女神転生外典:ペルソナ (ユージ ラム)
しおりを挟む

Welcome, dear guest.

世界が青い。世界が青い。こんなに色鮮やかな世界はいつ以来だ。鐘の音が聞こえる。幾重にも重なり、幾重にも重なり、僕を溶かしていく音の渦。

僕はここで、何を告白すればいいだろう。



設定解説
<イゴール>〔人物〕
ベルベットルームの管理人。主人公と「契約」を結んだと言い、行く末をみまもり、時に助言を呈する奇怪な風体の老人。神父の格好をする。

<ラフィール>〔人物〕
青を基調とした修道女風の着衣の女性。柔かな物ごしで主人公に寄り添い、その行く道を共に歩もうとする。時に説教臭くなるのは主人公への心配からか。

<ベルベットルーム>〔場所〕
夢と現実、意識と無意識の狭間にある懺悔室。ただ罪の告白のために存在し、告白された罪悪感は虚無へ飲まれる。


 ――お客様、ようこそいらっしゃいました。…そんなに警戒なされるな。ここはベルベットルーム。夢と現実、意識と無意識の狭間でございます。或いは、魂と肉体と言い換えても良いかもございませんな。

 

 ▶あなたは?

 

 ――私はイゴール。この部屋の管理をしております。こちらはラフィール。私の手伝いをしております。

 ――ラフィールでございます。未だ不束かではございますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 

 ▶よろしく。

 

 ――さて、お客様は私共と契約を結ばれました。…そう、その時にございます。お客様は今までの客人と違うご様子でしたので、少々強引な真似をしてしまったことはお許しください。さて、お客様は占いを信じますかな?…フフ、こう見えても私、少々タロットの心得が在るのです。

 ――イゴール師の占いはよく当たるのですよ。きっと、お客様にとっての福音となるかと。

 

 ▶…。(黙って見守る)

 

 ――では、お客様の現在の状況は…「剛毅」の逆位置。停滞した状況に居るようですな。それは弱さゆえか、それとも何か乗り越えるべき困難を抱えているとか…。フフ、いえ、これは私の推察に過ぎませんな。

 

 ▶…。(黙って見守る)

 

 ――さて、次にお客様を待つ近い将来の運命ですが…「愚者」の正位置。何か新たな始まりを意味しますな。お客様の停滞した現状を打破する始まりが在るのやも知れません。

 

 ▶…。(黙って見守る)

 

 ――そしてその後に待ちうけるものは、「塔」の正位置。始まりは困難を伴うものです。そして、痛みさえも。ですがご安心めされよ。その困難に連れ添って並び立つは「恋人」の正位置、人との深い関わりです。友情、絆、嫉妬、悔恨、悲哀、恋慕、…そして愛情。全ての人と人をつなぐ感情が困難を打ち破るあなたの力となるでしょう。

 

 ▶…。(渋い顔をする)

 

 ――あら、人間関係はお嫌いでしたか? しかし、人と人は繋がらなければ生きては…失敬、説教臭くていけませんね。至らず、真に申し訳ございません。

 ――なに、気にすることはございますまい。お客様ならばきっと自らの運命の主となりましょう。さて、最後にお客様の到達するべき運命ですが…おお、「死神」の正位置。…不吉なカードだとお思いになられますかな? しかし、これが暗示するは「死」のみではございません。死の先に待つもの、「再生」「誕生」「輪廻転生」…命の輝きすらも暗示するのです。

 

 ▶…。(ため息をつく)

 

 ――さて、お客様は私共と契約を結びました。なに、緊張めされるな。なにも特別なことはございません。唯ひとつの契約内容、『自らの選択に責任を持つこと』。これさえ守れば、我々はお客様といつでも共にあります。

 ――お客様のたどる未来を、私も共に歩み、時には助けとなるよう精進いたしてまいります。

 

 ▶…。(頷く)

 

 ――そろそろ目の覚める頃合いですな。これをお持ちなさい。「契約者の鍵」、これを使えばいつでもこの部屋にこれます。

 

 ▶…。(鍵を受け取る)

 

 ――私達のいずれかは、必ずこの部屋におります。些細なことであっても、誰かに話したいけれど、話してはいけない、そんな話であっても、私達はそれをしっかりと受け止めましょう。

 ――それではまた、ごきげんよう。




――雨の音に目が覚めた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

WHICH IS RIGHT!? WHICH IS WRONG!?

ひどい雨の音に目が覚めた。また同じ日々の始まりを告げる鐘の音だった。



設定解説
<黒田悠治(くろだ・ゆうじ)>〔人物〕
本作の主人公。1997年6月15日生。人見知りがちで上がり症。高校入学初日にクラス中から「いじられキャラ」として扱われ始め、それに反発、いじりはいじめに発展し現在は不登校。アルカナは「0.愚者」、固有ペルソナは「ダイジザイテン」。

<ダイジザイテン>〔名詞〕
黒田悠治の固有ペルソナ。牛の頭骨を被った真っ白の人として現れる。アルカナは「0.愚者」。バランスの取れたステータスや、無属性スキルの使用など、様々な場面でオールラウンドに活躍できる。
「大自在天」は仏教に習合されたヒンドゥー教のシヴァ神であり、三千世界(整然とした宇宙)の支配者として描かれる。白牛にまたがり、三面六臂として描かれることが多い。

<ペルソナ>〔名詞〕
心理学の用語で、平たく言えば「人と接するときに表出する性格」のこと。例えば、ある人は尊敬する人の前では非常に礼儀正しく振る舞うが、友人などの親しい人と接する時は軽口なども叩くほど砕けた態度を取る。
本作では、「その人物の最も普遍的な性格の具現」として描写される。どんなに取り繕っていてもその根底には必ず一定の流れが有り、そこから一部を汲みとって人と接するのである。
「女神異聞録ペルソナ」から続く作品では、マルセイユ版タロットになぞらえて22のアルカナに分類される。


 雨の音に目が覚めた。

 なんて土砂降りだろう。もっと寝ていたいが、眠気がない。仕方なく身体を起こす。あくびをして、身体を伸ばして…。

 「…てててっ」

 …身体凝りすぎだろ…。まあ外に出ることなんてないけど。時間は…八時半か…。

 「ご飯はもうちょい先か…」

 何もしたくない。動きたくない。何もかもが億劫だ。

 ドサリ、と布団に倒れこむ。床の硬さを身体の側面に感じる。充電の切れた携帯電話がぼやけた視界にあった。

 「…そういえば、ログボ貰わなきゃな…」

 そのまま意識がまどろみ、ふつりと切れた。

 

 

 雨の音に目が覚めた。焦りを感じる。

 「今何時!?」

 時計を見ると十三時二分。はぁと長い溜息が出る。携帯の電源ボタンを押してもつかない。

 「電池切れか…」

 気だるい身体を起こして充電ケーブルをつかむ。意識がはっきりしてきた。そういえば、充電してなかったか。電池が貯まるまで昼食時間にしよう。眠気を抑えたまま階下へ行く。この時間は家に誰もいない。親は仕事だし、兄は大学。気楽なものだ。

 「これと、これと…あとこれもだな」

 今日はちょっと手の混んだものが食べたい気分だ。お湯を沸かして、乾麺を丼に開ける。お湯を沸かしてる間にウィンナーを焼く。生卵を落として、お湯をそそいで、丼に蓋をして、五分待つ。五分経ったら蓋を外して麺をほぐしてウィンナーを入れる。これで完成。

 「いただきます」

 味は普通だ。むしろ合成っぽい味がちょっとまずいくらいだ。だが、これでいい、これがいい。僕なんかのためにあまり食費を掛けさせるのも申し訳ない。ひとり麺をすする。ため息が溢れる。またすする。台所にゾッゾッという音とときおり漏れるため息が溶けた。

 「…ごちそうさまでした」

 皿を洗って、水気を飛ばして食器棚に戻す。階上に行き、自分の部屋にこもる。携帯の電池は十分溜まったようだ。ゲームアプリを起動する。こうしてまた、無為に時間が過ぎていく。

 生ぬるい気温を肌に感じていた。

 

 

 母親が帰ってきた。彼女には負い目がある。それは、この環境に慣れてしまった今でさえ淡い痛みとなって僕を蝕む。…なぜかはわからないけど、彼女を目の当たりにするのが怖いのだ。この平穏を貪りながら、それを与えてくれる存在に感謝の言葉も掛けられない。これがどんな状況なのかわからないけど、どうしても彼女と顔を合わせたくなかった。

 彼女の方もそれをわかっているようで、最初の数カ月は声を掛けられたが、それももはやなくなった。失望されたか、生きているだけで良しとされたか、彼女が僕をどう思っているかは全く見当がつかない。こちらもそれが気楽で、その与えられる平穏を感謝もなく貪っている。

 今この状況が一体どう言えばいいのか、僕にはわからない。

 少なくとも、天国ではないだろう。

 

 

 不意になった携帯に体全体が浮く。目を白黒させながら画面を見ると知らない番号だった。というか引きこもっている最中に番号を変えたので、番号登録しているゲームのアカウント以外で僕の番号を知っているものはない。つまり、何かの詐欺か、どこかの怪しいサイトのリンクを知らないうちに踏んだか。

 「この時間なら心霊電話ってこともあるか…?」

 とにかく、このまま鳴りっぱなしなのも近所迷惑だ。赤いアイコンを押す。

 「こんな夜中にかけてくるなっての」

 しかしその瞬間、またかかってきた。また同じ番号。さすがに迷惑だ。苦情の一つも言わなければならないか、と考えたところで指が止まる。

 この携帯のデフォルトの通知音はこれだったか?

 おかしな考えが頭をよぎる。これが本当に心霊電話だとしたら、応答するも地獄、無視するも地獄ではないか、知らずにいることはできないのか、どうして今、僕なんだ。ぐるぐると同じ言葉が頭に浮かんでは消えていく。全身の毛穴が閉まっていくことが解かる。額に、背中に、手に平にじわりと汗がにじむ。恐怖に体中が震える。目の焦点が定まらない。歯の根が合わずにガチガチと鳴る。心臓の鼓動がうるさい。血液の循環が早い。脳に酸素が行き渡らず、ひどい頭痛に全身が侵される。

 どっちだ。

 どっちだ。

 どっちだ。

 どっちだ。

 

 迷っているうちに電話が鳴り止んだ。さっきのパニックなどなかったかのような静けさが部屋を包んだ。

 冷静になり、初めて雨が止んでいたことに気づいた。




気まぐれに見た新聞には、行方不明者の記事があった。その名前に見覚えがあった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

It is the very moment.

冷静になり、初めて雨が止んでいたことに気づいた。



設定解説
<吉祥町>〔名詞〕
日本にある地方都市。人口の減少に悩まされているとか、地方進出してきた大型デパートに商店街が苦しめられていると言ったことのない、非常におおらかな町。若者は少なくなってきているが、移住してくる人も多くはないが居ないことはなく、なんだかんだと回っている。町の西側に大きな神宮寺である「吉祥天神社」が有り、そこから反対側の町の東端「在天川」まで神輿が練り歩く、「吉祥祭」が例大祭として催されている。

<吉祥天神社>〔名詞〕
吉祥町にある神宮寺。大国主を主祭とし、宇佐八幡、稲荷神社、大黒天、吉祥天、大自在天を祀る。

<在天川>〔名詞〕
三千世界に通ずると言われる川。吉祥町の東端に位置し、吉祥天神社から大通りが伸びている。
この川の向こう岸に大国主が現れ、吉祥天神社の境内にある磐座(いわくら)で旅の疲れを癒やしたとも、この川の底から大自在天が光り輝きながら現れ、吉祥天神社の磐座で人々に教えを一度整理させたとも言われる。
ともかく、この川は此の世ではないどこかに通ずると言われ、老人たちはこの川を敬い、また、町の人々にも親しまれている。

<市立在天高等学校>〔名詞〕
黒田悠治の通う高校(現在休学中)。「生徒の自主性を伸ばす」という名目で、ほぼ放任されている。教師が生徒の事情に積極的に首をつこむことはなく、また、生徒間の問題を感知することも殆ど無い。


 いつの間にか、窓の外が白んでいた。結局、あの後一睡もできずに、手の中にある携帯を見つめ続けていたようだ。正直、身体が凝り固まって、いつもの倍以上は痛い。

 結局、あの着信は何だったのか。正体を確かめようにも着信履歴がないのだから、判断しようがない。

 「学校に行ってれば話題にできたのかな」

 ポツリとつぶやく。つぶやいて、耳に届いて、脳に届く。そうしてようやく自分がなんと恐ろしいことを言ったのか理解する。あんな恐ろしいところに行くなんて、常識では考えられない。身震いが始まり、歯の根が合わなくなる。トラウマが再起されるが、その大半は黒く塗りつぶされて、はっきりと見えない。ただ漠然と、「恐ろしい」。ただただ恐怖の正体が恐ろしくて、知りたいとも思われない。

 「…寝よう」

 恐ろしいことは、忘れてしまったほうが、きっと良い。

 

 

 「…んあ」

 居間の音で目が覚めた。

 窓の外はすっかり暗くなっており、一日寝てしまったようだ。あの着信と、その後のトラウマ。そうとうな披露が溜まっていたようだ。

 眠い目をこすってあくびをすると、身体が伸びを要求してくる。そうして欲求に従うと、詰まっていた耳が音を拾い始める。不思議なことに、今日は居間の音がよく聞こえる。母親と兄が話している。その中に聞き慣れた単語を聞き取った。

 学級委員長の佐倉さん。

 俺が学校に行くのが嫌になっていた時に色々よくしてくれた人だ。愛想のある人で、決して不純な動機からではなく、善意、心配、学校への恐れの解消、こんな俺のために、自分もいじめの対象のようになりながらも、なんとか俺を繋ぎとめようとしてくれた。

 一瞬でフラッシュバックする学校の記憶。

 

 市立在天高校。

 吉祥町にある唯一の高校で、特に大きな野望などがなければ、この地域の中学生は、みんなここに進学する。進学校でもなければ、目立った特色もない。そもそも一地方都市の高校なので、ここ最近は入学者数が減っていることが問題だろうか。そんな高校である。

 そして、そんな高校であるから、ご多分にもれず、出る杭は教師にではなく生徒に打たれる。生来の上がり症で、入学直後の自己紹介で笑いものにされるという屈辱を味わった後、「いじられキャラ」として俺の立ち位置が確立することは想像に難しくなかった。だからこそ、反発してしまったらいじめられることも目に見えていた。

 「俺が何したっていうんだ。自己紹介でとちっただけだろ」

 目に見えていたが、我慢ならなかったのだ。

 「は?なにイキっちゃってんのこの人は。俺らはただお前がいづれえだろうな―と思って優しく接してやってんの」

 

 それから後は思い出せない。いや、その少し前からだろうか。段々と黒く塗りつぶされていって、雑音が絡んできて、何も思い出せなくなる。とにかく嫌な記憶だったということは、背中がぐっしょりと濡れていることでわかる。

 そんなものだろう。居間の話で思い出せるのはそれくらいだった。

 お腹がぐぅ、と声を漏らした。

 

 

 雨の音に目が覚めた。

 ここ最近は、五月らしい陽気が続いていたというのに、またこの大雨。昨今話題の異常気象とやらの影響だろうか。

 「…去年の今頃はこんなだったかな」

 意味のない独り言をつぶやく。時間を気にすることも忘れ、窓の外の景色を眺めることにふけっていた。

 

 

 お昼ごはん時に、居間に残された新聞をちらっと見た。本当に偶然があるもので、ちょうど、行方不明の記事が載っていた。

 『女子生徒 行方不明 きのう夜から』

 あまり気持ちの良い文面では無かったが、どうしても気になってしまい、読んでみると、どうやら一昨日の夜からうちの高校の生徒が行方不明になっているという。多分、昨日の夜に母親たちが話していたのはこの事だったのだろう。つまり、いなくなったのは我がクラスの(去年の話だが)委員長、佐倉はな。彼女がいなくなったのだ。一昨日の夜、携帯に不思議な着信があった時。

 彼女が助けを求めて俺に電話をかけてきたのだろうか。いや、彼女は知らないはずだ。というか、なぜ着信履歴が残らないのか。色々な疑問が浮かんできて、居間に突っ立ってしまった。

 「…なにやってんの」

 突然掛けられた声に驚いて見ると、兄が居た。混乱と申し訳無さと恥ずかしさでよくわからなくなり、自室に駆け込む。訝しむ兄の目が痛かった。

 

 

 夕食の為に台所へ降りる。ヤカンを火にかけ、即席ラーメンを用意する。お湯が湧くまで携帯でネットサーフィンをしていると、突然電話がかかってきた。突然のことに息がつまり、額と背中と手のひらに嫌な汗が滲み始める。赤いボタンに指を伸ばす瞬間、昼間の新聞記事がよぎった。

 『また繰り返すのか』

 あの時の兄にそう言われた気がして、振り返る。もちろん居るはずがない。しかし、急かすように鳴り続ける携帯があることは確かな現実だ。手の中で震えて今にも滑り落ちそうだ。

 『今が正にその時だぞ』

 誰かの言葉に後押しされるように、電話に出る。

 

――助けて、誰か。誰でも良い、誰か。

 

 その声に、頭が真っ白になった。




すいません、この後の展開がちょっとつまらない感じにしかかけないので投稿は遅くなります。(2017.11.19)


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。