絶望のアインクラッド (鏡秋雪)
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矜持の果て

 まったく、どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。

 はじまりの街の中央広場に集められたプレーヤー達の喧騒に俺はうんざりした。

 先ほど、茅場晶彦を名乗る深紅のローブ姿の巨人がデスゲームの開始を宣言して消えたところだ。

 一に曰く、ログアウトできないのは仕様である。

 二に曰く、この世界でヒットポイントがゼロになるとアバターだけでなく実際の肉体も死ぬ。

 三に曰く、この世界から脱出する方法は第百層の最終ボスを倒す事。

 中央広場に集められた全プレーヤーはその言葉で狂乱に陥った。

「ふざけるなよ! バカ言ってんじゃねーよ!」

 茅場が姿を消した空間に向かって叫ぶ者。

「いったい、どうなってんだよ! アーガスは何やってんだよ!」

 責任もない他のプレーヤーに八つ当たりする者。 

「嫌あ!」

 ただただ泣き叫ぶ者。

 

 まったく、どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。

 

 ふう。と一つ息を吐いた時、周囲の厳しい視線が俺に集中した。

「夏海(なつみ)ちゃん……。そんなこと言っちゃだめだよ」

 俺のリアル幼友達である勝也が俺の袖を引っ張りながら耳元で囁いてきた。

 どうやら、思っていた事がつい口に出てしまったらしい。

「その名前で呼ぶなよ」

 俺は刺すような視線を投げかけてくる連中を無視して勝也――(いや、ゲームの中だからヴィクトリアスと呼ぶべきだろうか)を睨みつけた。

「ごめん。でも、アバターがリアルになっちゃってるから、つい……」

 すまなそうに言う勝也の姿はもう美少女ではなく、学校で見慣れているいつもの顔になっている。装備が女性物なので、女装に失敗した悲しい男といった雰囲気になっている。俺たちの周りもさっきまで女性キャラの方が多いぐらいだったのに、今では男の方が圧倒的に多い。どれもこれも見るに堪えない。

 俺は忌々しく茅場のプレゼントである手鏡で自分の顔を確認した。間違いなく、自分の顔だ。ログアウトできないという失態以上にリアル割れ状態にするとは茅場というやつは相当の馬鹿だ。

「とにかく、ここから出ようぜ。馬鹿が感染する」

 俺は喧騒の中央広場から抜け出そうと、袖を捕まえている勝也の手を取った。

「ちょっと待てよ!」

 俺を睨みつけていた一団の中から声が上がった。見ると俺より年上のチャラい男が一歩を踏み出してこちらを指差していた。「俺たちを馬鹿呼ばわりして、ずらかろうとしてるンじゃねーよ」

(あぁ。正真正銘の馬鹿がここにいる)

 要は自分でこの事態を解決する脳みそを持っていないから、俺に絡んできているのだ。そんな行動にまったく意味がないのが分かっていない。繰り返すが、こいつは馬鹿だ。

 馬鹿相手に話をしても時間の無駄だ。それは馬鹿がやる事だ。

 俺は無視して再び歩き始めた。

「おい! 待ちやがれ!」

 男は回り込んで俺の肩を突き飛ばした。

 街中だから殴ろうが蹴ろうがダメージはまったくない。こいつが執っている行動は本当に無意味だ。はい。こいつ超馬鹿確定。

「夏海ちゃん。謝ろうよ」

 すっかりビビッてしまったのか、勝也の声が震えていた。

「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い」

 賢い選択ではない事は分かっていたが、正直もうこの馬鹿集団につきあうのにうんざりしていた俺は怒りのまま言い返した。

「てめえ!」

 男は俺の胸元を掴んで締め上げた。

「それで?」

 俺は男のあまりにも直情的な行動が可笑しくなって口角が歪むのを感じた。「次に俺を殴るかい? 殴ろうが蹴ろうが街中じゃダメージゼロだぜ。ゲームと現実の違いも分からないのか? ああ、分からないから馬鹿だったんだな」

「ンの野郎!」

 硬く握られた男の拳が俺の頬を捉えた。

「夏海ちゃん!」

「だから、その名前で呼ぶな」

 激しいノックバックでよろめきながら、俺は無様に倒れないようにバランスを取った。

 痛みはまったくない。もちろん、安全圏内だから視界の左上にあるヒットポイントバーに変化はない。

「気が済んだかい? けど、俺を殴ったからって、まったく事態は変わってないんだぜ。ああ、馬鹿にはそれでいいのか」

 俺の言葉に言葉にならない雄叫びをあげながら再び男が俺に拳を繰り出してきた。

 同じような攻撃を二度食らうほど俺は馬鹿じゃない。軽いステップで身をかわすと店売りの刺突剣を抜いてソードスキルでその刀身を輝かせた。

 ≪リニアー≫。細剣の基本技だ。まだ、数時間のプレイしかしていないから洗練されていないが、それでも敏捷極振りのおかげか男を数メートルも弾き飛ばすほどの威力を見せてくれた。

「おぉ」

 賞賛とも感嘆とも思える声が周りから漏れて俺は心地よかった。

 ソードスキルのノックバックで男は滑稽にも思える格好で地面を転がった。痛みもなく、ヒットポイントも減る事はないが、そのノックバックの衝撃には恐怖感を感じるはずだ。

「馬鹿に合わせちまった。俺もとことん馬鹿になってみようかな」

 薄ら笑いを浮かべながら俺は剣先を男の首元に突きつけた。

 その男の表情が恐怖に歪んでいる事は俺の虚栄心を満足させた。

「やめないか」

 低い声で俺と男の間に入ったのは、見ず知らずのおっさんだった。「どうやら、君はこのゲームに詳しいようだ。私たちを馬鹿よばわりするのなら、何か考えがあるのだろうか?」

(自分で考えろよ、おっさん)

 不安げにこちらを見るおっさんの顔に俺はうんざりしながらそう思った。

 この世代のおっさんはみんなそうだ。年齢という座布団の上に座って偉そうにしているが、こういう新しい事態にまったく対応できない。無視していくのもよかったが、これ以上事態を悪化させるのも賢い選択とは言えそうもない。

 しかたなく俺は口を開いた。

「ナーヴギアのリソースノートを読んだことがあるんだけど、ゲームシステムから切り離されると最大5分以内に意識を取り戻すようになっているんだ。つまり、ここから退場できれば現実に戻れる可能性が高い」

「ヒットポイントがゼロになったら、ナーヴギアが私たちを殺すというのは嘘だというのかね?」

「嘘だね」

 俺は断言した。

 なぜ? とおっさんが不思議そうな顔をしているので説明してやる事にした。

「確かに原理的にはナーヴギアの電磁波発生装置は電子レンジと同じさ。けど、冷静に考えて頭にかぶるようなものにそんな高出力の物を搭載した物を国が認可するわけがない。それにそんな大出力に耐えるほど強靭な回路を組み込むにはナーヴギアは小さすぎる。何しろ重量の3割が内臓バッテリーだからな。原理的にできるっていうのと、現実でできるっていうのには1光年以上の距離がある」

 俺はナーヴギアに関する薀蓄を朗々と述べた。

「ほう」

 俺の言葉におっさんは感心したように目を丸くしながら頷いた。「では、モンスターに殺されても私たちは大丈夫という事に――」

 俺はその言葉をさえぎった。

「ならねーよ」

 『馬鹿』とその後に続けそうになって、言葉と一緒に唾を飲み込んだ。

「どういうことだね?」

「モンスターに倒された場合だと、俺たちの意識を肉体に戻さないかも知れない。それぐらい、造作もない。ログアウトさせなきゃいいんだからな」

 俺は肩をすくめた。

「じゃあ、どうしたら……」

(ちったあ、自分で考えろクズ)

 俺はイライラしながらおっさんの間抜け顔から視線をそらした。

 そうなのだ、通常の手段(ヒットポイントがゼロになる、つまりこの世界での死)ではこの牢獄から抜け出せない恐れがある。

 ベータテストの時、死ぬとこの近くの黒鉄宮の≪蘇生者の間≫から再びスタートできた。つまり死んでからのルートは茅場に押さえられている。

 茅場の意表を突く手段でなければ現実に戻れないのではないか。

 それが俺の結論だ。

 その手段を考えるにはこの≪中央広場≫は騒がしすぎる。だから、一刻も早くここから離れたかったのだ。

「はあ、空を飛んで100層まで飛べれば……」

 ため息交じりにおっさんは視線を外へ向けた。そこには第一層から突き出ている尖塔が立っていた。その尖塔の展望台から見るアインクラッドの外の世界はとても美しかった。

 雲に浮かぶ鋼鉄の城。アインクラッド。はるか遠くには浮遊大陸が浮かぶ幻想的な風景。

 俺の頭の中でカチリとパズルがはめ込まれたような感覚が襲った。

「そうか」

「何か、思いつきましたか!」

 俺の口から言葉がもれるとおっさんは期待に満ちた目で俺を見た。

(まったく、このおっさんは)

 俺はおっさんを蔑んだ目で見ながら頷いた。

「あるぜ、外に出る方法が」

 そうだ。展望テラスの柵を越えて外に出る。

 もちろん、外は雲海だ。ひょっとしたら、これはシステム側が想定していないかも知れない。

 システム開発者の意表を突くプレーヤーは時にとんでもない利益を得るものだ。ましてや今日はサービス初日。一つや二つの設計の穴があるのは間違いない。

「行こう」

 俺は確信を持って勝也の手を取って展望台へ歩き始めた。

 

 

 

 「夏海ちゃん。やっぱり、やめようよ」

 勝也が不安そうに雲海を見つめた。

「まあ、見てろって」

 俺はそんな勝也を残して展望台の柵の頂上まで登り見下ろした。「俺が戻ったらすぐに勝也のナーヴギアをとっぱらってやるよ!」

 俺は一息をついて外の世界を眺めた。

 美しい世界だ。雲が流れ、頬に風も感じる。多少、ポリゴンの粗い部分もあるが現実に非常に近い。こんな事態になっていなければ、史上最高のゲーム体験だ。

 いつの間にか展望台には多くの見物人が集まっている。

 中央広場のおっさんと一緒についてきた連中だ。

「あ、あまり焦って結論を出さなくてもいいんじゃないですかね?」

 おっさんが震える声を下から投げかけてきた。

 俺が高さにおじけついたとでも思ったのだろうか?

 冗談じゃない。

 ここはゲーム。どんなに現実世界のように見えても、ここにあるのは全てデータでできた世界なのだ。恐れる理由なんかない。

 俺は柵の上に立った。

 ざわめきが下から聞こえる。

 見てろ。俺がゲーム脱出者第一号だ。

 膝を曲げ、思いっきり俺は跳んだ。

 景色が歪みながら上へ飛ぶように流れていく。一瞬、不安げな勝也の目と合った。そして、その後ろに立っているあのおっさん……。

 

 !!!

 

 おっさんの顔が不気味な笑みで歪んでいる。先ほどまでの無能ヅラじゃない!

(謀られた?!)

 証拠はない。これはただの直感だ。しかし……。

 あいつは俺を実験台にしたのではないか?

 今思えば、『飛べれば』と言いながら尖塔を見たのは俺にこの行動をさせるためだったのではないか。

 空気を切り裂く音を耳にしながら俺は右手を振ってメッセージを作り始めた。宛先は勝也。

『そのおっさんを信用するな!』

 送信ボタンにタッチするかしないかという瞬間に俺は激しいノックバックを体中に感じた。

 視界がマゼンタ色に染まり、やがて暗くなった。

 そして、簡潔な赤いフォントによる宣告。不快なビープ音。

 

≪You are dead≫

 

 死んだ?

 この俺の行動はすでに想定内だったのだろうか?

 

 

 

 

 暗い世界がふいに明るくなった。

「夏海!」

 不細工な俺の母親が俺の顔を覗き込んでいる。その後ろはいつも見慣れた部屋の天井だ。

 俺は笑った。

 俺は賭けに勝ったのだ。

 ざまあみろ! 俺はこの世界に帰ってきた!

 ん? 俺は笑っているのに笑い声がしない。叫んでいるのに自分の声が聞こえない。母親の声は聞こえているのに……。

 体が動いていないのか? まだ、俺の脳神経はナーヴギアによってインターセプトされているのか?

 ヴーンという不快な電子音がふいに大きく襲ってきた。

 熱い! 痛い! ナーヴギアを早く取らなければ! 痛い! 熱い!

 身体をくねらせ、全身でナーヴギアを取り外そうとするが、金縛りにあっているように全く身体が反応しない。

「夏海! 大丈夫?」

 おろおろとする母親。

 馬鹿野郎! 早くナーヴギアを取れよ! 使えねぇ親だな!

 茅場も狂ってやがる。こんな事をするなんて。

 ああもう! 早く! 外せよ!

 

 まったく、どいつもこいつも馬鹿ばk

 

 

 ――暗転――永遠の静寂――

 




後味悪いです。
ほとんどこんな感じです。

キリトなどの活躍していた人を光とすると、この人たちは闇。
人生の失敗者、落伍者。そんな人たちの物語です。
個人的にはとても嫌なキャラを書くというのが目標です。
こいつ、大嫌いだ! と思ってくれれば大成功です。

まったく、誰得だよ。っていうお話が続きますがよろしければお付き合いくださいませ。


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WITHOUT CONSCIENCE

時系列:ヘルマプロディートスの恋 第3話&第4話




 思えば俺はふわふわとした現実感のない世界を生きてきた。

 毎日通う学校も、言葉を交わす友達も、俺を罵る両親も、俺を見て蔑む目の兄弟も……。なんだか俺の居場所はここではないような気がずっとしていた。

 生活の中でのなにもかもが空虚だ。――生きてる感じがしない。

 

 

 深紅のローブ姿をした茅場がデスゲーム開始の宣言をした時、心が高揚した。

 ヒットポイントがゼロになったら本当に死んでしまう。

 思いがけない形で突きつけられた命の重み。

 その事がゲームの世界でありながら圧倒的な現実感を俺に与えてくれたのだ。

 茅場からのプレゼントの手鏡の中の俺が微笑んでいた。

 そうだ、これは天佑だ。この世界を思いっきり生きよう。現実の世界など糞食らえだ。

 俺は喧騒に包まれる≪はじまりの街≫中央広場を後にした。

 

 

 

 

 さて、どういう風にこの世界を生きようか。

 俺はメインメニューで装備とスキルを見ながら考えた。

 普通に考えれば、剣技を高めレベルを上げて行くのが王道だろう。しかし、それでは面白くない。せっかくの新しい世界だ。他にはない生き方をしてみたいものだ。

 ベータテストの時のように生きていけないだろうか?

 考えあぐねていた時にふと、そんな考えが頭に浮かんだ。

 ベータテストの時、俺はいささか他人とは違う遊び方をしていた。

 他のプレーヤーにモンスターをぶつけて殺させたり、直接殺したりしてその装備を奪っていたのだ。

 つまり、この世界で俺は犯罪者。いわゆるPKとして生きていたのだ。

 当然、大多数のプレーヤーに嫌われていたのだが、とても楽しく充実した瞬間を味わう事が出来た。

 普通にこのゲームをクリアしたのでは面白くない。どうせなら自分らしく、思いっきり狡猾に生きてやるのがいいのではなかろうか。

 俺は心の中で頷くと走り始めた。

 

 俺は≪はじまりの街≫の中で一番さびれた街並みに足を踏み入れた。ここに、俺にぴったりのスキルを教えてくれるNPCのシーフギルドがあるのだ。

 シーフギルドの扉を開けるとすでに先客がいた。

 俺が中に入るとその男は鋭い視線をこちらに向けた。明らかにNPCではない反応だ。

 ゲーム開始早々、ここに来る奴なんて俺も含めて壊れているに決まっている。

 俺は横目に見ながらその男の近くをすり抜けてギルドマスターの所に向かった。

 その男の顔は非常に整ったイケメンだった。年齢は俺よりわずかに年上だろうか。現実の姿に戻されたというのにその顔はとても整っており、彫りも深くエキゾチックな雰囲気を醸し出している。きっと純粋な日本人ではないのだろう。

 俺はギルドマスターの前に立ったものの、その男が気になって振り返った。

 その立ち姿に何となく見覚えがある。顔が変わっても立ち方や振る舞い方は変わらないものだ。そして、なにより真っ先にこのシーフギルドに来る人間はそう多くないはず……。俺の頭の中はフル回転し一人の名前を口に出させた。

「もしかして、PoHさん?」

「――ああ、よく分かったな。お前は?」

 こちらを怪しんだのか一拍以上の間を置いた後、PoHは顎に手をやりながら答えた。

「ZAPっす!」

 俺はPoHの疑念を晴らすように明るく答えた。

 ベータテストの時、色々なPKのテクニックを俺に教えてくれたのはPoHだった。何度か組んでPKしまくったから、俺の名前も憶えてくれているだろう。

 PoHもまた、依然と同じようにPKとしてやっていくためにこのシーフギルドに来たのだろう。それだけでなんだか嬉しくなった。

「ZAPか。それにしてもこんなに早くここに来るなんてな」

 俺の名前を聞いて、PoHは表情を緩めると近くにあった椅子に腰かけた。素晴らしい容貌と共にそういう仕草の一つ一つがとても美しかった。

「こんな事になったからには思いっきり楽しもうと思いましてね」

「そうだな。もし、茅場が言った事が真実ならこんなに楽しい事はないな」

 クククと小さい笑い声がPoHの口からこぼれた。

「はい。どうです? 一緒に組みませんか?」

 俺は同じような笑い声をあげながら提案した。「二人でやれば効率よく殺れますよ」

「そうだな」

 PoHが頷くのを見て、俺はメインメニューを操作してパーティー勧誘を行った。しかし、それは速攻でキャンセルされた。

「え?」

「今はスキル上げに集中する」

 PoHはニヤリと不敵な笑顔を浮かべつつメインメニューを操作した。「だが、準備が終わったら殺りまくろうぜ」

 目の前にフレンド登録要請のダイアログが現れた。

「はい!」

 俺は喜んでその要請を受け入れた。「スキル上げって何をするんですか?」

「まず短剣スキルだな。あと隠蔽スキル」

「え? 隠蔽からじゃないんですか?」

「ちゃんと鍛えておかねぇとMPKしかできなくなっちまうからな。お前は今日から殺りまくるつもりなのか?」

「もちろん! 俺は楽しみを後に取っておけないタイプなんで」

 そう言えばPoHはカウンターPK(PKKを返り討ちにする)をやる男だった。その実力はベータテストの攻略組をはるかに上回っていた。今回も同じスタイルをとるつもりなのだろう。

「無茶はするなよ。セーブできないクソゲーだからな」

 その言葉を聞いて俺は小さく笑ってしまった。不審そうにPoHが俺を見つめた。

「いや、リアルと一緒だなって思って。ホント、今までの人生クソゲーだったんで……。でも、今から最高のゲームにしてやりますよ」

 そんな俺の言葉を聞いて、PoHは俺と同じように低く笑った。

「じゃあ、生き残れよ。また会おう」

 PoHはひとしきり笑った後、俺に拳を向けた。

「はい!」

 俺はその拳に自分の拳を軽くぶつけた後、手を広げ小さく振った。

 PoHは小さく頷いた後、扉を開けてシーフギルドから出て行った。

 俺はNPCのシーフギルドマスターに顔を向けた。

「隠蔽スキルを教えてくれ」

「ほう。ものがものだけにただじゃ教えられんが、どうするね?」

 俺の言葉に反応してギルドマスターがニヒルに笑った。とてもNPCとは思えないその笑みに現実感を噛みしめながら俺はなけなしの100コルを手渡した。

 

 

 隠蔽スキル上げは地味な単調作業の連続だ。

 まず、街中の人目がつかない場所でスキルを使う。ある程度、成功率が上がってきたら今度はNPCに話しかけ、視線をこちらに向けさせた状態で修行を始める。視線対象の距離が遠くなればなるほど隠蔽スキルの成功率は上がる。徐々に近づいて行って、ほとんど目の前でも消えるようになったら次は複数のNPCに話しかけて視線の数を増やして難易度を上げる。

 姿を隠しては、NPCに話しかけ、また姿を消して……。そんな単純作業を俺はひたすら続けた。

 そんなこんなで一晩かけて、俺はようやく実用に耐える状態にまでスキルを上げた。

 

 

 次の日、俺は隠蔽スキルをモンスター相手に試した。どの程度の距離をとれば100%隠れる事に成功するか。それを何度も確かめた。

(よし)

 感覚は掴んだ。俺はいよいよ実戦に移る事にした。

 

 最初のターゲットはソロで青イノシシを狩っている奴だ。

 俺は狩場をめぐり、一人のプレーヤーに目をつけた。いかにも初心者っぽい。ソードスキルの立ち上げもなかなか成功せず、青イノシシごときに苦労している。具合のいいことに他のプレーヤーとも離れている。

 こいつは甘い。この世界の厳しさってものを教えてやらなければいけないだろう。支払う授業料はその命ってわけだが……。

 俺は歪む口元を左手で隠しながら、そのプレーヤーのそばを駆け抜けて装備を確認した。ショートソードとバックラー。鎧は安物のレザーアーマー。青イノシシ相手なら十分な装備だ。

 俺はそのまま走り続け、別のモンスターがポップするポイントへ向かった。そんな事をしていると、青オオカミが走り回っている俺に狙いをつけて駆け寄ってくる。青オオカミが3匹ぐらい引き連れる状態になって俺はあのニュービーに向かって走った。

「だ、大丈夫ですか!」

 ニュービーは驚いた表情を俺に向けた。

 俺の後ろには凶暴な青オオカミ3匹が追って来てるのだ。びっくりして当然だろう。まあ、これから奴は地獄を見ることになるのだが。

 敏捷に初期ステータスを振っておいてよかった。俺は青オオカミに追いつかれることなくニュービーまで駆け寄ると≪隠蔽≫スキルを発動した。

 俺の目には自分の姿が透き通って見える。これは隠蔽が成功した事を示している。

「え?」

 ニュービーが戸惑いの声を上げた。

 その間抜けヅラが俺のツボを激しく刺激する。噴き出したら隠蔽スキルが解除されてしまう。俺は大きく歪んで開いた口に手を押し当てて必死に耐えた。

「ガルルル!」

 俺からニュービーへとターゲットが移動して、青オオカミは唸り声と共に襲い掛かった。

「う、うわあああ。助けて!」

 そう叫ぶニュービーのヒットポイントバーが青オオカミに噛みつかれるたびにその幅を減らしていく。

 そこで、俺の想定外の事が起こった。

 近くで狩りをしていたパーティー3人がニュービーの悲鳴を聞きつけ、救援に駆け付けてきたのだ。

(チッ)

 俺は心の中で舌打ちした。これではせっかくの苦労が台無しだ。

 そう思ったが、駆けつけてきたパーティーもニュービー並みに弱かった。

 ミイラ取りがミイラだ。

 カッコよく駆けつけておいて、そりゃねーぜ。

 その無様な行動に腹がよじれるほどの笑いがこみあげてくる。再び俺は声を上げないようにするのに苦労する事になった。行動は勇者だが実力が伴っていない。

「死ぬ! 死ぬ!」

 ニュービーが絶望的な表情で泣き叫ぶ。システムの神は無情だ。ニュービーの心情などお構いなしでヒットポイントバーは青オオカミに引き裂かれた。「ああああああ。死にたくない!」

 

 パリーン

 

 その身体が、恐怖で歪んだ表情がポリゴンのカケラとなって散った。

 俺の背筋に快感の震えが走った。

(すげー! 気持ちいい!)

 俺は青オオカミの殺戮をしびれながら見続けた。興奮のあまり心臓が止まりそうなほど高鳴っている。

 次々と青オオカミに噛み殺され、駆けつけたパーティーも残り一人となった。最後に残った奴はなかなかしぶとかった。どうやら、ソードスキルの使い方は他の奴らより一日の長があるらしい。奮戦して青オオカミ3匹を見事に葬った。

 生き残りの男の前にレベルアップを知らせるメッセージがポップアップした。

「くそ! いったい、なんでこんな事に!」

 その男はレベルアップのメッセージを気に留めることなく、涙を流して地に突っ伏した。「くそ! くそ!」

 大した勇者だ。本当に他人の死を悔しがっている。他人のために泣けるなんて俺にはまったく理解できない。

 3匹目の青オオカミを倒した今、彼のヒットポイントはぎりぎりになっている。それを見た俺の頭に名案が浮かんだ。

 俺はそっと、回復ポーションを地面に置いた。いかにも死んだプレーヤーのドロップ品のように。

 もし、こいつがアイテムの所有権に気づいてこの回復ポーションを飲まなかったら奴の勝ち。気づかずに飲んでしまったら俺の勝ち。

 果たしてこの勝負は?

 俺はニヤニヤしながら勇者の次にとる行動を待った。

 勇者はしばらく仲間の死を悼んで泣いた後、仲間のドロップ品を集めた。死んだ者のアイテムは所有権が喪失しているからこれは問題ない。

 そして、俺の置いた回復ポーションを見つけ手に取った。

(飲め。飲め。飲め)

 口から言葉が漏れてしまうのではないかと心配してしまうほど俺は邪念を送り続けた。

 勇者はそのポーションを何の疑問もなく口にした。たちまち、彼のカーソルが犯罪者を示す≪オレンジ≫に変わった。

 この勝負は俺の勝ちだ!

「アハハハ!」

 もう、こらえ切れなかった。激しい笑いが口から飛び出した。

 笑い声を出した途端、俺の隠蔽は解け姿を現す。

 勇者が驚いてこちらに視線を向ける。その心臓に俺は深々とショートソードを突き立てた。

「え?」

「人の物を勝手に飲むんじゃねーよ。カス! この犯罪者!」

 何が起こったか分からないと目を丸くする勇者に向かって俺は激しく罵った。こいつはもう勇者ではない。俺のポーションを飲んで犯罪者に転落したエセ勇者だ。

「俺は、俺は……」

「死ね! 犯罪者!」

 俺は呆然とするエセ勇者に再び切り付けた。

「俺は、犯罪者じゃ……」

 首を振って、情けない涙を流しながらエセ勇者はその身体を散らした。

 オマケに俺の目の前にレベルアップを知らせるダイアログが現れた。そう、モンスターよりも対人戦での経験値は高いのだ。ましてや、このエセ勇者はレベル2で俺はレベル1。これはとんだご褒美だ。

 俺はエセ勇者の無様な死にざまを思い出して、窒息で死んでしまうのではないかというほど爆笑した。

 最高だ! あの絶望に満ちた顔。あのエセ勇者、本気で泣いてたぜ。この世界は最高だ!

 俺はこの世界で生きている。リアルより輝いている。マジ、アインクラッド最高!

 

 

 

 俺はしばらく青イノシシ狩り狩りを楽しんだ後、毒バチMPKをたしなみ、先ほどのような罠で相手を犯罪者に仕立て上げた奴を倒したりしてレベル3になった。死亡した奴らから奪った装備を売って金に換えた。恐らく、現段階で俺以上の金持ちはいないだろう。

 そろそろ飽きてきた。狩場を移動しよう。次はホルンカあたりがいいだろう。

 そこの≪森の秘薬≫クエストの報酬品であるアニールブレードは初期段階での神装備。これを狙って多くのベータテスターが集まってきているはずだ。

 当然、ニュービー相手とは違って苦労するだろうが、それがいい。そろそろ、対等な相手を殺したくなってきた。

 ホルンカの近く、≪リトルネペント≫の湧く森にはやはり、クエストをやっているプレーヤーがいた。

 俺はその装備を確認するために少し近くを走り抜けた。

 それは男女二人組のプレーヤーだった。

 これといって特徴がない男が盾持ち片手剣で前衛を務め、腰まである長い黒髪の女が後衛を務めていた。

 男の装備はカイトシールドにリングメイル。武器は初期装備のショートソードのようだ。防御に重点を置いて武器はアニールブレードを手に入れる事を前提にしている。それだけでこの男が今までのニュービーと違って歯ごたえがありそうな奴だと分かる。

 女の装備は盾なしのレザーアーマー装備。武器はなんとスリングだ。投擲スキルカテゴリーであるスリングを使うとは珍しい。あんな使えない武器を使うなんて酔狂な女だ。相当にコアなゲーマーなのだろう。

 次に遠くから二人の行動を観察してみる。ポーションローテーションなどの連携はなかなかのもので初めて組んだ相手ではない事が伺えた。

(チッ。リア充かよ)

 さえない男と違って女の顔は非常に整っていた。絹のようにさらさらとした黒髪を揺らし適切な指示を出しながら戦うさまは狩猟の神、アルテミスのようだ。すべてのプレーヤーがリアルの姿に戻されている今、アインクラッドで1,2を争う美少女であろう。その美貌を使えば男どもを虜にして姫プレイも可能ではなかろうか。

 それなのにわざわざ危険な前線に出てきた勇気は称賛に値するが、すでに男がいるのなら用はない。

 俺はこの二人を次のターゲットにすることに決めた。

 滅せよ! リア充! 爆発しろ!

 今、協力し合って麗しい愛を見せている二人が死を目前にしてどのように変わるか……。俺は非常に楽しみになった。

 お互いに罵り合うだろうか? それとも、我先に逃げ出すだろうか? 相手を踏み台にして生き残ろうとしてもがくだろうか?

 いずれにしても――俺が二人とも殺すんだけどな。

 そう考えると自分の口が激しく歪んでいる事を感じた。

 先ほどから口角が緩みっぱなしになって困る。それだけ俺は楽しんでいる。充実している証拠だろう。

 まず、俺は周囲の地形を把握する事から始めた。同時に≪実つき≫のリトルネペントの位置を確認していく。

 ≪実つき≫はその実を破壊すると大きな音と嫌な臭いをふりまき、その音を聞いたリトルネペントが実を破壊した者をターゲットして襲いかかってくるという恐ろしい罠モンスターだ。つまり、MPKの俺にはうってつけなのである。

 地形を把握し、あの二人を葬るイメージが湧いた。

 俺は短剣を振り上げてソードスキルを立ち上げた。

 ≪アーマーピアーズ≫。このソードスキルなら多少リトルネペントが実を防御しようとしても貫通できるだろう。

「セイッ!」

 気合の声と共にソードスキルを解放する。

 俺の攻撃を感知して実を防御しようとするツタを切り裂いて、短剣は見事に身に突き刺さった。

「バァンッ!」

 耳をつんざく音が激しく辺りに響いた。実が破裂した事で不快なにおいがあたりにたちこめ、それに反応して20以上のリトルネペントが俺に向かってきた。

 俺はあの男女二人組のパーティーに向かって走り出した。

 走っているさなかにも二人の無様な死をあれこれと想像していまい、ついつい表情が緩んでしまう。

 駆け寄る俺に気づき、女はスリングから槍に武器を代えて男のそばに駆け寄った。そして、鋭い視線が俺に向けられる。どうやら、俺がMPKだという事に気づいているようだ。さすがにニュービーとは違う。

 しかし逆にニュービーでないだけに、この絶望的な状況を理解するのも早い。女は不安げな表情を男に向けて何やら呟いた。

 俺はそれだけで背筋に愉悦の震えが走った。

(そうだ、もっと俺を楽しませてくれよ)

 クククと笑い声がつい口から洩れてしまった。いけない、いけない。隠蔽スキルを発動する時に声を出して笑わないように気を付けなければ。

「大丈夫。私たちなら。負けない!」

 さらに二人へと距離を詰めると、男が精悍な顔つきで俺を睨みつけて叫んだ。

「うん! 僕たちは絶対、生き残る!」

 男の言葉に触発されたのか、さっきまで不安げで戦意を失っていた女の表情が変わった。

 二人は背中合わせになって防御に徹する構えを取った。

(おもしれぇ。こいつら、マジおもしれぇ!)

 俺の顔は楽しさのあまり、きっと激しく歪んでいるだろう。俺はその二人のそばを駆け抜けた。

 リトルネペントはターゲットに向かって移動している最中でも攻撃可能対象がいれば攻撃を加える。このようにして何度かこいつらにぶつければ死ぬだろう。

 ちらりと後ろを振り返り、二人のヒットポイントがどの程度減ったのかを確認した。女の方は少し減っていたが男の方はほとんど減っていない。

 これはリトルペネントを繰り返しぶつけるより、徹底的にそして確実にやったほうがいいだろう。

 俺は近くの袋小路に入り込み、隠蔽スキルで姿を消した。

 なぜここに駆け込んだかといえば、袋小路は木に囲まれていて俺の隠蔽スキルの成功率にプラス補正を期待できるからだ。案の定、隠蔽スキルは一発で成功した。

 俺が姿を隠すとリトルネペントの動きがぴたりと止まった。俺を見失ったリトルネペントはすぐ近くにいるあの二人に狙いをつけて殺到するだろう。いつからここで狩りをしてレベル上げをしているか知らないが、あの数はさばききれないに違いない。

 まず防御力が低い女が死に、後を追うように男も死ぬだろう。その時、どんな表情を見せるのか……。そう考えただけで、頭が焼き切れそうなほどの快感が襲ってくる。

(イッツ・ショウ・タイム)

 俺の頭の中でPoHの殺戮前の決め台詞が響いた。

 一瞬の静寂。

 動き始めたのは俺のすぐ近くにいたリトルネペントだった。シュウシュウというリトルネペント特有の音を出しながら俺に近づいてきて目の前に止まった。

(え?)

 次の瞬間、リトルネペントは俺にそのツタを振り下ろした。それは俺の肩に激しく打ち下ろされた。

 めくら打ちか?

 俺はこみあげてきた悲鳴をのどの奥に飲み込むと、自分の腕を見て隠蔽スキルの状態を確認する。半透明――すなわち、隠蔽スキルは今も発動中だ。俺の姿は見えているはずがない。

 だが……。

 動きを止めていたリトルネペントは一斉に俺が隠れている袋小路に入ってくる。俺はすっかり取り囲まれ、ツタを振り下ろされ、腐食液を吹きかけられた。たちまち俺のヒットポイントがイエローゾーンの危険域に落ちて行く。

(こんな、馬鹿な!)

 俺は隠蔽スキルが解けるのも構わずその場から逃げ出そうとしたがもう遅かった。通り抜ける隙間もないほど袋小路にはリトルネペントが殺到している。

「なぜだああああああ!」

 呆然と俺は急速に幅を減らしていくヒットポイントバーを見つめた。

 もしかして、こいつらには隠蔽スキルが効かないのか? ここから逃げなきゃ。死にたくない! まだ二日目だ。もっと、俺はこの世界で生きていきたい!

 俺は這いつくばるようにしてわずかに開いたリトルネペント同士の隙間を狙って駆け出す。しかし、すぐに目の前には他のリトルネペントが立ちふさがった。もう、俺のヒットポイントは数ドットしか残っておらず、視界が瀕死の危機にある事を知らせるようにマゼンタ色に染まった。

 その向こうにあのスリング女が袋小路の入り口まで来ているのが見えた。

 俺を助けてくれるのか?

 一瞬、視線が合ったような気がした……。いや、あれは俺を見ていない。

 女は大きな机を実体化させて通路をふさごうとしていた。

(助けてくれ!)

 その言葉を叫ぶ前に俺の身体はカシャーンという破砕音と共に砕け散った。

 視界が暗転する。

 そんな中、俺はこれまでにない快感を味わっていた。

 すげぇ。これで俺は本当に死ぬ。

 俺はこの世界で生きていた。生きていたから死ぬのだ。

 この世界はリアルより輝いていた。マジ、アインクラッド最高!

 やがて暗闇に鮮やかに浮かび上がる簡潔なフォント。

 

≪You are dead≫

 

 ああ、もうちょっとやりてぇな。このゲーム――。

 体験したことがない激しい熱と痛みを感じながら俺は強く願った。暗闇の中できっと俺の顔は満面の笑みを浮かべているだろう。

 




シャイニーン! あたし、輝いてる!
YES!! マキシ様の言う通り!!

あくまで自己中。某聖帝のセリフのように「引きません!」「こびへつらいません!」「反省しませーん!」みたいなキャラクターを書こうとしているのですが、うまくいっている気がしません><

書いている自分が不快になるキャラクター……。まったく誰得だよって感じですが、引き続き書き続けます。

ヘルマプロディートスの恋の時と描写が異なっておりますが、後付け設定のためです。どうかお許しをorz
でも、コーとジークは書いていて楽しいです。ほんと、いいキャラクターです。

次は第7話あたりから引っ張ってこようと思っています。犠牲者多数ですからね。誰を主役にしているか……お楽しみに!(してる人がいるのか? というツッコミ待ち)


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只の人

 
時系列:ヘルマプロディートスの恋 第7話



 第25層迷宮区の中ボス戦も佳境に入っていた。この巨人タイプの中ボス、ギルティタイタンの2本のヒットポイントバーはすでに赤く染まっている。これを倒せば恐らくボス部屋に通じる扉のロックが解除されるはずだ。

 僕はポーションローテーションのため後方に下がっていた。ポーションの効果が表れ、僕のヒットポイントは回復を始めた。

「ポーション飲んだよね? スイッチ行くよ。エッガー!」

 僕の代わりに前衛に入っていたコートニーが長い黒髪の隙間から儚げな瞳をちらりと僕に向けた。

「OK!」

 スイッチ直前のわずかな時間を使って僕は昔の癖でパーティーメンバーのステータスを確認する。

 盾持ち片手剣の前衛はジークリード、レイヴァン、僕の3枚。後衛は斧戦士のマイユ、槍戦士のクイール、そしてスリング使いのコートニー。

 パーティーリーダーのコートニーの適切なヒットポイント管理で誰ものヒットポイントが安全圏だ。

「スイッチ!」

 鋭い声でコートニーが3連撃を放ち、硬直時間に入った。僕はその時間に彼女の前に入る。

「セイヤッ!」

 僕はバーチカル・アークを叩きこんだ。ギルティタイタンの身体に僕の2連撃がV字に刻まれる。

「みんな、ラストアタックはエッガーに取らせてあげて」

 後衛に下がったコートニーがみんなに声をかけた。

「OK」

「了解」

「はい」

「あいよ」

 それぞれから了承の声が上がり、防御に徹するようになった。

「行くぜ!」

 僕はシャープネイルからパーチカル・アークへつなげて一気に勝負に出た。

 ギルティタイタンは末期の絶叫をあげて、粉々に砕け散った。

「よしっ!」

 僕の目の前にレベル37にアップした事を知らせるダイアログが表示された。

「おめでとう!」

「ありがとう」

 僕の両サイドにいたレイヴァンとジークリードから祝福の声をかけられ、僕は二人とハイタッチを交わした。

「おめでとう! これで全員レベルアップできたね」

 後ろからコートニーに話しかけられ振り向いた。そこには満面の笑みでハイタッチを求めるように右手を高々と上げたコートニーがいた。

「あ、ありがとう」

 僕は一瞬ためらいながらも彼女ともハイタッチを交わした。

 彼女はまだ知らない。僕が彼女に対して嫉妬似た憎しみの感情を持っている事を……。

 ソードアート・オンラインはナーヴギアが直接脳波を読み取るためか感情が表に出やすい。この感情は知られてはならない。勘づかれてしまってはいい感じになっているこのパーティーの空気を壊してしまう。

 僕はあわてて他の事を考えて気を紛らわせた。

「じゃ、マッピングをつづけよっか」

 コートニーが明るい声でみんなに声をかけると「おう!」という明るい返事をして彼女を先頭に歩き始める。僕は心にもない微笑みをつくり、その後を追った。

 コートニーがジークリードと共にこのパーティーに参加したのは第13層攻略の時からだ。その時は僕がパーティーリーダーだったのだが、第15層攻略のあたりからいつの間にかコートニーがリーダーに収まっていた。

 僕はそれが面白くない。元々このMTDで僕はエース的存在だった。それなのに今は一般人――その他大勢と同じだ。こういう状況はここアインクラッドに囚われる直前の自分の姿を思い起こさせる。

 十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人。昔の人は上手く言ったものだ。

 まだ、僕は17だけれども、高校に入るまではトップクラスを走っていた人間なのだ。偏差値で言うと60代後半あたりをうろうろしていた。それが、高校に入って学期を重ねるごとに見事につまづいてしまった。

 『努力すれば報われる』なんて言うのは大嘘だ。現実の中、僕は重く重く実感する……。

 

 ――努力で才能は補えない――

 

 僕が徹夜の勉強でようやく理解できる内容を同じクラスの奴は一目読んだり聞いたりするだけで理解できてしまうのだ。

 オマケに気分転換で買ったこのソードアート・オンラインでログアウトできないなんていう馬鹿な事件に巻き込まれてしまった。もう、リアルの僕の人生は終わった。あれから半年経っている。間違いなく同じクラスの連中は進級している中、僕だけ留年だ。ひょっとしたら退学させられてるかも知れない。

 リアルの僕の人生が終わったのなら、せめてソードアート・オンラインの世界で名を残すぐらいの事をしなければ。そう考えて今まで打ち込んできた。そのおかげで僕はベータテスターではなかったけれど、努力を重ねてMTDの主力として名を知られるようになっていた。

 そんな時だ。コートニーが僕のパーティーに加入してきたのは。

 そこで僕は再び痛感する事になる。

 

 ――この世界でも、努力で才能は補えない――

 

 コートニーの才能は本物だ。戦闘にスリングなんてふざけた武器を使っているが、その特性を生かした戦い方は僕には思いつきもしなかった。それに、全体を見渡す視野の広さ。そこから来る適切な指示。戦闘効率のそつのなさ。

 どれをとっても僕はかなわない事を痛感した。パーティーリーダーの座を明け渡す事になってしまったのは当然の流れだ。

 僕も努力した。もう、僕にはこの世界しか残されていなかったから……。

 けど、駄目だった。どんなに時間をかけても、やり方を工夫しても駄目だった。

 どれほど頑張っても努力で才能は補えないという真実を自分の身で証明するだけだった。

 僕は索敵スキルを使いながら先頭を歩くコートニーを複雑な心境で見つめた。彼女は僕のそんな苦労も知らず、僕ができない事を軽々とやってのける。

 どうして、この世の中は不公平なのだろう。なぜ、物理の数式のように力を加えた分だけ結果が現れるようになっていないのだ。

「睨みすぎ」

 突然、耳元でレイヴァンに囁かれて僕は身をのけぞらせて横へ跳んだ。

(見られた!)

 僕はどんな表情をしていただろう? 『見つめすぎ』ではなく、『睨みすぎ』と言われたからには相当ひどい顔をしていたのだろうか。

「大丈夫。ただ、気をつけてね」

 レイヴァンは柔らかな笑顔で僕を見てそう言った。

 レイヴァンとはほぼゲーム開始時からの付き合いだ。こいつは僕の気持ちを分かってしまっているかも知れない。人の事を言いふらすような男ではないからその点は安心できるが、自分の心を読まれたかもしれないのはあまり面白くなかった。

 

 

 

 中ボスが立ちふさがっていた扉を通り抜けしばらく歩くと、僕たちは不気味な大きな扉にたどり着いた。これは間違いなくボス部屋の扉だ。

「これ、ボス部屋だよね」

 ジークリードがコートニーの首元を掴みながら言った。

「うん。間違いないね……ってなんで捕まえてるの?」

 コートニーが怒気を孕んだ視線をジークリードに送りながら言った。

「また一人でボス部屋に突っ込んで行くつもりでしょ? おかげで24層はひどい目に遭ったからね」

 呆れ顔で深いため息をついて、恨みがこもった目を向けた。

「ああ、分かってるよ。もう、あんなことしない」

 コートニーは身をひねってジークリードの手を払いのけて睨みつけた。

 はた目には一触即発の雰囲気の二人だが、僕たちはもうこの二人のやり取りは飽きるほど見ているから分かる。これは冗談だ。

「えーっと。夫婦漫才はそのくらいにして、ボス部屋の場所が分かったから街に帰ろうぜ」

 レイヴァンが爆笑しながら声をかけた。

「そうそう。もう、腹減ったぜ俺!」

 マイユが斧を肩に担ぎながらため息をついた。

「「夫婦じゃない!」」

 二人は打ち合わせをしたようにぴったり声を合わせて否定の声をあげた。

「はいはい。まだ! 夫婦じゃないね」

 『まだ』を妙に強調してクイールが言うと、コートニーはキッとした目を向けた。

「街に戻ろ!」

「うん。そうしよ」

 ジークリードが言うと、二人の視線がぶつかった。途端に二人の顔が朱色に染まって固まった。ソードアート・オンラインの世界は感情表現がオーバーになる傾向がある。リアルであれば頬を染める程度だったかも知れないが、今の二人は顔全体が真っ赤になって湯気まで見えそうだ。

「じゃあとっとと帰ろうぜ!」

 僕たちはそんな二人を見ながらクスクスと笑って街に戻る事になった。

 

 

 

 街に戻り、パーティーメンバーで食事をとった。その後、コートニーはマップデータの統合のためギルドのリーダー会に向かい、僕たちはそのまま雑談になだれ込んだ。

「にしても、ジークリードはいいよなあ。コートニーさんと夜も毎日……」

 マイユが顔をでれっとさせて言った。酒も飲んでいるせいだろう、顔も赤く染まって口調もあやしい。

 このゲームでは酒に年齢制限がないので僕も飲んだことがあるが妙に楽しい気分になるし、ふわふわとした不思議な感覚になれる。酒に依存する大人がいるのも理解できた。

「また、その話ですか。マイユさんが思っているような事は一切ありませんから」

 ジークリードはうんざりとした表情でため息をついた。そう言えば彼のドリンクはいつもソフトドリンクだ。酔ったところは見たことがない。

「だってさあ」

 マイユはグラスを揺らせながらクダをまくのをやめなかった。「サービス初日からずっと一緒なんでしょ? あんなかわいい子と毎日一緒の部屋で……って考えると、うらやましい!」

 ジークリードはこういう話は苦手のようで、いつもニコニコしながら黙り込んでしまう。

「これだから、おっさんは困るねぇ」

 沈黙で凍りつきそうになった時、クイールが絶妙なタイミングで合いの手をいれた。「じゃあ、お前も彼女を見つければいいんだよ」

「だめだめー。俺の名前でアウトだよ。あーこんな事になると分かってたら、女みたいな名前にしなかったのに」

 マイユは頭を抱えて机に突っ伏した。

 その様子を見て、クスクスと笑い声が上がった。

「じゃあ、私はこれで」

 ひとしきり笑いがおさまったところで、ジークリードは微笑みを浮かべながら席を立った。

「コートニーちゃんの帰りを待たないの?」

 マイユが机に突っ伏したまま視線をジークリードにむけた。

「どうせ一緒の部屋で会うじゃん」

 クイールがそう言うと、「ああ、そうかあ。いいなあ」と、マイユは再び机に沈んだ。

「こいつの事は気にせずに、帰って大丈夫」

 僕はジークリードに手を振った。

「すみません」

 ジークリードは礼儀正しく頭を下げた。

「うん。お疲れー」

 そんな声に送られて彼は酒場を出ていった。

 

 それからしばらく僕たちはあれこれと無意味な雑談を続けた。

「それにしても、ジークリードって心底、紳士だよなあ」

 ようやく酔いが醒めたのか、机に突っ伏していたマイユがそう言いながら身体を起こした。

「でも、あまり男っぽくないよな。なんか力強さに欠けるというか」

「それを言ったら、コートニーちゃんは女っぽくないよな」

「それは悪うございました」

 突然現れたコートニーがむんずとマイユの首を掴んだ。

 コートニーの服装は男女共通装備であるチュニックにパンツスタイルだ。武装解除してる時の彼女の姿はその美貌を台無しにするほど男っぽいものだった。

「げ、やばっ! ギブギブ」

 マイユはギブアップの意思表示で絞め上げるコートニーの手をタップした。

「んー? 与えて与えて? もっと絞めて欲しいのかな?」

 ニヤリと微笑みながらさらに絞め上げる。

「ちゃうちゃう! ギブアップ、ギブアップ!」

 コートニーに締め上げられ、マイユの身体は宙に浮いて手足をじたばたとさせた。ゲームの中の世界とは言え、線の細い美少女が中年男性の首を絞め上げている姿はなかなかシュールだ。

 街中なのでダメージ判定は起こらない事は承知の上なので、みんな笑いに包まれる。

「あれ? ジークはいないの?」

 コートニーはマイユを持ち上げたまま僕に聞いてきた。

「少し前に帰ったよ」

 ちゃんと僕は笑えているだろうか? そんな心配をしながら答えた。

「そっか」

 コートニーはぱっと手を放してマイユを解放した。

「現実だったら死んでたよ俺」

 マイユが苦笑しながら首をさすった。

「明日、午前中に攻略会議をやって、午後2時からボス攻略だって。いつもみたいに現地集合でいい?」

 コートニーがギルドからの連絡事項を伝えた。

「了解~」

「じゃあ、僕、帰るね。お疲れ様」

「おつかれー」

 みんなからの言葉にコートニーはにっこり笑いながら手を小さく振って宿屋から出て行った。

 

 その後、しばらく飲み会は続いた。なにしろ、ソードアートオンラインにはテレビやネットサーフィンのような一人でやるような暇つぶしコンテンツがない。寝るまでの時間はスキル上げにあてるか、今の僕たちのようにだべって過ごすことになる。

「僕もそろそろ寝るかな」

 不意に襲ってきた眠気と共にあくびをして僕は立ち上がった。

「おう。おつかれー」

 マイユとクイールが手を振った。

「あ。エッガー」

 立ち上がって声をかけてきたのはレイヴァンだった。「明日の午前中、ボス攻略戦の買い出しに行くでしょ? 一緒に行かない?」

「うん。分かった」

 特に断る理由もなかったので僕は頷いた。

 

 

 

 

 次の日の朝。ボクとレイヴァンは約束通りボス攻略前の買い出しに街へ繰り出した。

 プレーヤーメイドの装備を見ながら必要があれば購入するが、ほとんどはポーションや結晶アイテムなどの消耗品アイテムの補充が目的だ。

「まいどありー。これからもひいきにしてくれよ、兄ちゃん!」

 NPC店員が明るくレイヴァンに言った。

「なんか、すごくいっぱい買ってなかったか? また、結晶アイテム?」

 僕があきれながら言った。

「たくさんないと、なんか不安でさ」

 レイヴァンは笑いながら頭をかいた。

 レイヴァンは結晶アイテムマニアだ。普通は転移結晶、回復結晶それに解毒結晶ぐらいしか持たないプレーヤーが多い中、止血結晶、浄化結晶、照光結晶など、役に立つかどうか怪しいものまで取り揃えている。さすがにレアアイテムの回廊結晶までは持っていないようだが……。

「あれだけ持っててよく間違えないな」

「間違えても、エッガーがいるからさ」

 ニコリと笑いながらレイヴァンは僕を見つめてきた。

「は?」

「頼りにしてるぜ、相棒!」

 レイヴァンは肘をコツコツとぶつけてきた。

「なんだよそれ」

 僕はあきれてため息をついた。

「俺は少なくとも、コートニーちゃんより頼りにしてる」

「な、何言ってるんだよ」

 レイヴァンの言葉に僕は息を飲んだ。

「長い付き合いだから、それぐらいわかるぜ。っていうか、コートニーちゃんを睨みすぎだよ。あれじゃ、いつかみんなにバレちゃうぜ」

「そんなに睨んでた?」

「うん」

「そっか」

 やはり感情を隠し通すのはソードアート・オンラインでは難しい。

 それから、僕は黙り込んでしまった。

「エッガー。お前はすごいよ。ベータテスターでもないのにここまで強くなってるのはそうたくさんいないぜ」

「慰めの言葉なんていらないよ。それに、ここまで来るともうベータテスターの優位性なんてないだろ」

 突き放すようなとげとげしい口調で僕はレイヴァンを置き去りにして店から出た。

「とにかくさ。俺は頼りにしてる。それは忘れないでくれよ」

 レイヴァンは僕を追いかけてきて言った。

「なんで、そこまで僕を……」

「なんでって、友達だからさ」

「友達……」

 片言のようにその単語を呟いた。

 僕に友達なんていなかった。高校に入るまで身の回りの連中は全員、僕を引き立てる存在であったし、高校に入ってからは僕の敵だった。

「あれ? 友達って思ってたのは俺だけだったのかな?」

 僕の反応はレイヴァンの予想外だったらしく、戸惑いながら頭をかいた。

「そっか、友達か……」

 それは新鮮な感覚だった。

 僕はずっと上を見て生きてきた。けれど、同じ場所から手を携えてくれる仲間がいる。いかに僕は周りを見てこなかったんだろう。とても恥ずかしい思いになった。

「ありがとう」

「な、なんだよ。あらたまって言われると照れくさいじゃんか!」

 レイヴァンはにっこりと笑って拳を僕に突き出してきた。「まあとにかく、今日のボス戦も頼むぜ。相棒!」

「おう」

 僕は拳を合わせて微笑んだ。意外と心地いい。友達というのはいいものかもしれない。

 それから僕たちはポーション補充、そしてプレーヤーの露店めぐりをしてボス戦に参加するために集合場所に向かった。

 

 

 

 

 「では、いきましょう」

 落ち着いた声でMTDのギルドマスター、シンカーはボス部屋の扉を開いた。

 雄叫びをあげながら攻略組は次々とボス部屋に突入した。

 暗かったボス部屋に明かりが灯され、部屋の隅々まで明らかになる。一番奥に巨大な椅子があり、そこに鎮座していた双頭の巨人が雄叫びをあげて立ち上がった。

 迷宮区で見てきた巨人よりはるかに巨大で、その体躯にふさわしい暴虐的なハンマーを両手に装備していた。

 双頭の巨人がこちらに向かって走ってきた。

「おいおい。ヒットポイントバーが五本もあるぜ」

 レイヴァンが僕の隣でゴクリとツバを飲み込んだ。

「我々MTDが攻撃を受け止めます。そのほかの方は周りから攻撃を!」

 シンカーの声にそれぞれの気合が入った雄叫びで返事があった。

 MTDの左翼三隊は左からコートニー、シンカー、マサ。右翼三隊はダンコフ、キバオウ、コーバッツで構成されている。ダメージを受けても十分にスイッチで回していける陣容だ。

 唸りを上げて巨人が右の戦槌をマサのパーティーに振り下ろした。

 それほどスピードはない。マサのパーティーメンバーは余裕で躱した。地響きを上げて、戦槌は誰も巻き込むことなく地面にめり込んだ。

「ぐあああああああ!」

 双頭の巨人の攻撃を完全に躱したはずのマサのパーティーメンバーが悲鳴を上げた。

「こんなことって!」

 コートニーが信じられないといった叫び声をあげた。

 僕も目を疑った。戦槌を避けたマサのパーティーメンバーのヒットポイントが一気にイエローゾーンに入り、今もなお減り続けているのだ。

 なにが、どうなってるんだ? 範囲攻撃? 命中してないのにイエローまで減るって事は直撃を受けたら一撃死してしまうのか?

 僕は呆然とその光景を見つめた。

「シンカーさん! マサさんを下げて、他の隊を前に!」

 コートニーが鋭い声をシンカーへ飛ばした。

 やはり、彼女は僕より優れている。このような状況にも関わらず、最善の手段を求め指示を出している。

「はい。マサさん。下がって! 私たちが前に」

 シンカーが後追いで指示を出した。

 そんな時、巨人が雄叫びを上げて右足を振り上げた。

「みんな下がって!」

 一体何をするつもりだ? そう考えた時、コートニーの鋭い指示が飛んだ。

 戸惑いながらパーティーメンバー全員が後ろに下がった。

 巨人が右足を振り下ろすと大音響とともに地面が大きく揺れた。まともに立っている事もできず僕は転倒した。

 周りを見るとボス部屋に入った攻略メンバーのほとんどが転んで床に這いつくばっている。

 僕の目の前で巨人が左戦槌を転倒して無防備な状態を晒しているマサのパーティーに振り下ろした。

 悲鳴も聞こえなかった。ポリゴンの破砕音すら叩き潰されたようだった。そして、その周りにいたシンカーとダンコフのメンバーのヒットポイントがイエローに落ちて行く。

 左戦槌が持ち上げられると、そこにいたはずの人間の姿はなかった。

「こんなの……めちゃくちゃだ」

 さすがのコートニーも絶句しているようだった。

「うああああああああ!」

 恐慌をきたしたコーバッツのメンバー3人が転移結晶を使った。「転移! はじまりの街!」

 転移結晶に反応して、双頭の巨人はその3人に右戦槌を振り下ろした。

 転移結晶による転移は瞬時には行われない。数秒間、無防備になる。双頭の巨人はそれを狙っているのだ。こんなAIは今まで搭載されていなかった。

 戦槌の直撃を受けた3人は転移結晶の輝きと共に粉砕された。

 巨人は雄叫びをあげて、再び右足を振りおろし大地を揺らした。そこから再び殺戮の嵐が吹き荒れた。

 コーバッツのメンバーが二人、さらにシンカーのメンバーが二人。命を散らせた。

 これが、死……。

 思い返してみると、僕は人の死を見せられたのは今回が初めてだった。

 最前線に立っていたとはいえ、ヒットポイントに余裕を持ってポーションローテーションしてきたし、ボス戦でもダメージコントロールをしっかりしていれば死ぬことはないと高をくくっていた。

 一撃で死んでしまうモンスターなんて馬鹿げている。そうだ。茅場は僕たちを生きてここから出す気がないのだ。こんな奴と戦うなんてできっこない!

 死ぬのは嫌だ!

「みんな、固まって。回復優先。回復結晶とハイポーション、すぐ使えるようにして。ケチらずどんどん使うんだよ!」

 コートニーが鋭い声で指示を飛ばした。

 戦う気なのか? 冗談じゃない。こんな奴と戦えない!

 僕は転移結晶を手に取った。

「え?」

 レイヴァンが目を丸くして僕を見た。

「ごめん」

 僕は恐怖心で声が震えていた。「転移! はじまりの街!」

 転移結晶が砕け、僕の周りが光に包まれた。

 転移結晶に反応して双頭の巨人が僕を睨みつけて戦槌を振り下ろしてきた。

 僕はここで死ぬのか? 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!

 転移結晶が発動して何も行動できない僕は震えながら巨人の戦槌を見つめるしかなかった。

「受け止める!」

 ジークリードが雄々しく叫びながら刀身をソードスキルで輝かせた。

 まさか、あの重い戦槌をパリングするつもりなのか? そんなの無理だ!

「うん!」

 コートニーが槍を握りしめてジークリードの隣に立った。「みんな力を貸して!」

「おう!」

 マイユ、クイールそして、レイヴァンが僕を守るために巨人の戦槌に立ち向かった。

 周りの風景が光の中に溶けていき、やがて見慣れたはじまりの街の風景が浮かび上がった。

(生き延びた……)

 僕は震える足を引きずりながら二、三歩踏み出すとバランスを崩してその場に倒れ込んでしまった。痙攣したように全身が恐怖で震える。

 僕のアインクラッド攻略はここで終わった。

 

 

 

 ボス部屋から逃げ出してから数時間後、僕はギルドメンバー表を見た。

 コートニーの位置は見たことがない街名が表示されていた。という事はあの双頭の巨人を倒して次の層に進んだという事か……。あんな化け物をどうやって倒したというのだろう。

 やはり、僕は彼女に敵わない。恐怖に囚われ逃げ出した自分が嫌になった。

 僕はコートニーにメッセージを送った。ただ一言『ごめん』と……。

 送らなかった方が良かったかも知れない。けれど、何もしないのも気が引けたので、これでいいだろう。

 僕はギルドメンバー表で他のメンバーの無事を確認した。

(レイヴァン……レイヴァンの名前が……)

 ギルドメンバー表を確認していた僕の指が震えた。

 レイヴァンの名前が非アクティブの状態になっていた。普通のゲームであればログアウトしているという事だ。しかし、このソードアート・オンラインは普通のゲームではない。ログアウトというのはこの世界からの退場。すなわち死を意味している。

 その薄暗くなった名前を見ても僕は信じられず黒鉄宮のかつて≪蘇生者の間≫と呼ばれていた部屋へ走った。 

 

 教会の大聖堂のような厳粛な雰囲気の≪蘇生者の間≫に僕は入った。

 高さは150センチほど。幅は20メートルはあるだろうか。その表面にプレーヤーの名前がアルファベット順にぎっしりと刻まれている。これにソードアート・オンラインに囚われた全プレーヤーの名前があるのだ。

 『Leyvan』その名前には冷酷に線が引かれていた。

 信じられない。つい数時間前に僕と話をしていたのだ。

『頼りにしてるぜ、相棒!』

 とニコリと笑った姿は僕の頭に焼き付いているのに、もう二度と会話をすることができない? そんな馬鹿な話があるか。

 僕はその名前をそっと撫でた。死亡した日時と原因がポップアップした。

 死亡原因は打撃属性ダメージ。時間を見ると僕が逃げ出して間もなくの事だと分かった。

『あれ? 友達って思ってたのは俺だけだったのかな?』

 数時間前のレイヴァンの言葉が僕の心を切り裂いた。

 レイヴァンが死んだのはきっと僕のせいだ。

 僕は――レイヴァンを裏切った。恐怖に駆られて逃げ出した時、レイヴァンの事など考えてもいなかった。

 レイヴァンは僕の事をどう思っただろうか。僕を恨みながら死んでいったのだろうか。

「ごめん……ごめんレイヴァン……」

 胸が締め付けられ、あふれてきた涙が止まらない。全身の力が抜けて僕はその場に崩れてしまった。

 僕は初めて得た仲間、友達をたった数時間で失ってしまったのだ。

 

 

 

 

 それから僕はMTDを抜け、一人でアインクラッドをさまよった。

 そこで僕は気づいた。もう戦闘が出来なくなっている事に。

 怖いのだ。はじまりの街周辺にいるワームを相手にしても震えが来て戦えなかった。

 対戦するモンスターが威嚇の雄叫びをあげるたびに第25層の巨人に無残に殺されていった仲間たちが頭をよぎると恐怖心に全身を支配されて動けなくなってしまう。レベル差があって死ぬわけがないと頭で分かっていても駄目なのだ。たった1発のソードスキルを叩きこめば楽勝なのに、それすら出来ない。ソードスキルを立ち上げようとしても震えが来てキャンセルされてしまうのだ。

(もう、僕は駄目だ)

 僕ははじまりの街のベンチに座ってため息をついた。

 はじまりの街周辺のモンスターすら倒せないのではお話にならない。

 最前線でも通用するこの装備も今となっては滑稽だ。僕にはもう必要ない。売り飛ばしてしまおう。

 僕は暗澹たる気持ちで地面を見つめた。

 所詮、僕は只の人以下の存在だったのだ。才能は無く、勇気も無く、たった一人の友達の期待にすら応えられなかった。

 そのくせ、ただ自尊心が肥大化した醜い男。それが僕だ。

 もう、何もできない。僕はまるで生きる屍だ。かといって、外周から飛び降りて自殺する気概も無い。ただただ漫然と日々を過ごすだけの存在。NPCと同じ――いや、極言すればそこらに転がっているオブジェクトと一緒だ。ただ、そこに在るだけの存在……。

 不意に頭を殴られたような衝撃が走った。

(な?)

 辺りを見渡すと僕の頭に落ちてきたと思われる黄色い果実が音を立てて地面を転がっていた。大きさはヤシの実ぐらいだろうか。僕はあわててそれを拾い上げると上を見上げた。

 そこには街路樹があった。よく見ると葉陰に手にしている物と同じ果実が実っていた。

 今まで全く気付かなかったが熟すと下に落ちてくるのか。

 僕はその果実を口にしてみた。

(うまい!)

 久しぶりの食事だった。

 もう、これでいいや……。僕はこの果実だけで生きて行こう。そのうち攻略組が第100層に達してゲームクリアをするか、外部から救いの手が差し伸べられるだろう。

 自己満足の名誉心、贅沢な虚栄心など求めなければ、命を危険にさらして戦う必要もない。

 向上心がない人間、底辺の男などと言われようがどうでもいい。

 だって僕は最低の人間なのだから。

 僕は何のために生きているの?

 ホント、僕はくだらない只の人以下の存在だ。

 次の果実の落下を待って、僕はうつろな気分で街路樹を見上げた。

 




こうして、原作2巻の朝露の少女に出演というわけです。

友の思いを胸にリベンジする事も放棄して、自分のためだけにただ生きる。
それなりに優秀な人なのに、死の恐怖と友達を裏切ったという自責の念が彼の心を壊してしまいました。

次回はずずずいっと飛んで24話のティアナさんが主役です。


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復讐よりも――


時系列:ヘルマプロディートスの恋 第24話
 


 第32層の外れにある安全地帯の洞窟。そこがオレンジギルド≪ムーンレス・ナイト≫のアジトだ。オレンジギルドと言ってもゲームシステム的に犯罪者とされるオレンジネームの者はあたし以外にいない。

 ムーンレス・ナイトはグリーンネームのままPKを行うギルドだからだ。

 システム的に犯罪者とならずに他人を殺す方法はいくつか存在する。

 凶悪なモンスターを意図的にぶつけてプレーヤーを殺すMPK。街中で睡眠中のプレーヤーに完全決着モードのデュエルを受諾させて殺す睡眠PK。あるいは罠を仕掛けて相手を犯罪者に仕立て上げた後に殺すフラグPK。

 真正面からPKする≪ラフィン・コフィン≫が攻略組によって討伐された事もあって、今はこういうグリーンネームの状態でPKを行うのが主流となっている。

 

 今日はフラグPKに失敗し、メンバー全員が荒れていた。

 あたしにのしかかっている男が激しくあたしを突き上げる。激しい鼻息が耳元に吹きかけられ、とてもなく不快だ。

 いつもなら、各人1回で終わる所が今日は荒れていたためかこれで2周目だ。でも、それもこいつで終わり。いくらなんでも3周目はないだろう。

 PKした後はいつもこうだ。あたしはこの男たちの慰み者になって凌辱される。

「もう、ダメー! 壊れるぅ!」

 あたしはさっさとこの行為を終わらせるためにわざと絶頂に達したような声を上げ、痙攣したように全身を震わせた。

「うっ」

 狙い通り、男はあたしの中で果てると、もう用済みとばかりに離れて行った。

「なんだよ。早すぎっだろ」

「うっせ。イッる女は締め付けが激しいンだよ。これも俺のテクのたまものだな」

「そりゃーお前の前にヤッた俺のおかげじゃねーの?」

「バカ言ってんじゃねーよ」

「それにしても、ティアナ完全に堕ちたよな。もう、俺たちなしじゃ満足できねーんじゃね?」

 男どもは下卑た笑い声をあげながらこちらを見た。

 あたしは失神を装い、身体を時折震わせながらそのままでいた。

 冗談じゃない。あたしは肉欲に堕ちてなんかいない。こいつらはあたしから夫も幸せな生活も奪った。

 絶対に許さない。一人残らず殺す!

 

 

 つい3カ月前まであたしは幸せだった。高校3年生でこの世界に捕らえられ、絶望していたあたしに希望を与えてくれたのは一人の男性プレーヤーのマリイだった。

 出会いとしては最悪だった。サービス初日、女の子だと思ってパーティーを組んでいたのがマリイだった。それが、茅場のプレゼントの手鏡で元の姿に戻された時、あたしは絶句した。

 可愛い姿をした女性キャラのマリイの中身はブサメン大学生だったのだ。

 もっとも、そんな事よりログアウト不可、ゲーム内で死んだら本当の身体も死んでしまうというデスゲームに囚われた事の方がショックだったからマリイの事などすぐに忘れた。

 それから1年後、狩場で再会して言葉を交わすようになった。そしていつしか――あたしの一番大切な人になった。

 本当、人生なんて分からないものだ。

 あたしはマリイの優しさに魅かれ、彼は……あたしの厳しさがいいって言ってた。確かに「もっとしっかりせんかい!」と激しい言葉を浴びせる事が多かったが……。まったくマリイの嗜好は良くわからない。

 ゲーム内とはいえ、あたしたちは結婚して幸せな生活を送っていた。――こいつらに襲われなければ――。

 マリイは優しすぎたのだ。

 二人で狩りをしていた時、モンスターに追われ助けを求めてきた瀕死のオレンジネームを彼は助けてしまった。それが、こいつらの罠だった。

 オレンジネームになってしまったマリイをこいつらは殺し、あたしは色つきとなったマリイを助けたためにオレンジネームの状態で捕らえられた。

 このソードアート・オンラインでは女性プレーヤーがとても少ない。あたしがもし男だったらこいつらはあたしも殺しただろう。

 だけど、あたしは女だった。こいつらはあたしの女という部分を利用する事にしたのだ。

 あたしはマリイが殺されて数分も経たないうちにギルドマスターのレイストに無理やり結婚を承諾させられ、さらに倫理コードを無理やり解除させられギルドメンバー全員に代わる代わるレイプされた。

(死ぬのはいつでもできる。こいつらは絶対許さない! いくら時間がかかっても必ずみんな殺してやる!)

 愛のない交わりの中、あたしはそう決意したのだ。

 それからあたしは仲間になるふりをして、そのチャンスをうかがっている。

 すでにあたしはメンバー三人を殺している。一人は密かに、もう二人はギルド内の疑心暗鬼に付け込んで、お互いを戦わせて生き残った方に罪をなすりつけて他のメンバーに殺させた。残りは五人。チャンスを見て必ず全員を殺してやる。今は我慢だ。

 

「それにしても、もうあんな上玉を狙えることはないだろうなあ」

「みんなのアイドル、シリカちゃん。ハスハス。はぁはぁ」

「息くせー」

「この世界は臭わねーだろ!」

 男たちがガハハと笑いあった。

(シリカが巻き込まれなくてよかった)

 あたしは心底ほっとしながらそう思った。あたしと同じ目にあったら、きっとシリカの心は壊れてしまっただろう。

 みんなからちやほやされているアイドルを罠にかける。

 実をいうと最初はそれほど罪悪感はなかった。そんな事より復讐が優先だったからだ。でも、シリカと言葉を交わし一緒に行動するうちに彼女を助けたくなった。その理由は自分でもよくわからない。なんとなくとしか言いようがない。

 しかし、復讐も果たさなければならない。ここでこいつらに逆らっては復讐のチャンスが減ってしまう。

 あたしはそんな板挟みの中、今日のFPKを決行した。

 突然、血盟騎士団の男女二人組が乱入してきて、あたしは心から安堵した。さらに乱戦になればこいつらを殺す機会もあったかも知れないが、実力差があまりにも大きかった。

 血盟騎士団の女剣士一人にこちらの5人は手も足も出なかった。乱戦になれば一人ぐらい殺せたかも知れないが、こればかりは仕方がない。シリカが助かっただけでも良しとすべきだろう。

 あんないい子を地獄に突き落とすことにならずに本当に良かった。

(それにしても最前線で戦う攻略組の血盟騎士団メンバーがこんなところにいたのだろう?)

 それを考えた時、あたしの中で一つのアイディアが浮かんだ。

 

 その日の夜。あたしはギルドマスターのレイストの部屋に入った。

 洞窟に資材を運び込んで作った部屋は販売されているプレーヤーハウス顔負けの出来だ。

「ティアナか。なんだ」

 ソファーに腰かけていたレイストは下卑た目で、半裸に近いあたしの身体を見つめながら言った。

「隣……に座っていいですか」

 あたしはしおらしく恥ずかしそうに視線を投げかけた。

「どうしたんだ?」

 ペロリといやらしくレイストが唇を舐めてからあたしを左隣に座らせた。

「あたし。怖い……」

 身体を震わせ、両手で自分を抱きながら、レイストに寄りかかった。

「なんだよ」

 レイストはあたしの左肩に手を回して抱き寄せながら右手で太ももの内側を柔らかくまさぐる。まったく気持ちが悪い。

「あの、KoBがここを襲ってくるんじゃないかって……」

「ンなわけあるかよ」

 レイストの右手が下腹部、そして胸へと移動する。「考えすぎだ」

「でも、今日、あんなタイミングでKoBが来るなんて。おかしいじゃない。きっと、誰かが……」

 あたしのこの言葉で一瞬だが、レイストの手が止まった。

 今日の所はこれでいい。疑念の種がレイストの頭の隅に蒔かれたはずだ。後はせっせと水をやって大きく育てればいい。狙いはこのギルドナンバー3のリーンハルトだ。

 レイストとリーンハルトの間に微妙な亀裂があるのをあたしは見逃していない。

「怖いのなら、俺が忘れさせてやる」

 レイストはそう言って、あたしをソファーに押し倒した。

 この男たちは馬鹿ばかりだ。本当の恐怖はこんな行為で忘れるわけがないのに。

 この行為はむしろ――憎しみをあたしの心に植え付ける。

 あたしはレイストの頭を抱きながら天井を見つめ、次の策を考える。

 そして、レイストが責めたてる身体の事は心から切り離した。

 

 

 

 あたしは夢を見た。

 いつも優しく微笑んでくれるマリイがあたしを厳しい視線で見つめる。

「そんな顔しないでよ。あたしはあなたの仇を取りたいの」

 あたしはマリイの腕を取って必死に語りかけた。しかし、言葉はなくマリイは睨みつけてくるだけだ。

「なに怒ってるの! あなたが死んじゃったからいけないのよ! 悔しかったら生き返りなさい!」

 大切なものを取り上げられて、ぐずる子供のようにあたしはマリイを抱きしめながら泣き叫んだ。

 マリイの身体が氷のように冷たい。

 その冷たさがあたしの暖かさを奪う。

 あたしの心の中の暖かさは全部マリイがくれたものだ。元々、あたしは冷たい女だ。冷酷で計算高くて他人の愛情なんてマリイに出会うまで信じられなかった。

 だから、マリイにこの暖かさが奪われても仕方ない。与えてくれた物は返さなければいけないから。

 身体が――心が――凍りつく。あたしは本来のあたしに戻って行く。冷淡で無慈悲で残虐で人間不信のあたし。

 抱きしめていたはずのマリイはもういなくなっていた。

 

 マリイに……棄てられた。

 

 それだけは理解できた。

 名残惜しそうにあたしの心の温かさの最後の一滴が目から雫となってこぼれる。

 氷のいばらに包まれて、あたしは凍りつく闇に独り……。

 絶対零度の殺人衝動だけがあたしの支え。あいつらは絶対に生かしておかない。

 

 

 

 

 次の日の朝。あたしはオレンジからグリーンに戻るため、カルマ回復クエストをやる事になった。

 カルマ回復クエストはいくつか用意されているが、比較的安全とされる第11層の≪信仰者の礎≫というクエストをやる事にした。

 このクエストの受ける場所と達成する場所の周辺にはオレンジネームのNPCが多数湧いている。このため、あたしのような脱色目当てのプレーヤーを狙うグリーンネームが近づいてこないというメリットがある。もちろん、クエスト達成でグリーンネームに戻った場合は転移結晶で跳ばなければひどい目に遭う事になる。

 グリーンネームに襲われにくいというメリットがあるが、カルマの回復量が少ない。恐らく5日ぐらいかかるだろうか。この間、他の男たちは普通に狩りやMPKを楽しんでいる。

 この隙に逃げる……なんて事はアインクラッドではできない。なぜなら、同じギルドに入っているのだ。どこに隠れようとギルドメンバー表でバレてしまう。ギルド脱退には申請が必要だから、逃げる手段はない。

 つくづく狡猾な奴らだ。あたしには見えない鎖でつながれている状態なのだ。

 もっとも、あたしは逃げ出そうなんて考えていない。マリイを殺した奴らを皆殺しにする。それだけがあたしの生きがいだ。

 このクエストを行っている間にあたしは鼠のアルゴに仕事依頼のメッセージを送った。

 フレンド登録しているのでほどなくアルゴは姿を現した。

「ティアナ。久しぶりだナ」

 あたしのカーソルの色を見たのだろう、アルゴの目がすぅっと細められた。

「仕事の依頼があるの」

 あたしはアルゴに微笑みながら、前日までシリカと共に泊まっていた宿屋のキーを投げた。

「これハ?」

「50層の宿屋の鍵よ。窓側のチェストに90万コルぐらい入ってる。そのお金で偽情報を流してほしい。ムーンレス・ナイトのリーンハルトがKoBと繋がってるっていう情報をそれとなくレイストに伝わるようにして」

 レイストと無理やり結婚させられている今、スキル値やステータスだけでなくアイテムも筒抜けだ。あたしはそれを利用して少額のコルを宿屋の部屋にあるチェストに日々隠すことにした。そんな少しずつ貯めていたお金を一気に使う事にした。

「復讐カ? それなら、そんな迂遠な事しなくても、殺し屋を紹介するゾ。90万コルなら5人殺すぐらい充分雇えル」

 情報屋の彼女にはすでにあたしの陥った状況を知っているのだろう。そして、あたしが復讐をしようとしている事も一瞬で理解したようだ。

「殺し屋?」

 なぜだろう。その単語を聞いたとたん、あたしの口元が醜く歪んだのを感じた。「それじゃ、意味ないじゃない。あたしがこの手で殺らなきゃ」

「そうカ……。お前、変わったナ……」

 目を丸くしてアルゴはあたしを見つめた。

「変わってない。これが本当のあたし……。で、やってくれるの? やってくれないの?」

「90万あれば十分おつりがくるナ。でも、本当にいいのカ?」

「うん。あと、あたしがメンバーを狙ってる事は秘密にしてね。その口止め料もコミだから」

「わかってル。近日中に依頼は果たそウ」

 アルゴは頷くとキーをポケットに入れた。

「ああ、それと」

 あたしは立ち去ろうとしたアルゴを呼び止めた。「窓側のチェスト以外は手を付けないで。それは他人の物だから」

 シリカの荷物までこの依頼の代金として持って行かれては彼女に申し訳がない。

 そのあたしの言葉を聞いて、アルゴは寂しげに笑った。

「ん? なに?」

「ティアナ。悪人になりきれてないナ……それじゃ死ぬゾ」

「もう、あたしは死んだようなものよ。だから、悔いがないように思った通りに生きるわ」

「そうカ」

 アルゴは憐みの微笑みを浮かべたまま頷くと姿を消した。きっと隠蔽スキルを使ったのだろう。鼠の二つ名にふさわしい人だ。

 アルゴの工作には2週間ぐらいかかるだろうか。それまでせっせと不信の種を蒔いて行こう。

 あたしはカルマ回復クエストに戻った。

 

 

 

 

 カルマ回復クエストをやるようになってから4日目。あと、数回クリアをすればグリーンネームに戻る段階までカルマ回復はなされてると思われたが、こればかりはマスクデータなので分からない。

 色が戻るまでひたすら繰り返すしかないのがあたしの心を陰鬱とさせた。

 そんな時、レイストからメッセージが入った。

 どうせ『いつまでモタモタしてる。さっさと色を戻せ』とかいうメッセージだろうと思いながらそれを開いた。

『色を戻す前にすぐにギルドハウスへ戻ってこい』

 という短い文面だった。

 逆らっても何の益もないので、あたしは急いでギルドハウスに戻った。

 

 ギルドハウスに戻ってみると、いたのはレイストだけだった。

「お前の勘が当たったらしい」

 レイストはそう言いながら、あたしに数枚のスクリーンショットを見せてきた。

 そこにはリーンハルトと血盟騎士団らしい男と楽しげに酒を飲んでいる光景が映し出されていた。

 依頼をアルゴが果たしてくれているのだろうか? それにしては早すぎる気がした。

「リーンの奴、KoBと繋がっていやがったんだ」

 苦々しくレイストは言い捨てると壁を蹴り飛ばした。

「でも、こんな写真だけで決めつけるのは……」

 あたしはしおらしく震える声でリーンハルトをかばった。

 あたしがかばえば、レイストの性格なら激昂するはずという計算だ。

「こんな奴をかばってるんじゃねぇ!」

 果たしてレイストは怒りをあらわにしてあたしの頬をはたいた。

 小さい悲鳴を出して、あたしは足をもつれさせてその場に倒れた。

「情報屋から裏も取ってある。リーンは裏切り者だ!」

 レイストはそう決めつけて机を殴りつけた。

「ど、どうするの?」

 あたしは立ち上がりながら尋ねた。

「先手必勝だ。何か細工される前に奴を殺す!」

 どうやら、アルゴに依頼した件が思った以上に効果を表したようだ。あたしとしてはまだまだ時間がかかると思っていたが、リーンハルトに対する日ごろの不信と怒りが一気にレイストを焚きつけたのかも知れない。

 徐々に追いつめて行こうと思っていたのになんだか拍子抜けだ。

「リーンを呼び出してる。もうすぐここに来るからお前が殺れ」

 レイストはメインメニューを操作して槍を投げ渡してきた。「最高級の麻痺毒を仕込んである。入り口に隠れて殺れ」

「そんな……。殺すなんて、あたし、できない」

 あたしは目をそらして声を震わせた。我ながら名演技だ。

「馬鹿野郎!」

 また、あたしは腹部を強烈に殴られて激しいノックバックで壁に叩きつけられた。

「うぅ」

 あたしは泣き崩れながら首を振った。

「なんのためのオレンジネームだよ! お前がやれ! やるんだよ! できねえなら、ここで死ね!」

 レイストはソードスキルを立ち上げた状態の薙刀をあたしに突きつけた。真っ赤に輝く刃はまるで高温で焼けた鋼のようだ。さすがのあたしもこれには恐怖心をかき立てられた。

 それにしてもレイストは最低だ。そこまで殺したかったら自分でやればいいのに……。きっと、カルマ回復クエストをやるのが面倒でちょうどオレンジネームになっているあたしにこの役目を押し付けたのだろう。

 もっとも、この手で直接殺せるのは願ったり叶ったりだ。ただ、この想いは誰にも知られてはならない。あたしは嫌々この殺人を引き受けたという構図にしなければならない。

「わ、わかりました」

 あたしは両手で顔を覆ってむせび泣いた。「だから、殺さないでください」

「じゃあ、入り口で隠れてろ。俺がリーンの気をひくからその隙に殺るんだ」

 舌打ちをするとレイストは薙刀を引いた。

「はい……」

 あたしは視線を床に落として不承不承引き受けたように演技した。

 

 

 あたしがギルドハウスの入り口付近で隠蔽スキルで隠れると、ほどなくリーンハルトがやってきた。

 彼は確か高い索敵スキルを持っている。意識してスキャンをされたらあたしの隠蔽スキルでは見破られてしまうだろう。ここから先はまったく見通せないが、ここまでは狙い通りだ。

 あとはマリイの仇を取るだけだ。

「何の用だ? レイスト」

 リーンハルトはあたしに気づかずに目の前を素通りするとレイストに話しかけた。

「ん?」

 レイストがあたしに目配せした。

 それを合図にあたしはソードスキルを立ち上げてリーンハルトの背後を襲った。

 キーン!

 あと2ミリで突き刺さるという所でリーンハルトは振り向きざまにあたしの槍を弾き飛ばした。

 穂先を逸らされ、あたしはリーンハルトに体当たりをする形になった。すぐさま彼の膝が的確にあたしの腹部をけり上げ、あたしは無様に床に転がった。

「なんの真似だ?」

 リーンハルトは鋭い視線でレイストをけん制しながら言った。

「なにやってやがる! あの女男の仇を取るつもりだったのかよ!」

 レイストは大声を上げてあたしを蹴り飛ばした。

(裏切られた? いや、あたしの本当の目的を知ってる?)

 事態の急展開であたしは頭の中が真っ白になり、もう何も考えられなかった。

 悔しさで胸が締め付けられ、あふれてくる涙で視界が歪む。

 あたしはここで終わるのだろうか。マリイの仇も取れず、こいつらは明日も何事もなかったように生き続けるのか。

 レイストは高々とナイフを掲げてあたしの前に立った。

 ドスッ

 鈍い音がしてあたしの胸にナイフが突き立てられた。その途端、全身の力が抜けた。麻痺毒だ。

「リーンよ。殺す前に一発やっとかね?」

 ニヤニヤ笑いながらレイストがあたしの右手を取って衣服解除、倫理コード解除をさせた。

 ひやりとした空気があたしの身体全体を襲ってくる。

 もうだめだ。でも、こんなところで死にたくない!

「レイスト! あなたに言われたかr」

 せめて、あたしが死んだあとに二人の関係が最悪になるようにあたしは叫んだが、途中でレイストの拳によって阻まれた。

「黙りやがれ!」

 あたしを殴り飛ばした後、レイストは立ち上がってリーンの方に向かって歩いて行った。「リーン。お先にこのビッチにお仕置きしてやってくれよ」

「レイスト。こんな事で俺を騙そうって言うのか?」

 リーンハルトは部屋を歩きまわるレイストに視線を据えながら距離をとった。

「おいおい。誤解だ。みんなこいつ一人でやった事だ。だから、このビッチは殺す。まあ、その前に楽しもうじゃねえか」

 レイストは足を止めて両手を広げた。

「なら、その薙刀をしまえよ」

 リーンハルトは厳しい視線をレイストが手にしている薙刀に向けた。

「お前の方こそ剣をしまってくれよ」

 ちらりと意味ありげにレイストがあたしに目配せした。

(いったい、何が……)

 不意に麻痺毒が解けた。先ほどのナイフに塗られたのは低レベルの毒だったのだ。

(そういう事か……)

 あたしはリーンハルトに気付かれないようにそっと床に転がっている毒槍を手に取った。

「まあ、俺が信じられないなら仕方ねーな。お前を殺すしかねーか」

 あたしが毒槍を手に取ったところで、レイストは強気な口調で薙刀を構えて今にもリーンハルトにとびかかろうと腰を落とした。

 リーンハルトの意識はレイストに集中していて背後のあたしに気づいていない。あたしは音もなくそっと立ち上がって背後からリーンハルトの背中に毒槍を突き立てた。

「なっ」

 リーンハルトはその場に崩れ落ちた。「麻痺がもう解けたのか」

「ざまあねえな。リーン」

 レイストは勝ち誇ったように高笑いをした。

「リーンハルトさん、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 あたしは全裸のままリーンハルトに馬乗りになると涙を流しながら、クリティカルダメージが出やすい心臓の位置に何度も槍を突き立てた。

 嬉しくても涙が出るというのは真実だ。あたしは今、最高に嬉しい。組み敷いているこの男の命を奪おうとしているのだ。

 仇を取っているという喜びと共にこの男の一番大切な命を強奪するという歪んだ喜びが大きくあたしの脳を痺れさせる。

「やめろ、やめてくれ」

 リーンハルトはうわごとのように繰り返した。「死にたくねえ!」

 そんな哀願などあたしの心に何も響かなかった。あたしが槍でリーンハルトの身体を貫くたびに彼のヒットポイントバーはその幅を減らしていく。

「あの世でマリイに謝れ。このクズ野郎」

 リーンハルトのヒットポイントバーが消える瞬間、あたしは覆いかぶさり彼の耳元で囁いた。

「おま……」

 リーンハルトの身体がポリゴンの欠片となって砕け散り、その言葉は最後までいう事が出来なかった。

(終わった……)

 あたしは歓喜で笑い出しそうになってしまった。慌てて両手で顔を覆って号泣のふりをした。

 あと4人。この後、みんなあたしが殺すんだ。殺しって超楽しい!

 あたしはレイストに殴られるまで、『殺したくないのに殺してしまってショックで泣く女』を演じ続けた。

 

 

 

 

 リーンハルトを殺したことであたしのカルマ値は相当に悪化した事は間違いなかった。

 これでは≪信仰者の礎≫クエストでグリーンネームに戻るのに何日かかるか分からない。あたしはレイストに命じられる形で第30層の教会から始まる≪聖女の蕾≫というクエストをこなすことになった。このクエストは今の所、カルマ回復クエストの中で一番効率が良いとされていた。

 効率が良いと言っても、フラグ立てで半日神父様のありがたいお話を聞くし、誘拐された修道女が捕えられているダンジョンが迷宮区並みに深く、これまた半日かかる。それでも≪信仰者の礎≫よりは短い日数でグリーンネームに戻れるはずだ。

 クエストの難易度的にはあたしの実力で十分クリアできる。だが、心配なのは脱色狙いのPKが現れるのではないかという事だ。

 それというのもラフィンコフィンが討伐された直後、グリーンネームに戻ろうとする者が増えた時、ムーンレス・ナイトもクエスト実行中のプレーヤーを襲った事があるのだ。今はそういうブームが去ったとはいえ、用心しておいた方がいいだろう。

 幸いあたしには隠蔽スキルと忍び足スキルがある。高位の索敵スキルでスキャンされない限り、そう簡単に見つかる事はないと思われた。

 

 ギルドハウスを出た時間が遅かったためか、神父の長い話を聞いて修道女の救出のためにダンジョンに入ったのは午後3時を回っていた。

 ダンジョンに入ってみると、そこにいるはずのモンスターはほとんど倒された後だった。再ポップする時間を考慮すると10分前ぐらいに別のプレーヤーが通過したのかも知れない。ここに来るのはカルマ回復を目的にしている同類であるはずだ。恐らく交戦にはならないだろう。PKならダンジョンの入り口で狩りをするのが効率がいい。

 あたしはあえて隠蔽スキルを解いて歩くことにした。索敵スキルに引っ掛かってばれるより相手を刺激しないはずだ。

 不意打ちを防ぐため、あたしは慎重に索敵スキルを働かせながらゆっくりと歩いた。

 やがて、索敵スキルに5人の反応があった。内二人はNPC。間違いなくこれはクエストクリア条件の修道女だろう。という事はカルマ回復中のプレーヤーが二人、一人はその護衛といったところだろう。

 相手にも索敵スキルが使えるメンバーがいるはずだ。あたしは相手を刺激しないようにゆっくりと近づいた。

 通路を通り抜け、目的の部屋に入るとそこには血盟騎士団の制服を着た男女とツインテールの少女が立っていた。その少女はあたしの姿を見つけると2,3歩こちらへ近づいて口を開いた。

「ティアナ……さん」

 可愛らしい声は忘れようもない。あたしが裏切ったシリカの声だ。

「シリカ……」

 どんな顔をして彼女に会えばいいというのだろう。まったくこの世の神は残酷だ。あたしは声を詰まらせながら本心からの言葉をそっと口にした。「よかった……無事で……」

「ティアナさん。この間の事……理由があるんですよね?」

 シリカは純粋で綺麗な瞳であたしを見つめてくる。

「あたしは……」

 何を口にしようと言い訳にしかならない。あたしは首を振ってうつむいた。「いいの。もう、いいの。ごめんなさい」

 シリカの隣をすり抜けて、あたしはNPC修道女の鎖を断ち切った。後はこの修道女を神父に引き合わせればクエスト達成だ。

 あたしは修道女を連れて歩き始めた。

「待って! 待って……ください」

 再びシリカのそばを通り抜けようとした時、彼女はあたしの腕を取って引き留めた。

「シリカ……」

 シリカは本当に優しい。

 あたしなんて、シリカの前に立てる人間じゃないのに。あたしは彼女を罠にかけようとしたり、謀略でギルドメンバーを殺すような汚い人間だ。しかも、仇とはいえ人を殺すことに快感を覚えるような最低な人なのに……。

 それなのに……。

 あたしの頭の中で多くの想いが巡り、言葉を詰まらせた。

「二人とも、ここじゃなんだから、とりあえずダンジョンから出よう。そこでゆっくり話そう?」

 先日、シリカを助けてくれた血盟騎士団の女性が優しくあたしたちに提案した。

 あたしが頷くと、その血盟騎士団の女性を先頭にしてダンジョンを抜け、近くの安全地帯へと歩いた。

 

 

 歩きながらあたしは考えた。

 いったい、あたしはどうしたいのだろう? あたしがしている事を話したところでシリカの純粋な心に傷をつけるだけなのに。

 しかし、シリカと話をしたいという衝動があたしの中にくすぶっている。

 シリカに話すことで懺悔の代わりにしたいのだろうか?

 そんな事をぼんやりと考えながらあたしは歩き続けた。

「ここなら、モンスターに邪魔されずにゆっくりお話できるよ」

 血盟騎士団の女性は森が少し開けた安全地帯で足を止めると、あたしとシリカに笑顔を向けたあと、離れて行った。どうやら気をつかって、あたしとシリカの声が聞こえない場所まで離れてくれたらしい。

「ティアナさん。聞かせてください。なんで、あんな人たちと組んでるんですか?」

 シリカはまっすぐな瞳であたしに問いかけてきた。

 復讐のため。

 そう正直に答えればいいのだろうか? きっとシリカは自分の事のように心を痛め、あたしを許してくれるだろう。そしてきっと、あたしに協力してくれるだろう。

 けれど、小学生のようなこの少女にこんな汚れた世界を見せつけていいのだろうか? この子はあたしのように汚れてほしくない。

 一方で別のあたしが冷たく考える。

 シリカがあたしを信じるだろう。それを利用してマリイの仇を取る事が今以上に楽になるかもしれない。シリカを再び囮にすれば奴らは引っ掛かるに違いないのだ。所詮、シリカは他人。マリイの仇を取るためにうまく利用すればいい。

 あたしの中で別人格が言い争うようにせめぎ合う。

「あたしじゃぜんぜん、助けにならないと思いますけど、力になります」

 あたしが迷い黙っていると、シリカは子供とは思えない真剣な表情であたしの手を取って訴えてきた。

「シリカ……あたしは……」

 長い沈黙の後、あたしは意を決して口を開いた。

 あたしは人殺しに快感を覚えるような人間だ。そんなあたしの言葉がシリカを傷つけてしまうかも知れない。全てを話してみよう。どうなるかはその後、考えればいい。

 突然、視界の隅であの血盟騎士団の女性が倒れるのが見えた。

(え?)

「コー!」

 血盟騎士団の男性が鋭い叫び声をあげた。

「ジークリードさん! あたしが解毒します!」

 シリカは振り向いてすぐに異変を察すると、倒れた女性に向かって駆け出した。

 血盟騎士団の男性はグリーンネームだから彼に回復させると色がついてしまう。この攻撃を仕掛けた奴はそれを狙っているかも知れない。

 あたしは視線を走らせて索敵スキルであたしをスキャンした。

 突如、駆け出したシリカの前に茶色のフーデッドローブを着こんだグリーンネームの男が現れた。その右手に握られた中華包丁のような短剣がソードスキルで輝いていた。

 それに対するシリカの反応は見事の一言だった。

 条件反射のように惚れ惚れするようなバク転で後ろに飛んでその攻撃をかわした。――いや、かわしたはずだった。フーデッドロープの男のスピードは尋常ではなかった。シリカの飛ぶスピードより速く踏み込むと宙返りをしているシリカの右腕を切り飛ばした。

 その男の放つソードスキルは威力も普通ではなかった。たった一撃だというのにシリカのヒットポイントがたちまちレッドゾーンに落ち込んでいく。

「ひっ!」

 シリカはバランスを崩して着地に失敗して無惨に地面を転がった。

 ピナがシリカにヒールブレスを吹きかけて回復させたがイエローゾーンに戻すのが精いっぱいだった。

 間髪入れずに男はシリカにとどめを刺そうとソードスキルで輝く中華包丁を振り上げた。

「≪友斬包丁≫? まさかPoH!」

 血盟騎士団の男が叫びながらシリカを助けようと駆け出す。しかし、とても間に合いそうもない。

 もう、目の前で好きな人が死ぬのは嫌だ!

 そう思うと自然に身体がはじけるように動いた。

「だめぇ!」

 あたしはシリカの前に立ちはだかってPoHの一撃を受け止めた。

 これだけではだめだ。もっと時間を稼がなければ。

 あたしは夢中でPoHに抱きつくようにしてその動きを止めようとした。

「チッ!」

 PoHは舌打ちをした途端、 友斬包丁を輝かせてあたしに連撃を食らわせた。

 あたしはその4連撃の激しいノックバックで弾き飛ばされた。

 地面に転がると回復結晶を握りしめたシリカが駆け寄ってきた。

「ティアナさん! ヒール!」

 シリカの声に回復結晶は反応しなかった。

(手遅れか……あたしは死んじゃうのか……)

 一瞬、そんな事が頭をよぎったが、今はそれどころではない。

「逃げて! シリカ!」

 涙を目にいっぱいためながらあたしは叫んだ。

 ヒットポイントバーがあっという間にその幅を減らしていき、危険を知らせるように画面全体がマゼンタ色に染まった。

「ティアナさん……」

 涙が浮かんでいるシリカがあたしに語りかけた。それが最後の風景だった。

 あたしは暗闇に落とされた。

 マリイの仇を取ろうとしていたのに、シリカを助けるために命を捨ててしまった。いったい何をやっているのだろう。まったく、あたしは馬鹿だ。これではマリイを殺したムーンレス・ナイトの連中はのうのうと生き続けるじゃないか。しかも、シリカもあの状況では助かるかどうか分からない。あたしはまったくの犬死かも知れないのだ。

 鼠のアルゴの言うとおりだった。悪人になりきれなかったあたしはここで何も成すものがないまま死んでいく。

 けれども、なぜだか心は晴れ晴れとしていた。

(ああ、そうか……)

 あたしは何もかもなげうってシリカを助けてしまった理由が思い当たって小さく笑った。この暗闇の空間では笑っても声が出ない。

 あたしはああいう人が好きなんだ。

 純粋で……優しくて……なんの見返りも求めずにあたしを気にかけてくれる人が……。

 冷淡で無慈悲で残虐で人間不信のあたしに無いものを求めていたんだ。

 ほんの一瞬でもシリカの心にあたしが残ることができたなら、それだけで十分満足だ。だって、もうすぐ死ぬんだから……。

 

≪You are dead≫

 

 その無機質な文字が現れ、揺らめきながら消えた。途端に全身に激しい痛みと熱を感じた。

(痛い! 熱い!)

 強烈な激痛と全てを焼き尽くすような熱にあたしはなすすべもなかった。

 チカチカと暗闇に火花が走った。その向こうに人影が見えた。

(マリイ?)

 間違いなかった。火花が散るむこうで、あの優しい笑顔であたしに両手を広げているのはマリイだった。

(来てくれたんだ)

 喜びで胸の中がいっぱいになってあたしは手をマリイへ伸ばした。

 幻想でもいい。ああ、もう少しでマリイの胸に飛び――

 

 

 

 

 

 「15時21分……死因はと……」

 タブレットを操作しながら電子カルテに記録を残す神山院長を見ながら、看護師の典子は彼のあまりにも横柄な態度に心の中でため息をついた。「家族には連絡した?」

「はい」

 とはいっても、この少女の家族はすぐにやってこないだろう。と、典子は暗澹たる思いになった。

 確か、この少女の家族は介護疲れで崩壊状態なのだ。いつ死ぬか分からないという状態が1年以上続いているのだ。家族の心労は想像を絶するものがあった。

「あー。やっとステってくれたなあ」

 神山は舌打ちをしながら冷たい視線を遺体に投げかけた。

 ナーヴギアの影になっているため少女の表情はうかがい知る事は出来ない。その身体は細く、まさに骨と皮だけのような状態でとても19歳には見えない。

「あと、20人いるんだよなあ。儲からないから早くみんなステっちまわねーかなあ。ジジババ入れた方がよっぽど儲かるんだけどなあ」

 神山は毒を吐いて立ち上がった。「じゃ、あと、ヨロシクー。もう、面倒だからSAO関連の奴になんかあっても適当にやっちゃってよ。どうせ死因だって決まってるんだからさ」

 典子はその言葉に了承の返事をせず、ただ頭を下げて見送った。

 死亡診断書を去年看護学校を卒業したばかりの典子が書けるはずもない。いや、医師でない者が書くのは問題があるだろう。

 確かに、神山が言うようにSAO被害者は儲からない。

 事件発生当時こそアーガスは多額の医療費を支払っていたが、巨額の赤字を抱えてついに倒産した。それに代わり国が支援をしているが、嫌々である事は明白だった。実用化されたばかりのジェルベッドを導入する代わりにぎりぎりまで医療報酬を切り下げたのだ。

(アーガスも国も院長もお金の事ばかり……。この人たちの事は考えてないのね)

 こんな事を考えてしまうのはまだ私が卒業したばかりの青臭い人間だからだろうか? と典子はひと時思いにふけった。

「はあ」

 今度はしっかりとため息をつくと、典子は死後処置の作業に入った。

 しっかりと固定されていたナーヴギアの顎紐を緩め、1年以上この少女を虜にしていた拘束具を優しく取り外す。

(あら……)

 頬がこけ、とても健康的とは言えない少女の顔を見て典子は思わず手を止めた。(この子……とても、安らかな顔をしてる)

 微笑みとはとても言えないが、どこか満足げな表情だった。典子がこの病院に入ってから十数人のSAO被害者を看取ったが、ここまで平穏な面持ちの人はいなかった。ほとんどは苦しそうに顔を歪めているし、中には宙を睨みつけるように目を見開いて亡くなる人もいた。

(もし……死後の世界というものがあるのなら、せめてそこでは幸せに……)

 典子は少女の乱れきった髪を優しくとかしながらそっと祈った。

 





13件のお気に入りの方々お待たせしました。(待っていないかもしれませんが)
ようやく書きあがりました。
なんか14000文字あります。
そのわりには薄い内容です。
しかも、いいタイトルが思いつかなくて七転八倒orz

なんか、ティアナさんの性格崩壊しているような感じですが、夫を殺されて壊れていると思ってください(全力で逃避)
今回のお話、R-18には当たらないですよね? ダメですかね?
結局復讐も果たせず、シリカは助けられたかどうかも分からず命を落とすという、不幸すぎて心が痛みました。そんな思いで「絶望」というタイトルをつけながらもほんの少しだけ希望をにおわす終わり方にしてしまいました。
だめですねえ。豆腐メンタルですね。

近況報告は活動報告にて……。

次は26話の前あたりです。


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ラストダンス

 
時系列:ヘルマプロディートスの恋 第25話と第26話の間



 最高潮にリズムを刻む音楽。

 強烈なライトに照らされる中、俺は躍り続ける。今日は絶好調だ。完璧にノッている。体幹の動きが指先にまで痺れるように伝わっている。

 最高のパフォーマンスだ。

 やがて音楽はクライマックスを迎え、唐突に終わる。

 まばらな拍手……。逆光の向こうにかすかに見える客席はほとんど空席。かといって、手を抜くことはできない。幕がおりるまでは。

 幕がおりて風景が暗転する。すると突然、目の前に禿げ頭のオヤジが現れた。

「あー。うー。ごめんね。荒木君」

 まったく謝る気がない雰囲気を醸し出しながら劇団の禿げ理事長が俺に告げた。「キミ、明日から来なくていいから」

「はあ」

 あまりにも突然で返事でもなく、同意でもなく、質問でもない言葉を俺は返す事しかできなかった。

 重大なミスはしていないし、俺より下手なダンサーなんていくらでもいるはずなのに。

「キミならどこでもやっていけるでしょ。大丈夫、大丈夫」

「何が大丈夫だ!」

 適当な言葉しか繰り返さない理事長に怒りが爆発して俺はその襟首を締め上げた。

「や、やめたまえ」

「やめろ! 荒木!」

 理事長の焦った声に劇団員がぞろぞろと集まって俺を引き離す。

「それだからお前は!」

 ドンと突き飛ばされて、俺は闇の中に落ちて行った。どこまでも、どこまでも……。

 

 

 

 

 

 俺はベッドから落ちた衝撃で目を覚ました。寝ているうちにベッドから転落してしまったらしい。

「夢……か?」

 俺は目をこすった後、周りを見渡す。

 石造りの落ち着いた色合いの部屋だ。置かれている家具もクラシックな感じで前時代的な雰囲気だ。

 見慣れた風景。まちがいない。ここは俺の部屋。

 俺は立ち上がってカーテンを開いて外を見る。ヨーロッパの古い町並みを再現したような光景。そして、空にあたる部分には石造りの天井に覆われている。

 そう、ここは今の俺の現実世界。ソードアート・オンライン――。

(ここに閉じ込められてからもうすぐ2年も経つというのに、いまさら現実世界の夢を見るなんて)

 俺はため息をついてベッドに腰かけると、髪の毛をガシガシとかき混ぜた。(幸先、悪りぃ。これって死亡フラグなんじゃねーの? よりによって、解雇された時の夢を見るなんて)

 今日、第75層のボス部屋偵察が行われる。

 これまで第25層、第50層は強力なボスモンスターが配置され多くの犠牲を出してしまった。クォーターポイントには強力なボスが配置されているのではないかというのが攻略組でも共通認識になっていた。

 今回は5ギルド共同で20名の偵察部隊を送る事になり、俺も血盟騎士団の代表として……というよりルーレットに負けて参加する事になったのだ。

 俺の他でルーレットに負けた不幸な連中は、アラン、コートニー、ジークリードだ。

 コートニーは右腕が動かなくなったというトラブルにもめげず、片手用直剣スキルを1から取り直して戦線復帰を果たしたばかりだというのに、運が悪いったらない。もっとも、本人は今回の偵察にノリノリで参加しているのだから『運が悪い』なんて考えていないのかも知れないが。

 そう言えば、アランも先日、とても仲が良かった相棒のゴドフリーを亡くしたばかりだ。ひょっとすると、今回の偵察メンバーは運が悪い連中だらけなのかも知れない。

 目覚ましのタイマーアラームが鳴った。

 俺はそのアラームを止めると、偵察の準備を始めた。

 

 

 

 

 グランザムの血盟騎士団のギルドハウスに到着し、ブリーフィングルームに入るとすでに全員がそろっていた。

「マティアスのダンナ。遅いよー」

 アランがくつくつと笑いながら言った。

「ん? そうか?」

 俺は視界の隅の時計を確認した。集合時間の10分前だ。遅いという事はないはずだ。

「もうちょっと早く来れば、夫婦漫才が見れたのに」

 アランはニヤニヤしながら視線をコートニーとジークジードに送った。

「ア~ラ~ン~君~」

 妙にドスが効いた声でコートニーが睨みつけている。その後ろでジークリードが困ったような微妙な笑顔を浮かべている。

 いつも通りだ。

 明るい雰囲気に俺はクスリと笑った。

 コートニーの右腕が動かなくなって戦線を離脱してからというもの、血盟騎士団ではロクな事がなかった。コートニーが抜けてすぐの第67層攻略では大苦戦して血盟騎士団から死亡者が出そうになったし、雰囲気も暗く重苦しいものに変わった。

 しかし、彼女が戻って来てからギルド内の雰囲気は明るくなった。クラディールの裏切りによるゴドフリーの死。それに伴う、副団長アスナとキリトの離脱。こんな大事件の連続があってもコートニーがいるおかげでギルドの雰囲気は昔の小規模ギルドの頃のように明るいものになっていた。

「マティアス。何、思い出し笑いしてんの?」

 アランに向けられていた鋭い視線がこちらに向けられた。

「うぉ! こっち来た!」

 俺はおどけながらジークリードの後ろに走った。「助けてジーク。凶暴な女が襲ってくるお! 怖いお」

「やる夫になってるし!」

 アランは大爆笑し、それにつられて全員の笑い声がブリーフィングルームに響いた。

「リラックスしているようだね」

 引き締まったテノールの声を響かせながらブリーフィングルームに入ってきたのはヒースクリフだった。

「リラックスっていうか、緊張感なさすぎ」

 アランが両手を広げ、肩をすくませながら笑った。

「そんな事ないお」

 キモオタ風の声で俺が言うと、ツボを刺激したらしくアランが笑い転げた。

「まあ、百戦錬磨の君たちなら不覚を取る事はないとは思うが、十分気を付けるように」

 ヒースクリフは口元をほころばせながら一人一人を順番に見つめた。

 俺はその表情に微妙な違和感を覚えた。

(目が笑っていない……)

 じっとヒースクリフの表情を観察してようやくその事に気づいた。

「でも、このメンバーだったら偵察どころか、ボスも倒しちゃうかもね」

 いたずらっぽく笑いながらコートニーが顎に手をやって独り頷いた。

「いや、それねーから」

「無理でしょ」

 右からアラン、左からジークリードにツッコミをいれられてコートニーはなぜかご満悦だった。どうも彼女のツボがよくわからない。

「クォーターポイントの75層のボスは今まで以上に厳しい戦いになるだろうからね。まずは生きて帰ってくることを目標にしてくれたまえ。もちろん、その上で攻略情報を持ってきてくれれば最高だが」

 ヒースクリフのその言葉で緩んだ空気がピンとはりつめた物に変わった。

「はい」

 俺とジークリードは真剣な顔で、アランは子供のような崩れた表情で、コートニーは微笑みながら――四者四様の表情でヒースクリフに敬礼した。

「じゃあ、そろそろ行こっか」

 コートニーは俺たちに声をかけると、改めてヒースクリフに敬礼した。「では、行ってきます」

「期待しているよ」

 ヒースクリフは微笑みながら敬礼を返した。――目が笑っていない微笑みで……。

 

 

 

 

 偵察部隊は迷宮区入り口で集合し、モンスターを排除しつつ1時間かけてボス部屋の前に到着した。さすがに各ギルドを代表するメンバーがそろっている事もあって迷宮区にエンカウントするモンスターなど路傍の石のように蹴散らした。1時間掛かったのは純粋に距離があったからだ。

「回廊結晶でマークしておこうよ」

 俺はボス部屋の巨大な扉を見上げながらコートニーに言った。

「そうだね。結構、時間かかったもんね」

 コートニーはそう言いながら、右手を左手で支えながらメニュー操作して回廊結晶を取り出した。「マーク!」

 コートニーがコマンドを言うと、回廊結晶の色がピンク色から鮮やかな水色に変化した。

 それにしてもここに漂う冷気は何だろうか。まったく嫌な予感しかしない。

 俺はゴクリとツバを飲み込んで、おろしたての盾を握りしめた。今回、俺は新装備でこの偵察に臨んでいる。リズベット武具店でのオーダーメイド品だ。鎧も盾も剣もとてもいい出来に仕上がっている。無意識のうちにベビーピンクがよく似合う彼女の姿を思い浮かべた。

「みんな、聞いてくれ!」

 その声に全員が目を向ける。声の主は今回の偵察部隊の指揮を執る聖竜連合のシュミットだった。

 彼はガチガチの壁戦士だ。攻撃力よりも防御力に重点を置いている装備で、恐らくこのアインクラッドで一番硬い男だろう。そんな性格ゆえかかなり保守的というか慎重な男だ。

「今回は偵察部隊を二つに分ける。前衛の10人がボス部屋に入り、後衛の10人はボス部屋の入り口で待機して前衛の退路を確保する」

 シュミットは運動部キャプテンといった外見にふさわしいよく通る声で言った。「各ギルドで2名ずつ、前衛と後衛に分かれてくれ」

「だってよ。シュミットのダンナは慎重だなあ」

 アランが肩をすくめながら微笑んだ。

「じゃあ、いつものようにルーレットで決めよ」

 コートニーはそう言いながら右手を左手で動かしながらメインメニューを立ち上げてルーレットを始めた。

 俺も右手を振ってメインメニューを立ち上げるとルーレットを起動した。スタート、そしてストップボタンを押す。これによって1から100までのランダムな数字がパーティーメンバーに通知される。

「おお。100だ」

 俺は思わずよっしゃーと呟きながら右手を握りしめた。

「おー。運がいいね!」

 そう感嘆の声を上げたコートニーは61。

「マティアスのダンナ、こんな所で運を使っちゃだめだよ」

 ニヤニヤ笑うアランは34。

「じゃあ、マティアスさんは後衛ですね」

 ジークリードは78だった。

 パーティーをアラン&コートニー、マティアス&ジークリードと組み直そうとした時、アランがしつこいぐらいに俺に目配せしてきた。

(……あー。わかった、わかった)

 俺は心の中でため息をつきながらコートニーの肩を叩いた。

「コートニーちゃん。その席、譲ってくんね?」

「はぁ? なんでさ!」

 コートニーがその可愛らしい姿に似合わない鋭い視線を俺に向けた。

 そうなのだ。彼女は攻略の鬼、ボス戦に燃える女性なのだ。偵察とはいえボス戦に最初に臨むという事を彼女は楽しみにしているらしい。

「まあ、なんつーの。お二人さんが分かれるのはちょっとやりにくいっていう感じ?」

 俺はコートニーとジークリードに視線を交互に向けながら言った。

「じゃあ、アラン君とジークを入れ替えればいいじゃん!」

「二人が後衛にいてくれた方が心強いんだけど」

 アランはコートニーの言葉をさえぎって珍しく力強く自分の意見を主張した。

「まあ、夫婦のお二人を前衛に立たせるほど血盟騎士団は人手不足って思われたくないし」

 俺は応援を求めてジークリードに目配せした。きっと、彼だって危険な場所にコートニーを立たせたくないはずだ。

「コー。ボス戦本番で思いっきり戦えばいいよ。今日は後衛に回ったら?」

 ふんわりとした声で諭すようにジークリードはコートニーの肩を撫でながら言った。

「ジークの弱虫!」

 ジークリードと打って変ってコートニーの言葉は苛烈だった。

「ええ?」

 ジークリードはその剣幕に押されて後ずさりした。

「あー。ここは民主的にいこう」

 俺は深いため息をついた後、右手を挙げた。「コートニーちゃん後衛に賛成の人」

 ぱっとアラン、ジークリードの右手が挙がる。

「賛成多数ってことで」

 と、視線をコートニーに向けると不満そうな表情を浮かべていた。

「じゃあ、ルーレットする意味なかったじゃん」

 コートニーは地面を蹴り飛ばして、怒りをあらわにしていた。

「まあまあ。たまには俺にかっこいい仕事をさせてくれよ」

「ボス、倒さないでよ」

 上目づかいでコートニーが俺を見つめてきた。その儚げな瞳から醸し出されるあまりの美しさに俺は息を飲んでしまう。

「倒さない、倒さない。倒せるわけないじゃん」

 俺は黙ってれば美人なのにという言葉を飲み込んで手を振りながら言った。

 ひとつ前の第74層では≪黒の剣士≫キリトがたった一人でボスを倒してしまったがあんな規格外の強さを持っているのはヒースクリフ団長ぐらいだろう。

「そろそろ前衛、後衛に別れてくれー!」

 シュミットの声が響き、俺とアランは前に出た。

「気を付けてね」

 コートニーは小さく手を振りながら微笑んだ。

「うん!」

 アランは元気よく答えて大きく手を振りかえした。

「難しそうだったら、すぐに撤退してくださいね」

 ジークリードは心配そうに声をかけてきた。

「ああ。ヤバかったら転移結晶でもなんでも使って逃げ帰るよ」

 俺は微笑みながら拳を突き出すと、ジークリードも拳で返してくれた。「じゃあ。また後で」

 

 

「固まって行きましょう」

 前衛10人が集まった所で聖竜連合のブラントが声をかけた。どうやら、シュミットは後衛に回ったらしい。つくづく慎重な男だ。「では、開けます」

 ゴゴゴゴ

 重苦しい音と共にボス部屋の扉が開かれた。

 中はかなり広いドーム状の部屋のようだ。奥は暗くて見えないが、今までのパターンから言って最奥部にボスモンスターが待ち構えているのだろう。

「盾持ち戦士は前に並んでください」

 ブラントの指揮で俺は右端の前列に立った。そして、すぐ後ろにアランがついた。

 俺とアランは対毒ポーションとハイポーションを飲んで不測の事態に備えた。

「前進!」

 陣形が整ったところで、ブラントの命令が下った。

 どんなボスが現れるのか……。今回は事前情報がほとんどなかった。この層は虫系モンスターやアンデット系モンスターが多く現れている事から、恐らくその系統のボスモンスターであろうと予測されていたが、どの程度の強さなのかはその姿を見るまでは分からない。もしかすると、こんな10人なんてあっという間に葬るモンスターかも知れない。

 俺たちはゆっくりと前進し、部屋の中央まで進んだ。

 どうやらボス部屋は円形のドーム状で黒く高い壁が全体を囲み、はるか頭上で湾曲して閉じている。ボス部屋としてはシンプルすぎる。ボスが鎮座している椅子もないし、壁にも何の装飾もない。

 背後で突如轟音が響いた。

「なんだ!」

「扉が閉まるぞ!」

 俺はその声で後ろを振り向くと、今まさに扉が閉じられるところだった。これでは後衛10人と切り離されて孤立してしまう。

「アラン!」

「うん!」

 俺が声をかけた途端、アランは扉へ駆け出した。しかし、たどり着く前に扉は完全に閉じられ、さらに壁と同化してしまった。

(閉じ込められた?!)

 俺はアランに追いつくと、その表情を伺った。

 アランは開錠スキルの持ち主だ。つい先日、アイテムブースト込みではあるが、完全習得にあたる1000に到達したばかりだ。ゆえに、この世界で彼に開けられない鍵は存在しない。

 だが、システム上ロックされたものは例外だ。

 果たして、このボス部屋の扉は開錠スキルの対象になっているのか……。

 アランは俺に向かって小さく首を振って笑った。

「駄目か?」

「だーめ」

 念のため問うと、肩をすくめて寂しい笑みが帰ってきた。

「転移結晶で離脱しましょう!」

 俺たちの後を追って来たブラントが声を上げたが、すぐに「転移結晶が効かない!」と悲鳴のような返事があった。

 どうやら覚悟を決めなければならないらしい。見たところ、ボス部屋は壁に覆われていて、他に抜ける通路らしいものはない。

 ボスを倒さねばここから出る手段がないという事だ。

「対毒ポーションと回復ポーションを飲んでおいてください」

 ブラントが指示を飛ばす。

「それにしても、ボスはどこだ?」

 そんな声が聞こえた時、ボス部屋の中央に何か巨大なものが上から落ちてきて地面が揺れる衝撃と同時にボス部屋が明るく照らされた。

 部屋の中央で雄叫びをあげたのは禍々しい形の頭蓋骨を持ったムカデのようなモンスターだった。2対4つの鋭い眼窩の下には見るからに凶悪な威力を秘めていると思われる巨大な鎌が両腕のように空を切り裂いている。そして、人間の背骨のような体節一つ一つに1対の骨むき出しの足が波打つようにうごめいていた。

≪The Skull Reaper≫

 強敵を示す深紅のカーソルの下にその名前が表示される。ヒットポイントバーは5本。

 こちらの様子をうかがっていたスカルリーパーが動き始めた。

 速い! 今まで見てきたボスモンスターのどれよりも速い。

 偵察前衛部隊は隊列を整える暇もなく、スカルリーパーに蹂躙された。轟音の唸りをあげて鎌が振るわれる。

「マティアスのダンナ。こいつァはやばいぜ。あいつ。90層クラスだ!」

 アランの叫び声と同時に二人が鎌に切り飛ばされた。

 激しいノックバックのためだろう。二人は高く宙へ放り出され、そのヒットポイントバーが見る見るうちに幅を狭めていく。イエローの注意域、レッドの危険域――そして、あっけなくその表示が消えて、二人はポリゴンの欠片となって空中で散った。

「馬鹿な……一撃……だと?」

 俺は目の前で起きたことが飲み込めず絶句した。一人は軽装だったが、もう一人はガチガチの壁戦士装備だった。それが一撃だと?

 呆然とする俺を尻目にスカルリーパーはその場にとどまることなく、駆け抜けて行った。第50層のボスモンスターと違ってその場で暴れるタイプではなく、ボス部屋全体を駆けまわるタイプのようだ。という事は攻撃対象を次々に移すタイプ。壁戦士を並べてスイッチしていくという戦術が使えない厄介なタイプだ。

「俺さぁ」

 打ち付けにアランが口を開いた。「この偵察に生き残ったら、コートニーちゃんに告白するぜ」

「は?」

 俺はアランの頭がどうかしてしまったのかと心配になった。だが、その眼を見ると生気に満ち溢れている。俺は苦笑して言葉を続けた。「お前、それ死亡フラグだろ」

「これ、はっきり言って死ぬレベルっしょ。こうなったら、死亡フラグを建てまくって逆フラグにするしかないっしょ」

 アランはスカルリーパーを鋭い視線で追い続けながら、飄々とした軽い口調で言葉を継いだ。「だから、マティアスのダンナもフラグ建てようぜ」

「遺言ってわけか……」

 俺はアランの言葉の意味をくみ取った。だが、それにしても人妻のコートニーに告白するというのはどういうチョイスなのだろう。もし、生き残る事ができたなら2時間ほど問い詰めたいところだ。

「そういうこと。来たぜ!」

 アランの言葉に視線を向けると、スカルリーパーがこちらに向かって走り始めていた。

「アランは俺の後ろに。援護頼むぜ」

 俺はシールドを構えながらアランを後ろに下がらせた。

「あいつの攻撃、うまくかわしてくれよ」

「おう!」

 迫りくるスカルリーパーの鎌をじっと見つめる。

 大丈夫、スピードは速いがパリングできないほどじゃない。

「左に受け流す!」

 俺はじりじりと右に移動しながらアランに声をかけた。

「了解!」

 アランが俺の影のようにぴったりと俺の後を追う。

 空気を切り裂く音と共に俺にスカルリーパーの右鎌が襲い掛かった。それをシールドで受け止める。鎌とシールドが激しく火花を散らし、猛烈な衝撃が俺の左腕に伝わってくる。OK。これぐらいなら十分受け止められる。

「ダンナ!」

 スカルリーパーが怒りの雄叫びをあげて今度は俺に左鎌を振り下ろし、アランの注意を促す声が後ろから飛ぶ。

「うらぁ!」

 俺は武器防御スキルで剣を輝かせてその攻撃を受け止めずに身体をひねりながら左に流した。「アラン! 行け!」

「おうともさ!」

 アランは俺の右から飛び出すと隙だらけとなったスカルリーパーの懐に飛び込み、≪クロス・エッジ≫を叩きこんだ。

 短剣スキルで威力が低いとはいえ、初めてのクリーンヒットで前衛部隊から感嘆の声が上がる。

 アランは深追いせずにすぐに俺の後ろに下がった。

 スカルリーパーは何事もなかったかのように俺たちの左を駆け抜けていく。視界の隅でまた一人スカルリーパーの鎌の餌食になってその身体のポリゴンを散らした。

「駄目だ、毒も効かねェ」

 後ろに下がったアランが舌打ちした。アランの短剣には最高位の麻痺毒とダメージを与える毒が塗られている。だが、スカルリーパーのヒットポイントバーには何の変化もない。両方とも効果が無かったという事だろう。

「基本的にこのパターンで削るしかないな」

 深い絶望で思わずため息がもれた。

「さあ、次はマティアスのダンナがフラグを建ててよ」

 スカルリーパーが反対側の壁を走るのを見つめながらアランは笑った。

「そうだな……」

 誰かに告白なんて現実世界も含めて考えたことはなかった。ふと、脳裏にベビーピンクの少女の顔が浮かんだ。

(ああ、もっと時間があればちゃんとした恋になったかも知れない)

「ほれほれ。恥ずかしがらずにぃ」

「じゃあ、生き残ったら、俺、リズベットさんに告白するぜ」

 恋にもなっていない想いだが、言葉にしてみると意外としっくりときた。こんな恋の始まりもいいかも知れない。

「おお。渋いチョイス!」

 アランはニヤリと笑った。

「おっと、リズベットさんは俺も狙ってるから譲れねーな」

 周りから乾いた笑いと共にそんな声が聞こえた。

 再び、スカルリーパーがこちらへ向かってきた。

「俺、現実に戻ったらゴドフリーのアニキの墓参りをするぜ」

 アランが懲りもせず、死亡フラグをまた建てた。

(現実に戻ったら……か)

 俺は朝に見た夢を思い出した。

「俺さ。現実世界で舞台俳優やってたんだよ」

 まあ、解雇されてる事は言わない方がいいだろう。

「へー。そうなんだ」

「だから、生き残って現実に戻ったら、舞台に招待してやるよ」

 迫りくるスカルリーパーの動きを観察し、次の行動を考える。

「イイネ! あとでサインちょうだい」

「俺のサインなんて価値ゼロだけどな! 左ッ!」

 俺は左に飛びながら叫ぶ。

「おう!」

 ぴったり後ろにアランの声が聞こえる。しっかりとついてきているようだ。

 左鎌の攻撃を再び盾で受け止めて、右鎌の攻撃に備える。しかし、右鎌は別の男に振り下ろされて、俺とリズベットを争う宣言をした男が散った。

 アランが俺の左から飛び出して今度は≪ラウンド・アクセル≫で斬りつけた。

 スカルリーパーにX文字の赤いダメージ痕を残して、アランは引いた。

 スカルリーパーは何もなかったように走り続け、進行方向で逃げ惑っていた4人を次々に葬った。10人いた前衛部隊も残り3人……。もはや、組織だった攻略は不可能になった。

「さすが、KoBっすね。負ける気がしません」

 いつの間にか俺の左側にブラントが駆け付けた。

「おいおい。あんたまで死亡フラグを建てる必要はないぜ」

「どうせなら、最後まで乗っかろうと思いまして」

「こいつの遊びにつきあう事はありませんよ」

「遊び言うな! 生き残りたければフラグ建てまくらなきゃ」

 アランが人を食ったような笑みを見せた。

「殺人鬼がいるかも知れないんだぞ! 私は自分の部屋に戻る!」

 ブラントはアランと同じような人の悪い笑顔を浮かべた。

「それはないわー。TPOに合ったフラグを選ぼうぜ」

 アランが笑い声をあげながら視線を鋭く光らせた。「来たぜ」

「生き残ったら、この三人で祝杯をあげようぜ」

「お、いいフラグ」

「右の鎌は引き受けます。左を頼みます」

 ブラントは迫りくるスカルリーパーに腰を落としながら言った。

「わかった」

 俺は頷いた後、アランに視線を向けた。「アラン、次もガツンとやっちゃってくれ」

「病み上がりだ、無茶はしないさ」

 アランはニヤリと笑った。

「死亡フラグの引き出し多すぎだな」

 俺は苦笑しながらスカルリーパーの左鎌を受け止めた。「大丈夫。これぐらいの攻撃ならかわして見せる!」

「ダンナのフラグも中々のもんだよ」

 ブラントが右鎌を受け止めた所でアランが飛び出した。「見せてやるぜ。究極奥義をなっ!」

 アランが放ったのは≪ラピット・バイト≫だった。とても、究極奥義とは言えないソードスキルで俺は苦笑するしかなかった。

 スカルリーパーは雄叫びをあげていきなり向きを変えた。特急列車のようにスカルリーパーのムカデ足がアランの前に立ちふさがる。

「アラン! さが……!」

 言葉が終わらないうちにアランの身体がスカルリーパーの剣のような尻尾で二つに引き裂かれた。

「ちぇ……まずったなあ……」

 アランが口元をゆがませると、粉々に砕け散った。

「アラン!」

 俺にはアランの死を嘆く時間すら与えられなかった。スカルリーパーが攻撃パターンを変え、俺とブラントに連続して鎌を振り下ろしてくるようになったからだ。

「あっ!」

 視界の隅でブラントが短い悲鳴を上げた。スカルリーパーの右鎌を受け止めていた盾が≪Critical hit!≫の表示と共に砕かれ、身体ごと吹き飛ばされた。

「ざけんな! このクソゲー!」

 ブラントは茅場に向けて呪いの言葉を吐いて散った。

 スカルリーパーは最後のプレーヤーとなった俺に右鎌、左鎌と連続して振り下ろしてきた。

 俺は盾と剣で受け止める。二つ合わさると強烈な重さだ。このままでは力でねじ伏せられてしまう。

 スカルリーパーがくぼんだ眼窩の瞳を異様に光らせて雄叫びをあげた。まるで勝利を確信し、無様に抵抗する俺をあざ笑っているようだった。

「舐めるなッ!」

 俺は咆哮した。怒りで全身が熱くなり、研ぎ澄まされた感覚でスカルリーパーの動きのすべてが手に取るように理解できた。

「オラァ!」

 俺は鎌を受け止めていた盾を鎌ごと後ろに投げ棄て、身体をひねりながらもう一方の鎌も受け流しスカルリーパーの懐に飛び込んだ。そして、左手を体術スキル≪閃打≫で輝かせて頭蓋骨に叩きこんだ。

 わずかな硬直時間の間に≪ヴォーパルストライク≫を立ち上げて叩きこむ。さらに発生する硬直時間をショルダータックルで埋めた。さらに≪ヴォーパルストライク≫、≪閃打≫とつないでいく。

 ≪メテオブレイク≫

 片手用直剣と体術を併せ持つ者だけが使用できる反則技のようなソードスキルだ。蟲風呂でコートニーとジークリードの姿を見て、岩を叩き割ったプッチーニと共に体術スキルを取りに行ったのが今、役に立った。

 強攻撃と体術を使うタイミングが難しくそうそう簡単につなげる事が出来ないのだが、今日は絶好調だ。完璧にノッている。体幹の動きが指先にまで痺れるように伝わっている。

 最高のパフォーマンスだ。

 思わぬ反撃を受けたスカルリーパーは奇妙な叫び声をあげながら走り去った。敵を探すようにボス部屋の中を駆け回る。

 俺は盾を拾い上げると、ベビーピンクのよく似合うリズベットの笑顔を思い浮かべながら彼女が作ってくれた剣に接吻した。

(頼むぜ。相棒!)

 もう、ここには俺しかいない。

 観客がいない舞台などいつもの事だ。今こそ最高のパフォーマンスを見せつけてやろう。

 スカルリーパーが再び俺に狙いをつけてこちらに走ってくる。

(さあ。ラストダンスだ)

 腰を落とし、あらゆる攻撃に対応できる構えを取って最強のボスモンスターを迎え撃つ。

 俺はなぜか口元が歪んでいるのが自覚できた。

 幕は上がった――。強烈な衝撃と鎌が切り裂く風をBGMにして俺は踊り狂った。

 




 
人知れず全滅した第75層ボス偵察部隊のお話です。
書いていて、マティアス君、超COOLだぜ。アンタ! と、楽しんで書けました。(結果が残念ですけどそれは相手が悪かったので仕方ないですね;;)

残り3話ですが、後はそんなに暗い話はないかな。(重い話が一つ残ってますが、希望がある終わり方をする予定です)
次はリズベットさん主役で時系列は番外編2より後のお話になります。ほのぼの、笑えるお話です。「絶望? なにそれ?」って感じになると思いますのでお楽しみに。

近況報告は活動報告にて……。ご相談したいことも活動報告に……^^;

では、また来週。っていうか10日後ぐらい?


2013年12月18日追記
すみません。挫折しましたorz
こちらが最終話となります。申し訳ございませんorz


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