俺はハルカを救う旅に出る (ミヤビ・ランベリ)
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-第0話-

「嫌です…嫌ですよ!隊長さんも一緒に逃げるんです!」

 

辺り一面が燃えている、ここの防衛の為の騎士団も俺の率いる近衛隊の一部を残して全滅した。

この城がヤツらの手に落ちるのも時間の問題だろう。

 

だがせめて…せめてこの人だけは…救わなければならない。

でなければ俺が救われた意味、今日まで生きてきた意味が失われてしまう。

 

「申し訳ございません、私は貴女を守る為だけにある存在。ここで私まで逃げてしまっては亡き王様に顔向け出来ませぬ。故にそのご命令にだけは従えません。マコト、姫様を…よろしく頼む。」

 

「…かしこまりました。隊長殿もご武運を」

 

そう言い従者であるマコト=キクチは姫様の腕を掴み、走り出した。

 

「離してっ!マコト!離しなさい!」

 

「ハルカ姫!今はワガママを言っている場合ではありません!隊長の、ナオト様の決意を無駄にする気ですか!」

 

「……ッ!」

 

よし、姫様達の声は離れた。

後はヤツらの注意を俺に引き寄せ、少しでも、一秒でも長く時間を稼ぐ。

 

「俺は近衛一番隊隊長、ナオト=ハルミヤ!我はと思う者からかかってこい!!」

 

そうして俺は敵の前線に向かい切り込んで行った。

あぁ、ハルカ=アマミ姫、貴女は私に生きる意味を与えてくれた…次は俺が守る番だ。

 

その為ならこの命…決して惜しく無い…!

 

 

 

 

 

 

…ふと気が付くと俺は闇の中にいた。

明かりなどどこにも無い、ただただ真っ暗な空間だ。

 

「どうやら目覚めたようですね。いや、目覚めるという表現はおかしいでしょうか?」

 

突然背後から声が聞こえた。

慌てて振り返るとそこには蒼い髪を伸ばしていて、なんて言うか…とても美しい女性がいた。

 

「アンタは…誰だ?」

 

「私ですか?そうですね…名前など特にありませんが…便宜上キサラギとでも名乗っておきましょうか」

 

その「キサラギ」とやらはゆっくり俺に近づきこう言った。

 

「そう警戒しないでください、私は貴方に良い知らせと悪い知らせを持ってきました。さて、どちらから聞きたいですか?」

 

そりゃ知らない場所で知らない人間(?)にいきなり背後に立たれて警戒しない人間がいるものかよ!とも思ったがこのままじゃ一向に埒が明かない。

それに、こういう質問の場合俺の答えは決まっている。

 

「それじゃ悪い方から聞かせてもらおうか」

「ハルカ=アマミはあの後死んだわ」

 

まるで俺の答えがわかっていたかの様に間髪入れず答えてきやがった…

 

 

ちょっと待て…今…なんと言った…?

 

 

「理解出来なかったのですか?ハルカ=アマミは死んだ。いや、正確には“殺された”と言った方がいいかもしれませんね」

 

「…そうか」

 

こいつは出会ったばっかりで正直信用出来るとは言えない。

だが俺にも薄々わかっていた。

城の周りは既にヤツらに囲まれている、オマケに炎で辺り一面が炭と炭となるのも時間の問題だった。あの状況で生き延びろと言われる方が無理だ。

それでも…それでも俺は姫達が生き延びている…そんな少しの可能性にすがりたかった…

 

「そんなに打ちひしがれていないで下さい。私は言ったはずです、良いニュースもあると」

 

「一応…聞こうか」

 

「そのハルカ=アマミを救う手段があります。」

 

「…どういう事だ?死んだ人間を救うだと?バカげた事を!」

 

「ええ。そもそも貴方だって本来なら既に死んでいるはずなのよ?そんな人間が普通こんな所に留まっていられるとお思い?」

 

そうしてキサラギは俺の周りをゆっくり歩きながら話しだした。

 

「この世界はいくつもの世界線によって成り立っているの、貴方がいた世界もその一つ。

そして殆どの場合世界は互いに干渉し合う事も無く自然と時が過ぎていく。

だけどね、極たまに互いに干渉してしまう世界線が出てきてしまうの。

と言っても普通はそんなに大きく誤差が出るものじゃ無くてね、だいたいはちょっと物が無くなるとかその程度なの。」

 

キサラギは一旦言葉を切り、一度間を置いてからこう告げた

 

「だけど今回は違う。干渉したのはとある人物の生死、その対象者はハルカ=アマミ、向こうの世界では天海春香と呼ばれている人間よ。」

 

「どうしたら…どうしたらその干渉を防げる!?」

 

「簡単よ、貴方がもう一方の世界へ行き、対象者を守る。そして彼女の夢、目標を現実にさせる。それが貴方の世界のハルカ=アマミを救う唯一の方法よ。」

 

キサラギは続けてこう言った

 

「だけどこれには問題が何個かあるの。

一つ、貴方は一度向こうへ行ったなら目標を達成するまで死ぬ事が出来ない。これは一度死んだらワープ初日の時間、場所へ巻き戻されるって事ね。まぁ言い換えるなら命知らずな行動が無限に出来るのだからメリットになるかもしれないわね。

二つ、例え目標を達成したとしても元の世界線へ戻ってこられるとは限らない。だって貴方が目標を達成した時点で世界間の繋がりが解けるんですもんね。戻るのは難を極めるでしょう。

それでも…貴方はハルカ=アマミを救う覚悟がある?」

 

「無論だ」

 

何があっても彼女を守ると俺は誓った。

例えこの身が犠牲となっても…!

 

「分かりました。それでは早速貴方の精神を向こうの世界へ飛ばします。その後は…頑張って下さい」

 

瞬間、俺の目の前に光が広がった。

キサラギとやらの姿もだんだん見えなくなっていく。

だが俺は止まらない、今度こそ貴女を守ってみせる…!

 

 

 

 

 

 

「〜〜さん、〜サーさん」

 

…ん、どうやら眠っていたようだ。何をしていたか余り記憶が無い…寝ぼけているのか?

 

と思ったが…どうやら転移は成功したようだ。

 

周りに見た事もない物があるのがその証拠だな。

 

「もう、プロデューサーさん!」

 

するといきなり耳元で女性が叫んできた。流石に不意打ちはいけない、騎士たる者正々堂々とな…

 

「…って、アンタ誰だ?」

 

「いい加減名前くらい覚えて下さいよぉ…

私は音無小鳥です!この事務所の事務員ですよ!いい加減思い出しましたか?」

 

そもそも思い出す記憶が無いのだが…この手の女性は反論すると更にめんどくさくなっていけない、そんなのはもう充分経験してきた。

その小鳥とやらに適当に相槌を打っていると不意に事務所にノックの音が響いた。

確か今日は新人が入ってくるとかなんとかさっきの話で聞いた気がするが…そいつがこの音の主か?

 

そんな事を考えているとその新人が入ってきた。その姿は俺の思考回路を停止させた。

 

「天海春香、16歳です!今日よりこの事務所に配属する事になりました!よろしくお願いします!!」

 

なるほど…そういう事か…

俺は精一杯の笑顔で言葉を返した。

 

「よろしく!俺は君のプロデューサーとなる東宮直人だ、一緒にトップを目指そう!」

 

この娘がこの世界でのハルカ=アマミ

 

トップアイドルまでこの娘を押し上げればいいだけ、簡単な仕事だ

 

姫様…今度こそ俺は貴女を救います…!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

登場人物紹介

 

東宮直人

この物語の主人公、本来の世界ではアマミ王国の近衛隊隊長をやっていた。

ハルカ=アマミを救う為この世界へ飛ばされ、プロデューサーとしてアイドルと一緒にトップアイドルを目指す。

近代の機器にかなり疎い

 

ハルカ=アマミ--天海春香

世界線が交わった事による最大の被害者。

いつもは元気が一番!だけど少し天然が入っている。

 

マコト=キクチ--?

本来の世界での姫の従者

 

音無小鳥

事務員、ちなみに本来の世界では歌手として世界を飛びまわっていた…らしい

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございます。
まだプロローグという事で全体的に短くもありますが、
「ああ、こんな世界もあったのかもしれないな」程度の軽い気持ちでこれからも読んでいただけると幸いです。


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-第1話-

第0話から相当時間が空きました。
ええホント…色々と忙しかったんです…
少しでも楽しんで頂けると幸いです。


朝、目が覚めると視界一面に真っ白な景色が広がっていた。

 

それを新しい部屋の天井だと認識するまで数秒、ようやく自分が目覚めたのだと実感する。

 

「朝…か…」

 

俺こと東宮直人は上半身だけ起こし、ゆっくり辺りを見渡す。

 

いつもの馴染み深い自室とはかけ離れ、至ってシンプルなこの部屋。

 

一日前まではアマミの王宮で過ごしていたのだ、オマケに知らない土地に知らない機械、これを一瞬で理解するなど…俺には到底出来そうに無い。

 

しかし、この時代の事は何も分からない俺でも現状ハッキリとわかることが一つだけある。

 

時計は10:00をとっくに過ぎていた…

 

 

「大っっ変申し訳ございませんでした!!」

 

結局事務所に着いたのは11時過ぎた頃。

 

そこには社長にひたすら謝る俺、それを後ろで苦笑いしている小鳥さん(事務員)、その隣には心配そうにこちらを覗いている春香の姿があった。

 

「プロデューサーさん、あの、大丈夫…ですか?」

 

社長室から出てすぐに春香が声をかけてくれた。

 

「ああ…社長は笑って許してくれたけど…まっさかプロデュース初日から2時間も遅刻するなんてな…」

 

「あはは…で、でも!次から遅刻しないようにしたら大丈夫ですよ!…多分!」

 

「次からは大丈夫だ、春香こそ遅刻しないように気をつけろよ?」

 

「も〜プロデューサーさんじゃないんですから遅刻なんてしませんよ〜!」

 

「言ったな!?今の覚えたからな!?」

 

…こんな会話がとても懐かしく感じる。

 

やはり世界が違ったとしてもハルカは春香なんだなと再認識させられる。

 

…だからこそ救うのだ、今度は俺が救うのだ

 

 

「おっほん!」

 

なんて感傷に浸っていると、突如小鳥さんの咳払いが聞こえてきた。

 

「プロデューサーさん?春香ちゃんと親睦を深めるのもいいですが…まずは仕事…やりましょう?」

 

そう言った彼女の笑みからはとても強い…有無を言わせぬ圧力を感じた…

 

 

さて…仕事か…

 

正直今何をやればいいのかさっぱり見当がつかん。

 

この身体の記憶が勝手にやってくれる…

 

なんて都合の良い話は全く無い。

 

…しかしそんな事はお構い無しに、少しでも手が止まれば小鳥さんからの厳しい視線が俺を貫く。

 

仕方が無しに適当に手を動かすものの…どうしたものか…

 

と、早くも途方に暮れ始めた頃、突然目の前の機械から「ピロロロ〜」と音が鳴った。

 

その音に機敏に反応するは目の前の小鳥さん。

 

「プロデューサーさん、さっきのメール何が書いてありました?」

 

…メールって何だ?

 

さっきから知らない事のオンパレード、流石にそろそろ頭がパンクしそうだ…

 

やばい…マジでやばい…どうしたらいいんだこれ…

 

そんな感じで目を白黒させてると、突然小鳥さんが立ち上がり叫んだ。

 

「もしやプロデューサーさん…記憶が…!?」

 

…っ!?

 

何だこの女…確かに色々と怪しいとは思われただろうが…まさか一気にそこまで頭が動くとは…

 

「…いつから疑っていた?」

 

「朝からですよ…!いつもは遅刻なんてしない筈なのに今日に限って遅刻!パソコンの前に座っても適当に手を動かすだけ!」

 

…なるほど、この箱はパソコンという名前なのか。

 

っと、そんな事はどうでもいい。

 

この女…見た目とは裏腹にかなり切れるらしいな。

 

見切れなかった俺のミスか…

 

となればどうする…

 

なるべく不安要素は取り除いておきたいが…

 

そんな思考はいざ知らず、彼女は続け様に言葉を吐き出す。

 

「きっとプロデューサーさんは昨日悪の組織に連れていかれて記憶を消されたのよ!」

 

…はい?

 

「それでアテもなく街をさまよっていると僅かに残ってた記憶から事務所にたどり着く…自分でも何故ここに来たのか分からないまま…!」

 

…ちょっと待ってくれ、頭が追いつかない。

 

「それを見つけたのはヒロイン小鳥!どうしてここにいるのかを尋ねるもプロデューサーさんはただ首を横に振るばかり!」

 

「記憶を元に戻す方法を必死に探す私!その冒険の中芽生える二人の愛!あぁ!どうなってしまうの!!」

 

落ち着け俺…一旦冷静になって状況を整理しよう。

 

俺が仕事の内容に戸惑っていると、いきなり目の前の女性が物語を語り出した。

 

…うむ、一向に理解ができない。

 

もしこの状況を完璧に説明してくれる人間がいたならば、すぐにでも雇いたいくらいだ。

 

「あっちゃ〜、また始まっちゃいましたかぁ…」

 

その声は春香!来たか救世主!

 

「春香、またってどういう事だ?」

 

「どうも何も、前々からあったじゃないですか、小鳥さんの妄想癖」

 

は〜なるほど、つまりこれは小鳥さんが勝手に作った物語であり、現実には一切関係無いと。

 

…一瞬でも焦った俺がバカみたいじゃないか。

 

「もしかしてプロデューサーさん、本当に記憶喪失なんですか…?」

 

「いやいやいや!流石にそれは無いって!」

 

ジト目でこちらを見つめる春香、その視線から逃げる様にパソコンに向かう。

 

…勿論操作なんて知らない、皆目見当もつかない。

 

小鳥さんは当分こちらに帰ってこないだろうし…春香に聞いてみるか。

 

「なぁ春香、メールってどこから確認するんだ?」

 

「あ〜さっき来てたメールですか?」

 

変に疑いもせずにさっと隣に来てくれた、ありがたい。

 

「ここをクリックして、受信箱ってところを押すと中身が確認できますよ!」

 

「なるほどありがとう、助かったよ!」

 

とりあえずやり方は覚えた。これで少しはマシになるかな?

 

「え〜っと…「オーディションのご案内」…?」

 

どんがらがっしゃ〜ん!

 

読み上げた瞬間、春香が盛大にコケた、何も無いところで。

 

「お、おい春香大丈夫か…?」

 

「私は大丈夫です!それより!お、おお、オーディションの案内ですか!?私宛に!?」

 

「あ、ああ…天海春香さんにピッタリだと思い、案内させて頂きました。と書いてあるぞ」

 

「やったわね春香ちゃん!早速オーディションの案内が来るなんて凄いじゃない!」

 

あ、小鳥さん帰ってきたのか。

 

「はいっ!これも皆さんのおかげです!本当にありがとうございます!」

 

「ダメじゃないまだそんな事言っちゃ!それは役が決まった時に取っておきなさい!」

 

「わ、わかりました!頑張ります!」

 

「おめでとう春香!頑張ろうな!」

 

オーディションの意味くらいはわかる、審査みたいなものだろう。

 

「ところでプロデューサーさんっ!オーディションって何時なんですか!? 」

 

「おう、ちょっと待ってくれ」

 

準備に日数も必要だろうしな、春香が気になるのも無理はないだろう。

 

「え〜っと日付日付…あったあった…!?」

 

絶句する俺、怪しむ春香と小鳥さん、社長は…まだ帰って無いのかな?

 

スっと隣に来てメールを見る春香、確認した途端にワナワナと肩を震わせながらゆっくりこちらを向いた。

 

いや、驚くのも無理はないだろう、というか俺もかなり驚いた。

 

「プロデューサーさん…この日付って…」

 

「あぁ…本当だとしたら…かなりマズいぞ…!」

 

記載されていた日付は…今日から1週間後。

 

正直かなり厳しい…が、俺に出来る事を、最善を尽くして春香をトップへ押し上げる!

 

それが俺の最初の1歩となるのだろう。

 

俺のプロデュース業に開始早々大きな障害が立ちはだかった。

 

 

to be continue…



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