長城を越えよ ~騎馬民族に転生したので漢王朝をポアします~ (ゲベック)
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北のクニから
作者のメンタルはモヤシ以下なんでお手柔らかに
季節は麦秋を迎え、身が震えるような涼風が吹き始めていた。
乾燥した黄土が風塵として舞う中、
外見はようやく二十代になったかという所。濡羽色の髪は美しい艶を有しているが、切るのが面倒とばかりにうなじ辺りで纏められている。顔立ちは彫が深くも整った輪郭をしており、憂い気な表情を浮かばせている事もあって中性的な印象を与える。
くすんだ硝子玉のような瞳はその目蓋によって細められ、唯々空を眺め続けている。
その風情は、まるで失った何かを探そうとし、或いは帰れない故郷に想いを馳せているかのよう。
どの位の間そうしていたのか。彼はふと、誰かが後ろから近づいてくる気配を感じた。
歩み寄ってきたのは、何処となく青年と似通った容姿を持つ少女。
ただ、青年が滲み出る覇気を放っているのとは対照的に、こちらの方はまるで林のような静謐さを醸し出している。
彼女は程よい距離で立ち止まり、青年の傍らにて跪く。
「
恭しく控えた側近に一瞬だけ目を向けると、青年は遠く彼方に
僅かな沈黙の後、彼はようやく引き結んでいた口を開けた。
「大義である、
「ハッ───。我らが王に、
少女は恭しく礼をすると去っていき、青年は自身の立っている丘の後方に胡乱とした視線を向ける。
その視界に入るのは、
『軍勢』
荒野を埋め尽くしているのは、一万や二万ではきかない、騎兵や攻城兵器を主体とした
黒を基調とし、統一された軍装に身を包んだ精鋭。掲げられた旗には例外なく蒼い狼の紋章が刻まれている。
その陣容たるや、まさしく大陸最強と言っても過言ではなかろう。
事実、かつて彼らはその力を以て敵対関係にあった
自ら”玄天軍”と称した一騎当千の騎馬軍団。
もはや彼らに仇なしえる存在は、今もって対峙している南方の漢王朝ぐらいであろう。そしてその漢も、黄巾の乱を始めとした相次ぐ内戦によって瓦解しようとしている。巷では「天の御使い」などという、皇室の権威に傷を付けかねない救世主思想まで蔓延しているらしい。
それらに付け込む、といえば言い方は悪いが、内乱に乗じて彼らはこの国にとどめを刺すつもりでいた。
”史実”でも、王朝は半世紀も経たずに内憂外患で滅びる運命にあった。
青年はこの確実な未来を
この先、屍山血河を築くことになると確信していても、彼はもう止まらない。誰にも止められない。
そうしなければ、これから先に自分たちの未来は無いのだから。
「……思えば、こんな遠くにまで来てしまったのか」
その一言が意味するものは、長城を望むこの雁門にまで赴いたことか。それとも―――――
いや、と。彼は再度深みに嵌りつつあった思考を切り替える。
もう頃合いと見たか、その身を覆う漆黒の
「―――征こう。歴史を壊し、歴史を創るために」
彼は丘を降り終えると、下の方で待ち受けていた自らの愛馬にひらりと乗りかかる。そして
―――――青年の名は『
五胡と呼ばれし諸民族を束ね、統一匈奴帝国の王として君臨せし草原の覇者。
彼は自らの覇道を貫き通さんとし、今まさに万里の長城を越えようとしていた。
見事に原作キャラ出てこねぇな()
連載版には登場させるつもりやけど……連載できるかな?
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イントルード・イン・グレートウォール
久々に自作を読み返して思索に耽ったりしてました。
他にも腐らせてる原稿がありますが、そこそこ出来が良い部分だけ供養します。
「我が同胞よ、あの長城を見よ。
あれはかつて、戦国の世において諸王達が築き始め、秦の始皇帝がそれを繋げ、漢の歴代皇帝が万里に及ぶ今の姿に仕立てあげた物だ」
荒涼とした平原に青年の涼やかなる声が響き渡る。
声を荒げている訳ではないのに、不思議と頭の中に入ってくる美声だ。
「漢人達は自らの
漢人が我等の同意もなく定めた境界。その理を此方に押し付ける事はあれど、我等の理が漢人に受け入れられた事は無かった。そして草原の民は長きに渡る虐げによって分裂し、抗う力を削がれ、壁を諦観の念で見つめる日々を送ってきた」
苦渋、苦痛、悲哀、無念、悔恨、そして憤怒。
ありとあらゆる『負』の概念が込められた主の言葉に、兵士達は歯ぎしりをし、中には涙を溢す者もいた。
それは約三百年もの間、漢人に迫害されてきた事による怨念、いや、呪詛と言い換えてもいい。
このやりきれぬ絶望感が、理不尽に対する単なる怒りから殺意に変貌するのに、それほど長い時間は必要ない。
「だがっ!その苦難はこの日を境に消え去る事となる!」
於夫羅は馬上において両腕を大鷲の如く広げ、張り裂けんばかりの声を上げた。
「誇り高き匈奴たる我等は、決して他者の理を我が理としてはならぬ!例えそれが万里に及ぶ長城であろうと、漢人の理である以上、その存在を認めてはならぬ!
であれば、漢の衰えたる今!我等は長城を無き物として越えねばならぬのだ!」
民はずっと、艱難辛苦に耐えてきた。
親、兄弟、友、恋人、それらを守るために。
だからこそ、草原の民を理不尽から救い、希望を見せてくれたこの年若き英雄に、命を捧げたいと思った。
彼らの高揚感は爆発的な忠誠心と戦意へ昇華し、馬上の王をギラギラと輝く目で見つめた。
「長城を越えよ、我が同胞達よ!
前方に聳え立つ雁門関を破るか否かは、和戦の選択であるだけでない。我らが北方の胡族と侮られ続けられるか、それとも誇り高き匈奴人足りうるかの選択である。
古の英雄
決然と拳を振り上げ、全軍に檄を飛ばす。
騎馬軍勢の間に生気が漲り、於夫羅はその空気を見事に捉えて叫んだ。
「いざっ!これより我等は雁門関を攻める!
我等が行くは修羅の道!人とあっては人を切り、神とあっては神を切れっ!問答無用!容赦無用!宿敵漢王朝に鉄槌を下すのだ!!」
『『『『『オォォォォォォォォォォォォ─────ッッッッッ!!!』』』』』
世界が、揺れた。
覇気に満ち満ちた雄叫び。士気は最高潮に達し、団結という言葉だけでは言い表せない程に皆の心は一つとなった。
青年は神話の軍神さながらに雄々しく外套を靡かせ、腰から黒光りの大太刀を抜き、丘の向こうの雁門関を指して叫んだ。
「草原の勇者達よ、この於夫羅の馬に続き長城を越えよ!!」
雁門関は一日と経たずに陥落した。
匈奴の主力軍は長城を越え、更に北西の羌・氐族を糾合して漢土に多方面からの電撃的な侵攻を開始する。
曹魏、孫呉、劉蜀。これら三国の中心に位置する都「洛陽」に報告が届いたとき、既に涼州や并州を始めとした北土諸州は人馬の濁流に呑み込まれていた。
彼ら漢族にとって長城の向こう側に住まう異民族は、自らの天敵にして侮蔑の対象たる夷狄。
民を殺し全てを奪っていくその蛮族達が、この大陸に大挙として押し寄せてきたのだ。
民草を慈しむ仁徳の王 劉備、孤高にして覇道を突き進む王 曹操、郷土と血縁の繋がりを守らんとする王 孫策。
”彼女”達はそれまでの反目を一旦収め、大陸を危機から救わんと共に立ち上がった。
その先に待ち受けるものが、漢朝四百年の終端であるとも知らずに。
ちなみに内容は殆ど「中原の虹」の丸パクリ
誰か続き書いて(涙)
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