繰り返される堕天 (猫犬)
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ファーストループ
1 壊れ始めた日1


はじめまして。
他の読んでくださってる方はお久し振り?
のんびりと投稿していく予定です。
感想とかあれば書いてもらえると、嬉しいなぁ。と思ってみたり。無くても、とりあえず何事もなければ続けますし、叩かれれば消すかもですけど。



「うぅ……良かった、善子ちゃんが、無事で」

「なんで、私をかばったりなんか」

 

陽が落ちた駅前の道。私をかばって轢かれた曜。

 

「花丸!ルビィ!」

「うぅ……」

「……善子ちゃん」

 

倒れたバスの中、窓ガラスに頭を打ち付け血を流す花丸とルビィ

 

「リリー!マリー!どこッ!」

「「……」」

 

エレベータが落下して地面に叩き付けられた梨子と鞠莉。

 

「なんで私を助けたりなんか」

「うぅ、良かった。善子ちゃんは助けられたんだね」

「理由なんて、身体が動いていただけですわ」

 

崩れた建物の下敷きになった果南とダイヤ。

 

「どうして、私を助けたりなんて。それで、あなたが落ちたら……」

「……」

 

私を助けた代わりに転落した千歌。

 

私はみんなを失った。みんな私をかばったせいで。

 

私は魔法陣の描かれた布を床に敷き、その手に小さな黒い水晶の付いたペンダントを持ってその上に座っていた。

 

「堕天使ヨハネが命じます。リトルデーモンよ、私に力を……時よ戻れ!時間遡行(アンチクロック)!」

 

詠唱をするも、何も起こらなかった。私にそんな力なんてない。ただの非力な一人の少女。

 

「……って、こんなことで戻る訳もないわね」

 

もしあの時、もっと早くに車に気付いていたら曜はこんなことにはならなかった。

もし終バス一個前の明るい時間に帰っていれば二人が死ぬことは無かった。

もしあの日、二人が私の住むマンションに来なければ死ななかった。

もしあの時、私が転ばなければ二人は潰されることは無かった。

もし、私があの日屋上に登らなければ千歌が死ぬことは無かった。

 

しかし、今悔やんでももう過ぎたこと。時を戻すなんてことができない私にはどうにもならないこと。

 

「……帰って来てよ」

 

私はただ願った。

皆がいる今までの日常を。皆がいなくなる前の日常に戻りたいと。そして、脳裏によぎった言葉を呟いた。

 

『我願う。故に我乞う――』

 

 

~☆~

 

 

「うぅー、なによこの夢……皆が死んじゃう夢なんて……」

「善子ー、そろそろ起きなさーい」

「今起きたわー」

 

ラブライブの地区予選を終えて二学期になり地区予選を突破したとある日。皆が私をかばって死んじゃうなんて縁起の悪い夢を見た私は、朝から憂鬱な気分になった。なんでこんな夢を見たのかしら?皆が死んじゃうなんてことある訳無いじゃない。

ママの声に反応すると、制服に袖を通す。そして憂鬱な気分の状態でリビングに行くと、ママは食べ終えた朝ごはんのお皿を洗っている状態で顔だけ出した。

 

「おはよう、ママ」

「おはよう、善子……って、具合でも悪いの?」

「え?どうして?」

「いや、なんだか表情が暗いから」

 

ママに言われるまで気づいてなかったけど、どうやら夢のせいで私の表情は暗くなっていたみたいだった。別にそんなこと無いと思うんだけど。

 

「ちょっと変な夢を見ちゃったからかな?」

「そうなの?それでどんな夢だったの?」

「あんまり話したくない内容だから。それよりも学校行かなくていいの?」

「あっ、もうこんな時間。戸締りよろしくね」

 

ママは時計を見ると、手をタオルで拭いてソファーに置いてあった鞄を持って、そそくさと家を出た。

私は忙しないなぁと思いながら椅子に座ると朝ご飯を食べ始める。静かな空間だと夢のことを思い出してしまうので、テレビをつけるとちょうど星座占いがやっていた。

 

『まずは十二位の発表です』

 

占いはちょうど始まったばかりで、星座占いにしては珍しく最下位の十二位の星座から発表された。普通こう言うのは一位と同時に発表されるから珍しいなぁと思いながら、私の星座は何位なのか気になった。

 

『今日の十二位は蟹座のあなた。唐突な不運に見舞われるかも?ラッキーアイテムは青のニット帽です』

「はぁー、まさかこんな日に限って最下位なんて最悪かも。しかも、青いニット帽なんって、持ってないわよ。曜に借りようかしら?」

 

占い結果が最下位だったり、持っていない青いニット帽がラッキーアイテムだったりと私は落胆しながら、でもたかが占いに挫けないと心に決めると、時間もあまりないからと食べ進めて、皿を洗い終えると私は荷物を持って家を出た。

 

「善子ちゃん、おはヨーソロー」

「……おはよう、曜」

 

バスに揺られていると、曜が乗って来るいつものバス停から曜が乗り込んできて、私を見つけるとそそくさと近づき、いつもの挨拶をした。

良かった。あんな夢を見た後だからもしかしたら曜の身に何かあったのか心配だったし、何事も無くいつも通りの曜が見られて。

 

「あれ?今日はヨハネってツッコまないの?」

「あっ、そうよ!ヨハネ!」

「なんだ。ただ単に寝ぼけてただけかな?」

 

あんな夢を見た後だからか、曜が目の前にいることに安堵し、その為にいつもと違う反応をしたことで曜は首を傾げていた。だから、私は慌てていつものように返答すると、曜は私が寝ぼけていてツッコまなかっただけだと判断したようだった。

 

「それで、寝ぼけるってまた夜遅くまでゲームでもしてたの?」

「いや、そんなことはないわよ……あれ?昨日いつ寝たんだっけ?」

 

曜に聞かれて私は否定しようとするけど、昨日の記憶が一切無く、いつ寝たのか、何をしていたのか思い出せなかった。

昨日は確か午前中は練習をして……あれ?その後どうしたんだっけ?

 

「善子ちゃん大丈夫?昨日の記憶がないなんてそうとう寝ぼけてる?」

「そんなことは無いと思うけど……やっぱり寝ぼけているのかしらね」

「気を付けなよ。善子ちゃん不幸な目に遭いやすいんだから」

「ええ。気をつけるわ」

 

昨日のことが思い出せないでいると、曜はそんな私を見て心配そうな表情をする。私はそんな曜に対して気を付けるように返答すると、曜は話を変えて次の衣装はどうしようかという話をし、私は堕天使のような漆黒の衣装をと提案し、曜は苦笑いを浮かべながら話をするのだった。

 

 

~☆~

 

 

「曜ちゃん、善子ちゃん。おはよう」

「おはよう。善子ちゃん、曜ちゃん」

「ええ、おはよう。花丸、ルビィ」

「おはヨーソロー、二人とも」

 

浦女に着いて部室に行くとルビィと花丸は先に付いていて、挨拶を交わす。ダイヤとマリーはすでについているらしく、全員が集まるまで生徒会と理事長の仕事をしに行っていて、果南とリリーはその手伝いに行っているとのことだった。そして、千歌はまだ来ていないとのことだった。

 

「千歌の身に何かあったんじゃ?」

「ううん。少し遅れるって」

 

千歌の身に心配すると、曜はスマホの画面を見て言う。とりあえず千歌が寝坊しただけなのだと安堵すると、制服から練習着に着替え始める。朝練開始時間になっても制服のままだと戻って来たダイヤに小言を言われかねないから。

そんな感じで着替えていると、部室のドアが勢いよく開く。

 

「梨子ちゃん。置いて行くなんてひどいよぉ」

「千歌ちゃん。梨子ちゃんはダイヤさんの手伝いに行っちゃってるよ」

「あれ?ほんとだ。あっ、みんなおはよぉ」

「おはよう、千歌ちゃん。あっ、早く着替えないとお姉ちゃんに怒られちゃうよ」

「あっ、それもそうだ!」

 

千歌は部室に入って来るなり、いきなりそう言い、ルビィに言われてハッとすると、慌てて着替え始める。すると、ドアが再び開き、四人が戻って来る。

時計を見ると朝練の始まる一分前で、だからこそ時計を見て戻ってきたようだった。

 

「おはようございます、みなさん…って、千歌さんはまた遅れて来ましたね?」

「いや、遅れてなんか……」

 

ほぼ着替え終えた千歌はそう返すと、一応そこにいるからと不問に処され、こうして朝練が始まったのだった。

 

それから時間は経ち、放課後練習を終えた帰り。今日は沼津の方での練習はやらずに解散となり、果南とマリーが淡島前で降りると、いつも通り残ったのは私と曜だけとなった。

 

「ふぅ、今日の練習もハードだったね」

「ええ。でも、夏の頃と比べたら気温がマシになったからなんとかなったわね」

「あはは。善子ちゃんの場合はあの頃は黒いマントを羽織ってたからね」

「マントじゃなくて漆黒の外套。あと、ヨハネ!」

「ふふっ」

 

私がツッコむと、曜は何故かそこで笑みを浮かべる。どうしてこのタイミングで笑ったのか分からず首を傾げると、曜は笑みを止めて放し始める。

 

「いや、朝は善子ちゃん元気無さそうだったから。でも、今はいつも通りだから安心しちゃって」

「そんなこと思ってたの?私はいつも通り問題ないわよ」

「そっか。あっ、そうだ!この後暇?」

 

私の心配をしてくれていたのだと分かり、この先輩は優しいなと思うと、私は強がってそう返す。すると、曜は唐突にそう聞いた。急にどうしたのか分からないけど、この流れは何処かに行くのだと判断する。一応、今日もママの帰りは遅いから寄り道をしても大丈夫。

 

「暇ね。どうせ夕飯は自分で適当に作るだろうし」

「そっか。なら良かった……のかな?夕飯作らないといけないのなら寄り道するわけにも」

「いや、平気よ。どうせ、いつも通り堕天使の翼か堕天使の泪かで済ませるつもりだから」

「えーと、堕天使の翼って?」

 

曜は私の夕飯の心配をし始めるけど、別にそんなに準備に時間はかからないから問題は無かった。それに、寄り道しても七時前には戻ってこられるだろうし。

 

「ヨハネ特性のお好み焼きよ」

「あー、またタバスコでもかけるの?」

「少し生地に練り込む程度よ。それで、どこに行きたいの?」

 

いつまで経っても曜の本題に進まなそうだから私はそう言うと、曜はハッとする。そして、ようやく本題を話し始める。

 

「実は次の衣装の案を固めたいなぁと思って。それで雑貨屋さんに行って小物を見てれば何か案が浮かぶかもと思って」

「そう。でも、私が一緒に行く必要あるの?自分で言うのもあれだけど、私の趣味偏ってるわよ?」

「いいよ。私だけでも方向性が偏りそうだし。それに、善子ちゃんの趣味も時々いい時もあるからね」

「時々って……。まぁ、いいわ」

 

私は若干含みのある言い方に反応するもどうせ言ったところで意味が無いから、私は了承すると、沼津駅前まで行ってバスを降り、曜行きつけの雑貨屋さんに入る。そこには私も何度も来たことがあり、新しいイメージが浮かぶのか謎だったけど、曜はそんなことを気にしないかのように歩き始めるので、私はそれを追いかける。

 

「私としては、今までとは違う感じがいいんだけどね」

「ということは遂に堕天使衣装を」

「いや、出来れば明るい色がいいかな?次の曲は二回目の説明会の時に歌いたいところだし。せっかく新入生になるかもしれない子たちの為に歌うんだからね」

「確かにそうね。すぐにリトルデーモンにするのは少女たちが耐え切れないかもしれないし」

「耐え切れないって、何する気なの?」

 

私たちはそんな会話をしながら小物を見て行く。本当のところは黒系色の色がよかったのだけど、説明会で使うかもしれないのなら明るめな曲の方がいい気がした。Aqoursの皆は私の堕天使を否定しないけど、説明会に来る中学生の子たちもそうとは限らないし、そのせいで入学希望が増えなかったら嫌だしね。でも、出来れば一回ぐらいそんな曲もやってみたい気もするけど。

私が返答として耐えきれないというと、曜は意味を測りかねたのか首を傾げていた。

 

「まぁ、気にしなくていいわ。それよりも、私はこういう小道具を付けるのもいい気がするけど」

「うーん。やっぱり諦めてなかったの?」

 

私はその場にあった黒い羽を手に取ると、曜はジト目で私を見てそう言った。やっぱり、少しくらいは堕天使成分を入れたいところだった。そんなわけで、入れた訳だけど、そもそも衣装のコンセプトも定まっていない為、泣く泣く断念となった。

 

「私としてはこういうのもありだと思うけど」

「花のペンダントね。確かにそれぞれのメンバーで違う花にすれば見栄えもいいかもしれないわね」

「まぁ、買うのはもう少し衣装の構想を練ってからだけどね」

 

一度は手に取った花のペンダントを再び棚に戻して曜はそう言った。私的には今の花のペンダントはいいと思ったんだけど。

それからも雑貨屋の中を見て回り、結局特に買うことはせずに私たちは雑貨屋を出て家に帰ることになった。

 

「わざわざバスに乗らずに帰るなんて」

「どうせ歩いても帰れる距離だからね。それに善子ちゃんともっと話していたいし」

「もの好きね。まぁ、いいんだけど」

 

曜は何故かバスには乗らず、一緒に陽が暮れてオレンジに染まった駅前の道を歩きながら家に向かう。

 

「善子ちゃん、あの信号が変わっちゃいそうだから走ろ?」

「ええ」

 

曜に言われて点滅している信号を走り抜けると、走るのを止めて歩き出す。

その瞬間、なんだかこの景色に既視感を覚えて私はすぐに気付いた。

この状況は朝見た夢の一部と同じような状況だった。

陽が暮れた駅前の道。曜と一緒の状況。そして、私の目の前で轢かれた曜。

 

「善子ちゃん!」

ガンッ!キキッー!ドンッ!

 

私はそんなことを考えていて周囲に気が逸れていると、いきなり曜の慌てた声と共に横から衝撃が走った。私はいきなりのことだったから地面に尻餅をつく。曜がいきなり私を突き飛ばしたことで尻餅をついたわけだから、文句の一つでも言ってやろうと顔を上げると、さっきまで私がいた場所を自動車が通り過ぎて、私と突き飛ばした曜を巻き込んで建物に突っ込んでいた。

 

「え!?嘘……」

 

私は目の前で起きた事故に言葉を失った。周りにいた人たちもいきなり起きた事故に言葉を失い呆然と立ち尽くしていた。そして、私はすぐにハッとすると曜が巻き込まれたからと自動車のそばに駆け寄る。そして、

 

「曜!」

 

曜は車と建物に挟まれていて血にまみれていた。




次回は早ければ明日投稿予定。あくまで予定です。
では、ノシ


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2 壊れ始めた日2

予告通り二話目投稿です。


「曜!」

「……良かった、善子ちゃんが、無事で」

 

事故に遭った曜は自動車と建物の間で挟まれており、私は急いで救急車を呼ぶと周囲の大人たちは曜が挟まれていることに気付き、なんとか隙間から出そうと動き始める。

自動車の運転手はエアバッグで生きていたが、気を失っており、その為大人数人がかりで無理やり自動車を押して退かした。隙間から出された曜の身体はボロボロで血にまみれており、私が声をかけると曜は薄っすら目を開けると、そんな状態なのに私が無事だったことに対して安堵の表情をする。

そんな曜に私は涙を流して問う。

 

「なんで、私をかばったりなんか!」

「あはは。気づいたら、体が勝手に、動いちゃってて」

「待ってて、もうすぐ救急車が来るから」

「あー、ちょっと、厳しい、かも。身体の、感覚が、全くないや」

 

曜は身体の感覚が無いようで、さらに意識が朦朧としているのか焦点が定まっておらず、言葉も途切れ途切れだった。そんな状態で話すのはまずいと思う反面、曜の意識が途切れたらもう手遅れになる気がして、私は話しかけ続けて、曜の意識を繋ぎ続けた。それは救急車が来てからも続き、曜が手術室に運び込まれるまで続けた。

そして、曜が手術室に運ばれて、私は外で待たされ、千歌に電話をした。

 

『もしもし?どうかしたの?善子ちゃん』

「曜が……曜が……」

『曜ちゃんがどうしたの!?』

「私をかばって轢かれちゃって……」

『え!?嘘……曜ちゃんは何処なの!?』

 

私は泣きながら曜が事故に遭ったことを伝えると、千歌は驚きの声を漏らし、慌てた様子で私に問う。私は泣きながら駅の近くにある病院に運ばれたことを伝えると、すぐに行くと伝えて電話が切られた。

私はその後もメンバーに電話をしていき、私は手術室前のベンチに座って、曜の手術が成功することを祈った。

千歌に電話をしてから三十分後には全員が走ってきた。電話をしてからバスに乗ったにしてはやたらと早いと思うも、そばには千歌のお姉さんがいたから車を出してもらったのだとすぐわかった。そして、千歌が伝えたようで曜のお母さんもやって来ると、

 

「善子ちゃん!あの子の容体は!?」

「死んでないのが奇跡の状態で、危険な状態って……私をかばったばかりに」

 

私に対して聞いたから、事故があった当初のこと、救急車内で言われたことを伝える。ギリギリ生きているような状態で、いつ死んでもおかしくない状態で予断を許さない状況だと。

 

「そんな……どうしてあの子が……」

「ごめんなさい。私のせいで」

「ううん。あなたのせいではないわ」

 

私はただ謝ることしかできないのに、曜のお母さんはその謝罪に対して否定する。

そして、全員曜の手術が成功することを祈った。それから時間が経ち、手術室のライトが消えると中から一人の医師が出てくる。私たちはその医師のそばに寄る。

 

「先生、あの子は?曜は!?」

 

曜のお母さんは医師にそう問う。問われた医師は表情が暗く、申し訳なさそうな顔をする。その瞬間私は理解してしまった。だからこれ以上は聞きたくなかった。

しかし、皆はそれでももしかしたらという希望を持ち、医師の言葉を待ち、

 

「残念ながら、渡辺曜さんはお亡くなりになりました。申し訳ありません。我々の力が足りなかったばかりに」

「そんな……」

 

医師の言葉を聞き、曜のお母さんは崩れ落ちて涙を流す。私たちも曜の死に対して声を上げて泣いた。特に曜の幼馴染の千歌と果南のショックは大きかった。

そんな中、私は……

 

「私のせいだ……私が曜を殺したんだ。私が曜に庇われたから曜が……」

 

ただただ自分を責めた。あの時、すぐに自動車に気付いて動いていれば。夢で見た光景と同じなのだとすぐに気付き、ただの夢だと思わずに何かしら行動を起こしていれば。

そうすれば、曜が死ぬなんてことは無かったはずなのに……。

 

「そうよ。私が死んでいれば――」

「だめ!」

 

私があの時死んでいれば、曜が死ぬことは無かったんだ。

私が言葉を口にした直後、千歌は私の口に手を当てて言葉を止めた。千歌は涙を流しながらも、私の目を見て首を横に振る。

 

「善子ちゃんはそんなに自分を責めちゃダメ!自分が死んでいればなんて言わないで!そんなことを言ったら、善子ちゃんをかばった曜ちゃんがかわいそうだよ!」

「でも……」

「曜の気持ちを無駄にしないで!曜に救ってもらったんだから、そんなに自分を責めたらだめだよ!」

「千歌……果南……」

 

曜の死に対して深く傷ついたはずなのに、二人は自分を責める私に対して言葉を口にした。どうして、二人はそんなに強いの?どうして誰も私を責めないの?どうして……。

 

 

~☆~

 

 

私たちはその後家に帰された。これ以上病院に居てもただ苦しいだけで、家に帰って気持ちを落ち着かせる必要があるからだという判断の為だった。

曜を轢いた自動車の運転手は、あの事故の直前に発作で意識を失い、その結果曜が轢かれたらしく、運転手も同様に手術を受けているらしかった。でも、そんなことはどうでもよかった。曜はもう帰ってこないのだから。

曜の葬儀は明後日には行われることになった。

私はどうやって帰って来たのか覚えていないが、自分の部屋のベッドの上で横になっていた。

 

曜との出会いは入学式の日で。あの時はやたらと明るい人だなという感想だった。それから曜は飛び込みで入賞する実力を持っていることを知り、コミュニケーション能力が高く、誰に対しても分け隔てなく接することができるからと、自分とは正反対の人なのだと思っていた。だから、私と関わることもないと思っていた。

そして、私がAqoursに入って以降は沼津の方に家があるという理由からバスの中で一緒の時間が増え、その過程で色々知った。飛び込みも裁縫も料理も最初は普通であり、努力して何度も練習していったことで今に至っていることで、特にすごい才能があるとか思っていないと思っていること。人付き合いも、ただみんなと一緒に居ると楽しいから自然とそうなっているだけのことで特別なことなんて一つもないこと。

だからこそ、皆が思っているようになんでもできて人付き合いもよい完璧超人な特別な人間では無く、何処にでもいる普通の女子高生なのだと。それからは、私は曜のことを特別視せず、普通に一人の先輩として、Aqoursの仲間として接していった。

曜は最初、私の堕天使モードを見た時は驚いて、若干引いていたような感じだったけど、それで距離を開けるようなことはせず、次第に堕天使としての私も肯定してくれた。

だからこそ、私は私として見てくれる曜のことが好きだった。きっと、これからも変なことを言っても、笑顔で受け止めてくれて楽しい日々が続くのだと信じていた。

 

それなのに、そんな日々もこれからはもう訪れない。私のせいで壊れてしまったから。私は曜と過ごした日々を思い出すと、夢の内容を思い出す。

あの時最後私は願った。結果がどうなったのかはわからないけど、神にもすがる気持ちで。

だから、私はふらーと立ち上がると、おぼつかない足取りでいつも使っている魔法陣の描かれた布を手に取って広げ、机の上に置いていた黒い水晶の付いたペンダントを手に取る。

 

「堕天使ヨハネが命じます……リトルデーモンよ、私に力を……時よ戻れ!時間遡行(アンチクロック)!」

 

そして、その上で詠唱してみたけど、何も起こらなかった。やっぱりそうよね。私にそんな力なんてない。ただの非力な一人の少女。あれはただの夢だったんだから。

 

「……って、こんなことで戻る訳もないわね……曜」

 

たかが数か月の付き合いなのに、そんな私をかばって死んじゃうなんて……。誰に対しても分け隔てなく接することが出来る優しい人で、あんなにいい人が死んでしまうのなんて耐えられない!

もしあの時、もっと早くに車に気付いていたら曜はこんなことにはならなかった。

もしあの時、もう少し雑貨屋でのんびりしていれば轢かれることは無かった。

でも、私にはどうする術もない。時を戻すなんてことは私にはできないのだから

 

「曜……帰って来てよ……」

 

だから、私はただ願った。

 

曜がいる今までの日常を。曜が轢かれる前のただただ普通のありふれた日常に戻りたいと。そして、

 

「我願う。故に我乞う。曜の居る日常を!」

 

夢の最後に口にしていた言葉と願いを口にした。

直後、握っていたペンダントの水晶からまばゆい光が放たれ、私は光に包まれた。

 

 

~☆~

 

 

「ん、ん~」

 

目を覚ますと、私は自分の部屋のベッドの上で寝ていた。

たしか私は、曜の居る日常に戻りたいと願って……。

それで……直後曜が轢かれる光景を思い出して飛び起きる。

今はいつなの?曜は?

私は目覚まし時計として使っている電波時計の画面を見た。

 

「え!?」

 

私はそれを見て驚きの声を漏らした。

時計に表示された日付と時間は、曜が轢かれるあの日の朝を示していたのだった。




何事もなければまた明日~
では、ノシ


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3 壊れ始めた日3

「どういうこと?あれは夢だったってこと?」

 

スマホを見てもあの日を表示し、私は訳が分からなかった。

 

「善子ー、そろそろ起きなさーい」

「今起きたわー」

 

すると、ママが部屋の向こうから呼びかけ、返答をすると首を傾げながらも、とりあえずいつも通り着替え始める。あれはきっとただの不幸な夢。不幸な私にはよくあることよ。

制服に着替え終えてバッグを持ってリビングに行くとママは食べ終えたお皿を洗っていた。

 

「おはよう、ママ」

「おはよう、善子……って、具合でも悪いの?」

「え?どうして?」

「いや、なんだか表情が暗いから」

「ちょっと変な夢を見ちゃったからかな?」

「そうなの?それでどんな夢だったの?」

「あんまり話したくない内容だから。それよりも学校行かなくていいの?」

「あっ、もうこんな時間。戸締りよろしくね」

 

ママは時計を見ると、手をタオルで拭いてソファーに置いてあった鞄を持って、そそくさと家を出た。

私は忙しないなぁと思いながら椅子に座る。

 

「あれ?」

 

そこで私はママとの会話に既視感を覚えた。前にも一度まったく同じ会話をしたような。

確かあの夢でも、ママと会話をして、テレビをつけて……

 

「確か、最下位だったわよね?」

『まずは十二位の発表です。今日の十二位は蟹座のあなた――』

「え?……いや、偶然なだけで。青いニット帽がラッキーアイテムで……」

『――唐突な不運に見舞われるかも?ラッキーアイテムは青色のニット帽です』

「嘘……」

 

私は占いを見て驚いた。後とき見た夢と全く同じ内容だったから。本当にあれは夢だったのか?私はそんな疑問に駆られた。もしそうなら、今日曜は事故に遭うことに……。

私は朝ごはんを食べ終えると、部屋に戻った。

机の上には、あの時使った水晶のペンダントがあり、私はそれを手に取る。

 

「確か、私はこれを持って願ったっけ?」

 

水晶を日の光に透かして見るけど、向こうが見えるだけでこれといった特別な感じはしなかった。

 

「我願う。故に我乞う。全ての真実を……って、何も起こる訳無いわよね」

 

あの時の言葉を呟いてみるも、あの夢の最後のように光り出すことは無かった。だから、きっとあれはただの夢だったのだろうと思うと、時計がもうすぐいつものバスが来る時間を差していたから家を出たのだった。

そして、いつものバスに乗ると、途中で曜が乗り込んでくる。

 

「善子ちゃん、おはヨーソロー」

「おはよう、曜」

「あれ?今日はヨハネってツッコまないの?」

「……」

「善子ちゃん?」

「あっ、少し考え事をしてて」

「そうなの?悩みがあるのなら私が相談に乗るよ」

 

曜は私のそばに寄ると、いつも通り敬礼をしながら挨拶をし、私の隣に座る。やっぱり、あの夢の内容が引っ掛かって黙って考え込むと、曜は不思議そうな表情をしていた。それで、慌てて取り繕うと、心配そうにそんなことを言う。

でも、流石に言えるわけがない。今日曜が死んでしまうという変な夢を見たなんて。

だから、私は作り笑いを浮かべて誤魔化す。すると、曜は「ならいっか」と言ってこの話は終わった。

 

「そう言えば、次の衣装どうしよっか?」

「そうね。私としては堕天使のように漆黒の衣装かしら?」

「うーん。黒かー。確かに今までなかったけど、またあの時みたいなのはダイヤさんが“破廉恥ですわ!”って言うかもよ?」

「確かに、言われそうね。でも、あの時と違ってもう少し布面積を増やせば……」

 

ダイヤがツッコむ未来が見えた気がしたから、妥協案としてそう伝えると曜は少し考える素振りをする。

てか、あの時の衣装だってよくよく考えればゴスロリに似た感じだったから問題ない気もするんだけど。それに、スカート丈は他のとあまり変わらないし……。

 

「確かにもう少し変えれば問題は無いかもね。問題は需要があるかだけど」

「あー、そう言えばすぐにランキングは下降したっけ?」

「うんうん。九百位台に上がったのにすぐに千五百位台になっちゃったよね」

「じゃぁ、他の案も考える必要がありそうね」

 

私たちはそんな話をしながら過ごした。時々あの夢のことを思い出したりしたけど、また考え込んだら曜に心配されそうだから頭の隅に追いやっておいた。

ルビィたちは一本早いのに乗ったのか遅いのに乗るのか乗り込んでくることは無く、浦女に着いて部室に行くとルビィと花丸がそこにいた。

 

「ルビィちゃん、花丸ちゃん。おはヨーソロー」

「おはようございます。曜ちゃん、善子ちゃん」

「おはよう。曜ちゃん、善子ちゃん」

「おはよう。二人とも」

 

マリーは理事長の、千歌を除く四人は生徒会の仕事をしているらしかった。そして、練習着に着替えているうちに、千歌がやって来て、それに続いてダイヤたちも戻って来た。

 

「さぁ、朝の練習を始めますわよ」

「うん。説明会に向けて練習を進めて行かないとね」

 

千歌はぎりぎり戻ってくる前に着替え終えたからか、小言を言われることは無く、そのまま練習が始まったのだった。

 

 

~☆~

 

 

「やっぱり、この度々起こる既視感……」

 

昼休み。私は手洗いに行くと言って席を外して、トイレから出てくると呟いた。今日の授業の内容は全てあの夢の内容と同じであり、私は既視感を覚えていた。どうして、こんなにあの夢と被るのかしら?

まさか、遂に能力が覚醒したとか?曜を救えるのは私だけみたいな……いや、それは無いわね。だったらなんでこんなタイミングなのよ。もっと前からあれば良かったわけだし、そんな能力がこの世にある訳がない。

私は首を振って変な考えを振り払うと、二人がいる教室に戻る。もし、この後の授業も同じだったら、一応気を付ければいいだけのことよ。

私は決心を固めると教室に入った。

 

「善子ちゃん、おかえり」

「ええ。戻って来たわ」

「善子ちゃん、早く食べよ?」

「わざわざ待ってなくてよかったのに」

 

二人はわざわざ私が戻って来るまで弁当を食べずに待っていてくれた。でも、そうなると二人に悪いからそんなことを言うと、二人はなんでかにやける。なんでそんな反応?

 

「善子ちゃん、素直じゃないね」

「うんうん。待っててくれてうれしそうなのにね」

「別にそんなこと……」

「照れてるずら」

「もう、茶化さないで!さっさか食べるわよ!」

 

二人にいじられそうだから、話を打ち切って私は弁当を食べようと促す。二人はそれでこれ以上はやめたのかおとなしく従って、ようやく私たちは弁当を食べ始めた。

 

 

「善子ちゃん、この後暇?よかったら一緒に雑貨屋さんに行かない?」

 

午後の授業と放課後の練習を終え、みんなバスを降りて行ったことで、曜と二人きりになり、いろんな話をしていると曜がいきなりそう言った。

午後の授業もやっぱり夢と同じ内容で、練習風景も一緒だったことで、私はこのままだと曜が轢かれてしまうのだと理解していた。だから、もしこの話題が出たらどうしようかすでに決めていた。

 

「明日じゃダメなの?もうこんな時間だし」

 

私は曜が早く帰って家にいれば事故に遭うことを未然に防げるはずだから。だからこそ、曜が早く帰るようにそう言う。

 

「確かにこんな時間だけど、少し見るくらいだし、明日は天気が崩れるらしいし。善子ちゃんがダメなら一人で行くけど」

「私も行くわ。どうせ帰っても暇だから」

 

しかし、曜は日を改める気は無いようだから、雑貨屋に行くのを止めることを諦め、私も一緒に行くことにする。一人で行かせて事故に遭うかもしれないから、私が絶対に護ってみせる。

そんな気持ちで一緒に行くことを伝えると、曜は笑顔になる。

私はどうやれば曜が事故に遭うことを回避することが出来るか考えながら雑貨屋の小物を見て回った。

案としては、事故が起きる時間以降までここに引き留めてしまえばいいと思った。

 

「善子ちゃん、だいぶ見たことだしもう帰ろっか」

「もう少し見て行きたいんだけど……」

「そっか。じゃぁ、私は先に帰るね」

「っと、思ったけどやっぱり私も帰るわ」

 

しかし、曜は先に帰ろうとしてしまい引き留めることができなかった。

ならば、喫茶店に引き留めようと画策する。

 

「曜、そこの喫茶店に寄って行かない?」

「あれ?善子ちゃんから誘ってくれるなんて珍しいね。でも、今お金があまりないからできればパスかな?」

「私が奢るわよ」

「あはは。流石に奢ってもらうのは悪いから。ごめんね善子ちゃん」

 

しかし、この作戦も失敗に終わる。というか、なんでお金がないのに雑貨屋に行くのよ。行かなければ私も一安心だったのに。

心の中で毒づきながら、ならば曜をバスに乗せようと考えるも、これも不発に終わってしまい、次はどうしようかと考える。そうしているうちに事故が起きたあの場所が見えてくる。このままでは曜がまた轢かれてしまう。きっと、私が気を付けるだけでなんとかなるとは思えない。どうすれば……。

 

「善子ちゃん、あの信号が変わっちゃいそうだから走ろ?」

「ええ……ってちょっと待って」

 

そう考えていると、信号が点滅し始めて曜は走ろうと提案する。あの時私は頷いて走り、結果車が突っ込んできた。だから、私は別の道を選ぶ。

私は曜にそう言うと、別に靴紐が解けているわけではないけど、サッと解いて、解けた振りをする。曜はそれを見て足を止めて待ち、結果信号が赤に変わった。

 

「悪いわね。靴紐が解けたせいで渡り損ねさせちゃって」

「ううん。いいよ。あのまま走ってたら、善子ちゃんが靴紐を踏んで転んでたかもしれないしね」

 

私のせいで信号を渡り損ねたのに曜はこれといった文句を言わず、私は胸が痛んだ。でも、こうでもして時間を少しでもずらさないと……。こんなに優しい人が死ぬのはどうにかしてでも回避しなくちゃ。

 

キキッー!ドンッ!

 

信号が赤から青にもうすぐ変わろうとすると、あの時と同様にあの場所に、あの時と同じ自動車が突っ込んだ。今回は車線上には誰もいなかったことで、けが人はなく、すぐに周囲の人たちがわらわらと車に近づく。

 

「事故だね、善子ちゃん」

「ええ。乗ってる人が無事ならいいんだけど」

 

曜は目の前で事故が起きたことに驚き、私は引かれる事態を未然に防ぐことが出来て安堵した。そして、一応運転手が無事なのか心配する。一応あの時轢いたわけだけど、発作が原因で意識が無かったから完全に悪いと責められる訳もなく、知らない人とはいえ誰かが死ぬのは嫌だった。

すると、周囲の人たちは運転手が気を失っていることに気付き、救急車を呼んだり、救出しようとしたりし始めるのだった。

 

 

~☆~

 

 

曜の死を回避できた。

家に帰った私は夕飯を食べて、お風呂に入り、その後ベッドの上で安堵していた。それと同時に、私はあの夢が本当は夢なんかじゃなくて、あったかもしれない未来の光景なのではないかと思い始めていた。

それくらい今日一日の出来事は一致していた。

そして、私は黒い水晶のペンダントを持って、それを見る。

 

「たぶん、これで過去に飛んできたのよね?」

 

まだ半信半疑ではあるけど、このペンダントが光ったことで過去に飛んできたのだと思う。でも、私自身が過去に飛んだというよりは、意識のみ過去の私に移った感じなのかしらね。もう一人私がいる訳ではないみたいだし。

まだまだ謎は多いけど、とりあえず謎解明は追々行っていくことにする。

今日はずっと気を張っていたからいつも以上に疲れた。だからこそ、これ以上考えても、わかる物もわからない気がしたからこそ後に回す。曜が死ぬ運命は回避できたのだから。

 

 

~~~

 

 

私は気づくべきだったんだ……。

 

あの夢で死んでいたのは曜だけじゃなかったことに……。




もう曜ちゃんは救われちゃうの?と思われたかもしれませんが、この話はまだまだ先が長いので。

次回の投稿はちょっと開きます。ある程度書いてから投稿していきたいと考えていますので。ちなみに今書き貯めは“0“ですので・・・。
では、ノシ


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4 雨の日1

久しぶりに投稿です。
ちょいと体調を崩してあまり書けてませんけど、一週間に一個は出したかったので。


曜の死を回避した翌日。死を回避したから心が晴れやかな気持ちになっているのに対し、外は雨が降りどんよりとした天気だった。

 

「はぁー、なんで今日はこんなに天気が崩れてるのよ……」

 

だから、私は部屋の窓から見てため息をつく。今日はこのままの天気なのかと思いスマホを見ると、LINEに今日の朝練は中止にすることが書かれていた。こんな天気だから仕方ないと思うと、私は学校に行く支度をする。制服に袖を通すと、リビングに行く。昨日と違ってママはすでに鞄を持っていて、もう出かけるところだった。

 

「おはよう、善子。今日は顔色いいわね」

「おはよう、ママ。毎日顔色悪くはないわよ」

「それもそうね。じゃ、私はもう行くから。いってきます」

「いってらっしゃい」

 

ママはそう言って学校へ出かけて行った。私は見送ると、テレビを付けて朝ごはんを食べ始める。

すると、星座占いのコーナーが始まる。

 

『まずは十二位の発表です。十二位は蟹座のあなた。空から物が降ってくるかも?今日は上をよく見ておきましょう。ラッキーアイテムは小動物です』

「嘘でしょ……」

 

今日もまた十二位から始まり、なんでか今日も蟹座が最下位だった。せっかく、昨日を乗り越えたからいい気分だったのにテンションが下がる。普通こういうのって連続しないんじゃないかしら?それに、ラッキーアイテムが小動物って。

この占いが胡散臭い気がし始めながら私は朝ごはんを食べ終えると、鞄と傘を持って外に出た。

 

「結構降ってるわね」

 

外は窓からでもわかってたけど土砂降りで、たぶんたどり着く頃にはびしょびしょになるんだろうと思い、一回戻って換えの靴下とタオルを鞄に入れる。いつも通りなら横を通った車に水をかけられたり、傘が壊れたりするわけだからね。

鞄に詰め込め終えて、いざ部屋を出ようとしたところでペンダントが目に入る。せっかくあるのなら付けておこうかしら?いや、流石に授業中は付けちゃダメだろうけど。まぁ、持っておくくらいならいいでしょ?

少し考えてから、鞄の別のポケットの部分にペンダントを入れると私は部屋を出て、戸締りをもう一度確認した後マンションを出た。

マンションを出ていつものバス停に行くと、ちょうどバスが来たのでそれに乗ったのだった。

朝練が無くなったからもう少し遅めに出ても問題ないんだけど、こんな天気の日はだいたい不幸な目に遭って時間がかかるに決まってるんだから!

 

 

~☆~

 

 

「善子ちゃん、おはよう……って、どうやったらそんなに濡れるの?」

「ふっ、天界からの疾風攻撃で我が(アンブレラ)は破壊されたわ」

「あー、風で傘壊れちゃったんだ……」

「確かに今日は風が強いですわね」

 

浦女に着き、昇降口でびしょ濡れになった服をタオルで軽く拭き、靴下を履き直しているとルビィと花丸とダイヤがやって来て、私の惨状を見て可哀想な目を向ける。いつものことだからと気にしないでいたけど、流石にそんな目で見られると気にするんだけど。

私が浦女前で降りて傘を差して歩いてすぐに、強風によって傘が壊れたことで雨に打たれ、瞬く間にずぶ濡れになってしまい今に至っている。こうなることを見越して鞄の中の物はビニール袋で包んであるから、鞄の中は被害が無く、タオルもちゃんと使うことができた。

 

「というか、三人とも早いわね」

「ここに居る善子ちゃんがそれを言うずら?」

「私は天からの攻撃の対処に時間がかかると踏んで早めに出ただけよ」

「そうですか。私は生徒会の仕事があるので早めに来ただけで、二人も雨だから早めに出ただけですわ」

「それにしても、あいかわらず善子ちゃんは不運だね。帰りはどうするの?」

「どうしようかしらね。帰るまでに止んでいればいいんだけど」

「うーん。どうだろうね。予報だと夜まで降ってるって言ってたけど」

「そうよね。私もそれは知っているんだけど。まっ、その時に考えることにするわ。それより、教室行きましょ」

 

残念ながら帰る時にも雨が降っているかもしれないけど、それは帰る時に決めることにする。どうせ、その時の状態で変わる気がするし。

私は上履きを履くと、同じく上履きに履き替え終えた二人と教室に歩いて行った。ダイヤは生徒会室に直行していったからけど。

 

「それにしても、今日は大荒れよね。午後の授業無くなったりして」

「さすがにそれはないよ……そんな天気になったらバスどうなるんだろ?」

「さぁ?言ってみただけよ。どうせ、速度を落として安全運転で走るでしょ。バス止まったら私たち帰れなくなるし」

「だよね。ルビィたちはまだ歩けない距離じゃないけど、善子ちゃんたちは厳しいよね」

 

なんとなくこの天気だから授業が憂鬱でそんなことを言えば、二人は律儀に反応する。別にこんな話題にちゃんと取り合わなくてもいいのに。というか、本当にバス止まったりしないわよね?

教室に着くと、まだ早いからかほとんど生徒はおらず、私たちは教科書を机の引き出しに突っ込む。

 

「鞄乾かしときたいから、部室に干してくるわね」

「いってらっしゃーい」

 

びしょ濡れの鞄を教室に置いといても、さほど乾かなさそうなので、部室に持って行き、ひっくり返して置いておく。たぶんあまり変わんないけど、多少は乾けばいいんだけど。

私はそんなことも思いながら、机の上にタオルを広げてその上に鞄を置いておく。その際に中身を抜いて、近くに置いて起き、ペンダントをどうするか困った。置いといて盗まれたらいやだけど、乾かしたいし。というか、これ以外はただの袋だったりで盗まれても問題ないんだけど、これは盗まれる可能性も無きにしも非ず。浦女で盗みを働くような人がいるとは思えないけど、この部室鍵もないわけだから、絶対に安全とはいいがたいし……。

 

「よし、ここなら!」

 

その結果、私は棚の一番上に置いておくことにした。ここなら椅子に乗ってみない限りは見つからないしね。

こうして、無事置き終えると椅子を元の位置に戻して教室に戻ったのだった。

 

 

~☆~

 

 

「さて、一向に雨も止みそうにありませんし、今日は早めに解散しましょうか」

「そうね。この天気で暗くなったら危なそうだし」

「そうだね。私はそれでいいかな?」

 

結局放課後も雨は降り続き、屋内で練習することもできなかったから、私たちは部室で次の曲をどうするかという話をしていた。あわよくば止めば練習しようと考えてたけど、朝と変わらず雨は降り続け、度々強風も吹き荒れていた。

曲の案は一向に固まらず、ホワイトボードには皆が出した案というか言葉が羅列されていた。なんで、暗黒はダメなのよ!案出しの手が止まり、一段落したところでダイヤがそう言い、マリーと千歌がダイヤの提案に賛同する。そして、私たちもそれでいいと伝えると、帰り支度を始めた。

 

「さてと。じゃぁ、帰ろっか」

「うん。っと、もうすぐバスが来ちゃうから急ごう!」

 

帰り支度を済ませて私たちは部室を出たそして、昇降口に着いたところで私は大事なことに気付いた。

ペンダント回収するの忘れてた……。盗まれないようにと棚の上に置いておいたのに、自分で忘れちゃうなんて。

 

「忘れ物したから、皆は先帰ってていいわ」

「ん?待ってるよ」

「いいわよ。待ってたら、バス乗り遅れるだろうし」

「でも……」

「いいから、いいから」

 

皆私の事を待とうとしていて、でもバスがもうすぐ来ると分かっているからみんなを待たせたせいで乗り損ねさせたくなくて、皆には先に帰ってもらう。私が引く気がないと判断すると、バスが来るまでに追いついてねと言って、皆は妥協して校舎を後にした。

私はさっさか回収して追いつこうと思いながら部室に戻ると、椅子を棚の前に移動させて、その椅子に乗って棚の上に置いたペンダントを回収する。心配とは裏腹にちゃんとペンダントはそこに残っており、私はホッとすると、手に取って椅子を元の位置に戻す。

 

「さてと、追いつけるかしらね?」

 

私はペンダントを持って部室を出ると、鞄に入れる時間も惜しいし、放課後だから付けていてもいいかと思い首にかける。私は昇降口に戻って来ていざ外に出ようとしたときに、また重大なことに気付いてしまった。

 

「あっ、傘壊れてるんだった」

 

傘立てに刺してあった自分の傘を見て私は壊れていることを思い出した。どうしようかしら?小降りなら走ってしまえばいいけど、この雨の中走るのには抵抗が……。

誰かの傘を借りる?でも、もしかしたらまだ残っているだけで、後で使うかも。

 

「どうしたものかしら」

「じゃぁ、一緒に帰ろ?」

「マルの傘に入るずら」

 

いい方法が浮かばずに一人呟くと、昇降口にルビィと花丸が現れる。どうして、二人がここに?

二人がここにいる訳が分からず、首を傾げて反応しないでいると、二人も首を傾げる。すると、花丸は私が考えていることに気付いたのか、手をポンッと打つ。

 

「途中で善子ちゃんの傘が壊れていることを思い出したから、戻って来たんずら。善子ちゃんを雨に打たせたら風邪ひいちゃうでしょ?」

「いや、流石にそんな簡単に風邪をひいたりなんて」

「ほんとにしない?」

「……否定はできないわね」

 

二人が戻ってきた理由はわかったんだけど、こんな雨の中一緒の傘に入ったら濡れちゃうんじゃ?

すると、ルビィのスマホに通知が入り、ルビィはそれを確認する。

 

「あっ、バス来ちゃったんだって」

「そう……」

「次のに乗るって打っておくね」

「お願い」

 

乗るつもりだったバスが特に遅れること無く時間通りに来たらしく、今から出は間に合わないし、こんな雨の中六人に待っていてもらう訳にもいかないから、先に帰ってもらうことになり、ルビィがそう伝えると、了承の旨が書かれたのだった。

 

「悪いわね。私が忘れ物したばかりに」

「別にいいよ。善子ちゃんだって同じような状況だったら戻って来てくれるでしょ?」

「まぁ、そうだけど。ルビィの場合はダイヤが戻っていきそうな気はするけどね」

「あー、確かにダイヤさんならありえるずら。同じ家だから家までちゃんと傘を差して帰れるからって言いそうだし」

「さてと、バス停に行きましょうか。屋根もあることだし」

「だね」

 

私は花丸の傘に入れてもらって浦女を出る。花丸の傘は普通よりも大きめで、若干肩が濡れる程度で済んだのは意外とありがたかった。そうして、急ぐ必要も無いからのんびりと歩きながらバス停を目指す。

 

「次のはもう少しで来そうね」

 

バス停に着いて、時刻表を見るとあと数分でバスが来るようだった。いつもならバス停までそんなに時間がかからないんだけど、風が強かったせいでだいぶ時間がかかってしまった。

私たちはバス停の屋根の下で雨宿りをしながらバスがやって来るのを待っていると、花丸がそう言えばと口を開く。

 

「善子ちゃんの忘れ物ってなんだったの?」

「これよ」

 

特に隠すこともないから、制服の中に入れていたペンダントを取り出して見せると、二人はまじまじとペンダントを見る。まぁ、学校に持ってくるようなものではないから、気になりはするわよね。

 

「綺麗だね」

「たしかに、これなら取りに戻っちゃうかもね」

「そうでしょ?雨で鞄が濡れて干してる間に盗まれたりしないように隠してたら忘れていたわ」

「あはは。でも、無くなったりしなくてよかったね」

 

二人はペンダントに興味を持ち、まじまじと見ながら私がわざわざ取りに戻った意味に納得していた。そうしてバスが来るのを待っているとバスがやってきたので乗り込む。

そして、私たちは一番後ろの席に行き、窓側からルビィ、花丸、私の順に座った。バス内には私たち以外に乗っている人はおらず、運転手がドアを閉めると走り出す。こんな天気だから他に乗る人はいないんだろうなぁと思う。

 

「あれ?」

「どうかしたの?善子ちゃん」

「あっ、なんでもないわ」

 

バスからの景色に既視感を覚えたんだけど、こんな景色を何時何処で見たのか分からず、私は誤魔化す。

んー、何処で見たのかしら?

 

「善子ちゃん?」

 

思い出せずに考え込んでいると、ルビィが私に声をかけた。それで私はハッとする。

 

「なに?ルビィ」

「いや、善子ちゃんがぼーっとしてたから」

「うんうん。何か考え込んでいるように見えたけど、悩みでもあるの?」

「ううん。ただどうやったらリトルデーモンを増やせるかなぁって」

「なんだ、いつも通りだったんだね」

「ずら。心配して損したずら」

 

こんなよくわからないことを二人に伝えても意味が無いからと適当な理由を付ければ、二人はあっさり信じた。

二人に嘘をつくのは心が痛むけど、こればっかりは言っても意味が無い。私は自分の心に言い聞かせ、すぐに落ち着いた。

 

そして、走っていたバスの目の前で木が倒れた。

ガサッ!

バスは急ブレーキをしながら回避を試みる。

キキッー!

しかし、間に合わずに木に乗り上げ……

 

「「「きゃッ!」」」

 

私たちは悲鳴を上げ、バスはスリップして道路で横転したのだった。




次は近々投稿したいなぁ。どうなるのかはわかんないですけど。
では、ノシ


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5 雨の日2

近々投稿?しました。さすがに一週間引っ張るのもあれですしね。


「いたた……」

 

横転したバスの中私は頭を抑えながら身体を起こす。木に乗り上げたことでバスはそのままスリップして、私たちはバスの壁に転がるようにぶつかった。私の隣にいた二人に被さるように倒れ込んでいて、私は二人のおかげで、多少の痛み程度で怪我をすることは無かった。ハッとして、私は下敷きにしちゃってた二人から慌てて退く。

 

「二人とも、大丈夫?」

「「……」」

 

しかし、二人からは一切の反応が無く、私は困惑した。二人ともあおむけに倒れていて、気を失っているのか反応が無かった。

だから、ただ気を失っているから反応が無いだけだと安堵し、でも、二人が本当にけがをしたりしていないかが心配で一応診ていく。切り傷とかあれば手当ぐらいはできるし。

そんなわけで、ルビィの身体を抱っこして前の座席の方へ運ぼうと、ルビィの背に腕を通した瞬間、私の手に痛みが走った。

 

「いたっ!……え?」

 

痛みをこらえて持ち上げたことでルビィの身体の下の光景が目に入った。

ルビィの居た位置には割れたバスの窓のガラスが散乱しており、血が流れていた。痛みがあるけど、こんな場所にルビィを降ろすわけにもいかず、私は前の座席に移動して同じく割れた窓ガラスを蹴って退かし、安全を確保したうえでルビィの上半身を背もたれに寄りかかるようにして座らせて降ろす。

降ろした後、私は手を見ると切り傷ができ、手が赤く染まっていた。そして、ルビィを見ると、額から血が流れており、それがルビィの血なのだと分かり、私は恐れた。もしかしたら、ルビィは……。

 

「花丸!」

 

私はルビィがこれならと慌てて花丸に近づいて、花丸の身体を持ち上げると、やはり花丸の背も傷ついており、私は割れた窓ガラスを退かして背もたれに寄りかからせる。花丸も同様に額から血を流しており、私は慌てて病院に電話をして救急車を呼ぶ。

二人ともまだ脈はあり、今ならまだ間に合うと思った。二人とも少しガラスで切っただけ。だから二人ともすぐに良くなると信じて傷口の手当てを始める。私はよく怪我をするから手当てする道具を少しは持ち歩いていることが役に立った。

 

「なんで、こんなことに。二人とも、大丈夫よね?」

 

私は嘆きながらも、二人の意識が戻ることを願った。そして、この光景に見覚えがあった気がした理由も今更理解した。昨日見た夢の一部だったことに。でも、あの夢の通りにしてたまるもんか。

 

 

~☆~

 

 

「お二人とも事故の際に頭を強打していたようで、脳に血が溜まっていました。それが死因です」

 

病院に着いて、すぐに医師から結果が伝えられた。二人ともあの事故の時点で手遅れだったようで、どうしようも無かったとのことだった。

 

「そんな……ルビィはもう……」

「嘘でしょ。せっかく仲良くなれたって言うのに……」

 

事故の話を聞き皆はすぐに集まり、そして私たちは二人の死に涙をこぼした。その中でも、ダイヤは今までの凛とした振る舞いなど忘れたかのように、大泣きして泣き崩れた。

 

あの時、私が忘れ物に気付いて戻らなければ、二人が事故に遭うことは無かった。私が戻らなければ……私のせいでまた誰かが死んだんだ……。

あの時……

 

「あっ」

「善子ちゃん?」

「えーと、ちょっと手洗いに……」

 

私は逃げるようにその場を後にした。私は思い出したから。

私はトイレには寄らずに、誰も来なさそうな屋上の扉の前まで行くと立ち止り、制服のポケットの中に入れていたペンダントを取り出す。

全てはこれを取りに戻ったのが原因。そして、これさえあればまだ二人を救うことが出来るかもしれない。曜を救うことができたのだから。

 

花丸とは幼稚園の時からの幼馴染。まぁ、小・中学校は違ったけど、また巡り合うことができた。花丸の第一印象はほんわかした柔らかい感じでなんというか一緒に居ると安心する感じだった……はず。幼稚園の頃の印象なんてあんまり覚えてないけど、再会した時にもそれは変わったりはしていなかった。自分は運動が苦手でだからスクールアイドルに向いていない、Aqoursに入っても迷惑をかけてしまうと思ってたらしいけど、私はそうは思わない。花丸はどんなことにも前向きに取り組めて、だからこそ結果がちゃんとついて来るって。それに、アイドルに向いてるかなんてやってみないと分からないものなんだし。

 

ルビィとの出会いは高校に入ってから。と言っても入学式の次の日には私が登校拒否してたから学校に復帰してからだけど。入学式の時には、ルビィは引っ込み思案でなかなか自分のことを表に出せないから、常に花丸のそばにいてビクビクしているのが第一印象だったでも、私が学校に復帰した時には、あの時とは違ってビクビクしておらず、普通に自分を出せるようになっていた。

花丸と同様に自分がアイドルに向いていないと思ってたらしいけど、ルビィはスクールアイドルが好きなんだからそれで十分だと思う。千歌も言ってた通り、好きな気持ちさえあればいいんだから。そして、そんなルビィが頑張っているのを見ると、私も負けてらんないとやる気が出た。

 

二人とも私が堕天使と言っても呆れたような表情をするくらいで否定することは無く、同じクラスでAqoursメンバーだから一緒に居ることが多くて、私は二人と一緒に居ると退屈しなくて楽しく、気持ちも温かくなった。だから、二人と居る時間が好きだった。流石にそれを口にするのは恥ずかしいから言うことは無いんだけど。

 

「絶対に二人を救ってみせる!」

 

だから、私は決意を固める。二人とのあの日常を取り戻すために。

ところで、私が過去に飛ぶ方法って結局どれなのかしら?もし、水晶以外にも必要だったら戻らないといけないけど。水晶が輝いたのはあの時、最後の言葉で願った時。だから、きっと。

 

もしあの時、私が忘れ物をしなければ、こんなことにはならなかった。

もしあの時、取りに戻らずに一緒に帰っていればよかった

 

「我願う。故に我乞う。花丸とルビィの居る日常を!」

 

二人と一緒に居る日常を願った。直後、水晶からまばゆい輝きが放たれ、私は光に包まれた。

 

 

~☆~

 

 

「うーん……ここは?」

 

目を覚ますと、私は自分の部屋のベッドの上で寝ていた。時計を見ると、二人が死ぬあの朝だった。身体を起こし、成功したのだと安堵すると、私は早速動き始める。

二人を絶対に救って見せる。私は改めて気持ちを固めると制服に着替えてリビングに行く。すると、ちょうど学校に行こうとしていたママを見送り、私は朝ごはんを食べて家を出た。傘が壊れるのはわかっているから靴下とタオルを入れ、傘を二本持って行く。これで壊れてももう一本でどうにかなる……はず。

私は準備を整えると家を出た。

 

「善子ちゃん、おはよう……って、どうして傘二本持ってるの?」

「ふっ、天界からの疾風攻撃で我が(アンブレラ)は破壊されたわ」

「あー、風で傘壊れちゃったんだ……」

「確かに今日は風が強いですわね。それを見越してもう一本持って来たわけですか」

 

浦女に着き、昇降口でびしょ濡れになった靴下を履き換えると、ルビィと花丸とダイヤがやって来た。傘があってもこの強風だから雨で濡れるのは変わらず、私はタオルで拭きながらそんな会話をする。

私が傘二本持っていることにダイヤは最初疑問に思うも、一本が壊れていると分かると納得していた。

 

「それにしても、今日は大荒れよね。午後の授業無くなったりして」

「さすがにそれはないよ……そんな天気になったらバスどうなるんだろ?」

「さぁ?言ってみただけよ。どうせ、速度を落として安全運転で走るでしょ」

「だよね。ルビィたちはまだ歩けない距離じゃないけど、善子ちゃんたちは厳しいよね」

 

ダイヤは生徒会室によると言って別れて、私たちは教室に着くと席に着いて、午後の授業が無くならないかといった話をしていた。二人は単純にこの雨だから私が面倒だと思っているみたいで、でも私はそれとは違う理由でそんなことを言った。

もし午後の授業が無くなって早く帰れれば、事故に巻き込まれることは無くなると思うから。

 

「それよりも善子ちゃんはちゃんと乾かすずら」

「平気よこれくらい」

「ダメだよ。身体を冷やしたら風邪ひいちゃうよ」

 

髪が湿っていることで、二人はそんな心配をし、断っても花丸は無視してタオルでごしごしと髪を拭いてきた。私は為すがままにされ、私は抵抗としてタオルで花丸の髪を拭きにかかる。二人も私ほどではないにしろ濡れていたから。ルビィも髪の拭きあいに混ざり、終わった頃には三人ともだいぶ湿り気が無くなっていた。代わりに私は体力を持っていかれた気がするけど。二人も体力を持っていかれたのか、そんな表情をしていた。

 

「ふふっ」

 

でも、不思議と嫌な気分にはならなかった。きっと、二人とこんなバカなことができることがうれしいから。

 

「善子ちゃんが不敵にほほ笑んだずら」

「まさか、まだやる気なの?」

「いや、もうやらないわよ。あと、ヨハネ!」

「あっ、やっと善子ちゃんがツッコんだ」

「うんうん。やっといつもの調子に戻ったずら」

 

私が今更ながらツッコむと二人はなんでか笑顔になる。それで私は気づいた。そう言えば今日はずっと二人を救う方法を考えていて、何かあればすぐに動けるように気を張っていた。二人からすれば今日会ってからずっと張り詰めた表情の私に困っていたんだと思う。だからこそ、今日の二人はいつもと違って拭きにかかってきたのね。いつもなら無理やり拭こうとはしないだろうし。

でも、私ははっきりと意思を固めた。事故は放課後に起こると分かっている訳だから、そのタイミングをずらす。それ以外に方法はない。

 

「ちょっと考え事をしていただけよ」

「そうなの?」

「ええ。でも、もう大丈夫よ」

 

もう前回のようなミスはしない。そもそも、今回は鞄を部室に干さないでおく。そうすれば、忘れることは無いだろうし。そもそも忘れる要素もないわね。

それから、私たちは普通に一日を過ごした。

残念ながら午後の授業が休講になったりはせずに、普通に行われてしまったけど。

 

 

~☆~

 

 

「さて、雨も一向に止みそうにありませんし、今日は早めに解散しましょうか」

「そうね。この天気じゃ暗くなったら危なそうだしね」

「そうだね。私はそれでいいかな?」

 

授業終わりに部室に行くと、次の曲をどうするかという話をしていた。本当はさっさか帰りたかったけど、上手くは行かずに今に至っている。体調が悪いと言っても皆が早く帰る訳ではないので、いい方法が浮かばない。

そうして、皆は曲のイメージ案を上げて行き、一段落したところで前回同様ダイヤが提案して帰ることになり、皆で帰り支度を始めた。

 

「さて、ちょうどバス停に着く頃にはバスが来そうだし、いこっか」

「そうだね」

 

私たちは支度を終えると部室を出た。今回はペンダントも鞄の中に入れているから忘れ物はない。だから、九人全員であの時より一本早いのに乗れて事故に遭うことも無くなる。

私は二人を救えることに安堵する。でも、まだちゃんと救えたという確証もないから、気持ちを切り替える。もしもの時は私が絶対に助けてみせる。

 

「あれ?あっ、部室にシャーペン忘れちゃった」

 

昇降口に行くと、ルビィは思い出したかのようにそう言った。前回と違ってルビィが忘れ物をするという事態に私は困った。このまま取りに戻れば間に合わずに、あのバスにルビィが乗ることになってしまう。それだけはどうにか避けないと。

 

「別に明日でもいいんじゃないの?」

「うーん」

「そうですよ、ルビィ。家にもシャーペンはありますから」

「うん。そうだね」

 

なんとかルビィが取りに戻るという事態は避けられ、私たちはバス停に行った。すると、ちょうどバスがやって来て、それに乗り込む。

 

「それにしてもすごい雨だね」

「そうだね。東京だったら遅延が起きちゃうかも」

「そうなの?よかった。バス止まんなくて」

「そうだね。この雨の中バスなしで帰るのは相当厳しいし」

「曜ちゃんたちの場合は雨じゃなくても厳しいでしょ」

 

バスの中では皆いつも通りの会話をしており、私は窓の外を見ながら頷く程度だった。もし木が倒れて来たら、すぐに注意を促せば最悪の事態だけは避けられるはず。

そうして眺めているうちに、あの時事故が起きた場所に差し掛かる。あの時の木は風でグラグラ揺れていて、いつ倒れてもおかしくなかった。でも、バスは何事も無く通り過ぎ、ルビィたちが降りるバス停までたどり着く。

 

「では、私たちはここで」

「またね、皆」

「バイバイずら~」

 

三人は手を振って降りていき、バスは再び走り出す。

 

「ふぅー」

「どうしたの?急に安堵したみたいな表情をして息ついて」

「いや、なんでもないわ」

「そうなの?まぁ、いいや」

「よーちゃん、次の衣装どうしよっか」

 

二人が無事バスを降りて行ったことで安堵の息を漏らすと、隣に座っていた曜は首を傾げてそう言った。さすがに、二人が無事だからなんて言える訳もないから、誤魔化すと千歌が曜に声をかけてそっちに顔を向けて行った。

果南と鞠莉は喋りあっているから、私は窓の外を見ながら黄昏る。

 

二人の死は回避できた。

これで私の悩みは一段落した。でも、まだ終わらない。昨日起きるはずだった曜の死。そして、今日起きるはずだった二人の死。これだけ揃えばわかってしまう。まだ死の運命は終わった訳じゃない。

 

あの夢で死んでいたのは三人だけじゃなかったんだから……。まだ五人も死ぬ可能性があるのだから。




もう二人のルートが終わりましたが、先は長い?次回はいつになるか?
では、ノシ


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6 風邪をひいた日1

気付けばUAが1000突破。ありがとうございます。
という訳で、第6話です。


「完全に昨日雨に打たれたのが原因ね。今日はおとなしく休みなさい。学校には連絡しておくから」

「ゲホッ、ゲホッ。はーい」

 

二人を救った翌日。私は見事に昨日の発言のフラグを回収して風邪をひいて熱を出した。最初は平気なふりをしたけど、ママが私の顔を見た瞬間、体調が悪いことがばれてしまった。そして、瞬く間にベッドに寝かされて今に至る。

一昨日、昨日と誰かの身に危険が迫っていたから、今日もあるのではないかと私は思い、だからこそ学校に行かないといけないというのに行けない。まぁ、私がこの調子じゃ、もしかしたら私が次かもしれないという恐れがあるんだけど。

 

「さて、ただ寝てるだけは嫌なのよね。これで風邪をひく原因をどうにかできるのかしら?」

 

私は特にすることが無くて、ペンダントを眺めながら一人呟く。風邪をひく事態をどうにかできれば、学校に行ける訳でもしもの事態への対処をすることも可能になる。あと、ただでさえ登校拒否してた時期があったせいで出席数もピンチなのよね。

 

「我願う。故に我乞う。私が風邪をひく前まで戻れ」

 

過去二回と同じように口に出してみるけど、水晶が光り出すことは無く、何も起こらなかった。

流石にこうも都合よく行くわけもないわけで、あまりこの現実に落胆することは無かった。これは「できたらいいな」ぐらいの気持ちで願ったものだから。それに、この願いが叶えば下手すれば二人の事故の前まで戻されかねない訳だからで、風邪の原因は登校の時に雨で濡れたせいだろうしね。

そう言う訳で、私は風邪をひく前に飛ぶという案は捨てる。

これによって、水晶の力が発動する条件の情報が追加されたわけかしら?たぶん、これは誰かの死が必要になっていそうね。正直、それならもう過去に飛ぶことが無ければいいんだけど。

 

結局、水晶のことなんてわからないことばかりだからこれ以上の情報収集も無理そうで、私はまた寝ることにする。こうなれば、さっさか体調を戻さないと。

だから私は寝るその時まで、皆に何も起こらないことを祈るのだった。

 

 

~☆~

 

 

ピンポーン

「ん、ん~。だれよ?」

 

あれから私は眠りに落ち、インターフォンの音で目を覚ました。ママは出かけている訳だから、今は誰もいない訳で、私が出る以外に選択肢は無かった。でも、身体は寝てもまだだるく、できれば動きたくなかった。

 

ピロンッ

 

すると、私のスマホに通知が入る。誰だろうと見るとリリーからで、今の時刻が普段の練習時間が終わった頃だから、今日も早めに切り上げたようだった。それとも、練習の合間なのかしら?そして、長いことスマホを見ていなかったわけだけど、皆から大量の言葉が飛ばされていた。

 

『善子ちゃん、起きてる?今鞠莉ちゃんと家の前にいるんだけど』

「え?」

『お見舞いに来たデース』

 

リリーに続いてマリーからも連絡が入る。どうやら練習を早くに終わらせて二人が来たようで、流石に二人がお見舞いに来てくれたのに居留守を使うのも悪い気がして、フラフラした状態で私は部屋を出て、玄関の扉を開ける。

 

「ゴホッ、ゴホッ。いらっしゃい」

「Hello、善子。具合は……悪そうね」

「ごめんね、よっちゃん。そんな状態で出て来てもらっちゃって」

「いいわよ。それと、別に来なくてもゆっくりしてれば治ったわよ」

「照れてるわね、善子」

「うん。素直じゃないね」

 

二人は笑みを浮かべてそう言うと、いつまでも外にいさせるのも悪いから家にあげる。流石に、来ちゃったから追い返すのも悪いし、こんな風に誰かがお見舞いに来てくれるのもうれしいし。

家にあげると、フラフラしている私の手を引いてリリーは部屋まで連れて行ってくれた。

 

「さて、病人の善子は寝てなさいな」

「二人が来なければ寝てたわよ」

「本当はうれしいくせに」

 

今日の二人は少し意地悪で、すぐに隠した本心を見抜いて茶化してくる。うーん、どうも体調が悪いからかいつもみたいにはいかないわね。

とりあえず、私はベッドに座ると、二人は絨毯の上に座る。

 

「それにしても、この組み合わせは珍しいわね」

「そうかしら?ギルキスだから珍しくはないわよ。それに、私たちが来たのはお見舞いに行くじゃんけんで負けた結果よ」

「負けた結果って、私のお見舞いは罰ゲームなの?」

 

二人がじゃんけんに負けた結果来たのだと聞いて、私は地味にショックだった。そんなに私のお見舞いに行くのは嫌だったわけ?

すると、私の表情を見てリリーは慌てて言葉を続ける。

 

「あっ、よっちゃん。勘違いしないでね。いつもよっちゃんがじゃんけんに負けているっていうだけの理由で、あえて負けた人が行くことになっちゃったの」

「誰よ。そんな紛らわしい事考えたの」

「発案者は私デース」

「なんでよ!」

「いや、勝ったらだと、やたらと運がいい花丸とかちかっち辺りになりそうだったからね」

 

なんというか、それでいいのかという理由に私は呆れた。でも、別に嫌だから負けたらという訳じゃなくて安心はした。理由には納得がいかないけど。何よ、いつも私が負けてるからって。いや、負けてるのは事実だけど。

 

「あぁ、そうだ。今日の授業のノートだって。花丸ちゃんとルビィちゃんからよ」

「そう言えばこれお見舞いの品よ」

 

リリーはそう言って、数枚のルーズリーフを鞄から取り出し、マリーは林檎や苺といった果物の詰め合わせという見舞いでよく見るようなものを取り出す。ちょっと待って、マリーの鞄の大きさをゆうに超えてるような?

 

「どうやって鞄の中に入ってたわけ?」

「シャイニー!」

「答える気ないのね」

 

マリーへの追及を諦めると、渡されたノートをぱらぱらとめくる。そこには今日やったであろう内容が書かれていた。たぶん、自分たちのノートに書いたものを休憩時間にでも写したかのような感じだった。別にそんなことしなくても、行った日に見せてくれればよかったのに。

 

「ありがと」

「お礼は二人に言ってあげてね。私は頼まれただけだから」

「そう。それで、マリーは何キョロキョロしてる訳?」

 

ルーズリーフを受け取ると、私はキョロキョロと部屋の中を見回しているマリーに声をかける。すると、マリーは私の声に反応する。

 

「ああ、善子の部屋に来るの初めてだから、どんな感じなのか気になってね。ぬいぐるみが散乱してて意外だったけど」

「散らかってて、悪いわね。ゲームセンターのクレーンゲームで取れそうだから取ってたらこうなってたのよ」

「取れそうだからで取れちゃうんだ……」

「まぁ、中学の頃は友達付き合いがあんまなくて、一人でゲーセンに入り浸ってたから」

「あれ?なんか、暗い話に行こうとしてない?」

 

気づけば私が中学の頃のことを話し、二人は反応に困っていた。そこで、自分自身どうしてこんなこと言ってるんだろと思い、それ以上はやめた。きっと、熱のせいね。気分が暗くなってるからこんなことを言っちゃったんだろうし。

 

「まぁ、そんなことは置いといて」

「それを鞠莉ちゃんが言っちゃうんだ」

「調子はどうなの?」

「今更ね。ずっと寝てたから朝よりはマシよ。まだ完全ではないんだけどね」

 

今日はほとんど寝て過ごしていたからか、朝よりはだいぶマシになってきていて、この調子なら明日には登校できそうだと思う。二人はそれで安心したような表情をすると、私は逆に気になっていたことを聞く。

 

「そう言えば、今日は練習なかった訳?こんな時間だけど」

「ああ。全員集まってないと合わせられないからね。それに、よっちゃんの事心配だったから」

「悪いわね。こんな状態になっちゃって」

「ううん。昨日の雨はすごかったから仕方ないよ」

「そう言ってもらえると、気が楽になるけど。何か学校であったりしなかったの?」

 

私はここいらで今日学校であった出来事を聞く。もしかしたら、今日もまた誰かの身に危険が迫っていたかもしれないからね。まぁ、何かあったらもう言ってると思うんだけど。

 

「特には……あっ、昨日の雨でいつもの道に木が倒れてて、危うく朝練を遅刻しそうになったことかな?」

「そうね。綺麗に道を塞いでいて、危うくバスを使う生徒の皆がほぼ遅刻する事態になるところだったわ」

 

あの時の事故の原因だった木はやっぱり倒れていたらしく、でも特にけが人は出ていないとのことで私としては良かった。これで何かあれば今の状態の私じゃどうにもならない訳だし。

 

「しそうになったってことは、遅刻しないで済んだの?」

「うん。木の前で降ろされて、そこから歩いたらギリギリね。その後、地元の人たちが撤去して朝練のない子たちは普通に来れてたよ」

「さすがに、昨日の雨の中撤去はできなかったし、早朝に撤去も厳しかったから仕方がないものね。私もまさか木が倒れてるとは思わなかったわ」

「まぁ、木が倒れてるなんて普通は思わないわよね。他には特に何もなかったの?」

「ええ。特に何もなかったよ。よっちゃん、どうかしたの?」

 

私は私の知らないところで何か起きていないか気になって、他の質問をすれば、二人は疑問顔をする。今更ながら、こんなに聞けば不思議がられるのも普通だと気づくも、良い言い訳の方法が思いつかない。流石に誰かが事故に遭ってるかもしれないからとか言う訳にもいかないし……。

 

「なんでもないわ。昨日の雨がすごかったから、浦女に影響が出てないのか気になっちゃって」

 

だから、私はそれっぽい理由を即座に考えて口にした。実際、浦女にも何らかの影響は出ている可能性はある。嵐の日に停電した過去がある訳だし。

 

「校庭がぐちゃぐちゃで運動部が使えないことくらいかしらね。特に設備の破損は見受けられなかったわ」

「そう。ならいいんだけど」

 

マリーの話を聞く限りはこれといった問題は起こっていないようで、私の心配はどうやら杞憂のようだった。まぁ、流石に三日連続で死傷者が出るなんてことは無いわよね。二日連続でそういうことが起きたから、少し気を張りすぎたかしら?

 

「そう言えば、善子は本当に今日、ずっと寝てたの?」

「ん?ええ……」

ぐぅぅ

「そう言えば、お昼に何も食べてなかったわね」

「よっちゃん!ちゃんと三食食べないと治るモノも治らないよ!」

「と言う訳で、マリーたちでLet’s cooking!」

「鞠莉ちゃん、人の家で勝手にやっちゃ――」

「少しでいいわ。今日はマ……お母さんが早めに帰って来るって言ってたから普通に夕飯を食べるだろうし」

「って、善子ちゃんが許可出しちゃった」

 

リリーは時々お弁当を作っているらしいし、マリーも変な食材さえなければ普通に料理だってできる……はず。だから、頼んでみる。というか、ママが何も用意せずに仕事に行ったとは思えないけど。

そう言う訳で、二人は部屋を出て行き、

 

「よっちゃん、汗かいてるだろうから拭いとかないとね」

「リリー、だいぶ治ってるから一人でできるわ」

「いやいや、ここはおとなしく拭かれなさい!」

「嫌よ!堕天使は他者に素肌をさらさないわ!」

「私とよっちゃんの仲でしょ!他者なんかじゃないわ!」

 

タオルを持って戻って来たリリーは何がなんでも私の身体を拭こうとして来る。なんで、そこまで拭こうとして来るのよ!

なにがなんでも肌を見せたくない私と何がなんでも拭こうとして来るリリー。私たちは一歩も引かずに討論をし合う。

その結果、

 

「冷蔵庫に冷や飯と細かく切られた野菜があったから、簡単なおかゆができたわよ……Oh、これは失礼しましたってやつね」

 

おそらく、私でもすぐにできるようにほぼ準備が出来ていたおかゆを温めたマリーが戻ってきて、私たちの状況を見てそんなことを言った。

マリーなら割り込んできかねないけど、何故か割り込んでくることは無くて助かった。流石に二人相手にするのは無理だろうし。

 

「梨子。善子が嫌がってるでしょ!」

「でも……」

「梨子わかってないわね。善子がここまで拒む理由を」

「拒む理由?」

 

あれ?なんか変な方向に進もうとしてない?

 

「家に一人。そんな状況の善子は誰かをオ――」

「ストップ!変なことを言おうとしてない!?」

「sorry。冗談よ。ただ単に気恥ずかしいのでしょ。六人で銭湯に行った時も入るのに渋ってたし」

「ああ、なるほど。それなら納得かも」

「もういいでしょ。それより、お腹が空いて……」

「はい、あーん」

「へ?」

 

何故かマリーはスプーンで取ったおかゆをあーんしようとしていた。普通に皿ごと渡してくれれば、普通に食べるんだけど。

 

「善子、冷めちゃうわよ?」

「あー、もう!」

 

マリーがさっき割り込んでこなかった理由を今更理解した。マリーは最初からこれを狙ってたわけね。はぁー、どうせ引かないんだろうなぁ。

と言う訳で、諦めてあーんされる。その瞬間気付いた。できたてをあーんされるのって。

 

「No problemよ。マリーに抜かりはないわ!」

 

熱々なのではという心配をすると、マリーは人の心を読んだかのようにそう言い、私の口の中におかゆが入り……

 

「あれ?普通にいい温度」

「運んでいる間にフーフーして冷ましておいたわ!」

 

マリーはドヤ顔でそう言うと、さらにもう一口あーんしようとし、

 

「ひゃっ!」

 

いつの間にか背後に回っていたリリーは服の中に手を入れて私の背中を拭き始めて、いきなりのことに変な声が出てしまった。

 

「見なければ、問題ないでしょ?」

「なんか、ライラプスの時以来、リリーが私に対して遠慮が無くなった気が……」

「梨子も善子が心配なのよ。じゃんけんだって、絶対に負けてやるってオーラが立ち込めてたし」

「リリー……」

 

 

~☆~

 

 

「じゃっ、また明日ね」

「くれぐれも今日は安静にね」

 

おかゆを食べ終え、結局背中は綺麗に拭かれてしまった。前は何がなんでも自分でやれるからと死守をしたけど。

そして、私たちはエレベータ前にいた。私は外に出ない方が本当はいいんだけど、少し外の空気を吸いたかったから外に出て来ていた。

今はエレベータが来るのを待っている状態で、私は何か重大なことを失念している気がするんだけど、風邪のせいか思い出せない。

うーん。なんだったのかしら?

 

「あっ、エレベータが来たね。よっちゃん、また明日」

「see you」

 

二人はエレベータに乗り込み、ドアが閉まるその瞬間まで、二人は手を振り続け、ドアが閉まった。

その瞬間、視界がゆがみ……

 

瓦礫に埋もれた二人の姿が脳裏に映った。

 

「あっ!」

 

私は外に出てからあった違和感の正体に気付き、急いでボタンを押すも、すでに降り始めていて……。

 

キキィッ!

ガシャーン!!

 

周囲に何かが激突する衝突音が響くのだった。




次回はいつだろ?
では、ノシ


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7 風邪をひいた日2

「リリー!マリー!どこッ!」

 

慌ててふらつく足取りで階段を降りて一階に着くと、エレベータホールの前は荒れ果てていた。落下した衝撃でエレベータの外側のドアが砕け、エレベータの中が見えていたが、砂煙で二人の姿は見えず、エレベータの残骸に埋もれているのかもしれなかった。

だから、私はフラフラした足取りでエレベータに近づき、

 

「善子!」

「……ママ?」

 

エレベータの中に入ろうとしたところで、仕事から帰ってきたママが大声を出した。私は虚ろな目でママを見て呟くと、ママは駆け寄る。

 

「善子。怪我はない?なんで外に?」

「リリーとマリーが……」

「どういうこと?」

「二人が乗ったエレベータが落下して……早く助けないと!」

「ダメ!下手に触ったら二次災害になるわ!」

「でも、早くしないと二人が!」

「十階から落ちて生きているわけないでしょ!下手に触れば善子まで怪我するわよ!」

 

そうしている間に、騒ぎを聞きつけた人たちが集まり、砂煙も晴れる。

 

「リリー!マリー!」

 

晴れたそこには半分ほど残骸に埋もれて倒れている二人の姿があり、私は駆け寄ろうとするけど、ママは行かせないようにと抱きしめて止め続ける。

 

「リリー!マリー!返事をしてよ!」

「「……」」

 

私はその場から声をかけ続けるけど、一切反応はなく、すぐに救急車が来て、十分な安全を確認しながら二人の身体が運ばれた。二人の身体はボロボロですでに亡くなっていた。

 

私がもっと早くに思い出していれば……。そうすれば二人はこんなことには……。

 

 

~☆~

 

 

「私のせいだ!私がもっと早くに気付いていれば……そもそも風邪をひいて休んだりしてなければ……」

 

本当は二人を追って病院に行きたかったのに、私の状態じゃ行っても悪化するだけだからと部屋に戻されてしまった。今頃は二人の両親が病院に行って、皆も連絡を貰って病院にいった頃なのかな?

私は部屋に籠って、ベッドに倒れこんで自分を責めた。

ただでさえ、今日も何かあるかもと考えていたのに、学校で何も起こってなかったって聞いて安心して……。今までだって死んだのはAqoursメンバーなんだから、二人がこの後に死ぬ可能性を考えておくべきだった。

それなのに、私は……。

 

私は身体を起こすと、机に置いておいたペンダントを手に取る。

まだ、確実に過去に飛ぶ方法が解明できてないけど、今ならきっとできる気がした。

 

リリーとの出会いはAqoursに加入する少し前。一応駅前でビラを配っている姿やライブでその前から見たことはあったけど。

第一印象は綺麗な人で、おとなしそうな人だなぁと思っていた。でも、ライブではしっかりと自分を出し、自分が地味だからと自信がない人のそれには見えなかった。というか、地味という割に作曲・編曲ができて、誰にでも優しく、犬が苦手で、個性がたくさんあって地味なんかじゃないじゃない!

 

マリーとの出会いは……あれ?いつなのかしら?ライブの時には見かけてたし、でも、直接会話をしたのはAqoursに加入した時かしら?

生徒で、ハーフで、理事長で、ハイテンションでと、とにかく個性の塊で、最初はきっと私とは相いれないタイプの人間なのだと思った。でも、話していくと常に自分のペースという訳では無く、ちゃんと相手のペースを見極めて的確に行動できる器用な人なのだとわかり、相手のことをよく考えてくれる優しい人だから次第に距離が縮まっていった。マリーは誰かの悩みを察して動けるのに、自分のことは隠そうとするのはどうかと思うけど。

 

二人とはユニットが一緒になって、最初はこの組み合わせで本当に大丈夫なのか心配だったけど、その心配は必要のないものだった。三人とも個性はバラバラだけど、それがうまくまとまることでいい感じになったから。二人とユニットで一緒に居る時間は、マリーと一緒にふざけてそれをリリーが注意して……とにかく楽しかった。

 

「取り戻してみせる!」

 

私は二人との日常を思い出し、あの楽しかった日常を取り戻すために決心する。過去二回からこのペンダントがあれば過去に飛べることは分かっている。後は、願えばきっと。

 

もしあの時、私が風邪をひいて休んでなければ、二人がこんな目に遭うことは無かった。

もしあの時、もっと早くに気付いていればどうにかなったかもしれない。

 

「我願う。故に我乞う。リリーとマリーの居る日常を!」

 

一緒に居る日常を願った直後、過去二回と同様に水晶が輝き、私はその光に包まれたのだった。

 

 

~☆~

 

 

「戻ってこられた?ゲホッ、ゲホッ」

 

気が付くと私はベッドの上におり、時計はあの日の朝の時間を差していた。そして、治りかけていた風邪も復活していて、身体は怠かった。どうせなら風邪は治ってたら良かったんだけど。

 

「善子、体調が悪いのなら今日は休みなさい!」

「平気よ。これくらい」

「そんなフラフラした状態で行かせるわけないでしょ!」

 

どうにか学校に行こうとしたけど、ママに速攻でばれて、やっぱり休むことになってしまった。二人を救うので一番手っ取り早いのは学校に行ってしまうことだから、そうしたかったんだけど、やっぱり無理ね。よくよく考えれば、学校で倒れて送られてその帰りに二人がって可能性もある訳だし。

ママが学校に連絡を入れてしまったので、今日はもう行くこともできず、私はママを見送るとベッドに寝ころぶ。

 

「と、皆にも連絡をしとかないと」

 

皆には今日朝練いけないことも含めて伝えておかないと心配されそうだから、スマホを手に取りアプリを起動させる。

 

ヨハネ『風邪ひいたから、今日休むわね』

チカ『りょーかーい。ちゃんと休みなよ』

マル『善子ちゃんが風邪って珍しいずら』

ヨハネ『私だって、風邪くらいひくわよ』

リコ『あはは。ご飯はちゃんと食べなよ?そうしないと治る物も治らないから』

カナン『あとは、水分も取らないとね』

ダイヤ『お見舞いに入った方がいいのでしょうか?』

マリ『Oh 確かにそれはいい考えね』

 

みんな私の心配をしてくれているらしく、こんな私を心配してくれてうれしい気持ちになっていると、私のお見舞いの話が出始める。ここでお見舞いに来られたら二人がエレベータに……。

 

ヨハネ『大丈夫よ、別に来なくて』

ルビィ『平気なの?』

ヨハネ『問題ないわよ。それに、うつしちゃったら悪いし』

チカ『そっか。じゃぁ、そうするね』

「ふぅー」

 

なんとかお見舞いに来るという事態を回避した私は安堵の息を漏らす。これで、みんなここには来ないからあの事故が起きることは無い。それに、過去二回とも、その時の事故以外に大きな事故は起きていないから、これで、誰も死んだりするなんてことは無くなった訳よね?

 

「さて、リリーにも言われた通り、朝ご飯を少しは食べとかないと。何かあればいいんだけど?」

 

私はフラフラした足取りで、キッチンに行き、冷蔵庫を開けて中を見る。中には鍋にいれて温めれば、すぐにおかゆが食べれるように準備されていて、でもそれ以外は特に無かった。

 

「あっ、プリンだ……これでいっか」

 

私はプリンと牛乳を取り出すと、牛乳をコップに注いでレンジで少し温める。このままの状態だと身体が冷えかねない訳だからね。

そうして温まったコップを持ってテーブルに行き、なんとなくテレビを付ける。いつもとチャンネルが違ったけど変えるのも面倒だしとそのままにすると星座占いのコーナーがやっていた。

 

『今日の第一位は乙女座のあなた。今日は人の言葉を信じるといいことがあるかも?ラッキーアイテムはみかんです。そして十二位は蟹座のあなた。予想外の事態が起きるかも?慌てずに冷静に対応しましょう。ラッキーアイテムは苺です』

「三日連続って……」

 

三日連続で最下位という事態に私は項垂れる。というか、どんな確率よ!これ。流石に呪われているんじゃないの?

 

「もういいわ。さっさか寝ましょ」

 

考えても仕方ないので、私はプリンを食べ終えて牛乳を飲み切ると、コップとスプーンを洗って寝ることにする。

 

 

~☆~

 

 

ピンポーン

「ん?だれよ?」

 

夕方に目が覚めて、そう言えばお昼食べてないなぁと思い、身体をタオルで拭くと、冷蔵庫にあったおかゆの材料を鍋に入れて温める。朝に比べるとだいぶ身体の調子はよくなっていたから助かった。流石に良くなってなかったらそのまま寝てただろうし。

すると、インターフォンが鳴った。皆には来るなと言ってあるし、ママなら鍵があるから鳴らす必要も無い。だから、宅配便か何かかな?と思いながら火を止めて画面を見るとそこにはリリーとマリーの姿があった。なんで二人がここに?来なくていいって打っといたはずなのに。

このまま居留守をしようかとも思うけど、家にいるのはわかってるだろうから無理ね。

 

「なにしに来たの?」

 

だから私は玄関を少し開けて、ジト目で二人を見る。

 

「えーと、お見舞いに来たんだけど」

「来なくていいって言ったわよね?」

「善子が強がってるから来ちゃったデース」

「寝てれば治るわよ」

「じゃぁ、寝てないと」

「このまま帰るって選択肢は?」

「「ない(よ)」」

「はぁー。来ちゃったものは仕方ないし、入れば」

 

仕方ないから二人を中に通す。このまま帰すのも来てくれた二人に悪いし。どうせ、言ってもすんなり帰るとは思えないし。

話を聞くと、どうやら私が強がっているとみんな判断したようで、前回同様じゃんけんで決めたらしかった。今回はじゃんけんで勝ったメンバーだったとのこと。なんで、ここで齟齬が起きてるのよ!でも、二人ともちゃっかり勝ってるけど。

 

「それで、よっちゃんは何してたの?」

「さっき起きたから、遅めのお昼ごはん?」

「なるほど。料理ができるくらいには回復したのね」

「まぁね。だから、この調子なら明日には復帰できそうよ。たぶん」

 

二人はソファーに座り、私は遅めのお昼を食べていると、そう言えばとリリーは鞄を漁り、

 

「はい。ルビィちゃんと花丸ちゃんから。今日の分のノートだって」

「ん、ありがと」

「お礼は明日にでも、二人に直接言ってあげて」

「それもそうね。でも、リリーも届けてくれてありがと」

 

渡されたルーズリーフを机に置くと、マリーは鞄と一緒に持っていた紙袋を机に置く。

 

「これは何?」

「お見舞いといったらこれよ」

「果物の盛り合わせ?」

 

紙袋を覗くと、中にはいくつかの果物が入っていた。

 

「みかんが入ってるのは嫌がらせ?」

「風邪にはみかんがいいのよ」

「何処情報よ。それ」

「ちかっち情報よ」

「千歌の場合は風邪だろうがなかろうが食べてるじゃない。みかんはリリーにあげるわ」

「貰いものなのに渡しちゃって……あっ、だから千歌ちゃん、今のところ風邪ひいてないんだ」

 

千歌が言った情報が真実なのかはわからないけど、本人は風邪をひいていない訳だから本当なのかしら?

そうして、おかゆを食べている私に二人は、今日も早めに切り上げてお見舞いに来たこと、通学路の木が一本倒れていたことなど話した。その辺の内容は前回と同様で、特に変わったようなことは無かった。

私がおかゆを食べ終えて、皿やら鍋やらを洗おうとすると、リリーが制止した。

 

「善子ちゃんはおとなしくしてて。私がやっておくから」

「でも、来てもらったのにやってもらうのは……」

「いいから!」

「梨子もこう言ってるんだから、ありがたくやってもらいなさいよ。梨子、ずっと善子のことを心配してたんだから」

「じゃぁ、お願い」

「うん」

 

リリーが一歩も引かないでいると、マリーもそう言い、私はお願いすると、リリーは笑顔で頷いたのだった。

 

「じゃ、私たちは帰るわね」

「今日はありがと」

「どういたしまして。そうだ。明日、朝練は休みよ」

「ん?どうして?もしかして私に気を使ってる?」

「違うよ。ちょっと生徒会とか理事長の仕事が溜まってて、それを朝のうちに片付けちゃいたいんだって」

「そういうことよ」

「分かったわ」

「チャオ」

「じゃ、また明日」

 

二人はそう言って、エレベータの方に向かい、

 

「そうだ!今日は二人とも悪いけど階段から帰ってもらったりなんて……」

「ん?」

「階段?」

 

私は二人がエレベータに乗らずに済む方法がこれしか思いつかず、一応言ってみた。流石に十階から階段で降りるのは嫌だから拒否されるんだろうけど。

 

「まぁ、嫌ならそれはそれでいいんだけど」

「そうなの?」

「梨子。わかったわ!」

「ん?」

「善子はこう言いたいのよ。あえて階段を使うことでトレーニングをしろという」

「へ?」

 

マリーが変な方向に勘違いして受け取りそんなことを言った。別にトレーニングの意味合いは無かったんだけど。

 

「それに、梨子の今日の運勢で人の言葉を信じるといいって言ってたわ」

「そうなの?まぁ、鞠莉ちゃんがそれでいいなら、私は構わないけど」

「と言う訳で、階段で帰るわね」

「よっちゃん、安静にしててね」

「ええ」

 

二人はそう言って、階段の方に向かい、階段を降りていくのだった。

まさか、マリーもあの占いを見てたとは。占いのおかげで助かったわね。

 

「さて、二人とも無事家には帰れたみたいね」

 

部屋に戻って、眠くないけどベッドに横になっていると、皆からチャットで来て、二人も無事家に帰れたことが分かった。流石に階段を使って何かあったら目も当てられなかったわけだし。

まぁ、そんなことは起こらず、今回も乗り越えることができた訳ね。でも、あと三人。たぶん明日にも何かが起きる。

だから、この風邪をさっさか治して万全の状態にしないと。



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8 登校した日1

どうも、~の日で進めた結果サブタイが雑になった猫犬です。なんで、こんな縛りしちゃったんだろ?


「よし!これなら今日は大丈夫ね」

 

翌朝、起きた私は熱を測ると、無事熱は下がっており学校に行けそうだった。だけど、外の天気は雨で晴れ晴れとした気分にはなれなかった。

私は制服に着替えるとリビングに行く。リビングにはちょうど荷物を確認しているママがいて、私に気付くとママは顔を上げる。

 

「おはよう、善子。風邪は治ったみたいね」

「おはよ、ママ。熱は無かったから今日は学校に行ってもいいでしょ?」

「そうね。前までは登校拒否してたのに、今では学校に行きたがるなんて、ほんといい友達に恵まれたわね」

「別にそう言う訳じゃ……」

「そう?まぁ、いいんだけど。そうだ、一応、治りかけかもなんだから、マスクはしていきなさいよ」

「分かったわ。いってらっしゃい」

 

ママはそう言うと、出かけていった。最近は朝練の時間には出かけていったのに、今日は少し遅いけど大丈夫なのかしら?まぁ、平気なんだろうけど。

そんな心配をすると、テーブルに置かれていた朝ごはんを食べ始める。テレビをつけるとやっぱり星座占いのコーナーがやっていた。でも、なんとなくわかっていることがあった。

 

「どうせ今日も最下位なんでしょ」

『今日の十二位は蟹座のあなた。片づけをしていたら何かを無くすかも?ラッキーアイテムは緑のリボンです』

「やっぱり……つまり、今日も誰かが?うーん。あとあの夢だとどんなことが起きてたかしら?」

 

四日連続で最下位なので、なんとなく今日も誰かが大変な目に遭う気がした。そして、あの夢の通りになっているから、その状況を思い出そうとするも、時間がだいぶ経っているせいか思い出せなかった。わかっているのは、たぶん千歌と果南とダイヤの三人のうちの誰かということ。だから、今日は三人に注意して見るしかないのかしら?

テレビの内容を他所に私は考える。あの三人の誰かがおそらくだろうけど、一体誰が……。

朝ごはんを食べ終え、お皿を洗うと私は部屋に一度戻る。その間もずっと、どんな事態が起きるだろうか考えていた。そして、教科書類を鞄に入れると、制服のポケットにペンダントを入れて私は家を出た。早めに学校に行っておけば、何か情報が得られるかもしれない。

 

「って、そう言えば、エレベータが使えなくなってたわね」

 

エレベータの前まで行ったところで私は一人呟いた。エレベータの前には使用禁止の張り紙が張られていた。昨日の夕方に、一階から乗ろうとした人がボタンを押した瞬間エレベータが落ちて来て、一個が大破したらしい。近くにいた人たちは破片で少し怪我をしたけど、死者は出ず、もう一個も安全の確認ということで使用禁止となった。だから、当分の間はこのマンションに住む人は階段で昇り降りをしなくてはいけなくなった。

病み上がりの私としては十階分も降りなくてはならず、正直辛い。でも、それ以外に降りる手段もないから、のんびりと降りて行くことにする。

 

「ふぅ、やっと降りきった」

 

それなりに時間をかけて降り終えると、傘を差してバス停まで行く。雨が降っている中歩くのも嫌ね。濡れたらまた風邪がぶり返しそうだし。

そんなわけで、私は濡れないように気を配りながら歩き、バスに乗るといつもの場所に座る。一日ぶりだけど、なんか久しぶりな感じね。まぁ、昨日を繰り返したわけだから二日振りの気分ではあるんだけど。

 

「おはよう。善子ちゃんだけ?」

 

バスに揺られて淡島前のバス停に止まると、果南がバスに乗り、私に気付くとそう声をかけた。曜は一本先か後なのかこのバスには乗っておらず、だから果南がそう言った感じだった。他の皆はもう少し先のバス停から乗る訳だし。

 

「で、なんで私の隣に座ったの?」

「嫌だった?」

「別にそう言う訳じゃないけど。そう言えば、今日はマリーと一緒じゃないのね」

「まぁね。鞠莉は理事長の仕事だって。手伝うって言ったら、理事長の書類を学生に見せる訳にはいかないからって、やんわり断られちゃってね。それに、今日は家の準備をしてたから」

 

理事長の書類を見るのは確かにまずそうだと思うと、だったらダイヤの方を手伝わなくていいのかという疑問があった。

 

「だったら、ダイヤの方は手伝わなくていいの?」

「え?何の話?鞠莉が理事長の仕事で忙しいのと、善子ちゃんが風邪ひいたから、皆もちゃんと休もうってことで今日の朝練が無くなったんでしょ?昨日みんなでそんな話をしたわけだけど」

「そうなの?私は昨日来たリリーから生徒会の仕事も溜まってるからって聞いてたけど」

「ほんと?うーん、てことは知ってたのは三人だけなのかな?鞠莉がダイヤに仕事を振っただろうし、それを途中で梨子ちゃんが聞いたとすれば……他の皆も知ってるのかな?」

「さぁ?」

 

どうやら、ダイヤは一人で貯め込んでいるようで、果南は知らないらしかった。もしかしたら、曜がここにいないのは知ってて手伝いに行ってるからなのかしら?

 

「まぁ、後でダイヤには文句を言うとして、善子ちゃんの風邪の調子はどうなの?マスクしてるけど」

「別に問題ないわよ。咳ももう出ないし。一応付けてるってだけだから」

「そっか。でも、今日も練習は厳しいかな?病み上がりの善子ちゃんに無理させるわけにもいかないし」

「平気よ。昨日、一昨日と練習できなかったわけだから取り戻さないと」

 

私としては、遅れを取り戻したいから練習をしたいところ。だから、放課後には沼津に移動して練習したいなぁ。流石に、病み上がりだから皆に迷惑をかけちゃいそうだけど。

時間が経ち、千歌達が乗るバス停に差し掛かる。しかし、バス停には二人の姿が無かったためバス停を通り過ぎる。二人が乗ってこなかったってことはやっぱり果南だけ知らないで、二人は手伝いに行ったのかしら?

 

「あっ、千歌だ」

「あっ、ほんとだ」

 

通り過ぎた所で振り返ると、千歌が走って来てバス停の前に着き、どうやら単純に千歌が寝坊しただけらしかった。どうやら、生徒会の仕事が溜まっていることを千歌は知らなさそうね。リリーは知ってるから手伝いに行ったんだろうけど。

 

「とりあえず、千歌は知らなかったみたいだし、知らなかったのは私だけって訳じゃなさそうだね」

「ええ。そうみたいね」

 

知らなかったのが果南だけでは無かったということで、とりあえず果南がのけ者にされてたって訳じゃないことが分かって、少し嬉しそうだった。

それから、ルビィたちが乗るバス停を過ぎ、浦女前まで着いてしまった。いつもなら乗って来るのに、今日は乗らないことに珍しさを感じるけど、久しぶりに朝練が無かったからかしら?でも、一昨日も無かったような?

 

 

~☆~

 

 

「で、どうして私たちで倉庫の片づけをしなくちゃならないのよ」

「あはは。さっさか片付けて全員で練習をしたいからね」

「別に、わたくし一人でも……」

「ダーイーヤ」

 

放課後、私は校舎の最も近くにある倉庫にダイヤ、果南、曜と一緒に来ていた。本当は沼津で練習するはずだったんだけど、想像以上に生徒会の仕事が残っているせいか放課後にもやることになってしまった。ダイヤは一人残って作業をするつもりでいたけど、皆で手伝えばすぐ終わるだろうという果南の提案に賛成して、今に至っている。生徒会室にはリリーとルビィとずら丸が書類の整理をしていて、マリーは理事長の仕事を片付けている。千歌は「家の仕事が~」とか言って帰ってしまった。

最初ダイヤは「悪いから」と、手伝ってもらうのを断っていたんだけど、登校した後に生徒会室にまっすぐに向かった果南に文句を言われたから、それ以上言えなかった感じだった。

 

「それで、なんでこんなに散らかってる訳?」

「どうやら、皆さんが必要な物だけ探して持って行った結果ですわね」

「それもそれで問題がある気もするんだけど」

「言ってても仕方ないしササッとやっちゃお」

 

倉庫の中に入ると、結構散らかっていた。たぶん探し回った際に物が散乱したり、埃が積もっていたりと悲惨だった。なんでかこの倉庫にはチョークやら石灰やら予備電源やらと色んなものが保管されてて、それが後から適当に棚に詰め込まれたのかぐちゃぐちゃだった。

 

「これはそもそも使用時にももう少し考えてもらった方がよさそうね」

「まぁ、言っていてもしょうがないですし、始めますか」

「だよね。というか、書類整理を二人にして、もう一人来て貰うべきだったんじゃ?」

「それは無理ですわね。梨子さんにはある程度どの書類が問題ないか伝えてあるので、あちらに居てもらわないとですし、ルビィたちに力仕事は……」

「私病み上がりなんだけど?」

「でも、練習でる気でしょ?なら、大丈夫でしょ」

「……さっさかやるわよ!」

 

果南は一切悪気がないような様子でそう言う。だから、文句を言うことはできなくて、私はさっさか始めるように促す。練習できるから、力仕事もできるって考えはちょっとあれな気もするんだけど。

 

「なんで、バットがここにあるのよ!体育倉庫の方じゃないの?」

「いや、そのバットはソフトボール部の物ですから、部の倉庫の方にないと……」

「どっちにしろここにあるのはおかしいってことね」

「あっ、バスケットボールだ」

 

片づけを始めてすぐ、私たちはこの掃除がそうとう難しいものだと理解した。本来ここにないはずのものまでここにあるせいで。箒、チョークなどの予備、印刷用紙の束、予備電源、数本のバット、荷車など多種多様の物があった。浦女には小さめの倉庫がいくつかあり、用途に応じてしまってある物を分けているはずだった。でも、ここには無いはずの物が平気で置いてあり、分別して本来あるべき場所に戻す必要があった。

そんなわけで整理を始めた訳なんだけど。

 

「この人数じゃやっぱりきつくない?」

「まぁ、結構量はあるよね」

「ですわね。これは、向こうが早くに終わらせて手伝いに来てくれると助かるのですが……」

「だよね。で、そんなすぐ終わる量なの?」

「そうですわね……スムーズに進めばすぐでしょうけど」

「時間がかかりそうなのね」

 

どうにも量が多くて私はぼやくと、三人も同意する。もしかしたらリリーたちが手伝いに来てくれる可能性もあったけど、望み薄そうな感じだった。どんだけ仕事が溜まっているのよ。

 

「とりあえず、移動させるものはこんなもんかな?」

「ですわね。とりあえず、ここにあっても邪魔ですし、移動させてしまいましょうか」

「そうね。じゃぁ、この荷車に乗せて運んじゃいましょ」

 

移動させるものをある程度纏め終えたから、それらを荷車に乗せる。この荷車も体育倉庫に本来ある物らしい。たぶん、たくさんの荷物を纏めてここに運んだ際に、戻さずにここに置いて行ったんだろうけど。

 

「それにしても、外荒れてきたわね」

「そうだね。一昨日大荒れで、昨日が晴れてって、もしかして知らないうちに台風でも来てた?」

「いえ、台風は来ていないはずですわ。これはただ単に荒天なだけでしょう。さっさか運び出しますわよ」

「はーい」

 

外の天候が不安定で心配を口にすると、ダイヤはだからこそさっさか終らせようと声をかけ、私たちは返事をする。

 

「じゃ、私が運んでおくから、三人はこのままやっといて」

「一人で平気ですか?」

「大丈夫、大丈夫。荷車含めて全部体育倉庫に持って行くものでしょ?部の倉庫に運ぶ奴はまだここに残っちゃってるし」

「まぁ、そうだよね。曜、任せたよ」

「ヨーソロー!」

 

曜はそう言って荷車を押しながら走って倉庫を出て行った。別に走らなくてもいいような気もするんだけど?

 

「さて、曜さんが戻ってくるまでにどんどん進めておきましょうか」

「それもそうね」

「だね。関係のないものが減ったおかげでだいぶスペースができた訳だし……て、さっきより風強くなってない?」

 

作業を再開しようとすると、果南は外の様子に首を傾げる。言われて、倉庫に吹き付ける風の音が大きくなっていることに気付いた。でも、帰る時に収まってないと傘が壊れそうだなぁと思うくらいで、誰も深くは考えずに作業を再開した。あまり時間をかけすぎると、明日もやらなくちゃいけなくならそうだし。

と思ってたんだけど……。

 

グラグラ……ガタッ

「ちょっ!」

「ヤバッ!」

 

なんだかヤバそうな音が倉庫に響き、私たちは慌てて外に出ようとする。明らかに中にいたらヤバそうな感じがしたから。

私は走って倉庫を出ようとした結果、

 

「痛ッ!」

「善子ちゃん!?」

「善子さん!?」

 

地面に落ちていたチョークを踏んで、その結果こけて膝を地面に打ち付けた。まさか、こんな時に不運が起こるなんて。そして、二人はこけた私に気付き、声を上げる。どうして、二人とも焦っているのかと疑問に思うも、すぐにその理由を理解した。

 

「嘘……」

 

顔を上げると、倉庫が崩落し始めていて、今すぐ駆けだせばまだ間に合いそうで、私は立ち上がると走り出そうと踏み込む。しかし、今さっき打ち付けたひざに激痛が走り、いつも通りの走りができなかった。

 

「ダイヤ!」

「ええ!」

 

二人はそれだけで、お互いに考えていることを共有でもしたのか、同時に私の腕を取り、私の腕を首にかけて走り出す。

そして……その数秒後。倉庫遭崩落して、周囲に粉塵が舞ったのだった。



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9 登校した日2

「ゲホッ、ゲホッ」

 

倉庫の崩落に巻き込まれ、私は地面に倒れていた。どうして、自分が無事なのかとか疑問が尽きないけど、私はどうやら助かったようだった。というか、何かの下敷きになってるのか背中が重い……。

 

「そうだ、果南とダイヤは?」

 

私はあわてて二人はどこにという疑問に駆られる。こけて膝を痛めた私を助けようと、二人して私に肩を貸して外に出ようとして、でも間に合わなくて。

でも、私が無事だった訳なんだから、二人もきっと……。

私は身体を起こそうとするも、背中に何かが被さっているせいで動けない。だから、それを退かそうと触れ、

 

ピチャ

「え?」

 

それに触れた瞬間、生暖かく柔らかい感触とドロッとした液体が私の手に付き……私は嫌な予感がして首を動かしてそれを見た。そんなはずはない。きっと何か別の物だったのだと思いながら。

 

「嘘……果南!ダイヤ!」

 

私に被さるように、果南とダイヤが私の上に倒れていて、二人とも額から血を流していた。二人とも意識がないのか目を瞑っていた。気を失っているだけ。私はそう思いたかった。

ここからだとよくは見えないけど、近くには赤く染まった瓦礫があることから、あれが二人の頭にぶつかって、気を失っているようだった。

 

「よいしょ」

 

私はできるだけ周囲を動かさないようにしながら二人の下から出て立ち上がる。そして、私は知りたくもない事実を知ってしまった。

そこから見える景色には既視感があり、それは薄れていた夢の一部だったことに。そして、二人の背中には倉庫の屋根を支えていた折れた柱が刺さっていて、二人とも気を失っているわけではないということに……。

 

「何事!?」

 

そして、倉庫の崩落音を聞きつけたのか残っていた生徒や先生がやって来て、その中には生徒会室にいた皆やマリー、体育倉庫の方に行っていた曜の姿もあった。

 

「果南!ダイヤ!……善子!ここで何が起きたの!?」

「……いきなり倉庫が崩壊して……それで二人とも私をかばって……」

「嘘……」

「いやっ!」

 

マリーとルビィは私の言葉と目の前に倒れている二人の姿に言葉を失い、二人のそばに駆け寄る。

 

「果南!ダイヤ!返事をして!……返事をしてよ……」

「お姉ちゃん!」

 

普段から気丈に接し、笑みを絶やさないマリーは皆の前で涙を流し、ルビィも涙を流した。二人を同時に失った訳だから、当たり前のことで。

 

「私のせいだ!私が……」

「善子ちゃん!?」

 

曜の声を無視して私は駆けた。こんなこと許さない。絶対に。

 

果南とまともに話すようになったのは三年が加入した後からかしら?その後もあまり話したりはしてなかった気もするけど。

第一印象は、とにかく運動好きで、頼れるかっこいいお姉さんみたいな感じだった。でも、ダイヤとマリーの為に自分の気持ちを押し殺し、でもスクールアイドルが好きって気持ちを押し込め続けることができなくて、隠れてダンスをしてしまう、優しくて可愛い部分もある人だった。さすがに、果南基準で組まれる練習メニューはやめて欲しかったけど。

 

ダイヤとも、果南と同じくらいのタイミングだったかしら?私が加入する前後で一悶着あったりしたけど、ちゃんと話したのは三人が加入した頃だった訳だし。最初の印象はとにかく融通が利かず、硬いイメージの鉄壁の生徒会長って感じだった。でも、一緒に居るうちにただ硬いんじゃなくて、真面目すぎるだけで、それも皆のことを考えてくれている故のモノだと分かった。それに、µ’sのことを好き過ぎる故か隠しているはずなのに微妙に見え隠れしてたり、暴走したりと、好きなことには一直線なところには共感してたかしら?

 

二人とも学年もユニットも違うから、皆と比べれば一緒に過ごす時間は少なかったけど、悩みがあれば相談に乗ってくれてたくさん助けられた。果南は私が悩んでいると意外と察し、そこから悩みを親身になって聞いてくれて、ダイヤはルビィの姉だからか同じように親身に聞いて真面目に考えてくれて、二人ともまるで姉のような感じだった。

私はもっと二人と一緒に過ごしたかった。

 

「諦めたりなんてしないわよ!」

 

部室に着いた私は、二人との日常を思い出すと、はっきりと言葉にする。部室には私たちの荷物が置いてあり、私は自分の鞄の中からペンダントを取り出す。こんなこと絶対に止めてみせる。

 

もしあの時、私が転ばなければ二人は崩落に巻き込まれなかった。

もしあの時、無理してでも二人を止めていれば。

 

「我願う。故に我乞う。果南とダイヤの居る日常を!」

 

私の願いを聞き届けると、水晶は輝き私はその輝きに包まれて意識を手放した。

 

 

~☆~

 

 

「戻ってこれた……あれ?」

 

時計を見ると崩落事故が起きるあの朝で、過去に飛ぶまで膝が痛かったのにいつの間にか嘘のように痛みが無くなっていた。代わりに病み上がりのあの身体の怠さが復活してたけど。

でも、痛みがひいているし、これくらいならいっかとさして気にすることは無かった。それよりも二人を救う方法を考えないと。

 

「手っ取り早いのは倉庫に近づかないことだろうけど、たぶん変えられないわよね。曜の時もリリーの時もそれ自体の回避ができなかったわけだし」

 

私は着替えながら考える。だけど、倉庫に近づかないようにするのは難しそうな気がして、難航する。その結果、思いついたのは……。

 

「転ばないようにするしかないわね」

 

転ばなければ二人が引き返すことも無かったわけで、足元に気を付けることにした。

着替え終わったからリビングに行くと、鞄を肩にかけたママと出くわす。

 

「おはよう、善子。風邪は治ったみたいね」

「おはよ、ママ。熱は無かったから今日は学校に行ってもいいでしょ?」

「そうね。前までは登校拒否してたのに、今では学校に行きたがるなんて、ほんといい友達に恵まれたわね」

「別にそう言う訳じゃ……」

「そう?まぁ、いいんだけど。そうだ、一応、治りかけかもなんだから、マスクはしていきなさいよ」

「分かったわ。いってらっしゃい」

 

ママはそう言うと、出かけていった。

私はママを見送ると、テーブルに置かれていた朝ごはんを食べ始める。テレビをつけると星座占いのコーナーがやっていて、結果はあいかわらずのままだった。まぁ、ループしてるからここは変わる訳がないんだけど。

朝ごはんを食べ終えると、私は学校に行く支度を整えて家を出た。エレベータは使えないからのんびりと階段を降りていく。階段を降りきると傘を差してバス停まで行き、ちょうど来たバスに乗り込んだ。

 

「おはよう。善子ちゃん」

「おはよ、果南」

 

バスに揺られていると、淡島前で止まり果南がまっすぐ私のところに来ると挨拶を交わす。外からバスの中が見えていたのか一切迷いのない足取りだった。ちなみに、やっぱり曜はこのバスに乗っていない。前回の時はただ単に一本遅いのに乗っていただけだったから、今回も同様の理由だと思う。

すると、果南は私の隣に座った。

 

「そう言えば、マリーは?理事長の仕事?」

「うん。理事長の書類は見せる訳にはいかないからって、手伝わさせてくれなくて。それに、今日は家の準備があったんだけどね」

「そう。でも、雨の日に人来るの?」

「どうせ濡れるし、これくらいの雨なら船は出せるからね」

「来るとは明言しないのね」

「まぁね。それで、善子ちゃんはまだ風邪治んない感じ?」

 

雨なのに客が来るのか問題はさておき、話は私の状態のことになった。私は今マスクをしているわけだから、そういった心配が来ることはなんとなくわかっていたけど。

一応の為にマスクをしているだけでだいぶ治ってきていることを伝えると、果南は安堵の表情をした。

 

「そう言う訳だから、練習はやるわよ」

「了解。でも、この雨だから……」

「今日は沼津の方でしょ?」

「まっ、そうなんだけどね」

「おはよー。果南ちゃん、善子ちゃん」

 

千歌の旅館そばのバス停に止まると、なんでか前回は乗り損ねた千歌が乗り込んできた。まぁ、ギリギリだった訳だから今回は乗れる可能性も元からあっただけだったのかもしれないんだけど。

 

「おはよ、千歌」

「おはよう、千歌。あれ?梨子ちゃんは?」

 

果南は挨拶するや、大体リリーと一緒に乗るはずなのに今日は千歌一人だからと首を傾げた。前回、結局リリーはダイヤの手伝いに早めに行っていた訳だから今回も一緒に行ったみたい。でも二人はダイヤがため込んでいることを知らされていないはず。

 

「それがね。梨子ちゃん、チカのこと置いて先行っちゃったみたいなの!」

「あはは。でも、珍しいね。今日はいつも通りの時間だから待っててくれそうなものなのに。何かあったのかな?」

「さぁ?」

 

私たちの前の席に座った千歌と果南は今回も知らなかったみたいでそんな会話をする。知っている私はどうしたものかと悩みながら、まぁ言わなくてもいっかと思うのだった。どうせ、浦女に着けばすぐ発覚することだろうし。

 

 

~☆~

 

 

「はぁ、結局倉庫掃除をなんとかできなかった……」

「なにか言った?」

「なんでもないわ」

 

放課後。私たち四人はあの倉庫に来ていた。本当は倉庫に行かないのが一番だったんだけど、今日中に全部終わらせてしまおうということになってしまった。

なんでも、教室に行ったらダイヤの姿が無くて、もしかしたらと生徒会室に行ったらリリーと一緒に作業しているところを見つかり、果南が怒っただとか。で、果南が提案したことで皆が賛同してしまった。

 

「まぁ、四人いればすぐに終わるんじゃないの?」

「そうですわね。時間は有限ですし手早く済ませてしまいましょうか」

「そうそう。ちゃちゃっとね」

 

三人ともすぐに終わるだろうと思っているようで軽い感じだった。しかし、この後のことを知っている私としてはそんな軽い感じにはなれなかった。

とりあえず倉庫整理が始まり、私は常に外の状態を気にしながら整理を進める。

そうして進めていくうちにこの倉庫に無いはずの物がたくさんあるからと、元々あるはずの場所に戻そうということになり、荷車に乗せていった。

 

「と言う訳で、私は運んでくるね?」

「一人で平気ですか?」

「うん。大丈夫ですよ」

「でも、その量を一人でやるのは……」

「大丈夫、大丈夫」

 

曜は一人で戻しに行こうとして私たちは一緒にやろうかと提案するも、曜は一人で問題ないからかそう言って、荷車を押してパタパタと走って出て行ってしまった。

 

「曜、今日もバタバタしてるね」

「ですわね。まぁ、早く沼津に行って練習したいんでしょうけど」

「……どうしよう」

「まぁ、最近は天気が不安定なところがあるから、曜的には身体を動かしたいところなのかもね」

「それは果南さんもでしょ?」

「あはは。ばれた?」

 

二人がそんな会話をしている中、私は一人考えていた。ここまで今まで通りで、曜が外に出た今、そろそろあれが始まるはず。

 

グラグラ……ガタッ

「ん?」

「はて?」

「この音……」

 

すると、予想通りあの時の音が倉庫内に響いた。

 

「なんかヤバそうだから外出ない?」

「だね」

「ええ」

 

私が言うと、二人もそう感じたのか頷く。そして、私たちは走り出す。前回は落ちてたチョークを踏んだことでこけたけど、今回はそれを踏まえて床は綺麗にしておいた。だから今回はこけることはない。

 

「……嘘」

 

しかし、世の中うまいこと行かないようだった。そばにはチョークをしまっていた棚があり、棚と壁が接していたことで倉庫の揺れを直に受けてチョークが入った箱の一つが落下して床に散らばった。その結果、踏めばあの時の二の舞になる訳で、でもすぐに崩落が始まる訳だから慎重に足場を選んでいる余裕も無かった。

私はどうしようと困り、先を走るダイヤはどうするつもりかと思ってたら、どういう訳かチョークの上を平然と走っていた。

たぶん、バランス感覚のなせる業なのかしら?と、観察してないで私もどうにかしないと。ここでこければ二人が戻ってきちゃいそうだし。

私は意を決してダイヤ同様チョークの上を走る選択をする。流石にチョークのない隙間を縫って走るのは無理だし。

 

「よっ、ほっ……あっ!」

 

結果はダイヤのように見事にチョークの上で安定することはできず、私はバランスを崩して転倒し

 

「よっと!」

 

そうになったところを後ろにいた果南が私の腰に腕を通した。

 

「きゃっ!」

「一気に行くよ!」

 

その結果、果南にお姫様抱っこされるような形になり、私は声を上げるも果南は全く気にしてないのかそのまま走り、私は落ちないように果南にしがみ付くので精いっぱいだった。

 

ドンガラガッシャーン!

 

そして、揺れから十秒ほどで倉庫は崩落したのだった。

 

「ふぅ、間一髪でしたわね」

「だね」

「……」

 

私たちは崩落していく様を外から見ていた。結果から、三人とも無事に済んだ。

 

「で、果南さんはいつまで善子さんをお姫様抱っこしてますの?」

「あっ、軽いから忘れてた」

「……ありがと」

 

ダイヤに言われて私は下ろされ、小さくお礼を言った。

本来なら私が二人を助けるはずだったのに、逆に果南に助けられた自分の不甲斐なさと、果南にお姫様抱っこされたことによる恥ずかしさで声が小さくなってしまったけど。

 

「うん。どういたしまして」

「でも、どうして私を助けられたの?もしかして転びかけるってわかってたの?」

「ん?まさか。でも、善子ちゃん病み上がりだから、もしかしたら何かあるかもって思ってね。私も体調が悪いと動きが鈍くなるからさ」

「確かに体調が悪いと動きが悪くなりますね」

 

果南は至極当然のようにそう言い、そんなものかと思った。

すると、校舎に残っていた生徒や教師が物音を聞きつけてやってきたのだった。

 

 

「後は千歌だけよね?」

 

倉庫崩落によって、安全の為構内で活動していた部活は中止になって帰され、理事長として動かないとということでマリーも練習に出れなくなったことで、あの後は私たちも家に帰された。そして、私は家に帰ると、ペンダントを眺めながら一人呟いた。

 

曜が車に轢かれ、ルビィと花丸が脳出血で死に、リリーとマリーが落下死し、今日ダイヤと果南が崩落に巻き込まれた。全部、この水晶のおかげでどうにか回避することに成功したわけだけど。

そして、残るは千歌一人。つまり、明日は千歌の行動に注意していれば未然に防ぐことが出来るはず。今回こそは絶対に死なせずに乗り越えてみせる。

 

私は一人決意するのだった。



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10 晴れの日1

「困ったわね……せめて千歌の身に何が起きるのか先に分かっていればいいんだけど」

 

翌朝。今日は朝練をやるだとかで朝練に間に合う時間に起きた私は制服に袖を通しながら呟く。残念ながらあの時の夢の内容は思い出せず、でも千歌が死んでいたことだけは覚えている状態だった。だからこそ、思い出そうとするも、思い出せない。せめて、死因か場所が分かればそこからいくらか考えることもできるんだけど。毎回、ことが起きてからその光景を見て思い出す現状なだけに、後手に回らざるを得ない。

 

「そして、こんな気分なのに私の気分とは逆に空は澄み渡ってるわね……。まぁ、雨よりはいいけど」

 

カーテンを開けて外を見れば、雲がほぼ無い快晴で、とりあえずは雨による弊害は無さそうだからいっかと思う。でも、雨が降って練習が無くなれば事故の確率も……いや、雨でも起きたから関係ないか。

 

「善子、おはよう」

「おはよう、ママ」

 

制服に着替え終えたから、リビングに行くとちょうどママは朝ごはんを食べようと運んでいるところで、机の上には私の分も置かれていた。

 

「今日は出るの遅いの?」

「そうね。といっても、善子が出るのと同じくらいだろうけどね」

「そっか。いただきます」

「いただきます」

 

私たちは椅子に座ると食べ始めた。

 

「善子、最近学校はどう?」

「ん?普通だけど」

「そう……」

「どうしたの、急に?」

 

食べていると唐突に聞かれたから、どうしてこんなこと聞くんだろうと気になった。いや、母親が子供に学校のことを聞くのは普通のことなんだけど。

 

「いやね。最近、善子が時々思いつめたような顔をしてるから気になっちゃって。いじめとか遭ってない?」

「遭ってないわよ。遭ってたら学校に行くわけないじゃない」

「それもそうなんだけど……じゃぁ、何か悩みとかない?」

「……特に無いわよ」

 

ママは本当に心配しているような様子だった。流石に皆が一度死んで、何度もやり直しているなんて話をする訳にもいかないから特に何もないことにする。どうせ言ったところで何言ってるの?みたいな顔をされるだろうし。

ママは私の言葉に「そっか」と呟くとそれ以上は聞いてこなかった。私の言葉をそのまま受け取ったのか、聞いても答えないと察しただけなのかは私にはわからなかった。でも、私としてはどっちでもよかった。これは私がどうにかするしかないこと。それに、今日を越えればすべて終わるはずなんだから。

 

『まずは十二位の発表です。十二位は蟹座のあなた。今日は水難かも?水に気を付けましょう。ラッキーアイテムはみかんです』

「はぁ、また最下位……」

「どうしたの急に?善子ってこういう占い信じる方だったかしら?」

「割と信じる方よ」

「そう言えば、生放送で占いしてたわね」

「ちょっと待って!どうして生放送のこと知ってるの?」

 

ママがまさかの生放送のことを知っていることに驚きを隠せない。生放送をしていることを知っているのはいいとして、なんで占いしてることまで知ってる訳?

 

「娘がそういうことしてるのだから、問題ないか確認するのは当然でしょ?タイムシフトであとから毎回確認してたわよ」

「嘘でしょ……」

 

まさか、全部見られてたなんて……。ああ、終わった。これで今後は生放送できなくなるのね……って、あれ?

 

「あれを知って、止めさせようって思わないの?」

「どうして?ただ視聴者さんのコメントを拾って話して、占っているだけでしょ?別に悪い事しているわけでもないから、何も言わなかったのよ」

「でも、普通ああいうことしてたら止めたくなるんじゃないの?」

「まぁ、普通ならそうかもしれないけどね。でも、生放送をしている時楽しそうにしてるじゃない。娘がしたいことをやらせてあげるのが親ってものでしょ?さすがに悪い事とかしようとしたら止めるけど」

 

まさか、ママがそこまで思ってくれてるとは思っていなかった。でも、今にして思えば登校拒否してた時も、学校に行けと言いつつも断固拒否を貫いてたらあっさり引いてくれたっけ?たぶん、あれも無理に行かせるのは辛いだろうって思ってくれてたってことよね。

 

「ありがと、ママ」

「ふふっ、どういたしまして」

 

ママは笑みを浮かべると、それから学校のこととかを話しながら食べ進めた。

 

 

~☆~

 

 

「おはヨーソロー、善子ちゃん」

「おはよ」

 

バスに揺られていると、久しぶりに朝のバスが同じで乗り込んできた曜が私のもとにまっすぐ来ていつも通り私の隣に座った。

ここ最近は時間が会わなかったり、私が風邪で寝込んでいたりしたせいか久しぶりに感じる。

 

「なんだか、朝のバスで一緒になるのが久しぶりな気がするね」

「そうね。そう言えば、あんなことがあった後なのに朝練やって本当に問題ないわけ?」

「鞠莉ちゃんもダイヤさんも問題ないって言ってたから平気じゃないの?」

「そうなのかしらね?」

 

私はこの朝練が心配だった。ただでさえ昨日の倉庫の崩壊があった訳だから、この朝練中に千歌の身に何かが起きるのではないかと。

でも、ただ危なそうだからと言っても、どうしてと問われて、上手く説明できない訳だから、朝練を中止にさせることもできない。昨日も結局練習ができなかったわけだし。

 

「うーん。危なそうならすぐやめるでしょ?」

「それならいいんだけど」

「そんなに心配なの?あっ、善子ちゃん不幸体質だから、水たまりに突っ込みそうとか、へこみに足を取られてこけそうだとかあるのか」

 

曜は私の心配を少し違った意味で受け取っているけど、そこは訂正しないでおく。どうせ言っても信じなさそうだし。

 

「まぁ、気を付けるとして、次の衣装どうしよ。曲のイメージを固まらないことには衣装が作れない訳だし」

「でも、あと一週間くらいだし、そろそろ製作を始めないと間に合わなくなりそうよね」

「うーん。でも、こればっかりはどうにもならないよね。曲作りは私たちには向いてないからあまり手伝えないし」

「はぁー。どうしたものかしらね」

 

私たちじゃどうしようもないわけで、曲の案が浮かぶまでは手詰まりだった。

そうして悩んでいると淡島前に着きバスが停車する。

 

「おはよ、二人とも」

「シャイニー!」

 

すると、珍しく果南とマリーの二人が一緒にバスに乗り込んできた。いつもは理事長の仕事でもう一本早いのに乗っているから珍しかった。

二人は私たちの座る前の座席に座る。

 

「鞠莉ちゃんが一緒って珍しいね。いつもは早いのに乗ってるのに」

「まぁね。でも、朝練の日だし、昨日の事故の後処理とかは昨日のうちに済ましたから」

「マリーも大変ね」

「手伝えればいいんだけど……」

「ダメよ!重要書類とかもあるんだから」

「って感じだしね」

 

果南的には少しでもマリーの仕事を手伝って楽させてあげたいみたいだけど、マリーは引かない訳でそんな感じだった。私としても果南と同じ考えなんだけど。

そうしてバスに揺られていくと、千歌とリリーがバスに乗り、その後にはダイヤとルビィと花丸の三人もバスに乗り、珍しく九人全員が同じバスとなった。

 

「おはようございます、皆さん」

「シャイニー!って、ダイヤはあいかわらず挨拶が硬いわね。もっと砕けていいのよ」

「日本人たるもの、挨拶はきちんといたしませんと。鞠莉さんが砕けすぎですわ!果南さんも言ってあげてください」

「あはは。私としては気持ちがこもってれば形は気にしないけど?」

「果南さんもですか!」

 

なんでか来て早々ダイヤはマリーに詰め寄り、果南が巻き込まれていた。まぁ、いつも通りの光景よね。

 

「みんな、おはよう」

「おはようずら」

 

だからか、そんな三人を放って二人は私たちの後ろの席に座る。あれをスルーしていいのかは疑問ではあるけど、無理に関わると面倒そう。私は果南の意見に賛成だし。まぁ、流石に曜が時々使う「おは善子」と「よーしこー」はどうにかしてほしいけども。

 

「おはよ、二人とも」

「そうだ、曜ちゃん。衣装作りの手伝い必要になったら言ってね」

「うん、ありがと。でも……」

「そうだ!千歌ちゃん!歌詞は?」

「あー、あはは」

「まぁまぁ、落ち着いて梨子ちゃん」

 

詰め寄るリリーに、苦笑いを浮かべる千歌。それをなだめる曜といつもの光景だった。というか、あの反応はまだできてなさそうね。間に合うのかしら?

そんな疑問を持ちながら、私たちはそれぞれの学年で固まって喋ってるのだった。ダイヤはいつまで鞠莉に詰め寄るのやら?

 

 

~☆~

 

 

「1,2,3,4、1,2,3,4……うん、いい感じ。じゃっ、休憩しよっか」

 

なんだかんだで朝練を終えて、授業を終え、私たちは沼津の練習場所に来ていた。そして、屋内で今までの曲のステップ確認をしていた。新曲はまだだけど、説明会では今までの曲も何曲かやろうということで、ステップ練習をしていた。

 

「ふぅ、だいぶ勘は取り戻してきたね」

「でも、安心はまだできないよ。新曲は一から覚える必要があるんだから」

「千歌ちゃん!練習終わったら千歌ちゃん家に泊まって歌詞詰め込むからね!」

「やったー、梨子ちゃんとお泊りだー。あっ、曜ちゃんも来ない?」

「ちょっと、待ってね。ママに確認するから」

「千歌ちゃん!遊ぶわけじゃないわよ!」

 

二年生三人はそんな話をしていて、曜はスマホで家に連絡を取り始める。完全に千歌は遊び気分よね。すると、連絡し終えた曜が二人の元に戻る。見た感じ表情からして許可が下りたみたいね。

 

「これで、曲は一気に進みそうだね」

「ええ」

「どうしたずら?善子ちゃん」

「なんでもないわ」

 

三人が笑顔で喋っていて、そんな様子に二人は言うけど、私は別のことを考えていた。今日千歌の身に何かが起きるはずだから本当に何事も無く進むのか。それとも、泊まってる時に何か起きたりしないのか。そんな考えが巡っていた。

 

「あのさ、ち――」

「はいはい、練習再開しますわよ」

「はーい。善子ちゃん、呼んだ?」

「ううん。なんでもないわ」

 

私も「千歌の家に泊まる」と言おうとしたけど、タイミング悪くダイヤの声と重なってしまったから、なんとなくタイミングを逃してしまった。だから、なんとなく言い辛くなって私はなんでもないと誤魔化した。

 

「そうだ!ちょっと屋上行ってみない?」

「どうしたの急に」

「うん。外でやった方がなんとなく大きく動ける気がして。ここでも大きくは動けるんだけど」

「なるほど?」

「いいんじゃないの?私としては外の空気を吸いながらの方が気分的にいいし」

「それに、今日は快晴で気持ち良さそうずら」

 

千歌の案に特に反対意見は出ず、屋上に行くとあいかわらずの澄み渡った空で、太陽の光が心地よかった。

皆もそんな感じで、晴れやかな表情をしている。

 

「よし!じゃっ、再開しよっか」

「うん!」

「はい!」

 

私たちは広いスペースで立ち位置に着くとまた果南の手拍子でステップを踏み始める。そうして、いくらかステップを踏み、私の視線はちょくちょく千歌の方を向いていた。千歌の身に何かあればすぐに私が助けられるように。

流石にずっと見てると注意されそうだから、ちらちらと見ながらではあるけど、ここで事故が起きるとは思えなかった。千歌は大体真ん中のポジションにいることが多いから、屋上から落ちることは無いし、というか柵があるから落ちるわけないし。流石に、いきなり屋上の床が抜けて落ちるなんてことは無さそうだし。

 

「きゃっ!」

「わっ!」

 

すると、ちょと考え込んで周りを見ていなかったことで花丸とぶつかってしまう。ぶつかってしまった花丸は転びかけ、神経質になっていた私は、もしかしたらまた花丸が?と思い、転倒しかけている花丸の腕を掴み、地面を踏み込みつつ後ろ方向に引っ張ってどうにか転倒を途中で止める。

その結果、踏み込んだ場所には水たまりがあり、なんでか泥が溜まっていたことで私は足を取られて後ろ方向に力を込めていたこともあって後ろの方に倒れ込み、花丸を巻き込んではと花丸の手を放す。花丸はなんとかバランスを取り戻して転倒する事態は無くなり、ここで私はこけたらと、二、三歩跳ねてどうにか転ぶのを避けようとし、そばにあった柵に手をつき……

 

バコッ!

「え!?」

 

柵がいきなり外れて私を支える物がいきなり失われたことで、そのまま屋上の外に放り出され――

 

「よっ!」

 

そうになるも、いつの間にか来ていた千歌が私の腕を掴む。でも、私の足は屋上の床ギリギリの位置であり、もう少しで落ちる状態。そして、

 

ガッシャーン!

 

落ちていった柵は地面にぶつかって大破し、もし私も落ちれば死ぬという今更ながら自身の死を感じる。

千歌は私の手を引っ張るけど、体勢や柵のそばは若干湿っていることで無理に踏み込むと滑りそうという悪条件で、上手く力が入らない状態。このままだと、千歌まで落ちてしまう。

 

「千歌!離して!このままじゃ千歌まで!」

「離さないよ!絶対に!」

 

千歌はそう言って、一気に力を籠めて身体を回すようにして私を引っ張ったことで私は屋上の中側に戻される。その際に手を放されて私はバランスを崩して転倒する。流石に助かった訳だから文句は言わないけど。

 

「千歌、ありが」

 

私はお礼を言おうと振り返り、しかしそこに千歌の姿は無かった。



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11 晴れの日2

千歌が消えたことで、私はいつの間にか皆の方に戻ったのかしら?という疑問を思い、皆の方を見ると、

 

「千歌!」

「千歌ちゃん!」

 

私の目の前を曜と果南が通り過ぎた。何言ってるの?千歌は皆の方に……。

みんなの方を見ると、みな口に手を当てて、信じられないものを見たような表情をし、その中には千歌の姿は無かった。

千歌は屋上の縁にいた私を助けて……あっ!

私は理解した。千歌が何処に消えたのか。

 

「千歌!」

 

私も縁に行くも、縁から下をのぞく二人が全く動かない。

まさか……。

私は信じたくなくて、下をのぞき。

 

「いやぁー」

 

そこに広がる光景に私は悲鳴を上げた。それが伝染して、下の光景を見ていない皆も理解してしまう。

すると、曜と果南はその場から走ってエレベータの方に行く。その際に二人の目には涙が流れていた。みんなも信じたくないのか二人を追いかけ、屋上には私一人だけが残され、私はその場に崩れ落ちた。

 

私のせいで千歌が……。千歌を救うはずなのに、私を助けたせいで千歌が死んだ。なんで、こんなことになっちゃうのよ。私はただ千歌を救いたかっただけなのに。

 

「うぅ、なんで……」

 

私は地面を殴り、自分を責める。私がしっかりしていれば今回は防ぐことができた。それなのに……。

 

「まだよ!絶対にこんなこと」

 

私は走って荷物を置いていた部屋に戻る。皆は千歌のもとに行ったからここも無人で、私は迷いなく自分の鞄を手に取り、中からペンダントを取り出す。

 

千歌との出会いは入学式の日で、最初の印象はとにかく明るく、騒がしそうな人だなって感じだった。千歌自身、どんなことも特にこれといったようなものがなくて、普通怪獣だと言っていたけど、輝きを信じてまっすぐに突き進むことなんて誰にでもできるようなことではなくて、すごいことだと思う。それに、誰に対しても素直に接することが出来るのも、私にはできないことだから、そんな風にすることができて憧れていた。

私はAqoursに入ることができたおかげで毎日が楽しくなって、千歌がスクールアイドルを始めてくれてなかったら、私は毎日こんなに楽しく過ごすことができなかったと思う。何かを始めるには躊躇う気持ちが生まれてしまうはずなのに、千歌は躊躇うこと無く突き進んで、それはもう普通ではないと私は思うんだけど。

千歌は私が堕天使でも、好きな気持ちがあればそれでいいと肯定してくれた。流石に嫌だったら嫌って言うと言われた時は、言うんだと思ったけど、ちゃんと私と向き合ってくれてるから嫌って感じはしなかった。

だから、これからも楽しい日々が続くと信じてきた。この一週間はあれだったけど、もう少しできっと終わる気がしたのに……。

 

「絶対に救ってみせる!これは私が償わなきゃいけないから!」

 

覚悟を決めて願う。

 

もしあの時、私が考え込まずにいればぶつかることも無く避けられた。

もしあの時、さっさか転んでおけば、私が少し打ち付けるだけで千歌が死ぬようなことは無かった。

 

「我願う。我乞う。千歌の居る日常を!」

 

私ははっきりと言葉にすると、五回目の水晶の輝きに包まれたのだった。

 

 

~☆~

 

 

「戻って来た」

 

時計は今朝であり、無事戻ってこられたことに安堵する。今回はいつもよりも回避が楽ではあった。いつも、死を一度回避すればその先何かが起きるという事態は起きていない。だからこそ、私が気を付けさえすれば千歌の死は回避することが出来る。

 

「よし!」

 

私は頬を叩いて、気合を入れる。今日を越えればもう誰かが死ぬ自体は避けられるはずなんだから。

制服に袖を通して私はリビングに行くと、ママが朝ごはんをテーブルに並べていた。

それからは、前回と同じような会話をして過ごし、ママは先に出掛けて行った。

 

「さて、気を付ければいいかもしれないけど、もしかしたらの可能性もあるからね」

 

私は一人呟くと、戸締りの確認をしてから家を出た。

バスに乗って、浦女に向かっていると前回同様皆が順番に乗り込んでくる。

 

「おはよー、みんな」

「おはよう」

 

千歌とリリーが乗り込んでくると、通路を挟んだ向こうの席に二人は座る。私はチカの顔を見るや、あの時の光景がフラッシュバックする。

いつもはこんなことは起きないのに、今回はフラッシュバックするあたり、やっぱり今回は響いてるのかしら?私のせいで引き起こしてしまった訳だし。

フラッシュバックのせいで気分が悪くなり、私は目元を腕で覆い窓に身体を預ける。マリーたちは前の席だし、千歌達は三人で喋っているから少しの間なら気づかないはず。

 

「善子ちゃん、大丈夫?」

 

と思ってたのに、千歌はあっさりと私に声をかけた。よくよく考えれば私たちの方を向いている訳だから気付くわよね。

どう言い訳しようかしら?

 

「んー、ちょっと眠いだけ」

「そう?ならいいんだけど」

「着いたら起こすから、もう少し寝てていいよ」

「お願い」

 

どうやら誤魔化せたようで、私は窓に身体を預けた状態のままでいる。若干、千歌の声音に違和感があり、もしかしたら違うことがばれたかもしれない気がした。千歌は普段はあれだけど、人の機微には鋭い所もあるから。

でも、それ以上踏み込んでくることも無かったから、今回は気づいてないだけなのかしら?

千歌がどっちなのかわからぬまま、私は寝たふりをしていた。目を瞑ればあの時の光景が鮮明に思い出されるけど、千歌の顔を見てても思い出しちゃうわけで……。そう言う訳で、ローブを鞄から取り出して、私は被って窓の方に完全に身体を向けて外の景色を見る。身体の向き的に寝ているようにも見えるから、着くまではたぶん声をかけられることも無いはず。

 

「おはようずら」

「みんな、おはよう」

「みなさん、おはようございます」

 

すると、三人が乗るバス停に着き、乗り込んでくると、各々席に着く。前の方ではまた、マリーがダイヤに硬いと言って詰め寄られていた。

 

「あれ?善子ちゃん寝てるの?」

「なんか眠いんだって」

「うーん、また夜更かしでもしてたのかな?」

「さぁ?でも、してそうよね」

 

なんか、私が夜更かししたから眠くなっているということにされていた。でも、言い返すのも気が乗らないから、何も言わないでおく。

 

「特に返答がない……本当に寝てるんだね」

「まぁ、寝られるときは寝かせておいてあげよ?授業中に寝るわけにもいかないからさ」

「そうだね」

 

勝手に話は進んで行くけど、とりあえず着くまでは私の事は放置しておいてくれるみたいだし、ありがたく私はこのままで居ることにする。

さて、今のうちに改めて考えておかないと。事故が起きるのは放課後。でも、今回のはいつもと違って引き金は私。だから、もしかしたら朝練中に私がやらかせばずれる可能性もある。倉庫の崩壊やエレベータの転落なんて普通は起こらないことが平気で起きた訳だから、屋上の塀が壊れる可能性もある。昨日の柵だっていきなり外れた訳だからないとは言い切れないし。

と言う訳で、今日はそういうものには近づかないでおく。一番いいのはそもそも屋上に近づかないだけど。

 

「よっちゃん、そろそろ着くから起きてー」

「んー」

 

考えているうちに浦女前に着き、リリーに声をかけられて私はローブを取る。さっきよりは幾分かマシになり、意識しない限りは千歌を見てもフラッシュバックしなくなった。

あっ、今意識したから記憶が。

 

「うー、久しぶりに思いっきり体が動かせるね」

「うんうん。早く動かしたいね」

「曜さん、果南さん。少しは落ち着きなさいな」

「そうだよ、屋上は逃げないよ」

「そうだけど、早く動かしたいことにはマリーも賛成よ」

「じゃっ、誰が一番に部室に着くか競争だね」

 

千歌がそう言うといきなり走り出した。朝から元気ね。

 

「千歌ちゃん、ずるいよ!」

「待てー」

「待ちなさーい」

 

曜と果南とマリーも少し遅れて走り出す。それを私たちは走ることは無くゆっくり歩きながら向かう。練習前に体力を消費するのもあれだし、あまり気分が乗らない。

 

「四人とも走って行っちゃったね」

「というか、この時間って昇降口は閉まってるよね?」

「ええ。ですが、鞠莉さんもいますから問題ないでしょう」

 

二人はあきれたような調子でそう言い、ルビィと花丸は苦笑いを浮かべていた。

 

「まぁ、少しは急ぎましょうか。あまり遅いと文句を言われそうですし」

「それもそうね」

「文句を言われるのは納得いかない気もするけど……」

「じゃぁ、早歩きずら」

「そうだね。練習時間は減らしたくないし」

 

そんなわけで、少しだけペースを上げることになり、私たちはペースを上げるのだった。

 

 

~☆~

 

 

「1,2,3,4、1,2,3,4」

 

朝練、授業が何事も無く終わり、私たちは沼津に来て練習をしていた。朝練の時には塀のそばに寄らないようにしてたから無事何事も無く平穏そのものだった。

今は室内だから落ちる心配も無い。流石に床が抜けるなんてことは無いはずだし。

 

「うん、いい感じだね。じゃっ、ちょっと休憩しよっか」

「疲れたずら~」

「はい、水分補給はしてね」

「ありがとう、曜ちゃん」

 

一段落したところで休憩になり、各々水分補給をしたり、次は何をするか話し合ったりしており、私は水を飲みながらそれを眺める。ここからが問題なのよね。この後、千歌が屋上で練習しようって言い出す訳だし。

 

「うーん。久しぶりに身体を思いっきり動かしたから気分がいいね」

「朝思いっきり動かしたじゃない」

「まぁ言いたいことはわかるよね」

「と言う訳で、屋上行かない?今日は晴れてるし、日の光を浴びながらの方が気持ちよさそうじゃない?」

 

そして、私の予想通りまた千歌が提案してしまった。これが通ると、一気に死に近づくわけだから避けたいところなんだけど。

しかし、前回は満場一致で進んでしまった訳で、私が反対意見を出してもそれに足る理由がある訳でもない。流石に、転落事故が起きるからと言っても「どうして?」と返されてしまうだろうし。

 

「私は賛成かな?」

「私も」

 

皆賛成していき、ここで反対意見を出すのに抵抗が生まれ始める。

 

「私は反対かな?」

「善子ちゃん、なんで?」

「いや、なんか外に出た直後雨が降る気がして。最近雨多かったし、私堕天使だし」

 

でも、ここで反対しておかないと危険度が変わる訳だから背に腹は代えられない。理由としてはこれくらいしか思いつかないけど。

 

「確かに、善子ちゃんは不幸体質だから絶対にないとは言い切れないよね」

「でしょ?」

「まぁ、降ったら中に戻ればいいでしょ」

「それもそうですわね」

「あれ?」

「じゃっ、雨がもし降ったら中に戻るってことで。それでいい?」

「あっ、うん」

 

なんでか、屋上に行く流れになってしまった。たぶん、ここで無理にでも止めれば止まるだろうけど、そうすれば絶対に怪しまれるわけで……。そう言う訳で私が引くしかなくなってしまった。

 

「おー、やっぱり外の空気は気持ちいね。それに善子ちゃんの心配してた雨は降らなそうだね」

「ええ。そうね」

「では、この辺りで始めましょうか」

 

そうして、前回同様、少し開いたスペースで練習を始め、私は細心の注意を払う。こうなった以上は私が気を付けるしかない訳だし。

そうして、練習している中、最悪の事態が起こってしまう。

 

「ほっ……うわっ」

 

なんでか曲の合間に入る馬跳びで曜が着地時に滑って、どうにか転ばないようにと数歩前に跳ねて柵を掴んで体勢を保とうとする。しかし、その選択はまずい。

曜の触れた柵はまた外れ、曜は驚きの声を上げる。今回の死は千歌のはずだけど、曜が死ぬ可能性も拭いきれず、私は駆ける。

しかし、私の位置からだと若干離れていることもあり、間に合わない。

曜は柵を離してどうにか落下から逃れようとするも体勢が悪く、このままでは落ちてしまう。

 

「曜ちゃん!」

 

そして、どうしてかいつの間にかそこにいた千歌は曜の手を掴み、あの時のように身体の回転で曜を中側に放って助ける。しかし、その反作用で千歌は外側に倒れ込み、皆の視界から消え、

 

「離さないわよ!」

 

曜を助けようとしていた私はどうにか落下中の千歌の腕を寸での所で掴むことに成功した。しかし、人一人の体重を支えるのは厳しい。というか、腕がちぎれそう……。でも、こんな痛みなんて知らない!千歌がいなくなる痛みに比べたら!

 

「善子ちゃん、離して!このままじゃ善子ちゃんまで落ちちゃう!」

「嫌よ!絶対に!」

「ッ!でも、このままじゃ」

「諦めないわよ!絶対に!」

 

私は腕の痛みに耐えながら、必死に声を出す。そして……

 

「そう言うことだよ!」

「善子ナイスよ!」

 

果南とマリーが私の横から千歌の手を掴み、私たち三人で引き上げる。結果、なんとか千歌を助けることができ、私たちは床に座る。

 

「千歌ちゃん!ごめん!私のせいで!」

「曜ちゃん……チカは大丈夫だから泣かないで」

 

床に座る千歌に曜は駆け寄ると泣きながら抱きしめる。そんな曜の頭を千歌は撫でる。

 

「さて、屋上の柵が落ちたのを伝えて、落ち着いたら中で再開しましょうか?それとも、今日は大事を取って――」

「チカは中で練習したいかな?確かに今のはびっくりだけど、こんなことが連続するとは思えないし」

「そうですか。では、曜さんが落ち着くまでは休憩ということで」

 

このままだとずっと曜が泣いた状態になりそうだと思ったのかダイヤはそう言った。そして、一人一階のエントランスに向かい、私たちは元いた部屋に戻るために追いかけるのだった。

 

「曜、いつまで泣いてるのさ。みんな無事なんだからさ」

「でも……私のせいで千歌ちゃんが……」

「曜ちゃん、チカはこの通り死んでないんだから、泣き止んでよー」

 

私はその光景を見ながら安堵する。誰一人かけていない千歌の死の危機を脱した。これで、誰かの死の危機はもう無いはずなのだから。




次回の投稿は日曜を予定です。何事もなければ。
では、ノシ


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12 最後の日

土曜日。本来なら授業もないからのんびりとできる日。それに、この一週間はずっとバタバタしていた訳だからできれば休みたい。

最初は曜が車に轢かれ、続いてルビィと花丸がバスの横転で頭を強打し、マリーとリリーがエレベータで転落し、果南とダイヤが倉庫の崩落に巻き込まれ、昨日は千歌が転落した。

普通に考えてもあり得ないことの連続だった。まぁ、一番ありえないのは過去に飛べちゃったことかもしれないけど。

そう言う訳で、今日はゆっくりしたいところだけど、第二回説明会の準備に追われているわけだから、休みなんてない。

まだ、新曲が完成してない訳だし。

 

「とりあえず、準備しようかしら?」

 

私は一人呟くと、ハンガーに掛けてある制服に袖を通す。今日は練習だけだから練習着で行きたいところだけど、制服着用が義務付けられている。この際だから、マリーに休日の部活の場合は制服を着なくていいように提案してみようかしら?

そんなことを考えながらリビングに行くとすでにママは学校に行っているようでいなかった。教師って休日でも学校に行かないといけない辺り大変よね。

私はトーストを焼いて、牛乳を注いでと支度を進めて、出来上がった朝ごはんを机に置く。そして、いつも通りテレビを付ける。時間が時間なだけに、いつもの番組は終わっていて別の番組だったけど。

 

『一位は獅子座のあなた。ふとした幸運があるかも?ラッキーアイテムは緑の髪飾りです』

 

ちょうど占いが終わったところで、私の順位が地味に気になった。でも、あんまり気にしないでおくことにする。わからないのなら今日は引きずられずにいられるだろうし、流石に最下位はないだろうし。

 

『続いて天気予報です。今日は一日中晴れる模様で、傘を持つ必要は無さそうです』

 

雨は降らなさそうだから私は安堵する。せっかくすべてが終わったのに雨降って練習に支障が出るのは嫌だし。それにしても、この前の大荒れはなんだったのやら?

そうして朝ごはんを食べ終えて、学校に行く準備をする。

その際に、机に置いたペンダントが目に入る。

 

「結構これには助けられたわよね。これが無かったら皆の死をやり直して回避できなかったわけだし」

 

ペンダントを手に取ってそこにはめられた水晶を眺めながら、一人呟く。もし、これが無ければ今の日常がないわけで、本当に感謝している。

そして、私は今更ながら疑問が。

 

「ところで、このペンダントってどうしたんだっけ?いつ手に入れたんだっけ?」

 

このペンダントの入手経緯が思い出せない。こんな能力のあるペンダントを手に入れた日が思い出せないなんて、どうしてかしら?うーん。

私は頑張って思い出そうとするも、どうも思い出せない。そして、部屋を見回し……

 

「あっ、時間が!」

 

時計の時間が目に入り、私は慌てた。

そろそろ出ないとバスが来てしまう。疑問はあるけど、考え事をしているせいで遅れたなんて言い訳は許されないだろうし。

ペンダントを鞄のポケットに入れると鞄を持って私は外に出たのだった。

 

 

~☆~

 

 

「善子ちゃん、ルビィちゃん。どれがいいと思う?」

「うーん。これかしら?」

「ルビィはこれかな?」

「千歌ちゃん、今日こそ歌詞を書き終えてもらうよ!」

「あー、うん。頑張るね」

「マルも手伝うずら」

 

私たち六人は部室に集まっていた。

三年三人は微妙にある生徒会の仕事を片付けに行っている。微妙な量であり、全員でやる必要も無いとかで、私たちは私たちにできることをしている状況ではあるけど。

 

「衣装の案があるのはいいけど、これって曲が決まんないことには製作には至れないわよね」

「まぁ、そうなるけど。ある程度デザインができてればすぐに材料を買って作り始められるでしょ?」

「それに、早い段階で共有できていた方が動きやすいし」

「それもそうね。後は……」

「うーん」

 

私たち三人は隣でうなっている千歌の方を見る。リリーに急かされている状態であり、なんというか。とりあえず、難航していることは分かるんだけど。

 

「どうして前は一日で書き上げられたのに、今回はこんなに難航してる訳?」

「あはは。なにというか、一回目の時よりもいい曲にしないとって思っちゃって。だから、いいのが浮かんでもすぐにこれじゃない!ってなっちゃって」

「そんな感じなのよね。まぁ、もっと入学希望者を集めなきゃいけないから、そうなっちゃうのはわかるけど」

「ふぅ。世の中難しいずら~」

 

花丸はそんな感じで、なんでか達観したような表情をしてお茶を飲んでいた。いやいや、なんで今そんな表情するのよ。あと何処からお茶を出した?

そんな感じで、どうにも新曲が進まない状態が続いていた。

 

「シャイニー!」

「鞠莉さん、昨日も言いましたよね?」

「調子はどう?」

 

すると、生徒会の仕事が片付いたのか三人が戻って来る。マリーが入って来るなり大声を出したことでダイヤが注意して、一気に部室の雰囲気が変わった。

 

「戻ってきたことだし、曲作りは一旦中断して練習しよっか」

「うーん。こっちもそろそろ完成させないと間に合わなくなりそうよね」

「じゃぁ、今日千歌ちゃんの部屋に集まって一気に進めよっか」

 

そして、三人が戻ってきたことで今やってる作業を中断して練習することになった。どうせ、行き詰ってたからこのままやってても意味無さそうだったしね。

 

「じゃっ、屋上に行こー」

「そうだね。善は急げだね」

「二人とも、廊下は走らないの!」

 

千歌と曜は部室を飛び出していった。そんなに練習がしたかったの?あっ、ただ単にずっと椅子に座ってたから身体を動かしたかっただけか。

 

「さて、先に行った二人を追いかけましょうか」

「新曲の調子はどうなの?」

「あまり進んでないかな?」

「だから、今日は三人で千歌ちゃん家に泊まり込んで一気に進めるんだって」

「そっか。私も参加しようかしら?」

「鞠莉さんは倉庫の修繕の手続きで明日早いのでしょう?」

「あっ、忘れていたわ」

「忘れてたって……」

 

なんかマリーは大変そうで、手伝えることがあればいいんだけど、流石に理事長の仕事を手伝うのは厳しそうよね。

私は特にできることがないわけで歯痒い気持ちになる。

そんな気持ちになりながらも、屋上に向かった二人を追いかけて部室を出る。

 

「善子ちゃん、考え事?」

「うーん。なんかマリーたち大変そうだなぁって思って」

「マルもそう思う。でも、マルたちじゃ特に手伝えないんだよね」

 

後ろの方でゆっくり歩いていると、隣を歩いていた花丸が私を気にする。

今回の悩みは別に口にしても問題ないから口にすると、花丸も同じことを思っていたようだった。

 

「そうよね。やっぱり私たちに出来る範囲でできることをするしか」

「ふふっ」

「何?急に笑って」

「善子ちゃんってなんだかんだ言って優しいなぁって」

「なっ!そんなんじゃないわよ。リトルデーモンを導くのは主の務めなんだから」

 

私は優しいんじゃなくてそう言うことよ!変な勘違いはやめてよね。

私が言えば花丸は「そっか」と言う。どうせ、心の中では「そんなことを言うけど、結局のところ優しいってことだよね」とか思ってそうだけど。

 

「そうなの?でも、結局リトルデーモン?の為に何かしてあげるってところが優しいってことだけど」

「つまり、善子ちゃんは優しい?」

「だからヨハネよ!あと、別に優しいなんてこと」

「でも、優しいよね?」

 

花丸と会話をしていると、ルビィとリリーが混ざって来る。というか、先に行った二人が一向に見えないのは、ずっと走っていたってことのなのかしら?

そうして、屋上に着くと、

 

「あっ、やっと皆来た」

「ヨーソロー!」

 

二人はわたしたちを待っていた。いや、先に二人が行ったわけだからそこにいるのは当たり前なんだけど。

 

 

~☆~

 

 

「じゃね、善子ちゃん」

「じゃっ」

 

マリーは明日の準備だとかで浦女に残っていて、淡島前で果南一人が降りていき、バスは再び走り出す。バスには数人の乗客が乗っているけどほとんど閑散としていて、特にすることもないから外の景色を眺める。

いつもなら曜が隣に座り直して話すけど、今日はバスに乗っていない。練習の時に言っていた通り、千歌の家に泊まるらしく、服も千歌のを借りるとかで家に戻らずにそのまま千歌とリリーと一緒に降りていった。だからすることが無い。こんなことなら私も泊まればよかったかな?でも誘われてないし、ママの許可が下りるのかもわからないけど。

 

私が降りるバス停に着くと私は鞄に入れていた定期券を取り出し、

 

「おっと」

 

その際に一緒に入れていたペンダントに引っかかって落としかけたのを空中でキャッチする。

そして、左手にペンダントを持ち換えて、右手に定期券を持ち運転手に見せてバスを降りる。

 

「そう言えば、朝考えてことをすっかり忘れてたわ」

 

駅の方に行くバスを見ながら一人呟くと、ペンダントを眺める。ペンダントに着いた水晶が夕日を反射して輝いていて綺麗で……ってそんなことはどうでもよくて、何処でだったかしら?貰い物?それとも買った物?……はないか。お店とかだと絶対に高そうだし。

どうも、靄がかかったように思い出すことができない。どうして思い出せないのか悩みながら歩いていると、信号が赤くなり立ち止る。そう言えば、この先で曜の事故があったのよね。回避したから曜の事故は起こってないけど。

うーん。タイムリープの能力がある時点で一般流通ではないだろうし。何処で手に入れたのやら?

 

「うーん。宝石店?露店……ドールハウス……本屋……あっ」

 

視界に入るお店を眺めながら、何か思い出せないかと呟いていると、本屋で重大なことを思い出した。

そう言えば今日はいつも買ってる漫画の新刊が出る日だった。どうも思い出せないし、そのうち思い出すでしょ?そんなノリで、私はペンダントを首にかけると、この後特にすることもないから本屋に足を向ける。別に今日じゃなくてもいい気もするけど、もしかしたら明日から忙しくなる可能性もあるから今日買って読んじゃおうかしら?

本屋に着くと新刊のコーナーに積まれてあり、レジに通すと本屋を後にする。

 

「さて、前回はちょうどいい所で終わったから続きが気になってたのよね」

 

内容がどうなっているのか気になりながら、早足に家に向かう。大人とかだと喫茶店に寄って読むとかする人もいるけど、生憎私は喫茶店によるほどお金に余裕もないし、家に帰ればインスタントではあるけどコーヒーとかもあるしね。

本のことを考えながら、歩いていると……

 

ガコッ!

 

何処からか不吉な音が響き、私は立ち止って辺りを見回す。でも、特にこれといったことは無く、気のせいだろうと思うと歩き出し、私の身体に影が差す。

そして、上を向き……

 

「嘘……」

 

ちょうど工事中だったビルの吊るされた鉄骨の一本が私の真上から落ちてきていた。もし、今までの私なら身体が硬直していたと思うけど、この一週間で色々なことがあり過ぎて、私は考えるよりも先に身体が動くようになっていた。

私は即座に地を蹴り、どうにか鉄骨の直撃だけは避けようとする。

 

ガッシャーン!

 

そして、鉄骨は地面に激突した。

私は間一髪のところで前に跳躍して倒れ込む形で回避に成功した。ギリギリのところだったわ。

私は安堵すると、身体を起こそうとし……

 

「……嘘でしょ」

 

私は空を見て絶望した。

そもそもすぐに気付くべきだった。鉄骨の落下が一本だけで済むわけがないことに。

空には無数の鉄パイプが落下してきており、私はなんとか回避しようと試みる。

 

ガッシャンシャーン!!

 

そして、無数の鉄パイプが地面に激突し、

 

「うっ」

 

私はその内の一本に足を潰され苦悶の声を上げる。足に当たってるのが鉄パイプだったおかげで足がペチャンコという訳ではないけど、骨折はしたようで激痛が走る。

そして、三度目の落下が起こる。

足を骨折していることで完全に動くこともできず、降ってくるものも全て鉄パイプではなくて、一回目に降ってきたような鉄骨だった。

回避もできず、間違いなく死が目の前に迫っていた。そもそも数的に助かる保証が何処にもなかった。

 

そっか。私は死ぬのね。

 

そして、走馬灯のように今までのことを思い出し、気づいた。この一週間でAqoursの皆が死んだ。でも、まだ残っていたじゃない。

 

……私が。

 

今日が、私が死ぬ日だったのね。なんで、気づかなかったんだろ?少し考えればわかったはずなのに。せっかく皆の死を回避できたのに、ここで私が死んじゃうなんて嫌!

 

私は神に祈るように胸に手を当て、首にかけていたペンダントに触れる。

 

もし、まだ希望があるのなら……

 

「我願う。故に我乞う。みんなとの日常を!」

 

今まで同様、過去に戻ってやり直したい。誰も死んでいないから輝かないかもしれない。

 

でも、そんなの嫌!皆と……

 

 

 

 

 

 

 

生きたい!

 

 

~☆~

 

 

「はっ!」

 

気が付くと、私はベッドの上に寝ていた。

もしかして、奇跡的に助かった?でも、見覚えのある部屋……。

 

「って、私の部屋ね」

 

そこは、私の部屋だった。ということは、あれは夢?なんて訳ないわよね。きっと、水晶が輝いて過去に戻ってこれたってことかしら?

とりあえず、足に痛みもないし、変な方向に曲がっている訳でもないから助かったのよね?となると、また今日を乗り越えられるように頑張らないと。いつも通りに。

そして、今更ながら今の時間が何時なんだろうと時計を見て……

 

「えっ?」

 

私は時計の表示を見て声を漏らした。

 

時計は、曜が事故に遭った“あの日”の日付を表示していたから。




という訳で、第一部ファーストループは終了です。この先どうなることやら。

次回の投稿は一週間後を予定しています。全く先の話が書けてませんけども。
では、ノシ


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セカンドループ~
13 壊れた日常


今年最後の投稿~


「どういうこと?どうして今回は今朝じゃないの?」

 

私は訳が分からず立ち上がると、スマホを見る。もしかしたら時計の日付が間違っているかもしれないというわずかな可能性を信じて。

 

「嘘……」

 

しかし、そんな私の期待も無駄に終わった。スマホもあの日を表示する形で。

どうしてこんなことになったのか分からず、私は考える。

 

一応助かった訳だし、それはいいとしてどうして?それとも、あの一週間自体が夢落ち……なんてご都合展開は……ないわね。鮮明に覚えている訳だし。でも、一度は切り抜けられた道。それに、もしかしたらもう何も起きない可能性もある訳だし。

 

私は頬を叩くと、意識を切り替える。いつまでも引きずってたらダメだろうし。

 

「よし!今日も頑張ろう」

 

私はパパッと学校の準備を整えると、リビングに行く。ママはすでに学校に行った後のようでそこにはおらず、私は朝ごはんを温めるとテレビを付けて食べ始める。

 

『今日の十二位は……双子座のあなたです!』

「あれ?」

 

ニュースを見ているうちに占いコーナーになり、今日から一週間はずっと蟹座が最下位のはずなのに、なんでか最下位では無かった。こんなところで齟齬が起きたことが気になるけど、それを知る術を私は持っていないからどうにもならない。でも、最下位じゃなかった事で良かったと安堵する。流石に最下位よりはそれ以外の方がいいし。

 

「っと、今回は一応もう持っておこうかしら?」

 

朝ごはんを食べ終えて準備を済ませると、机の上に置いていたペンダントが目に入り、何度もこれに助けられたから一応お守り代わりに持って行く。流石に首にかけておいたらダイヤに注意されそうだしと鞄のポケットに入れる。そして、朝から憂鬱な気分にはならずに済んだことで、私は軽い足取りで家を出る。

 

 

「おはヨーソロー。善子ちゃん」

「おはよ。あと、ヨハネよ!」

 

曜が乗るバス停に止まると曜はいつもの挨拶をし、私はいつも通り返答をする。曜はいつも通り私の隣に座る。

 

「そう言えば、善子ちゃん。次の曲の衣装どうしよっか?」

「そうね……って、曲のイメージも固まってないのに衣装決めるの?」

「まぁ、ある程度はね。そうしないと、いざ作れるって時に間に合わなくなりそう」

「なるほどね。私的には堕天使のような漆黒の衣装かしら?」

「うーん。黒かー。確かに今までなかったけど、またあの時みたいなのはダイヤさんが“破廉恥ですわ!”って言うかもよ?」

「言いそうね。でも、あの時と違ってもう少し布面積を増やせば……」

 

曜のある程度準備することに対しては私も賛成だからそう言う。こんな会話を前にもした訳でデジャヴを感じるも、それは前にもした記憶があるから割り切る。

私は三回目の日。でも、曜は初めての日だから。

それから私たちは次の衣装案を進める。その結果、ピンクのチアみたいな衣装や淡い緑の衣装など何パターンか思い付いたのだった。

 

 

~☆~

 

 

「おはヨーソロー!」

 

バスに揺られて浦女に着き、部室に着くとすでに七人そろっていた。前は千歌が後から来たのに今回はいるあたり、前回とは違う部分が多々ありそうね。それとも、もう起こらないのかしら?

 

「おはよー。曜ちゃん、善子ちゃん」

「おはよ。千歌がもう着いてるなんて珍しいわね。いつもギリギリなのに」

「善子ちゃん。千歌だってやればできるんだよ!」

「あっ、ごめん」

「ちーかーちゃん!私が早めに行って起こしてあげたからでしょ!」

「……」

「わっ、そんな目で見ないでよぉ」

 

千歌が一人で起きたのかと思えば、リリーが起こしたから起きれたようだった。感心してたのに裏切られたから、私はジト目をする。すると、千歌はそれに反応する。

 

「いつまでも話してないで、着替えたら練習を始めますわよ」

「そうだね。時間は有限だしね」

「レッツゴー!」

「あっ」

「先、屋上に行ってるね」

 

ダイヤに言われて私たちは荷物を置くと、皆着替え終わってたから先に屋上に向かう。だからパパッと着替え始める。ここが女子高だから、部室で着替えても問題ないから助かるわね。共学だと更衣室で着替えないとだし。でも、共学だったらそもそも廃校の危機にもなってないか。

 

「っと、着替え終わったし行こっか」

「ええ。そうね」

 

パパッと練習着に着替えると、皆を追いかけるように部室を出る。

 

「1,2,3,4.1,2,3,4」

 

屋上ではいつも通り、ストレッチをした後にステップ練習をする。あの一週間のうちにも練習はしていたから、私は手慣れた物で、危なげなく練習をする。まぁ、そう言う訳で一つ問題が発生だけど。

 

「ルビィちゃんと花丸ちゃんは気持ち急いで」

「うん」

「ずら!」

「善子ちゃん、昨日よりも格段によくなってるね?」

「そう?」

 

普段なら果南に注意を受けるけど、皆よりも前の一週間分練習してたわけだから、だいぶマシになっているせいで果南にそんなことを言われた。

いつもと違うから皆に変に思われる可能性を全く考えてなかった。どうしよ……変に思われたりしたら。

 

「もしかして、こっそり一人で練習してた?」

「え?……あ、うん」

「うんうん。練習は裏切らないね」

 

と思ったけど、私がこっそり練習していただけと思われるだけで済んだ。まぁ、普通に考えたらそう思うわよね。

流石に一週間皆よりも過ごしたなんて言えないし。言っても信じてくれないだろうしね。どうせ堕天使うんぬんと思われるオチしか見えないし。

 

「みんないい感じになって来てるね。じゃっ、ちょっと休憩しよっか」

「わかりましたわ」

「了解であります」

 

果南の手拍子に合わせてステップを踏んで行く。そうして進んで行くと、休憩に入る。私は疲れたから腰を下ろすと、花丸に水を渡され、お礼を言って受け取る。

 

「今日は動き良かったね」

「そう?まぁ、迷惑はかけたくないからね」

「あれ?いつもなら堕天使だからとかって言うのに、珍しいね」

「あー、今日はそんな気分なのよ」

「そっか。そんな気分なんだ」

 

あの一週間はずっと気を張っていたせいで、堕天使はなりを潜めていたからそんな反応をしてしまった。でも、花丸はそこまで追求してくることは無かった。

それから練習は再開され、気づけば陽が傾き始めたのだった。

 

 

~☆~

 

 

「善子ちゃん、この後暇?よかったら一緒に雑貨屋さんに行かない?」

「暇だけど、今日じゃなきゃダメなの?」

 

練習着から制服に着替えていると、曜にそう声を掛けられた。前と同じ展開だから、このままだともしかしたらと思うからそう口にする。結局あの時は一人で行こうとしたから避けられないだろうけど。それでも曜の身に危険が少しでもあるのなら回避したい。

 

「明日は天気が荒れるらしいし、晴れてる日の方が寄り道しやすいからね。それに、千歌ちゃんたちが曲作りができたらすぐに作業に動けるようにできる範囲で準備しておきたいからさ。ダメなら一人で見に行こうかなー?」

「そう。まぁ、私も行くわ」

「あっ、私もついて行っていい?」

 

曜は一人でも行きそうだから、私もついて行くことにすると、ひょこっとマリーが会話に加わりそう言った。

 

「あれ?鞠莉ちゃんも来るの?珍しいね」

「あはは。ちょっと駅前までshoppingをね」

「よーし。鞠莉ちゃんも一緒に行こー」

「そうね」

 

前回と違う点は多々あったから、これもその一つだろう程度に考えていた。もしかしたら、マリーがいれば曜を助けられるかもしれないと思っていたのかもだけど。

 

皆と別れて私たちはそのままバスに乗り続けて沼津駅前に着く。千歌も一緒に来ようとしたけど、リリーに早く歌詞完成させてと急かされて、リリーと一緒にバスを降りて行ったのでいるのは私たち三人だけ。

 

「それで、鞠莉ちゃんの買い物ってなんなの?」

「もちろん、曜の衣装案を一緒に考えにね」

「あれ?そうだったの?」

 

てっきり、マリー自身買うものがある物だと思っていた。曜も同じことを思っていたらしく、意外そうな顔をしていた。

 

「これでも、ダイヤに何度もスクールアイドルの話やら写真、ライブ映像を見たりしたからね」

「もしかして、合宿で寝てたのも……」

「ええ。何回も聞いてたから聞かなくてもいいかな?って。でも、そこにいないとダイヤに文句は言われそうだったし」

「だから、目にシール付けてたんだ」

「そう言う訳で、スクールアイドルの衣装もけっこう見てきたから力になれるわ!」

 

そう言って、マリーは雑貨屋さんに入り、私と曜は追いかける。ここももうこの時期は三度目になるから、ここの商品の位置をだいぶ覚えてしまっていた。だから、見ててもあまり衣装の案が浮かぶ気はしない。と言っても、

 

「私は堕天使の衣装を押すわよ」

 

私は次に望む衣装は堕天使のような高潔なモノに変わりないんだけど。

 

「あはは。でも、説明会で黒色はちょっと。せっかくなら明るい色の衣装の方が」

「うんうん。それにまたダイヤに文句言われるよ」

「でも、それくらいしか思いつかないし」

「あはは。まっ、私としてはあの時の衣装可愛いと思ったけど」

「そうよね!」

「あっ、うん」

 

マリーが堕天使衣装を可愛いと言ってくれたから、私はマリーの手を握って詰め寄る。流石マリーね。マリーがあれを纏えばきっとすごそうよね。

で、マリーの反応を見て私はハッとする。だから、慌てて手を放す。

 

「善子ちゃんって、本当に堕天使が好きだよね」

「そうね」

 

そんな私を見てニコニコと笑う二人。なんというか馬鹿にされてる?いや、たぶんそういう訳ではないだろうけど。

 

「それで、曜の方はどうなの?」

「うーん。何パターンかは思いついてるけど、もう少しいい感じのがなぁって。それに、曲ができないと最終決定ができないし」

「じゃぁ、なんでもう衣装案を固めに入ってる訳?」

「だって、ある程度案は決めておかないと、すぐに作り始められないでしょ?」

「それもそっか。となると、私も果南と一緒にダンスの振付を考えといた方がいいのかしら?」

「さぁ?それこそ曲が完成しないと無理じゃないの?曲調すらもわからないんだし」

 

二人ともやる気は満々だけど、曲が完成しないことには動くことができない現状なのよね。私も曜の手伝いをするつもりだし、特にすることが無いんだけど。

そうして、雑貨屋の物を見て回る。

うーん。やっぱり新鮮味がないからあれなのよね。二人は新しい商品を見たりしていて、私は私でフラフラとしながら見て行く。

 

 

~☆~

 

 

「じゃぁねぇ」

「ちょっと、曜!?」

 

雑貨屋を出ると、曜はスマホを見て曜のお母さんから早く戻ってくるように言われたようで、さっさか帰って行った。今日は曜の身に危険が迫ると思っていたのに、取り付く島もなく去って行ってしまい、ちょうど信号も変わってしまったから、青になってから追いかけても追いつける気もしなかった。一応、今日はあの時よりも早いから多分あの車に轢かれることは無いはずではあるけど。あの時は私をかばったから轢かれただけで、曜一人なら回避できるはずだし。

となると、やっぱりあれは悪い夢だったのかしら?曜が轢かれるあの事態は回避されたみたいだし。そう考えると気が楽ね。もう、皆の死の危険を考えなくてよくなる訳だし。

 

「さてと、私はバス停に行こうかしら?」

「じゃぁ、途中まではいっしょね。ここからなら私の家の近くのバス停の方が近いわ」

「そうなの?じゃっ、善子とtalkしながら帰ろうかしらね」

 

私たちは、家の近くの方のバス停を目指して一歩踏み出し、

 

キキッー!ドンッ!

「えっ!?」

 

目の前を車が通り、マリーはそれに轢かれて吹っ飛んだ。私はいきなり目の前で起きたことに、呆然とし、ハッとするとマリーのもとに駆けよる。マリーは植え込みに倒れており、額には血が流れていた。

 

「マリー!?マリー!」

「……」

 

打ち所が悪かったのか返事はなく、意識も無かった。私はマリーの脈を確認すると……

 

止まっていた。

 

「嘘……」

 

マリーの死。信じたくはないけど、目の前で起きてしまった。曜が無事だったからもう大丈夫と思った矢先にこんなことなんて。

周囲の人々は事故が起きたからと集まり出し、誰かが救急車を呼んだのかサイレンの音が聞こえ始める。

 

「私は絶対に信じない。絶対に……」

 

私はもう動かなくなっているマリーを抱きしめて泣く。私が油断しなければこんなことにはならなかった。

迫っている車に気付ければマリーを助けることができた。

 

私は自分を責め、そして、鞄の中のペンダントを引き抜く。

 

「あれが夢じゃないなら、聞き届けなさい!」

 

諦めてたまるもんか。絶対にどうにかしてみせる。過去を繰り返してでも。

 

マリーを抱きしめ、マリーと私の間にあるペンダントを握り願う。

 

「我願う。故に我乞う。マリーの居るあの日常を!」




さすがに、同じことを繰り返すとあれなので、そろそろ流れを加速させます。どういう方向でかは、今後の投稿で。
では、良いお年を~ ノシ


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14 終わらない非日常

「はぁ。やっとここまで来た……」

 

私は部屋で一人呟く。マリーの死によって私は過去に飛び、車が突っ込んでくる前にあの場を離れたことで事故を未然に防ぐことができた。

 

その翌日には、千歌と曜と一緒にバスに乗っていたところで、大雨の影響で土砂が崩れて来てバスが横転し、そのまま海に落下した。私たちはどうにかバスから脱出するも、雨のせいで海が大荒れで、私たちは波に流されてうまく陸に上がることができなかった。そして、私は意識を失い、次に目を覚ました時には浜辺に倒れていた。私の手を千歌と曜が握った状態で倒れていて、二人とも亡くなっていた。原因は溺死だった。二人とも泳ぎは得意な方だったから、意識を失った私を無理して陸に連れて行こうとしたのが原因だったようだった。私が陸に居たことからそうだと理解した。

私は二人に救われた。でも、言い換えれば私が二人を殺した。私のせいで……。だから、私は願い過去に飛んだ。そして、どうにか土砂崩れが起きた便よりも一本早いのに乗ったことで回避できた。

 

その翌日には、また熱を出した私のお見舞いに来たダイヤとルビィがエレベータの落下に巻き込まれ死んだ。願うことでその日の朝に飛び、前と同様階段から降りてもらうことで回避した。どういう訳か、二回目ではエレベータが落下しなかったのは謎だけど。

 

その翌日。花丸と果南が死んだ。その日は外が雨で体育館も使えず、できる作業を進めていた。千歌達は千歌の家に行き、ダイヤとルビィとマリーは家の用事で早めに帰り、手持ちぶさな私と果南は花丸の図書当番の作業を手伝っていた。そして、三人で一緒に帰り、そこで事故が起きた。土砂の撤去をしていた重機の横を通った瞬間、重機の下の地面が雨でぬかるんでいたことで傾き倒れてきた。私たちはどうにか回避を試みるも、間に合わず重機の横転に巻き込まれた。私は運よく重機の隙間に入ったことで無事だったけど、二人は重機に潰されてしまった。その結果、傷口から血が溢れて死んでしまった。だから私は過去に戻り、重機を避けるようにして帰ることで回避した。

 

そして、昨日。沼津での練習を終えた後にリリーと駅前の本屋に行って本を買い、リリーはバスに乗るからとバス停に向かう途中、それは落ちてきた。あの時同様、工事中の鉄パイプや鉄骨が。私はあの時の光景を思い出して身体が硬直してしまい、気づいた時にはリリーに突き飛ばされていた。そして、降って来た鉄骨がリリーの周囲に落ち、砂煙が晴れるとそこにはリリーが倒れており、そのうちの一本がリリーの身体を貫いていた。どこからどう見ても手遅れで、私は自分を責めた。私が硬直しなければリリーが死ぬことは無かったから。そして、こんなことは認めなく無くて願った。過去に飛んだ後は工事現場に近づかないようにしたことでリリーが死ぬ自体は回避された。話によると、鉄骨落下は起きたらしく、でも幸いその時人が通らなかったから死傷者は出なかったとか。

 

そして、気づけば土曜日を迎えた。

前回と同じできっと今日は私の身に危険が迫るはず。だから、今日一日は細心の注意を払うことを心に決める。

 

「よし!今日を乗り越えて、絶対に平和な日々を取り戻してみせる!」

 

頬を叩いて気合を入れると、制服に着替えてリビングに行く。今日もママは先に出たようでおらず、キッチンに置かれていた朝ごはんをレンジで温めると、テレビを付けてから食べ始める。

 

『今日の十二位は蟹座のあなた。予想外の事態が起きるかも?』

「はぁ。やっぱり、占いはこうなるのね。今回は最下位がバラバラだったから、もしかしたらって思ったのに」

 

占いの結果にため息をつくと、どうしたものかと悩む。前回の世界じゃ、今日は私が死にかける、というかあのままなら間違いなく死んでたわけだし。一応占いのことも考えてどんな事態にでも対応できるようにしておこうかしら。雨は降ってないから流石に土砂崩れに巻き込まれるなんてことは無いと思うけど。それに、今回はみんな死因が変化してたから他の原因が来るはず。昨日鉄骨が落下したわけだしね。

朝ごはんを食べ終えると食器を洗い、荷物を纏めると鞄を持って家を出た。

 

 

~☆~

 

 

「うぅー。思いつかないよぉ」

「はいはい。でも、早く完成させないと練習も衣装作りもできないんだから、早く完成させないと!」

「それはそうだけどぉ」

 

部室にはあの時同様六人で机を囲んでいた。三年生はやっぱり生徒会と理事長の仕事で今はいない。パパッと片付けて戻って来るとは言ってたけど。

 

「梨子ちゃん、あんまり急かすと出る物も出ないんじゃないの?」

「曜ちゃん、それはダメだよ。千歌ちゃんを甘やかしちゃ。時には厳しくしないと」

「うぅ。梨子ちゃん、何時も厳しいよぉ」

「曜ちゃんが甘やかすから、私はその分厳しくしないとだから。さっ、歌詞書いて」

 

リリーは笑顔で千歌に言い、なんというかいつも通りの光景だった。曜が千歌を甘やかすのも含めて。

 

「でも、そんなに作詞って難しいの?いつもはなんだかんだで書けてるじゃない」

「そうなんだけど……」

「善子ちゃん。作詞って難しいんだよ。それに、今回の新曲を説明会でやる予定だから、この新曲で入学希望者が増えるかどうか変わると思う」

「あっ、だから難しく考えちゃうずらね」

「うん。たぶん」

 

私たちは千歌の顔を見ると、ルビィが言った通りのことを考えていたようで、苦笑いを浮かべて頷く。

 

「書かなきゃって思っても、どうもうまくいかないんだよね。でも、なんとか書いてみるよ」

「千歌ちゃん……」

「千歌……」

 

千歌の顔を見れば、明らかに無理をしてでもそう言った感じだった。たぶん、自分のせいで皆に迷惑をかけているからと溜め込んでいるような。

 

「じゃぁ――」

「シャイニー!」

 

せめて私たちにできることは無いかと聞こうとするも、タイミング悪く仕事を終えたマリーの声によってかき消された。

 

「鞠莉さん。静かに入れないのですか?」

「ダイヤ。鞠莉がそんなこと気にすると思う?」

「無理ですね」

「ちょっ。果南、ダイヤ、どういうこと?」

「よし!とりあえず、三人が戻って来たから練習しよっか」

 

三年が戻ってきたことで部室の雰囲気が変わり、千歌はさっきまでの会話を打ち切って練習を提案する。今は先に歌詞のことを固めないとまずい気がするのに、千歌は「せっかく九人がそろったんだから練習しよう」と言って聞かず、作詞は練習終わりに頑張るとかで無理やり進めてしまう。

 

「歌詞って思いつく時は思いつくけど、思いつかない時はほんと思いつかないよね」

「でしょ?だから、身体を動かせば思いつく気がするんだ」

「まぁ、三人の時に作詞を担当した果南ちゃんが言うのなら……」

 

果南の一言で、皆も練習をする案に賛成の色を示し、結果としてさっさか練習を始めることになった。うーん。本当に大丈夫なのかしら?

っと、屋上で練習をするなら落下しないように気を付けないといけないか。

 

 

「で、初っ端から、走り込みなのね……」

 

ストレッチをした後、私たちは裏女前のあの急坂を何周もしていた。てっきり屋上でダンス練習だと思ってたのに、まさか走り込みをするとは。確かに体力は必要だけど。

屋上じゃないから落下の心配はないけど、正直持久力はまだまだだから辛い。それに、一応道路だから車が通る恐れもあるし、この途中で轢かれるなんてことは無いわよね?

 

「ほらほら。泣き言言わずに走れー。体力は付けておかないと!」

「そうそう。体力がないと連続で数曲できないよ!」

「なんで、二人とも、息切れて、ないのよ……」

 

走っているといつの間にか前にいたはずの果南と曜がやって来てそう言う。二人の言ってることは分かるけど、これは結構きついわよ。それに、なんで二人とも全く息の切れないで平気な顔してるのよ!

 

「うゅ。ルビィ、もう無理かも」

「ずら~」

 

二人も相当息があがっていてきつそう。私もだから人の心配をしている余裕はないけど。

 

「これこそ、体力の差かな?体力が付けばどうにかなるんじゃないかな?」

「じゃぁ、明日からは一緒にランニングする?」

「えーと……今の練習で、手いっぱいだから」

 

果南と一緒にランニングすれば、確かに体力は着くだろうけど、毎日朝早くからやる元気はない。果南が走ってる時間って、陽が昇ってすぐだったわけだし、あの時と同じような時間なら日が昇ってるか怪しいわよね。

そういう訳だから、朝のランニングは遠慮しておく。果南は「そっか。気が向いたら走ろうね」と言ってまた前に戻って行き、皆にも声をかけていく。

 

「曜は、追いかけなくて、いい訳?」

「さすがに果南ちゃんほど持久力はないから私のペースでね。だから、追いかけなくてもいいかな?」

「そう。それで、何か私に言いたいことがあるの?」

「ん?ううん、特に無いよ。どうして?」

「いや、私の隣を走ってるから。いつもなら千歌の隣か果南の隣走ってるじゃない」

「そういうことね。まぁ、後で果南ちゃんを追い抜くから、今は猛ダッシュの為に体力温存かな?」

「……結局、果南を追い抜く気なのね」

 

曜はいつも通り、最後の最後に猛ダッシュで果南を追い抜いて一番乗りするつもりでいるらしい。なんで、こうも競争したがるのやら?

 

「ほどほどにしておきなさいよ」

「ヨーソロー!」

 

曜は敬礼すると、前の方を走るリリーの方にペースを上げて行く。体力を温存する気があるのかないのか分からないわね。

車は来ないし、とりあえずまだ平気みたいね。

 

「はぁはぁ。結局果南ちゃんを追い抜けなかった」

「まだまだ。曜に負ける気は無いよ!」

 

で、走り込みが終わって校門前に着くと、どうやら果南が一番に着いたみたいだった。なんとなくそんな気はしていたから、さして驚きはないけど。

 

「はいはい。休憩したら屋上でダンス練習しますわよ」

「はーい」

 

 

~☆~

 

 

「善子ちゃん、またねー」

「ヨハネ!じゃっ、また明日」

 

練習が終わり、曜がいつものバス停で降りていくのを見送ると、私はもうしばらくバスに揺られる。結局、私の身に何かが起きるようなことは無かった。また屋上で練習している時にフェンスが外れて落ちかけるかもと気を付けたり、車が突っ込んでくるかもと思い帰り道を警戒し続けるもそんなことは起きなかった。

もしかしたら、いつの間にか迫っていた危険を回避していた可能性もあるけど、まだ今日は終わらないから気は抜くわけにはいかないか。

私は定期券を運転手に見せるとバスを降りる。今日はいつも読んでる本の発売日だけど、下手な寄り道をした結果危険な目に遭うのは避けたいから、寄り道せずに家に向かう。新刊は明日買えばいいでしょ。

 

「うーん。何も起こらずに家に着いちゃった」

 

そして、特に車に轢かれるようなことも起こらずに、マンションの一階までたどり着いた。

やっぱり、いつの間にか危険を回避できてたのかしら?

私はそんなことを考えながらエレベータに乗ると、上に上昇し始める。うーん。結局今日一日の警戒というか心配は杞憂だったわね。

 

ウィィィン……ガシャンッ!

「ん!?」

 

すると、十階のところで変な音を立ててエレベータが止まる。普段ならこんな音など立てずに普通に止まって開くはずなのに一向に開く様子がない。そんな状態が十秒ほど経つと、唐突に電気が消える。私はこんな時に停電が起きたことで、嫌な予感が頭を過ぎる。

 

前回は水曜にエレベータが落ちた。でも、今回はまだエレベータは落ちていない。つまるところ、今回起きることは……

 

「まさか、落下!?」

ガシャンッ

 

私が口にした直後、エレベータは再び謎の音を立てて、浮遊感が私の 身を包む。

ワイヤーやらエレベータの外装が壁に擦れたことによる摩擦で若干速度が落ちるも、それはただの気休めで、このままならあと数秒のうちに地面に落下するのは明らかだった。

その瞬間、私はこのままなら死んでしまうのだと理解した。二階や三階なら運良く死なずに済むかもしれない、でも、十階からだと助かる見込みはない。マリーもリリーもあの時即死だったから。

皆の死をまた回避することに成功したのに、また私の死が阻む。でも、私は諦めたくない。死にたくない。だから、首にかけていたペンダントを握り願う。

一度できたのならきっと……

 

「我願う。故に我乞う。みんなとの日常――」

ガッシャーン!!




という訳で、ダイジェストにして、一気に土曜日スタートです。加速なのかはなんとも言えないけども。
では、ノシ


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15 壊れた感情

「ルビィ……」

「……」

 

私は目の前に倒れるルビィを見て声を出す。

倒れているルビィは傷口から血が流れ、このまま流れ続ければ間に合わなくなりそうな勢いだった。

 

 

~☆~

 

 

「今何回目だっけ?」

 

その日の朝目を覚ました私はベッドに寝転がりながら口にする。すでにあの一週間をもう十回は繰り返していた。

もう数えるだけでその時の情景がフラッシュバックし始め、だいぶ疲れてきた。時を繰り返しているから身体は回復して元気でも、精神的疲労は回復することは無く積み重なっていく。死を回避した日は、また明日誰かが死ぬのだと思い、目を閉じれば誰かの死の光景が浮かんでくる。だから、最近は睡魔によって寝落ちをするように眠っていた。

 

いくら繰り返しても私の死は回避できない状況が続いている。マンションに車が突っ込んでくる、エレベータを避けて階段を使えば階段が崩落。ひどいものならサファリパークから逃げ出したライオンに襲われる事態まで起きた。毎回死因が変わるせいで対応策を立てることもできない。

 

だから、同じ轍を踏まない為に日記をスマホ内で書いていた。

どうやら、過去に飛ぶ際に持っていた物も過去のそれに上書きされるらしい。偶然鞄を持った状態で過去に飛んだことでノートにその日の授業で取った内容が書かれていたから判明した。最初はノートに書くことも考えたけど、ノートを常に持っているとは限らない。でも、スマホなら大体制服のポケットに入れていることが多いからスマホにした。日記にはその日の天気やあった出来事、そして誰がどんな死を遂げたかを書いた。スマホに書いている理由は、他の誰かに見られる恐れが無いのもあったわね。ノート系に書くと誰かに見られる恐れもあったし、見られれば絶対に言及される。言ったところで、信じてもらえないのは目に見えてるし。

 

『今日の十二位は……乙女座のあなたです!』

「はぁ、誰に危険が迫るのやら?まっ、これがあるから何度でもやり直して回避するだけだけど」

 

誰の身に危険が迫るかわからない。

でも、私にはペンダントがある。

私は首にかけていたペンダントを見てそう呟くと、朝ご飯を食べ終えて家を出た。

 

 

今日は普通に練習をして、部室でルビィの忘れ物を一緒に取りに戻って、家に帰るところだった。果南と千歌は家の仕事で終わるなり急いで帰り、マリーは理事長の仕事のようにそれぞれやることがあってこの場にはいない。他の皆ももう帰っている。皆は待とうとしていたけど、誰かを巻き込みかねないから先に帰ってもらった。ルビィが事故に遭う確証はないけど、そこは勘で。いつも少数の方で事故が起きているから。それに、どうせ過去に飛べばどうとでもなるし。

 

「善子ちゃんと二人きりは珍しいね」

「そうね。いつもなら花丸もいることが多いし」

 

忘れ物を回収すると、取り留めのない会話をしながら通学路を歩く。

 

「そう言えば、善子ちゃんって堕天使って言う割に真面目に授業は受けてるよね」

「ちゃんとやるわよ。一学期の半分近くを休んでたから、それを挽回するためにも真面目にやんないと留年になりかねないし」

「あはは。というか、それは善子ちゃんの自業自得だよね?」

 

実際、入学早々不登校になって出席数が若干危ないのよね。まだ、余裕はあるにはあるけど、不運な私にいつ何が起きるかわからないから油断を許さない訳だし。それで進級できなくて留年なんて最悪よね。

 

「善子ちゃん!」

 

すると、ルビィの声と同時にいきなり突き飛ばされて、私はバランスを崩してみかん畑に突っ込む。いきなりすぎて受け身が取れなかったけどみかんの木のおかげで怪我をすることは無かった。

いきなり突き飛ばされてルビィに文句を言ってやろうとみかん畑から出て来て道に戻ると、文句を言うつもりだったのに文句を言うことはできなかった。

 

「ルビィ?」

「……」

 

私は目の前に倒れるルビィを見て声を出す。

ルビィの上には根元が折れた電柱が倒れており、ルビィの頭を直撃したのか頭からは血が流れていた。

打ち所が悪かったのか意識が無いようで返答はなく、私は学校内で付けてるとダイヤに怒られるから鞄に入れていたペンダントを取り出す。見た感じこのままならルビィは死ぬ。

でも、これさえあればルビィの死を無かったことにできる。どうやってでもこの運命を変えてみせる。

 

「我願う。故に我乞う。ルビィの居る日常を!」

 

私はいつも通り言葉を口にする。しかし、どういう訳か水晶が輝かなかった。

 

「あれ?我願う。故に我乞う。ルビィの居る日常を!」

 

何かの間違いかと思って、もう一度言ってみるもやはり水晶は輝かない。

なんで?いつもなら光が溢れて今朝に飛ぶはずなのに……。

何故か過去に飛べないことで私は困惑する。これじゃ、ルビィの死を回避できないじゃない!

 

「光れ!光りなさいよ!」

 

私は叫んだ。でも、叫んだところで何も起こらない。そして、

 

「よっちゃん?」

 

倒れるルビィと私の前にリリーが現れる。どうしてリリーがここに?

 

「リリー?」

「よっちゃん?……ルビィちゃん!?何があったの?」

 

リリーは倒れているルビィが血を流していることに気付くと、駆け寄って来てルビィを見る。

 

「よっちゃん、救急車は?」

「まだ、呼んでない……」

「なんで!?」

 

リリーは大声を出すと、スマホを出して救急車を呼ぶ。私は呆然とそれを見ていることしかできなかった。

どうして、こんなことになったの?どうして、過去に飛べないの?

 

 

どうして?

 

 

~☆~

 

 

「残念ながら打ち所が悪く、手の施しようがありませんでした」

「そんな……」

「ルビィ……嘘でしょ?」

 

病院に着いた時にはすでに手遅れだった。救急車の中でも必死の手当てが行われていたけど、打ち所が悪かったらしい。

連絡を受けて駆け付けた皆は信じられないといった表情をしながら涙を流す。

私も悲しいはずなのに、どうしてか涙は一滴たりとも出ることは無かった。どうして出ないのかはわからない。

でも……

 

「ちょっと、お手洗い行って来る」

「……よっちゃん?」

 

私はルビィの死を受け入れる気は無く、もう一度願いに行く。

皆には手洗いに行くと言ったけど、私はそのまま通り過ぎて屋上への階段を上り、屋上に上がると私は外の景色を眺める。

 

「きっとうまくいく。さっきはまだ生きてたから光らなかっただけ」

 

さっき失敗した理由を考えれば、そうとしか思えない。だから、もう一度やればうまく行くはず。毎回、私が願う時は私一人だったから、一人になったけどもう慣れたわね。いつも私の目の前でみんな死んでいく。そして、私はその度に願った。

だから、私はペンダントを握ると再び願う。

 

「我願う。故に我乞う。ルビィの居る日常を!」

 

しかし、水晶が輝くことは無かった。

なんで?いつもなら、誰かが死ねば輝いて過去に飛べたのに。どうしてこんなことに?私はただやり直したかっただけなのに。

 

「よっちゃん?」

 

名前を呼ばれて振り向けば、そこにはリリーがいた。

たぶん、私の態度がいつもと違うから気になって付けてきたようだった。

 

「リリー?」

「よっちゃん、こんなところで何してるの?」

「気分転換にね」

「嘘でしょ?よっちゃん、私たちに何か隠してるよね?」

「……何も無いわよ」

 

私は誤魔化す。

でも、リリーは私が隠していることを見抜いているようだった。

 

「嘘。よっちゃんは嘘ついてる。普通じゃないんでしょ?」

「嘘なんてついてないわよ。普通よ……」

「じゃぁ、なんでそんな顔してるのよ!後ろめたそうな」

「え?」

 

私は言われてハッとする。水晶に反射する私の顔は、ひどくやつれていた。リリーは泣いたことで目元が赤いのに、私は泣いていないから一切赤くなっていない。

 

「それに、ルビィちゃんが倒れてたのに救急車も呼ばない。ルビィちゃんが死んだって聞いても泣かない。それのどこが普通なのよ!私の知ってるよっちゃんは、誰かを思える優しさがある。悲しいことがあれば涙を流せる子だよ」

「……」

「ねぇ、話して?私はよっちゃんの言葉を聞きたい。だから、お願い」

「リリー。でも、話したところで……」

 

リリーに話していいのかな?でも、それでリリーに幻滅されたくない。もしかしたら、私を責めるかもしれない。ルビィが死んだのは私をかばったから。過去の皆だって、多くは私をかばったせいで死んでいった。

きっと話せば責められる。軽蔑される。

 

「話して!私はよっちゃんの言葉を信じたい!だから、私を信じて!」

「きっと、話せばリリーは私から離れる。きっと嫌いになる」

「ならないよ!絶対に」

 

私の言葉をリリーは否定する。

怖い。今の関係を壊すことが。

でも、話さなくてもきっともうリリーとは前みたいな関係には戻れない。どちらを選んでもリリーに嫌われることは変わりないわね。

だったら、リリーに責められた方がきっと。

 

「リリー、実は――」

 

だから、私たちは屋上にあった椅子に座ると話し始める。

曜が月曜日に車に轢かれて死んだこと。

水晶に願うと過去に飛べること。

それから連日誰かが死んだこと。

私の死だけはどうやっても回避できず、水晶の力でこの一週間を何度も繰り返していること。

そして……急に水晶の力が発動し無くなったこと。

 

リリーは静かに私の話を聞いてくれて、時々驚愕のような声を上げていた。

 

「って、感じなの」

「……」

「……はぁー……という夢を見たのよ」

 

リリーはまるで信じられないかのような表情をしていて、きっと嘘かなんかだと思っている気がした。だから、私は最大限明るい声でそんな夢を見たことにする。いまなら、まだ間に合うから。

 

「そっか。にわかに信じられない話だね」

「だから、そんな夢を見たのよ」

「でも、夢なんかじゃなくて、本当の話なんだね」

「え?」

 

リリーにそう言われて驚いた。こんな話、普通は信じるはずがない。きっと、私に気を使って。リリーは優しいから。

 

「よっちゃんがそんな作り話をするとは思えないし、そう考えればルビィちゃんが目の前で倒れていたのに救急車をすぐに呼ばなかったのも納得がいく。過去に飛んでやり直そうとしてたんだから」

「どうして、信じられるの?」

「ん?さっきも言ったでしょ?よっちゃんは優しいから。そんなひどい嘘を、ましてや作り話をする訳無いでしょ?」

「リリー……」

 

こんな話を信じてくれることにうれしさが込み上げる。結局、信じてもらえないのかと思いこんでいた私がバカみたい。

すると、リリーは急にムスッとする。

 

「でも、私はよっちゃんに怒ってます!一人でこんなことを抱え込んで、それに私を信じてくれなくて。私はよっちゃんのリトルデーモンのリリーなんでしょ?だったら……信じて欲しかったよ」

「それは……わっ!」

 

リリーに怒られて顔を伏せると、唐突にリリーに抱きしめられる。

 

「でも、それ以上に私は私に怒ってる。よっちゃんが辛そうにしてたのに、全く気付けなくて。一人でこんな重い物を背負わせちゃって」

「そんなこと……私が勝手に信じられなくなって自分一人だけで抱え込んだだけ」

「そっか。頑張ったね、よっちゃん」

 

リリーに優しい声をかけられて、私は涙が込み上げてくる。

 

「どうして?ルビィが死んだって聞いた時は涙が溢れてこなかったのに」

「きっと、よっちゃんは疲れてたんだよ。だから、精神も疲れてて感情がぐちゃぐちゃになってたんだよ」

 

リリーの言葉を聞くと、胸にストンと落ちた。確かに、最近はずっと張り詰めてて感情をあまり表に出してなかったかも。水晶があればやり直せるってみんなの死から目を逸らしていた。きっと、そんなことを考えていたから水晶が応えてくれなかったのね。

私は袖で目元を拭うと立ち上がり、頬を一回叩いて気合を入れる。

 

「そうよ!私は絶対に諦めない!」

「うん。そうだよ。だから、皆にも相談してみよ?もしかしたらまた水晶が輝く方法が見つかるかも」

「それは……」

「大丈夫。私も皆にちゃんと伝えるから。ちゃんと向き合えばきっと伝わるよ」

「そうね。主を救うとはさすが私のリトルデーモンね」

「ふふっ、やっぱり、よっちゃんはそうじゃないと。ふぅ、七時を過ぎるとだいぶ肌寒いね。皆のところに戻ろ?」

「うん」

 

リリーは笑みを浮かべるとそう言い、私たちはエレベータの方に行く。登りに階段を使ったのは、待ってる時に誰かに見られるのが嫌だったからだけど、もうエレベータで降りても問題ないわよね。今日はもう事故が起きたからきっともう起きないだろうし。

 

「そうだ。実は、一つ疑問が……よっちゃん!」

 

急にリリーが叫び声を上げると、私たちの真上に給水タンクが降って来た。

てっきり事故はもう起きないと思ってたのに、いきなりこんなことが起きるなんて。

私は中に飛び込むように飛び、リリーは逆方向に飛んで回避を試みる。タンクは屋上の床に激突して穴が開いて周囲に水が飛び散る。

 

「危なかった……って、リリー!?」

 

とりあえず自分の無事に安堵するも、すぐにリリーの状態が気になり振り返る。後ろの方に回避してたから、きっと無事なはず。

しかし、振り返った私の目には床に倒れているリリーの姿と、その下の水が赤く染まり始めているという光景が広がっていた。

 

「リリー!?」

 

慌てて駆け寄るも、反応はない。

まさか、私がリリーに話したせいで、こんなことに?やっぱり、話しちゃいけなかったんだ。

私はリリーの身体を揺する。でも、反応が無い。

 

「リリー、嘘でしょ?起きてよ」

「……」

「お願い!起きてよ!」

 

私は涙をこぼしながら泣き叫ぶ。

これから一緒に過去に飛ぶ方法を考えようって言ってたのにこんなの……。ルビィを失い、リリーも失うなんて嫌!

 

「起きてよ……」

「ん、んん」

 

リリーに抱きついて懇願するように声をかけ続けていると、リリーが目を覚ました。ずっと、こういうことが起きたら死んでしまっていたから、てっきりタンクに直撃したのかと思ってたから生きててよかった。

 

「リリー、大丈夫?」

「うん……あっ、よっちゃんは?」

「大丈夫。リリーが声をかけてくれたおかげで助かったわ」

「よかった」

「良かったって。気を失っていたリリーの方が重体だったでしょ」

 

自分のことより私の事を心配する当たり、ほんとお人好しよね。安堵の息を漏らすと、リリーの身体を起こす。あれ?そう言えば、じゃぁ床の血はいったい?

そんなことを考えていると、リリーの足から血がにじんでいることに気付いた。

 

「あっ、たぶんタンクの破片に当たったのかな?」

「病院だから手当てしないと」

「あはは。ありがとね」

「これくらい普通よ」

 

私は足を怪我がしているリリーに肩を貸すと、お礼を言われる。これくらい普通よ。

 

「ううん。それじゃなくて、意識を失っている私にずっと声をかけ続けてくれたでしょ?意識は無かったけど、よっちゃんの声は聞こえてたよ。だから、私はここに戻ってこられたと思うの。よっちゃんが声をかけ続けてくれなかったら起きられなかった。だから、ありがとう」

「そう……」

「あっ。それで、もしかしたらなんだけど」

「どうしたの?」

「たぶん、今のよっちゃんなら過去に飛べる気がするの」

「え?」

 

リリーの言ってることがわからない。いや、正確にはどうしてそう思ったのかがわからないんだけど。

 

「話を聞いた限り、よっちゃんはルビィちゃんの死に向き合ってなかったと思うの。水晶があれば何度でも救えるからって。皆の死を見てからやり直して回避すればいいやって、命をないがしろにしてたと思う」

 

さっき私が思ったことをリリーも口にする。やっぱりそうなのかしら?

 

「でも、今なら大丈夫。私が死んだんだと思って泣いてくれた今のよっちゃんなら」

「そんなことあるのかな?」

「大丈夫!よっちゃんが私たちのことを心の底から願ってくれれば、きっと」

 

リリーは私の手を握ると、肩から離れて一人で歩き出す。

 

「よっちゃんの話だとずっと一人の時に飛んでたって言ってたから、私は先に戻ってるね」

「……リリー」

「ほら。そんな顔しないの。ルビィちゃんのこと絶対に救ってね」

「ありがと。リリーに話して気持ちが軽くなったわ。だから……絶対にルビィを救ってみせるわ!」

「うん!」

 

リリーは笑みを浮かべて、エレベータに乗ると降りて行く。

屋上に残されたのは私一人だけ。リリーにはそう言われけど、本当に過去に飛べるのかな?

ううん。絶対に変えてみせる。私はルビィを救いたいんだから。

 

「我願う。故に我乞う。ルビィの居るあの日常を!」

 

私は祈るように両手でペンダントを包み込んで握ると願った。ルビィの居るあの日常に戻りたいと心の底から。

そして、水晶は輝き、私を包み込んだ。



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16 獣にあった

リリーに話したあの日からさらに二回程一週間を繰り返した。

私は事故が起きる前にできる限り手を打つようになった。

あの時とは違って、誰かが死ねば悲しくて涙が流れるようになった。それでもそこで立ち止まる訳にはいかないから絶対に救ってみせると心に決めて。そうすることで、どうにか過去に飛ぶことはできた。でも、いつまでも水晶頼りにする訳にもいかない。いつどんな弊害で過去に飛べなくなるかわからないから。

気持ちを切り替えたことで、日記からあることが判明した。二週目以降は朝の占いで最下位の誰かが事故に遭うこと。一緒にいると他のメンバーも巻き込まれるということ。必ず私の死は土曜日に訪れるということ。

そのおかげでいくらかは考えることができた。誰が事故に遭うか事前に分かっていれば手の打ちようはある。まぁ、わかっててもどうにもならないけど。どんな事故が起きるのかわからないし。

そして、今までの死の積み重ねである程度、そこでだとどんな危険が待っているか予測できるようになっていたのは大きかった。

でも、最悪なことに運命は私の上を行く。雨の日ならいきなり落雷が降ってくる。建物の高層階にいればいきなり床が抜けて落下など想定外の方からくる形で。

そして、もう一つ心に決めていることがある。あの日、水晶のことをリリーに話したことでリリーは怪我をした。もしかしたら死んでいてもおかしくなかった。

きっと、あれは秘密を話す事で、聞いた相手に死の危機が迫るというものだと思う。リリーに相談する前なら実験として確認の意味も込めてやっていたかもだけど、今の私はそんな気は一切無い。できる限り私は誰かの死を見たくない。できれば死なせずに乗り越えたい。水晶の力は最後の手段。使わないに越したことは無いのだから。

 

『今日の十二位は……牡牛座のあなたです!』

「ん?牡牛座なんて誰もいないわよ?」

 

で、朝の占いに私は困った。今までは誰かの星座だったのに今回は誰の星座にも該当しない星座で初めてのパターン。この場合どうなる訳?誰も事故に遭わない?それともランダムで誰かが事故に遭う?

リビングで朝ごはんを食べながら、楽観視はできないからランダムで誰かの身に危険が迫る線で考える。今日は雨が降ってなくて外は晴れているから、土砂崩れ系が起きる確率はほぼ無い。

流石に晴れてる状態で土砂崩れが起きるとは思えない。それで起きれば、もう事故の予測を立てることは不可能になってしまう。もし起きなければ、予測が立てられるという訳ではないけども。

 

「さてと。どうにかして回避しないといけないわね」

 

私は鞄に教科書類を入れると、ペンダントを首にかけて家を出た。

 

 

~☆~

 

 

授業と練習が終わった放課後。私は花丸の図書委員の仕事を手伝っていた。他の皆はそれぞれやることがあってこの場にはいないけど。

やることは返却された本を元の位置に戻すこと。そんなに仕事はないけど、一番上の段だと台が無いとしまうのが厳しい。背伸びすればギリギリ届かなくはないけど。

 

「ありがとね、善子ちゃん」

「ヨハネ!それで、この本で最後なの?」

「うん。後は、パパッと床を掃いたら今日は終わりずら」

「了解。じゃっ、私は本をしまっておくから」

「お願いね」

 

私は片手に本、もう一方に箒を持って残りの本をしまいに行き、花丸は床掃除を始める。

とりあえず、第一段階はクリアね。

私は今日誰に何が起こるのか分からないから最善の注意を払っていた。手の届く範囲で救えるものを救う。もし、別の場所で起こるのなら過去に飛ぶしかない。今回はわからなさすぎる。

もしこの場で花丸に何かが起きるとすれば、本棚が倒れてきて潰されるという事態。だから、花丸にはカウンターで本番号ごとに整理してもらって、私がそれを順次本棚にしまって行くという形を取っていた。最初は渋ってたけど、一番上の段は台無しでは届かないことを指摘すれば渋々諦めて納得させることができた。

流石に床掃除なら棚に潰される可能性は無い。私が本棚の方にいることで、花丸は入り口の方から順番に掃き始めるから。

私は本をしまうと床を掃き始める。

掃除をしながら、この後起こり得る可能性を考える。階段からの落下、学外での交通事故、動物に襲われるなどなど、考えればいくらでも浮かんでくる。

 

「善子ちゃん」

 

しかしながら、こうも多いと全ての事態に対応できるようにしなくてはならず、正直対応し切れる気がしない。

 

「善子ちゃーん」

 

うーん。やっぱり、何か知らヒントは欲しいわね。せめて誰の身に危険が迫るのかさえ分かっていれば、だいぶ絞れそうだけど。これで花丸以外の誰かなら最悪の事態よね。

 

「善子ちゃん!」

「わっ!」

 

ずっと考え込みながら掃いていると、いきなり花丸に肩を叩かれ、驚いた拍子に変な声が出る。

 

「なによ、急に」

「急じゃないよ。ずっと呼んでたよ」

「そうなの?」

「うん。あらかた掃き終わったから、後は善子ちゃんの掃いたゴミを捨てるだけだよ」

「っ、ごめん。ちょっと考え事をしてたわ」

 

花丸はしゃがみながらちりとりをゴミの前に置き、私はちりとりの中にゴミを入れる。それをゴミ箱に入れると道具を片付け、図書室を一緒に出る。

 

「それで、掃除をしながら何を考えてたの?」

 

花丸はやっぱりそれを聞く。花丸の声に気付かないくらい考え込んでたから、それについて聞かれることはなんとなくわかっていた。でも、これを言ったところで、どうせ妄言か戯言としか思われずに信じられるとは思えない。ダイヤあたりが言えば普段の性格から幾分か信用されたかもしれないけど、私はダイヤほど真面目では無かったからたぶん信じてもらえない。

完全にオオカミ少年状態ね。まぁ、言えば死の危険を伴うのだから言える訳もないけど。

 

「なんでもないわ。どうやったらリトルデーモンがもっと増やせるか考えてただけよ」

 

だから、急増でそれっぽい理由をでっちあげる。これならたぶん追及されることは無いと思う。

 

「またそんなこと考えてたの?」

「まぁね。でも、リトルデーモンが増えることで統廃合もきっと」

「統廃合を回避できればいいよね」

 

予想通り、追及の回避を成功させると私たちは校門を出て坂を下る。部室に寄ったけど、すでにみんな帰っていたのかいなくて、チャットには連絡が入っていた。

いつもは……と言ってもずっと繰り返してるからあれだけど、Aqoursが九人になってからは割とたくさんで帰ることが多かったから、花丸と二人きりなのは新鮮な感じね。

 

「そう言えば、曲なかなか完成しないね」

「そうね。でも、今日は三人で泊まり込んで一気にやるんじゃないの?」

「え?そんなこと言ってたの?マルはそんな話を聞いてないけど」

「あっ……」

 

私は口にしてから気づいた。あの日常を何度も繰り返していたせいで、記憶がごちゃごちゃになっていたせいで、間違った記憶での言葉を口にしてしまった。今回のループではまだそんな話は挙がってないから、このタイミングで言うのはおかしかった。

 

「という予言よ。千歌達けっこう泊まり込みでやること多いからそろそろかなって。リリーとは隣同士のわけだし」

「なるほど。確かに、唐突にやりそうだね。よかった。マルにだけ聞かされてないのかと思っちゃった」

 

なんとか誤魔化せた。花丸が純粋だから助かったわね。今後は気を付けないと。

まぁ、この瞬間だけは油断していた。運命はその一瞬を狙ったかのように動き、私たちの前にそれは現れた。

 

「嘘……」

「なんでこんなところに……」

 

私たちは、この土地にはいないはずのそれを見て、言葉を溢す。夏休みのとある日に聞いた話では、あれはこの辺りにはいないって。

 

「花丸、逃げるわよ!」

「うん!」

 

私たちはすぐにそれから逃げるように走り出す。正直なところ、普通に逃げただけじゃ逃げ切れる気がしない。そういう相手。足が速ければ逃げれるとかのレベルでは無い。いや、曜と果南ならもしかするかもだけど。

 

「で、なんでこんなとこにいるのよ!」

「善子ちゃん、大声を出したらまずいずら」

「でも、大声を出せば周りに伝わって助かるかも」

「あっ、なるほど」

 

私たちは坂を下りながらそんな会話をする。

 

“熊”に追われながら。

 

なんでこんなところにいるのか謎なんだけど。ダイヤの話だと、この辺りだと熊のエサになるものが無いから生息してないんじゃなかったの?

 

「善子ちゃん!うっ……」

 

花丸の声と共に、私は背中を押されて倒れ込む。そして、花丸から苦悶の声が漏れる。

 

「花丸!」

 

私の身体に倒れ込むように倒れる花丸。花丸の背にはくっきりと熊に引っ掻かれた傷跡があり、そこから血が流れる。熊の攻撃から私をかばったせいで花丸は怪我をしてしまった。

熊はじりじりとにじり寄って来る。私は倒れ込んでいる花丸をおぶり歩き出す。

 

「善子、ちゃん?」

「なに?」

「マルは置いて逃げて。このままじゃ、善子ちゃんまで……」

「いやよ。絶対に見捨てたりはしないわよ!」

 

誰かの死を許容して過去に飛ぶなんてしたくない。まだ花丸を救える可能性はあるんだから!未然に防いでどうにかしてみせる!誰かの犠牲を許容しないって決めたんだから!だから、絶対に花丸を見捨てたりなんかしない!

しかし、怪我をした花丸をおぶった状態では速く歩くことはできない。このままでは、熊に二人とも襲われてしまう。

 

ガァァ!

「ッ!」

 

私は身をひねって熊の突進をギリギリ回避する。しかし、回避したことで私たちの進路上に熊は立つ形になり逃げることは不可能となった。

だから、私は一か八か賭けに出る。

 

「善子ちゃん?」

 

花丸を地面に降ろすと、鞄からある物を取り出す。古来から獣を相手にする際に一番多用されてきた物――それは火。だから、ライターを出すと火をつける。たかがライターの火では小さすぎて意味が無い。でも、大きくなればどうにかなる。

地面に転がっていた太めの木の枝と鞄から衣装の余りの布を取り出すと、巻き付けて火をつける。これによって松明(たいまつ)のように燃え上がる。

それによって熊は火に怯えて身を引く。効果は十分な様で熊が寄ってくる気配はない。木を使っているからあまり長時間は付けていられないけど……。

 

「花丸、行くわよ」

「うん」

 

花丸に肩を貸して、火を前にしながら歩き出す。熊は火に怯えているからこっちが近づけば下がっていく。坂を下り切れば人通りも増え始めるから、助けが来る確率も上がる。だから、せめてそこまでは行きたいところ。松明の火が消えるのが先か、たどり着くのが先か。

しかし、私たちは熊を甘く見ていたと思い知らされる。

 

「なっ!」

 

熊は火に恐れていたはずなのに、いきなり前足で地を蹴ると一気に距離を詰めてきた。さっきまで火に怯えていたのにこの変化に私たちは動きが遅れ……

 

プーー!

 

しかし、熊に襲われる直前に一台の軽トラがクラクションを鳴らしながらやってきた。その音に反応して熊は軽い身のこなしで後方に飛び、軽トラは私たちと熊の間に停車したことで熊は軽トラを警戒する。

 

「二人とも大丈夫!?てか、なんでこんなところに熊がいるのよ!?」

 

軽トラに乗っていたのは千歌のお姉さんの美渡さんで、窓から顔を出しながらそう言う。美渡さんが来てくれたおかげで助かった。

 

「って、怪我してるじゃない。急いで手当てしないと」

「お願いします」

 

私はドアを開けると花丸を助手席に座らせる。流石に椅子に血を付けるのは悪いから、間にローブを挟んでおく。そして、ドアを閉める。

 

「善子ちゃん?」

「二人乗りだから、私は乗れないからね。美渡さん、花丸のことお願いします」

「あんた、どうするつもりなの?熊相手じゃ走って逃げきれないわよ」

「大丈夫です。手はありますから」

 

私は二人に心配させないようにそう言うけど、二人とも私を置いていく気はさらさらないと思う。そうしているうちに熊が軽トラに体当たりをする。

 

「早く!」

「あー、もう!」

 

美渡さんは勢い良くアクセルを踏むと走り出す。これで、とりあえず二人への危険は無くなった。今回は花丸の身に危険が来たわけだから、花丸を危険から遠ざけるしかない。

さてと、見栄を張った訳だけど、どうやって切り抜けようかしら。

二人を送り出したのはいいけど、実のところ熊への対抗策なんてない。ああでも言わないと二人が行ってくれなさそうだし、花丸の傷は早く手当てしないとまずそうだったから仕方がなかった。

 

「流石に今回は水晶も輝かないわよね。土曜日じゃないし」

 

松明の火もだいぶ弱くなり始めているからどうしたものか。

海に飛び込む?いや、熊も泳げるだろうから厳しい。

走って逃げる?熊の方が速いから無理。

熊を倒す?そんな力なんてない。

完全に手詰まりね。はぁ、やっぱり荷台にでも飛び乗っておけばよかったかしら?

 

バッ!

「えっ!?」

 

すると、茂みの中からこげ茶色の物体が飛んで来て、熊の背中に当たる。何が飛んできたのかわからず警戒していると、それはずるずると熊の背から降りる。

 

「小熊?」

 

それは小さな熊だった。まるで、あの熊の子供のような。いや、やっぱりこの辺りに熊がいるのは謎だけど。

小熊は親熊にじゃれつくと、親熊は小熊の首元を噛んで背中に乗せると、四足歩行でのそのそと森の中に歩いて行った。私に対する興味が失せたかのように。

 

「ふぅ、よくわからないけど助かった?」

 

私は倒れ込むようにして地面に座る。あはは。やっぱり、熊は怖いわね。今になって足が震えてきたわ。

 

 

あの後、十千万に行くと、花丸は志満さんに手当てを受けて普通にしていた。背中をがっつり引っ掻かれたはずだけど、制服の下にカーディガンを着ていて普通の制服を着ている人よりも厚かったことで、傷は浅く済んだようだった。

あれなら数日で治るだろうから安心かしら。流石にずっと残るような傷だったら、私を庇った手前気まずい。いや、庇われて無くても心配はするけど。

 

「あっ、善子ちゃん。無事だったんだね」

「ええ。小熊があの後現れて助かったわ。たぶん、小熊を探していて、その途中で私たちを見かけて、小熊に何かしたとでも思ったみたいね」

「あー。だからマルたちを襲ったんだ」

「それにしても、どうしてあんなところに熊がいたのやら?一応、周辺の人たちには熊が出たことを伝えたから今日は皆気を付けると思うよ」

「二人とも危ないから帰りは送って行ってあげるわ」

「ありがとうございます」

「お願いします」

 

志満さんのありがたい提案に私たちはお礼を言ってお言葉に甘える。流石に帰り際にまた熊と会うのは嫌だし、次また無事に切り抜けられる保証もない。もしかしたら、この帰り際に花丸が襲われて命を落とす可能性もあるし、最大限できる限り安全を確保しておきたいわね。

 

「それじゃ、手当ても終わったし二人を送るわね。美渡ちゃんは花丸ちゃんの家に連絡しておいてちょうだい」

「了解。しま姉たちも気を付けてね」

 

そんなこんなで、花丸の手当てが完了すると旅館にあった車に乗せてもらい、私たちは家に無事帰ることができた。

結果として花丸はその日死ぬことは無く、誰も死ぬようなことは無かった。いや、誰も死なないのが一番だけど。もしかして、今回は運良く死なずに回避できたってことかしら?それとも、他の星座だと危険は迫るけど、死なないってこと?それとも偶然回避の選択肢を引き当てたってこと?

謎は深まるばかりだった。



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17 お見舞い

「はぁー。雨に濡れると体調を崩すのは変わらずなのよね」

 

その日、私は体調を崩して学校を休まないとまずい状況になっていた。

昨日は大雨+強風で傘は意味をなさずにずぶ濡れになったのが原因だと思う。でも、なんとか事故は回避することに成功したわけだし、良かったと言えば良かったけど

無理して学校に行こうと思ったけど、ママに見つかって泣く泣く断念。流石に行かせてもらえるとは思ってなかったけど、今日も誰かの身に危険が来るはずと考えれば、家でのんびりしている余裕はない。

だけど、こんな状態で学校に行った結果誰かに庇われて死んでしまう可能性もあるからどうしたものか。でも、家に居てもお見舞いに来た皆がエレベータで死ぬ可能性もあるのよね。

 

ヨハネ『風邪ひいたから、今日休むわね。風邪をうつしたら悪いから、お見舞いとかはいいからね』

チカ『えー。こういう時はお見舞いが定番でしょ!』

ヨウ『確かにそうだけど、これでうつっちゃえば善子ちゃんが責任を感じちゃうからやめとこ?』

リコ『ご飯はちゃんと食べなよ?そうしないと治る物も治らないから』

カナン『あとは、水分も取らないとね』

ダイヤ『それと睡眠はたくさんとってくださいね』

ヨハネ『了解よ』

 

みんな私の事を心配してくれているらしく、そんなことが返信されていく。釘を刺しておけば誰かがお見舞いに来ることは無い……はず。

何回も来てるから意味が無い気もするけど、こんな状態で外に出るよりはマシなはず。こっちに来たら階段で帰ってもらえば事故は防げてるし。

皆の気遣いに感謝しながらチャットを見て行けば、どんどん更新されていく。

 

ルビィ『お大事にね』

マル『早く治して、一緒に練習ずら!』

マリ『マリーたちは待ってるデース』

ヨハネ『こんな風邪一日で治してみせるわ!』

 

心配はあまりさせたくないからそうやって書いてから、少しは栄養を取ろうとフラフラした足取りでリビングに行く。ママは私を部屋に押し込んでから学校に行ったからもういない。

 

「うーん。ここは無難にプリンでいっか」

 

ママがパパッと準備したであろうおかゆの具材を横目に別の段にあったプリンを取り出す。おかゆはお昼の時に食べよっと。

 

『今日の十二位は獅子座のあなた!』

 

テレビをつければいつも通り、占いがやっていた。私の順位は七位と中途半端で、だからこそさして気にすることもなくそのまま占いが終わってからもニュースを見ながらプリンを食べる。

 

「さて、今日はもう誰も来ないからこのまま寝よーと」

 

食べ終えるとゴミを捨てて、部屋に戻って布団に潜る。明日からまた忙しくなるから、なるべく体調を良くしないとね。

あまり眠くは無いけど、ベッドに潜っていればきっと寝れるはず。

 

 

~☆~

 

 

ピロンッ

「ん?なんだろ?」

 

昼過ぎに目を覚まして、朝よりはだいぶ調子がマシになって来ていたから遅めのお昼を食べた。その後にまた寝ようと思って横になったのはいいけど、だいぶ寝たからあまり眠くなくてゲームをしていたら通知が来た。スタートボタンで一時停止させてアプリを起動させる。

 

チカ『私チカ。今マンションの下にいるの』

「ん?」

チカ『私チカ。今エレベータの中にいるの』

「へ?」

チカ『私チカ。今善子ちゃん家の部屋の前にいるの』

 

随時更新されていくチャット。千歌は何がしたいの?あと、お見舞いはいいって言ったはずなのに。

千歌がやっているのは『メリーさんの電話』と呼ばれる怖い話に似ている。電話が何度もかかって来て、徐々に近づくメリーさん。家の前まで来てドアを開けるとそこには誰もいなくて、もう一度電話が来て『私メリー。あなたの後ろにいるの』と言われて振り向いたら殺されるというお話だったかしら?オチは色々な種類があるけど。

でも、あれって普通電話でやる物なんじゃ?なんでチャットでやるのやら?

 

チカ『私チカ。今善子ちゃん家の部屋の前にいるの』

「うーん」

チカ『私チカ。今善子ちゃん家の部屋の前にいるの』

「どうした方がいいのかしら?あれの通りなら、ドアを開けたらアウトよね」

 

どうしたものかと悩んで特に返信すること無く放置してみる。千歌の筋書きだと私はどういう反応をするのやら?

最終更新から一分が経つ。

その間何も起こらない。家の前にいるのならインターフォンを鳴らせばいいんじゃないのかな?なんで鳴らさないのやら?

 

チカ『ドア開けてよぉ (´;ω;`)』

 

すると、千歌がそんなことを言う。

 

チカ『あれ?善子ちゃんがドアを開けてくれない……もしかして寝てるのかな?』

チカ『うーん。これじゃ、善子ちゃんが起きるまで待ってないとダメなのかなぁ』

チカ『よーしーこちゃん。あーそーぼー』

 

千歌は私が出てくるまで待つつもりのようだった。となると、いつまでも待たせるのもあれだし、行くかな?このまま帰るようなら帰ってもらおうと思ってたけど。

 

「あっ、もしかしたら倒れてて返事ができないかも!ドア開けないと!」

 

ドアの向こうで千歌がそんなことを言っており、

 

「非常事態だからピッキングして開けないと!」

「怖っ」

 

私は慌てて鍵を開けてドアを開ける。鍵の音で千歌は一歩引いたようでドアがぶつかることは無かった。

 

「あっ、善子ちゃん!」

「ピッキングは犯罪よ!」

「あはは。千歌にそんな技術は無いよ」

「で、なにしに来たの?」

 

ジト目で見れば千歌はハッとした表情をし、

 

「あっ。私チカ。善子ちゃんのお見舞いに来たの」

 

満面の笑みでそう言った。いや、だからなんでメリーさんのオマージュをしてる訳?

そんなことを思うけど、それより先に言いたいことがある。

 

「お見舞いの必要は無いって言ったわよね?」

「うん。でも、心配だったからね。入っていい?」

「どうぞ」

「お邪魔しまーす」

 

千歌を中に通すと、私の部屋に来てもらう。千歌の格好は制服ではなくて私服で、たぶんいったん家に帰ってから来たようだった。まあ、直で来てれば誰かも一緒だろうし……いや、リリーとかダイヤなら多分止めるか。曜とかルビィ辺りは流されて来かねないけど。

 

「で、普通来る?来なくていいって先に言ってあったのに」

「あはは。善子ちゃんが強がってるのかなぁって思って。それに、病気の時に一人だと寂しいものだからね」

「はいはい。それで、本当のところは?」

「作詞を急かす梨子ちゃんから逃げて来ました」

「いや、逃げちゃダメでしょ」

 

私のお見舞いに来たの半分、リリーから逃げて来たの半分という事実に私はツッコむ。流石に作詞作業から逃げるのはまずいんじゃ?

 

「どうせ思いつかない時にやっても全くできないもーん」

 

千歌は全く悪びれた様子もなくあっけらかんとした様子だった。これは後でリリーに怒られるオチね。

 

「それで、善子ちゃんはもしかしてさっきまで寝て……た訳ではなさそうだね」

 

千歌は部屋を見渡して、テレビの画面を見る。そこには寝るに寝れなくて暇つぶしに始めたゲームが映っている。

たくさんのキャラクターから選んで乱闘するゲーム。つけたらこれが入ってたから始めただけの理由。たぶん、他のが入ってればそれをやったと思う。

 

「善子ちゃん、チカもやるー」

「お見舞いに来たんじゃないの?」

「思ってたよりも善子ちゃんが元気そうだから安心しちゃった。それに、善子ちゃんだって千歌が来るまでやってたんでしょ?」

「まぁね。でも、長い事居たら千歌にうつしちゃうかも」

 

千歌にうつすことを心配してそう言うも、千歌はさして気にしていない様子だった。どうして千歌はそんな様子なのか疑問なんだけど。もしかして、千歌って風邪ひいたことが無い人とか?いや、もしそうだったら、千歌がよく自分を普通って言うけど、普通なんかじゃないと思うけど。

 

「ふっふっふ。チカにはこれがあるのだ!」

「みかん?」

 

千歌が鞄から取り出したのはみかんで、どうやらみかんを食べているから風邪をひかないとでも言いたいようだった。いや、風邪予防にはいいって言うけど、それで絶対に風邪を引かないって訳ではないと思う。

 

「みかんの力があればチカは風邪をひかないのだ!」

「そうなの?」

「うんうん。だから、一緒にやろ?こういうのは対戦の方が楽しいよ?」

 

千歌は首を傾げてそう言う。千歌の言うことはわかるけど、本当にいいのかわからず私は頷けない。しかし、私は千歌の誘いを無下にすることもできない。せっかくお見舞いにここまで来てくれた訳だし。

 

「わかったわ。でも、マスクは一応して。それが条件よ」

「わかった~。あっ、お見舞いに持って来たからあげるね」

 

机の上に置いていた予備のマスクを千歌に渡すと交換に鞄から取り出したいくつかの果物が渡される。その中にはちゃっかりみかんも交じっていた。私がみかん嫌いって知ってるわよね?一応、昔から食べてたせいで飽きたから嫌いってだけで食べられはするけど。

 

「よーし。曜ちゃんたちと時々やってた千歌の力をみせちゃうよぉ」

「はいはい」

 

やる気満々の千歌を見ながら私たちはキャラを選ぶ。私は天使の人(堕天ver)を選択し、千歌はピンクの悪魔を選択する。NPCはランダムでレベル九にしておく。一人でちょくちょくやってたからNPCは九くらいじゃないと歯ごたえが無いわね。千歌の実力は未知数だけど。

ステージは一番シンプルなステージの終点で、始まると同時に私は速攻でステージの端に寄る。そして、牽制射撃に矢を撃っていく。各々回避かガードをし、千歌はぷよぷよ浮いて近づいて来る。私はそこから矢の射線を動かして撃ち落としにかかるも意外と当たらなかった。

そして、真上に来ると石になって降ってくるのでガードをし、

 

「ちょっ!溜めないでぇ」

「問答無用!」

 

攻撃の溜めをする。その際にちゃっかりNPCの一体も溜めを始め、石から戻った直後に私は溜めを解除して攻撃をする。NPCの攻撃が一瞬遅かったことで二体とも攻撃がクリーンヒットして逆側に吹っ飛んで行く。流石にダメージが溜まってなかったからこれで撃破には至れなかった。その後、千歌は空中で攻撃を受けてたけど。

 

「もう怒った!千歌の本気を見るがいい!」

 

千歌はそう言って、ぷよぷよ浮くと空からまた石になって降ってきて、NPCに襲い掛かる。その間に私はもう一体を攻撃する。

で、ストック制だったからパパッとNPC二人を片付けた。流石に一機も落とさずには無理で、私も千歌も残り二機にはなっていた。

 

「さてと、ここからは一対一になったわね」

「ええ。アイテムも無しだから腕次第ね」

 

私は接近すると同時に二本の剣で攻撃し、千歌はそれを綺麗にガードしてカウンターをする。

曜たちとやっていたのは本当のようで、流石に簡単には押しきれなさそうね。でも、NPCと戦ってきたからにはどうにかなるでしょ。

そう思いながら冷静に対応していき……。

 

「ふぅ、ギリギリ勝てたわね」

「うぅ。勝てると思ったのに~」

 

割とギリギリで私は勝利を収めた。たぶん、千歌の強攻撃を喰らってれば私が負けていたかもしれないから、ほんとギリギリだったわね。

とりあえず、勝利に私は安堵すると、千歌はなんでかストーリーモードを開く。ほとんど終わってるからやる必要も無いと思うけど。

 

「善子ちゃん、ボスのフィギュア化全部できた?」

「ん?いや、一人プレイだとプレートを持ちながら体力を削るのが厳しいから全くしてないわね」

「そっか。じゃぁやろう!」

「ん?どうしたのよ急に」

 

千歌のイメージだとそういう収集系よりも対戦の方が好きだと思っていたから意外だった。そもそも、そう言う収集系って途中で飽きるからコンプした試しがないのよね。

 

「いいわよ。じゃぁ、順番にやりましょうか」

「うん」

 

そう言って始まったボスのフィギュア化。一人だと厳しいからありがたいっちゃありがたい所だけど、どうして急にやりたがったのかはわからないわね。

とりあえず、千歌の使うキャラにシールを付けてプレートを初期装備にしておく。

 

「じゃぁ、まずはこれからね。私がパパッと体力を削るから、千歌は必殺技とかで削ってちょうだい」

「わかった~。炎撃ってるね~」

 

最初の敵は籠を持った二足歩行の植物――ボス○ックン。こいつは動きが単調だからそんなに難しくないわね。私はピンクの悪魔、千歌は配管工の人を使う。

ボス戦が始まると同時に接近すると、強攻撃やスマッシュ技等を駆使してガンガン攻撃して体力を減らしていく。千歌は言った通り、攻撃を回避しながら炎を撃って地道に削って行く。

 

「千歌!」

「よし、きたー」

 

千歌に合図すると、千歌はプレートを敵の方に投げつける。プレートが敵にぶつかるとそのダメージで敵の体力が零になりフィギュアになる。てっきり何回かやらないとうまくいかないと思ってたけど割とあっさりとできたわね。

 

「やったね、善子ちゃん」

「ええ。一発でうまくいくとは思わなかったわ」

「あはは、だね。よーし、この調子でどんどん行くよぉ」

 

そんな感じで、順番にボスをフィギュア化させていく。時々ダメージがうまく残せなくて耐えたり、逆に削りすぎて倒したりすることもあったけど、一人でやるよりは明らかに良いペースだと思った。

 

「善子ちゃん。最近何か抱えたりしてない?」

 

マシンの上での大きな鳥――メカ○ドリー戦をしていると、何の脈絡もなしに千歌がそう言った。いきなりのことで何を言っているのか一瞬わからなかったけど、すぐに理解した。

千歌は最近の皆の死の回避のことを言っているのだと。私は常に気を配っていたし、誰かが死ねば絶対に変えてみせようと水晶に願っていた。千歌は普段はあれだけど、こういう人の機微には鋭いところがある。

まぁ、そんな感じだけど、それを千歌に言う気は無い。言えばリリーの二の舞になるだろうし。

 

「特に無いわよ。どうしたのよ、急に」

「最近、練習の合間とか帰りとかに時々疲れたような顔をしてたり、気を張ったような表情をしてることが多いなぁって思ってね。何か悩みがあるなら、こんな私だけど聞くよ?」

「悩みなんて……別にないわよ」

「あはは。まぁ、言いたくないならそれ以上は聞かないよ」

「千歌……」

「でも、これだけは忘れないでね。このゲームみたいに誰かと一緒ならなんとかなるかもしれない。私なら……ううん。私たちは善子ちゃんの味方だからね」

「そう……と、そろそろかしら?」

 

千歌の言葉はうれしい。でも、言う訳にはいかない。言えば千歌の身に危険が及ぶ。言わなくても今日の被害者が千歌の可能性が高いけど、だからと言う気も無い。もしかしたら言わなければ千歌の危険を回避できる可能性もあるのだから。

私は画面を見てボスのHPが残りわずかになったからそう言うと、千歌は画面に集中する。話を逸らした形になったけどこれでいい。

ループは私一人でどうにかしてみせる。

 

 

~☆~

 

 

「ん、んん~……あれ?」

 

なんだかんだでラスボスまでフィギュア化した後、急に眠くなってその後は……。

 

「あっ、寝落ちしたのか。ベッドの上ってことは千歌が運んでくれたのかしら?」

 

ベッドの上から周りを見回すも、千歌の姿はなく何処からかいい香りがする。時計を見れば七時を過ぎており、お腹が空く。私はベッドから立ち上がるとリビングの方に行く。もしかして、千歌がおかゆでも作ってるのかしら?

 

「あら、善子。起きたのね」

「ママ?あれ、千歌さんは?」

「私が帰って来るまで善子のそばに居て、善子の状態を言って帰ったわよ。なんだかんだで七時過ぎまでいてくれた訳だから、後でお礼の電話でもしなさいよ」

「え?」

「ちょっと、善子?」

 

ママの言葉を聞いて私は駆け出す。千歌が帰った?ってことは、エレベータが落ちたんじゃ?

そう思いながら玄関を出るも、エレベータは普通に動いていてちょうど稼働していた。

 

「あれ?エレベータが普通に動いてる」

「善子、そんな状態で外に出ないで大人しくしてなさい」

「あっ、うん」

 

千歌は何事も無く帰れたみたいで、私は気の抜けた返事をする。よくわからないけど、とりあえず千歌は無事ってことよね?

部屋に戻ってスマホを見れば皆からメッセージが来ていて、その中には千歌の物もあった。千歌は何事も無く家に帰れたみたいで、他の皆も事故とかに遭った様子はない。

 

「今日は何も無かったってこと?」

 

私は釈然としない気持ちを持つも、誰も死ななかったことに安堵する。誰も死なないことが一番よ。どうしてこうなのかはわからないけど、必ずしも誰かが死ぬって訳でもなさそうね。

 

「っと。忘れないうちに日記をつけとこ。夕飯まではまだ時間がありそうだし」



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18 変化

最初のループから何十回目かの土曜日。私は日記に書いていた今までの事故のことを確認して最大限の注意を払っていた。建設現場には近づかない、熊とかに出くわした際にすぐに火がつけられるようにしておくなどなど。そして、最後の手段に首にペンダントを付けて。

マンションまで着くと、階段で十階まで登って部屋に行く。いままで一度として部屋の中で死んだことは無いから、おそらくは部屋に入れれば死を回避できるはず。それでこのループを終わらせてみせる。

 

「ふぅ、何事も無くたどり着けた。まさか、いきなり床が抜けたりしないわよね?」

 

でも、最後まで気を抜けない訳で、玄関前まで着くとあり得そうなことを呟きながら鍵を取り出す。ドアの前に立っても床が抜けることは無く鍵穴に鍵を刺して鍵を開けると、ドアを開け――

 

ボンッ!

「きゃっ!」

 

中から突然爆発して私は爆風で吹き飛んだ。いきなりのことで私は受け身も取れず柵にぶつかって止まる。その際に背中を打ち付けたこと、爆風の影響で軽いやけどをしたことで全身に激痛が走る。どうしてこんなことが起きたのかわからず困惑していると、ガスの臭いがしていて、それでガス漏れしていてドアを開けた際の静電気で発火したようだった。柵が壊れて地面に落下してたかもしれないから柵が壊れなかったのは良かったけど、これで家にたどり着くのもままならなくなった。というか、家の中が安全だとも思えなくなってきたし……もうどうしたら。

激痛によって動けずじりじりと火の手は迫って来る。人がいれば爆発音で外に出てくるはずだけど、他の部屋は留守のようで誰も出てくる気配がない。だから、誰かの助けも期待できない。

激痛は一向に引く気配はなく、足に関しては打ち所が悪かったようで捻挫か打撲でもしたようでこの場から動くのも厳しそうだった。ドアが開いていることで火はどんどん強くなっており、早く手を打たないと他の部屋にまで火が移って被害が大きくなってしまう。

 

ボンッ!

「ゲホッ、ゲホッ」

 

ガスが出ている場所をどうにかしないと爆発は収まらなさそうで何度も爆発を繰り返している。どうやらリビングの窓は割れているようで向こうから風が入っているのか煙類は全部私の方に流れてくる。そのせいで身体に悪い空気しか吸えず、息は苦しい。身体が痛むせいで移動もできず、このままだと私は一酸化炭素中毒で死ぬ。

痛む身体を無理やり動かして、私は首元のペンダントを握り、

 

「我、願う。故に、我、乞う。みんなとの、日常、を!」

 

みんなと居る日常を願った。

 

 

~☆~

 

 

「戻ってこれた?」

 

気が付くと私は私の部屋のベッドの上に寝ていた。身体を起こすと、若干体が重く感じる。たぶん寝起きだから身体が重いだけだと思いながら辺りを見回す。火事があったのにその跡が一切ないから過去に戻ってこれたみたいね。

助かった安堵と共に、家に入ることもままならないから安全な場所なんてどこにもないのという絶望が込み上げる。

たどり着ければ越えられると思っていたのに、その直前であんなことになるなんて。本当にどうにかなるのかしら?外にいれば事故に遭う。家に帰れば爆発する。もう選択肢なんてどこにもないじゃない。でも……

 

「きっと道はあるはず」

 

諦めたりするもんか。今までだって皆の死は回避できたんだから、私の死の危機だって回避できるに決まってる。もう誰かの死を見たくない。今回こそは皆の死を乗り越えてみせる!

 

「善子ー、そろそろ起きなさい」

「起きてるわー」

 

返答して時計を見れば月曜日を表示していた。つまり、また一週間皆の死を回避しないといけない。はぁー、せめて土曜日の朝なら皆の死を見ないで済むのに。どうして、土曜日だけは今日に飛ぶのやら?やっぱり、私が死に直面するわけで皆とは微妙に状況が違うからかしら?私は死んでるわけじゃないし。

疑問は尽きないけど、その答えを知る術はないわけでどうしたものか。

重い身体で立ち上がると制服に着替えながら考え続ける。

わからないものはいくら考えてもわからないから、今はできることを。今日は誰の身に危険が迫るか。外は雨が降っていないから、土砂崩れとか視界不良による事故は起きないとみていい。でも、それだけでもいくらでも事故は考えられる。現にこのループの半数以上は晴れの日の事故が多いわけだし。

 

『今日の十二位は牡羊座のあなた!』

 

リビングに行くとちょうど占いがやっていた。牡羊座ねー。そう言えば初めて過去に飛んだのも月曜の曜の時だったわね。と言うことは、今日は曜の身に危険が迫るって訳ね。誰の身に危険が迫るかわかっているだけでもまだマシ。

一番避けたいのは誰も該当しない星座が来ること。あれだけはまだ謎が多すぎる。ただ怪我で済むのなら……いや怪我もして欲しくはないけど、ランダムで誰かの可能性もまだ捨てきれない。

 

「おはよう、ママ」

「おはよう、善子……って、具合でも悪いの?」

「え?どうして?」

「いや、なんだか表情が暗いから」

「別に具合は平気よ」

 

キッチンで食べ終えた皿を洗っている状態のママに言われて返答をすると朝ご飯を食べ始める。なんか前にもこんなやり取りをした気もするけど、何度も繰り返してるから似たこともあるわよね。

それにしても寝起きにしてはやっぱり体が重い。もしかして、寝起きは関係ない?病気とかじゃなければいいけど。いや、今まで風邪ひくのは明後日だからたぶん違うわよね。

 

「そう?ならいいけど。っと、私はもう行くから戸締りよろしくね」

「はーい」

 

時計を見てママは鞄を持ってそそくさと出て行った。

朝ごはんを食べ終えると、パパッと皿を洗って荷物を纏めると家を出るとちょうど来たバスに乗る。今日もまた朝練があるから遅刻をする訳にはいかない。できれば朝練とかは今週はお休みになってくれると危険回避も……いや、変わらないか。朝は一度も事故が起きてないし。あれ?

 

「うーん。どの日も放課後に起きてる……」

 

スマホの日記を見て行けば、どの日も放課後に事故が起きていた。朝の時間帯に一度でもあればはっきりとは言えないけど、百回近くある全てが放課後ってことは事故が起こるのは放課後に絞れるじゃない。どうして気づかなかったんだろ?

 

「善子ちゃん、おはヨーソロー」

「……」

「善子ちゃーん?」

「あっ、おはよ」

 

他に何かないかと見ていたことで、曜の挨拶にも気づかなかった。曜が私とスマホの間を手で遮ったから気付いた。

 

「考え事?」

「えーと、ちょっとネットニュースを見ててね」

「なるほどね。善子ちゃん」

「ヨハネ!」

「あはは。次の衣装の良い案無い?」

「堕天使のような漆黒の衣装かしら?」

「堕天使はちょっと……。前みたいにダイヤさんに“破廉恥ですわ!”って言われちゃうよ?」

「じゃっ、布面積を増やせばいいんじゃないの?」

 

曜とのこのやり取りも前にやった気がする。どうしてこんなにデジャヴるんだろ?それとも記憶がごちゃってるだけで前にやったのかしら?流石にどんな会話を誰としたかまでは書いていないからわからない。こんなことなら書いておけばよかったかしら?会話の内容からもしかしたら今までの事故と一致する可能性もあるだろうし。

 

「それなら確かに言われないかもしれないけど、せっかく入学してくる子に聴いてもらうんだし、明るい衣装の方が良くない?」

「そう?まっ、衣装のイメージは曲が完成しないことにはだけど」

「それに関しては私たちにはどうにもできないよね」

 

はっきり言って、作詞作曲を担当している二人が曲をおおかた作らないことにはどうにもならない。マリーたち三年生三人でやってた頃に作曲を担当していたマリーと作詞を担当していた果南、本をたくさん読んでることで語彙が多い花丸も一緒になってやってはいるけど、いかんせん進捗状況は悪い。

イメージを先に決めるという案もあったけど、そのイメージが固まらないのが現状。時間的には今週中には衣装製作に着手しないといけない。最悪、一回目の時と同じ衣装というのも手ではあるけど。

 

「ルビィちゃん、花丸ちゃん。おはヨーソロー」

「おはようございます。曜ちゃん、善子ちゃん」

「おはよう。曜ちゃん、善子ちゃん」

「おはよう。二人とも」

 

部室に着くとそこにはルビィと花丸の二人が着替えていた。話を聞けば千歌を除く四人はダイヤとマリーの仕事を手伝っているだとか。

とりあえず、私たちも着替えていると千歌がやってきた。

で、千歌も着替えて全員着替え終えるとちょうど四人が戻って来た。

 

「皆さん、おはようございます。さて、全員そろったことですし練習を始めましょうか」

「だね」

「承知」

 

 

~☆~

 

 

「1,2,3,4。1,2,3,4」

 

朝練と授業を終えた放課後。私たちは屋上で練習していた。屋上での転落事故は何度も起きているから、本当は屋上で練習したくない。でも、理由を伝えることもできないから止めることもできない。言えばおそらく転落事故が本当に起きてしまう気がする。

そんなわけで今に至る。

誰かが転落しそうになったらすぐに動けるように周囲に注意していた。このステップ練習はもう何十回もやってるから身体に染みついている。だから、多少周囲を見てても問題は無い。

一つ問題があるとすれば、身体が重い。朝練の時は割となんとかなってたけど、時間が経つにつれてひどくなっている気がする。普通に生活する分には問題ないかもだけど、運動するのはきついかも。でも、下手に心配をかけたくない訳で無理をする。私がここを離れたせいで誰かの死を回避できなかったら嫌。だから、回避するまでは離れる訳にはいかない。

 

「あと1セットやったら休憩しよっか」

「うん」

「OKよ」

 

今のところ問題は起きていない。でも、油断はできない。気を抜いた瞬間事故は起きたことが何度もあるから。

 

「うん、皆いい感じ。休憩しよっか」

「やったぁー、休憩だぁ」

「みんな水分補給はしてね」

「うゅ」

「善子ちゃん大丈夫?」

「ん?ええ、問題ないわよ」

 

無言で鞄から水筒を取れば、花丸にそんなことを言われた。もしかして、私の体調が微妙なのばれてる?

 

「そっか。ならいいんだけど、今日の善子ちゃん少し顔色が悪い気がして」

「気のせいでしょ?ちょっと疲れたからそう見えるだけよ」

 

確信してる訳ではなさそうだからそう言えば花丸は納得したような表情をして水を飲み始める。

隣で私も座って飲む。

花丸に気付かれかけたってことは、このままだと皆にもばれかねないわね。流石にばれれば保健室に連れて行かれるだろうし、どうにか練習が終わるまではばれないようにしないと。

 

「では、休憩もほどほどに再開しましょうか」

「はーい」

「はい」

 

十分くらい休憩した後、練習が再開される。できればもう少し休憩したかったところだけど。

 

「え?」

 

水筒を鞄にしまって立ち上がると、視界がくらっとし、身体がふらつく。

 

「善子ちゃん!?」

「よっちゃん!?」

 

そして、皆の声が聞こえながら私は視界が真っ暗になった。

 

 

~☆~

 

 

「ん、んん~」

「あっ、起きた。鞠莉ちゃん、善子ちゃん起きたよー」

 

気が付くと私はベッドに寝ていたらしく、私の声で千歌がのぞき込む。

辺りを見渡せば、白いカーテンで囲われており、保健室にいるみたいだった。

千歌の声でカーテンが開くと、マリーが顔を出す。

 

「気分はどう?」

「うーん。普通」

「そう。見た感じ、何処かを打ち付けた様子もないし問題なさそうね」

「びっくりしたんだよ。いきなり倒れるから」

 

二人から話を聞くと、あの後気を失った私をここに運んでくれたみたいで、皆に心配をかけたみたいだった。やっぱ、あんな状態でやり続けるのは無茶だったか。どうして、こうなったのやら?

 

「悪かったわね。えーと、みんなは?」

「みんなは先に帰したわ。こんな時間まで居てもらうのはまずいしね」

「で、私たちだけ残ったんだよ」

 

時計を見れば七時を過ぎており、外はだいぶ暗くなっていた。というか、終バスが終わってる……。

あっ、というか、今日は曜の身に危険が迫るはずでこんな時間。曜が事故に……。

 

「さて、善子ちゃんも起きたことだし帰ろっか。歩けそう?」

「あっ、うん……って、そんなことより」

「Oh。善子が目を覚ましたって連絡したらみんなすぐに反応してるわ。返事しちゃってちょうだい。その方がみんなも安心だろうし」

「あっ、うん」

 

曜が事故に遭ってないか聞こうと思ったけど、タイミングを逃した。でも、二人がいつも通りってことはまだ事故に遭ってないってことかしら?

マリーに言われた通りチャットを見れば、皆から反応があり、一分前には曜からもあった。

良かった。曜は無事みたいね。

とりあえず、私もチャットをすると、皆からすぐさま返信が来た。みんなすぐに返信できるって……いや、うれしいけど。

 

「さぁ。パパッと準備して」

「わかったわ。てか、どうやって私は帰ればいいの?二人はまだ歩いて帰れなくもない距離だけど、私は厳しいような?」

「もちろん、手は打ってあるわよ。少し歩いてもらうけどね」

「うんうん」

 

私の疑問にはマリーはそう言い、千歌がうなずく。その瞬間嫌な予感がしたんだけど。

 

 

~☆~

 

 

千歌の家まで連れていかれ、すでに連絡していたのか美渡さんに私たちは送ってもらった。最初は悪いと思って断ろうとしたけど、時間も時間だし、体調が不調だったからとご厚意に甘えることになった。

で、なんだかんだで夕食を食べてお風呂に入って、色々しているうちに日をまたいだ。

 

日付が変わるまでに何かあるかもと思ってたけど、何も起こらなかった。正確には駅前の方で車が建物に突っ込んだらしいけど、曜はその場にいなかったらしくて事故に遭わずに済んだらしい。うーん。てっきり今日は曜が事故に遭うと思ってたけど。起こらないのが一番いいから結果的には良かったけど、毎回のように事故が起きてたからなんと言うか違和感。

あったのは私の体調不良だけだし。もしかして、もう事故が起こらないとか?だったらいいんだけど。まっ、楽観視もよくないわね。

 

「今日が偶然だっただけかもだし、明日も頑張らないと」



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19 疑念

この話暗い方だから明るい話が書きたくなる。その結果が約一時間前のあれですが。


「うぅ、頭痛い……」

「見た感じ疲労が溜まってたみたいね。学校には連絡しておくから大人しくしてなさい」

 

翌日。昨日の体調の悪さが悪化して私は熱を出して寝込んでいた。昨日あんな状態だったから日付が変わるまで起きてればこうなる可能性はあったけど、まさか本当に悪化するとは。不幸だわ。

本当のところは行きたいけど、こんな状態で行っても誰かの死を回避することが出来る気がしない。逆に私を庇う形で誰かが死んじゃう可能性だってある。

 

「はーい」

「それじゃ、私は仕事に行くから。お昼は冷蔵庫に入れてるからレンジでチンしてね」

「うん。わかった。いってらっしゃい」

「ええ。いってきます」

 

だから、今は体調を戻すことを専決にしないと。今日中に治して明日から復帰する。それがたぶん最善なはず。

ママはそう言って家を出て、家には私一人になる。

喉が渇いたから重い体を起こしてキッチンまで行き、冷蔵庫からお茶と少しは食べとこうとプリンを取り出す。で、無音はあれだからテレビをつけると椅子に座る。

テレビはちょうど天気予報をやっており、今日は一日中雨のようだった。それを眺めながら、プリンを食べていると占いコーナーに変わる。

 

『今日の十二位は……魚座のあなた。足元に注意かも』

「魚座って花丸じゃない」

 

今日の最下位が魚座ってことは花丸の身に危険が迫るかも。やっぱり、学校に行った方が……ううん。今日行ったところで今の私の状態じゃ何もできないか。

今の私に出来るのは無事を祈ることくらい。どんな事故が起こるのかわかってれば、最悪それに気を付けるように伝えることが出来るけど、生憎とどんな事故が起こるかわからない。今まであった事故か、はたまた初めてのタイプの事故か。

 

「はぁー。完全に手詰まりじゃない」

ピロンッ

「ん?」

 

スマホに通知が来て、それを見ると朝練が中止の連絡だった。火曜日は毎回天気が荒れて朝練が中止になっているからさして驚きはない。となると放課後の練習も早めに切り上げになるのかしら?

土砂崩れからのバスの転倒、海に水没、視界不良からのスピンしてきた交通事故などなど色々なことが火曜日には起きている。比較的土砂崩れが起きている比率は高いから、今回も土砂崩れが起こる確率は高い。でも、土砂崩れに気を付けてと言うのも変に思われそう。

 

ヨハネ『わかったわ。それと体調崩したから今日は休むわ』

ダイヤ『悪化してしまいましたか。わかりましたわ。善子さんは安静にして療養してくださいね』

リコ『暇だからってゲームしたりしないで寝てなよ』

ヨハネ『流石におとなしくしてるわよ』

マル『と言いつつやってそう』

チカ『流石にないでしょ?それよりも放課後にお見舞い行かないと』

マリ『Oh.それはいいわね』

ヨハネ『お見舞いは来なくていいわ。うつしちゃったら悪いし』

ルビィ『確かにうつっちゃう可能性もあるね』

ヨウ『了解であります』

カナン『じゃっ、早く治して復帰してね。待ってるから』

ヨハネ『みんなも気を付けなさいよ。天気予報だと一日中豪雨っぽいから』

 

とりあえず来ないように言ったけど、果たして本当に来ないか。割と誰かしら来ちゃうのよね。これに関してはどうにもならないか。

一応みんなにそれとなく注意はできたけど、土砂崩れって注意して避けられるようなものではないわよね

 

 

「誰も来なかったし、花丸たちが事故に遭ったって連絡も無かったわね」

 

夜。私は部屋で一人スマホの画面を眺めながら呟く。結局、先に釘を刺していたからか誰かがお見舞いに来ることは無かった。代わりに大量のメッセージがチャット内に投下されたけど。

マリーと千歌は授業合間の休憩の度にメッセージを飛ばしてきたし、他の皆は二人に比べれば少ないけど、それなりの量にはなった。絶対二人はそれぞれリリーとダイヤに何かしら言われてそうだけど。でも、気にかけてくれるのはうれしかったかしら。

でもそのおかげで皆の状況も割とわかった。と言っても授業のある時間帯は基本的に寝ていたから見れたのはお昼時と放課後辺りだけど。放課後辺りからはあまり眠くなくて、ベッドの上で本を読みながら時々来るメッセージを見ていた。そう言う訳で、花丸が事故に遭わずに無事だということはわかった。でも、十九時頃に道の木が倒れただとかで一時的に通行止めになっているだとか。雨が弱まったら近くの人たちで撤去するらしいけど。

 

「今日も何事も無く終わった。やっぱり、もう死の運命は終わったってことなのかしら?」

 

昨日に引き続き、誰も事故に遭わなかったことが気になる。事故に遭わない方がいいけど、何十回も繰り返してきたのに急に誰かが死ぬ自体が無くなったことで逆に落ち着かない。偶然なのか、それとも別の何かが起きて回避されているのか。

今のところ起きている変化と言えば、私が昨日倒れたことと今日体調を崩して一日早く休んだことくらい。もしかして、私の身に起きている変化と何かあるのかしら?でも、それがみんなと関係するとは思えないけど。

 

「はぁー。考えてもわからないわね。もう寝て明日に備えよ」

 

 

~☆~

 

ヨハネ『治らなかったわ(キッパリ)』

マル『なんでそんなに堂々としてるの?』

リコ『やっぱり……』

マリ『そんな気はしてたわ』

ヨハネ『なんでよ!』

 

翌日。私は体調が回復せず休む連絡をした。具合が悪いのに日が変わるまで起きてたせいかしら?でも、花丸が事故に遭う可能性があった訳だから起きている必要はあった。花丸が事故に遭って日をまたいだ場合、どっちの日付に飛ぶかわからないから。

もし、事故の翌日、要するに願った日の朝にしか戻れなかったらやり直せなくなる可能性もある。最悪、土曜日に過去に飛んで月曜日にリセットもあるけど、今回のループは異常だから過去に飛べる保証もない。それに、私は土曜日を乗り越えたいわけだし。

あと、みんなの反応辛辣じゃない?

 

ダイヤ『まぁ、治ってないのはしかたがないですし、今日も安静にしていてくださいね』

ヨハネ『ええ、わかってるわ。うつすと悪いからお見舞いは来なくていいからね』

カナン『了解。じゃっ、お大事に』

 

早々にチャットを切り上げると、ベッドから出てリビングに行く。ママはもう学校の方に行っているから私一人。別に誰もいないから私が学校に行っても誰かに止められることは無いけど、足元はふらつくし止めとこ。それこそ事故のもとになりそうだし。

 

「何かないかなぁ」

 

冷蔵庫の中をのぞきながら軽く食べれるものが無いか探す。中には私の具合が治らないことを見越していたのかヨーグルトやらプリンやらが入っていた。ありがたいけどなんだか複雑な気分。まぁ、いいや。

ヨーグルトを手に取ってテレビをつけると食べ始める。

 

『十二位は双子座のあなた』

「……マリーの星座ね」

 

今日の最下位がマリーの星座だからマリーの身に危険が迫るってことよね?二日間は何も無かったけど、今日が大丈夫って訳でもない。水曜日だと、エレベータの転落、階段の崩落、マンションに車が突っ込んでくるとかで大体私のお見舞いに来た帰りに起きてるのよね。となると、お見舞いに誰も来なければ事故はほぼ防げるはず。

今日も来なくていいことはさっき伝えたから平気よね?

 

 

ピンポーン

「ん?なんだろ?」

 

夕方。だいぶ寝たからか眠気が無くてベッドの上で本を読んで安静にしているとインターフォンが鳴った。通販で頼んでいた物が来たのかもと思いながら、でも特に頼んだ覚えもなくインターフォンの画面を見れば、そこには宅配業者の人ではなく、

 

「なんで、二人がいる訳?」

 

リリーとマリーが映っていた。

なんで二人がここに?来なくていいって言ったはずなのに。どうしよ。居留守?寝てたことにすれば帰るかしら?でも、わざわざここまで来たのに追い返すのも……。

 

『善子出てこないわね』

『寝てるのかな?』

 

どうしたものか悩みながら、外の音だけ聞こえるモードで二人の会話を聞く。もしかしたら二人が来た理由が分かるかもだし。

 

『あるいは倒れてる?』

『え?』

『例えばよ』

『あっ、そうだよね……』

 

聞いていれば、なんでか私が倒れているかもという話になる。いや、倒れてないから。勝手に倒さないで。

 

『よっちゃんを助けないと!』

『あれ?梨子?』

 

なんかまずそうな雰囲気。てか、私が倒れているかもと言う流れに既視感が……。

 

「非常事態だからピッキングして開けないと!」

 

あっ、いつしかのお見舞いに来た時の千歌だ。あの時も私が倒れてるかもとか予想してピッキングしようとしてたし。

 

『梨子、ピッキングはダメよ!』

『このままじゃ、よっちゃんが……』

「勝手に人を倒さないでちょうだい」

 

錯乱しているリリーに、それを抑えるマリー。人の家の前であんまり騒がれるのは迷惑よね。だから、インターフォン越しで声をかける。

すると私の声で二人の動きがピタッと止まり、レンズを二人して見る。

 

『あっ、よっちゃん』

『Hello、善子』

「で、何しに来たの?」

『お見舞いデース』

「来なくていいって伝えたはずだけど?まっ、入って」

 

来てしまったものは仕方ないし、二人を部屋に上げる。そもそもここまで来た時点で、今から帰った所で事故は避けられないだろうし。だから、少しでも時間をかけてどうにかする方法を考えないと。でも、今回はエレベータか階段か。どっちだと事故が起きないんだろ?

 

「「お邪魔します」」

「いらっしゃい」

 

二人を私の部屋に入ると、私はベッドに腰かけ、リリーは私の隣、マリーは椅子に座る。

 

「はい。今日のプリントと授業のノートだよ」

「ありがと。で、どうして二人なの?これ渡すのなら花丸たちでよくない?」

 

リリーが鞄から何枚か紙を取り出し、私に手渡す。それは学校からの連絡プリントと授業ノートで、おそらくは花丸たちから渡されたようだった。でも、花丸たちがリリーたちに託す理由が分からない。

 

「もしかして二人の身に何か?」

「ううん。全員でお見舞いに行くのはお邪魔かなってことで二、三人で行くことのになってじゃんけんしたら、私と鞠莉ちゃんが負けて」

「負けた人が来るってバツゲームか何かなの?」

「そう言う訳じゃないわ。勝った人だとありきたりだからって理由よ」

「また紛らわしいことを」

 

一瞬みんな本当は来たくないけどプリントを渡さないといけないから仕方なく来たのかと思っちゃった。ただ単になんとなくそうなっただけなのだと分かって安心……って、今日は事故が起こるかもだから安心できないじゃない。

 

「あっ、そうだ。お見舞いの品よ」

 

マリーがそう言って鞄からフルーツの入ったバスケットを取り出す。この光景にデジャヴを感じる。鞄のサイズより大きく見えるのは気のせい?

 

「どうやって鞄に入れてたの?」

「シャイニー!」

「答える気ないのね」

 

それから少し話をすると「病人なのだから寝ないと」と言われベッドに寝かされる。でも、朝から割と寝てたから眠れる気がしない。それに、このまま帰したら二人が事故に遭っちゃう。

 

「よっちゃん、寝ないと治る物も治らないよ」

「でも眠くないし」

「よしよし」

 

リリーになんでか頭を撫でられる。なんか子ども扱いされてる気がするんだけど。

でも、撫でられるとなんだか落ち着く。すると、さっきまでは眠くなかったのに急に眠気が。ううん。寝る訳にはいかない。でも、落ち着く……。

 

 

~☆~

 

 

 

「ん、ん~」

 

気が付くと私は寝ていた。

部屋は暗くなっており、部屋の中には私以外の人の気配が無い。

 

「って、私寝ちゃった!?」

 

寝ぼけてたから反応が遅れたけど、二人がいない。普通に考えれば寝ている間に帰った。でも、今日は事故が起こる可能性があった訳でちゃんと見送ろうと考えてたのに。

 

「事故は起きていないみたいね」

 

ベッドの上で状況を確認する。仮に事故が起きていれば救急車のサイレンの音が響いていただろうし、寝ていれば流石に音で起きる。でも、そんな音が響いた様子はないし、寝ていて聞き逃したとは思えない。

スマホを見れば、

 

チカ『善子ちゃんどう?』

マリ『ちょうど寝た所よ。見た感じ安静にしてれば明日には学校に来れそう』

ルビィ『良かった。じゃぁ、明日には善子ちゃんに会えるね』

 

みたいな感じでチャットに書かれていた。その後にもちょくちょく更新されていて、二人はもちろん誰も事故に遭った様子はなかった。

事故に遭わずに済んだのなら良かった。

けど、どうして事故が急に起こらなくなったんだろ?三日連続で何も起こらないってことは、単純にもう起こらなくなっただけならいいけど、また起こる可能性も無きにしも非ず。気を緩めて明日急に起こる可能性もあるし、明日以降も警戒を緩めないでおこ。

とりあえず、夕飯まではまだ時間が少しあるし、今のうちに今日の分を途中まで書いとこ。今日はほとんど寝てたけど、どうかこうかしら?いつも寝てる時はどう書いてたっけ?

どう書いたものかと悩んで、少し前の日記を見返していく。そして、

 

「あれ?この日と今日って似てる……まさかね」

 

一個気になることが生まれたけど、それはきっと偶然だと思い私は日記を閉じた。



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20 確信

もうちょいで書き終わりそうなのでペースを上げようかと思い投稿です。


「ふぅ。この体温なら問題なさそうね。頭痛もないし」

 

翌朝、熱を測ると平熱に戻っていて怠さも頭痛もなく、学校に行けそうだった。残念ながら外は雨が降っているけど。制服に着替えるとリビングに行く。ママはちょうど家を出るところだったみたいで鞄を持っていた。

 

「おはよう、善子。ちゃんと治ったようね」

「おはよ、ママ。治ったから今日から学校に行っていいよね?」

「ええ。治ったのならね。前までは登校拒否してたのに学校に行きたがるなんて」

「いいでしょ!」

「マスクはちゃんとしておきなさいよ。じゃ、私は行くわね」

「いってらしゃーい」

 

ママを見送ると、机に置かれた朝ごはんを食べ始める。というか、私が治っているのを見ずにわかってたのかな?朝ごはんが普通に用意されてるし。

 

『今日の十二位は山羊座のあなた。頭上に注意です』

 

朝の占いの最下位は山羊座で、ダイヤの星座。いつも通りなら今日はダイヤの身に危険が迫るはず。ここ三日間は誰にも危険が迫ったりしなかったけど。あった変化は一日早く私が体調を崩したことくらい。

果たして今日はどうなることやら?まぁ、事故が起こるのなら回避するだけだけど。

朝ごはんを食べ終えると食器を片付けて鞄を取りに部屋に戻る。昨日のうちに教科書類は鞄の中に入れてあるから、それを持つと机の上に置いておいたペンダントを手に取り首にかけると家を出た。

昨日事故が起きてないとあの時は思ってたけど、なんでも一階にいた人がボタンを押したらいきなりエレベータが落下してきただとか。怪我した人はいなかったから救急車も来なかっただとか。そう言う訳で、エレベータが使えないから階段で一階に降りると、少し歩いてちょうど来たバスに乗る。

少し揺られると曜が普段使うバス停で止まり曜が乗り込んでくる。曜に挨拶をすると、たわいのない話をして過ごした。

 

「おはよ。曜、善子ちゃん」

「果南ちゃん、おはヨーソロー」

「おはよ」

 

その後もバスに揺られていると、淡島前で果南が乗り、私たちは普段から後ろの方に座ってるから迷いなく私たちの方にやって来って挨拶する。このバス停はマリーも使ってるはずだけど、マリーはいなかった。

 

「あれ?鞠莉ちゃんは?」

「理事長の仕事で先行くってさ」

「そうなの?私の風邪をうつしたって訳じゃないならいいけど」

 

マリーの姿が見えないから、もしかしてうつしたかもと思ったけどどうやら違うらしい。よくよく考えればループ中で誰かが病気になったことは無かったから、その心配はいらないのかもしれないけど。

 

 

~☆~

 

 

 

「よっちゃん、この書類を“片付けてね☆BOX”に入れておいて」

「ん、了解」

「それにしても、結構書類多いね」

「まぁ、廃校の危機が迫ってるからね」

 

放課後、私は生徒会室でリリーとルビィ、花丸と一緒に作業をしていた。本来なら練習するはずだったけど、外は雨だし生徒会の仕事もけっこう残っているから手伝うことになった。ダイヤ、果南、千歌、曜の四人は色々な物がしまわれている倉庫の整理に行っている。マリーはあいかわらず理事長の仕事で理事長室に行っている。

ずっと前の時は、私は倉庫整理だったし、千歌はいなかった気がするけど、完全に同じとは限らないからこういうこともあるはず。ダイヤの身に危険が迫るかもしれないから倉庫の整理の方に行きたかったけど、病み上がりだからか書類整理の方をやることになった。さて、どうしよう。予想だと倉庫の崩落が起こる気がする。今回のループは最初の時と同じような事が起きている。誰かが死ぬ自体は今のところ起きてないけど、事故の原因となることは度々起きていたし。車の衝突、木の横転、エレベータの転落の三つ。

だから、あのループの木曜日と同じなら今日は倉庫が崩落するはず。で、ダイヤがそれに巻き込まれる。

予想の域を出ないけど、一番可能性が高いと思う。

 

「こっちに四人も必要なさそうだし、私もやっぱりあっち行った方が良くないかしら?」

「でも、お姉ちゃんは四人で十分って言ってたし」

「こっちもけっこうな量だし早く終わったら手伝いに行こ?」

 

できるだけダイヤの近くにいた方がいい気がしてそう言うも、三人はこのままでいいと考えているようで四人で作業を継続することになってしまった。うまくいかないわね。こうしているうちにもダイヤの身に危険が迫りつつあるって言うのに。

こうなると取れる手段は書類整理をさっさか終らせて、倉庫の方に手伝いに行くしかないか。自分の仕事はちゃんとこなしておかないと後でダイヤに文句を言われそうだし。

 

 

~☆~

 

 

「こんなところかしら?」

「だいぶ綺麗になったね。書類の量がすごいけど」

「そうだね。流石にサインはできないから後はお姉ちゃんに任せることになっちゃったね」

「仕方ないずら。マルたちじゃダメだろうし。みんなの方に手伝いに行こ?」

「うゅ」

「そうだね――」

ドンガラガッシャーン!

「わっ!何の音!?」

「まさか……」

 

書類整理がなんだかんだで終わり、一息ついていざ四人の居る倉庫の方に行こうとすると、何処からか大きな音が響く。三人はその音に反応して不安がる。私は音の正体が崩落音なのだと察し、急いで倉庫の方に走る。三人は私が走ったから少し遅れてではあるけど追いかけてくる。

 

「これって」

 

倉庫の前に着くと、倉庫は完全に壊れていて悲惨な有様だった。倉庫の天井は地面に落ちて砕け、壁も倒れていて倉庫内に人がいれば重症か死んでいるはず。間に合わなかった……やっぱり、途中でもこっちに来て危険かもと言って止めておけばよかった……。

音を聞きつけて校舎内にいた生徒やリリーたちもやって来ると、その光景に言葉を失う。

 

「待って、千歌ちゃんたちここで作業してたよね?」

「もしかして……」

 

ここで作業していたことを知っている三人も同じことに至ったのかそう漏らす。

私は信じたくなくてのろのろとした足取りで倉庫の残骸の方に踏み出し、

 

「わー。倉庫がぺちゃんこだ」

「すんごい音だったね」

「まぁ、結構ギシギシ言ってたしね」

「はぁー。整理したのが無駄になりましたね」

 

後ろから聞こえてきた聞き覚えのありすぎる声に足を止めた。声のした方を見れば、崩落に巻き込まれたものだと思っていた四人がそこにいた。

 

「良かった。無事だったんだ」

「ええ。関係ない物がたくさんあったので四人で運んでいました」

「まっ、二人ずつに分かれて別の倉庫に運んでたんだけどね」

 

四人が無事だったのはそういう訳だった。そう言えば、あの時も曜は運びに行ってて事故に遭わなかったんだっけ。

 

 

夜。結局その後は特に事故が起こるようなことは無く普通に時間が経った。マリーは面倒ごとが増えてげんなりしてたけど。

てっきり、今回こそ水晶の力を使う事態だと思ったけど、使わずに済んだ。それはいいんだけど、本当にどうなってるんだろ?これで四日連続死傷者なし。普通に考えればいいことだけど、今までのを考えると素直に喜べない。もしかしたら明日全員に危険が迫る可能性も。いわゆる嵐の前の静けさ的な奴かも。

 

「それか……」

 

あるいは昨日から考えている“ある可能性”を思案する。もしそうなら……。

 

 

~☆~

 

 

「1,2,3,4、1,2,3,4……うん、いい感じ。じゃっ、休憩しよっか」

 

翌日。朝練、授業を終え、私たちは沼津で練習をしていた。朝見た占いは最下位が獅子座だったから、千歌の身に危険が迫ると見ていいはず。この四日間で一週目の時の事故の原因となることは起きてたから、今日起こる事故は屋上からの転落のはず。つまるところ、屋上にさえ行かなければ事故は起こりえない。

そういうわけだから、屋上に誰かがいこうとしてもそれを止めればいいはず。平気よね?急に不安になってきたんだけど。

鞄から飲み物を取り出すと、皆も同様に飲み物を飲んだり、この後どうするか話したりし始める。

 

「千歌ちゃん!練習終わったら千歌ちゃん家に泊まって歌詞詰め込むからね!」

「やったー、梨子ちゃんとお泊りだー。あっ、曜ちゃんも来ない?」

「ちょっと、待ってね。ママに確認するから」

「千歌ちゃん!遊ぶわけじゃないよ!」

 

「この後はどうしましょうか?」

「新曲はまだだし、今は次の説明会でやる他の曲の練習すべきでしょ?」

「それか、基礎体力を上げるかかな?」

「どっちかしかありませんか」

 

「ふぅ、(もぐもぐ)疲れたずら~」

「花丸ちゃん。何処からのっぽパン出したの?」

「持ってきてたんだよ」

「どんだけ食べるのよ……と、手洗いに行って来るわ」

「いってらしゃーい」

 

そんな話をそれぞれしていて、私はそう言って部屋を出る。

 

「さて、どうしたものかしら」

 

手洗いを済ませて、ハンカチで手を拭いてからスマホの日記を見る。ページは一週目の時。あの頃はまだ日記を付けてなくて、覚えてる範囲で後から書いたこともあってか、日記をつけ始めて以降の時と比べると情報がやっぱり少ないわね。

誰かが屋上に行こうって言い出したのは覚えてるけど、誰だったかしら?たぶん、曜か千歌辺りだった気がするけど。ここの屋上からの転落も何度もあったせいで、一回目の頃のがどんなだったか思い出せないわね。まっ、誰が提案しても止めれば済むからそこまで重要じゃないけど。

悩んでたこともあって少し時間が経ち過ぎたわね。とりあえず、戻ってからも継続して行くか。

 

「遅くなったわ……よ?」

 

部屋に戻ると、千歌と曜、果南、鞠莉の四人の姿が見えなかった。どこ行ったのかしら?手洗いなら途中で会ってるだろうからないとすれば、思い浮かぶのは飲み物を買いに行ったってとこかしら?でも、四人とも飲み物を持っていたような。

 

「四人は?」

「ちょっと外の空気吸って来るって、屋上行ったよ」

「え?」

 

なんで、よりによって私が離れた時に屋上に行くのよ!しかも、千歌も一緒とか嫌な予感しかしないじゃない。

 

「ちょっ、よっちゃん!?」

「善子さん、もう――」

 

私は大急ぎで部屋を出る。なんか言ってたけど、聞きに戻っている時間は無い。今ならまだ間に合うかもしれない。

エレベータの前に着くも一回で止まっている。待ってるの時間も惜しいから階段を駆け上がる。

そして、

 

「はぁはぁ」

「あれ?善子ちゃん?」

「どうかしたの?そんなに慌てて」

「もしかして、善子ちゃんも外の空気を吸いに来たの?」

「そう言う訳じゃないけど……って、マリーはあそこで何してる訳?」

 

三人は何故か屋上の出入り口近くにいて、ちょうど戻るところだったみたいだった。で、マリーは少し離れた位置でスマホをいじっていた。

とりあえず、千歌の無事が確認できたからよかった。

 

「ん、ちょっとね。着くなり風でフェンスの一つが外れて落下したから、ここの職員の人に伝えるために写真を撮ってたのよ。その方が手っ取り早く伝わるしね」

「あっ、ほんとだ。一か所無くなってる」

 

マリーに言われてそっちを見ればフェンスの一つが無くなっていた。あれ?千歌が落下する事態にはなってなかったけど、フェンスは落ちてるってことは間に合ってなかった?

運よく落下せずに済んだだけで。

それとも、やっぱり?

 

「まぁ、戻りましょ。さっさか、伝えておかないとだし。だから、私は一階に行って伝えてから行くわ」

「私たちも一緒に行こっか?」

「いいわ。私一人で十分だから」

「わかった。じゃぁ、先に戻ってるね」

 

考えているうちにマリーは一階に、私たちは練習部屋に戻ることになった。私は特に何も言わずについて行く。やっぱり、あれが一番可能性は高い……と言うか、確定よね。

 

「そう言えば、善子ちゃんはなんで息切らしてたの?」

「ん?ああ、ちょっとね」

「ふーん。まっ、いっか」

 

はっきりとは言わずに答えると、なんとなく話は流れた。たぶんたいした理由は無いと思ったんだと思う。そうしているうちにエレベータは練習部屋のある階に止まり、私たちはそこで降り、マリーはそのまま一階まで降りて行くのだった。

 

 

~☆~

 

 

『駅前の信号を渡った先で私の目の前で曜が轢かれた』

『お見舞いに来たリリーとマリーが帰り際に私の目の前でエレベータが落下し、転落・圧死』

『沼津で練習中に屋上から落下しかけた私を助けて千歌が落下し転落死』

『大雨の中バスに乗っていたところ、トンネルを抜けた直後土砂が流れて来てバスが海に転落。その後、大荒れの中どうにか陸に上がるも花丸が溺死』

『大雨の翌日。帰りに歩いていたところ、前日の雨による影響で地盤が緩み電柱が倒れ、危険に気付いた果南に押される形で助けられるも果南が潰され打ち所悪く出血死』

『倉庫の掃除中に倉庫が崩落。中で一緒に作業していたダイヤとルビィが崩落に巻き込まれ圧死』

 

『お見舞いに来た千歌が私の寝ている間に帰った。何故か千歌が死ぬようなことはその日は無かった。どうしてだろ?』

『月曜。疲労が溜まっていたか、私は校内で倒れた。目を覚ますとすでに放課後で、マリーと千歌以外はすでに帰っていた。その日、曜が事故に遭うと思われたが事故に遭わなかった』

『水曜。お見舞いにリリーとマリーが来た。そして、いつの間にか私は眠ってしまい、目を覚ますと二人は帰っていた。エレベータは落下したけど、二人とも落下には巻き込まれること無くその日が終わった』

 

「そして、今日は千歌が転落すると思ってたけど、フェンスが落ちただけで千歌は無事だった。その時私はいなかったっと」

 

家に帰った私は日記を見返し、今日の日記もつけた。今までの誰かの死を伴った日、どう言う訳か誰かが死ぬ自体が起きなかった日。この二つを見比べ、私は一昨日から浮かんでいたある可能性に結論が出た。

 

「はぁー。今までの苦労もすべて無駄だったわね」

 

その結論は今までのすべてを否定するもので、私はため息をつく。それくらい、後味の悪い結論。

 

「私がいたせいでみんなが死んでたなんてね。なら、皆の死を回避してこのループを抜けるのも簡単ね――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がいなければいいんだから」




という訳で第二部終了です。中途半端なところな気もしますが、この辺りが無難そうなので。
次の投稿は近々を予定しています。
では、ノシ


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ラストデイ
21 できない私は


第三部スタートです。
どんどんシリアスになっていく~


「ん、ん~。ふわぁ」

 

土曜日。私はいつも通り目を覚ました。

今日はいつも通りに過ごす。それが昨日決めたこと。どうせどうやったって、事故は回避できないだろうし。

ベッドから立ち上がると、制服に袖を通す。今日でこれを着るのも最後ね。

 

「おはよ、ママ」

「おはよう、善子」

 

リビングに行くと、ちょうど朝ごはんを運んでいるママと会い、挨拶を交わすとテレビを点けて椅子に座る。朝ごはんを食べていると、テレビはいつも通り占いコーナーになる。見なくても大体今日の最下位はわかってるけど。

 

『今日の十二位は……蟹座のあなた。予想外のことが立て続けに起こるかも?』

「あら、最下位じゃない。気を付けなさいよ」

「うん。気を付けるわ」

 

ママは占いを見てそう言い、私はそう返す。最下位が私ってことは今日事故が起きることほぼ確定。となると、ママの心配事は当たることになる。心配をかけたくないから、嘘でもそう言っておく。

きっと、ママを悲しませることになると思うけど、それ以外には皆を救うことはできない。そもそも、私が生きて越えられる確証はないし、仮に超えてもその日以降も皆に死の危機が訪れないという確証はない。最悪、ずっと続くかもしれない。

 

「ありがとね」

「ん?どうしたの急に?」

「ううん。なんとなく言いたくなっただけ」

 

だから、せめて気持ちを伝えておく。きっと、私の本当の気持ちは伝わってないけど、これは伝わったら困る。だからこれでいい。

ママは気になるのか首を傾げるもテレビに映った今の時間を見て慌てて残りを食べると、食器を置いて鞄を手に取る。

 

「皿洗いお願い。いってきます」

「はーい。いってらっしゃい」

 

ママは慌てた足取りで出て行き、座りながらそれを見送る。一人になると、テレビの音だけが響く。

そんな空間で残りを食べると食器を運び、ママの分も一緒に洗う。

 

「さて、集合まではまだ時間があるけどどうしよ。ママに手紙は……いっか。それだと遺書にしか見えないし。早いけど、もう学校行こ」

 

特にすることも無いから家を出ることにする。もしかしたら生徒会の仕事とかで誰かしら居るかもだし、手伝えることはしておきたい。

そう言う訳で、鞄の中に飲み物やお弁当を入れるとそれを肩にかける。これは……まぁ、使う気は無いけど持っておこ。

家の鍵をかけると家を出る。エレベータはまだ復旧してないから階段を使わないといけないのは面倒だけど、これしかないからいっか。

階段を降りてバス停に行くと、バスが来るまではまだ少しありそうだった。というか、少し遅れてるみたい。

数分待つとバスがやって来て、乗り込むといつも通り後ろから二個目の座席に座る。いつも出る時間よりも早いからたぶんこのバスに乗る人はいないはず。いや、もしかするかもしれないけど。

 

「あれ?善子ちゃん?」

「ん、おはよ」

「あっ、うん。おはヨーソロー」

 

曜が乗るバス停で止まると曜が乗り込み、私を見て驚いた表情をする。たぶん、私が乗っていると思ってなかったのね。挨拶をすれば、取りあえず挨拶が返って来て私の隣に座る。

 

「善子ちゃん、今日は早いね」

「まぁ、家に居てもすること無かったから。それに、曜だって早いじゃない」

「あはは。私もそんな感じかな?それにしても、次の衣装どうしよっか」

「曲がある程度できないとどうにもならないでしょ。流石に曲のイメージがわからないことにはどうにもならないでしょ」

「だよねー」

 

曜は次の曲のことで悩んでいる様子。でも、何度も言ってる通り(私の場合は何十回もこの問答をしてるけど)曲のイメージが固まらないことにはどうにもならない。

 

「どうせなら、曜がイメージを決めてみるのはどうなの?」

「うーん。それもありかもだけど……」

「船関係になる未来しか見えないか」

「あー、そんなこと言う。確かにそんな気はするけど」

 

提案してみたはいいけど、そんなオチが浮かぶ。この前千歌に聞いたけど、なんでも活動当初に衣装のデザインを曜が考えた中に船員風な衣装があっただとか。だから、そんなことを言えば、曜はなんとも言えない表情をする。

 

 

~☆~

 

 

「チャオ」

「また明日」

「じゃっ」

 

淡島前でマリーと果南はバスを降り、私は別れの挨拶をする。そして、バスが走り出す。曜は千歌の家に寄っているから、これでバスの中には私と数人だけ。その中に浦女の生徒はおらず、それからバス停を数個過ぎた場所で私はバスを降りる。

ここまで来ればいいわよね?

 

今日一日は比較的いつも通りに過ごすことができた。というか、そうなるようにしていた。私の考えを気取られるのは困るし、皆に余計な心配はかけたくない。たぶん、いつも通りに振る舞えていたと思う。誰かに聞かれることも無かったし。

そして、皆との思い出を脳裏に焼き付けた。帰り際にルビィと花丸にお泊り会に誘われたけど、やることがあるから断った。これ以上、みんなを巻き込めないからそれでよかったはず。

 

周囲にはほとんど人は歩いてなくて、車が時々走っているだけ。そんな道の反対側に移動すると、浦女方面行のバスが来るのを待つ。一度帰ったふりをしてから浦女に戻る。これは朝から考えていたこと。最後の景色はあそこと決めている。

たぶん、皆には迷惑がかかるかもしれないけど、これくらいのわがままはいいわよね?

浦女方面行のバスが来たからそれに乗ると、そこからの景色を眺めながら浦女に着くのを待つ。

 

「おや?こんな時間にどうしたんだい?」

 

浦女前に着いて定期券を運転手さんに見せるとそんなことを言われた。

こんな時間に行けば聞かれる気はしていた。だから、どう答えるかはあらかじめ考えてある。

 

「ちょっと、忘れ物しちゃって」

「そうかい。暗くならないうちに帰りなよ」

「ええ。そうしますね」

 

表情を作ってそう言うと、さして気にされるようなことは無くそのまま降りることができた。嘘を付いたような形にはなったけど、これくらいなら平気よね。

坂をのんびりと上りながら景色を目に焼き付けていく。この坂はもう何十、何百と上ってきた。それに、体力をつけるためにこの坂をダッシュもしたし、だいぶ見慣れた景色ね。

 

坂を上り切ると、浦女が見えてくる。学校にはもう誰もいないから校舎の電気は全て消えていて、今更ながら校舎内には入れない気がしてきた。いや、どこかしらに入る方法があるとは思うけど。

校門をよじ登れば敷地内には……

 

「施錠くらいしなさいよ……」

 

なんでか校門の鍵は開いていてすんなり敷地内に入れた。いや、それでいいのか?まっ、いっか。

 

『スクールアイドル部でーす』

『ぴぎゃぁ』

『善子ちゃん?』

『親愛なるお姉ちゃん。ようこそ、Aqoursへ』

 

入学式の日に、どんな生徒がいるのか見ていた、あの時登った木。もう、時期が時期なだけに葉っぱがだいぶ落ちてきている。春になれば綺麗な桜の花を咲かせるけど。

そんな木の前に立てば、あの頃のことを思い出す。あれが花丸との再会だったわね。幼稚園の頃以来なのによく覚えてたわよね。まっ、私も覚えていたし、あの頃はけっこう一緒に居たから覚えてるか。

それと、千歌と曜が勧誘しててルビィが悲鳴を上げてたわね。あの時足痛かった……。

それに、ここでダイヤをAqoursに勧誘して九人になった。

 

続いて校舎の方に歩き出す。

流石に昇降口の扉は閉まっていて入ることはできなかった。当たり前よね。開いてたら学校の物が盗み放題だし。

 

『堕天使ヨハネちゃん。スクールアイドルやりませんか?』

『はい?』

『善子ちゃん、ここはこうした方がいいよ』

『ヨハネ!……ありがと』

 

そうして、体育館の方に行く。中には入れないけど、外から部室を見ることは出来る。

部室では色々なことがあった。千歌に誘われたり、曲作りに追われたり、曜の衣装製作を手伝ったりした。ここには楽しかった思い出がたくさんある。

部室の窓に手を当ててそんな日々を思い出していると、

 

「うわっ!」

 

窓の鍵を閉め忘れていたのか、窓がスライドして危うくこけるところだった。でも、これで中に入れる。入っていいのかしら?まぁ、最後だしいっか。

窓から中に入ると、窓を閉めて奥に進む。

 

『キーラリッ!』

『今しかない瞬間だから――』

『『『輝きたい!』』』

 

千歌達三人が初めてライブをしたステージ。あの時のライブを見て私は心惹かれた。でも、あの時はまさか踊る側に私もなるとは思ってなかった。

体育館の中に入れたことでそのまま校舎の方に行く。まっ、校舎にどうやって入ったものか。どこか開いてないかしら?

 

『最後まで頑張りたい!足掻きたい!』

『奇跡を!』

 

入れる場所を探して歩いていると、校庭にある鉄棒が目に入る。説明会が中止になりかけて、だけど皆諦めきれず足掻こうと誓った。

でも、今回ばかりはどうにもならないわね。いくら足掻いても、どうにもならない。もうこの方法しか皆を救うことはできない。

私は決意を新たに、歩を進める。

そして、事前に鍵を開けておいた空き教室の窓から中に入る。誰もいないからかしーんとしており、私の足音が響く。

 

『堕天使ヨハネと契約してリトルデーモンになってみない?』

『善子ちゃん、次は移動教室だよ』

『落ち着くずら~』

 

私たちの教室に着くと、その時の光景がよみがえる。自己紹介で事故って、登校拒否して、なんだかんだで戻って来た。クラスの皆は私が堕天しても少し困った表情をするくらいで馬鹿にするようなことは無かった。花丸とルビィの二人と一緒に居ることが多かったけど、クラスの皆も優しくて居心地が良かった。

 

『手伝ってもらってありがとうございます』

『まっ、手伝うって言ったからね』

『善子がツンデレしてるわ』

『ヨハネ!』

 

生徒会室には度々来たわね。生徒会の仕事の手伝いで結構駆り出されてたし。ダイヤ以外の生徒会メンバーをそこまで見なかった気がするけど。

 

『よっちゃん、どうしたの?』

『リリーのピアノを聴きに来たの。リリーの弾くピアノ好きよ』

『ありがと』

 

続いて音楽室にやって来た。雨の日とか練習が無い日に時々リリーが弾いているのを聴きに来ていた。リリーのピアノを聴くと落ち着くのよね。

 

『消えない 消えない 消えないのは』

『善子ちゃんはさらに気持ち急いで』

『承知。空間移動使います』

 

最後は練習場所の屋上。雨の日は練習できないけど、部室と同じくらい想い出がある場所。六人の頃に屋上で歌を歌って、多くの人に見てもらった。九人になってからも相変わらずここで練習して、夏場は地獄だったわね。でもそれはそれで楽しかった。

ほんと、この半年は濃密だったわね。

 

「きれい」

 

閉まっていた鍵を開けて屋上に出ると、屋上から望める海と淡島、遠くにそびえ立つ富士山が夕日によってオレンジに染まり、すごくきれいな景色がそこには広がっていた。ここから見える景色はすごく好きだった。

 

「さて。そろそろね」

 

時刻はすでに十八時近く。いつも通りならそろそろ起こるはず。さて、どんなことが起こるのやら。できれば苦しまないのがいいけど、これに関してはどうにもならないか。

 

床に腰を下ろして、塀に背中を預けて時が来るのを待つ。

きっと、皆悲しむんだろうなぁ。みんな優しいから。でも、真実は私の胸の中に秘めて墓にまで持って行ってやる。本当のことを知れば、あんなにやさしいみんなはきっと私を責める。私のせいで皆を何十回も死なせたんだから。

結局ただの自己満足よね。

 

みんなに責められるのが怖いから逃げてるだけ。

せめて、私の中に残っている記憶を優しいみんなにしたいだけ。

 

私と一緒に居れば事故に遭う。言い換えれば私がその場にいなければ事故に遭わずに済む。その日に起きた事故は水晶でやり直して回避すれば、その時は次の日を迎えられたけど、次の日にまた誰かが事故に遭う。そして、土曜日になれば私が事故に遭う。で、月曜に戻されて永遠に繰り返す。

このループを超える術は私がいなくなる以外ない。私がいなければ事故に遭わない訳だから、土曜日を越えたらもう皆にこの死の運命は訪れずに済むはず。

 

「私は堕天使じゃなくて死神だったって訳ね」

 

私は自嘲気味に呟く。みんなに死の運命をもたらすなんて死神以外の何物でもない。誰かに裁いてもらえばその人は一生背負うことになる。そんな辛いことはさせられないし、だったら自然に起こる事故でいなくなるしかない。

 

うっ。

すると、急に胸に激痛が走る。

何これ!?なんで急に!?

 

「はぁ、はぁ……うぅ」

 

私は倒れ込み胸を抑える。意味が分からない。急にこんなことが起こ……ああ、そう言うことか。今回の死は“心臓発作”なんだ。

じゃぁ、もうどうにもならないじゃない。こんなことまで起こるのなら絶対に私が生きて日曜日を迎えることなんて不可能じゃない。家の外で事故に遭い、家に入る直前で爆発に巻き込まれ、終いには場所なんて一切関係ない心臓発作。

やっぱり、これで良かったんだ。

私の取れる未来は二つ。

 

私が生きながらえて、みんなと永遠ともいえる一週間を繰り返す未来。

私がいなくなって、皆にはこの一週間を越えてもらう未来。

 

考えるまでも無い。後者を躊躇うこと無く選べる。みんなにはこんなところで止まってなんていて欲しくない。私のただのわがまま。みんなが聞けばきっと止めようとするだろうけど、私は皆に前に進んでほしい。だから、これでいい。

最後に待ち受けに映るAqours九人で撮った時の写真を見る。

みんなと生きていく未来なんてもうこない。そんな未来を手にすることは私にはできない。

 

「みんな……さよなら」

 

だから、できない私は、死を受け入れる。




次回から数話は他のメンバー視点で進みます。
では、ノシ


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22 あの日の出来事

今回は曜ちゃんとルビィちゃん視点です。


『曜!』

『……良かった、善子ちゃんが、無事で』

『なんで、私をかばったりなんか!』

『あはは。気づいたら、体が勝手に、動いちゃってて』

『待ってて、もうすぐ救急車が来るから』

『あー、ちょっと、厳しい、かも。身体の、感覚が、全くないや』

 

雑貨屋に寄った帰りに車に轢かれて倒れる私に涙を流す善子ちゃん。私の状態は悲惨で、もう間に合わないのが一目で分かる。私はそれを第三者の視点から見ていた。

どうして、私が轢かれているのか。どうして、第三者のような視点なのかはわからない。

 

暗転。

 

真っ暗な部屋のベッドの上で善子ちゃんが泣いている。私はどうやら死んだらしく、ママや千歌ちゃんたちが手術室前で泣いていた。そして、善子ちゃんはベッドの上で自分を責めていた。

みんなが私の事を悲しんでくれるのはうれしいけど、私のせいでみんなが泣いているという光景に胸が痛む。

すると、善子ちゃんはおもむろに立ち上がると魔法陣の描かれた布を広げ、机の上に置かれた黒い水晶のペンダントを手に取って布の上に座る。

 

『堕天使ヨハネが命じます……リトルデーモンよ、私に力を……時よ戻れ!時間遡行(アンチクロック)!』

 

そして、詠唱のようなことをする。でも、何も起こらない。善子ちゃんがよく儀式をしているのは見るけど、何かが起きたという話は聞いたことが無いから、さして驚きはない。

 

『曜……帰って来てよ……』

 

善子ちゃんは落胆すると、また涙を流す。今すぐにでも善子ちゃんのそばに行きたいけど、今の私はどう言う訳かそれ以上近づけず、ただ見ていることしかできない。

そして、

 

『我願う。故に我乞う。曜の居る日常を!』

「うわっ!」

 

善子ちゃんが呟くように言葉を口にすると、善子ちゃんが握っていたペンダントの水晶からまばゆい輝きが放たれ、私は声を上げた。

 

 

~~

 

 

「うわっ!」

 

私は声を上げながらガバッと身体を起こして目を覚ました。そこは私の部屋で、どうやらあれは夢みたい。

まぁ、私が死んじゃう夢なんて縁起が悪いよね。なんで、あんな夢見たんだろ?

夢の内容が頭に残っているせいか気になる。でも、朝練が今日はあるからあまりのんびりしている時間も無い。

 

「曜、おはよう」

「おはよう、ママ。手伝うね」

 

制服に着替えて、鞄に今日の荷物を詰め込んで階段を降りてリビングに行く。その間にも夢のことが気がかりで考えていた。

ママは朝ごはんを運んでいるところだったから、一度考えるのを中断してソファーに鞄を置くと、キッチンにある朝ごはんを机に運ぶ。そして、全部運び終えると椅子に座って食べ始める。

 

「曜、何かあったの?」

「ん?どうして?」

 

食べていると急にママにそんなことを聞かれた。どうしてそんなことを聞かれたのかわからないから首を傾げる。別に体調はいつも通りだけど。

 

「いつもなら挨拶しながら敬礼してるでしょ?でも、今日は特にしなかったから」

「あー。ちょっと変な夢を見ちゃって」

「変な夢?」

「うん。まぁ、話すほどのモノじゃないから平気だよ」

「そう?ならいいけど」

 

あんな夢を話すのもどうかと思うし、ママもそれ以上は聞いてこないからこの話はおしまい。今日は頑張って普段通りにしよっと。みんなに心配はかけたくないし。

 

『今日の十二位は牡羊座のあなた!』

「あっ、私だ」

「最下位ね」

 

すると、点けていたテレビで占いが始まり反応する。普段はあまり気にしないけど、流石にあんな夢を見た後だとどうも気になってしまうなぁ。今日はいつも以上に気を付けよっと。

それから朝ごはんを食べ終えると家を出た。ママにはさっきのことを心配されたけど、大丈夫と言って出てきた。

バス停まで歩いて、バス停でバスが来るのを待つ。善子ちゃんと一緒のバスになるかな?

最近は善子ちゃんが乗ってるか乗ってないかが気になる。スマホで聞けばいいかもだけど、それはそれでつまらないからゲーム感覚で。善子ちゃんが乗っていればその日はいい事があるはずといった感じで。

バスが来るとそれに乗り込んで後ろの方に行く。善子ちゃんはいつもの後ろから二列目に座っていて、スマホの画面をジーと見ていた。

よし!いつも通りに挨拶をしないとね。

 

「善子ちゃん、おはヨーソロー」

 

 

~~

 

 

その日の放課後、善子ちゃんが練習中に倒れた。私たちは慌てて善子ちゃんを運び、保険の先生が見るにただの過労から来た貧血だろうということだった。寝ていればよくなるということでひとまず安心。善子ちゃんが倒れたことで皆も疲労が溜まっているかもと言うことで今日の練習は早めに切り上げられた。

善子ちゃんの事が心配で皆善子ちゃんが起きるまでいたかったけど、終バスが近づいても起きる気配が無くて私たちは帰ることになった。鞠莉ちゃんと千歌ちゃんは残ることになって、起きたら志満姉に送ってもらうだとか。

 

「善子ちゃんが起きたらみんなに連絡するね」

「うん。お願いね」

 

そう言って私たちは帰り、淡島を過ぎるとバスの中は私を含めて数人。いつもなら善子ちゃんと喋って過ごすけど、今日は一人。だから、静かな時間が過ぎる。

本当は駅前によって衣装の案でも考えようと思ってたけど、どうしよう。あそこからなら歩いて帰れなくもない……。

 

「まっ、明日でいっか」

 

でも、一人で行っても寂しいだけだし、朝見た夢のことも不吉だから寄り道はしないでおこ。正夢ってこともあるかもしれないしね。

そうして、寄り道せずに家に帰る。

 

チカ『善子ちゃん起きたよ~』

 

家に着いてしばらくすると、千歌ちゃんから皆に連絡が来た。私は気づくと素早く文字を打つ。

 

ヨウ『よかった。善子ちゃん、平気そう?』

カナン『起きたんだね。良かった』

マリ『眠そうにしてるけど、まぁ平気そうかしら?』

リコ『たぶん平気なのかな?』

 

みんなもすぐに返信をして善子ちゃんの無事を喜ぶ。ダイヤさんとルビィちゃん、花丸ちゃんが反応しないのは今手が離せないところなのかな?

 

ダイヤ『席を外していましたわ。とりあえず、安心ですね』

ルビィ『良かった。起きてくれて』

マル『お風呂入ってたずら~』

ヨハネ『私の心配は!?』

 

それから少しして三人からも返信があったのだった。

 

 

~~

 

 

「うぅ。思いつかないよぉ」

「まぁまぁ、今日はまだまだ時間があるし、明日の練習は午後からだから遅くまで起きて頑張ろ?」

「できればいつも通り寝たいけど」

 

土曜日の放課後。そろそろ本格的に曲を完成させなくちゃまずそうになったから千歌ちゃんの家に泊まり込んで一気にやろうとしていた。

私は衣装案がまだだけどとりあえず地区予選でやる曲の衣装を作っている。この衣装はまだ当日まで一月近くあるから時間的に余裕はある。ルビィちゃんとダイヤさん、善子ちゃんで製作は進められるし。

衣装を作りながら月曜日見た夢を思い出した。まぁ、正夢にはならずに済んだからあれ以来すっかり忘れてたけど。

唸る千歌ちゃんを励まし、梨子ちゃんはさっさか書き上げて欲しそうに言う。でも、流石に立て続けに二曲考えるのは難しいよね。

千歌ちゃんの部屋に来た私たちはそれぞれ作業を進めている。千歌ちゃんは紙とにらめっこして歌詞を考え、梨子ちゃんは千歌ちゃんが遊ばないように監視しながら楽譜に書きこんで行く。

 

「そう言えば、私月曜日に変な夢、見たんだよね」

 

なんとなしにそう言う。千歌ちゃんは完全に集中力が切れちゃってるし、気分転換にでもなればと思って。変な夢の話をしたところでそんな夢見たんだぐらいの反応が返って来そうだし。

 

「変な夢?」

「うん。なんか私が事故に遭って死んじゃう夢。まぁ、善子ちゃんが呪文を言ったところで起きちゃったからその後は知らないけど」

「「え?」」

「ん?」

 

「なにその夢~」とかみたいな反応を期待してたけど、二人は驚いたような表情をする。あれ?想像してた反応と違う。

 

「私も水曜日に私と鞠莉ちゃんが死んじゃう夢を見たんだけど……」

「チカも昨日千歌が死んじゃう夢見た……」

「え?」

 

 

~ルビィ~

 

 

『二人とも、大丈夫?』

『『……』』

 

学校からの帰りに横転したバスの中、ルビィと花丸ちゃんは倒れていて、善子ちゃんが駆け寄る。ルビィはそれを離れた所で見ている。どうしてルビィが倒れているのにそれが別のところから見えているのかわからない。でも、ルビィたちの身体の下は赤く染まっていてそれが血なのだと一目で分かった。そしてその量からしても、急いで病院で手術をしないと間に合わないことも。

たぶん夢だよね?ルビィと花丸ちゃんが死ぬなんて嫌だよ!

 

 

暗転。

 

 

場所は変わってそこは病院。Aqoursの皆がすぐに集まり、手術室の前でルビィたちが死んだことが告げられた。みんな涙を流し、ルビィは悲しい気持ちになる。

すると、急に善子ちゃんは走り出す。手洗いに行くと言っていたけど、その表情は嘘を言っているようにしか見えず、この夢は善子ちゃんを基準にしているのか善子ちゃんの方に視点が移る。

善子ちゃんがたどり着いたのは病院の屋上。こんなところに来て一体何するの?そんな疑問を持つと、善子ちゃんは制服のポケットから黒い水晶のペンダントを取り出す。

 

『絶対に二人を救ってみせる!』

 

善子ちゃんは何か決意したような表情をするとそう言う。善子ちゃんが何をする気なのかわからず見守っていると、

 

『我願う。故に我乞う。花丸とルビィの居る日常を!』

『ピギッ!』

 

善子ちゃんは呪文のようなことを言い、善子ちゃんの持っているペンダントの水晶を中心に輝き出した。ルビィはその眩しさに悲鳴を上げた。

 

 

~~

 

 

「ピギッ!」

 

悲鳴と共に私は目を覚ました。よかった、やっぱり夢だったんだ。そうだよね。ルビィと花丸ちゃんが死んじゃうなんてないよね。

外を見ると雨が降っていて、あの夢でも雨が降っていたから不安になる。

 

「ルビィ。どうしましたか?」

 

すると、ドアの向こうからお姉ちゃんが声をかけながらドアを開ける。普段は朝声をかけずに先に朝ご飯を食べて、時には先に行っちゃうのに、声をかけてくれるのは珍しいかも。

 

「おはよう、お姉ちゃん。なんでもないよ」

「おはよう。なら、早く支度をしてしまいなさい。それと、果南さんたちと話して今日の朝練は中止にしますわ」

「うん。わかったよ」

 

頷くとお姉ちゃんは部屋を出てドアを閉めて居間の方に行く。

変な夢を見て声を上げたなんて言えば呆れられちゃいそうだし、誰にも言わないでおこっと。

ぱぱっと制服に着替えてスマホを確認すると、さっきお姉ちゃんが言っていた通り、朝練を中止することが伝えられていた。そして、

 

ヨハネ『お見舞いは来なくていいわ。うつしちゃったら悪いし』

 

善子ちゃんが体調を崩したみたいだった。やっぱり、昨日のが原因なのかな?

 

「『確かにうつっちゃう可能性もあるね』っと」

 

とりあえず、皆の会話に合わせてそう打つとお姉ちゃんを追いかけて居間の方に行く。あんまりゆっくりしていると怒られちゃいそうだし。

 

「おはよう、お母さん」

「おはよう、ルビィ」

 

居間に行くとお母さんとお姉ちゃんが食器を運んでいて、一緒に手伝う。

 

「お父さんは?」

「自治会の集まりで出ていますよ」

「そうなんだ。こんな雨の日に」

 

お父さんの姿が見えない理由もわかり納得すると、朝ご飯を食べ始める。

 

「そう言えば、さっきの悲鳴はなんだったんですか?」

「お母さんまで聞こえてたの?なんでもないの」

「嘘ですね。なんでもないのなら悲鳴など上げないでしょう」

「……起きた拍子にベッドの角にぶつけちゃっただけだよ」

 

適当な理由をでっちあげてそう言うと、なんとも言えない空気になる。食事の時はテレビを点けないのが普通だから誰もしゃべらないとしーんとする。今日は雨が降ってるから雨の音はするけど。

 

「それで、ダイヤは今日も早めに出るのですか?」

「あれ?話が変わった?」

「いえ。朝の練習は雨が降っているから中止しようと先ほど果南さんたちと決めたので。まぁ、生徒会の仕事がありますので少ししたら出ますけど」

 

いつの間にかルビィの話は終わってた。たぶん、あまり掘り下げない方がいい話題だと思ったのかな?

それから朝ごはんを食べ終え、少し時間があるから天気予報を見ようとテレビを点ける。

 

『今日の十二位は……魚座のあなた』

「あっ、花丸ちゃんの星座が最下位だ……」

 

花丸ちゃんの星座が最下位で、もしかしたらあの夢が正夢になるんじゃないか心配になる。そんなこと無いと思うけど。

占いコーナーが終わって天気予報になると、今日は一日中雨みたいだった。あーあ。これじゃ、放課後の練習もできないかも。

 

「ルビィ、行きますよ」

「うん」

 

 

~~

 

 

「さて、雨も一向に止みそうにありませんし、今日は早めに解散しましょうか」

 

放課後。ルビィたちは部室に集まって曲作りを進めていた。今日一日善子ちゃんが居なかったから、一学期のあの頃を思い出した。最近は三人で居ることが多いから、一学期の頃に戻った気分かも。

ルビィはお姉ちゃんと曜ちゃんと一緒に衣装の案を考えていた。デザインがいくつかあれば、すぐに作り始められるし、千歌ちゃんがそれを見て思いつくかもしれない。

そうして時間が過ぎて、時計の時刻を見てお姉ちゃんがそう言った。

千歌ちゃんは完全に思いつかなくなって突っ伏していて、これ以上は無理そうだからという判断だと思う。

それに、この後も雨が弱まるどころか強くなる恐れもあると天気予報で言っていたのもあると思う。誰も反対意見が出なかったから帰り支度を整えると部室を出て昇降口まで行く。

昇降口に着いたところでそう言えばシャーペンを部室に置いたままにしていたことを思い出したけど、家にも数本あるし、ここで戻ったらバスに乗り損ねそうだからそのまま歩く。それに、ここで戻ったら、夢みたいに事故に遭うような気がしたから。

 

 

~~

 

 

結局、あの日は夢で見たような事故に遭うことは無くて、何事も無く帰れた。ルビィたちが乗った後に木が倒れたという話を聞いた時は、戻らなくてよかったと思った。戻ってたらそこから歩かなくちゃいけなくなってたかもしれないしね。もしかしたらその木がバスに直撃なんてことが起きてたかもしれない。流石にそんな偶然は無いか。

 

土曜日の放課後。千歌ちゃんたちが泊まり込みでやるって言ってたから、ルビィも花丸ちゃんと一緒にお泊り会をしていた。善子ちゃんも誘ったんだけど、やることがあるとかで帰っちゃった。やることって何だったんだろ?生放送かな?

 

「お姉ちゃんと花丸ちゃんも見たの?」

 

µ’sのライブ映像を見て衣装の案を考えようと準備して、“ユメノトビラ”を聴いている時に、

 

「夢かぁ。そう言えば前に変な夢見たなぁ」

 

と特に考えること無く呟いたら、二人が反応し、どんな夢だったのか聞かれて、まぁ言ってもいっかと思って話した。

その結果。二人も自分が死んで死ぬ夢を見ていたらしい。

 

「うん。しかも、ルビィちゃんの話を聞く限り全く一緒ずら」

「わたくしは木曜日にあった倉庫の崩落に巻き込まれる夢でしたわ。この通り、無事ですけど」

 

内容も花丸ちゃんとは一緒で、お姉ちゃんとは自分の死という点で一緒。なんというか怖くなってきたよ。

すると、いきなりスマホに通知が来たのか振動する。手に取って見ると、曜ちゃんからだった。

 

「あっ、曜ちゃんからだ」

『善子ちゃん、そっちいる?』




次回も他メンバー視点でいきます。
では、ノシ


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23 よくない予感

全部書き終わった~。あとは、おかしい部分とかないか見てくだけ~。
という訳で、連日投稿実行です。もう始まってるけど。

今回は梨子ちゃんと果南ちゃん視点です。


『リリー!マリー!返事をしてよ!』

『『……』』

 

風邪をひいたよっちゃんのお見舞いに来た私と鞠莉ちゃんは、エレベータに乗ったらワイヤーが切れたのかいきなり落下して、落下したエレベータは地面に衝突した。そして、その中にいた私と鞠莉ちゃんは地面に倒れていた。私はそれをなんでか別の視点から見ていた。どうしてそこに私が倒れていて、それをはたから見ているのかわからない。わかることは、あの私と鞠莉ちゃんは明らかに助からないこと。

階段を駆け降りてきたよっちゃんはどうにか私たちの元に行こうとするけど、ちょうど帰って来たよっちゃんのお母さんに身体を押さえられる。

どうして、私はこんな光景を見ているんだろう?どうして、私と鞠莉ちゃんが死んじゃう光景が広がってるんだろ?

 

 

暗転

 

 

『私のせいだ!私がもっと早くに気付いていれば……そもそも風邪をひいて休んだりしてなければ……』

 

場所は変わって、よっちゃんの部屋。よっちゃんは自分の部屋のベッドの上で泣いていた。私と鞠莉ちゃんは病院で死が確認されたらしい。

すると、よっちゃんは身体を起こして机に寄る。そのまま机の上に置いていた黒い水晶の付いたペンダントを手に取る。綺麗な水晶だなぁと思っていると、ペンダントを握りしめる。そして、一度目を瞑ると少ししてから何かを決心したような表情をし、

 

『我願う。故に我乞う。リリーとマリーの居る日常を!』

 

そう口にした。直後水晶が輝き、私とよっちゃんは輝きに包まれたのだった。

 

 

~~

 

 

ピピッ、ピピッ。カチャッ!

 

アラームが鳴って、一切顔を上げないで時計に手を伸ばすとアラームを止める。

 

「ん~。朝?」

 

寝ぼけ眼で身体を起こすと、カーテンからこぼれる光で今が朝なのだと理解する。なんだろ?今の夢。私と鞠莉ちゃんが死んじゃう夢なんて縁起が悪いなぁ。

今日は朝練があるからあまりのんびりしていられない。だからベッドから起きると制服に着替えてリビングに行く。お母さんがちょうど朝ごはんを作っているところで、食器棚から食器を出して並べ、その上に乗せられていく。それを机に運ぶと食べ始める。

 

「梨子。何かあったの?浮かない顔しているけど」

「うん。なんでか、私が事故に遭う夢を見ちゃって」

 

食べていると、お母さんがそう聞き、隠す必要も無いから夢のことを話すとお母さんは浮かない顔をする。

 

 

『今日の十二位は双子座のあなたです』

「大丈夫。ただの夢なんだから」

「そう……でも、一応気を付けてね」

「うん」

 

お母さんに心配はかけたくないから明るく振る舞うと、それで一応は安心してくれたようだった。

正夢にはしたくないから今日は気を付けようと心に決めると、朝ご飯を食べ終え、私は部屋に戻って忘れ物が無いか確認する。そう言えば、よっちゃんは今日学校に来れるのかな?一日で治るとは思えないけど。

 

ヨハネ『治らなかったわ(キッパリ)』

 

するとスマホに通知が来ていて、善子ちゃんは今日も休むようだった。

なんで、そんなに堂々としてるんだろ?それと予想が的中しちゃった。

 

「『やっぱり……』っと。どんな反応をするのかな?」

 

マリ『そんな気がしてたわ』

ヨハネ『なんでよ!』

 

あっ、ツッコんだ。っと、のんびりしていられないしそろそろ行こっと。

 

 

~~

 

 

「では、今日の練習はこのくらいにしておきましょうか」

 

放課後。私たちはダンスの練習をしていた。そして、あまりやりすぎるのも禁物ということで今日の練習が終わった。

 

「そうだ!この後みんなで善子ちゃんのお見舞い行かない?」

「いいですね……とはいえ、お見舞いに来なくていいと善子さんは言ってましたが」

「そうは言ってもお見舞いに来てもらえたらうれしいものでしょ?」

「マルは賛成かな?善子ちゃんにプリント持って行かないとだし」

 

千歌ちゃんがそう言ったことでみんな差はあれど賛成なようだった。でも、よっちゃんが朝の段階で来なくていいと言ってたわけで、本当に行っていいのかが問題だけど。できれば、よっちゃんい直接会って大丈夫か知りたいところではあるけど。

 

「でも、全員で行くのは迷惑になりそうだし、数人にしておかない?」

「そうだね。全員で行くのはさすがにね」

「じゃっ、じゃんけんで負けた二人にしよっか」

「なんで負けた二人なの?」

「気分?」

「どっちでもいいずら。でも、マルは負けてみせるずら」

「負けることに意気込むのって変な感じですわね」

「じゃーんけーん」

『『『ぽんっ』』』

 

何故かじゃんけんで負けた二人が行くということになり、私たちはそれぞれ手を出す。その結果、

 

「あっ、負けた」

「Oh、負けたですね」

「やっぱり違和感ない?」

 

私と鞠莉ちゃんが負けて行くことになり、曜ちゃんは首を傾げていた。でも、よっちゃんの事が心配だし良かったかな?

 

「では、善子さんのことは任せましたわ」

「これ善子ちゃんに渡してね」

「うん。ちゃんと渡すね」

 

花丸ちゃんからプリントと今日と昨日の分の授業のノートを受け取ると鞄にそれをしまい、私たちは学校をあとにした。

 

 

~~

 

 

「よっちゃん寝ちゃったね」

「そうね」

「善子、大丈夫?あら、お見舞いに来てくれたのね」

 

よっちゃんの家に上がらせてもらい、プリントとか鞠莉ちゃんが途中で買ってきた果物の詰め合わせ(どうやってあの量を鞄に入れたんだろ?)を渡した。それから、少し話をしてよっちゃんをベッドに寝かせ、なかなか眠れないから昔病気の時にお母さんにしてもらったように頭を撫でると、よっちゃんは落ち着いたようで眠りについた。私たちはそれを見届けると、ちょうどよっちゃんのお母さんが帰ってきた。

 

「お邪魔しています」

「ええ。お見舞いに来てくれてありがとう。この子、強がってはいるけど、昨日も寂しそうにしてたから」

「そうだったんですか。なら、来てよかったです」

 

よっちゃんのお母さんからそんな話をされると、私たちはそろそろ帰ることにした。あまり長いしていても迷惑かもしれないし。

 

「では、私たちはこれで」

「そう?気を付けて帰ってね」

「はい。そうしますね」

 

そう言って、マンションの廊下に出ると、私たちはエレベータの方に行く。そして、ボタンを押してエレベータが来るのを待つ。

あれ?この光景何処かで見たような?……あっ、今日見た夢だ。エレベータに乗ったら落下してたし。そう考えると、急に乗るのが嫌になってきたかも。

 

「ねぇ、鞠莉ちゃん。なんとなく階段で帰らない?」

「気が合うわね。私もなんとなくそんな気分だわ」

 

私の提案に鞠莉ちゃんも同意してくれた。でも、私の意見に乗ってくれるとは思ってなかった。もしかして、鞠莉ちゃんも私と同じ理由だったりして。まさかね?

 

 

~~

 

 

結局あの日は何事も無く家に帰ることができた。でも、一昨日よっちゃんから聞いたけど、エレベータが落下したとか。ただの偶然だよね?現に私たちは生きてるんだし。

 

「なんて夢を見たの」

「ふぇ~。チカも屋上から落下しちゃう夢を昨日見たんだよね」

 

土曜日の放課後。曜ちゃんから自分が死んじゃう夢を見たと聞いた私と千歌ちゃんは夢のことを話した。まさか、二人まで見ていたとは思わなかった。でもそうなると、あれがただの夢だったとは思えなくなってくる。似た夢を三人とも見ているし、これを偶然で済ませたら何かがまずそうだし、手遅れになりそうな気がする。

 

「あれ?千歌に二人とも、なんでこんなところにいるの?」

「ん?何のこと?」

 

すると、しいたけちゃんの散歩に行っていた美渡さんが部屋にやって来て、私たちがここに居ることに対して驚いていた。どうして驚かれたのかわからずに困惑していると、美渡さんは私たちの反応から言葉を続ける。

 

「いや、善子ちゃんが浦女の方に行くバスに乗ってたから、なんかするのかと思って」

 

その瞬間、私は何か良くない事が起ころうとしている気がした

 

 

~果南~

 

 

『嘘……果南!ダイヤ!』

『よいしょ』

『果南!ダイヤ!……善子!ここで何が起きたの!?』

『……いきなり倉庫が崩壊して……それで二人とも私をかばって……』

『嘘……』

『いやっ!』

 

ダイヤと曜、善子ちゃんと倉庫の掃除をしていたところ、私たちは倉庫の崩落に巻き込まれ、転倒した善子ちゃんを助けて脱出しようとするも崩落に巻き込まれていた。そして、倉庫の柱が私とダイヤの身体に突き刺さっていた。見るからに痛そうだし、出血の量から見ても、手遅れなのは一目で分かる。

そんな光景を少し離れた場所から私は見ていた。私が私を見てるのは違和感しかないけど、こんなことそうそう起きる訳がないからたぶん夢かな?

 

『私のせいだ!私が……』

「善子ちゃん!?」

 

そして、善子ちゃんはいきなり走り出すと曜の声を無視して何処かに行く。善子ちゃんが何を考えているのかわからないけど、この夢は善子ちゃんを中心にしているみたいで善子ちゃんの方に動き出す。

善子ちゃんは部室に着くと自分の鞄を漁って黒い水晶のついたペンダントを取り出す。ダイヤに見つかったら没収されそうだなぁと思っていると、善子ちゃんは一度目を瞑って動かなくなり、パッと目を開くと、

 

「我願う。故に我乞う。果南とダイヤの居る日常を!」

 

よくわからないことを口にした。なんかの呪文みたいだけど、どういう意味なんだろ?それに、私とダイヤの名前が入ってるし。

 

「わっ!」

 

すると、水晶からまばゆい輝きが放たれ、私はその眩しさから手で目を覆った。

 

 

~~

 

 

「わっ!」

 

目を覚ますとそこは私の部屋だった。なんというか気分が悪い。自分が死んじゃう夢なんてただでさえ不快なのに、ダイヤまで死んじゃってるとか。

それに加えて外はまた雨。こういう時は身体を動かして気分転換したいのに、あまり外で走る気分にはならない。小降りなら走れるけど、さすがにこの雨の中走るのは風邪ひきそうかな?

とりあえず制服に着替えると朝ご飯の準備を始める。母さんも父さんも今日はお客さん予約があるからとか言ってたから今は家の中にいないみたいだった。それと、洗い終わったお皿があるってことはもう食べたみたいだし。でも、こんな雨の日だとキャンセルされそうかも。潜るからあまり雨は関係ないけど、あまりに強いと海が荒れるからその辺りは難しい所。海が荒れるとこっちと向こうの行き来が難しくなるから、荒れないでほしいけど、今日はどうだろ?

そんなことを考えながら、食パンをオーブンで焼いて、卵焼きとウインナーをフライパンで焼く。そして、レタスとかを適当に切ってドレッシングをかけてっと。

それらを机に運んでテレビを点ける。雨が止んでくれるといいんだけどどうだろ?

 

『今日の十二位は山羊座のあなた』

「ん、山羊座って一月だからダイヤだ」

 

ちょうど占いをやっていたところで、山羊座が一月一日を含めていたからそう呟いた。ダイヤって割と占いとか信じそうだし後で教えてあげよっと。

それから朝ごはんを食べ終えて、食器を洗って準備を整えるといい感じの時間だから家を出る。さっきスマホを見たら鞠莉は理事長の仕事があるから先行くって書いてたから、一人。まぁバスに乗れば誰かしらに会うか。

 

 

~~

 

 

「ダイヤー。これも運ぶ奴に入れればいい感じ?」

「はい。そうですね」

「うぅ、なんでこんないっぱいここに関係ない物があるのー」

「あはは。文句を言っても減らないから頑張ろ」

 

放課後になっても雨が降っていたことで練習が出来ず、私たちは生徒会の仕事を手伝っていた。梨子ちゃんと一年生三人は生徒会室で書類整理、鞠莉は理事長の仕事、私たち四人は倉庫の整理をしていた。善子ちゃんはなんでか倉庫整理をしたがったけど、病み上がりだし流石にきつそうだからあっちに行ってもらった。正直、こっちは力仕事だから一年三人には厳しそうだし、梨子ちゃんは一応あっちにいた方が書類整理はスムーズに進みそうだからこういう分かれ方になった。

でも、困ったことにここの倉庫に無いはずの物が置かれているせいで棚に収納しきれない。ダイヤの話だと、適当にしまわれた結果だとか。こういうのはちゃんと整理しないと後々こういうことになるから、ちゃんとやっておいてほしかったぁ。

曜が言った通り文句を言っても無駄だから黙々と、時々ダイヤに確認しながら進めていく。

 

「さて、余計なものはこれくらいでしょうし、運んでしまいましょうか」

「うん。それでどうする?二人で運んで、残り二人はここで作用を進める?」

「うーん。その方がいいのかな?」

「どうだろ?……」

ビュー、ガタガタ。

 

ここに二人残して、それぞれの倉庫に物を戻しに行くか、二人ずつに分かれて倉庫に運ぶか。向こうの倉庫に行ったら、しまわなきゃいけないけど、ここもまだまだやることは残っている。

それと、さっきから倉庫に風が吹きつけるたびに妙な音が響くのが気になる。まさか、倒壊なんてことは無いよね?朝見た夢的に少し怖い所だけど。

 

「まっ、二人ずつに分かれて運ぼうか」

「そうしましょうか」

「じゃぁ、千歌は曜ちゃんと行って来るね」

「ヨーソロー」

 

千歌と曜は聞くや走って行ってしまった。雨降ってる中走るのは危ない気がするけど平気かな?

そんなことを考えながら、私たちももう一つの倉庫の方に荷物を運ぶ。

 

「なんか、倉庫が崩れないか心配なんだけど」

「わたくしもそこは気になりますけど、そう簡単に壊れる物でもありませんし……」

「でも、心配?」

「まぁ、あんな音が鳴っていれば」

 

ゆっくり運びながらそんなことを言えば、ダイヤも同じことを思っていたらしかった。となると、やっぱり倉庫壊れるのかな?そんな予感があるから極力倉庫から離れる選択をしたけど。

もう一つの倉庫に着くと、本来ある場所に荷物を入れていく。こっちの倉庫は風が吹きつけても変な音は聞こえてこない。そのせいか、余計に向こうの倉庫が心配になって来るんだけど。

 

「果南さん、心配し過ぎですわ。一応半年前にも検査はしま――」

ドンガラガッシャーン!

「……」

「今の音って」

 

超嫌な予感しかしない音がさっきまでやってた倉庫の方から聞こえてきた。ちょうどしまい終わったところだから私たちは戻ってみると、倉庫は崩れていて、物音を聞きつけたのか生徒や先生が集まっていた。

 

「わー。倉庫がぺちゃんこだ」

「すんごい音だったね」

「まぁ、結構ギシギシ言ってたしね」

「はぁー。整理したのが無駄になりましたね」

 

率直な感想を漏らすと、千歌と曜も走って戻って来て目を丸くしていた。いやー、みんな倉庫の外に出払っててよかった。

 

 

~~

 

 

「鞠莉も見たんだ……」

「果南も見てたとなると余計不吉ね」

 

土曜日の放課後。みんなと別れて淡島に戻ってきた後、私の部屋で鞠莉と一緒に次の曲の振付案を考えていた。そんな中、無茶な振り付け案も考えた時に「それじゃ事故になるわよ」って言われて、事故でそう言えばあの時の倉庫はどうなったのかって話になった。倉庫自体はやっぱり老朽化が原因らしく、火曜と木曜の雨がとどめになったらしかった。

で、そう言えばあの日の朝に倉庫の崩落に巻き込まれる夢を見たと言ったら、鞠莉は顔色を変えて、どんな夢か聞かれたから、覚えている範囲で話した。そしたら、鞠莉は難しい顔をして考え込んで、鞠莉も自分が死んじゃう夢を見たのだと話した。こんな不吉な夢を鞠莉も見ていたことに驚いた。

その後、いきなり曜から『善子ちゃん、そっちいる?』って連絡が来た。

話を聞くと、善子ちゃんが浦女の方に行くバスに乗っていたんだと美渡姉が言ってただとか。それだけならただ忘れ物で押して取りに戻ったと思えるけど、善子ちゃんと連絡が付かないだとか。だから、みんなは知らないのかと聞いているみたい。

 

「変な夢に、善子ちゃんと連絡が付かない」

「それと、たて続けに最近起きてる事故。そして、私と果南の夢に共通して願う善子」

「なんかすんごく嫌な予感しかしないんだけど」

「奇遇ね。私もよ」

 

鞠莉も私と同じようなことを想像しているようで、私たちは立ち上がる。善子ちゃんが何事も無く見つかればそれでいい。

 

「鞠莉、これ着て乗って!」

「OKよ」

 

一階に降りると私は鞠莉にダビングスーツを投げ渡す。鞠莉はそれだけで私のしようとしていることを理解して制服の上から着始める。私も自分のを手に取るとそれを着る。

何か起きる前に見つけないと!




また、明日~。ノシ


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24 どこかで狂った歯車

今回は千歌ちゃんとダイヤさん視点です。


『千歌!離して!このままじゃ千歌まで!』

『離さないよ!絶対に!』

『千歌!』

『千歌ちゃん!』

『いやぁー』

 

晴れたある日。沼津の練習場所の屋上で落ちそうになった善子ちゃんを助けた代わりに私が落下した。あの高さから落ちれば助かる訳がない。曜ちゃんと果南ちゃんが下をのぞき込むも、そこに広がる光景に言葉を失い、遅れて覗き込んだ善子ちゃんが悲鳴を上げた。チカはそれを見ているだけ。……ってチカ死んじゃったよ!どういうこと!?あと、なんでチカは死んじゃったチカが見えてるの?もしかして、幽霊!?

すると曜ちゃんたちは信じたくないかのように走り出して私のもとに向かう。その場に残されたのは崩れ落ちた善子ちゃんだけ。

善子ちゃんは泣きながら地面を殴って自分を責める。

 

『まだよ!絶対にこんなこと』

 

すると、いきなりそう言って立ち上がり走り出す。階段を駆け降り、チカたちが普段使っている部屋に入ると鞄から黒い水晶の付いたペンダントを取り出す。善子ちゃんはそれを握ると目を瞑る。善子ちゃんが何しているのかわからず見守っていると、

 

『絶対に救ってみせる!これは私が償わなきゃいけないから!』

 

善子ちゃんは何かを決意したかのようにそう言う。そして、

 

『我願う。故に我乞う。千歌の居る日常を!』

「うわっ!」

 

呪文みたいなことを口にすると手にしていた水晶が輝いて、善子ちゃんとチカを光が包み込んだ。チカはあまりの眩しさに目を瞑ったけど。

 

 

~~

 

 

「うわっ!」

 

ベッドから転げ落ちて目を覚ました。良かった、夢だったんだ。そうだよね。チカが死んじゃうなんてそうそうないよね?

ふぅ、夢だとわかったら安心しちゃったや。もう一回寝よーっと。

 

「バカ千歌!二度寝すんな!」

「うわぁ!」

 

二度寝しようとしたら美渡姉が部屋に入って来た。びっくりしたー。時計を見たらそろそろ起きないといけない時間だった。危うく二度寝しちゃって遅れるところだった。

 

「おはよう、美渡姉」

「おはよ、千歌。じゃ、起きたし戻るか」

 

美渡姉はそう言って部屋を出て行った。美渡姉が起こしてくれるなんて珍しいかも。そんなことを考えながら、のんびりしてたらまずいから着替える。

階段を降りると、朝ごはんが置いてあった。

 

「おはよう、千歌ちゃん」

「おはよう、志満姉」

「今日は朝練があるんでしょ?さっさか食べちゃいなさい」

「はーい」

 

美渡姉の向かい側に座ると、挨拶をして食べ始める。結局、あの夢なんだったんだろ?夢だから安心しちゃったけど、よくよく考えると不吉すぎるよ。

 

「そう言えば、なんか声上げてたけど、あれってベッドから落ちたとかか?」

「まぁ、そうだけど」

 

声を上げたのはあの夢で起きたからなのだけど、それと同時にベッドから落ちてる訳でそう言うことにしておく。チカが死ぬ夢なんて縁起が悪すぎるし、美渡姉に馬鹿にされそうだし。

 

「ふーん。まぁ、気を付けなよ。ベッドから落ちて怪我でもしたら皆に迷惑がかかるだろうし」

「うん、これからは気を付けるよー」

 

味噌汁を飲みながら返答すると、なんだかんだで食べ終える。

 

『今日の十二位は獅子座のあなた』

「うわっ、最下位だし」

「いきなり不運だな。でも、たかが朝の占いだし気にすること無いだろ」

「いや、こういうのは意外と当たるわよ」

 

二人は反対のことを言っていて、どっちの言葉を信じた方がいいんだろ?

 

 

~~

 

 

「どんだけ食べるのよ……と、手洗いに行って来るわ」

「いってらしゃーい」

 

朝練と授業が終わってチカ達は沼津の練習場所に来て練習をしていた。今は休憩中で、善子ちゃんはお手洗いの為に部屋を出て行った。

結局朝の占いでの不幸なことは今のところ起きて……るかも。お弁当のおかずを落したりしたし。

 

「ちょっと、外の空気吸って来るね。千歌ちゃんも行こ?」

「あっ、うん」

 

そんなことを考えながら、飲み物を飲んでいると曜ちゃんに声をかけられて頷く。果南ちゃんと鞠莉ちゃんも外の空気を吸うと言って四人で屋上に行く。

屋上には他に誰もいなくて、心地いい風が吹き抜ける。ふぅ、外の空気を吸ったら気分がよくなったかも。でも、なんだかここに居ると少し嫌な感じもする。あっ、今日の朝の夢だ!あれもここだったし、正夢になったら怖いからフェンスに近づかないでおこうっと。

 

「千歌ちゃん、ここからの景色綺麗だよ」

「うん。でも、よく見てるから今日はいいかな?」

「そう?」

 

曜ちゃんがフェンス越しに外の景色を眺め、チカはフェンスから少し離れた位置で止まる。流石にここからなら落ちたりしないよね?

 

「さて、そろそろ戻ろっか。あんまりゆっくりしてたらダイヤに文句言われそうだし」

「それもそうね。ダイヤにグチグチ言われるのは嫌だし」

「二人とも、あんまりそういうことは言わない方がいいよ……わっ」

 

果南ちゃんに言われて曜ちゃんが離れると、いきなり強い風が吹いた。曜ちゃんは声を上げ、なんとか風を耐える。その結果、風をもろに受けたフェンスの一つが落ちた。

 

「あら。危ないわね」

「はぁはぁ」

 

鞠莉ちゃんは少し驚くとポケットからスマホを出して写真を撮る。

すると、入り口から善子ちゃんが息を切らしてやってきた。どうして息を切らしてるんだろ?もしかして、善子ちゃんがどうしたいか聞かなかったから追いかけてきたのかな?

 

 

~~

 

 

「善子ちゃんと連絡が繋がらないよ」

「みんなは知らないかな?」

「連絡してみる」

 

土曜日の放課後。チカ達は曲作りを進めていた。その途中で三人とも自分が死んじゃう夢を見ていたことがわかって、それから美渡姉に善子ちゃんが浦女の方に行ったのを見たと聞いた。

いつもなら忘れ物を取りに行ってるのかもと思うけど、今日はなんだか嫌な感じがした。三人とも変な夢を見たせいかもしれないけど。

だから、善子ちゃんに電話をしてみたけど、電源が入ってないのか一向に繋がらない。だから曜ちゃんがみんなにチャットで連絡を取る。もしかしたら、ダイヤさんか花丸ちゃんの家に行ってるだけかもしれないし、果南ちゃんたちが何か知っている可能性に賭けて。

 

「ダメ。みんな善子ちゃんと一緒に居ないし、どこにいるか知らないみたい」

「うーん。どこ行っちゃったんだろ?ただ忘れ物を取りに行ってるのならいいんだけど」

「じゃぁ、行ってみる?」

 

心配そうな表情をしていたら梨子ちゃんがそう提案してくれた。でも、これはただの心配なだけで、本当に何も無いだけなら無駄になっちゃう。

 

「私も気になるから」

「これで何も無ければ何もないで良かったってことで」

「うん、じゃぁ行ってみよう」

 

二人に背を押されて三人で家を出る。心配が杞憂に終わってくれればいいけど。家を出ると、ちょうど大瀬崎行きのバスが来たからそれに乗る。

ダイヤさんたちの乗るバス停に着くと、三人が乗ってきた。

 

「あれ?三人ともどうしたの?」

「どうしたのって、あなたたちが聞いたのでしょう?わたくしたちは嫌な予感がして出て来ましたの」

「私たちが死んで善子ちゃんが祈るって言う、変な夢を三人とも見てたから」

「え?花丸ちゃんたちも見たの?」

「もしかして、千歌ちゃんたちも見たの?」

「なんか、ますます偶然とは思えなくなってきたね」

 

三人も似た夢を見ていたってことは余計に怖くなってきた。そうして、善子ちゃんの無事を祈りながら、浦女前のバス停に着く。

 

「あれ?みんな?」

「果南ちゃんと鞠莉ちゃん?」

「もしかして、二人も変な夢を見た?」

「その反応ってことは、みんなも見たのね」

 

浦女前のバス停で降りると、果南ちゃんと鞠莉ちゃんがそこにいた。海の上には果南ちゃんのマリンバイクが浮いているから、淡島からまっすぐここに来たみたい。鞠莉ちゃんの言葉は肯定であり、これで八人全員が似た夢を見たことになる。もう偶然なんかじゃないよね。何か意味があるとしか思えない。もしかして、善子ちゃんも似た夢を見たのかな?

 

 

~ダイヤ~

 

 

「校門は閉まってるわね」

「でも鍵は開いてるから入れなくもないね」

「一応入ってみよっか」

 

わたくしたち八人は坂を上って校門前にいた。善子さんがここにいればいいのですが。それにしても、何故チャットに反応してくれないのでしょうか?

わたくしの家にも千歌さんの家にもいないということは、こっちの方だとあとはここくらいしか思いつかない。もしかしたらルビィたち以外の友達がこっちの方に居て遊びに行ったとも考えられるけど、それなら一度バスに乗って沼津の方まで行った理由が分からない。だったら忘れ物をしたことに気付いて戻ったと考えた方が可能性は高い。だから、中にいる可能性に賭けて校門を開けて中に入る。

 

「校舎の中って閉まってるから入れないよね?」

「でも、チカ達って夏休みに入れてたような?」

「まっ、中に入れないのなら外のどこかにいるかもだし、とりあえず外を探してみよっか」

「うん。そうだね」

 

とりあえず、昇降口前に来ましたが鍵はすでに閉まっているので校舎の中は入れないはずだから外を探すことになりました。忘れ物をしたのなら中に入れないことで諦めて家に帰ったかもしれませんが、一度通り過ぎた沼津行きのバスの中に善子さんの姿が見えませんでしたし、歩いたところをはち合わせてもいないのでその考えは捨てる。同じくバス停にもいなかったのでまだここに居る可能性が高い。もしかしたら校舎内に侵入できる場所が無いか探している可能性も。

 

「チカは部室の方に行ってみるね」

「じゃっ、私はこっちの方から校舎に侵入できる場所が無いか探してみるわ」

「なら私は校庭の方に行ってみるね」

 

八人で固まっているのは効率が悪いから二、三人ずつに分かれて探し始める。千歌さんたちは部室の方に行き、鞠莉さんたちは中庭の方へ、わたくしたちは校庭の方から捜索を始める。

果南さんと一緒に校庭の方を歩くも、善子さんの姿は見えない。万に一つの可能性として校庭の真ん中で魔法陣のようなものを描いている可能性も考えてましたが、それはありませんでしたね。

 

「いないね。となると、やっぱり何処かから中に入ったのかな?」

「そう考えるのが自然ですね。しかし、中に入ることなんてできるのでしょうか?先生方が戸締りの確認はしていると思いますけど」

 

善子さんが中に入った可能性を考えるも、どうやって中に入れるのかがわからない。その様な状態で校舎に沿って歩いていると、中庭の方に行っていた鞠莉さん、梨子さん、曜さんとはち合わせる。三人は校舎の一室の窓を見ていた。

 

「何を見ていますの?」

「ん、どうやら善子は見つかっていないようね。ここの窓鍵が開いてるのよ」

「あっ、ほんとだ」

 

鞠莉さんに言われそこを見ると、確かに窓の鍵がかかっていない。これなら入ろうと思えば入ることが出来る。

 

ピロンッ

 

すると、同時に全員のスマホから通知音が響き、梨子さんがスマホを取り出して通知を見る。

 

「あっ、千歌ちゃんからだ。部室にはいないけど部室の窓が開いてたから入ってみるって」

「はぁー。なんで部室の窓が開いてるんですか?」

「あはは。閉め忘れかな?」

「私たちは校舎内を探そっか」

「そうね。善子ならこういうのを見たら利用しそうなタイプだし」

 

部室の窓の鍵まで閉まっていなかったことでため息が出る。こういう不用心が後々の問題になるからしっかりして欲しい物ですね。

曜さんの提案で窓から中に入る。窓から入るのはどうかと思いますが、まぁいいでしょう。わざわざ昇降口まで戻るのも手間ですし。

梨子さんが千歌さんたちに空き教室の窓から校舎内に入ったことを伝えると、廊下に出る。さっきの組み合わせで、とりあえず一階と二階に分かれて探し始める。善子さんが忘れ物をしてここへ来たのなら部室か一年生の教室にいるはずですけど、部室にいないとなるとここに……

 

「いませんね」

「だね。体育館にもいないって」

 

一年生の教室にはおらず、体育館にいる三人からもいないという連絡が来たことで完全に手詰まりに。やはり、どこかで入れ違いになったのでしょうか?

 

一応一階の他の教室も回ってみましたが結果は不発。階段のところで千歌さんたちと合流して二階に上ると、鞠莉さんたちも待っていました。

 

「あとは三階だけね」

「忘れ物をしたのならいる訳がありませんけど」

「でも、本当に忘れ物を取りに戻って来たのかもわからないけどね」

「一応見てみましょうか」

 

念のために三階に上り、教室を全て見て行く。結果はやはりどこにも姿が見えない。

浦女で残っているのはあと一か所。そこにいなければ本当に行方がわからなくなる。

 

屋上に上がり、閉まっているドアを開ける。

この時にはわたくしはすでに予感がありました。帰りにわたくしは鍵をかけた覚えがありましたから。それなのに鍵が開いていた。

屋上に出てみるとそこには誰もおらず、どうやらただの杞憂のようでしたね。

 

「えっ!?」

 

しかし、出てすぐに横を見ていた花丸さんが驚いた声を上げたことで、花丸さんの見た方を見る。

 

そこには壁に背を預けて、まるで眠っているように穏やかな表情の善子さんの姿がありました。

 

「善子ちゃん!?」

「よっちゃん!?」




明日というか今日から半日投稿です。
書き終えてるならのんびり投稿する必要ないですしね。


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25 理解したくない現実

半日投稿中。その為話数注意です。

今回は花丸ちゃん視点です。


善子ちゃんを探して体育館に来たマルたちは、そこに誰もいないことを確認すると、みんなが入ったという空き教室の窓から校舎の中に入る。

廊下に出るとちょうど二人が歩いていたから合流するも、善子ちゃんは見つかっていないとのことだった。

だったら上の階にいるかもと言うことで上に上がると、二回を探していた三人と合流する。結果はやっぱりいなかった。

 

「あとは三階だけね」

「忘れ物をしたのならいる訳がありませんけど」

「でも、本当に忘れ物を取りに戻って来たのかもわからないけどね」

「一応見てみましょうか」

 

僅かな希望として三階にも行ってみるけど、どの教室にも善子ちゃんの姿は無かった。そうなると、まだ見ていない場所は屋上だけになる。

 

「もしかしたら、屋上に忘れ物をしたから取りに来たのかも」

「うん。そうかもね」

 

一応見てみようということで、屋上に上がると夕日に染まっていて善子ちゃんの姿は無かった。だから、善子ちゃんはもう帰ったのだと思った。それで、なんとなしに横を見ると善子ちゃんが壁に背を預ける形で眠っていた。

 

「えっ!?」

 

こんなところで眠っていることに驚いて声を上げると、みんなはマルの声で善子ちゃんに気付く。なんでこんなところで寝てるんだろ?と思ったけど、すぐに違和感に気付いた。眠っていたら息をする際に胸が動くはずなのに一切動いておらず、寝息すらも聞こえない。まるで、息をしていないかのように。

 

「善子ちゃん!?」

「よっちゃん!?」

 

マルはある結論に至り、声を出しながら善子ちゃんに駆け寄る。梨子ちゃんも何かに気付いたのか駆け寄る。

善子ちゃんの身体に触れると、温かいけど息をしていなかった。

 

「善子ちゃん。どうしてこんなところで眠っているの?」

 

マルは事実を受け入れたくなくて、善子ちゃんの身体を揺する。いつもみたいに悪戯なんでしょ?ほら、早く起きてよ。こんな笑えない悪戯はダメだよ。

 

「善子ちゃん、早く起きてよ」

 

なかなか起きない善子ちゃん。もう、善子ちゃんは寝坊助さんだなぁ。でも、こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?

 

「嘘……」

 

マルが善子ちゃんの身体を揺すっている隣で梨子ちゃんも善子ちゃんの身体に触れ、腕を掴む。すると、梨子ちゃんは手を放して口を押えて驚愕の表情を浮かべる。それだけで皆にも善子ちゃんの状態が伝わる。

ダメだよ。口にしちゃったら受け入れなくちゃいけなくなっちゃう。

 

「死んでるの?」

「そんな、わけない、ずら」

「でも、脈は止まっているし、息もしてないんだよ」

「なんで……」

「いやぁー」

「よしこちゃぁん……うっ、うわぁん」

 

マルは信じたくなかったけど、目の前の現実に限界を迎えて善子ちゃんに抱きついて涙を流した。なんで死んじゃったの?何があったの?

みんなからも嗚咽や泣いている声が聞こえてきて、余計にこれが現実なのだと実感させられる。

鞠莉ちゃんは涙を拭うと救急車を呼ぶ。いつまでも善子ちゃんをこんなところで寝かせておくわけにもいかない。

マルも涙を拭うと、気づいた。

善子ちゃんの手にスマホが握られていることに。

 

「もしかしたら」

 

もしかしたら、スマホに善子ちゃんがこうなった原因が残っているかもしれない。誰かに襲われたのなら写真が残されているかも。

でも、ロックの解除の番号がわからない。無難に誕生日を入力してみるけど、パスワードが違うと返される。みんなもマルがしようとしていることに気付くと近づいて来る。

それから、みんなの誕生日や善子ちゃんが好きそうな数字などを入れてみたけど、全て違った。一体、どうやったらロックが開くんだろ?

 

「……もしかしたら。花丸ちゃん貸して」

「うん」

 

梨子ちゃんは呟くようにそう言うと、スマホを渡して番号を押していく。それは善子ちゃんがAqoursに正式に加わった、沼津追いかけっこをした日の日付。梨子ちゃんが決定を押すと、ロックが解除される。

ロックのパスワード、あの日にしてくれたんだ。

幾つかのアプリと今の時刻、そしてマルたち九人が映った待ち受けが表示される。その中のカメラのアプリに触れてからフォルダーを開く。

 

「何かありましたか?」

 

ダイヤさんがすがるような声でそう聞く。

 

「……ううん。あるのは普通の写真だけ」

「そんな……」

 

Aqoursの活動時の写真や普通の日常の一コマを撮った写真だけ。善子ちゃんがこうなった原因を示唆するものは一切無かった。

梨子ちゃんの手からスマホが離れて地面に落ちる。せっかくあると思った希望もついえた。もう、どうしようもないの?

 

「救急車を呼んだから、病院に行けば、もっとわかるはずよ」

「うん」

 

鞠莉ちゃんは涙をこらえて言葉を途切れさせながらそう言う。でも、原因を知ったところで善子ちゃんが戻ってくるわけじゃない。

善子ちゃんの身に何があったの?どうして、そんな穏やかな表情をしてるの?

そう思いながら善子ちゃんの身体に触れる。本来なら現場検証とかあるだろうから触らない方がいいのだろうけど、今は許してほしいずら。善子ちゃんを感じていたい……。

 

「「あっ……」」

 

善子ちゃんの首元に何かあるのに気づいて声を出したマルと、善子ちゃんのスマホを拾ってスマホの中を見ていた曜ちゃんの声が重なる。

マルは善子ちゃんの首元にあるチェーンを引っ張ると、それは黒い水晶のついたペンダントだった。それには見覚えがあり、夢で善子ちゃんが握っていてモノと一緒だった。

善子ちゃんが別のペンダントをしている、或いは別の人がこのペンダントをしているのならそこまで気にはならなかったかもしれないけど、善子ちゃんがこのペンダントをしているとただの偶然だとは思えなくなる。

もしかして、あの夢って……。

 

「曜ちゃん、どうしたの?」

「うん。ここ最近、善子ちゃんがよくスマホを見てたから、何かあるんじゃないのかなって思って見てたんだけど……」

「日記だね?……あれ?……え?」

「どうかしましたの?」

「これ……」

 

曜ちゃんと千歌ちゃんが何か話してたからそっちを見ると、なんだか難しい顔をしていた。それで、ダイヤさんにスマホを渡すとダイヤさんは画面に目を走らせる。

 

「なんですの?これは……」

「どうしたの?ダイヤ?」

 

ダイヤさんがそう呟くと鞠莉ちゃんが声をかけ、ダイヤさんは目を離して目を瞑って気持ちを落ち着ける。

そして、目を開くと何かを決意した目をしていた。

 

「全部はまだ見ていませんが、覚悟してください」

「どういうこと?」

 

ダイヤさんがそう前置きすると、スマホを見ていない私たちは首を傾げ、見た曜ちゃんと千歌ちゃんは暗い顔をしていた。

 

「途中までですが、内容が内容ですので。一つ一つが長いので掻い摘んで書かれていることを読みます……月曜日。曜が私の目の前で車に轢かれた」

「……」

「火曜日。曜の死を回避できたのに、次はルビィと花丸がバスの横転した際に頭を打ち付けて出血死した」

「どういうことずら?」

「ルビィたちそんなこと起きてないよ?」

「水曜日。二人の死を覆したのに、お見舞いに来たリリーとマリーがエレベータの落下で転落死した」

「私たちそんな目に遭ってないよ!」

「確かにエレベータはあの後落下したらしいけど……」

「木曜日。せっかく二人を死から逸らしたのに、ダイヤと果南が倉庫の整理中に崩落に巻き込まれて死んだ」

「私たち外に出てたよね?」

「金曜日。どうにか倉庫の崩落から脱したのに、落下しかけた私を助けて千歌が屋上から落ちて転落死した」

「……」

 

ダイヤさんはそこで一度話すのを止める。どういうこと?今週中にみんな死んだってこと?でも、みんな生きてるよね?それに、死を回避したって。

 

「よくわかりませんが、善子さんの日記の一部はこのようなことが書いてありました」

「どういうことなの?それに、一部って……」

「続きを読みます。土曜日。建設中のビルを横切ったら、鉄骨が降ってきて、私は死を予感した」

「今日、そんな事故が起きたなんて聞いてないよ?」

「ええ。そうですね。しかし、これでまだ日記の冒頭部です。月曜日。どういう訳か月曜日に戻ってた。曜とマリーと一緒に沼津に行ったその帰りにマリーが車に轢かれた。どういうこと?月曜日は曜が事故に遭うんじゃなかったの?」

「どういうこと?また、月曜日って。それに鞠莉が事故に遭ったって。それに、最後の部分って」

「見た限り、このような内容が延々と続いています」

 

善子ちゃんの日記の内容で、みんな困惑を隠せない。どうして、みんなが死んだことが、自分が死にかけたことが書かれてるの?

 

「そして、わたくしは死んでいませんが、木曜日に自分が死ぬ夢を見ました。ルビィと花丸さんも見ていたらしいのですが……」

「あっ、チカ達も見た……」

「私と果南もさっきそんな話をしたわ」

 

全員、最初に日記に書かれた自分の死んだらしい日の朝に見たらしい。

やっぱり、さっきマルが思ったことが起きたってことなの?

 

「……タイムリープ」

 

マルは呟くようにその言葉を口にした。もし仮に、そこに書かれていることが真実なのだとしたら、あの夢と合わせて浮かぶのがそれだけ。あの夢が終わる直前に善子ちゃんが願ったことで過去に飛んでいるのなら、一応つじつまは合う。過去に飛んで皆の死を無かったことにしていた。でも、タイムリープなんて本の世界、フィクションの世界での話であって、現実ではあり得ない。

 

「現実的とは言えませんが、そう考えるとこの日記にもつじつまが合います。所々、前の部分のことがほのめかされている場所がありますわ」

「でも、それだとよっちゃんがここで倒れている理由が分からないよ!」

 

梨子ちゃんが大声でそう言うと、辺りがシーンと静まり返る。確かに、善子ちゃんがここに倒れている理由が分からない。タイムリープすることができるのなら、ここに倒れる前に過去に飛んでいるはず。

 

「梨子さん、落ち着いてください」

「落ち着いてなんてできないよ!」

「梨子、動揺するのはわかるけど、少しは落ち着いて。私たちだって同じ気持ちだから」

「……うん。そうだね」

 

二人に言われて、梨子ちゃんが落ち着きを取り戻す。でも、取り乱すのもわかる。

目の前に起きている善子ちゃんの死。私たちが死んだことが書かれている日記。タイムリープをしているかもしれないこと。

わからないことが多すぎる。

どうして善子ちゃんは一人で抱え込んだの?相談してくれなかったの?どうして善子ちゃんはタイムリープできるの?どうして善子ちゃんは今回タイムリープしなかったの?それともできなかったの?

 

「マルたちはどうすればいいんだろ?」

「それは……」

 

これからどうすればいいのかわからず言葉にするけど、誰もマルの言葉に対する答えはわからない。

善子ちゃんがいなくなった今、Aqoursはこれからどうなるんだろ?

そんな気持ちでダイヤさんが持っている善子ちゃんのスマホの日記を読む。

善子ちゃんがどうして日記を付けたのか。これからどうすればいいのか分かる気がしたから。

 

いくら見ても、誰かが死んだ日のことが書かれていた。最初から二、三週分は内容が薄かったけど、それ以降はびっしり書かれていた。その日の天気、朝の星座占いの結果、善子ちゃんが家を出た時間、朝練でやった練習内容、授業中に不審な点が無かったか、放課後の練習内容、起こった事故の内容などなど。たぶん、ノートで書いてたら何冊、いや何十冊にもなりかねない量だった。本をよく読んでいるおかげで読む速度は速くて、重要な場所だけ見て行く。

その結果……

 

「こんなに繰り返してたら、心が壊れちゃうよ……」

 

すごく悲しい気持ちになった。こんなに人の死を見ていたら、おかしくなっちゃう。きっと、全員が生きる道を探し続けたんだと思う。

それと、どうして相談してくれなかったのかもわかった。一度善子ちゃんは梨子ちゃんに聞かれて話していたらしい。どんなことを話したのかは書いてなかったけど。でも、その後に梨子ちゃんが怪我をしたから、話したらダメだったのだと考えたみたい。確かにそれなら話さなかった。ううん、話せなかった事にも納得がいく。

それから何周も繰り返し、今に至っていること。でも、どうして善子ちゃんが死んじゃったのかについてはわからなかった。

 

「千歌ちゃん?」

 

すると、千歌ちゃんがおぼつかない足取りでフラフラしながら善子ちゃんに近づき、曜ちゃんが声をかける。

千歌ちゃんは善子ちゃんの前でしゃがむと首にかかっているペンダントに触れる。

 

「これで過去に飛べないかな?」

「千歌ちゃん。それは……」

 

千歌ちゃんから出たその言葉は、きっと藁にも縋る気持ちの末に出た僅かな希望だと思う。善子ちゃんが今まで何十、何百と繰り返してきたのなら可能性はある。

 

「確か……我願う。故に我乞う。だよね?」

「うん。その後は誰かの名前を言ってた」

「じゃぁ、やってみるね。我願う。故に我乞う。善子ちゃんの居る日常を!」

 

千歌ちゃんの言った可能性に全員かけて、千歌ちゃんが口にする。でも、あの夢みたいに水晶が輝くことは無かった。

 

「どうして!?なんで、過去に飛べないの?やっぱり、あれは夢なの?あの日記はなんなの!?それとも、千歌じゃできないの!?」

 

何も起きないことで、千歌ちゃんは叫ぶ。マルたちも何が何やらで動けない。そんな中、曜ちゃんが千歌ちゃんのそばに寄って、後ろから抱きしめる。

 

「千歌ちゃん。落ち着いて」

「……うん。ありがとう、曜ちゃん」

 

曜ちゃんのおかげで千歌ちゃんは落ち着く。でも、何も解決はしていない。

すると、梨子ちゃんも千歌ちゃんのそばに寄る。

 

「千歌ちゃん。諦めないんでしょ?まだ何かが足りないんだよ」

「うん。私の見た夢だとね。最初は水晶が輝いてなかった。でも、もう一回やったら水晶が輝いてた」

「そうなの?」

「うん。その時はわからなかったけど、今なら、一回目と二回目で何が違ったのか分かる気がする。きっと、気持ちの問題だよ」

「気持ちの問題?」

「たぶん、会いたい気持ち。取り戻したいって願い。そういうものだと思う」

「でも、チカは願ったよ?善子ちゃんともう一回会いたいって」

「うん。だからね。次はみんなで願お?」

「みんなで?」

 

マルは立ち上がって千歌ちゃんのそばに寄る。みんなも一緒で千歌ちゃんのそばに寄っていた。

 

「善子ちゃんにまた会いたいのは千歌だけじゃないよ」

「まだ分からないことばかりで、どうしたらいいのかわからないけど」

「でも、越えられない壁はありませんわ」

「うゅ。壁は乗り越えられるよ」

「或いは壊しちゃいましょ?」

「マルたちなら絶対になんとかなるよ」

「だから……もう一回願お?」

「……うん。そうだね。みんなでなら!」

 

善子ちゃんの水晶の上で皆の手を重ねる。善子ちゃんともう一度会うために。

 

「どうせなら、私たちらしく行きましょ?」

「だね。我なんて私たちには似合わないよ」

「うん。じゃぁ、行くよ」

「うん」

 

「「「「「「「「私たちは願う。私たちは乞う。善子ちゃんの居る日常を!」」」」」」」」

 

そして、水晶はマルたちの願いに呼応して眩い輝きを放ち、マルたちはその輝きに包まれた。



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26 笑顔の為に

半日投稿中。その為話数注意です。

評価が赤になったり、お気に入りが増えたりとビックリ。
でも、すぐにみかん色とか黄色になるんだろうなぁ。

今回は善子ちゃんと鞠莉ちゃんの視点です。まぁ、ほぼ鞠莉ちゃん視点ですけども。


「ん、ん~。ふわぁ」

 

土曜日。私はいつも通り目を覚ました。

今日はいつも通りに過ごそう。それが昨日決めたこと。どうやったって、私の事故は回避できないだろうし、回避する理由ももう無い。

布団から出てベッドから立ち上がると、制服に袖を通す。今日でこれを着るのも最後ね。

 

「おはよ、ママ」

「おはよう、善子」

 

リビングに行くと、ちょうど朝ごはんを運んでいるママと会い、挨拶を交わすとテレビを点けて椅子に座る。朝ごはんを食べていると、テレビはいつも通り占いコーナーになる。見なくても大体今日の最下位はわかってるけど。

 

『今日の十二位は……蠍座のあなた。予想外のことが立て続けに起こるかも?』

「え?」

「どうかしたの?」

「ううん。なんでもない」

 

占いの結果を見て驚きの声を漏らすとママに聞かれたから誤魔化す。

どうして、今回は蠍座なの?土曜日は決まって蟹座だったのに。よりによって、誰の星座でもないなんて。この場合はどうなるかわからない。

まぁ、やることは変わらない。みんなと一緒に居なければ皆に危害が加わることは無い。最悪、どんな手を使ってでも。

私は静かに心に決める。

きっと、ママを悲しませることになる。でも、私がいなくなる以外には皆を救うことはできない。そもそも、私が生きて越えられる確証はないし、仮に超えてもその日以降も皆に死の危機が訪れないという確証はない。最悪、ずっと続くかもしれない。

 

「ありがとね」

「ん?どうしたの急に?」

「ううん。なんとなく言いたくなっただけ」

 

だから、せめて気持ちを伝えておく。きっと、私の本当の気持ちは伝わってないけど、これは伝わったら困る。だからこれでいい。

ママは気になるのか首を傾げるもテレビに映った今の時間を見て慌てて残りを食べると、食器を置いて鞄を手に取る。

 

「皿洗いお願い。いってきます」

「はーい。いってらっしゃい」

 

ママは慌てた足取りで出て行き、座りながらそれを見送る。一人になると、テレビの音だけが響く。

そんな空間で残りを食べると食器を運び、ママの分も一緒に洗う。

 

「さて、集合まではまだ時間があるけどどうしよ。ママに手紙は……いっか。それだと遺書にしか見えないし。少し早いけど、もう学校行こ」

 

特にすることも無いから家を出ることにする。もしかしたら生徒会の仕事とかで誰かしら居るかもだし、手伝えることはしておきたい。

そう言う訳で、鞄の中に飲み物やお弁当を入れるとそれを肩にかける。これは……まぁ、使う気は無いけど持っておこ。

家の鍵をかけると家を出る。エレベータはまだ復旧してないから階段で下に降りる。十階だから結構降りるけど、Aqoursの練習でのおかげかそこまで疲れることは無かった。

階段を降りてバス停に行くと、バスが来るまではまだ少しありそうだった。というか、バスが少し遅れてるみたい。

数分待つとバスがやって来て、乗り込むといつも通り後ろから二個目の座席に座る。いつも出る時間よりも早いからたぶんこのバスに乗る人はいないはず。いや、もしかするかもしれないけど。

 

曜が乗るバス停に差し掛かるけど、そこには誰もいないから素通りする。やっぱり、いつもより早めに出たからいないわよね。わかってたけど、最後の日な訳だからその分たわいのない話をしたかったかも。

それから、淡島前、千歌達の最寄りのバス停、ダイヤたちの最寄りのバス停を通過する。結局、みんなが乗って来ることは無く、バスは浦女前に着く。やっぱりもう少しゆっくりするべきだったかしら?

そんなことを思いながら、バスを降りて坂を上って行く。この時間だと他の部活の生徒もまだ練習に来ていないからか、静かな空間が続く。

坂を上り切って、校門前に着くと、何故か校門は開いていた。昇降口はまだ開いていないけど、どうせ休日の練習だと直接部室に行くから問題は無い。

部室に着くと、

 

「あっ。善子ちゃん、おはよー」

「おはよ……う?」

 

そこには八人全員そろっていた。てっきり、私が一番乗りだと思っていたから、意外だった。特に、千歌やルビィが私より先に来ていることが珍しいし。

 

「善子ちゃん、そんなところに立ってないで中に入りなよ」

「あ、うん」

 

千歌に言われて中に入ると、そのまま椅子に座らせる。

 

「さて。普通に考えたら少し世間話でもしてから切り出すべきなんだろうけど」

「まどろっこしいのは面倒ですので単刀直入に行きましょう。あなた何か隠しているますわよね?」

「……ッ!」

 

マリーとダイヤにまっすぐに見据えられてそう言われたことで息を呑む。なんで、私が隠していることを知ってるの?ううん。まだ聞かれてるってことは、疑問がある段階。きっと最近の私の様子を見て気になった程度のはず。巻き込むわけにはいかないから、隠し通さないと。

 

「なんのこと?隠し事なんて特には……」

「はぁー。OK、なら聞き方を変えるわ」

 

マリーはため息をつくと、一呼吸置く。

 

「あなた、今何回目の一週間を迎えたの?」

「え!?」

 

 

~鞠莉~

 

 

気が付くと、私は自分の部屋のベッドにいた。確か、屋上で願って……!

 

勢いよく身体を起こしてスマホを手に取り電源を点ける。そこには土曜日の朝――願ったあの時の朝を示していた。つまり、過去に飛ぶことができたってこと?

 

ブゥーブゥー

カナン『鞠莉、ダイヤ。起きてる?』

 

すると、スマホが振動して画面を見ると果南から連絡が入る。グループの方では無くて三年メンバーだけの方だったけど、気にすること無くそれに目を通して返事を返す。

 

マリ『ちょうど起きた所よ』

ダイヤ『おはようございます。お二人とも』

カナン『おはよ。それで過去に飛べたみたいなんだけど……』

 

どうやら果南も過去に飛べたようで、あの時の記憶もある様子だった。じゃぁ、他の皆も過去に飛べて覚えているってことでいいのよね?私たちがやることは、きっと生きている善子に会うこと。その為に過去に飛んだのだから。

 

マリ『私もあの時の記憶があるわ』

ダイヤ『わたくしも覚えていますわ。となると、あの場にいたメンバーは覚えていると考えるべきなのでしょうね』

カナン『じゃっ、みんなにも連絡して善子ちゃんに会わないと!』

ダイヤ『そうですね。それが目的ですし、全てを聞かないと』

 

善子ちゃんに会って、あの日何が起きたのか聞こうということになった。それと今まで起きていたことも。

でも、気がかりが一つ。

 

マリ『真正面から聞いて話すかしら?』

カナン『どういうこと?』

マリ『だって、私たちに相談してくれなかったのよ?今の善子はきっとかたくなに一人でやろうとすると思う』

ダイヤ『確かにあり得ますね』

カナン『でも、何もしなければまた同じことの繰り返しだよ?』

 

どこまで行ってもどうするべきかわからない。なんの策も無しにやるのは得策ではないだろうけど。

どうすればいいのかしら……。

 

カナン『まっ、いつまでも三人で言い合ってても埒があかないし、みんなに相談しよっか』

ダイヤ『ですね。善子さん以外の八人で』

マリ『そうね。まずはみんなで共有しないと』

 

今後の方針を固めると、それぞれに連絡をする。さしあたって、今日の練習前に早めに集まって考えようということになった。でも、集まるのが決まっただけで、善子にどうやって聞くかは決まっていない。

 

「とりあえず、準備しよっと」

 

だから、どうしたものかと考えながら支度を始める。あんまりのんびりしていたら善子が来るまでに十分話し合えないからね。

支度を済ませて家を出ると、船着き場で果南が待っていた。果南はなんでかダイビングスーツを着ていて、その手にはもう一着あった。

 

「おはよ、鞠莉」

「おはよ、果南。で、その格好はどうしたの?」

「ん?バスで行くより、あの時みたいにこれで一直線に行った方が速いでしょ?」

 

私の疑問に果南は海の方に浮いているそれを見てそう言った。海には果南の家で使っているマリンバイクが浮いている。まぁ、言いたいことは分かるけど。

 

「確かに速いわね」

「正直、バスが来るまで待つのもあれだし、こっちの方が私たちにあってるでしょ?それに、理事長さんが許可してくれれば浦女のそばに止められるだろうし」

 

果南は悪戯っぽく笑みを浮かべてそう言う。確かに、バスで行くよりも海から一直線に行った方が圧倒的に速い。それに、私なら、

 

「いいわ。特別に許可しちゃうわ」

 

理事長特権で許可も出せちゃうし。というわけで、果南の手に持っているダイビングスーツを着ると、荷物をシート下にしまい、果南がマリンバイクにまたがり、私はその後ろに乗る。

 

「飛ばすからちゃんと捕まっててね」

「ええ。絶対に離さないわ」

「じゃぁ、しゅっぱーつ」

「Let’GO!」

 

マリンバイクは勢いよく走り出す。私は海に落ちないように果南のお腹辺りに手をまわしてしっかり抱きつく。Oh役得でーす。

 

「鞠莉、抱きしめ方がいやらしい……」

「え~、なんて言った~?」

 

聞こえてるけど、エンジンと波の音で聞こえないふりをする。

 

「聞こえてるよね?」

「これはハグでーす」

「聞こえてるじゃん……」

 

でも、こっちからの声ははっきり聞こえてたみたいだから開き直って、腕にさらに力を込めてハグする。果南は呆れた声を出すけど、気にしなーい。

 

「ふぅ、着いた」

「ええ。でも、もっと果南に抱きついていたかったわ」

「はいはい」

 

浦女近くの止めておけそうな場所に止めると、ロープで波に流されないように固定してダイビングスーツを脱ぐ。訴えられることなく抱きつけるからもっと抱きついていたかったわ。果南は軽くあしらうと、坂を上り始めてしまう。荷物を持って追いかけると、ゆっくり上ってくれてたから追いつけて、隣に並んで上って行く。

 

「今日の鞠莉はなんだか明るいね」

「そう?」

「うん。あんなことがあった後なのに……無理してない?」

 

心配そうな目で私を見る。確かに、善子の死やら私たちが何度も死んでいたかもしれないことを知って、まだ全てに整理がついたわけではない。

 

「少しはね。でも、暗くしているのは私に合わないわ」

「そっか。たしかに気持ちを明るくしてないとやってられないよね」

「それに、暗い顔してたら皆も不安になっちゃうでしょ?」

 

年長者だから。理事長だから。せめてみんなの気持ちを楽にしてあげたい。皆不安な気持ちがあるだろうから、私にできることはできる限りやりたい。そんな気持ちから、私は今日はそう振る舞うことに決めていた。

 

「じゃぁ、私はそんな鞠莉を支えてあげないとね」

「ありがとう、果南。お願いね」

 

果南もいつも通りに振る舞うと、私たちは校舎前に着く。今日は文化部が活動する話は聞いていないから昇降口を開ける必要は無い。もし必要になれば、教師・来賓用の入り口から入れば済むしね。そういう訳で、外から部室の方に行き、部室の鍵を開けて中に入る。近道してきたからまだ誰も来ていない。

 

「さてと。みんなが来るまでどうしよっか?」

「果南はどうなの?善子から話を聞くの?たぶん……」

「私は……聞きたいよ。誰かの死に関わってる話だから」

 

果南は普段の調子でそう言うから、思ったことを口にする。この話題はみんなが来てからするつもりだったけど、二人しかいないし、果南がどう思っているのか気になったから。

 

「そう。私もよ。何かあると知っていて聞かないなんて私はしたくない。まぁ、短い付き合いとはいえ、善子は一人で抱え込んじゃう子だからすんなり話してくれるとは思えないけどね」

「うん。私も一筋縄じゃ行かないと思ってるよ」

「私もそう思うかな?」

 

すると、いきなり果南の言葉に同意する声が響き、声がした方を見ると千歌っちがいた。その後ろには五人もいて、どうやら同じバスに乗って来たみたいだった。

 

「おはようございます、お二人とも。バスに乗っていなかったから一本遅れてくるものだと思いましたよ」

「まさか先に来てるとは思わなかったよ」

「でも、善子ちゃん以外はそろったね」

 

部室に八人がそろったことで、全員椅子に座る。

 

「それでどうするの?善子ちゃんが簡単に話してくれると思えないけど」

「それよね。でも、その前に意思確認しておくわ。皆善子から話を聞くでいいのよね?あの日記の内容からしてそうとうHardな内容になると思うけど」

「マルは聞きたいよ。そうしないと、繰り返されちゃう気がするから」

「わたしも。よっちゃんが抱え込んで困っているのなら助けてあげたい」

 

私の問いに、みんな聞きたいという意思を口にする。なんだ。みんなやっぱり強いわね。

 

「しかし、どうやって聞き出すかですね」

「うん。善子ちゃん、たぶんはぐらかすと思うし」

「でも、できれば強引な手段はやりたくないよね」

「うーん。やっぱり、なんの小細工もしないでまっすぐにぶつかるのがいいと思うかな?チカたちが善子ちゃんのことを知りたいって気持ちをちゃんと伝えたいよ」

「そう……でも、うまく行くかしら?せめて、どうして相談してくれないかわかればいいんだけど」

 

千歌っちの意見はたぶん的を射ている。でも、必ずしもそれでいいとは限らない。善子が相談しない理由が分からないことには……。そう思って呟くと花丸が恐る恐る手を上げた。

 

「マル、その理由知ってるよ」

「そうなの?」

「うん。最後まであの日記を読んでね――」

 

花丸はそれから日記に書かれていた、相談しなかった理由を話した。相談された人に危険が迫る?だから相談しなかった、いや出来なかったのか。となると、余計に話を聞くのが難しいわね。

 

「でも、私は怪我をしただけなんでしょ?だったら、偶然そうなったってことも」

「うん。そうも考えられるけど、たった一回あったことだから、言い切れないよ」

「それは……」

「私はそれでも聞きたいよ」

「曜?」

 

聞けば危険が迫り、それが偶然のモノなのかわからないからどうすることが最善なのかわからない。でも、曜ははっきりと「聞きたい」と言葉にした。どうして、迷うこと無くそう言えるのかわからなくて、呟くように名前を言う。

 

「だって、結局わからないんだもん。それに、もう私たちは相談されたという内容の一部を知っちゃってるんだよ?だったら、全部聞いても変わらないよ」

「あはは。それもそうだね。もう危険に足を突っ込んじゃってる訳だね。みんな、過去に死んで善子ちゃんがやり直しているって知ってるわけだし」

「うん!そうだね。みんなはどう?」

「それもそうですわね」

「マルも聞きたい」

 

全員がやっぱり聞きたいという結論で固まった。だったら、もうやることは決まったものね。

 

「さっき千歌っちが言った通り、もう下手な小細工なしで、私たちの気持ちを伝えましょ?」

「うゅ。ルビィもそれがいいと思う。善子ちゃん最近無理してる気がした。笑顔も無理に作っているようにしか見えなかったよ」

「マルも思ったずら。だから、善子ちゃんの前みたいな笑顔を取り戻したい。その為にもちゃんと話を聞きたいな」

「うん!善子ちゃんが話してくれるようにみんなの気持ちを伝えよぉ!」

『『『おー』』』

 

私たちは意志を一つにする。とにかく、まっすぐにぶつかって聞いて見せる。それが今できることだから。

 

「あっ。善子ちゃん、おはよー」

「おはよ……う?」

 

それからしばらくして、善子が部室にやってきた。それまで私たちは練習着に着替えて、どうやったら善子が話しやすくなるか、私たちの気持ちが伝わるか考えて過ごしていた。

善子は私たちがすでに集まっていることに対して驚いている様子だった。まぁ、そう思うのも仕方がないけど。さてと、どう切り出すのが無難かわからないけど、下手な小細工は無しってことになったことだし。

 

「あなた何か隠していますよね?」

「……ッ!」

 

私が言う前にダイヤが善子の目をまっすぐに見てストレートに言葉をぶつける。まさか、ダイヤから切り出すとは思ってなかったけど、ダイヤのその言葉は、常にまっすぐなダイヤらしいわね。

 

「なんのこと?隠し事なんて特には……」

「はぁー。OK、なら聞き方を変えるわ」

 

でも、わかってはいたことだけど、やっぱりはぐらかした。となると、一歩踏み込むしかないかしら?

 

「あなた、今何回目の一週間を迎えたの?」

「え!?」

 

私たちは善子が隠していることの一部を知っていることを明かす形で。




コミックだと果南ちゃんがマリンバイク(正式名がわからぬ故マリンバイクってことで)で登校している描写があったので使用しました。直線距離的にこっちの方が速そうなので。

そして、暗くなってたからここはほのぼのも入れたかった。

次回妙な事します?
では、半日後に。ノシ


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27 溢れる気持ち

やっぱりこうなるんだよね。

あっ、半日投稿中。その為話数注意です。
そして、今回だけ三話同時投稿です。
理由は読めばわかると思います。


「あなた、今何回目のこの一週間を迎えたの?」

「え!?」

 

マリーに問われた質問に驚きが隠せない。どういうこと?なんで、マリーがそれを知ってるの?誰にも言っていないのに。

まさか、マリーには繰り返してきた記憶があるっていうの?でも、それなら今まで何も言ってこなかった理由もわからない。

 

「先に言っておくけど、私たちは全員少しだけ知っているわ」

「私たちが死んで、その度によっちゃんが過去をやり直してくれたんだよね?」

 

マリーだけじゃなくて、みんな知ってるの?どういうこと?それに、私が過去に何度も飛んでやり直していることも知ってるの?

どうして、みんなが?スマホの中を見られた?ううん。家以外だとほとんど手放さないし、練習中は鞄に入れている。それに、わざわざ鞄の中にあるのをみんなが勝手に見るとは思えないし。

 

「無言ってことは、やっぱりあれは本当のことなんだね?」

「よっちゃん、話して?」

「……なにも無いわ」

 

どうして知られたのかわからないけど、まだすべてを知られているわけではないみたい。なら、隠し通す。そうしないと皆に危険が迫っちゃう。あの時は掻い摘んで話したから少しの怪我で済んだ。でも、全てを話したらきっと取り返しがつかないことになる。少し知られている今ならまだ間に合う。

だから、私は知らない振りをする。みんなを騙すことに胸が痛むけど背に腹は代えられない。

 

「嘘。何もないわけない!マルたちは全てじゃないけど、知ってるんだよ?マルたちは本来なら何回も死んでいて、善子ちゃんが持っているペンダントのおかげで善子ちゃんが過去に飛んで助けてくれてたことを」

「はぁー」

 

私はため息を漏らす。どうやら、あの時リリーに話した内容に関しては知っているらしい。一体、どこで知ったのやら?でも、そこまで知られている以上、これ以上は隠し通せないらしい。

 

「どこで、それを知ったの?」

 

だから、私はみんなに問う。私に聞く以上はそれを明らかにしておきたい。勝手に人の日記を見たのか、実はあの時の記憶を持っている人がいてそれを話したのか。

 

「善子ちゃんは覚えてないみたいだけど、チカ達は、一回過去に、今日の朝に飛んでるんだ」

「どういうこと?」

「それはね――」

 

千歌の口から、今日の放課後に浦女の屋上で私が死んでいて、なにかの手がかりが無いかと私のスマホを見たこと。

その際に日記を見つけて読んだこと。

今週中にみんなそれぞれ自分が死ぬ恐れのあった日の朝に、自分が死んで私が過去に飛ぶのを願っているという夢を見たこと。

そして、その夢に賭けて過去に飛びたいと願い、今日に飛んだことが話された。

にわかに信じがたいけど、そこまで知っているというのならおそらく事実ね。でも、日記情報なら私がどうして浦女で死んでいたのかの理由は知らないみたいね。今週の内容にあれについての事は書かなかったし。私に関してはその時の記憶は無いけど、今日の放課後にどうするつもりかは決めているから、その時の私がどうしようとしたのかはわかる。

みんながそこまで知っている以上、あの時のような事故が起こる。流石に死ぬ自体にはならないと信じたいけど、どうしたものかしら?下手な嘘はかえって皆を不安にさせかねない。今日さえ越えればすべて終わる。

なら、私がこれからどうすればいいのかはもう決まった。

 

「そう。確かに皆が見た日記に書かれていたことは本当のことよ。みんなに相談しなかったのは悪いと思ってるわ」

「うん。日記にも話した日に梨子ちゃんが怪我したから、私たちを思って話さなかったんだよね?」

「ええ。でも、私はやっとこの永遠に繰り返されていく一週間を切り抜ける方法を見つけたの」

「え?そうなの?でも、よっちゃんの日記にはそんなこと書いてなかったよ?」

「でしょうね。その方法を見つけたのは昨日の夜、日記に書きまとめた後だったから」

「そっか……あれ?じゃぁ、なんで善子ちゃんはあの時倒れていたの?」

 

私が話すと、半分納得してくれたけど、今日この後私が死んでいたことに疑問を持った感じだった。そうなることは織り込み済み。だからここからは、私の本当の狙いを悟られないようにして話を進めていくだけ。

 

「ええ。おそらく想定外のことが起きたと考えるべきね」

「想定外?それと、この繰り返される一週間を抜けるのと浦女にいたのは関係あるの?どうやったら終わらせられるの?」

「ごめん。それは話せないわ。今の皆はあの時リリーに話した内容と同じくらいの情報を持っている状態だと思う。だからこれ以上深いところに行くと、大怪我、最悪死に繋がりかねないから」

「そっか。うん、善子ちゃんがそう言うのならそうかもね」

 

ルビィはどこか納得したようにそう言う。みんなも同様に、追及はしてこない。流石に、状況の悪化は避けたいし、私がいなくなることがこの一週間から抜け出す方法なんて言える訳がない。

 

「とりあえず、話を戻すけど。想定外の事態を避けるためにも、みんなが見たその時の状況とかを教えてほしいの。私がどういう状態だったのか。転落したのか、建物に潰されたのか。そう言うことを教えてほしいの」

「うーん。あまりあの時のことは思い出したくないけど、それで少しでも成功確率が上がるのなら、うん」

「そうですわね。善子さんが頼みの綱というのなら、善子さんに賭けましょう」

 

みんなあまり乗り気じゃなかったけど、それが必要なことだと判断すると、話してくれた。

みんなの話を要約すると、今日は陽が落ちかける少し前に解散して家にそれぞれ帰ったらしい。で、美渡さんが浦女の方に行くバスに乗った私を見かけて、嫌な予感がしたから浦女に行ったら、屋上で私が倒れていたと。外傷は全く無くて、どうして死んだのかはわからなかったらしい。その後は救急車を呼んで、私の日記を見て、みんなで願って過去に飛んだと。

特に外傷が無かったのは意外だった。今まで転落や出血など割と外傷ができるとモノだったから。外傷がないってなると、浮かぶのは何らかの病気か発作。となると、回避することは不可能。病院に行ったところでどうにかなるものとは思えない。

私の死因という情報は大きいこれならどこにいても結果は覆らない。同じように浦女いればそれでいい。

 

「ありがと。想定外の事態の一つがみんなのおかげで知れた。これで、一層成功確率は上がったわ」

「そうなの?なら、マリーたちが過去に飛んできた意味はあったのね」

「良かった。善子ちゃんともまた話せたし、あとは善子ちゃんがその方法を成功させるの待つだけだね」

「うんうん。あっ、全てが終わったらちゃんと全部教えてね」

「ええ。任せなさい。ちゃんと皆に伝えるわ」

 

みんなに不安がらせずに済んだわよね?曜のお願いだって、ちゃんと叶うわ。また私が死んだことで、きっとみんな理解するはず。でも、同じヘマはしないわ。たぶん、今日死ねばみんなはまた願ってしまう。そうなると、またやり直しになる。たぶん、二回目ともなれば同じ手は使え無くなる。だから、みんなに見つからないように明日を迎える必要がある。いつもと一緒なら、戻れるのはその日の朝。月曜日に戻る可能性はあったけど、みんなは今日飛んで今朝だったと言っていたから、おそらく過去の飛び方は前者の“その日のうち”と考えていいはず。

今度こそ全てがうまく行くはず。ううん。うまくいってみせる。

 

「それで、この後はどうしよっか?今からその方法をやるの?」

「ううん。それができるのは放課後。陽が落ちる頃よ。だから、いつも通り練習をしましょ?ただでさえ、この話でだいぶ時間を使ったんだから、練習しないと」

「それをもそうだね。善子ちゃんの言う通りだね」

「では、皆さん始めましょうか」

 

これで話は終わった。本来ならすぐに実行すべきなんだろうけど、放課後にならないとおそらく事故は起きてくれない。流石に自殺は色々と問題があるし、自然な形にしておきたい。

ダイヤたちは納得して、席から立ち上がる。

でも、リリーと花丸は何かを考えているのか、席を立とうとしない。

 

「どうしたの二人とも?」

「ねぇ、よっちゃん。まだ隠してること無い?」

「善子ちゃん。もしかして、善子ちゃんの言うその方法で善子ちゃんがいなくなったりしないよね?」

「え?」

 

二人に言われて、私は驚きの声を漏らしていた。みんなを納得させることができたと思ったのに、リリーにはまだ何かあると思われ、花丸に関しては的を射ていたから。

私のその反応に、二人は確信したような表情をする。そして、そのせいで皆も私の方を見ていた。

 

「やっぱり、まだあるんだね。それも、知られることが不都合なことが」

「マルの予想が正しいのなら、それは善子ちゃんがいなくなるか、私たちを悲しませる結果になることかな?」

「そんなことは無い……」

 

本当のことなんて言える訳がない。それを言えば絶対に止めるに決まっている。知らなければそれでいい。

だから、話さない。

 

「なら話してよ!話せばどうにかなるかもしれないよ?善子ちゃんがマルたちを心配する気持ちはわかるよ」

「うん。それを話せば私たちが死んじゃうような事故に遭うかもしれない。でも、失敗したらまた水晶の力でやり直せばいいからさ」

「そうね。やり直せるのなら、マリーたちに話しても問題ないじゃない」

 

私の気持ちが分かる?

みんな気軽に過去に飛んでやり直せばいいって言う。飛べなくなる可能性をみんな知らないからそう言っているだけ。リリーに話した時に飛べなかったのが偶然だと思っているだけ。

 

「うんうん。それならチカ達が聞いても問題ないね」

「流石にそれは楽観視し過ぎだと思うけど、聞く価値はあるよね?」

「ええ。全ての判断は聞いてからすればいい」

 

聞いてから判断すればいい?

言う気が無いから、言う必要が無いから言わないだけ。

 

「うゅ。もしかしたらルビィたちに手伝えることがあるかもしれない」

「一人より、みんなでやった方がいいと思うよ?」

 

あげくに手伝えることが無いかって?あるわけ無いじゃない。

私が死ぬ手伝いをするって言うの?

言えば邪魔するに決まっている。

それなのに、気持ちがわかるだの、やり直せるだの、手伝うだの。

私はもう限界だった。

 

「私の気持ちがわかる?」

「よっちゃん?」

 

私がどんな気持ちでこの道を選んだか。本当は死にたくなんてない。でも、これ以外に道が無い。他に方法があるのなら、逆に知りたい。でも、私にはわからない。

 

「水晶の力がそう気軽な気持ちで使える物じゃないのよ!いつ使え無くなるかわからない危うい力なのよ!」

「善子ちゃん!?」

 

ただでさえ、みんな今危険な状況に陥っているから事故に遭うかもしれない。仮に死んだとして、戻れなかったらどうするの?手遅れになるのよ?

 

「手伝い?そんなもの必要ないわよ。私一人で十分よ」

 

手伝ってもらうことなんて一切無い。みんなは何もせずに明日が来るのを待っていてくれればそれでいい。

 

「善子さん。必要ないとは何ですか!?」

「そうだよ。みんなどんな気持ちでそう言っているかわかるの?」

「じゃぁ、私の気持ちが逆にわかるって言うの!?どんな気持ちで皆の死を見て、その度に過去に飛んで、それでやっと見つけた方法なのよ?」

「知らないよ!よっちゃんが教えてくれないから。よっちゃんが自分の気持ちを隠すから!」

「じゃぁ、いいじゃない!私の方法なら、明日をみんなが迎えることが出来るんだから!ただ、みんなは待っててくれれば、それでいいんだから!」

 

私は言いたいことを言った。もう、私の事をみんながどう思おうがかまわない。恨まれても、嫌われても、みんなが生きてさえいてくれればそれで。

 

「よっちゃん……」

 

リリーは私の名前を呟いて泣いていた。みんなを見れば差はあれど、泣いているかその一歩手前みたいな状態だった。

みんなのその顔を見ていると、胸が痛くなる。でも、これでいい。

 

「……ごめん。言い過ぎた。ちょっと頭冷やしてくるね」

 

みんなにそんな顔をさせたことを謝る。嫌われてもいいと思ったけど、やっぱりそうしたくはない。たぶん、これ以上みんなと一緒に居たら、もっとひどいことを言ってしまう気がする。

もう、手段を選んでいる余裕はない。

だから私は作り笑いをしてそう言うと足元に置いていた鞄を持って部室から出るために走り出す。

全てを終わらせるために。

 

 

~梨子~

 

 

「じゃぁ、いいじゃない!私の方法なら、明日をみんなが迎えることが出来るんだから!ただ、みんなは待っててくれれば、それでいいんだから!」

「よっちゃん……」

 

私は気づいたら泣いていた。普段はみんなに優しいよっちゃんがここまで動揺するなんて思ってなかった。きっと、それくらい、今までのことが大変だったんだと思う。それなのに、私たちはよっちゃんの気持ちを考えずに、色々言ってしまった。

 

「……ごめん。言い過ぎた。ちょっと頭冷やしてくるね」

 

よっちゃんは笑みを浮かべて私たちにそう言うと、部室を出ようとする。

よっちゃんの笑顔が作り笑いなのはすぐにわかった。そして、背中を見た瞬間、なんだかもう会えなくなるような気がした。

 

だから、私はよっちゃんの手を握ろうと手を伸ばし、その手は

 

ーー空を通り過ぎた。

 

ーーよっちゃんの手を握りしめた。

 




という訳で分岐です。
片方はバッドルートです。


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28 もしもあの時

半日投稿中。その為話数注意です。+三話同時投稿です。
加えて「梨子の手が空を通りすぎた。」方のルートです。
なので、前の話【溢れる気持ち】を読んでない方はそちらからですね。


「梨子ちゃん、もう来たんだね」

「うん」

 

あれから一年の月日が経った。内浦にあるお寺の中にあるお墓の前で手を合わせていたら、花丸ちゃんがやってきた。まぁ、ここは花丸ちゃんの家の敷地内にあるお墓なんだけど。

 

「もう一年経つんだね」

「うん。そんなにもう経つんだね」

 

“津島善子”と書かれた墓石を見て私たちは呟く。

 

「もしもあの時、間に合ってたら変わったのかな?」

 

 

~~

 

 

部室を出たよっちゃんはそのまま浦女から出て行き、追いかけたけどちょうど来た沼津行きのバスに乗ってしまい、追いついた時には行ってしまったところだった。

どうにか追いかけようとしたけど、車がないから追いかけることができなかった。よっちゃんに電話をしたけど、電源は切られていて通知音が響くだけ。

ならばと鞠莉ちゃんが家の人に連絡を取ろうとするも、一度ここに来てからじゃ見失ってしまうだけで手が無かった。

そんな中果南ちゃんが今朝使ったマリンバイクのロープを外して乗り込む。

 

「これで先回りすればまだ見失わずに済むかも。飛ばすから誰か乗って」

「私が行く!」

「うん。梨子ちゃん、お願いね」

 

私は率先してそう言うと、皆それでいいと頷いてくれた。たぶん、ここで問答している時間も無駄だと思っての結果だと思う。

果南ちゃんの後ろに乗ってお腹に手を回すと、一気にエンジンを噴かせて飛び出す。こういうのは徐々に速度を上げるモノだと思うけど、時間との勝負だからか普通に走る気は無いみたいだった。でも、私はそれでいいと思うから何も言わず、ただ間に合うことを祈った。

 

「よっと。ここらへんなら先回りできたはずかな?」

「うん。道の方を見てたけど、バスを追い抜くのは見えたから平気だと思う」

 

千歌ちゃんの家の前の砂浜ギリギリに止まって降りると、コンビニ前のバス停に行く。バスを追い抜くのは見えたから、バスが来るのを待てばいい。

ずぶ濡れになると思ってたけど、だいぶ速度があったからかあまり濡れていなかった。靴はマリンバイクから降りた時に海に少しは行ったから濡れちゃったけど、これくらいなら平気かな?流石に濡れた状態で乗るのは申し訳ないし。

すると、スマホに着信が入る。画面には千歌ちゃんの名前が表示されていた。

 

「もしもし、千歌ちゃん」

『あっ、梨子ちゃん?どう?』

「千歌ちゃんの家のそばのバス停に着いたから、バスが来るのを待ってるところだよ」

「あっ、来たよ」

「ちょうど来た。ここからじゃよっちゃんの姿が見えない。ちょっと待ってね」

『うん』

 

一度スマホから耳を離すと、来たバスの方を見る。善子ちゃんの姿は見えないから反対側に乗ってるのかな?

そう思いながら、バスに乗ると、バスの中によっちゃんの姿が無かった。

 

「なんで?」

「すいません。頭にシニョンを付けた浦女の子乗ってませんでしたか?」

「ん?あの子の友達?あの子なら二個前で降りたけど?短い距離だし、こんな時間だったからよく覚えてるよ。それでどうするの?」

「ありがとうございます。それと、やっぱり降りますね。お仕事の邪魔してすみませんでした」

「お客さんが他にいないから気にしないで。その子に会えるといいね」

「はい。ありがとうございます」

 

果南ちゃんが運転手さんに聞いてくれて、私たちはお礼を言ってバスを降りた。そして、バスは走り出す。

 

「善子ちゃんいなかったね」

「うん。途中で気づかれたって考えるべきだよね?」

「そう考えるべきだね」

 

私たちはそう結論付けた。バスが見えた訳だから、向こうからも見えたはずだし。

千歌ちゃんたちに乗っていなかったこと、二個前で降りていたことを伝えると、千歌ちゃんたちは向こうから探すと言って通話を切った。

 

「じゃっ、私は海の上から探してみるから梨子ちゃんは浦女に戻るように探してみて。まだ、そう遠くには行っていないと思うし」

「うん、そう思う」

 

とりあえず、方針を立てると走り出す。練習着に着替えておいて良かったと思う。制服のままだと走りづらいと思うし。よっちゃんはそれに対して制服だから走りづらいはず。

 

「あっ、梨子ちゃん」

「よっちゃんは見つかってないみたいね」

「うん。ここまでの道を手分けして探してるけど」

 

千歌ちゃんと曜ちゃんに途中で会ったけど、よっちゃんは見つかっていなかった。他の皆も別の道を探したりしているらしい。

ルビィちゃんと花丸ちゃんは浦女に戻ってもらっている。もしかしたら、戻ってくる可能性もあるからと。

 

「こうなると、思い浮かぶのは海に飛び込んだか、無理やりここを登ったかだよね」

 

海と道外れの獣道を交互に見てそう言う。道の上で見つからないとなると、どっちかしかない。

 

「海は果南ちゃんが走っているから、任せるとして」

「となると、私たちはこっちを探そっか」

「うん」

 

獣道の方に私たちは入って行く。木々が生い茂っているからか歩くのが大変だけど、この先にいるかもしれないから頑張って進んで行く。

きっとよっちゃんにまた会えると信じて。

 

 

~~

 

 

結果から言えば、その日のうちによっちゃんは見つからず、翌日に浦女前のミカン畑で倒れているのが見つかった。葉が生い茂っていたせいで隠れてしまい、農家の人が偶然見つけた形だった。

どうしてそこに倒れていたのかはわからないけど、死因は心臓発作らしかった。

そして、よっちゃんの水晶で願ったけど、輝くことは無かった。よっちゃんが言っていた「いつ使え無くなるかわからない」が最悪な形で現実になってしまった。

警察は事件性が無いと判断して、すぐに調査が打ち切られ、よっちゃんの葬儀が行われた。それ以降は、私たちはバラバラになってしまった。

よっちゃんを追い詰めてしまったことに対してみんな責任を感じてしまい、そんな状態ではまともに踊ることもできず、Aqoursは解散した。それ以降はあまり集まることもなく廃校が決定し、沼津の高校と春には統合して、私たちはそっちに通うことになった。

その間、色々なことがあった。鞠莉ちゃんとダイヤさんはどうにか平静を保って自分たちの仕事をこなし、果南さんはいつものように振る舞っていた。でも、三人とも一人になると泣いていたらしい。

千歌ちゃんと曜ちゃんとルビィちゃんは、あまり笑顔を浮かべることが無くなって、仮に笑顔を浮かべても無理して作っていると一目瞭然だったらしい。

そして、一番ひどかったのは、私と花丸ちゃん。あの時、よっちゃんに聞かなければ、よっちゃんが出て行くこともなく、こんな結末にならずに済んだのかもしれない。だから、よっちゃんを死なせてしまったのは、私と花丸ちゃん。

だから、私たちは自分の殻に閉じこもり、自分の部屋から出なかった。いや、出られなかった。もう、どうすればいいのかわからなかった。

外に出れば、みんな私のせいだと言われるような気がしたから。みんな優しいからそんなことを言う訳ないと分かっていても、外に出ることはできなかった。

 

そんな生活が続いていたある日。私は変な夢を見た。

 

 

~~

 

 

そこは浦女の屋上で、私はその真ん中に立っていた。どうして、こんなところにいるのかわからなかった。だから、辺りを見回すと、

 

「くっくっ。ヨハネ、堕天!」

 

屋上のドアの前によっちゃんが立っていた。もう会えないと思っていたよっちゃんがそこにいて、私はこれが夢だと分かったけど、それでも涙が込み上げて、よっちゃんに抱きついた。

 

「リリー、どうしたの?」

 

いきなり抱きつかれたことによっちゃんは慌てふためく。でも、こうして抱きついていると、やっぱりよっちゃんなんだと実感する。

 

「よっちゃんが死んじゃって……それで……」

 

よっちゃんがいなくなった後の事を話すとよっちゃんは罰が悪そうな顔をする。

 

「悪かったわね。でも、そうする以外方法が無かったのよ。でも、あの時、曜に約束したことだし全てを話すわ」

 

よっちゃんの隣に座ると、そう言って全てを話してくれた。最初に曜ちゃんが事故に遭ったその時から、繰り返してきた一週間。そして、最後の一週間で出た結論。よっちゃんがいると一緒に居たその人が事故に遭い、永遠に繰り返されること。自分がいなければ事故に遭わないし、過去に飛ぶことを願わなければ、日曜日を迎えられる可能性があったこと。だから、死を受け入れたこと。

 

「なんで、よっちゃんが死ななきゃいけないの?どうして……」

「ありがと。私の為に泣いてくれて。でも、私はみんなに生きていて欲しかった。結局私のわがままでしかないけど、みんなが大切だったから」

「それでも、相談してほしかった!一緒に生きる道を探したかった!よっちゃんともっと一緒にいたかったよ!」

「ごめん。でも、それ以外に方法は思いつかなかった。もう辛かったの。これ以上誰かが死ぬのを見ることを、みんなを死なせることが」

「よっちゃん……」

「私の命で、みんなが救われるのならそれが一番だから。だから、リリーは私の事を重荷に思わないで?前を向いてほしい。それが私の願いかな?」

「よっちゃんずるいよ。よっちゃんがいないと、無理だよ……」

「うん。無理なお願いをしているのはわかってる。でも、それが私の願いだから……っと、そろそろ、時間ね」

「時間?」

「ええ。私が話せるのはここまで。死者がいつまでも生者に関わるのはダメだから」

「嫌だ。もっと一緒に居たい」

「ごめん。この時間も偶然できたもの。私の心残りだから」

「……」

「ありがとね、リリー。あなたの弾くピアノは好きだったわ。だから、これからも続けて。リリーには見えないけど、私はあなたのそばにいるから。あなたのピアノを聴きたいから」

「うん」

「後はそうね。とりあえず学校に行きなさい。せっかく未来を繋げたんだから、私の分まで精一杯生きて」

「それは……」

「行かないと、毎日夜に枕元に出るわよ!」

「じゃぁ、行かない」

「なんでよ!」

「だって、よっちゃんに会えるってことでしょ?」

「はぁー。冗談よ。残念ながら、視認はできないから無理よ」

「なーんだ」

「ふふっ。軽口が言えるのならもう大丈夫ね」

「うん。いつまでも立ち止まってたら、せっかく私たちの為にしてくれたのが無駄になっちゃうから。まだ、全部に整理が付いたわけじゃないけど」

「長い時間をかけてゆっくりと昇華していけばいいわ。あなたたちには時間がたくさんあるのだから。あなたには仲間が、家族がいるのだから」

「うん。そうするね」

「じゃぁね。リリー。大好きよ」

「じゃぁね。よっちゃん。大好きだよ」

 

私たちはそう言って、抱きしめるとこの夢の空間は閉じた。

目を覚ますと、そこは私の部屋だった。でも、あれがただの夢だとは思わない。きっと、こんな私を心配してよっちゃんが来てくれたんだ。

 

私は自分の部屋から出て、階段を降りた。お母さんは驚いた顔をしていたけど、私が部屋から出てきたことに涙を流して喜んでくれた。

その日から私は浦女に行くことにした。驚いたことに、私がよっちゃんと会ったあの夢を見たのと同様に、みんなもよっちゃんと会ったと言っていた。家に引き籠っていた花丸ちゃんも浦女に来られるようになるくらいには回復していた。

そして、まだ整理が付かないけど、みんな前を見始めた。まぁ、Aqoursの活動を再開するほどの元気は無かったけど。

そうして、みんなよっちゃんを失った心の傷が癒え始め、どうにかまともな生活が送れるようになった。

 

 

~~

 

 

「あー。梨子ちゃんもう来てるー」

「抜け駆けなんてずるいよ」

「うゅ。せっかく、梨子ちゃんの家に行ったのに」

「あはは。ごめんね。でも、ここに来ればみんなも来る気がしてたから」

「その“みんな”に私たちも入ってるのかな?」

「あっ。果南ちゃん、鞠莉ちゃん、ダイヤさん。いつの間に戻ってきたずら?」

「チャオ。大切な日だから今日戻って来たわ」

「がんばってスケジュールを空けましたわ」

「そういうこと」

 

よっちゃんがいなくなって今日でちょうど一年。

私たちはそれぞれの道を進み始めていた。

私たち五人は沼津の高校で、果南ちゃんは海外でダイビングの資格取得、鞠莉ちゃんは海外の大学、ダイヤさんは東京の大学とそれぞれの道を進んでいる。

あの日約束した通り、よっちゃんがくれた今を精一杯生きてるよ。

だから、よっちゃん。心配しないでね?




善子ちゃんのいない未来なので、バッドエンドです。
バッドエンドならもっとエグい法が普通なのでしょうけど、猫犬の精神がもたないので。

というか、こっち読む人いるのかな?明らかにこっちがバッドルートなのはわかるだろうし。
まぁ、一通り読む人は読むか。たぶん。


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29 私だって

半日投稿中。その為話数注意です。+三話同時投稿です。
加えて「よっちゃんの手を握りしめた」方のルートです。
なので、前前話【溢れる気持ち】を読んでない方はそちらからですね。


「うわっ!」

 

走り出して早々に後ろに引っ張られて、私は後ろにバランスを崩して尻餅をついた。いきなりのことで、まともに受け身も取れずに床にぶつけた。うぅ、痛い……。

 

「急になにす――」

 

文句を言いながら振り返るも言葉は途中で途切れた。リリーが私の身体に抱きついたことで。

どうして、抱きしめられているのかわからず、口をパクパクさせる。みんなも、リリーの行動に驚きを隠せない。

 

「どうしたのよ、急に」

 

文句を言う気も失せて、リリーに問う。すると、リリーは私から離れつつ話し始める。逃げれないように肩を掴んだ状態で。

 

「よっちゃんが遠くに行っちゃう気がしたの」

「遠くに?」

 

オウム返しのように返すことしかできなかった。たしかに、私はこのまま浦女から出て姿を消そうと思っていた。そして、誰にも見つからない場所に行こうとしていた。これ以上、一緒に居たら取り返しがつかないことをしてしまいそうだから。

 

「うん。無理に作った笑顔とその背中を見たらそう思えたの」

「そう……」

「ねぇ、よっちゃん。お願い。よっちゃんが何をしようとしているのか教えて?」

「でも……」

「もちろん、私たちに危険が迫るかもしれないことは分かってる。でも、それ以上に何かあるってわかってて、何もできないのは嫌なの!」

 

リリーは私の目を見てはっきりとそう言う。

でも、言うのが怖い。こんなこと言っていい訳が無い。

 

「よっちゃん。私に。ううん。みんなに話して?確かに力になれるかはわからない。でも、力になりたいの!」

「うゅ。苦しんでいる善子ちゃんを見過ごせないよ!」

「私が苦しんでる?」

 

ルビィに言われて首を傾げる。わからない。私は苦しんでなんてない。いつも通り。そうよ、苦しいことなんてないわ。

 

「善子ちゃん、今ひどい顔してるよ?疲れてて、どこか寂しそうで、とても普通な状態じゃない」

「うん。何が善子ちゃんをそうさせてるのかわからない。だから教えて?」

「ダメよ。言えば絶対に怒る。軽蔑する。そうわかっているから、言えないわ!」

「怒る?何故ですか?あなたは私たちに言えば怒るようなことをしようとしているという訳ですか?」

「それは……」

「ねぇ、話してよ?私はよっちゃんの言葉を聞きたい!」

「ダメよ!軽蔑される。嫌われる。私の前からいなくなるに決まってる!だったら、何も知らない方がいい」

「勝手に決めつけないで!」

「……千歌?」

 

千歌が怒鳴る。ここまで感情をあらわにすることが珍しくて、私は驚きを隠せない。みんなも同様のようで驚いていた。

 

「さっきから聞いてれば、嫌われるだの、怒られるだの、軽蔑されるだの。それは善子ちゃんが勝手にそう思ってるだけでしょ!?勝手に決めつけないでよ!」

「うん。そうだよ。だいたい、それだって、私たちのことを想ってのことなんでしょ?だったら嫌いになるなんてありえないよ」

「千歌、曜」

 

千歌の言葉に続けて曜がそう言う。

なんで、みんなそんなにまっすぐなの?どうして……。

 

「よっちゃんが私たちの為に頑張ってくれてるのは知ってる。だから、次は私たちに助けさせて?」

 

きっと、もう引けないところまで来ている。言わないでおくことはできないと思う。だったら、

 

「私が死ぬ以外方法はもう無いの……」

 

もう全てを話して終わりにしよう。

私が一緒にいるとその人が事故に遭い、いなければ事故に遭わないこと。土曜日に過去に飛ぼうとすると毎回月曜日まで戻ってしまうこと。

私がいなければ、全て終わることができること。だから、今日で終わりにしようとしていることを話した。

みんな静かに聞き、悲しそうな顔をする。

これで軽蔑されて、みんないなくなって。そしたら、私は一人になれる。そうすればもう全てが終われる。

 

「なるほど。だから、あの場で亡くなっていたと」

「ええ」

 

だけど、ダイヤは淡々とそう言うだけで、怒りもしないし、軽蔑もしない。どうして?

 

「なら、はっきり言いましょう。勝手に決めつけないでください。善子さんがいなくなれば、全てが丸く収まる?何を言ってますの?」

「そうだよ。善子ちゃんがいなくなった時点で丸く収まってないよ!」

「そうよ!善子が死んで、私たちが喜んでそんな未来を受け入れると思う?」

「それは……」

 

三人は怒っているけど、それは私のことを思ってのことだと分かるし、言ってることも分かる。でも、それ以外に方法なんてない。だからこそ、こんな方法を選んだんだから。受け入れられないじゃなくて受け入れてもらうしかない。

 

「そうそう。善子ちゃんがいないんじゃダメだよ」

「だいたい。方法が無いから諦める?ダメだよ」

「私たちは足掻くってあの日に決めたでしょ?だったら、これも足掻こうよ」

「うん。善子ちゃんが何度も繰り返して足掻いてくれたのはわかる。だから、こんな方法を選ぼうとしたのも」

「だけど、それは善子ちゃんが一人だったからずら。マルたちは何もしていないずら」

「確かに、一人でやってきた。でも、どうにもならないわよ!そんな方法があるなんて思えないもの!」

 

みんなの気持ちはうれしい。でも、これ以上の方法なんてあるわけない。あったらそうしている。

 

「それと、さっきから私たちのことばかりでよっちゃんの気持ちがわからない。よっちゃんはどうなの?生きたくないの?」

 

生きたくないか?そんなの決まってる。

 

「……生きたい……私だって生きたいわよ!皆と別れるなんて嫌だよ!でも、みんなが死ぬのが嫌なの!本当はみんなと一緒にもっと居たいよ!」

「うん」

「みんなで曲を、衣装を作って、踊って……ラブライブに優勝したい!」

「うん」

「ただただ普通に学校生活を送って、放課後に寄り道をして、卒業していくのを送って、それからも時々会って。そんな生活をしたいわよ!」

 

私は感情任せに思っていることを言葉にした。できればそうしたい。そんなの当たり前じゃない!やりたいことがたくさんあって、それで、どうにかしたいと思ってる。

すると、肩に手を置いていたリリーはまた私を抱きしめる。

 

「良かった。やっと、よっちゃんの思ってることが聞けたよ」

「リリー……」

「よっちゃん。頑張ってくれてありがとう。諦めないでくれてありがとう」

「でも、私は諦めて、いなくなろうとしたのよ?」

「うん。でも、今よっちゃんがここに居てくれてる。だから、それはいいの。ねぇ、一緒に考えよ?よっちゃんがいなくならないで済む方法を」

「うん。善子ちゃんが生きたいと思ってくれてるのなら、頑張らないと」

「そうだね。一人でダメなら九人で考えよ?“一本の矢だけなら折れても、三本に束ねれば折れない”みたいな言葉もあるしね」

「私たちの場合は九人だから、余計に折れたりしないね」

「そんなに束ねたら重そうですわね」

「じゃぁ、それで叩いて障害を壊しちゃいましょー」

「あっ、それいいかも」

「あはは。確かになんとかなりそうかも」

「みんな……」

 

みんな私の話を聞いても、一切諦める様子が無い。どうして、私は疑っちゃったんだろ?こんなに優しいみんなを無理に拒絶して、逃げ出そうとして。一人で終わらせようとして。

 

「と言う訳で、今日は練習を止めて方法を考えましょう」

「そうだね。時間は限られてるからいい方法を考えないとね」

「よっちゃん、頑張ろ?」

「うん」

 

やっぱり、まだみんなと一緒に居たい。願っていいのかな?

リリーと一緒に立ち上がると、みんな机の周りに集まる。

 

「まずは、一度情報を纏めましょうか。そこから見えてくるものがあるかもしれませんし」

「そうね。ってことで、日記を見せてちょうだい。あと、何かわかっていることがあれば教えて」

「あっ、うん」

 

マリーにロックを外して渡すと、ケーブルでノートパソコンに繋いでみんなで見れるようにする。それと同時にコピーを取って複製しておく。

 

「わかってることって言っても、朝の占いで最下位の星座の人が事故に遭うことと、事故は毎回、放課後に起こることくらいよ」

「うーん。やっぱり、わからないことばかりだね」

「うん。せめて、もう少し事故が起こる時間が絞れればいいけど……放課後から日付が変わるまでだとだいぶ時間に差があるし」

 

わかっていることが少なすぎるから、今に至っている。みんなは一生懸命別の道を探そうとしてくれているけど、そんな道があるとは思えない。さんざん悩んだのだから。

 

「ねぇ。そもそも、善子ちゃんと一緒にいたら私たちが死ぬって本当のことなの?今週に関しては、私達はあの夢で既視感があったから回避できたんじゃ?」

 

すると、曜がそんな疑問を口にする。

 

「でも、過去に数回私がその場にいなかったから死なずに済んだ日があったのよ?」

「えーと。誰の星座でも無い日と、千歌ちゃんがお見舞いに行ったって日だね。マルが襲われた時に関しては、そもそも野生の熊が出たら襲われておかしくないと思うし」

「うーん。チカがその時どうしてたのか、もっとわかればいいんだけど」

「流石に無理ね。過去に飛べるのは誰かが死んだときか、私が死を予感した時だから」

 

例外はその二回。回数が少ないせいで確証が得られない。千歌の時の状況がもっとわかれば何かわかるかもしれないけど、過去に飛ぶのにそこまで自由度が無いから、見に行くということはできない。

 

「それと、善子ちゃんが相談したから事故に遭ったって言うのも、少し違うかも」

「どういうこと?」

「梨子ちゃんに相談した日って、乙女座が十二位だったんでしょ?」

「ええ。梨子ちゃんも乙女座だから善子ちゃんと一緒にいれば事故に遭う可能性はあるよね?別に一日に一回しか事故が起きないとは限らないし」

「そっか。ルビィが事故に遭った後に梨子ちゃんが事故に遭う可能性も無くはない。でも、梨子ちゃんは怪我しただけなんでしょ?」

「うん。そして、善子ちゃんが記してるけど、その時の時刻は夜の七時を過ぎた頃。もしかしたら、そこが境界線なんじゃないの?七時を過ぎたら事故に、ううん死に至る事故には遭わないって考えれば」

「あっ、チカが帰ったの、七時過ぎって一応書いてあるから……」

「その線で考えると、大体午後の三時から七時の間に事故が起きると」

 

もしかしたらそうなのかもしれない。でも、これは憶測なだけで、本当にそうなのかはわからない。仮に違ったら……。

 

「これも善子ちゃんが、いっぱい書いてくれたおかげだね」

「でも、これは憶測に過ぎないじゃない。もし違ったら……」

「違うかもしれない。でも、あっているかもしれない。だったらそれに賭けてみない?私は善子がしてきたことを無駄だと思いたくない。意味があったって思いたいわ」

 

できれば私だってそう思いたい。私だって、マリーが言う様に賭けたい。でも、違ったらと思うとそれが怖い。

すると、花丸と一緒にパソコンを見ていた果南が口を開く。

 

「見た限り、善子ちゃんが時間も記した範囲だと、七時以降に事故に遭った例は見当たらないし、あってると思うよ?」

「うん。悪い方に考えるよりもいい方に考えよ?」

「……うん」

 

二人は私の心配を見透かしてかそう言ってくれた。確かに、悪い方に考えるよりは、いい方に考えたい。だから、私は頷く。

 

「ねぇ。ずっと気になってたんだけど、その水晶の付いたペンダントはどうしたの?いつ、どこで手に入れたの?」

 

すると、途中から黙ってたリリーが悩ましそうな顔で疑問を口にした。私はずっと持っていたからあまりに気にしなくなっていた。でも、そう言えばどうして持ってるんだろ?

過去に飛べる力があるから相当貴重な物のはず。それが、普通の少女である私が持っている理由が分からない。こういうものはそれこそ、洞窟の奥に封印されてるとか、博物館に保管されてるとかの方が普通のはず。

 

「ごめん。わからない。いつの間にかあって、それが普通だと思ってたわ。みんなは見覚えあったりしない?」

「無いわね。それに、過去に飛べるなんて力があれば耳にしてるだろうし」

「マルも知らないよ。こういう石が実在するって本は見たこと無いし。そう言う本なら善子ちゃんの方が読んでるでしょ?」

 

みんなが知ってるかもと思ったけど、残念ながらみんな見覚えがないらしかった。

この辺の網本の家のダイヤやマリー、家がお寺で本をたくさん読んでいる花丸ならもしかしたらと思ったけど、そう都合よく行かないらしい。

 

「うーん。実はこれが全ての原因だったりするのかな?この石の近くにいる者に呪いが~的な話は本とかテレビでよくあるし」

「ですが、これを壊して事態が好転しなければ、それこそ完全に手詰まりになりますし、軽い気持ちで実行に移すわけにはいきませんね」

 

あげくに、全ての原因が実はこのペンダント説も出たけど、それが仮に違ったらもう過去に戻る術が無くなるから、却下する。せめて確証が得られれば行動に移せるんだけど。

 

「こう都合よく願ったらわかるとかないの?過去に飛べるんだったらどうしてこんなことが起きてるのか知るくらいできても……」

「前に風邪をひく前に戻りたいって願ったけど、それは叶わなかったから無理だと思う」

「うーん。いい方法だと思ったんだけどなぁ」

 

千歌の言うことがうまく行けば確かにいいけど、残念ながら前に別のことで試したことあるからその案を否定しておく。千歌はまだ納得いかないのかぐずってるけど、ダメだったものはそう割り切ってほしい。

 

「でも、一応やってみない?みんなで一緒に願ったらうまく行くかも」

 

と思ってたら、曜が千歌の案に乗ってしまった。いや、私の話聞いてた?

 

「流石にそう都合よくは……」

「まっ、やってみよっか。私もみんなで願えばうまく行く気がするし」

「そうね。千歌っちも前にやりたいからやるって言ってたし」

「あの時鞠莉ちゃんいなかったような?でも、私も賛成かな?」

 

なんだかんだで一回やろうということになった。最初は乗り気じゃなかったダイヤも途中からノリノリになったりしてたけど。私が否定してもたぶん進まなそうだから一応やる。でも、やるからにはちゃんと願う。あの時はできたらいいな気分だったから、今回はちゃんと願う。

ペンダントを机の上に置いて、その周りに集まってペンダントの上で手を重ねる。みんなが戻って来た時はこうしたらしい。

全員で願って、全ての真実を知る。

このペンダントの正体。

どうしてこんなことになっているのか。

前回みんなでやった時は少し言い方を変えて言ったらしいから、私たちは目を瞑り、元の平穏を取り戻すために願う。

この永遠に繰り返される一週間を乗り越えるために。

 

『『『私たちは願う。故に私たちは乞う。全ての真実を!』』』

ピカッ!




はい、まだまだ続くルートですね。まあ、終わりは近づいてますけども。
では、ノシ


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30 明かされる真実

半日投稿中。その為話数注意です。


「なにも起きないわね」

 

願ったけど特に何も起こらなかった。いつもなら眩い輝きが水晶から出るはずなのに、やっぱり誰も死んでいないからか輝くことは無い。一瞬光った気もするけど、特に何の変化も起きていないから気のせいだろうし。まぁ、なんとなくこうなることは分かっていたから、さして驚きはないけど。

 

「うーん。いいアイデアだと思ったんだけどなぁ」

「まぁ、まだ時間は少しあるから考えよ?」

「そうね」

 

うまくいかなかった以上、考えるしかない。でも、これ以上の情報なんて日記からも読み取ることはできない。そもそも、このペンダントが結局なんなのかもわからないし、それについては一切記していない訳だし。

 

「それにしても不思議よね。みんな自分が死ぬ夢を一回は見ていて、こういう夢を白昼夢って呼ぶのよね?」

「あれ?白昼夢って、お昼に見る夢なんじゃ」

「そう言う面もあるけど、現実とは思えない不思議な夢のこともそう呼ぶのよ」

「ふぇー」

「はいはい。今はそのような話関係ないでしょう。それにしても、これ以上の情報は見込めませんわね。となると、まずは今日を全員で生き延びることを考えましょう」

「そうね。もしかしたら、善子が死なずに明日を迎えたらとりあえずはこの一週間を抜けることはできるし、その後のことはその後に考えましょ?」

「うーん。でも、どうすればいいんだろ?道にいたら車に突っ込まれ、建物の中にいたら潰されちゃうだろうし」

「じゃぁ、校庭にいるのは?そこなら潰されるものは無いし、車が突っ込むにも柵があって無理だろうし」

「それはありね。今日の七時までいればいいだろうし」

 

情報収集から、今日を生き延びる方法に話し合いは変わり、結果から言えば、校庭の真ん中にいるという案が出た。今日は雨も降っていないから、ありといえばありかもしれない。でも、

 

「たぶん、無理ね。前にそれを実践したら、飛行機が降って来たから」

「あ……」

「或いはライオンとか熊が来るかも」

「うーん」

「あとは……」

「とりあえず、色々なことがあって可能性が多いのはわかったわ」

 

残念ながら。こう提案の場合の死に方がいくつも浮かんでしまう。ならばと、砂浜のような場所という案も出たけど、その場合でも校庭と似た状況になる未来しか見えない。

まぁ、はっきり言うと、

 

「私が死なずに済む方法が無いわ。そもそも、今回は月曜じゃなくて今朝に飛んだ。つまり、死因はみんなが見たはずのモノになる」

「それって……」

「その時の記憶が無いから予想だけど、たぶん……心臓発作よ」

「え?」

 

みんなその時の死因が判明する前に飛んできたらしいから、知らない訳で、私の予想を口にすると驚いた声を漏らした。マリーやダイヤ、果南辺りは薄々勘付いていたと思うから驚いた様子はなくて、表情は暗い。

 

「でも、発作が起きたらすぐに応急処置すれば助かるんじゃないの?」

「たしかに応急処置をすれば助かる可能性はあるよね」

「じゃぁ、どうにかなるんじゃないの?」

 

応急処置をすれば確かに間に合うかもしれない。でも、可能性の話。助からない可能性もある。

それに可能性の話で言えば。

 

「でも、起きないかもしれない。そもそも、今回は今までと違うことがいくつもあるから」

「違うこと?」

「もしかして、マルたちが知っちゃったからマルたちにも危害が加わるかもってこと?」

「でも、それはたぶん平気ってさっき結論が出たよね?」

 

みんなは私の言ったことの意味が分からないみたいで、違う方に解釈していた。確かにそっちも予想の域を出ないけど、私の気にしているのはそっちじゃない。

 

「そもそも、過去に飛んだのが、今回は私じゃなくて皆の方ってことよ。その結果が月曜じゃなくて土曜になってるから、今まで通り同じことが起こるとは限らない。そもそも、今日の最下位は蟹座じゃなくて蠍座だから」

「え?そうなの?今日は星座占い見てないから知らなかった……って、あれ?」

「困ったね。未だにどうなるのか分かっていない誰の星座でもないパターンが来るって。マルの時はどうして無事だったのか明確な理由が分かってないし」

「ええ。単純に私が死の回避する方を選べていただけなのか、元から死なない程度のことが起きる日だったのか」

 

最大の問題はそこだった。もう、前例がないことばかりが重なっているから、どうなるのかわかったものじゃない。

 

「善子ちゃんが私たちの死を変えた時、少し違うことが起きたりした例も日記にはあったから、変わる物があるとは思ったけど、占いの結果が変わるなんて」

「そういうこと。今回は私と居たらみんなに危害が加わる可能性が0とは言い切れない訳だから、場合によっては誰かが私の代わりに死んじゃう可能性もある。もし今までの通りなら私と一緒に居なければ巻き込まれることは無いはず」

「つまり、善子さんのそばにいれば誰かが死に、誰もいなければ善子さんが死ぬと」

「あぁー。じゃぁ、どうやっても誰かが死んじゃうってことなの?」

「ええ。最悪、誰かが死んで、その後に私が死ぬ可能性もあるわ」

 

考えれば考えるほど、最悪な事態が浮かんで行く。もしかしたら全員死んじゃうなんて事態も考えられたけど、さすがにそれは口にしたくなかったから言わないけど。

 

「はぁー。考えれば終わりが無いわね」

「そうね。っと、ちょっと気分転換に外の空気を吸って来るわ。ちょっと頭の整理もしたいし」

「そう言ってどこにもいかないよね?」

 

考えすぎて、少し頭の整理がしたいからそう言うと、リリーにそう聞かれてしまった。みんなもリリーの言葉で私を見る。

確かに、みんなに話す前ならそうしてただろうけど。

 

「平気よ。今はそんなこと考えてないから。みんなとまだまだ一緒に居たいし」

 

そう言って、部室を出る。

今はそんな気はさらさらない。そもそもの話、みんながそうさせてくれないだろう……し?

 

「ねぇ。一つ聞いていい」

「どうしたの?」

 

外に出てすぐだけど、部室を覗く形で皆に聞く。気のせいならそれでいいんだけど。

 

「この時間って、まだ私たちだけだし、校舎に入れないわよね?」

「一応職員玄関からなら入れますし、先生方がいると思いますけど?」

「ごめん。聞き方変えるわ。屋上にローブみたいなのを纏った人が一瞬見えたんだけど……今日ってそういう方面のなんかあったけ?」

「はい?」

 

外に目を向けた際に一瞬屋上に見えた人影。気のせいならいいんだけど、気になったからそう言うと、ダイヤは首を傾げていた。たぶんダイヤの考えていることは分かる。

 

「ローブを着る生徒なんて善子さん以外にいないでしょう?オカルト系の分もありませんし、何かの催しもありません、よ?」

「てことは……」

『『『不審者?』』』

 

 

~☆~

 

 

「で、どうするのよ?屋上に来て」

「うん。どうしよっか。警察を呼ぶべきなんだろうけど、これで生徒だった場合はややこしいことになるだろうし」

「とりあえず、確認してから決めましょ?不審者なら警察に連絡すればいいし」

「幸い、屋上から出られるのはここだけだからここを塞げば逃げられないだろうし」

 

私たちは今、屋上の扉前の踊り場にいる。私が見たのが不審者なのかどうなのかわからないから、その対応に。先生に言えば済むだろうけど、大人が介入すると、生徒の場合かわいそうなことになる。

 

「とりあえず、本当に人はいるね。ローブで全く顔は見えないけど」

「でも、体型的に同い年くらいの女の子みたい?」

「ええ。となると、生徒と考えるべきでしょうか?」

「よし。私が捕まえてくるよ」

「果南。待って。まだ、生徒と決まった訳じゃない。背丈がそれくらいの大人の可能性も」

「でも、果南ちゃんくらいの身長に見えるよ?」

「それって、十分大人でもいるよね?しかも……」

「千歌ちゃんのお母さんを見た以上はもう……」

「え?なんでお母さんがそこで……ああ。そういうこと」

 

ローブの人の正体が分からない以上、どうしたものかと悩む。

その結果……

 

「よし!当たって砕けよう!」

「ヨーソロー!」

 

果南と曜が飛び出してしまった。勢いよく二人がドアを開けたことでローブの人がビクッと肩を震わせた。

私たちも慌てて追いかけると、二人は取り押さえようと飛びかかり、

 

「よっと。あっ!」

 

ローブの人は軽い足取りで二人を回避し、その勢いで塀に突っ込みかけていた二人の手を握って突っ込む前に止めて、二人はその場に尻餅をついた。その身のこなしと、二人分の重量を軽く支えたことからも、そうとうな力持ちなのかもしれない。

そして、二人の顔を見ると、いきなり二人に抱きついた。

 

「気づいたらここに居て、久しぶりだからここからの景色を見ていたら襲われるなんて、相変わらず私は不運ね。まっ、あの時に比べたらマシか」

「え!?」

 

この後、どうする気なのか警戒していたけど、独り言の様に呟いたその声に、私は驚きの声を漏らしていた。

その声は聞き覚えしかない。毎日のように私の耳に聞こえている声。

 

「それに高校時代の曜と果南に会えるなんて!」

 

うれしそうなその声はやっぱり聴き覚えがあり、抱きつかれながらもローブの中が見えたのか、二人は驚きの表情をしていた。

それで、もう私はローブの人の正体がなんとなく察せられた。

 

「ふぅ。いつまでも抱きついてるのは悪いし、これくらいにして……」

 

ローブの人は抱きつくのをやめて立ち上がると、私たちの方に向き直り、フードを捲くって顔をあらわにする。

 

「久しぶりね。みんな……って言うのも少し変かしら?」

「……私?」

 

そこに立っていたのは、少し背丈が伸びた私だった。見た限りは二、三年経ったくらいに見える。

でも、みんなは驚きで何も言えない。私が二人いるという状況はそれだけ衝撃的だった。

 

「あれ?私以外は無反応?」

 

もう一人の私は反応が返ってこないことに対して首を傾げる。

 

「さて、今って何年の……いや、今何月何日なの?」

「今は……」

「まっ、普通に考えてあの時だろうね」

 

なんとなく予想がついているのか、質問しながらも勝手に自己完結する。だったら聞かなくていいじゃない。

でも、その口ぶりから、わかったこともあった。

 

「あなたは未来の私よね?しかも、その未来にみんなはいない」

「そうよ。今から二年半後の未来から来た津島善子よ。よろしくね。高校生の私とみんな?」

 

未来の私はそう言って笑みを浮かべてみせた。

 

 

~☆~

 

 

「わー。懐かしい」

 

いつまでも屋上にいると、外からも目立つかもだし、まともな話が出来そうにないから部室に戻って来た。未来の私は屋上からここまで戻って来る間ずっとキョロキョロして懐かしそうにしていた。

たぶん、未来の世界だと浦女はもう無いのね。

 

「では、全てを話してくれますか?」

「マリー。別に敬語にしなくていいよ。あんまり歳は変わらないし。あと、もう一人の私と区別するために、ヨハネってとりあえず呼んで。いちいち未来の善子みたいな感じで呼ばれるのも嫌だから」

「そう。それで、あなたはどうやってここに来たの?」

「そうね。順番に話すべきかもだけど、その質問から答えるか」

 

ヨハネは変わらぬ調子でそう言うと、真面目な話になるからか表情が変わる。

 

「私がここに来れたのは、みんなが呼んだから」

「呼んだ?」

「うん。今起きてるこれの真実が知りたいって願ったでしょ?だから、私はここに来た。まぁ、正確に言えば私の意思じゃなくて、勝手にここに飛ばされたんだけど。いきなり私の足元に魔法陣が出てきたときは焦ったわよ」

「え?でも、あれは失敗したんじゃ?」

「うん。そう思っただけで実際は成功していた。だから私がここに居る」

 

ヨハネの話はにわかに信じがたいけど、私がもう一人いる時点で信じるしかない。どうして成功したのかはわからないけど、とりあえず成功していたことはうれしい。

 

「あなたがここに来れた理由はわかりました。では、本題に」

「うん。そうだね。ここからが本題だね。まずは、どうして過去の私の周りでこんなことが起きているのかからかな?」

「そうですわね」

「じゃぁ、話そうか。と言っても、どうしてこんなことが始まったのかという理由はわからない。単純に偶然の積み重ねだったのか、神の悪戯なのか」

「そんな」

「だから、そこはそういうものだと割り切って。で、先に言っておくけど、そのペンダントが原因じゃないから。それが無い時からこれは起きてたからさ」

「ペンダントが無い時から起きてた?でも、月曜日の時にはすでにあったんじゃないの?」

「うん。確かにその認識で正しいわ。私がそのペンダントを過去の私、まぁあなたに渡したんだから」

「え?でも、そんな記憶ないわよ?私に会ったのはあなたが初めてだし」

 

ペンダントを貰った記憶が無いから、いまいちわからない。そもそも、その時の記憶が無い。そもそも、どうしてその時の記憶が無い?そんな忘れるくらい昔にもらったってことなの?

 

「まぁ、覚えてないのも無理はないよね。忘れちゃったんだから」

「忘れた?つまり、そんな昔にもらったってことなの?」

「ううん。日曜日の夜だよ。渡したのはね。そして、ある事情でその時の記憶を失ったと言う訳」

「待ってください。話についていけないのですが。一体何があったというんですか?まさか、善子さんが日曜の夜に何かが……」

「あっ、ごめん。事故とかは起きてないから。そうだね。まずは、あっちからか。どうして、私がペンダントを渡したのかから」

「そうよ!まずはそこから聞かないと」

「じゃぁ、話そうか。私が経験した歴史を。どうしてペンダントを託したのかを。そして、この一週間を抜ける方法をね」



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31 ルーインズ

半日投稿中。その為話数注意です。
あと、二話同時投稿です。過去篇というか未来篇が書いてたら二話になっちゃったので。


月曜日。その日もまた平穏な日だと思っていた。

朝練をして授業をして放課後に練習をして、ただただ普通の日。でも、そんな普通も唐突に終わりを告げた。

練習終わりに曜と一緒に雑貨屋さんに寄り、喋りながら一緒に帰っていた。曜はバスで帰った方が早いはずなんだけど、歩いて帰れない距離じゃないからと一緒に歩く。

そして、私に向かってきた車に曜が気付いて私を突き飛ばし、私の目の前で曜が轢かれた。曜は車と建物の壁に挟まれていて、出血していることで地面を赤く染める。目の前で起きた惨劇に私は曜に駆け寄る。周囲の人たちも曜が轢かれたことで、救急車を呼ぶ人、挟まれている曜を助けようと車を退かそうとする人などがいた。私は曜に声をかけ続けていた。

 

「うぅ……良かった、善子ちゃんが、無事で」

「なんで、私をかばったりなんか」

 

曜はひどい有様なのに、私が無事なことに安心した表情をする。どうして、自分が死にかけているというのに私の心配なんてできるのかわからなかった。そして、曜は出血のしすぎか意識を失った。

病院に運ばれると、曜が死んだことが告げられた。曜が事故に遭ったことをみんなに伝えたらみんなすぐ来て、千歌が呼んだのか曜のお母さんも来て、曜の死にみんな涙を流し、私は自分を責めた。

私を助けたばかりに曜が死んだ。でも、誰も私を責めることは無く、もう遅いからとみんな家に帰された。私はその夜ずっと泣き続けた。

曜はもう帰ってこない……。

 

火曜日。曜が死んだのに、学校はある。夜通し泣いたことで寝不足で、ママには心配されたけど、平気だと言って家を出た。外は土砂降りで、まるで私の心を映しているようだった。

バスに乗って、普段曜が乗るバス停に差し掛かるがそのまま素通りして走って行くことで、曜が乗って来ることが無いことを実感して、私はまた泣いた。

学校に着くと集会が開かれ、曜が事故に遭って死んだことが伝えられた。マリーは感情を殺して、いつもの明るさなど微塵もなく淡々と告げた。マリーの目元は赤くなっていたから、私と同じく泣きはらしたのは一目瞭然だった。他の学年の方を見れば、リリーはいたけど千歌の姿がそこには無く、果南の姿も見えなかった。後から聞いたけど、千歌も果南も曜の死によって塞ぎこんで部屋から出てこなかったらしい。幼馴染の死は二人をそうさせるのには十分の物だった。

それから、授業が行われたけど、みんな曜の死によって上の空だった。私も同様で、その日の授業をどうしていたのか思い出せなかった。

練習なんてもちろんできるわけなく、練習は中止になり、小さいながらも体育館で曜の送別会が催された。終わった頃にはだいぶ日が傾き、片づけを手伝った後、マリーとダイヤは仕事をしなくてはならず、私たちは先に家に帰る。

そして、終バスに乗って帰る途中で、雨の影響で倒れてきた木に乗り上げてバスが横転した。私は一番後ろの席に花丸と一緒に座っていて、ルビィとリリーはその前に座っていて、窓際に座っていた花丸とルビィは窓ガラスに頭を打ち付け、私たちは二人の身体にぶつかった。二人の身体にぶつかったおかげでガラスに打ち付けずに済んだ私とリリーは怪我が無かったけど、花丸とルビィは打ち所が悪かったのか頭からは血を流していた。

 

「花丸!ルビィ!」

「うぅ……」

「……善子ちゃん」

 

二人はそう言って気を失い、地面に接したことで窓ガラスが割れ、二人の身体は傷ついていた。リリーが救急車を呼び、私は少しでも出血を抑えようと手当てをする。でも、出血が多すぎたこと、頭の打ちどころが悪かったことで病院に着いた時には手遅れだった。

昨日に引き続き、二人が死んだ。それは私たちの心に深く傷を残した。ダイヤはいつもの凛とした振る舞いなど忘れたように泣き崩れていた。

その日の夜もまた私は夜通し泣いた。

 

水曜日。私は二日連続で睡眠時間が少なかったこと、雨に打たれたことで体調を崩していた。何もする気力がなく、私はただただ寝ているだけだった。その日の放課後、リリーとマリーがお見舞いにやってきた。二人とも辛いはずなのに、私のお見舞いに来てくれて申し訳なくなる。今日もまた二人の死が伝えられたらしい。そして、果南はまだ整理はついてないけど、曜の死にいつまでも引きずられていたら曜に申し訳ないからと、学校に登校したらしかった。千歌はまだ駄目な様で学校に登校していないらしい。

私は布団に寝た状態でそう教えられた。その後、二人は帰り、私はエレベータの前まで見送りに行った。

そして、二人を乗せたエレベータが落下した。

いきなり起きたことに私は放心状態になるも、慌てて階段を駆け降りる。風邪のせいでフラフラした足取りだったけど、身体に鞭打って無理やり降りて行く。

 

「リリー!マリー!どこッ!」

「「……」」

 

一階にたどり着くと、エレベータがグシャグシャになっていた。大声を上げて二人を呼びながらエレベータに駆け寄ると、二人はその中で倒れていて、一目で手遅れだと分かった。

私は目の前の惨状に言葉を失い、騒ぎを聞きつけた人たちがすぐに集まってきた。

その日の夜もまた泣きはらし。いつの間にか気を失った形で眠りに落ちていた。

 

木曜日。風邪は治ったことで、フラフラした足取りで私は学校に行き、マリーがいなくなったことで校長の口から二人の死が伝えられた。

私は呆然とそれを聞き流していた。

その日の放課後、私たちは学校内の倉庫に来ていた。本来ならさっさか帰るべきなのだけど、二人はマリーの分まで生きようとして、学校の為にできることをしていた。私はそんな二人を手伝っていた。

手伝うんじゃなくて止めていれば良かったと後から思った。外では雨と強風が倉庫に打ち付けてガタガタいっており、ひときわ大きな音がなった頃になってようやく危ないと思って倉庫を出ようとして、それと同時に倉庫が崩落した。どうにか脱出しようとするも私は転び、崩落に巻き込まれた。気が付くと、私の身体の上に二人が倒れていた。

 

「なんで私を助けたりなんか」

「うぅ、良かった。善子ちゃんは助けられたんだね」

「理由なんて、身体が動いていただけですわ」

 

二人は崩れてきた瓦礫類から私を護ってくれた。でも、その代償は大きかった。二人の下から出ると、二人の身体には深々と倉庫の柱の残骸が刺さっていた。痛いはずなのに、二人ともそれをおくびにも出そうとしない。私は救急車を呼ぶとどうしようかと悩む。下手に抜くと余計に痛いだろうし、それこそ一大事になるかもしれない。でも、何もしないでいる訳にもいかない。そうして悩んでいるうちに救急車がやって来て、二人は病院に運ばれた。

でも、二人は病院に着く前に息を引き取った。私を助けたばかりに二人は死んだ。二人なら私をかばわなければ多少の怪我で済んだはずなのに。

その日の夜も泣いた。でも、毎日泣いたせいか、それとも私の感情が壊れ始めたのか、涙は次第に流れなくなった。

 

金曜日。二人の死が伝えられた。ネット上にも連日の生徒の死が報じられ、「浦女は呪われている」という噂が広まり、入学希望者は0になった。それと同時に、私にもある噂が囁かれるようになった。連日の死を必ず私は目の当たりにしていることで、「人殺し」「死神」などなど私を侮蔑し、みんな私から距離を取る。先生たちも私が何かしているのではと疑い、面談と表向きは言いつつも、ほとんど取り調べと変わらないものが行われた。私は何もしていないし、その場にいただけなのに、きまって「本当のことを話して」と言われた。

だから、浦女の中に私の居場所がなく、昼過ぎから授業をサボって屋上に私は逃げた。私の言葉を信じてくれる人なんてもうどこにもいない。

ただ一人を除いて。

 

「善子ちゃん、授業をサボるのはどうかと思うよ?」

「千歌だって、サボってるじゃない」

 

屋上の塀に背中を預けて座っていると、屋上にやってきた千歌がそう言った。千歌はまだ立ち直れていないけど、それでも一応学校に今日は来ていた。千歌も私ほどではないけど、みんなと仲が良かったこと、曜が死んで以降休んでいたことから、何か知らないかと疑われたらしい。

千歌は本当に関係ないから、すぐに解放されたけど。

 

「まぁ、私も居心地が悪いからね」

「そう」

 

前までは笑顔が眩しかった千歌の笑顔も、今では無理に作られた物で、もうあの頃の笑顔を見ることは無さそうだった。

千歌は私の隣に座る。

 

「みんな死んじゃったね」

「うん。でも、私のせいよね?私をかばったせいで、曜とダイヤと果南が死んで、私のお見舞いに来たからリリーとマリーが死んだ。もしかしたら、私と一緒に居たからルビィと花丸も死んだのかも」

「そんなこと言ったら、チカだって同罪だよ。曜ちゃんが死んでから、引き籠って。もしかしたら、引き籠らずに学校に行ってたら違う未来があったかもしれないのに」

「それはもしもの話でしょ?」

「善子ちゃんのも、もしかしたらの話でしょ?」

 

結局、私たちは何もできない。

 

「私と居たら、千歌にも何か起きるかも。私って死神らしいから」

「善子ちゃんは死神なんかじゃないよ」

 

もしかしたら、私と一緒に居たら千歌まで死んでしまうかもしれない。だから、私はそう言う。でも、千歌はそれを否定する。どうすればいいんだろ?

 

「学校にいつまでもいても居心地が悪いし、帰ろっか」

「うん」

 

すると、千歌がそう提案して、私は首を縦に振る。しかし、立ち上がった瞬間立ち眩みがして、私は塀に手をつく。でも、それが悲劇につながった。

 

ガコッ

「え?」

 

塀に触れた直後、いきなり触れた周囲が砕けて私は塀の向こうに倒れる。塀の向こうには何も無い。このままだと落下する。でも、私は怖くなかった。これで終われる。私のせいで千歌が死ぬ前に、私が死ねばきっと千歌が死ぬことは無いはず。そう考えれば千歌だけは生きていてくれるから怖くない。

でも、そんな私の想いは裏切られた。私の腕を千歌が握ると、無理やり引っ張る。でも、私も千歌も連日の睡眠不足と、精神的疲労で力が入らず、一緒に落下する。

下は中庭で、木に突っ込んでそのまま地面に落ちる。木が緩衝材になったおかげで、だいぶ衝撃は緩和され、私は生きていた。でも、落下中に私と千歌の位置が入れ替わったせいで、地面についた時には千歌が下敷きとなっていて、意識が無かった。でも、すぐにわかってしまった。

 

「どうして、私を助けたりなんて。それで、あなたが落ちたら……」

「……」

 

千歌は頭を打ち付け即死だった。すぐに騒ぎになり、私は先生たちに囲まれた。校舎からは生徒たちが見ていた。

その眼全てが、私をさげすむように見ている気がして、私はその場にうずくまる。

 

「嫌……なんで、こんなことになるの」

 

結果から言えば、大雨の影響で塀の一部が脆くなっていたことによる事故ということで片付けられた。でも、私が千歌をつき落としたという意見もあり、その日以降、私は家に引き籠った。毎日のように警察が来て事情聴取され、ママもだいぶ疲弊していた。

 

それからすぐに、私たちは沼津を離れ、ママの実家の田舎に行った。そこは内浦以上にのどかで、いわゆる田舎だった。

私たちの噂は全く届いていなくて、お婆ちゃんに事情を説明すると「大変だったねぇ」と言って、すんなり受け入れてくれた。

その後私はただ生きるだけの生活を送っていた。何度か自殺をしようとも考えたけど、その度に皆の顔が浮かんで、死ぬことができなかった。

きっと、今死んでも皆に向こうで怒られる気がしたから。

 

でも、そんな何も無い平穏も唐突に終わりを告げた。

あれから二年ほど経った春。どこから私たちのことを知ったのか、マスコミがわんさかやって来て、私は囲まれた。口々に「あの時の真相は?」とか「一人のうのうと生きてどうなんですか?」とか言われた。ママはちょうど近くの学校で働いていたからこの場にはいなくて、お婆ちゃんも近所の友達と一緒に出掛けていたから、私一人だけ。

これ以上一緒にいたらママにも、お婆ちゃんにも迷惑がかかる。私さえいなければきっと迷惑がかからないはず。

前からいつかはこうなる気がしていたから、私は家からバッグを手に取るとそのまま山の方に逃げた。マスコミたちはそんな私を追いかけてきたけど、構わず逃げる。Aqoursとしてみんなと一緒に練習するまでは体力もあまりなかったけど、今ではだいぶマシになってきたからか、距離はどんどん離れていく。一応こっちに来てからはお婆ちゃんの畑仕事を手伝ってたからそこまで体力は落ちていない。いや、あの頃に比べたら体力が落ちていたかもしれないけど。

 

気づいたら、山の中をだいぶ走っていた。もう自分がいる場所は全く分からない。木々が生い茂り、仮に追って来てもすぐに見失ってしまいそうだった。だから、もうあそこに戻ることもできないと思った。

でも、そんなこと構わずに道をひたすら走ると、雨が降り出した。悪天候と山の地形で追っては撒けて、小さな洞窟を偶然見つけた。とりあえずそこで雨宿りをしようと中に入ると、洞窟は奥まで続いていた。私は入り口近くにいたら見つかるかもしれないからと奥に進んで行く。バッグの中に入れていた懐中電灯をつけて進んで行き、時々分かれ道を適当に選んで進んで行った。そうして奥深くに行くと、部屋のような場所に出た。

その部屋の中心には祭壇のようなものがあって、どうやらここは遺跡のようだった。

そして、祭壇の中心に黒い水晶の付いたペンダントと古びた書物が置かれていた。




ルーインズ、遺跡に着いたからこのサブタイです。
では、ノシ


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32 リメンバー

半日投稿中。その為話数注意です。
今回は二話同時投稿ですので、前の話【ルーインズ】を読んでない方はそちらからですね。


「何これ?」

 

私はそう呟きながら、ペンダントと書物を手に取る。ペンダントに付いた水晶は澄んでいて私の顔を反射する。水晶にはフードを被ったひどくやつれた私の顔が映っていた。しばらく私は鏡で自分の顔を見たりしていなかったから、今の私に驚いた。そもそも、自分の顔を見るだけで、みんなを死なせたことに対する罪悪感と、何もできなかった私に対する怒りに呑まれそうだったから見れなかったのだけど。

髪は前よりも伸びていて、顔は疲れたように顔色が悪い。ママもおばあちゃんもそんな私を見ても指摘しなかったから、たぶん私に気を使って言わなかったんだと思う。

 

ペンダントを一度戻すと、書物に目を通す。

この書物はペンダントの元々の持ち主が書いた物のようで、このペンダントが何なのかについて書かれていた。

 

これを書いた人は強い後悔があったらしい。自分が何もできなかったせいで多くの友を失い、自責の念に駆られ、ただただ生きるだけの日々を送っていた。そんなある日、たどり着いた洞窟で大きな水晶を拾い、その水晶を家に持ち帰った。そして、友との毎日を思い、あの時のことを後悔しまた会いたいと願いながら過ごしていたら、私は友が死ぬ夢を見た。目を覚ますとそこは家の中で、やっぱり夢だったと落胆し、でももう一度会いたいと心の中で願った。その直後に水晶が輝き、気が付くと私は何故か若返っていて、そこの景色もどこか見覚えがある気がした。いきなりのことで不安になったが、この景色が何のなのかわかった。

ここは多くの友を失ったあの場所。そして、死んだはずの友が普通に過ごしていた。これが夢だと理解すると、あの時と同じようなことが目の前で起き、もしかしたら友を救った場合の未来が見られるかもと、その場を動いた。結果友は死ななかった。そして、いくら時間が経てど夢から覚めることは無く、これが現実なのだと理解した。

友を失わなかった未来を私は生きる。しかし、私の命ももう長くはない。だから私はここに書き記し、水晶をペンダントに加工してここに置く。私のような悲劇に遭われた者の手に渡ることを願う。

このペンダントを次に手にする者に幸福があらんことを。

 

書かれていた内容を要約するとそんな感じだった。夢の内容やどんな生活を送っていたかなど、長々と書かれていたから読み終わるのに、それなりに時間がかかり最後はそう締められていた。

なんだか、私と状況が似ているなぁと思う。でも、もしかしたら、これさえあればみんなが死ぬ自体を回避して、みんなが死ななかった未来に行くことができるかもしれない。

そして、締めくくられたはずなのに、もう一ページあることに気付いてめくってみる。

 

――ここにこの水晶の力で分かっていることを纏めておく。

この水晶は後悔と強い願いを糧に過去を変えるために輝く。故に軽い気持ちだと輝くことは無い。どれほどの気持ちが必要かは不明。

また、過去に飛ぶと、過去の自分の身体に上書きされるようだ。これは、私自身が若い体というかあの頃の姿だったことからそう言える。

他にもあるかもしれぬが、私はこの世界にずっととどまっているから未来の世界に戻ることは無いと思う。この水晶も、友を救った後に同じ場所で見つけ、ここに置くことにした。

これらが役立つことを願っている。――

 

要するに取説のようなものだった。でも、そのせいで微妙に眉唾感が生まれる。こんなことが書いてあると、逆に怪しさがある気がする。

でも、可能性があるならと私はこれに賭ける。

魔法陣の描かれた布を字面に敷き、その上に座ると小さな黒い水晶の付いたペンダントを握り、

 

「堕天使ヨハネが命じます。リトルデーモンよ、私に力を……時よ戻れ!時間遡行(アンチクロック)!」

 

詠唱をするも、何も起こらなかった。そもそも、私にそんな力なんてない。ただの非力な一人の少女。

 

「……って、こんなことで戻る訳もないわね」

 

それに、書いてあることが本当のことなのかもわからない。ただの眉唾かもしれないし、こんなものにすがるのもおかしい。

時間はもう夜更けで、私は家に帰る気も起きずその上で眠る。

その日。私は不思議な夢を見た。私は高校生の頃の姿をしていて、死んだはずの皆がそこにいた。これが夢なのだと理解するのにさほど時間はかからなかった。死者は生き返らない。これは常識なのだから。

でも、せっかく見た夢なのだから覚めるまでみんなと一緒に居ようと思った。

 

次に気が付くと、眠りについた洞窟の中だった。夢で見た空間からガラッと一人の空間に戻ったことでさみしさを感じる。みんなと一緒に居る夢を見たことでまた皆に会いたいと思った。でも、どうにもならない。

 

もしあの時、もっと早くに車に気付いていたら曜はこんなことにはならなかった。

もし終バス一個前の明るい時間に帰っていれば二人が死ぬことは無かった。

もしあの日、二人が私の住むマンションに来なければ死ななかった。

もしあの時、私が転ばなければ二人は潰されることは無かった。

もし、私があの日屋上に登らなければ千歌が死ぬことは無かった。

 

浮かぶのは後悔ばかり。悔やんでももう過ぎたこと。時を戻すなんてことができない私にはどうにもならないこと。

 

「……帰って来てよ」

 

でも、諦めきれずに私はただ願った。

皆がいる今までの日常を。皆がいなくなる前の日常に戻りたいと。そして、脳裏によぎった言葉を呟いた。

 

「我願う。故に我乞う。みんなの居るあの日常を取り戻したい!」

 

直後、私の願いに呼応するように水晶からまばゆい輝きが放たれた。私はいきなりのことに驚いていると、意識を失った。

次に気付いた時には、私は部屋にいた。それも昔から住んでいた沼津の私の部屋だった。ここを出てだいぶ時間が経っていたし、私はさっきまで洞窟の中にいたから、今起きたことを呑み込むのに少し時間を要した。時計を見れば、曜が事故に遭ったあの日の前日の夕方を示していた。

で、出た結論は。

 

「あれ、本当だったってこと?」

 

過去に飛べたということは、あれは本物だったということになる。でも、過去にこれたというのなら、みんなの死を無かったことにもできるはず。これは、最大のチャンスだった。だから、このチャンスを絶対に活かして見せる!

と心に決めたのはいいんだけど、問題が一つ。

 

部屋に置かれたディスプレイに反射して私が映っているのだけど、どう見ても高校の頃の私ではなく、過去に飛びたいと願った私のままだった。あの書物によると、私は過去の私に上書きされるはずなのに、そうなっていない。これはどういうこと?もしかして、何かミスった?

そう思いながら、もっと情報を求め部屋を出ようとドアノブを握ろうとする。

でも、おかしなことにすり抜けた。あれ?どうしてすり抜けてる訳?嫌な予感がして、ドアに手をつくと、すり抜けた……。

 

「って、私幽霊になってるのぉー?」

 

何故か私は幽霊のそれになっていた。どうしてこんなことになっているのかわからず困惑しながらドアをすり抜けて部屋を出る。どうやら、過去の私もママも出かけているようで姿が見えなかった。仕方がないから手に持っていたペンダントを首にかけると外に出る。人とすれ違うけど、ものの見事に誰とも視線が合わず、声をかけても聞こえていないみたいで通り抜けていく。

物に触れられない、人と会話ができない。これじゃ、みんなの死を無かったことにすることができない。また、私はみんなが死んでいくのを見るだけしかできなくなる。

 

「あの、すみません。何か御用でしょうか?」

 

結局私は過去に来れても何もできないらしいと実感し、家の前で途方に暮れて地面に座り込んでいると、そんな声が響いた。

そうよね。人の家の前にいたら邪魔よね。

 

「すいません。すぐ退きます」

「あっ、はい」

 

そう言って私は退く……私に声をかけた少女は驚いた表情をしていて、まぁ少女はこの時代の私なんだけど。私が過去の私に謝るなんて変な感じね…って、待って!

 

「私の姿が見えるの!?」

「わっ!」

 

過去の私の肩を掴んでそう聞く。いきなり肩を掴まれて驚いた声をあげているけど、気にする余裕は私には無い。

誰にも認識されないと途方に暮れていたところに訪れたこのチャンス。しかも、過去の私なら、知らない人よりもと言うか一番話しやすい。

 

「って、私?」

 

フードを被っていたから、ようやく私の顔が見えたようで、再び驚きの声を上げていた。でも、私は気にしている余裕はない。

 

「あっ、遂に私はドッペルゲンガーに出会ってしまったのね。つまり死ぬのね」

「あっ、いや。その場合はもう一人必要なのが通説だから平気かな?」

 

気にしてる余裕はなかったけど、ついついそう返答していた。って、だから、今はそんなことよりも。

 

「私の姿が見えるのよね?」

「見えるわよ?それとも、私以外には見えないとか?」

「ええ。残念ながら」

「へぇー」

 

今更ながら、思ったことがある。

最初は驚いていたのに、冷静に会話できるくらいに落ち着くって、何気にすごいわね。流石私。

 

 

~~

 

 

「カクカクシカジカ。ウマウマウシウシと言う訳よ」

「……」

 

私たちは部屋に戻って来ていた。外でいつまでも話していると、はたから見れば過去の私が独りでに喋っているようにしか見えないし、落ち着いて事態の説明をしたかったから。

明日以降みんなが事故に遭って亡くなること、そんな未来を変えるために過去に来たことを伝えると、過去の私は頷いていた。考えているような素振りをしているから、たぶん伝わったはず。

 

「嘘でしょ?なんで、みんなが死ななきゃならないのよ!」

「だから、それを止めるために私はここに来たっていったでしょ?当初の予定とくるっちゃってるけど……」

 

過去の私は取り乱してそう言う。でも、取り乱すのは当たり前のこと。いきなりそんなことを言われれば私も取り乱すことは明白。まぁ、目の前で見せられてるんだけど。

 

「それに当初の予定ってどういうことよ。あと、どうやって未来から過去に飛べるのよ。年もあまり変わらないように見えるし、まさかそんなすぐにタイムマシーンができたなんて言わないわよね?」

「質問多いなぁ。順番に説明するよ。今から二年半ほど経ったけど、今とあまり変わらないわ。だから、タイムマシーンもないわ。方法を言うとこれよ」

「ペンダント?あっ、でもこの水晶綺麗ね」

 

首元にかけていたペンダントを外して、過去の私に見せると過去の私はじーっと見てそう言った。

 

「まさか、これには過去に飛ぶ力があるって言うの?」

「まぁ、そう言うことみたい。私も初めてだからわからないこともあるけどね」

「ふーん。これがねぇ。もしそうなら便利だけど」

 

どこか疑わしそうな目で水晶を眺めながらそう言ってペンダントに触れ、

 

「ちょっ!」

「わっ!」

 

いきなり水晶が輝き出した。

その結果、私たちはその光に呑まれ、その際に私はいきなりのことでペンダントから手を放してしまった。

その光の中では互いの記憶が共有され、私の未来での記憶が過去の私に流れ込んだ。私は忘れていたような過去の記憶を思い出した。

結果から言えば過去の私にこれから起きることが伝わったわけだから説明の手間が省けた。百聞は一見にしかずと言うし、この方がより詳細に伝わるしね。

 

そして、全ての記憶が過去の私に流れ込み切ると、私はそこで時間切れなのか未来の世界に戻されたのだった。できれば、もう少し過去の私と話しておきたかったけど、記憶が伝わった以上説明をする必要は無いはずだと思った。だから、これできっと未来が変わると信じて。

 

 

~☆~

 

 

「てことがあった訳」

「そうだ。どうして忘れてたんだろ?覚えていれば、もっと違う未来があったかもしれないのに」

 

私はあの時聞いた。ヨハネの話を聞いたことで、その時のことを思い出した。でも、どうして忘れたかの理由が思い出せない。

 

「えーと。色々大変だったことは分かったんだけど……」

「その後どうなった訳?善子がその時の記憶を失った訳がわからないけど?」

 

ヨハネはそういて話を締めたけど、私の記憶が無くなっていた理由は話されていないからわからない。記憶が共有されたのなら覚えていないとおかしいはずだし、そこについては話されなかったからそう問う。

 

「いやー。残念ながら、あの後記憶を受け取った過去の私は気を失っちゃって、次に目を覚ました時にはその記憶がスパッと抜け落ちちゃったんだよね。いわゆる防衛本能ってやつ?流石にあの頃の記憶を一気に見たら精神が壊れかねなかったから」

「そんなことが……」

「で、その結果が、今のあなたって訳。夢で見たのはその一部よ。流石に二回目だし、何度も繰り返してきた過去があるからだいぶ耐性が付いたから、今回は気を失わずに済んだってところかな?」

 

あの夢がそうなのだとしたら、確かに納得がいく。妙にリアリティーがあったし、夢で見た通りに事故も起きてしまったから。でも、ペンダントのおかげでやり直すことができた訳だけど……あれ?

 

「そういえば、なんでペンダント私が持ってるの?私に回避するように伝えた以上私必要が、というか渡したって話も無かった気がするけど?」

「あー。それはまぁ、過去の私がペンダントに触った時に手を放しちゃって、置いてきちゃったの。要するに偶然の産物だね。でも、結果的に置いてきちゃって正解だった訳だけど」

「なるほど……とりあえず、事の発端とペンダントのことは分かりましたが、結局どうすればこれを終わりに出来るのですか?」

「言うだけなら簡単だよ。今日を乗り越えるだけ。要するに明日を迎えればこれは終わる。まぁ、いつかは事故に遭うかもしれないけど、それは日常生活を送っている上で起こりうるくらい確率だから、今回のこれとは無関係よ」

 

とりあえず、私がしようとしていたことはあながち間違っていなかったらしい。でも、もうあんなことは考えない。私も、みんなも生きて明日を迎える。これが今目指すべき未来。

 

「うーん」

「どうしたの?千歌?」

 

すると、千歌が何か考えているような素振りをしているから気になって声をかけた。何を考えているんだろ?皆もわからないらしく、千歌の方を見ていた。

 

「いや、どうしてヨハネちゃんは明日を迎えれば平気ってわかるのかなぁ?って。ヨハネちゃんがいた未来って、千歌たちいないんでしょ?だったら、わかるわけ無いようなって思って」

「そういえばそうだね。どうして言い切れるんだろ?」

 

千歌の疑問を聞いて、私もそう言えばと気になった。だから、ヨハネの方に目を向けると、ヨハネは頬を掻いていた。

 

「その疑問はね……って、あっ……」

 

ヨハネが話そうとしたら何故かヨハネの身体が輝き始めていた。なんというか、この展開の予想が付いたんだけど。

 

「時間切れだ」

「嘘!」

「と言うことで、絶対に伝えておくことがあるから簡単に言うよ」

「え?」

「今日の午後三時から午後七時の間に事故が立て続けに起こるからどうにか回避して。あと、私と一緒に居るとその人がどういう訳か事故に遭うから、全員でカバーしあってどうにかして。みんなで力を合わせればきっとどうにかなるから。あと、一番の問題点だけど、未来にいる私を呼んじゃったことで、もう過去に飛べなくなるはずだから、今回は絶対に誰も死んじゃダメだからね。絶対に諦めちゃダメだからね」

「ちょっ、聞きたいことが増えてるんだけど!なんでもっと早くにそう言う情報を言ってくれなかったの!?」

「ごめん。想像以上にここに居られる時間が短かったみたい。あの時はもうちょっといられた気がしたんだけど」

 

ヨハネはバツの悪そうな顔でそう言うと、光になって消えていく。もっと聞きたいことがあるのに、無情にも時は進んでヨハネの姿はほとんど見えなくなっていた。

 

「絶対にみんなで、みんながいる世界を取り戻してね」




思い出したからこのサブタイです。
では、ノシ


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33 生きる為に

半日投稿中。その為話数注意です。


「えっ!?消えた?」

「嘘でしょ」

 

光になって消えていったヨハネを見て口々に驚きの声が上がる。目の前で人が消えたのは衝撃だったのだけど、それ以上に私は言いたいことがあった。

 

「いろいろ疑問だけ残していかないでよー」

 

最後に一気に告げられた情報に私は困った。と言うか、重要そうな情報を一気に言われたせいで、全部覚えられた自信も無いんだけど。しかも、覚えている部分も、どういうことなのか確認したいところだったし。

それに、こっちが聞いた疑問の答えを聞けなかったわけだし。

 

「とりあえず、ヨハネが最後に言っていたことを纏めましょ?三時から始まるって言ってた以上のんびりしている時間は無いわ」

「そうだね。でも、全部覚えてるわけじゃないよ?」

「うん。所々しか流石に……」

「とりあえず、皆が覚えていることを書き出そう?そうすれば、どうにかなるかも」

 

でも、いつまでも引きずられている訳にもいかない。ただでさえ時間は刻一刻と迫ってきているから気持ちを切り替えて、今後の話し合いに移る。でも、みんなヨハネが喋った内容全てを覚えきれたわけじゃないらしかった。となると、リリーが言う通り、全員の覚えている情報を合わせるしかない。問題は、全員のを合わせて全てがそろうかだけど……。

 

「その必要はありませんわ。ヨハネさんの話した内容は全て録音しましたので、それを書き上げれば済みますわ」

 

ダイヤの手にはスマホがあり、それで録音していたらしかった。確かに録音しておけば済む問題だったのだけど、まさか録音しているとは思ってなかった。

 

「ダイヤさん、いつの間に録音を」

「まぁ、こういう重要そうなものは録音するようにしておりますので」

「そう言えば、私も理事長として出る会議だと録音してるわね。今回はすっかり忘れてたけど」

「でも、これでヨハネちゃんが言ってたことを聞き直せるから重要そうなことがまとめられるね」

「では、始めましょうか」

 

そう言って、私たちは机を囲む形で集まると、録音を再生させて要点をまとめていく。

その結果、わかったことはあったのだけど、困ったこともあった。

 

「私と一緒にいたら事故に遭うっていうことは一人でいた方がいいわよね?」

「でも、一人だったら善子ちゃんが死んじゃうんじゃ。今までがそうだったわけだし」

「そうかもしれないけど、一人でも誰かといても誰かしらが事故に遭うんだったら一緒の方がいいんじゃないの?」

「うーん。どうしようかぁ」

 

一緒に居たら私以外の誰かを巻き込み、私一人だと私が事故に遭う。事実だとしたらどうすればいいのかがわからない。今までの経験上一緒にいても一人でいても事故は回避できないわけだから、選択肢が無い。いつもなら過去に飛んで回避してたけど、過去に飛べないとか言っていたからいつも通りにはいかない。本当に過去に飛べないのかわからないけど、仮に本当だったら困るから、その線で考える必要がある。

 

「とりあえず、基本的に三時から七時の間をどうするかだよね。善子ちゃんと一緒にいるか、いないか」

「でも、善子一人だと今までの土曜日の二の舞になるわよ?」

「そうだけど、一緒に居たらそれ以外の日の二の舞になっちゃうずら。今回は過去に飛ぶことができないって言ってたし」

「でも、本当なのかな?今までできてたことが急にできなくなるとは思えないけど。それに、今日の星座が蠍座なら、誰も事故に遭わない可能性もあるでしょ?」

「確かにルビィの言うことも一理あるわね。ヨハネが色々知っていたこともわからないし。ヨハネがいた時代は私たちがいなくなった未来なんだから、これから起こることを知らないはずだし」

「え?じゃぁ、ヨハネちゃんがチカたちに嘘を付いているって言うの?」

「そう言いたいわけじゃないけど、その確証が無い以上完全に鵜呑みにすることもできないって話よ」

「わたくしも気になることがありますわ。千歌さんがヨハネさんに聞いた瞬間に、タイミングよく未来に戻ったことが。結局千歌さんの質問には答えなかったわけですし」

「ヨハネちゃんを疑うの?私たちにそんな嘘を言って、なんの得があるの?」

 

気づけば未来の私がそもそも怪しいという話に変わっていた。なんで、そうなるの?今はそんなことどうでもいいじゃない。

 

「私はヨハネちゃんを信じたい。未来のよっちゃんが私たちを騙すなんて思いたくないよ」

「私だってそう思いたいわよ。でも、未来で善子がどう変わってるかなんてわからないわ。もしかしたら、今までの話全てが嘘かもしれないわ」

「でも、マルたちが今立たされてるのは事実ずら。全部が嘘なんてことは無いよ。それに、マルも未来の善子ちゃんが嘘をついてるなんて思えないずら」

「それは結果論ですわ。結局、善子さんのペンダントだって、洞窟で見つけた物で、完全に能力がわかってるわけじゃないのですから、あれが原因かもしれませんわ。日曜日にあったのなら、あれがあるからこうなったとも取れますし」

 

ヨハネが私たちに嘘をついていると考える、マリーとダイヤ。

対して、そんなはずはないと言うリリーと花丸。

私たちはどっちの立場にも属さない中立の立ち位置。

そんな私たちは四人の会話に口を挟めないでいた。ルビィは自分が不用意に言った発言のせいだからと、あたふたしている。

 

「じゃぁ、今起きているこれはヨハネちゃんが引き起こしたって言いたいの?」

「そうですわ。そう考えれば全て辻褄が合いますわ。事の始まりはわからないとぼやかしていたのがその証拠ですわ。ヨハネさん自身が原因ならば、そうするのが最善でしょうし」

 

どう言う訳か、全ての原因が未来の私なのではとダイヤが言う。マリーの顔を見てもたぶん同じことを思っているように見える。確かに、情報が不足している今、未来の私が疑われるのも仕方ないとは言える。

でも、未来の私も結局私のわけだから、少し辛い。みんなに疑われるこんな状況になるなんて思っても見なかった。でも、よくよく考えれば、みんなは私が巻き込んだみたいなものだから仕方ないか。

 

「なんで、私たちにそんなことをするのよ!」

「そんなの分からないわ。それこそ、ヨハネ自身しか」

「じゃぁ、なんずら?未来で善子ちゃんがマルたちに死んでほしいって思って今の状況にしたって言いたいずらか?」

「ええ、そう言――」

「ストップ!ダイヤ!四人とも落ち着いて!こんな不毛な言い争いをして誰が一番傷付くか考えて!」

 

口論はさらに激化し、ダイヤが言おうとした直後に、普段は落ち着いている果南が大きな声でそう言ったことで部室内は鎮まりかえる。果南が言っている一番傷付く人が誰なのかみんな理解したのか私の方を見る。

 

「そうだよ。確かに未来の善子ちゃんの話にはまだ分からないこともある。でもね。チカは善子ちゃんが嘘をついてないって思うよ。善子ちゃんが優しいことはみんなも知ってるでしょ?自分を犠牲にして皆を助けようとしてくれたんだよ?」

「私もそう思う。屋上で会った時、未来の善子ちゃんは塀に突っ込みかけてた私と果南ちゃんを助けてくれた。ダイヤさんが言う様に私たちを死なせたいんだったら、あの場で塀に突っ込ませて怪我させてたと思う。それに私に抱きついた時、嬉しそうだったし温かかった」

 

今まで四人の会話に入れずにいた千歌と曜はそう言ってくれた。たぶん、まだ腑に落ちないことはいくらかあるけど、今いる私とあの時二人を助けた行動を信じてくれたことが分かってうれしい。

 

「すみません。少し混乱していましたわ」

「ごめん。冷静さを失ってたわ」

「ううん。二人がそう思うのは仕方ないと思う。それに……」

 

すると、二人は私と花丸、リリーに向けてそう謝った。二人もそれぞれ今ある情報から考えた結果だから仕方ない。これは誰が悪いかという問題ではない。強いてあげるなら。

 

「全部説明せずに帰った未来の私が悪いから」

「あー。確かにそれだね。ちゃんと説明してくれていればこんなことにはならずに済んだよね」

「うんうん。今はそれよりもこれからのことを考えないと!」

 

強引に千歌が話を変えると、私たちは今後のことを話し合った。今までの日記と未来の私からもたらされた情報。この二つからどうするべきかを時間まで考える。未来の私からの情報はまだ確証が無かったけど、別にかりに嘘だったとしても関係ない。もしも明日以降も続くと言うのなら抗い続けるだけのことなんだから。

 

そして、私たちの長い四時間が始まるのだった。

今日の目標は全員で明日を迎えることそれだけ。その後のことはその後考える。今は手が届く範囲のことを精一杯やるだけ。

 

 

~~

 

 

「で、結局こうなるのよね」

 

私は今校庭のど真ん中にいた。色々な可能性を考えた結果、最も異常が起きた際に手が打ちやすい場所がここだった。屋内だと崩落の危険があり、脱出が困難だけど、外ならまずその心配がない。今日は晴れてるし。

私が一人だけなのにもちゃんと理由がある。と言っても、他のメンバーでぞろぞろいると、その分だけ誰が事故に遭いかけるか分散してわからなくなる恐れがあり、私一人なら私以外が被害に遭うことは無いからこうなった。みんなは私一人に危険があるから反対したけど、これが一番可能性が高いことを言うと、みんな渋々ではあるけど納得してくれた。

 

『屋上からは特に異状は見えないわ』

『校門からも特に何もないよ』

 

耳に付けているイヤホンからマリーとルビィの声が聞こえる。みんなには別の場所で不測の事態が起こらないかを見てもらっている。互いの連絡を容易に行う手段が必要で、どういう訳かマリーが通信機とイヤホンを持っていた。スマホも一つの手ではあったけど、バッテリー容量と三ヶ所同時に連絡する観点からこれになった。いわゆるグループ通話状態だから、回線を切り替える必要無く全員で話せている。残念ながら、通話範囲がネットの範囲内に絞られるから裏所内でしか使えないけど。

校庭での危険なものは、飛行機等の落下物と危険な動物の侵入が特に挙げられた。雨が降っていれば落雷もありえたけど、今日は晴れているからその心配はない。雲のない所では雷の発生のしようがないしね。

だから、校庭への侵入経路の一つの正門を見張ってもらうのと屋上から空と周囲の観察をしてもらう班に分かれてもらっている。前者がルビィと花丸、後者をマリーとダイヤが担当している。曜とリリーと果南と千歌の四人は別の場所にいる。

正直全校生徒を巻き込んでも考えられたけど、そのレベルになると、死傷者0を目指すのが難しくなるから早急に却下された。そもそもこんな荒唐無稽な話を信じてもらえるかもわからないし。

 

「それにしても、こんな何も無い場所に四時間もいたら暇死しそうね」

『あー。確かにすること無いよね。そこでトレーニングをしてもらうのも体力の消費で不測の事態に動けなくなりそうだし』

『と言うか、暇死なんてどうやって防げばいいずら?』

「真面目に取りあわなくていいわよ。それに、こうして喋っていれば暇死する心配はないから」

 

まさか、暇死を真面目に取りあわれるとは思ってなかった。そもそも暇死ってなによ?どんな死に方よ!

そうして何事も起こらないことを祈りながらいたんだけど、早速事は動いた。

 

『あっ、坂道を熊が上って来てるよ』

『だから、なんで内浦に熊がいるんですの?』

「該当無しの時は熊が出ないと気が済まない訳なの?」

 

残念ながら熊が来てしまったらしかった。まぁ、その為に手は打ってあるけど、果たしてうまくいくのやら?

私はそう考えながら、用意しておいたバッグからライターを取り出し、地面に置いていた松明に火をつけておく。本当はキャンプファイヤみたいな感じで炎を作っておけば動物避けになりそうだけど、環境に悪いという理由と、それで別の危険が生まれそうということで却下された。前の時は即興で作ったから松明が消えかかったりしたけど、今回はちゃんと準備したから早々消えたりはしないはず。まぁ、熊がここまで来るとも限らないけど。

 

『果南なら熊倒せたりしないの?』

『流石に無理だよ。あの熊成体だから力は相当あるだろうし、むやみに接触するのは危ないよ。果南ちゃんが怪我しちゃうよ』

『バリケードは立て終わったけど、熊に対して意味あるのかな?』

『それに、今果南ちゃんいないし。あっ、校門から入って行く。何かした方がいいの?』

『いえ。観察に徹してください。それにしても、間に合いませんでしたね』

 

熊が校門から侵入したらしかった。そうなるとあと数分でここに来てしまうと思う。一応、倉庫から跳び箱だとハードルだのを引っ張り出して来てバリケードにはしたけど、話を聞く限り熊に対して意味が無さそうな気がした。普通に破壊して入って来そうだし。

 

「まぁ、松明があれば一応熊は怯えて、距離をとることは前の時に証明されてるから平気よ」

『気を付けてくださいね。本来なら猟友会の協力が得られれば一番だったのですが』

「流石に今まで熊がいなかった内浦で熊が出るなんて誰も信じないわよ。だから、仕方ないわ」

 

ダイヤが申し訳なさそうにそう言うと、私はそう言っておく。熊が出るかもしれないなんて話を信じろと言われて信じるとも思えないし仕方のないこと。

そうしているうちに熊が校庭にやって来る。残念ながらバリケードは瞬く間に崩されてしまった。これであとは自力でどうにかするしかない。

松明を身体の前で持って熊と一定の距離を取り、熊も火を警戒していて一定以上の距離を取り、互いに硬直状態になる。

 

このまま七時になるまで硬直状態を続けていればいいんだけど、そんな長い時間は松明の火はもたない。それに加え、そんなに長い時間経てば火に慣れてしまう可能性もあるから、そううまくは行かない。

そうなると、希望は今はこの場にいない彼女に賭けるしかない。私はそれまで熊とこの状態を続ける以外に選択肢が無い。

 

「果南はまだなの?」

『まだみたいよ。流石にそう都合よくは行かないみたい。それに、電波圏外なせいで電話でしか連絡が取れない場所にまだいるみたい。GPSだとこっちに千歌っちと一緒に来てるみたい。なんか、移動速度が遅いのが気になるけど』

「そうなると、この膠着状態はまだまだ続くのね。正直、いつ火になれるかでヒヤヒヤしてるんだけど」

『軽口が言えるだけまだ余裕はありそうですね』

「言ってないとやってらんないわよ」

 

この状況を打破できるのは果南と千歌な訳で、早く二人が目的を達成して戻って来てくれることを祈る。

 

「ガアァ!」

「うわっ!」

 

そうしているうちに熊の方が火に対する恐怖が無くなってしまったようで襲いかかってきた。ギリギリで回避には成功したけど、正直なところ何度も回避できるとは思えない。

 

「きゃっ!」

 

何度も回避はしていると、私は足が絡まって転んでしまった。こけたことでこの体勢から回避をすることはできない。

そして、熊は私に襲い掛かろうと手を上げて振り下ろす。

私はここまでかと諦め、攻撃を喰らった直後にどうにか脱出をしようと身構える。

 

ピチャッ!ピチャッ!

 

しかし、私が熊の攻撃を受けることは無く、私の目の前で熊の動きは止まっていた。何処からか飛んできた数種類の魚が熊の目の前を通り過ぎて地面に落ちたことで、熊の意識はそっちに行ったようでその体勢のまま顔は魚を見ていた。



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34 多くの困難

半日投稿中。その為話数注意です。


「魚?」

 

私は転んだ体勢のまま首を傾げてそれを見ていた。熊は魚の方に歩いて行き、地面に落ちた魚を食べているから一時的にではあるけど助かった。あの魚が無くなったら次は私だろうけど。

 

「善子ちゃん、生きてる~?」

「生きてるわー」

 

立ち上がって魚が飛んできた方を見ると、千歌が大声を出して手を振っていた。その足元には大きめのバケツもあった。ちなみに私と千歌との間には、十数メートルほどの距離がある。おそらくあそこから投げたみたいだった。まさか、千歌の特技の球技がここで生きてくるとは思わなかったわ。

あと、生きてるかの問いは縁起が悪いからやめてほしい。

 

『なんとか間に合ったかな?ほら、行っといで』

 

すると、千歌の隣に果南が来て何かを降ろすと、一直線にそれは私の方に走って来て、そのまま私の前を通り過ぎて熊のもとにたどり着いた。

 

「小熊?」

 

それは小熊で、この感覚にデジャブを感じた。

そもそも、果南と千歌の二人には野生動物が来た際に注意を引くために魚を取りに行ってもらっていたはず。それがさっきの魚だったのに、何をどうしたら小熊を拾って来ることになる訳?

熊は小熊を見ると、首元を噛んで自分の背に乗せて歩き出す。

熊は私に対する興味が失せたのかそのまま素通りし、

 

『はい。お魚あげるね。こんな人の多い所に降りてくるんじゃないよ~』

 

千歌はそんな熊に魚を上げると、熊はそれを貰って去って行った。

こうして、とりあえずの危機は去った。ちなみに現在時刻は三時半。ヨハネの言葉が正しいのなら、あと三時間半もこんなことが続くと思われる。

 

『とりあえず、一個目の危険は去ったってことでいいんだよね?』

「ええ。たぶんだけど」

『それよりも、熊を逃がしちゃいましたが平気なんですか?普通に考えて警察か自治体に届けるなりした方がいい気がしますが』

『平気じゃないの?あの熊、小熊を探してたっぽいし。今まで噂が立ってなかったってことは危害を加えたことは無いってことでしょ?』

「それと、熊のことは明日以降にしましょ?余計な面倒ごとに巻き込まれそうだし」

『それもそうだね』

 

ヨハネの言葉通りならば何かが起こるはずだから気持ちを切り替える。何も起こらなければ、それはそれでよかったってことになるだろうし。

ちなみに、二人が小熊を連れて来たのはちょうど戻ってくる途中で見かけたらしく、日記でも小熊が現れたら去って行ったことを書いてあったから、連れてきたらしかった。

 

その後も車が校庭に突っ込んできた。事前に車が来ていることを聞いていたから、その進路上から退いていたことで轢かれる事態は無かった。乗っていた人は、急に身体に激痛が走って、意識を失っていたようだった。だから、救急車を呼んで運ばれていった。車は後日回収してもらうってことで。

そんな事故を回避した後、急に雲が増えて雨が降って来たから、一時的に校舎に避難した。雲の色も黒かったから雷が落ちる恐れがあったし。私が避難したのは校舎と体育館を繋ぐ場所。屋根があるし、仮に崩壊しても、すぐに屋根の下から出ることが出来るからここを選んだ。それに、校舎に避難して校舎が崩壊なんてことになったら、明日以降いつも通りの学校生活ができなくなっちゃうからね。

そうしていると、校庭の方で雷が落ちた。この時ばかりはこっちに避難してよかったと思った。でも、雷は別の場所にも落ち、停電になった。前の時みたいに予備電源で普及させたものの、落ちた場所が電柱だったらしく、当分の間電気が使え無くなった。この通信はバッテリー式だから影響はなんだけど、予備電源が持つ間しかネットが使えないから、必要な時以外は電源を落しておくことになった。そう直接私のところに来た花丸に聞いた。

その結果、屋根が落ちた。私と花丸は慌てて外に飛び出し潰される事態は回避された。これで、私と一緒に居たら危険が迫るということも証明されてしまった。

雨は通り雨だったのか、すぐに止んで雲も無くなって日が差したことで、私は花丸と別れた。

ここまで目まぐるしいと、不安でしかないけど、この一週間で起きたことを考えると、もう何が普通なのかわからなくなってきた。

ちなみに、今五時半過ぎを示していた。

 

 

~☆~

 

 

『あれ?何か猛スピードでこっちに来てる』

 

雨が止んだ以上、屋内にいる意味もなくなったから、校庭に戻る。でも、もう校庭で起こりそうなことは一通り起こり切った気がする。飛行機はそもそも浦女上空を飛ばないらしいし、ヘリも今日は飛ぶ予定はないってマリーが言ってたし。

六時を回った頃、校門を見張っていたルビィがそんなことを言った。猛スピードで来るものと言うと、車以外思いつかない。

でも、車だったらルビィが「車が来ている」と言うはずだから、少し違和感を覚える。

 

『ルビィ、何が来ていますの?車ですか?』

『暗くなり始めたのと、遠くてまだよくわからないけど、そんなに大きくは……』

『ずらっ!』

「ちょっ、いきなりどうしたのよ」

 

ルビィの声を遮るように響いた花丸の声に聞くと、花丸は慌てた調子で何があったのか話す。

 

『ライオンずら!』

『「は?」』

 

私とダイヤの声がハモった。こんなところにライオンが出たなんて言われれば、そんな声が出たのも仕方ない。熊以上に出ないものだし。そもそも日本に野生のライオンなんていない訳だから、何処から来たのかもわからない。熊もこの辺にはいないから何処から来たのかわからないけど。

あっ、でもだいぶ前にライオンが私を襲ったこともあったから、現れる可能性は0では無かったか。

それよりも困ったことが一つ。

 

「ライオンにどう対抗しろって言うのよ。熊よりも俊敏だからすぐにやられるわよ」

『熊みたいに魚で引き付けられないかな?』

『たぶん無理だと思うよ。熊はどっちかと言えば小熊のおかげだったと思うし』

『うーん。猟友会に頼んでみる?』

「頼んでいるうちに私が死ぬわ」

『あっ、校門に入った!』

『なんで、動物たちは律儀に校門から入るんだろ?』

 

ライオンが敷地内に入ったと連絡が入り、気を引き締める。でもどうやって対処すればいいのかしら?

残念ながら熊が去った後に戻したバリケードは軽い身のこなしで飛び越えられてしまった。バリケード意味ないわね。

再び準備した松明をちらつかせてライオンを威嚇する。ライオンは火を警戒してやはり一定の距離を取ってそれ以上は近づいてこない。でも、熊と同じでいつかは襲ってくるはず。それまでに手を打つ必要がある。

 

『あのライオンってたぶんサファリパークだよね?』

『可能性で言えばそうでしょうね』

『じゃぁ、下手に怪我させたら問題になっちゃう?』

『逃げ出してる時点で向こうの過失だから多少ならいいんじゃないの?正当防衛ってことで』

 

イヤホンの向こうではそんな会話が繰り広げられている。でも、それよりも早くこの状況をどうにかする方法を考えて欲しい。

 

『落とし穴を作って落とそう』

『作ってる時間が無いよ。それに、出てこれないくらいの深さとなると相当厳しいよ』

『うーん。ライオンさんの子供を連れてくる?』

『こんな場所にいないでしょ?』

 

幾つか案は挙がるけど、どれも現実的ではない。そもそも、そう時間も残されていない。

ライオンが私の周りをグルグル回って隙を窺っているからそれに合わせて松明を向けて時間を稼ぐけど、いつまでもつことやら。そう考えていると、視界に茶色いそれが映った。

どうしてそこにいるのか。とりあえず分かることは、ただ一つ。あれを利用すれば私はまだ助かるかもしれない。

 

「小熊……」

 

熊に襲われかけた時に千歌がいた辺りにさっきの小熊が何故かいた。その場で何かしているってことは、そこに何かあるのだろう。

そして、私は小熊を囮にすればライオンから逃げることができる気がした。屋内に一時的に逃げ込めばライオンの脅威からは逃れられる。

私はライオンからじりじりと距離を取りながら小熊に近づく。ライオンが小熊に興味を持たなければ意味が無いある意味賭け。

そうして、小熊にだいぶ近づくと、ライオンが小熊の存在に気付いた。

火を持っている私と小熊。どっちが楽に狩れるかと言えば間違いなく小熊であり、ライオンは私から狙いを小熊に切り替える。

これで、とりあえずライオンに隙ができたから、私は逃げることができる。小熊には悪いけど、これ以外に私が生き延びる術はわからない。だから、申し訳ない気持ちで小熊を見て、小熊が何をしていたのか知ってしまった。小熊はのんびりと魚を食べていた。あの時千歌が落としていたらしいやつを。そして、ライオンが迫っていることに今更小熊が気付き、つぶらな瞳でライオンを見た後、私を見る。

 

「もう!」

 

その瞳で見られたことで、私は気持ちが揺らいでしまった。あんなに小さい小熊を囮にしようとした罪悪感で私は悪態をつくと小熊の前に出て松明をライオンに向ける。

ほんと、馬鹿なことしたわね。

心の中でそう呟くと、小熊の身体に触れて、後ろに押す。小熊は押されて少し歩き出し、じりじりと後退していく。

このまま昇降口まで逃げて、中に入ると同時に閉めれば問題ない。そこまで行ければ小熊を見殺しにする必要も無くなる。

 

「やばっ、忘れてた」

 

じりじりと交代していくもここで問題が発生した。

動物避けのバリケードのせいで校舎の方に逃げれない……。熊の時は倒して突入してきたけど、直した後はライオンが飛び越えた訳だから隙間が無い。崩しているうちに襲われるだろうし。

 

「ウゥ」

「グルルゥ」

「キュゥ」

 

小熊が私の前に飛び出して、ライオンに威嚇する。ライオンもそんな小熊に対して威嚇する。小熊が何故か私を護ろうとしてくれていることに驚く。私はこの仔を囮にしようと考えたのに。

でも、小熊の威嚇ではライオンは全く怯まない。というか小熊の方が怯んじゃってるし。

 

『善子、上手く避けなさい!』

 

すると、マリーのがイヤホンから響く。うまく避けるってなにを?そう思いながらマリーがいる屋上の方に一瞬目を向けると、屋上から何かが飛んできた。

もしかして、ライオンに対抗できる何か?

 

ガーンッ!

 

それはライオンの真横に落下して、大きな音と共にライオンが逆方向に飛びのく。そこには金属製のバケツが一つ。中はからっぽ。つまり。

 

『一瞬隙ができたから逃げて!』

「策無いのー?」

 

一時しのぎの方法らしかった。そもそもこのバリケードがあるせいで校舎の方に逃げれないっているのに。

仕方なくバリケードを迂回して、私よりも少し高いくらいの段差の前に行く。ちゃっかり小熊もついて来ていた。松明を私たちの前の地面に刺すと、小熊を段差の上に持ち上げる。せっかく私を護ろうとしてくれた訳だし、置いていくわけにもいかない。小熊を上に乗せると、段差に手をかけて頑張って登る。でも、雨で濡れていることで滑り、上手く登れない。そうこうしているうちにライオンが迫って来る。

さらに不運なことに掴んでいたブロックがスポッと抜け、私は地面に尻餅をつく。ライオンはもう私に逃げ場がないからと、勝ちを確信したのかゆっくりと近づいて来る。

ここまでこれたのなら、どうにかしたかったけど、流石にもう無理っぽかった。イヤホンの向こうからは私のもとに来ようとしているのか走っている音が聞こえる。でも、校舎からだと間に合う訳がないし、間に合ったところでどうにもならない。

 

「ウゥー」

 

小熊は段差の上から私の方を見て鳴いていた。それがどういう意味でやったのか私にはわからなかったけど、私の為に鳴いてくれている気がした。

 

そして、ライオンが私に向かって跳びかかって来る。首や頭、心臓をやられない限りはまだ生き延びることはできるからと、身を丸めて衝撃に備える。

きっと痛いんだろうなぁ、と思いながらその時を待ったけど、いつまで経っても何も起こらない。

恐る恐る丸めた体を起こしてライオンがいた方を見ると、ライオンの姿が見えなかった。正確に言えば、私の目の前にいた“それ”によって遮られているのだけど。向こうでライオンは気を失っているし。

段差の上にいた小熊はぴょんと跳んで、“それ”――いつの間にか現れた右手を高く振り上げた状態の熊の背にしがみ付き、ずるずると地面に降りる。

 

『Oh、見事なアッパーだったわ』

「どういう状況、これ?」

 

イヤホンからはマリーの感嘆の声が聞こえ、状況が理解できない私は首を傾げた。その間にも熊は前足を地面に降ろす。

 

『飛びかかったライオンに、段差の上から颯爽と善子の前に飛び降りて、見事なアッパーを決めたのよ。それでライオンは一発K.Oよ』

「なにそれ……」

 

半ば信じられない話ではあるけど、ライオンは倒れているし、熊もそこにいるからマリーの話が嘘でないことはなんとなくわかった。

でも、私を助けてくれた理由が分からなかった。

熊は私の方を見ていた。もしかして、私襲われる?小熊を囮にしようとしたわけだし。

 

「えーっと。ありがとう?」

 

とりあえず、助けられたわけだからお礼を言うと、熊は右手を上げてサムズアップして、去って行く。バリケードを倒して。

 

『これが母は強しね』

『微妙に違うと思うずら』

 

イヤホンの向こうではそんな会話がされていたけど、私はその会話には加わらなかった。ガチの命の危機の末生きていることに安堵する。

 

「どうして私を助けてくれたんだろ?」

『小熊をよっちゃんが助けようとしたからじゃないの?そのお礼ってことで』

「でも、私助けられなかったわよ?」

『でも、見捨てなかった。だから、助けてくれた。それでいいんじゃないの?』

 

熊が私を助けてくれたこと理由はわからないけど、そういうことにした。本当のところはわからないけど、結果的に助かった訳だしね。

 

そして、立ち上がり一歩を踏み出した瞬間視界が揺れた。てっきり私がふらついているのかと思ったけど、揺れているのは私じゃなかった。

地震が起きていた。感覚的には震度三か四くらいだと思う。それくらいなら校舎はびくともしないから心配はいらない。

 

でも私は自分の心配をする必要があった。

 

「きゃっ!」

 

いきなり私の足元が割れて、そのまま落下した。地割れだった。どうしてこんなところでと思うけど、今日一日に起きたことを考えればあり得ないこともありえてしまう。

落下自体は数メートルのところで底に着いたことで終わったけど、その際に腰を打ち付けてしまい痛みが走る。

立ち上がれないことは無いから、痛みをこらえて立ち上がる。

見た所は場に三メートルくらいの溝で、上を見れば四、五メートルはありそうだった。壁に手をつくも、雨の影響かぬかるんでいて登れそうになかった。ぬかるんだおかげで地面が柔らかくなっていてこの程度で済んだのが幸いだけど。頭から落ちていれば間違いなくアウトだっただろうし。

でも、最悪なことにイヤホンを落してしまった。そのせいでみんなと連絡が付かない。スマホもバッテリーが尽きて使えない。

地震のせいでみんな自分の身を護るために私から視線を外しただろうから、落ちた瞬間を見ていないはず。声はイヤホンが拾っただろうけど、あれが果たして落下の悲鳴だと分かるかどうか。地震で悲鳴を上げたと思われたらそれまで。待っていれば連絡が付かなくて探しに来るだろうけど。

 

それから十数分が経った。でも、誰も探しに来る気配が無い。

なんで誰も探しに来ないんだろ?連絡が付かないことは分かったはずだし、探しに来てもいいのに。それとも探しているところなのかな?

 

「うっ……」

 

そうして待っていると、唐突に胸に痛みが走る。この痛みがなんなのかわからなかったけど、すぐにわかった。

 

「……心臓発作」

 

思い当たるのはそれだけ。救急車を呼んで、その間に誰かが応急処置をする。それで、どうにかする予定ではあったけど、今はそれができない。停電になってるから電話が繋がらないだろうし、みんなと連絡が付かないから、応急処置もできない。つまり、このままだと間に合わなくなる。

大声を出そうにも、痛みで出ない。

もうすぐ七時になろうとしていたのに、最後の最後でこんなことになるなんて。

結局、変えることはできないんだ。私が死ぬ未来は変えられない。まぁ、みんなが死んじゃう未来は変えられたわけだから、全てが無駄だったわけじゃないか。

 

「あーあ。みんなと生きたかったなぁ」

 

壁に背を預けて呟く。もうすぐだと思ったのに、こんな仕打ち。神様がいるのならそうとう意地悪ね。

でも、もうどうにもならない。そもそも、みんなが私を見つけた所でここに降りてこられるとも思えない。

急だから二次被害になりかねないし、上まで連れて行くこともままならない。だから、私が助かるのは万に一つも無い。

 

「みんな、ごめん」

 

私はみんなに謝ると、意識が遠のいた。これが死なのか、痛みに対する防衛本能の結果なのかはわからなかった。そして、薄れゆく意識の中で誰かの声が響いた気がした。

 

「よっと。諦めないって決めたでしょ?」



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35 リトルデーモンのいる日常

遂に最終話です。


「……ここは?」

 

気が付くと私は真っ白な世界にいた。たしか、最後は心臓発作が起きて、その後気を失って……。

 

「あっ、ここはあの世なのね」

 

ここが何処なのかはそれ以外に思いつかなかった。結局間に合わなくて私は死んでしまったと言う訳ね。みんなには悲しい思いをさせちゃうんだろうけど、元からこうなる結末だったのよね?

もうちょいで七時だったのにこれはやっぱりつらいなぁ。でも、みんなを死のループからは解放できたのだろうから、今までのことにも意味があったのかな?

 

「えーと。一人納得してるところ悪いけど、死んでないよ」

「わっ!」

 

いきなり声が聞こえたから驚いてしまった。声がした方を見ると、そこには消えたはずの未来の私が頬を掻いて立っていた。

もしかして、あれかしら?創作物でよくある転生物の転生するワンシーンとか。未来の自分の姿で登場されるのは意外だった。普通女神とかだろうし。

 

「転生もしないからね。ここはそうだね。私の夢の中。言い換えるなら不思議な夢――デイドリームってところかな?今は眠っているだけ。いやー、結構ギリギリだったよ。あと少し早く発作が起きてたら間に合わなかったし」

 

どう言う訳か、未来の私は私が思っていることに対してそう言う。口にしていないのに私の考えていることを読んで言うあたり、ここが夢の世界なのだと実感させられる。あの世の可能性もまだ拭いきれないけど。

 

「まぁ、とりあえず。おめでとう。無事、全員生きた状態で日曜日を迎えたよ」

「そうなの?」

「うん。ここで嘘を言う必要も無いでしょ?ここがあの世なら、私がここにいる理由もないし。本来なら絶賛未来で生きてるし。今は過去の世界に留まっている状態だけど」

「過去に留まっている?」

 

未来の私の言っている意味が分からない。あの時消えたはず。それは私が目の前で見ていたこと。だから、ここにそもそも未来の私がいる理由もわからない。

それに、今更ながらわからないことが。

 

「どうやって私助かったの?あの場にみんなは来れなかったはずだし」

「うん。そうだね。校舎内にいたみんなは地震の影響でドアがゆがんでそれぞれその場から出られなくなってたから。それに加えて、予備バッテリーもダウンして連絡が取り合え無くなっていたから、私の状況は誰も知らなかった」

「そんなことが。じゃぁ、余計に私が生き延びる方法ないじゃない」

「うん。一回私の心臓は止まったよ。でも、そんな意識のない私の中に私が入ったことで、無理やり動かした。まぁ、流石に心臓とかの器官を動かすので手いっぱいだったから、這い出ることはままならなかったけど」

 

苦笑いを浮かべてそう言う未来の私。

それからも話されるその後のこと。その後は、みんながどうにか校舎から出て来て、私を発見してどうにか校庭に引っ張り上げてくれたらしかった。私を見つけた頃には七時を回ってたらしいから、特にみんなに被害が及ぶことも無かっただとか。

七時を過ぎたら事故が起こらなくなるというのは本当だったらしく、その後は何事も無く私は病院に運び込まれただとか。

で、今私は病院のベッドの上で眠っているだとか。

 

「はぁー。にわかに信じられないけど、本当なのよね?」

「もちろん。嘘つく理由が無いでしょ?それに、おおかた私の事にも気づいてるんじゃないの?」

「まぁね」

 

本当のことのようだからそこは安心。みんなで生きて明日を迎えるという目標は叶った訳だし。でも、まだ私が目を覚まさないと完全にとは言えない。みんなからすれば、目を覚まさないから死んでいるかもという不安はあるだろうし。

本当のことであればだけど。

そして、未来の私は肩を窄めて逆に私に問う。未来の私の事。途中で気づいたけど、想像の域を出ない。でも、未来の私が色々知っていた理由は、今ではそれ以外想像がつかない。

 

「みんなが生きた場合の未来の私。それがあなたよね?」

「正解。どうしてそう思ったの?」

 

未来の私は笑みを浮かべてそう言った。

この結論に至ったのは、あの時話した内容が全て正しかったから。過去に飛べないのかの真実は知らないけど、三時から七時までの間に起きたこと、花丸と一緒に居たら一緒に潰されかけたことから、二つともあっていたと言える。

でも、それだけならまだ皆がいない世界の可能性があったけど、未来の私がみんなの生きている世界の私だと思った一番の理由は別のところ。

 

「そもそも、明るすぎだわ。皆がいない世界ならそんなに明るくできないわ。みんなのことを忘れたというのならそもそもこんなことしないだろうし」

 

まるで、みんなが死んでいないんじゃないのかと思う明るさ。それにみんなが死んだ世界の私だと、色々知りすぎている。その世界の私は今の私がやってきた過去の繰り返しをやっていないはずなのだから。

 

「そうだよね。二人の姿を見たら懐かしくてつい抱きついちゃったけど、今思えばおかしかったわね」

「未来の私は果南に触発されたの?」

「さぁ、どうでしょう。それは私自身が知ることよ」

 

未来の私がどんな生活をしているのか気になるところだけど、それは教えてくれないらしい。まぁ、生きていればそのうち私自身が知ることになるんだろうけど。そうなると、他に気になることを聞こうかしら?

 

「どうして、みんなが生きてる未来から来たって言わなかったの?」

「それを言って、安心した結果誰かが死んだなんてことになったら目も当てられないでしょ?みんなが死んだ未来から来たと思った方が、全力で当たれるって思ってね。それに、私はみんなが死んだ未来から来たなんて一言も言ってないし。言ったのも、そう言う未来があったって話だし」

 

一応、未来の私の言っていることは間違っていない。日曜日に現れた私がみんなの居ない未来の私だったってだけで、今日現れた未来の私がどんな未来から来たかは言っていない。あの時は日曜日に現れた方って思っちゃったけど。

それに、みんなが無事に生きられると聞いたら気が緩んでしまう可能性があるかもしれない。ここで頑張らなくてもどうにかなるかもという楽観が無いとは言い切れない。

 

「でも、そのせいで疑われたのよ?」

「知ってる。でも、結果的にはその疑いも保留になって、全員で協力してどうにかなったでしょ?」

「確かにそうだけど……そう言えば、あなた消えたのにどうして助けられたの?あの時未来に帰ったんじゃないの?」

「うん。そうなるはずなんだけど、ちょっと心配事があって無茶したよ」

「無茶?」

 

続いての疑問を投げかけると、未来の私はそう言った。無茶したって何をしたっていうの?

未来の私の言っている意味が分からず首を傾げると話を続ける。

 

「ペンダント使え無くなるって言ったでしょ?」

「ええ。どうなのかはわからなかったけど」

「私はその水晶の中にいたって訳。その結果一時的に過去に飛ぶ能力を代償にしてね」

「なんで、そんなことを……」

「だって、色々今までと違うことがあった訳だし。私が呼ばれて無かったら、わかっている範囲で頑張ってたんだけど、私は一年程昏睡状態になってたの」

「そんなことがあったの?」

「うん。あの時、ぎりぎりみんなが私を見つけて病院まで運ばれたんだけど、状態は最悪だった。結果から言えば、八人でラブライブに挑んで地区予選で敗退した。そして、浦女は廃校になった。それを後で聞いた時はほんと最悪だったわ。みんな私が戻って来ると信じて私の居るスペースを空けて練習してたらしいから」

 

未来の私の世界のことを聞いて、私は言葉を紡ぐ。結局予選を敗退して廃校になってしまったらしいから。

 

「まっ、そんなわけで、私は賭けに出た。もし失敗すれば、私が水晶から出て行けば過去にまた飛べただろうしね。でも、私は私の居た未来にしたくないから、こうして足掻いたってわけ。あれだけはずっと後悔してたから」

 

悲しそうな顔でそう言うと、私がこの世界に留まれていた理由はわかった。そして、私の気持ちも。

 

「結局、私のわがままだよね。私は病院で起きてからずっと後悔してたから、暇さえあれば水晶のことを調べてきた。だから色々知ってた。いつかはこういうことが起きるかもって、期待して。そして、私の期待をあなたが、みんなが叶えてくれた」

「そう」

「そして、結果は全員無事。これで心残りも無いかな?もうすぐあなたは目を覚ますはずだよ」

「そう。なら良かったのね?」

「うん。良かったよ」

 

そうして話していると世界は徐々にゆがみ始める。未来の私が言った通り、そろそろ私が目を覚ます時が迫っているんだと思う。

 

「ありがとね、私。私が来てくれたおかげで、足掻いてくれたおかげで私も皆と一緒に生きられる未来が来る」

「ううん。私の方こそ、ありがとう。みんなと願ってくれなかったら私はずっと後悔の気持ちを抱えたまま過ごしていたと思うから」

 

互いにお礼を言い合うのは変な感じだけど、変なことは今に始まったことじゃない。そもそも、私と話している時点で変な感じだし。

 

「みんなでラブライブの地区予選を突破してね」

「うん。頑張って突破。ううん優勝してみせるわ!」

「うん。その調子だよ。じゃぁね、私」

「うん、じゃぁね、私」

 

そう言って、私たちはハイタッチをして、この変な夢――未来の私が言うデイドリームは閉じられたのだった。

 

 

~☆~

 

 

「ん、ん~」

 

目を開くと視界には白が広がってた。寝ぼけ眼を擦りながら周りを見回すと、そこは病院の病室のようだった。未来の私に病院に運ばれたと聞いていたから驚きはさして無い。

私の格好は病院着で、包帯とかは巻かれていないから外傷はないみたいだった。落下した時に腰を打ち付けたはずだけど、それも大きな怪我にはいたらなかったみたい。

これなら、すぐに退院できるはず。

 

「すぅ、すぅ」

「ん~」

 

時計を見ると時刻は十時で日曜日を表示しているから半日近く眠っていたらしい。だいぶ寝たおかげで最近溜まっていた疲れは無くなっていた。退院したら未来の私との約束を果たすためにも、練習をいっぱいしないと。

 

「「すぅ~」」

 

さて、いつまでも無視しているのもダメよね。

椅子に座った状態で上半身はベッドで寝ている花丸とリリーを見る。二人とも私服を着ているからお見舞いに来てくれたらしい。しかも、ここで寝ているってことは面会時間が始まったばかりから来たんだと思う。

 

「Oh、目を覚ましたのね」

 

すると、病室のドアが開いてマリーがやってきた。その手には花瓶があるから、水を入れに行っていたみたいだった。

 

「ん、マリーおはよ」

「おはよう。調子はどう?」

「特に異常はないと思う。変な感じはないし」

「そう。なら安心ね。特に外傷はないからじきに起きるって言ってたから。それにしても、二人は寝ちゃったのね」

「みたい」

 

マリーは二人に目を向けてそう言ったから相槌を打っておく。

 

「まぁ、二人は特に心配してたからね。たぶんあんまり寝ていないだろうし、面会可能になった直後に病院に来たからね」

「そして、眠気に負けて寝たって訳ね」

「善子が気持ちよさそうに寝ていたから眠気に誘われたんでしょ。ほら!」

「ちょっ、なんで写真を撮ってるのよ!」

 

マリーは私の寝顔を撮った写真を画面に映して私に見せた。ツッコむも、マリーは普通に私の手を避けてみせる。ベッドで寝ていたらマリーを捕まえられない。

 

「その写真消しなさーい!」

「嫌よ。せっかくこんな可愛い寝顔を撮れたんだから。それに、みんな持ってるわよ?」

「え?」

「「ん~、なに~」」

 

病室で大声を出していたら、その声で二人が目を覚ました。まだ意識は完全に覚醒していないみたいだった。

でも、起きている私を認識すると、二人とも目がぱっちり開く。

 

「よっちゃん!」

「善子ちゃん!」

 

で、二人同時に私に抱きついてきた。私は手をワタワタさせるも今の今まで寝ていたせいで動けない。

 

「おはヨーソロー!あっ、善子ちゃん起きてる!」

「おはよー。ほんとだ。二人に続けー!」

 

すると、病室のドアがまた開いて、みんなも入って来る。と言うか、今更だけど、ここ個室だし八人が入れるって大きくない!?

曜と千歌は、二人にもみくちゃにされてる私を見るや加わって来る。

 

「やめて!私病人!」

「良かった!よっちゃんが起きて!」

「善子ちゃんが目を覚まさないから心配だったずら~」

「人の話聞けー!」

 

四人にもみくちゃにされて、助けを求めるべく抱きついてきていない四人に目を向けると、優しい目でこっちを見ていた。

果南は加わろうか悩んでいそうで、ルビィはどうした方がいいのか悩んでいるように見えるけど。

 

 

「で、私は無事だけど、みんなも無事ってことでいいのよね?」

 

それから数分間もみくちゃにされて、四人が離れた時にはせっかく無くなったはずの疲労感に包まれた。せっかく回復したのに。

みんなは特に何事も無かったらしかった。あえて言えば、一向に目を覚ます気配が無かった私を心配していたくらい?

 

「一応、この後に検査をして異常がなければ退院できるそうよ」

「そう。なら、退院したらさっさか練習しないといけないわね。昨日はまともに練習できなかったわけだし、まだ新曲の案が浮かんでない訳だし」

「あっ、それなら問題ないよ!なんと、善子ちゃんの話を聞いたことで、一気に歌詞が思い付いたからね」

「千歌ちゃんが書き終えてくれたおかげで作曲もやっと終わって」

「衣装案も完成したであります!」

 

一通り聞いた後、私がそう言うと、千歌は自信満々にそう言って、リリーと曜もそう言った。

あれ?私が寝てたのって半日よね?それで完成するって、あんまり心配されて無かった?

 

「まぁ、善子ちゃんがすぐ起きるって信じてたから」

「それに、何かしてないと不安で」

「そして、完成した歌詞がこれ!」

 

と思ったらそんな感じだった。

そして、千歌は鞄から歌詞を書いた紙を取り出して私に見せたのだった。

 

 

~☆~

 

 

「みんな。今日のライブ絶対に成功させようね!」

「うん。せっかくここまで来たんだから」

「それに、これは廃校を防げるか否かの大切なライブなのですからね」

 

あれから一週間が経った日曜日。今日は第二回説明会がある日。急ピッチで衣装を仕上げて、ダンスの練習をして今日という日を迎えた。

曜の考えた衣装はワンピースというかドレスのシンプルなもので、それぞれのイメージカラーになっていた。今までと違うけど、これはこれでありだと思う。それに、私のには堕天使の羽もついてるし。

練習時間が少なかった感が否めないけど、この一週間はとにかく練習に明け暮れたおかげで、来てくれた人に見せるには申し分ない出来になったと思う。

 

「よっちゃん、大丈夫?」

「ええ。問題ないわ」

「みんな一緒だからね?」

「うん。みんなを、リトルデーモンを信じてるわ」

「じゃぁ、次の曲に行こっか」

 

一曲目の一回目の説明会の時にも歌った“君のこころは輝いてるかい?”を歌い終え、みんなが次の曲の立ち位置につく。

 

みんなが毎日のようにいなくなったあの過去。そして、私は日記から手がかりを探し続けた。探しながらも、本当は見つけたくないものに目を背けたりもした。それを認めるのが怖かったから。でも、見つけてしまえば私は認めざるを得なかった。自分が原因()なのだと。

どうしてそうなったのかはわからない。どうして、みんなが次々に死んでいくのか。本当のことなんて誰にもわからないのだから。だから、こんなことは悪い夢なんだと思いたかった。夢なら覚めて欲しかった。

みんなと生きる未来()”と“みんなが死んだ未来()”の“二つの未来(Daydream)”。どちらの未来かは、あの日を越えた先にしかない。

待ち受けていたのはみんなを失っていく日々。みんなのやさしさ、愛情を失っていく辛く重い日々。後悔ばかり募った。

でも、あの日々があったおかげで、みんなの優しさを知ることもできた。みんなと一緒に生きたいと思えた。

だから、私はそんなみんなの優しさを忘れたくないから、一緒に生きたいから終わりにしようと決め、みんなの力を借りて、みんなと一緒に終わりにした。

 

「聴いてください。Daydream Warrior」

 

 

~☆~

 

 

あれから二年の年月が経った。私は沼津の高校を卒業した春休みに久しぶりにAqoursメンバー九人がそろい、とある場所に来ていた。

未来の私との約束通り、私たちはラブライブの地区予選を突破した。でも、浦女の廃校は覆せなかった。もっとがんばっていればと後悔もした。

でも、まだ未来の私との約束は続いていた。せめてそれだけは果たしたかった。みんなと一緒にラブライブを優勝する。

簡単な物じゃないことはわかっていた。でも、後悔はしたくない。だから、みんなで決意した。そして、私たちはラブライブに優勝した。

 

「別にこんな場所にみんなで来なくても、私一人でもよかったのに」

「いいの、せっかく集まったんだからね。それに、私たちがこうしていられるのは未来のよっちゃんが水晶を持ってきてくれたおかげなんだから」

「あれ?あの洞窟かな?」

「みたいね。さて、adventureの始まりね」

「冒険か。九人ならなんでも楽しいかもね」

「鞠莉さん、果南さん。そんな気楽に構えないでください。何が起こるかわからないんですから」

「全速前進ヨーソロー!」

「曜ちゃん、言ったそばから走らないで!」

「あー、マルを置いてかないで~」

 

みんなで頑張って掴んだ今。

辛いこともあった。でも、楽しいこと、うれしいこともあった。

こんな未来を掴めたんだから、次は私の番。いつかの日の為に。

私は首にかけたペンダントを握り願う。

 

「私は願う。故に私は乞う。このみんなとの日常がいつまでも続きますように」

 

これは“あり得ないような日々(Daydream)”を“抗った少女たち(Warrior)”の物語。

 

繰り返される堕天 完




これで【繰り返される堕天】完結です。
だいたい三ヶ月の間ありがとうございました。ノシ


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あとがき+α
ただ駄弁るあとがき


*挨拶。

 

猫犬「おはヨーソロー!コンチカ!ボンジュルビィ!ダイヤッホー!ご機嫌いかがカナン?シャイニー!」

善子ヨハネ「テンションどうした訳?」

猫犬「挨拶大事ね。朝読むのか、昼読むのかで挨拶変わるし」

ヨハネ「でも投稿されるのは?」

猫犬「夜……はっ」Σ(゚□゚;)

ヨハネ「……」

猫犬「さくらりこ!おはなまる!」

ヨハネ「無かったかのように逸らした」

猫犬「ヨハネさんや、挨拶しないの?」

ヨハネ「うーん。おはヨハネ!」

猫犬「おは善子!」

ヨハネ「だから、ヨハネよ」バンッ

猫犬「びょん」ビョン

猫犬「さて……完結したニャァ」\(>0<)/

ヨハネ「話の流れが急に変わったわね。あとその語尾なんなの?」

猫犬「いや、()犬だから。それとも、終わったワンッ!の方が良かったかな?それとも、終わったニャワンッ!」

ヨハネ「さいで。で、これはなんなの?」

猫犬「あっ、スルーされた。あとがきです!長編が終わったらやってる物語の補足とかが目的なやつ。前に書いてたパラレルIFでもやってたやつ」

ヨハネ「ふーん。で、なんでアンタと私なの?」

猫犬「主人公がヨハネ故に。せめてもう一人必要だったけど、オリキャラいなかったし、他のメンバーを登場させてもあれだし。だからこうなった。それとも未来の善子ちゃんと一緒が良かった?」

ヨハネ「アンタでいいわ。未来の私と一緒はややこしそうだし」

猫犬「さいで。と言う訳で」

猫犬・ヨハネ「スタート」

 

 

猫犬「これはただのあとがきであり、挨拶でわかる通り深夜テンションだったせいで、妙なことになってます。これを読んだから低評価にする等はご遠慮ください。あんまり、そのへんを気にしない方のみお読みくださいませ」m(_ _)m

 

 

*始まってしまった訳。

 

猫犬「えー、ラジオネーム――」

ヨハネ「これラジオだったの?」

猫犬「ううん。ただのノリ。いつからこれがラジオだと錯覚してたの?」

ヨハネ「アンタがラジオネームって言ったんでしょ?」

猫犬「しまった!もう一人いないと錯覚CROSSROADSの流れに行けなかった」

ヨハネ「いや、行かなくていいから」

猫犬「そう?ならいっか」

ヨハネ「で、なんでこの物語が始まった訳?」

猫犬「あっ、ヨハネが進行してくれるんだ」

ヨハネ「アンタが答えるんだからそうなるでしょ。で、どうなの?」

猫犬「まぁ、ノリで始まった感じだよね。寝る前の落ちるまでの時間が暇で何か考えてたら思いついた……はず」

ヨハネ「曖昧なのね」

猫犬「まぁ、四か月ほど前の話だから、記憶が曖昧だね。書き始めたのは確か十月後半だった気がするし」

ヨハネ「ふーん。で、どうして私が主人公な訳?」

猫犬「まぁ、ノリだよね。一番向いてそうなのがヨハネだったってことで」

ヨハネ「本当のとこは?」

猫犬「わからないね。事故が連続した原因がヨハネの儀式が失敗した結果という設定で最初は始めたから?裏設定だし没にしたけど」

ヨハネ「ふーん。こっちからしたらはた迷惑な話ね。みんなの死を見せられたわけだし」

猫犬「その節はご迷惑をおかけしました」m(__)m

ヨハネ「まぁ、みんな生きてるからいいけど」

猫犬「ハハー。ありがたき幸せ」

ヨハネ「とりあえずキャラを統一しなさいよ」

猫犬「それで、没にした理由だけど。それすると本格的に笑えないから偶然起きてしまったってことにしています。奇跡的な確率による偶然の結果ヨハネに降りかかったってことで。まさに、奇跡だよ!」

ヨハネ「だから、それがはた迷惑なのよ。あと、千歌の言葉をそう使わないで」

猫犬「と言われても、そういうことにしておかないと。それとも何者かの陰謀ってことにして、黒幕探しでもする?面倒だからやりたくないし、ただでさえグダってるのが余計にグダるよ?」

ヨハネ「いや、やらなくていいわ。私たちはもう普通の生活に戻りたいから」

猫犬「了解であります」(oω<)ゞ

 

 

*未来の善子ちゃんの設定?

 

猫犬「続いて、未来の善子ちゃんの設定です!」

ヨハネ「そう言えば、あやふやなところがあったわね」

猫犬「でしょ?大学生になったヨハネ。大学に入ってからはリア充目指してヨハネを封印した」

ヨハネ「封印したの!?」

猫犬「しかし、Aqoursの皆と会うと堕天してしまうことがある」

ヨハネ「封印できてないし」

猫犬「さらに言えば、高校時代にAqoursをしていたことで、他の人たちにはヨハネのことを知られていたりする」

ヨハネ「封印の意味ないわよね?」

猫犬「話を戻すけど、土曜日に発作で倒れ、ぎりぎり死ぬ前に発見されて処置されたことで一面を取り留めたが、その際の後遺症的な何かで一年近く眠ったままだった」

ヨハネ「そうらしいわね」

猫犬「沼津の高校には休学扱いにしてあり、二年生として通おうとしたのだけど、重大な問題があった」

ヨハネ「重大な問題?」

猫犬「高校一年での出席日数が圧倒的に足りていなかった。六月の中旬近くまで不登校をし、十一月以降は昏睡状態だったから」

 

注)花丸ちゃんがAqoursに入ったのが大体六月の中旬くらいだと思われるので、善子ちゃんが入ったのはそれ以降。

二人の加入当日に4999位で、練習終わりに見たら4856位に上がってたかも?

加入翌日(火曜)に花丸ちゃんに発見される。4768位になってた。

翌日(水曜)、善子ちゃん学校に登校。Aqoursに仮加入。

翌日(木曜)堕天使アイドルになってPVをアップする。

翌日(金曜)。ダイヤさんに怒られる。善子ちゃん、脱退。

翌日(土曜)。沼津追いかけっこからの正式加入。

 

猫犬「と最短だとこうなると思われる。本当はもう少し後だろうけど。それに、かなり無理あるので。また、この物語は二期の五話と六話の間の設定なので、だいたい十一月ぐらいで考えております。今思ったけど、六時過ぎって真っ暗な気がする」

ヨハネ「え?」

猫犬「計算すると、夏休みは授業が無くて休みだから、七、九、十月+αで実質三か月と一、二週間しか学校に通っていなかったということになりました」

ヨハネ「じゃぁ、私留年してたの?」

猫犬「しかーし。鞠莉ちゃんが事前に話を通しておいてくれて、進級テストでいい点を取れれば進級を認めてもらえることになり、猶予期間の間に五人に教えてもらってどうにかなったのだった」

ヨハネ「へー」

猫犬「今考えた」

ヨハネ「って、今なの?」

猫犬「その後、高校二年生の前期分を取り戻すために毎日のように補修をしてどうにか三年生に進級したのだった」

ヨハネ「はぁー。あっちの未来もある意味地獄ね」

猫犬「さらに残念なことに長い間眠っていたことで運動能力がガタ落ちして、それ以降スクールアイドルはできませんでしたとさ」

ヨハネ「やっぱり地獄じゃない!」

猫犬「ちなみに、みんなと会った時に明るかったのは、それでも皆と居られる生活が送れていたからだったりする」

 

 

*疑問、質問コーナー。

 

猫犬「このコーナーは、読者の方々が気になってそうなことをズバッとウチが答えるコーナー!」

ヨハネ「まだ、全話投稿終えてない状況でこれ書いてるわよね?」

猫犬「まぁ、これ書くのたぶん最終話の前だろうね。それ故に、予測したものだけなんよ」

ヨハネ「ふーん」

猫犬「へい!」

ヨハネ「って、私が聞くの?えーと、とりあえず。あの熊押しはなんなの?」

猫犬「熊っていいよね~、熊猫犬にバージョンアップしようかな?」

ヨハネ「いや、しなくていいわよ。で、これで終わり?」

猫犬「もっと詳しく?でも、割となんとなくだし……」

ヨハネ「特に理由は無かったと。そう言えば、あの熊結局どうなった訳?普通に考えて野生の熊がいたら危ないって考えるの普通だし。やっぱり猟友会に倒されちゃったの?」

猫犬「どうしようかな?普通に元々いた山に帰ったでもいいけど。ありそうなのは鞠莉ちゃんが捕まえて飼っている説。ペンギンとかイルカ等々を捕獲しようとしたわけだからやりかねない……」

ヨハネ「確かに、ありそうね」

猫犬「と言う訳で、どうなったのかは皆さんのご想像にお任せします」

ヨハネ「丸投げしたし。じゃぁ、次にあの水晶はなんだったの?結局わからずじまいだったし」

猫犬「それに関しては過去にそう言うことがあって、あそこに保管されたということで。特に詳しくは考えてないかな?そういうモノだったとしか」

ヨハネ「そう。次はなんだろ?あっ、結局私たち以外の星座が最下位の時はどういう弊害だった訳?あと、一回目と二回目以降で最下位のシステムが変わったけど?それに、土曜から月曜に戻るたびに星座も事故も変化した理由は?」

猫犬「Oh。一気に質問が。えーと、他の星座の場合は誰かが事故に遭い、死んだり死ななかったりって感じ。最下位のシステムが変わったのは土曜から月曜に戻った際の弊害のつもり」

ヨハネ「そう。なら、あとは最後の土曜日にたて続けに事故が起きたのは?他の時は一回きりだったのに」

猫犬「それは、未来の善子ちゃんが言ってた通り、呼びだしたことで今までとは違う変化が起きてしまったということで。未来の善子ちゃんがこれから起こることを詳しく言わなかったのは、それを言った結果起こりうる事故が変化するのを恐れた故に言わなかったといった感じです。未来の善子ちゃんが切り抜けた時はどうにかなるレベルだったってことで」

ヨハネ「あとは、二年後の描写だけど、あれはアニメ準拠ってことでいいのよね?」

猫犬「うむ。そこはそう言うことで。ラストの遺跡に行くのは、いつか過去の善子ちゃんから呼びだされることを予想して、調べに行ったって感じかな?あと、Aqours一年生ズの卒業旅行も兼ねて。あの後は鞠莉ちゃんがみんなを海外に連れて行って、てんやわんやするとみる」

ヨハネ「そう……とりあえず、これくらいでいいわね。あと、口調が二転三転し過ぎよ」

 

 

*楽曲について。

 

ヨハネ「そう言えば、なんでDaydream Warriorだったの?」

猫犬「実はDaydream Warriorから着想を得てね。一話の頃からラストはあんな感じでDaydream Warriorを歌うカットを作ろうと思ってたし。ちょくちょく新曲考えようって描写があったけど、その結果がDaydream Warriorに至ってます」

ヨハネ「でも、Daydream Warriorって恋の歌よね?」

猫犬「らしいね。まぁ、愛情って解釈で進めました。愛=恋と仮定すればワンチャンあるかなって」

ヨハネ「それでいいわけ?」

猫犬「じゃぁ、誰かとくっつけた方が良かった?よしまる?よしりこ?この二つがこの話だと無難だったと思うけど」

ヨハネ「いや、ガールズラブにしなくていいわ」

猫犬「えー。百合いいじゃん!」

ヨハネ「話を戻すけど、タイトルを言う前のあれは?」

猫犬「うーん。曲の一番を“繰り返される堕天”風に解釈してみた。本当はフルでやりたかったけど、ムズくて一番だけにしたけども」

ヨハネ「まぁ、フルでやるのは大変よね。それであの衣装はなんだったの?正直なところ説明会なら“君ここ”の衣装で良かったんじゃないの?」

猫犬「それは後で思ったけど、最初の方の段階で曜ちゃんが衣装作ろうとしてたわけだからこうなった。衣装に関しては一期の四巻のヨハネの着てたあれであり、カラーがヨハネのイメージカラーだったから、みんなもそれぞれのイメージカラーにすればいいやと思ったからあぁなった。よくよく考えれば、あの二、三週間後くらいには地区予選だったはずだから、そうとう無茶してるよね」

ヨハネ「まぁ、一回目の説明会の時だって予備予選と被ったし、一回目ラブライブの時なんて、たぶん予備予選の一週間後には地区予選になってたはずよ。リリーのピアノコンクールが8月の20日になってたわけで、地区予選は夏休み中にやったとしたら大体9月の始まりくらいまでだろうし」

猫犬「Oh、じゃぁ、今回は割と余裕があったってことか」

 

 

*暴走及び、ぶっちゃけた。

 

猫犬「今回も低評価が付いたら止めようと思ってた!」

ヨハネ「急にぶっちゃけたわね。でも、完結させたわよね?」

猫犬「まぁ、お気に入りにしてくれてる人に対して中途半端な状態でというのもあれだし。ウチもできれば未完よりは完結させたかったし。そもそもその段階ではすでに全部書き上がってて、修正作業してただけだったし」

ヨハネ「まぁ、そうね。2月22日の朝の段階で26話まで書いてたから、消すのも味気ないわね」

猫犬「あと、感想もらえたし。正直あれはうれしかった。あんな感想もらったら辞めるわけにもいかないし」

ヨハネ「ふーん」

猫犬「そう言えば、最初はもう少し長くなる予定だったや」

ヨハネ「ん?どういうこと?」

猫犬「いや、みんなで願った時、最初はみんなが一週間前の日曜日に飛んじゃって、未来から来た善子ちゃんに会っちゃうことにしようとしたの」

ヨハネ「なんで、それやめたの?」

猫犬「だって、それだと、一週間ひたすら三時から七時の間、死の回避をすることになるんだよ?プロットから簡単に引っ張ると」

 

・曜ちゃんが事故に遭う前日に飛ぶ。

・未来の善子ちゃん登場からの説明。

・毎日朝の占いの最下位の人と善子ちゃんのどちらかに事故が降りかかる。善子ちゃんが一緒だとその人、善子ちゃん一人だと善子ちゃんにという具合に。

・それを六日間やる。

 

猫犬「結論、疲れる。同じような感じのことを繰り返すことになるし。ただでさえ、みんなの死は全部事故だけで、故意の殺人は無しにしてたんだから」

ヨハネ「そう言えば、通り魔に襲われるとかは無かったわね。でも、車に突っ込まれたのは?」

猫犬「あれも運転手が毎回何らかの事情で運転できなくなる状態に陥っていたことにしてるから。二話の時も運転手が発作で意識が無かったって書いたし」

ヨハネ「なんで、事故だけにしたの?殺人もあればパターンはいくらでも……」

猫犬「いや、千歌ちゃんたちが内浦の人たちは暖かいからって言ってたから、そういう人がいない方がいいなぁということで」

ヨハネ「なるほど、確かにその方がいいわね……で、本音は?」

猫犬「本音も何も、それが本音だよ?まぁ、人が襲ってきたらそれこそ手に負えないからもあるけど」

ヨハネ「でも、熊とかライオンは人を襲ってるけど、事故にカウントしちゃうの?」

猫犬「んと、熊やライオンは生きるために狩るつもりで襲いかかった感じ。まぁ、熊に関しては小熊を探し回っていて苛立っていたのもあるけど。もしかしたら人に襲われているかもと心配していたはずだし。動物たちのそれは、生きるために必要なことなので」

ヨハネ「確かに、小熊が戻ってきたら毎回帰っていた訳だから、熊はそうなるか。そういえば、熊のその後はさっき話して丸投げしたけど、ライオンはどうなった訳?」

猫犬「サファリパークに帰されました」

ヨハネ「やっぱり、そこから出てきた設定なのね」

猫犬「まぁ、結論から言えば、誰も悪くない物語にしたかったから死因は事故だけにしました。事故もある意味問題だろうと思うけど、それは仕方のない事ということで」

ヨハネ「そう。そう言えば、話は変わるけど、遊びを入れたわよね?」

猫犬「本当に話変わった……んと、縦読みのこと?」

ヨハネ「ええ。第三部のサブタイをローマ字表記にして頭文字を縦読みすると……」

猫犬「サブタイ考えるの大変だったなぁ。あと、十五話にするのも。最初は十一話にするはずだったのに、途中で話数がもう少し必要になって、サブタイを変更する事になったし。これ言う前に気付いた人っているのかな?」

ヨハネ「流石に居ないでしょ?カタカナで縦読みなら可能性はあっただろうけど」

猫犬「それはさっきも言ったけど、全十一話にする必要があって、それは無理だったから本来の英語読みになった訳だし」

ヨハネ「まぁ、お疲れさま。でも、リトルってLよね?」

猫犬「ん?英語じゃなくてローマ字表記で頭文字だからね。それにLだと“ぃ”になっちゃうからRだよ」

ヨハネ「まぁ、パソコンだとそうなるわね」

猫犬「だから、これでOKね」

 

 

 

*締めの言葉。

 

猫犬「と言う訳で、そろそろこのあとがきを終わらせよぉ」

ヨハネ「そうね。だいぶ喋ったしね」

猫犬「あえて言えば、完結記念にイラストをアップしたかったけど、やっぱり全く絵が描けない人故に断念」

ヨハネ「ふーん。まぁ、下手な絵を描いても叩かれるだろうしいいんじゃない?」

猫犬「そういう訳でアップしません!」

ヨハネ「そう言って数日後にアップされるのだった」

猫犬「いや、ほんとにしないから。ヨハネ描こうとして断念した。手がどうもうまく描けないんだよね。あと、全体的なバランス」

ヨハネ「まぁ、気が向いたらってことね。じゃっ、読者さんに言葉を言って締めてちょうだい」

猫犬「はいはーい。約三カ月の間お読みくださりありがとうございました。拙かったり、会話がやたら多かったりといろいろ問題が多い気もしました。未熟故にってことで」

ヨハネ「ほんと未熟よね」

猫犬「と言う訳で聴いてください。未熟DREAMER」♪~

ヨハネ「BiBiネタ結局やるのね」

猫犬「えっ?今のはそういう流れだったんじゃ?」

ヨハネ「ほら、話逸れてるわよ」

猫犬「あっ、うん。と言う訳でその辺も含めてありがとうございました。もう長編書くのはいいかな?疲れたよ、しいたけ」

ヨハネ「……」

猫犬「遂にツッコまなくなっちゃった。まぁ、そう言う訳で――」

猫犬・ヨハネ「お読みくださり、本当にありがとうございました!」ノシ

 

 

*追記。

 

猫犬「イラストアップしちゃいました!」

ヨハネ「結局したのね」

猫犬「まぁねぇ。ノリってやつだよ」

ヨハネ「あっそ」



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未来の私/その後のツキノワさん

なんとなく番外編。
片方はみんなで呼び寄せちゃった未来の善子ちゃんのお話。
もう一個は熊さんのその後の話です。


【未来の私】

 

『カクカクシカジカ。ウマウマウシウシと言う訳よ』

 

みんなが次々に事故で死んでいく。

数歳上の私に聞かされる未来の話。

 

『ペンダント?あっ、でもこの水晶綺麗ね。まさか、これには過去に飛ぶ力があるって言うの?』

 

それを乗り越えるための水晶。

 

『わっ!』

 

それに触れた瞬間、水晶が輝きもう一人の私が消え、私はその時の記憶を失った。

それからその日の夜にみんなが死んでいく夢を見て、現実で曜が事故に遭い、夢で見た通りに水晶に願うと、その日の朝、或いはその週の月曜日の朝に戻り、それを繰り返していった。

みんなの死は私がそこにいたからと気づいて、私はみんなの前からいなくなろうとした。だけど、みんなは私が生きることを望んでくれて、私はみんなの生きる道を探し、土曜日を乗り越えても続く可能性もあったけど、それ以外に道は無かったから、私は土曜日を乗り越えることを目指した。

 

「んん~……ここは?」

 

目を覚ますと、そこは白い天井に白い壁があった。

あの繰り返し続けた一週間の夢を見ると共に失っていた未来の私の話の記憶を思い出した。

ここは何処なのだろうか?

そんな疑問を持ちながら私は身体を起こそうとする。でも、身体が重くて動かなかった。出した声もかすれていて、動くのは首だけ。首を動かして周りを見ると、私はベッドの上に寝ていて、どうやらここは病院のようだった。私の手にはチューブが伸びていて、それはベッドの隣にある点的につながっていた。

でも、どうして私が病院にいるのかわからない。どうして、こんな病人みたいな状態になっているのか。

確かあの時は、みんなで協力して……

 

「あっ、もう少しのところで心臓発作が起きたんだ」

 

私は最終的には心臓発作が起きたことを思い出した。

でも、こうして病院にいるってことは助かったってことよね?

 

ガラガラ

「え?善子ちゃん?」

 

すると、病室のドアが開き花瓶を持った少女が入って来る。肩にかかるくらいの栗色の髪に、おっとりとした顔の少女は私の顔を見ると、驚いた表情をする。

そして、私のもとに駆けてくると、雑に花瓶を机に置いて私の手を握る。

 

「良かった。善子ちゃんが目を覚まして」

「もしかして、花丸?」

「うん」

 

私の知っている花丸よりも少し成長していて、声を聴いてやっとわかった。でも、どうして変わっているのかはわからなかった。

 

「花丸、雰囲気変わった?」

「あはは。善子ちゃんからしたらそう思うよね」

「?」

「善子ちゃん、あの日から一年近くずっと寝てたんだよ」

「嘘でしょ?」

 

花丸の言う、一年近く寝ていたという言葉信じられなかった。そんなに長い時間が経っているなんて信じたくなかった。

 

「信じられないよね?でも……」

 

花丸はそう言って、スマホを出すと私に日付を見せる。日付は年が一つ上がった九月を表示していた。

これだけなら、まだドッキリかもと思えたけど、直後にインカメに切り替わり、私の顔が映る。

 

「これが私?」

 

画面に映る私の顔は点滴等で命を繋いでいたからやつれていて、これが私なのだと思えなかった。でも、事前に作っておいたようには見えず、ここに映る私が今の私であり、月日が経っていることを信じざるを得なかった。

 

「あの時、本当にいつ死んでもおかしくない状態だったの」

「ええ」

「ギリギリの状態で病院に運ばれて、ずっと寝てたから、もう目を覚まさないんじゃないかって心配してた」

「そう……心配かけたわね」

 

花丸は私が目を覚ましたことを本当にうれしそうにしていた。だから、ずっと心配をかけていた花丸にそう言った。

 

「それで、結局あの後ってどうなったの?」

「あっ、うん」

 

結局あの後のことはわからないからそう問う。記憶が確かなら地割れでできた穴に落ちて、イヤホンもスマホも使え無くなって連絡が取れなくなった。だから、助けが来るのにも時間がかかって間に合わないって私は諦めていた。

 

「マルたちは地震の影響でドアがなかなか開かなくて善子ちゃんのもとに行くのが遅れちゃって」

 

それから花丸はあの後にあったことを話してくれた。

花丸たちがどうにか校庭に出た時には穴があって、私が穴の底に倒れているのが見えたから果南が躊躇いなく飛び込んで人工呼吸をしただとか。その間にみんなは救急車を呼んだり、手当てができるように医療用品を取りに行ったりしたらしかった。

その後、私は救急車が到着すると病院に運ばれた。

果南のおかげで手遅れにならずに済み、私は生きることができた。でも、発作の影響か私は昏睡状態になったらしい。

それで、後は今日まで眠っていた。

 

「そうだったんだ」

「心配したよ。でも、目を覚ましてくれて良かったよ」

 

私がどうやって助かったかはわかり、それからあった出来事の話など色々なことを聞いた。

私が目を覚ますと信じて私の穴が空いたまま練習を続け、地区予選は敗退してしまったこと。浦の星の統廃合が決定してしまったこと。三年生三人は卒業してそれぞれの道に進んだこと。

浦の星の生徒はみな沼津の高校に編入したこと。

毎日、誰かがお見舞いに来てくれていたこと。

 

「私のせいだ。私が目を覚まさなかったから……」

「ううん。善子ちゃんのせいなんかじゃない。善子ちゃんがマルたちを生かしてくれたから、マルたちの今はあるんだよ?」

「でも、あれだって私がいたから……」

 

花丸は私のせいじゃないって言ってくれるけど、私がすぐに目を覚まして一緒に出ていれば、もしかしたら違う未来があったかもしれない。

あの事故の数々だって、私がそばにいたから起こった。私がいなければそもそもみんながあんな目に遭うことは無かったはず。

だからこそ、全部私のせいのはず。

 

「予選を突破できなかったのも、廃校したのもマルたちの力不足。全てを自分一人のせいにするなんて、善子ちゃんは何様ずら?」

「でも……」

「でもじゃないよ。善子ちゃんのせいだなんて、誰一人思ってない。この結果はみんなのモノ」

「なんで、そんなことが言えるの?私のせいだって、なんで言わないの?」

「今言った通りだよ。じゃぁ、もしもマルが善子ちゃんと同じ状態になってたら、善子ちゃんはマルを責める?」

 

もし花丸が私の立場になってたら、責めるか?そんなの考えるまでもなく答えは決まってる。

 

「絶対責めない」

「ふふっ。そう言うこと。善子ちゃんが頑張ってくれたから、お礼の気持ちはあっても、恨みの気持ちなんて全く無いんだよ」

「……はぁー。わかったわ。もう私一人のせいなんて絶対言わないわ」

「うん!」

 

私一人のせいなんて言えなくなっちゃって、花丸はなんでかにこにこしている。でも、こうして笑顔を見られたから私は頑張ったかいはあったと実感する。誰か一人かけていればきっとこの笑顔もみられなかっただろうから。

 

「そうだ!善子ちゃんが目を覚ましたことみんなに伝えないと!」

 

すると、花丸は思い出したようにそう言って立ち上がると、みんなに連絡を入れるために病室を出ていった。バタバタと慌ただしいなぁ、と思いながら私は花丸が戻ってくるまで聞いた話を頭の中で整理するのだった。

 

その後、私は異常がないかの検査をし、リハビリが始まった。一年近く寝た切りだったから、動くのも大変だった。それと同時に厄介な問題が浮上した。

その問題を聞いたのは私が目を覚ました翌日だった。

 

「善子、退院して高校に登校する初日に編入試験があるから、勉強もしなさいよ」

「え?」

 

ママに言われたのはなんでも、高校一年の時の出席に数が足りなくて、このままだと進級できないというものだった。マリーが高校に話を通しておいてくれていたらしく、この編入試験と称した進級試験を突破できないと、高校一年からやり直しだとか。ちなみに、私の退院は一か月後を予定している。リハビリをしつつ、一か月で高校一年の範囲をやるのはそうとう厳しく感じる。

でも、花丸とルビィと一緒に生活したいし、卒業もしたい。というか、二人を先輩なんて絶対に呼びたくない。

そんな訳で、私の戦いは始まった。

 

「よっちゃん、そこはこの公式を使うんだよ」

「あっ、そうね」

 

「善子ちゃん、全問正解だよ!」

「ふっ、私にかかれば」

「でも、数学は間違い多いかも」

「うっ」

 

「チカの勘だと、ここは出ると思うよ」

「当たるの?」

「たぶん!」

 

「歴史と英語は正解率高いね」

「まぁ、堕天使関係で調べてたから」

「なら、数学を重点的かな?」

 

試験までの一カ月の間、リリー、花丸、ルビィ、千歌、曜の五人は放課後や休みの日に病室に来て勉強を教えてくれた。みんなに悪いと思ったんだけど、みんなも私と学校生活を送りたい、送ってほしいと思ってくれていた。それでもリリーたち三年生組は受験もあるから私に構ってる暇がないと心配だったけど、一年生の頃の復習になるからだとかで気にしないでと言われてしまった。

それから一カ月が経ち、私は退院して沼津の学校に登校した。試験の結果はみんなのおかげで何事も無く突破できた。

でも、二年前半の授業にすぐに追いつかなくちゃいけなくて、私の勉強漬けの日々はもうしばらく続いたのだった。

 

お正月。ママの実家に行き、そこでのんびりすると共に、未来の私の言っていた洞窟を探した。お婆ちゃんたちに聞こうとも思ったけど、そうするとあの話もしなくちゃいけなくなるから、一人で探した。洞窟探しは難航すると思ったけど、意外とあっさり見つかった。

そして、私は洞窟の奥で祭壇を見つけた。でも、そこには書物も水晶も無かった。

 

「あれ?未来の私の置き土産の水晶を私が持ってて、でも、本来の水晶もここにあったはず……同じものを二つあると狂うからそこは修正力が働いたってところか」

 

本来あるはずの水晶がそこにない理由を、そう当たりを付ける。さらに、水晶が無いから書物も見当たらないと仮定する。それ以外に思い浮かばないし。

失敗した未来――α未来と置いて、今いるのがβ未来とすれば、α未来の私がペンダントを渡すはず。うーん、どうすればいいのやら?とりあえず、いつか私みたいな人が現れた時の為に私はここにペンダントと私が書いた日記を簡潔に、それと同時にこの水晶の分かっている情報を纏めたノートを置いておくことにした。そもそも、私がここに来た目的もこのためだしね。

 

「まっ、この水晶の力が発動するようなことが起こらないのが一番だけどね」

 

そして、私は一人呟くようにそう言って洞窟を出るのだった。

 

それから数か月後、無事テストの成績も問題なく私は三年生に進級できることになりなんだかんだで卒業した。結局、二年の間は遅れを取り戻すのと、情報を纏めてたから二年生のうちはスクールアイドルができなかった。まぁ、体力が激減してたし、あの九人――Aqours以外でやる気はあまりなかったけど。だから、三年生になってもやらなかった。

大学に進学する春休み、部屋にいた私の足元に魔法陣が現れるのだった。この魔方陣が過去に呼ばれるのだとなんとなくわかり、だから私は大きく伸びをすると、みんなとの日常を思い出し、頬を叩いて気合を入れる。

今の未来もいいけど、できれば……

 

「さて、どうにかしてみせるわ!」

 

 

 

 

【その後のツキノワさん】

 

これはあの一週間が終わった数日後にあった出来事。

 

淡島の看板『熊出ます!』

 

果南「……」

鞠莉「どうかしたの?果南」

果南「何これ?何処から連れて来たの?」

鞠莉「あの一件で会った熊いたじゃない?あの子たちよ。あのままこの辺りに居たら危ないってことで捕まえちゃった♪」

果南「いや、捕まえたのはいつものことだとして、どうして淡島に放したの?」

鞠莉「ん?ここなら住んでるのは果南の家と私の家だけだから他の人に迷惑かからないだろうし。果南なら襲われても勝てるでしょ?」

果南「いや、流石に熊には勝てないから……それに、そんなことしたらダイビングに来た人襲われない?」

鞠莉「平気よ。こっちから手を出さない限りは襲わないみたいだし。小熊の方もまだ赤ん坊みたいなもんだから甘噛みだし」

果南「いや、甘噛みでも噛んでる時点でアウトじゃない?」

鞠莉「まぁ、平気でしょ?流石に檻に入れちゃうのはかわいそうだから放してるけど」

果南「淡島に人来れなくなっちゃうよ?」

鞠莉「じゃぁ見殺しにするの?善子をライオンから助けてくれたのに……」

果南「それはわかってるけど……」

 

ザッパーン!

果南「うわっ!」

 

熊と小熊が海から現れた!

 

果南「って、ほんとにいたし!」

鞠莉「マリーは嘘なんてつかないわ!」

果南「って、なんかくわえてる」

熊「ガァァ」

小熊「クゥ」

 

二頭は地面に魚を置いた。

 

果南「魚を置いた?」

鞠莉「たぶん、果南にあげるってことじゃない?引っ越して来たら近隣の人に何か渡すあれみたいな」

果南「いや、流石に……そうなの?」

熊&小熊「……」コクンッ

果南「鞠莉の言う通りだった」

鞠莉「あの子たちは基本的に山の中にいる予定よ。それに、私も家の者も誰一人襲われてないわ。だから平気よ」

果南「鞠莉がそう言うなら信じたいけど……」

鞠莉「私を信じて!」

果南「……わかった。絶対に人は襲わないでね?」

熊・小熊「……」コクンッ

果南「じゃぁ、よろしくね」

 

こうして熊二頭は淡島に住み着いた。最初は熊が危険だという事で警察やら猟友会が来たが、鞠莉が小熊と遊んだり、果南が熊と普通に接していたりしたことで数日後には危険が無いと判断され、いつの間にか熊を間近で見られるという事で多くの人が来るようになったのだった。




α未来――みんながいなくなってしまった未来。本編ではあの一週間が始まる日曜日に過去に現れ、ペンダントを渡した善子ちゃんがいる未来。バッド
β未来――みんなは無事だけど、善子ちゃんが一年間昏睡状態になった未来。本編だと九人の願いで召喚された善子ちゃんがいる未来。ノーマル
γ未来――みんなが無事で善子ちゃんも昏睡状態になること無くすぐに目を覚ました未来。本編では頑張ってたどり着いた未来。トゥルー

この三つの未来は、全て並行世界の未来として存在している。α未来とβ未来があったからこそγ未来にたどり着けたという感じ。だから、β未来、γ未来になってもα未来が並行世界として存在してるから、ペンダントは過去に届くという事で。そうしないと色々辻褄が合わなくなる・・・。


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