陰陽師なのに魔力等も使う陰陽師(凍結) (中田 旬太)
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プロローグ

そこは空が黒くて暗い、岩等が中に浮いている。空気はじめじめとしており、匂いも良いとは言えない。

 

そこは“禍野(まがの)”と呼ばれ、“ケガレ”と呼ばれる怪物達が居る世界。

 

そんな世界に、頭から血を流し泣き叫ぶ子供がいた。

 

「う゛わ゛あぁぁぁぁぁ!お(があ゛)ざん!お(どう゛)ざん!()なッ───ないでッ!!」

 

そう叫び、倒れている二人に擦り寄っている。その二人は子供の両親だ。

 

「馬鹿──男がそうそう──ッ───泣くんじゃないよ………!!」

 

「早く………逃げな───さい!」

 

二人とも体から大量の血が流れ出ており、呼吸さえ困難になっていた。母親は子供に泣くなと言い、父親は子供に対し逃げろと言う。ケガレは遠くに居るが、追いつかれるのも時間の問題だ。

 

「いや──だッ!お父ざんとお母ざんも」

 

「………夏希(なつき)

 

「よく───聞いて」

 

子供の両親が必死に声を出す。父親からそう言われた子供、夏希は嗚咽はするもののしっかりと黙る。

 

「お父さん───ッ──達は………もう駄目だ………」

 

「っ!」

 

父親から放たれた諦めの言葉。子供は嫌だと言いたくなるが、父親から言われた通り静かに聞いている。

 

「だから………夏希だけでも───逃げなさい………!!」

 

「そして………生きて(・・・)

 

生きて、両親の願いはそれだけだ。自分たちの子供である春に生きてほしい。両親も目から涙を流し、それでも言葉を続ける。

 

「生きて………お願い………!!」

 

「夏希は───僕達の宝だから」

 

春は両親の手を握る。そして、両親の言葉をしっかりと聞いていた。こんな幼い子でも、直感してしまった。きっと二人の最後の言葉になると………。

 

「………生きて──いれば」

 

「きっと──良いことがあるから………!!」

 

両親は必死に声を張り上げる。薄れゆく意識を必死に保つ。そして、二人同時に微笑む。

 

『………愛して──るよ………!!』

 

そして、二人の目から光が消えた。自分たちの愛する子供に微笑んだまま、死んでしまった。

 

「………ぅう゛う」

 

春は目から、大粒の涙を流す。鼻水も流し、両親の手を握ったまま、顔を地面に向けて蹲る。

 

『………みぃづげだぁぁぁ!』

 

巨大なケガレが夏希の目の前に歩いてくる。

 

『ゴロズゥゥゥゥ!』

 

夏希に巨大な左腕を振り下ろす。刹那、ケガレの振り下ろした腕が吹き飛んでいた。

 

『グギャアァァァァァァ!!』

 

悲鳴を上げるケガレ。夏希はよろよろと立ち上がり、ケガレを睨みつける。

 

「ぐぅおおおおぉぉぉぉぉぉお!!」

 

雄叫びを上げケガレの腹に飛び込み、鉄拳をくらわす。そしてケガレは跡形もなく消し去った。ケガレが倒されたときに現れる星形をした光が現れ、夏希を照らす。

 

「………」

 

夏希はしばらく立っていたあと、意識を手放し倒れる。同時に光も消えた。すぐに人が駆けつけ、夏希は救助された。



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ろくろのいい所ってどこ?

さて、主人公について書いておきます。





天道(てんどう) 夏希(なつき)

十三(今年で十四)歳 誕生日 八月十一日

主な出来事

土御門島出身、幼少期に両親をケガレに殺され、その時不思議な力に目覚める。そこから十二天将をも超え、最強の陰陽師とも謳われている。十一歳の頃、清弦に連れられ雛月寮に入る。十二歳くらいの頃、“雛月の悲劇”でろくろと共に生き残る。

格好

見た目は、髪が茶色で所々少し跳ねている。目は少しだけキツイ。地味な色の服を好み、普段着はネズミ色のパーカーを着ており、他は黒や青等の色の服を好んで着ている。腕時計も付け、首には母親の形見のペンダント、右手の指には父親の形見の指輪を付けている。ベルトには常に霊符ホルダーとを付けている。

人柄

動物が好き。見た目とは違いかなり優しく、信頼している人の前ではかなり子供っぽい感じに成る時がある。陰陽師としては最強と言われているが、本人は気にしていない。ろくろと繭良が心配になり、土御門島には帰っていない。夏休みに一週間くらい帰っている程度。





こんな感じでしょうか。


朝夕(アサユフ)に神の御前(ミマエ)(ミソギ)して───」

 

レンズが丸い眼鏡を掛け、長い髭を生やし、長い髪を束ねて袴などの陰陽師の格好をし、呪文を詠唱しているおじいさんがいる。その目の前には服のボタンを外し、腹等を晒した状態で苦しそうにしている少女がいた。

 

その部屋の隅に、我が子を心配そうにみている両親、そして、どっしりと構えている青年と少年がいた。二人は陰陽師が着る、“狩衣(かりぎぬ)”を着ている。が、青年の狩衣は白いが、少年の狩衣は黒かった。

 

そして、おじいさんが詠唱を終えると少年達の方に顔だけを向けた。

 

「亮悟、いつでもいけるように。念のため夏希もな」

 

「応!!」

 

「了解」

 

青年、椥辻 亮悟はそう言われると、一枚の“霊符”と所々にヒビが入っている短剣をとりだし、立ち上がった。少年、夏希は立ち上がり同じように構える。

 

すると少女の腹に四角く傷が入り、光を放ちもがき始めた。

 

「あ゛あぁあ゛あ!」

 

悲鳴を上げジタバタと苦しむ。すると、少女からケガレが現れた。

 

『ウヒヒヒ!!』

 

それを見た両親は驚き小さな悲鳴を上げるが、二人には今関係ない。

 

(………俺が出る必要はないな)

 

夏希はスッと霊符と短剣をしまった。霊符は腰のベルトに巻いてあるホルダーの中にしまい、短剣は手元から消えた。

 

陰陽呪装(おんみょうじゅそう)斬浄穢符(ざんじょうえふ)

 

そして、亮悟は霊符を自分の目の前に投げ、水色の光を放ち霊符に書かれていた文字や絵が空中に留まる。そこに短剣を通すと、短剣は大きな剣となり書かれていたものが剣の刃などに描かれていた。

 

万魔調伏(ばんまちょうぶく)急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!!!!」

 

亮悟は現れたケガレの両腕を切り落とし、頭に剣を突き刺す。そして、左手の人差し指と中指を立て、印を結ぶ。

 

祓へ(ハラエ)給へ(タマエ)清め(キヨメ)給え(タマエ)

 

亮悟がそう唱えるとケガレは悲鳴を上げ消し飛び、星形に光るセーマンだけが残っていた。そして、セーマンが消えると亮悟がふぅーと息を吐いた。

 

「もう安心ですぞ」

 

おじいさんがそう告げると両親は慌てて駆け寄り、自分たちの娘の安否を確認していた。

 

「夏希、後始末よろしくの♡」

 

「俺かよ………///」

 

流石に小さな女の子と言えど少し気が引ける。が、夏希は仕方なく少女の体に墨で字を書き、“呪力(しゅりょく)”を込める。呪力は、簡単に説明すると陰陽師が使う力のことだ。

 

そして、後始末を終えた夏希達は、その家族の家をあとにした。

 

 

 

 

 

 

「また腕を上げたね。亮悟さん」

 

帰り道で、夏希が亮悟を褒める。

 

「へへへ☆ありがとう夏希」

 

亮悟はリュックを背負い歩いている。中には狩衣が入っている。夏希は“魔法”の“換装”で違う空間にしまえるし、一瞬で着替えられるため必要ない。

 

「そういえば………」

 

「どうした?じっさま?」

 

夏希にじっさまと呼ばれた着物のおじいさん。何かをふと思い出し、それを口にする。

 

ろくろ(・・・)は結局今日は来れなかったのか?」

 

あっ、と声を上げる亮悟。夏希は“またか”と言い頭を抑える。そんな二人に関係なくじっさまは言葉を続ける。

 

「昨日声を掛けたと亮悟、言っとったじゃろ?」

 

そこで亮悟の表情が怒りの表情に変わる。

 

「あああああああ~~~~~~!!!そうだったすっかり忘れてたあああああああ~~~~~~っ!!!」

 

突然叫び出す亮悟。二人は耳を塞ぎ亮悟の叫びをやれやれといったかんじで聞く。どうやら、現地で待ってるとか言ったのに結局来なかったので叫んでいるらしい。

 

「アイツの戯言を真に受けるお前もお前じゃがの」

 

「全くだよ。ていうか、ろくろなら“明日は告白してくるぜ!応援しといてくれ!”とか俺にもの凄く言ってたけど」

 

「ろくろぉぉぉぉぉ!!」

 

夏希の言葉に亮悟は更に激怒する。じっさまは呆れているようだ。

 

「また告白か………アイツも懲りんのう」

 

「本当ですよね。すぐにコロコロ変わるんだから」

 

「なあ、夏希もろくろに言ってくれよ………」

 

「………俺には無理かな。アイツが嫌だって言ってるんだし」

 

本人の意志を尊重したい夏希。ふっ、と遠い目をし悲しそうな顔をする。亮悟は何か事情がありそうなのでこれ以上言うのをやめた。

 

「………そもそも、今回俺が来る意味あった?」

 

悲しい表情から一変。ころりと夏希の表情が変わる。今回の依頼は結局のところ亮悟が倒していたため、自分が来た事に意味があったのか疑問に思ったらしい。

 

「………ないな」

 

バッサリと切り捨てる亮悟。こんな雑談をしながら、自分達の家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

 

関東総覇陰陽連鳴神(なるかみ)市鳴神町支部

 

星火(せいか)

 

「それじゃあ、来週入っている依頼を割り振っていくぞ~」

 

「ウィ~ッス」

 

亮悟の言葉に軽く返事をしたのは、陰陽師の額塚 篤だ。気さくで明朗快活。

 

現在夏希達は、自分達の家である星火寮のリビングで椅子に座り、机の上の茶菓子等を頬張りながら依頼の確認をしていた。

 

「田中のじいちゃんが最近肩が重くて『悪霊の仕業じゃ~』って、言ってるんだけど」

 

「「「それ絶対ケガレじゃねぇ!」」」

 

夏希と篤ともう一人、その依頼にツッコミを入れる人がいた。名を国崎 慎之介と言い、同じく星火寮の陰陽師。一言多いツッコミ役的な存在。

 

ついでに紹介しておくと、亮悟が兄貴的なポジション。じっさまこと音海 善吉は星火寮の(おさ)。この人も陰陽師。

 

「亮悟~~~~~~っ!!!」

 

「ろくろ?」

 

玄関から廊下をドタバタと走る音と亮悟の名前を呼ぶ声がリビングに響く。そして、廊下とリビングを繋ぐ襖が勢いよく開く。

 

「俺のいい所って、どこっ!!!?」

 

泣きながら自分のいい所を聞いてくる夏希と同じ年で、学校の制服を着ておりアホ毛が一本立っている少年。この少年が焔魔堂 ろくろである。

 

「急になに言ってんだ?ろくろ」

 

「夏希!今日告白した女の子からまたお前の名前が出たぞ!これで何回目だよ!?」

 

「へいへい。そうですか」

 

夏希はいつもの事だと思い軽く流す。夏希は意外とモテるため、ろくろが告白する女子からは、大抵夏希の名前が出るらしい。が、本人にしてみればどうでもいい。

 

「まさかまた女の子に振られた挙げ句、『悪い所があれば直す』と言ったものの逆に『いい所ってどこ?』とでも言われたのか?」

 

「見てきた様に言ってんじゃねえよ!!!」

 

亮悟の立てた推測がドンピシャに当たったらしい。

 

「経緯はいいから答えてくれよっ!!」

 

「ろくろのいい所ぉ?………なんでも美味しいって言ってご飯を食べるとこ?」

 

と亮悟が答え、

 

「くつ紐が(むす)べるとこ!!」

 

と篤が元気よく答え、

 

「夜一人でもトイレに行けるよね」

 

と慎之介が冷静に答え、

 

「右と左の区別もちゃんとつけられるしの」

 

とじっさまが答え、

 

「………ゴメン。俺には無理」

 

と夏希が切り捨てる。

 

「あれ………!?かえって傷ついてるよ俺………っ!!」

 

みんなのいい所の答えが、あまりにもショボすぎる。幼稚園辺りの子が褒められる内容にかえって傷ついているろくろ。しかも、夏希には切り捨てられたため、傷は更に深いものとなった。

 

「そんなことよりも、ろくろっ!!」

 

亮悟はろくろの目の前に立つ。そして、ろくろの頬を抓り、親指を口の中に入れ引っ張る。

 

「お前またケガレ祓いサボったな……!!!毎回毎回適当なこと言って逃げやがって!!」

 

「ん゛~~~っ!!ん゛~~~~っ!!!」

 

「うわぁ、痛いなあれ」

 

その光景を見た夏希は、ろくろに同情の言葉を向ける。だが、助けはしない。行かないなら行かないで断ればいいのに、あやふやにして逃げるため、自業自得と思うからだ。

 

「うっせえ!放せ!」

 

ろくろは亮悟の腕を払い除ける。そして、真剣な顔になり、右手の親指を自分の胸に向ける。

 

「亮悟こそ!何度も同じことを言わせるんじゃねぇ!!!いいか!!」

 

ろくろはスーと息を吸い込み、

 

「俺には将来!『アイドルになってキャーキャー言われまくる』という────どでかい夢があるんだよっ!!!」

 

と堂々と、高らかに宣言する。

 

「!?ろくろお前……」

 

亮悟は一瞬驚いたような顔をする。が、表情を怒りの表情に変え、ろくろのアホ毛を掴む。その背後は、とてつもないオーラを放っている。

 

「お前この間までサッカー選手になってW杯(ワールドカップ)を目指すって言ってたよな………!!?」

 

「え……いやあれは!」

 

亮悟の言葉に焦りを見せるろくろ。顔からは冷や汗が大量に出ている。

 

「全然上達しなくて部活クビになったんだよな」

 

「サッカー選手の前はお笑い芸人になるって言ってたよね」

 

「その前は漫画家」

 

篤、慎之介、夏希の順番にろくろに追い打ちを掛ける。ろくろは亮悟を振り解き、弁明をする。

 

(ちげ)ぇって!!今度こそ本気なんだから」

 

「そういえばろくろ。某アイドル事務所から書類審査落選の通知が届いとっ「勝手にあけんなあああああああっ!!!」」

 

じっさまの手には大きな封筒と、中身である落選の紙が握られていた。

 

「ろくろ。もう自分を偽るのはやめろ……」

 

亮悟はろくろの肩にそっと手を置く。

 

「お前はな、勉強は出来ないし多趣味だけど飽きぽっいし、スポーツもそこそこだし顔だってもちろんイケメンじゃない」

 

「いいとこ全然ないじゃないか!!」

 

傷を更に抉る亮悟。ろくろは涙目になり怒鳴る。

 

「だからお前は陰陽師になるしかないんだよっ♡」

 

亮悟は左手をろくろから離し、嬉々とした顔で親指を立ててグッジョブサインをする。

 

「うるせええええええっ!!!どいつもこいつも馬鹿にしやがって!!今日という今日は家出してやるっ!!」

 

玄関に続く襖を開け、家出を宣言する。

 

「あ、ろくろ。醤油がきれてたから出るならついでに買ってきてくれ~」

 

「家出するつってんだろうがああああ!!!」

 

「あ、俺も約束あるんで出かけてきます」

 

「「「「いってらっしゃい」」」」

 

亮悟はろくろに醤油を買ってくるのを頼む。ろくろが家出すると言うのはいつもの事。どうせ帰ってくるという考えだからだ。夏希は約束があると言い、二人共星火寮を出ていった。




夏希が全く目立っていない。原作主人公のろくろが目立ってしまった。次回はちゃんと目立たせる予定です。

夏希が使った陰陽師の力以外の力

『フェアリーテイル』からエルザの魔法、“換装”

これからじゃんじゃん力を使っていくと思います。



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繭良と出かけます

どうも、作者です。

こっちを書いていると、もう一つの方が書けない。

作品を複数やるのって、難しいですね。


星火寮を出た夏希は町の駅の前で、約束をした女の子を待っていた。

 

「ごめーん!待ったー!」

 

すると、左の方から女の子が駆けてくる。夏希が見えたため急いで走っているようだ。この子が夏希が待っていた女の子の音海 繭良だ。名字で分かったと思うが、じっさまの孫である。繭良は夏希の前で止まり、膝に手を置いて、軽く息切れを起こした。

 

「大丈夫、俺もさっき来たところ。そもそも、まだ約束の一〇分前だし」

 

「待たせたら悪いと思って早めに来て、待ってようと思って」

 

「なるほど」

 

繭良は真面目で、こういうことにも気遣いが出来るため、夏希の学校でも人望厚い。

 

「じゃ、行こうか」

 

「うん」

 

二人はショッピングモールを目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「このワンピースとかどうかな?」

 

「うーん。似合わないわけじゃないけど、繭良には黒よりもう少し明るめの方がいいんじゃない?」

 

「そっかー。ならコレとかかな……」

 

夏希は現在、ショッピングモールで繭良の服選びに付き合っている。他の人曰く、夏希は色々なものに関してセンスが良いらしい。だから、繭良はたまに夏希を連れて服を買いに行くのだ。まあ、他にも目的があるようだが。その後繭良が服を買い、店をあとにした。そして、二人はゲームセンターにいる。理由は

 

「今回は負けないぞ」

 

「今回も荒稼ぎさせて貰うぜ」

 

ゲームセンターの店長と夏希の勝負である。夏希が昔、このゲームセンターのクレーンゲームで、荒稼ぎをした。クレーンゲームの賞品を一回で取っていたからだ。店側は赤字。そこから夏希に取られまいと店側と夏希の勝負が始まった。夏希が狙いそうなゲームは難易度が高いため、他の客ではほとんど取れていないらしい。ちなみに、夏希は欲しいものや高価値の物だけを狙っている。欲しくないものは取っていない。

 

「頑張れ夏希ー!」

 

繭良もノリノリである。実は繭良は意外にこの勝負を楽しんでいる。

 

「さーて、どれを狙おうかな~」

 

夏希がクレーンゲーム機を見て回る。繭良も一緒に見て回る。すると、繭良が一つのクレーンゲーム機に目を輝かせる。

 

「ねえねえ夏希!あれ!」

 

「あれ?」

 

繭良が指を指したクレーンゲーム機に目を向ける夏希。そこには可愛らしいモフモフとしたクマのぬいぐるみがあった。

 

「……欲しい?」

 

「欲しい」

 

即答する繭良。可愛いものには目がないのが女の子の(さが)なのだろうか。そんなことを思いつつも夏希はそのクレーンゲーム機にお金を入れる。もちろん一回分だけ。

 

「ふぅー」

 

息を吐き集中する夏希。以前にも繭良に取って欲しいと言われぬいぐるみを取ったのが原因で、可愛い系のものが賞品のクレーンゲームの難易度も上がっていた。が、夏希には関係ない。クレーンゲームが動き、クマのぬいぐるみをがっしりと掴み出口まで運んでいった。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!またかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「やったー!!」

 

店長は叫び、繭良は喜ぶ。夏希はぬいぐるみを持って繭良に歩いていく。

 

「はい、繭良」

 

「ありがとう夏希!」

 

「……いや、なんてことない。うん///」

 

ニコッと夏希に笑いかける繭良。その眩しい笑顔に夏希はドキッとし、少々顔を赤くする。が、繭良はそんなことに気づかず幼い子供のようにはしゃぎ、ぬいぐるみを抱きしめる。かなり微笑ましい光景だろう……店の人の 負のオーラ が漂っていなければ。

 

そこから夏希は目当てのものを全て取り、結果は店側の赤字となった。が、夏希はそれなりに間を置くため、店が黒字になった頃にやってくる。そのため店が潰れることはないだろう。

 

そして、現在はショッピングモール内のカフェでゆっくりしている。荷物はテーブルの空いている椅子に置いている。

 

「荒稼ぎしてやった。フフフ」

 

「あ、あはは。そういえば、陰陽師の仕事はどうだった?」

 

繭良が唐突に聞いてくる。もともとは約束の時間よりもう少し早い時間になっていたのだが、陰陽師の仕事が入ったため、予定の時間を少し変更したのだ。

 

「問題無く終わったよ。そもそも、俺が行く意味あったのかな……」

 

「そっか。……夏希、死なないでね」

 

「……当然だろ」

 

重い空気が二人を包んでいる。繭良が何故そんなことを言ったのか。それは二年前の事件、“雛月の悲劇”が関係している。

 

 

 

 

 

 

二年前、陰陽師の候補生を育てる施設の“雛月寮”に禍野から数匹のケガレが現れ、候補生のほとんど殺されたとされているのが、俗に言う“雛月の悲劇”と呼ばれる事件。この事件での生き残りは、夏希とろくろの二人だけだった。

 

が、真相は全く違う。禍野からのケガレは一匹もいない。候補生の一人が禁忌を犯し、夏希とろくろを除いた候補生をケガレに変えた。二人、いやろくろはケガレになった候補生と禁忌を犯した候補生を祓い、もとい、殺して生き残った。夏希はその時任務で少し違う所におり、帰ってきた時には全てが終わっていた。

 

 

 

 

 

 

繭良はそのことは知らない。が、よく寮に遊びに来ていた。そのため、候補生達が死んだこと、夏希とろくろだけが生き残ったということだけは知っていた。

 

「俺は死なないさ。絶対に」

 

決意を固めた表情で繭良に宣言する。繭良は優しく微笑んだ。

 

「うん。絶対だよ」

 

ニッと笑い合う二人。先ほどとは違い温かい空気が二人を包んでいた。

 

 

 

 

 

 

そして帰り道。二人の歩く道を夕日が照らしていた。荷物は人が見ていない所で“換装”を使ってしまった。近くの公園からは子供達の楽しそうな声とブランコやシーソー等の遊具の音が聞こえる。

 

「楽しかったな」

 

「うん。また行こうね」

 

「もちろん」

 

二人が楽しそうに話しながら帰り、公園を過ぎようとしたときだった。不気味な笑い声が聞こえ、子供達の笑い声が消え、少しだけ動く遊具の音だけ虚しく聞こえる。

 

「ッ………!!!繭良はここに居ろ!!」

 

「あ!ちょっと!」

 

夏希が焦りながら公園の中に走る。繭良も待っていろと言われたのに付いていっていた。そして、夏希が公園の真ん中で止まる。

 

禍野門開錠(まがのとかいじょう)!急急如律令!!!」

 

夏希が“呪力”を込めて呪文を唱える。本来霊符が必要なのだが、夏希等の一部の人は例外だ。夏希の場合は呪力を多めに使うが関係ない。

 

夏希の目の前に丸の中に門が描かれた光の円が顕れる。その円は夏希に向かって進み、夏希を通らせる。近くにいた繭良も巻き込まれる。そして、目の前の光景は禍野になっていた。

 

「何………!!此処!?」

 

驚きながらも、周りを見回す繭良。繭良は禍野に初めて来たのだから、当然の反応だろう。

 

「バッ……お前なんで付いて来た!?」

 

「だって気になって………」

 

少しずつ繭良の声が小さくなっていく。怒られたのが少しショックだったようだ。が、ケガレは待ってはくれない。目が無く、少し太った感じの巨大なケガレが子供達を手で掴もうとしていた。

 

「来ないでぇぇぇぇぇ!!!」「助けてぇぇぇぇぇ!!!」「う゛わぁぁぁぁぁん!!!」

 

泣き叫ぶ子供達。ケガレは子供達に少しずつ手を伸ばしていく。

 

「俺から少し離れてろ」

 

「分かった」

 

繭良は夏希から少し離れる。そして、心配そうに夏希を見つめていた。

 

(“脅威度(リスク)”は“(ジャ)”ってところか)

 

獣爪顕符(じゅうそうげんぷ)

 

夏希は右手に手袋を付け、ある一枚の霊符を出す。その霊符は光となり、夏希の右手に纏わり付く。そして、白銀の装甲となり所々金色の線が入っている。指先は青い水晶のような爪になっている。

 

白蓮虎砲(びゃくれんこほう)!急急如律令!!」

 

そして、夏希は呪装した右手を前に出し人差し指の指先をヒュッと動かす。すると、子供達に手を伸ばしていたケガレの腕が切断された。

 

『グギァァァァァ!!!』

 

ケガレは悲鳴を上げる。すると、子供から夏希に標的を変える。ケガレは夏希に向かって走りだそうとする。しかし、ケガレは目の前に勢いよく倒れた。夏希がケガレの脚を切断していた。

 

夏希がまた人差し指の指先を動かす。そして、ケガレの顔から胴体が真っ二つになった。ケガレは悲鳴を上げながら消滅し、セーマンだけが残った。

 

「全く、子供襲ってんじゃねえよ」

 

夏希は呪装した腕を元に戻し、復活した霊符はまたしまった。霊符は本来使ったら戻れないのだが、今は例外の霊符もあると憶えて置いて欲しい。

 

 

 

 

 

夏希は子供達と繭良を連れて元いた公園に帰って来た。

 

「気をつけて帰れよ」

 

夏希がそう言うと、子供達は元気に返事をし、各々の家へと帰って行った。

 

「さ、帰ろうか」

 

「………うん」

 

繭良は顔を俯けたまま返事をする。禍野から帰ってからずっとこの調子である。夏希に怒られたのが、本当にショックだったようだ。夏希もそれに気づき繭良に近寄る。

 

「………繭良」

 

「………ゴメンね」

 

弱々しい繭良の声が聞こえる。少しずつ顔を上げる。すると目は潤んでおり、今にも泣きそうになっていた。

 

「俺の方こそ、急に怒ってごめん。心配になって付いてきてくれたんだよな」

 

そっと繭良を抱きしめる夏希。幼なじみだからなのか、夏希のメンタルが強いからなのかは分からない。だが、何故か心に安らぎを感じる繭良、そして夏希だった。

 

 

 

 

 

夏希は繭良を家に送り、現在は繭良の家の玄関前に居る。夏希は繭良の荷物を渡した。

 

「じゃあ帰るな」

 

「うん」

 

夏希は振り返り星火寮に向かって歩き出そうとした。

 

「………夏希!」

 

「うん?」

 

夏希は繭良に呼ばれ振り返る。

 

「………私以外に、ああいうことしちゃダメだから!」

 

ああいうことというのは、公園でのことだろう。夏希の中では、それに対しての答えは決まっていた。

 

「もちろん」

 

「絶対だよ」

 

「了解」

 

夏希は手を振りながら歩いていった。

 

 

 

 

 

 

「ただいまぁー」

 

星火寮の玄関を開け、靴を脱いで上がる。何やらリビング辺りが騒がしい。夏希はリビングに向かって廊下を歩き、襖を開ける。

 

そこにはいつものメンバーと、小さなお婆さん。そして、サラサラとした黒髪を長く伸ばし、テーブルに座っておはぎを大量に食べている少女がいた。

 

「えっと………誰?」

 

「おお!夏希、彼女は今日から此処に住むことになった化野 紅緒さんだ!」

 

亮悟が夏希に少女、紅緒を紹介する。

 

「ふーん。まあ、よろしく紅緒さん」

 

「………よろしく」

 

無愛想に返事をしてくる紅緒。人と関わるのが苦手なタイプのようだ。

 

「なんで夏希には挨拶してるんだよ!?」

 

「挨拶されたら………返すのが礼儀」

 

「俺の事はガン無視してたよな!?」

 

どうやら、今は馬が合っていないようだ。夏希は少々悪戯心が働いた。

 

「仲良いな」

 

「「全然!」」

 

「ホラ、息ピッタリ!」

 

夏希がからかい、ろくろと紅緒が反論している。周りのみんなはすぐに溶け込む夏希に驚いていた。

 

「………」

 

じー、と夏希を見ているお婆さん。夏希はそれに答えるように見返す。

 

「どうしたの?」

 

「………!思い出しましたぞ!貴方は───」

「お婆さん」

 

お婆さんが何かを思い出し、それを口にしようとするが夏希に声で遮られる。

 

「あんまり余計な事は言わないでね」

 

ただ一言。それだけでその場の全員が恐怖を感じた。

 

「さて、料理作るから楽しみにしとけよ」

 

そう言ってキッチンに消えていく夏希。

 

これが、後に“双星”と呼ばれるろくろと紅緒、そして、その二人と運命を共にせんとする夏希の出会いだった。

 

 

 

おまけ

 

 

 

星火寮

 

じっさま「そういえば夏希」

 

夏希「何だ?じっさま」

 

じっさま「繭良とのデートはどうじゃった?」

 

夏希「え!?///何で繭良だって知ってるの!?///」

 

ろくろ・亮悟・篤・慎之介「「「「は!?」」」」

 

紅緒・お婆さん「「?」」

 

 

音海家

 

繭良「ただいま」ガチャ

 

(ゆかり)(繭良のお母さん)「お帰りなさい」

 

紫「あ、繭良」

 

繭良「何?お母さん」

 

紫「夏希君とのデートは楽しかった?」

 

繭良「え!?///ちょ、え!?///何で!?///」

 

 

 

いろいろとバレていた二人でした。




徐々に主人公の謎が増えてきましたね。

にしても、デートの話を書くのはかなり難しい。

感想など、誤字があれば教えて下さい!

では、また次回で!さようなら!


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何で陰陽頭が来た?

どうも、作者です。

何故かもう一つの作品より、こっちの方に力を入れたくなるんですよね~。

今回はあの男が登場!


『ひゃひゃひゃひゃ───』

「ほい」

 

もうすぐ昼になる頃だろうか。夏希は今、紅緒と禍野でケガレ祓いをしている。夏希は軽く殴りケガレを祓っている。

 

「紅緒さん。そっちは終わった?」

 

夏希が振り返り、紅緒に問いかける。紅緒は持っていた二本の剣を地面に刺し、付けていたお面を外した。

 

「こっちも………終わった」

 

「よし。なら帰るか」

 

「ちょっと待って」

 

「ん?何?」

 

夏希が帰る為に門を開こうとするが、紅緒に待ったをかけられる。

 

「君は……何者?呪装無しでケガレを祓うのは………普通は無理」

 

「………さあ?只単(ただたん)に変な力に目覚めただけだし、自分で探ってみなよ」

 

夏希は門を開けて、(ウツツ)に帰って行った。

 

 

 

 

 

 

夏希は自分の部屋で寝転がりながら新しい技等を考えていた。しかし、夏希にはかなりのバリエーションがあるため、今必要なのがあまり思いつかない。

 

「うーん」

 

そんなときだった。下からろくろの叫び声と大きな足音が聞こえてきた。

 

「あ~。何となく分かったわ~」

 

夏希がそう呟く。ろくろは先程まで寝ていた。それが今さっき起きたのだろう。普通起きた人が向かうのは洗面所だ。しかしそこは今、紅緒がケガレ祓いで流した汗や汚れを洗う為風呂に入っていた。それで紅緒が風呂から出た所で鉢合わせでもしたんだろう、と推測を建てた。

 

「とりあえず行ってみるか」

 

夏希はベッドから起き上がり、自分の部屋の扉を開けて部屋を出るのだった。

 

 

 

 

 

 

「やっぱりか………」

 

部屋から出た夏希は庭の方が騒がしかったため向かったところ、小さな池の上でろくろが縄で簀巻きにされ、洗濯の物干しで吊されていた。夏希はその惨状に頭を抑えた。

 

「だからわざとじゃないんだって~~~っ!!」

 

ろくろが吊された状態で泣きながら弁明をする。

 

「でも見たことは見たんだろうが!!」

 

と篤が怒鳴り、

 

「死んで償えこの痴れ者がああああっ!!」

 

とお婆さんが三つ叉の槍を構えながら怒鳴り、

 

「そうじゃ!!ワシなんてそんなハプニング今まで一度もないわいっ!!」

 

とじっさまが怒鳴る。

 

「じっさま。怒るポイントが違うでしょ」

 

慎之介が冷静にツッコんでくれた。

 

そして亮悟は慌てており、紅緒はタオルを被ったまま俯いて縁側に座っている。まあ、恐らくは裸を見られたのだから当然の反応だろう。

 

「おかわいそうに紅緒様。まだ嫁入り前だというのに」

 

お婆さんが紅緒に近づいて話しかける。

 

「い……いや!でもホラっ、前の方はタオルで隠れていたんだし、嫁に行く頃には今よりもっとナイスバディになっているわけで………」

 

これがいけなかった。篤とお婆さんは石等を拾い上げ、ろくろに向かって乱雑に投げる。投げた物の中には、招き猫やラグビーのボールにやかん、バケツや靴やバナナの皮などの様々な物を投げていた。

 

「じゃあ今なら何回見てもいいのか!!!ああんっ!!?」

 

「全部見とったら今頃首と胴体は繋がっとらんわこのエロ坊主がああっ!!!」

 

怒鳴りながらもまだ物を投げ続ける二人。投げた物は大抵ろくろに当たり、もの凄く痛がっていた。

 

みんなは次々に部屋へと上がっていく。お婆さんは最後に「一生反省しておれ!!」と言い残し紅緒を連れて上がっていった。しかも、紅緒も怒り、涙目になりながらろくろを睨みつけて部屋に上がっていった。

 

夏希も部屋に上がろうとするが少し止まる。

 

「ろくろ………さっきの発言はマジで最低だと思う」

 

夏希はトドメの一言をろくろに浴びせる。そして、部屋に上がった。

 

 

 

 

 

 

「まったく、最後の一言が無ければ助けようと思ったのに」

 

夏希もまさか、ろくろがあんなことを言うのは予想外だったらしい。

 

部屋に上がってすぐ、庭からろくろの声が聞こえる。また何かあったのかと思い庭に向かう。その時、庭から夏希が知っている人の呪力を感じた。

 

「………あの人が何の用だ?」

 

そうぼやきながら庭に向かっていく夏希だった。

 

 

 

 

 

 

「何で“陰陽頭(おんみょうのかみ)”の貴方が居るんですか?」

 

庭には先程と同じく吊された状態のろくろと、先程のメンバー。そして、今は浴衣を着て、長い白髪に髪の毛の先が青い、見た感じ青年の人が立っていた。実質は四十くらいのおじさんだが。

 

陰陽頭、簡単に言うと陰陽師達のボスです。

 

「やあ夏希君!!去年の夏以来だね!!!」

 

「やあ、じゃねえよ!何であんたが此処に居るんだ!有馬さん!」

 

「おい夏希!お前この変態パンツ男と知り合いか!?」

 

「へ、変態パンツ男………」

 

ろくろが吊された状態でジタバタと暴れながら夏希に聞く。夏希は有馬をとんでもないあだ名で呼んでいた事に驚く。

 

「まあな。で、何で来たんですか?」

 

「はは、まあちょっとしたサプライズがあるんだよ………」

 

不敵な笑みを浮かべる有馬。夏希はそれが、不気味で仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

鳴神市内・鳴神神社

 

敷地内・社殿最深部

巨大シェルター型訓練施設用地下大講堂

 

夏希達は現在そこにいる。紅緒、有馬、じっさま、お婆さんは別行動である。別行動の者達と夏希を除き、一同はその空間の広さに驚いていた。しかも、周りにはスーツや陰陽師の格好をした偉そうなおじいさんやおっさんばかりである。

 

「ところで紅緒さんは?」

 

亮悟が紅緒が居ないことに気づきみんな聞く。他の三人は別行動のことを伝えているため、心配する必要はない。

 

「あっちにいますけど……」

 

「幹部のおっさん共がペコペコしてる………!!」

 

篤の言うとおり。幹部達は紅緒を囲む用に挨拶している。しかし、紅緒は興味がなさそうに軽く対応している。

 

「何で夏希には挨拶しないんだ?」

 

亮悟が夏希に聞いてくる。亮悟は夏希が凄い陰陽師という認識しかしていないが、それでも有名だとは知っているため、疑問に思い夏希に問いかける。

 

「まあ此処に来ていることを知らせてませんし、“本土”の人達は俺の顔は知らないから当然でしょう。あと、ばれたくないんで俺の事は大講堂に居る間は名前や名字で呼ばないで下さい」

 

「わ、分かった」

 

夏希が理由を説明する。さらに、ばれたくないと言い亮悟達に名前を口にしないでほしいと言った。よほど自分が此処に居ることが他の人にばれたくないようだ。

 

「やあ諸君!!お待たせっ!!!!」

 

大講堂に大きな声が響き渡る。皆が一斉に声の聞こえた方角を見る。そこには、木で出来た柵が手前にある奥の道に続く短い階段にきちんとした陰陽師の格好をした有馬とじっさま、そしていつも通りのお婆さんがいた。

 

「陰陽頭!土御門有馬だ!!ご足労頂き感謝するよ!!」

 

「おお、有馬様」

 

「相変わらずテンションがお高い」

 

高いテンションで、大講堂の皆に挨拶する有馬。幹部達の話からすると有馬はいつもこのテンションらしい。

 

「集まって貰ったのは他でもない!今日は皆にと~~~っても嬉しい超々ビッグニュースを持って行きたんだぜイエ~~~~~イ!!!」

 

ビッグニュース?と夏希は首を傾げる。陰陽頭である有馬がわざわざ出向くほどのこととは何だろうか、そんなことを思いつつ有馬の話を聞く。

 

「数日前行った式占(ちょくせん)(占い)によって天から素晴らしいお告げが………“神託(しんたく)”が下った!!!!」

 

ここから長いので要約させて貰います。

 

簡単にすると、大陰陽師である安倍晴明(あべのせいめい)を超える呪力を持ち、全てのケガレを祓い、禍野に終焉をもたらす存在と言われる“神子(みこ)”が出現することが告げられたらしい。

 

「重要なのは“誰が”その神子なのかということだ!!………化野 紅緒君!!前へ出てきてくれるかな!?」

 

おお!、と周りから歓声が上がる。紅緒は何気ない顔で、鞄を左肩に掛けたまま前へと歩いて行く。

 

「京都の名家!本土・化野家の筆頭っ!!紅緒様が神子というのなら納得ですな!!」

 

「………」

 

おかしい、夏希はそう思った。幹部の人が声を上げて言っていたが、確かに紅緒は強い。しかし、神子と呼ばれるには実力不足どころの話ではない。

 

「…はは、孫ポジションキャラは相変わらずジジィ共に人気だね」

 

有馬は柵を飛び越え、紅緒の前に立つ。

 

「ぬるい地元でちやほやされて、トラウマは少しは克服できたのかい?」

 

「………」

 

有馬の言葉に、紅緒は顔を歪める。

 

「では、もう一人!焔魔堂 ろくろ!!ろくろ君!!君もこっちへ来てくれっ!!」

 

「何で俺が………!?」

 

「分かんないけど、とりあえず行ったほうがいいんじゃないか?」

 

急に呼ばれたことで驚いているろくろ。亮悟にも後押しされとぼとぼと歩き、階段を登っていく。周りからは、ざわつきが出始めた。

 

「彼らは共に14歳だが、陰陽師としての素質は恐らく、ここにいる誰よりも高い!!かたや東京!かたや京都!言わば……」

 

有馬が二人の肩を掴む。そして夏希達、観衆の方に体を向けさせる。

 

「東の最強!焔魔堂 ろくろと、西の最強!化野 紅緒というワケだ!!」

 

「最強って……」

 

「ろくろが~~~~~!!?」

 

その場の夏希を除いた全員が騒ぎ始める。慎之介が感嘆の声を上げ、篤は信じられないとでも言わんばかりに叫ぶ。そんな中、夏希は有馬に疑惑の目を向けていた。

 

「……」

 

分からない、夏希はただそれだけを思っていた。何故あの二人なのか。夏希は思考をフルに活用し考えていく。

 

(あの二人は確実に神子ではない。なら何故神子の話をした?……話す意味、必要があった。ということは、神子に関係してくることは?………!!!!)

 

夏希は一つの答えに行き着いた。そんなことがあるわけがないと。しかし、いくら考えてもその答えに行き着いてしまう。男性と女性、そして神子。これが夏希を一つの答えにたどり着かせてしまう。

 

「そぉら(みんな)!場所を開けた開けたぁ!!本気を出した彼らの戦いに巻き込まれたら、怪我どころじゃ済まないぞ!!?」

 

有馬の言葉にハッと顔を上げる夏希。どうやら、深く考え込みすぎて周りが見えていなかったらしい。目の前を見ると、人が退き、ろくろと紅緒が戦闘を開始していた。

 

(あの人は………!!!)

 

怒りの表情を(あら)わにし、拳を握り締める。大方、実力が見たいとでも言ったのだろう。ろくろにその気はないだろうが、紅緒はろくろの実力を知りたがっていた。一方的に戦闘を始めたに違いない。

 

ろくろは逃げてばかり、紅緒は短刀を使い一方的な戦闘になっていた。互いに呪装をしていないため、そこまでの大怪我には至っていない。しかし、ろくろは制服が少し破け、口から少し血を流しており、ボロボロである。それに対し、紅緒は無傷だった。

 

「どうしたんだいろくろ君~!やられっ放しじゃないか~っ!!君にちゃんと戦ってもらわないと神子の話が進められないんだが~!?」

 

階段に座り、左手で頬杖をつきながら、たるい口調でろくろに声をかける有馬。紅緒は攻撃をやめ、仁王立ちをしている。ろくろは膝をついており、はぁはぁと肩で息をしていた。

 

「うっせえこのパンツ男!!俺は陰陽師なんてとっくにやめたんだ!!お前の言う通りにする気もないし!神子なんてのもどうでもいいんだよ!!」

 

ろくろはキッと有馬を睨みつけ、自分の意志を怒鳴りながら伝える。

 

「やれやれ、君は一体何を恐れているんだ?」

 

「!?」

 

「知っているよろくろ君。君が戦うのをやめたのも、やめた理由も」

 

ろくろと、それを遠くから観戦している夏希の表情が驚愕に染まる。

 

「……な!?お前……!!」

 

「………!!!」

 

「戦えない陰陽師、弱い陰陽師に価値はないんだよ…そう。かつての君の同胞も同じさ。弱いから死んだ……それだけだ」

 

かつてのろくろと夏希の仲間を侮辱し始めた有馬。その目は冷たく、光が宿っていない。

 

「いやまあ、死んだら死んだで構わないんだけどね。所詮その程度の素質しかない連中だったというだけだ。陰陽師としてなにひとつ貢献できなかったカスが、大人になった所でカスはカスのままだっただろうからね」

 

有馬の言葉に、夏希とろくろは憤怒の表情を浮かべ、顔を歪める。その時、二人には仲間達との日々が頭の中をよぎっていた。共に笑い、共に泣き、共に最高の陰陽師を目指し精進していたろくろ。そんなみんなに、陰陽師としての技術を教えるため、清弦に連れてこられた夏希。二人にとってはかけがえのない日々だった。

 

「あ、あんた!!なんてこと言うんだっ!!」

 

亮悟が有馬に向かって叫ぶ。その時だった。

 

「「おい……」」

 

ろくろが顔を下に向けたままヨロヨロと立ち上がり、夏希が顔を下に向けた状態でろくろの隣まで歩く。その手の握り締めた拳からは、血が垂れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「アンタ(お前)…………殺すよ?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

顔を上げ、有馬に殺意を込めた言葉を浴びせる。その目は見開かれており、今にでも人を殺せそうな表情だった。二人から放たれた殺気に周りからは少し悲鳴が聞こえた。

 

「………は、おお(こわ)ぁあ♡」

 

有馬はその言葉に、目を細め不気味な笑みを浮かべる。

 

「お前が昔のことをどこまで知ってるか分かんないけど、そこまで言うなら………見せてやる」

 

ろくろが言葉を紡ぎながら、右腕の袖を(まく)る。

 

「でも………俺がそいつに勝ったら、みんなのことを悪く言ったこと!お墓の前で手をついて謝れ!!」

 

「その前に俺がぶん殴る!」

 

ろくろは紅緒に体を向ける。そして、ろくろは()()()()を左手で持ち、右腕を自分の前に持ってきて構える。夏希は両手に手袋を()け、一枚の霊符を構える。

 

「祓へ給へ!清め給へ!」

 

ろくろから呪力が溢れる。そして、右腕から紋様が浮かび上がってくる。

 

「急急如律令!!」

 

ろくろの腕の紋様は、黒い霊符に映され、ろくろの腕は劇的な変化を見せた。その腕には鬼の顔を思わせるような模様になっており、(あか)く、先程よりも強く逞しく、そして禍々しいオーラを放つ腕へと変化した。

 

砕竜符(さいりゅうふ)

 

霊符が光を放ち両腕に纏わり付く。

 

拳竜爆発(けんりゅうばくはつ)!急急如律令!」

 

その両腕は光沢をもつ群青色で竜の皮膚を彷彿(ほうふつ)とさせる装甲になっており、拳に先端が楕円形のハンマーが纏わり付く感じになっている。しかも、そのハンマーの先端には緑色の粘液がついている。

 

「さあ……!!覚悟しろよ……!!!」




分かる人には分かると思いますが、一応言っときます。

夏希が最後に使った呪装、あれは『モンスターハンター』のブラキディオスです。

こんな感じの呪装も出るかもですので、期待しておいて下さい。


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あの二人が双星か………

どうも、作者です。

恐らくこの作品での年内最後の投稿になるでしょう。

今回は、ちょっと夏希が馬鹿に見えます。


「さあ……!!覚悟しろよ……!!!」

 

夏希が有馬に呪装した拳を構える。隣では、ろくろと呪装した紅緒が戦闘を開始していた。

 

「ん~僕としては二人の戦いを見たいし、君とは戦いたくないんだよね~。さらに、それで殴られたら僕死んじゃうし」

 

有馬が夏希の腕に指を指す。これは普段、夏希が使用する霊符の一つ。しかし、ただの呪装ではなく、十二天将が使う呪装に少し劣るくらいの力がある。しかし、勘違いしてはいけない。十二天将の呪装に少し劣る程度で、他の呪装よりも格段に強いのだ。そんなもので殴られれば、防御の呪装をしていない有馬など一発で死んでしまうだろう。

 

「知るかそんなもん」

 

夏希にとってはどうでもいいことだ。相手が陰陽頭だろうが関係ない。今はかつての仲間を侮辱したことの方が重大である。

 

「死にたくなかったら()けるか(ふせ)ぐかしろや!!!」

 

夏希の口調が荒いのは相手に敵意を持っている、もしくは本気でキレている時の証拠である。夏希は今、有馬に対して本気でキレているため躊躇(ちゅうちょ)というものが一切ない。

 

夏希が地面を蹴り、有馬に向かって跳んだ。呪装していないにも関わらず、その跳躍力は人間の身体機能を超えていた。その跳躍で数メートル先の階段に座っている有馬に、一気に距離を詰める夏希。

 

呪障壁(じゅしょうへき)。急急如律令」

 

有馬が呪力で作った障壁を、夏希と自分の間に作る。しかし、夏希には関係ない。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

夏希は障壁を目にとまらぬ速さで殴る。殴った所に緑色の粘液が付着する。障壁にヒビが入ると同時に、付着していた緑色の粘液が赤くなって爆発した。それにより障壁が爆散し、熱の籠もった煙が巻き上がった。

 

「よっと」

 

有馬はひらりと爆発を(かわ)した。煙の中からは、少し黒く汚れた状態の夏希がいた。先程の爆発で無傷なことに有馬は少し驚いていた。

 

「本当に頑丈だね。防御の呪装をしないで火傷や傷がないとは、本当に人間かい?」

 

「一応は……な」

 

「ふふ、感情に流されやすい所は母親そっくりだね」

 

そう、有馬は夏希の両親と同じ学校の出身なのだ。他にも、繭良の父である清弦、あと十二天将の二人と同じ学校で友人関係にあったらしい。とんでもない(えん)があるものだな~としみじみ感じている夏希。が、今はこんなことを考えている場合ではない。雑念を払い、再び有馬に構える。

 

「やめんか!夏希!!」

 

じっさまが柵から身を乗り出して声を張り上げる。じっさまが“夏希”と言った瞬間、周りがざわつき始めた。

 

「夏希……そうか!“天道”!“天道”の称号を持つ最強の陰陽師!!天道 夏希か!!!?」

 

「は!?」

 

「今度は夏希が最強ォ~~~~!!!?」

 

誰かが放ったこの一言が、講堂のざわつきを一層強めた。慎之介が驚きの声を上げ、篤はまた叫ぶ。あっちこっちで騒ぎ起きまくっているため、講堂はカオスな状態である。

 

「……ばれたか」

 

「いいじゃないか」

 

「いやですよ面倒くさい。しかも、名字と称号が一緒っていうのもどうかと思うんですよね~」

 

“天道”、夏希の名字と同じ称号。十二天将とは違う実力を夏希が示したため与えられた称号。さらに、十二天将と同じ権限を持つことを許されているのが夏希だ。そんな夏希が此処に居られるのは、有馬から特例が出たからである。そのことには感謝しているのだが、時折はちゃめちゃなことをする有馬に素直に感謝出来ない状態である。

 

「……さてと、そこまで♡」

 

有馬がそう口にすると、夏希の腕の呪装が解除された。

 

「あっ!」

 

「だ~~~~~っ!!!」

 

それと同時に、ろくろの悲鳴が階段の下から聞こえた。有馬は夏希の相手もしながらろくろ達の戦いを見ていたようだ。つまり、夏希の呪装だけでなく、ろくろ達のも解除したようだ。そのことに気づいた夏希は軽く舌打ちをし、有馬と共に階段を下りていく。ろくろは頭をぶつけたらしく、夏希が心配そうに近寄る。

 

「お見事二人共!素晴らしい戦いだった!!」

 

パァッ、と明るい笑顔で二人を褒める有馬。しかし、すぐに真剣な表情に変わり、夏希とろくろを見る。

 

「すまなかった、夏希君、ろくろ君」

 

有馬は二人の前に立ち、ゆっくりと頭を下げた。

 

「ろくろ君、君の本当の力が見たくて、君達二人の友人を冒涜(ぼうとく)してしまったこと。許してくれ」

 

夏希とろくろは、有馬が頭を下げたことに面くらっていた。周りからは頭を上げて下さい、などの陰陽頭にあるまじき行為に驚きの声を上げていた。

 

有馬はゆっくりと頭を上げ、立ち上がった夏希を見据える。

 

「夏希君、君の怒りが収まっていないなら、僕を殴ればいい」

 

「………さすがに冷めましたよ。まったく」

 

この状況で殴れるはずがない、と。夏希は冷めた表情でそう口にした。

 

「そうか、では」

 

有馬は体を見ていた幹部達の方へと向ける。

 

「見て頂けたかな諸君っ!!彼らの実力を!!どうだろう……」

 

ろくろと紅緒の肩を掴み、息を吸い込む。

 

「正に彼らこそ!!『双星の陰陽師』を名乗るに相応しいと思わないかっ!!?」

 

「「なっ!!!?」」

 

じっさまとお婆さんは驚愕し、会場のざわつきは最高潮に達していた。そのなかで、ろくろ、紅緒、亮悟、篤、慎之介だけが話を理解できていなかった。夏希はやっぱりか、と呟いて(ひたい)を抑えていた。

 

(なん)だよ、双星の陰陽師って?」

 

「神子と合わせて伝わる称号の一つさ」

 

ろくろの質問に有馬が答える。

 

「『熒惑(けいわく)の黒炎が(うつつ)を覆う(とき)常闇の空に流るるは双星、双星(あい)重なりてこれを祓う』───ってね。僕が授かった神託というのも、「君達二人が双星の陰陽師である」というものだ」

 

有馬が丁寧に双星について説明する。

 

「ば……馬鹿な!双星じゃと……!!?しかもよりによって、あのエロ坊主と紅緒様が……!!夢じゃ!これは悪い夢じゃ……!!」

 

「うおおっ!!ババっ!!しっかりせい!!」

 

お婆さんは顔がどんどん青ざめていき、バタンと倒れてしまった。近くにいたじっさまが呼びかけても反応がない。どうやら気絶してしまったらしい。

 

「ちょ……!話が全然見えないんだけど!!どっちが神子なのか決めるために戦わせたんじゃないのかよ!!?」

 

困惑の表情を浮かべてろくろが有馬に問いかける。紅緒もろくろと同意見らしく、ジッと有馬を見つめる。

 

「だから言ったろ。君の本当の力が見たかった───と。結論だけ伝えても納得しない連中が多いからね」

 

有馬がそう口にすると、顔を隠したり、目線を逸らしたりする人達が多かった。

 

「確かに。俺も称号を貰う時、結構反発する人が多かったな。実力がどうだのこうだの、本当に面倒くさかった」

 

そう、夏希は称号を貰う時、周りからの反発がかなり強かった。称号だけでなく、特別に十二天将と同じ権限を与えられることになっていたのだ。しかし、幼い子供に十二天将と同じ権限が与えられるのをよく思わない人達もいた。そのため反発されても当然だった。しかし、夏希の実力を知っている十二天将の人達がそれを黙らせたとのことらしい。しかも、夏希も実力を自分で示したため、今や反発するものなど誰一人としていない。

 

「そういうこと。それに、双星が誰なのかが分かれば、神子も(おの)ずと決まるんだよ☆」

 

「「?」」

 

「やれやれ、察しが悪いな。つまり最強の陰陽師神子とは、双星の子供だよ。双星の陰陽師は夫婦に与えられる称号だ。最強の陰陽師の夫婦が最強の陰陽師の子供を産む。君達には結婚して子供を作って貰いたいんだ♡」

 

それを聞いた瞬間、二人が硬直する。夏希は天を(あお)いでいた。

 

「やっぱり……か」

 

「……は?」

 

「……」

 

「はああああああっっ!!!?」

 

ろくろの叫び声が講堂中に響く。

 

滅茶苦茶(めちゃくちゃ)言ってんじゃねえぞこのパンツ男っ!!そもそも十四歳じゃ結婚自体出来ねぇしっ!!!」

 

ろくろは有馬に指を指し、思っていることを全て吐き出した。

 

「あっはっはっは!そんなモン無視無視」

 

「オイ!」

 

「いやダメでしょ無視したら」

 

ついついツッコんでしまった夏希。ろくろの意見も最ものことだろう。急に結婚だの何だの言われて、冷静でいられる方がおかしい。

 

「それに決めたのは僕じゃない。神託による導きだ」

 

「いや最終決定権、陰陽頭のアンタだよな?」

 

「そんなことは置いといて、如何(いか)(あらが)おうと君達は結婚“する”し、子供を“産む”。そういう運命(さだめ)だと理解してくれるとありがたいな♡さあイベントはここまでだ!解散!!」

 

「オイ待てコラぁ!」

 

「落ち着けってろくろ」

 

「…………ギリッ!!」

 

「?」

 

かくして、有馬のサプライズ?は幕を閉じた。しかし、講堂で紅緒が最後に見せた怒りの表情を、夏希は見逃さなかった。

 

 

 

 

 

これは余談だが、夏希は自分の正体がバレたことで幹部の人達が一斉に挨拶に来て、ものすご~~~~く長い間拘束状態になり、その後の夏希は、白く燃え尽きていたとさ。




………やってしまったよ。
分かってるよ!自分でも少し話の進め方が強引じゃねえかと思うよ!?でも、仕方がなかったんだ………。どうしてもこうなってしまったんだ………。

まあ、後悔とか懺悔(ざんげ)はこの辺にして。
次回は来年になるかも、ということで少し早いですが、メリークリスマス!そして、よいお年を!


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亮悟さんが危ない!

どうも、作者です。
新年明けまして、おめでとうございます!!!!
今年も出来るだけ頑張りますので、よろしくお願いします。

さて、この作品は凄いノリノリで書けるのですが、もう一つの作品がやる気をあまり出せない。

まあ、作者の悩みは置いといて、今回は少し強引かもです!!!
楽しんで読んでくれると嬉しいです!!!


「ふわぁ、よく寝た」

 

(にしても、GW(連休)長いな)

 

夏希は両腕を上げ背筋を伸ばしながら階段を下りる。他の人達はまだ寝ているため、音を立てずに歩いて洗面台に立ち、歯を磨いたり、顔を洗ったりする。そしてスッキリするとキッチンまでいき、冷蔵庫から食材を取り出す。

 

「さて、朝食を作るか」

 

そう言うと、夏希は調理を始めた。少しすると、ろくろと紅緒以外の全員がリビングに集まってきた。紅緒は朝の訓練にでも行ったのだろう。夏希は、紅緒の分は作り置きにしておこうと考えた。

 

「おはよう夏希。いつも悪いな」

 

「いえいえ、これくらいいいですよ。それに趣味でもあるんで。俺がいない時はちゃんと自分達でやれてるじゃないですか」

 

「いや、本当に助かってるよ」

 

「しっかし、本当に夏希は凄いよな。料理とか裁縫とか、家庭的なことはほぼ全般できるし、顔も整ってて背も少し高め」

 

「運動神経もよくて、成績もそこそこ良いし、文句の付け所がないよね」

 

「やめて、なんか(かゆ)くなってきた」

 

篤と慎之介が夏希を褒める。その言葉に少し夏希は照れる。

 

「それに陰陽師としての実力もある。夏希がどんな人と結婚するか楽しみじゃの」

 

「変なこと言ってないで、ほら出来ましたよ」

 

夏希がテーブルに料理を並べる。

 

「お!美味そう」

 

「うん、美味しそう」

 

「ほー、見事ですな」

 

「早く食べよう!もう待ちきれんわい!」

 

「じっさま、落ち着いて」

 

「じゃ!」

 

「「「「「「いただきます」」」」」」

 

 

 

 

 

 

「夏希、お前は此処(ここ)に行ってくれ」

 

「了解だじっさま!」

 

夏希は二階の廊下でじっさまに地図を貰い、下の階に下りる。すると、紅緒の怒鳴り声が聞こえ、リビングを(のぞ)く。そこには、狩衣を着て困惑の表情を浮かべる篤と慎之介。そしてろくろと、キッとろくろを睨みつけている紅緒がいた。

 

(あ~あ、どうせ篤さんが変に冷やかそうとして、紅緒さんがキレたな)

 

夏希は昨日の紅緒の表情を思い出す。何かしらの不満がある、と夏希は見ていた。とりあえず、黙って様子を見ようと思い、そのまま見ていることにした。

 

「陰陽師としてのやる気も正義感もないような男と夫婦(めおと)になる……など、一生(いっしょう)の恥……ですっ!!」

 

「このっ!言わせておけば!!」

 

ろくろが紅緒を掴みにかかる、が

 

「迷惑してんのは俺も一緒だっつの!!」

 

と言ったあと、顎を(てのひら)で打たれ

 

「俺にだって選ぶ権利があるんだよっ」

 

と言いながらアルゼンチンバックブリーカーを掛けられ

 

「てめぇみたいな能面暴力女(のうめんぼうりょくおんな)、誰が嫁にするかっ…………」

 

と言いながらボストンクラブを掛けられた。バックブリーカーとボストンクラブは、骨がバキ、ボキ、などの音を立てていた。

 

結果、ろくろが(ゆか)()し、慎之介が紅緒の左腕を持ち、勝利宣言をする。

 

「勝者、紅緒さん」

 

「わざとだよな!?女の子が相手だからわざと負けたんだよなっ!!?」

 

(あ~あ。まあ、ドンマイだな)

 

篤は倒れているろくろに詰め寄る。紅緒は機嫌が悪そうな顔で夏希のいる扉に向かっていく。夏希は素早く別の所に隠れてやり過ごした。すると、紅緒と亮悟の声が聞こえる。何かを話ているようだが、夏希は何故か聞いてはいけない気がして、じっさまに頼まれた依頼の場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

「結構遠かったな……」

 

夏希は仕事を終えて星火寮に向かって歩いていた。

 

(しっかし、今回のケガレ祓い、亮悟さん達だったら危なかったな)

 

夏希が向かった場所は廃墟と化した少し小さな小屋だった。なんでも、昔そこでは神隠しがよく起こり、その神隠しにあった人は帰ってきていないらしい。そして夏希達の所に依頼が来たのだ。

 

(……最近、ここら辺のケガレの強さが増してるな)

 

今回の依頼されたケガレ、繭良と出かけた時のケガレ、その他でも少しずつ感じていた。

 

「……亮悟さん達は大丈夫かな?」

 

そんな焦燥に駆られ、夏希は少し足早で帰っていった。

 

 

 

 

 

 

「ただいまって、大丈夫か!?」

 

夏希が玄関を開けると、目の前にはボロボロの姿で怪我をした篤、そしてボロボロの慎之介がいた。

 

「夏希!!」

 

「大変なんだ!!亮悟さんがっ!!!ケガレにっ!!!」

 

「亮悟さんが!!?」

 

こういう感が当たるのが嫌な所だ、そんなことを思いつつも亮悟を助けに行かねばという思いが強くなっていく。

 

「早く行かねえと……!!」

 

「夏希!!!」

 

階段の上からろくろと紅緒が駆け足で下りてくる。

 

「ちょうど良かった!!亮悟がケガレに!!」

 

「分かってる!!場所は分かるか!!?」

 

「ああ!!」

 

「なら急ごう!!!」

 

「うっし!!!」

 

「うん」

 

急いで外に出た夏希達。ろくろと紅緒は一枚の霊符を取り出した。

 

「「韋駄天符(いだてんふ)」」

 

「「「飛天駿脚(ひてんしゅんきゃく)!急急如律令!」」」

 

すると、ろくろと紅緒の霊符は光となり、二人の脚に纏わり付き一つの模様になった。夏希も二人と同じ模様が脚に浮かび上がっていた。

 

「!貴方……どうやって……!?」

 

「いいから!今は亮悟さんの救出が先だ!!禍野門開錠。急急如律令!」

 

こうして、三人は亮悟の救出に動き出した。

 

 

 

 

 

 

夏希達は現在、禍野を全速力で走っている。しかも、足が速くなる呪装をしているため、通常よりも遥かに速い速度で走っている。

 

「クソッ!?速くしねえと……!!」

 

「落ち着きなさい」

 

「でも!」

 

「喧嘩は後だ!それと!いつでも戦えるよう準備しておけ!!」

 

「……そうだな」

 

「その方が……良さそう」

 

ろくろはいつも通り、黒い霊符を取り出し、右腕の力を解放する。紅緒は走りながら狐の形のお面を着けて、三枚の霊符を取り出す。

 

轟腕符(ごうわんふ)金剛符(こんごうふ)星動読符(せいどうどくふ)

 

三枚の霊符が(ちゅう)に浮き、光となって紅緒に纏わり付いていく。轟腕符は両腕に、金剛符は胴に、星動符はお面に呪装されていく。

 

「陰陽呪装。砕岩獅子(さいがんしし)急急如律令。鎧包業羅(がいほうごうら)急急如律令。来災先観(らいさいせんかん)急急如律令」

 

「へえ、四連装か。すごいな」

 

「最大で……六連装」

 

「……マジかよ」

 

改めて、紅緒が天才であることを再確認する夏希。

 

「夏希はしないのか?」

 

「俺は今回援護だ!お前ら二人は接近タイプだからな!俺が遠距離から蹴散(けち)らしてから突っ込め!」

 

「「了解!」」

 

「……見つけた!」

 

崖の下には頭が二つある大きなケガレと小さなケガレ達。そして、大きなケガレの指から伸びた鞭のようなものが亮悟の左足に刺さり、持ち上げられていた。亮悟はすでにボロボロで傷だらけになっており、呪力はほぼ尽きていた。

 

「亮悟っっ!!!!」

 

「ろくろ……?夏希に紅緒さん……?どうしてここに……!!?」

 

夏希が左手で印を組む。すると、周りの石が宙に浮く。そして、一つ一つに模様が出来ていく。その石は前に伸ばした右手の前に動いていく。

 

裂空魔弾(れっくうまだん)!急急如律令!」

 

呪力を込めた石を指で弾く。その石はもの凄い速さで亮悟に刺さっていたケガレの伸びた指を千切った。

 

「うわぁ!」

 

(あぶ)ねぇ!」

 

落ちる亮悟を慌ててろくろが走りキャッチする。夏希は次々と裂空魔弾を打ち出し、周りの雑魚のケガレを倒す。その度、ケガレがいた場所では爆発に近い風と土煙が巻き起こる。

 

「亮悟!大丈夫か!?」

 

「何とか……」

 

『きっはっはっはっ!』

 

「ろくろ!油断すんな!」

 

大きなケガレがろくろと亮悟の前に立つ。ろくろは亮悟を降ろし、ケガレに向く。

 

「てめぇらケガレのその笑い方が、ムカつくんだよ………っ!!」

 

ろくろの右腕に呪力が溢れていく。ケガレはろくろの右腕を見た瞬間、体を震わせ怯えていた。紅緒はそれを見て、驚愕していた。

 

(どうしてケガレは、彼の力に怯える(、、、、、、、)………の!!?)

 

『セェェぃぃめぇェェいっ!!!!』

 

ケガレが叫び声を上げ、ろくろに向かって突進していく。

 

「ワケわかんねぇこと言ってんじゃねぇ!!俺は!!焔魔堂 ろくろだ!!!!」

 

ろくろはケガレに向かって突っ込み、拳を振りかぶる。その一撃でケガレは一瞬にして消し飛んだ。悲鳴を上げ、セーマンだけを残して消え去った。ろくろはすぐに亮悟へと駆け寄る。

 

「ろくろ……」

 

「……心配かけさせんなよ」

 

ろくろが亮悟に、震えた声で話しかける。本当に心配だったのだ。家族がいないろくろにとって、亮悟は兄のような存在だ。かけがえのない家族が死ぬかもしれないと思ったろくろの不安は、計り知れないだろう。

 

しかし、そんな空気をケガレは読んでくれない。小さなケガレは自分よりも強いケガレが居なくなったことにより、亮悟達を自分の獲物として襲おうと跳びかかる。

 

しかし、刹那にしてケガレ達は祓われる。

 

「まだケガレはいるぞ」

 

「油断……大敵」

 

「分かってるって。つうわけで亮悟。ここで待っててくれ」

 

ろくろが夏希と紅緒の方に歩いていく。

 

「少しの間、亮悟を見ててくれよ化野 紅緒」

 

「……断る。君が守ってあげればいいだろう」

 

「戦う方は男に譲れよ!どんだけ好戦的なんだよ!?」

 

「まあまあ。俺が亮悟さんの(そば)に居ながら裂空魔弾で射撃するから、な?」

 

「まあそれなら」

 

「話は……決まった」

 

夏希が亮悟の傍に寄り、ろくろと紅緒がケガレに向かって歩いていく。夏希は亮悟の近くに立ち、裂空魔弾をいつでも撃てるように宙に配置しておく。

 

「ま、どのみち亮悟には指一本触れさせねぇ」

 

「そういう……こと」

 

「……俺の出番少なさそうだな」

 

そこからは、亮悟にとって息を呑む光景だった。ろくろがパワーでケガレを圧倒。紅緒はスピードを()かし、両手に持つ剣でケガレを斬っていく。夏希は逃げようとするケガレの狙撃。ケガレが次々と祓われていた。

 

「………なあ?夏希」

 

「何?亮悟さん」

 

「……やっぱろくろはさ。陰陽師として戦ってる時が、一番カッコイイなぁ」

 

「……そうですね」

 

優しく微笑んで返事をする夏希。その微笑みには、悲しみと嬉しさが含まれているように見えた。

 

 

 

 

 

 

ケガレを祓い、現に帰ってきた夏希達。そこには、心配で車で来ていた篤と慎之介がいた。二人は、ろくろに肩を貸して貰った亮悟を見るとすぐに駆け寄り、涙を流して喜んだ。

 

そして夏希、亮悟、篤、慎之介は車で星火寮に向かっていた。紅緒は禍野門の浄化で残り、ろくろは紅緒が来るまで待っているとのこと。車は篤が運転し、その隣は慎之介、後部座席には夏希と亮悟が座っていた。

 

「亮悟さんが無事で本当に良かった!」

 

「な゛づぎぃ~!マジにありがどう゛なぁ~!」

 

「篤!運転に集中しろ!マジで危ないから!」

 

運転しながらまだ泣いている篤。亮悟が危ないと思いそれを注意する。

 

「篤さん。俺だけじゃなくてろくろと紅緒さんもですよ。帰ってきたらちゃんと言ってあげてください」

 

そう言ったあと、夏希は外を見る。

 

(……何で俺はまた!肝心なときに仲間の傍にいられないんだよ!)

 

必然と拳に力が入る。その顔は、後悔と悲しみの感情で満ちていた。




……やっぱり、強引な気がする。
まあいいや!!!

それではまた次回まで、さようなら~~~!!!


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連休明けの学校

どうも、作者です。

この作品を自分で読んだんですが、必ず戦闘が少し入ってることに気づいた。だが!今回は無い!

楽しんで読んでくれると嬉しいです。


「久しぶりの学校だな」

 

夏希は自分の部屋で、自分の学校の制服の袖を通す。連休も明け、今日からまた学校である。亮悟の事件から、変わったことはかなりある。まず、亮悟が怪我で入院したが、当然である。足に穴が空いたのだ。入院しないほうがおかしい。そして、ろくろと紅緒が別の家で同棲を始めた。原因はもちろん有馬。さらに昨日、“婆娑羅(ばさら)”と戦闘をしたという伝達が有馬から夏希にメールで届いていた。

 

婆娑羅とは、ケガレの中でも最上級の強さを持っている。その姿は人とほぼ変わらず、人のように言葉も喋れる。しかし、強さは異常。最強ランクの陰陽師である“十二天将”が一対一で戦った場合、倒せるか分からない強さを誇る。二人が婆娑羅と戦って生きていられただけでも奇跡である。

 

などと説明している内に、夏希は準備をすませて鞄を肩に掛ける。そして、部屋の扉を開ける。

 

「うっし!」

 

「夏希~。繭良が来ておるぞ~!」

 

「は~い!」

 

下からじっさまの声が聞こえ、足早(あしばや)に階段を下る。そして、玄関で靴を履き玄関の扉を開ける。繭良と登校するのは、夏希にとっては珍しいものではなく、逆に一緒に登校しないほうが珍しいくらいになっていた。

 

「行ってきまーす」

 

そう言って夏希は玄関を閉める。そして、繭良の元まで走る。

 

「おはよう」

 

「おはよう。あれ?ろくろは?」

 

「ん~、まあ歩きながら説明するから、とりあえず行こう」

 

「分かった」

 

二人は学校まで歩いていく。

 

「それで、ろくろはどうしたの?」

 

「まあ、ちょっとした事情で別の所に住んでるんだよ」

 

「もしかして、陰陽師に何か関係してる?」

 

「……うん」

 

歯切れが悪そうに返事する夏希。

 

「どうして!?もうろくろは……!!」

 

「ああ。でも、もしかしたら───ろくろの中で、陰陽師への想いが蘇ってきたのかもしれない」

 

「……夏希は、いいの?ろくろがまた陰陽師に成るの」

 

「俺は、ろくろがそうしたいなら─────それでいいと思ってる」

 

繭良に自分の考えを伝える夏希。今まではろくろが陰陽師を嫌っていたから、陰陽師をやれとは言わなかった。しかし、ろくろが再び陰陽師をやりたいと言うのなら、自分はそれを全力でサポートする。夏希の中にはその覚悟ができていた。

 

「……そっか」

 

 

 

 

 

 

鳴神市立 鳴神中学校

 

 

 

「何か久しぶりだなこの感じ」

 

「本当だよね~」

 

二人は教室に入り、自分の席に座る。席は繭良が黒板から見て左端の一番後ろで、その前に夏希が座っている。ろくろはその列の一番前の席である。ここまで説明すれば分かると思うが、三人は同じクラスである。

 

「ん、ろくろが来た」

 

「ちょっと行ってくる」

 

「俺も行く」

 

二人は席を立ち、ろくろの所まで歩いていく。

 

「おはよう、ろくろ」

 

「よぉ夏希!繭良!」

 

「よぉ、じゃないわよ~。引っ越ししたなら連絡くらいしなさいよ。朝夏希に聞いて、初めて知ったんだから」

 

「超バタバタで、連絡する暇なかったんだよ………」

 

「はいは~い!HR(ホームルーム)始じっめっるよ~」

 

担任の先生が教室に入ってきた。立っていた生徒達も自分の席に座っていく。

 

「じゃ、後でなろくろ~」

 

「後でね~」

 

「ああ」

 

夏希と繭良が席に着く。先生は教卓の前に立つ。そして、先生の隣に立つ少女がいた。その少女に夏希とろくろが気づく。

 

(………え?)

 

(はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?)

 

「京都から来た化野 紅緒さんだ。みんな仲良くするように~って言うまでもないか~☆コラっ!!そこの男子!テンションが低いぞ!!」

 

先生の言葉にクラスの男子が盛り上がる。そう、先生の隣にいたのは、鳴神中学校の制服を着た紅緒だった。夏希とろくろはとても驚いていた。夏希はこの学校に紅緒が来ることを知らなかったし、ろくろは来ることは知っていたが同じクラスとは思っていなかった。紅緒も同じクラスだとは思っていなかったらしい。が、三人ともすぐに身内(・・)の仕業だと理解した。

 

「どうしたの夏希?」

 

「いや、まあ、知り合いだよ。ろくろと俺の」

 

「………まさか、陰陽師関連?」

 

「正解」

 

「じゃあ化野はうしろの………音海の隣に座ってくれ。音海はクラス委員長だし、分からないことがあったら彼女に聞くといいよ」

 

先生が繭良の隣の席を紅緒の席にした。紅緒がろくろの近くを通る時、互いに顔を逸らした。夏希は、互いに意識しすぎじゃね?、と思う。そして、スタスタとこちらに歩いてくる。そして、繭良の隣の席に座る。周りの男子は少し頬をほころばせて嬉しそうである。

 

「よろしく、紅緒さん」

 

「………よろしく」

 

近くに来たため、軽く挨拶する夏希。紅緒も挨拶をする。こうして、連休明けの学校がスタートした。

 

 

 

 

 

 

そして、体育の時間。女子は高跳び、男子はその周りのトラックで持久走である。そして、紅緒の番となり背面跳びで軽々と跳んだ。周りの女子からは歓声が上がる。

 

「わあ~~~~っ!!化野さんすご~~~~っ!!!」

 

「男子の陸上部員よりも飛んだんじゃない!!?」

 

そして、男子達はそんな紅緒を微笑みながら眺めている。夏希は普通に、ろくろは複雑そうに見ている。

 

「いいよね化野さん☆」

 

「無口でしとやかで、しかもスポーツも出来ちゃう」

 

(無口でしとやか………か)

 

(はっ!ど~こが!!普段はケガレ祓いまくってるし、陰陽師に関わることならめちゃめちゃ喋るじゃん!)

 

夏希は微妙な表情をし、ろくろは心の中で男子の感想を否定する。すると、二人の友達のチャラい感じの男子が不思議に思ったのか話かける。

 

「あれ?ろくろは化野さんにレーダー反応しない感じ?」

 

「えっ!俺………!?あっ……当たり前じゃんあんな女!ホラっ!俺はもっとこうボンキュッボン♡な()がタイプだからな!?」

 

「あっはっはっは。ろくろ、分相応(ぶんそうおう)って知ってる?」

 

「ムキになって否定する理由も分かんないけど」

 

チャラい感じの子にとんでもないことを言われ、眼鏡を掛けた子から冷静に分析される。

 

「じゃあ音海さんとかはろくろのタイプに入るの?」

 

「繭良が?」

 

「!!!」

 

目が細く、のほほんとした子から聞かれるろくろ。その言葉に夏希は一瞬ビクッと肩が動いた。

 

「繭良ガンバ~☆」

 

「うんっ!」

 

そんなことを話していると、ちょうど繭良の番となりスタート位置に着く。周りのみんな応援され、ぐっと意気込みをする。

 

「えいや!!」

 

繭良が跳ぶ。その高さは棒よりも下、何事もないかと思われた。が、繭良の胸が棒に当たり、棒が落ちた。

 

「おいいいい~~~~~~っ!!マジかお前~~~~~~っ!!!」

 

「下くぐって胸で棒を落とすなんて狙ってやってもできねえ~~~~~~っ!!!」

 

「単に運動神経がないのかイヤミなのかどっちだ~~~~~~っ!!!」

 

「イヤミなんかじゃないわよっ!!!!」

 

女子はあまりの光景に、思わず思ったことを口にする。それに繭良も反応してちょっとした口論になっていた。

 

一方男子は、その光景に顔を赤くして言葉を失っている人がほとんどだった。

 

「す、凄いな音海」

 

「でも実際音海ってスペック高いよね?頭もいいし、カワイイし、胸も大きいし」

 

「幼馴染みで好みのタイプってろくろからすれば最高じゃん!?」

 

「いや~~~、繭良はじっさまの孫からなあ。親戚とか兄弟みたいな感覚だし」

 

「ああ、あのファンキーなおじいちゃん?」

 

ろくろは、繭良はそういう目で見ていないと言う。ろくろの答えに、夏希はホッとした。

 

「ていうか、繭良といえば………なあ?」

 

「ああ、なるほど」

 

ろくろの言葉に、一斉に視線が夏希に集まる。夏希はマズいと思い、走るペースを上げようとするが───

 

「おっと、逃がさないからな?」

 

チャラい感じの子に肩を摑まれた。もう逃げ道がないと思い、ペースをそのままにしておく夏希。

 

「んで、夏希は音海とどうなんだよ?」

 

「もうキスした?」

 

「おい、話がなんか飛躍してるぞ。なんで付き合ってないのにキスするんだよ?」

 

友達二人の言葉にツッコむ夏希。

 

「だって好きだろ?繭良のこと」

 

「………まあ………うん」

 

ろくろに聞かれて、少し迷ったが素直に答えた夏希。その言葉に周りの奴らはにやにやが止まらない。

 

「早く告白すればいいのに~~~」

 

「まあ、いつかはな」

 

「………まあ、ならいいか」

 

「そうだね」

 

「あんまり言わない方が良さそうだしね~」

 

これ以上はダメ、そう思い追求するのをやめる。夏希は助かったと思い胸をなで下ろす。

 

「そう言えば、ろくろ引っ越したんだって?」

 

「うん。そうだよ?」

 

「へぇ~~いいなぁ~~!新しい家ってどんな所?」

 

「………ふっふっふ!見たら絶対びっくりするよ?」

 

そうこうしていると持久走が終わった。女子の方も終わったらしい。

 

「じゃあその新しい家見せてよ♬」

 

「ゴメン、それはちょっと無理かな」

 

「な~~んだ嘘かよ」

 

「ろくろって見栄(みえ)()りキャラだったけ?」

 

「いや……!!嘘じゃないって!!夏希!お前は一回(ウチ)に来ただろ!?」

 

「………」

 

(だんま)り決め込むなよ!」

 

ろくろが夏希に助けを求めたが、スッと顔を逸らしてずっと黙り込む。先程の仕返しのつもりらしい。そうこうしていると、不思議に思った繭良が近づいてくる。

 

「何の話?」

 

「放課後皆でろくろの家に行こうって話♡」 

 

「じゃあ私も行く!どんな家に引っ越したか気になるし!」

 

「えぇ~~~~~~………」

 

嫌そうに声を出すろくろ。これにより、ろくろの新居へ五人が行くことが決定した。




原作より繭良の反応を少しマイルドにしてみました。

でもな~、次回が波乱だよな~。

最近忙しくなってきたので、投稿がだいぶ遅れるかもです。楽しみに待っていてください。


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ろくろの新居、そして………

どうも、作者です。

今回はいつもより長めです。

楽しんで読んでくれると嬉しいです!


「「「「おお~~~~~~っ!!!」」」」

 

夏希以外の四人はろくろの新居を見て驚き声を上げる。まあ当然の反応だろう。ろくろみたいな中学生が住む家にはあまりにも大きすぎる。夏希はろくろが引っ越した日に、ろくろの荷物を運び込むために一回来ているため、驚きはそこまでない。広々とした空間を動き回ったり、写真を撮ったり、ソファに座るなどして皆思い思いに行動する。

 

ろくろは紅緒とのことがあるため、もの凄くヒヤヒヤしていた。もし同棲している事が知れたら、瞬く間に噂が広がることだろう。今の所は靴も見ていないため、ケガレ祓いに行っているのだと結論づけた。

 

「………ん?繭良どうした?」

 

何故かもじもじしている繭良。夏希が繭良の異変に気づき、問いかける。

 

「実は、トイレ借りたくて………」

 

「ああ、ろくろ。トイレどこ?」

 

「そっち奥行って右のドア」

 

「ありがと!」

 

ろくろの指した方向に、駆け足で走っていく繭良。夏希はもうやることなく、帰ろうかと思っていた。が、繭良が居るし、もう少し残ろうかと思った。

 

そして、少し()った頃

 

「いぃぃやぁぁああぁっ!!!!」

 

突如として、繭良の悲鳴が家中に響く。夏希はその声を聞き、慌てて廊下に出る。

 

「繭良っ!!どうした!!?」

 

「このリアルハレンチモンスターーーーーッ!!!!」

 

「ゴメン意味分かんないっ!!」

 

もの凄い速さで走り、その勢いを利用して夏希に突進する。そして押し倒され、夏希に馬乗りする繭良。そして制服の襟元を掴み、激しく上下に揺らす。

 

「これは一体どういうことなのよおおおおおおっ!!!!」

 

「ちょっ───いったい───何が!!?」

 

自分が一体何をしたというのだ。そんなことを思いつつ、夏希は揺らされながらも必死に声を出す。他のみんなも気になり廊下に出る。

 

「げ!!!!おっお前!!!!」

 

「ええええっ!!!!化野さん!!?なんでろくろん()に居んの!!?」

 

繭良が走って来た方から、タオルを頭に掛けた紅緒が歩いてきた。ろくろやクラスメイトが驚きの声を上げる。それもそうだろう。ろくろはバレてほしくない人が目の前に、クラスメイトからしたら、居るのがおかしい人が目の前にいるのだ。

 

繭良は揺らすのをやめ、夏希から退()く。夏希は揺れる視界の中、フラフラと立ち上がる。

 

「お前帰ってたのっ!?いつの間に……っていうか!靴無かったのに何処から入ったんだよ!?」

 

「鍵を持って行くのを忘れたの……で開いていた窓から」

 

「セキュリティ甘すぎるだろ………ろくろ、戸締まりくらいしとけよ。泥棒に入られるぞ」

 

まだ少し目が回っているようで、少し弱々しい声で注意する。

 

「次から確認しとく、絶対に」

 

「それにしても、友達を呼ぶなら………一言(ひとこと)言ってくれれば………いいのに」

 

「いや、お前だって一人でさっさと帰っちゃったじゃん!お前が携帯持ってりゃ「………ふ」………?」

 

紅緒とろくろが言い合っている中、繭良が少し声を出した。その声に視線が繭良に集中する。繭良は顔を下に向けておりぷるぷると震えていた。

 

「………ふっ!!」

 

「「?」」

 

「繭良?どうし「不純(ふじゅ)うぅぅぅぅぅぅぅんっ!!!!!」

 

夏希が声を掛けようとした瞬間、繭良が大声を上げる。その声で、ぶわっと強い風が吹いたような錯覚まで感じるくらいの迫力である。

 

不純(ふじゅん)っ!不純!!不純っ!不純!!不純!!不純異性交遊(ふじゅんいせいこうゆう)うぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!!ちゃんと説明しなさいよ!この思春期トップランナーフレンドーーーーーーーッ!!!!!」

 

「なんで俺!!?落ち着けって繭良!!」

 

繭良は夏希を掴み、また激しく揺らす。先程から自分ばかり揺らされていることに疑問を抱く夏希。その間に友人達は鞄をもって玄関に向かって歩いていく。

 

「やっべー、俺にも用事があったんだ」

 

「実は僕も」

 

「お邪魔しました~」

 

「オイ逃げんなぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

「結婚して………子供を………!?」

 

あの後何とか落ち着きを取り戻した繭良、夏希が何故一緒に暮らしているのかを全て説明し、ろくろと紅緒はリビングの床に座らさせられ、その前に繭良と夏希が立っている。

 

「二人はそれを承諾したの………!?」

 

「するワケねーだろこんな女と!!」

 

「愚問愚答」

 

「お前ら、回答が酷すぎるだろ」

 

「………ろくろ」

 

(なん)だよ?」

 

「ろくろは………また陰陽師をやるの?」

 

震えた声で、ろくろに問いかける。繭良にとって、ここまでの経緯を聞いても気になることはそこだった。

 

ろくろは一瞬迷ったような顔をしたが、すぐに何処か遠い所を見て悲しそうに語り始めた。

 

「………俺は戦うのもケガレも禍野も恐い。………けど戦って死ぬのが恐いワケじゃない。……俺は今まで自分は戦っちゃいけないって思ってたから……こんな“呪い(チカラ)”でも守れるものがあるなら守りたい……たとえ戦って死んだとしても、それが死んだ(みんな)への償いになるのなら、俺は別にそれでもいい」

 

「……そっか」

 

繭良は流れそうになる涙をこらえる。ソファーに置いてあった鞄を持って、廊下に繋がる扉のドアノブに手を掛ける。

 

「私……帰るね……お邪魔しました」

 

扉を開けて駆け足で去って行く。夏希も鞄を持って扉に歩いて行く。

 

「繭良を送ってくるよ」

 

「………」

 

ろくろはずっと暗い顔をしている。夏希はため息を吐き、優しい微笑みを見せる。

 

「大丈夫だって。そんな暗い顔すんな、じゃあ「待って」………どうした?」

 

夏希が部屋を出ようとすると、紅緒が呼び止めた。そして、手に持っていた物を夏希に見せる。それは、星の刺繍が入ったお守りだった。

 

「これ………音海さんのでは?」

 

「!マズいぞ!!」

 

夏希はお守りを紅緒から貰うと急いで駆けだした。

 

「紅緒さんありがとう!」

 

「オイ!夏希!どうしたんだよ!?」

 

ろくろの声が聞こえるが今は時間がない。夏希は急いで家を飛び出した。そして、繭良の所まで全速力で走っている。

 

(マズいマズいマズい!!これはケガレから呪力を“感知”されないようにするお守りだ!繭良は呪力が高いから、()()()()が特別に持たせたやつだ!!)

 

「クッソ!間に合えっっ!!」

 

 

 

 

 

 

「おい紅緒!一体どうしたんだよ!?」

 

「あのお守りは────」

 

そして、一通りお守りの説明をする紅緒。ろくろは急いで部屋を出ようとする。

 

「だったら俺達もいかねぇと!」

 

「待ってろくろ」

 

紅緒がろくろの腕を掴む。ろくろは紅緒の腕を振り払い、紅緒を睨む。

 

「何でだよ!?」

 

「彼なら大丈夫だし、君は少し………鈍すぎる。二人の邪魔を………してはダメ」

 

「はあ?何を言、って………………あ~、なるほどな」

 

「そういうこと」

 

何故か笑っている二人。この言葉の意味は、分かる人には分かるだろう。

 

 

 

 

 

 

「ハァ………ろくろと紅緒さん、怒ってるかな………」

 

繭良、一人で家まで歩いていた。もうすぐ夜になるくらいだろうか。日は沈み、街灯がつき始めた。

 

(夏希にも………嫌われたかな?)

 

「おーい!!繭良ーーー!!!」

 

「え?夏希!?」

 

繭良は走って来た夏希の方に振り返る。夏希は繭良の前に着くと、膝に手をつき、肩で息をしている。

 

「ちょ、どうしたの?」

 

「ハァハァ、ほら、これ」

 

夏希はポケットからお守りをだした。繭良は慌てて自分の鞄を確認する。

 

「ほら、返すよ」

 

「あ、ありがとう」

 

夏希からお守りを受け取る繭良。しかし、露骨に目を逸らしていた。夏希はそれに気づき、不思議に思った。

 

「繭良?どうかしたか?」

 

「………いや、さっきあんなことになったし」

 

「別に気にすんなって、ろくろも大丈夫だ」

 

「でも──」

 

「心配性だな、繭良は」

 

「あ!夏希だってそうじゃん!」

 

「ハハハハ!そうだな!」

 

元気そうに笑う夏希。繭良も、自然と元気になっていく。

 

「……ありがとう」

 

「さて、何のことやら?さてと、家まで送って───」

 

『ぎひひひひ』

 

ゾクッ、と背筋が凍る。二人の目の前には不気味な幼い少女がいた。そこから少しずつ、波紋が広がるように禍野になっていく。

 

「これって………この間の!?」

 

「繭良!俺から離れるなよ!!」

 

「う、うん!!」

 

そして、周りの光景の全てが禍野になると、少女の足は無数の茨のようになり、胸元には人の顔があり、様々な悲鳴を上げている。そして、黒く、巨大な姿になった。

 

『あきゃきゃきゃきゃ!!!!』

 

「………脅威度が般若(はんにゃ)かよ………獣爪顕符!白蓮虎砲!急急如律令!!」

 

右手に白蓮虎砲の呪装をする夏希。ケガレは茨を伸ばしてくるが、その全てを切断されてしまう。ケガレは表情を変え、怒りに満ちた表情で次々と茨を伸ばす。

 

『ぎぃぃぃぃぃぃ!!!』

 

「ったく、何度やっても無駄だっての」

 

夏希は手の動きを早くし、先程よりも素早く茨を斬っていく。そして、ケガレの体に幾つもの斬り傷が入っていく。

 

「繭良に手を出そうとすんじゃねぇよ!」

 

トドメに縦に斬擊を放つ。その斬擊は地面にも一直線の亀裂を作り、ケガレの体を真っ二つにした。

 

『ぐぎゃぁあぁぁぁぁ!!!』

 

ケガレは断末魔を上げ消し飛び、セーマンだけを残して消えた。夏希は呪装を解除し、繭良と共に(うつつ)に戻る。もう夜になっており、月がとても綺麗に光っていた。

 

「ふぅ、怪我はないか?」

 

「うん。大丈夫」

 

「そっか、良かった~~~」

 

そう言うと、無邪気な笑顔を見せる夏希。こういった笑顔を見せるのは、心を許している相手にしか見せない。それを知っている繭良は、その笑顔を見て、嬉しいのと同時に胸の高鳴りを感じた。

 

「………ねえ?夏希は好きな人はいるの?」

 

「………へ?」

 

突然のことに、思わず間抜けな声を出してしまう夏希。繭良も何てことを言ってしまったのだろうと内心めちゃくちゃ混乱しているが、ここまで来てあとには引けない。覚悟を決めて想いを言葉にする。

 

「私はね、………夏希のことが好き」

 

「………え?───ちょ!?え!!?///」

 

夏希はその言葉に、一瞬呆気にとられてしまう。が、すぐに言葉の意味が分かる。顔が熱くなり、心臓の鼓動が速くなる。だが、夏希は自分の勘違いかもしれないと思い、聞き返す。

 

「えっと………それは友達として?」

 

「ううん───異性として夏希のことが好き」

 

ハッキリと口にする。その頬は赤く、目は透き通っており、そして、しっかりと夏希を捕らえていた。月の光が繭良をより一層綺麗に見せる。その姿に夏希の胸は高鳴り、心臓の鼓動を速くさせる。

 

「お、俺は───」

 

声を出そうとしても、震えてしまう。しかし、ここで言わなければもう二度と言えないと思った夏希は、覚悟を決めハッキリと口にする。

 

「───俺も繭良が好きです。だから、俺と───

付き合ってください」

 

「───うん!」

 

 

 

 

 

 

二人は繭良の家に向かって歩いている───恋人繋ぎをして。

 

「………なんか、照れるね」

 

「まあ、………そうだな」

 

何処かぎこちない二人。恥ずかしすぎてお互いの顔が見れないのが現状である。しかし、しっかりと手は繋いでる。

 

「………私達、恋人になったん───だよね?」

 

「ああ、そうだな───なあ、このままは嫌だし、普通にしてよう」

 

「そうだね」

 

とりあえず、顔を逸らすということはやめるという話になり、顔をまっすぐ向ける。

 

「そういえば、ろくろの家で不純異性交遊って騒いでたの誰だっけ?」

 

「う~、あの時はつい勢いで───」

 

「冗談冗談。分かってるって」

 

「ねえ?どうする?このこと」

 

「どうするって?」

 

「………私達が付き合ってることを言うかどうかよ」

 

「あ~、なるほどな」

 

普通なら言ってもいいと思うが、繭良の父親は厄介である。最悪、殺し合いをする覚悟すらしなければならないほど、家族を大事にしている人である。夏希は少し悩んだが、すぐに答えが出た。

 

「ちゃんと話そう。こそこそしてるより、俺は胸を張って堂々と繭良と付き合っていたい」

 

「そうだね。じゃあ、まずはお母さんに話そうよ」

 

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

そして、繭良の家に着いた。時間は少し遅いだろうが、今の二人にとっては、報告が最優先である。

 

「ただいま」

 

「お邪魔します」

 

「おかえり繭良。夏希君はこんな時間にどうしたの?」

 

「えっと、紫さん。話があります」

 

「………何か重大なことみたいね。とりあえず上がって」

 

「はい」

 

そして、リビングのテーブルの椅子に座る。紫の反対側に夏希と繭良が座っている。

 

「それで、話って何かな?」

 

「………俺、じゃなくて、僕は繭良さんとお付き合いしています!家には、それを話すために来ました!」

 

「あら!やっとなの!」

 

「「………は?」」

 

覚悟を決めて話に来た夏希。返ってきた言葉に、繭良も思わず間抜けな声を出してしまった。

 

「え?やっと………って?」

 

「あなた達の知り合いは、ほとんどみーんなが知ってるわよ?」

 

「いや、そうじゃなくて!いやそれも驚きだけど!そこじゃなくて!いいんですか!?」

 

「もちろん!まあ、あの人は何て言うか分からないけど」

 

「………ですよね………アハハハ」

 

苦笑いをする夏希。最大の難関はそこだろう。

 

「まあ、絶対に何とかしてみせますよ!」

 

「頑張って。私は、二人の交際には賛成だから」

 

「お母さんありがとう!」

 

「ありがとうございます!紫さん!」

 

「あら、お義母さんでもいいのよ?」

 

「「ちょっ!///」」

 

「ふふふ!」

 

 

 

 

 

 

繭良の母親である紫から許可を貰い、夏希は時間ももう遅いので帰ろうとしており、繭良の家の前に居る。

 

「き、気をつけてね」

 

「ああ」

 

「な、夏希。ちょっといいかな?」

 

繭良に手招きされ、近づく夏希。

 

「ん?何───

 

それ以上は言葉が続かなかった。いや、続けられないほどの衝撃が起きた。

 

夏希と繭良の唇が触れあっている。互いの顔が近くにある。そして、ただ触れただけの軽いキス。とてつもない幸福感に包まれ、たった一瞬でもその時間を長く感じる。夏希は一瞬思考が停止したが、すぐにフル回転する。

 

「な!?///い、今の………!!?///」

 

「───っ!!!///じゃ、じゃあね!!!///」

 

顔を真っ赤にした繭良は、慌てて家の中へと消えていく。呆然とそれを眺めていた夏希。自然と、少し熱が残る自分の唇を触っていた。

 

「─────///帰ろう///」

 

こちらも顔を真っ赤にして道を歩く。しかし、自然と笑みがこぼれていた。

 

 

 

 

───────────────────────────────

 

おまけその一

『キスした後の繭良さん』

 

繭良(あああああああ!!!!やちゃった!!!!キ、キスしちゃった!!!!大丈夫かな!!!?変な女の子って思われてない!!!?そもそも私達って中学生だよね!!!?いろいろ大丈夫かな!!!?)

 

紫「繭良~?何してるの~?」

 

───────────────────────────────

 

おまけその二

『夏希から報告を受けた後の星火寮』

 

亮悟(退院済み)「そうか~、夏希がとうとう」

 

篤「羨ましいなぁ~~!!」

 

慎之介「おめでとう!」

 

お婆さん「本当にめでたいですな~~」

 

じっさま「ひ孫の顔を見る日はそう遠くないかもしれんのぉ~~~」

 

夏希「じっさま!!!!///」

 

──────────────────────────────

 

おまけその三

『あの人に電話』

 

紫「もしもし?」

 

?『なんだ?急な用事以外電話すんなって言ったよなぁ~~~?』

 

紫「ふふっ!急な用事なんですよ!」

 

?『へぇ~~~?一体何なんだ?』

 

紫「実はですね!繭良が夏希君とお付き合いすることになったんです!!」

 

?『………何ぃ~~~!!?』




どうでしたか?

前回の夏希とろくろと友達の会話は今回のためにやりました!

強引じゃないか?そんなもの関係ない!

自分はやりきったんだーーーーー!!!

そして次回ですが、五月とかになるかもしれません。
最近忙しくなってきたし、話のストックが少ないので、書き溜めたいですし。

では、これからもよろしくお願いします!


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十二天将の白虎がやって来た!!

どうも、作者です。

五月まで投稿しないかもしれないと言いましたが、意外とストックが貯まったので投稿します!

では、楽しんで見てください!


昨日、繭良と交際を始めた夏希。学校が終わり、星火寮の自室に荷物を置いて寝転がっている。

 

「………疲れた」

 

心から思い、ふと口にした一言。今日ほど学校で疲れたと思った日などないくらいである。理由はいろいろある。まず、ろくろと紅緒の同棲の件がバレたこと。そのせいで夏希にも話を聞こうとしてきたため、完全なとばっちりである。だが、学校側にはろくろと紅緒が“いとこ”という風に聞かされていたらしく、先生がそのことを説明してくれたため、何とか収まった。まあ、“いとこ”などとは、完全なデタラメであるが。

 

そして、もう一つ。夏希と繭良の交際の件がバレていた。しかし夏希はそれくらい分かっていた。亮悟達に教えた時点で、ろくろにも電話やメールなどで伝達することくらい容易に想像できた。あとはろくろがクラスに話したことで、夏希と繭良の質問攻めが確定する。隠すつもりなどないが、タイミングというものがある。

 

夏希は深いため息をし、部屋着に着替え、リビングへと向かう。しかし誰も居ないので不思議に思い、庭の方に向かう。すると、亮悟が準備運動をしていた。

 

「あれ?亮悟さんもう大丈夫なの?」

 

「ああ、軽く運動しようと思ってな」

 

「あ!!」

 

「ダメじゃないですか亮悟さん!退院したばかりなんだから安静にしてないと!」

 

「だって体がナマる一方なんだからさ~。軽い運動なら体にも良いって☆」

 

篤と慎之介も気づき、亮悟に近づいて行く。退院したばかりなので、二人からすれば安静にしておいて欲しいところだろう。しかし、亮悟は体を動かしたくてウズウズしており、二人の忠告など意味がない。そんな口論をしていると、亮悟の後ろから石と石が擦れ合う音が聞こえ、全員が一斉にそちらを見る。

 

「よぉ~~~亮悟ぉ~~~久しぶりぃ~~~。少し見ない間にまたデカくなったんじゃねぇかぁ~~~?」

 

「!あなたは………」

 

「せ、清弦さん!?え!?何で居るんですか!?」

 

夏希に清弦と呼ばれた男。目の下にはクマが出来ており、前髪で金色の所がピンッと跳ねている。長い後ろ髪は包帯を巻きつけ、二つの束として纏めている。清弦は夏希の質問に気怠(けだる)そうに答える。

 

「ちょっとした用事だ夏希ぃ~~~。それとてめぇ、繭良と付き合ってるらしいなぁ~~~?」

 

ビクッと夏希の肩が一瞬動く。顔は少し青ざめていくが、すぐにいつも通りになる。

 

「と言っても、昨日からですけど。にしても、誰から聞いたんですか?」

 

「紫から昨日連絡があってなぁ~~~。それで知ったんだが、そのことでてめぇに話がある」

 

「………何ですか?」

 

「てめぇは繭良を幸せにすると、守ると誓えるか?」

 

「はい、絶対に幸せにしますし守ります」

 

即答だった。しっかりとその言葉には覚悟感じられる程重く、眼差しにも覚悟が感じられる程しっかりとしていた。

 

「………チッ、なら問題ねぇかぁ~~~」

 

「え?」

 

夏希は少し間抜けな声を漏らした。もっと何か起きると思っていたが、あっさりと終わったため驚いていた。

 

「ただしぃ~~~」

 

ぐっと夏希に近寄り、夏希の目をジッと見据える。

 

「繭良を悲しませたら殺すぞ………!!」

 

「りょ、了解です………」

 

清弦の目、それは今にでも夏希を殺しそうな勢いだ。夏希はそれにひるんで、少し返事に詰まってしまった。

 

「おお!!良かったな夏希!!!」

 

「はいっ!!」

 

「えっと………」

 

「夏希、その人誰?」

 

その光景を傍観していた三人。亮悟は状況が理解できており喜んでいるが、篤と慎之介は全く状況が理解できていなかった。

 

「ああ、篤、慎之介、この人は天若 清弦さんだ。あと、繭良ちゃんのお父さんなんだ」

 

「え!?この人が!?」

 

(全然似てない………)

 

「ん?待てよ、つうことは今の会話は………!!」

 

先ほどの話の内容を理解したらしい。二人は夏希に近寄り、とびっきりの笑顔で祝いの言葉をかける。

 

「おめでとう夏希!!!」

 

「やったなーーー!!!!」

 

篤がバシバシと夏希の肩を叩く。少し痛そうにするが、いまは嬉しさの方が(まさ)っており、笑顔で返事をする。

 

「ありがとうございます!」

 

喜び合う四人。清弦はそれとは関係のないことが気になり、亮悟に近寄る。

 

「そういや、亮悟。お前今何センチあるんだ?」

 

「一八〇センチですけど………」

 

「てめぇ俺より高いじゃねえかぁ~~~!!正座だぁ!!」

 

「何で!?」

 

「何か文句でもあるのかぁ~~~?」

 

「ありません!!喜んでやらせて頂きます!!」

 

そう言って庭から畳の和室部屋に上がり、正座する亮悟。篤と慎之介は突然のことに固まっているが、夏希は()()()のやつが始まったと思い、頭を抱えている。

 

「おーい夏希ぃ~~~、疲れたからソファー持って来い」

 

「………分かりました………」

 

夏希はソファーを取りにリビングへと向かう。清弦は次の標的に慎之介を見つめる。

 

「おいお前~~~」

 

「ぼ、僕ですか?」

 

「そうだ。お前は夏希がソファーを持ってきたら俺の肩を揉んでくれぇ~~~。なんだか肩が痛いからなぁ~~~」

 

「わ、分かりました………」

 

渋々了承した慎之介。次に篤を標的にしたらしく、じ~と篤を見据える。すると、夏希がソファーを持って和室に来た。

 

「清弦さん、持ってきましたよ~」

 

「よぉ~~~し、なら庭に向くように置け」

 

「了解です」

 

よいっしょっ、と声を出して庭に向くようにソファーを置く夏希。清弦はソファーに腰を降ろして、腕を後ろの方に掛ける。慎之介は言われた通り清弦の肩を揉み始める。

 

「なんだか喉が渇いてきたなぁ~~~、お前ジュース買って来い」

 

「はあ!?自分で行けよ!!」

 

「いいから行ってこい。拒否権は()ぇからなぁ~~~」

 

「てめえ、ふざけんなよ!!」

 

篤が清弦に襲いかかるが、軽くあしらわれ、顔面に一発貰って庭に吹き飛んでいった。

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っ!!!」

 

その体勢は、仰向けの状態で頭が下になっており、顔の上を自分の足がまたいでいる変な体勢。つまり、でんぐり返りの体勢になって目を回していた。(分からない人は原作を読んでね☆)

 

「ちょっ!大丈夫篤さん!?」

 

夏希が庭に出る用の下駄を履いて慌てて駆け寄る。すると、ろくろ、お婆さん、じっさまが玄関の前にある小さな門から直接庭に来た。篤の悲鳴を聞いて慌てて来たらしい。

 

「篤!?何しとるんじゃこんな所で?」

 

「おかえりじっさま~!お?ろくろもいるじゃないか~~~♬」

 

「亮悟………?何やってんの?」

 

亮悟は正座を長いことしているせいか、足をプルプルさせ、辛そうな顔をしている。

 

「いや、まあ………どこから話せばいいのやら」

 

「全くよぉ~~~、久々に古巣(ふるす)に帰ってきたのに、若い奴の教育が出来てねぇんじゃねえか~~~?」

 

一斉に視線が清弦に集中する。じっさまは目を見開いていた。

 

「お………お前、清弦?天若 清弦か!」

 

「よぉ~~~じいさん、元気そうだなぁ~~~。まだくたばってなかったのかぁ~~~」

 

「清弦殿!?何故あなたのようなお方がこんな所に……!」

 

「京都の()っちゃかぁ~~~久しいなぁ~~~……それと、よぉ~~~チビ(すけ)ぇ~~~。てめぇは相変わらずチビのままだなぁ~~~」

 

清弦がろくろを見据える。チビ助とは、清弦がろくろを呼ぶ時のあだ名みたいな物である。小さい頃に付けたものなので、チビ助である。

 

「清弦……本当に清弦なのか……?」

 

ろくろは清弦を見て驚いていたが、一瞬笑ったかとおもうと、全力で疾走して逃げた。

 

「あ!ちょ!ろくろ!逃げたらマズいって!!」

 

夏希がろくろに声をかける。すぐに清弦も後を追いかけていった。

 

「あ~あ、あれは後でキツいぞ~」

 

「はっ」

 

篤が目を覚まし、怒りの形相(ぎょうそう)で勢いよく起き上がり当たりを見回す。

 

「やりやがったなクマ野郎っ!!アイツどこ行った!?」

 

「派手にやられたのぉ、何をやったんじゃお前?」

 

「俺は何もやってねぇッスよ!!あの目の下クマ野郎!!やって来るなり亮悟さんを正座させるわ!夏希にソファー持って来させるわ!慎之介にマッサージさせるわ!挙げ句俺にジュース買って来いとかぬかして!断ったらぶん殴られたんだよっ!!」

 

「清弦め、相変わらず理不尽な奴じゃな」

 

「断った後に襲いかかった篤さんも篤さんだけどね……」

 

トホホ、といった感じで呆れている夏希とじっさま。清弦を知っている人はその理不尽さにいつも困っているくらい、理不尽なことが多い。慎之介も清弦が居なくなったので会話に参加する。

 

「何なんですかあの人!?繭良ちゃんのお父さんっていうのは分かったけど……」

 

「ふむ、あ奴は一時期この町に配属されておった陰陽師で、分かっているとは思うが、ワシの娘の()旦那で繭良の父親じゃ。腕も確かでのぉ~、清弦は“十二天将”の一人じゃからな」

 

「十二……何だって?」

 

篤と慎之介が聞き慣れない言葉を聞いて、少し戸惑っている。

 

「十二天将とはな、安倍晴明様が使役したと言われる式神から(あやか)った武術・呪力・知識、戦闘経験に(ひい)でた最強ランクの陰陽師、それが十二天将じゃ。清弦もまた凶将(きょうしょう)白虎(びゃっこ)”の名を冠する十二天将の一人じゃ。亮悟を連れ去ったケガレなら、清弦ならたとえ百匹に囲まれたとしても五分とかからず祓えるじゃろうな」

 

「あ……あの程度って……」

 

「ハッタリだよハッタリ……!」

 

じっさまの説明で、清弦に対して若干恐怖を感じた慎之介と篤。じっさまが「そういえば」、と言い夏希に視線を向ける。

 

「お前もそうじゃったの」

 

「はあ!?」

 

「え?夏希もなの!?」

 

「う~ん、ちょっと違うかな?俺は十二天将と同じ権限を持ってるだけだし、称号も特別なやつだからな~」

 

「まあ、十二天将ではないが、それと同じと思っておけばよいじゃろう」

 

「……夏希が十二天将……」

 

「最強って言われてるって、ついこの(あいだ)知っただけでも驚きだったのにね」

 

「あと、清弦は亮悟とろくろに陰陽師として戦う(すべ)を教えた二人にとっては師匠になるかの」

 

「やめろその呼び方ぁ~~~。師匠っつってもたかが四、五年基礎を教えた程度。まして、こんなボンクラが弟子だなんて汚点以外の何ものでもねぇ~~~。それに、夏希もろくろを一年間指導してただろうがぁ~~~」

 

「夏希が?」

 

「まあ、一年間だけ清弦さんと一緒にね」

 

「へぇ~~~」

 

ろくろを連れ戻して来た清弦。ろくろは頭を幾つか叩かれているらしく、たんこぶが出来て気絶していた。清弦はろくろの制服の首根っこを掴んで持っていた。そして、そのまま部屋へと上がって行く。

 

「────加えて、清弦のかつての指導が超絶スパルタだったため、亮悟もろくろも(いま)だに清弦に頭が上がらぬ始末」

 

「トラウマになってるんですね……」

 

「アハハハ、結構凄かったからな~、清弦さんのスパルタ指導……」

 

「それはそうと清弦。今回は何をしにこの町に来たのじゃ?」

 

「………馬鹿弟子の尻ぬぐいだよ」

 

「………」

 

先程よりも目が細く、険しい表情でそう告げた清弦。夏希はその言葉に、妙な不安感を覚えた。

 

───────────────────────────────

 

おまけその一

『クラスでの出来事』

 

「化野さんと同棲してるって本当か!?」

 

「焔魔堂のくせに生意気だぞ!」

 

「夏希!お前は知ってたのか!?」

 

「化野さん!大丈夫なの?変なことされてない?」

 

ろくろ「ちょ!落ち着けって」

 

夏希「何で俺まで!?」

 

紅緒「………」

 

───────────────────────────────

 

おまけその二

『クラスでの出来事パート2』

 

「ねぇねぇ!夏希と繭良が付き合ってるって本当!?」

 

夏希・繭良「「ふぁ!?///」」

 

クラス男子『なにぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!?』

 

クラス女子『うそぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!?』

 

「てめぇ!ふざけんなよ!」

 

「ろくろといい夏希といい!羨ましすぎだぁぁぁぁ!!!」

 

「ねぇねぇ!どっちから告白したの!?」

 

「どこまでいった!?キスはもうしたの!?」

 

繭良「え!あ!えっと………!」

 

夏希「一体誰から聞いたんだよ!?」

 

「ろくろから聞いたの!」

 

夏希・繭良「「ろくろぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!勝手に言うなぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」」

 

紅緒(………ハァ)

 

その後、ろくろは夏希と繭良にこっぴどく叱られ、あまりの怖さに泣きそうになったとさ。




ろくろは凄くイジりやすいです。

次回もおたのしみに!


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紅緒さんの兄はアイツだった……

どうも!作者です!

この小説、行き当たりばったりの事が多いので強引になることが多いです。溜まってる話も強引だし。

あと、主人公と繭良を絡ませるのが楽しい。


清弦に気絶させられたろくろが目を覚まし、清弦はソファーにどっしりと座っており、その前にろくろが正座している。ろくろの顔は青ざめており、少し(ちぢ)こまっている。二人の周りで夏希たちはその様子を見守っていた。

 

「………」

 

「なぁチビ助ぇ~、お前よぉ~、俺に言わなきゃならないことがあるよなぁ~?」

 

「言わなきゃならないこと………?えっと………お久しぶりです!!いつまでもお若いですね師匠っ♡」

 

パアァァと明るい笑顔で答える。清弦は無言で立ち上がり、ろくろの前でしゃがむ。そしてゆっくりとろくろの顔に両手を伸ばし、ろくろの両頬を(つね)る。

 

「いだだだだだだっ!!えっ!!何で!?俺そこまで怒らせるようなこと言った!!?」

 

「あまりふざけてるとハッ倒すぞてめぇ~~~…!?」

 

「だってわかんねぇもん!!ちゃんと言ってくんねぇとわかんねぇもん!!」

 

ろくろの頬を離し、立ち上がる清弦。ろくろは赤くなった頬を痛そうに抑える。

 

「有馬から聞いたぞ」

 

「変態パンツ男から?」

 

一体何を聞いたのだろうか?全員が疑問に思い清弦の言葉を待つ。

 

「お前……その腕の“力”、かなり好き勝手使いまくってるらしいなぁ~~~?」

 

ろくろは苦い顔をする。夏希も言葉の意味を理解し、険しい顔つきになる。

 

「なあじいさん。俺の預けた“星装顕符(せいそうげんぷ)”、あんたなんて言ってコイツに渡したんだよ?」

 

じっさまも苦い顔をする。星装顕符、ろくろが腕の力を使う時の黒い霊符。もとは清弦が管理していたものをじっさまに預け、じっさまはろくろに渡したのだ。

 

「自分の身を守るためとか、他にどうしようもなくなって一~二度使うくらいなら特に何も言わねぇがぁ……自らの意志で何度も使うってなると話が違ってくるよなぁ~~~?なぁチビ助ぇ。まさかとは思うが、もう一度陰陽師をやるなんて言い出したりしねぇよなぁ~~!?」

 

その言葉にろくろは思わず視線を下に向ける。ろくろは今まで陰陽師から目を(そむ)けていた。自分は生きていてはいけない、この右腕の力は呪いなのだと。ずっと思い続けてきた。

 

ろくろは顔を下に向けたまま、ゆっくりと立ち上がる。

 

「お、陰陽師として戦うつもりはない………世界とか未来とか………そんな大きなもののために戦う資格はもう俺にはねえけど………人が目の前で傷つくのは……やっぱ放っておけない………!!」

 

こんな力でも救えることを、最近感じるようになっていたろくろ。

 

清弦をしっかりと見据え、自分の決意を口にする。

 

「たとえこんな腕でも、目の前の誰かに届くのなら、ちゃんと()()()()()()()()………!!」

 

ろくろの目は輝き、決意を感じるしっかりとした目だった。清弦は一瞬目を見開いたと思ったら、すぐに目を細めて右手でろくろの頬をぶった。ろくろはその衝撃で後ろに吹き飛ぶ。

 

「ろくろっ!!」

 

「大丈夫か!?」

 

「なっ……何をするか清弦!?」

 

あまりの行動に全員が驚く。清弦は顔を歪めてろくろを見下ろす。

 

「てめぇの力がそんな御大層(ごたいそう)なもんかぁ~~~!?今更綺麗事(きれいごと)ぬかしてんじゃねえぞぉ~~~!?」

 

「綺麗事は……綺麗事なら……綺麗事なら二年前に………!!“あの日”に全部燃えて………とっくに灰になってる!!」

 

その言葉を聞くと清弦はズボンの両ポケットに手をいれて庭に出る。

 

「……来いよ。面倒臭(めんどうくせ)ぇが……そこまで言うなら見せてみろ。てめぇのその腕で何が出来るのか」

 

そして、清弦が左手をポケットから抜く。その左手の人差し指と中指の間に霊符が挟まれていた。

 

「てめぇの覚悟がどれほどのもんか、俺に見せてみろぉ~~~……!」

 

ろくろは清弦の後を追って庭に出ると、清弦は霊符を使って門を開き、禍野に向かった。

 

「い…今のは」

 

「禍野に行った……!?」

 

「……」

 

夏希は庭を静かに見つめる。その瞳にはどこか、不安が籠もっているように見える。

 

「……のぉジジィ。二人は何を話していたのじゃ?キバ小僧に昔何があった?」

 

唯一、話の内容が理解出来ていないお婆さん。先ほどの二人の会話からすると、じっさまが一番知っていそうに思えたため、お婆さんはじっさまに聞いていた。ちなみに、キバ小僧とはろくろのことである。

 

「?今更何を言っておる?ろくろは雛月の悲劇の生き残りじゃ」

 

「何じゃと!?」

 

様子がおかしいことに気づいた夏希と亮悟が、視線をじっさまとお婆さんに向ける。

 

「ババ、お前陰陽連から、有馬様から何も聞いておらんのか?」

 

「そんなことは一言も知らされておらぬ……!で……ではっ!紅緒様はそのことを知っておるのか!?」

 

お婆さんはじっさまの腕を掴み、ぐらぐらと揺らす。

 

「お……お主に分からんことをわしが知るわけないじゃろう……?紅緒ちゃんが誰かに聞いていないなら知らないままではないか……!?」

 

「……こ、こんな……!!!」

 

お婆さんは急に元気を無くし、トボトボとリビングに向かって歩いていく。全員がその後ろ姿を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

あれから数分経ったくらいだろう。お婆さんはテーブルの椅子に座ったまま。顔色も悪く、顔は下を向いていた。

 

「なあお婆さん。紅緒さんと雛月寮に、何か繋がりがあるのか?」

 

夏希がお婆さんに尋ねる。夏希も先ほどの反応は気になり、さらに雛月寮のことで驚きを受けていたことが引っかかっていた。夏希の言葉に、全員が視線をお婆さんに向ける。

 

「……紅緒様は、ご家族をケガレに殺されている」

 

その言葉に全員が息を呑む。しかし、夏希はその時にひっかかりもう一つできた。

 

「化野……もしかして、沙貴(さき)さんと豹牙(ひょうが)さん!?」

 

「!?もしや知り合いで!?」

 

「ああ、と言っても二、三回任務で話したことあるくらいだったけど……そうか、『あなたと同じ歳の子が二人いるの』って言ってたな……」

 

どうして今まで気づかなかったのだろう、そんなやりきれない気持ちが夏希の中で悶々と巡る。

 

「待て夏希!?今、二人って……」

 

「……話を続けよう。元々紅緒様は四人家族。お父様、お母様、そして……()()()()()()()()()()()()()()。ご両親は紅緒様が八歳の時に、お兄様は十二歳の時に命を奪われている」

 

「十二歳……ってことは!」

 

「雛月の悲劇……」

 

夏希の言葉に全員が理解した。紅緒は夏希とろくろと同じ十四歳である。そして、紅緒の双子であるお兄様も生きていれば十四歳。その二年前は十二歳。その時の事件と今までの会話で雛月の悲劇であることは確実だ。つまり、紅緒の兄は()()()()()()だということである。

 

「ご両親が亡くなられた(のち)、紅緒様は───代々女性が家督を継ぐ家柄故(いえがらゆえ)化野家に残り、お兄様────“悠斗”様は父方の実家・石鏡(いじか)家に引き取られた」

 

その瞬間、夏希から放たれる空気が一瞬にして変わる。その気配に全員が夏希を見つめる。

 

「……紅緒さんの……兄が……悠斗だって……?」

 

「夏希殿?一体どうなされた?」

 

思わず拳を強く握り締める夏希。自然と息が荒くなり、心臓の鼓動も速くなっていく。周りの声が遠のいていくような感覚に陥っていくが、亮悟が夏希の肩を掴んで揺らす。

 

「夏希!」

 

「っ!!……ありがとう亮悟さん……少し落ち着いた」

 

夏希はお婆さんとは反対側の椅子に座り、太もも辺りに肘を置いて、両手で顔を覆う。

 

「一体どうなされた?」

 

「実は、夏希も雛月寮に居たんです」

 

「……!!そうか!キバ小僧を一年間教えていたと清弦殿が仰っておったな!」

 

先程の会話を思い出すお婆さん。なら二年前の事件について知っているのではないか、そんな考えが頭に浮かぶ。しかし、こんな状況で聞いていいものかと悩んでしまう。そうこうしていると、夏希はおもむろに立ち上がり、どこかに行こうとする。

 

「夏希?どこに行くんだ?」

 

「……清弦さんのとこ。聞きたいことが出来たから」

 

「……夏希殿……」

 

「お婆さん……ごめん。これは今は話せない」

 

「……そうですか……」

 

「うん……じゃあ行ってきます」

 

 

 

 

 

 

外は激しい雨が降っており、夏希は傘をさして歩いてる。清弦の居場所はメールで聞いており、指定された場所まで歩いていた。

 

「ここか……」

 

指定された、といってもファミレスだ。こんな所で重大な話をするのかと思うと、少しだけ気が抜ける。

 

夏希はファミレスに入って少し辺りを見回す。すると、()()()()()でテーブルに座っていた清弦がいた。おそらく、ろくろと何かあった後でそのまま来たのだろうと推測した。夏希はそのまま清弦のテーブルまで歩き、椅子に座る。

 

「どもっす、清弦さん」

 

「それで、俺に用件ってなんだ?」

 

「紅緒さんと悠斗のことです」

 

目を細め、低い声で清弦に話しかける。清弦も清弦で険悪な雰囲気を(かも)()し始めた。

 

「二人が兄妹(きょうだい)だってこと、何で俺に黙ってたんですか?」

 

「お前はそのことを知ったら、確実にそのことを伝えようとするだろうがぁ。それは避けなきゃならねぇことだ。お前ならそれくらいは理解できるだろぉ~~?」

 

「……」

 

否定出来ないのが辛いところ。“天道”と言えど所詮はガキということだ。

 

「俺も聞きてえことがある」

 

「いいですよ。答えられることなら答えます」

 

「………何か有馬から連絡はあったか?」

 

「……?特にはないですけど」

 

「そうか」

 

おかしい、夏希はそう感じた。何故そんなことを聞いてきたのだろうと思ってしまう。もしや、清弦がこの町に来たのにも関係していきているのでは?などと思考を働かせていると、清弦の雰囲気が少し違う怖さに変わった。

 

「そういやてめぇ、繭良とどこまで済ました?」

 

「……どこまでと言うと?」

 

「キスはしたか?」

 

「ストレートだなオイ!」

 

「答えろ!まさかそれよりも先に───」

 

「行くわけ無いだろうが!付き合い始めたの昨日だぞ!!」

 

「じゃあキスはしたんだな!!?」

 

「え!?あ、いや、その……///」

 

この後、夏希は清弦から質問攻めに遭い、そこからエスカレートして禍野でドンパチした。だが安心して欲しい。互いに無傷だったから。

 

 

 

───────────────────────────────

 

オマケ『エスカレート』

 

清弦「てめぇまだ中学生だろうが!キスなんて早ぇんだよぉ~~!」

 

夏希「いや、あれは繭良からしてきて……」

 

清弦「なんだぁ?繭良とキスするのが嫌だっていうのかぁ!?」

 

夏希「んなわけないだろ!むしろ超嬉しいわ!最高にハッピーだわ!」

 

清弦「だから早ぇつってんだろがぁ~~!!」

 

夏希「あぁぁぁぁ!!面倒くせぇぇぇぇぇ!!」

 

この後、なんやかんやあってケンカに発展した。




いやー、オマケのこういう絡みを書くの凄く楽しい。

次回もお楽しみに!


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悲劇再来

どうも作者です。

実は、この小説を書いているときに気付いたんです。
ろくろは中学二年生で十四歳。これは理解出来ます。
ですが、ろくろの誕生日は六月六日です。
ゴールデンウィークのときに十四歳って、
何かおかしくないですか?と

さて、作者の疑問はここまでにして、本編をどうぞ!


「え!?お父さんこっちに来てるの!?」

 

「ああ、昨日来たみたい」

 

例の如く一緒に登校してる夏希と繭良。繭良は夏希から、清弦が来ていることを聞いて驚いていた。

 

「もしかして、何かあった?」

 

「うーん。ろくろと何かあったかどうかは分からない。けど、俺とはあったよ」

 

「へ、へぇーー。ちなみに、何したの?」

 

「ケンカ」

 

「何故そこでケンカ!?」

 

いきなりの発言に驚きっぱなしの繭良。そこで何故ケンカに発展したのか夏希が繭良に説明する。すると、繭良の顔がみるみる赤くなり、最後には下を向いてしまった。

 

「そ、それが原因でケンカを……?///」

 

「うん。まあ、お互いに怪我はしてないから」

 

「……今度会ったら説教してやるぅ~~!!」

 

「アハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

学校に到着し、教室に入って自分の席に着く二人。すると、周りが少し騒がしいため二人共聞き耳を立てた。

 

「あれ?今日ろくろ休み?」

 

「風邪でも引いたのかな?」

 

「いやいや、ろくろに限ってそれは無いだろぉwww」

 

「どうせまた道に迷ったんじゃない?」

 

「いつもの通学路で!?」

 

会話を聞くとろくろが学校に来ていないようだ。この話を聞いて夏希と繭良の二人はこう確信した。

 

((絶対に何かあったな))

 

すると、二人が紅緒の存在に気づく。夏希と繭良は紅緒の所まで近づいた。夏希は昨日の事もあるが、そんなことを気にしていても仕方ないと考えていた。

 

「ねぇ化野さん。ろくろまだ来てないみたいだけど、何かあったの?」

 

「……知らない……」

 

「知らないって、一緒に住んでるのに」

 

「知らないものは……知ら……ない!!」

 

紅緒の態度を見ると、やはり何かあったのだろう。最後に、紅緒は夏希を見ると少し睨んできたが、すぐに視線を逸らした。夏希はその様子を見て、紅緒が昨日何かを清弦から聞いたことを察した。

 

(清弦さん……一体何を言ったんだ?)

 

 

 

 

 

 

そして放課後。二人は電話をしようとしてみるが、繋がらなかった。もしかしたら星火寮に居るかもしれないと思い二人は歩いていた。

 

「クソ!こうなるんだったら清弦さんに何があったか聞けばよかった!」

 

「過去の事を言っても仕方ないよ。とりあえずろくろを探そう」

 

「……そうだな」

 

「オラぁぁぁぁぁっ!!!どこだクマ野郎っ!!昨日のリベンジだ勝負しやがれぇぇぇぇ~~っ!!!」

 

突然、星火寮の塀の向こうから篤の大声が聞こえた。二人は『クマ野郎』というワードが引っかかり、もしかしてと思った。その瞬間、塀を飛び越えて清弦が降りてきた。

 

「しつけぇな~。付き合ってられるかよ~」

 

「あ!お父さん!」

 

「(げっ!?)……繭良か!?」

 

「清弦さん。今げって思ったでしょ、げって」

 

「思ってねぇよ~」

 

 

 

 

 

 

そうこうして、三人はファミレスにいる。清弦は繭良から昨日のケンカに関して説教をくらった。その時の夏希に対する清弦の目は本気(マジ)だったと言っておこう。

 

「それにしても、帰ってくるなら連絡くれればいいのに!!」

 

「任務でちょっと寄っただけだ。終わればすぐに帰る。…………(ゆかり)は?」

 

「お母さん?うん元気だよ!今は友達と旅行に行ってる。ハワイだって~」

 

「そうか」

 

「お父さんは今は───」

 

「いつまでその呼び方するつもりだお前」

 

「え?」

 

突然の発言に驚く繭良。夏希は心の中で『やめろ~』と言っている。目線でも清弦に伝えているが無視される。

 

「俺はもうお前の親父じゃねぇだろ。自分の都合で家出て好き勝手やってる人間のことなんてさっさと忘れろよ」

 

その言葉に一瞬キョトンとした繭良。だが、すぐにニヤついた笑みを浮かべる。

 

「ホントは呼ばれて嬉しいくせに何言ってんだか!」

 

「あ゙あ゙!?」

 

「そんなに声荒げても全然怖くないんですけどww」

 

完全に手玉に取られてる清弦。夏希は一瞬笑いそうになるが堪える。

 

「私もお母さんも!お父さんが命懸けで戦ってることや私達を巻き込みたくなくて家を出たことくらい知ってるよ!」

 

真剣な眼差しで清弦に思いを伝える繭良。夏希は『こういう所にも惚れたんだろうな~』と考えていた。が、肝心な事を思い出し、夏希と繭良は清弦を見つめる。

 

「「そういえば(清弦)(お父)さん。今日ろくろが学校休んだんだけど────(清弦)(お父)さんが何かしたんじゃない(ですよね~)(よね~)…………!?」」

 

二人の質問に一瞬目を逸らす清弦。何かを考えた後こちらに目を向ける。

 

「……さぁ?なんのことやら」

 

「「やっぱり!!」」

 

いつもと反応が違うためこれは確実に何かをしたと思った二人。何をしたのか聞き出す必要出た。

 

「清弦さん!一体何やったんですか!?」

 

「別に答える必要はねぇだろぉ~~」

 

清弦は領収書を持って立ち上がる。会計を済ませるようだ。

 

「ちょ!まだ話は────」

 

「こっちはねぇよ」

 

会計を済ましてファミレスを出て行く清弦。二人は結局何も聞けなかった。

 

 

 

 

 

 

「結局聞けなかった……」

 

「ホント、ろくろどこに行っちゃたんだろう?」

 

何となくろくろの居そうな所を探す二人。すると、公園から子どもの声が聞こえ、そちらに視線を向ける。するとどうしたことか。ろくろが年下の子供達にいじめられているではないか。あまりの光景に一瞬唖然とした二人だが、すぐにろくろのもとに向かった。

 

「コラァーー!」

 

「お前ら何やってんだぁぁぁぁ!!」

 

子供達は二人を見て一目散に逃げ出した。そして、公園のベンチに座る。

 

「ったく、どうなったら小学生にタコ殴りされる状況になるんだよ」

 

「いや、それがさ」

 

ろくろがどうしてあの状況になったのか説明しだした。どうやら、いじめられている子供を助けようとしたら、フェンスに足を引っかけてずっこけ、そして標的が自分に切り替わったらしい。その間にいじめられていた子は逃げたようだ。

 

「そりゃ災難だな。お前」

 

「そんなことより、どうして今日学校休んだの?」

 

「……ちょっとそのぉ~~、気分が悪くてさ」

 

「さっきお父さんに会ったよ?もしかして、またお父さんに無茶なこと言われるかされるかした?それとも、化野さんと喧嘩した?」

 

(両方正解!!)

 

(あ、両方正解みたいな顔した)

 

 

 

 

 

 

「へ!?」

 

「家に帰ってないぃ~~!?」

 

「うん……まぁ」

 

「じゃあ昨日、ろくろどこに泊まったの?」

 

繭良の言葉にろくろは目の前の遊具を指さす。その遊具は滑り台だった。

 

「そこの……すべり台の下」

 

「どこかの芸人さんじゃないんだから……」

 

繭良の指摘に無言で(うなず)く夏希。最悪、風邪を引いてしまうのでもう少し考えて欲しいと思っているのだ。

 

「……ちょっと今色々と……どうすればいいのか分かんなくなっててさ。清弦が言ったように俺がやってきたことは……俺がやろうとしてることはただの綺麗事なのかな……」

 

ろくろが自分の右手を見つめながら、弱々しい震えた声で語り出す。その瞳は哀しそうで、いつものろくろの力強さと明るさが感じられなかった。

 

「俺が陰陽師として出来ることは…………もう一つもないのか……な?」

 

「迷うな」

 

夏希が立ち上がってろくろの前に立つ。ろくろもそれに反応して夏希の顔を見る。

 

「もう一回陰陽師をやるって決めたんだろ。だったら、そのことに迷いを持つんじゃねぇよ」

 

「夏……希」

 

繭良も立ち上がって夏希の隣に立つ。

 

「そうそう。男の子なら誰かに言われたくらいで諦めず、最後までやり抜きなさいっ!」

 

「繭良……!」

 

「亮悟さんが昔言ってたよ」

 

「亮悟が?何て?」

 

「雛月の悲劇が起きてろくろが陰陽師をやめるって言いだした時、『ろくろらしくない』って。ろくろなら皆の(かたき)討つためにもっと強くなろうとするはずなのにって」

 

夏希とろくろが目を見開いて驚く。二人とも亮悟がそんなことを口にしたことを知らなかった。

 

「私はもうろくろに戦って欲しくなかったから、その時は何も言わなかったけど、本当はね。私も亮悟さんと同じこと考えてたんだ」

 

「……ろくろ、これは言わせてくれ。辛い過去も、弱い自分も、全部認めてそれでようやく前に進める。俺からのアドバイスだ!」

 

夏希だから、過去のことを全て受け入れて進んできた夏希だからできるアドバイス。ろくろは不思議と笑顔になってが立ち上がる。

 

「そうだな!よし!俺、全部紅緒に話すよ。雛月のこと全部。責められようと、恨まれようと、それでようやくスタート地点に立てる気がする」

 

「ようやく立ち直ったな!」

 

「うん!それでこそろくろだよ!」

 

いつものろくろに戻ったことに安堵する夏希と繭良。ろくろは自分の姿を一通り見たあと歩きだす。

 

「とりあえず家帰るよ。風呂入って洗濯しないと」

 

その後ろ姿を見つめる二人。その後ろ姿に、懐かしさを感じていた。

 

(……俺も話すか~。ろくろも話す決心がついたみたいだし)

 

その時、異変が起きた。繭良が脱力感を感じ、それと同時に、体の中に溢れていく気持ち悪さと息苦しさ。倒れかけそうになるが夏希が体を受け止めた。

 

「繭良!?」

 

「どうした!?」

 

ろくろも慌てて駆け寄ってくる。夏希は地面に繭良を降ろし、頭と腰を抱える。すると、繭良の体にケガレに付いている傷、“ドーマン”が浮き上がっていく。

 

「ハァ……ハァ……!!!!」

 

「なあろくろ!コレって……!!!」

 

「そんな……嘘だろ……!!」

 

二人が繭良の症状に驚くのと同時に空間が崩れ、禍野へと変貌していく。

 

『がぁっ!!!』

 

繭良から黒い呪力の波動が放たれ、その衝撃に後方に飛ばされる夏希とろくろ。

 

「ぐっ!!」

 

「うあっ!!」

 

何とか受け身を取ることができた二人。繭良を見ると、黒い波動が繭良を覆い、その姿を変えさせていく。

 

「嘘──だろ……」

 

「何で……何でまだあんなものがあるんだよ……っ!!?」

 

二人は知っている。この現象を、夏希は独自の調査で知り、ろくろは目の前で見た光景──────

 

「何で……何でぇ…………!!!!」

 

「「何でだよぉぉぉぉぉぉ!!!繭良ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『きゃははははははははははははははっ!!!!』

 

───────“ケガレ堕ち”である。

 

 

 

 

 

 

幕間(まくあい)は終わり……再び物語は動き出す。

さあ、悲劇の続きを始めよう」

 

禍野で自分の実験を岩の上から眺める人物が一人、誰かに語りかけるように話し出す。その口調は、何かを楽しみにしている子供のようだった。




次回もお楽しみに!


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ずっと傍にいるからな

肌と瞳が黒く染まり、頭からは二本の角が生えている。胸元の黒い花とそこから伸びる触手のようなツタは、薔薇(バラ)と薔薇の茎を彷彿とさせる。そして、腰から生えている黒く指先が尖った二本の巨腕。姿としては繭良を残しているものの、全く別の物に思える見た目に変わっていた。

 

『ふはっあははははっ!!!』

 

「嘘だ……嘘だろ繭良ぁ……!!」

 

「…………」

 

その姿を見たろくろは、絶望に打ちひしがれていた。しかし夏希だけはこの状況をどうするべきか考え、繭良をジッと見据えていた。

 

ケガレと化した繭良は二人を認識すると、その二本の巨腕を()()()()()伸ばした。

 

「なっ!」

 

夏希は慌てて避ける。が、次々とその腕を伸ばす繭良。しかし、いっこうにろくろを狙おうとはせず、夏希にばかり腕を伸ばしている。

 

「何で俺ばっかりなんだ……!?」

 

「?」

 

ろくろは状況が理解出来ずに呆然とそれを眺めていた。しかし、夏希はその腕の振り方に違和感を覚えた。

 

(攻撃しようとしてる腕の振り方じゃない。まるで───)

 

まるで、何かを捕まえようとする腕の振り方だった。避けながら繭良を観察する夏希。繭良からは殺気は感じられず、欲しいものを手に入れようとする子供のように思えた。もしかしたら、自我がまだ残っているかもしれない。

 

(なら、()()()()()()!)

 

夏希の中で希望が見えてきた。しかし、それを発動するタイミングがない。しかも、自分で発動させることが出来るか出来ないか、成功するかどうかも賭けになってしまう。

 

(どうする!?今はコレしかないぞ!?)

 

夏希が葛藤する中、突如として飛来した裂空魔弾に繭良が近くの建物まで吹き飛ばされた。

 

「今の裂空魔弾は……」

 

「全く、てめぇらは騒ぎの中心にいないと気が済まねぇのかぁ~~!?」

 

「清弦……!!紅緒……!!」

 

裂空魔弾のきた方向から清弦と紅緒が歩いてくる。先程の裂空魔弾は清弦が撃ったもののようだ。紅緒は先程吹き飛ばされた繭良に気づいたらしく、目を大きく見開き、信じられないものを見るかのような目だった。

 

「なあチビ助、夏希。一応聞いとくが、今の()()は繭良……か!?」

 

「どうして繭良が……!!ケガレ堕ちは二年前ので終わったんじゃなかったのかよ!?」

 

「いかに疑問を抱こうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…………それだけだ」

 

「清弦さん!繭良のことだけど、まだ完全にケガレには成ってないかもしれない!」

 

「……どういうことだ?」

 

「それが────」

 

夏希が事情を説明しようとした途端、夏希の真下から二つの腕が現れる。夏希はかろうじて回避し、捕まることはなかった。

 

「やっぱり俺しか狙わないんだな!」

 

夏希としては嬉しいようで嬉しくないような複雑な気持ちである。

 

「清弦さん!繭良は俺しか狙わないみたいなので!俺が時間を稼ぎます!」

 

(なに)(さく)でもあんのか?」

 

「繭良の自我がまだ消えてないみたいです!だから!“布瑠の言(フルノコト)”を使うんです!」

 

布瑠の言とは、全ての(ケガレ)を祓うと言われる最強の(しゅ)である。これを使えば、繭良のケガレとしての部分だけを祓えるかもしれない。しかし、大量な呪力を必要とするため、使えるのは安倍晴明とその生まれ変わりである神子(みこ)だけとも言われる。しかも、発動のための時間が長い。(ゆえ)に簡単に使えないのだ。

 

「なるほどな……!だが、使えるのか!?」

 

「双星のろくろと紅緒さんなら可能性は十分あります!」

 

「……今はソレに賭けるしかないか……!」

 

「清弦さんは二人に説明を!」

 

「分かった!」

 

清弦はろくろと紅緒の二人を連れてどこかに行く。

 

(とにかく、傷つけないように注意を引かないと!)

 

そう思った途端。繭良のスピードが上がった。

 

(手を抜かれてたってことかよ!)

 

どうやら、出来るだけ傷つけないように配慮して捕まえようとしていたようだが、あまりにも捕まえられないため、傷つけてでも捕まえようという考えになったようだ。

 

「求めてくれるのは嬉しいけど!ちょっと乱暴だな!鎧包業羅、砕岩獅子、飛天駿脚、急急如律令!」

 

呪装をし、戦闘体勢に入る夏希。しかし、傷つけるつもりはないため、ある程度掴みにくる腕を(さば)くためだ。

 

『きゃははははははは!』

 

「よっと!」

 

スピードが上がっても殴ったりする様子はなく、やはり掴もうとしてくる。しかし、いつ殴ってでも捕まえようとするか分かったものではない。油断は許されないだろう。

 

(……このままだと捕まる!)

 

確実にだがスピードが上がってきている。更に動きまで読まれ始めた。逃げるだけではダメそうだ。そう思った夏希は一枚の霊符を取り出す。

 

迅竜符(じんりゅうふ)

 

その霊符は光となり、夏希の両脚に集まる。

 

疾風竜脚(しっぷうりゅうきゃく)!急急如律令!」

 

その両脚は薄い厚さの黒い装甲に覆われ、爪先(つまさき)には鋭い爪が伸びている。見た目は竜というよりかは、獣を彷彿とさせるデザインとなっている。

 

夏希の脚を見て動きを止める繭良。一瞬警戒したのだろう。その隙を見て夏希は地面を蹴る。すると、夏希の姿が一瞬にして消えた。

 

『!?』

 

姿が見えなくなり驚く繭良。左右を交互に見るが姿は見えない。

 

「俺はこっちだ」

 

後ろから聞こえた声に振り返る繭良。さっきの一瞬で後ろに回り込んだのだ。

 

「どうした?捕まえないの?」

 

夏希の言葉を合図に夏希に近寄る繭良。巨腕を伸ばし捕まえようとするが、また一瞬で夏希の姿が消える。

 

「ほらほら、こっちこっち!」

 

また後ろから声が聞こえ振り返る繭良。また一瞬で後ろに回り込まれたことに、驚きが隠せていなかった。

 

(これなら長く時間かける稼げるな)

 

余裕な笑みを浮かべる夏希。さて、どうやって夏希は繭良の後ろに回り込んだのか。それは簡単。ただ素早く、繭良にはみえない速さで動いて回り込んでいただけだった。ただ、スピードを出すのに大量に呪力を使うため、調子に乗ってマックススピードで動き続けるとすぐガス欠である。

 

『きゃはははははは!!!』

 

不気味な笑い声を上げながら向かって来る繭良。夏希はまた素早く動き、繭良の腕を回避する。そしてまた伸びてくる腕を回避する。この動きがしばらく続いた。

 

(そろそろかな?)

 

「夏希!」

 

「清弦さん!」

 

「二人が布瑠の言を使うまでそのまま時間を稼げ!」

 

「了解!」

 

少し遠くの岩場で立っているろくろと紅緒。そして、二人が手を繋ぐと、二人の呪力が何倍にも膨れあがっていく。

 

(やっぱり“共振(レゾナンス)”が使えたか!)

 

共振、双星だけが使える秘術の一つ。互いの呪力を重ねることで倍増させることができる。夏希は二人がこれを使えると踏んで清弦に任せたのだ。

 

そしてろくろと紅緒が印を組み、詠唱を始めた。

 

(ヒト)(フタ)()()(イツ)()(ナナ)(ヤハ)(ココノ)(トヲニナリケリヤ)

 

ろくろと紅緒の前に大きく、とてつもない呪力が込められた呪印が現れる。繭良は呪印の呪力と光に反応し、ろくろと紅緒に向き直る。

 

布瑠部(フルベ)由良由良止布瑠部(ユラユラトフルベ)!」

 

『……せ、せいめぇい……!!!!』

 

繭良は雄叫びを上げながらろくろと紅緒に向かって跳躍した。腕も四本増え、六本となっている。

 

ろくろと紅緒は(おく)することなく、印を繭良に向ける。

 

祓へ給へ(ハラエタマエ)清メ給へ(キヨメタマエ)!急急如律令!!」

 

呪印の光が繭良を包もうとする。しかし、繭良は呪印を突き破り、ろくろと繭良に突進しようとする。夏希はろくろと紅緒の前に立ち、両腕を広げる。

 

『きゃはははははははっ!』

 

「繭良……恐い思いをさせてゴメン────もう大丈夫だから」

 

ピシッと、繭良にヒビが入っていく。すると、ケガレとしての姿が剥がれていき、生まれたままの姿の繭良になる。夏希は落ちてくる繭良をそっと抱き留めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと傍にいるからな…………」

 

優しく、でも強く、その温もりを感じるように抱きしめる。その時の繭良の顔はとても幸せそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────────

 

おまけ

『予想外』

 

遠くでろくろ達を観察している男。

 

?「……あれは何だ?何故夏希しか狙わない?…………いや、繭良ちゃんは前から夏希のことが好きだったみたいだし…………まさか、本能的に夏希を求めているのか?……ケガレ堕ちさせる人、間違えたかな」

 

その光景は、予想外としか言いようがなかった。

 

───────────────────────────────

 

おまけその二

『繭良の声』

 

ろくろと紅緒が繭良の声が聞こえることを清弦に伝え、“布瑠の言”を教えて貰った二人。これはその後のこと。

 

清弦「ちなみに、繭良のどんな声が聞こえたんだぁ?」

 

ろくろ「あ!いや……えっと……」

 

清弦「?」

 

紅緒「その……音海さんは…………」

 

清弦「繭良が?」

 

紅緒「ずっと……天道さんの名前を呼んでます……」

 

ろくろ「『夏希どこ?』って」

 

清弦「…………!!!!」

 

ろくろ「ひっ!」

 

ろくろはその時の清弦の顔が修行でキレた時より怖かったと語っている。




今回夏希が使った“迅竜符”は『モンスターハンター』のナルガクルガがモチーフです。

次回もお楽しみに!


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現れる因縁の相手

繭良を助けた後、生まれたままの姿はやはりマズいので、夏希が取り出した服を着せた。男物だが、無いより全然マシである。もちろん、着せる際には夏希とろくろは違う方向を向いていた。そして、繭良を地面に寝せては居るが、頭には夏希の制服が枕代わりに置いてあった。

 

「…………なんだよ……何なんだよそれ……。この力が二年前にもあったら……あの時皆を…………っ!!雛月の皆も助けられたのに…………この力があったら皆死なずに済んだだんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!もっと……!!もっと生きていられたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ろくろが涙流しながら口にする悲しみと後悔。その言葉に夏希が苦い顔をする。この力があれば助けられた命がいくつもある。今、もしかしたら一緒に笑ったりしていたかもしれない。共に陰陽師として戦っていたかもしれない。いくつもの後悔が二人の中を駆け巡った。

 

だが、そんなのも(つか)()。夏希と清弦は何かがこちらに近づいてきているのに気付いた。

 

「顔を上げろ夏希、チビ助。戦いはまだ終わってねぇ。もはや隠しようもねぇ……ケガレ堕ちが再び現れたのがどういうことか分かるよなぁ……?()()()()()()はまだ終わっていない……」

 

その言葉に、二人の顔が険しくなる。

 

「……悲劇の真相の話の続きだ、化野の娘。心して聞け。先に言ったとおり、雛月の候補生達を祓ったのはチビ助だ。それは間違いない。────だが、候補生達を()()()()()()()()()のは、また別の人間だ」

 

「ケガレ堕ち……させた?」

 

「つまりケガレ堕ちというのはね、ケガレに対抗する力を得るために、人為的(じんいてき)に陰陽師をケガレにする最悪の禁忌なのさ」

 

突如てして聞こえた声に、全員がその方向を向く。その声は、その場の全員が聞き慣れていた声だった。紅緒は驚愕し、清弦は顔を険しくし、夏希とろくろは顔が怒りに染まっていく。

 

「……!!どうし……て?どうしてあなたが……!!?」

 

「これが真相だ。禁忌を外に持ち出し、雛月の候補生をケガレ堕ちの実験材料にし、夏希……そしてチビ助の全てを狂わせたのはそいつだ」

 

「……何でテメェが…………!!!!」

 

「何でお前が……!!まだ生きてるんだ……!!?」

 

「「悠斗ぉぉぉおおおおぉぉぉぉおぉぉぉ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、ろく!久しぶりぃ!」

 

そこにいたのは、紅緒の兄であり、かつての清弦と夏希の教え子であり、ろくろの仲間であった石鏡 悠斗だった。その表情は嬉々としており、この状況では狂気すら感じる。

 

「何でって言われても、この通り僕はピンピンしてるよ!それよりどうしてそんな恐い顔をしてるんだい、ろく?ここは『生きてたんだね悠斗~~~』って、泣いて喜ぶシーンじゃないかい?」

 

「くだらねぇ冗談言ってんじゃ「う……嘘……よ」……!」

 

ろくろの声は、弱々しい紅緒の声に遮られる。紅緒の表情は、驚愕と困惑が入り混じっていた。

 

「に……兄様が、雛月の悲劇を起こした……元……凶?そん……な、そんな筈………ない!私の兄様……は、優しくて……正義感が強くて、陰陽師として尊敬の出来……るっ。(たわむ)れはやめて下……さい!!兄様……が、私の知ってる兄様はそんなことをする人ではありま……せん!!」

 

「黙れ紅緒。その乳臭い口を今すぐ閉じろ」

 

紅緒の心からの叫びを、あっさりと切り捨てる悠斗。紅緒の知っている兄の姿は、全く感じられなかった。

 

「お前は本当に哀れだなぁ。「優しくて」「正義感が強い」……?つまりお前は、僕のことを何一つ理解していなかったということだね」

 

「悠斗……お前っ」

 

「本当に……どこまで……!!」

 

「兄……様」

 

「事実を受け入れろ化野紅緒……!あれが化野悠斗───いや、石鏡悠斗の本質だ。あいつはああやって周囲を、家族を、友人を(あざむ)きつづけ、仮面の奥に隠した野心を実現する機会をずっと(うかが)っていたんだ。そして、雛月の悲劇の夜にケガレ堕ち共々チビ助に祓われ、悲劇の真相と共にこの世から姿を消した─────と思われていた」

 

「で……では、約束……は?父様と母様の前で交わした約束は……!あの時流した涙はっ……!?あれも全て嘘だったのです……かっ……!?」

 

紅緒が言う約束。それは、二人の両親の葬式の時、二人の棺桶の前で交わした約束。それは、紅緒にとって今の自分を作る大切な約束。

 

「父様母様?()()()()が何だと言うんだい?理想を語るばかりで何も()()なかった愚物(ぐぶつ)になど、毛先ほどの感傷(かんしょう)すら湧きはしないよ」

 

自分の両親を、愚物と言って一蹴する。その声には一切の迷いはなく、見下すようにさえ感じる。

 

「何よりも愚かなのはお前を庇って死んだことだ。父母がお前のどこに期待していたかは知らないが、いい機会だからハッキリ言うよ─────紅緒、僕がお前を陰陽師として認めたことは、ただの一度もない────!愚かな父母に感化され、現実がまるで見えていない馬鹿な妹の前で、「良い兄」を演じるのは、ストレスでしかなかったよ」

 

その言葉に紅緒の中の何かが崩れた。自分を支えてきた両親と兄との約束、自分が費やしてきた陰陽師としての努力、家族との楽しい思い出。その全てを否定された気がした。体から力が抜け、膝を付く。目から涙が溢れ、目の前が真っ白になっていく。

 

そんな紅緒に構わず、悠斗は笑顔のまま言葉を紡いでいく。

 

「何をしているんだい紅緒。僕が思っていたことは全部伝えた。分かったなら、早く消えてくれないか?」

 

その瞬間、悠斗の左頬を拳で殴るろくろがいた。その場には鈍い音が響き、拳が悠斗の頬に食い込んでいた。

 

「あれ……ろく?」

 

「汚ねぇ口を今すぐ閉じろっっ!!」

 

悠斗は嬉々とした顔で、ろくろの殴りかかってきた腕を掴む。その表情から、悠斗には全くダメージがなかったことが分かる。

 

()ったいなぁ~~!いきなり殴るなんて酷いじゃないかろぉ~~くぅ~~!ぼくらは友達だろぉ~~!!?」

 

「ふざけたことばっか言ってんじゃねぇ……!俺はお前を絶対……お前はもう絶対にっ……!!たとえこの先っどんなことがあっても!謝っても!反省しても!!後悔してもっ!!死んでもっ!!!お前は絶対許さないっ……許されないっっ!!!!!!!!」

 

「ふぅ~ん。許されなかったらどうなるんだい?教えてくれよろくぅ~~」

 

ろくろの腕を掴む悠斗の手に、力が入っていく。

 

「馬鹿弟子がぁ、考えもなしに突っ込みやがって~!」

 

その様子を見た清弦が前に出て“白蓮虎砲”を右手に呪装し、悠斗に呪力の斬擊を放つ。それに気付いた悠斗は、ろくろから離れ、斬擊を(かわ)す。斬擊の後は、地面にくっきりと残っていた。

 

「もぉ~~っ危ないなぁ!当たったらどうするんですか清弦さぁ~~~ん!」

 

「黙れ馬鹿弟子その2。この事実が上の連中に伝われば、全陰陽師がお前の敵に回るぞ?死んでなかったんなら、何故今頃になって現れた?悠斗、てめぇの目的は一体何だ?」

 

「おかしなことを聞くなぁ清弦さんは。陰陽師である限り、ケガレと戦うためより強い力を求めるのは当然のことでしょう?学者が研究を重ねたり、スポーツ選手が体を鍛えるのと一緒ですよ」

 

言っていることは間違ってはいないだろう。ケガレと戦うため、より強い力を求めるのは当然だ。が、しかしである。

 

「そのために他人が犠牲になんのは仕方ねぇって?」

 

「さっき清弦さんも言ってたじゃないですか。僕にとって家族も友人もただの飾りであって他人ですらないですよ。それに、僕の果たすべき“大願”を話したところで、理解してもらえるとも理解してもらおうとも思っていません」

 

「ならば何故チビ助を狙った?繭良を使ってチビ助…………いや、結果的には夏希を襲ったが、何故だ?大願ってやつを邪魔された腹いせか?」

 

「あははははははっ!ろくごときが僕の進む道の妨げになるワケないじゃないですかっ!ろくを狙ったのはただ“目障り”だったというだけですよ。まあ、夏希を狙ったのは計算外でしたけどね。ろくに関しては雛月寮にいた頃から思ってました───そこの乳臭い女と一緒だ」

 

悠斗は明るい口調から、重苦しい口調で語り出す。

 

理想(ユメ)ばかり見て綺麗事を並べる小蝿(こばえ)が、いちいち目の前をチラつくのが見ていて我慢出来ないんです。だから繭良ちゃんにろくを始末して貰おうとしたんですよ。ろくなら繭良ちゃんを殺せないだろうと思ってね────でも、結局何の役にも立たなかったな~~」

 

ろくろと紅緒、いや、雛月寮の人間をも小蝿と言って一蹴し、人を、繭良を道具としてしか見ていない発言に全員が怒りを覚える。

 

「テメェ……そんな理由で繭良をっ…………!!!!」

 

「やっぱりお前は……この世に生きてちゃいけない人間だ……悠斗っ!!今度こそ俺がっ!この手でお前をっ!!!!」

 

ろくろが立ち上がり駆け出そうとするが、清弦に足を足で引っ掛けられ、顔から盛大に転んだ。

 

「っでぇ!!!─────何すんだよ清弦っ!!」

 

「そりゃ俺の台詞(せりふ)だぁ。何してんだよ馬鹿弟子ぃ~~。アイツと素手喧嘩(すてごろ)でもやる気かよ。自分でももう気付いてんだろうがぁ?“布瑠の言”を使った反動で、てめぇと化野の娘からほとんど呪力を感じられねぇ。今は立ってるだけでも相当の負担の筈だ。違うか?」

 

その言葉に、ろくろは苦い表情をする。清弦の言葉が当たっており、悠斗を殴りに掛かった時点で体に力が入りづらかった。さらに、紅緒は精神面でも戦闘が出来る状態ではない。

 

夏希も戦闘に参加しようと前に出るが、清弦が左手を前に出して遮る。

 

「お前も手を出すな。繭良の相手をして少しは疲れてるだろ」

 

「これくらい何ともないですよ。だから、俺にも」

 

「ダメだ。てめぇらの背負(しょ)ってるもんは十分知ってる。だが、腹に据えかねているのは俺も同じだ。それ以前に初めから、馬鹿弟子の尻拭いが俺の仕事だからな」

 

その言葉に、ハッキリとした覚悟と重みを感じる夏希。

 

二人で戦った方が勝率が上がるだろう。しかし、今ここで無理に参加すれば、連携も合わない。そう思い、後ろに下がる夏希。だが……

 

(本当に……それでいいのか……)

 

夏希は清弦の実力を理解している。が、不安が拭いきれなかった。

 

「相変わらず優しいなぁ清弦さんは……でも、僕だってこの二年間、ただ姿を隠していたワケじゃありませんよ。────み(めぐ)みを()けても(そむ)(あだなえ)(かご)(ゆみ)羽々矢(はやや)もてぞ射落(いお)とす」

 

印を組み、詠唱をする悠斗。この詠唱は、清弦、夏希、ろくろはよく知っているものだ。

 

「こ……これ、裂空魔弾……か!?」

 

「いや、詠唱はそれだけど呪力が違う」

 

「いくら清弦さんでもこれを凌ぐのは、ちょっと厳しいんじゃないですか……!?」

 

呪力が地面に流れ込んでいき、その地面は剥がれ、いくつもの大きな球体になっていく。そして、その球体は禍々しいものへと変わっていく。目や口や舌、角のような突起物が出来る。

 

裂光覇弾(れっこうはだん)……急急如律令!」

 

悠斗の声と共に、裂光覇弾は清弦に向かって飛んでいく。

 

「十二天将・天若清弦!あなたを殺して陰陽連への宣戦布告とさせて頂きますっっ!!!」

 

「たしかにこいつは今のままじゃキツイかもな

……“白虎明鏡符(びゃっこめいきょうふ)”」

 

清弦は一枚の霊符を取り出す。すると、とてつもない突風が吹き荒れ、地面の砂を巻き上げる。そして、爆発的な呪力の上昇を夏希達は感じた。

 

すると、一瞬にしてにして裂光覇弾が細切りにされた。

 

「十二天将ってのは、ただ名前を借りてるってだけじゃねぇ。その始祖たる式神から()()に力を認められた……それ故の十二天将だ」

 

土煙が晴れ、清弦の姿がハッキリと見える。髪を纏めていた包帯がなくなり、その髪と肌は純白に輝き、白蓮虎砲もガッチリしたものではなく、洗練され装甲が薄くなっていた。その爪も綺麗に輝いている。

 

「白蓮虎砲・“纏神呪(まといかじり)”」

 

「わぁ!初めからそれ使ってれば繭良ちゃんなんて簡単に殺せたんじゃないですか?」

 

「夏希と双星のおかげで使う必要がなかっただけだ」

 

「……嬉しいなぁ。あの清弦さんが僕も相手に全力を出してくれるなんて……じゃあ僕も、()()く恩師へ、せめてもの(はなむけ)に、ちょっとだけ本気出しちゃおうかな!」

 

左手、左足を前に出し、腰を少し落として体の向きを右に向ける悠斗。右手は胸の前で印を組む。

 

「僕はここを動きませんから、お好きなタイミングでどうぞ」

 

「手加減は………出来ねぇぞ」

 

左足を前に出して腰を落とし、体の向きを右に向ける清弦。左手は前に出し、膝の少し上辺りまで持っていく。右腕を後ろに引き、爪を立てる。

 

「手加減なんて、お願いしたってしないでしょう」

 

静寂とした時間が続く。が、すぐにその静寂は崩れ去った。

 

体に力を入れ、風よりも速く跳躍し一気に距離を詰める清弦。そして、右腕の爪をを全力で振り下ろす。清弦と悠斗の立っている地面は地面が割れ、大きなクレーターを作る。そして、清弦の渾身の爪の斬擊。その強大な呪力の斬擊は悠斗だけに留まらず、悠斗を通り過ぎ大地に、五つの大きな亀裂の作った。

 

爆風によって土煙が上がり、二人の姿が見えなくなる。しかし、先程の攻撃で夏希、ろくろ、紅緒が清弦の勝利が確かなものだと思ったその時。少しずつ土煙が晴れていき顔が見える。すると、悠斗が突如として涙を流し始めた。

 

「うぅ……。悲しいなぁ、とても悲しいことですよ。たった二年でこれ程まで、力の差が開いたなんて」

 

「……っ!!!悠斗っ……てめ…ぇ」

 

土煙がほぼ晴れたその時見えたのは、()()()()()と、()()()()()()()鮮血が舞い、纏神呪が解除され膝を付いて倒れる清弦の姿だった。

 

「「せっ、せいげ(んさぁぁぁぁぁぁぁぁぁん)(ぇぇぇぇぇぇぇぇぇん)!!!?」」

 

「ろく、僕はね。僕は君のことは大嫌いだけど、素質については全く認めていなかったってワケじゃない。雛月の連中の中で唯一、ケガレ堕ちの力を自分のものにした君をね」

 

喋りながらろくろに向かって、ゆっくりと歩き出す悠斗。少し残っていた土煙が完全に晴れる。

 

「────でも君は逃げたんだ。絶大な力が手に入る扉の前に立っておきながら、君は罪の意識に負けて引き返した……けど、僕は扉を開け、その先に足を踏み入れた。君の罪はね、雛月の連中を殺したことでも、僕を討ち損なったことでもない」

 

土煙が晴れたその時、隠れて見えなかった悠斗の左腕が、ハッキリと見えた。その左腕は─────

 

「君の罪は、真に“強くなる”という覚悟がなかったことだよ」

 

禍々しい呪力を放つ、黒いケガレの腕だった。




書き溜めがなくなったので、更新はだいぶ先になると思います。楽しみに待っていてくれると嬉しいです。


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悠斗との決戦に向けて

清弦の渾身の一撃を無傷で耐え、ケガレと化した左腕で清弦の右腕を消し飛ばした悠斗。悠斗は左腕を戻しつつ、笑顔でろくろにゆっくりと歩いていく。

 

「ねぇろく?僕と一緒に来ないかい?」

 

悠斗の言葉に、三人が「は?」と疑問の声を漏らす。

 

「一体どういう風の吹き回しだ?」

 

夏希が悠斗に意図を問う。悠斗は淡々と述べていく。

 

「なに、ほんの少しの気まぐれさ。僕自身の大願を成就させるためにも“手駒”はあるに越したことはないからね」

 

手駒、仲間と言わないあたり悠斗の性格が反映されている。悠斗にとって、ろくろは価値がない存在ではない。ケガレ堕ちを自分の物にした稀少な存在。悠斗の大願の手駒には良い存在だろう。

 

「ろく、くだらない正義感とか捨てて心を入れ替えるなら、僕の(そば)に置いてあげてもいいよ?そうすれば命だけは保障してあげる」

 

「誰がお前なんかと………!!」

 

「いいのかい?保障してあげるって言ったのは君のことじゃない。君以外の人間のことだよ」

 

悠斗の言葉の意味を三人は理解した。いや、理解しない方がおかしいだろう。手駒にならなければ、ろくろ以外の人間が無事では済まないということだ。

 

「悠斗っ……!お前ぇぇぇぇぇ……!!!」

 

奥歯を噛み締め、歯と歯の擦れる音が鳴る。悠斗はろくろの表情を見て愉快そうに笑みがこぼれる。すると、後ろの高い岩場まで跳んでいった。

 

「一日待ってあげるよ。明日また、今と同じくらいの時間にこの場所で待ってるから。一日ゆっくり考えて、そこで君の答えを聞かせてくれるかなぁ?」

 

岩場からろ夏希達を見下ろす悠斗。夏希は悠斗を逃がさないよう霊符を構える。それを見た悠斗は少し笑みを浮かべて夏希に話す。

 

「別に戦ってもいいけど、早く清弦さんを治療しないとマズいと思うよ」

 

「────っ!!」

 

歯を食いしばり、夏希は清弦の方に駆け寄って治療を始めた。

 

「忘れないでねろく。君はもうずっと前から僕の手の平の上で小踊りしてるだけの存在ってことをね」

 

そう言い残し、悠斗は奥へと姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

禍野から帰った夏希達は、まずは星火寮に行きそこから繭良と清弦を病院へ連れて行った。繭良は過労のようなものだが、清弦は右腕が肩のちょっと下から無くなり、重傷だった。清弦は悠斗が消えた後、夏希が“治癒符”を使って応急処置をしていた。連れて行った病院は陰陽連に関係する病院のため傷のことが不審がられることはない。結果から言うと、二人共命に別状はなかった。

 

そして夏希、ろくろ、紅緒はじっさまと共に清弦の病室の前にいた。

 

「そうか………悠斗に会ったのか」

 

じっさまが三人から事情を聞いた。ろくろ達に重苦しい雰囲気が漂い、夏希、ろくろ、紅緒の三人は顔を俯かせる。

 

「事態は………清弦が危惧しておった最悪の方向へ行ってしまったか」

 

その言葉に三人共顔を上げ、じっさまを見つめる。

 

「もう分かってると思うがの………当初清弦が有馬から受けた任務は双星と天道(お前達)と協力してケガレ堕ちを生み出す者……悠斗を()てというものだった。じゃが、清弦はお前達と悠斗を戦わせたくなかったのじゃ。……お前達三人に知っておくべき事実を伝えたあとは、一人で悠斗を倒すつもりじゃった…………そのためには、憎まれ役を買ってでもお前達を禍野から遠ざけおきたかったのじゃ」

 

じっさまの話に思い当たる事がある夏希とろくろ。夏希は清弦から有馬から連絡があったか聞かれ、ろくろは最初に清弦が来たとき、禍野で星装顕符をビリビリに破られていた。夏希に知られているか確認し、ろくろは禍野から遠ざけるため憎まれ役を買った。これまでのことに合点(がてん)がいった。

 

「しかし、清弦や有馬様ら陰陽連にとって誤算だったのは清弦一人では手に余る程悠斗が強くなってしまっておったこと……もしかすると、これまでの流れは全て、悠斗の計算の内なのかもしれぬ」

 

じっさまの言ったことが本当なら、そう思うと全身の毛が逆立ち、背筋が凍る。

 

「清弦は……どうなるんだ?」

 

「……清弦は、片腕を失った。陰陽師として戦うことは二度とあるまい……」

 

再び重苦しい空気が漂う。そこにお婆さんがやって来た。

 

「有馬様に現状を報告してきたぞぃ」

 

(ババ)……それで有馬様は?」

 

お婆さんは一瞬言葉を詰まらせると、紅緒の方をチラッと見ながら話始める。

 

「こ………今回の事態を受けて陰陽連は………悠斗様を……は………反逆者として()()()()を編成する……と」

 

お婆さんの言葉に紅緒が驚愕する。しかし、すぐに納得したのか暗い表情に戻る。こうなるのは予想していたのだろう。

 

「直ちに十二天将“朱雀(すざく)”“大裳(たいじょう)”“大陰(だいおん)”“青龍(せいりゅう)”をこちらに派遣し、現地に居る“天道”と共に悠斗様を討伐すると……」

 

その言葉に夏希以外の全員が目を見開く。十二天将がいきなり四人も派遣されること。事態はそれほどまでに大きくなっているのだ。夏希はそれを理解していた。

 

「しかし、急な要請(ゆえ)、四人が到着するのは早くとも明日の夕方以降になるそうじゃ」

 

え、と声を漏らすろくろ。それでは悠斗が言っていた時間には間に合わない。しかし、それを知っているのは夏希とろくろと紅緒の三人だけだ。それ故にじっさまがろくろの反応に違和感を持った。

 

「どうした?ろくろ」

 

「あ……いや………何でもないよ………」

 

ぎこちない返事をしたろくろ。そしてろくろと紅緒はタクシーで自分達の家に帰り、夏希は外に出て夜空を見つめていた。

 

「………」

 

無言で星が輝く夜空を見つめる。自分の中でグルグルと回る悲しみに後悔。今の自分は、表情はとても暗いだろう。

 

その時、夏希のスマホのバイブが揺れる。スマホを取り出すと、電話の応答画面になっており、『有馬さん』と表示されていた。夏希は画面に表示される応答のボタンをタップして電話にでる。

 

『あ!もしもし夏希君!』

 

「………なんですか?」

 

『もう聞いてるとは思うけど、明日四人がそっちに行くから。そして、君も一緒に石鏡悠斗を討伐してもらいたい』

 

「………分かりました」

 

『じゃ、よろしく頼むよ』

 

電話を切られる夏希。スマホをそっとポケットに戻す。

 

「………ハァ」

 

心に溜まっている何かを吐き出すように溜め息を(こぼ)した。

 

 

 

 

 

 

繭良と清弦が病院に運ばれた翌日の昼頃。みんなで昼食を食べ終え、夏希は食器を洗い、それを終えて自室に籠もっていた。

 

「…………」

 

とても重く、真剣な顔つき。その表情からは何かに悩んでいることが分かる。

 

夏希が悩んでいるのは、悠斗のことである。昨日の悠斗がろくろに言ったこと。ろくろが黙って見過ごす性格でないのは確実である。きっと一人でも悠斗に立ち向かうだろう。夏希としては、それをさせるわけにはいかない。今の悠斗には、ろくろでは勝てないのは明白である。

 

ろくろを止める…………(いな)、そんなので止まらないのは分かっている。

 

ならば黙って見過ごすか。それも違うだろう。

 

なら、もうすることはもう初めから決まっている。

 

「………よし!!」

 

夏希は勢いよく立ち上がると、身支度をして星火寮を出ていった。

 

 

 

 

 

 

ろくろと紅緒の家の前に着いた夏希。夏希は家のインターホンを押す。すると、()()()()を着たろくろが出て来た。

 

「夏希?何か用か?」

 

「ろくろ………お前、その狩衣は………」

 

「ああこれか?これは…清弦からの贈り物だ」

 

清弦からの贈り物、その言葉を聞いた瞬間夏希は驚いたが、どこか優しい目を向ける。

 

黒い狩衣は相応の実力と覚悟を持つ陰陽師にしか支給されない。ろくろの言い方からすると、清弦が上の人達に掛け合ったということだ。なんだかんだ清弦もろくろを認めていたのだろう。

 

「それより、お前こんな時に来るってことは……」

 

「うん、まあそういうこと」

 

「……とりあえず家ん中入るか?」

 

「頼む」

 

 

 

 

 

 

「いらっ……しゃい」

 

「紅緒さん、お邪魔します」

 

夏希がリビングに行くと、黒い狩衣を着た紅緒がいた。その場に胡座(あぐら)で座る夏希。ろくろも夏希の正面に胡座で座り、紅緒はその隣で正座で座る。その動作が夫婦のように見えたが、それは口にしない夏希だった。

 

「で、何で来たんだ」

 

「そりゃ悠斗を倒すために決まってるだろ」

 

「いいの……?あなたは有馬様から」

 

「確かに命令が来たよ。だけど、昨日悠斗が言ったことをさせるわけにはいかない。緊急事態なんだよ」

 

「待てって!お前確か“天道”って立場が」

 

「だからだよ。俺の判断で双星(ふたり)に協力してもらったことにすれば、二人への責任は少なくなる」

 

「………本当にいいのか?」

 

「じゃなきゃここに来てないよ」

 

「………分かった」

 

「うん………」

 

納得するろくろと紅緒。

 

「さてと、じゃあ俺の力について話すか」

 

「以前………素手でケガレを祓った………こと?」

 

「そう、そのこと」

 

夏希には謎が多い。素手でケガレを祓うなど異常だ。二人は興味深そうに夏希の言葉を待つ。

 

「これは“本土”の人にはあまり口外していいことじゃない。だから、人には話さないことを約束できる?」

 

「?とにかく話さなきゃいいんだな?」

 

「ああ」

 

「分かった」

 

「ええ」

 

ろくろは“本土”という言葉が理解できなかったが、二人は首を縦に振る。夏希は意を決して話し出した。

 

「俺の父さんの家系は昔から、呪力以外にも()()()()を持ってる」

 

「特殊な力……?」

 

紅緒が首を少し傾げながら復唱する。

 

「うん、突然変異的なものらしい。俺の家の倉庫に資料が沢山置いてあった。今までで確認されてる力は“気”“チャクラ”“覇気”“魔力”、この四つだ。天道家はこの四つの力のどれか一つが発現していた」

 

「それが素手でケガレを祓える理由か?」

 

「ああ。ただ、本来はどれか一つなんだが……俺はこの四つを全て使える」

 

「「!?」」

 

特殊能力というだけで驚きなのにも関わらず、それを全て使えると言った夏希。これが夏希が最強の陰陽師と呼ばれる理由だと理解したろくろと紅緒だった。

 

「とりあえず、これが俺の力のことだ。残りの詳しいことは地下のトレーニングルームで話す。二人が悠斗に対してどんな秘策を持ってるのか見たい」

 

「分かった」

 

ろくろがそう言った後、夏希が時計を見ると一時を指している。悠斗に呼び出されたのが五時辺りなので、あと四時間くらいしかない。

 

「急ごう、もうあまり時間がない」

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

無言で座る三人。二時間と少しで作戦を説明し、夏希の力を最低限だが頭に叩き込んだ。残りの時間は体力の回復に使ったが、部屋は緊張感が張り詰められたピリピリとした空間だった。

 

時計を確認すると四時三十五分。あと二十五分で悠斗に呼び出された五時になる。

 

「…………二人共」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

スッと立ち上がる三人。紅緒は緊張感のあまり少し息を吐いて緊張をほぐしていた。夏希も少し息を吸って、ゆっくりと息を吐いていた。

 

「……紅緒、夏希」

 

「うん?」

 

「?」

 

「その……ありがとな………」

 

「「?」」

 

ろくろの突然の感謝の言葉に首を傾げる二人。ろくろはそんな二人に言葉を紡いでいく。

 

「実はさ、正直言うと俺……最初は結構びびってたんだ。……勿論一人で戦う覚悟も死ぬ覚悟もあったけど……恐いことには変わりなくてさ……だから、紅緒が、夏希が同行するって言ってくれた時、本当はすげえ嬉しかった……」

 

ろくろの話に耳を傾ける。ろくろの話を聞いていくうちに、夏希と紅緒の表情が段々優しいものになっていた。

 

「数時間後か、数十分後かに死ぬかもしれないこの状況で……一人じゃないってすげぇありがてぇ」

 

ろくろの優しい顔に夏希は少しだけ笑みを浮かべる。紅緒は夏希とは違い、ほんの少しだけ胸の高鳴りを感じていた。

 

「さてと!!覚悟はいいかぁ?やめるっつうんなら今の内だからな!?」

 

「愚問……」

 

「ここまで来てそれはないな」

 

「はははっ……じゃあ行くぜっ」

 

ろくろが禍野へ行くために“開門符”を取り出し呪文を詠唱する。

 

(イマ)(ウツツ)不思議(ユリナク)大神(オオカミ)御門(ミカド)欲過(スギナン)()(ツツシ)(ウヤマ)(オガ)(タテマツ)此様(コノサマ)(タイラ)けく(ヤスラ)けく聞食(キコシメ)せと(カシコ)(カシコ)(モウ)す───!!禍野門開錠。急急如律令!!」

 

禍野への門が開き、三人はその中へ足を進めた。

 

 

 

 

 

 

禍野にある教会の廃墟に石鏡悠斗は立っていた。昨日の約束の時間はもうすぐ。悠斗は少しワクワクしながら待ち人が来るのを待っていた。

 

そして、後ろから砂が擦れた音がした。ゆっくりと後ろに振り返ると、そこには待ち人であるろくろと、呼んではいない紅緒と夏希が立っていた。呼んではいない二人に少し苛つきながらも声を掛ける。

 

「やあ」

 

「よお!待たせちゃったみたいだな────悠斗!!」

 

悠斗の呼びかけに勢いよく返事を返すろくろ。そして、その左右に立つ夏希と紅緒。三人の目は覚悟を宿した真っ直ぐな目をしていた。




五ヶ月近く更新出来ず、すみませんでした。

今回の話先ががまったく浮かばず更新出来なかった次第です。でもせめて、せめて年内にあと一回は更新しなければ!

ということで、まだ先が出来上がっていませんがこの話を投稿しました。

これからも、この作品をよろしくお願いします!

次回の更新は来年の三月末までに出来ればなぁ~と思います。


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戦闘開始 双星としての初陣

「僕も今来たとこだよ。約束守ってくれて嬉しいよぉろくぅ~~!──────って言いたいところだけど雰囲気的に見て『仲間にしてください』って言いに来たわけじゃなさそうだね?」

 

やって来たろくろに対して冷たい視線と低い声音で対応する悠斗。そんな悠斗を真っ直ぐ見つめてろくろも答える。

 

「当たり前じゃん!何度でも言ってやらぁ!俺はっ!お前の仲間になんて死んでもならない!勿論亮悟も……星火寮のみんなや学校の友達もケガレ堕ちになんて絶対にさせはしないっ……!!」

 

「…………ふぅ~ん。“迷い”からようやく抜け出したってワケだね?かと言って……復讐に燃えてるって感じでもないね?」

 

悠斗の言う通り、ろくろからは憎しみなどといったものではなく、透き通った真っ直ぐな闘志のようなものを感じる。

 

「お前を絶対許さないってことに変わりはねぇよ。ただ俺を動かしているのは私怨(しえん)だけじゃない。お前の目的が……“大願”ってのがどういうものかは分からないけど、お前を放っておけば雛月(ひいなづき)以上に悲しい思いをする人が出てしまう…………俺は、俺は今!()()()()()()石鏡悠斗という穢れを祓いに来たんだ!!」

 

右手の人差し指と中指でセーマン空に描き、そのまま悠斗に向けて突き出す。この突き出した指はケガレ祓いの時の陰陽師の印の一つである。これはろくろが、悠斗を祓う覚悟とその証明だった。

 

(…………ろくろ)

 

それを見て優しい笑顔を見せる夏希。雛月の悲劇で陰陽師をやめ、自分をずっと責め続けていたろくろ。それが今ではここまでの覚悟と気迫を持っている。夏希は自然と体に力が入っていくのを感じた。

 

「かぁ~っこい~~~!まるで二年前(むかし)の君を見ているようだよ。────で他の二人もここに来たのは同じ理由か?」

 

高いテンションから一気に氷点下並みのテンションに落ちる悠斗。まず先に口を開いたのは夏希だった。

 

「確かにろくろと同じ理由もあるさ。けどな。俺は一年間、先生としてお前を鍛えた。清弦さんだけじゃない。俺はお前を祓う!それが先生としての俺の責任だ………」

 

ろくろと同じように右手の人差し指と中指を立てて悠斗に向ける。清弦が悠斗に対して責任を感じていたように、夏希も責任を感じていた。夏希は清弦と同じように先生としての責任を果たすためここに立っているのだ。

 

「私は、私は………妹とし……て、家族として……あなたの愚かな(おこな)いを見過ごすわけにはいきま……せん。罪は裁かれねばなりません……穢れは祓い清められねばなりま……せん!兄様……お覚悟を…………!!」

 

紅緒は左手の人差し指と中指を立てて悠斗に向ける。そして、ろくろと背中合わせをするように立つ。それを見た悠斗は忌々しそうに顔に右手を当てる。

 

「はぁ……呆れてものが言えないよ。清弦さんとの戦いで格の違いを見せてあげたつもりなのに、ここまで理解力のない人間だったなんて。夏希はともかく、紅緒なんかを助っ人にして…………やっぱり君……()らないや」

 

言葉と共に悠斗の指の隙間から細く歪んだ目が見え、殺気が放たれる。その殺気に三人は全身に電撃が走るかのような感覚に襲われた。

 

「馬鹿が仲間になったって(くそ)の役にも立ちそうにないね…………望み通り三人共、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜてケガレの餌にしてあげる……!!!」

 

悠斗から放たれる殺気がより一層強くなる。夏希は砕岩獅子・鎧包業羅・飛天駿脚を、ろくろは鎧包業羅を、紅緒は夏希の三つと仮面に来災先観と両手に持った短剣に万魔調伏を呪装し、戦闘態勢をとる。

 

()んぞ!!」

 

ろくろが声を掛ける。それと同時にろくろと紅緒の間に悠斗が現れる。

 

「なんっ……!?」

 

「あれっ!もう終わりっ!!?」

 

「なわけあるかっ!!!」

 

ろくろに殴打、紅緒に後ろ回し蹴りを同時にしようとする悠斗。夏希は悠斗が二人を攻撃する前に悠斗の背後から蹴りを放ち、悠斗を蹴り飛ばす。

 

悠斗は空中で態勢を立て直して夏希に向き直る。

 

「やっぱり君は反応できるんだね」

 

「当たり前だ」

 

(呪装をした俺の蹴りを、生身でくらってこれか……)

 

そう、悠斗は呪装などは全くしていない。生身の状態でろくろと紅緒の間に瞬時に移動し、呪装をした夏希の蹴りをくらっても平然としている。この二つが、今の悠斗の異常さを物語(ものがた)っている。

 

悠斗が走りだそうとした瞬間、悠斗の周りを、縦横無尽に高速で移動する者がいた。

 

「ちっ……紅緒。小蝿が……!」

 

悠斗が舌打ちをして漏らした声。それと同時に悠斗の目の前に態勢を低くして、剣の側面を悠斗に向けて十字にした状態の紅緒がいた。

 

朧蓮華(おぼろれんげ)(まい)……」

 

(射程零距離(しゃていぜろきょり)反閇(へんばい)猛虎(もうこ)(かた)》!)

 

跳躍する勢いで悠斗へと突進し、空中へと打ち上げる。

 

「何だ……今のは……!?」

 

悠斗の少し荒い声が聞こえる。それと同時に悠斗に突進したときにぶつけた二つの剣がボロボロで崩れていく。崩れていく剣の向こうでは無傷の悠斗がいた。その光景に紅緒は少し驚きを見せる。

 

「こんなものがお前の全力……か!?巫山戯(ふざけ)ているのかこのっ…………愚妹(ぐまい)があぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

悠斗が顔を歪め、怒りを露わにする。マズい状況である。今、悠斗と紅緒の距離は(ぜろ)に近い。ろくろが慌てて霊符を取り出すが、それよりも先に動いていた者がいた。

 

「オラァッ!」

 

有馬の時にも使っていた拳竜爆発(けんりゅうばくはつ)を呪装し、背後から悠斗に殴りかかる夏希。悠斗はそれをギリギリのところで回避する。が、ほんの少しだけ(かす)ってしまい、服に緑の粘液が付着する。

 

「危ない危ない……」

 

悠斗はそれに気が付いていない。ろくろがそれに気が付き、チャンスだと理解した瞬間左手を横にスッと差し出す。悠斗はその行動に違和感を覚え、ろくろに向かおうとするが夏希が邪魔をする。

 

焔磊(えんらい)っ!」

 

ろくろがそう叫ぶと左に紅緒が移動し、その左手を右手で掴む。

 

紅擲(こうてき)……」

 

ろくろがいくつかの小石を空中に放り投げる。

 

「「共振(レゾナンス)っ!!」」

 

ろくろと紅緒の呪力が爆発的に膨れあがり、小石に呪力が込められる。裂空魔弾に似ているが込められている呪力がその比ではない。

 

夏希はそれを確認するとすぐさま悠斗から距離をとる。悠斗はろくろたちを警戒するが、その直後にその警戒を緩ませることが起きた。

 

「っだ!?」

 

背中で突然の爆発が起き、警戒の意識がその爆発にもっていかれてしまった。小さな爆発のため、悠斗にはダメージはないだろうが意識を持って行けただけ十分(じゅうぶん)である。

 

ろくろと紅緒はその瞬間をついて、強力な呪力を込めた小石を一斉に放つ。

 

「「裂空魔双弾(スカイ・ストライザー)!!!!!」」

 

悠斗が放たれた裂空魔双弾に気が付いた頃にはもう至近距離まで迫っていた。悠斗は慌てて防御態勢をとり、裂空魔双弾を受け止めた。

 

「っ!」

 

今までとは違い、確実にダメージが入っている。裂空魔双弾の威力で後方まで押される悠斗は、今の技に思考を集中させていた。

 

(今のは……繭良ちゃんを助けた時の……)

 

「こんな付け焼き刃で……」

 

「悠斗おおおおおおおっ!!!!」

 

思ったことを声に出そうとしたその時、空からろくろの声が聞こえ、そちらに目を向ける。そこには右手を横に突き出し、あまりにも無防備な状態で落下してくるろくろがいた。

 

(何だこの攻撃……。隙だらけ過ぎるでしょ。狙いが……意図が分からない)

 

とにかく回避しようと動こうとすると、体が動かない。自分の周りに目を向けると自分の影に、影が伸びていることに気付いた。その影を辿ると夏希がそこに()り、拳竜爆発を解除して何か印を組んでいた。

 

((かげ)真似(まね)の術!)

 

これは夏希が持つ“チャクラ”を使った忍術と呼ばれるものである。何故忍術なのかというと、これを最初に使えるようになった人の趣味的なものであるらしい。

 

夏希の影真似の術により動きを封じられ、回避はできない。しかし、悠斗に焦りはない。ジッとろくろを見据えていた。

 

焔刃(えんば)っ!!!!」

 

ろくろの掛け声と共にまた紅緒がろくろの隣に現れ、左手に持った剣をろくろにも握らせる。

 

紅斷(こうだん)

 

「「共振っ!!!!」」

 

二人の呪力がまた増大し、二人が持つ剣にその呪力が注ぎ込まれ、剣が巨大なものに変形する。

 

双覇暁哭剣(ワールド・エンド・オーバーレイ)!!!!」

 

巨大な剣を振り下ろす。振り下ろされた剣は地面を抉るように砕き、その衝撃は広範囲に及んだ。裂空魔双弾よりも明らかに威力が高い。

 

「っし!直撃だぜっ!!」

 

「ろくろ、まだ戦闘中だ」

 

ろくろが嬉しそうに声をあげる。土煙のせいで悠斗の姿が見えないが、今の威力なら確実に大きなダメージはあるはず。しかし、その喜びはすぐに打ち砕かれる。

 

「……共振。双星(君達)にしか使えない技だったね」

 

「「「!!」」」

 

土煙の向こうから声が聞こえ、三人共目を見開いて驚く。あまりにも元気そうな声、土煙が晴れると五体満足の上に、傷という傷が見えない悠斗が現れた。

 

「一日みっちり練り上げて、実戦で使えるよう昇華してきたんだ……」

 

「む、無傷かよ……」

 

ろくろが驚愕の声を漏らす。しかし、声に出さないだけで夏希も驚いていた。今の技はろくろ達の話によると、婆娑羅の足を吹き飛ばすほどの威力を持っているらしい。

 

それをくらって平然としている悠斗に少しだけ恐怖を感じていた。

 

「先に合図した方に後の者が合わせるんだね。合言葉の違いは技の違い……かな?」

 

喋りながら、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「それと、共振したせいか鎧包業羅が解けちゃってるけど……ろく、もしかして君いまだに呪装が一つまでしか出来ないのかい?」

 

(マズいな……攻撃が効いてないどころか、こっちの不安要素がバレた)

 

「少しだけ期待値上がってきたけど、まさかこれでおしまいってことはないよねぇ~~?」

 

「心配すんなって。まだとっておきなのが残ってるからよ」

 

ろくろが霊符ホルダーに手を掛ける。その瞬間、夏希と紅緒が後ろに下がる。

 

「?」

 

「いくぜ!星装顕符(せいそうげんぷ)(ほむら)》!!」

 

霊符ホルダーから取り出したのは赤い星装顕符の霊符。ろくろが黒い狩衣を受け取った時に、狩衣が入っていたケースに一緒に入っていたものだった。

 

(使うぜ清弦。見守っててくれよ……!)

 

心の中でそう呟くろくろ。心なしか『死んでねぇぞぉ~~っ!』という清弦の声が聞こえた気がした。

 

(はら)(たま)へ。(きよ)(たま)へ。(まも)(たま)へ。(さきは)(たま)へ。急急如律令(きゅうきゅうにょりつりょう)!!」

 

ろくろが呪力を込めていく。すると、ろくろの右腕が解放されるのと同時に火の呪力が渦巻いていく。

 

「う……おぉっ……!!おぉおおぉおおお!!!」

 

星装顕符《焔》に描かれていた絵がろくろのケガレの腕と重なっていく。

 

(何だ?禍野のじめじめとした空気が乾いていく……!!)

 

「ろくぅ……何だいその(ふだ)は?」

 

「一つ前の星装顕符は封じていたケガレの力をただ解放だけだった。それに対して、この星装顕符《焔》は“解放”と“呪装”を同時に行う……!!」

 

ろくろを渦巻いていた火の呪力が晴れる。そこにいたろくろの腕は以前とは全く違うものだった。腕の禍々しさは消え、腕の模様と溢れ出る荒々しくも頼もしい呪力が威圧感を放っていた。

 

重奏陰陽術式(じゅうそうおんみょうじゅつしき)星方舞装(アストラル・ディザスター)!!!!」




今回、NARUTOから“チャクラ”と忍術で“影真似の術”が出てきました。

さて、三月には投稿すると言ったので頑張って投稿しました。が、ここから先の話で行き詰まっており、次にいつ投稿出来るかは分かりません。ノリで作った作品ですが続けるつもりです。

ですので、楽しみに待っていてくれると嬉しいです!

それでは、次回をお楽しみに!


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予想外の乱入者

ろくろが星装顕符《焔》を使い、ケガレの腕に呪装をした。悠斗はそのことに驚愕していた。

 

呪装とは武器や服にかけるものであり、肉体に直接呪装をするというのは不可能な(はず)だった。

 

(それをケガレの腕に直接呪装したというのか!?)

 

東海(とうかい)(かみ)()阿明(あめい)西海(せいかい)(かみ)()祝良(しゅくりょう)南海(なんかい)(かみ)()巨乗(きょじょう)北海(ほっかい)(かみ)()禺強(ぐうきょう)四海(しかい)大神(おおかみ)百鬼(ひゃっき)退(しりぞ)凶災(きょうさい)(はら)(たま)えっ!!」

 

詠唱をしながら目の前に呪力でセーマンを描く。そして、右腕にも呪力を集中する。

 

(何をやってる?……撃つのか?この距離で!?)

 

流星拳(メテオ・スマッシュ)!!!」

 

セーマンを思いっきり殴りつける。右腕に込められた呪力とセーマンの呪力が合わさり、(ほのお)の砲撃が放たれた。

 

「むぅっくうう"う"う"う"っ!!!!」

 

真っ正面からろくろの流星拳を受け止めた悠斗。踏ん張って吹き飛ばされないように耐えている。

 

(ほ……炎が重い……!!ギッチギチに凝縮された呪力の(ほのお)……陰陽五行(おんみょうごぎょう)(ぼっ)()()(こん)(すい)の───“火”?いや、だがこれは……)

 

悠斗は流星拳をかき消す。すると左から気配を感じ、目を向ける。そこには右腕を引いているろくろがいた。

 

「ふっ!」

 

ろくろが右腕を突き出す。悠斗はそれを状態を少し後ろに反らして回避する。

 

(はっ(はや)っ!!)

 

ろくろの拳速に驚く悠斗。そこからろくろの右腕によるラッシュが続き、それをガードしていく。

 

(正気かろくっ……新しい霊符が解放と同時に呪装も行うということは、今ろくは右腕以外完全な生身!)

 

(けど!隙は作れた!)

 

ろくろが右腕を突き出すと同時に悠斗が右拳をぶつけて勢いを殺し、左肘と左膝で手首を挟み込んだ。

 

「!?」

 

「ふふふ、その腕。確かに威力はスゴイけど直撃させるために奇策を取らなきゃいけない時点で限界が見えちゃってるんじゃないかなぁ!?」

 

「……焔抵(えんてい)!!」

 

紅破(こうは)……!」

 

掛け声に合わせてろくろの左に紅緒が現れ、左手を握る。

 

(この技も共振(レゾナンス)が可能なの……か……!?)

 

「「共振っ……」」

 

ろくろと紅緒の呪力が増大し、それがろくろの右腕に集中する。すると、ろくろの腕は機械のように変形していく。

 

「「紅蓮流星拳(クリムゾン・メテオ・スマッシュ)!!!!!」」

 

先程よりも強い呪力が収束し、圧縮された焔は光線となって悠斗を包んだ。その光線は先々にある建物や山を貫きながら彼方へと消えていった。

 

「ふぅ……」

 

「やった……の?」

 

「分かんねぇ……これで終わりとは思えねぇ。でも、確実にダメージは与えた筈だぜ!」

 

ろくろの言葉に紅緒は一息つこうと仮面を外す。夏希もろくろ達の元へと駆け寄った。

 

「ろくろ!紅緒さん!」

 

「夏希!やったぜ!」

 

「……いいや、まだみたいだぞ。さっきよりも強い禍々しい呪力を感じる」

 

ろくろの言葉に、夏希が悠斗がいた方を見ながら呟く。

 

「やっぱり君は気付くんだ。流石は“天道”の名を冠するだけはあるね」

 

夏希が見ていた方から声が聞こえ、ろくろと紅緒が驚きながら声がする方を見る。

 

「さっきの一撃かなりよかったよ。でも、“一撃必殺”とはいかなかったみたいだねぇ……」

 

「悠斗!?……何だよお前それ……!!」

 

「……ん?……ああ!なんのことはないさ。こっちが今の僕の本来の姿だよ」

 

悠斗が言った本来の姿。それはケガレのように黒い肌をし、触ればゴツゴツとした感触がするだろう。腕も人とは違い、異形な形をしていた。溢れ出す呪力は背筋が凍るような冷たさを感じさせ、以前のろくろの腕以上の禍々しさを放っていた。まさにケガレと呼ぶに相応しい姿だろう。

 

「そ、それが扉を開けた先で手に入れた“力”ってヤツ……かよ!?」

 

(ケガレ堕ちとは比べモノにならぬ威圧感……これはもしかしたら婆娑羅よりも……!!)

 

「でも、今のはちょっと危なかったよ。本来の姿……“玄胎(げんたい)”じゃなかったら、力を抑えた状態だったらそれなりにダメージを受けてたかもしれないね」

 

姿を元に戻しながら語りかける悠斗。悠斗の言葉に、ろくろは思わず聞き返した。

 

「力を()()()()()だと……!?」

 

「うん、そうだよ。君の星装顕符と一緒さ。このヒトの姿でいる時というのはケガレの力を抑えた状態なんだ。肉体の強さに対して呪力の量が大き過ぎてね。長い時間玄胎でいることはできないんだ」

 

(じゃあ普段のスピードとパワーも、制御してあのレベルってことかよ……!!)

 

「さて、どうするのろく?紅緒?まだ続けるかい?」

 

余裕そうに笑う悠斗。その瞬間、悠斗が口から血を吹き出し、急に力が抜けたかのように膝をついた。ろくろは今がチャンスだと思い悠斗に向かって駆け出す。

 

「悠斗っ……覚悟!!」

 

そして拳を振り下ろすろくろ。しかし、その拳はあっさりと悠斗の左手に手首を掴まれて止まってしまった。

 

「ざ~~~んねん!」

 

「ホントろくはさぁ、昔からからかい甲斐(がい)があるよねぇ~。この血は口の中を少し切っただけ。君達の攻撃なんて……ち~~~~~~っとも効いてませぇ~~~~~ん!!」

 

少しずつろくろの手首を掴む左手に力が入っていき、ろくろの腕が嫌な音を立てる。

 

「まさか、一瞬でも“勝った”なんて思ってないよねぇ~~……」

 

「ぐっ………あああ…!!!」

 

ろくろが腕の痛みで苦悶の声を上げる。

 

「白蓮虎砲!急急如律令!」

 

悠斗が飛んでくる斬擊を避けるためにろくろの腕を離して後ろに跳躍する。斬擊が飛んできた右を見ると、清弦と同じ白蓮虎砲を呪装した夏希が立っていた。

 

「うわぁ!本当だったんだ!十二天将の呪装を全て使えるっていうのは!!どうやって使えるようになったの!!?」

 

「テメェには教えねぇよ!」

 

夏希が悠斗に向かってもう一度斬擊を放ち、それを回避するために跳躍した。

 

「ろくろ。ここからは俺がメインでいくぞ」

 

「分かった!」

 

ろくろが後ろに下がる。その時、夏希が霊符を一枚、左手で取り出す。

 

鋼殻顕符(こうかくげんぷ)玄帝武鬮(げんていぶきゅう)!急急如律令!!」

 

霊符が光に変わり、その瞬間にそろばんを“換装”で取り出し左手に持つ。光がそろばんに纏わり付くと、そろばんの玉が小さな呪力の盾(バリア)になる。そのバリアは夏希の周りで浮遊している。

 

「行くぞ!」

 

夏希が駆け出し、白蓮虎砲の爪を悠斗に振るう。悠斗はそれを腕で弾いて防ぐが、弾かれた爪はすぐに悠斗に襲いかかる。

 

「ぐっ……!!」

 

(ろくの時よりも一撃一撃が重い!さらに次の攻撃が来るまでの間が早すぎる!)

 

ろくろとは違い、日々の陰陽師としての修行を欠かさずこなしてきた。修羅場という修羅場をいくつもくぐっている。違いが出るのは当たり前だった。

 

次々と襲いかかる夏希の爪をガードしていくが、その間に夏希の爪が頬を(かす)めたりなど、少しずつだが押され始めていた。

 

「このっ……!」

 

このわずかな攻撃が、少しずつ悠斗の怒りを(つの)らせる。

 

冷静さを()き、怒りに任せて悠斗が夏希の横腹目掛けて蹴りを放つ。しかし、悠斗の蹴りは夏希に届く前に夏希の周りで浮遊していたバリアに止められてしまった。

 

「フッ!!!」

 

「ぐっ!」

 

一瞬出来た隙を突いて、悠斗の左脇腹を狙って右腕を振るう。爪がモロに直撃し、斬擊と共に吹き飛ばされる悠斗。脇腹の服が裂け、ほんの小さな切り傷が出来ていた。

 

「……ろくろ達の攻撃が効いてないってのは嘘だろ?普段のお前なら、今のは効かない一撃だしな」

 

冷たい目で悠斗を見据える夏希。普段の悠斗ならば、あの斬擊は悠斗に傷を与えられるはずがない。しかし、悠斗は傷を負った。これは悠斗が弱っているということ示していた。

 

「…………!!!」

 

「……図星というわけか」

 

「こんな……こんな小さな傷くらいで、調子に乗るなよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!」

 

顔を怒りで歪ませ激昂する悠斗。悠斗を中心に禍々しい呪力が渦巻く。そして力強く地面を蹴り、夏希へと迫った。

 

「っ!」

 

悠斗は先程よりも力を込めた右拳を、思いっきり振り抜く。その拳はバリアを破り夏希へと迫り、夏希は自分へと迫る拳を弾く。夏希はバリアを何枚か重ねて厚くしたり、悠斗はそれを見てフェイントをかけたりなど、互いに工夫を加えて攻撃と防御を繰り返す。

 

白熱する二人の攻防。だからこそ悠斗は気付かなかった。

 

「オラァッ!」

 

「ぐぶっ!」

 

自分へと迫るろくろの存在に。悠斗に迫ったろくろは、己の右腕を悠斗の横顔めがけて振るう。ろくろの拳は悠斗の横顔に命中し、その拳は悠斗の顔へ深々とめり込む。そして力いっぱい腕を振り抜き、悠斗をぶっ飛ばした。飛ばされた悠斗は岩石に衝突し、その岩石を砕いてようやく止まった。

 

「ナイスろくろ!」

 

「おう!」

 

笑顔で視線を交わす二人。悠斗は自分へとのしかかっている瓦礫をどけ、青筋を立てて夏希たちを睨んでいた。

 

「このぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

もう一度夏希たちへと駆ける悠斗。しかし、自分の周りを高速で移動する紅緒が現れた。

 

「一人で突撃しちゃダメだ!!今すぐ離れて!!!」

 

夏希がやめるよう言うが紅緒は呪装した剣で悠斗へと攻撃を仕掛ける。

 

(私だって………!)

 

気合いと兄を止めなければという思いが紅緒の冷静さを一時的に失わせていた。紅緒の攻撃に頭に血が登っていた悠斗は、その怒りを紅緒へと向ける。

 

「いちいちウザイんだよ小蝿があぁぁぁぁぁ!!!!」

 

「────!逃げろ紅緒さん!!!」

 

夏希が危険を感じて紅緒へ叫ぶが既に遅かった。悠斗は紅緒の腹目掛けて、脚を蹴り上げる。

 

「う"っ………!」

 

紅緒はその衝撃に胃の中にあるものを吐き出しそうになるが堪える。そして、悠斗は空中で止まった紅緒の脚へと右手を添える。

 

()ぜろ…………!!」

 

その言葉と共に悠斗は右腕のケガレの腕を解放し呪力を放った。放たれた呪力は紅緒の両脚の膝から下の全てを消し飛ばした。

 

「「紅緒(さん)っ!!!」」

 

「あ"ぁ"……ぐぅぅぅう"う"」

 

両目に涙を溜めて苦悶の声を漏らす紅緒。悠斗はそんな紅緒の膝を力強く踏む。

 

「あ"あ"ぁあああああぁぁぁぁああああっ!!!!!」

 

「あはははははははははっ!!!良い声で泣くじゃないか紅緒おおおおおっ!!!!」

 

泣き叫ぶ紅緒の声に、悠斗は楽しさを感じて大きな声で笑う。その表情は喜びと快楽に満ちており、狂気を感じさせる。その光景を見ている二人は怒りに顔を歪めて悠斗へと叫んだ。

 

「「悠斗おおおっ!!!」」

 

夏希は横薙ぎに爪を払い、紅緒に当たらないよう斬擊を飛ばす。しかし、悠斗は右腕でその斬擊をかき消した。

 

「だったら………!」

 

二人は悠斗へと駆け、同時に腕を振るった。悠斗は跳び退くように二人の攻撃を避けた。そして、腕を元に戻した。

 

「危ない危ない」

 

どこか余裕を取り戻した悠斗。夏希は構えながらろくろに耳打ちする。

 

「ろくろ、紅緒さんを守れ。近くのケガレたちが紅緒さんを狙ってる」

 

「……分かった」

 

ろくろの言葉を聞くと夏希は悠斗へと駆ける。

 

「いいよ、さっきの続きといこうか!」

 

「─────!」

 

 

 

 

 

 

「紅緒!大丈夫か!?」

 

「……ろくろぉ」

 

ろくろが紅緒へと声をかける。そして、脚を見ると欠損した脚から血が流れていた。ろくろは“治癒符”を取り出し、止血を始めた。

 

「ぐ……うぅ」

 

「悠斗のヤツ……これが妹にやることかよ……!!!」

 

止血を終えた瞬間、周りにケガレたちが集まって来ていた。

 

「紅緒には指一本触れさせねぇ………!」

 

「ろくろ……」

 

ろくろがケガレたちに向かって構える。紅緒はその背中を見て、自分の弱さを痛感する。兄を止めに来たはずなのに何なのだこの醜態は。ただ足を引っ張っているだけではないか。

 

(私にもっと…………力があれば)

 

ケガレたちが襲いかかろうとしたその瞬間、ケガレたちが全て消し飛んだ。そして巻き上がった砂煙の奥から人影見え、その姿が見え始める。

 

「………は?」

 

「俺の知らねぇところで、楽しそうな戦いしてんじゃねぇよ」

 

「お前………は………!!?」

 

黒い肌に、胸には全てのケガレに刻まれている四角い傷のドーマン。そして人間とは違う黒い左目。

 

「まだ戦いたいか?答えろし。十(かぞ)える間待ってやるよ」

 

かつて、ろくろと紅緒が対峙した強敵。ケガレの中で最強クラスの存在。

 

「「婆娑羅(バサラ)………!!!」」



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