東方鞍馬録 (Etsuki)
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プロローグ

 こんにちは、zakkuです。基本読み専の癖に書きたいからって投稿しました。ハーメルンでは初投稿です。
 いろいろと駄文ですが、読んでくれたらめっちゃ嬉しいです。

 それじゃあ、東方鞍馬録はじまるよっ!


 君は鞍馬天狗という天狗をご存知だろうか?

 

 鞍馬天狗、それは今の世の中でも有名な源義経に剣術や兵法を授けたと云う伝説の天狗だ。

 

 今の世の中では、そういう話にしたかった僧が作った話だとか、源義経の父親、源義朝の意志を継いだ者とか言われている。

 

 だが、残念ながら源義経に剣術や兵法を授けたがどうかは知らないが鞍馬天狗は『実在』する。

 

 そして何を隠そう、その鞍馬天狗が俺、鞍馬天鴎(くらまてんおう)だ。

 

 しかし俺達、鞍馬の天狗は天狗の中でも人々の記憶の中に残り力が強い天狗ではあるが、王道の天狗ではなかったりする。

 王道の天狗というのは、昔話でよく語られる人が天狗を騙し、その天狗の道具によって悪戯をする有名なとんち話に出てくる天狗だ。

 

 そうゆう天狗とは全く違い俺達鞍馬天狗は道具や術を使うのを放棄し、ほぼ武術だけで強さを追い求めてきた。

 

 それらの影響で、俺達鞍馬天狗は忘れられた者達が集まる『幻想郷』という場所に入ったのは他の鴉天狗と比べるとかな~り遅い方だったはずだ。

 主な理由として忘れられる事の弱体化と、存在が薄くなることを利用して修行するアホだったからだ。

 

 そんな中俺もそういう修行をした。死にそうになったが。

 だが、俺にはそういう事しかできなかった、鞍馬天狗は嬉々として修行と称して襲いかかってくる。そのせいで、武術の修行は死に物狂いだった。

 

 おかげで、俺はおかしい程強くなったが。

 

 

 おかげで、程度の能力も手に入れ頭狂った鞍馬天狗になったけど。(レベルアップ)

 

 

 だが、この脳筋共ようやくそと世界で修行してても不毛な事に気づき、強さを極めた後をどうするかも考えていなかった事に今更ながら気付いた。

 俺も危うく忘れかけていたんだけど。

 

 そして、何でと問いたくなるようなその脆弱な情報網で、不思議なことに幻想郷という存在を見つけ出した鞍馬天狗達。

 皆、諸手を上げて喜びロクな確認もせず幻想郷への移住を決めた。

 俺も難しい事は考えることを放棄していた。

 

 そんな頭パーパーで来た俺達鞍馬天狗達は何故か迷わずに幻想郷へ来れたが、そこでの住居が無い事に気付いた。というか当たり前のことなのだが。

 だが、俺達は頭おかしい鞍馬天狗。

 適当に人も妖怪もいなそうな森に何故か得意な土木と建築を駆使して約三日で約五十人が住める集落を作り上げてしまった。

 柵や畑、田んぼ、上下水道、用水路、ボスの家込みで三日である。

 

 そして、なんやかんやで俺達が住み始めて一年ぐらい経った時、この幻想郷の管理人だというスキマ妖怪とその式神がやってきた。

 というか、そのスキマ妖怪は知り合いで八雲紫だった。

  

 結構昔に下践な妖怪共に追いかけられていたときに偶然俺達と出会って助けたのだ。

 その時は、八雲紫も強くなく、一人じゃ対処するのは難しかったらしい。

 

 近所のアニキがそいつらを五分で片付けたと聞いた時は八雲紫もビックリしていた。

 オヤジは一分も掛からず殲滅出来そうなので俺は驚かなかった。

 

 うん、おかしいな。

 

 まぁ、幻想郷に入れたのも実はそこら辺の恩があったからだったりする。

 入る時は次元を無視する特別な歩法で結界を無視したから意味ないかもしれんが。

 

 ま、そういう事で八雲紫から自分の式の紹介と幻想郷の説明を聞き、俺達の頭に入っているかは怪しいが満足した顔で紫はスキマから帰って行った。

 しかし、案の定頭に入ってなく後日、鞍馬の頭首がしっかりと話しをききに行きました。

 哀れ、紫。

 

 俺は、ちゃんと常識はカケラ程度かもしれないがあるので、ちゃんと覚えている。 

 俺はコイツラより常識は有るのだ。多分、たぶん、メイビー。

 

 ま、それには理由がある。

 

 すごく唐突なカミングアウトとなるが、俺には俗に言う前世知識というものがある。

 最初こそ、その心と体、人間と妖怪という違いで戸惑ったものの、厳しすぎる修行とある事件のせいでそんな戸惑いは吹っ飛んだ。

 つまり、俺は生きるために人間の感性などどこかにかなぐり捨てた、といよりかなぐり捨てられたということだ。

 実際、あんな修行の日々で人間の感性と常識でいては、今頃狂っていただろうし、最悪の場合精神崩壊を起こしていたかもしれない。

 そんな状態になる程みんな修行だいちゅきなのだ。

 

 ただ、最初からか修行の日々のせいなのか、前世知識はほとんど覚えておらず、前世の自分がどんな人間だったか解らないし、前世の親の顔も解らない。

 しかし、何故かアニメやゲームなどのサブカルチャーの知識だけは結構覚えていた。

 多分、この知識の偏りようから察するに前世の俺はろくでもない人間だったのだろう。

 

 親の顔がみてみたいぜ。(混乱)

 

 

 まぁ、話を戻すが、鞍馬天狗はそれからは、意外にもおとなしく、穏やかに幻想郷で過ごしていた。ただし、過激過ぎる鍛錬はいつも通りだが。

 時々、八雲紫とかから頼まれるゴダゴダの解決依頼でははめを外すものもいたが、他者を不用意に傷つけることなど誰もしなかった。

 

 けれども、皮肉なことにトラブルの種は外側から舞い込んできた。

 

 俺達と違って無駄にプライドの高い奴らの多い妖怪の山に住んでいる鴉天狗達が、天狗の威厳がどうたらこうたらとかで、俺達鞍馬天狗に収集をかけてきたのだ。

 そして、支配系統とか、興味も知識もない鞍馬天狗はそれをボイコット。

 名前も知らない同族の収集と厳しい修行ではどうやら修行の方に天秤が傾いたようだ。

 当たり前だが、妖怪の山の鴉天狗は怒り心頭。

 危うく、鞍馬天狗と妖怪の山の天狗との戦争にまで発展しかけた。

 

 だが、そこは幻想郷の賢者たる、八雲紫が両者を宥め、和平の提案してくれた。

 そして、両陣営の話し合いの場が設けられ、幾つかのことが決定された。

 

 何でも、鞍馬天狗を少しの間ではあるが、妖怪の山の天狗とは違う扱いにするそう。

 ただ、両陣営の天狗の数は昔に比べ減少傾向にあるため、いずれは合併の流れにするそう。

 あと、両陣営での技術指南をするらしい。

 妖怪の山の天狗は妖術を、鞍馬天狗は武術を共に教えあう事になったそうだ。

 そういう事で、両者共に交換留学生みたいな人材を試験的に送る事になったらしい。

 

 本当、オヤジと爺さんが修行ちゅきちゅきだったらこんな事までちゃんと決まらなかっただろう。

 

 でた、交換留学生みたいのなら当然鞍馬天狗からも誰かを派遣しなくてはならない。

 ここまで言えばなにが起こったのか察しのつく人もいるだろう。

 そう、鞍馬側から誰を送るかで揉めに揉めたのだ。

 妖術を学びもっともっと強く成りたいという奴らが大勢いてその内数名の派遣は決まりそうだったのだが、妖怪の山の天狗と選ばれなかった天狗がずっと拒否ってたおかげで、決まるに決まらず、妥協点として、鞍馬天狗のボスの孫である俺が試験的に派遣される事に決まった。

 

 

 なぜ??

 

 

 まあ、そんな経緯があって俺は今、妖怪の山で今マイホーム作りに勤しんでいる。

 家すら用意してもらえたかった訳では無いが、ボロ家を紹介されたので、それを蹴って新しくマイホーム作る事にしたのだ。

 

 俺のほうが立派な家を作れるんだからね!(錯乱)

 

 幸いに鞍馬天狗は土木が大の得意だ。

 一夜城とか結構作ってきた。

 理由は…各自で察して欲しい。

 

 とりあえず、もう家はそろそろ完全間近だ。

 水道をひき、立派な家具も作った、低反発ベットもある。

 

 やっぱ、鞍馬の妙な技術力はさいこーだな。

 

 さてと、仕上げに少しの外壁と断熱材を仕込んだり庭を作ったりしますか。

 

 俺は意気揚々と作業に取りかかることにする。さーてと、庭はそんなでかくなくていいし、断熱材は日本建築故そんな使わんかったし、すぐに終わるかな。

 

「あやっ!!本当に3日で立派な家が建ってますーー!!」

 

 おっと、客がきたようだ。

 俺は、今しがた来た天狗の方に顔を向ける。

 

 短い黒髪にフリル付きの黒スカート、白シャツと赤い山伏風の帽子というもはやその帽子に天狗的な意味は期待できないのではとツッコミたくなるような格好をした鴉天狗の少女。

 

「いやぁ、これはイイネタですね、有り難く使わせて貰いますよ。どうせ後からは技術指南しなきゃいけないわけですしね。」

 

 俺は、はぁとしか言うことができない。本当にこの娘やる気有るのか。この交換留学上手くいかなかったら妖怪の山との関係どうなるんだろうな。

 俺はそう妖怪の山の天狗達と鞍馬天狗の将来を案じ憂鬱になる。

 

 まあ、とにかく最悪の事態にならぬよう俺が頑張らねばいけない。

 とにかく、目の前で俺の家を撮りまくっている技術指南役に選ばれたこの少女を引っ張って本来しなければいけないことをすることにする。

 

「ほら、さっさと仕事してください、射命丸さん。あなたの仕事だろ。」

 

「え~、せっかくの特ダネがぁ~~、あ、私のことは気軽に(あや)ってよんで良いですよ。」

 

「はいはい文、仕事仕事。」

 

「は~い」

 

 こうして俺の1日は過ぎていく

 

 

 そんな俺こと鞍馬天鴎は、頭オカシイ鞍馬天狗に染まりきった一員で、今は妖怪の山で世話になっている、いや自給自足しているただの頭オカシイ天狗だ。

 兎にも角にも、今は鞍馬天狗と妖怪の山の天狗達の平穏な将来を祈り、射命丸文という鴉天狗の少女との接し方を測りつつもどうにかするしかないと覚悟を決めている。

 

 

 

 どうやら、そんな俺の幻想郷での苦労譚はここから始まるらしいのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、苦労譚なんて始まらんといてくれよ。

 

 




 この作品は作者がただの勢いで書いた物です。
 マンガも基本的にはYouTuberにアップされてるような二時創作を見ている事が多くとてもにわかです。公式の小説もマンガも読んでみたいけど読んだ事ありません。
 それに路線的にはラブコメ擬きか、バトル物擬きになりそうです。

 それでも読んでくれたなら幸いです。

 これからも宜しくお願いします。
 


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鞍馬の1日

 ただの勢いで書いたこの作品、いつまで続くやら。

 因みに、ヒロインは文。

 ちなみにこの話はただの紹介なので飛ばしてOKです。


 こんにちは、俺は鴉天狗の鞍馬天鴎。

 俺はスーパー脳筋で名高い、鞍馬天狗のボスである鞍馬僧正坊の孫でもある。

 

 俺は妖怪の山に最近一人で引っ越してきた。

 なんでも、鞍馬と幻想郷の天狗との友好を深めるために実施された交換留学生みたいな物に俺が選ばれてしまったらしく、引っ越しを余儀なくされたのだ。

 

 しかしそこで、俺は奇跡的に平和なスローライフを送れていたりする。

 ほんとに、何で鞍馬天狗と妖怪の山の天狗達が喧嘩せずにここまで無事に交流できているのか不思議でしかたない。

 まあ、予想はついているが。

 多分、これは八雲紫のおかげだろう。

 もともと、幻想郷でも絶大な力を持つ古参の大妖怪だ。

 その発言力は主に妖怪の山の天狗に大きく影響を及ぼしたのだろう。

 

 鞍馬側に影響は‥…ないな。

 

 逆に、八雲紫を近所の子供扱いしている節があるな。

 中身は子供とかそんな歳はとっくに過ぎているが。

 

 

 ま、そんなことはさておき俺のスローライフを紹介したいと思う。

 男の1日など知りたくはないと思うが、そうしないと話しが進まないんでな。

 

 まず、朝6時、起床

 俺はこの時間に目が覚める。

 本当はもっと遅くまで寝ていたいのだが、自家栽培してる野菜を見ないといけないので、毎朝ふらふらとする足と霞む視界の中、野菜をいじっている。

 

 朝6時半、二度寝。

 だってぇ~、眠いし~、朝は弱いし~、起きてられないだもの~。

 …止めよこの口調。

 

 次、7時半、起床。

 やはり、霞む視界の中朝飯を作り始める。

 様子を見にきた親族には、目が閉じている用にしか見えないのに、高速で手元が動いていてビビったとコメントしてくれた。

 解せぬ。

 

 朝8時、日課の鍛錬を開始。

 この鍛錬の内容はただだに木刀を振るだけ。

 が、こういうのは、爪の先まで意識して、自身の理想のイメージに近づかせれば、ただ木刀を振り回すより全然鍛錬の結果が違ったりするし、適当にはできないものだ。

 

 朝9時、武器の手入れ&洗濯。

 武器の手入れは流石に毎日してるから、時間はそこまで掛からないが、自身の命を預ける物だから丁寧に手入れする。

 洗濯は一人暮らしなのですぐに終わる。

 

 朝10時、文が飛んでくる。

 来る時間にはバラつきがあるが、だいたいこの時間。俺が此処に来た理由の妖術に関する事を教えてもらう。

 ちなみに、文がこの時間にくるのはあわよくば飯を食わせて貰おうとか思ってるからだ。

 自分で作れよそれぐらい。

 

 朝11時、飯の準備をしながらの妖術講座。

 昼飯は文の分も有るので二人分。時々はリクエストに答えたりもする。

 …甘いかな、俺。

 次来たとき、ビシッと言っておこう。

 

 正午、昼飯だ。

 まぁ、さっきはあんな事言ったが正直言って、誰かと食卓を囲めるのは俺としては結構嬉しかったりする。

 だが、度かすぎる程に図々しく飯をたかるのであれば鉄拳制裁を下すが。

 

 午後3時、この時間まで妖術講座は行われる。全体としては3時間半と言ったところ。

 短いように思えるかもしれないが、こちらはそもそも基本的な寿命から違う妖怪だ。これぐらいで良かったりする。

 

 午後4時、遅い時間の家事を始める。

 家の掃除などは妖術を使う。習ったばかりの頃に妖術を使おうとしていて、最初はてこずったが、今は普通にするよりも早く終わらせる事ができるように成った。

 結構便利。

 後、文は妖術講座が終わったら帰ったりする事もあるが、最近は基本的に家でまったりとしている。

 結構気まぐれ。

 勿論、夕飯もたかっていく。

 

 午後5時、夕飯の準備をしながら、やはり家事をする。

 昼飯同様、文は夕飯も食っていくので二人分用意する。

 

 午後6時、夕飯。

 こちらも昼飯同様、文と食卓を囲む。文の食いっぷりはとても良いので、作る側としては嬉しい。

 

 午後7時、食後の運動。

 夕飯の後、少しまったりとしてから鍛錬を開始する。足元がよく見えない中でするのは、視覚に頼れない分とても良い鍛錬になる。

 文からは、暗闇の中で木刀が出す音が刹那の間に何回も鳴りすぎてもう意味が分からないといわれた。

 解せぬ。

 ちなみに、これぐらいの時間に文は帰る。

 

 午後8時、風呂とかなので、説明は要らんだろう。

 

 午後9時、妖術の鍛錬。

 だいたい午後10時ぐらいまで適当にやる。

 

 午後11時就寝。

 

 

 というようなサイクルで俺は生活している。

 比較的、マトモな生活を送れているだろう。俺も結構満足できる生活を送っている。

 

 ん?

 

 何でこんなドコにでも有りそうな生活を紹介したかって?

 

 

 それは、この生活が…俺の中で革新的だったからだ。

 

 それ程までに鞍馬の生活は酷い。このようなまともな生活を送る者がどれだけいたか。いや、いたか?

 

 ま、まぁ、鍛錬にのめり込んでいるものはヤバい。日程がヤバい。

 幻想郷に来てから少しはマシになったが、それでもだ。

 

 

 例として、幻想郷にくる前の鞍馬天狗の一番酷い日程を教えよう。

 

 午前4時、起床。そして鍛錬。

 この時はただひたすら素振りを行う。より無駄なく、誰よりも速くと延々と木刀と呼んでいるそこら辺の大岩よりも重い剣を振るっている。

 

 午後6時、30分休憩。

 この時間に朝食を済ませる。そして瞑想に入る。何でも短期間に体を回復させるのも鍛錬の一環だとか。

 

 正午、6時半から続いた鍛錬に一息入れおわったら午前の鍛錬。午前の鍛錬は体を使った実戦想定の鍛錬だ。走法や歩法をここで鍛錬する。

 休憩の仕方はさっきと同じ。

 

 午後6時、これまた阿呆な程続く鍛錬に一息をいれる。

 午後は実際に試合をしたり、物をスパスパ斬ったりする。

 基本、鞍馬が森で鍛錬すれば切り株に成ってない木はほぼ存在しないと考えていい。

 

 深夜2時、軽い休憩として、二時間の休み。

 そして、ほぼ全ての鞍馬天狗は座ったまま、精神集中を途切れさせないまま就寝する。

 殺気を当てれば、すぐさま刀を抜いて斬りかかってくるだろう。

 

 だいたい、こんな日程になっている。

 だが、本当の馬鹿はそもそも休憩を入れずに、鍛錬をマジの意味でオールデイする。

 そもそも、食事もいらないし睡眠もそうだ。

 

 基本、鍛錬しかしていないような種族である。

 それに誰も疑問を持たないのだから、この中には戦闘狂しか存在しない。一応、研究職もいるが。

 

 兎に角、俺は感動したのだ。あんな修行地獄から解放されて。

 鞍馬の血は恐ろしい物で、修行地獄に苦を感じる事はなく、逆に気づいたら修行にのめり込んでいる。そして副次効果として、理性がどんどん薄れていくのだ。常識という理性が。

 

 

 本当に幻想郷に来て良かった。

 同族の皆もここに来てからは普通に畑仕事とかし始めてまともになってきたし。

 

 これらの説明から、鞍馬の異常性を伝えられたら俺は嬉しいと思う。

 鞍馬天狗は筆舌に尽くしがたいが、生温い戦闘種族ではない。

 

 鞍馬天狗…マジ恐ろしや。

 

 

 




 終わらすのが難しい。
 
 ちょっとグダッタ。


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妖怪の山の事情

 初感想!!ありがとうございます。
 励みになります。今回は文視点です。
 それでは、どうぞっ!!


 side 射名丸文

 

 

 最近、妖怪の山をある話題が駆け抜けた。

 と、言っても何十年も前の話しですか。

 それは、外からこの幻想郷に入ってきたある妖怪がその原因らしく、普通、私達妖怪の山の鴉天狗がただの妖怪が入って来た程度では驚きはしませんが、なんと驚くべきことにその妖怪はもう外の世界にはいないと思われていた同族、鴉天狗だったのです。

 

 このことを知った妖怪の山の鴉天狗は当然混乱しました。

 勧誘をするべきだと主張するもの、自分達に従わせたい者、不干渉を主張するもの等々、いろいろな者が出てきてとても個人的には面白い事になっていたのですが、ここで意外なところからの意見で事が決まりました。

 なんと、天魔や長老達が彼らへの不干渉を言い渡したのです。

 この決定に場は騒然としましたが決定は決定。

 ましてや彼らは天魔や長老達、その決定に逆らう訳にはいきません。

 とりあえず、彼らの処遇についての集会は解散。

 彼らも納得していなかったようですか、逆らいはせずにすごすごとかえっていきました。

 ただ、私からしたらこれはスクープの予感がぷんぷんするものです。

 調べれる機会があったなら、徹底的に調べてやろうと心に決めました。

 

 まぁ、そんなこともあり、表だって彼らのことを噂することはできなくなり、私も新聞のネタにできないので、彼らの話題も少しずつ落ち着いて来ました。

 

 ただ、私が興味本意で彼らの拠点をみに行ったとき、それほど日にちが経っていないはずなのに、立派な村が出来上がっていたときはとても驚きました。

 

 なんと言うか、その村の完成度はまだ建設してから数ヵ月しか経っていないにも関わらす完璧であり、実際に見た時はこの目を疑ってしまいました。

 それほどに有り得ない出来でした。

 これをスクープ出来ないのはかなり悔しかったですね。

 

 そして、次に事が動いたのは何十年か経ったある日でした。

 残念ながら彼らとの関係を悪くしてしまう事態をこちらの側の天狗が起こしてしまったのです。

 

 彼らは天魔様に忠誠深い比較的若い者達だったのですが、何を血迷ったのか、天魔様に挨拶の一つも無しだとはなんたる無礼だとかいいながら彼らの拠点めがけて突っ込んで行ったのです。

 しかも、彼らは比較的若いと言っても勇猛果敢な武道派連中。

 敵の一人二人位は何らかの傷を負わせて、帰って来てしまうかも知れません。

 そうなればあちら側も黙ってはいませんでしょうし戦争は免れないでしょう。

 

 しかし、その心配は杞憂でした。

 いくら経っても帰って来ない彼らは、妖怪の山近くの木に簔巻きにされて吊るされていました。

 彼らには特に外傷もなく、意識だけを的確に刈り取られた事が伺えました。

 

 その後、彼らは天魔様のもとまで連行されて、事情聴取を受けました。

 彼らは非常に悔し気な顔をしており、渋々何が起こったのかを説明していたそうです。

 

 何でも、彼らは門番として立っていた男達に一瞬で意識を刈り取られたらしいです。

 まあ、彼らの要求もいきなり我らの支配下に置いてやるから一番上の者を出せという無茶苦茶なものでしたから、気絶させられて、放置という形になるのも仕方のないことでしょう。

 

 しかし、その時の彼らの戦闘方法がまた奇妙だったらしいのです。

 彼らが言うには、妖術を使ったそぶりもみせずに、気づいたら後ろに回り込まれ手刀を打たれた後だったというのです。

 確かに、我らの中には武術を使い体を鍛えているものもいるものの、基本は妖術を使った戦闘が主です。

 一切の妖術を使わないのは、私たちから考えたらありえないものなのです。

 

 そのことが、妖怪の山の天狗に広まり彼らの戦闘方法の違いなどから、彼らの正体は何なのかという憶測は静まる事を知らないものになってしまいました。前回の集会の時に彼らの正体を知っているというような決定を下した天魔や長老達に質問が相次いだそうです。それに根負けした天魔や長老達はとうとう彼らについての情報を落としました。

 

 何でも、彼らは鞍馬天狗というかの有名な天狗の一族であり、まだ我らが妖怪の山という一つの山に集まらずに、日の本の各山に分かれて暮らしていた時に、他の天狗から別離を決めた者たちだそうです。

 彼らの実態は謎に包まれており、当時分かっていたことは、彼らは我らが王道の妖術を極めずに、武術への極みを見出した一族だそうで、なかなか他の天狗の前に姿を表さず、支配地域も鞍馬の山しかないことから、不気味がられていたらしく、近ずく物好きは少なかったそうです。

 しかし、当時の山の長達は彼らの実力を知っていたらしく、関わることを良しとしなかったよう。

 

 天魔様は当時の彼らの事を見たことがあるようで、とても渋いかおをしていらした。

 何でも見たもののほとんどが想像のつかないものらしく、兎も角すごいということしか分からなかったらしい。

 

 更に不幸な事は続きました。

 鞍馬天狗にはボコボコにされ、天魔様達にも散々叱られていた筈の者の、上についていた者が、今回の事件で落ちた自分達の地位を挽回するため数十人引き連れて鞍馬天狗の拠点に攻めこんだそうだ。

 

 結果としては、門番すら越える事は叶わず、前と同じく簔巻きにされて木に吊るされていた。

 しかし、こんなザマでも妖怪の山の有力候補。

 ここまでボコボコにされては威厳のためにどれだけ闘いたくなくてもある程度のアプローチはしなければいけない。

天魔様はいやいや戦準備を始めました。

 

 

 そして始まる鞍馬天狗と妖怪の山の天狗の掛け合い。

 天魔様も出てきていて、あちらの鞍馬側にも長だと思われる、老年の天狗が立っていて、その状態で天魔様は話始める。

 一つ、我らの下につくつもりはないか?と

 

 当然あちら側は拒否。支配するのもされるのも興味はないという。

 

 ここら辺は鞍馬の事前知識があっていたようだ。

 

 二つ、我らと共に生きるつもりはないかと。

 

 鞍馬はこの問いにも拒否の意思を示した。なんでも、妖怪の山のはっきりとついている階級に組み込まれるのは面倒くさいと。

 

 

 この答により、両者の間にピリピリとした一触即発の空気が走る。

 

 しかし、ここで意外な所から待ったがかけられた。

 

 妖怪の賢者、八雲紫が待ったをかけたのだ。

 

 

 正直なところ敵対したくなかった天魔様はすぐに話しを聞く態勢に入りました。

 

 後は鞍馬の対応次第でしたが彼らもすぐに話しを聞く態勢に入ってくれました。

 

 まぁ、そのあとは小難しい話しなので割愛しますが、端的に言えば、ここで両者が争っても何の利益もないので双方矛をおさめ共存の為のいい方法を両者で考えましょうということになりました。

 

 天魔様はこの提案に乗り気で、これをきに、すっかり腐ってしまった妖怪の山の内部事情を立て直すと意気込んでいました。

 意外な事に鞍馬の天狗達も否定的ではなく、天狗の減少を理由に前向きに考えていました。

 

 まぁ、そんな事があり、今度は両者ともお互いを知るために交換留学生のようなことが行われる事になった。

 そこで、誰を送るのか、誰が来るものに技術指南をするのか散々講義した。

 あちらに行くものは意外とあっさりと決まったのだが、こちらからの技術指南役が決まらなかった。

 

 しかーし、そこにスクープがあると感じた私はそれに立候補しました。

 来る人が鞍馬の長の孫だと知ったときは早計過ぎたかと後悔しましたが、今おもえぼあの頃の私を誉め回してあげたいです。

 スクープは思っていたより少ないですか、技術指南も苦ではありませんし、逆にご飯を毎食ご馳走になっています。それに彼の隣は何だかんだ言って居心地が良いですし、彼との穏やかな時間は一種の癒しです。

 顔も悪くありませんしねっ!

 

 そんな彼の名前は鞍馬天鴎といいます。

 

 戦闘での圧倒的といえる技量と何故か得意な土木や家事、いつも袴にバンダナを腕に巻きダサTというなんとも言えない格好をしています。

 

 ちなみに、今着ているダサTには『鶏肉』と妙に達筆な字で書いています。

 何でしょうか?自虐でしょうか?

 

 まあ、そんな彼との関係は私が思うになかなか良いものです。彼の家に入り浸っていますし、このまま彼の家に住んでも良いですね。

 

「お~い、文、晩飯できたぞぉ~。」

 

「は~い、天さん。今いきま~す。」

 

 もう彼との関係はしたの名前を呼び会う関係ですし、私に至っては愛称で呼ばせてもらっています。

 

 ふふ、彼との関係も何処までいくのか見ものですね。

 さてと、それでは彼の絶品の晩御飯を食べに行きますか。

 私は食卓に向かって歩き始めました。

 

 

 




この時からもう文には少しフラグを仕込んでおります。
 もはや、はまってしまっている。
 そしてなぜか、ダクソにも…

 とりあえずは、主人公のルックス紹介とかも入れました。ダサTにしたかったんです。
 バンダナは自分がメタギア好きだからです。
 ネタは入れれたらいいなぁ~。

 後、今は執筆3Dなので、スピードは遅いです。(笑)


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射命丸文

 ちょっと長くなりました。
 


 side 射命丸文

 

 

 今回、私は上司からある仕事を押し付けられてしまいました。

 天さんへの技術指南があるのに私に仕事を押し付けるとはなんたることでしょう。業務妨害ですよ、業務妨害。それに天さんへの技術指南はかなり重要な案件なはずなのに。

 まあ、最近私ばかり徳をしているような気がしないでもないので、渋々受けてあげますが。

 

とりあえず、天さんの家にご飯を食べに行きましょう。

 私はそう思い、自慢の翼を広げて飛ぼうとしましたが、珍しい人影を見つけたので、少しそちらと話してから行くことにします。最近は話せていないのでね。

 

「あややや、これは椛さん。お久しぶりですね。それにしてもここに居るのは椛さんにしては珍しいですね?今日は非番ですか?」

 

「ん、そうですよ文様。今日は久々の非番なんですよ。いろいろしたい事があってですね~。」

 

 と、嬉しそうに話すこの子は犬走椛という私達とはまた違う白狼天狗という種族の一人です。小柄であり、その頭とお尻についている獣耳と尻尾は彼女の可愛らしさを引き立てる、部下に欲しい白狼天狗番付で一位を取った子です。

 今日はいつもの盾と剣は持っておらず、同姓の私から見ても可愛いとしか評価できない格好です。

 なんでしょうか?こう撫で撫でしたいですね。小動物みたいに。

 

「それにしても、文様もここに居るのは珍しいですね。いつもはいきなり来ていつの間にかどこかに行ってしまわれるんですから。本当にびっくりして迷惑するのはこちらなんですよ?分かってますか?」

 

「あやや、申し訳ない。面白そうなネタがあると無視はできない性分でして。」

 

「はぁ、まぁ最近はいつもより真面目に働いているというのでいいですが、確か鞍馬天狗の方への技術指南でしたよね?」

 

「はい、そうですよ。鞍馬天鴎という方への技術指南ですよ。」

 

「へぇ~どんな天狗なんですか?やっぱり鞍馬天狗ほどの有名どころだから、大天狗様達位に立派で強いんでしょうか?」

 

 椛は目を輝かせながら鞍馬天狗という天狗への考察をのべていく。

 ん~、天さんの実力はたしか~?

 

「確か、天鴎さんの実力は天魔様よりお強いと聞いた事がありますが?」

 

「ええ~!!ほ、本当ですか!!それが本当なら、やっぱり鞍馬天狗は伝説に違わぬとても強い種族だったんだ!!」

 

 何でしょうかこの子、強い天狗への執着心が強いですね。まぁ、ただ天さんは伝説上の鞍馬天狗と比べると、随分と穏やかですけどね。

 

「そ、それでその鞍馬天鴎さんはど、どのような方で?!」

 

「とっても落ち着いていて穏やかで優しい方ですよ。」

 

「や、やっぱり強きを挫き、弱きを助けるというような立派な方でしょうかね?」

 

 まぁ、あながち間違っていないですかね。本人は否定すると思いますが。

 

「おっと、そろそろ時間です。私は行きますね?」

 

「また今度詳しくお話し聞かせて下さい!絶対ですよ!」

 

「ハイハイ」

 

 ここで、興奮しっぱなしの椛と別れ私は先を急ぎます。

 

 

 

 

 

 あれから、あまり時間をかけずに天さんの家につくことができた。

 

「天さ~ん、お邪魔しま~す。」

 

「はいは~い。いらしゃい文。まだ、飯はできていないぞ?」

 

「そうですか、それは残念ですね。あ、あと天さん私今日仕事が入ったので指南が終わったらおいとましますね。」

 

「はいはい、分かったよ。とりあえず、家事は終わってるし鍛錬もすましておいたから、さっそく指南頼むな。」

 

「は~い。わかりました。それじゃあさっそくはじめますよ?」

 

「よろしく。」

 

「前回おしえたことはこうですからねぇ~……」

 

 最近の天さんは、妖術のコツも分かってきたらしくすいすいと知識を吸収するので、こちらとしては教えがいがあります。

 今では相当妖術の扱いが上手くなってきましたが、私もまだまだ負けていません。ただ、このままいくとそのうち負けてしまうかもしれません。

 これはうかうかしていられませんね。私も天さんに教える時は基本の復習のような感覚でしています。

 そうやって集中しながら鍛練をしていれば、すっかりとお昼時で、妖術指南は一度切り上げて、お昼をいただきます。

 

「はむはむ、天さんこれ美味しいですね。」

 

「まぁな、今朝取れたての物で作ったんだ、不味いはずないだろ?」

 

「それもそうですね。新鮮な食材と天さんの腕があれば大抵は美味しいですしね。」

 

「ん?そうか?まぁ、誉め言葉だし受け取っておくよ。」

 

 そうやって、穏やかなお昼を終えたら、直ぐに妖術指南に入ります。

 今回は早めに始めたので、終わるのも早く思っていたより早く上がる事ができました。

 

「文、今からの仕事は時間がかかるのか?」

 

「いえ?それほどかかりませんが、どうしたんですか?」

 

「いや、今日の晩御飯どれくらい作るのかは文次第だからな、早く終わるのなら作っといてやるよ、晩御飯。」

 

「やや、本当ですか!それはありがとうございます。いや~今日は天さんの晩御飯食べられないと思っていたので有難いですよ。」

 

「あぁ、こっちもそんなに喜んでもらえて嬉しいよ。」

 

 天さんは微笑みながらいいます。

 いや、もう本当に優しくて格好よくていい人ですね。これはさっさと終わらせて晩御飯食べにきましょう。

 

 私は晩御飯への期待を膨らましながら飛びたちました。

 ついでに、今日の天さんのダサTは『豚キムチ』でした。

 

 

 

 

 

 

 さてと、ここですね。今私が居るのは妖怪の山から少し離れた場所で、ここで正体不明の妖怪が目撃されており、白狼天狗の何人かが被害にあっているそうだ。

 正体不明、どんな妖怪かも情報が圧倒的に足りないので、せめて概要を掴む為に妖怪の山でも随一の速さを誇るこの私が派遣されました。

 まぁ、感じる気配からして雑魚妖怪でしょうし、さっさと終わらせて天さんのもとにいきましょうか。

 

 私は葉団扇を振るいながら敵を倒すことにしました。

 

 

 それからは一時間位で片付きました。敵は人や動物の怨念からできた怨霊で、小規模ではありましたが数が多く白狼天狗達が負けるような相手ではないような気がしますがそいつらしか居なかったので、数で圧倒されたりしてそいつらにやられたのでしょう。

 

 私は報告の為にここを飛び去ろうと思い妖力を巡らしたその時、視界に何かが映り私はとっさに避けようとしましたが、間に合わずに吹っ飛んでしまい、岩にぶつかってやっとその勢いが止まりました。

 

 私は霞む視界の中、私を吹っ飛ばした敵を探します。

 

 ーーー何、あれーーー

 

 

 何とか戻ってきたらしい思考の中で、敵の異常さを理解します

 どろどろとした、黒のような紫のような固形の物体がそこにいました。

 その気持ち悪く吐き気を催すような体からはなん本もの触手が延びており、体にはおぞましい穴が空いているだけの目と口があり、まるでここら辺の重力が重くなったように錯覚させる程の怨念。

 先程まで倒していたあいつらはコイツのたった一部なんだと理解させられました。

 しかし、敵がいくら強大でも私は誇りある天狗。怨霊ごときに負けられる筈がないんです。

 

 私は葉団扇を構え戦闘体制に入ります。体のスイッチを入れていき、妖力を体に巡らせます。

 さっきの攻撃だけで倒れるような私ではありません。さっさと倒しますよ!

 

 私は高速で動き出します。相手も触手を放ってきますが、私の速さの方が触手より速いです。

 触手を避けながら、風の刃を飛ばしていきます。

 どうやら、利いてはいるようです。

 私は触手を切り飛ばし、本体にダメージを入れ、相手が目に見えて分かる程に弱らせていきます。

 

 私はそろそろ決着をつけようと相手に急接近します。全ての触手をかいくぐり、怨霊の近くまでくると、一気に妖力を解放します。

 そして、全力の風の衝撃波を叩き込みます。

 

 相手は爆散して、どう見ても死んだとしか思えない状態になります。

 私は痛む体を気遣いながらもやっと終わったと一息着いた時、周りの景色が歪みました。

 

 ギィ◎€●▼シャ○○ァァァ◇%◎▼●▼£▼!!!

 

 

 あり得ないほどの殺気、あり得ない程の生きるものへの執念。

 私が勝ったと思っていた相手はまだ生きていました。

 怨霊はどうやら、今の今まで受けてきた攻撃を怨みに変えて、より威力のました攻撃を繰り出してきます。

 

「がふ」

 

 私は攻撃を避けれずに腹に三本の触手が突き刺さります。

 

 怨霊はそのまま触手を振り回し私を地面に叩き付けます。

 

「ぐうぅっう」

 

 触手は私を縛り上げてきます。

 私の体は持ち上げられ、怨霊の目の前までもってこさせられます。

 私は妖術を使おうとしましたが、

 

 ーーー妖力が吸いとられているっ!!ーーー

 

 妖力を吸い取られるせいで妖力が上手くまとめれず、散っていくばかりです。

 

 どんどんきつく縛り上げられる中、妖力まで抜かれて私の体に力がだんだんと入らなくなってきます。

 

 その状態でどれくらいたったでしょう。私はそこから脱け出せず、永遠にも思える拘束から、岩に投げつけられるという形で解放されました。

 

 もはや妖力は残り少なく、無理矢理抜かれたせいでロクに操ることもできません。

 体はもはやボロボロ。指一本動かせません。

 

 次に攻撃を喰らえば私は最悪死ぬでしょう。

 

 あぁ、意外と生は呆気なく終わる物なんですね。

 私はこんなしに方はしないと思っていたのに、怨霊に無惨に殺され一生を終えるのでしょうか?

 

 やり残した事はたくさん有ります。まだまだ新聞を書いていたかったし、幻想郷も見ていたかった。まだまだいろいろ有るのに…

 

 あぁ、そう言えば天さんが晩御飯を作って私を待ってくれていますね。

 天さんはとても優しくて隣にいてとても暖かい気持ちになれる人でした。

 いつも、優しく接してくれて、面倒くさそうにしていたり、叱ったりしてくるけど、結局最後は笑って隣に居てくれる人。

 

 なんでだろう、こんな事を考えていたら、むしょうに天さんに会いたくなってきた。

 天さんの作ったご飯が食べたくなってきた。

 天さんと一緒にどうでもいいことを話して笑いたくなってきた。

 

 だからこそ私は悔しい。天さんのご飯を食べられ無いことが、天さんの笑顔をもう見れない事が、天さんの隣にいれない事が、どうしようもなく悔しい。

 

 今の私にはこの状況を覆す程の力はもう残っていない。

 葉団扇はもう随分前に落としてどこにいったかも分からない。

 目の前の怨霊を睨みつけることしかできない。

 目の前の怨霊にありったけの殺意を送る。

 なんとか生にかじりつこうと、残っている妖力で仲間に助けを求められないか模索する。

 

 けれども、無慈悲にもそれらの手段はなく、次の瞬間には死神の鎌は降り下ろされていた。

 

 天さんとの短いけど幸せな日々がフラッシュバッグする。

 天さんとの話した思い出がフラッシュバッグする。

 天さんの笑顔をどんどん思い出す。

 

 もう、すがる相手は天さんしかいない、死の恐怖をまぎらわせるのは天さんしかいない。

 本当の本当に自分勝手だけど、一つだけ天さんに頼めるのなら…

 

 

 

 

 

「天さん……もう一度会いたいです」

 

 

 

 

 

 

 私は涙が滲む視界の中、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーー何諦めてんだ文、家族同然のヤツをこんなところで殺させる訳ないだろーー

 

 

 

 私は死ぬ直前にそんな幻聴を聴いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 ザシュッ

 

 肉がたちきられる音がする。

 

 あれ?だけどおかしいな?音が前の方から鳴ったような??

 

 それに何かがおかしい、いつまでも経っても痛みがこない

 

「おい文。いつまで目をつぶっているんだ?」

 

 あれ、おかしいな、また幻聴が聴こえたような。

 

 パシィンィィン

 

「あいったぁぁぁぁあ!!」

 

 次に私の頭が叩かれる。

 なんだろう、この痛いけどいつもされてて慣れている感じは?

 

 私が目を開けると、そこには天さんがいた。

 私は目を擦りながら

 

「あれ、可笑しいな。ここにいない筈の天さんが見えるな。なんで今になって天さんが見えるんだろう?」

 

「いや、それは俺がここにいるからなんだけどな。」

 

「え、いやだって天さんは今家にいる筈じゃあ!!」

 

「ああもう!」

 

 目の前の天さんは頭をかき、私に近づいてきて、次の瞬間には私を抱き締めていた。

 

「ほら、温かいだろう、感じてるだろ?俺はちゃんとここにいるよ。」

 

 肌から伝わってくる暖かさと、天さんの言葉を少しずつ理解していって、やっと目の前の天さんが、幻覚でも幻でもなんでもなく本当の天さんだと分かる。

 

 それが分かると私は涙が押さえられなくなり、みっともなく泣き声を上げて泣き出した。

 

「天さん、天さん、痛かったよ、辛かったよ、会いたかったよ、うぅぅ、天…さん」

 

「ああ~ハイハイ文泣くな泣くな。綺麗な顔が台無しだぞ。」

 

 私は天さんの腕の中でなき続ける。

 しかし、完全にこの時失念していた、怨霊の事を。

 

 私が異常を感じ顔を上げた時数えきれない程の触手が迫っていた。

 

「天さんっ!!」

 

 私が叫んだ次の瞬間、数えきれない程の触手が全て切り伏せられた。

 いつの間にか、天さんの手には木刀が握られていた。

 

「すまんな文、まずはあれを片付けなきゃいけない、ちょっとだけ待っててくれ。」

 

 天さんはそう言うと私を抱いていた手を離し立ち上がる。

 完全な脱力した体制を作るとおもむろに一歩を踏み出す。

 すると、周りの触手全てを無視して次の瞬間には怨霊の目の前に抜刀術を放つ直前の状態で立っていた。

 

 そして、天さんの刀が振るわれる。

 縦一閃。まるで見えないたち筋。

 だが、怨霊が絶命したことは、怨霊から黒い粒子が出ている事から簡単に分かった。

 そして完全に怨霊が消滅する。

 

「天さん……」

 

 私は天さんの圧倒的な強さに、驚愕とそれを上回る圧倒的な安心感を抱いていた。

 

 天さんはこちらを振り向いて微笑んでいた。

 

「ほら、文、帰ろうか。晩御飯がさめちまうぞ。」

 

 私はそんな天さんのいつものような暖かい言葉とまた私を抱き締めてくれた安心からか緊張の糸がきれて、だんだんと暗闇に意識を落としていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 




 最後は少し適当になってしまった。
 一気に夜遅くまで書き上げているのでごようしゃください。
 文は恋心が芽生えそうだね。(というより芽生えた)

 後戦っている天さんの格好はダサTです。

 誤字脱字があったら教えてください。


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その後の話

 今日はちょと短めです。


side 射命丸文

 

 私が怨霊に襲われたあの日から、約1週間が経った。

 私は全身のケガに加え、怨霊からの妖力吸収などで妖力を生み出す器官にも異常も見られ、療養を余儀なくされています。

 そのせいで、外に出られない、簡単に言えば天さんに会えないというのは個人的にとても辛いので、自宅での療養を命じられていましたが、我が儘言って天さんの家にお世話になることにしました。

 正直言って、自宅をはありますが、家には私一人しかいませんし、上司が私の手伝いとして出す部下を家に寄こすこともありますが、大体が私はよく知らない者なので、いろいろ理由をでっち上げて上司を納得させました。

 

 まあ、本当に都合は良いのですけど。

 

 それに、私には他に目的ができました。天さんへのアピールです。

 何だかこんな事を考えるのは恥ずかしいけれど、私は今回の一件で自覚してしまいました、天さんへの恋心を。

 仕方無いでしょう?

 もともととても、とても彼は優しいですし隣にいてとても安心できる人です、今思えば今回の一件の前から彼に気があったのはとても明確なことだったのでしょう。

 そうとなれば、彼を逃がす気は微塵も有りません。

 私が思うに、彼は意外に天然であり鈍感です。

 もしかしたら、どこかで女の子を惚れさせて帰ってきてしまうかもしれません。

 なら、そうなる前に私が彼を自分の物にしてしまいまわなくてはなりません。

 

 幸いにも天さんは私に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれています。

 私はこのチャンスと活かして、彼のハートを掴んでみせましょう!

 

 

 side鞍馬天鴎

 

 例の怨霊事件のあと、文が療養の為と転がり込んできた。正直言って、見た目少女がするようなことではないと思ったのだが、この鞍馬の妙な技術力を総動員して作った家は、文の家よりも居心地はいいのだろう。

 文が今まで俺の家に来ていたペースを考えて多分一人暮らしだろうし、この妖怪の山の中でも俺の家の居心地の良さは一位二位を争う家だと思うので俺の家のが良いのは分かるがそこまでして居座るだろうか?

 

 まあ、色々と言っても今更だろうし、転がりこんできてしまったものはしょうがない、文の怪我が治るまで責任を持って看病しよう。

 

 今は丁度昼時であり、文の為にお粥を作っているところだ。

 文は風邪をひいた訳ではないが、例の怨霊との戦闘の時、内臓や胃などをやられており、消化器官が著しく弱っているのだ。

 人間と違っていろいろと頑丈な妖怪ならいつものようなご飯を出しても大丈夫なのかもしれないが、俺の気持ちの問題だ。

 実際文もいつものようなご飯を出しても食べにくいだろうし、体にもいいだろう…多分。

 

 とりあえず、完成したお粥を文のもとに持っていく事にする。

 

 建てる時に他の鞍馬の連中も泊まるだろうと考えて建てたこの家は、部屋数にも余裕があり、文が今泊まっている部屋も客が来ることを想定して作っていたので、文が泊まれる環境にするのは容易だった。

 しかし奴らは顔を出しには来たが泊まってはいかなかった。わざわざ多めに部屋を作って損したと思ってたが、文が泊まりに来てくれたおかげでこの家の設計が無駄にはならなかったようである。初めての利用者が怪我人というのもなんだが。

 

 とりあえず文のいる部屋についたので入ることにする。

 

「文~、入るぞ~。」

 

 そう言ってゆっくり入る。

 

「あ、天さ~ん、待ってました~。」

 

 布団の上で体だけ起こしてこちらに体を向けている。

 最初の方は体もなかなか起こせなかったが、今じゃ体を起こして話ができるほど元気になっている。

 

「もうなかなか元気になってきたな。まだまだ安静にしてなきゃいけないけど。」

 

「そうですねぇ、天さんの看病のおかげで私自身驚くほど元気ですね。いや~、本当にありがたいですよ。」

 

 そうだろうか?そこまで特別な看病を行ってはいないんだけど?

 

「天さんもうお腹ペコペコですよ。いつも通りお願いしますね。ほら、あーん。」

 

「いや、もうお前ひとりで食べられる程元気だろう」

 

 御覧のとおり文は最近俺にご飯を食べさせて貰おうとねだってくる。最初は腕も上手く動かせなかったのでご飯をたべさせてあげていたのだが、最近絶対一人で食べれるのに俺にご飯を食べさせようとしてくるのだ。

 俺が食べさせてやらないと拗ねてなかなか食べないので食わせてあげているが。

ふーふーとお粥に息を吹きかけ熱を冷まし、文の口に運ぶ。

 

「ほら文、熱くないか?」

 

「はむはむ、大丈夫ですよ。丁度いい温度で食べやすいです。それにしても毎日味も違っていていいですね。」

 

 そう、床での生活が飽きないようにお粥の味を少しづつ変えているのだ。

 鞍馬での酷い食生活を経験した俺から言って、食に妥協はしたくない。

 

「本当に天さんは将来良い旦那さんになりそうですね。」

 

「それ俺が言うべきセリフじゃないかな?」

 

将来良いお嫁さんになるねとかさ、普通男が言うでしょう?

 とりあえずお粥を全部食べさせることにする。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう、満足です。ご馳走さまでした。」

 

「はい、お粗末様でした。それじゃあ、食器持ってくから、ちょとまっててくれ」

 

 とりあえず、食器を流しに持っていきササッと洗い、お茶を入れて持っていく。

 

「ふう~。」

 

「はあ~。」

 

 二人でお茶を啜ってゆっくりとする。

 ……文、お茶は一人で飲めるんだな。

 

「いや~、お茶もおいしいですね~。」

 

「ああ、いつもどうり美味いな。」

 

 そんな、会話をしながらゆっくりとした時間を過ごす。

 

「そういえば天さん、私どれぐらいの間安静にしていなきゃいけないんでしたっけ?」

 

「ん?たしか3週間ぐらいだったが、念のために4週間は安静にしてなきゃだめだっだはずだけど。」

 

「そうか、後3週間か…」

 

「ん、なんか言ったか?」

 

「いや、なんというか、この時間が至福だなあ~と。」

 

「はは、なんだそれ。」

 

「あれ、なにか可笑しかったですか?」

 

「い〜や、なにも」

 

 まあ、文がこの時間を至福だと言ってくれるのなら俺としてもうれしいが。

 

 丁度お茶を飲み終わったときに文がググッと伸びをする。

 

「ああ~、元気でてきました~、布団から出られないのが窮屈ですね~。」

 

「それじゃあ、文が一人でご飯を食べれるような元気はどうやったら出してくれるかな~。」

 

 俺はいたずらっぽく言ってみる。

 案の定、文は頬を膨らませ俺の方を睨みつける。だが、すぐに思案顔になり、どう答えるか考える。

 瞬くして何と答えるのか決まったのか、イタズラを考え付いた子供のような笑みを浮かべる。

 

「そうですね~、例えば天さんが私にキスしてくれたら元気がでるかもしれませんね~。」

 

 文はこちらを若干赤くなりながらもニヤニヤした顔で見てくる。

 俺の慌てた反応をみたいのかな?だか…残念。

 明鏡止水の心得を会得している俺はキスごときでは動揺しない。

 ふっ、逆になんの動揺もせずにキスしてやって赤面してる面を拝めてやろう。

 

「いや~、はは冗談ですけどね。」

 

 俺は文に近づく。

 

「え、天さんどうしたん…」

 

 そして俺は文のその綺麗な顔に手を当てて、文の前髪をたくし上げる。

 

「これでさっさと元気だせよ。」

 

 俺はそう言って文のオデコ(・・・)にキスをする。

そして真っ赤になっている文の顔を見ながらイタズラをする子供のように俺は笑う。

 

「唇にすると思ったか?」

 

「あ、あや?」

 

 文は赤面させた顔を頬けさせずっとフリーズさせている。

 そして目をグルグル回し始めた。

 

「文?文?どした?」

 

 俺は文の前で手を振ったり、叩いたりするが文はなにも反応しない。

 そうしていると何分か後に文はやっと動きだした。

 

 顔をうずくませ、体をぷるぷるさせながら何かを言っている。

 

「ん?文、どうした?」

 

 俺は文の顔に自分の顔を近づけてきく。

 俺はその時ちょとイタズラを思いつき、

 

「もしかして、今のキスがそんなに恥ずかしかったか?」

 

 すると文は俯きながらもぷるぷるしていた動きを止める。

 

「あや……」

 

「あや?」

 

「あやっ、あややややっ!あやややややややややややっつ!!」

 

 ボッフン!!

 

 文はさっきより顔を赤くさせ頭から湯気を出しまた思考を停止させる。

 

 俺も突然の出来事でしばらく唖然とする。動揺から立ち直った後、文を現実に戻そうといろいろ頑張ってみたが文は全く現実に戻ってこない。

 

「はは、だめだこりゃ。」

 

 俺は文がもうなかなか動きださないと結論づけ、他の家事をさっさと終わらせることにする。

 

「ごめんくださーい。」

 

 おっと、誰か来たようだ、なんだろう?文のお見舞いかな?とりあえずでないと。

 

 俺はとっとと玄関に小走りではしりだす。

 

  

 

 

 それにしても、赤くなって焦る文は…不覚にもかわいかった。俺の明鏡止水が揺らいでしまった。

 自分でしたことだけど、一本取られたようだ。

 

 それにしても、今の文で会話になるかな?

 

 




 文と天さんのイチャイチャ。
 糖分多め。多分次回も。

 戦闘回が遠い

 今日の天さんのダサTは『ポン酢』です。


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文と天鴎

 糖分は多め。
 結構悩みました。


 side 射命丸文

 

 さっき天さんにオデコにキスされ事を理解して落ち着くのに随分と時間がかかってしまった。

 なんというか、私の予想していた反応とは全く違ったので、完璧な不意打ちになってしまい、私が思っていたよりずっと混乱してしまった。

 天さんを落とすという目標を建てたばっかりなのに、その天さんにここまであたふたさせられるとは、なんたる失態。

 やっぱり、天さんは天然の鈍感の女誑しだ。私にキスするときあまり緊張していなかったしすごく自然だった。

 あんまり女慣れしているようには思っていなかったから、あんな事をするとは夢にも思わなかった。

 

「ねえ、文?私の話きいてる?」

 

 いつの間にか天さんとすげ替わって私の前にいた、ライバル兼友達の姫海棠はたてが聞いてくる。

 

「あ、はたてごめん、ちょっと上の空でした。」

 

「も~本当に大丈夫?まだ怪我が深いんじゃないの?」

 

「いや~、天さんの看病のおかげでだいぶ治ってはきてるんですけどね~。まだ本調子じゃないってところですかね。」

 

「ふ~ん、そうなの?」

 

「はは、恥ずかしながら」

 

 本当に最近は天さんのおかげで上の空になることが多い。あ~、もう本当に、もやもやし過ぎて話には集中できませんし、天さんにはどうアタックすれば良いのか全く分かりませんし、堂々巡りです。

 

「だから文、私の話聞いてる?」

 

「すみません、上の空でした。」

 

「そんなに堂々と言わない。」

 

 パシシィィン!

 

「いたっ!!叩かなくたって良いじゃありませんか。」

 

「無性に腹が立ったからよ」

 

「なんでですか!?」

 

 本当に、はたてのチョップはかなりの威力なのであまり受けたくないのですが。 

 

「それでどうしたの?そんな上の空で。今までの会話で怪我が原因じゃ無いことが分かったけど、もしかして、男でもできたりしたの?」

 

 ビクッ!!

 

「あは、あははは、そ、そんなはずないじゃありませんか、もう冗談が下手ですね~、はたては~」

 

「…いるのね、男。」

 

「あはは、だからいないっていってるじゃありませんかぁ」

 

「文、あんた誤魔化しかたが下手なのよ。」

 

「ぐっつ!」

 

 ま、まあいいでしょう。相手が分からなければはたての興味もすぐそれるでしょう。

 

「で、相手は誰なの?まさか、ここの鞍馬天狗?」

 

「い、いやだな~。わ、私が天さんのことそんな風に思っているはずないじゃないですか~。」

 

「ふ~ん、本当?」

 

「ほ、本当ですよ~。」

 

「ねえ、文。」

 

「は、はい。」

 

「私聞いたのよ、文が無理やりここで泊まりたがったって。いつも、ここの鞍馬天狗にあ~んさせてもらってるって。」

 

「ちょ、はたて!!それどこできいたんですか!!あ~んしてもらっているってどこで聞いたんですかっ!!」

 

「あら、随分と食いつくわね。ここに泊まりたがったというのは状況からの推測だけど、まさか鎌かけででっち上げのあ~んにここまで反応するとは、まさかあんた、本当にして貰っていたわね。」

 

「ふ、ふん!!なんのことでしょう!!」

 

「今頃白を切ったて遅いわよ。それにしても文があの天狗にぞっこんと。なかなかイイネタね。」

 

「あああああ、もう‼煮るやり焼くなり好きにすればいいんです!」

 

「じゃあ好きにさせて貰うわよ。」

 

「あ、やっぱ今のなしで…」

 

「もう無理よ」

 

「そんなああああああああああ!」

 

「文、あなたもう随分と元気よね。」

 

 うう、まさかはたてにこんなにあっさりとばれるなんて。ああ、なんたることだろう。また顔が熱くなってきた。

 

「あれ、文、もしかして、例の天狗への思いがバレて顔を赤くするほど恥ずかしいの?文は意外と初心よね。」

 

「それはあなたも同じでしょう、はたて。まだ色気だっている私のほうがマシです。」

 

「へえ~、言ってくれるわね、文。じゃああなたの想い試してみる?」

 

「どんときなさい、私の天さんへの愛は本物ですから。」

 

「もう愛称で呼んでるのね」

 

 もうそれなりの関係にはなっているということですよ、はたて。

 それに、私は随分と天さんと一緒にいるのだ。どんなことでも答えてみせましょう。

 

「じゃあまず、彼のどんな所が好きになったの?」

 

「ふ、そんな簡単な質問ですか、いいですよ、何個でも答えてあげましょう。まずですね、彼の雰囲気が好きですね。彼の雰囲気はとっても落ち着いていて、一緒にいてとてもほっこりとできるんですよ。それに勿論天さん自体の性格もとても優しくて、いつも私が我儘言ってもなんだかんだ言って聞いてくれますし、そのうちの何個かは実際にしてくれますし、私の呟いたこととか聞いてたりして、配慮してくれたり、ここにいる時も私をきずかっていることをひしひしと感じますし、お粥の味とか一日中寝てる私のためにいろんな味の作ってくれるし、私が暇しないようになるべく部屋にいてくれるし、顔とかもとっても好きで、顔は言わずもがなとても整っていますし、特に目元が優しい所がとても好きで、でも前に頼んでバンダナを巻いてもらった時にその目元がキリッとしてっとてもカッコイイですしね……」

 

「ちょ、ストーーーップ!!ストップ、ストップ、あんた長いわよ。まさかここまでぞっこんだなんて私も想像していなかったわ。ホントに、本気で惚れたのね」

 

「そうですけど?それに天さんのことならあと一時間は語れますよ?」

 

「私はそこまで知らなくてもいいわよ。というか、なんでそんなに惚れたのかしら?何か切っ掛けがあったんでしょう?」

 

「ああ、それはですね、今回の事件でかくかくしかじかでして。」

 

「へえ~、そんなことがあったのね。なんか、とっても劇的なお話ね。」

 

「ふふん、私と天さんの出会いは簡単には語れないのです。」

 

「今随分と簡単に語ったけどね。」

 

「はあ、それにしてもどうすれば良いんでしょう?はあ。」

 

「ちょっと、文。上の空状態に入らないで。本当に何でそんなに悩んでいるのよ。聞いた限りではとても順調に仲が良くなっているようにきこえるけど?。」

 

「はたて、それで私はとても心配なんです。天さんは天然の女誑しの可能性が有ります、私の知らないうちに誰か他の女の人を作ったら私はどうすればいいんでしょうか?」

 

「ふーん、じゃあさ、告白はしないの?そんなに好きなんでしょう?愛の言葉の一つや二つは有っても良いと思うけど、いえ、あんなに想いを語ったのだから百や二百有ってもおかしく無いわね。」

 

「そうですね、確かに愛の言葉は何個でも想いつくのですがなんて言ったら言いかわからず、それに加えそのまま素直に言う自信も無く、どうすれば良いのか分からなくて。」

 

「はあ、文あんたね、そんなのどうすれば良いのかなんて決まっているでしょ。」

 

「ええーと、兎に角ロマンチックな場面をセッティングするこのでしょうか?」

 

「文、それは男の方がやることよ。それにね、あなた想いを素直に伝えるのが怖いって言っていたけど、私はその想いを素直に伝えた方がいいと思うわよ。意外とそうゆうのは嬉しいモノだし、あなたの想いは本物よ。なら、真っ直ぐぶつけてやれば想いは絶対に伝わるわよ。」

 

「……そんなモノでしょうか?」

 

「ええ、意外とそうゆう物だと想うわよ。」

 

「素直に素直に素直に、天さんには私の想いを素直に…………」

 

「はあ、また自分の世界に入って…興ざめしたわ、今日のところはあなたも元気だと分かったから帰る事にするわね。文、そんな怪我すぐに治しなさいよ、って聞いてないか。それじゃあ、文を宜しく頼んでから帰る事にしましょうか」

 

「素直に素直に、後はそれを言う自信が……、あれはたては?」

 

 はやては、どうやら、今の状態の私にウンザリして帰って行ったらしい。いや、話しを振ったのははやてですから、最後までちゃんと話しを聞いて下さいよ。

 

 

 

 

 

 ■  一週間後

 

 

 

 

 結局、あれからはたてが来てから一週間、怨霊事件から二週間たち、このころには天さんの家をなんとか歩けるようになっており、療養期間も折り返しだというのに何もできずに終わってしまうんじゃないかと思う今日この頃。

 

 私は結局天さんに告白する勇気もなく、ずるずると引きずってしまっている。

 はあ、この気持ちどうすればいいのだろう。

 私は、一人縁側で夕陽を見ながらため息をつく。

 

「どうした?一人でため息なんてついちゃって、なんかあったの」

 

「そうですね、ちょと伝えたい思いがあるんですけど…」

 

「へえ、それってどんな気持ち?」

 

「ええ、それはですね…って!天さんっ!!ちょ、しれっと入り込まないでください!!」

 

「あはは、はいはい次からはしませんよ。」

 

「むううう」

 

 どうやら天さんはお茶を持ってきてくれたらしい。それ自体は別にいいのだが、今みたいにしれっと入ってくるようなお茶目をかましてくるのは勘弁して欲しい。私のドキドキが止まらなくなる。

 

「それで、何を伝えたくて悩んでいるんだい?俺でよければ相談に乗るよ?」

 

「いや、それはですね…他人には相談しにくいというか…」

 

「そうか?俺と文はあんまり他人といえるような親しさじゃないと思うが?」

 

  天さん…その言葉は嬉しいのですが、その気遣いは検討違いです。そもそも、天さんに伝えられずに悩んでいるのですから。

 でも、そうですね、このままじゃダメですよね。少し勇気をだしてみることにしましょうか。

 

「そうですね、相手に伝えたいけど、どうしても伝えにくい事があったらどうしますか?」

 

「ううん、そうだな。俺ならその伝えたいことを多少マイルドにするかもしれないが素直に伝えるんな。」

 

「ええと、それはなんでですか?」

 

「それはだな、伝えられずにもやもやするのは嫌だし、そんな事を相手に伝えられずにいたら相手とのシコリを作ってしまうかもしれない。それなら、素直に伝えて相手も自分もスッキリして前を向いた方がずっといい。」

 

 伝えられないでいたら、相手とのシコリを作ってしまうか…私がこの気持ちを伝えられずにいたら私と天さんの仲は離れてしまうのでしょうか?

 それだけは嫌です。

 よくよく考えれば私には指南という名目があったからこそ遠慮なく天さんの家にくることができていたのだけど、この指南も永遠に続くはずがない。

 私がその名目をなくしても天さんの家に今の様に来れるだろうか?以前の私になら来れるだろうが、今の恋心に気づいてしまった私には多分無理だと思う。今の私はいろいろ悩んでしまう。

 本当にどうすればいいのか。

 

「まあ、そんなに悩みすぎるな。悩み過ぎなくても伝えたいことは意外と伝わるもんだ。それよりも、悩みすぎて自分らしく振舞えないことが一番だめだと思うからよ。ほら、元気だせよ。」

 

 でも、そうだと分かっていても私がそれを伝える勇気があるのだろうか。 

 

「文ならあるよ伝える勇気ぐらい。いつも元気よく笑ってあんな風に空を飛んでいるんだ、悩みなんて気にせず吹っ飛ばせるさ。いつも通りにしていれば大丈夫だよ」

 

 天さんはそう言って私の頭を撫ででくれる。

 その手が優しくて、今の私に掛けて欲しい言葉を言ってくれて、不覚にも泣きそうになってしまう。

 

「本当に…あるんでしょうか。私にそれを言うだけの勇気が?」

 

「ああ、文なら大丈夫さ。」

 

 なら、なら、私も言えるんだろうか。

 思い人に言われてまで、戸惑ってしまう私が。

 

「なあ、文。自然に言えばいいさ、でできた言葉をそのままに出せばいいさ。」

 

 自然に、自然に、私の言葉で…そのまま、つたえるんだっ!!わたしっ!!

 

「て、天さんっ!!実は私、てっ、天さんに伝えたいことがっ!!」

 

「ん、なんだ?」

 

「わ、私は…て、天さんのことが、天さんのことが…」

 

 私はその先が言えず、どうしても口籠ってしまう。

 分かっている、私が今の関係を崩してしまうことが怖いことが、とても恐れていることを。

 

「私は、私は、天さん、天さん、天さんの事がす、すっ…」

 

なんでこんな時にスラスラ言い出せない!いつもハキハキと喋っているのに!

 

「すっ、すっ!」

 

「ス、ストップ、お願いだ、それを言うのは止めてくれ」

 

「へ?」

 

 私はその言葉に目の前が真っ暗になる。

 なんにも考えられなくなってしまう。

 天さんは私の事が嫌いなんだろうかと?

 天さんはこの先の言うことを察して、突き放したんじゃないのだろうか?

 

「本当に、俺が最初に言おうと思っていたのに、文が言おうとするんだもんなぁ〜」

 

「は、はい。」

 

 私は、今が言葉のショックで気の抜けた言葉しか返せない。嫌な思いが渦巻いて天さんの言葉が理解できない。

 

「俺、文が好きだ」

 

「は、はあ、そうなんですか……へっ?ええっ!!

 

 まったく、予想していなかった言葉に私の嫌な思いは吹っ飛び、変な声を上げてしまう。

 

「ええっと、それは女性として好きってことですか?」

 

「そうだよ」

 

「本当の本当に好きなんですよねっ!!」

 

「本当の本当に好きだよ」

 

「ふ、ふわああああ、よ、よかったああ。」

 

私は安心して大きなため息を零す。

天さんはそれを隣から見て笑っている。

 

「はは、随分大きなため息だな、それで、返事はどう?」

 

 まさか、天さんから好きだと言ってくれるなんて、完全に予想外だったけど、ここまでお膳立てしてくれて、思いを伝えられないはずがない。

 

「あのですね、天さん。私もですね、本当に会った時から、話した時から、天さんに引き込まれてしまって、ずっと、ずっと前から大好きでした。

 私からもお願いします。ずっと、これから先ずっと、あなたの隣に居させてください。」

 

 私は心からの笑顔を浮かべその言葉を言い切る。

 天さんは、一瞬呆けた顔をさせたが、すぐに笑顔になる。

 

「俺からもお願いするよ、文。俺も文が大好きだから、ずっと一緒に居させてくれ。」

 

「はい、天さん!」

 

 本当に天さんには、全部持って行かれてしまった。

 なかなか勇気が出せなかったところを、掠め取られてしまった。

 本当に天さんには敵わない。これからも私は天さんには敵わないだろう。

 だから、私はここでささやかな仕返しをしよう。

 

「天さん、次は唇にしてくれますよね、キス?」

 

 天さんは驚いた顔をした後、可笑しそうに顔に手をあて笑う。

 

「あははは、今回は負けたよ。」

 

 私は唇を前に出し、天さんにこの場を預ける。

 

「それじゃあ、いくよ?」

 

「ええ、来てください。」

 

 そして私と天さんは唇をゆっくりと重ねあわせる。

 

 本当に、本当にこんな結末を迎えられて良かった。

 

 

 

 ほんのちょぴりする、涙の味とともに、静かに鳴く虫の鳴き声だけが、その場に響いた。




 天鴎ダサTシリーズは今回はお休み。
 二人をくっつけたから、次回からは戦闘も入れられるかも。


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幕間 文の新生活

 一つ言っておきます。
 前に書いた天鴎の生活は、天鴎が朝起きられたらという前提がつきます。
 起きられないと、昼まで寝ています。


 side 文

 

 あれから四週間が経ちました。

 私と天さんのラブラブな看病生活は終わりを迎え、新たに私と天さんのラブラブな同棲生活が始まります。

 ああもう本当に、今が幸せでならない。

 天さんとの生活はあまあまのラブラブで、こんなに気持ちは初めてです。

 はたては、相当悔しがっていましたし。

 ふふふ、新聞での勝負は引き分けに終わっていますけど、女としては私が勝ったようですね。天さんは最高の超大あたりですしね。

 本当に、天さんを離れる気はありません。

 

 そして、夫婦生活の第一歩として、私はこの天さんの家に越して来る事にしました。同棲ですね。

 いやあ、これでずっと一緒ですね、天さん。どんなキャキャウフフな生活を送るんでしょうか?

 ただ、その前に怪我が治った事を上司などに報告して、今のところ天さんへの指南が主な仕事なのであまり問題は無いのですが、書類整理などで少し時間を取られそうです。

 ま、取り合えずば引っ越し作業を終わらせなければいけませんね。

 同棲生活、何度でも言いますが、凄く楽しみです。

 

 今は、朝畑仕事を終わらせた天さんは即二度寝するという天さん特有の習慣があるらしく、私は寝てしまった天さんを起こしにいくところです。

 天さんは、朝には弱いらしく、なかなか起きられないらしです。私は良妻への第一歩として旦那様を優しく起こしてあげましょう。

 

「天さん~、朝ですよ~、起きてください~、朝ですよ~。」

 

「ううん、文もうちょっと、寝かせて。」

 

「ダメですよ、天さん。前に寝かせて上げたら、結局昼まで起きてこなかったじゃないですか。ほら、起きて下さい!!」

 

 私はバサッと布団を剥ぎ取る。刹那、私の足は天さんに掴まれ一気に布団の中に引きずり込まれる。しかも、全然衝撃はなく布団もいつの間にか綺麗にかかっている。

 私はもがこうとしましたが、天さんにがっちりとホールドされて抱き枕代わりにされているのでなかなか抜け出せません。

 けれども,なかなかにこれは、良いシチュエーションですね。

 天さんの寝顔が近くにあり、天さんは顔。私のお腹らへんにぐりぐりとこすりつけています。何というか、とても子供らしくて、普段とのギャップもあり驚いてしまいます。

 しかし、新しい天さんの一面を知れたのは純粋に嬉しいですね。

 

 ああ、それにしても、私まで眠くなってきてしまいました。

 心地よい朝の陽気と布団の心地よい温もり、それに何よりも天さんの暖かさが直に伝わってきて、なんとも言えない心地よさを醸し出しています。

 ううん、本当に思考力が低下してきて何か考えるのも億劫に………

 

 

 

 

 

 

 

 はっ!

 

 いけない、私としたことが、布団の心地よさに負けて寝てしまいました。

 うう、新妻としてアピールしようとした矢崎にこの失態。なんと言ったらいいのかわかりません。

 それに、隣を見てみると天さんはもう居らず、食卓からご飯の良い匂いが漂ってくることから、天さんはだいぶ前に起きてご飯を作っていることになります。

 もはや、家事に関しては天さんの主夫としての実力は超える事できないということなのかもしれません。

 男の人なのにあそこまで家事ができて性格もイケメンだなんてもはや完璧超人ですね。

 とりあえず、ここで天さんのことを思っていてもどうにもならないので、居間に行くことにします。

 

「おはようございます、天さん。」

 

「おはよう、文。」

 

 私はご飯を作っている天さんの背中に声をかける。

 天さはんそれにご飯を作りながら返事を返してくれる。

 私はそれにほんわかとなりながら机の前に座る。

 

 にしても、やっぱり天さんの調理の腕は卓越していますね。朝はほとんど目を瞑って危なっかしい調理をしているのに、見事な朝食を作ってきますし、昼は昼で目は開いていますが、速さと質を重視した見事な調理で私の胃袋をがっしりと掴んできますし、私もう天さんが居ないと満足できる生活ができませんね。

そんな幸せな事を考えながらほわほわとしていたら、天さんがご飯を作り終えたみたいです。

 

「ご飯できたよ~、ちょっと箸とか持っていってー」

 

「はーい、今準備しまーす」

 

 私はパタパタと天さんの分までお箸やお茶などを準備する。

 天さんは少ししてから、お皿を10冊も器用に持ってやってきました。その時、2つのお皿の上にもう一つのお皿などを置いてきているのですが、お皿の中の料理には全く触れていませんし、お皿どうしがぶつかり合うカチャカチャという音を一切鳴らしません。

 それは、天さんが類いまれなバランス感覚を持っており完璧な姿勢制御をしているからだと思いますが。

 天さんを見ていると、こうゆう些細な生活の中で天さんの強さの一端を垣間見る事があります。まあ、本当に些細なことが多いので普段の態度もあり私ほど常日頃から天さんを見ていなければ気づくことはできないだろう。

 

 それにしても、天さんの料理の出来栄えは本当にほれぼれとするような出来です。他のところとあまり変わらないような物が多いですが、それでも漂ってくる匂いは他の人の料理とは格段に違いますし味や食感も格段に違います。

 何というのでしょうか、ご飯一つ炊くのにも差が出てくるのです。天さんの炊くご飯の方がふっくら瑞々しく柔らかいご飯なのですが、硬いご飯が好きな人もこの天さんの炊くご飯の前には骨抜きにされる事間違いなしだとおもいます。

 あ~~~、それにしてもこの魚の煮つけは味が丁度いいですね。この漬物はご飯がとても進みますし、このお味噌汁は美味しいし飲んでてどこかほっとする味です。

 本当天さん料理を三食食べられる私は贅沢です。

 

 ご飯に夢中になっていると、いつの間にか全て平らげていました。

 ふう、満足です。

 

 この後は大体縁側で食休みです。お茶を飲みながらまったりとします。

 私は池まである庭を眺めながら、天さんの淹れてくれたお茶をすすります。天さんは、手が荒れるだろうからと洗い物を私の代わりにしてからまったりとしています。

 本当に天さんは優しいですし、家事では敵いそうにありませんね。このお茶も大変美味ですからね。

 

 ずずずずっ

 

 カポーン

 

 辺りにはしばらくお茶の啜る音と天さんが勢いで作った鹿威しの音が響いてきます。

 会話はありませんが、この沈黙は心地良くてお互いの時間を共有している感じが私はとてもすきです。

 

 

 しばらく経って、天さんが話しかけてきました。

 

「なあ、文。荷物の整理とかちゃんとできているか?手間取っているのなら手伝いにいくけど?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。運ぶときは手伝ってもらいますけど、荷物ぐらいなら一人で纏められますよ。」

 

 正直言って一人暮らしのうえ家にいる事もあまりなかったので、荷物は新聞を作る時の物しかほぼ持っていないので誰かの手を煩わせるまでもありません。

 

「それよりも、天さんここでの生活には慣れましたか?」

 

 純粋に天さんがここでの生活に慣れてきているのか気になってのことです。まあ、見ている限りはできる範囲で好き勝手しているみたいだけど。

 

「ああ、大丈夫だよ、ここに来てまだ1年ぐらいだけど文がいるから大丈夫だよ。まあ、上の天狗どもが職務放棄気味だから慣れたと言えるのかあやしいけど。」

 

「あははは、それは不幸でしたね。本当外から来た者との接触や妖怪の山以外の妖怪との接触をも避けてきたのでそこらへんの交渉手段が分からないんですよ。責任も負いたくないので、押しつけあいが始まりどんどん遅くなると。本当そういう現状なんですよね、困った物ですね。」

 

「まあ、そこら辺はオヤジと爺ちゃんが何とかしてくれる思うからなんとか進むと思うんだけど、こうゆうのもいい経験だったと割り切るしかないんだよね。それに俺は他にもしたい事とかあるし。」

 

「へぇ、何ですかそれ?」

 

「それはね~、幻想郷を見て回ることなんだよね。」

 

「幻想郷を見て回るですか?」

 

「うん、そう。ここにきてからなんだかんだ言って忙しくて見て回ることができてないんだよね。今やっと落ち着いてきたそろそろここがどんなところか知りたいんなぁって。」

 

 ほう、それはそれは……まさに私の出番ではありませんか!新聞のネタを探して日夜この幻想郷を飛び回っていた私ならば、この幻想郷を紹介してあげるのも容易いですね。むふふふ、良いデートの口実ですね。

 

「それでは天さん、私が紹介してあげますよ。この幻想郷のことはとても詳しいと豪語できます。私がつけば間違いナシですね。」

 

 私は自信タップリに堂々と言い切ります。天さんはこちらを見て少し呆けますがすぐに笑って、

 

「お願いするよ文。期待しとく。」

 

 ふふ その期待応えてあげましょう。私は早速頭の中でプランを立てていきます。

 

「ふう、そろそろ家事を始めようかな。」

 

「あ、私も手伝います。」

 

「よろしく頼むね。」

 

 さてと、今から家の掃除ですね。この家結構広いので頑張らなければいけませんね。

 ぐいっと私は腕まくりをして掃除の場所まで向かいます。

 

 

 

 こうして、私の新生活は過ぎ去っていくのでした。

 

 




 人物紹介

 鞍馬 天鴎

 鞍馬天狗の一族。鞍馬僧正坊の孫。
 父親はいる。
 
 まだまだ、謎を残している主人公。だが最近、その書きやすさから、主観を文に取られつつあったりする。
 ダサT愛好者であり、かなりの数のダサTを所持していると思われる。
 後、何故かバンダナも愛用しているのがあり、頭に巻かない時は腕に巻き付けている。

 性格は鞍馬天狗の中でもかなり温厚で、常識が少しは存在している。
 ただし、幻想郷で通じるかは不明。

 現在は射命丸文との同棲生活であり、本人は近い内に結婚する事も考えている。
 鈍感だとおもわせといて、かなりそういう関係については鋭い。
 文の時もそうだったりする。

 天鴎の新たな情報を載せた物も、また作ります。


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太陽の畑

 遅れてすみません!!


 side 天鴎

 

 こんにちは、こんばんは、鞍馬天狗の鞍馬天鴎でございます。

 最近は可愛い婚約者も出来て妖怪の山に来た当初想像していた生活とは違って順風満帆な日々を送っております。

 

 それでも、鞍馬の因縁から逃れられた訳ではないが…

 

 

 まあ、そんなことより、今は太陽の畑という所にきている。

 妖怪の山から人間の里を超えさらに奥地を目指し飛んでやっと到着するところにある秘境にある。

 

 今日は何でそんな面倒な所に来たのかというと、ただの暇つぶしである。

 文が今日は仕事で忙しいというので、お一人様だ。

 

 寂しいな…ほろろん

 

 まあ、ここに来たのは家事が早く終わり過ぎたので暇を潰せる所は無いかと文に聞いたところ、ここが良いんじゃないかと勧められたのて来たのだが。

 

 まあ、確かにとっても広大で美しい向日葵畑だ。

 向日葵の一つ一つが太陽に向かってしっかりとその首を向けており、時折吹く風によってさわさわと揺れている。

 そんな光景が視界いっぱいに広がれば、何かを感じずにはいられないだろう。

 

 実際に俺も夏にしては涼しくて過ごしやすい気候だったのも後押ししたのか、時間を忘れてずっと向日葵畑を眺めていた。

 嗚呼ーいい光景だな~(*´Д`*)

 さっき空からもこの向日葵畑を見た時この光景に呆気にとられたが、地面に座って間近に見たら見たで全く違う風に見えてなんだか心が洗われるようだ。

 

 想像してみて欲しい。辺り一面に広がる美しい向日葵。

 それを少し小高い所にある日陰から、夏の涼しい風に吹かれながら眺めるところを。

 なんだろうか、想像してみるだけで心が洗われるようではなかろうか?

 めちゃくちゃ良くないだろうか?

 

 うん、これは次は文も連れて見にくるべきだな。

 もしかしたら、文にとって見慣れている光景かもしれないが、絶対に見にこよう。冗談ではない確定事項だ。

 

 

 うん、まあただ、気にならないことが無いわけでは無い。

 なんというか、さっきから視線を感じるというか、もろに観察されている。

 それも、何故か視線は色んな方向から感じるのに何故かその気配の主は同一な気がする。

 すごく奇妙だ。

 

 まあ、本体がどこに居るのかは察しがついてはいるが。

 殺気が隠しきれていないのだ。体から結構な量の殺気が溢れだしている。

 

 俺なんか悪い事しただろうか?(困惑)

 

 

 ま、いっか(諦め)

 

 ずっとそこに居てこちらを眺められていても困るし、こちらから声を掛けてみるか。

 

「あの~~、すいません。そこでこちらを覗いている方は誰ですか?」

 

 俺はそう、殺気を送り続けている者に問いかけるが、反応は無い。

 はあ~、こっちから行かなきゃダメかな。

 仕方がない、行くか。

 

 俺はそう覚悟を決めて顔を上げる。

 

 

 刹那、俺が気を抜いて油断したところに一直線に懐に殺気の主が飛び込んできた。

 そいつは、持っている日傘と思われる武器を思いっきり引き絞り、刺突を繰り出してくる。

  

「ちぃっつ!!」

 

 俺は正確に脳天目掛けて放たれた刺突を首をずらすことによって回避する。

 

 ブォォオオン

 

 耳の横から日傘で鳴らすような音じゃ無いような風を切る音が聞こえる。それも刺突でこの音なのだ。薙ぎ払いや上段ではなく、突きなのだ。

 こんな音をだすとか冗談じゃない。できるけども…俺もできるけどもっ!!(謎の強調)

 

 それよりも、回避した時に重心を後ろにズラしたので、そのままの勢いで後ろに跳び、距離を取る。

 

 とりあえず、今しがたこちらを攻撃してきた相手を観察する。

 

 服装はブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカートを着ており、スカートの一番下のボタンが花の形になっている。癖のある緑の髪に、髪飾りなどは付けておらず癖、真紅の瞳をしている。それに何故か殺人道具に早変わりする日傘を持っている。

 立ち姿にも隙が無い。基本ゆったりと立っている様にしか見えないが、不用意に近づけばさっきと同レベルの刺突が飛んでくるだろう。それくらいの緊張のなさだ。自信のあった一撃を避けられたはずなのに、全く硬直もせずに自然体のままだ。戦闘慣れしている。

 

 ああもう!!なんだよ!!

 

 ただ向日葵を見ていただけなのに。なんで見るからに戦闘狂みたいな奴に目を付けられるんだよ。

 

 俺が若干マイナス思考になってきた時あちら側が口を開いた。

 

「あら、今の攻撃を避けるなんて……流石鞍馬の天狗というところね。目を見張るところがあるわ。」

 

 おっと、どうやらあちらはこちらが何処に所属しているのかわかって喧嘩を仕掛けてきたのか。それはなんとも…勇気ある行動で。

 

「へえ、俺が何処の奴なのか分かってのこの歓迎のしかたなのか、こうゆうのがそちら側の礼儀なのか?名も知らぬ妖怪。」

 

「あら、あなた…分かり切ったことを言うのね、馬鹿なのかしら。そんな礼儀あるはずないじゃない、私のただの気まぐれよ。それぐらい分からないのかしら?」

 

 彼女はとってもいい笑顔で言い切ってくる。

 いきなり後ろから刺突を繰り出してくる人に言われたくありません。そして、気まぐれであんな攻撃を普通は仕掛けません。

 その的確に揚げ足を取ってくる言葉を無視しながら問いかける。

 

「それで、どうするんだ?俺と戦うって言うのか?それなら付き合うぞ?」

 

「あら、それは嬉しいお誘いね。満足できたらお茶ぐらい出してあげるわよ?」

 

「おっと、それは嬉しいお誘いだね。満足させなきゃいけないな~」

 

 

 その言葉を切欠に場の空気が変わる。圧はより重く、殺気はより鋭く、体は相手の命を狙うように、より速く命を刈り取れるように自然体に。

 瞬間、彼女の体が弾けた。

 そう思うほどの速さで一瞬で距離を詰めてくる。

 そして速さそのまま体重と速さの乗った拳を繰り出してくる。

 それは、山をも砕く一撃。

 

「偽・流水岩砕拳」

 

 ただし、天鴎が呟くそれは、とある無双ハゲが主人公の世界での最高峰のレベルに至ったヒーローの使う拳法の模範。そもそもこの世界には流水岩砕拳を使う者などいない、だからこそ、天鴎の使うものはただの贋物にしかならない。だか残念な事に、仮にもそれを使うのは武術馬鹿のN・O・U・K・I・Nの集まりの鞍馬天狗でも最高峰の強さを誇る一人だ。

 そして残念な事にあちらの世界のS級(最高峰)と鞍馬の最高峰では主人公のハゲを除いて鞍馬の方が強かったのだ…

 

 ゆえに柔をもって剛を制すという技術に関していえば、鞍馬の方が圧倒的に上回っていたのだ。そう上回ってしまったのだ…本家を超えて…

 

 だからこそ、堅牢な防御を誇る柔拳というのが本質の流水岩砕拳が偽とはいえ天鴎が操る以上、彼女の拳を逸らせない訳はないのだ。

 

 案の定、彼女の拳はあっさりと逸らされる。

 そしてここで終わらないのが鞍馬クオリティ。本来、拳を逸らしてそれを続ける事で隙を作るのが基本ではあるのだか、鞍馬の場合は逸らすだけでは終わらない。逸らした拳に、体重を無理無理乗せさせる。

 そう、つまりは本来体幹がズレるはずがない攻撃なのに、天鴎の操る流水岩砕拳は無理無理大振りの攻撃を空振りにした状態、つまりは重心が前方にズレた状態にさせるのだ。

 

 そして彼女は今、天鴎を目の前にして致命的と言える隙をさらすことになる。

 

 それは少なくとも、天鴎がある程度いろんな技が放てる隙というわけで、天鴎には色んな技のレパートリーが有るわけで、彼がそんななかチョイスしたのは…

 

「マジ☆カル!八極拳!」

 

 よりにもよって腐れ神父の使う、八極拳なのであった。

 確かに、外傷を与える攻撃よりも、内側にモロに衝撃がいく八極拳の方がダウンしやすいだろう。

 ただ、それでも、マジ☆カル八極拳を選んだ意味は分からない。本人的にも深い意味は無いと答えることが容易に想像がつくことから、問いただすことに意味は特に無いだろうが。

 

「カハッ!?」

 

 八極拳がモロに決まった彼女はその場で膝を着く。

 天鴎は手加減したとはいえ、後ろに飛んでいかないように衝撃を全て内側に打ち込んだのだ。

 彼女の体の中はぐちゃぐちゃになって倒れ伏したって可笑しく無い状況だろう。

 しかし、彼女は口から血を流すだけで、口元に笑みを浮かべながら、立ってきたのだ。

 

 彼女だって、開幕早々に此処までのダメージを負わせられるとは思っていなかったのだろう。それも、自身の攻撃が全て受け流されるだろうと理解させれられるなども。

 

 しかし、彼女だって強者としてここまで生きてきているのだ。

 そもそものプライドが倒れる事を許さない。

 それに加えて彼女も『ど』のつく戦闘狂なのだ。

 目の前にこんな大物が要るのに、たった一回のやりとりで満足するはずがないのだ。ゆえに彼女は勝機を探る。

 自身の何がこの目の前の敵に通用するのかを思考する。

 

 やはり、近接戦では分が悪いかと考える。自信がどれだけ力を出そうとも目の前の天狗の前には全てを逸らされてしまう。それは今の一連のやり取りで分かっているのだ。

 ならば、自身の妖力を使ってビームでも放とうかと考えるが、それはそれで目の前の天狗に挑むべきスタイルにはどうしても違うようにしか思えない。

 だからこそ、どうするべきか悩みに悩むが、それもこの天狗の前では愚かなことだと思いなおす。。

 

 この天狗の前では悩むだけ無駄な事だろう。

 そもそもが、悩んで勝てるような相手でもないだろう。

 それならば、何も考えずにぶつかるだけだと。

 自身の一番得意な、自信の一番信頼しているこの日傘と拳で、剛よ柔をたつという自信のスタイルでぶつかりあうだけだと。

 残念ながら、もうかなりいいのを一発もらっているが、大丈夫だ、まだ戦えるはずだ。

 

 自身の体を自然体に、優雅に佇む令嬢のように、それでなお相手を穿つ殺気は極限まで研ぎ澄まして、目の前の天狗を見据える。

 ただ、そこでふと思いつく。

 

「そういえば、まだ名前を名乗ってなかったわね。」

 

「どうしたんだ?唐突に名前なんて?」

 

「私は花の妖怪、風見幽香よ。天狗さん。」

 

「はあ、聞いてないか…、俺は鞍馬天狗の鞍馬天鴎だよ。風見幽香さん。」

 

「ええ、鞍馬天鴎ね。いい勝負が出来そうね。」

 

「鞍馬の天狗はそれが生き甲斐だからな。いい勝負ができるさ。」

 

 その言葉をかわぎりに、両者の体が弾ける。

 

 彼女、風見幽香はその顔に浮かべる笑みを深め、内心ここまでの戦闘狂と分かって辟易としていたのだか、風見幽香の浮かべる戦闘に対する笑みに、自身の鞍馬としての戦闘本能が刺激されているのが自身も浮かべてしまう笑みから気づいていた。

 ゆえに、自身から動いたのだ。受け身の姿勢はこの相手には相応しくないと思ったからこそ、剛に対し自身も剛で立ち向かおうとしているのだ。

 

 そして、二人の戦闘狂がぶつかりあう。

 天鴎と幽香の拳がぶつかりあう。

 

 そのやり取りは先程の超高度な技こそないものの、パワーだけなら天鴎と同格以上の幽香とそのパワーに真っ正面から多少の技術でカバーしつつも挑む天鴎。

 天鴎の本分は剣士であり拳士では無いので、圧倒的なパワーなどは天鴎の得意な日本刀においてそこまで必要とはされないので、得意な闘い方では無いが、それでも大妖怪の幽香と真っ正面からぶつかり合える力を持っているのだ。

 そして戦闘は苛烈を極める。

 

 端から見たらまるでドラゴンボールのような戦闘が繰り広げられる。

 

 右手のストレートを放つ幽香。それをよけながらアッパーを仕掛ける天鴎。幽香はそれを紙一重で避けながら蹴りを放ち、天鴎に屈む事でかわされる。天鴎の目に見えぬ速度で放たれる拳のラッシュの嵐。幽香はそれを弾き、避け、あるいはその体に真正面から受け止めながら、ラッシュでのお返しを放つ。

 拳の間から強引に放たれる拳を防ぎながら、それを弾こうと幽香が狙いを澄ますが上半身に降り注いでいた打撃が下半身に一気に集中する。やられまいと、とっさに反応するがその隙をついてボディに鋭いストレートが迫る。

 幽香は反射的に膝が上がり、上手く拳を膝で防ぐ。これ以上ボディにいいのをもらうと本当に立ち上がれ無くなる。

 幽香は距離を取るため空いている脚で蹴りを放つ。次は膝と肘でがっしりとガードされる。

 すぐさま脚を引きながらその勢いで回し蹴りを放つ、足元を狙った低空の蹴りだ。それを空中に飛ぶ事で避けるが、それが幽香の狙いであり、着地する瞬間を狙う。 

 回し蹴りの勢いを更に利用した二重の回転の速さと重さの乗った回し蹴りが天鴎を襲う。しかし、天鴎は回し蹴りとして放たれた脚に手をつき跳び箱を跳ぶ容量で幽香の後ろに跳んで避けてしまう。

 

 そんな攻防は続き、ついに決着がつく時がくる。

 

 天鴎のストレートが放たれる。

 幽香はそれを見ながら考えていた。自身の強さというのはここが限界では無かったと。自身の強さにはまだまだ先があったのだと、天鴎との闘いの中で思っていた。

 現に、天鴎が相手のスタイルに合わせたうえで手加減ありでの闘いではあるがその中でも天鴎という存在は自身の先をゆく存在であるのは変わりなかった。 

 その中でも天鴎の方が身のこなしや戦闘の中での発想というのは勝っている。力ではこちらも押し負けてはいないが、あちらは攻撃の速度、攻撃の回転数という点でも上回っている。

 しかし、こちらがそれで勝てずとも最初と比べて確実に天鴎についてきている。確実に対応できている、それに比べてこちらも回転数が上がってきていることが分かる。

 このままいけばどこまでいけるのか?それを考えながらも、目の前のストレートを避ける。

 そしてお返しのストレート。

 

 けれども、それは罠だった。

 気づけば更に加速のついた拳がクロスカウンターとして目前にまで迫っている。

 

 それを見て幽香の中の何かが弾けた。体の中を駆け巡る熱いなにか、それと共に溢れ出す力。

 それは俗にいう火事場のくそ力というやつだったのだろう。彼女の眠っていた潜在能力が垣間見えたとき、それは確実に現実にも反映される。

 

 お返しのストレートが一気に加速したのだ。

 これには天鴎も驚くことしかできない。天鴎の拳はもう加速しきっている状態だ、ここからはもうどうすることもできない。

 ならば、受けるダメージなんて考えずにこちらも拳に集中するまでだ。

 天鴎もその顔に笑みを深々と浮かべ最後のやり取りになるだろうこの死合いにのめり込んでいく。

 

ドガッッ

 

 先にその全霊をかけた拳を当てたのは……

 

 

 

 両者ともだった。

 

 両者共にクリーンヒット。両者ともに顔面に拳を食らいながら静止したままだった。

 

 

 だか、先に崩れ落ちたのは………

 

 幽香のほうだった。

 

 

 

 無理もない。幽香は余裕を残しての闘いだった天鴎と違い全力全開の戦闘だったのだ。それに土壇場での火事場のくそ力を出しダメージも無視できない物を最初に食らっているのだ、体力が尽きたっておかしくないだろう。

 天鴎も少なからずダメージを喰らってしまっているのだか、これぐらいは日常茶飯事だった。いや、彼の日常はそれよりも酷かった。

 

 

 まあ、この闘いは天鴎の勝利で終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?風見をどうすればいいの?」

 

 彼の後処理はまだまだ続くのだった……

 




 難しい、難しい。
 視点がいきなり変わってすまない。
 幽香とか口調が難しい( ;∀;)
 
 でも戦闘回が書けた。これで天鴎の異常さの一端を知ってもらえれば…


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風見幽香

 新年あけましておめでとうございます。今年も東方鞍馬録を宜しくお願いします。

 ああ~、リクエストとかほじいー。


 

 幽香との闘いを終え、倒れ伏し気絶した幽香を見て天鴎は困り果てていて。

 

 勝負を仕掛けてきたのは幽香だとはいえ、気絶するまでダメージを与えたのは紛れもなく天鴎なのだ。

 そのままここに放置というのも気が引ける。

 

 かといって、幽香の事で知っているのは名前ぐらいだ。どうしようもない。

 

 そこでふと思いだす。たしか、この向日葵畑の周りに小屋があったはずだと。とりあえず空から見た時に小屋があった方向へ歩き出すことにする。幽香を背中に背負いながら。

 

 

 

 ■ 移動中……

 

 

 

 さてと、小屋のまえについた。それにしてもここまでの道のりでみた向日葵もまた見事なものだった。

 本当にここすげーな。

 毎日見にきてもいいぐらいだ。

 

 にしても、この花たちは誰が管理しているのだろうか?

 これだけ立派な花たちが自生できているとは思えない。

 管理者がいるのは確実だろう。それもたぶん、この小屋に住んでいるんだろう。

 

 まあ、入ってみたらわかるか。

 

「お邪魔しまーす」

 

 そういい、小屋の中に入る。返事は無く無人のようだった。

 

 小屋の中は何というか西洋風の家だった。土足厳禁ではあったが…

 

 中にあるものとしては少ない家具に、花畑を耕すものだと思われる農耕機具。

 

 しかし、キッチンや倉庫など間取りはしっかりとしており、キッチンに関してはなかなか良いものだった。この家の住人は料理にはうるさそうな印象を持った。

 

 とりあえず、風見をベッドの上に寝かす。

 

 それから、気の応用で、気を活発に循環させる事で回復力を高める処置を施す。ついでに、自身の中でずっと循環させていた高密度の気も流し込み回復力を高める。

 これで、明日にはかなり回復しているはずだ。

  

 その間に、家の中で物を少し失敬して、タオルやらを使って汚れをとり風見を介抱する。

 

 それにしても、介抱するときに家の中を見てみて思ったが、どうやらこの家の住人は女の人のようだ。

 なんというか、自身の予想では気の優しそうなおじいさんがこうゆうところで細々とやってそうなイメージがあったから少し以外だった。

 

 ふうーん、でもここの人は西洋風のものが好きで、花が好きで、女の人と…

 

 

 あれ?

 

 

 なんか、該当しそうな人物が一人いるんだが?

 

 西洋風のものが好き… 風見は服装はブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカートを着ていて完全に和風ではなく洋風だし日傘だってさしている。

 洋風好きの要素はある。

 

 花好き…ここにかんしてはどうしても戦闘のほうが好きそうな気がするが風見は紹介の時に確かこういっていった。

 

『私は花の妖怪』と。

 そう、確かに自身を花の妖怪と名乗ったのだ。ここから連想するに少なくとも花に関しては普通よりも詳しいだろう。

 

 そして彼女が女だというのは確認するまでも無いだろう。

 

 それによくよく考えればここに人間が住んでいるというのは可笑しな話しだ。

 ここは幻想郷でも奥地にあり、人里ともそれなりの距離がある。それなのに、ここには農作物を栽培する土地は無く、人間が生活するために必要な量の食料も無い。

 

 ここから人里まで日帰りするのはできない事は無いが難しい事には難しいし、飛んで来るときに大きな道は確認できなかった。

 それならば、ここまで来るのに妖怪に襲われる可能性は大きく、到底人間が住むには住みやすい環境とは言いにくい立地条件なのだ。

 どうしても住みたいというのならそれこそ空を飛べなければならないだろう。

 

 現に、今し方この畑含め気配を広範囲で探ってみたが人間の気配は察知できなかった。

 それにある一定の力を持つ妖怪の存在も感知できなかった。せいぜいが妖精や弱小妖怪などだ。

 それらがここまで見事な向日葵畑を作れるとは思えない。いやそもそもがそれなりに知能の高い妖怪でもここを管理するのは難しいだろう。

 しかし、風見が花の妖怪だと言うのならばここを管理できる可能性はあるだろう。

 

 なるほどな。風見はここに住み着いていたのか。戦闘の際に全力に見えたから気付かなかったが、今振り返れば、確かに花に配慮しながら戦っていた気がしなくも無い。

 オーバーな攻撃も多かったが…

 

 

 まあ、ただそれが分かっても現状俺には何も関係が無いのでどうしようも無いのだが。

 

 とりあえず、文は今日は遅くまで仕事で拘束されそうだと涙目で言っていたので日が沈み始めるまではここで待っていてやろう。

 

 とりあえず、紅茶の入れ方は曖昧だが覚えていると思うので、それを飲みながらでも窓から向日葵畑でも眺めますか。

 

 

 

 

 

 

 

「うっ」

 

「お、起きたか?」

 

 あれから三時間程してようやく風見が目覚めそうだ。

 そう思っていたら風見はいきなりパチッと目を開ける。

 

「あら。私どうしてここに…」

 

「お、やっと起きたか風見」

 

 俺がそう声を掛けると風見がこちらを見て少し驚いたように目を見開いた。

 

「あら、私はあなたに負けた筈。どうして勝手に人の家に入り込んでくつろいでいるのかしら?」

 

「お前を花畑でそのまま放置しておくのもしのびなかったからここまで運んできて介抱してやってたんだよ」

 

「それは感謝するわ、でもそうやすやすと乙女の部屋に足を踏み入れる物ではないわよ?」

 

「(誰が乙女だ、誰がっ!)へいへい、分かりましたよ」

 

「分かればいいわ、ま、勝負の勝者はあなたなのだからあなたの好きにすれば良いのだけれども。」

 

「え?じゃあ今の注意は何?」

 

「別に受けなくても良い説教よ」

 

「ええ~~」

 

「まあ、いいわ。あなたには約束通りお茶の一杯ぐらい入れてあげるわね」

 

「結局入れてくれんのかい!!」

 

「あら、いらないの?」

 

「いりますよ!ただお前そんな体でお茶を入れれるのか?」

 

「あら、このぐらいの傷…くっ!」

 

「ああもう、そこでゆっくりしてろ。外傷はそこまでないが体の中の方がボロボロだ。あんまり動かん方が良い。あと、紅茶の入れ方は知らんが緑茶ぐらいならいれれるから」

 

「……分かったわ、あなたに任せるわ。癪だけど」

 

「任されました。けど、最後の一言は余計です」

 

 とりあえず、茶葉と急須は何故か置いてあったのでさっさと淹れることにしよう。

 いつも文にお茶を淹れているのですぐにお茶は淹れ終わる。

ちなみに先程紅茶を淹れようと挑戦して見事に失敗した。慣れない事はするもんじゃないね。

 ああ~、それにしても〜、風見は美人だけど中身があれだから、文に会いたいよ~、俺の癒やし~、どこだ~い。

 

 はっ!!あまりに嫌な現実過ぎて現実逃避していた。うう、帰りたい。

 

 そんな俺の気持ちとは裏腹にいつもお茶を淹れている俺の体は着々とお茶を淹れていっている。

 

「はあ、できましたよ。ほれ、少し内臓に響くかもしれないが我慢しろよ?」

 

「…ありがとう」

 

「どう致しまして」

 

 とりあえず、お茶を啜る。

 

「これ、美味しいわね。いつも紅茶しか飲まないけれども、これなら偶には飲んでいいわ」

 

「際でございますか」

 

「あら、素っ気ないわね」 

 

「お前は構って欲しいのか?」

 

「いや、それは気持ち悪いわね。やっぱりいいわ、近寄らないで頂戴」

 

「え?まだ構ってないけど?なんか当たり強くない?」

 

 まあ、別にいいが。ただ、文にやられたらショク死する自信はある。

 それにしても、やっぱりこの花畑は風見が管理しているのだろうか?

 聞いてみたかったので、聞いてみる事にする。

 

「なあ、風見」

 

「何かしら」

 

「この向日葵畑は風見が管理しているのか?」

 

「形だけよ、でも見事でしょう?この向日葵達。それに、私はそこまでちゃんとした管理はしていないは。この子達の言葉を聞いてあげてるだけですもの。」

 

「それでも、とっても見事な向日葵達だよ」

 

 本当に見事だよ。ただ、それを戦闘狂が作ったというのがなんとも言い難い気分にさせてくれるのだが。

 

「花の妖怪なら、冬とかはどうしているんだ?ここで何か違う物を栽培しているのか?」

 

「いいえ、していないわ。花の成長を助ける事はしても、この子達を手ずから育てたりはしていないわ、花の妖怪と言っても、いろんな季節の花が咲くところを基本的にうろついてるだけよ。ここを管理しているのも一番要ることが多いのと、ただの気まぐれからよ」

 

 まあ、花妖怪らしいのからしく無いのか分かりにくい生活をしていらっしゃって、俺達は鴉天狗らしくは無いが鞍馬天狗らしいかと問われればスゲー納得できるらしいからな。

 ま、妖怪という枠に捕らわれない自由な生き方も良いだろう。

 花妖怪なので一つの場所に留まる印象の方が強いが。

 

「栽培する気はないのか?」

 

「今のところは無いわね。やっぱり自然なあの子達を観ていたいから、手助けはすれど自然な彼らの生き方を観るわ」

 

「そうか、まあ栽培したくなったら鞍馬天狗が手伝ってやろう。何故か土木は得意だからな、俺達は」

 

「その時は頼むわね。鞍馬の天狗さん」

 

「天鴎だ、天鴎でいい。風見」

 

「あら、なら私も幽香でいいわよ、天鴎」

 

「そうか、改めてよろしく頼む。幽香」

 

「こちらこそ、よろしく頼むわね、天鴎」

 

 そういいあって、両者ともに握手する。

 ふと外を見るともう日が傾いてきている。そろそろ帰らなければ。

 

「長居し過ぎたみたいだな、今日はもう帰るよ」

 

「あらそう、足元には気をつけて帰りなさい」

 

「鞍馬天狗にも翼ぐらいあるわい。そしてちゃんと飛べから要らぬ心配だわい」

 

 幽香の皮肉を受けながらも玄関に向かう。

 

「それじゃあな、幽香。いい夜を」

 

「そちらこそいい夜を」

 

 俺はそういい合い外にでた。

 外は綺麗な夕日であり。向日葵畑と合わさって更に見事だった。

 

 さてと、夕飯を作らなければ、少しばかり急がなくては。

 

 俺はそう思い、翼を空に広げるのだった。

 

 

 

 

 




文「今年も新年が明けてしまいましたよ天さん。」

天「ああ、そうだな。しかし、作者は新年にも関わらず特別編を出す気は無いらしい。」

文「めんどくさいからですか。」

天「まあ、ぶっちゃけてしまえばそうなる」

文「他にも理由が有るんですか?」

天「まあ、本編が全く進んでいないからだろうな。そもそもの登場人物が少なすぎる。このまま書こうとしたら俺と文のいちゃいちゃしか無くなる。」

文「私はそれでも良いんですけどね。」

天「まあ、そうゆうむねのいいわけを俺達に代弁させてるんだよね、作者は。」

文「本当にもっと働かなくてはいけませんね、作者。学業ぐらい頑張ってください。」

天「(そういえば、冬休みの課題がヤバいとか言っていたな)」

文「どうせ、冬休みの課題とかも全然やってないんでしょうね。」

天「(見透かされてるぞ作者。とりあえず、頑張れよ)」

文「本当に上の者は使えませんね。」

天「それ以上は可哀想だからやめたげて!!」




 今日の天さんTシャツは変なおばさんの顔が付いて寿司ざんまいとでかでかと書かれている。
 戦闘中これとか、しまらんな。



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冥界にて

遅れてスミマセン。
それにしては短くてスミマセン。
リアルが忙しかったのと、久々のメタルギアが面白すぎたのとかあって……

まあいろいろありますが、この方と戦うのは何人か予想してたんじやないでしようか?
それでは本編どうぞ!!


 はあ、お茶がウメェ

 

 俺はそんな事を思いながら縁側でお茶を啜っている。

 しかもこれは自分で淹れたものではなく文の淹れてくれたお茶だ。

 文は俺の淹れてくれたお茶の方が美味いと言っているが、自身の淹れた物より他の誰か、それも大事な人に淹れて貰った物ならそちらの方が美味く感じることだってあるだろう。

 俺もその例に漏れず、文の淹れた物の方が美味く感じる方だ。

 

 今は、文が張り切って家事を終わらせていて、水音がしなくなったことから、水回りは終わったのだろう。

 文も、お茶を淹れて縁側にきたみたいだ。

 そのまま、俺の隣にだいぶ密着して腰を下ろす。

 

 そのままお茶を啜る。

 周囲にはお茶を飲む音が響く。

 俺と文は楽しく話し合う時間も多いが今みたいに無言の時間を二人で楽しむ事も多い。

 ただ、それが苦痛なのでは無く、この上ない幸せに感じることなのだからいい時間だと言えるだろう。

 

 

 虚空でこちらを見ている気配がなければ。  

 

 だいたい誰かは察しがつく。

 とりあえず、声を掛ける。

 

「おい!紫!そこでみてないでこっちにきたらっ!?」

 

 俺が言いきる前に体が一瞬の浮遊感に襲われる。

 そしてどこかの縁側に尻から着地する。

 そして唐突に理解する。

 俺の手元にはなにもない…つまり…

 文が…文が…あんなにニコニコで淹れてくれた、俺の方が美味いからって恥ずかしがってなかなか淹れてくれなかったところを頼み込んで淹れて貰ったお茶が…

 

「お茶が…お茶がない……」

 

 俺の手にはお茶がすっかりと消え失せていた。器ごと。

 

「ハイハイ、お茶ぐらい戻してあげるからそんな絶望に染まった顔をしないで頂戴。」

 

 そんな声が聞こえてきたと共に俺の手元にお茶が現れる。

 

「ああ、お茶だ。文のお茶だあ…ズズッ。」

 

 戻ってきたお茶を飲んで落ち着く。ああ、美味いなあ…

 

「あとついでね。」

 

「きゃあっ!」

 

 そんな悲鳴と共に文がスキマから俺の膝の上に落ちてくる。

 俺は湯飲みを文に当てないようにしながら上手く受け止める。

 ついでにそのまま後ろから抱き締める。

 

「へへえ~、天さん~。」

 

「ん~~、どうしたの~、文~。」

 

 俺と文の間にラブラブの雰囲気が流れる。

 

「あなた達、ところかまわずイチャイチャしないで。」  

 

 そう言いながらスキマから出てきたのは金髪ロング瞳も金色、毛先をリボンで結びつけ、服装は八卦の萃と太極図を描いた中華風の服を着ていてリボンのついたモブキャップらしき物を着用している、胡散臭い感じが定番の八雲紫だった。

 

「で、どうしたの紫?そっちから呼び出すのは珍しいんじゃないのか?」

 

 だいたい俺達鞍馬天狗が起こした事にわざわざ処理しにくる以外ではそこまで俺達の前に姿を表さないのが八雲紫だ。

 こちらが起こしたこと以外で呼ばれるのは今までなかったのでは無いだろうか?

 

「ちょっとね、見てみたい事が有りまして、あ、その前にちょっと紹介させて頂戴。」

 

「ん?別に良いけど。」

 

 俺達がそう返事をすると、紫が奥の方に声を掛ける。

 

「幽々子~ちょっとこっち来て頂戴~。」

 

「は~い。」

 

 奥の方からそんなおっとりとした声がして、一人の女性が現れる。

 ピンクの髪に赤とピンクの中間のような瞳、そして白い肌を覆う桜の柄があしらわれた水色の着物。

 紫と似ている水色のボブキャップをつけていてそこに付いている三角布に特徴的な渦巻きがある。

 

 そのような服装と容姿をした女性を紫は隣に立たせて紹介を始めた。

 

「紹介するわ、この子は西行寺幽々子。この冥界の管理者であり、私の唯一無二の親友よ。」

 

 紫がそういうと、隣の西行寺というどこかの坊さんのような名字をした女性が改めて自己紹介する。

 

「私からも紹介するわ、私は西行寺幽々子。さっき紹介された通りこの冥界の管理者をしているわ。種族は亡霊よ、足はあるけどね。」 

 

 へえ、亡霊なんだ。

 正直言って種族なんてとくにこだわっていないのでなんでもいいのだが、冥界に亡霊に。まあ、なんともそれらしい妖怪で。

 ただ、外面だげでその人の人となりを決めるわけではないが。

 

 とりあえず、あちらが自己紹介したのならこちらも自己紹介しなければならない。とりあえずしよう。

 

「こほん、俺は鞍馬天狗の鞍馬天鴎だ。今はいろいろあって妖怪の山に住んでいるけど。そしてこちらが…」

 

「清く正しい射命丸文です、文々。新聞というのを発行しています、残念ながらここにはお運びできそうにないので残念です、しかし以後お見知りおき下さい。」

 

「後俺達は婚約してる。」

 

 重要なことだから言っておいた。相手側は手を口元に添えてニコニコしている。

 

「あら、あなたがあの有名な鞍馬の天狗の一員とその婚約者なのね、会えて嬉しいわ。」

 

 やっぱり鞍馬の事はそれなりに有名になっているようだな。

 ただ、有名になった理由が脳筋だったからという理由だったというオチはやめて欲しい。

 一応、俺たち鞍馬天狗は土木でこの幻想郷に貢献しているので、その方面で話が広まっていることを願う。

 

 …それも微妙だか…

 

「それで?今回はなんで俺を呼んだんだ?俺を呼んだことなんて滅多にないから理由が分からないんだか?」

 

 とりあえず今回呼ばれた意味が分からなかったのでその事を質問する。

 

「そうね、私達二人はね、剣術に最近興味が有ってね、だからちょっとみてみたくなったのよ。」

 

「別に剣舞ぐらいなら舞ってやるが?それのためにわざわざ呼んだのか?」

 

「いいえ、剣舞も魅力的だけど今回は達人達の真剣勝負というのを見てみたくてね、呼んだ次第よ。」

 

「ふーん、それで?どこに剣の達人というのはいるんだ?それらしい奴はいないんだが…」

 

「ええ、今呼ぶわね。妖忌~、ちょっと来て頂戴~。」

 

 西行寺のお嬢様が奥に向かって声をかける。

 

 すると奥から老人が歩いてくる。その歩みは決して遅くはなくそれでいて足音は全く立てていない。

 姿勢も一本筋が通ったように真っ直ぐであり、外見の通りの年老いた感じは全くみせていない。

 それにこの老人を見ているとなんとなく、歩き姿だけでもわかる。

 

 ああ、この人はかなりの使い手だと…

 

 その腰に差している刀からも使い込まれた跡がみえ、相当の時間を刀に注ぎ込んでいるのが分かる。

 

「お呼びでしょうか、幽ヶ子様。」

 

 その言葉と共に膝立ちになるが、その時の姿勢になるまでも随分と柔らかい動きで実力の程が伺える。

 

「妖忌、この方が前に言っていた天狗よ。」

 

「ほう、この方がですか…」

 

 妖忌と呼ばれる老人はこちらの方を向く。

 紫がそれと同じく自己紹介を促してきたので、とりあえず会釈する。

 

「あなた方のお噂は常々伺っております。何でもとんでもない武の達人の集団だとか。」

 

 あちゃー、武勇の方で有名になっていやしたか、しかし脳筋だという事が分かっていなさそうな態度ではあるな。

 俺だけなら脳筋だというのはバレないだろうが、里の奴らに興味をもたれたら最後。

 ガチ引きされる運命しか見えない。

 ここは礼儀正しい態度で常識が正常だということを印象付けていかなければ(混乱)

 

「ええ、俺達鞍馬の天狗の一族は武に力をいれていますので、武人は多いですし、達人級の者も多いですね。」

 

「やはり、噂は本当でしたか。いや、しかしそなたの立ち姿を見ただけで相当の武人だということはなんとなく感じておりましたぞ。無駄も隙も全く無い、お手本のような立ち姿、感服しましぞ。」

 

「いやはや、あなたの立ち姿も隙は無いですけどね、相当の武人だと推測しますがどうですかね?」

 

「確かに、今はここで庭師をしていますが、若い頃は剣に身を捧げましたからな、自信は有りますぞ。」

 

「ほう、それは興味深い。」

 

 この方老人がどれだけの時間を剣に捧げてきたのかはわからないが、その心ゆきは俺たち鞍馬天狗に迫る物がある。

 この方ならなかなかに良い勝負ができるだろう。

 

「紫。」

 

「何かしら、天鴎。」

 

「やってやるよ、その勝負とやらを。達人通しの真剣勝負、ここまでのクオリティでの戦いは鞍馬の里以外ではなかなか観れないだろう。しっかりとみておけよ。」

 

「ええ、解ったわ。」

 

 それだけ言って俺はこの老人の方に振り返る前に……

 

「文~、応援宜しくね~。」

 

「天さん~、全力で応援しますよー!!」

 

 よしっ、気合い入った。

 

 俺はスッキリした気持ちで目の前の老人を見る。

 

「今ままで話しを聞いていた通りだ、そちらの主の意向もあって試合をする事になる。意義はないな?」

 

「ふっ、主の意向じゃしな、逆らおうとは思わんよ、それにここまでの達人とは私の方から試合を頼みたい程じゃよ。」

 

「ああ、そうだな。俺もあんたとは是非戦ってみたい、お相手願うよ。」

 

「こちらからも、お相手願おうか。」

 

 そのまま、俺たち二人はそのまま庭の開けている場所まで出る。

 

 二人とも、小手調べとでもいうのかその手に持つのは鞘に刺さった刀ではあるが。

 

 ただし、老人の方は鍔の無い刀であり、天鴎の刀は鍔はあるがその刀は包帯のような布でぐるぐる巻きにされており、おふだが一枚張ってあるという何とも奇妙な物であったが。

 

「それじゃあ、抜刀するのは任意でってことで。」

 

「ああ、それで構わん。」

 

 二人して構える、目の前の相手を見据える。

 

「二人とも、ちょっと待って。」

 

「ん?なんだ?紫?」

 

 いきなり紫が二人の間に割って入る。

 

「いやね、こういうのは立会人が必要かと思って。」

 

「立会人ね…」

 

 まあ、紫は剣術というのを全く分かっていないようだったから意味はそこまで無いだろうが雰囲気はでるだろう。

 

「まあ、いいよ。こっちも始める前にしたかった事があるし。」

 

「へぇ、何?」

 

 俺は構えを解いて体を老人の真正面に向ける。

 

「俺は鞍馬の天狗出身、名は鞍馬天鴎!、剣士だ!」

 

 俺は堂々ど名乗りを上げる。

 やはりこういう時は名乗りを上げないとな。

 

 相手側もニヤリと笑う、こちらの名乗り合いに乗ろうと思ったのだろう。

 

「儂は半人半霊の剣士、名は魂魄妖忌!今は訳あって幽々子様の元で庭師をしている!」

 

 二人とも刀を構える。

 そして目の前の好敵手に覇気を送りながらも宣言する。

 

「「いざっ!!尋常に勝負っ!!」」

 

 二人の剣士の真剣勝負が、ここに始まった。

 




天「文、鞍馬天鴎はスニーキングミッションもこなす事がある。」

文「へぇ、正面戦闘だけでは無いんですね?」

天「ああ、そうだ。その際には馬や犬や凄腕のスナイパーなどと一緒にミッションに向かう。」

文「なんか聞き覚えのあるような内容ですが、それで?」

天「ああ、その中で基本になるのが音を出さずに相手を無力化する格闘技」

文「その名も?」

天「CQCだ」

文「それまるっきりメタギアじゃないですか!!」

天「まあ、犬や馬や凄腕のスナイパーやCQCを取り入れたのはつい最近だからな」

文「ほぼ全部じゃないですか!!最近取り入れたの!!」

天「まあな、そもそもの話し俺たち鞍馬天狗が本気で気配を消したら例え目の前にいても気づけないぐらいのレベルになる、真正面から入ってもなんら問題はない」

文「身も蓋もない」


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天鴎vs妖忌

 今回は長くなりました

 ごちゃごちゃしてて長そうなところは読みにくいかもしれないので抜かしてOKです。

 ただ今回は今まで明かしてなかった重要な事を明かしていますので、それを知りたい人はside 文まで抜かしてくだっさい。

 それでは、どうぞ!!



  二人の剣士は刀を構える。

 

 魂魄妖忌の場合はその鞘に入った刀を正眼に構えている。

 

 それに対して鞍馬天鴎は鞘に入ったその刀を抜刀術を放つ構えで重心を低くしている。

 

 

 二人は相当の剣士ではあるがやはりこの一場面からでも二人の違いがわかる。

 

 魂魄妖忌という剣士はその生の相当の時間を剣に注いでいるのだろう。

 スタンダードな刀の構えを主に使う剣士らしい剣士の構えである。

 

 鞍馬天鴎もやはりその生の中でほとんどの時間を剣と共に過ごしている。

 しかし、このような最初から刀を抜刀できる状況で抜刀の構えをとるのは珍しい。

 何故なら、達人ならば正眼の構えから溜めを殆どせずにトップスピードまで刀を加速させる事ができるからだ。

 そうなれば正眼よりも体を使うモーションが多い抜刀は不利になる。

 

 故に両者とも正眼とは言わずとも刀は体より前にくるのが基本的である。

 

 しかし、天鴎の構えは刀を体より後ろに持ってくるものである。

 それだと天鴎の一手は妖忌よりも遅くなってしまう。

 

 天鴎がいくら抜刀が得意だからといってもそれは不利な体勢に変わりはない。

 

「ほう、それは自身が楽に勝てるという余裕の表れですかな?」

 

「いや、これも考えあっての構えですよ、決して余裕の表れという事ではないですよ。」

 

「ほう、それならば、その考え事断ち切って一本取らせて貰おう。」

 

 一気に緊張が高まる。

 

 両者眼光鋭く隙を伺う。

 

 観客と化している幽々子が先程からパタパタと扇いでいた扇子を不意にパチンと閉じた。

 

 それが合図となった。

 

 天鴎と妖忌の音も衝撃もすべて前方に込めた踏み込みで距離が一気に縮まりその勢いを乗せた剣戟が繰り出され…

 たのは妖忌の刀だけだった。

 

 天鴎はそれに対してさらに体を前にだし、空中へ体を投げ出しながらを思いっ切り捻るという暴挙にでた。

 しかしそれは妖忌と観客の予想に反し、妖忌の刀を躱す(・・・・・・・)という結果をもたらした。

 そう、妖忌の刀は躱されたのだ。

 

「なっ?!」

 

 妖忌の驚愕に染まった声が聞こえる。

 

 しかし、驚いたのも一瞬だけ、空中で上手く身動きがとれないであろう天鴎に向けて追撃の切り上げを放とうとする、しかし…

 

 ガンッ!!

 

 刀どうしがぶつかる音と共に妖忌の振り上げようとした刀は完全に地に叩きつけられる。

 それは、天鴎が空中で捻った力をそのままに妖忌の刀を勢いよく上段から刀でたたきつけたからだ。

 

 それに対し妖忌が驚き刀を引き戻そうとしたとき…

 

 ヒュッ

 

 そのような音がし、妖忌の顔の横に天鴎の足が添えられる。

 天鴎が回し蹴りをし寸止めしているのだ。

 

「詰みですよ、妖忌さん。今回は少し卑怯な手を取ってしまいすみません、けれどどれだけの実力があるのか、または対応力があるのか測りたくなりまして、今回の闘い方をさせてもらいました。」

 

「…そうゆう狙いだったか、打ち合いをするのではなく最初から避ける事を狙っていたのは。」

 

「まあ、そうゆうことです、けどもう一戦やりませんか?やはりあなた程の剣客、真正面から打ち合ってみたい。」

 

「ああ、望むところじゃ。」

 

 妖忌は特に文句も言わず合意し、後ろに跳んで距離をとり仕切りなおす。

 

 その間紫は何を言えばいいのか分からず、しかしオロオロするわけでもなく、ずっと固まっていた。それも結構堂々としている。

 なかなか観れない姿なので幽々子と天鴎は少し内心で笑ってしまった。

 

 そして直ぐに妖忌に意識を全て集中させる。

 先程の打ち合いは俺が最初から回避を重視して動いたので、妖忌からしたら不意を打たれるような形で決着が着いた剣士としては卑怯な決着の着け方かもしれない、お互いの剣技をぶつけあおうとしなかったのだから。

 しかし、この一幕で分かった事もある。

 それは、素の身体能力の差だ。正直言って、俺のとった避け方は無茶な避け方であり、なおかつ避けられるかも分からない運だめしのような避け方、狙ってやるには妖忌の振り下ろす刀に自身の体の回転を完全なタイミングで合わせるという無謀もいいところというような無茶をやってのけねばならない。

 そんな事妖忌はともかく、他の強者、鬼であっても無謀な挑戦だ。

 それに、他に理由を上げるとするのなら天鴎と妖忌とでは武の鍛え方もまた違う。

 妖忌の剣技を剣を主体にしている剣技ならば、天鴎は体を主体とした剣技を使う。

 そもそも、鞍馬天狗はその武から多種多様な武器を使う。刀、西洋剣、槍、弓、薙刀、ヌンチャク、棒、面白い物には扇子なんて物もある。

 そして、これらの経験から考え方はより効率的になり武器というのは悪魔で体の延長でしかない、つまりは体の一部なんだと考えるようになった。

 全ての武人にもこの考えはあるだろう、しかし鞍馬天狗はこの考え方は度を過ぎている。

 剣と慣れ親しんだ生活をし過ぎて歯に着いた海苔をとるのに爪楊枝がないからという理由で刀でとるという何とも愛があるのかないのか分からない事をする。

 

 閑話休題

 

 とりあえず、何が言いたいかというと身体能力は天鴎の方が高いということだ。

 

 しかし、剣技というのはその差を覆すためにあるものだ。

 天鴎の身体能力はいましがた妖忌は確認した。その全てを読み切った訳ではないが、その一端を体感する事はできた。

 それならば、常に最悪の結果を見据えての行動が可能となる。

 

 読み合いという点では全く特徴がつかめない天鴎だか、この身体能力から武術もそれに頼ったものになるだろうと予想はできる。

 妖忌は自身の得意なスタイルでいけば、身体能力に頼っているだろう剣技を使う天鴎に勝てると踏んだ。

 

 だがその推測は天鴎からすれば甘いものではあったが。

 

 

 二人とも両者に対する考察をしながらも睨み合いは続く。

 

 幽々子は自身の扇子がきっかけで先ほどの一幕が始まったからか姿勢を正して正座している。

 

 

 なかなか始まらない戦いは、不意に落ちた一枚の木の葉によって再開された。

 

 

 両者ともに、一気に前に詰める。

 妖忌は上段からの唐竹、天応は下から上に斬る逆風。

 

 甲高い、刀と刀の斬り合う音が鳴り響き、二人の攻防が始まる。

 

 それは、美しく、幻想的であり、まるで舞っているかのような攻防。

 

 攻めの妖忌、豪快ながらも洗礼された太刀筋であり一撃必殺を狙う、対して天鴎は守りの剣であり、妖忌の剣に乗っている力をうまく受け流し、こちらも返す刀での一撃必殺を狙う。

 

 妖忌の袈裟切り、それをそっと撫でるようにして受け流し、太刀筋を狂わせる。

 その勢いそのままに天鴎が右切り上げをするが、妖忌が切り上げをし、剣を弾く。妖忌は宙に剣が浮いた隙に右薙ぎをしようとするが、天鴎は体制を崩された訳ではないのでこれも受け流される、しかし妖忌はすぐさま右切り上げを放ち天鴎に攻撃する隙を与えない。

 

 一見して天鴎が押されているように見える。

 しかし、天鴎がその全て(・・)の剣をいなしていることから妖忌が攻めきれていないことも分かる。

 

 その実、妖忌としてはこの戦いを楽しむとともに焦りも生まれてきていた。

 それは全ての剣をいなされているからだ。一度ぐらいは弾いたり鍔迫り合いがあったていいだろう、というかそちらの方が自然だ。

 なのに、一度もそのような状況は生まれない。

 

 受けの剣技に関しては完全に天鴎の方が実力は上だった。

 

 

 だが、妖忌は他にも違和感を感じていた。

 

 なぜならば、天鴎の剣技に型が見えないのだ。

 

 そもそも、剣技というのは一つの剣術の流派にそって振るものだ。我流というのは洗礼されておらず、何代もの時をかけて洗礼されてきた流派にはかてないだろう。

 

 だか、天鴎の剣技は型が見えないが、我流という訳ではない。確かに一つ一つの剣にはある種の流派のようなものは読み切れた訳ではないがみえるのだ。

 しかし、妖忌はそこに違和感を感じていた。まだそこまで多くの打ち合いをした訳ではないから確証は持てないが、その剣の一振り一振りが全く違う流派(・・・・・・)だと感じるのだ。

 

 これは剣士としては異様なことであり、妖忌であっても今の流派を見つけ極めるまでに何百年も掛かったのだ。いくつもの流派を極めようとするとどれも中途半端になり、限界まで極められたものになど勝つことができない。

 だからこそ、剣士というのは例外はあれどその一生を掛けて一つの剣技を極めるのだ。

 

 しかし、天鴎はその妖忌の剣と互角に打ち合っているのだ。

 つまり、天鴎の使う剣技の一つ一つはかなり練度が高いことになる。

 

 妖忌はそこまで考えが至ったとこで、背筋に嫌な汗が流れる。

 

 妖忌はとっさに剣を大きく薙ぎ、後ろに跳び仕切りなおす。

 そして剣士としてどうしても問いたいことを衝動的に問うてしまう。

 

「天鴎、そこまで多種多様な剣技、どうやって極めた?そこまでの域に到達するまでどれたけの修練をつみどれだけの時間を掛ければたどりつけるか分からんぞ?!」

 

 天鴎は沈黙していたが、嬉しそうに顔を上げ話しだす。

 

「やはり気づくよな、妖忌。なに、簡単なことだよ来る日も来る日も剣をただただ振り、死合と実戦を繰り返しまた剣を振る、これを何百年も繰り返せば嫌でもこの域にたどり着くさ。」

 

「なんという修羅の道よ、そこまでいくと逆に空しいほどだぞ、だがやはりそれでもおかしい、それぞれの剣技や流派には才能というのも大きく関わっておるからな、そこまで多くの物を修得するのにはあり得ない程の才能と優れた師範代がいるものだ。鞍馬の天狗にそこまでの数はおらんはずだし、外部に師事していたとも考えにくいからな。」

 

「やぱっり、違和感はぬぐえないよなボソッ…実際に見なきゃ、俺のしてきた事は確かにそれだけなんだけど。」

 

 妖忌はそれでも納得できずに不服な顔をしている。それでその域までたどり着けるのなら妖忌だってそうしている。

 いくら時間をかけてもたどり着けない域があるからこそ、ここまで食い下がっているのだ。

 

「嘘を言え、そこまでの剣技を身につけるのには何百年という期間じゃ明らかに足りんわ、それこそ四六時中鍛錬に身を費やしてもだ。」

 

「まあ、確かにそれで納得するものでもないよな。分かった、種を明かそう。」

 

「やはりあったか、それで、その種とは?」

 

 

 

「結構簡単なことさ俺の程度の能力だよ

 

 

 ■

 

side 文

 

 時はほんの少し遡り、天鴎と妖忌が向かい合ってすぐの時。

 

「ねえねえ、天狗さん。」

 

「射命丸ですよ、幽々子さん。それで何ですか?」

 

「天鴎さんの程度の能力はなんなの?」

 

「あ、それは私も詳しい事は知らないから気になるわね。是非聞かせて頂戴。」

 

 先程の一幕をみて少し引いてしまった紫が二人の方に近寄っていた。

 

「ふふん〜、教えて欲しいですか〜?教えて欲しいですよね〜。よし、教えましょう!」

 

((イラッ))

 

「天さんの能力はですね〜」

 

「「能力は……」」

 

 

全ての武術を極める程度の能力です。」

 

「「全ての武術を極める程度の能力?」」

 

「はい、私は天さんにそう聞いています。」

 

「へえ、それって具体的にはどんな能力なの?」

 

 紫が以外と勢いよく食いつく。

 

「簡単に言えば武術といわれる物からような物までを修得できる能力です。」

 

「待って、修得できる(・・・・・)能力ってことは最初から使える訳じゃないってことかしら?」

 

 幽々子がかなり鋭い所をついてくる。

 

「ええ、この能力は悪魔で修得を早めるような(・・・・・・・・・)能力です。」

 

「それってかなり不利な能力じゃ…」

 

「いえ、それは違いますよ」

 

「え、なぜ??」

 

 幽々子と紫は頭にはてなマークを浮かべる。天鴎の能力の利点が分からないようだ。

 

「簡単にいえば、武人が喉から手が出るほどに欲しがる才能というのが全ての武術にかなりの高さであってですね、それに加えこの能力は全ての武術が該当しますからかなり範囲も広いですし、種族特有の物も修得できます。」

 

「特有というと。」

 

「武神の武術や、魔剣士独特の戦い方、霊術師の霊術なども修得できるということです。」

 

「でもそれらを使うには神力や魔力、霊力を扱えなければいけないのよ、そんなのあり得ないわ…まさか」

 

「その、まさかですよ紫さん。天さんの能力はそれらを扱うための才能と共に下地を作ってくれます。それらからいえることは…分かりますよね?」

 

「ええ、まさか神力、妖力、魔力、霊力、4つの力を使えられるようになる能力だなんて、昇華させるにはかなり大変な能力だけどけっこう強力じゃない?」

 

「まあ、力の容量が増える訳ではないので火力が出る訳ではないですけど、確かに天さんの能力はかなり伸びしろがありますね。鍛えれば鍛える程強くなる能力、武人としてありえない程の高みにいますよ。」

 

「あらあら、それじゃあこの勝負天鴎さんの勝ちかしら?」

 

「当たり前ですよ、なんていったって私の最強で最高にカッコイイ天さんですからね。」

 

 そういって文は胸を張る。

 

 紫も幽々子も天鴎が勝つだろうなと薄々心のなかで予想する。

 

 なんとも妖忌が不埒な会話であった。

 

 ■

 

 side 天鴎

 

 

「なるほどな、そのような能力があるからこそ、そこまでの高みまでいけたのか…」

 

「まあ、鞍馬天狗として生まれたからこそこの能力を最大限活かせたんですけどね。」

 

「ならお主、かなり力を抜いておるな?そのような能力があるのだ、神の武術すら修得できるというのだからもっと力があってもいいはずじゃ。」

 

「そうですね、俺はまだまだ引き出しが残っています。でも、それを引き出すのは俺ではなくあなたじゃないですか?」

 

「ふふふ、嬉しいことを言ってくれる、しかし、それもそうじゃな。いいじゃろう、出し惜しみはなしじゃ。」

 

「やはりそうこなくては、面白くない。」

 

 その言葉と共に妖忌が動く。

 天鴎は先ほどと同じ受けの姿勢を崩さない。

 それに対して妖忌はかなり深く踏み込み、全力の一撃を繰り出す。

 

 決して力任せではない、もてるだけの技術と力を全て振り絞った会心の一撃を放つ。

 

 だが、やはり天鴎からすると力点をずらすのは簡単なことだ。あさっりと受け流してしまう。

 

 だがここで天鴎からすると予想外なことが起こる。

 

 妖忌が受け流した時の勢いを利用して回し蹴りを放ってきたのだ。

 正統派の剣士である者が、先ほどまでそのような体術を一切使おうとしたかったはずなのに放たれた蹴りに不意を突かれ天鴎は反応が一瞬遅れる、天鴎は咄嗟に何とかガードをするが体勢は崩されてしまう。

 天鴎の上体が後ろに傾く。

 

 妖忌はその隙を逃さず弧を描くような鋭い切り上げを放つ。

 それは天鴎に吸い込まれるような軌道を描くが天鴎はその場で這うようなバク転をすることで回避し後ろに距離をとる。

 

 だがそれは妖忌の予想の範囲内だ。

 

 妖忌はここまでずっと納めていた鞘をここでずらす。

 

 そのまま抜刀するのではなく…抜刀する勢いそのまま鞘を天鴎に向けて飛ばしたのだ。

 

 ここでまた天鴎は不意を突かれる形になる。

 今回は完全に意識が追い付かなかったのか右肩に受けてしまう。

 ここで初め天鴎が妖忌に出し抜かれることになった。

 天鴎は今の攻撃によってまた崩された体勢を立て直そうと前を向くが、そこには最早上段に剣を構え、袈裟切りを放つ妖忌がいた。

 

 その斬撃は天鴎の左肩から右脇腹への傷を作るとおもわれたが…

 

「な!!手ごたえがないだと?!」

 

 妖忌の振るった刀は見た限り確かに天鴎の体を切り裂いたと思ったが、その手ごたえは空を斬ったものそのものだった。

 妖忌は咄嗟に天鴎を見つけようと周りを探ろうとするが…

 

 

それは残像だ

 

 妖忌の背後からそのような声が響く。

 

 その瞬間天鴎の方に振りむこうとするが、

 

「鞍馬一刀流」

 

 その瞬間、妖忌の目の前に圧倒的な殺気が溢れだし、妖忌の頭に死という文字が浮かぶ。

 

「基ノ型」

 

 そこまでいった所で妖忌は天鴎と向き合う形になるが、その殺気の前に動くことができない。

 

(ざん)

 

 

 その瞬間妖忌は死を覚悟する。

 

 しかし、刀は妖忌の顔の前を高速で通り過ぎ、台風と間違えそうな暴風を生んだが、その剣は妖忌に傷を残さなかった。

 

「勝負ありですね、妖忌さん。」

 

「あ、ああ…」

 

 未だに風が吹き荒れる中天鴎が問いかける。

 妖忌は天鴎の問に弱々しい答えしか返せず、またその場を動けなかった。

 

「そ、空がっ!?」

 

 紫のその声を聴き、何故か妖忌は無視できず、妖忌は固まっている体を無理矢理自身の後ろに振り向かせる。

 

 そしてその目を大きく開け、自身の目を疑う事になる。

 

 

 空には、目の前一面に広がる雲海に、横に切り裂かれた(・・・・・・・・)ような穴があいた雲海が広がっていた。

 妖忌も紫も幽々子もただただ固まるしかない。

 たったあの一刀だけで、簡単になし得る事のできない事をしたのだ。それは、相当な実力者達の腰を抜かせ、固まるしかない状況を作ってしまった。

 

 

 この状況を作り上げた当の本人はというと…

 

「あちゃー、これはやりすぎちゃたかな?」

 

 それだけいって困ったような苦笑いを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?私本当に立会人になる意味あったかしら。」

 

 

 

 

 多分いらない子だったと思う。

 

 

 

 




シリアス「出番がない」

ギャグ「俺もない」

バトル「最近大忙し」

ラブ「ちょくちょくレベル」

シリアル「まあお前ら、元気だせや」

シ・ギ・バ・ラ「お前だれだよっ!?」

シリアル「今回の天さんのダサTシャツは森羅万象だよ☆」




 次回は本編ではなく小話とかだすかもしれません。感想待ってます。


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小話集 その1

小話とか言いながら時間かかってしまい申し訳ありません。後長くなってしまい申し訳ない。それに加え二つしか話しがなくて申し訳ありません。

後、カカシさん、誤字脱字報告ありがとうございます。
感想をくれた皆様もありがとうございます。

励みになります。


 開幕いちゃいちゃ

 

 

 日の沈む頃、ある屋敷の縁側に腰掛ける、二人の男女がいた。

 辺りは静まり返り、鹿威しの音がその場に響く。

 

「天さん、やっぱりここからの景色は良いですね。」

 

「うん、そうだね、かなり良い景色だ。」

 

「けれども、天さんと会う前は夕陽を見てもなんとも思わなかったんですよね。なんででしょうか?」

 

 文はニヤニヤとしそうな顔をしながらも、解答なんて一つしか無いような問を投げかける。

 

「さあ、なんでだろうな?俺と居るからじゃないか?」

 

 天鴎はその問に静かな顔で答える。

 文は自身の期待していた答えが返ってきて満足そうな表情を浮かべ、天鴎の膝に向け思いっきりヘッドスライディングを決める。

 天鴎は文が怪我をしないようにキャッチし、文ご所望の膝枕の体制をとる。

 文はすぐさま満足気に頭をのせる。

 そして、次の質問をニヤニヤしながらする。

 

「私は前まで熱中して楽しめる事といえば新聞作りしかなかったんですけど、最近は他にも楽しめる事が増えてきました、誰のおかげ何でしょうか?分かりますか?」

 

「さあ、知らないかな?心の余裕というの個人の捉え方によっていろいろと変わるものだからね、それは文自身のおかげじゃないのかな?」

 

「むうー」

 

 文は自身の望む答えが返ってこなくて少しむくれてしまう。この答えは全て天さんのおかげといわせたいのだ。

 しかし、天鴎のいう事はもっともであり、自身の殻を破れたという意味にも捉えられ、褒められた風に言われたので結局文は口元が緩んでいる。

 

「天さん~、私たちの生きる意味ってなんでしょうね?」

 

 文は結局天鴎を試すような質問を辞め、何となく頭に浮かんだ質問をする。

 妖怪にとっては長く生きた悠久の時は自身の生きているという感覚を麻痺させるのに充分な時間であり、妖怪にとっては寿命でも怪我でもめったに死なない身体であるので、生の実感を感じる瞬間は少なく、妖怪はそのことを気にもしないので、文は生の意味というのを考えた事はとても少ないのだ。

 

 しかし、天鴎というか、鞍馬の一族は生というのを考える機会は多い。元々が鍛錬マニアで、その自慢の肉体を試す為に実戦にもでることは多く、回数を重ねまくって強くなった鞍馬天狗は強さの関係上感じる生の実感は少なくなるがまだ未熟な者は死にかけで戻ってくることも多い。

 文はそのことを踏まえた上で答えを天鴎が持っていると思い質問したのだ。

 

「うーん、そうだな。生きる意味というのは実はあってないような物なんだよ。」

 

「と、いいますと?」

 

「正直言って、生きる意味が無くたって、人や妖怪は生存本能がある限り生きていける。そもそも生きている時に大きな意味なんてもっていないし、持ったら持ったでその生を制限される。それならその日その日の小さな楽しみを目的に生きていくほうがいい。どうしてもと意味を持たせたいなら一つだけにせず何個も持つ方が良い。これが俺の考えだ。」

 

「うーん、なるほどと言いたいですがやはり難しいですね。小さな楽しみとは具体的には?」

 

「それは、食事や睡眠などを楽しみにしたり、趣味に楽しみを覚えることだな。」

 

「なぜそれが生きる意味になるんですか?」

 

「うーん、生きる意味とは正確には違うかもしれんが、明日も生きていたい理由にはなるんだ。食事は何をつくるか?どんなものが美味しいか?毎日試行錯誤していれば、明日も試そうって気持ちになって明日も精力的に生きている。趣味だってより良いものにしようとすれば毎日を充実させて生きてける。つまり、何かが楽しい、明日もしたい、そうゆうサイクルが有ることで長期的には何年も生きる事の意味になる。」

 

「なる程、どでかい意味を探すより小さい意味を探す方が良いんですね?」

 

「まあ、中にはどでかい夢を持ってそっちの方がよくなったやつもいるかもしれんが、妖怪は少なからず小さい意味を探した方が良いだろう。」

 

「ならなら天さん、天さんの生きる意味は何ですか?」

 

「?、それはさっき言ったみたいな日々生きている中でのものもそうだけど、でも今は文と一緒に居られるっていうのが大きいかな。本当に、今一番の生きてる意味だよ。」

 

 天鴎はもはやお馴染みのしれっと恥ずかしい事を囁く戦法を発動する。

 もちろんこの攻撃、文には効果はバツグンだ。

 一気に文の顔は赤く染まる。

 文はその顔が見えないように天鴎の太ももにより一層顔を深く沈める。

 

「私もです…」

 

「ん?」

 

「私も天さんといるのは楽しいですしその日その日を楽しく過ごすために必ず必要な物です。なので私の中の天さんはとても大きな生きる意味です。今までも、これからも…」

 

「!」

 

 天鴎はこの文の言葉に素直にビックリし、赤面する。

 いつも甘い言葉を囁けば著しく語彙力が低下する文が今回は言葉を返すだけでは無く甘い言葉による反撃を行ってきたのだ。

 成長したんだなとなんだか感慨深くなる。

 まあ、今回は幸いに文はこちらの顔を見ていない。とりあえず、他に言葉を言っておくかと考える。まあ、今回はシンプルに。

 

「嬉しいよ、文。」

 

 なんというか、囁かれた相手がある意味ゾクッとするような猫なで声で囁く。

 案の定文はゾクッと身震いし、更に深く頭を沈めようともがき始める。

 天鴎はそれに苦笑しながらやはり、文の頭に手をおく。

 そのまま文の頭を撫でながら沈みゆく夕日をみる。

 

 こんな状況だが天鴎は今夜の夕食作らなきゃなという考えが頭に浮かんでくる。

 そのことにも苦笑しながら、とりあえず文を起こしにかかる。

 

 

 ちなみに、その後文を起こし夕食の準備に取りかかるまで三十分の時間を要したらしい。

 

 

 

 ■ 小話1 完  

 

   小話2 飲み会

 

 

 ある日、文が妖怪の山の仕事を終え帰りの道をたまには良いかなと思い飛ばすに歩いていると、見慣れた獣耳を持っている白狼天狗の少女を見つける。

 

「椛さ~ん。お昼ぶりですね~。」

 

 今日の仕事でたまたま話をした椛に声をかける。

 

「あ、文さ~ん、お昼ぶりですね~。」

 

 普段は仲のいい二人だ。地位からしたら文の方が上になるが、だが椛の持つ部下にしたい白狼天狗番付一位という結果があるおかげで、本来あまり仕事場がかぶるはずのない二人だが仕事では同じ仕事場になることが多かった。

 

「あら~~、文と椛じゃない。そんな所でどうしたの?」

 

 と、空から似たような格好をした鴉天狗、姫海棠はたてが降りてくる。

 

「あ、はたて~」

「あ、はたてさ~ん」

 

「二人とも一体こんなところでどうしたの~?」

 

「いや、どうということもないんですが、そこでたまたま会いまして。」

 

「ふ~ん、そうなの?ここら辺で二人がいる事なんてないからてっきり飲みにでも行くのかと思ったわ。」

 

 はたては思ったことを素直にいう。

 

 けれどこの言葉に椛がくいついた。

 

「いいですねー、それ。飲みに行きましょう、お二人とも。」

 

「いいわね、参加するわ」

 

「いいですけど、天さんに言っとかなくちゃいけませんね、少し待って下さい。」

 

 文はその場で鴉を呼んで、足に今から飲みに行く事を書いた紙を巻き付ける。

 

「よし、いいですよ、それじゃあ飲みにいきましょーー!!」

 

「「おーー!!」」

 

 無駄にテンションの高くなった天狗娘三人は飲みに向かったのだった。

 

 

 ■

 

 

 side 天鴎

 

 

「ん?鴉?何かあったのか?」

 

 天鴎の元に一羽の鴉がやってくる。

 何年かここら辺に住んでいるため妖怪の山の鴉とはそこそこ仲良くなっていたが、自分から近づいてくる個体はまだいない。

 なので、だれかから用事を遣わされた鴉だと思い、とりあえず腕を前に出す。 

 そこに鴉は着地し、足をもぞもぞさせる。

 

 天鴎はそこで足に縛りつけられた紙の存在に気付く。

 とりあえず鴉の頭を撫ででから、紙をほどき、内容を確認する。

 

 するとどうやら、文達は飲みにいくということと、晩飯はいらないことなどのむねがかかれていた。

 まあ、文がいないのは寂しいがこんな日もあるだろうと思いながら、どこからか取り出したサラミで鴉を餌付けしていた。

 そもそも、幻想郷に現代のような生ごみなどはないので、鴉はへんなにおいもしなければ汚くもない。

 そう思えば、鴉天狗からすると結構かわいい生き物なのだ。

 

 とりあえず、自分の分の食事を用意しようと思ったが、ここで天鴎の感が働く。

 なんとなく、天狗娘三人が居酒屋で解散せずにどこかで飲みなおしそうと思ったのだ。そのどこかというのも何となくではあるが、居心地のいいところ、具体的にいえばこの家じゃないかと予想してしまうのだ。

 

「つまみと酒、準備しとくか…」

 

 天鴎は鴉を肩に乗せ、台所に歩いていったのだった。

 

 

 ■

 

 

 said 天狗三人娘

 

「ああーー、もう、まさか文に先越されるなんてーー!!考えてもなかったわーー!!」

 

 はたての叫び声が居酒屋に響く。

 

「ふふーん、どうだー!!それにですねー、はたてより先にゴールインするだけではなく、天さんという超優良物件をゲットしたんですよーー」

 

「文さんはいいですねー、良い出会いが多くて、私なんて身に合わない仕事をさせられることがあるのになんの手当もないんですよーー!!あーーもう、ムカついてきました!」

 

 すっかりできあがった天狗娘三人の愚痴が、居酒屋に響き渡る。

 

 周りの鴉天狗共もワイワイ騒いでいる。

 中には文達の会話に聞き耳を立てている者もいたが、それらのだいたいは椛を部下に置きたいおじ様達であるが。

 

「というかー、文さんー、天鴎さんてどんな方なんですか?気になりますー?」

 

「そうよー、前に私から聞くの断ったけど、そんな完璧超人な訳ないじゃなーい。一体どんな男なのー?」

 

「いや、天さんは冗談抜きの完璧超人ですけど朝が異常に弱いのを除けば

 

「じゃあ、私見てみたいっでーす。」

 

「そうね、急に押しかけて化けの皮剥がしてやろうじゃない。」

 

「そうです、それがいいです!」

 

「そうと決まったらいくわよーー!!」

 

「え、ちょ、待ってくださーい!!」

 

 すかっりできあがった天狗娘三人は、天鴎のいる鞍馬亭へ突撃を敢行するのであった。

 

 

 ■  

 

 side 天鴎

 

 

 テッキーン

 

 

 そんな効果音と共に天鴎の頭に稲妻のようなエフェクトがうつる。

 

「来た」

 

 適当に妖術で作ったかき氷を食べていた天鴎が唐突につぶやいた。

 

「「おらーー!!やってきてやったわよーー!!」」

 

 そして、静かだった家におやじのような少女の声が響き渡る。

 

「おや、二人ともいらしゃい」

 

 そんな迷惑おやじとなんら変わりない二人を天鴎は優しく向かいいれる。

 二人からすれば、怒るか迷惑そうな顔をすると思っていたので、予想外の対応に拍子抜けすして、しおらしくなってしまう。

 

「すみません天さん、殴り込みみたいになってしまって。」

 

「いや、それで日々の疲れが少しでもとれるのなら大丈夫だよ。それよりも中途半端にきりあげて来たんじゃない?おつまみとお酒が用意してあるから飲みなおせばいいよ。」

 

「ありがとうございます、天さん。ほら二人ともいきますよ」

 

 そのまま四人は居間に向かう。

 

「「「おおーーー!!」」」

 

 そこには、サラミやスルメ、煮干や漬物などがおいてあり、隣には氷水で冷やしてある日本酒がある。

 

 さっきまで意気消沈していた二人もこれをみてテンションが上がってくる。

 

「のむわよーー!!」

 

「「おーー!!」」

 

 はたての掛け声を切欠に天狗三人娘はまた飲みはじめる。

 

 

 ■  少女飲酒中

 

 

 酒もあらかた飲み次は完全に仕上がってしまった天狗娘三人はここに来た目的である天鴎のことについて話しがシフトしていた。

 

 その内容がいかに天鴎が完璧なのかという文の熱弁に椛とはたてが反論するという内容だ。

 

 そして、それだけでは埒が明かないと思ったのか、酔っ払い共の毒牙は天鴎にロックオンされた。

 

「と、さっきから文は天鴎さんが完璧だと言ってるんですがーー、天鴎さん自体はどう思ってるんですか--?」

 

 それに、天鴎は苦笑しながら答える。

 

「そりゃあ、まだまだ完璧には程遠いし、弱点も多い。今は一点だけが異常に秀でているから他の弱点が見えにくくなっているだけだよ。それに、文に支えてもらっているところも多いしね」

 

「いえいえ、天さん、こっちの方が支えて貰うことは多いですし、お世話になっています。」

 

 二人の間に甘い空気が漂よう。

 

「ケッ」

 

「ペッ」

 

「おっと、嫌だったかな?」

 

「はあ、別にいいわよ。それに今の質問にさっきみたいな答えが返せるだけ完璧に近いわよ。ホントに良い旦那ね文。もういっそ私にくれない?」

 

「ダメでーす、天さんは私だけの天さんなんですーー!!」

 

 文は真っ赤に酔った顔をさらに赤くさせてはたてに叫ぶ。

 

「ほぉんとですよーー!!こんな良い人、上司に、もしくは旦那さんに欲しかったですよーー!!くださいっーー!!」

 

 椛も愚痴と共に叫ぶ。

 

「いや、だからあげませんてばーー!!」

 

 文も負けじと叫ぶ。

 

「気持ちは嬉しいが、俺はものではないんだが…」

 

 天鴎は苦笑しながら呟く。

 

「そうですっ!!天さんは私の物なんです!!誰にもあげません!!」

 

「いや、だから物じゃないって。文も酔いがまわり過ぎだ。」

 

 天鴎はこの酔っ払いたちの為に水を取りに行こうと立ち上がる。しかし、この天鴎の些細な行動が酔っ払い二人のヘイトを集める行動となってしまった。まるで動いた物に興味を惹かれる猫のように酔っ払い二人はそのらんらんと輝いた目で天鴎に狙いを定めたのだ。

 

 そして天鴎が二人の近くを通ったとき、二人は天鴎にルパンダイブしたのだ。

 

 完全に気が抜けていた天鴎はその二人の襲撃に反応できず、かと言って傷つけるような行動はできず、なすがままに押し倒される。

 

「むへへへ、このまま天鴎さんを食ってやる。」

 

「既成事実を作ったやるです。」

 

「え、ちょ、二人ともまって…」

 

 だいぶ酔った二人は勢いそのままに天鴎を襲おうとする。椛に至ってはもはや呂律が回っていない。

 それでも二人は天鴎の服を脱がしにかかる。

 

「何してるですか!!二人ともっ!!」

 

 文は天鴎を救出に行こうとフラフラとする足取りで二人の元に向かう。しかし、ここでハプニングが起こる。

 

「へぶっ!!」

 

 文が盛大にこけたのだ。

 そしてこけた文はそのままはたての背中に思いっきり倒れる。

 

「ぐえっ!!」

 

 文に背中を体当たりされる形になったはたても四つん這いの状態から勢いよく前に倒れる。

 それは、椛の脇腹に思いっきり頭突きをする形になる。

 

「ぐぼっ!?」

 

 椛は酔いと痛みのショックにより失いかけていた気を完全に失い気絶する。

 

 一方はたても酔いと体当たりと脳天から椛に突っ込んだ衝撃で完全に気絶する。

 

 そして文もこけた衝撃と体当たりの衝撃で「天さん~~天さんは~~私の~~物で~す~」といいながら気を失う。

 

「はあ、すごいミラクルのおかげで助かったか…」

 

 天鴎は一息つく。

 

 それと共に酔っ払い床で気を失った天狗娘三人をなんともいえない気持ちで見つめる。

 

「運ばないといけないか…やっぱこんなところで寝かせられんよな…」

 

 そういい、当初の予想よりひどくなった惨状をみて深いため息をつく。

 

「まあ、今回は助かったよ文。俺もまだまだ完璧とは言い難いよな」

 

 と、苦笑しながら幸せそうに笑いながら寝ている文の顔を見ながら言う。

 

 天鴎も正直言って酒を飲んでほろ酔い状態だったのでさっさと眠りたかったが「よしっ」といい気合いを入れる。

 

 そんな天鴎は文を座布団に置き直した後、酔っ払い二人を布団で寝かす為に客間に俵抱きで運んで行くのだった。

 もちろん、文も寝室に持って行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、二日酔いの猛威はちゃんと天狗娘三人を襲ったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 




設定を忘れがちになる今日この頃、俺も中坊を卒業し、高校にいく時期が迫っている。
実感などわかない。
高校の膨大な課題など考えたくもない。
誰か助けておくれ(超真面目に)


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鞍馬の里 前編

 お久しぶり。そして久しぶりの本編です。

※追加この鞍馬の里編は、前編、中編は飛ばしていただいてオッケーです。ちょっとした心境の蛇足しかないので。


 幻想郷の現代の環境汚染などと無縁な綺麗な蒼い空。

 

 その空は鳥や羽虫などが飛び交うが、それに加え現代とは全く違う物も飛び交っている。 

 それは妖怪であり、人型の妖怪が飛んでいる時もあれば、異形の妖怪も飛んでいるときもある。

 

 そんな幻想郷の空に今回は一組の男女が飛んでいた。普通に妖怪だが。

 

 このお話はそんな妖怪の射命丸文と鞍馬天鴎の物語である。

 

 

 ■

 

「いや、天さんは普通の妖怪できて無くありませんか!?」

 

「ん、どうした文。そんないきなり。」 

 

「あ、いや何というか突っ込んでおかなければいけない気がしたので、後なんでしょう、なんともいえない上の存在が前振りをはしょった気がしたので、そのことも言っておかなければいけない気がしました」

 

「まあ、なんの事かは大体想像がつくけど、言ったらいろいろと可哀そうだからその話題はやめようか」

 

「なにかいろいろと引っかかりますが、天さんがそうゆうなら止めましょう。これから行くところの方が重要ですしね」

 

「そうだね、文は見たことはあっても入ったことはないだろう?妖怪の山の天狗もほんの一部しか入った事はないはずだからなぁ。」

 

「そうですよ、天さんと交換で鞍馬の里に入ったもの達と天魔様ぐらいでしょうか?鞍馬の里の視察で入った者たちがどうなっているかも分かりませんし、天さんに伝え聞いている里の様子だとかなり不安なのですか…」

 

「はは、大丈夫だよ、いろいろと逞しくなって帰ってくるさ…(死んだ目)」

 

「え!!天さんなんですかその目!?いろいろと不安になるような反応しないでください!!」

 

「ふふふふふふ(魂のぬける笑い)」

 

「え、ちょ、天さん!?わ、私行っても大丈夫ですよね!?」

 

「大丈夫さ、いろいろと手厚く歓迎してくれるさ…」

 

「え、ちょっと待ってください?その手厚い歓迎というのは一体どうゆう内容なんですか!?」

 

「ふふふふふ、色々だよ」

 

「え!?も、もっと具体的にっ!?」

 

「着いてからのお楽しみさ☆てへっ

 

「え、い、嫌ですよ、筋肉だるまになりたくないですよ!?(超絶マッチョの意)」

 

「ふふふふふふ(諦めしかない笑い)」

 

「ひ、否定してください、い、嫌ですよ、私は嫌ですよーー!!?」

 

 

 とても澄んだ青空に文の悲鳴が響き渡る。

 

 

 ■

 

 

「おー、久しぶり」

 

「「あ、天鴎さん、ちぃーす」

 

 まるで運動部なのかという辺りに挨拶が響きわたる。

 その挨拶は門番の二人と天鴎がかわした物だ。

 ただ、この里には立派な門がある訳ではなく、里を囲う柵があるだけだで、入り口をただ見張っているだけだが。

 文と天鴎は鞍馬の里に着いたのだった。

 

「それで、天鴎さん、今回はどんな用なんですか?ボスからなんも聞いていないんすけど?」

 

「んん、ああ、今回は婚約者を紹介したくてな」

 

 

 ピキッ

 

 

 空気がわれるような音がした。

 いきなり、門番の気配が鋭くなった。

 

「天鴎さん、今なんて言いましたか?」

 

「え?婚約者を紹介すると…」

 

 ヒュッ

 

 そんな音と共に鞘に入ったままだが、天鴎の頭に刀が突き付けられる。

 門番たちは、嫉妬が入り混じった殺気を向けている。

 

「天鴎さん、久しぶりに模擬戦してくれませんか?」

 

 その言葉に何となくこの門番の気持ちを察する。

 そもそも、門番というのはなかなか出会いというものが無いのだ。

 仕事自体は暇ではあるが、重要な役割ではあるのでそれ相応の実力者が配置され、里の安全を守ることにも繋がるので外せない仕事なのだ。

 捉え方次第では名誉な仕事でもあるのだが、如何せんこの仕事、出会いが全く無いのだ。

 

 妖怪は普通番が欲しいとかはその長い生のせいかなかなか思わないものなのだが、彼らは不幸な事にここの上司に問題があったのだ。

 

 その上司と仕事柄関わる事が多いので、彼らは出会いが無いにも等しいにもかかわら関わらず『彼女が欲しい~;つД`)』という悶々とした考えに陥っているのだ。

 天鴎はあまりそこら辺の事は関わっていなかったが、ここのボスの孫だということとその実力の高さからかなり高い地位にいるのだが、共通の上司を持つものとしてその暴走を止められなかった事がなんとも心残りであったのだ。

 

 天鴎自身にはそこら辺を止められなかったことにやはり罪悪感を感じるので、模擬戦ぐらいは受けてあげることにした。

 

 

「いいよ、かかってきて」

 

 体全体の力を抜いて戦闘態勢を整える。

 

 門番二人は躊躇なく踏み込んでくる。その踏み込みは力強く圧倒的に加速力で天鴎に迫る

 

「まだまだ洗礼されてないね」

 

 天鴎は門番二人にダメ押しをするが、そんなことおかまいなしに門番は連撃をくりだしてくる。

 

「技がダメなら数と力で押し通すまでです」

 

 門番二人はその連携に加え妖力をそれなりに体にまわして隙のない連撃と高威力の拳をくりだしてくる。

 

 天鴎はそれを捌いているが、威力の高い攻撃に防戦一方になっている。  

 

「やっぱり、妖力を使わないとっ!お前らの相手はキツいな!」

 

「天鴎さんは妖力使わず二相手してたんですか!!それでも対応できてるとか、やっぱリ化け物じみてますね。」

 

「妖怪と化け物なんて同じようなもんだろっ?」

 

「そうゆうことじゃ無いですっ!!」

 

 その言葉を皮きりに、門番たちの攻撃もますます苛烈さをまし始める。

 天鴎はますます防戦一方へと押し込まれる。しかし、天鴎も意地で未だに一度も攻撃を通させていない。

 

「ほらほら、天鴎さん、妖力を使わないと俺たちが押し切りますよ!?」

 

「それは、困るなぁ!!」

 

 そう言った瞬間、天鴎の体が加速し、門番二人の視界から消える。  

 門番の二人はいきなり過ぎる急加速に反応などできない。

 

 門番が天鴎の姿を見失ったと、次の瞬間二人は地面に叩きつけられていた。

 

「え、へ?今何が起きたんですか?」

 

「ただ転ばせただけだから」

 

「いやいや、それは分かってますけど、その転ばせるまでにどうやって目の前まで近づいたのかが全く分からなかったんですけど?」

 

「妖力と歩法を使って近づいただけだよ?」

 

「歩法が並外れているのは前からでしたけど、天鴎さんそんなに妖力の使い方うまかったですか?」

 

「おいおい、妖怪の山には妖術を習いにいってたんだぞ?出力系が主とはいえそれが強化系の妖術のプラスにはならない訳がないだろ?俺は出力系の妖術を習得したことで、妖術の全体的な技術力アップに繋がってんの。そしてこれぐらいは妖怪の山に行く前からできてます。」

 

「うう、裏切り者を成敗しようとしたら実力の差をみせつけられるなんて…」

 

「いや、俺裏切ってないから。勝手に裏切り者扱いするに止めてもらえる?」 

 

「だって、だって、俺たちと同じ非モテだと思っていたの婚約者なんて連れてくるから…」

 

「非モテだったのは否定しないけど、結婚できない程酷くはなかったからな?」

 

「「うがあ…」」

 

 変な断末魔のようなうめき声のような声をだし、門番二人は崩れ落ちる。

 

「あの、そろそろ通ってもいいかな?」

 

「うう、別にいいですけど、最後に婚約者だという人を見せてください。そもそも確認しないとだめですから。」

 

「分かったよ、飢えたお前ら対策に上空に一時避難させていたけど、どうやら正解だったみたいで良かったよ、おーい!文ー!もう下りてきていいぞー!」

 

「はーい」 

 

 空から文が天鴎目掛けて飛んでくる。

 しかし、今回は天鴎に突っ込まず天鴎の前に着地する。

 

 密かに受け止める準備をしていた天鴎は表情にはださなかったが、内心かなりのショックを受けていた。

 そのせいで瞬くの間天鴎はフリーズする。

 

「えーと、天さん?戻ってきてくださーい、おーい」

 

「はっ!?俺は今何を??!」

 

「飛びつかないだけでなんでそんなにショックを受けてるんですか」

 

 文は何かとんでもないぐらいに自分の存在が天鴎という中で大きくなっているんじゃないかと危惧する。

 それ自体は文の中では嬉しい事なのだか、行き過ぎなのは何事においても良くないので心配になる。だが、まがりなりにも、自身が愛しているのは戦いの中で培ったとはいえ、かなりの精神的な強さを持っている。心配する事は無いだろうと思い直す。

 

「エエート、天鴎サンソチラノオ嬢サンガ婚約者デスカ?」

 

 門番が何とも言えない絶望に染まったオーラを出しながら妙な片言で問い掛けて来る。

 

「はい、そうですよ!私が天さんの婚約者の射命丸文です、鞍馬の里にはこれからも多く来ると思うのでよろしくお願いします!」

 

 門番の問い掛けに天鴎が答えるよりも先に文が元気よく答える。

 

 そして門番二人にはその姿がとても愛らしく映ったのか、口からギリッと歯を食いしばっている音がする。

 

「「なんで、なんで、こんな可愛い娘と結婚できるんだ、里では阿修羅とかよばれてたのに!!」」

 

「俺にはそんな二つ名があったのかよ、全くもって知らんかったぞ」

 

 天鴎はもはや自分がもてないとか関節的にけなされていることには突っ込まず、自身が全く知らなかった二つなに興味を持っている。

 多分天鴎がこれ以上何かを言っても同じような反応を返してくるだろうし、天鴎自身ぶっちゃければ面倒くさかった。手合わせまでして、門番にここまで時間をとられるとは思っていなかった。

 それに、天鴎は文と同棲生活をし始めた時点で文だけにもてればいいやと幸せだわと思っていたので、非モテだといわれてもダメージは全くない。

 

 それに対してもはや天鴎にも無視されるという事態に陥った門番二人は完全に燃え尽き地面にひれ伏す。 

 

「うう、今ボスから通行許可が降りました。通っていいですよ。」

 

「ん、あんがと、それじゃあ、行きますかね」

 

 天鴎は軽く門番に礼だけ言って、歩きだす。

 門番からすれば少し薄情だが、天鴎からすればしつこいのが悪い。

 

 文からすればあんな状態で大丈夫かと思うが、心が折れても彼らは戦闘大好き鞍馬天狗。

 例え落ち込んでいて、視線が思いっきり地面に向いていても、気配だけで周囲を察知できる。

 ただし、そこまで心に余裕があるかは彼らのみぞ知ると言ったとこだ。

 

「すみません、天さん。さっきの門番の人達はどうやって連絡を取っていたんですか?」

 

 どうやら文は先ほどの会話で、いきなりボスからの承諾を取っていた門番二人の連絡方法に疑問を持っていたようだ。

 確かに、傍目から見ればいきなり門番が勝手に通ってもいいと決めていたように思える。

 しかし、鞍馬天狗はその長い戦いの歴史の中で編み出した連絡方法がある。

 

「俺たち鞍馬天狗は思念伝達という技を使えるんだ」

 

「思念伝達ですか?」

 

「そう、説明すると思念、所謂イメージを共有するものなんだ。イメージを共有できるから、言葉だけでなく映像も共有できるし、集団戦において地図上にすぐに現地の様子を反映できるから戦略を立てやすいし、またその作戦をすぐに兵士に伝達できるから、無類の強さを発揮できる。鞍馬天狗の嫌な信頼と絆があったからこそできたものなんだ」

 

「ほう、成る程、戦闘の中で発達した技術なんですね、そしてそれを使ってさっきは連絡をとっていたんですね」

 

「まあ、そうなるな。ただかなり便利な技術だからな、文もそのうち修得するといいよ、そん時は俺が教えてあげるよ」

 

「そうですね、私も使ってみたいですし近いうちに教えてもらいましょうか」

 

 どうやら、文も思念伝達を使えれば便利だと思ったらしく、修得することにしたらしい。

 

「でも天さん」

 

「ん?なんだ?」

 

「天さんここのボスのお孫さんなのなら、顔パスできるんじゃないんですか?」

 

「そうだね、まあ確認する必要はないけど様儀式というか、門番の仕事が幻想郷にきてから暇すぎるというか、うんまあ、暇潰しの一つだね」

 

「無駄な事だと見事に言い切りましたね」

 

「そだねー」

 

 最近流行った北海道弁みたいな感じで答えを返す天鴎。ただ、天鴎は基本的に公私を切り替えるが、プライベートでは眠いキャラなのでおっとりした感じでこのような語尾が伸びる言葉を使うことが多い。

 

「にしてもこの里、今あんまり人がいないですね」

 

「ん?そうだね。昼は皆仕事と鍛錬に出払ってるし、ここら辺田んぼとか畑とか無いから、人いないように見えるね。夕方にならないとにぎわないかな」

 

 以外とそこら辺は真面目な鞍馬天狗。

 というよりは動いてないと落ち着かないと言った方が正しい。

 ただし、そのおかげで土木は上手いし、田んぼや畑からできる作物などはかなりの量を誇る。消費量も相当だが。

 

「おおーい!!天鴎!」

 

「ん?」

 

 遠くから天鴎を呼ぶ女性の声が聞こえる。

 

「あ、この声は…」

 

「天鴎!!」

 

「へ?わ?!」

 

 遠くにいたと思っていた声の主がいきなり天鴎の側に現れる。

 そして勢いそのまま天鴎にタックルする。

 天鴎はその行動が予想外すぎて上手く受け止められずその少女と一緒に倒れ込む。

 

 そしてそれは、天鴎のマウントポジションを偶然にも謎の少女が取る体勢になる。

 

 その少女は艶やかな黒髪をツインテールに纏め改造された腹だしミニスカ和服にニーソをきた属性満載の美少女だった。

 そしてその顔に浮かべるのは超がつくような満点の笑顔。

 そして向けられる対象は天鴎ただ一人のみ。

 

「天鴎!!」

 

 いまだその美少女は天鴎の上で満点の笑顔を浮かべている。

 

 対して文の顔からどんどん表情と目のハイライトが消えていく。

 

「ひっ!ひいい!?」

 

「天さん、誰ですかその女は?」

 

「いやあ、あのー、ですねー」

   

「言い訳はいりません、誰なんですか?」

 

「ええっと、あのー、少し落ち着きませんか…」

 

 

 どうやら天鴎の修羅場がこれから始まるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まるな!!そして俺は無罪だ!?」

 

 はたしてこれからどうなるのか、神のみぞ知る。

 




『思念伝達』 元ネタは転生したらスライムだった件 からです。

 そだねーはカーリングより前から他の物に影響を受け語尾を伸ばす言葉を使っていたりします。

 皆さんご存知、ルーミアの「そーなのかー」ですね。
 
 このなんとも締まらない感じが好き。


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鞍馬の里 中編

前回のハイライト

天「鞍馬の里に行きますか」
文「天さんは普通じゃない」
門「.リア充滅びろ」
天「めんどくさ」
ドカッ
門「ヤラレター」
文「その不思議な力は?」
天「思念伝達って言うんだ」
謎の美少女「天鴎ー!!」
文「誰ですかその女は」怒り
天「俺は何もしてない」ガクブル

こうしてみると内容の薄さにビックリする。



 「天さん、誰ですかその女は?」

 

 「いやあ、あのー、ですねー」

 

 「言い訳はいりません、誰なんですか?」

 

 「ええっと、あのー、少し落ち着きませんか…」

 

 文はハイライトのない目で天鴎を睨んでいる。

 天鴎は必死に何にもしていないと説明しようと慌てふためくが、逆にその行動が文に不信感を抱かせている。

 謎の美少女を覗いて、その周辺には男女の修羅場独特の嫉妬と殺気が詰まった空気が漂う。

 

 しかし、その空気を壊したのは意外にも謎の美少女だった。

 

「ああー!!あなたが天鴎の婚約者だっていう射命丸文さんでしょー、こんな可愛い娘よく見つけてきたねー、お父さんみたいに女の子引っ掛けてくるようになったらダメだよー。それで文さん、本当にこんな奴でいいの?」

 

「え、ええ、(何ですかこの娘は)私は鞍馬天鴎、そこの天さんが良いんです」

 

 謎の美少女は天鴎の上からさっと動いて文の前に動き気になる事を言いながらも質問をぶつけてくる。

 文はそのノリに追いつけず、たじろきながらも答えを返す。

 

 属性過多の美少女はそのノリでさらに文に詰め寄る。

 

「ええ、でも、この子、里では阿修羅とか呼ばれてて、女っ気なんて全く無かったし、女の子を誰も女の子扱いしないことで有名で誰も天鴎とは結婚しないだろうって推測が飛び交うぐらいなんだよー?」

 

海南(かいな)、それぐらいで止めなさい、文が困っている、そして俺の醜態を晒すんじゃ無い。もう俺もそこまで酷くはない」

 

 天鴎は海南(かいな)と読んだ少女の頭にアイアンクローをかます。

 

「いたたた!痛い痛いよ天鴎!?降参降参です降参します!だからその頭にめり込まんばかりの指を離してください!!ぎ、ギブアップ!!もう無理!!?」

 

 天鴎はその言葉を聞いてはぁというため息をついてからその指を離す。

 

「はあ、やっと離してくれたー、もう天鴎、妖力まで使ってかなり本気でアイアンクローかましてきたなー(怒)」

 

「当たり前だ。なんであんなに俺の悪い点を上げて攻めてくる。意味が分からん」

 

「昔からそうやって適当に扱ってくるからその腹いせだよーん」

 

「う、コイツ…」

 

「それに今言った事は本当だし、何も嘘なんて言ってないんだよー?それこそ今そんなにズタボロに言われるのも天鴎の自業自得なんだよ?」

 

「う、かなり正論だから何も言い返せない」

 

「ふん、自分がどれだけ人を蔑ろにしていたか思い知ったか〜〜!」

 

 確かに、俺は里の連中との触れ合いを蔑ろにし過ぎたのかもしれない。

 そこは認めるべき俺の非なのだろう。

 

 しかしだ、それにしても俺の悪口を言う量が久しぶりの対面にしては多過ぎだししかもだ、海南からしたら初対面の人に自身の悪口を嬉々として吹き込むと言うのはやる事が陰湿すぎやしないだろうか?

 

 俺は自然と手がアイアンクローの形にワナワナと震えながら変形していく。

 海南はそれを目の端に捉え頬を引きずらせる。

 

「も、元はと言えば天鴎が悪いんだからね!?あんなにいけ好かない態度を取るから!」

 

「ああ、大丈夫さ、元々は俺が悪いんだからさ、そんな理不尽に暴力は振るわないさ」

 

「そ、それなら、そのだんだんと私の顔に近づくその手を放してくれませんか?」

 

「ああ、残念ながらこの手はもはや俺の手から制御を離れお前の顔に向かっているからな。もはや俺でも止められないな~」

 

「なになに!?一体その謎理論はなに!?絶対私に口論じゃ勝てないからって、暴力に走ろうとしてるでしょう?絶対そうでしょう?そんなの止めてよー!!男としてどうかと思うよ!」

 

「ふふふ、それはどうだろうね?ただ、俺はそんな細かい事は気にしていないけど」

 

「うわ、天鴎本気じゃないの!ダメだよ、手をだしちゃ!?不幸な事故で片付けられないよ!!」

 

 二人は傍目からみて仲良く話しているような会話をするが、その内容は男の矜持と自身の命をかけたかなり攻撃的な会話である。天鴎と海南という少女の間で不穏な空気が漂う。

 しかし、文からすればその会話などどうでも良かったし、それよりも海南という少女についての説明の方が欲しかった。

 それに加え、文からすれば自身を放り出して天鴎が見知らぬ女との会話を楽しんでいるようであり気に入らなかった。そのせいで、声につい怒気が籠もってしまった。

 

 「天さん?」

 

 ビクッ「ひゃ、ひゃい、な、なんでしょう文様」

 

「そろそろその女の人を紹介してもらいましょうか?」

 

「イ、イエッサー、マム!!」

 

「マムではありませんが…」

 

「お、お許しをおおおお!!」 

 

「早めに本題に入りましょうか、天さん?」

 

「は、はい、入らせていただきます!」

 

「最早尻に敷かれているのね、文さん、恐ろしい娘」

 

「海南さんも少しお口チャックしててくださいね?」

 

「ハイ、イエッサー!!」

 

 謎の凄みを出している文。

 その凄みに本能のレベルで服従してしまった天鴎と海南。

 海南は内心ではなんでこんな事にと思っているが、天鴎は何の戸惑いもなくこの状況を受け入れている。

 最早、その姿に犬と変わりはない。

 海南も今の天鴎を見て飼い主に叱られしょんぼりとした犬の尻尾を幻視したという。

 

「ええっーと、この娘は倉田海南。屋敷で働いてる一人で、長刀の使い手だよ。後の性格は今までの会話で察して欲しいかな」

 

 文はその説明を聞き、天鴎の隣で正座している海南を見る。

 会って直ぐにテンションマックスになる性格。そこから元気という2文字がとても似合う少女だという印象が付いた。それに加え、この少女は文の中では注意すべき対象となった。なぜなら、この少女天鴎と自分の婚約に祝う言葉ではなく、どちらかと言うと自身と天鴎の婚約に反対するような言葉を掛けてきていたからだ。

 それは、少なくとも天鴎に好意を寄せているかもしれない可能性を生む言動だ。

 文からすれば相手は自分よりも天鴎との付き合いが長く、自分よりも天鴎の事を知っている相手。

 もし予想があっていて、海南という少女も天鴎の事を狙っているのなら相当強い競争相手になることが予想される。

 故に文は海南にジロリと視線を送りながら様子見に徹することにする。

 とりあえず、天鴎が妖怪の山の来る前にこの少女に唾をつけていないことを祈りながら、ため息をつく。

 

「とりあえず、海南さん個人についてのことはいいとして、あなた一体何しに来たんですか?少しは理由があるんですよね?」

 

「んん?ああ!忘れてた忘れてた。そういえば一応案内役として屋敷を追い出されてきたんだった!」

 

「追い出されたって…」

 

 文はその言葉に大丈夫なのかという顔をしている。

 天鴎またかよという顔をしている。

 

「とりあえず、海南、仕事があるならとっとそれを遂行してくれないか?また、おばさんに叱られるぞ?」

 

「ほ、ほんと?最近おばさんに大目玉くらったばっかりなんだよ!次やっちゃたらしばかれたおされちゃう!?」

 

「お前、おばさんは確かに厳しいが…そこまで怒らせるのも相当だぞ…」

 

「だってー、おばさんが難しいことばかり教えるからぁ」

 

「はあ、俺の覚えてる限りおばさんは無茶をいう性格じゃあなかったはずなんだけど。文、さっさと行きますか」

 

「ちょっ、天鴎置いてかないで―!!」

 

 すでに屋敷の場所を知っている天鴎は海南を無視してさっさと歩き始めるのだった。

 

 

 ■

 

 

「わあ、ここが本家ですか」

 

「そだね、ここがボス天狗の家だよ」

 

鞍馬の長が住む屋敷は貫禄のある何とも立派な長屋である。

 天鴎はその家が実家のはずなのにボス猿の巣みたいにその自身の実家を紹介する。

 

「とりま中に入ろうか」

 

 天鴎はなんの感慨もなく久しぶりのはずの自身の実家に入っていく。

 文もそれに続く。

 海南は珍しく天鴎達に大人しくついていっている。

しばらく歩いて、天鴎はある部屋に入る。

 

「ちょっと待ってて、今誰か対応にでてくれるから」

天鴎は思念伝達で確認したのか、文にそう伝える。

対して文は大分緊張していた。

先程の海南の突入でいくらかは緊張が収まったとはいえ、自身の好きな人の親に挨拶するなどこの長い生の中でたったの一度も経験が無いのだ。

外見は変わらないとは言え妙に年だけは取っている文は変におろそ待ってしまい先程緊張が少し収まったはずなのに今更緊張感が更に高まって来てただただ混乱するしか無かった。

 

「ねえ、文さん」

 

ここに来て海南が話し掛けてくる。文からすれば先程自身の緊張を少し緩和してくれた実績を間接的とは言え持つ者だ。

文はこの緊張が和らぐ可能性が少しでもあるのならと悪い方向への思考は全くせずに海南の話しに応じる事にする。

 

「はい、何でしょうか?」

 

「お兄ちゃんは絶対に渡さないよ」

 

「へっ?お兄ちゃん?」

 

今しがた海南の言った言葉のせいで更に混乱の渦に飲み込まれる文。どうやら今回は自身の緊張を和らげてくれる事は期待できそうにない。

文はとりあえず天鴎の方を向くと、先程の発言に対してか呆れた顔をして天を、仰ぎながら目頭を揉んでいた。

天鴎は本気で呆れているらしい。

 

「海南、小さい頃にお前を良く世話をしてやってはいたが別に血は繋がっていないだろ?」

 

「嫌なの!家族だと思える人が遠くに行くのは嫌なの!天鴎は特に良くしてくれたから、離れて欲しく無いの!!」

 

「嫌、俺別に婿入りするわけじゃないし、そもそも俺達が妖怪の山に住んだって物理的な距離はそう無いんだからそんなに嫌々と言う事無いと思うけど?」

 

「ち-がーうー!そうゆうことじゃない!!どうして分からないの!?おにぃがいなくなることが不安なの!?」

 

「いや、いなくなる訳じゃないのになんで不安になるの」

 

「だーかーら!「海南さん」何!?」

 

「天さんはそういう所大分鈍感ですから今分かってもらおうとしても無駄だと思いますよ?」

 

「だから今分かってもらおうと!かいな?」

 

「海南さん、それより重要な事があります。少し耳を貸してください」

 

「え?一体なに…」

 

 海南の言っている途中に文が海南の耳を引っ張り天鴎に聞こえないようで囁く。

 

「あなたは天さんに恋愛感情を抱いているんですか?」

 

「ひいっ、い、いや、抱いておりません」

 

「本当に家族としての愛情だけですか?」

 

「は、はい、そうです。天鴎とは家族同然に何年も過ごしてきたから、兄としての感情のほうが強いです、というか天鴎は距離が近すぎてそういう対象としては見れないです、はい」

 

「はあ、なら大丈夫ですよ。天さんも相当仲間を大事にする性格ですよ。例え私と結婚してもそれまでと変わらずにあなたと家族当然に接してくれますよ」

 

「本当に?ならあなたは私に厳しくしない?」

 

「天さんと家族同然なのなら、私が歓迎しない訳ないじゃないですか?何を不安がっているんですか?」

 

「いじめられちゃうんじゃないかと思って…」

 

「虐めるだなんて、そんな事するはずないですよ、だから安心してください」

 

「本当に、『お義姉ちゃん』?」

 

「はうっ!!?」

 

 海南の言った言葉に文は何か感じたことのない感動が体を駆け巡る。

 文からすれば今まで肉親といえる者がなかなかいなかったのだ。その文に向けられたお義姉ちゃんという言葉は妹属性の強くまた小柄であり、またとても可愛らしい海南の言葉は文のある部分にクリーンヒットしてしまったのだ。

 

「海南ちゃん、もう一度言って『お義姉ちゃん』って」

 

「お義姉ちゃん」

 

「はうぅぅ!?」

 

 またもや、文に海南の言葉はクリーンヒットの様子。海南ちゃん、恐ろしい娘。

 ちなみに、天鴎はそのやりとりを呆れた目で見ていた。

「大丈夫ですよ、海南ちゃん、あなたの不安な事は私が全身全霊を持って排除してあげますよ。私は海南ちゃんの味方です!!」

 

 堕ちたな、天鴎はこのやり取りを見てそう思ったらしい。そして、妹キャラという有用性はかなりあるんだなと思ったらしい。

 

「あらあらまあ、もう随分と仲良くなっちゃって、おばさん嬉しいわ」

 

 そう言いながら襖を開け、妙齢の美女が入ってくる。

 文はその美女を見て、優しそうという第一印象を抱いた。

 彼女の容姿は髪は黒髪に白髪が混ざってはいるが全体的艶のある髪で、顔は皺の少ない張りのある顔であり、目は潤いのある黒目、全体的THE・大和撫子という感じの人だった。

 

「ばあちゃん、久しぶりだね」

 

「そうね天鴎、久しぶりね。以前から大事な事があっても家を出てて帰ってこない事が多かったけれど、今回はちゃんと帰って来たし改心したと思うと嬉しいわ」

 

「う、ばあちゃんあん時は悪かったよ。だからあんまりイジワル言わないでくれよ」

 

どうやら天鴎はなかなか家に帰らなかった不良少年だったらしい。天鴎の祖母に次はないよう思いっきり釘を刺されている。

 

「それで、今日は婚約者を紹介してくれるんじゃなかったけ?」

 

 天鴎の祖母がさっそく話を切り出す。

 

「そうだよ、ばあちゃん、こちらが俺の婚約者の射命丸文だ」

 

「射命丸文です。よろしくお願いいたします」

 

 天鴎に紹介された文は自身でも名前を言う。    

 

「あら、射命丸文さんというのね。いい子そうで良かったわ。私は鞍馬天詠(くらまてんよ)、そこの天鴎の祖母になるわ」

 

 天鴎の祖母、名前を鞍馬天詠という名前らしい。

 

「でも、本当に天鴎とくっついてくれる人ができて良かったわ。こんな不良少年と一緒になってくれる娘がいるなんて思いもしなかったから」

 

 天鴎は祖母からこの言われようである。

 しかし、文からすればいくら祖母だからと言っても自身の婚約者を悪く言われるのは気分のいいものではなかった。故に少し言葉尻が強くなってしまう。

 

「いや、皆さんが考えてる天さんがどのような事をしていたのかは知りませんが、少なくとも私と接している時はとても私に優しく接して支えてくれました。私は天さんの容姿や強さに憧れた訳じゃないんです、その内面に惚れたんです。だから、そんなに天さんを悪く言わないでください」

 

 文がそう言い切った。天鴎は隣で嬉し驚きで固まっているし、海南は本当に天鴎に惚れいるんだと思って感心しているし、天詠はただ微笑ましそうに見ている。

 

「文さん、私は嬉しいわ。こんなにいい娘が孫に嫁いでくれて。それでいて本当に心から天鴎の事を思える娘で。私からもお願いするわ、どうぞこの孫と末永く幸せにお願いしますね、文さん」

 

 どうやら、文は天詠のお眼鏡には適ったらしい。

 天詠から文を託されてしまっている。

  

「天鴎!」

 

「は、はいっ!」

 

 天詠の凜とした声が響き、それに天鴎が慌てて返事をする。

 

「絶対に、この娘を幸せにするんですよ」

 

「!、ああ、もとよりそのつもりだよ」

 

 天鴎は天詠の言葉に力強く答える。

 天詠はその返事に満足したのか頷き席をたった。

 

「さてと、こんな老人はさっさと退いて、若いのだけで話させた方がいいわね。あなたたち、家の人たちが帰って来るのは仕事が終わってからになりますから、文さん、みんなに紹介したいから今夜ここに泊まっていきなさい。夕食の席で皆に紹介するわ、それまではここの者と親睦を深めておけばいいわね。天鴎、ちゃんと案内してあげるのよ」

 

天詠はそう言い、最後に文の方を振り向向いた。

 

「文さん、私たちはあなたを歓迎するわ、ゆっくりしていってね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 文の言葉を聞いた天詠は満足したのか、その顔に微笑みを浮かべながら、部屋を後にした。

 

 そして、部屋には少しの間静かな時が続いた。

 

「認められたんですかね、天さん…」

 文は静かに天鴎に問う。

「ああ、バッチリさ、これ以上ない程に認められたし、気に入られただろうね」

 

天鴎も微笑みながら言う。

 

「はあああああ、良かったぁぁぁあ」

 

文は一気に吐き出す。

あまり、表には出ていなかったが、文は天詠の前ではかなり緊張していたようだ。

 

「私も文さんが天詠さんにかなり気に入られたと思いますよ」

 

次に海南が天鴎の意見に、賛成する。

「それに私は思いましたし、文さんは天鴎ととってもお似合いの夫婦になるだろうなって、多分これ以上天鴎の事を思ってくれる人はいないだろうって私も思います」

 

海南はそう言って文の方を向く。

 

「さっきは認めないみたいな事言ってごめんなさい。天鴎に必要なのは文さんみたいな人なんだなって思いましたし、私も文さんはとてもいい人だなって思ったし、天鴎との結婚は大賛成だから、これからもよろしくね?」

 

「海南ちゃん、ありがとう。こちらこそこれから宜しくお願いしますね」

 

文は海南の言葉に感動するように少し涙声でいう。

 

「まあ、私的にもおばあちゃん的にも、あんなに天鴎を愛してる宣言されたら認めない訳にはいかないからね」

 

海南は少し困ったように苦笑いしながら認めた理由の1つを言う。

 

 その言葉に文は天詠の前で何を言ったのか思い出し、天鴎は何を言われたのか思い出して、二人して赤くなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか二人共凄く初々しいね」

 

海南からすれば二人がここまで初々しいのは予想外だった。

 





今回の天鴎は正装でした。ダサTではありません。
正装の方は挿絵が目次にあるのでそちらを参照してください。

次回は内容的に鞍馬の里後編だけで終わりきらない可能性があるので幕間を入れます。

最後に、遅くなってすいませんシッターー!!


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幕間 鞍馬家の食事風景

テスト週間でした、そして遅くなりました。赤点にならなことを祈る。


あの後結局、天鴎たちは三人話しただけで夕食の時間になった。

 

 理由としては周りの人たちが忙しそうに動いていたのと、ただたに夕食の時間までそこまで時間がなく微妙な時間だったからだ。

 

 夕食をとるために居間に向かうと机と座布団が用意してある。そして、天詠と女中さんらしき人が台所と居間を忙しく行き来している。

 

 しかし、用意される量がかなり多い。女中さんも一緒に食べると考えてもかなりの量だ。

 

「すごい食事の量ですね」

 

「そうだね、みんなかなり食べるからこれぐらいがちょうどいいんだよ」

 

「けど、天さんは普段からあまり食べませんでしたよね?」

 

「うん、まあそうだね。ここの食事の方が俺の作る料理よりクッソ美味いっていうのもあるけど、俺ばあちゃんが言ってたみたいに元々が不良少年だったからそんなに毎日みんなと食卓囲まなかったんだよ」

 

 どうやら、この不良少年天鴎は家族と食事を摂らなかった、いや食事であまり競い合わなかったせいで、幸いな事に鞍馬特有の大食らいが受け継がれなかったらしい。鞍馬の大量生産、大量消費からくるものではあるが、これを妖怪の山でやるといろいろと大変な事になっていただろう。主にエンゼル係数が。

 

「にしても、女中さんがかなりいますね。8人もいるなんて、まあこの立派な屋敷だったら8人いても納得ですけど」

 

「女中?」

 

 文は忙しそうに居間と台所を行き来する彼女等を見て女中さんだと言ったが、どうやら天鴎の反応からすると彼女たちは女中さんではないらしい。

 天鴎は瞬く文の言った事の意味を考えていたらしみたいだが、合点がいったのか手をポンと重ねた。

 

「文、この人たちは女中さんじゃないよ」

 

「え?女中さんじゃないんですか?なら、近所のお手伝いさんか、海南ちゃんら辺のご近所さんでしょうか?」

 

 文は目の前の忙しいそうに動き回る女の人たちが女中さんじゃないと分かり、少し戸惑いながらも順当な予想を述べる。

 しかし、天鴎もこの予想に対しても少し苦笑いしながら首を振る。

 

「はは、残念だけどその予想も違うんだよねぇ」

 

 文は不正解だと言われ他の予想も少し考えてみたが他に当てはまるような答えは見つからず、完全にお手上げだと天鴎にこの問いの解答を求める。

 

「うーん、正解わね、この人たち全員奥さんなんだよ」

 

「奥さん?つまり此処にいるのは全員既婚者だという事ですか?」

 

「うーむ、ちょっと説明が足りなかったね。正確に言えばこの8人の女の人たちは俺の親父の奥さんなんだよ」

 

「ふーむ、天さんのお父様の奥さんたちですかぁ……ん?え、はあっ!?

 

 文はあまりに予想外な事実に変な反応をしてしまう。 天鴎はその文の隣で諦めた顔でうんうんと頷いている。

 

「そうだよなぁ、普通そんな反応するよなぁ。ああ、そういえばじぃちゃんも最初はそんな反応してたよなぁ、じぃちゃんは今も昔も変わらずばあちゃん一筋な人だからなぁ、やっぱそんな反応するよなぁ」

 

 何故か祖父の反応を思いだす天鴎。

 文はそれよりも何故そんな事になってしまったのかと戸惑いの感情を隠せないでいる。

 

「なんで奥さんが8人もいるんですかっ!!」

 

 文が天鴎に勢い強めに問う。

 

「うーんとね、なんとも言えないんだけど、親父がね女難の相の持ち主っぽいんだよ」

 

「女難の相?なんでそんな物がついてると?」

 

「なんというかねー、時々ふらっと外に出かけたと思ったら必ず幸薄少女や美女を拾ってくるんだよ」

 

「拾ってくる!?」

 

「うん、それで見捨てる事も出来ないからできる限り力を貸してあげて、そしたらいつの間にか惚れられてて、どんな手を使ってでも親父を手に入れようとするヤンデレ女が出来上がってて、そしていろいろあってああなった」

 

「いろいろという部分がかなり気になりますけど、ヤンデレになるまでの過程もかなりどうなっているの不思議ですね」

 

「本当にそうなんだよなぁ、別に親父の能力はヤンデレを作る程度の能力でも幸薄少女を拾ってくる能力でもないんだからなぁ」

 

 天鴎はもはや遠い目をすることしかできない。

 

「あれ?でもそれなら誰が天さんの実母なんです……「あら、あなたが文ちゃん?」え?、はい、そうですが」

 

 文が気づいた事を問おうとした時にタイミング悪く女の人が文に質問をしてくる。

 

「あ、華蓮義母さん(かれんかあさん)、お久しぶりです」

 

 華蓮といわれた人はクールという言葉が似あう絶世の美女とも言える程の美貌を持った女であった。

 

「そうね、天鴎、久しぶりね」

 

天鴎と華蓮と言われた2人が挨拶をしている間、文は華蓮を見ていて言葉が出なかった。

何故なら、遠目に見ていて分からなかったが、華蓮というのは相当の美女であり、その白くきめ細やかな肌は鏡のように美しく、その艶やかな黒髪もその肌と美しく整った顔を引き立たせている。

今は作業をしやすい着物を着ているので、決して華やかとは言い難い装いなのだか、その全身からなんとも言い表わせない美女特有の雰囲気が漂っている。

 

文はここまでの美女というのを見たことが無かった。

 

「あ、華蓮義母さん、紹介するよ、こちら俺の婚約者の射命丸文だ」

 

文は天鴎に話しをふられやっと現実に戻ってくる。

「は、初めまして、射命丸文といいます」

 

文は華蓮を前にいつもの勢いが無くなっている。

 

「あらあら、緊張しちゃったかしら?緊張させちゃってたらごめんなさいね、別に楽にして良いよの?」

華蓮は少し困ったように微笑みながら、文に特にこちらにおろそまる必要はないと暗に伝える。

 

しかし、文としては天鴎の義母だから緊張しているというより、その身から出ているその美女特有の雰囲気が緊張する一番の要因だ。

 

天鴎はどうやらそんな文の緊張している原因を察したようだ。

 

「華蓮義母さん、重圧が出てる、弱めてくれ」

 

「あら?出ちゃってた?それはごめんなさいね、今引っ込めるわ」

 

華蓮がそういうと、文を緊張させていた雰囲気が弱まった気がした。

しかし、それでも第一印象がかなり衝撃的な事や天鴎の義母という事もあって、文はさっきよりはマシだが緊張はしたままだ。

 

「にしても、あんなに色恋から遠かったあなたが婚約者を連れてこれるとは、本当に世界は不思議のものね」

 

「華蓮義母さんから見ても俺ってそんなに酷かったですか?」

 

「ええ、私は途中からしかあなたを見ていないけれども、あなたの行動が本来の目的から本末転倒していることくらいは簡単にわかる程度には酷かったわよ」

 

「マジか…」

 

天鴎は門番とかよりも信頼度が高いところからもたらされた自身の過去は酷いという断定により、ショックを受ける。自身はそれなりにマシだと思っていた分ダメージもデカかった。

 

「ちょっと、2人ともそんなガチガチにならないで頂戴」

 

文は緊張により、天鴎はショックによりその動きが鈍くなってしまった。

華蓮からすればどうすれば良いか分からなく、苦笑いするしかない。

しかし、助け船は意外な所から来た。

 

「ああ、天鴎の兄ちゃん!!」

 

 華蓮でも海南でもない幼い声がかかる。

 

「おお、亜蓮(あれん)、久しぶりだな、少し大きくなったか?」

 

 亜蓮と呼ばれた11、12歳のように見える少年は嬉しそうな声を出しながら天鴎に駆け寄る。

 

「兄ちゃん、兄ちゃん!!遊んでよ、遊んでよ!久しぶりだから遊んでよ!!」

 

「今日はもう遅いし、今から夕食だからまた明日ね、体術おしえてあげるからさ」

 

「えー、そんなぁー、約束だからなぁ、絶対だからなあ!」

 

 駄々っ子のようにねだっていた亜蓮だが、お腹が減っていたのか夕食だということを理由にすると渋々と従った。

 そんな亜蓮に華蓮が声をかける。

 

「ほら、亜蓮、他の皆んなも呼んで来て」

 

「はーい、わかったよ母さん、今呼んでくるー!」

 

亜蓮はそう言って、居間を出て奥の方に走って行った。

 

「あのー、天さん、今の子供はいったい?」

 

「ん?亜蓮の事か?アイツは俺の義理の兄弟だよ、俺の親父と華蓮義母さんとの間に生まれた子だよ」

 

天鴎が文に亜蓮の事を説明する。

 

「ああ、まあ、夫婦ですしね、奥さんが何人いようと、例え全員がヤンデレだとしてもすることはしてますよね」

 

「逆にすることしてなかったら夫婦としてどうかと思うぞ、あと親父の奥さん連中は皆妙に中がいいぞ?なんでもそこら辺は皆感じるところがあるらしいし、予防線を張るには都合がいいらしいしな」

 

「なんの予防線ですか……」

 

 文は天鴎の親父の奥さん方の大っぴらにはいえない予防線事情を聞いた訳ではないのに、ヤンデレって怖いと思ってしまった。

 しかし、あんな元気な子供とそれにお母さんらしく接する華蓮という構図を見たことで文は緊張がほとんど解けてきた。親子の構図というのはとても心温まるものがある。

 文的にもあんな会話をしてみたいなと思ったからだ。ただ、天鴎がこれから娶る奥さんが文一人なのかも心配になってきた。理由は色々あるが、少なくともヤンデレ製造機との血の繋がりだけではない。

 

「ん?天鴎、帰ってたか」

 

「あ、爺ちゃん、ただいま、帰ってたよ」

 

 襖を開けて入ってきた一人の老人。しかし、その姿は姿勢の正しさ、そのきっちりと着こなした着物からか初老程度にみえる。天鴎のようにめんどくさがって甚平でもTシャツでもない。

 

「爺ちゃん、紹介するよ、俺の婚約者、射命丸文だ」

 

「うむ、天詠から聞いておるよ、射命丸さん、でいいな?」

 

「は、はい」

 

「儂は鞍馬僧正坊(くらまそうせいぼう)。そこの愚孫の祖父になる。本当に、他にもいい男がいた中でよくそこの愚孫と一緒になってくれる決意を決めてくれたわい、こやつの子供など見れないかと思っていたからな、儂ら一同歓迎するぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 また何か貫禄というか、威厳というか、場数と修羅場をかなり踏んでそうな人が出て来たなと文はおもった。

 天鴎は祖父にも女関係でかなり心配されて、馬鹿にされていた事にまたダメージを受けていた。

 いくら女関係では天詠に対して口説き倒して泣きついた経験しかない僧正坊や、ヤンデレ華蓮というあまりまともとは言えない恋愛を経験しているメンツに言われたとは言え、身内にそんな事言われれば天鴎からすればショックでしかない。

 

「あ、母ちゃん、ついでに父ちゃんも連れてきたよ!」

 

 先ほど他の者を呼びにいった亜蓮は他の子どもたちの他に、天鴎の親父を連れてきたらしい。

 

「あ、親父、久しぶり」

 

「ん?ああ、天鴎、おかえりぃ」

 

 そう言って亜蓮を肩に、他にいる三人の子供に各自引っ付かれながら、天鴎の親父は居間に入ってきた。

天鴎とは少しばかり面影がある顔であり、天鴎も美形だが、こちらもまた違う路線でのイケメンだった。文からすればなんとなく、ああこの人がヤンデレ製造機かと分かってしまう雰囲気と顔ではあったという。なんでも、妙に優しい時の天鴎にいろいろと似ていたらしい。

 

「にしても、天鴎が婚約者を連れてくるとは、親として感慨深いなぁ。海南ちゃんと門番の二人から聞いてるよ、特に海南ちゃんからはどれだけ文ちゃんが天鴎を大好きなのか聞かされたって言ってたなぁ」

 

その言葉に文は赤面してしまう。天鴎は誇らしげに胸を張る。

 

「僕は鞍馬天正(くらまてんせい)、そこの天鴎の父親さ。射命丸文ちゃん、よろしくね」

 

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 どうやら、食事が始まるという事で食卓を囲みに天鴎の家族が大集合したらしい。ただ、構図だけでいえば他の家庭とそこまで変わりはなさそうなのだが、若干一名の女難の相のせいでビックダディがいるような人数になっている。ただし、子供も多いが奥さんの数も多い。

 

「ほら、そこでご飯待ってるの、ご飯できたから、手伝う者は手伝う、席に着くものは席に着く、文ちゃんは席に座っといて、ほら動きなさい」

 

 天詠が台所から声を張る。

 すると、その場に集まっていたものが一斉に動き出す。一糸乱れぬ見事な動きだ。

 はたしてそれが、天詠を怒らせたら怖いせいなのか、ただ単に食い意地が張っただけなのか。

 

 けれど、文の中で以外だったのが、この中一番最年長だと思われる、僧正坊が手伝いに動いたということだ。

 天鴎いわく、ばあちゃん大好き爺ちゃんがその食事を作る姿をただ間近で見たいということと、ただばあちゃんに引っ付いていたいということから手伝いにいくらしい。

 文はその姿を見て仲のいい夫婦だなと感じた。しかし、その直後、天詠の尻に手を伸ばしその手をはたかれる姿をみて、その感じたことをある意味でも確信を深めたらしい。

 

「天鴎!あんたも手伝いだよ!早く来な!!」

 

ビクッ「ひゃ、はい!」

 

 文に付いてきていた天鴎は天詠に呼ばれ一度ビビった後、一目散に台所に走っていった。

 

「走るんじゃないよっ!!」

 

「ご、ごめんよ、ばあちゃん」

 

 

 文は天鴎の新たな一面を見た気がした。

 

 

 

 ■

 

 

 

「手を合わせましょう」

 

「「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」」

 

 僧正坊が音頭をとり、手を合わせ、夕食という名の戦いが始まる。

 

 子供とじじいと女難の相持ちは一目散に食事にがっつき、奥さま方は悪魔で優雅に、しかし確実に料理を取りにくる。

 ちなみに天鴎は文という存在がいる中でも手加減はしてこないと分かっているので、さっさと自分と文の食べる分だけを取っている。

 

 この家の食事は目の前にサラダや漬物などは置かれるが、他のもの食事は食事が置かれた皿から自分の皿に取って食べるスタイルだ。

 

自分の所に味噌汁、副菜、主菜と来る比較的多いであろうスタイルは、この家では直ぐに無くなる、そもそも1人が取るスペースがかなり大きくなる。お代わりラッシュが辛い、お代わりラッシュで子供が割りを食うやらで、効率と公平の問題で却下になった。

 

文はその食事のペースを見て呆然とし、天鴎は苦笑いしながらも残してなどいたら自分の皿にまで奴らが手を伸ばしかねないと気持ち早めにご飯を食っている。

 

ただ、流石にカンフーパンダのように箸でオカズを取り合うという事は無い。そんな事をすれば確実に奥様方からの雷が落ちるであろう。

 

そして、あれだけてんこ盛りに積まれていった食事がみるみる内に無くなっていく。

 

何という胃袋だ、鞍馬天狗、恐るべし…

 

「にしても天さん、外部から来た妖怪と結婚なんて事は珍しいんですか?」

 

食事もひと段落したところで文が聞いてくる。

 

「んー、まあ、昔はまあまあ珍しい方だったけど、今じゃねぇ、親父が結婚したのが殆ど外部からの妖怪だからな、今じゃそこまで珍しくないかな?」

 

しかし、文はその言葉に違和感を持つ。

 

「あれ?でも見た限り皆さん、鴉天狗の象徴とも言える翼をお持ちですよね?こんなにハグレ天狗が居るとも考え辛いですし」

 

そうなのだ、先程文が見ていた限り、天詠も、ヤンデレ製造機の奥様方も翼を持っていたのだ、

文からすれば拾ってくるとは聞いていたが、ハグレ天狗ばかり拾ってくるというのはいささか考え難い事であった。

 

「まあ、そこには偶然たまたま生まれた鞍馬の超技術が関係あるんだよね」

 

「超技術とは?」

 

「俺たちは転生薬と呼んでいるものだよ」

 

「て、転生ですかぁぁぁ!!」

 

文はビックリして、思わず大きな声を出してしまう。それ程までにその超技術の名前は衝撃的だった。

 

転生薬、この世の全てが生まれた時から、生まれた時の種族によって縛られて生きていく。

その種族を辞めるには、輪廻の輪から転生するしか他に方法はない。しかし、それが輪廻の輪を通らなくても転生は可能だということになる薬だ。驚く事しかできない。

 

「まあ、飲んだ当人の意識と記憶はそのままに、肉体だけを天狗に変質させる薬だね。ただ、魂までは大きく変化できないから、転生前の特徴が残っちゃうんだけどね」

 

しかし、魂を大きく変質できないという事の裏を返せば少なからずどこかの部分は魂を変質させているという事になる。

それは凄まじいことだ。

肉体を変えるだけならいざ知らず、魂までも変えてしまうなどとは。

 

「まあ、ただし転生できるのは鴉天狗オンリーだけどね、それに生産量も殆どゼロに等しいし」

 

「それでもそんな物を作ってしまえる鞍馬の技術力に呆れますよ」

 

文の言う通りだ。それに、転生薬などバンバン作られたら、それこそ世界の法則を根本から変えかねない。

それが弱小妖怪に渡っただけで高い頭脳と妖力を持った妖怪が大量に生まれてしまうのだ。人間と妖怪のバランスが崩れてしまう事は避けられないだろう。

 

「まあ、そういう事だな、外部からの嫁いだ妖怪が鴉天狗なのは。華蓮義母さんだって元々は蜘蛛女だったしね」

 

「華蓮さんが蜘蛛女?」

 

文から見たら人間にその恐ろしい容姿で畏怖される蜘蛛女には今の華蓮は全く見えない。けれどなんとなく華蓮さんが蜘蛛女でも、かなり美人な蜘蛛女を簡単に予想できてしまった。

 

「まあ、ただ分家の方はあんまり外部からの嫁いだ人はいないかなぁ」

 

天鴎が思い出しながらそういう。

しかし、文からすればそこにツッコミたいことがあった。

 

「天さん、分家ってなんですか?」

 

「んん?ああ、言ってなかったね?」

 

ここで衝撃の事実、鞍馬の一族には分家があったらしい。

 

「鞍馬の一族は本家と三つの分家に一応別れててね、倉田、舘岡、海野という三つの分家だよ。まあ、一応役割がそれなりにあると言っても鞍馬の一族自体がかなり数がいないから、名字が違う以外そこまで変わりはないんだけどね」

 

「まあ、分家自体そこまで役割とか作る物でもないですしね」

 

そうだ、分家とはある意味子供が自身の新しい家族を作るのとかなり似ているのだから、分家になっても本家にここまで付いていってる分家の方がおかしい事になる。まあ、それもただ彼らの闘争本能による物なのかもしれない。

 

「ま、分家に別れたのは鞍馬が他の天狗と分離する前だったて言うしね」

 

「けど最近は分家の方でも人数が少ないって嘆いているわよ?」

 

ここで、天詠がお茶を持って話に入ってくる。

 

「えー、でもそんな人数も全く減らないんだから、前とそんな変わんないだろ?」

 

「まあ、こっちが大分賑やかになったからねぇ」

 

天詠はそう言いながら天正の方を向く。

その顔には微笑が浮かんでいることから、天正が外部からの妖怪と結婚するのは天鴎が思っているよりも天詠は肯定的なのかもしれない。

 

「ほら、それよりお茶よ、食後の一服っていうのは良いものだからね」

 

「ありがと、おばあちゃん」

 

「ありがとうございます、義祖母(おばあちゃん)

 

文はそう言ってからハッという顔になる。

 

「す、すみません、少し慣れ慣れしくし過ぎてしまいました」

 

「別にいいし、むしろ嬉しいわよ、そう言う風に言ってくれるのは。家族が増えるのは喜ばしいことだもの」

 

天詠は微笑みながらそう言ってくれる。

 

「それにどっかの愚孫と違って、良い娘そうだからね」

 

天鴎は最早苦笑いしかできない。文も天鴎をバカにしたような発言だが、そこには言葉にできない愛を感じたことから、別に言い返すこともないと冗談の一つとして受け取る。

 

「ま、新婚さん達の邪魔をするのも悪いわね、私もまだ仕事が残っているしね」

 

天詠はお茶を渡すと立ち上がる。

 

「部屋は昔の天鴎の部屋で2人で泊まりなさい。布団も用意してあるわ」

 

「ありがとございます」

 

「いいってことよ」

 

そう言い天詠は立ち去ろうとして

 

「後から私たちの部屋に来なさい。話したい事があるわ」

という言葉を文に残して去っていった。

文にはその言葉の意味となぜ声音が低かったのか理解できなかった。

天鴎には聴こえていなかったらしい。

 

文はとりあえずお茶を飲もうと湯飲みに口をつける。

 

「あ、美味しい」

 

天鴎の淹れるお茶とはまた違った、しかし格別な美味しさなお茶が入れられていた。

 

文はそんなお茶を飲みながら今日出会った鞍馬の一族に想いを馳せるのだった。

 





海南「ええっ!!もう出番終わりっ!!」

天鴎「属性過多のクセに早かったな。そして天が付く奴が多い」

文「驚きしかない」

シリアス「次回、俺の活躍多いぜ!」

ダサT「出番がぁぁぁあ」

作者「天正の名前の由来は僧正坊の正と天詠の天から来ています」

僧正坊「エロ親父じゃないよ?」

奥様方「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」

天正「ヒイッ」

作者「誤字脱字報告よろしくなっ!」

次回、本編だと思う


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回想 天鴎の過去


本編では無く、回想回です。
本編書けなくてすみません、どうしても文字数が多くなりすぎてしまいまして。
そしてこのお話しは、これからの天鴎の歩んで来た道を話すのに必ず必要な事になります。
シリアスにグロ要素もあり、苦手だという方は読むのをお控えください。
まあ、自分の表現では他の作者さんよりグロくは表現できていませんけどね。


子どもの頃の天鴎は、今と違い特に特筆する程特徴も無いが、普通とも違うどこか変わった少年だった。

 

しかし、本家の天正とその奥さんとの間に生まれた初めて(・・・)の子供ということでかなり可愛がられて育った。

 

そもそもが鞍馬天狗には子供が少ない事から子供には甘いところが多いが。

そんな天鴎の子供時代は周りの子供達と変わらず、時には家族と遊び、稽古をつけて貰い、修行を見て貰ったり、友達と遊んだり、鞍馬の里の子供達となんら変わる事の無い生活を送っていた。

 

ある日、天鴎は友達と近隣を探検していた時にふと遠出をしようと思いたった。

果たしてそれが子供の無邪気から来たものなのか、それとも彼の持つ転生者(前世知識)から来た驕りなのか、しかし天鴎は周りの子供も連れずに、たった一人で、自身が行った事も無く、また大人の目も届かないところに偶然にも行ってしまったのだ。

 

案の定、それが悲劇の始まりであった。

 

天鴎は知らない場所で目を覚ます。白のような、白で無いような、他の色がぐちゃぐちゃに混ざっているような、そんな不思議な世界。

天鴎はそんな知らない事ばかりの光景にただただ混乱することしかできない。必死に自身の行動の記憶を思いだす。

 

確か、一緒に遊んでたアイツらと大人の目を盗んで遠出してみて、それで空を飛んでて、疲れたから地面に降りようとしたら、あれ、そこからどうなったんだっけ?

 

天鴎はあるところからスッパリと記憶が途切れている。可笑しい、天鴎は別に風に流されて地面に墜落した訳でも無い。

それなのに、何故記憶がないのか?天鴎は思い出そうと頭を動かすが、解決策など思い浮かばない。

 

天鴎は混乱のまま、頭な自身の手を持っていき、その頭を抱えようとした。

 

刹那、天鴎の悲鳴が響き渡った。

 

「ぎぃァァァァァァァァァァアアッッ!!痛い痛い痛い!?」

 

天鴎の周りには鮮血が咲き誇り、彼のまだ小さなその手からは鮮烈な赤が顔を覗かせている。

 

 禍々しく歪な形をし、しかし光を反射する程の輝きを持つ漆黒。ただただ不気味な槍のような物体が真っ白な地面からいつの間にか生えていた。

 

「アガっ!なん、だよ…コレ」

 

天鴎は地面から突き出し自身の手を貫いている黒い棘のようなものを見る。

それは天鴎が前世と今世を含めても見た事が無い物質であった。

 

 

「やっとぉ、ヤットォ、引っかかったぞぉっ!!」

 

ぐちゃぐちゃの空間に唐突に声が響き渡る。

男とも、女とも、子供とも、老人とも聞こえる全く理解のできない不快な声。

 

そして世界が急速にその色を変え始める。

不純物は取り除かれ、追いやられ、消されて、世界は痛い程に真っ白な世界になった。

 

そして、天鴎の前に波紋が広がり、何かが現れようとしている。

 

天鴎は痛みと驚き、そして恐怖によってその何かがこの真っ白な世界に完全に姿を現わすまで何も言えないでいた。

 

「やあ、ようこそ我が箱庭へ」

 

その何かは天鴎に話し掛ける。

天鴎は痛みに耐えながらも顔を上げる。

 

その何かは顔、体、腰、足、腕などはギリギリ判断できる奴だった。

腕は何本もあるし、足も変な所から生えているのもある。何より、体は黒くゴツゴツとしたような肌なのに、顔は白い袋によって隠されている。

 

「この箱庭、なかなか粋な趣きをしているだろ?そう思わないかい?」

 

何かが天鴎に話し掛けるが、天鴎は自身の手を貫通している黒い棘が生み出す痛みによって上手く考える事が出来ずに答えられない。

 

「おっとぉ、無視かぁ、やっぱり鞍馬の天狗は生意気な奴が多いんだよなぁ」

 

ゲラゲラと笑いながら、こちらを蔑むような視線を送ってくる。

しかし、その雰囲気が一変する。

 

「答えろって言ったんだよ、この間抜けがぁっ!!」

 

「がっああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああっっ!!」

 

今まで黒い棘は天鴎と同じぐらいの高さまでしか無かったのだが、その棘が一気に上に伸びた。

 

下に行く程少しずつ太くなっている黒の棘は、天鴎の手を引きちぎるでもなく、更に貫くのでもなく、天鴎の手に更にめり込みながらもその小さな体を宙に浮かせた。

 

「ふふふ、まあ答えて貰わなくてもどうでも良いけどね。したい事など俺に散々苦渋を与えてくれた鞍馬のヤツラに復讐することだけだからな」.

 

天鴎は更なる痛みにより、霞む思考の中何かが言った言葉を理解した。

コイツは復讐がしたいらしい。俺をダシにして皆んなを殺したいらしい。

天鴎はこの瞬間自分一人でだけでこんな所まで来てしまった事に深く後悔した。両親にも注意されていたのに。しかし、後悔したところでこの現状は変わらない。

自身の手を貫く棘が、自身の自重によりさらに手に食い込み更なる痛みを与えてくる。

更に自身の思考が上手く回らなくなる。

今の幼く、なおかつ未だ大した覚悟も無く人間の精神すら混ざっている天鴎ではどうする事も出来なかった。

むしろ、現状は悪化するばかりだ。

 

天鴎は考える、この現状をどうしたら良いのか、どうしたらこの無力な自分が少しでもこの場を少しでも良くできるのか。

 

天鴎は霞む思考の中で前世からの知識なのか、自身が殺される事を思い付いた。

 

自身が死ねば、誰にも迷惑などかかる事はない。父さんと母さんは悲しむだろうけど、そのどちらかに害が及ばないと考えれば安いものだろう。それにどうせ、里の人達が動いたところで俺を無事に見つけて連れ帰る事など出来ないだろう。コイツは少なからず里の皆んなから逃亡して、逃げ切れているのだ、相当に運があり頭も切れるのだろう。ならば、ココが見つからないように何十もの仕掛けと罠を仕込んでいたのだろう。

両親はこれからの鞍馬に必要な人材だ。何かあってはいけない。

 

天鴎はこの瞬間、人生で最後の親孝行と最悪の親不孝をしようと決めた。

 

コイツの怒りのトリガーを引くことなど簡単だ。まだ、この世界に不慣れな天鴎でもできる。

 

「へっ、どうせテメーは、鞍馬の皆んなに惨めに負けて、こんな所に引きこもって、弱い者イジメでもしてるバカなんだろ?この様子だと俺たちに負ける前はそのご大層な身の丈に合わない力を滑稽にも振舞っていたんだな。邪神と言ったところか?笑えるがな」

 

コイツへの恨みが溜まっていたのか、スラスラと悪態が出てくる。

上出来だ。

これでコイツの怒りは簡単に沸騰するだろう。

 

「ほう、何だと?クソ餓鬼?」

 

ほら、思った通り。怒気がコイツの声に含まれた。

簡単に激昂したコイツは俺の事をその怒りのままに殺すだろう。

こんな事でしか抵抗できないが、こんな簡単に一矢報えるのだ。そう考えれば、恐怖よりも内心で笑いコイツをバカだと笑う感情の方が勝った。

次の瞬間には痛みで直ぐに恐怖が勝つのだろうが。

 

「もう一度言ってみろ、クソ餓鬼っっっぃいい!!!」

 

「ぐううぅぅぅっっ!?」

 

腹に地面から生えた棘が突き刺さる。

しかし、何故だ?

何故急所に刺さっていない?

こんなヤツの事だからそこを思いっきり刺そうとしてくると思ったのに。

 

「ハハハハハ、やはり餓鬼は餓鬼だなあっ!」

 

ヤツはこちらに近づき自身の顔を除きこむ。

 

「お前の考えている事が分からないとでも思ったのか?間抜け」

 

天鴎はその言葉を聞いた瞬間、内心で焦ってしまう。それが顔に出てしまう。

 

「ハハハハっ!やはりな!お前は自身が死ぬ事で俺が鞍馬の里に手を出せないようにしようとしたなっ!!」

 

天鴎はその言葉を聞き、その顔が青ざめる。

 

「そんな事この俺が考え付かないと思ったのかあっ!!確かにこんな餓鬼が思い付くそんな事考えるのは意外ではあるが、こんな状況であんな事を言うなど意図がバレバレなんだよ。

 

「そんなっ……」

 

天鴎は完全に絶望した。

 

「ははー、それにしてもこの餓鬼はどうしてくれようか?重要な体の器官を引っ張りだすわけにはいかぬし、解剖などもっての他だ。となるならば、やはりここはアレだな」

 

ヤツは何か呟きながら、こちらを振り向きその口を吊り上げる。

 

 

「達磨だな」

 

 

天鴎の顔が恐怖により青から土気色にかわる。

天鴎は逃げようと、必死にもがく、体を動かす。

 

「おっとぉ、逃げてはいけないよぉ」

 

「がああああぁぁぉぁぁっっぅ!!?」

 

次は天鴎の膝から黒い棘が生えている。

 

「フハハハ、脛の骨を貫くというのも考えたが、やはり膝の皿やら纏めて貫く方が苦痛はデカイよな」

 

天鴎は想像を絶する痛みによりその体が痙攣を繰り返している。

その体の揺れによりますます棘が体に食い込む。

 

ヤツは嬉しそうにこちらを見て笑うだけだ。

 

「さて、コイツを達磨にした後はどうしようか?あの気色の悪い蟲にこの体を犯させようか?少年趣味のヤツもいたな?それとも虐待好きのヤツの元に連れていくか?いや、肌を全て焼き、剥がし、原型を留めない程にしてやろうか?少なくとも精神は壊さないといけんなぁ」

 

目の前のヤツは下種な笑みを浮かべる。

 

天鴎は絶望することしか最早できない。

 

「とりあえず、コイツは達磨だ」

 

ヤツはその手に黒の鋭利な剣を取り出す。

禍々しく、その刃には棘が付いており、まるでノコギリのようだ。

多分、その棘のせいでなかなか切れないようになっているのだろう。ジリジリと天鴎の足が切れていくのを悲鳴と共に楽しむ魂胆なのだろう。

 

天鴎は絶望に叫ぶ事しかできない。

自身の想定した最悪の結果。自身が起こす最悪の出来事。自身で起こしてしまった犬死により酷い生き様。いや、これから起こる事は生きていると言っていいのだろうか?

 

天鴎が更に絶望するようにか、ヤツはそのノコギリのような剣を天鴎の足の付け根にあてる。

 

「フハハハ、さあ、絶望に悲鳴を上げるがいいっ!」

 

 天鴎の脚は元気に遊ぶ子供特有の健康的な肉付きと肌の焼け具合であるが、その脚はまだ小さく細い。大人の脚と比べても絶望的な程柔な脚だ。鋭利な刃を持つ剣に耐えれるなどと到底思えない。

 

 しかし、ヤツはそんな事など気にせず、その刃を動かす。天鴎の、子供の脚の皮膚を簡単に食いちぎる。

 

「くうううううううっっ!?」

 

自身の体内に異物が入ってくるのを痛みと共に感じる。

金属特有の冷たさが、温かな天鴎の脚の体温を血と共に奪っていく。

 

そして、その刃が唐突に止まる。

天鴎はその頃には肉を引き千切る痛みで意識が朦朧としていた。

 

「おっとぉ、どうやら肉を喰い千切り、骨まで達したらしい。ハハハハハ、その小さな体で、骨を意識のあるまま削られるというのはどんな痛みを伴うのだろうな?」

ヤツは愉快そうに笑う。

そして、その剣を持つ手に力を入れる。

 

「さあ、肉を断ち、骨も断とうか!」

 

その剣が前に引っ張られる。

骨を削る。

 

「ギイイイィィィィッッッ!!」

 

最早天鴎は考える事を止めようとする。

その意識をなんとか手放そうとする。しかし、手放せない、手放す事は出来ない。

絶望と痛みと後悔、恨み、怒り、惨めな気持ちが天鴎のまだ幼い子供の許容量を越えようとした。

心が壊れようとした。

 

その時。

 

 

「私の息子を虐めるなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

真っ白な空間に突如女性が現れる。

その手に持った刀でヤツに斬りかかる。

ヤツは予想外の事態に腕に斬撃を受けたが、なんとか後ろに引く事はできた。

その女性、天鴎の母親は天鴎を庇うようにして、ヤツと対面する。

 

「天鴎!大丈夫?まだ死んでないわよね?」

 

天鴎に背を向けながらも無事では無いと分かっているが無事かどうか確認する。

 

しかし、天鴎の心は最早負の気持ちで容量越え(キャパオーバー)寸前だ。返事は返せない。

 

母親はその姿の天鴎を見て、怒りの形相で一度ヤツを睨みつけ、天鴎の方に体を向ける。

 

そして、天鴎の体を貫いているその黒い棘を全て刀で両断する。

 

天鴎は重力に従い空中から落ちるが、母親が優しく受け止める。

 

そして、棘を一本一本抜きながら、妖力を流しながら天鴎の体を治癒していく。

 

「フハハハハハ、知っているぞ、お前は確か天正の野郎と居たはずの希鴎だなっ!!まさか息子が居たとはなぁ!もしかすると、天正との子供か?」

 

ヤツは希鴎が来たというのに余裕の笑みを浮かべている。

対して、希鴎はそんなヤツを更に力強く睨む。

 

「合っているか、合っているようだなぁ。まさか、そんなに因縁深い餓鬼を痛めつけれて居たとは、なんとも愉快なぁ」

 

ヤツは狂ったように笑っている。

希鴎は、ある程度天鴎の傷を治すと、ヤツの前で刀を構える。

 

「お前は、殺す……!」

 

ヤツの前で希鴎は集中を高めていく、妖力を体に流す。その身には怒りでか、紫電が散っている。

 

「ほう?面白い事をいう。お前が私を殺すのか?無理を言え、ここは私が作った異次元空間だ。入ってくるだけでかなりの力を消耗しただろうに?私が好き勝手できる空間で私を殺すと?」

 

「そうだ、私の息子を散々いたぶってくれたんだ。お前を殺さなければ気が済まない」

 

「馬鹿を言え、ここに入ってくるまでにかなりの量の罠を仕掛けたんだ、現にお前は最早ボロボロではないか?大方、息子が痛みつけられているのを見て、耐えきれず出てきたと言うかところか、天正も連れて来ずに一人で来たのだからな。それで?その消耗が激しい状態でどうやって私に勝つと?」

 

そう、今の希鴎は着物も所々破け、体からは少ないが血も流している。体力も妖力も消耗している状態だ。

 

「そんな事は関係無い。鞍馬の技はそもそもが妖力の消費を少なくして闘うことを前提に作られたものだ。お前を斬る為の妖力など余りある程に残っている。」

 

そう、鞍馬の技は長期戦になる事も視野に入れ、無駄を徹底的に省き、妖力の使用を有り得ない程低燃費に抑えている。

「お前を斬る事など容易い」

 

「はんっ!お前は戦闘要員ではなかろうが!」

 

「それでも私は鞍馬の天狗だ。お前程度など」

 

希鴎はその体をバネのように縮め、一気に解放する。

 

「一瞬で殺すっ!!」

 

飛ぶような速さで接近する希鴎。

しかし、ヤツは未だにその顔から笑みは消えない。逆に更にその笑みは濃くなっている。

 

「馬鹿めっ!!さっき俺はこの空間を好き勝手できると言ったよなぁっ!!」

 

ヤツはその手を振り上げると、希鴎の体が上に吹き飛ばされる。

 

「この程度っ!!」

 

希鴎は背中に翼を展開し、空を飛びヤツに接近しようとする。

しかし、

 

「なっ!?進まないっ!」

 

希鴎の体は1㎝も進まなかった。

 

「空気も重力も消えているというのっ!?」

 

そう、鞍馬の天狗が飛ぶ時に使うのは反発力だ。

空気も重力も消え去った空間では、その翼は能力を発揮する事はできない。念力のような力で飛ぶわけではないのだ。

 

「串刺しになれっ!!くそ野郎っ!!」

 

黒い棘が希鴎目掛けて音速にも届きそうな速さで伸びていく。希鴎は斬り落とそうとするが、この空間は空気も重力も無い。

 

「くうううぅぅっっっ!!」

 

一振りしただけで、希鴎の体制は崩れる。当たり前だ、この空間では踏ん張る事はできない。その体は刀で固定されている物を弾こうとすれば、慣性に従い回転する。

 

その事実は希鴎に何本もの棘が生えるという事実が証明する。

 

「ああああああああぁぁぁぁぁぁああっ!!?」

 

しかし、串刺しにされたという事は逆に言えば、その空間に固定された事になる。

体を捻る事に、体を引き千切られる痛みが襲うがそんな事は関係無しに、希鴎は叫びながら黒い棘を斬る。

 

「おっとぉ、逃げられる訳には行かないなぁ」

 

ヤツはわざわざ希鴎のそばまで近づき、その能力を行使する。

すると、希鴎の腕や脚は空間に固定され、動かなくなる。

 

「フフフ、ハハハハハ、フハハハハハッ!!やったぞ、ついにやったぞ、アイツらに、鞍馬の奴らに復讐する鍵が揃ったぞ。希鴎と天鴎とやらか。こんな重要なヤツラ、アイツらが見放す筈がない。あんなに仲間意識が無駄に高いヤツラが見逃せる筈が無いっ!!勝ったな、勝ったぞおっ!!」

 

希鴎は一瞬で串刺しにされながらも、ヤツを睨み付ける。

 

「ハハハハ、最初からお前が勝てる筈が無かったのだよ。僧正坊や天正がこれば我も危なかったが、お前程度なら私でも簡単だなっ!!相手の実力を見誤るとは、とんだ間抜けだよっ!!」

 

ヤツは高笑いを続ける。

そんなヤツを希鴎は悔しそうに、怒りの形相で見つめていたが、ふとその顔に微笑が浮かぶ。

 

「ほう?何がおかしいのかね?そんな絶望的な状況でとうとう可笑しくなったのか?」

 

しかし、その言葉にも反応せずに、希鴎は更に笑みを深くする。

 

「まあね、賭けに勝ったから、私は笑っているのさ」

 

「賭け?それはどんな賭けかね?」

 

「私の命よりも大切な物を守る賭けさ」

 

「何っ!!?」

 

ヤツは天鴎の方を振り向く。

 

「なっ!?」

 

その体には呪符が貼られ、今まさに転送される所だった。

 

「キサマ、いつの間にっ!!」

 

「あの子を直している時にだよ、最初から分かっていたわよ、この空間でお前に勝てないことなんて、天正が例え気づいたとしても、どうしても間に合わない事も全部気づいてた。だからこそ賭けたのよ、あの呪符は少々時間がかかるから、それまで気付かないようにするための演技をしてね」

 

「キサマッッッッッッッッァァァァァァァァァァアア!!?」

 

ヤツはその手に力を入れると、天鴎の転送を阻止し始める。

「コイツだけは、逃すかァァァァァィァァァァァァァァァァアア」

 

すると、天鴎に貼られた転送の状況が放つ妖力が押さえ込まれ始める。

 

「フハハハハ、またもや私の勝ちのようだなっ!!押さえ込み始めたぞ、あの呪符をっ!!やはり、お前らに何もできる筈が無いのだよ。私がヤツに近づき、あの呪符を解除すれば、お前が体を張った意味も無くなるなあっ!!」

 

ヤツは完全に勝利を確信して、その調子を取り戻す。

しかし、希鴎の笑みもまた消えない。

 

「そんな事、私も予想済みだよ。この空間じゃ、転送が力技で止められるちゃうのわね、だからこれを使うのよ」

 

希鴎はいつの間にか手に、妖術が施された包帯を握りしめている。

「これは、妖力の増強と流れを強化してくれる、鞍馬の特殊装備、これは正規の使い方をすれば、かなりの力を発揮してくれるわ、けどね、これは容量を超える程の妖力を流しても壊れずにかなりの間その力を発揮してくれる、けどねそれはそのオーバーした分はこれが壊れた時に、一気に暴走して解き放たれるという意味なのよ」

 

「まさか、お前っ!!私と一緒に自爆するつもりかっ!!」

 

「よく分かったわね、そうよ、お前と一緒に死んでやるのよ。下賤なヤツラに好き勝手されるよりも何倍もマシだからね」

 

「お前、その意味を分かっているのかっ!私を巻き込んで自爆すれば、この空間は崩壊するぞ。それに、この空間はかなりの深層に位置する、最悪、存在が消滅する可能性もあるんだぞっ!!」

 

「別に良いわよ、息子を守れるんならね」

 

事実を告げられても、まるでどうという事も無いように、あっけからんと答える。

 

「お前、正気かっ!!」

 

「ええっ、正気よ、正気じゃ無いのはあんたの方よ、それに母親っていうのをなめない方がいいわよ?こういう事になるからね?」

 

「クッソ!!」

 

ヤツはそう吐き捨てると、希鴎から距離を取ろうとする。

しかし、希鴎はそんなヤツの腕を掴み取る。

 

「なっ、キサマッッ、なぜ動けるっ!!」

 

「言ったじゃない、この特殊装備は妖力の流れを強化できると、1秒や2秒ぐらいならあんたの力から抜け出す事はできるのよっ」

 

「バカなッッッッッッッッ!!」

 

ヤツは狂気に身を染め始め、天鴎を抑え込む力が弱まる。

それによって、天鴎の転送もまた始まる。

それと同時に、希鴎の持つ包帯も光りを放ち始める。

 

希鴎はそれを確認すると、天鴎の方を見て微笑む。

 

「天鴎、あなたは生きるのよ、私の分も生きて、私の分も幸せに生きて、私はあなたが、笑っていてくれるだけで幸せなんだから」

 

希鴎の持つ包帯が更に強い光を放ち始め、希鴎達を包み込み始める。

 

「あと、もう一つだけ、天正に『ごめんなさい』って伝えておいて」

 

そして、希鴎は更に微笑む。

それは、天鴎が最後に見る、強く、美しい、母の笑顔だった。

 

「母さああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああんんん!!?」

天鴎が叫ぶと同時に転送が開始され、目の前の景色が変わり始める。そんな中、天鴎が見たのは、光に包まれ、消えゆく希鴎とヤツの姿だった。

 

 

 

◼️

 

 

 

 

その後、天鴎は生きて鞍馬の里に戻ってくる事が出来た。

天正に泣かれ、僧正坊にも、天詠にも無事を喜ばれ泣かれた。

翌日、天正に希鴎の遺言を伝えると、天正は一瞬泣きそうになったが、なんとか堪え、天鴎にありがとうと言った。

天鴎は見ていたのに、希鴎が死んだ事を知った晩、自分達の前で隠れて、ずっと泣き叫び続けていたのを。

天鴎が見たことのないような顔で、あんなに悲壮な嘆きをしていたのを。

それらを飲み込み、希鴎が死ぬ原因を作ってしまった自分に、恨みを言うのではなく、叱るのでは無く、天正は自分が生きて帰ってきたのを喜び、あまつさえ、自身に礼の言葉を言ったのだ。

 

天鴎には最早、生きて帰った喜びよりも、身内を失った寂しさよりも、罪悪感の方が圧倒的に勝っていた。鞍馬の優しさ故に、天鴎を叱る者が誰も居なかったからだ。

 

そして、その天鴎に更なる悲劇が襲う。

 

ある晩、天鴎は罪悪感に耐えきれずに、ある人達に謝罪をしに行った。それは、生きててくれた事を喜んでくれた天正では無く、母方の祖父母、つまり希鴎の両親だった。

 

二人は、天鴎を玄関で見ると、自分の無事を祝ってくれた。

天鴎はブタれる覚悟で来ていたのに、またそのような言葉をかけられ罪悪感に押し潰されそうになった。

 

だからこそ、天鴎は誠心誠意謝った。

 

自身が母さんを死なせてしまった、自分の身勝手であなた達の娘を死に至らしめてしまった。希鴎母さんはもうこの世にいない、取り返しのつかない事をしてしまったけど、どうか罪を償わせて欲しいと。

 

しかし、二人の見せた反応は天鴎の予想していたどれでも無かった。

 

「はて?希鴎と言うのはどこの子かね?少なくとも、私達の家族にはいないわね?」

 

「そうだな、俺たちには息子も娘もいるが、希鴎という名の娘はいないな」

 

天鴎は最初この二人が何を言っているのか全く理解できなかった。

だから、最初天鴎は二人に飛びかかり、なんの冗談かと激怒した。親が自身の娘を忘れるとは何事かと。

しかし、二人は知らないと言い続ける。希鴎という娘は知らないと。

そして、その晩、天鴎は思い出した、最後にヤツが、この空間が崩壊すれば存在自体が消滅すると。

天鴎は理解した。

 

希鴎という存在は本家の人達以外には忘れ去られている事を、希鴎という存在が生きていた証拠が、皆、忘れていることを。

 

それはまだ幼かった天鴎にはとうてい受け止めきれる物では無かった。

 

それは必然であった。天鴎が狂ってしまうことも、天鴎が道を踏みはずすことも、天鴎が最早自身を許せなくなってしまうぐらいに、この世界はどうしようもなく、どうしようも無く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにも、残酷なのだから




天鴎はもがき苦しむ、これからも、ずっとずっと。

この後悔の念は、天鴎の心の奥深くにこびりついて、一生離れる事は無いだろう。

今の彼を形作ったのは、あまりにも悲しく、残酷な現実だけだ。

才能も力も無かった彼が、ここまで力をつけたのは、後悔と贖罪の念に押されただけだ。
彼が真の意味で幸せになれる日など、果たして訪れるのだろうか?

その事実は、誰も分かりはしなかった……


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鞍馬の里 後編

 鞍馬の里後編です

 この回は前話、回想 天鴎の過去をご覧んになっていることを前提として書いております。なので、このお話をご覧になる前に、まだ前話をよんでいない方はそちらをよんでからこの話を読むことをお勧めします。


 

 文は天詠に呼ばれた通り、天詠達の部屋に向かった。

 何を話されるのだろうか?天鴎の過去でも、好みでも、食事の作り方でも教えてくれるのかと考えていた。

 そんな、楽しい光景を想像しながら歩いていたら、文が思ったよりも早く天詠達に部屋についた。

 

「失礼します」

 

 文は先ほどよりも緊張はほぐれた、かなりいつもの口調に近い言葉で、入室の許可を求める言葉を言えていた。しかし、その口調は上司に対しての物だったが。

 

「どうぞ、入ってらっしゃい」

 

 襖の奥から、天詠の許可の声が聞こえる。

 文はいそいそと部屋に入る。 

 

「来たわね、さあさあそこに腰かけて」

 

 天詠は好意的な声を文に掛ける。

 文はその指示に従い、机の前に置かれた座布団に腰を下ろす。

 

 天詠はそれを確認すると文の机を挟んで向かい側に腰を下ろす。

 

 ちなみに、僧正坊はずっと天詠が座った隣の座布団で胡坐をかき座っていた。

 

「あのー、今回お招き頂いたのは何故なのでしょうか?」

 

文は呼ばれた内容について大体のあたりは付けていたが、実際には何を話すのかなどは全く分かっていなかったので、とりあえず聞く事にする。

 

「私たちはね、あなたにどうしても話しておかなければいけない事があるの」

 

天詠が文の問いかけについて答える。しかし、その声は文の予想していたよりも低い声音であった。

 

「天鴎の過去とこの鞍馬の役割についてよ」

 

「鞍馬の里の役割、ですか?」

 

文は天鴎の過去というのは予想していたものの一つであったから特に不思議に思いはしなかったが、鞍馬の里の役割というのは予想外であった。

そもそも、役割とは何なのだろうか?鞍馬は謎が多い一族ではあるが、実態は強くなる事に重点を置き、そこに大きな意味は無いものだと思っていた。

それは違うという事なのだろうか?

 

「まずは、鞍馬の役割から話させて貰うわね、いいかしら?」

 

天詠はそう言って文に確認を取る。文はそれに頷き天詠に肯定の意を知らせる。

天詠はそれを確認すると話し始める。

 

「今の鞍馬からは想像できないでしょうけど、鞍馬の里も元はこんな戦闘民族ではなかったのよ。まだ天狗が妖怪の山に集まる前、各地に天狗が散らばっていた時代はね。今の天狗達とそこまで変わりはしなかった。けど、今のようになってしまったのには、切っ掛けがあるの」

 

「切っ掛けですか?」

 

「そう、切っ掛けよ。私達が生まれるほんの前に起こったことだったみたいね。それはね、ある怪物の封印が解けたことだったのよ」

 

 天詠はそこで少し考える様子をみせる。

 

「その怪物はね、私達でも恐れるような怪物だったわ。その力を見せると瞬く間にその怪物の周辺がなにもない荒れ地になってしまうもの。本当に恐ろしい怪物だったもの」

 

 天詠はそこまで言って顔に影が差す。

 

「ただ、その怪物に立ち向かっていったのは当時の鴉天狗の中では私達鞍馬天狗だけだったの。それが私達が他の鴉天狗達と道を別つことになった切っ掛け。天狗の特性的には立ち向かわない方が本来は正常なんだけどね

けど、予想通りその戦いで多くの者が死んでいったわ、怪物に立ち向かった同士たちも、私達鞍馬からも、死者は多く出たわ。そしてあの怪物はそのたびに死者の力を吸収して、その力を増幅させ、更に私達を苦しめた。本当に地獄のような戦いだったわ。

けど、その戦いにも決着はついて、私達が辛くも勝利を勝ち取ったわ。

ただ、これだけでは終わらないの。この戦いで力を付けた鞍馬は次はその力を危惧して私達を滅ぼそうとした神々との戦いに身を投じる事になったの。この戦いでも同士はたくさん死んだわ。神の力が全盛期に近かったからかなり強大だった。けど、この戦いも私達が勝利を収めた。ボロボロになりながらも生き残ったのは私達の他には殆どいなかった。同士の意志を継ぎながら私達は力を付けたのよ」

 

文はそこまで聴いて、もはや顔が真っ青である。

鞍馬の歴史、それは長く辛い闘争の末に築かれているものであり、戦闘狂だったというのは鬼のような種族の本能という訳ではなく、辛く厳しい戦いの中で強いられてきた状況が彼らをそうさせ、彼らもそうするしかなかったのだろう。

鞍馬というのは、自分達が考えているような種族ではない、その背景には辛く苦しい歴史があるのだ。

だから、文はそれを知らなかった罪悪感から言い訳のように言葉を探す。

「でも、でも、誰もそんな事知りませんでした!怪物の事も、鞍馬が神々と戦争をした事も、誰も知りませんでした!歴史のどこにも残っていない、その形跡がない!なんでですか、怪物の事も、神々との戦争も、その歴史と跡が残らない筈がないじゃありませんか!?」

 

文はその口調を強めて天詠に問いかける。

天詠はその顔に無表情を貼り付け、文の問いに答える。

 

「怪物との戦いは情報を抹消したわ、あの歴史は残さない方がいいもの。神々との戦いは神の方が情報を抹消したわ。負けた歴史なんて残さない方がいいもの。」

 

「そんな、鞍馬の偉業が後世に語り継がれないなんて、死んでいった人が浮かばれないじゃないですか」

 

 文の言う事に天詠は顔を振る。

 

「いいえ、文さん、それは違うわ。そもそも鞍馬は名誉を求めてではなくて、その誇りをかけて戦ったもの。歴史には残らなくたって、自身の守りたかった物を守れたのよ、彼らは浮かばれているわ。それに彼らの歴史は鞍馬の中でその心と共に語り継がれているは。それは否定しようのない事実なのだから」

 

 ここで少し天詠の顔は少し明るくなったが、またすぐに暗くなる。

 

「けどね、文さん、神々との戦いが最後の地獄では無かったのよ。」

 

「それは…どうゆう事何ですか?天詠さん」

 

「単純な事よ、私達が滅ぼしたと思っていた怪物は死んだ訳じゃなかったのよ」

 

「!!?」

 

「怪物はその体が散り散りになり、他の生物に寄生ながらも、生きていたのよ。各地でその体を一つにし、世界を滅ぼそうと力を蓄えていたのよ。ただ、私達はその力と体が何百倍にも下がった怪物がそこまで強いとは思ってなかったの。だから最初は侮ってしまった。怪物は複雑な負の感謝を吸収して、また違う力を手にしていた。それのせいでソイツらとの戦いはまた長引いたわ。流石に最初の戦いと比べれば死者は圧倒的に少なかったけどね。けどこちらも無事という訳では無かったわ、確かに死者は出たもの」

 

部屋には暗い空気が漂っている。戦争を経験してきたからだろう。天詠、僧正坊はその戦争を体験しているのだ、その壮絶さを思い出し、暗くなってしまったのだろう。文は鞍馬の壮絶さと共に、天鴎が何を体験してきたのかを想像して、暗くなっていた。

 

「でも、鞍馬は生き残っている、今こうして生きている。決して歩んんで来た道が無駄になった訳じゃ無い。今まで築き上げてきたこの力があるなら、家族を大事なみんなを、守れる力がある。もう決して、この手から誰も零させる事なんてない。それは確信できるわ」

 

「天さんもそうやって、力をつけてきたんですね…」

 

「ええ、そうね、けどあの子が強くなる事を決意したのはまた別の理由があるわ」

 

「別の理由ですか?」

 

「ええ、そうよ、元々話そうとしてたあの子の過去。決して明るくなんてないあの子の過去よ。あの子を深く傷つけた過去よ。この話しも決して明るくなんて無いわ、だから心して聞いて頂戴」

 

「はい…分かりました…」

 

文は本当の事を言えば聴きたくなど無かった。これまでの天鴎との生活が壊れるような、自身が天鴎と向き合えなくなるような過去を話すんじゃないかと思い怖かった。しかし、文は天鴎と夫婦になると決めたのだ。夫婦なら知らなければいけない、向き合っていかなければいけない。天鴎の過去を。今知らなくても、いずれその過去とは向き合わなければならないのだから。

 

 そして語られる天鴎の過去。文は初めて天鴎という存在の新たな側面を知った、綺麗事では決してない負の過去。それは、文からすれば想像している物よりも酷かった。

幼い体に刻みつけられた傷と恐怖、母親を失った悲しみ、幼い天鴎に重くのしかかる、大人でも発狂しかねない罪悪感。そして本家では覚えていたとしても、天鴎の母親がその存在を消されたという絶望。

文は知った。天鴎のあの強さは決して天鴎の優しさからくる物ではない。天鴎のぐちゃぐちゃに混ざって行き場を失った負の感情。それらが天鴎を突き動かし、その強さを作り上げた。鞍馬の本来の目的とも遠く離れた復讐の為の力。天鴎にとってはそれは忘れたくとも忘れる事ができない過去を振り切ろうと自身を騙し続けた末の産物だ。それは文にとっても天鴎にとってもあまりにも重かった。

 

「ごめんなさいね、こんなに暗い話をしてしまって。でもどうしても話しておきたかったの、鞍馬の歩んできた歴史は茨の道なんて生易しいものじゃないわ。だからこそ、こんな日の当たらない道にあなたを巻き込んでしまうかもしれない事知っておいて欲しかったの。それに、あの子には可哀そうだけど、鞍馬と関わりを持ちたくない、こんな闘争と血で彩られた場所に関わりたくないというのなら、天鴎にはあなたと夫婦になることは諦めて貰うつもりよ。無暗に死なせるよりは何倍もマシだもの」

 

 文は顔を俯かせたままだ。

 甘い事をいうようだが、文からすれば全く心の準備などできていなかったのだ。こんな重大な事を受け止めるような覚悟をしていなかったのだ。

 天鴎を好きになったのも、今の(・・)負の部分の何もかもを隠した天鴎に徐々に惹かれていったからだ。

 天鴎は確かに好きだ、いや大好きなのだ。しかし、天鴎が背負っているものはあまりにも大きい。自身が彼の為に何ができるのか?自身が夫婦として何ができるのか。天鴎は文といたらこのままずっと自身を隠し騙しながら生きていくのか?いろんな事が文の中でぐるぐると回る。

 

「ごめんなさい、いきなり過ぎたわね。やっぱり混乱するしかないわよね。分かってたはずなのに、あの子のことになって焦り過ぎたわ」

 

「いや、いいんです。辛いだろうにわざわざ話しをしてくれてありがとうございます」

 

 文は天詠を気遣う言葉をかける。この中で一番辛いのは天鴎を間近で見てきた天詠と僧正坊だろうから。

 

「すいません、今日はもう休ませてください。やっぱり私の中でももうちょと整理してみます」

 

 文は天詠から話された事はあまりにも重く、またかなり量もあったことから、すこしまいっていた。

 なので、今回はもう一回休んで天詠への返事はまた明日にでも一旦保留にする事にした。

 

「ええ、文さん自身がよく考えてみるといいわ。あなかがどれだけ天鴎を好きかは知っているけど、だからこそあの子の過去に向き合うのはとても辛いことだとおもうの。あの子を無条件に受け入れるのなんて…長年付き添った者でも難しいもの」

 

これは、天詠達の経験からくる言葉だろう。天鴎の精神状態が最初はかなり酷く、優しい天鴎との違いに戸惑ったに違いない。

「そうさせて貰います…」

 

文はそれだけ言って、天詠達の部屋を出た。

「はぁ…」

 

文はおもわず壁に背を付けため息を吐いてしまう。

 もう一度文は天鴎の事を考えようと、先ほど聞いた話を思いだそうとする。しかし、半分程思い出した所で思い出すのをやめる。心が悲鳴を上げそうだったからだ。

 こんな気持ちになるなんて文は初めてであった。

 天鴎を好きな気持ちは自分の中にしっかりとある、先ほどの話で天鴎を思う気持ちが揺らいだ訳ではない。その他にも嫉妬でも怒りでも哀れみという訳でもない。

 哀しい、そして無性に怖かった。今まで文の見てきた天鴎の姿は力強く弱さなど一つも見えなかった。しかし、話の中の天鴎は弱く、あまりにも不安定で、文にはとても儚く消えてしまいそうに思えた。

 

 文は壁に預けていた背中を持ち上げて、天鴎の元へ急いだ。

 

 部屋へ急ぐ足に速さが知らずの内に速くなっていく。

 

 天鴎が自分の前から何も言わずに消えるはずなんてない。文はそう思いながらも、天鴎が過去に起こった事を自分が知ったとわかったら、忽然と自身の前から消えてしまうんじゃないかと思った。今までの優しさが文には嘘には思えていなかったから、余計に強くその想像が脳裏を過り続ける。

 

 文は音を立てながらも、部屋の前に着く。そして、部屋の襖に手をつける。天鴎がいなかったらと一瞬嫌な想像が頭を横切り躊躇したが、一気に襖を開く。

 

「おっと、どうしたんだ?そんなに強く襖を開いて」

 

 

 

 いた…

 

 

 文は天鴎を見てそう思った。

 天鴎はこちらを不思議そうに見ている。天鴎は座ってこそいるが、体制が楽なものだったから、今まで部屋でくつろいでいたのだろう。

 

 文は天鴎の元に足早に近づく。

 

「どうしたんだ?文、そんな鬼気迫ったような顔して?」

 

どうやら、知らずの内に文は大分顔に力が入っていたらしい。

しかし、文はそんな事にお構い無しに、天鴎に抱きついた。

 

いる、いる、確かにここに天さんはいる。間違いなんかじゃない。天さんはここにいるんだ。

 

「?」

 

天鴎は文の無言からの抱きつき、それらが先程まで明るかった文とは全く違う行動だから不思議に思ったが、文の体温が心地良かったのか、そのまま何も言わずに、文の頭を撫で始める。

 

文もその体温を感じて先程までの哀しみと恐怖が少し薄れてきた。しかし、まだそれが完全に消える訳ではない。

文は未だに負の思考が頭から完全に離れた訳ではない、先程のショックを引きずったままだ。

 

文は天鴎の顔を見る。

天鴎はそんな文を見て、文に微笑みを返すだけだ。その顔から、天鴎が話しに出てきたような体験をしているようには思えなかった。大事な物を失い、復讐にその身を燃やした者の顔なんかじゃなかった。

 

文はその事実に頭が混乱する。なんでこんな顔をできるのか?なんでこんなに穏やかでいられるのか?なんでこんなにも優しくいられたのか?なんで、私なんかと真摯に向き合ってくれたのか?

 

文はもう訳が分からなくて、つい言葉に出してしまう。

 

「天さんは…なんでそんなにも優しくできるんですか?」

 

「?」

 

天鴎はその言葉に困惑するしかない。何故優しくできるのか?その言葉の意図がわからない。

もしかしてこれが嫉妬とかいうやつか?嫉妬なんてどうゆう要素があったのかなんてわからないが、可愛いもんだなぁ。

全く見当違いの事を天鴎は考えていた。

けれど、天鴎は今の質問に答えは返しておくべきかと思い、口を開く。

 

「文が好きだからだよ」

 

ビグッ

 

天鴎の腕の中にいた文が震える。

文はその言葉にどんな意味を持つのか上手く理解できなかった。

天鴎はただ本心からの言葉を言っただけだか、あの話しを聞いた後だと、過去を知らない無知な文が好きなのか、それら無しで文が好きなのか、分からなかった。

それらは不安となり蓄積され、文は知らずの内に口にだしてしまった。

 

 

「私聞きました、天さんの過去を…」

 

「!!?」

 

天鴎はその顔を歪める。今までの穏やかな顔が一瞬で消えた。恐怖と不安に支配された、嫌な顔。

それは文の知らない、本当に消え入りそうな、弱々しい顔だった。

 

文はその顔を見て…今までに感じた事がない程…どうしようもなく…胸が痛んだ。

 





 悲報 鞍馬の里 エピローグ 

 書かないと。

 鞍馬の里編長すぎますね。
 
 あと、鞍馬の歴史はまた詳しく書くことがあったら書きたいですね。

 
 登場人物が気にしてないだけですが、天さんは『俺、参上』ダサT着てますね。


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鞍馬の里 エピローグ


 遅れてすみません。
 結構難産でした。
 それでも駄文ですし、グダグダですが、お付き合い頂けると幸いです。


文は顔を歪めている天鴎を見上げる。

天鴎は不安に支配され泣きそうな顔をした文を見下ろした。

 

「……、聞いたのか?」

 

文は今まで聞いたことのないような冷たい声だと思った。

文はその冷たい声を聞いてやはり、天鴎は無知で何も知らない、ただたに何も知らずに笑っている私が欲しかっただけなのか…

 

文はそんな考えが頭の中をよぎってしょうがなかった。

私は捨てられるのだろうか?私は天さんが好きなだけだったけど、天さんは違うのだろうか?天さんは、私の事なんて、都合のいい女としか考えてなかったのだろうか?

 

負の思考は文の中で途切れることがない。

このままじゃ天さんと別れる事になるのか?ならこんな事話さなければよかった。やっぱりまだ天さんと一緒にいたい。

後悔までも文の中を支配していく。

文の心は悲鳴をあげたしそうだった。

しかし、その時天鴎が口を開いた。

 

「俺の事、嫌いになったでしょ?」

 

文はその言葉に首を横に振り、必死に否定する。

 

「幻滅したでしょ?」

 

その言葉にも文は首を横に振り、否定する。

 

「俺から、離れたくなったでしょ?」

 

その言葉にも文は首を必死に横に振り、否定する。文は今天鴎が言った事のどれも思ってなんかいない。文が天鴎が好きな気持ちに揺るぎは無い。

 

「嘘をいうなよっ!!」

 

 天鴎は突然声を荒げる。

 文はその突然の行動に身を縮めてしまう。

 

「文はわかるだろ?俺はずっと俺の綺麗な所しか文に見せていないんだっ、俺はずっと自分を偽るようにした自分でしか文に接していないんだ。俺はずっと文を騙してたんだよっ!!」

 

 文はその言葉を聞いて顔がさらに泣きそうな顔に変わる。

 

「本当の俺は復讐に身を費やしたような馬鹿で、どうしようもない奴なんだよ!俺の力だって、この世界が憎くて憎くて、ぶっ壊したくてしょうがなかったから付けた力なんだよ」

 

 天鴎の拳に力がこもる。

 

「俺のダメな熱が冷めたのだって、最近なんだよっ!それまでずっと、ずうっと、周りを憎みながら、世界を憎みながら、そしてなによりも、こんなクソな自分をなによりも憎みながら生きてきたんだよっ!!」

天鴎の手に爪が食い込む。

 

「俺は、俺は、この里のなかで一番…ダメな奴なんだよ。守りたい物もなくて、守りたい人もいなくて、勝手に視野を狭めて、自分の殻の中に引きこもって、壊すための手段ばっかり磨いて、どうしようもない奴なんだよっ!!」

 

 天鴎の顔が悲しさで歪む。

 

「皆、守るために、誇りのために、強くなっていったのに、俺だけ子供みたいに、過去に囚われて、壊すことしか考えていなかった」

 

 天鴎の顔が更に歪む。

 

「愛なんて、歪んだ形でしかもう分からない。昔の、まだ何にも知らなくて、ただ母さんと父さんを純粋に愛していたころなんて、思い出せない。普通の、純粋な愛なんて、もうよくわからない」

 

天鴎の顔がまた歪む。

 

「だから、分からないんだよ、お前を、文を、思う気持ちが、愛情なのか、分かんないんだよっ!もしかしたら、俺が自己満足のためだけに、文を求めたのかもしれない、里の皆みたいに、守れるような自分よりも弱い存在を求めて、文の心を利用したのかもしれない」

 

天鴎の顔がまた更に歪む。

 

「だから分からないんだよ、これが愛なのか、お前を本当に愛していられてるのか、分かんないんだよ…、嫌なんだよ、お前を俺の自己満足のためだけに使うなんてこと……絶対に嫌なんだよ、ちゃんと、幸せにしたいんだよ……」

 

文の頰に水が流れる。

 

 しかし、その頬に流れる水は、文の目から流れてくる物じゃない。

 それは文の頬の上から、ポタポタと流れ落ちてきている。

 

 文はそれを見て、それを理解して、息をのんだ。

 

 なぜならば、それは、文が始めてみる、天鴎の泣き姿だったからだ。

 

「天さんっ」

 

 文は自然と天鴎のことを呼んでいた。

 しかし、天鴎はそんな文に気づかず自身の独白を続ける。

 

「ごめんな、ごめんな文。たぶん俺は利用してたんだ、自分の欠けた部分を埋めたい一心で、文を利用したんだ。純粋に愛することも出来ない欠陥の多い奴なのに、文の気持ちを利用したんだ」

 

「やめてくださいっ、天さん…」

 

 文は分かっている、ちゃんと気づいている。

 天鴎は天鴎自身が言う程酷い人なんかじゃない、欠陥だらけの人なんかじゃない、自身のためだけに生きてきた訳なんかじゃないとわかっている。

 

「俺は、俺は、最低な奴なんだっっ!どうしようもないクズなんだ!誰かと一緒にいれるようなやつじゃないんだっ!!」

 

 違う、違う、違うっ!!

 天さんはそんな最低な奴じゃないっ!!

 少なくとも、私は天さんに救われたんだ、死にそうになった時に、救ってくれたんだ。

 それだけなんかじゃない!私にひと肌の暖かさを教えてくれたんだ。大切な暖かさを教えてくれたんだ!

 帰る場所の大切さを教えてくれたんだ!!大事な場所に、大事な人がいることが、どれだけ心が救われるのか教えてくれたんだ。

 私がどれだけ天さんに助けられてきたことか、私がどれだけ天さんに励まされたことか、私がどれだけ天さんに救われたかっ!!?

 

 だからっ、だからっっ!!

 

「俺はっ、俺はっ!!皆とっ、文とっっ!!一緒にいる資格なんて「それ以上は言わないでくださいっっ!!」」

 

 文の悲痛な叫びが天鴎の鼓膜を揺らす。

 天鴎は茫然としながらも文の顔を見下ろす。

 怒りと悲しみがぐちゃぐちゃに混ざり合った顔で天鴎を見つめる文を見下ろす。

 

「天さん、私に告白してくれた時に言いましたよね?これからもずっと、私の隣に居てくれるって、ずっと一緒に居てくれるって?その言葉は嘘なんですか?」

 

「嘘じゃない、少なくともいった時は本気だったさ、けどわかんないんだよ、そこに愛情があるかわからないし、俺みたいな奴がこれからも幸せにできるかなんてわかんないんだよ!自信もないんだよ!誰かを拒み続けてきた俺にはどうしようもないんだよ!」

 

「なんで天さんには私といる資格がないんですか?なんでどうしようもないんですか?」

 

「だって、だって、俺みたいな奴は愛情なんてわからないし、誰かを傷つけ、殺すことしか考えてなかったんだ。母さんが悲しむだろうことも、家族も悲しむだうことも分かっていたのにっっ!」

 

「じゃあ、なんで天さんは愛情が分からないんですか?」

 

「なんでってっ、分かってるだろ?俺の過去の話を知ってるんだろ?こんなクズな自分主義な奴が里の皆みたいに純粋な愛なんてもう分かんないんだって、文だってそう思うだろう?」

 

「天さん……」

 

 文の声が一層低くなり、拳は握られている。顔も天鴎が見たことが無いほどに暗い影がさしている。

 だが、次の一言は天鴎の思っているどれとも違った。

 なぜならばその言葉は…

 

 

 

「そんな馬鹿なこと言わないでくださいっ!!」

 

 

 

 天鴎がこれまで受けたことのない、どこまでも真っ直ぐな、文の激情であり、天鴎への叱咤の言葉であり、文の思いだったからだ。

 

「へ?」

 

「さっきから聞いていれば、ずっとくよくよくよくよとっ!さっきから何を弱音を吐いてるんですかぁ!!」

 

「へ?文、なにを?」

 

「天さんは少し黙っててくださいっ!!」

 

「は、はい…」

 

「そもそも、私は天さんの昔を聞いたからって、天さんを嫌いにはなりませんっ!確かに最初に聞いた時は驚いてしまいましたけど、ただそれだけです。むしろ、天さんの弱いところも、支えてあげなきゃいけないところもしれて良かったと思っているくらいです」

 

「…」

 

「それに私は一緒に過ごした時の天さんを丸々そのまま好きになったんです。昔がなんなんですか!過去がなんなんですか!私は今の天さんが好きなんです!あなたと会ってから今まで過ごした時間の天さんの全てが好きなんです!例えそれが偽りでも、例えそれがごく一部の側面であっても、私はこれからの天さんを私が知らない天さんもっ!好きになれる自信があります!!」

 

「文……」

 

「これだけ言ってもまだ過去に囚われに行きますか?これだけいってもまだ私と向き合ってくれませんか?これだけあなたに愛を囁いてもまだ離れていきますか?なら、私はどうすればいいんですか?あなたへの愛はどうすればいいんですか?」

 

「けど、けれども、俺は文を愛してあげられないかもしれない、文の望む愛し方を、普通の愛し方を、出来ないかもしれない」

 

「天さん…」

 

文はその天鴎の言葉に咄嗟に返さずに詰まってしまった。分からない物は分からないのだから。けれど、文はやはり納得などできなかった。納得などしたくなかった。だから、言葉を探す。自身の心を探り、自分の心を天鴎に"直"にぶつけられる言葉を探す。

だけど、やっぱり、やっぱり文にもそのあと言葉は分からなくて、こういう言葉しかでなかった。

 

「分かりません…」

 

「え?」

 

「私だって、分かりません。私が求めている愛なんて、普通の愛なんて、理想の愛なんて、私だって……分かりません」

 

「わからないって…」

 

「だって、仕方がないじゃありませんか、私だって天さんがくるまで、誰かと愛を育むなんて、恋人になるなんて、ましてや、こんなにどうしようもなくなるぐらいに誰かを愛してしまうなんて、思わなかったんですから。私だって他の妖怪より、他の同族の中でも長生きしてきたつもりですけど、こんなこと生まれて初めてなんですよ?

こんな気持ちを抱くなんて、生まれて初めてなんですよ?だから、分かるはずないじゃありませんか、なにが理想の愛なのか、どうゆう形が私達が求めている愛なのか、分かりませんよ」

 

 文は自身の不安をかき消すように天鴎に強く抱き着く。

 天鴎を見つめる。

 

「私は天さんと一緒にいるだけで幸せなんですよ、天さんと一緒にいるだけで心が満たされるんですよ?こんなことで満足しちゃて、その先への進め方もよくわかんない私が、天さんに愛の在り方を、形を要求できるはずがないじゃありませんか」

 

「…」

 

「天さん、だから私から離れないでください、私と一緒に居るべきじゃないなんて言わないでください。私たちは仮にも夫婦、恋人なんですから、今愛の在り方が分からなくていいじゃありませんか、これから探していけばいいじゃありませんか?そんな、そんなに、結果を早まることはないじゃありませんか?ちゃんと、ちゃんと、私と愛の意味をゆっくり探していきましょうよ…」

 

「…………、俺は文と一緒にいてもいいってことか?」

 

「…馬鹿ですか天さん?ずっとそうしてくださいっていってるんですよ」

 

「これからも文と、ずっと一緒にいてもいいってことなんだよな?」

 

「だから、そう言っているじゃないですか?私はこれからもずっと天さんに私のそばにいて欲しいと思っていますよ?」

 

「けど、やっぱり、今の俺にそんな事できるのかな?」

 

「もう、本当に、とことん愛情については自信がありませんね?もう、いいじゃないですか。天さんは私のそばにいることで私が不幸になること私が不幸せになること、私を利用してしまうこと、それらに罪悪感をもってこんなにも真剣に悩んでくれている、天さんの思いすらも押し込めて悩んでくれている。私は思いますよ?それはもう立派な愛だって、それはもはや愛情と言われるものなんだって、私はそう思いますよ?」

 

 天鴎はその言葉を聞いて、考えるように俯いてしまうが、少ししてから、その口から文の言葉を噛みしめるように声をだす。

 

「……そうなんだ、それが、愛情なのか…」

 

「そうですよ、それが愛情ですよ」

 

「こんな簡単なことが、こんな当たり前の事が、愛なのか…」

 

「そうですね、こんな簡単でこんな当たり前の事が愛の一部なんですよ」

 

 次は天鴎が、文の存在を確かめるように文を抱きしめる。

 

「なんだか、簡単で身近すぎて、すぐに見失ってしまいそうだな」

 

「本来、愛はそうゆう物なのかもしれませんね?」

 

「そうだな、そうなのかもしれないな」

 

「だからこそ私達は支え合わなければいけません。この気持ちを忘れないために」

 

「ああ、そうだな」

 

 二人の間には、少しの間沈黙が流れた。だがそれは、心地の良い沈黙だ。二人の仲を修復するような、温かな静けさだ。

 

「ごめん、文。取り乱しちゃたよ。文に愛想をつかれると思ったら怖くて、自分から突き放そうとしてしまって、本当にダメだな、俺」

 

 文はいまだに自信が持てない天鴎に少しおかしそうに笑いながら、愛しそうに天鴎の語り掛ける。

 

「私が天さんに愛想をつかす訳がないじゃありませんか?私は天さんの隣にずっといたいんですから」

 

「はは、やっぱり、面と向かって言われると恥ずかしいな」

 

 天鴎がそういうと、二人はしばしばの間見つめ合って笑いあった。

 

「天さん、今なら、弱音を吐いてもいいんですよ?」

 

 文が突然にそのような事を言い出す。

 天鴎は先ほど弱音をはいた事で文に 咤されていたことから、分からない顔をする。

 

「先ほどは弱音を吐いたことに怒っちゃいましたけど、でもやっぱり、弱音は適度に吐いておくべきだとおもうんです。天さん、まだまだ吐きたりませんよね?」

 

 天鴎はその文の言葉にまた驚いた顔をする。

 

「分かってますよ。何百年間も吐き出す相手がいなくて、ずっと一人で抱え込んでいたんでしょう?天さんのお父さんも、祖父母も、自分よりも辛いはずなのに自身の辛い気持ちをぶつけることなんて、優しい天さんにはできないでしょう?」

 

「ふふ、ははは、文には全てお見通しかぁ、すごいな文は、ここまで俺の気持ちを的確に言い当てるなんて…」

 

 天鴎は自分の気持ちが易々と読まれていることが分かって苦笑いしてしまう。

 

 そして文は座りなおし、自分の膝に天鴎の頭をのせる。天鴎は力を抜き、なすがままにされる。それから文はゆっくりと丁寧に頭を撫で始める。

 

「天さん、例え道を間違えたとしても、例えとるべき手段を間違えたとしても、大丈夫です。私は天さんが一人頑張ってきたことを分かっています。だから今はもう頑張らなくていいんです。今は弱い所を見せたっていいんです。天さんはさっき、壊すため殺す為の技術を磨いてきたって言ってましたけど、そんなことないと思います。」

 

「なんで、そう思うんだ?」

 

「だって、天さんはとっても優しいじゃないですか?その力をつけたのだって結局は第2第3の天さんのお母さんのような被害者を出さない為だったんじゃないんですか?天さんは誰かを失う事が怖かったから、誰も失わないように、力を求めたんじゃないんですか?」

 

「ああ、確かに俺は弱いから、怖くてしかたがなかったから、力を求めたんだったかもしれないな」

 

「大丈夫ですよ天さん。あなたは少なくとも、壊す為、殺す為だけにその力をつけた訳じゃないんですから、だから、次からは天さんの思うように、正しいと思うようにその力を使えばいいんですよ」

 

「使っていいんだよな、この力は無駄じゃないんだよな…」

 

「ええ、無駄じゃありませんよ、その力は決して無駄じゃありません」

 

「ああ…本当に、俺の過ごした日々は無駄じゃなかったんだなぁ」

 

 天鴎は感情の波を限界までせき止めていたが、文の優しい言葉が天鴎の感情をせき止めていたものを決壊させる。 

 それまで治まっていた天鴎の涙がまた溢れ出してくる。そしてそれは、天鴎には歯止めが効かなくなる。

 

「ありがとう、ありがとう、文。こんなどうしようもない奴を肯定してくれて、受け入れてくれて、本当にありがにっっ本当にっ、ありがとうっっ!」

 

「こちらこそありがとうございます、天さん。私と出会ってくれて、私に優しく接してくれてありがとうございます」

 

「俺もだよっ!本当に、俺と出会ってくれてありがとうっ!」

 

 

 その日、日が昇るまで、天鴎の嗚咽は静かに二人の間に響いていた。

 

 これから天鴎が自信の過去を振り切れるように、文はこれからもずっと天鴎と支え合っていけるように、二人は眩い太陽に向かって互いの思いを刻み、誓いあったのだった。

 

 これからの二人を、一生違えぬ糸で結び合った瞬間だった。




 
 補足ですが、天鴎の全てを無視して修行にのめり込んだ要因としては、憎しみ、文の言ったように守る為も確かにありますが、天正への罪の意識を感じての贖罪という意味もあります。
 天鴎には守る為という意識もありますが、罪の意識もかなりの割合を占めており、修行にのめり込んだ理由としても現実逃避等があります。

 本当に蛇足でしたが、本文では伝えきれないところだと思ったので書かせていただきました。文も気づいている部分です。

 


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小話 その②

 今回は小話を書かせていただきます。元々は活動報告でも書かせていただいたとおりに天鴎のピリピリしていた時期の昔話でも書こうかと思っていたのですが、自身の筆がのらないのと、散々鞍馬の里編を長引かせたくせにまた鞍馬の話かとくどいと思ったので、また機会を見極めて、投稿したいとおもいます。


 

 今日の幻想郷はあいにくの雨であった。

 

 外の世界と比べてまだ文明が未発達な人間の里に建っている家々に雨音を響かせ、人の手がほとんど入っていない幻想郷の地に根を生やしている自然豊かな植物たちに恵を運び、雨の好きな妖怪たちに活気を与える。

 見方によっては様々な姿を見せる幻想郷の雨。

 

 そんな雨が降り注ぐ空を、一人の天狗の少女が飛んでいる。

 このお話でお馴染みの射命丸文である。

 

 文は仕事場に行く際に雨から身をしのものぐ物を持ってきていなかったので、幻想郷でも最高峰に位置するその自慢の身軽さで、雨の中を家まで急いでいた。

 

「あああ!もう!今日は家の方で書類仕事と新聞製作しようと思っていたのに、急な呼び出しで行ってみれば、処理しきれなかった書類押し付けられて、時間食っちゃたし、しかも雨も降ってくるし、なんで今日はこんなについてないんですか!?」

 

 愚痴を言えば言うほど、今日のスケジュールをぐちゃぐちゃにした上司への怒りで空を翔けるスピードが上がる。その分、文の体を叩きつける雨の力も強くなるが、文はそんな事気にせずにスピードを上げる。

 

 文がスピードを限界まで上げれば、すぐにでも家に着く。

 元々天鴎が建てた家は妖怪の山に建っているのだ。距離はそこまでないのだから。

 

 しかし、それと引き換えに、雨の中で全力飛行すると衣服が全部びしょ濡れになってしまうが。

 

「天さん~、ただいまー」

 

 文は引き戸を開け、玄関で天鴎に帰った事を伝える。

 

「?」

 

 しかし、ここで文は不思議に思った。

 いつもならすぐに『おかえりー』と返事を返してくれるのに、その返事がない。それに気遣いが上手い天鴎だからタオルでも持って玄関に出てくるだろうかと思っていたから、少しこの反応が以外だった。

 

「畑の様子でも見に行ったんでしょうか?」

 

 品種改良でかなり丈夫な野菜になっていると聞いていたが、やはり野菜は育てる上では大変デリケートなのだろう。今日はいきなりの雨だったから天さんも急いで畑にいったのかもしれない。

 

 とりあえずびしょ濡れのまま玄関に突っ立ていたら風邪をひいてしまう。

 靴と靴下を脱いで、廊下を濡らしてしまわないように注意して、着替えとタオルを取りに向かう。

 

 今の時期は夏が過ぎて肌寒くなってきたころだ。

 文は風呂でも沸かそうかと小走りになりながら廊下を進む。

 そんなことを考えながら進んでいると文はびっくりする光景を庭に見つけた。

 

 

 庭にはいつと変わらないダサTに袴という格好で雨の中佇む天鴎の姿を見つけたのだ。

 

「え?天さんなにしてるんですか?」

 

 文も初めてみる理解できない光景に戸惑ってしまう。

 

 しかし天鴎はそんな文に気付く様子もなく、ただひたすらに空を見上げている。

 雨雲がそんなに憎々しいのかと思う程に睨みつけている。

 

 そんな天鴎を見ていた文は動けなかった。

 天鴎の周りすら見えなくなる圧倒的な集中力に文は目を離せなくなり、引き込まれてしまった。

 

 天鴎はそこで何分か空を睨みつけていた。

 そして唐突に天鴎の纏う雰囲気が変わる、刹那、天鴎の姿が視認できなくなる。

 

「ええええええええええええええええええええええっっっ!!?」

 

 文はいきなり過ぎる展開に驚きの声を上げてしまう。

 

 文は今天鴎が何をしているのか理解しようと、状況を把握しようと庭の様子を観察する。

 すると庭にはなにも見えないが、ヒュンヒュンという音は聞こえてくることに気づいた。

 さらに、文はこの音に聞き覚えがあることに気づいた。

 

「この音って、だいだい天さんが特殊な足運びをして高速移動してる時の音だったはず」

 

 そう、この風を切る音は天鴎が高速移動する際になる音なのだ。

 

「つまり、天さんは高速移動をして何かをしているということになりますね?」

 

 しかし、文は天鴎がここで何をしているのかが分からない。

 なぜなら、天鴎がここにいるのは音でしか(・・・・)判断できないからだ。

 天鴎の使う歩法は踏み込む力の全てを推進力に使うため、よく漫画とかで見る思いっ切りジャンプしたら土埃が舞うなんてことが起きないのだ。

 だから、着地で地面が割れることもなければ、踏み込みで地面が陥没することもなく、なにごともなかったような地面しかのこらないのだ。

 今、庭では絶賛天鴎が高速移動している証拠のヒュンヒュンという音は聞こえるのだか、庭には多くの水たまりがあるにも関わらず、水が雨の当たる衝撃でしかはねないのだ。

 

「本当に天さんはびしょ濡れになってなにをしているの?」

 

 文は衣服が濡れているからこの現場をスルーしてさっさと脱衣所に向かおうかとも思ったが、なんとなく天鴎が気になってこの場で天鴎のこの謎の行動が終わるまで待つことにした。

 

 

 ■ 数分後

 

 

 ビシュンッッ

 

 そんな風を切る音を出しながら天鴎は庭に面している廊下にいきなり現れた。

 

「ひゃあっっ!」

 

 文はいきなり現れた天鴎にびっくりして声をあげてしまう。

 

「あれ?文帰ってきてたの?え!というかなんでびしょ濡れなの?」

 

 天鴎は逆にびしょ濡れの文に驚いてしまう。

 

 文も文で天鴎の謎の行為になぜびしょ濡れになってでも観察していたのか不思議だったが、だがやはり文の職業からしても答えは一つだろう。

 

「野次馬根性ですね」

 

「あ~、文って新聞記者でもあったよな~」

 

 天鴎はその答えに妙に納得できたという。

 

「それよりも天さん!今何していたんですか!?」

 

「うん?それが気になっていたの?」

 

「はい、そうなんですよ!..」

 

 天鴎はその答えに苦笑いして口を開く。

 

「修行だよ」

 

「あれが修行ですか?どんな内容かもわかりませんでしたが?」

 

「足腰と判断力と歩法を鍛える修行だ」

 

「あの高速移動にそんな意味が?」

 

「あるよ?高速移動で雨を避けつつ、雨に当たらないように体をどう動かすか思考して、避けきれないと判断した雨は指で弾くんだ。それを雨で濡れた服が乾くまでやるんだ」

 

「服が乾くまでって…、それはヤバいですね」

 

「まあでも、かなり高速で動くからすぐ乾くんだけどね」

 

「それでも避けることだって困難な雨を何十分も避け続けるなんてすごいですよ」

 

「そうか?まあ、この修行は雨が降った時にいつもやってたからそんなにスゴイって感覚ないんだよな」

 

「なんでなくなるんですか…」

 

 文はこんなところでも天鴎の異常っぷりを思い知らされることになった。

 

「それよりも文、お前びしょ濡れなんだからはやくタオルとりに行こうか、ついでに風呂沸かしてやるから」

 

「へくしょいっっ、確かにそうでしたね、あ~早く温まりたいですね」

 

「はあ~、なんでそんなになるまで見ていたのやら、そんなことならいつもより早く上がればよかった」

 

「別に天さんが気に病むことはないですよ。こんなになるまで見ていた私が悪いんですし」

 

 天鴎はその言葉と文の野次馬根性に一つため息をつき、脱衣所に向かったのだった。

 

 

 ■ 小話その1 完

 

 

 ■ 小話その2 

 

 

「ふああ~~、やっぱり本当に綺麗ですね~~」

 

「うん、やっぱり最高に綺麗だな~」

 

「やっぱり空から見るのとは全然違う表情を見せますねー」

 

 今天鴎達は太陽の花畑に来ていた。

 今日も真夏にふさわしい炎天下の中、美しい向日葵に囲まれたここだけは違う風が吹いているようだった。

 

 それに天鴎は前回一人で来た上に、幽香となぜか戦うことになったのだ。

 天鴎からすると今日は文と二人でゆっくりと綺麗な向日葵を見れるのだ。

 幽香が嫌という訳ではないが、正直言ってゆったりできる機会にわざわざ戦うことになるのは嫌なのだ。ただ前回は天鴎自身が完全に幽香の殺気にあてられて戦うことにノリノリだったので幽香一人が悪いという訳ではないのだが。

 

「にしても、ここら辺にはあの花妖怪がいるというのであまり近よらなかったんですよね」

 

「うん?幽香のことか?」

 

「はい、そうです。風見幽香のことですよ。そういえば前ここに来た時に戦ったって言ってましたよね」

 

「ああ、なんか切っ掛けはよくわからんのだが、いつの間にか戦うことになっていた」

 

「まあ、そんな風に強者には喧嘩をよく仕掛けるらしいので、幻想郷の中でも強者に位置する鴉天狗が喧嘩を売られると思っていたので、あまり近寄らなかったんですよね」

 

「まあ確かにな、あいつは戦いを楽しむ奴だとは思うよ」

 

「本当にそうだと思うので、こんなふうにゆっくりとこの向日葵畑を楽しめる日が来るなんて思っていませんでしたよ」

 

 そう言い文は向日葵畑を眺める。辺り一面に広がる太陽のような黄色、さんさんと降り注ぐ日光に、向日葵の花弁を揺らす心地の良い風。

 文もなかなか感じることのない空間に感動していた。

 

「いや~、それにしてもさすがですね。四季のフラワーマスターと呼ばれるだけありますね」

 

「え?幽香ってそんな二つ名で呼ばれてるの?」

 

「はい、この二つ名は結構有名ですけど?」

 

「え?なんというか、その二つ名微妙に英語とか入ってて少し恥ずかしい名前なような」

 

 

「勝手に人の事を貶すのは止めてくれないかしら?」

 

 

「!?」

 

「おう、幽香」

 

 いきなり何もないところから風見幽香がでできて文は言葉が出ない程驚く。天鴎はごく自然に幽香に挨拶する。

 

「久しぶりね、天鴎」

 

「おう、幽香も久しぶりだな」

 

「え?え?」

 

文はいまだに現状を把握できていない。

 

「にしても、わざわざこの花畑にまできて私を馬鹿にしに来たの?」 

 

「ああ?いや、このとっても綺麗な向日葵畑を見に来たんだよ」

 

「なら他人が勝手につけた二つ名で私の事を馬鹿にしないでくれるかしら?」

 

「いや、馬鹿にしてない、馬鹿にしてないって、だたちょっと恥ずかしい二つ名だなーって思っただけだよ」

 

 刹那、幽香の手が天鴎の頭にアイアンクローをきめ、そのまま天鴎を持ち上げた。

 

「それをやめなさいと言っているのよ」

 

「四季のフラワーマスター?」

 

「や・め・な・さ・い!!」

 

 天鴎はアイアンクローをされながらも笑顔を崩さない。

 

「ごめん、ゴメン、GOMENN☆、もういいでしょ?ちょっ、離して、その手」

 

「いやよ、あなたまだ私をおちょくっているわね?」

 

「ソンナ―、キノセイダヨー」

 

「まだ分からないのかしら?」

 

 幽香はさらにその天鴎を掴む手を強める。

 

「え?え?え?え?」

 

 文はまだ混乱中だ。

 

「Flower Master of the Four Seasons」

 

「ただ英語にしただけじゃない、あなたまだ私の言ってることが分からないの?」

 

「オフコース」

 

「あら、随分堂々と言うのね?」

 

 天鴎は堂々なぜか片言で幽香の逆鱗に触りにいく。滅茶苦茶触りに行く。

 

「と、とりあえず、落ち着いてください。て、天さん?なんでそんなに幽香さんおちょっくっていきいきしてるんですか?」

 

「なんとなく!」

 

「はあ」

 

 天鴎はもしかすると、前回挑発するような発言をしたことをまだ秘かに根にもっているのかもしれない。

 

「あなた、そんな性格だったのね、はあ。なに言ってもダメそうね。もういいわ、諦めてあげる」

 

「え?まだおちょっくっていた…」

 

 ズカンッッ!!

 

 幽香は天鴎が言い終える前に日傘を天鴎の頭に叩き込む。

 天鴎は無言のまま幽香にはった押され、大地と熱いキスをするはめになる。

 

すると、天鴎の腕が横に動き、手が動く、手は硬く握られたままだが、親指が一人天高く上を向く。それはあまりにも堂々としていて、あまりにも主張が激しくて、なにかを成し遂げた後のような感動のようなものすら感じ取れるなにかがあった。

 

「幽香!ナイスツッコミ!」

 

「アンタはっ私に何をやらせたいのよっ!!」

 

ズガァァァッッ!!

 

幽香は力任せに天に掲げている親指ごと思いっ切り天鴎の手を踏み潰す。

 

「え、て、天さん、大丈夫ですか?」

 

 文は戸惑い気味に天鴎に問いかけるが、天鴎は踏まれていない方の腕でひらひらと手を振り、大丈夫だとアピールする。

 

「本当に、こいつはムカつくやつよね」

 

「ははは、まあいつもこんなに誰かをいじっているのは珍しいですけどね」

 

「それでも私にとってムカつくやつの事には変わりないわよ」

 

 文は天鴎の方に近づいて、今日は珍しい反応するなーとか思いながら天鴎を起こそうとすると、天鴎のひらひらと動いていた手がいきなり止まり、グッと、親指を突き立てた。

 

「え?え?天さん次はなんですか?」

 

 文は天鴎がなんでそんな動きをするのかが分からなくて、天鴎に問いかける。

 

「文、ナイスパンティー…!」

 

 そう、今文は天鴎の横に幽香がいるので邪魔にならないように、天鴎の前から回り込んだのだが、すると丁度天鴎が顔を上げると、目の前にミニスカートの中の秘密の花園が広がっていたのだ。

 

「なっ!天さん、何をみてるんですかっ!!?」

 

 文はとっさに風の妖術を展開する。

 

「人前でそんなこと言わないでくださいっっ!!」

 

 天鴎の体が文の妖術によって地面に埋まる。

 文は肩で息をしながら、顔は赤面している。

 

「あなたも大変ね」

 

 幽香は文をいたわるように言い、天鴎をさらに強く踏みつぶす。

 

「なんでこんな奴が強いのかしらね?」

 

「ははは、人には外見からは全く想像できない過去があるんですよ」

 

 文は苦笑しながら答える。

 

『そうなのだ!!』

 

 天鴎がいつの間にか持っていたパネルで、文の言葉にこたえる。

 

「どこから取り出したっ!!」

 

 幽香は偉そうに答える天鴎のパネルに思いっ切り蹴りをいれる。

 ついでにと言わんばかりに天鴎の頭に蹴りを入れる。

 

 すると、天鴎はまたどこから取り出したのか、白旗を持ってひらひらと振っていた。

 

「何?あなたまだ余裕ありありなんでしょ?なんでそんなになってるのに白旗なんて取り出せたの?というかどこに持ってたの?」

 

『企業秘密♡』

 

 天鴎の持っていた白旗にそんな文字が浮かび上がる。

 

「何?『企業秘密♡』ううぅ?何?あなたは私におちょくる事にどれだけ力を入れてるの?そんなのが天下の鞍馬天狗なの?鴉天狗はあなたのこんな姿を見たらさぞ軽蔑するでしょうね?そもそもあなた奥さんがいるのに他の女性おちょくる為に、私にツッコミさせる為にここまで入念に準備してくるって、恥ずかしくないの?一人の旦那として、大人としてどうかと思うわよ?あなた本当にそれでも何百年も生きてきた大妖怪なの?」

 

 ここに来て、幽香はなにかがプッツンしたのか、正論で天鴎をまくしたてる。

 幽香も人をからかうのは好きなはずだが、それを忘れて話しまくる。

 

『す、すみませんでした(涙)』

 

天鴎はその言葉の棘を纏めてぶっ刺したような物言いに心が折れてしまったようだ。

 

幽香はそのまま、天鴎の頭を掴み、頭だけあげさせる。

 

「あら、そんなので反省しているのかしら?…してないわね」

 

 ボコオオオッ!!

 

 幽香は問答無用で答える隙も与えずに、今度は一切何もしていない天鴎の頭を思いっきり地面にめり込ませる。

 

「私に鬱憤を感じさせた罰よ。そこで反省してなさい」

 

 大分理不尽な理由で天鴎を地面にめり込ませたが、天鴎も天鴎でおとなげなかったので今回ばかりは仕方がないだろう。

 

「はあ、なんでこんな奴が強いのかしら?一体普段どんな修練をしているのかしら?」

 

 幽香はため息をつきながらも、天鴎のこのタフさなどはどこからくるのか不思議に思ったようだ。

 

「ああ~~、そういえば最近修行の一つに雨を避けるなんて事をしていましたね」

 

 文は幽香の呟きに反応し、最近庭で修行していた雨避けを思い出し、呟く。

 

「雨を、避ける」

 

 幽香は文の言った言葉を反芻する。

 

「確かに、強くなるための修行というのはいいわね。足腰も鍛えられるし、体力もつけられる、さらに判断力の強化もできる。試してみる価値はあるわね」

 

「え?ええ~?!」

 

 文はまさか幽香が本気で受け取るなんてありえない思っていたので、文は戸惑ってしまう。雨を避けるなど天鴎のようなイッテルやつらしかしないような修行だと思っていたからだ。

 

「とりあえずそれを目標にしましょうか」

 

 幽香はそう言って忽然と消えてしまった。

 文はツッコミの機会を失ってしまった。

 

「あ、そういえば天さん」

 

 そう思って文は天鴎を見ると、天鴎はえぐれてしまった地面を埋めなおしていた。

 

「いつの間に…」

 

 先ほどまで地面に埋まっていた天鴎がいつの間にか抜け出していた事にも驚いたし、律儀に埋めなおしている余裕とどこから取り出したのか分からないスコップがあるのも驚いた。

 

「はあ~、向日葵畑でも見ますか…」

 

 なんかいろいろと疲れた文はとりあえず当初の目標通りに向日葵畑を眺めることにした。

 

 

「はあ~、癒されますね~~~」

 

 

 文はそのままゆったりと過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お餅食べる?」

 

「天さん、本当にそれどこから取り出していたんですか?」

 

 永遠の謎であった。

 

 ■ 小話その2 完




 遅れてすみません。最後も少し適当ですけど許して下さい。
 内容もあまりに意味を持っていないようなものですけど、暖かい目で見守って下さい。  
 次回は本編です。



 多分……


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吸血鬼異変 前編

遅くなって申し訳ありません。
内容も時間が空いてしまってブレブレですが、本編です。


「あら、今夜はどうやら騒がしくなりそうね」

 

 八雲紫の屋敷で、屋敷の主人の紫が夜空を見ながら呟く。

 

「紫様、こちらは準備が整いました」

 

 なんの前ぶれもなく紫の後ろに現れた、金色に輝く艶やかな九尾の尻尾を持つ狐の妖怪。

 そして、妖怪の賢者である八雲紫の式神でもある。

 

「さすが藍、準備が早いわね」

 

 紫は微笑を浮かべながら、八雲藍に答える。

 

「お褒めいただきありがとうございます。…しかし紫様、わざわざ軍勢を出す必要はあったのでしょうか?」

 

 藍が紫に問う。

 

「あるわよ」

 

「具体的には?」

 

「まあ、今回の騒動の主を私達がコントロールする為のメンツを得ることと、実は私が計画している改革があってね、それを実現する為に後々必要になるのよ」

 

「しかし…」

 

「まあ、確かに、私達が動かなくても鞍馬の天狗に任せれば全てを解決してしまうかもしれない。けれどそれが正しいのかしら?ここは私達が作った幻想郷よ?こんなトラブル一つ私達が管理できなくてどうするってゆうのよ。まあ、流石に鞍馬の天狗は無理だけど

 

「…そうですね。このような場合でも私達が解決することに意義がありますよね。すみません紫様、私の考えが甘かったです」

 

 藍は自身の考えを改める。

 

「まあ確かに、あなたが考えているように鞍馬天狗に全てをまかせたらかなり楽そうではあるけれど、けれどより事の収集の方がはるかに大変になりそうね」

 

 鞍馬の天狗を戦場なんかに送り込んだら何をしでかすか妖怪の賢者でも分からない。ゆえに、穏便にすませてくれる可能性もあるが、戦場をしっちゃかめっちゃかにかき回す可能性の方が大きい。

 

「まあ、それでも鞍馬の天狗は何人か参加させることになったけど」

 

 今回はお祭りだと言って全員で参加しようとしてきたが、こちらの管轄だと言って抑え込むのには大変苦労した。

 妥協案として鞍馬が若手の育成と言って引率役と若手何人かを送り込むことになったが。

 

「さてと、こちらは一体どれだけの戦果を残せるかしらねえ?鞍馬側は若手を送り込んでくるけど、あの鞍馬だし、博麗の巫女でも戦果で勝てるかどうか分からないわね」

 

 紫達の手駒でもかなりの強さを持つ博麗の巫女。今代の巫女は他に前例のないような肉弾戦主体の戦闘スタイルを好む。

 

「かと言って、肉弾戦に関しては完全に鞍馬の方が完全に格上だしね」

 

 そこまで考えて、紫はため息をつく。

 鞍馬という自身の想像の範疇を超えてくる存在が関わってくる以上、彼らがどう動くかなど考えても意味はない。考えるだけ無駄だろう。

 

 それよりも、今回の『異変』を起こした相手を考える方が重要だろう。

 

「吸血鬼ね…」

 

 海の向こう側にあるという国々ではかなり有名な存在らしい。

 どういう訳でこの幻想郷に来たのかはわからない、そこにさほど問題になることはない。この幻想郷は全てを受け入れるのだから。しかし、ここの秩序を乱すというのなら、こちらもしかるべき対応を取らなくてはいけない。

 

「どれほどの強さかは知らないけれど、こちら側が蹴散らせるわね」

 

「はい、紫様。敵はどうやら突如出現した館の周りにいたものを無理矢理味方につけたようで突けば簡単に崩れる烏合の衆です。それに、敵の中枢はかなりの強さを持つと思われますが、数自体は少なく、制圧は比較的容易だと思われます」

 

 

「まあ、当然ね…」

 

 それに今回は藍も戦闘に参加するし、場合によっては紫自身が戦場に打って出るだろう。

 

「上手くいくことを祈るしかないわね」

 

 本当に、全部鞍馬に持ってかれないように、祈るしかない…

 

 

 紫の心配をよそに、太陽は地平線に沈みかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、着いたか」

 

 俺は今、紅い館の前にいた。

 今回は久しぶりに鞍馬側の方から仕事が回ってきたのだ。

 なんでも、今回幻想郷に突如侵入してきた敵がいるらしいのだが、父さんが紫に掛け合って敵の幹部級を何人か譲って貰ったらしいのだ。

 それで、せっかくの実戦だからということで、うちのチビ達を出すことにしたのだ。

 

 そして今回、チビ達筆頭、俺の異母兄弟の亜蓮が参加してるので、それなりに親しくて暇だった俺が今回引率役として選ばれたので、着いてきているのだ。

 

「さてとお前ら、準備はいいか?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 チビ達は俺の問いに元気よく挨拶する。

 子供というだけで元気いっぱいなのに、今回は元気いっぱいな子供が五人もいる。挨拶の声もかなりでかくなる。やっぱり子供はこれぐらいが一番だろう。

 

 うむ、それにしても文はどうしているだろう。妖怪の山も一応警戒態勢をとっているらしいので、夜間も仕事が入ってしまったと愚痴を言っていた。なので今回は弁当を作ったのだが、食べているだろうか?心配だ。

 嗚呼、なんだかこういう事を考えていたら文の顔を見たくなってきてしまった。

 

 まあ、でも久しぶりに鞍馬の皆とも接するのもいいだろう。それに、チビ達と触れ合うのも久しぶりだ。今夜は夜更かしになるかもしれないが、思いっきり遊ばせてやろう。

 

 そんな事を思いながら、周りを囲む敵を見る。

 

 紫の式の藍から聞いた話によると、周りを囲む有象無象は幻想郷にもともといた妖怪で、外からきたのは門の前で仁王立ちしている中華風の服を着ている少女だと思われる。

 つまりあの少女がこの館の門番であり、幹部なのであろう。

 

 そして彼女が幹部だということは、チビ達と闘う相手ということだろう。

  

 なんというか、ちょうど良さそうな相手じゃないか。パワー重視というような相手には見えないし、チャイナドレスが混ざったような服からしてスピード重視という訳でもなそさうだ。

 

 中華風な見た目通りに太極拳なんかを使うのだろうし、俺たち鞍馬と同じように武術を得意としそうだ。こんな相手の方が戦い方を考えなければいけない分、経験が確実に積みやすい。

 

「さてと、今回の縛りの内容を覚えているな?」

 

「うん、覚えているよ」

 

 俺の問いに亜蓮が答える。

 そしてこの実戦演習ではなんと、縛りがある。俺も縛りをつけるということを聞いた時はビックリしたが、よくよく考えればいつもこいつらの武術を鍛えているのはうち(鞍馬)の本家の奴らだ。

 ここの敵より、贅力も速さも圧倒的に高い奴等が多い。

 

 常に全開で暴れさせても実戦の意味が無いと判断し、縛りをつけたのだろう。

 

 ちなみに、縛り内容としては…

 

「再確認としてもう一度言うぞ?この戦いは妖力五割までの制限付きだ。妖力を五割以上使ってはダメだし、更にその先の力(・・・・・)も使用禁止。更にこれはお前らの基礎技術を鍛える為のものだから武器の使用も禁止。素手で闘え。それ以外なら基本的になんでもありだ。チームワークを利用して頑張れよ」

 

「「「「「OK」」」」」

 

 さてと、こいつらもやる気満々らしい。

 しかし、ボス戦をするには先に周りの雑魚共を片付けなくてはいけない。その雑魚を倒すのもチビ達の役目だ。

 

「さてと、お前ら、ウオーミングアップと行こうぜ。殺さない程度に、楽しんで来い」

 

 残念ながら、今回は俺は手を出せないから、こいつらがどれだけ強くなっているのかを見る。

 

 チビ達は一斉に構えて、勢いよくとびだす。

 

 流石に縛りの限界の五割を出しているわけではないようだが、それでもかなりの勢いで周りの妖怪をなぎ倒していく。

 

 これなら、五分とかからずあの門番と戦えるだろう。

 

 おっと、最早この場にいた妖怪たちの中に逃げ出している者がいる。多分あいつは俺たちが鞍馬天狗だって気づいたんだろうな。だって、こんな小さな奴等が派手な妖術も使わずに素手で敵をバッタバッタなぎ倒しているんだもの。

 

 それ以外は、逆上して、チビ達に襲い掛かっている。今回、五人いるがそれぞれに個性が…(あれ?でも全員ステゴロだぞ?)……ゴリ押しで面白い。

 

 この敵だったら防御とか考えずに先手必勝でいけば相手は倒せるから、ゴリ押しが一番早く片付くのだろう。

 

 おや、けれど門番はあんまり驚いていないな。

 海外遠征はしたことはあるが、吸血鬼とはあったことないからこのチビ達を見て驚くと思っていたんだが。

 どうやらそれなりに肝が据わっているらしい。

 

 とりあえずなんだ、意味はないが、前世で見たオラオラとか無駄無駄の人達の真似でもしてチビ達のウォーミングアップが終わるまで、凄みでも出しておくか。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 

 ■ 少年少女 駆逐中

 

 

 

 五分とかからずにチビ達は周りの敵を駆逐した。

 

 これは俺が思っているよりも強くなっていそうだ。

 さてと、残っているのはあの門番だけだ。

 

 正直言って突っ立ているだけじゃ暇で暇でしょうがない。こんなことより文とイチャイチャしたい。

 

 けれど、これも大事に仕事だ。頑張らなければ。

 

「さて、お前ら、本番はこれからだぞ。あいつは今闘った敵とは格別の強さを持っている。気を引き締めて闘え」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 さてと、これでやっと、チビ達の本気がみれそうだ。

 

 

 

 ■ side 亜蓮

 

 

 ふう、やっと骨のあるやつと闘えそうだぜ。

 ウォーミングアップで闘ったやつらは単純に弱かった。

 

 力も技術も工夫もない。父ちゃんや爺ちゃんと組手してる時の方がよっぽど為になる。

 予想外の攻撃に加え、意識外の攻撃もしてくるから、ずっと頭を働かせて攻撃に備えなければいけない。しかし、ここの敵はそんなこと考えなくても倒せるから、面白くない。俺のダチの助けもいらない。

 

 けど、目の前のチャイナドレスみたいなのを着たネエーちゃんは天鴎兄ちゃんの言い方やその雰囲気からしてかなり強そうだ。

 

 俺は義真(ぎしん)砕華(さいか)に手招きして打ち合わせをする。

 

「義真、砕華、一番槍は誰が行く?」

 

 俺はワクワクしながら打ち合わせを始める。すると、義真と砕華の顔がすこし曇った気がした。

 

「亜蓮、お前がそんな事を言い出したら、絶対に一番槍は譲らないだろ?」

 

「そうよ、あなたがそんな事言い出して譲ったことないじゃない」

 

 おっと、義真達には俺の考えていていたことは見透かされていたらしい。

 

「兄ちゃん、なんで俺達には相談しないの?」

 

「弟は兄に順番を譲るもんなんだよ」

 

「横暴だ!」

 

「そうよ、横暴よ!」

 

 俺の腹違いの弟と妹が抗議の声をあげる。

 

聖山(せいざん)燕璃(えんり)、恨むんなら俺より遅く生まれたことを恨むんだな」

 

「「ぶーぶー」」

 

「あなた達、もうあきらめなさい」

 

 砕華が眉間を押さえながら言う。

 このまま妹達に好き放題言わせても収集がつかないから黙らせたのだろう。

 

 

 俺は暴れる弟妹と宥める砕華、呆れる義真を横目で見ながら、目の前の姉ちゃんと向き合う。

 

「名乗らせて貰うぜ、チャイナ服の姉ちゃん、俺は鞍馬亜蓮、子供だからって舐めてもらっちゃ困るぜ」

 

 目の前の姉ちゃんはこちらを値踏みするように睨み付けながら口を開く。

 

「子供が名乗ったのなら、こちらも名乗らなければいけませんね、私は紅美鈴(ほんめいりん)。この紅魔館の門番です」

 

 ふーん、この姉ちゃん紅美鈴っていうんだ。なんか難しい名前だな。めーりんでいいや。

 

「よっしゃ!いくぜ、めーりん!」

 

「は?なんで呼び捨てでよんで……」

 

 なんかめーりんが言ってたような気がするが、そんなこと気にせずに一割程に制限していた妖力を三割程に解放し、ついでに今まで抑えていた殺気も解放する。

 それに反応したのか、めーりんも反射的に構えている。俺も相手に攻撃する為に構えをとる。

 

 片腕を体の前に持ってきて、もう片腕を折りたたむように引いた。コンパクトな構えだ。

 

 俺は完全に体の力を抜いていく。リラックス状態を作る。より速く踏み込むためだ。

 深呼吸をする、体に新たな空気をいれて、より強い力を出すためだ。深呼吸を終え、空気を吸い込み終わった瞬間、俺は一歩踏み込む。

 

 トッ

 

 俺は今できる実力の中でも一番小さな音で相手の懐に潜り込む。たった一回の踏み込みでめーりんとの間に空いていた数十メートルの距離を一瞬で詰める。

 

 踏み込んだ勢いそのままに、めーりんに正拳突きを放つ。

 

「へえ」

 

 俺は予想外の結果に口の端を吊り上げ笑ってしまう。

 

 完全に入ったと思った俺の拳は、完全に受け切れていないとはいえ、めーりんに受け止められていたのだ。

 

 めーりんの顔は笑っていない、門番としての務めと誇りからくる使命で動いているのだろう。

 

 俺は拳を引き抜くと、ラッシュを放つ。

 

 しかし、それも全て合わせられ、弾かれ、相殺される。

 

 そして最後に顔面に向けて蹴りを放つ。

 

 しかし、それも正確にめーりんの放った蹴りが俺の蹴りと合わせられる。

 

 ああ、いいね、めーりんは出来る人だ。これは楽しくなる。

 

 

「あら、亜蓮、あなただけたのしんで羨ましいわね」

 

「そうだね砕華、亜蓮の一番槍も終わったんだし、僕たちもやっていいよね」

 

 

 俺の後ろから砕華と義真の声が聞こえたと思ったら、二人の鋭い蹴りがめーりんに放たれる。

 めーりんはその蹴りを腕でガードし、ダメージを減滅させたが、かなり威力があったのか後ろにさがって衝撃を逃がしている。

 

 めーりんが二人を静かに見据える。

 二人はそんなこと関係なしに自己紹介を始める。

 

「私は舘岡砕華よ、紅美鈴さんよろしくね」

 

「僕は倉田義真、よろしくお願いするよ、紅美鈴さん」

 

 なんか妙にカッコイイというかスタイリッシュなポーズを決めて二人は立っている。いや、なに?そんなに見せ場を作りたいの?

 

「不意打ちとは言えなかなかいい蹴りをしますね。それと、もう自己紹介は必要ないみたいですね」

 

 それに対してめーりんの方も構えてこちらに注意を向けている。

 

「あーー!また兄ちゃん達に先越されたー!!」

 

「ほんとー!また最後に回されたーー!!」

 

 また聖山と燕璃が抗議の声を挙げる。

 二人でぷんすかぷんすかと頬を膨らませ顔を真っ赤にしてぶーぶー言っている。

 

「だからカッコイイ名乗りをあげるんだもんねーー!」

 

「そうだもんねーー!」

 

 そう言って二人は手を斜めにし、ヒーローみたいなポーズをとる。 

 

「鞍馬聖山アアアアアアアん!参・上!!」

 

「鞍馬燕璃!ただいま参上!!」

 

「「いくぞ!幻想郷の平和を乱す悪の手先よっ!我ら鞍馬の天狗が相手だあああっ!!」」

 

 バーーーーーン

 

 そんな音と共に二人の後ろでなにかが爆発したような気がした。

 

 めーりんは構えはそのまあまだが、顔が茫然としていた。

 

「ま、俺が先だけどね」

 

「「あーー!」」

 

 弟妹が恰好つけてる間にさっさと攻撃を仕掛ける。

 次は四割程だ、いや、五割いくかもしれないが、スピードもパワーも上がってるぞ?

 

 さっきの踏み込みよりも速い速度で相手に詰め寄る。そして先程よりも速く、読みにくく、確実に当たるような一撃を繰り出す。

 

 しかし、めーりんは拳を受け止め、受け止めた腕ごと体を逸らし、前に出すことで威力を殺しつつも逆の拳でカウンターを狙ってくる。

 

 俺はそのカウンターを掴む。体重と速さが乗り切っていなかったから掴むのは容易だった。

 

 俺はそのまま手首を捻り上げようとしたが、そこはめーりんも踏ん張って力が拮抗する。すぐさまもう片方の拳を振りぬくがめーりんの拳と打ち合うことになる。

 俺とめーりんはそのまま押し合いになる。

 

 しばらく押し問答は続いたが唐突にめーりんは蹴りを放ってくる。しかし、それは俺を狙ってのものではない、俺の後ろを狙ってのものだ。

 

「ちっ、意外とやるわね」

 

「おい、横槍いれんなよ、砕華」

 

「やってることがまどろっこしすぎるのよ、もっとスピーディーにしなさい」

 

 砕華はそのままめーりんの足を使って後ろに跳ぶ、刹那

 

「後方注意ですよ、美鈴さん」

 

「!!」

 

 砕華の方に一瞬注意が向いた瞬間を利用して義真がめーりんの後ろに回り込む。

 めーりんは俺に連続蹴りを放って距離をとり、義真の拳を受け止める。

 

「すばしっこいですね」

 

「そうでもないですよ」

 

 めーりんは回し蹴りを放つ、義真はそれをしゃがんで避ける。

 

「でも僕がメインじゃないんだよなー」

 

「は?」

 

 義真が何を言ったのか分からなかったが、次の瞬間理解させられることになる。

 

 

「今日の!」

「主役は!」

 

「「僕たちだもんねーー!!」」

 

 聖山と燕璃がただ愚直にめーりんに突っ込んでいく。

 

「「最☆強ロケットパンーーーーーチ!!」」

 

 二人のパンチがめーりんに突き刺さる。めーりんはガードしているが、二人分のパンチは重くめーりんのガードを剥がし、仰け反らせながら後退させる。

 

 すごいな、あいつら。

 あんなに大きな隙を作れるなんて。

 

「いくぞっ!!聖山!燕璃!」

 

「「オッケーー!!兄ちゃん!」」

 

 今回も俺が最初だが、最後はこいつらに譲ることにする。

 一足にめーりんの前まできて、最上の一発を入れるために、地面がひび割れんほどに踏み込む。

 喰らえっ、俺の正拳突きっ!

 

 俺の正拳突きはめーりんの腹に突き刺さる。めーりんの体は後ろに吹っ飛ぶが、そこに聖山と燕璃がすかさず追撃をかける。

 

「いっくよーー!!」

 

「私達の必殺!!」

 

「「悪☆霊☆滅☆殺!!ドロップキック!!」」 

 

「ぐふううっっっツウウ!!」

 

 二人のドロップキックがめーりんを吹っ飛ばす!

 めーりんはそのまま門に打ち付けられ、だらんと体から力が抜ける。

 

 どうやら、最初の有効打は俺達がとったようだ。

 

 

 さあ!!もっと俺達を楽しませてくれよっ!!!

 

 




 
 とりあえず、参加させたかっただけ。


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吸血鬼異変 後編

お待たせしました。後編です。
最近になってようやく艦これがスマホでもできると知ったザックです。
しかし、放置ゲームは好きじゃないんです(ワガママ)
だから皆さん、バトオペ2しましょう(錯乱)



 side 紅美鈴

 

 なんて末恐ろしい子供達なんですか…

 あんな重い攻撃をもろに喰らってしまうとは、それも二発。

 思っていたより重いダメージですね。

 

 恐らく後ろで見ている天狗の威圧が凄まじくて、自分自身知らず知らずのうちに小さいから弱いだろうと舐めてかかっていましたね。

 

 ぐっ、体を持ち上げるのも辛い。

 

 しかし、お嬢様の為にも私が倒れる訳にはいかない。

 この門は私の誇りに掛けて死守しなければ。

 

 子供だからと言ってもう油断はしません。

 大人気ないかもしれませんが、全力を出させてもらいます。

 

 

 

 

 それにしても……あのドロップキック

 

 

私は悪霊ではないのですが…

 

 

 

 

 side 亜蓮

 

 

 有効打は最初に俺達がとった。俺の正拳突きもなかなかの威力だとは思うが、聖山と燕璃のダブルドロップキックはかなり効いただろう。

 

俺でも無邪気故に手加減を知らないあの二人の攻撃をモロに受けたくはない。

めーりんはなんとか立ち上がっているけど、闘えるのだろうか?俺たちみたいにあれぐらいの攻撃を受け慣れている訳じゃないだろうに。

 

 

 そう思っているうちにめーりんが立ち上がった。

 それもしっかりと立っている。

 

 これだけじゃ落ちないか。やっぱり妖力五割だけでは火力不足か、技もめーりんには通じにくい。

 

 

 まあ、けど、問題ないか。数打ちゃ落ちるだろう。

 

 俺達が闘えると分かった相手に手加減するだろうか、いや、絶対ないな。

 多分逆に苛烈さを増してめーりんを攻めるだろう。

 

 そう思っているとめーりんが膨大な気を纏う。

 

 そのエネルギーに反応して、俺たちは身構える。

 

「どれだけ強い気を纏っても」

 

「僕たちには絶対に」

 

「「敵わないもんねー!」」

 

「お前ら、目の前の敵に集中しとけ」

 

 俺は言ってからめーりんに意識を集中させようとする、刹那、めーりんが俺の目の前の現れる。

 

「さっきの意趣返しです」

 

 俺の踏み込みを真似しての高速で懐に入ってきたのか。

 

 

 めーりんの正拳突きが放たれる。

 くっ、速い!?

 

 俺はなんとかめーりんの拳を受け止める。

 それでも威力を殺しきれない、重心が後ろに逸れてしまった。

 

 俺は隙を殺しきれずにめーりんが更に放った蹴りを喰らって吹き飛んでしまう。

 

「亜蓮!!」

 

「おいっ!亜蓮!」

 

 義真と砕華が俺の名を叫ぶ。

 

「おっと、後方注意ですよ。鞍馬のちびっ子」

 

「なっ!?」

 

 次はめーりんが義真の後ろに高速移動する。

 

「これもさっきの意趣返しです」

 

 めーりんの回し蹴りがもろに義真に入る。

 

「ぐっつ!」

 

「義真っ!」

 

「次はあなたですよ」

 

 めーりんが砕華に踵落としを放つ。

 

「喰らうかああああああああ!!?」

 

 砕華は踵落としを受け止める。

 

「このおっ!!」

 

 砕華も蹴りでめーりんに反撃するが、体を上に逸らし避けられる。

 めーりんは宙に浮いたまま砕華に薙ぎ蹴りを放つ。

 砕華はその攻撃をガードするが、砕華も前蹴りを放った後であり体勢が不安定だった。そのせいで砕華は充分に踏ん張れず体勢を崩されてしまう。

 その間にめーりんは着地し、砕華にボディーブローを放つ。

 

 砕華はそれも手を当てることでなんとか防御するが威力を殺せずにぶっ飛んでしまう。

 

「僕たちは」

 

「簡単に」

 

「「やられないもんねーー!」」

 

 聖山と燕璃がめーりんに向かってストレートを放つ。

 しかし、めーりんはそれを余裕でかわす。

 

「やはり、体が小さいとリーチも短い。そんな腕で簡単に攻撃が当たるものですか」

 

 聖山と燕璃のはその機動力と小回りを活かした攻撃を仕掛けるが全てめーりんに避けられてしまった。

 

「鬱陶しいぞー!」

 

「喰らえーー!」

 

「「正拳突きー!!」」

 

 二人の正拳突きが放たれるが、めーりんは至って冷静であり避けようともしない。

 

「その短い腕で私を殴れるものですか!」

 

 めーりんはそのまま二人にクロスカウンターを仕掛ける。

 放たれためーりんの拳はそのリーチの長さと速さが二人の拳を上回り、二人の顔にめーりんの拳が突き刺さる。

 

 

 クッソ、まさかここまでやる奴がいたとは。俺たちが妖力五割縛りしているからと言ってここまで押されるとは思ってもいなかった。

 

 めーりんは体術などの技量もそうだか純粋なパワーやスピードもかなりの物だ。

 それは多分、妖力か気を本格的に使い始めてからだろう。

 初めに戦った時はそこまで身体能力が高いとは感じなかったからだ。

 

 しかしそうだとしたらかなり妖力や気の扱いが巧いということになる。

 

 へー、ならいいじゃん。身体能力だけを頼りになにも考えずに攻めてくる奴等よりずっとワクワクする相手だ。

 

「鞍馬の坊やたち、私の程度の能力は気を使う程度の能力。あなた達みたいに妖力を最大限に扱えないような者が私に勝てる道理はありません。さっさとお家に帰るかあそこの青年と選手交代したらどうですか?」

 

 言ってくれるじゃん。

 別に妖力を全開で使えないからと言って、勝てない道理もないだろう。

 しかたない、個人で対処できると思っていたが、全員でかからないといけないだろう。

 

「義真!砕華!」

 

「おう!」

 

「ええ!」

 

 吹っ飛ばされた後すぐに体勢を立て直し戻ってきていた義真と砕華が答える。

 

「いくぞ!!」

 

 三人でめーりんに迫り先制攻撃として砕華と義真が息ピッタリの連撃を放つ。

 しかし、めーりんはその連撃を的確に対処する。

 

 俺はその隙を狙ってめーりんの後ろに回り込む。

 しかし、めーりんは俺の位置が分かっていたようで後ろに肘打ちを放つ。

 

「チャンス!」

 

 俺はその攻撃をわざと受け止め肘をがっしりと掴み、めーりんの片腕を拘束する。

 

「今だ!!」

 

「「ナイスッ!」」

 

 二人が攻撃を仕掛ける、が、めーりんはこの攻撃にも的確に対処する。

 

 義真の放った拳を受け止め、突っ込んできた勢いそのまま後方に放りなげる。

 

 砕華は顔を狙った前蹴りを放つが、めーりんは顔をずらして避ける。

 

「これが本当の蹴りですよ」

 

 めーりんが砕華の胴体に前蹴りを放つ。

 砕華は未だ脚を振り切った状態だったため、上手く防御できずにまたもや飛ばされる。

 

「あなたも離れなさい!」

 

 めーりんは腕を思いっきり振って俺を吹き飛ばす。

 

「強いなめーりんは、あんまりしたくなかったけど、俺たちも力で突破するか!いくぞ!!聖山!燕璃!」

 

「「おうよ!兄ちゃん!!」」

 

 俺が吹き飛ばされた先には聖山と燕璃が俺を受け止める体制でスタンバっている。

 俺はそのまま二人の手に足を乗せる形で着地する。

 

 俺は脚に力を込める。

 聖山と燕璃も体全体に込めて、しっかりと踏み込んでいる。

 

「兄ちゃん!」

「日頃の恨みも込めて!」

 

「「吹っ飛べ―!!」」

 

 手に乗せていた俺の足を思いっきりめーりんの方向に吹き飛ばす。

 俺もその力を使って加速する。

 

 もともとの速さに加え、聖山と燕璃の腕力がプラスされ、妖力五割では出すことのできない速さと力をたたき出す。

 

 

 その技の名を、名付けて

 

 

「二倍推力!ロケットォォオパァァアアアアアアアアンチ!!」 

 

 

 俺は超スピードでめーりんに突っ込んでいく。

 そして、俺は腕に妖力五割全て流す。空飛んでるから踏ん張る必要ないしな。

 けどそのおかげで今までにないぐらいの力を出せるぞ!!

 

「そんな子供騙しみたいな技が、私に効くものですかっ!!」

 

「子供なんだから、子供騙しでも別にいいだろォォオオオオ!!」

 

 

 ドカッツン!!

 

 

 鈍いが、かなり大きな音をだし俺の拳がめーりんの拳に突き刺る、受け止められてしまったがこれも想定済みっ!俺はこのままめーりんの腕をそのまま引き剝がす!なぜなら俺の加速された勢いはまだ、死んでいないからっ!!

 

「オッッツラアアアッ!!」 

 

 俺の拳は強引にめーりんの防御を突き破り、めーりんの腹に俺の拳が突き刺さる。しかし…

 

「威力不足ですね、鞍馬の坊や」

 

 俺の拳はめーりんの防御を突き破った時点で勢いのほとんどを失っていた。ゆえに、めーりんへの攻撃もその本来の威力を発揮することができない。

 けど、残念ながら…

 

「別にいいんだよ、これで」

 

 そう、俺の拳がとどいて、明確な隙を晒したという事実があれば、

 

「僕を!」

「私を!」

 

「「忘れるなあああああああっ!!」」

 

 

 後ろから迫っていた義真と砕華がめーりんに跳び蹴りを放つ。

 

 かなり勢いがついていた二人の蹴りは先ほどの蹴りよりもずっと鋭く、めーりんの胴体の二人の攻撃が叩き込まれる。

 

 めーりんはその攻撃を後ろに跳ぶことで威力を軽減することで精一杯だ。

 

 

 が、残念ながらそれは悪手だ。

 今の最善手はこの技を止めることだったな。めーりんなら俺たち一人一人の五割の力は超えている、この技を掛ける前に崩しにくればこれを喰らうこともなかったはずだ。

 

「全員!集合ぅ!!」

 

「「「「OK」」」」

 

 聖山、砕華、聖山、燕璃が集合する。

 

「最後の詰めだっ!!行くぞっ!!!」

 

 俺の掛け声と共に燕璃と聖山が飛びあがる。

 聖山と燕璃が押し蹴りの為に力を込める。

 俺は四人が蹴りやすい(・・・・・)位置に跳ぶ。

 

 四人はそのまま俺の足の裏を狙って蹴りを放つ。

 俺はその蹴りの勢いを使って跳びめーりんへと自身を撃ち出す。

 

 聖山と燕璃が俺を撃ち出した時よりも高い威力をもった、義真と砕華も加わった発射台は五割という制約の限界を軽く超え、めーりんに突っ込んでいく。

 その力は二倍の先の四倍、いや蹴りで八倍以上の限界まで跳ね上がる。

 

 

「!」

 

 

 まだめーりんの体勢が整ってないが僅かに反応している。けど、防げるかな?

 いつも一緒にいる俺たちだからこそできる最高の必殺技を。

 

 

「限界推力ぅぅ!!!」

 

 

「「「「「ロケットォォオパァァァァァアアアアアンチ!!!!」」」」」 

 

 

 俺は最高速度で空を掛け、最高の一発をぶち入れる為に足を引き、思いっ切り撃ち出す!!

 めーりんは防御が間に合わずに、俺の足を思いっきりその体で受け止める事になる。そしてめーりんは苦悶の表情を浮かべながら、最後の一言を叫んだ。

 

 

「それは!キックだあああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 

 門に向かってめーりんの体がぶっ飛ぶ。

 めーりんの体は門にぶつかり門の鉄を歪ませ、その扉を開けさせる。奇しくも、門番が門を開ける形になった。

 

 しかし、必殺技までださせられたが、勝つことができた。

 めーりんは相当の実力者だったし、武術、気の扱い方まで達人と言っていいレベルだった。

 けど俺たちの方が強い。チームワークって大切なんだな。

 

「兄ちゃん、終わったよ」

 

 俺たちは終わった事を兄ちゃんに報告する。

 

「んん、お、おう、お前ら早かったな…」

 

「そうかな?結構苦戦したと思うけど?」

 

 実際ロケットパンチ(キック)をだすつもりは全くなかったし、一発も貰うつもりもなかった。それでもあそこまでやられたんだから、外の世界の武人も凄いものだ。里のやつらは強すぎるけど。

 

「あまり苦戦してるようには見えなかったけどなあ、それじゃあお前ら、今回の戦いでは色々と学べたことは多かったかな?」

 

「「「「「うん!」」」」」

 

「それは良かった、丁度役者も揃ったようだし、そろそろ俺たちも引き継ぐかないといけないかな」

 

「役者?」

 

 その言葉に反応し、門が続いている道の向こう側を見る。

 

 するとそこには、中華風の服を着た、九つの尾を持つ狐の妖怪と巫女の服を着た女の人がいた。

 

 

 side 天鴎

 

 

 どうやら役者がそろったらしい。 

 といっても、俺たちはこれから引っ込まないといけないけど。

 

「ねえ、兄ちゃん、あの人たち誰?」

 

 亜蓮が聞いてくる。亜蓮はまだ藍にあったことなかったっけ?博麗の巫女のはあったことはないとは思うけど。

 

「あの狐の女の人は紫の式で藍って名前だ、その隣の巫女さんは博麗の巫女だよ」

 

「博麗の巫女?」

 

「この幻想郷の治安維持をしている人だよ」

 

「へー、そうなんだ」

 

 そのような話をしていると、藍が話しかけてくる。

 

「すみません、天鴎様、敵拠点周りの掃討を担当してもらって、おかげで助かりました」

 

「いや、今回はこいつらが頑張ってくれたからな」

 

 そう言って俺はチビ達はを指さす。

 

「こんな小さな方達が敵を全て倒したのですか?」

 

「ああ、俺はずっと見てただけだ、なにも手はだしていないな」

 

「鞍馬の天狗というのは、いったいどこまで」ブツブツ

 

「なんかいったか?」

 

「いえ、特にありません、どちらにせよありがとうございます、これでいくらか楽になります」

 

「俺たちはまだすることある?」

 

 多分、ないとは思うが、一応聞いてみる。

 

「いえ、大丈夫です。ここからは私達が解決すべき問題、手出しはしないで欲しいです」

 

 やっぱりな、やることはないと思ってたよ。

 

「しかたないな、チビ達、消化不足だろ?後は俺が相手してやるからよ、帰るぞ」

 

「ありがたいです。私達にもメンツがありますから、全て持ってかれたら困ります」

 

「おいおい、流石に全て持ってかないぞ?」

 

「本当にそうなのでしょうか?」

 

 そう言って藍は俺の後ろにいる亜蓮たちを見る。

 

「「「「「ブーブー!!もっと暴れたーーい!!」」」」」

 

 おっと、亜蓮たちが後ろでスゴイ騒いでいるようだ。それもちょっと物騒な内容だ。

 

「大丈夫大丈夫、ちゃんと俺が連れて帰るから」

 

「お願いしますよ、こちらが引き連れてきた妖怪の軍勢まで殲滅されそうですから」

 

「はあ、チビ達は元気が有り余ってて困るな~」

 

「ちゃんとこの子達をコントロールできるんですよね?」

 

「ああ、勢いでなんとかなるよ」

 

「勢い…?」

 

 さてと、さっさとここから帰りましょうか。

 長居のし過ぎは紫の怒りを買うだけだ。

 

「ほら、皆、家に帰ってさっきの戦闘の反省会だっ!!」

 

 俺は勢いよく飛び出し、チビ達五人を抱る。

 そのままギャーギャー騒ぐチビ達を抱えたまま空中に滞空し、藍の方を向く。

 

「それじゃあな、藍さん、紫のヤツによろしく言っといてくれ。くれぐれもヘマするんじゃないぞ」

 

「ヘマはしません、私は紫様の式ですから」

 

「ま、頑張れよー!」

 

 俺は体の向きを俺の家に変え、一気にスピードを上げ飛び去る。

 

 さてと、文の作ったご飯でもこいつらに食わせながら反省会だな。

 

「兄ちゃん、家に帰ったらまずは模擬戦するからあねええええええええええええ!!!!!!!?」

 

「亜蓮、最初に飯にしないか?」

 

 チビ達はまだまだ元気過ぎて、ご飯にありつけるのは大分後になりそうだな。 

 

 

 

 後日、紫から聞いた話によると、藍と博麗の巫女のコンビはしっかりと紅魔館を制圧したそうです。

 まあ、あの流れで制圧できなかったら、ねえ?

 

 それに紫からの話で今回の事件の名前も知れた。

 吸血鬼異変だそうだ。

 吸血鬼とは戦ったことがない。

 いつかお相手願いたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっちは願い下げなんだろうなぁ。




個人的にとても出したかったロケットパンチ(キック)
キックの方はあれですね、これゾンを意識しています。
元ネタ分かるかな?これゾンはいいぞ?


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花妖怪

今冬なのに夏の話です。



 

 寒い冬が過ぎ、心地の良い春が過ぎ、憎らしい程に暑い夏が幻想郷きた。

 

 夏、と言えば俺たちの間ではもはや必ず行くと言っても過言ではない所がある。

 

 お察しの通り、太陽の花畑だ。

 

 

 とおおおおおおおおおおおおおおっても、残念なことに文は仕事で来ることはできなかったが、嬉しいことに幽香がお茶を淹れてくれるというので、外でお茶をすることになった。

 少し小高い所に机と日陰を作るための大き目の傘を置き、向日葵をよく見渡せるようにセットする。

 

 そうやって、少し汗をかくような仕事をした後に幽香が淹れてくれたよく冷えた麦茶は美味しい。

 

 どうやら幽香、普段は紅茶などを嗜んでいるようなのだが、緑茶や麦茶なども普通に飲むらしく、今回はこの絶景とともにいろいろなお茶をだしてくれるとのこと。

 

 いやあ、ありがたいね。ただ眺めるだけでも癒されるのに、こんなにサービスまでしてくれるなんて、もうすっかり知り合いから友達くらいにはなったんじゃないだろうか?

 

 まあ、ツッコミをやらせまくったんだし、今更なのかもしれないけど。

 

「ありがとうな、幽香。今回はお茶まで淹れて貰っちゃて、お礼できることがあったら今度させてくれ」

 

「あら、別にいいわよ。ここまで机と椅子、傘まで運んで貰ったんだからこれぐらいは普通にしてあげるわよ」

 

「ああ、その好意ありがたく受けとっておくよ」

 

 なんだろう、今回は幽香が妙に優しい。

 でも、本来はこっちが素の性格なのかもしれないな。俺と幽香は俺がここに通うようになるまで幽香が俺の事を敵対視していたから、厳しい態度をとっていたのだろう。

 

「それに私あなたとお話をしてみたかったの」

 

「ん?話?」

 

 幽香がお茶を淹れながら言う。

 

 お話ね…

 全く幽香が何を話したいのか想像がつかないが、とりあえず聞いてみるか。

 

「ふーん、で、何を話すんだ?」

 

 幽香はこの問いに即答する。

 

「ねえ、天鴎?あなたはどうやって強くなったの?」

 

「さっそく質問か」

 

 にしても、また答えにくい質問を…

 

「ひたすら修行……かな?」

 

 マジで、本当にこれしかない。

 幽香がどういう意図でこの質問をしてきたのかは知らないが、もっと具体的に言って貰わないと幽香が望んでいる物は答えられない。

 

「随分と大雑把ね…」

 

「仕方がないだろ四六時中鍛錬鍛錬、そしてそれを試す為の実戦、それをひたすら繰り返す、シンプルで簡単で分かりやすい事しかしてないんだから?」

 

「本当にそれだけとは考え難いわね」

 

「じゃあ、これ以上なにを言えばいいんだよ、せめてもっと具体的に質問してくれ」 

 

「なら、精神的にはどうだったのよ?なにか精神的主柱がないとそこまで修行を続けられないでしょう?」

 

 精神的にね~、まあ、俺はずっと罪悪感だけで動いていたからな。

 珍しいだろうし、参考にもならないだろう。

 復讐心でもなければ誰かを守るためでもない。父親や母親の家族に対しての罪悪感に突き動かされ刀を振り回していたのだ。

 幽香からすれば信じがたい事だろうが、だからと言ってここで嘘を言っても何もならないし、他に特に気の利いた事も言えない。

 

「俺の場合は罪悪感が一番の行動理由だったな」

 

「罪悪感?」

 

「そう、俺の犯した過ちを償う為の贖罪、それをする為の方法が全く分からなくて、罪悪感だけが積もって、どうしようもならなくなって、修行だけにすがっていたよ」

 

「それは…本当?」

 

「ああ、紛れもなく本当だが?」

 

 俺の言葉を聞いて幽香は驚いたような表情を見せる。

 まあ、幽香が強くなった理由は俺よりももっとまともなのだろう。

 花畑とかも守る必要があっただろうからな。

 

「どうだ?おかしいだろ?」

 

 幽香はその言葉に少し考える顔をしていたが、すぐに答える。

 

「いえ、おかしいというより、意外、という言葉が正しいわ」

 

「意外?」

 

「そう、意外だったわ。鞍馬天狗ってもっと仲間意識が強いと思っていたから、何かを守るためとかが理由だと、それに以外と似てると思ってね」

 

 痛いよ、そこ突かれると滅茶苦茶痛いよ、俺の心が。

 しかたがないじゃん、俺不貞腐れて不良少年だったからよ、里の皆とちょっと価値観違うんだよ。皆と違う修行しかしてこなかったから皆といる時間も作れなかったんだよ。

 

 あれ?けどなんか似てるって言われたな?何が似てるんだろう?

 

「以外と似てるって、何が似てるんだ?」

 

「私が強くなった理由よ」

 

「強くなった理由?」

 

「私も強くなった理由なんてものはまともじゃなかったわ。罪悪感が原動力になっていた訳ではないけど、何かを守るためでも、誰かに復讐するためでもなかったは、そういう点では似ているっていうことよ」

 

「じゃあ、何がお前の原動力だったんだ」

 

 幽香は少し考えるように頭を傾げる、そしてこちらを見つめる。

 次の言葉は唐突に出てきた。

 

「本能よ」

 

 へ?…本能?

 

 そりゃあ、またあ…なんというか、突飛というか、なんというか、俺たちに似てるな!!……なんて口が裂けても言えない。俺が問答無用でボコられるだろう。

 

「あら?驚いて声もでないかしら?」

 

「え?いや、なんとも返事がしにくい理由だなって」

 

「別に何を言っても怒らないわよ」

 

 え?本当に?

 前に二つ名をいじった時は滅茶苦茶怒ってたじゃないの。

 大丈夫かなあ?怒らないかなあ?まあ本人がいいって言ってるんだし、大丈夫だよなあ?遠慮なく、言っちゃうよ?

 

「俺たちにてるな、俺たちも本能で動くしな」

 

「ふふ、そうね、その通りよ。私もあなた達と同じ戦闘本能で動いてるわ」

 

 ……え?戦闘本能?

 

 ……え?戦闘本能?

 

 ……え?にかい二回言っちゃったよ?幽香が戦闘本能で動く理由が全く分かんないんだけど?

 

「戦闘本能で動いてるの?他の原因があるんじゃないの?花妖怪なんだから、花を守るっていう本能もあるだろ」

 

「最初はそうだったかもしれないわ、けど今はもう戦闘に愉しみしかないわ」

 

「花を見る趣味があるのに?楽しみは他にもあるだろう?」

 

「あら、天鴎?あなたは私をどう見ているのかしら?」

 

「たくさん趣味があって意外と充実した生活をしてそうにみえる」

 

「ふふふ、私はあなたから見て随分と幸せそうに見えているのね?けど残念、私はあなたが思っている以上に心は空っぽなのよ?」

 

「空っぽ?ならなんで花なんか愛でているんだ?」

 

「花?ああ、あの子たちも私の本能を満たしてくれる道具にすぎない、あなたが私の趣味と言っているものはなんの中身もない空虚なものよ?」

 

 なんだ?幽香は一体俺に何を求めている?

 

「幽香は一体俺に何を言って欲しいんだ?お前は何を得たいんだ?」

 

「…得たいもの?そうねえ?私はあなたと闘って、何か感じた事のないものを感じた。あなたと闘って私の未知の部分に触れる事ができた?私はそれを知りたい、私はそれを得たい」

 

 背中に嫌な汗が流れる。

 

「だから天鴎?分かるでしょ?私が今から何をして、私は今から何をあなたに望むのか?」

 

 ああ、なんとなくだか、理解してきてるよ…

 

 

 

 

「私が何かを得る時なんて一つしかないわ?戦う時よ

 

 

刹那、幽香の腕が跳ね上がりその手に持っていた日傘を眼前に突きつける。

 

「落ちなさい」

 

 次の瞬間日傘の先に極光が奔る。

 俺はこの一連の動作がいきなり過ぎて反応できない。

 

「マスタースパーク」

 

 回避行動は、無理っ!!防ぐしか、ない!!

 

 俺がそう覚悟した瞬間、目の前が光で覆われる。

 

「ぬっ!くうっ!?」

 

 幽香の放つレーザーの圧倒的質量によって吹っ飛ばされる。

 だが、俺も腕を交差させ、体に妖力を流し、ダメージを受け流す。

 

「あら?耐えきったようね」

 

 まあ、かなり驚かされたけど、ダメージを最小限に抑え込んだ。

 

「ああ、これくらい対処できる」

 

「そうみたいね、あなたようやく妖力を使ってくれたみたいだしね」

 

 へえ、幽香、気づいてたんだ。

 

「あなた、前闘った時、妖力を一切使っていなかったでしょう?」

 

「ああ、そうだよ、ご名答」

 

「まあ、しかたがないわ、私が弱かったのがいけないもの。けど、覚悟しなさい、今の私は前回の私とは全く、違うわよ?」

 

 そう言うと、幽香が圧倒的速度で踏み込んでくる。

 

「チイッ!」

 

 俺は腰を落とし、しっかりと地面を踏み、幽香を迎え撃つ。

 

「舐めない方がいいわよ?天鴎」

 

 刹那、幽香が視界から消えた?いや違う!左右に体を振ったんだ、そのせいで視界から消えた。

 どっちだ?右か?左から来るのか?

 

 右から動く気配を感じる、俺はそちらに視線を向ける。

 

「なっ!」

 

しかし、それは幽香ではなく多くの蔦が絡まり巨大になった植物の拳だった。

 俺がそれを認識すると同時に左からも動く気配を感じる。

 しかし、この妖力の気配からして幽香なのは確実。

 

 認識してしまえば、対処は容易い。

 

「そこっ!」

 

 迫ってきている幽香には視線を向けずに肘打ちを放ち、体勢がずれた勢いを利用して蔦に蹴りを放つ。

 

「なっ!?」

 

 この感覚は?蔦!?

 

 後ろから迫ってきていると思っていた者は、幽香じゃなくて人型にした蔦だったんだ。それに大量の幽香の妖力を込めて俺の認識を欺いた。

 

 なら、幽香本体はどこから来るんだ!?

 

「上よ」

 

 その言葉と同時に上を見る。

 そこには、日傘を振り下ろした幽香の姿があった。

 

 ガンッ!!

 

「やっと、私が有利な形で一撃をお見舞いすることができたわね」

 

 俺は幽香の日傘を頭で受け止めることしかできなかった。

 

「出し惜しみはなしよ?天鴎。あなたの妖力の限界はこれぐらいじゃないでしょ?」

 

 ああ、久しぶりだよ、こんなに綺麗に一撃をいれられたのは、こんなんじゃ、こんなんじゃ

 

 

 

 

 

 

「せいぜい私を、楽しませなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

嗚呼、なんて最高なんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 滾ってきちゃうじゃないか

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、目の前が爆発した。

 

 そう錯覚するほどの圧力が幽香を襲う。

 風圧が自身の頬をきる。遥か彼方まで駆け抜けていく。

 それほどまでに凄まじい存在感が、天鴎にはあった。

 

 風が通り過ぎると、そこにはそれらを放っていたとは思えない程落ち着いた天鴎が立っていた。

 

 あれほど凄まじかった妖力を感じ取れない程に穏やかだ。

 けど、幽香には分かる。あの体の中には、圧縮された莫大な妖力がその体に力をかしていると。

 

 天鴎も幽香も、笑った。両者の実力を理解して、笑った。自信に満足を与えてくれると、笑った。

 

 二人がこの余韻を楽しみ終えたのなら、また始まるのだろう…

 

 

 修羅の、戦いが

 




東方鞍馬録を書き始めてはや一年以上が過ぎていました。作者は最早この話の初期の頃のテンションを忘れており、どんな設定を追加しているのかもうる覚えです。それぐらい時間が経っているのに今までこのお話しを読んでくれている方々ありがとうございます。
未だに霊夢がいる時間軸にも入れていませんが、これからも末永くお願いします。


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花妖怪と枷と刀

一年ぶりのこんばんわ、そしてごめんなさい


 

 幽香はワクワクしていた。

 陳腐な表現ではあるがそう表すしかなかった。

 

 天鴎の力を自分が引き出せている。そう実感できるだけでも、幽香は気持ちが昂ってくる。

 前回、手加減されていることなど分かり切った戦いだった。

 自力の技術も拳を振り切る速さも、全てにおいて負けていた。天鴎が妖力を使っていなくてもだ。

 それが悔しかった。

 とても悔しかった。

 

 自慢する訳ではないが、幽香だって修羅場を浴びる程経験して、今の強さにまでたどり着いたのだ。それなりに壮絶なものだと思っていたのだ。

 最初はなんだったか?花を守るためだったか?何かを奪われそうになったのか?それとも何かを奪われたんだったか?

 覚えていない。覚えていないが何かがあって闘い始めたんだ。

 仲間も頼れる何かもいないまま、追い詰められるままに闘った。弱小の花妖怪なんて他の妖怪に食いつぶされるだけなのに、幽香は闘い続けた。自身の前に立ち塞がる壁を、乗り越え続けた。

 倒した妖怪を喰らい、その全てを喰らい、全てがなくなるまで喰らい続けた。

 より強大な敵へ、より自身を苦しめる敵へ、幽香は立ち向かっていった。

 

 そしてある時、幽香の中で大事な何かが壊れた。大事なはずの何か、忘れてはいけなかったはずの何か。闘い始めた自身の全ての理由だったはずの何か。

 けど、壊れてしまった後にはもうそれにはなんの意味もなくて、何かを成すはずの手段だった闘いも、いつの間にかより自身が強くなる為だけの手段になっていって。

 最初は嫌悪していたはずの闘いも殺し合いも、次第に相手を殺す感覚は甘美なものになっていって、今の幽香が生まれた。多くの物を取りこぼしながらも、目的を捻じ曲げながらも、今の強さにたどり着いた。

 

 けど、それを優に超えるヤツが出てきて、それが今まで感じた事が無い程悔しくて、それと同時に楽しくて、絶対に超えてやると誓って、やったことのない鍛錬までした。

 それでも、ヤツの奥底はまるで見えない。天鴎の全力はまるで底がない。

 

 だが、それでも超えてやる。全てを喰らってやる。喰らって喰らって、天鴎の全てを自分の物にしてやる。

 そう考え、幽香は笑った。

殺し合い、喰らい、全てを己の物とする。

それが幽香の本能なのだから。

 

 ■

 

 

 この幻想郷に来てから感じたことが無い程興奮している。

 こんなに興奮したことは強いて言えば妖忌と闘った時、いや絶対にそれ以上だ。

 それ程までに今の幽香は強い。

 

 元々幽香の持っている地力にはかなりの物がある。

 

 それを幽香はさらに仕上げてきた。

 自身で慣れない鍛錬をしたのだろう、踏み込みもキレも全てが前回の幽香を上回っている。

 妖忌と闘っても幽香が勝つだろうと思えるほどには。

 

 だが、それぐらいじゃないと俺の強さは引き出せない。

 俺の奥底にある強さを引き出せない。

 

 

 妖力を体に巡らす。

 更に一段上の高みへ己を持って行く。

 

 幽香もその顔に笑みを浮かべこちらに鋭い視線を送る。

 

 それと同時に向日葵畑の向日葵たちがその花弁を俺に向けた。

 太陽へとその顔を向ける向日葵がだ…

 

「死になさい」

 

 幽香がそう囁く。

 その瞬間、向日葵たちから途轍もない力が溢れ出し、その花の真ん中に眩い光が収束し、放たれた。

 

「なっ!?」

 

 向日葵畑から一斉に放たれた極光はとんでもない光の奔流となって襲いかかってくる。

 

 俺はこれを凌ぐため体に流れる妖力をより高密度にしある技を使う。

 

「鞍馬流!防ノ型、金剛一心!!」

 

 この技は体に流れる妖力を体表に流し、どんな攻撃にも耐えられる程に体を頑丈にする技だ。

 これを拳に集中させる。

 そして光を殴る!

 

「破ッ!!」

 

 俺の強烈な拳に、光は屈折する!!

 斜めに逸れた光は空を更に明るくした。

 

「殴って今の攻撃を逸らすなんて、あなたってほんと、規格外ね」

「今みたいな攻撃できる幽香も結構規格外なんじゃない?」

「あなた程じゃないわ」

「ああ、そうかい!」

 

 俺はそう答えると共に踏み出す。

 妖力で強化された踏み込みだ。

 

 音も衝撃もださず、俺は幽香の眼前へと一瞬で移動する。

 

「これはどうだ!!」

 

 踏み込みの勢いそのまま俺は拳を突き出す。

 結構マジの攻撃だ。

 しかし…

 

「きえた……?」

 

 幽香は俺が攻撃すると同時に霧のように消えてしまった。

 

「どうやって…?」

 

 全く種がわからない。

 それにまたあの奇妙な感覚だ。

 視線を全方向から感じるのにその視線の主は全て同一に感じる。

 一度感じたことのある奇妙な感覚。

 

「あら?私を見失っちゃったの?」

「な!?」

 

 幽香の強い気配を後ろに感じ振り向くがそこにはだれもいない。

 

「嫌ね天鴎、私を見失うなんて…」

 

 その言葉と共に俺の目が手で優しく隠される。

 

「天鴎、私が全てを奪い取るまで、私だけを見てなさい…」

「馬鹿なっ!?」

 

 驚愕で体が固まる。

 気配察知を全力で広げていないとは言え、だいだいのものは察知に引っ掛かる。

 それを潜り抜け俺の背後をとるなんて、どんな手を使ったんだ?

 思考を全力で回し、体の硬直から一瞬で逃れる。

 それと同時に幽香に向かって肘打ちを放つ。

 しかしそれも空を切る。

 

「私はここよ、天鴎」

 

 その瞬間、背中にとんでもない衝撃が走る。

 俺は向日葵畑に向かって吹き飛ばされる。

 背中に思いっきり蹴りを入れられた。

 妖力で体を強化していたからダメージは少ないが、未だにその気配を察知できていない。

 俺は向日葵畑の中で立ち上がろうと体を起こす。

 

 その瞬間気づいた。

 

 向日葵たちの顔が全て俺のほうを向いていることに。

 

「こりゃやべえわ」

 

 咄嗟に駆け出す。

 回避行動をとる。

 向日葵たちは光を持ち始め、その花に光を持ち始める。

 俺は花畑から出ようとする。 

 

「だめよ天鴎、この子たちから逃げるなんて」

 

 その瞬間、地面が隆起し始める。

 ドクドクと胎動のように、動き始める。

 地面から大量の蔦が出てくる。

 俺は蔦の大群に掬われ、空中に放り出された。

 その瞬間、眩い光が一斉に俺の方を向く。

 

「やられるかっ!!」

 

 俺は翼を広げ、空中を飛ぶ。

 花畑の外へ逃げようとする。

 

「あら、逃がすはずないじゃない」

「マジかよっ!」

 

 向日葵畑の上空は蔦で作られた鳥籠によって逃げ場のない牢屋になっていた。

 空中にも地上にももう逃げ場はない。

 俺がそれを認識したと同時に、光が放たれた。

 俺はそれを金剛一心で受け止めようとする。

 が、気づいてしまう。

 先ほどの濁流のような光の奔流ではない。

 まるでするどい針のような、収束された光の柱だと。

 

「そうきたかっ!」

 

 俺は咄嗟に移動を始める。

 あれに当たるのはマズイと本能が囁いている。

 

「グウウウウウウッ!?」

 

 俺は鳥籠の外側すれすれを高速飛行する。

 

「ねえ、天鴎…私の能力随分と強力でしょ?かなり苦労したのよ?能力の解釈から改め直して、能力の強化までするのは。けど、そのおかげて今私はあなたをこうやって追い詰められてる。とても嬉しいわ」

「ああ、そうかい!俺も強い幽香と闘えて嬉しいよ!」

 

 俺はそういいながら着実に狙いが俺に定まってきているビームを更に加速することで引き離す。

 ビームを避けきってこのままガス欠を狙うか、それかビームを放っている向日葵自体を壊すか。

 でも、できれば後者の方法はとりたくない。

 このままガス欠を狙うしか…

 その瞬間、俺の視界にちょっろと白が映り込む。

 幽香が着ているカッターシャツの色だ。

 

 俺は気配察知を全力で展開する。

 捕捉して、絶対に逃がさない!

 捉えたっ!!

 

 その瞬間、俺は空気を蹴った!

 急角度の方向転換に加え圧倒的な加速でビームの雨を振り切り、幽香に急接近する。

 

「あら天鴎、やるじゃない」

 

 幽香は余裕の笑みを崩さない。

 

「そりゃどうも!!」

 

 俺は加速の力も乗せた拳を振るう。

 しかし、それは空を切る。

 でも、それも予想範囲内だ。

 

 真後ろに現れた幽香に蹴りを放つ。

 空を切る。

 右に現れた幽香に拳を放つ。

 空を切る。

 左に現れた幽香に肘打ちを放つ。

 空を切る。

 上に前に左右に斜めに、現れた幽香に攻撃する。

 全て空を切る。

 

「天鴎、大丈夫?全く拳が当たってないわよ?」

「ああ、そうだな」

 

 少し息が上がって来るほど攻撃したのだが、全く当たらない。

 けど、これだけ攻撃したから分かってきたことがある。 

 

「瞬間移動をしているのは分かってる、けどなんで花妖怪がそんなことができるのかが分からなかった。それが疑問だった」

「ええ、なんででしょうね?」

「お前さっき自身の能力の解釈から改めたと言ったな」

「ええ、そうね」

「お前の能力は後天性ではなく妖怪の種族からくる前天性の物だ。だから、お前が能力の解釈をするには幽香自身の妖怪としての解釈から改めなければいけない」

「…」

「幽香は花妖怪、花がなければ幽香はいないし、花のある場所にしかいられない」

「ふふ、よく分かったわね」

「ああ、何度も移動させてその存在の移動の仕方を観察しなかったら分からなかったよ」

「そう、私は花妖怪、私という存在は花に在る。花の在る場所に私は存在する」

「花と幽香の存在が同格だと気づくまで時間が掛かったよ」

「ええ、掛かりすぎじゃないかしら?私が花の在る場所に移動していたことぐらいすぐ分かるでしょうに」

「能力の解釈をさらに広げて花の咲いてない植物にも移動してたくせに…」

 

 この幽香の瞬間移動を止めるには周囲の花や植物を全て殺せばいい。

 けど、それでは確実ではないし、なにより俺がこの向日葵を殺したくない。

 だから、俺はもう一度気配察知を強くする。

 幽香と花の存在が同格というのが分かれば工夫しだいで気配察知にも引っ掛かるし、存在を妖力で掴むこともできる。

 

 

 幽香が背後に瞬間移動してくる。

 だが、俺はもうどこに瞬間移動してくるかも分かっている。

 そこ!

 

 ガッ!

 

「あら、天鴎、惜しいわね」

 

 幽香がは俺の拳を受け止めていた。

 次に俺が瞬間移動してくるのと全く同時に攻撃を当ててくることを予想していたのだろう。

 が、俺も同時に幽香の手を掴む。

 

「存在の在り方がわかったんだ、幽香が瞬間移動できないようにここに拘束することもできる」

 

 幽香の存在自体を俺の妖力で掴み拘束する。

 これで逃げられることはない。

 俺は幽香の手の関節を極めにいく。

 幽香はそれを手を大きく振り、逃げる。

 でも、手は離れていない。

 もう片方の手で殴りにかかる。

 幽香はそれを膝で受け止める。

 俺は両手を拘束しようと動くがうまく動きを合わせられて逃げられる。

 片手だけしか拘束できない。

 

「あら、別に拘束されてても逃げられるわよ?」

 

 幽香が拘束されていないほうの手を向日葵にかざす。

 その瞬間、向日葵が枯れ、灰色になり地面に横になる。

 周りの向日葵、いや、植物全部が枯れている。

 幽香の存在も薄くなり、存在を手放してしまう。

 

「ほら、言った通りでしょ?」

 

 幽香がそういう、でも俺は何よりも、他のことに衝撃を受けた。

 

「枯らしたのか?向日葵も、周りの植物も?」

「ええ、そうよ?これぐらい枯らしたってどうってことないわ、例えここの向日葵たちを全て枯らしたって私は何も感じないわ」

「それは本当のことなのか?」

「そうよ」

 

 嘘だろ?本当にそうなのか?

 俺は幽香の言葉を聞いて胸が苦しくなる。

 

「幽香はこの向日葵たちを簡単に殺せるっていうのか?こんなに美しい向日葵たちを簡単に殺せるっていうのか?幽香は、この花たちがいるから存在できるっていうのに?花と幽香は同じ存在なのに?」

「ええ、現に私はこの子達から」

 

 そう言うとともに幽香が手を振り上げる。

 蔦が俺の体を叩き宙に持ち上げ、拘束する。

 おれは、空中で拘束される。

 

「生命力を貰っているわ、あなたも分かっているでしょ?あの光の攻撃の力の源は私の妖力じゃないことぐらい」

 

 確かにあの攻撃の元は幽香の妖力じゃない。向日葵自身の生きる力、もっと言えばこの土地が内包している自然の力だ。

 

「このまま力を使い続ければ、この子達は種も残せない程に弱り切るでしょうね。いえ、もっと言えばこの土地はなにも実らない不毛の土地になるわ」

 

 蔦が光始める、向日葵が光始める。

 けど、俺にはもう、この向日葵が、蔦が、植物たちが、悲鳴を挙げているようにしかみえない。

 

「それでも、幽香は闘うのか?」

「ええ、それが私の生きがいだもの、それしか、わたしに生を感じさせてくれないもの、それしか私は何かを得られないもの」

 

 絶対、そんなはずはない!

 

「戦うだけが!全てじゃないだろ!!」

「ええ、そうね。けど私にはそれしか縋るものがないの」

 

 

 思い出す、闘うことでしか、強くなることでしか贖罪できなかったあの頃を。

 

 

「そんなにこの子たちのことを思うなら、天鴎?あなたが死ねばいいのよ」

 

 

 思い出す、全てから己を切り離し、ただ一人孤独でいた頃を。

 

 

「私が欲しいのはあなたを超えたという結果なんだから」

 

 

 思い出す、そんな自分を叱り、抱きしめ、連れ戻してくれた者たちのことを。

 

 

「ほら、さっさと死になさい」

 

 

 その瞬間、向日葵たちから光の奔流が放たれ、蔦が圧倒的光量をもって爆破した。

 全てが合わさって、まるでこの幻想郷が壊れてしまうんじゃないかと言うほどの光の爆発か起きる。

 

 俺は、その圧倒的な光の奔流の中で思い出していた。

 

 

 自分を幸せにしてくれた者たちのことを。

 

  

 俺は体の奥底で眠らせていた妖力を開放する。

 

 圧縮され、濃密になっていた圧倒的な妖力は波動となり、その力で光の爆発をかき消す。

 

 辺りには、自らの光で焼け切り、生きる生命力を無くした向日葵が、灰になった向日葵が横たわっている。

 

「あら、天鴎?これでも死なないの?」

 

 幽香が話す。

 俺は幽香を見る。

 

 分かった、なんでこんなに胸が苦しくなるのか。

 そうだ、似ていたんだ、こいつは似ていたんだ。

 

 そっくりだ。昔の俺に、そっくりなんだ。

 

「でも、少なからずダメージを受けているみたいね」

 

 そう、こいつは昔の俺だ。

 追い詰められて、とことん追い詰めれて、逃げ場なんてなくて、狂気に堕ちて、どうしようもなるしかなかった、昔の俺だ。

 ならやることは一つしかない。

 

「天鴎、今度こそ死になさい」

 

 向日葵たちが悲鳴をあげる。

 命を削って光を生み出す。

 

「幽香、お前は本当にその生き方が正しいと思っているのか?」

「…」

 

 幽香はそのまま俺に向かって手を向ける。

 その瞬間俺の前に膨大な光の奔流がなだれ込んでくる。

 しかし、俺はもう一度手に高密度の妖力を流し込む。

 

「鞍馬流防ノ型、金剛一心・改」

 

 手を妖力で包み込み強化する。

 そして光の奔流を受け流す。

 そのまま受け流しながら幽香の方へ突っ走る。

 

 幽香の方に拳を向ける。

 

「お前の考え方は、その生き方は!間違っている!!」

 

 その拳を振り抜くが、幽香はそれを身を傾けギリギリで避ける。

 

「考え方にも!生き方にも!正解なんてないでしょう!!?」

 

 幽香が蹴りを放ってくる、俺はそれをギリギリで避ける。

 

「私の人生は!私の生き方は!自由よっ!!私はこの生き方がいいのよっ!!」

 

 幽香が拳を放ってくる、俺はその手を掴んだ。

 

「じゃあ、なんで、お前はそんな辛そうな顔をしているんだよ」

 

「え……?」 

 

「てめえは、今なんでそんな辛そうな顔してんだって聞いてるんだよ!」

 

 幽香はその言葉にハッとし、自分の顔を触った。

 

「なんで…」

 

「本当は辛いんじゃないのかよ、強さだけを追い求めて、全てを壊すだけの生き方が!辛いんじゃないのかよ!」

 

「辛いはず…ないじゃない!」

 

 幽香は蹴りを放つ。

 俺はその蹴りを脚で防御する。

 幽香はその時に生じた隙をついて強引に振り払い距離をとる。

 

「俺も最初は辛いはずないと思ってたよ、けど文に認められた時、俺がその時まで偽っていたものが簡単に崩れ去ったんだよ」

「何が言いたいの?」

「幽香は未だに誰にも認められたことが無いんだろう?風見幽香というその存在を、なんにも偽っていない自分を、幽香は誰にも認められていない、認められないから今の自分を形作ったんだろう?」

 

 幽香はその言葉に顔を俯かせる。

 拳を震える程握りしめている。

 そのままキッと顔を上げた。

 

「そんなはずないじゃない、私は誰にも認められなくてもいい、認めてもらわなくてもいい、たった一人で生きていけるんだから、私は弱くない、そう!私は弱くないのよっ!!」

 

 俺は睨んでいる幽香の目を見る。

 

「いや、幽香は認めて欲しいと思っている、心のどこかで絶対にそう思っているさ」

「だから!!私はそんなこと思わないって言ってるじゃない!!」

 

 幽香は強烈な踏み込みと共にその拳を振りぬいた。

 俺はその拳を……避けなかった、避けずに顔面で受けた。

 

 そして俺は、不敵に笑った。

 

「残念だったな、幽香。お前が心っていうのを持っている限り、俺もお前も一人じゃ生きていけない生き物なんだよ」

 

 そして俺は……幽香の蹴りを受けて吹っ飛んだ。

 そのまま地面を無様に転がった。

 

「イテテテ、くっそー、いいのぶち込んでくれるなあ」

 

 俺は幽香の方を見ると、幽香はいつの間にか日傘を携え俺の方を見ている。

 

「気に入らない、本当に気に入らない。いいわ、なんの遠慮も手加減もなく吹っ飛ばしてあげる」

 

 幽香はそういい、日傘を俺に向ける。

 けど、向日葵がこちらを向く様子はない、その代わり、莫大なエネルギーが幽香の体に集まっている。

 

「今度こそ、死になさい、天鴎」

 

 幽香がそう言うと共に、日傘の先に光が集まっていく。

 

「マスタースパーク」

 

 日傘の先から極太のレーザーが放たれた。

 

「金剛一心・改!」

 

 俺は妖力を体全体に広げ、レーザーに突っ込んだ。

 なんの躊躇もなく光の中を突き進む。

 とんでもなく威力のある光の濁流の中を進み、ついに幽香の目の前に到達する。

 俺は日傘の先を掴み、逆の手で幽香の手を掴んだ。

 

「幽香、受け止めてやるよ、お前の全て、俺が受け止めてやるよ!お前が俺をボッコボコにしてもいい、殺したっていい!!けど、その後で、お前の全てを俺が受け止める!」

「無茶苦茶なこと言わないで!!」

 

 幽香は日傘を振り回し、俺の手を振り払うと、日傘を突き刺してくる。

 その先端は俺の腹に突き刺さった。

 

「幽香!こいっ!!俺がお前の殻を全て剥いでやる!!」

「無責任よっ!あなたのその言葉は無責任よっ!!」

「違う!!俺が責任を取ってやる!お前の過去も!現在(いま)も、未来も!!全部ひっくるめてお前を受け入れてやるっ!!」

 

 その言葉に幽香は歯を食いしばった。

 

「今更、今更遅いのよ!!私はずっと待っていた、私という存在を受け入れてくれる場所を探していた!!でも、見つからなかった、見つからなくて、私という存在は壊れた、とっくの前に壊れてたのよっ!それで!なに!なんで今あなたが現れるの!なんで今なの!私を救いたいならもっともっと昔に、なんで来てくれなかったの!?」

 

 日傘が更に深く俺の腹に食い込む。

 

「ごめん、幽香、本当にごめん、でも今しか来れなかったんだ、俺みたいな弱いやつじゃ、今が精一杯だったんだ」

「あなたに謝って欲しい訳じゃない!!あなたなんかに!あなたなんかに!!」

 

 俺が顔を上げると、幽香は泣いていた、その目から涙を流していた。

 

「幽香…」

 

 俺は腹に傘先が食い込むのも忘れ、幽香に手を伸ばした。

 そしてそっと、幽香の手に自身の手を置いた。

 幽香はその手に気づき俺を見た。

 その時に見えた幽香の顔は、全てに恐れられるような大妖怪の顔ではなく、ただの年相応な女の子の顔に見えた。

 

「信じてくれ、幽香」

 

 俺は幽香の目を見ていった。

 幽香は酷く動揺し、目を右往左往させ、それから思い出したかのように、俺を睨んだ。

 

「信じないわ、私は誰も…信じない…」

 

 その言葉と共に俺に蹴りを放った。

 俺はそれをまともに受け、吹っ飛ぶ。

 

「私を信じさせたいなら、受けいれさせたいなら、示しなさいよっ!示してみなさいよっ!!」

 

 瞬間、とんでもない突風が巻き起こる、幽香の体をとんでもない魔力が駆け抜ける。

 感情の爆発と共に、幽香の眠っていた才能が姿を見せたのだろう。

 威力は今までの比ではない程に高くなるだろう。

 妖力量だけでいうなら俺を超える程だ。

 

 けど、これを避けるという選択肢はない。

 俺が信じてくれと言い、幽香が示しせと訴えるのなら、これを受け入れなければいけない。

 そして、この攻撃を叩き潰さないといけない。

 俺が幽香よりも強い事を示し、幽香を受け入れられる男だと示さなければならない。

 

 だからこそ、今まで封印していたものを解放し、本気の片鱗をみせる。

 俺は刀に巻き付いている包帯を、自身の刀を封印していた物を、解き放った。

 同時に、自身にもかかっていた封印が解除される。

 

 漲る妖力を体の中に留め、刀身にも宿らせていく。

 真っ直ぐと幽香を見据える。

 俺はゆっくりと構えた。

 何千回、何万回やったかもわからない程にやってきた構えだ。

 

 幽香は溢れ出す妖力を完全に制御しきったようだ。

 幽香は一点に妖力を集めていく。

 

 幽香は日傘を後ろに投げ捨てた。

 

 それと同時に地面をしっかりと踏みしめ、力を溜める。

 

 

 そして幽香はその口から声にならない絶叫と全てを破壊する七色の光を放つ。

 俺の視界が七色の光で支配される。

 

 静かにそれを見据えていた俺は、光に飲み込まれようとしていた。

 

 刹那、俺の刀が閃いた。

 

 剣閃は鋭い光へと変わり、とんでもない力へと変換される。

 

 閃いた光は七色の光を両断し、その軌跡に光の道を作った。

 俺は跳んだ。幽香の元へ一直線に。

 

 そして幽香を押し倒した。

 

「幽香、お前の負けだ」

 

 俺は幽香に馬乗りになりながら言う。

 

「負けてなんかいない!」

 

 幽香が拳を突き出してきたが、それを俺は難なく受け止める。

 

「私は!全てを喰らって、何もかもを喰らって!強くならなきゃいけないのっ!!」

 

 幽香がそう言うと、蔦が地面から飛び出し、拘束してくる。

 幽香は俺の体を浮かせ、俺と幽香の位置を変えた。

 俺は地面に俯けにされ、幽香は俺の上に馬乗りになった。

 

 そしてその拳を振るってくる。

 俺はそれをただ受け止める。

 

「私は、私は、強く…強く…ならなきゃいけないの!!」

「なんでだ?」

「なんでだって、なんだっていいじゃない!」

 

 幽香は癇癪を起す子供のようにその拳を振るう。

 俺はただ幽香をみつめる。

 

「なんでだ」

「…っ」

「なんでだって聞いてるんだ」

 

 拳を掴む。

 幽香は振り払おうと抵抗してくるが、絶対に放さない。

 

「なんでだ、幽香、なんでお前は強くなろうとする」

「そんなのどうだって」

「なんでだ幽香、なんで強くなろうとする?」

「だから、そんなの…」

「なんでだ、幽香」

「…っ」

 

 幽香の体から力が抜ける。

 俺は手を離した。

 

「そんなの、そんなの、分かるわけないじゃない」

 

 幽香は力のない手で殴ってくる。

 たいした力もないただ置くような拳で。

 

「分からない、分からないけど…」

 

 幽香の頬を水滴が流れる。

 

「こうするしかなかったのよ…」

 

 俯きながら、泣きながら、独白をする。

 

「私が、私を守るためには、これしかなかったのよ」

 

 幽香は俺を睨んだ。

 

「これ以上、どうしろっていうのよ!」

 

 俺も幽香を見つめた。

 

「よく頑張ったな、幽香」

「え…?」

 

 俺は幽香の頭に手を置く。

 

「よく頑張ったよ幽香、だからもう頑張らなくていいんだ」

 

 幽香の頭に置いた手で撫でながら言葉を続ける。

 

「俺は負けた、たった今幽香に負けたんだ。だから全てを喰らえ、俺の何もかも喰らえ」

「…」

「そしたら俺が内側から全てを変えてやる、お前の何もかも変えてやる、だから俺の何もかも喰らえ」

「…天鴎」

「助けてやる、変えてやる、お前をお前の思い通りにしてやる、だから俺を受け入れろ幽香」

「天…鴎っ…」

 

 俺は幽香を抱きしめる。

 幽香はそれに一瞬腕を強張らせる、まるで俺の手を恐れているように。

 けど腕を震わせながらも恐る恐る腕を俺の背中に回す。

 

「信じていいの?」

「ああ、信じてくれ」

「本当に私を変えてくれるの?」

「ああ、変えてやる、絶対に変われるさ」

「ええ…そうなれば、いいわね…」

 

 俺は更に強く抱き締める。

 

「大丈夫、変われるさ、俺が全て受け入れてやるから」

「ええ、信じるから…」

 

 俺たちはそのまま涙が枯れるまでそうしていた。

 幽香の何百年分の涙は霖雨のように降り続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 そして、これが天鴎の幻想郷での初めての、敗北であった。 

 

 




 全く進まなかった今回のお話。
 なんか忙しくて書く暇なかった。
 という言い訳でした。


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女は強し!!

 これは前回の話の続きに一応なります。
 後、かなり短いです。


 花畑での激闘の後、天鴎は幽香を連れて家に戻っていた。

 

 

 そして、戻ってきた時にはもう夕方であった。更に夕方にはもう文が家に帰っているころだ。

 ついでに、幽香はずっと泣いていたので目の周りが真っ赤に腫れていた。

 

 文はこの状況を見て何かを察し、修羅の如きオーラを纏った。

 

「…天さん?」

 

「ま、待って文、違う、違うんだってば」

「違うもどうもありません!!どうして女の子を泣かしてるんですか!!」

 

 いつの間にか握られていた新聞紙でまるでゴキブリでも潰すかのように、天鴎の頭ははたかれたのであった。

 

 ■

 

 

「なるほど、そんなことがあったんですね」

 

 天鴎の頭をはたいた後、とりあえず天鴎が文に事情を説明していた。

 

「はあ、状況は分かりましたけど、なんでそうなるんですかね?」

「面目ない」

「誰かを救うというのは天さんなりの一歩なのかもしれませんけど、でももっとやり方とかあったはずですよ」

 

 そういい、文は眉間を押さえる。

 

「仕方がありませんか、なっちゃたものは覆せません」

「本当にすいません」

「いえ、まだ許していませんから。後からまたこってりと絞らせてもらいますね」

 

 その言葉を聞いて、天鴎は笑顔のまま固まった。

 

「まずは幽香さんからです」

 

 その言葉に縁側で座っていた幽香が振り向く。

 

「少し話しましょう」

「え?どうし「天さんは黙っててください」は、はい」

 

 天鴎は文の一喝によってまた固まってしまう。

 本当に文にはとことん弱い。

 

「私の認識が間違ってなければ、私達も一度話す必要があると思うんです。場所を移しましょう、着いてきてください」

 

 文はそう言って客間へ歩き出す。幽香もそれに大人しくついていく。

 天鴎はここでハウスである。

 

 

 

 

「それで、私に話って何かしら天狗さん?」

「射命丸文ですよ、風見幽香さん」

 

 文は幽香の問いになんの冗談もなしに答える。

 

「先ほども言ったように、私の認識が間違っていなければあなたと私は話し合う必要があると思ったからです」

 

 その言葉に幽香は分かっているような表情を浮かべるものの、首を傾げてみせる。

 

「はあ、ハッキリと申します、幽香さんは天さんとどのような関係になりたいのですか?」

「どのような関係って?」

「天さんと悪友になりたいのか、戦友になりたいのか、それとも…夫婦になりたいのか」

 

 言葉尻を弱くしながらも文は言い切る。

 

「へえ、夫婦ねえ…」

 

 幽香はその言葉が以外だったのか、夫婦という言葉を何度か呟いている。

 

「にしても、なんで夫婦なのかしら?」

 

 幽香は当然の疑問を聞いてくる。

 その言葉に文は寄った皺を解すように眉間に手をあてる。

 

「天さんの言葉がまんま、愛の言葉に聞こえるからですよ…」

 

 先ほど、文は大体の状況とは別に天鴎の吐いたセリフも聞き出していた。

 そのセリフがなんというか、青クサイというか、小っ恥ずかしいというか、ただの他人にも、友達にも、悪友にも吐くセリフからは逸脱しているというか、まるで物語の主人公が悪のヒロインに囁きかけるような言葉なのだ。

 

「ええ、私もまんまそういう風に言われたと思ったわ」

「え!!」

「でも彼自身にそんな気があるようには思えないんだけどね」

「はあ…」

 

 どうやら天鴎が天然で言ったことは分かっていたようだ。

 

「で、愛しの旦那様が他の女を引っ掛けてきたように見えたから注意しにきたと?」

「いいえ、違いま…確かに一部そうなんですが、私が言いたいことはそうじゃないです」

「そういうことじゃないってどういう事かしら?」

「こういう人が現れることは承知していました、鞍馬の里で彼のお父様に会った時からそうなるんじゃないかって薄々思っていましたから」

 

 文は天鴎の父親、天正をみた時から薄々天性の女難の相が受け継がれているんじゃないかと思っていたのだ。

 

「それにそもそも重婚がダメな訳もありませんし…」

 

 そういいながら文は幽香の方を向いた。

 

「何より貴方が天さんの側にいてくれた方が都合がよさそうじゃないですか?」

「ふーん、利用する気満々ってことね」

「ええ、私はずる賢い天狗ですからね」

 

 そう言って文は笑ってみせる。

 

「まあ、そもそもアレは私の物だから、可愛い天狗さんに言われなくとも好き勝手にしていたわ」

「へえ?天さんは貴女の物、違います、アレは私の物です」

 

 文がそういうと幽香がギロリと文を睨んだ。

 

「へぇ、よく言うわね。私はアレに勝ったのよ?アイツをどうこうするのも当然の権利だと思うわ」

 

 幽香がそういうと文も幽香をギロリと睨んだ。

 

「こちらこそ結婚という契約を結んでいるんです、天さんをどうこうする正当な権利は私が持っているんです」

 

 双方睨み合いが続きその場をとてつもない緊張感が支配していた。

 

「フッ」

「フフッ」

「ウフフフフッ!!」

「ウフハハハハッ!!」

 

 両者唐突に笑いだし、屋敷に笑い声が響く。

 二人の口角は上がっていたが目がヤバイ事になっていた。

 

「まあ、良いです。これから長い付き合いになるでしょうから、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ、よろしく」

 

 二人してギラギラした目のままとんでもない握力で握手をした。

 天鴎は殺気とも邪気ともとれないとてつもない重圧にブルブルと震えていた。

 

 ここに、鴉天狗と花妖怪の両者に対する宣戦布告が為されたのであった。

 

 

 

 …けれども、寝ぼけた天鴎により二人とも恥ずかしい姿を晒されてしまい結局このギスギスした空間はすぐに無くなってしまい、すぐに仲良くなったそうな。

 




これにて幽香も天鴎のヒロインの一員に追加されましたが、あまりイチャイチャは書くことないかな。


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先代巫女と神隠し

また期間が空きました。書きたくなったから書いた感じの話です。


 幻想郷の東の端にある神社、博麗神社。何を祭っているのかも分からないそこには博麗の巫女と呼ばれる者が住んでいる。

 

 今代の博麗の巫女は博麗現霊。

 人里の者たちからも慕われている人格者だ。

 

 そんな現霊の元に最近人里で起きたとある事件の情報が届いていた。

 

 曰く、最近里の人間が神隠しにあっていると。

 

「はあ、最近は何事もなく平和だったのにねぇ」

 

 現霊は遠くをみながらそう呟く。

 

「あの大賢者様からは鞍馬の天狗には気をつけなさいと言われていたけど特に何かをするわけではないし、気になることも無かったんだけどねぇ、まあ文句を言っても仕方がないか」

 

 そう言い現霊は体を伸ばし、体の調子を整えていく。

 

「さてと、久々の異変だ、気を引き締めないとね」

 

 そういうと共に彼女は人里へと歩きだした。

 

 ◼️

 

「なあ、最近変わった事はないかい?」

 

 この質問を投げかけるのも何度目だろうか?

 神隠しの異変の解決に動きだしたはいいが全くと言って手がかりを掴むことができない。

 そもそも原因が分かっていれば神隠しにあうことなんてないだろう。原因が分からないからこそ神隠しなのだから。

 

「はあ、これはなかなかに厄介だなぁ」

 

 現霊は茶屋で一息つきながらため息を吐く。

 朝に出かけ今はもう昼過ぎ。それなりの人に聞き込みをしたがそれらしい情報を持っている者はおらず、霊力で辺りを探ってみたものの特におかしなところもない。

 

 この調子だと原因を見つけられそうにない。お手上げだ。

 

「どうした物か…」

 

 とりあえず、原因は分からないが神隠しにあった者の家族には状況を聞き出す事ができた。

 最後に神隠しにあったのは丁度一週間前。

 それに神隠しには会うのは総じて夜らしい。それだけは分かった。しかしそれだけだ。

 

 幻想郷には宵山の妖怪もいるのでその線を疑いはしたがとっくの前に封印されており今は人間一人を夜の暗闇の中でとはいえ一つの痕跡も残す事なく消すのは不可能だ。それにやつの性格的にそんな真似をする事はないだろう。

 

 ううむ、では他に誰がやりそうか?

 現霊が答えのでない考えに浸っていると子供の声が聞こえてくる。

 

「あ、現霊の姉さんだ!!」

「本当だ!!」

「こんなところで何してるの?遊ぼ遊ぼ!!」

 

 現霊はそんなふうにはしゃぐ子供に一瞬のうちに囲まれてしまった。

 

「しまったなぁ」

 

 現霊は思わず額に手を当てた。

 こう囲まれてしまっては抜け出す事も振り切る事も困難だ。それに何より次回あった時に子供たちが拗ねており対応がとんでもなく面倒くさくなる。

 現霊は子供たちの視界に入った時点で相手をする事が決定してしまっていたのだ。

 

「遊ぼ遊ぼー!!」

「ほらこっちこっちー!!」

 

 現霊はその席に駄賃をなんとか置き、そのまま子供たちに引っ張られるままに子供たちの遊び場に連れていかれるのであった。

 

 ◼️

 

 一頻り、子供たちと遊んだ後、一人の子供が現霊を引っ張ってあるところに連れて行ってくれた。

 ある所にはある物があった。

 現霊の腕程もあるとんでもない大きさの骨であった。

 

「ふふーん、姉ちゃんすごいでしょー」

「ああ、凄いな」

 

 そう言いながら現霊は子供の頭を撫でた。

 

 ふむ、それにしてもこれはなんの骨だろうか?

 妖怪?それとも肥大化した獣か?特にこれには邪気を感じないしこの骨一本しかないようだから特に力はないようだが。

 

「これねー丁度一週間前にここで見つけたんだー!」

 

 一週間前か丁度最後の神隠しと同時期に見つけたのか。

 

「すごく大きかったから姉ちゃんにも見せたかったんだぁ、絶対びっくりすると思って!!」

「ああそうだな、お前がこんな物を見つけれるのんて驚いたよ」

 

 とりあえず現霊は子供の気を落とさないように言葉を掛け、頭を撫でる。

 

「これは、他の子も知っているのか?」

「ううん、僕と姉ちゃんだけが知ってるよ」

 

 どうやら、この子は私にどうしてもこの事を自慢したくて他の子にも秘密にしていたらしい。その子供心が可愛くてまた頭を撫でる。

 

「このでっかーい骨がここにあるのは僕と姉ちゃんだけの秘密ね!」

「ああ、分かった、私とお前の秘密だ」

「そうだ!指切りしよう指切り」

 

 そう言って小指を前に出してくる。

 私もそれに応じた。

 

「「指切りげんまん嘘ついたら針千本のーます、指切った」」

 

「アハハッ」

 

 子供は私と指切りできたことが嬉しかったのか無邪気に笑っていた。

 

 

 ◼️

 

 

「で、何の情報も得られないからとりあえず御阿礼の子である私のとこに来たと」

「まあ、そういうことだ」

 

 私はいま稗田の一族の家にお邪魔している。

 

「情報が欲しいなら鈴奈庵にでも行けばいいじゃない」

「情報がたくさんあってもその中から情報を集めるのは大変だろ、それよりかはいろいろな妖怪の情報を集めて累積してるここの方が有益な情報が出そうでね」

「幻想郷縁起を書いておられるご先祖様はまだ転生してないよ」

「知ってる」

「はあ、知ってるなら何でここに来たのやら…」

 

 そう言い今代の御阿礼の子はため息を吐く。

 

「お前さんのことだから最近起きてる神隠しの事も気になって独自に調べてると思ってね。合ってるだろ?」

 

 その言葉に御阿礼の子は嫌そうな顔をする。

 

「はあっ、合ってるよ、確かに私自身で最近起こってる神隠しに付いては調べてる。にしてもなんでアンタには簡単にバレのやら」

「これでも長い付き合いじゃないか、だいたいは分かるよ」

 

 その答えに現霊はじっとっとした目線を向けられるのだった。

 

「まあいいわ、ついてらっしゃい。とりあえず情報は共有してあげる」

「ああ、ありがとう」

 

 現霊は御阿礼の子に従い書斎へ向かった。

 

「で、随分と散らかしてるじゃないかこれは」

「失礼ね散らかしてないわよ、ただ興が乗りすぎでちょっと多く借りちゃっただけよ」

「これがちょっと?」

 

 御阿礼の子の使っている書斎はかなり散らかっているというか本がそこかしこに置いてあり、足の踏み場が全然ない。それに本もかなり積み重なっているから移動するのも一苦労だ。

 

「なぁ、これ絶対に神隠しに関係ない本も大量に借りてるだろ?」

「あら、そんな事ないわよ」

「いや、そんなことないだろ…」

 

 試しにそこら辺の本を手に取ってみる。

 『町外れの恋』そんなタイトルをしていた。

 洋物のラブロマンスだ。

 現霊はそれをみて呆れるように首を振った。

 

「大方、神隠しが何か分からなくて息抜きに読んだ本が面白くて止まらなかったとかいうパターンだろ。本当、気移りしやすいんだから」

「ちっ」

 

 御阿礼の子は現霊の前だと言うのに隠す気もなく舌打ちする。

 それに現霊は苦笑いを浮かべる。

 

「それで、何か情報は掴めたのかい?」

「全く」

 

 御阿礼の子はぶっきらぼうにそう言い放った。

 

「候補としては宵闇の妖怪とか天狗とかが状況からみて候補に挙がったけど、幻想郷縁起みてる限り違う感じがするのよね。他に確信的な情報が上がるでもないし、お手上げって感じ」

 

 御阿礼の子は椅子に深く座りながら現霊へ言葉をかける。

 現霊は御阿礼の子の発言からして当てが外れたようだ。

 

「そもそも現と幻想の境界があるこの場所で神隠しなんて起こらないって言う方が不自然だしね。境界の管理にも近い事をしてる巫女さんにそんな事言ったら失礼なんだろうけどね」

「いや、別にいいさ。だが、博麗結界が不安定になって神隠しが起こったとは考え難い。仮にもあの大賢者が携わっているんだ、そんなへまをするとは思えない」

「確かにねー」

 

 現霊からすれば八雲が関わっているとは思えないらしい。

 確かに紫は周りくどくて胡散臭い手ばっかり好む傾向にはあるが正直言って里の人間を拐っても得などなく評判を落とす結果にしかならない。動機がないと言うわけだ。

 

「だが、神隠しに合う人間は定期的に消えている。本来の神隠しは何の関連性もなく唐突に消える筈だ。けど、今は何かの法則めいた物が存在する」

「そうさなぁ、巫女様の言う通り確かにこれは何者かの思惑が働いているように感じるなぁ」

「ううむ、けど動機が全く分からない」

「ああ、不透明過ぎる」

 

 そうだ、この神隠しを行うことで得をする存在が何か分からない。

 人食い妖怪ではない。彼らは現霊が定期的に祓っているし、証拠を何一つ残さずに人を拐う事はできない。

 では他の知性の高い妖怪たちになるのだが、それこそ心当たりがない。彼らが今更人間を拐っても大した養分にもならなければその労力に見合う事もないだろう。ただ手間が掛かるだけだ。

 

 現霊は考えれば考える程どツボにハマっていく。

 

「ああ、どうしても心当たりがない、仕方がない。人里での夜の警備を密にするしかないか…」

「何?あんた今日ここに泊まってくの?」

「ああ、そのつもりでいたのだが」

「はあ、ちょっと止めてよねー」

 

 その言葉に現霊はニヤニヤとしだす。

 

「ちょっ、ちょっと何よその顔」

「いや、何やはり新婚の二人は熱々だなーっと思ってな」

「はっ!ちょっ!そんなんじゃないしっ!!」

 

 御阿礼の子は現霊に対し声を荒げるが現霊はただ微笑を浮かべて見ているのみ。

 そんな現霊に対し御阿礼の子は即行で顔が赤くなっていく。

 

「もういいわアンタなんて知らないわよ」

「すまんすまんだから機嫌を治してくれよ、私だって夜中ずっと起きてなきゃいけないんだ、流石に博麗神社まで帰るのは辛いんだよー」

「知りません」

 

 そんな風に姦しい時間は過ぎていった。

 

 

 ◼️

 

 

 夜中、人里のパトロールをしていた現霊だが、特に異常を見受けられなかったので町中を歩く事はせずに御阿礼の子の家の前で待機することにした。

 

「にしても本当に何か起こるようには思えないなぁ」

 

 現霊はそう言いながら夜空に浮かぶ満月を見つめた。

 見事な満月だ。こんな日には酒を飲みながら満月を肴にするに限る。

 

「お疲れ様、疲れてない?」

 

 そう言いながら御阿礼の子が後ろから声を掛けてくる。

 

「まだ起きていたのか」

「ええ、ちょっと気になることがあってね」

 

 そう言いながら御阿礼の子は一冊の本を持っていた。

 

「あ、あとこれ差し入れ」

「ああ、ありがとう」

 

 おにぎりが手渡された。

 シンプルな塩味だったが、丁度小腹が空いていたので助かった。

 

「それで気になることってなんだ?」

 

 現霊が御阿礼の子にそう問う。

 

「なんでも無縁塚には鬼の骨が埋まっているらしいのよ」

「それがどうした?この神隠しと関係あるようには思えないが?」

 

 現霊は唐突に出された話題に首を傾げる。

 

「いや、なんでもその鬼の骨は大元は無縁塚にあるらしいんだけど、その他の骨は各地に散らばってるらしいの」

「それで?」

「こうゆう月夜になると散らばった骨を他の弱き存在を魅了して本体の元に持ってこさせるらしい。そして骨を持ってきた存在の養分を吸い取り満月の夜に復活するっていう言い伝えがあるの」

「つまり、今まで神隠しにあった物はその鬼の骨を見つけてしまった者たちと言いたいのか?」

「ああ、その可能性は高いと踏んでいるわ」

「ありえない話じゃな……」

 

 現霊は言葉の途中で目を丸くしてしまう。

 

「どうしたの現霊?」

 

 御阿礼の子が思わず問いかける。

 だが、現霊はそれどころじゃない。

 現霊は思い出したからだ、昼間自分が子供たちに連れられてある物を見たから。

 骨だ、彼女はある子供に自分の腕程もある骨を見せられていたのだ。

 あの時は特に何の力も感じなかったから印象にもあまり残っていなかった。しかし、今思い返せばあれは鬼の骨だったのだ。

 

「ちょっと、現霊どこにいくのよー!」

 

 現霊は思わず走り出していた。

 向かうのは昼間行った子供たちの遊び場の奥、骨のあったところだ。

 そこに骨があれば杞憂で済む、しかしそこに骨がなければあの子供が魅力され骨を無縁塚に持っていったに違いない。

 あの子が何処の子かは分からない。

 だから骨が直接あるのかどうか確かめた方が早い。

 

「遅かったか…」

 

 巨大な骨はもう無くなっていた。

 そこに禍々しい妖気だけを残して。

 

「急がねば」

 

 子供が喰われてしまう。

 まだ、幼いあの子が、妖怪の毒牙にかかってしまう。

 現霊は無縁塚へと急いだ。




稗田阿求あたりの設定では転生から転生の合間に閻魔様の元で百年程支える時期があるらしいのでその設定を使って今回は稗田の一族の御阿礼の子を出すだけに留まりました。
このお話しも原作開始時に近い時期とは言えまだ霊夢も生まれてない時期なのでまだ生まれてないことになっています。
次回は現霊と元祖女難の相のあの人の絡みがあります。
筆が乗ったらまた書きますので楽しみにしててくださいねー。


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