IS学園に入学したので皆に眼鏡をかけてもらいたい (陽夜)
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1.眼鏡女子好きの僕がIS学園に入学しました

 

 

 

 

"レンズを通して見るこの世界は、とても透き通っているように僕には感じる"

 

 

 

 

いつからか視力の低下に伴い使い始めた"眼鏡"。最初は視界の変化に違和感を感じたり付け外しが面倒だなぁくらいにしか思っていなかったけど、そんな不満はすぐに消え去り直ぐに自分の身体の一部のように馴染んでいった。

でもラーメンを食べる時に必ず曇るのは昔からずっと困っているんだ。いちいち気にしなきゃいけないからね。

え?眼鏡を外せばいいって?ま、まぁそんな細かい事は言わないでよ。

 

しかし慣れというのも怖いものだと思う。以前一度寝ぼけて床に落ちていた眼鏡を足で踏み潰してしまった時は絶望した。新しいのを作るまでぼやける視界にイライラして日常を過ごすだけでストレスが溜まったものだ。

 

と、そんな事は今はどうでもいいんだ。唐突だけど、実は…

 

 

 

 

 

 

 

僕の親友が、目の前でISを動かしています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どどどどうしよう"優"!?」

 

こっちのセリフだよ。本当に勘弁していただけませんか一夏君。

 

「とりあえず降りられないの?そのISから」

「えーっと、ちょっと待てよー」

 

そんな悠長にしてる余裕ないって。こんな所誰かに見られたらーー「そこの二人、此処で何をしているんですか!」ああもうほら、言った側から人が来ちゃったよ。

 

「もう筆記試験は始まっていますよ…って、えええええっ!?お、男!?」

 

見回りの試験官さんかな?まぁ、そういう反応になりますよね。寧ろこの状況で冷静な自分が恐ろしくなるよ。

 

「な、なんで男がISに…う、上の人に連絡しなきゃ!」

 

焦った様子の女性は携帯を取り出すと、一目散に何処かへ電話をかける。

 

prrrrrrrr prrrrrrrr

 

「あっ、も、もしもし!い、今私の目の前でーーー」

 

あーあ、これは面倒事になるのは確定だね。

僕達はただ高校受験をしに来ただけなのになぁ。

一夏が躓いてISに触れなければこうはならなかったのになぁ。

 

「うっ、そんな目で見ないでくれよ…」

 

まぁいいや。今はそれよりも、ね?

 

 

 

「お姉さん、その眼鏡よくお似合いですよ。素敵です」

「……えっ?」

 

 

 

このお姉さんの眼鏡姿を褒める方が先かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美しい人がかければより一層知的な雰囲気を醸し出すし、天真爛漫で元気一杯な子がかければギャップが生まれる。眼鏡とはそんな素晴らしいアイテムなんだ。

僕の周りの人でも、一夏のお姉さんや中国娘の幼馴染なんかがいい例かな。

 

「えーっと、この先を右に曲がって…」

 

眼鏡の魅力を語るとキリがないのでここら辺にしておこう。さて、僕は今ある学校の校舎の廊下を歩いている。

 

「あった。あそこの教室だね」

 

時刻は朝早い。今日は入学初日の授業開始日なのだが、僕は寝坊してしまった。

昔から朝には弱いんだ。眼鏡をかければ瞬時に意識は覚醒するが布団の魔力からは中々離れられない。

 

「(一夏大丈夫かなぁ。まだ教室に入ってない僕でも心臓ドキドキしてるのに)」

 

とは言ってもこれ以上遅れるわけにはいかない。自分のクラスと思わしき教室の前に辿り着いた僕はドアに手をかけ一呼吸置く。

 

「(ふぅ、よしっ)」

 

ガラガラガラッ

 

「すいません、遅くなりました」

「遅いぞ"桐崎"。初日から何をしていた」

「寝坊しました」

「…ほう?」

 

ゆっくりとヒールの音をコツコツと鳴らしながら近づいてくる黒いスーツの女(鬼)。手には出席簿を持っていてーーって、ち、千冬さん?どうしてそんな硬そうな物を振りかぶっているのですkーー

 

スパァァァン‼︎

 

「いっつ!?」

「馬鹿者。初日から寝坊してどうする」

「す、すいません…」

 

て、手加減無しですか。まぁ僕が悪いのには違いないんだけど。

 

「今はちょうど織斑が自己紹介を終えたところだ。ついでにお前も自己紹介をしろ」

 

一夏の方をチラッと見るとドンマイとでも言いたげな顔をしていた。

ついでにその戦場を乗り越えたような誇らしげな態度をやめなさい。どうせまともな自己紹介も出来てないんでしょ、一夏だし。

 

スタスタスタ

 

「(…流石に女子しかいないとなるとやっぱりきついなぁ)」

 

教卓の前に立った僕は改めて教室の中を見渡す。どこを見ても女の子しかいない。もちろん異物である僕達二人を除いてね。

あ、そうだ。僕が今どこに居るのかを言うのを忘れてた。

 

 

「今日からこの"IS学園"に入学しました桐崎 優(きりさき ゆう)です。眼鏡をかけた女性だけを愛しています。よろしくお願いします」

 

 

結局、あの後すぐに入学の手続きをやらされました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねーゆーくん」

 

ん?呼ばれた、のか?

 

「…えっと、ゆーくんというのは僕の事ですか?」

「そうだよー」

 

他の生徒達の自己紹介も含めて最初の授業が終わった。そのまま僕は自分の席に座っていたのだが、雰囲気がのほほんとした女の子が話しかけてきた。

 

「(…うん、似合いそうだ)」

 

ピピッ、と脳内眼鏡センサーを発動し、即座にイメージする。彼女が眼鏡をかけた姿を。

 

 

『やだっ、眼鏡取られるとはずかしいよ…』

 

 

うん、素晴らしき恥じらい女子の予感がするね。

 

「すいません、ちょっとこの眼鏡かけてもらえませんか?」

「えっ、め、眼鏡?」

「嫌なら構いませんが」

 

僕が彼女に差し出したのは赤い縁の眼鏡。予備として何個か持ち歩いているうちの一つだ。

 

「んーなんだかよくわからないけどいいよー」

「ありがとうございます」

 

素直に眼鏡を受け取った彼女はそのまま下を向いて…装着!

 

「これでいいのー?」

 

そう言って顔を上げる。

 

「……ッッ!?」

「似合ってるかなー?」

 

思わず絶句してしまった。何故ならーー

 

 

「可愛すぎる…」「え、ええっ!?」

 

 

凄く似合っていたからだ。

 

「とても似合っていますよ。貴女が醸し出す柔らかな雰囲気にぴったりです」

「そ、そう?えへへー」

 

ぐはっ。な、なんですと。ただでさえ天使みたいなのに加えて頬染めまで…

最高ですね。思わず鼻血が出そうです。

 

「是非とも眼鏡をかけることをお勧めします。今の時代は伊達眼鏡というものもありますから、視力が悪くなくとも問題ありません。どうでしょう?」

「ゆ、ゆーくん?ち、近いよ…」

 

おっといけない、僕の悪い癖が出てしまった。

それにしてもこの子、近くで見るとより一層可愛いな本当に。入学初日からこんな子とお近づきになれるなんて僕は運がついてる。

 

「ひゃっ!?」

 

眼鏡を外してあげようと手を伸ばしたらビクッ、という反応と共に可愛い悲鳴をあげられてしまった。これだけ距離が近いと確かに驚かれるのも無理はない。

 

「ご、ごめんなさい。眼鏡を外そうと思って」

「あっ、う、うん。はい、どうぞ」

 

距離を離すと同時に受け取った眼鏡をケースにしまって鞄に入れる。

 

「そう言えば貴女の名前を聞いていませんでしたね。お名前は?」

「布仏 本音(のほとけ ほんね)だよー」

「じゃあ本音さんで。良いものを見させていただきました、ありがとうございます」

 

天使、いや女神には感謝の意を述べなくては。ありがたやありがたや。

 

「むぅぅ、ゆーくんいじわるー」

「あははっ、ごめんなさい。つい貴女が可愛くて」

「も、もうっ!私席戻るねっ!」

 

駆け足で自分の席へと本音さんが戻って行ってしまった。もう少し話していたかったけど、仕方ないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「優、ちょっといいか?」

 

次の休み時間、一夏が僕に話しかけてきた。

 

「どうしたの?」

「お前に紹介したい奴がいるんだ」

 

…え?

 

「一夏、確かに勢いっていうのも大事だとは思うけどやっぱりお付き合いするならちゃんと相手のことをよく知ってからーー「ち、違えよ!いいから来い!」

 

あれ、違うのか。一夏に引っ張られるがまま廊下に出るとそこには僕達を待っていたであろう一人の美少女が。とても眼鏡が映えそうな綺麗な髪の毛と整った顔立ちをしている。

 

「えっと、彼女は?」

「…わからないか?優」

 

一夏に問われるが僕にはわからない。じーーっと彼女を見つめていると何処かで…と頭の中で引っかかる。

 

「(こんな時は、眼鏡を付けさせて考えよう)」

 

本音さんのときと同じように頭の中でイメージする。んーこんな感じかな?

 

 

『や、やめてくれ。私に眼鏡など似合って…えっ?か、可愛い?私が?

…ふふっ、ありがとう。少し恥ずかしいが、お前に褒められるのは嬉しいな』

 

 

デレた時の破壊力が半端じゃなさそうだね、うん。というか心当たりを思い出した。もしかして彼女は…

 

「箒さん?」

「!そ、そうだ。久しぶりだな優」

「よかった合ってた。小学校以来ですね」

「まさか優にもまた会えるとは思わなかった。お前は少し変わったか?」

 

そういう箒さんは昔から変わらず美少女だね。より大人っぽくなって。

彼女は篠ノ之 箒(しののの ほうき)。僕と一夏が小学生の時の幼馴染だ。剣道が凄く上手でよく一夏と打ち合ってた記憶がある。

 

「僕は別に変わってないと思うけど…」

「嘘つけ。少なくとも箒の知ってる優とは180度別人だぞ」

「そうなのか?"眼鏡をかけている"ことくらいしかぱっと見では変わっていないように見えるが」

 

ああ、眼鏡をかけ始めた時は箒さんはもう転校した後だったからね。

 

「さっき優が自己紹介で言ってただろ?」

「眼鏡をかけた女性がどうのこうのというやつか。驚いたぞ、あんなことを大衆の前で言うとはな」

「別に恥じることでもないし、僕は包み隠さずオープンにするタイプですよ」

 

最初は気恥ずかしさもあったけどね。

あ、それと僕の女性に対する敬語とさん付けは癖なんだ。同年代の子でも変わらないね。鈴ちゃんは例外だけど。

 

「…そうか、眼鏡をかけた女性が好きなのか」

「何か言いましたか?箒さん」「い、いや!なんでもないぞ!」

 

ボソッと小さな声で何か言った気がしたけど、気のせいか。

さて、それじゃあ早速箒さんにも眼鏡をかけてもらうとしますかね。

 

「よかったらお願いしてもいいですか?箒さんの眼鏡姿、見てみたいです」

「わ、私がか?」

「はい。無理にとは言いませんが」

 

僕は決して押し付けるようなことはしない。あくまでも趣味嗜好であって自分の中で満足したいだけだからね。

 

「う、うぅ、し、しかしだな」

「いいじゃないか箒。少し眼鏡かけるくらい」

 

ナイスアシストだよ一夏。やっぱり君は気の利く男だ!

 

「だ、だが肝心の眼鏡が此処にはないぞ!」

「それなら僕のをどうぞ」

「ゆ、優のだと!?」

 

今僕がかけている眼鏡を外して箒さんに差し出す。ちなみに今日は普通の黒縁眼鏡。シンプルイズベストというやつだ。

 

「…わ、わかった。眼鏡があるならかけるべきだな、うん」

 

何かを自分に言い聞かせるようにしながら箒さんは眼鏡を受け取る。そして耳にかかっている髪の毛を上げる仕草の後に…装着!

 

「ど、どうだ?」

 

…ああ。楽園は此処にあったんだね、父さん。

 

 

「結婚を前提にお付き合いしたいくらいに似合っています。とても綺麗ですよ箒さん」

「な、なぁっ!?」

 

 

箒さんの眼鏡姿はまるで、クラスを纏める真面目なお堅い委員長のよう。でもきっと裏では親しい人に甘えちゃうタイプなんだと思う。いやそうあってくれ。

 

それにしても眼鏡というものは凄い。僕をこうも簡単に笑顔にさせてくれる。きっと緩みきった顔をしているだろう、今の僕は。

 

「良いものが見れました。ありがとうございます。外しますね?」

「は、はいっ!」

 

あ、あの箒さん?眼鏡を外すだけなのに何をそんな決心したように目を瞑るんですか?何かを待っているようにも見えるけど。

 

「んっ…」

 

おっと、顔に手が触れてしまった。今は眼鏡をかけていないからあんまりよく見えないんだよね。

 

「はい、もう大丈夫ですよ」

「う、うむ」

 

慣れない眼鏡に緊張でもしたのかな。顔を赤くさせてしまって少し悪いことをした気分だ。

 

「そろそろ戻りましょうか。次の授業が始まってしまいます」

「そ、そうだな!戻るとしよう!」

 

まだまだこの学園にはきっと眼鏡が似合う女の子達が沢山いるはずだ。全員とはいかなくても何人か眼鏡女子を増やせたらいいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ、俺ってもしかして忘れられてる?」




《主人公紹介》
桐崎 優(きりさき ゆう) 男/15歳
眼鏡をかけた女性だけを愛するIS学園1年生。一夏がISを動かしたことにより自分も適性検査を受けさせられ見事機動させてしまった。
柔らかい笑顔と雰囲気を醸し出している。どちらかと言われると女性に可愛いと言われるタイプ。
基本的にはジェントルマンだが、無自覚タラシな部分があり行動の裏には眼鏡をかけてくれないかなぁと少し邪な気持ちがあるとか。

ヒロイン達に眼鏡をかけさせたいという一心で書きました。既に眼鏡属性のある山田先生と簪は主人公の中でとても評価の高いことでしょう。


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2.クラスメイトに金髪美少女がいるので眼鏡をかけさせたい

 

 

"眼鏡女子?別に好きじゃないよ"と言うそこの君。そんな貴方に一つ考えて欲しいことがあるんだ。

 

もしも自分に好きな人がいたとする。そしてその好きな人が、次の日の朝会うと新しく眼鏡をかけ始めていた。

この瞬間から君は"眼鏡をかけた女性が好き"という枠組みに加わるわけだ。つまり眼鏡女子が好きということになる。うん。

 

だから是非とも"眼鏡女子愛好会"に参加して欲しいと思う。ちなみに会員は僕と弾君と数馬君だけ。ご入会お待ちしております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は織斑君がいいと思いまーす!」

「なら私は桐崎君で!」

 

さて、僕と一夏の名前が生徒達から告げられているこの状況。どうやら授業内の時間を使ってクラス代表兼委員を決めるらしい。

まぁ代表ってことになってくると客寄せパンダである僕達の名前が上がるのは仕方ないことだけど、正直言ってあまり僕は乗り気ではない。自分から進んで前に出て皆の前に立ったりするのは得意じゃないんだ。

 

「ふむ、他にはいるか?」

 

千冬さんがクラス全体に問いかける。自他推薦可って言ってたからね。

 

「ま、待ってくれよ千冬姉!」

 

勢いよく立ち上がる一夏。ここは学校なんだからその呼び方で呼んだら…

 

スパァァァン‼︎

 

「織斑先生だ。次からは厳しくするぞ」

「いってぇ…も、もう十分強すぎるんじゃ「ん?」な、なんでもないです!」

 

僕と同じく出席簿でぶっ叩かれる一夏。どんまい。ぷぷっ。

逆らわない方がいいよ。千冬さんは言うことを聞く従順な子には優しいからね。

 

「って、そうじゃなくて!俺と優の名前が上がってるけど俺らやるなんて一言も言ってないですよ!?」

「推薦された者が辞退することは認めん。皆に期待されているのだから応えてみせろ」

 

諦めなよ一夏。後は大人しくじゃんけんなり多数決なりで決めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

親友が姉と言葉の格闘をしている最中、僕は先程から千冬さんの横に立つもう一人の教師が気になって仕方がなかった。

 

「ほ、他にはいませんかー?」

 

緑色の髪の毛をした"山田 真耶"という僕達のクラスの副担任。千冬さんと対称的でおっとりとした雰囲気が漂ういかにも優しそうな人だ。

いや、重要なのはそこじゃない。なんと彼女…

 

 

眼鏡をかけているではないか!

 

 

素晴らしい。素晴らしいですよ先生。まさか進んで自ら眼鏡女子になってくれているとは。

 

「(き、桐崎君、もしかしてずっと私のことを見ているんですか?だ、だめですっ、そんな情熱的な目で見られたら、私…!)」

 

おっと、ついつい山田先生の方をじっくりと眺めてしまった。女性を遠目から凝視するなんて良くないね。だからここは一つ妄想させていただこう。

 

 

『あ、あの。お弁当を作ってきたんです。よかったら一緒に食べませんか?…その、二人きりで』

 

 

い、いけない!教師と生徒なのに、このままじゃ禁断の関係になってしまいますよ山田先生!

というか眼鏡が全く関係のないシチュエーションが頭に浮かんでしまった。何故だろう。でも素晴らしい。

 

妄想に自己満足していると背後から何やら視線を感じたので振り返ると箒さんが僕を睨みつけるように見ていた。ど、どうしたんだろう。クラス代表決めが長引いてるからイライラしてるのかな?

それとも僕に『早く手上げて自分がやりますって言えや』的な視線なのだろうか。

 

 

バンッ‼︎

 

 

「納得がいきませんわ!こんな野蛮な男達にクラス代表の座を任せるなど!」

 

 

クラスメイトの一人、金髪の子が机に勢いよく手をついて立ち上がる。いきなりどうしたんだ?

 

「イギリスのオルコットか。それはつまり織斑と桐崎にはクラス代表を認めるわけにかないということでいいんだな?」

「ええ。此処はやはり貴族であるわたくしが相応しいということでこの"セシリア・オルコット"が立候補致しますわ」

ほう。どうやら僕達では不満らしい。

 

「クラス代表には実力がトップの者がなるべきなのです。そしてそれは代表候補生であるわたくしにこそ相応しいですわ。それを物珍しいという理由で、こんな知識も持たない猿が選出されては屈辱ですわ!」

 

凄い自信だなぁ…って、違うよ!猿ってどういうこと⁉︎オルコットさんの中での僕達の評価酷すぎない⁉︎

 

「大体、このような文化が後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体わたくしには耐え難いことでーー」

 

い、いやオルコットさん?どうして急に不満を述べ始めるんですか?日本だって良いところ沢山あるんだからそんなに侮辱を言われると悲しいな。後千冬さんの顔が段々と怖くなってきてるのがホラーだよ。もうそろそろ発言を控えてみてはどうでしょう。

 

「イギリスだって世界一料理がまずいって何年も天下取ってるだろ。そっちの国こそ大したことないんじゃないのか?」

 

お猿さん1号や。何故君は火に油を注ぐような発言をするんだい?猿2号である僕は疑問でしょうがないよ。愛国心でも芽生えたか!

 

「あ、あなた!わたくしの祖国を侮辱しますの⁉︎」

「先に日本を貶してきたのはそっちだろ」

 

その通りだね。

 

「ッッ、決闘ですわ!!」

 

再び机を強く叩いて宣言する。ちょっと、そんなにバンバン叩いたら机さんが可哀想だよ。これからお世話になるんだからもう少し大事に扱おうよ。

 

「おう、いいぜ。その方がわかりやすいしな」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

ずっと黙って二人の会話を聞いていた僕もこればかりは乱入しないと面倒なことになると判断し会話に割り込む。

 

「これはクラス代表を決める話し合いのはずです。何も決闘にまで持ち込む必要は何処にもないと思われます」

「いや、今回はオルコットの意見を採用する。折角の機会だからお前達もISにしっかりと触れてみろ」

 

待って待って待って。勘弁してくださいよ本当に。千冬さんが乗り気になったらもう止める人がいないじゃないですか。

 

「ふっ、貴方は何もせず逃げるのですね。まぁ妥当な判断だと思いますわ。今から初心者が努力したところですずめの涙程にしかなりませんもの」

 

 

 

 

 

 

 

ーーこのオルコットさんの発言で、僕の中で何かが切れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

"なんなんだよこの女。さっきから何ほざいてんだよ"

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰が、逃げるって?」

 

 

ゾワッ‼︎

 

 

「「「ッ⁉︎」」」

 

 

「いいよ。この勝負受けて立ってやる」

「…そ、そうですか!せ、精々恥をかかないように努力するのをお勧めしますわ!」

「ああ。そうさせてもらう」

 

煽り耐性ないからね僕。完全にぷっちんだよ?おこだよ?

 

「優、その辺にしておけって」

「…うん。そうだね。ごめんなさい皆さん。オルコットさんも」

「へ?あ、は、はい」

 

随分と怖がらせちゃったかな。初日からイメージが大きく下がった気がする。はぁぁ。

 

「勝負は一週間後、放課後にアリーナで行う。織斑、桐崎、オルコットはそれまでにしっかりと万全の体制を整えておくように」

 

千冬さんから日程が告げられる。ふむ、そうか。これを"一週間しかない"と考えるか、または"一週間もある"と考えるかは大事だね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、ついでに一つ言うのを忘れてた。

 

「オルコットさん。僕が勝ったら貴女に眼鏡をかけていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日を終えた僕達はアリーナに関することを女神…じゃなかった。山田先生に聞きに行ったりと色々と行動を済ませ帰ろうとしていたんだけど。

 

「これがお前達の寮室の鍵だ。無くすなよ」

 

千冬さんに呼び止められ話を聞いたところ、どうやら初日から寮生活らしいです。偉い立場の人が僕達を学園に置いておけとのこと。監禁でもするつもりなのかなぁ。

 

「織斑先生、僕と一夏は同室じゃないんですか?」

「急遽決まったことだから空き部屋がない。だから一人部屋の予定だった二組の所にお前達を放り込むことになった」

 

えっ、一人部屋じゃないどころか同居人がいるの?それって女の子じゃ…

 

「さあ、もう時間も遅い。早く行け」

「えっ、ちょっーー」

 

突如会話を切断して職員室の中へ戻っていく千冬さん。

荷物は既に最低限必要なものだけを母さんが送ってくれたらしい。アタッシュケースのような見た目の鞄に入ってる僕の"眼鏡これくしょん"達も送られてきたし、まぁ当分は生きていけるかな。

 

「なあ優。女の子と一緒の部屋ってマズイよな?」

「うん。常識的にも危ないし男性操縦者として考えても女の人と一緒にされるのはダメだと思うな」

 

貴重な男性操縦者のデータ取りもしたいはずだからね。女スパイによるハニートラップみたいなこともあるんじゃないのかなぁ。僕の勝手な想像だけど。

 

「…行くしかないか」

「そうだね。お互いにいい同居人であってくれることを願おう」

 

できれば眼鏡をかけていて欲しいけどね。こればかりは神頼みだ。




眼鏡といえば虚や黛先輩もいますね。彼女達にもスポットライトを当てていきたいと思っています。
怒らせると怖い人っていますよね?優はそんなタイプです。

次回予告→3.僕の同居人が眼鏡をかけた水色の美少女だった


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3.僕の同居人が眼鏡をかけた水色の美少女だった

 

 

アニメや漫画の世界において"眼鏡をかけた女子学生"っていうとまず一番のイメージとして"教室の隅っこで一人本を読んでいたり、気の弱い少し控えめな性格をしている"って印象があると思うんだ。これは一種のキャラ付けみたいなものだと思う。

もちろんこれは僕の偏見だし例外はあるけど、実際に学校生活で皆の周りにも一人はこういうタイプの子がいたんじゃないかな。

 

さて、これを別の視点から見てみよう。『眼鏡女子=物静かでクールな人』と考えた時にその人のイメージとして新しく"もしかしたら実はドSで女王様気質かもしれない"という可能性が生まれてくるんだ。

例えばスーツを着たOLさんとかを想像してみよう。ほわんほわんほわん。ほら、見えてきたでしょう?OLさんが自分が履いているヒールで跪いている愚民をぐりぐりと踏んでいるシチュエーションが。

 

 

その人を彩る要素の一つとして無限の可能性を秘めている。眼鏡とはそんなアイテムなんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この部屋で合ってるよね」

 

千冬さんに渡された鍵と同じ番号の部屋の前に辿り着いた。一夏は僕より先に寮室を見つけたのでもう隣にはいない。

 

「(考えてても仕方ない。まぁなるようになるでしょ)」

 

僅かな期待と少しの不安を抱える。肩身が狭くなるであろうこれからの生活の癒しになってくれるような可愛らしい同居人だったら嬉しいです。

それといきなり男が部屋に入ってきたら困るよね。中で着替えてないとも限らないしここは一応ドアノックしようか。

 

コンコンコン

 

ガチャッ

 

「えっ」

 

ちょ、ちょっと。幾ら何でもドアが開くの早すぎない⁉︎待機でもしてたの⁉︎

 

「あ、えっと、きょ、今日からここの部屋に入る桐崎 優です!よろしくお願いします!」

 

思いの外早くドアが開いたものだから焦ってしまってつい勢いよく頭を下げてしまった。変に思われちゃったかな。

 

「…男の子?」

 

頭の上から小さく声が聞こえる。まさか僕の事知らせてない感じですか千冬さん。割と本気で困りますよ。

 

「とりあえず、顔を上げて」

「あ、はい」

 

言われるがままに頭を上げ、目の前の彼女を視界に入れたその時ーー

 

 

 

 

 

僕の身体に、一筋の電流が走った。

 

 

 

 

 

「(なっ、め、眼鏡女子⁉︎)」

 

水色の綺麗な髪の毛に加えてまさかの眼鏡装着済み。完全に僕の時代が到来しているのだがそれだけでは終わらない。

 

 

 

 

 

ーー可愛い。僕の好みど真ん中だ。ど、どうしよう。目が見れないんだけど。

 

 

 

 

 

「あー、その、えっと…」

 

な、何か言わないと!

 

 

 

 

 

「(貴女の眼鏡姿が)…好きです」「……は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

唐突な告白(?)の誤解を解きなんとか部屋に入れてもらった僕。彼女がお茶を入れてくれるということで椅子に座って待っています。

 

「はい」

「ありがとうございます」

 

とりあえず一口飲んで自分を落ち着かせよう。

 

「ふぅ、美味しいです」

「そう」

 

クールな人なのかなぁ。それとも警戒されてたりする?まぁそれが普通だけどさ。

 

「驚きました。ノックしてすぐにドアが開いたので」

「たまたま入り口の近くにいたからすぐに反応出来ただけ」

 

なるほどね。別に待機してたわけじゃないと。そりゃそうか。

 

「貴女の名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「"更識 簪(さらしき かんざし)"。苗字で呼ばれるのは嫌だから簪でいい」

「わかりました。では、簪さんと」

 

おお、流れで名前呼びを許可してもらったぞ。やったね。

 

「織斑先生から同居人が来るっていうのは聞いてたけど、まさか男の子だとは思わなかった」

「…なんか、すいません」

「気にしなくていい。見た感じ悪い人でもなさそうだから」

 

初対面で好きですとか言ったのに悪い人じゃないって、優しすぎるよ簪さん。本物の天使か何かですか。

 

「そっちのベッド使って。こっちは私が使ってるから」

「はい、ありがとうございます」

 

とりあえず荷物を整理しよう。まだ送られてきた物も全部は確認してないからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーがあって、こっちの眼鏡もある。うん、大体は揃ってるかな」

 

ケースを開いて眼鏡達を一通りチェックする。

毎日変えるわけじゃないけど僕は気分や日によって付ける眼鏡を選ぶ。大きさとか形が少し変わるだけで印象や雰囲気を左右してくれるからね。僕なりのオシャレの一つだと思ってもらって構わない。

 

と、少しの間一人で作業していると簪さんから視線が向けられていることに僕は気づいた。

 

「どうかしましたか?」

「それって…」

「普通の眼鏡ですよ。此処にあるのはざっと10個近くでしょうか」

 

鞄の中にも数個と今自分でかけてるのもあるからこれだけじゃないけど。

 

「…眼鏡コレクター?」

「集めるのが好きというのとは少し違いますね」

「じゃあどうしてそんなにあるの?」

 

おや、何やら興味を持っているみたいだ。まぁアタッシュケースに入ってたのが眼鏡でそれが一個や二個どころかたくさんあったら気になるよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜簪 side〜

 

彼との会話が終わるとすぐにベッドの上で何やら作業を始めたので気になって見ていたら凄い数の眼鏡が出てきて驚いた。

詳しく話を聞くとどうやらそれは彼の趣味で"女の人にかけてもらうため"に持ち歩いているらしい。

 

「(…眼鏡の女性が好き、なんだ)」

 

流れで彼の好みのタイプを知った。

これで最初の一言目も納得がいく。私が眼鏡をかけているからだ。

 

「(いきなり好きですなんて言うからチャラい人なのかと思ったけど違うみたい)」

 

まだ少ししかお話してないけど優しそうな人だと思う。喋り方も丁寧だし笑顔も自然で柔らかい。

 

「簪さんはとても眼鏡が似合っています。素晴らしいです」

「…ありがとう」

 

眼鏡をかけた女の人が好きって言われた後に私が褒められると心臓に悪いからやめてほしい。ドキッとして少し動揺しちゃった。

 

「その眼鏡達を皆にかけてもらうの?」

「はい。といっても嫌がる人には押し付けたりしません。あくまでも僕の趣味嗜好に付き合ってくれる人だけでいいんです」

 

一歩引いた冷静な考え。紳士的というのはこういうことなのだろうか。

 

「あ、そうだ。簪さんもお一ついかがです?」

「私?」

「ええ。是非とも他の眼鏡姿を見てみたいです」

 

見てみたいとか言われるとなんだか恥ずかしい。彼の顔から期待されてるのがわかるから尚更。

 

「…じゃあ、一個だけなら」

「ありがとうございます。それで、どれにしますか?」

「桐崎君が選んで」

 

これだけ沢山あると選ぶのに迷う。それに、眼鏡をかけて欲しいと言うのなら彼に選ばせてあげてもいいだろう。

 

「そうですか。なら…これでお願いします」

 

渡されたのは普通の黒縁メガネ。数ある中でもシンプルでよく見かけるものだ。

 

「ん、付けるから後ろ向いてて」

「は、はい」

 

眼鏡外すところ見られるのもなんだか恥ずかしいから彼に後ろを向くよう急かした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(やった、簪さんに僕の眼鏡をかけてもらえるぞ!)」

 

後ろを向いている僕は隠しきれない興奮から静かにガッツポーズをとっていた。だってこんな可愛い子に眼鏡かけてもらえるんだよ?嬉しいに決まってる。

 

「いいよ。こっち向いても」

 

ッ、遂に運命の瞬間だ。一体どんな天使が君臨しているのか、心臓が破裂しそうなくらいバクバクしてる僕には想像もつかない。

 

「どう、かな?」

 

水色の髪の毛に黒い眼鏡。落ち着かない様子の簪さんは眼鏡を触りながらそわそわしている。完全に僕好みに仕上がった彼女がそこにはいた。

 

 

 

 

 

ーー感想を言わなきゃいけないのに言葉が出ない。でも簪さんから目が離せない。

 

 

 

 

ああ、ダメだ。これってもしかして…

 

 

 

 

 

「可愛すぎます。犯罪級です」「…は、恥ずかしいからそういうこと言わないで」

 

 

 

 

 

僕、彼女に一目惚れしちゃったみたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー」

 

カタカタカタ

 

モニターを前に、何かを打ち込む女が一人。

 

「あっ」

 

ピタッ、と何かを思い出した女は指の動きを止める。

 

「そっか、今日ってIS学園の入学初日だったね」

 

今年は世界初の男性操縦者が二人もいる。きっと今頃学園の外も中も盛り上がっていることだろう。

 

「二人には専用機が必要だよねぇ。うんうん」

 

何かを言い聞かせるように一人頷く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待っててね"ゆーくん"。この束さんが自ら最高のおもてなしをしてあげちゃうよー」




主人公、まさかの一目惚れ回でした。これからは簪ちゃんの圧倒的ヒロイン力を見せつけていきます。

次回予告→4.幼馴染の姉が天災で僕の許嫁(本人談)らしい


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4.幼馴染の姉が天災で僕の許嫁(本人談)らしい Ⅰ

 

 

「よし。これで全部ですね」

 

授業で使用した教材を運ぶために教室と資料室を行き来して2周程。ようやく全て運び終えた僕は一息つく。

クラス全員の分は流石に堪えるね。あ、でも一人で運んでたわけじゃないよ?

 

「ありがとね桐崎君!本当に助かったよー」

「ありがとうございます桐崎君。やっぱり男の子は頼りになりますね」

「これくらいお安いご用です。お二人に重い物を持たせて苦労させるわけにはいきませんからね」

 

今ここにいるのは我らが女神こと山田 真耶先生と、もう一人は今朝面識を得たクラスメイトの"岸原 理子(きしはら りこ)"さん。彼女なんと既に眼鏡装着済みです。素晴らしい。二人目の女神降臨だね。

 

「もーそんなこと言っちゃって!あんまり女の子に優しすぎるとやましい気持ちがあるんじゃないかって疑わしくなっちゃうよ?」

「そう言われましても…」

「ダメですよ岸原さん。桐崎君は純粋に善意で私達の手助けをしてくれたんですから、悪く言ってはいけません」

 

ああ、女神。圧倒的女神。その優しさに惚れてしまいそうです。

そうだよ。僕は純粋にお手伝いがしたかっただけだから。べ、別に二人が眼鏡かけてるとかそそそそそんなことは関係ないんだからねっ!

 

「んーそれじゃあそんな優しい桐崎君に何かお礼しないとだね、先生!」

「え?あ、はい。そうです…ね?」

 

たかが教材運びを手伝ったくらいでお礼なんていいのに。それと山田先生、岸原さんの勢いに乗せられてますよー。

 

「お礼なんてそんな、結構ですよ」

「…本当にいらないの?」

 

うっ、そう言われるとまた困る。褒美が出るのを自分から断る人なんていないでしょ。

 

「ではお礼とは何をしてくださるのですか?」

「なんでもいいよー」

「な、なんでも⁉︎」

 

顔を赤くして狼狽えないで下さい先生。別に変なことを言うつもりはありませんよ。

 

 

「じゃあ"理子さん"とお呼びしてもよろしいでしょうか?是非ともこれを機にお近づきになりたいです(お友達として)」

「…ふぇっ⁉︎お、お近づきに⁉︎(男女として)」

 

 

ん?なんか予想より驚きが強いぞ。僕そんなに変なこと言ったかな。

 

「わ、わわわっ!せ、先生はお先に失礼しますねっ!」

「あっ、山田先生…行っちゃった。いきなりどうしたんだろう」

 

突如逃げるように走り去って行く山田先生。なんだなんだ何が起きているんだ。先生にも今後何か手伝えることがあれば遠慮なく頼ってくださいねって言っておこうと思ったのに。

 

「(き、桐崎君と二人っきりになっちゃった。ど、どうしよう。なんか緊張してきちゃうよ…!)」

 

理子さんも何故かもじもじし始めるし。え、僕何かした?

 

「…これってさ、そういうことなんだよね?桐崎君」

「はい。そういうことですよ」

 

言った通りの意味だと思うけど。もしかして伝わりづらかったのかなぁ。

 

「私なんかでいいの?まだ少ししかお話してないんだよ?」

「だからこそ此処から仲良くなりましょう。僕、貴女のことをもっと色々知りたいです」

 

眼鏡女子とお近づきになれるチャンスだからね。逃しはしないよ。

 

「あーもうどうしよ。私の顔から火が出そうだよ。…これは責任取ってもらわないとだね」

「えっ?」

 

ん?彼女今なんてーー

 

 

 

「ふふっ、これからよろしくね"優くん"。私のこと大事にしてくれたら嬉しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕がまだ小学生の頃に一度だけ、千冬さんに眼鏡をかけてもらったことがある。確か篠ノ之道場でやってた一夏と箒さんの試合が終わるのを待ってた時かな。

勿論あの千冬さんがすぐにYesと頷くわけはない。だがそんな頑固鬼姉を前にしても当時の幼かった僕は中々にわがまま度が高く引き下がらなかったのだ。

やがて折れた千冬さんは『一回だけなら付けてやる』という台詞と共に僕の差し出した眼鏡を受け取ってくれたのだ。

 

 

「ーーあの時の千冬さん、綺麗だったなぁ」

「まるで今の私が綺麗ではないような言い方だな」

 

スパァァァンッ‼︎

 

「まさか。今の方が断然大人の魅力が増してお綺麗ですよ。ですから是非また眼鏡をかけていただいt「あの時の一回だけだと言っただろう」…ちぇっ」

 

断られると同時に冷静を取り戻した僕に頭を出席簿で叩かれた痛みがじわじわと襲ってくる。い、痛いけど我慢しなきゃ。

 

「そろそろ本題に入るぞ。お前と織斑に関することだ」

「あれ、一夏もですか。でしたら呼んできた方がよいのでは?」

 

ちなみに今は職員室の千冬さんの机の前だ。話があるから来いと言って呼び出された。

 

「今はいい。とりあえずはお前が最優先だ」

「はぁ」

 

僕を優先させる理由はなんだろうか。

 

「お前達二人に専用機が渡されることになった」

「入学して間もない初心者の僕達にですか?」

「ああ。自衛用のISを持たせるのと男性操縦者のデータ取りが主な目的だろう」

 

ふむ、そうか専用機か。まぁ男性操縦者は貴重だから支給されてもおかしくないのかな。

 

「織斑の方の専用機は"倉持技研"が担当する事になっているがお前の方はまだ決まっていない。だが、どうやらお前にテストパイロットになって欲しいと強く言っている所が一つだけあるらしい」

 

千冬さんから紙が渡される。そこには黒いボールペンで電話番号のみが書かれていた。

 

「かけるかかけないかはお前の自由だ」

「えぇ…これ怪しすぎません?」

 

普通こういうのは名刺を渡しておくんじゃないの?電話番号だけって…企業名とか担当者の名前とか書くこと色々あったでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻った僕は一人電話を片手に悩んでいる。簪さんは今は隣にはいない。

 

「(かけるだけなら何も問題ないと信じたい)」

 

行動は起こさなきゃ始まらない。物は試しだ、かけてみよう。

 

 

prrrrrrrr prrrrrrrr

 

 

prrrrrrrr prrrrrrrr

 

 

ピッ

 

 

『…………』

「(あ、あれ?繋がった…よね?)」

 

携帯の画面を確認すると確かに通話は開始していて1秒ずつ時間が経過している。しかし電話の向こうから声は一切聞こえてこない。

 

「えっと、お話をいただいた桐崎ですが…」

 

 

 

 

 

 

『………ふふっ』

 

 

 

 

 

 

ピッ

 

 

「………ッ⁉︎」

 

背筋が凍った。今電話が切れる前、微かに笑う声が聞こえた。

 

「(…まさか)」

 

咄嗟に此処にいてはマズイと思った僕は一直線に部屋の入り口のドアへと走る。そして鍵を外し扉を開こうとしたのだがーー

 

 

ガチャガチャッ、ガチャッ!

 

 

「なっ、内側からなのに開かない…⁉︎」

 

何度も扉を開けようと試みるが何故か開かない。

 

 

 

スタ…スタ…スタ…

 

 

 

「(…ははっ、嘘でしょ?)」

 

足音が聞こえる。今は僕しかいないはずのこの部屋から。つまりその音は僕の背後から発生しているということ。

 

「(やばい。これはやばいよ。とりあえず落ち着くんだ僕。どうするのが最善だ。相手の目的は僕か?どうやって此処に忍び込んだ?)」

 

考える事はできる。だが解決策など一つも見つかりはしない。

 

「(此処で誘拐なんてされたらきっと人体実験のたらい回しにでもされて廃人コース不可避だ。やるしかない)」

 

 

 

とんとんとん

 

 

 

「ーーはぁっ!」

 

何者かに肩を数回叩かれた僕はすぐさま振り返りそれと同時にパンチを繰り出そうとする。が、

 

 

 

プシューーーーッ‼︎

 

 

 

「なっ……あ……く、そっ……」

 

スプレーのような物をかけられた僕は一瞬にして眠るように意識を失い床に倒れこむ。

視界が閉じる前に目に映ったのは、紫色の髪の毛と何処かで見たような服装だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえねえゆーくん』

『どうしたの?おねえちゃん』

 

『私ね、この家を出て行かなきゃいけないんだ』

『えー!なんでー!』

『ごめんね。だからもう会えなくなっちゃうの』

 

『んーじゃあおねえちゃんとぼくのやくそくをつくろう!』

『…約束?』

『うん!やくそくがあれば、きっとまたおねえちゃんとあえるもん!』

 

『また会ってくれるの?』

『もちろん!』

 

『…そっかぁ。ふふっ、それならお姉ちゃんも心配いらないね』

『さみしくなったらいつでもかえってきてね。ぼくもいちかもほうきちゃんもちふゆおねえちゃんもみーんなまってるよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、起きた。おはようゆーくん」

 

薄っすらと僕は目を開ける。熟睡していた感覚だ。凄い眠気とだるさがある。

 

「まだ意識が覚醒してないねぇ。もう少し寝ててもいいんだよ」

 

誰か分からないけど聞き覚えのある声がする。まぁいいや。言われた通り今はゆっくり寝かせてもらおう。

 

 

 

 

「…いや、待って。誰かいるよね僕寝てる場合じゃないよね」

「なーんだ起きちゃうんだ。もうちょっと可愛い寝顔見てたかったのに」

 

 

 

 

今の自分の状態を把握しよう。まず場所は寮室の自分のベッドの上。時間はあれから少ししか経っていない。そして、隣には一人の女性が。

 

「えっと、貴女は?」

「そ、そんなぁ。覚えてないなんてひどいよ」

 

覚えてない?眼鏡がないからぼんやりとしか見えないけどこんな美人なお姉さんと僕に面識があるのか?

 

「うーん、何処かで…」

「そんなにじっくり食い入るように見られると流石に恥ずかしいかなぁ。ま、まぁゆーくんならいいんだけどね」

 

ちゃんと顔を確認しなきゃ。えっと、眼鏡眼鏡…あった。装着!

 

「………な、なにぃぃぃぃっ⁉︎」

「おや、その顔はようやく私のことを理解したって顔だね。というかゆーくんいつの間に眼鏡なんてかけるようになってたんだい?新発見だよ」

 

嘘だろ⁉︎どうしてこんなところに…

 

 

 

「た、束お姉ちゃん⁉︎何でこんな所にいるの⁉︎」

「やあやあ長らくお待たせしたね少年。ゆーくんのお嫁さんこと"篠ノ之 束(しののの たばね)"が久しぶりに会いに来たよ!」

 

 

 

ーー僕の身の安全は大丈夫そうだけど、何やらまだ一波乱起きそうな予感しかしません。はぁぁ。




理子ちゃんとは決して付き合い始めたわけではありませんよ。あくまでお友達ですから。

次回予告→5.幼馴染の姉が天災で僕の許嫁(本人談)らしい Ⅱ


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5.幼馴染の姉が天災で僕の許嫁(本人談)らしい Ⅱ

 

 

"篠ノ之 束(しののの たばね)"という名前を知らない人は世界でもほぼいないと言ってもいいだろう。何故なら彼女は"IS《インフィニット・ストラトス》"の生みの親なのだから。

 

僕が幼い頃箒さんと友達になり、一夏と一緒に彼女の家である篠ノ之道場に遊びに行った時に初めて顔を合わせた。その時は挨拶をしてもまるで見えていないかのように無視をされたけどね。束さんの他人に微塵を興味を示さない目が印象的だったのを今でも覚えてる。

 

ISという世紀の大発明をした束さんは世間では篠ノ之博士だったり天才ならぬ"天災"とも言われている。

まぁ僕はこの愛称あんまり好きじゃないけどね。だってあんなに美人な人が災いを呼ぶなんてことあり得ないし。綺麗だし。可愛いし。いい匂いする…のは関係ないか。

 

そんな冷徹な女のようなイメージもあった彼女。今はどうしているかというとーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、束さん?もうそろそろいいのでは?」

「やーだー!まだゆーくんの膝枕堪能するもん!」

 

ベッドに腰をかけている僕の膝の上に頭を乗せてリラックスしながら駄々をこねていました。

 

「ほら、早く頭撫でてよー」

「はいはい」

 

手を止めるとすぐに催促がくる。まぁ見てるこっちが嬉しくなるような満面の笑みを浮かべられたら自然と撫でたくなるのだけれど。

 

「もうすぐ30分くらい経ちますよ。色々とお話を聞かなきゃいけないんですから。専用機の事とか」

「…それだけなの?聞きたいことって」

「えっ?」

「大事なことがあるよねぇ?」

 

何だろう。箒さんと同じくらい久しぶりに会ったから話したいことはいっぱいあるけど重要なことと言われると特に思いつかない。

一人僕が唸りながら考えていると束さんがようやく身体を起こし、僕に身体を向けるようにベッドの上に座った。釣られて僕も向かい合うように体の向きを直しベッドの上で正座をする。

 

「ゆーくんは今年で16歳だね」

「はい」

「IS学園に入学したけど、卒業する頃には18歳です」

「そうですね」

「じゃあ18歳になったら何が解禁になるかな?」

「18から出来ることといえば…結婚?」

「そう!ゆーくんも結婚できるようになるんだよ!」

 

そういう法律だからねぇ。それが何か関係あるのかな?束さんすごい嬉しそうな顔してるけど。

 

 

 

 

 

「もー鈍いなぁゆーくんは。"3年後"にはもう束さんと結婚してるんだよ?」

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どんな約束にしようか、ゆーくん』

『おねえちゃんがきめていいよ!ぼくだとありすぎてえらべないから』

 

『一個だけじゃなきゃダメなの?』

『うんっ!こういうのはひとつだけなことにいみがあるっておかあさんがいってたよ!』

 

『んーそっかぁ。どうしようねぇ』

『ゆっくりかんがえてていいよー。ぼくはここでまってるから』

 

『…ううん。もう決まったよ。一つだけの約束』

 

 

 

 

 

 

 

『ゆーくん。ゆーくんが大人になったら、私と結婚してくれますか?』

『もちろん!やくそくだからね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?じゃないよー!約束したの覚えてないのー⁉︎」

「い、いや、ちょっと待ってくださいよ束さん!」

「むー、その束さんって呼び方もやだなぁ。昔みたいにお姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」

「流石にこの歳でお姉ちゃんは呼べませんよ…って、そうじゃなくて!僕達がしたのって結婚するって約束でしたか?本当に?」

「そうだよ。私から言ったことだから一字一句間違いなく覚えてるもん」

 

ふんすっ、と自慢気に胸を張る束さん。

 

「(あぁ…段々と鮮明に思い出してきたぞ。確かにそんな話だった気がする)」

 

約束をしたのも随分と前のことだったから、束さんには本当に申し訳ないが先程まで完全に記憶の奥底に沈んでいた。

でも今は違う。束さんが篠ノ之家を出る前に二人でゆっくり話をしたのを思い出した。

 

「さぁ、ゆーくんもこれで思い出したことだしここからは結婚前の夫婦の営みの時間だね。束さんもうこの日が待ちきれなかったよ」

 

ま、マズいでしょこれ。何だか束さんの目も獲物を狙う鋭さみたいなの帯び始めてるし、このままだと僕喰われちゃうよ!

 

「ちょ、ちょっと待って!」

「もうっ。どうしたのゆーくん?」

 

どうしたもこうしたもないよ。いきなりこっちに寄って来られると心臓に悪い。それも夫婦の営みとか言われるとドキドキが半端ないんだから。

 

「その、確かに約束したのは覚えてます。でも僕はまだ小学生でしたし…」

 

別に束さんとの結婚が嫌とかそういう訳ではない。むしろこんな美人で綺麗で優しい人と結婚できるなんて幸せなことだと思う。

 

「(だけど今のままじゃ僕自身に納得がいかない。こんな綺麗な人にずっと想ってもらえてるのに、それを忘れてのうのうと過ごしてたんだ僕は)」

 

 

 

 

「えーでもゆーくんのお父さんとお母さんにも許可もらったんだよー?」

「ちょちょちょちょい待った!え、いつの間にお父さん達に掛け合ったんですか⁉︎」

「ゆーくんと約束した次の日。ほら、ご飯食べにおいでってゆーくんのお母さんがちーちゃんといっくんと私と箒ちゃんを招待した時だよ」

「(あの時かーー‼︎)」

 

 

 

 

一回も結婚の話なんて両親からされたことないのに気がついたら親公認になってるんですけど⁉︎

嘘でしょ、つい数秒前まで自分に納得がいかないとか僕思ってたのになんかもう格好付かなくなっちゃったよ。恥ずかしい。

 

「お、お父さん達なんて言ってました?」

「『息子をよろしく頼むよ束君』って大歓迎されたよ。お母さんも優しい人だったなー」

「はは…そ、そうですか」

 

もう何も言うことはない。ああ、母よ、父よ、僕は今日婚約者と改めて結婚の約束を交わすことになりそうです。

 

 

…あれ、別に良くないか?このままだったら僕卒業までには束さんと結婚してるだけでしょ?ただの幸せ者じゃない?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜side 束〜

 

ゆーくんはどうやら"約束"を忘れていたみたい。まぁちっちゃい頃の話だから仕方ないのかな。少し、いや結構ショックだった。

昔はあんなに可愛かったゆーくんも私より身長が高くなって顔つきも男らしくなったと思う。ちょっと面影は残ってるけどね。

 

箒ちゃんといっくんも含めてみんなちっちゃかった頃から時が経ったのを実感させられる。それは少し寂しくもありでも何だか嬉しくもある。だってゆーくんが成長してるから。

 

「ゆーくんは今好きな人っているの?」

「え?い、いや、いないですけど」

 

むっ、なんか怪しい。恋する女の子に嘘ついてもすぐバレるんだからね。

 

「…本当に?」

「…あー、可愛いなぁって思う子は一人います」

「ふぅーん。そうなんだー」

 

ぬぅぅっ、ゆーくんから好意的に見られるなんて羨ましい奴がいるもんだ!

 

「で、でも別に好きってわけじゃないですよ」

「じゃあ私と結婚してよ」

 

今のゆーくんに対して無茶を言ってるのは分かっている。でもずっと今日まで思い出に浸る毎日だった。もうそんなのは嫌だもん。

 

「なんだったら私以外の奥さんが出来てもいいからさぁー、とりあえず18歳になったら私とは結婚しよ?ね?いいでしょ?」

「い、一夫多妻ですか」

「そうそう。悪くない話だと思うけどなぁ。ハーレムなんて男の子の夢でしょ?」

 

ゆーくんがそういうことに対してどう思ってるのかはわからないけどね。

 

「あ、でも正妻の座はもちろんこの束さんね。ずっと前から結婚の約束してたんだから」

「…どうしてそんなに束さんは僕を想ってくれるんですか?その、他に奥さんがいてもいいなんて言ってまで」

 

おや、少年が何やら疑問を持っているようだね。でもそんなの簡単なことさ。

 

 

 

 

 

「誰かを好きでいることに理由がいるかい?私はただずーっと、君のことを心の底から愛し続けてるだけだぜ"ゆーくん"」

 

 

 

 

 

ーー私って、自分でも思ってるより一途な女だったんだよ。ふふっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でもいいの?おねえちゃんとぼくがけっこんしても』

『ゆーくんは私と結婚するの嫌?』

 

「束さん」

「んー?」

「僕がこのIS学園を卒業する時まで待ってくれませんか?」

 

 

 

『んーん。ぼくたばねおねえちゃんみたいなきれいなひととけっこんしたい!』

『あはは、ゆーくんは女たらしの素質があるねぇ』

 

「ここを卒業したら、改めて僕から貴女に言わせてください。結婚して欲しいって」

「ふふっ、格好つけすぎだよゆーくん。…でも、嬉しい」

 

 

 

僕から束さんへの好意はまだ恋人や愛する人へのそれには達していないだろう。

 

「本当に私でいいの?」

「断る理由がありませんよ。それに"約束"はきちんと守らないとね」

 

でも今はこれで良いのかもしれない。今日からまだ3年近くあるんだ。その中で束さんのことをもっと知ろう。好きになっていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「んーじゃあ彼女出来たら報告してね。あ、結婚の話になったら私の名前出してもいいから。三人で今後について話し合おうぜ」

「いやこの人色々とぶっ飛んでるな本当に」

 

まだまだ苦労させられそうだけどね。この人には。

 




第五話にして将来のお嫁さんの座を手に入れちゃったよ束さん。
簪メインヒロインの予定だったのに書いてたらいつの間にかこうなった。後悔はしてない。ダブルメインにするかぁ。

次回予告→6.天使に涙を流させないために


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6.金髪美少女に手取り足取り教えて欲しかっただけ

 

 

「……………」

 

 

束さんとの話が終わって部屋に一人になった僕は眼鏡を手に取り眺めながら少し考え事をしていた。

"婚約者"という存在。しかも相手はあの世間を騒がす篠ノ之束。僕は普通の人から見れば奇想天外な人物にでも見えるのだろう。

そして束さんは世界に追われ身を隠している存在。そんな彼女と一緒になるということはそれ相応の男にならなくてはいけないと僕は思う。強くならなきゃいけないのもそうだし他にも色々とね。

 

でもこういうのを考えるのはまだ後でいいのかな。今から思い詰めても仕方ないし何より3年も時間があるんだ。ISの知識や操縦技術はこれからしっかりと磨いていこう。今はそれよりもーー

 

 

「…ダメだ。全くイメージできない」

 

 

皆も知っている通り僕は自他共に認める眼鏡っ娘好きだ。眼鏡をかけていない子がいれば脳内でかけさせて妄想したりもする。

だがしかし今の僕は何故か絶賛不調中。何度妄想しても束さんでは全く想像することができないでいる。その、なんというか、眼鏡をかけた束さんのことを考えていると胸がモヤモヤするというか照れくさくなるというか。

 

「(疲れてるのかなぁ。今日はもう休むか)」

 

自分に言い聞かせるようにして無理やり思考を中断し、かけている眼鏡と手に持っていた眼鏡をケースにしまってからベッドに寝転ぶ。

そのまま目を閉じた僕の意識は、ゆっくりと闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜次の日〜

 

 

「ーーであるからにして、この公式をーー」

「(千冬さんの教師姿は新鮮だなぁ)」

 

頬杖をつきながら僕は授業の様子を眺めている。数学は得意分野のため他の事を考えていても少し余裕がある。

 

「(絶対眼鏡似合うと思うんだけどなぁ。スーツ姿に合わせても)」

 

千冬さんは可愛いより綺麗とかかっこいいと言われる人だ。まぁそれはわかる。現在ではISの世界大会で、昔は剣道でも実績を残していたしその姿は凛々しいの一言に尽きる。

でも織斑家では自堕落な一面あるからね千冬さん。家事とか一夏に頼りっきりだし。そういう部分はギャップがあって可愛いと思う。本人は言えないけどね。殴られるから。

 

「(寝起きとかだったらかけてくれるかな?眼鏡)」

 

ああ、神よ。もし一つだけ願いを叶えてくれるなら是非とも千冬さんに眼鏡をかけさせてください。見たいんです。もう一度千冬さんの眼鏡姿。

 

 

『どうした優。私の眼鏡姿に見惚れているのか?もっと近くで見てもいいんだぞ。ほら、こっちに来い』

 

 

主導権を握っているのが千冬さんらしくて良いなぁ。是非ともこれから先の人生も引っ張っていって欲しいですねぇ。

ふふふ、妄想も絶好調だし今日こそ千冬さんにもう一度眼鏡をかけさせる案が思いつくかもしれないぞ。よく考えるんだ僕。

 

「おい桐崎」

「(いっそのこと寝ている間にかけさせようか。いや、千冬さんのことだ。寝込みを襲われると本能が働いて返り討ちにあうかもしれない。何か他の案をーー)」

「…やはり授業を聞いていなかったか。仕方ないな」

 

スパァァァン‼︎

 

「いったぁっ⁉︎…せ、先生?いつの間に僕の前に来たんですか?」

「お前が呼んでも反応しないからだ。授業は真面目に受けろ」

「織斑先生が眼鏡をかけてくれたら真面目に受けます」

 

スパァァァン‼︎

 

「二度は言わんぞ。いいな?」

「…はい」

 

くっ、正面突破はやっぱり無理か。しかし二発も食らうと流石に痛すぎる。頭がかち割れそうだ。

 

「だ、大丈夫?桐崎君」

「ご心配なく。これくらいなんてことないですよ」

 

嘘だ。隣の席の女の子に心配されて咄嗟にカッコつけてしまった。本当は今すぐに頭を抑えて机に突っ伏したいです。でももう後には引けねぇ。クールを突き通すんだ僕。

 

「そ、そう?男の子は凄いね。私なんて織斑先生に叩かれたら痛みでうずくまっちゃうよー」

「(…そうなるのが普通です。むしろ真顔を保ててる僕がおかしいくらいだよ)」

 

周りからの印象というのは大事だ。いずれ眼鏡を勧める時に相手から何だこいつと思われていては交渉成立もあったものじゃない。だから大衆の目があるときは変な人間にならないよう自分自身に気を張っている。

 

「む、そろそろ時間か。少し早いが授業はここまでにする。昼休みが終わるまでには席に着いているように」

「「「はい」」」

 

おや、もうそんな時間か。ぼーっとしてたからあんまり時間を意識していなかった。

 

「どうしたのだ優。体調でも悪いのか?」

「ちょっと考え事をしてただけですよ。心配は無用です箒さん」

「そうか。ならいいんだ」

 

授業が終わってすぐに箒さんが僕の元へ来る。お昼ご飯を一夏と三人で食べるためにこれから食堂へ向かうからだ。

あ、そうそう。彼女は目つきが鋭かったり人を近寄せない雰囲気があってちょっと怖そうに見えるけど、根は思いやりのある優しい子なんだ。そこは昔から変わってないね。後美少女なのも。

 

 

 

「勘弁して下さいまし桐崎さん。そんな腑抜けた様子ではわたくしとの対決に万全な体制で臨めませんことよ?」

 

 

 

…え?

 

「今の僕に言いましたか?」

「貴方以外に桐崎という方はこのクラスにいませんわよね⁉︎」

 

だって急に話しかけられたら聞き返したくもなるでしょう。そんな楽しくお喋りするような仲でもないんだから。お近づきになりたいとは思ってるけど、オルコットさん僕と一夏に対しては友好的な感じじゃないし。

 

「全く。素人がこのままで代表候補生のわたくしと勝負になるのかしら」

「あ、でしたら僕にISのことを教えて頂けませんか?オルコットさんは代表候補生とのことで優秀かと思われますし、お願いしたいです」

「なっ、ゆ、優⁉︎」

「あらあら。ふふっ。中々分かっていますわね。そう、わたくしはエリートなのですわ!下々の方の頼みとあらば教えて差し上げてもよくってよ」

 

し、下々かぁ。随分ときっついこと言うなぁ。オルコットさんのドヤ顔は可愛いんだけども。

 

「…優、その役目は私に任せて貰えないだろうか。ISについての知識だけなら私でも教えてやれるぞ」

「ちょっと、人への頼みを横入りして奪おうとするとは何事ですの?それに貴女は代表候補生ではないと思われますが」

「私は"篠ノ之束の妹"だ。代表候補生でもなくとも十分さ」

「むむむっ」

 

あの…お二人さん?どうして交わし合ってる視線の間で火花が散ってるのかな?僕が悪いの?これって。

それと箒さんの今の発言で皆ひそひそ会話し始めたよ。まぁ束さんの妹だなんて聞いたら驚くよね。

 

「優、箒、早く行こうぜ…って、な、なんだよ?どうしてオルコットさんと箒は俺を睨んでるんだ?」

「こ、この話はやめにしましょう!ね?今は昼食の時間ですから、此処で争っていては時間を無駄にしてしまいますよ」

「…わかりましたわ」「…ああ。わかった」

 

よ、よし、何とかこの状況を落ち着かせられたぞ。助かったよ一夏。君の空気を読まないプレーが僕を救ったんだ。

 

「行くぞ優。一夏」

「は、はい」「おう」

 

…さっき箒さんは優しい子だって言ったけど、しかめっ面でいかにも不機嫌ですよオーラが出てると流石に怖いです。はい。

僕はただオルコットさんにISについて教わりたかっただけなんだけどなぁ。願わくば一対一で。ほら、例えばこんな感じかな。

 

 

『あら、満点ですわね。素晴らしいですわ。それでは頑張ったご褒美に、膝枕をしてあげてもよろしくってよ?…ふふっ。冗談ですわ』

 

 

控えめに言って最高です。放課後の教室で二人っきりとかだったらもう言うことないね。あ、やばっ鼻血出そう。

でもどうしようか。ついあの場を切り抜けようとさっきの話を無しにしちゃったけど専属教師獲得のチャンスも失っちゃったよ。困ったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、これがこうなってるからーー」

「ふむふむ、なるほど」

 

その日の夜に無事解決しました。今僕は簪さんにISについて色々と教えて頂いているところです。

しかし驚いた。まさか簪さんが日本の代表候補生だったなんて。

 

「簪さんは凄いですね」

「な、何いきなり。やめてよ」

 

そのわかりにくいけどよく見るとちょっと照れてる所も素敵です天使様。こんな世の汚れを感じさせない素晴らしいものを見せてくれるなんて神に感謝に尽きます。

 

「一週間後に戦うんでしょ。その調子で大丈夫なの?」

「どうでしょうね。アリーナは当日まで借りられないみたいなので本番のみの操縦となってしまいますが、まぁなんとかなるでしょう」

「代表候補生を甘く見過ぎ。初心者が束になっても恐らく勝つのは難しい」

「甘く見てるつもりはないですよ。ただ考え過ぎも良くないかなと」

 

無謀な挑戦かもしれないのはわかってるけど、僕と一夏も男だ。大人しく尻尾巻いて逃げるようなことはしたくないからね。

 

「せめて知識くらいは頭に入れておきますよ。そうすれば少しは変わるかもしれないですからね」

「…頑張って。応援してる」

 

天使からのありがたいエール。せっかく応援してくれているんだからちょっとはかっこいい所見せられるようにしなきゃ。

 

「よし、まだやるか」

 

もう少し今日は頑張ろう。簪さんも付き合ってくれてるからね。




『』の妄想シーンはそこで読むのを一時中断して実際に妄想して頂きたいです。じっくりとね。作者からのお願いです。

次回予告→7.天災が専用機を与えてくれるそうです


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7.金髪美少女を眼鏡っ娘にする準備は整った

偽りの次回予告(2回目)


 

 

〜クラス代表決定戦当日〜

 

戦いの日がいよいよきてしまった。天気は快晴、そして時間はもう放課後。まずは今日まで僕と一夏が何をしてたかを軽く話そうか。

 

僕は特に面白いこともなくひたすら勉強していた。簪さんだけじゃなく山田先生にも放課後や昼休みに色々と聞きに行ったりしたよ。何でも親身になって教えてくれるからついつい頼っちゃった。

…べ、別に眼鏡かけてる人と長い時間一緒に居られるから勉強頑張ってたわけじゃないよ?本当だよ?チガウカラネ、ウン。

 

一夏はどうやら箒さんと剣道三昧だったみたい。夜一緒にご飯食べる時ヘロヘロになってたよ彼。一体どんなしごきを受けたのかなぁ。

まぁ昔から箒さんは剣道に関して厳しいところあったからしょうがないのかな。きっと鬼のようになって剣を振っていたんだろうね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちーちゃんは引っ込んでてもらえるかなぁ。今は私がゆーくんとお話してるんだからさ」

「部外者はさっさとご退場願おうか。桐崎の専用機さえあればお前はもう用済みだ」

 

IS学園に直接専用機を持ってきてくれた束さん。それはいいんだ。だがしかし、そうなるとピットで千冬さんとご対面することは避けられなかった。

そして気がつけば二人は威圧感だけで人を殺せそうなくらいにまで昂ぶっていた。はぁぁ。もう僕には止められないよ。

 

「随分と偉そうな口を聞くんだね。いくらちーちゃんでもそんなこと言われたら捻り潰したくなっちゃうなぁ」

「上等だ。何なら打鉄でも借りて派手にやろう。生徒達の前で無様に叩き潰してやる」

「そっちこそボコボコにされて泣いたりしないでよね。ブリュンヒルデさん?」

 

いや待って二人とも。落ち着いてください。貴女達に暴れ回られたら手がつけられなくなっちゃいますから。今すぐに挑発したり睨み合うのをやめてください。視線の間でバチバチに火花を散らすのをやめてください。

 

「千冬姉が勝つに決まってるだろ。俺の自慢の姉なんだからな」

「姉さんを甘く見るなよ。千冬さんといえどIS開発者である私の姉には敵わんさ」

 

そして傍らでは二人の弟と妹が姉論争を始める始末。君ら姉のこと好き過ぎじゃない。それと一夏はまだしも箒さんが束さんを支持するのもちょっと意外だし。

 

収拾がつかなくなって今にも戦場になりそうなピットに入り口から癒しの女神が入室してくる。砂漠を一瞬でオアシスに変える我らの副担任山田先生だ。

 

「お、織斑君、届きましたよ!織斑君の専用機が…きゃあっ!」

「ッ、危ないっ!」

 

むにゅんっ

 

「ひゃあっ⁉︎」

「あっ、ご、ごめんなさい!」

 

やっちまった。駆け足で戻って来た山田先生がこけたので正面から支えようと腕を伸ばしたら胸を鷲掴みにしてしまった。

 

「い、いえ、大丈夫ですよ。気にしないでください桐崎君」

「え、でも…」

「これ以上引きずられる方が私は恥ずかしいのでこの話はこれで終わりです。い、いいですね?」

「は、はいっ!」

 

僕としたことが女性に恥をかかせてしまった。反省しなくては。

…こんな時に不謹慎かもしれないけど、ちょっと頬を赤くして胸元を隠す仕草をしてる山田先生めっちゃ可愛いんですけど。眼鏡から覗かせる上目遣いの視線も加わってより魅力がアップしてる。

 

 

『めっ、ですよ。こういう事は大人になってからじゃないといけません。…だから、今はこれで我慢して。ね?』

 

 

あ、やばい。試合前なのに妄想が捗って鼻血が出そう。一体何をしてくれるんですかね先生。事と次第によっては余計我慢できなくなりそうな気がします。いや、我慢したくないっていうのが本音かな。

 

「…ふーん。ゆーくんはおっきいおっぱいが好きなんだねぇ。そんな情熱的な目で見つめちゃってさ。私じゃ物足りないのかなぁー?」

「あ、あの、束さん?どうしてこっちに寄ってくるんです?」

 

口は笑ってるのに目が微塵も笑ってないんですけど。まさか山田先生で妄想してるのを勘付かれた…?

ゆっくりとこっちに歩いてくるのが死までのカウントダウンに見えてきたよ。天災怖い。

 

「おい桐崎。貴様教員に手を出すとはどういう事だ」

「手を出したっていうのは語弊があるような…「ん?」ナンデモナイデスハイ」

 

大事な生徒に向けていいプレッシャーじゃないですよね先生。僕のこと獲物か何かだと思ってます?この後狩られるのかなぁ。

思わず言い訳を引っ込めちゃったし。世界最強怖い。

 

「後でゆっくりお話しようね。ゆ、う、く、ん?」

「…はい」

 

未来の嫁からの言葉に僕はただ頷くことしかできなかった。

なんか僕、将来的に束さんの尻に敷かれる気がしてきた。だって逆らえる気がしないんだもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで準備おっけーだよ」

「ありがとうございます束さん」

 

流石は束さんと言うべきか。時間もかからず全ての基本準備が終わった。今僕は一夏より先に専用機に搭乗している。後は出撃するだけだ。

 

「優」

「ん?どうしたの?」

「俺との試合もあるんだからな。そこの所忘れるなよ」

「あはは、わかってるよ一夏」

 

内心楽しみにしてるんだよ。君とこうして"戦う"ってことをするのは初めてだから。僕は剣道はやってなかったからね。

 

「………」

「箒さん」

「ッ、な、なんだ?」

「えっと、何かエール的なものを頂けると嬉しいのですが…」

 

美少女からの応援って欲しいよね。力になるし。

 

「…勝った時に褒めてやる。だから負けるなんてことは許さん」

 

なっ、後からご褒美パターンだとっ⁉︎

そんなこと言われたら負けられないじゃないか。箒さんは僕をやる気にさせるのが上手いね。

 

「桐崎」

「はい」

「負けるなとは言わん。だが初心者なりに足掻いてみせろ。いいな」

「頑張ってくださいね桐崎君。私応援してますから!」

 

教師が片方に肩入れしていいんですか山田先生。まぁ僕は嬉しいけども。

千冬さんも千冬さんなりの言葉で今の僕がまだスタートラインにいることを改めて実感させてくれた。

 

「アリーナに着いたら機体についての説明が音声で流れるようにしておいたから。ちゃんと聞いておいてね」

「わかりました。何から何までありがとうございます束さん」

「いいんだよ気にしなくて。私が好きでやってることだからね!」

 

あの束さんが僕のサポートをしてくれてるんだ。少しは良いところを見せられるように頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピットから飛び立ち僕はアリーナに降り立った。辺りをぐるりと見渡すけど誰もいない。どうやらオルコットさんはまだ来ていないみたいだ。

 

『あーあー。聞こえてるかなー?』

「うわっ、た、束さん⁉︎」

『これは録音音声だよ。私が直接喋ってるわけじゃないからよろしくねー』

 

いきなり声が聞こえてきたからびっくりした。多分これ周りには聞こえないようになってる…よね?

というか束さんが声入れたんだ。機械の声と違って落ち着きはするけど、なんか緊張感が足りないから気が抜けちゃいそう。

 

『それじゃあ説明するよ。この機体は二つのことに特化させてあるんだ。まず一つ目、今ゆーくんは普段とは違う眼鏡をつけてるよね?』

 

専用機に乗る前に眼鏡を外してくれと束さんに言われた。疑問を持ちながら言われた通りにして専用機に乗ると、装甲を身体に纏うのと同時に新しい眼鏡が装着されたんだ。度もちゃんと合ってるやつがね。

 

『その眼鏡はね、"自分に飛んでくる攻撃の軌道やコースを瞬時に予測して視界に表してくれる"っていう優れものなんだよ!ビームでも斬撃でもパンチでも攻撃だったらなんでもおっけー!でも相手の機体の動きは示すことはできないから注意してね』

 

…なんか凄そうだぞ。でも攻撃が見えたとしても避けられなかったら意味ないよね。結局は僕の操縦技術次第ってことになるのかな。

 

『そして二つ目は他のISとは比べ物にならない程の"機動力"!とにかく速さを追求したんだよ。敵から見たら一瞬でゆーくんが消えたように感じるくらい速いんだぜ!』

 

なるほど。速さが回避だったり攻撃のサポートになるわけか。これは良い。

 

『あ、詳しい原理は秘密ね。でもゆーくんの身体に負担がかかるようなことはないから安心して。私の未来の旦那様を傷つけることは絶対にしないよー』

 

う、うむ。なんか照れくさいなぁ。嬉しいんだけども。

 

『さ、説明はここで終わりっ。今日はゆーくんの初戦ってことでまずは"ISの操縦に慣れる"のと"相手の攻撃を避ける"ことを目標にしようか。頑張ってね!』

 

束さんも千冬さんと同じで勝てとは言わないんだね。あの二人は先を見据えてる気がする。戦いは成長するための過程であると教えてくれてるんだと僕は思う。

 

『あっ、そうそう。もう一つ言うことがあるのを忘れてたよ』

 

ん、なんだなんだ?

 

『ふふっ、ゆーくんが頑張ったらお姉さんからちゅーのご褒美があるかもしれないよ。だから一生懸命戦うように!それじゃあ、また後でね〜』

「…ずるい人だなぁ。束さんは」

 

勝ったらとは言ってないからね。頑張ったらだからね。これは期待できるぞ。うん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふ、ふふふふふ」

「(えっ、いつの間にオルコットさん来てたの?)」

 

録音音声を聞き終えて意識を外に向けると正面にさっきまでいなかったオルコットさんが俯いて立っていた。な、なんか肩震えてない?頬もぴくぴくしてるしもしかして怒ってらっしゃいます?

 

「お、オルコットさん…?」

「…わたくしが何度話しかけても無視ですのね。これは完全になめられていますわよねぇ…」

「え、いや、そういうわけでは「ッッ、今更何を言っても遅いですわぁ!ぼっこぼこにしてさしあげますから覚悟なさい‼︎」

 

ビシッ、と指を突きつけられ宣言される。そんなに長い間無視しちゃってたのか。束さんボイスの機体解説が始まったのと同じくらいにアリーナに降りてきたのかもしれないな。

 

さて、此処で話を変えよう。皆は僕が戦う理由はわかっていると思う。それを改めてオルコットにもちゃんともう一度伝えておこうか。"約束"を忘れられてたら困るし。

 

「オルコットさん」

「…なんですの」

 

綺麗な金色の長い髪。そしてその怒っていても整った顔立ち。

ああ…きっと眼鏡が似合うんだろうなぁ。

 

 

「覚悟するのは貴女の方ですよ。僕の前で眼鏡をかける心の準備をお忘れなく」

 

 

ーー全ては眼鏡っ娘のために。さあ、僕達の戦いを始めようか。




皆気づいてるか。この主人公、まだ眼鏡かけてない束さんに既にデレデレなんだぜ。眼鏡属性プラスされたら一体どうなっちまうんだよ()

次回予告→8.クラス代表ではなく眼鏡っ娘をかけての戦い


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8.クラス代表ではなく眼鏡っ娘をかけての戦い

投稿が遅くなりまして大変申し訳ございません(土下座)。私事情ではございますが少し忙しい日々を送っていたので、空いた時間にちょっとずつ執筆を進めていました。

まぁ作者の日常はどうでもいいですかね。早速本編にいきましょう。


 

 

『前方にISを確認。敵性と判断。これより操縦者が装着している眼鏡に敵機からのエネルギー反応を表示します』

 

オルコットさんがライフルを僕に向けて構えると、さっきの束さんの声とは違う普通の機械音声が流れ始めた。そして少しずつ僕の視界がほんの少し緑がかった景色に変化していく。これで相手からの攻撃が見えるようになったのかな。

 

「(えっと、とりあえず武器の確認をーー)」

「はっ!」

 

 

ビュンッ‼︎

 

 

「うわぁっ⁉︎あ、危なっ…!」

 

咄嗟に横に動いてなんとか躱す。な、中々に怖いね、ビームが飛んでくるっていうのは。軌道の表示がなかったら絶対避けられなかったよ今の。完全に油断してたから。

 

「運良く避けましたわね」

「あの、オルコットさん?此方は初心者なので、最初はゆっくりと戦いを進めて頂けるとありがたいのですが…」

「勝負において手を抜くことはこのセシリア・オルコット、断じて致しませんわ。貴方も男ならば真っ向から立ち向かってみなさい!」

 

真っ向から、ね。オルコットさんには悪いけど少しばかり様子見させてもらうつもりだ。まずは僕の専用機がどれくらいの性能なのかを把握しておきたい。

 

 

ピピッ ピピッ

 

 

「(ん、何だ?)」

 

 

プシューッ‼︎

 

 

『機体の速度制限を解除。《SPEED-TYPE》への移行が完了。出力速度の上限を解放』

「…なるほど、これで本当の準備完了か」

 

音声と共に僕の機体から空気が抜けたような音がした。でも身体に纏っている装甲が無くなったり薄くなったりとか変化があったわけじゃないみたいだ。

さて、それじゃあそろそろ束さんが言う"速さに特化した"っていうのがどれ程の物なのかそろそろ体験させて頂こう。

 

「ーー何度も避けられると思ったら、大間違いですわよ!」

 

次弾を撃つために構えるオルコットさん。よし、じゃあ右に避けーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜side 千冬〜

 

「…束」

「ん?なんだいちーちゃん」

「お前が桐崎に渡したあのIS、まさかとは思うが"ふざけた性能"をしているわけじゃないだろうな?」

「えーやだなぁ。初心者にいきなりボーナスは与えないってー」

 

突出して機体のスペックが他の者達より高いと色々と面倒だ。不満の声等も出てくるかもしれない。天災が手を掛けたというなら尚更だ。私はそこを危惧している。

男性操縦者というだけで何かと不自由なのだろうから、余計な面倒事であまり負担を掛けさせたくはない。

 

「別に特殊な武装とかはゆーくんの専用機には入れてないよ。ただちょっと他のISより機動力の面で優れてるってだけ」

「…お前の言う"他の"というのは"世界中全ての"という意味で捉えていいのか?」

「んふふ、さぁ?どうだろうねぇ」

 

はぁ…仕方ない。後で私の方でも桐崎の機体のチェックをしておくか。

 

「姉さん、優は本当にただ"動いて避けた"だけなんですか?私には速すぎて全く見えませんでしたが…」

「うん、そうだよ。あれはゆーくんの機体が出せるスピードで横に動いて"攻撃を躱した"だけ」

「アリーナの壁に衝突しそうになったのを見るに、あの機体を扱うのには難がありそうだな」

「初動で派手に突っ込まなかっただけゆーくんには見込みがあるよ。きっとすぐに乗りこなせるんじゃないかなー」

 

お前も災難だな"優"。こんな奴に目を付けられるなんて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパーセンサー越しにオルコットさんの驚いた顔がよく見える。きっと彼女からしたら視界から僕が一瞬で消えたようにでも見えたのだろう。まるで瞬間移動でもしたように。

でも実際は違う。僕はほんの数秒の間にこの身体で体感した。超スピードでアリーナの壁に激突しそうになる恐怖を。

 

遊園地の絶叫系の乗り物なんかより100倍怖かった。泣きそうです。泣かないけど。

 

『武装を展開します』

「まだ機体の操縦に慣れてないしなんなら恐怖を植え付けられたのに早速戦えと言うんですかそうですかスパルタだなぁちくしょう」

 

僕の手元に粒子状の光が浮かぶと、そのまま光は集結し一本のライフルを具現化した。

 

「(銃か。作戦はどうしようかな))」

 

アリーナをこの機体の超速度で駆け回ってオルコットさんを翻弄し、隙を見て狙いを定めて撃つ。そしてまた駆け回る。こんな感じでどうだろう。作戦としてはいいんじゃない?ヒットアンドアウェイ的な。出来るかどうかは別にしてね。

 

「…デタラメな速さですわね。瞬時加速が霞んで見えますわ。でも、次は外しません!」

「いえ、次は僕の番です」

 

 

チャキッ

 

 

「あら、交戦の意思はあるのですね」

「当たり前です。僕は貴女に勝つつもりですから」

「まともにISを操縦したこともない初心者が、代表候補生に勝てると?」

 

 

「ーーそれを、今から証明してみせます」

『ターゲットロック。エネルギー射出準備完了。敵機からのエネルギー反応を感知。攻撃に備えてください』

 

 

互いに構え合う。

先に撃ったのはオルコットさん。先手を取られた僕は彼女に向けていたライフルを降ろし、一先ず回避に専念する。

 

 

ビュンッ‼︎ ビュンッ‼︎

 

 

「(速度を抑えるんだ。今の僕じゃ、さっきのスピードのまま操縦することは出来ない…!)」

 

集中力を高める。一瞬足りとも気を抜かずに、見える射撃の軌道に当たらないよう機体を動かす。

今の僕の機体が出しているスピードは先程の超速度の半分も出ていないだろう。それでも十分速い方だとは思うけど、オルコットさんは僕を撃ち抜こうと的確に居場所を捉えビームを放ってくる。

 

「ッ、逃げ足だけは一流ですわね…!」

「イライラしてはいけませんよ。勝負事において冷静さを欠いたら、足元をすくわれてしまいます」

「そんなこと、貴方に言われなくとも分かっていますわ!」

 

オルコットさんからしてみれば、格下である僕に逃げ回られて攻撃が当てられないのが気に食わないんだろう。代表候補生としてのプライドみたいなものもあるに違いない。

 

「はぁっ!」

『ヒット。敵機のSE減少』

 

対して僕には背負っているものなんてない。あるとすれば、束さん達からの期待と彼女に眼鏡をかけさせるという僕に与えられた使命かな。別に与えられてないけど。

 

 

『…うぅ、は、恥ずかしいですわ…』

『顔を背けないでよ。ほら、もっとよく見せて?オルコットさん』

『あっ、き、桐崎さん…』

 

 

うん。たまには僕からグイグイ行くのも悪くないかもしれない。強気な彼女がしおらしくなるのも見てみたいし。

 

『被弾。SE減少』

「あっ」

 

…試合中なのに妄想が捗ってしまい、操縦の方を怠りました。しっかりするんだ僕。気を抜くんじゃない。

 

「わたくしとの試合中によそ事を考える余裕があるとは、いい度胸ですわね」

「……ど、どうして分かったんです?」

「そんな気の緩んだ顔をしていれば誰でもわかりますわ」

 

な、なんと。顔に出てましたか。これは恥ずかしい。

 

「…失礼。試合に集中します」

 

妄想なんて後でいくらでもできる。今はこの戦いのことだけを考えろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜side セシリア〜

 

もうっ、一体なんなんですのこの殿方は!

代表候補生であるわたくしに勝つなどと無謀な宣言をしておきながら、試合中に何か嬉しかったことを思い出したかのように頬を緩め気を抜くなんて!

 

「っ、はぁぁっ!」

 

…でも、彼の目はまだ決して諦めていない。最初に見せたあのとてつもない速さは見る影もないが、慣れないなりに頭を使い操縦しているのがわかる。勝利を手にするためにわたくしに牙を向いている。

 

「………」

「…ん?どうかされましたか、オルコットさん」

 

わたくしがライフルを降ろせば、同じく攻撃の手を止めて敵だというのに心配の言葉をかけてくる。

 

 

「お答えください、桐崎さん。貴方は何故この戦いに本気で挑まれるのですか?」

 

ーー知りたい。この男が戦う理由は何なのか。どうしてここまで必死になれるのか。

 

 

「そう、ですね。負けられない理由があるからですかね」

「その理由とは?」

「僕は別に男としての誇りやプライドを掲げて戦っているわけではありません。そんなものは一夏に譲って任せます」

「…そんなもの、ですか」

「男らしくないと言われたらまぁその通りかもしれません。でも、僕にだって譲れないものもあります」

 

先ほどまでの真剣な顔とは打って変わって、純粋な子供のような柔らかな笑顔を浮かべる桐崎さん。

 

 

「僕、"眼鏡っ娘"が大好きなんです。というかそれ以外の属性は全く興味ありません」

「……は?」

 

 

め、メガネ?

 

「眼鏡っ娘を拝むためなら何だってします。宿題の手伝い、掃除当番の手伝い、教材運びの補助等色々と。後は休日にショッピングモールで洋服選びの参考意見役なんかもしましたね」

 

…最後のは、お手伝いというよりただ遊びに行っているだけですわね。

 

「そして、このISバトルを経て貴女に眼鏡をかけていただけるなら僕は僕なりに足掻いてみせるつもりです」

「(教室でわたくしに言っていましたわね。自分が勝ったら眼鏡をかけてくれないか、と)」

 

 

「ーー絶対、貴方に眼鏡をかけさせます。だから僕はここで負けるわけにはいきません」

「(…それが、貴方の戦う"理由"なのですね)」

 

再びライフルをわたくしに向けて構え直し、戦いに意識を集中させている。

周りからすればそれはふざけた理由かもしれない。しかし、彼にとっては他の何ものにも代え難い大切なモノなのだろう。わたくしにもその熱い想いは確かに伝わってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合中にオルコットさんの動きが急に止まったからどうしたのかと思ったけど特に問題はないみたいだ。よし、じゃあそろそろ再開しーー

 

「先程までの戦いでの無礼を謝罪いたしますわ」

「ん?ああ、うん。…え、無礼?何のこと?」

「ここからは、わたくしの全力で貴方と戦わせていただきます」

 

彼女がそう言うと、オルコットさんの周りに4基の新たな武装と思わしき物が彼女を囲むようにフワフワと浮き始めた。な、なんですか?それ。

 

 

「桐崎さん。わたくしの"ブルー・ティアーズ"と踊っていただく準備はよくて?」

「…はは、嘘ですよね?」

 

 

ここにきて一体僕は何処で彼女の闘志に火をつけてしまったのだろうか。出来るなら全力を出さないままでいて欲しかったなぁ。そんな隠し球があったなんて。

 

「さあ、いきますわよ!」

「え、ちょ、まっーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合の結果は僕の負けだった。本気を出した代表候補生にアリの如き1匹の初心者が勝てるわけなかったんだよね。

 

終わった後に彼女に握手を求められた。何でも初試合にしては素晴らしい戦いだったとのことだ。美少女に褒められたのは嬉しいけど少し残念。勝ちたかったから。

まぁ今は仕方ないか。もっと技術と知識を磨いて強くなってからリベンジしよう。そして絶対にオルコットさんに眼鏡をかけてもらうんだ。

 

「優」

「どうしたの?」

「…お前さ」

「うん」

 

ちなみに僕と一夏の試合。彼にとってはこれが初戦である。

 

「さっきから何だよそのIS、動くの速すぎるだろ⁉︎俺全然見えないんだけど⁉︎」

「えー、オルコットさんはちゃんと見極めてライフルで撃ってきたよ?」

「いやいや全然無理だろこんなのぉぉぉ‼︎」

「あはは…」

 

ごめんよ一夏。でもこれは勝負だからね、手は抜かないよ。

オルコットさんとの試合は善戦していたけど、僕の時と違って最初から気迫が凄かったから大変そうだったなぁ。そこも謝っておこう。僕が彼女に火をつけてしまったんだ。何で着火したかは分からないままだけどね。

 

「全く、精進が足りんぞ!一夏、優!」

「…はい」「俺ら代表候補生相手に頑張ったと思うんだけど…」

 

箒さんには試合後正座させられました。束さんと千冬さんは知らぬ顔して雑談してたよ。…部屋に戻ったら、簪さんに慰めてもらってから寝ようかな。




セシリアさんはいい友人ポジになりますかね。貴族と(エセ)紳士ですからきっと気も合うことでしょう。
それともう一つ。ISABのベルベット・ヘルさんは眼鏡っ娘ですね。最高です。優×ベルベットを書かなければ…(使命感

次回予告→9.インタビュアーが美人で眼鏡っ娘な件


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番外編 〜赤髪眼鏡っ娘の意外な一面〜

 

 

「…桐崎、優」

 

僕の名前を呼ぶ目の前の彼女の名は"ベルベット・ヘル"。ギリシャの代表候補生にして赤髪美人お姉様の眼鏡っ娘だ。

あまり人と関わらない孤高の存在っていうのが彼女を表す言葉だろうか。『私に関わらないで』と面と向かって言われたこともあるが、そんな彼女に何度も僕から話しかけに行っていつしか心を開いてもらった…んだと思う。今は普通に雑談相手になってくれるもの。

まぁ眼鏡っ娘は一人たりとも逃さないのが僕の流儀なんだけどね。

 

「な、なんでしょう?」

「…どうして、此処にいるの」

「えーっと、その、た、たまたまですかね」

 

嘘だ。珍しく上機嫌なベルベットさんを見かけたから気になって後をつけていたんだ。表情には出ていなかったが少し浮き足立っていたのを僕は見逃さなかった。

 

「…偶然で、こんな所には来ない」

「そ、そんなことはないですよ?僕が学園内を散歩するときは此処を絶対通りますし!」

 

今僕とベルベットさんがいるのは学園の中でも人目から外れた場所。校舎裏みたいな感じの所だ。滅多に人は通り掛からないだろう。

 

「…………」

「…………」

 

絶賛無言で睨まれ中でございます。でも頬はちょっと赤くなってて照れも混じってるのが可愛いよね。…うっ、目つき鋭くなった。ベルベットさん僕が妄想とか邪な考えしてるの見抜くの得意だからなぁ。

 

 

にゃーお

 

 

「ーーッッッ‼︎」

「可愛いですね、その猫。ベルベットさんの足にすりすり甘えて」

 

ベルベットさんの顔がより一層真っ赤に染まる。別に猫が好きなのって恥ずかしがることじゃないと思うけどなぁ。まぁ他の生徒は驚くだろうけど。

 

「…変かしら?私が裏で猫を可愛がっているなんて」

「そんな事ないですよ。普通の女の子らしくていいと思います」

 

 

にゃあ、にゃあっ!

 

 

「随分と懐かれてますね。何回も迷い込んで来てるんですか?」

「…ええ。少なくとも1ヶ月以上前から私はこの子を知っていたわ」

 

可愛がり方が手慣れてますもんね。猫の方も気持ちよさそうだ。

 

「その子に名前とか付けてないんですか?」

「…あるけど、貴方には教えない」

「えー。意地悪しないで下さいよー」

 

 

みゃあみゃあ、にゃっ!

 

 

「あっ、ちょっと。はしゃぎ過ぎよ"ルビィ"」

「へぇ、ルビィちゃんですか。いい名前ですね」

 

…いやいや、そんなに睨みつけないで下さいよ。僕何も悪いことしてません。貴女が勝手に自爆しただけです。

 

「…もういいでしょう。用がないなら早く此処から消えて頂戴。私はこの子の相手をするから」

「はーい」

 

ちぇっ。仕方ないか。珍しいものも見れたし、ここは大人しく退散しますかね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルベットさんからお邪魔虫宣告を受けた僕が一人廊下を歩いていると、向こう側から水色の髪をした女子生徒がやって来る。

 

「あら、優君じゃない。元気にしてるかしら?」

「ええ。元気ですよ。楯無さんもお仕事を放ったらかしてお元気ですか?」

 

放課後のこの時間は生徒会室で虚さんが溜まった書類を片付けたり、本音さんが寝ていたりお菓子を食べたりと何かしているはずだ。楯無さんが廊下をブラブラしているということはサボりのはず。まぁいつもの事だけど。

 

「仕方ないじゃない!私だって疲れてるんだから!」

「だからってサボりはよくありませんよ。虚さんも頑張っているんですから」

「…優くんって簪ちゃんと虚ちゃんにはやたらと甘いわよねぇ。この眼鏡フェチめ」

 

僕にとっては褒め言葉でしかありませんよ。

 

「眼鏡をかけていただけるなら楯無さんにも紳士的に接しますが」

「うーん。遠慮しておこうかしら。私視力は悪くないもの」

「そういう方には伊達眼鏡を勧めているのですが…楯無さんはかけてくれなさそうですね」

「ふふっ、よく分かってるじゃない♪」

 

簪さんとの仲直りに一応僕だって貢献したんだから少しくらいかけてくれてもいいのに。今まで出会った女性でトップレベルに頑固かもしれないなこの人。

 

「眼鏡はかけてあげないけど代わりにいい話があるわよ」

「何でしょう?」

「今週末から駅前のショッピングモールに新しく"ペットショップ"がオープンするそうなの。優くん暇だったら簪ちゃん誘ってデートしてきたら如何かしら?」

「(…簪さん、週末は整備室に籠るって言ってた気が)」

 

嬉しい話ではあるが彼女は誘えなさそうだ。束さんを連れて街中にホイホイ出るわけにも行かないし、今回は見送りかなぁ。

 

「…あ、そうだ。ベルベットさんを誘おう。楯無さん、いい話をありがとうございました」

 

お辞儀をしてこの場を離れる。猫好きも発覚したことだし多分来るんじゃないかなぁ。むしろ僕が誘わなくても一人で行ってそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「優君って簪ちゃんと篠ノ之博士だけじゃなくてベルベットちゃんも好みだったのかしら。…はっ⁉︎ま、まさか、う、浮気⁉︎お姉さんこれ以上乱れた関係は許さなーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜日曜日・駅前の街灯の近く〜

 

「あ、いた。ベルベットさーん!」

 

大きい木の下にいつも通りの立ち姿で待っていた私服姿のベルベットさん。大人っぽいオーラが普段より一層漂っている。綺麗だなぁ。

 

「こ、声が大きいわよ!」

「別にいいじゃありませんか。何か問題でも?」

「……ない、けど」

 

変な所を気にする人だなぁ。何もこれからやましい事するわけじゃないのに。

 

「おっと。ここで話していてもあれですね。早速行きましょうか」

「…ええ」

 

僕達はこれから新しくオープンしたというペットショップへ向かう。楯無さんから聞いた次の日に誘ってみたが、二つ返事で了承が返ってきたよ。珍しい。

 

「……早く、行きましょう」

 

ちゃんと着いて行きますからそんな力強く引っ張らなくても大丈夫ですよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーー」

「…ここ入り口なので他のお客様の邪魔になっちゃいますよ」

 

お店に入るなりすぐにカチン、と氷のように固まるベルベットさん。その視線の先にはショーケースに入れられて展示されているたくさんの可愛らしい子猫達が。

 

「ふ、ふんっ。そ、そそそそこまで大したことないわね。猫がいるくらいで私は動揺しなーー」

 

 

にゃーお

 

 

「はぁぁぁ…か、可愛いわぁ…!」

「(流れるような即堕ちありがとうございます)」

 

目を輝かせてへばり付いてるよショーケースに。

 

「ふふっ、可愛らしい彼女さんですね」

「…はい。そうですね」

 

店員さんが僕に話しかけて来ちゃった。恥ずかしい。はしゃいでいる子供を持つ親の気分だ。

 

「猫が好きな女性は"猫をかぶる"のが得意なんて言うんですよ。普段はクールを装っていたりする人が、実は甘えたがりみたいな一面を持っているなんてこともあるんです」

「へぇ、そうなんですか」

 

ベルベットさんはどうなんだろう。彼氏とか夫が出来たら裏では猫になって甘えるのかなぁ。

 

 

『あの、ベルベットさん?もうそろそろ1時間くらい経ちますよ?』

『…まだ、離れたくない』

『寝る前にまたハグしてあげますから。とりあえずお風呂にーー』『やだ』

 

 

『…もっと、優のことぎゅってしていたいの』

 

 

…自分の才能が恐ろしくなるよ。ここが外じゃなかったら鼻から大量出血で倒れてた。絶対。

 

「おっと、まぁこれは余計なお世話かもしれませんね。それではごゆっくりどうぞ。そして彼女さんとお幸せに♪」

「(彼女じゃないんだけど…まぁいっか)」

 

必死になって否定するのもなんか悲しくなる。ベルベットさんも聞いてないし、いいよね。

 

 

にゃっ、にゃぁっ!

 

 

「…ああ。天国はここにあったのね」

「どうでしょう。お気に召しましたか?」

「ええ、最高よ。でも触れないのが残念ね…」

 

まぁ此処はペットを飼うためにやってくる場所だからね。きっと触れ合いコーナーみたいのをやってる所もあるんだろうけど、基本は鑑賞しかできないからなぁ。

 

「(いや、待てよ?)あの、ベルベットさん」

「何。私今忙しいから後でーー」

 

あるじゃないか。猫と好きなだけ戯れられる場所が。

 

 

 

 

 

「"猫カフェ"って知ってます?」




ISABのベルベットさんとの交流シナリオにて猫好きが発覚したので書かせていただきました。
孤高キャラとか言っておいて猫にはデレデレで満面の笑みが出るとか反則でしょう。可愛すぎなんだよ‼︎(最高)

次回予告→番外編 〜赤髪眼鏡っ娘の意外な一面 その2〜


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