fate/sand rock (挨拶番長)
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fate/sand rock ZERO 〜judas〜

本編の前日談


1話 裏切り者〜judas〜

 

コーヒーの匂いで充満した研究室にユウサクはダランと項垂れた。

 

到底間に合わない研究資料の作成、レポート、星の電子化研究。

 

瞼を閉じれば目先の億劫な事ばかりが俺の頭をよぎる。

 

このまま瞳を閉じ、惰眠を貪るのも悪くないという考えをこのツルツルな脳味噌から一蹴出来るのではないかという期待からカフェインを摂取してみる。マズイ。マズすぎる。クソっ!期待を裏切られた。

 

「藤木クーン!!!!おはようござい!!!!」

 

志村所長が、煩く研究室へズカズカと入ってくる。ああ。めんどくさいな。

 

「どうしましたか。所長。レポートの件ならメールで転送しておきましたが...」

 

「我が右腕たるユウサクくんに大事なお話がある!!!ウッドデッキへ集合だ!!!60秒以内にな!!!!あばよ!!!!!後レポートはもう提出しなくていいぞ!!!ヌハハ!!!」

 

ついに俺も見限られたか...そんなことを思いながら、ふと地面に落ちた一円玉を見つけた。財布から落としたかな。

 

いや...違う。一円玉ではない。これは銀貨だ。しかもとてつもなく古い。

 

とても汚れていて何の時代のものか、何処の国のものかは判別すら出来ないが、触れると妙な寒気がした。

 

銀貨から感じた寒気が余りにも不快で思わず銀貨を咄嗟に手放した。

 

「ねえお兄さん」

 

いつの間に入って来たのか。小学生くらいの子供が俺の後ろに立っていた。

 

「その銀貨を持って今すぐ逃げたほうがいいよ。」

 

「...早くお家に帰りなよ。」

 

俺が冷たく言い返すと、少年は怪訝な顔をしながらじっと俺を睨み付けた。

 

「おーい!!!何してる!!!早よ来なさい!!!」

 

「すいません!!!今向かいます!!!」

 

俺は銀貨をポケットに急いで突っ込み、ウッドデッキへと駆けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

ウッドデッキへと入った瞬間俺の右腕が吹き飛んだ。

 

余りにも有り得ないことが起きたからか、自分の身体は動こうとも逃げようとせず固まったままパニック状態であった。

 

動かない俺の身体は次に左脚が欠けた。

 

地べたへ情けなくこうべを垂れた時に感じたのは「死」だ。

 

_______そう。痛みより先に俺に届いたのは死への絶望である。

 

自分の血が亡くなっていくことへの寒気である。

 

「あァ...!ああ...!」

 

喉は俺の口から言葉を発す事を良しとせずただ嗚咽のみを漏らし続けた。

 

幻覚なのか、血濡れたドレスを着た天使が俺の前に立った。

 

「あァ...うゥ...!」

 

必死で絞り出したSOSは届かない。それどころか。

 

 

___________天使は俺を食べ始めた。

 

 

「イダィ...!イダィってば...あァ...!ああ...」

ここまで情けなく泣いたのはいつ以来だろうか。

 

痛みと絶望が入り混じり、俺はもう揉みくちゃにされた。

 

 

骨を食べられ始めたあたりからだろうか。

 

何もかもが真っ黒になった後、俺は意識を失った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

コーヒーの匂いで充満した研究室にユウサクはダランと項垂れた。

 

到底間に合わない研究資料の作成、レポート、星の電子化研究。

 

瞼を閉じれば目先の億劫な事ばかりが俺の頭をよぎる。

 

このまま瞳を閉じ、惰眠を貪るのも悪くないという考えをこのツルツルな脳味噌から一蹴出来るのではないかという期待からカフェインを摂取してみる。マズイ。マズすぎる。クソっ!期待を裏切られた。

 

「藤木クーン!!!!おはようござい!!!!」

 

志村所長が、煩く研究室へズカズカと入ってくる。ああ。めんどくさいな。

 

「どうしましたか。所長。レポートの件ならメールで転送しておきましたが...」

 

「我が右腕たるユウサクくんに大事なお話がある!!!ウッドデッキへ集合だ!!!60秒以内にな!!!!あばよ!!!!!後レポートはもう提出しなくていいぞ!!!ヌハハ!!!」

 

ついに俺も見限られたか...そんなことを思いながら、ふと地面に落ちた一円玉を見つけた。財布から落としたかな。

 

いや...違う。一円玉ではない。これは銀貨だ。しかもとてつもなく古い。

 

とても汚れていて何の時代のものか、何処の国のものかは判別すら出来ないが、触れると妙な寒気がした。

 

銀貨から感じた寒気が余りにも不快で思わず銀貨を咄嗟に手放した。

 

「ねえお兄さん」

 

いつの間に入ってきたんだろう。小学生くらいの銀髪の少年がいつの間にか俺の後ろへ立っていた。

 

「坊や迷子かい?早くお家へ帰りなよ。」

 

「________さっき死んだ感想を教えてよ。」

 

さっき死んだ感想...?さっき死んだ...?

 

「何言ってるんだい?君」

 

「血濡れのドレスを着た女の人に身体を食べられた感想を教えてって言ってるんだよ。」

 

嫌な汗が背中に走った。あの妙にリアルな夢...まさかな。

 

「おーい!!!!藤木クーン!!!早くー!!!!」

 

「...はい。すぐ向かいます!!!」

 

志村に気付かれないように俺は急いで最低限のレポートや資料をカバンに詰めた。

 

電車の時間...クソ...後20分待たないと出てないな。

 

俺はウッドデッキには向かわず、エレベーターへ向かいタクシーを探しに向かった。

 

 

「...死なないように頑張るんだよ。」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

タクシーに揺られながら我ながら馬鹿げてると感じた。

 

志村所長に与えられたチャンスを無下にしているのかもしれない。

 

冷静になって思えば何をやっているんだろうか。

 

「はぁ...戻ろうかな。よく考えたらばかばかしい。」

 

そんなことを思った瞬間、タクシーは急に止まった。

 

どうしたんだろうか。

 

「すいません。どうかしましたか?」

 

「いや...幾らアクセルを踏んでも車が動かなくなってしまって...ハハハ...故障ですかな...」

 

なんともついてないな。そんなことを思いながらゆったりとシートに再度腰掛け直した。

 

間抜けな俺はそこで気付いたのだ。

 

決して車が故障しているわけではない。

 

車をあの夢に出て来た天使が力づくで無理やり止めているのだ。

 

_______吐き気。痛み。絶望。

 

あの天使が俺にしたことは夢なんかじゃない。

 

現実なんだ。現実に俺は死んだんだ。

 

その事実をこの吐き気が証明している。

 

無理やりドアから抜け出し、覚束ない足で懸命に逃げ出す。

 

死にたくない。その一心で懸命に脚を回転させた。が、

 

「にげないでよ♩」

 

「ァ__________」

 

天使の指はいとも簡単に俺の肩を引き裂いた。

 

「ウゥ...!ぐゥ...!ゥゥゥウ!!!」

 

俺は芋虫のように地面を這いずり回った。

 

こうでもしなければ痛みを我慢することができなかった。

 

「あー!もう!アーチャーはそうやって解剖対象を無碍に扱うー!こらっ!めっ!」

 

突然現れた不気味な頭蓋骨に運ばれてようかという時に目の前が真っ暗になり、

 

俺は意識を失った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

コーヒーの匂いで充満した研究室にユウサクはダランと項垂れた。

 

到底間に合わない研究資料の作成、レポート、星の電子化研究。

 

瞼を閉じれば目先の億劫な事ばかりが俺の頭をよぎる。

 

このまま瞳を閉じ、惰眠を貪るのも悪くないという考えをこのツルツルな脳味噌から一蹴出来るのではないかという期待からカフェインを摂取してみる。マズイ。マズすぎる。クソっ!期待を裏切られた。

 

「藤木クーン!!!!おはようござい!!!!」

 

志村所長が、煩く研究室へズカズカと入ってくる。ああ。めんどくさいな。

 

「どうしましたか。所長。レポートの件ならメールで転送しておきましたが...」

 

「我が右腕たるユウサクくんに大事なお話がある!!!ウッドデッキへ集合だ!!!60秒以内にな!!!!あばよ!!!!!後レポートはもう提出しなくていいぞ!!!ヌハハ!!!」

 

ついに俺も見限られたか...そんなことを思いながら、ふと地面に落ちた一円玉を見つけた。財布から落としたかな。

 

いや...違う。一円玉ではない。これは銀貨だ。しかもとてつもなく古い。

 

とても汚れていて何の時代のものか、何処の国のものかは判別すら出来ないが、触れると妙な寒気がした。

 

銀貨から感じた寒気が余りにも不快で思わず銀貨を咄嗟に手放した。

 

「ねえお兄さん」

 

いつ研究室に来たのか。銀髪の美少年が俺の後ろに立っていた。

 

俺は銀髪の美少年を無理やり押し倒し、問い質した。

 

「答えろ!!!どうすれば俺は助かる!!!俺はどうやったら死なないんだ!!!なぁ!!!!答えろよ!!!」

 

銀髪の少年は俺の横暴な行為に怒りもせず俺の唇に人差し指を静かにあてた。

 

「その銀貨が君を助けてくれる。けどその銀貨に助けを求めるならば覚悟したほうがいい。」

 

「君は世界で最悪の裏切り者になる。」

 

「良いさ。裏切り者だろうがなんだろうが構わない!!!銀貨に誓ってやるよ!!!」

 

「...言ったね。銀貨に誓うって。」

銀髪の少年は俺の手を振りほどき、椅子に腰掛けてこう告げた。

 

「二階の本棚にある緑色のファイルを取ったら三階の四番倉庫に向かって。そうすれば...」

 

「君の運命は始まりを告げる。」

 

その言葉を聞くと形振り構わず俺は全力で二階へ向かった。

 

あの天使が俺を殺す。その事実が俺の背中を尚更後押しした。

 

即座に緑のファイルを手にした後は全力で階段を掛けた。

 

三階の四番倉庫っ。三階の四番倉庫っ

 

_______ついた。四番倉庫...。

 

急いで入り口を開けようと試みる。が、

 

________開かない。

 

そんな...!うそだ。ウソだ。ウソだ...!

 

「藤木クーン何やってるの♪」

 

ウソだ...いつの間に...

 

「串刺しとさァ串刺し、どっちがいい?勿論さァ...」

 

そうだ...こいつを利用して...!

 

「串刺しだよねェー!!!!!」

 

俺を目掛けて全力の魔力放出。これは読んでいた。

 

俺は咄嗟に伏せることで閉まっていた扉を天使に破壊させた。

 

「_________良し。これで...!って、え...?」

 

 

俺の身体から「腕」が突き抜けている。

 

 

「_____遅かったねェ...♪」

 

 

「チクショウ...!」

 

天使の裸足で顔を思い切り踏んづけられる。

 

「ああ...♪美味しそうだね♪」

 

お終いか...いや...まだ俺には...

 

「銀貨」がある。

 

「まだここじゃ死ねない...何も知らないまま...何も出来ないまま...終わりたくはない...!俺にはまだ...!」

 

微かな希望...古びた銀貨を力一杯握りしめた。

 

神でも仏でも何でもいい...!俺を...!

 

俺を救ってくれ...!

 

「頂きます♪」

 

天使が俺を今にも喰らおうかというその時。

 

異変が起きた。

 

ツキは赤く染まり、

 

ソラは黝く蠢く、

 

雷鳴は激しく轟き、

 

俺の血はただの「水」になった。

 

黒い翼の生えた喪服の女性がぼんやりと目に移る。

 

なんだろう。この人は、

 

「主よ。アナタの救いの声は私のいる氷獄へと届きました。」

 

柔らかな指で頰をそっと撫でられた。なんだか安心する。

 

「後はお任せください。」

 

 

 

その様子を見届けると、

 

 

 

_________俺はまたもや意識を失った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

コーヒーの匂いで充満した研究室にまた戻った。

 

ああ。また死んだんだ俺。

 

もういい。眠ろう。ここで永眠してやる。

 

そうして瞼を閉じようとするがなんだか妙な感触に今更気付く。

 

俺が寝ているのはどうやら研究室の硬い机ではなくもっと柔らかいものだ...

 

なんだこれ...意識がおぼつかないので手探りで周りを手当たり次第触ってみる。

 

どこを触っても一々柔らかい。なんだこれは...

 

「お目覚めでしょうか。主よ。」

...どうやら膝枕をしてもらっていたようだ。

 

しかも喪服の少女に。

 

「君が...俺を助けたのか?」

 

「...はい。主の救いの声を聞き届け参上しました。そして私のことは...」

 

 

「以後、アヴェンジャーとお呼びください。」

 

悲哀の混じった眼でアヴェンジャーはそう告げた。

 

自分がそう名乗ることに何か躊躇いでもあるかのように。

 

「アヴェンジャー...復讐者...か。」

 

とても疲れていたせいか、また俺は意識が遠のいていった。

 

今度は血の海では無く、

 

女の膝の上で。

 

END



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咎人達のロンド

3話 咎人達のロンド

 

1節 「輝ける竜星」

 

「あのっ...ちょっと...!ってうわぁ!」

 

突然私の元に現れた紅の騎士は私には見向きもせず直様あの天使に斬りかかる。

 

天使も堪らず、後ろへ下り両腕を前に出す形で構えた。

 

「魔弾装填、発射ァァァァァ!!!」

 

体育館が大きく震えるほどの魔力弾が放たれる。

 

騎士はそれに怯みもせず一直線に突っ走った。

 

1発目、騎士は大剣で魔弾を去なし、そのまま直進。

 

2発目、弾丸をそのまま身体で受け、更に突進。

 

3発目、それが被弾する前に騎士は天使を捉えた。

 

腰を据え騎士は抜刀の体勢に入るか、と思えば、大剣を乱暴に投げ捨てることにより天使の視界を隠した。

 

騎士は天使の僅かな死角を目指し、魔力放出のジェット噴射で間合いを詰めた。そして、

 

_______コレでもかというくらいの凄まじい勢いで右の拳を天使の腹目掛けて振り抜いた。

 

「うゥ...グぅ...!」

 

殴られた勢いをそのまま利用し、天使は空中へ飛び上がり、天井に蜘蛛のように張り付いた。

 

「強いね...♪魂をまだ喰らい切ってないとはいえボクに拮抗するなんて...♪」

 

「霊核ごとブチ抜く勢いで殴ったんだがなぁ...コレほどにしぶといとは、腐っても三騎士か。」

 

「マスターにお前達は殺すな。とは言われてるけど、セイバー...特に君は殺したくなっちゃうなぁ...♪まあでも...」

 

「勝負はお預けかな♪」

そう言うと天使は体育館の天井を破壊し、何処かへ去った。

 

「はわ...」

 

脅威が去った安心からか、私はペタリと地面に足をついた。本当にダメかと思った...

 

騎士は破壊された天井を30秒ほど見つめた後私の元へヅカヅカと歩いてきた。

 

「君が俺のマスターなのか?」

 

「はい...多分...」

 

右手に刻印された令呪をまじまじと確かめてみたが、やはりこの騎士は私のサーヴァントに間違いない。

 

「...君はこの戦いを降りるべきだ。」

 

_______え、

 

 

「魔術師の簡単な使い魔に引っかかっているようでは君はこの先、俺がいようとも生き残るということは到底出来ないだろう。」

 

騎士は私の髪の毛についていた極小の使い魔を掴み出し、潰した。

 

「教会に行こう。監督人に令呪を手渡してこの戦いから即刻降りるべきだ。」

 

騎士は無理矢理私の手を掴んだ。

 

「_____やめて。離して!」

 

私は差し伸べられた手を乱暴に振り解き、騎士から距離を置いた。

 

「この戦いから私が降りるわけには行かないの...話を聞いて!セイバー!」

 

「______ならば問おう。」

 

「我がマスターよ。聖杯にかける望み、其の覚悟を今ここで語れ。」

 

セイバーの圧倒的な威厳に私は少し怯んだ。

 

願い、覚悟...

 

ホントは私にそんなものなんて...

 

「お姉ちゃんを...」

 

 

「お姉ちゃんを越えたいの。」

 

無意識に出た言葉だった。

 

私に姉などはいない。

 

姉にあたる人物などはいない。

 

コレはいつもの咄嗟の「嘘」に過ぎない。

 

「...そうか。ならば君と剣を共にしよう。」

 

ああ。また善人が私の嘘を信じてしまう。

 

罪悪感が水に黒色の絵の具を落としたように私の心を支配した。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

2節 「教会」

 

傷を癒すためにアヴェンジャーに2日ほど介護された後、アヴェンジャーはこんな提案をしてきた。

 

「買い物がてら、教会へ連れて行って貰えないでしょうか。」

 

勿論俺は快諾した。むしろ助けてもらってばかりの俺がアヴェンジャーの言うことを突っぱねる理由がない。

 

それと、俺も教会へ用事があるしな。

というわけで俺たちは服屋へ向かった。

 

なぜ服屋かって?変装のためと...

 

「なぁアヴェンジャー...アヴェンジャーの欲しい服ってあるか?」

 

「いえ、お気になさらず。私にはこの修道服以外着ることを赦されはしないでしょう。」

 

悲哀に満ちた表情でやんわりと拒否されてしまった。

 

うん、少し悲しい。

 

「...そうか。なんかごめ...」

 

「カップルのお二方!服でお悩みでしょうか!!!」

 

髪はおろか、眉まで金髪に染め上げたチャラついている店員が話しかけてきた。

 

鬱陶しい、といつもなら思う所ではあるが。

 

今回に限ってはラッキーだ。

 

アヴェンジャーの服をコーデしてやるのも吝かではない。

 

「ええ。そうなんですよ〜この子に似合う服ないかな〜っずっと店内回ってまして〜...ってそうだ!店員さんオススメの商品とか紹介して貰えますか?」

 

アヴェンジャーはええ!ちょっと!みたいな顔でこちらに訴えかけてきている。可愛いとこあるなこいつ。

 

「うっし!任せて下さい!!!かわい子ちゃんに似合う服を選んじゃいますよ!!!」

 

かくしてアヴェンジャーのファッションショーが始まった。

 

「あの...あんまりこういうのは...というか肌を見せすぎなような...」

 

I love TOKYO♡と描かれたTシャツにショートパンツ、麦わら帽子の生娘が試着室から姿を現した。

 

「いやいやいいよォ!すっごい似合ってますお客さん!!!モデルとかやってみません?」

 

「いや...あの...困るっていうか...あのマスター?」

 

「良し。次はこのワンピース行ってみようか。」

 

「ちょっとマスタァァァァ!!!!」

 

2時間にも渡るファッションショーの末、俺はアヴェンジャーにグーで殴られた。

 

悲哀に満ちたこの子の笑顔が見れた気がして俺はどこか満足していた。

 

そう。この時は、愚かにも満足していたのである。

 

買い物の帰り道、俺たちは本懐である教会へ向かった。

 

「すみませ〜ん誰か居ますか〜!」

 

我ながらここまで腑抜けた声が良くぞ出せたものだなと逆に関心する。

 

「おうよ。いるぜ。神への懺悔ならいつでも聞き届けてやる。」

 

教会最前列のイスに腰掛けるその男はとてもじゃないが神父には似つかわしくない容貌であった。

 

身長は凡そ俺の一回り...つまりは180cmほど、それに加え、厳つい金髪に逆十字架のピアスに丸眼鏡。

 

明らかに人を威圧してるようにしか見えないその風貌はとてもじゃないが神の声というよりは一般人の悲鳴を聞いていそうな見た目である。

 

「俺たちは聖杯戦争の参加者だ。監督役に用があってきた。監督役は貴方だな?」

 

神聖な場所である教会を管理している神父にも関わらず男は煙草を取り出し吸い始めた。

 

「まあ、座りなよ。坊主」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

3節 「罪」

 

「俺の名はコトミネ・ルソウだ。勿論聖堂教会から正式に派遣された代行者だ。エセの神父では無いぜ。そんで聞きたいことってなんだ?」

 

 

「...単刀直入に言う。この聖杯戦争の参加者にシムラ・ケーンという男は参加しているのか?そいつはだれを従えている?」

 

萎れた煙草をしっかりと味わうようにして吸ってからコトミネ神父はこう答えた。

 

「ノーコメントだ。」

 

「では次の質問だ。」

 

「今俺がお前を殺す。と言ったら?」

 

コトミネ神父はトントンとタバコの入った箱を叩き2本目のタバコを取り出して口に咥えた。

 

「そんなことしても意味ないし出来ない。って答える。」

 

「...俺は本気だぞ。」

 

 

「まあ。落ち着きなって。耳寄りな情報教えてやっからよ。」

 

「ほら。お前のために用意してやったメモ用紙だ。受け取りな。」

 

メモにはこう書いてある、

 

 

〜福音を貴方に〜

 

1 聖者の瞳は裏切り者の大罪をまんまと見通してしまう。

 

自分の弟子に背中を刺されぬよう、

 

慢心をせぬよう、○○○○○

 

2 この世○○○○の全能の目が曇り始めた時が貴方の最大の好機。

 

オリュンポスを目指し歩きなさい。

 

3 願いを胸に2人は永遠と走り続けるが、すでにお互いの願いは叶っている。

 

その事に気付くのは○○○○○○

 

 

4 黄金の杯には手は届かない。

 

杯に向かって伸ばす手は斬り落とされてしまうのだから。

 

5 貴方はもう2度とウソをつくことはない。

 

ウソを言うその口はもう、○○○○なのだから。

 

6 貴方の願いは叶わない。

死ぬのは冷たくて、固くて、明るい場所で2人きり。

 

 

7 明星が○○○○を許さないように、世は○○○○を許さない。

 

裏切り者は○○○○○に貫かれ、死ぬだろう。

冷たくて狭い場所で男と女は息絶える。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「これが何だっていうんだ。」

 

長い脚を組み直し、コトミネ神父は眼鏡を外した。

 

「其奴はこの聖杯戦争の参加者を写した預言書だ。7の数字はお前達。」

 

「冷たく狭い場所で男と女は息絶える...ってオイ...」

 

「死ぬって事だ。遅かれ早かれな。」

 

「だが、時間の指定とかは無いんだろ?」

「驚く事にこれは2週間以内の短期預言だ。余命2週間悔いのないように頑張れってな!ハハハ!」

 

「巫山戯るな!!!!」

 

俺が渡された預言書を破り棄てようとしたその時、

 

「ごはっ...」

 

強烈すぎる腹パン。余りにも重たい一撃は貧弱な俺をノックダウンさせるには充分過ぎた。

 

「破り棄てるくらいならお前らには渡さねー。そんぐらい神聖なものなんでな。」

 

「後そこの赤髪のお嬢さん。」

 

紳士的で柔和な笑顔でコトミネ神父はアヴェンジャーに話しかけた。

 

「...どうしてお前が「英霊」として召還された?お前のような世界で最悪の咎人が。」

 

_______氷。例えるなら氷だ。

 

今のこのエセ神父の顔は氷だった。

 

それほどに冷たく、静かに燃えていた。

 

「...」

 

アヴェンジャーは答えなかった。答えずに地に伏した俺の肩を担いだ。

 

「私とて...」

 

 

そう言いかけた後に口を紡ぎ、そそくさと教会を後にした。

 

 

「イスカリオテの...ユダ...世界最悪の裏切り者。」

 

煙は教会の天井をモクモクと昇っていった。

ーーーーーーーーーーーーーー

 

4節 「神秘を追え!名探偵!」

 

「何寝てるんだッー!大神ッー!」

 

勢いよく私の頭に振り下ろされた雑誌の束は睡眠中の私にクリーンヒットした。

 

「あだッー!ごめんなさいッー!お母さん!」

 

「あんまかまけてっとそろそろクビにするぞ。」

 

「だって昨日から書類の仕事ばっかでもう眠いっていうか...」

 

ボサボサの頭を掻きながら必死でもない言い訳をつらつらと述べてみるがこの男には無駄だったようだ。

 

「行方不明の人気タレント六王紫苑についてはまだか?」

 

「まだって...そんな無茶なベテランの探偵ですらもう諦めかけてる案件を素人の私が追えとでも!?」

 

「はァ...あのなぁ大神。俺の若い頃はなぁ自分の足だけで3億円事件の犯人のスクールをでっち上げたもんだ。」

 

「でっち上げであってそれ真実でも何でもないですよね?」

 

「あのなぁ俺らマスコミに必要なのは真実じゃないって何度言えばわかる?良いから記事書いてこい。馬鹿どもをたっぷり釣れそうな奴を...な。」

 

「うなぎでも釣ってきます。」

 

そう言って私は事務所を後にした。

 

人気タレント六王紫苑。ジャニャーズを脱退後ソロで活躍。デビュー作「仮面ライダーデヴィ」を機に子供から大人までの幅広い人気を獲得、その後数々のドラマに出演し、俳優として数々の賞を総なめ...そんな人物がなぜ失踪を...?やっぱ芸能界に絶望したとか?

 

「恋愛関係についても浮上はしていない...共演の女優と肉体関係があった疑惑はあるもののそこまでの関係に至ったスクープはない...うーん...。」

 

「お客さん...思考が口に出ちゃってますよ。はいコーヒーです。」

 

「う、うっわぁ!?恥ずかし...ッていや!その!ありがとうございます!!」

 

「ははは...お客さんも六王紫苑さんの事件、気になる感じですか。」

 

なかなか可愛い顔をしたお気に入りの店員だった子に少し引かれた事にショックを覚えながらも渋々と答えた。

 

「気になるっていうか、その...ぶっちゃけ仕事でやってまして...」

 

その言葉を聞いて店員は周りをコソコソと見渡し私に聞き耳を打った。

 

「実はここの常連さんにその事件を追っている探偵さんがいまして...宜しければ紹介して差し上げましょうか...?彼方の方なんですか...」

 

長テーブルの隅っこにこぢんまりと腰掛けた眼鏡の女性がいた。

 

「あのぅ...すみません...貴女が...探偵さん?」

 

「そうとも、ええそうとも!私こそが名探偵です!あ、これ名刺です。」

 

名刺にはスゲーイ名探偵アミィ事務所 所長兼副署長兼書記兼鍵閉め係担当

 

アミール・ロンデバンクと書かれている。

 

...ツッコミたい...けどここは無視だ。

 

「アミィさんも六王紫苑失踪事件について調べてらっしゃるんですよね?」

 

「ええ!勿論!貴女も?」

 

「...はい。」

 

「ふふっ!今日は最高にラッキーね!最高の助手が出来たわ!」

 

(助手になるだなんて一言も言ってないんだけどな〜なんで勝手に助手になってるのかな〜)

 

「店長!この娘の代金は私が払っとくわ!お釣りは付けといて!」

 

「あいよ〜」

 

「さっ!行きましょ!」

 

「どこに!?」

 

こうして迷探偵と私の奇譚が始まった...

 

それもサイッッッコウにクレイジーな奇譚である。

 

「大神 栞 」記。

 

 





キャスターさん家の今日のご飯 第2回

キャ「はい始まりました。今日はね夏バテで食欲のないアーチャーちゃんに夏バテでもするりと食べれる冷やしぶっかけうどんをね。作っていきたいなと。」

ア「お前を喰わせろよ。」

志「今日俺はアレでいいわガリガリくんだけでいいんで」

キャ「お料理コーナーとして成り立たないんですけど!?世の主婦たちが失望するでしょ!」

ひよこ「前回のクソみたいな終わり方でもうこのコーナーは見限られてるぞ。作者も次話からここの欄はサーヴァントのマテリアルとかにするって言ってたし」

キャ「マジで?おーい俺紹介しろよな〜今回の主役だしさ〜」

ひよこ「アーチャーちゃんとおま...ごめんごめん撃たないで俺が悪かったわウン。え?Switch貸してくれるなら許してくれる感じ?しゃーねーなぁ。ほら貸してやるよ。」

アー「やっほーい♩」

キャ「意外と優しいとこあるんですね」


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失墜の日

4話 失墜の日

 

1節 「素敵な解剖室」

 

「おはようございます。久世首相。」

 

7月27日深夜、スケジュールの合間を縫い腫瘍摘出の為に私こと久世橋通は手術に望んだわけだが、

 

______なんだか妙だ。

 

私は目の前に立つ赤髪の外人に執刀を頼んだわけではないし、なによりここは手術室ではない気がするのだ。

 

「...誰だね君は。」

 

「現代の医学はとても進んでいて俺感動してるんですよ...特に衛生面。俺、その点については本当に尊敬してます...。」

 

男は答えずに話を逸らし出した。

 

マズイな...この私ともあろうものが医療詐欺に引っかかるとは...後で秘書をしっかりと叱っておかねば。

 

「早くここから出したまえ。私を誰だか分かっているんだろうな?」

 

「知ってますよ?日本の元・首相でしょ?」

 

元...?なんだそれは...

 

私の反応を見て赤髪の男はテレビを付けた。

 

「久世首相が今朝未明、何者かによって殺害された事件について新しい情報が...」

 

!?!?!?!?...私が殺害...?どういうことなのだ...?

 

「貴方は世間的にはもう死人なんです。社会的な死人は日本ではどういう扱いを受けるかは勿論ご存知ですよね?」

 

冷や汗がスッーと背中を走っていく。

 

社会的な死人は...

 

「人権がないんです。貴方は今死体と同義の存在なんですよ。」

 

絶望、とはこういう感情か。

 

恵まれた環境だった故にあまり感じたことはない感情だったが、

 

こうも苦しく、胸が締め付けられるとは

 

「ちなみに貴方の付きの医者は肺ガンと診断されていたようですが肺ガンではありません。断言します。貴方は結核腫です。」

 

「けっかくしゅ?」

 

「盗んできたカルテには手の痺れが取れない、肺に影、風邪が治りづらい、体にぽつぽつと妙なアザ、とあります。確かに前者二つは肺ガンの特徴そのままですが体にぽつぽつとアザが出来ていることと、免疫力の低下による風邪の発症、細胞数の増加から見て結核腫で間違い無いです。恐らく前二つで早急に肺ガンと判断したか、或いはわざと肺ガンと決定付けて手術台に乗せ医療ミスで殺す予定だったか...」

 

ヤブ医者かと思い込んだが、飛んだ手違いだったようだ...この男は割とマトモな医者だ。

 

「では君はその結核腫を治してくれるのだね?」

 

「ハハハ!!!まさかぁ!そんな訳ないですよ!俺は今から死体を解剖するんですから!」

 

解剖か。なるほどそうかそうか。

 

...解剖?

 

「さっき言ったじゃないですか。貴方は今死体と同義の存在だって。人権なきゾンビなんです。俺は今から死体を解剖する作業に入るんです。」

 

_____あ。

 

「いや〜なかなか歴史的瞬間ですよね生きた死体を解剖する日が来るなんて。」

 

「やめろ!ここから出せ!早く!!」

 

「暴れても無駄ですよ。ここは俺の宝具内ですから。そんじゃ!そろそろ始めようか!カモン!俺の可愛いコレクション達!」

 

このヤブ医者の呼び声で現れたのはナース服を着た2mほど骸骨であった。

 

「それじゃあ今から解剖を始める。」

 

「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

「結核腫患者の骨...まあまあだな。」

 

キャスターは透明な瓶にカランと骨を入れた。

 

「マスター。解剖終わりました。はい。はい。今すぐそちらへ向かいます。」

 

電話を切り、キャスターはスマートフォンとメスを机に並べまじまじと見つめた。

 

「便利な世の中になったなぁ...」

 

解剖者はウットリとしながらメスを丁寧に拭うのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2節 「ウィンチェスター」

 

ここ最近私たちは定期的に定食屋に行くのだが、私のマスターはいつも同じ物しか頼まない。

 

「切り刻んだ沢庵をお茶漬けに振りかけたやつを頼む。」

 

「いつものですね。はいよー。」

 

新撰組の問屋でも土方さんがこうやって頼んでいたのを思い出した。

 

本当にあの人は死ぬ程沢庵食べてたなぁ...

 

沢庵食べ過ぎて体中が黄色くなるんじゃないかと思っていた。

 

「どうした、アサシン。お前もこれを食べたいのか。」

 

「いや!そんなことはないです!決して!」

 

キッパリ返事をしておいた。あまり沢庵は好きな方ではない。

 

「うむ...そうか...」

 

キッパリ返事をしすぎたせいか落ち込んでしまった...なんかすいません...!

 

「現在私の部下の者達が東京中を嗅ぎ回っていてな。部下の1人が耳寄りな情報を拾ってきた。」

 

「耳寄りな情報とは?」

 

「八王子市の美術館近くにある廃校近くで莫大な魔術反応が検出された。サーヴァント、魔術師が動いた可能性があるとのことだ。今日我々は直に其処に足を運ぶことになる。」

 

「初陣だ。気合いを入れていくぞ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「顔を全国に知られている六王紫苑ともあろうものが変装もせず堂々とこんな所に来ていいのか?」

 

ライダーと六王は魔術反応があった廃校へ来ていた。

 

「六王紫苑の最大の売りは化粧技術にある。下手にマスクやサングラスをするよりは髪型を変えて化粧していったほうがバレにくいのよ。見ろ、ライダー。」

 

六王は床にこびりついた血の跡を舌で舐めた。

 

「...女の味だ。」

 

「汚い上にキモいんだが。」

 

「しかも17歳から20歳辺りの味だな。間違いない。ファイルにあったセイバーのマスターだ。」

 

ライダーは三歩ほど六王から距離を取った。

 

ドン引きしたからではない。

 

________「気配」を感じたからだ。

 

「紫苑...いるぞ。」

 

「マジか...あんまタイマンは得意なタイプじゃねえ。ライダー、編んでる間に守ってくれねえか?」

 

並々ならぬ殺気...それも1つじゃない...

 

どこだ...殺気を放っている源の場所は...

 

入り口...?出口...?

 

いや...。

 

_______「上」だ。

 

「でぇりゃァァァァァ!!!!!」

 

日本刀を持った剣士が体育館の「天井」から飛び降り、斬りかかって来た。

 

ライダーは倚天剣を構え、受けの態勢に入る。

 

______その隙を突かれた。

 

ドンッと小気味良い発砲音が聞こえた頃には遅かった。

 

ライダーの倚天剣を持つ手はウィンチェスターライフルで撃ち抜かれてしまったのだ。

 

アサシンの袈裟斬りは迷い無くライダーの首を断ち切らんと一閃する。

 

ライダーは堪らず、体を捻るも剣士の剣は急所を逃がすことはなかった。

 

「がはァッ...」

 

一閃を受けたライダーは血を噴き倒れてしまった。

 

「終わりです。六王紫苑。」

 

アサシンは顔についた返り血を拭いながら、ゆらゆらと六王紫苑を斬らんと歩き出すが、その足は

 

ライダーによって力強く掴まれた。

 

「俺を一回殺すとはなァ...褒めて使わしてやるよ...。」

 

掴まれた脚はライダーの怪力によって思い切り引っ張り上げられ、剣士は宙へ吹き飛んだ。

 

「皇帝特権...てのはマジで便利だな。戦闘続行スキルすら獲得できちまうとは...中々にサーヴァントの身体も悪くない...!」

 

「...ッ!」

 

復活するのが予想外だったのか、剣士は着地した後、じりじりと後退りをし始めた。

 

「俺を愉しませてくれよ...!サムライ!唸れ...倚天剣!」

 

ライダーの猛反撃を剣士はギリギリで防ぐものの、1発1発の威力の大きさにアサシンは防御に徹するのが精一杯であった。

 

アサシンは攻撃特化のサーヴァントである。

 

どんな敵であろうとも彼女の一閃は平等に命を刈り取るが、いざ反撃を食らって仕舞えばジリ貧になってしまう。

 

故、分かりやすく強く、分かりやすく脆い。

 

その様子を天井から見守っていたマスターは空かさず、スモーク弾のピンを抜いた。

 

アサシンとライダーが対峙する方向へぽいっと投げると狙い通り煙幕が体育館を包んだ。

 

「ククク...煙幕か...良いだろう。逃げるチャンスをくれてやる。」

 

「...だが絶影の健脚から逃げられるかな?」

 

「カッコつけてるとこ悪いが俺たちも逃げるぞ。アイツらに俺の居場所を通報されたら堪らんからな。」

 

「...。」

 

カッコつけたのが空振ったことがあまりにも恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら黒馬・絶影へと跨った。

 

「紫苑は後で打ち首だから。」

 

「なんで!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3節「アポカリプトの夕陽」

 

「お目覚めでしょうか。主よ。」

 

また俺はアヴェンジャーの太腿で寝ていたようだ。

 

「すまない。また迷惑をかけてしまった。...ってアレ?」

 

目の前にある顔は赤い髪の美人ではなく、銀髪の少年であった。

 

「声似てました?あはは...」

 

「...何の用だ。」

 

「勿論貴重な助言タイムですよ。」

 

「...」

 

研究所でのこいつの助言...それは俺を死の運営から遠ざけた。

 

信頼しない理由はないが...何か胡散臭い。

 

...そうだ。

 

俺から何か質問してみるのはどうだろうか。

 

...そう。例えば...

 

 

「俺たちが勝ち残る方法を教えてくれ。」

 

「ああ、ありませんよ。貴方達マジで死にますから。」

 

コイツ...あの神父と同じくキッパリと言いやがったな。

 

「どういう風に死ぬんだ?」

 

「アヴェンジャーは槍で貫かれて死にます。その時に貴方は眼を失います。眼を失ったことが原因で貴方は転落死で息絶えて終わり。呆気ないでしょ。意外と、」

 

槍で貫かれて死ぬ。ここもあの福音と同じだが、

 

俺は「眼」を失う...?

 

 

「俺たちがそれを回避する手段は無いのか...?」

 

「定められた運命に多少抵抗しても詳しい状況が少し変わったりするだけで何も意味ないですよ。アヴェンジャーさんが槍で貫かれて、貴方の眼は無くなり、死ぬ。これは絶対に覆ることはないです。」

 

自分が死ぬ。

 

こうもキッパリと告げられてしまうと何だか実感が湧かない。

 

「だとすればお前の役割はなんだ?俺を死の運命から遠ざける...とは違うようだが...」

 

「僕は貴方の最期を見届ける役です。氷獄で血までもが凍り果て、魂が朽ちる。その時を見守るまではお守りをしてやろうって魂胆ですよ。」

 

「...すまん。意味がわからん。」

 

「ははは...そうでしょうね。ああ、そうそう助言だった。」

 

「アヴェンジャーさん探しに行った方がいいですよ。彼女、自分自身のスキルに抵抗して自害しようとしてます。」

 

自害...!?

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

俺は銀髪の少年に告げられたアヴェンジャーの居場所を反芻しながら走った。

 

「アヴェンジャーのクラススキルには復讐者というスキルがあります。このスキルは少々特殊でしてね。簡単に言えば復讐者であることを霊基に刻まれ、強要されるというスキルです。しかし彼女は何故か復讐者のクラススキルに抗う要素があるようです。恐らく彼女のバックボーンに何かあったのでしょう。復讐者であることを拒む理由を探る。漢の見せ所ですよ。」

 

無茶言うんじゃない...!

 

銀髪の少年が言う通り確かにアヴェンジャーは砂浜にいた。

 

ここから見る限りは自害なんてしなさそうだが...

 

「どうかされましたか、主よ。」

 

「心配になって走ってきたんだ。」

 

「成る程...そうですか。」

 

アヴェンジャーは明らかに様子がおかしかった。

 

胸に突き立てようとでもしたのかナイフが逆手で構えられている。しかし、もう片方の腕がナイフを持った腕を牽制し、離さない。

 

「何してるんだ...?」

 

「主の御察しの通り、私は自害を試みていました。しかし如何やら私の貧弱すぎる力では霊基の強要には打ち勝てないようです。」

 

「...教えてくれ。アヴェンジャー...」

 

 

「お前は一体誰なんだ?」

 

______紅の月は男女を染めた。

 

海風が乾き、傷ついた心に沁みる。

 

女は突き立てようとしたナイフを乱暴に投げ捨て、ユウサクの方を真っ直ぐに向いた。

 

「________私は裏切り者(judas)

 

「世界で一番悪い人。」

 

そこには俺を救ってくれた修道女の姿はもう無かった。

 

漆黒の二翼、血濡れの牙、悪魔の角、

 

俺の目の前に立っているのはきっと、

 

ただの獣だ。

 

END





キャスターさんちの今日のご飯 4話

キャ「アーチャー見ました?俺の活躍、カッコよくないですか?」

アー「黙れよ。青二才。」

キャ「すいませんでした。」

シム「すっかり尻に敷かれてるなぁキャスター」

キャ「アットホームな職場って感じで最高っすホント」

ひよこ「石川来ない?」

銀「おせんべ工場来ない?」

キャ「どちらかというと工場かな...労災でぐちゃぐちゃになった骨にまあまあ興味が...ってなんでいるんですか貴方」

銀「余りにも本編が更新されなさ過ぎるから遊びに来たのじゃ」

キャ「お土産に日本首相の骨とかあげますよ。」

銀「いらねー。のじゃ。」

キャ「どうしてこうも女性陣の当たりが厳しいんでしょうね。来世はイケメン俳優とかに生まれ変わりたかった。」

シムラ「32アイスクリームうまっ!」



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5話 二律背反による存在証明

5話 二律背反による存在成立

 

???節 「泡沫」

 

ある信者が言った。

 

お前は裏切り者。世界一の裏切り者だ、と。

 

ある売春婦が言った。

 

たった銀貨30枚で主を売った大罪人だ、と。

 

ある処刑人は言った。

 

この槍は主を刺すものではなく、裏切り者を刺すべきであった、と。

 

イスカリオテのユダは言った。

 

復讐しろ、と。

 

イスカリオテのユダは告げた。

 

復讐しろ、と。

 

可哀想なユダは誓った。

 

復讐しろ、と。

 

復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、復讐、

 

ずっとずっと「私」じゃない私はこう囁いて来るのだ。

 

復讐しろ、と。

 

「私」はこう答える。

 

誰に?誰に私は復讐するの?

 

裏切り者の「私」に

 

復讐する矛先なんてないでしょう。と、

 

私は言った。

 

主を捨てた人間を殺せ。

 

皆殺しだ。

 

だから、

アポカリプトの夕陽をもう一度。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

俺が今見ているのはアヴェンジャー...いやユダの心の中だ。

 

いや...正確には見ている、と言うよりは呑み込まれた。という方が正しい。

 

事実、気を抜けば自我を失ってしまいそうなほどの悪意が俺の身に押し寄せている。

 

こんなものをずっとこの娘は背負い続けていたって言うのか...!

 

泥のような悪意、いや事実泥か。これを掻き分けていけばあの娘に手が届くんだろうか。

 

掻き分けることは愚か、溺れないことに必死な自分な貧弱さを呪いながら何とか彼女の元へ辿り付こうと、必死に足掻いた。

 

______届く。あと一歩で、

 

_______彼女に触れられる。

 

切り揃えた赤い髪に届こうかと言う瞬間。

 

ユダは槍に刺されて融けてしまった。

 

「ユダァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」

 

「お目覚めですか。主。」

 

「ハァッ...!はぁはぁ...!」

 

なんだここ...?和室?って、俺の家か...。

 

「ハハっ...なんだ夢だったのか。」

 

「残念ながら夢ではありませんよ。主は私の悪意に喰われかけたのは事実です。」

 

濡れたタオルを絞りながらユダは語った。

 

「私には無辜の咎人という精神汚染スキルの上位スキルがあります。さっきの出来事は主の保持魔力が低いのと、私の暴走が重なり合って起きた現象です。」

 

額に冷たい布を静かに当てられ、幾分か冷静な思考が出来るようになった気がする。

 

「この機会ですしお話しますね。私のお話。」

 

「私、イスカリオテのユダという英霊は二つの側面を同時に持ち合わせています。一つは世界最大の裏切り者の私、もう一つは復讐者としての私です。この二つの側面は矛盾しています。矛盾していることによって、私という英霊は成り立つことが出来ています。ですが、何らかの条件で先程のように均衡が少しでもズレるとああいうことになります。」

 

浜辺で見たユダの獣の姿...アレが...

 

「この均衡のズレは滅多に起こるものではないです。起こるとすれば私に関する関係者、もしくは物品が近くにあるという予兆です。私の見立てではこの聖杯戦争の参加者に...私の咎を知りうるサーヴァントがいます。」

 

ユダの関係者...そうともなればアレか?

 

「イエ...」

 

それを言い切ろうとした途端、俺はアヴェンジャーに口を抑えられた。

 

「あの方の名前を呼んではいけません。それを呼べば私はいよいよ自らでは霊基を制御できない死徒とも獣とも言えない何かに成り果てます。」

 

ユダはアレだ...意外と爆弾だ。まさに爆弾娘、ハハハそんな冗談考えてる場合じゃない。

 

「何にしてもその関係者のサーヴァントは避けるべきだな。ユダの弱点を知っているかもしれない。何か情報が分かればいいんだが...俺の使い魔ではそれらしき奴は見当たらなかった。」

 

「主の使い魔では誰を確認出来ましたか?」

 

「2日前、体育館で戦闘を行ったアーチャーとセイバー。その1日後に事実確認に来たアサシンとライダー。呑気に飯を食ってたキャスター。これだけだ。となると、見当たらないのはバーサーカーとランサーだけだ。このどちらかにユダの関係者がいると見ていいだろう。まあ...参加者は7人だから正確にはランサーか、バーサーカーだが。」

 

「...主よ。お願いがあるのです。」

 

ユダがお願いとは珍しい。

 

「残り1人の参加者...つまり私よ関係者であるサーヴァントとそのマスターを探して欲しい。」

 

聖杯戦争においてむざむざサーヴァントの前に姿をあらわす。本気で聖杯を狙うものならそれは正気とは言えないだろう。

 

だが、

 

俺たちはどうせ死んでしまうらしい。

 

だったら。

 

「ああ。協力しよう。」

 

死ぬ気でユダの願いを叶えてやるまでだ。

 

そう、死ぬ気で俺のサーヴァントの為に尽力すべきなんだろう。

 

「主よ、ありがとうございます...!」

 

この娘が普段見せないくしゃっとした笑顔。

 

前払いの報酬には充分すぎた。

 

「ふふっ...。」

 

「主よ、どうしましたか?」

 

思わず笑みが溢れた。

 

理由は、具体的にはわからないが。

 

俺はこの娘といると何故か、そう。

 

無性に、楽しい。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2節 「散り桜」

 

「北東方向に制圧射撃!抜刀隊は裏から回って斬り込めェ!」

 

蝦夷国に侵入した政府軍の討伐任務に男は向かっていた。

 

背中を預けたかつての仲間達は、冷たい地面の下で報われぬまま。

 

報われぬままなのだ。

 

「オラァァァァァ!!!!!」

 

斬っても、撃っても、蝦夷の勝ち筋は見えない。

 

男の瞳に写るのは。

 

「ウゥ...!死ね...死ねエエエエエ!!」

 

血だ。

 

これは誰の血だ。

 

仲間か、敵か、あるいは自分か、

 

解らない。

 

それ程に自分はもう血を浴びすぎた。

 

_______ある日、銃弾が俺の歩みを止めた。

 

歩みを止め、地に伏したことで気づいた。

 

ああ、土の味は不味いなと。

 

案外歩みを止めるということも悪くないかもしれないと。

 

______だが、

 

「近藤...さん...。」

 

俺の誠は止まることを知らなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「マスター、貴方の聖杯への託す願いを教えてもらえないでしょうか。」

 

「突然だな。」

 

今朝私が見た夢...これは確実にあの人の夢だ。

 

私のマスターはあの人に関連する人間なのではないか...?そう勘繰っているのだ。

 

「願い、か。そうだな。在り来たりな願いに過ぎんよ。私の願いは寿命を延ばすことだ。」

 

「寿命...ですか。」

 

本当にノーマルな答え返ってきちゃったよ。

 

「アサシンの願いは何だ?」

 

私の願い...それはたった一つだ。

 

それは土方歳三と最後まで戦い続けること。

 

私の剣をあの人の隣で振るい続ける事だ。

 

「かつての仲間と剣を共にする事です。」

 

「かつての仲間...新撰組か。アサシンよ。お前はかつての仲間と剣を共に出来たとして何処を目指すのだ。まさか歴史をなぞるように散るとでも言うまいな。」

 

「新撰組を愚弄しますか...。例え自分のマスターでも其れは考えものですよ。」

 

「お前は自分の美徳、もっと言えば自分の自己満足のためだけに聖杯からかつての仲間を聖杯で叩き起こし、むざむざ死にに行かせるのか?」

 

口より先に、刀が出ていた。

 

マスターは其れを難なく鞘で受け止めた。

 

「私の最終目標を今ここで君に伝えておこう。私は日本を根本から変える為に戦う。その為にはあまりにも私の時間は足りない。故に私は更なる寿命が必要だ。私は目的のためには手段を選ばない何もかもを捨て去る覚悟を決めて今ここにいる。だが貴様はどうだ斎藤一。お前はただ自分の甘ったれた美徳の為に剣を振るう腰抜けだ。だからライダーを仕留め損ねた。違うか?」

剣を静かに納刀した。

「私は、新撰組の為なら泥を被る覚悟を持って闘ってきた。実際に私は新撰組の為なら、あの人の為ならかつての仲間さえ手に掛けた。だが、最期の最期で私はあの人とは戦えなかった。ただ堕落する人生だった。私は、もう一度あの人と戦えるならば、未練の為ならば、生前と同じ覚悟を持って剣を振るえる。私を腑抜けと思うなよ。」

 

マスターは静かに笑った。

 

「...その顔だ。斎藤、その気迫こそがお前の最大の武器なのだ。」

 

マスターは黒服の部下を呼びつけ、大きな箱を部屋に運ばせた。

 

「斎藤、お前に渡したいモノがある。中島よ、丁重に開封しろ。」

 

「はっ。」

 

黒服の中島が大きな箱から取り出したのは一振りの刀であった。

 

「アサシン様、此方がボスからの贈り物に御座います。」

 

「これは...!」

 

「...和泉守兼定。土方歳三史料館からコネを得て極秘に持ち出された本物の遺物だ。」

 

土方さんの愛用の剣...まさかここで出会えるとは。

 

「斎藤...今のお前ならばライダーなど敵では無いだろう。その気迫は全盛期のお前と遜色はない。いやそれ以上だ。」

 

「...斎藤一。これより我が剣は貴方と供に。」

 

「...支度が出来れば直ぐにでも出発だ。六王の魔術工房を突き止めた。そこを破壊しに行くぞ。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3節 「悪食」

 

「キャスター。アーチャーが喰らった人間リストの報告を頼むわ。」

 

「はい。予定通りとは全く行かず、想定されていた3日で20人を大幅に超え現在48人の魂を喰らいました。このペースだと100人は軽々と超えます。」

 

シムラはその報告に唖然としたのか。口を開けたままドン引きしていた。

 

「自分のサーヴァントでしょ。何引いてるんですか。」

 

「この被害数だとそろそろ予定通り監督役が動き始める。アーチャーの討伐命令を出し、全員が彼女を狙うだろう。」

 

「そこで我々の勝利が決定するというわけだ。」

 

「完璧な作戦ですねー」

 

キャスターは今回の現界で 回収した骨のコレクションを再整頓しながらテキトーに聞き流していた。

 

「まさかお前、アーチャーが負けるとでも思っちゃってるわけ?」

 

 

「いいえ、勝つでしょう。アーチャーは勝ってしまうからこそ負けるんです。」

 

「何言ってんだ...お前?」

 

「俺もわかんねーですわ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えー、埃くせー教会に集まってくれた使い魔の皆さんこんちゃーす。コトミネルソウだ。今回は御察しの通り暴れ過ぎたアーチャーの討伐命令を下しまーす。全マスターは強制的に休戦し協力してアーチャーを倒してくださいって...使い魔3匹しか来てないんだけど、やる気なさすぎだろ。」

 

蝙蝠、鳩、猫の使い魔が椅子にちょこんを腰掛けているのは何か可愛げのある光景だがこれは聖杯戦争である。

 

「えーと、あ、そうそう討伐できた陣営には追加の令呪をあげちゃいまーす。そんじゃあ、後頼んだわ。」

 

やる気ない討伐命令の宣言はこれにて終了した。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「アーチャーの討伐か...セイバー行く?」

 

燈達はホテルの一室を借り、魔術工房を構えて穴熊に徹していた。

 

「無論だ。無辜の民への甚大なる被害。誉れ高き騎士として見逃すわけには行かないだろう。行くぞマスター」

 

うわぁ...この光の王子様って感じ私にはツライなぁ...

 

元々家系が黒魔術方面に寄ってるともあるからかこの如何にも正義の味方って感じの騎士王様とは居づらい。

 

というか気まずい。そのせいかセイバーの聖杯にかける願いとか全く聞いてない。

 

「アーチャーは新宿に潜伏してるらしい。急ごう。令呪は何としても独占しなきゃ。」

 

このウィザードマインド何とかならないものだろうか。

 

我ながら嫌悪感がヤバイ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

六王家秘密の地下室にて、

 

「アーチャーの討伐命令だそうだぞマスター。行くか?」

 

水晶でまじまじと様子を見て居たライダーとは対象的に、六王はひたすら呪術を練っていた。

 

「なあ...シカトか?」

 

六王はライダーが殺気を放ってようやく気づいた。

 

「ああ、すまんすまん集中してて、さ。もちろん行くさ。漁夫の利を取りにね。」

 

「流石よ...私のマスターはそうでなくては...潜伏のための算段はあるのか?他の参加者とて襲撃は警戒するだろう。」

 

「これだ。」

 

六王はひよこの意匠が凝らされたカッパを2着取り出した。

 

「...何だこれは。」

 

「六王紫苑特注のひよこカッパだ。」

 

「打ち首にしていいか?」

 

「まあまあそう慌てなさんな。このひよこカッパを着てくちばしの部分を押すと...」

 

珍妙なカッパを着ていた馬鹿男は気配すら感じられぬほどに消えた。

 

どこだ...?もしや...!

 

こいつ...!

 

私の股の間の下で透明化することでこの馬鹿男は私の下着を覗き見していたのだ。

 

「馬鹿か?お前本当に馬鹿か?」

 

「ごめんごめん殴らないで!ともかくこれで潜伏の面は完璧だ。後はアーチャーの場所だが...恐らく新宿だ。使い魔の偵察が間違っていなければね。結構可愛い下着してるよねライダー」

 

「最後の一言さえなければお前の首は繋がってたのに...残念だ。」

 

「ごめんごめんごめんごめん!!!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「使い魔の報告では...アーチャーの魂喰らいが教会の目にとまり、討伐命令が出たそうだ。何とタイミングの悪い...」

 

夏は冬というTシャツを着たアヴェンジャーはかき氷精製機で氷を砕いていた。

 

「無辜の民が無残に死に果てている現状を放っておくわけには行きません。行きましょう主よ。後シロップ取ってください。」

 

かき氷を作らせてみたらこんなにも嬉々とするとは...驚きだ。

 

「俺はハワイアンブルーで頼むよ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜新宿にて〜

 

「魔弾は残り7発...うふふ...未だフル装填だ...♪」

 

高層ビルの屋上でアーチャーは敵の待ち構えていた。

 

新宿中に散逸しているキャスターのコレクションが張った結界により、サーヴァントや魔術師が一歩でも近づけばアーチャーが即刻に察知し、万全の状態で飛びかかる。

 

「まだかな〜♪まだかな〜♪」

 

指をピストルの形にしてアーチャーは狙いを定めた。

 

_______微かだが、魔術反応...♪

 

「セイバーみっけ♪」

 

新宿のビルから悪魔は飛び去った。

 

END





次話で構想分の書溜めが終了します。

6話投稿時点で何も思いつかなかったら一旦休載かもです。


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5話 狩猟魔王の螺旋

6話 狩猟魔王の螺旋

 

1節 ペンドラゴン

 

午後22時、私は自分の未熟さを恥じた。

 

時計塔で習った結界とは基本は土地設置型であり基本動くことはない。

 

しかし今展開されている結界は自立する複数の骨の人形に結界核を埋め込むことにより変則的な探索結界を張るという前代未聞のタイプである。

 

土地設置型と踏んだ為に用意した結界破りが仇となり、1発で敵に勘付かれた。

 

「ヒャハハハハハヒャハハハ!!!ハハ〜ハハ!!!」

 

アーチャーが空中から滑空し、迫ってきた。

 

静かに着地し、我々の元へじりじりと近づいてきた。

 

「ボクに食べられたい間抜けちゃん達こんばんは♪今日は特製の魔弾でブチ抜いてあげるからね♪」

 

アーチャーは巨大な棺桶を顕現させ、構えた。

 

棺桶には何個も鎖が巻かれ、先端部分には銃口が取り付けられていた。

 

「コレはボクが持つ最強の宝具でね...

まあ食らって見なよ。コイツの威力をね♪」

 

「獲物を穿て!!!魔弾の射手(デア・フライシュッツ)!!!!」

 

フラッシュとともに放たれた魔弾が此方に向かって放たれた。

 

セイバーは霊体化を解き、魔弾を斥けようと魔力放出の構えに入る。

 

竜王衝撃(ストライクドラゴン)!」

 

生前、竜の心臓を得たセイバーは莫大な魔力を保持する。

 

莫大な魔力をふんだんに使った魔力放出。

これで魔弾を無効化しようとセイバーは企んだ。が、

 

魔弾は竜王衝撃を躱した。

 

まるで弾丸に意思が込められているかのように。

 

「なッ...!?」

 

剣を既に振り下ろした態勢のセイバーは魔弾に対応することが出来ず、直撃してしまった。

 

「セイバー...!ごめん今すぐ治療魔術を...!ってアレ...?ウソ...!」

 

治療魔術を施したはずのセイバーのキズは未だに血をポタポタと垂らし続けている。

 

「ボクの魔弾には特性がある。第1の能力、この魔弾は因果逆転の呪いが付与されている。つまりは、絶対に外すことはない。第2の能力は魔弾で負わせたキズはボクが消滅しない限り治らない。どうだ?つえーだろ?最強だろ?」

 

アーチャーが自慢している隙を突き、セイバーはアーチャーの足を断ち切らんと大剣を振ったものの、華麗に避けられてしまった。

 

「あの時より動きが段違いだな。魂喰らいを死ぬほどやってきただけのことはあるか。」

 

「ブリテンの誉れ高き騎士王アーサーペンドラゴン様ではボクには届かないよ♪」

 

アーサー王...?セイバーが...?

 

「人違いだな...第1俺がそんな高名な英雄様ならとっくにエクスカリバーとやらでお前をぶった斬ってたさ。」

 

「アーサー王になれなくて悔しいんだね...♪わかるよ顔でね♪」

 

セイバーは剣を持つ逆の手から魔力放出を放つが、其れも避けられてしまった。

 

「さて...2発目だ。次はマスターを狙ってご退場願ってもらう♪君と遊べないのは残念だけどマスターが全員残らず殺せってうるさいからさ♪」

 

...万事休すか。そう思われた時、

 

アーチャーの胸を朱い槍が貫いた。

 

「いったぁ...♪」

 

「槍...ということはランサー!?」

 

「全く姿を現さない槍兵がようやく現れたか...。」

 

「やだなぁ...♪この槍抜けないんだけど...♪ウフフおかしいなぁ♪」

 

「今のうちに撤退するぞマスター。」

 

セイバー達は急いでアーチャーから離れた。

 

「アーチャーを表に出したということはいよいよシムラも本気を出してきたか。」

 

建物の影からふと姿を現したのはスーツにコートを着た長髪の男だった。

 

「おじさんがランサーのマスター?」

 

「さあな。俺がランサーかもしれん。」

 

「いいからこの槍の呪い解いてよ。」

 

煙草をふかしながら串刺しのアーチャーをまじまじと観察した。

 

「その槍は槍が刺さった人間の罪の数だけ棘の数が増す。数え切れないほどの罪を負ったお前は数え切れないほどに槍の棘が刺さるというわけだ。つまりは解除不可能ってわけよ。」

 

「なるほど♪つまり刺さったまま動いても何の問題もないわけだ♪」

 

槍が刺さったままよちよちと歩き出すアーチャーを見て男はぼりぼりと頬をかいた。

 

「普通の英雄なら即死なんだけどなぁ...普通の英雄じゃなくても動きは確実に封じれる...そう聞いたんだが...あのテキトーヤローには後で説教だな。」

 

「おじさんも気になるけど♪結界内に続々とサーヴァント達が集結してるみたいだし♪そろそろ次のフェイズに移らないとね♪...じゃあまたね。」

 

飛び去るアーチャーを見送りながら男はまたぼりぼりと頬をかいた。

 

「ランサーはもういい。引き続きアサシンのマスターを探せ。ああ?ああ。教え子は立派だったよ。」

 

この男はティエリア・アージット。

 

時計塔非常勤講師であり、

 

燈のかつての師であった。

 

2節 大決戦

 

「使い魔の情報によるとアーチャーはセイバーとの交戦後にランサーらしきものの攻撃を受けタワービルからバレットビルへ飛び去ったらしい。俺たちも向かおうアヴェンジャー!アヴェンジャー...?」

 

アヴェンジャーは何処か遠くを見て、佇んでいる。

 

「...います。私に関する人間...とても近くに」

 

「...行こう。おそらくこのチャンスを逃したら俺たちはそいつと出会えない。」

 

ユダの手を取り、彼女が指した方向を行こうとした途端。俺はユダに服の袖を掴まれた。

 

「敵は槍使いと判明したんでしょう?行って仕舞えばきっと私達は死んでしまう。」

 

そうだ...ユダは槍に貫かれて死ぬんだった。

 

「でも...行こう。俺たちは行かなきゃダメだ。そんな気がする。」

 

ユダの手を強くぎゅっと握りしめた。

 

痛かっただろうか、そんな心配をよそにユダは静かに笑った。

 

「ええ、行きましょう。」

 

「待ちたまえ。」

 

物陰からすかさず出て着たのは帽子を深く被った初老の男と長髪のサムライだった。

 

______こいつは...!

 

「アサシンのマスター...だな?」

 

この前使い魔で見たときは感じなかったが、この男老人にしては若々しい。

 

まるで人魚の血でも飲んだみたいに...

 

「左様。お前らに相談あってここに参った次第だ。もちろんアーチャーの件についてだ。」

 

「同盟、休戦の相談なら断る。俺たちは単独でやる。」

 

アヴェンジャーも俺も、協力というのには向いていない。

 

 

「まあ生臭坊主...そう早まるな。爺の話はしっかりと聞くもんだぞ。...新宿に新設されたバレットビルはわかるな?」

 

バレットビル...赤馬コーポレーションが建設したショッピンモールも含んだ娯楽施設か?

 

「ああ。アレがどうしたんだ?」

 

「アレはアーチャーの宝具だ。間違いない。」

 

「...!?」

 

あのビルが宝具...?どういうことだ?

 

「私の部下がここ数日のアーチャーの行動範囲を調べた。奴はどうもあのバレットビルから半径2km以内は絶対離れることはない上に、巨大な魔力反応、キャスターの工房を検知している。間違いない。」

 

「それだとアーチャーの拠点ではあっても宝具たり得ないぞ?」

 

「...アーチャーの真名を知っているか?」

 

この男...たった3日であのサーヴァントの真名を知り得たというのか...

 

恐ろしい。警戒せねば。

 

「奴はザミエル。狩猟魔王と恐れられた悪魔だ。魔弾の射手と言った方が馴染みが深いかな?」

 

俺を何度も殺したあいつは天使じゃなく悪魔...

 

ということは...

 

「アヴェンジャーの洗礼詠唱が効くんじゃないか?」

 

「出来ない事もないですが...サーヴァント級の悪魔を祓えるかは疑問なランクなので...ですが、足止めなら可能です。」

 

「...アーチャーはバレットビル内にいる人間を魔力源として装填し、東京に魔弾を放つつもりだ。このままでは日本という国が壊滅しかねない。そうなっては聖杯戦争どころではないだろう。協力をして欲しい。」

 

ユダをチラリと見たが、拒否する意思はなさそうだ。

 

「協力しよう。聖杯戦争がここで終わっては困る。」

 

「...交渉成立だ。直ぐに策を話す。黒服が案内する建物へ入ってくれ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

第三演義「六王紫苑」

 

 

「ライダー、作戦変更だ。バレットビルへ向かいアサシンとアヴェンジャーより先回りして待機するぞ。」

 

六王は何の役にもたってないひよこのカッパを畳みながらいそいそと準備をした。

 

「漁夫の利を狙うならあそこの中でというわけか。」

 

新宿に聳え立つ巨大なビルを見ながらライダーは不敵に笑った。

 

「んなことしねえよ。漁夫の利なんて卑怯な真似よりもっと効率いい方法思いついちまったからな。」

 

ひよこのかっぱを惜しそうに畳みながらライダーは怪訝な顔をした。

 

「そんなのあるのか?」

 

六王はアタッシュケースから小さな藁人形を3つほど取り出した。

 

「こいつさ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ざわざわとバレットビル中の人々が騒ぎ出す。

 

当然である。

 

何故ならば行方不明中の俳優、六王紫苑に極々似た男が握手会を開きだしたからだ。

 

「はいちゃんと整列しろよ〜そうだ1人ずつだぞ1人ずつ。」

 

無論この男は六王紫苑本人である。

 

一般人から直接「握手」という接触方法で藁人形に「恩」を注ぎ込むのと、ここ2階にアーチャーの魔力源たる客を集めるのが狙いだった。

 

49人目...そろそろ頃合いか...

 

霊体化させておいたライダーにエネルギーの溜まった藁人形を柱にセットするように指示する。

 

アサシンのマスターであるあの老いぼれはアーチャーの宝具がバレットビルである。と言ったが、正確には違う。

 

アーチャーの宝具の性質は恐らく、銃の形をしたものに7発の魔弾を装填するというもので恐らくこのビルは大きく関係していない。

 

重要なのは銃の形をしたものに7発の銃弾を装填するということだ。

 

このビル、情報屋によると北東方向の壁が銃床のような壁になっており、先端部分にある屋上は不自然な穴、つまりは銃口部分にあたる部分がある。

 

このビルはアーチャーの宝具の威力をより強力にするためにアーチャーのマスターが作った巨大な銃のレプリカというわけだ。

そう、簡単な話なのだ。

 

______魔弾が装填されちまう前に銃ごとブッ壊す。

 

六王紫苑特製の藁人形は魔術回路を持っている。

 

この魔術回路はある条件を満たすと自立して回転し出し、自爆する法則を持たせている。

 

その条件は人の熱を持たせること。

 

 

握手は熱を回収するのには最適な手段というわけだ。

 

こいつを柱に設置し爆発させればアーチャーの目論見は崩れるわけだが...

 

 

「ふふふ...こんにちは♪」

 

いつの間に気配を察知したのか、圧倒的な殺意に満ちた天使がゆらゆらと向かってくる。

 

そうもうまく行かねえか...なんて思いながら腰に据えて置いたナイフを抜いた。

 

「ウヒヒヒヒ!!!!アハハハハハハ!!!」

 

ザミエルは藁人形の設置を阻止せんと俺に向かって飛びついてきた。

 

「ライダー!」

 

「笑止。」

 

霊体化を解きライダーがアーチャーの腕を剣で即刻断ち切った。

 

「狙いは逸れたが、利き腕は飛んだようだな。次は打ち首にしてやる。」

 

「槍が胸を貫き、片腕は捥がれ、ってお嬢さん瀕死だな」

フラフラと覚束ない足でやっと立っているようだ。

 

「ククク...おい...慢心してるだろ?ライダー...すでにボクの魔弾はお前の心臓を穿った後だぜ。」

 

「ハッタリならやめておけ無駄だ。」

 

「いいや。マジだ。」

 

胸付近に赤い光が一閃する。

 

ライダーの脅威的動体視力で得た閃光の中での光景は

 

「胸付近に到達する前の魔弾」であった。

 

「なァッ!?」

 

咄嗟に皇帝特権で獲得した魔力放出で弾丸を跳ね返そうと踏ん張るが、魔弾は心臓目掛けて進行を止めることはなかった。

 

「グァッ...ハァッ...!」

 

「貧乳が仇になったか...!」

 

弾丸は見事ライダーに風穴を開けた。

 

「だから慢心するなって言ったのに〜♪」

 

胸を抑え、ライダーは膝をついた。

 

 

「確かに慢心はいかんな。」

 

苦し紛れにライダーはアーチャーに向かって剣を投げるものの、軽くかわされてしまう。

 

「死ねェェェ!!!!!」

 

膝をつき、隙だらけのライダーに思い切り棺桶をぶつけんと、アーチャーは全力で棺桶を振った。

 

ライダーは臆することなく、右手で指笛の形をとり、笛を吹いた。

 

「駆けろ!絶影!」

 

影が豪速球で移動しているのかと錯覚させるほどに黒く、

 

その健脚はどの馬よりも逞しい、

 

帝王のような威圧感はけたゝましく、ビルの地面を抉る

 

之全てライダーの愛馬・絶影の事である。

 

心地いいほどの蹄の音を鳴らしながら絶影は思い切りアーチャーを轢いた。

 

「不正なタックルだなこれは。」

 

「所詮は雑魚狩り女だな。」

 

手慣れた手つきで、ザミエルの髪を掴み「斬首」した。

 

斬った首は最後まで不気味な笑顔で気持ち悪いので、放り投げた。

 

「呆気なかった。紫苑よ。これで予備令呪は我々のものだ。」

 

「ああ...早くここから脱出しよう。」

 

_________ツン、と冷たい視線が背中を撫でるように走る。

 

圧倒的な威圧。

 

獲物を狩らんとする獅子の如く圧倒的なプレッシャーを放つそれはビルのステンドグラスに静かに佇んでいた。

 

腕と足の袖だけを見事に破いたスーツを着て眼鏡をかけた禿げた男...

 

凡人ならばこの男をただの奇人ぐらいにしか思うまい。

 

_____だが俺ならわかる。コイツはアーチャーのマスターであり、プレッシャーの主だと。

 

「アーチャーをここまで追い詰めるとは大したものだ。六王紫苑とライダーよ。」

 

この変態がステンドグラスから垂直に飛び降り淡々と此方へ向かうのはかえって不気味だった。

 

「ライダー...構えろ。アーチャーはまだ死んではいない。」

 

「おいなんだコイツらは...!?」

 

いつの間にかライダー達は珍妙な奴らに囲まれていた。

 

コスプレをする骨の人形達に、だ。

 

「不味い...結界が踏み荒らされる...!」

結界への意識が行った一瞬の隙を突いて、変態は恐ろしいスピードで間合いを詰めて来た。

 

たまらずナイフで対応しようとしたが、変態は有無を言わせないスピードで右手から獲物を叩き落し、足を払って転ばせた後、関節を固めることで完全に俺を無力化してしまった。

 

俺がシムラと戯れている間にアーチャーは自ずから首を接合し、復活していた。

 

「んー、ありがとマスター。」

 

ライダーは消耗しきっている...アーチャーとはこれ以上戦えない...!

 

シムラはコンバットナイフを腰から取り出し、令呪のついているはずの俺の右手を淡々と「切断」し始めた。

 

 

「あァッ...!」

 

シムラは令呪を確認するため切断した方の右手についている手袋を剥がしたが、

 

「...おいおいどういうこった。」

 

「令呪」はついていなかった。

 

「おい...てめえまさか...。」

 

魔力を貯めた人形は3つ作ってある。2つは柱に貼る用。

 

もう1つは...

 

「俺と一緒に来いよ...クソジジイ。」

 

________自爆用だった。

 

 

「音叉爆裂ノ人柱陣、術式能其一。」

 

バレットビル2階は爆炎に包まれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

〜管制塔にて〜

 

「今週のプリキュアは水着回か〜視聴しながらツミッターで実況だな。アストルフォちゃんの水着とか絶対トレンド入りするぜ。」

 

キャスターはポテトチップスを食べながら、テレビを見ていた。

 

「なにっ!?オリヴィエ寝返るのか!?敵に!?ええ!?殴り殺すの!?同担のオタクを!?」

 

キャスターのコレクションが視聴中のオタクにつんつんと指でちょっかいをかける。

 

「ごめん待って今いい所だからアストルフォちゃんの服が魔神柱に破かれてるシーンだから。」

 

キャスターはシムラの出動の合図をテレビの録画で無駄にしていた。

 

「ええ!?ニチアサに乳首を!?もうそこまで行くんだったら交尾シーン出せよ!」

 

テレビの前で必死に抗議する様子はまるで英霊の座に選ばれた英霊とは到底思えない情けなさである。

 

「仕方ない...そろそろ働いてやるか。来い!コレクション達!」

 

キャスターの呼びかけに呼応し、コレクション達がぞろぞろと集まってくる。

 

「マスターの命令通り、バーサーカーを探すぞ。街に繰り出してな。」

 

キャスターは大学病院から勝手に盗んだ白衣を着て街に繰り出すことになった。

 

 



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6話 黄金の王

7話 黄金の王様

 

1節 8人目

 

バレットビルの爆炎は使い魔を通さずとも、参加者の耳に伝わった。

 

政府がテロリストの襲撃なのではないかとの公式の見解を示した為に、魔術協会は「神秘の秘匿」の優先し、魔術師達は一旦アーチャー討伐戦から身を引いた。

 

「ビル内にはライダー達がいたのが確認されたが、脱出したのは確認できなかった。アーチャー諸共脱落した可能性がある。」

 

近場のホテルでユウサク達は次の手立てを思案していた。

 

「コトミネ神父の報告を今は待とう。アーチャーが脱落したのが確認されなければ、休戦協定を終わる事が出来ない。」

 

「生きていたの仮定して動くなら次はどうしますか?」

 

ユダは黒服に出されたお茶をまじまじと見つめている。そんなに珍しいものだろうか...?

 

「バレットビルと似た構造を持った建物を探るしかないだろう。奴らの狙いは東京を宝具で狙う事だ。」

 

「なぁ...爺さん。アンタはバレットビルを銃身とし、人間を弾丸として放つ。そう言ったよな?」

 

「左様。それがどうかしたか?」

 

「俺の見解からしてそれは間違ってる。というよりは少し解答から離れているような気がする。」

 

アサシンのマスターは眼を見開き、此方を真摯に見た。

 

「確かに、バレットビルが銃身なのは正解だ。だが人間が銃弾というのは少し違う気がする。例えるなら人間は火薬だ。」

 

「火薬...?」

 

アサシンは部屋の隅にあるウィンチェスターライフルに眼を向けた。

 

「人間ってのはあくまでアーチャーにとってはエネルギーな訳だろ?ということは人間をビルから射出、というよりは人間の魔力を火薬として何かを打つける。というのが正しいはずだ。」

 

「その何か、とは?」

 

一同のユウサクへの期待の眼差しが一枝に向けられた。

 

それに照れたのか恥ずかしいそうに咳払いをしてこう答えた。

 

「...隕石なんじゃないかと思ってる。」

 

隕石、その頓珍漢な答えに最初に反応したのはアサシンだった

 

「マスター、このザリガニ頭はやはり頭がおかしいようです。二重の意味で。」

「おい俺の髪型に文句あるのかアサシン。この地味さを徹底したヘアスタイルに。」

 

「文句以外入る余地ないですからね?」

 

「隕石...あり得んこともないだろうな。」

 

老人の静かに低く透る声は、騒がしい小部屋を鎮まらせるのには充分だった。

 

「うそ!?信じちゃうんですか!?マスター...」

 

「やはり信じてくれますか...と言っても一つ問題があってな。それは隕石が落ちる地点を演算できる機械か人間がいなければならないということだ。恐らくアーチャー単独では隕石を弾丸として発射するには計算能力が足りないはずだ。かといってシムラ所長も生物学専門だし...」

 

ブツブツと語り出すユウサクをよそに、老人は立ち上がった。

 

 

「隕石の受け皿になるビル...これを捜すのが目の前の目標というわけだ。中島、ビルの洗い出しを部下の物に命令しろ。」

 

「了解です。ボス。」

 

黒服の男は命令を受け取ると即座に部屋を去った。

 

「アヴェンジャー、俺たちも出来る事をしよう。」

 

パソコンを開き、ユウサクは使い魔の起動を試みる。

 

町中でアーチャー、もしくはキャスターの行方を探るのが目的だ。

 

〜三井一家邸から2000m先〜

 

「王よ。見つけました。貴方様の預言者にあった裏切り者が彼方に。」

 

男はコトミネ神父からの言葉を聞くと、ニタリと笑った。

 

その男は金色の鎧を身に纏い、眼は蛇のように鋭く、肌は小麦色であった。

 

「コトミネよ。本来ならばあの女は聖杯に誤って含まれた願いに過ぎない貧弱かつ、凡百にも劣る英霊とも言えぬ悪霊のはずだが?」

 

神父は深く一礼をし、金色の王にこう答えた。

 

「王よ。アレは英霊でもなければ、悪霊でもありませぬ。アレは誰しもヒトが持ちうる概念、それの体現者、言うなれば...裏切り者という顔の代表者...でありましょうか。」

 

コトミネ神父の言葉を聞き、黄金の王は自分の宝物庫[王の財宝]を開き、二、三振り、無礼の代償として神父に宝具を喰らわせた。

 

神父は嗚咽の一つもあげず、耐えきった。

 

「戯け。そのくらい分かっておるわ。我を差し置いて何故あの女が英霊としてこの我の許可もなく二本足で立っているのかと、問うておるのだ。雑種。」

 

刺さった槍と剣を抜こうとはしない。抜けばこの横暴な王に殺される事を知っているからだ。

 

「フジキユウサクという何の取り柄もない研究者の中の何かが原因でヤツを呼び覚ましたことが原因かと思われます。」

 

その言葉を聞き、黄金の王は漸く自分の宝具を蔵に収めた。

 

「コトミネは教会へ戻れ。我がアサシンとアヴェンジャーと戯れている間にアーチャーの特定を済ませよ。此れは王の命令である。」

 

コトミネ神父は王からの勅命を聞くと、その場を静かに去った。

 

「さて...」

 

黄金の王の宝物庫の矛先は、三井邸...つまりはアサシンとアヴェンジャー達へと向かっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2節 星々の光

 

「ああっ...!」

 

ボンっと音を立ててPCがイカれてしまった。

 

マズイな...使い魔達を派遣しすぎてPCがその容量に耐えれなかったか...!

 

「主よ。こういうのは叩けば治ります。」

 

「...それ一番ダメな奴だからな?」

 

さては機械音痴かこいつ...属性盛りだくさんだなオイ。

 

案外脳筋なんだなーとかぼんやりした事を考えていた所にそいつは現れたのだ。

 

黒服の中島さんが慌てて俺たちの部屋へ入ってきた。

 

「藤木様、敵襲です。裏口から迅速に避難を。」

 

敵襲...!?何でこんな時に!?

 

俺は敵襲に焦る情けないマスターと悟られないためにできるだけポーカーフェイスを保ち、

 

「ああ...。」

 

とだけ言い放った。

 

取り敢えず荷物だけは纏めてここから出ようとまでは考えられるくらいにはまだ冷静でいられたのでバッグに必要なものを詰めて、裏口から出た。

 

「あァッ!?ぁぁ...!」

 

壁越しにアサシンの悲鳴が聞こえた途端、俺は脚が止まってしまったのだ。

 

今頃、俺が逃げたせいであの女の子は苦しい思いをしてるかもしれない...!

 

冷徹に徹することができない自分への嫌悪感と、女の子を助けれない自分の上っ面だけカッコつけた薄っぺらい仮面を被った自分から来る情けなさが募る。

 

______限界だ。

 

「アヴェンジャー...アサシンに加勢する。壁を破壊してくれ!」

 

アヴェンジャーは漆黒の二翼で、壁を破壊し、俺たちはアサシンの元へといち早く駆けつけた。

 

アサシンは赤い鎖で縛り付けられて身動きが取れていない。

 

その赤い鎖の主は...サーヴァント?

 

小麦色の肌に金髪の髪、黒いライダーズジャケットを緩く着こなしたその男が鎖の主であることは見て取れた。

 

「我の目論見通り来たようだな...雑種。」

 

家に建てつけてある電灯の上にわざわざ立っているこの男...誰だ?

 

「誰だお前は...」

 

「その不躾な態度...普段の我ならば首を3つほど飛ばしていたが、赦す。その地味すぎる髪型と、薄汚い裏切り者のマスターであることに免じてな。」

 

こいつ...ユダを薄汚いと言いやがった...!

 

いけない。クールを保ち続けろ...!俺...!

 

「質問に正直に答えろ雑種。さもなければアサシンは死ぬ。」

 

鎖で縛られたアサシンの周りには金色の穴みたいなものが現れた。

 

そこの先から剣先やら槍先やらが出ている。

 

アレが奴の宝具か...

 

「この薄汚い女をどうやって呼びつけた?触媒は何を使った?詳らかに述べよ。」

 

蛇のような赤い瞳は、俺のあらゆる感覚を舐るように見ている。

 

...嘘はつけないか。

 

 

「紅い月の夜にいつの間にかいた。触媒は使ってない。本当だ。」

 

あまりにもテキトーすぎたかもな...凄い形相でこっち見てるもん。でも事実だ。ホントにそうなのだ。

 

「ククク...フフフ...アハハハハハハ!!!成る程、成る程なァ...そうか、そうか...単純な絡繰であったか...」

 

男は突然腹を抱え爆笑した後、アサシンの鎖を解いた。

 

そして緩りと、俺の前に立ちはだかった。

 

「お前のような脆弱で、貧弱、そして凡百な男が、この世全ての悪意に耐えうるとは思わんが...フフフ...許す。我をせいぜい愉しませろ。その時が来るまでに尸を晒せばどうなるかを想像しておくことだな。雑種。」

 

そう言い残してヤツは霊体化して消えた。

 

予想はしていたがやはりコイツもサーヴァント...しかしクラスは何だ?

 

というかアイツも合わせたら人数合わないような...?

 

「無事でしたか?マスター。」

 

「何とかな...それよりアサシンを...」

 

倒れたアサシンを担いで何とか部屋まで運び切った。

 

あの爺さん何しに出かけてるんだ...

 

俺はふと思った...

アイツも聖杯に呼ばれたサーヴァントならば...

 

誰が「8人目」なんだ?

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

第三演義 「六王家の呪い」

 

〜5年前〜

 

「ドラ息子、よくぞ戻ってきましたね。」

 

高校を卒業した時、俺は魔術の道へ生きることを捨てて俳優として生きた。

 

一家の伝統を捨て夢を追いかける。

 

当時の俺はソレをかっこいいと思っていたからだ。

あまりにも馬鹿だった。

 

六王家次期当主の俺が後を継がなければ次に刻印を継ぐのは妹の真綾だと分かって居ながらも、夢を追いかけたのだ。

 

真綾は魔術刻印と肉体の相性が良くなく、無理矢理適合させるしかなかった。

 

その結果起きた悲劇は、「呪術反転」

だ。

 

六王家が大体受け継いだ呪術はルルイエ異本の写本の写本から呼び出した外側の神様との契約によるものだ。

 

外側の物を無理矢理体に入れるのだから拒否反応が起こるのは自明の理である。

 

六王家はこの拒否反応を抑えるのが一家の研究課題だった。

 

 

奇跡的にも5代までは拒否反応は起こらなかったものの、六王家で始めて、妹の真綾が拒否反応、「呪術反転」を示したのだ。

 

呪術反転を起こした肉体は破れ、腫れ、肌は裂けまくる。

 

彼女のお腹からはタコのような触手が何本も生え、口からは彼女の体の中で生息している生物の目玉が見えている。

一流の魔術師に解呪を頼んだことだってある...

 

だが解呪を試みた魔術師は逆に呪われかけた。

 

それくらいにヤバい部類の呪いだった。

 

こうやって病院のベッドで無惨にも化け物に犯されている真綾を見るたびに俺は自分の罪の重さを実感する。

果て無き夢への代償は重たい。

 

それを知っていながら俺は全ての責任から逃げた。

 

ごめんよ。真綾。

 

聖杯さえあれば、

 

全ての願いが叶う願望機の力なら、

 

お前を楽にしてやれる。

 

「母さん...俺に魔術を教えてくれ。」

 

_____それが全ての始まりだった。

 

魔術師の地位は魔術刻印の継承階位で決まる。

 

六王家は6代続いているのでなかなかに高い地位を持つ。

 

そのコネで六王家はあるものを手に入れた。

 

中国の大英雄の墓のカケラ。

 

コレを持っていることが中国当局で表ざたになれば騒ぎになりかねない逸物だ。

 

「最強の英雄の触媒を用意しました。ここまでしてあげたのだから貴方がすべきかとぐらいは分かるでしょう?日本の聖杯戦争に参加し、聖杯の力で真綾の呪いを解呪する。コレがあなたの役割ことくらいはね。」

 

「存じ上げております。母上。」

 

真綾...お前を必ず...!

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

おまけ 泳げ!キャスターくん!

 

「くそッー!それ返せー!ひよこブスー!」

 

「やだ!やだ!」

 

〜6時間前〜

 

「くそッ...なんでこんな暑いんだよ...」

 

バーサーカーの捜索の為に繰り出したはいいものの、今年は暑過ぎてダメだ。

 

よし決めた。

 

「サボろう。」

 

その判断、甘え、それが今回のドジを引き起こしたのだ...

 

近場にあるわくわくざぶ〜んというプールのチケットを可愛らしい金髪の美少年ギルちゃんから貰い、まんまとバカンスを楽しんだ。骨たちと。

 

そこまでは良かった...!

 

あのひよこ頭が現れるまでは...!

 

「よう2枚目の兄さん隣いいかい?」

 

身体は人間、頭はひよこのぬいぐるみという珍妙な男が突然隣に座りだした。

 

その時俺は機嫌が良かったのと、あわよくばこのひよこを解剖してやろうという魂胆で快諾し、隣に座らせた。

 

たぶん、それがダメだった。

 

「実はさ〜俺の彼女イリヤ...通称銀ちゃんっていうんだけどね?その子とセックスした時のことなんだけども」

 

なんか嘘っぽい自慢始まったぞこいつ。

 

確実にウソだコレ。

 

「あーはいはいそうですかー」

 

とりあえず冷めた目で見守ってやろう。この男の虚言を。

 

俺は右耳から左耳にそのブスボイスを聞き流しながらオレンジジュースを啜ることにした。

 

コップの底の氷まで吸い上げた頃にはこの男の虚言も終わるだろうと思い、啜りながらテキトーに相槌を打っていた。

 

最後から2番目の氷を吸い上げた頃にはひよこ頭はいなかった。

 

「相槌テキトー過ぎたかな〜...ってアレ...ない。」

 

全力で海パンのポケットを弄るが、望みのものはない。

 

「ロッカーの鍵がない」

 

まさか、と思い辺りを見回すと。

 

ウォータースライダーの上で鍵を振り回すひよこ頭がいた。

 

奴は海パンを脱いで尻を出し、ケツドラムをしながらこちらを煽り始めた。

 

「良し。あのブスは解剖決定だ。行け!俺のコレクションたち!」

 

キャスターのコレクションは彼の命令を聞き、自立して動くことができる。

 

出来るのだが...

 

コレクション達はビーチバレーを楽しんでいて一向にこちらを手伝う気配がない。

 

魔力を消費して命令を強制してやってもいいが、このひよこに魔力を使うのはなんか癪に触る。

 

 

奴が全裸で流れるプールに飛び込んだのを確認した時、殺してやろうという気持ちと、公序良俗を守る為に尽力してやろうという思い半々でスコップを構えた。

 

 

「まてゴルルァァァ!!!!」

 

2時間後、プールの監視員に正座で説教を食らう医者とひよこ頭がいた。

 

END




アニャーン(殺意)


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ivericia

8話 ivericia

 

1節 執念の怪物/幻想の悪魔

 

ボクは思うがままに目の前の魔力源達を喰らった。

 

ただの怪物のボクが...

 

マスターに愛される為には...!

 

7発目以降の魔弾を放ち続ける為には...、

 

我武者羅に喰らうしかない...!

 

必死に殺しまくるしかない...!

 

ボクはそれだけが取り柄の「怪物」なんだから...!

マスターは僕の愛を受けとめてくれた...!

 

初めて7発目の魔弾を耐えてくれたんだ...!

 

マスターは肯定してくれたんだ...!愛の証明とは喰らうことだって...!

 

なのに...ボクは負けた。

 

魂食い分の予備の肉塊もエネルギー切れ。

 

次にライダーの一撃でも喰らえばマスターと僕は負けてしまう...!

 

苦しみもがくボクにマスターは新たなる救済を与えてくれた。

 

「令呪をもって命ずる。日本を撃て。魔弾の射手。」

 

その言葉を最後にボクはもう2度と人の言葉を聞くことはなかった。

 

正真正銘の「魔王」と成り果てたから。

 

2節 蜘蛛糸の果て

 

アサシン・アヴェンジャー休戦協定一行は、魔力反応のあった川に来ていた。

 

「水が汚染されてる...黒い泥?」

 

ユウサクが川に流れる泥に触ろうとした手を老人は払った。

 

「いでっ、何すんだよ。」

 

「主よ。これはケイオスタイドです。」

 

けいおすたいど?

 

なんだそりゃ...いや...耳に覚えはあるような...無いような...

 

「第四次聖杯戦争にて確認された汚染物質だ。触れんほうがいい。」

 

「しかし、何故そんなものがあるのでしょうか?」

 

アサシンが呑気にそんなこと言ったと思えば腰の刀を構え、俺の脚を蹴り転ばせた。

 

「皆さん下がって!!!!!」

 

レインボーブリッジから方向から飛来したのはバレーボールサイズの魔弾だった。

 

「でぇりゃぁぁッ!!!」

 

その魔弾をアサシンは抜刀で跳ね除けると即座に、遮蔽物へ身を隠した。

 

間違いない。この攻撃はアーチャーだ...!

 

「主よ。私の翼ならば、アーチャーがいるあの橋へ一気に飛べますが、向かった方が宜しいでしょうか?」

 

「ああ。決着をつけよう。俺はここから支援する。」

アヴェンジャーは真っ直ぐ橋へと飛んで行った。

 

心配だ...大丈夫だろうか。

 

「アサシンも向かってくれ。私はスナイパーライフルで狙撃する。」

 

「御意。」

 

アサシンもまた橋へ向かって行った。

 

嫌な予感がするが...大丈夫だろうか。

 

心配してばっかだな俺...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

魔弾が飛んできた方向へ一直線へ飛ぶと、やはり橋の上のレールにはアーチャーがいた。

 

いや...アーチャーらしき何かと言うべきか。

 

アーチャーは前回見た時より大幅に姿が変わっていた。

 

蒼色の蝶の羽を生やし、脚から下は蜘蛛?の様な形態をしている。

 

頭には悪魔のようなツノとヒビ割れて半分だけの鬼の様な形相の仮面。

 

明らかに様子もおかしい...

 

「ウゥ...アァッ...!!!」

 

アーチャーはこちらに先程と同じくバレーボール程の魔弾を放ってきた。

 

大してスピードも無いので拳で払おうと魔弾を殴り返そうとしたが、

 

魔弾に拳が入った時、それは爆発した。

 

爆発した魔弾には「蜘蛛糸」が内包されており、蜘蛛糸はアヴェンジャーの翼を搦め捕った。

 

翼を封じられ、バランスを崩したアヴェンジャーは堪らず橋へと着地する。

 

そこをアーチャーは狩らんと、六本の足を齷齪動かし、此方へ向かってきた。

 

アヴェンジャーは魔力放出すら翼から行う。

 

そこを封じられて仕舞えば、ただの役に立たない修道女になってしまうのだ。

 

「でぇァッッッ!!!!」

 

いつの間に走ってきたのか、アサシンの渾身の一刀がアーチャーの後ろ左足に叩き込まれる。

 

その凄まじい一刀は見事に、左3本のうち2本を刈り取り、アーチャーのバランスを奪った。

 

「キィィ...シュラルァァ...!!!」

 

足を斬られ堪らず、アーチャーは青い蝶の羽根で空を飛び、逃げた。

 

アヴェンジャーはその後を追い、見事にアーチャーを空中で羽交い締めにした。

 

「ガァー!!!ルルァァ!!!!」

怪物はなんとか鱗粉でアヴェンジャーの邪魔を使用するが、アヴェンジャーはその両手を離さなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「セイバー!アレ見える?」

 

セイバーと燈達もまた、この川沿いへ来ていた。

 

「ああ。見える。」

 

怪物と化したアーチャーを空中で羽交い締めにするアヴェンジャー。

 

これはセイバー達には紛れも無い好機だった。

 

「セイバー、宝具を開帳して。2人ともここで纏めて始末しましょう。」

 

セイバーは何か迷いがある様に、自分の大剣へと目を向けた。

このいたいけな少女に、あの人を感じたからだ。

 

まさか、「あの人」なわけがない馬鹿馬鹿しいと脳内で一蹴したもののこの少女の無垢かつ邪悪な瞳には見覚えがないとはセイバーの中では断じることが出来なかった。

 

 

「どうしたの?セイバー?」

 

「...なんでもない。空中へ向けてならば俺の対城宝具の被害も小さいだろう。」

 

「セイバー...貴方の力ここで見せて。」

 

燈の声を聞くとセイバーはすぅぅと深呼吸をして、大剣を構えた。

 

セイバーの切り札は竜の心臓により生成されるより強力な魔力放出に加えもう一つ存在する。

 

生前、セイバーは常勝の王ではなかった。

敗北を繰り返し、その中に勝利を見出す不屈の王。

 

その意思が込められた竜星のごとく輝く全身全霊の一撃。

 

________その名も。

 

約束されざる勝利の剣(エクスカリバー・コルブランド」)

 

魔力を貯めた魔剣を大きく振り上げると、赤い光が東京の空を覆った。

 

 

 

流れるが如く空を翔け上がる赤き竜の息吹の閃光は、空に舞う黒翼の天使と糸蜘蛛を焼き尽くしてしまうには充分すぎる熱量だった。

 

光が2人に直撃する。

 

少年は叫び、

 

暗殺者は目を瞑り、

 

裏切り者は光を見た。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

あの日の事はいつでも鮮明に思い出せる。

 

私がたった銀貨30枚で主を売り、主が処刑される直前、

 

私が主と再会したあの日のこと。

 

「主よ、寵愛を注いだ弟子が薄汚い商人と成り果てた末の感想。聞かせてもらえないでしょうか?」

 

枷で両手を縛られ、足に楔をされても尚、主の穏やかな顔はビクともしなかった。

 

「...私のことを嫌いになったでしょう?恨んでいるのでしょう?答えてください...」

 

私の涙を浮かべた訴えに主は静かに口を開きこう言った。

 

「...貴女は最愛の弟子だった。そしてこれから先、ヨハネやシモンにも劣る事のない最も優秀な弟子になる。今でもそう信じています。」

 

拳に収めた銀貨をさらにグッと握りしめ私は声を荒げた。

 

「嘘をつくな!!!お前を死に至らしめた私が...このサタンですら恨まないと!?ふざけるな...!ふざけるなァ!!!」

 

檻の外で喚く私を主は静かに諭した。

 

「ユダ。私は君をとても愛している。この愛は初恋の人に向ける愛でもあり、長年連れ添った妻へと愛でもあり、自分への子供への愛でもある。私は全ての罪を許そう。ユダ。だから私の言うことを聞いておくれ。」

 

暖かく優しい声。

 

主は誰にだって、分け隔てなく、其れを向けてきた。

 

私にだけ向けて欲しかった。

 

私にだけその愛は欲しかった。

 

今になって愛されてるなんて...

 

そんなことを言われて私はどうすればいいというのだ...!?

 

「生きなさいユダ。例え堕天使の牙に噛まれ続けようと、世界中のあらゆる人から迫害を受けても、...私が処刑されてしまった後でも。私との約束です。」

 

主が初めて私に見せた、真剣な顔。

 

この約束は破ってはならないと暗に言われているような気がした。

 

当時の私はそんな事には目もくれず

汚れて錆びたナイフで必死に檻を破壊しようとしたが、それは処刑人らに取り押さえられてしまった。

その日を最後にもう主の声を聞く事はなかった。

 

私に啓示は届かない。

 

私は確かに自分のことを裏切り者だと自覚している。

 

だが決して銀貨30枚で主を売ったことに対してでは無い。

 

主の最後の言葉ですら裏切った私は正真正銘「裏切り者」に相応しい。

 

自分ですら、そう感じているからだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

セイバーの宝具が直撃する寸前、ユウサクは令呪でアヴェンジャーを転移させていた。

 

いくら預言とは言えど、流石に対城宝具を喰らって仕舞えば死ぬだろうという懸念からだ。

 

無理やり転移させたことに怒っているのかユダは余り機嫌が良くなかった。

 

スナイパーライフルを掲げた爺さんがあっちから走ってきた。

 

「ミッション失敗だユウサクくん。東京は今から燃え尽きる。」

 

え...?ウソだろ?アーチャーは倒したはずでは...?

 

俺の心の声が聞こえていたのか、或いは口から心の声が出ていたのか、爺さんはスマートフォンのワンセグからテレビ中継を見せてきた。

 

「新宿駅から巨大な塔が現れ〜」

 

見慣れた新宿駅からは刺々しい塔が不躾に聳え建ち、住民達を怯え上がらせていた。

 

バレットビルに似た形状...間違いない。アーチャーの宝具だ。

 

「もはや神秘の秘匿どころじゃないな...どう収拾つける気だ?」

 

爺さんは川の先の塔を見上げ果て、首を横に振った。

 

「アサシンの性能ではどうにもならん...君は?」

 

俺は首を横に振った。アヴェンジャーは恐らく対軍宝具すら持たない。

 

というかアヴェンジャーは閲覧出来るステータスが少なすぎてあまりにも未知だ。

 

ステータスの半分くらいがノイズのような靄で掻き消されているのだ。

 

「...とりあえずビルに向かってみようか。」

 

黒服が用意したリムジンに乗せてもらい、一同は新宿駅へと向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

最終結論 「終局の輪廻曲」

 

「キャスターよ、バーサーカーは見つかったかね?」

 

プールで遊び、少し塩分くさいこの男は不機嫌そうにこう答えた。

 

「紆余曲折あったものの、なんとかバーサーカー...というよりは8人目のサーヴァントは発見しました。」

 

小麦色の肌をした金髪の男の写真をシムラに手渡した。

 

シムラはそれを乱暴に取り上げると、眼鏡を机に置き、目を細めた。

 

「...ギルガメッシュか?いや...でもこんな肌は黒くなかったような...まあいい御苦労。」

 

シムラは写真を胸ポケットに仕舞い込み、部屋の鍵を持って外へ出かける準備をした。

 

「屋上のレストランで東京が焼ける光景を見てくる。」

 

今までに見たことのない晴れやかな顔でシムラはキャスターに背を向けた。

 

「...いいえ、貴方はその光景を見ることはありません。」

 

シムラの背中に、キャスターのメスがグッと入り込む。

 

入り込ませたメスをグリグリと肉の奥にねじ込ませ、内臓へと届かせた。

 

「お前...何してる?」

 

「私は...東京が焼ける光景より、人の臓器だとか...骨を見ていたいんです。分かりますよね?つまり、困るんですよ今東京が無くなると。」

 

シムラはキャスターのメスを持つ手をはたき、距離をとった後、キャスターの襟を掴み引き寄せ、ショットガンををキャスターの腹部に叩き込んだ。

 

「いくらサーヴァントといえどお前はただの医者...いや医者でもないか。コイツは応えるだろう?」

 

撃たれて抉れてしまったところから臓器がはみ出ないように腹を押さえ、後退りをしながらこういった。

 

「確かに...でも貴方の身体にオレのメスが入った時点で...アンタはもう負けだ...。」

 

パチン、と指を鳴らす。

 

その音は質の良いこの一室ではよく響いた。

 

鳴り響くと同時にシムラの身体からは骸骨の手が背中から飛び出した。

 

続いて、右脚からは骸骨の足が飛び出す。

 

シムラは動揺もせず、冷静に今の状況を分析した。

 

「お前のコレクションを直接俺の肉体にわけか...たしかにコレならばお前に勝ち目はあるだろう。だが...」

 

シムラはハンドガンをこめかみに当て、引き金を引いた。

 

弾丸は老人の脳天を容易くブチ抜き、老人は意識を失った。

 

前例として弾丸が脳みそを突き抜けても生きていた人間はいるが、流石にこれでは生きてはいまい。

 

キャスターは医術スキルで自分の手術を開始する前にシムラの右手の令呪を確認した。

 

令呪は確認できなかった事はおろか、使用痕すらない。

 

つまりは...

 

「やはりない...この男は俺の本当のマスターじゃない...良い...良いぞ。運命は何故こうも俺もワクワクさせてくれるんだろうか...!」

 

キャスターは理髪店で髪を整えてもらった時のような高揚感に包まれていた。

 

自分の本当のマスター...コイツを探せばオレの解剖道はもっと開拓できる。そういう自信が不思議とあった。

 

「新しいマスターの骨...貰えるかなぁ...」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「教会に集まってもらった使い魔達にに報告だ〜アーチャー陣営は脱落が確認され、聖杯に令呪が戻った。討伐に貢献したセイバー陣営、アヴェンジャー陣営、アサシン陣営それぞれに令呪を一画を献上することを報告する。え〜以上。」

 

 

「あっ、以上じゃねえわ。新宿駅に突如生えてきた謎の塔は昨日の深夜に突然消えた。原因はおそらくアーチャーのマスターの死だろう。そんじゃ本当の解散だ。アバよっ。」



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ZEROへ

9話 ZEROへ

 

1節 戦いの後で

 

「ではアヴェンジャー・アサシン休戦協定はこれにて解除だ...セルフギアススクロールの約定通り3km離れるまではこちらは動かない。達者でなユウサクくん。」

 

アーチャーの討伐が無事に終わり新たな令呪を得た俺たちは協定を解除し、また闘いへ赴くことになった。

 

気になるのは同時契約していたキャスターの脱落報告がないことだが...まあいい。厄介な爺さんが消えるならそれに越したことはない。

 

バイクに乗ってアサシンの敷地から離れたは良いものの次はどこに行くか...

 

魔力供給の濃度が最も濃い場所は霊地、つまりはサーヴァントを召喚した場所なのだがアヴェンジャーは召喚した場所が未だ特定出来ておらず、魔力供給は肉体接触、過剰な食事、などに限られている。

 

それ故に今回のような大幅な消費があるとしばらくは潜伏して敵に会わないようにするのが最善策なのだが...

 

已む無くアサシンに手の内を晒さざるを得なかったのは痛い。

 

此方もアサシンの手の内は知れたのだが、恐らくアレは彼女の本気ですらないだろうし、何より切り札は愚か、彼女が持つカードはまだ一枚も切っていないだろう。

 

今回得れたのは新たなる令呪だが...アヴェンジャーを転移させるのに使ってしまった為、結局は令呪は全3画なことには変わりはない。

 

対して他陣営は4画...ここでもう不利が付いてしまっている。

 

自分は魔術師としてのアドバンテージも他と優れているわけではない。

 

デスクワーク専門の魔術研究者であった俺が無理やり聖杯に招ばれたというだけなので、他の参加者と比べれば2流も2流だろう。

 

そう考えると勝ち目は尚薄い...だがそれでも...

 

赤い髪の修道女、アヴェンジャーのあの記憶を思い出す。

 

幼気なあの娘が世界中からの悪意を今も受け続けている。

 

そのことを看過するわけにはいかない。

 

願いなど無くても、この闘いに負けてやる義理はないわけだ。

 

「よし...」

 

バイクのギアを上げ、「秘密基地」へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

眼を覚ますと、そこはフカフカのベッドの上などでは無く、薄暗い洞窟の中だった。

 

数秒ほど視線がおぼつかないものの、ここは自分が用意した工房の一つであることを理解した。

 

 

「ライダー...俺はどのくらい寝てた?」

 

冷えた布を絞りながらライダーは冷ややかな声で答えた。

 

「...2日だ。」

 

シムラとの自爆心中寸前、この地下室に設置した人形と、自らの肉体を「アポート」の対象に設定したものの爆炎が身体を蝕むのが早く傷を受け気絶していたとのことだった。

 

怪我と魔力消費で魔術回路がボロボロなことよりも、もう2日も消費してしまったことが紫苑に絶望を与えた。

 

ライダーはそのことを気にかけてくれたのか、こう言った。

 

 

「紫苑、今は焦るな。機を取らんと齷齪帆走るよりも今は身体を休め機を虎視眈々と待つが吉だろう。」

 

ライダーのその言葉に感謝はしないわけではないものの、紫苑は即座に立ち上がりコートに着替え始めた。

 

「私の台詞が聞こえていなかったか?」

 

「お嬢さんの可愛らしい声はしっかり聞こえてるさ...本当ならもう俺だって動きたくない。コートを羽織ろうとする腕ですら鉛のように重たいさ。だがな...俺には時間がない。」

 

紫苑の瞳には最早、光は無かった。

 

追い詰められた鼠...そう形容しかけたが違った。

 

此奴は確かに虎だ。虎なのだ。

 

貪欲な虎。

 

聖杯を穫らんとする虎なのだと。

 

ライダーは虎の穫りを邪魔する有象無象になりかけていたことを反省した。

 

「マスター...指示をくれ。」

 

「アサシンたちをここで倒す。準備を手伝ってくれ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

セイバーの魔力消費は当初想定していたよりも激しかった。

 

そこそこに優秀な魔術家系に生まれ、刻印にも、師匠にも恵まれた。

 

その根拠ある自負があるにも関わらず、私はセイバーの魔力消費に耐えれずへばっていた。

 

召喚サークルを設置した霊地で待機して尚、対城宝具を使った分の補填は1日では取り戻すことは出来なかった。

 

このペースでは次約束されざる勝利の剣を撃てるのは明後日...襲撃や邪魔が入ればもっと時間がかかるかも知れない...

 

苦しみ腹を押さえているところに、セイバーが霊体化を解き、歩み寄ってきた。

 

「...大丈夫かい?なんて言うつもりはない。正直に話そう。俺は約束されざる勝利の剣を君を殺すつもりくらいの威力で放った。君が魔力枯渇状態になれば、もう闘えないからだ。」

 

その2枚目フェイスでとんでもなく邪悪なことを言うものだ...ぐらいにしか思わなかった。

 

怒る気力だって今はもうない。

 

いや...セイバーはそれを狙ったのかも?なんて...

 

「俺は生前、王だった。ブリテンを導き救う王...なんて言えば聞こえはいいが、肩書きとはかけ離れたしょうもない活躍だった。戦には負け、沢山の民を死なせた。無能な王だ。」

 

月明かりがスポットライトのようにセイバーを照らした。

 

彼が悲劇の主人公であることを夜が祝福しているようでまるで気に入らなかった。

 

「にも関わらず死後、俺は英霊となり崇められた。かの高名なアーサー・ペンドラゴンのモデルとしてな。俺はアーサーペンドラゴンがどんな奴は生前知らなかったが、英霊になってから初めて知った。美化も美化。騎士道とはここまで清々しいものかと吐き捨てたくもなった。」

 

魔術回路の痺れが徐々に薄まり、ようやく立てるようになってきた。

 

これで散策くらいは出来そうだ。

 

「沢山の仲間を死なせた無能な王が英霊として祭り上げられている。俺はこれが許せない。そして...もう目の前で大事な人が死ぬのは見たくない。頼む。この戦いから降りてくれ。」

 

ヘタレ...あまりにも突飛な提案から唐突に浮かんだ3文字がこれだ。

 

こいつはヘタレだ。

 

目の前で民が死ぬことを恐れて何が王道か、騎士王か。

 

ふざけるな!とも怒鳴りたくなったがここは冷静になってみよう。

 

あのエセ神父から貰った予備令呪が使えそうだ...

 

「だからアーサー王をバカにしたような口調だったわけねーふーん...」

 

じりじりと180cmほどもある巨漢に近づき、右手をかざした。

 

「貴方は要するに英霊でいることが嫌。そして仲間が死ぬのも嫌。そういうことなのね。なら...悪いけど貴方にはもうこれしかないわ。」

 

サーヴァントのマスターが手段の一つとして取るのが自分の使い魔であるサーヴァントの自害である。

 

言うことを聞かない。身の危険がある。そういった厄介な使い魔を始末するために使われる手段である。

 

「第4の令呪をもって、我が使い魔セイバーに命じます。_____私の王子様になりなさい。」

 

セイバーは自害命令を覚悟で踏ん張っていた為、突拍子ない命令に思わず滑った。

 

「マスター...お前馬鹿か!?令呪をそんなくだらないことに使うなんて...」

 

大慌てしながら説得するセイバーに怖気付くことなく燈はこう答えた。

 

 

「私は大真面目よ。態度によっては2画目もやむなしと思いなさい。第一、そもそも私を死なせたくないことと聖杯戦争からの撤退は両立不可能だから。聡明な貴方ならわかるでしょうけど。」

 

「教会への保護前に待ち伏せて右手を切り取り、令呪を奪取...とかだね。まあどうでもいいや。とにかく!貴方は私の王子様として振る舞うの!」

 

この悲劇のヒロインぶったこの男の嫌そうな顔...これが見れるだけでなんだか愉しい。

 

成る程な。これが「愉悦」

 

 

「だいたい俺は王子様として振る舞うだなんて...そんな気持ち悪いことしたく...」

 

燈が令呪をチラつかせ、あっこの女は本気だなと悟り、セイバーを咳払いをした。

 

「お...僕はセイバー。この時より僕は君の剣となり、盾となろう。」

 

セイバーの謎の決め台詞に燈は腹を抱えて笑った。

 

「きゃー!!!!!はずかしー!!!」

 

2人の影が伸び、重なる。月明かりの中、行われなショーは決して悲劇などではなく、また英雄譚でもないことを証明しているようだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2節 「新たなるマスター」

 

生来、もともと犯罪者寄りの人間ではあったものの計画して人を殺したのは初めての体験であった。

 

首相?なんのことやら...アレは解剖だ。解剖と殺人を一緒くたにされては困る。

まあそんなことはどうでもいい。

 

問題として上がったのは俺の本来のマスターの件だ。

 

魔力の流れをコレクション達に逆探知させ、俺の本来のマスターの位置を突き止めた。

 

なんと俺の本来のマスターは

 

現在橋の下の妖精(ホームレス)達に可愛がられていた。

 

きゃんきゃんと吠えながらホームレス達が用意した段ボール製のブーメランを必死に追いかけている。

 

なんと可愛らしいことか。

 

んなわけあるか。

 

まず第一のツッコミとしてなぜシムラはそこらへんの犬を俺のマスターにした!?

 

第二になぜ管理しない!?勝手にホームレスに匿われてるぞ!?

 

身体つきから恐らく3歳くらいなことで見て取れる。通りで元気なはずだ。

 

というかまあホームレスに匿われてるだけならば問題ない。

 

問題はホームレスの1人がこの犬の所有権を主張しだした。

 

なんとか抵抗しようとしたものの、どうしても犬の所有権を主張したいならば裁判で争おうというのである。英雄の座から提供される情報の中に日本の法律は含まれておらず、黙ってトボトボと帰路に立つしかなかった。

 

最悪コレクション達にホームレスを殺させるのも悪くはないと思ったがそれは俺の沽券に関わる。

 

何としてでもあの汚らしい奴を言い負かしたい...

 

そう思った時に現れたのはあのプールサイドで出会ったひよこ頭の男だった。

 

「何かお困りかなホネンビー」

 

「ホネンビーではないけどねウン」

どうやらこの男弁護士(自称なので全く信憑性がない上に弁護士バッジがダンボール製だったので多分というかこの日本という国がダンボール製のバッジをつけて弁護士を名乗ることを許されていない限り確実に詐称)なので、あのホームレス達を言い負かす事が可能だという。

 

そこまで豪語するのであれば、と思い依頼料300万を支払い彼に任せた。

 

後日、ホームレスにボコボコにされ、身ぐるみ剥がされたひよこ頭がいた。

この男に関わるのはやめようと切実に思った。

 

犬がマスター...しかもマスターは人に取られたまま...何という絶望だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

3節 「第三次聖杯戦争」

 

1940年、令呪で使い魔をコントロールし7つのクラスで争う形式の聖杯戦争が初めてソ連で行われた。

 

魔術の三代御三家、遠坂、マキリ、アインツベルンに加えソ連軍、ユグドミレニア、アニムスフィア、はこの戦いで聖杯の所有権を巡り覇を競うこととなった。

遠坂家...もといエーデルフェルト家からの刺客は2人の姉妹魔術師がセイバーをケイオスタイドで黒化させ、二つの側面に分ける事により実質2人の使い魔を使役するという作戦だった。

 

しかし、この姉妹魔術師は頗る仲が良くなく結果的にこの姉妹は敵対、家内で聖杯を取り合う事態が発生した。

 

アサシンのマスターであるマキリ・ゾォルゲンはランサーのマスターであるダーニック・ユグドミレニアと手を組むことにより、聖杯戦争をコントロールしようと考えたが、ダーニックの裏切りにより脱落。

 

マキリの家はここで滅んだ。

 

ダーニックは裏切りにより戦力を失ったことが遠因となり、セイバーに殺害されてしまった。

 

アニムスフィアは発掘されたソロモン王の指輪から古代バビロニアの王「キャスター」を召還したものの、王の不敬を買い殺されてしまい最初期に脱落。アインツベルンのホムンクルスにサーヴァントを奪われてしまう。

 

ソ連軍はバーサーカーを召還したものの、派遣した魔術師が病弱な狙撃手であったがために6日目で脱落したが、バーサーカーは聖杯の奇跡に触れ受肉。

 

今もどこかを彷徨い続ける。

_____最後に、

 

アインツベルン家は、アハト翁の提案と、家の悲願がために旧約聖書の写本で究極の英霊、善属性の極致、「セイヴァー」を召還しようと試みた。

 

しかし、召喚されたのは薄汚く、卑しい何の能力もない上に何のクラスにも該当しないただの女であった。

 

ただの女であったはずなのだ。

 

アサシンに無残に殺され、聖杯へと汲み取られた瞬間。

 

聖杯は黒く汚染された。

 

その女の存在がただの願いであった為に、

 

女はなまじ力を得てしまった。

 

聖杯の願いの力によりその女の存在は究極の悪、反英霊の極地へと姿を変えた。

 

その女が得た新たなクラスは「ビースト」。

 

闘いの地にに現れる漆黒の天使から放たれた明星の牙により

 

ソビエト連邦の地図から3つほど街を消し飛ばしてしまった。

 

これによりマスター全員の死亡が監督者により宣言された為、第三次聖杯戦争は終わりを告げた。

 

以降、聖杯戦争の儀式による根源の到達は禁止とされる予定だったがキャスターの宝具により聖杯を持ち帰られたことが原因となり、これ以降、奪われた大聖杯のデッドコピーを使った聖杯戦争は「亜種聖杯戦争」と名付けられることとなった。

 

 



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9話 倚天

10話 倚天

 

1節 暗殺者と騎兵

 

私のマスターは色々な偽名を持っているのだが、真の名前を知り得ることはなかった。

 

最側近の中島ですら本名は知ることはないという。

 

私の現存していたダンダラを使い、召喚したくらいなのだから新撰組にゆかりある人物であることは薄々わかるのだが、いまいち正体がつかめない。

 

だが不思議と不気味といった感想はなかった。

 

寧ろこの人といると、不思議な安堵がある。

 

安心してこの剣を振るえる。

 

安定した魔力を溜め込んだ今の私ならば一振りで2回、いや3回はあの騎兵を殺し切るだろう。

 

皇帝特権だかなんだか知らないが2度目はない。

 

間合いを読む暇もなく叩き斬ってやる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

酒をチビチビと舐めながら夜の三日月

を肴にライダーは決戦前夜の盃を味わった。

 

あの体育館で殺しあったアサシン、実は私とは相性が悪い。

暗殺者が持ち得る気配遮断でギリギリまで自分の間合いの射程まで走り込み、間合いを自由に詰めれるようになれば後はアサシンのペースに持ち込まれてしまう。

 

間合いから逃げようとすれば背後から猛スピードで斬り込まれ、

 

受けようとすれば、倚天剣のつばごと私を叩き斬るだろう。

 

_______だが、弱点は確かにある。

 

それは奴はただの人殺しという事実だ。

 

奴が剣豪たり得ない理由、セイバーでない理由、

 

それは奴という英霊の性質に答えが隠されている。

 

そこを突けばこの曹操に取って造作も無い相手となるだろう。

 

______ただ問題があるとすれば

2節 策士と呪術師

 

「ボス、ライダーとそのマスターの位置が確認できました。資料をそちらに転送します。」

仲田コーポレーションビル12階から策士はスナイパーライフルで索敵を行なった。

 

中国魔術教会当局の情報によれば、六王紫苑という魔術師はパペッターと呼ばれる人形使いである。

 

あの男は人形を木偶にし、居場所を偽装すると踏んだが今回はそうではないらしい。

 

窓を閉め切ってこちらの狙撃を警戒したまま一向に動こうとしない。

 

籠城か...中々に困ったものだ。

 

アサシンは近距離戦に長けた英霊ではあるがこうも離れて籠られてしまうと我々狙撃班がこうやって呪いの対象にならないよう場所を変えながら狙撃をするしかないのだ。

だがこうやって手をこまねいている間にアサシンを突入させる準備はできている。

 

この牽制はお互いにとって時間稼ぎ...

 

本命はお互いのサーヴァントにかかっていると言っても過言ではなかろう。

 

「ボス、準備が出来ました。アサシンさんもこちらに。」

 

中島が用意した自家用ヘリが到着した。

 

パラシュートを付け、突入の準備に入る。

 

まずは1陣営、我々が落としてみせる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー ー

 

東京中に凡ゆる魔術工房を貼り付けた中でもここのビルは1番手を施した最高級の魔術工房だ。

 

ビルの入り口全域を異界化させ、安易な侵入を防ぎ

屋上には地雷を設置。

 

ビル全体に魔術コーティングを施し、ロケットランチャーなどの爆弾での破壊対策も完璧...

 

アサシンのマスターが魔術師でないことは事前情報で確認済みだ...だからおそらく上空から強硬突破で侵入してくるはず。

 

その間の時間稼ぎでどれだけライダーの魔力を貯めれるか...

 

ライダーの不利相手であるアサシンさえ倒して仕舞えば後はライダーは無双できる...

 

ここで倒せば...俺たちの勝ちは大きく近づくんだ...!

 

頼むぞライダー...

 

俺に勝利を...!

 

 

3節 サムライと魔王

 

「ボス、屋上にはクレイモアが確認できます。どうしますか?」

 

「7階の窓に先にアサシンを侵入させる。私は様子を見て後から入ろう。ではアサシン。」

 

マスターの命を受け、真っ先にヘリから飛び出した。

 

空を斬るかのように真っ先に、夜へと飛び込む。

 

7階へ今にも手が届きそうというときに、

 

アサシンは黒い影を見た。

 

空中を駆ける馬...それに乗るのは...

 

「ライダー...!」

物理法則などまるで知らぬという風に、絶影とライダーは真っ先にアサシンへ突進を試みる。

 

アサシンはすぐさま隣のビルへ移るが、翻した隙を突かれ、絶影の突進でビルへと押し込まれる形となった。

 

堪らず、逃げようとするが馬から素早く降りたライダーに首を掴まれ、そのまま倚天剣を振り下ろされた。

 

アサシンはこれを蹴りをライダーの脇腹に叩き込むことで回避し、突入の際に落とした剣を転がりながら回収し空かさず、抜刀の体勢に入った。

 

ライダーはそれを見ると、距離を取り倚天剣を上方向に掲げるようにして構えた。

 

「何のつもりだ貴様...私を舐め腐っているのではあるまいな?それとも私の剣を目の前にして諦めたか?」

 

ライダーはニタリと笑い答えた。

 

「ククク、アサシンよ、これは賛辞だ。一流の戦士として貴様を直々にこの曹操孟徳が認めたのだ。光栄に思え。そして、」

 

空へ掲げた倚天剣は瞬く間に光を帯び始めた。

 

「天を裂く我が斬撃の前にひれ伏すがいい!迸れ!倚天剣!」

ライダーが持つ倚天剣は対軍宝具である。

 

曹操孟徳が持つ剣の真名を解放することにより、文字通り剣は天を裂く。

 

裂かれた天は擬似的なワームホールとなり、ワームホールからは光の線となった斬撃が放たれる。

 

これが倚天剣の正体である。

 

ビル内にいたことにより宝具が発動したかどうか、宝具がどこからくるのかを知り得ないアサシンは猪突猛進の勢いで斬りかかった。

 

しゃがみ、踏み込み、斬る。

 

いつもならば大抵此れで忽ち目の前の人間は血飛沫を上げ死んだ。

 

だがライダー相手では上手くいくことは当然なかった。

 

宙の倚天剣から放たれる斬撃はアサシンの右腕を貫き、抜刀の構えの態勢をいとも簡単に崩した。

 

態勢が崩れたところに素早くライダーは斬りかかるも、アサシンがギリギリのところで躱してしまった。

 

アサシンは察した。斬りかかる瞬間に見えた光の線。これが自分の抜刀を邪魔しているのだと。

 

そして間違いなくライダーは手加減をしている。

私と戯れてマスターである六王の時間稼ぎに興じている。

 

アサシンは腰にさした鞘を捨て、髪留めを外した。

 

斎藤一の本気、意地。それらを発揮する時は彼女は必ず髪留めを外すのだ。

 

生前の斎藤一は度重なる粛清である境地に達していた。

 

其れは剣豪が辿り着く武の極致、一刀の極致などではない。

 

例えるならば「零」である。

 

斎藤一という人間は剣を振るう内に一端の人ではなく、ただ人を効率的に殺すための機械として近付きつつあった。

 

其れは次第に彼女という人間を「剣」という「形」から逸脱。いや廻達と言うべきだろう。

 

暗殺という道を持って彼女の剣は無念無想の境地にごく近い場所に辿り着いた。

 

その名も「無形暗殺剣」、彼女が英霊に昇華した後宝具にまでなった彼女の形其の物である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

ライダーはアサシンの様子が変わったことに一目で察した。

 

彼女の瞳が濁りはじめたのを見て第一に思い浮かべたのが劉備であった。

 

この女は極々劉備に似ている。そう思わせる殺気、迫力を放っていた。

 

______嗚呼、滾る。

 

戦場での殺し合い、これこそが曹操孟徳という英霊を滾らせる。

 

機械のように人体の弱点部分を素早く斬り込むアサシンをいなしながら、ライダーは笑った。

 

嗚呼。愉しい。愉しすぎる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ライダーが笑い、口を開いたところさえアサシンは見逃すことはなく、ライダーの顔に向け突きを行った。

 

肉を刺す独特の感覚。これを刃先で感じることができた為、思わず手応えアリと感じてしまった。

 

しかし、ライダーは刀を歯で噛むことで白刃取りに成功していたのだ。

刀はライダーの顔を確かに貫通していたものの、歯で刀を抑えられては身動きが取れない。

 

その隙を突かれアサシンは倚天剣をモロに腹に刺された。

 

アサシンは堪らず刀を離し後ろに下がってしまった。

 

ライダーは徐に、顔に刺さったアサシンの刀を抜きゆらりと構えた。

 

「刀を失って仕舞えばお前はただの猿にすぎんな?アサシンよ。」

 

アサシンの髪を掴み上げ、ライダーは倚天剣を向けた。

 

「言い残すことはあるか。サムライ。」

 

アサシンは髪を引っ張られるまま力無く声を上げた。

 

「完敗だ...お前は強い...強過ぎた。」

 

「そうであろう。」

 

「______だからこそ。」

 

アサシンが意味深なセリフを言いかけた途端に察したのか、アサシンを放し、振り向き構えた。

 

______だが、もう既に遅く。

 

 

「斬り捨て御免...。」

 

アサシンのマスターが既にライダーを斬り伏せた後だった。

 

ライダーはニ、三散歩フラフラと歩いた後、斬られた後を抑え倒れた。

 

「すみません。マスター...」

 

「気にすることはない。我々は契約関係にある。それに...」

 

老人は晴れやかな顔でアサシンの方を向いた。

 

アサシンは確かに今目視した。

 

あの日ダンダラを羽織り、戦った隊士たち。

 

近藤さんの無邪気な顔、

 

アホの新八。

 

すきあらば血を吐いてくる馬鹿沖田。

______そして

 

ずっと私に大きな背中を見せて、ずっと私を信頼してくれた土方さん。

 

見える。たしかに感じる。なのに。

 

______肝心の私は、

 

あの日共に剣を取ることを諦めたんだ。

 

忘れもしない。私は、私は会津であの日、

 

剣を置いてしまったんだ。

 

「アサシンよ。よく聞いておけ。一度しか言わん。ここが貴様の新撰組だ。」

 

ここが...私の...

 

違う...私の新撰組は...帰る場所は...もう過ぎ去りし過去となった。

 

「ごめんなさいマスター...ずっとウソをついてました。私、土方歳三と、新撰組と戦いたいという願いはウソなんです。私の本当の願いは...戦地で粛清され、哀れに死ぬことです。」

 

裏切り者の私は...自分がやってきたように哀れに粛清されるのが望ましいとずっと感じていた。

 

ずっと、ずっと、ずっと。

 

そう、私は戦いに集う英霊でありながら死にたがりの雑魚である。士道不覚悟も良いところだ。

 

私のマスターは静かに剣を納刀し、此方の話を黙って聞いていた。

 

腑抜けと怒られるだろうか。

 

「いいや。それこそウソだろう。何故ならば。」

 

「お前は私の台詞で少し嬉しそうな顔をしたからだ。」

 

「えッ!?ええっ!?」

 

いつのまにかニヤけていたんだろうか。この腑抜け顔は。頬を一生懸命抑え悟られないように抑えるが、それはかえって逆効果だったらしい。、

 

「帰るぞ。斎藤。」

 

「ひゃっ、はいっ!」

4節 不穏

 

「ライダーを令呪で戻してビルごと爆破...手筈通りにやるしかないな...」

 

六王が時間稼ぎの間に人形に仕掛けた「爆弾」は今にもアサシン達を吹き飛ばそうとしていた。

 

「悪ィな。天国で大河ドラマはやってくれや。」

 

カチリ、と嫌な音が背後に刺さる。

 

ああこの音は聞き慣れた。

 

拳銃のリロード音だ。

 

「全く気づかなかったが...誰だ?」

 

男は答えず、契約書を乱暴に投げた。

 

契約内容は聖杯戦争の棄権の代わりに妹の解呪を履行する。とのことだった。

 

身体に合わない魔術刻印のせいで六王はもう歩くことすらままならない状況であった。

 

誰かに聖杯戦争を代行してもらう。

 

これは確かに利点があるかのように思えた。

 

_____だが、

 

「断る。妹は俺の手で救う。そもそもどこぞの知らない誰かには任せられな_____。」

 

自分の胸から三つの鉄の牙が生えている。

 

なんだったか、そうコレは代行者専用礼装黒鍵である。

 

まさかコイツ...!?言峰神父か!?

 

黒鍵を引き抜かれ、腹に1発重い拳をもらった途端に意識はもう途絶えていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

聖杯戦争に参加してから...途端に体調が悪い。

 

特にアーチャーが脱落してからは身体の感覚が失われつつあるのを感じていた。

 

触覚、感覚はまだ生きてはいたが嗅覚、味覚が既に死にかけていた。

 

食べ物が皆等しく味の無いガムのような感じ。コレがとても応える。もう食事が億劫になり掛けていたが、ユダへの供給をする為には食事を欠かすわけには行かなかった。

 

そして夢を見るのだ。

 

その夢は俺が水色の四角い箱のような物になる夢。

 

夢を見ている時の感覚が現実みを帯びているせいか、一抹の恐怖があった。

 

馬鹿馬鹿しい、とは一概に一蹴出来ないほどにはもう精神的には追い詰められている。

 

ユダがこうやって聖母のように身体をピッタリとくっつけ、看取ってくれる事だけが救いであった。

 

魔力供給の効率的側面でこうしてるのであり決してやましい気持ちはない。

 

いや本当に。



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praymaker

11話 praymaker

 

1節 祈りの日

 

ユダは俺が寝ている時にいつも手を合わせ、何かを祈っている。

 

何を願うのか、何を想うのか。

 

それを知る由はなかったが、祈っている時の彼女の顔があまりにも綺麗で薄めで覗いてしまうことが多々ある。

 

たまにそれがバレてしまってユダは少し怒って俺の頬をつまむのだが、なんだかそれは悪い気はしなかった。

 

どうしてこの娘は俺を守ってくれるのだろうか。

 

何も無い、空虚で、つまらないこの俺を。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1943年 私はアインツベルン家に使い魔として再び命を得た。

 

正確にはイスカリオテのユダという概念を得たただの女性としての誕生はここだった。

 

誕生とは祝福されるもの。主からはそういう教えを得ていたが彼らは私を祝福することはなかった。

 

彼らが第1に私に掛けた声は

 

「失敗か。」

 

という言葉であった。

 

「失敗」の理由を問い詰めたが、彼らは一向に答えることはなかった。

 

使用人ならば理由を知っているだろうと思い、無理やり問い詰めたのだが目を開ければ使用人は無残にも死んでいた。

 

私の右手に握られた使用人らしきはらわたを見る限り私が殺したことが見て取れる。

 

殺意も悪意もなかったのだが、死んでしまった。と主には弁解したものの、聞く耳を持ってもらえず地下に幽閉されてしまった。

 

私は同じく幽閉されたそこである少年と出会った。

 

瞳には光がなく、身体は栄養失調からか極端に痩せ細っている。顔色は紫に近い白さを発しており、誰が見てもこの少年の健康状態は危険な域であるとわかった。

 

私は急いで暖かいスープとパンを用意させ、食べさせるように言ったものの聞く耳を持たなかった。

 

聞く耳を持たなかったのは少年であった。

 

私は少年に寄り添い、食べ物を口にしない理由を問い詰めた。

 

「可愛い坊や。貴方はなぜ暖かいスープと柔らかいパンを口にしないのでしょうか?」

 

私が差し伸べた手を弱々しく小さい手で乱暴気味に振り払うと少年は漸く口を開き、掠れた声で答えた。

 

「食べ物を食べても...味がしない。飲み物を飲んでも...潤いが感じられない。前は確かに感じれた焼きたてのパンの香ばしい香りは感じられない。僕はホムンクルスだ...お姉さんが心配なんてしなくても死んだりはしないよ。」

 

力無く笑う少年はグッタリと倒れたまま動きはしなかった。

少年の背中を優しく撫でながらわかったのだがこの少年、莫大すぎる魔力が心臓あたりに入っている。

 

なんだ...どういうことだ...?

 

私の疑問にマスターであるユーブスタクハイトはぶっきらぼうに答えた。

 

「その少年は簡単に言ってしまえば聖杯を保管しておく箱だ。英霊がこの戦いで死ぬたびにその少年の中に英霊の魂が満たされ自動的に聖杯が現れるという仕組みなのだ。」

 

_______嗚呼。なんという理不尽か。

 

商人の子として産まれ、良き師に出逢えたこの私とは程遠いほどにこの子は理不尽な仕打ちを受けている。

 

それも私が氷獄で過ごした何千分の一の時でだ。

 

救わねばなるまい。

 

ホムンクルスとして大人の欲望の為の役割として造られたこの哀れな子を

私の手で救済せねばなるまい。

 

私の背中に生えた漆黒の翼は莫大なエネルギー体である。

 

これを少年の中に無理やり注入する事で擬似的に少年の内部にある聖杯への侵入を試みた。

 

聖杯の中にあったのはだだっ広い花畑だ。

 

その中心にいくつもの棺桶があり、中でも棺桶が囲うようにして守っている蒼く、四角い箱がある。

 

______これが聖杯か。

 

触れようと手を伸ばしたとき、誰もいないはずのこの聖杯内部で声を掛けられた。

「やめときな。そいつは原初の火が誕生したときから地球を観測し続けた樹が汚染されたものだ。お前みたいな奴が触っていい代物じゃないぜ。」

 

男には顔がなかった。というよりは明確な人の形がなかった。

 

言うならば真っ黒な人の形をした影

 

声からして少年だろうか。いや...分からない。

 

「...成る程な。お前もアヴェンジャーか。なら俺の後輩だな?先輩って呼べよな。ククク...」

 

自分以外のサーヴァントが既にここに到着していることに対しての驚きと、目の前の影に対しての不気味さから来る恐怖。私はこれが混じり合い半ば混乱状態となっていた。

 

「そもそもなー...なぜお前がここに入れる?真名は?お前どこの英霊だ?」

 

「私は...ユダ。イスカリオテのユダ。」

 

「成る程。だいたい状況がつかめてきた。俺と同じ....反英霊の中でも極点の存在なわけか...色気とかそういうモンがないのは単純に女っ気がないからというわけじゃないんだな。よしよし、わかった。」

 

影は胸から黄金の杯を取り出し、黒紅い液体をボトルから注ぎ込んだ。

 

「この四角い箱...スゲーんだぜ。あらゆる人の祈り、願い、それら全てを観測し、再現することができる。いや...正確には今日までは出来たというべきかな。」

 

杯に液体を注ぎ終わると、影は私にそれを差し出した。

 

「俺はその四角い箱によると、本来はお前の位置だったらしい。というよりは大体の結末からしてオレがその役割らしい。でも今回ばかりはお前さんが無茶苦茶にする役割らしいぜ。」

 

この男のいうことがまるで意味がわからない。

その意味を汲み取り終わる前に影は杯の中の泥を飲むように急かした。

 

 

「こいつを飲みな。お前がその箱を救いたいと心より願うならば、聖杯はお前を選ぶだろう。さればイスカリオテのユダという願いはきっと、世界を瞬く間に汚染する。」

 

今私がやろうとしていることは、銀貨30枚で主を売ったことと、何の違いがあるのだろうか。

 

目先の事しか考えず、後のことは全く考えることがない。

 

_______嗚呼、だからこそ躊躇いは無い。

 

救済してやろう。

 

哀れな子の少年を。

 

呑み込んでやろう。

 

この世、全ての悪を。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

二節 軋む因果

 

俺はアヴェンジャーとセイバー陣営への接触を図ることにした。

 

高いステータスにハイランクの対魔力。落としておけるなら落としておきたい相手だからという単純な理由だ。

 

「アヴェンジャー、ここだ。」

 

貯金から捻出したゼファーで強力な魔力の残り香が検出された工場跡へと到着した。

 

アヴェンジャーは俺の呼応に従い、すぐさま霊体化を解き、ボディーガードのようにべったらと俺にくっつきながら周囲を警戒している。

 

「やはり来ると思っていたよ。藤木遊作」

 

何処からともなく聞こえた声は二階のエレベーター入口近くからのようだ。

 

声の主は、黒いトレンチコートに長髪の男性...セイバーのマスターの情報とはかけ離れている。

 

「誰だ。」

 

ハンドガンを男に向け、威嚇しつつ距離を取った。

 

ここまで周到に自分達に準備してきた相手だ。確実に「何か」ある。

 

「私はティエリア、32歳で独身だ。時計塔の非常勤講師をやっていてね...趣味は映画鑑賞...と言っても私が好きなものは大衆が好むような名作ではなくB級だがねハハハ...酒とB級映画...最高だと感じているよ。」

 

自分が向けている拳銃にはまるで興味がないとでも言うかのようにティエリアは自己紹介を始めた。

 

やはり舐められている。その悔しさから左手の拳を握りしめた。

 

「殺せ。アヴェンジャー。」

 

俺の命令に従い、アヴェンジャーは二階へ飛び乗りティエリアに回し蹴りを喰らわそうと飛びかかった。

 

が、ティエリアはアヴェンジャーの回し蹴りを柔らかい物腰でたっぷりと余裕を持って回避した。

 

アヴェンジャーは回避の隙に拳を背中に叩き込もうとしたものの、受け止められ関節を決められてしまった。

 

「まだ終わってもない自己紹介の途中に攻撃を仕掛けてくるとは...なんと失礼な奴だ。ええ...コホン。そしてランサーのマスターだ。」

聖杯戦争開催地域は粗方調べ終えたつもりだったが...ランサーのマスターらしき証拠はなかった。つまりこいつはここに来て初めて姿を現したということだ。

 

...ここで殺しておこう。

 

「さっさとランサーを出せ。」

 

こいつがランサーを出した瞬間。令呪を一画使って宝具でランサー諸共吹っ飛ばす。

 

それで俺たちの「死因」は消え去るはずだ。

 

「こいつがランサーを出した瞬間。令呪を一画使って宝具でランサー諸共吹っ飛ばす。

 

それで俺たちの「死因」は消え去るはずだ。」

 

_____ッ!? この男...!俺が今たった今考えていたことこいつは一字一句違わず言い当てやがった...!

 

「と言ったことを考えてるんだろう?安心したまえ。私は君たちに危害を加えるつもりはない。私はね、終わらせに来たんだ。」

 

終わらせに...?まさか...?

 

 

「私は聖杯戦争の負の連鎖を終わらせに来た。それが目的で参加したのだ。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

今の子供たちは知らないおじさんにはついていくなと教育される。

 

そしてその教えを大半は忠実に守っていることだろう。守っていると信じたい。

 

俺は知らないおじさんについて来てしまった。

 

アヴェンジャーも知らないおじさんから貰ったキャンディーを手にしてからむき出しだった警戒心はどこへやらという状態である。

 

この人すごい舐めてるよ。美味しそうにすごい舐めてるよ。

 

「キャンディー気に入ってくれたようだね...おじさん安心したよウン。」

 

「おじさん俺にはなんかイカすプレゼントはないのか。」

 

強請ればなんか貰えるかも...という淡い期待でジョークを言ってみたのだが、このおっさんは聞こえていないかのようにシカトを決め込んだ。殴ろうかな2発くらい。

 

「聖杯戦争を終わらせたい...私はこれに関しては大真面目に考えている。そして今大真面目に協力者を集めている。」

 

「今何人協力者がいるんだ?」

 

「HAHAHA!0だ!」

 

「帰っていいか?」

 

「主よ。話を聞いてあげなさない。追加のキャンディーが貰えるかもですよ。」

 

「ウン。お前にな?俺は多分貰えないけどな?いや別に欲しいわけじゃないんだけどね!?」

「何だゆうさく君、キャンディーが欲しかったのか。欲しいなら欲しいって言えばいいのに。」

 

「本気で殴るぞ。と言うか俺たちはそもそも協力する気なんてないし...」

 

俺の微かな抵抗もむなしく、なんやかんやでオッさんに協力することになってしまった。もういいか。めんどくさいし。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ACT2 苦難

 

よく分からない即死(原因は自分)した眼鏡のおっさんに召喚され、

 

マスターはそこらへんの野良犬に設定されてたことが発覚した上に、

 

マスターの親権をホームレスと争い敗北。

 

犬の乏しすぎる魔力供給に死にかけていたというのがジョンハンターの三日間である。

 

ここまでの地獄は使えない上に愚痴を聞こえる距離で滝の様にで放ってくる職場で働いて以来だ。

 

いや、死骸を集めてることを近所のガキに馬鹿にされて近所関係が悪化して以来かな...?まあいいや

 

_________ともかく魔力だ。魔力がいる。

 

霊体化というシステムがあるにもかかわらず、なんか身体がスースーするという理由で霊体化したくない捻くれ者の自分には魔力が必要だ...!

 

その為にはあの犬をホームレスから取り戻さねば...!

 

「まだいるの君?」

 

この社会のゴミどもに除け者にされる屈辱...!このジョンハンターの尊厳かつ偉大なプライドには少々効くようだ。というかめっちゃ効くわ。ぶっ殺していいか?

 

しかしここで暴力に訴え、解剖してしまえば文明人である意味がない。

 

何より魔力の無駄だ。

 

______考えろ。ジョンハンター...!

 

お前はどんな窮地でも自らを救い続けた男だろうが...!

 

なんか思い付け...!あっ、そうだ。

 

「...分かりました。犬...いえオルガちゃんのことは諦めます。私はここから退散しようと思います。」

 

ホームレス達は漸く諦めたか、と言ったような気が抜けた顔を仲間同士で交換し合っている。

 

「そしてこの私から...一つここの皆さんに提案があります。」

 

「なんだまだあんのか?あってもなくてもさっさとここから消え去れゴミ野郎が。」

 

このゴミ野郎からの辛辣な言葉に、血管がはち切れそうなほどに腹が煮えくり変えったが、拳を握り締めることでなんとか怒りを鎮めた。

 

「この橋の下より住みやすい家...欲しくないですか?」

 

ホームレス達のどよめきは一層強まった。

 

END




欠片の男の手記

祈りの樹は、順調に果実を付けて成長を遂げている。

後は器次第という段階だ。

後は世界を征する槍と、漆黒の堕天使が揃えば役者は揃う。

良い。とても良いな。

魔術師達が目指す第三魔法の成就なんかよりもっとシンプルで単純明快な方法で再編に到達できる。

ああ。早く見たい。

とても平和な世界が。

戦争が、ない世界が。



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1話

本作は火星で行われる聖杯戦争という設定です
オリジナルサーヴァントが少々登場するので注意



1話 fate/sand rock

 

ーーーーーー

 

三日月が綺麗な夜の日。

 「少女」は日直の仕事である教室の掃除を済ませた。今日は日直の当番という訳ではないが「少女」のお人好しさが起因して、本来の当番であった士郎の仕事を渋々やることになっていた。いつも帰りを共にする「友人」は用事とやら先に帰っていた筈だった。そう聞いていたのだ。

 

 学校の校門を出ようとしたに「友人」は校舎の屋上に立っていた。

 

 あれ……?帰ってたんじゃ……

 

 「少女」は刹那、目撃した

 

 「屋上から飛び降りる友人」を

 

 「……!」

 

 突然の出来事に「少女」は目を剥く。

 「屋上から飛び降りる友人」と地面が接触するまでの瞬間はスロウモーションのように感じた。

 命が無くなる瞬間ってこんな感じなんだ、などとどうでもいいことを考えられる程には。

 

 だが「屋上から飛び降りる友人」が不自然に、まるで誰かに抱えられるように着陸するのは一瞬であった。あまりに不可解な出来事に「少女」はストンと地面に腰を抜かしてしまう。

 「不可解な着陸を行なった友人」がすぐさま走り出したのを見て「少女」もまた追いかけるように走り出した。その理由は自分でもわからなかった。だが、何故か追わなければならないような気がしたのだ。

 

 「少女」は「友人」の背中を追い続ける。

 「少女」はある意味慢心していた、自分は「友人」を追い続けることが可能であると。だがそれは叶うことはなかった。

 

 スッーと何かが風を切り裂くような音が耳に入った。何事だろうかと「少女」は足を止める。何故だろう、体に力が入らない。

 違和感を感じ体を見下ろす。「少女」の身体には、無数のナイフが刺さっていた。

 

「え……?」

 

 ドサリ。「少女」の体は地へと勢いよく倒れ込む。それと同時に肉体に刺さったナイフで自分の肉が思い切り抉られていく。

 

「悪く思うなよお嬢ちゃん」

 

 生温く赤い液体が毛布のように少女を残酷に包みこむ。体から何かが抜けていくような感覚がする。横たわっている地面が冷たい。

 

「終わったぜマスター」

 

 「友人」はその言葉には答えず、不快そうな顔を浮かべる。その顔が海面のようにゆらゆらと揺らぐ。

 

 自分は水面に浮かんでいるのだろうか。体が濡れる感覚と共に、段々と体が冷たくなっている。服を濡らしてはいけないと思い、立ち上がろうと手を動かす。いや、動かそうとした。されど1ミリたりとも持ち上がらない、まるで糸が切れたかのようだった。

 

 「あ、れ……?」

 

 起き上がろうと、なんとかして立ち上がろうと体を動かそうとするが力が入れられない。

 もがけばもがくほど体から何かが抜けていく感覚に襲われる。体温も夜の冷気に当てられるかのように冷えていく。

 

 ああ、これが自分の命が無くなる感覚なのか。

 

 ふっとそんな思いが脳裏をよぎる。もう自分は動けないのだということはなんとなく理解出来ていた、出来てしまっていた。

 死に際に走馬灯が走ると言うがそんなものは無かったようだ。それとも走るほどの人生を送ってないということなのだろうか。はは、なんとみじめなことか。

 

 ここへ来てやっと死ぬのだということを脳が受け入れ始めた。このままでは自分は死んでしまう。まだ死にたくない。そう思えど意識もどんどんと薄らいでいく。

 

 ああいやだ、こんな、じんせいの、おわりかたをするなんて―――――――

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 ―――ってアレ……?なんで生きておるのじゃワシは……とりあえず死んだフリをしとくのじゃ……

 

 その時だった。

 

 暗がりからもう一人異様な雰囲気を持った男が現れたのは。その男は顔には金の十字傷、肌は全体的に黒く、手には拳銃の様なものを2丁手にしている。

 

「アサシンとそのマスターとお見受けするが、合っているかな?まあ合ってようが合っていまいが……どうせここで惨たらしく死ぬのには変わりないのだがね?」

 

 男は静かに、だが低く透き通るような声で死神のように告げる。

 

「よっしゃ、いくか……」

 

 返事の代わりにアサシンがすかさず、体のどこかにしまっていたのだろうか、小ぶりのナイフを構える。空気が一気に緊迫する。

 

 殺し合いが始まってしまうのじゃ……

 

 そう思いつつ死んだフリを続行する。

 

 怪しげな男の二人組は向かい合い、互いに真剣な表情で睨み合う。相手の呼吸を読んでいるのだろうか。微動だにせずに動きをうたがいあう。

 そして――――――

 

 

 

「おっしゃ逃げるぞマスター!!!!!」

 

 

 

 アサシンは威勢よく叫び、そのまま「友人」を抱えて猛ダッシュで逃げ出した。えぇ……逃げたぞあいつ……

 

 

「おいアサシン!!!!!正々堂々と戦わぬか!!!それでも英霊かお前は!」

 

「あーもー!うるせーうるせー!!!!真っ向勝負とか出来るタイプじゃないの!!!逃げ足と闇討ちだけがチャームポイントなんだよ俺は!!!」

 

「この卑怯者めがああああああああぁぁぁ!!!」

 

 そんな捨て台詞を残して私を殺しかけたアサシンと「友人」は逃げていった。

 うそじゃろ……

 

 

「チッ……」

 

二丁拳銃の男はそいつらを追いかけもせず傍観し、大きな舌打ちをした後に

 

「何を死んだフリなどしている、次はお前が死ぬ番だぞ」

 

自分の腹を思い切り蹴り上げた。少女の華奢な体は勢いで体育館倉庫まで蹴り飛ばされる。

 

「ゴハァッ……!!!」

 

ナイフで串刺しの次には悪漢のキックとは、中々に神様も気が利いているな、と内臓と骨が同時に潰れる感触を味わいながら、頭の中で皮肉を述べる。

 

「悪いね、キミも居てはいけない存在だ……ここで大人しく死にたまえ」

 

 いつの間に傍へ来たのだろう。ほんの数瞬の間であったはずなのに、こちらを冷ややかな目で見下ろしている。

 男の拳銃が銃口がこちらに向けられる。先程味わったばかりの死の感覚が思い出される。今度こそは流石に死ぬと思った。

 当然だ。自分を狙っているのは拳銃だ。ピストルだ。1発で人を殺すことの出来る得物なのだ。

 

 それを認識するや否や今さっきよりもハッキリと死がそこにあるのだと分かる。一度体験したからだろうか、脳はすんなりと受け入れ体は震え口は恐れからか固まる。

 

 男の指が引き金に添えられる。これが引かれてしまえば自分は死んでしまう。それはダメだ。そんなのは嫌だ。でもどうしようもない。でも死にたくない。嫌だまだ死にたくない、まだ死んではいけない……死にたくない……

 

「…セイ……バー……」

 

 思わずその言葉が口からこぼれ落ちる。瞬間……更に夜を染めるような黒いエネルギーが自分を包む。

 

 身体が火照る、視界は黒く染まる。

 

「こんなところではまだ死ねない……」

 

 何かが破裂するような音がした。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 しばしの静寂が訪れる。

 

闇が晴れる。視界の先に映し出されるのは、月が隠れ薄暗闇の中にうっすら浮かび上がる一人の輪郭。その人物がこちらを振り向く。カシャリ、と金属の擦れる音がする。

 

 一際強く風が吹いた。雲が除かれ月が現れる。「少女」は目の前の人物を見、目を見開く。強風で髪がたなびく。だがそれすらも気にならない。

 

 

 

ーーー三日月が綺麗な夜の日

    少女の前に立つのは闇夜よりも黒く、思わず見惚れるほど美しい騎士であった。

 

(

「ーーー問おう。お前が私のマスターか?」

 

1話 END






セイバー/マスター銀髪の少女

筋A耐A敏C魔A+++幸運D宝具A+++

解説

誇り高きブリテンの騎士王のオルタ

マスターである銀髪の少女の力により魔力と宝具のランクがワンランクアップしている


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2話 さようならとこんにちは

二話です

なんかやっとコメディ路線に走れる気がします




私の前に現れた黒い騎士は問うや否や、黒い2丁拳銃の男に向かい突進した。

 

「なるほど……キミが相手とは私も中々にツイてないな、しかもその姿とは……」

 

 男はブレードを搭載した2丁拳銃で。黒騎士は黒い大剣で。それらがお互いありえない速度で打ち合っている。それはおよそ人間が成せる技ではなかった。

 

 なぎ払い。袈裟斬り。切り上げ。唐竹割り。

 様々な方向から、上段から、中段から、下段から剣を振るう。その剣には並大抵の腕力で打ち合えば吹き飛ばされるほどの力が込められている。

 

 しかし男の方もどのようにしてか、まるで太刀筋に慣れているような動きで躱し、いなしていく。剣筋から体を最低限動かしぬるりと避けつつ、避けられないと判断したものは銃剣で受け流す。

 

 時折男からも猛攻の合間を縫い、反撃として銃弾が打ち込まれるが黒騎士も剣からエネルギーを放出し弾をかき消す。

 

 しばらくの間両者流れるような攻め合いをしていたが、埒が明かないと思ったのか黒騎士が叫ぶ。

 

「マスターしゃがめ!!!」

 

 黒い剣がまばゆく、されどすべてを飲み込まんとする暗き光を帯び始める。黒騎士はあふれる程のエネルギーを2丁拳銃の男にぶつけようとしていた。 

 

 私が大きくしゃがんだ時、

 

ーーーー黒い閃光が走った。

 

「風よ……!舞い上がれッ!!!」

 

 黒騎士がありったけの黒いエネルギーをぶつける。

 

「―――I am the bone of my sword体は剣で出来ている」

 

「“熾天覆う七つの円環(ローアイアス)――――!”」

 

 急ぎで男が貼った、花弁の形をしたシールドのようなものは一瞬にして破壊され、男の右腕はボロボロになる。

 

「全く、今日はここまでか……」

 

「お前は必ず殺す……」

 

 鷹のような目で私を鋭く睨みつけ、そう言って男は何処かへと消えた。

 

 そして私の視界も次第にボヤけ始める。

 

 アレ…?なん、だ……これ……

 

 ああ、夢なのかなこれは……

 

 流石の私もあまりに衝撃的な出来事に力尽き、倒れた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

〜銀髪の少女が襲われる2時間前〜

 

「シロウ…… 啓示は降りました」

 

 ルーラーのサーヴァントがオレに啓示の内容を伝えた。

 

「そうですか……やはり抑止力が絡むか」

 

 ルーラーは今回の聖杯戦争の監視を行う必要があり召喚されたのだという。

 

 無論知っていた。ルーラーが特殊な聖杯戦争では召喚されやすく他のサーヴァントよりも有利なクラススキルを所持していることも。

 そしてオレの計画にルーラーがどうしても邪魔になることも。

 

 そう、この瞬間、ルーラーがキャスターの宝具で作った嘘の啓示をオレに提示する瞬間……!!

 

 この時をずっと…ずっと待っていた……

 

 霊体化しているキャスターに秘密の合図を送る。

 

「さようなら、ルーラー……」

 

「えっ……?」

 

 霊体化していたキャスターが現れ、ルーラーに宝具を放つ。現れたのは花に囲われた大きな塔だった。

 

「これは……っ!!」

 

 ルーラーも気付いたのか防御姿勢に入ろうとする。しかしルーラーはもう何をやっても遅いことに気が付いていなかった。

 

ー宝具展開 さようなら裁定者さん……ー

 

奪われし遥か遠き理想郷よ(シン ガーデンオブ アヴァロン)

 

 ルーラーはアヴァロンと呼ばれる空間に強制的に引きずり込まれる。

 

「何が目的ですか!!!!コトミネシロウ!!!」

 

 それには答えずただルーラーが引きずりこまれるのを観察した。

 そして収束するようにキャスターの宝具は消えた。

 

「邪魔なルーラーは消えました。ありがとうございますキャスター」

 

「良いのですよシロウ。それより私お腹減りました」

 

 キャスターが腕に抱きついて提案する。

 

「何か作りましょうか、そう……」

 

「ズバリ麻婆豆腐というのは」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「おーい起きなさーい!起きなさいってばー」

 

 私は軽く少女の顔を何度もビンタしていた。死んでるんじゃないか?この子。

 

「オイ、リンそいつ何処から拾ってきやがった……」

 

 ローブを羽織った長身の男が呆れ気味に尋ねる。

 

「資材回収の途中になんか血みどろで倒れててね?こんな可愛い子があんな所にいたら野獣のような男達に蹂躙されると思ってさー」

 

「だからって拾ってくることはねぇだろ……」

 

「はぁ〜……本当ダメねあんた、本当ダメダメだわ。というかあんたならどうしたのよ?まさか見捨てるつもりじゃないでしょうね?」

 

 男は私を一瞥し、ひとこと

 

「迷子センターに届ける」

 

「爆ぜなさいランサー」

 

 そんなやり取りをしつつ、ローブを羽織った長身の男……そう、わたしのサーヴァントであるランサーはコーヒーを淹れたりしていた。

 

「ただいま〜」

「ただいまなのじゃ〜」

 

 布都ちゃんとアサシンが帰還したようだ。

 

「ミッションはどうだった?」

 

「いや失敗に終わったよ……財閥の切り札も何か分からなかった」

 

 そう言いながらアサシンは首をすくめ、両手を横に広げる。

 

「まあ仕方ないわね……」

 

「ってアレ?」

 

 アサシンが私がさっき拾ってきた少女を指差し、

 

「この子財閥の敷地で俺を追ってきた子じゃないか?そうだとしても何故生きてる……?」

 

 アサシンの台詞に反応したのか、少女は目を覚ました。

 

「アレ、どこ……なにこれ……」

 

 と、その時である。

 

 少女へのちょっと遅い目覚まし代わりにサイレンがやかましく唸る。

 

「シンジさんから緊急通達が入りました!」

 

「ほい、こちらユウサクどうしたワカメ太郎?」

 

「こんな時でもワカメ呼びかよ……あとで覚えてろよ。えっーと、分断の壁視察隊員達があちら側の襲撃を受け壊滅寸前だ!!!応援をよこしてくれ!」

 

 わたしは無理やりユウサクの通信機を奪い、

 

「こちらからはランサーとライダーを寄越すからバーサーカーだけで何とか持ち堪えて頂戴!10分で着くから」

 

「了解だワン」 

 

「オイ俺の通信機を取るなバーサーカー!」 

 

 相変わらず漫才コンビなようだ。

 

「ほらランサーとユウサクは出撃準備よ!!!!!」

 

 よし……

 

 気合を入れ直し、ピットに腰掛けて私は号令の準備を始める。

 

「桜ちゃーん!チェックポイントの確認はできたかしら?」

 

「完了です!」

 

「空陸両用戦艦B-RAVE発進よー!!!!!!!!」

 

 銀髪の少女を拉致した飛行艇は、雲を切り裂くように陸から空へ駆けた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 分断の壁。それは欧米財閥の領地と下級国民を隔てる壁である。

 

 俺の名前はシンジ マトウ、どこにでもはいない。クールな17歳だ。

 

 突然だが多分ここで俺は死ぬ。なんでかって?攻撃が全く通用しない騎士に殺されそうになってるからさハハッ。

 

「独り言はやめるがよかろう。我があのゴリラセイバーに霊基核をぶち抜かれたからと言って絶望するでないワン」

 

「静かにしろバカっ」

 

 この語尾と口調がどこかおかしいのは俺のサーヴァントでクラスはバーサーカー。

 

 分断の壁のハッキングルート構築の為の工作をしているところを発見され、隊員を守る為に追っ手をバーサーカーに狩らせていたら、俺たちは金髪のいけ好かない奴と共に現れた騎士のサーヴァントに敗北した。

 

 そんでもって瀕死のバーサーカーを連れてコンテナに隠れながら逃げてるってわけだ。全くついてねぇ……

 

「つんつん」

 

 バーサーカーの爪でほっぺをつつかれる。こんな時でも構ってちゃんかお前は。

 

「バーサーカーお前意外と元気……ってアレ?ライダーじゃないか」

 

「ピンチの時に、白馬に乗って現れるヒーローは最高だね!やっぱり!ボクのことなんだけど!」

 

「お前白馬じゃなくてなんか鶏に乗ってくるじゃないか」

 

「ヒッポ!ヒッポグリフ!アレは鶏ではなく神獣なの!」

 

「ハイハイハイ。で、みんなは?」

 

「みんな?みんなって何?ボク一人で来たよ?」

 

 こいつはさっき俺をワカメ呼びしやがった野郎のサーヴァント、クラスは言った通りライダー。

 今の会話から分かるようにアレだ、こいつはデパートで勝手に迷子になるタイプなんだ……

 

「はぁ……まあ一人でも人手は欲しかったんだ。とりあえずチェックポイントにバーサーカーを運ぶの手伝ってくれ」

 

「了解〜。ボクが来たからにはもう百人力だよ!」

 

 なんてやり取りをした瞬間だった。

 

 バゴォン!!!と近くで隠れ蓑の代わりになっていたコンテナがひしゃげた音がした。まさか……

 

「ここにネズミは隠れていたようだなレオ」

 

「うん、そうみたいだね」

 

 さっきの奴らが現れた。

 

「ここで死んでいただきますよあなた達には」

 

 息を大きく吸い込んだ。

 

 よし。ハッキリ言わせてもらおう。

 

「冗談じゃらいぜ」

 

 うわっ噛んだダサっ、みたいな視線を3人から浴びることとなった。やっぱ死にたい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー 

 

「よっしゃ到着ゥー!!!!!!」

 

 艦長と思しきミニスカの女性が高らかに叫ぶ。そして勢い良くバイクで出て行った。

 

「おい待てお前!!!!!!」

 

「ランサーは走りなさい!!!」

 

「俺はどうすんのよ!?」

 

「あんたはなんかもうランサーにおぶってもらって」

 

「二人乗りでいいじゃん!普通に!?」

 

「セクハラ魔に乗せるバイクはないわよ」

 

「ちょいちょいライダーにセクハラしてるの覗いてるなお前」

 

「よし、お留守番に全力で励むぞマスター」

 

 私を殺しかけたアサシンが陽気に言う。

 

「お留守番に全力ってなんなのじゃ」

 

「よし、マスター飛びかかって仮面を外そうとするのはやめてくれ。それはアレだ。体の一部みたいなもんだからやめてくれ」

 

「いーやーじゃー!!もう長い付き合いなんだから顔くらい見せろや」

 

「だからコレマジで取れないんだってば!!!!」

 

 なんてやり取りを横目で見ていた。

 

 とりあえずこの飛行艇?から脱出しよう、また殺されてしまう……

 

「キミ、待ちたまえよ」

 

 紳士のような風貌をした男に話しかけられた。いや話しかけられるのはいいんだが、不可解なのはこいつは急に音もなく現れたってことだ。

 

「私が急に現れたことに怪訝さを感じているならばすまない。だがこれは仕方のない事だ。なぜなら私がサーヴァントという特異な存在であるからね。君もマスターであるならばこの事に関しては理解を示してほしい。まあそんなことはともかく君のサーヴァントはどこだい?霊体化しているなら是非とも見せてほしいものだが」

 

 ペラペラと早口で喋るにも関わらず内容はスッと頭に入ってくるのが逆に鬱陶しい。マスター?サーヴァント?なんのことだ?

 

 紳士は細身の手のひらで私の右手を包み

 

「令呪がある。左右対称の綺麗な令呪だ。これはサーヴァントを従えるマスターであるという事の何よりの証明なのだよ。先程から本当に困惑の表情を浮かべているのは惚けているのではなくもしや記憶喪……」

 

「動くな。次喋れば首と胴体は繋がっていると思うな」

 

 夢で見た黒い女騎士が現れる。

 

 え、アレは夢じゃなかったのか……いや、それともコレも夢か……?

 

「ああ、待ってください……もうキャスターったら……」

 

 リボンをつけた美人の女性がキャスターを諌める。私もオロオロしながら黒い女騎士にやめるよう伝える。

 

「あの、なんと言えばいいのか……リンさんが血まみれで放置されていたあなたをここに拾って来て治療を行ったんです……決して拉致というわけでは……」

 

 全く状況が飲み込めない……

 

「あの、わしの学校は……?」

 

「ええと、学校……?学生なのかな?」

 

「そこの女版アーサー王とそのマスターに提案があるのだがいいかね?」

 

 話を割って来た上に、喋るなという約束なんて知らぬとばかりに提案し出す紳士に眉をしかめるリボンの女性。

 

「私の予測ではこのままでは彼らは死ぬ。助けてやってくれないか?頼む私からのお願いだ。」

 

 キャスターそれはどういう意味……と言いかけた桜を遮り、セイバーが威圧と言葉を放つ。

 

「我がマスターは怪我人だ。むざむざ戦場に出すわけには行かない。」

 

 紳士と桜を威圧するセイバーを手で制止させ、

 

「セイバー、ワシは行くよ」

 

 紳士は思い通りにいった、と言わんばかりの顔をしている。

 

「マスター、何故なのか理由を聞いても?」

 

「恩返し……恩返ししないと。借りた恩は返さなきゃ。それに……」

 

「もう傷治ったから大丈夫」

 

 アサシンと黒い2丁拳銃の男にやられた傷は完全に塞がっていた。

 

「行くよ、セイバー。恩返しに」




コトミネシロウ登場しましたねついに

コトミネシロウは自分の中では終焉のハサンと同じくらいお気に入りですね。はい、、、

でもちょっとしか出てないですね

悲しいどす。

material

ルーラー/マスター無し

真名 ジャンヌ ダルク

解説

表の火星で行われていた聖杯大戦においてエクストラクラス 「裁定者」として召喚されたサーヴァント

スキル 真名看破
神明裁決
啓示
対魔力EX
宝具 我が旗はここにありて (ランクB)
? (ランクEX)




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3話 不滅の聖剣

財閥のセイバー登場回

ライダーとシンジの運命やいかに。


3話

 

 

「 うええ...気分悪ぅ... 」

 

ランサーにおぶられてシンジの指定したチェックポイントに到着したユウサクがダウンしていた。

 

「 うるせえ!文句言うな!俺だって野郎なんざ担いで走りたくねえ!」

 

「 ほらそこ喧嘩しない!

ユウサクはB_RAVEを近くに

引き寄せる準備!

ランサーは私と一緒に黙って来

る!」

空に浮かぶ太陽を見て凛が言った。

「 なんだかヤな予感がする。」

 

「 ああ?なんだソリャ? 」

 

顔をしかめるランサーの疑問にはこたえなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「 随分と抵抗したみたいですが ここで貴方達は終わりです。我々財閥の邪魔はさせませんよ 」

 

「 シンジ早く逃げて!!!英霊のボクなら時間を稼ぐくらいならできるよ!! 」

 

「 こいつ相手に逃げてる隙があるならとっくに逃げてるよ...!」

 

シンジは泣きじゃくりながらそう言った。

 

〜〜〜今から10分前〜〜〜

 

「 よし!隙あり!!!触れれば転倒!(トラップオブアルガリア!)

 

ライダーの宝具は一時的にサーヴァントの足を霊体化させる効果がある。

そう、ライダーの狙いはセイバーを倒すことではなく、足止めすることにあった。ライダーの持つ槍はセイバーの脚に直撃し、足止めは成功したかのように思えた。

 

だがそれは叶わない。

 

「フンッッッ!!!!」

 

セイバーが持つ大剣の一振りでライダーは壁に吹き飛ばされる。セイバーの足は霊体化はしていなかった。

 

なんでだ...?なぜこいつはライダーの宝具をマトモに受けても動ける...?

 

セイバーの大剣の一振りで吹き飛ばされながらも、ライダーが幻獣を喚ぶ合図である口笛を吹く。

 

「ヒッポ!!!!!!シンジとバーサーカーを連れて逃げて!!!!!」

 

幻獣はバーサーカーをかかえる少年に向かう。それを見たセイバーは咄嗟に大剣を構える。

 

「我が不滅の剣が持ち得る聖なる加護よ。我に力を与え給え。」

耀く不滅の聖剣《デュランダル》

 

大剣から放たれる光の一閃がコンテナごとヒッポグリフを包み、幻獣ヒッポグリフは成す術もなく消滅する。

 

圧倒的だ...こいつは...俺らが敵う相手なんかじゃない...絶望的な状況に泣き目になる自分が更に悔しくて、ついに涙は頬を伝った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ランサーアレよ!!!アソコ!!」

 

「ああ...わかってらぁ...」

 

大柄の大剣を構えた男と破壊されまくったコンテナ、血濡れの女狐を抱えた少年とボロボロのライダーは嫌でもランサーと凛の目に入った。

 

「セイバー後は頼みましたよ。私は先に帰ってますから」

 

「 ああわかった。後で酒盛でもしようや」

 

セイバーのマスターは一瞬にして消えた。

 

「なるほどあちら側のマスターもなかなか賢いってわけだ」

 

ランサーが朱い槍を構えながら言う。

 

それに答えるようにセイバーが言う

 

「上からの命令でな。レジスタンスの鼠は1人残らず殺せって指令だ。」

「だがランサーあんたは鼠じゃない。俺にはわかる。俺にはアンタが戦を好む獅子に見えるぜ。」

 

セイバーが煌めく大剣を構える。

 

「お世辞貰ってるとこ悪いんだがな生憎俺は獅子っていう柄でもねェよ」

 

「 猛犬で充分だ 」

 

2人の戦士が衝突する。

 

戦いの火蓋は切られた。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「鈴木康史いっきまーす!!!!」

 

凛が不在の司令官席で妙なひよこ頭の男が奇声をあげていた。

 

「オイ何をやってんだテメェは...」

 

ひよこ頭の男はアサシンに司令官席を無理やり追い出されていた。

 

「オイ焼肉大好き焼肉太郎。司令官の我様に逆らうつもりか?」

 

「まず俺は焼肉太郎じゃないし、後お前司令官じゃなくて凛に合成獣の実験体と間違われて回収されたただのおっさんじゃねえか」

 

「真実を言うなよ...真実は時折鋭い針のように俺の心をも貫く」

 

「うわーやっぱこいつうぜえわマスターこのひよこ頭捨ててきていい?上空5000mから」

 

「構わんぞ。ウザいうんこ製造機だしなそいつ」

 

「こういう時は伝家の宝刀のアレだな。。。よしっ!すいまっせんしたー!!ってアレ?痛い痛い蹴らないでよちょっ!サーヴァントの本気の蹴りはヤバイって!」

 

清々しいほどのDOGEZAをしながらリンチを受けるひよこ頭を横目に見ながら、私はキャスターに質問をする。

 

「あの...あの人達が死ぬってどういうことです?」

 

「私は諜報が得意なサーヴァントでね。敵の情報を盗み出したりするのを役割としている。」

 

「そこで盗み出した情報からある種の推理...考察というものを行なった結果その結論に至ったというわけさ」

 

回りくどい言い方するなこいつはなんて思った。まるでなんかの物語の人物のようだ。なんだろうこの感じは。

 

「おそらく彼らが今戦っているサーヴァントの真名はローラン。シャルルマーニュ十二勇士の1人。不滅の聖剣デュランダルで有名な騎士だ。」

 

私は唐突な告白に驚く。横でハンバーガーを食べているセイバーも手を止めた。

「なぜ英雄の真名を突き止められたのか!?みたいな顔をしているね。いい。実にいいよ。その顔は。私の好物だ。では説明しよう。まず彼らの行動時間だ。彼らは夜を絶対に避ける傾向にあった。この時点でまず彼がどんな英霊かは絞られる。昼を得意とするか。あるいは夜を避けているかのどちらかだ。前者ならば避けるという真似はしなくていい。得意なだけで苦手ではないからだ。だが後者は違う。事情があって昼しか活動できないんだ。

だが彼はある一定の条件で夜も活動することがあった。そう!月が見えない夜の日だ。この日は彼は行動していたんだ。つまりこの英霊は「夜」を避けるのではなく、「月」を避ける英霊。

月に狂う逸話を持つ騎士つまりローランという答えが出たわけさ。」

 

途端に始まった推理ショーにも驚いたが、それと同時にこの紳士に妙な親近感というかデジャヴを覚えた。

なんだこのむず痒い感覚は...

 

「もっと君と長話したいところだけどそろそろみたいだね」

 

紳士はこちらを真っ直ぐ見て告げる。

 

「そういうわけだ。彼らを助けてやってくれないか?私としても彼らがいないと寂しくなりそうでね。少し嫌なんだ。」

 

「君達なら彼らを助けられると信じている。頼んだよ。」

 

「はい。わかりました。」

 

「ハハハ実にいい返事だ。」

 

セイバーがこちらを見て笑ったような気がした。

 

飛行艇を降りて目標のチェックポイントへ向かい、彼らに恩を返す。

 

これが今の私の使命...

 

「マスター乗れ。」

 

黒々としたバイクに既にセイバーがまたがっていた。え、まさかこれは

 

「もちろん二人乗りだ。しっかり捕まれよマスター」

 

2人を乗せた 黒いバイクは物凄い騒音をたて飛行艇を後にした。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「シロウ...シロウ...!起きてください!」

 

「んん...もうこんな時間か...」

 

どうやらオレはキャスターに膝枕する形で、昼寝をしていたようだ。

 

「ごめん...足が疲れたんじゃないか?」

 

「いえ...シロウ相手であれば苦痛でもなんでもありませんよ...寧ろ寝顔が見れて幸せでした。」

 

「 またそんなことを言ってオレをからかう。」

 

「い、いや!?からかってなんか...」

 

金髪の美少女は赤く頬を染めた。

その様子に思わず見惚れた。

この少女の切なる願いを叶えてやらねばという思いはいっそう強くなるばかりだった。

「もうそろそろですか...」

「財閥のマスターの集合は」

 

惚気ていたキャスターもその言葉を聞いて顔が強張る。

 

 

「キャスター行こうか」

 

「オレ達の戦いに」

 

3話 END





次回は財閥のサーヴァント達の紹介

そしてローランとのバトル決着的な感じをやっていこうかなと思っております

material
財閥のセイバー/レオナルドヴィスタリオハーウェイ



スキル

勇猛A
狂化C(ただし条件付き)
戦闘続行B
聖剣の加護EX

宝具

煌めき、輝く不滅の聖剣(デュランダル)

三つの聖剣の加護を持ち
一つは、あらゆる魔を跳ね返す加護
一つは、絶対に剣が刃こぼれしない加護
一つは、一つはあらゆる物を断つ加護
である。

また不滅の聖剣そのものが魔力炉となっており、実質単独行動レベルA+並みの魔力を聖剣に宿している。

真名 ローラン

シャルルマーニュ十二勇士最強の騎士。

豪放磊落で、酒と女が好き。

たまに屋敷内で全裸になる


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コトミネシロウの愉悦

いよいよあいつが登場


「そらッッッ!!!!」

 

 ランサーの薔薇のような朱槍はセイバーの命をもぎ取らんと穿たれる。

 

「フンッッッ!!!」

 

 だがセイバーは其れを難なく、しかも真っ向から肉体で受け止めた。

 

「この程度か?ランサー」

 

 セイバーはランサーを挑発するように不敵に笑う。ライダーの宝具を無効化し、ランサーの渾身の一撃を受けているのに、なんのダメージもないように不敵に笑う辺り本当に余裕そうである。

 

「てめぇこそ目離した隙に心臓なくなってるかもだぜ!」

 

 ランサーは無敵のセイバーに怯むことなく果敢に立ち向かっていた。

 

 その横でシンジは、化け物同士の打ち合いにただただ圧巻されるばかりであった。

 

「よし!ランサーが時間稼いでる間にバーサーカーを運ぶわよ!」

 

「到着したぜいワカメ〜〜」

 

 吹き飛ばされたライダーを抱えたユウサクとリンが駆け寄ってくる。

 

「おお、みんな……やっと来たのか……」

 

あのどうにもならない化け物に殺されて終わりというENDはどうやら避けられたみたいだ……

 

「何で泣いてんの?しかもなんか臭いし……ズボンもビチョビチョ、ってまさかあんた……」

 

「うわっ……」

 

はい……そうなんです。あまりの恐怖に漏らしてしまいました……

 

「ドン引きだわん」

 

 そう小声でバーサーカーが呟いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うわ〜すごいのじゃ〜」

 

 黒いバイクは騎士と少女を乗せ荒野を駆ける。何だかツーリングみたいで心地良さすら感じる。

 

「フッ、あまり褒めるなマスター」

 

 最近殺されたりだとか、殺されたりしていたので、束の間の息抜きとしてセイバーとこうして触れ合うことで心が休まっていく気がした。

 

「マスターあれだろうか?」

 

 そこには遠目から見ても分かるほどボロボロに破壊されまくったコンテナと高速で武器を打ち合う戦士2人が見えた。

 

 ーーーそれを確認した瞬間。

 

 黄金の何かが自分達に向かって飛来するのを感じた。

 

「マスター危ないッ!」

 

 セイバーの直感スキルによりバイクから蹴り上げられ、なんとか無事脱出に成功する。地に転がり落ちるや、すぐさま立ち上がりわしはすぐさまセイバーと乗っていたバイクの跡地を確認する。

 

 陽炎のようなものがうっすらと見える。バイクの残骸から発生したものであろうかと思われた。

 

 だがそれは違った。

 

 陽炎を纏っていたのは人間だった。

 

 陽炎の正体は、黄金の鎧を纏う美少年であった。

 

 美少年は顔のひとつも動かさずに言った。

 

「マスターからの命により、お前達を排除する。悪く思うな」

 

 そう告げると、間髪入れずその男は黄金に輝く槍で私の命を奪い去ろうとする。

 

 ーーー速い、速すぎる……!

 

 瞠目することしか出来ず、体を動かせぬまま斬られると思われたその時目の前を黒い剣が甲高い音を立てながら通過する。

 

「なかなかやるな。」

 

 なんとかセイバーが、わしの首を跳ねるとこだった槍を間一髪大剣でギリギリ防いだようだった。

 

「だがーーーー」

 

 黄金の少年は何かを言いかけながらセイバーを蹴り上げ吹き飛ばす。

 

 なんだこいつ……!?速いし力もある……

 

 いつの間にか黄金の少年は空中に居た。

 

 ーーー日の輪よ……

 

 黄金の槍は陽炎を纏う。

 

 このままではマズい、と本能が告げていた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 財閥の本拠地大神殿ーーー

 ここには欧米財閥当主、グレイ・ヴィスタリオ・ハーウェイに雇われたマスター達が集合していた。

 

「おや来ましたねシロウ!」

 

 レオが手を振ってこちらに合図をする。レオは私が財閥に入ってからの私の親友であり、またこの聖杯戦争においてセイバーのマスターでもあった。

 

「身支度に色々と時間がかかってしまいまして……それよりあの人達は?」

 

 にこやかに笑いながら返しつつ、獣と人間を混ぜたような2人組の方を見やる。

 

「ああ、アレは時計塔の権威者であるシムラ氏の助手達らしいね」

 

 なるほどしかも魔術回路の反応も確認できる……なかなかに面白そうだ。

 

 この獣のような人間も今回の聖杯戦争のマスターであるということか、と自分の中で納得する。

 

 そんな風にオレ達が獣人のマスター達の物色をしていたところにその男は現れた。

 

「おっとっとォー!遅れて申し訳ないね……グレイ!!!新作のゲームをプレイしていたらいつのまにか集合時刻だったようだ!!!」

 

 その場にいたマスターは突如現れた謎のおっさんに唖然とする。その男の、場に似つかわしくないふざけっぷりに当主としての威厳を保っていたグレイもおもわず顔を緩め、

 

「まったく君ってやつは……後その格好はなんだね……?」

 

「うん、これか?!これはだな!!!この場にふさわしい正装と言うべきかな!!!ハハハハハ!!!!」

 

 名探偵コ○ンのコスプレをしている、還暦に近いであろうオッサンは一気に場の視線を一つに集める注目の的となった。

 

「ハハハハハ!!自己紹介が遅れたなァ、マスター諸君!!!我が名はシムラ・バッカトーノ」

 

 男がその名を放った途端マスター達が騒つく。

 

「ハハ、アレがシムラ氏か……」

 

 レオの澄み切った碧い瞳はおどけた老人をなんの疑いもなく見ていた。お坊ちゃん体質のレオにはこのシムラの黒い噂も知るはずがないだろう。

 

 シムラ・バッカトーノ、この男はおどけた態度をしてはいるが死霊魔術の第一人者でありながら、時計塔で魔術回路医療のスペシャリストでもあるというトンデモ経歴の持ち主である。

 

 だがその輝かしい経歴の裏には、ある噂が立ち上っていた。

 シムラ・バッカトーノに関わった人間の多くが行方不明となっているのだ。

 魔術師という、権力に大きく関わりのある職業上行方不明というのは実はよくあることなのだが、キャスター曰くどうにもこいつはいなくなる周りの人間の数が異常らしい。

 

「そ……なわけで……は一つ……」

 

 考えことしてるうちに当主の話が始まってしまっていたようだ。どーにも昔から爺さんの長話は好きになれないので真面目に聞く気は最初からなかった。

 

 だが次の瞬間、グレイの表情が興味深いものになった。

 

 グレイは苦虫を噛み潰したような顔をしながらトンデモないことを言い出す。

 

「我々が所持していた大聖杯はレジスタンスに盗まれた!!!!!!」

 

 マスター達からどよめきがあがる。

 

「それはどういうことなんですか!グレイ当主!」

 

「話が違う!!!!!」

 

 多大なざわめきと共に抗議の声がグレイに向けられる。

 当然だ。大聖杯がなきゃそもそも聖杯戦争してる意味がない。ここに集まったマスター達の言うこともよくわかる。可哀想に。

 

ーーーああそうだったそうだった。大聖杯が財閥の手から零れ落ちたのはオレのせいだ。

 

 財閥のマスターは混乱し、顔を歪める。親友のレオはオロオロしながら近くにいる他のマスターを宥めている。当主であるグレイは威厳を失うのも構わず、怒号を放つ。

 

 そうーーー全ては自分の仕業である。

 

 嗚呼、嗚呼。余りの快感に自分の脳味噌は機能をほぼ停止し、快楽を貪り喰らう傀儡となる。

 

 嗚呼、嗚呼。ーーーまさに

 

 嗚呼。嗚呼! ーーーこれこそが

 

 ーーー愉悦。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 止まらぬグレイへの抗議に幕を下ろしたのはシムラだった。

 

「おいテメェら黙ってなウチのグレイちゃんが困ってるだろうが」

 

 いつの間に壇上に上がったのか、シムラは会場に一喝を浴びせ、グレイの方を向く。

 

「要するにアレだな?大聖杯を盗んだであろうレジスタンスを潰せってことなンだろ?」

 

 肯定の動作を返され再度こちらを向く。

 

「ハッキリ言って今回の件は余裕だろ?なんせ俺たち財閥は考えうる限りの最強のサーヴァントをそれぞれのクラスに召喚することに成功してるからな」

 

 シムラの演説によって場は静まり返り、一気に注目を集める。どうやら魔術の技能だけでなくカリスマも持っているようだ。

 

「レジスタンスの古い魔術師を抹殺し、大聖杯を取り返す。」

 

 グレイがシムラに便乗し告げる。

 

「これが最初の任務である!!!」

 

 さっきまで財閥のマスターの士気が上がっていたような気がしたが、そんなことはなかった。

 

 グレイとかいう爺さんは指導者にあんまり向いてないタイプだな。まあでも今レジスタンスのマスター達が殺されるのは少し困る。

 このままだと財閥が集めた一騎当千の英雄達に本当に抹殺されてしまうだろう。

 

 手を貸してやるか……

 

 同じ時、同じ場所にいるキャスターも同じことを考えていた。

 

 どうするの、と私がシロウにアイキャッチを送ると

 

 シロウは不敵に笑った。

 

 なーんだやっぱり悪巧みしてるか。

 

 でも付き合ってあげる。

 

 私シロウのサーヴァントだもの。

 

──────────────────

 

大神の日記 日付(○にち△にち)

 

しにたい

 

ただしにたい

 

シムラにゆうかいされてからだをいじくられて

 

きづいたらからだはけものになっていて

 

きづいたらシムラのてごま

 

もういやだ

 

しにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたい

 

帰りたい。帰りたい

 

かえらせてよ




グレイが幼女だったら可愛いんですけど
残念ながらグレイはお爺ちゃんです 


material

財閥のランサー/番号12(アミメキリン素体)

スキル

貧者の見識A
騎乗A
無冠の武芸
魔力放出(炎)A
神性A

宝具

日の輪よ具足となれ(カヴァーチャー&クンダーラ)

ランク A

黄金の鎧の宝具。

ランサーがこれを着ている間は一部の宝具が制限される代わりにダメージをほとんど通さない無敵の鎧になる。
(ただし露出している部分は少しだけダメージが通る)


真名 カルナ

解説

マスターの魔術回路が産まれつき虚弱なため宝具を一部しか開放出来ず全力を出せないにも関わらず、セイバーを追い詰めるほどの実力者。
別名「施しの英霊」


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5話 奏でるトロイメライ

5話

 

金色の青年の槍は炎を纏い、今にも

わしとセイバーを焼き殺そうとしていた。

 

「ぐっ...」

 

ーーーここで終わりか...!

 

そう思ったときだった。

 

ぷすっ、と軽い音がした。

 

その音と同時に、

 

 

槍を構え私達を殺そうとしていた槍兵は体勢を崩し、地に落ちかけた。

 

 

「なッ...!?」

 

 

なんと鉄の矢が槍兵の心臓を貫いていたのだ。

 

槍兵はすぐさま体勢を整え、辺りを見渡す...

 

だがここは真っ平な荒野、弓兵に隠れる場所などはなかった。

 

ぷすっ、鉄の矢はまた槍兵の身体に刺さる。手始めは槍を持つ右手、次はアキレス腱、と言った風に槍を刺さる場所は槍兵の動きを止めるのには的確だった。的確過ぎた。

 

「些か分が悪いか...」

 

ランサーはすぐさま霊体化し、その場を去った。

 

助かった...マジで死ぬかと思った...

 

ーーーブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

人を馬鹿にしたようなエンジン音が突如響き渡る。

 

「ーーーよう。お嬢さん...」

 

ゼファーに乗ってきたひよこ頭のコスプレ男はまるで耳の中に虫が這いずり回るような不快感を伴う声で、私に手を伸ばす。

 

伸ばした手は仄かにおとこのこの匂いがする。手ぐらい洗えよ...

 

「おい何者だ!ちん...ひよこ頭!」

 

ひよこ頭はおもむろにサングラスを外し答える。

 

「オイオイせっかくお前さん達を助けたのによォ...そんな態度でいいのかい?もっとさァ...感謝とかあるだろ?」

 

あの槍兵を退けたのはこの男だったのか...

 

「その点については感謝します...ありがとう...あの...名前とか聞いてもいいですか?」

 

「そうだなぁ...オレの名前はァ...」

 

「銀ちゃんとおまん...」

 

といいかかけた途端、ぷすっと軽やかな音がした。

 

先程槍兵を射抜いた鉄の矢は、今度はひよこ頭のイカ臭い男の頭部をぶち抜いた。

 

この男の死を悲しむより先にうわぁ...などという間抜けな声が出たのはセイバーと私の秘密である。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よっしゃあ!シンジとバーサーカーは確保!離脱するわよ!!!!あんた達」

 

「鈴木が何故かいないけどいいのか?」

 

「飯食って寝るだけの役立たずはこの荒野で北◯の拳のモブのような生活をしてもらうことに決定したわ!」

 

ああ...リンも相当頭にキてたんだなと察しのいいユウサクは思った。

 

ちなみにユウサクもひよこ頭に出て行ってもらうのは大いに賛成だった。

 

というか北◯神拳でも南◯水鳥拳でもいいから裁きを受けて欲しかった。

切実に。いや本当に。

 

だってアイツ喋れば恐らく96%嘘であろう自分の武勇伝を話し出すし、黙ってればひよこ頭がアンニュイでなんか腹立つし!!!あーこんな時にはライダーに慰めてもらおう。

 

「ってアレ?銀髪の女の子と黒い騎士は?」

 

「ああ彼らならね。君たちがランサーと交戦しているところを襲撃しようとしていたセイバーから君達を助けに向かったようだよ。」

 

「...?私達が交戦したのセイバーだけど」

 

「おや...?分断の壁の護り手のランサーに追われているシンジを助けに行ったと鈴木康史くんから聞いているが」

 

「はぁ...あいつ...というかキャスターもアイツのいうこと信用するなよ...」

 

「おやおや私としたことが...」

 

キャスターはコーヒーを口につけながら落胆する。

 

「君達がランサーとセイバーに抹殺されるかと思って心配して損したよ」

 

「となるとランサーと銀髪の子が闘ってるのかしら?」

 

「そうなるな」

 

「それじゃあ回収に行くとしますか!!!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

マスター集合の儀が終わった私は部屋に戻り机の前に置かれたナイフを見つめる。

 

『これはアゾット剣だ。武器などを持てない未熟な魔術師の君にプレゼントとして差し上げよう。』

 

そう言ってシムラが私に渡したのがこのナイフだ。

 

だがこのナイフは私の瞳には魔術師として闘うための武器としては写らない。

 

「今」から逃れるための鍵...

 

私の喉元にぴったり刺さるような鍵としてしか見れなかった。

 

ゴクリ。アゾット剣と呼ばれるナイフを突き立てる。

 

今やっと死ねる...そう自分に言い聞かせる。死ぬのなんて怖くない...獣として自分を失うことに比べたら死ぬことなんてッ...

 

よし。決心はついた。

 

ーーーごめんライダー。

 

こんこん。ノックがした。

 

「魔術師とアミメと申します。

此度の聖杯大戦において同じ陣営のマスターとして挨拶に参りました。」

 

っ...!私は動揺し、アゾット剣を机にしまう。

 

「は...入って...どうぞ...!」

 

「あ...お邪魔しまーす...」

 

「あら?お取り込み中でした?」

 

「いや...ちょ...あの...」

アミメは不敵に笑う。

 

「自殺するつもりだったんですか?」

 

ーーーえ?なんで...

 

「魔術師が集合した時も顔色が良くないようでしたし、何よりーーー」

 

「日記落ちてました」

 

頭に血がのぼる気がした。

カーッと顔が赤く火照り、なんだかテンパってしまった。

 

黒歴史の塊みたいなものをみられるなんてええええええ!!!!!

 

うわうわうわうわうわ

 

どうしようどうしようどうしよう

 

「先生...先生って呼んでいいですか?」

 

テンパりながらも私は答える

 

「え、どうして...?」

 

「机の上に原稿用紙と立派な筆ペンがある。立派な物書きなんでしょうね。きっと...」

 

そう言ってアミメは机の方に向かった。

 

だがアミメが目指したのは机ではなくその隣にあるピアノだった。

 

アミメの恐ろしいほど美しい指は、優しく上品な旋律を奏で始めた。

 

ーーー優雅、という二文字では表せぬほど優しくきらびやかな音は夜風に乗り財閥の敷地に響き渡る。

 

トロイメライは2人の奇妙な出会いを祝福するようであった。

 

 

END

 

 

 




「あっあれ見ろ!凛!」

ユウサクの指差した方向にはひよこ頭が頭を射抜かれて倒れていた。

「セイバー...さっきからずっとこいつなんか変なこと言ってる...」



「止まるんじゃねえぞ... 」

material

ライダー/ユウサク

スキル

騎乗B
対魔力A
単独行動B

宝具

触れれば、転倒!(トラップオブアルガリア)

槍の宝具。真名解放によりサーヴァントの脚を霊体化させ、足止めをさせる

破却宣言(キャサー ディ ロジェスティア)

ある魔女から譲り受けたあらゆる魔術を破却する魔術書

所有するだけで対魔力Aを得る。

真名解放で固有結界や大魔術すら打ち破ることが可能。

この世ならざる幻馬(ヒポグリフ)

グリフォンと馬の間に生まれた幻獣

アストルフォの足として使われる事もしばしば

恐怖呼び起こせし、魔笛(ラ ブラック ルナ)

笛から 超音波を引き起こし、敵を撹乱させる。使用時はライダーを取り囲むくらいの大きさになる。



ランクEX

ライダーの切り札

真名アストルフォ

シャルルマーニュ十二勇士最弱の騎士。

理性が蒸発しており、暴走することもしばしばだが

彼の中に芽生える騎士道は本物である。



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焼肉の王ここに降臨せり。

6話

 

 

「ああ死ぬと思ったわーこのマイヘッドが無ければ即死だったぜ」

 

ひよこ頭の変態は頭をさすりながら言った

 

生きてんのかよ...心の中でツッコミたくなった。

 

「ねえちょっとクソひよこに質問あるんだけどいいかしら?」

 

「俺なんか悪いことしたっけ(池沼)」

 

凛はひよこ頭の右手の掌を掴み、

 

「令呪が一画なくなってるわ...どういうこと...?あなた令呪何に使ったの...?

 

「いや別に何も...」

 

「とぼけんじゃないわよッッッ」

 

凛は思い切りひよこ頭に腹パンをかます。

 

「ウワァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

「うるさい!腹パンくらいでくよくよしない!あとご近所さんに迷惑でしょ!」

 

「いやここ空中だしご近所もクソもなくね?」

 

アサシンが冷静にツッコミをいれるもののそれはスルーされた。

 

「あのねぇ聖杯大戦においてね?令呪ってすっごく大事なわけ!令呪を使うってのは本当に緊急時の時だけなの!」

 

「それをあんた自分の霊体化したまま動かないサーヴァントに令呪で命令して桜にセクハラを命令したとかどういうことだてめぇはァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

凛は渾身のキン◯バスターをひよこ頭に喰らわせた。

 

「確かに怪人みたいな見た目してるけど、それはヤバイってもオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!分かった!俺が悪かった!反省するから!股関節が千切れる前に早くこれ解いてよォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

 

私に初対面からセクハラをかました変態だから因果応報だなって思う気持ちもあれば、彼が令呪を使用した事により私たちが助かったのもまた事実なので複雑な気持ちだった。

となりのセイバーを見る。

 

セイバーはキ◯肉バスターをかけられる変態に口を開けたまま唖然としていた。

 

 

「ようお漏らしシンジちゃん!ミルクはいりまちゅか?」

 

ユウサクはシンジをからかう。

 

先程の戦いでおしっこを漏らしたシンジは下半身パジャマ上は戦闘服という出で立ちで、ユウサクを睨みつける。

 

「お前な...俺はマジで死ぬとこだったんだぞ!?お前だって同じような状況なら漏らすってば!」

 

「いや俺は漏らさないし500000000歩譲って漏らしたとしてもアストルフォに赤ちゃんプレイしてもらうし」

 

「いやー多分しないと思うなボクは赤ちゃんプレイ以外のプレイなら考えてあげるけどさー」

 

「やっぱりそうかぁ...って、え?本当?マジで!?」

クソ...人前でイチャイチャしやがって...という感情を込めた目でシンジはユウサクを睨みつける。

 

その様子を見たバーサーカーはそっとシンジの頭を撫でた。

 

「別に哀れだと思ってないからな?」

 

「いやお前思ってただろ!絶対今思ってた!その優しい目が全てを物語ってるんだよ!バーカ!」

 

そんな馬鹿騒ぎをしているみんなを見てなんだか心が落ち着く気がする。

 

キャスターがこの今を守りたいと言ったのも分かるような気がした。

 

「はいはい!みんなちゅーもおおおく!!!」

 

ひよこ頭をシメ終わった凛がこの指とまれと言わんばかりに人差し指を掲げる。

 

「もうすぐこのBRAVEはある所に向かいまーす!!!どこに向かうか分かる人ー!」

 

「はいはいはいはい!!!」

 

ユウサクが元気よく挙手する

 

「速かったわね!さあ答えをどうぞ!」

 

戸魂界(ソウルソサエティ)

 

 

「んー惜しいわね!作品がちょっと違うわ」

 

「俺の斬魄刀をアストルフォという鞘に納めるみたいな?」

 

「ここから捨てるわよ...はい次!」

「はいはい!!!わし!わしに答えさせて!」

 

 

「はい!布都ちゃんどうぞ〜!」

 

 

「 越 ◯ 製 菓 」

 

「うーん正直スベったけどドヤ顔可愛い賞をプレゼントよ」

 

「 わーいやったー!!!」

 

「いいのかマスター...」

 

アサシンは困惑していた。

 

「では私いいですか...?」

 

控えめに桜が手を挙げる。

 

「おっ珍しいわね。いいわよ」

 

「...マサラタ◯ン」

 

「頑張った賞をあげるわ。」

 

「あっ次俺で」

 

満身創痍のひよこ頭が最後の力を振り絞ろうと懸命に立ち上がる。

 

産まれたての子鹿のように足は震え、顔はハリウッド俳優のようにキマっ...てはいなかった。

 

寒さに怯えるように唇は震えるものの、その喉仏から今答えを言わんと力を振り絞る。

 

ボロボロになりながらもこの答えを告げることが使命とばかりにーーー

 

ーーー男は告げる。

 

「雨の中、スカートの中、桜ちゃんのおまん...」

 

女性器の名前を言い終わる前にひよこ頭は桜によってBRAVEから放り出された。

 

「女性は強しってね」

 

「おいキャスター何いい感じに締めてやがる」

 

出番がなかったランサーはようやくツッコめたようだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「えーこれから我々は物資調達を始めまーす!!!」

 

「やっほォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ」

 

ユウサクは興奮を抑えきれないあまりに叫び出した。

 

「まあこれは物資調達という名のお買い物休憩だからね」

 

ひょこっとキャスターが現れる。

 

「みんなにとっては息抜きなのさ...どうだい?みんなと買い物でも」

 

キャスターの提案は嬉しいが私なんかが加わっていいのだろうか...

 

と思っていた途端に凛に肩をかけられる。

 

「この子に似合う服って売ってるかしら?桜?」

 

ーーーえ?

 

「ふふふ...どうでしょう?この子可愛いから何でも似合いそう...」

 

ーーーアレ?もしかして

 

「もちろんマスターは何でも似合う当然だ。フンドシとかでも似合うぞ。」

 

もう女性陣で買い物は決定済みなの!?

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「オイシンジ!!!冷凍庫からありったけの肉もってこい!!!あと酒も!!!」

 

男性陣は何やら外で食事の準備をしていた。

 

「ヤキニクの事となると張り切るねアサシンは私もこういうのは初めてでね...すごく楽しみなのだよ...」

 

そんなキャスターを手で制し、アサシンは言う。

 

 

「悪いなキャスター...今日の俺はアサシンじゃない...」

 

アサシンは「肉」と書かれたハチマキを巻きながら

 

「 今日の俺は焼肉番長だッ!!! 」

 

「うおお...焼肉番長...」

 

ひよこ頭が尊敬の念を込めてアサ...焼肉番長をまるで一目惚れしたように見つめる。

 

「応ッッッ焼肉番長ッッッ!!!」

 

ランサーは掛け声をあげながら手際よく野菜を切り刻む。

 

「いくぜ焼肉番長ォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

ユウサクは全力で魚を釣る。

 

皆が焼肉番長のカリスマにつられる様子に感銘したのかキャスターは服を脱ぎ海にダイブした。

 

「焼肉番長ッッッ!!!待っていたまえ!この名探偵が必ずマグロを捕獲してこよう!!!」

 

そうして一本釣りに挑戦する名探偵は海の奥深くに消えた。

「うおお...俺も...俺も負けてらんねえよ...」

 

ひよこ頭もたまらず感銘を受けたようだ。

 

「焼肉番長ッッッ!!!見ててくれッッッ!!!俺の本気をッッッ!!!」

 

 

「キャストオフッッッ!!!!!」

 

ひよこ頭が身に纏っていた装備はパージされひよこ頭はパンイチになる。

 

「焼肉番長...!見ててください...!俺の勇姿をッッッ!!!」

 

そう言ってひよこ頭は繁華街の方へパンイチで走り出した。

 

そのギリシャ神話のアキレウスを思わせる勇猛なる姿に思わず、焼肉一同は涙した。

 

王である焼肉番長ただ1人が部下の勇姿を澄んだ目で見届けた。

 

そして王は一言。ーーーそっと静かに告げた。

 

「ユウサクアレ通報しといてくんね?」

 

「応ッッッ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ツインテールも可愛いけどさぁやっぱポニテも可愛いよ銀ちゃんは」

 

銀ちゃん...!?いつも間にか銀ちゃんってあだ名ついてる!

「ふふふ本当顔が綺麗...やっぱりなんでも似合っちゃいますね...」

 

「当然だ。宝塚にも出れるぞマスターは」

 

セイバー!嘘はダメだよ!?

 

私は女3人に囲まれ着せ替え人形みたいな感じになっていた。どうしよう...すごく帰りたい...

 

「キャァァァァ!!!!」

 

甲高い女の人の叫び声が聞こえた

 

女性陣一同は何があったのか確かめるために外に出た。

 

そこには異様な光景が広がっていた。

 

いつものひよこ頭の男が女性のスカートの中に頭から入るタイプのセクハラを行使していたのだ。

 

とりあえず助けなきゃ...と思った時はすでに遅かった。

 

白髪の長身の少年がひよこ頭を殴り飛ばしていたからだ。

 

「大丈夫ですか?レディ?」

 

「ありがとうございます...あのお名前は...?」

 

「ええ。コトミネシロウと申します。」

 

 

end






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百獣太母

7話

 

 

「おっしゃあ!!!今夜は焼き鳥だァァァァァァ!!!」

 

ひよこ頭はセクハラの罰として磔にされ、焼かれている。

 

「あちゃちゃ!!!ヤバイってこれ!!!アヴェンジャーになる!!!オルタちゃんになるゥ!」

 

「おう!なれなれ!もっと焼かれろ!バーカ!」

 

「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ」

 

「相変わらず騒がしいですね皆さん」

 

私は男連中の騒ぎを遠巻きに見ていた。

 

「ええ本当ねぇ〜」

 

「あの凛さん...何してるんですか...」

 

「ああこれ?」

 

凛は私の銀色の髪を何やらいじっていた。

 

「あなた普段はツインテールだけど私の見込みだとポニーテールとか似合うと思うのよねぇ〜」

 

「いやそんなこと...」

 

私は謙遜した。本心だった。

 

「それに純白のワンピースに似合うのはやはりポニテよ」

 

凛は私の髪を結び終え、感嘆の声をあげる。

 

「本当可愛いわね〜...妹とかにしたいくらい...」

 

燦々と輝く太陽はスポットライトの様に、少女の清楚な姿を讃えるようであった。

 

そっとはにかむ笑顔は太陽よりも眩しい。

 

ーーーだがふと

 

銀髪の少女がとても儚い存在の様に感じられた。

 

手を伸ばそうとすれば雨雫の様に零れ落ちてしまうのではないか。

そう思わせるほどに彼女の笑顔は哀しみを讃えている様な気がしたのだ。

 

「どうしたんですか?凛さん」

 

「なんでもないわよー」

 

今感じた邪な感情を捨てたいと思ったからなのか少し投げやりな言い方になってしまった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

アサ...焼肉番長が右手には塩、左手にはオリーブを持ちながら全力を持って焼肉に臨んでいた。

 

「やっぱすげぇよ...番長は...」

 

「当たり前だろ俺を誰だと思ってる?生前焼肉のみでイングランドの皇帝を暗殺した男だぞ」

 

「うおお...」

 

600%嘘の話をユウサクはなぜか信じ、尊敬しているようだ。

 

「はーい皆さんお待ちかね焼き鳥ですよー」

 

ホームズとシンジが男体盛りになった鈴木を運んできた。

 

「タイトルはぴちぴちお魚天国だよ諸君」

 

「この世でもトップレベルの汚染物質に題名なんていらねえだろ」

 

「もっとスケベなことしていいんだぜ?例えばお掃除フェ...ってあああああああああああ!!!!!!」

 

ひよこ頭が卑猥なワードを言い終える前にバーサーカーがあつあつのスクランブルエッグを顔にかける。

 

「よっしゃ完成だワンニャン時空伝」

 

「いいよねワンニャン時空伝」

 

などと談笑していた。

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「コトミネさん報告をお願いします。」

 

ヴィスタリオ家の中でナイトの称号を持ち、またアサシンのマスターでもある男イオニスとシロウは隠れ家に隠れ、レジスタンス勢力を全員抹殺する作戦を実行しに来ていた。

 

「レジスタンス勢力は現在6名全員生存しており、今はここ072地区に滞在中です」

 

「なるほどではアサシンを向かわせましょう」

 

 

霊体化を解いたアサシンはコートに仮面という出で立ちだった。

 

「そちらのキャスター...オズ?でしたか協力を貰えないでしょうか?」

 

 

「ええもちろんよ」

 

キャスターも上辺で了承した。

 

「ではイオニスはキャスターと作戦の打ち合わせを行ってください。私は当主への報告がありますので」

 

そう言いつつ私はドアを開け、外へ出る。

 

勿論当主への連絡などなかった。

 

なぜ外に出たか?その理由は簡単

 

無論モルガンの宝具の被害を避けるためだった。

 

奪われし理想郷

ーーー隠れ家は空間から完全に消え去った。

 

 

「今は彼らに消えてもらうわけにはいかないんでね」

 

そう捨て台詞を吐いた。

 

吐いた途端だった。

 

矢のようなモノが自分の肩を射抜いた。

「なッ!?」

 

「シロウ。いや叛逆者よ。どういうことか説明して貰おうか。」

 

生きてるだと!?

 

対魔力EXすら貫く宝具だぞ...どういうことだ...?

 

「キャスターは眠らせておいた。美しい女性には手を出さないという主義と、このサーヴァントとお前の令呪は当主様に捧げるためにだ。」

 

「アサシンは下がってろ。一対一で決着をつける。」

 

ふぅ...やれやれ...

 

厄介なことになったなぁ

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「う〜ん!!!美味しいわね!焼肉!!!」

 

買い物も終えた一同は皆食卓についた。

 

「良い文明だね。焼肉とは。こうして肉を囲い一緒に食を共にするのもなかなかに楽しいものだ。」

 

「ああ...どこかの誰かがセクハラしてなければ文句無しの最高の1日だったんだがな」

 

 

「あんまり誉めんなよ照れるだろ?」

 

「ねえほんとお前反省してる?」

 

「アサシンあーんしてあーん」

 

「いやそれは流石に恥ずかしいって」

 

「あーんじゃあーん」

 

「ヒューお熱いですねぇ!良かれと思ってカメラ置いておきますよ」

 

「おい何してんだユウサク」

 

私本当に殺されたんだろうか...

 

そう思うほどに今の光景は平和そのものだった。

 

「どうかしたんですか?」

 

桜が心配に思ったのか話しかけて来た。

 

「どうでしたか?銀ちゃんの歓迎パーティーは?」

 

「え?歓迎パーティー?」

 

「凛が貴方のために急遽計画したんですよこれ」

 

なぜ私...いやわしなんかのために...

 

「イリヤスフィールという少女がいたんです。その子は凛の義理の妹でした。似てるんです。とっても貴方と。それもあってか。あなたのことは特別に感じてしまうんだと思います。」

 

そうだったのか...なんだか不思議だ。

 

イリヤスフィールという名前は他人のような気がしない。

 

なんだろう久方振りに母の名前を聞いた感覚だ。

 

「なんだか湿っぽいかもしれないけど改めてありがとうございます。」

 

 

「いいんですよ!銀ちゃんさん」

 

桜は心地いい笑顔をしてそういった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ゔっ...!」

 

焼肉番長は口から赤い血を垂れ流していた。

 

「番...長...?」

 

「なんて声出してやがる...ひよこォ...」

 

血みどろになりながらも焼肉の王は地になんとか立とうとする。

 

「俺は焼肉番長...ハサン サッバーハだぞ...こんくらいなんて事はねえ!」

 

「でも...でもォ!」

 

「いいから行くぞ!!!皆が待ってんだ...」

 

どこいくねーん

 

「肉の焼き加減が甘くてお腹壊しただけよアレ」

 

END



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8話 相反する嘘

8話

 

「シロウ構えろ」

 

イオニスは魔術でコーティングされたサーベルをゆったりと構える。

「これは誅伐だ」

 

ふぅん...なるほど...流石にナイトの称号を持つだけはあるな。

 

黒鍵では歯が立たなそうだ。

 

「最初に言っておくよイオニス。お前はオレを舐めすぎだ」

黒鍵をイオニスに向けて発射する

 

「はぁ?」

 

イオニスはこれを華麗に避けてみせた。

 

 

だが黒鍵は囮。

 

 

オレはこの好きに集中力を高めた。

 

 

魔術回路に電撃が走る。

 

俺が今から行うのは英雄の宝具の投影でもありながら

 

ーーーモルガンという人間の投影だ。

 

「I am bone of my sword...」

 

少年の両手にはふた振りの剣が現れた。

 

勝利すべき黄金の剣(カリバーン)

 

無を超える宝剣《アロンダイト》

 

「ランスロットとアーサー王の剣だと...!?馬鹿なッ...」

 

こう言いながらもこの時イオニスは慢心していた。

 

神父風情に負けるはずがないと。

 

その慢心がいけなかった。

 

「なッ!?」

 

人間とは思えないほどのスピードでシロウが間合いを詰めてきたことにイオニスは対応が遅れた。

 

一撃目。シロウはアロンダイトを振るう。

 

イオニスはこの一撃に身体を翻し、なんとか対応しようとした。

 

が、シロウはイオニスにアロンダイトをぶつける前にアロンダイトをしまい込んだ。

 

そう。シロウはこのフェイントのためにわざわざアロンダイトを投影した。

 

アロンダイトは名剣の中の名剣だが魔力消費が激しく、尚且つとても大振りであるこが弱点だった。

 

故にランスロット本人以外が使うにはフェイク以外の使用方法がないのだ。

二撃目。カリバーンはイオニスの脇腹を狙う。

 

イオニスは即座に構え、

一式:空気銃(oneset airhonding)ッッ!!!」

 

空気の圧縮弾をシロウに放つ。だがしかし、

 

「I am bone of my sword...!」

 

風王結界(インビジブルエア)

 

シロウから生み出された風の結界はシロウの身体に弾丸が届くのを許さなかった。

 

そのままシロウはなんとカリバーンを投げ捨てた。

 

シロウはグッと拳を握りしめ、

 

イオニスの胴体に思い切り拳をねじ込んだ。

「ぐはァ!?」

 

イオニスの肋骨は完全に砕け散り、身体の中で骨が四散する。

 

拳を身体に捻じ込まれながらイオニスは半ば驚く。

 

拳一発ごときで人体を破壊する技など聞いたことがなかったからだ。

 

ーーー八極拳。

 

イオニスの肉体を破壊したのはその技であった。

 

だがシロウの八極拳は武術としての八極拳の型を取らない。

 

我流で人体を適切に破壊する為の武術として変質していた。

 

シロウは魔術師としては一流ではない。

 

魔術刻印も優秀とは言えず、特別に何か専門の魔術も習得しているというわけでもない。

 

だがシロウが戦闘面においては魔術師を遥かに上回る実力を持つ。

 

 

一つは我流八極拳。

 

自分の師、言峰璃正から学んだ八極拳を自己流に改造した究極の人体破壊術。

 

 

 

 

一つは無限の剣製。

 

キャスターの心を投影することにより、 キャスターが生前見た円卓の騎士の宝具を自由に投影する。

 

 

 

 

 

シロウはこの2つを組み合わせることにより魔術師に対し、幅広い戦略を取ることを可能にしている。

 

器用貧乏ならぬ、器用万能。それがコトミネシロウという魔術師であった。

 

ふっー。ふっー。とまさに虫の息とでも形容できそうな呼吸をしながらイオニスはシロウに問う。

 

「なぜ代行者たるお前が...なぜ聖杯大戦の管理者たるお前が...!俺を謀殺しようと企む...!?なぜだ...!?」

「この聖杯大戦の本当の管理者はオレじゃない」

 

「まあそいつが誰かすら知らずお前は死ぬわけだがな」

 

「ではアサシントドメを頼みますよ」

 

「御意。」

 

アサシンはゆったりとナイフを構えた。

 

「アサシン...!?なぜだ...やめろ!!!令呪を持って!!!命ずる!!!霊体化せよ!!!」

 

「...」

 

令呪による命令はまるで効かず、アサシンはゆったりとイオニスの方向に向かう。

 

「アサシンは既にあなたのサーヴァントではありませんよ。故に令呪による執行は無意味です。」

 

「おやすみイオニス。」

 

イオニスの胴体と頭は一瞬して別たれた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

イオニスとの戦闘の3時間前のことである。

 

異様な形状をした小振りのナイフをシロウはハンカチで拭いていた。

 

「シロウなんですかそれ?」

 

レオは不思議そうに尋ねた。

 

破却すべし全ての符(ルールブレイカー)。今回の作戦の要になる宝具です。」

 

「どんな宝具なんです?」

 

「簡単に言えば凡ゆる契約を断ち切る事が出来るんです。聖杯戦争というルールに依存する戦いでは抜群の効果を発揮するってわけですよ。」

 

「なるほどそれを使ってアサシンをこちら側につかせるというわけですね。」

 

「ええ。まあ強制的にやっても、こちら側に完全についてくれるかは疑問でしたので、条件付きの合意でやりましたがね。」

 

「条件?」

 

「アサシンに彼の加護を受けさせるという条件ですよ」

 

「ああなるほど。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ここはどこなんだ?」

 

アサシンがおそるおそる尋ねる。

 

たくさんの本棚に囲まれた部屋の中に玉座があり、

 

そこには仮面を被った男が仰々しく腰をかけていた。

 

「大司祭。例の人物を連れてきました。」

「うむ。まあ座りなさいよアサシン君。色々質問とかしなきゃいけないからさ」

 

「は、はぁ...」

 

何もないところから現れたパイプ椅子に驚き呆れながら、アサシンは腰掛ける。

 

「一つ目の質問〜!!!趣味は?」

 

如何にも大魔法使いの様な見た目をしといてまさか趣味を聞かれるとは思わなかったのか、アサシンは反応が遅れる。

 

「趣味は...音楽でしょうか...モーツァルトの曲を弾くのを特に気に入っています。」

 

「ふむふむ...」

 

大司祭と呼ばれる男は必死にメモを取っている。まるで記者みたいに。

 

「ではでは2番目の質問〜!!!貴方がもし住むとしたらどこの国が良い?」

 

国...?なんだ意味わからんという感想を得たのだろう。反応がまたもや遅れる。

 

「やはり自分の出身地がいちば...」

 

「ストォォォォォォォッッップッッッ!!!それはダメです!!!ズバリ貴方の理想をお願いしますッッッ!!!」

 

アサシンの答えを遮るようにして大司祭はハリセンでツッコむ。

 

それにアサシンは引きながら、

 

 

「は、はァ...理想ですか...ロンドンとか...でしょうか...」

 

「ロンドンッッッ実に素晴らしいッッッ!!!」

 

大司祭は興奮しながら玉座から飛び降りる。

 

「では我が奇跡をお見せしようッッッ!!!」

 

大司祭は手に持っていたメモ帳をビリビリに引き裂きながら詠唱を始めた。

 

「これより我々が行うのはッッッ!!!真実の腐敗ッッッ!!!虚構の勝利ッッッ!!!」

 

 

「第1宝具展開ッッッ!!!真実を喰らえ、我が八百万の虚構よ(アンサイクロペディア)

 

「う、ウワァァァァァァ!!!!やめろォォォォォ!!!!」

 

アサシンはノイズのような黒い塊に包まれる。ノイズはアサシンの霊基を激しく蝕む。

 

「頑張って堪えてください。貴方は正しく歴史に存在した山の翁(フィクション)から生まれ変わるのです。」

 

「そうッッッ!!!歴史に存在しない虚構の山の翁(ノンフィクション)としてッッッ!!!」

 

 

ーーーノイズの侵食がおわり2時間ほどたった頃。その地に立つのは私が知っているアサシンではなかった。

 

「題名はそう。」

 

 

「死曲のハサンとでもしますか。」

 

 

黒いコートに琴の形をした弓を持ったアサシンは琴をかまえる。

 

「では曲を奏でましょう。」

 

「私の祝福されぬ生誕を。」

 

 

END



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9話 決行

9話 決行

 

「シムラ様エルメロイ氏からお電話です。」

 

助手の網目はシムラ バッカトーノの部下であり、世話役でもあった。こういう細々としたことも網目の役割である。

 

「へういもしモォーし?何の用だァ?」

 

「あァ?うんそうそうライダーの触媒ね?ウンウンわかったアリガトウ!チュッ♡アララァ!?電話切れちゃった...」

 

「あのシムラ様...今ライダーの触媒って...」

 

網目は今出たとんでもないワードに思わず反応する。

 

「ンン?あァ...新型のオオカミにも参加してもらうんだよ。」

 

 

 

「聖杯大戦の駒としてねェ?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「というわけで作戦を発表するわ」

 

 

「我々の目的は小聖杯の奪取よ。このためにはまず財閥の敷地に侵入する必要があるわ。」

 

 

「しかし敷地内の壁に沿う形で結界がドーム状に張られているために正面からの侵入は不可能に近い、ハッキングも難航中。」

 

「そこで考えたのが地下水路から侵入する方法よ。」

 

 

「あっ待てよ確か地下通路って...」

 

 

「粛清騎士が蔓延ってるよな?アレどうする?」

 

 

「ふふふそれはね...強行突破よ」

 

 

「やっぱりかー!」

 

 

「大丈夫!!!いけるいける!!!」

 

 

 

 

 

「とうとうこの私のバリツを発揮する時が来たようだね諸君」

 

「キャスター戦えるんですね...」

 

「探偵をなめないでくれ、クスリキメてる時はヘラクレスにも勝てる気がするんだ私は」

 

「ヤク中の英霊なんて聞いたことないですよ...」

 

 

「いよいよか...」

 

 

シンジは武者震いをしていた。

 

 

「なぁバーサーカー...」

 

 

上ずった声でシンジはバーサーカーに尋ねる。

 

 

「俺が死んだら...さ...お前悲しいのか...?」

 

 

「死なぬさ心配せずとも」

 

 

「お前はしぶとく生き残って帰ってくるはずだナ」

 

 

「そ...う...か...」

 

 

シンジの震えは止まらなかった。

 

 

 

「だから真名をなんで教えてくれないんだよ!!!」

 

 

「お主と我はマスターなんだろ!?なぜだ!?信頼されてないのか!?」

 

 

アサシンと布都は向かい合って

 

ーーーいや一方的にアサシンが怒られていた。

 

「いや...そういうわけではない...ただ...」

 

 

アサシンは何かを躊躇っていた。

 

 

「今は無理なんだ...俺の真名を言うのは...頼む...」

 

 

「分かった...」

 

 

布都はかなり落胆していた。

 

 

流石に可哀想ではないか...?

 

 

 

「良いのか?アサシン?真実を告げなくて...」

 

 

空気の読めない探偵が水を差す。

 

 

 

「真実を告げないんじゃない。」

 

 

「告げるべき真実も持ち合わせていない矮小な英霊なだけだ。」

 

 

仮面の向こうはどんな表情だろうか。

 

そんなことを探偵は考えた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「バーサーカー...出てこい...」

 

 

シムラは地下のプライベートで使う実験室に来ていた。

 

「urrrrーーー!!!」

 

 

血に濡れたような赤い鎧を纏った騎士は地下に閉じ込められていた。

 

 

「おーいい返事ださてさて令呪の時間だぜ」

 

 

「ーーー令呪をもって命ずる。俺が合図したら魔槍ロンゴミアドを解放しろ。合図するまでは手加減だ。」

 

 

「urrrr...Athe...」

 

 

「ああ...アーサー王も殺していいぞ」

 

 

「お前の好きなようにしろ」

 

 

「Arrrrrーーーー!!!!」

 

 

バーサーカーは地下の天井を蹴破り、レジスタンスを抹殺しに向かった。

 

「まァ...様子見だ最初は...」

 

 

 

「さて...イオニスの件は言峰の小僧にはあとでお仕置きだな」

 

 

シムラは葉巻を咥えながら計画の準備を進めた。

 

 

 

シムラが抱く最後の希望への計画へ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

モルガンは夕方シロウの様子を見に部屋に出かけた所、倒れているシロウを発見した。

 

やはりか...

 

モルガンが感じた感想はそれだった。

 

コトミネシロウという人間は最初から存在しない。

 

どこの誰かがある人間の死体を利用して作り上げた偽りの人間なのだ。

 

故にこうやって肉体が壮絶な拒否反応を起こし度々シロウは気を失ってしまう。

 

シロウをベッドに運び、モルガンは思い詰める。

 

 

「なぜこの人はここまでして闘うの...?もう死んでるのに...もうゾンビと何も変わらないのに...」

 

シロウは私に闘う理由を教えてはくれない。

 

ただ義務的に殺すべき人間を殺し、救うべき人間を救う。

 

これまで彼が行って来たのはそれだった。

 

正義でもない。勿論悪でもない。

 

彼がやっていることは何なのかが分からない。

 

「おやキャスター...どうかしました?」

 

シロウが目を覚ましたようだ。

 

 

「また倒れてたみたいですね私」

 

 

「でもこうしちゃいられないですよ。」

 

 

「早くレジスタンスと接触しましょう。急がなければ。」

 

 

「ーーーあァ!?」

 

 

シロウは頭を抑え地に伏した。

 

士郎の記憶の食い違いが始まった。

 

 

「セイバー...セイバーはどこだ...?遠坂...桜...アーチャー...」

 

「我がマスターコトミネシロウ目を覚ましなさい。」

 

「違う...俺は...俺はエミヤシロウだ...そのはずなのに...」

 

 

「癒しの妖精よ...彼に加護を...」

 

 

私のヒールを受けるとまた静かに彼は眠った。

 

残酷だがエミヤシロウには主人格は渡さない。

 

ーーー渡せないのだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

その頃レジスタンスでは

 

「マスターが目を覚まさない。」

 

 

セイバーはそう告げた。

 

END



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10話 GARDEN OF AVALON

今年最終話


10話 GARDEN OF AVALON

 

記憶1

 

ここはどこだろうか。

 

うっすらわかるのは街自体が赤く焼けていることだけだ。

 

それに私という存在自体が悪意に染まっているような気がした。

 

ーーーああそうか。

 

この街を燃やしたのはきっと私だ。

 

三つばかりの赤子が脳液を垂れ流し、野垂れ死んでいるのをふと見た。

 

これも私の仕業か。

血を見て思い出した。

 

エミヤシロウ...ふとその名前が浮かんだ。

 

どこだ...?エミヤシロウはどこだ?

 

 

 

 

私は殺さなければならない。

 

 

 

 

私は彼を殺さなければならない。

 

 

 

 

善に溺れたアレは気に食わぬ。

 

 

 

 

 

非常に気に食わないのだ。

 

 

 

 

ーーー鋭い視線を感じた。

 

嗚呼...アレは騎士王...アーサー...

 

誇り高き剣士の英霊...

 

 

 

 

ああっ!?眩しい!?その光は...

 

 

 

 

やめてよ。

 

痛いよ。セイバー。

 

身体が光で焼けてとても痛い。

 

私の可愛い手が。

 

私の可愛い足が。

 

私の可愛いアジ=ダハーカが。

 

死んじゃうよ?

 

だからやめてよ。

 

ああッ!?

 

 

 

 

 

 

イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ...

 

 

痛いよセイバー...

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

記憶2

 

私のマスターエミヤシロウは人類を否定する獣の攻撃を受け致命傷を負った。

 

 

 

私は彼の名を必死に呼んだ。

 

 

 

 

私は愛する人の名を必死に叫んだ。

 

 

 

 

 

だが、私の声はどうやらハッキリは聞こえないらしく、ただシロウは目を細め、微笑むばかりであった。

 

 

 

 

アヴァロンの加護すら否定する獣の宝具は彼の身体を蝕んでいる。

 

 

シロウは最後の力を振り絞り私に告げる。

 

「セイバー...頼む...オレの義妹を救ってくれないか...義妹は...イリヤは...家族なんだ...オレの...」

 

 

 

「シロウ...!シロウ...!」

 

 

嫌だ...もう大事な人がいなくなるの

は...ここで失ってしまったら私は...!

 

 

 

 

「セイバー...愛し...て...」

 

 

 

シロウは息を引き取った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

記録

 

著 ある童話作家

 

 

 

女の話をしよう。

 

 

 

 

 

女は産まれた時からヒトではなかった。

 

 

 

 

 

産まれた時既に女の役割は決定付けられた。

 

 

 

それはこの世全ての悪の写し身。

 

 

 

 

これが女の役割であった。

 

 

 

 

だが不幸にも女は自分の役割を知らなかった。

 

役割を知らないために罪を背負った。

 

 

 

罪の名は欲望。

 

 

 

 

女の欲望は世界を蝕むだろう。

 

 

なにせ欲望に勝てる人間などほんの一握りなのだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

物見の台からの記録

 

 

[やぁ目が覚めたようだね?]

 

 

 

[うん。察しの通りキミは死んで、ここ理想郷へ流れ着いた。]

 

 

[でもキミはアヴァロンの加護により肉体は死んでも、精神は燃え尽きなかった。精神だけは生きたままここに辿り着いたんだ。]

 

[うん。良い眼だ。アルトリアが惚れただけはあるね。]

 

 

[そんなキミにお兄さんから残酷な試練を与えよう。]

 

[キミにはもう一度生まれ変わって、新たなる別の人間として、火星の聖杯戦争に参加してもらう。]

 

 

 

[そこでキミのやり残したコト。アルトリアを救うコト。両方やり遂げるんだ。]

 

 

 

[勿論代償は払う事になる。キミはエミヤシロウでは無くなる。]

 

 

 

[キミはエミヤシロウであることを失うんだ。それでもいいかい?]

 

 

[うん良い返事だ。ではこれを持っていくといい。]

 

 

[このペンダントは君を救ってくれる英霊を呼ぶ触媒になる。ただし、召喚されるのは特定の誰かってわけではないからね。アーサー王伝説にまつわる誰かが召喚されるはずだ。]

 

 

[まあ一部の人間を除いたら君の力になってくれると思うから安心してくれよ。そこ!そんな不安そうな顔をしない。]

 

 

 

 

 

[では無銘の男に武運あれ]

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

モルガンの記録

 

 

私のマスターは私を召喚した時点で瀕死だった。

 

 

すぐさま治癒を行うが、呪いを受けており治癒を肉体が受けつけない。

 

 

私はこれが反転の呪いと見抜くのには時間はかからなかった。

 

 

 

それと同時に私が呼ばれた理由もわかった。

 

 

 

この子を助けられるのは全ての英霊の中で私しかいないからだ。

 

 

奪われし理想郷

 

 

私の宝具は、今の彼には最適と言えた。

 

 

 

彼はすぐさま息を吹き返す。

 

 

「貴方がキャスターです...か...?」

 

 

宝石のような瞳は涙を浮かべこちらを見つめる。

 

 

「マスターじっとしていてください。まだ完全に治癒は」

 

言いかけた途端に突然、手を握られた。

 

「手、とても暖かいですね。」

 

 

 

 

私はおどろいた。

 

 

 

今まで出会った人間の中で初めてだったからだ。

 

 

私の手を「暖かい」と言ったのは。

 

 

もちろんそう感じる理由は知っていた。

 

 

この男の体は死体に近い状態であるため体温が非常に低く、私と比べれば暖かいと感じるのは当然だった。

 

 

だがそれでも嬉しかったのだ。

 

 

私を振り向かせるための言葉でもなく、

 

 

 

私の肉体を貪る為の口実でもなく、

 

 

 

 

私の手を純粋に暖かいと感じてくれる。

 

 

 

 

私を本当の意味で必要としてくれる。

 

 

 

 

 

それが嬉しかったのかもしれない。

 

 

 

 

私は両手でその手を握り返す。

 

 

「キャスターどうして...泣いているのですか...?」

 

雫は頬を伝い、地に落ちる。

 

降り注ぐ雨は夜が明けるまで止むことは無かった。

 

END

 

 



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11話 無銘の亡霊

11話 無銘の男

 

 

「シムラ氏無茶ですよ...ハッキリ言って素人の大神を向かわせるなんて...ハッキリ言って自殺です...!」

 

 

網目は必死に私の措置への抗議をしていた。

 

彼女が私のためにここまでしてくれるのは嬉しいが...

 

 

「大丈夫です...網目さん...あの私は大丈夫だから...」

 

 

それらのやりとりを聞いてシムラはめんどくさいと言った感じでおどけた後にこう言った。

 

「100m5秒、握力160キロ、視力はアルプスに住む羊飼い並み、魔力数値はベテランの魔術師と拮抗するレベル。もちろん魔術による肉体強化補正なしの数値でだ。これほど戦いに対して優秀な人間を戦場に出さない理由がない。」

 

いやっしかし、そう網目がいいかけたのを右手で遮る。

 

「経験は今から積め。お前らはそういう風に作られた。わかるな?」

 

 

「あと網目尾骶骨から作った起源弾を大神に渡しておけアレがあれば魔術師はなんとかなる」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

凛、ユウサク、シンジらは暗い地下道に来ていた。

 

 

「前偵察した時は粛清騎士が出回ってたはずなんだけどなんか静かね」

 

 

ーーーイタ。

 

 

「財閥の戦力は軒並み向こうに回してんのかもな」

 

ーーー殺す。

 

 

ユウサクが怪訝な顔をして前髪をねじりながら答えた。

 

 

 

「シンジ生体反応は確認できるかしら?」

 

 

ーーー殺す

 

「いや...魔力数値すら全く感知できない...おかしい...不自然に静かだ」

 

 

ーーー殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

 

「まるで俺たちを待ち伏せているような...」

 

 

ーーーモラッタ。

 

「ッー!?」

 

 

敵の殺気にいち早く気づいた凛はランサーの霊体化を解く。

 

 

「ランサーお願い!!!」 「あいよぉ!!!」

 

「ヒィッッッ!?」

 

シンジはユウサクに蹴り上げられることにより辛うじて襲撃を逃れた。

 

 

ランサーは霊体化し、シンジを殺害しようとしたバーサーカーを感で蹴り上げた。

 

「ウゥ...」

 

霧が晴れたように透明化が解け、敵は姿を現わす。

 

そこに立つのは全身が血のような色をした鎧で覆われた槍兵であった。

 

 

(気配遮断...だが...アサシンのようには見えない...武器から見てランサー?だが敵のランサーは既にアイツが...)

 

「テメェ何者だ...」

 

ランサーが威圧を含めた問いを掛けるが敵は答えない。

 

「ウゥ...アー...サー......ワガ...オウ...」

 

「なるほどマトモに喋れねえってことはバーサーカーか」

 

ランサーは敵のバーサーカーと向かい合う。

 

「凛達は先に行ってろ。片付いたら追いつく。」

 

「ごめんランサー!ほらシンジ立て!」

 

「いや腰抜けて立てない!!!」

 

涙目で訴えるシンジをバーサーカーが無言で担ぐ。

 

凛とユウサクは全力で撤退し、バーサーカーはサーヴァントの足で逃げる。

 

だがこの判断がレジスタンスの致命傷となったことはこの時誰も知る由がなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

銀髪の少女と桜、鈴木は別ルートから侵入を試みた。

 

「あの門から堂々と入るってまじ?」

 

「変装すれば大丈夫だよ割とあそこの警備は手薄なんだ。」

 

桜は貴夫人の格好、キャスターは霊体化できないので老人の格好、鈴木は馬頭にタンクトップと短パン、私は夫人の格好をした桜が動かしている乳母車に隠れた。

 

「うむ。みんな完璧な変装だ。しかしアレだな。前見た時と様子が違う。」

 

もう馬頭に突っ込むのはやめとこう。うん。ダルいし。

 

「様子が違うってなんですか?キャスター」

 

パイプを薫せ、一呼吸置いた後にキャスターは静かに答える。

 

「まるでロンドンのような霧の立ち込め方をしているんだが、前私が潜入した時はこんな感じではなかった。」

 

「そしてこのようなバイオリンの音色も聞こえなかった。そうだろう?そこにいるのは誰だ?」

 

キャスターが杖で指した方向からゆらりと人影が現れる。

 

しかし、人影が持っているものはバイオリンではなく琴の様な弓であった。

 

「さすがですね。この霧の中から私の気配を見破るとは」

 

こいつ...!

 

 

「私はアーチャー、真名をトリスタン」

 

「待て。」

 

そう言いかけたアーチャーをキャスターは遮る。

 

「君は円卓の騎士トリスタンではないだろう?」

 

キャスターの言葉に思わず反応したのか、肩がピクついた。

 

「君は私たちに近づくときに特殊な足の動かし方をしていたね?足音を空気から消し去るような運び方...それは暗殺者のそれだ。加えて、」

 

名探偵は推理ショーに華を添えるように煙を燻らせながら杖で東の方向を指す。

 

「通常街の中に時計塔というものは中心的な場所かつ、目立つ場所に配置するものだ。少なくとも私が前見たときには時計塔はあそこにあったが、今はない。」

 

回りくどい説明にしびれを切らしたのか、アーチャーは問い詰めた。

 

 

「何が言いたいのでしょう。」

 

 

「ここは財閥の敷地に似せた君の固有結界だろう?」

 

 

「ククク...ハッーハーハッ!!!ご名答!!!我が真の名は死曲のハサン!!!」

 

死曲のハサンは霧を巻き上げ、笑い声を上げながら塔へ飛び上がった。

 

ーーーこの霧もこいつの仕業か...!

 

「銀髪くん先に行きたまえ、ここは彼が相手をする。」

 

彼...?彼って誰だ?

 

ーーーヒュン。

と妙な形をしたナイフが風を切った。

 

このナイフは...!

 

 

「黒より深き黒終焉のハサン参る。」

 

 

「それとわしじゃ!」

 

 

アサシンコンビが駆けつけてくれたようだ。

 

 

「お前たちは先に行け。此奴は俺たちが片付けよう。」

 

 

その言葉に甘えさせてもらう形で私はセイバーのキュライッシュオルタに乗って逃げることにした。

 

 

 

鈴木は徒歩で逃げることになった。

 

 

 

が、バイクに乗ろうとした時、

 

 

「I am the bone of my sword《体は剣で出来ている》...」

 

 

この詠唱は...!が、気付いた時にはもう遅い。

 

セイバーが右腕で飛んできた弾丸を跳ね返そうとするが、弾丸は右腕の装甲にのめり込み、

 

 

 

セイバーの右腕は爆散し、千切れになった。

 

 

「ぐぅ...」

 

だがセイバーは臆せず左手に魔剣エクスカリバーを構える。

 

「さすが最優のクラスセイバーだな?オレの弾丸を直接食らって態勢を立て直すとは...チッ...黙って犬死にしてれば楽だったモノを...なんともウザったいものだ。恵まれた英霊というものは。」

 

セイバーは真っ直ぐ黒い男を見つめて答えた。

 

「犬死にはせんよ。無論私の目が光っているうちはマスターも犬死にはさせん。そして貴様は殺す。単純明快だ。」

 

 

 

「クラスはなんだ?アーチャーか?」

 

 

黒い男は何をそんなバカなことを聞く?と言った顔でこちらを卑下する。

 

 

「クラス?ククク...ないよ...私にそんなものはない。強いて言うなら無銘だ。無銘の男(ロストマン)。今のオレにふさわしい。」

言い終え、ロストマンはこちらを睨みつけた。

 

 

「銀髪の少女よ。お前はここで消えてもらう。人全体の意志だ。悪く思うな。」

 

 

 

がらりと空気が変わった。

 

 

確かに今から私は殺される。

 

そう言った説得力を持つ殺気を彼はこの空気に充満させた。

 

ーーーぬらりと。私の影を何かが踏んだ。

 

 

「シィッッッ!!!」

 

 

50mほどあった無銘と私の間合いを一気に詰められた。

 

 

セイバーは左手のみにも関わらず、恐ろしい反応スピードで無銘に斬りかかる。

 

「くッ」

 

無銘はセイバーの魔力の暴力の連続に堪えかねたのか後ろに下がる。

 

 

その隙をセイバーは見逃さなかった。

 

 

ーーー風よ舞い上がれ。

 

 

セイバーから放たれた黒い魔力が無銘に直撃する。

 

一線級の魔力放出スキルを喰らえば幾ら彼でも...

 

 

無銘はまだ立っていた。

 

 

なんだこいつ...もはや機械とかそういう域に達してるぞ...!?

 

 

ふらふらと覚束ない脚でなんとか無銘は地面に立とうとするが、彼はもう立たなかった。立てなかった。

 

 

無銘にやられた右腕を庇いながらセイバーは銀髪の少女を探す。

 

 

「マスターがいない...!?」

 

マスターの気配がいなくなろうものなら直感スキルで分かるはずなのに...!

 

そう思いながらセイバーは直感スキルを使用し、なんとかマスターを探索しようとした。

 

だが霧の中で直感スキルが無効になっているようだ。

 

 

このままではマズイ...!そう思いながらセイバーは走った。

 

 

だが走った先には運悪く、

 

 

財閥のアーチャーが構えていた。

 

 

 

「アーチャー今だ!奴を狙うのだ!」

 

 

舌打ちをしながらアーチャーは弓を穿つ。

 

焚天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)

 

霧を払う勢いで焔を纏った弓がセイバーに放たれる。

 

 

「今貴様らに構っている暇はないッ!」

 

 

「風よ舞い上がれッ!」

 

 

直感スキルを封じられているせいなのか、

 

 

全サーヴァント中最高峰の魔力放出を持つセイバーの魔力放出は、

 

意図も簡単に敗れ去った。

 

 

「くゥッ...相手がアーチャーとはいえやはり左手だけでは無理か...!」

 

 

「随分と私も舐められたものですね。」

 

 

財閥のアーチャーはゆったりとセイバーの前に立ちはだかった。

 

 

「私の邪魔するな。その首が次の瞬間に繋がっていたければな。」

 

 

「フン。火星の亡霊の宝具を喰らい、右腕が千切れておいてよくそのセリフが言えましたね。騎士王アーサーペンドラゴン」

 

 

「私の真名を言い当てるとは。中々だな貴様。」

 

 

「何その高名な剣を見れば、一発です。」

 

 

 

 

「まぁそれより」

 

 

 

 

「ここで死んでくださいよ。」

 

 

 

アーチャーは瞬間移動で、ゼロ距離までセイバーと距離を詰め矢をつがえた。

 

 

焚天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)

 

先ほどの宝具を今度はゼロ距離で放つ。

 

絶対に仕留めるという殺意が伝わる行動であった。

 

 

魔力放出がダメならば...

 

 

「卑王鉄槌。極光は反転する。」

 

セイバーの剣、エクスカリバー・モルガンに膨大な魔力が集まる。

 

 

「光を飲め。」

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバーモルガン)

 

 

 

闇光が霧の街を一閃した。

 

 

 

11話 END

 



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12話 失われた鼓動

前回までのあらすじ

銀髪の少女を攫われたセイバーはその途中財閥のアーチャーと交戦するが...?




12話 失われた鼓動

 

 

「エクスカリバーモルガァァァァァンンン!!!」

 

 

セイバーの魔剣から放たれる星の光は財閥のアーチャーに...ではなく...

 

 

霧の街の塔を両断した。

 

 

「なるほど...狙いは撤退か...!」

 

 

察しのいいアーチャーはセイバーの狙いを一瞬で読み取った。

 

 

「だが逃しはしませんよ。」

 

 

散り散りになった塔から出た粉塵の間を逃げ回るセイバーをアーチャーは千里眼スキルにより一瞬で捉え、跳躍し、弓を構え、宝具を放つ態勢に入る。

 

 

 

 

焚天よ、地を覆え

 

 

アーチャーから放たれた炎を纏った弓矢がセイバーを一閃せんと襲い掛かる。

 

 

「チィ...対軍宝具レベルを何発も連射とは...鬱陶しい...」

 

 

「余所見は行けませんよセイバー」

 

 

アーチャーは先ほど使った瞬間移動のようなもので距離を詰める。

 

 

「くっしつこいぞ!貴様!」

 

 

セイバーはアーチャーの足を蹴り上げ、体勢を崩す。

 

 

「ジリ貧になってるのはわかってるでしょうに...いい加減諦めてはいかがでしょう。」

 

 

「ジリ貧...?何を言ってるんだお前は...やはりアホか」

 

 

「私はただ撃ちやすい場所に移動しただけだ。」

 

 

「なにッ!?」

 

 

アーチャーが気付いた時にはもう遅かった。

 

 

「卑王鉄槌...極光は反転する...」

 

 

セイバーは渾身の魔力で魔剣エクスカリバーを構える。

 

 

アーチャーもそれに対抗しようと大きく弓矢を構えた。

 

そこがセイバーにとってチャンスだった。

 

 

 

「フン馬鹿め。」

 

 

途端セイバーはエクスカリバーモルガンの構えをやめ、

 

 

アーチャーにそのまま斬りかかった。

 

 

「なッ!?」

 

 

予想外のフェイントに驚いたのか

 

 

アーチャーは反応が遅れた。

 

 

「風よ...舞い上がれッッッ!!!」

 

 

セイバーが練り上げた最高峰の魔力は龍のように畝り、アーチャーを喰らう。

 

 

セイバー渾身の魔力放出をアーチャーは真正面から喰らうことになり、

 

 

 

 

アーチャーは塔ごと吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

そしてそのままセイバーは剣を地面に突き立て、

 

 

地面に渾身の魔力放出を放つことにより下水道へなんとか逃げることに成功したのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ここはどこだろうか。

 

 

手術室...それに近い雰囲気すら思わせたが、

 

ベッドに寝かされているのではなく、椅子に縛られて拘束されているあたりどうやら手術する気は無いらしい。

 

 

「おはよう目覚めたかね。」

 

 

如何にも自分こそが医者であると言った風の白衣を着た眼鏡の男が軽い挨拶を交わしてきた。

 

 

挨拶には答えず、ここはどこなのかを聞いた。

 

 

「ウン。ここは改造室...別名はシムラの玩具部屋だ。」

 

 

玩具部屋...?どういうことだ...?

 

 

ーーーまさか...?

 

 

「ンフフその通りここではキミがオモチャだ。と言ってもここで行うのは聖杯の摘出だがね。」

 

 

聖杯の...摘出...なかなかに意味のわからないワードではあるが

 

 

ーーー妙にしっくりと来た。来てしまった。

 

 

ヤバイ。このままでは。

 

 

このままでは「マズイことになる。」

 

 

第六感がそう囁いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「でゃりやぁッ!」

 

 

朱槍を振るう戦士は逞しい雄叫びをあげながら狂戦士に斬りかかる。

 

狂戦士も朱槍を受け、また返す。

 

 

「狂ってる割にはなかなかやるじゃねーか。どこの英霊だテメェ?」

 

 

槍兵の問いかけに狂戦士の手が突然止まる。

 

 

朱く染まった鎧の戦士はまじまじと槍兵を見つめ、

 

 

自分の槍の先を自分へ向けた

 

 

 

「par...mideos...?parrrrrrrrrrr!!」

 

 

 

持っていた槍で胸部を貫き「自害」した。

 

 

「なッ!?正気かテメェ!?」

 

 

狂戦士の名に恥じぬ狂いっぷりにランサーはたじろいだ。

 

 

「Artherrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!?」

 

 

無論、狂戦士の行っていることは自害ではない。

 

 

己が魔槍へと至るための儀式である。

 

 

 

生前の狂戦士はあらゆる英霊の中でも特異なエピソードを持っていた。

 

 

なんと狂戦士は生前正真正銘「聖杯」を得たのである。

 

 

故に彼は聖杯を「宝具」として所持している。

 

宝具としてある聖杯は莫大な魔力源ソースとなり、

 

 

彼の禁じ手である「最果ての槍」を呼び醒す事ができるのだ。

 

「orrrrrrrrr!?parmideos!?parrrrrrrrr!?」

 

 

4メートルほどの大槍は狂戦士に似合わぬ神威を持って顕現した。

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!」

 

 

宝具の真名解放か。こいつはマズイ。そう思ったランサーは全力で走行し右方通路へ回ったが、

 

 

 

 

無駄だった。

 

 

 

なぜなら最果ての槍は

 

 

 

 

ランサーを地下道ごと貫いたからである。

 

 

 

最果てから放たれる威光はランサーを融解するのには十分過ぎる熱量だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「えぇ!?何今の光!?すごい!!!見て見て!」

 

 

大きな爆発音と光輝にライダーはなにか感動を覚えてるようだ。

 

マジで理性蒸発してるんだなこいつは...

 

 

「てかあそこランサーいなかった?」

 

シンジが爆発した方向を指差すが、

 

 

「魔力供給は途絶えてないし大丈夫だと思...いや大丈夫じゃなさそうね...通常より多く吸われてる感覚あるわ...多分モロに喰らってダメージ受けたのかしら」

 

すげえなあ凛さんは...そこまで把握するなんて

 

 

「まあランサー心配なんてしてる暇ないわ。とにかく本拠地へ攻め込みましょう。」

 

 

いざ行こうとした途端プシュっと軽い音がした。ビールでも開けたような間抜けな音だ。

 

勿論それはビールを開けた音じゃない。

 

 

スナイパーライフルのサイレンサーの音と気付いたのはもうだいぶ後だった。

 

 

弾丸は不幸にもシンジを貫いた。

 

 

 

「アァ!?痛い痛いよォッ!?」

 

 

シンジは痛みからなのか血反吐を吐きながらのたうち周っていた。

 

 

「ほら!ユウサクは物陰に運んで治療して!ライダーは索敵頼んだわよ!」

 

 

治療のためにシンジの服を破る。

 

 

思ったより傷が深い。魔術刻印があった位置の肉が捻れ、歪んでいる。

 

なんだこれ...歪な形をした弾丸?魔術礼装か?

 

 

つーか魔力回路がぐちゃぐちゃだ...これではバーサーカーを維持できないぞ...

 

 

というよりもうシンジは...

 

 

多分持たない。

 

 

 

たぶんほっといたら勝手に死ぬ。

 

 

「なァ?俺...死ぬのか?ユウサク...?なぁ...」

 

 

雨に濡れた仔犬のような目でシンジは俺を見る。

 

 

ハッキリ言ってもう死ぬような肉塊。

 

 

ここではただのお荷物。

 

 

友達だからって慈悲はない。

 

 

そう、そうさ。俺は冷酷なヤツだからな。

 

 

心の中でそうやって自分を説得しても

 

 

肉体はシンジをおぶって走っていた。

 

 

やっぱ冷酷とかクールとか俺には無理だわ。

 

 

「オイ馬鹿絶対死ぬなよ!!!桜の元へ必ず送り届けてやる!!」

 

 

返事の代わりにひゅー、ひゅーと空気が喉を掠めるような音がした。

 

 

やばいもう限界か。

 

 

スニーカーから感じる靴ズレの痛みを抑えながらなんとか全力で足を回す。

 

 

ーーー走れ。走れ。走れ。走れ走れ!

 

 

「その調子だ!回転数が全てだぞ!頑張れ!ゆうくん!ファイトだ!」

 

 

おや俺を応援してくれるピンク髪のチアリーダーがいるぞ。

 

 

さて誰だろうな〜

 

 

「むふふ〜誰だろ〜当てて見て!ねえねえ!」

 

 

ふへへ可愛いなぁ全く。

 

 

まあそれはそれとして。

 

 

「ちゃんと索敵した?ライダーちゃん」

 

 

右のほっぺを膨らませ、

 

 

「なんか〜ショップのチアコス見てたら〜飽きちゃった!」

 

 

うーん許せる。許せるよね。

 

 

Yやっぱ

 

Kカワイイは

 

S正義

 

 

あ、そうだ。こいつアレ持ってたな!

 

 

「幻馬借りれないか?シンジを桜のとこまで運びたいんだけど」

 

 

「ウンいいよ!まっっっかせて!」

 

 

二つ返事で了承を得た。やりました。

 

 

幻馬が飛んで行くのを見送った後、俺は索敵を開始することにした。

 

 

 

ふぅ...よし...

 

 

一息深呼吸をし、気を集中させる。

 

 

ーーー魔術回路に走る稲光を感じながら彼は彼のみに許された魔術を施行する。

 

 

「ーーーinto the brains.」

 

 

 

フジキユウサクは凛のような属性を複数持つ優秀な魔術師でもなく、また桜のような特殊な虚数魔術師というわけでもない。

 

 

彼は世界でただ一人オリジナルの属性を持つ。

 

 

属性名は「識」。「叡智を識る」という概念属性である。

 

 

攻撃性は全くない。

 

 

だが彼の魔術回路を万物に接続させることにより

 

 

「全知に至る」これが彼の魔術である。

 

 

ーーーよし。敵は200m先に屋上で潜伏してるオオカミ型キメラのスナイパーと

 

 

俺の後ろで待ち伏せてるキリンのキメラか。

 

 

ん?え?え!?俺の後ろ!?ちょっ!まっ!

 

 

「そげぶ」

 

 

勢いの良い腹パンが彼の腹に入る。

 

 

 

ちょっとかっこいいとこお披露目とかしたのに...これってオイ...

 

 

「目標無力化完了。残り5人です。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「キャスター、どうです?彼らの調子は」

 

シロウはコーヒーを淹れながらレジスタンスの様子をキャスターに尋ねる。

 

 

「うーんダメね。全然ダメだわ。」

 

彼女の千里眼スキルは彼女の領地内限定で万視となる。故に観察が可能なのだ。

 

「やはりか...仕方ない...」

 

 

投影したもふもふクッションを弄りながらシロウは何やら思案する。

 

 

「ちょっと助けてあげましょうかね。」

 

 

「というわけでキャスター頼みました。貴女の実力をここで見せてください。」

 

 

「しゃーないわねぇまあ見せてやりましょうか」

 

 

「アーサー王伝説最悪の魔女の力を」

 

 

end





シャーロックホームズのmaterial

財閥のバーサーカー

真名 ???

原典 アーサー王伝説

ステータス

筋A耐C敏A魔A+++幸E宝具EX


スキル

狂化A

パロミデスの祝福A

対魔力B

彼方の王の加護E

宝具 偉業の杯EX


彼より約束されざる毒槍D


彼方の王よりの紅鎧C


最果ての槍EX









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13話 輝ける栄光

13話 輝ける栄光

 

 

凛を待ち受けていたのは敵側のセイバー ≪ローラン≫であった。

 

 

「よう久しぶりだなお前!あのクソ強いランサーはどこだ?アイツを出せ!早く戦いたい。」

 

 

頼りのランサーは先程の爆発から連絡が取れない...

 

先の戦いではこいつに一切の攻撃は通じなかった上に...セイバーの宝具は何度でも宝具も連射が可能...

 

不滅の聖剣の逸話からして魔力切れを狙った時間稼ぎも不可能...!

 

 

こちらの絶望感を察したのかローランの顔が改めて引き締まった。

 

 

「改めて問おう敵のマスター。ランサーはどこだ?」

 

 

「ランサーはいないわ。今は出てこれない。」

 

 

「成る程な。ならばお前に用はない。」

 

「ほら先行きな。」

 

 

 

やはり闘うしかないか...!そう思って身構えたが、アレ?

 

 

「あのね貴方...私は敵よ...敵のマスターなのよ?討ち取るチャンスなのよ?それをみすみす見逃すって...」

 

 

するとローランは不敵に笑ってこう言った。

 

 

「でもあそこまでの使い手との殺し合いの機会をみすみす逃すわけにもいかねェ」

 

おもわず目を見開いた。なんだこのイケメンは...まさに騎士...これこそナイト!

 

 

「じゃあありがたく先行かせてもらうわ」

 

 

 

「おう」

 

 

なぜか返事と共にローランは服を脱いだ

 

「ええっ!?ちょっとアンタ何してんの!?」

 

 

「いやクセで...」

 

 

「クセって何よ!?」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「私がこれより奏でるのは死の曲...だがRequiemではありません...これは堕つる生への祝福...」

 

 

敵のアサシンが琴を構えた

 

 

 

「気をつけよ。アサシン何かくるぞ」

 

 

「In paradisum deducant demons(楽園から手招きをする悪魔たちが)」

 

物騒な見た目とはかけ離れた甘美な歌声がアサシンと布都をつつむ。

 

「In tuo advent sucipiant te martyres,(貴方の死を迎え入れますように)」

 

「アサシン詠唱を遮ぎれ!我は術を編む!!!」

 

 

「了解...オラッァ!テメーのジャイアンリサイタル聞いてる暇はねーんだよ!!!」

 

 

アサシンは敵めがけて三本のナイフを投擲してものの...

 

 

ナイフは霧に包まれ不自然に消えた。

 

 

「無駄です。」

 

 

「そして演奏中は静かに。」

 

 

「狙いが逸れちゃいますから。」

 

 

刹那、ブチィッと何かが千切れる音がした。

 

赤い影は音もなく地に落ちる。

 

 

アサシンの目の前に転がったのは、

 

 

 

 

 

 

マスターである布都の「右腕」であった。

 

 

 

 

 

「ああああああああああああ!!!!!!!」

 

痛みのあまり叫ぶ。その叫びにアサシンは動揺した。

 

 

「絶望なさい。お二方。貴方達は我輩の固有結界に入った時点で詰みです。」

 

 

 

「てんめええええええええ!!!!!!!!!!」

 

 

アサシンは激昂し、敵のアサシンに突っかかる。

 

「演奏し切らなかったか今回も...」

 

 

琴から放たれた不可視の弾丸が、アサシンの霊核を貫くのは容易だった。

 

 

「あァ...あァッ!」

 

 

「歯応えがなかったな...弱い...あまりにも弱すぎる。」

 

 

そう呟きながら敵のアサシンは布都の前に立った。

 

 

「私にこの後首を飛ばされる感想はどうですか?敵のマスター」

 

 

「サイコ気取りが...敵に感想聞くとかやっぱ二流じゃな演奏も殺しも...」

 

 

「遺言はねえが感想はある。背中に気をつけるのじゃな。厨二病」

 

 

布都の煽りなど気にも留めず、アサシンは無言で琴を構えた。

 

 

「安らかに眠れ。」

 

 

 

 

 

 

噴水のように血がそこら中に舞った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

噴水のように血がそこら中に舞った。

 

 

だがこれは布都の血ではない。

 

 

アサシンの血であった。

 

 

「なァッ!?」

 

 

アサシンの胸には見慣れたあの朱槍が咲いている。

 

 

「どうだ?通りすがりの死にかけの槍兵に心臓ブチ抜かれる感想はよ?」

 

「ランサー...!」

 

 

「ラアッ!!!」

 

 

ランサーは朱槍を引っこ抜きそのままアサシンを蹴り飛ばす。

 

 

蹴り飛ばされたアサシンはなんと

 

 

風船のようにふわふわと浮いた。

 

 

「なんだ...?こいつ...」

 

 

「朱槍の槍兵...なるほど貴方はケルト最強の英雄クーフーリンですか...」

 

 

「お前何もんだ?心臓ブチ抜かれてもピンピンしやがって...お前みたいなへんちくりんな英霊は聞いたことも見たこともねえ、全く師匠以上だぜ?てめえのへんちくりんさはよ」

 

 

「私が何者か?ですか...私は祝福する物です。死という素晴らしい天命に華を添える...妖精的な感じでしょうか...」

 

 

謎のポエミーな回答にランサーは答えず、代わりにドン引きだぜと言った感じの顔をした

 

 

「1つ質問があるのです...皆さん...」

 

 

「なぜ貴方達は世界を壊すのです?この素晴らしい今を」

 

 

ここにいる一同が何言ってんだこいつと言ったような反応をした。

 

当然だ。ここにいる誰1人そのような破滅主義者ではない。

 

 

「レジスタンスよ、いや世界の破壊者よ、我々財閥の正義の鉄槌を大人しく受けなさい。それが人の理にとって最良の選択なのです。」

 

 

それを捨て台詞にアサシンは消えた。

 

 

「なるほどな。こいつの肉体自身が霧で構成されてんのか。故に俺の因果逆転の呪いは通じない。最悪だぜこいつは」

 

 

 

 

 

しかしあの男如何にも狂言回しのような態度と出で立ちではあるが、

 

 

 

 

真に迫るというか、妙に説得力を持っていた。

 

 

 

 

この台詞は突飛で信じられるものではないはずなのに、一体なぜだ...?

 

 

「おいアサシン!アサシン!!起きぬか!!」

 

 

 

ーーー辺りに血の海が広がる。

 

 

 

アサシンは今にも事切れようとしていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

1 青のセイバーの記録

 

 

 

ーーー困った。

 

 

 

裏の聖杯戦争で敗北し、マスターを失ったうえに

 

キャスターの宝具でよもや肉体が半分消滅しないまま岩に埋まるとは...ケルトの戦士失格だな...全く...

 

 

螺旋剣だ...螺旋剣さえあれば...

 

 

表の人間に最悪の事態を伝えられるのにッ!

 

 

頼む...誰か来い...妖艶な美女とは言わん。誰か人が来れば...

 

 

 

「人の理の崩壊」は防げるのに!!!

 

 

 

 

?BAD END ?t



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14話 少年 タクル

 

 

14話 少年タクル

 

 

 

 

少年タクルは小さな村に住む少年であった。

 

 

よく食べ、遊び、よく学ぶ、何処にでもいる普通の少年である。

 

 

「お母さん!!今日も先生のとこに遊びに行ってくる!!!」

 

 

 

 

 

 

「ハサン様に呉々も迷惑かけたらダメですからねー!!」

 

 

 

「はいはい!わかってまーす!」

 

 

 

村を抜けた街には、暗殺教団が管理している廟が存在した。

 

 

通称「アズライール廟」と呼ばれる廟である。

 

 

タクルは其処に毎日足蹴なく通った。

 

 

「先生!遊びに来たぜ!」

 

 

 

「おや、タクル殿...来ていましたか。」

 

 

割れた骸の仮面に、黒いマントを着た男は正しく教団の主ハサン・サッバーハその人である。

 

「先生!!今日も聞かせてくれよ!!獅子心王と一緒に悪い奴らを退治した話を!!!」

 

 

 

「ハハハ...タクル殿...これはもう話すのは4回目ですぞ?」

 

ハサンが仮面越しでも自嘲気味に笑うのが感じ取れた。

 

 

だが少年の瞳の輝きは収まることはない。

 

 

「何度聞いてもワクワクするんだ!!獅子心王のエクスカリバーの話と先生のザバーニーヤの話は!!!」

 

 

「むぅ...そのような麗しい目で見られては仕方ありますまい。では話しましょう。」

 

 

獅子心王ことリチャード1世はペルシアの暗殺教団と協力し蛮族を押し返したことがあった。

 

 

その武勇は村では伝説として語られ、子供たちの中では人気の話であったのだ。

 

 

タクルはハサンの武勇伝に心を踊らされた。

 

 

擽られた少年心はいつしか夢へと変わり、少年はハサンのような暗殺者を志した。

 

ナイフ投擲、摺足の訓練、なんだってやった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ある朝。ハサンは何者かに殺害された。

 

 

脳味噌がぐちゃぐちゃに破壊された死体を村の門番が発見したのが最初のハサンの死の目撃者であったという。

 

 

村人は英雄の死を嘆き、悲しんだ。

 

 

無論タクルも例に漏れない。

 

 

タクルが英雄の死を実感したのは家に届けられた割れた骸の仮面の重みを自分の細い腕で感じとってからであった。

 

タクルは泣いた。

 

 

心から泣いた。

 

 

尊敬する恩師はこれからいない。

 

 

これから自分とは遊んではくれない。

 

武勇伝だって教えてくれない。

 

 

これからは自分が学んでいかなくちゃならない。

 

 

それらを仮面の重みと同時に感じ取った。

 

 

 

 

 

 

タクルは山に篭り修業を積むことにした。

 

 

亡き恩師に一歩でも近づくこと。

 

 

歴代ハサンの資格である極技「ザバーニーヤ」を取得すること。

 

 

これが目標だった。

 

 

必死に只管にただ修業を積んだ。

 

 

だが悲しいかな。才能とは時に残酷である。

 

 

タクルはハサンにはなれなかった。ならなかった。

 

 

 

「先生」には届かなかった。というわけではなく、

 

 

「ザバーニーヤ」を取得することができなかったのである。

 

歴代山の翁の極技「ザバーニーヤ」は個人の特徴を最大限に活かした秘伝の技、

 

タクルにはそれがなかった。

 

 

人智を超えた技は並の修行では取得不可能であった。

 

 

それを悟ったタクルは母親に修行は徒労に終わった。と伝えた。

 

 

怒鳴られるだろうか?泣かれるだろうか?そンなことを考えていたが

 

 

「おかえりなさいタクル。」

 

 

母の抱擁は何よりも暖かった。

 

 

 

決めた。これからの人生は家族のために尽くそう。

 

 

19になったタクルは農家として家族のために粉骨砕身尽くした。

 

 

ある日の夜。

 

 

 

「タクル。お父さんから話があるからー!」

 

 

21歳の誕生日。父から見合いの話があった。

 

 

同業者の娘を紹介してくれるらしい。

 

 

タクルは二つ返事で了承した。

 

 

子孫を残すことが家族の為になるという唯1つの意思が有ったからだ。

 

 

見合いに来た娘はそばかすが似合う童顔で赤い瞳の女性であった。

 

 

「アルルって言います。歳は...15...です...」

 

 

 

「タクルって言います。歳は21です...農家やってます。」

 

 

ぎこちない会話から始まった見合いは失敗に終わったと思われたがあるひと言で一転した。

 

 

「タクルさんの夢はなんですか?」

 

 

夢...オレの夢は...

 

「夢は...英雄です。英雄に、なること。」

 

 

 

笑われるかな?そう思った。だが、

 

 

「...英雄ですか?」

 

 

彼女は目を輝かせ、オレを見つめた。

 

 

まるで先生に話しを乞うあの少年のように。

 

 

 

オレは目を輝かせ、彼女に話した。

 

 

獅子心王と共に十字軍を倒した恩師の事。

 

 

恩師を目指して修行したけど徒労に終わった事。

 

 

たくさん。たくさん彼女に話した。

 

 

結果、見合いは成功した。

 

 

 

後にアルルはタクルの伴侶となり、夫の人生を支える妻となった。

 

 

子を産み、育て、幸せな家族の一員となった。

 

 

 

妻が子を産んで四年、娘はプレゼントを欲しがった。

 

 

 

私は木と花で拵えた髪飾りをプレゼントしてやった。

 

 

娘は気に入ったのかそれを片時も離す事はなかった。

 

 

父親としてこれほど幸せな事はなかった。

 

これからもこんな幸せが続く。

 

 

 

そんなことを勝手に感じていた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

畑から帰ったある日、人の気配が消えていた。

 

 

いつも賑やかな村であるはすが、これはおかしい。

 

急いで自分の小屋に帰った。

 

 

アルルが血だらけで床に倒れている。

 

 

急いで抱き寄せ、栗色の髪を撫でた。

 

 

ーーーああ。

 

 

 

ない。

 

 

ない。

 

 

アルルの紅い瞳が、

 

 

ない。

 

 

子供達は!?ヤレンは?!サイは!?

 

 

 

陰惨な光景に思わず息を呑んだ。

 

 

ーーーテーブルの上に見慣れない影がある。

 

 

人の頭が2つ。

 

 

それも子供のだ。

 

 

何処かで願った。

 

 

 

このテーブルの上にある生首が

 

 

自分の子供達のものでないことを祈った。

 

 

母親に似た栗色の髪であっても、

 

 

オレが誕生日にプレゼントした髪飾りと同じデザインのものを着けていても、

 

 

この生首が自分の知らないものであることを祈った。

 

 

 

嗚呼。解る。

 

 

理解してしまう。

 

 

妻と同様、目が抉られていても、

 

 

 

 

ーーーこれは間違いなく自分の子供達だ。

 

 

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

叫ぶ。叫べば、この事実がなくなる。

 

 

ーーー或いは夢が覚める。

 

 

そんなことを盲信し、力の限り叫ぶ。

 

 

だが夢は覚めない。事実は消えない。

 

 

「ぐゥッ!!!ウウウルルルァァァ!!!!!!」

 

 

果物ナイフで自分の腕を刺す。

 

 

ーーー痛み。痛みなら忘れさせてくれる。そう、きっとそうだ。

 

 

或いは痛みなら夢はーーー。

 

 

翌朝。大量出血で倒れていた所を発見され、避難所と呼ばれる所に寝かされていた。

 

 

事情を聞くと、

 

暗殺教団の力が薄れた村にはモンゴルから来た村領主を名乗る征服者が現れた。

 

 

暗殺教団の残党がなんとか均衡を保っていたものの、腕の立つ殺し屋によりその均衡は崩れた。

 

 

殺し屋の下っ端である十字軍の残党が見せしめにここの村人を虐殺した。

 

 

或いは儀式との噂もある。

 

 

ということらしい。

 

 

ーーー何もする気が起きなかった。

 

 

 

先生の死はオレを奮起させるものではあったかもしれない。

 

 

 

だが家族は違う。

 

 

掛け替えのない。自分の中の一部。

 

 

 

それをあんな形で失う。

 

 

 

オレだけが取り残される。

 

 

 

置き去りにされた事実は俺の心を裂く。

 

 

「オイ」

 

 

ーーー不快。一瞬でそう感じさせる声がオレを呼んだ。

 

 

 

顔を上げると其処には異様な奴が立っていた。

 

 

黒い翼に異様に発達した脚、頭部には羊のツノ?なんだこいつ...

 

 

 

「契約したのアンタだろ、タクルって奴、ほら、契約書読め」

 

 

乱暴に渡された紙を気怠く読む。

 

 

 

バシン様との契約...?何のことだ?身に覚えがない。

 

 

 

「人間の魂120匹と、紅い瞳が20セット、オッサンの陰毛、支払いはキッチリ完了してるぜ。ホラ願いをそこに書きな。書けねえんだったら口で言え。俺様が書いてやる。」

 

 

「待て、何の話だ?身に覚えがない。」

 

 

「だろうな!酔っ払いには解るまい!だがキッチリ契約はしてある。俺様は商売はキッチリしたいもんでね。願いを早く言え。」

 

 

待て...タクル。こいつは悪魔だ。正真正銘の悪魔...

 

 

しかも俺との契約が済んでる悪魔。

 

 

「何でも願いを叶えてくれる」

 

 

なら願いは1つ。

 

 

 

「俺の家族を蘇らせろ。」

 

 

 

バシンは7:3にわけた髪を人差し指でなぞり、険しい表情でこちらを見る。

 

 

「お客様、確かにそれは可能ですが不可能です。」

 

 

 

「どういうことだ説明しろ!!!!!」

 

 

思わず怒鳴る。自分の心臓の音が激しく聞こえるくらいには動悸していた。

 

 

 

「確かに私はお客様の家族を複製した人間を作る事はできます。そう、記憶だって同じ、それは簡単です。」

 

 

「ですが、それは貴方の家族ですか?」

 

 

 

「決まってる!!オレの家族...だ...」

 

「自信なさげですねえ」

 

 

 

悪魔はニヤつきながら再び7:3に分けた前髪を人差し指でなぞり始めた。

 

 

 

「お客様にプランがございます。名付けて☆デビルパワー貸しちゃうぜ★プラン30%コースです。」

 

 

「貴方と幸せな時を過ごした家族は蘇りません。ならばどうです?力を得て家族の仇を撃ってみるのは?」

 

 

「何より」

 

 

「英雄に成れますよ」

 

 

 

家族の仇...英雄...どれも魅力的だが...

 

 

「断る。」

 

 

悪魔は驚いた顔をした。フンいい気味だ。

 

 

「オレは復讐なんてしない。アルルだって子供達だって、オレがそんな事をしたら悲しむはずだからな」

 

 

目の前に立つ悪魔にこう言ってみせた。

 

 

だが悪魔は笑いを堪え切れないという表情で

 

 

「ブッ、はははは!!!!!へへへへれ!!!!!!ほひひひひひ!!!!!!あーは、はぁはぁ...あーやべえこいつ面白え...あっ、お客様面白え...」

 

 

爆笑した、爆笑しやがった。

 

 

「いや失敬。メッフィーほどは不真面目ではないのですがね私は。」

 

 

「貴方はね絶対私の力を借りますよ。借りたくなる。何故なら貴方は」

 

 

 

「英雄になりたいから。」

 

 

 

「ブッフゥ!!!ははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

性悪で最悪な悪魔は姿を消した。霧みたいに。

 

 

 

とりあえず報告だ。

 

 

 

村長にこんな悪魔がいたからエクソシストを派遣してくださいって頼まないと。

 

 

そう思いながら廟へ向かった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

何やら廟で村長が話している。

 

 

 

気配を消しそっと聞き耳を立てた。

 

 

 

 

「代官どうですかな?儀式は...」

 

 

村長のクリィーシャはイングランド王からの派遣のアルナイゼル代官にゴマをすっている。

 

 

「全くだな。悪魔バシンは姿を現わすことはない。」

 

 

「魔術師から教わった通りの供物はあの村には完備していたはずなのだが...」

 

 

供物...?儀式...?

 

 

つまり...

 

 

 

...こいつらの「マッチポンプ」ってことか?

 

 

ーーー震えた。

 

 

怒りで手が震えた。

 

 

そのせいかこちらの存在を気づかれた。

 

 

ーーーポケットに隠した果物ナイフ

 

 

これでアイツらを殺せば。

 

 

アイツらの目を抉り取ればオレは、

 

 

ーーーいや、アルル達は

 

 

そんなことを思案しながら昔訓練した摺足でオレは逃げ出した。

 

 

マヌケだ。

 

 

臆病者だ。

 

 

アルルは今のオレに対してなんて言うだろう?笑うかな?

 

笑うだろうな。きっと。

 

 

木陰で情けなく息を切らす。

 

 

同時に涙も出てきた。

 

 

なんて情けない奴なんだ。俺は。

 

 

「うぅ...ごめんアルル...」

 

 

「マヌケだなぁお前」

 

先ほどの悪魔がオレに話しかける。

 

「お前の契約者オレじゃなくてイングランドから来た代官らしいぜ」

 

 

悪魔は不敵に笑い、妖艶な仕草で7:3の髪を人差し指で撫でる

 

 

「その果物ナイフは元は私の妻のものでしてね。それを依代に私はここに代ばれました」

 

 

「お客様が契約者で間違いはありませんよ安心してください。」

 

 

嬉しいんだか、残念なんだかわからない複雑な気持ちだ。

 

 

「して、保留していたプランはお使いになられますか?」

 

 

「お前の力を借りるってヤツだろ?」

 

 

「おや要点はキッチリ抑えになられているようで。」

 

不快な笑みでこちらを悪魔が見つめる。

 

 

「改めて問いましょう。」

 

 

 

「英雄になりたいですか?」

 

 

 

期待に満ちた目で悪魔はオレを見つめる。

 

 

 

 

「断る。」

 

 

 

オレは死に切った目で悪魔を睨み付けた。

 

 

 

 

「オレを悪魔にしろ。バシン」

 

 

 

 

 

 

「契約は履行しました。」

 

 

 

ここに悪魔は生まれた。

 

 

 

 

オレの中で焦がれた英雄はーーー

 

 

 

 

きっと死んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

悪魔の力は凄まじかった。

 

 

首を素手で引きちぎり、

 

 

脚はこの世の何よりも速く、

 

 

羽根は鷹のように空を飛ぶ。

 

 

この力でオレは覚えている限り殺した。

 

 

殺して殺して殺しまくった。

 

 

ーーーそして醜く生きた。

 

 

凡そ250年の時を自分のくだらない理想ーーー偽の正義の為に費やした。

 

 

 

鬼神の如く強かったハサンの様であるという事と、ハサン・サッバーハの代がすでに終わったいたはずなのに再び山の翁らしき人物が現れたために、オレが「最後のハサン」であるという誤解から

 

 

 

 

オレは「終焉のハサン」と呼ばれた。

 

 

 

皮肉だ。

 

 

 

オレが目指したハサンはこんなものじゃない。

 

 

 

アルルと語った夢の到達点は

 

 

 

 

こんなものじゃなかった。

 

 

 

政治的な理由でオレの力を恐れた村人はオレを消すことを選んだが、誰もオレを殺せるものはいなかった。

 

 

なぜならオレだって死ぬことは出来ない。

 

 

悪魔の30%の力はそれだけ強大だったから。

 

 

 

 

 

 

 

だがしかし、

 

 

 

256歳の時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレの目の前に大剣を持った骸の仮面の男が現れた。

 

 

「ハサン・サッバーハでもない物が我々が忌み名を名乗るとはな。首を出せ贋作。いや贋作ですらない悪魔よ。」

 

 

オレは抵抗しなかった。この人なら、

 

 

 

ーーーオレを「殺せる」そう確信したから。

 

 

「ーーー晩鐘は汝の名を指し示した。」

 

 

 

 

 

ーーー先生。

 

 

 

ーーーオレはアンタにはなれなかったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

享年256歳。

 

 

 

 

少年は英雄になれず死んだ。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーーなんじゃこれは...アサシンの過去の記憶...か...

 

 

 

なんじゃここ...花園?

 

 

「よくきたわねネズミちゃん達」

 

 

セイバーによく似た女性がわしの前に立っている。

 

 

...というかこれセイバーじゃね?

 

 

 

〜fin〜



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15話 水島ヒロの憂鬱

15話 水島ヒロの憂鬱 

 

 

んん??何処だここは・・・俺は確か財閥の使いにやられて・・・そのあとの記憶がない・・・

 

 暗すぎて何も視ることができない。手探りで何とかあたりを探ってみるが、有益な情報を得ることはできなかった。 

 

「無駄だよ。」

  

のどにネズミが絡まったような不快な声が牢屋に響き渡る。この声どこかで・・・?

 

「お前鈴木か?」

 

「そういうお前はゆうさくか。」

 

「まさか任務に失敗したのか?」

 

 こいつに指摘されるのはなんか腹立つ。いや、実際そうなんだけどね!

 

「プッハァー!!!ダッセェー!!!」

 

 うんうん予想通りの反応だ。全然イラッとこない。むしろ心地いいレベル。

 

「まあお前雑魚だし。それに比べて俺は強いけどな。加えて女子力もある。後は・・・性格さえ完璧だったら文句はなかったかな?」

 

 あ~ブン殴りてええええええええええええ!!!あ~死ね!!!600回くらい死ね!!!

 

 

 

 

 __________コツ。と音がした。

 

 ____誰か来る。看守か?と思ったが違う。

 

 魔力を感じる。まさかサーヴァント・・・?

 

 ランプを持ったフードの男はこちらの牢まで近づき、鍵を開けてくれた

 

「階段先のドアまで走れ」

 

「おお!誰だかしらんが助かる!」

 

 俺は藁にもすがる思いで駆けた。無論ひよこも同じである。うん同じだろうな。そう思いながら振り向くと、そこにはいつものひよこ頭ではなく、見知らぬオッサンが自分の背中を鼻息荒く追いかける姿があった。

 

「スンません誰だあんた!?」

 

「オレ?俺は水島ヒロ。」

 

「いやいやいや世界レベルにわかりやすい嘘つくんじゃねーよ!お前はどう考えてもそんなイケメン臭漂う存在ではねーよ!!!」

 

「じゃあ福○雅治とかでいいよ。」

 

「もう突っ込むのめんどくせえ」

 

後から事情を聴いたところ普通にひよこの着ぐるみを取られて、普通に素顔が露呈しただけらしい。あと水島ヒロは普通に本名らしい。名前だけはイケメンだな。顔は普通に不細工だけど。

 

「おお~なんだここがドアか意外と近い…」

 

 ドアを開ければそこには蒼い花が咲き誇る楽園とも形容すべし場所が広がっていた。驚くべきことにドアの先に立つのはセイバーとそっくりの少女である。

 

「ようこそ。レジスタンスの無能な子豚ちゃんたち。いいえ。マスターの手をここまで煩わせた無能はもはや子豚ですらないッ!まさしくひよこよッ!」

 

「俺じゃーンひよこって!」

 

 意味不明に舞い上がるひよこ頭がウザい。いきなり爆殺されねえかな・・・

 

「お姉さん私と結婚しませんか?」

 

「拒否。あっでもそのカワイイひよこ頭に免じて下僕くらいなら許可しなくもないけど!」

 

「はい!性奴隷でも肉便器でもなんにでもなります!!!」

 

「そ、そこまで言ってないのだけれど・・・うーんあなた湖の騎士以上に積極的ね・・・勿論悪い意味でだけれど!」

 

「お褒め頂き光栄の至り・・・して・・・いつ交尾はなさいますか?なんなら今からでも・・・」

 

「下僕のくせに生意気ね!ふふふでもそこがカワイイわ!」

 

 あれ・・・結構お姉さんノリノリ・・・?

 

 セイバーに似た美女は赤子をあやすようにくそオブくそひよこのあたまを優しく撫でる。

 

「あァ!?」

 

「ふふふ・・・このズボンのふくらみはなんなのかしら・・・?言ってみなさい・・・下僕・・・」

 

 大丈夫コレ?なかなか雰囲気がピンクだけど。

 

 ほんと大丈夫?俺とアストルフぉの健全な絡みで隠さなくて大丈夫?

 

「これはァ!難民キャンプであります!!!」  

 

 やかましいわ!

 

 

「坊やも見てないで一緒にどう?」

 

 こちらを挑発するように妖艶な美女はこちらを見つめる。

 

「いやっ俺は大丈夫っていうか!!!間に合ってるっていうか!!!いや!!!間に合ってはないけど!!!」

 

 あわてて答えた俺に対し、美女はまるですべてを見抜いたかのような瞳でこちらを見つめた後耳元でこうささやく。

 

「ここは誰にも見られず知られることのない人がたどりつく最後の楽園。羞恥心を感じる必要はないし、それにほら・・・」

 

「たまってるでしょ?」

 

 脳内に響くようなリップノイズがユウサクに残された最後の理性を瓦解させた。

 

「はぁい!!!!!!!!!!お願いします!!!!!!!!」

 

 アストルフォごめええええええええええええええええええええん!!!

 

 ゆうくん耐えきれなかった!!!エッチなお姉さんの魅力に!!!

 

 だってエロいんだもん!!!無理無理!!!育ちざかりの健全な青少年(当社比)にあれを耐えろってのが無理ですって!!!

 

 というわけでこっからはR18コーナー!よいこは腹ペコ青虫でも音読してな!!!

 

「うふふ・・・カワイイ・・・」

 

 バランスよく膨らんだ双丘が露わになる。それは水蜜桃、そう表現して差し支えないほどの美しさを持っていた。

 

 漢ユウサク。オトナの階段を爆速で駆けあがるぜえええええええええ!!!

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 「んん・・・」

 

 温い潮風が頬を撫でる。いつのまにか寝ていたようだ。しかも助手の膝枕で。

 

「初任務お疲れ様です。先生…」

 

「ここはどこなんだい?」

 

「通称朱い海、またの名をコード・オケアノスです。」

 

「要するに海だね?」

 

「まあ・・・そんなところですかね」

 

 幼い助手は天使のような優しさを含めながら微笑む。

 

「助手君が連れてきてくれたの?わざわざ」

 

「ええ。見せたかったんです貴女に、この燦々と煌めく紅い海を。」

 

 案外ロマンチストなのかな。でも嫌いじゃないかも。

 

 この海はなんだか見てて落ち着く。血のように紅いのに。

 

「綺麗ですね。先生の髪。」

 

 細く人形のような指は私の髪をやさしく梳いた。

 

「照れるなあなんか。」

 

「先生はこうなる前はなにしてらっしゃたんです?」

 

「私はねえフリーの記者だったんだ。」

 

「悪どい政治家の闇を暴く記者…と言ったら聞こえはいいけどそんなかっこいいことはしてなかったな・・・」

 

「魔術師に裏金を回してる政治家と大物芸人をつきとめたところで・・・」

 

 唐突に吐き気がした。嗚呼・・・いけない・・・これ以上はいけない・・・!それはわかってるのに・・・!

 

「殺された」

 

「え?」

 

「殺されたの私」

 

唐突なワードに幼い助手は動揺を隠しきれないようだ。当然だ。今思い出した私も動揺している。

 

「知らない男たちにボロ雑巾のように弄ばれて、苦しんで、苦しんで、苦しんで。」

 

「死んだの。」

 

 完全に思い出した。

 

「志村動物園計画」、「火星に刺さった神樹」、「ウラ聖杯戦争」、「英雄王」、「混ぜるキャスター」、「二人のシムラ」

 

 そして「フジキユウサク」

 

 知らせなきゃ。一刻も早く。

 

「先生・・・」

 

「思い出しちゃったか。」

 

 キリンの細い腕が私の首をつかむ。

 

「え・・・?」

 

「網目キリンのキメラには監視用の蟲が埋まっていてね。このように肉体を経由して、君の口封じも可能というわけだ。」

 

「シムラ・・・お前・・・!」

 

「悪いね・・・知りうる限りじゃお前は知りすぎてる人間の中じゃもっともヤバイことを知ってるのよ・・・」

 

「でもなあお前は貴重なマスター適正者でもある。だからただ殺すのはもったいない。」

 

「だからお前は志村動物園計画のプロトタイプになってもらう・・・!」

 

「いやだ・・・!もうお前の命令なんか聞きたくない・・・!」

 

「生意気な・・・!」

 

 苦しい・・・!首を絞められていることがではない、助手の姿で自分が傷つけられていることがである。

 

 いやだ・・・!いやだ・・・!

 

 _____ヒュンと何かが飛来した。

 

 助手の姿をしたシムラは突如私を投げた。

 

 これは・・・?黒鍵・・・?

 

 フードをかぶった男が琴らへゆったりと歩いてくる。

 

「お前は・・・キャスターのマスターか・・・!」

 

「お久しぶりですシムラさん。」

 

「何しに来た小僧。」

 

「散歩のついでに爺さんの悪趣味を観察しに参りました。」

 

15話 fin

 



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15.5話 エロシチズムの螺旋


ちんぽ

ちんぽ

ちんぽ


16話 抉り尽くす悪意

 

 

「あっ」

 

 

 

「こんにちは」

 

 

「どうされましたかキンタマーニ中尉」

 

 

「連載やめていいか?」

 

 

ーーー嗚呼。キンタマが重い。

 

 

「うるせェ〜♡ハメるぞッ♡」

 

 

 

 

「オイオイオイ!」

思わず俺はツッコミを入れた。いやなんだよ!?キンタマーニ中尉って!?

 

「知らねえのか?キンタマーニ中尉」

 

 

何かを知っている風なアサシンが壁にもたれながら嘲笑するような顔でこちらを見てきた。顔って...まあこいつ仮面被ってるから見えないけど。

 

 

「第三次聖杯戦争でアヴェンジャーを召喚したソ連のマスターだ。」

 

 

あるんだ...設定...いやそういうわけじゃなくて

 

 

「名前からしてふざけてるようにしか聞こえないんだけど!?」

 

 

「作者はないつだって真面目に不真面目なんだよわかってやれ。」

 

 

「分かりたくもないですけどね?」

 

 

「おーいマスターぽはよう〜!」

 

 

「おっ!ライダー!起きたのか...ぽはよう...ってええ!?」

 

 

そこにはいつものライダーが勃って...失礼。立っていなかった。

 

ライダーは見違えるほどに...巨乳になっていた。

 

 

 

「ちょいと失礼。」

 

 

達人でなければ見えないほどの手刀でひよこ頭は股間をチェックした。俺でなきゃ見逃してたな。

 

 

「ないぞ。ない。チントルフォのアスポがない。」

 

 

「うそぉぉぉぉぉぉん!?」

 

 

「というかてめえ何ナチュラルに痴漢してんだよ。」

 

 

「男同士なら問題ないかなって...いやもう男じゃないけど。」

 

 

「ダメだ。許さん。」

 

 

「つーかよぉほんとわかってねぇなぁ...」

 

神様の悪戯か知らんが、器が広すぎて器でユーラシア大陸形成できる俺ですらこれは堪忍袋の緒が切れるってもんだ。

 

「え?何が?いいじゃん女の子になってもう完璧な美少女じゃん。」

 

 

「馬鹿やろォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!」

 

 

この憎たらしいひよこ頭がスクランブルエッグになるかならないかというレベルで思い切り拳を振るった。

 

 

「男の子で可愛いから良いんでしょォ!?」

 

 

 

「知らねえよお前のこだわりなんか。」

 

 

「ぽはようだぜ〜」

 

 

「ぽはよう〜...ってすいませんアンタ誰ですか」

 

 

茶色い袴がすこし乱れていて花魁のような姿になってしまっている。その結果豊満な胸元が露わになっており、大人のエロシチズムを主張させている。

 

寝起きで少し乱れた髪から仄かに香るのシャンプーの香りもまた青少年育成に健康的な影響を及ぼしかねない。

 

 

「何って...わっちはアーチャーだが。」

 

 

「「「アーチャー!?」」」

 

「なんと...霊体化していて性別が分からんかったが...まさか女性とは...」

 

 

「いやいやいやいやいやいや待て待て待て待て待て」

 

 

「お前俺と契約した時メタル◯アに出てきそうな渋いオッさんだっただろうが!?」

 

 

「何、案ずるな。英霊が女性になるなんざな。よくあることだ。あるあるだ。」

 

 

 

「あっそうだ。」

 

 

「BB!(この作品の絵師)わしのイラスト化頼んだから!」

 

 

「じゃ、バイビ〜(ゴテンクス)」

 

 

挨拶のセンス古っ!

 

 

 

 

 

「悪ノリが過ぎないですか。これ」

 

 

ここ最近あまり活躍してないコトミネシロウは双眼鏡でラブ視線ビームをレジスタンスに送っていた。

 

 

「いや送ってませんよ。というかナレーションで悪ノリしないでくださいキャスター。」

 

 

ええ〜。良いじゃない別に。今日なんの日か知らないの?

 

 

「エイプリルフール。嘘をついても許される日というのを建前にはっちゃける日ですね。」

 

 

マスターはっちゃけないの?

 

 

「いや、私シリアスなキャラクターだしふざけるのはちょっと...」

 

 

そんなんだから人気ないのよ...

 

 

「核心を突いてきましたね。良いですよ!やってやりますよ!」

 

 

お、はやくはやく

 

 

「やっぱやらない♩」

 

 

 

 

 

「志村けんのバカt...」

 

 

「アウトォォォォォォ!!!!」

 

 

 

 

 

 





謎の名探偵x「キメセクが最高だと思います」


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16話 抉りつくす悪意/14番目のサーヴァント





16話   抉り尽くす悪意

 

フードの少年の腕に力が籠る。

黒鍵を構え、ジリジリ、と蟲のコントロール下にある網目助手へと詰め寄っていく。

 

ーーー確信した。コイツに私の初めての助手は殺される。

 

「シムラ氏、ここで観念してください。」

 

  助手に絞められた首を抑え、この状況の打開策を足りない頭で必死に模索する。

 

どうすれば助手を救えるか、この一点のみに考えを振り絞った。

 

そうだ...起源弾...これをあのフードの男に命中さえさせれば...

 

いや、当たらなくとも良い。

 

妨害さえできれば...助手の肉体は救える、もしかしたら元に戻すことだって...!

 

ーーー殺意を悟られぬようそっと弾を込めた。

 

正直「銃を構えて、当てる」という事を実戦で成功させた事は、ない。

 

だが奴との距離は10mもない超至近距離である。

 

素人の私にだって当てられる距離の筈だ。

 

助手はここで終わらせない。素体の私たちがここで終わっていいはずがないんだ。

 

震える両の手を鎮め、引き金に指をかける。

 

 

 

【ダメだよ】

 

【それはダメ】

 

少女の声がした。

 

いや、声がするというよりは脳内に声が「ある」と言った方が正しいのだろうか。

 

…幻聴に決まっている。構ってる暇はない。

 

未だ脳内に谺し続ける声を歯牙にも掛けず、私は少年へと狙いを定める。

 

しかし、引き金はーーー

 

ーーー!動かない...!引き金が固まってる...?

 

いや、違う。「魔術回路ごと」身体が凍っている...!

 

何だこれは...?イヤだ...!今動かなきゃ...網目は...!

 

「I am the bone of my sword.」

 

まずい...!詠唱が始まった...!

 

【ダメだよ】【引き金を引いてはダメ】

 

脳みそに泥を塗り込まれたような不快感が私を襲う。この感触は初めてではない、日常的に普段感じる不快感だな。などという思いが脳裏を掠めたが、この時は何故かうまく形容できなかった。

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね】【死ね】【死ね】【死ね】

 

【死ね死ね死ね死ね死ね死ね】

 

  気分を害す程の殺意。悪意。

 

 

それは私の肢体が隅々まで黒く塗られてしまう程の質量だった。

 

ーーーいや、比喩ではなく。

 

正しく私の体は黒く塗りつぶされていた。

 

【受けてみて。私が幾年浴び続けたほんの数滴、苦しいでしょう?痛いでしょう?】

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

砕けた、私のこころが。

踏まれた蟻のように、破れ、散った。

 

こころの中に内包していたはずの彼女の記憶が染み渡り、

 

「再生」される。

 

   いらない。いらない。いらない。

 

   こんなものいらない。

 

  ーーーーーーーーーーーー

 

2004年 11月 大神 棗の記憶。

 

秋が終わり、快かった風が冷たい冬の棘に変わり始めた頃。

私はコーヒーショップで一息、仕事の憂いを癒しに来ていた。

 

「時計塔の生物部門の魔術師がホムンクルスの研究に着手...。」

 

「何の面白味もないと思うんだけどなぁ...」

 

  魔術の規範が一般にも広まった現代。

人権問題やその他諸々が批判されているのも事実だがそれに留まっているだけで、魔術師がホムンクルスについて研究するなどという事例はもはや当然の事となっていた。

しかし編集長はそれに当たりをつけろと言う。

 

「やだなぁ仕事ってほんと...」

 

  小慣れた仕草で煙草に火を点ける。

 

  何処かの誰かさんが言うほどこの煙が出る白い棒は美味くはないが、まぁストレス発散にはなる。

そんな軽薄な考えで日々肺を汚染していく。

 

この灰色の煙が、私のつまらない毎日を塗り潰してはくれないだろうか。

 

そんな絵にもならないことを考えながら、副流煙が白いタイルに昇っていくのを死んだ目で見届けた。

 

 

「おっ、お前さんまたここに来てんな。」

 

 いつの間にそこに居たのか背後から赤い革ジャンの男に声をかけられる。

こいつは同僚の場新。ゆるめのパーマに不自然にそこだけ白く染まった右側の前髪、悪魔みたいに尖った耳が特徴的な如何にもな風貌の男だ。

 

「うるさいよっ人がどこで休もうと勝手でしょ!」

 

「ははは、まあそう言いなさんな。俺もちょいと休みたくてねえ」

 

彼はそう言いながら革ジャンを脱ぐと、隣の椅子に掛ける。

 

そして私より幾分か慣れた手つきで彼もまた煙草を取り出した。

 

「それとまあ...行き止まりに突き当たった後輩にちょいと手助けがてら情報提供も兼ねて、な。」

 

「ほうほう。内容によっては奢ってやらんでもないぞ。」

 

「調子の良い奴め…ほらよ、これだ。」

 

場新は1枚のプリントをテーブルに置いた。

 

白紙の1枚はポップな音楽と、洒落た雰囲気のこの店には不釣り合いで、空間から切り取られたような悪目立ちをしているような気がしてならない。

 

 

【生物部門死亡リスト】2002年 4月1日

 

ユウサク・フジキ 死因 自殺

 

グレート・D・ユー 死因 自殺

 

御茶ノ水・ハック・シー 死因 自殺

 

クシャトリス・アンクレイブ 死因 自殺

 

 

 

なんだこりゃ...2年前のエイプリルフールに4人同時に自殺...?何の冗談だ...?

 

 

「また後日にクサナギという研究員が海で溺死している。...な?余りにも不可解だろ?」

 

いつもおちゃらけている場新が冷や汗をかき、ごくり。と唾を飲むという事があまりにも珍しく、反応が少し遅れた。

 

「これ又...闇が深そうな一件だね...」

 

「アシハラ先輩がさ...2年前突然消えただろ...?」

 

朱色の宝石が入った彼のネックレスが振り子のように揺ら揺らと振れる。

 

 

私の心も同時に振れる。

 

 

_________まさか、嘘だ。

 

 

「このヤマにアシハラ先輩が関わってたんだよ...俺は消されたと見てる。何か圧力がかかってんだこの件には。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

場新から告げられた情報量の多さに私のチンケな脳みそは疲れてしまったのか、思考がしばらく停止していた。

 

同時に死亡した複数の研究員と口封じに殺害された先輩。

 

キナ臭い。何か裏がある。そんなことは頭でわかっているのだが、私の脚は一向にソファーから動こうとはしなかった。

 

 

アシハラ先輩とはそんなに仲が良い訳でもなかった。

 

だから、残念ながら先輩の復讐の為に動いてやろう。とかそんな気にもならなかった。

 

 

小刻みにソファーが揺れている。地震だろうか...?

 

 

違う。私が震えている。

 

あまりの動揺から貧乏揺すりをしている事に全く気が付かなかった...。

 

 

「ふふふ...」

 

 

余りの情けなさに自分で笑ってしまった。

 

__________ああ、やっぱり。

 

 

私、本当は行きたいんだ。

 

真実をこの目で見たい。でも死にたくない。

 

 

その二律背反でこの脚は止まっているんだ。

 

 

ふふ、「自己理解」とは何と気持ちの良いものだろうか。

 

なまくらだった私の両脚が嘘のように軽い。

 

私はテーブルの上に置いてあった携帯で、急いで場新にメールで連絡を入れる。

 

 

[昼の件、協力させてください]

 

 

返事はヤケ酒をした次の日の朝に届いた。

 

 

 

それが私の人生最後のメールだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「起きたかね?」

 

 

なんだここ...手術室...?というかなんで身体をベッドに縛りつけられてるんだろう...

 

 

いつのまに、

 

 

__________私の手脚は無くなったんだろう。

 

 

「先ずは挨拶だね。私はシムラ・バッカトーノ。人の王を目指す者だ。そして此方が...」

 

頭が見事にハゲ散らかっている爺さんが手招いている方向には、

 

 

もう1人、全く同じ姿のハゲが立っていた。

 

 

どういう事だ...?

 

 

「初めまして、兄弟。私はシムラ・バッカトーノだ。」

 

 

「オイオイまだ兄弟じゃないぜ。コイツは母胎だ。これから産むのさ。」

 

 

「クシャトリスだっけか?産みすぎて死んだ奴は?」

 

「モルモットの名前なんざなぁ、一々覚えてねーよ。殆ど産み過ぎて死ぬからな。」

 

 

「そうだっけかぁ...?」

 

 

「俺のオリジナル体の癖にテキトーな奴だなお前は。」

 

 

「ハハハ...肉人形の癖によく言うよ。」

 

 

「じゃあ、遺言とかある?ハハハ...恐怖で泣き喚いてらぁ...」

 

 

やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて

 

写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで写さないで

 

 

イヤ、

 

 

いや。

 

 

 

 

 

「じゃあ、係員は麻酔と、原液を注入開始。素体の反応が出次第、ブランクホムンクルスの回収に当たってくれ。切開は基本無し。まあ、いつも通りだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

や。

 

 

 

_

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「財閥の敷地に攻めてきたレジスタンスは逃した上に、出所不明の黒い泥に職員とキメラが呑まれ、死体安置所行きと、」

 

 

財閥のマスターの実質的リーダーであるキッス・アンクレットは報告書を提出しにきたレオを執拗に責めた。

 

 

「巫山戯てるのかね?」

 

 

「いえ、巫山戯てません。シロウコトミネとキャスターも行方不明です。」

 

 

キッスはわかりやすい舌打ちをした。

 

 

「なんだそれは...裏切りだとしたら、我々財閥は5席か...」

 

 

「いいえ、6席です。」

 

 

「グレイ氏が14人目のマスターとして、ライダーを従えました。」

 

 

「当主自らがか...?しかし何のために...?」

 

 

「さあ...?気まぐれか...或いは財閥内のくだらない権力闘争を見越してのことかもしれませんよ。」

 

 

「口を慎めレオ。溝鼠の野心が丸聞こえになってしまうからな。」

 

レオは静かにキッスを睨み付けた。

 

 

__________この男は必ず殺す。レオはそう誓った。

 

 

コンコンと二回ノックが入った。

 

 

 

「誰だ?入れ」

 

 

「僭越ながら名を名乗らせていただきます。財閥8人目のマスターシンジ・マキリと申します。」

 

 

キッスはそれを聞いてニタリと笑った。

 

 

「フン。なんだちゃんと7席いるじゃないか。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「当主、ここが安置所です。呉々もアレに飲まれないように。」

 

 

「了解だ。君は下がりたまえ。」

 

 

「は!」

 

 

部下を下げさせ、グレイは黒いアレに呑まれて尚生存した素体(ブランク)を垣間見た。

 

 

コ◯ンの犯人かってレベルに黒いな。それがグレイが最初に感じた感想であった。

 

 

単純な興味からその肉体に人差し指で触れてみる。

 

 

「イだッ!」

 

黒い何かに指が食い破られてしまった。

 

「相当汚染されてるねぇ...しかし、それ故に君は英霊になりうる資格があるのだ。」

 

 

「ヤ...め...え...」

 

 

「ん?なんだね」

 

 

「コ...れイジョウ...フコ...ウニシ...デ...」

 

 

「ンフフーン〜断・固・拒・否」

 

 

「そもそも君は大神でもないだろう?君は大神と同じ記憶を持っていて、同じ身体を持っている、別人じゃないか。」

 

 

そう無慈悲に告げると腑に、手を突っ込んだ。

 

 

「あァァァァァ!!イダイ!!!イダイィッ!」

 

 

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。

  降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

  

 「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

  繰り返すつどに五度。

  ただ、満たされる刻を破却する」

 

               セット

 「―――――Anfang」

 

 「――――――告げる」

 

 「――――告げる。」

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ

 

 誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

 

  されど汝は我が曇りある真実に侵され、嘘の権化とならん。

 

  汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。」

 

 

「宝具展開。真実を喰らえ、我が八百万の虚構よ(アンサイクロペディア)

 

黒い何かの腑から放たれる光の銀河が安置室を包む。

 

自分の宝具のノイズの黒煙が混ざって無駄に綺麗だ。

 

グレイはシムラからブランクは子宮部分に召喚陣が編んであることを事前に聞いていたので腹を食い破って英霊が出てくるだろうな。という先入観があった。

 

だが予想外なことに、大神は

 

 

「英霊を纏ってしまった。」のだ。

 

 

黒煙から先ほどのまっくろくろすけとは大違いの黒騎士が顕れた。

 

 

「サーヴァントライダー。真名はシグムンド。召喚に応じ参上した。」

 

__________いいねえ。

 

 

「これは利用し甲斐がある...愉しくなってきたヨォ...」

 

 

 

「もっと世界を嘘に染めるために、もっともっともっともっともっと世界を面白くするためにッッッ!!!!」

 

 

「『英雄』になるのだよ...私は」

 

 

 

END



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君だけの正義の味方/ataraxia

17話 君だけの正義の味方/atraxia

 

「I am the bone of my sword.」

 

 

フードの少年がジリジリと迫る。

 

 

「此れは全ての疵、全ての怨恨を癒やす我等が故郷。」

 

 

此処に有る、円卓の盾

 

 

「この盾には浄化の力があります。取り敢えず此れでシムラの蟲は体内から消滅したでしょう。」

 

 

「立てるかい?お嬢さん」

 

 

コトミネが手を伸ばそうとした途端、横槍が入った。

 

 

言葉のあやではなく、物理的な槍である。

 

 

「その子から離れろ神父。それともう1人いたオオカミの子は何処だ!」

 

 

そこには幻術に嵌めたはずの変な髪色の男、ユウサクと圧倒的ブスのひよこ頭が立っていた。

 

「キャスターの幻術から抜けてきたか。どんな手を使った?」

 

 

「このひよこの縫いぐるみの裏地には仕込みがしてあってな。そこには隠しナイフや仮死薬、軽いクスリも入ってる。」

 

 

「俺のインストールでひよこ頭の脳内に侵入してクスリを噛ませたってワケさ」

 

 

「抵抗はしないで頂戴、コトミネシロウ、既に貴方は包囲されているわ」

 

 

木陰に潜んでいたのか遠坂凛も現れた。

 

「抵抗はしないさ。すればお前たちは死ぬからな。」

 

コトミネシロウはこの場にいる全員を舐め回すように一瞥し、無抵抗の姿勢を取る。

 

「舐めてんのかテメェ...」

 

 

「オレを捕まえて情報を吐かせるつもりだろう?レジスタンスのマスター達よ。生憎だがオレは一から十まで喋るよ。」

 

 

「「「!?」」」

 

 

一同全員驚愕している。当然だ。目の前の敵がすんなりと要望を飲むどころかそれ以上のことをしている。

 

 

「何か裏があるんだろ?」

 

 

「あるとも。だが今は協力してほしい。だから私も協力してあげましょう。」

 

 

「取り敢えずは何か落ち着ける場所に移動しませんか。いつ財閥の使い魔が殺しにくるか分かりませんよ。」

 

 

「なら私の宝具が最適でしょう。」

 

 

霊体化していたのか、はたまた幻術なのか分からないが、財閥のキャスターがふらっと現れた。

 

「キャスター、お願いですから喰べないでくださいね?この人たちは」

 

 

「ふふふ、どうかしら私の幻術に抵抗したそこの2人とか喰べ甲斐があって良さそうなのだけれどね、まあマスターの命令なら勘弁してあげないこともないかしら?」

 

 

コトミネシロウが令呪の使用も考慮したのか右手の甲をチラッと確認したのを垣間見て、ユウサクは察した。

 

 

あのキャスターはマジで殺る気だったんだと。

 

 

「一応注意しておきましたが、本当に気をつけてください。キャスターの攻撃は対魔力すらブチ抜きますから。」

 

 

キャスターは両手を広げ、詠唱の態勢に入った。

 

 

「逆光する星の光、堕ちた精霊、虚の楽園は此処に有り、咎人のみが、此処に辿り着く。第1宝具展開。」

 

虚ろに堕つ理想郷(シン・ガーデンオブ・アヴァロン)

 

黒い閃光が森を包む。瞬きを二つ程すれば、そこは暗くて陰気な森などではなく、青い花弁が舞う花園が広がっていた。

 

 

「なんだここ...?」

 

 

「おー!皆も来ておったか!」

 

布都が此方に向かって手を振っている。

 

「布都ちゃん...無事だったか...」

 

「我は無事だったが、アサシンは...」

 

なんでもアサシンは敵に霊核を撃ち抜かれてから死んでるみたいに目を覚まさないのだという。

 

「取り敢えず人数確認だが...俺と凛と桜、ひよこブスと布都ちゃん...5人か...レジスタンスは」

 

「おやおや私を数え忘れてますよ」

 

胡散臭い笑顔でコトミネシロウが茶々を入れる。

 

 

「悪いがお前みたいなエセ神父は信用に値しないんでな、冗談でも信頼はないと思え。」

 

 

「また随分と嫌われましたね私は。まあいいでしょうそんな事はどうでも。君たちの疑問を一つずつ、かいつまんで話して行きましょう。」

 

 

「まずオオカミ、もといホムンクルス・ブランクは何処に行ったか?ですが、知りません。いつのまにか消えてました。回収できたのはキリンのホムンクルス・ブランクのみです。」

 

「次に、シンジ・トオサカおよびシンジ・マキリをなぜ回収しなかったか?これは彼が裏切り者だからです。レジスタンスに対してのね。」

 

「アイツが裏切り者って何の根拠があって...」

 

 

「壁にちょくちょく視察に行っていたのをご存知でしょう?彼は連絡係だったんです。」

 

 

「...ッ」

 

 

ユウサクは煮え切らないという感じで歯軋りをした。シンジが裏切り者。と言う事実を受け止めるにはまだ心の準備が済んでいなかったのもあるかもしれない。

 

 

「私からも質問いいかしら?」

 

 

「構いませんよ。」

 

 

「衛宮士郎、言峰綺礼この2人の人物に心当たりはあるかしら?」

 

 

「いえ、私は全く初めて聞く名前です。」

 

 

「...ならいいわよ。」

 

 

「煮え切らないと言う感じですね。まあいいでしょう。」

 

 

「あっボクからもしつもーん!」

 

珍しくアストルフォが名乗り出た。大丈夫だろうか。変な質問はしないだろうか。年収はどのくらいですか?とかアホな質問はしないだろうか。

 

「キミの目的を教えてよ!」

 

 

「目的...?ふむ。目的か。まあ話しておく必要はあるか。」

 

「最終的な目的は火星にある大聖杯の解体、目先の目標はシムラを殺害する事です。」

 

 

「大聖杯の解体...そんなことできるんですか?」

 

 

桜が怪訝そうに聞いたのを不機嫌そうにシロウは返した。

 

 

「通常の聖杯戦争の既存のルールでは不可能でした。なぜならば大聖杯はある程度英霊の魂を器に捧げなければそもそも顕現しないからです。しかし、火星の大聖杯はもう既に顕現しています。」

 

 

「そう。銀髪の少女を依り代にしてね。」

 

 

「銀ちゃんさんが...聖杯の器...」

 

 

「一つ疑問なんだが、手順が逆じゃないか?大聖杯を解体してから、シムラを倒す方が良いんじゃないか?」

 

 

「さすが名探偵ホームズですね。鋭い。だがダメなんです。シムラが先です。」

 

 

ホームズがパイプを口にしたまま目を丸くする。

 

 

「今の大聖杯はモノじゃない。最初に解体しようとすると、返り討ちにあうか、シムラが邪魔してきます。安定を取る意味でもシムラが先です。」

 

 

「しつもーん!シムラの目的は?」

 

 

「彼の目的か...それは私も知り得ませんでした。が、奴は聖杯の万能の願望器としての力を欲しています。これは確実です。繰り返す生物実験とホムンクルス・ブランクの増刷も意味がないわけじゃないはず。」

 

 

「目的は分かった。で、次俺たちは何すれば良い?」

 

 

「そうですね。先ずは静観が賢いと思われます。」

 

 

「「「は?」」」

 

 

 

「ははは...怒んないでください...真剣に言ってるんですよ?これでも」

 

 

「財閥内の派閥戦争が始まるから、かい?」

 

 

「おお、流石ですねミスターホームズ。」

 

 

「ま、しばらくは我々も力を貯めましょう。キャスターは恐ろしいほど強いとは言え、財閥が集めた選りすぐりの英霊複数相手では些か不利ですから。」

 

 

「ところで、B_RAVEとやらに私は乗せてもらえるのでしょうか?」

 

「ロープで羽に縛り付けるくらいなら出来るわよ」

 

 

「手厳しい」

 

 

凛からの厳しい対応におどけてみせる。

 

 

「じゃあ暫くは各自、体を休ませて頂戴。私と桜はアサシンの治療よ。」

 

 

「...はい。」

 

 

「おーい!アサシーン!仮面剥がすぞー!起きろー!」

 

 

桜は兄の裏切りを知り、どんな気持ちなのか、

 

底知れない絶望、失望、そういうものだろうか。いや詮索するべきじゃないか。

 

にしてもムカつくぜ。あのエセ神父...

 

 

あの全てを見下したような目が気に入らねえ...

 

なんだこの台詞...オレはすぐやられるヤンキーかっつーの...

 

 

「で、さっきから私にガンを飛ばしてる変な髪色のお前、ちょっとこっちに来い。」

 

 

あ、バレてたか

 

 

シロウはユウサクの顔に近づき、こう囁いた。

 

「どっちが上か分からせてやるよ。」

 

 

「上等。テメーみたいなお高く止まったクソッタレにはお仕置きが必要みたいだからな。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「さて、ここなら女性陣にも見えないし、ある程度は2人きりかな?まあキャスターには見えてるだろうけど。」

 

 

「丁度いい、遠慮なくぶっ飛ばせるな。」

 

 

その台詞を聞いて、シロウは腕を後ろに組み直し、不敵に笑った。

 

 

「やってみなさいよ。ほら早く。」

 

猪突猛進、その言葉を思わせるほどにユウサクは真っ直ぐにシロウに向かって走った。

 

 

影読(インストール)!」

 

 

ユウサクは影読で鉄パイプを読み込み、構成した。

 

「オラッッッッ!!!」

 

鬱憤全てを鉄パイプに込め、シロウに向けて乱雑に振り回す。

 

しかしシロウはこれをいとも簡単に避けた。

 

「なるほど、さっきの槍もこれで作ったか。構成スピード、硬さ、共にまだまだ。だが、投影の才能はあるな。 」

 

「偉そうにペラペラ喋ってんじゃねえッッ!!!!」

 

 

「だが、弱い。」

 

シロウは鉄パイプを左手で引き寄せ、手の空いている右手の裏拳でユウサクの顔面を叩いた。

 

「あッ...イっでぇ...」

 

 

「なぜオレがお前を呼びつけたか分かるか?お前がレジスタンスでは1番弱いからだ。」

 

 

「ンダとぉ...」

 

これで鼻血を抑えろと言わんばかりにハンカチを乱暴に投げ、シロウは話を続けた。

 

 

「だが、お前は強くなれる。オレがお前の師匠になってやるよ。」

 

 

「断る。」

 

 

「やめておいた方がいいと思いますよ。負けた悔しさで断るのは。それに、」

 

 

投影(トレース)に少し興味があるんじゃないですか?」

 

 

「あるけど、お前に教えられるのは嫌だ。」

 

 

「強情ですねえ。私以外に教えられる人はいませんよ。」

 

 

「うるせえほっとけ」

 

ユウサクは鼻血を乱暴に拭き取ると、フラフラと何処かに歩いて行った。

 

 

「やっぱり面白いなぁ...彼は...」

 

 

 

「男の子のプライドはね、崇高で脆いの。あんま刺激しちゃダメよ。シロちゃん」

 

「やっぱり霊体化してたのかい?キャスター」

 

 

「盛りの若い男の子の喧嘩なんてなかなか見れるものじゃないもの。見ときたいじゃない。それに、」

 

 

「それに?」

 

 

「あの子は強くなるわ。もしかしたらシロちゃんよりも。だから見張っておかなきゃ。彼は」

 

 

幼いし少女の見た目には似つかわしくないほどの圧倒的な殺意。

 

やはり彼女も戦乙女なのかもな。そんなことを思った。

 

「さて...君はどう思う?衛宮士郎?銀色の乙女はこれからどう動くと思う?」

 

 

当然応えるべくもなく唯、葵い花が風に揺られるだけであった。

 

 

「そうか...やはり時間はそう残されてないのか...」

 

 

「シロウ...やはり貴方は...」

 

 

モルガンは怒っているのか、心配してるのか分からないほどの涙目で此方を見つめる。

 

きっと、どっちでもないんだろうけど。

 

 

「大丈夫、君は聖杯の力を使って願いを叶える。オレは世界を救う。それでいい。それが辿るべき結末さ。」

 

 

似つかわしくないほどの晴れやかな笑顔はモルガンの気分を一艘、不安にさせた。

 

 

「そのオレってのはどっちなのよ。」

 

「はは、どっちだろうな。」

 

 

私に向けてるこの晴れやかな笑顔が、アイツにも、日々注がれていた。そう思うだけでモルガンは虫酸が走るのだった。

 

 

嫉妬、憎悪、そういう感情がこの霊基に馴染んでしまう。その事すらモルガンには憎たらしかった。

 

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

「気分が悪いだけよ。」

 

 

そう言うと、霊体化して消えてしまった。

 

 

誰もいない花園にコトミネシロウはそっと話しかけた。

 

 

「衛宮士郎。後少しだけ待ってくれないか。この篝火の命でもオレはやらなきゃいけないことがある。救わなきゃいけないものがある。だからもう少しだけ力を借りるぞ。」

 

 

拳をぐっと握りしめ、明後日の方向へと歩く。

 

 

__________空の大地、砕けた歯車。

 

 

 

瞼を閉じ、見えたのはそういうモノであった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「頼む...殺さないでくれェ...!」

 

 

__________殺した。

 

 

「ヒィ...嫌だ...来るなぁ!こっちに来るな化け物ォ!」

 

 

_________殺した。

 

 

「ウぅ...!イダイ...!ウデが!ウデがァ...!」

 

 

__________殺した。

 

 

「頼む。取引だ。聖杯の摘出はしないし、もう身体に手を加えたりなんてしないだから俺だけこ」

 

 

 

__________殺した。

 

 

 

全ての悪たるこの私の善の証明の為に人は私の悪逆によって鏖殺されなければならない。

 

 

__________何より。どうせ元の位置に返ってしまうのだ。幾ら殺しても変わりはしない。

 

 

私の危機に駆け付けた騎士は此方を静かに見つめている。

 

 

怯えるでもなく。卑下するでもない。私の純粋な観察とも取れてしまうくらいにはその瞳孔に揺ぎは見られない。

 

 

__________するり。と視点が変わった。

 

いや違うな。痛みなど感じぬこの身では全く気がつかなかったが、瞬きの間に首を落とされたらしい。

 

 

「暫く表に出るな。お前の出番はまだ早いだろうイリヤスフィール。」

 

 

大人しく言う事を聞いてやる事にする。

 

 

瞼を閉じ、深層意識の更に奥深い、「虚数の海」に潜り込む。

 

なんてことはない。何れは会えるのだから。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

斬り落とした首を拾い上げ、接合しながら膝枕で幼いマスターを寝かせた。

 

 

綺麗な銀髪に、美しい線を描く輪郭、彼がこの娘を愛した理由も分かる。

 

 

反転したこの身でも憶えている。

 

 

灼けた街の中に立つ大きな背中。

 

 

二本の剣。

 

 

死に際の彼の言葉。

 

 

魂に刻まれた記憶を大事にしまっておくなんて私らしくもない。

 

 

「セイバー...オレの最後の家族を...守って欲しい。」

 

 

シロウ...貴方は今何処に...

 

 

行方も分からぬ彼に想いを馳せるなんて、まるで私は少女みたいだな。

 

 

自分で思って、自分で恥ずかしくなってしまった。

 

 

「Arther...arrrr...Britai...kin...」

 

 

__________北東6000m先から敵の気配。

 

 

マスターの過剰な魔力供給により、セイバーの直感はより洗練されている。

 

気配遮断を持つアサシンを除けば、未来視レベルの直感を持つセイバーに近付く敵は先手を取る事は不可能である。

 

 

__________そう。例外を除けば。

 

 

 

(速い...かなり巨大な魔力が物凄いスピードで此方に向かってくる。何だこれは...?サーヴァントの反応に近いが...?)

 

 

セイバーはエクスカリバーを構え、迎え撃つ姿勢を整える。

 

(マスターが動けない以上は全力で守る事に徹するべきだが...守るのは得意ではない。だが、先に叩き潰せば話しは別か。)

 

 

上空に魔力源の正体である紅星が煌めいた。 流星は確実に此方を向いている。

 

 

(ならば、魔力源が地上に降下する前に撃ち墜とす。)

 

 

「卑王鉄鎚。__________極光は反転する。」

 

 

銀髪の少女から供給された至高の魔力はセイバーの魔力ソースとして存分に力を発揮し、星に鍛えられた最強の剣[約束された勝利の剣]に更に磨きをかける。

 

 

[オルタ]であるが故に得ることが出来た最高ランクの魔力放出は、地面を抉り、砂塵の大竜巻を起こす。

 

 

 

 

「__________光を飲め。潰えよ。」

 

 

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)

 

 

人間大砲。その言葉を思わせる程に、極太の光の直線がアーチを描く。

 

 

俄然、光の先にいた紅星にそれは直撃した。

 

 

「Arrrrrrrrrrr!!!!!」

 

何もかもを焼き切るほどの熱量。直撃さえすれば神さえ殺す。それほどの自信があったのだが、

 

 

紅い鎧の騎士はそれをものともしなかったかの様に、此方へ淡々と向かって来る。

 

 

「成る程な。」

 

セイバーは紅い鎧の右下腹部から右脚にかけてのの焦げ跡を見逃さなかった。

 

 

紅の騎士は約束された勝利の剣の着弾直前に身体を捻ることで、被弾を回避、そのコンマ数秒後に、自らの魔力放出のジェット噴射で後退し、完全に回避したというわけだ。

 

 

 

「貴様。何の用だ。我が星の閃光を見切るほどの達人であるにも関わらず、全く殺気を感じぬぞ。まさか口説きに来たというわけでもあるまいな?」

 

 

「Arther...Arther...」

 

 

「狂化で口も利けないか。面倒だな。」

 

 

__________このまま叩き潰すか。そう考え、剣を構えた直後に直感スキルがまた発動した。

 

 

(この紅い鎧の騎士より強い魔力...!何だこれは...!狼に乗った騎士か...!?)

 

 

 

闇夜を狼と共に駆ける黒い騎士が此方一直線に向かって来た。

 

「マスター。例のセイバーと、シムラのとこのバーサーカーを確認いたしました。これより戦闘に入ります。」

 

 

(2対1か...マスターを守りながらでは些か不利か...!)

 

 

そう思った途端、紅い鎧の騎士が黒騎士に向かって駆け出した。

 

 

「裏切りか...構わない。2人とも此処で私が排除し、聖杯は回収する。」

 

 

 

「Urrrrrrrrrrrrrrrrr!!!!!!ワガオウヲ...マモル...!コノシュヤリハ...!」

 

 

紅い兜が剥がれ、狂戦士の失われた理性が徐々に戻っていくのをセイバーは感じた。

 

 

__________もうこの男は既に狂戦士などではなく。

 

 

 

「我が王が為の栄光を取り戻せ!我が朱槍よォォォ!!!!!!」

 

 

 

「円卓の騎士...パーシヴァルか...!」

 

 

 

fin.

 



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18話 裏切りのjackカード

18話 裏切りのJack・カード

 

 

 

裏への転送プラント地下4階にて、フェルグス・マック・ロイは息絶えようとしていた。

 

 

「フーッ!フーッ!フーッ!」

 

アルスターの戦士特有の鍛えられた精神、

 

それのみで現界していた。

 

 

「頼むから誰か来い...!本当に誰でもいい...!」

 

コツコツ、と階段をブーツが駆ける音がする。

 

 

「きたきたきた!」

 

 

「オォォォォォォォイ!!!!!!!俺はここだァァァァァ!!!」

 

 

ゆったりとした足取りでコツコツとブーツでリズムを奏でる。

 

「そんなにデカイ声で叫ばずともわかる。裏の敗者だな?」

 

 

赤いマントに黒いコートという出で立ちの男が静かに立つ。

 

 

「なんだ、知ってるのか。なら話は早い。裏の聖杯戦争のことをここの奴らに伝えてくれないか?」

 

 

「それは聞けない願いだな。」

 

 

男は雑に伸びた前髪をゆっくりとした仕草でかき上げながら答えた。

 

 

「なんだと...!?」

 

 

「そもそも私は別に君を助けるわけに来たわけじゃあない。」

 

 

「知っているか?正義の味方はな、正義である必要はないんだ。」

 

 

「...!何をゴチャゴチャと抜かしてやがる...」

 

 

「__________投影開始。」

 

 

干将・莫耶、彼が最も愛用している夫婦剣を投影する。

 

 

「悪いがルチフェロなりしサタン様の命令でな。裏の生き残りであり、最後の痕跡である君を消してこいとのことだ。」

 

 

「貴様...人王の手下か...!」

 

 

「じゃあな。」

 

 

音も置き去りにするほどの一閃がフェルグスを貫く。

 

 

「カハッ...人王...奴だけは止めねばならぬ...」

 

 

漢は事切れる寸前にそう言い残して、漢は無念を負い、消えた。

 

 

 

「私の頼まれた仕事はあと2つか。」

 

 

「やれやれ、人間の王様も人使いが荒いものだな。」

 

 

無銘の男は夜へ飛び込んだ。

 

 

 

__________誰でもない自分を殺しに。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「まずは祝杯だよ。マキリくん。」

 

 

 

レオは財閥本部から遠く離れた別荘にて、新たな仲間を迎え入れていた。

 

 

「君こそ、というより君はよくやったよ。レオ」

 

「ははは、ありがとう。でもこれからは戦争になる。気を引き締めて行こう。」

 

 

「シムラと当主vs俺たちかな?構図としては」

 

 

「纏めるとこうだ。」

 

 

シムラ達が持ってる戦力

 

 

・バーサーカー

 

・ライダー

 

・アサシン

 

・キメラ・ホムンクルス兵

 

 

レオ達の持ってる戦力

 

 

・セイバー

 

・アーチャー

 

・バーサーカー

 

 

・クランカラティン(レオの先鋭執事達)

 

「サーヴァントの数ではこちらが勝ってるし、分はこちらにある。」

 

 

総力戦において、サーヴァントは超常兵器のような活躍を発揮する。

 

数での分は勝利に直結しやすいのである。

 

「しかし...裏切っておいてこんなこと言うのもなんだが...これレジスタンス相手はどうするんだ?殺しあった後に相手するわけだろ?」

 

 

「そこは心配すんな。坊主。俺1人でレジスタンスは皆殺しにできるぜ。サーヴァント含めてな。」

 

 

財閥のセイバー...今回の聖杯戦争において最強と言われたサーヴァント...流石の頼もしさである。

 

 

大口を叩いて、実行出来るのがこの男であろう。

 

 

「セイバー、慢心はいけません。不滅の聖剣とて、弱点は有ります。」

 

 

セイバーはマスターであるレオの忠告を鼻で笑い、いなす。

 

 

「フン。弱点はねえよ。強いて言えば弱点がねえのが弱点だ。」

 

 

「分かっているならいい。だが本当に気をつけろセイバー。お前は不滅の聖剣に2度も裏切られる事になるぞ。」

 

 

「__________。2度目はねえ。」

 

 

そう言うとセイバーは霊体化して消えた。

 

「怖いねえ...そう思わねえか...?シンジ...」

 

黒い球体が言葉をしゃべった。

 

無論。これはバーサーカーの真の姿でもある。

 

「バーサーカー...その姿で喋るのはその...気持ち悪いからやめてくれないか?もっとさ...美少女の姿とかあるだろ...?」

 

 

「しょうがないなぁ...ホラ...なってげたよ兄さん...?」

 

 

黒い球体は要望通り美少女へと変化した。

 

 

流れる様に黒い髪。特徴的なピンクのリボン。正しくそれはシンジの妹である桜そのものであった。

 

バーサーカーに悪意があったのかは知る由もないが、とにかくシンジは妹の姿を模したソレが気に食わないらしく眼を血走らせて、ブチ切れた。

 

 

「おい。バーサーカー...令呪は残り二画ある...十分にお前を自害させることの出来る画数だ。分かるな?」

 

 

「分かりませんよ兄さん...それに兄さんは私に自害なんて命令はできないでしょう?」

 

「それとも私無しでその文字通り腐った魔術回路で勝つのかな?」

 

生前の桜が決して自分の前では出すことのなかった猫撫で声で、桜の姿をした何かはそう問いかけた。

 

「令呪の命令は何も自害だけじゃない。強制することなんて幾らでもあるさ」

 

「__________令呪を持って、バーサーカーに命ずる。僕の妹に変身するのを禁ずる。」

 

 

スルスルと紐が解けるように桜の皮が取れていく。

 

 

「さて、これで残り1画、後がないよシンジくん。」

 

 

黒い球体の姿に戻ったバーサーカーは挑発をやめない。

 

 

「勿体無いな。シンジ、少々令呪の使い方が粗いんじゃないか?」

 

 

「なに、後々の計画では1画あれば充分だろう?」

 

 

レオは切り揃えた金髪の髪を手で弄りながら、チェスの駒を回した。

 

 

「それもそうですが。」

 

 

「詰めは甘くない方がいいと思います。」

 

 

そう言い残すとレオはキングの駒を持ったまま部屋から出て行って行ってしまった。

 

 

「ふぅ...」

 

 

一人になった解放感からなのか思わずシンジはこう呟いた。

 

 

「待っててくれ...凛、桜...2人ともボクが必ず蘇らせてみせる...」

 

 

 

__________孤独な少年の決意は固い。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「全く酷い状況だ。財閥のマスターは二派に分裂するし、自分のサーヴァントは何処かに走って行っちゃうし...」

 

 

 

シムラはグレイ当主と謎の黒い物質に汚染された財閥敷地を視察にしに来ていた。

 

 

「しかし、何故このタイミングで今財閥のマスター達は分裂を...?」

 

 

 

「さぁな...おじさんにゃ若者の心は分からんね。」

 

 

シムラは汚染された職員の抉り出された臓物を人差し指でグリグリと押しながら何かを思案した。

 

 

「いや、ちょっとわかってきた。」

 

 

「どっちなんですかシムラさん。」

 

 

「最終目的がわかりやすいのはレオ、キッス、殆ど分からないのが神父だな」

 

 

「キッスは火星の裏へ行く為の席取りが目的だろう、対してレオは火星の王になることだ。彼の見え透いた野心から読み取れる。」

 

 

「分からないのは神父なんだよねぇ」

 

 

医療用ホッチキスで切断された死体の下腹部を繋ぎとめながらシムラは考察をしている。

 

 

「奴の行動には一貫性がないしなぁ...うーん...そもそもアイツが何者なのかすらわからん...」

 

 

「私にはわかりますぞ。ただのゾンビです。」

 

 

「ゾンビ?哲学的ゾンビとかそんな回りくどい話は俺の両耳は受け付けんぞ。」

 

 

シムラは修理した死体に魔術コーティングを施し、術式を埋め込んだ。

 

 

「よし、これで13匹だな。後17匹だ。」

 

 

「死体に術式を埋め込んで、雑兵を作るかァ...」

 

 

「何か文句でもあんのか?」

 

 

シムラは歯茎から上が吹っ飛んだ死体を一瞥し、こりゃダメだなと言った表情で死体から回れ右をした。

 

 

「死体とはその人其の物なんでしょうか?それとも、ただのタンパク質の塊?」

 

 

シムラは上半身と下半身が分かたれた女性の死体に歩いていく。

 

 

「死んだ時点でもうそりゃ別人だろうな。別人というよりはもうその人本人じゃあない。」

 

 

「コトミネシロウは誰なのか改めて突き止める必要がありそうだな。」

 

 

「ンフフその必要は有りませんよ。」

 

 

「何故だ?」

 

 

16人目の死体を仕上げ、

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「これがB_RAVEかぁ...なかなか広いですね。」

 

 

 

レジスタンスの魔術結晶でもある飛行艇に一味は全員帰還して来た。

 

 

 

「...シンジの部屋が空いてるわ。そこを使って頂戴。」

 

 

今はいないシンジの部屋の鍵を凛は手渡した。

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

「それにしても素晴らしい。この船自体が宝石魔術の極致とも言えますね。」

 

 

「燃費と経費が最悪だけどね。正真正銘全財産ブチまけたわ。」

 

 

シロウはシンジの部屋の棚の下に落ちている写真を拾い上げた。

 

 

それは顔が黒く塗りつぶされているものの赤髪であることだけがわかる青年、銀髪で赤い眼をした幼い少女、癖っ毛の少年、凛、桜、紫髪をした長身の女性の集合写真だった。

 

 

 

__________オレはこいつらを知っている。

 

 

 

いや。オレというよりはオレの肉体がが、この集合写真に激しく共鳴している。

 

 

この共鳴は喜びや、哀しみといったその類の感情ではなく、激しい「困惑」を示している。

 

 

衛宮士郎よ。何を困惑しているのだ...?

 

 

「はい。御終い。」

 

 

キャスターに写真を強引に取り上げられてしまった。

 

 

「返してください。キャスター」

 

 

「いやよ。」

 

 

即答である。

 

 

「どうしてですか。」

 

 

「貴方の死に近づくからよ」

 

 

「...ッ...!いやしかし...!」

 

 

「自分が何者か知りたい気持ちもわかるわ。でも忘れないで頂戴。」

 

 

「貴方は私のマスターである以前に私の息子なのよ...?もっと自分を大事にして頂戴な。」

 

 

「オレの命なんて、もってあと数週間だろ。だったらオレが好きに使おうと勝手だろう。」

 

 

「______ッ!」

 

 

バチンと右頬に平手が飛んだ。痛い。これが痛みか。心の痛覚という新鮮さは、オレが生きているという実感を与えてくれる。

 

 

「冗談でも、そういう事は言っちゃダメ。」

 

 

「だって貴方がいなくなったら私はとても哀しいもの。」

 

 

濡れたブルーの瞳はしっかりと少年の姿を映す。

 

 

彼女の細い肩をそっと抱き寄せ、両腕の中に折れそうなほどに儚い彼女を収めた。

 

 

「シロウ...なんで貴方も泣いてるの...?」

 

 

掠れた声でそう聞いた彼女の質問には答えないまま、彼はそのまま彼女を押し倒した。

 

 

「__________そう。辛いのね。」

 

 

彼の白く染まった髪を彼女はそっと指で梳いた後、背中に手を回し、赤児を宥めるようにして背中を撫でた。

 

 

夜が更け、彼は彼女をひたすらに貪った。

 

情欲をただぶつけるという訳ではなく、また子を作るという事でもない。

 

神様のように曖昧で、彼が持っていて、彼が持っていないものをお互いの凹凸を埋め合わせる事によって、2人が持っていない「愛」を確かめ合った。

 

無論、そこに「愛」などありはしないと知っていながら、

泣きながら、彼はただ、ただ女を抱き、

 

また彼女も泣きながら、男を受け容れるのである。

 

両者はすれ違い、合わさる。その事がとても哀しいことに気付きはしない。

 

行為を得て、 2人も又、何がが欠落した「ケダモノ」で在ることを虚しさを伴い知るのであった。

 

 

fin.



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19話 KILLER Queen.

19話 KILLER Queen.

 

 

 

 

「この朱槍は我が王が為に!円卓の騎士パーシヴァル参るッッ!」

 

理性を取り戻したバーサーカーもとい、パーシヴァルは大狼に乗ったライダーに向かい、突撃した。

 

 

「今のうちに逃げるぞ。マスター」

 

消耗したのか、目を覚まさない少女を担ぎ、セイバーは退散することにした。

 

 

(すまない...パーシヴァル!今は頼んだぞ)

 

ランサーの高速の突撃を見て、すぐさま、ライダーは垂直に飛び、回避し、大剣を構えた。

 

 

「神狼よ。我が血鎧と成れ。」

 

 

先程まで黒騎士を乗せていた狼は粒子のようなものに変わり、鎧に変換された。

 

__________だが。

 

 

朱槍のパーシヴァルの「突き」は驚くほどに早かった。

 

 

神速、とでも呼ぶべきか。ライダーの甘えた回避に賺さず、槍を叩き込む。しかし、

 

(固い...!この鎧...ギャラハッドの盾並みに硬いぞ...!)

 

紅い槍は届かない。槍に仕込んである毒すら効いている気配はない。

 

 

(あの鎧はやはり宝具か。だとしたら厄介だ。)

 

 

「珍妙な手を使うな?まるであのクソ魔術師のようだ。」

 

 

大剣をくるっと円状に回し、近付いてきたパーシヴァルをいなした後にライダーは指を三本広げた。

 

 

「お前は三手で終わりだ。」

 

 

「フン。舐めるなよ。女騎士ごときに負ける円卓の騎士ではないぞ。」

 

 

(敏捷さなら誰にも負けない自信がある。幾ら騎兵のクラスといえど、走り負けることはない。)

 

 

「一。」

 

 

(なッー!?)

 

__________1発目。ライダーのクラスとは思えない程の魔力放出で、パーシヴァルを吹き飛ばし、

 

 

「二。」

 

 

__________2発目。そのまま空中に吹き飛んだ槍兵を大剣で突き刺し、

 

 

幻想大剣・神王失墜(バルンスタッド)。」

 

 

__________3発目。ライダーが持つ対軍宝具を槍兵の霊基に直接注ぎ込んだ。

 

(嘘だろッ!?こんなの瞬間移動のレベルじゃねえかッー!)

 

「三発ピッタシだな。バーサーカー。」

 

紅く煌めく鎧は砕け、血飛沫は空を舞った。

 

 

「__________いや四発だ。四発目の引き金は俺だがな。」

 

「貴様ァ...!」

 

 

__________王よ。覚えていますか。

 

 

 

貴族の家を追い出され、帰る場所をなくした私に鎧を与え、居場所を与え、そして「栄光」を与えたアーサー王よ。

 

 

カムランの戦いに参加することのできなかった私を、恨んではいませんか。王よ。

 

 

アーサー王。私にとって貴方は紛れも無い英雄だった。

 

 

憧れだったんだ。貴方は。

 

 

__________そうだ。やっと分かった。

 

 

俺が「虚構」の英霊だとしても。

 

 

俺のこの想いは。

 

 

王への忠誠は。

 

 

「虚構」じゃない。

 

 

「喰らうがいい。彼方の王が持ち得る最強の宝具。何者も阻む事の出来ない星の閃光を。その名も。」

 

 

 

最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)

 

 

 

「貴様。自分ごと焼き切る気かッー!」

 

「この距離で対城宝具は耐えきれんだろう?」

 

「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

虚構英霊(オスカーズ・サーヴァント)私は自分の作品達をそう呼んでいます。」

 

 

シムラの次の目的地への道すがら、グレイ当主は自らの能力について語った。

 

 

「彼らは、実際に存在した真実と、全く存在しない虚構が霊基で混ざってしまったという状態なんです。」

 

 

無精髭をさすりながら、シムラは何かを察した。

 

 

「しかし、そこには軸となる真実と虚構を支える白紙のページが必要というわけか。」

 

グレイ当主は面白いおもちゃを見つけた子供のように無邪気に笑った。

 

無論、シムラが虚構への理解者である故である。

 

「左様。虚構、真実、それらは二律背反というわけではないのです。」

 

 

 

「しかし、君の宝具はまるで二律背反になっているではないか。ウソとホントとがだよ。白紙の人間という支えがある故という理由はあっても、理解は全くできんね。オジさんは。」

 

 

「そもそもウソをつく人間に白紙な奴はおらん。ピカソの絵のようにぐちゃぐちゃで意味のわからん奴ばっかだ。」

 

 

「ンフフーン。生まれついて白紙な人間など、そもそも存在しませんよ。シムラ・バッカトーノ。」

 

 

しまった。そうだったとでもいいだけなリアクションを体全体で取り、爺は戯けてみせた。

 

 

「造りすぎて忘れておった。」

 

 

「さて、そろそろですかな。私のライダーがバーサーカーを殺し終わるのは。」

 

 

「ならさっさと急がなきゃだぜ。」

 

 

そう言うと、初老の爺は肩甲骨を鳥の羽根に変化させ、手招きをした。

 

 

「ほら、早く捕まれ。」

 

 

 

「きもちわるっ。」

 

 

「振り落とすぞ。途中で。いや本当に」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

〜その頃レジスタンス一同は〜

 

 

 

「どうです。私特製のサンドウィッチは。」

 

 

「うまっ!なんだこれっ!うまっ!」

 

「ランサー...二回も言わなくていいから。うまっ!」

 

「凄いですね。これ山菜を使ってるんですか?」

 

狭い艦内でコトミネシロウ特製の朝食が全員に振舞われていた。

 

「おや。どうしましたか。フジキユウサクくん。」

 

そんな中俺は朝食の前で不機嫌な顔で腕組みをしていた。

 

「食欲ねーんだよ。ほっとけバーカ。アーホ。」

 

「おやおや仕方ありませんね〜。ではライダーくん。食べさせたまえ。」

 

「はいマスター♡あ〜ん♡」

 

ライダーは屈託の無い向日葵のごとき笑顔を向けながらサンドウィッチを差し出してくる。

 

その仕草の1つ1つがあざとい。あざとすぎる。

 

 

「フン。騙されねえぞ。どうせ幻術だろ?」

 

 

「えぇ〜!?酷いなぁ...マスター...じゃ〜あ...」

 

 

「い・ら・な・い?」

 

 

頑なにコトミネ国との鎖国状態を貫いたフジキユウサク国の唇はライダー共和国の人差し指をそっと当てられてしまうだけで、開門してしまった。

 

 

「あ〜ん♡」

 

 

可愛い子にあ〜んしてもらうと言う男の夢。浪漫。此れは何者にも変えがたい幸せである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようユウサクくん。」

 

 

これがホームズの変装でなければ。

 

 

「お前の変装かよォォォォォォ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

「HAHAHA!油断大敵だよ少年。」

 

 

「馬鹿馬鹿ァ!ホームズの馬鹿ァ!!!!!」

 

男の浪漫を破壊した罪への制裁に渾身のチョップを食らわす。

 

 

「甘い!必殺!バリツシラハドリ!」

 

だが、名探偵はお手本レベルのシラハドリをしてみせた。

 

「バリツシラハドリって何!?最早バリツ関係ないじゃん!?」

 

「バリツはね、万能なんだよ。」

 

「意味わかんないんですけど!?」

 

「しかし、このサンドウィッチうまっ...ハッ!」

 

_________視線を感じる。このいやらしい視線は。

 

「へェ〜ッ...美味しかったですかァ〜そうですか〜!ありがとうございますぅ〜」

 

こいつぅ〜!ホームズとグルだったのか...!おのれぇ〜!

 

「あ〜美味しかった!で、話って何?コトミネ君」

 

「ああ、そうでした。」

 

「今日は裏切り者の愚かな死を見に行きましょう。」

 

__________裏切り者。もしかして

 

「シンジのことか?」

 

 

「ええ、その通りです。まあ彼を見に行く本来の目的はこの火星の聖杯戦争での<本当の勝利条件>を皆さんと見に行くためでもありますが。」

 

本当の勝利条件...?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

枯れた荒野を騎士は必死に駆けた。

 

 

 

目的地はない。

 

 

 

何処か遠くへ。

 

 

 

彼女と私だけの世界がある場所へ。

 

 

 

枯れた荒野を弓兵は悠々と駆けた。

 

 

 

目標はあの日のカケラ。

 

 

 

彼女の影を辿る。

 

 

 

あゝ。私の剣は彼女を斬りたがって居る。

 

 

 

「あの時の二丁拳銃使いか...!振り切れんな。仕方あるまい。」

 

 

騎士は走るのをやめ、迎撃態勢に入った。

 

 

「それで良い。」

 

弓兵は騎士が戦闘態勢に入ったのを確認しそのまま突撃した。

 

 

研ぎ澄まされた二閃が、騎士を襲う。

 

だが、セイバーはこれを軽く慣れたように去なす。

 

______まるで過去にもこのやり合いがあったような感覚。

 

 

__________いやあったのだ。

 

 

 

__________確かにあった。

 

 

 

「相変わらず踏み込みが甘いですね。シロウ。」

 

衛宮家道場での打ち合い。短いながらもそこにあった暖かい日々は、セイバーの霊基に確かに刻まれていた。

 

「そんな名前だったか。オレは。もう忘れたよ。キミの残像以外は。」

 

衛宮士郎だったものはそう答える。

 

「そう、キミだけは、覚えてた。」

 

 

「だから殺す。キミを殺せば、無銘になれる気がするんだ。」

 

 

「シロウ...。」

 

 

騎士は先程までの虫を殺す程の殺気はもう出せなかった。

 

出すことができなかった。

 

 

自分のマスターが、堕ちた姿を見て剣を握る力が弱まった。

 

 

弓兵の銃口が此方を向いた。

 

_____シロウ...!もうやめてくれ...!

 

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)

 

 

彼の投影詠唱が始まる。このままではマスター諸共彼の剣で無茶苦茶になる。それはわかっているのだが、

 

 

足が動くことを許さなかった。どうやら魔力切れ(ガス欠)のようだ。もうダメか。そう思った時である。

 

 

I am the bone of my sword.(体は剣で出来ている。)

 

 

突如、彼より低い声色の詠唱が脳内響き渡る。

 

 

__________南東4km先か。研ぎ澄まされた直感で察する。

 

 

「もう1人いる」と。

 

 

fin.



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英霊召喚

2話 英霊召喚

 

1節 「擬態」

 

〜2ヶ月前の燈〜

 

「失礼します。ティエリア先生。」

 

「...座りたまえ。燈。なぜ私が君を呼びつけたかわかるか?」

 

眉間に皺を寄せ、我が師であるティエリアはじっと私を睨みつけた。

 

「卒業式の風景をインスタに乗せたことでしょうか...?」

 

「はぁ...そんなわけがないだろうが。燈。またヤバいことに首を突っ込んだな?」

 

ぎくっ...バレてる...!

 

「日本のトーキョーで聖杯戦争がアンダーグラウンドで行われようとしている。...お前それに参加するつもりだったな?」

 

「...はい。」

 

なんでもお見通しだなぁ...この鬼教師は...仕方ない。アレ使うか。

 

「はぁ...なんて事だ...これがエルメロイ2世氏に知れたら...」

 

「いいか!!!聖杯戦争に参加するってのはなぁ!全国の魔術師から注目されるってこと!!!即ち命を狙われるってことなんだぞ!?ホルマリン漬けにされたり解剖されたりしても知らねえからな!?と!に!か!く!だ!反省文とエルメロイ2世氏にアポを...」

 

「擬態の魔眼」これが私の最大の武器である。

 

対象と瞳を合わせることにより私の都合の良い擬態した事実を幻覚させる。

 

私とお話ししてるつもりのティエリア先生には悪いけど...

 

ごめん!!!!!

 

彼女の学び舎であった時計塔を背に、燈は空港へ向かった。

 

勿論行き先は戦いの地「東京」である。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

ただっぴろい倉庫...元々はある小学校の体育館であったという。

 

この廃墟に私は魔術陣をセットしてある。

 

今夜の深夜0:00を後は待つのみ。

 

0:00になったら詠唱開始だ。

________よし。

 

 

「素に銀と鉄

礎に石と契約の大公

降り立つ風には壁を

四方の門は閉じ

王冠より出で

王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ

繰り返すつどに五度

 

ただ満たされる刻を破却する

________告げる

汝の身は我が下に

我が命運は汝の剣に

聖杯の寄るべに従い

この意この理に従うならば応えよ。

 

誓いを此処に

 

我は常世全ての善となるもの

我は常世全ての悪となるもの

 

汝 三大の言霊を纏う七天

 

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」

 

触媒であるエクスカリバーを中心に、蒼い閃光が私を包んだ。

 

眩しい...眼が灼かれてしまいそうだ。

 

閃光は徐々に勢いを失い、

 

やがて収まった。...ってアレ?

 

何も起こらない...おかしい...

 

最強のクラスであるセイバーが本来なら此処に来る筈なのだが...

 

「もしかして失敗しちゃった...?」

 

アレ...でも、「触媒」がいつの間にか消えている。

 

どういうことなんだろう...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

2節 「血の盃」

 

「先日、所属事務所から人気テレビタレントの六王紫苑さんが現在行方不明になっていることが記者会見で発表されました。警察の捜索も既に始まっているとのことですが、捜査は難航を極めており...」

 

「へへへ...六王紫苑はここですよっと...」

 

暗い部屋の中の一点の灯りの前で男はぼそり、と独り言を呟いた。

 

男もまた魔術陣を部屋にセットしていた。

 

しかしこの魔術陣には他とは違う特徴がある。

 

男が殺し、採取した「女の血」で描かれているのだ。

 

「韓国の売春王から盗んだ<英雄達の盃>こいつを使って誰が召喚されるかはお楽しみってとこか...」

「さてさて...召喚と行こうか。素に銀と鉄

礎に石と契約の大公

降り立つ風には壁を

四方の門は閉じ

王冠より出で

王国に至る三叉路は循環せよ

閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ閉じよ

繰り返すつどに五度

ただ満たされる刻を破却する

 

_____セット。

汝の身は我が下に

我が命運は汝の剣に

聖杯の寄るべに従い

この意この理に従うならば応えよ

 

誓いを此処に

 

我は常世全ての善となるもの

我は常世全ての悪となるもの

 

汝 三大の言霊を纏う七天

 

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ。」

 

血の魔術陣を中心に赤い閃光が男を包んだ。

 

赤い閃光は衰えることなくその光を増し、エーテルはやがてヒトの形となった。

 

_______赤い光の中から現れたのは紅の瞳をした東洋人の女であった。

 

「私の眠りを妨げた上に、使役しようとな?余程首を刎ねられたいようだ。なぁ?色男。」

 

青銅刀を首に向けられ今にも殺されそうなことに僅かばかりの感動を覚えた。

 

「使役、とは考えていない。」

 

「じゃあなんだ?答えてみろ。ただし考えて物は言えよ。発言次第ではお前の首は繋がっているモノは思うなよ。」

 

「これは同盟関係だ。ライダーと俺の。」

 

「.....。」

 

ライダーは青銅刀を振り下ろし機嫌が悪そうにソファーに腰掛けた。

 

「...酒と盃を持って来い。桃園の誓いとまでは行かずとも、お前との同盟関係を約定するという意味で盃を交わそう。」

 

互いの盃にはお互いの瞳が、お互いの思いが酒に写されているようであった。

 

「この盃に勝利を誓おう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

3節

 

「無形」

 

私を召喚したのは初老の男であった。

 

彼は私を初めて召喚した時にくしゃっとした笑顔で迎え入れてくれた。

 

まるで孫娘を迎え入れるお爺ちゃんのようだった。

 

その屈託の笑顔を見た時、私は言い様のない感情に支配された。

 

なんだろう。なんて言えば良いんだろう。

 

「アサシンよ。誓ってはくれないだろうか。」

 

初老の男は鋭い目付きで私をしっかりと離さない。

 

その男の眼には確固たる覚悟がある。そう私に感じさせた。

 

_______あの時の新撰組達のような。

 

 

「どんな結果であろうとも、最期まで私と共に剣を振るってはくれないだろうか。」

________私はこの問い掛けに。

 

________我が剣はこの誓いに。

 

 

「...すみません。」

 

答える覚悟を今は持ってはいなかった。

 

腑抜けた今の私を土方さんが見たなら、

 

きっととても怒っていたんだろうな。

 

そんな事を考えていた私とは裏腹に、初老の男は黙って優しく私の肩を撫でた。

涙に気づかれないように目元を急いで拭ったが、初老の男には気付かれていたのだろうか。

 

そっとハンカチを差し出し、初老の男は廟の奥へと戻った。

 

 

私はハンカチを胸にしまった後、静かに嗚咽を漏らした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

4節「外貌者」

 

「魚の骨をこう綺麗にとっている時、言いようのない幸福感に包まれるんです...この気持ち...分かりますよね?マスター」

 

洋食屋「ゲイボルグ」にて志村とサーヴァント達は食事を取っていた。

 

サーヴァントは魔術師にとっては最高に便利な使い魔であると言われる理由の一つとして食事、睡眠などの人間に必要な生理的活動を行う必要がないということが挙げられる。

 

にも関わらず、この男キャスターは積極的に食事、睡眠を取りたがる。

 

「全く分からんな...そんな嬉々として魚の骨を丁寧に取り出す奴は中々いない...君も中々に変人のようだ。」

 

志村はテーブルギリギリにギッシリと並べられた特大ステーキ8人前を豪快に頬張る。

 

鉄板でじうじうに焼かれた牛肉達は店中に芳ばしい匂いを充満させていた。

 

「ステーキを頬張る初老の男と、骨を嬉々として取る中肉中背の男...中々目立ちますね...大丈夫でしょうか?マスター」

 

御歳65歳にしてしっかり生えそろった真っ白な歯で豪快にステーキを噛み切ると、今度は勢いよくお冷やを暑さで枯れた喉を潤す為に注ぎ込む。

 

「...くぅ、うめえ。心配はしなくて大丈夫だ。それよりももっと危惧すべき事は山程ある。」

 

「ほうほう危惧すべきことって何です?」

 

志村はフォークとナイフをかちゃり、と置いた後、丁寧に口の周りの油をシートで拭き取りご馳走さまの意で手を合わせた。

 

「セイバー召喚を最後に全員揃った。祭りの主役達がな。俺たちもそろそろ動かねばならん。」

 

「八王子へ向かおう。アーチャーの報告では其処にセイバーのマスターがいる。」

 

「_______さあ狩猟の時間だ。」

 

「解剖できると良いなぁ」

 

明らかに異質な男達は会計をきちんと済ませ、店を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

最終節 「狩猟魔王」

 

ガタン、と不穏な音がした。

 

______後ろに誰かいる。

 

そろりそろりと迂回して廃棄箱の中に隠れた。

 

セイバーの召喚に失敗した上に神秘の秘匿も失敗とか...お前は時計塔で何を学んだんだとか先生にグチグチ言われそうだ...

 

廃棄箱の隙間から私は恐ろしいものを見た。

 

40代くらいの男性...?の首を右手に持った血濡れのドレスの女性が...

 

「此方をしっかりと見ている」のだ。

 

まるで隠れていることなど御見通しであるかのように。

 

思い切って箱から出るか...?

 

______いやそんな事をすれば。

 

足りない頭で試行錯誤を繰り返している間に天使は此方へ迷いなく向かって来る。

 

やっぱバレてるし...!

 

勢い良く箱から飛び出し、男子に媚びる方ではない走り方で全力で疾走した。

 

天使もそれを確認すると恐ろしいスピードで此方に向かって来る。

 

30メートルぐらい走りきったところで天使に間合いを詰められてしまった。

 

_______くそ。一か八かやってみっか。

 

天使はその御姿に似合わないほどに鋭いフックを仕掛けて来る。

 

利き手ではない左腕でそのフックを受け、右手で天使の首を掴んだ。

 

左腕は関節がもう1つ増えたんじゃないかというほどに呆気なく曲がってしまった。が、「魔眼」の発動条件は整った。

 

________擬態発動。

よし。天使は幻覚を見せられて混乱しているのか静止してしまったようだ。

 

今の内に早く逃げないと...!

 

 

「慢心ってさァ...見てて楽しいよね♪」

 

「喰らえるって確信が胸を占める気がして堪らないよ...♪」

 

_____...!

 

横腹が何かに抉られる感覚があった。

 

その痛みに耐えられず、私は地面に伏した。

 

その隙を突かれ、天使は私に覆いかぶさった。

 

「あははははははははは!!!!!無様!無様!無様無様無様無様!!!あはははははははは!!!!!!!」

 

「ねえ!ねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえねえ!!!!!!!死ぬ前ってさぁ!!!!!!どんな!!!気持ち!!!!あははははははは!!!」

 

_____怖い。この天使が今から私に無慈悲に与える「死」が、

 

とても怖い。

 

私は思わず眼を閉じた。

 

____その時、血飛沫だろうか、私の顔に液体が飛び散った。

 

「えへへ...♪痛いなぁ♪だぁれ?君」

 

 

赤い紋様の入った鎧に身長のひと回り分大きい大剣。

 

________この人はまさか

 

「俺はセイバー。コイツを守り、」

 

 

「______世界を救う者だ。」

 

 

END

 





キャスターさん家の今日のご飯

キ「えーあまりのキャスター人気から始まったこのコーナー記念すべき1回目でございます。」

志「出番無い癖に調子乗るなよ」

ひよこさん「銀ちゃんとおま」



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続き

 

[幕末の人斬り]

 

鬼、容赦を知らぬ化生、人の皮を被った畜生

 

生前、私はこうも多く呼び名があったものだが只私は誰でもない彼に認められる為に鈍を振るっていたに過ぎない。

 

土方歳三、私の眼にはこの男の背中が確かに映り続けていた。

 

火に侵される問屋で、死骸の先に立つ穢れた背中は私には大きく見えた。

 

憧れだった。

 

そうだった筈、

 

なのに、

 

________私は刀を置いた。

 

近藤さんほど人望がある訳でもなく、新八ほど忠臣でもない、沖田ほどの腕も無ければ、土方さんほど情に熱くはない。

 

何故だ。

 

あの男はなぜ私を喚んだ。

 

今ここにある私は誰だ。

 

何処の、誰なのだ。

 

なぜ私は、目の前の怯える一般人を。

 

切らねばならぬのだ。

 

[墓荒らしと窮地の鼠]

 

藤木遊作がアサシンに斬られる寸前から時を遡ること1時間前。

 

藤木遊作はある考えで霊地へ来ていた。

 

彼には悩みがあった。そう、魔力が余りにも足りな過ぎる事である。

 

単純な接触供給、関節供給を含め、アヴェンジャーは見た目に会わず、其処に実体化しているというだけで自分の魔力を物凄いスピードで食ってしまう厄介者だった。彼女が気を使って常に霊体化してくれているおかげでなんとか生命活動は保てたものの、申し訳なさと魔力が足りない事による息苦しさが我慢出来ない為行動へ至ったというわけだ。

 

これの解決方法としては召喚地へ出向く、霊地へ行くなどが効果的なのだが召喚地が不明すぎることと、霊地へ出向くことの2択が彼には思いついたが前者が諸事情により余りにも無謀過ぎた為後者を選択せざるを得ない。そこで、近場の墓場へ来たのだが。

 

「...なんだこりゃ」

 

日本式の墓である暮石の納骨所が開いている。しかも、一つや二つではない。

 

全部だ。全部開いている。

 

気になって納骨所の中身を見てみたがやはり、ない。

 

...誰かが持っていってしまったのだろうか?

 

そんな事を考えながら異様な墓場を練り歩いているとある男に遊作は声をかけられた。

 

「つかぬ事をお伺い致しますが、お参りですか?生憎、私もなんですよ。一緒にどうです?」

 

端正な顔には余りにも不恰好すぎるボサボサの赤毛に、センスの悪過ぎる悪趣味なスーツを纏う男からは人間味らしい人間味が感じ取れなかった。

だが、機械とはまた違うような。

 

言ってしまえば道を踏み外した外道。悪道。

 

その様に感じさせる人に対する「悪意に近い善意」が蒼い瞳から感じられたのだ。

 

「結構、墓参りに来たわけじゃない。勿論。墓荒らしにも。」

 

遊作は見抜いていた。当然だ。

 

この男がサーヴァントで、墓を荒らしていたことを。

 

しかし、サーヴァントは拍子抜けした様子もなく淡々と告げた。

 

「オーウ、そうですか。なんなら一緒に墓荒らしなんてどうです?」

 

どこに隠していたのか。古びたスコップを此方へ向けた。YESと答えても墓荒らしは一緒にしてくれなさそうだ。

 

「拒否する。」

 

往々にして応えたものの、対抗する術を今は持たないことを自覚していた為、外へ向かって走り去ろうとしたが巨大な骸骨2名が道を阻んだ。

 

「アヴェンジャーのマスターでしたよね。単刀直入に言います。貴方の死体が欲しい。」

 

20年生きてきて、このレベルでなおかつとても酷い、ある意味ダイレクトすぎる告白は初めてだ。勿論拒否する。こんなダサ男と死のランデブーは御免被る。

 

「ぐふぉ...」

男の不意の一撃に俺は思わず倒れ込んだ。

 

「結構応えませんか?」

 

細身で服がダサいとは思っ[幕末の人斬り]

 

鬼、容赦を知らぬ化生、人の皮を被った畜生

 

生前、私はこうも多く呼び名があったものだが只私は誰でもない彼に認められる為に鈍を振るっていたに過ぎない。

 

土方歳三、私の眼にはこの男の背中が確かに映り続けていた。

 

火に侵される問屋で、死骸の先に立つ穢れた背中は私には大きく見えた。

 

憧れだった。

 

そうだった筈、

 

なのに、

 

________私は刀を置いた。

 

近藤さんほど人望がある訳でもなく、新八ほど忠臣でもない、沖田ほどの腕も無ければ、土方さんほど情に熱くはない。

 

何故だ。

 

あの男はなぜ私を喚んだ。

 

今ここにある私は誰だ。

 

何処の、誰なのだ。

 

なぜ私は、目の前の怯える一般人を。

 

切らねばならぬのだ。

 

[墓荒らしと窮地の鼠]

 

藤木遊作がアサシンに斬られる寸前から時を遡ること1時間前。

 

藤木遊作はある考えで霊地へ来ていた。

 

彼には悩みがあった。そう、魔力が余りにも足りな過ぎる事である。

 

単純な接触供給、関節供給を含め、アヴェンジャーは見た目に会わず、其処に実体化しているというだけで自分の魔力を物凄いスピードで食ってしまう厄介者だった。彼女が気を使って常に霊体化してくれているおかげでなんとか生命活動は保てたものの、申し訳なさと魔力が足りない事による息苦しさが我慢出来ない為行動へ至ったというわけだ。

 

これの解決方法としては召喚地へ出向く、霊地へ行くなどが効果的なのだが召喚地が不明すぎることと、霊地へ出向くことの2択が彼には思いついたが前者が諸事情により余りにも無謀過ぎた為後者を選択せざるを得ない。そこで、近場の墓場へ来たのだが。

 

「...なんだこりゃ」

 

日本式の墓である暮石の納骨所が開いている。しかも、一つや二つではない。

 

全部だ。全部開いている。

 

気になって納骨所の中身を見てみたがやはり、ない。

 

...誰かが持っていってしまったのだろうか?

 

そんな事を考えながら異様な墓場を練り歩いているとある男に遊作は声をかけられた。

 

「つかぬ事をお伺い致しますが、お参りですか?生憎、私もなんですよ。一緒にどうです?」

 

端正な顔には余りにも不恰好すぎるボサボサの赤毛に、センスの悪過ぎる悪趣味なスーツを纏う男からは人間味らしい人間味が感じ取れなかった。

だが、機械とはまた違うような。

 

言ってしまえば道を踏み外した外道。悪道。

 

その様に感じさせる人に対する「悪意に近い善意」が蒼い瞳から感じられたのだ。

 

「結構、墓参りに来たわけじゃない。勿論。墓荒らしにも。」

 

遊作は見抜いていた。当然だ。

 

この男がサーヴァントで、墓を荒らしていたことを。

 

しかし、サーヴァントは拍子抜けした様子もなく淡々と告げた。

 

「オーウ、そうですか。なんなら一緒に墓荒らしなんてどうです?」

 

どこに隠していたのか。古びたスコップを此方へ向けた。YESと答えても墓荒らしは一緒にしてくれなさそうだ。

 

「拒否する。」

 

往々にして応えたものの、対抗する術を今は持たないことを自覚していた為、外へ向かって走り去ろうとしたが巨大な骸骨2名が道を阻んだ。

 

「アヴェンジャーのマスターでしたよね。単刀直入に言います。貴方の死体が欲しい。」

 

20年生きてきて、このレベルでなおかつとても酷い、ある意味ダイレクトすぎる告白は初めてだ。勿論拒否する。こんなダサ男と死のランデブーは御免被る。

 

「ぐふぉ...」

男の不意の一撃に俺は思わず倒れ込んだ。

 

「結構応えませんか?」

 

細身で服がダサいとは思っていたが、大振りのスコップを自分の脇腹にこうも早く叩き込めるとは、流石にサーヴァントと言ったところか。

 

再び立って反撃、と行きたいところだが上手く身体が動かない上に潰れた臓器から出てきた血が詰まり、上手く呼吸が出来ない。

 

「ハゥ...はぁ...!」

 

なんとか逃げ出そうと、ジタバタと逃走を試みるも、まるで飼い猫を扱うように首を抑えられてしまった。

 

「動かないでください。今の不足しすぎている魔力ではアヴェンジャーは顕現不可能な上に逃走も不可能です。諦めて来世の人生楽しみましょうよ。ねぇ?」

 

一緒に墓荒らしやっときゃ良かったかな。行く先々で理不尽な暴力に会いすぎるとこうも人は冷静になれるのか。

 

[祈りを生む]

 

ある日アサシン陣営に一つの手紙が届いていた。

 

「拝啓、浅葱の剣士様へ お日柄も良く施術日和ですね。そう思いませんか?え?思わない?思ってない?まあそうでしょうね。豊胸手術とかしません?やったことないけどチャレンジはしてみますよ。 PSアヴェンジャー陣営一緒に潰しに行きませんか。」

 

本文の内容は兎も角、いやこれ逆だろ。本文とPS逆だろ。本旨がおまけになってるじゃないか。ご飯に紅生姜かけてカレーのルー添えてカレーライスです。と言うくらいには人を舐めている。

 

人を舐めているのだが...我が主従はアヴェンジャー陣営を潰す事に興味津々であった。

 

「良い。交渉次第では協力関係も吝かではない。先ずは一つ山を潰しに行く。」

 

________そういうわけで、藤木遊作を暗殺しに出向いたのだが

 

私の目の前で行われていたのは一方的な嬲り殺しであった。

 

精気溢れる藤木の顔は、今や、スコップで殴られすぎて元の形もない。

 

血を吐きながら、暴力を身に受ける彼は余りにも...

 

自分の心の中で唱えた続きの三文字が斎藤一という人間に似合わずアサシンは考えるのをやめ、刀を抜いた。

 

「キャスターやめろ。私が首を斬り終わらせる。」

 

「始めからそうしたほうがいいと思ったんですけどね。なんか嫌そうな顔してたんでしかたなく。」

 

ああ、真正面から斬り殺したいと思うほどにイラついた人間はコイツと新八くらいだ。

 

ひゅー、ひゅー、と血が詰まった喉で必死に呼吸をする彼の首元に私は刃身を当てた。

 

「言い残すことは。」

 

らしくなかった。

 

今から唯の肉塊になる人間に遺言を聞くなどと。

 

「ィいたグなぃ。」

 

必死に絞り出したその言葉は何を言っているかは分からなかった。

 

ただ伝わったのは

 

「生きたい」という渇望。

 

死という絶望からの逃走。

 

何度も見てきた。

 

斬り捨てた浪士にも、裏切った仲間にも

 

たくさんこういう奴はいた。

 

殺せる。私はいとも簡単にこの男の首を切断できる。

 

震えた右手を左手でしっかりと抑えながら彼の首元へ刃を侵入させようとした。

 

させようとするのだが、する度に奴が問うのだ。

 

「お前は何処の誰なのだ。何のためにここへ来たのだ。」

 

嗚呼、私は

 

 

__________何処の誰なんだ。

 

「意識」という私の中の装置がフラットになる。

 

ボロボロになった血だらけの男に向けていた刃は、

 

墓を荒らす医者へと向けられた。

 

____NEXTて



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