Magna voluisse magnum. (がちぺど)
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Ⅰ  Omne initium est difficile.

 クッソ短いけどとりあえず書けたので投下してみる。じゃ、俺3-4で赤加賀掘りに戻るから・・・
※11/13 感想にて指摘があったので台詞を修正


 ()()は微睡みの中で、うすぼんやりと己の姿を知覚した。

 

 まず感じたのは温もり。次いで、胎の中にいる己の姿を俯瞰した。

 未だ0.1mmほどの大きさの受精卵。指どころか僅かな刺激を加えただけで容易に粉砕されるそれが、既に自我を持つという尋常ならざる事象。

 ーーー脳ではなく魂が、己の肉体(うつわ)を無明の中で、超感覚により認識している。

 

 仏教において、識ーーーすなわち、対象を認識する精神作用は、人間存在の根本にある阿頼耶識より生ずるとされる。つまるところ、万象を識るのに肉の器は要らぬ。ただ我のみがあればよい。

 ーーーだがそれは人の境地ではない。何故ならそれは、肉持つ前へと回帰するに等しい行いであるがゆえに。もはやそれは神仏のいる無何有の地平。凡愚には辿り着けぬ夢想の極致。その(はて)に、この小さな生命は、ただ在りながら到達している。

 ーーー天賦の才と、言わざるを得ない。生まれながらにして、この異形は鬼神と同じ世界を視ている。

 

 己の姿をその『視界』におさめた()()は、己を見下ろし、次いで己を宿した女を見下ろし、部屋を、城を、都を、国を、大地を、ーーーそして最後に、己を乗せた惑星(ほし)がめぐる(そら)を睥睨してーーー

 

()()()

 

 それが、この個体がこの世で最初に発した言葉であった。

 

 

 

 

 

 ーーー七年後。

 ヨーロッパの小国、ゴルトベルク王国にて。

 首都の闘技場で、一人の少年が瞑目していた。

 

 金髪金眼ーーーこの国の王族のみに見られる風貌を備えた彼こそ、第一王位継承権者であるゴットフリート・フォン・ゴルトベルクその人に他ならない。

 生まれながらの超人ーーー伐刀者として生まれついた彼は、己が凡百の騎士として終わることを良しとしなかった。

 それは己が宿す異能が故に、『この世の総てを背負わねばならぬ』という次代の王としての自負を、この世に生を受けた時より抱いた結果である。

 

 そも始まりからして、只人から隔絶している。

 未だ口もきけぬ乳飲み子の時分から、既に彼は王ーーー絶対者として己を定義していた。

 身に宿した魔力により未発達な四肢を補い、声の代わりに文字で意思疎通を図り、世界を知った。

 そして成長と共に、逸脱者としての本分をいかんなく発揮していく。

 

 己を暗殺しようとした侍女の首を刎ねたのは、彼が生後二か月の時の事である。その際彼は、指一本使わず、ただ魔力だけで事を成した。

 痴れ者めが。そのような鈍らで我が玉体に傷一つ付けられるものかーーー直後に彼は、筆談にて臣下にこう語った。

 王子付きに選ばれたその侍女も伐刀者としては一流であったにも関わらず、いとも簡単に刎頸を成したその天凛。ヒトの形をした怪物と評するほかないその才をしかし、父王は喜んだ。これで己の治める国は安泰であると、安堵さえした。

 だが、そんな父でさえも、彼の輝瞳には凡俗と何ら変わりないものとしか映っていなかった。

 

 ゴットフリート三歳の時分において父王が問うに曰く、王とは何ぞや。

 

 ーーー知れたこと。王とは即ち絶対者にして裁定者。故に天上天下に真の王は俺ただ一人。我が父、そして我が父祖全て、否、古今東西、天地開闢以来全ての王を僭称する者は、所詮風の前の塵に過ぎん。王とはその塵を吹き飛ばす大嵐(タイラン)である。あらゆる覇道は俺より(はじ)まるのだと、事も無げに童は語った。

  

 気が触れた訳でもなく、熱に浮かされた訳でもない。

 当然の摂理を語るが如き様子で、幼い王子は問いに答えた。

 

 事実として、彼は薄紙を破るがごとく己の兄弟たちを軽々と凌駕していく。そんな彼が、王位に最も近い者となるのも当然の事だったのだろう。

 

 だがしかしーーー

 

 今その眉間には、深い亀裂が刻まれている。

 激昂ではない。忍耐でもない。この少年にはあるまじき苦悩の為にである。

 それは偏に、己の限界を悟ったが故に他ならない。

 

 一流の騎士であった父を遥かに追い越して尚、その成長は留まるところを知らなかった。地を砕き、天を裂く力を手にした。だがしかしーーーその天賦の才にさえ、彼は既に終着地点を見出した。

 

 万物の頂点に君臨する(おれ)に不可能など存在してはならない。否、あるはずが無い。俺には立ち止まることなど許されないーーーだが現に、彼の全てはこれ以上の成長が見込めない事を示している。

 剣術、反射速度、異能の出力ーーー伐刀者としての全てが、この年齢にして極まっている。()()()()()()()()()

 それは本来ならばあり得ざる異常にして偉業。その至宝(さいのう)をしてもなお、彼の王としての自負と研鑽には()()()()()()()()ということ。極点に辿り着くのが早すぎるーーー

 

 ゴットフリート・フォン・ゴルトベルク、七歳にして初めての挫折ーーー否。断じて否。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。認めない。許さない。

 たかだか()()()()が我が覇道を阻む事など、(おれ)の矜持にかけて断じてあってはならん。

 この身は天地の総てを背負う者。万象全てを屈服させなければ真の王とは呼べぬ。

 ましてや肉体如きの限界に縛られることなどあり得ない。

 

「この身に宿った才能(どうぐ)風情が俺を阻むか! 侮るなよ、俺を縛ろうなどと小癪なーーー!」

 

 吹き荒れる颶風。ひび割れる大地。激昂した彼が、『厄災』とまで称されたその力を解放しようとした刹那ーーー世界が色を失った。凝固する時間。吹き飛ばされる因果律。ここに、ゴットフリート・フォン・ゴルトベルクの天命は定まった。

 

 身に纏わりつく縛鎖。人の身を押さえつけ、限界を定める運命。不遜にも王の玉体に絡みつくそれを知覚した彼はーーー

 

「もはや欠片も残さん。我が覇道を阻むのならば、塵となって失せるがいい---!」

 

 王としての矜持一つで、その限界(うんめい)を破壊した。

 

 




 俺TUEEE!→は?限界とかうっそだろお前!? もう許さねえからなぁ~?→哀れ運命君は爆発四散! ナムアミダブツ! アイエエエ!魔人!?魔人なんで!?


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