オーバーロードDN (copu)
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プロローグ カルネ村

 さわやかな風に温暖な気候。

 風邪が吹くと、青々とした草の匂いが漂う。

 

「さて、ここはどこだろう」

 

 

 十代も終わり、青年といえる様になった年頃の男はそう呟いた。

 さきほどまで、ゲームをしていたはず。

 

 ドラゴンネストというオンラインゲームのサービスが終了すると聞いた。

 そのタイトルは、昔やっていたオンラインゲーム。

 数多あるVR型のオンラインゲーム。十年近く運営していたなら長生きした部類だろう。

 

 終了すると聞くと、またやりたくなるというもの。

 ログインしたものの、ギルドは形だけが残っていた。昔いたギルメンはやはり誰もいない。履歴を見ると、1年以内にログインしたものは誰もいなかった。

 そのため、ギルドマスター権限を手に入れ、ギルド倉庫にあったのを個人倉庫に移したりした。

 

 数多あるオンラインゲームの中ドラゴンネストは、ストーリーを売りにしていた。レベルキャップ解放後と共にメインストーリーがあり、中々面白く評判は良い。

 レベルキャップ解放も100レベルまで解放され、メインストーリーも終了していた。しかし、途中で引退したため途中までしかやっていない。そのため、復帰と共にメインクエストを進めながら持ちキャラを100レベルにして過ごしていた。

 

 そんなこんなをしていると、サービス終了日になったのだ。

 結局、ギルメンは誰も来ず。そして、ドラゴンネストの醍醐味である、ネストにも行かず、そのまま辞めようとした。

 最後に自分が育てたキャラたちを見ようと、キャラクター選択画面に戻った瞬間、意識が飛んだのだ。

 

 そして、冒頭に戻る。

 

 

「ドラゴンネストのサービスが終了して、次世代サービスに勝手に移行したとか……いや、まさか」

 

 そう言いながら、青年は辺りを見渡し周囲を探る。

 リアル過ぎるこの世界。

 

 最新鋭の機械でも、ここまでのリアルティは出せないはず。

 そんなことを思いながら、自分の体のことが気になった。

 

 手や顔を触ってみるに、リアルの自分と同じような感じがする。顔が見たいなあっと手をかざすと、手の平に小さな鏡が現れた。

 鏡の中は、リアルな自分の顔。そして、どこからか現れたこの鏡。

 

「何か、見覚えあるよな。この鏡……好感度アイテム?」

 

 ゲームで登場する小道具。NPCにプレゼントをして、好感度を上げるアイテムである。たしか、ゲームで出てくるものと瓜二つ。

 このアイテムの出所を考えると……。

 

「自キャラのカバンか倉庫からかな」

 

 そんな風に考え、他にも色々と出せるのではっと青年は考えた。

 

「バウチャーと武器、乗り物。精霊」

 

 ポンポンッと現れるアイテム、騎獣の数々。

 青年の服装も一気に変わった。黒かった髪が赤くなり、どこか中華風な青を基調とした装いに変わった。

 復帰記念でもらったシュパン……ガチャでゲットしたアイテムである。

 

 そして、青年にじゃれ付き翼竜。体長は5メートルもなく、比較的小柄だが、俗にいうワイバーンである。その中でも、赤み掛かったトパーズワイバーンと種で、青年が初めてガチャでゲットしたレア物の騎獣であった。

 そして、聖なる光に包まれた聖剣アルフレア。初期は、最強装備の一つだったが、キャップ解放後に追加されたアイテムにdんどん追い抜かされ、今では残念性能の一品。

 

「と、取りあえず出してみたけど、使えるのかな」

 

 青年は心配しながら剣を持ってみる。

 

「武器、装備、ワイバーンある……あとは、仲間か」

 

 うーんっと青年は考えてしまう。

 

「サーヴァントか」

 

 サーヴァントシステム。

 ドラゴンネストはストーリーが売りなゲームである。物語の主人公として、自分が操るキャラも勿論出るが、それ以外にもNPCがシナリオに多数出てくる。

 その中でもメインキャラやボスキャラといったキャラクターたちは、日々のダンジョン等でお助けキャラ的な存在で、仲間になるシステムがある。

 それが、サーヴァントシステム。英雄と一緒に冒険するという。

 

 まあ、勿論強力なキャラは、ガチャの当たり商品だったりするが。

 

「取りあえず、呼んでみるか……イメージしろ。さあ、来い。ジェレイントよ!」

 

 青年は大きな掛け声とともに、右手を天に掲げた。

 だが、しかし、何も起こらなかった。

 

「え、えーと、サーヴァントシステムは不調かな。不調なのかな……カラハン」

 

 青年の目の前に、宙に浮かんだ黒のローブを着た赤髪の男が現れた。

 どこか禍々しい雰囲気を受けた。ボスキャラの一人でもあった、カラハン。独特な口調で一部に人気があるキャラである。

 

「さすがは、我マスター。この美しく、気高いこの私を……」

 

「あっ、チェンジで」

 

「なんだとっ!?」

 

 青年は男の言葉を遮り、そう言い切った。すると、男はスッと消えていった。 

 青年はチョイスを間違った。その後、何故かアルゼンタを呼ぼうとしたら、呼べなかった。

 

 そうこう試しているうちに、青年の周りには5人の男女が現れた。本来なら一人しか呼べないシステムだが、何故か複数人呼べることができた。

 

 金髪に精悍な顔立ち。身の丈ほどもある大剣を持つ剣士バルナック、清浄なる鎧に身を包んみ、女神が刻まれた杖と盾を持つ神官テラマイ、燃えるような赤髪、類い稀なる魔力を持つ魔法使いカーラ、風の精霊の加護を一身に受けるエルフ国次期女王弓使いネルウィン。

 そして、もう最後の一人、操作キャラの一人でもあるアカデミックの姉。ゲーム内ではボスの一人として登場する未来から来た科学者ジャスミン。

 この5人を召喚した。

 

「お呼びか、マスター」

 

 ゲームとはちょっと違った口調で、バルナックが青年に話しかけた。

 青年はそんな反応をする、サーヴァントたちをみて変な感じがしたのだ。

 

「そうですね……僕のことは、そう、パーティー仲間。そんな感じで、扱ってください」

 

「ほぉー。それなら、分かり易いな。変に畏まるのも、俺らしくはねえ」

 

 バルナックはそう腕を組みながら青年にそう言ったのだ。青年は、今の状況を打破するのは優秀な部下よりも、頼れる仲間。

 そして、サーヴァントたちは、それぞれ自身が体験していた経験を持っている。

 

 例えば、バルナックは、傭兵団を率いて戦い、セントヘイブンに冒険者ギルドを作った。テルマイは、教団の最高指導者になる。などなど。

 彼らの栄光は、とても輝かしいものである。

 

 ドラゴンネストでは、バルナック、テルマイ、カーラ、ネルウィンたちは6英雄と呼ばれていた。

 

「じゃあ、何て呼べばいいかしら?」

 

 カーラはそう訪ねてきたのだ。彼らは、青年が召喚主であることを知っているが、詳しいことを知らなかった。

 

「そうですね……メビウスって呼んでください」

 

 次元の狭間。ゲーム内では、ストーリー進めていると出てくるステージ。ねじられた世界を修正するために出来たパラレルワールド。

 ちょうどいい名前だろうっとメビウスはそう思ったのだ。

 

「そう、メビウスはここかどこか分かるかしら?」

 

 金髪にメガネを掛けた知的な女性であるジャスミンは、懐から懐中時計みたいな機械を取り出して聞いたのだ。

 彼女は、ドラゴンネストの中で中々異質な職業であるアカデミック、自動砲弾やロボットを召喚したり、スライムや薬品を扱う職業の持ち主である。

 彼女らが来たことで、ドラゴンネストの世界も中々メカメカしい一面が出てきたのだ。

 

「えーと、残念がら良く分らないんですよね。空から周囲を見ようと思うのですが」

 

 メビウスはそう言って、トパーズワイバーンの他に、空を飛べる騎獣を呼び出した。

 蒼い輝きを放つサファイアワイバーン、雄雄しき鷹の顔を持つヒッポグリフ。

 他にも空飛ぶ円盤とか筋斗雲があるのだが、生物の方がいいだろうとメビウスが考えたのだ。

 

 ゲーム上の使用なら一人乗りなのだが、大きさからして二人は乗れそうである。

 そして、6人は空へと駆け上がった。

 

「あれは何でしょうか?」

 

 暫く空を飛んでいると、アーチャーのネルウィンが何かを発見した。

 はるか前方、メビウスにはまだ見えなかったが何かがあるらしい。

 

 麦畑が広がる奥に民家が集まっている村を見つけた。長閑な風景に思えるその景色だが、異変が起こっているのが目に見えてくる。

 燃やされる畑に、家々。ネルウィンが発見したのは、燃えた村から上がる煙だったのだ。

 

 何も言わず、仲間たちがメビウスに視線を向けると、メビウスは小さく頷いた。

 そして、村に向かってスピードを上げたのだ。

 

 

「逃げてっ! エンリ、ネムを連れて」

 

 平穏な村は一瞬にして、終わりを告げた。

 唐突に現れた帝国の騎士たち。彼らは、有無を言わず、村人たちを襲い始めたのだ。

 そんな中、エンリは後ろで聞こえる母の声を聞きながら逃げ出すしかなった。涙で視界が悪くなる中、妹のネムを連れて帝国騎士から隠れようと森に向こうとした。

 しかし、騎士の一人がエンリを見つけ、鎧を着ているとは思えない速さでエンリに近寄ったのだ。

 

「無駄な抵抗をするな」

 

 騎士はそう言い、剣を振るう。その瞬間、エンリの視界に移る騎士の姿がスローモンションになった。

 剣を振りかぶる騎士。その後ろに、詰め寄った一人の戦士……バルナックの姿を目に移したのだ。

 そして、次の瞬間、爆風と轟音と共に鎧を着たはずの帝国騎士が勢いよく吹き飛んだ。

 

 バルナックの大剣により、一撃。人はあんな簡単に飛ぶのだろうか。エンリはこの危機的状況でそう思うほど。

 

「ありゃ、一撃か。だらしないな。お嬢ちゃんたち、大丈夫か? ケガはないか?」

 

「は、はい。大丈夫です……」

 

「よかった……安心しろ、あいつらは、俺様たちがすぐに片付けてやる」

 

 バルナックは、エンリとネムの安全を確認すると、疾風のように消えていった。

 村の方からは、帝国騎士の怒号が聞こえる。

 

 先ほどの戦士は、王国の冒険者だったのだろうか。エンリは途端に力が抜けたようなその場にしゃがみ込んだ。

 ネムはそんな姉を心配そうに見つめたのだ。

 

「ヒールッ!」

 

 村の広場の中心に真っ先にやってきたテルマイは、杖を掲げる。

 ケガを治す回復魔法。範囲魔法に当たり、ゲーム内なら範囲内にいるパーティに掛かる魔法だが、どうやら、任意に相手を選べるようだ。

 

「何だ、こいつらは王国の冒険者か……先に、神官を倒せ」

 

 帝国騎士の隊長だろうか。冷静にテルマイの姿を確認すると、そう指示をした。

 剣を構える騎士たちだが、テルマイに近寄ることさえ出来なかった。

 

「アイシクルエッジ」

 

 カーラが魔法を唱えると、氷の剣が地面に生え騎士たちを襲った。

 また、別の騎士は上空からネルウィンに弓矢で撃たれて地に伏せる。

 

 物の数分で、村を襲った帝国騎士を沈黙させることができたのだ。

 安全に確保できたことを確認して、村に降り立ったメビウス。

 

「誰かに見られてるわ」

 

 ジャスミンはそう、メビウスの耳元で囁いた。

 それを聞いたメビウスは驚いたように、辺りを見渡す。

 

「はー、相手にばれちゃうわね」

 

 ジャスミンは小さくため息をつきながら、懐中時計のような機械を操る。

 

「妨害電波を出したわ。これで、最低限は安全ね」

 

「この騎士たちの、親玉でしょうか」

 

「そう考えるのが、妥当だけど……」

 

 メビウスはそう推測を立てる。騎士たちを動かし、リアルタイムで戦況確認。村を襲うには、中々大がかりだ。

 そもそも、騎士たちが村を襲う理由も見当たらない。

 

「この村の村長さんだそうだ」

 

 バルナックは、一人の中年の男性を連れてきた。白髪交じりの男性である。

 

「ほかの村の人たちは無事だったんですか?」

 

「ええ、村人は納屋に隠れていましたので……本当に、感謝してします」

 

 村長はそう言い、メビウスたちに頭を下げたのだ。

 

 

 村人の治療を終え、村長の家にやってきた一行。

 村長との交渉は、バルナック、テラマイが行った。

 

 自分たちは、他国の冒険者であると。たまたま、この村の異変に気づき、助けに入った。

 村長は、村に報奨金を払うと行ったが、村の惨状から見て断った。また、手持ちにある金貨が、こちらの金貨とほぼ同額にあることが確認できたからである。

 

 そして、村長から、この周辺恰好の情勢、地理、歴史などを大雑把に聞いたのだ。どうやら、この大陸にも冒険者と呼ばれる人たちがおり、ギルドを作っている。

 ネルウィンがエルフということもあり、遠方にはエルフの王国、そして、カルネ村の近くから広がるトブの大森林には昔、ダークエルフの国があったことを教えてくれた。

 

「目的地はここで決まりね」

 

 カーラは、村長に書いてもらった地図を見てそう行ったのだ。

 

 城塞都市 ラ・エンテル。ここリ・エスティーゼ王国の国王直轄地。三重の城壁に守られた都市で王国内でも中々栄えているらしい。

 この村から一番近い、大きな街だそうだ。そこには、冒険者ギルドや魔術師ギルドが存在しているらしい。

 

 方針が決まった中、村人が血相を変えて、村長の扉を開けて入ってきたのだ。

 

「た、大変です。馬に乗った武装した集団が……」

 

 その言葉を聞いたメビウスたちは視線を合わし、頷いたのた。

 




注意ドラゴンネスト風味です。やってた人いますかね。自分は引退してます。

感想であったのですが、このドラネスはモモンガの時代ゲーム一つという設定です。

説明不足ですみません。。

そして、実はエンリは古代人の末裔になるとかならないとか。


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異形の天使

「見たところ信仰系魔法詠唱者……それに、天使」

 

 家の陰からガゼフは報告された人影を確認した。統一されたその動き。手には武器はなく、軽装。

 しかし、横に並ぶように浮かぶ光り輝く異形のモンスター。天使。

 

「見たことない。モンスターですね……ところで、彼らの狙いは?」

 

 神官であるテラマイが視認した。

 ドラゴンネストではいないこの世界のモンスター。どうやら、相手の神官が召喚したらしい。

 

 こんな辺境の村を襲うとは思えない。そして、ガゼフが村に到着した早々現れる敵対勢力。

 答えは一つしかないだろう。

 

「巻き込んだ形で申し訳ない――天使を召喚する魔法詠唱者がこれだけ揃えられるとなると、敵は帝国ではなく、スレイン法国のもの。そして、このような任務に就くのは、噂に聞く特殊部隊六色聖典。数にしても腕にしてもあちらが上だな」

 

 ガゼフは厄介だといわんばかりに肩を竦めた。表情には出さないが、その緊迫した空気が伝わってくる。

 

「……ところで、あの天使の名前は分かりますか?」

 

 メビウスはそう訪ねた。ガゼフは6人の中で年若い赤髪の青年を見つめる。たしか、ビーストテイマーだそうで、彼らが乗るワイバーンにヒッポグリフも彼が使役しているとか。

 

「申し訳ない。初めて見る天使だ。予想だが、第3階位魔法で召喚された天使だと考えられる」

 

「第3階位魔法? やっぱり、私たちの大陸とは異なる魔法体系みたいね」

 

 ガゼフの問を聞いたカーラは小さく呟いた。

 

 色々分からないだらけである。

 

「バルナック殿たち。良ければ雇われないか?」

 

 メビウスたちは顔を見合わせ、頷いた。

 ここまで来たのだ。放っては置けないだろう。

 会ったばかりだが、このガゼフは信頼に足りうる人間だと感じたのだ。

 

「報酬は望まれる額を約束しよう」

 

「ここまで来たんだ。断るわけはない」

 

「ええ、任せてください」

 

 

 

 素早く作戦を立てる。この村に被害が行かないよう。敵を誘導させ戦場を移動させる。

 

 ガゼフは神官テラマイの支援魔法を考慮すると五分程度には戦えるのではと考えた。

 そして、戦士の勘で目の前にいるバルナックは自身に匹敵する剣士だと感じ取ったのだ。

 彼らの協力が得られれば、行けるのでは。油断は禁物だ。ガゼフはその思いを胸にしまいこんだ。

 

 

「見られていますね」

 

 ネルウィンは静かに告げる。それに同調するかのようなバルナックも頷いた。

 

「物理的に見てやがるな、首筋がチクチクする」

 

 どこか鬱陶しさ感じるバルナック。しかし、メビウスはそういう感じを受けなかった。

 

「距離はかなりあるからなあ。こういう何もない場所だからわかる。下手に探すなよ、勘付かれる」

 

「うーん……威力偵察にしては、ガゼフさんが大がかりだし。今の天使たちは現地の力を見るいい機会です。ただ、下手に実力を露見したくない。なので、できるだけ支援スキル以外は控えるようにお願いしていいですか」

 

「そうね。さっきもアイスクルエッジを最初に使ったけど、別に必要を感じさせなかったわ」

 

「分かった、分かった、それで行こう」

 

 まだ見ぬ敵を感じ、メビウスはみんなそう提案したのだ。

 

 

 

 そして、天使を操る一団との戦いの幕が開かれる。

 

「治癒の恩寵よ!  神聖なる加護の盾よ! 女神よ、力を!」

 

 テラマイを杖を上げ、味方全員に支援魔法をかけた。

 物理魔法防御上昇。ダメージ遮断の魔法。物理魔法攻撃力上昇である。

 それを皮切りに、戦士たちは天使たちに突撃する。

 

「何だ、ガゼフと一緒にいる奴らは……王国のアダマンタイト級か? いや、見ない連中だ」

 

 天使の一団……スレイン法国の六色聖典の一つ「陽光聖典」の隊長であるニグンは芳しくないこの戦況に焦りを隠せずにいた。

 その元凶は、ガゼフと共にいた冒険者だと思われる6人組。6人とも、身に纏う装備品からその実力を感じるほど出る。そして、実際いとも簡単に天使たちを倒していく。召喚が間に合わないほど。

 それほどの実力者なら、どこかで噂を聞いてもいいぐらいだが、残念ながらニグンの知る中で彼らに当てはまるものはいなかった。

 別任務で風花聖典と協力が取れないことが今になって悔やまれる。しかし、ニグンは懐にある秘宝に振れると、冷静さを取り戻した。

 そう、ニグンは、法国の秘宝を預けられている。これさえあれば、この戦況も簡単にひっくり返るだろう。

 

「驚いた……まさか、このような戦力を持っているとは。だが、ガゼフ・ストロノーフよ。お前はここで死ぬことに変わらない。光栄に思え」

 

 ニグンはこれ以上戦況が良くならないことを感じ、秘宝を取り出し。

 それは、魔封じの水晶。この中に封印されているのは、200年前魔神といわれる存在が大陸中を荒らしまわった時に、魔神の一体を単騎で滅ぼした最強の天使を召喚する魔法。

 ここにいる、天使たちとは段違いの強さを誇り、都市規模破壊すら容易とされる最高位天使である。

 

 ニグンの手の中でクリスタルが破壊された。

 その瞬間、世界が眩い光で溢れたのだ。

 

「見よ! 最高位天使の尊き姿。威光の主天使よ!」

 

 光り輝く集合体。貌はなく、翼の塊の中から、癪を持つ手が生えている。異形なる姿だが、その天使から聖なる力があふれているのが分かる。

 

「ドミニオンか……アークエンジュルは大天使って知ってるだけど。天使の階級のことだよね。一番上が熾天使で」

 

 メビウスは、ニグンの言った言葉と神官たちが天使を召喚する際に言っていた、モンスター名らしきものから推測する。

 残念ながら、天使のモンスターが天使階級で分かれてるぐらいしかわからなかったが。

 

 威光の主天使。現れた神々しい存在。だが、メビウスはさほど、危機的状況に陥ったとは微塵も感じなかったのだ。

 しかし、一緒に戦っている戦士の一団には荷が重い相手であるには変らないだろう。

 

「ほぉ――少しは、骨があるな」

 

 バルナックは剣を構えなおした。今まで相手をしていた天使たちは歯応えが全然なく、飽き飽きしていたらしい。

 

「ちょっといいですか……さっきはああ言いましたが、本気を少し出してみたいと思います」

 

 メビウスは前に出て、威光の主天使の前に立ちはだかる。

 

「今も監視をされていますよ?」

 

「それでも、やってみようかと。相手はどうやら、伝説級の天使らしいので。こんな相手は早々いないでしょう」

 

 ネルウィンは今だ監視されていることを、メビウスに忠告する。

 しかし、それでもメビウスを歩みを止めなかった。

 

「……変身」

 

 メビウスが小さくそう呟いた瞬間、メビウスの体が一瞬炎に包まれた。そして、炎が消えると、そこには……メビウスではない赤髪の青年が現れた。

 赤髪に端正な顔立ち。メビウスよりも、身長は幾分高いだろう。そして、服装も若干ながら変わっていた。周囲を圧倒させる力を感じさせた。

 

 ルビナートアバターバウチャー。ガチャから手に入る特別な装備品。その力は、自身を一時的にドラゴンネスト内に出てくるNPCに変身出来るというもの。

 スキルも変わり、固有技が使える。とはいえ、性能自体はガチ装備ではなく、変身自体も一種のファンアイテムぐらいだったりするが。

 

 赤髪の青年……ルビナートは、ボスキャラの一人。そして、ゲームタイトルでもあるドラゴン……7色の宝玉の一つにして、レッドドラゴン-ルビナートとして主人公の前に現れる強敵である。

 

 ルビナートの姿が瞬く間に消え、一撃。その速さが見えたものは、バルナック達しかいなかっただろう。威光の主天使の胸元に大きな穴が開き、焼け焦げている。そして、その穴から紅の炎があふれ出し、天使の体は粒子になるかのように薄れていった。

 

 そして、メビウスはルビナートに変身したことで、ドラゴンが持つ超感覚を得ていた。ネルウィンが行っていた、監視者の気配。そして、不思議と感じる、自分と同じような気配が三つ。あれは何だろうか。

 

「あ、ありえない。最高位天使を倒せる存在が、まさか、一撃なんて……」

 

 ニグンは目の前で起こったことが理解できなかった。赤髪の男の姿が変わり、そして、気づいたら、威光の主天使が消えていくのだ。

 

「ば、ばかな……な、何者なんだ貴様は」

 

「ちょっと、力を借りただけですよ」

 

 メビウスは変身を解き、ニグンの目の前に現れる。

 

「ま、まさか、貴方様方は……プレイヤー様なのですか?」

 

 改めてみるメビウスたちの姿。知らない上等なマジックアイテム。そして、強力な力。ニグンは、一つの答えにたどり着いた。

 戦意が消えたばかりではなく、何故かその言葉からヒシヒシと尊崇の念が感じられ、メビウスは不思議に思う。

 

「ぷ、プレイヤーって何ですか……えっ? プレイヤー?」

 

 突然発せられた、プレイヤーという単語。この状況で似つかわしくない言葉である。

 プレイヤー。例えばゲームなら、NPCとかではない、自身が操るキャラクター。自身自身といっても過言ではない。

 

「……他にもプレイヤーがいるんですか?」

 

 ニグンはその言葉を聞き、目を見開いた。自身の予想があったのだ。そして、まるで、神を祈るようにし手を合わせた。

 

「降臨なさっていたのですね……」

 

 そして、似たような行動を他の神官たちは取り始める。戦いがどうとかそういう次元ではなくなった。

 

「おいおい、何が起こったんだ?」

 

「ふむ。プレイヤーか。どういう意味なんだ?」

 

 警戒は完全に解かずに、バルナックたちはメビウスの元にやってきた。

 NPCである彼らは、プレイヤーという言葉は良く分らないのだろう。

 

「それは、おいおい……」

 

 メビウスはこの状況を収めるにはどうすればいいか、頭の中でもう回転させる。

 目の前の人物は、大事な……そして、重要な情報を握るものである。

 しかし、どんな理由があるか分からないが、王国に踏み入り、部隊を率いてガゼフを殺そうとした。

 決して、許されるような事ではないだろう。

 

「ここを穏便に済ますにはどうすればいいですか?」

 

 村でのことを思うと、良心が痛む。メビウスはみんなの顔を見た。

 

「村人は全員治療済みです。メビウス……この罪は別な形で彼らに贖ってもらいましょう」

 

 テラマイは静かにそう告げる。人々の拠り所のである神官が一番心を痛めているではないかとメビウスは悟った。

 バルナックはメビウスの肩に手を乗せる。

 

「その手の交渉は任せろ」

 

 状況を把握しようと近づいてくるガゼフに対してバルナックは話し掛ける。

 

 

 こうして、戦況は収まった。

 ガゼフは、村に捕まっている剣士を引き渡すことを条件にそれに応じた。

 

 対して、天使の一団を率いたニグンは改めて、自身について自己紹介を行った。

 メビウスたちの要求で、王国への干渉を辞めるようにと国の上層部へ掛け合うことの約束を行った。

 

 ニグンはそのまま、メビウスたちをスレイン法国へ招こうとしたのだが、メビウスたちはそれは断った。

 一度自分のたちの目で、この世界を見て改めて行くと約束したのだ。また、ニグンと連絡が取れるよう、マジックアイテムを手渡し、別れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 モモンガ、天使の一団、それに対抗する戦士たち、そして、村を救った剣士たち。それらの、戦いを見る事ができる丘の上に陣取った。

 距離にして5キロ。魔法的アプローチを諦め、物理的手段で戦況を確認する。

 

 謎の勢力が三つ。何が起こったか分からないが、どうやら、ゴダゴダが予想以上にあったらしい。

 

 それにしても、あの天使……。

 

「炎の上位天使か」

 

 ユグドラシルでは第3階位魔法で天使モンスターである。また、天使の一団のリーダーだと思われる男の傍らには、第4階位魔法で呼ぶことができる監視の権天使がいる。

 視認する限り、使っているのはユグドラシルで知られる魔法。それでも、天使たちのレベルから見てわかるように第3階位魔法以下がほとんだ。モモンガに取って、かなりお些末な戦いに思える。

 

 その中でも、目に入るのが、先の村にいた6人。剣士は剣を振るい、天使たちを次々と切り倒す。また、神官の男は補助魔法を使った後は近接戦闘に雷属性の魔法を使い応戦。

 村では範囲型の氷魔法を使った魔法詠唱者だったが、乱戦状態で仲間に被害が出ないよう抑えているんのだろうか比較的小規模の魔法しか使っていない。エルフのアーチャーは、近接中距離問わず忙しく戦場を素早く駆け抜け弓を射抜いている。その身のこなしから、他にも魔法の加護を受けているのかもしれない。

 また、村で直接戦闘を行っていなかった赤髪の男は側から黒と白のウルフを二体呼び出し使役していた。ビーストテイマーらしい。メガネを掛けた女はガラス瓶のようなものを投げ、天使たちを攻撃する。こちらは錬金術師のように見える。

 

 こうしてみると、やはり、この6人の実力はとても高いことが分かる。そのほかに対抗できるとすれば、天使側と戦士たちのリーダーたちぐらいだろう。

 

「……期待外れだったが」

 

 だが、しかし、モモンガに取っては低レベル。取りあえず、このまま戦況を見ることにしたモモンガであった。

 

 そうしていると、動きがあった。

 どうやら、天使の一団のリーダーがアイテムを使って召喚したらしい。クリスタルからして、魔封じの水晶だろう。残念ながら、グレードまでは分からなかったが。

 

 威光の主天使が現れた瞬間、モモンガはやはり、あれぐらいの使い手はいるのかと思っただけだった。

 あのアイテムを手渡す存在。天使の一団の後ろにはそれなりのバックが控えていることが推測される。

 

「それでも、第7階位か。いや、十分すぎるか」

 

 戦場で使われるのは、良くて第4階位。そのことを考えると、第7階位はオーバースペックだろう。

 モモンガは威光の主天使がいる天使の一団が勝つなと予想した。あの戦場から推測するに良くてレベル30だろう。威光の主天使のレベルは50に迫る。

 10レベルも離れれば絶望的で、パーティを組んでもきついだろう。それが、20も離れれば救いようもない。

 

 まあ、それなり、得るものはあったなっとモモンガは思ったのだ。現地のレベルというのが分かったのだ。

 モモンガがそう結論付けようとしたが、すぐにそれが翻ってしまった。

 

「……変身しただと?」

 

 モモンガの目に映ったのは、赤髪のビーストマスターだと思われる男。

 その男が威光の主天使の前に立ち向かったのだ。そして、男の姿が一瞬炎に包まれた。

 

 炎が消え、そこに現れたのは先ほどの男とは違う赤髪の男。服装も、若干変わったように見える。そして、何故かその服装が妙に似合っていた。

 気づくと、男の姿が一瞬で消える。

 そして、威光の主天使の胸に穴が開いていた。穴からは燃えるような紅き炎が溢れだし、一瞬で天使の体が崩壊する。

 赤髪の男は、天使を召喚した男の前に現れた。その一瞬の出来事に、男は何があったか把握することが気でない。

 

 赤髪の男が再び炎に包まれると、先ほどの姿に戻ったのだ。

 

「威光の主天使が一撃だと……やはり、色々と調べるか」

 

 戦況は決まった。モモンガはゲートを開き、アインズ・ウール・ゴウンに戻ったのだ。

 



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