政宗家と仮面ライダーの日常 (名もなきA・弐)
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世界観とキャラクター紹介(※)キャラ追加

 分かりやすーく、解説します。


世界設定

政宗家:

ご都合主義とか中二病が心躍るような設定がふんだんに盛り込まれた家系。ファンタジックなのか現代チックなのか良く分からない世界に存在しており、代々精霊術を扱っている。ぶっちゃけショッカーや財団X並の財力を持った慈善団体である。

 

 

精霊と精霊術:

ジョ○ョのスタンドやペル○ナみたいなもの。大気中に存在するエネルギー『マナ』を体内に取り込んで魔力へと変換させる役割を持つ。

精霊術は所謂『魔法』や『超能力』のようなもので、自身に宿った精霊を認知して訓練すれば大抵のことは出来る。

 

 

 

 

 

キャラクター紹介 平成ライダー編

門矢士 / 仮面ライダーディケイド ICV井上正大

「大体分かった」が口癖の良くも悪くも有名な破壊者。かなり自信家な俺様系で、誰に対しても尊大な態度で接するなどやや捻くれているが誰かのために体を張るなど何やかんやで善人。

一応、写真家(自称)で常に持ち歩いている2眼レフカメラで写真を撮るが常時ピンボケしており、軽く落ち込むこともある。

ギャグ時空のため、基本的にボケ役で割かし外道なことをしばしば。

 

 

小野寺ユウスケ / 仮面ライダークウガ ICV村井良大

「自分一人が闇に落ちてもみんなの笑顔を守る覚悟」を持ったもう一人のクウガ。ツンデレな親友とは違って熱血漢で明るく真っ直ぐな性格のため、誰とでも仲良くなれる。最初に仲間になったためか、士を相棒としてかなり信頼している。

戦闘センスは悪くないが基本的にはツッコミポジション。怒るとライジングアルティメットに変身したりもする。

 

 

紅音ワタル / 仮面ライダーキバ ICV小野大輔

冷静に考えたらライダーとしての戦闘経験が長い疑惑がある青年。大人になったためか幾分かクールで礼儀正しいが、負けず嫌いなところがある。

音楽家としてのセンスも抜群であり特にヴァイオリンに関しては右に出るものはいない。

基本的にツッコミだが他に適任者がいればスルーしたりボケに回る。

 

 

辰巳シンジ / 仮面ライダー龍騎 ICV中澤まさとも

やや人間不信なところがあったが、現在は良くも悪くも真っ直ぐな性格へとなった今作唯一の常識人。優しく人懐っこくユウスケに並ぶツッコミ役である。

「僕」だったり「俺」だったりと一人称が安定しないが、自分に自信をつけるのと過去に見切りをつけるために「俺」で安定した。

 

 

剣立カズマ / 仮面ライダーブレイド(剣) ICV鈴木拡樹

恵まれない仲間とプライドの高さから精神がボドボドになっていたが上手いこと社長の座に収まった人格者。基本的に真面目だが天然でアホの子。士を「チーズ」と言い間違える辺りが特に。

ワタルとは何やかんやあったが今では気の合う友人。娘が出来たためか親バカになった。

 

 

尾上タクミ / 仮面ライダーファイズ(555) ICV入野自由

一見すると気弱な印象を与えるが、芯を持った頑固な部分が見え隠れしている青年。ディケイドが通りすがった後、色々とやんちゃをしたため時々毒を吐いたりするようになった。

根が真面目なためユウスケたちが不在の時はツッコミの業を背負う羽目になる。

 

 

芦河ショウイチ / 仮面ライダーアギト ICV堀内賢雄

苦労人一号。でも同年代のソウジとは息が合うため必然的にボケ役に回る。

特技は食料をリリースしてアドバンス召喚したダークマターを食せること。

 

 

芦川テツヤ / 仮面ライダー??? ICV小野友樹

ショウイチの年の離れた弟でアギト系列のオリジナルライダー。原点の津上翔一に似ている。

存在自体がネタバレなため、ライダー名は伏字とする(実は単に作者が考えていないなんて口が裂けても言えない)

 

 

野上良太郎&タロウズ / 仮面ライダー電王 ICV畠中祐&関俊彦他

特に語ることなし。しいて言うならあんまり出番はない。

 

 

天堂ソウジ / 仮面ライダーカブト ICV川岡大次郎

クロックアップ空間に幽閉されていたのに、家族を守る一念で絶望どころか発狂すらしなかったタフガイ。常に朗らかな笑みを浮かべているがツッコミ役ではない。

ちなみに戦闘センスと経験はリマジの中で一番長い。結構若い女性にモテるが本人は自覚なし。

 

 

安高アスム / 仮面ライダー響鬼 ICV小林裕介

未だに海東を「師匠」と呼んで尊敬しているかなり純粋な青年。真面目で笑顔の似合うイケメンになり、痩せマッチョのムキムキになった。

明るく楽観的なため、高確率でボケ役に回る。

 

上記以外にも平成ライダー登場予定。

 

 

政宗家編

政宗 元臣 ICV速水奨

政宗家の当主。渋い面持ちのダンディな方だが中身はテキトーでお茶目な人物。だけど決める時にはしっかりと決めてくれる。最近ぎっくり腰になりやすいがそれでも余計なことを仕出かそうとしている。

精霊術を使わずとも賊を叩き潰せるだけの戦闘力を持っている。テレビや漫画に影響されやすく時々それで周囲を振り回したりもしている。

 

 

政宗 芽亜莉 ICV小野涼子

元臣の妻。白銀の長い髪が特徴の美人さんである…BBAなのに。優しくおっとりな性格だが一度怒ると手が付けられない。

使用する精霊術は不明。

 

 

剣立 京香 ICV田村ゆかり

政宗家の長女で青く長いポニーテールが特徴の女性で心優しい性格をしているが、怒ると高確率で周囲にいる人物に被害が被る。

旦那が親バカなため、その方面で苦労している専業主婦。

精霊術で植物を操れる。ちなみに豊満組。

 

 

門矢 美緒 ICV巽悠衣子

息子LOVEな元・名探偵。物静かで敬語な文学少女だが息子一号と二号及び旦那が絡むと頭のネジが外れる。

分厚い本と栞を媒介にライダーを具現化出来る精霊術を行使する。ちなみに貧乳組。

 

 

小野寺 葵 ICV五十嵐裕美

和服美人な天然毒舌Sなおっとりさんで政宗家の次女。少し長めの水色の髪の毛に同じ色の和服に身を包んでいる。洋服は露出が多くて恥ずかしいらしい。

契約精霊を自身に憑依させることで能力と姿を変える。ちなみに豊満組。

 

 

辰巳 加奈子 ICV高垣彩陽

化け物スペックなイラストレーター。マイペースで創作関係なら規格外の才能を発揮する。ちなみに豊満組。

精霊術でスケッチブックに描いた作品を一時的に実体化出来る。

 

 

左 雷華 ICV茅原実里

結婚しているのにツンツンしているツンデレさん。

契約精霊の鵺を操ったり、類まれなる剣術で相手を圧倒するなど白兵戦に滅法強い。シスター雷華の懺悔室をさせられたりなど、色々不憫。ちなみに豊満組。

 

 

芦川 唯 ICV沢城みゆき

黒髪ロングで長身のカッコ良いお姉さん。その反面ややSっ気があり、面白いことなら何でも許容する困った人。

両手に構えた二丁拳銃を絡めた格闘術を使う。ちなみに豊満組。

 

 

天堂 奏多 ICVすずきけいこ

マゼンタの長い髪を後ろに下ろしたクールな委員長タイプ。だが、味覚が子どもっぽいため、トマトやピクルスが苦手。

魔力が強化した超視力と長い槍が武器。ちなみに貧乳組。

 

 

尾上 遥香 ICVすずきけいこ

奏多とほぼ同じ容姿だが、ポニーテールにしている。こちらは味覚は年相応であり、あまり好き嫌いはない。

高速移動を得意としているだけでなく、壁蹴りや宙返りなど三次元的な動きが得意。ちなみに豊満組。

 

 

安高 霧 ICV谷井あすか

太陽が苦手なため、ほぼ引きこもっている病弱っ子だが意外と人懐っこい。どうやって子供を産めたとかツッコンではいけない。

魔力に弾幕戦を得意としており、ぶっちゃけ脳筋気味。ちなみに貧乳組。

 

 

紅音 梨華 ICV森永理科

チビでツンデレな天才少女。感情豊かで彼女の前で「チビ」や「ナイチチ」は禁止ワードなので注意しよう。

四属性の精霊術を扱えることが出来るが、接近戦も得意。ちなみに貧乳組。

 

 

野上 紫音 ICV水樹奈々

常に眠そうだが、その実ポーカーフェイスなだけの人。歌手活動をしているとか何とか。

冷気を操る精霊術の使い手であり、相手を無力化させるのを得意とする。ちなみに貧乳組。

 

 

政宗 愛奈 ICV植田佳奈

中二病を患っているが、それを差し引いてもかなり常識的な感性の女性。

精霊術で生成したクナイを使った近距離戦や遠距離戦を得意としており爆発させたりなど意外と多彩。ちなみに貧乳組。

 

 

政宗 湊 ICV歩サラ

恐らく作品中、最も常識人であろう女性で姉妹の中では末っ子辺りにいるボクっ娘。趣味が料理のため愛奈とは仲が良く、創作料理を互いに作ったりしている。

空手や柔術の使い手で、精霊術を駆使してワン○ースの六式擬きの技が使えるヤベーイ人。甥や姪に護身術を教えており、特に某赤龍帝を宿した甥っ子にはトラウマレベルの特訓を泣く泣くしたことがある。

ちなみに貧乳組。よく初対面の人に「女装少年ですか?」・「生えていますか?」といったセクハラ紛いの質問をされるのが悩みの種。

 

 

政宗 詩菜 ICV東城日沙子

新人ゲームディレクター兼プログラマー。心優しいが食事をパンやインスタントで済ませるため、愛奈から良く怒られている。好きなゲーム会社は幻夢コーポレーション。

戦闘スタイルは魔法剣士……というかそれぐらいしか言えないため、些か地味であり本人も気にしている。ちなみに貧乳組。

 

 

シャノン・ファーストワード ICV釘宮理恵

厳密には政宗家の人間ではないが、一応記載。容姿端麗の万能メイドだが、元臣に好意を寄せており、愛が重い系の人。

何でも出来るが、並外れたパワーが特徴。

 

上記以外にも登場予定。



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男が4人そろえば何とかなる

 最初に謝っておきます。昭和ライダーファンの皆様、そして本郷さんと一文字さん。本当にごめんなさい。


生物が最も油断をする瞬間はいくつかある。

就寝する時、食事をしている時…そして、用を足している時だ。

始まりは、昭和ライダーから叩きつけられた挑戦状。

勝てば賞品として願いが叶うとされる何ともご都合主義なアイテム『ライダーカップ』が与えられる。

その激しい戦闘の最中、『仮面ライダーブレイド/剣立カズマ』は平成ライダーと共に昭和ライダーの戦闘で、突然の激しい腹痛に襲われトイレに駆け込んだ。

そして、用を足した後ある重要なことに気づいてしまったのだ。

 

(か、か、紙がぁぁぁ…!)

 

個室のトイレの紙が切れてしまったことに……。

その時の衝撃は到底口では語れぬことであり、あまりのショックで絶句するほどである。

 

(最悪だ…尻丸出しで動けないっ!!)

 

絶体絶命の危機に思わず頭を抱えながらも、カズマは必死に思考を巡らす。

外で待機していたであろう晴人やタクミの気配がないところを見るに、既に何処かへ行ってしまったのだろう。

 

(待てよ…ここのトイレには個室が後三つあったはず…その全てで紙が切れる確率なんて、天文学的数値に等しい)

 

冷静にそこまで考えたその時、ガラガラと紙を取る音がした。

その音を聞いた彼は確信する。

 

(いる…!俺以外に、用を足してる奴がいる!)

 

それは今の状況に置かれている彼にとって絶好のチャンスだった。

 

「助けてくださあああああああああああああああいっっ!!!」

 

カズマはトイレ中に響き渡るぐらいの大きさの声を出す。

これでも会社では社長の座に収まっているのだが、トイレから出られない状況ではこの際気にしてはいられない。

 

「紙が切れてしまったんです…お願いします!紙を、紙を恵んでくださいっ!!」

 

だが、その物乞いに返すように軽い金属音がする。

 

「……紙も仏もねぇよ…」

 

そして、青年の沈んだ声が聞こえた。

彼の放った言葉にカズマは反応する。

 

「えっ!?今ないって言いました?嘘でしょ、嘘だよね!?」

「うるさいアホ、少し黙ってろアホ、この腐れオンドゥル野郎…」

「いや、それは剣崎の方…ってちょっと待て…その声はまさか、お前士かっ!?」

 

その声は、彼にとって非常に聞き覚えのあるものだった。

声の主は仲間であり、自身が所属する平成ライダーのリーダー『仮面ライダーディケイド/門矢士』…。

だが、その声はいつもの自信に満ちたものではなく死地に立たされたような絶望の声色である。

 

「士っ!何でここにいるんだよ!?」

「こんなところにいるんだ…目的は同じだろ」

「お前も…!?最悪だ、よりによって平成ライダーが二人とも腹を下すなんて……」

「今朝食べた食事がまずかったみたいだな……」

「冗談じゃないぞっ!絶対どっかの個室にあるはずだっ」

 

カズマがトイレの壁をよじ登り、他の個室を確認しようとする。

同じ明るさのはずなのにやけに暗い雰囲気のする個室であり、そこに『何か』がいるのを見つける。

その『何か』はカズマに気付いたのかゆっくりと顔を上げ……。

 

「紙をよこせええええええええええええ!!!」

「ぎゃあああああああああああああっっ!!?」

 

顔の影を濃くし、目を見開いたまま紙を要求してきた…アンデッドやそこらの怪人よりも恐ろしいものを見てしまい、カズマは絶叫する。

 

「どうしたー?」

「よ、妖怪がいた。何かすごい強面の……!」

 

悲鳴を聞いた士が問いかけると、カズマは呼吸をし高鳴る動悸を抑えながら先ほど見たものを掻い摘んで説明する。

 

「それは恐らく、『妖怪 便所爺三四郎』だ」

「便所爺三四郎っ!?」

 

冷静に『何か』の正体を分析した士、そして、聞いたこともない名前にカズマはそれに驚愕を露にする。

ちなみ言うまでもないが、便所爺の正体は昭和ライダーのリーダー『仮面ライダー1号/本郷猛』である。

 

「戦闘中、トイレから出られなくなった哀れな者の末路だよ」

「マジかよ!?おい、このままだと俺たちも妖怪便所爺になっちまうぞっ!!」

「ぬおおおおおおおおっ!!け、今朝の漬物が腐っていたとはああああああ!!」

 

時々本郷の断末魔が聞こえるが、二人はそれを無視し紙を取りに行く作戦を立てる。

 

「大体分かった。カズマ、紙取ってこい」

「下半身丸出しで行けって言うのかよ、お前は!」

 

とんでもないことを要求してきた士に流石のカズマも拒否をするが、その声は自信が満ち溢れている。

 

「全部脱いだ方が良いな、『通りすがりのビックフットだけど何か』的な」

「これ以上醜態を晒すなんて…」

「所詮ギャグ次元だ。ライダーカップの設定もすぐに消え…」

「やっと見つけたぜ」

 

そこで二人の会話に割り込む声が突然聞こえてきた。

突然来た来訪者に二人は便座に跨ったまま構えを取る。

やって来たのは、昭和ライダーの副リーダーであり、本郷猛の相棒『仮面ライダー2号/一文字隼人』であった。

 

「仮面ライダー…2号……!」

「……っ!」

「まさか平成ライダーが二人もいるなんてな、ここ一帯は人が全く近づかないから、紙が切れるのは仕方がないとして…」

 

突然現れた一文字に士は冷や汗を流し、カズマは増々警戒を強める。

現在の状態ではまともに戦えるはずもなく、勝敗は一文字の言う通り火を見るよりも明らかだった。

 

「袋の鼠だな、さてどうやって…」

 

すると、トイレのドアがゆっくりと開く。

出てきたのは、服もズボンも何もかも脱ぎ去った全裸の本郷だった。

 

「あの、通りすがりのビックフットだが…何か紙を持ってないかな?」

「…何やってんだ、本郷?」

「……」

 

数分の沈黙の後、本郷は再び個室に戻っていった。

 

「どういうことだ!!全然通じんぞっ!?」

「馬鹿だろ。本当にやるか、馬鹿だろっ!!」

「本郷、そんなことをしていると勝てる勝負も勝て…!!?」

 

八つ当たりに近い言動を起こしている様子にため息をつき、一文字は自分の相棒に注意しようとするが…。

彼自身も猛烈な腹痛に襲われてしまい…。

 

「ぐおおおおおおおっっ!!!」

 

一文字もまた、トイレに駆け込んだ。

 

 

 

 

 

「まさかこんなとこで大将に会えるなんてな!決着をつけてやるっ!!」

 

カズマは、眼前の敵に向けて闘志を燃やす。

 

「お前らは俺たちに手も足もでない、断言しよう」

 

その闘志を本郷は軽く流し、不敵に笑う。

 

「分かってないようだな、1号。既にお前は袋の鼠だ」

 

本郷の余裕に士は、静かに闘志を燃やす。

 

「焦んなよ後輩、後でゆっくり相手してやるからよ…けどその前に、やることがあんだろ?」

 

静かに闘志を燃やす士を煽る一文字だったが、全員に話しかける。

そして…。

 

『誰かああああああああ!!紙くださあああああああああああああいっっ!!!』

 

四人の仮面ライダーは渾身の力を込めて叫んだ。

改めて状況を説明しよう……。

結局、後から現れた一文字もトイレの中に駆け込み体内の毒素を全て出したのだ、しかも最悪なことに彼の個室のトイレにもトイレットペーパーがなかったのだ。

踏んだり蹴ったりである。

 

「冗談じゃないぞ!!敵を目の前にして身動き一つ出来ないなんてっ!大体一文字さんて言ったっけ!?何してるんだよあんたっ、さっきまで物凄く優位に立ってなかったけ!?」

「が、我慢出来なかったんだよ。あ、楽になってきた気がする…あぁぁ、やっぱり駄目だぁ…」

 

カズマは今置かれている状況に頭を抱えると、優位な立場だったはずの一文字に話しかける。

ちなみに当の一文字は未だに腹痛が治まっていない状況である。

 

「腕が何で二本あるか知ってるか?それはな…」

「早まるな士っ!希望を捨てるなっ!!」

 

目が死んでいる士が呟いた言葉を聞き、カズマは慌てて士の精神状態を何とか元に戻す。

それを聞いた本郷は自らの手を黙って見ていた。

 

「……」

「本郷?何か喋らなくなったんだけど大丈夫か、絶対すんなよ!?敵の策略だからな!!?」

「まあ待て、敵だの何だの言ってる場合じゃないだろ?ここに閉じ込められたままでは、戦闘もくそも…」

「こんな時に『くそ』と言う言葉を使うなっ!」

 

急に言葉を発さなくなった本郷に一文字は冷や汗をかきながら「策略」という言葉を使って説得する。

何とか落ち着きを取り戻した士の言葉にカズマはピリピリしながら遮るも、彼はある提案をした。

 

「取り敢えず紙を手に入れることが先決だ、どうだ?尻を拭くまで協力しないか?」

「敵と組めと?そんな手に乗ると思ってるのか?」

 

その言葉に一文字は不敵な笑みを浮かべ平静を装うとしているが、その顔はまだ青くまだ体調が万全でないことを示している。

 

「…てか臭いんだけど!いつまでしてんだっ!」

「一文字、こうなっては仕方あるまい。ここは戦闘を忘れて尻を拭くことに専念しよう」

「だけど士、協力すると言っても手はあるのか?」

 

全員が士の案に乗っかるが、カズマが最もな質問をする。

そう、いくら誰かと協力しようとしてもその手段や方法がなければ烏合の衆と成り下がってしまうからだ。

だが、そんなカズマの不安を打ち消すように士は自信に満ちた言葉を発する。

 

「紙はなくても知恵はある。大人四人の頭を振り絞れば、なんとかなるだろ」

「大人四人と言っても、ケツにウ○コがある大人四人だぞ?そんな大人に何が出来るんだ?…ていうか俺たちは大人なのか?」

「自分を卑下するのは止せ、こういう時ほど精神を高潔に保て。人間どんなになっても品性だけは失ってはいけないぞ」

「良いこと言ってるけど、それ言ってる奴も糞味噌付けてるからな、これ」

 

少しだけ脱線しつつある話題に一文字が咳払いをすると、話すべき議題を元に戻す。

 

「取りあえず状況を整理するぞ。今このトイレにトイレットペーパーはない、しかも個室全てにだ。俺たちの仲間は戦闘中だろうから頼むことも出来ない」

 

そして現在彼らがいる場所は人が集まらないため誰かが来ることも考えづらい上に、尻を拭いていない状態ではズボンすら履けない。

つまり助けを呼びに行くことも難しい状況である。

 

「自分たちで何とかするしかないってことだ…取り敢えず全員、持ってる物を出せ」

「うぐおおおおおおっっ!!!」

 

士の言葉を聞いた一文字が力み始める。

 

「誰がそんな物を出せって言った…!」

 

そんなこんなしながらも全員が全員、用意しておいたバックやズボンのポケットの中を探り始めた。

 

(紙なんてあるわけがない。そんな物があればとっくに尻を拭き、全員叩きのめしているはず…他の奴らもそうだ。そんなことは全員分かっているはず…なのに何故こんな話を切り出したか……士、俺には分かる)

(この極限状態において共通の目的のため同じ行動を取ることは、強い仲間意識を生む。あいつらは同じ行動を取ることで、自分たちが敵ではないことを俺たちに印象付けようとしている。隙を作り、そこを突くために…)

 

探しながらも、カズマと一文字は士の案に隠された意図を読み取っていた。

流石は仮面ライダー……この状況下にあっても四人は冷静そのものであり、油断は存在していない。

 

(おそらくこの中に、協力しようとしている者は誰一人としていない。それだけじゃない。敵を出し抜き、誰よりも早く尻を拭かねば…後手に回れば間違いなくやられる!)

 

そう、彼らは協力して紙を探そうとしているのではない。

相手より優位に立つためにこのような提案をし、なおかつそれに賛同しているのだ。

 

(紙…)

(紙…)

(紙…)

(紙…)

((((誰よりも早く紙を手に入れた者が、この戦闘に勝つ!!!))))

 

するとこの膠着状態に変化が訪れた。

 

「…おい、なんか良い物があったか?」

(さて…どう出る?)

 

今まで黙っていた士が切り出し、一文字は様子を探る。

 

「ないな」

「俺もない(奴らの作戦に俺も乗るべきか?隙を見せ、食いついてきたところを…)」

「おい、これなら使えるんじゃないか?」

 

カズマと同じ答えを出しながらも作戦を考えていた一文字の思考を本郷が遮った。

どうやら何か見つけた様子だ。

 

「これ…紙やすり、あった」

((か、紙やすりだとっ!?ふざけるな!肛門が血だらけになるわっ!!))

 

本郷が見つけた物『紙やすり』にカズマと一文字は心の中でシャウトをする。

だが…。

 

(…と言いたい。普段なら…)

(しかし、この状態での紙やすりは、高級材と保湿成分を配合した高級ローションティッシュ・スコッチに匹敵する代物に見える!)

((超欲しいいいいいいいいいっ!!))

 

この状況下では求めている物それなのであり、尻を拭くのにはこれ以上にない代物なのである。

 

「ふざけんな、腐れバッタ男。そんな物で拭いたら、血だらけになるだろうが」

(待て、士!!惑わされるな!『やすり』という言葉に惑わされるなっ!やすりと言えども『紙』という言葉が付いてたぞ、俺達が喉から手が出る程欲しい紙だぞっ!)

(いや、違う…!)

 

士は本郷の出した紙やすりに異議を唱え、カズマはそれを制止させようとする。

しかし、そこで一文字はあることに気付く。

 

(こいつ…紙やすりを欲しているのを俺たちに感づかれないように芝居を打ってる)

(そうか!あれはまだ敵の手中…これを欲すれば弱みにつけこまれる。奴はそれを巧妙に隠し敢えて拒絶することで、1号の紙やすりへの興味に削ぎ、その上で手に入れるつもりなのか)

 

一文字がそう考えたのと同時に彼も士の考えていることに気付く。

 

(士…俺たちの数手先までも見据えてやがる…これほど頼れる味方はいない。そうと決まれば俺も加勢だ…!)

 

士の戦略に驚愕するカズマ。

そんな彼の援護をすべく、準備を始めた。

 

「うぉっほん…ふざけんなよバッタ擬き!紙やすり?お前はまずそのやすりで脳味噌磨け!」

「(させるか!)本郷、俺たちの探しているのは紙だ。そんな物はくその役にも立たん、さっさと便所に流せ。ついでにお前も流れろ」

「何だとっ!?この状況で紙やすりは保湿成分を配合したローションティッシュ・スコッチに匹敵する代物だろう!」

 

罵詈雑言を聞いた一文字は、相手のペースにさせないよう本郷に文句をぶつける。

当の本人は紙やすりの有効性を説明しようとするが、二人は反論する。

 

「スコッチィ…はっ、思い上がりも甚だしいぞ本郷」

「『紙』という言葉に惑わされるな!後ろに『やすり』って付いてんだろっ!!」

「……」

「おいおい、言い過ぎだろ」

 

敵からも味方からも文句を言われ意気消沈する本郷。

すると、そんな彼を見かねたのか士がそう切り出してきた。

 

「……まあ、何か使い道があるかもしれないし。1号、ちょっと見せてみろよ」

(…っ!!ツツツツ、ツンデレだとおおおおおおっっ!!?)

 

彼の放ったその言葉に、一文字の全身に電撃が走った。

 

(これまでのツンから一転してのデレ!打ちのめされた所にこの優しい言葉を掛けられたのでは、物静かでクールな文学系少女でも墜ちる!バ、バカな!?ここに来てそんな技が…まさか、この男!)

 

トイレでなおかつ今まで下痢だったという極限状態のせいか、一文字はいつもと違うテンションとなっていたため冷静さを欠いてしまっていたのだ。

だから気付けなかったのだ。

『門矢士』という男の恐ろしさに、その悪魔のような狡猾さに…。

 

(その通り、こいつは全て計算していたんだよ!俺たちが奴の作戦を読み取り、それを真似し、1号を責め立てるまで全て先読みし、それを利用したんだ!!)

(バ、バカなあああああああああああ!!!!じゃあ、俺はあの男の掌で弄ばれていたと言うのかっっ!!!)

 

カズマの心の声が聞こえたのか、一文字は彼らに出し抜かれたことに憤りを感じていた。

まさか後輩にここまで追い込まれるとは思ってもいなかったからだ。

 

(あいつにとって俺は、俺たちは釈迦の掌で足掻く孫悟空の如く…な、何というやつだ!格が違いすぎる!!)

 

一文字にはもう士が巨大な釈迦に見えてしまっており、そこまで至った瞬間そのまま俯いてしまった。

 

(負けた…俺たちの完敗…)

 

頭を抱えていた時、下の隙間からある物が届く。

 

(…やすり?)

(やすりだ!)

 

何故か紙やすりが全員に分けられたのだ。

これには流石の二人も驚くことしか出来ない。

 

(何?どういうつもりだ…!?)

(士、本郷さん。本当に協力する気が…)

 

そう思いながら、カズマは送られてきたやすりを見る。

 

(やすりが思っていたより三倍荒い、しかも両面っ!?こんな物で拭いたら本当に尻の皮が擦り剥けるぞ!!)

「いよいよとなれば、これで拭くしかあるまい。まあ、薦めはしないが」

 

本郷の言葉と同時に個室からジョリジョリ、と音が聞こえてきた。

それにカズマは反応する。

 

(この音…嘘っ、嘘だよね…まさか…拭いている!?間違いない!このやすりで拭いている!!バ、バカなあああああああああああっっ!!!)

 

あまりにショッキングな出来事に思わず取り乱してしまう。

 

(『仙人』…遥か東方の地で、焼けた砂に尻を着けては放し…着けては放しを繰り返してきた…『ケツ毛仙人』だとでも言うのかああああああああああっっ!!!)

 

妙なヴィジョンと共に驚愕するカズマを余所に一文字は、今までの不敵な笑みを見せる。

 

(ふっ…本郷、考えたな。これらは全て、敵に心理的圧迫を与えるための策。紙も何もない状況でこれを見せれば、自然に拭くか否か自らを追い込む…冷静な判断を失えば、こちらの思うつ……)

 

次の瞬間だった。

士の個室から聞こえたジョリジョリ、という音が一文字の思考を遮る。

 

「おーい、1号」

(…あれ?)

「すごいな、物すごく荒いじゃないか」

(え…嘘だよね?)

「効くぅ…」

(まさか…拭いている!?え…拭いてないよね、吹くわけないよっ!……や、やっぱ拭いてるよ!これ吹いちゃってるってっ!!バ、バカなああああああああっっ!!!)

 

あまりにもショッキングな出来事に彼もかなり動揺すると同時に、カズマと同じような変なヴィジョンが浮かび上がる。

 

(『伯爵』…遥か西方の地で、熱々のソーセージで尻を叩かれ続けた…『ケツ毛伯爵』だとでも言うのかあああああああああっっ!!!)

 

ここまで来るといくら歴戦練磨の仮面ライダーでも慌ててしまうのは当然のことで……。

 

(え…どうすんのこれ…拭くの?拭く感じになってんのっ?)

(無理無理無理無理…無理だってこれ!バンジーでもスカイダイビングでもしますからこれだけは…!や、やっぱバンジー無理!!)

 

カズマと一文字はこの空気に乗るべきかどうか迷ってしまい、動揺してしまう。

まぁ、実際の二人は壁や床を擦っているだけなのだが見えない彼らに分かる筈もない。

 

(拭かなければ、やられる!)

(勝つためには…あの人のために勝つためには…!)

 

最大の決断に苦悩しながらも、二人は覚悟を決めようとする。

 

(京香、杏…俺はお前たちに笑ってもらうためにこの戦いに挑んだ、そのためなら…)

(立花のおやっさん…俺はこの戦いに勝つためなら…何だろうとする覚悟があるぜ)

 

カズマは愛する妻と超絶可愛い愛娘が笑顔で写っている写真を、一文字は恩人である人物の写真を取り出す。

それをしばらく眺めていたが、二人は写真を見てある事に気づいた。

 

((これ、紙じゃねーかっ!!))

 

そう写真=紙だったのだ。

だが当然と言うべきか必然と言うべきか、二人は写真を握り締めて激しく葛藤する。

 

(いやいや落ち着け俺!お前は妻と娘の顔で尻を拭くというのか!?そんなこと…いや、ある種興奮するけども/// …出来ないっ!やすりも出来ない!)

(おやっさん。俺は人間の自由のためなら、顔面で受け止めることは出来る…けど、恩人であるおやっさんの顔で…出来ない、というより気持ち悪いっ!やすりも出来ない!)

 

そして、二人の葛藤は、二択となって彼らの頭を回り始める。

 

(京香たち…やすり…)

(おやっさん…やすり…)

 

葛藤はさらに増幅し、加速し、そして回り始める。

そして彼らは…覚悟を決めた。

 

((……っ!))

 

水を流す音がした後、トイレのドアが勢い良く開かれた。

 

「「変身っっ!!」」

【TURN UP!!】

 

カズマはスペードとカブトムシをモチーフとした仮面ライダーブレイドに変身し、すぐさま専用武器である『ブレイラウザー』を構えるとカテゴリー5・6・9のラウズカードをラウズする。

一文字も仮面ライダー2号へと変身すると、互いに向かい合い…。

 

【LIGHTNING SONIC!!】

「ウェエエエエエエエエエエエエイッッ!!!」

「ライダー…パーーーーーンチッッ!!!」

 

二人の必殺技が激しい衝突音と光と共に交差した。

 

 

 

 

 

長くも感じる一瞬の静寂が場を支配する。

やがて、口を開いたのは2号だった。

 

「…はは、結局俺も…まだまだ、か……やっぱ、やすりは…無、理……」

 

変身が解除され一文字はそのまま前のめりに倒れる。

だが、ブレイドも変身が解除されてしまい…。

 

「京香、杏…すまない。お前たちの笑顔を見ようと参加をしたけど…俺はここまでのようだ…」

 

尻から大量の血が飛び散ちると、カズマもまた前のめりに倒れる。

 

「俺って奴は…本当に…バ、カ…」

 

そう呟くと同時に写真がゆっくりと落ちてきたのだった……。

これは……不器用で真っ直ぐで、バカな男たちの戦いの記録。




 こんなネタが開始一番なのをお許しください。


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いつも心にハードボイルド(前編)

 それは、決して潰れない。


『政宗家』が存在する世界は、精霊術とクリスタルによって文化が発達したファンタジーと現実世界が混じり合っている。

しかし、そこで暮らす人々の中には表と裏があるように、罪を犯す者を存在していた。

『九尾のキツネ』…通称「キツネ」は数年前から世間を騒がせている怪盗であり義賊。

貧しい人々からは何も盗まず、利益を得ている者を狙いながらも決して殺さずに金銭や財産のみを盗んでは貧しい者に分け与える。

煙幕や高速移動などの幻術染みた精霊術で警察の捜査から逃れており、名前も被っている面と宿った精霊…狐から取られている。

その活躍ぶりから人々への人気も高いのだが、ある時を切っ掛けに殺人や強盗を繰り返すようになっていた。

警察も躍起になってキツネを逮捕しようとするも、精霊術師だけで対処するには荷が重すぎたのだ。

そこで、少なからず因縁のある『政宗元臣』とその関係者に協力を要請したのだが……。

 

「ウォリャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

「ひでぶうううううううううううううううっっ!!?」

 

肝心の元臣はキャバクラで遊んでおり、それを見た協力者の一人である青年『小野寺ユウスケ』に鋭い飛び蹴りを叩き込まれていたのであった。

 

 

 

 

 

「『ハードボイルドの語源を知っているか?それは固ゆで卵。どうして固ゆで卵がハードボイルドを指すようになったのかは…ふっ、それは君たちにはまだ早いか。ただ、どうしてかこんな月が良く見える夜には、無性に酒が欲しくなる』」

 

自分で洒落たモノローグを口にしながら手に持ったグラスを傾ける元臣、それによって生じた氷の音を耳に彼は正面にいる男性に注文する。

 

「マスター、カミュの追加…」

「はい、焼酎」

「焼酎じゃなくカミュだ、マスター」

「マスターじゃなくてオヤジだろ、旦那?」

 

初老の男性とそんなアホのような会話をしているのはピアノによるジャズ演奏が響くバー……などではなくそこら辺の道端にあるような屋台。

カッコつけて会話している元臣を見ながら首に二眼レフカメラを下げた青年『門矢士』は自身の伴侶『門矢美緒』に耳打ちする。

 

「おい、何があったんだあいつ…」

「何でも、翔太郎さんから借りた小説が面白くてハマったらしいですよ…御覧の通りぐっだぐだですけど」

「「おでん御代わり」」

「俺にもお願いします」

 

ハードボイルド気取っているバカと耳打ちをする二人をスルーしておでんを平らげたのはスーツを着崩した青年『紅音(あかのね)ワタル』と寒いのにタンクトップを着ている青年『安高アスム』、朗らかな笑みを見せる男性『天堂ソウジ』

現段階で集まっているのはと仮面ライダーアギトと仮面ライダーファイズ、そして仮面ライダーブレイドと仮面ライダー電王を除くリ・イマジネーションライダー。

そして美緒と栗色の神を長く伸ばした女性『政宗愛奈』である。

四人が不在なのは色々と忙しいらしいので一先ずはこのメンバーがキツネを捉えるメンバーである。

 

「ふっ…『良いことがあろうと、悪いことがあろうと、それを肴にカミュを傾ける…そう、それが男の…』」

「もう良い、しつけーよハードボイルド」

「…て、しつこいハードボイルドって!仕方ないだろっ!?ハードボイルドなんだからっ!!」

 

ハードボイルド調で語ろうとしたその言葉を断ち切った士に対し、素に戻った元臣が文句を零す。

 

「そんなねっ、ハードボイルドで頭一杯なら、ハードボイルドなんてやめなさいっ!!このおバカッ!!」

「お母さん!?」

「確かに、その方がお義父さんにとってもハードボイルドにとっても幸せかもしれないな」

 

母親のような口調で父親を叱り飛ばす愛奈と、それに賛同するソウジ…しかし、それに納得していないのは他ならぬ本人である。

 

「んーんーっ!出来るもんっ!ハードボイルドしながらだって両立出来るもんっ!!」

「いや、もう既に出来ていませんよ」

 

子どものように駄々をこねる彼に対して、ワタルが若干引いたように窘める。

すると、そこで口を開く存在がいた。

 

「旦那、その辺にしとかにゃ…また奥さんにどやされますぜ」

 

屋台の店主である親父だ…温厚そうな顔立ちと落ち着いた口調に元臣もハードボイルド調に戻る。

 

「『まったくこのマスターには敵わない、何でも私のことはお見通し。思えば十年来の付き合いカミュ』」

「カミュって言った!語尾に付けて無理やりハードボイルドにしたよっ!!」

 

もはや「カミュ」と言いたいだけになっている元臣のモノローグに対してユウスケがツッコミを入れるも、彼の言葉は続く。

 

「『もう本当の親父のようなものだな…向こうも恐らくそう思っているはず』」

「いや、別に思ってねぇよ」

「『くたばれ爺カミュ』」

「もうハードボイルドの欠片もないわね」

 

ぐだぐだなやり取りに愛奈が呆れながら焼酎を飲んでいると、思い出したかのように話題を振る。

 

「そういや、キツネが現れたのも十年ほど前。旦那も物好きなお人だ、警察でもないのに熱心なことで…もてはやされた時代もありましたが、今じゃコロシに押し込みの凶賊に成り果てちまった」

 

手に持ったキセルを吹かしながら、笑みを漏らす彼は紫煙をくゆらせながら話を続ける。

 

「まあ、元々盗人なんて碌な奴じゃなかったんでしょうが…」

「…あいつは違う」

 

親父の言葉に反論したのは他でもない、元臣…。

全員の視線が集まっていることに気にせず彼は言葉を続ける。

 

「悪人か善人か知らないが…私の知ってるキツネは自分の『流儀』を持ち合わせていた。盗み入った屋敷に食いかけのお揚げと書置きを残すような、茶目っ気のある何処か粋な奴だった。そんな奴が人に手を掛けるなんて…」

 

友人との思い出を語るように笑みを作る。

しかし、スマホからの着信が入ったため相手と通話を始める。

 

「私だ…何っ、キツネがっ!?ふざけた真似を…!!」

 

しばらくやり取りをしていたがやがて怒りを露にするように電話を切ると、駆け出そうとする。

それに「待った」を掛けたのが美緒だ。

 

「待ってください、お父さん。どうして敵の汚名をわざわざ晴らそうと?」

「…そんなんじゃない。ただ、私にも私の『流儀』があるだけさ……腐った卵は私の手で潰す。それが私の見つけた、ハードボイル道だ!!」

「旦那、会計まだです」

 

指を鳴らす元臣に対して、冷静に親父は勘定を催促する。

 

「あ、すまん」

「今一決まらないな。しかも全部小銭だし」

 

そんな彼に代金分の小銭を渡す元臣に対してユウスケが真っ当な言葉を口にする中、「酔った翔太郎君みたいだな」とソウジが場違いな考えをする。

 

「ああ、それからもうここに来ないかもしれないんで、今までのツケの分も」

「親父が一番ハードボイルドなんだけど、乾いてるよ!?」

 

そう語る親父の言葉に戦慄する士。

 

「Good night.マスター」

「だから、マスターじゃねぇ…」

 

金を払い終えると、ハードボイルドっぽく決めた元臣は親父の注意も聞かずにそのまま現場に赴く。

 

「……それじゃあ、この金はそのままお嬢さんたちに」

「何の真似、親父さん?」

「一体何を…?」

 

小首を傾げる愛奈とアスムに対して親父は笑いながら説明を始める。

 

「ちょいと一個人としての依頼料です。あっしはあの旦那からもう何年も前から四六時中愚痴聞かされる身でしてね。やれ狐だ狸だってね…」

 

店の親父が言うには、「もううんざり」・「だったらさっさと終わらせろ」とのことだ。

まるで出来損ないの息子を見るような口調でそう語った彼は、一歩引くと士たちに対してその頭を下げた。

 

「どうか…元臣の旦那のこと、宜しくお願いしやす…!」

「ハードボイルドオオオオオオオオオオッ!!半端じゃねーよ、とんでもないハードボイルドの化身だよ!」

「マスターが一番ハードボイルドだよっ!!」

 

あまりの乾いた渋さに士とシンジが声を揃えてツッコミを入れる。

その際、親父の別の名前で呼んだが…。

 

「マスターじゃない、オヤジですよ…」

「ハードボイルドオオオオオ!!あれ?何かハードボイルド多すぎてよく分かんなくなってきた…!」

『ハードボイルドーーーッッ!!』

 

屋台で全員が一つの単語をシャウトするという、極めてシュールな光景がそんなこんなで全員もキツネの捜査に乗り込むのであった。

 

 

 

 

 

今士たちがいるのはキツネが盗みに入ると予告した博物館。

そこには様々な金属で作られた『合金の油揚げ像』があり、如何にもキツネが欲しそうな宝である。

その博物館の周囲にある茂みの中に士たちはいた。

少なくとも、警察の中には元臣たち(部外者)のことを快く思っていない者もいるというのもある。

実際、警察の動きはキツネに見破られている…彼らと行動を共にするよりは独断で動いた方が効率が良いと判断し、こうして隠れているのだ。

 

「んー。流石にキツネが予告しただけあって、かなり警備が厳重ですね」

「外でこれなら、内部も相当だろう」

「おい、静かにしろ。見つかったらどうするんだ」

 

アスムとソウジの会話に注意をしたのは元臣だ。

アスムの愛機『凱火』のシートに座ってエンジンを吹かしながらだ。

 

「「「お前がどうすんだああああああああああああっっ!!」」」

 

そんな彼の頭を思い切りはたいたのは士とシンジ、愛奈の三人だ。

場違いにも程がある格好に思わず殴ってしまったが仕方がないだろう。

 

「こんな時ぐらいハードボイルド脱ぎ捨ててこいっ!!」

「バカなの、本当にバカなのっ!?我が父親ながら恥ずかしいわっ!!」

「バカ者っ!『あぶ○い刑事』でも、タカが良く落ちてるバイクを拾って敵を追跡しただろ!彼も中々にハードボイルドだからな」

「今のあんたは『あぶないから近寄るな刑事』だからっ!!」

 

士と愛奈の言葉に元臣が反論をするが、ユウスケのツッコミを受けたことで渋々ながら納得する。

そしてバイクから降りるとその姿が露になる…何処から取り出したか分からないワインの入ったグラスと、バスローブ姿だ。

 

「…いや、もうツッコムのも面倒臭いわっ!」

 

その姿を見たユウスケが渾身のシャウトをすると、無論それに続くように士も文句を言い始める。

 

「何でハードボイルドに拘るんだよっ!それもう一仕事終えた時のハードボイルドだろっ!!」

「タカが、仕事場行く時もバスローブって…」

「お父さん、ちょっとタカに憧れてるじゃないですか」

 

理由を説明しようとする元臣に対して、美緒が的を射た発言をする。

ちなみにアスムは自身の愛機を弄っており、ソウジもキャッツアイを口ずさみながらカブトエクステンダーの調子を確認しているが気づかず士たちはやり取りを続ける。

 

「良いからそれ脱げ、何か腹立つから…全身タイツに着替えろ」

「えっ、それはちょっと…もっこりしちゃうし」

「良いんだよ。不死身のコ○ラだって着てただろーが、ハードボイルドだろーが」

「でも、だって…ハードボイルドがそんな子どもみたいに…///」

 

頬を赤く染めて思春期のようにもじもじする元臣に対して士と愛奈が血管を浮かべた瞬間だった。

 

ブゥゥゥーーーーン……!!!

 

「「「ッ!!?」」」

 

突如鳴り響いたバイクのエンジン音に士たちがが振り返る。

 

「「あーれー!!」」

「アスムッ!?ソウジさんんんんんんんっっ!!」

 

素っ頓狂な叫び声をあげながら、アスムとソウジが博物館の正面へと突っ込んでいく様子にワタルは思わず叫ぶ。

突如現れたバイクに「侵入者だっ!」と警備員たちが叫ぶ中、その喧騒をしばらく見つめていた士が一言呟く。

 

「…陽動作戦成功だな、美緒」

「そうですね、全て計画通りです」

「「「嘘つくなっ!!」」」

 

二人の見え透いた嘘にユウスケとシンジ、愛奈がツッコミを入れるが好都合である。

警備員たちが動揺している隙に士たちは内部へと侵入するのであった。



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いつも心にハードボイルド(後編)

 後編です。


そのころ、博物館のモニター室では正面ドアを突き破って現れた二人の侵入者を捉えていた。

監視員の一人が仲間に呼び掛ける。

 

「し、侵入者です!!」

「キツネか?」

「いや、何かバイクです」

「えっ、バイク!?バイクナンデッ!?」

 

その報告内容に思わず変わった口調になってしまうが、至極当然の反応である。

モニターを監視しながら報告を続ける。

 

「何か叫んでます。『俺たちの勢いは止められねーぜ!』的なことを叫んでます。富士山に向かっているのかもしれませんっ!!」

「何その推測っ!?」

「こう見えても俺、昔アウトローだったんですよ」

 

監視役一人がは寂しげに呟く中、監視主任が呆れように腕を組んで指示を下す。

 

「アウトローでも中トロでも何でも良い。厳重警戒モードをONにしろ」

「はい。警戒モード作動」

 

一際大きいスイッチが押され、博物館には警報が鳴り響く。

 

「ついに年貢の納め時だ、キャッツアイ!!」

「いえ、キツネです!」

 

監視主任は何が起こっているのか未だ混乱したままだったが、とにかく役割を果たすべく彼らはモニターの監視を続けるのであった。

 

 

 

 

 

「警備を固めろっ!」

「ネズミ…いやアリの子一匹、特別展示室に入れるな!」

 

警備員たちの殺気立っている様子を物陰で伺う士たち…。

そして。

 

「『例え平和主義を掲げていようと結局は危険を愛してしまう。それが漢と言う名の血に飢えた獣……』」

 

窓際で夜空に浮かぶ月を見ながらワインを飲む元臣…。

それに対して「隠れろ、バカ!」と愛奈が注意しているが、気にしている様子がない。

 

「お義父さん、もうやめてください…てか、何でワイン?」

「ワインじゃない、カミュだ。『どうやら俺の中の獣も暴れたがってるようだ。さっきから震えが止まらな』オロロロロロロロッ!!」

 

窓の外に向かって突然嘔吐を始めた彼に対して、ユウスケがドン引きしながらもツッコミを入れる。

 

「完全に緊張してるよ、、吐くほどビビってるよ」

「バカだろ。好い加減ワインで紛らわすのやめろ」

「ワインじゃない、カミュだブエエエエエエエエエ」

「何でも良いからってオボボボボボ!!」

 

背中を擦っていた士だったが、近づいてしまったためか吐き気を催してしまいリバースしてしまう。

その光景に流石のユウスケも驚くことしか出来ない。

 

「うえっ!?何してんだ士ロロロロロロロロッ!!」

「ユウスケ、もらいゲロしてるベエエエエエエエエッッ!!!」

 

釣られてリバースしているユウスケたちにツッコミを入れようとしたワタルも最終的に三人の仲間入りを果たしてしまい、愛奈が鼻をつまみながら気づかれないよう叫ぶ。

 

「あんたたち何しに来たんだ…ちょ、酸っぱ臭っ!」

「おい、誰だそこにいるのは?」

『っ!』

 

やはり気づかれてしまった。

慌てて愛奈と美緒が警備員の前に即座に現れる。

 

「…って、あなたは元臣様のご子息の愛奈様と美緒様ではございませんか!なぜこちらの…!?」

「それは…」

「こんばんは、実は父と一緒に独自にキツネの調査を始めたのですが途中ではぐれてしまって」

 

口から三寸の出まかせとはったりで警備員たちに事情を説明する美緒。

少しだけ訝しんでいたが、彼女の言葉に一先ず納得した彼らは展示物がある方向へと向かう。

そこには、咄嗟に隠れるために紺・赤・緑・白の甲冑を着込んだ士・ユウスケ・ワタル・シンジが息を殺して微動だにせずに座っている。

 

「…異常なし、と」

 

甲冑を装着していた四人を人形だと誤認した彼らは、そのままこの場を通り過ぎようとする。

 

((((ふー、助かっ…))))

 

ようやく安堵の息を吐いた三人だったが次の瞬間、自分たちの目を疑った。

とある武将の像の背後に立ってライフルの銃口を突きつけている元臣がいたのだ。

 

「おい、こんな像あったか?」

「あれ?この像って確か武将の石ぞ…」

 

流石に場違いにも程がある造形に警備員たちも不審の目で睨む。

すると、アナウンスが鳴り響いた。

 

「『ピンポンパンポン。こちらは、かつて名将と謳われた武将の背後を取った殺し屋のハードボイル像』…」

『あるかあああああああああっ!そんな像ーーーーーーーっっ!!!』

 

反射的に四人同時のライダーキックが炸裂する。

するとどうなるか。

 

「元臣様ああああああああっっ!!あんた良い歳して、何娘婿連れ回してんだあああああああああああああっっ!!!」

 

当然彼らは警備員たちに追われる羽目になり、士たちは纏っていた甲冑を脱ぎ捨てる作業に入る。

 

「ちっ、しくじったか…だが望むところだ。みんな、一端バーに戻って態勢を整えるぞ」

「全然望んでないだろ、むしろ逃げ腰じゃねーかっ!!」

「大体何ですか、一端バーって!あそこしみったれた屋台でしょーがっ!!」

「あれがバーだ。お洒落なバーは緊張しちゃって入れない」

「あんた本当にハードボイルドの欠片もないなっ!!」

 

甲冑を脱ぎ捨てながら、元臣の発言に文句を零すリマジライダー。

しかし、この鬼ごっこに早い終わりが訪れる。

 

「っ!士さんっ!!」

「…何っ!?」

 

美緒の言葉に振り替えると士たち、見れば警備員たちが倒れており気を失っている状態だ。

そしてその場に現れたのは全身白い衣装に身を包んだ狐面の男。

 

「キツネッ!?」

「……」

 

愛奈の驚きの声に気にする素振りも見せず、彼は通路の奥へと向かう。

少しだけ戸惑いながらも、全員は慌ててキツネの後を追うのであった。

 

「『…だが結局奴を捕まえること敵わず、一端バーに戻って態勢を立て直すのであった』」

「話勝手に進めんなっ!!どんだけバーに行きたいのっ!一々バーを挟まないと次のアクションに移行出来ないのっ!?」

「『あるいはビリヤードを嗜みながら、態勢を整えることにした』」

「ビリヤードも駄目っ!さっさと行きますよボケッ!!」

 

間髪入れずにボケる元臣のモノローグに対して、愛奈とユウスケは辛辣なツッコミを入れるのであった。

だからこそ、気づけなかった。

モニター室でキツネに化かされた人間が犠牲となっていることに……。

 

 

 

 

 

追い掛けること数十分。

パルクールや壁蹴りなどを駆使して縦横無尽に建物内部を駆け回るキツネを追い回す士一行、すると彼は少し離れたところで徐に尻をこちらにむけると、お尻ペンペンして挑発をする。

 

「あの狐野郎、完全におちょくってやがるっ」

「良い度胸ですね…!!」

 

ワタルと美緒の負けず嫌いな一面が見え隠れすると、二人は先を行くようにキツネを捕らえようと走る。

しかし、走れど走れどキツネとの距離は縮まるばかりか離される一方だ。

「何で!?」とユウスケが息を切らしながら足を動かしていると、不意に元臣が口を開く。

 

「自分ではどんなに前へ進んでいるつもりでも、いつのまにか後ろへ下がっている時がある。そうさ、結局人生なんて、死ぬ時一歩でも前進出来れば良いのかもしれない」

「うっぜえええええっ!!疲れてる時にそれやられると非常に腹立つな!死ねよくそ爺っ!!」

「落ち着けユウスケ、奴のペースに惑わされるな!」

 

究極の闇に負けずとも劣らない殺意でとうとう本音をぶちまけた彼に対して士が落ち着かせるが、流石に前に進んでいないことに疑問を抱く。

そして、不意に下を見ると…。

 

「ちょっと待て!何で床がベルトコンベアーッ!?」

「ふざけんなっ!俺たちの労力を返せっ!!」

 

士とシンジがベルトコンベアー状に高速で移動する床に文句を零す中、後ろから巨大な針が何本も設置された壁が迫ってくる。

一番後ろにいたユウスケが前にいるメンバーに声を掛ける。

 

「ぎゃああああっ!?ちょ、早く進んでくれええええええええっっ!!」

「無茶言うなっ!!もう足が生まれたてのバ○ビ状態なんだぞっ!?」

 

士がツッコミを入れるが、前にいたキツネは壁蹴りを駆使して床に触れないように移動している。

まるでバン○のように跳ねている様子に士はディケイドライバーを装備する。

 

「変身っ!

【KAMEN RIDE…DECADE!!】

「天よ、我に力をおおおおおっっ!!」

 

変身したディケイドは壁蹴りを実践しようとするが、パワーが強くて足が壁にめり込んでしまう。

つまり、進路方向を邪魔するオブジェも同然。

 

「痛たたたっ!股裂ける、股裂ける!!」

「何やってるんですか士さんっ!」

 

美緒が焦りの色を見せる中、ワタルとユウスケ、シンジが変身してどうにか引っこ抜こうとする。

それに対して行動を見せたのは元臣だ。

 

「四十八の通信教育の一つ、銭縄っ!」

 

高密度の魔力で形成した糸が結んである小銭を投げてを天井に下っている装飾物に絡ませる。

 

「みんな、私に掴まれっ!」

「お父さん、やっぱりやれば出来…」

「あぁ、絡まったあああああっ!」

「掴まれるかああああああっ!!」

 

なぜか空中で亀甲縛りになっている彼に愛奈は先ほど上がった尊敬値が下がる。

おまけに鉄球が転がってくるが、足を引っこ抜けたディケイドがライドブッカーで打ち砕く。

「このまま壁も」と思うが下手に破壊したらそれこそ被害は悪化する一方である。

 

「士さんっ、私もう…それにお父さんも…」

「でも、ちょっと良いかも///」

「もう知らねーよ、お前のところのバカ親父はっ!!」

 

ディケイドと美緒がそんなやり取りをしていると、何かが流れてくる。

流れてきたのは布団で眠る老婆。

 

「何だお婆さんか。特に気にする必要もありませんね」

「…てか、何で婆さんだっ!何のための婆さんだっ!誰が流してんだっ!?」

 

少なくともトラップではないことに安堵する一同。

しかし、このまま行けば老婆は壁の刺に…。

 

「ちっくしょおおおおおおおっっ!!何で見知らぬお婆さんを俺たちは担いでるんだっ!?」

 

慌てて布団ごと老婆を上げて走る一同。

すると今度は爺さんが流れてきたので、慌ててキバはディケイドに呼びかける。

 

「ちょっとおおおおおっ!!今度はお爺さん流れてきたっ!つ、士さんっ!?」

「いや、もう老人オーバー…」

「婆さんさようなら…愛してるよ」

『さよならなんてさせるかあああああああああっっ!!!』

「隣です!お婆さんなら隣にいるから!もう一度、さっきの言葉言ってあげてええええええっ!!」

 

布団の上に爺さんを抱えて走りながら、全員でシャウトすると愛奈が必死に爺さんに呼び掛ける。

ちなみに元臣は新たな扉を開拓中である。

 

「おい何だよこれっ!もうちょっとした家族だぞ!お年寄りはもっと大事にしろよ、ダボがあああああっ!!」

 

龍騎が疲れを誤魔化すように心からのシャウトを曝け出していると、今度は三十代辺りの男性が流れてくる。

その瞬間、ディケイドは一目で見抜いた。

 

「あっ、お前息子だろ。両親ぐらいきちんと見てろよっ!!」

「良く分かったな士っ!」

「目元とか似てるだろ!?」

 

意外と鋭いディケイドの観察眼にユウスケと美緒が納得していると、男性もとい息子が口を開いた。

 

「父さん、母さん。遺産の話だが…全部僕が貰い受けることになったよ。まあ、あいつらも色々言ってたけどね…」

「遺産の話っ!?父さんと母さんこんな状況なのにっ!」

「王の判決を言い渡す、串刺し決定だっ!自分で遺産を作れ、バカ野郎っ!!」

 

愛奈がドン引きにする中、キバはかなりドライな声で宣告するが目元が酷似している赤ん坊が流れてくる。

当然……。

 

「三世代揃って眼尻いいいいいっ!!生きろ!どんな悪人でもな、子供には親が必要なんだよっ!」

「すまない。父さん、母さん…この子を一人で育てるために僕は、心にもないことを……」

「反省してる!自分の動機を語り始めたぞ息子っ!!」

「家族が再生してるじゃねーかあああああああっっ!!一家の命は、俺たちが守るううううううっっ!!!」

 

とうとう家族四人分を抱えてしまったディケイドたちだが無情にも刺の壁は迫ってくる。。

力が分散されてはいるが、流石に四人分の重さによる負担は大き。

キバが被害を関係なしにキャッスルドランを呼ぼうとした瞬間…聞き覚えのある二つの声が壁の向こうから聞こえてくる。

それはやがて大きくなると、エンジンの音も聞こえてくるようになる。

 

「「アーーーーーレーーー!!ダビットソンンンンンンンッッ!!!」」

 

変身をしていた響鬼とカブトが駆る凱火とカブトエクステンダーが壁を破壊したことによって、事なきを得たのであった。

 

 

 

 

 

博物館の奥に存在する広い展示室には、一人の白装束がいた。

恐れることもなく、警戒することもなく彼はただ道を歩く。

 

「『狐』という生き物は、神社や祠で神様と崇められていながら人を惑わす妖怪だとも言われておりやす…」

 

調合金の油揚げ像に続く階段を登り、キツネ首に巻いた布を尻尾のように靡かせる。

 

「はてさて、あっしは…どちらでござんしょう?」

「黙れ下郎。お前は神でも妖怪でもない、ただの盗人だ。長きに渡る因縁、ここで決着をつけようじゃないか」

 

元臣は指差しながらそう断言する。

後ろにいるディケイドたちも闘志を漲らせている。

一流の精霊術師は、平均的な怪人よりも手強いため変身を解かないのは妥当だろう。

緊迫した場面の中、キツネは変わらず飄々とした口調で言う。

 

「元臣の旦那、あんたも懲りないね。何度撒いても、すぐに追ってきやがる」

「お前が牢屋に入れば終わることだ…だが、どうして外道に堕ちた?」

「盗人に言うことじゃないよ旦那。あっしらは端から堕ちた薄汚い連中ですよ」

 

まるで気の置ける友人のような、敵同士のやり取りが続く。

そして不意に美緒が後ろを振り向いた。

 

「…ずっと、気にはなっていました。義賊としてのキツネと、盗賊としてのキツネの犯行順序に矛盾があることが…確証がなかったので黙っていましたが、そういうことですか」

 

そこにいたのは、キツネと同じ格好をした八人の白装束たち。

目の前にいたキツネとそっくりの姿をした彼らに、元臣は驚く。

 

「我らは盗賊団『九つの尾』」

「っ!それって、昔暗躍していた、伝説の強盗団っ!?」

 

八人の内、一人が名乗ったのキーワードに愛奈が驚きながらもクナイを構える。

他の面々も武器を構えるが、気にすることもなく彼らは目の前のキツネに視線を向ける。

 

「しかし、まさかお前が義賊と呼ばれるようになろうとはな…『小尾丸』」

「腕こそ立つが、子供一人始末出来なかった貴様が…」

「虚栄を崩し、犯行予告をすれば必ず顔を出すと思っていたわ」

 

その言葉に、ほとんどのメンバーも確信することが出来た。

今までの強盗事件は全て、この八匹の腕の立つ強盗団だということに。

 

「旧き同胞よ…裏切りの罪、ここで清算させてもらおう」

「裏切るも何も、あっしはお前らのこと…仲間なんて思ったことは一度もない』

『ほざけ下郎があああああああああああああっっ!!!』

 

強盗団は武器を持ち出すと、一斉に精霊術を行使して襲い掛かろうとする。

しかし、キツネは銅像を乗せてる台の隠しスイッチを足で押すと床からガスと同時に火炎が放射される。

驚く一同に彼は慌てて次の仕掛けが動くことを告げる。

それを聞いた元臣たちも必死に上に上がろうとするが……。

天井から、油が降り注いだ。

 

『ぎゃああああああああああああああっっ!!?』

 

床が滑り階段が坂になったことで下の火炎に落ちないよう必死に走る。落ちたら最期、火炎地獄である。

だがその火炎地獄から数人の強盗団のメンバーが現れる。

 

「げっ!?生き残りがいたのかっ!!だったら…超変身っ!!」

 

クウガは慌ててドラゴンフォームにチェンジすると、坂と油の地形を活かして再度強盗団の一人を床に叩きつける。

そこに不意打ちをするように龍騎がストンピングを行い、意識を奪う。

その攻撃をカブトが片手で受け止めるとカウンターで放たれた一撃で地面に倒れる。

 

『バッシャーマグナム!!』

【FORM RIDE…BRADE! JACK!!】

 

バッシャーフォーム変身したキバは的確な狙撃を、ジャックフォームに変身したディケイドブレイドは空を飛んで残りを一掃する。

その様子を愛奈と美緒と共にキツネは、感心したように眺めていた。

噂に聞いていたヒーロー…まるで童心に戻ったような錯覚さえ覚える。

しかし、それを見逃さない存在がいた。

 

「消えろおおおおおおおおっ!!」

「っ!?」

 

短刀を構えて突撃する強盗団のリーダー…しかし、その攻撃はあっさりと受け止められてしまう。

他ならぬ、元臣によって。

 

「なっ?」

「ふんっ!!」

 

唖然としている彼の頭部を面ごと殴り飛ばすと、砕け散った面の破片と共にリーダーも意識を失う。

その様子にキツネは大きな拍手をした。

 

「流石は旦那だ。あっしも鼻が高いものさ」

「ほざけ狐擬き。ついでお前も御用だ」

「勘弁してくだせぇ。こちとら御勤めから手を引いてのんびり隠居生活を送ってるってのに…敵さんの愚痴を聞くのもうんざりでさぁ」

「っ!?やはり、お前は…!!」

 

元臣が何かに気づくよりも先に、キツネはゆっくりと階段の方へと向かう。

そして、軽く手をひらひらさせると、未だ火が渦巻いている下へと飛び降りたのであった。

 

 

 

 

 

その翌日…。

 

「『九つの尾を捕まえることは出来たが、博物館の至るところを捜索しても火に飛び込んだキツネ…小尾丸の亡骸は見つからなかった。燃え尽きてしまったのか、あるいは生きているのか…真相は既に闇の中だ。しかしながら、こんな謎めいたハードボイルドな夜には、無性に酒が欲しくなる……』」

 

そうして、彼はバーの席に座る。

 

「マスター。カミュを、ロックで頼む」

「へい、焼酎」

 

『いつもの店』で、『いつも飲む酒』が彼の目の前に置かれる。

そんな慣れ親しんだような声とセリフに、自然と口元が綻でしまう。

 

「焼酎じゃねえ、カミュだマスター」

「マスターじゃねえ、オヤジと呼べ旦那」

 

 

 

 

 

そして、今日も元臣は一日を謳歌する。



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色々文句言うけど、いくつになっても雪ってテンション上がるよね

 寒くなってきたので雪のお話を一本…サンタの話も何れは書きたいです。


冬の寒さが続き、政宗家が存在するこの世界では猛吹雪に見舞われていた。

多くの市民たちが除雪作業に興じる中、ある程度まで済んだところで防寒着に身を包んだ一人の女性が口を開く。

 

「みんなー。今年の冬は異常気象か分からないけど、結構雪が降りました……が」

 

地面や屋根に積もった雪のような白銀の長い髪をニット帽で隠しながら、元臣の妻(良くあんな男と結婚出来たものである)である『政宗芽亜莉』が言葉を続ける。

曰く「雨が降ったら行水」・「槍が降ったらバンブーダンス」とのことで、どんな時でも楽しむ余裕を忘れないのが心意気……。

 

「…ってなわけで、政宗家主催!『第一回チキチキ雪祭り!』開催決定っ!!」

 

そんな夫に負けず劣らずの童心を持った彼女が主催の元…士たちを含む多くの人間が周囲の雪を集め、それぞれの作り方で雪像を作っていたのだった。

ちなみに元臣は風邪を拗らせたため部屋で療養中である。

 

「士っ、雪持って来たぞっ!」

「こんだけあれば、雪像の一つも作れるでしょ」

 

その大会に参加している士は器用に手袋をはめた両手で雪像を作っていると、大量の雪を運んでチームメイトであるユウスケと愛奈(無論防寒対策はしている)が合流する。

「そこに置いてくれ」と目を向けることなく口を開いた彼の言う通りに雪を運ぶために使用したリヤカーを置く。

 

「結構、みんなすごいの作ってるわね」

「妙に色っぽかったりSAN値が0になるような作品とかもあるけど…まぁ、良いか。それで俺たちは一体何を…」

 

意外にも多い参加者たちを見渡しながら、ピンク色の耳当てを装着した愛奈が楽しそうに話すと、ユウスケも女性の雪像や形状し難き雪像にツッコミそうになりながらも首に巻いたマフラーを翻して答える。

そんな中が何を作っているのか聞こうとすると、ドサァ!!

 

「まぁ、こんなとこか。後は真ん中に棒を立てて…」

「「小説削除されるううううううっ!!」」

 

完成した雪玉を置いてそう呟いた士の端には同じサイズの雪玉がもう一つあり、彼の言葉と二つの雪玉から見当がついた二人は雪玉の一つを思い切り蹴り飛ばした。

 

「おい、何してくれてんだ。俺がその左の玉を作るのにどれだけ苦労したのか分かってるのか?」

「お前こそっ、そんなことしたらこの小説に何のタグが付くのか分かってるのか!?」

「士さーん」

 

愛奈とユウスケの蛮行に士は自分の肩を揉みながら呆れたように話す。

そんな彼とは対照的にユウスケは食って掛からんばかりの勢いで詰め寄るが、聞き覚えのある女性の声に首を向ける。

そこにいたのは水色の和服の上に分厚いコートを羽織った水色の髪を纏め上げた女性…ユウスケの妻でチームメイトの『小野寺葵』だ。

 

「棒の方出来ましたけど…」

「嫌あああああああああああっっ!!何持ってんだ、葵いいいいいいっ!?」

「捨てなさいっ!良いから早く捨てなさいっ!!///」

 

雪で出来た大きめの棒を両腕で抱えて純粋な笑顔で尋ねる彼女の姿を見たユウスケは涙目に、愛奈は頬を染めながら叫ぶ。

 

「はぁ?ユウスケ、愛奈。お前らは何を勘違いしているんだ?これはあれだ、『ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲』だよ」

「いやっ、アームストロング二回言ったしっ!あるわけないだろ、そんな卑猥な形をした大砲っ!!」

 

無駄に長い名前の雪像に、ユウスケは心の底からのツッコミを行うが当の本人は何処吹く風であり首に掛けてある二眼レフカメラでその表情を撮影する始末だ。

 

「…たく、お前らみたいな熱血漢や中二病は、棒とか玉があればすぐにそっちの話題に持っていくんだからな」

「最低です、ユウスケさん。しばらく私に話しかけないでくれません?」

「じゃあ一体何なのよ、それ」

「調子はどうだ、お前たち」

 

そう言いながら卑猥な物体…もといネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の雪像作りを再開する士と葵。

その際、妻でもある彼女の天然毒舌にユウスケが心折れそうになっている横で愛奈は眉間を揉む。

すると、そこにトレンチコートを着た清潔そうな印象を持つ男性と赤いロングコートを着た茶髪の笑顔が似合うイケメンが現れる。

 

「少し様子を見に来ましたよ」

「あっ、ショウイチさんに『テツヤ』さん!ちょっと聞いてくださいよっ、あの二人がとんでもない物を!」

 

トレンチコートの男性は『芦川ショウイチ / 仮面ライダーアギト』、もう一人はショウイチの年の離れた弟である『芦川テツヤ / 仮面ライダー???(ネタバレ防止のため伏字)』…何れも士たちと共に戦った仲間だ。

 

 

「何だ一体?ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないか」

「「えっ」」

「完成度たけーなおい」

「ええええええええええっっ!!何で知ってんの!?あんのっ、マジであんのっ!?俺だけ知らないの!?」

「私も知らないわよっ!!」

 

ショウイチが士たちの雪像…ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の名前を噛むことなく言い、テツヤが称賛の声をあげる。

一方のユウスケたちは二人がこのような猥褻物を知っていることに驚きと混乱を隠せない。

そんな中、雪玉を作っている葵の横で士が静かに語り始める。

 

「この世界のシンボルを消し飛ばし、大混乱に陥らせた最悪の決戦兵器…それがこれだ」

「何っ、こんなカッコ悪い大砲でパニックになったのこの世界っ!?」

 

ドヤ顔で語る彼にツッコミを入れるのは、長い付き合いとなっているユウスケで愛奈に至っては頭を抱えることしか出来ない。

そんな常識人を無視して、士はあることをショウイチたちに尋ねる。

 

「それより、お前もこの大会に参加するのか?」

「まぁな。グランプリを取ったら、賞金が出るらしいしな」

「少しは息子に自慢されるような父親になろうと思って…ほら、あそこ」

「……て、うおおおおおおおおおおっ!?」

「何これっ、良く分からないけど凄いじゃないっ!!」

 

霞の質問に答えながらショウイチが指さした場所には、羽が付いた全裸の男性が片足立ちで両腕を上に伸ばしている雪像があり、それを見たユウスケと愛奈は驚く。

照れながら言い訳するように雪像のことをショウイチは説明する。

 

「いやいやっ!そんな大したもんじゃないっ!!俺は結構凝り性でなっ、だからこう止まらなくなって……ちなみにタイトルは『飛翔(仮)』」

「いやっ、凄いですよこれっ!?」

「ショウイチさんがモデルなの?」

「んっ?ま、まぁ愛情入れ過ぎて、俺の方に似てしまったと言うか…」

 

デザインこそあれだが完璧なバランス感覚の雪像に肯定的な感想を口にするユウスケ。

雪像のデザインについて尋ねる愛奈に答えようとしたショウイチだったが、それに文句を言うのは士だ。

 

「お前にしては筋肉質だな…この辺そぎ落としとくか」

「ちょ!!何してんですかっ!?勘弁してくださいよっ!その雪像は凄い微妙なバランスで立ってるからっ!?」

「へぇ、そう言う中途半端なところも似てるんだな」

「あれもショウイチさんと似ているのですか?」

 

スコップで足をそぎ落とそうする彼に悲鳴に近い声をあげるテツヤに冷ややかな視線を向けており、皮肉るようにある部分を見せる。

それに続くように葵が小首を傾げながら、天然気味に氷で出来ている股間部(モザイクレベルの規制)に指を向けた。

 

「ああああああああああああっ!!駄目っ、そんなところに指を向けちゃあっ!!」

 

天然ながらもかなり危ない言動に慌てながらユウスケが股間部分を見せないように両手で目を覆い隠すと、チャンスとばかりに士がクレームをつけ始める。

 

「ちょっとちょっと、うちのチームメイトに何汚い物見せてくれてんの?」

「待ってくれっ!!これは芸術的な意味であってだな!!ほらっ、美術の教科書でもあっただ…」

「畜生がああああああああああああっっ!!!この小説を削除なんかさせねーぞっ!!」

「おいいいいいっ!何処に雪玉ぶつけてんのっ!?」

 

必死に言い訳をしようとするショウイチの言葉を最後まで聞くことなく雪像の股間部分に大量の雪玉をぶつけ始める。

途中から葵と愛奈(妹に汚い物を見せた断罪)も加わり、マシンガン並の勢いに悲鳴に近い声をあげるテツヤだが、彼らの渾身の雪玉がヒットした瞬間、叩き折れてしまう。

 

「あああああああっ!俺のマジでダンディなお稲荷さん(略してマダオ)がああああああああああっ!!」

(((刺さったぁああああああああああああああああああああああああっっ!!)))

 

叩き折られた雪像の一部は高速回転をしながら宙を舞い、やがて遊女を模した雪像の頭部に突き刺さってしまう。

しかも、その雪像を作っていたチームは刺青が彫ってあったり顔に傷があったりと少しガラの悪い方々であり、ユウスケたちは絶句するしかない。

 

「ごらあああああああああっっ!!人の雪像に、何汚ねぇもんさせとんのじゃあああああああっ!!」

「うわわっ!!ち、ちょっと落ち着いて…!!」

 

リーダーらしき男が眉間に青筋を浮かばせながら、怒声と共にメンバーで襲い掛かってくる。

必死にテツヤが場を落ち着かせようと前に出た瞬間。

 

【FINAL ATACK RIDE! DE・DE・DE・DECADE!!】

「…ほらよっ!!」

『えええええええええええええええっっ!!?』

 

いつの間にか変身していたディケイドがエネルギーを纏ったキックで雪像の片脚部分を何の躊躇いもなく粉砕したのだ。

葵を除く全員が絶叫する中、支えを失ったショウイチたちの雪像が前に倒れていくと、そのままチンピラたちを蹴散らしたのだった。

ちなみに、雪像自体は奇跡的に無事でありチンピラたちが作っていた遊女の雪像にもたれ掛かった状態となっていたため、タイトルを『奥さんっ、ねぇ良いでしょ奥さんっ』に改変させられていた。

「良い作品ですね?」とフォローしようとする芽亜莉に対して、ショウイチはテツヤに慰められながら気落ちした様子で「そうか」と答えるのであった。

 

 

 

 

 

一方、再び制作作業を始める士に対して愛奈が説教を始めていた。

途中から参戦してしまったが、それでも責任の重さ…というか十中八九士が原因で意図的に雪像を崩したことに怒りの声をあげる。

当の方人は「インスピレーションが湧いた」と呟くや否や、翼を取り付けており隣で葵が感激している始末だ。

 

「だから、わざとじゃねぇよ。考えてもみろ、あれを放っておいたら色んな人から苦情が来るぞ」

「あんたたちが作っているのも、苦情ぎりぎりラインなのよっ!!」

 

まるで当然のように他人のアイディアを奪う破壊者と天然過ぎる自分の妻に対してユウスケが呆れてため息を吐くと、タイミングを狙ったかのように後ろから声を掛けられる。

 

「おっ、ユウスケたちじゃん。お前らも参加する感じ?」

「晴人っ!それにワタルまでっ!!」

 

黒いロングコートに手の形を模したバックルが特徴の青年『操真晴人 / 仮面ライダーウィザード』と黒いジャケットに青いマフラーを首に巻いたワタルが現れる。

 

「へぇ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないか。完成度たけーなおい」

「だから何で知ってるのよっ!?」

 

なぜか卑猥な兵器(?)を最後まで言える魔法使いに対して愛奈が鋭いツッコミを入れる。

その間にも、ワタルが解説を始める。

 

「別名『神速の雷光』…かつてとある世界で地獄の七日間を引き起こした圧倒的破壊力を持っている…」

「今現在でも、大ショッカーが所持しているとされる禁断の兵器だ」

「さっきと話違うんだけど」

 

先ほどの説明とは違うことを指摘するのだが、それを無視して葵が二人に尋ねる。

 

「もしかしてお二人も参加しているのですか?」

「ああ、ちょっとした細工付きでね」

 

「ほら」と指をさした方向に向けると、そこにはプラモンスターのレッドガルーダを模した可愛らしい鳥の雪像があり、口から続くように氷で出来た滑り台が設置されている。

まだ製作途中であるため、シンジや翔太郎&フィリップが丁寧な動作で雪像に手を加えて微調整を図っている。

アミューズメント化していることにユウスケと愛奈はショウイチたちの雪像以上のリアクションを見せる。

 

「こーいった物は子どもを楽しませるためにあるからな」

「まだ完成途中だし、何なら遊んでも良いぜ」

 

自慢げにそう告げた晴人とワタルだったが、気づくことは出来なかった。

既に士が葵に要らぬ知恵を与えていることに…。

 

「ロッククライミング的な?」

「遊び方が違うっ!それ滑り台っ!」

「ヒュ~!♪」

「「それで滑るなああああああああああっっ!!」」

 

いつの間にか履いていたロッククライミング用の靴で滑り台を上るのを見て、晴人が青ざめた表情で指摘するのだが、純粋な笑顔で思い切り滑る。

無論、二人は悲痛な叫びをあげるのだがこれでは終わらない。

 

「おい翔太郎、これ階段何処にあるんだ?」

「あくまでロッククライミングっ!?明らかに階段を途中まで上がった形跡があるじゃねーかっ!!」

 

一方では士がロッククライミング用の釘を両腕に持って雪像を傷つけながらよじ登っており、微調整をしていた翔太郎が鋭いツッコミを入れる。

傷だらけになった滑り台を見て慌てて晴人が駆け寄る。

 

「やっば!すぐに磨いて…て、お前ええええええええええええええっっ!!?」

 

滑り台の修復作業に移ろうとする彼の邪魔をするように士が先ほどの靴を履いた状態で滑り落ちてくる。

彼の行動と、葵の天然行動から晴人のチームはようやく全てを理解する。

 

「さてはグランプリのために俺たちを蹴落とす気かっ!?そう簡単に行かないっての!」

「…て、晴人さんっ!!今、滑り台なんかに乗ったら…」

「えっ…あっ!ああああああああああああああああああっっ!!!」

 

見事回避した晴人は滑り台の上へ華麗に着地するのだが、ワタルが声をあげる。

ダメージが入っていた滑り台は彼とワタルを巻き込みながら悲鳴をあげるのであった。

ちなみにこの後、キバットに尋ねられた際は「バンジージャンプ一択」とやさぐれた声色で晴人とワタルが言っていたが気のせいだろう。

 

 

 

 

 

士たちのチームは作っていたネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲の雪像に翼を付けたのだが、「天才的なインスピレーションが湧いた」と言って棒の部分に滑り台を設置する。

それを見て葵が関心するというデジャビュに頭を抱えていると、もはや一種のパターンとなっているのかサファイアようなロングヘアーを一本にまとめたコートを羽織った女性『剣立京香』が現れる。

 

「やっぱり、いたんだ。みんな…あれ?ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃないですか、完成度たけーなおい」

「もう原型留めてないのに何で分かるんですかっ!?」

 

原型すら留めていない士たちの雪像を見て長い名前を口にする彼女に条件反射でユウスケがツッコミを入れるが、気にせず彼女は言葉を続ける。

 

「バカ面した本当にしょうもないアームストロングですね」

「何っ、結局何なのアームストロング砲っ!?」

「そんなことはともかくとして…せっかくだから見てくれませんか?結構凝った作品にしたので」

 

愛奈の渾身のツッコミを無視するように京香は自分のチームの作品を見せる。

ショウイチや晴人のチームといった今までの雪像よりも大きく、「雪の城」と呼んでも差し支えのない代物だった。

左右に滑り台が設置されており植物とそこに佇む姫君といった何処か神秘的なモチーフになっている。

見ればシンジと彼の妻である『辰巳加奈子』がいたため、十中八九彼女のおかげだろう。

それでも形にしたのはカズマたちの尽力もあるが、破壊する気も起きなくなるほどの完成度の高さに士を全員を呼んで本音を吐露する。

 

「は、恥ずかしくて見せることすら出来ないっ!!俺ら今まで何やってたのっ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲って何っ!?あんなのただの猥褻物じゃねーかっ!?」

「あ…本音言っちゃったよついに」

「もう隠すことすらしなくなったわよ」

 

小声で自分が今まで必死に作ったり小細工を施していた雪像に対してツッコミを入れながら絶句する士にユウスケと愛奈がドライな意見を口にする。

「じゃあどうするんですか?」と尋ねた葵への答えは、逃走だった。

恥をかく前にこの場から退散することを選んだ彼らは、この場からなるべく音を立てずに離れようとする。

 

「何処行くんですか?もうちょっと私たちの雪像を…えっ、きゃああああああああああああああああああああああああああっっ!!!///」

『っ!?』

 

逃げる士たちを京香が引き留めようとするが、自身の雪像にある何かを見つけてしまったのか頬を赤らめながら悲鳴を上げる。

慌てて振り向き、顔を真っ赤にした彼女が指した方向は雪の城の隣にある女性を模した雪像…その額にモザイク必須の氷で出来た雪像が取り付けられていた。

突然の事態に京香は顔を赤らめて悲鳴をあげることしか出来ていなかったが、士たちには心当たりがあった…正確には、心当たりしかない。

 

「あーひゃひゃひゃひゃひゃひゃっっ!!!何がグランプリだっ!?そんなものはなぁっ、雪像壊してしまえば元も子もなくなるんだよっ!!」

 

自慢の雪像を滅茶苦茶にされた挙句、卑猥な雪像へと改悪させられたショウイチもとい…シャイニングフォームに変身したアギトだった。

怒りが頂点に達しているのか、やけくそになっているのかは定かではないが明らかに正気ではない彼はあれを模した雪像の一部分を雪玉にして渾身の力で投げつける。

 

「どうせ雪なんてっ、時間が経てばみんな溶けるんだよっ!全て消えろおおおおおおっっ!!うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっっ!!」

「ショウイチ兄っ、落ち着いてっ!!」

「きゃああああああああああ!!変態よっ、変態ぃっ!!」

 

発狂した笑い声を発しながら、他のチームの雪像に雪玉を投げつけるアギトを必死にテツヤが羽交い絞めにするが勢いは止まらない。

あまりの蛮行に悲鳴をあげる女性メンバーと、とんでもない光景に沈黙することしか出来ない士たち。

だが、騒ぎはこれだけでは終わらない。

 

「何を無駄なことやってんだよっ!!滑り台なんて作ったってなぁっ、そんな古い遊具に誰が好き好んで滑るかぁっ!!」

「ふざけんなよごらぁっ!!」

【チョーイイネッ! SPECIAL! SAIKO-!!】

『待てっ、ワタ…んががっ!【ドッガハンマー】!!』

 

トパーズの宝石を模した仮面に胴体にドラゴンの顔を模した魔法使い…ランドドラゴンがスペシャルリングで地震に宿るファントム…ウィザードラゴンの爪であるドラグヘルクローを具現化させ、キバはバックルに下がっているキバットに無理やり紫のフエッスルを吹かせて両腕と上半身に重厚な紫の鎧を纏ったドッガフォームへと姿を変える。

 

「滑り台なんてなくなっちまえっ!!」

「全部折れろぉっ!!」

「「世界中の滑り台は全部折れろおおおおおおおおおおっっ!!」」

 

そう叫びながらウィザードはドラグヘルクローを滑り台に突き立て、キバはドッガハンマーを叩きつけて滑り台の破壊活動を開始する。

彼らの行為を見てスイッチが入ったのか、参加者一同が雪玉をぶつけたり、雪像の壊し合いを始めてしまう。

その様子にシンジが諦めたようにため息を吐くが、ふと後ろを見ると精霊術で蔓を操っている京香が近くにあった雪像を持ち上げる。

 

「認めないっ、絶対にグランプリを取るっ!!高級アイスクリーム百個っ、チームのみんなで山分けするって約束したんですううううううううっっ!!」

 

怒りの形相で叫びながら、喧騒の中へとその雪像を思い切り投げ捨てたのだ。

混乱極まる状況の中、彼女の口にしたあるキーワードに士が反応する。

 

「高級アイスクリーム百個…おいおいっ、賞金が出るって聞いたからこっちは必死に動いたってのに……あんの婆っ!!人を騙しやがってええええええっっ!!!」

【KAMEN RIDE! DECADE!!】

「舐めんのも大概にしろおおおおおおおおおっっ!!」

 

士はディケイドへと変身するとネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を構成していたボール二つを手に取り、とうとう非常識な空間に堪忍袋の緒が切れた愛奈がパーツの一部分であった棒を持つと、喧騒の中へと乱入する。

そうこうしている内に会場はほぼ雪や精霊術を利用したバトルロワイアル状態になっており、参加者の一人だったオーズのセイシロギンコンボが暴れればライジングアルティメットフォームに超変身したクウガが両手サイズの雪玉を投げつけ、それにヒットしたブラスターフォームのファイズの仇を打つべくブレイドがキングフォームへと変身して突貫するのであった。

 

 

 

 

 

遠くからその喧騒を眺めている芽亜莉は楽しそうに微笑む。

全員が全員、自分の好きなように動いているのが楽しくて仕方がない…一見するとカオスだが彼女は「平和だな」と思いながらデジタルカメラでその喧騒を写真に収める。

 

「お祖母様」

「んー、どうしたの杏ちゃん?」

「お父さんたちは、何をやってるの?」

 

声を掛けてきたのは自分の隣にいた少女…剣立杏が心配そうに声を掛ける。

彼女を含む子どもたちは部屋でゲームなりお汁粉を食べるなりしていたので、恐らく喧嘩か何かと勘違いして外に出たのだろう。

雪に埋もれているユウスケとカズマを見ながら、彼女は不安を和らげるように頭を撫でる。

 

「う~ん……祭り、かな♪」

 

そう満面の笑みで微笑むと、芽亜莉は再度デジカメで写真を撮るのであった。



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この缶蹴りを、舐めるなよ!!(前編?)

 キャラクターの設定を追加しました。


さぁ、これはまだ政宗家の娘たちが子どもや甥たちの世話に四苦八苦していたころのお話……姉妹の中では末っ子に近い少女『政宗湊』は実家に集められたことに今日何度目かのため息を吐いていた。

一部が編み込まれた薄い紫色のショートヘアにルビーのような赤い瞳、可愛らしい顔立ちの華奢な彼女だが、可愛すぎるため「女装少年ですか?」・「股間にいつごろキノコが生えるのですか?」とセクハラ紛いの質問を初対面の人に言われているがそれでも元気にやっている。ちなみに趣味は料理。

閑話休題……周囲を見れば姉たちも集められており、その顔には不満だったりポーカーフェイスの笑顔だったりとそれぞれの反応をしている。

そんなことをしている間に、聞き慣れた……それでいて殴り飛ばしたくなるような大声が姉妹たちの行動を止めた。

 

『缶蹴りする人ーーーーーーっっ!!!手を挙げろーーーーーーーっっっ!!!!』

 

マイクを使わなくても充分なはずなのに、わざわざ雰囲気が出るから使っているとしか考えられない実父の声に全員が顔をしかめる。

そして現れた無駄にダンディな容姿と声を持つ元臣は気にすることなく、何処からか拾ってきた空き缶(仮面サ○ダー)を高々と掲げる。

 

『文句のある奴は全員纏めてかかってこいーーーーーーーっっ!!!』

 

その言葉を聞いた瞬間、全員の心は一つになった。

 

『げふっ!?』

 

取りあえず、目の前のバカを一斉に蹴り飛ばすことにした。

 

 

 

 

 

一先ず元臣への制裁(ゴミ処理)を終えた後、しばらく動けない彼に変わって政宗家のメイド長を務める『シャノン・ファーストワード』がマイクを片手に説明を始める。

ショートヘアのアメジストカラーでモデル並のスタイルを赤いメイド服で身を包んだ彼女は朗らかな語り口で事の経緯を話す。

 

『えー。今回、ダーリ…失礼。旦那様がこのような暴挙に至った理由はですね、慣れない子育てや仕事、勉強などでストレスを溜めているであろうお嬢様方のために企画したのです』

「……限りなく、余計なお世話」

 

かなり雑な説明ではあったが、どうやら自分たちの貴重な時間を割いてまで集めたのは他ならぬ自分たちのためであるらしい。

その言葉に返したのは長い黒髪で目の辺りを隠している華奢な女性『安高霧』……太陽の光を苦手とするほど病弱だが精霊術による魔力弾を使った弾幕戦を得意とする。

 

「大体、私たちのことを考えているならさっさと娘たちのところに帰してほしいわね」

「同感」

「大体、ストレスの解消なら自分たちでやりますし」

 

手厳しい言葉をぶつけるのは、マゼンタの長い髪を後ろに伸ばした凛としたスレンダーな女性『天堂奏多』と赤いアシンメトリーな衣装に身を包んだ小柄な女性『紅音梨華』、そして黒いセーラー服のような洋服を着た黒髪ショートの女性『左雷華』の三人。

真面目な彼女たちは子育てに関しても真剣に取り組んでいるため、娘や息子たちを置いている現状に不満を隠せないでいる。

だが、全員が全員かというとそうではなく……。

 

「まーまー!ここはお父さんの意志を汲んであげようよっ、お姉ちゃんたち!」

「そ、そうですよね。父さんも悪気があったわけではないですし……」

 

子どもが大人になったようなテンションで話すのは奏多と同じ容姿だが、胸囲が圧倒的に違う『尾上遥香』、宥めるように話すのはメガネを掛け、片目を前髪で少し隠したショートヘアの女性『政宗詩菜』。

だが、湊は不満の色を隠せない。

そもそも缶蹴りというチョイス自体に、湊も「元臣が遊びたいからでは」と思っており、限りなくテンションが下がっているからだ。

そこに、挙手をする女性がいた。

 

「ところで、こんな大掛かりなことをしているんだ。勝者への見返りはあるんだろうな?」

 

凛とした声でそう問いかけるのは姉妹の中で一番スタイルが良くカッコ良い女性『芦河唯』だ。

面白いことには率先して動く彼女は楽しそうに笑みを浮かべており、どうやら遊ぶ気満々の様子である。

その質問に「もちろん」と頷くとシャノンが宣言するように声を張り上げた。

 

『景品として、スイーツバイキングのチケットを差し上げますっ!!』

 

その一言が、甘い物に飢えていた彼女たちの目の色を変えた。

 

 

 

 

 

缶蹴り……まぁ大体の人が遊んだこと、もしくは聞いたことがあるかもしれないが簡単に説明しよう。

まず参加者は鬼と缶を蹴る役に別れ、缶を倒すか缶を蹴る、または缶を守り倒さずに終えるかを争う遊びの一つであり、鬼が参加者を見つけた後、缶を踏んでから10カウント数えることで見つかった参加者は鬼に拘束、全員を拘束することで勝利となる。

逆に参加者に缶を蹴られる・倒されると鬼の負けになり捕まった者が全員解放される……以上がルールである。

今回は特別ルールとして『精霊術の使用は可能(ただし幾分か制限される)』・『行動範囲は政宗家のみ』・『連絡の際はスマホの通話かRINE(LINEのようなもの)を使用する』が追加され、無駄に本格的になっている。

守備側は湊・霧・梨華・野上紫音・小野寺葵・唯・遥香・奏多・剣立京香・詩菜……。

攻撃側は門矢美緒・辰巳加奈子・雷華・政宗愛奈・政宗美海・政宗真希奈・政宗絵里奈……これが缶蹴りを行うメンバーたちである。

 

「まずは作戦を立てよ」

 

長女である京香の提案に遥香は「ちょい待ち」と挙手する。

 

「作戦って言ってもさー、ただ缶を守るだけしょ?そんな必要…」

「それはどうかな?」

 

彼女の言葉に異議を唱えたのはフリフリの衣装から動きやすい黒いジャージに着替えている紫音……半目のようなポーカーフェイスと編み込まれている銀髪が特徴の彼女は言葉を続ける。

 

「相手が攻撃を仕掛けた際、相手の攻撃に気を取られている間に缶を蹴り飛ばされる可能性がある。それに相手チームには美緒がいる。どんな絡め手をしてくるかは見当もつかない」

「そうね。なら、こっちも対抗するための戦略が必要になってくる」

(この人たちどうして缶蹴りでここまで真剣になれるの?)

 

湊は真剣な表情で話し合いを始めた二人に心の中でツッコミを入れる。

チケットに釣られた自分も人のこと言えないが、本格的なまでの会議にツッコミを入れざるを得ない。

ちなみに攻撃側も愛奈が似たような状況にツッコミを入れていたが、両チームの会議は止まることなく進行していく。

いくら遊びで報酬が絡むとはいえ、彼女たちを動かすのはたった一つ。

 

(この勝負……絶対に勝つっ!!)

 

勝利への渇望、ただそれだけであった。

 

 

 

 

 

そしてついに雌雄を決する時が近づいてきた。

 

『さぁ、お嬢様方。間もなく開戦のベルが鳴る時間となりました。小便は済ませましたか?神様へのお祈りは?もはや部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする心の準備などはありませんよ』

 

シャノンのアナウンスが聞こえ、その挑発染みた言葉は彼女たちの闘志を燃やす。

攻撃側はそれぞれの作戦で指示された配置で息を殺すように隠れ、守備側は代表として京香が片足で缶を踏んでこの場にいない敵を見据えている。

ちなみに空き缶は精霊術で風や攻撃の余波で倒れないようになっているため、せっかく捉えた人間が解放されるという涙目な展開が起きない仕様になっている。

万が一不正が起きた場合などは、強制退場+恥ずかしいほどのお仕置きを味わうことになるため絶対に不正をしないようにと釘を刺されていたため、進んで反則行為はしないだろう。

そして守備側は捕まえたことを審判側にも分かりやすくするため音声認識のカラーボールを所持し、それにヒットした者の名前を呼ぶことで『拘束した』という判定がされるのである。

そして、シャノンがカウントを告げる。

 

『本来なら、缶を蹴ってから取ってきて踏んでからの10カウントですが時間の都合上のためこのままカウントをさせていただきます』

 

「1」と最初のカウントは始まる。

それは徐々に2・3・4・5と続き、全員の高揚感が高まっていく。

その感覚に湊の身体は自然と缶を守るように戦闘態勢へと変わっていく。

 

『6……』

 

唾を飲む。

 

『7……』

 

周囲を睨む。

 

『8……』

 

心臓が早鐘を打つ。

 

『9……』

 

そうした緊張を解くように、ゆっくりと息を吐く。

 

『10っ!これより、「キック・ザ・缶」のスタートですっ!!』

「「……て、何で英語に言い直したっっ!!!」」

 

そんな湊と愛奈のツッコミと共に、史上最大の缶蹴り対決が幕を開けるのであった。




 続きました。次回は未定。


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