閃乱カグラ 忍の生き様外伝 忍少女とのドキドキな日常生活♪ (ダーク・リベリオン)
しおりを挟む

プロローグ 始まりの前兆…

放課後の半蔵学院書庫…

 

 

たくさんの忍に関する知識などが書かれた巻物や書物が数多く保管されている場所である

 

 

 

「ごめんね佐介くん。付き合わせちゃって」

 

 

「ううん、そんなこと無いよ。ちょうど僕も借りたい書物とかあったし」

 

 

「佐介くん…ありがとう」

 

 

授業が終わり、他のみんなが帰る中、佐介と飛鳥は一緒に書庫で書物や巻物を借りに来たのである

 

 

「じゃあ僕はこっち側を見てくるから」

 

 

「うん。わかった」

 

 

そうしてそれぞれ借りたいものがありそうな棚の方へ向かっていくのだった

 

 

 

 

 

「…どれにしましょうか?」

 

 

そんな書庫の中で棚に保管されている巻物や書物を定めている佐介がいた

 

 

勉強熱心な佐介は一人前の忍となる為に修行は欠かさないのはもちろん、率先して文学も学ぶ子である

 

 

「…よし、これと、これと、これと、これと…これっ♪」

 

 

定めを終えた佐介は必要な書物や巻物を両ていっぱいに抱えこんだ

 

 

書物や巻物は保管主である霧夜の許可を得れば借りていくことができるのである

 

 

「飛鳥ちゃーん?僕の方は決まったよ~。そっちはどう…って飛鳥ちゃん///!?」ドキッ

 

 

「う~ん!…う~~ん!!」グヌヌ

 

 

佐介がともに書庫に本や巻物を借りに来ていた飛鳥の方に来てみると、飛鳥は脚立に乗りながら上の棚の書物を取ろうとしているのである

 

 

だが、そのせいで下にいた佐介からは飛鳥の履いている純白のそれがはっきりくっきりと見えてしまっていた

 

 

これを見て佐介は即座に後ろを向き、恥ずかしそうに目をつぶっていた

 

 

「あれ?佐介くん、もう終わったんだ。ごめんね待たせちゃってて、ちょっと気になる本があったから…う~~ん!」グヌヌ

 

 

「そ、それはいいけど、脚立の上でそんなことしてたら危ないって」アセアセ

 

 

「で、でも…もうちょっと、で…手が…う~ん!」グヌヌ

 

 

必死に手を伸ばそうと背伸びをしようとした時だった

 

 

 

ツルッ…ガタッ!

 

 

 

「えっ?きゃあっ!?」

 

 

「っ!飛鳥ちゃん!!」バッ!

 

 

 

ドテェェェン!バサバサバサバサ

 

 

 

脚立から滑るように落ちてくる飛鳥を見た佐介が彼女を助けようと慌てて駆け出した

 

 

落下した音とともにその衝撃で何冊かの本や巻物も床に落っこちた

 

 

しかし、肝心の飛鳥は…

 

 

「…あ、あれ?」

 

 

「だ、大丈夫?飛鳥ちゃん?」

 

 

「さ、佐介くん!?」

 

 

間一髪のところで佐介がクッション代わりとなり、彼女を落下の衝撃から防いだ

 

 

反動で落下の衝撃と彼女の重みがのしかかるのも承知の上で

 

 

「さ、佐介くんごめんなさい。私…」ウルウル

 

 

「い、いいんだよ。飛鳥ちゃんが無事でいたなら僕は別に」

 

 

「佐介くん……っ///!」

 

 

「っ?どうしたの?…っ?」

 

 

自分を身を挺して助けてくれた佐介に感謝していたが、すぐに自身に起こっている事態に気づく

 

 

彼女の慌てふためく様子を見た佐介は何事かと思いつつ彼女の視線の先に目を向けてみた

 

 

視線の先には自分の左手があり、その手が掴んでいたのは………飛鳥が身に付けている現在進行形で大きくなっている豊満なそれだった

 

 

「………/////!!????」ブフゥゥゥゥゥン!

 

 

「き、き、きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ///////!!!!!!?????」

 

 

一瞬の沈黙が包み込んでいたが、事態を知り、自分が飛鳥のそれをわしづかみにしていたことを知り

 

 

佐介の脳内は沸騰し、鼻からは大量の血が吹き出た

 

 

飛鳥もまたその衝撃的な展開に思わず声を上げるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時、学院の上の空にある異変が起こった

 

 

 

ギュイィィィィィィン!

 

 

 

突然、空から光る何かが降り注いでくる小さな光があった

 

 

小さな光は一直線に半蔵学院めがけて落ちていった

 

 

激突する前に勢いが止まり、今度は逆にふわりふわりと屋上に落ちていった

 

 

果たしてこれが意味するものはなんなのか?なにが起ころうとしているのか?

 

 

この時はまだ誰もそれを知る者はいなかった…

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話 謎の赤ちゃん登場

書庫でのラッキースケベ事件があった日から翌日の朝

 

 

佐介は霧夜から急遽呼ばれ、飛鳥達よりも先に学院に来ていた

 

 

そして頼まれていた仕事を終えて忍部屋に戻る途中だった

 

 

「さて、霧夜先生からの頼みごとも無事に終わりましたし、飛鳥ちゃんたちが来たら軽くお茶にでもしましょうかね~」

 

 

このあとの予定について考えながら廊下を歩いていた時だった

 

 

「っ?」ピクッ

 

 

咄嗟に佐介が微弱ながらなにかの気を察知した

 

 

「(…なんでしょうかこれは?忍……にしては何も感じませんし、そもそも敵が来たならば警報がなるはず)」

 

 

得体の知れないこの気配の正体は何なのかと思案を巡らせる

 

 

「(どうやら気配は屋上からするようですね)」

 

 

天井、もといその先にある屋上に目を向ける

 

 

「……ともかく、これは言ってみなければなりませんね」

 

 

気配の正体を探るべく、佐介は単身、屋上に向かった

 

 

屋上にたどり着くとともにドアを開け外に出てみた

 

 

「ここに気配の正体があるはず……」

 

 

佐介が辺りをキョロキョロ探していると

 

 

「っ?」

 

 

目の前に光を放つ何かが落ちていたのに気づく

 

 

どうやら先ほどからの気配はこの光の何かが放っているものであった

 

 

「…こ、これはなんでしょうか?」

 

 

慎重に警戒しつつ、光輝くそれを抱き抱えた

 

 

その時だった

 

 

 

キュピーン シュイィィィン

 

 

 

「ううぅぅぅ~!!!あぅううう~!」

 

 

「っ!?」

 

 

光輝くそれが突然、スライドしたと思いきや中からまるでたまのように可愛いい赤ちゃんが顔を覗かせた

 

 

「…どうして赤ちゃんがこんなところに?」

 

 

「…あう?」

 

 

「っ?」

 

 

「うぅー!」キャッキャ

 

 

物珍しそうに赤ん坊は佐介を見るとぱあっと可愛らしい笑みを浮かべる

 

 

その愛らしさに佐介もうっとりとしてしまいそうだった

 

 

「ふふっ、可愛らしいですね」プニプニ

 

 

「あうう~」

 

 

ほっぺをぷにぷにすると赤ん坊はくすぐったそうな顔をしていた

 

 

赤ん坊のしぐさの一つ一つが佐介の心を癒してくれているかのようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっぷあ~♪」キャッキャ

 

 

「…しかし困りましたね」

 

 

あのあと、悩み悩んだ末にとりあえず赤ん坊をあそこに放置することなど出来る訳もなく、そのまま忍部屋に連れてきてしまった

 

 

「いい案が思いつかなかったとは言え勢い余って連れてきてしまいましたが、この子のこと、どうしたものか?」

 

 

渡したおもちゃで遊んでいる赤ん坊を眺めながら佐介はどうすべきかを考えていた

 

 

「これ絶対見つかったらかつ姉やチェルシーちゃんや風魔ちゃんがからかってくるでしょうから何とかして良い方法を考えなくては…う~ん」

 

 

しかし悩めば悩むほどいい案が思い浮かばなかった

 

 

「あうう~♪」

 

 

「どうしました?」

 

 

赤ん坊が遊びをやめてはいはいしながら佐介の元に寄ってくる

 

 

それを見て佐介が優しく抱き抱えると赤ん坊はとても嬉しそうだった

 

 

「あうあ~う♪」

 

 

「僕といるのがそんなに楽しいですか?」

 

 

喜ぶ赤ん坊の顔を見て佐介は悪い気はしなかった

 

 

「…なんだかこうしてると僕、この子のパパになったみたいですね」

 

 

この状況下で佐介は男でありながら母性本能のようなものを刺激された気がした

 

 

「パァパ?」

 

 

「おや、聞こえてましたか。言えちょっとこうしてると君のパパみたいかなって思ったんですよ」

 

 

「パァパ?…パァパ♪」

 

 

「あっ、いえ、これはあくまで言葉の綾で本気にしては……困りましたね~」アセアセ

 

 

思わぬことで赤ん坊を刺激してしまったのか赤ん坊はその呼び方を連呼するようになってしまい、佐介は困り果ててしまった

 

 

それからしばらく…

 

 

「すぴ~…すぴ~…」Zzz~

 

 

遊び疲れたようで佐介の腕に抱かれたままそのまま眠ってしまっていた

 

 

「寝顔も天使みたいですね」

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

 

 

ワーワーガヤガヤww

 

 

 

「っ!?」ビクッ

 

 

向こうから話し声が聞こえ、それがこちらに向かってどんどんと大きくなっていく

 

 

「(ま、まずい!もうこんな時間でしたか!?みんながここに来てこの状況を見てしまったら大変です!?どどどどど、どうしましょう!?)」アタフタ

 

 

今、この状況を見られてはたまらんと打開策を必死に考えていた

 

 

「(よ、よし…こうなったら)」キュピーン

 

 

そして一つの作戦を思いつきそれを実行することにした

 

 

 

 

 

「それでねこの前出来たお店がね」ペラペラ

 

 

「へ~、そうなんですか…ってあら佐介さん?」

 

 

「あっ、みなさん。思ったより早く来たんですね」

 

 

他愛ないおしゃべりをしながら部屋に入ってきた飛鳥たちは既に部屋で茶を飲んでいる佐介に目をやる

 

 

「佐介先輩こそ、今日は霧夜先生から頼まれごとがあるといって先に学院に来てたと先輩方から聞いてましたが?」

 

 

「思いのほか早く終わったので茶でも飲みながら待ってようと思いましてね」

 

 

「そうなんですか」

 

 

土方の質問に冷静に答える

 

 

「(………ハァ~~~!!??あ、危なかった~~~~!!)」アセアセ

 

 

だが、心の方は穏やかではなかった

 

 

周囲が談義で盛り上がる中で佐介だけは内心、怯えていた

 

 

「(今現状はなんとか乗り切りましたがいつまでも長くは凌げませんね)」

 

 

そんなことを思いながら佐介は目線を後ろの戸棚に向ける

 

 

何を隠そう、この戸棚の中に赤ん坊を隠しているのである

 

 

「(ともかく隙を見てこの状況をどうにかしなくては!)」

 

 

「うっぇぇ~ん!佐介兄さま~!」バッ!

 

 

「きゃっ!?あ、菖蒲ちゃん?」

 

 

すると突然、菖蒲が佐介に抱きついてきた

 

 

「佐介兄さま~、聞いてくださいよ。かつ姉さまったら私がさっきからアプローチしてるのに全然答えてくれないんですよ~」

 

 

「いや、アタイはただ率先してそういうことをされるのはちょっと勘弁してほしいだけで」アセアセ

 

 

嫌がる子にセクハラすることが好きなのであってそれとは真逆な態度で来られるのは好ましい事ではないのである

 

 

「菖蒲はとっても寂しいです…ですから佐介兄さま、代わりに菖蒲にセクハラしてください!」

 

 

「ちょ、ちょちょちょ、待ってください菖蒲ちゃん!ぼ、僕だってセクハラなんてできませんよ」アセアセ

 

 

「かつ姉さまだけでなく佐介兄さままで…うえぇぇ~ん!菖蒲は不幸です~!」エンエン

 

 

シクシクとした顔をする菖蒲を見て佐介も困り果ててしまった

 

 

「ぐすんぐすん……っ?」

 

 

だが、菖蒲はふとあるものに気づいて泣くことを忘れてそれをまじまじと見た

 

 

「どうしたんだ?急に泣き止んで?」

 

 

「いえ、あの…佐介兄さま。兄さまの後ろにあるのって」

 

 

「えっ?後ろ?……っ」アセアセ

 

 

菖蒲の指摘を受け、後ろを見た瞬間、佐介は冷汗が溢れ出た

 

 

そこにあったのはさっきまで赤ん坊が遊んでいたガラガラだったのである

 

 

「(し、しまった~!咄嗟のことだったからうっかりしまうのを忘れてしまってました!?)」

 

 

まさかのミスを犯してしまっていた

 

 

「これって赤ちゃんのガラガラだよね?なんでこんなものがこんなとこに?」

 

 

「さぁ?」

 

 

気づいた時には既に飛鳥たちがガラガラを手にし、話し合っていた

 

 

「もしかしてさ、これって佐介のなんじゃないの~?」

 

 

「っ!?」ビクッ

 

 

チェルシーが悪い笑みを浮かべながらそう切り出した

 

 

「そうなのですか先輩?」

 

 

「え、えぇとですね。実はそれ道端に落ちてまして誰も気にも止めなかったから仕方なく僕がここに持ってきたんですよ」

 

 

「でもこれどう見ても新品ですよね?」

 

 

「うぐっ!?」ギクッ

 

 

必死のいい訳も虚しくそれはレイナに論破されてしまった

 

 

「おいおい佐介、お前こんな趣味があったのか~?ちょっと意外だなw」

 

 

「佐介パイセンもお茶目っすね~w」

 

 

「仕方ないんじゃな~い?人の趣味はそれぞれだしさw」

 

 

「うぅぅ…」

 

 

別のこととはいえからかわれてしまったことがやはり恥ずかしいのであった

 

 

「だ、大丈夫だよ佐介くん。私たちは全然気にしてないから」

 

 

「そうですわ佐介さん」

 

 

「元気を出してください先輩」

 

 

「み、みなさん」

 

 

必死に慰めてくれる彼女たちの心意気に感謝の気持ちを抱く佐介だった

 

 

だが、それもつかの間のこと

 

 

『うぅ~…』Zzz

 

 

「っ!?」

 

 

『っ!』

 

 

突然それまで静かに寝ていた赤ん坊がうんうんと唸り声をだした

 

 

「…今、赤ちゃんのような声がしたよね?」

 

 

「あぁ…戸棚の方からだったな」

 

 

「気になるにゃ、開けてみてみるにゃ」

 

 

「えっ?ちょ、まっ!?」

 

 

止めようとしたが時既に遅し、柳生が戸棚に手をかける

 

 

もうダメだと思い、佐介は目をギュッと瞑った

 

 

そして柳生が戸棚にを開けるとそこには

 

 

「…っ?」

 

 

何もなかった

 

 

「あっあれ?」

 

 

「何もないな」

 

 

「おっかしいな〜?確かにさっきここから声が聞こえたんだけどな〜?」

 

 

戸棚を取り囲みながらキョトンとしている彼女達をよそに佐介は思っていた

 

 

「(ど、どういうこと?僕は確かにあそこにあの子を入れたはずなのに)」

 

 

どういうことか分からず、困惑するも同時に安心もした。飛鳥たちにバレてしまうとヒヤヒヤしていたのに赤ん坊がいなかったことでバレずに済んだのだから

 

 

「(よし、一先ずは大丈夫、後はみなさんよりも先にあの子を見つけ…ない、と?)」

 

 

だが、後ろを振り向いた瞬間、佐介は再び慌てふためく

 

 

「ふぁっふぁっ♪」

 

 

なぜなら視線の先にはいないと思っていた赤ん坊がどういうわけか宙に浮いているのである

 

 

どうして宙に浮いているのかは今の佐介にはどうでもいいことだった

 

 

「あれ?今度は後ろから赤ちゃんの声がするよ?」

 

 

「っ!?」

 

 

声に気づいた飛鳥たちが振り向こうとしたと同時に佐介は目にも止まらぬ速さで赤ん坊を机の下に隠し、自分もすぐさま机に座り茶を飲む

 

 

「ねぇ佐介くん?今、そっちで赤ちゃんの声がしたよね?」

 

 

「な、なんのことかな?僕にはさっぱりだよ」

 

 

必死に隠し通そうとするも先ほどとは違い怪しさMAXだった

 

 

「佐介、なんか知ってんじゃないのか?」

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

「確かにさっきのガラガラといい、今の声といい…何か隠してらっしゃるんじゃないんですか?」

 

 

「と、ととととととんでもない!ぼぼぼぼ、僕隠し事なんてしてません!」

 

 

必死に違うと言い放つも

 

 

「じゃあ佐介くん、なんでそんなにソワソワしてるの?」

 

 

「っ!?」

 

 

それは雲雀の一言であっさり崩れ落ちる

 

 

「佐介先輩、どうなんですか?」

 

 

「なんか隠してるんなら言った方が楽っすよ〜?」

 

 

次々と追及の攻撃が佐介を襲う

 

 

そしてついにトドメの一撃が…

 

 

「あうう〜♪」

 

 

「っ!?」

 

 

後ろから服を摘まれ、振り向くとまたもやいつのまにか背後に赤ん坊が

 

 

「あー!やっぱり赤ちゃんだ!」

 

 

「佐介くん、これはどういうことなの?」

 

 

「い、いやあのその……」

 

 

もはや、逃げ場はどこにもなく、佐介はただ苦笑いするしかなかったのであった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 問い詰められるパパ?

今、佐介はとてつもないピンチに立たされていた

 

 

なぜかというと

 

 

 

『……』ジ~

 

 

 

正座させられた上に周りを飛鳥たち全員に取り囲まれてしまっていたからだ

 

 

当然、問い詰められている理由はただ一つ

 

 

「あうう~♪」

 

 

「あは、あははは…」アセアセ

 

 

彼が必死に隠そうとしても隠しきれなかったこの赤ん坊についてだった

 

 

だが、この現状の火元となった当の本人はそんなことおかまいなしと言わんばかりに佐介に甘えていた

 

 

これには佐介も苦笑いしかできなかった

 

 

「佐介くん。これはどういうことなの?」ゴオオオ

 

 

「えっ、えっと~…どういうことと言われても」アセアセ

 

 

「とぼけてもダメですよ先輩!きっちり説明してください、その赤ちゃんはいったい何なんですか!わ、私だって……うぅぅ」シクシク

 

 

説明を求む土方に全員が頷く

 

 

「実は僕もよくは知らないんですよ。屋上に行ったらこの子がいて、ほっとくわけにもいかないので連れてきたんです」

 

 

「ほんとか~?もしかしてその子、お前の隠し子じゃねぇのか?…アタイたちに隠れて浮気してたんじゃねぇのか~?」ムカムカ

 

 

「い、いえそんなことはありません!ていうか浮気ってなんですか!?」

 

 

葛城の問いを必死に否定する

 

 

「パァパ~♪」

 

 

「ふぇっ!?」

 

 

『っ!』ムムムムムッ

 

 

だが、それは赤ん坊のパパ発言によって一気に降り出しに戻され、飛鳥たちの表情がさらに険しくなった

 

 

「パパ…パパだって?」

 

 

「佐介さんが既にどなたかとの間に子供を……わたくしとよりも先に子供を……あぁ、わたくしもう耐え切れません、もういっそ佐介さんを殺してわたくしも」シャキン

 

 

「い、いえあの!こここ、これはこの子が偶然僕が呟いた言葉を覚えちゃっただけですから!?だから斑鳩さん飛燕を抜こうとしないで!?殺そうとしないで死のうとしないで!?」((;゚Д゚)ガクガクブルブル

 

 

必死に説得するがみんなもはや聞く耳なかった

 

 

「問題ない問題ない。今からでも既成事実を作ることができればオレにもまだ…」フフフ

 

 

「アタイだって…アタイだってお前のこと…」

 

 

「うぅぅ~佐介く~ん」

 

 

赤ん坊のパパ呼びが彼女たちの心の安全装置を壊してしまったからだ

 

 

そして飛鳥たちが徐々に徐々にと距離を詰めていく

 

 

「みんな、かくなる上は浮気者な佐介くんには……お仕置きしなくっちゃね~?」フフフフフフ

 

 

「「「「「「「「拷問してから死刑拷問してから死刑拷問してから死刑拷問してから死刑拷問してから死刑拷問してから死刑」」」」」」」」」ブツブツブツブツ

 

 

「み、みみみみみみなさんおおおおお、落ち着いて!目が怖いし内容も物騒なんですけど!?あっ!まって頼みますから話しを聞いて!…あっ、あぁ…」((;゚Д゚)ガクガクブルブル

 

 

「「「「「「「「「「」」」」」」」」」」キュピーン

 

 

 

 

 

 

 

アァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

佐介の悲痛な叫び声が学院内に響き渡るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どおぢで…どおぢで、ぼぐがごんなべに…」シクシク

 

 

「まぁまぁ、佐介兄さまテンションRELAX~」ナデナデ

 

 

あの後、飛鳥たちにこっ酷くやられた佐介をレイナが優しく慰めていた

 

 

「あうう〜♪」プニプニ

 

 

「改めて見るとこの子とっても可愛いな〜♪」

 

 

「ほんとですね〜♪」

 

 

「わ、私もそう思います〜♪」

 

 

「あう♪」キャハッ

 

 

「「「「「「「「「「「「あ~~」」」」」」」」」」」」デレ~ン

 

 

そして飛鳥たちは赤ん坊と戯れ、その愛らしさに心ときめいていた

 

 

「でもでも〜、本当にあの子先輩の子じゃないんですか〜?」

 

 

「だから違いますって何度も言ってるじゃないですか!」

 

 

「そうっすかね〜?よく見たら目元とか…」

 

 

「似てません!」

 

 

しつこくネタを引っ張る風魔の言葉を論破する

 

 

その時だった

 

 

「ふっ、ふぇ…ふぇ…」

 

 

抱っこされている際に彼女達の内の誰かの髪の毛が赤ん坊の鼻をこちょこちょっとするので赤ん坊はくしゃみが出そうになった

 

 

だが、事態はそんな単純なものでは収まらなかった

 

 

「ヘクチッ!」

 

 

 

ビュオォォォォォォ!!!

 

 

 

「「「「「「「「「「きゃああぁぁぁぁ!!!???」」」」」」」」」」

 

 

突如、赤ん坊がくしゃみをした瞬間、ものすごい強風が発生した

 

 

「~~~…な、なんだったんでしょうか今の?……っ?」キョトン

 

 

強風の凄まじさに唖然としながら佐介はすぐに自分の異変に気づいた

 

 

彼が気づいたもの、それはついさっきまで身に付けていたはずの制服やズボンがまるごと消えており、残されたのはパンツのみだった

 

 

「……い、嫌な予感が」アセアセ

 

 

思わず察しずにはいられないような気がし、佐介は恐る恐る後ろを振り返ると

 

 

「ちょ、ちょっとなにこれ///!?」

 

 

「わ、わたくしたちみんな、は、裸に!?」アセアセ

 

 

「ど、どーなってんだよ!?」

 

 

案の定、佐介が視界に捉えたのは自分同様、下手すればもっとひどい有様になっている彼女たちの姿だった

 

 

「ふっふぐぅぅ~!?」グヌヌ

 

 

佐介は必死に鼻血を出すまいと鼻を押さえ込む

 

 

その顔はまさに無我夢中を形にしたようなものだった

 

 

「あ、あの佐介兄さま?」

 

 

「ふがっ!?」グッ

 

 

だが、佐介はレイナを視界にいれた瞬間、再び鼻血が出そうになるのをぐっと堪えた

 

 

同じ男でありながらその容姿は明らかに女性そのものであり、先のことすら霞んでしまう程だった

 

 

そんなレイナがいいよってきたため、佐介は必死になって堪えたのだ

 

 

「だ、大丈夫ですか佐介兄さま?」

 

 

「え、えぇ、だ、大丈夫です…僕はもう、このような事では決して屈したりなど!」ポタ…ポタ…

 

 

堪えきれずにポタポタと鼻血を出しながらも、尚、平常心を保とうと佐介は奮闘する

 

 

「なるほど、ではまだまだ大丈夫ということですね!」キュピーン

 

 

「っ!?」ゾクッ

 

 

その時、背後から悪魔の囁きのような声と悪寒がした

 

 

「佐介兄様~♪」ギュッ

 

 

「きゃーーーーーーーーー!!!!?????」アセアセ

 

 

すると直後に生まれたままの姿の菖蒲が佐介に飛びついてきた

 

 

服を着てない分、菖蒲の2つの山の感触が佐介の背中にダイレクトに伝わってきた

 

 

「ああああああああああ、あやめちゃん!?」

 

 

「むふふ~、先ほどはびっくりしましたけど、これはこれで好都合。かつ姉さまには逃げられてしまいましたが佐介兄様は逃がしませんよ~♪さぁ、お互いにありのままの姿を見せましょう♪そしてセクハラという名の愛を……あ~ん♪た、確かめ合いましょう♪」モミモミ

 

 

そう言うと菖蒲は佐介の手を強引に引くとともに自身の胸に押し当てる

 

 

「ふぉ、ふぉ………ぶふぅぅぅぅぅぅ~~~~!!!!?????」

 

 

「きゃああぁぁぁぁ!佐介く~ん!?」

 

 

さすがに耐え切れなくなった佐介は豪快に鼻から血を噴水の如く吹き出す

 

 

「きゃっきゃっ♪」

 

 

みんなの様子を眺めながら赤ちゃんは可笑しそうに笑みをこぼすのだった

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 赤ちゃんのごはんと言えば……

鼻血騒動から少ししてようやく事態が落ち着きを取り戻した

 

 

飛鳥たちも全員着替え終え、佐介もなんとか立て直し、騒動は落ち着きを見せていた

 

 

 

 

 

「あうぅ~♪」

 

 

「さっきはびっくりしたけど、やっぱり無邪気で可愛いね~♪」

 

 

「笑った顔、まるで天使みたいっすね」プニプニ

 

 

「うみゅ~」ウゥゥ~

 

 

抱き抱えられた赤ん坊の笑顔はまさに天使のように屈託のないものだった

 

 

「なぁなぁ、次はアタイに抱かせてくれよ」

 

 

「ずるいですわ葛城さん!わたくしも抱いてみたいです!」

 

 

「わ、私も是非に!」

 

 

「ひばりも~♪」

 

 

彼女の愛らしさも、頬をつつかれくすぐったそうにする仕草も、飛鳥たちの母性本能をくすぐるものがあった

 

 

赤ん坊と戯れる姿を見て一時はどうなるのかと思っていた佐介も肩の荷が下りた気がした

 

 

「ほらほら高い高~い♪」

 

 

「うっう~♪……あぅぅ」

 

 

「っ?どうしたの?」

 

 

葛城が抱っこする役に回り、赤ん坊を高い高いをしていると急に笑顔が止まってしまった

 

 

それを見た佐介たちがキョトンとしていると

 

 

「ふっふっ、ふぇぇぇぇぇぇえ~~!!!」

 

 

「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」

 

 

突然泣き出してしまった

 

 

「えええええっ?えっ?ちょっ、どうしたんだよ急に!?も、物足りなかったのかな?ほら高い高~い!」アタフタ

 

 

「ふええぇぇぇぇぇん!」

 

 

「えええっ!?」アタフタ

 

 

必死に泣き止まそうとしたが効果は皆無であり、全然泣き止まない

 

 

「あわわわ!?い、斑鳩パス!」

 

 

「えぇっ!?…きゅ、急に投げ出されても!?」

 

 

たまらず葛城は斑鳩にバトンタッチした

 

 

しかし斑鳩も葛城同様どうすべきかは分からずじまいだった

 

 

「ほ、ほらほらいい子ですね~、お願いしますから泣き止んでくださ「ふぇぇぇえん!」ダメみたいです~!?」

 

 

そうしてなんとか泣き止まそうと彼女たちはたらい回しのように次々と役を交代させるがどれもこれもまったくダメだった

 

 

「あうう~!ふぇぇぇぇぇん!!」

 

 

「うぅ~、困ったな~。どうして泣き止んでくれないんだろ?」

 

 

「一体何が原因なのでしょう?」

 

 

赤ん坊がどうして泣き止まないのか生憎彼女たちには検討もつかなかった

 

 

「…っ、もしや?」

 

 

「どうしたの佐介くん?」

 

 

そんな中、ふと佐介が何かに気づいたようである

 

 

「わかりましたよみなさん、赤ちゃんが泣き止まない理由」

 

 

「本当ですか佐介兄様?」

 

 

「いったいなにが原因なのさ?」

 

 

理由がわかったと語る佐介にレイナとチェルシーが尋ねる

 

 

「単純なことです。たぶんお腹が空いてるんだと思います」

 

 

「「「「「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」」」」」

 

 

「考えてみれば見つけてから今に至るまでこの子はなにも食べてない、だからお腹が空いてもおかしくはありませんよ」

 

 

確かに先ほどから泣き止まないことを考えるにそれが正解なのかもしれないと納得する

 

 

「じゃあ早速ごはんをあげよう!」

 

 

「そうだな!」

 

 

「赤ちゃんのごはんといえば」

 

 

「「「「「「「「「「……」」」」」」」」」」」」

 

 

その時、赤ちゃんのご飯について考えていた彼女たちが一気に固まる

 

 

…そう、彼女たちは赤ちゃんのごはんというキーワードを考えた瞬間。ある1つの答えにたどり着く

 

 

「(あ、赤ちゃんのご飯って言ったら)」アセアセ

 

 

「(や、やっぱり)」アセアセ

 

 

「(あれ…だよね?)」

 

 

彼女たちが思い描いたもの、それは……

 

 

 

 

 

 

 

たぷ~ん♪ちゅちゅ~♪

 

 

 

 

 

 

そう、母乳を与えることである

 

 

「「「「「「「「「「(……無理だぁぁぁぁぁぁ!?!?)」」」」」」」」」」

 

 

冷静に考えても無理な話であることは明らか

 

 

今の今まで母乳をあげるなど、まして子供を育てた経験すらない

 

 

「ど、どうしたらいいのでしょう?」

 

 

「どうしようっていわれても?」

 

 

考えが追いつかず困惑する彼女たち

 

 

「よし……ここはあいだを取って斑鳩に~♪」

 

 

「はぁ!?ちょ、なんでそうなるんですか!?」

 

 

「じゃあ土方に~♪」

 

 

「私もですか!?」

 

 

葛城が悪びれた顔をしながら赤ん坊を差し出し、2人に役を押し付けようとする

 

 

当然、そんなのを「はいそうですか」っと引き受けるわけもなく2人は異を唱える

 

 

「ほ~ら赤ちゃん。あたしのおっぱい飲むっすか~?」

 

 

「だぁ♪」

 

 

「「「「「「「「ってちょっと待ってーー!!!???」」」」」」」」

 

 

「ふぇっ?」

 

 

赤ちゃんのごはんをどうすればいいのかいい案が浮かばないまま思い悩んでいると

 

 

いつの間にか赤ちゃんを抱えていた風魔が羞恥心など一切ないというほど潔く自分のおっぱいを吸わせようと服をめくりあげようとしていた

 

 

当然そんなことをさせてなるものかと大慌てで風魔を止めることに成功したのだった

 

 

「ふぇぇぇえ~~~ん!!」

 

 

「で、でも本当にどうしよう?」

 

 

「このままじゃずっと泣いたままだしな~?」

 

 

「だ~か~ら~。ここはあたしが一肌脱ぐっすよ!」

 

 

「「「「「「「「絶対ダメ!」」」」」」」

 

 

未だにどうすべきかと思い悩む飛鳥たち

 

 

そんな時だった

 

 

「みなさん、遅くなりました」

 

 

「佐介くん?」

 

 

声のする方を見るといつの間にか背後に霧夜を引き連れた佐介とレイナ、菖蒲が立っていた

 

 

佐介の手には哺乳瓶と粉ミルク、レイナの手にはタオル。そして菖蒲の手にはお湯を沸かすポットがそれぞれ握られていた

 

 

「佐介、レイナ。いつの間にかいなくなってたと思ったら霧夜先生と一緒だったのか?」

 

 

「はい。赤ちゃんがお腹すいたことに気づいてからレイナとともに物資を調達のために購買部にいったり哺乳瓶は分け合って保健室の先生から貸していただいたりしてまして」

 

 

「それでそうこうしてるうちに私たちに気づいた霧夜先生が声をかけてきたのでこれまでの経緯を話したんです」

 

 

皆の疑問に対してそう答える佐介たちの経緯に飛鳥たちは納得する

 

 

「うえぇぇぇぇ~~~ん!!」

 

 

「っていっけない、納得してる場合じゃなかったんだった!?」

 

 

赤ちゃんの泣き声にその場所に居た全員がはっと我に帰る

 

 

「とりあえずまずはこの子にごはんをあげなくてはですね…レイナ、菖蒲ちゃん手伝ってください」

 

 

「「はい佐介兄様!」」

 

 

早く赤ちゃんにごはんをあげたいという思いから佐介はレイナ、菖蒲とともに早速作業に取り掛かった

 

 

持ってきた哺乳瓶に粉ミルクを入れ湧き上がったポットからお湯を注ぎ、それ以降の作業もテキパキと終え、ようやくごはんが完成した

 

 

「さぁ、お待たせしました。たんとお上がりくださいね」

 

 

「あううぅ♪…あむっ♪」チュ~チュ~

 

 

佐介に抱き抱えられながら赤ちゃんは用意してくれた哺乳瓶に入ったミルクをちゅーちゅーと美味しそうに飲み始めた

 

 

「「「「「「「「はぁ~…かわいい♪」」」」」」」」」

 

 

その愛らしい姿に飛鳥たちは再びうっとりとするのだった

 

 

「でも良かった。喜んでくれたようで…やっぱり赤ちゃんにはミルクが一番ですね」

 

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

 

「…っ?みなさんどうしました?」

 

 

変なことは言ってないはずなのに行動を共にしていた2人と今だ近くで寝ている清明以外の全員が頬を赤らめていた

 

 

「…僕なんか変なこと言いました?」

 

 

「い、いや別に!な、なんでもないさ。なっ、斑鳩?」

 

 

「えっ?…えっ、ええ…そう、ですわね」

 

 

「う、うんそうそう!だから佐介くんは気にしないでね!」

 

 

キョトンとした顔を浮かべる佐介に向けて飛鳥たちは必死にそう言い聞かせるのだった

 

 

冷静に考えれば佐介と同じようなことを考えるはずなのに自分たちは何を考えていたのだと内心恥ずかしさでいっぱいだった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 離すな危険?

無事にごはんを上げたことで赤ちゃんに落ち着きが戻った

 

 

「…」ポンポン

 

 

「けぽっ♪」

 

 

佐介が優しく背中を叩くと赤ちゃんは可愛らしくゲップをし、再びきゃっきゃと佐介に甘え始めた

 

 

「パァパ♪」

 

 

「あっ、もう、くすぐったいですよ」

 

 

「本当、佐介くんって赤ちゃんあやすの上手よね」

 

 

「師匠と旅をしてた頃。軍資金として立ち寄った旅先で数日だけベビーシッターをしたりしてたからそのくせだね。師匠だとどうも向いてないから」

 

 

「確かに、あいつならこういった作業は不向きだろうな」

 

 

大導寺をよく知る2人はベビーシッターをする彼女の姿を想像し、思わず苦笑いをする

 

 

そのあと、佐介は霧夜と赤ちゃんをどうするかを話しを聞くべく再び飛鳥たちに彼女を渡し、話しを始めた

 

 

ちらっと視線を逸らしみんなからあやされ嬉しそうに笑う顔を浮かべる赤ちゃんの姿に佐介はほっこりと笑みを浮かべ、直後霧夜と面と向かう

 

 

「それで霧夜先生、あの子はどうなるんでしょうか?」

 

 

「あぁ、あの子についてはいろいろ謎が多いが、まずはちゃんとした施設に届けるべきだろうと思う。子供の育児など我々には荷が重かろう」

 

 

「そう…ですよね」

 

 

「残念だが致し方ないだろう」

 

 

霧夜の言うことも最も、いくら経験があるとは言え所詮は並みの素人より技術があるだけ、そんな自分たちより育児経験が豊富な人たちのいるところに預ける方がいいかも知れない

 

 

この子の正体はそれまでに突き止めればいいのだから

 

 

「心苦しいとは思うが、これが最善の策だろう」

 

 

「…わかりました。そうしましょう」

 

 

 

なんとも切ない気分に苛まれそうになる

 

 

「ねぇみんな見てみて!」

 

 

「「っ?」」

 

 

そんな中、飛鳥達のいる方から声が聞こえ、振り向いて見てみる

 

 

するとそこに映った光景は

 

 

「あうぅ~♪」ハイハイ

 

 

ゆっくりと、かつしっかしとしたハイハイで自分のもとに向かってくる赤ちゃんの姿があった

 

 

「パァパ~♪」

 

 

「っ…」アセアセ

 

 

「佐介…せめて別れの言葉くらい言ってやれ、あの子はお前を父親のように思ってるようだからな」

 

 

「…はい」

 

 

少し切なそうな顔を浮かべ、無理やり作った笑みを浮かべながら自分のもとへとやってきた赤ちゃんを抱きかかえる

 

 

「パァパ~♪」

 

 

小さな手をばたつかせ頬を撫でながら無邪気な笑みを送る

 

 

出会って間もないはずなのに自分のことを父と呼ぶ彼女への名残惜しさがこの瞬間を永劫の時のように思わせてしまいそうだった

 

 

「…佐介」

 

 

「っ!」

 

 

しかし霧夜の一声にはっと我に帰る

 

 

辛い気持ちをぐっと抑え、佐介は赤ちゃんに優しく囁く

 

 

「ごめんね。本当はもっと一緒にいてあげたいんだけど、もう君とばいばいしなきゃいけないみたいなんだ」

 

 

「ばぁい?」

 

 

「…そう、さよならって意味だよ。でも大丈夫、これからは施設の人たちが責任を持って君のこと面倒見てくれるはずだから、心配しないでね」

 

 

精一杯平常心を装うも、やはりその顔には名残惜しいという気持ちが伝わって来るようだった

 

 

「……ばぁい、やー」

 

 

「えっ?」

 

 

「ばぁい、やー!」

 

 

そんな佐介の顔を見た赤ちゃんが何かを察したのかだだをこね始める

 

 

「で、でも」

 

 

「やーー!!!」

 

 

 

キュピーン!

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」」

 

 

赤ちゃんが大きく叫んだその瞬間、首にかけられていたペンダントが眩い光りを放った

 

 

突然の事態に佐介たちは驚愕した

 

 

「んーー!!!」

 

 

 

ボォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

さらに赤ちゃんが何かを念じたと同時に凄じい煙があたりを包みこむ

 

 

「けほっ!けほっ!…い、いったいなんなの!?」

 

 

「何が起こったというのでしょう?けほ、けほっ!?」

 

 

充満する煙によって蒸せながらも必死に状況を確認しようとする

 

 

しかし、ここで彼女たちは気づいた

 

 

自分たちの前方に怪しげな影があることに

 

 

やがて煙が晴れ、視界が戻った瞬間、全員が更なる仰天に遭遇した

 

 

【にゃろろ~ん!】

 

 

「「「「「「「「「「「「「「な、なにこれ!?」」」」」」」」」」」」」」

 

 

突如として佐介達の前に巨大な謎の生物が出現した

 

 

蛇のようにも見えるがとにかく謎が多いものだということは一目瞭然だった

 

 

頭部が地面についており、触手のような尻尾が上という珍しい生物だった

 

 

【にゃろ~ん!】ベシン!

 

 

謎の生物が出現した早々に攻撃してきた

 

 

触手のような尻尾を叩きつけ、その猛威を振るう

 

 

「やろぉ!好き勝手はさせねぇぞ!忍転身!」

 

 

「かつ姉さま、菖蒲もいきます!」

 

 

「葛城さん、菖蒲さん!迂闊すぎます!…土方さん!」

 

 

「はい、斑鳩先輩!!」

 

 

これ以上はさせないと言わんばかりに葛城と菖蒲が飛びかかり、それを援護するという形で斑鳩と土方もあとに続く

 

 

【にゃろ?】

 

 

「「「「やぁぁぁぁ!!!」」」」

 

 

4人が一斉に仕掛けたその刹那

 

 

【にゃろろ~ん!】パカァァ!

 

 

突然、尻尾を葛城たちに向けた瞬間、先端がパカっと4つにわかれた

 

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

【にゃろっ!】パクッ!

 

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

 

「た、食べられちゃった!?」

 

 

気づいた時には手遅れ、葛城たちは一瞬で飲み込まれてしまった

 

 

呆気に取られていると直ぐ様謎の生物に変化が、身体をうねうねさせ始め、何事かと目を凝らしていると

 

 

【にゃろ】ポンポンポンポン!

 

 

地面についている頭部がもたれ上がると同時に謎の生物の口から4つの影が

 

 

その正体は葛城たちだった

 

 

「かつ姉、みんな、大丈夫だっt……っ!?」

 

 

「っ!?」

 

 

彼女たちのもとに駆けつけ、生きてることに安心するも、一瞬にしてそれは吹き飛んだ

 

 

「いてて、…み、みんな大丈夫…か?」

 

 

「は、はい…なん、とか?」

 

 

「なんとも…ありませんわ?」

 

 

「お、同じ…く?」

 

 

床に打ち付けられた身体をさする葛城たち、その際、自分たちの状況を把握した

 

 

彼女たちの状況…それはいつの間にか着ていた衣服は消え、生まれた時のままの姿を晒していたからだ

 

 

「「き、きゃぁぁぁぁ!?」」

 

 

「ななななななな、なんで服が溶けてんだよ!?」

 

 

「わ、わかりません!?」

 

 

これには4人も思わずびっくり仰天だった

 

 

「くっ、この状況から察するにやつは飲み込んだ相手に人体によるダメージを与えない代わりに飲み込んだ相手の衣服を溶かす能力があるってことか!」

 

 

「えぇ!?何それ怖いよ!」

 

 

「みんな、絶対にやつに捕まるな!捕まったら葛城たちの二の舞にされてしまう!」

 

 

「「「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」」

 

 

柳生の分析によりあれが相当やばいものだということを理解した飛鳥たちは経過を強める

 

 

【にゃろろ~ん!】

 

 

「あ、危ない!みんな逃げて!」

 

 

しかしそんな中、でも謎の生物の猛威は続く

 

 

【にゃろろろ~ん!】

 

 

「いやぁぁぁ!!」

 

 

「にゃあぁぁぁ!!」

 

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

 

「み、みんな!?」

 

 

【う~ん…っ!】ポンポンポンポン!

 

 

1人、また1人と隙きをつかれた仲間たちが飲み込まれ、生まれた時の姿で排出されていった

 

 

「み、みんなが次々と」

 

 

「これ以上好きにはさせん!生徒たちは俺が【にゃろっと】うわっ!?」パクッ!

 

 

「霧夜先生!?」

 

 

助けに行こうとするも出オチと言わんばかりに飲み込まれ、彼女たちと同様生まれた姿をさらしてしまう

 

 

「「「「「「「「「「きゃぁぁぁぁ!?」」」」」」」」」」

 

 

「い、いや、こ、これは不可抗力だろ!?」

 

 

必死に大事なとこを隠す霧夜だった

 

 

「こ、このままじゃ!?」

 

 

あの生物によってみんなが醜態をさらされてしまう

 

 

なんとかせねばと必死だった

 

 

そして佐介はあの生物が赤ちゃんが首から下げたペンダントからでたことを思い出した

 

 

「お、お願い赤ちゃん。あの生物をおとなしくさせて!」

 

 

「ぶぅ~!あうあう!」ブンブン

 

 

「ど、どうして!?」

 

 

必死にお願いするも赤ちゃんは頑なにそれを拒否する

 

 

「パァパ、バァイ、やー!!」ギュゥゥ

 

 

この時、佐介は赤ちゃんが自分と離れたくないのであり、飛鳥たちを自分と佐介を引き離そうとしてるのだと思っているのだと感づいた

 

 

とすればこの状況を止める手立ては一つだけだった

 

 

「あ、赤ちゃん。ごめんなさい。僕が悪かったよ…もう、バイバイはしない。一緒にいるから…ね?」

 

 

「あうぅ?」

 

 

嘘偽りない言葉で赤ちゃんに言い聞かせる

 

 

「…あうぅぅ♪」

 

 

すると赤ちゃんはよかったと言うかのように佐介に抱きついた

 

 

その瞬間、ペンダントが再び光り出し、同時に生物が光の粒子になって消え去り、騒動は幕を閉じた

 

 

 

 

 

 

生物の消滅後、みんなは早々に着替え、後片付けを行っていた

 

 

そんな中、佐介は再び霧夜と対談していた

 

 

「霧夜先生。…やはりこの子は僕が面倒を見たほうがいいかもしれませんね」

 

 

「あぁ…あの奇妙な力がなんなのかも気がかりだ。これは下手に他所に置くより我々で様子を見るほかあるまい…幸いなことにその子はお前と離さなければ無害なものだしな」

 

 

先のことで霧夜も考えを改め、赤ちゃんは佐介たちが面倒を見るという流れに落ち着いた

 

 

「ねェ佐介くん」

 

 

「なに飛鳥ちゃん?」

 

 

「この子うちで面倒を見るなら名前くらいつけたほうがいいかも」

 

 

確かにずっと赤ちゃんと呼ぶのもどうかと佐介も感じていた

 

 

「そうだね…う~ん、何がいいだろう?」

 

 

「あぅ~♪」

 

 

赤ちゃんに似合う名前がないかと佐介は考える

 

 

「…そうだ!ねぇ佐介くん。私、いい名前思いついたよ!」

 

 

「本当?」

 

 

「うん。…この子の名前、ナナでどうかな?」

 

 

「ナナ…サナ…うん、いいかも」

 

 

飛鳥の提案に佐介も賛成の意を示す

 

 

「いい?今日から君はナナちゃんですよ」

 

 

「あう♪」

 

 

赤ちゃんもナナという名前に満足しているようだった

 

 

そうして佐介がナナをあやしている時だった

 

 

「佐介!」

 

 

「っ?」

 

 

シュンシュンシュンシュンシュンシュン!

 

 

突然、声がしたと思った瞬間、瞬時に6つの影が佐介たちの前に現れた

 

 

「あ、あなたは…こ、光牙くん!?」

 

 

「それに焔ちゃんに雪泉ちゃん、雅緋ちゃんに他のみんなも!?」

 

 

佐介たちのもとに現れたのは彼らにとって戦友でありライバルと呼べる相応たる面々だった

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 チャチャをいれると痛い目に合う

佐介と離れ離れになることを直感したナナが呼び出した生物が引き起こした騒動によって危いとこまで追いやられた半蔵学院の面々

 

 

しかし佐介の機転によってなんとかナナは落ち着き、生物もいなくなり、一連のゴタゴタはなんとか落ち着きを見せた

 

 

そんな佐介たちのもとに来客が現れた。その正体は光牙、紫苑、相馬。さらに彼らに付き添ってやってきた焔たちだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい皆さん、お飲み物をどうぞ」

 

 

「あっ、ありがとうございます佐介くん」

 

 

「さんきゅ~♪」

 

 

「いただくぞ」

 

 

光牙達の来訪から少しして、佐介は来客用のお盆に乗せた飲み物を差し出すと彼らはそれを喜んで飲んだ

 

 

「でもどうなさったんです?みなさんお揃いで?」

 

 

「俺たちがここに来たのは不思議な気を感じたから……まぁ、勘のいいお前のことだ。俺たちが訪れた時点でうすうす勘付いてたんだろ?」

 

 

「え、えぇ…まぁ」

 

 

彼らをよく知る佐介は光牙の問いに素直にうなづく、彼らが何の意味もなくこの場にやって来るはずがないことくらい

 

 

「それにしても…」

 

 

不意に紫苑が目線をそらすと他の面々も同じ場に視線を向ける

 

 

その先には一緒にやってきた焔、雪泉、雅緋、そしてその隣にいる飛鳥に可愛がられているナナの姿が

 

 

「十中八九、不思議な気配の正体はあの赤ちゃんですね」

 

 

「本当、未だに信じらんねぇよ。あんなちびっ子が変な生物を召喚してそいつが暴れまくったってな?」

 

 

「あぁ、俺もそこがどうにも引っかかる。……佐介、なんなんだあの赤ん坊は?」

 

 

「それが、僕にもわからないんです」

 

 

えっ?っと言うかのような顔を浮かべる光牙たちに佐介は経緯を包み隠さず話した

 

 

なぜ自分がナナと出会ったのか、なぜ生物を召喚するほどのエネルギーが周辺に漏れたのか

 

 

そして彼女のことは自分たちも調査する予定なのだと言うこと、知りうることはすべて説明した

 

 

「なるほど。あの赤ちゃんがもってる首にかけてるネックレスの宝石が光り輝きだしたのに驚いた矢先、いつの間にか現れた怪物が室内をめちゃくちゃにした……ということですか」

 

 

「はい。だから僕にも何がなんだかさっぱりでして」

 

 

「今のままでは情報が足りない…そういうことか。まったく厄介なものだな?」

 

 

赤ちゃんであるはずのナナがなぜそんなことができるのかもわからない、情報の乏しいこの状況でこれ以上の詮索は困難を極める

 

 

お手上げがいいとこだった

 

 

「ふ~ん…あんな赤ん坊がな~?」

 

 

信じられないというような顔を浮かべながら飛鳥たちと戯れるナナのもとに近づいていく

 

 

「よ~おちび、聞いたぞ~。お前すげぇパワー持ってんだってな?」

 

 

「あう?」

 

 

「人は見かけによらねぇってこったな。ほれほれ~」ワシワシ

 

 

「うぅぅ~」イヤイヤ~

 

 

相馬がいきなり頭をわしわしすると、それが気に入らないのかナナが嫌そうな顔を浮かべる

 

 

「ちょ、ちょっと相馬くん、ナナちゃんが嫌がってるよ」

 

 

「そんなに強くしたら可愛そうですわ」

 

 

「まったくお前というやつは」

 

 

「なんだよ?別にそんなに強くはしてないぞ?」

 

 

皆に責め立てられ、相馬は言い訳を言おうとしていると

 

 

「やーー!!」

 

 

 

キュピーン!

 

 

 

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

 

「こ、この光、さっきと同じ!?」

 

 

ナナに反応するように胸の宝石が再び輝きだした

 

 

直後、異変が起きた

 

 

「っ?えっちょ、まて?なんか身体浮いてない!?」

 

 

「た、確かに!?」

 

 

「おい、どうなってんだよこれ!?」

 

 

気づいた時にはナナを抱えている飛鳥と佐介以外の全員の身体がまるで宇宙空間を思わせるように浮かび上がった

 

 

「な、ナナちゃん?なにを?」

 

 

「うーーん!!」

 

 

飛鳥が訪ねようとした瞬間、ナナが声を張り上げた瞬間

 

 

 

ビューーン!グルグルグルグル!!

 

 

 

「「「「「「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!???」」」」」」

 

 

「「っ!?」」

 

 

「きゃっきゃっ♪」

 

 

宙に浮かんだ相馬たちがナナの念力によってまるで竜巻きに巻き込まれたかのように部屋の中をぐるりぐるりと振り回された

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!目が、目が回る~~!!!???」

 

 

「誰か助けろ~!!??」

 

 

振り回され続け、相馬たちは限界近かった

 

 

「ま、まずい!!飛鳥ちゃん!ナナを僕に!」

 

 

「う、うん!」

 

 

みんなを助けなければと慌てて飛鳥のもとに向かい、彼女からナナを手渡してもらった

 

 

「ナナ、いい子ですからみんなを解放してあげてください!」

 

 

「ぶ~、ぶぅぅ~!」

 

 

「ナナ!いい加減にしないと怒りますよ?」

 

 

「あう…ぅぅぅ」

 

 

佐介に叱られてナナはしぶしぶおとなしくなる

 

 

それと同時にペンダントから光が消える

 

 

 

ドタドタァァァン!

 

 

 

「「っ!!」」

 

 

「「「「「「「う、うぅぅ~」」」」」」クルクルクルクル

 

 

大きな音のする方を向くとそこには振り回しから解放されて目を回しながら床に倒れ込む相馬たちがいた

 

 

「だ、大丈夫ですかみなさん!?」

 

 

「うぇ~、やべぇ…めっちゃ気持ち悪…うぷっ!?」

 

 

「あ、頭がくらくらしすぎて、なにがなあんだか~」ピヨピヨ

 

 

「もう許して、目が回りまくります~」ピヨピヨ

 

 

限界まで振り回されてしまった彼らはもうフラフラだった

 

 

そんな彼らを見て苦笑いする佐介たちだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あぁ…ま、まだ頭がガンガンする~」ウゥ~ン

 

 

「まったく、相馬くんがあの子にちゃちゃを入れたせいで僕達にまで被害が及んでしまったじゃないですか」ウゥ~ン

 

 

「わ、悪かったな。…うぇ~、まだ気持ち悪い~」

 

 

「大丈夫ですか相馬くん?」

 

 

青ざめた顔でまだ気持ち悪そうにしている相馬の背中を佐介がさすってあげた

 

 

「きゃふふ♪」

 

 

「もう、ナナちゃんは本当にいたずらっ子なんだから」

 

 

彼らの近くで飛鳥がナナの相手をしてあげていた

 

 

「とにかく、これで一つはっきりしたな、やはりあの子は普通じゃない」

 

 

「えぇ、…それはもう身にしみてね」

 

 

「もうあのガキに手出さないでおこう、うんそれがいい」

 

 

『まっ、それもこれもお前の自業自得だがな』

 

 

ナナにちょっかいをだし、尚且つ勝手な物言いをする相馬に蒼馬が突っ込みを入れる

 

 

「少なくとも今はナナは僕が面倒を見ていた方がなにかといいと思うんです」

 

 

「確かにな…しかし、お前一人に任せるというのも忍びない話しだ」

 

 

「何かあったら僕たちも力になりましょう。今後、何があるかもわからないし」

 

 

「光牙くん、紫苑さん。ありがとうございます」

 

 

2人がそう言ってくるだけで佐介は感銘を受けた

 

 

「もちろんお前も手伝うよな…相馬?」

 

 

「えっ!?」

 

 

「えっ、じゃないでしょ。先のことはすべて君の責任なんですから、それくらいはやってあげなさい」

 

 

「いやだってよぅ…うっ!?……ソウはともかく、俺は構わん。元々コイツの不始末は俺の不始末でもあるしな」

 

 

乗り気でない相馬の身体を借りて蒼馬がその提案をうけた

 

 

「みなさん…本当にありがとうございます」

 

 

「困ったときはお互い様だ」

 

 

「えぇ、善忍はたすけ合いですから」

 

 

「ソウはともかく俺たちも強力は惜しまないからな」

 

 

頼りになる仲間たちからの助力を得られる。そんな関係になれたことへ佐介は心の底から感謝するのだった



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 商店街でお買い物

昼下がりの商店街、いつも活気で賑わう楽しい場所

 

 

そこに佐介と彼に抱えられているナナ、その付き添いでついてきた飛鳥がやってきた

 

 

目的は昼飯の具材を買いにだった

 

 

ちなみに今回は荷物を持つということもあり、背中に抱っこ紐にナナを乗せた状態である

 

 

「あぅぅ~♪」

 

 

「ふふふっ、興味津津って顔してるね?」

 

 

「うん、だって今日はナナにとって初めてのお出かけだからね。目に映るものがなんでも珍しいんだよきっと」

 

 

「確かにわかる気がするな~。私も初めて来る場所とかに行ったらワクワクが止まらないもん」

 

 

無邪気にはしゃぐナナの姿を微笑ましく思うのだった

 

 

「ところで佐介くん、今日はどういったものを作るつもりなの?」

 

 

「そうだね~…今日は少しさっぱり系のものを作ろうかなって」

 

 

「さっぱり系か~、例えば?」

 

 

なにを作ろうとしてるか飛鳥が訪ねた

 

 

「そうだね。今日は暑いし、冷やし中華でも作ろうと思うんだ」

 

 

「冷やし中華か。うん、確かにこの時期にはピッタリだね。美味しいし」

 

 

お昼が冷やし中華だと知って思わず食欲がそそられてしまった

 

 

「ちゅるちゅる?」

 

 

「うん、そうだよちゅるちゅるだよ」

 

 

「ちゅるちゅる、ちゅるちゅる~♪」

 

 

答えが当たったことにナナは嬉しそうにはしゃいでいた

 

 

「さぁ、早く八百屋さんに行こう」

 

 

「うん」

 

 

佐介たちは善は急げといきつけの八百屋に向かっていく

 

 

商店街の通り道は賑わう人々が波のように溢れていた

 

 

その中をはぐれないようにと手をつないで進んでいく

 

 

「飛鳥ちゃん、はぐれないようにしっかり手を握ってようね」

 

 

「う、うん。そうだね…(はぁ~、佐介くんと合法的とは言え手を繋げてる…幸せ♪)」

 

 

「っ?飛鳥ちゃん、どうしたの?顔が赤いよ?」

 

 

「ふぇ?な、なんでもないよ!」アタフタ

 

 

はぐれないようにと言うためとは言え意中の相手に手を繋がれて嬉しんでいるとそれに気づいた佐介に心配されかけ、飛鳥は慌ててて訂正した

 

 

そんなこんなで八百屋にむけて歩き続けていると佐介がぴたっと歩みを止めた

 

 

「パァパ?」

 

 

「どうしたの佐介くん?」

 

 

「あっ、いえ、その…あれって」

 

 

動きを止めた佐介の視界に映ったのは向かい側からこちらに向かって歩いてくる顔見知りだった

 

 

「おや、佐介くんじゃない。こんにちは」

 

 

「八百屋のおばさんにおじさん?」

 

 

佐介たちに挨拶してきたのは今まさに向かおうとしていた八百屋の店主御夫妻だった

 

 

「おばさんおじさん、どうしてここに?お店は?」

 

 

「それが…ね~」

 

 

普段ならこの時間は店で品を売っているはずの2人がここにいることが不思議で仕方がない佐介に対し、おばさんは苦笑いしながら視線を隣の主人に向ける

 

 

「痛ててて」

 

 

「おじさん?大丈夫ですか?」

 

 

「あ、あぁ…だ、大丈夫じゃよ」

 

 

「いったいなにが?」

 

 

おじさんが松葉杖をついて腰の痛みにうんうん唸っている

 

 

「実は今朝、開店の準備をしてたらちょっとヘマやらかしてギックリ腰になっちゃったのよ」

 

 

「ぎ、ギックリ腰!?だ、大丈夫なんですか?」

 

 

「まぁ、ということもあって今この人を病院に連れてく途中なのよ。ごめんなさいね家に来るつもりだったんでしょ?」

 

 

「えっ、えぇまぁ…でもそれより今はおじさんのほうが心配ですよ」

 

 

佐介はおじさんを心配そうに気にかける

 

 

「ありがとうな佐介くん。また今度来てくれ、そのときはお詫びにサービスするから」

 

 

「おじさん」

 

 

「さて、そろそろ時間だから私たちはこれで」

 

 

「あっ、そうでした話しを長引かせてしまって申し訳ございません」

 

 

腕時計で時間を確認すると御夫婦は病院に向かいはじめる

 

 

「そうだ。ねぇ佐介くん」

 

 

「はい?」

 

 

「もしかして一緒にいるのは佐介くんの奥さんかしら?」

 

 

「っ!?」

 

 

ナナを背中に乗せてる姿を見ておばさんは彼女たちが佐介の妻と子と勘違いしてるようである

 

 

「ちちちち、違いますよ!彼女は僕のおさなななじみで、この子はわけあって預かってる子でして!?」アタフタ

 

 

「うふふ、冗談よ…それじゃね。ほら行きますよあなた」

 

 

「お、おう」

 

 

「ではね♪」

 

 

からかうだけからかって御夫婦は今度こそ病院に向かって歩いて行ったのだった

 

 

「…さて、どうしたものか」

 

 

「うん、困ったね」

 

 

「あぷ~」

 

 

行こうとした場所がやってないのでは物が買えない、ものが買えなければ冷やし中華を作ることもできない

 

 

佐介たちはどうすべきかと途方にくれるのだった

 

 

 

 

 

 

 

ここは商店街のとある一角、その場所に移動式の屋台の店で野菜を売る者たちが

 

 

「はい、おまちどうさまです。品はこちらになります!」

 

 

「はい、お買い上げありがとうございます。またお越しください!」

 

 

訪れた客たちに品物を渡し、お金を受け取り、笑顔で返事という見事な接客対応で次々と応対していく

 

 

「いや~。大した売れっぷりだな」

 

 

「あぁ、なんでも元々ある人気の八百屋店の主人が腰痛めちゃって野菜が買えなかったらしい、理由はどうあれこりゃ、濡れ手に泡だぜ」

 

 

「だよな~。…あっ、もうこんな時間だ。ここは俺がやっておくからお前先休憩してこいよ」

 

 

「そっか?わりぃな。じゃあそうするわ」

 

 

相方の好意に甘え、少年の側らは弁当をもって奥の方に

 

 

「長老。飯の時間です。一緒に食べましょう」

 

 

少年の目線の先にはタバコをふかし、反対向きにしたビール瓶などを配達するカゴに腰掛ける帽子をかぶった老人がいた

 

 

「あぁ、わかった。おや?勘二は?」

 

 

「もう少し仕事をしてからくるそうです」

 

 

「ふむ、そうか。では頂こう」

 

 

理由に納得した長老は少年とともに持ってきたお弁当を食べ始める

 

 

「聞いてくださいよ長老、今日の売上は今までにないくらいですよ。わざわざ遠出した甲斐がありましたね♪」

 

 

「ほほほ、わしらの畑で作った野菜じゃぞ?当然じゃて」

 

 

いい意味で予想外の売上にはしゃぐ少年を見て長老もご満足だった

 

 

「そう言いえば」

 

 

「なんじゃ?」

 

 

「勘二から聞いたんですけど、長老って本当に昔、山賊だったんですか?」

 

 

少年はふと以前にあった話題を思い出し、徐ろに訪ねてみた

 

 

「あぁ、本当じゃよ。自慢するわけではないが当時、わしは多くの部下を従える山賊団の頭領じゃった」

 

 

「…でも、なんでそんな山賊団の頭領が今やいなか村の村長したり、こうして街に出稼ぎに出てるんです?」

 

 

本人の口から事実を聞いた少年は同時に浮かんだ疑問を長老に訪ねてみた

 

 

すると突然長老は若干険しそうに額から汗をたらした顔を浮かべ、語りだす

 

 

「…あれは今から三年前じゃった。いつものように皆で通りがけの旅人を襲った時のことじゃった。1人は20代の女、1人はお前さんくらいの少年じゃった。わしらはそいつらから身ぐるみを奪おうとした…じゃが!」ガタガタ

 

 

 

 

バキン!バコン!ドダダダダダダダダダダ!!!

 

 

 

 

『『『『『『『ぎゃああぁぁぁぁぁぁ!!!????』』』』』』』

 

 

 

長老が目にしたのはその女と少年に滅多滅多にぼこされる部下達の姿、周囲にはだらしもない格好で横たわるものや、飛び散った血が岩などにコベリついていた

 

 

「はぁ…はぁ…お、襲いかかったが運の尽きじゃった。あ…あ、あいつらは恐ろしい、恐ろしい悪魔じゃった!悪魔じゃった!?」

 

 

「ちょ、長老!落ち着いて!?」

 

 

急にものすごい勢いで怯え出す長老を慌てて沈めた

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」ゼーハー

 

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 

「あっ、あぁ…もう大丈夫じゃ……それから、わしらはしばらくものあいだ。その時の恐怖が頭をよぎり山賊稼業が続けられず、各地を彷徨い、行き着いた村に住み着き暮らしだした。それがわしらの村じゃ」

 

 

「な、なるほど、そう言うとでしたか」

 

 

村の誕生にそんな経緯があったとはと少年は息を飲んだ

 

 

「…あっ、そろそろ戻らないと」

 

 

「ふむ、ではわしも行くかの」

 

 

晩をやらせている勘二と後退するべく2人は出向く

 

 

「勘二、交代だ」

 

 

「あっ、了解。じゃあ二人共お願いします」

 

 

2人に晩を託し、勘二は昼休憩に行った

 

 

そうして2人は仕事を開始し、お客に野菜などを販売した

 

 

「しかし、あれからもう三年。何事もなく過ごせる幸せが此れ程まで素晴らしとは昔では考えられないことじゃったろうて」

 

 

「そうっすね。長老もそんな過去のことは忘れて今を生きましょうよ」

 

 

自分にそう言ってくれる者たちの存在に長老は深々と感謝する

 

 

「すみません。ここ八百屋さんですか?」

 

 

するとお客の声が、声の主は佐介と飛鳥とナナだった

 

 

あれから途方に暮れていた彼らがようやく見つけたのがここだった

 

 

「はいはい、そうですよ。なんになさいます?」

 

 

「そうですね~。…ってうわ~どれも新鮮でみずみずしさがいいですね」

 

 

「へへっ、当然ですよ。うちの畑で採れた野菜ですから」

 

 

「なるほど、ではこのきゅうりとトマト、キャベツなどを」

 

 

「はい、かしこまりました……はい、こちらお品物です!」

 

 

少年はテキパキと作業をこなし、野菜の入った袋を佐介に手渡した

 

 

「ありがとうございます。では」

 

 

「毎度あり~」

 

 

佐介たちを少年は笑顔で見送った

 

 

「いや~本当この街はいい街ですね~。ねぇ長老、来年もまたここで物売りにきましょうよ…って長老?」

 

 

浮かれ気分の少年だったが、長老からの返答がない、不思議に思った少年が振り向くと

 

 

そこには今までに見たことないくらい冷汗をかき、がたがたと震え上がる長老の姿が

 

 

「ちょ、長老?」

 

 

「な、ななな…なぜやつがここに!?」ガタガタガタ

 

 

震え上がる長老の眼に焼き付くのは飛鳥とナナと楽しそうにおしゃべりする佐介の姿が

 

 

「あ…あの顔、ま、間違いない!やつはあの時の!?」ガタガタガタ

 

 

その瞬間。再びあの日の惨劇がフラッシュバックする

 

 

「ひ、ひぃぃぃぃ!?こ、殺されるぅぅ!!??み、みんな!逃げろぉぉぉぉぉ!?あっはっはっは~~!!???」ブルブル

 

 

「ちょ、長老!?落ち着いてください長老!?」

 

 

「うわぁっは~~!!!????」ガビビーン

 

 

「ちょ、長老ぉぉぉぉぉ!!??」

 

 

恐怖に駆られる長老の断末魔が商店街中をかけめぐるのだった

 

 

「っ?」

 

 

 

 

余談だが、これがきっかけで以降、彼らがこの商店街を訪れることはなかったという

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 いつもと違った魅力

ブルン!ブロロロロロロロ!!

 

 

 

「うほ~!きっもち~♪」

 

 

「あまりはしゃぐな。危ないぞ?」

 

 

「いや~、すまんすまん。ついな♪」

 

 

「まったく」フフッ

 

 

この日、思いのほか仕事が早く終わった焔はアジトへの帰り路を歩いていると、そこに偶然同様に仕事を終わらせたばかりの光牙と出くわし

 

 

せっかくなのでD・ホイールに相席させてもらっているのである

 

 

「しっかし、本当に速いよなお前のバイク」

 

 

「ふっ、当然だ。毎日メンテは欠かしてないからな」

 

 

少し得意げな表情で焔に言い聞かせる

 

 

そんな時だった

 

 

不意に焔の腹がぐ~っと鳴った

 

 

「あっ…」

 

 

「腹が減ったのか?」

 

 

「い、いやこれはだな!」

 

 

必死に誤魔化そうとしたが再び焔の腹がぐぅ~っと鳴り、焔は顔を赤くして恥ずかしそうにしていた

 

 

「…ふむ、まだは時間が随分あるし、ちょっと寄り道してもよかろう」

 

 

「えっ?寄り道?」

 

 

「あぁ、ここからとなると…おぉ、丁度いいところにファミレスがあるな。なら今日はそこで軽く昼食でもとろう」

 

 

D・ホイールのナビゲーションシステムを起動させ、近くに手頃な飲食店がないかと検索したところ

 

 

タイミングよく近場にファミレスがあるのを見つけた

 

 

腹を満たすためにも店に寄ろうと提案した

 

 

「い、いいのか?無駄遣いは詠が怒るんじゃ?」

 

 

「心配するな。詠だってそこまで固くはない、理由を話せばわかってくれるさ」

 

 

詠とてそこまで鬼ではないはずと焔に言い聞かせる

 

 

「…そ、そうか?ふ、ふん。仕方ないな~お前がそこまで言うのなら行ってやらんこともないぞ~?」

 

 

「素直じゃないな。…そうと決まれば向かうとするか」

 

 

「おう!待ってろ~私の肉~♪」

 

 

「ふふっ」

 

 

最近肉が食べれなかったこともあり、ファミレスで肉系の料理を食べると言いながら浮かれる焔に思わず笑みをこぼす光牙だった

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして2人は目的のファミレスについた

 

 

店内に入店し、席に座り、メニューを決めた2人は数分後に運ばれてきた料理を食すのだった

 

 

「はぐっ…う~ん、うまい!ひさしぶりの肉は各別だ!」

 

 

「嬉しいのはわかるがそんなにがっついたら」

 

 

「むがっ!?」

 

 

「言わんこっちゃないな…ほら」

 

 

長らく口にしていなかった肉厚のステーキに感動と興奮を抑えられず無我夢中でがっつくが案の定喉に詰まったようで胸をとんとんと叩き出した

 

 

光牙から差し出された水を一気に飲み干し、深々と息を吐いた

 

 

「だぁ~、死ぬかと思った~」

 

 

「まったく、せっかちだな」

 

 

焔の子供のような仕草に光牙は和んだ

 

 

 

 

 

 

そんな風に食事に光牙と焔が興じている中

 

 

光牙たちの向かい側の席で体格は男だが口調が女生な、いわゆるオネェ系の人物3人がテーブル席で何か困った顔で会話をしていた

 

 

「どうするつもりなの姐さん?正直このままじゃまずいわよ?」

 

 

「早く代理のメンツを揃えないと」

 

 

「えぇ、わかってるけれど、他を当たったけどどうにもベストマッチするほどの子達が見つからないのよ~…困っ

たわね~」

 

 

途方に暮れながら頭を抱えていた時、他の2人から姐さんと呼ばれていた人が自分たちの向かい側の席に居る光牙と焔を捉える

 

 

「姐さん?」

 

 

「どうしたの?ぼーっとして?」

 

 

「いたわ…いたわよ!いい子達を見つけたわ!」

 

 

「本当なの?」

 

 

突然、先ほどまで落ち込んでた顔が嘘のように満遍の笑みを浮かべる姐さんに連れの2人がキョトンとなる

 

 

姐さんはそんなことはおかまいなしにと即、席を立ち、光牙と焔のもとへ

 

 

「ちょっといいかしらそこのお二人さん」

 

 

「「っ?」」

 

 

「はぁ~い♪」

 

 

「…誰?」

 

 

いきなり声をかけられた2人は当然のごとく麺を食らう

 

 

「ごめんなさいねいきなり声をかけちゃって、実はあたしこういうものなの」

 

 

そう言うと姐さんは光牙と焔に名刺を渡す

 

 

名刺には彼の名である「マミー」と彼の経営する洋服店の名前が書かれていた

 

 

「この店って確かここらじゃなの通った有名ファッションブランドショップじゃないか?」

 

 

「あらよく知ってるわね、そうよ。そこが私のお店なの」

 

 

「でもそんな有名店のオーナーが私たちに何の用なんだ?」

 

 

某有名洋服店のオーナーが直々に声をかけてくるなどどういう訳なのだろうと2人は不思議で仕方ない様子だった

 

 

「それがね。実は近々出されるファッション雑誌にうちの店の新作ファッションを載せる予定で、それを試着してもらって撮影してもらうモデルの子たちを雇ってたんだけどその子達が急に急用が出来たとかで来れなくなっちゃったのよ」

 

 

理由を説明しながらマミーは困ったようにため息を吐く

 

 

「でもモデルならいくらでも当てがあるんじゃ?」

 

 

「そうなんだけど、お恥ずかしながらなかなか私たちの作った服を着こなせそうな子が直ぐには見つからないもので、その子達だって必死になってようやく見つけたのよ」

 

 

別にモデルがダメというわけではない、だが、どの子も今一だったのだという

 

 

「だからどうしようかと思っていたら、そこにあなた達がいたというわけ…お願い、あなた達の力をかしてくれないかしら?もうあなた達が最後の希望なのよ!」

 

 

それはもう懸命に説得している感が半端ない様子だった

 

 

「…ところでその撮影日っていつなんですか?」

 

 

「…今日」ボソッ

 

 

「「今日!?」」

 

 

まさかの一言に2人は思わず声を荒らげた

 

 

「そう、今日なの!今日撮影ができなければ向こうにも迷惑をかけてしまうしうちの評価も下がっちゃうわ!…だからこのとおり、お願い!」

 

 

マミーの必死の訴えを見て2人はどうすべきかと考えるもここまで真剣に頼み込んでいるのを無下にもできないと考えをまとめた

 

 

「…わかりました。そこまで言うのなら引き受けましょう」

 

 

「ほ、本当!?」

 

 

「えぇ」

 

 

「あ~~、あぁぁ、ありがとう~♪あなた達は本当、あたしたちの救世主だわ~♪」

 

 

嬉しそうに瞳に涙をためながら抱きついたマミーに少しおおげさではないかと思うも喜んでるならいいかと思うのだった

 

 

 

 

 

 

 

ファミレスを後にした光牙と焔はマミー達と共に彼らの経営する店を訪れ、奥にある撮影ルームにやってきた

 

 

しばらくして撮影班の人たちもやって来てマミーが事情を説明し、承諾を得たことで撮影が開始されることになった

 

 

光牙と焔は別々の更衣室に案内された。そこではスタッフが待機しており、撮影用の服がいくつか用意されていた

 

 

そんな中、女子更衣室では焔が用意された服に着替えるよう支持されていたのだが…

 

 

「…こ、これを着るんですか?」

 

 

「はい♪」

 

 

「うっ…」

 

 

やたら満遍の笑みを浮かべてくるスタッフの女生を前に焔は言葉を失ってしまう

 

 

だが、焔は少し焦っていた

 

 

「(くぅ~…成り行きで引き受けてしまったが、う~ん)」

 

 

今、彼女が手に持っているマミーが一から作り出したオリジナルの服、ひらひらとしたフリルなどが施されたとても可愛らしいものだった

 

 

あまりおしゃれに関心がない焔にとってこういった服には少し躊躇いがある

 

 

自分にはとても似つかわしくないと思う、しかし一度引き受けておいてやっぱり嫌ですなんて言えるわけがない

 

 

しぶしぶその服に着替えてみた

 

 

横にある鏡に映った自分は可愛らしい召し物に身を包んでいた

 

 

「こ、これが…わたし?」

 

 

鏡に映る可愛らしい服を着た自分の姿を見て徐々に顔を赤らめる

 

 

「や、やっぱり似合わないんじゃないかな?」

 

 

「大丈夫ですよ。とってもお似合いです♪」

 

 

「そ、そう…?」

 

 

スタッフの嘘偽りない感想に気恥ずかしさを感じる

 

 

「ではメイクに移りますのでこちらに来てください。大丈夫、私が責任を持ってバッチリメイクして差し上げます!」

 

 

「あっ、あはは…お、お手柔らかに」

 

 

物凄い張り切りを見せるスタッフに思わずたじろぐ焔だった

 

 

 

 

 

そこから数分後が経過した

 

 

撮影場所には撮影スタッフとマミーさんが2人が来るのを心待ちにしていた

 

 

するとそこに先んじて現れる人影が

 

 

「あら、あらあらまぁまぁ、素敵~♪」

 

 

マミーが思わずうっとりとした先には

 

 

「お、お待たせしました」

 

 

「オーナー。お待たせです」

 

 

スタッフのメイクで一層美女と化した焔がいた

 

 

「うんうん、素敵よ焔ちゃん。良く似合ってるわね♪」

 

 

「ど、どうも」

 

 

衣装に身を包んだ焔をマミーが賞賛する

 

 

焔は相変わらず照れ隠しをしていた

 

 

その時だった

 

 

「オーナー、お待たせしました。こっちも終わりましたよ」

 

 

「お疲れ様、それで出来栄えは?」

 

 

「バッチリですよ…どうぞこちらへ」

 

 

「はい」

 

 

スタッフに先導されて光牙がやってきた

 

 

「あら、まぁまぁ~♪」

 

 

「っ…」

 

 

現れた光牙を見た瞬間、マミーは先ほどの焔と同じ態度を取っていたが、それと同時に焔も思わず目を奪われた

 

 

彼女達の前に現れた光牙は衣装のデザインもあってかいつも以上にかっこよく見えており、大人の男性っぽさが強調されていた

 

 

「とっても素敵ね光牙く~ん♪」

 

 

「えぇ、まぁ…ありがとうございます」

 

 

「うんうん、あたしの目に狂いはなかったわ2人とも最高に素敵よ♪」

 

 

此れ程までに自身が手がけた衣装を着こなす人材に巡り会えたことにマミーは新底喜んでいた

 

 

「マミーさん、そろそろ撮影に入りたいんですが~?」

 

 

「は~い、じゃあ2人ともお願いね」

 

 

「「はい」」

 

 

支持されるがままに2人は案内された場所に向かった

 

 

「はい、ではこれからシングルとペアの写真を撮っていくんでそのつもりで」

 

 

「わかりました」

 

 

「ではカメラの調整が終わるまで少し待っててくださいね」

 

 

撮影スタッフは光牙たちにそう言うとカメラを微調整し始める

 

 

いよいよ撮影なのかと焔は少し緊張をしていた

 

 

「……焔」

 

 

「な、なんだ?」

 

 

「その、だな……なかなか似合ってるぞ」

 

 

「ぬあっ///!?」

 

 

光牙からの賞賛の言葉に思わず顔を赤らめる

 

 

「~っ、そ、そうか?私にしてみればあんましこういった格好は似合わないと思うんだがな?あはは」

 

 

「そんなことはないぞ」

 

 

「へっ?」

 

 

冗談交じりでいった一言を即答で否定する光牙に思わず驚く

 

 

「お前は自分ではそうでないと思っているようだが、でもそれは違う。血気盛んで男勝りなとこは確かにお前の魅力でもある。みんなもそんなお前を尊敬している。だが、だからといって可愛らしい格好が似合わないなどということはない、いつものお前も十分魅力的だが、俺は今のお前も魅力に魅力的だと思うぞ」

 

 

「っ///!?」ボン!

 

 

光牙のその一言に焔は羞恥心MAXとなりぼんっという音とともに頭から煙をだし、顔はトマトのように真っ赤になっていた

 

 

「大丈夫か?」

 

 

「あっ、あぁ、あぁ…だ、大丈夫だ。…それよりお前だってすごくかっこよくなってるぞ!」

 

 

「…ふふっ、その言葉、素直に受け取っておくよ」

 

 

これ以上は恥ずかしさでどうにかなりそうだと感じた焔は慌てた様子で光牙を褒める

 

 

そんな彼女の心中を察していた光牙は何も言わずただ礼を述べるのだった

 

 

「はい、準備完了です。ではお二人共、よろしくお願いします」

 

 

「了解です…さぁ、いくぞ焔」

 

 

「あっ…あぁ」

 

 

光牙に導かれ、焔は彼と共に撮影に望むのだった

 

 

 

 

 

 

 

ブルン!ブロロロロロロロ!!!

 

 

 

「ふっ、今日は思いにもよらぬ体験が出来たな」

 

 

「あぁ、だが私としてはああ言うのは当分の間はないことを願う」

 

 

「そんなに非観することもあるまい。なかなか良かったぞ?」

 

 

「も、もう!またお前はそうやって!?」

 

 

あれから2人は撮影されては衣装を替え、また撮影という流れを繰り返し、無事載せる分の写真が揃ったことにマミーさんたちは大喜びし、これを機に友好関係を築くのだった

 

 

そして様々な愛らしい衣装を纏ったことをからかわれながら焔は光牙の運転するバイクに乗りながら家路に向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後に雑誌を購入した春香からそのことをからかい座間に問われた焔が発狂したのは言うまでもない……

 




ちなみにマミーさんのモデルはGBDのマギーさんですw


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 ビアフェスでのおしごと

昼下がりの商店街

 

 

そんな街の中を紫苑、四季、夜桜が歩いていた

 

 

「いや~本当助かったよ2人とも、何分急だったからさ~」

 

 

「気にしなくていいよ。丁度暇してたし」

 

 

「それに困った時にはお互い様ですよ」

 

 

「し、紫苑ちん、夜桜ち~ん…やっぱり2人とも頼りになるよ~♪MKだよ~♪」

 

 

道中、2人の心優しさに四季は感銘を受けながら抱きついた

 

 

3人が商店街まで出向いたのには訳があった

 

 

事の発端は逆上ること数十分前の事だった

 

 

その時刻、雪泉と叢、美野里は外出中であり、紫苑と夜桜が居残っていた

 

 

「……ふぅ~、今日ものどかだね夜桜」

 

 

「えぇ、そうですね…あっ紫苑、おかわりはいかがですか?」

 

 

「あっうん、じゃあもらおうかな」

 

 

「はい♪」

 

 

紫苑は縁台に腰掛けながら隣に座している夜桜が淹れてくれた緑茶を美味しそうに飲んでいた

 

 

こうして静かな雰囲気に和んでいた時だった

 

 

「はぁ~、どうしよう~、本当にどうしよう~」アセアセ

 

 

「「っ?」」

 

 

そこに困ったように苦悶の表情を浮かべながら四季が部屋にやってきた

 

 

「う~ん、どうしたら~?…ヒトミもシズエも都合悪いっていうし、ユウだけじゃ人手が足りないしな~」

 

 

何やら深刻そうな顔を浮かべる四季の態度を見て心配になった紫苑と夜桜が声をかける

 

 

「四季、どうしたの?そんな浮かない顔して?」

 

 

「何かあったんですか?」

 

 

「あっ…紫苑ちんと夜桜ちんktkr!これで勝つる~!」

 

 

「「えっ?」」

 

 

すると自分たちに気づいた四季が先ほどとは打って変わり、希望に満ち溢れたような笑みを浮かべていた

 

 

2人は何事かと思うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなやりとりもあいまって紫苑と夜桜は四季に釣れられるがまま街中を歩いていった

 

 

「お、ここだここ。2人とも~ついたよ~」

 

 

歩き続けること数分、ようやく目的地についたようである

 

 

「ここは…?」

 

 

3人がやって来たのは広場でそこはいつもなら静かな場所なのであるが今日はなぜか大賑わいだった

 

 

よく見ると入口の横に看板が建ててあり、そこには「本日ビアフェス開催」と書かれていた

 

 

「四季さん、これはいったい?」

 

 

「詳しいことはあとで話すからともかく行こう」

 

 

と言いながら賑わう人ごみの中を進んでいく3人はとあるテントキャンプにやってきた

 

 

「ちょり~っす、ユカ~アカリ~、ぉくごめぇ↓~おまたせつこ~♪」

 

 

「あっ、四季~」

 

 

「やっと来た~」

 

 

テントに着くと四季はそこで準備をしているフェス用のコスチュームに身を包んだ二人組のもとへやってきた

 

 

「四季、この人たちは?」

 

 

「そういえば顔を見るのは初めてだったよね。じゃじゃ~ん、これらはあたしのマブダチのユカとアカリだよ~」

 

 

「これら言うなし!…とりまそれはさておき、ちょりっす、四季の友達のユカで~す♪」

 

 

「同じくアカリで~す♪」

 

 

自己紹介をされるとともに息のあった動きで同時にピースサインを送る

 

 

それを見ていた紫苑と夜桜はこの乗りからして間違いなく四季の友達だと思うのだった

 

 

「ところで四季、後ろにいる人たちってもしかして?」

 

 

四季の後ろにいる紫苑達に気がついたユカが徐ろに訪ねてきた

 

 

「そだよ。じゃんじゃじゃ~ん♪ユカ達にも紹介するね。まず左にいるのが夜桜ちん♪真面目でちょ~っと頑固っぽいとこもあるけどめ~っちゃ頼りになるんだよ~♪」

 

 

「一言よけいじゃ!?…うっうん、え~、少し茶々が入りましたが改めまして夜桜です」

 

 

「お~、礼儀たたしい!しかもかぁいい!」

 

 

「うんうん!」

 

 

夜桜の態度と印象にユカとアカリの評価も好印象だった

 

 

「ねぇねぇ、もしかして右にいる銀髪の人ってまさか?」

 

 

「ふっふ~ん、アカリってばおめが高いね~?そう、右にいるのが紫苑ちん!街を歩けば10人中10人が振り向くほどの逸材なのだ~!」

 

 

「高らかにそんなこと言わないで!恥ずかしい///!?」

 

 

思わぬ紹介に紫苑は顔を赤らめる

 

 

「やっぱり、話しには聞いてたけど、すんごい美少女だね」

 

 

「それあたしも思ってた~。これは美人すぎてまじありえんてぃ~♪四季が羨ましいよ~」

 

 

「当然しょ♪」

 

 

「あの~、君たち~?」

 

 

勝手に自分の話題で盛り上がっている3人に思わず突っ込みを入れる

 

 

「ところで四季、そろそろ説明してくれるかい、ここに来た目的を?」

 

 

「あっ、すっかり忘れてためんごめんご、実はね、2人に来てもらったのは一緒に手伝いをしてもらうためだったんだよ」

 

 

「「手伝い?」」

 

 

四季が紫苑たちを連れてきた理由は手伝いをしてもらうためなのだと語る

 

 

「え~、実はっすね。もうわかってると思うっすけど今日はビアフェスの日でお客が集まるんですよ。うちらバイトとしてその手伝いをしに来たんです」

 

 

「でも困ったことにバイトに来るはずの子達が電車の人身事故の影響ですぐには来られなくなったみたいなんです。もう開宴まで時間ないのに」

 

 

「そんなわけで応援にあたしが名乗りをあげたんだけど残りの穴を埋めようにもなかなか人数が揃わなくて、そんなこんなで困ってたら紫苑ちんたちがいてくれたから声をかけたってわけ」

 

 

「なるほど」

 

 

理由を知った2人は納得した様子だった

 

 

「紫苑。ここは彼女たちのためにもわしらも一肌脱ぐべきですね」

 

 

「うん。そういうことなら僕たちも強力するよ」

 

 

紫苑と夜桜が快く引き受けてくれたことにホッと胸をなでおろすのだった

 

 

「じゃあ開宴まで時間ないしそろそろ着替えてもらおうか」

 

 

「そうだね。準備しなきゃ「てなわけではーいコレ!」……」アセアセ

 

 

ここで紫苑は青ざめる。ユカ達が出してきたのはもちろん女性用のフェス用の衣装だった

 

 

「し、四季」

 

 

「うにゅ?なに紫苑ちん?」

 

 

「あっ、あれ以外の服ってないのかな?あるならそっちにしてもらいたいんだけど?」

 

 

「な~んだ、そんなことか、もちろんあるよ。ちょっと待ってて」

 

 

その言葉に紫苑はホッとした

 

 

「はい紫苑ちん!」

 

 

「……えっ?」サメザメ

 

 

四季が見せたものはさらに派手で女の子感が強調されていた服だった

 

 

「ちょちょちょちょ、四季、僕が言ってるのはこういうのじゃなくてだね!」

 

 

「あれあれ~?紫苑ちん忘れてない~?自分の今の格好」

 

 

「格好……あっ」

 

 

指摘を受けた紫苑はようやくわれに返る。自分は今月閃の制服を着ている

 

 

つまり今自分は周囲には女性として見られているということだ

 

 

「こんな人の多い場所で男用の更衣室に行ったらバレるのは確実だよ~?それでもいいのかな~?」ニヤ

 

 

「……」アセアセ

 

 

紫苑はまんまと四季に乗せられていたのだと気づかされた

 

 

「紫苑、往生際はやめて諦めてください。大丈夫。着替えの際はわしらが手を貸しますから」

 

 

「うぅ~」

 

 

完全敗北、最初から紫苑には勝ち目などないのであった

 

 

しぶしぶ夜桜と四季に連れられ更衣室に向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてビアフェスが開宴した

 

 

開始早々からやってきたお客で大賑わいだった

 

 

「これと、これをお願いね」

 

 

「はいは~い、ご注文あざ~っす♪」

 

 

「生のおかわりくださ~い」

 

 

「かしこまりました。ただいまお持ちしますね」

 

 

次々と押し寄せるお客からの注文の嵐の中を四季と夜桜がハキハキとこなしていく

 

 

「すごいわね」

 

 

「うんうん…でも一番すごいのは」

 

 

その様子を傍から見ていたユカ達が唖然とする。しかし彼女たちの目を一層引いたのは

 

 

「お待たせしました。生二丁です。ごゆっくりお楽しみ下さい♪」

 

 

「あの~。注文いいですか~?」

 

 

「はい、ただいま承ります…はい、はい。ご注文承りました」

 

 

2人と同等かそれ以上の働きをしているのが紫苑だった。大ジョッキを四つ持って何往復するのも朝飯前、それ以外の雑務もテキパキとこなしていた

 

 

「さすが四季のファミリーだね」

 

 

「只者じゃないよ」

 

 

「ウチラも負けてらんないわね!」

 

 

「そうだね!」

 

 

紫苑たちの気迫に負けないぞと言わんばかりにユカ達も仕事に精を出すのだった

 

 

 

 

 

 

やがてフェスも終わり、会場も落ち着きを取り戻していった

 

 

「みんな、本当にありがとう、おかげで助かったよ~」

 

 

「オーナーも喜んでたね。ぜひうちで働いてみないかって言われたしねw」

 

 

「そ、それは勘弁してほしいかな~」

 

 

自分たちの本職が疎かになるのは願い下げなので煮え切らない顔を浮かべる

 

 

「でもさ、紫苑ちんの接客対応なかなかに様になってたよ」

 

 

「ちょ、四季!?」

 

 

「確かに、わしも感心してしまいました」

 

 

「夜桜まで!?」

 

 

みんなにからかわれ紫苑は小っ恥ずかしくなってしまった

 

 

「じゃあウチラそろそろいくね」

 

 

「また何かあったらヨロ」

 

 

「うん。じゃお疲れーしょん♪」

 

 

わかれの言葉をかわすとユカたちは帰っていった

 

 

「2人とも今日は本当にありがとね♪」

 

 

「いえ、気にしないでください、大変でしたがやりがいはありましたし」

 

 

「そっか、じゃあ次回も手伝ってもらおうかな~」

 

 

「ぼ、僕としてはもう勘弁してほしいんだけど」

 

 

会話が弾む中、紫苑は苦笑いしながらそう呟く

 

 

「え~?どうして?」

 

 

「や、だってあの格好すんごく恥ずかしかったし」

 

 

「でもとってもお似合いでしたよ?」

 

 

「そ、それにフェスに来た人のほとんどから「君、可愛いね」って言われて危うくナンパされそうになったりしたし」

 

 

フェスの短い期間に紫苑はいろいろ大変な思いだったようである

 

 

「まぁ仕方ないって…ほら、こんなに可愛いんだから~」

 

 

「っ!?うわぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「うわっと危ない!」

 

 

四季がスマフォを操作して2人に見せたのはフェスで仕事をしている紫苑の姿だった

 

 

それを見た紫苑が顔を真っ赤にして四季のスマフォを奪おうとした

 

 

「やめて!今すぐ消してその写真をーーー!!??」

 

 

「ダメだよ、これは帰って雪泉ちんたちにも見せてあげるんだから~」

 

 

「確かにこんな愛らしい紫苑の姿をわしらだけで独占はよくありませんからね」

 

 

「意味わかんないから!?ていうかそこを何とか!その写真だけは削除してーー!?!?」

 

 

 

こうして紫苑たちのビアフェスでのおしごとは慌ただしく幕を閉じたのだった

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 数年ぶりの日常

ある日のことだった。学園が休日ということもあり相馬はある場所を訪れていた

 

 

 

 

 

 

「はいこっち下書きできたわよ!仕上げお願い!」

 

 

「おうよ!任せとけ!!」

 

 

相馬が訪れた場所、そこは幼馴染である楓の家だった

 

 

そこで相馬は楓から頼まれ今度コミケに出版する作品の完成の手伝いをしていた

 

 

「もっとスピーディに!締め切りまで間に合わないでしょ!」

 

 

「うっせぇな!こちとら長年やって無かったからブランクがあんだっての!」

 

 

険しく必死な表情で握るペンをテキパキ動かしながら相馬は手渡された下書きの絵図を仕上げていった

 

 

 

 

その数分後

 

 

 

 

「しゃあ!間に合った!祝脱稿~♪」

 

 

「だぁ~…やっとか、くたびれた~」アセアセ

 

 

「ふぅ~、一時はどうなるかと思ったけど、これで締め切りには間に合うわね。あんがとね相馬」

 

 

「な~に気にすんな。今に始まった事じゃないしな」

 

 

数時間にわたり原稿を描き続けた2人はクタクタになりながらもお互いを労った

 

 

そんな中、不意に時計を見ると時刻はお昼頃になっていた

 

 

「12時ちょいか、ホッとしたら腹減ったな。…お昼どうするんだ楓?」

 

 

「う~ん、ってもな~、ご飯作るのはめんどいし、アイスとか食べたいからここはコンビニでいいんじゃない?」

 

 

「おっ、いいね、なら……あっ」

 

 

窓を見た瞬間、相馬たちは現状を思い出す

 

 

外は未だに猛暑、この中を歩いてコンビニ行くのは正直しんどい

 

 

「よし、相馬行ってきて」

 

 

「はぁ?なんでだよ!なんで俺が行くって話しになってんだよ?アイス食いたいって言ったのお前なんだからお前が行けばいいじゃんかよ!」

 

 

楓が勝手に自分が行く前提で話しを進めてくるので当然相馬は反論した

 

 

「「むむむむむむ~!」」

 

 

相馬と楓が互いにいがみ合う

 

 

直後座ったり寝そべっていた2人が一瞬で立ち上がり身構えながらにらみ合いを続ける

 

 

「「……最初はグー!じゃんけん!ぽい!!」」

 

 

どちらがコンビニでモノを買ってくるかを賭け、相馬と楓がじゃんけんをした

 

 

 

そしてその結果……

 

 

 

「じゃあ買いだしよろしくね~。あっ私ハーゲン○ッツのバニラ味、それからコーラかサイダーお願いね~」

 

 

「ぐぅ~。わかったよ買ってきますよ~だ」グスン

 

 

じゃんけんに負けた相馬は渋々買いだしに出向いた

 

 

 

 

 

 

「あ、暑い~(あじ~)、死ぬ~…くそ~、楓のやつ俺をこき使いやがって~」

 

 

猛暑の中、コンビニでの買い物を済ませた相馬はふらふらになりながらもなんとか家に戻ってきた

 

 

「うぅ~い、買ってきたぞ~楓~…ってあれ?」

 

 

帰ってきた相馬だったが部屋には待っているはずの楓の姿がないのに気づいた

 

 

あたりをキョロキョロさせるも姿がない

 

 

「どこいったんだ?人に買いだし行かせたくせしやがってよ?」

 

 

無責任だなとプンプンしていると

 

 

ふと洗面所の方から音が聞こえる

 

 

「あっちか」

 

 

居場所がわかったと相馬は洗面所のほうに向かい、ドアノブに手をかけ、ドアを開けた

 

 

「おーい楓、頼まれたもん買ってきた…ぞ?」

 

 

「ふぇっ?」

 

 

呆気にとられるのも無理はない、ドアを開けた相馬の視界に映ったのは新しい下着を着ようとしている楓の姿だったのだから

 

 

しばし2人ともぽか~んとした表情をしたが

 

 

直ぐ様我に帰った楓が顔を真っ赤にし始め

 

 

「ふん!」

 

 

「ぎゃふん!?」

 

 

相馬の顎に強烈な蹴りをお見舞いした

 

 

あまりの威力にそのまま床に倒れ込んだ

 

 

「このエッチ!バカ!変態!信じらんない!まったくもう!」

 

 

床に倒れこみ伸びている相馬に凄じい罵倒を浴びせながら再び洗面所のドアを閉めるのだった

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして新しい服に着替え終えた楓は相馬が買ってきたハーゲン○ッツを不機嫌そうな顔を浮かべながら食べており

 

 

一方の相馬はそんな彼女の前で正座させられ、首からは「私はとんでもないド変態野郎です」と書かれた板をかけられていた

 

 

「あ、あの~、楓さん?」

 

 

「なによ?何か言いたそうね変態が?」

 

 

「や、だからあれは不可抗力だろうがよ!着替え中だったなんて知らなかったんだって」アセアセ

 

 

「知らなかったらノックもせずに入るのはいいってわけ?」

 

 

精一杯謝罪を述べるも楓のド正論な発言に遇の目もでなくなってしまう

 

 

「ふぅ~。今回はこれで多めに見てあげるけど、次やったらこんなもんじゃ済まさないんだからね?いい?わかった?」

 

 

「い、yesマム!」ビシッ

 

 

凄じい勢いで睨みつけられた相馬はたまらず敬礼とともに了解の返事を送る

 

 

「ほら、あんたもアイス食べなさいよ」

 

 

「お、すまねぇな楓」

 

 

許してもらって早々に楓が相馬が自分用に買ってきたアイスを手渡してきた

 

 

ようやく食べれる。期待に胸膨らませながら蓋を開けると……アイスはすっかり溶けていた

 

 

「ぶふっ、せっかくのアイスが溶けちゃうとかカワイソスw」

 

 

「お、お前が長々と説教するからだろうがよチクショーー!!」

 

 

楽しみにしていたアイスが溶けていたことに虚しさと怒りを露にする相馬だった

 

 

 

 

 

 

そこからまた少しして昼を終えた2人は得にどうこうするわけでもなく部屋で寛いでいた

 

 

「…あっ、そうだ」

 

 

「ん?どうした楓?」

 

 

ベットの上で横たわり足を上下に上げ下げしながら漫画を読んでいた楓がふと何かを思いついたような態度を示した

 

 

「ねぇ相馬、以前あんたが追われて家に逃げ込んだことあったじゃない?」

 

 

「あぁ、あったな」

 

 

唐突に相馬と楓が数年ぶりに再会するきっかけとなったあの出来事の話題が出てきた

 

 

 

※詳しくは本編「新・蛇女子学園編 第十二章 波乱を呼ぶ再会」より

 

 

 

「で、それがどうした?」

 

 

「あ、いやただ…あの時、あんた雰囲気変わってたわよね?あの時は何がなんだかわかんなかったけど、今思うとまるであれは相馬じゃない誰かだったな~って気がしててちょっと気になったっていうか…ご、ごめんね、変なこときいたかな?」

 

 

何馬鹿なこと言ってんだろうと楓は気恥ずかしくなる

 

 

「あぁ、アオのことか。確かにあの時はアオが助けてくれたもんな」

 

 

「へっ?」

 

 

しかし相馬の思わぬ回答に楓は一瞬固まる

 

 

「今思い出してもアオがいなきゃ俺らこの場にいなかったかも知んねぇんだよなw」

 

 

『笑い事で済ませられることではなかろう。まったくお前というやつは』

 

 

「おいおいそんなこと言うなってアオ~」

 

 

「えっ?えっ?えっ?えっ?」

 

 

相馬にしてみればいつものもう1人の自分との会話だったが、事情が飲み込めない楓にとってはただの独りごとのようにしか聞こえない故に若干引いていた

 

 

『ソウ、少し俺に変わってくれないか?』

 

 

「えっ?なんで?」

 

 

『どうにも幼馴染さんが困惑しているようなんでな』

 

 

そのことを聞いて振り向くと確かに楓が鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた

 

 

「おいおい楓、もしかして俺のことおかしな奴だとか思ってないか?」

 

 

「えっ?…い、いや~そ、そそそんなわけ…ないじゃない」

 

 

楓はあくまで否定するもその目は明らかに泳いでいた

 

 

「確かにこりゃ、みせたほうが早いか…よし、じゃあそうすっか!」

 

 

このままでは変人扱いを受けてしまうので証明することにした

 

 

「楓、よく見とけよ。俺は決して変な奴じゃないってとこをよ…んじゃ頼むぜアオ」

 

 

『あぁ、了解した』

 

 

互いに意思疎通を終えると相馬は自身の意識を蒼馬にわたす

 

 

やがて目を見開くとその目つきは楓の知っている相馬との物とは変わっていた

 

 

あの時、自分を庇ってくれ時に見せた鋭い目つきに変わっていた

 

 

「…こうして落ち着いて会話を交わすのは初めてだな。名乗ったかどうかはさておき、自己紹介からはじめる。俺は蒼馬、ソウの中にいるもう一つの人格だ。よろしく頼む」

 

 

そして自己紹介をした蒼馬だったが気づくと楓が固まったまんまだった

 

 

「どうした?何か変なことでもあったか?」

 

 

恐る恐る手を触れると楓の身体がふとんの上に崩れ落ちた

 

 

「ちょ、どうした!?しっかりしろ!?」

 

 

突然の状況に驚きながら揺さぶってみると

 

 

「えっ…えぇ~」

 

 

「お、おいしっかりするんだ!?」

 

 

『ちょ、楓?楓ーーー!?』

 

 

信じられないものを見てしまった驚きから気を失ってしまっているのだった

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで楓が目を覚ます頃にはもう夕暮れ時だった

 

 

「う、う~ん」

 

 

「大丈夫かよ楓?」

 

 

「だ、大丈夫。まだ少し混乱気味だけど」

 

 

「そんなにかよ?」

 

 

あれから目を覚ました楓に蒼馬に関することを細かく教えた

 

 

楓は未だに信じられないような顔を浮かべるもとりあえずは納得した

 

 

「んじゃそろそろ行くな」

 

 

「うん、なんだかんだあったけど今日は本当助かったよ」

 

 

「気にすんな。また何かあったら言えよな力貸すからさ」

 

 

「…ありがと、相馬」

 

 

昔から変わらないなと楓は心の中でそのことを嬉しんだ

 

 

「じゃ、霞にも宜しくな~!」

 

 

「うん!あんたのほうも頑張んなさいよ~!」

 

 

こうして楓に見送られながら相馬は蛇女への帰り路を進んでいくのだった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 殿方の匂いは乙女をダメにする

※注意、この回は斑鳩の深刻なキャラ崩壊をえがいております


これらが苦手な方、または推しの方は注意してください


それでもいい方は、ゆっくり見ていってね♪


その日の夜、斑鳩は寮の自室のベットの上に座りながら困ったような顔を浮かべていた

 

 

 

「…はぁ、やってしまった。わたくしまたもややってしまいました」ショボーン

 

 

大きなため息を吐きながら再度斑鳩は自分の前に置いてあるものに目がいった

 

 

彼女の目の前にあるもの…それはタオルだった

 

 

なぜタオルのことでこんなにも悩んでいるのか

 

 

というのもこのタオル、普通のタオルではなかった

 

 

「…」ゴックン

 

 

つばを飲みこむとともに斑鳩がそっとタオルを手に取る

 

 

「あっ…あぁ……っ!?い、いけませんわわたくし!こ、このようなことはことは本来してはならないことですのよ!?」

 

 

必死に自問自答し、内なる自分を抑えようともがく

 

 

「~~…っ?」チラッ

 

 

しかし、その手に持つタオルを見るたびに内なる自分が悪魔の囁きを唱えるかのように衝動がこみ上げていく

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

ダメだとわかっている。わかっているのに思いに反して手がタオルを鼻先に近づける

 

 

そして堪えきれずに斑鳩は行為を起こす

 

 

「……すんすん……すうぅぅぅぅ~!!」

 

 

鼻先に持ってきたタオルの匂いをくんくんと嗅ぎだしたのである

 

 

「はぁ…はぁ…すはー!すーはー!すーはー!は、はひぃ~♪だ、ダメ、やっぱり堪りません!」

 

 

匂いを嗅ぐ度、斑鳩はハイなテンションになっていく

 

 

「くんくんくんくん…すはーすはー!はぁ、はぁ、はぁ、ふひ、ふひひ…」

 

 

徐々にそれは歯止めが効かなくなるほど激しくなっていった

 

 

「あぁ…あぁぁ~…佐介さんのにおい~、におい~」

 

 

ここで斑鳩の口から語られたこのタオルの正体、それは佐介が使っていたタオルだったのである

 

 

「はぁ…も、もう、本当にたまりません…佐介さん…佐介さん……佐介さぁ~ん…くんくんくんくぅぅぅ~~ん!」

 

 

タオルから漂う佐介の汗の匂いが斑鳩を興奮させていくのだった

 

 

 

 

 

数分後、ようやく落ち着いたように斑鳩が一息つく

 

 

「ふぅ~~……今日も堪能してしまいました。佐介さんの匂いを……」

 

 

そうしてしばらく優越感に浸っていた彼女だったが

 

 

「……って、にゅあぁぁぁぁぁ~~~///!?!?」

 

 

ハッと我に返り自分がまたも人として恥ずべきことをしてしまったと猛烈に頭を抱える

 

 

「はぁ…うぅぅ、ダメダメですわわたくし…どう足掻こうと結局は誘惑に負けてしまいます~」エグエグ

 

 

ベットの上で激しくのたうち回る

 

 

「…どうしてこんなことに」

 

 

斑鳩は頭を抱えながら自分がどうしてこうなってしまったのかを思い返す

 

 

事の始まりは数日前に逆上る

 

 

 

 

 

 

[数日前]

 

 

 

「ただいま戻りました……ってあら?」

 

 

外出していた斑鳩が寮に戻るとし~んと静かな雰囲気が漂っていた

 

 

「みなさんお出かけしてしまったのでしょうか?」

 

 

部屋を見て回るも誰もいないことから出かけているのだと悟る

 

 

しかしそのうち戻るだろうと得に心配することもなく、ちゃっちゃと1階での用事を済ませて自室に向かおうという考えに至る

 

 

そう思い立ち、リビングに出向いた時だった

 

 

「あら?」

 

 

不意に斑鳩の目に止まったのは机の上にちょこんと置かれたハンカチだった

 

 

「これ…佐介さんの?」

 

 

手に取り見てみるとどうやら佐介の私物のようだった

 

 

「置き忘れでしょうか?」

 

 

返してあげようにも当の本人がいないので困り果てる

 

 

「…それにしても、このハンカチ」

 

 

斑鳩は手にしている佐介のハンカチをマジマジと見る

 

 

「(佐介さんが使ってらっしゃるハンカチ…)」ゴックン

 

 

マジマジとハンカチを見つめながらこれが佐介が使っているものだと感じる度に彼女の中に妙な好奇心が生まれ始めた

 

 

佐介が普段から使っているこのハンカチにはそんな彼の汗の匂いなどがこれでもかというほど溜め込んでいるに違いない

 

 

考えれば考えるほど気になる。好奇心が疼いて仕方がない

 

 

「(…ちょ、ちょっとだけ…なら)」

 

 

もはや斑鳩は湧き出る好奇心を抑えきることができなかった。ゆっくりと鼻先にハンカチを近づけすんすんと匂いを嗅いでみる

 

 

「(っ!?)」ビリッ!!

 

 

その時、斑鳩に電流が走る

 

 

「(な、なに…香り!…こ、これが本当に殿方の匂いなんですの!?…さ、佐介さんの汗の匂い…汗の匂いなんて汚いはずなのに…でも、なんですのこの感じ?)」

 

 

斑鳩自身も何がなんだかわからないといった感覚に支配される。匂いを嗅げば嗅ぐほどにその匂いの虜になっていく

 

 

やめようと思っていても身体がそれを拒み続ける

 

 

「くんくん、す~~は~~、くんくん、くんくんくんく~~ん!!」

 

 

止められない、やめられない、佐介の匂いに斑鳩はもはや打ち勝つことができず、一心不乱に香しき匂いを堪能する

 

 

「ふはぁ~…はぁ…はぁ…、こ、こりぇが、佐介しゃんの…匂い…ふひ、ふひひひ…」

 

 

とうとう佐介の匂いを嗅いでしまった斑鳩はその匂いの虜になってしまった

 

 

「もっと、もっともっと…すぅ~~はぁぁ~~」

 

 

これでもかと斑鳩が佐介の匂いを堪能しているときだった

 

 

「ただいま戻りました~」

 

 

「ただいま~」

 

 

「あうぅ~♪」

 

 

「っ!?」

 

 

その時、突然帰ってきた佐介たちがリビングにやってきた

 

 

「あれ?斑鳩さん帰ってたんだ」

 

 

「うっうん…みなさん、おかえりなさいませ」

 

 

混乱しそうな気持ちを押さえ込み斑鳩は直ぐ様平常心を取り戻し、佐介たちのほうを向く

 

 

「みなさんお出かけしてらっしゃったのですね。姿がお見えになりませんでしたから」

 

 

「あぁ、それはねさっきまで佐介くんと一緒にナナちゃん用の洋服買いに行ってたんだ。ほらほら可愛いでしょ♪」

 

 

飛鳥は袋から買ってきたナナ用の服を見せる

 

 

「まぁ、本当、ナナさんにピッタリですわ」

 

 

「う~♪」

 

 

買ってきた洋服が似合うと褒められ、それが理解できるかのようにナナはぱぁっと笑みを浮かべる

 

 

「…あれ?」

 

 

「どうしたの佐介くん?」

 

 

「ううん。大した事じゃないだけど、たしかテーブルの上にハンカチを置き忘れたような気がしたんだけど?」

 

 

「っ!?」ドキッ

 

 

佐介からそのワードが出た瞬間、斑鳩はこの世の終りのように焦る

 

 

なぜなら話題にでたハンカチは彼女の手の中にあるのだから

 

 

「でもどこにもないよ?…きっと勘違いじゃない?」

 

 

「そうかもしれないね」

 

 

「(ふぅ~)」

 

 

どうやら気のせいということで処理されるようだと知り、斑鳩はホッと胸をなでおろす

 

 

「あぅぅ~」ぐぅ~

 

 

「いけない、ナナがお腹を空かせてますね…じゃあ僕はナナのご飯を用意しますね」

 

 

「私も手伝うね。じゃあ斑鳩さんまた後で」

 

 

「はっはい、わかりました……た、助かりました~」

 

 

物凄いひやひやものだったが、斑鳩は緊張が解けるやその場にへなっと倒れ込むのだった

 

 

 

 

 

これが、事の始まりだった

 

 

 

 

「そう、…あのハンカチから全てが始まってしまったのです」

 

 

ハンカチがトリガーとなり、それからの斑鳩の行為は日に日にエスカレートしていった

 

 

最近はハンカチに始まり、佐介が置き忘れた彼の匂いがするものはバレないよう回収するという蛮行に走り、自室に持ち込み匂いを堪能するというのが日々の彼女の日課になってしまった

 

 

だが、そこはクラス委員の斑鳩、続けば続いて行く度に罪悪感がめぐり、このままではいけないという思いを抱いていく

 

 

「…決めましたわ。今度こそわたくしはこのような行為を脱することを!」

 

 

斑鳩は決意を新たに心に告げる

 

 

「このようなことをしていてはいつか変態のレッテルを貼られてしまいますもの…佐介さんに嫌われるのだけは避けたいですし」

 

 

大好きな殿方である佐介に嫌われるのだけは回避したいと斑鳩は思った

 

 

「さて、では気持ちを落ち着かせるためにシャワーでも浴びにいきましょう」

 

 

心を清らかにするためにもシャワーを浴びに行こうと浴場へと向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

数分後…カッコ~

 

 

 

 

 

 

「くんくんくんくん、すぅ~はぁ~すぅ~~~はぁ~~~…さ、さしゅけしゃんのしゃ、シャチュの…匂い~~♪……ってあれっ!?」

 

 

我に返るもとき既に遅し、彼女の手にはいつの間にか浴場の洗濯機から無意識に拝借していた佐介のシャツが握られ、さらにいつの間にかその匂いをこれでもかと嗅ぐ自分の姿が

 

 

「まっ、まっ、まっ、…またやってしまいました~~~~~~~~~~~//////!!!!!!!???????」

 

 

彼女がこの呪縛から抜け出すのは当分先になることだろう……

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 友達100人出来るかな?

それはとある日のことだった

 

 

「愛花ちゃん、重くはありませんか?」

 

 

「大丈夫ですよ詠お姉ちゃん、これでも鍛えてますから」フンフン

 

 

「うふっ、そうですか」

 

 

詠とともに愛花が今晩の晩ご飯の買いだしに出ていた

 

 

大きな袋を抱えながら帰り路を歩いている時のことだった

 

 

「…あっ」

 

 

「どうしました愛花ちゃん?」

 

 

愛花の視線を釘付けにしたもの、それは…

 

 

「なぁなぁ、今日の体育楽しかったな~」

 

 

「俺今日ドッジボールで3人にボールぶつけてやったぜ♪」

 

 

「はしゃぎすぎよ、もう」

 

 

ランドセルを背負い帽子を被った下校中の小学生達だった

 

 

その様子を見て再び愛花に視線を向けて見ると愛花それを羨ましそうな目で見つめていた

 

 

この時、詠は愛花の秘めた想いに気づいてしまうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、愛花が寝静まったことを確認するや、急遽光牙たちをリビングに招集する

 

 

「して詠、聞かせてもらおうか、いったいなんのようで俺たちを集めたんだ?」

 

 

光牙たちはまだ招集を受けただけで詠から詳しい事情を聴いていなかったのでなにごとかと思っていた

 

 

「実は…愛花ちゃんを学校に通わせてあげたいんです」

 

 

「学校に?」

 

 

「詳しく聞こう?」

 

 

「買い物を終えて帰る途中、学校帰りの小学生たちと遭遇しまして、その子達を見ていた愛花ちゃんがとても羨ましそうな顔をしてました。…きっと学校に通ってみたいんだと思うんです。貧民街では学校にすら行けず、学校に行ける子達を羨ましがる子達が多かったですから」

 

 

詠の説明を聞いたほかの面々はその意見に考えさせられる

 

 

愛花は紅蓮竜隊の仲間とはいえまだ一桁の年齢、本来なら学校に行っている年頃だ

 

 

しかもこの中で彼女と同年代は一人としていない

 

 

大人ばかりのこの環境では今の愛花に必要でありそうなものが不足しているのではないかという考えが生まれ出す

 

 

「私は詠ちゃんの意見に賛同するわ」

 

 

「春花?」

 

 

「愛花ちゃんには修行以外にも学ぶことが必要だものね」

 

 

「…春花さん」

 

 

最初に賛同したのは春花だった。彼女には知誠を与えるべきだと意見し、それに焔もうんうんと頷いていた

 

 

「で、でも学校に行けばいじめに遭うかも知れないよ?あたしは愛花に辛い思いをしてほしくないよ」

 

 

反論として未来が意見する。もしかしたら自分のようにいじめに遭うかもしれないことを危惧してのことだった

 

 

「……光牙くんはどう思う?」

 

 

意見がしっかりとした纏まりをみせない中で春花が光牙に話しを切り出す

 

 

「やはりここは本人に直接聞くのが一番だろう。詠や春花達の意見は最もだが未来の言い分も一理ある。だからこそ早期解決の一番の手は本人の意見を聞いてみることだと思う」

 

 

光牙のその提案に一同も承諾し、明日、愛花から意思を聞くことになった

 

 

 

 

 

時は流れ翌日の朝

 

 

 

「えっ?私が学校に?」

 

 

「あくまでお前次第だ。お前が学校に行きたいと言うのなら俺たちが力を貸すぞ」

 

 

「で、でも」

 

 

「愛花ちゃん、あなたはいつも一生懸命に頑張ってらっしゃいます。そのことに関してわたくし達は大変感謝してるんです。だから迷惑だなどとは考えず、自分の思うままに打ち明けてください」

 

 

愛花は深く考えている様子だった。どうしたいかを自分なりにしっかりと考える

 

 

しばらくして決心がついたように俯いていた顔を上げ光牙たちに視線を向ける

 

 

「ししょう、みなさん。わたし、学校に行ってみたいです!」

 

 

心の命じるまま、愛花は光牙たちに思いを告げる。貧民街にいた頃から憧れていた学校に行ってみたいという願望を包み隠す伝えた

 

 

「…決まりだな」

 

 

「…うん、愛花がそう言うなら」

 

 

彼女の思いを受け取った光牙は軽く呟くと同時に未来のほうを見る。未来のほうも愛花が自ら選んだのなら応援すると言ってくれた

 

 

「さぁ、そうと決まればいろいろ準備が必要ね。忙しくなるわね」

 

 

「そうですわね!」

 

 

学校に行くと決まったからにはすべきことが山ほどあった

 

 

編入の手続き。学校に行くにあたり必要な物資、学校に通うための費用などの用意に大忙しだった

 

 

焔や未来、日影などが愛花とともにランドセルや物資の調達に動き、学費などは詠が担当し、光牙と春花は手続き

などのために学校に趣いたり資料作成に余念がなかった

 

 

 

 

 

だが、それらの過程を経てついにその日は来た

 

 

 

「うわ~、いい、いいよ愛花!」

 

 

「確かに、すごくいいな!」

 

 

「とっても似合ってますよ」

 

 

賞賛の声を送る焔たちの視線の先には

 

 

「本当ですか?うれしいです!」

 

 

赤いランドセルを背中に背負い、編入先の学校の制服に身を包んだ愛花の姿があった

 

 

その尊さに焔も未来も思わず涙目、詠も絶賛の声を送る

 

 

「お~、馬子にも衣装ってやつやな?」

 

 

「こらこら日影ちゃん、それ言うタイミングが違うわよ?」

 

 

「そうか?…そらすまんかった」

 

 

本人には悪意はないが場違いな言葉を送っているので春花から突っ込みをもらうのだった

 

 

「ししょう、どうでしょうか?」

 

 

「あぁ、とっても似合ってるぞ」

 

 

「…はい、ありがとうございます♪えへへ~、ししょう~♪」

 

 

「こらこら…まったく」

 

 

愛花が自分の晴れ姿を一番見てもらいたかった光牙に披露し、彼から賞賛の言葉を送られ、思わず抱きついてきた

 

 

そんなあまえんぼさんの彼女の頭を軽く撫でながら光牙はふと自分に娘がいたらこんな気持ちなのだろうかと思うところがあったのだった

 

 

 

 

 

 

ところ変わって場所は愛花が通うこととなる小学校前に映る

 

 

話し合いの結果、保護者役として焔と未来が名乗りをあげたが、2人では保護者役としては役不足だと人蹴りされてしまった

 

 

ゆえに適任者として光牙と春花が保護者役に収まった

 

 

学校に到着すると既に校門の前では生徒たちが門を通って学校に入っていく姿が目に入る

 

 

「…」ゴックン

 

 

「緊張してるのかしら愛花ちゃん?」

 

 

「え、えへへ…ま、まぁ」

 

 

春花の問いに愛花は素直に自分の気持ちを伝えた

 

 

無理もない、今まで学校に通うことすらできなかった少女が学校に通うのだ

 

 

不安にならないわけがなかった

 

 

「臆するな愛花」

 

 

「ししょう?」

 

 

「お前は紅蓮竜隊の一員で俺の愛弟子だ。お前ならどんなことでもしっかりやっていけるはずだ。俺はお前を信じてるぞ」

 

 

「はい!愛花、気合入れていきます!」ヒエ~~!

 

 

光牙に期待を裏切らないためにも全力を尽くすと心に誓う。そのせいか愛花の背後に何者かの影が浮かんでいるような気がした

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、ここは3-2の教室、これから愛花が過ごす学年である

 

 

「「「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」」」

 

 

「はい、おはようございます。今日は皆さんに新しいお友達を紹介します。では自己紹介を」

 

 

「は、はい、えっと、みなさんこんにちは。愛花と申します、これからよろしくお願いします!」

 

 

先生に諭されるように愛花は精一杯元気な声で自己紹介をした

 

 

愛花を見たクラスの子達が盛大に彼女を出迎える。愛花はとてもホッとした様子だった

 

 

そんな愛花の様子を窓の外の大きな木から覗き込む者たちが…光牙と春花だった

 

 

「どうにか無事打ち解けられそうね」

 

 

「あぁ、…頑張れよ愛花」

 

 

クラスメイトに囲まれる愛花の姿を光牙たちは微笑ましそうに眺めるのだった

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 可愛いは正義、だプリ♪

仕事が忙しくて本編のほうに力込めてるせいでおろそかになってしまいましたね


久方ぶりに投稿できました


ではどうぞ


⦅月閃女学館 忍部屋⦆

 

 

 

「…ふぅ~、今日もお茶がおいしいな~♪」

 

 

今日もまた何もない穏やかな平和な時間を噛みしめながら縁台の上に腰掛けながらお茶を啜っていた

 

 

「し、紫苑ち~ん!?」

 

 

「ぶふぉっ!?」

 

 

そんな時、突然四季の声が聞こえたと同時に彼女が盛大にぶつかってきた

 

 

「げほっげほっ!…い、いきなり何をするんだよ?」ムセムセ

 

 

ぶつかった衝撃で紫苑は飲んでいたお茶を盛大に吹き出し、噎せる。若干池の方にミニ虹ができていた

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃないんだって!雪泉ちんが、雪泉ちんが~!!」

 

 

「えっ?雪泉がどうしたの?」

 

 

「雪泉ちんが壊れちゃったんだ!」ガビーン

 

 

「……はっ?」

 

 

四季の言っていることがわかない紫苑は困惑する

 

 

「ちょ、ちょっと四季ったら何をいってるの唐突に?雪泉が壊れただなんて?」

 

 

「ホントもホント、ホントなんだってば~」アセアセ

 

 

俄かには信じられないが

 

 

「ここにいた。四季ちゃん急に駆け出したと思ったら紫苑のとこに言ってたのね」

 

 

「っ!?」

 

 

「あぁ雪泉、ちょうどよかった。四季が雪泉が変になったって聞いたんだけどどういうこ、と、なの?」アセアセ

 

 

声からして雪泉だと分かり四季の後からやってきたのだと察し

 

 

さっきの四季の言っていたことの真意を聞こうと振り返った瞬間、紫苑は固まった

 

 

紫苑たちの前に立っているのは紛れもなく雪泉、しかし紫苑が固まるほどまでの衝撃を受けたのは彼女の格好だった

 

 

普段の彼女からは想像も付かないようなフリフリがついたどこぞのアイドルが着るようなドレス姿を自分たちの前にさも堂々と晒しているのだから

 

 

「ゆ、雪泉?ど、どうしたのその格好?」

 

 

「うふふ、どう"プリ"?似合ってる"プリ"~?」

 

 

「ぷ、プリ!?」

 

 

更なる激震が紫苑を襲う、格好だけにとどまらず口調もいつもと違うし、挙句の果てには語尾に「プリ」をつけている始末

 

 

もはや頭の中がこんがらがりそうな勢いで状況にまったくと言っていいほどついていけなかった

 

 

「ね、ねぇ、これでわかったっしょ?雪泉ちんが壊れちゃったってこと」

 

 

「えっ…えぇっと~」

 

 

四季に問われるも紫苑からしてもどう言葉に表せばいいのか反応に困り果ててしまう

 

 

「もう四季ちゃん、ひどいプリ。私壊れてなんてないプリよ?」プンスカ

 

 

「そ、そう…だね、ご、ごめん雪泉ちん」アハハ

 

 

「わかってくれたならうれしいプリ♪」

 

 

謝罪の言葉を述べるとそれを聞いた雪泉が機嫌を直したようであり、とりあえずは一安心といったところだった

 

 

「ふぅ~…なんとか機嫌直してくれたようでよかった」ボソリ

 

 

「ところで紫苑♪」

 

 

「ふぇっ!?」ビビクン

 

 

ほっと胸をなでおろしかけた瞬間、再び雪泉が紫苑に話しかけてきた

 

 

しかも若干顔が近いのでアタフタものだった

 

 

「な、何かな?」

 

 

「どうプリ?今の私の姿」

 

 

「ど、どうって?」

 

 

「私、可愛いプリ?」

 

 

そう問われてもここまでのインパクトにやられてしまった紫苑の思考ではどう反応していいのかわかったもんではない

 

 

「う、うんか、かわいい、と思うよ」

 

 

ともかく彼女の心を傷つけることはあまりよろしくはないので紫苑は雪泉の格好を可愛いとほめる

 

 

「そうプリ!うふふっ、紫苑にそう言ってもらえるなんて嬉しいプリ~♪」

 

 

紫苑に可愛いと言ってもらえてとてもうれしそうにしている

 

 

やはり普段の彼女を知ってるがゆえに違和感をバリバリに感じてしまっていた

 

 

「にしてもどうしたんだい雪泉、急にそんな格好して?」

 

 

「えっ?」

 

 

「(紫苑ちん、ついにそこに触れたか!)」アセアセ

 

 

これ以上何も聞かずしてこの状況を黙ってみるのはさすがにきついと考えた紫苑が意を決して雪泉に尋ねる

 

 

「よくぞ聞いてくれたプリ。紫苑、私は気づいたのです」

 

 

「気づいた…ってなにに?」

 

 

「正義とは何か…だプリ♪」

 

 

「は…?はぁ?」

 

 

雪泉がこのような格好をしているのは正義によるものだというが正直まったくと言っていいほど紫苑には理解できない

 

 

正義がなにかの答えがどうしてこのような形になっているのかと

 

 

「四季ちゃんに正義とは何かを尋ねられ、私は正義について一生懸命に考えたプリ、でも考えても考えても明確曖昧なものばかりで明確な答えは見いだせなかったプリ」

 

 

「う、うん。それで?」

 

 

「それでも私はめげずにその答えを探し続けたプリ、そしてとうとう私はその答えにたどり着いたんだプリ!」

 

 

胸高らかに雪泉がいい放つ、そして雪泉が自身が見出した答えを告げる

 

 

「ずばり、正義とはすなわち「可愛い」ということだプリ!」

 

 

「「………はい?」」ポカーン

 

 

雪泉の口から放たれた答えに紫苑と四季は鳩が豆鉄砲を食ったような顔を浮かべる

 

 

「これが私が見出した「正義」だプリ」

 

 

「…えっ?あぁ、いやいや、ちょ、どういうことなの?どうして可愛いが正義に繋がるの!?」

 

 

一瞬ぽか~んとなってしまっていた紫苑だったがすぐさま我に返るや雪泉にその心を問う

 

 

「紫苑、よく考えてみてほしいプリ。考えてみれば簡単なことプリ、この世は可愛いければ全てが許される。可愛ければ人々をいやすことができる。そして可愛ければ人々は幸せになり世界に平和をもたらすことができるんだプリ!」

 

 

「「っ!!?」」

 

 

目をきらびやかにさせながら雪泉は心の底から自らの意向を示す

 

 

そのあまりの説得力に思わず言葉を失ってしまう

 

 

「す、すごい、すごい説得力だ!」

 

 

「一瞬、思わずそうかもって思っちゃったよ」アセアセ

 

 

何という圧倒的なものを今の雪泉からは感じられる

 

 

これほどまで強い信念、彼女が自身で見出した正義の形

 

 

それらを考えるとなかなかどうして紫苑と四季も考えるところがあると思わずにはいられなかった

 

 

「なるほど…雪泉、君の思い描く正義への思い。僕、感服したよ」

 

 

「うんうん、あたしも、最初はびっくりしたけどすごいじゃん、さすがだね雪泉ちん!」

 

 

「ありがとうございます2人とも」

 

 

紫苑と四季が自分の正義をここまで評価してくれたことに雪泉は心がほっとなる

 

 

「うんうん、そっか。それが雪泉が導き出した正義か。なら今後も頑張っていってね、僕も全力で応援するから」

 

 

見出した正義を貫こうとする雪泉を応援していくことを紫苑は告げる

 

 

「ですが私だけではまだまだ不安も多くて」

 

 

「雪泉、大丈夫。雪泉ならできるよ」

 

 

いざ切り出してはみてもやはりどこか不安もある様子だった

 

 

それを見かねた紫苑が励ましの言葉を送る

 

 

「本当にそうでしょうか?」

 

 

「うん。もし心配なら僕も力を貸すよ」

 

 

「紫苑…」

 

 

励ましの言葉を聞いて雪泉もぱぁと明るい顔を浮かべる

 

 

「(よかった。これなら大丈夫だろう)」

 

 

雪泉を信じて精一杯の手助けをしてあげようと紫苑は思った

 

 

 

ガシッ

 

 

 

「ん?」

 

 

だが、その矢先、手に妙な違和感を感じ、恐る恐る見るといつの間にか雪泉が自分の手をがっちりと掴んでいた

 

 

「あ、あの雪泉?なにしてるのかな?」

 

 

「紫苑、お願いがあるプリ」

 

 

「な、なに?」

 

 

「私と一緒に正義(かわいい)を広めましょうプリ!」

 

 

一瞬、雪泉が何を言ってるのだろうと小首をかしげる

 

 

「えっと、一緒にって?」

 

 

「はい、ですから私とともに正義(かわいい)を世界に知らしめるのですプリ!」

 

 

「…ま、まっさか?」アセアセ

 

 

ずばり、雪泉が言っていることの意味、それは紫苑が雪泉のような格好で世界に正義(かわいい)を届けることだということを察した

 

 

「……」アセアセ

 

 

「さぁ行きましょう紫苑、ともに世界に正義(かわいい)をお届けに。だっプリ!」

 

 

「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「あっ、逃がしませんよ紫苑!待ちなさいだプリ!」

 

 

身の危険を感じ、即手を振りほどき逃げ出す紫苑を雪泉が追跡し、逃走劇の幕が上がった

 

 

「あ~りゃりゃ、たいへんだこりゃ」

 

 

「お待ちください紫苑!ともに正義(かわいい)を極めましょうプリ!」

 

 

「絶対に、いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 科学の力ってスゲー!

とある日、とある時刻、蛇女子学園にて……

 

 

 

 

 

⦅蛇女子学園 研究施設⦆

 

 

 

ここは主に授業などで使われる傀儡を製造する場所であると同時に傀儡製作部部が部活動の一環として使っているとこでもある

 

 

そんな場所で今まさにあるプロジェクトが行われようとしていた

 

 

「な、なぁ?」

 

 

「はい、なんですか?」

 

 

「本当に大丈夫なんだろうなこれ?危なくないよな?」

 

 

恐る恐る訪ねるは頭に変な装置を取り付けられた相馬だった

 

 

「大丈夫ですよ……多分」

 

 

「あぁ!今すんげぇ微妙な顔した!したよね今!?」

 

 

「さっ、さぁ、なんのことやら~wあっ、もうすぐ準備が終わるんでもう少し待っててくださいね~ww」ビュ~ン

 

 

「ちょ、待って!……うぅ、超不安だ」シクシク

 

 

曖昧な答えを返されてしまい、急に不安で胸がいっぱいになる

 

 

「情けないぞ相馬」

 

 

「あうっ?」

 

 

「今更うだうだ言ってどいうする?男ならもっと潔くしたらどうだ?」

 

 

そんな相馬の元にやってきたのは雅緋たち他の選抜メンバーだった

 

 

「たくっ他人事だからって言いたい放題言いやがって」ブーブー

 

 

「まったくいつもいつも子供みたいに…本当に情けないなお前は?せっかくみんなが選抜メンバーとしても忍としてもお前のことを認めてくれたんだぞ?その期待を裏切るようなことばかりはするなよ?」

 

 

「へーへー、選抜筆頭様は相変わらずご立派なこって、でもさぁ、お前そういう感じだからみんなに女扱いしてもらえないんじゃねぇのw?」

 

 

「なっ!?わ、私のことは今関係ないだろ///!?」

 

 

説教を受けた意思返しと言わんばかりに嫌味を言う相馬に雅緋は顔を真っ赤にしている

 

 

「大丈夫だよ雅緋、そんな君がボクは大好きだから」キラーン

 

 

「それ…フォローに、なってない…よ?」ボソリ

 

 

そんな雅緋を精一杯フォローしようとする忌夢だったが

 

 

まったくもってフォローになってないことを紫に突っ込まれてしまうのだった

 

 

「で、本当に成功すんのこれ?」

 

 

「知らねぇよ。それは部長さんたちに聞いてくれって」

 

 

「あっそ……んでもって、あんたはいつまでそうしてるつもりよバカ犬?」

 

 

「はう~ん、いい、いいよ両備ちゃん!その冷たい視線たまんな~い♪」

 

 

両備が軽く相馬と話すとすぐさま真横の両奈にいる両奈を冷えた目でみると

 

 

相変わらずの反応を示す両奈だった

 

 

「まったく、ちょっと落ち着いたらどうなのよ?」

 

 

「え~?でもでも~これが成功したら両奈ちゃん的にも最高なんだも~ん」

 

 

「まだ成功するかもわからないんだから期待しすぎなんじゃないかしら?」

 

 

そういいながら両備も両奈が見据える先に目を向ける

 

 

両姉妹の視線の先にあるもの、それはこの現状の発端ともいえるもの

 

 

…2人が見ている先にはなんと相馬にそっくな人形が置かれていた

 

 

「ふむむむ、それは心外ですね」

 

 

「「っ?」」

 

 

「まぁ確かに多少の危険性は否めませんがそれでも検証は怠りませんでしたので成功はほぼ間違いないと自負しております」フッフ~ン

 

 

「自信満々そうに言ってるけど実際危ないのは俺だかんな?」

 

 

鼻高らかに胸を張る部長に相馬がツッコミを入れる

 

 

 

 

 

 

「しかしよくできてるな?」

 

 

「うん、これが傀儡だなんてまだ少し疑ってしまう程だよ」

 

 

「ふっふっふ~、時代は今も進化しているのですよ!ゆえに傀儡もまた進化している。そして今回我々は技術と推移、そして汗と涙、しいては寝る間も惜しみようやく完成させたのがこの一品というわけです!」

 

 

 

パァァン!

 

 

 

「かねてより頂いていた相馬さんのプロフィールを元に持てる技術のすべてを注ぎ込み、顔の造形はもちろんのこと本物の人の肌に近づけるべく改良に改良を重ね、こうして完成させたのがこのリアル人型傀儡なのです!」

 

 

「「「「「おー!」」」」」

 

 

「まぁ、ですがあまりにも貴重な素材ばかりを使用したがゆえに仮に量産するとなると通常の傀儡が20体は作れてしまう程の予算がかかってしまうのが難点ではありますが」

 

 

「「「「「あー…うん…」」」」」

 

 

中々にハードルが高いのだということを選抜メンバーたちは察した

 

 

「でもこれくらい何ともありません!このプロジェクトはいわば我々の学園に対する罪滅ぼし!それを思えばこのくらいははたいしたことありませんよ!」

 

 

このプロジェクトの発端は彼女は以前傀儡制作部が起こしてしまった傀儡暴走事件が原因なのであった

 

 

 

※詳しくは本編「君と仲良くなりたくて」を見てね!

 

 

 

という感じに雑談にいそしんでばかりでいる皆に忘れられてしまっていることに相馬は涙目待ったなし状態だった

 

 

『……』

 

 

「っ?」

 

 

そんな中、相馬の視界に映ったのは自分にそっくり傀儡をじっと見つめるもう1人の人格である蒼馬だった

 

 

「アオ、そんなに待ち遠しいのか~?」

 

 

若干皮肉めいたような言い方で蒼馬に問いかけてみた

 

 

『っ…わ、悪いか?』ハズ

 

 

「すねんなすねんなwまぁ、お前にとってこれはとても重要な事だろうしな」

 

 

『…まぁな』

 

 

冗談こそ言ってはいる者のこれが蒼馬にとってどれほど重要なのかは相馬も分かっている

 

 

これが成功すれば蒼馬にとってどれほどよろこばしいことになるのかを

 

 

「さて、では相馬さん、そろそろ始めようと思うんですがいいですかね?」

 

 

「おっ、だそうだぞアオ」

 

 

『あぁ、…みたいだな』

 

 

いよいよ始めるのかと思うと少し緊張気味ではあるが興奮が収まらない様子の蒼馬だった

 

 

「では始めます。ポチっとな」ピッ

 

 

軽い乗りながらも起動ボタンを押した瞬間、マシーンが動き出す

 

 

「おっ、ランプが光りだした!」

 

 

「いよいよね!」

 

 

近くで見ている雅緋たちもわくわく気味だった

 

 

がごがごと装置が揺れ動く

 

 

しかし数分して装置に異変が

 

 

「あっ、あの?…何か様子が変な気がするんですけど?」

 

 

「だ、大丈夫ですよ」アセアセ

 

 

紫が問うも部長は大丈夫だと言い張る

 

 

だが、それに比例して今度は磁波も発生する

 

 

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

 

 

「大丈夫…じゃないかもしれませんね」アセアセ

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、そんな不安な顔されたらこっちも不安になるんですが?」アセアセ

 

 

その場にいる全員に焦りが見え始める

 

 

さらにその刹那、マシーンがオーバーヒートし始め、モニターから「危険」の文字が

 

 

「こ、これは相当やばいんじゃないかしら?」

 

 

「ぶ、部長さん?」

 

 

「ここはひとまず……総員撤収!」

 

 

ワー!!という掛け声で皆一斉に逃げる

 

 

「ちょ、ちょっと!おおお、俺を置いてくなって!」

 

 

この危なっかしい状況、速く逃げなきゃと思う相馬だったが手足は固定されて動けない

 

 

「だ、誰かたちけて!!」

 

 

 

キュピーン!

 

 

 

「へぇ?‐‐―」

 

 

相馬が助けを求めるも時すでに遅し

 

 

 

ボバァァァァァァン!

 

 

 

オーバーヒートによる爆発が発生し建物が全壊してしまった

 

 

 

 

「げほっ、げほっ…み、皆さん大丈夫ですか?」

 

 

「あっぁぁ、何とかな」

 

 

爆発の直前、逃げのびた全員が煙に噎せながらも無事を確認する

 

 

「そ、相馬は!?」

 

 

唯一取り残された相馬の安否を皆が心配する

 

 

しばらく黙々と煙が発ちこんでいた

 

 

「あっ、みんな見て!」

 

 

「「「「「っ?」」」」」

 

 

両備が指さす先には煙の中からこちらに向かって肩を貸し合わせながらやってくる人影が

 

 

「げほっげほっ…たくもう、なんだよお前ら全員こぞっておいてきやがって危うく死にかけたじゃねぇか!?」

 

 

煙の中から出てきた相馬が悪態を垂れ、それに何も言えない皆が苦い顔をする

 

 

「まぁ、あの状況だ。仕方あるまいて」

 

 

「でもよぉ?」

 

 

「「「「「「っ?」」」」」」

 

 

だが、その最中、相馬以外にもはっきりと聞きなれた声が聞こえる

 

 

それは相馬を支えている者が発していた

 

 

「も、もしかして?」

 

 

注意深く見るとその者が顔をあげる

 

 

するとかのじゃたちの目に映ったのはあの生体ロボットの体をし、顔は若干異なるがどことなく面影を感じさせる顔が

 

 

「そ、蒼馬くんなの?」

 

 

「あぁ、そうだ」

 

 

「…きゃわ~ん!」

 

 

「うわっと!?」

 

 

蒼馬だと分かった瞬間、両奈が嬉しそうに抱き着いた

 

 

「これどうなってんの?」

 

 

「ふっふっふっ~♪これはずばり、成功です!」

 

 

生体データはロボットの体にちゃんとインプットされたのだと部長は高らかだった

 

 

「これで念願の体を手に入れたね!」

 

 

「あぁ…いいもんだな。体があるというのは」グイグイッ

 

 

手をギュギュっとしながら体がある事に喜びを感じるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーおまけー

 

 

 

ペシン!ペシン!

 

 

「ひゃう~ん♪」

 

 

「ほら、もっと強くなけ!そんなんじゃもうご褒美はやらんぞ!」

 

 

「ひゃん、ダメダメ~両奈ちゃんもっとご褒美ほしいの~♪」

 

 

「ならもっとねだるようにいってみろ、ほらほら~?」

 

 

「…本当にこれでよかったのかこれ?」アセアセ

 

 

体を手に入れ、両奈と激しいSMプレイに興じる蒼馬にドン引きな相馬なのだった

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外
新年回 2019年 みんなでお参りplus


この物語は忍たちの生き様の新年の回に一部本編episodeにはない話しが組み込まれています。違いを見極めるような感じで楽しんでいただけると幸いです


年が移り変わる前の深夜の真夜中の道を着物を着た佐介と飛鳥たちは初詣のために近くの神社に向かっていた

 

 

「うわ~、綺麗な夜空~…お星さまがキラキラしてる~♪」

 

 

「あぁ、そうだな…しかしオレからすればひばりや…その、佐介のほうが輝いてるがな」ボソッ

 

 

「っ?柳生ちゃん、何か仰いました?」

 

 

「い、いや何でもない!?」

 

 

顔を覗かせて尋ねる佐介に対し、柳生は顔を赤らめながらごまかす

 

 

「うっ、う~」モジモジ

 

 

「あっ、ナナ、寒い?…よし、こうして、こうすれば」

 

 

「う~♪」

 

 

寒そうにしているナナを温めるように毛布をかけてあげた

 

 

「おーい、浮かれるのもいいけどよ?モタモタしてると追いってっちゃうぜ~?」

 

 

「早くしないとボクたち先に行っちゃうからね~?」

 

 

「もう、チェルシーもかつ姉さんもそんな意地悪いっちゃダメだよ?」

 

 

「うんうん、レイナちゃんの言うとおりだよ2人とも~?」

 

 

先を歩く葛城とチェルシーが立ち止まっている佐介たちを急かすように申す

 

 

それに対し、飛鳥とレイナが2人に意義を唱えるのだった

 

 

数分後、佐介たち御一行は神社にたどり着いた

 

 

既に境内には同じように年の移り変わりを祝おうという多勢の参拝客で賑わっていた

 

 

「今回も沢山集まってますわね」

 

 

「みんな考えることは一緒ってことなんだろうさ」

 

 

思わず目移りしてしまうほどの賑わいにみな思うものがあった

 

 

「それほどみなさんもこの時、そして訪れる時を心待ちにしてるということでしょう」

 

 

「言うじゃねぇかよ~おれおれ~♪」

 

 

「えへっ、もうかつ姉ったらくすぐったいですよ~」

 

 

「まったく可愛い反応しやがって♪」

 

 

参拝客たちの心を見透かしたような物言いをする佐介に葛城が突っかかり、2人は楽しそうにじゃれついていた

 

 

「あら?そこにいらっしゃるのは飛鳥さんたちではありませんか」

 

 

「あっ!雪泉ちゃん!」

 

 

すると突然声をかけられ、振り向いた先には自分たち同様着物に身を包んだ雪泉たち月閃女学館の面々がいた

 

 

「やっぱみんな考えてることは一緒だよね~」

 

 

「当然ですよ。年に一度しかない特別な日なんですから」

 

 

「行かぬ理由が…ない」

 

 

この日、年明けを見たいという思いは誰しも思うものなのだと改めて痛感させられた

 

 

「…そう言えば紫苑さんは?」

 

 

「確かに…雪泉ちゃんたちはいるのに紫苑ちゃんだけいないよね?」

 

 

なぜかいるはずの紫苑の姿がないことに違和感を感じ辺りをきょろきょろ見わたす

 

 

「紫苑ちんならそこにいるよ」

 

 

四季が指さすほうを見るとそこには建物の片隅に隠れている紫苑の姿が

 

 

「ほら紫苑、いい加減そんなとこにいないで出てきてください」

 

 

「い、嫌だ!こんな格好、人前に晒したくない!僕はこの場から動かないからね!」

 

 

「わがままいってないで出てきなさい!」

 

 

「や、やめ!嫌だ~!!」

 

 

すかさず雪泉、夜桜、叢が紫苑を引っ張り出そうとするが駄々を捏ねる子供のごとく抵抗し出す

 

 

「いい加減、おとなしくでてきなさぁぁぁい!!」

 

 

「ふぅぅぅん!」

 

 

「そぉぉぉい!」

 

 

「うわっ!しまっ!!??」

 

 

3人が力いっぱい引っ張ったがためにしがみついていた紫苑の両手が離れ、ついに姿を佐介達の前に表す

 

 

「「「うわぁ~…///」」」

 

 

「これはなかなか」

 

 

「でしょ~♪あたしたち全員の意見を取り入れたんだ~」

 

 

「はわ、はわわわわわわわわ///!?」

 

 

佐介達の目に映ったのは水色の女物の着物に身を包んだ紫苑がいた

 

 

皆の視線が自分に釘付けにされてしまってることに激しい羞恥心に晒され、紫苑の顔はまるでトマトのように真っ赤に染まっていた

 

 

「うぅ~…辛い」

 

 

「げ、元気を出してください紫苑さん。こんな日に悲しい顔は似合いませんよ?」

 

 

「そうですよ。元気出してください」

 

 

脱力感とともに悲しみの涙を流す紫苑に佐介とレイナが励ましの言葉をかける

 

 

「これが元気出せる状況なわけないじゃないですか!!女物の着物なんですよ、女物の!ありえないでしょ!」

 

 

「あっ、えっと~…まっ、まぁ…」

 

 

「えっと~…アハハ」

 

 

しかし悔しさが収まらない様子の紫苑が鬱憤を佐介とレイナにぶつけ出してきた。どうしたらいいのか分からず佐介とレイナも困惑してしまう

 

 

「…ねぇレイナさん、教えてください。どうしてその格好で平気なんですか?」

 

 

「えっ?」

 

 

「男だっていうのに女物の着物着せられて恥ずかしいと思わないんですか?」

 

 

自分と同じ立場のはずなのにさも当然のごとくそれを着こなしているレイナが紫苑には理解できなかった

 

 

「う~ん…ちっちゃい頃からチェルシーとお揃いでしたからあまり意識したことはないんですけど、強いて言うなら……可愛いから、ですかね?」

 

 

「……っ」

 

 

受け入れないものと受け入れるものとでは此れ程の差なのかとレイナを前に紫苑は言葉をなくす

 

 

「むっ?そこにいるのはもしや…佐介と紫苑か?」

 

 

「「えっ?」」

 

 

その時、デジャヴというかのように声が聞こえ、振り向くとそこには蒼馬たち蛇女子学園の面々がいた

 

 

「あら、雅緋さん」

 

 

「雅緋ちゃんたちも来んだ」

 

 

「ああ、まぁな」

 

 

顔を合わせるや直ぐに皆、いつものように打ち解け合い、会話に花を咲かせていた

 

 

「相馬くんは着物着てないんですね?」

 

 

「あぁ、ちょっとゴタゴタがあってな、切る余裕はなかった」

 

 

「ゴタゴタといいますと?」

 

 

「なに、いつものことだ。ソウのやつが眠いから行きたくないとほざいたもんで鈴音から半ば強引に締め出されてしまってな。で、例のごとくソウが「わりぃアオ、俺眠いからあとヨロ~」って言い残して俺に意識も所有権もまるなげしたというわけだ…まったく困った奴だよ」

 

 

理由を聞いて佐介と紫苑は思わず苦笑いしていた

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

 

「はい?…って、両備ちゃんに両奈ちゃん?…って両奈ちゃん!その格好なんですか!?」アワワ

 

 

「むふふ~ん、いいでしょいいでしょ♪これらなぜ~ったいみんな両奈ちゃんを変な目で見てくれるはずだよ~♪」

 

 

「少しは場所をわきまえるべきでは?」

 

 

その最中、声をかけられた佐介が振り返るとそこにはみんなと同じように着物姿に身を包んだ両備と両奈がいた

 

 

しかし両奈に至っては胸元がはだけるギリギリのとこまでに調整された着物をまとっていた

 

 

両奈の姿に佐介は顔を赤らめ、鼻を押さえ、紫苑に至っては呆れかえっていた

 

 

「すまんな2人とも、俺も行く前に注意したんだが」

 

 

「でもでも~蒼馬くんだって喜んでくれてるでしょ~♪着物って胸の調整が簡単だから楽だよね~♪」

 

 

「えぇ…そうよね、楽でいいわよね~」イラッ

 

 

蒼馬に抱きつきながら胸のワードをだす両奈に対して嫉妬の目を向ける両備だった

 

 

「…でも、両備ちゃんの着物姿、とっても似合ってると思いますよ」

 

 

「えっ?…そ、そう///?」テレッ

 

 

「はい、いつもの両備ちゃんも素敵ですが、今日の両備ちゃんもとっても素敵だと思いますよ」

 

 

「……ば、バカ///」

 

 

彼からもらいたかった言葉と笑みを貰い、両備は頬を赤らめる

 

 

「たしかに2人ともとても似合ってらっしゃいますね」

 

 

「あんたが言うと嫌味にしか聞こえないんだけど?」ギロッ

 

 

「そ、そんな風に言ったつもりではないんですが」アセアセ

 

 

女である自分よりも綺麗に見える紫苑からそんなことを言われ嫌味にしか聞こえない両備が睨みを効かせるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、境内のとある場所にて、参拝客を饗す屋台やらがずらりと並ぶそのスペースの一攫で仕事をする者たちが、そう、焔紅蓮竜隊の面々である

 

 

「んっしょっと!…詠、そっちは持ったか?」

 

 

「はい、ばっちりですわ」

 

 

大きな荷物を運搬する仕事を焔と詠がこなし

 

 

「ほいほいほ~い、…ほら、たこ焼き上がったで~」

 

 

たこ焼きの屋台の手伝いを日影が行い

 

 

「いらっしゃいませ~、おみくじや破魔矢などはこちらにて販売しておりま~す!」

 

 

「来年の幸福のためにぜひぜひ買ってね~?お姉さんからの、お・ね・が・い♪」

 

 

巫女服に扮した未来と春花が転売コーナーで販売を行っていた

 

 

そして彼女らのリーダーである光牙はというと

 

 

「こちらの確認は終了した。次はこっちのほうだ。モタモタするな、もうすぐ年が明ける。忙しくなるのはここからだ。気合を引き締めていけ」

 

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

持ち前の指導力を駆使して他のバイトたちに的確な指示を出していた

 

 

光牙の指示のおかげでことはスムーズに行われていった

 

 

「…ふぅ」

 

 

しかし、ぶっ通し指示などをこなしていたため光牙にも少々疲れが見える

 

 

「あ、あの、よかったらこれ使ってください!」

 

 

その時、2人のバイトの子がやってきて片方がコーヒーを差し出してきた

 

 

「あぁ、ありがと」

 

 

「チーフお疲れ様です。本当、チーフの指示は的確ですね」

 

 

「私たち感銘をうけちゃいました!」

 

 

2人は光牙の威風堂々たる姿に目を光らせる

 

 

「たいしたことはない。俺はただできるだけのことをしてるにすぎんのだからな」

 

 

「いえいえ、とんでもない、そんな謙遜しないで」

 

 

「私たち、そんなチーフのこと尊敬してますから」

 

 

「そうか」

 

 

純粋な賞賛の声が光牙には少々こそばゆかった

 

 

「では私たち持ち場に戻ります。チーフも無理なさらないでくださいね!」

 

 

「私たちも頑張りますから~!」

 

 

そう言い残し2人は持ち場に戻っていった

 

 

「…ふっ、眩しいな」

 

 

彼女たちの明るさが眩しく感じながら光牙は差し入れられたコーヒーを一口

 

 

「……光くん?」

 

 

「っ!?」ブッ!

 

 

だが、その刹那、光牙は背後から感じられるどす黒いオーラを感じ取り、含んでいたコーヒーを吹き出しながら振り返るとそこには髪が逆立ち不気味なオーラを放ちこちらを睨みつける紫とその紫とともに行動していた忌夢がいた

 

 

「光くん…私という人がいながら…あんなどこの馬の骨ともわからない、子としたしそうだった、よね…?」

 

 

まるで幽霊にでもなったかのように浮遊しながら近づき、そのお怒りの顔を見せつける

 

 

「ま、まて紫!お、おおお、俺は何も悪いことは」

 

 

「こっちが…先約」

 

 

「ちょっとまて!どこから出したその婚姻届!?」

 

 

「ボクも初めてみたんだけど!?」

 

 

いきなり出してきた婚姻届の存在に光牙も忌夢も驚く

 

 

「光くん…ここに名前を…」

 

 

「や、あのだな紫、そういうのはまだ早い!?」

 

 

「名前を書きたくないなら…いいよ…」

 

 

「そ、そうか…」

 

 

わかってくれたかと胸をなでおろす

 

 

「代わりに、既成事実を…作るから」

 

 

「ぶほっ!?」

 

 

「む、紫!?」

 

 

一難去ってまたむちゃぶりを紫が言い出す

 

 

「き、既成事実だと!?」

 

 

「私が…子を孕めば…光くんは私から離れられない…さぁ、私とs●xして一緒に愛を育もう」

 

 

「ちょ、ちょっとまて!落ち着け紫!?」

 

 

「ふふふふふふ~」

 

 

不敵な笑みを浮かべながら紫が近づく、このままでは危うと危ぶまれた時

 

 

「いい加減にしろ紫!」

 

 

「お、お姉ちゃん?…放して!」

 

 

「そういうわけにはいかない!」

 

 

抜け出そうとする紫を必死に食い止める

 

 

「こ、光牙!紫はボクが何とかするから!早く離れて!」

 

 

「す、すまない!」

 

 

「あっ…こ、光く~~~ん!……っち、あと、一歩のとこで」

 

 

「む、紫」

 

 

忌夢の起点によってなんとか光牙は逃げることが出来たのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場面は戻り、何はともあれ大所帯になった佐介たち一行はお参りをするべくごったがえする人の波の中を進んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パンパン!

 

 

 

「「「「「「……」」」」」」ナムナム

 

 

人の波を進んでいった佐介たちはようやくたどり着いたやしろで手を合わせて終わりが近づく今年への感謝と来る来年の悲願を願い、お参りするのだった

 

 

 

 

 

お参りを済ませた一行は自由時間ということでバラバラに散開することになった

 

 

その中で佐介と飛鳥は紫苑と雪泉、蒼馬と雅緋とともに行動を共にしていた

 

 

「……う~ん、甘い。この甘酒」

 

 

「ふふっ、確かにそうですね♪」

 

 

「これが甘酒か…なるほど、確かにいいな」

 

 

「そうか蒼馬は甘酒飲むの初めてだったな」

 

 

売店の甘酒を飲みながらその甘美な味に浸っていた

 

 

「あう?う~」

 

 

「っ?…ダメだよナナ。ナナにはまだ早いよ」

 

 

「ぶぅ~!」

 

 

「むくれないで…ほら、ミルクですよ」

 

 

甘酒を飲ませられない代わりにミルクを飲ませてあげた

 

 

「見てみて佐介くん。可愛いお守りが沢山あるよ」

 

 

「うん、そうだね♪」

 

 

一方佐介と飛鳥はお守り売店コーナーで多種多様のお守りを眺めていた

 

 

「そうだ。ねぇ飛鳥ちゃん、せっかくだからお揃いの買わない?一緒のお守りにしようよ」

 

 

「えっ!?…さ、さささ、佐介くんとおおおお、お揃いの!?」

 

 

「…ダメ、だった?」

 

 

「ううん!ダメじゃない!むしろ嬉しいよ!」

 

 

急にお揃いを買おうかと言われてアタフタするも愛しい人にそう言って貰えて飛鳥はとても嬉しかった

 

 

「あ~い♪」

 

 

2人の様子にナナも嬉しそうに笑っていた

 

 

 

 

そこから佐介たちは屋台で食べ物を買ったり、楽しい談話で盛り上がり、おみくじを引いた

 

 

おみくじを引き、書かれている内容に皆、嬉し弾む中、紫苑と雅緋だけが浮かない顔をしていたのはまた別の話…

 

 

 

あらかた堪能した佐介たちが次の場所を探しているときだった

 

 

「…あれ?」

 

 

「どうかしましたか?佐介くん?」

 

 

「いきなり立ち止まられたら驚くだろう?」

 

 

「あっ、すみません…でも、あそこにいるのって?」

 

 

急に立ち止まった佐介に訳を問うと佐介が向かい側の方に視線を向ける。するとそこには随分と知った顔がいた

 

 

佐介たちはすかさずそこに向かう

 

 

「あの~」

 

 

「はーい!いらっしゃいま…せ」ゲゲッ

 

 

「こ、こんばんわ焔ちゃん」

 

 

「ああああああ、飛鳥!それに雪泉に雅緋!?さらに佐介たちも!?」

 

 

声をかけてみたら案の定、そこにいたのは巫女服に扮して仕事をしている焔だった

 

 

変なとこ見られたというかのように小っ恥ずかしそうな顔を浮かべていた

 

 

「焔。今、詠から連絡が来て愛花がこっちにきたみたい…ってお前たち?」

 

 

「光牙くん、こんばんわ」

 

 

「あぁ…お前たちも来てたんだな?……どおりでさっき紫が来たわけだ」アセアセ

 

 

「えっ?あの、光牙くん?」

 

 

そこへ男性用の従業員服に身を包んだ光牙がやってきた

 

 

光牙に至っては先ほどの紫の件で顔色が悪いようだったが佐介たちにはさっぱりだった

 

 

「お二人がここにいるってことは他のみんなも?」

 

 

「あぁ、ここの主人からバイトとして雇われててな。抜忍である俺らは生活費を稼がなきゃならないからな」

 

 

「うぅ…光牙、私は情けない、姉として弟が困っているのに何もしてやれないなんて」

 

 

「そう卑下するな姉さん、俺たちは俺たちのすべきことがあるように姉さんには姉さんのすべきことがある。だから自分を責める必要はないぞ」

 

 

光牙の苦労を思うと雅緋は自分が情けなく感じ始め、それに対し光牙は優しく慰めた

 

 

「ちょ、もうすぐじゃない?」

 

 

「「「「「「「っ?」」」」」」」」

 

 

「マジ?」

 

 

「マジマジ」

 

 

すると人混みの中の2人の女性が目にとまり、2人とも視線を持っているスマフォに向けていた

 

 

「どうしたんでしょう?」

 

 

「……なるほど、そう言うことか」

 

 

「「っ?」」

 

 

「これが答えさ」

 

 

何を盛り上がっているのだろうと話し合っている中、いつの間にかスマフォを握っていた蒼馬が彼女たちが盛り上がっている理由を察し、直ぐ様佐介たちにスマフォの画面を見せる

 

 

そこには時刻が23時59分を回っていることを示していた

 

 

「ということは」

 

 

「もうすぐ今年が終わるってことですね」

 

 

「あっと言う間だったな」

 

 

「いろいろあったのにな」

 

 

夜空を見上げながら4人はこれまでのことを思い返し、ものお思いにふける

 

 

「け…くん……佐介くん!」

 

 

「あう~」

 

 

「っ?」

 

 

 

すると唐突に声をかけてきた飛鳥によって我に返る

 

 

「早く早く、もうそろそろカウントダウンだよ!」

 

 

「えっ?もうそんな時間?」

 

 

「うん、ほら!」

 

 

飛鳥の言葉を証明するように周囲の人たちが一斉にカウントダウンを開始し出す

 

 

あっと言う間にカウントが迫り来る

 

 

「みんな、いくよせ~の!」

 

 

「「「5!」」」

 

 

流れに乗るように飛鳥と雪泉、焔、雅緋がカウントを叫ぶ

 

 

「…4」

 

 

次に蒼馬が

 

 

「ふふっ…3」

 

 

続いて紫苑が

 

 

「2…」

 

 

光牙がカウントを呟き

 

 

「……1!!」

 

 

佐介がシメのカウントを勢いよく叫んだ刹那

 

 

 

 

プシュ~~~~……ボォォォン!

 

 

 

 

空に花火が打ち上がるとともに新しい年がやってきた

 

 

新たな年を迎えたことで参拝客たちは感極まるかのように騒いでいた

 

 

「新しい年…か」

 

 

「佐介くん」

 

 

「っ?」

 

 

「明けましておめでとう♪」

 

 

声をかけてきた飛鳥から放たれた元気一杯の新年最初の挨拶、新たな今年を迎え入れる最高の挨拶

 

 

「…ふふっ、明けましておめでとうございます。飛鳥ちゃん」

 

 

「うん♪」

 

 

「あうあ~う♪」

 

 

「ナナも、明けましておめでとう♪」

 

 

互いに笑顔で笑い合い、新たな年の訪れに感謝を込めるのだった





ヨ~…ポン!



「みなさん、明けましておめでとうございます」


「あぅぅ~♪」


「2018年はどのようにお過ごしになられましたか?僕はナナや飛鳥ちゃんたちと充実した日々を送れたと思っています。新たな年を迎えた2019年、どんなことが待っているかはわかりませんが全力で日々を送る所存です」


「うっうぅ~♪」


「…ではみなさん、本編今後もこの作品を続けていく所存なのでご声援のほうよろしくお願いします。ではよいお年を」


「あっぷぁ~♪」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。