全てが“デジクオーツ”になりました」

 

「すみません。私達が招いた事で……」

 

 街の風景を眺めながら、一真は1年前の事を思い出す。それは“デジクオーツ”事件。自分が“デジモン化”を受け入れ、オメガモンとなった瞬間。一真にとって忘れる事の出来ない事件だった。

 一真からその話を聞いたノルンは謝る。“デジクオーツ”が発生した理由はデジタルワールドにあり、原因は自分達にあると思っているからだ。

 

「過ぎた事なので気にしてないですよ。あの時から、この街を地震等の自然災害や人災、デジモンのような天災に備えた街作りが始まりました。でも正直、僕は怖いんです。知らない間に色んな物を壊し続けていた事を。建物だけじゃなくて、人間や皆の生活。守っていると見せかけて、実は破壊している……その二律違反が怖いんです」

 

「一真さん。貴方が恐れている事は心の問題なのでは? 今の話を聞いていて分かりました。貴方はデジモンとなりましたが、まだ心の何処かで人間の部分が残っている。それを失う事を何より恐れていると私は思います」

 

「……分かっちゃいましたか。そうなんですよ……人間であると共に、デジモンでもある。どのどちらでもない存在が僕なんです。何と言えば良いのか……正直僕でも分からないんです。でもやる事は見えています。外れデジモンが来たら保護する。聖騎士が現れたら倒す。それだけの話です」

 

「もう外れデジモンが現れる事はないでしょう。彼らは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に粛清されているので……でも備えはした方が良いかと思います。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』もまた現れるでしょう。マキは諦めが悪い性格なので……」

 

 目の前にいるのはデジタルワールドの神様。自分より目上の存在。それだからか、一真は自分が抱えている事を正直に話し始めた。

 ノルンは一真の話を聞いた上で答える。否定せず、ありのまま受け入れる。まるで一真の背中を押すように。慈愛の女神に見える。

 

「1年前の僕は……今思うと色々と未熟だったなと思います。人間的にも、デジモン的にも。色んな世界を渡り歩き、人々と触れ合い、言語や文化を学んだり、色んな食べ物を食べたり、危機や戦争を乗り越えて……1年前より色んな事が見えたり、分かるようになりました。もちろん今でもまだまだ未熟ですが、時々分からなくなるんです。僕達のしている事は本当に正しい事なのか。それとも間違った事なのか」

 

「私も同じ事を考える時があります。何が正しくて何が間違えているのか……時々分からなくなる時があります。でも守りたい物の為に、信じる正義の為に戦う事が貴方と言う聖騎士の在り方だと思います」

 

「お~い、一真さん!」

 

 一真とノルンが良い感じで話をしていると、そこに何者かが駆け寄って来た。一真の名前を知っているその男性の名前は櫻井竜也。“デジクオーツ”事件でカオスモンとなり、一真に助けられた青年。

 前に見た時は眼鏡をかけ、ニキビだらけで肥満体型だったが、今では以前の姿が嘘だったかのような変貌を遂げていた。眼鏡は相変わらずかけているが、顔中にあったニキビは無くなり、スマートな体型となった。

 

「竜也君!? 何か前見た時より相当変わったね……」

 

「そりゃ変わりますよ! 一真さんだって“デジモン化”の影響で色々変わったみたいですし……ところで隣のお美しい方は?」

 

「初めまして。私はノルン・イグドラシル。デジタルワールドの……神様です」

 

「えっ? えぇ~!?」

 

 その後、近くのたこ焼き屋でたこ焼きを買い、近くの公園のベンチに座って食べ始める一真、竜也、ノルンの3人。

 ノルンが自分の口から自己紹介をする。今デジタルワールドで何が起きているのか。何故人間界に逃亡したのか。その全てが話された。

 

「成る程……そういう事なんですか。1年前は“デジクオーツ”、今度は悪いイグドラシル。何だか色々な事が起きるんですね……しかもかなりの強敵じゃないですか」

 

「そうなんだよ……ところで竜也君は?」

 

「俺ですか? 俺は……」

 

 竜也は“デジクオーツ”事件後の事を話し出す。デジモン関係の出来事が落ち着いてから就労支援を受け始めた。それと共にダイエットと運動に励み、体重や体質改善に努めた。ちなみに今でも運動は続けている。

 現在はアルバイトをしながら就職活動をしているが、ベルゼブモンが経営しているベルゼ株式会社の内定を勝ち取った。この日はアルバイトがなく、運動をする為にフィットネスクラブに向かっている最中だった。

 

「そっか。良かったね。就職先が見つかって……もう僕は二度とそういう生活には戻れないから、大切にするんだよ?」

 

「何でしょう……凄く重みがあり過ぎて何にも言えないんですけど」

 

「アハハハ……」

 

―――お台場の皆さん、現在お台場の上空に原因不明の異常気象が発生しております。重大な災害に繋がる恐れがあるので、避難警報が発令されました。周囲にいる皆さんは直ちに避難して下さい。くれぐれも安全を確認してから行動して下さい。非常時には速やかに避難して下さい。

 

 突如として響き渡るアナウンス。何事かと思って空を見上げると、東京湾の上空に巨大なワームホールが出現している。

 慌てて一真達は駆け出す。ワームホールの近くに着いた時には、地上の公園や橋の上には沢山の人々が集まっていた。一体何事なのか。これから何が起きるのか。それを見に来た野次馬と言う奴だろう。

 空に浮かんでいるワームホールから1体のデジモンが出現した。そのデジモンは海面に向かって落下するが、危なげなく海面に浮かび上がる。

 

『ッ!?』

 

「アルファモン……優衣さん!?」

 

「嘘だろう!? どうして優衣さんが!?」

 

「最悪な展開になりましたね……」

 

 そのデジモンの姿を見ようと、東京湾に集まって来た誰もがデジモンに目を向けた瞬間、息を呑むと共に衝撃を受けた。そのデジモンの正体はアルファモンだったからだ。

 アルファモンの『波動(コード)』を探った一真は膝から崩れ落ち、竜也は唖然となり、ノルンの表情は険しくなる。

 マキ・イグドラシルはアルファモンを捕らえて強化すると共に洗脳処置を施し、自分を連れ戻しに派遣させたようだ。やはり考えていた筋書き通りとなってしまった。

 目の前にいるアルファモン。その内側と外見からは、“静”の感情と虚無感しか感じられない。もしこれが本来のアルファモンだったら、内側には“動”の感情を秘め、外見から静かな雰囲気を放っているだろう。

 しかし、今のアルファモンは本来の聖騎士ではない。邪神の手によって強化され、洗脳された事でたただの操り人形と成り果てた。自分の意志を持たず、必要以外の会話をしない。最早本来のアルファモンとかけ離れていると認識する事しか出来ないでいる。

 それでも一真はアルファモンに話しかけないという選択肢を取れずにいた。頭では分かっている。目の前にいるアルファモンは、本来のアルファモンではない事を。しかし、身体がそれを認識する事が出来ない。感情では理解出来ない原理と同じだ。

 

「優衣さん! アルファモン! 僕だよ! 八神一真だよ! 無事だったんだね!」

 

「――――――――」

 

 膝から崩れ落ちた一真は立ち上がり、アルファモンにニコリと微笑んだ。何時ものように話しかけるが、アルファモンは無言のままだ。

 一真を見下ろしてはいるが、その瞳からは何も感じられない。自分の意志や本来の人格さえも感じられない。まるで機械のようだ。

 

「一緒に帰ろうよ! 帰ってお寿司握って欲しいな! 久し振りに優衣さんの握るお寿司が食べたかったんだよ!」

 

「――――――――」

 

「……喋ってくれよ。何時ものように」

 

 それでも一真はアルファモンに向かって声を張り上げる。一真が人間界に戻って来た時、優衣は既にデジタルワールドにいた。その為、彼女が握るお寿司を食べていない。久し振りに食べたいと思うのは当然の事だ。

 その言葉もアルファモンには届かない。相変わらず無機質で感情の無い瞳で一真を見下ろしている。その様子に耐え切れなくなかったのか、一真は悲しそうな目でアルファモンを見上げる。

 

「……頼むよ優衣さん。いつもみたいに笑ってよ!」

 

「――――――――」

 

 自分でも気付かない間に、一真は涙を流していた。目の前にいるアルファモンは本来のアルファモンではない。しかし、それでも一真には本物と重なって見えてしまった。

 アルファモンは無言のまま右手でデジモン文字を刻み、魔法陣を描く。背中の黒い翼のから黄金の翼が生え、右手に巨大としか言えない聖剣―王竜剣を召喚した。

 それを見た誰もが息を呑んだ。味方だった筈のアルファモンが敵になった。先程の一真とのやり取りが全てを物語っている。

 アルファモン・王竜剣の狙いはノルン・イグドラシルの確保。赤色の瞳はノルンを見ている。一真の言葉は最初から届かなかった。何故なら最初からノルンを取り戻す事しか頭になかったのだから。

 

―――やっぱり全ては奴のシナリオ通りだったのか! 何もしないのは……結局逃げている事と同じじゃないか!

 

 ゆっくりとノルンがいる場所に向かって歩み寄るアルファモン・王竜剣。瞳から零れている涙を拭き、拳を握り締める一真。

 全てはマキ・イグドラシルが思い描いているシナリオ通りに進んでいる。デジモン達が粛清され、人間界に聖騎士達の刺客が送り込まれている。次は人間界を崩壊させる為に何かしらの動きを見せて来る筈だ。

 

―――このままだと全てが無くなってしまう。街だけではない。世界その物が。僕達の手でどうにかしないと!

 

―――何が正しくて何が間違えているのか……時々分からなくなる時があります。でも守りたい物の為に、信じる正義の為に戦う事が貴方と言う聖騎士の在り方だと思います。

 

 一真の脳裏に過ぎるのはノルンの言葉。笑顔と共に言われたその言葉を思い出した時、一真の中で何かが変わる音が聞こえた。

 今までいたのは八神一真と言う人間。人間の心を持ち、人間の皮を被ったデジモン。しかし、今立っているのは違う存在。同じ八神一真だが、中身は違う。人間の心を持ったデジモン。人間の姿をした聖騎士。

 

「アルファモン・王竜剣。工藤優衣……いやマキ・イグドラシル! 八神一真……この“終焉の聖騎士”オメガモンがお前達に一言物申す!」

 

 一真が声を張り上げた瞬間、アルファモン・王竜剣の動きが止まった。視線がノルンから一真へと移り変わる。一真から巨大な『波動(コード)』を探知したからだ。

 全身を覆い尽くす程の膨大な光の奔流が発生し、一真の周囲に眩い光が渦巻いている。一体何が起きているのか。アルファモン・王竜剣やノルンや竜也だけでなく、東京湾に集まった大勢の人々が見守る中、一真はデジタルワールドの神様相手に啖呵を切る。

 

「お前は僕の仲間を、僕の大切な人を愚弄して侮辱した! 本物は偽物のような空虚さや無機質さにも満ちていない! 彼女は正真正銘の聖騎士だ! 同一視していた僕もいるけど、このアルファモンは本物じゃない! これは紛い物だ! 僕ら聖騎士を愚弄し、侮辱した罪は重いぞ!」

 

 一真が両目を空色に輝かせながら大声を上げる中、更に純白の光が輝きを増し、強烈な音圧が周囲一帯に響き渡る。

 それを見ている誰もが感じた。幻としか言えないが、まるでこの場所にいるかのような気がする。半透明の姿のオメガモンが一真の背後に浮かび上がり、彼らに寄り添うようにアルファモンが立っている。

 

―――オメガモン、俺を元に戻してくれ。機械のような奴になりたくないんだ。

 

―――クオーツモンを倒した貴方は勝てる。出来る。大丈夫。私は信じているわ。

 

「アルファモン……優衣さん……ありがとう。僕が必ず元に戻して見せる!」

 

 オメガモン・アルファモン・優衣が一真を守護するように寄り添う中、一真は目の前にいるアルファモン・王竜剣を睨みながら言い放つ。

 これは只の言葉ではない。マキ・イグドラシルへの宣戦布告。いやマキの身体と人格を乗っ取った黒幕への宣言だ。

 

「イグドラシル! 僕はお前を許さない! お前は一番してはいけない事をした! 僕の仲間を、大切な仲間を愚弄して侮辱した! これは人間に対して、デジモンに対して、聖騎士に対しての冒涜だ! 僕はここに宣言する。イグドラシル、僕はお前を必ず倒す!」

 

「一真さん……」

 

「そこまでアルファモン……優衣さんを大切にしているんですね。彼女を侮辱された事に怒っているのは、仲間で盟友だからなんですね」

 

 マキ・イグドラシルは最も敵に回してはいけない聖騎士を敵にしてしまった。“終焉の聖騎士”と謳われ、クオーツモンを倒した最強の聖騎士。人間界における最強戦力の一角。それが八神一真ことオメガモン。

 竜也は一真を唖然とした様子で見ている。オメガモンになる所を初めて見るからではない。一真がここまで感情を爆発させるのを初めて見たからだ。あまり一真とは付き合いが多い方ではないが、優衣や鏡花から物静かで穏やかな性格と聞いていた。だからこそ、目の前の一真の啖呵に驚いている。

 ノルンも同じだが、彼女は一真が仲間想いな性格だと気付いた。仲間を大切にしているから、仲間の為に怒ったり、戦う事が出来る。内心ではエールを送っている。

 

「僕は1人のデジモンとして、1体のデジモンとして、1体の聖騎士として、お前を絶対に許さない! お前のような醜い髪が僕の仲間を、同じ聖騎士を蹂躙する事は断じて認めない! 僕はお前と『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に勝つ! お前の計画を否定してやる!」

 

 言葉を言い放つと共に一真の超究極進化が始まる。膨れ上がる光と共に、一真の身体が変貌する。姿を変えながらより巨大となっていく中、オメガモンの情報が読み込まれる。それと同時に身体情報が書き換わり、戦闘経験が蓄積され、保有能力と武器が具現化される。

 純白に光り輝く聖光は消失した後に姿を現したオメガモン。背中に羽織っているマントを翻し、東京湾の海面に浮かび上がる。

 ウォーグレイモンの頭部を象った左手の手甲。その口部分からグレイソードを出現させたオメガモンと、王竜剣を両手に握り締めるアルファモン・王竜剣。2体の聖騎士は同時に突撃を開始し、戦いを開始させた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 背中の翼を広げ、青い光を放出させながら突進するパラティヌモン。それとは対照的に、フェルグスは両手に握るクラウ・ソラスの矛先を天に掲げる。

 そこから魔槍を回し始めると、周囲一帯の大気が狂い出す。周囲一帯で荒れ狂う暴風がやがて竜巻となり、暴風で足止めを受けている“聖騎士王”に向かって襲い掛かる。

 

「これなら近付けまい! 『エンドレス・ワルツ』!!!」

 

 クレニアムモンの秘奥義の1つ、『エンド・ワルツ』。超音速の衝撃波を放ち、全てのデータが粉砕されるまで、相手は踊り続けなければならない。

 フェルグスはそれを応用させ、新たなる秘奥義を編み出した。『エンドレス・ワルツ』。超音速の衝撃波を以て渦や竜巻を巻き起こし、その中に標的を捉えて全身が粉砕されるまで強制的に踊らせる。

 相手は空中に舞い上がっている為、全身が粉砕されるまで大地に倒れ伏せる事はない。正に“終わりなき舞踏”と言える。

 自分に向かって迫り来る激しい竜巻。それを見たパラティヌモンは2本のパラティヌス・ソードを構え、素早く迎撃態勢に入った。

 

「ハアアアアァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

 パラティヌス・ソードの刀身が黄金に輝き始める。刀身にエネルギーが注ぎ込まれている事で、黄金の剣光が放たれているからだ。

 黄金に輝く聖剣が一閃された瞬間、三日月形の刃の巨大な斬撃が放たれた。標的はフェルグスに在らず。自分に向かって迫り来る竜巻だった。

 三日月形の刃の巨大な斬撃が竜巻に激突した瞬間、内包された膨大な量のエネルギーが解放された。凄まじい速度と共に黄金のエネルギーが突風と共に、巨大な竜巻目掛けて一直線に襲い掛かる。黄金のエネルギーと巨大な竜巻がせめぎ合い、そのせめぎ合いの結果に相殺された。

 

「何……!?」

 

 パラティヌモンの狙いはフェルグスに攻撃する事にあらず。自分に迫り来る『エンドレス・ワルツ』を迎撃し、この一騎打ちの突破口を見出す事だ。攻撃は二の次だ。

 黄金のエネルギーが『エンドレス・ワルツ』をかき消した。衝撃の余波が空気を震わせ、その場に吹いた一陣の風がパラティヌモンに味方する。

 

―――やはり一筋縄では行かないか。

 

「『アルビオン・ブレイズ』!!!」

 

 フェルグスが独り言ちたその数秒間。ほんの僅かな瞬間だが、パラティヌモンが反撃に出るには十分な時間だった。間髪入れずにパラティヌモンが追撃に出た。

 背中の翼から放出している青い光。光の翼からエネルギーの刃を連射する。先程のように迎撃するには数が多過ぎる。

 一発一発がエネルギーを刃の形に集束させて貫通力に特化させた青い刃。回避・迎撃を一切許さない速度と数。威力と速度、数から考えるに直撃を喰らえば、即死とまでは行かないが、大ダメージを喰らう事は目に見えている。

 

「ならば……マキ様から賜ったこの力を以て、真正面から迎え撃つ! 『ゴッド・ブレス』!!!」

 

 答えは最初から分かっていた。迎撃する事も、回避する事も出来ないのなら、防御すれば良いだけの話だ。フェルグスは左手の平を前に突き出し、鎧のデータにアクセスして魔楯アヴァロンを召喚する。

 魔盾から眩い輝きが放たれた瞬間、フェルグスの目の前に光り輝く防御壁が展開され、無数の青いエネルギーの刃を防いでいく。

 『ゴッド・ブレス』は本来であれば、3秒間だけどんな攻撃も無効化する事が出来る。しかし、3秒経過したにも関わらず、聖騎士の目の前に展開された防御壁が消える気配が 一向に見えない。

やがて防御壁は無数の青いエネルギーの刃を防ぎ切った。それと同時に役目を終えた防御壁は瞬時に消滅していく。

 

「解せないな。本来ならば『ゴッド・ブレス』は3秒しか使えない筈だ。だが、今のはどう数えても3秒を経過していた」

 

「あぁ。貴方の言葉は正解だ。間違えていない。マキ様のお力によって、私は更なる極みに至った。『電脳人間(エイリアス)』……人間とデジモンが一体化して生まれる新たなる力、それを発見出来たのは『厄災大戦』の英雄達のデータが残っていたから。13体のデジモンのデータを基に我々『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に反映させた事で、我々は更に強くなった。八神一真や工藤優衣に勝るとも劣らない力を得た……」

 

「成る程。だから『ゴッド・ブレス』の展開時間が伸びたと?」

 

「正解。流石は“聖騎士王”殿、良き洞察力を持っている。しかし、貴方は『電脳人間(エイリアス)』ではない。アーサー王がデジモンに転生しただけに過ぎない。今の貴方には勝てないまでも、互角にまでは持っていける自信がある」

 

 フェルグスは人間界に派遣される直前、マキによる強化手術を受けていた。『厄災大戦』の英雄達のデータを反映させたおかげで、『ゴッド・ブレス』の最大展開時間が3秒から30秒に延長する事が出来た。

 圧倒的な力の前には如何なる策など無意味だ。神から授かった武器や力は、例え相手が誰でも打ち破る事が出来ない。パラティヌモンはアーサー王がノルンの力で転生したに過ぎない。装備面では他の聖騎士に劣っていると言われても仕方ない。

 パラティヌモンは目を細めながら冷静に状況を分析する。『アルビオン・ブレイズ』で大ダメージとまでは行かなくても、出来ればこの奇襲戦術でダメージを与えて優位に立ちたかった。出鼻を挫かれた感じだ。

 

―――そう上手くは行かないか。お互いに。

 

 フェルグスは人間界に派遣される直前、マキによる改造手術を受けながらパラティヌモンの戦闘データを一通り読んでいた。二刀流の聖騎士。背中の翼による超神速の機動力。卓越した剣技と翼から放つ砲撃。それが“聖騎士王”の武器。

 彼が目を付けたのは背中の翼による超神速の機動力。どの道近接戦闘で渡り合うと言う選択肢を捨てている。敵に攻撃・反撃を許さない電光石火の速力と機動力を以て、戦いを制する。相手と真正面から戦いながら、その全てを否定して破壊する。

 速力と機動力から繰り出される攻撃もともかく、回避技能もまた高い。攻撃が全く当たらない。それは反射神経や経験、先読み等の様々な知識があって初めて成り立つ。必要最小限の動きで攻撃を躱しながら、相手との間合いを詰めて仕留める。これがパラティヌモンの戦い方だ。

 

―――お互いに手詰まりだが、先に動かせてもらおう!

 

「『ゴッド・ブレス』!!!」

 

 再びパラティヌモンが動き出す。背中の翼から青い光を放出させ、先程と同じように青いエネルギーの刃を連射しながらフェルグスとの間合いを詰めていく。

 それに合わせ、フェルグスは魔楯アヴァロンを構えて『ゴッド・ブレス』を発動する。一発毎に防御壁に命中しては、虚しく青い光を放ちながら掻き消える。

 しかし、その程度ではパラティヌモンの猛攻は止まらない。出し惜しみを一切せず、一発でも多くの攻撃を放ちながらフェルグスとの間合いを詰めていく。

 

「ハアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 パラティヌモンは突進の勢いを上乗せしながら空高く跳躍し、刀身から黄金の剣光を伸ばしながらパラティヌス・ソードを振り下ろす。

 フェルグスは『ゴッド・ブレス』の発動を解除し、クラウ・ソラスの穂先を掲げる。両端の刃を振動させながら黄金の剣閃を受け止め、思い切り振り切った。

 凄まじいとしか言えない超速度で振動する魔槍の刃。それが黄金の剣光に触れた瞬間、黄金の剣光が四散され、聖剣の刀身を粉々に破壊していく。

 魔槍クラウ・ソラス。穂の外側が鋸みたいにギザギザしている。チェーンソーみたいに振動させる事で、物質のデータや構造を破壊しながら対象を破壊する事が可能となった。これもマキが施した強化手術によってもたらされた。

 刀身が粉々に破壊され、途中で折れた状態となったパラティヌス・ソード。パラティヌモンはそれを意に介さず、もう片方の手に握る聖剣を振り下ろすが、それも魔槍の一閃によって破壊されてしまった。

 

「貰った!!」

 

「クッ……!」

 

 パラティヌモンの努力を嘲笑う事なく、破壊された聖剣を見ても勝ち誇る事なく、フェルグスは返す刀で魔槍クラウ・ソラスを薙ぎ払う。

 咄嗟に背中の翼から青い光を放出させ、空中で身体を回転させて攻撃を躱し、パラティヌモンはフェルグスとの間合いを取って着地する。

 両手に握る聖剣は刀身が途中で折れているが、武器としてはまだ使える。しかし、先程の攻撃を見ると、果たして戦えるかどうか怪しくなって来た。“聖騎士王”は一度パラティヌス・ソードを両腰の鞘に収め、更なる武器を召喚しようとする。

 

―――フェルグス。そっちは今どうなっているの?

 

「マキ様。こちらはパラティヌモンと交戦中です。言われた通り、足止めをしています」

 

―――分かったわ。一度退却しましょう。アルファモンの洗脳が解けたし、『厄災大戦』の英雄が蘇った。

 

「な、何ですと!?」

 

―――私もオメガモンからそれなりにダメージを受けたわ。ここは一度退却よ!

 

「分かりました!」

 

 フェルグスが更なる追い打ちをかけようと魔槍クラウ・ソラスを構えた瞬間、マキ・イグドラシルからの念話が届いた。

 マキからの命令通り、パラティヌモンを足止めしているフェルグス。東京湾にいるであろう彼女は聖騎士に退却を命令した。彼女曰く、“アルファモンの洗脳が解け、『厄災大戦』の英雄が蘇った”との事。

 

「済まない、パラティヌモン。マキ様から退却命令が出た。勝負は次に預けておく」

 

「分かった。次は必ず決着を付けよう」

 

「あぁ、約束する」

 

 フェルグスはパラティヌモンと再戦の約束をすると、その場から飛び立っていった。後に残ったパラティヌモン。彼女は悔し気にパラティヌス・ソードを引き抜いて見つめる。

 刀身が折れて武器として使い物にならない聖剣。勝てない相手ではなかった。しかし、確実に自分に匹敵する相手だった。その相手に武器を破壊され、半ば勝ち逃げされたような物だった。これで終わるパラティヌモンではない。

 次に待ち受けるであろうフェルグスとの再戦。それに向けて“とある事”をしなければならない。胸にそう誓い、パラティヌモンはその場から飛び去った。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・一真の見た目

このサイトの小説の殆どがイケメンだったり、端正な顔立ちが多いですが、一真君は普通の顔立ちです。そのせいかモテません。

・デジモンに関する情報

デジモンという概念が存在しているので、ニュース等のメディアでも分かりやすく取り上げています。おかげでデジモン関係の書籍が大人気に!

・一真の悩み

”デジモン化”ではなく、皆を守っているようで大切な物を破壊している事に恐怖を感じているんです。建物や日常生活、或いは大切な人。
”デジクオーツ”事件が良くも悪くも一真を、人間界を変えてしまいました。

・元カオスモンの櫻井竜也

久し振りの本編に登場。オタクな見た目から好青年な見た目にチェンジしてます。
しかも引きこもりから社会人として再スタートを始めようとしている所まで来ました。
彼はカオスデュークモンによってカオスモンになりましたが、オメガモンに助けられました。それからは前を向いて生きています。

・戻れなくなった日常生活

この作品のメッセージがあるとしたら、今生きている日常を大切にして欲しいと言う事です。嫌な事も辛い事も沢山ありますが、その分楽しい事や嬉しい事が待っています。
自分の人生を大切にしながら生きて欲しい。それが僕が伝えたい事です。

・アルファモンが敵に!?

前回を読んだ人は薄々感じたはずですが、一応書きました。
マキによって洗脳されたマシーンになっちゃいました。

・強化されたフェルグス

先ず『ゴッド・ブレス』の展開時間が延長されました。
3秒から30秒に。流石に3秒は短すぎるでしょう……
魔槍クラウ・ソラスの刃がチェーンソーみたいになり、対象のデータを分解しながら破壊する事が可能となりました。

・折れたパラティヌス・ソード

これでパラティヌモン強化フラグが立ちました。
ガンダム・バエルから何になるのでしょうか?

・マキとフェルグスの撤退

これの詳細は次回以降明かします。


裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

アルファモンと戦うオメガモンだが、心の迷いとアルファモンの強さに圧倒されるばかりだった。しかし、仲間を救う為に迷いを断ち切り、全力で立ち向かう。
果たして仲間を救えるのか?

第32話 オメガモンVSアルファモン


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第32話 オメガモンVSアルファモン

今回は『デジモンアドベンチャー tri.』第1章で実現した対戦カードです。
文字数は少ないですが、その分中身を凝縮しました。
それ以外に書く事が無かったり、区切りが良かったりするんですけどね……

設定集はオリキャラや強化された聖騎士の設定を一通り見せたら投稿します。


 東京湾。そこは2体の聖騎士が戦っている場所。片方は所々が丸くて重厚な漆黒の聖鎧に全身を身に包んだ聖騎士。武器は巨大としか言えない黄金と漆黒の大剣。彼の名前はアルファモン・王竜剣。

 もう片方は所々が角ばり、細身で流麗な純白の聖鎧に全身を覆い包んだ聖騎士。武器は左手の竜頭から出現している聖剣。彼の名前はオメガモン。

 王竜剣とグレイソードが激突する度に、2体の聖騎士の間で火花が散る。アルファモン・王竜剣の中にあるのは目の前の相手を倒すと言う意思と、ノルン・イグドラシルを抹殺すると言う使命感。

 一方のオメガモンの中にあるのは、目の前の聖騎士を元に戻すと言う強い意志。アルファモン・王竜剣はオメガモンの仲間だが、マキ・イグドラシルに連れされてしまった。強化手術が行われ、洗脳処置が施された後、人間界に任務を遂行しに来た。

 

「ウオオオオォォォォォォーーーーー!!!!!」

 

「クッ、ウゥッ!」

 

 圧しているのはアルファモン・王竜剣であり、圧されているのはオメガモン。その理由は幾つかある。1つ目は戦いへの思い。洗脳されているアルファモン・王竜剣は敵を倒すまで、任務を完遂するまで止まらない戦闘マシーンとなっている。

 一方のオメガモンはその戦闘マシーンを撃退し、元に戻そうとしている。難易度はオメガモンの方が高い。それに加えて施された強化手術によって、アルファモン・王竜剣は以前より総合性能が遥かに上がっている。

 神の手によって人間とデジモンの完全なる一体化、もとい超高度な“デジモン化”を施された為、同じ“デジモン化”を受け入れたオメガモンを圧倒出来ている。

 王竜剣の薙ぎ払いをグレイソードで防御したものの、力負けして弾き飛ばされたオメガモン。空中で体勢を立て直しながら右手を前に突き出し、メタルガルルモンの頭部を象った手甲からガルルキャノンを展開する。

 

「『デジタライズ・オブ・ソウル』!!!」

 

 そこから青色のエネルギー弾が連射されるが、アルファモン・王竜剣は左手を前に突き出し、デジモン文字を刻んで緑色の魔法陣を描いた。

 緑色の魔法陣から放たれたのは緑色の光弾。青色のエネルギー弾と同じ数の攻撃は、オメガモンの砲撃と激突し、至る所で大爆発を引き起こしながら相殺していく。

 

「『永世竜王刃(えいせいりゅうおうじん)』!!!」

 

「グァッ!!」

 

 その隙にアルファモン・王竜剣は両手に王竜剣を握り直し、構えを取りながら刀身にエネルギーを注ぎ込んでいく。刀身から伸びていくのは黄金の光。それは両手に刀を握る武者龍のように見える。

 振り下ろされた王竜剣から黄金の光が放たれた。両手に刀を握る武者龍が雄叫びを上げながらオメガモンに襲い掛かるが、オメガモンは咄嗟に背中に羽織っているマントで全身を覆い包んで防御の構えを取った。

 聖騎士が背中に羽織っているマント。それは防御と飛行を両立している兵装。それにより、オメガモンは攻撃を受け止める事には成功した。しかし、衝撃を無効化する事は出来ず、吹き飛ばされてしまう。

 圧倒的としか言えない戦いを見て誰もが絶望感を抱く中、オメガモンは空中で体勢を立て直し、ガルルキャノンから砲撃を連射する。それを王竜剣を盾にするように構え、連射砲撃を防ぐアルファモン・王竜剣。

 

「『黄鎧(おうがい)』!!!」

 

「グアアァァァァッ!!!!!」

 

 アルファモン・王竜剣が王竜剣を天高く掲げると、彼の全身を両手に刀を握る武者龍が纏っていく。それと同時に突進を開始するアルファモン・王竜剣。

 まるで大河の土砂流のごとく荒れ狂い、全てを切り裂きながら突き進む龍の如し。その王竜となった聖騎士の必殺奥義を喰らい、オメガモンはまたしても吹き飛ばされてしまう。

 やはり戦う事が出来ないのか。目の前にいるのは確かに敵だ。でも昨日まで自分の仲間だった聖騎士と戦う事がオメガモンには出来ない。何故なら転生してから初めての経験となるからだ。頭では分かっていても、身体が追い付かない。

 

―――私はアルファモンに勝てるのか? 何故仲間と戦っているんだ?

 

 海中に沈んでいく中、オメガモンは自問自答をする。何の為に仲間と戦っているのか。そもそも仲間とは何なのか。様々な問いが脳裏に過ぎっていく。

 何をするべきなのかは分かっている。答えは最初から出ている。それにも関わらず、解き方が浮かんでこない。これまで考える事を放棄していたツケが回って来たのか。それはオメガモンにも分からない。

 

―――私は仲間と一緒に居たい。一緒に仕事をしたい。一緒に馬鹿笑いをしたい。あぁ、そうか。私は仲間を傷付ける事を恐れていたのか。昨日までの仲間と言う幻想に捕らわれていたようだな。

 

 仲間を助けたいと思って戦うオメガモンだが、仲間を傷付ける事を恐れて本気を戦う事が出来ないでいた。

 仲間を助けたいと思うばかりで、仲間を傷付ける事を恐れる自分に対して、迷いを捨てられずに戦えない自分の愚かさに気付いた。

 

―――傷つく事を恐れていたら……分かり合う事なんて、出来る筈無いだろ!

 

―――そうだよなぁ、大兄貴。傷付け合う事を恐れてたら、前に進めない。何も変わらない。僕は大切な事を見失いそうになったよ。こんな所でまだ終われないよな……!

 

 オメガモンの空色の円らな瞳が輝いた瞬間、突然海面の一部が盛り上がった。一体何が起きたのか。そう思った誰もが海面を見つめていると、至る所に少なからずダメージを受けながらも聖騎士が立ち上がった。

 満身創痍に近い状態になりながらも、戦闘を続行させようとしているオメガモン。その姿に誰もが目を見開く中、オメガモンはアルファモン・王竜剣を救う為に自らの秘奥義を発動させる。

 

 

 

「コード・オメガ……『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』、発動!」

 

 胸部の紅い宝玉を輝かせ、自身が誇る秘奥義を発動させたオメガモン。先程まで抱いていた迷いは捨てた。あるのは覚悟と決意のみ。目の前の敵を、洗脳された仲間を絶対に助けると言う強い意志だ。

 覚悟を決めれば誰だって前に進める事が出来る。自分が変われば、周りを変える事も出来る。オメガモンはまた1つ壁を乗り越えた。後はアルファモン・王竜剣に勝利するだけだ。

 グレイソードを構えると共に視認はおろか、気配を察知する事すら出来ない程の超速度で間合いを詰め、オメガモンはグレイソードを横薙ぎに振るう。

 王竜剣で受け止めたアルファモン・王竜剣。先程のように強化されたパワーを以てオメガモンを吹き飛ばそうとするが、それよりも先にオメガモンが動いた。

 

「“万象一切灰塵と為せ”! ハアアァァァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 左手のウォーグレイモンの頭部を象った手甲。その目の部分が輝いた瞬間、刀身がギリギリと唸りながら震え、灼熱の火炎が刀身から噴き出し始める。

 裂帛の気合と共にグレイソードを振り切り、オメガモンはアルファモン・王竜剣を吹き飛ばす。聖剣から発せられる太陽の火炎。それがグレイソードを灼熱の聖剣に変えていく。

 アルファモン・王竜剣は空中で体勢を立て直し、自然落下の勢いと共に王竜剣を振り下ろす。それに対し、オメガモンは右手の手甲を翳して唐竹斬りを受け止めた。

 

「ハァッ!!」

 

「グッ!!」

 

 両手で握り締めた状態で振り下ろされた王竜剣。それを片腕で受け止め、残る片腕に聖剣を装備しているオメガモン。聖騎士はグレイソードを横薙ぎに一閃し、アルファモンの胸部を斬り付けた。

 たたらを踏んで後退するアルファモン・王竜剣。一度背後に飛び退き、王竜剣を構え直しながら仕切り直しを行っていると、それを見逃さないと言わんばかりにオメガモンが追撃に出た。敵は倒せる時に倒す。それがオメガモンのやり方だ。

 

「『デジタライズ・オブ・ソウル』!!!」

 

 しかし、アルファモン・王竜剣も負けてはいない。先程と同じように左手の平を前に突き出し、緑色の魔法陣から光弾を連射する。

 オメガモンは一気に加速して緑色の光弾を掻い潜り、アルファモン・王竜剣の目の前に姿を現した。そのままの勢いを使って刀身から発する太陽の火炎を増大させ、グレイソードを大上段から振り下ろす。

 

「グゥッ……オウリュウモン!」

 

「ッ! チィ!!」

 

 太陽の火炎剣に斬り下ろされると共に、全身を焼かれたアルファモン・王竜剣。彼が叫ぶと共に背後にオウリュウモンが浮かび上がり、両手に握る巨大な刀で斬り掛かろうとする。

 咄嗟に背後に飛び退いて躱そうとしたオメガモンだったが、その隙をアルファモン・王竜剣は見逃さない。左手の平を前に突き出し、デジモン文字を刻んで黄色の魔法陣を描いた。

 

「“光弾けろ”! 『エクスプロージョン』!!!」

 

「グアァァッ!!!」

 

 オメガモンの胸部で大爆発が起こった。大爆発に怯んで仰け反りながら、たたらを踏んで後退するオメガモン。その聖騎士にオウリュウモンは斬りかかる。

 右手に握る“鎧龍右大刃(がいりゅううだいじん)”と、左手に握る“鎧龍左大刃(がいりゅうさだいじん)”で交互に斬り付け、最後にアルファモン・王竜剣が王竜剣を薙ぎ払い、オメガモンを吹き飛ばす。

 空中で体勢を立て直し、海面に浮かぶオメガモン。ここまでの戦闘でアルファモン・王竜剣がマキ・イグドラシルによって何処をどのように強化されたのかが分かった。

 

―――オウリュウモンの必殺奥義は前から使えていたけど、今度はスタンドじみた事も出来るようになったのか。

 

 全体的なスペックだけでなく、繰り出す魔法の威力も上がっている。一番はオウリュウモンに酷似した、或いはその物と言える武者龍を召喚する事が出来るようになった事。

 中々厄介な能力だが、オメガモンは恐れない。もう1度突進を開始しながら、ガルルキャノンから砲撃を撃ち出す。王竜剣を盾にするように構え、砲撃を防ぐアルファモンだったが、王竜剣の一部が突如として瞬間凍結した。

 驚愕を見せるアルファモン・王竜剣。オメガモンが撃ち出したのはエネルギー弾ではなく、絶対零度の冷気弾だった。直撃を喰らった対象を瞬時に凍結させ、分子レベルに分解して消滅させる。

 オメガモンはアルファモン・王竜剣との間合いを詰めながら、更にガルルキャノンから砲撃を撃ち込む。今度は青色のエネルギー弾だが、直進している途中で爆裂。無数の小型エネルギー弾に分裂し、あらゆる方向からアルファモン・王竜剣に襲い掛かった。

 

「グゥッ!!……ハァッ!!!」

 

 背中に羽織っているマントで全身を覆い包み、オメガモンの砲撃に耐えるアルファモン・王竜剣。ダメージは最小限に軽減したものの、衝撃に耐えられずに苦痛の声を上げた。

 砲撃が一通り止んだのを確認してマントを背中に戻そうとすると、オメガモンが目の前に姿を現し、太陽の火炎を発するグレイソードを振り下ろす。

 アルファモン・王竜剣に当たると思われたその時、目の前に魔法陣が出現してグレイソードを受け止めた。その魔法陣を見たオメガモンは表情を変え、“縮地”を発動して後退してから構えを取り直す。

 今の魔法陣は『フォトン・グレネイド』の物。相手の攻撃を吸収して増幅・集束して撃ち返すカウンター奥義。厄介なその奥義を何度も目にしている為、オメガモンは魔法陣だけで直ぐに回避行動を取った。

 

「『メテオ・ダイブ』!!!」

 

 それを見たアルファモン・王竜剣が攻勢に出た。デジモン文字を刻んで赤色の魔法陣を描き、上空から無数の流星群を降らす。

 アルファモン・王竜剣との距離を詰めようと突進を開始したオメガモン。流星群を躱しながら間合いを詰めていると、アルファモン・王竜剣が異なるデジモン文字を刻み、紅色の魔法陣を描いた。

 

「“全てを燃やす炎”、『メテオスプレッド』!!!」

 

「“蒼天に坐せ”!」

 

 オメガモンの周囲に灼熱の炎壁が出現し、聖騎士を拘束すると共に焼き尽くそうとするが、オメガモンはガルルキャノンを構える。メタルガルルモンの頭部を象った手甲。その目の部分が光り輝くと共に、灼熱の炎壁の内部で絶対零度の冷気が放たれた。

 瞬く間に“ニヴルヘイム”と化した灼熱の炎壁は、先程の輝きが嘘だと言わんばかりに消えていった。発生した水蒸気をグレイソードの一閃でかき消し、オメガモンは再びアルファモン・王竜剣との間合いを詰める。

 

「行くぞアルファモン! 私の全てを以てお前を取り戻す! 私は1人ではない!」

 

 激突する太陽の聖剣と王竜剣。『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』のバックアップもあり、確実にアルファモン・王竜剣を防戦一方に追い込むと、オメガモンはガルルキャノンから青い光の波動弾を2発撃ち出す。

 狙いはアルファモン・王竜剣の下半身と両腕。直撃した事で、アルファモン・王竜剣は動けなくなり、反撃する事も出来なくなった。

 

「これで終わりだ! 届け! 『グレイソード』!!!」

 

 オメガモンはグレイソードから発する太陽の火炎を集束して巨大な火炎の刃にすると、右足を一歩踏み込み、大上段から振り下ろした。

 炸裂したオメガモンの必殺奥義。アルファモン・王竜剣はゆっくりと倒れ始めると共に、全身から眩い光を放って優衣の姿へと戻った。海中に沈む寸前でオメガモンは受け止め、陸地へと向かって飛んでいった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 深い闇。全てが真っ黒に染まった虚無な世界。デジモンとなった人間が、心に抱えている内面世界。そこにやって来たのは工藤優衣。まるで墜落したようにゆっくりと落ちながらやって来た。

 何処を見渡しても光どころか、何も見えない暗闇に染まっている世界。その世界にいるのは優衣だけだ。まるで彼女の為にあるような世界なのだから。

 

「此処は……?」

 

 優衣が思い出したのはマキ・イグドラシルに捕らえられてからの事。彼女によって意識を刈り取られたアルファモンは、マキが造ったカプセルの中に入れられて強化手術と洗脳処置を施された。

 先ずは強化手術。完全に“デジモン化”していなかった優衣を、マキの手によって“デジモン化”させた。これで完全に人間とデジモンの一体化が完了し、結果的にアルファモンの総合スペックの上昇に繋がった。

 そしてマキはこれまでのアルファモンの戦闘データを分析し、『電脳核(デジコア)』を操作して彼に合った強化を施した。オウリュウモンの召喚もそれによる影響だ。

 更に自分に対して忠誠を誓う聖騎士にする為、洗脳処置を施した。かなり強力な物を施した事で、結果的に優衣の意志を殺し、相手を倒す・任務を遂行すると言う必要最小限の事を考え、それに特化した戦闘マシーンとなった。

 

―――私はオメガモンと、一真君を傷付けてしまった……皆のお姉さんでいようとしたこの私が……“デジモン化”しちゃったし、もうこれまでのようにはいられないよ……

 

(そんな事はないよ、優衣さん!)

 

「誰、なの……?」

 

 突如として響き渡ったのは若い男性のような声。何処から聞こえて来たのか。それを確認しようと優衣は周囲を見渡すが、見渡す限りの暗闇で何も見えない。

 まして何者かの気配を探る事も出来ない。しかし、ここは自分の内面世界。干渉出来るとしたらこく限られた存在になる。

 

(君は1人じゃない、仲間がいるじゃないか!)

 

―――アルファモン……?

 

 優衣の目の前に現れたのは1体の聖騎士。漆黒に光り輝く聖鎧に身を包み、背中に内側が青く、外側が白いマントを羽織り、背中に翼のような物を備えたアルファモン。

 優衣と一体化し、彼女を支え続けている聖騎士。時には彼女の支えとなり、時には彼女の父親代わりとなっている。

 

(確かに俺達はマキによって洗脳された。君は“デジモン化”された……でも俺達には支えてくれる仲間がいる。共に戦う盟友がいる。自分をそこまで責めなくて良いんだよ)

 

―――仲間……盟友……

 

 優衣は自分を支えてくれる仲間や共に戦う盟友の事を思い出す。自分が“デジモン化”したとしても、彼らは受け入れてくれる。帰る場所が、戻る場所がそこにはある。

 クオーツモンとの最終決戦で自ら“デジモン化”を受け入れた八神一真がいる。自分の握るお寿司を心待ちにしているパラティヌモンがいる。優衣は独りじゃない。沢山の仲間に囲まれ、時には助けたり、助けてもらいながらここまで来た。

 

(大丈夫だ。皆は例え“デジモン化”しても、君を受け入れる。同じ“デジモン化”した先輩の一真君がいる。君は俺、アルファモンだから心配する事はないさ)

 

―――ありがとう、アルファモン。これからもよろしくね?

 

(あぁ、俺の方こそよろしく頼むよ)

 

 優衣とアルファモンは握手を交わすと、暗闇だった彼女の内面世界に光が灯り、瞬く間に光が広がっていく。お互いに笑顔となる優衣とアルファモン。

 これで彼女も自らの“デジモン化”を受け入れる事が出来た。前に進む事が出来るようになり、後は一真達仲間に会うだけとなった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ここは……」

 

「気が付いたみたいだね、優衣さん」

 

 優衣が目を覚ました場所。そこは東京湾の陸地。仰向けで寝ていた彼女に気付いたのはオメガモンだった。

 彼は人間であり、デジモンでもある聖騎士。今は人間よりの優しくて穏やかな人格。その証拠に声が爽やかで、優しい感じがする。

 

「大丈夫? 何処か怪我していない?」

 

「平気よ。私はジエスモンやガンクゥモンの手伝いをしながら、お寿司のネタを仕入れていたの。でもデジモン達が殺戮されている事件の調査をしていたら、その依頼状が『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の罠だった……」

 

「『NEOプロジェクト・アーク』を調査してたんだ……と言う事はある程度は知っているんだ」

 

「えぇ。イグドラシルの事も、『NEOプロジェクト・アーク』の事も全部。ノルンさんが来ている事までは分かるわ」

 

「そこまで分かれば十分だよ」

 

 今のオメガモンは八神一真っぽい人格となっている。一真の姿でいる時は一真の人格だが、オメガモンの時には人間とデジモンの人格のどちらかを選ぶ事が出来る。

 完全に仕事の話をしているオメガモンと優衣。彼女は今は動く事も、戦う事も出来ないが、会話する事なら出来る。

 

「私は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に誘き出された。3体の聖騎士……戦ったのは2体だけど、優勢には立っていた。でもイグドラシルにやられて……私が覚えているのはここまで。奴に強化手術と洗脳を施されてノルンさんを連れ戻し、オメガモンかパラティヌモンを倒せと命令されたの」

 

「それで今に至るか……随分と思い切った策に出たね、イグドラシルも」

 

「確かに前よりは強くなれた。でも“デジモン化”しちゃった……」

 

「ッ!」

 

 今の優衣はアルファモンの瞳と同じ色をしている。黄金色の瞳。オメガモンは優衣の言葉が真実だと認めるしか無かった。

 マキ・イグドラシルの手によって、優衣は“デジモン化”してしまった。これで“デジモン化”してしまった人間は2人目となった。

 

「優衣さん。“デジモン化”した以上はどうにも出来ないけど、僕は優衣さんの事をずっと信じているよ。仲間だから……これまでもそうだったように、これからもずっと優衣さんと一緒に居たいし、一緒に戦いたい。それに……優衣さんの握るお寿司は天下一品だから、ずっと食べていたいんだ」

 

「それは……アルファモンとなった私が、いつまでも変わらないでいて欲しいって事?」

 

「そうだよ。世の中は変わり続けている。僕らも変わり続けないと生きていけない。でも世界には変わっていけない物も沢山あるんだ。だから優衣さん。君は変わらないで欲しい」

 

「オメガモンこそ変わっちゃ駄目よ?」

 

 オメガモンと優衣はお互いに笑い合う。それに釣られてノルンと竜也も笑顔になり、彼らの笑顔が東京湾にいる全ての人々に伝わっていく。

 激戦の末にオメガモンはアルファモン・王竜剣を下し、大切な仲間を取り戻す事に成功した。しかし、まだ戦いは終わった訳ではなかった。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・強化されたアルファモン

イグドラシルによって改造手術を施されたデジモンは例外なく強いです。
今の所は敵だけですが、何れは味方も……?
アルファモンの場合、オウリュウモン(ジョジョで言うスタンド扱い)を召喚して使役する能力を会得しました。

・迷うオメガモン

仲間と戦わなければいけないと分かっていても、やっぱり戦えないオメガモン。
彼の弱さであり、強さと言えます。それでもやる時はやるんですけどね!

・大兄貴

Q:オメガモン=八神一真が尊敬している人は?
A:大門大です。

・”デジモン化”した優衣さん

これで”デジモン化”した人間が2人目。
自分からなったのではなく、神によってされてしまった。
これでまたイグドラシルは敵を増やしちゃいました。


裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

アルファモンを元に戻したのも束の間、マキ・イグドラシルが出現した。
神相手に奮戦するが、オメガモンは追い詰められてしまう。
そんな時に蘇る『厄災大戦』の英雄。果たしてその正体は!?

第33話 狼の王





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第33話 狼の王

最近は『Fate/Grand Order』の外伝小説を平行して書き始めましたが、原作に沿った形で進めています。スマホゲーではなく、物語として書いているので。
大方のセリフがそのままだと利用規約の禁止事項「原作の大幅コピー」になると気付いて、一部変更したり、地の文章にしています。それで大丈夫なのでしょうか?
ちょっとペースが落ちて来ましたが、本編が書けたので投稿します。
今回第2章は果たして2クール行くのかちょっと不安(内容は問題ないけど、話数が持つかどうか)ですが、最後まで書いていきます。第3章は肩の力を抜いた話を書きたいです。



―――私が強化して洗脳したアルファモンを倒すとは……オメガモン、恐るべし!

 

 デジタルワールドの何処か。世界樹イグドラシルにいるマキ・イグドラシルは、人間界で繰り広げられたオメガモンとアルファモンの激闘を観終えた。

 自らの手で強化手術を施し、洗脳処置を施したアルファモン。オメガモンを倒す筈が、オメガモンに敗北して元通りになってしまった。その事実にマキは打ちのめされながら、オメガモンの実力が本物である事を認めた。

 流石はクオーツモンを倒しただけはある。自分がホメオスタシス側で一番強いと確信した事は正しかった。マキ・イグドラシルは何かを決意すると、世界樹イグドラシルを後にして何処かに向かっていった。

 

「おい、見ろ!」

 

「まただ!」

 

「今度は誰が来るんだ……?」

 

 人間界。東京湾。つい先程までオメガモンとアルファモンが激闘を繰り広げていたその場所の上空。そこに再び巨大なワームホールが出現した。

 それを見たオメガモンはノルンに優衣を任せて海面に浮かび、地上の公園や橋の上にいる沢山の人々はワームホールに視線を向ける。

 空に浮かんでいるワームホール。そこから姿を現したのはデジモンではなかった。1人の女性だった。神々しい美しさを放ち、黒いドレスを身に纏い、銀髪のショートヘアーに金色の瞳をした女性。海面に向かって落下していくが、危なげなく海面に浮かび上がる。

 

「マキ……まさかこのタイミングで」

 

「あいつよ……あいつが今回の黒幕よ!」

 

「あれが……マキ・イグドラシル」

 

 その女性が今回の事態の黒幕。デジモン達を殺戮しながら人間界を崩壊させ、自分を中心とした新しい世界を創ろうとしている。その計画名は『NEOプロジェクト・アーク』。

 自ら強化手術を施した『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を率いて、計画を遂行している紙の名前はマキ・イグドラシル。ノルン・イグドラシルの妹と言える存在だ。

 マキと正対するオメガモンは圧倒されている。神としか言えない圧倒的なオーラと存在感。それに呑み込まれないよう、踏ん張っている所だ。

 

「初めまして、オメガモン。こうして会うのは初めてですね」

 

「こちらこそ初めまして。マキ・イグドラシル。この世界を滅ぼし、デジタルワールドを狂わせている邪神よ」

 

「随分と酷い事を言うじゃない……貴方がそう思うなら仕方ないけど」

 

 初対面であるにも関わらず、マキに辛辣な言葉を言い放つオメガモン。敵対する相手には容赦なく、自分が許せない事をしている相手にも容赦しない。それがオメガモンと言う聖騎士のやり方だ。

 マキはそれに苦笑いを浮かべながらも、風のように笑って受け流した。自分が正しいと思っている事を、オメガモンは酷いと言う。それは個人の意見なので大いに構わない。

 

「でも流石ね、オメガモン。クオーツモンを倒しただけの事はあるわ。貴方の力、益々凄みを増している……とまぁ前置きはここまでにして、私がここに来た理由を話そうかしら。私は貴方をスカウトしに来たの」

 

「悪いがその手の勧誘はお断りだ」

 

「最後まで人の話を聞きなさいよ。私は自分が巡って来た道のりを否定しないわ。『厄災大戦』を起こしたのは自分のせいだと思っている。でもね、私にも正義や信念があるの。何があってもデジタルワールドを守る。それが私と言う神様の在り方。何か誤解されているみたいだから、それを正しにここに来たの」

 

「確かに貴女の行動には自分なりの正義や信念を感じる。例え間違ったとしても、デジタルワールドの事を想う貴女は本物だ。私は誤解していたようだな……」

 

「こちらこそ誤解されるような事をして御免なさい。それともう1つ謝らないといけない事があるの。貴方とアルファモンを戦わせてしまった事。同じ仲間を私の目的で引き裂き、戦わせてしまった。言葉では何の償いにならないことを知っているけど、それでも私は貴方に謝りたかった。申し訳ありませんでした、オメガモン」

 

 マキは瞼を重く伏せながらオメガモンに深々と頭を下げ、謝罪をした。後悔はしないと言い切り、後ろを一切振り向かないような彼女が唯一後悔している事。それは自身の目的の為とは言えど、アルファモンを味方にしてオメガモンと戦わせてしまった事。

 これにはオメガモンですら言葉を失った。聞いていた話とかなり違う。演技ではないかと疑ったが、誰がどう見ても演技には見えない。これは一体どういう事なのか。マキ・イグドラシルは過激で攻撃的な性格だと聞いたが、目の前にいるのはどう考えても別人にしか思えない。自分の目と耳を疑いたくなる程だ。

 マキも今更の謝罪などでは何も変わらないことは承知している。欺瞞に満ちた自己満足であっても、デジタルワールドの神として、けじめをつけようとオメガモンに謝罪した。

 

「イグドラシル、私には分からない。私に優しい言葉をかけている貴方が、何故デジモンを殺戮して人間界を崩壊させ、その上で新世界を創ろうとしているのかを。沢山の血と死体の上に新世界を創ろうとしている貴女は、一体何がやりたいんだ!?」

 

「私がやりたいのは人間とデジモンがお互いに手を取り合い、仲良く過ごす世界を創る事。それをするには今のデジタルワールドにいるデジモン達や神を抹殺し、人間界を崩壊させて統合させなければならない」

 

「確かに理想郷を作りたい気持ちは分かる。だが……だからと言って何かもが許される訳がない! 貴女はまた過去の過ちを繰り返そうとしている! また『厄災大戦』のような事になってしまう! 私は貴女の野望を阻止し、デジタルワールドと人間界に真の平和を取り戻して見せる!」

 

 今まで心の中に溜め込んでいた感情を爆発させるように、オメガモンはマキに向かって声を張り上げた。まるで目の前にいる神の二面性に絶望しているように見える。優しく暖かい太陽のようで、冷たく輝く月のような二面性だ。

 聖騎士の言葉はマキに届いていた。何処か可愛げにクスリと微笑みを浮かべているが、それは何処となく苦笑いのような、少し寂しさを帯びた笑い方のようにも見えた。

 

「やっぱり貴方はぶれないわね、オメガモン。貴方らしいわ。でも、私は貴方と戦いたくない。貴方は私を凌ぐ力を持っている……ねぇ、一緒に来ない? 一緒に新しい世界を創らない?」

 

「断る! 私はこの世界と、今のデジタルワールドを守る為に戦っている。新世界の創造には全く興味がない」

 

「それが貴方の答えね、分かったわ。貴方を殺したくはないけど、敵だと宣言されたら仕方ないわね。でも私は貴方を殺せない。殺したくない。殺すくらいならいっそ独り占めしたい。私だけを見ていて欲しい。貴方さえいればそれでいい。決めたわ。オメガモン……私は貴方を独占するわ!」

 

(ヤンデレだァァァァーーーーーーーーーーーー!!!!!)

 

 自分の誘いをあっさりと断られてふんわりとした笑顔から一転し、心から哀しそうな表情になったマキ。彼女は何をどう思ったかは分からないが、オメガモンを殺さずに独占する事を宣言した。その言葉は狂気に満ち溢れ、オメガモンは内心で思わず叫んでしまった。

 ヤンデレとは“病み”と“デレ”の合成語であり、広義には、精神的に病んだ状態にありつつ他のキャラクターに愛情を表現する様子を指す。その一方、狭義では好意を持った人物がその好意が強すぎるあまり、次第に精神的に病んだ状態になることを指している。

 オメガモンとマキはお互いに目の前の相手を倒す事を決意した。何が何でもやらなければならないことをする為に、目の前に如何なる敵が立ちはだかろうとも、決して歩みを止める事は出来ない。何をおいても、何を犠牲としてでも叶えなければならないことを宿しているのだから。

 

ーーーーーーーーーー

 

 マキは二丁の拳銃―アストレアを手にしている。それが彼女の武器。白銀のリボルバー銃の見た目をしているが、その銃身の下にはナイフの形をした銃剣が装備されている。近・遠距離対応の万能兵装。

 対するオメガモンも左腕を掲げ、左手たるウォーグレイモンの頭部を象った手甲からグレイソードを出現させる。

 

「剣を取り、銃を持て。オメガモン、最早敵同士となった私達の間に言葉は不要。語るなら己の武器と力を以て語れば良い。まさかデジタルワールドの神とは戦えないとは言わないよね?」

 

「無論だ。貴女がデジタルワールドの神だとしても、この世界に厄災をもたらすのであれば、完全消去するだけの話だ」

 

 デジタルワールドと人間界を統合して新世界を創ろうとしている神様と、2つの世界を守ろうとしている聖騎士。マキはオメガモンの戦術を知っているが、オメガモンはマキの戦術を知らない。初対戦とは言えど、マキは事前に下調べをした上で挑んでいる。

 マキには情報のアトバンテージがあり、オメガモンにはそれがない。それがどれだけ大きいかはオメガモン自身もよく知っている。それでも戦うしか道はない。

 

「行くわよ、オメガモン!」

 

「来い!」

 

 先制したのはマキ。先手必勝と言わんばかりに、両手に握るアストリアから銃弾を怒涛の勢いで連射する。弾幕を張る事でオメガモンを近付けさせないようにする為。近接戦闘において最も力を発揮する事を知っているからこそ、先ずは近付けさせない事に専念した。

 それに対し、オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構えた。刀身がギリギリと唸りながら震えると共に、灼熱の火炎が噴き出す。太陽の聖剣と化したグレイソードを振るい、目の前に灼熱の炎壁を展開する。

 

「小癪な……」

 

「ハアアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

 目の前に出現した灼熱の炎壁。それを見て不快気な表情を浮かべたマキの背後に回り込み、オメガモンは怒涛の攻勢に出た。

 グレイソードから繰り出される連続斬撃。一撃一撃が必殺の領域に足を踏み入れている程の威力と速度を内包している。

 その苛烈としか言えない猛攻をマキは軽やかな動きで躱しつつ、突き出されたグレイソードを右手に握るアストリアの銃剣で受け止めると、刀身から眩い光を伸ばしながら横薙ぎに一閃した。

 オメガモンは身を沈めながら躱すと、何時の間にか展開したガルルキャノンを構えて青色の波動弾を撃ち出す。先程灼熱の炎壁を展開し、マキの背後に回り込んでいる最中にガルルキャノンを展開していた。

 

「グッ!!」

 

―――直撃してこれか……随分と頑丈だな。

 

 青色の波動弾の直撃を喰らい、たたらを踏んで後退するマキ。砲撃の直撃を喰らったにも関わらず、この程度で済むあたり、彼女の防御力も伊達ではない。

 人間とデジモンの完全なる一体化を果たし、オメガモンは生前より強化されたが、そんな聖騎士でもデジタルワールドと渡り合うには辛いみたいだ。

 踏ん張りながら体勢を立て直したマキ。彼女の目が一瞬光ると共に、目にも止まらぬ速度でオメガモンとの間合いを詰めて来た。

 沈みながら右手に握るアストリアを振るい、左手に握るアストリアから銃弾を連射して追い打ちをかける。例え最初の攻撃を躱しても、次の攻撃を確実に当てる。隙の無い二段構えの連続攻撃だ。

 オメガモンは最初の薙ぎ払いを跳躍で躱し、続く連射銃撃をグレイソードの左薙ぎで迎え撃つ。神の力が込められた銃弾を太陽の火炎で焼き尽くそうとしたが、貫通してオメガモンの胸部に直撃した。

 

「グァァァァッ!!!!」

 

 胸部に数発の銃弾を喰らって吹き飛ばされるオメガモン。即座に空中で体勢を立て直してマキとの間合いを詰め、まるで舞い踊るかのような動きと共に、灼熱の連続斬撃を繰り出す。左斬り上げに薙ぎ払い、そして唐竹斬り。

 それに対してマキは2丁のアストリアでグレイソードの連続斬撃を巧みに受け流し、余裕そうな表情を見せている。何処か楽しそうにも見える。

 

―――まだマキ・イグドラシルは本気を出していない。

 

 マキの表情を見たオメガモンがそう考えていると、彼女は左手に握るアストリアを一閃してオメガモンを弾くと、照準を合わせて銃弾を撃ち込もうとする。

 咄嗟にガルルキャノンを構えて青い波動弾を撃ち込んで牽制を狙うが、マキは構う事なく銃弾を撃ち出した。銃弾は青い波動弾と激突するが、数秒の拮抗の後、青い波動弾を突き破り、オメガモンに向かっていく。

 オメガモンはアストリアから次々と撃ち込まれる銃弾を躱しながら、海面を素早く駆けていく。そして海面を強く蹴り付け、巻き上げた海水で自分の体を覆い隠した。

 それを見たマキは銃撃を中断してオメガモンの出方を伺おうとするが、それと同時に海水の幕の中からオメガモンが出現し、そのままマキを飛び越えていった。

 身体を反転させながらガルルキャノンを構え、青色の波動弾を連射する。マキも2丁拳銃から銃弾を連射して迎撃した。その隙に聖騎士は“縮地”を発動し、マキとの間合いを一瞬で詰める。

 

「ッ!」

 

「ハアアッ!!」

 

 銃撃に専念していたマキはオメガモンの行動に対応する事が出来ず、横薙ぎに一閃されたグレイソードを喰らった。後方に吹き飛ばされるが、直ぐに体勢を立て直して海面に浮かび上がる。

 胸部に刻まれた火傷。聖剣の刀身から発せられた太陽の火炎に焼き払われ、受けた火傷。それを見ても表情を変える事なく、彼女は両手に握る2丁のアストリアを構え、銃口に膨大な量のエネルギーを集束させ始める。

 

「『シャイニングブラスト』!!!」

 

「『グレイソード』!!!」

 

 アストリアの照準をオメガモンに合わせ、マキはアストリアから凄まじい光の奔流を撃ち出す一方、オメガモンは刀身から太陽の火炎を発するグレイソードを構え、太陽の火炎を集束して巨大な灼熱の刃を作り上げた。

 太陽の聖剣を凄まじい光の奔流目掛けて振り下ろし、『シャイニングブラスト』を真っ向勝負で打ち破ろうとするが、マキはそれを嘲笑うかのように不敵な笑みを浮かべている。

 今『シャイニングブラスト』を撃ち出しているアストリアは1丁。1丁でオメガモンの放った必殺奥義と拮抗している。これにもう1丁足せばどうなるのか。そう言わんばかりに、マキは更にもう片方のアストリアから凄まじい光の奔流を撃ち出す。

 

「何!? グアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「オメガモンが……負けた」

 

 もう1発の『シャイニングブラスト』の直撃を喰らったオメガモン。苦痛に満ちた叫び声を上げながら吹き飛び、盛りが広がる陸地に激突してしまう。

 陸地に激突したオメガモンは立ち上がろうとしたが、連戦による疲労とダメージが蓄積されているからか、思うように立ち上がる事が出来なくなった。純白の聖鎧の至る所に傷跡が刻まれている。

 その事実に戦いを見ていた全員の心に絶望感を広がっていた。最強の聖騎士のオメガモンが敗北した。誰もが絶望を覚える中、オメガモンに止めを刺そうと、マキが聖騎士の目の前に姿を現してアストリアから1発の銃弾を撃ち込んだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「グハァッ!!」

 

「竜也君!?」

 

 しかし、その銃弾はオメガモンには届かなかった。聖騎士を守ろうと身を挺した竜也の心臓を貫き、結果的にオメガモンは助かった。

 命を捧げてまで自分を助けた竜也を右手で抱えるオメガモン。竜也は口から大量の血を吐きながらも、満足したような笑みを浮かべている。

 

「ハハッ、何とか……助けられました。……良かった」

 

「何が良かっただ! 何故私を庇った!」

 

「貴方に助けられた恩をお返しする為です……」

 

 竜也の答えにオメガモンは押し黙った。もし自分が竜也の立場だったとしても、絶対に同じ事をしていた。そう言い切れるからだ。

 人間として終わりかけていた自分を、カオスモンとなってしまった自分を救ってくれた命の恩人。今こうして生きていられるのも聖騎士のおかげ。その恩を返したかった。たったそれだけの話だった。

 

「俺は本当ならカオスモンとして死んでいました……でも貴方のおかげで人間に戻る事が出来ました。俺の命は貴方に繋いでもらいました……だから今度は貴方の命を俺で繋ぐ……この世界とデジタルワールドの為に」

 

 竜也は震える右手でオメガモンの頬を触った。大きくて優しい触り心地。超合金で出来ているにも関わらずだ。

 彼はずっとオメガモンに何らかの形で恩返しをしたかった。自分の命を繋いだお礼をする為に。それが今回訪れた。自分の命を代償に。

 

「ハハッ、やっとこれから本当の幸せを手に入れる時なのに……俺も常々運がないですね。いや、本当の幸せは既に手に入れてたのかもしれません。オメガモン……ありがとう。この世界と、デジタルワールドを守って……下さい」

 

「竜也君!? 竜也君!?」

 

 竜也は自分の運の無さを嘆きつつも、本当の幸せを手にしていた事に気付いた。オメガモンと言う憧れに出会えた事がそうなのかもしれない。

 天を仰ぎながらオメガモンに感謝と願いを告げると、力尽きたかのように目を閉じた。オメガモンは肩を揺らしながら必死で呼びかけるが、竜也は満足気な笑みを浮かべながら目を開けようとしない。

 

―――人間がデジモンを守った!? 命を捨ててまで……有り得ない! 絶対に有り得ない!

 

「イグドラシル……!」

 

 その様子を見ていたマキは呆然となり、内心で狼狽えている。彼女は人間とデジモンは分かり合えないと判断した上で、今回の計画を遂行している。

 しかし、竜也がオメガモンを身を挺してまで守った所を見て、自分の考えを否定された気がした。その現実を受け入れたくないと言わんばかりに狼狽えている。

 それに追い打ちがかかる。自分の大切な存在が殺された。しかも自分を身を挺してまで守った上で。その事実に悲しみと怒りを感じたオメガモンが凄まじい怒りを見せ、全身から黄金のオーラを放ちながら立ち上がる。

 立ち上がったオメガモンを見て驚くと共に、その怒りの凄まじさに震え上がるマキ・イグドラシル。そんな彼女の様子に構う事なく、オメガモンは自らのエネルギーを竜也に分け与え、彼を蘇生させようと試みる。

 

ーーーーーーーーーー

 

―――此処は……

 

 竜也が目を覚ました場所。そこは上下と前後、それと左右。ありとあらゆる所が真っ黒な空間。彼の内面世界。辺りをキョロキョロと見渡しながら、竜也は自分が死んだ時を思い出していた。

 彼は優れた才能も無ければ、優れた人格もない。取るに足らない凡人だ。それがカオスモンとなり、オメガモンに助けられた事で運命が変わった。

 再び代わり映えしない平凡な生活に戻る筈だった。しかし、神によって抹殺された。命の恩人を凶弾から守った上で。その事には何の未練や後悔はない。でも執着はある。行きたいと言う強い意志が。

 憧れもある。自分を助け、世界を救った大英雄。目指そうと思って努力して来た。でもそれもここで終わろうとしている。このまま終わるのか。否、終わりたくない。そう思った瞬間、竜也の中で何かが目覚めた。

 何もしなかった。何も出来なかった。このまま終わって良いのか。終わりたくない。胸を張って言える事が自分にはない。このままでは自分は消える。自分と言う存在は死ぬ。

 

―――あぁ、そうだよな。まだ終われない。まだ終わりたくない。だって、だって俺は何もしていないし、何も出来ていないから!

 

(ほぉ、何と言う意思の強さだ。流石だ。俺を呼んだだけの事はある)

 

―――だ、誰だ!?

 

 突如として空間に響き渡る声。竜也は周囲一帯を見渡すが、声の主の姿が見えない。何処かから声だけが聞こえて来ただけだ。

 そう思っていると、竜也の目の前に声の主が現れた。巨大な狼の姿をした生物。竜也を見下ろしている。見上げながら竜也は圧倒される。

 

(我が名はフェンリスモン。君達人間で言うフェンリルでもある)

 

―――フェンリル……だと!?

 

 フェンリル。北欧神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物。ロキが女巨人アングルボザとの間にもうけた、またはその心臓を食べて産んだ三兄妹の長子。

 神々に災いをもたらすと予言され、ラグナロクでは最高神オーディンと対峙して彼を飲み込んだと謳われている。

 

―――お、俺は櫻井竜也です。

 

(ご丁寧にどうも。君が私を呼んだ。君の抱いた願いが、意志が、思いが私を呼んだ。凄いよ君は……さて本題に入ろう。君は死んだ。肉体と精神は死んだ。だが、まだ魂が生きている。それを使えば生き返る事が出来る)

 

 見た目は怖いとしか言えないが、中身は紳士的で優しいフェンリスモン。圧倒される竜也を見て苦笑いを浮かべている。

 本題に入ると、竜也が復活出来る方法を説明し始める。肉体と精神が死んだ以上、魂を使えば生き返る事が出来る。問題はその方法だ。

 

(私自身を差し出そう。そうすれば君の魂の消滅は無くなり、肉体と精神を得て復活出来る。だが、その代償に君は人間でなくなる。デジモンとなる。その覚悟は君にはあるか?)

 

―――あぁ。俺の命はオメガモンが繋いでくれた。その命の恩人を守って失われるのを、貴方が繋ぐんだ。やってやるさ。

 

(そうか。なら行こうか)

 

 フェンリスモンが告げた方法。それは自分と一体化する事。しかし、それは竜也に人間である事を放棄させる事を迫っている。

 竜也はそれを受け入れた。命の恩人が繋いだ命。それが無くなろうとしている時、神殺しの狼が繋ごうとしている。このチャンスを使わない理由はない。

 フェンリスモンと竜也が握手を交わした瞬間、彼らの間から眩い光が発せられ、その光が優しく彼らを覆い包んでいく。その中で竜也は意識を手放した、まるで彼を人間界へと送り届けるように。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ッ!?」

 

「何?」

 

 オメガモンが自らのエネルギーを竜也に分け与えていると、突如として竜也の身体が空に舞い上がり、巨大な光の卵へと変化していく。

 静かに上空に浮かび上がる巨大な光の卵。それは間違いなく進化の証。オメガモンやマキ、ノルンといった東京湾にいる全員が見守る中、光の卵が消滅し、その中から1体のデジモンが姿を現した。

 地上に向かってゆっくりと降下し、危なげなく海面に浮かぶデジモン。そのデジモンの姿を見ようと、周囲一帯に集まっていた誰もが目にする中、マキは唖然となった。目の前にいるデジモンの存在を知っているからだ。

 

「フェ、フェンリスモン……」

 

「違うな。俺はレクスフェンリスモン! 『厄災大戦』に生まれて朽ち果て、この時代に新たに転生した“狼の王”だ!」

 

 それは『厄災大戦』を終わらせた13体のデジモンの1体。フェンリスモンが新たなる人間と一体化して転生した姿。その名前はレクスフェンリスモン。

 全身を純白に輝く聖鎧に身を包み、巨大な両腕の肘には何かを装備し、鋭い5本の爪を光らせ、両手には籠手を身に付け、狼を象った兜を被っている獣戦士型デジモン。その背中には巨大な“破砕剣(バスターブレード)”のバルンストックを背負っている。

 

「レクスフェンリスモン……竜也君なのか!?」

 

「初めまして、オメガモン。俺は櫻井竜也であり、レクスフェンリスモンでもあります。貴方と同じです」

 

 海面に浮かんでいるレクスフェンリスモンの隣に並び立つオメガモン。聖騎士が驚きを隠せないでいると、獣戦士は苦笑いを浮かべながら答える。

 人間でもあり、デジモンでもある存在。皮肉にも、同じ東京湾と言う場所でレクスフェンリスモンとオメガモンは同列の存在となった。

 

「俺はパラティヌモンと同じく、『厄災大戦』を駆け抜けた13英雄の1体。昔はフェンリスモンと名乗ってましたが、今はレクスという単語を付けています」

 

「“狼の王”か……」

 

「そう言えば貴方の右腕はメタルガルルモンでしたね……これは何と言う運命でしょうか」

 

 目の前にいるデジタルワールドの神様であり、敵でもあるマキ・イグドラシル。彼女を睨みながら背中に背負っているバルンストックを引き抜き、両手に握り締めるレクスフェンリスモン。因縁の戦いとなる。

 フェンリスモンはかつて『厄災大戦』を駆け抜けた13英雄の1体。転生して初めての相手が『厄災大戦』の元凶。何という偶然なのだろう。しかも共に戦うオメガモンの右手がメタルガルルモンなのだから。

 

「マキ・イグドラシル。俺は1人の人間として、1体のデジモンとして貴女の行いを阻止する。デジモン達を殺戮し、今度は人間界を消し去ろうと言う所業。見過ごす訳には行かない!」

 

「何故!? 何故貴方が人間の味方をするフェンリスモン!」

 

「貴女の行いが間違えているからだ。俺の命を救った恩人、オメガモンのおかげで俺が何をすれば良いのかが分かった。俺は貴女のこれ以上の行いを認めない。フェンリルの名にかけて、お前を止めて見せる!」

 

 『厄災大戦』の時、フェンリスモンはどうやらイグドラシルに忠実だったのだろう。その忠義の戦士が寝返った事にマキが動揺している。その慌てぶりを見れば誰でも分かる。

 『厄災大戦』を駆け抜けた13英雄の1体の寝返り。そのインパクトはかなり大きいようだ。それを感じ取ったオメガモンもグレイソードを出現させ、構えを取る。

 

「一真さん。貴方は休んでて下さい。ここは俺に任せて下さい」

 

「何を言っているんだ……初陣で久し振りの戦いなんだろう? 君が戦っているのに僕が休めるか」

 

「ですよね……それなら足を引っ張らないで下さいね、先輩」

 

「んな!? ピンチになっても助けてあげないからな! 八神一真……オメガモン!」

 

「櫻井竜也……レクスフェンリスモン!」

 

『行くぞ!』

 

 一真と竜也はお互いに軽口を戦うと、お互いに名乗りを上げながら武器を構える。マキも両手に握る2丁拳銃を握り締め、銃口を2体のデジモンに向ける。

 そして始まった2対1の戦い。オメガモンは踏み込み、レクスフェンリスモンは両手に握るバルンストックを掲げ、マキは2丁拳銃から銃弾を撃ち込んだ。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・マキ・イグドラシルは二重人格でヤンデレ!?

これはちょっとした仕掛け……の予定です。
神様でありながら暴君でもある。一体どういう事なのか。それは後で明らかにします。

・マキの実力

デジタルワールドの神様だけあって強いです。銃剣を付けた2丁拳銃。ガンマン。

・オメガモンの敗北

意外と少ない敗戦となりました。読み返しましたが、意外と負けてないんですね……

・レクスフェンリスモン降臨

狼の王。オリジナルデジモンです。
元ネタは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』に登場したガンダムバルバトスルプスレクスです。
最初から”デジモン化”しているので、総合性能はオメガモンと互角以上です。
ちなみに竜也君の人格が混ざっている為、オメガモンに対しては敬語です。

裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

マキ・イグドラシルとの戦いが終わり、櫻井竜也は”電脳現象調査保安局”への加入を決意する。
一方、フェルグスに敗北したパラティヌモンはノルンにあるお願いをする。
果たしてそれは!?

第34話 一先ずの終結


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第34話 一先ずの終結

今回で第32話から続いていた戦いに決着が付きます。
文字数は短いですが、ちょうど良い所まで書けたので切りました。





「クッ!!」

 

 マキ・イグドラシルは2体のデジモンが同時に繰り出した攻撃を防御したものの、完全には受け止めきれず、吹き飛ばされた。

 オメガモンが薙ぎ払ったグレイソード。レクスフェンリスモンが振り下ろしたバスターソード。呼吸を合わせ、繰り出した上段下段への同時攻撃。

 それを防御したものの、吹き飛ばされたマキに追い打ちをかけるように、レクスフェンリスモンは海面を素早く駆け始める。

 彼女は両手に握る2丁拳銃―アストリアを構えて弾幕を展開する一方、狼の王はバルンストックを盾にするように構え、銃弾を防いでいく。

 

「ハアアアァァァァッ!!!!!」

 

「ッ!!」

 

―――これがパラティヌモンと共に、『厄災大戦』を駆け抜けた英雄の力なのか!

 

 バルンストックを握りながら振りかぶり、思い切りマキに向けて叩き付ける。アストリアを交差させて受け止めたものの、レクスフェンリスモンのパワーに押され、マキは再び吹き飛ばされた。

 レクスフェンリスモンの圧倒的なパワーとスピード。パラティヌモンと同等クラスの実力を感じ、オメガモンが戦慄を覚えると共に味方として心強さを感じる中、レクスフェンリスモンは更にマキに攻撃を仕掛ける。

 黄金の爪で貫かんと巨大な左腕を突き出すが、マキはアストリアの銃剣部分で防ぎ、もう1丁のアストリアを構えて銃弾を撃ち込もうとする。

 それに気付いて右足で蹴り付けて体勢を崩させ、バルンストックを突き出して追い打ちをかけるレクスフェンリスモン。完全に“狼の王”のペースだ。

 

「おのれ……!」

 

「私を忘れてもらっては困るな!」

 

「そういう事だ!」

 

 アストリアを交差して防御したものの、吹き飛ばされたマキ。彼女に向けてオメガモンはガルルキャノンを構え、青い波動弾を連射する。

 レクスフェンリスモンも左腕を前に突き出し、両手首に内臓されている砲身―レクスキャノンを展開し、黄色の波動弾を撃ち出す。

 オメガモンが砲撃を連射し続けるのを見て、レクスフェンリスモンは上空から奇襲を仕掛ける。バルンストックを振り下ろし、力負けして吹き飛ぶマキを回し蹴りで追い打ちをかける。前衛のレクスフェンリスモン、後衛のオメガモンの陣形。

 

「良いわ。こっちもギア上げていくわよ!」

 

 マキは上空に向けて一発の銃弾を撃ち出した。銃弾は上空で放射状に放たれ、オメガモンとレクスフェンリスモン目掛けて降り注ぐ。

 狼の王はバルンストックを盾にするように構えながら防ぎ、聖騎士は太陽の火炎を発するグレイソードを振るい、太陽の火炎で銃弾を相殺した。

 その隙にマキは突進を開始する。厄介なレクスフェンリスモンから先に潰そうと、アストリアを薙ぎ払って銃剣部分から伸びる剣光で攻撃する。

 

「チィ!!」

 

 咄嗟に跳躍して躱す狼の王にマキが襲い掛かった。右手に握るアストリアの銃剣を突き出す一方、バルンストックを振り下ろして迎撃する。

 左手に握るアストリアを構えて銃弾を撃ち込もうとするが、その隙に背後に回り込んだオメガモンがグレイソードを振り下ろす。

 それに気付いたマキが左手のアストリアで受け止めるのを見て、レクスフェンリスモンは両手に握るバルンストックを最後まで振り下ろす。更にオメガモンは右足蹴りで追い打ちをかけ、マキを吹き飛ばした。

 

「何故私の邪魔をする!」

 

「貴女のしている事が間違えているからだ。私は自分の正義を貫く為に戦う。現在も、そしてこれからも!」

 

「そうだ。オメガモンがこの世界を守ろうと言うのなら、俺はこの世界を守るオメガモンを守る。そういう事だ!」

 

 オメガモンはガルルキャノンから青い波動弾を撃ち出し、レクスフェンリスモンはレクスキャノンから黄色の波動弾を撃ち込む。

 迫り来る2体のデジモンによる砲撃。それをマキは瞬間移動を行う事で躱すと共に、レクスフェンリスモンの背後に姿を現した。

 

「『テールブレード』!!!」

 

「チィ!!」

 

 それに気付いたレクスフェンリスモンが叫ぶと、彼の背中から一本のアンカーが自動で伸びてマキに向かって襲い掛かる。

 マキが『テールブレード』を防いでいる隙に、狼の王は彼女の間合いを詰めてバルンストックを振るうが、彼女は咄嗟に背後に飛び退き、仕切り直しを計った。

 

「流石ね……『厄災大戦』を駆け抜けた英雄だけあるわ」

 

「貴女こと大した強さだ。デジタルワールドの神様だけあるよ」

 

「イグドラシル! もう一度考え直してくれ! 今ならまだ間に合う!」

 

「もう遅いわ。私の計画はもう行われている最中。今更止まる訳には行かない」

 

 マキが2丁拳銃を構え直す一方、レクスフェンリスモンは両手に握るバルンストックを構え直し、オメガモンもグレイソードを構える。

 完全に議論は平行線となっている。マキは止まれない。自分の計画を遂行する為に。彼らが対立しているのは自分達が掲げる正義。

 聖騎士と狼の王が目指す物。それは人間界とデジタルワールドの平和を守る事。その平和を乱し、厄災をもたらす者は例え神様だろうと消し去る。それだけの話だ。

 レクスフェンリスモンは目にも止まらぬ速さでマキとの間合いを詰め、バルンストックを大上段から振り下ろし、それを迎撃するようにマキも両手に握るアストリアを振るう。

 激突するバスターソードと銃剣。2体の周囲一帯に向けて拡散される衝撃波。狼の王は両腕に力と体重を乗せながら、バルンストックで押し込もうとする。

 

「援護するぞ!」

 

「ありがとう! 行くぜ……『レクスインパクト』!!!」

 

 横から援護するのはオメガモン。ガルルキャノンを構えて青色の波動弾を撃ち出し、マキの体勢を崩していく。砲撃を喰らって体勢を崩したマキを見て、レクスフェンリスモンはバルンストックを背中に戻した。

 両手首から展開していたレクスキャノンを一度戻し、右手たるレクスネイルでマキの頭を鷲掴みにする。そして奥義名を叫ぶと同時に両手首内部のレクスキャノンを連動させ、マキに強烈な一撃を叩き込んだ。

 『レクスインパクト』。相手を片手で掴み取ってゼロ距離でレクスキャノンを連動させ、強烈な一撃を叩き込む必殺奥義。それを喰らったマキを投げ付ける。

 

「貴女はデジモン達の為に、デジタルワールドの為に計画を遂行しているのではない。ただ自分が世界を治めたいだけの一心で動いているに過ぎない。そんな奴に世界が治められる筈がない!」

 

「……良いわ。今日の所は撤退してあげる。でも次は必ず倒して見せるから」

 

 零距離で必殺奥義を喰らった為か、マキは多少ふらつきながらも立ち上がった。そしてこれ以上の戦闘は無意味で、自分にとって不利だと言う事を認め、その場から飛び去った。

 その途中でパラティヌモンと戦っていたクレニアムモン・フェルグスに連絡を入れ、撤退するように命令したのは言うまでもない。

 

ーーーーーーーーー

 

 東京湾での戦闘終了後。“電脳現象調査保安局”に戻った一真達。マキに洗脳され、オメガモンの活躍で解除された優衣。彼女は念の為に検査入院する事となった。

 今回は東京湾で戦闘が行われた為、被害や死傷者は一切出なかった。これは嬉しい情報だが、何より一番嬉しいのはレクスフェンリスモンが加わった事。薩摩本部長はレクスフェンリスモンと会い、彼から話を聞く事を決めた。

 同じ頃にパラティヌモンも帰還したが、二振りの聖剣―パラティヌス・ソードを折られ、現代化した聖騎士達との性能差を思い知らされたのか、表情が険しかった。

 

「俺は元々フェンリスモンと言うデジモンだった。『厄災大戦』の終盤で力尽き、寝てしまった所までは覚えている。目を覚ました時に櫻井竜也と言う人間が死にかけているのを見過ごせず、彼と一体化して転生した」

 

「それでレクスフェンリスモンと名乗った……狼の王か。かっこ良い名前だな」

 

「ありがとう。『厄災大戦』の時はイグドラシルの命令を聞き、武力蜂起したデジモン達と戦っていた。でも今回は違う。立場が真逆だ。まさかあの時戦ったデジモン達側に立つ事になるとは思ってもみなかったよ……」

 

 レクスフェンリスモンは櫻井竜也の人格が反映されているのか、オメガモンに比べてかなりフランクで話しやすい所がある。

 かつてフェンリスモンとして『厄災大戦』を駆け抜けた時、彼はイグドラシル側だったが、今回はその真逆。これは何という偶然なのか本人も苦笑いを浮かべている。

 

「竜也君も今回の事態の事はあまり分かっていないから、私から直接話すとしよう。今マキ・イグドラシルが遂行しているのが『NEOプロジェクト・アーク』だ。人間界とデジタルワールドを統合させ、新しい世界を創る。その為にデジモン達を消し去り、人間界を崩壊させている」

 

「……『厄災大戦』の頃から何も変わっていない。いやむしろ悪化している。一体イグドラシルに何があったんだ?」

 

「それは私には分からない。だが、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』にもこちらに寝返ったデジモンもいる。ホメオスタシス側、つまり我々に味方している聖騎士もいるんだ」

 

「パラティヌモンもいるって聞いたよ。彼女は俺達とは違うけど、色々と頼りになる。もうなっているとは思うけど、改めてよろしく伝えるよ」

 

 レクスフェンリスモンは人間とデジモンの融合で転生し、フェンリスモンが新たなる姿と力を得た姿。一方、パラティヌモンはアーサー王が転生して聖騎士王となった姿。総合力を見ると、どうしてもレクスフェンリスモンの方が上となっている。

 その総合性能を引っ繰り返す力をパラティヌモンは持っているのだが、それを知っている薩摩も同意するように頷く。

 

「ところで今の状況はどうなっている?」

 

「デジモン達を消し去り、人間界を崩壊させようとしている所だ。我々はその対処に追われている」

 

「……そうか。俺はこのまま朽ち果て、やがてはイグドラシルに利用される運命だっただろう。でも竜也君の意志に応えて転生した。彼の事は知っている。オメガモンに助けられ、繋いだ命。今度は俺が繋いだ。だから命に代えてでも彼を助けてみせる」

 

「君は本当に良いデジモンだよ。ありがとう。これからよろしく頼む」

 

「あぁ、こちらこそ」

 

 薩摩本部長とレクスフェンリスモンは握手を交わした。櫻井竜也ことレクスフェンリスモン。『厄災大戦』の頃に誕生した神造デジモンを制御する為、竜也は最初から“デジモン化”した状態となっている。

 そのおかげで最初から十全の力を発揮する事ができ、オメガモンと共にマキ・イグドラシルを追い払う事に成功した。“電脳現象調査保安局”は強大な戦力を手に入れた事となる。

 同じ頃。ノルン・イグドラシルは自分が転生させたアーサー王、もといパラティヌモンと会っていた。彼女は自らの聖剣を折られ、心までは折れていないものの、何やら思う事があるのか、遠くを見ている。

 

「浮かない顔をしていますね、パラティヌモン」

 

「ノルン様……」

 

「クレニアムモン・フェルグスに負けたのですか? 聖剣を折られたのは分かりますが、無傷なので気になりました」

 

「はい。負けました。幸い敵が撤退したのでどうにかなりましたが、あの戦いは私の負けでした」

 

 パラティヌモンはフェルグスとの戦いに負けた事よりも、自らの聖剣が折られた事に衝撃を覚えている。経年劣化ではない。ずっと手入れはしていた。

 単純に相手の武器に破壊された。これによってパラティヌモンは今の自分は時代遅れになっているのではないかと考えるようになった。

 

「今の私ではまたフェルグスに負けるでしょう。『厄災大戦』の頃は自分の力と技術で戦って来ました。しかし、この時代はそれだけでは勝ちにくくなっています。もっと強くならないといけないと私は気付かされました」

 

「この時代で戦ったり、色々な経験を積んで成長していますね」

 

「はい。今の力がどれくらいなのかを理解しないと、前には進めません。現実を認めるのは大変ですが、でも現実と向き合わないと前には進めません」

 

 パラティヌモンは弱くない。強いと言える。だが時代遅れな所もある。確かに剣術の技量と性能は高いが、それだけで勝てる相手ばかりではなくなった。

 彼女はフェルグスとの敗戦を通じて、自分も現代の聖騎士達に後れを取らないように強くなりたいと願うようになった。

 

「現実を受け入れている貴女は弱くありません。強いです。強くなれます。確かに昔の貴女は強かったですが、今の時代は昔より電子機器の発展もあってデジモンのパワーや質も上がっています。私が施した手術も未熟でした。一緒に強くなりましょう、パラティヌモン。次のフェルグスとの一騎打ちに向けて、貴方に現代化の強化手術を施します」

 

「えっ!? あ、ありがとうございます!」

 

「ただしこの手術は時間がかかります。貴女をこの世界ではアーサー王。かつての力を存分に振るえるよう、貴女のデータ等を色々と調整します。暫く戦う事は出来ませんが、それでも良いですか?」

 

「はい! 今度はアーサー・ペンドラゴンとしてかつての聖剣や聖槍を振るえるよう、精進していきます!」

 

「ちなみに名前はアーサーパラティヌモンで決まっています」

 

「早いですね!?」

 

 ノルンが計画している強化手術。それはパラティヌモンを本来のアーサー王としての力を存分に振るえるよう、現代技術で改修を施す事を意味している。

 従来は超機動の双剣士だったが、今回は超機動を維持しながら聖騎士王として強化手術を施し、聖剣や聖槍を使えるようにする事をコンセプトとしている。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・レクスフェンリスモンの強さ

『厄災大戦』を駆け抜けたと言う事で、パラティヌモン級の強さを持ってます。
破砕剣を駆使した豪快でパワフルなパワーファイターです。

・コンビネーションの良さ

初めて一緒に戦うのに連携が良いのは、オメガモンがアシストに徹しているからです。
前線で華々しく戦う事だけが戦争ではありません。

・竜也の行動原理

オメガモンに救われた命をフェンリスモンに繋いでもらった。
だから戦う。命を繋ぐ為に。主人公っぽいですね。

・パラティヌモンの強化フラグ

ガンダム・バエルから何になるのか……取り敢えず次回からログアウトします。
復帰はいつになるかは分かりません。

裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

デジタルワールドで現実を目の当たりにする一真と竜也。
竜也に襲い掛かるスレイプモン・グラーネ。
戦いの最中、レクスフェンリスモンのもう1つの姿が明らかに……!?

第35話 神殺しの狼


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第35話 神殺しの狼

どうも。実はこの度再就職が決定しました。
それに伴い、小説の投稿頻度が週1、2回のペースに落ちます。
今は『Fate/Grand Order』とコラボした外伝小説を平行して書いていますが、まぁ筆が進む事進む事。でも投稿は第2章が終わってからになります。


 デジタルワールドの何処か。世界樹イグドラシルがある場所。そこに集まっているのは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々。彼らが見守る中、マキ・イグドラシルとクレニアムモン・フェルグスが戻って来た。

 フェルグスの表情は紫兜でよく分からない一方、マキは明らかに深刻な表情を浮かべている。一体何があったのか。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々が見守る中、彼女は人間界であった事を話し始めた。

 

「たった今人間界より帰って来たわ。帰って来たのが私とフェルグスだから多分皆も気付いていると思うけど、一応連絡するわ。工藤優衣……アルファモン・ゼフィルスは洗脳を解除されたわ。八神一真……オメガモン・アルビオンによって」

 

『ッ!?』

 

 マキが強化手術と洗脳処置を施した聖騎士。工藤優衣ことアルファモン・ゼフィルス。彼女はノルン・イグドラシルを連れ戻す為に人間界に向かったが、一真もといオメガモンと戦闘となり、激戦の末に敗北した。

 その時に洗脳が解除され、再び優衣はホメオスタシス側になった。自分達の主君が施した洗脳は絶対。そう信じていた誰もが唖然となる中、マキは更なる悪い知らせを告げる。

 

「それを知った私は人間界に赴いてオメガモンと戦ったけど、その途中に『厄災大戦』の13英雄が蘇った。フェンリスモン。しかも人間と一体化して転生し、レクスフェンリスモンとして強化された。彼とオメガモンの共闘もあって、私達は撤退してきた」

 

「私はパラティヌモンと戦ったが、彼女の聖剣を折る事には成功した。だが……総合的に見ると、我々の敗北だな」

 

 今回の戦いはマキ側の敗北。せっかく味方に出来たアルファモンが敵に戻ってしまい、レクスフェンリスモンと言う強大なデジモンが蘇った。

 数の上では不利なのが更に差が広がった。一体どうすれば良いのか。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々が押し黙る中、マキが口を開いた。

 

「パラティヌモンがリベンジしに来る可能性は高い。彼女の相手はフェルグスに任せるとして、先にデジタルワールドにいる敵をどうにかしましょう。レジスタンスを1つずつ潰していく。先ずはそこから。それと同時に人間界の戦力を削っていく。今の所はこの方針で行くわ」

 

『はい!』

 

 マキが今後の方針を『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々に伝える。デジタルワールドと人間界の戦力をじわりじわりと削っていく作戦にシフトした。

 それに『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々が頷くと、早速全員が動き始めた。人間界に向かう者もいれば、デジタルワールドの何処かに向かっていく者もいる。

 

ーーーーーーーーーー

 

「これがデジタルワールドの現状か……」

 

 同じ頃。デジタルワールドに派遣された一真は荒れ果てた大地を見て、険しい表情を浮かべている。彼は事態の現状を知る為に一日だけデジタルワールドに出張している。

 今いる場所はフォルダ大陸のとある村。そこが『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の襲撃に遭ったとジエスモンから聞き、ついさっき駆け付けた所だ。

 

「どうやらこの村はエネルギー弾によって破壊された。しかもこの『波動(コード)』……間違いない。デュナスモンX・シグムンドがやった」

 

 荒れ果てた村を見て、一真は改めて現実を突き付けられた。マキ・イグドラシルは本気でデジタルワールドと人間界をリセットさせ、2つの世界を統合させて新世界を創ろうとしている。何が彼女をそうさせるのか。理解に苦しむ所だ。

 その為にデジモン達を殺戮しただけでなく、仲間たる優衣を利用した。しかも彼女を“デジモン化”させると言うおまけ付き。大切な仲間を傷付けられた為、一真は内心ではかなり怒っている。

 ガンクゥモンの話では、既にマキが『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に『NEOプロジェクト・アーク』を正式に実行するように命令を下したとの事。デジタルワールドはそのままだが、人間界は消えてしまう。ただし人間を全滅させる訳ではない。

 人間達はマキの管理下に置かれる事が目に見えている。デジモン達が優遇され、人間が差別される世界。デジモンであり、人間でもある一真にとって、そのような世界は望んでいない。それはデジモン達も同じ筈だ。

 

「でも何で『NEOプロジェクト・アーク』をやろうと思ったんだろう……この人間界とデジタルワールドって過去に何かあったのかな? 確かマキが人間の醜さを知っているデジモンと一体化したのは分かるけど……」

 

 一真は事前にノルンから人間界とデジタルワールドの関係を聞いていたが、2つの世界が関係するようになったのは本当につい最近の話。

 マキのやり方はあまりにも勝手すぎるし、横暴すぎる。この世界に人間はデジモン達に何も悪い事をしていないのに、人間界を消し去るとは一体どういう事なのか。

 それに『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』も『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』だ。マキの掲げる理想や正義に何の疑問を持たないのか。おかしいにも程がある。デジモン達を殺戮し、人間界を消し去って良い筈がない。

 

「遅かれ早かれ、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は僕の『波動(コード)』を探知してこの場所に来るだろう。やる事は終わったから直ぐに行こう」

 

 一真は直ぐにその場から立ち去る。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に気付かれ、余計な戦いになる事を避ける為だ。

 自分のやる事は決まっている。デジタルワールドだけでなく、人間界も滅ぼされる。ならば戦うしかない。先ずは生き残っているデジモン達の居場所をレジスタンスに伝え、保護したり、避難所やシェルターに入れる。既にデジモン達の3割が殺戮されている。5割に達するのも時間の問題だ。

 同じ頃、櫻井竜也はディレクトリ大陸の街に来ていた。レクスフェンリスモンとなった彼は、“電脳現象調査保安局”に入局し、デジタルワールドに派遣された。今2つの世界で起きている現実を知る為に、一真に同行してその後は別行動を取っている。

 

「酷い……こんなの酷過ぎるよ! 同じデジモンなんだろう!? 何で大量殺戮するんだ!?」

 

 目の前に広がる景色。それは高出力のレーザーによって焦土と化した街。その街を目に前にし、竜也は叫ぶ。

 まだ“デジモン化”して日が浅い為、人間としての人格が色濃く残っており、世の中の理不尽さ、善悪の等価値さをまだ完全には理解出来ていない。

 

「イグドラシル……これが新世界を創る為のやり方なのか!?……っと、いけない。生き残ったデジモン達がいたら連絡しないと」

 

 竜也も生き残ったデジモン達を保護し、レジスタンスで引き取るまでの護衛役を依頼されている。その任務をこなそうと歩き始めたその瞬間、この場所に近付いているデジモンの『波動(コード)』を探知した。

 次の瞬間、目の前から灼熱の光矢が放たれた。何者かによって放たれた一撃。迫り来る攻撃を咄嗟に躱し、竜也は周囲一帯に気を張り巡らせていると、目の前に1体のデジモンが現れた。

 

「明らかに普通のデジモンではない反応を感じたと思ったら、やはり人間が来ていたか……」

 

「スレイプモン……か」

 

「如何にも。私はスレイプモン・グラーネ!」

 

 六本の脚を持ち、赤いレッドデジゾイド製の聖鎧で身を包み、左腕に聖弩ムスペルヘイムを握り締め、右腕に聖盾ニフルヘイムを装備している聖騎士型デジモン。その名前はスレイプモン・グラーネ。

 竜也も一真と同じくデジモンファンだからこそ、今回の事態に憤りを見せている。大好きなデジモンが非道な行為を行っている。それが信じられないし、信じたくない。

 

「何故こんな酷い事をするんだ!? 同じデジモンなんだろう!? どうしてあんな非道な事が平気で出来るんだ!? 何とも思わねぇのかよ!?」

 

「私はマキ様の命令に従っているだけだ。人間よ、お前も邪魔をすると言うのなら始末だけだ」

 

「ふざけんな! 命令に従っているから何でも許される訳じゃねぇ! お前達『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』はな、俺が知っている本物の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』じゃねぇ! お前らなんか偽物だ! 中身のないガラクタだ!」

 

「何だと……! 我々『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』への侮辱、決して許さぬぞ人間!」

 

「どの道戦わないといけないんだ。だったらやるしかねぇ! 究極進化!!!」

 

 竜也が雄叫びを上げると共に全身を覆い尽くす程の膨大な光の奔流が発生し、周囲一帯に光が渦巻き、巨大な光の卵を形成していく。

 その巨大な光の卵が消滅すると、中から1体のデジモンが姿を現した。全身を純白に輝く聖鎧に身を包み、巨大な両腕の肘には何かを装備し、鋭い5本の爪を光らせ、両手には籠手を身に付け、狼を象った兜を被り、背中に巨大な破砕剣を背負ったデジモン。

 

「レクスフェンリスモン!!!」

 

「ッ!? お前か! お前がマキ様が言っていた現代に蘇った『厄災大戦』の英雄の1体!」

 

「そうだ。行くぞ……!」

 

 レクスフェンリスモンは背中に背負っているバルンストックを引き抜き、両手に構える一方、グラーネは聖弩ムスペルヘイムと聖盾ニフルヘイムを静かに構える。

 暫く睨み合いを行いながらゆっくり間合いを取り、お互いに攻撃のタイミングを計る2体のデジモン。彼らの間に一陣の風が吹いた瞬間、戦いが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ウオオオオォォォォォォォーーーー!!!!!」

 

「『ビフロスト』!!!」

 

 先に動いたのはレクスフェンリスモン。裂帛の気合と共に突撃を開始した。目にも写らぬ超速度を以て、グラーネとの間合いを詰めていく。

 それを見たグラーネは迎撃行動に出た。左手に握る聖弩ムスペルヘイムから灼熱の光矢を放ち、レクスフェンリスモンを牽制すると共に突進を止めようとする。

 しかし、その程度で止まる狼の王ではなかった。身体を一回転させながらバルンストックを薙ぎ払い、灼熱の光矢を剣圧でかき消すと共に突撃を続行。返す刀でバルンストックを大上段に掲げ、思い切り振り下ろした。

 

「ハアアアアァァァァァァァーーー!!!!!」

 

「グッ……!(何てパワーとスピードなんだ!?)」

 

 聖盾ニフルヘイムでバルンストックを受け止めたが、力負けしたグラーネは吹き飛ばされた。空中で体勢を立て直して着地したものの、レクスフェンリスモンのパワーとスピードに戦慄を覚える。

 『厄災大戦』の英雄達は人間とデジモンの一体化を前提にして造られた為、他のデジモン達よりも総合性能が極めて高い。グラーネはそれを身を以て教えられた事となる。

 

「これが『厄災大戦』の英雄の力か……恐れいったよ」

 

「にしても随分と余裕そうだな……」

 

「あぁ。両足を見てみろ」

 

「……? あっ」

 

 レクスフェンリスモンは自分の両足を見た瞬間、思わず声を上げてしまった。彼の両足が超低温のブリザードで凍り付き、身動きが取れなくなってしまった。

 グラーネは先程聖盾ニフルヘイムでバルンストックを受け止めた時、密かに自身の必殺奥義の『オーディンズブレス』を発動させていた。

 周囲一帯の気候を操って極低温のブリザードを発生させた事で、狼の王の機動力を封じていた。グラーネは不敵な笑みを浮かべながら聖盾ニフルヘイムを構えるが、狼の王はこの程度では動じない。

 

「そういう事か……でも俺に種明かしをした時点で限界が知れたぜ?」

 

 右手首に内蔵されているレクスキャノンを展開し、黄色の波動弾を両足に撃ち込んでブリザードを粉々に破壊した。

 確実に、かつ地道なやり方で勝利を手にする。それは王道だ。間違いではない。しかし、調子に乗って種明かしをした事がグラーネの失敗だった。相手が『厄災大戦』の英雄だろうと、いつもの自分のやり方を貫き通す。

 それが出来なかった。相手がまだ転生して復活したてなのか、自分の思い通りに進んだ事で生まれた油断・慢心なのか。何れにせよ、グラーネは一時的な感情で勝利の方程式を自ら崩した事となる。

 

「『ビフロスト』!!!」

 

 グラーネは先程のように聖弩ムスペルヘイムから灼熱の光矢を放つが、今度は灼熱の光矢を連射して来た。いわば弾幕を展開した事になる。

 流石の狼の王でもこれは迎撃する事が出来ない。防御する事も出来ない。残るは回避だが、ここで彼は回避行動を取ると共に、反撃に打って出る布石を打った。

 

「レクスフェンリスモン、モードチェンジ! ルプスモード!!!」

 

「何!?(まさか元ネタ……もといフェンリルに変身出来るのか!?)」

 

 今まで人型だったレクスフェンリスモンの姿が突如として変わった。四足歩行の狼。レクスフェンリスモン・ルプスモード。名前の元ネタとなったフェンリルの再現。巨大な真っ白い狼が姿を現した。

 その巨体に似合わない機動力と瞬発力を併せ持ち、その体格からは想像する事が出来ない程の超速移動が出来る。その機動力と瞬発力を活かし、グラーネの背後に回り込み、両前足の鋭い黄金の爪で鋭い斬撃を繰り出す。

 

「『ルプススラッシュ』!!!」

 

「グァッ!!」

 

 背中を斬り刻まれたグラーネ。スレイプモンが全身に身に纏う聖鎧。それは高い防御力を誇る“レッドデジゾイド”製だ。

 その聖鎧を斬り裂き、グラーネをよろめかせると、レクスフェンリスモン・ルプスモードは口を大きく開きながら雄叫びを上げる。

 

「まだまだ! 『ルプスハウリング』!!!」

 

「グアアァァァァッ!!!!!」

 

「止めだ! 『ライジングルプスクロー』!!!」

 

 凄まじい音圧が衝撃波を発生させ、グラーネの巨体を吹き飛ばす中、狼の王は両前足の黄金の爪を輝かせながら突進を開始する。

 そして空高く跳躍して右前足を限界まで振りかぶり、黄金の一撃をグラーネに叩き込んでこの戦いを終わらせた

 

ーーーーーーーーーー

 

「か、勝った……『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に勝った!」

 

「見事だった……まさかこの私が敗北するとは思ってもみなかったよ」

 

 まさか憧れていたデジモンに勝てるとは思っていなかったのだろう。戦い終えたレクスフェンリスモンは竜也の姿に戻り、喜びを爆発させた。

 そんな彼を優しく見守るグラーネ。どうやら本来は優しくて穏やかな人格なのだろう。先程までは無理にキャラを作っていたとしか思えない。

 

「敗者として君に一つ良い事を教えよう。戦う前、君は私達の事をこう言ったな。“偽物で、 中身のないガラクタ”と」

 

「あぁ、確かにそう言った。その……悪かったよ。あの時は熱くなっていたから……」

 

「いや謝る事はない。君の言う通りだ。我々は君の言う偽物だ。中身のないガラクタなんだ」

 

「ッ!? 一体どういう事なんだ!?」

 

 グラーネは竜也の衝撃の事実を告げた。自分達は本物の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』ではないと。元々この世界を守護していた『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は、マキが世界樹を乗っ取った時に全員殺されたとの事。

 ジエスモンとガンクゥモンは運良く抹殺から逃れたが、それ以外の面々は全員別人だ。マキが率いているのは自分の指示を聞くように作り上げた操り人形。そういう事になる。

 

「そんな……」

 

「私達はマキ様の命令に背く事が出来ない。でも命令に対しては物申す事が出来る。我々の中にも幾つか派閥があってな……」

 

 グラーネは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の派閥について説明を始める。派閥は穏健派、中立派、強硬派と3つある。

 穏健派はアルフォースブイドラモンX・ローラン、デュークモン・シグルド。中立派はマグナモンX・トリスタン、スレイプモン・グラーネ、クレニアムモン・フェルグス。強硬派はオメガモンX・ランスロット、ドゥフトモンX・ガレス、ロードナイトモン・ベイリン、デュナスモンX・シグムンド、エグザモン・パージヴァル。

 

「強硬派多くないか?」

 

「ドゥフトモンX・ガレスがいるのが問題なのだよ……彼がいるから従っている聖騎士もいる。あまり期待しないでくれ」

 

「そうか……でも『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が一枚岩じゃない事が分かった。ありがとう、グラーネさん」

 

「どういたしまして。私には分からない。何故マキ様がデジタルワールドだけでなく、人間界を消し去ろうとしているのか。果たしてそれが本当に正しい事なのか……命令に背いたら自壊するように設定されているから、我々は反逆する事が出来ない。君達が頼りだ。君達の手で答えを見出してくれ」

 

「分かった……でも良いのか? 俺を倒せなかったのはともかく、俺に全てを話したらマキ・イグドラシルに何かされるんじゃないのか?」

 

「構う物か。どの道私はスレイプモンの偽物。ならばせめて……本物らしく生き、本物らしく死のう」

 

 グラーネの言葉は竜也の心に突き刺さった。自分も同じだ。レクスフェンリスモンと言うデジモンでありながら、櫻井竜也でもある不安定な存在。研鑽を怠ってはいけない。

 自分の命はオメガモンに助けられ、フェンリスモンに繋がれたのだから。せめてそれに相応しい道を歩まなければならない。

 

「お見事だ、櫻井竜也……レクスフェンリスモン。我が盟友、スレイプモン・グラーネを撃破するとは……」

 

「お前は!?」

 

「クレニアムモン・フェルグス……」

 

 竜也の背後に1体の聖騎士が現れた。禍々しい骸骨の意匠が刻まれた紫色の聖鎧。“ブラックデジゾイド”製の聖鎧に覆われたクレニアムモン・フェルグス。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の中立派の1体。ここに何をしに来たのか。竜也は再度レクスフェンリスモンに進化しようと身構えるが、それをフェルグスが止める。

 

「待て。私は君と戦う為にここに来たのではない。さっき一真君に人間界に戻るように促した。それを君にも伝えに来ただけだ」

 

「まさか人間界で異変が!?」

 

「違う。君達の存在がマキ様に知られる前に戻った方が良いと言いたいだけだ」

 

「パラティヌモンと戦ったのに中立派らしいな……一体何を考えている?」

 

 フェルグスが来た理由は彼らがデジタルワールドにいる事をマキに知られる前に、人間界に戻るように伝えに来た為。

 しかし、竜也はフェルグスに不信感を抱いている。幾ら中立派とは言え、パラティヌモンと戦って彼女の聖剣を破壊した。信じられないのも無理はない。

 

「君の言う通りだ。私はマキ様の味方をしたかと思えば、君達の味方をしている中立派。だが、私は自分の正義と信念に従って行動している。それに……私はマキ様によって生み出された聖騎士ではない」

 

「ッ!? どういう事だ!?」

 

「今はまだ話す時ではない。少なくとも君達の敵ではない事を覚えていてくれ」

 

「そうか。それは助かるぜ。お礼と言っちゃなんだが、君が決着を付けたがっているパラティヌモンの情報を話すよ。今彼女はノルンさんによって強化手術を受けている最中だ。かなり強くなって戻って来るよ?」

 

「本当か!? それは楽しみだ!」

 

 パラティヌモンが強くなって戻って来る。そして決着が付かなかった一騎打ちの続きが出来る。それを知ったフェルグスは歓喜の笑みを浮かべる。

 自分達聖騎士型デジモンの原型となったデジモン。聖騎士王が強化されて戻って来る。フェルグスは彼女を最大最強の好敵手と認めており、最上の敬意を以って挑む事を自分自身に課している。その喜びは大きい。

 

「じゃあそろそろ俺は人間界に帰るよ。そっちもマキにバレないよう気を付けてね」

 

「あぁ、また会おう」

 

「……フェルグス。君は一体何者なんだ?」

 

「悪いが今はまだ言えない。言うべき時が来たら必ず言うさ」

 

 その場から急いで立ち去る竜也を見送ると、グラーネはフェルグスに問い掛ける。どうやら『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の中で1番謎が多いみたいだ。

 グラーネの質問をはぐらかすように答えるフェルグス。彼はマキの味方をしたかと思えば、竜也の味方をしている。果たして何者なのか。何を思って動いているのか。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・お互いの動き

今回はノルン陣営・マキ陣営双方の動きを書きました。
マキ陣営は計画の遂行、ノルン陣営は実態の調査に。

・レクスフェンリスモンのスライド進化

フェンリルを模したような姿。ルプスモード。パワーの人型、スピードの獣型。
第2戦で聖騎士を倒したのは何気に凄いです。

・聖騎士達は偽物

本編で書いた通りですが、マキが作り出した操り人形です。
命令に意見出来ても逆らう事は出来ません。

・聖騎士達の派閥

これは『デジモンストーリー サイバースルゥース』の設定をお借りしました。
穏健派、中立派、強硬派。強硬派が多いのはドゥフトモンXがいるからです。

・クレニアムモンの謎

彼は一体何者なのか? 多分分かる人は分かると思います。

裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

デジタルワールドから持ち帰った情報を整理する一真達。
そこに放たれた刺客と、デジタルワールドで起きる戦い。
平和を掴む闘いはまだまだ続く。

第36話 代理戦争


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第36話 代理戦争

 久し振りの投稿になります。再就職してから時間を見て、少しずつ書き進めていました。
メインは仕事なので仕事の勉強をして、それを終えてから書き進めるスタイルでいったら、ようやく完成しました。この分で行くと週に1回のペースの投稿になりそうです。
 そしてここで一つ大事なお知らせがあります。この小説なんですが、実は第2章が終わった時点で一度完結にします。理由はちゃんとあります。飽きたからではありません。キリが良いのと、サブタイトルが関係しています。要はオメガモンとなった青年の物語が一度終わると言う事です。つまり……?
 その後の続編はFGOとのコラボ外伝と共に執筆していくので、これからもよろしくお願いします。



 デジタルワールドの現状を調査しに派遣された一真と竜也。その次の日、彼らは“電脳現象調査保安局”の会議室で報告を始める。

 ホワイトボードにデジタルワールドで撮った写真を張りながら、今デジタルワールドで何が起きているのかを話し始める。一通り話し終えると、竜也はスレイプモン・グラーネから聞いた話を明かした。

 集まっているのは一真、竜也、薩摩&クダモン、優衣、テイルモン、ウィザーモン、鏡花だ。ノルンはパラティヌモンの強化手術に携わっている為、参加する事が出来ない。

 

「実はデジタルワールドにいた時、スレイプモン・グラーネと戦って勝ちました。彼から『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』について色々と話を聞いたので、今から話していきます」

 

 竜也の話によると、今デジタルワールドにいる『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は、元々いた『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』ではない。

 彼らは皆マキがクーデターを起こして世界樹イグドラシルを掌握した時、ジエスモンとガンクゥモン以外の面々が抹殺されてしまった。

 つまり、今活動している『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は、マキが率いている面々となっている。自分の指示を聞くように作り上げた操り人形。それが今の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の正体だ。

 

「そうなのか……自分で造ったから強化手術し放題か。厄介だが、どうしてマキ・イグドラシルは造れたんだ?」

 

「奪われたのは力だけなので、力を奪われる前に『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』のデータを持ち出したのでしょう。そして何らかの方法で造り出した……と思います」

 

「それともう1つ報告があります。彼らはマキ・イグドラシルの命令に背けませんが、意見する事が出来ます。それと一枚岩ではなく、3つの派閥がありまして……」

 

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は穏健派、中立派、強硬派と3つの派閥に分けられている。この3つは人間界に関わる対応で分けられている。

 穏健派はアルフォースブイドラモンX・ローラン、デュークモン・シグルド。中立派はマグナモンX・トリスタン、スレイプモン・グラーネ、クレニアムモン・フェルグス。強硬派はオメガモンX・ランスロット、ドゥフトモンX・ガレス、ロードナイトモン・ベイリン、デュナスモンX・シグムンド、エグザモン・パージヴァル。

 

「強硬派が多いな……どういう事だろう?」

 

「グラーネの話だと、ドゥフトモンX・ガレスがいるからなんです。彼がいるから過激派に付く聖騎士もいるという話です」

 

「つまりそいつを叩けば過激派は空中分解するかもしれない……と言う事でしょうか」

 

「かもしれません……どうやら過激派のデジモンが来たみたいね」

 

「僕が行きます」

 

 鏡花が東京湾に1体のデジモンが出現した事を告げると、一真が会議室から出ていき、その迎撃に向かった。その相手は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』。過激派に所属している聖騎士だった。

 オメガモンに超究極進化した一真が東京湾の海面に浮かぶと、出現した聖騎士が反応を見せた。全身を機械的な純白の鎧で身を包み、右腕には蒼く輝くアーマーを装着し、右手にはメタルガルルモンXの頭部を模した篭手を装備し、左肩には黄金の聖盾を装備し、左手がウォーグレイモンXの頭部を模した篭手を装備した聖騎士。

 X進化したオメガモン。最強のデジモン。オメガモンX・ランスロット。自分の完全上位互換となる存在を目の前にし、オメガモンは言葉を失った。

 

―――マジかよ。やっぱりX進化してたのか。

 

「初めましてと言うべきか。私はオメガモンX・ランスロット。人間界のオメガモンよ、お前の力を試しに来た」

 

「オメガモン・アルビオンだ。まさかお前が来るとはな……話は聞いている。お前がマキ・イグドラシルから造り出されたという事も」

 

「成る程。既に事のあらましは理解していると言う事か。ならば話は早い。私とお前。お互いに同じ特殊能力を持っている。その力を試させてもらう!」

 

 オメガモンXが左腕を掲げながらグレイソードを出現させると、オメガモンも同じように左手からグレイソードを出現させる。

 同じ種族名を冠する聖騎士。1体は人間界を守り、もう1体は主君の命令に従う。お互いに相容れない正義が激突する瞬間が訪れた。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ウオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!」

 

「フッ!!」

 

 先に動いたのはオメガモン。先手必勝と言わんばかりに一瞬で間合いを詰め、得意としている近接戦闘に持ち込んだ。

 左腕のパワーに突進の勢いを乗せながらグレイソードを振り下ろすが、オメガモンXはグレイソードを横薙ぎに一閃し、唐竹斬りを弾き返しながら返す刀で斬りかかる。

 咄嗟にメタルガルルモンの頭部を象った右手の手甲で受け止め、後ろに跳びながらガルルキャノンを展開し、青色のエネルギー弾を撃ち出す。

 追い打ちをかけようと突進している最中だったオメガモンX。グレイソードの一閃でオメガモンの砲撃を四散させ、目の前にいる聖騎士に向けてグレイソードを突き出した。

 

「何!?」

 

「遅い!」

 

―――これが人間とデジモンの融合体の力か!……『電脳人間(ヒューマン・デジモン)』、恐るべし!

 

 目の前にいたオメガモンの姿は消失していた。咄嗟に攻撃を中断したオメガモンXの背後にオメガモンが現れ、左斜め上からグレイソードを振り下ろして来る。

 咄嗟に右手を背中に伸ばして羽織っているマントを掴み、袈裟斬りを防ぐが、『電脳人間(ヒューマン・デジモン)』たるオメガモンの力に戦慄を覚えた。

 特殊能力を発動していないが、X進化したオメガモンと渡り合えている。人間とデジモンの融合によって、総合性能がここまで引き上がるのか。初めて人間界側のデジモンと戦っているオメガモンXは驚く事しか出来ない。

 

―――だが、だからと言って私も負けていられない!

 

「甘い!」

 

 オメガモンXは左足で聖騎士を蹴り付ける事で間合いを空けると、右手からガルルキャノンを展開し、砲身の内部に生命エネルギーを集束させ、青色の破壊光を撃ち出す。

 迫り来る青色のエネルギー波動砲。オメガモンは空中で体勢を立て直して砲撃を避けると、海面を素早く駆けながらオメガモンXとの間合いを詰めていく。

 その途中でウォーグレイモンの力が宿っている左腕の力を解き放ち、グレイソードの刀身から太陽の火炎を生み出す。横薙ぎに構えた聖剣を一閃し、太陽の火炎をオメガモンXに向けて放つ。

 

―――こんな力もあるのか!

 

「もらった!」

 

 オメガモンXが背中に羽織っているマントで火炎の斬撃を防いでいる隙に、オメガモンは聖騎士の背後に回り込み、大上段からグレイソードを振り下ろす。

 突然の背後からの奇襲。それを受けたオメガモンXが背後を振り返ると、そこにはグレイソードを振り下ろしたオメガモンが姿を現していた。

 返す刀で下段に構えたグレイソードを上段に向けて振り上げ、オメガモンXを吹き飛ばした。聖騎士に斬り上げを叩き込みながら太陽の火炎で焼き払う。

 吹き飛ばされているオメガモンXが空中で体勢を立て直している間に、オメガモンはグレイソードを構え直す。一瞬で聖騎士との間合いを詰めると、大上段から灼熱の聖剣による剣閃を繰り出した。

 

「受けてもらう!」

 

―――秘奥義を使わないと流石にきついな。ここは一度退却しよう。

 

 聖騎士は咄嗟にグレイソードで受け止めるが、太陽の火炎によるブーストを受けたオメガモンが聖剣を最後まで振り下ろし、オメガモンXを吹き飛ばした。

 通常状態ではX進化したオメガモンを圧倒している。その事実を受け止めたオメガモンXはその場から飛び立ち、デジタルワールドへと帰還していった。それを見た聖騎士は追いかけようとするが、無理だと分かって“電脳現象調査保安局”へと戻っていった。

 

ーーーーーーーーーー

 

 オメガモン・アルビオンとオメガモンX・ランスロットが東京湾で戦っているのと同じ頃。デジタルワールドにある神の島。ジエスモンは神の島にいるデジモン達を避難させ終えた所だった。彼らも竜也から事情を聞いていた。

 そんな時に1体の聖騎士が姿を見せた。流線形独特の滑らかな曲線美の聖鎧を身に纏う聖騎士。聖鎧の色は薔薇色。両肩から伸びているのは金色の帯刃と装飾。右手に持っているのはパイルバンカー。ロードナイトモン・ベイリン。

 

「ロードナイトモン・ベイリンか……殺戮するデジモン達はもう逃がしたぞ?」

 

「裏切り者のジエスモン。殺戮と言う言葉は止めてもらおうか。秩序に基づいて排除しているのだ、デジモン達を」

 

「同じような物だろう……行くぞ!」

 

 デジタルワールドでも始まった2体の聖騎士による一騎打ち。こちらの対戦カードはロードナイトモン・ベイリンとジエスモン。

 先に仕掛けたのはジエスモンの方から。一瞬でベイリンとの間合いを詰め、両腕の聖刃で斬り掛かるが、ベイリンは右手に持っているパイルバンカーで斬撃を受け止める。

 

「秩序に基づいてデジモン達を排除する!? そんな事は間違えている!」

 

「これはマキ様の命令だ! 今更お前が否定したとしても無駄だ! もう遅い! 計画は既に実行されている!」

 

 ベイリンは右足でジエスモンの胸部を蹴り付け、ジエスモンを蹴り飛ばしながら間合いを空けた。それと同時に突進を開始し、聖鎧から伸びている4本の帯刃を振るい、ジエスモンを斬り刻む。

 空中で体勢を立て直している最中だったジエスモン。彼は4本の帯刃による乱舞で聖鎧を斬り刻まれるが、ベイリンは更に追い打ちをかける。

 

「さぁ舞い踊れ! 『スパイラルマスカレード』!!!」

 

「グウウゥゥゥゥゥッ!!!!!」

 

「そして砕け散れ! 『アージェントフィアー』!!!」

 

 ベイリンの猛攻は終わらない。右手に持っているパイルバンカーを構えてジエスモンの懐に入り込み、ジエスモンの腹部にパイルバンカーを打ち付けた。

 それと同時に、零距離からパイルバンカーを撃ち出して強烈な一撃を撃ち出すと共に、凄まじい衝撃波を巻き起こしてジエスモンを吹き飛ばす。

 

「グアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 腹部に必殺奥義を喰らったジエスモン。苦痛に満ちた叫び声を上げながら吹き飛んでいき、地面に叩き付けられて転がり、そのまま倒れ込んでしまう。

 そんな聖騎士を見たベイリンは勝ち誇る事なく、ゆっくりと歩み寄る。4本の帯刃を構え、右手に握るパイルバンカーを撃ち込めるよう、油断と慢心のないように。

 

「思っていたよりも弱いな、ジエスモン。その程度の実力で我らに歯向かおうと言う考えは甘い。実に甘い」

 

「そうかよ……甘いのはお前なんじゃないのか、ベイリン。この程度の連続攻撃……ガンクゥモン師匠に比べればどうって事はない!」

 

「ほぉ……ならばそれを証明して見せろ!」

 

 必殺奥義を立て続けに喰らったにも関わらず、ジエスモンは立ち上がった。師匠たるガンクゥモンの試練を潜り抜け、成長期のハックモンから進化し続けた彼にとって、この程度は平気みたいだ。何というタフネス。

 感心したような言葉を言い放つと、ベイリンは再びジエスモンとの間合いを詰める。消失したと錯覚させる程の超スピード。それに対し、ジエスモンも己の秘奥義で迎え撃つ。

 

「現れろ、俺のヒヌカムイ! ロードナイトモン・ベイリンを攻撃しろ!」

 

 ジエスモンの身体から浮き出て、周りに現れたのは3体のヒヌカムイ。彼らの名前は“アト”、“ルネ”、“ポル”の3体。ジエスモンの頭部に似たような顔をしており、両腕もジエスモンと一緒だ。

 彼らは基本的にジエスモンの指示で動いているが、自立行動を取る事も出来る。ジエスモンの指示を受け、彼らはベイリンに斬り掛かる。

 

「クッ!! この程度で……!」

 

「隙ありだ! 『轍剣成敗(てっけんせいばい)』!!!」

 

「グアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「これで終わりだ! 『シュベルトガイスト』!!!」

 

「グアアアアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!」

 

 ベイリンが聖鎧から伸びている4本の帯刃で3体のヒヌカムイの攻撃を防ぎ、彼らを追い払うが、その隙に体勢を立て直したジエスモンが動き出す。

 目にも写らぬ速度でベイリンとの間合いを詰めると、両腕の聖刃でベイリンを瞬時に斬り付け、3体のヒヌカムイに合図を送る。

 ジエスモンと3体のヒヌカムイでベイリンを囲い込み、全方位から一斉攻撃を繰り出し、この戦いに終止符を打った。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ジエスモン! ジエスモン! 繋がらないか……どうやら『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』と戦っているみたいだな……」

 

「その通りだ。ジエスモンは我が盟友、ロードナイトモン・ベイリンが相手している」

 

 ジエスモンがロードナイトモン・ベイリンと戦っているのと同じ頃、ファイル島にいるガンクゥモンはジエスモンと連絡を取ろうとしていた。

 しかし、何回通信機に呼び掛けてもジエスモンは一向に出る気配はない。何故ならジエスモンはロードナイトモン・ベイリンと戦っているからだ。

 どうやら通信機の向こう側にいる聖騎士は戦っている最中なのだろう。そう割り切り、ファイル島から飛び去ろうとするガンクゥモン。その時何者かの声が聞こえて来ると共に、目の前に1体の聖騎士が姿を現した。

 

「デュナスモンX・シグムンド……」

 

「裏切り者の『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』め。我々の仲間がお前達の仲間を全滅させようと動き出した。全滅するのも時間の問題だろうな……」

 

「私は自分の信じる正義の為に行動している。裏切ってなどいない。それに私はともかく、私の仲間を舐めない方が良いぞ?」

 

「そういうお前こそ我々を舐めないでもらおう。我々はイグドラシルに忠誠を誓っている。お前達悪しき者を滅ぼす。それが在るべき正義の形だ!」

 

 その聖騎士の名前はデュナスモンX・シグムンド。禍々しい漆黒の竜のような姿をしている。正義の在り方を巡ってガンクゥモンと口論を始めた。

 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々は、2体の聖騎士を含めたレジスタンスを殲滅する命令をマキから下され、それを実行している最中だった。

 

「私はマキ・イグドラシルの考えは間違えている。この世界の人間は何の間違いも犯していない。むしろ我々デジモンが巻き込んでしまった。彼らは被害者で、我々が被害者だ。それにも関わらず、この世界のデジモン達を全滅させ、人間界と統合させて新世界を創ろうとしている。それが本当に正しい事なのか? 正義だと胸を張って言えるのか? 答えろ!」

 

「それがマキ様の掲げる正義だ。ならば我々はそれに従うしかない」

 

(やはりか……私とジエスモン以外の聖騎士はマキ・イグドラシルの操り人形。レクスフェンリスモンの言葉は正しかった!)

 

「お前もその邪魔をすると言うのなら……私が葬り去ってくれる!」

 

 シグムンドは背中の漆黒の翼を広げながら、両手の鋭い爪を光らせてガンクゥモンに向けて接近する。目にも写らぬ超神速のスピードを以て。

 同時に振るわれた鋭い爪による一閃。それをガンクゥモンが左腕を翳して受け止めた事で、2体の聖騎士による戦いが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「『鉄拳制裁』!!!」

 

「フッ!!」

 

 目にも止まらぬ速さで突き出した右拳を左手で受け止めるシグムンドに対し、ガンクゥモンは上半身を捻った勢いを上乗せした左ストレートを放つ。

 しかし、シグムンドはガンクゥモンが上半身を捻った時点で分かっていた。次にどのような攻撃を繰り出すのかを。左拳を受け止めると、黒い飛竜は両手の平の宝玉を輝かせて必殺奥義を繰り出した。

 

「『ドラゴンズロア』!!!」

 

「グァッ!?」

 

「『ドラゴンズガスト』 !!!」

 

「ガアアアァァァッ!!!!」

 

 零距離で両拳にエネルギー弾を喰らい、吹き飛ばされるガンクゥモン。シグムンドは更なる追い打ちに出た。頭部の巨大な角を立てて突進して衝突し、ガンクゥモンを更に遠くへと吹き飛ばしていった。

 地面に叩き付けられたが、直ぐにガンクゥモンは立ち上がる。彼の闘志に応じて全身から“ヒヌカムイ”が浮き上がっていく。

 

「『地神!神鳴!神馳!親父!』!!!」

 

「無駄だ! 『ドラゴンズロア』!!!」

 

 ガンクゥモンと怒声と共に“ヒヌカムイ”が攻撃を繰り出すが、シグムンドは両腕で攻撃を受け流し、ガンクゥモンと“ヒヌカムイ”に向けてエネルギー弾を連射する。

 『ドラゴンズロア』を受けたガンクゥモン。勿論攻撃を喰らえばダメージを受けるが、“ヒヌカムイ”も攻撃を受けると、それが使用者のガンクゥモンにもフィードバックする仕組みとなっている。

 それでもガンクゥモンは止まらない。両足で地面を踏み締めながら踏ん張ると、何処かからクロンデジゾイド製ちゃぶ台を召喚し、ちゃぶ台に乗った地面ごと引っ繰り返した。

 

「『ちゃぶ台返し』!!!」

 

 『ドラゴンズロア』を防ぐ盾となったちゃぶ台と地面。エネルギー弾と激突してお互いに相殺され、周囲一帯に及ぶ大爆発を巻き起こし、爆炎と黒煙を拡散される。

 そんな中、デュナスモンXは全身に力を溜め込み、全身から飛竜のオーラを出現させ、ガンクゥモンに向けて放つ。

 

「『ブレス・オブ・ワイバーン』!!!」

 

「『鉄拳制裁』!!!」

 

 飛竜のオーラの相手を“ヒヌカムイ”に任せると、ガンクゥモンはシグムンドとの間合いを詰め、全身全霊の一撃を叩き込んだ。

 繰り出される強烈な右ストレート。ガンクゥモンの全てを込めた一撃はシグムンドをノックアウトすると共に、“ヒヌカムイ”も飛竜のオーラを打ち破った。

 

ーーーーーーーーーー

 

『ガンクゥモン! そっちの様子は!?』

 

「お前な……こっちが通信しても出ないから心配したんだぞ? こっちはデュナスモンX・シグムンドと戦って撃退した」

 

『すみません! 俺もロードナイトモン・ベイリンと戦っていたので……実はガンクゥモン。今から言う座標に来て欲しいんです。倒した奴連れて来て』

 

「? 分かった」

 

 シグムンドとの戦いを終えた後、ガンクゥモンは再びジエスモンとの通信を試みると、今度はジエスモンと繋がった。先程の通信はジエスモンがロードナイトモン・ベイリンと戦っていた為、彼が通信に出る事が出来なかったからだ。

 ジエスモンとの通信でガンクゥモンは頼まれ事を受けた。自分が倒した聖騎士を連れて、ジエスモンが伝える場所に向かって欲しいと。首を傾げながらも、何かあったのだろうと思い、シグムンドを背負って向かっていった。

 

「ここは……」

 

「師匠、こっちです!」

 

 ガンクゥモンが辿り着いた場所。そこは喫茶店―『ブライアン』だった。ここで合流する予定なのだろう。しかし、何故喫茶店なのか。そう思いながら中に入ると、そこにジエスモンが待っていた。

 待っていたのはジエスモンだけではない。アルフォースブイドラモンX・ローラン、デュークモン・シグルド、マグナモンX・トリスタン、スレイプモン・グラーネ、クレニアムモン・フェルグス。

 

「なっ!? 何故敵である『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が此処に!?」

 

「呼んだのは私だ。その前にシグムンドをこのカプセルに入れて……」

 

 ガンクゥモンは背負っていたデュナスモンX・シグムンドを再生カプセルに入れると、聖騎士達が座っているテーブル席に付いた。

 クレニアムモン・フェルグスが彼らを集めたとの事。ガンクゥモンがテーブルに付き、注文していた料理が来てから、フェルグスは説明を始めた。

 

「ここにいるのは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の穏健派と中立派だけだ。いわば極秘会談となる。実はつい先程、私はマキ様から重大任務を託された。それを今から説明する」

 

「重大任務……?」

 

 マキ・イグドラシルが『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に命令を下した後、フェルグスを呼び出した。思っていたよりも残っているデジモンが多いと。5割を切っている筈が、まだ7割近く生き残っている。

 恐らく何者かがデジモン達を匿っている。しかもあれだけの数のデジモンがまだ生きているとなると、次に襲撃する場所を知っている聖騎士達が怪しいと言う事に繋がる。信じたくは無いが、聖騎士達の中に裏切り者がいる。

 そこで一番忠誠を誓っているフェルグスが裏切り者ではないと信じ、彼にか頼めない重要任務を依頼した。それは『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の裏切り者を見つけ出し、抹殺する事。フェルグスはその調査を行っていた。

 

「成る程な……それでその裏切り者を見付けたと言う事か」

 

「あぁ……穏健派と中立派だものな。非協力的だから怪しいと睨んだのか」

 

「いやいや違うよ。本題はここからだ。実は……マキ様の正体が分かったんだ」

 

『何だと!?』

 

「マキ・イグドラシルの正体……それはミレニアモン。又の名を秋山千冬。研究者だった女性」

 

 マキ・イグドラシルの正体はミレニアモン。“デジクオーツ”事件を起こした黒幕であり、かつて秋山千冬と言う名前の研究者だった女性。

 彼女はここではない別の人間界出身。その世界は人間とデジモンが共存し合う素敵な世界だった。生物学者であり、デジモンの研究に関わっていた研究者だった彼女は、幼年期~成長期デジモンの育成に関わり、彼らを自分の子供のように愛した。

 しかし、人間達のデジモンに対する差別や横暴なやり方の不満を抱いたデジモン達による武力蜂起が起こり、それが切っ掛けとして人間とデジモンによる争いが起こり、千冬の出身世界は荒れ果ててしまった。

 その時に大切にしていた家族やデジモン達を失い、彼らを殺したデジモン達と戦争の原因を作った人類、そして自分達を見殺しにしたデジタルワールドの神や聖騎士達を憎むようになった。それが彼女の行動原理と言われている。

 やがて彼女は人間界から単身デジタルワールドに向かい、イグドラシルや聖騎士達に直談判しに行った。何故争いが起こる前に手を打たなかったのか。こうなる前にどうにか出来なかったのか。遣る瀬無い感情をぶつけに行った。

 その最中に容赦ない現実を突き付けられた。一部の人間達による度重なるデジモン・デジタルワールドの危機に憤りを感じた『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』は、デジタルワールドの消滅を回避すべく、人間達を全滅させようと動き出した。

 それを阻止しようとしたが、千冬ではどうにも出来なかった。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に抹殺され、そのまま命を落とした

 

「ミレニアモンは人間だった……一真君や優衣さんと同じだったんだな。でもだからと言って、やって良い事と悪い事はある」

 

「そうだ。だがここで疑問が出て来る。どうしてこの世界に来て、イグドラシルと一体したのかが。それをこれから話そう」

 

 彼女はデジモン達と人間、そして世界に対する憎悪でミレニアモンを転生し、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を全滅させ、イグドラシルを滅ぼす事で復讐を果たした。そのデジタルワールドは滅んでしまった。

 そして次なる野望は自分が経験した事が二度と起きない世界の創造。人間とデジモンが共存し、お互いを認めて尊重し合い、平和に暮らす事の出来る世界。それを創るべく、このデジタルワールドにやって来た。

 その第一歩としてイグドラシルと一体化して統治を行ったが、初めてな上にやり方が強引過ぎて反発を受け、その結果世界樹から追い出されてしまった。しかし、だからと言って終わるミレニアモンではなかった。

 力を蓄えながら『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を造り出し、クーデターを起こしてノルンを追い出すと共に、世界樹イグドラシルを掌握。今は『NEOプロジェクト・アーク』を遂行している最中だ。

 

「そういう事だったのか……オメガモン達に連絡しよう!」

 

「我々はずっと利用されていたのか……マキ・イグドラシルに。いやミレニアモン……秋山千冬に!」

 

「でもこれでハッキリした。何故マキ・イグドラシルが『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を従えたのかも、何故『NEOプロジェクト・アーク』を遂行しているのかも。ようやく分かった」

 

 ミレニアモンは自分から大切な物を奪った人類やデジモン、問題を見過ごして来たデジタルワールドを憎み、全て滅ぼした。

 それから二度と自分の出身世界で起きた悲劇を繰り返さない為、この世界に来て人間界とデジタルワールドを統合し、新世界を創造しようとしている。

 確かに言いたい事は分かる。シンプルだからだ。理想も素晴らしい。オメガモンですら応援したくなるだろう。だが手段に問題があり過ぎる上に、やり方が強引過ぎる。

 

「私がマキ様の正体を知る事が出来たのは、今回の重大任務を引き受けたから。『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の行動を調べていた時、ホメオスタシス様から言われた情報を思い出して調べていた。その結果、今になって分かった。本当はもっと早い段階で分かっていれば良かったのだが、マキ様が中々隙を見せなくて……」

 

「ホメオスタシス様!? おい、ちょっと待て! クレニアムモン、前から気になっていたけどお前は一体何者なんだ!?」

 

「え~と、確かここでよろしかったでしょうか?」

 

『パラティヌモン!?』

 

「私はパラティヌモンですが、ノルン・イグドラシルの強化手術を受けたパラティヌモン……アーサーパラティヌモンです。ここに来るようにホメオスタシス様から言われていたのですが、その時にドゥフトモンを撃破して来ました」

 

 彼らの前に現れた1体の聖騎士。白銀に輝くシンプルでありながら、所々に青色のアクセントが施されている丸みを帯びた重厚感のある聖鎧に身を包んでいる。

 背中には一対の白い翼が備わっていて、内側が赤色、外側が白色のマントを羽織り、両腰に鞘込めの聖剣を2振り帯びている。翡翠色の円らな瞳が特徴だ。

 パラティヌモン改め、アーサーパラティヌモンはドゥフトモンX・ガレスを近くに置いてあった再生カプセルに入れると、ここに来るまでの事を話し始めた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 ノルン・イグドラシルによって施された強化手術を終え、新たな姿に生まれ変わったパラティヌモン。彼女からアーサーパラティヌモンと言う新しい名前を授けられ、ホメオスタシスに会うように言われた。

 ホメオスタシスからクレニアムモン・フェルグスの正体を聞いたアーサーパラティヌモン。彼女はフェルグスの拠点となっている『ブライアン』に向かい、詳しい話を聞くように指令を受けた。

 

「パラティヌモンとお見受けする」

 

「ドゥフトモンX・ガレスだな?」

 

 アーサーパラティヌモンの目の前に降り立った1体の聖騎士。獣の装飾が所々施された茶色の聖鎧に身を包んだドゥフトモンX・ガレス。

 ガレスが右手に刀身がビームの刃となったサーベルを引き抜くと、アーサーパラティヌモンも背中に収めていた聖槍を引き抜く。幅広で長い穂先を持った光の突撃槍―聖槍ロンゴミニアド。パラティヌモンの新たなる武器。

 聖槍ロンゴミニアド。アーサー王最期の戦いに使用された名槍。別名はロンの槍。エクスカリバーと並ぶアーサー王の宝物だが、エクスカリバーが目立つ事と、登場するのが中盤の“ヴォーティガーンの討伐”と、佳境のカムランの戦いだけであり、あまり有名ではない。

 父兄であるヴォーティガーン討伐では、エクスカリバーやガウェイン卿のガラティーンも通用しないヴォーティガーンに使用し、ようやくヴォーティガーンを倒している。最期の戦いとなったカムランの戦いでは、モードレッドを討ち取る際に使用した。

 お互いの武器を構えたアーサーパラティヌモンとドゥフトモンX・ガレス。2体の聖騎士は同時に突撃を開始して戦いに突入した。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ウオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!」

 

「クッ!!」

 

 先に攻撃を仕掛けたのはアーサーパラティヌモン。彼女は背中の翼から青い光を放出させ、一気に加速して近接戦闘に持ち込んだ。

 ガレスとの間合いを一瞬で詰めると、右手に握る聖槍ロンゴミニアドを目にも止まらぬ速さで突き出す。無数の聖なる刺突が聖騎士の全身を粉砕しようと襲い掛かった。

 右手に握るサーベルで受け流そうとするが、アーサーパラティヌモンの力は凄まじい。以前よりも力が上がっている。受け流そうにも、武器もろとも破壊されそうな勢いとパワーが内包されている為、回避に専念する事しか出来ない。

 

「ハァッ!!」

 

「『エルンストウェル』!!!」

 

 アーサーパラティヌモンは聖槍ロンゴミニアドを薙ぎ払うのに対し、ガレスは右手に握るサーベルを突き出して爆発的なエネルギーを放ち、それを隠れ蓑に使いながら後退した。

 返す刀で聖槍を一閃して爆発的なエネルギーをかき消し、再び一瞬でガレスとの間合いを詰めたアーサーパラティヌモン。彼女が聖槍を突き出すと同時に、カレスもサーベルを振るって攻撃を弾き返そうとする。

 

「何!?」

 

「ウオオオオォォォォォォーーーーー!!!!」

 

 激突する聖槍とサーベル。制したのはアーサーパラティヌモンだった。突き出した聖槍の一撃でガレスを吹き飛ばした。完全なる力押し。

元々パラティヌモンは超機動力と卓越した技術を持っていたが、それに凄まじいパワーが加わった事で、完全無欠の聖騎士王となった。

 続けて聖槍ロンゴミニアドから光のエネルギーを発しながら突き出し、黄金の光のエネルギー波として放って追い打ちをかける。ガレスが立っていた場所に大爆発が巻き起こり、黒煙と爆炎が巻き上がった。

 

「ほぉ……」

 

 黒煙と爆炎を突き破り、姿を現したのはドゥフトモンX・レオパルドモード。四足歩行の獅子のような姿をしたガレスが、目にも止まらぬ速さで襲い掛かるが、アーサーパラティヌモンは聖槍の一閃で弾き飛ばす。

 空中で体勢を立て直して着地したカレス。大地から超高層の岩盤を出現させて突き上げるが、聖騎士王は聖槍の一閃で超高層の岩盤を粉砕する。

 

「『エアオーベルング』!!! 続けて『ブロッカーデ』!!!」

 

「これで終わりだ! 『ロンゴミニアド』!!!」

 

 その隙にガレスは丸い尻尾の先端から球状のエネルギー機雷を発生させ、アーサーパラティヌモンを包囲しながら、地上を駆け抜けて飛翔し、両前足の鋭い爪を輝かせながら襲い掛かる。

 しかし、その間に何もしないアーサーパラティヌモンではなかった。聖槍ロンゴミニアドにエネルギーを注ぎ込み、光り輝く聖槍にすると同時に突き出し、巨大としか言えない光の奔流として撃ち出した。

 球状のエネルギー機雷どころか、ガレスをも呑み込んだ聖槍ロンゴミニアドの一撃。それはまるで巨大な光の柱だった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ドゥフトモンX・ガレスを倒した事で、残る強硬派はオメガモンX・ランスロットと、エグザモン・パージヴァルだけとなった。どうする? 倒しに行くか?」

 

「いやこちらから誘き出そう。奴らは我々の動きを全く知らない。オメガモンXは無理だが、エグザモンなら倒せる。アーサーパラティヌモン。あの時の続きを始めよう」

 

「えぇ、望む所です」

 

 アーサーパラティヌモンからドゥフトモンX・ガレスを撃破した経緯を聞くと、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の面々が次の行動を考え始める。

 残る強硬派の聖騎士はエグザモン・パージヴァルと、オメガモンX・ランスロットとなったが、そのどちらかを誘い出して仕留める作戦に打って出ようとしている。

 オメガモンX・ランスロットはアーサーパラティヌモンでは勝てるかどうか怪しいが、エグザモン・パージヴァルなら余裕で倒す事が出来る。

 そこでクレニアムモン・フェルグスは考えた。自分とアーサーパラティヌモンが一騎打ちを行い、それを探知してやってきた聖騎士を倒す。しかも2体の聖騎士にとって因縁の戦い。途中で終わったあの日の続きを始めようと動き出した。

 

ーーーーーーーーーー

 

 背中のウェポンラックに右腕を伸ばし、マウントされた三角形状の刃の2本の大剣を連結させ、両柄に刃が付いた1本の巨大な魔槍を握り締めるフェルグス。

 鋸のようにギザギザしている魔槍クラウ・ソラス。かつての戦いでパラティヌス・ソードをへし折った因縁の武器。対するアーサーパラティヌモンも背中のウェポンラックから聖槍ロンゴミニアドを取り出し、背中の翼を広げながら、青い光を放出させ始める。

 

「『エンド・ワルツ』!!!」

 

「ハァッ!!」

 

 クラウ・ソラスを高速回転させながら、フェルグスは大気変動を巻き起こしていく。微風が烈風へと変わり、やがて暴風となってアーサーパラティヌモンに襲い掛かる。

 全てのデータが粉砕する超音速の衝撃波。並大抵の相手ならば、今頃はデータを粉砕されているが、聖騎士王は動じない。右手に握る聖槍を一閃して超音速の衝撃波をかき消す。

 

「ウオオオオォォォォォーーーーーー!!!!!」

 

「クッ!!」

 

 そこからアーサーパラティヌモンは攻勢に出る。フェルグスとの間合いを一瞬で詰め、聖槍ロンゴミニアドを連続で突き出す。

 今までは機動力と技術による手数の多さで勝負していたが、今はそれにパワーが加わって一撃の破壊力も込められている。一撃だけでも必殺奥義の通常攻撃。それが連続して繰り出されている。これにはフェルグスですら防戦一方においやられる。

 魔槍クラウ・ソラスで受け流しつつも、徐々に後退していくフェルグス。彼は最後に繰り出された強烈な刺突を受け止めたものの、その威力と衝撃に耐えられず、吹き飛ばされてしまった。それでも立ち上がり、構えを取り直す。

 

「流石だな……だが私もこの程度で終わらない! 『ゴッド・ブレス・バインド』!!!」

 

「ッ!」

 

「今だ!」

 

 フェルグスは左手の平を前に突き出し、鎧のデータにアクセスして魔楯アヴァロンを召喚する。魔盾から眩い輝きが放たれた瞬間、聖騎士の目の前に光り輝く防御壁が展開されるが、それだけでは終わらない。

 フェルグスの目の前に展開されていた光り輝く防御壁が、まるでアーサーパラティヌモンを捕らえるように全身を包み込む。眩い輝きを以て相手の目を眩ませながら、動きを封じる。本来は『エンド・ワルツ』のコンボの為に編み出した必殺奥義。

 防御壁によって形成された結界。その中に閉じ込められたアーサーパラティヌモン。今度はフェルグスが攻勢に出た。双刃の魔槍を煌かせ、聖槍ロンゴミニアドを弾き飛ばす。強烈な左薙が聖騎士王の胸部を斬り裂いた。

 

「何?」

 

「『アルビオン・ブレイズ』!!!」

 

 異様とも言える光景に、フェルグスは一旦後退して魔槍クラウ・ソラスを構え直す。今の一撃はそれなりにダメージを与えた筈なのだが、アーサーパラティヌモンは無傷だ。

 単純に硬いのか。それとも何か理由があるのか。その理由を考えている暇は、フェルグスには無かった。アーサーパラティヌモンの青い光の翼から、無数の砲撃が一斉に撃ち出されたからだ。

 フェルグスは『ゴッド・ブレス』を発動していた為、展開している眩い光の防御壁で次々と四散されていく。その間にアーサーパラティヌモンは聖槍ロンゴミニアドにエネルギーを集束させ、一気に突き出して黄金の光の奔流を放つ。

 

「『ロンゴミニアド』!!!」

 

「何!?」

 

 黄金の光の奔流が眩い光の防御壁を呑み込むと共に侵食し、光の粒子に分解しながら消滅させる。生前のアーサー王がヴォーティガーンやモードレッドを討つ時に使用したと謳われている聖槍。エクスカリバーと同等の性能持ち。

 聖槍から放たれる攻撃は全てを破壊し、消し去る光の一撃。しかもノルン・イグドラシル自らが制作した神造兵器。並大抵の武器では防ぐどころか、破壊する事さえも出来ない。

 

「な、何と……“最強の盾”が“最強の槍”に消されたとは……」

 

「さてここから……どうやらお目当ての相手が来たようですね」

 

「フェルグス! 助けに来たぞ!」

 

 そこに現れたのはエグザモン・パージヴァル。右手に巨大なランスーアンブロジウスを携え、背中に意思を持った巨大な翼―カレドヴールフを生やした赤い竜のような姿をした聖騎士。強硬派に所属している。

 アーサーパラティヌモンとフェルグスの戦闘に気付き、駆け付けて来たようだ。余力を残している聖騎士王はそのまま戦闘に突入し、エグザモン・パージヴァルを撃破した。

 

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・オメガモン同士の戦闘

オメガモンVSオメガモンXは前に書いた小説でも実現しましたが、ここでも実現させました。

・喫茶店『ブライアン』

料理が美味しいと噂の喫茶店です。マスターはデジタマモン。

・マキ・イグドラシルの正体

ミレニアモン=秋山千冬。彼女の設定は『シン・ゴジラ』の牧悟郎を参考にしています。
何気に単体で世界を滅ぼした経験のある凄い人です。
経緯は経緯で、事情は事情だけど行き過ぎた考えを持ち、行き過ぎた行動を取っているのが失敗する所。もし違う運命を歩めたらオメガモン達と仲良く出来ます。

・パラティヌモン復活!

ガンダム・バエルからガンダム・キマリスヴィダールになって復活。
オメガモンらしい見た目からアルファモンっぽい見た目になりました。
武器はロンゴミニアドとエクスカリバーとかなりシンプルになりました。

裏話はここまでになります。完結まで残り数話となりました。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。
そしてこれからもよろしくお願いします。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!


次回予告

いよいよマキ・イグドラシルとの決戦に挑むオメガモン達。
そこに立ち塞がるのはオメガモンX・ランスロット。
2体のオメガモンによる一騎打ち。その勝者は!?

第37話 限界突破


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第37話 限界突破

事前に書き進めていたので、思っていたより早めに投稿出来ました。
残り数話……予定だと3、4話でしょうか。それを投稿し終えたら終わりになります。
今回はオメガモンVSオメガモンXの対決です。


「そういう事か。もうそんな所まで進んでいたのか……」

 

 アーサーパラティヌモンから一通り話を聞いたオメガモンが頷いた。彼がいるのはデジタルワールドであり、今はマキ・イグドラシルの本拠地―世界樹イグドラシルに向かっている最中。その道中で説明を受けていた。

 穏健派と中立派は手を取り合い、共に強硬派を壊滅状態にまで追いやった。残る強硬派はオメガモンX・ランスロットのみとなった。その最強にして最後の聖騎士を倒し、マキ・イグドラシルとの決戦に挑む。その為にオメガモンは人間界からデジタルワールドに来て、仲間達と合流して世界樹イグドラシルに向かっている。

 

「この場所か……皆、森の中に隠れてくれ。奴は私が倒す」

 

「よくぞこの場所を見破ったな」

 

 到着した場所は世界樹イグドラシルの直ぐ近く。そこに聖騎士の『波動(コード)』を探知すると、オメガモンは皆に森の中に隠れるように言う。一騎打ちで決着を付ける為だ。

 その真意を汲み取ったアーサーパラティヌモン達が森の中に隠れると、そこにオメガモンX・ランスロットが姿を現した。

 

「私の仲間が教えてくれた。決着を付ける前に、オメガモンX。貴方に聞きたい事がある。貴方はマキ・イグドラシルの行動を見ても何も感じないのか?」

 

「何を言っている?」

 

「私は彼女の理想を素晴らしいと思っている。それが実現すればきっと人間とデジモンは手を取り合い、素晴らしい世界を一緒になって作っていけると信じている。だが、その為にデジタルワールドと人間界を崩壊させる必要があるのかが分からない。同じデジモンとして、デジモンを殺戮する事が正しいかどうか……それを貴方に聞きたい」

 

 オメガモンはマキ・イグドラシルの事を全て否定している訳ではない。彼女の掲げる理想には賛成している。人間とデジモンが共存できる世界。それは素晴らしい理想だ。是非とも実現して欲しいし、実現したい。そう考えている。

 しかし、それを実現するやり方が極端で過激すぎる。そこを問題視している。臣下として思う所があるのではないか。そう思い、オメガモンはオメガモンXに尋ねる。

 

「私はイグドラシルの掲げる正義に従う。マキ様の未来を守る為に戦う。それだけだ」

 

「その未来が例え血に染まっていようと、絶望しかないとしてもか……」

 

「そうだ。ならば私からも聞こう。何故お前達は抗い続ける? デジタルワールドの神に勝てないかもしれないのに、何故抗い続ける?」

 

「生きたいからだ。それに大切な物を守る為だ」

 

 オメガモンが戦う理由。大切な物を守る為だが、根底にあるのは日常や当たり前のように存在する普通を守る為。自分が一体化した人間の日常を奪ってしまった事を受け、二度と元通りの日常に戻れなくなった代わりに、皆の日常を守ろうと心に誓った。

 その為なら例え相手が自分より格上の相手だろうと、神だろうと戦う。それが人間であり、デジモンでもあるオメガモンの信念。

 

「より良い未来を築き上げる為、私達は前に進む。理不尽な悪には屈しない。それだけの話だ」

 

「つまりは前に進む為ならば、どんな悪にも立ち向かうと言う事か。だが例え負ける事が必然だったとしたら?」

 

「それはどうかな? 抗い続ける事に意味がある。何もしないで後悔するなら、何かして後悔した方が良い。そう思わないか?」

 

「ならば後悔させてやろう。イグドラシルに歯向かった事を!」

 

 自分の信じる未来を突き進もうとするオメガモンと、イグドラシルの未来を守ろうとするオメガモンX。相容れない2体の聖騎士は戦闘態勢に移行する。

 お互いにグレイソードを出現させ、ガルルキャノンを展開した。オメガモンとオメガモンX。オメガモン同士の対決の第2ラウンドが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

『ガルルキャノン!!!』

 

 2体の聖騎士はガルルキャノンを同時に構えて照準を目の前に合わせると、砲身の内部にエネルギーを集束させる。集束が終わると同時に、ガルルキャノンから青色のエネルギー弾を撃ち込んだ。

 同時に撃ち込まれた2発の青色のエネルギー弾。それは2体の聖騎士の中心で激突すると、周囲一帯を巻き込む程の大爆発を起こした。

 

「ハアアアアァァァァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

 黒煙と爆炎が巻き起こり、衝撃波が拡散される中、オメガモンは気配さえも感じさせない程の超速度で移動し、黒煙と爆炎を突き破った。

 そしてグレイソードを薙ぎ払ってオメガモンXを攻撃しようとするが、目の前にいた筈のオメガモンXの姿が無かった。一度攻撃を中断して構えを取り直す。

 突如としてデジモンの『波動(コード)』を真上から探知すると、そこにはガルルキャノンを構えたオメガモンXがいた。しかもガルルキャノンには先程と同様に生命エネルギーが集束されている。

 先程のガルルキャノンの激突で大爆発が巻き起こった時、オメガモンXは爆煙を隠れ蓑に使いながら上空に飛び上がり、ガルルキャノンでオメガモンを狙い撃ちにするつもりだったようだ。

 

「ならばっ!」

 

「グァッ!!」

 

 相手が攻撃をするよりも前に攻撃すれば良い。そう考えたオメガモンはグレイソードを構えながら瞬間移動を発動し、一瞬でオメガモンXの目の前に姿を現した。

 グレイソードを振るって攻撃した後、右足を蹴り抜いてオメガモンXを地上に向けて墜落させると、その後を追って自身も地上に降り立つ。

 オメガモンXは立ち上がっている最中であり、まだダメージから立ち直っていない。その隙を突き、オメガモンはグレイソードを突き出すが、オメガモンXは咄嗟に左肩のブレイブシールドΩを突き出し、強烈な刺突を弾き返す。

 

「クッ!!」

 

「ハアァァッ!!!」

 

 攻撃を弾き返されて後退しながらも、体勢を立て直したオメガモン。牽制の意味も込めてガルルキャノンから青い光の波動弾を撃ち出すが、オメガモンXはグレイソードを薙ぎ払って砲撃をかき消した。

 更にオメガモンとの間合いを一瞬で詰め、グレイソードを大上段から振り下ろす。それを左肩のブレイブシールドΩで受け止めながら、オメガモンはガルルキャノンを至近距離で構え、青い光の波動弾を撃ち出す。

 しかし、オメガモンXはそれに気付いていた。自分から背後に飛び退きつつ、背中に羽織っているマントで青い光の波動弾を防ぐ。そして仕切り直しを行う。

 両腕の武器を構え直すオメガモンに向けてガルルキャノンの照準を合わせ、絶対零度の冷気の波動砲を撃ち出すオメガモンX。咄嗟に横に跳んで躱したオメガモンとの間合いを一瞬で詰め、聖騎士は大上段からグレイソードを振り下ろす。

 

「ハアァァァァァァァァァーーーーー!!!!」

 

「クッ!!」

 

「グアァァァァァァァァァーーーーー!!!!」

 

 裂帛の気合と共に繰り出された唐竹斬り。それを左肩に装備している黄金の聖楯で受け止めつつ、オメガモンはガルルキャノンの照準を合わせ、青い波動弾を撃ち込む。

 胸部に青い波動弾の直撃を喰らったオメガモンX。初めて苦痛に満ちた叫び声を上げながら吹き飛ばされる。オメガモンは直ぐに追撃に移行した。

 吹き飛んでいる最中のオメガモンXに向けてグレイソードを突き出すが、既に体勢を立て直していたオメガモンXに弾かれ、ガルルキャノンから砲撃を撃ち込まれるが、上半身を捻って砲撃を躱した。

 

「やはり強いな……ならば真の力を以てお前を倒す! 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』……発動!」

 

「コード・オメガ……『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』、発動!」

 

 お互いに膠着状態に陥り、勝負が付かない所に陥っている。それを感じた2体の聖騎士は同時に特殊能力を発動させた。

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』。それは戦闘において一瞬で未来を予測し、あらゆる状況に対応する事が出来る究極の力。あらゆる状況下でのオメガモンの戦闘センスとポテンシャルが極限まで高められ、引き出された能力。

 それを2体のオメガモンは同時に発動する。オメガモンXの胸部が展開され、オメガモンの胸部の紅い宝玉が輝きを放つ中、戦いが再開される。

 

ーーーーーーーーーー

 

 先に動いたのはオメガモンXだった。突如としてオメガモンの目の前から消失すると、聖騎士の背後に回り込み、ガルルキャノンから青色のエネルギー弾を撃ち込む。

 背後に感じた『波動(コード)』と迫り来る砲撃の音。それを頼りにオメガモンは振り向き、グレイソードを一閃して青色のエネルギー弾をかき消す。

 そのままオメガモンXとの間合いを一瞬で詰めるが、その時には既にオメガモンXはまたもや姿を消失させた。次の瞬間、あらゆる方向から砲撃が撃ち込まれ、無数の青いエネルギー弾が襲い掛かる。

 

「『グレイソード』!!!」

 

 オメガモンはグレイソードを構えると共に刀身から太陽の火炎を発し、左手に巨大な灼熱の刃を作り上げ、全力で振るって無数の青いエネルギー弾をかき消す。

 完全にオメガモンXのペースとなり、防戦一方においやられている事に気付いているオメガモン。そんな聖騎士に追い打ちをかけるように、オメガモンXはガルルキャノンから砲撃を撃ち込んだ。

 

「ガアアァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!」

 

 胸部に青いエネルギー弾の直撃を喰らい、吹き飛ばされるオメガモン。それを見たオメガモンXは即座に追撃に出る。

 グレイソードの刀身に灼熱の火炎を纏わせるが、オメガモンは咄嗟にグレイソードを横薙ぎに振るい、目の前に灼熱の火炎壁を展開する。これを隠れ蓑に使いながら体勢を立て直して地面に着地した。

 その次の瞬間、灼熱の火炎壁を突き破り、青い光の波動砲がオメガモンに向かって襲い掛かった。咄嗟に横に跳んで躱したオメガモンと、悠然と構えを取るオメガモンX。完全に両者の差は明白となっている。

 

「これで分かった筈だ。お前はただ異常に強いオメガモン。運良く『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を使えるだけだ。私はX進化し、『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』の使用を前提とし、限界までカスタマイズされた。お前と私では天と地ほどの差がある」

 

「それがどうした! 戦う気力がある限り、まだ負けたとは言わない! 『ダブルトレント』!!!」

 

 『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』の使用者としての差を突き付けられても、オメガモンは戦う事を止めようとしない。

 メタルガルルモンの頭部を象った右手に蒼く煌めく絶対零度の冷気が宿り、ウォーグレイモンの頭部を象った左手に橙色に輝く太陽の火炎が発する。

 オメガモンは両手を地面に同時に突き立てる。右手から蒼く煌めく絶対零度の冷気が、左手から橙色に輝く太陽の火炎が一直線に放たれる。

 北欧神話の九つの世界のうち、下層に存在するとされる冷たい氷の国。そして世界の南の果てにある灼熱の国。その2つが同時に襲い掛かる。

 

「その程度で!」

 

 しかし、オメガモンXはグレイソードの一閃で『ダブルトレント』をかき消し、ガルルキャノンを構えて青いエネルギー弾を撃ち出す。

 それをグレイソードの一閃でかき消されたのを見ると、オメガモンXはガルルキャノンを一度戻し、右手から六連装のガトリング砲―ガルルストームを展開した。そこからエネルギー弾の弾幕を張り始める。

 

「クッ!!」

 

 オメガモンXに接近し、得意の近接戦闘に持ち込もうとしていたオメガモン。ガルルストームから展開される弾幕によって、迂闊に接近する事が出来ず、表情を険しくさせる。

 それを見たオメガモンXはニヤリと不敵な笑みを浮かべると、ガルルストームを戻し、もう1度ガルルキャノンを展開する。照準をオメガモンに合わせ、絶対零度の冷気の波動を撃ち出した。

 

「『グレイソード』!!!」

 

 オメガモンはグレイソードを構え、太陽の火炎を集束させて巨大な灼熱の刃を作り上げ、それを振るって絶対零度の冷気の波動をかき消し、一瞬でオメガモンXとの間合いを詰め、返す刀で斬り掛かった。

 それに対し、オメガモンXはガルルキャノンの照準を合わせ、オメガモンの左手に向けて青いエネルギー弾を撃ち込み、聖騎士の動きを止める。たたらを踏んで後退する聖騎士に、更なる追い打ちをかけていく。

 ガルルキャノンをもう1度戻してガルルストームを展開し、超音速のエネルギー弾を連射してオメガモンに全弾直撃させ、グレイソードの刀身に灼熱の火炎を纏わせる。一瞬で接近し、大上段から振り下ろす。

 胸部を斬り付けられ、純白に輝く聖鎧の至る所に傷跡を刻まれたオメガモン。それでも何とか持ち直すが、顔を俯けている。蓄積されるダメージがオメガモンのスタミナと精神をジワリジワリと削っていく。

 

「諦めろ。X進化した私には、X進化していないお前が勝てる筈がない。私にはお前が敗北する未来しか見えていない」

 

「私はお前に勝利する未来を、その可能性を信じて戦うだけだ!」

 

 オメガモンはグレイソードを構えると同時にその場から姿を消失させ、オメガモンXの目の前に出現させて灼熱の聖剣で斬りかかる。

 連続で繰り出される斬撃を的確に躱し、至近距離からガルルキャノンを撃ち込むが、オメガモンはそれを跳び上がって躱し、ガルルキャノンから青色の波動弾を連射する。

 それをグレイソードの一閃でかき消し、エネルギーを集束し終えたガルルキャノンの照準を合わせ、オメガモンに向けて最大出力の砲撃を撃ち込んだ。

 

「『ガルルキャノン』!!!」

 

「グアアアアアァァァァァァーーーー!!!!!」

 

 オメガモンXが撃ち出した青い光の波動砲。それに呑み込まれたオメガモンは苦痛に満ちた叫び声を上げ、そのまま地面に倒れ込んだ。

 実力差は歴然。同じ特殊能力を使っていても、格と力の差だけは埋める事は出来ない。オメガモンに止めを刺すべく、オメガモンXはゆっくりと歩み寄る。

 

ーーーーーーーーーー

 

(身体が動かない……)

 

―――オメガモン。僕を使え。僕を使い潰してくれ! でないとこのままじゃ死ぬぞ!

 

(駄目だ! 前に“デジモン化”した事を忘れたのか!? 今ここでリミッターを解除したら、今度は一真殿の精神が焼き切れてしまう! 肉体はおろか、精神まで死んでしまうんだぞ!?)

 

―――何を言っているんだ? ここで使わないとお互いに死ぬだろう? この世界と人間界を守るには今使わないと駄目だよ。それに僕の命はオメガモンに繋がれている。だから僕の全てを使って欲しいんだ。

 

 立ち上がろうと全身に力を込めるオメガモンだったが、ダメージの蓄積によって力を出せない状態に陥っている。実力と格の差、己の非力さに打ちのめされている。

 そんなオメガモンに呼び掛ける一真。確かに彼の力を使えばこの状況を打開し、オメガモンXを倒す事が出来るかもしれない。しかし、それが出来ない事情がオメガモンにはある。

 それは一真の事だ。“デジモン化”した今、ここで彼の能力を使ったら一体何が起きるか分からない。肉体が人間として死んだのだから、今度は精神が人間としての死を迎える事が目に見えている。だからこそ、オメガモンは頷く事が出来ない。

 しかし一真はオメガモンに自分を使い潰すように促す。このままでは確実に死ぬ事が目に見えている。これではマキ・イグドラシルを倒すどころか、デジタルワールドと人間界を守る事も出来ない。

 更に言えば、一真の行動原理もある。ディアボロモンに襲われ、死ぬ筈だった自分はオメガモンに助けられた。だから自分はオメガモンに全てを捧げなければならない。肉体や命といった全てを。例え死ぬ事は分かっていたとしても。

 

(分かった。使おう。君の全てを使うから授けてもらおうか!)

 

―――あぁ。好きなように使ってくれ。僕の全てを君に明け渡す!

 

「な、何だと!?」

 

 その瞬間、オメガモンの瞳が空色に輝き、眩い光が放たれた。ゆっくりと立ち上がり、胸部の紅い宝玉が光り輝くと共に、オメガモンの全身に聖なる黄金のエネルギーが聖鎧として纏われる。そのエネルギーは『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』。

 まさかの復活を遂げたオメガモン。その姿を見たオメガモンXは驚きながらもガルルキャノンを構えて青色の光の波動砲を撃ち出そうとするが、それよりも先にオメガモンが動き出した。

 一瞬でオメガモンXとの間合いを詰め、ガルルキャノンの砲口目掛けてグレイソードを突き下ろす。グレイソードが突き刺さったガルルキャノン。砲身の内部には膨大な量のエネルギーが内包されている。

 今の一撃でその膨大な量のエネルギーが炸裂し、超爆発を引き起こすと共にオメガモンXのガルルキャノンを粉々に破壊し、聖騎士の右腕を破壊した。

 

「ガアアアアァァァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

 苦痛に満ちた叫び声を上げながら吹き飛ぶオメガモンX。ガルルキャノンを破壊しただけでなく、右腕を完全に封じた。

 マキ・イグドラシルが心の底から恐れるオメガモン。人間とデジモンが一体化し、それによってもたらされる凄まじい力。オメガモンXは身を以て知らされる事となった。

 

「確かに私ではお前には勝てないだろう。だが、私“達”ならばお前に勝てる!」

 

「……忘れていた。お前は八神一真と言う人間と一体化していて、それによって新たなる力を手にした事を。今まで使っていなかったのか!」

 

「そうだ。さぁここから反撃開始だ!」

 

 反撃開始を宣言すると共に、オメガモンは瞬間移動を発動させてオメガモンXの目の前に姿を現し、グレイソードを突き出す。

 狙うのはオメガモンXの右半身。使用不能に追い込まれた右腕を含む右半身を狙い、オメガモンXを防戦に追いやる。対する聖騎士は聖剣を使って連続で繰り出される刺突を防ぎ、一瞬の隙を見せたオメガモンに向けてグレイソードを薙ぎ払う。

 しかし、その隙はわざと見せた物だった。オメガモンは姿勢を低くしながら左薙を躱し、身体を回転させながらグレイソードを振り上げ、オメガモンXを吹き飛ばす。

 そこからオメガモンの怒涛の追い上げが始まった。吹き飛びながらも体勢を立て直している聖騎士の目の前に出現し、グレイソードから怒涛の連続斬撃を繰り出し、オメガモンXを防戦一方に追い込んでいく。

 

「ハァッ!!」

 

「チィ!!」

 

 右足から繰り出した蹴り上げと、グレイソードから放った突き下ろしのコンボで遠くへと吹き飛ばしたオメガモン。その両目は空色に発光しており、人間とデジモンの一体化による力を最大限に引き出している証となっている。

 ガルルキャノンの照準を合わせて相手を牽制しながら、オメガモンはグレイソードを構えて突進を始める。大上段からグレイソードを振り下ろし、斬り上げ、薙ぎ払い等の連続斬撃に繋げていく。

 オメガモンXは『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』を使って躱したり、防いだりしているが、オメガモンの繰り出す攻撃が重く、鋭く、速い為、中々反撃に移る事が出来ないでいる。

 

「ハァッ!!」

 

「クッ!!」

 

 グレイソードから連続斬撃を繰り出した後、オメガモンは右足蹴りを繰り出す。それをオメガモンXが左肩のブレイブシールドΩで防ぐと、左足を起点にオメガモンは後方宙返りを行い、ガルルキャノンから砲撃を撃ち込む。

 青い波動弾が胸部に直撃し、オメガモンXを吹き飛ばす中、オメガモンはグレイソードを構えると共に再び灼熱の刃を作り上げ、大上段から振り下ろして追い打ちをかける。

 

「ガアアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!」

 

 全身を焼き尽くされながらも、オメガモンXは立ち上がる。右腕とガルルキャノンは使用不可能に追い込まれたが、まだ左腕とグレイソードが残っている。

 オメガモンXのグレイソード。その剣には究極奥義が宿っている。刀身に触れた物全てを消滅させる『オールデリート』。斬撃として飛ばす事も出来る為、もし喰らってしまえば折角の逆転が無意味になってしまう。

 『オールデリート』を突破する事が出来ない限り、オメガモンXを倒せない。オメガモンはグレイソードを横薙ぎに構え、居合抜きのような構えを取った。

 

―――次の一撃で勝負を決める。

 

 オメガモンとオメガモンX。2体の聖騎士は暫しの間睨み合いを行うが、機は熟したと判断した瞬間、オメガモンが突撃を開始した。

 目にも写らぬ速度で移動した為、気配を探知する事さえも出来ない。完全に消失したと錯覚するような超速度。オメガモンXは周囲を警戒するが、狙って来るとしたらやはり右半身だろう。そう思って構えを取る。

 オメガモンの『波動(コード)』を捕捉したオメガモンX。自分の勝利を確信しながら、グレイソードに自身の生命エネルギーを注ぎ込みながら、全力で振り下ろす。

 

「『オールデリート』!!!」

 

「『グレイソード』!!!」

 

 しかし、その瞬間にオメガモンXが見た。自分が敗北する未来を。何故なら自分が捉えた物はオメガモンの残像だったのだから。

 本物はオメガモンXから見て右側に姿を現し、全力でグレイソードを薙ぎ払う。刀身から太陽の火炎を生み出し、巨大な灼熱の刃となっている左手を。

 

「グワアアアァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!」

 

 胴体部分に灼熱の斬撃を喰らったオメガモンXは苦痛の叫び声を上げながら吹き飛び、大地に叩きつけられた。

 オメガモンはまたしても伝説を打ち立てた。X進化していない状態でX進化したオメガモンに勝利したと言う逸話だ。

 

ーーーーーーーーーー

 

「やったぞ! 勝ったぞ一真殿!」

 

―――あぁ、勝ったねオメガモン……

 

「一真殿!? 大丈夫か!? 気分はどうだ!?」

 

―――え~とね、率直に言うと、何かフラフラすると言うか、意識が朦朧すると言うか……頭の中が焼かれる程痛かったし、目の前が真っ暗になりそうなんだ。

 

「な、何だと……!?」

 

 オメガモンXに勝利した喜びを分かち合うオメガモンと一真。しかし、その代償は大きかった。一真の脳の半分が焼き切れ、気をしっかりしないと今にも死んでしまいそうな程、どう考えても危ない状態に陥ったからだ。

 今の一真は文字通りオメガモンによって生かされている状態。限界を超えた能力の使用によって、一真は命の危険にまで晒されてしまった。

 

―――次にもう1回やったら僕死ぬかもしれない……いや死ぬな確実に。

 

「分かった。ならば休んでいてくれ」

 

――――そうさせてもらうよ。オメガモン。頼むぜ、人間界とデジタルワールドの未来を一緒に切り拓こう……

 

「あぁ、分かった」

 

 一真はオメガモンの中で休息も兼ねて一眠り付くと、オメガモンは地面に倒れ伏せているオメガモンXを見下ろす。

 目指す先は違えど、同じ未来の為に戦った2体の聖騎士。何故戦わなければならなかったのか。それは目指す先の違いが告げている。

 

「私はマキ様を守る最強にして最後の番人。行くが良い、オメガモン達よ」

 

「最初から気付いていたのか……」

 

「あぁ。私は任務に失敗した。間違いなく何かしらの制裁を受けるだろう。それはジエスモンとガンクゥモン以外の連中もそうだ。今の内に通れ」

 

「恩に着るよ、ありがとう」

 

 地面に倒れ伏せたオメガモンXを介抱し、オメガモン達はマキ・イグドラシルが待っている場所に向かっていく。案内人はクレニアムモン・フェルグス。

 いよいよ始まる最終決戦。神と聖騎士による、人間界とデジタルワールドを左右する最後の戦い。それは一真が迎える最後の死闘でもあった。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』

特殊能力を使えるオメガモンと、使用を前提にチューニングされたオメガモンX。
発動した後の展開の差がここで出ました。

・オメガモンの反撃

イメージは『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のVSハシュマル戦のガンダムバルバトスルプスや、阿頼耶識システムTYPE-Eを発動しているガンダムヴィダールのイメージです。
人間とデジモンの一体化による力を最大限に引き出しているという意味では、似ている筈です。

・能力の代償

以前は”デジモン化”として肉体が死にましたが、今度は精神が悲鳴を上げています。
次に能力を使用したら、間違いなく一真君は死にます。正確には彼の精神と人格が。


裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

ついにマキ・イグドラシルとの決戦が開始されるが、そこで明かされるクレニアムモン・フェルグスの正体。そして『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の行方。
果たしてオメガモン達とマキの決戦の勝者は!?

第38話 最終決戦



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第38話 最終決戦

明日投稿する第39話で一度小説は終わりになります。
短くて後半は駆け足気味になりましたが、読んでくれてありがとうございます。



 オメガモン達一行は世界樹イグドラシルに突入し、初めて見る景色に感嘆の念を覚えながらも、自分達の使命の為に突き進む。クレニアムモン・フェルグスの案内に従い、マキ・イグドラシルがいるであろう場所に向かっていく。

 全員の表情が固い。それだけ真剣な表情を浮かべていると言う事に他ならない。これから2つの世界の命運をかけた最終決戦に挑むのだから。

 

「ついにここまで来ましたね……相手はあのイグドラシル。クオーツモンの時以上に激しい戦いになるでしょう」

 

「あぁ……そしてこれが一真殿にとって最後の戦いになる」

 

 オメガモンはアーサーパラティヌモン達に全てを話した。オメガモンXとの戦いでリミッターを解除した時、一真の精神と人格にまでダメージが及んだ事。次にまたリミッターを解除したら、今度こそ一真は消滅してしまう。精神と人格が。

 それを聞いた誰もが辛そうに顔を俯ける。能力を使い続けた代償とは言え、一人の人間が死亡するのはやはり辛い。ましてやそれが味方であり、大切な仲間だったら猶更だ。

 

「それでも前に突き進むのか……オメガモン」

 

「そうだ。これは一真殿が望んだからだ。彼に見せてあげたい。人間とデジモンが手を取り合い、仲良く過ごせる世界を。だから止まる訳には行かない。デジモン達と人間達、皆の為に、そして一真殿の為に!」

 

 オメガモンは確信していた。この戦いが一真にとって最後の戦いになる事を。だからここで立ち止まる訳には行かない。彼が夢見る人間とデジモンが手を取り合い、仲良く過ごせる世界を実現させる為に。

 その思いを受け取ったアーサーパラティヌモン達が頷き、その先の通路を抜けると、広い場所に出た。そこに待っていたのはマキ・イグドラシルだった。

 

「来ましたね、オメガモン。そして私を裏切り、悉く任務に失敗した『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』。我々はお前を止めに来た。お前の野望を、これ以上無意味な殺戮を止める為に!」

 

「お前の野望もここまでだ、マキ・イグドラシル! いやこう呼ぶべきか……秋山千冬! ミレニアモン!」

 

「私の正体を!?……成る程。フェルグスから聞いたのですね……やはり彼はホメオスタシスが送り込んだスパイでしたね」

 

『ッ!?』

 

 マキはクレニアムモン・フェルグスの正体について話し始める。フェルグスはホメオスタシスが送り込んだスパイだった。

 彼は『デジモンセイバーズ』に登場したクレニアムモンと同一個体。スレイプモンことクダモンと同時期に転生したが、その時はホメオスタシスがマキ・イグドラシルの正体を見破った頃だった為、スパイとして派遣された。

 マキが造り上げたクレニアムモンを抹殺して何食わぬ顔でこれまで過ごしてきた。パラティヌモンが封印されていた場所が分かったのも、フェルグスのおかげでもある。

 

「全て筒抜けだったのか……」

 

「お前だけが私の造り上げたデジモン特有の『波動(コード)』を発していなかった。だから簡単に分かった。でも私はそれをあえて見過ごし、お前を泳がせた。何故だか分かるか?」

 

「そ、それは……!」

 

「お前が聖騎士達をまとめ上げ、私の所に来る事を予測していたからだ。そしてその通りになった。お前達は用済みだ、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』」

 

『グアアアアァァァァァァァァッ!!!!!』

 

 マキが左手の平を前に突き出して握り締めると、彼女が造り上げた聖騎士達が一斉に苦しみ出し、やがてデータ粒子となって消滅した。

 その膨大なデータ粒子を吸収したマキ・イグドラシル。彼女の力が一段と高まり、圧倒的な威圧感とオーラが増していく。

 

「な、何と言う事を!」

 

「彼らは全員用済みです。任務に失敗し、私の命令には従わない。そんな聖騎士を部下にしていては、この先が思い知れます。私は人間界とデジタルワールド、2つの世界を統合して新世界を創ります。これはもう誰にも止められません」

 

「ふざけるな! 部下を平気で切り捨てるような奴が世界を治める事など出来ない!」

 

「そうでしょうか? 争いのない平和な世界を作り上げる事の何処が間違いなのですか?」

 

「違う! お前の理想は間違っていない。そのやり方が間違っているんだ! 何の罪もない人間やデジモンを殺戮する事が正しいなんて言えない!」

 

 ついに本当の姿を見せたマキ・イグドラシル。彼女は自分が造り上げた『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を平気で切り捨て、彼らを吸収して力を増した。

 そんな神様が世界を統治して良い筈がない。そう考えているオメガモン達は真っ向からマキに反論する。

 

「確かに貴女の考えは立派です。正しいです。間違っていません。私も賛成しています。でも貴女のやり方が強引過ぎる上に極端過ぎる。だから私達は抗うのです。前に進もうとしているのです」

 

「やはり貴方達とは戦わないといけませんね……」

 

「ここから先は私一人に任せてもらおう。一真殿の最後の戦い、せめて神を倒したという逸話を打ち立てたい」

 

「分かりました。ご武運を」

 

 マキが両手に銃剣付きに二丁拳銃―アストリアを握り締める一方、オメガモンが一歩前に進み出た。一真のラストバトル。その相手はデジタルワールドの神であり、“デジクオーツ”事件の黒幕。

 メタルガルルモンの頭部を象った右手からガルルキャノンを展開し、ウォーグレイモンの頭部を象った左手からグレイソードを展開するオメガモン。2つの世界の命運をかけた最終決戦が始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ハアアァァッ!!!!!」

 

 先に動いたのはマキだった。両手に握るアストリアから連続射撃を行う。それに対し、オメガモンはグレイソードを薙ぎ払って銃弾を跳ね返し、聖剣を構え直すと共に刀身から巨大な太陽の火炎を纏わせ、返す刀で薙ぎ払う。

 それを跳躍で躱したマキを見て、オメガモンはその場から姿を消失させた。その次の瞬間、一発の砲撃が発射された音が鳴り響く。その間にマキに向かってあらゆる角度から一斉に青い光の波動弾が撃ち込まれ、彼女に向けて襲い掛かる。

 

「その程度で!」

 

 マキは両手に握るアストリアを構えると共に銃弾を連射し、無数の青い波動弾を撃ち落とす。その隙にオメガモンは彼女の背後に回り込み、太陽の火炎を発するグレイソードを薙ぎ払うが、惜しくも躱されてしまう。

 前方に跳躍しながら身体を回転させ、2丁拳銃から銃撃を撃ち込むが、オメガモンはグレイソードを振るい、灼熱の火炎壁を展開して防いだ。

 お互いに凄まじい反射速度と先の読み合いを見せながら、一歩先を行こうとしている。凄まじい戦いにアーサーパラティヌモン達は介入出来ない。と言うより、オメガモンの意志を尊重して介入しない。

 

「以前より強くなっていますね……八神一真が融合しているからですか!」

 

「そうだ。人間とデジモンの絆によって生まれる強大な力……それにお前は負ける!」

 

「ですが貴方の中にいる八神一真は死にかけている……この戦いで引導を渡してあげましょう!」

 

「引導を渡すのは私だ! ハアアァァァァァァッ!!!!!」

 

 マキは目の前の地面に向けて右手に握るアストリアから銃弾を撃ち込み、無数の破片や石礫を飛ばしてオメガモンを攻撃する。

 グレイソードを振るって無数の破片や石礫をかき消すと共に、灼熱の聖剣を構えながら突進を開始するオメガモン。一瞬でマキとの間合いを詰めると、連続斬撃を繰り出す。

 最小限の動きを以て連続斬撃を躱していくマキに合わせ、オメガモンは更に間合いを詰めながら連続斬りを放つ。

 それも最小限の動きで見切りながら躱していくマキ。オメガモンは彼女の背後に一瞬で回り込み、再び連続斬撃を繰り出すが、彼女は左手に握るアストリアの銃剣部分から光を伸ばし、灼熱の刃と真っ向から斬り合う。

 

「私は間違えていた。この計画を進める前に、貴方を先に倒すべきでした」

 

「それは無理だな。お前では私に勝てない! ウオオォォォォォッ!!!!!」

 

 オメガモンはグレイソードを振り切り、マキを吹き飛ばす。今の聖騎士が人間とデジモンが完全に融合しかけている状態。限りなくフルパワーに近い状態。

 それを感じたマキは空中で体勢を立て直して着地し、上空に向けて一発の銃弾を撃ち込んだ。その銃弾は爆裂すると共にオメガモンに向けて降り注ぐが、聖騎士は気配すら感じさせない動きでその場から離脱し、攻撃を躱す。

 更にマキとの間合いを詰めて下段に構えていたグレイソードを振り上げ、続けて大上段から振り下ろす。お得意の近接戦闘に持ち込むオメガモンに対し、モルガンは聖騎士を追い払おうとアストリアから銃弾を撃ち込む。

 

「甘い!」

 

「クッ!! 『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を吸収した筈なのにどうして……!」

 

「それがお前の失敗だ。どうやら11体の聖騎士達がお前の力を抑え込んでいるみたいだな!」

 

「何!? そんな馬鹿な!」

 

「言った筈だ。“部下を平気で切り捨てるような奴が世界を治める事など出来ない”と! ハアアアアァァァッ!!!!!」

 

 聖騎士はグレイソードを振るい、太陽の灼熱を以て銃弾を焼き尽くす。返す刀で聖剣を一閃して太陽の灼熱を放つ。完全にオメガモンのペースとなっている。

 オメガモンが強くなっている以上に、マキが弱体化している。彼女は戦いを始める前に、自分が造り出した11体の聖騎士達を吸収した。それが失敗だった。彼女の力を11体の聖騎士達が抑え込んでいるのだから。

 巨大な太陽の灼熱の聖剣。あらゆる方向からマキに斬り掛かり、『ダブルトレント』を叩き込み、グレイソードから大上段から振り下ろす。怒涛の連続攻撃を喰らったマキは吹き飛ばされるしかない。

 

ーーーーーーーーーー

 

「凄い……弱体化しているとは言え、マキ・イグドラシルを圧倒している!」

 

「まだだ!」

 

 勝利を確信しているアルファモン達だが、立ち上がったマキ・イグドラシルは不敵な笑みを浮かべながら、全身から暗黒のオーラを放ち始める。

 それに気付いたジエスモンが声を上げる中、マキの姿が変わっていく。偽りの姿から本来の姿に。背中に巨大な2門のキャノン砲と竜のようなオーラを背負い、四本の腕を持った合成獣のような姿をした邪神。その名前はミレニアモン。

 

「これがミレニアモン……マキ・イグドラシルの本当の姿!」

 

「違います。私は邪神ミレニアモン!」

 

「邪神ミレニアモンか……例えお前が変わろうと、倒される事に変わりはない!」

 

 しかし、このミレニアモンは邪神ミレニアモン。マキ・イグドラシルと一体化し、文字通り邪神となった千年魔獣。並大抵のデジモンでは勝てる筈がない。

 しかも本来の姿になった事で、11体の聖騎士による抑止力が消されてしまった。これでようやく本来の力を発揮する事が出来るようになってしまった。

 戦いが再開された。オメガモンはグレイソードを薙ぎ払い、太陽の灼熱で邪神を焼き尽くそうとするが、ミレニアモンは右手を前に突き出した。

 

「何!?」

 

 まるで何かを握り潰すような動きだった。それと連動しているかのように、オメガモンが放った太陽の灼熱が、まるで空間によって握り潰され、瞬く間に消滅していった。

 空中で太陽の灼熱が突如として消滅した。その事実にオメガモンのみならず、アーサーパラティヌモン達も驚きを隠せない。

 

「そういう事か……手の動きに合わせて空間を操作出来るようだな」

 

「察しが良いですね。そう。私は空間を自由自在に操作する事が出来る。そしてこういう事も出来る」

 

「ッ!」

 

 邪神ミレニアモンは空間を操作する事が出来る。元々彼女の必殺奥義、『タイムアンリミテッド』は時間を圧縮して異次元を作り出し、相手を永遠に閉じ込めてしまう物。それを応用させ、空間操作を会得した。人間とデジモンが一体化した事で生まれる新たなる力。それを得られるのはオメガモンだけではない。

 彼女が言葉を言い終えた次の瞬間、オメガモンの背後に邪神ミレニアモンが回り込む。今は空間移動を使用した。自分がいる場所の空間から、相手の背後の空間へと移動しただけ。

 そしてオメガモンが振り返ると同時に右手で顔面を鷲掴みにし、左手で聖騎士のいる空間を握り潰す。そして右手で掴んでいるオメガモンを遠くへと投げ飛ばす。

 

「グアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

「思っているより頑丈ですね……!」

 

「舐めるな!」

 

 オメガモンは空中で体勢を立て直しながら身体を捻り、ガルルキャノンの照準を邪神ミレニアモンに合わせ、青いエネルギー弾を連射する。

 迫り来る複数の青いエネルギー弾。邪神ミレニアモンは右手を前に突き出し、瞬時に空間を破壊する事で連続砲撃ごと消滅させた。遠距離が駄目なら近接戦闘で行くしかない。そう思ったオメガモンはグレイソードを構え、邪神ミレニアモンとの間合いを詰める。

 連続でグレイソードを突き出して邪神ミレニアモンを攻撃するが、空間を歪曲させてバリアを作り出したのだろう。繰り出した連続刺突が悉く弾かれた。

 それならば背後に回り込んで攻撃すれば良い。そう考えたオメガモンは一瞬で背後に回り込み、巨大な太陽の灼熱を生み出しながら斬りかかる。今の攻撃は確実に邪神ミレニアモンを捉えた。ダメージを与えたと言う手応えがあった。

 

「何!?」

 

「残念。今貴方が焼き尽くしたのは私の分身でした。砕け散れ!」

 

「グアアアアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 しかし、次の瞬間には悪寒を感じたオメガモンは咄嗟に上半身を捻りながら、一気に背後に飛び退いた。聖騎士が捉えたのは邪神の分身だった。

 邪神ミレニアモンは再び空間移動を発動して間合いを詰める。左手でオメガモンの顔面を握り締め、もう1本の左腕で右腕を掴み取る。

 不敵な笑みと共に破壊される空間。それと共に破壊される聖騎士の右腕。皮肉にも先程撃破したオメガモンXと同じ状態に追い込まれたオメガモンは、力なく地面に崩れ落ちると共に遠くに吹き飛ばされ、そのまま意識を手放した。

 

ーーーーーーーーーー

 

(これが邪神の力……強い。だが何故だろう……哀しく思えるのは)

 

 オメガモンは邪神ミレニアモンの事を強いと評しながらも、何処か哀しく思っている。悲惨としか言えない秋山千冬の人生。

 理不尽で巨大な悪によって大切な家族やデジモン達を奪われ、世界を憎みながら死んでいった。そして邪神へと転生した後、敵討ちをした。そこからは自分が経験した事が二度と起きない世界の創造へと動き始めた。

 人間とデジモンが共存し、争う事のない平和な世界。彼女の気持ちは分かる。もし自分も同じ立場だったら、そうしていたかもしれない。だが許せない事がある。それは今を必死で生きている皆を無視し、彼らを消し去った上で新しい世界を築き上げようとしている事。

 

―――僕はミレニアモンを、千冬さんを絶対に認めたくない。全てを奪われ、憎みたくなる気持ちは分かる。でも……だからと言って、関係のない人々を巻き込んで良い理由にはならない! 

 

 それは一真も同じだった。突然のディアボロモンの襲撃により、一度死んでからオメガモンとなって復活した。その時から彼が生きる平和な日常は奪われ、“デジモン化”し、今は精神と人格が死にかけている状態。

 似たような経験をしているからこそ、一真は秋山千冬を認める事が出来ない。彼女の行いを見過ごす事が出来ない。もしここで自分が倒れたらまた第二、第三の犠牲者が生まれてしまう。そうなれば、悲劇と言う名前の殺戮が何時までも続いてしまう。

 

(一真殿……まだ戦えるか?)

 

―――あぁ、何とか。でも本当にこれで僕を使えば、間違いなく僕は死ぬ。

 

(……)

 

―――本当は死にたくねぇよ! 僕だってまだやりたい事はあるよ! 美味しい物を食べたいし、スポーツもやりたい! 貰った給料で旅行したいし、たまには馬鹿騒ぎしたい! それにオメガモン……ずっと君と一緒にいたいよ!

 

 一真は涙声で自分の思いをぶちまける。本当は死にたくない。皆を守る為に、世界を守る為とは言っても、やはり死ぬのは嫌だ。死にたくない。どうにかして生き延びたい。

 でもここで自分が消えなければ、2つの世界はおろか、自分が守りたいと願って来た日常が失われてしまう。その狭間で一真は板挟みとなり、瞳から大粒の涙を流している。

 

―――でも誰かがやらないとなんだよね……その誰かがたまたま僕だったと言う話なら、僕はやる。僕一人の命で2つの世界を、そこに生きる皆の命と日常を守れるなら本望だよ。でも……残された皆はどうなるんだろうね。

 

(絶対に悲しむだろう。八神一真と言う一人の人間の命を奪ったデジモンを憎み、張本人たる私を恨み、憎み続けるだろう。だがそれで構わない。一真殿、例えこの戦いで死んでも君は死なない。君は生き続ける。何故か分かるか? 皆が君の事を覚えているからだ。本当に死ぬ時は、2つの世界にいる誰もが八神一真がいたと言う事実を忘れた時だ)

 

―――そっか。記憶に残り続ける限り、僕は生き続けるんだね。分かった……僕の全てを君に託すよ、オメガモン。僕の全てを使って邪神を滅ぼすぞ! 僕らの力で!

 

(あぁ、滅ぼすぞ! これが私達最後の戦いだ!)

 

 『電脳核(デジコア)』の鳴動が高鳴っていく。人間とデジモンが一体化する事で発揮される凄まじい力が具現化される。消えていたオメガモンの瞳に光が灯り、聖騎士が再び立ち上がった。その瞳から空色の閃光が放たれている。

 それを見たアーサーパラティヌモン達は悟った。八神一真と言う人間はこの戦いが終わったら消えてしまう事を。それでも最後まで生きる。例え無様でも、美しくても良い。死ぬ最後の一瞬まで自分がやるべき事をやり、それをやり遂げた後に消える。

 

「馬鹿な……まだ戦おうとしているのですか!? 貴方は……貴方は本当に聖騎士なのですか!?」

 

「聖騎士……あぁ、そうだな。だが敢えて言わせてもらおう。私はデジタルワールドと人間界を守る……守護神だ!」

 

 再起動して立ち上がったオメガモン。その姿に狼狽する邪神とは対照的に、守護神は威風堂々とした佇まいで言い放つ。この戦いに勝利するまでまだ終われない。理想の世界を勝ち取るまでまだ止まれない。止まりたくない。その思いがオメガモンにはある。

 その姿に圧倒され、無意識の間に後退りをする邪神ミレニアモン。同じ執念が彼らを動かしている。守護神は2つの世界に生きる者全ての日常を守る為。邪神は自分が理想として掲げる世界の実現の為。その執念のぶつかり合いが始まった。

 

ーーーーーーーーーー

 

「ギャアァァァァァァァァァーーー!!!!!」

 

「今のはお前が理不尽に殺したデジモン達の分だ。有り難く受け取れ!」

 

 先手必勝と言わんばかりに邪神ミレニアモンが動き出す。右手を再び突き出そうとするが、その直前に青色の流星が邪神の右腕を木っ端微塵に破壊した。

 ガルルキャノンを邪神に向けて言い放つオメガモン。ミレニアモンの右腕の一本を粉砕したのは、ガルルキャノンから撃ち出された青い波動弾。先程破壊された筈の右腕が復元している。しかも砲撃の威力や速度も上昇している。

 

「クッ! 『ムゲンキャノン』!!!」

 

「遅い!」

 

 邪神ミレニアモンは背中に背負っている2門のキャノン砲から超弩級の砲撃を撃ち込むが、その時には目の前にいた筈のオメガモンの姿が消失していた。

 何処に行ったのか。そう思って探ろうとした次の瞬間、グレイソードを下段に構えたオメガモンが目の前に姿を現し、太陽の灼熱を生み出すグレイソードを振り上げ、返す刀で振り下ろす。邪神を焼き尽くし、反撃を許さない程に苛烈な反撃が始まった。

 

「まだです!」

 

「コード・オメガ……『Omega-Gain-Force(オメガ・イン・フォース)』、発動!」

 

 オメガモンの怒涛の攻勢。それを止めようと邪神ミレニアモンが左手を前に突き出し、空間を握り潰すように握るよりも前に、オメガモンは胸部の紅い宝玉を輝かせて特殊能力を発動し、バックステップで後退する。

 グレイソードを構え直して横薙ぎに振るい、太陽の灼熱を以て左腕の1本を焼き尽くし、その熱量と輝きで消し去った。

 しかし、邪神は止まらない。残っている腕を前に突き出した瞬間、空間に流れている空気の流れが止まった。それと同時にオメガモンの動きも止まる。時間停止ならぬ空間停止。空間に流れている時間や何もかもを問答無用で止めた。

 

「成る程。これで私の動きを封じたつもりなのか」

 

「何がおかしいのですか?」

 

「私の究極奥義を忘れたとは言わせないぞ?」

 

「ッ! まさか……!」

 

「『初期化(イニシャライズ)』!!!」

 

 身動きの一切を封じられたにも関わらず、不敵な笑みを浮かべているオメガモン。彼にはこの状況を打開する究極奥義がある。

 それを思い出すと同時に自分の失敗に気付き、即座にオメガモンいる空間を握り潰そうしたが、邪神の行動はワンテンポ遅かった。

 オメガモンはグレイソードの刀身に生命エネルギーを流し込み、純白に光り輝く聖剣―『オメガソード』にすると、空間停止の牢獄から抜け出して邪神との間合いを詰めるべく、全力で駆け出す。

 

「『タイムアンリミテッド』!!!」

 

「ハアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 邪神ミレニアモンは最後の悪足掻きと言わんばかりに、時間を圧縮して異次元を作り出し、オメガモンを永遠に閉じ込めようとしたが、聖騎士は異次元を初期化し、消滅させて『タイムアンリミテッド』を不発に終わらせた。

 聖騎士を空間ごと破壊しようと、両腕を前に突き出して握り潰す邪神。邪神を薙ぎ払おうとグレイソードを一閃する聖騎士。2体のデジモンが交差したその瞬間、最終決戦は終わりを告げた。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・クレニアムモン・フェルグスの正体

分かっていた人はいたかと思いますが、『デジモンセイバーズ』に登場したクレニアムモンでした。やっぱりクレニアムモンと言えば彼でしょう。
マキの所にスパイとして潜り込んだのは、マキが造ったクレニアムモンを殺害したからです。パラティヌモンの封印場所も彼が教えてくれました。

・消された『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』

マキによって粛清された彼らが、オメガモン達に実は協力していた。
彼らの活躍が無ければ……恐らく負けてました。

・ミレニアモンの攻撃技

イメージは『空の境界』の荒耶宗蓮です。空間を握り潰して相手を攻撃したり、攻撃を無効化したりする。攻防一体・変幻自在、予測不能。

・一真の思い

死にたくない。生きたい。この感情は人として当然なのですが、彼は自分の命と世界を天秤にかけ、世界を選びました。


裏話はここまでになります。
皆さん。よろしければ感想・評価・お気に入り登録の方よろしくお願いします。
あたたかい感想とか前向きなコメント、アドバイスやモチベーションが上がるような応援メッセージや高評価を頂くと、作者のやる気が究極進化します。

それでは次回、もとい最終話をお楽しみに。LAST ALLIANCEでした!

次回予告

ミレニアモンとの戦いに決着が付き、戦いが終わった。
これが意味する事は世界の再編。そして1人の人間の死。
相棒の死を胸に、聖騎士は前に進み出す。

最終話 聖騎士と青年





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第39話 聖騎士と青年

今回で最終回になります。実質後半はエピローグ状態なのですが。
ここまで読んでくれた読者の皆様、本当にありがとうございました。
別の小説でもよろしくお願いします。


「勝った……オメガモンが勝った!」

 

 お互いに背中を向けたまま、静止しているオメガモンと邪神ミレニアモン。邪神ミレニアモンがゆっくりと崩れ落ち、地面に倒れ伏せたその瞬間、オメガモンの勝利が確定した。

 デジタルワールドと人間界を統合させ、新世界を創ろうとした邪神を倒した。その事実に歓喜し、アーサーパラティヌモン達が歓声を上げる中、オメガモンは両手の武器を戻して微笑みを浮かべる。

 

「私が……負けた……」

 

「あぁ。私と一真殿の勝ちだ」

 

「何故……何故私を『初期化(イニシャライズ)』しなかったのですか!?」

 

 地面に倒れ伏せている邪神ミレニアモンは元々の姿―秋山千冬に戻っていた。彼女は目を覚まして天井を見上げながら呟くと、立ち上がってオメガモンに尋ねる。

 最後の攻防でオメガモンは『初期化(イニシャライズ)』を解除し、『グレイソード』を使用して戦いに終止符を打った。そうすれば邪神を初期化する事が出来た。それを自ら放棄した事が千冬には信じられない。

 

「貴方が哀しき悪だからだ」

 

「何!?」

 

「貴方と戦っていた時、大切な物を守れなかった悲しみや世界への憎しみ、力がない事への無力さが伝わって来た。その時に決めた。貴方の命を奪わない事を」

 

 オメガモンが邪神の命を奪わなかった理由。それは彼女が悪ではないと気付いたから。彼女はやり方がかなり強引だが、悲しい過去を秘めていて、自分のような犠牲者を出さない世界を創ろうと計画を進めて来た。

 人間とデジモンが手を取り合い、共に生きていける理想郷。その理想郷を作る為に、目の前の試練を乗り越えようと頑張っている人々や、今を生きている人々を消し去ろうと言う考えは間違っている。これではかつて自分から全てを奪おうとした理不尽な悪と同じではないか。それをオメガモンは千冬に気付かせようとしている。

 

「貴女は転生する前、一人の人間だった。理不尽な悪に全てを奪われ、世界に絶望して邪神になった。私は貴女の抱いている思いや掲げる理想は間違っていないと言える。でも、やり方が駄目だった。何の罪もない人間やデジモン達を殺戮し、新世界を創る事はまた貴女のような犠牲者を生み出してしまう! そして私のような存在を生み出してしまう! もう止めようよ……こんな悲劇は。ここで終わりにしよう」

 

「私のような者がまた生まれると言うのですか……!?」

 

「可能性は無きにしもあらずだ。私は気付いた。お互いに同じ物を見ているのに、何処か違う景色を見ている事に。それはお互いに歩んだ道が違うからだとやっと気付いた。私は一真殿と出会い、人間の美しい所や醜い所を沢山見て来た。沢山の事を教えられ、大切な事を改めて思い出させてくれた。私も貴女の言う、人間とデジモンが共に生きていける世界を実現させたいんだ!」

 

 オメガモンの真っ直ぐな思いが込められた言葉。それに応じるように、アーサーパラティヌモン達も歩み寄り、彼女に手を差し伸べる。

 邪神と謳われる自分に手を差し伸べようと言うのか。全ての黒幕とも言える相手を許そうと言えるのか。戸惑いながらも聖騎士達を見渡す千冬の目の前で、オメガモンは自ら進化を解除して一真の姿に戻った。

 

「これからも僕らは未来に向かって突き進みます。貴女はどうしますか、秋山千冬さん?」

 

「私は……私も一真さん、貴方の言う世界を実現させたいです! 人間とデジモンが共に生きていける世界を見てみたいです!」

 

「一緒に実現させましょう。人間とデジモンが共に生きていける理想の世界を……そしてやり直しましょう。大丈夫ですよ、これから始まるんですから」

 

 一真は優しい笑顔を浮かべながら千冬に手を差し伸べると、千冬は一真の優しさに涙を流しながら頷き、その手を取った。お互いに目を合わせ、頷き合う一真と千冬。

 2人に寄り添うアーサーパラティヌモン達も貰い泣きしている。こうして長いようで短かった戦いは幕を閉じた。

 

ーーーーーーーーーー

 

 戦いが終わった後、人間界に戻った一真達。一部始終を全て報告すると、薩摩は一真の死が近付いている事を知り、涙を流した。クダモンも自分の命を捧げ、2つの世界を救った一真の意志に泣く事しか出来なかった。

 八神一真が生きられる時間は残り少ない。その現実を突き付けられ、局員達の間では動揺が走るが、一真の一喝によって静まった。他人の心配をしている暇があるのなら、自分に出来る事をやろう。その言葉が局員の心に届いた。

 

「これで良かったんでしょうか?」

 

「それは分からないよ。僕が良かったと思えば良かったし、他人が悪いと言えば悪いと思われるだろうね……」

 

 両親に報告したら大泣きされ、悲しい思いをさせてしまった一真。それに同行していたアルトリウスは複雑な表情を浮かべている。

 親を残して死のうとしている一人息子。両親がこれを知ったら悲しむ筈。一真も悲し気に表情を浮かべているが、一度決まった現実を覆す力はない。

 

「でもこれから始まるんだ。僕らの世界が。やらなきゃいけない事は沢山ある」

 

「はい。人間は誰もが必ず失敗します。アーサー王もそうでした。完璧な人間など何処にもいませんけど、失敗から逃げるか、そこから這い上がろうと進む道を選ぶ事が出来ます。目の前のチャンスを活かすかどうか。それは我々の手に委ねられています」

 

「あぁ。人間界とデジタルワールドがこれから手を取り合えるか。それは僕らの頑張り次第だね。アルトリウスさん。今までありがとう。オメガモンをよろしくね」

 

「私の方こそ、今までありがとうございました。どうか……お元気で」

 

 一真とアルトリウスは握手を交わした。お互いにこれまでの日々への感謝を告げると、一真はアルトリウスにオメガモンの事を託し、アルトリウスは一真に再会出来る事を願う。

 邪神ミレニアモンとの最終決戦が終わって数日後。一真は自室で安らかに息を引き取った。両親や優衣、アルトリウス達等の自分の仲間達に囲まれ、彼らへの感謝を告げて幸せそうな表情で命を燃やし尽くした。

 

ーーーーーーーーーー

 

 それから数か月後。デジタルワールドと人間界で大きな動きが見られた。人間界にデジモンの出現の頻度が激減した事を踏まえ、大幅な人事異動が行われる事となった。

 オメガモンを含んだ『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』に所属している聖騎士達。彼らはマキが吸収した事で、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』の大半が不在となったデジタルワールドを守る為にデジタルワールドへと戻っていった。正確には人間界からデジタルワールドにお引越ししていった事となる。

 アーサーパラティヌモン。彼女は聖騎士王の二つ名の通り、『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』を統べるポジションに落ち着いた。生前のアーサー王と同じポジションとなり、同じ間違いを二度と繰り返さない事を誓っている。

 ちなみにクレニアムモンがダブってしまった事については、フェルグスが人間界に残る事が決まった。それに伴い、スレイプモンことクダモンも人間界に残る事を決めた。やはり薩摩と一緒にいたいみたいだ。更に人間界で何か起きた時への備えになる。

 桜井竜也ことレクスフェンリスモンは人間界に残り、会社員への転職を決めた一方、オメガモン・Alter-Bはデジタルワールドに移住する事を決めた。どうやら人間界にはあまり馴染めなかったみたいだ。

 バグラモン一家は人間界に残る事を決めた。どうやら人間界での暮らしに馴染み過ぎた為、愛着が芽生えたらしい。これにはオメガモンも苦笑いを浮かべるのがやっとだ。

 『七大魔王』の面々も人間界に残る事を決めた。デジタルワールドでの刺激のない日々に嫌気が差していた為、人間界では仕事に追われながらも有意義な日々を送れる事に喜びを見出せたようだ。

 ノルン・イグドラシルと秋山千冬。彼女達は神の力をホメオスタシスに託すと、超巨大な図書館となった世界樹イグドラシルで司書として仕事をしている。助手としてウィザーモンとテイルモンを雇い、ウィザーモンを歓喜させ、テイルモンを呆れさせたと言う。

 ホメオスタシス。彼女は『聖騎士団(ロイヤルナイツ)』が仕える主君として、デジタルワールドを治める神様として仕事をしている。デジタルワールドも分割統治から単独統治へと変わり、先ずは復興政策を打ち出して復興に励んでいる最中だ。

 

「一真殿……」

 

 人間界。かつて一真が最初にオメガモンとなった場所。東京都のお台場。そこにいるのはオメガモンではなく、八神一真そっくりの人間。彼の名前は八神カズマ。オメガモンの人間体であり、人間界で活動する時の名前。

 オメガモンは完全に人間とデジモンが融合した聖騎士となったが、その代償に八神一真を失った。自分が一真を殺した。今でもその罪悪感に苛まれ、その場所に行く度に小さなお墓にお花を添えている。そのお墓は皆でお金を出し合い、作った物だ。

 果たして一真が幸せだったのかはオメガモンには分からない。彼は自らの命を燃やし尽くした事で、人間界とデジタルワールドの2つの世界だけでなく、彼らの命と生きる日常を守り抜き、笑顔でこの世を去った。

 しかし、オメガモンは確信している。もし輪廻転生と言う理がこの人間界にあるのならば、きっとまた何処かで出会えると。その予感があった。

 

―――オメガモン。君は人間達と共に、そしてデジモン達と共に生き続けてくれ。そして僕が叶えられなかった理想を叶えて欲しい。人間とデジモンが共存できる世界の実現を。今までありがとう。また会おうね。

 

「一真殿……」

 

(私の命は一真殿によって繋がれた。一真殿が守った世界を守り続ける。それが一真殿から託された使命。そして人間とデジモンが共存できる世界を実現させてみせる!)

 

 オメガモンことカズマが思い出したのは一真の最後の言葉。一真が亡くなる事で、オメガモンは人間の姿になる術を会得しなければならなくなった。彼が選んだ人間はもちろん一真。数日間の修行の末、ようやく一真の姿になる事が出来た。

 その努力の成果を見届けた一真。人間とデジモンと共に生き続け、彼らが共存できる世界の実現を改めて約束し、これまでの感謝を告げると、息を引き取った。次に目を覚ました時、八神一真はオメガモンとなっていた。

 自分の盟友であり、恩人の彼の名前を名乗る事を決めたオメガモン。彼は一真が守り抜いた世界をこれからも守る事を胸に誓い、彼の理想を叶える為に、明日に向けて歩き始めた。

 




LAST ALLIANCEです。
今回も後書きとして、本編に出たデジモンや内容の裏話を話していきます。

・ミレニアモンとの和解

本当はオメガモンのライバルにしたかったのですが、本編に書いた通り、不毛な争いを繰り返したら、また犠牲者が出てしまうと考えて和解に落ち着きました。

・一真の死

前回でも触れていましたが、今回の戦いで一真は命を燃やし尽くしました。
続編では彼は登場しません。
FGOとクロスした小説ではとある方法でオメガモンとなり、転生しますけど。

裏話はここまでになります。
この小説が今回で終わるのは、サブタイトルの”オメガモンとなった青年”が死を迎えると言う事で、一度終わりにしようと思ったからです。
バッドエンドかと言われればバッドエンドかもしれませんが、主人公から見ればハッピーエンドです。続編では主人公は出ませんが、名前は結構出てくる予定です。
続編はカオスデュークモンの事(スルーしてた訳ではないです)や、厄災大戦で活躍したデジモン全員集合等、この小説で回収しきれなかった事をメインにやっていきます。
主人公はオメガモンではなく、別のデジモンにします。タイトルはオメガモンですが、彼は『時を駆ける少年ハンターたち』のタイキ君みたいなポジションにしようと思います。
ここまでお付き合いして頂き、ありがとうございました!

続編等の別の小説でお会いしましょう! LAST ALLIANCEでした!


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