閣螳螂は娯楽を求める (白月)
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この二次創作の説明《説明》


100話目における状態を中心にしています
用語もあるし、登場してない上にするか分からない状況のキャラの名前もあります
アトラル・カが倒さないといけない必要性は現在価格には無い状態という事もあります
それに、紹介されてない方々が沢山います

後々増えるかもしれません



この世界

 

この世界。神選者と呼ばれる転生者や、知能あるモンスター以外はモンスターハンターの世界観のまま。

ただし、麻痺値やスタン値等のゲーム内部で設定された計算は存在しないが、必要な麻痺毒の量等は似ている。

地形が壊れたりしても被害が広がらず、かなり早く直るのは龍脈の力と言われている。

 

 

が、神選者の流入量が余りにも多くなり、世界の許容を越えた時点で世界観が破壊され始めた。

沢山の人工衛星が空に、空飛ぶ島から大量の核爆弾が、この世界の人はある種族以外は腐った原住民として、モンスターの生体データを取って施設外のモンスターは根絶させ、ほぼ全ての地表は人間が覆う。

神様は人間の信仰を得ようとし、神選者は戦艦で海も空も私物化する。

無法地帯と化した魅力的な宇宙の利権を得ようと、更に数多の存在があらゆる惑星に出現、拠点を構え抵抗する者を殺し尽くそうとする。

 

 

それでもモンスターハンターの世界と呼ばれる。

 

 

 

 

 

アトラル・カ(アトラル・カ)

 

この物語においての主。

産まれた際の異常とその後の環境により知能が高く、自発的に意識を持つ。

かなり人間の環境を見ていた為に人間への理解は早い。

狂竜化したティガレックスから感染し、最終的にマガラの翼を背中から生やす。マガラの古龍の力で装飾品と化したハルドメルグの力を使い水銀も操る。

殺意は高く、理性もある。

撃龍槍と笛を常に持ち歩き、笛の柄にハルドメルグの装飾品が、中に水銀が入っている。

 

人の姿は金色の髪。青紫の目。体長は小さめ。

 

 

 

第三王女(人間)

 

とある国の王女。

自分でラージャン狩れる程に身体能力があり、かなりのメンタルもある。

モンスターへの理解は早く、口を出さないからアトラルにも気に入られている。

負けず嫌いのため、必要以上に傷を負うことがあるが、生命の大粉塵を何処からか出して使う。

決まった動きのしない双剣使い、王族として神選者から与えられたラノベを読んだりしている。

殺意は低く、理性はあるが、必要なら殺す。

 

金色の髪、こちらの方が明るい。水色の目。小さい。

 

 

 

ジェンシー(アンドロイド)

 

アトラルの下僕になった機械。

体内に原子炉と龍の力を使う機構がある。

ただし、出会った状況はほぼ全てを消し飛ばす爆発が収まった後に無傷で横たわっていたという異常な状況であった。

感情があるかどうかは分からない。

命令に従う為に冷酷な殺害者に成り得る、搭載する兵器も並のアンドロイドより総合的に性能がかなり高い。

 

青みがかった白髪。赤い目。平均。

 

 

 

ミラルーツ(ミラボレアス)

 

真なる祖……らしい。

一応モンスターハンターと呼ばれるこの世界で誕生したが、一番生物らしくない。

外来種が大嫌いで、侵入『させてきたモノ達』の世界を滅ぼしにいくほど。

アトラルに人の姿を与えたり、理不尽に殺されたモンスターを蘇生させたりとやりたい放題……でなければモンスターはとっくに絶滅している。

ただし、外来種であっても外来種が意図的に群れたり、世界を自己都合で変革させなければ優しく接する。

ちなみに隙あらばゲームをやっている。それとは別に他の世界の存在と関わりが深かったりもする。

数十匹に分かれる事が出来るため、身近な存在ではある。

 

人の姿は白髪。赤い目。幼女。

 

 

 

ミラバルカン(ミラボレアス)

 

荒くれ者だったが、時間が経つとミラルーツの衝動的な動きを止める要員となった。

頭は悪くないが、使わない事が多い。

面倒見がいい。

 

 

 

ミラボレアス(ミラボレアス)

 

頭がおかしくなった古龍。竜機兵に余りにも強い憎悪があり、見つけたら引き裂いて燃やし尽くす事が大体。そして持って帰る。

ただし、戦闘においては回避が比較的簡単で完封する事も可能。

破壊が好き。

 

 

 

クイーンランゴスタ(ランゴスタ)

 

摂取した物の性質を自分の力として使う様に神選者と研究者に改造された。

アトラルとは幼い頃に会った……らしい。

産んだ子には一性質しか授けらないが、特定の条件で自分の少し下位互換のクイーンを新たに産むことが出来るので、他のモンスターが居ない今は各地にコロニーを設けている。

全戦力は数千万と言われ、最低でもクシャルダオラの様な硬さのランゴスタ達は神選者達を苦しめる。

クイーンランゴスタである彼女の殺意は低いが、ランゴスタ達の殺意が高い。

 

 

 

ゼノ・ジーヴァ(ゼノ・ジーヴァ)

 

誕生した際に戦闘機や爆撃機、改造バゼルギウスが迫ってきていたが知能ある者達に守られ生き延びた。

天廊に住んでおり、のんびり生きている。

特に目をかけているが、ミラルーツは関心は薄いフリをしている。

本人に殺意はないが、好奇心で触った物は龍の力で塵となる。

大体の神選者、神に重要視されないが一部からは真っ先に殺すべきとされている。

 

 

 

ドゥレムディラ(ドゥレムディラ)

 

普段は寒い所が苦手。戦闘時は寒ければ寒いほど強い。

氷と毒を使い、変異した仲間が雷を使う所を見ても利点を感じていない。

天廊にいるが、かなり出かける。大体は温泉に浸かりにいくのだが、時折襲撃する。

姉より強いが姉と戦うなら自殺を選ぶ。殺意は高め。

 

 

 

ゼスクリオ(ドゥレムディラ)

 

先程の姉。かなりシスコン。

元々は普通のドゥレムディラだったが、捕えられて溶岩に浸からされたり、薬物投与、過剰なストレスにより古龍の力が変化した。

エネルギーを直接的に司るという能力だが、それ故に敵に理解されにくい。

ゼノ・ジーヴァにつきっきり。

時々だが放射線と放射能を吸収する様に頼まれて外に出る。殺意はとても高い。

ドゥレムディラを透明にした姿で体内に橙のエネルギー体がある。

 

 

 

バルファルク(バルファルク)

 

マッハ二桁の飛行は脅威でしかない。

数百万度の熱の塊が突撃した所は跡形も無くなる為に一番警戒されている。

飛び散った破片も、バルファルクのその速度を出す為の威力の龍気に塵と化す。

呑気を演じているが、性格がその演じる呑気に引っ張られてきている。

一気に速度を出して他の惑星へ飛び込んだりとモンスター側ではとても貴重な戦力。

 

 

 

ジンオウガ(ジンオウガ)

 

数百匹の群れの女番長。

多種多様な亜種のいるジンオウガだが、その全ての虫を従える。

親衛隊として極みかけるジンオウガと金雷公ジンオウガ、不死種ジンオウガの中でも強い個体が三匹ずついる。

警戒心が強いが、情けをかける事も多い為に騙し討ちをくらいそうになりやすい。

よってゲリョスが苦手。

 

 

 

ナルガクルガ(ナルガクルガ)

 

その風が通り過ぎたのなら、貴方は遺書さえ書けない――

素早い所ではなく、日中の闘技場で戦っても観客の目にはブレて見える程。場合によっては見えない。

先程のジンオウガの夫であり、こちらの方が強い。

殺意は低いが、ジンオウガが傷つけられた場合は静かに激昂する。

因みに雷に弱い為、電気を抑えられない群れの子供がじゃれてきても覚悟を決めるまで近づけない。

ござる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神選者

 

いわば転生者。神の力、神の手違い、召喚儀礼、突然。色々な理由で来て、世界を荒らしていく者達。

何故かほぼ全員に能力があり、並のモンスターでは太刀打ち出来ない。

崩さなくていい生態系を崩す為、ミラルーツが嫌う存在。

ただし、ミラルーツも追い詰められた人達を助けたり、害を為してくる存在を倒す事には協力したりしていた。

己を二次創作と呼称し、人を襲う神選者も多い。

 

主要神選者

 

死儡

神依代

全能

デスタンス

 

 

 

竜機兵

 

正当な技術進化により出来た世界に羽ばたく生物兵器。

ただし、ミラボレアスの逆鱗に触れた事で皆殺しされた。

初代はラオシャンロン程の大きさで鈍重だったが、現在は目的に合わせた四種の運用を行っている。

龍殺竜機兵は黒く、周りより小さいが一番強い。

 

 

 

アンドロイド・自律型機械

 

異界の産物。

人間が求めた理想の形は、モンスターを滅ぼす駒となっている。

異世界では量産が可能な為に、最も主力となっている。

 

主要アンドロイド

 

パニッシャー

デストロイヤー

スーパーキラーマシンU

シュヴィ

ロムストーク

 

 

 

デストロイド・遂行型機械

 

異界の産物。

重度の犯罪者を追跡、殺害を主とする。

神選者の攻撃に対して耐性がある為、抑止力となっている。

一般的にはアンドロイドと呼ばれる。

 

主要デストロイド

 

デストロイドβ

ドムドリース

オメガ

 

 

 

人造人間

 

異界とこの世界の混成。

タンパク質を組み合わせて受精卵を作り、理想の体型、メンタル、強度を誇る人間を生産する。

産まれながら洗脳され、都合のいい常識を植え付ける。

経年劣化による不具合は心臓病が起こる様に設定されている為、安全。

本人達は自分が造られた物だと知る事は無いだろう。

 

 

 

神様

 

異界の生物。もしくは概念。もしくは宇宙。もしくは思い込み。もしくは存在。

生物は時間に飲まれて崩れる。

信仰の狂いは概念を歪ませる。

宇宙は観測により固定化する。

思い込みは新たな宇宙を作る。

 

愚かな神々は愚かに振る舞い、禁忌に喧嘩を売る。

深淵は近づいた者を容赦なく引きずり込む。

潰し、千切り、消す。

だからこそ新たな宇宙は生まれ、更に宇宙が発生する。

 

ただ存在はそこにあり続ける。

 

なんてね☆キャピッ

えぇ……あの……はい……もう一度叩くべきでしょうか……

 

 

神様

 

異界の方々。

転生者が神選者と呼ばれる原因は『神が選んだ者』と考えられていたから。

転生させる原因は身勝手な場合が多く、どんな努力や運があろうと覆せない力を身につけさせる場合が多い。

中には本当に選んでいる場合もあるが、大体は無作為。

自分の世界では奔放に振る舞い、自分との関わりがある世界を増やそうとする。

様々な派閥や締結があり、幾億もの神と呼ばれる存在の関わりあいわや図式にするのは不可能だろう。

 

敵対的

創造と人を統べる者派閥

未知を体現する者派閥

他世界転生者派閥

 

協力的

外なる神派閥

旧支配者派閥

自然軍

 

 

 

トーテム

 

白い杭と言われたりする。

実際は異界との転移装置であり、リンクさせた場所と繋げるので厄介な存在を敵に擦り付ける事も可能。

生体反応、それに準じるものが無い場合は転移出来ない。

作るのは神やそれに準ずる力を持つものであり、それでも製作に時間がかかる為、破壊されないように人目のつかない所に刺すのが普通だが直接敵に落とす用途も可能。

家の大きさから634mなど大きさは様々。





タグが少ないのはこの世界観が原因です。
申し訳ございません……

また、やりがいより楽しむ事を主目的に作っていますので稚拙かつ、文体がコロコロ変わる事をご了承ください


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始まりの糸




私達は出生数は多い。

虫だからだ。

成長すれば強大な存在になるが…所詮は虫だ。

そこら辺の小形肉食竜でさえ天敵だが、対抗策は全くない。

 

そんな私達だが、1度成長しきれば本能の優秀さで天寿を全うするまで生きることが多い。

しかし、そこまで生きるにはどれだけの運が必要か……

 

 

遅れたが、私はアトラルだ。

人間はアトラル・カと呼んでるが私の住処と区別するために「カ」をつけているのだし、アトラルでいいだろう。

と言っても、結局は人間がつけた名前だが。

 

 

 

昔の話だ。

私が生まれた時にとった行動は長距離移動だった。

この頃は漠然とした理性しか無かったが、共食いを避ける事を考えていた気がする。

 

そして何処かの村についた。

私はとある子供に捕まり虫かごに入れられた。

 

その子供は私を捕まえた後に、しばらくしてから勉強をする様になっていた。

子供が行う連日の朗読と会話、本来虫にはない私の理性。

それが噛み合い私の中に思考が生まれた……私の異常さはここで発現したのだろう。

 

 

周囲の捕まえられた生物は寿命が尽きて死んでいく。

最後のペット、ウサギの死体をどこかに始末した時に私の異常さに気づいたのだろう。彼はこう言った。

 

「君は……虫?」

 

初めて私に対して投げかけられた疑問に、若干喜びながら首を縦にふった。

 

「……え、話が分かるの!?……明らかに姿がセルタス科ではないし、羽虫系でもない。まさか新種!?」

 

私を見つめる彼の目は輝いていた。そして私の姿をもう一度見て今更ながら気づいたようだ。

 

「お、大きいね?君をたまたま温厚な虫を集めておいたとんでもなくでかいゲージに入れといて良かったな……」

 

わざと低身長を保ちながら影に隠れて出来るだけ全体をみせないようにしていたが既に高さ30cmを超えていた。

私以外の虫も角が長いなど個性的だった為、違和感が少なかったのかもしれない。

 

そして彼は言った。

 

「君を……自然に返したい。僕は来週から泊まり込みで働く様になるんだ……」

 

別れる直前だからこそ話しかけて来たのかもしれない。

私はあの時、既に思考力が人間の子供程にはあったので、鎌を頭の左右で広げヤレヤレ……と表現した。

そして少しキツいが鎌を裏返しガンバレと示す。

 

「うわぁお……あはは、凄い!賢いよ君は……」

 

私達は次の早朝に、こっそりと外出した。

談笑の様なものをしながら歩き、村が見えなくなるぐらいの位置で彼は立ち止まり、言った。

 

「ごめんね……これから元気で逞しく生きてくれ……」

 

ここでお別れと言われたが、勿論だ。

名残惜しいとはいえ、互いのためにここで別れないといけないことは理解している。

私は立ち上がり切らないように抱きしめた。彼も一瞬驚いたが頭を撫でてくれた。

 

彼のペットである生活が終わった。

思い返せば、余りにも幸運な出だしだった……

 

 

 

 

 

そして私は現在、約2mの高さだ。今はジャギィを食している。

どうやら私は砂漠で生きる事が出来る体質らしい。という事は本能が導いて分かった。

 

ゴロゴロゴロゴロ……

 

今日こそ逃げ足の早い貴様を食す時。

虫を食ってるなら虫に食われても問題ないはずだ。




闇蟷螂 と大失態を今まで犯していた事を訂正
正しくは 閣螳螂(かくとうろう)でした


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狩る者


タグつけ加え
残酷な描写



ゴロゴロゴロゴロ。

「ウゥオォォエァァ!」

 

私が追い詰めるとさっさと逃げるが、無視出来ない攻撃力はあるという厄介な存在、ラングロトラ。

隙あらば跳んで潰しにくる。

最初は反応が遅れ、前足…鎌を含まないとしての前足。そこを潰された。

当時はジャギィに顔を噛まれた時以来の恐怖だった。

 

殺す。

 

私がラングロトラに対して普段から抱いている感情だ。

今となっては私の縄張りで私以下の実力なのに攻撃をしかけてくる雑魚だ。

とりあえず10cmくらいの石を糸で集める。

相手は威嚇をやめ、こちらを観察してくる。

 

まずは私から……私の糸で弓の仕組みを模倣し、石を一つ打ち出す。

ラングロトラは顔を背けただけだ。

 

そこから舌を出すと考え、頭の位置を予想して三つうつ。

しかし、背けた勢いで石を弾きながら転がってくる……文字通りチャンスボールだ。

少し後退しながら鎌を構え、薙ぐ。

 

ラングロトラは上半身に傷を負い、バランスを崩して転倒する所を私はあえて受け止める。

そして押さえつけながら鎌を振り下ろす……がラングロトラはすぐさま横に転がっていった。

 

ラングロトラが怒りに移行したポーズをとる。

 

石を数個打つが横に転がり避けられた。

私は止まる位置を予想し鎌を上げ、近づく。

そして立ち上がる行動を確認し、隙と思い振り下ろす。

 

しかし後退して麻痺液を浴びせてきた。

近距離の為、被害を抑えることも出来ない。

 

 

体が震え、動かしにくくなる。

だが焦る必要は無い。

今までの被弾の記憶から分かるはずだ……

 

 

ラングロトラは動きが鈍くなった私の後ろへ転がる。

 

私は次にとるであろう行動を知っている。

そして今からやろうとしている事は何度か被弾し、麻痺もそこまで辛くないと知っているから出来る行動だ。

 

右前足に重心を置き、体を回す。体が重くてもこのくらいなら出来る。

 

ダァン!!

 

地面が揺れる。あのプレスをまともに受けたら致命傷は逃れられないだろう。

だが全身を使った渾身の一撃は大体隙を晒す。つまり避ければ好機となる。

両鎌を上げ……力を込める。

ラングロトラは姿勢を戻したいから起き上がる。私はタイミングを計って……切り裂く。

 

 

「ッァァウ!」

大きく怯みながらラングロトラは呻く。

 

さて、ここからが「殺す」為の勝負だ。はっきり言って私は移動速度が遅い。そして成長途中の為、糸も中型の相手を拘束する強度はなく、更に今は麻痺で不自由ときた。

 

ゴロゴロゴロゴロ……

 

ラングロトラは逃げた。私は眺めるだけ。

夜まで待つ。無防備な敵なら殺せる。

今日は明確な傷を負うことも無かった、追うことも逃げる事も出来る。

 

 

 

依頼

カマキリとダルマ

報酬 契約金

5400z 1300z

参加可能人数

2グループ8人まで

依頼者 元気な青年

おいおい、見ろよ!

ラングロトラとアトラル・カが戦ってるぜ!

縄張り争いにしては荒れすぎだ…

だからウチの村に飛び火する前に狩猟してくれ!

赤甲獣と金蟷螂をやってくれ!

ps アトラル・カの ・カ って何なんだ?

 

 

 

「なんだこいつ…気にしても意味が無い事を言ってるぞwリオレウスって何なんだ?ジンオウガって何なんだ?w」

「ジンオウガは神、王、牙だろw」

「行くぜお前ら!くっせぇダルマとほっせぇ虫の討伐だ!」

「「おぉ!w」」

 

酒場でよく見かける光景。彼らは普段通りだった。

 

 

 

 

夜。深い眠りについている赤い獣の横に紫の光が二つある。

鋭利なソレを首筋に合わせ振り上げる。

 

 

 

頭が転がる。

 

 

……しかしアトラルは警戒を解かない。

彼女は静かに石を集める。丸く揃え中央に頭を置く。

体は円の外に横たわらせた。

そして闇に紛れどこかに行ってしまった。

 

 

 

 

「2体狩猟の基本は1体ずつだ。その点夜間活動は優れている。」

「その一文は……月刊狩人を買ってるのか。」

「あぁ。……ラングロトラは洞窟で寝るはずだ。」

「虫班はキチンとやってるんだろうなぁ?」

「さぁ……いざとなれば囮にしてしまえw」

「……そろそろ洞窟だ。静かにするぞ。」

 

ラングロトラ狙いのハンター達は洞窟に入っていく。

しばらく進み煌々と月に照らされる狩猟目標を見て絶句する。

 

「……なんだぁありゃあ?」

「サイコパス…一体誰が。」

「確認するぞお前ら…」

「周囲の警戒をする。」

 

一体誰が?何のために?儀式?

頭を石で囲むという余りにもおかしい状況に、リオレウスを狩れる者も恐怖する。

 

「……まさか、黒組織は事実だったのか?これは報告を――」

「後ろぉおっ!」

 

振り向く前に人間の頭が落ちる。

 

「いつの……間に?」

「しかし姿を見せたんだ。…しかもこいつ小さいぞ。」

「まだ子供か…正面からなら勝て」ガツッ「いった!?なんだ!?」

「俺は目を離さないから安心して振り向け!」

 

頭に衝撃を受けた狩人は振り向く。しかし何もいない。

 

「こっちに来たぞ!」

「構え!」

 

アトラルは3人に向かって歩き出す。大剣、ハンマー、ランス。死んだ者は狩猟笛。堅実なパーティーだ。

 

 

 

従来の雑魚だったなら。

 

 

アトラルが少し離れた所で鎌を上げる。全員集中する。

 

「ギザミ突進か?」

「……動かない?」

 

鎌を下げる。

 

「……行くぞ。」

「あぁ…ぁあっ!?」

 

アトラルの後ろで、円に使われた石が浮いていた。

一斉に飛んできては何処か負傷する可能性があるためランスの後ろにハンター達は隠れる。

そしてアトラルににじり寄るが……

 

グシャッ

 

変な衝突音につい見てしまう。

ハンターは予感していたからすぐに理解する。

彼の死体だ、やはり頭はついていない。

再び何かが飛んでくるが、ショックと不意打ちによって次はダメージが通ってしまった。

 

「いたぁぁぁっ!うぐっ」

「笛を!?」

 

非現実的ながら3人は理解した。この虫は何かおかしい。

いつも通りなら傷を負いながらもモンスターを囲みそれぞれが思うがままにモンスターを切り、叩く事で倒す。

 

アトラル・カは本来岩を投げてくる様な環境を使うモンスターだ。

危険度は高くない。単調な攻撃ばかりだし、個体数もまぁまぁいる。

彼らも既に狩った事が何回かある。

岩も表面に出てるものばかりだからガードの衝撃は最高でもブラキディオスの爆発と同等ぐらいだ。

 

しかし、何故死体と笛を時間差で投げたのか。まさか武器が硬いと理解しているのか。なら何故死体を投げたのか……

 

 

 

 

私は予測していた。

舐めてかかった敵が思いもよらない行動をとると大体は防御側に回ってしまう。

 

私はゆっくりと近づき慌ててガード体制に戻っているランスに抱きついた。嬉しい事に2人抱いたらしい。

 

 

「ウワァァァァァ!!」

「どうした大剣!?」

「あぁぁ!あぁぁぁ…!」

「落ち着け!」

「はぁぁ…はぁぁ…ヒッ」

「どうしたんだ?まさかイビルジョーか?」

「アトラル…アトラル・カ…」

「まさかラングロトラと手を組んでいたのか!?」

「ち…がう……ダルマも3人もアトラル・カに殺された……」

「………」

 

よく分からない。

だが、必死なのは伝わった。

 

「………血を浴びてる時点で事実を言ってるなこいつ。」

「血を浴びてるが、汚れてない。何も出来なかったという事か。」

「アイルー便はどうした!?打撲なら助けられるはず……」

「ふぅ…ふぅ…いや、笛が不意打ち、二人は拘束で殺された。」

「一瞬で命を絶たれたという事か?」

「……しょうがないクエストリタイアだ。俺達ならギルドも疑いながらも派遣調査ぐらいはしてくれる筈だ。気をつけて帰るぞ。」

「BCに帰るついでに虫…いや、そのアトラル・カの行動を教えてくれ。」

「あぁ――」

 

 

 

「ヒィィィ!?」

「……たしかにこいつはおかしい。」

 

狩猟目標は、ベッドから降りてきた。

ガリガリと鎌を噛み、研いでいた。

 

「まぁBCにモンスターが居ることは珍しいが無くはない。」

「明らかに 迎えに来た みたいな感じだがな…」

 

 

 

私は縄張りを荒らした奴を殺す。

 

確かに私が逃げれば狩人からの狙われる可能性が上がることは無いだろう。

だがやっと手に入れた縄張り。

私は…逃げない。というよりもっと強い存在が来たら逃げればいい。その点を判断さえすればいい。

 

まぁ、今の私の力では5人と正面からやり合って勝てる訳がない。

なら逃げるべきか。

 

 

いや、違う。

 

 

落とす。

 

 

「砂原……ここは俺達では手に負えないのかもな。」

 

なるほど。ここは砂漠ではなく砂原というのか。

最後に新しい言葉を教えてくれてありがとう。

勘違いも直ったという事は嬉しい。

 

私はベッドをハンターに叩きつけて吹っ飛ばした。

 

 

 

さて、『私の』縄張りを巡って安全を確かめてから寝よう……

しばらくは安心して寝れるはず……

 

 

 

 

 

 

「イテテテ……」

「アトラル・カがハンターは高低差に強い事を知らなくて助かったな…w」




説明。アトラル・カの呼び方。
庶民の不安感を無くすため表向きでは金蟷螂と呼ばれる。
閣螳螂という名を知ってるのはネセトを知る者のみ。
そしてネセトを知る者が伝えようとしてもアトラル・カ自体は弱い為信じる人は少ない。ネセトの襲撃は4回で、4回目に討伐された。

この世界ではアトラル・カの数はゲネル・セルタス以上。
しかし発見は近年からである。研究が待たれる。


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警戒対象


今回のメインは人間サイド(?)です 例の依頼人もいます



「色々理解出来ないのですが……」

「だよな……だがすまない。死体を回収する程余裕は無かった。」

 

悔しそうにハンターは俯きながら言う。

 

「注意を引いて回収するなどは?」

「報告通り、合流した場所が遠かった。」

「……分かりました。今までの功績から貴方達の実力は認知されています。おそらく調査隊は派遣されるでしょう。」

「分かった。あったらでいいが笛とかの回収も頼んでくれ……」

 

 

ハンター達がBCから落とされてから1日後の朝。

 

 

ここは砂原に近いギルド。

砂漠に向かうハンターの大体がここを使用する。

また、砂原や砂漠へ向かう古龍観測隊も物資補給の為に経由するため、朝や夕は研究者や学者の数も多い。

早速受付嬢はのんびりと談笑している研究者達に簡潔に複製したアトラルが取ったという行動を書いた紙を渡す。

ある程度顔見知りだからこそ出来る事だ。

 

「すいません、アトラル・カが奇妙な行動をとったらしいので確かめて頂けますか?」

 

「アトラル・カがそんな行動を?嘘では…?」

「まさかぁ……おそらく死体からたまたま笛が外れただけでは?」

 

言葉からは正確な映像が思い浮かばない。

普通は考えられない可能性ならば除外してしまう。

 

「BCから突き落とす……これは初めてのパターンだな。」

「……一応観察対象として申請しておこう。ワシが今から送ってくる。」

 

年寄りの研究者は手紙を書き、ギルドを出ていった。

 

「アトラル・カはそんなに知性あるか?」

「無いはずじゃ…岩を振り回す力などを除くと、アルセルタスと同レベルの強さだしのう。」

「まぁ、それはラージャンと同じことをしてるのだから、実はヤバいモンスター説の一つの根拠ですね。」

「特異個体がこの地域で生まれたのか……?」

「いや……アトラル・ネセトという存在がいるらしい。」

 

ある研究者が、知っている情報をとりあえず出してみた。

 

「噂か?」

「ギルド側が隠してる話だ……財宝を身に纏う強大な存在。」

「……で、アトラル・カとどういう繋がりだ?」

「それはわからない……ただ、名前がアトラルなんだ。」

「しかし、いたとしてもこのアトラル・カは……」

「知能あるアトラル・カをアトラル・ネセトと言うのか?」

 

余りにも漠然とした言葉に、話題は逸れていった。

 

 

 

古龍観測隊 気球

 

 

上空では乾いた涼しい風が吹く。

 

「今週の調査対象は少ないのう。」

 

ベテランの竜人が言う。

横には対象の名前と観察すべき内容が纏められた紙、大量のノートだ。

 

「しかし、何故かアトラル・カが重要視されてますね。」

「そうなんじゃ……実は昨日のラングロトラとの争いから見つけておらん。BCは見落としておったわ……」

「もしかしたら私達を警戒してるかもですね?」

「まさかのぅ。ただ地上隊が来るからモンスターの位置ぐらいは把握しないといかん。」

 

 

 

砂原のギルド

 

 

先程の研究者が議論している反対のテーブルではアトラルに襲われ、なんとか生き残った一人が美化しながら話をしていた。

 

「それでさ、気づいた時には殺られてたんだ。余りにも行動が早く俺はギリギリ回避したが2人は盾ごと両断されたんだ。」

「なんだそれ。嘘じゃねぇのかぁー?」

「そうじゃなきゃティガと渡り合える俺達が壊滅する訳ないだろ!」

「疑わしいぞー!」

「じゃあお前、明日どちらが先にソロでクックを狩れるか競うか?」

「あぁ受けて立つさ!」

「「おぉっ!」」

「賭けだ賭けだ!1000zからな!」

 

酒場は騒ぎ立つ。注文が増え、皆の酒が進む。

興奮した輩は腕相撲を経て殴り合いになる。

 

 

 

それを横目に、余りにもギルドには場違いな服装をした少女が傍観しているギルドマスターに近づく。

 

「……ん?あぁ、君、どうしたんだ?迷ったのかい?」

 

白のドレスを着た少女は言う。

 

「ふふふ。大丈夫よ。一言、言いに来たの。」

 

ギルドマスターはいきがった女と思い視線を乱闘を抑えるハンター達にもどす。

 

「『警戒すべきは特異の弱者』よ。警告はしたわ。じゃあね。」

 

中二病か……と聞き流す。

しかしギルドマスターはいつかこの言葉を思い出す。それを悔やむのは……それほど遠くないかもしれない。

少女は青の古びたローブを着た女性の元に行く。

 

「主よ、これだけでいいのですか?」

「明後日は毎月の黒焉に会う日なのだから今からお土産を選ばなくちゃ!」

「あぁ、はいはい……お金は装備品を闇市で売った分があります。」

「妃も悪よのぅ?」

「いえいえ、祖なる主には遠く及びませ……って何を言わせるのですか!?」

「意外にノリいいじゃないかこのこの〜!」

「はぁ……先に市場に行きますよ?」

「主を置いていくとは何様!さぁついてきなさい!」

「……我々以外に知能持つ者が現れたからといってテンション上がりすぎです。」

「我々、かっこ 我々の中でも選ばれた者 かっことじ。」

「一々揚げ足を取らないで下さいませ……」

「そういえば姿や話し方変えたの?」

「若作りとかお婆さんって呼ばれるのが嫌になりました……」

「あ、そ、そう……」

 

 

少女は愚かな人間をからかい、楽しんだ。

 

 

 

砂原

 

 

「キィァッ…シャッ!!」

 

何か喉につっかえた気がした。……しかし、昼に仰向けで空を眺めれる様になったか……

今までならここまで疲れてまで努力する事は危険すぎた。

しかし今なら重い岩を振り回す練習が出来る。願わくば習得するまで誰も来ないでほしい……しかし、ラングロトラが居なくなった為、そこに変わろうとする奴が来るだろう……明日にも来るかもしれない。

ハンターに襲われる事を避けるため気球からも隠れているが何かしら他の索敵方法があったら困るな…

索敵方法?あ。私なら糸でどうにか出来るかもしれない。

 

 

 

密林

 

 

 

好奇心は時に自身を滅ぼす。理性は逃げる事を遅らす。

 

 

「オァァァァァァ……!」

 

 

弱者の縄張りの主張など、

 

 

ゴオオォォ……ミシミシバキッ!!

 

 

圧倒的強者には聞こえない。

見る必要も無い。

 

 

大木さえ折り、吹き飛ばす風は移動する。

縄張りを巡回する時期だ。

 

 

 

 

砂原のギルドに書類が送られる。

ギルドマスターは読み、一部を破りとって掲示板に貼ってから受付嬢を裏方へ行かせ、クエストの処理事務をさせる。

 

 

 

──────────────

<厳重警戒>

古龍観測隊から各ギルドへ。

密林から移動するクシャルダオラを確認。

砂原、旧砂漠のどちらかに移動すると思われる。

現地のハンターを即刻退避させ、

討伐パーティを作りなさい。

 

また、クシャルダオラの強さから砂原は上位ハンターでいいが

旧砂漠においては必ずG4以上のハンターを。

鏖邪ディアブロスが確認されている。

──────────────

 

 

 

 

下位、上位のハンター達はざわつく。初めて見る文字だ。

 

「なんて読むんだ…ごみじゃ?」

「ちりじゃかもよ?」

「わっかんないや!」

「なんにせよこれが噂の二つ名か……まさかこうやって知るとはな。」

「会ってみたいぜ。もしかしたら部位破壊ぐらいは出来るかもよ?」

「まぁ古龍ぐらいなんだろうなぁ。」

 

ギルドマスターは言う。

 

「鏖邪……なんだそれ?鏖魔の上位互換なのだろうけど……」

 

そう、このギルドマスター。ギルマスに向いてない無能である。

 




重要資料 血塗れのノート:鏖邪ディアブロス

王者。彼はそれで表現出来るのか?
鏖魔。彼は本当にその二つ名か?
もしかしたら、他にもこういう馬鹿げた生物はいるかもしれないが…

我々は鏖魔の討伐に出向いた。順調に進んでいた筈だった。
しかし彼は狂暴走状態の上があった。
全身に赤く血管が見え、その状態に移行した時の咆哮は
円状に砂が吹き飛びお椀の様になってしまう程。
ハンターは一瞬でラージャンに殴られたケルビの様になってしまった。禁忌とされる黒龍の装備さえ紙切れと同じだった。
さらに彼は我々の気球へ爆発と共に飛来、突進し、一瞬で気球を破壊してしまった。
落下し一時的に意識を失った私だが今生きている。
このドームみたいな岩の後ろには重い足音が聞こえる。私も合わせて見つからない様に移動する。(小さくたわんでいる箇所がある。咳による唾と思われる。)
しかし本当に彼は生物な

(この下は大きな穴と血で読めなくなっている。)

何処にいようとこの生物の第四形態時に場所を知られたら殺される、つまり人間もアイルーも生き延びた者がいない。
そのため明確な危険度は分からない状態。


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暗雲の前の雷雨

知能あるこの個体。
巣を作る事をまだ知らない。



風が吹く。気持ちいい……

しかし先程から私の足は風に怯える様に時折痙攣する。

確かにいきなり強い風が吹き出した。

しかしそこまで気にすることではないはずだ……雨が降るかもしれない。

 

 

とてつもない雷雨の中、ジャギィの皮を被ったアトラルは歩く。

 

おかしい…さっきから風の吹き方がおかしい。

ここは石柱のある狭い場所だが……何故風が入り乱れるのか。

先程から葉の後ろに隠れた虫しか見ていない。

私の本能は逃げる事しか考えてないようだ。足が上手く動かない。

だが、もし強大な相手でも逃げればいい。

縄張りが重なっている生物は知っておくべきだ……

 

 

龍は降り立つ。

風はますます強くなる。

植物しか生物はいない。その事を確認して歩き出す。

……はずだった。

風に逆らって動く存在がいる。

龍はそれを感知しその存在へ向かっていった。

既に殺気を放ちながら。

 

 

やはり敵に近い方が風が強いようだ。

体が風と危機感で後退するのを抑えながらその存在に近づく。

 

いきなり風が強くなる。

 

体が震え始め、風で飛ばされそうになる。

まさか……私の存在を知られたのか?

いつ不意打ちをくらうか分からないため後ずさりでここを離れなければ。

一応まだ敵は――

 

次の瞬間岩で出来ているはずの隣の地面が弾け飛んだ。

 

あ、あ、慌てるな。外したという事は――

本能が理性を凌駕しつい後ろに跳ぶ。

 

先程いた所は竜巻になっていた。

 

さらに黒い影がそこに降り立つ。

 

咆哮と共に竜巻を打ち消し、自らに風を纏うその姿は。

 

私をパニックに陥らせるにはまだ足りない。

危ない……なるほど。化け物……いや、こういう奴は古龍か?

私は思い出す。そうか。こいつは確かクシャルダレンか!……いや、違和感がある。

龍は再び咆哮し、さらに大量の竜巻をあちこちに起こす。竜巻の移動速度が早い……タイミングを図らなければ。

 

逃げの姿勢の私にクシャル……モーラン?はブレスを絶え間無く撃つ。

いや、あれは口から能力で強化した風を飛ばしてるから絶え間無いのか。

ただ、馬鹿なのか予測しないで撃つため距離をおいて円状に走っていれば当たらない。動き回る竜巻を避ける事を余裕で考えられる。

しかし次の瞬間クシャル……ファラオ?はバックジャンプしながら巨大な竜巻を二個、私の進行方向と後退する際の方向に撃ち出した。大きさ…速度。間に合わないか……

……いや、これは中央が開く。岩を引き寄せる。ブレスを弱める事は出来るはず……。

 

しかし、クシャル…ダオラ!そうだ。風を司る古龍。そいつは纏う風を更に強くして飛びながら突進してきた。

少しでも躊躇すればいいと岩を投げる。しかし風に軌道を逸らされクシャルダオラも体を傾けたため、当たらない。

 

すぐ目の前に圧倒的な生物がいる。間に合わない。

素直に危険を感じた時に逃げれば良かったと今更ながら悔やむ。

 

鋼が虫にぶつかる。

 

虫は顔を避けたが腹に一撃を受け――

 

 

 

 

残念ながら……

 

私を行動不能にも出来なかったな。

 

クシャルダオラの空中突進は速度が遅い。

しかし鋼だ。普通のモンスターなら骨折するだろう。

今私はクシャルダオラの顔に張りついている。

そう。体重が軽いからダメージを余り受けなかったのだ。

 

さぁどうする。チャンスと言えばチャンスだが素の実力の差は明らか。とてもダメージを与えられるとは思わない。

なら……

 

私は噛まれないために背中に登る。理解したクシャルダオラは振り落とそうとする。

振り落とされる前に顔面、首に糸を巻き付ける。近距離なら風の影響を受けない。

岩を引き寄せ投げる糸だ。簡単には破られない筈だ。

クシャルダオラは頭を振り回している。

 

飛び降りさっさと走り出す。

何処に逃げるか……

 

バンッ!!

 

「オァァァァァァァ!!」

 

まさか。私は振り向く。

そこには千切れた糸と黒い風を纏ったクシャルダオラがいた。

龍の目は殺意に溢れていた。私の体が動かない。蛇に睨まれた蛙とはこの事か。

 

空気が薄くなる。

クシャルダオラに大気が集まる。私はまだ死にたくないが……駄目か。

 

しかしその時、クシャルダオラの背に乗る影が見えた。

再びクシャルダオラはもがき始める。

 

まさか、ハンターか……?

 

 

「おかしいよこいつ!」

「古龍に立ち向かうとか……愚かね。」

「噂になってた奴だな。……放置して大丈夫そうだ。」

「落とすぞー!!」

「「了解!」」

「麻痺頼むぜ!エネルギー溜めてスタンとる!」

 

 

やはりハンターはおかしい。私は首を切ったが、もし鎧を狙っていたら一切抵抗にならずに倒されたかもしれない。

クシャルダオラの纏う風を一切気にせずに突っ込んで行く。

今は地に落とされているがそれでも風を纏っている……何故普通に剣を振れるのか。

とりあえず私は逃げた。無理に加勢する必要もない。ヘイトはハンターに向いただろう。それに……私の弱さが久しぶりに理解できた。死ななくて助かったなら無駄にする必要もない。

 

 

洞窟に逃げた私は死んだハンターが持ってた狩猟笛をいじる。

前、本気で投げた笛だが欠けてさえいなかった。人間の技術には驚かされる。しかし今は私の物だ。ただ、このままだと強化されるのはハンター側だし、肺活量を鍛えなければならない。仕組みが分からないと何も出来ない……もう一つ笛があればいいのだが。

 

村に襲撃……できるか?無理だな。

何かしら手をうたなければ…

 

 

砂原のギルド

 

「ただいま戻りました!」

「「「おおおっ!!」」」

「クシャルダオラなんて大分狩りなれてるのよ。」

「いやぁ、ありがとうございます!」

「報酬はこちらに用意しております。」

「私は他のギルドに手紙を送ってきますね〜」

 

「今回の素材はこちらです。」

「うん。装備一式は出来そうだ。」

「運搬方法はどうします?」

「いつも通りに。」

「分かりました。……あの、」

「アトラル・カ。あいつはクシャルダオラと戦ってたよ。」

「……本当ですか。」

「流石に傷をつけることは出来てないが。だがクシャルダオラは怒っていたからただ逃げていた訳ではないと思う。」

「エスピナスではないのに….報告しておきます。」

「あいつは……二つ名がつくかもな。古龍に立ち向かう虫なんて……」

 

 

古龍観測所 砂原支部

 

「報告です!クシャルダオラの討伐を確認!」

「了解。ドンドルマにも連絡よろしく。」

「これでまたハンターが活動出来るな。」

「肉食が居ないから草食が来る。草食がいるのに肉食が居ないから肉食が来る。忙しくなるぞ〜」

 

 

ドンドルマ

 

「砂原の研究者からアトラル・カを古龍級生物にして欲しいとの報告が……」

「……無視じゃな。」

「了解で――」

「各地から人工物や岩の塊が動いてるとの報告!現在は3件です!」

「ネセトか!?」

「はい、おそらく!しかし小型の様です。」

「各地にg級ハンターの派遣を!ネセトの存在は出来る限り隠すのじゃ!」

 

 

アトラル・ネセト。それは女王を守る物。アトラル・カを狩ろうとすると出現する。しかし本来は成体や3.5m以上のアトラル・カが作るものだ。

しかし小型のネセトを知る者はいなかった。ネセトは巣だ。巣を作るのは当たり前だ。例え小さくても。

 

「う、わぁぁぁ!!」

 

欲にまみれた密猟者達はネセトの足が赤黒い色に染まっていることを気にしないで戦いを続けようとした。

岩でできた歪な形の20m程度のネセト。足で踏まれる瞬間、最後の密猟者は足裏に骨や装備の欠片が埋まっている事に気づいた。

 

 

小型ネセトの大量出現は、人間にも、モンスターにも多大な影響を与える事になる。そしてネセトに守られる事でアトラル・カの数も減りにくくなる。

本来なら他のモンスターに大体が既に食われているが、ハンターが間引きすぎた。

 

 

古龍級生物に認定しろと叫ぶ研究者は呟く。

 

「対策しないと…人類が……生き残れない…!」

 

大げさだが可能性はある。ギルドは動き出す。

 

しかし平和や正義を謳う組織が動けば

欲や混沌で出来ている組織も動く。

 

「知能あるアトラル・カ…」

「何人なら捕獲出来るでしょうかね。」

「戦いは数とゴリ押しだよ。」

「捕獲したら闘技場行きですね。」

 





強さは上位。行動は時々特異個体。そんなクシャルダオラ。


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暗雲を刺す糸

虫は凹凸があれば天井も歩ける

※死に姿を白黒と墨で考えればグロさは抑えられるかもしれません。



馬鹿らしい。

 

余りにも馬鹿らしい。舐め腐っている。

生肉が無造作に置いてある。丁寧に骨付きだ。

だがこれで分かることは私を狙う何者かがいるという事だ。

見せつける様に警戒し、生肉を調べ食べる。

 

 

馬鹿らしい!

 

また生肉が置いてある。

次はさっさと食べる。次に何かあるかもしれない。

 

 

……今すぐに仕掛けた馬鹿を殺したい。

 

青い色をした生肉だ。

ここは砂原の中でも完全な砂漠。

なるほど。ここで捕まえる気か。

 

知能がある。その噂が広まってるのは前に……クシャルダオラから助けてもらったハンターがこぼした一言から予測出来る。

 

ゲリョスするか……私が初めて使う技に対策するのか見物だな。

食べたフリをしながらすかさず地面に埋める。

 

 

「知能あっても所詮は子供程度だろうな。」

「期待外れかもしれませんね〜」

「お前ら、きちんと鎌、足を縛っとけよ。」

「20人で来る必要もありませんでしたね。」

「鉄の檻を載せた台車もある。楽だったな。」

 

縛った私を入れた檻は布で隠された。

気球は今日はいない。

 

「お前ら。大人数じゃ怪しまれる。先に帰れ。」

「了解っす。」

「いつも通り、俺が用心棒、お前が商人な。」

 

そういう思慮を私に活かさないのか……

いや、もしかしたらこれも罠かもしれない。しかし……揺られるのは気持ちいい……

 

 

「本当に馬鹿なモンスターですね。」

「あぁ。あの殺られたハンターは更に馬鹿だったという訳だ。」

「15人も帰ってしまいましたね。」

「残す必要は無かったという訳だ。」

「まぁ帰った事にもきづかねぇだろこいつ。」

 

ハッとした時ずいぶん涼しい所に来ていた。

なんだ、ちゃんと活かしてたのか。……そうか。私に意識があると言っても『人語を理解する』なんて気づく訳ないか。私は喋れないからな。

本来なら霧状に噴射する体液を少し痛むが液体としてゆっくり檻に擦り付ける。縛っていた縄は普通に溶けた。

鉄が腐食しはじめる。次に体を伸ばす。いきなり動いて筋肉がつったりでもしたら負けるから。

準備は終わった…わざと腐食させなかった檻をガンガン鳴らす。

 

「あ、起きたようです。」

「じゃぁ麻酔スプレーくれ。」

「お願いしますね。」

 

息を止める。

目標が布に手をかけ、スプレーを突き出す。首の位置は…そこだ。

 

一閃。檻も布も首も切断する。

 

首の骨を容易く切る鎌に腐食した鉄を切ることは簡単だった。

頭がなくなった体はスプレーを落とす。倒れる音がする。

残り4人か。

すかさずスプレーを挟んで持ち腐食を始める。

檻を切り裂き外に飛び出る。

太刀、ガンランス、笛、弓。

太刀を地面に擦り付けながら来る。笛も歩いて走る速度でくる。

スプレーを地面に叩きつける。太刀はまともにくらい、倒れる。

笛は空中回転しながら突撃してくる。鎌を振るが再び空中回転で避ける。弓が腹に刺さる。

ガンランスは寝た奴を踏みつけ高く跳んでくる。切り上げる。二つに体が割れる。弓が足に刺さる。

笛が叩きに来る。鎌を再び振る。弓が刺さる。空中回転して避けた先に再び鎌を振る。……笛で防がれた。弓が刺さる。

寝てる太刀を絡めとり振り回して弓に投げつける。

しかし弓は納刀しながら後ずさりする。更に太刀が起きる。

笛が足を叩く。痛い…キレそうだ。

太刀を縦に切る。いなして私を通り抜けるように切りつける。

 

……落ち着け。怒りを通り越して落ち着け。

……いい物があるじゃないか!

 

私は走り檻を何度か切りつけ切断する。腐食させてない物も無理やり切る。糸で巻く。弓に投げつけ自分を糸の力を合わせて一気に近づく。

檻をいなした弓に鎌を振る。ヒット。更に鎌を振る。回転して回避されたが檻を叩きつける。 ハンターの立つ姿は見えない。

抜刀しながら太刀が走ってくる。

鎌を適当に振り回す。太刀は近づいてこない。笛が旋律を吹く。

太刀が突っ込んでくる。鎌を振るフリをする。太刀を縦に構えたのを確認し脛を狙う。切断完了。

笛が正面から頭を狙ってくる。檻を振り回す。1回目、回避。2回目も回避。3回目、回避しながら突っ込んでくる。

四回目、宙返りしながら檻を下から飛ばす。攻撃をしようとしていた笛は回避出来ず檻に当たる。遠くに吹っ飛ぶ。

……笛が立ち上がる。しぶとい……薬を飲もうとしている。すかさず糸をとばし引き寄せ檻の鉄柱に叩きつけて刺す。

 

終わった。やはり私は周辺に物がないと非常に厳しい。

ハンターの戦い方は多種多様だ。このような攻防ではいつかは殺されてしまう。

 

そして私も馬鹿だった。

ここが何処か分からない。ここは草原だが……近くに森が見え、レンガも見える。もしかしたら自分は寝た振りしている間につい気を失ってたのかもしれない。乾いた風ではない。つまり相当離れたという事……

何処だここは。帰れそうにもないが……生物には帰巣本能があるらしいが私には巣がないから尚更不可能か。

 

ここには私が狩れる様な獲物はいるのか?

しばらく過ごす以上食料は避けられない問題だ。

そう思い歩きだす。

 

炎のブレスを頭から浴びた。 温かい。

ではなくまた上空かと視線を上げる。

そこにはリオレウス達に跨ったハンター達がいた。

 

リオレウスとの実力差。ハンターの頭数。今の私に勝てる訳がない。

……しかし降りてこない。今考えた方法なら勝てるかもしれない。檻に近づく。

 

 

「炎は効かないのか。」

「とりあえず相手は何を仕掛けるか分かったものじゃない…しばらく警戒!」

「ははっ!アイツら死んでやがる!」

「俺らに献上か!無様なこった!」

 

上空で余裕をかますライダーをよそにアトラルは檻を糸でパチンコのような状況にする。

斜めに飛ぶように力をかけながら撃ち出す。リオレウス達の近くまで檻が飛ぶ。

しかしいきなり減速し届かない。

ライダー達はアトラルを馬鹿にする。

 

距離感無いのかあいつは。

一人のライダーはにやけながらその発言をしながら後ろのライダーに振り向く。

 

返事は鎌だった。

 

 

さっきの戦いで私は弓に対し檻を投げてそれについて行って殺した。

余り考えずやった行動だが空中でも再現出来るはずだ。

失敗しても更に警戒させるだろう。私は着地に思考を変えればいい。

幸いに時間はある。丁寧に仕掛けを作ろう。…ついでに刺さっていたこいつの笛も頂こう。

 

私はリオレウスの後ろに行くように檻を中心に振り子の様に跳んだ。

高い上に裏返って足が中を浮いているが冷静にリオレウスの背に糸を放つ。

リオレウスが警戒して後ろを向く前にハンターを斬り抜く。

勢いのままさらに前にいるハンターを斬る。

 

「ぐわぁぁぁっ!」

 

流石に二人目は無理だったか。ハンターもリオレウスも私の位置に気づく。

 

「アルトぉぉ!?ハリアぁぁぁ!!」

「おいライダーの面汚し!大丈夫かぁ!?」

 

……モンスターに乗ってるのはライダーか。知識が増える。

殺したライダーのリオレウスに飛び移る。

 

 

リオレウスは激しく身をよじる。アトラルは気にせずに張り付く。

ライダー達は距離を置く。ライトボウガンが貫通弾を撃つ。アトラルは笛で弾く。

 

リオレウスの尻尾と頭を力を込めた糸で繋げる。縮小させる。リオレウスは海老反りになる。

 

2つ折りになったリオレウスを後目にライトボウガンのリオレウスに糸を放ち正面から乗る。他のリオレウスが炎を放つ。アトラルが炎に包まれライトボウガンは弾が尽きるまで後退しながら徹甲榴弾を撃つ。

炎に包まれた影は傾く。アトラルは落ちる。

ライトボウガンのライダーが安心しかけた瞬間リオレウスの片翼が折れる。

ライダーは転落時の為の腰のパラシュートに手をかけようとするが首に糸が巻き付く。

 

「野郎ども!雷ブレス用意!」

「「ひぁっ…」」

「アンタらっ!用意っ!!」

「「あぁぁはいっ!」」

 

あ、なるほど。糸の感覚からライダーが死んだ事が分かる。人間は首に力がかかる事でも死ぬのか。これはいい事を知った。

私はライダーを他のライダーに叩きつけ――

 

「ァァァァァ!」

 

痛いっ……雷…だと!?リオレウスは炎……いや、今はそういう存在と理解しよう。

 

「効いた!」

「距離をとれ!すまないがリオレウス達でお互いに撃つ事になるが理解してくれ!」

「アォ!」

 

ライダーのモンスターは人語を理解するのか!?……いや『なんとなく』ぐらいだろう。

 

そんな事より今は雷ブレスをどうするかだ。

雷の性質……あの頃に入れた知識を……思い出した。いやブレスだと使えないか。中々知識が通用しないから私達はモンスターなのかもしれない。

糸に当てられたら感電してダメージを負う…非常に行動は制限された。

 

まだまだ私の体はもつ。

殺しきれなかったライダーに飛びかかりを再び切りつけ蹴り落とす。

笛を糸に絡める。

 

敵同士の友情を使えばなんとかなるか。




私は私を最大限に活かす。


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王と王女

チョイ役(ヤバい奴)



まだまだ私の体はもつ。

殺しきれなかったライダーに飛びかかりを再び切りつけ蹴り落とす。

笛を糸に絡める。

 

敵同士の友情を使えばなんとかなるか。

 

まずは笛をリオレウスに投げる。

頭に当たらず足に当たる。

 

見せつけるようにゆっくり、ゆっくり乗っているリオレウスの頭を糸で吊り上げる。苦しそうにリオレウスは呻く。

見かねたリオレウスが突っ込んでくる。鎌で斬りかかるが回避され、さらに雷ブレスを放たれた。狭い為私は回避を諦め耐える。やはりかなり痛い…あと三、四発でまともに動けなくなる。リオレウスは更に雷ブレスを放とうとする。

私は笛を巻き上げ、1度キャッチし再びリオレウスに投げつける。

 

リオレウスはブレスをキャンセルし、避ける。しかし目を離した瞬間尻尾の違和感をリオレウスは感じる。と、同時にアトラルが乗っていた仲間は凄まじい音と共に墜落していく。

リオレウスに乗ったライダーは呟く。

 

「危険度4とか言ってた奴は誰だよ…誰なんだよ。」

 

後ろに何かが乗っかる音がする。

 

ライダーは太刀を抜刀する。

 

「この化け物がぁぁぁぁ!!」

 

と叫び、振り向きながら切り払う。

アトラルはいない。

ライダーは勘違いだったのかと一瞬思うが後ろ、先程の前から抱きつかれた。

 

「あぁぁ!嫌だぁぁぁ!死にたく――」

 

 

殺しに来なきゃ殺さないのに。

 

抱き殺したアトラルの正面は血に染まっていた。

密猟者達を怖がらせるには十分だった。

 

「チッ!お前らは下がってろ!」

 

群れのリーダーか。

私は狩猟笛を背中に乗せ、鎌を片方振りかざす。

大剣を持つリーダーがこちらに飛び移ってくる。

鎌を振る。太刀のいなし?みたいなアクションをする。そのまま振りかぶった為私は下がる。

すると敵はシートをはった。大剣でリオレウスに傷をつけないためか。少し屈んだ体制になったそいつに鎌を薙ぐ。

再びいなされる。相手も大剣をすくうように斬ってきた。私は体を引きながら糸を放つ――

ぐぅっ!雷が降る。今戦ってる大剣のリオレウスか。……なるほど、このシートを使えば雷ブレスが下に通らないのか。シートを外すか?いや、外したら逃げられるかもしれない。しばらく膠着状態になればいいが。

 

怯む私に大剣を振り下ろしてくる。笛で受け止める。

鎌・いなし 鎌・いなし 薙ぎ払い・回避 笛・回避。

次はリオレウスが放つ雷ブレスを避ける。流石群れのリーダー。強い……お互い信頼してるから合図も出す必要がないのかもしれない。

試してみるか。後ろを向き今乗っているリオレウスの頭を笛で叩く。大剣が走ってこようとする為、当たるように糸を放つ。大剣は全て回避するが近づく事が出来ない様だ。その間にリオレウスの意識をとばす。

 

 

意識を失ったリオレウスは落下を始める。

リーダーのリオレウスは咄嗟に動く。

すかさず、気絶したリオレウスに糸を繋げているが、宙を浮いているアトラルに雷ブレスを放ちライダーを助けようと急降下する。ライダーは再びリオレウスの背中に乗り四方を確認する。

アトラルの姿は見えない。

 

しかし鎌は落下してきて頭をぶった斬ったのだった。

アトラルは落下し始めたリオレウスの上で両翼に糸を繋げ自分をパチンコの様に撃ち出し、再び上昇していたのだ。

 

「う、うわぁぁぁぁ!!」

 

密猟者達が私から視線を外す。そして全力で逃げる。

私は追わずに今乗っているリオレウスを折る。そして地上に落下する。

密猟者から攻撃を仕掛けてきたのだ。この惨状を見ていた気球も警戒を促すだけで狩猟対象にはしないだろう。

息があるリオレウスを1匹ずつ終止符を打つ。

草原は血の海と死体の山で埋められた。

 

ライダーのオトモンかつ危険度5の存在を大量に狩る危険度4は果たして危険度が正しいのか?

数日後から学者達はしばらく危険度を議論するのだった。

 

 

 

血の匂いに釣られてくる生物は沢山いる。今回は余りにも匂いが濃すぎて大体の生物が危険を感じてよってこないが、

更に強い。しかもこの世界を脅かす二つ名の1匹が来てしまうなんて誰が思うのか。

 

!?……微妙に怖い気配が近づいてくる。なんだ……クシャルダオラに似た雰囲気?しかし弱い……いや、余りにも、余りにも実力を感じる。

私は1歩踏み出そうとした。その瞬間……

 

ドゴォォッ!!

 

「クァァァァ!!」

 

地面を砕きながら降りてきた存在。空に黒い跡を残し落下してきた生物。

それを見た気球に乗っている書士隊はある資料を思いだす。

 

 

砂まみれのノート

 

全ての生物は世界にそれぞれ小さな、でも確実な存在として生きている。

古龍も例外ではない。人間が種の存亡にかかるため狩ってはいるが生き残った古龍がまた数を増やしながら自然に干渉する。

 

しかしあいつは駄目だ。

全ての生物を無造作に殺せる。あれは生物ではない。古龍なんて枠に収まらない。

手を伸ばしただけでダイミョウザザミが粉々になるだろうか。

走り回っただけで村一つが壊滅するだろうか。

これは聞いた話だ。クシャルダオラでも同じ事になるだろう。

しかし、今、私が見たのは

 

『ダレン・モーランを一撃で殺した』姿だ。

 

ダレン・モーランが鳴き声と共に砂上にあらわれたと同時に、空から白黒の塊が落ちてきた。

一瞬でダレン・モーランの首から先は破片になって消えた。

 

あれは駄目だ。早く最強の狩人、設備で一方的に殺さな

(これより下は何も書いていない。おそらく落としたか。)

 

 

「まさか……命反ゴア・マガラが来る、なんて。」

双眼鏡を使わなくても感じる殺気に恐怖する書士隊。

 

 

駄目だ。クシャルダオラなんてゴミだ。後何秒私は生きていられる?

己の死を確信するアトラル。

 

 

命反ゴア・マガラ。

本来ならすぐに死ぬ悲しい運命の 渾沌に呻くゴア・マガラ。

シャガルマガラに代謝を阻害され育つことない体を古龍という圧倒的な力が蝕んでいく。

しかしこの個体はシャガルマガラの力に体が対応した上で、幼体の爆発的な成長する力が残ってしまった。

永遠に子供。永遠に成長。本来の運命に反する生き方をする個体。そして今は――

 

「ゴァァァァァァッ!!」

 

バキィッ!

 

叫ぶ時に足に力を入れるだけで地に亀裂が走るという天災を鼻で笑う力を持つ。そしてかなりの巨体だ。

 

ちなみに性格は無邪気で喧嘩好き。強い存在を感じると殴りに行くだけ。

物が気になったら触る。腹が減ったら好みの食料を探す。ただそれだけ。

 

 

命反はアトラルに一瞬で近づく。アトラルが影に入る距離だ。匂いを嗅ぐ。乾き始めた血の匂い……

どうやらお気に召さなかったようだ。近くの新鮮なリオレウスの肉を食らう。

 

 

い、い、今ならに、逃げ……

私はふらつく足を動かしながら豪快な音がなる草原を後にした。

私はなんとか何故かどうしてか、た、助かった?らしい。

……なんだあの生物は。滑るように近づいてきたが、途中は私が全く反応出来る速度ではない。

 

……

1度見逃されたのだ。再び追ってくることはないだろう。自分の食料問題を解決しなければ。

今はモンスターが1匹も見当たらない。当たり前だ。私もあんな奴がいない砂原に帰りたくなる。

 

危険とはいえ、とりあえず何とか私はこの場所(遺跡平原)での生活をはじめられそうだ。

殺戮は気をつけないといけない。運良く、深く理解した。




アトラルは運良く助かった。
何故なら命反は虫も食うのだ。
乾き始めた血の匂いと、絶対新鮮な生肉の匂い。それの違いが生死を分けた。
殺戮で呼び寄せたが殺戮で助かったというなんともいえない結果に終わった。


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王女狙う兵

群れを形成する虫は雌が中心となる。



数日後。

私はリオレウスに乗っていたライダーからなにか剥ぎ取れないかと草原に向かった。

そこには元の草原が広がるだけだった。

地割れも、死体の山も、血の匂いも残っていない。この世界は不思議だ……いや死体は既に回収されたのかもしれない。

 

食料問題はすぐに解決した。何故ならジャギィがここにも生息していたからだ。ただ、今日まで私以外の大型のモンスターを1匹も見ていないためまだ気を抜くことは出来ない。

体はかなり環境に強いようだ。現在目立った体調不良はない。

 

 

昨日から私が始めたのは武器作りだ。と言うと凄いように聞こえるが実際は鉱石を掘り出し、ハンターがあちこちに落としている砥石を集めて使い、鉱石を丸く青い塊に仕上げている。

 

偶然レンガで重い物を振り回す練習をしていたら壁に当たりレンガが砕け散った。壁が青く光った様に見えたため笛で周りを削るとマカライト鉱石の塊が出てきた。

これを使わない手は無い。

しかし使い道が分からない。私には今、鉱物を加工する技術は無い。いや、正しくは溶かしたり接合、切断ができない。

リオレウス達と戦った時に檻を起点にした。つまり重いものを使えば楽に戦えるようになるかもしれない。

 

と考え、今に至る。

今更だが何故私の体は自分に比べて非常に重い物を持てる体なのか……どういう構造なのだろう。

 

さぁ、完成だ。試しに背中に乗せてみるが檻よりかなり重く、走る速度は落ちそうだ。試しに投げてみるが、十数mしか飛ばない。

……力不足を感じる。今からこれを振り回そう、しかし疲れきっては駄目か。私はまだここの大型を知らない。

 

 

パタパタパタパタ……

兵士は飛ぶ。最凶から逃げたが一番最初に戻ってくるのはこいつだ。

早いほど自分の縄張りを持つことが出来る。

しかし今回は先着者がいたようだ。中型の別種は排除。

 

 

羽音がする。猛烈な速度で近づいてくるから私は素直に避ける。

私が居た場所を緑の物体が通過し、私を見下ろす。

確か、アルセルタスか。雑魚と言われてるが何をするか分からない以上慎重に殺すべきだと考える。

空中であの姿はおそらく突進してく――ぁぁ!?

 

「キィェァァァァァ!!」

「クゥイュゥエァァァァ!!」

 

意外にかなり早く回避出来ない。正面からぶつかり合う。ギリギリ角には刺さらない。しかしアルセルタスの飛行能力が高いのか私は押され始める。糸を出したいがこの体制ではアルセルタスに当てるのは無理……このままでは壁におされて最終的には…!

とにかく私はアルセルタスが上にずれるように押し上げる。しかしアルセルタスは常に私に角が向くようにしている。なら……

私の鎌の限界まで上に上げる。よし、私を狙ったままだ。頭越しに糸を放つ。

 

アルセルタスは一瞬で遠ざかる。反応速度も半端ない。

そのまま液体を放ってきた。回避をした私に再び突進の動作をする。

次は突っ込んでくる所に回避しながら糸を放つ。当たる。

しかしアルセルタスはそのまま上空に上がる。私も引きずられて浮く。

空中で再び私に突進する、私は狩猟笛を全力で叩きつける。

地上での威力ではないが、軌道を逸らすには十分だった。

アルセルタスが地面に刺さる。すかさず私は鎌を振る。

一、二、三回目にアルセルタスの腹が切れる。しばらく痙攣したが最終的に足を縮めて止まった。

 

 

勝った。しかしまたあいつみたいなヤバい奴を引き寄せるにはいかない。死体をどう処理をしよう……

食べる?いや、寄生虫でもいたら困るな。ジャギィよりも心配だ。

焼いてしまうか。

 

虫を焼く虫。明らかにおかしい光景が広がる。

アトラルはペットの時に飼い主が火を起こそうと躍起になっていた事を覚えていた。それに糸を自前で用意出来るため非常に火起こしが楽だった。

アルセルタスは形を無くしていく。煙は空高く上がる。

 

この行動が後に悲劇を生む事をまだアトラルは知らない。

 

 

夜。アトラルは壁と壁の間で繭にくるまって寝ていた。

 

アトラルは気づかなかった。天敵を唯一確認できるチャンスだった。

緑の翼を月光に反射させながらその竜は飛び立つ。

 

 

次の日。

 

さて、見回りをするか。

私はまだ大型のモンスターを見ていない。だから大きな変化が無いか探すのだ。

 

BCにはまだ何の代わり映えもない。

近くの分かれ道も草食竜達が帰ってきたぐらいだ。

草原にも特に無い。

一番変化があったのは竜の巣跡だ。明らかに大きな何かがここに来たように骨が掻き分けてある。

 

次に大きな崖が連なる場所に来た。昨日完成した球も持ってくる。

 

……気持ち悪い。

 

アトラルが見つめる先には壁にビッシリと張り付いたアルセルタスだ。

気持ち悪い。

アルセルタス二匹が飛び立つ。アトラルに気づく。

アルセルタスが威嚇の声を上げた瞬間全てのアルセルタスが蠢き出す。

 

うわぁ。これは非常に不味い。

私はひたすら逃げる。多少体が慣れたとはいえまだ球が重荷になり走る速度が落ちる。

追われるように崩壊したアーチがある場所につく。

 

 

アルセルタスは兵士だ。兵士より上の存在がいて初めて兵士と名乗れる。

 

 

地面が隆起し破壊される。

 

アルセルタスの焼けた匂いで縄張り意識を刺激され集まったアルセルタスが次々とやってくる。

 

女帝、ゲネル・セルタスの帰還だからだ。

 




ゲネル・セルタス 狩猟時アドバイス

女帝を守るアルセルタスは7匹ぐらいはいます。
ソロだったらハンターもモンスターも逃げましょう。
他の方といる時は一人がゲネル・セルタス、三人以上は主にアルセルタスに対処しましょう。


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多勢に少数精鋭


テーレーレーレーレーーーデェェェッ
イメージ
グァンゾルム=ゲネル・セルタス
背景含めたエギュラス=アルセルタス



女帝は敵と兵を確認する。近くのにいる兵を尻尾で挟み洗脳し、自らの体の一つにする。そして足を踏み鳴らし全ての兵に攻撃開始の合図をする。

まず四匹のアルセルタスがアトラルに突進をする。当然ながらアトラルは回避行動をする。折り返しで突進してくるアルセルタスは10匹に増えていた。球を投げつけそれを中心に山なりに回避する。

そこにゲネル・セルタスがアルセルタスの力で飛行突進する。後続に6匹が同じ速度で突進する。

 

なるほど、アルセルタスの飛行能力の高さはこの……ゲネル・セルタスを持ち上げる為か。地に伏せて避ける。後続のアルセルタスも私を見て突進してる訳じゃないから当たらない。

私が体制を整えながら振り向くとまた足を踏み鳴らしながら叫んでいる。

すると今度は私を囲むように三匹が降りてきた。近接か……私の得意分野だ。

前方のアルセルタスを斬りつけて怯ませ、左には羽ごと糸を巻き付ける。右の敵が振る鎌を回避しながら叩きつける。回避されたが巻き付けたアルセルタスは弱る。前方に叩きつけようと前を向くとアルセルタスの角で地を抉りながら突進してくる姿があった。

巻き付けたアルセルタスを目の前に叩きつけ、破壊させ……破壊する威力か。非常に危険だな。横に回避する。他の個体の出した体液に当たる。染みるように痛い。折り返しながら突進してくるゲネル・セルタスを回避しながら小川にもみたない川で体液を落とす。

再び折り返しているゲネル・セルタスに糸を放ち従属したアルセルタスの上に自分を引き寄せ乗る。突進が終わったら従属アルセルタスを死ぬまで斬りつけ、蹴落とし更にゲネル・セルタスを斬りつける。ゲネル・セルタスが暴れる為アルセルタス達は突進も近づく事もできない。このまま行けば……

 

ゲネル・セルタスがアトラルをハサミで掴み叩きつける。再び持ち上げ叩きつけようとするが拘束を解き、少しふらつきながらも体制を立て直す所に再びアルセルタスが突進する。

掠りながらも回避をするアトラルはキレた時の目をしていた。

同様にキレたゲネル・セルタスはフェロモンを思い切り出す。近づいてきたアルセルタスを再び従属させ、他のアルセルタスは興奮して攻撃が苛烈になる。

15匹が四方八方から突進してくる。アトラルは単純な回避を諦め木に糸を放ち自分を上に飛ばす。

軌道修正しながら数匹が突っ込んでくるがアトラルは木から木を転々と移動する。他のアルセルタスに自分を追いかけてきたアルセルタスをぶつけ、折り返した者に引っ張ってもらいゲネル・セルタスの近くまで戻り着地する。

アトラルをアルセルタスが10数匹で囲み拘束しようとする。正面の1匹を斬り、球を引き寄せすぐに叩きつけて正面奥の1匹を潰す。アルセルタスの鎌の攻撃をくらいながら遠くの地面に糸を貼り付け1回遠ざかり元の位置に再び糸を放ち、アトラルに拘束を当てようとして地に降りた数匹にアトラルが勢いをつけて両断する。

 

駄目だ、数に対して殲滅速度が遅すぎる。というかまた死体が増えたらあの馬鹿げた怪物が来てしまうのでは?

私は懸念しながらゲネル・セルタスを見る。……何かを飛ばしてくる!本能のままに回避する。元いた場所を水ブレスが通過する。なるほど、かなり勢いが強い。当たると――

 

バキッ

 

……

拡散させながら3発だったのか……!

被弾した私の左前足が根本近くから折れる。威力はやはり高いな。

痛みを感じるが興奮している私には薄い、折れた足は邪魔になる上に腐って風邪になる可能性があるためさっさと折れた足を斬る…!

 

ゲネル・セルタスは小さな思考で自分が優位になったと考える。

足を踏み鳴らし攻撃の合図をする。

12匹のアルセルタスが再びアトラルに突っ込む姿が見える。

勝った。

 

窮地のアプトノスはドスランポスを殺すのだよぉぉぉ!

私はバランスを崩しながらアルセルタスをかわす!まだ私は抗える!

私の近くで止まったアルセルタスに糸を巻き付け突進してくる二匹に叩きつける!結果は見ずに更に突っ込んでくるアルセルタスを笛でホームラン!次は!――

 

アトラルは興奮のしすぎで一時的に反応速度が上がっているが周りが見えなくなっていた。

気が短い女帝、ゲネル・セルタスはまだ倒れないアトラルに対して苛立っていた。従属アルセルタスの角を地面に刺す。そして突進する。

 

球を投げ、当たる前に糸を当て避けさせない様にし、1匹を殺す!

体液を回避して……あ。

 

アトラルが気づいた時には遅かった。一応耐える体制をとるが地面を砕きながら突進するゲネル・セルタスを耐える事は出来ない。

 

 

 

「ファイニャー!」

 

閃光が走る。突然の事にゲネル・セルタスはバランスを崩し転ぶ。

アトラルが振り向いた先には四匹のアイルーがいた。

 

「余りに騒々しいと思ったら、なんでこんなにいるかなぁ……」

「おい!金色の!僕達が来たからにはもう安心しにゃ!」

(みなごろし)ならこの武器の名前が意味通りですにゃ〜」

「はいはいみんなファイト〜ピッピッピ〜チャキーン〜」

「「セルフ音声やめぃ」」

 

……ふぅ。落ち着いた。流石にアイルーに安心しろと言われても信じる気にはならない。次はどう立ち回るか……

 

そんな私の考えは一瞬で覆された。

1匹のアイルーは左右に飛びながらゲネル・セルタスに近づく。

残りの3匹はアルセルタス達を閃光で落とし足を切り取り羽を切断する。

あまりに手際が良く明らかに飛んでいるアルセルタスの数が減っていく。

ゲネル・セルタスを相手取るアイルーは次々に攻撃を鎚でいなし、隙あらば頭を殴る。殴り続ける。

ゲネル・セルタスは気絶して再び倒れる。アイルー三匹もアルセルタス討伐を中断して攻撃に向かう。

……見てるだけなのも居心地が悪いので球を全力でゲネル・セルタスの足に叩きつける。まだ起きないから叩きつける。もう一度。

4度目に足が潰れる。気絶から治りゲネル・セルタスが起き上がろうとするが足が潰れたせいで立てない。そうか、足が潰れたからバランスを考えて立つ。という事が能動的に出来ないのか。動けないゲネル・セルタスの顔にアイルーが特大爆弾を置き逃げする。私も顔面に球を投げつける。

無惨にゲネル・セルタスの顔は吹き飛んだ。

 

アルセルタスは逃げる個体と留まる個体がいる。

私達は残党にそれぞれの武器を向けた。鎌、鎚、ブーメラン、剣。ふさふさした何か?は武器に入るのだろうか。

指揮官がいなくなって混乱している個体など敵ではなかった。

 

 

「…えっと……『貴女は 何故 いる?』」

 

アイルーが私達の言葉で話しかけてくる。練習したのか?凄い危険な行為をしている……私以外の個体の警戒心を解いてから近づく必要があるのに。

 

「『人間の言葉が分かるのでそちらで構いませんよ。』」

 

私はこう返す。

先程私は、アイルーの巣に連れてきてもらった。

 

「染みるから耐えて下さいませ!」

「貴女は何故ここにいるのですかにゃ?」

手を前にかざしてうつむき笑い、肩から縄をひき、檻をガシャガシャする。を表現する。

「なるほど、密猟者に連れてこられたとにゃ。」

 

うっ…足に染みる。切断した面になにか塗ってもらっている。虫は足をしばらく繋げれば再び動く様になる種類もいるそうだが私達は再生能力が高いため切断してもしばらくすれば新しく足が生える。……白い突起が見える。既に生え始めているのだが!?塗ったアイルーを見る。

 

「これですか?甲虫用の回復薬ですよ。」

首に鎌の後ろを当てて仰け反る。

「びっくりしましたか。……これがハンター達の技術なのですよ。」

お椀を描いて物を入れる仕草をして首を傾げる。

「いえ、これはハンターの中の物好きが作ったものなので製作方法は分からないのです。あ、今度交渉してきましょうか?」

恐れ多い。鎌を横に振る。

「遠慮しないで大丈夫ですよ。ではまた1時間に回復薬を持ってきますね。」

「パントマイム上手いですにゃ。」

……反応に困る。

「照れなくてもいい――ヒッ!?す、すいませんにゃ!」

鎌を振り上げる。アイルーは察しがいい様だ。それより、こんなに効力が高いなんて人間の技術はどうなっているのか……

 

 

「しばらく泊めてあげたいにゃ。頭いいし……」

「ギルドには内緒だな。多分あれが噂の頭のいいアトラル・カだろう。」

「本当かにゃ!?」

「馬鹿野郎、声が大きい。まさか人語を理解してるとは俺も思わなかったが。」

「ネコートに伝えてそういう系の依頼は消してもらうにゃ。」

「あぁ。捜索狩猟依頼を出されたら困るからな。」

 




最前線のニャンターに聞いてみた!
最近の狩猟は?

「そうですね、最近は暴れ回る二つ名狩猟が多いですね。」
「だにゃ。めんどくさいにゃ〜」
「ただ世界にあんなに二つ名がいるなんて思いませんでしたにゃ。」
「私達なら狩りの範疇だから困りませんわ〜」


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個々

孤独な者の知識は多い

集団が出来ることは多い



目を開ける前から日に当たるのは随分心地よいものだ。

私は体を起こす。

 

「おはようございますにゃ〜」

「薬は既に塗り終わっておりますにゃ。それでは。」

頭を下げる。

 

……あの回復薬は化け物だ。正常な時には地面につける部分がほぼ出来ている。あと二つ…予想よりとても早く治りそうだ。

 

「アトラル・カさん……長いですしどうにか出来ませんかにゃ?」

「ハンターにも仮名ならバレませんにゃ。」

 

生物には元々名前なんてない。人間が作った言葉があって始めて名前という物が成り立つわけだからどう呼ぼうが気にしない。

 

「金虫とか?」

「アトラとかがいいにゃ。」

「妃でいい希ガスにゃ。」

「スパイダー?」

 

ことごとくアトラル・カを連想させる名前じゃないか……最後はネルスキュラだが。アイルーを捕食する名前は嫌だな。

 

「ア、虎、ルでアコルとか?」

「それでいいにゃ。」

「賛成する。」「賛成にゃ!」

 

まだ怖いがアグナコトルを連想するだろうから大丈夫だろう。

 

「今日は昨日の戦闘のせいで気球が浮いてるのででかけられないな。」

「あいつは上手くやってくれるから安心しにゃ。」

「地図でここら辺の地理を教えるにゃ〜」

 

 

バルバレ:ギルド

 

「という事で未知の樹海に向かったと思われますにゃ。」

「めんどくさい事になったな……」

「上手くヘイトを私達に向けてきたからしょうがなくアルセルタスとゲネル・セルタスを討伐しまくったのだけど〜」

「まぁ近くを彷徨いてる訳がなかったという事だ。」

「ありがとう。丁度5日後に未知の樹海にハンター達を送るのだが君達はどうする?」

「参加させてもらおう。」

「了解した。君達が来れば成功間違いなしだな。」

 

 

バルバレ:錬金術師の家

 

ここは少し前に流行った錬金を研究しているハンターの家。

レンキンと錬金を合わせる事も研究するというかなり本気でやっているハンターなのだ。定期開催の研究会の理事も務める。

 

「すいません。」

「あぁ君か。ベルを鳴らしたまえ。」

「ベルを鳴らしたら?」

「扉の鍵をしめる。」

「はぁ……で、」

「私の頼みを聞いて実行したら叶えてあげよう。」

「話が早いですね。私の頼みが大きかったらどうするのです?」

「長い付き合いではないか。私達は唯一錬金術師の目標の一つを達している。雰囲気で分かる様になる時間はあっただろう。」

「……私もおかしいとはいえ、貴方ほど頭のネジが外れてる訳ではないですから」

「頼みはM-x、Bh-hをそれぞれ1だ。」

「やはり私もおかしいですね。既に用意してます。」

「つまり?」

「Ar-Apもありますよ。」

「話が分かるやつだ。」

「話はしてないからその表現はおかしいです。」

「それならさっきの君の発言もおかしいな。まぁいい。次は私が君の考えを当ててみせ――」

「甲虫種の回復薬の作り方を教えてくださいませ。」

「…分かった。」

 

ハンターは回復薬と書かれたファイルを開く。

彼が回復薬の研究を始めたのは回復弾が与える味方と敵の回復量の違いに疑問をおぼえたからだ。

 

「これだこれ。紙とペンだ。写したまえ。」

「ありがとうございます。」

 

 

アイルーの巣

 

私は笛をいじる。しかし残念だが一つ目の狩猟笛は置いてきてしまったから、何か出来るわけでもない。

 

「そんなに狩猟笛を眺めてどうしたのにゃ?」

笛を吹く。音が流れる。

「あぁ、使いたいのかにゃ?おーいきょーかーん!」

「その呼び方はもういい!で笛の使い方?よかろう、教えてやるにゃ!」

……暑苦しい。

 

とりあえず笛の使い方を教えてもらった。特定方向に振り回すと音色がセットされる……意味不明だ。

そしてやはりと言うべきか私に効力はない。

 

「随分いい音色になったな!」

アイルーはそういう。私には最初と何も変わらない様に聞こえるが効力が上がってたりするのだろうか。

「本日はここまで!解散!」

 

結局夕方まで吹き続けた。周りのアイルーが元気になっている。

 

 

夜。

1匹のアイルーがやってきた。

 

「ワシに任せるにゃ。」

 

鎚を持った髭が濃いアイルーが言う。

……まさか、鍛冶屋?

 

次の日。起きた時には既に形が変わった狩猟笛があった。





狩猟笛はクルペッコをモチーフに作られた説は学者の中で少数だがいる。


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怪物の笛


同種を危険に晒せないにゃ



「……」

………

 

竜の巣跡に鍛冶アイルーと来る。

笛を構える。2度振り、吹く。

 

ォォォォォォ……

 

腹に響く低音がする。それと同時に体が軽くなる。

まずは歩くことからだ。

 

「気をつけにゃ。ハンターとモンスターじゃ強化の影響が違うかもしれにゃい。」

 

遅い。私は派手にずっこけた。右後ろ足を地から離した瞬間にバランスを崩す。

 

「…」

見るな。

 

足が揃ってからやるべきだったか……まずはこのふわふわした感覚になれることから始めよう。

鎌を振る。空気を切る音がするが、空気抵抗がない。つい右に跳ぶ。

バキバキッ!

 

「……」

…見るな。

 

予想以上の脚力で自分を壁に叩きつける事になった。この状態をハンターは使い慣れているのか…

 

「アコル。こう…こうやってふるにゃ。」

頷く。

 

笛を三回振り、吹く。ォォォゥゥゥォォォ…… 少し高い音が混ざる。吹き終わった瞬間自分を叩きつけた際に出来た傷が治る。体力回復か。

再び鍛冶アイルーの言う指示通り振り、再び吹く。

……うわぁ気持ち悪い!?左前脚が目に分かる速度で治りながら伸びてる。

 

「………予想以上にゃ。」

いや、私の体に負担かかるだろうこれ。

 

気持ち悪い速度で治る足は残り一夜ぐらいの所を時々吹きながら休んでいる20分で治ってしまった。治癒促進か…ただ、疲れた。代償があるのか……当たり前だな。

 

「疲れたならこう、こう、こーやってこう。」

疲労回復か?

 

ァァァゥゥゥァァァォォォ…… 更に高い音が混じる。拭き終わった時に疲労が無くなる。もしかして笛って凄い武器なのか?四本の足で地を踏みしめながら思う。

 

「いいにゃ。しかし……さすがにこんなに音を鳴らしていると敵がくるにゃ。」

 

確かに。振り向く。そこにはケチャワチャがいた。敵は小さく叫ぶ。

2回振り、吹く。体が軽くなりふわふわした感覚に陥る。

ケチャワチャが走ってくる。飛び退く。

 

落ちる。

 

「おい。」

 

私は馬鹿をした。ついいつも通りに距離をとろうとしたが……

そのままツタが網になっている場所に落ちる。ケチャワチャが滑空しながら狙いを定めている。そのまま私に爪を叩きつけようと宙返りをする。

わかりやすい。鎌を振り抜く勢いで回転しながら回避する。

ケチャワチャは切りつけた腕の痛みを無視して走ってくる。そのまま左手を振りかぶる。笛で弾き、糸を撃つ。捉える。更に糸を当て続けながら念の為再び自己強化の音を鳴らす。これでしばらくは続くはずだ。

 

これが必勝法だ。

 

ケチャワチャを振り回し蔦に叩きつける。蔦は破れ、穴が空き、地に落ちる。私も出来た穴から降り、再びケチャワチャを壁に叩きつける。柱が崩れ落ちる。瓦礫から引きずり出し、引き寄せ笛で叩く。糸に絡まってない腕で攻撃してくるが鎌で切りつける。そしてまた壁に叩きつけ、次は糸を切りそのまま投げつける。体に巻かれた糸を破ろうとしているが、10回以上巻いた糸を破けるはずがない。そして瓦礫を何個も糸で撃ち出す。瓦礫を撃ち切った時にはケチャワチャの息は無かった。

 

なるほど。糸の強度は私が笛で強化されてもまだ限界が見えないレベルか……

私と同じ体格ならもう敵はいないな。

 

「一方的だにゃ……」

避ける知能があったら逆に大変だ。知能あるモンスターは私だけでもかまわない。

「……」

……何か言いたいのだろうか?

「……ふふふ」

なんだ?

「……あははっ!あーはっはっ!はははは……ついにワシの夢が…」

……

「じつはな?ワシはモンスターに武器を持ってもらいたかったのにゃ。ワシはハンターが強くなった後、一方的に弱いモンスターを狩り続けるのが嫌でな、いつしかモンスターも武器を持たせたいと思う様になってたのにゃ。」

頭に鎌の先を当てる。

「そう…モンスターには武器を操る程思考がないのにゃ。だから…それは本気で連日作っていたにゃ。」

……笛を地に当てる。

「大丈夫。それはワシの出来る最高の技術、こっそり集めた最高の素材。それで出来ているから絶対壊れないにゃ。あぁ、あの笛は再利用させて貰うにゃ。それでこの笛は吹いた者だけが――」

 

話が長くなりそうだ。適当なタイミングでアイルー達の巣に帰るか…

 

 

「おぉ、アコルおかえり!」

「お帰りにゃ!」

「…足がなおってる!?」

「ほんとだ!」

 

アイルー達が集まってくる。

 

「メラルー!メラルー!話してたアコルよ!」

タタタ…

「おぉ!ほんとだ!」

「くらいやがれ!ピコピコハンマー!」

 

叩き飛ばす。

 

「ぎゃぁぁ!」

「にゃぁぁぁ!」

「ごめんねぇ、悪戯好きなのよこの子達…」

 

まぁ、刺すような視線は1箇所からしか感じないからそれ以外の私への対応は分かっている。

睨みつけてくるアイルーに近づく。

 

「それ以上近寄るにゃ!」

 

殺気をとばしてくる。なるほど、こいつもあの4匹組みたいに強い奴か。

 

「私の事はネコートと呼ぶがいい。さて、今回は指示をだしに来た。あちらを見たまえ。あちらは未知の樹海と呼ばれギルドには君があちらに逃げた事になっている。」

頷く。ここまで理解が出来る。そして何が言いたいかも分かる。

 

「つまり――そういう事だ。」

 

私は樹海へ歩き出す。

 

「どういう事にゃ!?」

「未知の樹海に姿を表す事で新たな生息地に見せかけるのだよ。」

「……にゃるほどな〜」

 

私はアイルーの巣をあとにする。多分戻ってくる事は永遠にないだろう。笛、球。これを使って狩人から逃げるか、殺すか。

だが樹海…木はどのぐらいの間隔だろうか。

私はまだ見ぬ地形で作戦を立てる。

……この辺は全く長居出来なかったな。空を見上げる。……あの怪物はいないな。よし、進もう。

 

 

次の早朝

 

バルバレ ギルド

 

「知能あるアトラル・カを未知の樹海に行かせました。」

「よくやった。」

「あとはお願いします。」

「大丈夫。任せな。」

「報酬を。」

「あぁ。」





未知の樹海――

死が全ての生物につきまとう楽園


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前座

転生ゆうたは†キリト†と名乗る。
換装してエレンと名乗る。
強者の動きが出来、チートを貰い考えないで勝てる存在は

実力は育たない。


僕の名は†キリト†。

転生者だよ。

僕は転生した時に神様?みたいな声からたくさんチート貰ったんだ。

攻撃倍増、極限防御チート。常時強走状態。その他色々。どんな攻撃も効かないから禁忌だって倒せる。

今日はアトラル・カだってさ。余りなめないで欲しいね。この世界のアトラルは弱い。もっと強い奴じゃないと張り合いがないのに……

とりあえず未知の樹海につく。

 

「キリトさん、まずは私達が行ってきますね!しばらく待ってて下さい!」

 

イケメンだとこういう事になるから楽だ。しかし、なんだ?このアイルー達は。さっさといけばいいのに。

 

「本当にアトラル・カが来たらしい。」

「はぁ!?」

「行かせたのはネコートのようだ。……危険は排除したかったのだろう。」

「アトラルが敵だと相当ヤバい。」

「誰かが注意を引く、というのが出来ませんからね。」

「負けかけていたとはいえ私達と違って1体で閃光玉とか使えないのにあんな大量のアルセルタスを相手にしてたからね〜」

 

は?何を言っているのこいつら。たかが虫1匹に古龍装備に二つ名武器の彼女達が負けるわけがない。まだ行動していないハンター達と相談しているアイルーが哀れに見えた。

そして僕にも話を振ってきた。

 

「どうやって倒します?アトラル・カ。」

 

そんなの決まってるだろ。

 

「行ってくる。」

「は?」

「え?」

 

まさかこのアイルー……僕の強さを知ってない!?

馬鹿阿呆ドジまぬけちび存在がゆうた!

こんな馬鹿達と一緒にいられるか!

 

 

「行ってしまいましたね。アイルー殿。」

「肉盾が減っただけだ。気にするな。」

 

 

僕が見たのは彼女達の倒れた姿だ。

 

「うそだろ……!?起きろ!おき――」

「きゃぁぁあああ!」

 

絶叫に振り向く。そこには――

 

ヒプノックに襲われている彼女がいた。

 

「待ってろ!今助ける!」

 

双剣でヒプノックを切りつける。本来与えるダメージより倍与えるため、簡単にヒプノックは弱っていく。

 

「くらえ!スターバーストストリーム!」

「きゃぁ!キリト君の必殺技よ!」

 

 

下手なパクリのため動きはかっこいいが本来なら浅い傷しかつかないへなちょこな斬撃がヒプノックを襲う!

 

 

騒がしいと思って来てみたが……なんだあいつ。あれは全く攻撃になってないはずだが……明らかにヒプノックは怯んでいる。

まさか1回1回の斬撃でスイッチとかで双剣の先っぽが抉るように回転しているのか?

まぁ私から攻撃をしかける必要はない…拾ったこれだが、いいな。確か双眼鏡っていうのだったか。

 

 

「大丈夫か!?」

 

僕は彼女達に駆け寄る。幸い全員浅い傷でただ眠らされていたようだ。

 

「ありがとう、キリト君。」

「あぁ。無事で良かったよ。ねぇ、スキル観察眼で見えない?」

「えぇと……あそこにいます!」

「よし!僕についてこい!」

「「はい!」」

 

 

あ、私に気づいたのか。そういえば狩人にはスキルなるものがつくらしいな。馬鹿みたいに走ってくる。ただ、先頭の男は何かおかしいから気をつけなければ。

笛を2回振る、自己強化。近くに来るまで待つ。

 

「やぁやぁ!僕はキリト!君は知能があるらしいじゃないか!」

 

明らかに実力と中身が一致していない。糸を放つ。馬鹿は一振りで糸を切ってくる。

再び放つ。同じように切ってくる。

……まさか馬鹿だけ空間が歪んでいるとかじゃないよな?明らかにおかしい。

 

「悲しいよ。君ならとっておきのパートナー――」

うるさい。

 

糸を地に何発か当てる。そのまま強化された足で後ろで息を上げてる女ハンター達に近づく。

 

「彼女達に手を――!」

バキッ!

 

地面を抉りだし壁にする。そして鎌を振る。

 

「キャッ―!」

 

……は!?装備と実力が割にあってなさすぎる!?いくら私が強化されてても回避行動をとろうとすることは出来るはずだが!?

 

「いやぁぁ!」「きゃぁぁ!」

 

さっさと全員の首を刎ねる。馬鹿が来るまで10秒となかったが抵抗しない動物を黙らせる事にそこまで時間はかからない。

 

「……まさか、全員殺したのか!?…お前はただの怪物だ!」

 

……それが今までモンスターを狩って来た奴がいう台詞か。この世は実力社会。文字通りの弱肉強食。生き抜くには周りを殺す必要がある。

あと、お前が気に入らない。

 

「仇討ちだぁぁぁ!」

 

適当に振ってきたので回避。

 

「リニアー!」

 

笛で受け流す。……これ、もしかしなくても私が負ける事が無いのでは?

通り過ぎた馬鹿に糸を巻き付かせる。

 

「うぉぉ!」

 

ダメだ、相手がちぎる速度の方が早い。

 

「フェル・クレセント!」

 

素早く正面から近づいてきたので笛で吹っ飛ばす。転がった所に球を叩きつける。

終わったか……

 

 

僕は球を跳ね除け僕はアトラル・カを刺す!油断したな!そして僕は特殊能力を発動する!

 

「今はキリトじゃない……エレ」

 

 

二段階で衝撃が来た……かなり痛い。

この世から――って叫んでいる馬鹿を無視して体力回復を吹く。今私はスキだらけなのだが……

 

さて、馬鹿は何か機械を装着した。さっき隆起させた地面を投げる。

当たった音がしたが馬鹿は上空に飛んでいく。

……違う、私と同じ移動方法か。

 

「うぉぉぉ!」

 

私に向かって…ロープか。私はそれを避け、馬鹿は不思議な双剣を構えて回転しながら突進してくる。

再び飛び退く。地に降りた瞬間こっちに煙を出しながら飛んできた。糸を放つ。相手は切り払いながら双剣を構える。私は笛を構える。

 

ガキイッ!

 

笛で勢いが減少した事を確認して腕を切る。

 

……硬い!?全く傷がつかない。まぁ、そういう生物にしておこう。

しかし……なるほど、いつも防御力任せに正面から突っ込んでも勝てるから馬鹿なのか。

私はできるだけ怪我をしない立ち回りをしているから馬鹿みたいに突撃してくる奴は簡単に勝てる。……防御力が高いのか。相手の頭が途中で良くなったり私の集中力が切れると困る。逃げるか。

 

「そぉぉぉっらぁ!」

 

馬鹿は私の後ろに回り込む。ただ余りに大きい円をえがいているため振り向く時間がある。

単純な速度が速いな……私の糸じゃ負ける。トラウマでも植えつければ私は逃げれて馬鹿が天才になるチャンスを得るからお互いにいい事になる……まぁ私が逃げたいだけだが。

 

 

くそっ、なんなんだ!?なんで当たらないんだ!!なんで見切るし、なんで対応出来るんだ!?

知能あるってなんなんだよ!なんで腕を切れないからって攻めてくるのをやめるんだ……

……え?彼女達に何を…?

 

アトラルは鎌を振りかざし。

叩き切る。

 

アトラルは捌く。剥ぎ取る。返り血を浴びる。ハンターがモンスターに行う事を死人に行う。

弱者はただ震えるのみ。

 

 

「……アトラル・カ。」

「あってしまったにゃ。」

 

来たか。

…駄目だ。逃げよう。今の私には勝てない。直感から分かる。

後ろの木に糸を放つ。

 

「待つにゃ!逃げるのかにゃ?」

「うわ〜だっさいわ――」

 

死体を投げつけ自分を木に引きつける。

挑発に乗るのは油断と同じだ。

 

 

「…………ぁぁぁ!」

「馬鹿が。先行したらこうなる。」

「ですねアイルー様。しかしどうしましょう。」

「あぁ。今回はアトラル・カの討伐を頼まれている。諦めることは出来るだけしたくない。」

「しかしあいつは逃げるからな…」

 

初めて見る人間の惨殺死体に震えるハンターを他所にアイルー達はアトラル・カを殺す策を立てる。

 

狩りが始まる。




†キリト†

神選者の一人。仲間を連れるが戦闘スタイルはソロ。仲間は援護にまわる。
神選者の中でも随一の防御力はどんな攻撃も通さない。
禁忌を正面から殺し、極み吠えるジンオウガを正面から撃退せし者。
攻撃形態が二つあり、片方はトリッキーな動き、片方は立体的な移動をする。
弱みは防御力にものを言わせるためもし知能が高い生物が出てきたら勝てない確率が高い。

例のアトラル・カに負けた模様。
やはり例の奴らと戦わせなくて正解。


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乱入者

Welcome to ようこそ未知の樹海!今日もドッタンバッタン大騒ぎ(ウッホホホッホウッホホホッ ウッホホホッホウッホホウホホホウッホホホ)うー!

ゴオォォォォ!!
(BGM差し替え、健啖の悪魔)


おそらくアイルー達は今は私を殺そうとしている。

逃げよう。絶対に見つからないように…。

 

木から木に飛び移る。ケチャワチャに見つかる。

気にする暇はない。一気に右に飛ぶ。そして左。

このままなら彼らには見つからない位置まで逃げれるだろう。

 

 

と、モンスターに追われながらも私はかなり遠くまで逃げた。遺跡が見えるが、調べる程の余裕はない。モンスターが寄ってきても困るため深呼吸で息を整える。

しかし……空気が綺麗とは聞いていたが砂漠より湿ってるな。流石に私基準であるわけがないが――

 

ボコッ!

 

正面から植物が…!?いや、違う――

 

「ゴオォォォォ!!」

 

イビルジョー……!?

気づかれる前にすかさず糸を使い逃げる。しかしイビルジョーはすぐに私を追い始める。

単純な速度なら私の方が速いのだが、自己強化は切れているし直線で私を追いかけてくるため中々差が離れない。途中からケチャワチャが追いかけてこなかったのはその為か?私の本能は警鐘を鳴らさなかった……

 

あ。

 

糸を外す。

落下した私にイビルジョーは飛びかかってくる。とにかく避ける。球が重い…!笛を2度振る。岩を避ける。吹く。噛まれる前にまた糸を木に当て逃げる。差が縮まってしまった。

 

このままだとアイルー達の所に戻ってしまう。しかしイビルジョーに勝てるだろうか……嫌だ!勝てない!戦いたくない!――

いや、こいつなら勝て……逃げるのが一番いい。

逃げよう。逃げよう。逃げよう。

アイルーからも逃げればいい。

 

私はイビルジョーを中心に大きく半円を描こうとするがやはり内側で回る方が早い。

イビルジョーの口が届く前に再び直進する。

苛立っているのかイビルジョーの筋肉が盛り上がる…!

 

あっ!

 

再び糸を外し地に落ちる。

た、戦うしかないの!?…か!?

落ち着け私!こいつはあいつじゃない。そう、さっき撃退した馬鹿と同じ…!

鎌と笛を構える。

頭を振ってくる。バランスを崩しながらも避ける。岩に糸を放ち投げつける。イビルジョーは頭突きで破る。噛み付いてくる所を避け、鎌を振り落とす。傷をつけた。しかし唾液を浴びて体が…痛まない?よく分からないが助かった――

イビルジョーが…咆哮する!

 

「ゴオォォォォ!ァァッ!」

 

……予想通りだったのに何も考えられない。逃げなきゃ。とにかく早く離れる。笛を吹きまくる。地面を壁にする。――それでも追従してくる…!

 

 

アトラル・カが見たことない動きをしながら私達の頭上を超える。

 

「でかした。」

「グルゥゥ……」

 

 

はぁ…!はぁ…!逃げ切った。疲労回復の旋律を吹く。

落ち着け……落ち着け。いつかは会うんだ。たまたま今だったという話だ。

 

「いたにゃ!」

 

ここでアイルー達か。

くっ。先程の恐怖からまだ震えている足で立つ。

タイミングが悪すぎる。

 

「レディ…ゴー。」

 

鎚が先行をきってくる。6人か。逃げたいがイビルジョーに戻ることになる以上不可能か……

アイルーを追い越すようにとても速いハンターが来る。タイミングを計り鎌を振る。

 

バァン!

 

ハンターが爆発音と共に空に跳ぶ。悪い予感がするため笛を構える。

 

バァン!

 

再びの爆発音で回転しながら落下してくる。私は笛で受け流し、ハンターが私の後ろに着地した音を聞く。ハンターは隙だらけだろうが次は鎚のアイルーだ。あの連携を見る限りアイルーの方が危険だな。後ろのハンターにも気をつけよう。

体を逸らし頭狙いの攻撃を避ける。すかさず鎌を振るが受け流したり回避される。後ろから再び走る音が聞こえる。体を右にずらす。

 

大剣が抜刀斬りしてくる。鎌を振り下ろす――閃光が光り見えなくなったため、感触からして余り深い傷にならなかったようだ。

鎌に痛みが走る。おそらく大剣か。……このままではまずい、思い出せ…さっきから見ていた景色はどうだった?また爆発音と共に近づいてくる。大剣も振りかぶっているだろう。

 

また横に体を滑らせ、跳んだであろう爆発音に合わせて糸を放つ。当たらない。笛を振る。少し当たった感触があった。爆発と共に離れたようだ。

視界が戻ってくる。大剣が薙ぎ払ってきていたが、対応が遅れ足に怪我を負う。笛を振りかぶる。大剣はガード体制をとったため全力で球を叩きつける。大剣が曲がった事を確認して斬りかかる…背中にアイルーがいる!?

 

「ニャニャニャニャニャ!」

 

危険だ。このままでは一時的に意識が飛ぶかもしれない。暴れたい衝動を抑え、鎌を振る。

 

「おっと!」

 

糸を放つ方へ逃げたか、アイルーに笛を糸で振り回し叩きつける。

 

「ギニャッ!」

 

離れたか――ぐうっ!?なんだこれは!?

痺れて動けない。…いつの間に罠が?全身が震えるため、攻撃は出来ないが笛ならなんとか振ることは出来そうだ。

 

「おかしいねあいつ〜」

「シビレ罠にかかっても根性で動くか。だがチャンスに変わりない!!」

 

私は一方的に斬られる。足も鎌も傷つくが、まだ私は動ける。……イビルジョーは来ないで欲しいな。こんなに騒がしいが気づかれてはないようだ。

罠が解ける、全身がボロボロだ。血も流れている。爆発と共にまたハンターが跳ぶ。

 

「はぁぁぁっ!」

 

回転落下してきたハンターを笛で殴り逸らす。旋律が出来た。

糸と体を動かし木の上に一気に乗る。

 

「まてにゃー!」

「――まさか!?」

 

 

低い音が鳴り響く。アトラルの傷は急速に治っていく。近接ばかりの彼らは眺めるしかない。再び吹く。吹く。

完治とはいかないものの、戦闘前より状態が良くなった。

アトラルは作戦をたてる――

 

 

私の視界が急にブレる。足の感覚が無くなる。まさかハンターの武器に麻痺が混ざっていたのか……?

すぐさま逃げる。糸をだす感覚、糸が当たる感触、足が木を蹴る感触。全てがなくなっていく。これは…神経毒か。しばらくしたらあのキノコを食べた時の様になるな……しかし、小さい時に見たセルレギオスを狩っていたハンターは即効性の痙攣する麻痺だが……

 

駄目だ。そろそろハンモックを作ろう。本格的に動けなくなってきた……よし。まだ日が出ていて危険だが地に降りるよりは安全だ………っ――

 

 

「逃げられたか……想定内だ。」

「まぁなんで立ち向かってきたのか分からないにゃ。」

「しかしアイルー様。逃げる時少し変でしたね。」

「はぁ……大剣がこんなに曲がるとは。」

「笛を吹いた事を見れただけでも大変な収穫だな。予想より更に知能が高い。」

 

 

 

次の日 早朝

 

くっ…!?ど…毒が全身に…?笛が振れない…!

 

アトラルは全身に回った毒に苦しんでいた。悶えるが痛みが引くような前兆はない。

余りの痛さにアトラルは死を覚悟する。だが体が脆くなったような様子はない。

 

痛みだけか……しばらく動けないな…うぅぅ…

 

 

「みぃつけたぁ♪」

 

私を狩りに来たか!どうしようか…まずは寝返りをうって現状把握をしなければ。

 

「いきな!」

「ゴオォォォォ!ォォォ!アッ!」

 

なっ、イビル――!?

うわっ…!

 

「ァァァァァァ!ァァ……」

「流石は私のジョー!しかし拠点に近いとはねぇ。よぉしよし。」

「グルル…」

「さっさと帰って提供したら飯だ飯!」

 

調べなかった遺跡。まさかそこが組織の入口なんて気づかないのは当たり前だ。イビルジョーは気絶したアトラルをくわえたまま入っていく。

遺跡をくぐった先には、檻、取引所、研究所、闘技場。様々なモンスターが集められた闇社会の組織だった。ドンドルマに近いが隠蔽しきる力もある。

 

 

1匹の美しい色の羽をしたランゴスタが見ていた。

奇妙な羽の音を鳴らす。

 

ホウコク アトラル ホカク ラチ ロウヤ

 

リョウカイ イソギ イッテキマス ジョオウ ヘ

 

どこかに潜んでいたランゴスタが答える。

そして小さく最近作られたような穴に入っていく。

 

世界は広い…女王にも種類がある。

堕落した女王もいる。

肝が据わっている女王もいる。

 

頭の良い女王もいる。




ゴーヤ オクラ キュウリ


煤舞(ばいまい)ラギアクルス

参考資料:焦げたノート
エメラルドグリーンに変色したラギアクルス。
俺達は警戒しながら見ていたんだが…
まさか自然の雷を地面から出すとは思わなかったよ。
一瞬でハンター達が消し飛んで後に舞うのは煤と残った雷だよ。
異常なんだよなぁ、大体どこ
(ここから先は焼けていて解読不能。)


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デジャブ

「やった…やったぞ!やったぜ。」

「また何か作ってる……」


はぁ…はぁ……!

あれから三、四度再び気絶したか。

非常にまだ体が痛むが、大分慣れてきたのか気絶はしない。

かなり痛むが部屋を見渡す。あぁ、何の変哲もない独房だ。またこういう光景を見るとは……

 

イビルジョー……奴の唾液にきっと毒が入っていたはずだ。浴びたあとハンターに傷をつけられ体内に少量入ったという事か。

 

笛も球もないか……檻も私の体液噴霧に対策したのか明らかに変な色をしている。触れてみる。

いたっ。

電気が通っているのか。脱出は不可…。おっと、人間が来たようだ、出来るだけ闇に潜ろう。

 

「――よし。次は君か。」

 

――?

 

「相変わらず君は元気だね。ケチャワチャはもっと落ち着いてるはずなのに。」

 

――!?

 

「さぁ、アトラル・カ。おーどーりーだーす。はーっ!」

 

ひたすら回る。当時、まずはこうやって遊んだものだ。

 

「…君か!?また捕まったのか!!いやぁよく覚えてくれたねぇ、全てのアトラル・カに言ってきて良かった。しばらく待ってな!色々持ってくるから!…体調良好、体が痛む様だが自傷行為は無し。」

 

体が痛むのに体調良好なのだろうか?

まぁいい。

彼は名乗らぬ飼育・研究員。昔、砂漠を知らない時に捕まった時も彼だった。とりあえず安心だ…彼はモンスターの衛生面に気をつけてくれている。トイレなども用意してくれるだろう。

 

私に最も知識を与えてくれた人間だ。感謝してもしきれない。当時の私は子供の言葉しか分からないため、複雑な思考はまだ出来なかった。

例えるなら…

 

相手が腕を上げる→『あぶなそう』→『怖い、こっちに逃げよう!』→『うわっ』

 

相手が腕を上げる→『右腕か』→『あえて相手の右に回ろう』→『腹がガラ空きだ』

 

のような違いだ。彼は普段の私の反応から思考力に気づき、色々教育してくれた。あのまま私が自然で生きていたら絶対に死んでいた、だから当時捕獲されたのは 不運 ではなく 救済 されたという事だ。まぁ今回は不運だが……

 

(ワァァァァ!)

 

非常に遠くで歓声が聞こえる。闘技場があるのか……

 

ああ、私に辞書や図鑑を持ってきたのも彼だ。最初は理解出来なかったが、頭がおかしいからか、彼は文字を1から私に教えてくれた。そこからは早い。あっという間に本が読めるようになった。本が読めるようになると私の聞こえる範囲の喋る難しい単語も分かり、新たな言葉を理解する事が出来る。まぁ、檻の中だとそれぐらいしかやることがないのだが…

 

「アトラルぅ!新しい図鑑よ!問題100問、アトラル・カ!頑張れよ!」

 

本当に……感謝しながら馬鹿にする。

 

ふむ。結構古龍が増えてるのか。

オストガロア。二つの頭を持つが破壊時には触手の形を表す。…イラストからすると……イカ?というか本物の顔がでている。次のページでは…とんでもない光線を放ってないか?

 

ネフ・ガルムド。未開の地の古龍。非常に肉体的な攻撃が多い。尻尾に感応結晶をつけると、強化される。ハンターも装備す……シュールすぎる。遺跡を投げるとか私の上位互換か?

 

エルゼリオン。ディスフィロアのうざくなったパターン。攻撃力は少し低いが行動頻度が高いうざい古龍。炎氷塊をリオレイアしたらケオアルボルしてアルバトリオンする……これを書いた人大丈夫か?

 

ケオアルボル……これか。

ケオアルボル(太陽より熱い)

もっと熱くなれよ熱い血燃やしてけよ!(部位熱膨張)

人間熱くなった時が本当の自分に出会えるんだ(熱気大放出)!!

だからこそ、

もっと熱くなれよおおおおおおおおおお(砦破壊大熱線)!!!

 

これ本当に図鑑か?え?非公式図鑑?なるほど。

 

ん、一番のお目当てだ。

 

アトラル・カ。虫。冗談抜きで人類の敵。単体だと非常に弱いが、人類の武器、装甲を使ったアトラル・ネセト(アトラル・カの巣)キィェァァァァァァ(絶望的強さ)。対策は更に上に行く技術を作るか、犠牲を出しながら見える糸を千切り行動停止させて本体を叩くか。

 

あ、巣は作る物なのか。知らなかったな……ふふふ……

しかしなんだ?イラストのネセトは竜みたいな顔をしているが……あぁ、大きい竜に見せかけようとしているのか。しかし強さからして顔を無くして何かを射出するようにすればいいのに。そこは本能か。まぁ……かっこいいな。

 

次は、バルファ――

 

「はい、シャーペンと折りたたみ式机!」

 

しまった。問題を見てなかった……

 

 

「63点!どうした?自然界に出たろー?」

 

リオレイアとイャンガルルガの毒の出し方の違い とか

ナバルデウスの髭はふさふさ?カチカチ?チクチク?なんて分かるか!!

 

「しかしさぁ……聞いた話だけどよくイビルジョーに立ち向かったな。アイツに恐怖を感じていないのか?」

……顔を背ける。

「あーやっぱりか……」

 

脱出が出来た原因だが、まさか隣であれをされたらトラウマになって当たり前だ。

 

 

 

「ゴオォォォォ!!」

 

金色のオーラが建物を壊す。壁や柵が消し飛ぶ。

奴らは再び咆哮し建物を蒸発させる。恐怖から私の意識が無くなっていく。

 

「おら!逃げるぞ!」

 

彼が私を担いで走る。

後ろでは哀れにも戦いに向かった者を一咬みで食う、とてつもない轟音が聞こえる。

 

 

 

……はぁ。体中の毒が再び痛みを増した気がする。本来からイビルジョーは超危険生物だからこの恐怖は必要不可欠だが、逃げる事もままならないのは避けたい。

 

「――い?おーいアトラルぅ?」

 

おっと。短時間とはいえ昔を思い返していた。彼は私に対して人間に話すより早く喋るため結構聴き逃したかもしれない。

 

「悲しいけど明日闘技場に引っ張り出されるよ。」

えっ?

「まぁボルボロスだから大丈夫……と言いたい所だが一つも瓦礫とか用意してくれないからな。」

 

笛による自己強化がないと地面を抉ることが出来ない…。いや、勝てる。大丈夫だ。ラングロトラ以下だろう。

 

「あぁ、あとこれ。成長促進剤。飲め。残さず飲め。」

 

彼の悪い癖は他のモンスターに試した薬を私に持ってくる。危ない。

 

「今までお前は一つも薬が効能が出なかった!」

 

だから捨てている。

 

「さぁ薬だ!水も用意してるから飲んでくれよ!じゃぁ仕事あるんでまた後で!」

 

副作用が明日出たらどうするのだろうか。あと栄養吸収が促進されるだろうから毒も吸収されるはず……。

踏み潰す。大体、錠剤の時点で人間以外には向いてないはずだが。

自分の思考が仮定ばっかで困るな……。

 

ブブブブ……

 

羽音?

ふと見上げる。……私の笛を持ったランゴスタだと?とっさに檻から手を伸ばそうとするが電撃に弾かれる。

……無理か。気になる……何故ランゴスタが?

 

 

次の日

 

はぁ。これが重い。こんな物なんて私には要らないのだが。

 

「今日のぉぉモンスターはぁぁ!最近噂のぉぉアトラル・カぁぁ!ブゥァサァス!」

 

「『檻の中で突如巨大化!』ボルボロォォッス!」

 

おい。明らかにあいつのせいだろう。

 

扉が開けられる。重りを外してくれる。さっさと入って地形を把握しよう……非常におおきく平らな円形。その周りは水か。

さて、問題のボルボロスだが――

 

 

はぁーー、すぅーーっ、

 

作用が副作用じゃないかぁぁぁ!!

 

イビルジョーぐらいのボルボロスが叫びながら入ってくる。

飲まなくて良かった。

……そういや属性吸収剤を飲まされたランゴスタがいたが、場所が違うだけで全く同じじゃないか。当時は負けたな……おっと、突進の構えか。




名乗らぬ飼育・研究員

昔からいる神選者。
力は強いが特に周りより優れている事がなく、モンスターを狩る事を拒んだため、下位ハンターだった。
しかしある日、酒場で寝落ちしていた彼のモンスター観察日記をギルドマスターが閲覧、その出来から研究員に抜擢される。
ただ、相変わらずモンスターを傷つける事を嫌がるため、飼育員と研究員の中の薬剤開発の役目に落ち着く。
イビルジョーを飢餓状態に落とす事を反対し、それでも押し通されたため、体調を崩さないか心配して毎日観察していた。


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脱法娯楽

彼が不自然に手に力を入れている。

「……賭けたのですか?」
「……さぁな。」

視点:人間


さて。

ついに私達はギルドに潜り込んだ奴らの目を掻い潜る事が出来た。

裏では新たな特例の個体にするべきか悩んでいるアトラル・カの一連の流れ。

そのアトラル・カが入った以上未知の樹海に私達が入ることに理由付けは必要なくなる。

ついに実態が掴める日が……

 

「この遺跡か……」

「用意は出来ている。」

「改めて確かめる。何があっても扉まで無視して歩いて直進すること。いい?」

「あぁ、分かった。ヤク中みたいに判断力が低下しても通れる仕組みだな。」

 

周りを確かめ、普通に遺跡の下り坂を進む。

 

目の前の床から槍が出てくる。私達の場所だけ引っ込む。

岩が後ろから転がってくる。そっと彼が刀を抜きたがるのを抑えるといきなり私達の後ろに穴が開き岩が落下していく。

中央に匂い粉を発する機械があるが、お互いに手を離してわざとではないように見せる避け方をする。……止まらない。この機械だけ例外か。運が良かった〜……

 

壁に突き当たる。丸い模様の中心を殴ると扉が開き、ローブを来た誰かが手を出してくる。ここからはアドリブかな。

 

私はバックを渡す。彼はアイテムポーチを渡す。

 

「……イヒヒ、引っかか」

 

馬鹿なローブを殴り立ったまま硬直させる。これでも私は一応ドンドルマのギルドナイトだ。人間を立ったまま気絶させる事が出来る。

 

彼も同じ事をしたようだ。さっさとその場を離れる。

 

しばらく進むとパンフレットがある。まずは何から回ろうかな〜。

 

「遊びに来た訳じゃないだろう。」

「しーごーとーでーすぅー。まずは上で腹ごしらえでもしましょー。」

「お前……言葉使いですぐ分かるのだが。おい、待て!……はぁ。」

 

 

階段を上り、食器音や会話で騒がしい大広間に出る。ここにカレーがあると書いてある。なんという偶然!私はカレーが大好きだ!

店を見つけ、メニューを確かめる。大盛カレー120zか。……目立つのも嫌だし2皿にしておこう。あ、隣は焼きそばかー。…まぁ1皿ぐらい大丈夫ですよね。……ん!?刺身!?東方から来た料理ですか!えっ、蕎麦!?おぉぉ、すっごい!ど、どうしよう……

 

 

「「31番!」」「31番!」「「31番!」」「「31番!」」

 

 

 

俺の相方はブラックホールだ。……わかりやすく言えば底無しの胃だ。

さて、我々ギルドナイトはあらゆる事をする存在、いわば雑務を担当している。いつもはハンターなどに身元を隠しあらゆる所に点在し、かなり大変な時や暗に行わなければならない事のみギルドナイトとして出動する。だが俺達はドンドルマ直属のため、普段から色々な事を命令されており、ギルドナイトとして毎日を過ごしている。

まぁ幸い月収+依頼ごとの報酬によって金に困る事は無い。

 

それで、言いたい事だが…ギルドナイトはソロか二人組の場合が多い。俺達も二人組という訳だが……はっきり言って彼女は俺以外とペアを組むことが難しいはずだ。

敵陣地に忍び込んだのにこんなに大量の飯を食う大胆さよ……

 

「おぉいふぃ〜!」

「やめろ、目立つぞ。」

 

「31番!」

 

「まだ頼んでいたのか!?」

「食後のデザートは大事でーすよっ。」

「お前なぁ……」

 

彼女は立ち上がりアイスを取りに行く。その姿を見て思う。

こんな調子なのに任務は完了するというその実力は計り知れない。近くにいながら力を理解出来ていない俺は果たして――

 

 

 

拳を避ける。……理由は分かるがこの皿の量を見てなんとも思わないのか。しかも全て大盛りだし……。

あぁ、いっぱい食べる君が好きタイプか?

 

「よぅ、兄さん?アンタの嬢ちゃんちょい貸してくんないか?」

「本人に聞け。」

「あんたはワック!無いのかラック!俺らがファック!彼女をハック!」

「……どういう事だ?とりあえず彼女に聞けばいい。」

「あぁ。『強引』でも構わないな?」

「俺に聞く必要は無い。」

 

彼女が3段アイスを持って帰ってくる。

 

 

 

彼女を放棄するとか最悪な輩だな。俺達がアイしてやろう。イヒヒ…綺麗と可愛さが混じった良い奴じゃねぇか。

 

「よぉ、姉ちゃん!遊ぼうや!」

「あーいっすねー!」

「……!?」

「冷やかしですよー。冷えているアイスだけに。」

「……舐めとんのかぁ!」

「このアイスは舐めるタイプじゃないですよ?」

「言葉が分からん残念人間、綺麗に失礼、馬鹿に儚い!」

「学んだ物ではなく自分の言葉で話したらいいかもですね。ではー。」

 

なんだこの女。生意気だ、容赦はしない。通り抜けようとする女の肩を掴む。

 

「おい、待ちやがれ。」

「危なっ、アイスが落ちたら困ります!」

「いいから従いやがれ!」

 

横顔を一発殴る。

――女は居なかった。声が聞こえる。

 

「31番とサーティーワン、何か縁を感じます〜!」

「たまたまだろうが……」

 

 

 

やはりアイツらでは彼女を支配する事など出来ない。

さて。そろそろ移動しなければ……彼女は既にパンフレットを見ている。

 

「次はどうするの?」

「アイス食べながら仕事口調に戻られてもな……まぁいいか。」

掴みかかってくる輩の関節を外す。

「よし。次は賭博場に向かおう。」

「俺は異論なし。」

「チップは100まで。」

「……異論なし。」

 

 

階段を降り最初の階を直進する。半開きの扉を触らずに通る。

そこは赤い絨毯にシャンデリアが飾ってある部屋だった。

カウンターにいる賭博場の支配人がお辞儀をする。

 

「こんにちは。」

「チップを100枚。」

「今日は試しですか。1万zになります。」

「あぁ。この量でいいよな。」

「私もお願い。」

「了解しました。チップからの換金はあちらのテーブルで行っています。」

「ありがとう。」

「チップ100枚でございます。後でお確かめ下さい。よき時間を……」

 

初めて私は賭博場に入る。彼は既に何度か指令で入って慣れてるらしい、頼もしい限りだ。

 

「分かるだろう?」

「えぇ、明らかに動き方に違和感がある物が多い。」

 

急に減速が早くなるルーレット。

左手が不自然な動きをするディーラー。

回っている時の柄とスイッチ?を押して止める時に柄が一つ追加されるスロット。

やってみれば更に顕著に分かるはず。

 

 

「うぅぅ……なんでですか、分かってはいるのに……」

「ふふふ…普段が出ているぞ。」

「んっ、んんん、難しいね。スロット。」

「そうだな。ちょっと貸してみろ。よいしょ。」

 

777 ピーン!カカカカカカ。

 

「……それは新しい特技?」

「8通りの中からランダムなだけだ。」

「そう…。」

 

スロットを回し始めた彼を横目に見渡す。

大体の人間が頭を抱えている。中には泣いている人もいる。

 

そんな中、気になる看板が目に入る。

 

『三連戦!モンスターコロシアム!

 

一戦目

破壊の剛腕、紅兜アオアシラ

vs

狂気の遊戯 大雪主ウルクスス

 

二戦目

知略の王女 アトラル・カ

vs

巨体粉砕道 ボルボロス

 

三戦目

一瞬の輝き 渾沌ゴア・マガラ

vs

闘技の覇者――― 』

 

「あれを。」

「うん?……マジか。」

「私達が関わる前にこの遺跡が滅びそうだ。」

「今からなら……二戦目から見れる。」

「行きましょう。」

「あぁ、すまんが先に行っててくれ。」

「分かった。2席きちんと取ってくる。」

 

 

 

「よし、お前のチップ取ってきた……ぞ。」

「ん?んぁぁ、はりがとぉ、っ、ございます。」

「ポップコーンを食ってんのか。」

「そ、そんな事より始まりますよ?」

 

 

「今日のぉぉモンスターはぁぁ!最近噂のぉぉアトラル・カぁぁ!ブゥァサァス!檻の中で突如巨大化!ボルボロォォッス!」

 

司会の大声が響く。

会場が盛り上がる。

 

「今日って言うのですね。」

「一戦しか見ない人間も多々いるからな。」




「非公式のあれってどうやってモンスター集めているのでしょうか?」
「大体が密猟だな。要求されているモンスターならばかなりの大金が手に入る。」
「密猟者は何故減らないのでしょうか……」
「ギャンブルに勝とうが負けようがハマると世界が狭くなるから『金がない!ん?このモンスターを狩れば金が手に入るのか!』という感じになる。」
「さすが暗殺人数一位……人間を観察していますね。」
「無情みたいな言い方やめろ。」


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闘技場の女達

「MHWが始まったとよ。」
「また狩人の戦闘スタイルが増えるわね〜。」
「まぁ俺達にゃぁ余り関係ないと思われますね。」
「……三バカぁ!暴飲暴食するのやめて下さい!!」
「いやぁ妃さんすまねぇ。」
「止められない止まらない!おっれ達です!」
「うふふふ!」
「……我が妻よ、ちょっと装備売ってくる。」



躱す。

例え巨体でも突進は突進だ。とてつもなく大きい場合以外は当たる要素がない。

すかさず糸を放ち、ボルボロスの足を拘束する。どうしようか……会場を盛りあげれば私の待遇が上がるかもしれない。とりあえず糸を引っ張る。

 

糸が剥がれ落ちる。

 

……!?何が原因だ。再び突進してきた為、衝撃を出来るだけ薄めて張り付く。

泥か。暴れ回るボルボロスの背中で理解する。とりあえず切りつけてみるが力が入れにくく軽い傷しか入らない。

……見栄え悪いし降りるか。

ボルボロスが通常の個体より大きい咆哮をする。跳ね飛ばされる様に無様に降りる。まぁこんな感じでいいだろう。

ボルボロスが再び突進の体制をとる。次はどう回避――

 

泥が私を飲み込む。

 

 

 

「まじか。」

「やはり変異した個体は怖いですね。」

 

ボルボロスが泥をブレスにして放っています。アトラル・カは質量に押されて段々後退してます。

もしこのままだと……と考えたのと同時にブレスが途切れました。

あのブレスはとある古龍を思い出しますね……

 

「やっとブレスがおさまったか。」

「アトラル……頑張れー!(モグモグ)」

 

 

 

「しかし、あのアトラル・カ間違いなく例の個体ですよね。」

「確証はないがな。」

 

奴は泥を落としながら歩き、相手を見据える。明らかに動き方が本能のみのモンスターとは違う。

だが力の差は歴然だ。正面から殺りあえばボルボロスが勝つ。

一体どうする?

 

 

 

一体どうしようか。泥を落としきって身構える。ボルボロスはこっちに走ってきながら頭を振りかぶった。横に跳び回避。

外れた頭突きが闘技場を揺らす。巨体故に火力が高いのは必然だ。

観衆から賞賛と不満の声が聞こえる。多少観衆は盛り上がったし姑息に足でも引っ掛けて水に落とすか――!?

 

光が私の視界を奪う。

同時に私の体に衝撃が走る。

 

 

 

「不正だ!違反だ!」

「あぁ!?うっせぇよ!あんな雑魚に巨体のボルボロスが負ける訳ねぇんだよ!」

「この屑がァ!閃光つかってんじゃねぇよ!」

 

「……これは厳しいですね。」

「……チッ。生き延びてくれればいいのだが。」

 

視界を失ったアトラル・カはボルボロスに跳ね飛ばされる。足音でも聞いているのか攻撃に完全に当たる事は無いが突進を避ける事は難しいらしい。再び宙に打ち上げられる。

このままだとアトラル・カが死んでしまうかもしれない。いや、その前に水に落ちるだろうか。

とりあえず俺は水に落ちてくれる事を願う。

 

 

 

ついにアトラル・カが水の上に投げ出される。

 

 

ザクッ、バシャァッ!!

 

落ちたのはボルボロスだった。

 

 

「おおっ!アトラル・カ、最後の抵抗でボルボロスの尾を切断し水に突き落としたぁぁっ!」

 

 

 

危なかった。最後から二回目で視界が戻った時はもう体が動かしにくいレベルだった……まぁ、思慮が無くて助かった。

最後に縁で飛ばされたが、糸を遠くに放ち自分を引き寄せボルボロスの尾を切る。尾を切れるかは、かなり賭けだったが肉質が柔らかい方で助かった。

ボルボロスは水中でもがいている。落とせば勝ちというルールで良かった。

足を引きずりながら私を捕まえに来た人間の方へ歩いていく。だからそれ着けなくても私は逃げないのだが……。

 

 

 

「皆様お疲れさまでした!アトラル・カの勝利です!賭け金関連はあちらのカウンターで行っております!続いての試合は10分後に始まりますので続けて見る方はしばらくお待ち下さい!また、賭け金は今日ならいつでも受け取れますのでご安心下さい!」

 

「次が今回の本命ですね。」

「よりによってギルドが隠してるモンスターが捕獲されているとはな……」

「私、ポップコーンを買ってくるので席を保持していて下さい!」

「あ、あぁ。」

 

 

 

 

 

「レディースアーンドジェントルマン!本日は既に二戦行われました。待ちの紅に舞う白。金の糸に破壊の茶。しかし次の試合はそれが霞み、更に歴史に残る一戦となるでしょう!」

 

「きたか。」

「凄くないですか!冷えたビールもありましたよ!」

「馬鹿野郎!!」

「いだっ。」

 

 

「まず現れるは嵐を消し飛ばす風前の灯火!死に向かう哀れな運命の強者!渾沌に呻くぅぅゴアッマガラァァァ!」

 

「シャァァァァァ!!」

 

「迎え撃つは幾多のモンスターを屠りし女王!闘技場不敗の最強!クイィィィンランゴスタァァァァッ!!」

 

「グァァアー」

 

「戦闘開始ぃぃぃい!!」

ドォォォン!!

 

 

 

いや、ドォォォンってされても困るのですが。ゴアマガラですか。なるほど、どうでもいい。

うん……アトラル・カ。かつて戦って叱られましたね……

 

「クイーンがゴアのブレスに当たる!しかしクイーンはものともしない!」

 

まぁ当時の事はあまり覚えてませんが。しかし懐かしい……笛を持つという事は彼女も考える事が出来るという事でしょうか。よっと。

 

「クイーンが突進する!ゴア・マガラ、押される!しかし掴んだ、掴んだぞ!ゴア・マガラがクイーンを掴んだ!」

 

今の彼女は私を覚えているのでしょうか。まぁ私の方が強いのは当たり前ですがね。なんか ゴアマガラ って空白置いてます?まさか ゴア・マガラ でしょうか。……振り回されると頭に血が上りますね。うわっ。

 

「ゴア・マガラの叩きつけ!土下座と呼ばれる行動だぁぁ!掴まれているクイーンは避ける事が出来ないぃぃ!」

 

……そろそろ潮時だし明日にでもこの施設?を破壊して抜け出しましょうかね。

さて、殺しましょう。

 

「おぉ!ついにクイーンが動き出す!羽にご注目下さい!色とりどりになりました!しかも四色!短期決戦の様です!ゴア・マガラは耐える事が出来るか!」

 

掴まれた状態ですが火の玉を作ります。体にも雷も纏っていきます。

少し緩んだので無理やり抜け出し、火を叩きつけます。飛んで避けられましたが、龍のビームを放ちます。……あれ、効かない?変なヤツら大体効くはずですが。

飛行突進ですか……氷を作り出し無理やり地に落とします。

やはり雑魚……いや、私が強すぎるだけですね。

再び火を作り出し、腹を地に叩きつけます。ふぅ…っ!

 

「ぁぁっ!ゴア・マガラピンチだぁぁ!狂竜化出来ずに終わるのかぁぁ!」

 

火の塊を水が貫いてますね。勝ちました。

 

「……動かない!動かないぞ!やはり女王は強かった!」

 

私を捕まえにくる人間を燃やしまして、さっさと帰ります。

彼にアトラルへの伝言を頼みましょうか……彼女を連れ出しましょう。

 

 

 

「やはり白統虫の力はとんでもない強さですね。」

「本来なら捕まる様な弱さじゃないのだがな。」

「渾沌ゴア・マガラもそのはずじゃないのですが……。」

「知らん。さて、引き続き調査だ。」

「あ、ちょっと待って下さい、これ食べきってからで!」

「……早くしろよ。」

 

 

 

 

……私の牢の前にランゴスタがいるのだが。気持ち悪いな……。しかしよく見ると普通の体色じゃないな。まるでガブラスみたいで怖い。

虫の知らせなのかなにか嫌な予感もする……。待遇云々の前に抜け出さなければ。

 

 

彼が肉を持ってくる。

「アトラル。君、明日も別の闘技場だってさ。」

驚く仕草をする。体がボロボロなのだが……

「驚くのも無理ないな。まぁその後もっと凄いこと起きるから!」

漠然としか教えてくれないのか。しかし彼の雰囲気から悪い事ではないと思う。……体力回復しなければ。肉を――

あの馬鹿……肉に薬を混ぜるんじゃない。……ランゴスタがまた来たし渡しておこう。証拠隠滅だ。




白統虫(はくとうちゅう)

謎の書類

元種族:クイーンランゴスタ
属性:全属性
弱点部位:腹先
弱点属性:羽(属性によって変わる)
攻撃威力:強古龍と同等かそれ以上
警戒タイミング:巣移動
備考:周囲のランゴスタもとんでもなく強く、ずっと麻痺にしてくる為麻痺無効が必須


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宝を腐らせない


「……ふっ、やはりか。」
「ん?…ボフッ!?」
「おい、驚いたからと言って菓子パン吹き出すんじゃねぇ。」
「ん、ん、グググ!」
「ほら水だ。」
「――ふぅ、なんか光の柱が見えましたね……」
「依頼されてもアイツの相手はしたくないな。」
「よほどの事が無い限り白統虫の討伐依頼なんて出ないですよー。」
「……フラグか?」
「もし出たならドンドルマの滅亡を意味しますね。」


体の節々が痛む。やはり依存の様になるが笛は必需品だな。自分の居場所に戻るまできっと闘争に生きるだろうから短期間で怪我を治すには絶対必要だ。

……ランゴスタが三匹に増えている。この闘技場は管理がずさん……

と言いたいが、明らかに故意だからクイーンランゴスタが指令してると考えた方がいいか。

しかし、指令するという事は外からつけていたのか?それとも連絡手段を持っているのか。……面白い。女王は私を監視しようという思慮がある。またそれを理解する下僕。全体的に賢いな。そして昔の――

 

 

「おいアトラルぅ?そろそろティガレックスだぞ。」

ん?あぁ、もうそんな時間か。

 

午前の試合……警戒すべきはティガレックスは無理やり起こされて興奮しているとかだろう。

なんとなくだが全身の痛みはひいた様に思える。さっさとティガレックスを処理してその後に備えなければ。

……そうか。私は短期間に大量のモンスターを殺す実力を持つ事が出来た……いや、四種じゃないか。ラングロトラ、ハンター、リオレウス、アルセルタス。……あ、ケチャワチャ。

三種は群れていた訳だからまだ実力は無いかもしれない。落ち着いて、尚且つ迅速に殺す思考でいこう。

 

 

闘技場の扉が開く。

タイミングを合わせて走って入ったものの、既にティガレックスは突進してきている。

ざっと確認。

広大な円形、壁あり、蔦あり。二層か。

糸を放ち自分を引き上げる。ネルスキュラも確かそういう行動のはずだ。見た事はないが……

 

ティガレックスもこっちを見ながら豪快に上に登ってくる。

その体に糸を張り付け引っこ抜く。そのまま振り下ろす。

 

ダァン!

 

「アトラル!なんと先制はアトラルだぁ!」

 

蔦は壊れないのか。おそらく面の衝撃には強いのだろう。

そのまま振り回す。……駄目か、ティガレックスが抵抗して動かない。

 

顔を切りつける。周りを確かめて考える。すると不思議な筒の形をした物が目に着く。

 

「ァァァァッ!」

 

ぐっ、唐突な咆哮で体が引きちぎれるような感覚と共に吹っ飛ばされる。だが距離は縮まった、とりあえず下に降りて確かめよう。

スイッチがある。

ティガレックスがこっちに突進してきそうだ…押してみよう。

 

「グァァッ!」

 

何も起きない時のために構える。

 

カラカラカラカラ……

 

何の音――!?

 

バァン!!

 

「ァァァッ、グアッ!!」

 

……槍が出てきた!?ティガレックスは掠りだが大きく怯み倒れる。

槍の回転が止まっていき段々収納されていく。

それを見て体が動く。意図を理解し、抑える事はしない。

 

糸を巻き付ける。ダウンしているティガレックスを他所にひたすら引っ張る。

しかし流石に難しい……収納に抵抗出来ているぐらいだ。

槍が少しずつ収納されていく。歯車が軋む音が鳴り響く。ティガレックスが起き上がる。

 

 

ガッガッガッ――バキィッ!!!!

 

 

轟音と共に撃龍槍が抜ける。抜けた勢いで再びティガレックスを刺す。

 

「グルァッ!ガァッ!」

 

………しばらく動けない傷を負ったティガレックスの腕から槍を抜き背中に乗せる。非常に重いが動く事は出来る。

まずは試しにティガレックスの頭に槍を叩きつける。

 

頭が凹む。

 

ふむ。……いいなこれは。人の所にはたくさんこれがあるのだろうか。

扉の鍵が開く音がする。勝利したから迎えに来たか。……いや、私はもう帰らない。ここで抵抗しながら『凄いこと』を待とう。手に入れた槍を人に向けたらどうなるだろうか。

 

 

「し、勝者はアトラル――おや!?ハプニング、ハプニングです!」

 

「ゴォォォォッ!!」

 

……!?振り向くと、全体的に黒ずんだティガレックスが立ち上がっていた。嫌な音を立てながら腕が治り、頭からはとめどなくドス黒い血が溢れる。

背後で扉の鍵が閉められた音がする。

 

……まさか、狂竜化か。

 

しかし痙攣とかの不審な行動は無かった。つまり……体力回復の為に代謝が促進されるとウイルスに大量の栄養を与える事になり短時間で狂竜化するという事か。仮定だが……

 

飛んできた岩を避ける。

恐れないといけない事は殺される事と感染する事。

 

槍を叩きつけて距離をとるが、ティガレックスは腕で跳ね除けそのまま突進してくる。頭と腕に糸を放ち、引っ張り転倒を誘うがものともしない。

横に跳んで避ける…っ!?

 

突如加速し私を腕で吹き飛ばしてきた。壁に叩きつけられ一瞬現状を理解出来なくなる。

焦点が定まらない……影が飛んでくる――!?

痛みに意識が覚醒する。しかしうつ伏せの為、背面の叫び声しか状況が分からない。

これは危険だ。噛みちぎられたら死。叩きつけなら致命傷。叫びなら助かる。……無意味な気がするが感染しない為にも息を止めておこう。

 

腹部(尻尾)に衝撃が走る。しかし私の中で一番硬い場所だ、後2発ぐらいなら耐えるはず。

 

頭を押さえるティガレックスの腕に糸を放つ。頭に爪が食い込み痛みが走るが背に腹は変えられない。

再びティガレックスが腹部を殴ろうと腕を上げる。頭を押さえる力が増す。

 

同時に頭を抑える腕を全力で引っ張る。頭が裂かれる痛みが走る……っ!

 

ティガレックスがやっと転倒する!

すかさず槍の元へ走る。頭の背面から液体が流れる感覚がある…!

……糸で槍を巻き付ける!そして叩きつける!…のは待て。

落ちつこう。誰かは分からないが助けが来るまで死ななきゃいい。

 

 

と思った矢先に見せびらかすようにランゴスタが私の笛を持ってくる。考えて見れば普通のランゴスタ1匹では、私の笛は持てない重さだ。

…つまり、『凄いこと』はクイーンランゴスタのお出ましか。ランゴスタの所に行けば安全そうだ。

 

 

 

ティガレックスを中心に地面が燃え上がる。危険を感じた観客は逃げ出す。

ティガレックスは炎に耐え、アトラルに走り出す。

次の瞬間炎の周りを氷が囲い炎が消え、氷点下より下の温度の水が氷の枠を満たしていく。

狂竜化して正常な判断が出来ないティガレックスは氷の壁を壊そうと暴れ回る。

 

電撃が水の中を駆け回り空中に放電される。

体も神経も焼き尽くす電撃に、刹那、自我を取り戻したティガレックスは歓喜の為に叫ぼうと口を開ける。足が崩れる。

喉に入るしょっぱい味と共に意識が電撃により焼き切れる。

 

 

バキッ!バシャッ!

 

地中&水中からどうも、私ですー!

ティガレックスに手こずったのですか、彼女は相当弱い方ですね。

 

(アトラルの位置報告!) 羽を鳴らす。

コチラ アトラル トモニ 返事が返ってくる。

 

うむ。端によってくれているなら暴れられます。

全属性最高出力。

そして腐食と龍を混ぜ、光でコーティングしたエネルギーを溜めます。

 

 

天変地異が所狭しに起きる。

炎の竜巻が洪水を起こす。

走る電撃が豪雨の雨粒一つ一つを縫う。

一部の地面がマグマに変わり下の階層に落ちていく。

逃げ遅れた観客やスタッフの死体はことごとくランゴスタに回収される。

 

 

 

なるほど。これが人間の概念の一つ、地獄か。

まぁそんなことより、明らかに私達の方に影響が出ないようにしてるのが分かる為、クイーンにある程度の思慮がある事が分かる。

 

クイーンが黒雷が走る光を天井に放つ。図鑑で見たオストガロアのブレスと謙遜ないな。もしかしなくても例の 化物マガラ と同類か。

 

補強されただけの遺跡がソレに耐える訳もなく地上まで貫通する。そして遺跡が崩壊を始める。

 

 

「掴まって下さいな!」

 

喋った!?いや化物にはなんでもありか。じっとして、クイーンに掴まえてもらう。槍を腹下に巻き付け、笛を抱える。

 

「2! 1! 0!」

 

カウントと共に私の体が浮き上がる。

さて、地上に戻って始めにするべきはウチケシの実を食べてから回復旋律だ。

感染したかは分からないが体内から寄生龍が食い破ってくるリスクを消すなら絶対にすべき事。

 

「地上まで後半分!」(全員帰宅!)

リョウカイ ジョオウ

 

後ろから大量の羽音が聞こえるようになる。

見ると、せり上がってくる壁の様に見える量のランゴスタがいた。

 

…やはり個々のランゴスタの羽の色には見覚えがある。つまりこのクイーンは……

 

「元気にしてました?」

 

彼の薬にやられたランゴスタか。ふふふ……彼はこの成長に喜んだのだろうな。

返事をしたいが私は喋る事が出来ない。大体どうやって喋っているのだろうか。……羽か?後で確かめよう。

 

 

……あれ、彼女は中々リアクションしませんね。まさか考えるタイプ?後でコミュ方法を考えないと。

 




音さえ消し飛ぶ衝撃が空間を揺るがす。
角と腕がぶつかる。

「ヴェァァァァ!!」
「シャァァァァ!!」

砂原は彼らの小突き合いで平坦な砂漠になった。丘も泥も谷も洞窟も消えた。

砂原から砂漠に変化した範囲の生物は居なかった。


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槍と建

(´〜`)モグモグ (´〜`)モグモグ (´〜`)モグモグ

「おい、何か言いたいから来たんだろ。……聞いてんのか!?」
「あ、あ、はい、えっとね〜そろそろ年越しじゃない。」
「という訳でいつも通りよろしくですわ。」
「あぁ、きちんと俺が声かけますからお手は煩わせないっすよ。」
「……はいはい、ここら辺を私は電光石火して、夫が瞬間移動して見て回ればいいんだろ!あぁ毎年めんどくせぇぇ!!」バシュッ!
「「ぁぁぁっ!酒に雷がぁぁ!」」
「流石私が樹海の管理者と(勝手に)認めた夫婦の妻……露骨に地味な嫌がらせをしてくる。」



「ほら、なんか喋りません?」

 

音を立てて地に埋もれていく遺跡から抜け出し着地する。

降ろしてもらいさっそくウチケシの実を探しに行こうとしたら…うむ、羽で話してきた。

 

「えっと、今何か欲しい物とかありません?」

 

……『ウチケシの実』と地に書く。

 

「………」

………

 

「(会話が出来ない………!)」

 

絵を描く。特徴的な部分を強調する。

 

「…あ、あぁ?あっ、あの青い実ですか!しかし何故……なんて聞いても無理ですね。」

 

頷く。考えて見れば文字を読むなんて普通出来ないからな。

 

(全員青い実を探せ!)

リョウカイ

 

ふむ、どうやら羽で指令しているのか。実際に見るのは始めてだ……だがランゴスタはランゴスタで同一の音を出している。これは凄い……

 

一瞬周りに飛んでいる様々な色のランゴスタの層が薄くなり、直ぐに色を濃くする。青い色が強くなっていた。

そして1匹1匹が私の前をゆっくり通り過ぎる。………これだ。ランゴスタを叩く。

 

次の瞬間その実を持った者達が私の前に渦を巻き、離れた時には山が積み上がっていた。

 

 

な ん な ん だ こ い つ ら

 

 

とりあえず三つウチケシの実を食べる。

しばらく待つ。流石に血を失いすぎて意識が薄らいできたが、まだ焦るほどじゃない。それに傷が小さくなっていき流れる血の量が減っていくことも分かる。急いだせいでウイルスを活性化させるなんて馬鹿な事はしない……。

 

「もっと食べた方がいいのでは?」

頭を振る。

 

ウチケシの実を食べすぎると抗菌作用と代謝促進のせいで体内の良い菌や必要悪の菌が全て死滅し、下痢や過剰な発汗でガリガリになりながら塩分不足して最終的に栄養吸収する臓器も垢にまみれて死ぬ。

という意味を含めながら。

 

「そうですか……私も食べていいですか?」

 

二つ転がす。まぁこのクイーンなら数十個食べても大丈夫だろう。

 

「いただきます!」

 

クイーンが食べた瞬間、羽が付け根から白くなっていく――

 

「…新しい力、です!」

 

……

 

な ん な ん だ こ い つ

 

 

「ふむ……おそらく。」

 

クイーンは上空に炎、雷を放ち、追うように白い光を放つ。両方が消える。

 

「これは属性を消すのですね!」

 

ちがう!原理がちがう!……

見るとクイーンの本来は赤い冠が白く染まっていた。

なんだ、古龍と同じか。ならば無茶苦茶なのも許容するしかない。

クイーンランゴスタ。そういう古龍というのなら……虫だが……

 

 

 

時間が経ち、笛を吹き傷を治す。

日が今日一番の高度をとる時間になる。

 

「あ、アトラル。どうやらあっちの方角に手強い敵がいるらしいので処理をお願いします。」

……は?

「行ってらっしゃい!」

 

突如吹く強い風に抵抗するように槍に掴まり笛を背負う。しかし引きずる様に動き出す。

 

 

「……ふっ、ならば!」(連れて行け!リーダーはアトラル・カだ!)

シカシ カイワ フカ

(多分こんな感じー程度でok)

リョウカ……エ? ……リョウカイ

 

 

私の周りに黒雲が出来る。正しくは虹雲だろうか。

私を掴み持ち上げる。……死体運びの要領か、体の一部に痛みが走る事は無い。槍を見るとそこにも群がっていた。

 

体が森より上まで浮き上がる。ゆっくりと回転し進行方向をみると色とりどりの発光と土煙が見える。そしてそっちに動き出す。

近づくにつれ「ミシミシ」や「バキバキ」などの不思議な音が聞こえる。

 

更に近づくと岩のモンスターの周りをランゴスタが飛びまわっていた。私達がやってきたのを見てふらつく様に負傷した者がクイーンの方へ飛んでいく。

 

岩のモンスターの姿はこうだ。

歪な四本足。折れそうな細長い尻尾。明らかに意味のある形をしていない頭。箱の様な体。

 

 

 

ランゴスタ達はそれぞれ隊列を組み火球を生成したり足を凍結させて動きを止めようとしている。雷を集め撃ち出し水を大量に流し込む。

 

しかし歪な形は予期せぬ盾となり、岩に攻撃した所で痛みもダメージもない。振り回される尻尾と足に隊列を崩され、逃げ遅れた者が傷を負う。

 

 

水を上からかけると丁度パイプみたいに下に流れていくのか。糸が濡れないとキツいが既に青い羽のランゴスタは疲弊している。

 

そこで『アトラル・ネセト』を私が倒せと。……ここに槍があります。

 

ジェスチャーで 派手に何かしろ、と伝える。

ランゴスタはオドオドしながら隊列を組んで飛んでいき、爆発を複数回起こす。

その間に笛をふく。旋律、身体強化。

四本の糸を八本の木に巻きつける。

爆発を起こす隊がネセトにより散り散りにされる。

槍を引っ張る。槍の付け根と棘が始まる部分、それぞれ2本で支える。

私の方をネセトは向く。搭乗者は私に対して明らかな敵意を見せる。

 

ギリギリギリ……パキパキパキ!!

 

巨大な影が私を覆う。ガムートより少し大きいくらいだ、鈍重なら尚更緊張する理由がない。

ネセトの片足が上がる。

 

槍を放つ。

 

空気を裂く勢いで飛ぶ槍がネセトの首を穿ち、破壊(切断)する。

貫通した槍は更に首の付け根に衝突する。貫くことなく地に落下するが槍の衝撃でネセトが浮き上がり二本足で立つ状況になる。そのまま動かない。

 

早く突撃しろと全力でアクションする。

しかしランゴスタ達は突然の現象に呆然と飛び尽くしているだけ。

槍を放った糸に自分を引っかけながら後退する。笛にもまた糸を巻き付け、一度地に置く。

 

ガリッ……ミシミシ…!

 

少しずつネセトが前の方に倒れ出している。

 

 

私自身を発射して笛を急速に巻き取る。全力で胴に笛を叩きつける。

ネセトはちょっと戻るが再び前に倒れ始める。

 

糸の所に戻るとランゴスタ達が槍を近くに置いてくれていた。

急いで引っ張り、狙いを定める。

倒れ込んでくる箱に足が生えた物体の、中央より少し手前を狙う。

 

再び槍を放つ。

 

倒れ込んでくるネセトを下から貫いた槍は上に突き刺さる。

 

 

 

 

岩を取り外すと標本箱の様な状況だった。胴から槍が生えている為、流石に生きてることは無いだろう。

槍を外す。一応ティガレックスみたいに狂竜化したら困るのでランゴスタになんとか伝えて見張ってもらう。

 

なるほど、糸はこうやって繋げるのか。確かにこれなら力も少なくて済む。

だが、このネセト。ちょっと歪すぎないか?ふむ………

 

 

とりあえず頭以外を復元する。貫かれた腹は足を広げて無視する。一々変わりを探すのもめんどくさい。

なんとか動くが……まさかこれが人類から恐れられているネセトなのか。いくら小さいネセトとはいえ軟弱だな。

 

 

ランゴスタ達が見守る中、アトラルは笛の柄で岩のネセトを削る。ひたすら岩を叩く音とそれが割れる音が繰り返される。

日が傾き、時間が経った事が分かるがアトラルは『時間が経った』感覚が無いため火のランゴスタを照明代わりにして作業を続行する。飯に死体(アトラル・カ)を食う。

 

 

朝。

 

日の光に照らされたネセトは明らかに形が変わっていた。

 

ふ、ふ、ふ……あとは頭を作り取り付けるだけ……

 

交代で働き、警戒も兼ねていた火のランゴスタは寝る。

アトラルは取り憑かれたようにネセトを作る。

きっとそれは本能が(ネセト)を求めているからだろう。

 

 

岩をくり抜き繋げる。糸を内部でパチンコにして足を引っ張るのと同じ仕組みで板に近い形に加工した岩を取り付け頭を胴に何重にもして取れないように取り付け取り付け取り付け……と、取り付け?

……あっ、完成か――

 

笛を吹かずに岩を扱い続けた結果、体に疲労が溜まってしまい睡眠を求めていた。

アトラルは達成感と共に意識を手放す。無意識に操縦する箱の中に入る。

ランゴスタ達は再び警戒を始めるのであった。

 

 

その頃。

 

 

バスッ!バスッ!サササ。

 

「ず、随分派手な挨拶ですね。大分息が上がってる様ですが……」

「全力で世界を回ってるからな。年末空いてるか?いつもの号令だ。」

「……空いてますよ。いつものですか。」

「今回は我が妻とヒプノック殿らしい。」

「あれ、そういえばいつもはボレアスさんが回ってるのに……?」

「どうやら妻が酒に雷入れたせいで癇癪をおこしたみたいた。多分今戦っている。」

「ボレアスさんとジンオウガさんならジンオウガさん勝っちゃいますね。」

「奴は三皇の中でも最弱……」

「で、私の友達にアトラル・カって方が――」

「ならない。」

「了解しました!」

 




風薙ナルガクルガ

繋ぎ合わせたノート
ふざけ(ここから先は血が広がるのみ)

逃走したハンター談
余りにも素早い動きはまさに風のよう。というか風。あなたがたは風を直接見れるか?直接は無理だろう、肌で感じたり木が揺れるのを見るのが普通。
その感じるのが刃。見えるものが己の血。
極み駆けるナルガクルガなんて目じゃない、異常なミドガロンなんて比じゃない!あいつは風だ!気配や音より先に動いてくる!ぁぁぁぁぁぁぁっ!!



―――――――――――――――――――――――
通算UAが5000を越してました…皆さんありがとうございます!
これからもアトラル・カをよろしくお願いします!
「ドハハハハ!俺達の登場はまだかい!?」
「バハハハハ!辿異種のお陰で腕が戻ってきたんだがなぁ!!」
「エスピナスなら俺、赤鬼が早く!」
「イナガミなら俺、黒鬼に任せなぁ!」

まだ早い……


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ジョブチェンジ

クリスマスを体験したとしての感想

回答者:アトラル・カ

実に人間らしいと私は思う。
元は宗教による厳かな祝いが時間や地域が変わるにつれそれぞれの願望を映し出す結果となっている。
また、互いにスキンシップをとり、相手が自分の番として相応しいか見極め、そこから態度を変える。また金銭目的で擦り寄ったり、その時だけの自らの評判を金で買ったりと実に欲深い場合もある。
しかし綺麗事が好きな人間。それを表面に出さず、『クリスマス』という口実に隠れるという事を大半が理解しているが排除には動ききっていない……
実に人間を表していると言えるだろう。


回答者:白統虫クイーンランゴスタ

え、人間って孕んでから十ヶ月かかるの!?
てっきり『性夜祭』っていってたからハーレムして大量増殖する機会かと思ってた!
………え、じゃあわざわざ高い物買うってどうゆう事?栄養満点で滋養強壮効果のためじゃない?え?え?


回答者:ナナ・テスカトリ

はい、夫と楽しくすごせました。私、普段は家を守ってますが、たまにはこうやって特に目的もなく一緒に回るのもいいかもしれません。
夜景や人間の生活の灯火。……実に綺麗でした。断言はしませんが忘れる事はないと思います。……ところで夫を見ませんでした?

「――、人形を勝ち得てきた。」

あ……かわいいアオアシラの人形。

「形に残るのが鬱陶しいなら焼き捨てるとよい。では、『けえき』という非常に美味らしい食材を探してくる。」

……うふふ。いいクリスマスでした。


回答者:ミラル……キャンセル

ちょっ!?


――

目が覚める。

 

狭い所で寝るのはやはり気分がいい。

一度外に出て朝日を拝む。

……違う。空の色からして夕方か。

 

まだ地に伏せているネセトを眺めた後、そっと口から首に撃龍槍を入れる。

ランゴスタに離れていろと指示する。再び寝ていた場所に入り糸をつけ直す。

本来ネセトは一から作るのだが他の奴から奪ったものでも構わないだろう。

 

 

ガタガタいいながらネセトが立ち上がる。重心が右寄りなのを感じるが動作に問題は無い。手始めに地団駄を踏む。

 

ダン!ダン!ダン!

 

地を揺らす衝撃が何度も走る。回転すれば尻尾が木を折る。

これなら大半のハンターやモンスターは殺せそうだ。

 

しかし問題が一つ。

 

とんでもなく疲れる。こんなに激しい動きは普段から出来る訳では無い様だ、戦闘中でも長くは続かないだろう。

笛を吹いて疲労回復する事は出来るが一々動きを止めるのは余りにも隙になる……何故あの同種(アトラル・カ)は長時間動けたのか。

 

次に首と頭を一直線に並べる。

そして槍を打ち出す。元ネセトの首を砕く勢いはそのままに自由なタイミングで様々な方向に撃てる様になった。

 

単発だが。しかも二本あってもリロードが出来ない。……だが大丈夫だろう。息の根を止める時に使えばいい。

撃ち出す仕組みをゆっくり元に戻し、槍の糸を引っ張り回収する。

……どうやら槍は地に刺さったらしい。改善点はまだまだある。

 

槍を回収するため再び外に出る。

 

日が更に沈み、星がその存在を主張しはじめる。赤い流れ星も見えた。……確か三度願いを声にすれば叶うらしいが、人間の噂話だ。私達に余りにも不公平な事は実際には無いはず。

さて、槍は回収したし帰ろう。

 

 

 

さて。ランゴスタに帰りたいと伝えるにはどうすればいい?

クイーンというのはどう伝えれば……

 

 

沢山のランゴスタを指差し上を示す(貴方達の上位存在)

 

ランゴスタは集まり火球を作り出す。

 

鎌を振ってキャンセルさせる。……ならば。

 

 

ランゴスタを指差し大きく鎌を広げ振る(貴方達の中で羽が大きい者)

 

私を掴み持ち上げようとする。

 

身をよじり中断させる。

 

 

頭に冠を描く(頭に王冠がある)

 

ランゴスタが私の頭にのっかる。

 

 

一体どうすればいいのだろうか。

 

日が落ち、空は星が広がる。

始めて落ち着いた状態で見たな。綺麗だ……人間が空に憧れるのも分からなくはないな。

 

そうだ。危険だが何もしないよりはマシか。万が一騒がしくなってもクイーンが駆けつけてくれるだろう。

 

笛を持ち出し、吹き始める。

 

 

 

決まったフレーズも無く笛を吹く。低く重く耳に心地いい調べが風にのる。

樹海のモンスター達も一瞬気にするが直ぐに警戒心を解き再び元の行動に戻る。

 

ドンドルマの住居地区にもその音色は響き、耳が良い者はしばしの間手や頭を休め聞き入ってた。風変わりな旅人の音色だと思いながら。

 

 

しかし本人は必死である。

 

新たな旋律を探しながらクイーンに気づいてもらおうとしているのだから。一石二鳥か、二兎を追う者は一兎をも得ずか。

 

結果は――

 

 

これは……身体強化と重ねがけ出来る旋律か。

 

「終わったという報告あったのにアトラルさん遅いな〜」(ちょっと調べてこい)

リョウカイ

 

 

 

夜遅いがさっそくネセトに乗り、身体強化&身体強化をする。

それで動かしてみると、夕方に比べかなり楽に操作できる様になっていた。

これならある程度の時間は戦え、また攻撃も強力になるだろう。

だがやはり長時間は無理か……旋律効果も長くない。

 

その時、ランゴスタが光りながらやってくる。

私を見て引き返して行く……ついてこいという意味か。

やっと帰れる……息を整え、ランゴスタを追いかけるために『走る』。

 

 

テキシュウ!テキシュウ!

まさか、アトラルさん殺られたのでしょうか?まぁティガレックスに――

 

とりあえずエネルギーを集めます。今回は炎は入れず爆発にしておきましょう。

 

ドドン!ドドン!

 

足音がしてきたのでそちらの方に向き、待ちます。

 

――来た!放つ!!

 

 

こっちか。そろそろつく……はず。

ランゴスタの数が増えてきた、そろそろクイーンの所に―――

 

 

クイーンの光線は走ってきたネセトを貫き、そのままネセトは浮き上がる。

更に貫いた所から爆発し、アトラルは放り出される。

 

 

「……ごめん。」

「キィェァァァァァァ!」

 

走ってきた私も悪いがいきなり光線は無いはず!

 

「敵襲って言ってたから……」

 

……ついてこいという意味では無かったのか。

 

 

胴体は木っ端微塵に、足にもひびが走りもう修復は不可能。

だが頭は無事で、槍も無事だった。近場に大きい岩はあっただろうか……

いや、今日は寝よう。昼間に寝て襲われたら危険だ、槍を振り回して疲労しよう。今日は大丈夫だったが明日がどうなるかはわからないから。

 

 

次の日

 

 

それ(・・)は突然だった。

 

クイーンは思考があまり能動的には出来ないランゴスタ達を率いている。しかも万を越える数。

それを1匹で指揮するのだ、傲慢さや思いやりながらも過酷に働かせる為の決断力、精神力が無いと餌や水等のあらゆる点から群れは壊滅するだろう。

 

「今から出かけるから代わりに女王をお願いします。水、雷、龍の冬眠する場所の確保もよろしく!」

 

だがそれはおかしい。

クイーンはそう言うなり私に特定のサインを教え、5匹のランゴスタを連れて何処かに飛んでいってしまった。

 

一応話を通していたのか私の周りは埋め尽くされている。

彼女が残した言葉に従い、四回石を打ち鳴らす。

これでランゴスタ達は普段通りの動きをするらしい。

 

周りを飛んでいる数がかなり減る。

 

……しかし冬眠?

本来ランゴスタは非常に気温に強く、マイナスの環境や活火山の近くでも活動出来る。

一体何故冬眠するのだろうか。やはりこいつらはおかしい。

さて……あ、そうだ、いい場所あるじゃないか。

 

 

沢山の部下を連れてやってきた。

そして馬鹿でも分かるように運搬・整理を少し私が実践してから命令をする。……思い通りに動いてくれた。

 

クイーンランゴスタが倒壊させた遺跡。大きい岩も、鉄くずもあるだろう。運が良ければ死体からいい素材が取れるかもしれない。

ネセト製作と冬眠場所の確保を同時に出来るとは実にいい。

 

 

日がかなり高くなった頃。大量の人間やモンスターの死骸が運搬されてきた。ところで、十数匹のランゴスタが私から離れない。近衛だろうか。

しかも三匹は体を擦りつけてくる。私はクイーンじゃないので産めないとさっきから示しているのだが……その類の思考しか出来ないのだろうか。

 

一人一人から装備や金銭をとり整理して、それぞれ皮を剥いだり肉と骨を分けて――そうだ。

 

氷ランゴスタに肉を冷やせと命令する。一瞬で凍てつく。

冷凍食品の出来上がりだ。冬は寒い、ならばその環境に合った保存方法にすればいいだけだ。火のランゴスタは冬眠しないらしいし、解凍する事が出来る。

 

流石こいつらと言うべきか、かなりの速度で遺跡が掘り出される。

一度私自身が向かい、扉を槍で壊さないといけない程深くまで取り除いた。

しかしモンスターも人間も扉に向かって走っていたのか……改めてあのクイーンの異常性を感じる。一撃で大量の生物ごと巨大な遺跡を倒壊させたのだから。

 

また私は外に出て待機する。いい加減体を擦り付けるな鬱陶しい……

だが彼女はこういう時は何をしているのだろう。……嫌な想像が浮かぶが頭を振って否定する。

 

日が大分沈み、再び集まってくる。私の前にケルビの肉が置かれる。

こいつらはガブラスの様なスカベンジャーに近い食傾向のは知っているがそれでは足りないはず。一体どこから食料を得ているのか。

明日はそれを追って確かめよう。




無名の笛

とある鍛冶工房が作った最新鋭の狩猟笛。しかしハンターには不評のよう。何故なら重い、大きい、譜面が固有で使いにくいという三点セットであるため。

ハンターの声

「いやぁ、馬鹿みたいに高級な素材と金を費やしたのに使えない武器で……あれは実用的ではない。あれを使う為の肺活量が足りなくてな…立ち止まってないと吹き専にもなれない。」

「自己強化して全力だしてもやっと大剣抜刀速度ですよ!一撃は重いけど遅くて当たらない!事前に誓約書を書かされたのはそういう事ですよ!」

専用の訓練が必要そうだ。
そして仲間に与える効果が薄いという致命的な欠陥もあり、様々な改良が求められる為、実用的になったら名前をつける取り決めになった。


※開示非推奨情報

例のアトラル・カがこの笛を使用しているとの情報あり。
真偽が定かではないので開示は推奨しない。


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年越しの宴(頂点捕食者)(※閑話)

それにしてもクイーンは何処に出かけたのだろうか。
冬眠したあとに何処に行くかを調べに行ったのだろうか……
いや、流石に定住のはずだ。これだけの規模で毎年毎年住処を変えるならハンターからも絶対狙われるからな……


※会話が多く、非常に読みにくいです。内容も薄いです。
※結局やりたい放題やってます。


樹海頂部

 

アマツマガツチが嵐を消し飛ばす。赤い流れ星が落下してくる。飾り付けに極龍がオーロラを作る。

そしてバルカンが地面を乾かし、地を隆起させる。そこにルーツが降り立つ。

 

 

 

「えー皆様、今年はどうでした?」

 

 

 

盛り上がる者、不満を漏らす者、死んだ者を弔う者がいた。

 

「しかし今ここにいるという事は無事に生き延びたという事。次回もまた会えるように祈りましょう……」

 

静かになる。いつ己が死ぬか分からない。そんな重い空気が漂い始め――

 

「しかぁし!今年は今年!後少しで終わりよ!はいっ!いつも通りドスランポスからの食料提供があるわ!もぉりあがっていきましょー!!」

 

その空気を吹き飛ばす数々の咆哮が重なる。

樹海頂部。周囲の気球、ハンターを全て吹き飛ばした上で行われる戦闘狂を省いた強者の宴会。

大体がそれぞれの種類の古龍の中で選ばれた者だが、強い上にかなりの知能がある場合は呼ばれる事があるのだ。

 

「いやぁ、グランさん!いつもお疲れ様です。」

「あぁこれはこれは。ナズチさんじゃないか。」

「ささっ一杯。」

「お前が飲むんだよ!!」

「クオッ!?」

「い つ も の」

「じゃあいつもとの区別の為にクシャ、お前も飲め!」

「やっやめろー!?」

 

 

「やぁクイーン。」

「あぁ、ジンオウガさんお久しぶりです。」

「……いつまで猫被ってるんだ?敬語使うようなキャラじゃないだろ。」

「酔うまで。ふふふ……」

「じゃあ私が酔わせてあげる〜♪」

「おい馬鹿祖龍。首を突っ込むな!」

「『首を突っ込む』が字面通りですね……」

「ほら、飲め!飲め!」

「(属性打ち消しで、もしかして酔わずにすむか?)で、では頂きます。」

 

「バル殿。アマツ殿。シャン殿。お久しぶりでございます。」

「そうだなーいやー違うかー?」

「………確かに違うわ。」

「呼びにきたのアンタだろ。」

「しかし伝令のため飛び回ってたので拙者は各々の話を聞くことが……」

「………会うと会話は違う。」

「あぁ。その通りだな。」

「まーでもナル君のー言うこともー合ってるー?」

「………間延びするねバル。」

「昔からーこんなー感じだしー」

 

さっそく騒ぎだす。吹っ切れる事も大事だ。

 

しかしここにいる者が持つ力を、有効活用する為に議論する者もいる。

 

ハンターがモンスターによって生態系が崩れないように狩る様に、

自分達が自然にとって危険な人間を間引く。モンスターも裁く。それがこの群れ(チーム)の方針だ。

 

「あぁ。最近おかしいよな。」

「アトラル・カを筆頭とした大量生存。異常な能力を持つハンターの大量誕生。モンスター全体的な強化。これはおかしい。」

「だよなだよな!!非常に違和感を覚えます。」

「……はぁ、ティガ先輩は狂竜化したせいで理性が無くなってしまった。しかもあの実力なら絶対極限化するよ……そしたら知性戻るかな。」

「…ティガ先輩とは?誰なんだいそいつは!?」

「あぁ、去年まで俺達は ディス、ドゥレ、ルコ、レビ、キリン、ラ・ロ、ミ・ル、ティガでやってたんだ。」

「だが異常な能力のハンターのせいでキリンは殺られた。それを受けてレビは特訓の為に世界を回ってる。そしてティガ先輩……ティガレックス希少種は1匹で同時に3匹のシャガルマガラを相手にしたのだが、やはり古龍じゃないから感染したんだ。」

「まぁキリンの代わりにエルゼ君が来てくれて良かった。」

「あ、はい。よろしくぅ!お願いします。」

「ラ・ロとミ・ル遅いなぁ……まぁいつもの事か。」

「ドゥレは体を冷やし続けたせいで体調崩したから火山に行って温泉に入ってる。」

「アイツ本当に謎だよな……戦闘中は絶対零度に近くて戦闘が長引く程活発になるのに、普段は-20℃に二日間いるだけで体調崩すからな。」

 

 

 

「ゴオアッ!」

 

くしゃみをした一瞬で温泉も周囲のマグマも凍てつく。その氷は少し紫がかっていてマグマの中に浮いていた。氷の中のマグマは段々光を失う。

 

「んん……噂されてたかしら。あぁ……凍っちゃった、他の温泉に向かわなきゃ……うぅ……」

 

温泉の周りを流れるマグマが段々光を失っていくのを無視し、他の温泉に飛翔する。

 

 

リオレウス豪火種とリオレイア灼熱種が島が凍っていくことに触発されて暴れ回るのはまた別の話。

 

 

 

大砂漠巨体宴会場

 

「はい、皆様今年が終わろうとしてますわ。巨体、強大だからこそ狙われるのに生き延びる貴方達は来年も会えますよ!まぁ今日ぐらい騒ぎましょう!ドスゲネポスとナルガクルガが食料提供してくれましからね!かんぱーい!」

 

ミラルーツが挨拶を終える。

ハンターから見たら樹海頂部より地獄絵図だろう。

 

「かんぱーい!」

 

地盤を固めなかったら砂漠が傾く程の咆哮が響く。

 

「いやー今年はバルバレを攻める必要が無くて良かったー。」

「ウチも周りが攻めてくれたからな。」

「いいのう。千剣山なんてもうハンターをとめどなく送ってくるから安心して脱皮もできんわい。」

「俺は熱線で砦壊したいけどまぁ耐えてる。」

「……(激しく頷く)」

「シェン……今度一緒に攻めない?」

「……(鎌を組み悩む)」

「でもラオさん。連合組んだら高確率で異常なハンターが来るから……」

「それを越える連合にしたら人竜大戦まっしぐらだな。やだわー辛いわー」

「また人竜大戦起きたら今度こそどっちかが破滅しそう…」

「本当に年齢を重ねると毎年毎年が短く感じるのう……」

 

 

時が経ち……

 

 

樹海頂部

 

「バタバタバタバタ!!(あーおしゃけー!)」

「クイーンっ!普段より飲み過ぎだぁっ!?死んだ虫みたいだぞ!」

「こっちもヤバい……グラン殿が酔っ払って周りの皆様も飲まされて凄いヤバい。」

「……まさかまともなの私達だけ?」

「なんと……」

 

その時、四匹の竜と龍がくる。

 

「ゼルレウスの肉を持ってきたのだけど。」

「おい飛竜?それじゃぁこいつら腹満たされねぇぜ。おらっ、ガムートとウカムだ。」

「年末が人生の終わりとは…区切りがいいとはいえ複雑です。」

「我々は余り飲まないように心がけないと歯止めが効かなくなるであろう……?一度は狂うまで飲んでみたいものだ。」

「あぁみんな!待ってた!テオ夫妻もこんばんは!」

「拙者達はストッパー……。」

 

こうして六匹の監視下の元、宴会は進行していった――

 

 

再びミラルーツが隆起した所に立つ。

 

「皆さん!盛り上がってるかしらぁ!!」

「「イェーイ!」ふうぅぅっ!!」

「はい、はい!次はジンオウガとクルペッコの闘争よ!ポボル!」

「呼ばれて飛び出てじゃじ――酒くさっ!?」

 

寝る事が好きで普段から地中に潜っているポボルバルム。

彼の本気の演奏は20kmまで効果と共に届くという。近くにいると衝撃波のため戦闘中にしても本人以外にはただの攻撃である。

 

 

ラ・ロが樹海の端に足を叩きつけて新たに黒い円形のフィールドを作る。

 

「さて、今年は樹海の管理者ジンオウガvs眠りを撒き散らすヒプノック!どんな勝負を見せてもらえるでしょうか!」

 

ポボルバルムは叫ぶ。

 

 

いきなり引っ張り出された知能が低い辿異ヒプノックは自らの実力を過信しジンオウガに威嚇をする。

通常種のジンオウガの色をした彼女は威嚇に呼応する様に咆哮し、金雷公の色を纏う。

 

「まず仕掛けるはジンオウガ!不死種の様に金色の雷光虫を空中に漂わせます!二層!三層!なんと四層!!さぁ初手からキツい!」

 

次々にヒプノックを狙う様に飛ぶ雷光虫を舞う様に回避し、時に翼で受け流す。

その勢いのまま触れるだけで深い眠りに落ちる泡を大量に飛ばす。

 

ジンオウガは体色を白色に変えて触龍虫をレーザーの様に放ち泡を貫く。

 

「流石ジンオウガ!自らの体毛に飼育している虫を使い分けている!おや…ヒプノックが歌いだしたぞ!?」

 

ヒプノックが自分を泡で包みながら歌いだす。段々動きが弱まっていく……しかし泡を破裂させたその姿は先程より威圧感があった。

 

「どういう事でしょうか解説のボレアスさん?」

「はい、おそらく最近みられるモンスターの知能上昇による新たな技ですね。多分……『自己催眠』でしょうか。」

「つまり?」

「あらゆる戦闘に関する力が上がっているでしょう。」

「なんと……おや!?ジンオウガも吠えて雷光虫、触龍虫を集めているぞ!短期決戦かぁぁ!!」

 

 

黒雷と雷が大量に落ちる。

 

「ストレス発散だゴラァァァァ!!」

 

そんな叫びと共に集めきった力を一度解放する。二色の旋風が天を貫く。

姿は黒ずんだ極み吠えるジンオウガだ。

 

 

地を滑る様にヒプノックが飛行してジンオウガに突進を仕掛けるが、姿が揺らいだ瞬間には背後から前脚を叩きつけようとしていた。

それを更にヒプノックは回避し、泡を振りまく。

 

背中から直接泡に触龍虫を放った後、右腕に雷光虫を集めながら電光石火をする。

ヒプノックは後ろにバックジャンプするがアッパーが腹に決まる。

雷が花火の様に大爆発する。ラ・ロが作った龍属性のフィールドさえ少し貫通する。

 

「「おおぉーっ!」」

 

更に腕に纏った雷が爆発し、柱となり、吹っ飛んだヒプノックを追撃する。

 

「決まった!多段攻撃!根性貫通!果たしてヒプノックは根性札を持っているか!?魂の再燃は発動したか!!」

 

ヒプノックは羽ばたく。なんとか耐えた様だ。再び自分を泡で覆いながら歌う。

 

ジンオウガは背中に黒と蒼が混じった球体を生成する。周りを取り巻くように金と緑の膜が張られる。

 

「うぉぉぉっ!きたぁぁぁっ!」

「ジンオウガの必殺技!我が道は雷と共にありだぁぁぁ!?」

 

再びヒプノックが急降下してくる。

ジンオウガは反動で己がフィールドに少し沈む程の光線を放つ。

しかしヒプノックは先程二連撃を食らったような生物とは思えない動きで避ける。

 

「おおっ!…まさか先程の自己催眠ですか?」

「はい。恐らくは強力な自己催眠で痛覚を遮断したのでしょう。」

「あの短時間で本能を遮断ですか!?流石は辿異種…いえ、彼だから出来ることでしょうか。」

「ええ、痛覚を遮断すると大体は体の感覚が無くなり上手く動けなくなります。しかし痛覚と触覚、温度覚は厳密には違います。そう……彼の本能は余りにもおかしい!この時代を顕著に表しているといえますね。」

「なるほど……さて、こっそり超音波で知覚速度をとてつもなく早めた上で早口で送らせて頂きましたが、ヒプノックはジンオウガに強烈な体当たりと睡眠をぶち込みました!さぁどうする!!」

 

ジンオウガはふらつく。辿異種ヒプノックの睡眠は強烈だ、抗えている時点で奇跡……いや、強者と言えるだろう。

 

「ォォォーーウェア!ォォォーーウェア!!」

 

「きたぁぁぉ!ヒプノック、最強の技!防御貫通!デビル・ドリーム・ソングだぁぁ!」

「眠るのを待たずに!?この博打は吉と出るか凶と出るか……」

 

ジンオウガは身をよじり、頭を振る。しかし抵抗虚しくその動きは弱っていく。体色も蒼に戻っていく……

 

「オォーン……」

 

最後の足掻きだと言わんばかりに地を踏みしめ小さく叫びながら頭をもたげ、虫を解放して集める。

解放された虫が呼び水となり弱まったジンオウガに集まり出す。

体色が蒼を通り越して緑色になる。

 

「ウォォォォンッ!!」

 

再び叫ぶその声は力強かった。

 

そう、彼女が呼んだ虫は幽明虫。

身体が傷ついた際に呼ぶと瞬時に治すというとんでもない虫。

それを呼び無理やり睡眠成分を体内から排除、フワフワする感覚も元に戻したのだ。

再び黒ずんだ極み吠えるジンオウガに変化した彼女はブチ切れ、本気を出す。

 

「よぉぉぉくもやってくれたなぁぁぁぁ!?」

 

ヒプノックが初めて怯む。しかしとてつもない敵だと認識するのが遅かった。

 

「ウォッ!!」

 

足を叩きつけながらの叫びと共に大量の虫達が解き放たれる。それは形をとり……

 

「おっと!ジンオウガ、マジギレだぁぁっ!はい、はい、ちょっとすみません……はい、夫のナルガクルガさん、あの状態はどういう感じでしょうか?」

「死にます。」

「な、なるほど。それは何故です?」

「見ると分かりますが体に電気を纏っているため全力で体を押し付ける攻撃をすると感電します。逆に体を当てに来たら避けないといけない、攻守共に揃ってます。そして――」

「そしてあの8つの大群。この自分、ミラボレアスが勝てない理由です。ジンオウガとの連携が凄まじいです。」

「解放された虫が剣の形をとりましたが……」

 

ジンオウガが雷を残して消える。

いや、消える前からヒプノックは吹き飛ばされていた。音速を軽く越える速度からの全力スイング。いきなりの速さに対応出来るはずがない。

スイングと同士に頭に一本刺さり、足が刃の一振りで二本とも切られ、二本で両方の翼膜が切り裂かれる。

吹き飛んだ先で四本の刃が腹を貫き、貫かれた衝撃で減速した体を再び追いついたジンオウガが地にたたき落とす。

そこから何度も腕を叩きつけ、刃で切り刻む。ヒプノックの形をしなくなっても続ける。

 

「勝者、樹海の管理者!ジンオウガぁぁぁ!」

 

「「流石ぁぁ!」」

「知 っ て た」

 

まだジンオウガは腕を叩きつけ、雷を流す。

 

 

 

最終的に死んだヒプノックはハンバーグになった。

龍達は自らの糧になろうがならまいが関係なく食べる。

それにより再びまだまだ残っている酒や食物に手を出し盛り上がる。

 

 

 

「よろしくね。どう?理解出来たかしら?」

「――俺にゃー簡単っすよ。へっ、ルーツの姉御ぉいつも新しい曲で飽きませんなぁ?」

「ウフフフフ……」

 

 

 

 

「今から私、何秒歌うぅ?」

『テレレレタラララウラララ』

「3500。そぉい!」

 

何かが大量に書かれた紙が撒かれる。

 

 

「………もう歌う時間なのね…」

 

 

『テテーテッテッテー』

「welcome、ようこそジャパリパーク♪今日もドッタンバッタン大騒ぎ!!」

『ウッホホホーホホウッホホホーホホウッホホホーホホウッホホホ』

『デンデケデンデケデンデケデンデケデンドンドドン』

 

 

「いっつもー飛び回ってーいるのにーあの曲ー聞いたことないー」

「そりゃ高いところを風を切るようにとんでんだから……」

 

「いや、馬鹿祖龍だし変な所から持ってきたんだろ。」

「ジンオウガさん……いつも馬鹿馬鹿言ってけど大丈夫なのですか?」

「ガチの戦いなら私が数時間抵抗出来たらいい方。」

「力の差をお互いに知ってるから出来るのですか……」

「生死をかけて戦った事あるし。」

「な、なるほど……」

 

 

「ひゃぁぁぁ」

「うぅー。らー!らー!」

「呂律が回らないとか……馬鹿ばかりね。限度を知らないのかしら。」

「飛竜、そーんなつれないことを言うんじゃねぇよ。」

「……ミ・ル、全員が貴方みたいにいつでも体内から毒が抜ければいいのにね。」

 

 

「けものはいても除け者はっ?」

『テテテテタララ』『テテテテトツト』

『デーーン』『タララトーン』

「「いない!」」「死んだ!」「化け物!」

 

 

「え、合いの手って配られましたか?歌詞のやつしか俺持ってねぇ!?」

「大丈夫、アイツらは直感で合わせてるだけだから。だからバラバラ。」

「な、なんと……余りやりたくないです…参加してやらぁぁぁ!」

「…行ったか。同時二重人格ってなんなんだろうか。」

「きっと余り考えてない方が行動の優先度高いな。」

 

 

 

 

大砂漠巨体宴会場

 

「そろそろワシらは抜けるわ。」

「あ、ダラさん、シェンさん、ラオさん、いい今年を!」

「良い今年を。」

「来年きっと一人は増えるじゃろうな。」

「ダラ・アマデラス?」

「ゾラ・マジオスラスだっけ。」

「ゾラ・マグダラオスのはず……?」

「今年の目標、地上生活だわー。」

「あはは、砂漠に来てくれれば迎えに行くぞ。」

「……(鎌をバイバイと振る)」

「……」

「……」

「そろそろ終了か。」

「始まりと言いますか。」

 

 

 

樹海頂部

 

 

『デケデケデケデンッテンテテンッテンッテンッテンッテテン』

『テン――ッテー!テレレレレレレレ、テッテレレーレレレレレレ↓』

「胸の中にある物ーいつか見えーなくなる物――」

 

「「はいっ!はいっ!はいっ!はいっ!」はいはいはい!」

 

「あーっはっはっはー!」

『チッチッチッチッ』

「アァァァー!!」

 

 

「………ポボルバルム忙しすぎない?」

「同時に2曲やるとは……流石だな。」

「拙者も習いたいかもしれない。」

『やるかいー?』

「「受け答えすんな!!」」

 

 

 

ミラルーツが数年前持ち込んだ歌唱という娯楽。終盤にかけて盛り上がりながら時間は更に経っていき……

 

「だからスーパーマーケットフィーバー宝島!」

 

「君の前前前世から僕は君を探し始めたよー!」

 

「この森羅万象を逃れよー」

 

 

『(……非常に楽しい…!!)』

 

「………」

「騒音竜の名は伊達じゃないという事か。」

「なんかーそうおんのー意味ー違わないー?」

「別に他意ないしー」

 

特定の世界の世新し界世音が界せかくd観nr――エr――

 

《想像してみて。―――の世界の猛獣が集まるのを。そして楽器を叩いて演奏するのを。それに合わせて吠えているのを。ウフフフフ……それは路上ライブというのかしらね?とりあえず町中で路上バンドとかされたらまじ騒音だわぁ。そう思わない?》

 

新しい音楽をミラルーツはヨくぅぐ地球yなz視滅n険なはいj―――

 

 

流石は我らの神を危険に落とす者。気づいたか。

精神が壊れた同士を機械に押し込み任せる。

 

『観察続行不可』

 

我らに神の加護があらんことを。

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

朝早く起きた人間は森から聞こえるこの世の音楽とは思えないメロディに怯えていた。

実際にこの世界の音楽ではない上、複数の曲が混じっているため警戒するのは当たり前だが。

聞こえる歌詞も人間にはただの咆哮だ、誰も家から出たがらない。

 

 

 

 

太陽が顔を出す。今年の始まりだ。

 

 

アサヒ。ジョオウサマ。キタク。デス。

「ブブ………お……」

五匹に捕まれ飛んでいく。

 

「………騒がしかった。」

ゆっくり嵐を呼び寄せ、雲に入る。

 

「そーだねーじゃーねー」

雲を貫き宙へ飛んでいく。

 

「……はぁ。」

雲に空いた穴を塞ぎながら余分な粒子を撒いて泳いでいく。

 

「結局ドゥレム来なかったな。」

オーロラを消し電磁石を使い帰る。

 

「ドゥレム……絶対また島凍らせてるだろ。」

氷と炎の嵐を作り消える。

 

「!?ディスさん同じ……能力だったのか!?」

地に炎と氷の壁を作りながら駆け去る。

 

「あ、話をしなかった。」

黒の球体になり滞空したあととてつもない速度で飛び去る。

 

「……(´•௰• ` )一回しか…」

結晶を纏い屈折で視認できない状態になり去る。

 

「川がザル警備なんだよなぁ」

噴火を抑え、近くの川に向かっていく。

 

「あ、あ、おおくりまっす!」

透明になりきれないままついて行く。

 

「……そろそろ脱皮場所探さなきゃ。」

風を纏い雲を抜けドンドルマに飛んでいく。

 

「それでは私達も帰るとしよう。向かうぞ。」

一度体を爆発させてから飛ぶ。

 

「お掃除手伝いたいのですが…ルールが……」

体を揃え飛び去る。

 

 

「……帰れ。」

「「えーー?」」

 

無言で黒ずんだ極み吠えるジンオウガに変化する。

 

「わ、分かった!分かったから!心の狭い奴!」

「全力で逃げる!この恐妻がぁ!」

捨て台詞を吐きながら破滅と憤怒は飛び去る。

 

「では、ちょっと失礼させてもらいまっせ……よおーっ!」

「競走効果か。サンキュー。」

「ほんじゃまたなー。」

体を震わせながら地に潜っていく。

 

 

ジンオウガが声をかけようとミラルーツを見たら皆が去っていった方向をゆっくり首を振りながら見ていた。

 

 

 

――顔は笑顔だった。気配は泣いていた。

 

 

数回に一回、つまり数年に一度見せる黄昏たミラルーツ。

いつから生きていたのか。

いくら殺したのか。

関わってきた生物は何匹なのか。

 

もしかしたら毎年宴を開きたがるのは人と竜、互いの為だろうか……

一体彼女を作っている過去はなんなのだろうか。

ふと枯れかけた生物にジンオウガには見えた。

 

「……来年も場所提供よろしくお願いするわ。」

「イヤだ。」

「強情ねぇ。いいじゃない減る物じゃないし、」

「私の精神が減る。」

「ウフフフ……知らないわー!」

そういい、ミラルーツは雲に隠れた太陽に向き飛んでいった。

 

 

「……皆帰ったしやろうか。」

「嫌――」

「主導権はこっちなんだよなぁ!!」

 

黒ずんだ極み吠えるジンオウガは再び足を叩きつけ吠える。

 

 

酒臭い地に、雨が降り出す。

 

 

48本の虫の巨大な剣はナルガクルガを狙っている。

 

ナルガクルガの全身の毛が鉄のような冷たい色を放つ様になる。

 

「時を考え――」

 

ドガッ!!

 

お互いの右腕をぶつけ合う。

 

「そういや私、貴方に勝ったことないんだけど?」

「……それが実力差という事と思われる。」

「はっ!」

 

四方八方から剣が飛ぶがナルガクルガの姿は既になく、背後から地面に擦り付けて黄色に熱で変色した刃を叩きつけてくる。左手に雷を更に纏い、来るであろう位置に剣の照準を合わせ――

 

「ぐっ!」

「ここから始まる。」

 

刃が腕に触れた様に見えた時には右側から吹き飛ばされていた。雷が薄い所を感電するには満たない時間だけ触れる。夫だからこそ出来ることだ。

 

「とりあえず――ちょっ。」

「はぁっ!」

 

電光石火。瞬間移動。全体落雷。針の雨。

雷が見えない何かに衝突する。

頭をぶつけ合う夫婦が一瞬見える。お互いに笑顔だった。

 

 

 

 

 

???

 

「何故呼バナイ……トカゲェェ……コロスコロスコロスッ!!全員死ネ!全員死ネ!!オマエモ死ネ!!死ネ、殺ス!!」

 

悲鳴さえあげられなかったナマモノが煙と共に舞う。

 

 

今年の被害

死者 86人 行方不明者 13人 神選者 1人死亡




今回の樹海頂部での参加者

ジンオウガ
夫に対してのみ戦闘狂。口は悪いが手は出さない。電気抵抗で肉を焼くという器用な事が出来る。過去にアマツと戦った。

ナルガクルガ
妻に気圧されて戦い続けた結果、守ってあげたくなった。雑務だろうが嫌な顔せずに行う。モンスター界最速と言われる。

クイーンランゴスタ
群れを常に気にする女王。クイーンとしての責任感で知能が発達した。根は慎重な性格。人間が戦うなら戦争と表現すべき。

ポボルバルム
唯一この場にいる者で村等を滅ぼしたことがない。同時に20の様々な音色を出す事が出来る。爆音を出すと大きな畑が出来る。

アマツマガツチ
余り具体的に喋らない為、気が短い奴らに嫌われる。激昂すると山が風で更地になるが戦闘以外で怒るのはお腹を触り続ける事以外無い。

バルファルク
ルドロスを綺麗に捕まえれたら喜ぶ性格。暇な時はシャンティエンに良く会いに行くが、光るため位置ばれするとよく怒られる。

シャンティエン
火も使える様に努力した個体。アマツマガツチに時折会いに行くが大体留守で落胆している。アマツと間違われて闘った時もあった。

ルコディオラ
氷大好き。寒い所が好き。ドゥレムディラに乗っかって眠るのが夢。磁石の力でハンターを地に這いつくばらせ1人ずつ殺す。

ディスフィロア
冷静な方だが戦闘スタイルはかなり激しく動く。自分の能力を常に活用し続ける為、とてつもなく強いと言われる。甘党。

エルゼリオン
堅実に追い詰めてフィニッシュで決めポーズをとる。一時期捕獲され麻薬を打たれたが炎が強くなっただけで冷静さはそのままだった。

UNKNOWN(ラ・ロ)
相手が死ぬまで滞空しながらビームを放つタイプ。肺活量がずば抜けて高く、水中で寝ている姿も見られた。辛党。

UNKNOWN(ミ・ル)
良くいる雑魚の性格。自分より格下を軽率に扱い、格上を恐れ敬う。ラ・ロが好きだが全く気づかれておらず夜な夜な泣いてる。

グラン・ミラオス
ミラルーツに黒焉と呼ばれる強者。ちなみに体を動かすと噴火するため、それを抑える為に神経がよく擦り減る。キレると紅焉。

オオナズチ
なんでも奪うが、収集癖が酷く保管している場所に溜まっていく一方。調子者でよく手加減するため、瀕死になりやすい。

クシャルダオラ
白っぽい。風を纏う力は強いが自分の視界も悪くなる為、風の流れから相手の位置を知ることが出来る。喋るが会話が苦手。

テオ・テスカトル
愛妻家。普段は人の姿で雇われ傭兵をしているが、中身が古龍の為いるだけでモンスターはやってこない。貰ったエギュラスを従える。

ナナ・テスカトリ
夫が大好き。何故かナルガクルガ希少種が寄ってくる体質の為、三匹従えている。夫婦の必殺技は火山さえ燃やし尽くすと言われる。

ミラボレアス
口調が安定しないが、サイコパスと平常を行き来するため治らない。あらゆる存在に「破滅」をもたらす。火吹き芸が出来る。

ミラボレアス(紅、ミラバルカン)
火山遊泳し続け、いざ海に飛び込んだら全く違い溺れかけた事がある。生物に対して世界の「憤怒」を代行する。

ミラボレアス(白、ミラルーツ)
自由奔放、周りの生物を振り回す。余りにも強すぎる力により別次元の生物と言われる。実際に次元を歪め異世界によく行く。


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興味に身を任せ

緊急クエスト
戦火舞う災厄の龍

撃退対象:ゴグマジオス

報酬金:後払い ランク上昇

依頼者:古龍観測隊
普段は眠っているあの古龍が
動き出した。
ゆらゆら進行方向が揺れてはいるが
ドンドルマに向かっているのは確かだ。
撃退を頼む。
雨という天候らしいが……

特例:200人参加許可(上位180人 G級20人)


クイーンが出かけてから七日が経つ。夕方になり、皆が集まる。

 

確かに考えてみれば突然他人に一番上の位置に置くことは、留守番にしては余りにもリスクが高い。

だが、一番上が一週間もいないなら、群れが散らないよう抜けない杭が必要だ。

だからきっと私にクイーンの座を任せたのだろう。

 

 

 

「キシャッ!……(酒飲んで沼に墜落してたら風邪ひいたわ……長く外出する可能性を考えないで任せたけどアトラル大丈夫かなぁ……?)」

ジョオウサマ カブツ デス

(ありがとう……)

 

 

 

しかし……こいつらは知能は低いが、労働力としては最高だ。

連携する能力も高く、重い物は皆で運び、大きくて搬出出来ない物は一時的に脇によける。非常に有能だ。

 

分かったことだが、ランゴスタ達は魚も、草も、果実も口にする。

これだけの規模になるのだ、妥当な進化だろう。

だが、魚はサシミウオや黄金魚、淡水マグロ類という食べやすい生物しかとらない。

 

という訳で、三日前から夕方からは冬の食料を安定させるために破裂するタイプの魚を安全に食べる為に研究するため、持ってこさせている。

どうやら内臓や骨の周りが爆発しやすい、という所までは分かったのだが……

 

バチィッ!!

 

肝心の腐りやすい内臓が抜き出せない。やはり栄養価が高い為必ず口に入れるからだろう。はじけイワシからは多少の肉しか得られない。

次にバクレツアロワナ……だが、こちらは深く肉を裂くだけで爆発する。肺呼吸する魚竜種で、生命力も高い筈だがすぐに爆発してしまう。

 

痛っ……

 

体を抑えながら尻尾を引き抜いたがやはり爆発した。難しいな。

氷を使うと爆発は軽減されるが爆発自体はする。

火を使うと大爆発だ。

しかし毒草の毒を抜いて食べる様に何かしら抜け道はあるはずだが、まぁ、今の私達では無理なようだ。

 

空が黒く染まっていく。

 

七日目が終わる。

 

 

 

 

 

八日目。

 

朝日が見える前に起きる。

ランゴスタは既に活動を開始している……『寒いから動きたくない』という思考が無いのは非常にありがたい。

 

さて、遂に崩落した遺跡が崩れた形で通れる状況になった為、色々得られる情報があるだろう。そしてやっと目的の冬眠空間の確保が出来る。良く働いた、と賛辞を送らせて頂こう。

撃龍槍を背負う。焼いた土で出来た箱を持ってこさせる。

 

炎を出させ、明るくする。

 

早速、目新しい物が見つかる。

ガラスの破片と鉄の土台。そして意図的に巻かれた様な奇妙な形の針金。一体何だろうか…箱に入れる。同じような物があちこちから見つかる。

 

違う。等間隔に配置していたようだ。壁から垂れ下がるロープと繋がっている物もあった。……一体何だろうか。

 

 

先に進むと分岐があった。上から確かめよう―――いや、余りにも臭う。腐ったモノがあったか……鎌で方向を指し槍で壁を叩く。

かなりのランゴスタが処理に向かった。

 

正面から見ていこう。

 

 

そこはカーペットが敷かれた部屋だった。

血のシミ。壊れた木――テーブルか。散らばったトランプ。割れた見た事の無い素材のコイン。

 

この部屋はカジノか。

 

岩や死体以外の瓦礫がそのままなのは今の私にとってはいい事だ。

 

崩れた天井の周りを見ると、これまた見た事の無い武器があった。

複雑な形の鉄……とりあえず箱に入れておこう。血の量からしてかなりの人間が潰されたようだ。

 

 

壁を槍で叩きながらまわる。

すると一箇所のみ金属音がなった。押してみると質感が違う。しかし固く閉ざされている。

耳 (脚) を当てると何かが動く音が聞こえる。

 

もう一度槍をぶつけ、再び耳を当てると何も音がしない。

 

糸に引っかけ槍を引っ張る。

 

放つと簡単に扉に穴があく。

そこから光が漏れる。

 

「あっ……うわぁぁぁぁ!」

「放て!放てぇぇ!」

 

反撃は予測していた事だ。

人間は奇妙な形の鉄を明らかに私に向けている。

 

大きな音と共にいくつかの何かが私を貫くが、痛みを無視して糸を放ち部屋に飛び込む。

ランゴスタも後に続く。

 

「来るな―――」

「嫌だ―――」

「何で―――」

「死ね―――」

 

四人をさっさと処理する。残りの四人もランゴスタに首を針に貫かれて死んだ。

ふむ、ランゴスタも戦闘の基本を分かっているようだ。流石はあのクイーンの部下だからか。

新鮮な人間の装備や服を裂き内臓や消化器官を抜いて食べる。残りを凍らせて持っていかせる。

 

なるほど、この部屋は損傷が少なく食料もあり、更に通気口や井戸まである。立て篭もるには最適な環境だ。

槍を回収して貫かれていた二人をランゴスタに放り投げ食わせる。

 

先程見たのと同じ鉄の塊だ。この武器をこのように構えていたな……転がっている木箱に向け、動く部分を糸で引く。

 

 

バァン!!

 

木箱に穴が空いた。

 

 

鉄から煙があがる。

人間になら致命傷だが私達には大ダメージであっても動きを止めるレベルではない。……いや、筋肉の筋を局所的に貫けるか。

あらゆる所に力をかける。パコっと持ち手が外れ、小さい鉄の塊がこぼれる。

 

……笛と同じ程興味を引かれるな。

 

持ち手に鉄の塊を入れる……少し力がいる。

 

他の同じ鉄の持ち手を外し再び鉄の塊、いや、これを撃ち出すなら玉か。それをこぼす。

そして槍を叩きつけて凹ませ穴を開ける。

すると更に小さい鉄と物入れの2つに分かれた。……この粉末の匂いは……火薬草と似た匂いだ。恐らく粉末にして他の何かを少し混ぜたのだろう。……当たり前だが私には作る技術は無いな。

 

とりあえず全部箱に入れ、持ち手も合計24個入れる。

 

食料も搬出させる。落ち着いてから奥にある扉を警戒しながら開ける。

 

 

しかし襲ってくる者はいなかった。ただ縛られ震えている少女と犬がいたから処理した。

……斬った後だが、有効活用出来たかもしれなかったな。

謎の紋章の垂幕と、ズラッと並ぶ本。

そして謎の陣がカーペットと天井に書かれている。

 

こんな場所にあるとは……宗教か……?

まともじゃない人間は怖いからな……やはり先程の女は処理して正解だ。

一冊を手に取り開く。

謎の単語が並ぶだけだ、私には必要がない事が分かる。

 

一匹のランゴスタがやってきて、終了したという動きをとる。

死体以外が腐っていたと考えると植物……食事する場所か。ランゴスタ達には悪いが最後に行こう。

 

やはりいくつかの通路は完全に潰れていて行けない。しょうがないから地下に行くか。

 

 

……鳴き声一つない牢屋だ。檻が折れ、折れてなければ水を飲めず餓死している。とりあえず食料確保の為に檻を破壊し、切り裂き腐ってない部分のみ凍らせて腐った部分はランゴスタ達に投げる。スカベンジャー体質なのだから、きっと体調は崩さないだろう。

 

 

彼はきっと脱出したのだろうな。

 

 

結局、食料が増えただけだった。

二階にあがる。

 

少し残った腐った匂いと焼き焦げた匂いが蔓延している。

やはり食堂か。

 

……駄目だ、私達が来る前から焼き尽くされていて食料やレシピ、なんの料理を扱っていたかさえ分からない。

 

 

……くそっ結局駄目だった。包丁を振り回す。そして箱に入れる……完全にヤバい虫の行動をしていた。

 

さて、他に気になる所は……そうだ、カジノスペースから上にあがれるな。何かがあるかもしれない。

 

とりあえずカジノスペースに戻り崩れていた所に立つ。槍で通れる程の穴を開けて見渡す。

 

……

何か大量の鉄の筒とゴム製?の縄だ。使用の仕方や何に繋がってるか分からないと何も出来ないな……

 

 

 

外に出る。

きっと槍で破壊してまわれば収穫はあったはずだが遺跡が崩れると困る。だが、収穫が箱に入れた物、そして意味不明な本だけではな……

 

 

 

納得のいかないまま立ち尽くしていると、雨が降り出す。

 

少し痛いと感じ、よく見ると氷が混ざっていた。

だが……周りの木を見ると寒さに多少は耐えるが明らかに雪が降る環境には生えない植物だ……どういう事だろう?

 

冬眠を許可する為、石を打ち鳴らす。ランゴスタ達は次々遺跡に入っていく。

 

もう暗くなってきた……一日とはとても早い。再び魚を前にする。

さて、今日はどのように―――

 

 

 

やはり駄目だった。

霙の夜、自分が濡れない場所を探す。

 

 

サァァァァ……と音が鳴っている。近くではカチカチッと音が鳴る。

 

 

 

 

アトラルは気づく。遠く。非常に遠くで爆発音が聞こえる。

 

 

 

 

 

ドンドルマ

 

 

「今だぁぁ!放てぇぇ!!」

「駄目です!!火薬に火がつきにくい上に視界が悪く撃てません!」

「ちっ、貸せ!」

 

ドドドドドドドドドドッ!!

 

「流石です!」

「褒めてる暇があったら―――」

 

 

「オォォーーー」

ドォォォッ

 

ガァァァァァッ!!

 

とてつもない爆発と共に何人もの命が消える。

 

再び胸部が光る。

 

「拘束組!放てぇぇ!」

 

何十本もの拘束弾が放たれる。

胸部の光は落ち着き、抵抗で身を揺らす。

しかし好機と誤解し、近づく馬鹿は小さい爆発に巻き込まれ死ぬ。

 

「今だぁぁ!」

 

ガコン!!

 

非常に大きな大砲が音をたてて傾く。

そして不快な音と共にエネルギーが収束する。

 

「「いっけぇぇぇ!!」」

 

 

しかし古龍。例え喋る程の知能は無くても本能的な賢さは高い。しかも攻撃中ではなく、周りを睨みつけながら拘束に抗っているのだ。

見るからに危険な色をしていて不快な音をたてているのを避けない訳がない。

 

全力で翼を広げ回転し、バリスタを破壊しながら飛ぶ。

 

人類の英知の結晶は回避された。

 

 

再び胸部が光る。

 

 

 

霙の中、炎に包まれた砦でその龍は吠える。

 

翼を広げ、身を丸くする。

 

油が砦に満ちていく。

 

自らも燃えながら一時の睡眠をとる。

 




あぁ、我らの神を讃えよ
叡智を与える者よ
力を与える者よ
救いを与える者よ
我らの道を照らす
数多の道を照らす
あぁ、我らの光を讃えよ

あぁ、我らの神を讃えよ
讃えよ そして話しかけよ
内に秘めたる思いを天に放て
我らの願いを天に放て
我らの安寧を崩す者を
我らの知らぬ所で消す神に
求めれば手を差し伸べてくれる神に

しかし心がけよ
偽りの光
偽りの力
混沌の権化の存在を
我らの神を脅かす者を



白き龍は人類を今一度消そうとしているのだから




あぁ、我らの命を捧げよ
いくつもの叡智を
いくつもの力を
いくつもの救いを
与えて下さったのだから
恐れるなかれ
怯えるなかれ




神は正しい者をお救いになる


我らの命を捧げよ


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油っ面にランゴスタ

地形 戦闘街

mh2の大きさで、
mh4gの様に壁と兵器が並ぶ。

また、二つのモンスターの出入口にも壁を作っている。
そして巨龍砲はスイッチを押すだけで発射される。
移動式砲台は3つ備えられており、巨龍砲の所へは替えの線路が三つずつ用意されている。



九日目。

 

朝日が出る。

空を見ると一箇所から煙が上がっているのが見えた。眠れなかった冬眠組を、冬眠しない方が守る様に指令する。

 

二段階強化をすると体が対応出来ないだろうから普段通りの旋律のみ吹く。

八匹ランゴスタを連れて糸を放ちながら煙の発生している場所へ向かう。

 

 

 

森を抜けると非常に大きな街が見え、向こう側から煙が上がっているのが見える。

しかしモンスター対策の為に伐採されたのか、かなり見通しのいい状態だ。直接向かうことは不可能だろう…森の中を迂回しよう。

 

煙に近づくほど見える人間の数が多く、更に草が生えていない。

微かに油の匂いがするが……ただの大火事だろうか?どうにか確かめたい。

そういえばあの憎いイビルジョーに捕まった際に球と双眼鏡を置いてきていたままだったな。

 

 

予想より時間はかからずに見つける事が出来た。泥を払う際に鎌で表面を傷つけてしまったが……一緒に見つける事が出来た球は搬出された遺跡の残骸の横に置いてきた。

 

さて、覗いてみよう。

 

 

運ばれる石柱。組まれる木の枠組み。それしか見えないが……石が炎に燃やし尽くされるなんて事はないだろう。とすると何かの襲来か。

油……夜間に聞こえた爆発音。パッと思いつくのはゴグマジオスか。

 

「……な………だ…」

「……した……か……」

 

おっと、人間の声が聞こえる。身を隠しながらついていこう。

 

 

 

「しっかし……なんで神選者はいなかったんだ?」

「ああ、いつもより気温が下がるから強大な古龍が来たんじゃないかって一週間以上前から探索に出かけていたからな。」

「一人ぐらい残せよ……」

「いやぁ、余りにもデカいからって逃げた奴と、精神崩壊してる奴はいたぞ。」

「戦力になる奴はどこぉ?w」

「まぁ、ドンドルマが攻められたから二人帰ってきたがな。」

 

 

 

離れる。

今の話から推測出来ることは

 

・あの街は人間が大量に住んでいる

・今いる使い物になる神選者が二人……いや三人

・ゴグマジオスに攻められたが復興しはじめるまで半日もかからない

 

バケモノか……?

まぁいいだろう。怪我したモノを逃がすようなヘマはしない。

急がなければ……

 

 

……気温は例年より低いのか。

 

 

 

 

 

 

濡れた地が乾く夕方。

 

 

兵器のメンテナンスや、ドンドルマの復旧が大分進んだ。

俺の指揮通り、そして予定通りに防衛ラインは直る。

今回攻めてきたのがゴグマジオスだった為、シェンガオレンの様に壁を粉微塵にされずに済んでよかった……

 

 

無能共が……!何故、現役開拓地狩人か、神選者を呼ばない……!

何が、

 

『今、気温を下げる程の古龍がいるかもだからー』

だ!

 

何が、

 

『白統虫が未知の樹海にいるからー』

だ!

 

しかも最低な事に、

 

『警備が手薄になる』や、『例のアトラルが近い』、『金や時間がかかる』

 

とか、ギルドは民衆を守る気が全く無いのか!!近くの危険はゴグマジオスだっつってんのにぃぃ…!くそっ……!

 

 

「おい、聞いてるか?」

 

くそっ!

石壁を殴る。拳が痛むが、ただの痛みじゃ自分の不甲斐なさを消せる訳がないのは分かっている。だが……もう一度拳を当てる。皮が切れる感覚がある。

 

「お、おい?」

「……なんだ?」

「早く逃げる様に指示を出したほうがいいぞ?」

「……名無し。根拠を先に言え。」

 

「いやぁ、例のアトラル・カが来るだろうなぁって思ったのさ。」

 

「……は?」

「いやぁ昼ね、森の中を歩いていたらさ。ランゴスタに追いかけられてるアトラル・カがいてさ。いやぁ、もう嬉しさでおーどーりー」

「続きを言え!」

「……へーい。真っ直ぐドンドルマに向かったんだ。でも発見報告がナッシングー。そしてアイツはチャーミンg」

「早く!!」

「…………で、知能が高い様な行動をとるらしいからさ。偵察に来て、帰ったんじゃないかなぁって。」

「……お前のモンスターに対する勘はよく当たるからな。従ってやる。」

 

 

馬鹿げた話だ。他の奴なら。

 

「だが、なんでギルドに伝えないんだ?」

 

彼は肩をすくめる。俺と同じか。

しょうがない、柄にもなく叫ぶか。

 

 

「おい!!皆、今日は引き上げるぞ!!」

「何故だ!!」

「強大な虫が来ている!!」

「あぁ!!おめぇら!!切り上げだ!!」

「「了解です親方!!」」

 

これで大丈夫だろう。

 

 

 

――揺れ?

 

 

「しまった……」

「名無し?まさか?」

 

 

しかしソレは答えが返ってくるより早く来てしまった。

 

 

 

大地が揺れる。

 

遠くから巨大な何かが近づいてくる音が聞こえる。

 

 

 

壁が弾け飛ぶ。

 

シェンガオレンの鎌を十数回耐える硬さを持つ壁が、何の前兆も無しに破壊される。

 

 

とてつもない勢いで赤い遺跡が入ってくる―――

 

 

 

いや、違う。

 

 

古龍級生物(アトラル・カ)が入ってくる。

 

大地を削りながらこちらに滑ってくる。

大工達は逃げ惑う。砦の上に立つ俺の目の前でソレは止まる。

 

とても強い風が吹く。

逃げる音が聞こえるが、悲鳴は聞こえない。まるで時が止まったかの様に―――

 

 

その沈黙を破る音色が響く。

更にネセトの頭が俺の方を向き―――

 

 

 

 

最後に見た光景は、闇から撃龍槍が頭を出した所だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危なかった……繭を破りながら深呼吸をする。

ネセトに張り付かせたランゴスタに、そして森に待機しているランゴスタに、出撃の音色を出す。

このまま砦に衝突したらこっちがバラバラになる所だった。

どうやら手ごわいハンターはいないらしい……復興途中なのだ、沢山資材はあるだろう。ささっと奪ってトンズラしなければ。

糸を放ち、群れの中から50匹のランゴスタを連れて街の中を移動する。

 

私を狙おうとするガンナーは笛で防ぐ。

私を斬ろうとする剣士はスルー。

そうすると後続のランゴスタが針を刺し、麻痺状態にして5匹程度で死ぬまで何度も刺してくれる。

 

 

 

 

「虫は嫌ぁぁぁっ!」

「アトラ……アトラルぅぅぅわぁぁぁ!」

「ネセトなんてゴグマジオスよりデカイ奴相手に出来ねぇw」

 

「転生した人で戦うの私だけ!?」

 

 

 

「シャットライト!!」

 

光の壁を作る。これに触れたらただじゃ済まない!

……凶悪なランゴスタによって、沢山の仲間が体に穴を開けて死んでいる。絶対許さない!

 

「ライトソード!」

 

杖に光の刃をつけて、ランゴスタを叩き切ろうとするけど距離をとられる。

 

まぁ……

 

「タイプ:エンジェル!!」

 

羽を生やす。そう、私だって飛べる!このまま貴方達の頂点を断ち切ってやるわ!!

 

 

 

 

ここだ。槍が大量に立てかけてある。

触れてみると―――

 

「ライトソード!」

 

叫びながら突撃してきたのを回避。

あぁ……神選者か。明らかに意味をなしていない羽が生えている。

人間は無駄が好きだな……格好いいが。

糸を放つ。

飛んで回避される。

 

「シャイニング!」

 

向けられた光剣から放たれる微かな光が私に当たっている……光線か?突進か?

 

「はあっ!!」

 

分かりやすい構えから滑るように跳んでくる。そこまで速くないため、笛で受け流す。糸を放ち槍を構え、引っ張る。

 

「スターライト!」

 

私でも熱いと感じる光が降り注ぐ……いや、そこまで熱くない。

暑いだけか。槍を放つ。

 

「くっ!」

 

疑問だ。何故、一々声に出してくっ!とか言うのだろうか……。

放った槍が斬られる。

 

私は笛を吹く。

 

「!?……何をする気?」

 

生憎私は人間の言葉を喋る事が出来ない。

再び別の槍を引っ張る。

 

「タイプ:アークエンジェル!!この街からさりなさい―――」

 

 

 

空中で十字の形をとった彼女の体から針が顔を出す。

額から出た針は次に心臓を貫く。

沢山の針が体を貫き麻痺は勿論、体内から凍傷、火傷を負わせる。

 

「が……っ!?超…新星――ゴボッ。」

 

勿論槍を放つ。

何故一々口に出すのかが分からない。

……早く荷物を纏めなければ。

 

 

 

ドンドルマが大老殿を除き虫に占拠される。救援を求める鳥も抜ける事が出来ない。ギルドナイトが必死に防衛する。

 

街中で追い詰められたハンター達が闇雲に弾を放つ。

ランゴスタは避けつつ、弾を再装填しようとするハンターに対してのみ突撃する。

g級以上の力が必要な相手に上位のハンターが対応出来る筈もなく、殺される。

気が狂った双剣が回転しながら走る。一瞬でランゴスタが集まり五秒で死体がどこかに運ばれていく。

固まって動かないグループはそのまま焼死か凍死させられる。

 

ドンドルマはその日、夕日に照らされる事はなかった。

 

 

 

 

沢山の資材を手に入れた。

森からやってきた第二軍がネセトを襲おうとするハンターを押し退けている。

ネセト破壊を考慮していなかったが……まぁ良かった。棚から牡丹餅。

撃龍槍をネセトに糸で縛りつけ、そして少し切られた糸を修復する。

 

 

 

「待ちな……さい……!」

 

 

まさか。

 

「タイプ:アークエンジェル!!」

 

 

人間の形状を保ったままさっきの奴が飛んでくる。

 

声帯も肺も脳も貫かれたはずでは?

とにかく笛を構える。

 

「ドラゴンバスター!!」

 

黒い雷が私を貫く。全く痛くない。

 

「炎天!」

 

私を炎が包む。暑いという事はリオレウスのブレスより熱いのか。

 

「はぁ…はぁ……」

 

早く帰らなければ。私に相性が悪い奴は放っておこう。

 

 

 

 

なんなの……!?

太陽の表面温度は……はぁ、6000℃なのに……

 

ランゴスタを従えたネセトが遠ざかっていく……

………

 

………

 

「大丈夫か?」

「一撃じゃないなら……死には……しないよ……」

「随分力が抜けてるようだけど。」

「それでも……4000℃……」

「……アトラル・カ、奴はとてつもなく熱に強いよ。」

「なんで……?」

「砂漠の中、鉄に触れて生きているんだ。人間なら火傷で死ぬぜ。」

 

でも、それだけじゃ無いはず……

他のアトラル・カだって燃やし尽くす炎天が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コォォォォォ……

 

壁が凍てついている。

 

「グルゥゥ……ブルル……」

 

その龍の体は濡れていた。

 




ハタヤ カナ

神選者の一人。
光を使い、炎を統べる。
龍属性をも使う。
天使という形態を持つ。
近年まではモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げていたが、
ディスフィロアを倒しに行き、失敗してから力が弱まった。

(その個体は例のディスフィロア説が濃厚である)

new→虫が大嫌い


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忙しい人間

「上位のハンターやる事ない……」
「早く狩猟解禁してくれぇ!!」
「死ぬぞお前……」
「あ、先輩!何故ミステルンデス!?」
「この世の終わりみたいな状況だから。自殺『行為』じゃなくて『自殺』になる。」
「……(・□・;)ゞリョウカイデス」
「でも先輩?いや、流石先輩!普通に帰ってきましたね!」
「あたぼうよ!G級ハンターなめんじゃねぇ!(クエスト失敗だけど)」


ドンドルマ

 

あの日から6日。やっと復興が始まった。

私がアイツらに負けた時、街はランゴスタ達に復興資材を盗られ、大工の生き残りがほぼいない状況だった……

 

本来龍が襲来した場合、竜達は遠くに逃げる。

だからこそ、すかさず復興を始める事により竜の脅威を受けずに済む。

 

筈だったのに……

 

なんなのあの虫!?

 

気を取り直して、とりあえず大老殿で夜出発のクエストを見せてもらおう。

 

 

 

 

『神選者規則・其ノ壱』

 

ある程度のポイントを一月に得る必要がある。

ポイントはHRPと同じ。

得なかったら……

 

 

大老殿立ち入り禁止。野良ハンター化。

 

 

 

 

ノルマは優しいし、衣食住が保証されるから従うのは当たり前だけどね。

あと5p足りないだけだから採取クエストを受ける。

地球だったら狩猟クエストをばんばんやればいいって思ってたけど……実際は襲来を警戒するタイプのクエストが多かった。

 

そして狩りに行くのは間引きか探索、そして襲来した後。

実際にモンスターを狩った場合にのみポイントを獲得するから、安定するのは採取という……

しかも採取だけなら三つまで同時に受けれる。

 

 

 

往復で半日の距離とはいえ、環境不安定だと求められるHRも上がる。

だから大老殿にも採取関連のクエストも急増している……

 

 

「はい、確かに納品を確認しましたにゃー!」

 

納品箱に入れる時は付き添いのアイルーに一度渡す。

考えてみれば……草や木の実を入れても品質や大きさ、数の詐称があったら困るからね。

アイルーは卵をギルド支給のクッションに入れ、草は一枚一枚通気性の高い網に入れる。

 

「それでは……どうしますにゃ?」

「帰るよ。」

「引き車に乗って待ってて下さいにゃー。」

 

……もっと予想外だったのは納品クエスト前後。

納品した物を運搬する警護をハンターがする。

私だけだったら飛んで帰れるのになぁ……

 

といっても狩猟クエストも狩猟対象を拘束して運ぶ必要があるから捕獲の時は同じなのだけど……

 

まぁ討伐しても特殊な場合を除き死体を運ばないと……

 

「どうかしましたかにゃ?」

「んぁ?あぁ大丈夫。考え事をしていただけ。」

「はーい。帰るまでクエストですにゃよー?」

「そう……だね。」

 

卵を狙ってくる鳥竜種、夫妻。……虫。

ハンターって緊張しっぱなしだなぁ……

 

 

 

 

「はい、これとこれ、これの完了を確認しました。報酬はどうします?」

「全売却で。」

「分かりました、合計18433zとなります。ギルド保管でよろしいですか?」

「はい、大丈夫です。」

「お疲れ様でした。ではこちらの書類に。」

「はい、はい……」

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

ボフッ。

 

特一級のムーファベッドに横になる。

 

「ニャー」

「おぅおぅーどうしたニャゴー?」

「ニャー!」

「うりうり〜!」

 

他に驚いた事。

地球の生物が結構いる。なんでだろう……

 

「さてー!」

「ニャッ?」

「もう少し仕事しないといけないし、今日は忙しいから、明日の朝までニャゴは待っててね。」

「……ニャッ。」

「はぁ……」

 

軽装に着替える。

 

午後からはきちんと復興のお手伝いをしないと。

 

 

 

『神選者規則・其ノ二』

 

特異な力を持つならばそれを他の者の為に役立てなければならない。

周りからの羨望は嫉妬に変わり、そのうち刃物になる。

守らなかったら……

 

 

 

何時だろうと身体の保証はしかねる。

 

 

 

 

普段自分勝手に動いていたら、事件や事故で負傷しても自己責任で、身の安全は守りませんという事。

えっと……つまり、

 

 

街中で刺された! 契約無しの狩猟中に怪我した!

 

という時は。

 

 

大丈夫!?→治療&警備&捜査→全て無償→退院の祝い金→しばらくは失敗しても何度かは見逃してもらえる

 

 

あっそう→治療→治療費を請求される→元の生活

 

 

の様に対応が天と地の差がある……自己治癒力が高くて従わない人は多いけど。

 

でも、私は感謝してくれる事が嬉しいから規則関係ないけどね……。

よっと。

 

「その石はあっちでーす。」

「はーい!」

「無茶するなよー!?」

「大丈夫ですー!」

 

それに私は飛べるから他の人より尚更頑張らないと。

 

 

そうそう。

 

元の世界の私達よりこの世界の人間は凄い屈強。

普通の女性の大半が、ジャンプして屋根に両手をかけたら体を引き上げられる。

 

人によっては子供をおんぶしながら洗いたての洗濯物を入れた籠を持ち、片手で屋根に登る。女性なのに。……しかも少なくない。

 

そんな世界だからか、他の人より強い存在の私はとんでもなく力が強い。元の世界ならクレーンが必要な岩を飛んで持ち上げられる……このまま地球に帰ったらどうなるのかな?

 

 

 

 

 

ゴトン。岩を置く。

タタタ!風に煽られる前に、隙間に石や木を挟む。

ストン!ストン!バシャッ!漏れないように鉄で挟み、接着剤を流し込む。

見事な連携で一ブロックにかかる時間は乾かす時間を除いて十分もない。

 

 

「野郎共!今日は終わりだ!」

「「うっす!!」」

「嬢ちゃんもサンキューな!」

「はい!」

 

 

星が瞬く。

 

 

朝からずっと資材を運ぶ事が出来る男性達は凄い。私は重い物を午後から運んだけどそれを固定したり周りに置くのは大工さん達。やっぱり皆の力が無いと駄目だね。

 

 

路地裏に向かって歩く。

さて……

 

「エントランス。」

 

そう言うと扉が出現する。

向こう側から声が聞こえる。

 

「ビザはおもちですかぁぁ!?」

「え?」

「ビザはお餅ではなぁい?お持ちでもなぁい!?中にピザあるから入って食え!」

「え?あ、はい。」

 

 

 

『神選者規則・其ノ参』

 

時々開かれる集会への参加は絶対。

規定時刻には強制的に集められる。

それまでに入室も可能。

 

 

意地でも抵抗したら……

 

 

 

何があるのだろう?行方不明になるらしいけど。

 

 

扉を開くと大広間に出る。

 

 

「やぁ、天使(エンジェル)。」

「ど、どうもー……」

「アトラル・カに負けた雑魚だぜはっはっ!」

「誤認な上にはしたないぞ。アトラル・カ率いる白統虫のランゴスタにやられたのだ。」

「どちらにしろ雑魚にやられたんだろ?リョナキャラクターかなぁぁぁ?」

「そういう事を言うな。」

「役立たずを気遣う必要なんてねぇだろぉがよ!!」

「……俺はそういうのは嫌いだ。」

「はぁぁぁっ?お前なんかに聞いてないしぃぃぃ?」

 

「こっちこっち。精神的な子供は相手にしなくていいのよ。」

「は、はい。」

「転生してから調子に乗る人は多いからね……大丈夫?傷は?」

「治りました。腕もきちんと動かせます。」

「そう。……敬語は使わなくてもいいのよ。」

「あー…ははは。」

「……聞かせてもらえる?」

「良いですよ。ソレはですね―――」

 

 

「皆。リーダーの話だ。」

 

 

話そうとした時に、スピーカーから声が聞こえる。

 

 

「こんばんは。今日、集まってもらった理由は簡単。ドンドルマ近くの未知の樹海に存在を確認された『ゼスクリオ』という龍を討伐してほしい。」

 

「『ゼスクリオ』?」

 

「あぁ。気温が下がっている原因と見られている。」

「へっ!ドンドルマの役立たずには任せられないから集めたんだな!」

「いや、そこには白統虫クイーンランゴスタもいるため非常に困難だ。パーティーで―――」

 

「雑魚に足を引っ張られるから行ってくるわ!じゃあな!!」

 

バタン

 

「挑んでほしい。後でゼスクリオの書類を出す。後は交流の時間にしてくれ。」

 

 

「リーダーが集めてまで倒そうとする……どんな相手かしら。」

「分かりませんね……」

「あ、怖いかもしれないけどアトラル・カの話の続きをしてもらえる?」

「大丈夫です。奴は―――」

 

 

「って訳です。」

「……相性が悪かったのね。」

「なんと言えばいいのか……冷静?落ち着いていた?みたいな。」

「ネセトに乗って突撃するのに落ち着いている。怖いわね……」

 

 

 

 

 

遺跡

 

 

「分かる!ここだ……ここだ!!」

 

先程飛び出した神選者は直感でたどり着く。

 

 

龍は感じる。熱源を。

 

 

『虐光』はゼスクリオに向かう。

遺跡を走る。障害物を破壊する。

 

あっという間にゼスクリオが寝ている場所につく。

 

体を起こしたゼスクリオを見て、神選者は狂った笑顔を見せる。

 

足を叩きつけながら叫ぶ。

 

「さようなら!『大噴火』!!」

 

部屋が揺れる。

 

 

 

 

それ以外は何も起こらない。

 

 

 

「ダークスラッシュ!!」

 

剣を構える。何も起こらない。

 

「……!?破壊砲!!」

 

大きな機械が現れる。何も起こらない。

 

「……フリーズ!!」

 

始めてゼスクリオが反応し、翼をパタパタする。何も起こらない。

 

「……は?『死ね』。」

 

謎の力がゼスクリオの首を絞める。すぐに何も起こらなくなる。

 

「……」

 

「…グルル……?」

 

「……ちっ!……は!?」

 

足が動かない。空間に縫いつけられた様に。

 

「う、わぁぁぁ!?閃光!地割れ!ダークインフェルノ!冥門!」

 

全て何も起こらない。

 

 

いや全く何も起こらない訳ではない。

 

透明な青の体の中に見える白の光が、最初より僅かに大きくなったように見える。

ドゥレムディラの骨格をした龍が立ち上がる。

 

体内の白い光が背中に触れる。

 

 

 

バキィッ!!

 

橙に光を放つ『腕』が生成された。

 

 

哀れな人間に近づく。

 

「きゅ、『吸収』!!」

 

腕が穴に吸われるがすぐに溢れる。

 

「いやぁぁ!ァァァァァァ――!?」

 

人間が出さない様な叫び声。

死に物狂いで念じても何も起こらない。

 

そっと『手』が神選者を包む。

 

 

 

ドロッと液体が滴る。

 

上半身から腕をゆっくり降ろす。

熱したチョコレートの様に地面にモノが広がる。

白い光を放っていたソレは一瞬で黒くなり、後には黒い粉が舞うだけだった。

 

再び龍は体を横にする。

 

 

 

 

 

「エネルギーを司る龍ですかー。」

「随分ファンタジーな力を持ってるわね……あ、帰る時間だわ。じゃあね。」

「では、また!」

 

五時間ぐらいするとみんな帰る。

私も帰らないと……眠い。

 

 

 

「ただいまー……」

 

ニャゴは寝ている。

 

「『雑魚』……か。」

 

気にしていないつもりだった罵倒を思い出す。

下僕に負けるなら女王に勝てるかは怪しい……でも1VS1なら……そんな状況にはそうそうならないか……

 

着替える。睡眠無効を発動させて布団に入る。

(特一級ムーファベッドで起きなくなる事例あり)

 

 

天井を眺めながら様々な思考をする。

 

 

 

そして嫌な想像に辿り着く。

 

……まさか。

アトラル・カを燃やせなかった炎天。

炎天を弱めたのは……ゼスクリオ?

エネルギーを司るって……具体的にどう対応すればいいの?

昔の人はどうやって抑えたの?

 

明日から調べなきゃ……!

 




神選者配布書類(簡略済)

ゼスクリオ

別名(仮):収静龍
体長:不明
体型:ドゥレムディラにかなり似ている
脅威:全生物死滅……?

能力:エネルギーを司る……?(吸収確認済、放出系が不明。すぐに操れる範囲は余り広くない?)

戦闘:相手に何もさせずに勝つ。ブレスは空中で消え、直接の衝撃は寸前で吸収される。相手を拘束出来る。エネルギーを発散と吸収を同時にする事で構成された『腕』を扱うらしいが、腕の存在や、威力は不明。


概要:古代の文献に確認出来る古龍。
幼体や、成体の姿がかなり細かく描かれている。
かなり暴れまわり、人類にもモンスターにも大打撃を与えた。
森は凍土に。凍土は草原になったという。

しかし深く掘り下げていないため、余り対策が必要な相手では無かったらしい。


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燻る生命の灯火

古龍種

モンスターハンターに登場する全種族の頂点に立つカテゴリー。
太古より悠久の時を生き続け、あらゆる生態系から逸脱した存在を指す。

―引用 モンスターハンター大辞典 wiki―



未知の樹海

 

 

砂漠地帯

 

氷の竜巻が舞う。白き騎士が風にのりドスゲネポスを狙う。

 

 

森林地帯

 

アプトノスが群れを作り、走り逃げる。新たに縄張りにした所の草を食われた巨体は泥塊を鼻で投げつける。

 

 

『雪原地帯』

 

ゲネル・セルタス亜種は歩く。その前に赤き生物が降り立つ。

「( °言° )<ヴェァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

十三日目。

 

まだクイーンは帰ってこないのか!?

いい加減にして欲しいな……

 

まぁいい。

先日の突撃で使用したネセトは糸を解くとバラバラになる場所があった。そこをゆっくり他の遺跡の残骸で補填し、新たに手に入れた『鉄』をまずは関節部分、骨、繭を纏う箇所に使用する。

 

逃げ道は常に確保しなければならないからな。

 

さて、また一つの問題だ。私の成長より早く、

重い武器(ネセト)が与えられた……

また力を鍛えるしかない。槍の重さの時点で予見していたが……

 

 

来たか。

 

「ウォォォォッ!!」

 

ボルボロス亜種が走り寄って来る。

笛を吹き鳴らし槍を背負う。

 

自己強化に続けて合図。

 

ボルボロスがこちらに頭を傾け走ってくる――

 

 

ドォンッ!!

 

 

ランゴスタは地面に潜っても呼吸が出来る為、地中に待機させて、敵が通った際に火柱をさせている。

予期せぬ攻撃にボルボロスは怯み、そこに大量のランゴスタが群がる。20匹以上に刺されすぐに麻痺にかかり、10匹が針を並べて刺し肉を裂き、めくり、数匹が噛みちぎりながら体内に直接侵入。体内からの炎や凍結には流石に大体の生物は耐えない。

私の教えた通りに戦闘してくれる為、自己強化をする意味もなく倒してくれる。

 

……しかし、雪か。籠の中、窓の内側から見た雪は神秘的だったが、目の前の景色は血で染められている。

 

だが、まずは雪だるまの面白さを知らなければ……

 

 

 

お…もい……!

 

まさか「楽しい!」と彼が言っていたのは競っていて勝利したからか!?予期せぬタイミングで人間の一面を知れた……

 

 

しまった。雪だるまの頭を乗せなければならない。

 

 

ゴロゴロ……

くっ。下部に適した大きさの頭部を制作したが……くうっ!私の大きさは……キツいか……っ!

糸を使おうとしても糸を水に突っ込むのと同じで、そのまま重さに耐えられずにすぐにちぎれてしまう……笛を使いたくないが……

 

 

結局、下部が頭部を押し付ける事に耐えられず崩壊してしまった。

 

 

他に雪と言えば雪合戦か……不可能だ。やめておこう。

 

さて、雪が降っているという事は周りに生えている植物からしてありえない事態だ。

 

「ギャオァオァァァァ!!ァァァ……」

 

環境変化によって気がたっていた肉塊が次々と積み上がる。

やはりクイーンの下僕……どんな状況になっていても冷静だ。

きっと本能が警鐘を鳴らしても上下関係の理性が勝っているのだろうな。

 

そして、以前凍らせた食料を溶かして焼いて食べるという、例の行為は意味があったと示す事になっている為、もし信頼という意思があるならしばらくは維持されるだろう。

 

さて、木の実を探しに行くか。

 

 

 

バルバレ ギルド

 

 

高難度:焼け凍てる樹海

 

討伐対象:下記

報酬:下記

契約金:5400z

 

依頼者:ギルドマスター

 

内容:なんと未知の樹海に雪が降り、北の寒冷地に生息するモンスター達が大量に入って来てしまった!

突然の気象変化によりモンスター達は気がたって、あらゆる場所で争いを起こしている!

このままだと確実に我々の住む場所まで争いが広がる為、大量討伐を要請する!

余りに種類が多い為、下記を参考にしてほしい!

 

 

危険度=報酬

 

3=3500z

4=5000z

5=7000z

6=9500z

7=12500z

8=16000z

 

また下記のモンスターに報酬は無し。

 

・白統虫クイーンランゴスタ

・錆びついた?白っぽいクシャルダオラ

・ランゴスタを引き連れた一回り小さいアトラル・カ

 

これらは発見時に逃走してから位置報告により4000zが発生する。

継続観察に報酬は無し。

 

四人で1パーティだが、現地での合流も許可する。

 

 

 

 

 

 

樹海・雪原地帯

 

ふざけるな!?

ジンオウガが走ってくる。雷光っ……虫を回避しながら逃げる。

ランゴスタに注意を払い、地雷を回避する瞬発力。もっと阿呆でいいのだが。

腕の叩きつけを回避、そのまま糸を……っタイミングが合わない。

雪のせいで木の太さなどが分かりにくい。雪が落ちたら枝は跳ね上がる為尚更難しい。

 

しかし雪を掻き分け走ってくるジンオウガには、笛を吹いた所で私は素早さで劣っている。

だが、ランゴスタの方が速度が早い……しかし雷光虫を飛ばし距離を置かせている……

とりあえず、このままネセトの位置まで走り切れば……っ!?

 

バキツ

 

まさか穴があるとは……左前足を折ってしまった。

しょうがない、笛を構える。雪の中を歩く為、重い槍は置いてきてしまった。

 

「ウォン!ウォァッ!」

 

右脚叩きつけを弾き、そのまま倒れる様に回転して笛を頭に叩きつける。そのまま押してバランスを崩させ、次の左脚を叩きつけさせない。

 

そこから飛び退いて笛を吹き、氷のランゴスタに集合命令を出す。

 

ジンオウガが雷光虫を飛ばしてくる。笛で雪を巻き上げながらかっ飛ばす。

雷光虫を集め、超帯電状態に移行しようとしている……そうだ。

 

鎌をパタパタさせる。ランゴスタが私を持ち上げる。

ジンオウガが超帯電状態に移行した時には私は空高く持ち上げられていた。

 

何かがこちらに向かってくる。

……待て、あの色、形は……リオレウスか。

ランゴスタを振りほどき、リオレウスに糸を放ち背中に乗る。いつかの様に――

 

「グォァァァ!」

 

!?

回転……だと。遠心力によって糸を狙って放つ事は難しい。足が折れている今は移動さえ難しい。

再び鎌をパタパタさせる。

 

私は吹っ飛び、ランゴスタに受け止めてもらう。

再び私に突っ込もうとするリオレウスに氷塊が落ちる。

 

私達の場所に早く戻り、ネセトを使ってミな殺ししてタベて貯蓄シて積雪対策をしないと……

 

……なんか頭が痛い。風邪をひいたか?あ、足から体液が滴っている。早く治さなきゃ。

 

 

 

 

 

 

ジンオウガは痙攣しながら雪に倒れ伏していた。近づくガブラス達。

 

次の瞬間手当たり次第に食いちぎり、強く吠えガブラスを墜落させるバケモノがいた。

 

 

 

 

 

 

やはり足を治す時に使う旋律は疲れるな……。

だが、これからも足を折りそうだし慣れるしかない。

……皆殺しの必要性はないのに何故あの発想が浮かんだのだろうか。まぁいい。

 

遺跡前に陣を敷いているが、流石に敵の数が多い為、負傷したランゴスタがちらほら出てきた……どうしようか。

 

 

「み、見つけましたにゃ。アコル。貴女が例のアトラル・カでしたか。」

 

聞き覚えのある声がする。

 

「頼まれた物です。」

 

……遠くにしばらく前に私を狩りに来たアイルー達と人間が見える。笛を吹きランゴスタの猛攻を中断させる。

 

「貴女にはもう要らない物ですが、タイミングは良かった様ですね。この調合キットを貴女にあげますにゃ。これが調合書・入門編です。例のレシピはこれです。」

 

なるほど。確か前に

 

『甲虫用の回復薬』

 

と言っていた。ランゴスタやブナハブラを材料に実験したのだろう。

 

お辞儀する。

「……やっぱり、殺したがる性格じゃないですね。何故ドンドルマを……いえ、分かっていますにゃ。種族が違えば、生きていく方法も違いますからね。」

 

あぁ、ドンドルマに

・資材がある

・槍がある

 

そして

・抵抗する者がいない

 

なら穏便に略奪する。

 

 

向こうのアイルー達が私を睨みつける。

 

「……それでは。」

 

走って戻っていく。

 

何故、睨みツける……!?

コロしたくなル……縄張りヲ……私ノ縄張り――

 

待て、今の私に縄張りなんてない!

 

 

 

はぁ……はぁ……

 

……気がつくと彼女達はいなかった。

確かに血の匂いや沢山の咆哮が聞こえるが、何も彼女達に八つ当たりする事は無いだろう。

一体私はどうしたのだろうか?

 

いや、まずは甲虫用の薬を作らなければ。

 




とある神選者が入手。


朽ちかけた書類

ゼ―クリ―

我――――――制―――画は遂に―――え――と――――。
―子―ド――――――の―方――――れた。
我々の――――――――――――のド―――は―――――――――だ!

(以降更に掠れている為、解読行為は無謀。)


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パンデミック

古龍は中々死なず、繁殖も余りしない為、進化はしにくい。


ゴア・マガラ

分類不明


未知の樹海・雪原地帯

 

 

まさかギルドナイトの私達も出動するとは……

 

ドンドルマがアトラル・カに襲われた時も命令に従って樹海にいたのですが……

また樹海ですよ。しかも寒い!

ホットドリンクなんて持ってきてないし耐えるしかないですね!(-2℃)

 

「大丈夫か?少し震えているが。」

「そりゃ雪の降る中、そこまで厚着じゃないのに寒くない訳がないじゃないですか!」

「そ、そういうものなのか。」

 

彼は平然としています。

私は二人組ですが、実際彼はソロの方がいいんじゃないですかね?

彼は対人寄りなのにモンスターにも無敗です。

敵に対しては冷酷かつ迅速に行動しますし……

 

バサッ

 

「上着をもう一枚羽織っとけ。」

「あ、えぇぇぇぇ!?さ、寒くないのですか?」

「対人には必要な技能だからな。服だけで冷凍保存施設に潜入や地下に穴を掘って待機もするし。」

「………」

 

インナーと軽装しか着ていないのに雪を掻き分け、痕跡を探してから導蟲を飛ばせる彼はやはりギルドナイト内でもトップレベルだからでしょうか。

 

 

 

 

 

導蟲が示しているのはこっちか。独自ルートで入手した導蟲がかなり優秀で使い勝手がいい。

さて、青や緑に明滅してるという事は微妙な強さのモンスターが近くに――

 

赤く輝いた。

 

「来たぞ。」

「分かりました〜」

「……おい。」

 

 

 

 

暴れながら走ってくるのは黒く変色したジンオウガでした。……まさか狂竜化でしょうか?ならば大丈夫。狂竜化なら他のモンスターに感染はしないですからね。

 

「いけるか?」

「大丈夫ですよ。それに体をあっためなきゃ。」

 

……だけどなんだろう。嫌な予感がします。

 

抗竜石を盾と双剣に擦り、戦闘体勢にうつります。

彼も盾とハンマー、ライトボウガンに抗竜石を擦りました。

 

「「………ハァ…!!」」

 

互いに呼吸を合わせ、走り出します。

 

 

 

 

その場で回転しているジンオウガの尻尾を切りつける。盾で回転してきた腕を弾いて体を打ち上げ口に片方刺して頭の上に乗る。

 

ジャンプしてハンマーを背中に叩きつけ体をはね上げながら納刀。ボウガンをだして事前に装填した斬裂弾を撃ち、再びハンマーに持ち替え斬裂弾を叩いて打ち込み離脱する。

 

斬裂弾が弾ける為一度離脱、怯んでいる間にエリアルの技術で跳躍して、頭から背中にかけて回転しながら切りつけ、鬼人化して尻尾で切り返し、尻尾から頭にかけて再び回転しながら切りつける。

 

彼女が回転しきって両腕で盾を上に構えた為、踏み台にして跳躍、ボウガンに徹甲榴弾を装填し、頭、尻尾、頭に放ち離脱。

連撃に刺激され、ひたすらその場で暴れ回っている為、ボウガンで刺激し続ける。

 

雪を握って頭ぐらいのサイズで固める。

ジンオウガが背面跳びしてくる。

一度回避し、抱えながら近づき口に押し込む。ジンオウガの頭に乱舞をする。

 

嫌がって飛び退いた所にパレットゲイザーを放ち、ハンマーに力を貯めながら駆け寄る。

口の中の氷に気を取られているジンオウガの頭に二連スタンプを放つ。

 

「いけるかっ!?」

「大丈夫!」

 

怯んでいる隙に直線上に並ぶ。男は盾を上に構える。女は深呼吸をする。

 

「「いざっ!」」

 

双剣を構えはしり、盾を踏み台に回転しながら跳躍する。

 

「はぁぁぁぁっ!!天 翔 空 破 断!!」

 

背中を深く裂く。

 

「おるぁぁぁっ!!」

 

特別な改良をされたライトボウガンから支柱が伸びる。

 

本来はヘビィボウガン用の排熱噴射機構がとてつもないエネルギーの熱線を放つ!

 

「……!くそっ、なんか火力が弱まっている!?」

 

 

しかしジンオウガの息の根を止めるには充分な攻撃だった。

 

 

 

 

「……おかしいですね。」

「解除ならず……か。」

 

一通りの装備チェックと武器を整え終わりましたので、さっきの戦闘を振り返ります。

かなり切った筈なのですが……

 

「本来なら途中で解除になり、ダウンになるからそこでスタンをとるのだがな。」

「ですね……」

 

「……ところで導蟲が出てこない。」

「……なるほど。」

 

 

轟音と共にディアブロスが雪を吹き飛ばしながらとび出てきました。

 

「ヴォォォォォォォ!!」

 

 

「まさか?」

「あの色……まさか極限化個体がいるのでしょうか?」

「まずは狩るか。」

「えぇ。ディアブロスには音爆弾ですね。」

 

 

 

 

 

 

未知の樹海・遺跡地帯

 

 

「タイプ:エンジェル!炎天!」

 

弱まっているが、アグナコトル亜種なら燃やし尽くせる。周りの木や草は燃えにくいから意外に開けた場所なら使える。

 

「嬢ちゃん頼んだにゃ!」

「早くその方を運んで下さい!」

「大丈夫にゃ!任せときにゃ!」

「よろしくお願いします!」

 

 

ドォンッ!!

地面が揺れる!

 

「キシィキシイッ!!」

 

ネルスキュラ亜種がとびだして来た!?

しかも……この色は狂竜化!?

 

地面から飛び出したネルスキュラが私に糸を飛ばしてくる。

勿論飛んで回避。

 

「ライトニング!!」

 

足を穿ち転倒させる。

 

「はぁぁぁっ!鏡面!」

 

勢いを更に追加しながら反転、腹を貫く。

 

ネルスキュラが地面に潜る。

とりあえず警戒して飛んでおこう……

 

「キシィィィッ!!」

「きゃぁっ!?」

 

まさか地中から飛び出して私を捕らえるとは……でも大丈夫。

 

「はぁぁっ!」

 

光剣をネルスキュラの頭に向ける。そして一気に巨大化させて貫く。

挟む力が弱った隙を逃さず脱出する。

 

再びネルスキュラが地中に潜ろうと――

 

「アァァァァッ!」

「キシャァ!…ァ…」

 

ネルスキュラを貫く様に雷を纏った何かが飛び出す。

 

まさか。

 

 

バチバチッ!

 

タイクンザムザ第三形態……しかも狂竜化している!?

 

 

 

 

 

 

ドンドルマ 対策本部

 

 

「な、なんだこれは……」

 

絶望から皆が笑う。

 

「ははは……狂竜化した個体が大量に居るって?何の冗談……」

「しかも極限個体もゴア・マガラ、シャガルマガラさえ見られてないんだろ?明らかに報酬を釣り上げようと……」

「……まさか狂竜化個体から狂竜ウイルスが寄生、増殖する状態で蔓延しているのか?」

「ないない…ないないない。そんな事したら全生物が死滅する。」

「だが……血液感染は低確率ではあるが可能性はあるからもしかしたらそれらは……」

「「………」」

 

一人が扉を開けて駆け込んでくる。

 

「未知の樹海にティガレックス希少…種の……感染個体……確認……!!」

 

「はぁ!?……あはははっw亜種が返り血を浴びただけでは?」

「爆発確認です……」

「「………」」

 

 

「嫌ぁぁぁっ!」

 

 

「ぁぁぁぁぁっ!!」

「龍識船を用意してぇっ!気球でもいいわ!!」

「落ち着け!落ち着けぇぇ!」

「無理だっ、無理だぁぁぁっ!!」

「退去命令を!早くっ!逃げろぉぉっ!!」

 

 

一人がパニックに陥ると連鎖的に広がる。

対策本部の筈が、現在は一番混乱していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

未知の樹海・遺跡地帯

 

 

「貴女も来てたのか!『爆星』!!」

「おー天使さんじゃーないかー。」

「………」

「あ、傭兵さんも?」

「……うむ。火の国経由で我も雇われた。要求された事は全力で遂行する所存である。」

「まーねー。私はー余りー乗り気じゃーないけどー。テ……テトリがー暴走しない様にねー。」

「要らぬ心配だと申しているのだがな……」

 

「……タイクンザムザが来た。」

「あー私達がー処理しとくからー他のー頼むよー。」

「あ、え、そう?じゃあよろしく!」

 

天使は飛んでいった。

 

「……バル。貴殿、一瞬我のことをテオと呼びそうになったのであろう?」

「な、なんのことかな?」

「分かりやすい。さて、タイクンザムザとやらを討伐せねば。」

 

 

「キシィィィッ!!」

 

タイクンザムザが飛び出て二人を貫く。

 

筈が、通り過ぎていく。

 

 

陽炎と、地面を焼く音による誘導に引っかかったザムザは周りを見渡す。

ザムザを熱が包み込む。

 

「とりあえず今晩のおかずの一つは蟹の鍋になりそうか。」

「うへぇ……多足類きらーい。」

 

あっという間にザムザは煮上がっていた。

 

「タイクンザムザ100%煮込み〜狂竜ウイルスを添えて〜 の完成だ。」

「添えてない添えてない!混ざってるよー!?」

「……お巫山戯はここまでにしておこうか。」

 

タイクンザムザを爆発させながら言う。

 

「やはり予想通りの現象になっているな。」

「うんーここに居ることー自体がー燃費ー悪いー」

「しかし我等は眺めるだけだ。人間としての役目以外はな。」

「スパイーしてるんだからー感謝ーしてー」

「勿論、余りにも危険なら紅ミラ殿に報告するが。」

「女性のー姿ってさーどーゆーのがーいいのかなーちょっとー確かめてよー」

「……愚か者。ここで脱ぐんじゃない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ザザザッ

 

アタタカイ……ドコ……

サミシイ………

 

……モウイチド……アイタイ……

 

ザッザァァ―――




―――恨みは募る。
いくら恨んでもこれは消えない。
人類を殺さないのは本人がそう言い続けていたから。
だから殺さない。
だから殺さない。

今、迎えに―――


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正しい行動

「どんな世界も狂ってるわ。勿論、狂ってるのが普通。」
「はいはい。」
他の世界(仮想)を指摘し、自分の世界(自己)を指摘する。思考があるから。」
「うんうん。」
「でも、自分の理解しやすい方向に無意識に解釈してしまう。」
「うむうむ。」
「……そして曲がりくねってまた過ちを犯す。」
「その時はまた終焉()わらせるから大丈夫だ。」


未知の樹海・遺跡地帯

 

 

狂竜化レウスを追っていたら地面が揺れだした。

 

「おい、何か来そうだぞ。」

「ですね。……しかも雰囲気がヤバい。気を抜くんじゃねぇぞ。」

「勿論。」

 

遂に彼女もやる気になったか。リオレウスは逃すが、強大な存在を確認出来るなら別にいいはず。

 

 

 

雪が降り出す。

 

一つの遺跡が突然割れる。

 

その遺跡を跳ね飛ばしながら龍が出てくる。

 

龍は二人組を見つけ、常人なら失神する程の音量と狂気が混じった咆哮を天に向けて放つ。

 

 

 

二人は武器を構える。

 

 

 

ナンデヤイバヲムケルノ……!?

イヤダ、イヤダイヤダイヤダァァァッ!!

 

 

 

再び龍が咆哮する。

尻尾を振り回す。

 

 

 

「……なるほど、止まっていると足が動かなくなるのか。俺は足踏みしている。」

「私も足踏みしてる。」

 

龍は足で地面を削り、威嚇している。

 

「だけど……あの龍、戦意あるのか?攻撃的ではなさそうだが。」

「あぁ……どうも様子がおかしい。俺が話しかけてみる。」

 

 

「おい、理解出来るか。」

………エ?

「どっか怪我していて苦しいのか?」

…ヨカッタ、タイワシテクレルニンゲンモイルジャン。

 

「首を横に振った……のですか。」

「やはりライダーを見た時から思っていたが、龍は想像より遥かに賢いな。」

 

「すまない、今、ここに雪が降ってるだろう?ここは元々樹海と砂漠の地域なんだ。お前の能力だと思うから環境の為に北に移動してくれないか?」

……ナンゼンネンブリダロウ。

ワタシヲタイトウニミテクレルイキモノハ。

「頷いた……ありがとう。じゃあ早速今から一緒に行こうか。」

ヤッタァ!

 

 

まさかの交渉で解決する結果となった。

そしてギルドナイトと共に北に向かい、寒冷地の頂点として全ての生物の為に生態系を守る様になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

アイツらが居なければ。

 

 

「†キリト†復活ぅぅ!」

「砲撃術式!展開!」

「波動方程式、開始。」

 

「「……え?」」

 

……イヤ。

 

 

強力な攻撃が炸裂する!

 

勿論、煙が晴れた時に見えたゼスクリオには一切のダメージが入っていない。

 

「まぁじかよ。固スギィ!」

 

「お前ら、やめろ!」

「「は?」」

「今、この龍と交渉して北に――」

 

「一般ハンターが何言ってんの?交渉したところでまた来たらどうすんの?責任取れんの?」

「一般人は下がってなよ。邪魔だから。」

「駆逐だ、皆殺しだ!ドゥレムディラなんて始めてだ!」

「初見さんいらっしゃーい。何回も殺した俺のアドバイスを聞け。というかこいつドゥレムディラじゃねぇよ。」

 

ふざけるな、奇襲が失敗しただろ!?

それに穏便に済ませる考え方はないのか!?

 

と、彼女が口を開いた。

 

「あのーお言葉ですが……」

「どうしたんだい嬢ちゃん。」

「狂竜化モンスターを先に殺った方が……」

「は?w あんな雑魚達はアンタらでも狩れるでしょ?え、何?それもやんないといけないの?」

「古龍と交渉とかほざくなら狂竜化モンスター3匹殺してこいw」

 

ランポスやオルタロスも狂竜化しているのだが……

 

 

「強い奴を狩る方が楽しいんだよ!あっち行った!」

 

 

 

――ザッ

 

……ここは…?

何か、人間が見える……あ……嫌……

 

「『強い奴を――』」

 

嫌だ……

 

「『強い奴を――』」

 

嫌ダ嫌ダ……!

 

「『――――――のは楽しいなぁ!あぁはははっ!!アハハハハハハ!!』」

 

イヤァァァァァァッ!!

 

―ザザァァ――

 

 

 

イヤダ……イヤダァァァッ!!

 

 

ゼスクリオから強烈な爆発が起こり、二人は吹っ飛ばされる。

 

「うおっ、とっ!」

 

一度腕をつき、更に回転して華麗に着地する。

しかし『魔法』を使う神選者が壁を作り再びゼスクリオに近づく事が出来なくなっていた。

 

「ゴォァァァァ!!」

 

叫ぶと同時に、徐々に気温が下がる風がゼスクリオに向かって吹く。

 

急速にゼスクリオの体内の光が強く発光し始め、分裂する。

 

「緩和結界!」

「干渉。」

「ふん!」

 

それぞれ散らばりながら防御をする。

ゼスクリオが足を叩きつける。

 

「うおっ!?飛行魔法!」

 

地面の水分が一気に氷に変わり地面がふかふかになる。飛んだ敵に対して熱風を浴びせる。

 

「氷河の絶盾!」

 

氷が昇華していく。

 

 

「てぇぇやぁぁぁ!!」

 

双剣の両方が触れる前に重くなり地面に倒れる。

 

「波動方程式!」

 

粒子が束ねられ、レーザーの様に発射されるが粒子はそのままに運動エネルギーだけを吸収する。光が強くなる。

 

 

一つの光が口元までせり上がる。

 

「ァァァァァッ!!」

 

まるで悲鳴の様にも聞こえる声をあげながらビームを放つ。

 

「ぐわぁぁぁぁ!?」

 

ビームは死なない人間を壁に叩きつける。

 

「い、痛い……!?」

 

ごく稀に感じる痛みに呻く。しかし火傷になる事はなかった。

座った体制から起きようとするが、体が地面から動かなくなる。

 

光が背中に触れ、ガラスが割れる様な音と共に『腕』を作り出す。

そのまま近づき握り溶かす。

 

「あ、熱いっ!?」

 

マグマに潜っても大丈夫な体が熱さに悲鳴を上げる。

 

「た、助け――」

 

溶けないと分かり地面を割りながら持ち上げ、放り投げる。

光を前脚に移動させながら走り出す。

 

 

「ポルターガイスト!!」

 

岩が壁の外から大量に入ってくる。

『腕』を振り回し黒い粉にする。

 

「くそっ……!?障壁『プロダクトキー』!!」

 

ほぼ全てを拒絶する障壁を作る。

ゼスクリオは光がある前脚を壁にぶち当てる。

 

爆発が起きるが障壁は微動だにしない。

ゼスクリオが一度離れ、飛翔する。

 

障壁を解除しながら走り魔法を使う神選者は言う。

 

「おい、なんなんだこの技!何も見えないぞ!?」

「は!?何言ってんの!?」

「え?……まさか!?」

 

「ギャオアッ!!」

「うがぁっ―――」

 

上空からの攻撃に対応出来ず、上半身と下半身が分かれる。

 

「おいぃぃ!?対応出来ただろ!こいつも地雷かよ……」

 

余りに強い光によって失明して、対応出来ずに死んだナマモノを罵倒する。

 

「おい、地雷!」

「地雷呼びすんな!」

「注意を引いとけ!電磁速射砲!!」

 

手に召喚された銃から、ジンオウガの鱗と皮で作った玉を大量に射出する。

 

 

もちろんゼスクリオには届かない。

 

「スターバースト・ストリーム!!」

 

やはり剣がとてつもなく重くなり落ちる。

 

 

 

今になって壁が消える。

男は大声で叫ぶ。

 

「おい、やめろぉぉっ!」

「あぁ!?明らかに敵意むき出しの奴を放っておくとかバカか!?あっち行ってろ!!」

 

 

その時、森から飛び出してくる人がいた。

 

「ここにいた!」

「おぉ、天使さんじゃないか!」

「天使さん!頼むから龍を殺そうとするのやめさせろ!」

 

「だ、大丈夫ですよ!?ダメージを与えて、弱めてから仲間にしますから生態は分かります!」

「だから何言ってんだ神選者は!?」

 

おかしい、神選者の感覚はおかしい!

少し考えれば分かるだろう……?傷つけられた奴が傷つけた奴の仲間になるのはただの服従じゃないか。それを龍がやるなんて事は……

 

 

 

 

ザッ―――

 

「ほぅら――見てごらん――」

 

見たくナい……!!

 

「君の仲間だよ――!」

 

見タクナ―――

 

 

四肢を拘束された私はどうしようもなかった。

私の目に映ったのは―――

 

 

ザザ―――

 

 

 

 

「ァ……ァ………」

 

 

 

「様子がおかしいですよ!」

「全員防御体勢!!」

 

 

「ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!」

 

 

雲が消える。太陽の光が辺りを照らす。

 

 

体内の光をかなり消費して放ったゼスクリオの技は天候を変えた。

 

 

 

先程まで雪が積もりかけていた地面は、まるで何年も水を浴びてない砂漠のようになり、ゼスクリオ周辺は明るくなる。

 

 

周りの草は蒸発し、木が砂のように崩れる。

 

 

 

気温が戻り、溶けた地面が黒くなる。そしてゼスクリオの体内に数個光が戻ると共に、再び雲が発生する。

雪が降り出すまでそこまでかからないだろう。

 

 

 

 

「超越秘技はこういう時の為に取って置かないとな。」

「発動行動中でも暑かったですよ。」

 

 

他人を地雷呼ばわりしていた神選者は骨になっていた。先程死んだ人間も同じだった。

 

 

「熱いぃぃぃぃ!」

「……ご冥福をお祈りします。」

 

残りの神選者は火傷一つ負わなかった。

 

 

 

唐突に、始めに死んだ者の骨が光り出す。

骨が宙に浮き、光に包まれる。

 

「俺復活〜!リレイズ!」

 

再び自動復活魔法を自分にかける。

 

 

 

一体どうすればいいのでしょうか……

さっきの話をした感じだと余りにも考え方が普通から逸脱していて、私達の言葉が届きません。

もしかしたら共通認識さえ実はズレていたりして……

 

「グアッ!グルルル……アッ!」

 

龍は苦しんでる様に見えます。

勿論、普通の敵ならチャンスなのですが……

 

 

「自分にもダメージあんのかぁ!?馬鹿じゃねぇか!サンダーハンマー!!」

 

雷が落ちます。

龍の体に触れるか触れないかで消えてしまいましたが。

しかも…小さいですが光が一つ増えました。

なんなのでしょうかこの龍……。

 

「チッ。」

「炎天!……えぇ!?」

 

もはやただ大きいだけの炎にまで弱まったその技がゼスクリオを襲いますが、腕で跳ね除けられてしまいました。

 

……なるほど、討伐方法を分かってしまいました。でも気づかないで―――

 

 

「うん?もしかして、お前の炎天は吸いきれないんじゃ?」

「ほ、本当ですか?」

「あぁ、始めて攻撃を拒絶する反応を見せた。」

 

 

やはり駄目か!うぅ……

 

「……私達はどうしましょう。」

「どうしようも出来ない。後始末をするだけだ。」

「そう、ですか……」

 

 

「じゃあ炎天をずっとやってますね!はぁぁぁっ!!」

「頼んだ。拘束魔法陣、展開!」

「ほら!かかってこいよ!ぶち殺してやる!」

 

 

 

タスケテ……ダレカ……

 

 

 

吸収しきれない炎の塊がゼスクリオを追う。

逃げれないと判断し、『腕』で抑える。

 

「今ですっ!」

「貫通榴弾魔力回路構築!完了!発射!」

「ソード飛ばし!!」

 

 

更に炎の塊が収縮しただけで、新たな攻撃の勢いは余り弱まらかった。

遂にゼスクリオにダメージが与えられる様になった。と全員が理解する。

 

剣が二回目の衝撃を放つのと同時に、貫通出来なかった榴弾が爆発する。

 

 

 

ゼスクリオが動きを止まる。

 

 

 

しかし、どんどん体内の光の塊が全て巨大になっていく。

 

龍の吐息(ドラゴンブレス)!!」

「乱舞っ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

アトラルは壁が見えないとてつもなく広い書斎にいた。

しかし棚ごと消す黒い波に追われ逃げている。

 

 

 

……余りにも現実味が無い。なるほど、私は夢の中か。

しかし夢とは無意識の中で起こること、だとしたら何故今は知覚しているのだろう。

 

黒い波から逃げている。

だが、その黒には何か安心する雰囲気があり、いずれ呑み込まれるかもしれないのにそれが正しい自分になる為の必要事項がする。

 

同時に何か恐怖を感じる。呑み込まれる事ではなく、呑み込まれた後の正しい自分に恐怖している。虚しさや、哀しさも混じっている。

 

 

いつまで逃げれば……

 





解読済み・昔の書類


経過報告

EEDWP #37669

EDD 5ー1
個体名「ゼスクリオ」


戦闘結果

Aタイプ 1.52
Bタイプ 1.48
Cタイプ 1.67

感想
先手を取られる様にしたものの、自己能力を使い無視。
余り考えずとも使える程まで順応したよう。

改善点
ここ数回に言える事だが、元来の能力の使用が出来ない様。
また、非常に反抗的な為調教を要請する。尻尾を潰す事を提案。

EDD 5ー2 に強い関係がある模様。精神的支柱になっている可能性を考慮し、5ー2の精神スクラップを提案、推奨する。

別件 EDD 5ー1 EDD 5ー2 それぞれの細胞交配を検討して欲しい。EDD 5ー2 はその後精神スクラップにする様に計画を。


P.S. EDD 5ー1 の体色の変化を確認。
EDD 7ー1 としての登録を検討中。
他、絆石洗脳器具の運用可能かの検査日程を記す。


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終わるは悲惨、蠢く凄惨


「どうー?」
「ふむ……背骨が浮き出すぎているな。触っていいだろうか。」
「テオー、エロオヤジー?まぁ触っていーよー。」
「…………バル。肩甲骨が無いぞ。」
「えー?人間をー解体したんだけどなー?」
「背骨が浮き出ているが人間はティガレックスではない。前もいいだろうか?」
「……な、何かする気では!?」
「案ずるな。我は妻以外に欲情はせん。というより龍はそうそう欲情しないものだ。」
「そ、そう…かー。」
「というか目の前で服を脱ぐ……なんでもない。……肋骨が細すぎだ。鎖骨の太さもおかしい。」



攻撃を受けたゼスクリオは動きを止める。

 

一番思い出すべきではないトラウマが蘇る。

 

 

 

―――

 

熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い

 

 

マグマの中……足が動かない。

 

「どうです。私達が開発した絆石の原理を応用した洗脳マシーンは!」

「ふむ……いや、マグマに四肢を突っ込ませた程度じゃ分からないな。」

「はい、ポチッとな!」

 

 

分かりました、顔を下に―――!?

あ、が、がぁ、ァァァ!!

 

 

「凄いでしょう!自分からマグマに頭を突っ込ませる事が出来るんです!」

「おぉ。もはや精神を手中に収めたという事か。」

 

ぐあっ……息も……っ。

はぁっはぁっ……足が焼ける!溶ける!

 

感覚が無くなってくる。

 

「危ない危ない。溺死させる所でした〜!」

「おい、あいつをこっちに来させろ。」

「なるほど、はい。いいですよー!カチッとな!」

 

分かりました、移動します。

……!?危ない、意識を預けてしまった。

私が火傷した足で鉄の上に乗る。

人間が……刃が回転する剣を取り出す!?

 

―――――――

 

 

乱舞をしようとした人間を。

龍を捕らえる黒い霧を。

 

新しく生えた『腕』が殴り飛ばす。

 

 

―――――――

 

アァァガァッ!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い……!!

 

私の体の様々な場所をチェーンソーが斬りこんでいく。

血液も大量に出るし、斬れ味自体が悪い為激痛。

 

「程々にして下さいねー?」

「大丈夫だ。抗う心を壊すのだろう?手を貸すだけだ。さぁ行け。」

「……なぁるほど!傷口にマグマを塗るのですね!クイッとな!」

 

え……?

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!

イヤだ!イヤだぁぁぁ!

 

分かりました。移動しま―――嫌だぁぁ!

 

足は止まらない。

 

切り開かれた傷口がマグマに浸かる―――

 

―――――――

 

 

再び発射された龍の吐息を、更に生えた『腕』が弾き飛ばす。

 

 

―――――――

 

…………

 

「おぉ!どうやら意識が飛んだ瞬間に洗脳が支配して、遂に大人しくなりましたね!」

「ならば早速腹を見せてもらおうか。」

 

…………ハイ

 

「『私は貴方様に服従しますー』ですって!」

「ははは!忠実な下僕になったか!」

「ほら!尻尾も振って!嬉しそうに!」

 

…………ハイ

 

「さて、EDD 5ー2もこうするのか?」

「えぇ、計画とは順番が違いましたがあちらは強化しながら平服させます。」

 

…………

 

EDD 5ー2………ハ?

 

ワタシの………

 

…………

 

イモウと二………

 

 

「ほーら!剣を取ってこい!マグマの中だがな!」

「あれ、更に変色してる様に見えますね。」

 

 

………

 

テヲダスナァァァァァ”ァ”ァ”ァ”ァ”アアアア!!!

 

 

 

 

タクサンノニンゲンガ、バクダンヲナゲテクル。

テツヲウッテクル。

 

デモワタシハトマラナイ、トマレナイ。

トマッテタマルカァァァ!!

 

―――――――――

 

未知の樹海・元遺跡地帯(覚醒BGMイントロ)

 

 

 

バキッバキッ……

 

ガラスにヒビが入るような音が鳴り響く。

 

 

ゼスクリオが地に倒れ込み……突然飛び上がる。

 

 

上空で翼と『腕』を広げる。

 

 

バキィッ!!

 

 

何かが砕け散る音が響く。

 

ゼスクリオが熱の塊となって落ちてくる。

 

 

「離れといて正解だったな。」

「私の感は当たる。しかもあれは―――」

 

 

神選者は全員耐えようとするが吹き飛ばされる。

 

ゼスクリオは上体を起こし、叫びながら熱を吹き飛ばして吸収する。

 

 

「ドゥレムディラの動きだ……!!」

 

 

その姿はもはやこの世の生物では無かった。

 

体からは9本の光る『腕』が生え、青く透明だった体は紫の毒々しい色に変化している。白い部分や光っている場所は無い。

 

「ォォオオオ!!」

 

極太の光る紫色のビームが口から放たれる。

空気を裂き、地面を抉り、液体が飛び散る。

 

「障壁『プロダクトキー』!うおおっ!!」

 

光や空気は通すがそれ以外は通らない障壁。

しかしブレスの圧倒的な破壊力により障壁ごと後退する。

 

障壁で受け流した余波で後ろの遺跡が弾ける。

 

 

「タイプ:大天使!哀れな生物よ、鎮まりなさい……炎天っ!!」

 

更に強化された筈の炎天。大きさはさっきと変わらなかった。しかも腕2本で抑えるため動きを制限する事さえ出来なくなっていた。

 

 

腕を振り回す。死なない人間は再び吹き飛ばされる。

 

「魔導砲!!」

 

二つのビームが何も無い所から発射されるが、強烈な咆哮でずらす。

前脚を叩きつけ地面を這うようにエネルギー波を発射、後脚を地面に食い込ませてからブレスを240°薙ぎ払う。

予想して木の上にすかさず上ったギルドナイトと、死なない人間を除き何かしら部位が吹っ飛ぶ。すかさず再生し始めるが。

 

 

 

「くそっ俺も地雷かよ。地雷達、大丈夫かぁ?」

 

二番目に死んだ人間がそこに立っていた。

 

「余りそういう趣味は良くないと思います。」

「身代わりが死ぬだけだ。流体鉄!」

 

上空から溶けた鉄をドゥレムディラに流し込む。

 

しかし腕が遮り更に鉄を蒸発させる。

 

「えぇっ!?すまない逃げてくれ!」

「えっ!?」

「ヒュームっていうヤバい物が……あーもう!この身を代償に!『空間転移現象』!!!」

 

 

自ら首を絞めた神選者がヒュームが広がる前に皆で逃げる。

腕が全員を捕まえようとしたが全員転移したため空を切った。

 

 

ニゲ……ルナァァァァァァ!!

 

 

再び咆哮しながら空中に飛び、爆発を起こす。

 

そして光を口に集める。熱源を感じる方向を向く。

 

 

コロス……!

 

 

 

「落ち着いて!お姉ちゃん!」

 

突然飛んできた青い龍がゼスクリオに突進する。

しかし届かない。

 

ブレスが沢山生物がいる方向に放たれる。

 

「しょうがないわね!ォォァァ!!」

 

防ぐように紫の氷柱がそびえ立つ。

ブレスが弾かれる。

 

 

ダレダァ!!………エッ。

 

振り返りながら腕を振り下ろすが途中で止まる。

 

「例え姿が変わっても、一目で分かるわ。私達は双子の姉妹じゃない!」

 

ワタ…シノ……イモウト……!

 

ゼスクリオは飛びついて羽を噛み始める。

 

「グアァァァ!」

「あははっ!落ち着いて落ち着いて!……しょうがないわね。よしよし。」

「グルルル……」

 

 

アァ……イモウト……デモ、オンドガワカラナイ……ソウカ、ワタシハオンドヲカラダデカンジナイノカ……。

 

腕を吸収する。

 

「はい、翼に掴まってちょうだい。」

「グルゥゥ?」

「ここから離れるわよ。」

 

シャベレナイ……アトデカンガエヨウ……

 

 

何故か目覚めたゼスクリオ。

勘を信じて迎えに来たドゥレムディラ。

彼女達は時を越え、遂に再開する事が出来たのだった。

 

 

ドゥレムディラがマグマに湧く温泉に連れて行ってトラウマを刺激するのはまた別の話。

 

 

 

 

古龍が去った事で雪が降り止む。

吉報は伝わるまで早い。

 

 

 

ドンドルマ・対策本部

 

 

「大体どうするんですか!このまま春まで行ってしまったら!」

「大丈夫です!その時は開拓地ハンターも呼びます!」

 

「伝令です!」

 

醜い叫び合いが止まる。

 

「突如襲来したドゥレムディラと共に謎の生物が何処かへ飛翔!同時に気温が5℃程高くなったようです!」

 

一瞬の静寂。伝令をした者は何か間違えたのかと周りを見る。

 

「……なんと!」

「やったぁぁ!」

「さっすが神選者達だぁぁぁ!」

 

 

「伝令です!雪が止み、視界が良くなった事により各地で狂竜化モンスターを押し返しだしました!」

 

「分かった!押し返した場所を!」

「はい!地図を広げます!」

 

 

「なるほど。これは……」

「円ですね。まさか、中央にシャガルが……?」

「各ハンターに伝えよ!ここらへんを厳重注意エリアとする!この谷にネコタクの待機と支援物資を届ける準備を!龍歴院側は、どんぐりロケットに回復『秘薬入セット』で飛ばす準備を!」

「「了解っ!」にゃ!」

 

 

 

 

 

しかし古龍が何処かに飛んでいっても。

例え劣勢であっても。

狂った者達は止まらない。

 

 

 

未知の樹海・雪原

 

 

ランゴスタが離れ一匹になったアトラルがネセトに乗り込む。

 

 

ミナゴロし……ミなゴロシ……

待っ……セイブツハ……

 

 

もはや本人の理性は機能しない。

いや本能さえ狂い、体のリミットが外れる。

笛の助けなしにネセトが動き出す。

 

 

 

 

ドンドルマ・対策本部

 

 

「で、伝令!」

「なんだ?」

 

「吉報の後にすぐ悪い情報ですが……おそらく狂竜化をした例のアトラル・ネセトが動き出しました。」

「位置は?地図の上に印を。」

「……ここです。」

「…………まずい、まずいぞ!このままではバルバレが襲われ、多大な被害が出る!」

「ランゴスタはついていないので普通のアトラル・カみたいなものですね。」

「G級ハンターと神選者を確認次第送り出せ!」

 

 

しかし彼らはつい無視していた。

 

狂竜ウイルスの脅威を。

 

 

そしてこのアトラルのおかしさを。

 




???から一言説明

ハタヤ カナ
カナちゃんマジ天使。

†キリト†
通称 死なない人間。

タイムエンペラー
死んでも生き返る人間。

二イタチ タク
俺が止まっても代わりはいるもの……

ハンター男(ギルドナイト)
実力高すぎ。ソロでも神選者より強い説。

ハンター女(ギルドナイト)
このペア現役ハンターの二位か三位では?

ゼスクリオ
極度のシスコン、タイマン強い。

ドゥレムディラ
姉より強いが姉には弱い。

といった所かしら。


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人間vs狂う虫

ゴロゴロ……

規則正しく、そして憂鬱になる音が響く。

「……」
「ふぅ、ふぅ」
「はぁっ、はぁっ」
「……」
「ふぅ、運搬辛っ」
「うるさぁぁい!!」



ここはバルバレに近い未知の樹海。

対策本部の指令により着々と対ネセト兵器が積み上がる。

 

「オーライ!オーライ!はいOK!」

「後は頼んだぜ。」

「おう。任せとけ。」

 

即席の土塁の上に大砲がズラッと並ぶ。

 

「来てるのが分かりやすいぜ。」

「地面が揺れるからな。」

 

 

「角度よーし!試験杭撃ちます!……了解サイン確認!発射!」

「……よし。大丈夫だ。バリスタの弾はここに置きます。」

「さっさと帰れ。」

「……(受け取り方に困る)」

 

正面から見て大砲の右と左にバリスタが設置され、今試験で発射された杭がどこまで飛ぶかの目印となる。

 

 

更にライダーもやってくる。

 

「いいか!ネセトが行動不能な状態になるまで自分から突撃するなよ!」

「サーイェッサー!」

「俺が合図を出す!その時に、事前に打ち合わせした順番通りにお前達のバディとの必殺技を決めてやれ!」

「了解っ!」

「ではそれぞれのバディと共に待機しろ!くれぐれも喧嘩するなよ!グッドラック!」

 

 

 

ハンター達が配置につき、ライダー達がオトモンと触れ合い終わる。

 

 

そして、遂に木を折る音が聞こえ始める。

 

 

「大砲用意!」

「拘束弾用意!」

 

ハンター達が発射用意をする。

足音が段々と近づいてくる。

 

――近づいてくる程、その速度に違和感を感じる。

 

リーダーが叫ぶ。

 

「今だぁぁぁ!!」

 

ハンター達は反射的に放つ。しかしネセトの姿はまだない。

リーダーが大失態を犯した……ハンター達はそう思った。

 

 

 

突然、空中で球が爆発する。

ハンター達が気づいたら、そこにネセトが居た。

 

「えっ……!?まさかあの巨体で走って……!?」

 

既に放たれていた大量の砲撃により勢いが弱まる。

 

「バリスタ!放てぇぇぇ!!」

 

大量の対ネセト拘束弾がネセトの遺跡に食い込む。

バリスタが嫌な音を立てる。

 

しかし無事に勢いが止まり、ネセトは拘束弾によって動けなくなる。

 

「号令はまだですか?」

「良く見ろ。ナルガクルガをバディにしてるライダーは背中にある小さな繭を狙え!」

 

だが、ただ振りほどこうするだけの単純なアトラルではない。

体全体を揺らしながらゆっくりと、一歩ずつ回転する。

 

 

「あいつは一体何を――」

 

バンッ!!

 

「!?」

「か、体にバリスタを巻いた!?」

 

バンッ!ドゴッ!

 

バリスタが曲がり折れる物もあれば、土塁ごと引き剥がされる物もある。

そのまま体を揺らし始める。

 

「大砲!うてぇぇぇ!」

 

ネセトは酸の様なフェロモンを放ちながら怯む。

 

 

しかし、そのフェロモンは黒みがかっていた。

 

「うっ!?」

「この感覚は……狂竜ウイルスか!本当に狂竜化個体だったとはな!」

 

 

 

それを眺めていて痺れを切らした短気なライダーがセルレギオスと共に突撃する。

 

「あぁ焦れったいぃぃ!行くぞ!」

「ピャァァァァ!!」

 

絆石が光を放つ!

 

「シューティングッ!スタァァァァ!!」

 

 

大量の刃鱗が舞い、その全てがネセトの背中に着いている小さな繭を狙う。

そしてセルレギオスが突進するのと同時に刃鱗がセルレギオスを追随する様に動き出し、まるでほうき星の様になる。

 

ネセトが顔を向けてくる。

 

「遅い!間に合わねぇだろう!」

 

そのまま繭までまっしぐらに――

 

 

突然ライダーが放り出される。

 

セルレギオスがバランスを崩し墜落する。尻尾が根元から撃龍槍に切られたからだ。

 

 

そして、影が地に落ちた一人と一匹を覆う。

 

 

 

足を振り下ろしたネセトを見ながら、ハンター達は大砲の合図を待つ。

 

「………」

 

 

バリスタ側から合図が送られる。

 

「大砲!うてぇぇぇ!」

 

再び大砲が火を吹く。

まだ機能するバリスタからも絶え間なく足の糸を狙って弾が発射される。

 

またネセトは怯み、体を支えるために足を固定したためほぼ全ての弾が糸を切り裂く。

 

バチィッ!!

 

遂に糸が切れ、ネセトは動けなくなる。

 

 

「いくぞっ!!」

「「了解っ!」」

 

「シューティングスター!!」

 

違うライダーのセルレギオスが飛び立ち先程と同じ絆技を放つ。

先に刃鱗が飛び、それに紛れて滑空する。

再びネセトの顔が妨害しようとするが撃龍槍がまだ回収出来ていないため、素通りする。

そして小さい繭に全ての鱗が刺さった後、蹴りがクリーンヒットする!

 

沢山の破裂音と共にネセトが大きく怯み頭がぐらつく。

 

 

グラビモスに乗ったハンター達が絆石を光らせる。

 

「「マグマライザー!」」

 

本来は火属性の絆技が電気を発しながら放たれる。

二つのレーザーは同じ箇所を攻撃し、ネセトの首を破壊して大きな繭に直接当てる。

 

狙いやすくなった大きな繭に対して更に沢山の青い光が掲げられる。

 

 

 

 

 

ネセトは煙に包まれ見えなくなっていた。

何かが地面に倒れる音がする。

 

「……」

「……」

 

しかし。いや、ハンター達の予想通り。

 

 

煙の中から紫色の光がみえる。

 

 

そして堂々と煙を裂き、大砲が設けられた方に歩いていく。

 

 

ミキミキッ、グシャッ。

 

不快な音を立てながら傷が治っていき、撃龍槍を背負う。

 

 

迫ってくる普通より小さな個体は、ハンター達に恐怖を植え付けた。

 

「撃ちますっ!」

「来るなっ!」

 

砲弾が舞うが、目標が小さいため当たらない。

バリスタが数発アトラルを狙うが撃龍槍で弾く。

 

 

そうこうしているうちに土塁を登り始める。

 

ハンター達は武器を構え、ライダー達はそれぞれの特技を放とうとする―――

 

 

突如、全員の視界が紫にがかり更にオトモンが呻き出す。

 

「うわっ!?体が、重い……!」

「お、落ち着け!ウチケシの実を!」

「駄目だ!これは発症状態だ!」

 

「えっ、なんで絆石で解除出来ないの!?」

「大体狂竜化ってなんだよっ!!」

「ぎゃぁぁぁっ!!」

 

ハンター達は比較的冷静に現状を確認するが、ライダー達は余り関わった事が無い事例に大混乱を起こす。

 

 

 

 

ドンドルマ・対策本部

 

「アトラル・カが感染源の様です。」

「極限化か……」

「いえ、狂竜化の様です。」

「なんだと……!?」

「待ってください。こちらの方が推測してくれました。お願いします。」

「どうも〜」

「……お前か。」

「はい。えぇ今回何故こんなに感染しまくったのか。それはアトラルの行動が関係してます。体液感染がありますが、アトラルの場合フェロモンが空気中に放たれた後、中々薄まりません。よって感染してしまいます。」

「ふむ。」

「ゲネル・セルタスは臭い匂いが近くのオスにまで届けばいいので噴出してる体液自体はそこまでないのです。」

「まぁ、それは予測だろう。だがそうだとすると……」

 

 

 

「うおおっ!!」

 

ハンターが狂竜化フルフルに大剣を振り落とそうとする。

 

「やめろぉぉっ!」

 

しかしライダーが自分のオトモンが狩られるのを見過ごす訳がない。片手剣の盾で全力で抑える。

 

「邪魔だっ!さっさと狩らせろ!」

「やめろぉっ!絆石!」

 

「ヴェァァァァァァァァァァァァ!」

 

 

ヌチョッ、ゴクッ。

 

 

フルフルが叫んでから飛びかかり、自分の主人を呑む。

 

「くっそ!おるぁ!!」

 

 

 

アトラルがついに大砲を撃つ場所にまでやってくる。

 

「閃光玉!!」

 

アトラルは大きく怯む。

 

「はぁぁっ!!」

「てぃやぁぁっ!!」

 

1人は走って近づきハンマーを振り、1人は操虫棍で飛び上がり回転しながら切りつける。

 

すぐにアトラルが二人に向かって適当に鎌を振った為、当たらない様に一度離れる。

 

「キィィェェァァァァ!!」

 

そしてアトラルは怒り状態になる。

 





MHWが始まりましたね。アトラル・カの登場を心から願っております。

「うるさい。カマキリオンラインになって私達の数が減る可能性が高い。」

「代わりに私が出てあげる〜♪」

黙れ、見た目幼女中身バ――ギィィィィン!!


その日、一人の人間が直線上の何もかもと共に蒸発した……


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覚醒


意味

目が覚めること


おはよう!こんにちは!こんばんは!おやすみぃ!

起きてぇぇえ!!



……コロスコロス!!ワタシノスニシテヤル!!

 

 

……っ!?

アブないッ!

 

操虫棍が私に印弾ヲ飛ばしテキた。同時にハンマーが頭を狙ってクる。

私の中デ殺意が感情を支配シテる……まァ、良くこんナ大量の人間に喧嘩を売ッたものだ。

殺意を補助スる様に動く。印弾を回避、槍ヲ叩キツケル。

 

間一髪デ回避されタ。ならば、槍をそのまま薙ぐ様に回転させルだけ。

そノマま後ろカラ来たチャアクヲ吹き飛バス!!

それから吹き飛んだ撃龍槍に糸を放チ、大混乱しテいる方へ突っ込ム。

 

着地とトモに鎌ヲ振る。

 

 

 

とりあえず殺意に従って体を動かしながら現状把握をしよう。

 

私の体を見てみると黒みがかっている。そして微量の塵……なるほど、私は狂竜化しているのか。

しかし図鑑や論文にあった狂竜化の症状通りだと私の意識など消えてそうなものだが……

いや、論文には人間やアイルーなどが持つ理性を伴った意識が狂竜化を抑える要因かも、と書かれていたな。

そう考えると……一時的に狂竜化に呑まれていたが、怒りで戻ったのか。……怒り?尚更沈んでいきそう。

 

 

 

大分元オトモンの数が減っタ。同時にハンターの数も少ナくなってイる―――

 

ミキッ

 

 

ミシミシッ

 

クあっ!?

 

頭の後ろから謎の音と強烈な痛みが走るっ……

 

一体ナんなんダ……ぁぁァァ!?

 

 

 

 

 

近くで交戦していた全員の動きが止まる。

 

まるでたった今存在してはいけない何かが誕生したかのような謎の波動を感じたからだ。

狂っていても狂っていなくてもつい視線を向ける。

 

 

ゆっくり、ゆっくりとアトラルが立ち上がる。

 

 

色はさっきより黒くなっただけだ。

極限化の様にウイルスをバラまいている訳でもない。

 

 

アトラルはまるで突然ここに来たかの様に周りを見渡す。

 

 

 

頭部の後ろから背中にかけて結晶が生えていた。

 

 

 

再び意識が呑まれたアトラル・カは撃龍槍を背負う。

ババコンガが走り寄ってくる。

 

例に漏れず撃龍槍で潰される。

ババコンガに糸をつけて狂竜化エスピナスに投げる。

エスピナスがババコンガを頭で跳ね除けた所に、撃龍槍が傾けた首から一直線に刺さる。

 

「グ……ウッ……!?」

「――ァァァッ!!」

 

そのまま力任せに振り回し、背中から槍が飛び出るまで止めなかった。

 

そのまま他の生物を殺そうとした所をG級ハンターが太刀を構え、立ちふさがる。

 

鎌をカウンターし、そのまま近づいて無双切りを放つ。

糸を回避し、槍をいなす。

 

「練気解放円月斬り。」

 

精神を集中させ、狩技を放つ。

再びカウンター、回避してからカウンター、からの無双切り。

 

 

 

そしてダメージを与えられず切られることにより、再びアトラルに怒りの感情が浮かぶ。

 

 

 

……

 

 

……っ!

危ない、体の下から引き裂かれる所だった。

……少し頭に違和感がある。鎌を後ろに回すと……何か生えていた。

形からしておそらく結晶だろうか。しかしある程度衝撃を与えても痛くない。

私は狂竜化しているから狂竜結晶だろうか。まぁ痛みがないなら無視して大丈夫だろう。

 

鎌を振り、カウンターされたためすかさず後ろに下がり槍を引き寄せる。

槍を背負っている間に近づいてきたから糸を放つ。回避されたがそのまま向こうのハンターを捕らえて引き寄せ投げつける。

ハンターは受け止めた。

 

だから撃龍槍を二人を潰すように叩きつける。回避されてもそのまま巻き込む様に槍を投げ飛ばす。

 

……大分思考がクリアになった。

ウイルスが結晶に移動したのだろうか。それともウイルスが集まって結晶になったのだろうか。……突然生えた痛みで気を失ったが。

 

しかし、いつ再発症するか分からない。対策を講じなければ。周りを見渡す。

 

 

大量に転がっているじゃないか。

糸で集めて腹に縛る。

 

 

 

「スカイハイフォール!!」

 

狂竜化しなかったリオレウスが強大な炎を纏いながら滑空してくる。

直線的な動きのため撃龍槍飛ばして撃墜……さすがに避けたか。

少し回転しながら蹴りの体勢に入る――

 

勿論、馬鹿正直に技に当たる必要はない。撃龍槍と共に元の場所に吹っ飛んで帰る。

 

 

 

 

 

砕けた遺跡の破片が動き出す。

 

ハンター達はそれぞれ狂竜化モンスターと戦っていたが、謎の音に周りを見渡す。そして音のする方、大砲が向いている方向を見る。

 

あの猛攻で砕けたはずのネセトが立ち上がり、鉄の骨を中心に遺跡が再構築される。

ハンターやライダー達は絶望する。この状況では余りにもコイツの撃退は無理だと。

 

そして――

 

 

ネセトは走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

やっと離脱が出来た。

今回は狂竜化による殺戮本能の暴走によって引き起こしてしまった無駄な戦いだった。

 

しかし…改めて触ってみると結晶は三本の筋にそって生えている。おそらく闘技場でのティガレックスに引き裂かれた傷だろう。ウチケシの実が足りていなかったのか……

 

あ、違う。そういえば狂竜ウイルスはウチケシの実で完全に消すことは出来ないという説があった。ゆっくり私の体を蝕んでいたのだろう。

 

再び狂竜化する可能性への対策として結晶に糸で抗竜石を縛り付ける。こうすればかなり抑えられるはずだ。刃物に滑らすだけで狂竜化を解除できるほどなのだから。

そして多少ウイルスが残るだろうから身体機能の強化はそのままになるだろう。

 

 

ネセトを走らせ、ランゴスタが冬眠している所に戻る。

狂竜化した私を助けなかったとは頭がいい。……きっとあのクイーンの子供なのだから古龍のウイルス程度なんともないはず。

 

 

 

遺跡の前には久しぶりに見る巨大なランゴスタが居た。

 

「おかえりなさい。」

……やっと帰ってきたか。

「ごめんなさい……ちょっと風邪ひいた先でまた繁殖しちゃって……」

そこら辺はやはり虫と言った所か。

「でも……こんなに長い時間、それも突然任せたのに皆死んでないで済んだ。さすが昔互いに争っただけはありますね!」

……何年前の話だ。さて……

「……行くのですか?」

頷く。あれほど暴れたらハンターに狙われる。もう駄目だろう。

 

笛と球、調合セットを回収する。

 

「……はい。」

クイーンが赤い玉を渡してきた。

「超大爆発玉。」

……!?

「この青い方にバリアが出来ますから。貴方なら使えるでしょう?使う時は撃龍槍を叩きつけて下さいね。」

……貰っておこう。

 

 

さて、どこに行こう……明日に向かって走れ?

 

 

 

 

 

ガシャン、ガシャン。

 

足音と共に機械の音も響く。

 




こんちわっす!
アトラ・ルカだよ〜!

最近寒いねw本当にwホントにもう出たくなーい巣からw巣から出たくなーいwホントにw
ちゃんとね!服を着てください、皆さん温かい格好してね、外を歩いてください。
もう素っ裸でね、雪遊びしちゃ駄目だよ?

それ私やないか〜いw


「……演じるのが疲れた。もういいだろうか。」
はい。
「では今回お呼びしたのはこの方。どう――」

バガァッ!!天井を突き破り降り立つ。

「ドウモ。」
「こんばんは。」

「双子の古龍、ドゥレムディラさんとゼスクリオさんです。そちらのベットにお座り下さい。ちなみに私とゼスクリオはこういう時だけ話せます。」

「デ、コンカイノハナシハ?」
「はい。ではゼスクリオさん、ワールド出演の感想を――」
「ナンノハナシ!?」
「……?」
「……エ?ムイシキニデテタ!?」
「少しいいかしら?mhwには似たのが出ただけよ。」
「……どういうことだ。一体どんな奴――」
うわぁぁぁっ!!MHWのネタバレに繋がるぅぅっ!!

パチッ



累計UA一万達成!ありがとうございます!

「今後もコイツの文章の作り方がコロコロ変わるだろうがストレスが余り貯まらない様なら今後もよろしく。」

……こんな性格のアトラル・カですが今後もよろしくお願いします。


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不穏と契約


ハンターが居る。
モンスターが居る。
狂竜化がある。
ライダーが居る。
オトモンが居る。

嫌われ者のアイツも居る。



とある山の上で卵にヒビが入る。

 

近くには沢山の武装し、銃を構えた兵士達と笑いながら絆石を掲げる人間がいた。

 

白き龍の卵は荘厳な空気を醸し出している。

絆石の光が強くなると共に更にヒビが入る。

 

パキッ

 

完全に割れる。

卵から出てきた光は巨大化、変形し一匹の強大な龍となる。

翼を広げ、深い青色の空に雄叫びをあげる。

 

「……ゲーム内じゃ仲間にならなかったけど、ついにヴェルサ・ノワが俺の仲間に!!」

 

神選者はヴェルサに近づく。しかし後ずさる様に離れてしまう。

ヴェルサは自分を孵化させた者を睨みつける。

 

「……どうしてだ?どうしてなんだ!?」

 

神選者は視線の方向に気づく。

 

「そうか。黒く染まらない様に他の奴が加工しやがったから認められないんだな。……とれた。さぁ!」

 

人間の闇の部分を通さない様にする加工。しかし龍、それも絆が大きな意味を持つこの龍には通用しなかった。

誰にだって欲はある。目的を達成する為に通らなければならない欲がある。それを認めてやっと、ヴェルサは主人に仕えるオトモンになる。

 

しかし。

 

「……あ……れ?」

 

黒く変色し始める。

 

 

『誰よりも強くなって好きな時に支配したい。』

『他のオトモンがいらない程強い奴が欲しい。』

 

 

再び発生しだした黒の狂気に対抗するという口実で最強の白を孵化させた。

 

しかし仮初の絆では―――

 

「なん、なんでだよぉぉぉっ!?」

 

狂気を生み出すだけだ。

 

「撃てぇぇ!」

 

隊長の号令により一斉に砲身が火を噴く。

しかし即座に張られたバリアに跳ね返され、そのまま自分の銃弾に撃たれる。

 

「頭を狙え!バリアの解除―――」

 

白と黒が混じった龍が一際大きく叫ぶ。

炎の戒めが人間達を襲う。

 

 

残ったヴェルサ・ノワの怒り。

蝕むマキリ・ノワの力。

 

 

複合したその戒めは山ごと潰す威力だった。

 

 

 

 

 

 

 

少し寒い。

それもそのはず、何日かかけて凍土に来たからだ。

 

狂竜ウイルスの力によって、ネセトがかなり動かしやすくなった。具体的には笛がいらないレベルだ。極限化をすれば更に力が強くなるだろうが……リスクが高すぎる。

 

 

…………今やらなければいけない事がない。

この短期間の間に沢山の事があったせいで、元の生活が非常につまらなく感じる。

ネセトと撃龍槍があれば大抵のモンスターと争う必要はない……

といっても死の確率が無いのに越した事は無いため、わざわざリスクの高い戦いをする必要は無い。

 

 

……釣りをしよう。

 

 

 

 

 

「かなりガムートの乗り心地はええぞ。」

「寒いです博士……」

「うるさい。多少は耐えなさい!」

 

しばらく進むと遠くに巨大な瓦礫の塊が目に入る。

 

「……は、博士!?」

「……あれはアトラル・ネセト。動いていないから近くにアトラル・カがいるはず、捕まえて支配下に置いてやろう!」

「寒いです……」

「うるさぁい!」

 

 

 

 

 

……よっと。

 

ハリマグロがまた釣れた。

 

竿はBCのベッドを削り、糸は更に削って出来た繊維を絡ませてつけた。

私の糸は水に弱いからだ。

そしてハリマグロが三匹釣れたため、支給品BOXをまな板にして頭を切り取り、体を抑えて尾を引き抜く。

背骨をズリッと出し、ヒレをさっさと除去して、まだ痙攣している身を丸呑みにする。

 

……釣りも良いが腐肉の場所を調べなければ。

凍土では食料が全く見当たらない時もありえる。その時は腐肉を食べないといけない。

ネセトを入れる洞窟の場所も、探さないと。

 

 

 

 

「イチビッツ君、いたぞ!」

「ポチッとな!」

 

なんとネセトと私の間に鎧を着た姿のガムートが居た。遠くから指令の様な事をしている人間がいる。

 

笛を吹き、槍を刺すように投げる。胴体に深々と刺さるがまだまだ動けるようだ……

ガムートが走り寄ってくる。そして上半身をおこす。

分かりやすい攻撃だ。股をくぐり抜けてから背中に登る。

 

気絶をするまで殴り、気絶したら槍を更に肉を裂くように引き抜く。

そして槍を今度は頭に突き刺す。しかしティガレックスの牙を弾く硬さだ、槍が刺さらずに逸れる。

一度離れる。

 

 

 

 

うん?あのアトラル・カは動きがおかしい上に結晶が生えてる……!?

 

「イチビッツ君、ガムートを止めなさい!」

「え!?いいんですか!?」

「早く!」

「ポチッとな!」

 

ガムートの動きが止まる。

 

「行ってくる。」

「は、博士!?」

 

 

私の理想は全ての人間がモンスターを恐れずに過ごせる世界……

もしかしたら……

 

 

アトラル・カが動けば私が殺される範囲に入る。

 

 

理解してくれるかもしれない。

例のアトラル・カなら!!

 

 

 

「私は研究者だ。そのため被験体を集めているのだが、どうやら君は捕獲できる様な存在ではなさそうだ。謝罪する。」

 

アトラル・カは……臨戦態勢のまま。話は聞いてくれるという事であろう。

 

「しかし君の噂はハンター達の間で有名になってきた。このままだと君はいつか狩られてしまうかもしれない。」

 

……警戒を解いた?注意をせねば。

 

「そうでなくとも逃げて何処かに行ってしまうであろう。だから言わせてもらう。」

 

 

 

「私に君を利用させてくれ!!」

「何を言ってるんです博士!?」

 

 

 

 

 

私を利用?……情報が足りない。しかし博士か……知識が得られる可能性があるなら私からも利用出来るか。

 

 

 

「私の理想はモンスターに脅かされない人間社会の創造だ!だからモンスターはモンスターの力で打倒する考えだ。そして非常に興味深いから君を実験材料として使う気は無い、君を私の近くに置いておきたい。」

 

 

 

ふむ……つまり私を用心棒や実験材料集めに使う……今の何もやることがない時間が続く事を考えれば良いことだ。

そしてモンスターを利用する考え方は非常に合理的だ。一匹に固執する事無く切って捨てる事が出来る。つまり足りなくなったら継ぎ足せばいい……まぁ人間やモンスター達が嫌がるならライダーの方法がいいだろう。

 

雪に書く。

 

 

「『モンスターを操るという様に聞こえるが意思はどうなっている?』」

「……文章が書けると。答えてあげよう!このマネルガーが開発した機械の情報を!なんと――」

「思考誘導しているためモンスターは嫌がる事が無いのです!」

「そして――」

「機械制作に時間はかかるがかなり壊れにくい!」

「更に――」

「思考誘導だから普段は野生で過ごさせるため、維持費もかからない!」

 

イチビッツの頭にゲンコツが落ちる。

 

「全て私の台詞だ!奪うんじゃない!!」

「こ、これは失礼しました!」

 

 

なるほど、本来なら人間が喜んで受け入れそうなものだ。しかしこのマネルガーが孤独という事は受け入れられていないという事か。何故……

 

「さぁ、君が求めることを言いたまえ。私にそれが叶えられるなら交渉成立とする。」

 

なるほど。私が求める物は――

 

 

 

そのまま雪に書こうとした時。何故孤独なのかが分かった。

 

 

 

私に火球が当たる。

 

「そんな、効いていない!?」

「またお前達か!?」

 

リオレウス……片目が潰れたリオレウスに乗ったライダーがいた。

 

「マネルガー!今度は何を企んでいるんだ!」

 

妙な頭身のアイルーもいた。なるほど、マネルガーと敵対関係か。ならば殺す。

槍を投げつけるが、回避された。遠くに飛ばないように糸を引き寄せる。

糸を放ちリオレウスに当てる。

 

「リオレウス!」

 

猛烈な勢いで突進してくる。一度回避をして、体慣らしの為に火球を避けながら笛を振る。

 

「あいつを、どう倒すんだ!?」

「どうしようか……」

 

笛を吹き、自己強化。

先程当てた糸でリオレウスに自分を引き寄せる。

 

「わわっ、飛んできたぞ!?」

「放てっ!」

 

ブレスが飛んでくるが火力が低い。

そのままリオレウスの下に張り付く。ライダーを乗せてると振り落とせないのが弱点だな……

 

「うぉぉぉっ!」

 

っ!?

 

「俺に触ると……怪我するぜ……?」

 

なんだこのアイルー。よりによって雷を纏うのか。

私に触って雷を当てたという事は、近接戦闘は無理がある。

一度落下する。

 

「マネルガー!また改造モンスターを作ろうとしているのか!!」

「あぁ、そうだとも!再び発生しだした黒の狂気!前回は人選ミスしただけ、今回は成功する!」

「いい加減にやめろ!無理やりモンスターを操るなんて駄目だ!」

 

……なるほど。

『大量操作主義』と『一点共生主義』がぶつかっているのか。

共存すればいいのだがそこら辺は人間とという事だろう。

 

「そのモンスターを改造するな!」

 

突然私に矛先が向く。

 

「このアトラル・カに改造予定は無い!交渉していただけだ!」

「マネルガー、お前の言うことなんて信じられるか!さぁナビルーについてくるんだ!」

 

子供達について行って何を得られる……?

いや、せいぜいギルドから殺傷命令が下り、私が殺されるのを遠巻きに眺めるぐらいだろう。

自身の安全の為にもマネルガーにつくべきだ。

 

槍を引き寄せる。

 

殺す。糸を大量に発射する。

 

「……駄目か。」

「来るぞ、リュート!」

 

ネセトに駆け寄り、大量に糸を張る。そして先程発射した糸を掻き集め木や岩を蓄える。

 

「リオレウス!避けろ!」

 

そして発射する。上手く当たって翼が折れれば墜落する。

 

……凄い、全て避けるなんて。……じゃあコレを使うか。

 

笛を吹き、更に自己強化する。

そして――

 

「「え……!?」」

 

発射!!

吹っ飛べ!!

 

 

ガムートを放ち、予想外の事に動けなかったリオレウス達を吹っ飛ばす。

 

 

 

さて、脅威にならない存在はほっといて書かなければ。

 

「流石っ!アトラル・カ!」

 

そして書いたのを示す。

 

 

 

 

「なになに……『継続的な最新情報の提供と契約破棄時の巣の資材提供』……!?」

 

面白い要求だ……。

 

 

 

 

 

 

その日、一人と一匹の最悪のコンビが達成したという。

 




軍歌・夕日の砦


ジャジャジャンジャンジャンジャン ジャンジャジャジャジャン

あーあー我らと我が国はー
世界の何処より気高くてー
我らを脅かす者共ー
我らの力で捩じ伏せるー

世界にまたかける者共ー
そーれは我らと我が国だー
世ー界を堕ーとす怪物をー
一朝一夕(いっちょういっせき)で駆逐するー

あーあー讃えよお互いをー
我らは国民、国の民ー
例え王が頂点でもー
我らが国を作ってるー

再び向かえよ戦場にー
再び戻れよ我が国にー
富国強兵理想を求めー
世界を統べるは我々だ!


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例え強くても種族で差別されるのが世界



※短いです


洞窟内に移動する。

 

「私の飛行船が故障してな。今は修復中だ。」

「博士の飛行船は凄いですよ!」

「なぁんと、研究室が中にある。だから空を飛んでいれば一々周りの人間を気にする必要がない!」

「しかも大量にこういう時のための備えがありますよー!」

 

……随分ハイテンションだな。

 

「初めてリュートが退いたからな!」

 

心を読んできたか。

なるほど、確かにあのリオレウスは訓練されていた。撃退するのも一苦労だろう。

 

しかし、ついに私はガムートを撃龍槍の様に飛ばすことが出来るようになったか……

重さはあまり関係ないが力の加え方が難しい。

私だからこそというべきか。ウイルスに蝕まれたお陰というべきか。

 

 

 

 

 

早速、マネルガーの要求通りにボルボロス亜種を蹴りながら運ぶ。

 

「……ボルボロス亜種の体に治癒不可な傷をつけるんじゃないぞ?」

 

大丈夫だ。ネセトで何度も蹴り飛ばした所で意識が無くなる程度だろう。

 

 

さて、マネルガーがボルボロス亜種に機械をつけている間にここら辺の素材をチェックしておこう。

 

私はネセトを降りて槍を担ぐ。炭鉱夫のピッケルの代わりだ。

 

 

バゴッ!

 

ふむ。この赤いのは血石。こっちがアイシスメタルか。

 

バゴッ!

 

そしてこれが確か装飾品に使う……何だったかな。太陽の陽から始まるはず……

 

バゴッ!

 

血石が大量だな。……おぉ、グラシスメタルが出てきた。

 

バゴッ、バキィッ!!

 

 

……しまった。

槍で穿ち続けていたら壁に亀裂が入ってしまった。

といっても槍で穿つ時点で分かりきっていたが。

 

これは……キノコか。

風がよく吹く為、繁殖には適しているかもしれないな。成長出来るかは別だが。

 

この骨……いや、流石に分からない。

 

 

 

さて、次は食料と寒さ対策の為にバギィを捕らえよう。

 

 

 

 

十数匹狩ってマネルガーの元に行くと、ボルボロス亜種がガムートの様に装備をつけていた。しかし寝ていてまだ使えなさそうだ。

 

「やはり原種と大分似た……」

「あ、博士。アトラルが帰ってきましたよ。」

 

バギィを解体する。

マネルガーは興味深そうに観察してきたが、イチビッツは気分が悪そうに向こうを向いた。

 

「イチビッツ君!ガスコンロを持って来なさい!」

「わ、分かりました……」

 

いつも通りに消化器官や内蔵をどける。

……ガスコンロとは?

 

「も、持ってきました……」

「ありがとう、イチビッツ君。」

 

何やら鉄の箱の様な物を持って来た。

 

カチッ

 

マネルガーが何かを回すと同時に青色の炎がついた。

その上に一般的なフライパンを乗せる。

 

「さぁ、肉を。」

 

マネルガーの一口の大きさを目測で計り、肉を切って乗せる。

イチビッツも同様だ。

 

しかし……大丈夫なのか?

 

氷海では―――!?

 

 

「うおっ!?なんなんだ!?」

「は、博士……あれは、ギギネブラです!」

 

 

いたたたた!!

くそっ、いつの間に背後に……!?

 

頭から呑まれ、首にギギネブラの歯が食い込む。

そして大量の電流が流され、みるみる体力が奪われる。

 

体が麻痺している……落ち着け。まだ30秒は抗えるはずだ。

糸は無理だがどうする?……よし、やってみるか。

 

ギギネブラの頭を片方の鎌で抑え、もう片方を突き立てる。

そして切り裂く。

少ししか裂けないか。

 

あと二回分の時間。

 

いや一回で終わらせよう。

鎌をそれぞれ口近くに突き刺す。

そのまま口を切り裂いて、噛む力が弱まり血で滑りやすくなった所を脱出。

 

痛みに頭を振っている所に笛を叩きつける。

 

色が黒くなった。怒りか……

毒を撒いてきた為、一度離れ槍を回収。

 

飛ばしてきた毒弾を糸で撃ち落とし、槍を発射するが天井に登って回避される。

……そのまま去って行った。

 

「不利な相性でよく頑張れますな。」

 

……あっ。

 

 

 

フライパンに乗せた肉が全部焼けきっていた為、フライパンが焦げた。

笛を吹いて私の傷を治してから、アイツらが代わりのフライパンを使って焼いている間に焦げたフライパンを釣りをした所に持って行って入れる。

 

……

 

あれ、やれとは言われてないが何故私は面倒くさい事を?

……まぁいい。

それより、私以外のアトラル・カは一体何処で過ごしているのだろうか?まぁ乾燥した地域の方が過ごしやすい以上、森林や寒い所で生きる理由がないか。

 

しかし……ネセトを保持する以上、砂漠が広いとはいえ場所取りに負けた存在もいそうだが。

いや、それが槍で殺したアトラルだろうか。

 

 

さて。

マネルガーの元に行ったら論文でも読ませてもらおう。

 

 

 

 

 

 

「( °言° )<ヴェアアアア」

「落ち着きなさい。ゆっくり向かうとしましょう!」

 

 

 

「フール!」

 





なんで平和にならないの!?
「お前の文章力の低さと私の無駄が余り好きじゃない性格。」
……へ、平和を下さい!?


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輪廻の灯と輪廻を守る者達《閑話》

※注意!


※注意!



この閑話には、

『モンスターハンターワールド』

のネタバレが入っております。


また、今はアトラルに関係ない話です。





「さぁ。安心して眠りなさい。」

 

その言葉に雰囲気が緩み、死体と見間違そうな龍が死体となる。

そして地に触れている所から溶けるように肉が消えていく。

 

「………。」

「そうね。遂に生まれるから、迎えに行かないといけないわ。」

「………(コクコク)」

 

姿の違う二匹の龍はある地点へ飛び立つ。

 

 

 

 

 

ギコ……ギコ……

 

結晶に覆われた洞窟の川を一隻の舟が進んでいく。

 

 

「しかし、よくこんな所を見つけたな。」

「あぁ、ゾラ・マグダラオスが地形を変えたお陰だ。」

「なるほどなぁ?やはり生きているうちは未知の事に沢山ぶち当たるな。」

「何があろうとこの腕と武器で乗り越えてやるがな!ドハハハハ!」

「………だな。」

 

そして舟が川の終わりに着き、総司令が固定する。

竜人とハンターを守るように二人が先導する。

 

 

 

そこは幻想的な空間だった。

1箇所のとても大きな結晶が放つ光で周りの結晶もキラキラ反射している。

しかし結晶は余りにも純度が高い。

そのため場所によっては足が地面から浮いている錯覚さえしてしまう。

 

「まさか……コイツが――!?」

 

その時だった。まるで誰かが入ってきたのかが分かっていたかの様に結晶の光が強くなる。

 

「なっ!?」

「おっと!」

 

そして無数のレーザーが、結晶を焼き切りながら放たれる。

 

運悪く竜人が爆発に巻き込まれる。

 

「いかん!?大丈夫か!!」

「!……これ。」

 

大団長とハンターは気絶した竜人に駆け寄り、ハンターは回復薬グレートを取り出す。

 

 

「来るぞ……!」

「土産話になりそうだ……!」

 

もう一度結晶が光った――そして奴は現れた。

 

まるで動物が産まれる様に。

まるで抱かれた赤子が降ろされた様に。

 

 

ビタンッ!!

 

 

「くっ!」

「!……待て。」

 

大団長は謎の龍に駆け出すが、ハンターに止められる。

 

「ドハハハハ!ここは任せな!だよなハンターさんよぉ!?」

「バハハハハ!未知の龍が一匹や二匹、最低でも2時間は持つわ!!」

「……そういう事。」

 

「……分かった。お前達を信じる。頼んだぞ!!」

 

大団長は気絶した竜人を担ぎ走り出す。

そして三人はそれぞれ武器を構える。

 

未知の龍はまだ見えぬ天に向かって吠える。

 

 

 

 

 

「こちら、新大陸上空に入りました。どうぞ。」

「了解。『結晶爆破・未来生体兵器捕獲』計画を実行せよ。どうぞ。」

「前方に熱源反応。イャンクックの様です。どうぞ。」

「新大陸にイャンクックは始めてだ。素通りか破壊してください。どうぞ。」

「了解。エンド。」

 

5機の爆撃機を守る3機の戦闘機が固定銃を放つ。

イャンクックは見切り避け、一度のモーションで8つの火球を放つ。全て一直線に航空機を狙う。

航空機も火球を避け、爆撃機をイャンクックから守る様に戦闘機が飛び回る。

 

避けたはずの火球が3機の航空機を爆破する。

 

「っ!?」

 

すかさず後方の確認をすると、火球が追ってきていた。

爆撃機は慣れない回避行動を取り続ける。

戦闘機はイャンクックを倒せば無くなると思い、攻撃を続けながら本部に連絡を入れる。

 

「こちら新大陸航空隊、03!イャンクックの火球がホーミングしていて、爆撃が2、戦闘が1ロスト!退却か援軍を!どうぞ!」

「了解。そのまま爆撃機は進め。戦闘機はイャンクックを食い止め、援軍の到着を待て。どうぞ。」

「了解しました!2分は持って見せます!我が帝国に光あれ!エンドッ!」

 

戦闘機の銃弾は回避され、時には翼で弾かれる。全くダメージは通ってないようだ。

 

イャンクックがイャンガルルガの様に咆哮しながら後ろへ飛ぶ。

 

すると、エンジンが不調を示す。

見るとたった今バードストライクを起こしたかの様に異音を立てていた。大量に鱗が刺さっており、穴も空いていた。

 

死を悟り1機の戦闘機がイャンクックに突撃する。

イャンクックの背後から突撃し、爆炎に呑まれる。

 

 

「……くそっ!」

 

しかし強く羽ばたき煙を飛ばしたその姿には、一切の傷を負っていない様に見えた。鬱陶しい蝿が消えたイャンクックは、点にしか見えない爆撃機にバルファルクが亀に思える速度で正面に回り込む。

 

「なっ!?くっそぉっ!」

 

未だに続いているホーミング火球を避けながらイャンクックの攻撃を避け続ける事が出来る訳もなく、遂に一つの爆撃機が撃墜される。

 

通信が繋がる。

 

「はい!こちら新大陸航空隊03!」

「こちら新大陸航空隊02。後1分で――」

「ヒュッ」

 

謎の音と共に通信が切れる。

 

爆撃機がまた一つ爆破される。滞空しているイャンクックにミサイルを放つが――

 

「うわっ――」

 

両翼で掴み、半回転する間に照準を合わせ最後の戦闘機を落とす。そして、爆撃機が生き残れる筈もなく……

 

 

 

「流石だわぁ〜!」

「……お酒の分は働きました。では私はこれで、本日の出張講師は終わりです。」

「ありがとうね。ウフフ、あの双子、意外に皆から注目されてるんだから……」

 

 

 

 

 

 

「目標地点ロックオン!」

「エネルギー濃縮系統オールグリーン!」

「振動に備えよ!3、2!」

 

1、0の後にとてつもない力のレーザーが放たれる。目標は龍結晶の地があると思われる場所。

――しかし突如横から放たれた黒の光線がレーザーを軽く飲み込み、届く事はなかった。

 

通信が届く。

 

「謎の通信です!?」

「全体受信しろ。」

 

カチッ。

巨大な衛星全体に重い声が響く。

 

「我が名は『破滅』 今、貴様らの運命は我の手にある。」

「誰だ。」

「……理解できないのか?低能が。貴様らからの呼び名は『ミラボレアス』 さて、今チャンスをくれてやろう。」

「全砲門、放て!」

 

一匹の黒い龍に大砲やレーザーが放たれる。

 

「眩しいからやめて〜wwwちょっ無意味スギィwww」

「チッ!」

「眩しいwwwスポットライトあざっすwww さて、貴様らの選択は二つだ。『衛星を捨てて生き延びる』もしくは『抵抗して死ぬ』どっちかだ。」

「我々は屈しない!宇宙戦闘機用意!」

「「帝国に民の加護あれ!!」」

 

 

 

 

「………あのぉ、答えは?流石にマッサージされるとは思ってなかったんだけど。」

 

ミラボレアスは気持ちよさそうだ。

大量の爆弾、大量の銃弾。そしてレーザー。それを受けてマッサージと呼んでいるのだ。

 

「あぁ、えっとこっちの翼のつけ根が痒いからお願いする。」

 

そして心の底からマッサージと信じている。

 

 

そして見兼ねた1人が動く。

 

「僕が、行きます。」

「!?神選者、お前が行くのか!?」

「えぇ。もしかしたら一瞬で殺られるかもしれませんが……アイツから離れて下さい。」

「……分かった。頼んだぞ。総員!北へ全速前進!」

 

 

ドローンが飛ぶが、破滅の前には何も出来ずに屑になるだけ。

拡散弾が飛ぶが、無傷。

 

「……逃げるのか?」

「…………」

「……あっはははは!あぁっはっはっはっはははははぁっ!!雑魚だっ、潰す、潰してやるぅ!ころっ、殺す殺すぅぅっハハハアハハキキキハハハアアアァァァァぁぁぁァァァッ!!」

「………っ!!」

 

本性を現したミラボレアスが無い空気を深呼吸し、口に恐らく龍属性のエネルギーを圧縮する。

そして――

 

「死ぃなぁないでぇぇえ!!」

「やらせるかっ!!」

 

殺意に溢れたブレスが衛星に向かって放たれるが、盾を構えた巨大なロボットが受け流す。

 

「おおおっ、凄いかっこいい。反吐が出そう。」

「皆を僕が守る―――」

 

一瞬にしてミラボレアスがロボットの3m前に近づく。

 

「そして可愛い。抱きしめたくなりゅぅぅぅ!」

「たぁっ!」

 

冷静にビームソードで抜刀斬りをする。

 

「痛っ!!……あーなんかゲームしたくなるわー。まだWiFi持って来れてないんだよなぁ。」

「くらえぇぇ!」

 

再びの斬撃で少し胸に傷が入る。

 

「なるほど。かなりその剣は高威力だな。ふむ。」

「はぁっ!」

「えっと……」

 

バチィッ!!

 

ビームソード同士がぶつかり合い、衝撃が走る。

 

「なっ!?」

「こんな感じですか?セ・ン・パ・イ♡」

 

女声で喋るミラボレアスの手からは同じ様なソードが生成されていた。

 

ロボットはマシンガンを放つ。

 

「痛い痛い!もう!後輩クン、ボクは怒っちゃうぞ?」

 

突如ミラボレアスの背後の空間から黒いレーザーが放たれ、防ぎきれなかったレーザーが足を貫く。

 

「くっ、足が……!てゃぁぁぁっ!!」

「やっ!」

 

首への斬撃を防がれるが、顔面に銃弾を撃ち込む。

ミラボレアスは大きく怯む。

追撃で胸に深々とビームソードを突き立てる。

そしてそこから切り払う。

 

「ぐはーー」

「はぁっ……はぁっ……」

「……ちぇー。しょうがない、帰ってお人形遊びしよっと。」

 

ミラボレアスが地上へ戻っていく。

 

「ふぅっ……なんとか凌いだ――」

 

 

 

「お人形さん、帰りますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に未知の龍を追い詰める。

 

「産まれたばっかなのにすまんな……」

 

黒鬼が大剣を片手で叩きつけ、狩猟笛を更に叩きつける。

赤鬼が機関銃弾を撃ちながら太刀を研ぐ。

ハンターが双剣でフィールドを駆け回りながら着実に部位破壊をしていく。

 

未知の龍が岩盤爆破をするが、誰一人当たらない。

 

 

未知の龍は朝焼けの空に吠える。

 

自らの死を悟った故の咆哮か。

薄れゆく意識に喝を入れたのか。

 

まだ感情を表現出来ない龍は泣いた。

 

 

 

 

 

それに呼応する様に空から二匹の龍が突進してくる。

 

 

「……っと!」

「…バハハハハ!!」

「………」

 

ドゥレムディラが立ち塞がり、ゼスクリオが龍を支える。

 

「お久しぶりだなぁ!」

「本気を出さないと死ぬなこれは!」

「……!?」

 

挨拶がわりの巨大ブレスが放たれる。

ハンターは巻き込まれ気絶するが、二人は一閃。ブレスを正面から断ち切る。

 

騒動を聞きつけたテトルーがハンターをすかさず運ぶ。

 

赤鬼がテトルーの言語を喋り、アイルーを呼んである事を伝える様に頼む。

一匹のテトルーが頷く。

 

 

「……さぁ一戦を交えようか!」

「尻尾ぐらいは切らせてもらうぜ!」

 

ドゥレムディラの咆哮で周りの結晶が吹っ飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

「地上捕獲部隊01、バゼルギウスを捕獲しました。」

「了――通信が―安定―――気をつけ―――――」

 

 

 

白い龍と透明な龍が眺めていた。

 

「いいんですか?」

「えぇ、研究は許すわ。でも……ね?」

 

バチィッ!!

 

「ひぃぃ、怖いっ!」

 

 

 

日が昇る頃、再び大半の生物は活動する。

 

確実に世界は傾いてきた事を知らずに。

 




ルーツ「神選者負けばかりねー?」
クック「……あの、なんで私の家に?」
「暇だしいいじゃない?」
「はぁ……テキストに触れないで下さいね。」
「でも先生。やっぱり強いわね。なんで年越しの時に来なかったの?」
「……夫と過ごしていますから。」
「最近、モンスターの知能が高いのは貴女のせいかしら?」
「絶対に違います。喋る事が出来るのが私の生徒です。」
「そんな本気にならなくて大丈夫よ。だって私には理由は分かってるもの。」
「……はいはい。」
「人の姿には大分慣れたかしら?」
「……一応。お陰で人間の機械が使えるようになって仕事が楽になりました。」
「頑張ってね?」
「あの双子は大丈夫なのですか?」
「悲劇の双子は今は幸せそうよ。」
「なるほど。」



閑話 が かん になっているのを直しました……


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社畜の兎、出張する顎、昇格する虫


報告です。

筆者は『少し恥ずかしがりながら(?)元気に(?)うさぎの真似をしている(?)アトラル』を想像してニヤニヤが止まりませんでした。

この事から無意識にアトラルをご都合展開に持って行く可能性が、筆者の文章力と相まって上がったかもしれない事をここに報告致します。
勿論注意はしていきますが、前後で説明なくアトラルがブレスを放つぐらいの状況になったら一言くれるとありがたいです。



暇だ。

一応縄張りを設けてみたが、ネセトを使えばどんなモンスターも追い払えてしまう。傷を負えば笛を吹けばいい。傷を癒すための睡眠が無いとなると本当にやることがなくなる。

 

マネルガーは常に研究をしている。難しい顔をしているが、時には笑顔になっている。

助手のイチビッツはノートをとっているが、分からない所もあるようで何度も聞いている。

 

しかし私はただ氷の上で槍を研ぐだけ。

……人間に飼われている動物は普段何をしている?

いや、私もゲージの中に居たが。

なるほど、今の私みたいな明確な思考がなければ何もやることがなくても大丈夫なのかもしれない。

図鑑も読み続けると飲み込みが悪くなるのが分かるから何をしようか……

 

 

………

 

 

 

 

再びネセトで再び縄張りを歩く。

やはり小型モンスターぐらいしか……

 

おや?何かがこちらに突撃してくる。

恐らく形からしてウルクススだろうか?進行方向に頭を向け、槍の射出準備をする。

縄張り意識でも持っていたのだろうか。ネセトを見て戦闘を仕掛けてきたという事は実力者か蛮勇か。

 

ウルクススは不規則な動きで突っ込んでくる為、中々予測が出来ない。

一度頭を戻して一度下がり、脚を上げる。

 

振り下ろす。くそっ、外した。

――っ!?

 

ウルクススが首と胴体の間を通って体当たりをかましてきた。

……ちっ。首の中に居座られた。

 

繭を破りながら鎌で切りつける。頭に傷を入れた為、一度距離をとられる。

しかし追い出す事は難しそうだ。しょうがない。

 

槍を担ぎながら氷上に降り立つ。

風は鳴っているが、雪は降っていない。

 

 

ウルクススが突進してくる。

槍をつい叩きつけるがそれを読まれて回避される。

 

……おかしい。何故回避する?

今まで殺した奴は耐える行動が多かった。

しかしウルクスス。こいつが回避をする様になるとそのうち捕食者が回避への対応と回避を行う様になる可能性がある。

勿論その流れを変える力や望みなど無いが。

 

再び突進してくる。

 

 

冷静に考えてみよう。

私は今、ウルクススの明らかに意図的な回避行動に驚いている。

 

だがウルクススは余り攻撃的には動けないとみた。

 

……恐らく、回避する為に危機察知能力が向上したせいで相手の行動を過剰に恐れて攻撃出来ないのだろう。

ならば受けの姿勢でいればいいだけ。攻めで精神的に疲れる必要はない。ゆっくりと――

 

 

 

 

ウルクススがアトラルに突進する。

アトラルは動じない。

 

そしてあと一秒もないうちに衝突する筈が……

 

 

 

バゴォッ!!

 

氷の中からモンスターが現れる。

ウルクススは突然の事に対応出来ず、滑る勢いをそのままに何処かに吹っ飛んでいく。

 

 

 

この姿は図鑑にあった……!

 

 

私のネセト並の大きさの飛竜は私の方に向く。

 

尻尾で器用にバランスを保ちながら立ち上がり息を吸う。

 

 

ズガァッバキィッ!ボゴッ!

 

咄嗟に回避する。

私がいた所に細いブレスが放たれ、氷に穴が空いた後亀裂が走る。そして広範囲の隆起……

なるほど。確かにこの破壊力は古龍級生物だ。しかし何故ここに?

 

ウカムルバスが顎で氷を抉る。……え!?

 

 

本人サイズの氷塊が飛んでくる。

撃龍槍を撃つが刺さっただけだ。命からがら避け、撃龍槍を回収する。

 

 

ネセトで戦闘する事も考えたが……ブレスを避ける事は困難になる。するとまだ修復せずボロボロな遺跡を纏っているネセトはブレスで切断されてしまうだろう。

ならばここはひたすら逃げなければ。

 

 

 

 

 

「やっと直った。これで次に向かえる。」

「はい……って、は、博士!アトラル・ネセトが走ってきます!」

「な、なんだと!?」

 

 

 

ガリガリ音を鳴らしながら急ブレーキをかける。

ふぅ……笛を吹いて疲労回復をする。そして雪に、

 

『ウカムルバスがやってきた。』

 

と書く。

 

「な、なんだと!?」

「起動!進路を!」

「イチビッツ君!ボルボロス亜種を乗せて、東へ向かうぞ!アトラル・カはどうする!?」

『走って追いかける。』

 

 

 

 

「恐らくここです。フール、分かりますか?」

「フンフンフン………グォゥ。」

「あっちですか。では――」

 

ドガァッ!!

 

 

その時、ブラックライダーズの一人がフルフルと共に空を飛んでいたという。

 

 

 

 

 

 

走って追いかけるとは書いたが、予想より悪路だった。

ウカムルバスからはかなり離れた筈だが、それでもまだ離れるか。

 

確かに住処から離れるのはおかしいが、だからといって過剰に離れると情報収集が難しくなる……まぁいいか。

 

 

 

 

……はぁ。力を持っている者は何故馬鹿が多い?実力と思考が見合ってないのか?

 

「フォトンリッパー!!」

 

何故正面から、そして分かりやすい溜めから放つのだろうか。

さっさと避けてマネルガーを追いかけなければ。

 

 

 

 

 

避けた……だと!?

フォトンリッパーが遠くの氷河を崩す。

 

でも、こっちなら確実に当たる。

 

「レイジゼウス!!」

 

 

ズバァッ!!

 

 

 

 

―――っ!

少しの間、音が聞こえなくなった。

雷が落ちてきたのか、生身だと死ぬ。

 

咄嗟に考えてみたが、氷に圧力をかけると水になる。そして水から地面に雷が逃げる。それによってネセトの骨部分から電気が流れ、偶然助かったのかもしれない。まずはさっさと離れよう。

 

何故ああいう奴らは見かけたモンスターにことごとく攻撃するのだろう。もう少し私達を生物として見てくれないのだろうか。

 

……ふっ、襲撃経験のある私には関係ない話だったな。

 

 

 

 

ネセトは走り去っていく。

 

 

 

 

何故!?

確かにアトラル・ネセトは雷無効たが糸や繭には多少は通る筈だ!

 

ウカムを討伐してから追いかけなければ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、各地のギルドで一流のハンターに発表された。

 

 

「本日、新たに特別個体が追加された。残酷な奏者。そこから『残奏姫(ざんそうき)』アトラル・カ。人を斬り、モンスターを槍で貫く非情な鬼という意味も含まれている。知能と危険性が非常に高い為、見かけた際には逃避を。」

 

 

残奏姫アトラル・カ。

巷で例のアトラル・カと呼ばれていた存在。

体格は小さく、普通のアトラル・カより部位の耐久が低い事からまだ成長途中と見られている。

 

 

「もし対決となったら首を守れ。鎌で密猟ライダーの首を的確に切断していたのを古龍観測隊が見ていた。目くらまし中も落ち着いていて、音を聞き分けていたらしい。そして――」

 

偶然にも大体のギルドマスターが同じ発言をした。

 

「残奏姫が笛を持っていたら倒せない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、全てを凍てつかせる飛竜は飛行船と瓦礫の集合体を見つける。

 




残奏姫アトラル・カ

アトラル・カは近年大量発生した甲虫種。
素の戦闘力は低いため、表面上はアルセルタスが岩を振り回す程度としているが、後に全てが古龍級生物となる以上見える範囲は全て討伐しなければならない。

そんな中で現れた二つ名。
奴は一回り小さく、『女王』ではなく、『王女』や『姫』と呼ばれている。
特筆すべきは笛や槍の扱い方。
新大陸のクルルヤックがどの攻撃も確実に岩で防いでくる様な理不尽さと、成長したアトラル・カ並の威力の撃龍槍を隙を作らずに放つのだ。




土まみれの破けたノート

一体どうすれば!?
黒ずんだ糸で出来たアトラル・ネセトが崩れると、そこには始めて狂竜化したアトラル・カが居ました!
最初は例に漏れず狂って暴れていたのですが、強いハンターに斬られると突然回避困難な技をくり出すようになりました!
今回はランゴスタを連れておらず、笛を持っていませんが……
!?
何故か周りのモンスターが狂竜化―――

(ここから先は見事に裂かれていて読めない。)


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密着!ギルドナイト48時!


今日もお仕事頑張るぞい!

「何をやっているんだ?」
「いえ、やらなければいけない気がしまして。」
「え、どういう事なんだ?」


※グロ注意を喚起させていただきます。骨が皮膚を突き破る等の表現はしていません。
※戦闘表現が下手です



(もう復興した)ドンドルマにて。

 

 

彼女達の朝は早い。

何故なら、いつ何日間外出するか分からないため一般人が昼や夜にやる事は日が出る前に済ませるからだ。

そして洗濯を終え、室内干しをした後に外出。

 

「おはようございますぅ。」

 

彼女は太陽に挨拶をする。

 

 

朝日に照らされた大老殿に続く階段を上る。

ランスを構えたギルドナイトが軽くお辞儀する。

彼女も微笑む。

 

本来ならここで認定の証を見せるのだが、彼女の存在を考えれば会釈で済むのは当たり前の事だろう。

 

更に上るとドンドルマの街を一望する事が出来る。並のハンターでは装備を着たままで上るのは難しいと有名なここは、選ばれたハンターといえど大変な為、毎朝訓練や特訓に使われている。

 

そんな勤勉なハンター達に挨拶しながら彼女は大老殿に入る。

大老殿の前には再びギルドナイトが立っている。そこで始めて『ドンドルマギルドマスターの血印』が押された手帳を見せる。

 

大老殿に入るとすぐ、大量の物品を備えた雑貨屋が構えている。

 

「回復薬グレートを二つ。えっと、なんとか、あー、はいはい、粉塵を二つ。お願いします。」

「了解しました。以上で――」

 

手帳を再びめくり、見せる。

 

「はい。」

「確認しました。少々お待ちください。」

 

表面的には無い物扱いだが、生命の大粉塵を扱うこの店では先程の通りに粉塵を頼み、印を見せると生命の粉塵に偽装した大粉塵を売ってもらえるのだ。そして売った際の時刻や対象も記されるため、持続的な転売は非常に難しい仕組みになっている。

 

受付嬢の前を通り過ぎ、二階に設けられた大きなレストランに入る。

 

そこには寝ているハンターや真面目に書類を書いている学者、談笑しているハンターが数は少ないが既にいる。

キッチンからも今朝仕入れた食材を処理をしている音が聞こえる。

 

朝日に照らされるバルコニーに出て彼女はボーッとする。

この時間が彼女の至福のひとときだ――

 

「おはよう。……おはよう!!」

「うわっ!?えっ、あ、お、おはようございます!」

「確かに最近は余り寝れずに疲れたが、バルコニーで寝るといつどこから狙われるか分からないぞ。」

「うーん、っはぁ。いやぁいいじゃないですかここー。雨の日はレストランがここだけパラソルをつけてくれますし。」

「それはお前が常連だからだろう。さて。」

 

チリンチリーン

 

ベルを鳴らすとバルコニーにも関わらず、すぐさまアイルーが飛んでくる。

 

「おはようございますニャ。今日もいい天気ですニャー。ではご注文を承りますニャ。」

「俺は『料理長お任せフルコース』で。」

 

 

「えっと、私は彼と同じのと、『ニャンコック直伝!とろける魅惑のレバーチーズピザ!』と……『唐揚げサンドイッチ』と、『破滅級!チャレンジタイムアタック大盛り激辛カレー』と……『サイコロステーキ〜微かな春を交え〜』……をお願いします。」

 

 

「ニャ?ニャニャ!?ミャァァァ!?」

 

朝なのにいきなりの大量注文にアイルーはパニックに陥る。

もしかして団体なのか?注文した品を全てテーブルに置く事は出来ない!?どうしよう!?

そんな考えが冷静な判断(先輩に聞く)を阻害する。

 

「あ、新人か。済まない、彼女は別名『永久に喰らうイビルジョー』って呼ばれているんだ。」

「う、うるさいです!狩猟中は三週間ぐらい断食してからZ級に挑めます!」

「弁解になってないし、バルコニーのこのテーブルだけデカい事が証明している!!」

「ぐうっ!?」

 

 

キッチン側から笑い声が聞こえる。

前日まで研修や自己練習などで緊張したアイルーや人間をこの女性にぶつけるのは恒例になっているのだ。

 

 

コック達はこういう。

これは緊張や高揚感、そして恐怖を持った者が無意識に受ける、

『忍び寄る気配』というクエストなのだと。

 

 

 

それはさておき、この二人組はここではある程度綺麗に食事をするのだ。

流石に一口は大きいがこぼしたり水で流し込んだりはしない。

かなり黙々と食べながら確認すべきギルドナイトの書類を読む。

 

 

領収書が渡される。

そして同時に手ぬぐいが渡される。

 

彼女達が手ぬぐいを広げるとそこに――

 

 

 

 

まだ本日の公演には遠い時間にアリーナに居た。

一体何を待っているのか。

 

 

唐突に男が近づく。

 

「今日はこれだ。」

 

男は耳元で囁きながら一枚の紙を渡す。

 

「分かりました。」

「承りました。」

 

男はアリーナの闇に溶けていく。

紙には複数の指定時間制限と位置、クエスト目標が書かれていた。

よく読んだ彼女達もまた、闇に溶けていった。

 

 

 

さて、ギルドナイトの存在は比較的有名だ。しかし新聞などのメディアも、特定しようと追いかけるといつ間にか人が減っているため触れてはいけないものとしている。

一般的見解はギルドナイトはスカウト制とされていて、ある程度有名なハンターはなれないと考察されている。また志願するのも御法度と思われている。

 

 

 

―――ギルドナイトに聞いてみた―――

 

Q.実際に暗殺をしているのか。

 

「はい、そうですね。暗殺も仕事内容の一つです。資料で把握して、プランを組み立てて、柔軟に対応しながら実行。私達はギルドナイトなので狩猟だろうと暗殺だろうと偵察だろうと命令された事は98%以上の確率で成功させます。」

 

 

Q.罪悪感は無いのか。

 

「難しい話ですね。無いわけではないのですが自分の感情は二の次みたいな感じですね。ギルドは社会や生態系に与える影響を考慮して命を天秤にかけているそうです。確かに冷酷で非情ですが、今のご時世、一時の許容が世界崩壊への道になる可能性がある事を考えるとやらなければならないと思います。はい。」

 

 

 

出る杭は打たれないこの世界。

しかし深く刺さってヒビを入れたり、腐った杭を冷徹に処分する存在は何処でも必要。ならば彼女達はバールと呼べる存在なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

ココット郊外。日が落ち始める頃。

 

彼女達の今日の依頼を実行する時間だ。

 

 

「こんにちは。この格好は寒いです……」

「今日はお前にかかっている。」

「本当に上手くいくのでしょうかね?」

「やる気を出せ……まぁ尻拭いはやってやる。」

 

 

彼女は『娼婦』のふりをして小さな建物に入る。

余り喋らないで艶めかしい動きを心がけよと他のギルドナイトからアドバイスを貰っているため、余り周囲に違和感を与えること無く滑り込めた。

今日、何故か急激に体調を崩し医者のお世話になっている店長の代わりに副店長が仕切っているのもあったからだろう。

 

事前に気絶させた娼婦の部屋に入ると鼻を突く匂いが充満していた。

 

「……うっ。流石に慣れませんねこの匂い。」

 

 

一応娼婦とは書いているが、ヘッドスパや耳かきなどを出来る様に練習させられる点で潜入の難易度が高いといえる。しかし彼女には釈迦に説法、マニュアルを余り読む必要はなかった。何故なら――

 

 

 

囁きでやり取りを行う。

 

「この方、寝てしまいました。」

「分かりました。」

 

質は高いが人数が少ないため寝てしまったら終わり。この店にはそういう変わった仕組みがある。

 

 

ギルドナイトたるもの、狩りの対象は熟知していて当然らしい。よって簡単に人間を眠らすことが出来るのは当たり前だという。

大体の輩はお楽しみは最後にとっておく。何故ならお互いに疲労が激しいためその後の分のお金はほぼ無駄になるからだ。

逆に言えばそれまでに寝かせてしまえばサイクルが早くなり標的に会える確率が高くなる。

 

 

それを五回繰り返した時に、今回の標的(ターゲット)は現れた。

 

 

「ふん、今回の癒し手はいい体じゃないか。」

「………(予想よりブサイクですね。)」

「着衣ってのもいいかもな?」

「………(何か体から腐った匂いがする!?部屋の匂いを突き破るレベル!?)」

 

 

標的の名はイイカワ ナリト。

 

神選者ではあるが、密猟や強姦を繰り返しているため、指名手配をされている。

だが、例に漏れず神選者の正面からの殺害は本人の力が強く非常に難しい。

 

 

 

しかし全てを調べあげれば意外な弱点は見えてくる。

この神選者はこの場で何よりまず接吻を要求する。彼女達はその事実を見つけるのに2時間もかからなかった。

 

 

 

 

舌を絡ませようとしてくるのをしばらく拒んだ後に、舌で一気に口の奥に錠剤を押し込む。

 

「!?」

「はっ。」

「ぐっ、ごっ!」

 

異物に気づき吐き出そうとするが、吐かれる前に顎を蹴り上げる。

そのまま空中で喉元を抑えながら叩きつけ、すかさず自らが着る薄い衣で足を縛り、猿轡と同じ様に口を抑える。

そして優しく頬を触り、胸をなぞる。

 

突然の事につい神選者は喋りたくなり、飲み込んでしまう。

 

 

 

 

「ふぅ……なるほど、この場所ですか。」

 

超猛毒が体内に回った死体の物品を漁る。

そして地図を見るとマークがついていた。

 

ギルドナイト特製の超猛毒錠剤。Z級からしか採れない為、非常に高価で扱いが難しく、殺害に使われる事は滅多にない。

何故なら茶に溶かせば色が変わり、口に含むには余りにも危険な物体だからだ。それでも拘束された際の自殺手段として一定数の需要はある。

 

 

何故リスクをおってまでするのか?

いや、彼女は危険性を知った上で普通に使用しているのかもしれない。

 

公表されていないが、ナリトの能力は身体強化以外に『全スキル保持・デメリット無効化』である。

 

 

 

 

 

 

誰にも気付かれずに屋根に立つ。

月明かりに照らされながら、風になびく服を来た女は男を待つ。

 

 

「世の男性は……私の手の上ですよ。」

 

「まだ生理が安定しない年齢で何を言う……」

「あ、言っちゃいけないこと言った!マジぶち転がす!マジブロス!」

「始めて色っぽい事して興奮してるのか。俺も最初は……死闘で疲れてたな。」

「えっ、死闘?」

「まさか俺が最初からこの強さだと思っているのか?」

「か、考えてませんでした。」

 

 

 

 

 

 

 

次の日。二人組がとある建物の前にいた。

 

彼女はナルガ一式に着替え、外壁の中で番犬をしていたミドガロンを討伐する。

そして建物の外壁を登り開いている窓から侵入、気づくのに遅れたキセルを吸っていた人間の鳩尾を殴り、サマーソルトで追撃して意識を刈り取る。

 

外に向けて合図すると彼は正面から入っていった。

 

 

 

さて、男から渡されたクエストの中で絶対クリアしろと書いてあった物は

 

『謎の組織の資金源潰しちゃって〜』

 

というあやふやかつ、本来自警団などがやるような内容だった。

しかし不服申立てをする事なく、二人は遂行する。

 

 

 

 

「恐らくここがボスだな。待つのも面倒くさいから突撃しておこう。」

 

大きな扉をノック。

中から聞こえていた脅迫が一度止まる。

 

「おい、今ボスが仕事して――」

「ここか。」

 

ドアを開けて注意をしようとした人間の股間を蹴り飛ばし、壁にまで吹っ飛ばす。彼の子孫はもう出来ないだろう。

痛みで気絶した人間を放っておき、ボスと呼ばれている大柄な男に近づく。

 

「おい。」

「うっ!?」

 

そして普通に距離を詰め、襟元を掴み持ち上げる。

ここで注目して欲しいのは、肘を伸ばしきって持ち上げている点だ。

非常に辛い体制だが、

 

「おい、なんとか答えろ。それともこのまま殺されたいのか?」

「黙っ、あがっ!!」

「抵抗は選択肢にいれてないのだけど?」

 

ボスはナイフを腕に振り下ろしたが、もう片方の手で手首を150°ぐらいに曲げられて機能しなくなった。なんという怪力だろう。

 

そこにやっと彼が追いつく。

光景を見て現状を理解したのだろうか、周囲の本棚や隣の部屋に捜索しに入る。

 

 

 

 

 

隣の部屋には銃を構えた女性の秘書が居た。

銃弾を三発回避しながら近づき、大振りの右手で殴る。

秘書は受け止めるが男性とはいえ余りに強い力に吹き飛ばされる。

 

「きゃっ!」

 

そう言いながら受け身をとり、再び男が振った右手を受け流す。

そこから銃を撃ちながら顎にアッパーを決め、地に崩れた男に再び銃を撃つ。

しかし男は仰向けにも関わらず手で走り、秘書の足を掴む。

銃を撃とうとするが男が立つ事によりバランスを崩し、片手で吊り上げられる。

 

「まだまだだな。」

 

男は秘書をそのまま床に叩きつける。4、5度程繰り返した後に空中回転しながら両手で掴み――

 

バキイッ!!

 

 

 

音を聞きつけ走ってきた幹部に上半身をちぎって投げつける。

全く理解出来ない現実に放心してる幹部を全力で殴り飛ばす。腹から入って背骨を折る。そのまま打ち上げ、落下してきた頭を再び全力で殴り破裂させる。

 

「流石に気を緩めすぎたが、この程度だと武器も使う必要はないか。」

 

背後から斬りかかってきた大剣を裏拳で折る。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ。もういい。」

 

そう言うとともにボスを投げ捨てる。

突然の事に腰を抜かしていた一般男性に声をかける。

 

「大丈夫ですか?早く逃げた方がいいですよ。」

「あ、ありがとうございます!なんとお礼を言えば――危ないっ!」

「ほっ!と。」

 

残った手で再び刺しに来たボスの顔面を、振りかぶりながら方向を合わせ、殴る。顔の骨が折れる音とともに気絶する。持ち帰って尋問をする為に殺さなかったという。

 

 

 

 

 

 

「帰り際に対象モンスターを討伐しました。」

 

再びギルドナイトの二人はドンドルマのアリーナであの男と会っていた。

 

「ご苦労だった。しかし対人は男の方だと聞いていたが?」

「武術を使わない人間ぐらいなら私だって圧勝出来ます!」

「声を低く、小さくしろ。」

「今回の件は口外禁止だ。」

「はいはい禁止なんて分かってますよ!」

「急いでいるのは分かった、分かったから先に行ってろ!」

 

返事より早く姿が掻き消える。

 

「食いしん坊だな。」

「そのお陰で癒し系イメージが定着してくれて有難いですがね。」

「そうか。では。」

「御用とあらばまたお呼びください。」

 

 

 

彼は歩く。

 

先に行った彼女を追うために。

 

 

彼らは進む。

 

血に塗れ、泥に塗れ、罪に塗れ、欺に塗れ……

 

それでもいつか光が一瞬でも見えると信じて。

 

それに続く道を作っていると信じて。

 




後日。


「お願いします!」
「よろしく。」

お辞儀から始まる練習試合。
最強と呼ばれるギルドナイト同士が本気で闘う。


もはや格闘戦とは思えない音が響く。

一応パワータイプの男は正面から受けるとまとめて骨が折れる殴りを連発する。

一応スピードタイプの女は受け流しながら組もうとするが腕を引き戻す力さえ強すぎる為簡単には組みに行けない。ローキックを繰り出す。

回避の為ジャンプして踵落とし、それを左手で逸らしながらサマーソルト、その足を掴み腕力だけで突き放しながら空中に放り投げ、落下地点に走り出す。

しかし互いに機を逃し、お互いに退き、そこから再び間合いを詰める。

男の本気で振り落とされた拳が空振り、軽い地割れを起こす。
女は破片を蹴り飛ばし攻撃するが片手で粉砕される。


「……練習試合なんだよな?」
「私からしたら先輩と後輩なんだけど……オセロみたいに私もああならないかしら?」


遂に女の上手投げが決まる。
男は対応して先に両足と膝を地につけそのまま腕力で女を叩きつけようとする。
腕の力みを察した為、手を離し回し蹴りをするが、男は見ずに左手で受け止める。

「本気を出してください……。」
「……常に本気だが?」
「私、掴むのが0.06遅れましたよね?全ての攻撃の速度も遅いですし。」
「練習試合だから……な。エンターテインメントだ。」

ドガアッ!!

女が吹っ飛ぶ。
一瞬のうちに腹を一発殴られたからだ。
地をバタンバタンと転がっていく。

「練習死合をしたいならお前が本気を出せ。」

一気に空気が凍りつく。
砂煙の中、ゆらりと女が立つ。

瞬間距離を詰めて腹を殴る構えからガードしようとした手を曲芸の様に捻りすぐ横に着地する。

「分かりました。私も本気を出そう。」
「手首が痺れるな。確かに本気を出したようだ。」
「全体重で捻ったのにそれで済むとは、流石にパワー馬鹿……」



ギルドナイト達は今日も元気です。


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深怨と邪気眼



バレンタインデーッ!!

街を行く人にインタビューしてみました!
(モンスターは人に変化したという体で)



マリオネットを動かしている少女

「……分かりやすい程値上がりしているな。しかし集団心理と同調圧力によって軌道に乗った商業の仕方は見事といえる。何故チョコレートなのか。何故カカオが原料の食物なのか。『恋愛=甘いから=チョコレート』で全てを無意識に納得させる個々の自己暗示能力にも目を見張る物がある。実は甘さは砂糖なのだから、飴綿菓子や飴細工でもいいのだ。しかしバレンタイン――」



虫に座って移動する女性

「いやぁ、みんながこっそりとチョコレートが準備していてくれたので凄い嬉しいですよ!ハッピーですハッピー!
……えっ、これも夜の備えのイベントじゃない!?なん……だと……」



昼から食い続けている少女

「えへぇへぇ……沢山チョコレートがあって幸せー!見てくださいっこのパフェ!」ドーン!
「そしてケーキ!」ダーン!
「更にアイス!」バーン!
「あー幸せー!疲れた体に染み渡るぅー!」

「おい……太るぞ。」
「あ、どうぞ!私の手作りのチョコです!」
「……目的は?」
「ふっ……白の日、楽しみにしてますよ。」
「やはりか。」



青が混じっている黒い服を着た女性

「……あっこんばんは。ちょっと流石に慣れないですねこの匂い……甘ったるいです。私の夫を見ませんでした?
あ、特徴的な夫婦は見ました?ヤンクさんとガルさんなのですが……紫色の髪の男とサングラスをかけた女性のカップルがあっちに居たと?ありがとうございます!」

「すまない、わ…たしの妻は居なかったか?青い色がある黒い服の女性。こっちにいる気がしたのだが……何?特徴的なカップルの方へ?すまない、入れ違いを起こしたようだ。感謝する。」



チョコを配り回っている女性

「い、インタビューですか。配りながらでもいいですか?はい、ありがとうございます。『何故配り回っているのか』ですか。
えっと、皆さん復興作業で沢山働きましたし……(えっと内密にお願いしますが、バレンタイン近くで皆さん私をチラチラ見てくるのです。
だからチョコレートを配り始めたのですが、どうやら私から貰えた事自体が嬉しい様で、その様子を見てるとこっちも嬉しいので沢山作って――)」

「あ!僕にもチョコをくれよ!天使の本命を僕に!」
「……腐れ根性、厚顔無恥の馬鹿イキリトはあっちいって下さい!」
「ギャァァァァ――」
「あの女最低!」「†キリト†様をぶっ飛ばすなんて!」
「流石天使!」「我らが天使はここに居たァァァ!!」

「……互いに支えあって頑張っている人にはあげるのですがね。」



白いワンピースの少女 ――はいいや。

「お待ちなさっ!?」


死を思わせる冷気が吹く。

 

そしてその冷気を放っている本体が来る。

体が痛まない程度での全速力のネセトに簡単に追いついてくる時点で逃げの一手はほぼないと考えれる。

 

 

ネセトを走らせるのに手が塞がっており、危険を知らせる方法が無い。

ネセトに突撃してくる飛竜をジャンプで避ける。

 

通り抜けた飛竜は勢いをそのままにマネルガー達の船に突っ込み破壊する。

 

 

「な、なんだね!?」

「わわわ、ひゃぁぁ!」

 

とか叫んでいるだろう。

 

 

狂った様に遠くに見える山の方へ飛んでいってしまった……そして仕留めたと思ったのか再び私の方へ飛んでくる。

 

 

さて、一度知っている情報を纏めよう。

あの飛竜は、ベリオロス凍氷種。

原種と行動は大体同じだが、ブレスを多用する。

余りにも低温の為、吐いたブレスで生成された氷や奴の体に触るとしばらくは張りついて離れなくなる。後者は動くため強烈なダメージとなる。

また、体内に少量の毒を生成する器官がある……

 

だが、注意すべきはパワーとスピード。

特殊種に恥じぬ実力を持っている。

 

古龍に近づいただけの竜は気性が荒く、自分から人間を襲うため狩られた回数もかなり多い。

まぁ、そこら辺のハンターに狩られる程度のモンスターがモンスターの私に狩れない可能性はないだろう。

 

 

ただし、大きな謎が一つ。

コイツの生息地は断裂諸島だ……何故ここにいる?

 

 

 

 

ネセトの纏う遺跡は既にボロボロだから鉄の骨組みがあるとはいえ戦闘に使うのは控えた方がいいだろう。それに空中の敵に対しての小回りの効く攻撃がない為、非常に使えないだろう。

 

強烈なブレスを回避しながら繭を破り、糸で撃龍槍を背負いながら私を打ち出す準備をする。笛は既に背負っている。

 

 

ほっ、と。身体強化の旋律を吹いた。結晶に縛っている抗竜石を確かめる。

着地してこちらに走ってきているベリオロスに目がけて私を放つ。

 

 

笛を頭から背中にかけて何度も叩きつける事に成功。

左側から着地、回転の勢いのまま、槍を投げる。

 

ベリオロスは尾で槍を逸らし、その勢いで振り返り飛びかかってくる。

 

逸らされた槍に自分を引き寄せ、再び駆けて飛びかかってくるベリオロスに三発糸を放つ。

やはりと言うべきか、糸が凍ってくっつく事は出来なかった。

 

触れてはいけない、笛でベリオロスの顔を叩きながら離脱、再び距離を置く。

 

ベリオロスのブレスを槍で叩き潰す。

……しまった。槍を半分氷に閉じ込めてしまった。

 

 

……木や岩がないこの場所で戦うのは非常に不利だな。

ネセトに縛り付けてあった槍を引っ張り出す。

 

引き寄せている間にブレスを放ってきた為避けようとしたが、想像より範囲が広く巻き込まれる。

おや?出血性の毒が含まれていると書いてあったが、気分が悪くなることさえない。

 

足を切断し、笛を振りながら槍を構える。

 

笛を吹き、瞬時の回復で血液の流出を止める。

ベリオロスが走ってくるのに合わせ、槍を投げつける。

 

知能が生態系の頂点なりには高いのか半身を上げて避ける。そのまま噛み付いてくるまでは予測出来るため、笛を構え、衝撃に身を任せ吹っ飛ぶ。

 

 

 

笛の構えを解くと、既にブレスが飛んできていた。

 

 

しまった。スピードが予想より早かったか……

笛でガードするが正面から私を覆う様に氷が広がる。

 

 

ベリオロスは勝ち誇った様に上空に飛び上がり、狙いを定めてくる。

 

馬鹿だな。

例え凍っていても真正面からの滑空なら、笛を持つ鎌に力を込めるという抵抗が出来る。

 

 

 

 

ビシィッッ!!

 

 

 

しかしベリオロスは落下する。翼が付け根から吹っ飛んでいく。

 

 

何事かと見渡すと……何故かウカムルバスが居た。

 

 

なんなのだろうか?

アトラルという種に何か恨みでもあるのだろうか?

 

ベリオロスに近づき、その巨体を持ち上げる。

 

 

「グォォッ!!」

ミシミシッ!!

 

 

ベリオロスの咆哮の後に潰れる音が聞こえる。

 

腹部が赤く染まったウカムは私に突進をしてくる。

ウカムが馬鹿で、私をすくい上げる様に攻撃をする様に祈るしかない。

 

振動と共に私の前にどんどん近づいてくる。

そして私の願いも虚しく、すぐ目の前で急停止する。

 

残念ながら氷を引き剥がす力は無い。

二本足で立ち上がった時に尻尾が見えた。

 

 

その尻尾は何かに潰された様に薄く広がっていた。

なるほど、そういう事か……

 

 

ウカムの口から冷気が溢れる。

 

大地の振動が激しくなる。

 

 

 

グシャァァッ!!

 

 

 

 

 

私の体―切れる感――走る―

つ―り―きてる?

 

ミシミシッ……

 

ウイ―ス―音――

 

――――ィ――イタイ痛い痛い!!

 

 

 

フワフワした意識に体の感覚がどっと戻ってくる。

右目の反応がない事からそちらが抉れる様に切れたのだろう。しかし信じられないが笛がウカムのブレスから下側を守っていた為、完全には切れていなかった。顔に切れ込みが入ったという事だ。

更にウイルスの結晶が切れた所を繋ぐように生えている。

 

 

異形すぎる。そして、この笛はおかしい。

 

 

しかし一命を取り留めたならまずは身の安全の確保。

ブレスによって氷が砕けた為、自力で脱出が出来るようになっていた。

そして笛を振り、持続する癒しの旋律を吹きながらウカムの方を見ると――

 

 

 

ウカムに抱きつき、吸い付く『イカ』がいた。

 

 

比喩ではない。

 

 

そして赤い光がウカムを貫き、手足と尾を伸ばした後に力無くたれる。

同時にベリオロスの潰れた死体も回収していた。

 

……っ!?私のネセトに腕を伸ばしている!?

 

遠くに転がっている槍を回収、触腕に投げつける。

見事に骨を壊し、腕は沈んでいった。

 

急いでネセトに乗り込み、走って氷に閉じ込められていた使い慣れている槍を回収する。

 

再びネセトの足が触腕に絡まれる。

 

 

奴はオストガロア。最近檻の中で読んだ図鑑に載っていた。

肺呼吸だが、エラ呼吸も出来る水陸両用タイプ。

龍の墓場か、海、または海岸や川に近い地域に出没し、そこら一帯のモンスターや人間を食らい尽くす。古龍も自らより下級なら捕食対象。

……何故顔を出している!?本気でウカムを食いに来たからか!?ここに何故出没――

 

いや、まず、落ち着け。脳に支障は無いが、視界に異常がある状態でここに留まるのは阿呆がする事だ。

 

いや、もっと落ち着け。まず古龍の前で焦る事が愚かな行動だ。

 

 

触腕に捕えられている。掴む方は骨に覆われていない為、とても強い力でくっついている。

 

そうか。

この場所の様に冷えた所は中々死骸が分解されない。ならば地中に骨があっても違和感はない上、モンスターの巣にはもっと骨があるだろう。

 

ではなくて!

とても強い力ではあるが、一度なら剥がす事が出来る。

 

顔が近づいてきた。

 

足に……糸だが。力を込める。

そして走る。

 

触腕が掴むボロボロの遺跡が剥がれ、それと共に拘束が解ける。

地獄から離れなければ。

 

 

「ァァァキュィェィェァァァァァ!!」

 

龍の咆哮を背にして、私は遠くの山に向かって走る。

 

 

 

 

 

 

なんとか頂上まで登ってきた。とても急な坂で、何度か雪崩を引き起こしたがなんとか着いた。威嚇してくるドドブランゴを気晴らしに蹴り飛ばす。尖った部分をわざと当てたんだ、一撃で瀕死だろう。

 

洞窟を無視して煙が登っている方に向かう。

……っと!?

突然視界が紫に染まる。

 

狂竜結晶が弾けた。感覚からして切断された所が治ったという事だろう。

予想はしていたが、狂竜ウイルスと笛の治癒力が合わさると馬鹿げた再生力になるな……まぁ虫の中には切断されてもくっつけときゃ治る種類もいるらしいから、可能性が0ではないのだろう。

 

段々視界の紫色が薄まっていく。

 

見渡すと一面真っ白で、光を反射する事から非常に眩しい。

 

……?

ブランゴ達に紫の枠が付いている様に見える。

 

 

なるほど、理解した。

切断された際に狂竜ウイルスが視神経を侵した事により、ウイルスの反応が視界に映る様になったのか。

確かゴア・マガラは視覚をウイルスで補っていると書いてあった。ウイルス……生物に感染させ、そのウイルスをハンターが克服すれば筋力の増加。モンスターが狂竜化したら異常な再生力をつける。どちらにしろ体には多大な負担がかかるだろう。

 

すると……体温がとんでもなく上がると考えられる。疲労回復効果があると考えていたが……発症中、狂竜化状態は生命力が減っていったのか?

 

ふふふ……元々私の種族は寿命が長い。そして龍のウイルスを従えれば、か弱い種族である私の寿命は引っ張られる様に伸びてくれる可能性がある。

ならば克服方法をゆっくり考えればいい。

 

 

 

 

 

虫は()色の煙の方へ歩いていく。

 

 

 

自らの命が削られている。

 

その事に気づいた上で利用しようとするアトラル。

実は既にSANが0ではないだろうか……

 




残奏姫 アトラル・カ

(テレレレ、テッテッテーン!)
能力を取得した!『りゅうの目』
ステータスに変化無し!
スキルポイント取得!

『りゅうの目』
使う(常時強制使用)
詳細 ←
閉じる


『りゅうの目』

本来ならゴア・マガラの視覚に値する第六感。
相手がウイルスに犯されていなくとも熱を察知する事は出来て、ハッキリではないが相手の形も察知出来る。
また、近くなら壁越しにも『存在』を察知出来る為、躊躇なく襲うことが出来る。
『存在』であり『気配』ではない。
また炎や熱した岩程度で騙せるほど下等な力ではない。


《使用条件》
常時、off不可

《注意》
狂竜化系の状態異常中でないと使えない。抗竜石などで一時解除されるとこの能力も一時的に解除される。
使用中は寿命が削れていく。


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ストークと解雇


オストガロア……何故寒い所に居たのだろう?
ウラガンキンは生息域からして海に近い火山だから熱い所へは行ける可能性は高いが……

まぁ、古龍という生物は簡単には予想が出来ない。



「おーアトラル!戻ったか!」

「ね、ネセトが壊れている……だけ!?」

 

どうやら船は多少壊れただけで、余り被害は無かった様だ。勿論燃え上がっていたら契約は破棄になるが。

 

「イチビッツ君。」

「ポチッとな!」

 

ボルボロス亜種が飛散した部品を雪ごと集める。

いくつかの機器が吹っ飛んだ様だ。

 

「修復は勿論ワシらがやる。周辺の警戒をアトラル、君に任せる!」

 

命令?……まぁいい、二次的にそれをするのだから。

さて、周辺にネセト修復に使える資材はあるだろうか。

一時的にならオストガロアの様に骨でもいいかもしれない。

 

ネセトはここに置いておこう。

 

 

思ったよりこの目、使えるな。視覚より先にブランゴがいる事が分かる。背後から飛び出してきたブランゴに鎌を振り抜く。

 

うん?ここより更に高い場所で熱源があるな。

温泉でも沸いていたらなんとなく嬉しい。

 

 

 

アトラルは断崖を登る場所を探す。

しかし見つけた穴は余りにも小さく、ジャギィ程でないと通れなかった。

他に探してみるがどうやら彼女が通る道は無い事が分かる。

 

 

 

あ、そうだ。

背負っている槍を振りかぶり投げる。

 

バギィッ!

 

予想通り積み重なった雪に槍が刺さった。

自分を蜘蛛の様に引き上げる。

そして私は少しの期待を持ちながら見るが。

 

 

「ァァ!」「ワァァ!」

 

 

謎の小さい白い生物がこちらに叫ぶだけだった。

しかし黒い鉄の様な物も見える。

 

「ァァァ!」「キュゥゥ!」

 

「キィェァァァァァァァァ!!」

 

私が一声叫ぶと小さい生物は離れていった。

さて、なんだろうこの鉄は――ッ!?

 

 

触った時に、とてつもない悪寒がした。

私はコイツを知っている……?

 

慎重に雪を掻き分け、全貌を確かめる。

 

 

 

その姿はとてつもなく大きいクシャルダオラ。

 

の抜け殻だった。

 

 

 

 

なんだ抜け殻か。

柔軟性はまだあるから持って帰ろう。

 

 

槍を支点に定滑車を作る。

抜け殻はそこらの岩よりは硬いため雑に扱っても傷が入らない。

 

それでも慎重に引き降ろす。場所によっては完全に錆びて折れかけているからだ。

 

 

そして抜け殻を地に降ろした時に、熱源が速い速度で向かってくるのを感じた。振り向いて確かめる必要はないと判断し、突進を回避する。

 

「ウゥゥ!!」

 

……またウルクススか。恐らくウカムで吹っ飛んだのと同じ個体だろう。

 

ウルクススは雪玉を投げる。笛で破壊し、そのまま振り続ける。

再び突進……いや、ドロップキック!?

すかさず回避。

このウルクスス、急に攻撃的になったな。

 

「ウゴォォォ!!」

 

しかも常時怒っている。思考回路に支障をきたしたのだろうか?

とりあえずいつも通りに笛を吹く。

 

 

 

早く、早く!

死んで!早く!お願い!

 

 

 

突進を回避。そろそろこの個体の能力値が分かってきた。

次の突進には反撃が出来るだろう。

 

 

 

なんで回避するの!

死にたくない、死んで!

 

 

 

投げてきた雪玉を打ち壊しながら近づく。

引っ掻こうとする腕を背後に滑るようにかわし、糸を放つ。

糸は頭に張り付いた。

 

 

 

なにこれ!?

外す……っ!?これ伸びるせいで切れない!?

うぅぅっ!

 

 

 

一気に頭をこちらに引き寄せ、振り抜く。

流石に骨が外れたりはしないか。

吹き飛んだウルクススを再び引き寄せ振り抜く。それを頭が潰れるまで繰り返す。

 

 

 

 

あぁぁっ!

痛いっ!痛い痛い!

し、死にたくないっ!

……あ!

 

 

 

「レイジゼウス!」

 

ついどう振り抜くか考えていたら上空に奴がいた。

運がいい。撃龍槍かクシャルダオラの抜け殻に雷は流れたようだ。

 

「くそぉっ!焔の鉄槌!!」

 

炎の塊が私の頭上に発生する。

念の為。抵抗が少なくなったウルクススを引き寄せ、構える。

 

「グァッ!?グォッ!!」

 

暴れるウルクススに糸を出し続ける。

そして繭に……ネセトの繭ではなく、蜘蛛が獲物を糸で巻くのと同じ繭にする。

 

そして盾にし、炎が収まった後に崖に投げ捨てる。

 

 

「アイシクルブリザード!!」

 

大量の鋭利な氷が出現、私を狙っている様だ。

逆の熱源の感じ方でこちらに飛んでくる氷を見分け、笛で弾く。

 

閉鎖空間(スペース)!!」

 

……奴は私の前に降り立つ。そして大量に氷が生えて隙間あるドーム状になる。

閉じ込めた……つもりなのか?というよりその氷を私に刺せば良かったのでは?

 

 

 

 

 

これなら爆破攻撃が当たる。

ふっ、アトラル・カは演奏しだした。遅い!

 

「フレイムマシンガン!」

 

貫通する炎を沢山発生させる!

 

「はぁっ!」

 

 

 

 

 

笛を振りながら打ち消し、回避する。

 

軌道がわかりやすい……

私からしてみればハンターの様な近接の方が苦手だな。

3、4個の炎が私を貫くが狂竜化のおかげですぐに治り始める。

 

さて、どういう攻撃がいいだろうか。

防御技術は無いのに防御力が高いから……埋めるか。

糸を放つ。

 

 

 

 

何度も飛んでくる糸を切る。やはり耐久戦なら俺が勝つ!

 

「喰らえ!『コールドエレキ』!!」

 

氷と雷が吹き荒れ、アトラル・カへそれを飛ばす。

この至近距離ならズレないっ!

 

 

 

 

速度の遅い嵐……奴もこっちに来れないし、時間もある。

 

刺さったままだった撃龍槍を荒く引き寄せ、檻を壊す。そのまま檻から抜け出し、クシャルダオラの抜け殻を引っ張る。

 

そしてゴロゴロと小さい雪崩が、檻から抜け出せない奴を飲み込む。

このまま死んでくれると嬉しいが……やはり生きているか。

 

 

「はぁぁっ!」

 

氷を吹き飛ばした奴に撃龍槍を投げる。

 

 

上手に刺しましたー。

 

 

 

 

 

 

 

ネセトの足にクシャルダオラを張り付ける。

ボロボロの遺跡だが、固定さえしてしまえばほぼ同じ強度だろう。

抜け殻を、私の体液をしたらせる鎌でなぞり切る。

 

「なんと……」

 

マネルガーはクシャルダオラの抜け殻を普通に扱っている私に絶句した様だ。

イチビッツは撃龍槍を見た瞬間船内に戻っていった。

 

三本の足にはクシャルダオラの皮が足りたが、鉄が晒されている部分にはまだ張る事が出来ない。早く直さなきゃ……私の巣なのだから。

 

 

 

 

結局足を直す資材は見当たらなかった。

先程まで槍を握りしめていた人間を槍から抜く。

人間は人間を食うことに抵抗があるらしいが……死んだらナマモノなのだから腐る前に食べておかないと勿体無いのでは?それとも灰にして肥料にでもするのだろうか。

 

……そうだな、ネセトは大きいのだから内部で野菜を育ててもいいかもしれない。

よし、近くの村から野菜を盗るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

たす……け………

 

 

 

ブチッ

 

 

繭から赤い液体が流れ出る。

 

 

 

 

そして女はチェックをつける。

 




「せんせー。この記号はなんの意味なのー?」
亜湊(あす)さん。それはフォルテッシモ、とても強くという意味です。」
「ありがとー!」
「先生、自分も分かりません。」
「それはフェルマータですよ隆嘉(るか)君。その音を伸ばして下さい。」
「セプテット!」
「亡き王女のための……パヴァーヌ!?やはり玲亜(れあ)さん、貴女はプロを目指した方が……」


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『完成する足 と 闇より来たる虫』


報告

謎の微動確認
古代林への調査を要請




キャラが分からないのに出す事になるとは……
性格は変わる可能性が非常に高い事をここに報告します。



夕方。

足跡が余り目立っていない場所が非常に綺麗だ。

 

山の麓は雪が余り無く、所々に木が生えている。

 

撃龍槍を置き、木に糸を張り付け、自分を空に跳ねあげる。

そして周辺を確かめるとかなり遠くに、明らかに人為的な赤い光が見えた。

 

一度ネセトの所に戻り近くに使える物がないか確かめる。今からやろうとしている事は撃龍槍を持っていく事が出来ないからだ。

 

 

 

 

……ここに洞窟があったのか。

後で調査しておこう。

 

 

 

 

岩の影に朽ちた飛行船があった。

 

 

投げナイフを調達。

双眼鏡を調達。

ペイントボールを調達。

携帯食料を調達。

腐った地図を調達。

ペッコ人形を調達。

破れたケージを……

 

 

 

 

とりあえずネセトに小物入れを作って入れとく。

 

やはり余り使えない物しか残ってないのか。

……いや、一つだけ明確に使える物があるか。

 

 

 

 

 

 

 

太陽が落ち、闇が覆う。

月が雲から顔を出す。

 

 

ガラガラッガシャッ!!

 

 

村にある沢山の店の雨戸が閉まる。

 

 

「結界展開!!」

 

 

神選者が警戒線を張り家に入る。

そしてガラスと鉄の箱から音が鳴り、夜間に外出している人間を監視する。

 

 

 

 

 

 

ドォンッ!!

 

よし。船はここに置いておこう。

 

村を囲うように薄い膜の様な物が見えるな……龍は全てを見透かす、とでも言えそうか。

恐らく動く物に対して感知か、熱源を感知か。

風が吹いたりして物が飛んでくる事を考えたら恐らく後者だろう。

 

ならば無視していいな、虫だけに。

虫の体は気温と同じで……いやまて。セルタス種は興奮時体内の一部で高熱を発する。

いや、それも興奮時だから大丈夫か。

 

何故私は0℃以下で動ける?

それもモンスターの進化の結果か?

 

 

 

沢山の熱源が遠目に見える。

 

対岸だが、この角度に放てば……よし、想定通りにくっついた。

 

 

月に照らされ、等間隔に山になっている場所が見える。

その畑に近づき、鎌を畝に当てながら歩く。

すると等間隔に何かが生えている事が分かる。

 

匂いは……余り無い。色は分からない。さっそく採っていこう。

 

他には恐らく無いだろう……虫の羽音が煩い。

おや、何かが近づいてくる。

 

「にゃ!?誰かいるのかにゃ!!」

 

叫ばれる前にアイルーを斬り捨てる。

神選者に依存して警戒心が弱まっているのだろうか。

 

リフトに糸をつけ、ぶら下がって移動する。月に照らされる事を考えたらこれが一番安全だろう。

 

 

 

 

村に人の姿は温泉以外に見えなかった。

夜中では湯気で私の姿は見えないだろうから放っておけば大丈夫なはず。

 

 

ふんっ。

 

バギィッ!

 

 

笛で雨戸を砕く。

よし、食料品店だ。野菜ぐらいはあるだろう。

 

……あ、駄目だ。

明らかにこの地域の野菜ではない。人間の生息範囲と運搬技術を失念していた。

しかし倉庫なら何かあるのでは?地下に行こう。

 

 

 

 

 

 

モニターから自警団は見ていた。

 

「アトラル・カです。」

「どうやって結界を越えたんだ!?」

「撃退に向かうから神選者を起こしてきてくれ!」

 

 

 

 

 

 

倉庫奥まで行ったが結局果実程度しか見つからなかった。

壊した穴の手前まで戻る。

 

 

外には大量の何かがいる。まぁこの村のハンターだろう。

 

大きな音を立て、恐怖を煽る。

しかしハンター達は動く様子はない。

 

「アトラル・カが来るぞっ、構えろ!」

 

人語が分かるって非常に便利だな。裏口から脱出しよう。

 

 

 

 

 

モニターにはその姿が映っていた。

 

「あっ!裏口から脱出しました!」

「伝えてくる!」

 

 

 

 

 

 

ワァァァッと私の背後から雄叫びが聞こえる。

 

植物を大量に集めそれを壁として逃げおおせる予定だったのだが、この笛より大きい程度の量では貫通しない徹甲榴弾ぐらいしか防げない。

 

グサッと私の頭を矢が貫く。かなり痛い。

痛みを堪え、走りながら笛を振り自己強化の旋律を吹く。

 

 

船の所にたどり着き、急いで叩き割って小さい箱を作り、持っていたのを全て入れて蓋をする。

それを背中に背負ってしまえば私の動きを阻害する物は無い。

 

アラームが鳴り始めた村を後にする。

 

 

 

 

雪山を登り、一息つく。

人間のスタミナと狂竜化したモンスターのスタミナは天と地ほど差があるため、逃げ切るのは容易だった。

 

明日は盗った物がどういうのか調べなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日 日が登る前

 

 

嫌な予感で目が覚める。

昨日はネセトの所には戻らなかった。

何故なら洞窟の上にある崖の方が見つかりにくく安全で、見つかった際も逃げる場所が存在するからだ。槍を取りに行くのを忘れたが――

 

 

 

ブロロロロ……

 

 

ん?

謎の音が聞こえる。恐る恐る崖から下を見てみるとそこには……

 

 

「どるぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

バォンバォン!ブォォォォォォンッ!!

 

 

「あ、そこに居る!!アトラル発見!!」

「HEY!HEY!HEY!」

 

 

私の横を何かが通り過ぎる。一つの奇妙な形をした輪がついた何か、までは理解出来た。

それは爆音を出しながら反転し、崖を削りながら突撃してくる。

 

私は糸を放って崖から飛び降り、ゴムの様に跳ね返って登る。

 

 

 

ガリガリガリッ、ブォォォォォォンッ!!

 

 

 

本当になんなんだあれは!?

格好いいが仕組みが分からない。

 

平地に移動、一度箱を置き、笛を構える。

 

 

バリバリ言わせながら謎の機械に乗った人間が集まる。

その数、5人。

 

 

 

(なんか格好いいテーマがバイクから流れる)

 

 

 

「悪を知り善を知る!ヤンキーヒーローとは俺の事!ファイアブラック!!」

 

 

よく見たらこいつら全身に着ている服がおかしい。

ただ、全身に服を着ることによって防御力を上げているとしたら首を狙えない……

 

 

「生命を愛し生命を絶つ。生態系の頂点の責務を果たす!ライトエメラルド!!」

 

 

あれだけ隙を晒しているのにこちらからは手を出せないのが辛いところだ。

槍があれば安全に攻撃出来るのだが、生憎投げる物が無い。

箱を投げて爆散させられたら困るのは私だ。

 

 

「私の魔法は弱きを助ける!副次的に強者を挫く!バブルマリンブルー!!」

 

 

もしかしてその機械も魔法なのか。

という事は神選者が絡んで――

 

 

「いあ!いあ!はすたあ!はすたあくふあやくぶるぐとむぐとらぐるんぶるぐとむ あい!あい!はすたあ!

我はスパークダークネス。神々とその従者の権能を世に伝える者!!」

 

 

 

謎の単語の序列を詠唱し終わった時、空中に幾何学的な模様が浮かび上がる。

そこからまるで『私は神です』の様なポーズをしながら奇妙な姿のランゴスタが出てくる。

 

いや、よく見ると全身から違うか。

 

 

「ワタシハビヤーキー。マタノナヲバイアクへー!!――ハスター様の従者にして光速の存在!!」

 

 

喋るのか!?

 

 

「貴様を滅ぼし、友と酒を飲む為に来た!そう、私はブラッドホワイト!!」

 

 

 

おや?五人目は何処に――

 

 

その時、何処からともなく強烈な光が発せられ、周りが見えなくなる。

 

 

 

視覚が治り、周りが見える様になる。

 

 

先程までの山は何処にも見えず、地平線まで白く染まった謎の場所に居た。

 

 

……本当になんでもありなのか。

 

突然地面が揺れ始め、何も無い空間から声が聞こえる。

 

「劇場は雪原より来たれり。」

 

 

……駄目だ。アイツらの世界についていけないせいで思考を止めてしまっている。

警戒しろ、一瞬にして殺される可能性がある。

……いや、ならば殺しにこい!?

 

 

「これが極上のアウローラ!ふっふっふっ……豪奢!荘厳!しかして流麗!ん?あ、あれは誰だ!?美女だ!ローマだ!?

 

勿論、余だよ☆

\カカン/

 

これぞ誉れ歌う黄金劇場『ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス』!!」

 

 

……かなりの数、密度の光が飛んでくる。

っと危ない、放心していた。笛を構え、私に向かっている光線を受け流し、耐え凌ぐ。

 

 

その最中、点にしか見えない何かが……人間がこちらに飛んでくる。

そいつだけ顔を出している。

 

「我等は5人と1匹で!」

「宿命を背負いし究極の部隊!」

「苛烈を極めし戦場を駆け抜ける者!」

「未来に起こる大戦争を乗り越える者!」

「私はそういう事に余り関係ない者!」

「そう、余輩はっ!」

 

「「究極的完全構成(パーフェクション アブソリューテリー)!」」

 

 

ドゴォッッ!!

 

 

5人と1匹を、爆発が背後から彩るっ!

向こうに見える大きな輝く建物、広がる雪原、そして綺麗な空によって通常より+60%以上格好良く決まったのであった!!

 

 

 

 

 

流石に爆発は防げず、普通に傷を負った。

 

勝てる気がしないのだが……

というよりネセトが……槍も……

 

 

 

 

一つ、ため息をつく。

 

弱気になった所で敗北のシナリオは変わらない。

 

 

私は笛を振り戦闘準備をする。

 

相手を一人ずつ仕留めていけば勝てる可能性はあるかもしれないのだから。

 

 

 

まぁ、それを実行している私を想像する事が出来ないが。

 




デン!

次 回

遂に余のマスター、別名引きこもり指揮官の案であるスオー……ゲフン、スノーバイクを実戦投入!
アクセル全開で気持ちよく雪山近くを駆けるついでに、警戒しておったのだが……見つけてしまった。
まぁ余輩は完璧であるがゆえに敵は逃れる事が不可能なのである!

余輩に対峙するは村を襲撃したアトラル・カ!
しかしどうも様子がおかしい……まさかお主は!?

NEXT!
『圧倒的な笛の防御!
貫け、紅蓮のアクセル!』

次回も会おうぞ!そして刮目せよ!余の活躍を!


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棄てる神あれば煕う龍あり


シンセンジャー専用のバイク


雪上が一番ですが、陸上でも使えます。

80°の壁まで登れます。



敵が機械に乗る。

 

私は笛を吹き、一度背中に戻す。鎌をいつでも振れる様にする。

 

 

 

一瞬誰も動かなくなった直後に、雪を巻き上げながら虫が突っ込んでくる。

機械は熱を発するため、位置が分かりやすいから優先して虫に対応する事が出来る。

 

鎌を振るが、鉤爪で受け止められる。

互いにもう片方もぶつけ合う。

ズリズリと私が押されるが、ギチギチと鎌を狭めていく。

 

私が糸を射出すると同時に、虫は腹を向けてくる。

 

 

おっと、とても強い目眩がする。一体なんだ?

先程の正常な景色を思い返し、もう一度虫に糸を当てて張り付ける。

そして虫は鎌から脱出する。

 

……くそっ、今までの馬鹿みたくは喋らないか。目眩が酷いため羽音と糸の感覚から位置を推測する。

 

再び距離をとった虫が前傾姿勢を取る。

 

 

しかし私は相手の突進に吹き飛ばされる。

分かっていたが、避ける事は出来なかった。

 

とりあえず転がりながら糸を引っ張り、そのまま雪に叩きつけ笛を構えながら走りよる。

 

 

 

まずは腹を潰す。

 

 

と、上手くいくはずが無いか。

突っ込んできた機械を半身で回転しながら避ける。

 

私の上で水球が形成され、変形して一箇所が伸びる。

 

すかさず避けると元の場所は水で雪が切られていた。

また突っ込んでくる機械に笛を振ろうとするが虫も突っ込んでくる。

再び両方とも避けてそのまま虫につけた糸を引っ張る。

 

少し勢いに引きずられるが、槍よりは軽い。そのまま虫をヤンキーに叩きつけ――ようとするがヤンキーの前で水球が再び形成され、勢いが殺される。

 

地面が揺れる。飛び退くと針葉樹が私を狙って雪を突き破ってきた。凄い勢いで伸びるが、突然折れたかの様に私を向き、そこから私を貫きにかかる。

 

悪態を考えながら回避すると、木は雪を吹き飛ばしながら潜っていく。

 

 

「アンコール!」

 

 

爆音が鳴ったのが聞こえると、また大きい建物から大量の光線が放たれる。

 

……攻撃タイミングが無い。

周りを見渡す。

 

恐らく木を操作していてこちらを見ていない緑の機械に糸を放ち、私をバイクに引き寄せる。

 

「たぁぁっ!」

 

しかし気づかれた途端にボゴッと木が壁の様に生える。

予想通りの為、着地をする。

 

羽音が聞こえた。

回転しながら笛を振り抜く。

虫は回避したあと、先程の様に私に腹を向ける。

 

更に回転して叩きつけ、方向を逸らす。

勢いのまま周囲を確かめると青が苦しんでいる。鎌を横向きに構えたままラリアット――

 

「ふん!」

 

横から顔出しが剣で食い止める。

 

「なっ、この鎌、硬い!?」

 

ガードではなく刃で受け止めるのか。

糸を顔出しの腹に当て、振り回そうとする。

次は針葉樹が地面から生える。しかも三本になって。

 

糸を引っ張りながら回避をする。やはりこっちを向いた木に向かって顔出しを投げる。

 

「ぬうっ!うっ、大儀である!」

「危なかった!」

 

虫がキャッチしたか。横にずれながら笛で木を叩く。

やはり木を一撃で割ることは出来ないか。

 

 

「降りかかれ!塩酸雨!!」

 

 

……私の真上に小さい雲が出来る。分かりやすい攻撃だな。

 

機械を唸らせながら遠くから様子を見ていたヤンキーに飛びつく。

 

「ぐわっ!」

 

首を切り払ったつもりが、切り傷程度にしかなってないようだ。

急いで走り出した機械の後ろ側に私も乗る。

 

笛を振り自己強化の旋律を再び揃える。

 

「くそっ、『あくのはどう』!!」

 

おっと。唐突な黒い波動に吹き飛ばされた。叫び以外は予備動作無しか……

雨雲は機械の速度に追いつけず、霧散した様だ。

 

 

――思考が乱れる言語が走る。

 

 

タダス・タラクァー(生命は神に逆らえず)

 

 

ぎっ!?

突然私の体のあちこちが裂ける…!?

……フード、お前か。

 

 

傷に雪が染みるが、無視する。

機械を唸らせ始めたフードに切りかかる。

 

青が水球を作りながらこちらに突撃してくる。

 

 

 

予想通り。

 

 

機械ごと笛で殴り飛ばす。

 

「うぐっ!?……来い!」

 

投げ出された青は体勢を立て直してから何かを手から作り出す。

その太刀は水で出来ている様に見える。

 

相手が構えるのと同時に笛を振りかぶり――

 

腕を叩く。

 

 

折れないのは想定内、うずくまった所に鎌を振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

「召喚者!行くぞ!」

「まだ試してないがやるしかないか!」

 

ビヤーキーはスパークダークネスのバイクに急いで近づき、後ろの筒に腹を入れ、合体する!

 

バイクが唸り始める!

 

スパークダークネスは『肉体の保護』の呪文を使い、指の皮膚を噛み切り血で紙に魔法陣を描く。

 

今、アトラルにバブルマリンブルーが倒されそうになっている!

 

スパークダークネスはアクセルを踏む!

 

フーン機関を使ったエンジンと、加速度倍増の魔法陣により爆発的な推進力が発生!

一時的な装甲によってマッハ30を超えても耐える!

 

 

「バースト!!」

「アクセルっっっ!!」

 

 

バァァンッッ!!

 

強烈なソニックブームを出しながら突撃!

圧縮された空気は強烈な炎を放つため、まるで赤い光が走っている様だ!

 

 

グシャッ、ドォォォッ!!

 

 

アトラルを粉微塵に吹き飛ばし、急停止する。

風が破片を遠くに飛ばす光景が残った。

 

 

「これが……奉仕種族の力だ。」

「それこっちの台詞。」

 

 

彼らは村を襲撃した相手を倒したのだった!

 

 

 

 

 

 

 

龍が唸る。

 

自分のお気に入りが理不尽に殺されたら誰だって気分が良くないだろう。

 

 

 

一面雪景色だった空間が腕の一振りによって裂かれる。

 

 

山に雷が落ち、一部を消失させる。

 

 

「さ、流石に逃げるぞ!」

「まさかボスが現れるなんて!」

「私達ではまだ無理ということが今ので分かる!」

 

 

バイクを走らせ、五人と一匹は逃げる。

 

 

 

「適切な判断ね。さて、と。」

 

 

 

白き龍は雷を落としながら吹き飛んだ破片を集める。

直撃したのに壊れなかった笛は遠くに飛んでいったため、それも探す。

 

 

 

 

 

???

 

 

――私の意識が覚醒する。

 

……なんだここは。

まずは現状把握……えっ?

 

鎌を床につけた筈が、明らかに違う感覚が走る。

 

 

見ると『人間の手』だった。

手は腕から生えており、腕は体に付いていた。

 

 

足の感覚も――がっ!?痛い!動かせない!?

 

 

 

私が悶絶しながら…….おそらくこれは畳?

それの上で横になっていること約10分。

 

その間にここは謎の小部屋で、扉が無いという事が分かった。

中央に机、壁に沿って家具や機械などがある。

 

 

 

バシッと雷が走って何かが入ってくる。

 

白いワンピースを来た少女だ。

 

 

「流石にあれは酷いわよね……」

 

恐らく先程の戦闘の事を言っているのだろう。

しかしどうだろうか。

私から村に強奪に入ったのだからしょうがない事ともとれる。

 

「ほら、楽にして。って言っても横になっていた時点で楽にしているわね。」

 

……ここは何処だ?こいつは誰だ?

 

 

何故私はこいつに恐怖している?

 

 

「ここは死と生の狭間。私が貴女の精神を取り留めているの。」

 

な、なるほど?

死後の世界とかいう人間の欲望を体現した言葉ではなくて安心した。

……いや安心するべきか?

 

 

少女が私に手を伸ばす。

勿論弾く。

 

「流石野生のモンスター。その警戒心は筋金入りね。さて、どうしましょう……あ、血をどうぞ。」

 

突然現れた湯のみに赤い液体が注がれる。

ここで私を殺す理由は無いと判断し、飲む。

 

それ以前に手を伸ばすが届かない。

 

「よーーっと!!」

 

少女も手を伸ばして私の届く位置に湯のみを移動させた。

昔見た通りに運び、口につける。

 

――何故か余り口にしたくない味だ。人間だからだろうか。

しまった。これどうやって口に流すのを中断するんだ?

口を閉じ、湯のみを外す。おっと……

服が汚れる。

 

ん、いつの間に私は白い服を着せられたのだろう。

体に違和感を与えないとは、どういう素材なのだろうか。

 

 

「さて。貴女が選べる道は二つ。」

 

 

タイミングがおかしくないだろうか。

飲ませるだけ飲まして、その直後に話すのか。

 

「ここで私の言いなりになるか。それとも貴女を一時的に私が支配するか。」

 

……なんだこいつは。

 

「結局は私の言うことを聞いてくれないかしらってことなのよ!」

 

それを自分でいうか。しかし従う理由が分からない。

首を傾げる。

 

「……ブフッ。さ、三時間で貴女の体は治せるから、喋る練習をしといて。じゃあ後で。」

 

バンッ!

 

唐突に鼻血を吹きながら姿を消した……

 

恐らくこの体に慣れろと言われたのだろうが、人間の体の方が有能なのはリオレウスの様に『自在に動かせる攻撃用の部位』が少ない奴だけだろう。

 

 

周りの家具を調べながら大きく息を吸い、その吸った空気を喉に通す。

 

「………ァ……ハ……ハ……ァ、ァ………」

 

駄目だ、喋る感覚が分からない。後天的に学ぶ物では無いからしょうがないが。

 

 

「喋れる様になった?」

 

少女が顔を出す。

恐らくあちらとこちらでは時間の流れが――

 

「気になって3分で終わらせちゃったわ。」

 

恐らく1分も経ってないのだが、突っ込むのは愚行だろう。

 

「あとぉ、驚いたらちゃんと声に出さなきゃ。表情だけじゃ駄目よ。」

 

……面倒くさい。モンスターの姿を取り戻してからネセトの元に帰りたい。

 

 

 

 

 

 

「や……ぇぅぅ!!」

「ゴフッ!だ、駄目よ!貴女が喋れるまでくすぐるのをやめない!」

 

 

この感覚を表現する言葉はなんだろうか。

何故かは分からないが、敗北感、劣等感、背徳感を感じる。

私が着ていた白い服も奴の血で大分赤く染まった。

 

とりあえず背後から覆いかぶさってくる奴を振りほどけない。

目頭が熱くなるのを堪えながら睨みつける。

 

「ガフッ!!」

 

っ!力が弱まった!振りほどく!

 

「フゥ……フゥ……」

 

乱れた息を整える。

流れる汗を拭う。

 

最悪な事に、私も少女の様だ。力もそれ相応。

 

 

そして私はあの息の荒い奴から新たな恐怖を感じる様になった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

身の危険をとてつもなく感じる。

まるで『捕まったら死ではない死』を体に与えられる予感がするからだ。先程も大分死にかけたが。

 

 

「白紙を……染めるっ!」

「っ!!」

 

掴みかかりを回避、奴はそのままタンスに衝突する。

 

 

「くぅ……流石、残奏姫と呼ばれるだけはあるわね。でも私の前では無意味。人間の姿の貴女ならもっと無意味だわ!大人しく捕まりなさいぃっ!そして私の手で震えるがいい!」

 

既に恐怖で震えている!

この姿じゃこいつは殺せない、どうすれば!?

 

 

 

 

そして運命はアトラルを見捨てる。

 

 

 

机に小指をぶつけ転倒しかける。

机から離れた場所に外側の足を置くがそこにはボールが。

バランスを完全に崩した少女はうつ伏せに倒れる。

 

 

 

しまった。

この体と距離感覚がまだ整っていなかったか。

早く起き上がっ――

 

 

肩に誰かの手が乗る。

 

手を掴むが振り払うどころかずらす事さえ出来ない。

 

私は顔を畳に擦りつけながら暴れるが、奴は背中にどんどん体重を乗せてくる。

 

……奴の鼻血が私の首をつたう。

こいつ……まさかロリコンか。神選者に良く見られる性癖……こいつも神選者だったのか。まさか人に変化させ、弱体化した所を弄んでから殺す――やめろ!それ以上私に敗北感をっ、ぁ、ぁぁぁ!

 

「カフッ、ここがいいのね!!ほらほら、くすぐってあげるわぁ!!」

 

 

 

呼吸困難に陥りながら思う。

 

なるほど、絶望とはこういうことか、と。

 




「この光景ビデオに撮って、あっちで売るわ。」
「多分だが児童ポルノ禁止法で捕まるぞ。」
「そっかぁ……それに便乗して詐欺とか出来ると思ったんだけどなぁ。」
「音声以外は刑罰対象だし、詐欺も駄目だ。」
「なんでですか、公共の福祉に反するとでも!?」
「その通りだよ、世界をかき乱そうとするなし!」



※人化『付与』の場合、見た目年齢を大きく変える事は出来ない。


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龍と神は人間と弄ぶ


お使いを頼まれた。
あの方の慌てふためく姿を拝むのは初めてだ。

深きものどもが二手に別れる。まるで私を誘い込む様だ。

《???》→成功

なるほど、己の信ずる者からの命令か。

《???》→成功

基本的な武装だ。警戒する必要は無いだろう。


私の顔を彷彿とさせる所まで沈んだ。
……のだが、どうにも明るい。
いつから水中でキャンプファイヤーをする様になったのだろう。


「お迎えにあがり──」
「あ、にゃんにゃん。ねぇねぇ、封印解かれちゃったけどどうしよう。」
「……目的が定まるまで、そして環境を感じるまで時の流れに身を任せるのはどうでしょう。」
「うん、そうだね。お土産に海鮮焼きそば作るから待って。」





……今回は世界観に触れるせいで、どうやら彼女の出番は少ない様だ。そして閑話に近い。



 

体の節々の痛みで目が覚める。

布団を跳ね除けながら部屋を見渡す。

 

 

カチカチッカチャッ、カチカチカチ、コココ

\ァァァァァォォゥ!!/ \ボコン、ボコン/

 

「あ、粉塵飲むわー♪」

「『あざっす!!』」

「多分あと15秒ぐらいで疲労になるでしょうから砥石とかしておいてね。」

「『落とし穴調合しまーす!』」

「『俺の双剣のスタン性能見せてやるわ!』」

「『じゃぁ自分、閃光スリンガーよろしいか。』」

 

 

奴は光る板に謎の機械を向けて楽しんでいた。

謎の黒い箱から人間の声が聞こえる。

 

よし、気を取られている今なら――

 

 

 

「おはよう。」

 

奴はこっちを見た。

 

 

 

「これ終わったら私抜けるわー♪明日、ピアノの発表会だし。」

「『夜遅くまでやるとか技量と合わせてマジハンターっすわ!』」

「『明日のツイキャス楽しみにしてますー!』」

「『実は主、天才金髪幼女説ってそれ一番、うわぁぁぁぁ!!』」

 

\ボン/

 

「あぁ、疲労直後はまだ沢山散らばっているのに。」

「『おーい、これともう一体行けるのですか?』」

「『流石歴戦の爆撃機、乗ってる妖精が違うぜ……』」

「『それは違うゲームだろ!あとおっさんが思い浮かぶw』」

 

 

 

時間が無い。

起床に気づかれた以上、物音を立ててでも脱出口を見つけなければ。

 

壁を引っ掻きながら扉が無いか探す。

すると一部の壁紙に爪が引っかかる。

剥がすと取っ手がある扉が姿を現す。

 

 

これは鍵がかかっている訳では無い、普通の木の扉だ。

しかし開きも閉じも、スライドもしない。そしてガタガタ言わない事からシャッターの様な巻く物では無いと考えられる。

 

腕を振りかぶり、叩きつける。

 

 

ドン!!

 

 

ぐぅっ。

そうだった……私の全ての身体能力が弱まったのだから、木の扉さえ破れる訳がないのだ。

私は痛みに跪く。

 

「『あぁぁw垂直バグキタァァァァアw』」

「ビューン、バババッ!」

「『お、あと一匹ですねー』」

 

 

くそっ、時間が無い。痛む手を無視してハンマー的な物を探す。

 

 

 

 

最悪だ!

この体では中身が入った小さい木箱さえ持つのがやっとだった。

60kg程度は振り回したいのだが、無理なのか。

 

 

「さぁ、爆弾置きましょー」

「『爆弾起きましょう!』」

「『えぇ……』」

 

 

くそっ。どうする。振り回せる硬い物は……

 

 

 

 

 

「『お疲れ様でした!明日頑張ってください!』」

「えぇ。ありがとう、いい夢が見られますように♪それでは。」

 

トン、サッ。

 

奴は電源を落とすために前傾姿勢になる。

前傾姿勢になったら次は元の姿勢になる。

 

「ふぅ……」

 

 

陶器の花瓶を振り下ろす。

 

狙いは勿論神選者の後頭部。

 

 

パカァッ!

 

 

砕け散り、私の手にも少し刺さる。

時間稼ぎになればいいのだが――

 

「そんなことしたらマネキン壊れてしまうし、手が傷ついちゃうわよ?ほら、手を出して。」

 

後ろから伸びてきた手を払い除ける。

ちらりと視線を送ると確かにマネキンにすり変わっていた。

マネキンの頭が落ちる。

 

砕けた破片を手に取り構える。

しかし奴が一歩踏み出せば意志とは関係なく後ずさってしまう上に、体の震えが大きくなる。

 

「全く……私がそんなに嫌?」

 

自らの上位に位置する存在と同じ部屋にいる時点で精神的に削れるだろう。

しかし落ち着け。

何か使える物は……駄目だ、見当たらない。

説得しようにも書く物がない。

 

 

ゴクリと唾を飲み込む。

 

 

確か当初の目的は『私が喋れる様になる』だったはずだ。

一度チャレンジしてみるか。

 

 

「次は――」

「ぁぇ、ゆぅぁぇ……やぁえぇ!」

 

奴の動きが一度止まる。

意識して呼吸を行い、文章を組み立てる。

 

 

「やめぇ。ああしあ、あなあにおほはれるのぐぁ、いあへす!!」

 

 

 

 

これは駄目だ。

 

「まだ駄目ね。」

 

 

 

また奴は私に近づき出す。壁を背にしながら距離をとる。

 

「元お、すぐぁたにしお!」

「え?元の酢豚に塩?」

 

大分発音が近づいたがダメか。にやけ顔が私の怒りを増幅させる。

しかしそれは恐怖を打ち消す丁度いい感情だ。

再び呼吸を挟む。

 

「私を、早ぅあいほうしお。」

「もう一声かなぁ?グフッ」

 

奴が鼻血を出す。

とてつもない哀の感覚に視界がぼやける。

 

しかし、奴の影がゆらりと私の方へ近づいてくるのは分かる。

 

 

喉が震え、もはや意味を成さない声をあげるしかない。

手を伸ばして拒むが、奴には効果は無い。

欠片を首に向かって振るが、手首を掴まれる。

 

 

ぼやけた奴の顔が白く変色し赤い線が走った。

 

 

それを最後に記憶は途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

体の節々の痛みで目を覚ます。

昨日扉に打ちつけた手が特に痛い。

 

 

「ピアノの発表は午前9時から始まって12時に終わったわ。そうそう。まぁ私達は子供だから長時間動かないなんて残酷な拘束、無理だしね。」

 

つまり昼は過ぎていると?

その事を思った一瞬、痛みが体を駆け巡る。

 

本能的に『思い出してはいけない』と理解する。

記憶による痛みの余韻を耐えながら体を起こす。

 

 

奴はまた別の光る板に向かって喋っていた。

 

「あー辿異種?トリドクレスかぁ、ちょっとブサイクだわ。翼を拡大しときました、みたいな手抜きな感じもするわ。でも、攻撃はかっこいいわよね。」

 

気が触れたのだろうか。

周りの所々光る箱からは全く人間の声がしない。

 

「あー……嫌いを100と40字♪立て付けの悪い地盤のライフ♪だったかしら?……あ、違う。おっと、ここで飛び入り参加の要請だわ、誰かしら?

 

……

 

デン!

 

いつも飛び入り参加で場を賑わし、配信主の存在を薄めてしまうのはこの存在ー!

 

笑いのニューウェーブ

 

 

クトゥルフ@発音不可能

 

 

さんですわ!」

 

 

「『はいどうもー!バーチャルツイキャスターのクトゥルフですー!』」

 

 

……駄目だ、ここであの会話を聞いているだけで気が狂いそうだ。

大体聞かせている相手は誰だ。いきなり他人の声も聞こえ始めたし。

だが、それ以前にこの世界には高度そうな機械、またそれの基盤となる機械は無かったはずだ。

 

 

「『あっはっは!みんなボクのSAN値チェック失敗かつ、50以上が大量で草生えるんですけどー!』」

「おうおうおう、閲覧者がうなぎ登りかつ、その閲覧者がコインくれるから何時間放送しても使い切れない量が入ってくるわ。その勢いでフォローよろしくお願いするわ。」

 

 

何をしよう。

結局、檻の中と同じなのだ。この空間から逃げる術はない。

 

それならば空間を管理する存在をどう欺くかが最重要課題となるのだが、この神選者は通用しない。

 

 

 

私は諦める。

 

 

 

血を吐いてでも喋れる様になってここから出してもらおう。

この際、プライドは無しだ。

課題に従うしかない。

 

それにこの体ならば人間の中に混じれるだろう。

多分。

その際に発声は必須事項だ。

『喋れない』と『喋らない』では大きく違うのだから。

 

 

「うーん、そのコラボでは何をする予定かしら?」

 

「『それよりなんかそっちから変な音が聞こえるのはボクの気のせい?』」

 

「あぁ、私の娘みたいな存在が今そこに居るからだわ。」

 

「『一体何人娘が――』」

 

「そっちの踊り子もなんか変わったでしょう。変なかけ声聞こえるし。」

 

「『良く気づいたな。こちらはオタ芸を取り入れたから色とりどりで、更に対象として歌うアイドルの美人が発現した。オタクの目に映るのはアイドルのみで、ボクの存在どっか行っちゃったわ。まぁなんだかんだボクに捧げるダンスならいいかなぁって。』」

 

「ガバガバすぎないかしら。」

 

「『海上で線香花火する時に騒がれると風情が無くなるし、アザトースの踊り子となんかライングループ持ってるし!!おかしいよ、この世界!!』」

 

「お、落ち着いて。アザトースとは余り接触した事は無いでしょ!?」

 

「『もっとヤヴァイのはアイツだよ!再現するわ!』」

 

 

 

 

ボクは焦点を合わせる気さえ無い状態でただ前を見ていた。

いつも通り、魚人が供物を捧げてくる。

恩恵として緊急時自動発動の装甲を貼っとく。

既にこれが自身が気づいてなくても出来る程度に年月は過ぎた。

 

ヤマツカミみたいに食べる。

ガツンガツン言わせる歯は無いけど。

 

 

唐突に視界がハッキリする。

意識に直接語りかけてきた存在が居たからだ。

 

ボクは深く、精神が崩落しそうな音を口から放つ。

それは耳を塞ぎたくなると同時に――

 

 

「《あ、あのーどどどどどどうしましょう!?なんか寝言で殴ってくるから少しイラついて斜め45°で叩いたら理性ががっ、もどっ、もどど!?》」

 

 

凄くボクを敬ってない奴だった。というより絶対代償を払ってまで繋げる様な内容では無い気がした。

しかも聞いたことのある声。

 

 

『……落ち着け。貴様は誰だ。』

 

「《ヨグです!ヨグ=ソトースです!クトゥルフさん助けて下さい!?親の知性が戻っ、戻ったんですぅぅ!》」

 

『……え、えぇぇぇ!!??ちょっ、はぁ!?どうして!』

 

「《あっ、えっ、ちょっ、そ、そのアレなんです!そうアレ!流石にこれは予測出来ませんでしたのでっ、ちょっ、その、あのーそう!ちょっとこっちに来てください!

ニャルラさんが迎えに行ったんで!

ルルイエの封印とりあえずぶっ壊しますので!!

モーゼするんで!!!》」

 

「おまっ、お前が一時的狂気に陥ってる!落ち着け!ボクを解放してどうする!?ボクの夢は地球支配なのだから、解放したらまた大戦争始まるぞ!大体、ボクに何が出来る!!」

 

「《ぁぁっ、そういう難しいのもう訳分かんないぃぃぃっ!!》」

 

 

 

「『で、ドーンって訳。あ、ボクに会いたいなら明日の馬の前の牛にスカイツリー入口前に集合で!狂っても知らないけどね!』」

 

「私の話が全て霞むのだけど。……皆さん!?

ハスター信者vsクトゥルフ信者はここではやめなさい!呪詛の応酬で初見さんが死ぬのよ!」

 

 

 

……何かとてつもないスケールの話が聞こえている気がする。聞かせている相手は人間なのか?

まぁ、話からしてアザトースとかいうモンスターが居るのかもしれない。神選者の情報網はよく分からないからな。

 

 

 

 

 

さて、大分発声練習の成果が出てきた。

 

「私は、アトラル・カ。狂竜ウイルスによって強化され、笛によって力を得た小さい大型モンスター。今まで、私を最終目的にした敵は居なかった。しかし私を凌駕する力を持つ場合。私を愛でる目的の場合。その様な奴は付け込む隙が恐らく生じにくいのだろう。」

 

ふむ。所々声量や、イントネーションがおかしいが奴と同じぐらいの速度にはなった。

これならば文句が出るはずがない。……潔い人間ならば、だが。

 

 

 

息を吸って、吐く。目を開けて奴の方を見る。

 

 

「分かったわ、今から向かうわ。」

 

 

その言葉を呟いた瞬間、機械と共に奴は消えた。

 

 

 

 

まだ帰れないのか。

 

八つ当たりで机に腕を叩きつける。

 

 

 

 

その時、気づいた。

 

 

昨日とは腕の色が違う事に。

痣ではないのは明らかだ。

 

そして──

 

 

腕の『長さ』が違う事に

 





ニャルラトホテプ

皆から
『にゃんにゃん』『陰の主人公』『ホイップクリーム』
と呼ばれている。

少し前まで人間を様々な状況下に置いて、それに対する反応を数百通りずつ検証していたが、別世界の神や神格レベルとの外交官的立ち位置になったせいで忙しい。楽しんでいる面もあるが。
消化器を常に持ち歩いている。

好きな事象・存在 『足掻いている人間』
嫌いな事象・存在 『拘束、洗脳、奴』
気になっている事 『最近猟犬がとある龍と対話してること』


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紅の救世龍


「後13分ね……朝の限定定食は。周りの人間を不愉快にさせない為に記憶改竄の準備はしておこうかしら。いや、焼き切って障害者にしてしまえばいいかしら。」

「ごめーん、待ったー?」
「ううん、今来たところー!」
「10分ありがとう。」
「みんなここに来た理由を忘れたらしくて帰っちゃったー()」
「ボク達、運がいいー()」



 

……まぁそこまで驚く事ではないか。私が足を切ってそこから生えるのと同じだろう。

そう信じたい。

 

だが明らかに手触りが違う。

 

 

ピクリと指が動く。

 

 

もう片方の手で抑え込む。案の定、腕が暴れ始める。

抑えたまま机に叩きつける。

 

 

痛みと共に腕は止まる。

これが俗に言う、中二病だろうか。

 

『右手に封じられた力が……っ!抑えろ……!』

 

……人間はこれを望んでいるのか。

 

 

頭が軋む様な錯覚に陥る。

嫌に鮮明な想像が浮かぶ。

 

 

 

奴が腕を切り落としてつけかえたのでは、と。

 

 

 

 

 

 

 

バチィッ

 

「ただいまー。」

 

4時間程経った後に、奴は帰ってきた。

 

事前に練習をしていた文を言う。

 

「質問させろ、この腕はなんだ。」

「あぁ、暴れたのかしら?後少しで調整が終わるという事よ。」

 

「元の姿に戻るには。」

「調整が終わってからレクチャーするわ。」

 

 

「喋れる様になったぞ。帰せ。」

「え?なんだって?」

 

やはりそうきたか。

多少諦めていた為、そこまで絶望する事でもない。

 

 

しばらく奴はゴソゴソとタンスを漁っている。

そこから服を取り出し、着替え出す。

ワンピースを脱ぎ白いふわふわな服を着る。

黒のズボンを穿いて、ピンクの大きい服を着た。

 

「どうかしら?感想を口にどうぞ!」

 

……正直に言っていいのだろうか。

 

「目立つからすぐ襲われるぞ。」

「大丈夫よ、襲われても殴るから。」

「いや、背後から狙われる。」

「毒に耐性があるから、睡眠薬は無意味。」

 

……噛み合ってないな。

 

「さ、着替えて。東京タワーの様に赤く染めに行くわよ。」

「断る。」

「(´•௰• ` )」

 

 

渋々といったようにバチリと消えた。

奴についていくと何があるかわからない。

数日とはいえここで過ごしているのだから、こちらの方がいいだろう。

 

 

機械を触ろうとするが、弾かれる。

それと同時に体が焼け付くように熱くなる。

 

悶えはするが、何故か嫌な感覚ではない。

元の姿ではそうそう味わえない感覚だからだろうか。

 

 

 

 

 

数分後

 

 

……

なるほど。理解が出来ない。

 

痛みが引くと、私の体が少し黄色く変色していた。

 

そして突然胸らへんで振動が起こる。

 

これが心臓の動きか。

虫にはこれ程強い脈動は無いと考えると、本当に人間の体なのだと分かる。

 

暑い。

これが恒温生物の体温か。暑い。

この服さえ熱がこもり、暑く感じる。

 

 

 

ゴウッ!!

 

 

脱ぐか脱がないかで迷っていた時に突然炎が燃え上がる。

そこから現れたのは――

 

「……い、いないな。」

 

……まさか、ミラボレアス……しかも紅龍!?

図鑑でしか見たことがない。

 

勝ち目はない。そして死ぬ。

 

「落ち着け。俺は三姉弟で唯一落ち着いた龍だ。」

 

喋った……!?

 

龍が部屋に入ってくると同時に部屋が大きくなる。

 

ガッ!?

机も大きくなって私の顎をうつ。

ひっくり返る私を覆うように更に大きくなる。

 

「うんうん、やっと生物になったか。ちょっと待ってろ……『鏡の盗視』」

 

 

ヴォンと謎の球体が浮かぶ。様々な色を放つそれは――

 

それの色が定まる前に、机が爆発する。

 

すると球体は部屋の光を吸う。

 

「炎壁。」

 

部屋の形が陽炎で分かる様になる。

こちらは温かい。

どういう事だ?また別の空間に?

 

 

 

「……落ち着け。見ろよ。」

 

 

光を吸い、その分だけ光を放つ。

その球体には……

 

 

 

「ここを刺激して、警戒を高めさせる。するとこの国と緊張が高まる。そしてこの国は短気だから、様々なスパイを送ると思うわ。」

「そこでボクが電波をビビビーって何度もこいつに送って深層心理に言葉にできない怒りを植え付ければ完成だね。」

「まずは雷をここに落とす。」

「だったら初手はこの港かなー?」

「……今日は雨降ってたわね。」

「肌の潤いは大事だよ。」

「物理的に。」

「タコだし。」

 

 

 

奴と誰かが映っていた。

 

「……いいか。これは今起こっている事だ。急ぐぞ、まずは『人化・龍化』だ。」

 

対面しているのはミラボレアスなのに、私の体は震えない。

人間はなんと傲慢なのか。まぁ、助かるが。

 

「この現象は龍の力と同じだ。だから意識すれば操作できる。自身の武器を思い出せ。それに適応した人間の体の部位を力を込めて振る。」

 

とりあえず言われた通りに鎌をイメージ、そして腕を振る。

振り切った時には鎌に変わっていた。

 

「流石だ。次は尻尾だ。本来ならもっと内側だが、お前の尻尾はお前の体の中で一番硬い。だからここ……そう、背中と尻の中間、骨が角張った場所。」

 

ワンピースを捲るように生やす。

ふむ、かなり自在に動かせて、体には明確な痛みは走らない。これで糸も使えるだろう。

 

「最後に足だ。これは余りイメージ出来ないだらう、だからイメージ画像を持ってきた。」

 

これは……

 

「アラクネ。上半身が人間、下半身が蜘蛛の別世界の存在だ。これを左右二本ずつ脚を抜けばお前だ。」

 

 

ジャンプしてから生やす。

なるほど、これはいい。尻尾と脚を生やせば、森の中で腕を使って小回りな動きが出来る上で移動力は落ちないのか。

 

「よし。ならば早く脱出しろ。今を逃すととてつもない拘束が襲う。」

 

球体は消え、壁が一瞬炎の色をするがすぐに消える。

空間から炎が発生、輪のように広がる。

 

「お前の体は奪取した。ネセトの下に空間を作り、そこに横たわっている。隣に笛もある。」

「……何故そこまでする。奴と貴様はどういう関係だ。」

「さっき言っただろ。三姉弟ってさ。さぁいけ!すぐそこに体はあるぞ!!」

 

不意にミラボレアスの尻尾に吹き飛ばされる。

 

ゴロゴロ雪の上を転がり、そちらを見ると丸く溶けた雪しか跡は残っていなかった。

 

 

 

「……感謝する。」

 

私はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチリ、バチリと雷がうなる。

少女から走る赤い雷が大きくなるにつれ、更に部屋は大きくなる。

 

対峙するのは余りの高温にプラズマが走る龍。

 

 

「何故、脱出させたのかしらぁぁ………」

「アイツを逃がす気ないだろ。そういう事だ。」

「着物を用意したのに……私に依存させる計画も立てたのにぃぃ……!!」

「いいだろう。久しぶりにだな。」

 

 

龍に変化した少女は全てを原子にまで吹き飛ばすブレスを放つ。

紅龍はそれを飲み込む質量を持ったマグマと炎のブレスを放つ。

 

壁を走る雷が紅龍を襲う。

自身の熱を更に強くしてプラズマの一部に変える。

 

雷と共に縦横無尽に空間が割かれる。

巻き込まれないように回避しながらブレスを湾曲させる。

 

「第6使徒!!」

「核の生物!!」

 

街を焼き払う存在をぶつけ合いながら噛みちぎり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネセトが雪を被って埋もれている。

雪を掻き分け、潜っていく。

 

明るく無い為はっきりと見えないが、私の体がそこにあった。

 

触れると、視界が暗転する。

そして腕を見ると鎌になっていた。

 

「――――ッ!」

 

やはりこの姿では喋れないか。

とりあえず何日も空いたから、さっさとマネルガーの元まで戻ろう。

 

 

 

 

雪の小山が揺れる。

ひびが入り、軋ませながらソレは再び動き出す。

 

アトラル・カはこの世に帰還したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

 

 

龍歴院が騒ぎ出した。

 

まさか古代林に暴食が居たなんて。

世界の終わりだ!と。

 





ボレアス「ひな祭りしよう。」
ルーツ「ァァァアアア!!」
バルカン「あっ……」
ルーツ「2週間は留める予定だったのにぃぃ!!」


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その存在、討伐不可能



古代林は犠牲となったのだ……




気球に糸を放ち、上から乗り込み、着地する前に人間の形になる。

首尾よくマネルガーの船に入る事が出来た。

どうやら2人とも外出している様だ。

 

笛を持つ力はある。

恐らく、私の体に準拠した力なのだろう。

 

後ろの扉を開ける。

見えた階段をゆったりと降りる。

 

ささくれが足に刺さろうとして潰れる。

柔らかい皮膚なのだが、傷はつかないのか。

 

 

そして今更気づく。

人間の姿でも狂竜ウイルスが反応した視界が見えていた。

とは言っても、この飛行船は人為的に温めている様だから区別がつかないが。

 

下には部屋があった。不審者がいないか確かめる意味もこめて、全ての部屋を覗く。

キッチン、書斎&ベッド、空き部屋だ。

恐らく空き部屋はモンスターを入れたりする用途だろう。

 

キッチンに入り、探索する。

皿が汚いが、水は貴重なのだからしょうがない。

箱を開けると携帯食料や長期の保存がきくような食べ物ばかりだった。

 

 

謎の機械が床を移動している。手に取り、裏返すとブラシが回転していた。何故片方にしかついてないのだろう。

それ以外は分からない為、床に置く。

再び動き出した。何の目的で動いているのだろう。

 

 

最初に降りたベッド&書斎の部屋に入る。

 

今までは図鑑や本を持ってきて貰っていたが、いない間に入る事で自由に選んで読める。

 

 

 

ふと机を見ると、一枚の紙が置いてあった。

 

そこには――

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな建物が村を見下ろしている。

 

細長い雲が、青空を更に美しくしている。

 

 

村は活気に溢れ、ハンターはパーティを作っている最中だ。

普段はのどかな道も、今は活気に溢れ、鍛冶屋からはひっきりなしに音が鳴っている。

 

 

また新たな飛行船が降りてくる。

迎えに行った人間が言う。

 

 

「ようこそ、私はこのベルナ村の村長だ。」

 

 

 

勿論、龍歴院にも大量の飛行船が停泊している。

 

次々に降りてくるギルドのハンター達に龍歴院のハンター達は散歩をしようと持ちかける。

大量のハンターが、応援に来た受付嬢を含めたカウンターへ並ぶ。

 

 

またメゼポルタからの職員も降り立ち、龍歴院職員と一通りの挨拶をした後に会議場へ誘導される。

 

 

大型探査船と入れ替わる様に飛び立つ飛行船の中で、ハンター達は情報を共有し合う。

 

龍歴院ハンターはここの土地やモンスター等を。

ギルドハンターは今回の狩猟対象に関する情報を。

 

 

古代林に近づくにつれ、それに気づくだろう。

 

草食竜が普段以上の数で固まっているのを。

リモセトスはその長い首を最大限に活かして遠くまでそれぞれの方向を見ている。

 

 

「あれがディノバルドか……」

 

双眼鏡を覗いたハンターが言う。

 

「そうだ。余裕があれば尻尾で弾丸を弾く行動さえする。」

「知能は高い方なのだな。」

 

 

上空から見れば大まかな地理と、大型モンスターの位置が分かる。

 

 

しかしベースキャンプに降下を始めた時、それはいきなり姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

なるほど、今からコイツを見に向かうからマネルガー達は二人がかりで資材を集めに行ったのか。

当たり前の行動だな。

 

コイツも図鑑で読んだ事はあるがその脅威は計り知れない、一度も見た事がないなら気になり、見に行きたくなるのも普通といえよう。

勿論、リスクがとても高いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

土煙が巻き上がり、ゴミのように木が吹き飛ぶ。

電気と爆破を走らせながらソレは地面を縫いながら吠える。

 

急いで再び飛行船は上昇、既に降りていたハンターも稼働し始めた飛行船に避難する。

 

 

バシリと赤黒い稲妻が走った途端、大地は抉れ、岩盤が隆起し地下水が虹を作る。

 

 

「うそ……だろ?」

 

固まっていたリモセトス達は呑まれ、威嚇するマッカォやホロロホルルも口に消える。

 

ブチ切れたディノバルドは恐らく尻尾である部位に溜め攻撃を炸裂させるが、逆に吹き飛ばされ、倒れた所を上から食われる。

 

金銀夫妻が顔面に毒キックとサマーソルトを食らわせるが、赤黒い稲妻を走らせる咆哮により気絶、落下する所を食われる。

 

 

遠くに見える火山が噴火し、あらゆる地面と壁に亀裂が走り、逃げるケルビは落下していく。

 

 

 

 

夕方。そこに地獄はあった。

 

噴火している火山に巻きつき、軽く吠えている。

肉食竜も、草食竜も激減しただろう。

 

 

Z級の防具を身に纏うハンターが呟く。

 

「……何故黒いままなんだ。まるで猛狂期のままじゃないか。……違う。体が大きいから足りてないんだ。でもここは奴の住処ではない……」

 

 

 

燼滅刃の防具を身に纏うハンターが言う。

 

「ここは多分地上まで近いから……でも、あのモヤは、獰猛化……あの怪物、獰猛化で更に気性が荒くなっているんだ。」

 

 

 

バシリと光が走る。

顔が飛行船を向いている。

 

 

「ガァァァァッ!!」

 

 

アカムトルムのソニックブラストを余裕で超える衝撃波は、まだ残っている森を抉りながら飛行船に衝突、くらった飛行船が一瞬で瓦礫となり吹き飛ばされる。

 

「見た事のない技だ!早く全速力で!」

 

ハンター達は若干戦意喪失しながら帰っていった。

 

 

 

空が夜に染まっていく。

 

まるで勝利したかの様に唸りながら、仮眠に入る。

 

 

 

巨躯で肉食。この世界でも指に入る凶暴さ。

 

その者の名は。

 

 

 

 

「ォォォオオンー!」

 

 

 

大地ノ化身

『ラヴィエンテ』

 

 

 

 

 

の、獰猛化猛狂期個体。

 

 

 

 

 

 

 

 

獰猛化……聞いたことはある単語だ。とりあえずここら辺の本を漁っていれば出てくるだろうか。

 

 

時間がかなりかかったが、本の山から当たりを引っ張り出せた。

 

『現在確認されているモンスターの異常強化現象について』

 

かなり時間がかかったが、やっと情報が得られ――

 

 

ガタン

 

 

「ただいま戻り……」

 

 

扉を開けたイチビッツと目が合う。

私は学術雑誌を後ろ手に隠す。

 

「は……はくぁ、博士っ!船内にかわいい女の子がぁぁっ!!」

 

そう叫びながら飛び出していった。

笛を引っ張り、雑誌を片手に階段を駆け上がる。

その後飛行船から飛び降り、ネセトの繭に潜り込む。

たまたま飛行船の入口がネセトの反対方向で助かった。

 

 

 

『現在確認出来ているモンスターの異常は3つだ。狂竜化・狂気化・獰猛化。この中の2つは発生の原因が確定しているが、唯一獰猛化だけは解明されていない。現在、支持されている説は【モンスターの老齢化による生体機能の故障】と【多量のストレスによる鬱病と同じ立ち位置の病気】である。しかしどちらとも例外がある上、発生範囲がある程度決まっているという事実を説明出来ないため、この説達はまだ不完全だと声を上げる学者も多い。』

 

 

読み流しながらページを何枚かめくり続ける。

そしてやっと欲しい情報が目に入る。

 

 

『一般的な獰猛化の特徴と見分け方。

 

・黒いモヤがかかっている。

・モヤが全身を覆う事はなく、時折移動する。

・モヤを纏った部位に力が入ると赤黒い稲妻が走る。

・稲妻が走った際の攻撃はとても強くなる。

・纏ったモンスターの体力がとても多くなる。

 

である。』

 

 

よし、欲しい情報は手に入った。

元の姿に戻る。

 

後はタイミングを見てこの雑誌を元の位置に戻せばいいのだが……直ちには不可能だ、小型繭の中に保存しておこう。

 

 

 

マネルガーが叫ぶ。

 

「アトラル・カ!お主、村に降りて虐殺したのじゃろう!」

 

濡れ衣だ。

説明の為、雪に字を書く。

 

『アイルー1匹のみだ』

「大体何故襲撃したのかね!?」

『家庭栽培を始めたかった』

「いつから空を飛べる様になった!?」

 

……は?

それは……

 

ちょっと待て、何故脳裏にあの神選者の顔が浮かぶ?

 

『私に空を飛ぶ機関などは無い。』

「……あっ。失礼、私は冷静さを欠いていた様だ。ん、でもそしたら誰が……?」

 

助けてくれたミラボレアス亜種が、『きょうだい』と言っていた。

……まさか、アイツは、ミラボレアス亜種の白か?

 

爆散した体を治して生き返らせるなんて、一般常識では考えられない話だ。記憶も壊死するな。

あと部屋の中に現れる時、雷と共に現れた。

一般的な人間を皆殺しするのは簡単そうだ。

 

情報は余りにも足りないが、仮定としてはいいかもしれない。

とにかく二度と会いたくないな。

 

「とりあえず、今から私達は遠くへ出かける。乗るか?」

 

頷く。

こいつらならラヴィエンテに殺されないように気をつけるだろう。

リスクにリターンが見合っていないが、ラヴィエンテ……私も気になる。ついていく以外に選択肢は無い。

 

 

 

笛、三本の撃龍槍、小物を飛行船の中に。

あとクイーンの爆発玉を首に巻き付けておく。事故で死にそうだが。

 

私のネセトにしばしの別れを告げる。

ガタリという音と共に飛行船が揺れる。

 

 

 

……嫌な予感がする。

 




「上手くいかないなぁ……」
「何をやっているんだ?」
「絆石ってあるじゃん。互いの依存による必殺技だろうから、人間とモンスターを合体させてるの。」
「下半身を切断して植え付けても意味無いだろ。」
「いや、依存じゃん。」
「人間を寄生虫にしたら、モンスターから人間に頼る事がないだろ。」
「そっか……じゃあモンスターの頭を潰して人間を視界として働かせる?」
「いや、五体満足じゃないと無理だろ……」
「むぅ……しょうがない、食べよう。」
「ヒィ、イヤダァァァァァ!!」


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陽光揺るがす斬壊の咆哮【虫視点】


ここは所詮、ゲーム世界だろ?
この世界より強い異世界チートの仲間を集めれば、勝てない敵はいない。
あらゆるラノベ、アニメ、ゲームの力を持って転生するって凄いなぁ……この世界は天国か。



………

 

 

視界がグルグルする。

抗竜石を少し緩め、狂竜ウイルスによって、意識を保つ。

 

まさか、私は、ぐっ……

飛行船に、酔う、体質、だった、か……

私の姿であろうと、人間の姿であろうと意味が無い……

 

しかし、他の飛行船と紛れる予定らしいから、甲板に上がって私の姿を見せる訳にはいかない。

横になって、寝よう……

 

 

ひんやりしていて、気持ちいい……

 

 

 

 

 

 

 

二日後

 

 

龍歴院でライダーとモンスター達を乗せた大型探査船が数隻、ハンター達を乗せた大型探査船に合流する。

 

「皆、よく集まってくれた!事前に説明した通り、目標は獰猛化したラヴィエンテの討伐だ……繰り返す。『獰猛化した』ラヴィエンテだ。既知の行動もタイミングがズレるだろう。鳴き声に注意は勿論、雷の音にも気をつけてくれ。」

 

 

発言が終わった途端にドォンと巨大な戦艦が現れる。

一部の壁が動き、階段が伸びて全身を黒で統一した人物が現れる。

 

 

「コホー……」

「えっと、ダース・ベイダーさんだったか。」

「事前に呼びかけた神選者の全員が乗っている。」

「ありがとう。そのまま送ってくれ。」

 

 

鋭い音、青白い光と共に空飛ぶ戦艦が現れる。

 

 

『あ、あーマイクテス……こちら、幻想戦艦ヤマト、幻想戦艦ヤマト。システムチェック……オールグリーン。万全の体勢だ。』

「ありがとう。皆を運ぶ事と、援護射撃をよろしく頼んだ。」

『無論!』

 

 

そしてシュバッと空間が揺らぐ。

一人の少女が光の階段を降りてくる。

 

 

「イ401、マルハチマルマル、合流。」

「交代の際のステルス護送、よろしくお願いする。」

「艦長の命令以外は拒否。」

「艦長にもそう伝えている。」

「了解。確認が取れ次第、他の艦のサポートに入る。」

 

 

バンという音と共に、原作より物騒かつ巨大な潜水艦がその姿を現す。

 

 

 

3人の神選者の所持する空飛ぶ航空艦(航空戦艦ではない)が並んで空を飛ぶ。

その光景は誰をも圧倒するだろう。

実際ベルナ村の住民の半分は、翌日首の筋が吊ったらしい。

 

彼らが向かうは古代林。

奴が目覚めた場所だ。

 

 

 

 

数時間後

 

 

 

大量の飛行船、十数隻の探査船、三隻の飛行艦が古代林の上空につく。

 

球体に十字の亀裂が入った蒼炎を掲げながら、神選者達は飛行艦の上に立つ。

 

 

 

遠くから奴は土煙をあげながら現れる。

とても早い速度で迫り、顔を幻想戦艦に近づける。

 

 

そして、愚かな的へ艦砲を向ける。

 

 

『見よ!この超越した――』

 

 

バシィッ!

 

獰猛化部位に雷が走る。

 

 

「ガ――――――!!!」

 

 

 

それは咆哮の衝撃波ではあるが、生物が出していいはずのない威力だった。

 

幻想戦艦の機器は異常を示し、ガラスは破れる。

大きく撓みながら体制を崩す。

射出の為に展開したエーテルは霧散し、余儀なく距離をとらされる。

 

『ありえない!?』

 

 

その間にイ401が第一陣を船内に移動させ、地上に降下する。

 

 

「自然の力よ、我が強大なる魔力に答えよ!エクスプロージョン!!」

「主よ、世界を脅かす低俗な生物を切除する力を我に与えたまえ……!」

 

 

一般モンスターを一撃で仕留めるような攻撃がラヴィエンテを襲う。

そして相互の力で大爆発を起こす。

 

「ォォォンッ!!」

バシィッ!

 

しかし怯みもせずにブレスを放つ。三発目で幻想戦艦の障壁にヒビが入る。

 

 

 

 

 

 

……うっ。

ここは……あぁ、飛行船か。

視界がグルグル回っている。

 

一度抗竜石を外し、身体を興奮状態にする。

余り推奨はされないだろうが、まぁいい。

落ち着いた所で再び抗竜石を巻く。

 

 

外が騒がしい為、既にラヴィエンテとの交戦は始まっているようだ。

書類をとりあえず纏め、糸で縛る。

本棚も糸で巻き、本が飛び出ないようにして壁に強く固定する。

様々な道具もとりあえず壁に固定する。

 

よし、これで扉を開けた時に風圧で物が吹っ飛んだりはしないだろう。

尻尾を除いて人の姿に変化し、双眼鏡を目にあわせながら糸で私の体を固定する。

 

 

扉を開く。

 

 

 

「艦砲、掃射!」

「バリスタ、撃て!」

『死角などない!』

 

『第一陣、問題なく送り届けた。』

 

「ワールドアタッチメントプロトコル003!爆ぜろリアル!弾けろシナプス!バニッシュ――」

「マスタースパーク!!」

「六爪流!!」

 

 

バシィッ!!

 

「ォォオオン!!」

 

 

 

 

一度、扉を閉める。

 

 

恐らく前の神選……白ミラボレアスの影響で異世界?に扉が繋がったという事であってほしい、という私は馬鹿な考えを持ちかけた。

自覚した分、先程よりは冷静に見れるだろう。

 

 

再び扉を開ける。

 

 

 

馬鹿げた現実を受け入れた私は、とても大きい生物を綺麗な光が襲っている景色を見た。

 

 

なんだここは……

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだここはっ!!??

 

 

 

まず人間側の猛攻に目が向かうが、それを耐える……いや、余裕にしか見えないこの生物もおかしいだろう。

 

 

色とりどりで綺麗だな、としか言えない。

やりたい放題やってる方も、やりたい放題やられて余裕な方もおかしい。

地上で普通に殴っているハンターなら評価は出来るが……

 

「クルーシオ!」

「召喚、バハムート!!」

「ルールオブゴッドを要請!!」

 

防具を纏った変な形の竜が何処からか空に現れる。

竜が周りに浮かせていた剣を放つと同時に、天高くから光の帯が降ってくる。

光が落ちると、ラヴィエンテが爆炎で見えなくなる。

 

……

 

ラヴィエンテは鬱陶しそうだ。モヤが体に移動する。

一度吠えると、尻尾を浮かせてから薙ぎ払う。

 

 

回避したハンター達は再び殴り始める。

ラヴィエンテがまた叫ぶ。

 

 

バシィッ!

 

稲妻を走らせてからハンター達を囲んだまま回転しながら回転する……つまり公転と自転だ。

 

 

何を言ってるんだ私は?

 

 

地上では岩盤の隆起が始まり、ハンターは巻き込まれて次々と死……!?

打ち上げられたハンターは地上に落下した後、すぐさま起き上がり薬を飲んだり走り出していたりする。これが化け物と言われるG級共の実力か。

うん?それとも目立たない神選者か?

 

 

「ノストラダムスの終末予報(ウィークエンド)!」

「エクスカリバァァッ!!」

 

巨大な光剣が出現、ラヴィエンテを一刀両断せんと振り下ろされる。

更に空の色が変化、青い炎を纏った巨大な隕石が落ちてくる……

 

 

音と光だけで狂いそうだ。

 

隕石が落下、同時に緑の障壁が展開……今更だが、私は現状を理解するだけで精一杯なのに気づいた。

 

 

バシリ!

 

ラヴィエンテはおもむろに上空に突進、隕石を破壊。

飛び散る破片が霧散する。

 

何故霧散した?

 

ずっと撃ち続けている艦砲にイラついたのか、なんとラヴィエンテのモヤが増加する。そして先程より澄んだ(?)声で叫びハンター達を吹き飛ばす。

 

 

もう一つのモヤは尻尾に発生した。

 

 

『波動砲のエーテル補充率80%……衝撃に備えろ!』

 

 

目に見えて危険な光が一つの船から発されている。

ラヴィエンテの方を見ると、

 

バシィッ!

 

尻尾を光らせながら動き出し、一度体を纏める。

ハンター達は走っても追いつかず、神選者も唐突な移動に対応は出来てない様だ。

 

『波動砲95%!』

 

一層強く光り始める。

ラヴィエンテが尻尾で体全体を跳ね飛ばし、口を開ける。

 

『波動砲!はっ――』

 

そのまま船が……

 

 

 

バキリ

 

 

 

呑まれた……!?

 

バキバキと音をたてながら少しはみ出た船体から巣の材料にしたい破片が散らばる。

 

 

……羨ましい。

 

おっと、完全に感覚が狂ってきた。

一度船内に戻って本でも読もう。

 

 

 

「よし、神選者は大体試し打ちが終わったか。ライダー、行け!」

 

 

 

探査船から大量のモンスターが飛び降りていく。

 

「ナルガ、切りつけろ!」

「ギアオルグ、叩き切れ!」

「歌え、クルペッコ!」

 

そうして大討伐は、始まった。

 




ラヴィエンテは事前の情報通り、獰猛化していました。
体長は今までの約2倍、意図的になのか余り獰猛化してない部位を使わないので、素の攻撃力はよく分かりません。

皆さんは狩猟する際、ランニングの様にペース配分を考えましょう。

以上、報告任務中のギルド代表職員でしたー!



※軽い航空艦の説明

幻想戦艦ヤマト
想像×エーテル(いわば魔素) で物体を具現化する。かなり自由にワープも出来るよ!

ネビュロンB・エスコート・フリゲート
全方位に光線撃ちまくり。部分改造で総合病院レベルの治療は出来るよ!

イ401
ステルスと強烈な魚雷を持つ。船の演算能力で具現化した可愛い子がいるよ!


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(ひかり)(あかり)を喰らう者【ハンター視点】


ぐ、ぇぇぇ……
船の中で文字を、ぜぇ、ぜぇ、
読むのは、だ、めかぁ……



夕方が終わり、陽の光は完全に届かなくなる。

 

火山の光と月の光を遮るその巨体が俺達を圧倒する。

 

唯一光る翠の目が、奴にはまるで突然に現れた様に見えるだろう俺達をギロリと睨む。

 

 

 

……近接だった時の癖で隆起した岩を探す。

よっしゃ、あった!関係ないが!

ヘビィボウガンを装填しながら走る。

 

ふと何となく叫びたくなった、声に出してみよう。

 

「戦法!陣に分けて突撃!神選者は自由だが、一陣、斬属性!二陣、打属性!三陣、弾属性!何故なら時間で属性がつくからだ!周りが楽に出来るようにやってやんぜぇぇぇ!」

 

 

バシィッ!

 

叫び終わった途端、ラヴィエンテの頭の方から雷の音が鳴り響く。

見ると頭を下げ、地を砕きながら迫ってくる。

 

 

ドドドドドドドドガガガガガガガガァァァァッ!!!

 

 

ヘビィボウガンから衝撃を放ち宙を舞ってから更に衝撃を放ち穿龍棍の様に吹っ飛ぶ。

元居た場所は岩を吹き飛ばしながらラヴィエンテが呑んでいった。

 

怖い怖い……

 

 

バンッ!バンッ!

 

オリジナルの使い方だが、ガンランスの様に衝撃を放ち、地面を滑るように移動する。

メリットは薄いが事故るとヤバい。しかし少しのメリットさえ逃してはならないと俺は勝手に思っている。

 

再び移動を開始したラヴィエンテを確認してから双眼鏡を覗く。

結晶の位置はーっと……大体頭と尻尾の中間か。

強走薬グレートを飲む。

 

(格好つけに)スライディングしながらスコープを覗き、結晶に向けて貫通弾LV2を発射する。

 

「鳴り響け!『ハーメルンの笛』!伝説の力を分けたまえ!『ムー大陸の神殿』!」

 

神選者がそう叫ぶと、誰かが支えてくれるているかの様に体が軽くなり、武器も普段よりキラキラしている様に見え始めた。

 

 

 

うむ、ヒュジキキ辿異種のボウガンを選んで正解だったな。

ラヴィエンテが地面に潜り始める。地震が起こる。

しかし耐性のおかげで動じることなく、ずっと撃てるぜ。

皆も担ごう!ヒュジ――

 

なんかすっごい回転して力強いリロードしてる奴がいる……その技術も欲しいなぁ。

 

 

 

おっと、弾が無くなったか……

 

「おい!」

「はいにゃ!!」

 

一声叫び、地上に投下されたバリスタを撃っていたアイルーから、俺が事前に預けた貫通弾を受け取る。

 

 

ビシッィ!

 

遠くからラヴィエンテがアーチ状に出現、再び潜っていく。

チャンスだと思った。だが、俺は気づいた。

 

 

回避っ!

 

 

激しく大地が隆起する。

あの巨体で行ったり来たりすればそりゃ地形は壊滅するな。

 

勿論隙を見て射撃する。たまに弾かれるのだが、どんな硬さをしているんだ……

 

 

『A.I.S.起動!!』

「鳥雷装填、発射。」

 

何度か食われ、その度にワープをしてる戦艦から、何度目かのロボットが飛んでくる。

同時に恐らく例の潜水艦……水なのか?から放たれた爆弾が炸裂する。とにかくヘイトが自分以外に移るのはいい事だ。

 

 

再びラヴィエンテが私達を囲む様に出てくる。

リロード、止まった時の結晶の大体の位置を予測して走る。

ただラヴィエンテがでかいから走るのめんどくさいぃ!

 

 

 

そんなこんなで走り回ったり撃っている事、一時間半。

 

 

「アタッチメント!最高の混沌の力よ、我が血の力によって顕著せよ、【無限の力(インフィニットパワー)】!!」

 

背後から誰かがそう叫ぶ。

月を隠すように雲が発生、そして淡いオレンジの光を放ちながらとても大きく歪な形の物が降りてくる。

 

 

勿論呆気にとられるが……

まぁ神選者だからなんでもありなんだろ。

 

そして上空から何かが降りてくる。

 

 

「弾属性だな!放て!」

「やだよ、やだよ!こんな変な動物倒せないよ!」

「さっさとやれ。刺すぞ。」

「うー……分かったよ!分かったよ!」

 

 

「射角よし!全砲門、ファイアー!」

 

 

片方は火球を、もう片方は視認不可な速度の砲弾を放っていた。

俺は弾をぎゅっと一束にして、圧縮リロードをする。

 

 

不思議な音と共に大量の赤色の模様が浮かび上がる。

 

「――終わらぬ憤怒をその身で味わうといい!エクスプロージョンッ!!」

「主よ、この身に宿る全ての力を捧げる事を赦したまえ。今、眼前の敵に我らの正義の鉄槌を。」

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!からの、エクソパルソ!」

 

 

爆発が凄いな。こりゃ高級耳栓必須の意味が分かるわ。

よし、負けてらんないな。装填―――

 

バシィッ!

 

ラヴィエンテが口を開けた。

恐らく……ブレスだな!

俺じゃない方を向いた、三発目に注意か。

 

 

ゴォォォオッ

 

 

 

ラヴィエンテの頭の真下の人間は、首を掻き毟る。

 

 

 

あれ、とても長く息を吸っている?

 

「コォォォォオオオ……ガッ────」

 

 

 

 

 

 

超高級耳栓をつけるべきだったぁぁ……耳が猛烈に痛いし、何も聞こえない。

 

自分の顔を叩きながら立ち上がる。

 

見ると、さっきラヴィエンテが向いていた方向はバリスタやハンターを含めて跡形もなくなっている。地面と一緒に粉々になったのか……

これは……規模は違えどアカムのソニックブラストみたいなものか。

 

 

「え、復活させることが出来ない!?」

 

いや神選者よ、何も無い地面に向かってやった所で細菌が復活するだけだろ。

 

 

 

「ダーク=クレイオス!!」

「三点エクスプロージョンバースト!!」

 

 

バシリ!

「ァァァァッ!!」

 

ガリガリガリ!!!

 

 

くそっ、また這いずり捕食か。仲間が一人呑まれる。

 

 

 

 

「おい、そこのお前!私のに乗ってけ!」

 

突然、頭の上から声が聞こえた。

見上げると通常の2倍はあろうかという体格をしたセルレギオスが居た。

 

「セルレギオスに乗ってどうするんだ!それに今は弾属性だぞ!」

「分かるだろ!そろそろ、あの攻撃が来るぞ!」

「……あっ、まじか!ってか前会ったなお前!」

「努力でライダーにジョブチェンジしたんだよ!」

 

ラヴィエンテが再び怒り状態になる。

頭とは別に尻尾にモヤがつく。

 

ヘビィボウガンで、セルレギオスの近くまで跳ぶと足で掴まれ、宙返りしながら背中に落とされる。

 

「さ、上空へ避難しないと!いけっ、セルルン!!」

「ピィィィッ!!」

 

セルレギオスは大きく鳴き、強く羽ばたいて急上昇する。

周りは訝しんでいたが、数人はモドリ玉を使っていて安心した。

 

「ほぁっはぁ!こいつぁすげぇ!」

「よし、セルルン!ここで一度待機!」

 

 

 

 

ラヴィエンテは稲妻と共に尻尾を振り上げる。

 

ゆっくり、ゆっくりと空を貫かんとするその高さの尻尾は――

 

 

 

空気を切る際に起こる轟音をたてながら振り下ろされる。

 

 

 

尻尾の衝突後、大きく大地は揺れる。

地割れが幾重にも生じ、飛べない生物が地面にシェイクされ沈んでいく。

地下水の噴出により、液状化現象も起こる。

 

逃れる事が出来ない仲間が沢山いる事に気づいた飛べるモンスターと神選者が出来るだけ助けようと飛び立つ。

 

 

ゴゴゴと大地が鳴動する。

 

 

そして再び起こったとてつもない揺れは地下水を大量に吹き出し、地面に沈んだ生命を打ち上げる。

 

 

バシリ!

「グィィィィィォォォッッ!!」

 

 

ラヴィエンテは唸りながら口を開け、上空の一点に集まった生物に迫る。

 

 

「プロテゴ・トタラムっ!!アクシオ、アクシオ!!」

「防御術式、展開っ!!1人でも多く助けろ!!」

『具現化!超外壁っ!!転移、転移!!』

 

 

被害者は三重に守られる。

他は出来るだけ助けようと飛び回り、掴み、引っ張り出す。

しかし即席。神選者も強度に些か不安か残って――

 

 

バキッ!!

 

 

全てが一瞬で噛み砕かれる。

 

 

そのままハンター、ライダー、モンスター、神選者は影に消えていく。

 

 

 

絶叫、悲鳴、泣き叫ぶ声は、一気に小さくなる。

 

 

バタァァン!と体を地面に横たえる。

 

ラヴィエンテはモグモグと咀嚼する。

絶叫や血が口から漏れ出る。

そして破裂音や爆発音は段々収まっていく。

 

 

 

 

……うわぁ、スケールが凄い。モンスターも一口か。

落下してくる水塊や岩を躱すセルレギオスに感謝しながら思う。

 

「……勝てるだろうか?」

「何言ってんの。ハンターの名が廃れるよ!さぁ行くよ、セルルン!!」

 

 

確かに、そうだな。

今は強敵として考えている古龍も、初めて対峙した時は恐怖で回避行動しかしていなかった。

怯えるのは大事だ、ちゃんと慣れていかないとな。

 

ヘビィボウガンを揺らし、スコープを覗く。

 

 

 

まだ、朝は遠い。

 

 

 

 

 

 

 

うぐぅっ……生物の、つわりって……こんな……感……あぐぅぅっ……なのだろう、か……?

い、や、そんな冗談……うっ……あっ……

 

 

 

彼女が揺れに慣れるまでも結構遠い。

 




アトラルと。バルのー。

「教えて!なぜなにシュレイド城ー!」


はいー今回からー始まるー

色々突っ込みたいが、さっさと本題に入るぞ。今回は『セルレギオス』。この世界ではライダーのオトモンとしての使用率がとても高い。

何故ならー遠くからー致命的ー炸裂弾ー

ハンターや騎乗者は腹を貫かれても、回復薬を飲んで一時退避をすれば治る。
とはいえ、やはりモンスターの攻撃は痛いし、まず私が殺るように首を吹っ飛ばされたりしたらどうしようもないからな。

素早くてー外側からはー脚をー狙われにくいしー個体数もー多いー

意外にも犬と同じように、自分より強い奴には従うようだ。まぁ恐らく本来は幼少期の頃だけだろうが、その間に絆が出来れば成体になってもきっと上手くいくのだろう。

いいなーいいなー余りー関係ーないけどー他にー沢山ーバルファルクーいないかなー?

流星群はやめろ。蛇足もそう言っている。


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衛星軌道第二異砲搭載船(すっごいつよいほうだい)【虫視点】


世界は定期的に歪みました

それにより何かが産まれたり 何かが発生したりしました

人はその危険な現象を神という概念で考えました

「神様、二次元の世界に入りたいです」

それは非現実的

でも一度空いた穴は通りやすいのです

そして何かの範疇を越えた現象は何がどこまで起こるのか分からないのでした



 

……大分酔っている事に慣れた。

酔わなくなる、のではなく酔っているが動ける、という事だ。

 

窓から外を覗く。

 

ハンターとライダーとラヴィエンテは変わらない。

が、神選者は疲れた、もしくは手応えが無くて飽きたのか、ほとんど目立った行動は見られなくなった。

相変わらず船から放たれる砲弾の数は多いが……

 

 

ん、船の揺れと共に靴が転がってきた。

少し気になり、人間の姿になって靴を履く。

 

なんとなく足を滑らせる。

やはり靴はスルスルとすべ――ガツン!

 

しまった、謎の機械を蹴ってしまった。

だが、それはこの摩擦が無くなる靴のせいで私は悪くない。

 

脱いで元の位置に放るのと同時に階段から音が聞こえた。

 

「昼ごはん、昼ごはん〜」

 

そんなイチビッツの乗り気ではない声が聞こえた。

昼食はイチビッツが作るのか。

アトラルになり、バレないように天井の暗い所に隠れ待つ。

 

「ベーコンエッグ〜……」

 

私としては逐一声に出してくれてありがたい。

確かその料理は肉と卵の料理だったはずだ。

 

「はぁぁ……怖いなぁ、早く離れたいなぁ。ラヴィエンテの近くで良くノートがかける……」

 

カチッ、ボッ!

イチビッツがダイヤルを回したら火がついた。

 

「ふんふふーん……えっと肉はー?うん、よしよし……あー胡椒買わなきゃ……ってこれ七味唐辛子やないかーい……」

 

……いや、一人でノリツッコミしながら料理してる時点でお前も大分図太いと思う。

いい匂いが部屋を包む前に抜け出す。

 

 

しかし、本当にやる事が無い。

確かにラヴィエンテは見ていて飽きないが、周りの神選者のせいで目に悪く、長時間の傍観は精神的にくるものがある……

 

いや、神選者は収まってるいるのだから今は関係ないな。

イチビッツを警戒して、空き部屋……ではなく寝てるボルボロスが居る部屋に移動する。そして人間になる。

小窓を開け、ラヴィエンテやハンター、周りの壊滅した森を双眼鏡越しに見渡す。

 

守りたいという生態系は既に崩れたから、放っておいてもいいのでは?

とも思ったが、人間は逃げる事を嫌う上に恐らく村が近くにあるだろうからそれは無いか。

 

 

 

 

……ラヴィエンテとの戦闘を観察する人間は何を重点的に見るのだろう。

個人個人の動きを細かく記載するのは記録としては役に立たない。

しかしラヴィエンテの場合、戦闘時間が長い故の攻撃方法の重複は避けられない。

 

ふと肩に何かが落ちた感触が走る。

蠢いていたのを手の甲に乗せて前方へ持ってくる。

 

 

………

 

 

バシィッン!!

思いっきり壁に叩きつける。

 

それは私の手の甲で黒いシミになる。

 

 

蜘蛛は死ね。

 

 

とりあえず食べ、気を取り直して双眼鏡を覗く。

あの船達は一体どれだけ砲弾を積んでいるのだろう。

 

 

グルルルル……

 

 

……ここが森なら私は死んでいた。

 

肉の焼ける匂い。

先程の微量の食事。

自覚と音の情報。

 

 

私の前を、黒光りする虫が通り過ぎる。つい動きを追ってしまい、壁に貼りついた所まで確認してしまう。

 

 

グルルルル……

 

 

既に口は消化液を出して口内を潤している。

体は元の姿の様に腕を構えている。

気がつくと私はジリジリとすり足で獲物に近づいていた。

 

理性で理解し、本能を助長する事により―――――

 

 

 

 

 

 

「――っ―――居るのですか!?」

 

はっ、と我に返る。

壁を破り、柱に巣食う白い虫を、広げた手に這わせようとしている状態でイチビッツに見つかってしまったのか。

いつの間にか中央の部屋に来ているとか、馬鹿か私は!?警戒しろ!

 

……どうしよう。気絶させるか?

手を離し、イチビッツに背を向けて食べながら打開策を模索する。

 

……どうする?

 

 

 

「答えて下さいよ!」

 

 

 

「……少し、この船が気になっただけ。馬鹿みたいに警戒心が薄くて笑うしかないな。」

 

 

女性らしく……それとも女子らしく!?

とりあえずまずは相手の質問を浅くしないと。

 

イチビッツは船に乗られて怒り狂っているはずだ。

マネルガーの備品を触られていると普通は思考するはずだから尚更だ。

 

さぁ、本当にどうしよう。

 

振り向きながら口を開く。

相手の質問を操作しなければ。

 

 

「色々と見せてもらったけどな。」

「貴女は何故ここに!?」

 

 

ん、こちらの言う事は無視するタイプか。

……待てよ。確か私は一度姿を見られている。

だが、この反応ならやはり私=(アトラル・カ)とはなっていないはずだ。多分。鎌かけてなければ。

 

 

「何故……それは雪山を歩いていたら、面白そうな船があったからだ。」

「やっぱり一度……!何が目的ですか!?」

「教える必要は無いな。」

「い、色々あるんだから、一つぐらい一緒に調べましょうよ!」

「……は?」

 

 

意味が分からない。

それとも、その発言への対応で性格を見ようとしているのか?

 

 

「ほ、ほら!この、そ、装置はモンスターを強く操作する試みで――」

「料理は大丈夫なのか?」

「あ、え、そうですね!はい、そうです!」

 

 

勝手に喋り出したのを止め、注意を促す。

イチビッツは駆け足でキッチンに走っていった。

私を監視するつもりは無いのか……何故?

 

まぁ、都合の良い状況になった。

船から逃げるにはどうしたらいい?

夜なら『落下→元の姿→糸で戻る』が可能だ。今は昼だが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、このスマホの反応は……みんなを避難させなくちゃ!ゲート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

 

 

 

グォングォンと機械音を鳴らしながらソレはエネルギーを溜めていた。

勿論宇宙は真空の為、外部に音は漏れない。

 

『十二段構造完全衛星軌道第二レーザー異次元砲搭載最終決戦船』

 

という名前のこの船は、異世界の人工衛星の様な形ではなく、まるでコマの様な形をしている。

 

 

ちなみに元の名前が長すぎるため、『衛星軌道第二異砲搭載船』や『異砲船』、神選者からは『紛争』と呼ばれていたりする。

 

 

 

段々と射出コアの周りに丸い虹が発生する。

 

 

 

その時、スコープを覗いていた神選者が気づく。

 

 

「あ、マネルガーの船を見つけた。副砲を撃っとくわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、一緒に食べます!?」

 

よし、こうしよう。

イチビッツは混乱状態だから、なんとか説得して夜まで匿ってもらうでいい――――

 

 

 

グシャァァッ

 

 

 

 

私は気づいたら宙を落ちていた。

 

 

理解する前に地面に叩きつけられ、その上に瓦礫が降ってくる。

 

……とりあえず余りどかさないで瓦礫から這い出す。アトラルの姿に戻るのは自殺行為だろう。人間の姿のまま周囲を見る。

 

船の木の部分は燃えていた。しかも場所によっては消失していた。

撃龍槍を確かめる。

中央の一番愛用している槍は無傷、周りを囲む槍は赤熱化して溶けかけていた。

 

 

笛が無事なのは有難いが、一番理解出来ない……

 

恐らくマネルガー達は死んだな。まぁ情報収集があまり出来なかったのだから、死んでもどうでもいいか。

 

 

 

さて。

 

 

見えなくても分かる。

突然の崩壊、消失。なのにその瓦礫から普通に出てきた人間は異常だろう。

 

恐らく私は人間に確保される。その際はどう説明したらいいのだろうか。

 

 

空を見上げる。白い光が見えた。

 

 

……見えたってなん―――

 

 

 

 

 

 

落ちてきた光はラヴィエンテの体の大半を飲み込む。

ラヴィエンテは苦痛に叫び、のたうちまわる。

 

光は十数秒間続き、少しずつ範囲を狭めながら急激に弱まっていく。

 

 

 

 

私は急いで槍を抜いて引きずり、笛を担いで離れる。

明らかに少女が出来ることではないが武器を失う訳にはいかない。

 

光が収まるとラヴィエンテは更に暴れ回る。

そしてラヴィエンテは、焼け溶けた尻尾を残し、叫びながらマグマの中へ潜っていった。

 

 

 

 

……え、あの光、ハンター達を巻き込まなかったか!?

いや、ラヴィエンテに強烈な一撃を叩き込む為の囮ならば役目を果たしただろう。

 

それより半身を無くしたラヴィエンテは一体どうするのだろうか……

 




アトラルと バルのー

『なんて奴だ……シュレイド城ー!』

本当に色々突っ込みたいが、今回はこれ。
紛争(conflict)』という砲台だ。船の別称でもあったな。
どうやら元は何かの映像に映る機械らしい。光線で地上を攻撃する。

空気ー貫通ー莫大ー火力ー

良く分からないが、恒星の光を真空中で集め発射するらしい。
そのレーザー?の威力は高く、副砲で木が散り散りになり、主砲は広範囲かつかなり地下まで影響する。

チャージのー日数ー三日ー

救いとしてはいまバルファルクが行ったように気軽に使える回数は一回という事だ。え、言ってない?
だが、非常時の為にもう一発を残しておくのは当然。
というより元々これはこの世界の……白統虫クイーンランゴスタの様な立ち位置のモンスターを狩る機械だ。

まぁー突っ込めばー壊れるー

じゃあ早く突っ込めよ。


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基本にして頂点の能力(しゅじんこう)


それは紛れもなく、奴さ〜♪(最強とは言ってない)

定番な能力だからこそ使用者の知識と技量が多分試されますよね



ふと窓から外を見たら――

 

一人の少女が瓦礫から這い出していた。

 

 

 

『第31話 救出すべきではなかった少女』

 

 

 

 

俺は驚き、部屋を飛び出して走り、甲板に駆け上がる。

 

「ど、どうしたの!」

 

リナが走りながら問いかけてくる。

 

「……リナ。ちょっとみんなを頼んだ。」

「……分かったわ。」

 

俺はライゼクスの羽を生やし、少女の元へ滑空する。

 

マグマの影響が広がる前に辿り着く。

 

そして、突然目の前に飛んできた俺を見て彼女は言った。

 

「何をする気だ。」

 

その問いに勿論俺は、

 

「君を助けに来た。」

 

と答えた。

 

 

 

 

 

 

 

そう言うと奴は……っ、痛い。ウイルスが反応しているのか。

奴はゴア・マガラの腕に見える物を背中から生やして私の槍と笛を持った。

他者の狂竜ウイルスを見るのは余り良くなさそうだな……

 

「返せ、それは私の――」

 

待て。どうすればいい。

武器と名言するか?……いや、いきなりそれを明かすのは駄目だな。

 

「私の、なんだ?」

「私の……変わった武器を使っていた親の形見なんだ……」

「……は?」

 

笛はまだしも、槍は無理だ……

撃龍槍なのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、お前はアトラル・カだな。撃龍槍についてる糸で分かる。

だが元の世界では、この世界で生まれたオウガやナルガ、レイアが色々あって人間の姿をする物語があったはず……

 

だからきっとお前も……

 

だとするとこの笛はなんだろう――まさか!?

 

 

いや、まずは、少女として保護しないと……

 

「とりあえず捕まって。あの船に飛ぶよ。」

「あ、あぁ。有難い。」

 

 

 

 

 

 

奴に助けられ、しばらくして。

 

「では、体を診させてもらいま――」

「断る。」

「し、しかし……」

「問診だけで十分だと私は聞いたのだが?」

「……容姿と性格が合ってない女子ですね。」

「子供だから馬鹿にするとは、お前も子供っぽいな?」

「……」

 

席を立ち、扉を開ける。

奴は扉の前の椅子に座っていた。

 

「大丈夫?」

「えぇ、何も問題は無い。それは自分自身が一番分かっている。」

「採血はしたの?」

「見ず知らずの人間に体を触れさせる訳がない。」

「なら俺の助けにどうして答えたんだい?」

「必要に応じて触るのは当たり前だろう。」

 

マグマが広がっていて、助かる方法を与えられたら普通すがるものだろう。

それとも私の考え方なら拒否するのが普通だったか?いやそれは自分の状況を理解できない阿呆だろう。

 

採血に反対したのは、血液中のウイルスの存在に気づかれる可能性がある。

それに、触られた時点で背中の結晶に気づかれたらおしまいだからだ。

 

「服が汚れているな……リナ!」

「はい!なんでしょう!」

「この人の服を……あ、名前は?」

 

答えないでいいだろう。

手遅れな気がするが、嘘の物語は作るものではない。

 

「……」

「……名前が無いのか?じゃあ……ルカ、でどう?」

 

……っ。やはり騙せてなかったか。

とりあえず……

 

「う……それで、いい……」

「良かったー。じゃあリナ、ルカの服を洗ってあげて。」

「分かりましたー!こっちだよ!」

 

長身の女性に腕を引っ張られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

アトラ『ル・カ』……単純な名前だけど顔を背けたって事は少しは喜んでくれたのかな?

 

金髪の少女はいいぞ。

さて……

 

『空間』を開いて覗く。

槍は鈍く光を反射する。

 

これを早く返さなきゃいけないけど、周りの人への説明とかどうしよう……

 

 

 

 

 

 

 

 

危なかった。

一室に入れられ、唐突に服を渡してきて、「はい、服を脱いでー」と言われたのには驚いた。

しかも勝手に服を脱がそうとしてきという。

女同士ではあるが、デリカシーの欠けらも無いのかコイツは……

 

 

とにかく背中を見せない様に服を脱いで、渡された服を――

 

「えっ、下着もパンツ穿いてないの!?またはふんどし!」

 

…………つい私の動きが止まっていた。

そうか。人間は下着も着なきゃいけないのか。

 

「……知るか。密着感は強いし、風を感じたり出来なくなるだろ。」

「えっ、そういう……性癖?」

「服を渡されてなんなんだがぶっ飛ばすぞお前。」

「駄目よ!年頃の女の子かそういう言葉や服装は駄目!」

 

グチグチと五月蝿いな。

顔を近づけてきたから、急いで一番生地が厚い服を着る。

 

「……意外とパーカー似合うね!」

 

この余計な布は……帽子の代わりか。首を絞められそうだ。

 

「はい!ズボン!」

「あ、あぁ……いや、それよりお前のような下のがいい。」

「え、スカートがいいの?」

「膝ぐらいの長さで。」

「あ、パンツ穿かなきゃね。」

 

……まぁ、人間ならば穿くのがマナーか。放られた物を穿く。

 

奴は引き出しを探りながら話しかけてきた。

 

「私の名前は、リナっていうの。貴女……いや、ルカと同じであの人に名前をつけてもらったの。」

 

なるほど、アイツは名前という固有名詞で人間を手懐けるのか。

いや、流石にそれは早計で深読みしすぎか……

 

「元々奴隷だったけどー、あの人が助けてくれたの。」

 

金で駒を獲得するのか。だとすると恐らく……他にもアイツの仲間が居る。

 

「あったあった。はいどうぞ!」

「ありがとう……他にも仲間がいるのか?」

「居るよ!後で紹介するよ。」

 

……私がアトラル・カだと気づいた恐れがある人間は今は殺すべきなのに、難しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、そろそろ着替え終わったかな?

道中の自販機でコーラを三本買った。

 

ガチャリと扉を開ける。

 

「あ、終わりましたよ!」

「そうか。うーん……」

 

「お前……ジロジロと何を見ようとしている。」

 

フード、金髪、睨みつける上目遣い……うーんっ!

 

「最っ高にハイって奴だぁぁ!触らせ――」

「触るな!!」

 

全力のグーパンをされ、扉まで戻された。

 

「……傷つけたっ!?貴女っ!」

「自衛の何が悪い。」

「このっ!」

 

リナが立てかけていた刀に手を伸ばす。

 

「やめろ、リナ!」

「ふんっ!」

 

危ない!

間に入り込み、キリンの硬さを纏った腕で刀を弾く。

そのまま押し倒す。

 

「落ち着け!大丈夫、今のは俺が悪いから!」

「で、でも……」

 

「そのまま斬りかかってきたら私はお前の指を折る所だったぞ。」

「……っ!」

 

ただの嫌味にしか聞こえない言葉。

しかし、ルカは座った体勢から少しも動いていないのは事実だった。

一体彼女は……アトラル・カはどういう生き方をしてきたのだろう。

 

 

俺は――

 

「ルカ、少し話し合おう。」

「……従うしかないか。」

「リナ、少し離れていてくれ。」

「分かった……」

 

説得する事に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

撃龍槍と笛さえ手元に戻ればいいのだがな……

 

「ルカ、君はアトラル・カなんだろう?」

 

……やはり気づいていたか。

 

「それも残奏姫、なんだよね?」

 

槍と笛があるなら普通はそう繋がるだろう。

 

「だったらどうする?ここで殺すか?今なら簡単に殺せるぞ。なにせ笛と槍はお前に何処かにしまわれたからな。」

「……君は、誰の船に乗っていたんだ?」

「マネルガーの船だが。」

「えっ、いいか!マネルガーはモンスターを操作、使役する悪い存在だ!」

「……」

「だから、君もきっと洗脳されている!俺と一緒に……人間として生きれる様に頑張ろうよ!!」

「……」

 

なんだこいつ。気持ち悪い。

モンスターを操作する事は私も賛同していたから尚更気分を害する。

というか本人に許可を得る前に名前をつける時点でおかしい。

明らかに弱みに漬け込もうとしているだろう。

 

だが。

一々反抗するのも面倒くさい……適当に感動路線へ持っていこう。

 

「くっ、私は……私は……っ!」

「……!」

 

「私はっ、モンスターなんだ!人間になれるだけで、普通のアトラル・カと大差無いんだ!いいか!(ネセト)の為なら殺す!(ネセト)の為なら壊す!私は人間にはなれない!」

 

「なら!俺がお前の巣を与える!捕獲されたモンスターみたいな扱いは絶対にしない!いいか、ルカ!君は普通のモンスターとは違って頭がいい!理性がある!それなら平和に生きれる様になる!」

 

あぁぁ、むしゃくしゃする。

今すぐにでもコイツの首を跳ね飛ばしたい。

大体ネセトはただの巣じゃない、安心して生きる為の武器でもある。

種族的な考え方の違いなんてお前の頭でも察する事ぐらいは出来るだろうが……

 

「でも……でも……」

「大丈夫。俺からみんなにルカの元の姿は言わない。武器も返す。」

 

……馬鹿かコイツ。脅迫の手段を自ら無くすのか。

とりあえず最後まで話を進めてさっさと逃げよう。

 

「だから、手を握ってくれ。」

「はい……!?」

 

いきなり腕に光が走る。

 

な……っ!?

 

「ルカ、君は今から俺の家族だ。【分配・印(マーキング)】!」

 

はい……!(……あ!?)

 

 

マーキング(群れの一人、配下・下僕)!?

ぶち殺す……絶対に殺す!!

誰がお前の所有物だっ、生き地獄とかそれこそマネルガーよりタチ悪いだろうが!!

斬殺、絞殺、毒殺……本気でコイツを殺す方法を組み立てなくては!

私を怒らせたな……っ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

……顔が赤いけど、どうしたんだろう?

まさか俺に気があるとか?それとも怒りかな?

でも、大丈夫。

ルカ、君も幸せにするよ――

 

 

吸収(インティサス)】の名において。

 




謎の場所 書類


「 ───────」

・年齢不明
・性別 男
・性格 快諾派 よく疑う
・能力 『吸収』『分配』『発展?』

・この神選者は将来性が高く、既存の神選者達を大きく越すと思われています

・更新日時『───────』

・狩猟記録 『三大古龍・極み散すラージャン・第二回アトラル討伐数パーティー部門MVP』

・現在ラヴィエンテと交戦中

・予測影響元 スライム系統


・推奨 早期の『処分』



『……はい。分かりました。では遭難に見せかけてからP施設で圧殺します。』


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反撃の咆哮


ファーワァーーーーデデーン


ボッボッボッボボワーボッ


※後書きが長いです



私が手を上げると、私が手を上げる。

私がその冷たい表面に手を当てると、同じく手を当ててくる。

 

鏡という物を初めてまじまじと見た。

勿論、今までに見た事はあるが、こうやって正面から見る事は――

 

「ネコミミッ!!」

「あ゛あっ!?」

 

くそっ、今すぐにでもこの女を切り飛ばしたい。

しかし、その事についての最悪な事実を発見した――

 

 

 

 

「終わったのね?」

「あぁ。」

「……五月蝿い。」

「互いに信用しないとアレはデキナイノヨー」

「黙れっ!……えっ!?」

 

煽ってきた奴を殴ろうとした拳が止まる。

 

「この印を持つ者同士は、俺の解除が無い限り殴れない様になってるんだよ。お前も煽らない。分かったらやめな。」

「はぁーい。」

 

なんだそれは!?

余りにも理不尽な現実を確かめる為に神選者に殴りかかると腕を打ち込めなかった。

つまり斬殺は恐らく不可能。もしかしたら絞殺も難しい。

 

 

 

最悪だ……少しは考えていたが、予想を遥かに上回った害悪な奴だ……

 

 

 

 

とりあえず謎のつけ耳を投げ捨てる。

全力で壁に叩きつける。

踏み潰そうかと思ったが節度は持たないと、と思い直す。

 

「イヌミ」

「ふざけるな!」

 

遊ばれる前に頭を咄嗟にガードする。

くっそ、地獄だ。……さっさとコイツ等を排除したい……

 

 

 

『アトラル、薬を薬以外で表現してくださいな!』

『……?』

『それは――――――』

 

 

唐突に彼の長ったらしいが、為になる講義が流れる。

 

何故、今私は彼の言葉を思い出した?

 

 

……あぁなるほど。都合のいい頭をしているな。

 

この船は医療船らしい。

 

 

「あ、どこ行くの?」

「散歩ぐらいさせろ。」

「全く……しょうがない子ね。ついて――」

「来るな!……一人にしてくれ……」

「リナ、大丈夫。気分の整理は大事だから。」

 

 

しばらく歩くと、下の階へ続く階段があった。

とりあえず下層まで降りてみよう。

 

 

……嫌な雰囲気だ。だが、それがいい。

ウイルスの熱源に対する反応は余り無い。いわば病室、もしくは死体室か。いや、死体室じゃないな……なんだっけ……まぁいいか。

 

 

更に下に降りる。

 

とある扉に熱源があった。6人か。

出来るだけ足音をたてずに近づいている最中に蛍光灯を反射する壁を見て気づく。

 

私の目が紫色に少し光っていたのだ。

おそらく私の興奮に目が反応しているのだろう。

 

まぁ、図鑑にある私達ほど強い光ではないが。

そうでなくては、私はあの女に気づかれていたし、ありがたい。

 

 

気分を落ち着けてから扉を開く。

 

 

「今更おせぇんだよ!あぁ!?誰がお前らに渡してると思ってるんだ!!」

 

 

当たりだ。

鏡に映しても分からないだろう、私の歓喜には。

 

 

『私、廃人になります。』

 

 

この文、中々インパクトあるな。

まずは挑発して機会を伺おう。

 

「あー、あ、あ、アンタら、だろー?ほら、金だよ!出してくれよぉおっちゃぁん?」

「ゴミじゃねぇか!子供の癖に何様だゴミが!」

「あー!金が、アタシの金がー!ふざけ、るな!」

「馬鹿が!床に這い蹲れ!」

「えー、から、だー?」

「ふんっ!」

 

ドゴッと拳が私の頭を直撃する。勿論演技で倒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

っ、何か嫌な予感がする。

なんだろう?この胸のイガイガは……

いや、まずは先に行動だ。

 

「リナは待機してて。俺が様子を見てくるよ。」

「あ、はい……気をつけて行ってらっしゃい。」

 

 

 

しかし何処を走ってもルカは見つからなかった。

道行く人に質問する。

 

「金髪のフードを被った少女を見ませんでしたか!?」

 

「こっちには来てないですー」

「あぁ、こっちは足音さえしなかったよ」

「うーん、こっちじゃ見てないな。」

 

マーキングは、刻んだ仲間の位置が分かる様になるのだが、大体の縦座標しか分からないという欠点がある。誤差100mクラスで。

 

もしかして、地下に行ったのか!?

いや、あの警戒心なら……マイナス思考ならいくかもしれないか。

くそっ、何処だ、何処なんだ!?

 

階段を降りると誰かが叫ぶ声と何かがぶつかる音がした。

 

「…ラッ……オ……」

ガツン……

 

 

急いで走り、音がした扉を開けるとそこには。

 

「オラッ!オラァッ!」

「ヴッ、グッ、」

 

俺に気づいたメガネが叫ぶ

 

「おい、誰だお前は!」

 

さっきまでツンデレ(※神選者視点)だったルカが馬乗りで殴られ、力なく横たわる凄惨的な現場だった。

周りには5人の人間が居た。

 

当たり前だが怒りが湧き上がる。

 

「お前らぁっ……!」

 

「おっ?やる気か?」

「はんっ!ぶっ殺す!」

 

 

ブォン!

ドゴォッ!

 

 

「……荒鉤爪の腕だ。」

 

一振で全員を倒した俺はルカに駆け寄る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルカ!ルカ!大丈夫かっ!?」

「……うっ。」

 

……ククク、多分これがロマンチック?

まだ仲がいいとはいえない人間が、暴漢に襲われている所を救う。

そして二人の仲は急接近!

……いい物語じゃないか。

彼がやってくるとは想定に入れていなかったが、悪いことではない。

 

だが、それを通すとすると、新たな問題としてほぼ体が痛んでないという事実が出てくる。

ティガレックスに頭を引き裂かれた時と比べたら楽だから。

 

そして先程、毒を飲まされたがまぁあのイビルジョーの様な気絶する様な痛みではないから大丈夫だろう。

 

「大丈夫なのか!?」

「あ、あぁ、大丈夫。この毒薬を飲まされたがな……カフッ。」

「そんな……ってこれ、薬を混ぜ合わせているし絶対死ぬよ!?」

 

そんな劇毒だったのか。

そういえばコイツの名前はなんだろうか……神選者って中々名乗らないな。

 

「【吸収】!!」

 

体が引っ張られる感覚が走る。

 

「うわっ、これ……やっぱりルカはモンスターだね。」

「……なんか気に触るな……っ!?」

 

うわっ。なんだこの持ち方……あ、お姫様抱っこか。私にふさわしいな。

自然と笑顔がこぼれる。

恐らくここは安心するタイミングだろう。

 

「あ、ありがとう……そういえば、お前の名前はなんだ?」

「……俺の名はナナツだ。」

「……そうか……ナナツ、か……」

 

首の力を抜く。

 

「しばらくお休み。ルカ。」

 

……やりきった、やりきったぞ。

廃人から傾国の少女になりました、とでも言いたい気分だ。

しかも色々出来た。

後は、ゆったりとラヴィエンテが死んだ後の事を考え―――

 

 

 

 

 

 

『三本』の極大ビームがそれぞれの船を穿つ。

透明だったはずの船も撃たれる。

 

「グォォォォアァァァァァッ!!」

 

同時にラヴィエンテが叫びながら地中から這い出してくる。

尻尾は完全に治り、傷もほぼ完治している。

 

大きく体を天に伸ばし、地を揺らしながら再び島を覆う。

 

その光景は、モンスターのみならず、人間を十分に絶望させる事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

痛たたた!

階段を転げ落ちた。オルタロスなら死んでたぞ……

 

「一体なんだ?」

「ルカ、大丈夫か!?……っ!」

 

窓を見て奴は固まった。いや、まず私を助けろよ。

とりあえずそばに行き、外の景色を確認する。

 

 

……は?

 

 

「「「クォキィェァアァアァアァア!!!」」」

 

 

オストガロアが……3匹!?

 

ラヴィエンテは何故食わない……と思った時に、ラヴィエンテは牙を吐き出した。

 

「何の牙だ?」

「恐らくナバルデウスだと思う。っ、まさかラヴィエンテに餌を……?」

「共生か……って!!」

 

オストガロア達が再びエネルギーを貯めていた。しかも三匹とも明らかにこの船を狙っている!

 

「私の笛と束ねた撃龍槍の中央の奴を出せ、ナナツ!」

「え!?あ、あぁ!」

「私は大丈夫だから!早くアイツを向かいにいけ!」

「いや、置いていく訳には―――」

「私はモンスターだろうがぁっ!」

「わ、分かった。」

 

……彼は足に電気を纏い、走っていった。

とりあえず私は一人で行動出来る。

 

まずは窓を叩き割る。

 

そして飛び出し、元の姿に戻り糸を放って壁に着地する。

 

小さい窓から槍を引っ張り出している途中でビームが放たれ、船が大きく揺れる。

登るか?いや、墜落するだろうから飛び降りよう。

 

槍を引っ張り出し、担ぐ。糸を三本、壁につけて飛び降りる。

 

ウイルスが反応する。なんと爆発が始まったようだ。

 

他にも飛び降りていたり、モンスターに乗って脱出してる人間も居た。

まぁ、人間が素で飛び降りたら死ぬけどな。

 

 

それにしても落下する感覚は中々気持ちいい物だ。

 

 

よいしょ。先に落ちた撃龍槍の横に着地する。流石に撃龍槍を背負ったままだと潰れるからな。

 

瓦礫が降る前に糸を遠くの地面に貼り、大きく吹っ飛んでから笛で地面を掘り、槍を引っ張り寄せて刺し、糸をネセトの時の繭の様にしてテントを作る。

 

強度を確かめたら人間の姿になり、横になる。

 

ウイルスで外の様子が大体分かる為、無理に外に出る為の扉も要らない。

このまましばらく待とう。

 

 

 

 

 

 

オストガロアのビームは左右と下に向かって動く。

もちろん一番強度が低いと思われていたこの船が耐えるはずもなく、爆発、崩壊していく。

そのままビームは薙ぎ払われ、周りの飛行船も次々と撃墜されていく。

 

 

 

ラヴィエンテは潜り、火山の方へ移動する。

 

 

 

 

戦況は大きく変わった為、再び異砲船は定番となった緊急チャージを。

 

 

そして陸からも完成した援軍が送られてくる。

 

 

 

 

 

 

 

そして。

 

 

「シャァァァァァァッ!!」

 

 

まだ海上に黒い粉末を残しながら近づく存在に気づいた生物は、一匹も居なかった。

 

 






『設定:奈落の愛情』


アトラルと。

バルタン星人のー


「トライフォース シュレイド城ー!」

ふぉーふぉーふぉー

何やってんだお前……今回はこの方。
極の登場が決まりました『獰猛化巨大ラヴィエンテ』だ。
……いやこれ、『ルーツのお部屋』でやった方が良くないか?

テレポー。ラヴィさんー頭にーオストさんーついてーますよー

「あ、大丈夫大丈夫。頭に乗っけてると落ち着けるから乗せてるだけ(ペチペチ」

極をーラヴィさんはーどうー思いますー?

「うーん、新しい技を沢山追加してほしいけど、周回前提だから回避困難とかはやめて欲しいかな。なんたってエンドコンテンツなんだから、『余り面白くないが暇ならやっとけ』みたいに敷居が低い方がいいからね。」

なるほどー

まぁ妥当だな。
嫌われる事は駄目だ、と寝ながら言ってる奴もいる。

ではーオストさんー何をー思ってますー?

「ダメー!
この子は私のー!(ペチペチ)
私が責任持って育ててるのー!
だから、傷つけちゃダメー!(ペチペチ)」

ハンターどうー思いますー?

「早く消えろー!
尻尾を溶かされてこの子本当に痛がってたのー!
私達は悪い事してないのにー!(ペチペチ)」

なるほどー、ラヴィさんー今回ー何故ー食い荒らしたかー教えてーくださいー

「あー、まず自分は定期的に活動状態になるんだけどな?
その時にこいつらが食料を持ってきてくれるんだよ。」

「そうそうー!その代わりに私達は血を貰ってるのー!
すっごい栄養価が高いからね、私達は強くなってね、陸とかも進めるようになったんだよー!
でも、それ以前に食欲旺盛な私達が余り食べる必要が無くなったんだよー。」

「自分は『一回で大量、長期睡眠』っていうサイクルだったんだが、
こいつらのお陰で『睡眠時間若干の減少=一度の必要食料の減少』『実質的な捕食範囲の超拡大=環境への影響の減少』が起きたんだ。」

つまりー大規模なーモンスター減少がー無くなったとー

なら、何故今回は地上に出てきたんだ?

「……」
「ハンターが悪い!ハンターが悪いのー!(ペチペチ)」
「あぁ。自分は言語で理解はしないが、そこまで馬鹿ではない。
それにこいつらは龍で、三つ子だ。
相互に影響して、話す事は出来ないが頭はいいぞ。
だが、本能は処理しないと理性を凌駕する。
分かるか?自分の場合、食欲と睡眠欲、運動欲だ。」

「私達は、えーと……」

「食欲、睡眠欲、縄張りだな。」

「そうそう!」

「……分かるな?」

あぁ。なるほど、モンスターが足りなかったのか。
だからわざわざ氷海にまでウカムルバスを捕まえに来たのか。

「ハンターが、ライダーが、神選者が……モンスターを狩りすぎなんだよ。
イビルジョーだって本来はもっとモンスターが居たから『満腹時に発情』で成り立ってたんだ。


それで活動期に自分は入った。
こいつらは頭が良いからな、デカいモンスターとモンスターが多い所から少しずつ狩ってこようとしたんだ……だがな。

ハンターが『環境を整えるために』
ライダーが『卵を奪って使える奴のみ生かす』
神選者が『巨大で脅威になるモンスターを狩る』

……足りなかったんだ。
自分は本来、島ごと食らって、なんならオストを食らって、そして寝ようという本能がある。
それを抑えるには満腹……とまではいかないがかなりの食事が必要だ。
自分を守る為に、オストを守る為に、ついでに環境を守る為にオストがくれる食料で我慢してたんだがな……」

……大変ーだったねー

「ラヴィ……(ナデナデ)」

「だから……許さない。知らなかった、なんて言い訳は聞かない。それに……」

「グズッ……キシャァァ……(ナデナデ)」

「そのうちこいつらが殺されるかもしれないんだ。絶対に……絶対に阻止する!!」

「やめようよ……何処かに、逃げよう……縄張りなんて、何処でも作れるからぁ……っ!」

「……ごめんな。馬鹿な自分を許してくれ。お前らの縄張りを、守らせてくれ……」

ラヴィエンテがオストガロアを降ろし、ペロリと舐める。
私には……鬱陶しく、しかし羨ましく見えた。


【もしラヴィエンテが暴走したら責任取るのか!?】
【大体自分が危険だって分かってるなら何処かに行けばいいのよ!】
【古代林の平和は俺達が取り戻す!】
【人間を襲う竜や龍を狩って何が悪い!?】


「………すまないな。暴走して。ハンター達を呼んでしまった自分を許してくれ……」

「…………グズッ……私達も、頑張るよ。家族の困難は、みんなで乗り越えるものだからね!」

「すまない、本当にすまない……」


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『人間達』 30p 『竜&龍』 30p


バゼルギウス
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(という名の廃棄処分と金策)



外で爆音がした。恐らく船が落ちたのだろう。

まぁ、私は繭の中でじっとしていればいいのだけどな。

 

 

モンスターと人間の叫ぶ声が聞こえる。

医療船という事は回復薬で治らない深刻な傷だ、大体の患者は長くはもたないだろう。

 

 

しばらくすると、沢山の熱源が来るのを感じた。

 

 

「おーい、ルカだろー?」

 

 

奴の声だ。私がフードを被っている事を確かめ、笛で槍を叩いてテントを倒す。

 

「みんなに紹介するよ。彼女はルカ、ア……クシュンッ!槍と笛を特別に渡される程の強者だよ。」

「……よろしく。」

 

今、絶対にアトラル・カと言いそうになったな。

後日仲間に刃が振り下ろされたく無ければ言わない事だ……伝えてないが。

 

「みんな自己紹介よろしく。」

 

「ナタミ……力が主。」

「リナです、みんなのお世話役でーす!」

「サクラである。刀を武器にしている。」

「シャーリですっ!機械をいじるのが好きです!」

 

四人が軽く自己紹介してくる。

 

なんでこいつ女しかパーティに入れてないのだろうか。

流石に引くな、男の方が力を出せる体の構造をしているのに……

 

「ナナツ。武器のメンテナンスはどうしている?」

「吸収して放出すれば新品になるよ。」

 

なんだそれは……今更か。

 

「ここからどうするの?」

「まずは余り戦えないリナとシャーリを空間に入れる。後は固まって行動してオストガロアを倒す。」

「了解した。」

「分かった……」

 

え、こいつら逃げるという思考は無いのか。

明らかに連携した動きをする三匹の古龍だぞ。

ラヴィエンテの事もあるし勝ち目は無いぞ?

 

 

ふと思ったが、三匹の古龍……

カム・オルガロンが返り討ちにあいそうだな。

 

どうでもいい。

 

 

奴が何気なく近づいて、耳打ちしてきた。

 

 

「ルカは元の姿には戻らないでね。」

「分かってる。」

 

 

そりゃそうだろう。何のために不便な人間の姿をしているか察しろ。

呆れていると、奴はドラギュロスの様な尻尾を生やした。

 

「よし、掴まって!飛ぶよ!」

 

……え?

 

 

 

 

風が頬を撫でる。

 

私は別に大丈夫なのだが、二人は腕が痛まないのだろうか。

時折走る赤黒い稲妻は私には効かないが、人体を破壊するぐらいの威力はありそうなのだが……

 

「おい、腕は大丈夫なのか?」

「仲間は攻撃できませんからね!」

 

……うん、もう何も言うまい。

 

 

 

さて、劣勢にたたされた神選者達が荒ぶっている所の近くまで来た。

手前のオストガロアはブラキとウラガンキンの骨を纏っている。

 

「おい【吸収】!オストガロアの動きは止められないのか!」

「待ってて、今考える。【電磁】の力を溜めていてくれ!……って!?皆、俺の後ろに下がれ!」

 

オストガロアはブラキから粘菌塊を中に浮かしてガンキンで殴り散らす。

 

私は全て笛で受け止め、粘菌が降り終わったら放り投げる。

周りの人間も盾で受け止めたり出来るだけ回避している。

 

笛が爆発する。

 

「「ぎゃぁぁぁあ!?」」

 

残念ながら運がいい奴以外はほんの少しの粘菌で大ダメージを負っただろう。

 

粘菌を手で払おうとすれば手が弾ける。

盾で防げば不意の爆発がどのように力をかけてくるか分からない。

 

増殖してから爆発、これほどまでの攻撃性を越える生物は居るだろうか。

いや、いない。(私の記憶の中には、だが。)

 

「キシャァァァァ!!」

 

今度は粘菌塊がそのまま投げられてくる。まぁ……

 

「吸収っ!!」

 

粘菌塊が消える。助けてくれるまでは想定通りだ。直撃しても私なら死にはしないだろう。

奴が私に何か叫んでいるが、とりあえず笛を取りにいく。

そういえば吸収で敵の半身を取ってしまえば死ぬのでは?……謎の制限でもあるのだろう。

 

「―――ォォォォン」

 

遠くでラヴィエンテが鳴くのと同時にオストガロアが三匹とも地中に潜る。

そして大地が震えると共に……火山が噴火する。ラヴィエンテが岩を飛ばしてきたか。

 

「ルカ、早く!」

「分かった。」

 

奴のそばに走り寄る。

 

そして少し後ろに後ずさる。

 

火山による地震と違う揺れを感じた次の瞬間。

青い光が走ってから粘液が噴水の様に放出され、奴らを打ち上げる。

空中の奴らを見ると、粘着性が高いのかお互いにくっついているようだ。

 

「ルカッ!?」

「いや相手が地中に潜ったんだ。それぐらいは予測できるだろう。」

 

私は笛を振りながら言った。

ディアブロスやハプルボッカの縄張りに居たんだ、地中に潜る奴の脅威は身に染みている。

 

吹いて、再び振って、また吹く。

火山岩が降り出す前に間に合った。

 

「ディオレックスの頭!」

 

奴の頭が青い光に包まれ、ビームを放ちながら何処かに吹き飛んでいった。

岩を壊す予定の威力を、自分が踏ん張れない状況でやったらそうなるだろうが……

 

私は避ける。火山弾が不規則に跳ねながら向かってくるがそこまで大量ではないのだから焦る必要はない。

それにしてもラヴィエンテはよく狙ってこっちに火山弾を吹き飛ばす事が出来るな。

 

 

火山弾が終わると、再びオストガロアが顔を出す。

では、私は戦線を離脱しようかな。周りの人間はオストガロアに夢中だし大丈夫だろう。

 

 

 

「援軍だー!!」

 

 

 

誰かが叫ぶ声が聞こえた。

周りを見渡すが、別に変わった奴は……皆、空を見ていた。

私も見上げる。

 

 

大量の赤と黒が混じった飛行生物が飛んで――

 

「円環の蛇隊列!」

「「ォォォォォァッ!!」」

 

……何か落ちてくる?

オストガロアの触腕の攻撃範囲内に入らないようにしながら観察する。

 

 

ボトボトボトボト!

 

 

私達の周りに落ちてきたそれは明らかに危険な匂いを出していた。離れる――

 

 

ドガガガ、バァンッ!!

 

赤い物体の爆発によって黒い物体も赤くなり、連鎖的に爆発が広がる。

黒も赤も大量に振り続ける為、爆発が途切れない。

 

まぁ頭上に落ちてくる物は笛で弾けばいいのだが。

 

「ワールドツアー隊列!俺に続け!」

 

そして飛行生物は横三匹の隊列で飛び始める。

 

 

「キッキシィ……シャッ!!」

 

 

怒ったオストガロアは触腕を換装し、ガンキンの頭にブラキの粘菌をべっとり塗りつけてビームで打ち上げた。

 

大爆発と共に数匹と数人が落下、すかさずオストガロアは近づいて片方の腕を潜らせながらブラキ触腕でグシャグシャに叩き潰す。

ガードしようにも爆発する為、乗っていたライダーでは対応出来ないようだ。

 

他の飛行生物が立ち上がるが、オストガロアは潜らせていた腕にハサミを……ゲネル・セルタスの色違い、亜種か。

それで飛行生物を掴み、触腕を切ろうとする敵を吹き飛ばし、続けて他の飛行生物に叩きつける。

 

「音爆弾!!」

 

キィィィンと音が響くが、全く効いていない。怒りなのだろう。

そしてそれを投げたライダーに飛行生物を投げ返した。

 

「ぐわぁぁっ!」

 

投げつけた衝撃か、飛行生物の爆発物が大きな火柱を作る。

 

そしてまたボトボトと空から爆発物が降ってくる。

 

手前のオストガロアは潜る。

つまり向こう側のオストガロアが―――

 

 

バシィッ!!

コォォォォォォ――

 

 

とてつもない雷の音の後に、強い風の音がする。

音がする方を見るとラヴィエンテが何かをしていた。

 

「うわぁぁあ!またあれだぁぁぁ!」

 

そしてラヴィエンテが口を開くと―――

 

 

 

飛行生物の半数は消えていた。

 

 

 

どうやらとてつもない衝撃波が放たれた様だ。空に向かって撃っていたようだからそれが私達を襲うことは無かったのだろう。

 

 

 

続いて空から細長い何かが降ってきていた。

 

 

 

「ルカっ!」

 

後ろから声をかけられる。

奴が飛んで戻ってきた様だ。

 

「なんだ?」

「下がれ!衝撃を吸収!!」

 

変な形をしたそれは、今まさに顔を出そうとしたオストガロアの居る地面に当たる。

 

 

ドッ――――

 

 

 

「キシャァッキュィァァァ!」

 

 

「まさか、弾道ミサイルを使うなんて……いや、本来の使い道か。」

「……なんだそれは。」

 

人間側もやはりおかしいな……流石にあの大爆発はオストガロアにも効いたようだ。

背中に纏う骨がボロボロになって出てくる。

 

 

『無駄な努力はやめたまえ!波動砲、発射!』

 

空を鉄の塊が飛ぶ。

飛行生物と同じ様に爆弾を撒く。

 

私達がオストガロアに近づけないがまぁいいか……

 

触腕からビームを放ち、飛行機械を撃墜していたオストガロアを次は青い光が飲み込む。

 

そのまま紅蓮の大爆発を起こす。

 

 

 

 

一体ここはなんなんだ?やはり異世界か……というよりミラボレアス紅に助けてもらった時から既に異世界に来たのでは――

 

「駆逐してやるぅっ!」

 

あ、馬鹿だ。

なら大丈夫だな。気持ちが安定する。

 

「まずは手前のオストガロアだ!行くぞ!」

「「了解!」」

 

いや了解じゃないよ。

どう立ち回るか、相手の注意を誰が引くかの大まかな作戦を……

 

「ラージャンパンチ!!」

 

バァンッ!!

 

奴は普通に殴る。骨の破片が飛び散る。

 

その時に合った攻撃方法を考えてるならそれは無自覚脳筋だ……環境を見ろ。

確かにお前の機動力ならオストガロアの触腕を避けられるだろう。

だがそんなに派手な音や光を出したら……

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

やはり奴は赤いビームに吹き飛ばされる。

 

他のオストガロアまで攻撃してくるだろうが……

さて私は地道に笛で骨を剥がそう。すぐ纏うだろうが攻撃させにくくすればいい。

 

 

 

 

 

 

 

大量の飛行生物と飛行機械が空を覆い、墜落した船の炎と煙が天を焦がす。

轟々と音を建てながら異世界の想像物は排除対象にその艦砲や鳥雷を向ける。

 

 

 

大きくその怪物達は叫ぶ。

一瞬にして大量の命を奪い、今なお命を食い消そうとしている。

紅の稲妻と赤黒い煙が自分達を圧倒する。

 

 

 

 

 

 

……そういえば私は全く古龍に臆してないな。足が全く震えていない。

恐らくウイルスのお陰か……恐怖という本能を破壊されたのはありがたいのか、危険なのか。

 

 

そして大体のライダーは逃げてしまったか、モンスターに依存している以上しょうがないか。

 




その頃……

ヘビィボウガン
「ひゃっほう!ライゼクスの羽で広範囲に雷を流すとは恐れ入ったぜ!」
「羽の付け根に撃て!」「ピィィィィッ!!」

中二病
「ぜぇ……流石に眠い……『暗黒変化・neutron star』!!」
「さ、猿夢は駄目……睡眠不足解消の伝説は知らない!」

記録者
「なんなのだこれは!?どうすればいいのだ!?」
「見るのではありません、感じるのですよ……」



弾道ミサイルの威力は直撃で大樽G3が20個分(9000)です、環境に考慮して核弾頭ではありません。


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運命をねじ伏せる生物


チョイ役の実力がついに明かされる……



さて、と。空から落ちてくる爆弾が無くなった。

 

身体強化を二段階した状態で笛を担いで走る。

結局ここに居るなら逃げるのが一番おかしい行動なのだろうな……

 

勢いのまま一撃をハサミ触腕に食らわせる。

 

だが、表面の骨が折れ、グニャリと吹き飛ぶだけで全く痛くないようだ。

私にはグニャグニャな部位が無いから分からないけどな。

 

オストガロアはハサミで掴みかかってくるが、触腕に跳び、掴む事で回避する。

 

オストガロアは触腕を伸ばしながら震わせた。

振り下ろされ始めた直後に笛で骨を殴り、自分を飛ばして回避する。

 

着地で土を削りながらオストガロアを観察し続ける。

 

なるほど、人間の姿だと体が小さいから余り離れなくていいのか。

チラリと片方を見ると、アイツらも頑張ってはいるが、まぁ私と比べるのは酷いからやめておこう。

 

オストガロアは体を動かし、離れながらハサミ触腕を潜らせる。

ブラキ触腕で粘菌を地に敷きながら離れた為、爆発するまで待機だ。

笛を振って自己強化の旋律を吹いておこう。

 

「電磁砲っ!」

 

ずっと離れていた神選者の雷がオストガロアの頭に飛んでいく。しかし見事に弾かれ、地に放電していった。

 

「くっ!やはり属性も効かないか!」

 

なるほど。謎のモヤを出せる状態だと頭部は狙えないのか。

 

粘菌が爆発し、土埃でオストガロアが見えなくなる。

だが、私には触腕を含めたオストガロアの全体像が見えている。

変温動物だとは思うが、流石にあの運動には体温が上がっているようで位置が分かりやすい。

 

 

ガキィン!!

 

 

伸びてきた触腕を弾く……ってなんだその槍みたいなのは!?

そのまま薙ぎ払われたのを回避、土煙が収まってきた時に青い液体が見えたためそのまま粘液も回避。

 

バシィッ!!

 

「その翼は……バルファルク!?ってぐわぁぁぁっ!」

 

危ない危ない。

ラヴィエンテのブレスの速度はとてつもないな、やはりこいつらの前では死なない事で精一杯だ。

 

オストガロアは触腕を潜らせる。

その間、バル触腕がとてつもない速度で振り回される。

どうやら翼の穴から自らのビームを出して加速している様だ。

 

笛で受け流しながら近づこうとするが力の関係上、一々押し戻されて中々進めない。

触腕の動き方が変わるのは怖いな……それだけ知能がある訳だから。

 

そうこうしているうちに潜らせていた触腕の骨に、結晶を纏わせた物を置いてから潜っていった。

 

その結晶は私の背丈を優に超える。

警戒しながら後ずさるか。

 

「あっ、ルカ!逃げて!」

 

一体結晶が何だ―――

 

バキィンッ!

 

 

ぐっ、体全体が切り刻まれる。

他の二箇所からも同じ様に反射された光が見えるから他の場所でも同じ事が起きているのか。

そうか、確か爆発する水晶を出すモンスターもいたな。

 

腕はちぎれてないため、笛を振って即効性の回復旋律を吹く。

 

 

 

見える範囲に敵は居なかった。

 

 

違和感が……なるほど。

全力で走る。

 

 

バシィッ!!

 

「ウォォォォォォォオオン!!」

 

ドッ、ガガガガガガッ!!

 

 

回避ぃぃっ!!

 

 

突然顔を出したラヴィエンテが、大地ごと捕食行為をしながら横切っていく。

 

『さぁひれ伏したま―――』

 

バシィッ!!

「ギュゥァァァアアア!!」

 

移動しながらブレスをはき、飛行機械と船を交互に計6発攻撃する。

飛行機械は霧散し、船は行動をキャンセルして防御した様だ。

 

 

 

 

 

 

「指揮、やはりここは私が出ましょう。」

「お兄様……」

「そっちはサイオンかな。僕はトリオンの準備が終わったよ。」

「はい……分かりました。ありがとうございます。」

「ちぇ、無視するなよ。」

 

魔法、物体を原子に変える者。

相手の体を侵食し、穿つ者。

 

神選者の中でも上位に入る者が戦場へと飛び降りる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

流石に彼女はキレた。

全ての生物を受け入れる彼女だが……

 

 

皆さんは自分が棚に入れた物を、他人が勝手に放り出されたら怒るはず。

表面はどうとでもなるが、内心は嫌がるのが普通だろう。

 

 

突然の事に不安な神選者を助けるのは彼女だ。

何故なら被害者だから。

 

しかし同時に神選者を受け入れないのが彼女であった。

世界を荒らして楽しんでいる様だから。

 

 

「……いい加減にしろ。」

 

 

ただでさえ我が子を三日もいじめ続けたのに更に戦力の投下。

最初から全力なら我が子は一時の絶望で終わったのに、『切り札は最後に』という絶望をわざと与えるような行為に怒る。

 

勿論、追い詰められたから力の解放をするという事は自分もやる予定だが。

 

 

スマホから離した手に一瞬雷が走る。

 

 

ズガァッ!!!!!

 

 

世界に亀裂が走る。

直るために空間が歪み、そして元に戻る。

 

「……あっ。補足したようね、加速したわ。ウフフ……

 

殺して殺れ。」

 

まるで蚊を殺す時の様な嫌悪が混じった声で言い放つ。

 

 

彼女は確認した後に微笑み、再びイベント周回に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……?ここは……」

「あ……お兄様?」

「確かに潜水艦から飛び降りたはずだけど……」

 

彼らを含めたそろそろ戦おうとした者は、出発する前の街に戻されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事とは関係ないアトラルは、オストガロアの突進を避ける。

 

 

オストガロアは火を放つ触腕とバサルモス触腕を使い、触腕自体を守りながら攻めてくる。

いわば『片手剣』と言った所か……頭が本当にいいな。

 

「くっ、ルカ!あのディノバルドの骨を壊しましょう!」

 

お、名前が分かった。ディノ触腕は炎を撒き散らしながら再び近づいてくる。

 

私は隙を見て走って近づこうとするが、地面に擦るように移動するバサル触腕に阻まれ全く攻撃出来ない。

 

バシィッ!

 

雷の音が鳴り響く。

周りをさっとみるがラヴィエンテは遠くからブレスを撃ってくるだけだった。

 

もう一度周りを見渡すとオストガロアの顔の煙が無くなり、赤い光が発せられた音だった事が分かる。

 

「レールガンッ!」

 

しかし頭を狙った神選者の攻撃はバサル触腕で防がれた。

ディノ触腕が弾け飛び、お返しと言わんばかりに赤いレーザーが振り回される。

 

やはりこの古龍に勝ち目は無い。

元の姿に戻り、槍を振り回せば勝てそうだが。

 

私はそう思った。

 

 

 

 

 

 

突然、ウイルスが活発になる。

何故かは分からないが気が散らされる、早く下がろう。

 

 

しかし体は私の意思に反して、オストガロアに駆け寄る。

レーザーが掠めるが、龍の攻撃は痛くはない。

 

 

そのまま私はオストガロアの横を通り過ぎて走る。

 

 

 

 

 

 

「ここまで足掻くとは……想定外だな……」

 

また夜の闇が空を覆い始める。

もう三日目の終わりが見えてきた。

 

「……だが。」

 

この戦艦は今まで孤立していた。

何故なら主砲を筆頭とした火力、ワープを含めた機動力、無人航空機の大量召喚。

仲間は要らないからだ。

 

だが、あの時。

 

『今回、君の助力が必要だ。君の力があれば、もしかしたら倒せるかもしれないんだ。』

 

彼が助けを求めてきた。

初めて後衛として働いてくれと言われた。

 

勿論、私は怒った。私一人でどんなモンスターでも倒せると言った。

それでも彼は私を説得してきた……

 

頼られることがこれほどの快感になるとは。

 

「それもおしまいにしなくてはならない。」

 

 

『殲滅シークエンスへと移行!!』

 

 

 

 

 

 

 

その時。

 

 

音もなく黒き生物はやってくる。

 

 

生物が戦艦の底を掴む。

刹那、黒い天使の様な翼が船を貫きながら現れた。

そしてすぐに消える。

 

掴んだ翼から黒い物体が広がり、船体を覆っていく。

 

 

『一瞬で……なに!?』

 

中を侵食した黒い物体は急激に固まり、戦艦を貫く爪となる。

外側を侵食した物体は、なんの役目も無く散っていく。

 

「……キシィィィ……」

 

生物は落ちながら黒い物体を固め、伸ばしていく。

 

『この弾幕を―――ぐわぁっ!?』

 

「キシャァァァァッ!!」

 

 

そのまま戦艦を地上へ『投げつける』。

 

 

死ぬべき運命の渾沌の化身。

自身の子孫を残す生物の運命。

 

両方を踏み倒す『命反ゴア・マガラ』がここで行われている激しい戦いを見逃す事は無かった。

 

楽しい戦いの始まりは、戦艦が大地を抉る所から始まる。

 

 

 

 

っ!?

ウイルスが活発になっているせいで片方の視界は色としてしか見えなくなった。

しかし物凄いスピードで戦艦がこっち側に吹っ飛んできている事は無事な目で確認出来た。

……このままでは間に合わない。

 

死ぬより元の姿がバレる方がマシだ。姿を戻す。

 

まずは糸を放ち、置いていた槍を引き寄せ笛を吹き直し、遠くの岩に糸を放って自分を吹き飛ばす。

 

オストガロアもラヴィエンテも地に潜っていく。

 

戦艦は轟音をたてながら迫ってく――

 

 

ガァァァァッ!ガ、ガ、ガガ!!

 

 

突然爆音を鳴らし、軋みながら落下が加速する。

なんとか落下方向の反対側に滑り込む。

 

ズキリとウイルスが黒く表現する。

その位置を見るとウイルスの異常な活動の正体が分かった。

 

 

私が忘れていた化物。

 

あいつはリオレウスを皆殺しにした際に来た奴だ……!!

 

冷風が体を撫でる様な感覚が走った。

 

 

正体が分かり、逃げなければ死ぬと分かった。

とはいえ衝突による地震で歩く事が困難だ。

ゆっくりと距離をとろう。

 

背を向けてゆっくりと離れる。出来るだけ意識していないと見せかける……

 

 

 

サク

 

 

 

……さぁ、どうしよう。背後から砂を踏む音が聞こえた。

 

先程まで私とゴアの間に誰もいなかったぞ。

 

結晶が痛む。

ウイルスの動きがこれまでに無い暴れ方をする。

 

ゆっくりと体を向ける。

 

敵は声を出さずに、しっかりと頭をこちらに向けていた。

私は動かない。

 

私が動くと一瞬で死ぬが、動かないならゴアから動かないといけない。

受動的なのは本来悪手だが、圧倒的な強者と弱者なら立ち向かうよりはチャンスが生まれる可能性があると予測する。

 

ゴア・マガラが私に近づく。私は動かない。

ゴア・マガラの影に覆われる。私は動かない。

ゴア・マガラの頭が目の前にくる……まだ動かない。

 

……一日千秋とは良く言った物だ。私は一秒十年に感じた。

 

ウイルスが反応する。

私の本能が直感する。

 

『右』からくると。

 

笛を衝動的に構える。

 

 

 

そして上からの光に包まれた。

 




私達は声を上げるよ!!
なんで骸骨は持ち帰って武器とか瓶とか持ち帰らないの!?
ほら、ナバルからも何か言ってやって!!

あぁぁぁ、この骨欲しい、角がいい具合に削れるぅぅぅ!

ラヴィ!!

バクッ ペッ

「あれはナバルの牙!?」
「……共生なのか?」

ハァァァァッ、ダイナミック不法投棄ィィィィ!!

「粗大ゴミだろ戦艦は!」
「いやあれゴミ扱い出来ないからね!」


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月の下で苛麗な舞を


あらすじ

ラヴィエンテと戦う人間を見てたらマネルガーごと撃墜された。
か弱い少女の振りをして……神選者の庇護下に入る。同時に物理的に支配される。
今度はデルタオスト砲で乗った医療船が爆発四散。
援軍もオストの頭脳とラヴィの咆哮で爆発四散。
怒った神選者は更に攻撃を苛烈にする。

そして黒のマントを羽織った様な……


キリトかなーやっぱりw
自分が意識失って休んでたら周囲のガブラス黒い粉になって死んでたしw
ちなみに彼氏とか彼女はいらないw(聞いてないw)



ラヴィエンテが苦しんだ光だ、流石に熱い。

撃龍槍が溶ける為、急いで投げる。

 

砂漠で熱されたネセトを操縦する私達でさえ少し焦げる程度の威力はある。

 

地面が溶けていく為、私が沈む前に光の中を走る。

 

ゴア・マガラは離れた。やはり火には弱いらしい。

この隙にさっさと糸を使って逃げよう。

 

だが、恐らく一瞬で追いついて――

 

 

 

光から逃れた瞬間、咄嗟に左に笛を構えるとそのまま吹き飛ばされる。

吹き飛ばされた先で今度は地面に叩きつけられそうになる。

 

 

刹那、視界が紫になる。

 

 

なんとかゴアの腕の勢いを笛で流してなんとか脱出する。

 

バギィッ!!

 

足元を亀裂が走っていく。

一体あの体の何処にこの馬鹿力を出す筋肉があるんだ。

 

「シャァァァァァッ……ゴォォォォァァァ!!」

 

ゴア・マガラが叫んだ。

地面を見ると無数の渦巻く黒い光が。

 

爆発はするが引っかかる事はないだろう。

巻き込まれない様に位置取り、赤くなったが溶けてはいない撃龍槍を引き寄せる。

 

 

その時、奴が飛んできた。

 

「アグナレーザー!!」

 

ゴア・マガラは翼のウイルスを残して消える。

 

奴の後ろに回ったゴアは、翼脚を肥大化させた……のではなく、ウイルスを固めた大きな爪を振りかぶる。

 

「ダイミョウガード!ぐわぁっ!?」

 

振り返らずに奴は防御したが、地面に叩き落とされる。

その衝撃で周りが地割れを起こす。

奴は跳ね返り、ゴアが受け止め今度は青い光になって消えていく戦艦に投げる。

そしてほぼ放心状態で跳ね返った奴を今度は遠くに投げる。

 

 

ゴアはこちらを向く。

 

 

……また視界が紫になり、ゴアが私の後ろに陣取る一瞬が見えた。

なるほど、先程の光線で遂に私のウイルスを抑えていた抗竜石が変質したのか。

 

 

それにしても、私がウイルス持っているせいなのだろうか。

私への執着心が強すぎる気がする。

 

こんな馬鹿げた例外……あ。

糸からあの球を取り出す。

 

使うべきタイミングに持っていなかった物だ。それで一度死んだ。

 

 

 

風が鳴る。

 

 

 

くそっ、危な――ぐはっ!?

 

ウイルスに導かれる様に笛を構えた。

再び直撃は防いだが、岩に衝突したのか意識が飛びかける。

一か八か、化物に通用するかは分からないがやるしかない。

それしか私には抵抗する方法がないのだから。

 

球を置く。

自分が即死する可能性を考えて慎重に白い方を私に向ける。

 

ゴア・マガラが次の瞬間に来ると感じた。

 

急いで槍を振り下ろす。

 

 

 

 

球にヒビが入る。

 

 

 

 

ゴア・マガラが消えたと思った時には、既に球を中心としたとてつもない爆発が起こった……様に見える。

私は氷の箱に閉じ込められていた。透明だから周りは良く見えるが、音は遮断されていてよく分からない。

とりあえず撃龍槍を背負う。

 

その爆発は10秒程度で終わった。

黒い煙があちこちから上がっていた。

だが球があった所を除いてマグマにはなっていなかった。

 

さて、この氷は―――

 

 

ミシィッ!!

 

 

……不穏な音に振り向くと、またゴアが居た。

氷の壁を砕こうとしている。

 

「――――!!」

 

ゴアが両腕を振り上げる。

 

くそっ、爆発の範囲外に逃げたのか。

大体こいつ何の目的でここに来たんだ?

 

笛を構える。

もしかしたらまだ逃げれるかもしれない。

 

 

 

 

 

『土下座』

 

ハンター達がそう呼ぶ攻撃はとても威力が高い。

振り下ろされた両腕は氷の壁を容易く破り、アトラルを潰す。

 

 

 

 

 

 

『間ニ合ッタァァァァ!!』

 

 

救世主が来なかったら。

 

 

炎と雷を纏った突進は上半身に重心を移していたゴア・マガラを吹き飛ばす。

 

『オヒサデス!白統虫語デ言イマス!』

 

……クイーン!?

クイーンは私を囲んでいた氷を爆発させる。

 

『私ガゴアノ相手ヲシマスカラ、逃ゲテ下サイナ!ハイ!デハ!』

 

…….私に出来ることは無い、お言葉に甘えて逃げさせてもらおう。

糸を放ちながら何処で人間の姿になるかを考える。

 

 

 

 

 

白統虫は深呼吸をした。

ゴア・マガラはゆっくりと起き上がる。

 

「ふぅ……間に合って良かった。」

 

白統虫は考え直していたのだ。

もし彼女が球を使った時の相手がとてつもなく強かったら?

使わない時間が長くなるほどその考えが強くなっていた。

 

そしてその予想は的中していた。

 

「久しぶりですね、ゴアさん?」

 

手に炎を纏わせながら白統虫は言った。

 

 

「……ァ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

口を動かさずに命反は笑う。

抵抗してくれそうな者は大歓迎だからだ。

過去に闘った事なんて覚えていない。

 

ゆっくりと様子を伺いながら白統虫へ近づく。

そして突然、

 

「ゴォォォォァァァ!!!」

 

翼脚を左右に展開。

 

『狂竜化』

 

元々激しい代謝が更に激しくなり、まだ乾いてもいないウイルスが地面に広がっていく。

 

黒い液体は白統虫の羽の色を反射する。

 

爆発的な力を解放し、白統虫を圧倒する。

 

 

 

 

月が白統虫を背後から照らす。

 

 

「……えっ、ちょっ殺し合い?ですか?……ではゴアさんと同じぐらい本気を出しますか。」

 

上の二枚の羽が赤に、そして陽炎を生み出す。

下の二枚の羽が黄に、そして稲妻を生み出す。

 

自らを取り巻くように発生させ、命反を威嚇する。

 

 

互いにゆっくりと上空に移動する。

 

 

 

闇と光がぶつかる。

 

 

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ……」

「だ、大丈夫か!?早く入りなさい!それ持とうか?」

「いえ、大丈夫です……ありがとうございます。」

 

よし。槍を抱き抱えながら人間が大量に居る場所に紛れる事が出来た。

退散する為に飛行船が沢山降りてきている。

まずは飛行船に乗ろう。

 

「あの、すいません。この荷物を入れる事が出来る船はありますか?」

「撃龍槍!?……あ、あの船なら受け取ってくれるんじゃないかな?」

「ありがとうございます。」

 

 

「大丈夫、運べるよ。という事は君はこの船に乗るという事でいいかな?」

「はい!ありがとうございます!」

「じゃあここの部屋に。お金はいらないよ。」

「あ、個室だったのですか?」

「……ここだけの話、この船に乗ってた人はほぼ死んだから部屋がガラ空きなんだ。」

「それは……」

 

都合がいい。

死んでくれた事に感謝しないとな。

金が要らないのは名前に泥を塗りたくないからか。

 

撃龍槍を渡し、部屋番号が書かれた鍵を貰う。

比較的きれいで、巨大な飛行船の廊下を歩く。

 

 

この部屋か。

ギィ、と扉を開けて中に入る。

ベッドとテーブル、鏡がついた机があった。

 

元の姿に戻り、扉を糸で固定する。

 

この部屋にある窓を覗くと、遠くで光と闇が闘っているのが見えた。

……おかしい表現だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

脚で炎と雷を混ぜた極大ビームを放つ。

隙が出来たと思ってか殴りに来たから属性を走らせて弾き飛ばす。

羽を光らせてウチケシ成分の入った大量の追尾光線を撃つ。

 

「キシャァァァ!!」

 

回転と共に出したウイルスの塊の爆発で打ち消された。

 

やっぱり強いなぁ……

属性相性なら私の方が分があるのですがね。

 

翼に吹き飛ばされる。

追撃でウイルスの爪を振り下ろしてくる。

勿論ビームで打ち消す。

 

 

うっ!?

 

 

 

 

白統虫は大地から伸びてきたウイルスの柱に腹を貫かれる。

ぐったりとした所に命反が殴りかかる。

 

 

 

 

 

 

 

また爆音が聞こえた。正面から戦うという事は同じぐらいの実力だからな。

 

それにしても空に浮く飛行船の技術……ネセトに応用出来ないだろうか?

 

窓から見える森は酷い有様だった。

岩が剥き出しになっている所もあれば、死体が積み重なっていたり共食いしてる小型竜達が見えた。

 

 

遂に海の上にまで船は飛んだ。

このままならクイーンが食い止めている間に逃げ切れそうだ。

 

 

そして空を見ようとすると黒い布が下がってき……

 

 

え?

 

 

 

 

「グルルル……!」

 

 

窓の上側から黒い物体が壁を侵食していく。

くそっ、ウイルスが全く落ち着かないせいで気づく事も出来なかった。

 

ストーカーかこいつ……!

 

ウイルスの爪が壁を貫いてくる。

とりあえず隙間に入って回避――ぐっ。

 

爪の隙間もウイルスで埋められた。

私は壁に押し付けられたが、笛を差し込んだからこのまま首を切られる事は無いだろう。

とても苦しいが……そうだ。

 

人間の姿に変わりすり抜ける。

ようやく船内が騒がしくなり、扉をガタガタする音が聞こえる。

糸で張り付けてるから動かないがな。

 

「おらぁっ!!」

 

……だからって声もかけずに破壊して中に入ってくるか?

あ、ゴアが襲っている部屋だからか。

人間の姿に変わっていて良かった。

 

バリバリバリ

 

「大丈夫がっ―――!?」

 

血飛沫だ。違う壁から爪が伸びていた。

 

もう片方の翼で隣の部屋から刺したのか……

バリバリと船が裂かれる。このままだと空中に放り出されるな。

 

 

と、ゴアが突然吹き飛んだ。

綺麗な光が私の視界を遮る。

 

侵食するウイルスごと傷を治している白統虫が飛んでいった。

声が聞こえる。

 

『ウチケシノ実アリガトウ!スグニ傷ガ治リマス!』

 

……感謝の言葉を貰ったが、あの時、何故か食べたのはクイーンだろう。

 

落ちていた笛を拾う。

さて、私はどうしようか――

 

バキリと板が外れる。

私のウイルスが侵食した物に全く反応しないという事は死んだのか。

それで更に腐食し、ボロボロになったと……

 

私はいきなりの事に対応出来ず、落下。

アトラルの姿に戻って糸を放ち飛び戻る。

勢いのまま人間の姿になって廊下に転がり込む。

 

「だ、大丈夫!?」

 

声をかけてくる奴らを無視してとにかく走る。

 

「ちょ、ちょっと――」

 

まるで砂を落とす様な音と共にさっきまでいた部屋が爆発する。

振り向くとゴアが半身を突っ込んで私に向いていた。

 

「ゴァァアアア!!」

 

ゴアは力任せに部屋と廊下の敷居を破壊しながら突進してきた!?

急いで階段を駆け上がる。

流石に体が大きくて入れな――

 

駄目だった。

ゴアは階段を踏み砕きながらよじ登ってきた。

 

やはり化物じゃないか。

 

そこでゴアの尻尾がクイーンに掴まれる。

 

「ギギギィィ!!」

「キシャッ、ギシィィィアアア!!」

 

ゴアは激しく抵抗し、最終的には柱を握り潰して引きずり出されていった。

激しい水の音がする。

クイーンがゴアを海面に叩きつけたのだろうか。

 

 

今度は船がおかしい挙動をする。

バキリとまた板が落ちる音がする。

 

おっと。壁に叩きつけられる。

船が傾いてきたのか。

 

「艦内の皆様!現在他の飛行船が待機しております!ここを上がって下さい!押さないで下さい!走らないで下さい!」

 

誘導の為にスタッフが叫んでいた。

 

「荷物はどうするんだ!」

「ゴア・マガラに殺されたいなら戻ればいいじゃないですか!」

「こっちはお客様だぞ!?」

「私達が最後に逃げるのですが!?」

 

私も質問しよう。

 

「すいません、巨大な荷物は何処ですか?」

「なっ、今俺が―――」

「それは荷物専用の船に積み込んでますので、安心して下さい。」

「ありがとうございます。」

 

それならばその船が被害にあわない様に

気をつけなければぁぁぁっ!?

 

「きゃぁぁぁ!?」

「うわぁぁぁ!?」

 

船の後方が爪で叩き潰され、落ちていった。

人間共はパニックに陥る。

 

……

 

「ちょっ!?」

「ぐわっ!」

 

密度が高いから人間の肩を踏み台にしても倒れない様だ。

そのまま階段を登り、外に出る。

 

「キシャァァァアアア!!」

 

うっ!?

咄嗟に転がる。正面の上空からゴアが突進してきた。

たった今出てきた階段から船の後ろ側が完全に破壊され、分割された。

 

「ギギャギャ!!」

バチバチバチ!!

 

クイーンも大分本気の様だ。

落下していく方を突き破ってゴアを追いかける。

 

笛を振るスペースが無い……

周りの人間にあわせて他の船に渡ろうとするが、間に合わず船と共に落下する。

 

全力で跳び、ガラスを笛で叩き破って船を渡る。

 

さっきまで乗っていた船はクイーンとゴアが揉み合いながら破壊していった。

だが、ゴアが隙を見て再び私の方へ飛んでくる。

私が後ずさると同時にゴアを光が飲み込む。

 

一応神選者も飛びまわっているが、どうやら介入は出来ないようだ。

まぁ誤爆が怖いなら攻撃は出来ないだろう。

 

 

カチリ、キィィィィ――

 

 

……ん?

聞き慣れない音がどこかから聞こえる。

 

 

ィィィン!!

 

 

何の音だ!?

 

 

爆発音が鳴る。

光を纏いながらクイーンがゴアを追っていった。

 

ゴアも波動を出し、闇を残しながらクイーンとすれ違う。

 

往復する時にはゴアはウイルスの爪を、クイーンは炎を手に纏う。

 

衝突の衝撃で近くの船が全て傾く。

またこの船も落ちるのだろうか?

 

『ソレジャ!!』

 

クイーンは6本の脚でゴアを掴み、光を纏って何処かに飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

……唐突に静寂が辺りを覆う。

 

クイーン達の戦闘の余波で半壊したり燃えていたり、ボロボロと崩れていったりする船が見えるが……

それでも静かだった。

 

 

ウイルスが落ち着いてくると私も落ち着いてきた。

まずはガラスをよせておこう。

 

 

 

この部屋は空き部屋の様で荷物が一切無かった。

よく状況が分からないが元の姿に戻り、扉を張り付ける。

 

割った窓から風が吹く。

 

 

 

 

終わった……のか?

 

 

 

 

 

月は何の意味もなく綺麗に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

……大丈夫だな?ゴアはいないな?

また戻ってこないか心配になる。

 

 

 

……うっ。落ち着いたら次は気分が……っ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝

 

 

降りるなり龍歴院と村の住人が総出で祝ってきた。

ナナツの後ろに隠れる事で触られる事を防ぐ。

 

 

どうやら今朝、命知らずな観測員が残ってラヴィエンテとオストガロアが出てこないか調べ、その結果を鳥に括りつけて飛ばしてきた様だ。

 

結果は『二度の揺れを観測したが、ハンター達を確かめには出てこない。恐らく撃退したと思われる。要経過観察。』らしい。

 

 

今回の作戦に関わった、ハンター、ライダー、龍歴院の人々、古龍観測隊の人々、そして神選者達が広場に集められた。

 

 

『おはようございます。今回、諸君は―――』

 

 

「ナナツ、私はここに居て大丈夫か?」

「気にする事は無いよ。」

 

……少しでもボロを出したら袋叩きで即死する。

こういう場合にのみゴア・マガラ突っ込んでくれたら有難いのだが。

生きた心地がしない。気遣え。

 

 

そう思って遠くの空に目を向けると黒い跡と白い光が見えた。

まだやってたのか……

 

とはいえ、とても遠くの様だ。

恐らく強力な技を互いにぶつけた結果が見えているだけだろう。

そうでもないとまた私の方に向かってきている事になる。

 

『互いに強力して大きな厄災を撃退した!この事を評価し、ドンドルマ公認の勲章が渡される!』

 

周りのハンター達は喜ぶ。

勲章を持っていることで社会的な優位に立つのだろうか。

 

『また、現場で関わった全員の名前を記録する。この【カメラ】で皆の顔を記録する。言語順に記録するため、早くきても遅くきても変わらない。今日は、ここの料理を自由に食べれるぞ!』

 

「おおおっ!」

「よっしゃぁぁ!」

 

『写真を撮るときに様々な報酬を渡す為、必ずカメラの前に立つよう!以上!!』

 

『続いて、龍歴院の―――』

 

……ハンターの証明が無い。私は退散しよう。

と、ナナツが何か喋り始める。

 

「明日にはココット村に行くよ。まぁその前にみんなで写真を撮ってもらおう!」

「ちょっと待て!私にはハンターの証明が――」

「神選者特権で大丈夫、大丈夫!」

 

……なんだそれは。

神選者の権利が大きすぎないか?

 

「みんな俺の家族だからね!!」

 

 

……ちょっと待て。

年齢を考えると……

 

 

 

誰が家族(交尾相手)だって!?

 

 

さっさとぶっ殺す!

人間とするのは気持ち悪すぎる!

大体まだ明確には私より強くないし。

私に食われろ。

死ね!

 

 

 

……はぁ。

やりたい事より処分しなければならない事が多いな……

 

 

そう思いながら私はポケットに入れた瓶を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

騒いでいるハンター達を見ながら神選者同士で話をする。

 

「最後やばかったな……」

「まぁあれがこの世界の最終討伐目標達だからね。」

「優先度・高の命反、優先度・低の白統か。」

「狩れるかなぁ……」

「いや狩れるだろ。能力無いし。」

 




※クイーンの手……いや脚?あ、でもアトラルの鎌に当たる部分だから手という事でお願いします。



ミラバルカンと ………アマツマガツチの。

『物語補足の天啓』

………まぁ、カンペ通りにやるわ。

無いんだけど。大体こうやっといてってアバウトに言われたんだけど。

………お約束の芸よ。
………恐らく皆さんが気にしてるのは『ゴアのアトラルへの異常な執着心』かしらね。

これは、ゴアが『狂竜化したから』だな。
命反はシャガルの力とゴアの成長力が合わさった個体だ。
だが、自分をこんな苦しい状況に陥れたシャガルウイルスへの怒り。

………そして自分を追い越していくゴア・マガラへの妬み。
極めつけに自身のウイルスが、シャガルでもゴアでもない、『ただ増殖するだけ』のウイルスに変化したという事。

子孫を残せない、でも自殺は人間じゃないから考えない。
……そして行き着いた所が『同種族を殺せば自分が繁栄する』という謎の理論。
それが狂竜化による本能の強化で『強い者と遊ぶ』<『ウイルスを全滅させる』になった訳だ。

………まぁ渾沌でさえ精神崩壊しかけているから。
ある意味当たり前の考え方なのかもしれないね。

まぁウチの黒いヤツも大概だけどな……


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Selfish princess runs


「……今度は何するんだ?」
「ルパンゲームとアニメ視聴ー。」
「MHFZで極ラヴィするわー。」
「……何このカオス……インクは何処だろう。」
「自衛隊に入ったらゲーム出来るってマジ?ピアノやめる。」
「新作ゲームのぉ、ポッキーゲェェェエエエム!!!」
「うるせぇ、耳割れ起こすわ!☆マジカル☆ハンター☆俺☆を呼ぶぞ!?」

「見て見てこれ!首絞めハムタロサァン……」
「違うわ、マルタ・ロトだわ。」
「マム・タロトだろうがぁぁぁっ!!」
「些細な事でラース化しないで、熱いわ……」



その王女は退屈だった。

侍女に特注の服を渡され、されるがままに羽織る。

 

 

 

「おはよう……」

「「おはようございます!!」」

 

兵士が盾を構えながら扉を塞ぐように挨拶をしてくる。

 

今日は面会だったかの……嫌じゃなぁ。

どーせあのブッサイクで一人で思い上がってる醜い雄じゃろう。

 

はぁぁ……

 

朝日が差し込む窓から、大量の兵士が訓練しているのが見える。

また私が抜け出すかもしれない、と父上がここに移動させたのじゃ。

 

なーにが政略結婚じゃ……

なぁーにがっ!政略結婚じゃぁぁ!!

 

わらわに人権はないのかのぅ!?

 

よくも我が子を、あの、ババコンガとバゼルギウスを交わせて生まれ変わったみたいな人間の所に送ろうと思う両親の精神が分からんのじゃが……

 

「わらわは非常に機嫌が悪い!」

 

「「ひぃぃ!?」」

 

「新大陸のドスジャグラスの皮を持ってこさせるのじゃ!」

 

「し、新大陸!?」

「恐れながら申し上げます!新大陸との交易はまだ出来ませ―――」

 

「は?出来ぬと?」

 

「「はいぃっ!」」

 

兵士達は土下座する。

 

分かっておる。

余りにも航路が危険で、人を送り迎えするだけで精一杯と言うことは。

 

「……ふん、分かった。確かに無責任な発言じゃったな。だから……」

 

「だから……?」

 

…………

 

「えっと王女?」

 

…………

 

兵士達は顔を上げる。

いつの間にか耳栓をはめられていた事に驚き、外すと開いた窓から外から兵士達の叫び声が聞こえた。

 

 

 

あははは!楽しい、楽しいぞ!!

わらわも兵士らも、互いに殺しはしない。

だからこそ舞えるのじゃ!!

 

ドレスの悪い点は動きにくくなる事じゃ。

しかし、同時に相手にわらわの動きを予測させない事が出来る。

 

私を抱き倒そうとする兵士を蹴り上げ、一回転しながら後ろの兵士に組み付く。

ペシリと気絶させ、倒れる勢いを使って正面の兵士に踵落としをくらわせる。

 

やはり兵士の訓練が足らんの。

わらわが直々に稽古をつけてやろうかと思うのじゃが、そうすると城から抜け出せなくなるからのう……

 

油断している兵士達の横をすり抜けて走る。

時折対処してくる兵士は肘を叩く。

失敗から学んで皮をつけていても、体重をかけたわらわの手刀を防ぎきる訳ではないからの。

 

そのまま外壁を勢いのまま駆け上がり、ドレスをハサミで断ち切って電気が通っている柵に手際よく結ぶ。

そのまま柵を跳び越し、するするっと降りれば今度は騎兵隊と水堀が待っておる。

 

下着のポケットからケムリ玉を取り出す。

 

ぽいぽいっと投げればあっという間に無能兵隊の完成じゃ。

再び横をすり抜け、そのまま水堀に飛び込みポケットから酸素玉を取り出して口に放る。

 

よし。

 

そのまま潜っていき、堀に水を入れている穴を見つけて流れに逆らって泳ぐ。

暗く、冷たい水が体を覆う。

 

 

 

 

 

「ぷはぁっ!」

 

ふぅ、ふぅ。

事前に地図から計算通りの長さじゃった。酸素玉も予定通りの数が余っておる。

 

「なっ!誰だ……お、王女様!?」

 

槍を向けた事によって不敬罪になると思ったのじゃろう。

兵士は泣きそうな顔になっておる。

 

だが、大丈夫じゃ。

お父様は既に私の度重なる脱走で、この場合は不敬罪はほぼ無いものとして扱っておる。

 

抵抗が強いから脱いでおったドレスを絞りながら走り出す。

 

流石にここまでは私が脱走した事は届いてないようじゃのう。

 

さぁこの上質な布を売って、今日も遠くに行くのじゃ。

王族社会なんてババコンガがやっておればいいんじゃ!

 

 

 

 

一方その頃。

 

門の前に網を広げて神選者は待っていた。

 

 

「……王女来ないなぁ。」

 

 

 

 

 

スリンガーと軽い服を購入し、活気溢れる街の屋根を転々と走る。

やはり気分爽快じゃ。

 

と、ライダーがリオレイアと共に空へ飛んでいく。

厚かましいが、乗せて貰う事にしてもらおう。

 

 

 

 

「ガゥッ!?」

「どうした、リオレイ……アッ!?」

「すまぬすまぬ。金は払うから乗せてってくれんか?」

「……先に金を払ってくれるならね。」

「よっと。」

 

現金な奴らが多くて助かる。

遂に空の旅じゃ。

 

 

 

パッとリオレイアから飛び降り、周りを確かめる。

 

久しぶりにこの村にきたのう……

 

おや?

何やら沢山の声が聞こえる……まずは行動じゃ、近づいてみようかのう。





「えー?ラージャンをパーティで狩れないとかG級ハンターやめた方がいいんじゃないかのう?」

「王女、お前がおかしいんだよ!!」
「ツインヒプノックでハメ殺すぞ!?」

「やれるものならさっさとやるがよい!ほれほれ、わらわに当ててみい!」

「流石一騎当万の王女……」
「雇っている兵士より強いとか悪役じゃないか……」


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村娘(アトラル)ハンター(狩る側)(世界)を選ぶ


アトラル<50話ですって奥さん!
クイーン<あら〜何か特別な事でもするのかしら?
アトラル<いや、それがー、夏手前まで季節を飛ばした事らしいですのよー。
クイーン<あらあら、閑話をここで挟まないのかしら?
アトラル<まぁ、作者の気分が乗っていないのだろう……いないのよーきっとー。
クイーン<ドラゴン尻尾食べたい……はっ!?私が飛んだぁぁぁ!?
アトラル<お前が飛ぶのは当たり前だろ!

クイーン<ゴアと睨めっこしたら負けたわ。
アトラル<え……は?……はぁ?


村の方々はもう働き始めていました。

私もアプトノスの荷車から野菜を下ろし、店先に並べます。

朝日に照らされた野菜は、きらきらと光を反射していました。

 

そして今日は私に大きな変化がある日なんです!

 

 

 

初めまして!

 

私の名前はルカと言います。

私を保護してくれていた皆は死んでしまいました……

当時は……悲しかったのですが、今はもう前を向いています!

今日もまずは新鮮なお野菜を売りますよー!

 

「ルカ、掃除したのかい?」

「バッチリですよー!」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

冗談はここまでにしておこう。

どうも、私はアトラル・カだ。

 

私の演技はどうだろうか?

 

まぁ評価などはどうでもいい。

それより先程の説明は半分が本当だ。

 

 

私の名前はルカではない。

アイルー達につけてもらったアコルの方がまだいい。

 

 

さて、私が行った皆殺しについてだ。

実は私の鎌を振り下ろす必要が無かった。

 

 

 

 

私はあの時、医療船から薬を盗った。

その薬のラベルには『C21H23NO5』と書いてあった。

あの時に周りに居た人間達の虚ろな目を見れば劇薬だという事がすぐに分かるだろう。

 

 

ココット村に来てから二ヶ月後。

 

成功率が低い賭けだが、リスク自体はほぼ無いためその薬物を奴の朝食の飲料に混ぜた。

 

するとどうだろう?

 

 

10分後に……

 

「うぐっ……『吸収』!!」

「なっ、どうしたナナ――うぐっ。」

「大丈夫ですか!?」

「おい!?大丈夫か!?」

 

唐突に奴は苦しみ出した。

様子を見る為に奴に近づこうとしたが……押しのけられてしまった。

とはいえ標的の雄に雌が群がるのは当たり前だろう、生存競争に私は負けたという訳だ。

勝ったところで利益は無いが。

 

それに私は逆だ。

 

 

勿論、私を含め全員が疑われたが私は元々隠し事が多く、種族的に感性から違うという理由で除外された。

まだ二ヶ月しか一緒にいないという事も含まれたのだろう。

 

結局影響は無いから大丈夫、ということになった。

 

 

 

 

 

……そして二日後、劇薬の効果が分かった。

 

 

 

 

 

私は働いていた。

 

何故働いているのかというと、奴を殺した際に居場所が無くなる事は分かっていたからだ。

自分で努力しないと何処であろうと生きていけない、それは事実だ。

 

 

 

仕事が終わり、日給を貰う。

 

少し膨らんだ財布をココット民族衣装のポケットに入れる。

暑くなってきたのだと周りの服装を見て思うが、この服は風通しが良いから着続けられる。結晶も隠せるという一石二鳥だ。

 

……本当に暑いのかは砂漠育ちの私には分からなかったが。

 

 

 

「ただいま。」

 

家の前に立ち、扉を決まったリズムでノックする。

 

 

しかし内側のつっかえ棒が無かった為、叩いている間に開いてしまった。

 

 

不審者を警戒し、慎重に入る。

扉を閉め、床に落ちていた棒を扉にはめ込む。

不審者をここで殺す為だ。

 

アトラルの姿に戻り、笛を構える。

 

 

部屋の中は荒れていた。

 

 

まずは撃龍槍を確かめる。

無事だった事に安心する。

 

とりあえず簡単に部屋を片付ける。

空き巣に入られたからそのままというのは私が許さない。

 

片付けないと戦闘が出来ない……という本能もあるが。

 

 

 

食器類や、貴重品系統は盗まれていなかった。

というより吐瀉物があり、数冊の本が裂かれ割れ物が粉々になっていた以外は何も変わっていない。

明らかに空き巣ではない、何が目的なのか分からないな……

 

 

片付けが終わり、誰もいない為久しぶりに部屋の中央でゆっくりと撃龍槍を掃除する。

それにしても奴らは何処に行ったのだろうか。

 

 

 

掃除が終わると近所の人間に場所を聞きに行った。

流石に書き置きも無く、無言で全員外出したのだから聞くのは当たり前だろう。

しかし皆、口を揃えて見ていないという。

 

 

ふむ……

 

 

放っておくか。

私は先延ばしする事にした。

 

 

 

 

夜。

 

 

 

私は一ヶ月半ぶりにベッドの上で横になっていた。

まだ慣れないが、繭と思い込めば感触がいい。

繭の方が断然安心するが。

 

 

うるさい獣が居ないと、なんと心地よく眠れる事だろう。

 

 

 

 

だが、浅い眠りの時に外からの何かを千切る音で目が覚めた。

勿論警戒しながらベッドから出る。

 

夜に来るといえば泥棒、もしくはモンスターか。

クイーンでは無いことは明らかだ。

 

人間の姿に変わり、裏口をそっと開けて隙間から外の様子を伺う。

この二ヶ月間は力仕事だけだった為、戦闘が出来るか少し緊張する。

 

 

 

 

そして、そこに居たのは―――

 

 

 

 

もぐもぐと雑草を食っている奴らだった。

月が五つの影を映し出す。

 

何をしているんだろうか……ケルビの真似か?

とりあえず声をかける。

 

「おい、ナナツ。その草の味は美味いのか――っ!?」

 

奴は私の声に振り向いた。

 

 

 

口から涎と土をこぼし、焦点の定まらない目で私を見ようとしていた。

 

 

 

「ルカァ?雑草はまずぃよお!でも美味しぃくなる力が湧いて出てくる!」

 

 

……二日目でこれか。

想像以上ではあるが、予想に沿っている。

 

「……クッ。」

 

自然と笑みがこぼれるのは仕方ない事だろう。

 

「早くぅ、ごしゅりんさま!」

「もっと水を出してくれ……」

 

周りの奴らも狂っていた。

地面に這い蹲って草を食べている事を恥ずかしく思わない程思考が壊れたか……

やはり劇薬の様だな。

 

「ぅ……」

 

失禁している奴も居た。

とりあえず家の中に入れる。

 

 

そして、裏口を閉じた時に思いついた。

少々リスクはあるが、何もしないと疑われる。

 

「あぁぁぁぁぁ!!」

 

私は叫ぶ。

家の中を走り、扉を笛で破壊して飛び出る。

 

そのまま叫びながら走り、怪我しないように道の中央で転倒してから震える。

 

しばらくするとそばの家から男が二人走ってきた。

 

「どうしたどうした!?」

 

震える体で家を指さす。

言葉は……丁寧にしておくか。

 

「あの、ナナツさんが……!」

 

 

 

 

数日後、奴は血液に直接溶けきらない程麻薬を流し込み牢の中で中毒死した。

周りの人間も処置出来ない程狂っているらしい。

 

 

私から屈辱的なマークが消えた事によりとても強い喜びを感じた。

 

 

 

次の日、『神選者を纏める神選者』を名乗る神選者が来た。

 

どうやら遺産相続についての話らしい。

本来なら沢山の人間を娶っていたが、明確に責任をとれる者が私一人になった事で、遺産からすれば多少のお金を払うことで全て私に渡すらしい。

念の為、借金の検査をしてから所有者が私に移行した証明となる書類を貰う。

 

突然私の家で雇って下さいと言う、ガブラスみたいな奴らが付きまとってくるようになった。

確かに普通より家は広いが、床を動く機械……そう、ルンバだ。それが複数ある為私が掃除する場所は意外と少ない。

料理の本もあり、きちんと測りながら手早くやれば周りの人間なんていらない。

 

悪徳業者とかも家の前に来るが、私の方が力があるため、さっさと放り出す事も出来る。

 

頼んでない荷物も届くがきちんと仕組みを調べたところ、一週間触れなければ無料で回収してくれる。

 

『お前だけが生き残って!死ね!』と奴のファンからも本来ならかぶれる様な液体や材質を混ぜた手紙が来るが、生憎私は頑丈で、そうでなくとも笛で治療出来るため恐れる要素はない。

 

 

 

そのうち私は『悲劇の少女』or『金目当ての殺人者』と呼ばれる様になった。

しかし働く日にきちんと働き、変わらないサイクルを繰り返していればその両方の呼び方は廃れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はゴミ箱を洗う。

ここの店の女将はとても良い人だ。

 

何故なら当然の事ではあるとはいえ、億劫になる掃除に自分自身も気を抜かないのだ。

汚いと何処で不具合が起こるか分からないからとても重要だと私は思う。

 

「すいませーん!」

「はいはい!お待ちください!」

 

客に呼ばれた。

買いに来た人間の前で手を洗い、タオルで手を拭く。

この行為で清潔さを示す。

 

店先に居たのは常連の女だ。

 

「えっと……はい、合計320zです。」

「そういえば今日、ハンター訓練所に行くのだって?体に気をつけてね?」

「ありがとうございます。体を傷つけない様に立ち回るのがハンターですから、心配されなくても私は大丈夫ですよ!」

「あはは、気をつけてね?」

 

 

 

大分村が赤く染まってきた。

 

 

そう、私は今日からハンター業を始める。

 

 

ハンターになれば、かなりの収入と地位、名誉が貰える。

そうすれば機械や武器を手に入れ、私のネセトの強化が『今まで圧縮されていたバネが解き放たれた』様に大躍進するはずだ。

 

というよりまだネセト回収出来ていない、高山の雪の中に入れたとはいえ流石に不安だ!糸も切れてるしクシャルダオラ装甲を新調したばかりなのに、放置したまま!一刻を争う!

 

「すいません!時間なので!」

 

返答は待たずに飛び出す。

 

地図で訓練所の場所を確かめ、走る。

ギルド横にある門をくぐり、周りの人間にどうしたらいいか聞く。

 

大体の順路が分かったところで壁に差し込んでいる板を確かめる。

今日の内容は3つのグループだ。

 

『探索基礎・座学』

『狩猟基礎・実習』

『狩人基礎・実習試験』

 

確か実力が多少ある場合、初日は基礎の試験で実力を確かめるのが定石だったか。

 

金を出し、受ける訓練の紙を受け取り、貸出防具を受け取る。

 

「貴女の服のサイズは?」

 

サイズ?

……そりゃそうか。

 

「分からないのですが……えっと、この服と同じでお願いします。」

「測らせていただきます。……はい、この大きさで。」

 

防具を受け取り、更衣室で着替える。

そのまま好きな武器とアイテムのセットを選ぶ。

 

大剣にしよう。

扱うのが簡単そうだ。

 

一度振り回し、そのまま背中に背負う。

私の身長より遥かに長いが、撃龍槍と比べたらそうでもない。

 

扉を押し開け、人だかりが出来ている所に行く。

 

 

 

「え、あのガキ大剣を振り回してなかった!?」

「見た見た!力任せの頭の悪そうな狩り方をしそうよね。」

 

 

 

 

 

「今回の討伐目標はリオレイアだ!強靭なる脚と尻尾の攻撃には注意する事!ペアを組むか、ソロで狩るかは任せる!」

 

赤い防具を着た人間が叫ぶ。

監督者か。堂々としていていい。

 

私はソロでやるか――

「ねぇ貴女!」

 

「……はい、なんでしょう?」

「私達とパーティを組みましょう!」

「いい?」

「……こちらこそよろしくお願いします!」

 

いかにも見た目からして卑しそうな女共が話しかけてくる。

 

余り組みたくは無いが、身代わりにはなる。

まぁ自衛ぐらいはしてくれるだろう。

 

「私は弓で狙撃するわ!」

「笛を吹いて支援します!」

「あっ……私は大剣で斬りにいきます!」

 

笛って支援用なのだろうか……殴り殺せるのでは?

 

「貴女って八百屋さんで働いていた女の子よね。なんでここに居るの?」

「ハンターを副業にしようかと思いまして。」

「まだ小さいのに……」

 

なんだこいつら。

私の考え方がおかしいのか?

まぁ試験の評価の方が大事だ、どうでもいい。

 

 

 

その様な雰囲気のまま次のグループとして闘技場に入る。

 

軽く試験官と会釈する。

 

「いい狩りを!」

「行ってきます。」

 

さて、目の前で既に怒り状態のリオレイアがこちらを見ている。

恐らくここに強引に入れられた事に興奮しているのだろう。

 

とりあえず大剣を右手で降ろし、左手で閃光玉を探す。

 

「たぁっ!」

 

矢が飛ぶ。リオレイアの頭に刺さ――弾かれている。

 

「よしっ!」

「笛を吹きます!」

 

よしじゃない。

……なんで二人共そんなに離れているんだ?

閃光玉の破裂させる方法が分からない私も大概だがな。

 

とりあえずしまっておこう。

 

リオレイアのブレスを受け流しながら柔らかい頭部に近づく。

 

「矢が刺さるから危ないよ!そこに立たないで!」

「離れて下さい!」

 

えぇ……

攻撃をしてないと同然の奴らの発言は無視して、頭を横に軽く斬りつける。

噛み付いて来る所タイミングで両手で持ち、折り返しで口内を全力で斬りつける。

……駄目か。全く切断出来ていない。

 

一度大剣を口から抜いて離れる。

 

「麻痺瓶使うわ!」

「スタミナ旋律吹きます!」

 

あいつらはもうどうでもいい。

リオレイアは足を引き、尻尾を振りかぶった。

 

サマーソルトを大剣で受け、距離をとる。

飛んだリオレイアが移動し、笛の方へ行った。

 

「ひぃぃぃ!?」

「落ちなさい!」

 

私は大剣を引きずらせながら走る。

そのまま近づき、擦りあげるように切り上げ回転する。

少し怯んだが、墜落はしない様だ。

 

一度離れ、次は担いで力を溜め直して近づく。

 

リオレイアの滑空が弓を吹き飛ばす。

 

滑空で着地した、恐らく振り向くだろう。

 

タイミングを合わせ、大剣をリオレイアの頭越しに地面に叩きつけ、跳ね上がってもう一度叩きつける。

……今更だがハンマーの方が良かったか?

 

リオレイアは大きく怯んだ。

次は足を切断しようか。

 

大剣で足を突いてみるがかなり硬い。

なら翼を切断をしよう。

 

 

 

 

「「ひ、ひぃぃぃ!?」」

 

よし、尻尾の切断も完了。

あとは足……いや起き上がれないから首でいいか。

 

大剣を叩きつけ、反動で再び振り上げもう一度叩き落とす、を繰り返す。

複数回繰り返すとざくりと感触が伝わり、血が大量に出てくる。

リオレイアは大きく体を跳ねらせ、白目を剥きながら倒れた。

 

 

これで絶命したか。

 

 

「一度の麻痺、力の強化をありがとうござ――」

 

パッと考えたお礼を言おうとしたら奴等は走って出ていってしまった。

 

……私は闘技場に一人残された。

 

とりあえずリオレイアの切断した翼の膜で大剣を拭く。

撃龍槍の様に扱えば大きな間違いはないだろう。

 

 

 

「76点。」

 

結果として点数を言い渡された。

最初にしては中々良いのでは?

 

「何処が減点の対象でしょうか?」

「大きな減点は翼で血を拭いた事。素材は資本、大切にしなさい。」

 

撃龍槍、というより私の考え方が大きな間違いだったか……

モンスターの全身は金になる、つまり私は金で血を拭いた様なものだ。

何故気づかなかったのだろうか……まぁ人間の価値観など必ず必要という訳ではないからな。学んでいけばいい。

 

「他には?」

「確かに貴女は強いけど、連携はとりなさい。もし一人になったら命の保証は無い。」

「……分かりました。」

 

そんな事は分かりきっているが、ルカとしては分かってないことにしないといけない。

そして今回は連携に関してどうでもいいだろう。

あんな奴らに合わせて火力が落ちるなら本末転倒だ。

 

「次はあそこに行きなさい。話を聞いて、指示に従いなさい。」

「了解しました。」

 

淡々としていて助かる。

感情的な人間の長々とした話はとても面倒だから。

 

 

 

 

「二つ目の試験は『キャンプ設置』だ!

BCも時にはモンスターに荒らされている!

例えばドスの群れ!

例えば中型モンスター!

アトラル・カが退避しようとしたハンターを先回りした例さえある!」

 

……はい。それは私だ。

というより生き残っていたのか……いや、当たり前か。

ハンターは落下に強いらしい。

 

「ジャギィの群れの中でキャンプを十分で作れ!手間取ってるとジャギィのボスが、それを追うように大型が来るかもしれないぞ!パーティは自由だ!」

 

流石に人間のままで、キャンプを作りながら大量のジャギィを殺すのは難しい。

さっきの人間と―――

 

「ねぇ君、組もうよ!」

「分かった!」

 

 

……猛烈な速度で私から離れていった。意味が分からない。

他の人間をあたるか。

 

 

 

 

突如背後から私の肩に手が乗る。

ウイルスでは私より小さい子供が感じられる。

 

「わらわと組まないか?」

 

明らかに庶民とは違う喋り方だ。

 

「いいですよ。でも貴女がキャンプを建てて下さい。」

 

振り向かずに人差し指を伸ばしている奴の手を掴む。

 




アトラル<抗竜石ですか?神選者が買ってくれましたよ。使えるうちに使っとかないと勿体無いですしね。
天使<ちょ……流石に酷すぎないですか?あ、表面的ステータス出しますね。



ルカ(??????)

年齢??

概要
見た目は金髪の髪の毛が特徴の少女。
普通のハンターより力が強い為、もしかしたら子供の時に転生した無自覚な神選者かも?
辛口だけど正直者。
全ての行動に理由をつけているから心に余裕が無い少女かもしれない?



天使<はい。詳しい情報全然無いですね。
アトラル<勝手に作ったからだろう。というより心に余裕が無いと死ぬはずだが……
天使<人間には社会適合に必要な技術(諦め)ですよ……


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WGMM包囲網


わらわの手の上じゃ。



「しかし、いきなり背後から話しかけるのは驚くのでやめて頂けると……」

「一番に振り返らないあたり、注意力は無いのかの?」

 

人差し指が伸びた手を肩から引き落とす。

目を合わせると程よい緊張が走る。

 

「確かにそうかもしれませんね。」

「さて、わらわがテント建てておくから雑魚掃討は頼んだのじゃ。」

「……組むという事ですか。」

「不服かのぅ?」

「いえ、ありがたいです。」

 

それにしてもこいつ、何故仮面をしているのだろう。

それほど身分が高いのか。はたまた逆か。

 

 

 

 

「……何故人差し指を伸ばしていたのですか?」

「振り返ったらプニってなるじゃろ?」

「…………」

 

 

 

 

私達の番が回ってくる。

 

「いい狩りを。」

「行ってきます。」

 

 

先程リオレイアと戦闘した場所には、押し倒されたテントの残骸とジャギィの群れがいた。

 

「そうじゃ!松明燃やしとくから渡してほしいのじゃ。」

「お願いしますね。」

 

松明に明かりをつけた次の瞬間、テントに彼女は突っ込み、轟音を立て始めた。

出入口の安全は松明で確保しているが、それ以外は無防備だ。

そこを私が補うのだろう。

 

私は大剣を振り回し、ジャギィを散らしながらぐるぐるとテントを回る。

 

「アゥ!アゥ!」

「アォォォ!」

 

騒がしい……雑魚に威嚇されるのは気に食わないな。

ガタリと大剣を構える。

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!」

グシャッ、ガキンッ。

 

不用心に近づいてきたジャギィを叩き潰しながら叫ぶ。

大剣を振り回し、音を立てる。

 

「アゥ!?」

「ウゥゥ……」

 

ジャギィが警戒態勢に移った。

叫んでから後悔したが、きっと叫んだら他のモンスターを呼び寄せるという観点から減点対象だな。

威嚇はモンスターとして……いや、人間は違うな。文句には使えないか。

 

「お主は何をやっとるんじゃ……」

「威嚇です!テントはどの程度出来ましたか!?」

「今、お湯を沸かしている所じゃ。」

「えっ、さっ……早くテン―――」

 

私は振り返る。

 

テントは既に立っていた。

 

 

 

彼女はジャギィの威嚇をBGMに何処からか持ってきた樽に水を入れ、松明の火で炙っていた。

 

 

いや試験中におかしいだろう。

 

「何をやっている……のですか!?」

 

咄嗟に聞いてしまう。

 

「うーん?あと、二分ぐらいで沸くと思うのじゃ。茶葉はあるからテントの中の椅子とかを並べておいてほしいのじゃー。」

「……ジャギィを掃討してからやっておきます。」

 

とりあえずテントに近づけさせないという目標は達成した。

散々威嚇してきたんだ、皆殺ししても咎められる事は無い。

 

 

 

トッ、ココココココ。

トッ、ココココココ。

 

背中から何かが何かに注がれる音が聞こえた。

 

「肌に潤いを与える神経を刺激するお茶じゃ。」

「ど、どうも……」

 

ジャギィの死体を解体してる途中でお茶を渡された。

私はジャギィの皮で手に付着した血を拭い、焼いた土で出来た湯のみに入れられたお茶を飲む。

 

「ふぅ。美味しいです。」

「……そうかそうか、それは良かった。」

「ところで……この試験って何処までいったらクリアなのでしょうかね?」

「こういうのは多分『終了!』とか言われると思うのじゃが。多分、キャンプに攻めてきたモンスターを倒すまでが試験なのじゃろう。」

 

 

そう彼女が言うと共に、土が盛り上がりそこから出てきた。

 

 

 

 

 

 

『アトラル・カ』が。

 

……追い払う。私の前に立つな……

 

 

 

いや。

 

 

 

殺す。

私の前に立ったのだから。

 

お前が悪い。

お前が悪い。

 

 

 

 

 

「キシャァァァァァ!!(消えろ)」

「あぁぁぁぁぁぁ!!(消えろ)」

 

 

 

「ど、どうしたのじゃ!?」

「あ、いや発作的に……」

 

……しまった。

つい両手を上げて威嚇してしまった。

そして久方ぶりに結晶が疼く。

 

「ちょっと、本当にどうしたのじゃ!?」

「え?……あ。」

 

相手が近づいてくるのに合わせて私もつい歩み寄っていた。

本能とは怖いものだ。

 

「いえ、コイツを殺せば試験が終わるだ……でしょう?」

「た、多分じゃぞ?それに中型モンスターの中では比較的強い―――」

 

 

 

「ゴロゴロシャァァァァァ!!(ここから去れ)」

「ぃぃぃきしぃぃぃい!(黙れお前)」

 

 

 

 

 

正体を隠す気が無い本気の一振りがアトラルの鎌を切り飛ばす。

 

アトラル・カは緑色の血を垂らしながら遠くのバリスタを抜き、アトラルに叩きつける。

 

「ぐるしゃぁぁぁぁあ!(死ねぇっ!)」

「キィィィィィ!!(煩い)」

 

アトラルは後ろに下がり、バリスタによる土煙の中から飛び出す。

大剣を首に突き立て、引っ張りながら振る。

 

アトラル・カの鎌と頭が吹き飛ぶ。

 

「きしゃぁぁぁぁぁ!(私の縄張り)」

 

 

 

 

 

……はっ。

くそっ、狂竜ウイルスは本能を活性化しやすい事も忘れていた。

 

振り返る。

 

「おぉぉ……すごいのう!ラージャンも狩れそうな強さじゃ!」

 

彼女はラージャンを知っているのか。

そして余り疑われていないか?

いや、変な叫び声を上げる人間として考えられているのか。

 

「その力を見込んで、どうじゃ、わらわとしばらくハンターとしてのパーティを作らないか?」

 

離れるどころか手を差し出してきた。

……私がギルドと話す機会を減らすにはとてもいい方法だ。

勿論裏切れば殺せばいい。

 

「それは対価がどちらかに必要ですか?」

「パーティは仲間、協力して活動するのじゃ!」

 

いや彼女の実力は分からないが……

でも相性は良さそうだ。なんとなくそう思った。

 

 

 

 

その後ギルド職員から意訳すると『金出してくれれば合格させるよ』と言われたが、勿論断った。

大体何に合格するんだ?馬鹿にしないでほしい。

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 

 

抗竜石をどう使えば効果が高いか確かめていた時の事。

 

 

トントンと唐突に扉をノックする音が聞こえた。

夜にノックしてくるのか……泥棒として殺されにきたのか?

 

慎重に扉を開ける。

 

 

「やっほう。来たのじゃ。」

 

仮面をつけていない夕方に組んだ彼女が居た。

 

「……何故ですか?」

「住む場所が無いからのう。」

「もしかして家出だったのですか?」

「そうじゃ。養ってく―――」

「雇いません。」

「養ってくれないかのう?」

「雇い……え、本当に家がないのですか?」

 

どうする?ここで恩を売っておくか?

……いや、やはり断ろう。

一体表面を取り繕うとしても、少女は何をしでかすか分からない。

 

「でも……やはり―――」

 

 

 

「ねぇ、残奏姫?」

 

 

 

「―――っ!?」

「ふむ、わらわの推理は間違ってなかったようじゃのう?」

 

彼女は私を下から覗き込む様に見上げてくる。

 

こいつ……何者だ?

本来ならあやふやな予測で無礼になる言葉は使わない筈だ。

貴族などなら尚更……

 

「まずは中に入りますか?」

「元々それをお願いしに来たのじゃが?」

「……私が丁寧に話している間に意味を汲み取れ。」

 

とりあえずある程度受け入れよう。

そうすれば情報も得られるはずだ。

 

「あはは、すまなかったのじゃ。」

「お茶でも入れますか?」

「……まずそれで違和感を持ったのじゃ。」

 

「……違和感ですか?」

 

「入れたてのとても熱いお茶を飲める人間なんぞおる訳ないじゃろ。」

「あっ……なるほど。」

「あと大剣は深い傷をつける武器で、切断する武器ではないぞ?」

「え、尻尾とかを切るのでは?」

「首を切ろうと考えるハンターはそうそうおらん。」

「……今後気をつけます。」

「あと、背中から襲ってくるモンスターを、ただの村娘が振り向きざまに叩き切るなんて芸当は出来ないのじゃよ。」

 

「で、でも私を残奏姫と断定する証拠は―――」

 

「少々調べさせて貰ったのじゃ。えっと、

『小さい光線に一隻巻き込まれる。瓦礫から少女が這い出てくる。とてつもない光線がラヴィエンテを飲み込む。』

じゃったかの。

その後何故か変色した様に見えるアトラル・カの目撃情報がチラチラあるしのー。神選者の力を見てしまえば、歪な存在がどんな事をしても驚く必要性は無いと思ってしまうのじゃよ。」

「……貴方は一体なんなんですか?」

「……ふふふ。」

 

「第三王女、は知ってるかのう。」

 

「あぁ、愉快な依頼人という噂は聞いたことがあります。」

「あははは、正確には『わがままな第三王女』じゃ。」

「……ん?」

 

「他人から見れば反抗期じゃからのう。

それに神選者が直接

『個人的な依頼を出さないでください』

とか言ってくるし、

『王族らしくお淑やかにして下さい』

とかお前に私の人生の主導権は無いっ!て言い返したくなる事も山ほど周囲が言ってくるのじゃ。」

「なるほどなるほど……私はそんな体験はありませんが、きっと――ってそんな高い立場の方でしたか。」

 

とすると、ここで殺すと私は人間としては生きていけないのか。

厄介ではあるが、私の知名度と地位は上がりやすい状態にあるな。

 

「やはりモンスターじゃの。普通の人間なら尊敬語と丁寧語が入り交じるところじゃぞ。」

「あはは……で、王族という立場を捨てる為に飛び出しても『王族だから』連れ戻されると。」

「そうなんじゃよ。犯罪するとハンターとしても生き抜くいしの……という事で養ってくれんか?」

「……私はモンスターだ。いいか?」

「そしてライドオンさせて欲しいのじゃ。」

「断る。」

 

 

 

 

結局その後しばらくお互いの生活リズムをすり合わせたあと、私のパーティもとい同棲者に、第三王女が加わった。

 

散々私の人間じゃない所を指摘したが、本人も非人間的な動きをする事を知るのはしばらくあとだった。

 

 

 

「武器はなんだ?」

「双剣じゃ。死を近くに感じるが楽しいぞぉぉ?」

「遠慮する。顔を潰したらどうするんだ?」

「神選者が治してくれるから平気じゃ。」

「あぁ……なるほど。」

 

……あはは、一家に一人神選者か?

あんなモノがそんなに居たら私達はどうすればいいのだろうか。




王女は王女に興味を持ってまして
王女は王女を王女自身が王女に乗りたいらしく、
王女自ら王女らしく王女に対して王女の力で王女を捕らえました。
そして王女は王女を王女王女して王女王女王女王女

白統虫&女王<うるせぇ!


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プププリンセス!


ワンチャンアレバカテルー



「いいか?こういうゴミはこの暖炉で纏めて燃やすと灰になるんじゃろ。アトラル、お主は分別するのはいいが燃えるゴミまで有料の回収業者に頼んでは金の無駄じゃ。」

「ふむふむ……」

「わらわは神選者の技術による不燃物の大量増殖を指摘して、無償化、最低でも減額を頼んだのじゃが、国の金策になるんじゃと……あー卑しい。全く……」

「そ、そうか。」

「で、ルンバとか精密機器が壊れた時にはドライバーで分解して……」

 

王女はドライバーをネジに当てて回す。

パカリと黒い外装が外れた。

 

「この基盤を除いて、残りはプラスチック類、鉄類と分けるといいのじゃ。」

 

なんだこの王女。

王女らしくない。

 

 

 

王女が私の家に住み始めて二日目。

王女は私以上に細かい事が分かった……いや、知っている知識が多いというか。

散らかっているクッションの上で片付けに口出ししてくるのだ。

 

「……服はどうした。」

「あー、あの服かの?王国製だから高く売れたのじゃ。」

「この前ラージャンの外套があるとか言ってなかったか?」

「まっさかー。家出に足がつく服は来ておらん。」

 

王女はそこそこ値の張る細いチョコレートの棒を食べながら本を読み、余裕がありすぎる服を着ながら転がっている。

 

「ところで一体何を読んでいる?」

「あぁ、『ハリーポッターと炎のゴブレット』じゃ。異世界の書物を自分が作った事にして売り出すとは姑息な方法を……でもわらわの世界には関係ないから別にいいのじゃ。」

 

確かにこの世界には、

『異世界転生シリーズ(私達の世界)』『SF(こちらの方が私達には異世界)』

系の本が異常な速度で発刊されている。

ただ漫画は紙の無駄使いとして快く思われていないが。

 

と言っても、この世界が狩るか狩られるかの世界の為、全体的売り上げも悪いそうだ。

努力を蔑ろにする主人公が嫌い……だが神選者は自分達の都合の良い様に動くから例外か?

そこは人間の複雑さだな。

 

 

 

 

彼女がゴロゴロと音を立てながら転がり始める。

嫌な予感がする。

 

「あー暇じゃなー。よし、狩りに行くぞ!」

「え、いやまだハンター登録してな―――」

「あ、ハンター登録の方法は前回伝えられなかったからの!大丈夫、自分の得物を扱える所を見せてから書類にサインすればいいのじゃ。」

「そうか。」

「行くぞー!」

「うっ、ちょっと待てぇ!?」

 

私は多少本気で抵抗したが、彼女は私の笛と共に担ぎながら外に出た。

近所の人間から変な目で見られたが、まぁどうでもいいか。

 

 

 

結局そのまま私はギルドまで連れてこられた。

いや、私は専属ハンターはしたくないのだが……

 

「ギルマスは何処じゃ?」

「えっ!?あ、今は裏でお酒を――」

「ぐふっ!?」

「ほっ!失礼するのじゃ!」

 

痛い。

私を担いだままカウンターを飛び越していくとは……がっ。

反動で頭がガクガクする。痛い。

 

ドサッと私が机に投げ出される。

まな板の上の虫と?

 

「ギルマス、ルカを『フリーハンター』に登録するのじゃ!」

「……了解しました。」

 

おい。

私の状態に突っ込むべきだし、聞いていた登録方法が違うぞ。

 

 

 

私が机から降り、服についた木屑を払っていると、年寄りは小さいカードを持ってきた。

 

「どうぞ。」

「先に言っておくのじゃが、わらわの耳に入ったらすぐ逃げるからの。」

「……分かりました。」

「おめでとうじゃ、ルカ。わらわと同じハンターじゃ!」

 

「あの……状況がのみ込めないのですが。」

 

……もう何度か行った事があるのか。

というより王女はハンター登録していたのか。

 

「わらわはG級じゃからの!しばらくの狩りは安心せい!」

 

……本当に誰かこいつを王女からやめさせた方がいいのでは。

 

 

 

 

 

 

 

私は今――――

 

『森丘』に来ています!

今回の目標はランポスの30匹討伐です!

 

 

 

 

本当に何故ここに来たんだ……

いや確かに初心者はここに来るべきだが、彼女は私の事情を知っている。

いや、現地だからこそ基礎知識を教えられるのか。

だがG級がついているなら雪山でも……

 

「さて、ここがBCじゃ。はい。」

「あ、あぁ。」

「あそこの橋の様な場所から釣りができるのじゃ。まずはサシミウオを三匹釣ってもらおうかの?サシミウオ分かる?」

「サシミウオは分かる。何故今釣る必要がある?」

 

「そういうクエストもあるし、わらわのお腹減ったからじゃ。」

 

「……は?」

 

余りの迷惑行動につい言ってしまう。

笛を握る力が強くなる。

 

私は召使いじゃな―――

 

「はー、わらわも釣るわ。ほら、さっさと釣竿をテントから持ってくるのじゃ。」

「……」

 

くそっ、私がイラつく行動を的確にしてくる……

度が過ぎたら殺す。

 

 

ヒュンと糸を飛ばす。

軽い水の音と共に、赤い何かが浮く。

 

「よーく見るのじゃ……川の流れやアトラルの動きとは別に、浮き沈みするタイミングがあるのじゃ。それがあった後、大きく沈んだら釣り上げる。分かったか?」

「理解した。」

 

……再三思うが、本当にこいつ王女か?

とりあえずランポス狩るために釣るか……本来ならこの流れはおかしいが。

 

 

言われた通りに魚を釣り上げた。

目当て以外は川に返す。

 

 

 

捌かれたサシミウオを飲み込む。

折れて混入していたのか、骨が喉に刺さるが、しばらくするとウイルスが侵食し、脆くなって折れる。

残った部分もウイルスが吸収するから問題ない。

 

結局釣ることに時間がかかり、ランポスをまだ一匹も討伐していないまま時間は進んでいく。

 

「うむ、美味美味。」

「そろそろ行くぞ。」

「……まぁ怒るのも無理ないかの。」

「ギルドに対してはG級のハンターの横暴に振り回されたで説明出来るが、私の気分が現在低下している。早くしろ。」

 

笛を振る。

ランポス程度ならこの笛を振り回せば殺せる。

さっさと切り上げたい。

 

「ふふふ……さて、ここで朗報じゃ。」

「早く言い切れ。」

「ネセトはそのまま、存在隠蔽!」

「……そうか。行くぞ。」

「……むぅ。」

 

……推測だが、恐らくマネルガーが最後に資材を買った場所を探し、そこから近くの山で探索したのだろう。

彼女の下にあるという事で安心したが……詳しい事は後で聞くとして、さっさとランポスを潰そう。

 

何故王女がふくれているのかは分からないな。

 

 

 

 

BCから出ると、綺麗な景色が……

いや、そこまで凄いという訳では無いが。

 

まずは支給品の地図でランポスの生活範囲を照り合わせる。

 

「この道を通りたいのだが。」

「お、外回りか。ライゼクスもオオナズチもイビルジョーもそこで戦うから早めに知るのはいいことじゃ。」

「……イビルジョーですか。」

 

 

 

 

何も問題なく、ファンゴを殺して進んだその後。

 

ランポスを殺していた時に、彼女の本気を垣間見た。

 

 

 

 

 

「ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」

 

ブシャァァァッ!!

 

 

………………

 

まだ互いに攻撃範囲外のドスランポスが見事な程に分裂……いや、分解?

あー……まぁいい。

二つに破砕された。

 

「一体お前は何をやっているんだ。」

「神選者がデザインし、他の神選者に作らせた鎌の力を使ったのじゃ。名前は『病想の鎌』らしいぞ。」

「明らかに呪われていそうな武器だな。大体何処から持ち出した?」

「魔法の武器は欲しい時に出てくるぞ。」

「…………」

 

なるほど、王女だとおかしい事に沢山触れるのか……

本人の好奇心もあるからだろうが。

 

……こいつ、精神こそ子供だが、人生経験はそこらの大人に相当するのでは?

鎌で私を脅さない時点で、力任せの思考は既に脱している。

 

「かっこいいじゃろ?」

「ああ。」

 

素直にかっこいい。

私も撃龍槍をその様に扱いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!!」

 

ガリガリグシャァァァァァァァッ!!!!!

 

 

………………

 

えげつない音と共にイャンガルルガが、頭も背も尻尾も関係無く一刀両断された。

その後、こちらに向かって走ってきた。

 

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい、私が殺してしまいました……」

 

「わらわ達には関係ないから大丈夫じゃ。」

「そうです。ランポスを討伐しにきただけですので。」

「で、では。」

 

女が剥ぎ取りに向かう。

 

私は質問せずにはいられなかった。

 

「おい王女。あれはなんだ。」

「神選者としての名前は『死神』。だけど両親が神選者だから、産まれた時から力や精神に異常のある障害者。生まれながらに崇拝され、迫害されてきた神選者じゃ。」

「……どうでもいいか。」

「だといいのじゃが。」

 

「だが、今の行動はまるで―――」

「想像を具現化する神選者と、モンスターを従える神選者の子じゃ。そして、具現化する方がこの鎌を発案した神選者じゃ。」

 

「……存在自体が罪だな。」

「どちらがじゃ?」

「どちらも、だ。」

 

王女は鎌を持ち私に見せつけてくる。

 

 

 

「アトラルにとってこの鎌はどうなのじゃ?」




天河朔夜

神選者としての名前『死神』

紅の鎌で敵を切り裂く。
一度鎌を振りかぶってから目を瞑るため、回避をするのは他の神選者に比べると楽ではある。
攻撃範囲は一度に移動できる距離で、地上から5mまで。しかも攻撃範囲は刃から拡大しない。
しかも斬る以外のダメージは無いため、回復が容易。

その代わり威力は超破滅級。この攻撃自体に耐えれる存在は数える程しかない。
具体的には†キリト†も貫通する。

『自閉症スペクトラム障害・社会不安障害・自己嫌悪』持ち。

己を殺したいが周りのために生きるが周りは自分が嫌い という思想などがある。


『死想の鎌』

『死神』の力を模倣した武器。
威力はかなり落ちた。
ただし常人が一度これで敵を切ると、快感から逃れられなくなる。
過去にこの武器によって、複数回モンスターの大量虐殺があったため、所持には精神検査と事前申告が必要。


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前傾姿勢で鎌を逆手に持って、ピースする……
かなりキツイですね。鎌は重心が先にあるので……



「この鎌、どうじゃ?」

「要らないな。」

 

先程の攻撃力からすると私の鎌より切れ味は相当良いが、私の体ではない。

というよりその形状では叩きつけられない。

 

「いや……ふむそうじゃな。」

 

王女はにこりと笑った。

 

 

 

 

 

バンッ!!

 

「え―――」

 

 

 

液体が飛び散る。

そしてイャンガルルガを剥いでいた人間の腰と胴が離れる。

 

「……なっ!?」

 

流石に私さえ驚愕する。

明らかな殺意も全く無しに切り飛ばしたからだ。

 

 

「どうじゃ?この鎌、神選者も一撃じゃ。」

 

王女は鎌についた血を振り落としながら歩いてくる。

やはり身分が高い者は命の考え方がおかしいのか?

 

「ぁぁぁぁぁぁ!?

痛いっ、痛いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

しかしうるさいな。叫んでどうにかなる訳ないだろうが。

ところで犯罪者になるのが嫌なのに何故試し斬りをこいつにしたのだろう。

 

「あ、この神選者なら殺しても大丈夫じゃ。」

「何故だ?」

「精神障害者だからじゃ。

ギルドから与えられる環境から離れたくないから最低条件は満たしているけど、その程度なら神選者である必要では無いのじゃ。

じゃが、辞めさせると世間は『障害者差別だ!』とか叫び出す……だから事故死が起きる事を祈っているのじゃ。

わらわが殺したとしても、ランポスの巣の奥に置いてくれば証拠は消えるから大きくこいつが犯人だ、とは取り上げられないしの。」

「なるほど。」

 

「ぁ……ぅあ………ひど………」

 

「ほら、神選者はこの様に胴体が切断されても普通より意識を保っているのじゃ。」

 

なるほど、もし対峙する際は入念に潰さないと駄目か。

神選者によっては撃龍槍で胸を貫いても死なないかもしれない。

 

「ちょっとやっていいか?」

「あぁ、バラバラにする予定だからいいのじゃ。」

 

腕を鎌に戻す。

 

そう、私は人間と元の姿が共通する部位を自由に変化させることが出来るようになった。

といっても二部位までだが……

 

王女は驚いていた。

 

「そんな事も出来るのじゃな……」

「努力は続けるべきだ。」

 

振り下ろし、神選者の首を切り落とす。

結構硬かった。

血を流しながら私の方に向き、恐怖によってかしばらく顔を歪めていた。

しゃがんでじっくり見る。

 

 

 

――30秒ほどで完全に死んだ。

 

「生命力高すぎないか?」

「じゃろ?」

 

光を纏っていた奴を思い出す。

 

「確か前にランゴスタに穴だらけされた神選者が追ってきた事もあったな……」

「わらわ達より圧倒的に強い、つまりわらわ達の社会には既に首に刃が当たっているのじゃが、全く考えていない人達に腹が立つのじゃ……」

 

王族だからこそ神選者の影響を盛大に受けているのだろう。

項垂れながら王女は言った。

 

 

そして血と排泄物を隠すため布を取り出した。

 

「さ、処理するのじゃ。」

 

 

 

 

 

 

そういえばどうやって30匹狩った事を説明するのだろう。

尾から糸を出し、事前に切り落とし、集めていたランポスの頭を束ねておく。

 

「これでいいか?」

「それも一つの方法じゃ。でも渡す前に糸は切っておくのじゃぞ。」

「当たり前だ。」

 

しかしランポスぐらい村人でも狩れそうだが。

まぁ精神的に弱いのだろうが……

 

「なんでハンターは雑魚処理も仕事に入る?」

「確かにタイマンなら勝てるのじゃが、囲まれたらどうしようもない。だからこそ大きく、重い武器を使えるハンターを頼ってくるのじゃ。」

「お前は双剣を使っていたか?」

「小型だから常に抜刀する必要はないじゃろ。ガード出来ないし。あ、でも神選者なら『ブレードガード』とか叫んで刃で受け止めるのじゃ。」

「神選者はどうでもいい……」

 

何をするのか全く予想できない奴らだから。

 

 

 

 

こいつら…………っ!!

 

 

「困るんだよにゃー、きちんと首を斬ってくれないと。ぐにゃぐにゃでさ、何、力にゃいの?ハンター辞めて、専属主婦でも目指したらどうかにゃ、ガキんちょ?」

 

持ってきたランポスの頭が鈍器で潰される。

 

「おちっ、落ち着けルカっ!」

 

ぶっ殺す。

私は今、王女の影響で苛立ちやすいんだ。

お前など、生きたまま臓物を抉り出された状態で炎に炙られながら磔にされてしまえ。

 

「っ!……っ!」

 

と心では思っていても口には出さない。

その時、こっそり王女が話しかけてくる。

 

「大丈夫、懲戒解雇と泥を塗る準備はすぐに出来るのじゃ。」

「……そうか。」

 

周りのアイルーも私達を見て笑っていた。

そしてそのままどこかへ歩いてしまった。

 

 

「住処を燃やしてしまえばいいのではないか?」

 

気を取り直して王女の方に向き直す。

 

 

 

笑っていた。

 

 

 

背筋にウイルスが走る感覚がする。

 

「あはは、そうじゃな、懲戒解雇の後に住処を燃やそうかの!始めてアイルーの一家心中が見れるかもしれないのじゃ……その前に職復帰出来る詐欺で借金を背負わせようかの。」

 

こいつも若干壊れているのか。

だが、苛立たせたのはアイツらだ、許す必要もない。

 

とりあえずランポスの頭を片付けておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局その後、ランポスの頭数が足りずクエスト失敗になった。

ギルド内の評価が下がってしまう、挽回しなければ。

 

 

と、ギルドの食卓で話していた。

 

 

「別に急がなくてもいいのじゃぞ。周りに違和感なく雪山に行きたいだけで、本当に行きたいならわらわが金を出す。」

「なるほど。」

「それに、裏からゴミ猫の汚職の数々を集めているから安心するのじゃ。」

 

そうか、私達はクエスト条件を満たした事をギルド側は信じるのか。

なら不安は無いな、頼りになる。

 

「だからライドオンをさせて欲しいのじゃ。」

「未来永劫、お前のその要望に答えると思うな。」

 

だがそれは私が許さない。

撃龍槍以上の強度が無い奴の足の代わりを何故しないといけないのか。

 

「王女なら好きなモンスターに乗れるだろ。」

「ペットは要らない、もう足りてるのじゃ。」

「ペットに自主性が欲しいのか?わがままだな。」

「わらわはわがまま第三王女じゃ。」

「そうやって全て自分の思い通りにいかせるのか?」

「人間には自尊心があるから現実的には問題ナッシング。」

「話が噛み合ってない気がするが……」

「あ、全て自分の思い通りにしようとしても人間は全員自分勝手だから大丈夫じゃ。」

「やはり噛み合ってないじゃないか。」

「えぇ……」

 

結局王女は何のために私についてきているのだろうか。

やはり私を支配したいからか。

それにしても今までの言動から、なんだかんだ王女は力押しだったが……やはり私に対しては説得の様な事しか仕掛けてこない。

意味が分からないな。

 

「そういえば、ルカと共通点あるネルスキュラ嫌い?」

「あんな奴、世界から居なくなればいい。」

 

砂漠を大量のネルスキュラ亜種が通ったら確実にトラウマになるだろう。

30匹ぐらいが一時的に狭い土地を占拠するんだ、恐怖以外に何も無かった。

 

今でさえ勝てる気がしない。

 

だからこそ蜘蛛は死ね。見かけたら―――

 

 

細長い形をした八本脚の虫が私の前を通り過ぎようとしている。

 

 

「うらぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ちょっと!?」

 

私の近辺は軽く私の縄張りだろうが……

口に放り込みながらそう思った。

 

「さ、流石にわらわでもひくのじゃ。」

「どういう事だ?」

 

 

さて、しばらくしたら狩りに行こう。




蜘蛛は嫌いだ。
余裕がある時は片っ端から食ってやる。


「あっはっはっは!!『蜘蛛ですが、何か?』を知らないのか!?」


……誰だ?


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薔薇と棘


生きる機能があるなら負け。



嫌な予感は当たるものだ。

人間はそれを、虫の知らせと言う。

 

だが、何故虫なのだろうか?

本能で生きているからこそ、世界を感じているとでも考えたのだろうか。

なら本能を潰した種族の厚かましい考え方だ。

劣っているのは人間なのに。

 

 

 

それはさておき、私は片付けをしていた。

 

 

 

朝食の後、洗剤で食器を洗う。

ハンターの食事はとても肉が多いらしいが、体に悪いのではないか?

……本来なら肉しか食わない私が言ってもしょうがないか。

泡を水で流し、立てかける。

 

「よしルカ、出かけるぞ!」

「それは私から言う台詞だろう……」

 

後ろで足をバタバタさせながら私を見ていた王女が、待ってましたと言わんばかりに笛を渡してくる。

とりあえずランポス討伐の失敗を今回で取り戻さなくては。

 

 

 

ギルドに着き、下位クエストを確認する。

 

「どうじゃ?簡単そうなのあるかの?」

「いや……あぁ、黄金石のかけらの納品があるな。」

「……まぁ星1だしそれくらいかの。では出発じゃ!」

「回復薬を買っていく。」

「あ、そうじゃったな。」

 

今回は気球が浮いてないらしい。岩が楽に運べそうだ。

しばらくした後、アプトノスの引車と共に出発した。

 

 

 

 

 

 

この時の私は、ギルドが数十分後に厳戒態勢を敷くとは露にも思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、水着。」

「切り裂くぞお前。」

 

ベースキャンプに着くなり王女は薄い布を取り出してきた。

まさかこの服で狩れと?

普通の人間なら自殺と同じだ。

 

「まぁ、そうじゃな。前回失敗したのに遊んでいるとかバレたら厳重注意じゃからな。」

「行くぞ。」

 

支給品BOXを確かめると地図しか入っていなかった。

 

「珍しいな……いや、下位ならありえないか。そういえばゴミ猫共が見当たらないが。」

「うーん、まだ手は下してないのじゃがなぁ……」

 

まさか自粛したのか?

いや、グループになっていたのだから短期間にそれはありえないな。

 

元の姿に戻る。

鎌を擦り合わせ、時々齧りながら身だしなみを整える。

 

糸を放ち、木々に登る。

空を見るがやはり気球は無い。

アイルーもいないのだから、さっさと目的を果たしてしまおう。

 

「ちょっと待つのじゃー!?」

 

評価を上げるためだ、許せ。

 

 

 

 

さぁ、衝動に任せて!!

 

「キィェァァァァァァァ!!」

 

森を駆ける疾走感!

バチバチと当たる木の枝!

何事かと振り向く竜達!

そしてキラキラと光る小川!

 

何故か楽しい!

久しぶりだ、こんなに楽しいのは!

ネセトを取り戻したらネセトで駆けてやろう!!

 

 

糸を切り、転がりながら着地する。

手早く糸でポーチを作り、採掘痕がある所を笛で何度も叩く。

 

バキリという音と共に岩が崩れてくる。

その中から探すと、黄金石の欠片をまぁまぁ手に入れる事が出来た。

 

まずはこの程度か。

次の採掘ポイントへ向かうとしよう。

 

 

 

 

しかし、道中に縄張り持ちはドスランポスしか見当たらないのだが。

転がりながら私は違和感を覚えた。

 

後ろから走ってくる熱源がいる。

 

「終わったのかの?」

「……」

「帰りにアイルーに見せる必要があるから、まだ来ていないのだし、わらわと時間を潰しながら行くのじゃぞ。」

「……」

 

ベースキャンプで暇を持て余すよりはいいか。

 

 

 

 

……おかしい。

 

先程の森にこそ小型竜は居たが、何故この日当たりの良い場所に虫一匹居ないんだ?

 

 

いや、分かる。

 

「変な予感……いや、匂いがするのう。」

「……」

 

ポーチを背中に巻き付け、笛を構える。

ゆっくりとその予感がする方へ向かう。

 

熱源は感じない。

 

ゆっくりと細い岩道を進む。

ウイルスにも、視界にもそれらしき影は見当たらない。

 

道を抜けた先の広場には誰もいなかった。

 

「居ないのう……これ以上は行かないでおいた方がいいのじゃ。」

 

気になる……だが、気配は遠ざかった気もする。移動しているのだろうか。

 

 

前回ブルファンゴを殺した道を通る。

しかし今日は一匹もいない。

 

古龍でも来たのだろうか?

オオナズチが来たのなら……気配の種類が違うか。

濃厚な血の匂いもする。

オオナズチは雑食という説だが。

 

 

 

……気配が急激に強くなる。

 

BCに近づくその道……エリア1と言われる場所だ。

しかし熱源は未だに感じない。

 

「そろそろ人間に戻ったらどうじゃ?」

 

確かに、アイルー共に見られたら説明が難しい。

人間の姿に変化する。

 

「……しかしどういう事だ?『何か』が居るのに、全く分からない。」

「もしかしたらBCにいるかもしれないのじゃ。」

 

 

警戒しながら歩を進めていく。

 

その時だった。

 

引車のアプトノスが走ってきた。

捕まえようと立ちふさがる。

 

恐らく何かがBCに居たのだろう。

 

 

 

バシャリ

 

 

熱源を感じると共に直感的に飛び退く。

 

 

 

アプトノスが突然血を吹き出し、更に骨肉混じりの大爆発を起こした。

 

 

 

ゴトリと棘が生えた赤い管の様な物が落ちる。

 

そしてズリズリと赤い何かに引っ張られ、川の方へ引きずられていき―――

 

 

 

「クォォン!」

グギュッ グギュッ

 

縄が締まる様な音と共に中身が飲まれていく。

 

 

 

「あっはは……なんの、冗談じゃ?」

「どす黒く変色したバルラガル……?」

「いや……」

 

 

バキリと赤い管が潰れる。

敵はそれを振り回し、川の方へ放った。

 

 

「あれは『薔薇創(ばらづくり)』バルラガルという最悪の二つ名じゃ……よっ!!」

 

バルラガルが首を少し引いた時には私達は既に飛び退いていた。

伸びてきた舌が回避した所の岩壁を穿つ。

 

「どういう二つ名だ!」

「舌を刺した相手の血管を爆発させて内側から破壊するのじゃ!」

 

ムチのように振り回される舌を回避する。

一瞬確認出来たが、矢じりの様な針が舌から生えていた。

引っかけられたら窮地に追いやられると考えていいだろう。

 

「どういう仕組みだ!」

「知らん!分からん!役立たん!」

 

笛で弾く事は出来るが、周りの岩や土は全てバルラガルの方へ吹き飛ばされている。

つまり体どころか笛を引っかけられたら引き寄せられて終わりだ。

 

舌に対するウイルスの反応と、視覚でバルラガルの頭を見る事で私は対応しているが、王女はどうやら全てを避けまくっているらしい。

本当に王女やめたらどうなんだ……

 

「退避まで!」

 

王女が叫ぶ。

範囲から片方が逃れた瞬間に片方を潰すのは当たり前だから退避は息を合わせないとならない。

 

「3、2、1、はいっ!!」

「とあっ!」

 

同時に舌の射程から一気に離れる。

バルラガルは舌を引っ込めたあと、私より小さい王女を狙って追いかける。

 

「後でさっき合流した森の中の広場で感動の再開じゃぁぁ!」

 

そして王女は叫びながら走っていった。

急いで先回りして準備をしよう。

 

ポーチを置き、元の姿に戻る。

糸を放ち、エリア10へ直線で向かう。

 

 

 

 

 

 

きたきたきたきたぁぁぁ!!

 

 

周りの木々や岩は破壊される。

鎧を着た振りをしていた彼女を守る物は双剣のみ。

 

 

 

一人だからこそやはり攻撃は苛烈に、高密度になるのじゃな。

一番柔らかいと思われている舌でさえ双剣が弾かれかける硬さ……流石じゃ!

 

 

 

薔薇創は舌を引っ込め、水ブレスを吐くが、王女は避けた。

すかさず舌で土や石をかき集めてから口に含み、更に尖ったブレスを吐く。

 

「ほぉぉぉっ!?」

 

横に薙がれると、特定の範囲までの全てが断ち切られる。

王女は範囲外まで後退し、飛び越して避けた。

 

「そうじゃ……もっとわらわを殺せ!殺し尽くす程に楽しめ!!」

 

行き過ぎたストレス解消は、王女を虜にしていた。

一切傷を負わずに舞い続ける。

 

 

再び水を吐いてくるが、直線的な攻撃は舌より避けやすかった。

 

血腺が閉じる。

 

 

 

 

「てやぁぁぁ!!」

 

王女が転がりこんでくる。

私の時間は十分にあった。

 

笛を振り、吹く。

体が軽くなると同時にバルラガルが周りの木々を破壊しながら入ってくる。

 

破壊した事により、木々は事前に張り付けた糸に引っ張られバルラガルの方に倒れ込む。

 

バルラガルか首で木を吹き飛ばした時に地面から私が作った4重になっている網がバルラガルを宙に持ち上げる。

舌を伸ばそうと顔を動かす程に粘着性が高いままの網が絡みつく。

 

そしてバルラガルは唸りながら動く事をやめた。

 

「おぉ、お手柄じゃ!」

 

私は網に糸を放つ。

20回程追加で糸を巻いた事により、今更暴れ始めたバルラガルはもう手足が出なかった。

いや手足が見えなかったと言うべきか。

 

周りの木々をしならせてから糸を巻き、重さを分ける。

 

このまま窒息してくれればありがたいな。

 

 

 

 

 

 

空を何かが横切る。

 

 

 

黒い粒子の波が世界を覆い始める。

 

 

 

 

 

 

「ん?天気が唐突に悪くなったのじゃ。」

 

……怖いな、第三、第四の罠を準備しておくか。

雨が降ったら意味が無いが。

 




薔薇創(ばらづくり)バルラガル

血が固まった様な色をしている。

舌が一番の武器。
やすやすと鉄を貫く威力を持ち、まるで放射状の布に見える早さで何十分も振ることが出来る。

本体自体の俊敏性は低い。

ある程度外傷を与えると、防衛本能からか本気を出すらしい。


《参考遺品》
錆びた鉄の匂いがする真っ赤なノート


儂らは地質調査の為に渓流にやってきた。
だが、いつの間にかドスジャギィ二匹と、その部下達に囲まれてしまった。
ハンターは退路を確保しようとするが、睨み合っているジャギィに攻撃は出来ない。

その時だった。

もはや刺激臭である血の匂いがしたと思ったら、背後から黒い色をしたバルラガルが躍り出てきた!
儂らは走って離れた。
ドスジャギィ達がバルラガルへ向かって噛み付こうと近づく。

全てのドスジャギィ達が、突然宙に浮かぶ。

キラリとバルラガルの目が黄色く光ったと思った次の瞬間、大爆発が起きた。
ゴトゴトと赤い管が落ちてくる。

儂らは走って離れた。


(シミと穴で読めない)


大剣を突き破り、鎧を突き破った舌で仲間が爆発した。
吐き気がこみ上げる程、凄惨だった。

再び走って逃げる。

だが儂も、先程舌にかすってしまった。
体が熱い。

あの怪物は、ただ殺しに


(手の形で穴が空いている。これ以降の記載は無い)


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恢滅の忌螫


「やはり砲弾が効きません!」
「角に当てるのが難しすぎます!」
「落ち着け!近づくぞ!隊列を乱すな―――」


結晶が乱立し、分厚い鉄の塊を容易く突き破る。

その龍が空へ、空へと上がった後に―――


「なん……だありゃあ!?」


終末の攻撃は落ちてくる。
全ての有が圧縮され、白い光と化す。

結晶を含む全ての輝きは虚無へと還り、破滅という呼称さえぬるい結末を迎える。


「オオオオオオオンッッ!!」


穴が空いた大地だけが残り、命が消え去った空で龍は吠えた。


夕立でも起きるかの様な天気の変わりようだ。

しかし黒紫色の雲が作為的な現象だと物語る。

 

 

 

突然ピキリと頭から音がした。

 

「……ルルゥ」

「どうしたのじゃ?」

 

意識が何かに引っ張られる。

明らかに危険と分かるが、抗う気持ちは起きない……

 

起きろと私が糾弾しても―――体は言う――ことを―きかない―――

―――思考が―――掠れ―――て―――

 

 

 

ズキリ!!

今度は鈍器で殴られたような錯覚を覚える。

 

「……ルアッ!?」

 

これはかなり痛い。

結晶から今までに無い勢いで何かが流れているのが分かった。

 

「ちょっ、大丈夫なのか?」

頷く。

「ってなんか黒いオーラが出てるのじゃ!」

「……!?」

 

ふと脚を見る。

……本当だ。私の結晶の位置から絹の様にウイルスが落ちている。

どうしてこの様な反応を?

 

 

ビリッ

 

 

……バルラガルを閉じ込めていた繭から糸が破れる音がする。

 

「クルルル……」

 

糸を操作し周囲の木を折りながら持ち上げ、繭へ照準を合わせる。

繭の破れる速度が上がるにつれ、黒い粒子が繭からも出てきた。

 

一体何が起こっているんだ?

狂竜ウイルスとは別の何かがあるのか?

 

 

「―――まさかっ!?」

 

王女が若干俯けていた顔を弾かれた様に上げる。

表情はまるで目の前の餌を盗られたハプルボッカだ。

 

 

遂に繭からバルラガルの頭が出る。

怒りからか、口から赤い煙を出していた。

 

「キィァァァァ!!」

 

木を射出する。

一本目は弾かれるが、後の七本は頭に鈍い音を響かせた。

 

同じ方向からの攻撃は効いたらしく、大きく怯む。

そしてバルラガルは繭から落ちた。

 

……?

黒い粒子がバルラガルから飛び散った様に見える。

 

 

「気をつけろ、奴は『凶気化』したのじゃ!」

 

 

聞いたことがない状態だ。

というより私の状態の方が気になるが……いや、狂竜化しながら理性を保っている時点でおかしいから名称がわからん。

 

 

バルラガルは叫びながら尾を地面に突き刺す。

 

 

 

「グォォォォォォアアアア!!」

 

 

 

ブチりという音と共に血腺が開く。

赤黒い血がそこには流れていた。

 

私でさえ気分が悪くなる程の血の匂いが辺りを満たす。

 

グジャリと足元が緩む。

 

「やばっ!」

「ルゥッ!」

 

私は宙返りをして避ける。

少し足が圧迫されるが、体内に入りはしなかった様だ。

 

元居た所には赤く尖った柱が生えていた。

バルラガルが尻尾を抜くとそれは液体となり……強い匂いを放つ。

 

 

これも血か。

 

 

バルラガルは首を高く上げ、何かをこみ上げている様だ。

 

私は飛ばした木を一本引き寄せる。

そして近くの木に人間に変化しながら隠れる。

 

木の影以外は赤い液体が大量に撒かれる。

そして大量の針に変化し、液体となって崩れた。

 

「げぇぇぇ……けほっ、けほっ。」

 

王女は吐いていた。

それはそうだ、血を直接被った時と比にならない程匂いが濃い。

これだと空気さえ押しのけられているだろう。

 

「けほっ……くくっ、これが血の薔薇か……わらわにはちとキツいのう……」

 

虫である私にもキツいのだから、人間……いや、普通の動物なら卒倒するレベルだろう。

やはりこの王女はおかしい。

 

 

ウイルスはバルラガルの次の動きを察知させた。

 

「王女、伏せろ!」

 

舌が木を裂く。

一瞬で何度も裂かれ、焚き火になりそうな大きさまで小さくなる。

そして破片が私達に降りかかる。

 

バルラガルは私達を見失った様だ。

やはり狂うと注意力が減るのか。

 

笛を振り、吹く。もう一度振り、吹く。

体の感覚が、フワフワした状態になる。

 

元の姿になると、結晶から出ているウイルスが増えているのが確認出来た。

恐らく活性化してるのだろう……私の思考に影響は出てないが。

 

糸を放ち、先程引っ張った木を担ぐ。

笛を振ってから私の脚を切り、バルラガルに投げつける。

 

狙い通りバルラガルは舌で爆発させ、飲んだ。

その隙に木を投げつける。

 

そして笛を吹き、ウイルスの力を合わせて脚を回復させる。

ミシミシという音と共に伸びる様子から、すぐに元通りになりそうだ。

 

 

血腺から複数の柱が伸び、木を刺し止める。

そして舌で何処かに投げられた。

 

その後バルラガルはこちらに走ってきた。

 

 

「よし、アトラルよ逃げるぞ!」

 

糸を放ち、走り出した王女を背中に巻き付ける。

 

「おっ、ライドオン……とは呼べないの。」

 

近くの岩に糸をつけ、振り回してから投げつける。

バルラガルは口から針を伸ばして破壊した。

その間に木に糸を放ち、跳んで逃げる。

 

 

 

血の匂いが急速に薄れる。

空気が美味しいとはこういう事か。

 

「深呼吸がしたくなるのじゃ!」

 

勝手にしてろ。

 

 

 

 

BCに着地する頃には足が治っていた。

王女を落とし、人間の姿になる。

 

「早く逃げたいのだが、まだ迎えは来てないのか。」

「恐らく生存者は居ないと思っているのじゃろう。ガードも回避も困難じゃし、それに無尽蔵のスタミナだしの。」

「サシミウオでも釣るか。」

「わらわはさっき転がった際の切り傷に回復薬使っておくわ。」

「まさか舌にやられたのか?」

「そしたらわらわはもう死んでおるのじゃ。」

 

釣竿をキャンプから持ち出し、桟橋に向かう。

 

 

 

水は真っ赤に染まり、魚は横向きに浮いていた。

 

 

 

ゾクリと本能が危険を告げる。

 

 

「おい王女。」

「どうしたのじゃ?」

「逃げるぞ!!」

「えっ、わ、分かったのじゃ!?」

 

水面が泡立ち始めた次の瞬間、鮮血の飛沫をたてながらバルラガルが躍り出てきた。

 

「どうして……沼地みたいに地面は柔らかくないのじゃぞ!」

「恐らくアイツは地下水の周辺を通っている!それなら沼地ぐらい柔らかいだろう!」

「なるほど、気配が遠ざかったのにわらわ達に会わないと通れない水辺から攻撃してきたのはそういう事じゃな!」

 

叫び終わったらまた元の姿になる。

バルラガルは再び血をこみ上げ始めた。

 

納品BOXを投げつけ、続けざまに支給品BOXを投げつける。

納品BOXは血腺からの柱に弾かれ、支給品BOXが口の中に入った。

 

バルラガルは血を口から垂らしながら噛み砕く。

そして私を見定めていた。

 

その間に王女を縛り付け、BCの上から脱出する。

 

 

「残奏姫の力を見せるのじゃ!」

 

今は撃龍槍が無いから無理だ。

そして近づく事=死なのだからそういうのは神選者にやってもらえばいい。

血を纏ったなら水分で恐らく糸も切られてしまう。

 

そう思いながら私は走って帰っていった。

 

 

 

 

 

ギルドに着くと、とても騒がしく、ほぼ全員が走り回っていた。

 

「あぁぁ!?生還、生還したんですね!」

 

ギルドから受付嬢が走り寄って、私達を讃える。

 

「突然で申し訳ないのですが村の防衛の緊急クエストに参加してくれませんか!?」

「何があった?」

「く、黒の凶気です!ランポス達が村を襲いに来て、他にもモンスターが大量に来ると思われてて!それで人手が足らなくて!あの、本来なら上位ですけど生き残られたのでっ!!」

「はいはい、わらわ達も受けるぞ。なぁルカ?」

「撃龍槍を持ってくる。」

 

撃龍槍さえあれば私は強い。

恐らくバルラガルにもダメージを与えられただろう。

 

……しまった。黄金石の欠片の納品を完了させてない。

 

 

 

「はいはい、わらわ達はここを守備じゃ。」

 

 

川に面した水田……わざとか?

 

 

「既に何人か居るから、加勢みたいなものじゃの。」

「おい、狂気はどいつが拡散しているんだ?」

「えっと……元々不安定な絆原石で凶気化はあったけど、生まれたてのヴェルサ・ノワが凶気化するとマキリ・ノワっていう古龍に変化して、絆原石と共に凶気を拡散するのじゃ。そしてとてつもなく強いらしいのじゃ。」

「ほう……」

 

この拡散力だと、さっさと元凶を殺さないと平和が訪れないな。

それにしても何故私は狂気化しなかったのだろう。……まぁ恐らく狂竜ウイルスのお陰か。

毒を以て毒を制すという言葉があるが……その通りになったな。

 

「あっ、凶気化の『きょう』は凶悪の『凶』じゃ。」

「……そうか。」

 

 

「さて、川をご覧下さい……ガノトトスが下って来ましたのじゃ。」

 

周りにハンターが居ないことを確かめる。

元の姿に戻り、撃龍槍を構える。

 

「キュエッ――ゲッ!?」

 

こちらに飛び込んできた所を下から撃龍槍をすくい上げて刺す。

背中から叩きつけられ、撃龍槍によって標本の様になったガノトトスの腹を裂いて心臓を斬る。

 

王女を見るが、眉一つ動かさない……訳ではなかった。

 

「わぁ、凄いのじゃ!」

 

ただ、顔を顰める事はなかった。

 

 

 

さて、バルラガルが来ないことを祈るか。




凶気化薔薇創バルラガル

防衛本能と闘争心が暴走した二つ名。
防衛本能により血柱を解禁した。
本来なら横から近づいてきた敵や物を串刺しにする血柱だが、凶気化したことにより、正面の敵は舌で殺したいという謎の思考であらゆる方向や場所に血柱を生やして正面の邪魔を取り除く。

執念深くなると同時に視野が狭くなった為、多数で周りから叩く事が元々よりしやすい。
1vs1だと地獄と化す。


血柱に傷つけられると当然の様に爆発する。
【地中から伸びた場合のイメージ・辿異ルコの串刺し。爆発で生物だった管が落下。】


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【世界覆い蝕む漆黒の絆】シーズンアップグレード《閑話》


この世界には強者として『七星賢』『四天王』『三柱』と呼ばれるモンスターがいる……
そして、人間の近くに住むのはとある女王であった……

※今回はドンドルマです



ぎゃぁぁぁああ!?

 

外を見ると大量のランゴスタがまたドンドルマの空を覆ってますっ!?

 

 

とりあえず一息つこう。

 

……これはまずい。

クイーンも見える。

 

しかも何か紫のモヤを出しているし……殺意MAX過ぎない?

 

 

 

 

クイーンは頭を抱える。

 

 

くっそ……私ハ……私は……っ!

何故ドンドルマをこんなに壊したいんだ!

無意味だし、無責任にも程がある……っ!!

 

「女王様。我々ハ貴女様ノ下僕デス。例エ何ヲシヨウト我々ノ忠誠心ハ絶対二揺ルギマセン。」

 

総部隊長の子が私を甘やかそうとする。

 

「だけど、お前達も暴れたいのだろう!?同じ紫のモヤを纏っているのだから!」

 

そうだ。子供達が我慢しているのに親の私が暴れていい訳がない。

 

「イエ。我々ハ何ガアロウト、女王様二尽クシマス。ソレガ一番ナノデス。本能モ、理性モ、体モ。全テ貴女様二捧ゲルト決メテイルノデス!」

 

 

周りの子達も賛同の音を鳴らす。

 

 

「分かったわ……でも……」

「偶ニハ暴レルノモ、ストレス解消トナリマショウ。」

 

そこまで私を気遣ってくれるなんて……

これ以上は断れない。

 

「……後ろは頼んだわ。」

 

呑まれるかもしれない。

しかし、このまま暴走に潰されたら二度とこの意識が戻れない気もしていた。

 

よし、体を動かそう。

 

ある程度『本気』で。

 

ゴア・マガラを思い浮かべながら力を溜める。

奴を一撃で殺せないと我が子に被害が出てしまうから。

 

 

 

 

ちょいちょいちょいちょい!?

クイーンが溜め行動を始めたら大地が振動し始めたのだけど!?

大老殿に他の神選者は居そうだ。急げっ!

 

 

 

 

紫色の雲が一匹の虫を中心に渦巻き始める。

大量に蒸発した水が氷となり、逃げ惑う生物を潰す。

余波の雷や龍雷が街を破壊する。バキリと石畳が割れる。

 

 

 

 

凶気化のせいなのか分かんないけど、もはや白くない白統虫は大老殿に向かってコーティングの無い真っ黒な光線を放った!?

 

「かめはめ波ぁぁぁ!!」

「大光線!!」

「ファイナルスパーク!!」

「ブラストハウリングッッ!!」

 

三人と一機でやっと釣り合うってどういう威力なのだろう……

天使の羽を生やし、急いで移動する。

横に並ぶと同時に技を放つ。

 

「ホーリーキャノン!!」

 

五人の神選者でやっとレーザーを押し返し始めた。

良かった、流石に勝てる―――

 

 

 

 

このモヤを纏っていると、龍の力が強くなる。

それで若干属性が使いにくくなった。

 

「でも時間かかッたけド、充填完了!!」

 

さぁ、なんならドンドルマを私達の巣にしてやる!

 

 

 

 

脚から放たれる龍とは別に四枚の羽から炎、水、雷、氷が放たれる。

神選者達は副砲だと思う。

 

 

ある場所は一瞬で燃え尽きた。

ある場所は粉微塵に砕かれた。

ある場所は赤く光り蒸発した。

ある場所は標本の箱と化した。

 

 

古龍さえ怯え逃げるその虫は、いとも簡単に天地をひっくり返す様な事象を起こす。

 

『その気になれば、数刻で国さえ簡単に滅ぼせるだろう』

 

この文章を気にした神選者はいくらいただろうか。

 

 

 

 

 

 

私は分かってしまった。

何故、白統虫の討伐優先度が低いのか……そこまで気性が荒くないというのもあるのだろうけど……

 

 

恐らく『強すぎる』から、討伐不可能や討伐しても余りにも甚大な被害が出るから優先度が低いのかな、と。

 

 

光線がそれぞれの方向から段々と私達に向けている黒い光線に集まってくる。

このままじゃ力負けする!

 

「†キリト†行っきまーす!」

 

背後から突然地雷が叫ぶ。

 

「えっ、やめた方が―――」

「転移!!」

 

青い光と共に消え、クイーンの背後に光が見えた。

……次の瞬間、控えていたランゴスタが地雷に群がり、地に投げ捨てられ……ない?

……あ、あ、ぁぁぁぁ!?

 

 

「おい『天使』!?何ビームを止めているんだっ!」

 

 

ランゴスタ達は段々下降しながら地雷の口を開け、自身が入っていく。

 

……確かにどんなに固くてもあの地雷は呼吸に関しては余り手をつけていなかった……だけど、まさか……うぇぇぇ……

 

捨て身って、やっぱり怖い……うぇぇぇ……

 

 

 

 

 

くそっ、魔力が尽きる……っ!

一体なんなんだ、あの虫は?

大体、幻想郷からこっちに来た事に関する記憶も曖昧……ってそんな事は考える暇はないか。

あーもう、一体どんな力しているんだぁぁぁっ!!

 

最後の足掻きとして残された魔力を振り絞る。

私のミニ八卦炉が火を吹くぜ!

周りも段々強くなっている。

多分追い詰められているんだろう。

 

再び押し返しはじめ――

 

「あーっ、もう駄目だこりゃー!」

 

私達の力が弱まった瞬間に一気に押され、黒の光線が大老殿を穿つ―――

 

「プロトコルっ!」

「排斥空間!」

 

大老殿に駆けてきた別の神選者がバリアを張って止めた。

しかしヒビが入る。

 

そこでクイーンは光線を止め、移動しはじめた……ふぅ、何とか凌げたぜ。

でももう魔力がカラッカラだし、今から何も出来ないんだよな。

 

ふん、しょうがないし私は帰るか。

 

 

その時だった。

 

 

ピロリロリンと音が聞こえた。

視界の端に何かが映る。

 

「お、おう?」

 

右手の近くに青い板が浮いていた。

確かホログラムだったかな?

 

『こんにちは!』

『今回、メニューボードが追加されました!』

『一応複雑ですのでチュートリアルがあります。』

『開始しますか?』

 

なんだこれ?

まぁ、とりあえず開始―――

 

 

 

再びクイーンが溜め始める。

そして見当違いの方向に黒いレーザーを二本放つ。

誰かが言った。

 

「ツイン・スタードリーマーかなぁっ!?」

 

なにそれ、かっこよさそう。

 

 

 

だけどそのレーザーがもたらした被害が尋常では無かった。

 

 

 

紫色の雲が完全に散り、深い青色の空を映し出す。

ランゴスタが覆ってるせいで真上の空は見えないが。

 

強烈な閃光の後に複数の黒い塊が発生、しばらくした後にバリバリと雷に似た轟音が響き渡る―――

 

って痛い痛い痛い!!

こんな時の為の応急耳栓っ!

 

よし、体が震える感覚はあるがしばらく持つと思う。

とりあえず身が持たないから逃げよう!

 

 

箒に乗り、低空飛行をして逃げる。

空高く飛ぶとランゴスタにやられるからな……

 

 

 

 

そのまま数十分モンスターを無視して飛び、森を越えた。

 

「ふぅ、疲れた……ランゴスタの範囲広すぎだぜ……」

 

私の素早さをもってしても、まだ黒雲の様なランゴスタが見えるのだけど。

一息つきながらチュートリアルを始めよう。

 

 

『チュートリアルを開始します』

『現在は「広範囲マップ」「スキル」「収納機能」が使えます』

 

「スキル……防御系だけとっておくとしよう。」

 

『まずはマップで近くを見てみましょう』

『ここをタップして下さい』

 

「おっと、触れた感覚があるんだな。」

 

『はい、これで周辺の地形が見える様になりました』

『モンスターの情報は人工衛星から発信しているので、地上でのみ確認出来ます』

『おや、モンスターの反応がありますね?』

『縮小してからスライドで探したり、拡大してモンスターの動きを見てみましょう』

『使い方が分かったらこの矢印を押してください』

 

「……うわぁ。」

 

地図を縮小し、少し動かすと黄色いガスみたいな表示があった。

右下の四角には『黄色・モンスター、赤色・大型モンスター』って書いてある。

つまり……

 

「このガスが全部ランゴスタか……」

 

一切の隙間がない。

ガスとは言ったもののほぼ円形。

 

そして―――

 

「うわっ、赤いのが動き出した。中型も赤色なのか。」

 

 

 

 

 

あはははハハは!!

テンションがとてつもなく上がってきましたよっ!!

 

「蹂躙するぞ、続け!」

「「オオオオオオ!!」」

 

私が通れば燃え尽き凍てつき溺れ痺れる。

子供達が続けば更に激化、竜巻さえ起こる。

 

そうだ……人間二怯えル必要はナイ―――それは違うっ!馬鹿か私は!

 

普段は人間に子供達を殺させない為に身を潜めている。

まぁ、この大きな街はもう潰せるけど。

 

 

その時、突然正面から剣が突き出された。

回避する。

 

「止まれ!」

「「リョウカイ!!」」

 

レイピアを杖に変化させながらそいつは降りてきた。

 

「うっふっふっふっふ……」

「何処か私と似ていますね。」

「でも貴女は美しくない……女王としての自覚が足りないのよ。才能が無いのかしら?」

「子供達を守る為なら、私は泥だろうと海だろうと突っ込みます。その覚悟はありますか?」

 

黄色と紫、青が混じった蜂がいた。

何処からか音楽(Dirty&Beauty)がかかり始める。

 

 

「私の下僕が流すBGMですわ。では、始めましょう……わらわが頂点の存在という証明の為に。」

 

クィン・セクトニアが杖を振ると、空から大量のアリの様な生物が落ちてくる。

中には羽が生えている者も居た。

 

 

 

「いつもなら無意味な事は断りますが……今日は体を動かしたい気分ですね。」

 

クイーンランゴスタが羽を鳴らすと、ランゴスタ達が隊列を作り始める。

凶気化により、普段より攻撃的だ。

 

 

「「いざ。」」

「「キュルキュルルルァァァァ!!」」

「「バチバチバチバチ!!」」

 

 

大怪虫決戦が、今、始まる。

 

 

「『擬似顕著』……まさか奴の召喚にも魔力とられるのか……息が……他は……慣れてないからな……」

 

 

 

 

 

 

うっわぁ……なんかマップに写ってる量が倍に増えたんだけど。

地図でモンスターの位置が分かるのはいいけど、物凄く気になってしまう。

まぁ、とりあえず次のシステムを見るか。

 

 

『マップを使えばペイントボールが不要になります!』

 

『スキルとは、神選者に最初に発現する能力とは別に後からつけれる能力などの事です』

『種類でが多種多様で、スキルポイントか条件を満たすかで解放されます』

『スキルポイントの取得の説明などはこちら』

『またここにカテゴリで分けられているので、ご活用下さい』

『理解したり、使い切ったりしたら次へ行きましょう!』

 

 

えーっと『生存系』……うーん、よし、『危険時自動転移』をとろう。

スキルポイント10の内、8も使うのか。

まぁ生存率がグーンと上がるからこれ以外の選択肢は無いな。うん。

 

 

『スキルを取得し、成長させれば大魔法が自在に使えるかも……?』

 

うっわ、嫌なシステムだな。

 

『最後は収納機能です!』

『これは単純、物を入れて保管する事が出来ます』

『まずはこのメニューボード閉じ、開きましょう』

『開閉は頭の中でボードを意識し、手首を振りましょう』

 

よっ。

そいっ。

 

『はい、最初の画面です』

『あれ、この黒い穴は?そうです、収納機能です』

『両手に入る大きさまでなら大量に入れられます』

『出す時は出したいものを思いながら手を入れるか、ここの収納した物一覧から選択しましょう』

『チュートリアルはここで終了です、良きハンターライフを!』

 

 

とりあえず終わったか。

……こんなシステムに依存する前に早く帰りたいな。

いつ空き巣入るか分からんし……霊夢はどうしてるかな……

 

 

 

 

 

 

「マキリ・ノワってどれくらい強いんだ?」

「攻撃はお主と撃龍槍に属性で掛けたぐらいで、防御は角から自身を包む様にバリアを張っておるのじゃ。」

「古龍だな……」




この機能が欲しい?
それならばここの問い合わせホームから……いえ、感想ホームですか?そこからメッセージを送りましょう!
あなたの要望が実装されるかもしれません!



「クイーンーランゴースターはー」
「………あの方は四天王の中でも最弱。」
「それでも勝ったら褒めるべきね。」

「というーかー、三柱ーがーヤバすぎるー気がー」
「………何故貴女が四天王?」
「いや私を越さないと。アイツら容赦無いし。」


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異端、破綻、生誕


すっごい雑な蛹の説明

生存率上げる理由から大量の卵を産んだから、一匹あたりの栄養素が少なくなったから産まれた時の形態で葉っぱから栄養摂って。

↓↓↓(世代交代と成長)

よし、栄養が足りたから生殖行為や飛行が出来る生物に変化するぜ。

↓(安全な場所探し)

産まれた時に貰った成虫の基盤と共に卵になるぞぉぉぉ!!←蛹

↓(早朝、煌びやかな羽化が始まる)

ふぅ……そう、私が――


ライゼクスだぁぁっ!

「ライゼクスは虫じゃないだろう!?」


大分日が傾いてきた。

 

あの後、ラギアクルスが来たが、それ以外は来ていない。一匹だけなので簡単に対処出来た。

つまり、結局大半は暇だったので、笛を掃除していた。

 

 

ラギアクルスを解体し、アイルー達に運ばせ終わった王女が話しかけてくる。

 

「モンスターは探しに行くものじゃぞ。」

「走り回るのは面倒くさい。それにここを突破されるぞ?」

「いやぁ……モンスターはそんなに頭良くないんじゃが……」

 

いや、私やクイーンみたいな例があるのだから分からない。

……とは面倒くさくする事は言わない方がいいか。

 

「とりあえずここは私に任せろ。このクエストが終わったらポッケ村に連れていけ。」

「はいはい。このクエストが終わったらどうにかギルドを説得してやるのじゃ。」

 

そう言って王女は何処かに走っていく。

そして途中で振り向くと、何かを投げてきた。

 

受け止める。

 

「何だ?」

「閃光玉じゃぁぁ――」

 

叫びながら走っていった。

……もうちょっと王族らしく振るまえ。

 

 

 

 

 

風が紫色の雲を運ぶ。

遠くを大型モンスターが飛んでいくのを見ながら、私は携帯食料を食べる。

 

しかし、あの神選者達はたかが一匹のマキリ・ノワを倒すのに手間取っているのだろうか。

マキリ・ノワがそれほど強いのか、逆に無能しか居なかったのか……

どちらにしろ私は撃龍槍を振り回して人間の体の使い方を覚えていた。

 

 

陽が落ちたのか、闇が空を覆っていく。

しかし紫色の雲は若干光っているのか、うっすらと見える。

その光景は綺麗ではあったが、やはり禍々しい。

 

 

 

……ウイルスが蠢き始める。

 

遠くの空から紫色に強く光る雲が広がってきた。

微かな本能の叫びが聞こえる。

 

「古龍か……」

 

つい口に出す。

私は立ち上がり、笛を振り、撃龍槍を持つ。

 

恐らくマキリ・ノワだが……遠くて分からない。

 

紫色の渦の中心を大きな何かが飛んできた。

願わくば私を狙わないで欲しいが……

 

「――ルルォォォォ」

 

非常に遠くで古龍が叫ぶ。

足を引き、構える。

 

……?

何も起きない―――

 

「ルァァァアアッッッ!!」

 

突然黒いブレスを放ってくる。

ただ遠いため私に当たる事は無い。

その後、一直線に私の方へ飛んできた。

 

笛を吹き、撃龍槍を構える。

……周りに人間は居ないが、一応人間の姿のままにしておこう。

 

古龍は角に炎を纏った。

撃龍槍を振りかぶる。

 

 

「コォォォオッッ!!」

「馬鹿は死ねっ!!」

 

炎が炸裂し、私を飲み込むが鎧が燃えるだけだ。

考え直して撃龍槍を置き、敵の衝突を待つ。

 

「ルルォォッ!?」

 

よし、流石に撃龍槍の方が硬いか。

相手の突進と体重が角の一点にかかって折れる。

 

衝撃と折れた事によりパニックを起こしたのか古龍が墜落する。

勿論私は埋まった撃龍槍を抜いてから古龍の背に飛び乗る。

このまま、殺してしまおう。

 

「クルォォォオッ!」

「死ね、死ね!雑魚が!」

 

もしかしてコイツがマキリ・ノワか?

私を舐めたのか、外した事による怒りかは分からないが馬鹿正直に突っ込んでくるのは愚の骨頂だな。

よく分からないが、バリアで潰せばいいものを。

 

大型の古龍の癖に、かなり前に私を狙ったクシャルより馬鹿なのは笑うしかない。

そう思いながら元の姿に戻り、飛び立って私を振り下ろそうと暴れる所をしがみつく。

 

動きが遅い。顔面を笛で殴打する。

落ちかけるが、大丈夫だった。

 

「クカァァッ!ゴロロロロロッ!」

 

怯んでから奇妙な咆哮をし、紫の煙を纏う―――

 

 

―――ズキリ!

 

 

ふん、私を凶気化させようとしても無駄らしいな。

一時的に意識が遠のくが、マキリ・ノワが暴れ始める頃にはウイルスの刺激で起きれる。

 

一度休みなのか暴れるのをやめた。

 

「キィェァァァァァ!!」

 

その隙に撃龍槍を叩きつける。

マキリ・ノワが大きく怯み、苦しげな声を出す。

 

「コォォォオッッ!!」

 

再び叫び、紫の煙を放出する―――

 

 

 

グジャリ

 

 

 

―――ッ!!??

 

…………。

久しぶりに息切れを起こした。

頭の方……いや、背中から潰れる様な音がした。

 

ゲボッという音と共に、私は血を吐き出す。

黒と緑が混ざった血をマキリ・ノワの背中にぶちまける。

 

体の各部でウイルスが蠢く感覚がする。

まさかここで狂竜ウイルスに呑まれるのか?死ぬぞ?

……いや、思考は相変わらずクリアだ。

 

鎌をマキリ・ノワの背中に叩きつける。

 

 

ゾワッ

 

 

「―――ッ。」

 

衝撃を与えた箇所から体の各部にまで何かが蠢く感覚が走る。

まさか凶気化で狂竜ウイルスに敏感になっているのだろうか?

 

その時、何かに突進され吹き飛ばされた。

私は抵抗出来ずに落ちながら、凶気化しているトリドクレスを見る。

 

 

 

事前に息を吸い、水の中に落ちる。

体が浮いた感覚と同時に熱に浮かされているかのような感覚になるが、とりあえず撃龍槍を引きずって陸に上がろうとする。

 

「キィィィッ!」

 

ガノトトスが襲ってくる。

回避を試みたが、右後ろ脚を食われた。

 

……なんとか這いずり、陸に上がる。

そして私は後ろ脚を見て、諦めの混じった感情になった。

 

 

傷口から明らかに動いている黒い液体と私の血が混ざったものが出てくる。

心臓が脈打つたびに体全体がゾワゾワする。

結晶さえ血が通った様な感覚になっている。

 

しかし、まだ視界は霞んでいない。

それどころかウイルスに視覚を遮断されてもいない。

 

もう一度吐き、マキリ・ノワを見据える。

氷を纏い終わり、こちらに突進して来ようとしていた。

 

思うように体を動かせないが、閃光玉を地面に叩きつける事は出来た。

マキリ・ノワがまた地面に衝突している間に笛を振り、持続回復の旋律を吹く。

 

 

黒い塊が元の脚の形を形成した。

 

 

……駄目か。ウイルスは私の体を蝕みきっていた様だ。

私はこのまま死ぬ可能性が高い。

しょうがない、私を食い破って出てくるゴア・マガラが私の代わりに生き残る事を祈るか。

勿論、私は最後まで生きようとするが。

 

 

マキリ・ノワが立ち上がり、咆哮する。

私も立ち上がり、撃龍槍を背負う。

 

そう決めたなら、ここでコイツを殺しておこう。

 

マキリ・ノワの角がみるみる治っていく。

飛び立とうとした所に糸を放ち、しがみつく。

 

開き直ったからか、体が随分軽くなった。

 

 

「レウス!」

「ギィィィィィッ!」

 

空から聞いたことのある声が聞こえた。

 

「行っけえ!リュート!レウス!」

 

リオレウスが炎を纏いながら突進してくる。

確か、マネルガーを嫌っていた人間か。

 

 

バギィッ!!

 

 

必殺技は張られたバリアに衝突し、外は業火に覆われる。

しかしマキリ・ノワは私を振り落とそうと暴れるばかりで、全く外を気にしていない様だ。

 

「くっ……そぉ!」

「レウスの絆技が完全に弾かれたのか!?」

 

私に向かって再びトリドクレスが突っ込んでくる。

こっちはバリアの対象ではないのか。

回避するが、再び突進してくる。

笛を振り上げてみるがマキリ・ノワが暴れる為、踏ん張ることが出来ない。

 

「豪火球!」

 

ガィン、ガィン、ガィン!

リオレウスが三発のブレスを放ったが、その程度で破れる訳が無いだろう。

 

「くそっ、前のマキリ・ノワより強い!」

 

えっ?

これより弱い……というより馬鹿な奴がいるのか。

つまりマキリ・ノワは前にも居て、そしてこいつに討伐されたのか……ただ人間が乗っかったリオレウスに負けるとか古龍として……いや、リオレウスが強いのか?

まぁいいか。

 

トリドクレスがしつこく私を狙い続ける。

そして、マキリ・ノワはリオレウスを狙ってブレスを放つ。

 

「キュアァァァァッ!」

 

ようやく踏ん張ることが出来る。

一度突進をやり過ごしてから撃龍槍を構え、待つ。

 

トリドクレスは頭を向けて突っ込んできた。

引き付けてから撃龍槍を叩きつける。

 

「ピィィィッ!?」

「グゥゥオッ!?」

 

トリドクレスには大ダメージを。

マキリ・ノワにも軽傷を与えた。

槍を戻し笛を構え、頭の方へ向かう。

すると、今度は正面から新たな奴が頭を振りながら飛び出してきた。

 

「アウッアウッ!」

カツン、カツン!

 

ゲリョスか……凶気化したモンスターを操れるのかマキリ・ノワは?

笛で光を遮り、糸で引き寄せて振り抜く。

 

「アキャッ!?」

 

さて、今度こそマキリ・ノワの頭に向かう。

お前を殺して、じっくりウイルスと向き合う時間を貰おう。

 

 

顔周りの毛に脚を引っ掛け、撃龍槍を振りかぶる。

 

 

 

 

背中からパキリと音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

黒い粉が舞う。

 

 




ドモ、俺ハ命反ゴア・マガラ。

『調節したわ〜。』

今回、俺の弱体化した様な古龍がMHXRに出るらしい。
確か……黒冠龍、モルドムントだったか?
あの方を暴走させて、地雷がウイルス柱になったら多分私だと思います。
いや、攻撃行動はツイッター分しか知りませんが……腕に口とか、飛ぶ時凄い乾きそうですね。

……恐らく更新されるだろうな、この後書き。

更新したぜ!

余り似てなかったわ……残念だ。
というより、攻撃は辿異ガスラバズラの方が似てる!
ガスラバズラの攻撃範囲のゴア・マガラの高速verがこの僕だよ!


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服従せし泡子


「寂しいから歌います。」
「は?……は?」

世界ー作れないけどー皆をー作れるんだよー
だから(イケボ)
じゅんじゅん敵を炭にして
ふわふわ我が子を作りまくって
いつか彼女に報告だ

「……よし、気合い入ったしクソゴミカスが勝手に生やしたダンジョン潰してくるわ。」
「ああ……今の歌は、お前、か。」


理解はした。

これからどう動けばいいのかは分からないが、とりあえず笛を振った。そして吹いた。

 

……まさかこうやって生まれるのか?

 

 

 

私の背中はパックリと割れ、黒い液体の様な物が宙でゆらゆらしている。

しかし再生力は一層強まり、笛の力と相まって傷口は段々と閉じていこうとする。

それを無理やりこじ開けられている様だ。

 

「オオオァァッ!!」

 

流石にこのタイミングを逃す程の馬鹿ではないらしい。

マキリ・ノワが私を振り落としにかかる。

 

「…………ッ。」

 

駄目だ、即効性の旋律を吹く余裕がない。

とりあえず毛に引っかからない様に背中に移動する。

ミシミシと黒い塊が―――

 

 

バギィッ!

「――ギイッ!?」

 

 

更に割れた様だ……痛い。

だが、体はまだまだ元気だ。

完全に二つに裂かれるまで元気なのかもしれない。

しかし、何か不思議な感覚が――――――

 

 

 

 

 

「な、なんだよあれ……」

「リュート、あれはどうしたらいいんだ?」

「分からない……とりあえずマキリ・ノワから離した方がいいと思う。」

 

いつか見たアトラル・カ。

それが今、マキリ・ノワの上で二本の黒い塊を揺らしている。

目は普通のアトラル・カより紫色に光っていて、ギロリと周囲を睨んでいるように見えた。

 

「グルルァァァッ!!」

「リュート、来るぞ!」

「レウス、ギリギリまで引き寄せて回避だ!」

 

マキリ・ノワは角に雷を纏った。

一瞬、力を取られた気がしたけど弾けるような雷の戒めを回避。

そしてバリアの中に入ることが出来た。

 

「よし、そのままアトラルを蹴って落とすんだ!」

「ギュィオオオ!」

 

レウスはバリアから出ないように飛び、勢いをつけてから蹴りに行く……って!?

レウスがギリギリ避ける。

 

 

 

 

 

「キィィッ、コロロロロ!!」

 

撃龍槍ではない黒い二つの塊が振り回され、液体を撒き散らす事でその姿を表した。

黒く太い腕に鋭利で巨大な爪。

その腕から生える翼膜はウイルスが流れ続けている。

 

「キィェァァァァ”ァ”ァ”ァ”!!!」

 

アトラルの叫び声に、明らかに本来の声ではない物が混じる。

更にパキリと音が鳴り、背中に黒い何かが出来る。

 

「うっ……」

 

リュートは顔を背ける。

ゴア・マガラの背中がアトラルの割れた背中から見えたのだ。

その背中が段々と山なりに持ち上がる。

 

「コォォォオッッ!!」

 

そしてマキリ・ノワは凶気化のモヤを発生させた。

アトラルの姿はモヤに隠れ、ゴア・マガラの翼脚も溶けるように沈んでいった。

 

 

 

 

───────

───────

───────

─────……

………────

…………………

……………だぁぁぁぁぁっ!?

危ない、意識はあったがその意識に思考が戻らなかった。

 

どうにか私は生きているらしい。

 

ゴア・マガラが私の体を裂いて飛んでいったのだろうか、不思議な感覚が残っているが激痛は無くなった。

気持ち悪さもかなり収まる。ただ、熱源が分かるという事はまだウイルスはあるそうだ。

さて、まずはこのモヤを……うん?凶気化しかける事も無くなったのか。だとしたらマキリ・ノワが吠えている間は攻撃出来るのか。

 

段々とモヤが晴れてくる。

紫のモヤと紫の反応がほぼ同じ色の為、頭の方向が分からないからとりあえず笛を吹き、その後構える。

 

 

頭が見えた。

 

 

体が少々ふらつくが、素早く寄って複数回笛を叩きつける。

そして周りを見ると……

 

ゼルレウスが居た。

 

凶気化のモヤのせいで尚更光り輝いて見える。

担いでいた槍に新しく糸を放ち、振り回して叩きつける……っ!?

 

 

突然体が浮いた。

 

理解が追いつかず、そのまま私は落下する。

 

 

撃龍槍が私の背中を打つ。

それとは別に妙な感覚が背中に発生する。

 

……あれ?

よっ……!?

ふんっ……!?

 

ちょっと待て、ひっくり返れないのだが!?

そうか、撃龍槍が刺さってる……いや、それなら今みたいに糸を切り離せば降りられる。

背中の妙な圧迫感のせいだろうか?

 

「オルルル……ガァァァッ!!」

 

マキリ・ノワが雷を角に纏う。

ちょっと待て、流石にこんなに無様な死に方は嫌だ――

 

「耐えるのじゃ!ふっ、てやぁぁっ!」

「キシィィッ!?」

 

遠くから熱源が寄ってきたと思ったら王女の声が聞こえた。

そして跳び、尾を蹴り飛ばしてきた。

背中の感覚が大きくなり、棒を倒すような軌道で倒れる。

 

笛を叩きつけて着地し、一気に飛び退く。

そして、違和感の正体が分かった。

 

「危なかったのじゃ……それにしても随分かっこいい翼が生えたのう?」

 

羽化と極限化と凶気化がぶつかってゴア・マガラの翼脚だけ残ったのか……更に異形になったが、かっこいいだろうしまぁ別にいいだろう。

 

先程からの妙な感覚に力を入れると、段々と翼の形に感覚が広がっていく。そして翼の指も使えるようになった。

 

「キュィィィッ!」

「クルルル!」

 

死にぞこなったトリドクレスが突っ込んでくる。

早速翼を叩きつけ、抑える。

そのまま力を強め、胴を潰す。

 

「おおっ!す、凄いのじゃ!まさかの正面から勝つ力を得るなんて!」

 

とはいえ、撃龍槍が振り回せなくなるのは困る。

それに的も空気抵抗も大きい……まぁ、機動に関しては空を飛べる様になっただろうが。

 

「よし、ライドオンするぞアトラル!ぎゃぁっ。」

 

一番良いところは攻撃可能範囲が増えた事か。

叩きつけてから引きずるだけで攻撃になる。

 

 

「グルル……ォォォォォンッッ!!!!」

 

 

「あっ、やばいのじゃ!」

 

王女が叫び、逃げ始める。

結晶が乱立するが、私は飛んで回避する。

 

「黒の戒めと言って、とてもヤバいのじゃぁぁ!」

 

マキリ・ノワは雲を突き抜けて昇っていく。

そして。

 

 

バリィッ!!

 

 

黒い塊と化して落ちてくる。

紫色の雲は無くなり、満天の星空が見える。

 

「ウォォォォォオンッ!」

 

さっきまで傷つけていた恨みか、私の方向へ落ちてくる。

 

 

突然リオレウスと人間が叫ぶ。

 

「レウスっ!」

「ゴォォォォッ!」

「行くぜ相棒っ!」

 

黒い塊の正面から白く輝くリオレウスが突撃する。

衝突が起こり、押したり押されたりしている。

 

なるほど、あの白くなる技があるからマキリ・ノワに勝てたのか。

といっても、結局は段々と押されているが。

王女が再び話しかけてくる。

 

「頼むのじゃ、ここであの技が炸裂したら生存者がいる方がおかしいのじゃ。」

 

……つまり二度とハンターとしては活動出来ないのか。

まぁそれ程問題では無いが、勿体無いな。

 

トリドクレスを掴み、羽を根元から千切る。

空気抵抗を減らした形になったところで黒色の方に投げる。

 

トリドクレスは吹き飛ばされた。

 

「うぇぇ……どうしようかのう。」

 

そうだな……それにしても神選者共はどうしたのだろう?

まさかここは後回しか?

 

ある事を思いつき、撃龍槍が背中にある事を確認する。

笛を持ち、糸をリオレウスに放って――ぐっ。雷が痛い……が、我慢して一気に衝突に近づく。

 

「にゃにゃっ!?アトラル・カ!?」

「こんな時に……!?」

 

撃龍槍を両手で持ち、太い方をバリアに遠心力と共に叩きつける。

それを淡々と繰り返す。

 

バリアにヒビが入る。

とりあえず出来る事はした、私は羽ばたいて離脱する。

 

 

リオレウス達は勢いがつき、そのまま黒い塊を貫通する。

 

 

 

「……食べれるのだろうか?」

「ヴェ!?……古龍は食物じゃないしの……それにギルドに叱られるじゃろ。」

 

マキリ・ノワはくたばった。

私は近くの草に身を隠し、人間の姿に代わる。

人間型にも翼が生えていたが、腕を鎌に戻す事と同様に隠す事が出来た。

……右翼、左翼で二箇所だが。

 

 

 

 

 

マキリ・ノワにアイルーやハンター、ライダーが群がる。

触ったり、観察したり話し合ったりしている様だ。

 

「ところでこいつを倒すと凶気化はどうなる?」

「あぁー、残念じゃが凶気化は―――」

 

 

 

断末魔さえ遅い。

 

 

 

マキリ・ノワは爆発する。

巻き込まれた生物も爆発する。

 

棘が生えた巨大な赤い管は、いつの間にか赤に染まった川に引きずられていく。

 

縄を絞める様な音が鳴り響く。

 

 

 

「解けないんじゃよ……」




足が八本、つまり蜘蛛だな。
「翼だから六本だ。」

ゴア・マガラは吸収された……定番だな!
「寄生失敗で、が抜けているが?」

クイーンランゴスタに一言。
「どうせ元気だろう、依存する必要は無い。」


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薔薇色の終幕 疼く恐怖


その花はとても綺麗だ。



だが、螳螂は興味を示さない。




闇に黄色く目が光る。

周りの人間は騒ぎ始め、モンスターは威嚇する。

 

「随分追ってくるのが遅かったな?」

「なんでじゃろ?」

 

その疑問はすぐ解ける。

 

「白夜の煌めきっ!!」

「クレイジーフォース!!」

 

神選者がバルラガルを追ってきていたのだ。

だとしたらこのバルラガルは数時間戦い続けて消耗しているはず。

 

「グガァァァァッ!!」

 

明確な致命傷は無い……

とはいえ、背中に爆発を起こされて怒ってはいるようだが。

周りに人間がいるから元の姿に戻る事は出来ない……まぁ、私は既に交戦したから対応出来る。

 

 

バルラガルが首をすくめる。

 

 

瞬き一回の間を開け、すぐさま五回舌が広範囲を薙ぎ払う。

夜という事で視界が悪かったのか、生き残っていた大半の生物が爆散する。

癖だろうか、血管を引き寄せようとしている。

 

「ふんっ!」

「ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛!?」

 

撃龍槍を口内を穿つように投げつける。

走り、ゴアの翼を顕著させて撃龍槍引き抜いて両手に持ち替え、再びゴアの翼を隠してから撃龍槍を血腺に刺す。

 

が、撃龍槍を受け止められ這うように血が遡ってくる。

固定される前に笛で弾き飛ばす。

 

「ガガッ……ァァァァッ!!」

 

っ、笛を持ってかれた。

宙に浮いた笛は何度も舌で叩かれ、地面に突き刺さる勢いで捨てられる。

付着していた血が針になり、溶けるまで待ってから引き抜く。

 

バルラガルが別の方向を向く。

神選者が断末魔と共に爆散する音を放っている間に王女と話す。

 

「どうすればアイツを殺せる?」

「うーん……多分撃龍槍で舌を絶ってしまえばいいのじゃ。」

「……そうか、あれほど舌を伸縮させているんだ、通っている血は多いだろう。」

「それに。」

「それに?」

「舌の先っぽの棘は赤黒い……この意味が分かるじゃろ?」

 

王女は神選者の残骸を指さした。

 

「なるほど、舌の一部をあの血管みたいに爆発、固めているのか。」

「まぁ、血を吸う時に棘がかなり丸くなっていたから気づけたのじゃがな。」

「そのままだと内側の吸血する管も圧迫されるからか。」

「恐らく、じゃがの。つまり何がいいたいかというと人間とは違い、致命傷になるはずじゃ。そして……」

 

バルラガルは苦しんでいる。

今も神選者の攻撃を受け続けているのもあるだろうが……恐らく。

 

「ウイルスは濾過しきれなかった様じゃの。凶気化しているモンスターに狂竜化ウイルスをぶつけると増大した本能が無理矢理ねじ曲げられるらしいのじゃ。」

「私みたいな逆は?」

「凶気化を好きなタイミングで発生させる事は出来ないのじゃぞ。」

「なるほ……どっ!」

 

空から蹴ってきたゼルレウスの両足を握る。

ゴアの翼で踏ん張り、引きずり落としてからバルラガルに投げつける。

 

「ふんっ!」

 

ゼルレウスの爆発と同時に王女は走り、血管に伸ばした舌を横から双剣で切り刻む。

飲もうとした血管を放置し、王女に舌を伸ばす。

体に不調をきたしているのか舌の速度は落ちているが、それでも視認は困難だ。

だが、万全のバルラガルを相手に舞っていた王女にしてみれば、油断さえしなければ生命の危機ではなく、少し危険程度でしかなかったのだろう。

何処か力の抜けた……うん?

 

「いぇーい、バブリー!はいっ、ちゃんちゃかちゃかちゃかちゃんちゃん!」

 

……こっちを見て踊るな。

確かに難易度が下がれば余裕が出来るが……その余裕で攻撃しろ。

 

そうだ。

 

私はゴアの翼を伸ばし、血管を拾い投げつけた。

 

王女の方に目がいってたバルラガルの顔面に血管が刺さる。

 

痛みで暴れている間に走り寄り、ゴアの翼で首を絞める。

苦しさから口を開けた所に王女が突撃し、死んだハンターの大剣で舌を切り裂きながら離脱する。

 

流石に自身の体の中では血管が破裂する事は無いようだ。

そのままバルラガルを地面に押さえつける。

 

神選者が突撃し、バルラガルの体はどんどん傷ついていった。

勿論、血柱に刺された者も居たが……

 

 

数分後、バルラガルの抵抗する力が抜けたところで首を折る。

 

「よし、ルカ、よくやったのじゃ。」

「……まぁ、よくやったな。」

「じゃあライドオ―――」

「黙れ。」

 

 

その後、休んでいいと言われたが見回りを始めた。

だが血の川を登ってくる影はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日、私達はギルドマスターに呼ばれた。

受付裏の部屋に入る。

 

他所の凶気化モンスターはハンターと神選者が上手く立ち回り、アイルーも頑張った為に死者は0人だったらしい。

逆にマキリ・ノワを中心とした凶気化モンスター群と薔薇創バルラガルの被害はとてつもなく大きかった様だ。

 

とはいえ、何でも出来る神選者。

一日以内に見つかった血管や死体からは、損壊無く復活させれたらしい。

しかし水の中で溶けてしまった物からは復活させれなかったと。

それでも半数が生き返った事に驚くのは当たり前だろう……

 

 

 

そして本題だ。

 

「G級ハンターを超えた実力なのは分かった。のじゃが、下位ハンターを突然G級にすると他のハンター達が納得してくれない……という事で、HR7、上位の最高で我慢してくれないだろうか?」

 

納得いかない。それならG級でいいはずだ。

別に私と周りは関係ないだろうが……理解出来ないな。

 

そう思い私が立ち上がると、王女も立ち上がり耳元で話しかけてきた。

 

「歪なパーツをネセトに使うのかの?」

 

……パーツをハンター、ネセトをギルドか。歪な私が無理やり入ると……まぁ壊れやすくなって崩壊するな。

私だったら削って入れるだろう。

 

「なるほど。理解出来た……ました。」

 

椅子に座り直す。

 

「飲み込みが早くて助かるのじゃ。」

「???」

「とりあえず、わらわ達がそこに上がるのだから何かしらの諸注意はあるのじゃろう?」

「あー……危険なクエストが増えるので一応乱入が起きたり、キャンプに送り届けれない場合がありますので注意して下さい。」

「分かりました。」

 

つまり私にとってはほぼ問題は無いという事か。

そして王女はG級だから意味が無い。

 

「分かりました。それでは私は帰りますね。」

 

私達は席を立つ。

そしてギルドマスターも立って、最後に一つ、と話しかけてきた。

 

刹那、空気が凍る。

 

「翼の生えたアトラル・カを見なかったかの?」

 

何気ない質問だろうか?

しかしギルドマスターに情報がまわっているという事は目撃者が居るという事だ。ここは正直に言わないといけないだろう。

 

「……えぇ、見ました。何ですかねあれ?」

「……貴女も翼が生えるのだろう?」

 

それが言いたかったのだろうか?

……流石に否定する。

 

「え、それはおかしいですよ!?私は神選者じゃないですし。」

「そ、そうか……」

 

 

そうだった……ゴアの翼でトドメだった。

痕になる事をどうして考慮しなかった……まぁいい。

 

「そういや他の村にも行ってみたいですね。」

「うん?何処に行きたいのだ?」

「うーん……ありますか?」

 

王女の方をギロりと睨む。

 

「えっ!?あっ、そうじゃなぁ……もうちょっと暑くなるまでポッケ村に行こうかの。」

「ポッケ村ですか?」

「海に入る最適の気温になるまでは涼んでおこうかと思っての。」

 

よく言った。いや、言わなかったら後で生き地獄にする予定だったが。

それに私としても暑い時に暑い所に行けるのは嬉しい限りだ、有難く思う。

 

……海に入る事は一切考えたくないが。

潜れないし、撃龍槍を振れないし笛が吹けない。

海中には雷を扱う生物が多いし、一番は糸が使えない。

完全に私達殺しのフィールドだ。

 

 

それはいいとして、バルラガルの報酬金はどんな感じだろうか。

 

「ルカっ、待っ―――」

 

何故か扉の前で外をチラチラ見ていた王女を押し退け、扉を開ける。

受付の一箇所が動く為、そこを持ち上げて外側にまわる。

 

そこで誰かに肩を掴まれた。

振り返るとヒョロヒョロの奇妙な服装の男性が居た。

 

「ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「実はこういう者で……」

 

渡された紙を見ると、『神に選ばれる者』と記載されている名刺を渡された。

 

「実は神選者の力は、我々も神に認められる事によって平等に力が与えられるのです。」

 

……殺意しか浮かばない。

手っ取り早く周りのモンスターを圧倒する力をつけたいのか?

種族の差を知れ、傲慢な存在が。

 

「人間にしか加担しない分際で何が平等だ。そこら辺の蝿の方が生態系に重要な影響を与えている。」

「なっ……神に向かっては人間しか明確な助けを求めてないからでしょう!?」

「ふーん……言葉にしないと分からないとか神様も役立たずだな。」

「なんという事を!?不敬です!天誅が下りますよ!」

「同意です。力を得た感情を抑えられない子供程、怖いものは無いですね。」

 

馬鹿みたいな信者だな。

とはいえ、選民意識の強い宗教は自分が常識人と思い込んでいる信者が多いのだろう。

 

王女がドロップキックで信者を蹴り飛ばす。

 

 

さて、報酬金を受け取って帰るか。




崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ崇めよ


うっわ気持ち悪……そんな事は置いといて、いやぁ、ナナさん遂に来ましたねぇ!
本当にありが―――
僕も登場したいなぁ……
えと……
我が妻を虐めるのはやめてく―――
あぁっ!クシャルさんと一緒に行った方だぁ!よぉし、バル!
なーにー?
ケオアルボルと共に新大陸に攻め込むぞ!ネルギガンテに匹敵する肉体派古龍の参上だぁぁ!
……ナズチってー肉体派ー?


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襲撃


あの者に断罪を!

「「「断罪を!!!」」」


「ライナウ アワッシュフィーリンナウ。」

 

何か王女が歌いながら踊っているが放っておこう。

シャンデリアに火を投げ込み、糸でその火を引き戻す。

事前に注いでいた油に火が灯り、私が引っ張り出した書類を照らす。

 

『神に選ばれる者』

 

そう大きく書いてある。

目をつけられたかもしれないのだ、事前に規模などを知っておいた方がいいだろう。

 

 

そして次のページを開いた瞬間、私は驚いた。

 

 

「……この文様は、あの遺跡の一室にあったな。」

「daisuke……」

「ちょっと黙ってろ。」

 

つまり、既に規模は大きいのか。

ランゴスタと共に潰したとはいえ、確か銃だったか?

その武器を持っているのは非常に脅威だ。

選民思想を持っている人間はとてつもなくウザイ。一体何をしてくるか分かったもんじゃない。

 

「え、アトラルその宗教に興味あるのかの?」

「神か何だかは知らないが、人間より圧倒的強者なのに無償でずっと助けるのはおかしいだろう。」

「ふーん……まぁ、わらわは若干信じているだけで努力しないと人生変わらないから、神様に貢ぐ気は無いのじゃ。」

「努力の結果で今ここに居ると……帰れ。」

「あんなクソブス豚家畜塵灰汁なんて婿に迎えられるかこのやろぉぉぉぉっ!!」

「夜間だ、叫ぶな。」

 

モンスター……じゃなかった、近所迷惑になる。

そういう私もしばらくは眺めていたが、『人は――』という文章が多いせいで苛立ってきた。

 

 

寝よう。

 

 

既に生物臭さは無くなり、ふかふかしたダブルベッドに横になる。

王女も私の横に潜り込む。

 

「明日出かけるのかの?」

「明日の様子を見てからだ。」

 

交わす言葉は少ない。

私も王女もさっさと寝るからだ。

 

 

 

 

 

しかし、明日の様子を見る前に私は起きる。

ウイルスが騒ぎ出したからだ。

 

「ねむ……じゃが、ふぁぁ……戦闘準備しないとのう?」

 

王女も起きたようだ。

寝起きで戦闘のことを口走るのは暗殺者を警戒してか。

 

「そういえばお前の側近は?」

「きちんと警備が働いても、暗殺の抜け道はかなりあるのじゃぞ。」

「なるほどな。」

 

だが、私の家では話が別だ。

元の姿に戻り、事前に張っていた私の糸と今の私の糸をくっつける。

 

どうやら玄関から真っ直ぐにこちらへ歩いてくる。

撃龍槍を一度持つが、ここで殺すのはイメージが悪くなるため笛に持ち替える。

王女は懐から麻痺ナイフを取り出した。

 

扉の前に敵が立つ。

ウイルスで明確な位置が分かる。だから……

 

扉がこちら側に開く。

 

扉ごと敵を叩き潰す。

王女が麻痺ナイフを構えながら仰向けの影に馬乗りになり、片方の手をナイフで床に縫い付けもう片腕を捻り持つ。

 

「ナイス拘束。」

「意表を突く行動ばかりするのう。」

「やはり悪魔だ……っ!」

「正当防衛で悪魔扱いとは……低脳未満だな。」

 

帽子を見ると、『神に選ばれる者』の紋章が書いてあった。

 

「さぁ吐くのじゃ。何をする為に侵入したのじゃ?」

「そこの神を乏す悪魔を滅する為だ!」

「だとしてもこんな短剣で私を殺せるとでも?」

「聖なる加護の―――ぎゃぁっ!?」

「ふむ、かなり切れ味はいいな。」

 

敵の腿を突き刺す。

 

その時、二階からこちらにやってくる何者かが居た。

 

「王女、何かくるぞ。」

「……あぁ、お主か、どうした?」

 

突然現れた人間は王女に何かを囁く。

 

「ふむふむ……アトラル。」

「なんだ?」

「いだだだだだ!」

 

捻り上げながら王女は私の目を見て言う。

楽しそうな顔だ。

 

「この信者を傷つけたとして、集団がやって来るようじゃぞ。」

「面倒くさいな、殺し尽くす訳にもいかない。どうする?」

「ククク……」

 

 

 

 

 

「悪魔を滅ぼせ。」

「「「悪魔を滅ぼせ。」」」

「助けを請う。」

「「「助けを請う。」」」

「平和への助力を。」

「「「平和への助力を。」」」

「神の導きに値する者に我々はなる。」

「「「神の導きに値する者に我々はなる。」」」

 

 

160人程の集団が歩く。

先頭の司祭は人を助け、悪魔を滅する事で神からの天啓を受けた者だ。

悪魔は許されない。

この世に居てはならないのだ。

 

 

悪魔の家を囲み、呪紋を地面に描く。

呪文を唱えながらぐるぐると回る。

 

 

「愚かな悪魔よ、冥界に還るのだ―――っ!?」

 

バァッ!!ガラガラガラガラ!!

 

「我々の教会が!?」

「走れ!急ぐのだ!」

 

呪文を一時中断し、拘束の呪紋を描いてから倒壊する教会に走る。

 

 

 

 

見上げた信仰心だな。

私は扉を開けて外に出る。

 

お絵描きで私を閉じ込めようとするのか……寄生虫に乗っ取られた虫の方が合理的な動きをする。

そして何故見張りを一人も残さないのか。

 

さて、王女が時間を稼いでくれた。

いい場所を探そう。

撃龍槍を引きずる。

 

 

 

 

 

「神を汚した悪魔に粛清を!」

「「「粛清を!」」」

 

広いところに奴らが走ってきた。

 

「悪魔が居たぞ!滅するのだ!」

「「「おおお!!!」」」

 

「なんで私が悪魔なんですか!?」

「人間の皮を被った悪魔の言う事に耳を貸すな!」

「「「全ては神の為に!!」」」

 

流石に気持ち悪いな。

撃龍槍を横に持ち、走る。

 

「ぐうっ!」

「避けろ!」

 

これさえ対応出来ない素人が戦闘を仕掛けるのか……

それ以前に、周りより神に助けを求める弱者が戦闘を仕掛ける時点で脳が死んでるな。

 

「ルカ、大丈夫かの!?」

 

王女が飛び込んでくる。

互いに囁く。

 

「意味が分かりません!何故こんなことに―――大丈夫だ。ジャギィより弱い生物に負けるわけが無いだろう?」

「お主ら!少し見境が無さすぎるのじゃ!―――流石、というべきかの?」

「悪魔に乗っ取られた人だ!」

「助けるぞ!!」

「「「神よ。我らは人救いの業をする!」」」

「そんな……戦うなんて!―――こんな奴ら討伐した数を数える価値もない。」

「そちら側は任せたのじゃ―――ボロボロに言っておるの。」

 

撃龍槍を頭の上で回転させる。

私の身長が低い為、不用意に近づくと頭が吹っ飛ぶだろう。

 

「来ないで下さい!私の話を聞いてください!」

「矢を撃て!」

「ぐあっ!」

 

さて、私は矢に当たり撃龍槍を落とし跪いた悪魔だ。

だとしたら馬鹿共はどうするだろうか?

 

「「「悪魔を滅するぅぅぅっ!!!」」」

 

やはり走ってきた。

それより悪魔を滅するしか言えないのかコイツらは。

 

「ルカぁっ!助けてぇぇ!」

「っ!?」

 

王女の方を見ると、拘束されていた。

だが助ける必要は……イメージが下がるから助けないと駄目か。

 

「お……あ。」

 

王女って叫ぶのはおかしくないか?

とりあえず撃龍槍を投げつける。

 

「悪魔めぇぇ!?」

「彼女を返せ……返せぇぇ!!」

 

笛を構え、振り回しながら飛び込む。

時折短剣を私に投げてくる敵がいるが、手を犠牲にして受け止める。

 

「いたーい。」

 

……あっ。つい演技が切れてしまった。

笛を脇に抱え、短剣を引き抜き投げ返す。

 

「うぉぉぉお!!」

「っ!?」

 

抱きついてきた、なんだこいつ――――

 

 

 

 

 

大爆発が起きた。

 

 

 

 

 

若干放心した後に、痛みを感じながら起き上がる。

自爆テロによって周りの信者ごと消し飛んだ様だ。

 

王女の方を見る。

 

「daisu……あ、起きたのじゃ。」

 

……生きてたのか。

 

「いやーほんと、あっちの建物で突然犯されそうになって恐怖したのじゃ。」

「?それは普通……」

「人間の世界だと犯罪じゃ犯罪。」

「……そうか。」

「しかもわらわが産んだ子を神への供物として捧げるんじゃと。」

「自分から子孫を殺すのか……人間は基本一匹、じゃなくて一人ずつしか産まないのだろう?間引きにもならない。」

 

とりあえず若干息のある信者を集める。

そして家の中から縄を持ってこさせ、縛りつける。

爆心地の中心に置いておこう。

 

「さて、後は大人に任せるとしようかの?」

「そう……だな。」

 

 

 

考え方が見事なまでに相容れないと、ここまで酷い事になるとはな。

 

王女によると、160人の半分はこっそり後ろから側近が気絶させていったらしい。

自爆する人間も数十人居たため無力化していたが、間に合わずに爆破が起きたのだと。

 

「……お前が捕まるとはな。」

「下半身露出した信者の群れにとてつもない嫌悪感を感じて身が縮こまってしまっての……薄い本になるところじゃった。」

「もっと王女らしい内容に偽装しろ。あと薄い本とは?」

「人間の性欲を増進する書物じゃよ。」

「……は?無意味な書物に感じるが、増進してどうするんだ?」

「う?うーん?まぁわらわは王女だし?使用用途は知らないなぁ?」

「……ふん、都合の良い時だけ王女しやがって。」




あれは誰だ?誰だ?誰だ?
あれは「私の名前はアトラル」マーン
「アトラル」マーン(女の子やぞ)

裏切り者の名を受けて(50話・村娘)
全てを捨てて……捨てて?(笛)戦う男ー
デビルアローは撃龍槍
デビルイヤーは脚にある
デビルウィングはゴアの翼
デビルビームは出来るわけがないだろう、ディオレックスじゃないのだから

悪魔の力ー(狂竜化ウイルス)身ーにーつーけたー

正義のーヒーロー
天使たーん……すマーン!


まぁ正義も我儘も似たものだろう……
私は我儘だが。


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船上の小芝居

テケテンテンテンテンテン

この飛行船は蓄電器が搭載され、電気が通っています。
神選者のお陰で快適な旅が出来ますね。

※閑話に近いです


……はぁ。

 

何故私はこんな船に乗ったのだろう。

飴を舐めながら私は再度ため息をつく。

確かに酔わないのはいい事だが……

 

「これはこれは、第三王女ではないですか!」

「こんにちは、ヒテルスキー公爵。本日は雲海が綺麗ですね。」

「可憐な王女にぴったりの天気ですな!あっはっは!」

「うふふ、ありがとうございます。」

 

可憐とは?……勿論意味は分かるが、王女には合ってないな。

 

「そして……そちらの令嬢は?」

「あぁ、わらわが気に入った娘です。村で一人暮らししていた所を拾ったのですよ。」

「ひ……拾った?……これはまた、随分な……」

 

ヒテルスキーの私を見る目が段々と卑しい物に変わっていく。

……ふん、やはり私はかなりの美形の様だな。

 

「こんにちは、名前はなんというのかな?」

「ルカです。よろしくお願いします。」

「えぇ、こちらこそよろしく、ルカ。して、王女は今日、何用でこの船に?」

「ポッケ村に涼みに行こうと思いましたので。公爵は何用で?」

「私はライトル伯爵に色々話をする為にでして……では、失礼します。どうも、こんにちは―――」

 

ヒテルスキーは歩き、向こうの女性に話しかけにいった。

 

「あいつをどう思うのじゃ?」

 

王女が私に話しかけてくる。

 

「才能は分からんが、馬鹿でも無さそうだ。アイツは隠しているつもりだが、内的には旺盛なのだろう。体型も合わせて健康的な生活を送っていそうだ。」

「欲に対する考え方が違いすぎて、やはり面白いのじゃ。

……あーっ、ヤバい奴が来たのじゃ……」

 

王女は衝動的にか、若干私の影に移動する。

そして機能性が悪すぎる靴を履いた人間がずんずんとやってきた。

 

「あら!あらあらあら!御機嫌よう、第三王女様!汚い女子(おなご)を連れて何をしているのです!?」

 

甲高い声だ……それより、汚いと言われたがどう反応すればいいのだろう。

 

「こ、この方はカリマエーヌ様です。」

 

王女が微かに震える声で紹介してくる。

 

「こんにちは、カリマエーヌ様――」

「汚い口で私の名前を言うのはやめて下さるかしら?」

「……分かりました。」

 

なんだコイツ。

 

「第三王女、もしかしてその子を召使いになさるのですか?」

「確かにそれも考えてはおr……います。」

「いけません!その様な気品の無い生物を召使いにしては!それとも、そこまで落ちぶれてしまったのですか?」

 

「な?面倒くさいじゃろ……」

「そうだな。」

 

 

 

 

さて、長ったらしい会話のせいで説明が遅れたな。

 

ここは貴族が使う高級飛行船の内部だ。

王女が、

『酔ってしまうのじゃな……そうじゃ。多分今日は空いてるだろうし、わらわがちょっと高級なチケットをとってくるのじゃ。あ、酔い止めも買ってくるのでの!』

と言ったから、現在このあまり揺れない船に乗っている訳だ。

まぁ結局、元がアトラルである私に酔い止めは効かず、若干酔ったが『口に何か含むといいのじゃぞ。』という事で飴を渡してくれた。

 

 

「さて、もう整えているであろう部屋に行こうかの!」

「笛は持ち込み可能で良かった。」

 

王女についていく。

 

 

荷物に関してだが……

驚くなかれ、なんと荷物を受け取りに人員がやってきたのだ。

盗難ではないかと身構えたが一緒に向かう上に、私達は竜車に乗せて貰えると。

 

……撃龍槍がある以上、私は歩いていったが。

夜間の事もあり、王女も歩いたし。

 

 

船に乗るなり、

 

『挨拶が終わるまでこの部屋からは脱出出来ない……それが王族の運命(さだめ)……っ!』

 

と王女が言い出した時には何かトラウマがあるのかと思ったが……なるほどな、全員が少しでも王族と関係性を持ちたいから話しかけてくるのか。最後の人間を除いて。

しかも王女が王族らしく振舞っていたし。

そこら辺はやはり家系だろうか。

 

 

 

「さぁ、シングルベッドじゃ!」

「……………………」

「今晩は触れてしまうのもしょうがないのう?」

 

こいつ、同性愛者か?……いや、モンスターが人間の形をとっているのだ、今までずっと触りたかったのかもしれない。

……偶には受け入れようか。

 

「……まぁ、受け入れよう。酔ってないのはお前のお陰だ。」

「そうだなぁ、もっと感謝するのじゃ!」

「……寝る。」

「へっ!?」

「嘘だ。船内をまわ―――」

 

 

 

 

船が大きく振動する。

 

 

すかさず私はゴアの翼で自分を支える。

 

外から大爆発が聞こえた。

 

「全く……またモンスターか?ウイルスでは熱源が見えないが……」

「いや、わらわは落ちたら死ぬから『全く……』なんて言えないのじゃが。」

「知らないな。」

 

廊下を走る音が消えてからとりあえず先程の広間に戻る。

 

やはり乗っていた人間は集まり、騒いでいた。

 

「テロだ!」「死にたくない!」「一体何が起きた!」

 

叫んでどうにかなる訳が無いだろう。

だが、情報は集めたい。

なんと言えばいいのだろうか……いや、回りくどいのは面倒くさい。

 

「お静かに!!」

 

全体的に体が向いている方に立ち、バサりと手を伸ばしながら言う。

高圧的な行動は恨みを買い、その程度の恨みなら人を冷静にする。

 

「落ち着いてどうにかなるとでも!?」

「騒いで情報が回らなかったり現状把握が出来なくなるよりはマシだと思いますが?」

「子供が調子に―――」

「それを言いたいなら客観的に自分を見てくださいな。」

「「………」」

 

まぁ、これで騒ぐならその程度の生物だ、相手にしない方がいい。

 

「あー、わらわの召使いがすみません。でも、確かに騒いでいたとしても何も意味がありませんね。ですが、ここに拘束する訳ではないので部屋に帰ってもらって結構です。」

 

横から口を出してきた。

王女という身分だからこその傲慢か。

 

その時、扉が開く。

 

「すいません、ちょっと点検してきます。安全が確認されるまでしばらくこの部屋で待機していて下さい。」

 

搭乗員か。

申し訳なさそうに船尾の方の扉を通っていった。

 

 

無言が続いた。

とはいえ、しばらくすると人間達は喋り始める。

王女は何かを書き終わり、伝書鳥に持たせようとしていた。

 

「どうした?」

「ん?遺書じゃよ。」

「本当は?」

「ふっふっふ……教えられないのう。」

 

……それより何か匂いがするな。

最近嗅ぎ慣れたあの匂いの様だが……微か過ぎて誰から匂っているのかは分からない。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁっっ!!??」

 

 

小さく悲鳴が聞こえた。例のあの搭乗員の様だ。

扉に人混みが出来る前に素早く走り抜ける。

 

スライディングし、人間と机の隙間を跳躍して通り抜け、転がってから再び走り出すと王女が私と並走する。

 

「恐らくこっちじゃな!」

「こっちからも匂いがする……!」

 

階段の手すりを走り降りて壁に着地し前を見ると、ワナワナと震えているあの搭乗員が居た。

 

「どうしました!?」

「あ、いや、貴女方が見てはいけませんっ!!」

「ハンターを兼業しているわらわ達には不必要な警告じゃな。」

 

私達を抑えるために伸ばしてきた手を避ける。

 

部屋の中は荒らされ、一人の男性が血の海に横たわっていた。

 

「ルカ、誰であろうとこの部屋には入れるのではないぞ!」

「分かった。」

 

王女はドレスを脱いで私に預け、簡単な格好になってから血の海を歩き男性の呼吸と脈拍を計る。

 

「……駄目じゃ、出血は酷く呼吸も心臓も止まっておるし、大分冷えている。もう施設が無い以上助からないのう。軽く調べるからそのドレスの内側のポケットに小さな箱を渡して欲しいのじゃ。」

 

手で探ると、腰あたりに差し込んである箱があった。

取り出すと半透明で、中の物は色は分かるが形は分からなかった。

 

「これか?」

「ほい、投げてこい。うおっ!?こういう時は下から投げるのじゃよ?」

「知らん。」

 

王女はパチリと箱を開け、三本の紙を死体の口に突っ込む。

どこからか出した手袋を着用し、男性の体の隅々を触ったり持ったりして調べる。

 

野次馬がやってきた。

私は廊下を塞ぐように立つ。

 

「一体何があったんだ!」

「すいません、押さないで下さい!この先に死体があります!」

 

恐らくこの言葉で理解してくれる―――

 

「なんですって!?」

「っ!?」

 

一人の女性が私の横をすり抜け、部屋の中を見る。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

……自分から確かめにいって叫ぶのか。頭がおかしいのでは?

とりあえず移動し、部屋の中に入れないように立つ。

 

「第三王女様、一体何が!?」

「ちょっと待ってお――いて下さい……死因は頭部への打撲によるショック、又は出血死。凶器は尖った大きな何か。ですね。」

「どうして殺人が!?」

「分かりません。ですが、犯人は怨みからか何度も何度も殴っています。グロテスクな死体ですが、恐らく怨んでいる人のみを狙った犯行の可能性が高いです。出来れば集団で過ごしてください。」

「狂気に染まった人間と一緒に居られるか!俺は部屋に戻るぞ!」

「「そうだそうだ!」」

 

一瞬で大体の野次馬は散っていった。

だが搭乗員を除き、私達を疑っているのか数人がこちらを凝視してくる。

 

私も脱ぎ、ドレスを搭乗員に持っていかせて王女に近寄る。

 

「すまぬな、ルカ。」

 

そう言って立ち上がり、同時に遺体の口から紙を抜いた。

一枚だけ水に濡れた変色とは違う色をしている。

 

「ふむ……定番の睡眠薬の様じゃの。その他の毒は無しじゃ。」

「つまり眠らせた人間が殴り殺したのか。」

「他の致命傷がない以上それで決まったのじゃ。……わらわが挨拶されていた時にこの方はワイン片手に歩いていた、つまりその時に薬を盛られ、爆発音と共に何かで殺したのじゃろう。」

「よく見ているな……」

「いや、ふらふら歩いていたのじゃから、目に入れば警戒するのは当たり前じゃよ。」

 

ふと足元を見る。

何かあったため、つまんで持ち上げるとそれはナイフだった。

 

「折れたナイフがあるな。」

「あ、ルカも現場を触るならこの手袋をするのじゃぞ。」

「……分かった。」

「この板にこれで、何があったかを書いて置いておくといいのじゃ。」

「なるほど。」

 

本来なら全く触らない方がいいのだろうが、悪臭がする以上しばらくしたら片付けにくるだろう。

それならこういう板で位置情報は残した方がいい。

 

「うーん……やっぱり頭使うの苦手じゃ!ルカ、頼む!」

「何だそれは……まぁいい。」

 

とりあえず歩き回って見よう。

 

 

 

 

 

 

しばらくした。

凶器は分かった。

殺害方法もほぼ合っているだろう。

 

状況証拠は……

 

─────────────────────

 

・壁の傷跡

 

・赤紫の石と砂利

 

・折れたナイフ

 

・廊下を点々とする血

 

─────────────────────

 

そして眠いから部屋に戻る事が出来るほどに弱い睡眠薬だろうか?

 

 

後は疑わしい人間から話を聞きたいが……

 

「その人間が分からないな。」

「そういう時は面倒くさくても話を聞くのじゃぞ。」

「断る。それより私は別の場所を調べる。」

「了解したのじゃ。」

 

さて、爆発音の所へ行こう。

本当は私はそれさえ確かめれば良かったが……暇つぶしにはいいだろう。

 

 

 

 

 

ここか……

 

機械が唸っている。

警告マークは雷だ、電気でも作っているのだろう。

爆発音はここからしたが……やっぱりか。

 

「破片が散らばっている……が、機械の何処にもぶつかった様な跡が無い。」

 

余りにも熱意が違うな。

妨害があったのか、それとも……おっと?

機械の熱で分かりにくかったが、一人この部屋に居るな。

 

「ふむ……うーん……」

 

声を出しながらさりげなく近づく。

敵は何かを構えた。

 

「……どうやったんだろう―――なっ。」

 

ナイフを避け、振り向きながら手を掴む。

もう一方の手にもナイフだ、掴む。

撃龍槍を持てる私に力勝負で勝てるわけが無い。

 

「ぁぁぁっ!」

「……」

 

男性は叫んだ。

足を振りかぶった所で手を離し、敵の後ろに滑る。

振り向いた所に鳩尾に一発入れ、左手のナイフを奪う。

ふんっ。

 

「悪魔がぁぁ―――っ!?」

 

ナイフを構え、鳩尾に迫った所に男性の右手が振り下ろされる。

だが、それより早くゴアの翼で殴る。

男性は吹っ飛ばされ、壁に強く背中を打った。

 

「何……が……」

 

ナイフで少し私の腕を切る。

僅かな睡魔が襲ってきた事を確認して足に刺す。

 

「ぐわぁぁ……ぁぐっ………」

 

予想通り寝たか。

周囲の確認をしてから背負い、運び出す。

 

……傍から見れば少女に誘拐される成人男性か。

人間は、子供に負ける大人が居る事が面白いな。私は例外として。

 

 

 

しばらく探しても王女が居なかった為、自室に戻る。

そこに王女は居た。

 

「おい。」

「おー、そいつは?」

「爆発音がした所に行ったら襲ってきた。」

「運が悪いのう……」

 

元の姿に戻り、縛ってから転がす。

ナイフを抜いて布を縛り付ける。

そしてまた人間の姿に変化する。

 

「それで、何か分かったかの?」

「爆発音は故意に作られた物だ。仕組みは知らないが、衝撃波の痕跡はない。」

「こっそりワインに毒を盛れる人間がそんなヘマをするのか、って話じゃな……さてと、わらわの側近が情報収集しておるから夜まで待つのじゃ。」

「そうか。コイツをどうする?」

「……部屋の隅に拘束しておけばよかろう。」

 

 

 

 

 

 

「キィッ、クルルル……」

「まぁしょうがないとは言えるのう。」

 

今、私は拘束した人間を食っている。

こいつは『神に選ばれる者』の信者だった。

やはり異常な宗教は怖い。指を切断して目の前で食べてみせても、

 

「悪魔が……!!」

 

と私を睨むだけだった。

最終的に叫んで人を集めようとしたので、笛で叩き殺した。

 

 

 

「情報の足しにはならなかったが、腹の足しにはなった。」

「良かった良かった。脱臭グッズを使っておくのじゃぞ。」

 

その時、コツコツと窓から音が鳴った。

王女は窓を開ける。

一羽の黒い鳥が紙を持って入ってきた。

閉めようとした瞬間に更にもう一羽が入ってきた。

 

王女は紙を取り、広げてさっと目を通した。

 

「ふーむ……主犯は分かった。物的証拠……もとい、後処理のずさんさが目立つのう……それだから人選を間違えたのじゃな。」

「犯人は誰だ?」

「貴族じゃ貴族。没落中のな。」

「今、この船に爆発物などはあるか?」

「無しじゃ。」

 

 

 

「そうか……じゃあ私は寝る。」

 

「分かったのじゃ。」

 

 

 

 

横になって思う。

 

……動機は聞いておけば良かったか。

 

 

恐らく今回の殺人に使われたのは小さいバサルモス、それの亜種だろう。

落ちていた石はバサルモス亜種の物と一致する。

 

まず、何処かに隠していたバサルモス亜種を解放、肉で誘導する。

 

ナイフは目の前に居たバサルモス亜種への寝起きの抵抗。

その後ろから手頃な大きさの石で殴り殺したのだろう。

 

その後、部屋の中にバサルモスを放置し、あの搭乗員が事前に受け取った肉で誘導して……窓からでも落としたのだろう。

バサルモスがまだ翼が使える小ささだと肉食だからな。

 

 

まぁ……何故それで騙せると思ったのかは……人間しか……分からんだろう………

………一番……問題なのは……何故、バサルモス亜種……?……―――

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目が覚めると王女が私を背後から抱える様にして寝ていた。

除けて起き上がり、窓へ歩く。

 

……雲が地平線まで続いているだけだ。

 

廊下を覗くが熱源はいない。

身だしなみでも整えていよう。




神は慈悲深く神は清らかで神は正しく神は絶対的存在であり神は神は神は強さ故直接神は神絶対は神は破壊神は神究は神は命神は神は神は神は神は神は神は神はぁぁぁぁあぁぁあァあァアぁぁあぁぁアアア!!!!!!!!!!


「「「「「神よ、我々に、力を――!」」」」」

大量の肉片と宝玉が献上されている祭壇に、遂に深淵の扉は開いた。


昼は暑いため、誰も出てこないが。



没落貴族(シタニール・ルウスア)

動機・没落させられた(逆ギレ)

犯行内容・事前に装置を渡しておく。酒好きな被害者のグラスに毒を入れる。尾行し、寝た事を確認した所でバックに入れていた肉で餌付けしたバサルモス亜種を誘導。扉に南京錠をかけ、スイッチで爆発音を鳴らす。戦闘が始まり、落ちた石で殴り殺す。そして逃走。
運搬する宝石は時間が経つととても割れやすい為、暗殺には使われにくい。

壁・さりげない尾行


船長

動機・妻をとられた(妻は喜んで貴族の所へ)

犯行内容・事前にバサルモス亜種を眠らせ、宝石に偽装して運び込み、爆音装置を蓄電室に置いておく。部屋を通り過ぎ廊下に置かれた肉を受け取る。そしてバサルモスや誘導、窓から落とす。後は通常勤務。

壁・整備士が居るため、騙す必要がある。


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モブに潰された大切な○○○


……ふざけた事を……殺してこい……っ!!
やめっ、分かったから!お茶を電気に変えるな!
……あ、ちょっと待って。あの子が行くから私が関わるわ。
雪山+アイツ=お前の召喚かよ……



荷物を受け取り、発着場を離れる。

 

「懐かしい空気だ。よし、雪山へ行こ―――っ!?」

「馬鹿じゃの……既にお主はアトラルという疑いが発生した。今日着いたお主が直ぐに行ってみろ……そういう噂は何故かすぐ広まるものじゃ。」

「……チッ!」

 

確かに王女の言う通りだ……口頭で渡るものは、それまでの様々な人間の持ち得る情報を考察、意見として発展させた物だ。

何故かそれは現実味を帯び、だが不思議な雰囲気は保ったまま広まる。

店番の時に来た年寄りどもの世間話が良い例だ……

 

「……しょうがない。泊まる場所を決めるか。」

「そうじゃ、興奮するな。」

 

まずは近くの人間に聞く……訳にもいかないな。

普通の人間なら既に泊まる場所がある筈だ。

 

「そこで、じゃが……」

「うん?」

 

王女がバッグから紙を取り出し、見せつけてきた。

 

「そぉい!神選者が作った、この『ダンジョン』に行こう!」

「ダンジョン?」

「実態素粒子アルゴリズムによるホログラムによって再現されたモンスターが徘徊する建造物じゃ。死にかけるとゲームオーバーで入口の安全地帯に戻されるぞ。」

「……」

 

ネセトに組み込めたらどれだけ安心出来るだろうか……まぁ、無理だが。

 

「……腕試しに行くハンターは多いか?」

「多い多い。最上階まで行くと、景品が貰えて称号も与えられるからのう。」

「ふむ……」

「ただ、よくモンスターの襲撃にあって潰れるらしいがの。」

「縄張りに他の生物が大量に居たらそりゃ……」

 

名誉が貰える、か……多少はネセトの強化に繋がるか?

 

「よし、行くか。」

「ノリがいいぞー!」

 

笛を納刀し、撃龍槍を担ぐ。

……撃龍槍の時点で疑われそうだな。

 

 

 

 

ここか……

 

 

「巫山戯るなぁぁぁぁっっ!!!」

「!?」

 

何故、ネセトを覆う様にコイツが建っている!?

殺す殺す潰す潰す……

 

「亡くしてやる……!!」

「ど、どうしたのじゃ―――っ!?」

「きぃぁぁぁぁっっ!!」

「!?!?」

 

 

 

私は走る。

全速力で扉にタックルし、撃龍槍でブレーキをかける。

 

「は、ハンター様!?」

 

「ここに挑む為の場所は何処だ……ぁ?」

「っ!?あ、えと、あちらの階段で―――」

 

くそっ、ここの管理者を叩き殺してネセトを取り戻してやる……っ!!

 

 

 

 

 

な、なんだあの客!?

 

「……鬼気迫る表情で走ってきてますね。」

「こ、怖いから強めのモンスターを配置しておかなきゃ。」

 

 

 

 

 

奇妙な敵ばかりだ。

人間型も多く、一撃で青い光となって消えていく。

 

撃龍槍を振り回し、敵を産出する謎の柱も貫き壊す。

 

「グォォォォッ!!」

「威嚇はぁ!!」

 

大きな緑の人型に向けて撃龍槍を構える。

 

「乱戦時にはしないっ!」

 

腹に穴を開け、笛で叩きちぎる。

こんな雑魚どもに占領されたのか、尚更頭にくる!

出現した階段を駆け登る。

 

 

 

 

「ひっ!?」

「ど、どうしますマスター!?」

 

おかしい……レアとはいえオークを瞬殺だと……

これじゃHRどころか、SRでも太刀打ち出来るかどうか……

本来ならクリアされても問題ないが、コイツだけは攻略させてはいけない気がする。

 

「しょうがない……SSR、阿修羅像を配置だ!」

「了解です!ふんっ!」

 

 

 

 

 

第二層の奥の部屋にたどり着く。

 

「汝の罪を数えよ……」

 

とても大きな体躯で、六本の腕にそれぞれ武器を持っている。

……だが。

 

「うるさい、」

「ぐうっ!?」

 

足ががら空きだ。

撃龍槍が突き抜ける。

 

瞬間移動してから腕を振り下ろしてくるが、想定以内だし私のウイルスでバレバレだ。

 

「いでよ、この世に恨みを抱きし者よ!」

「オルタロスは何匹固まってもオルタロスだ!」

 

確かに一撃で砕けない。

謎の光を放ってくる奴もいる……が!!

 

「ふんっ!……!?」

 

振り下ろされた腕を走り、笛を振りかぶる。

 

「潰れよ!」

「ブチ切れろ!」

 

私を巨大な手が潰す。

その前に笛で頭を殴り吹き飛ばす。

 

「ぬうっ!?たかが一匹に……この我が……!?」

「死ね!死ね!死ね!」

 

図体だけのデカブツの頭に、笛を振り下ろし、反動で跳ね返った所を再び振り下ろす。

 

早くネセトを返せ……

たかが一人の人間の意思で私を止められると思うな……!

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう!?」

「こういう時はフレンド機能で助けを求めましょう!」

「そうか!……助けてくれ、邪極龍ヘルバニッシュ!」

 

UUR……アルティメットウルトラレア。

名前の通り破滅的な力を持つ、上から二番目のユニット。

それならばこの怪物を……!

 

 

 

 

 

 

……突然、私の思考が穏やかになる。

私の前に立ち塞がるは謎の黒い龍。

 

「……お前は俺を倒しに来たのか?自主的に帰った方がいいぞ?」

「うるさいな。私の前に物理的に立ち塞がる障害は大小関係無く殺し尽くすだけだ。」

「ヘルファイア!」

 

神選者の使う魔法か。

私に効くような炎ではない、無視して突っ切ろう。

 

「リズムクローズ。」

 

黒い壁が正面に出現、撃龍槍を使いながら右に跳ぶ。

壁からは大量の手が出現していた。

 

「ダークネス!」

 

一々宣言してくれるからありがたいな。

龍に槍を突き立てる。

流石に見た目的にも突き抜ける事は無いか……

 

「うっ!?……強いなお前。」

「お前はバルラガルに数十分殺され続けろ。」

「舐めた事を……っ。」

 

私が槍を抜くと同時に、龍は飛んだ。

 

「メテオ!!」

 

ネセトの頭ぐらいの岩が大量に出現、落下してくる。

素材に使えるかと思ったが……くそっ、地面に当たると消えるのか。

 

「ふははっ!絶望して動けないか!」

「じゃあ当てろ。」

 

それだけの岩を落とせるのだったら勢いを強くして永遠と狙い続ける方が当たるだろうに。

……むしゃくしゃしてきた。

 

「ふん。業責の火炎!!」

 

岩落としをやめ、レーザーを放ってくる。

地面が切り裂かれ、壁を貫通する。

 

 

 

……無意識に私の足が走り出す程の嫌な予感が走る。

 

 

 

『はぁい、判定に抵触しましたわ〜。』

 

……あのルーツか。

雷で何かを浮かせ、それを通じて叫んでいるようだ。

建造物からも声がする。

 

『判定とは?』

『無知は罪ですのよ〜。』

 

 

「大丈夫かの、ルカ!?」

「王女、飛び降りるぞ!」

「えっ!?」

 

切れ目に走り、雪が積もっている大地へ跳ぶ。

 

 

『さてさて、最期に言い残す事はありますかしら?』

『いけ、ヘルバニッシュ!』

「お前も地に落としてやるよ!」

 

邪黒龍が切れ目を広げ、飛び出してくる―――

 

 

 

 

「……っ、死ね、死ね!死んで死んで死んで……はぁ、歯向かうのね―――」

 

ルーツが爆発する。

 

 

 

 

 

 

建造物は消え去っていた。

ルーツも居なくなっていた。

 

 

つまりネセトの場所が開いたという事だ!

人間は居ない、急いで掘り出そう。

 

 

 

「……ルカ、この短時間で色々起きたのに驚かないのかの?」

「ネセトが先だ。」

「極限化で恐怖の本能だけが削られたのかのう……」

 

王女の言葉は一切掘り起こすのに必要な情報ではない。

 

ゴアの翼で雪をかき分け、撃龍槍で氷を叩き割る。

……一年は経っていないのにこんな深く埋まるのか?

 

「あー、隠すために深く埋めたんじゃよ。」

「そうか。」

 

お、頭が見えてきた。

よし、あと少しだ。




今回起こったこと

・ポッケ村に到着
・ダンジョンへ行くという口実でネセト回収
・ネセトの上にダンジョン
・ダンジョン攻略?
・神選者がルーツの怒りに触れる
・そんなことよりネセトだ!












神選者の情報ですか?






・『モンハンの世界でダンジョン経営してみた!』
打ち切り

・『皆を越えて、幾多の世界を救う』
第二章で打ち切り

・『様々な職業についてみた』
モンハン章、突然終了



三作品のご冥福をお祈りします


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地球の感覚を当てはめてはいけない!


撃龍槍を素材が鉄で、長さが10mで、直径が140cmの円柱とします。

(140cm÷2)=70cm
70×70×円周率(3.14)×(10m×100)×7.85g=120780100

約120t……!?

½—×120000kg×(30m/s×30m/s)
=54000000J=水平槍投げ

½—×2kg×(1600m/s×1600m/s)
=2560000J=ある戦車の砲撃

5400:256

!?
(調べたりなかったり数値がおかしかったらすみません)


最後に強烈な一撃を入れる。

深々と撃龍槍が刺さる。

一度遠ざかり、撃龍槍をゆっくりと糸で倒す。

すると、ネセトの形に固まった氷が少しずつずれる。

 

「こ、怖!わらわはちょっと遠くに行くのじゃ!」

 

雪崩が起きる可能性はあるのだからその判断は賢明だ。

 

広がった亀裂に近づき、ゴアの翼を両方入れ、広げる。

バキリバキリと音をたてながらネセトの表面が直接見えてくる。

 

改めて考えると、ネセトが入る程の巨大な穴を作ってくれたのか。

かかった労力は凄かっただろう。

そう思いながらネセトの下半身の氷を取り除く。

 

そして1パーツ毎に分解し、糸で引っ張って出す。

何故面倒くさい事をするかというと、既にネセトを動かす為の糸は切れているのだから無理に動かすと一箇所に力がかかって折れるかもしれないからだ。

 

全てのパーツを氷上に取り出し、多少持って広い場所を探しに行く。

 

洞窟前は広くていいな。

早速何度も往復し、パーツを移動させる。

一度、鎧としている岩とクシャルダオラの皮を外す。

 

「ほほう、これがあのネセトの骨組みなのじゃな。」

 

まずは鉄の骨が動くか試す。

……関節がギシギシ言うな、一度外して体液を噴霧しておこう。

岩は更にボロボロになっていた。

 

人間の姿になる。

 

「王女、近くに使える物は無いか?」

「岩とか鉄は割らないと無いのう……あっ、骨なら洞窟の先に大量にあるぞ?」

「ふむ、ガロアも一時的にならいいかも知れない。」

 

固ければ簡単に割れる岩よりはマシだ。

元の姿に戻り、笛を構えながら入る。

王女も横についてきた。

 

やはり周りが冷たい方がいいのだろうか、ウイルスが遠くのファンゴを察知出来ている。

しかし、逆に考えると砂漠では……いや、その時に考えよう。

 

 

丁度吹き抜けになっている所の骨を抑え、鎌を振り下ろす。

……駄目だ、耐久力が無い。二つに分かれてしまった。

イラついた為、笛で骨を叩き割る――っ。頭に跳ね返ってきた。

 

「骨折り損のくたびれもう――っ!」

 

うるさい。

王女は笛をかわし、足を滑らせて転倒していた。

 

 

 

という訳で、ネセトを構築するっ!

 

先程溶かしたり、錆を落とした骨組を糸で固定しながら積み上げる。

ゴアの翼で飛翔し、ネセトの体勢を変えずに頭を作り直す。

そうしたら今度は笛を吹き、ゴアの翼と糸でネセトの足を持ち上げ、裏から岩を固める。

ネセトの足はかなり濡れる、十分な対策が必要だ。

そして操縦席、もとい胴を作る。

 

「なんかボロボロじゃのう―――っ!?」

 

うるさい。

撃龍槍を投げつけたがかわされた。

人間の場合、被弾は死を意味するから避けるのは当たり前だが。

 

そして走る際に重要な尻尾を作る。

余り攻撃されるとは思われないが、ギッシリと詰めておく。

 

そして糸を通す。ゴアの翼で外した岩が持てるためとても楽だ。

 

 

最後に頭を降ろし、射出する糸を張り、撃龍槍を入れる。

その後操縦席に飛び込み、繭を形成しながら糸を引く。

 

 

ガッガッガン!

 

 

「おおお!」

 

遂に我が家に帰ってきた。

手始めにこの山を駆け回る。

 

あぁ、この揺れ!この安心感!やはり素晴らしい!

……もう人間の姿は不必要では?

まぁ神選者に狙われる可能性を減らすにはしょうがないが。

 

一周したところで人間の姿に戻り、遠隔で糸が上手く直せるか確かめる。

 

「これが残奏姫のネセトかぁ……質素じゃが機動性が頭おかしいの。」

「いや、防御が脆すぎる。クシャルダオラの皮も簡単に千切れる様になっていた……」

「極限化によってお主の力が更に強くなったのじゃろう?多少は……」

「……戦闘に使う巣が、全てにおいて私を下回ったら意味が無い。」

「で、どうしようかの?昨日今日で別の場所へ行くのはおかしいぞ?」

 

 

 

元の姿に戻り、再びネセトで立ち上がる。

 

 

ふむ、この後はどうしようか……ん?

 

 

 

 

 

私のウイルスが、今までとは全く違う熱源に反応する。

 

 

 

 

 

雪を潰す音が聞こえはじめ、岩を曲がってきたソレは生物では無かった。

 

細長い筒をネセトに向けている。

 

 

 

「ルカっ!」

 

王女が叫んだ瞬間だった。

 

 

 

足の岩が吹き飛ぶ。

 

 

 

その威力に驚きはしたが、結局の仕組みはあの……そう、銃。

銃と同じだろう。

 

砲身が私に向く。

 

斜め後ろに飛び退き、円を描く様に走る。

このまま蹴り飛ばしてやろうと思っていた。

 

……が、私は再び飛び退く。

 

ギャリギャリと二台の機械がやってきたからだ。

 

三台か。ふむ。

砲身の旋回速度はかなり速く、下半身に二発受ける。

そこで私は突っ込みながら撃龍槍を放つ。

 

 

 

「ふん、所詮古龍級生物の攻撃など効かぬ!」

 

バギイッ!!

 

「ぎゃぁぁぁぁ!……え、貫通!?」

 

 

 

正面の機械に撃龍槍が突き刺さり、動かなくなった。

 

距離をとろうとした一台に跳ぶように近づき、両足を振り下ろして潰す。

 

最後の一台の砲弾で胴の一部が吹き飛び、ネセトがガタリと傾く。

その勢いのまま反転し、後ろ蹴りをする。

 

遠くの岩まで吹き飛び、裏返った。

走り寄り、足を振り上げると、人間が走り出てくる。

 

 

足でストンと潰す。

悲鳴と共に雪が吹き飛ぶ。

人間では何のつっかえを感じなかった。

 

 

 

「……。これは何だ?」

 

周りを確かめてから人間の姿になり、王女に質問する。

 

「戦車と言ってな、大体のモンスターを一撃の元に下す、人間側の最終量産型兵器じゃな。」

「ふむ……」

 

一度近寄り、元の姿で糸を巻き付けてから引っ張る。

なんなく運べる。

 

意外と軽いな……私はつい頭を横に傾けた。

王女はめざとく反応し、

 

「それ以前に撃龍槍がとてつもなく重いんじゃ。アトラルの力とアトラルの糸の耐久力は世界最高峰じゃよ。」

「ほう、よく分からんな。」

 

元の姿で戦車を振り回して氷を払う。

この装甲の素材は使えそうだ、三台ともネセトに積んでおこう。

とりあえず撃龍槍を抜き、集める。

 

再び人間の姿になり、ゴアの翼でそれぞれの戦車をこじ開ける。

 

一つ目は生存者が居た為、笛で叩き殺してから臓物を取り除いてネセトに干しておく。

槍で出来た穴以外には損傷が無い、便利だ。

 

二つ目は油と血でグチャグチャになっていた。

と言っても、金属の板としてはまだまだ使える。

 

三つ目は砲身のある場所に大きな凹みが出来ていた。

だが、それだけだ。一番素材として使いやすい。

 

 

体液を流してみる……中々溶けないな。

とりあえず板になった物のみゴアの翼で曲げ、吹き飛んだ胴に差し込む。

 

「……早く完成させたい……」

「どうした、ルカ?」

「……」

 

 

微かに王女の声が聞こえたが、私は既に二倍以上巨大な私の巣を想像していて反応が出来なかった。

だが、それは何処か貧弱なネセトだった。

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず村に戻ってきた。

あの後、ネセトは洞窟の上に乗せ、雪に埋め、隠してきた。

 

ギルドには、ダンジョンに入ろうとしたら謎の白いモンスターがダンジョンを吹き飛ばし、私達は呆然としていたと言った所、受付嬢が頭を抱えながら『分かりました』と言った。騙せたらしい。

 

そして私達は宿に向かっている。

 

「それにしても、撃龍槍を持てるゴアの翼も大概じゃ。」

「私の体より弱かったら余り使えない。」

「それに戦車を吹き飛ばす行動は流石に驚いたの。」

「……戦車。戦車か。」

 

戦車か……ふむ、名前からはどういう物か全然分からないな。

戦う車と言ったらもしかして人間からしてネセトは入るかもしれない。

 

まぁ……

 

 

 

あれはネセトに最適な素材だ。

 

 

 

「戦車は何処で作られている?」

 

 

「それがのう……分からないんじゃ。」

「分からない?」

「うむ、我が国には来てないんじゃが唐突に『軍事商人』なる者が現れての、取引成立時に戦車がドスンと現れるんじゃ。」

「……そして突然消えると。そいつは神選者か。」

「じゃがのう……そういう神選者はドンドルマの記録に載ってないのじゃよ。」

「……疑わしい場所は?」

「あはは、全く分からんぞ?」

 

そう話していると宿に着いた。

ネセトについてはまた明日考えよう。




瞬間的な重さは1億t……!?
ちょっとよく分からないです……

アトラル・カは古龍越え生物でしたか……いや、そこでアタリハンテイ力学が働いているのでしょう……


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龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)


お久しぶりです!
今回は私、ギルドナイト(女)の回です!



ふぅ……

 

「上手くいきましたね。」

「今回は簡単だ。」

 

夏。

 

私達は偵察部隊の『相思相愛』から、シュレイド王国……の片割れが大きく動いているという情報を掴みました。

実際はギルドナイトの任務の範疇を超えていますが、私達レベルの存在は貸し借り出来なくて当たり前ですのでしょうがないのです。

……まぁ、『自然が滅ぶ』条件に該当しますから国自体が殺害対象とも考えられますね。

 

「カードの提示をお願いします。」

「ん。」

「……700042603。確かに確認しました。ではこの書類をどうぞ。」

 

「カードの提示をお願いします。」

「うむ。」

「……700042612。確かに確認しました。ではこの書類をどうぞ。」

 

あー怖いです……何せ、ここでの失敗=神選者の出動ですから、死に繋がると考えてもいいでしょう。

あの遺跡に潜入するよりよっぽど怖いです。

 

とりあえず時刻表を取り出し、よく読みます。

 

「あと二時間ですか。どうしてこんな早く?」

「スパイはぎりぎりの時間で来る。それは何故だ?」

「出来るだけ誰とも関わらず、後ろの方で必要な情報だけ聞き取り玄関から逃げる為です。」

「そうだ。裏をかくにしても一時間前が限界だ。」

「でもこんなに早いとリスクの方が……」

「あぁ。だが、俺達が交際関係のある人間に扮していたら?」

「……なるほど!二人だけの時間に介入する人はそうそう居ませんね。だから今回は貴方が選んだのですか。」

「そういう事だ。厚かましかったり、話しかけてきそうな人間は既にマークした。俺に合わせて動いてくれればいい。」

「では手を繋ぎましょう。」

「誰もいないから先に書類確認だ。」

「あっ、そうでした。」

 

机のある部屋に移動し、本人が持っていた書類と共に出して確認する。

 

──────────────

緊急発表会

『遺産の復活と仕組みについて』

 

本日の日程

 

8:30〜

「アロガンシア王・挨拶、セット準備」

 

 

9:00〜

「現代に蘇りし竜機兵(イコール・ドラゴン・ウェポン)

 

セナ・ベリア

バルノ=デカーニ

デデ・アズ

 

 

12:00〜

「昼休憩・竜機兵を触ってみよう」

 

 

14:30〜

「現在と実情」

 

アロガンシア王

中村未来

バンマニス

セクーエタ

 

 

16:00〜

龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)

 

キテリア・メヌウ

イデリケス

リリ=テリア

 

 

17:30〜

龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)起動」

 

 

18:00閉幕予定

──────────────

 

本当に大きな発表会ですね。

アロガンシアが直々に出てくるとは……

 

「それにしては警備が薄いな。」

「自分を殺せないと高を括る事が出来る何かがあるのでしょうね。」

「まぁ、今回は暗殺目的ではないから単純にありがたい。」

 

それにしても、竜機兵ですか……本当に龍大戦を始めるつもりでしょうか?

龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)もとても気になります。

それに、一つ一つの時間が長いですね……これは、大変だぁ。

 

 

 

 

最前列から三列目に私達は座りました。

巨大な紋章を施した大きな垂れ幕が上がります。

 

舞台袖からこの国の王、アロガンシアが出てきました。

黒い制服を着たその姿はまるで軍人のよう。

 

異界の産物、マイクを手に取って喋り始めました。

 

 

「皆様、おはようございます。アロガンシアです。」

 

先程までざわついていた会場が、一気に静まりました。

謎の圧迫感があります。

 

「本日は天気が良く、いい狩猟日ですね。……えぇ、今回のテーマ、竜機兵に繋がる情報です。我々は今まで、神選者達のおかげでモンスターを押し返していました。しかし。」

 

声が強くなってきます。

 

「今のまま私達は神選者に頼っていいのでしょうか?それは私達の勝利と言えますか?……私は否定します。私達のシュレイド王国は神頼みで成り立っている訳ではありません。例え先導してくれる人が居ても、それを享受するのは私達国民です。精査し、私達に合わせ、成り立たせる方法を探し、国民が受け入れる体勢である事。これによって初めて神選者の知識を私達の物にする事が出来ました。」

 

一呼吸をおきました。

 

「そして今日、遂に私達が、私達の未来を切り開く事となります。先導する者がいない事に不安を覚えるでしょう。しかし、夜が過ぎれば光が見えます。私達は光に向かって歩きだそうとしているのです。王国が再び栄華に包まれるその時まで、私達は互いに協力し、助け合い、磨き合いましょう!……それでは、第一歩となる説明会が始まります。」

 

アロガンシアは一歩下がり、会釈をしました。

周囲の拍手に合わせて私達も拍手します。

 

「それではセットが配置されるまでお待ち下さい。」

 

アナウンスが流れました。

 

 

 

昔のシュレイド王国の方針のままの西シュレイド。

そこはやはり、龍を皆殺しにする思想で染まっていました。

 

 

 

 

 

ジャリ……ジャリ……

 

ラオシャンロンに並ぶ大きさの竜機兵が舞台の上で横になっています。

回収された損傷体こそ見た事がありましたが、目の前で動いているといるとやはり恐怖を感じますね。

でも、危険は感じません。

 

竜機兵の前には、三人が机越しに座っていました。

 

「過去の竜機兵はドラゴン……つまり龍を素材にしていた。

だが!我々の今の世界はどうだ?大体の龍が竜より強い……何故なら当時の素材になる雑魚な龍は効率からみて真っ先に狩るべき対象だったからだ。しかぁし!!」

 

随分ハイテンションな研究者ですね。

 

「我々の技術の発展は止まらない。遂に竜の素材から竜機兵を作ることが出来たのだ!」

 

……なるほどぉ。

各地にモンスター解体場が湧いてきていましたが、この人達のものだったんですね。

龍脈の力を必要無しに強力な生物を作れるとは……流石軍事国家です。

 

「では説明をしましょう。」

 

先程までのハイテンションな研究者とは違い、冷たく落ち着いた女性の声が響き渡ります。

 

「私達は竜機兵を作ったのですが、実は『竜機兵』はカテゴリ名であり大きく分けると三種類あります。

 

まずはここにいる『植物型竜機兵』

この竜機兵は光合成で大地の無機物から自発的にエネルギーを作るため、維持管理が簡単な事から竜機兵の中の量産型です。と言っても弱い訳ではなく、天候が悪い日が続くと弱体化するだけで蓄えたエネルギーを使えば夜中であろうと戦えます。戦闘傾向としては『自衛』です。

 

次は私達が最初に作った『大食型竜機兵』

その竜機兵は動物性タンパク質を摂取する事で自己再生を行いながら戦闘します。当初は跡形も無く完食してしまう事が問題でしたが、ネルスキュラの捕食を参考にし、肉を溶かして飲む事で鱗や骨等の素材を傷つける事無く食事する事が出来るようになりました。傾向としては『捕食』です。

 

そして3つ目は原初の竜機兵を発展させた、製作に龍を使う『孤高型竜機兵』

この竜機兵は食事による自己進化を繰り返しながら戦闘します。初期構想時に自我の目覚め等の懸念する声がありましたが、定期的に電気による記憶消去により、大幅な自我発生の確率の減少をはかることができました。また、それでも命令に違反する場合、臓器の機能を停止させ、被害なく処理する事が出来ます。そして一番の役割は龍脈を消費させ、龍の弱体化を行う事です。傾向としては『遊戯』です。」

 

コスパも考えるとは……研究者も馬鹿ではないようですね。

しかしこの言い方だとまるで―――

 

龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)は違う物として扱っています。ご了承ください。」

 

なるほどぉ。

恐らく力というか、仕組みというか、全く違うのでしょうね。

 

 

 

「では、何故私達は竜機兵を蘇らせたのか。それをお話しましょう―――」

 

 

 

 

 

終わりました。

 

まぁ要約すれば、

 

・戦車より強い!安い!簡単!

・クローン人間が不必要!

・ドラゴンライダーってかっこよくね!?

 

みたいな感じでしょうか。

細々と仕組みの説明もありましたが、段々と専門用語が増えてきて私には分かりません。

 

……

 

「ワタシニハ、ワッカリーマ――」

「煩い。」

「すぇっ!?」

 

いてて……ちょっとふざけたくなっただけで手刀ですよ……

 

私達は今、竜機兵に触る列に並んでいます。

そして、順番が回ってきました。

 

「どうぞ、お触り下さい。」

 

スタッフが柵を開けてくれました。

私達は中に入り、竜機兵に近づきます。

 

「……フスー」

 

私達を見て竜機兵の鼻から出たのは蒸気ではなく煤でした。

甲冑が覆ってない前足を触ってみます。

 

「……うわぁ、硬い。」

「爪とかは軽くレウスを裂きそうだな。」

「これが竜機兵……」

 

足はまるで岩を触っているかの様な硬さ。

翼は鉄より固く、冷たかったです。

そして鬱陶しそうに体を揺すっても何かが割れたりする音はしませんでした。

 

「ひゃー!凄い、これが竜機兵!」

「興奮するな。バレるぞ。」

 

大戦の終末の原因に触れる日が来るとは……!

とっても嬉しいです!

 

 

 

 

 

ちょっと眠くなってきました……元気ドリンコを用意しておきましょう。

 

続いての『現在と実情』ですが、纏めると

 

・神選者の敗北が増加

・生活水準の大幅向上

・発電施設の増築

・今後の予定

 

今後の予定に関しては、龍を皆殺し、他国を吸収し大陸制覇。

みたいな感じですね。

 

 

 

そして、今日一番の注目ポイント。

 

 

 

「『龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)』始まります。ご着席下さい。」

 

 

オーバー・ドラゴン・ウェポン。

りゅうごろしりゅうきへい。

 

 

どっちも長い……

 

 

その時、私はこの会場で初めて危険を感じました。

 

まるで自分が最強と思っていて、その自信を裏付ける実力を持つ何かを……

 

 

しばらくして、黒色で一回り小さい竜機兵がのしり、のしりと舞台に現れました。

 

先程の竜機兵と同じ体勢になり、その前で三人が喋り始めます。

 

「龍殺竜機兵計画代表、キテリア。」

「龍殺竜機兵計画発案と経理をしております、イデリケスと申します。」

「あっはっは!私が龍殺竜機兵計画で、神選者説得と製造工場の代表を担当するリリ=テリアだ!よろしくな!」

 

暑い時期に目を隠すまでのフードを被っているキテリアさん。

異世界でスーツと呼ばれている物を着ているイデリケスさん。

さらしとインゴットフォールドしか着てないリリ=テリアさん。

 

……いやぁ、無自覚でしょうが会場が騒がしいですね。

っ!?おい、巨大モニター!リリさんの上半身と下半身を交互に映すな!

面白いけど流石に不謹慎……ってリリさんもそれに気づいた様でポージングを始めました。

いいぞもっとやれ……という気持ちはありましたが、やっと龍殺竜機兵の話が始まり、ほっとしました。

 

龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)の事について説明。

過去に竜機兵は負けた。何故か。圧倒的な力の突如出現に対応出来なかったから。王国を滅ぼす黒龍。全てを焼き尽くす紅龍。何もかも消し飛ばす祖龍。流石に対応出来なかった。」

 

キテリアさんはお茶を手に取りました。

入れ替わる様にイデリケスさんが喋り始めます。

 

「ならば対応出来るようにすればいいじゃないか、と考えたのが『龍殺竜機兵(オーバー・ドラゴン・ウェポン)』です。この竜機兵はその名の通り、龍を殺す為に生産されています。ネルギガンテの力を大幅に増幅させ、怒涛の再生力、完全封龍の能力を手にしており、脳の中には通信回路を形成させています。」

 

イデリケスさんはうずうずしていたリリさんに目配せしました。

リリさんは立ち上がり、マイクを使わず大きい声で喋りだしました。

 

「そして、龍脈の力を使った培養技術によって、ネルギガンテの素材には困らないときた!勿論、色々必要な物は多いが龍脈の力を使うという事はかなりのコスト削減。その他の素材を買うのに金を回せるから無理に作って国が財政破綻する事はほぼない。工房としては安定した収入と仕事はとてもありがたい!」

 

満足したのか、席に座りました。

再びイデリケスさんが喋り始めます。

 

「経理の私もかなり驚きました。実力が伴ってないと一時期心配した事もありましたよ。」

「そうだったな、頻繁に視察してきたな!」

「そして、通信回路の話ですが、マザーコンピューターにハッキング対策をたてながら、死ぬ寸前までデータ同期させています。マザーコンピューターが算出した対策案により、遺伝子を組み換え、ネルギガンテの再生力を使って進化するのです。勿論、特定の行動に警戒したりなどの思考を変化させたりもします。」

「ここ、とても大変。遺伝子の統一、難しい。」

「間違えると死ぬか、異形のネルギガンテに変わってしまいますからね。」

「古龍は怖い。」

 

……つまり、ただでさえ耐久力が高く、再生力が尋常じゃないのに次の奴は個々に対策をたててくるという事ですか……恐ろしや。

進化と言ってましたし、対応出来ない物がないのでは?

 

「圧倒的な力を持つ敵には、とてつもない技術力で立ち向かう。その考えでやってきた。だからここで満足しない。」

「それでは細かい説明に入っていきます。」

 

 

 

すっごい纏めると、

・維持費は余りかからない

・潜在的なプライドは高め

・混ぜた龍によって性能が変わる

・神選者の力を付与することも出来る(どうしても打ち消し合う為、一つまで。)

 

 

ですね。

えぇ……私達でも勝てませんよねこれ。

いやまぁ、秘技を使えば少なくとも数匹は屠れるでしょうが……

規模は数百匹でしょうし、難しいですね……

 

 

さて。

最後に闘技場に移動です。

 

 

先程の雰囲気のままのため、騒ぐ人はそれほど多くはありませんでした。

 

 

龍殺竜機兵は闘技場の中央で立ち止まりました。

周囲を人類が囲んで騒ぎ始めた事に関心を寄せてません。

 

 

「龍殺竜機兵の連戦です。」

「ウルルォォオオオオ!!」

 

 

早速金色になっているラージャンが飛び込み、竜機兵を殴りつけます。

大地を穿ち、骨を引きずり出すその強靭な腕力。

 

しかし巨体は動きません。

 

反撃に、ラージャンを尻尾で打ち上げ、首を引く動作の後に雲を吹き飛ばす程の熱を持った火炎ブレスによりラージャンを丸焼きにしてしまいました。

 

銀の刃が竜機兵に勢いよく当たりますが全て弾かれてました。

 

「ヴォォォォォン!!」

 

円柱の鉄を叩いた様な声が響きました。

 

ハルドメルグが鎧を纏い直している隙を見過ごさず、竜機兵が叩き伏せます。

纏いかけていたハルドメルグの武器を折る硬度の鎧が、どんどん溶けていき……

 

最終的に死亡時と変わらない姿になってしまいました。

竜機兵は腕を肥大化させながら殴ります。

巨体から繰り出される殴打は、巨大な地割れと共に古龍の血を会場全体にぶちまけました。

 

「「うぉぉ!」」

 

会場全体がどよめきます。

龍殺竜機兵……とても強いですね。

 

上空からクシャルダオラがブレスを撃ちますが、竜巻を起こすそれを正面から破り、爪を巨大化させて掴み、猛烈な勢いで地面へ押しつけました。

ヒビの入っていた土がめくりあがり、土煙で姿が見えなくなります。

恐らく、再生するのだから自分が怪我をしないように立ち振る舞うという考えがないのでしょうね。

 

そして何かが折れる音がして、煙から飛び出してきた竜機兵は大きく咆哮をしました。

 

「ギィィィィィィン!!」

 

悲しそうな声?嫌がっている目?

……いえ、楽しそうな動きでした。

完全に人工生命体となっているのでしょうね……

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私達は夜間に帰ります。

とても興奮する日でした……でも。

 

「龍殺竜機兵の存在をあんなに大きく発表するなんて……何かの目的があるのでしょうか?」

「いや、他国が真似る事の出来ない技術を持っていると国民に見せつけたかったのだと思う。」

「?どうしてですか。」

「生活水準の向上、最強の戦力を持っている事を国民が知れば、愛国心が強い彼らの士気は上がり、軽い気持ちで国から逃げようと思う人達は死にたくないから留まるだろう。結果的に人口の確保が出来るからだ。」

「(´・ω・`)ヨクワカンネ」

「……捨て駒の数が増える。」

「もっと分かんないです。」

「おい。」

 

 

報告書には困らなさそうです。




アトラルと
ストック3でーアイテム多いでードラグーン大好きーバルとー
スウォームの。

『なぜなに!教えて亜空のシュレイド城ー!』

お前は誰だ?
ビーストっ!そして雷。これでMAD素材。
この方はー影虫だよー。
……余計に情報が増えたな。まぁいい。今回はこれだ。

竜機兵(イコール・ドラゴン・ウェポン)

当時のシュレイド王国が滅んだ最後の引き金だ。
近世の技術を持ったシュレイド王国。モンスターの影響で通信技術は発達しなかったが、水洗トイレがあったと言えば発達具合が分かるだろうか?
つまりー昭和とー平成ーレベルー?
水洗トイレ。創造。偉大。分かる?
はてなの連続やめろ。

竜機兵の説明だが、沢山の竜と龍を使った。
そして出来た物は火を吐き、空を飛ぶラオシャンロンが出来たという事。
何故『竜』機兵なのかというと、古龍の力を持たないからだ。電気の力を持たせた龍機兵より、電気袋型竜機兵の方が強い、の様にな。コスパ面からもだ。
当時はーまだー魔法がー発達ーしてないーからねー
魔法武器。遺産。ナズチ弓。発達してない?
弱いー龍からはー竜のー上位ぐらいーだよー。火力は高いしー耐久もーやばいーでもー正面からはーラオよりー弱いー

そして、黒龍に狙われた理由だ。紅龍や祖龍は人間の努力と思って多少は見過ごしていたが、黒龍がプロポーズしていた金火竜が竜機兵に練り込まれてしまって……ふっ、これほど言えば黒龍がどういう奴か分かるだろうか?
最強の龍が異種族の竜に恋をする、『ありえない』を超える程の恋愛感情を抱いた相手が竜機兵に練り込まれ、目の前にやってきた……黒龍は最強だから恐怖は無い。ただ感情が壊れるだけだ。


うーん?まさか俺の話をしてくれてるのー?
あ、僕の作った混ぜたの見るかしらー?


そして、混ざった物を嫌い、混ぜた物を愛でる。
彼女を想う自分が、混ぜた物の世界を作れば彼女は元通りに話しかけてくれると思って――



ぁぁぁぁぁぁぁ!!

っ!?
あーまずいー放置しすぎたー
私は逃げるっ!!
あれーでも放置時の技はーコアだよねー……まぁいっかー
力、迸るぅぅぅっ!!


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飛行妨害絶対不可、その名は劈星龍


どうせならー屑じゃなくー
星屑のよーうにかーがやーきー
こーの惑星をぶち壊してやーれー



高地の村だから気温が低いとはいえ、多少はあったかくなってきた。

 

あれから何度も雪山のクエストを受注し、気球がいない時にネセトを調節していた。

クエスト内容は採取が多かったな。

 

一時は古龍を狩り、装甲にしようかと思ったがハンターが狩る対象は注目されている以上、現在は無理だと理解し今は大人しくしている。

 

 

そんなある日。

早くネセトと共にドンドルマを襲いたいなと考えていた私に、一通のクエストをギルド側から頼まれた。

 

 

──────────────

銀翼の襲来?

 

観測目標・劈星龍バルファルク

クエスト目標・対象を確認した後にチケット納品

 

契約金・報酬金

13000z(特例、ギルド建て替え)・52000z

1500Gz(特例、ギルド建て替え)・25000Gz

 

受注条件

G2以上

 

依頼者・青く光る左目の神選者

私の目には見えた……奴が来る。

万物を突き抜け、世界を飛び回る隕石が。

迸る緋色の弾丸が来ると私は予想した。

ポッケ村のあなたには雪山を警備して欲しい。

見つけたら、焦らず逃げてくれ。

追ってきても武器を出さなければそこまで苛烈な攻撃は仕掛けてこない様だ。

 

──────────────

 

「もう内部的にはG2以上なのか。」

「訓練してない人間の感覚では、あの舌の軌道さえ分からないじゃろうしの。」

「……だが、表に出てない依頼か。G級昇格には厳しい。」

「これからも良い様に使われそうじゃの。」

「ふん……」

 

撃龍槍を磨く。

生きてない物に感情は出来ない。だが、私の体が形を覚える。

普段から丁寧に扱い、乱雑に使用し続ければ限界の使い方が出来る様になる、と勝手に考えてみたからきっちりと磨いている。

 

撃龍槍を持ち上げ、キラリと光を反射させる。

 

「して、受けるのかのう?」

 

王女はニコニコと見てくる。

 

「勿論だ。内部でのランクは数値になっていないがゆえに、些細な事で上下する。今は上が狙えるタイミングだろう?」

「そうじゃな。」

 

足を伸ばしパタパタし始めた。

ご満悦のようだ。

 

「ところで……Gzとはなんだ?」

「あ、ギルド内通貨じゃな。とてつもなく価値は高いが、ギルド関係の中でしか使えないのが当たり前とはいえ欠点じゃの。」

「ふむ……どちらにしろギルドが払ってくれるならありがたいな。では行こうか。」

 

槍と笛を持つ。

宿が軋むがまぁどうでもいい。

 

「そういえば撃龍槍をどう持ってるのかと思ったのじゃが、あちこちに切れ込みを作っていたのじゃな。」

「当たり前だ。」

 

笛を納刀し……鈍器は納刀と言うのか?

……細かいことはいいとして、槍を担いで行くとしよう。

 

 

 

 

受付嬢に人差し指で口を塞ぐ動作をしながら紙を渡す。

彼女は頷き、裏の方に直ぐに行った事から紙の内容を理解した事が伺える。

 

しばらくすると受付嬢が別の紙を持ってきた。

 

ふむ……『個人情報秘匿権利主張紙』?

頭を傾げると王女が耳元で喋ってきた。

 

「実はの、昔こういう神選者が深く絡んだ事から各地のギルドが乗っ取られかけた事があったんじゃよ。それでの……」

「なるほど。」

 

短く返事をし、サインをする。王女もだ。

受付嬢は再び頷き、笑顔で言う。

 

「しばらくあちらでお待ち下さい。それでは行ってらっしゃいませ。良い狩りを!」

 

ふん……ネセトが触れるならどんなクエストでもいい。

だが、笑顔を忘れずに返事を返す。

 

「ありがとうございます、行ってきます。」

 

その後、ギルドマスターは

『本日は雪山に超強大な古龍が現れた為に雪山への航行は限られた方にのみ行っております。』

という張り紙を出した。

 

「古龍とかマ?」

「卍。」

 

……ハンター達は落胆こそすれど騒がない。

やはり古龍とはそれほどの脅威なのだろう。

 

消費期限切れの回復薬を捨て、

新しい回復薬を買って出発だ。

 

 

 

 

 

 

 

山を登る道中に野生のモンスターは居た。

ゴアの翼を出せば逃げるが、がむしゃらに突進してくるのは相変わらずの様だ。

 

原種でさえ高速で空を飛ぶのだ、今回のバルファルクなら尚更事前に逃げる事は不可能だろう。

 

洞窟の上に登り、ゴアの翼でネセトを雪の中から出す。

気球はバルファルクから逃げる事が出来ないから飛んでいない。

 

「ホットドリンク飲むかの?」

「いらん。」

「素で耐暑・耐寒かぁ……羨ましいの。」

「夜はかなり寒いからな。」

 

勿論砂漠より寒いが、別に飲むほどでは無い。

というよりこのホットドリンク飲めた物じゃない。

 

 

 

しばらくネセトを操作していたら、遠くに紅の光が見え始めた。

 

 

雲があるため、流石に形は分からないが……

バルファルクの直撃に、このネセトは耐えられないだろうから洞窟の方に寄せる。

 

人間の姿になり、王女の横に立つ。

 

「……」

「……」

 

互いに無言だった。

 

 

 

突如、赤い波動が光から放たれる。

そして光の尾が見えなくなったと感じた時にはもうかなり接近してきていた。

 

つまり、こちらを補足して直線で突進してきたという事。

 

 

まずは直撃を避ける。

 

 

全力で飛び退く。

バルファルクは衝撃波で私達が吹き飛ぶ程の速度で雪山に突っ込み、様々な物体を破壊する音と共に遠ざかっていった。

 

「……想像以上だ。」

「じゃろー?」

「知っているのか?」

「いや初対面じゃ。」

 

軽いやりとりをしていると、地響きが発生し、急速に大きくなってくる。

とりあえず飛び退くとバルファルクが氷を吹き飛ばしながら出てきた。

急停止し、駒の様に回転を始める。

 

「なんだその攻撃は!?」

「バルファルクのブレスじゃ!」

「翼からブレスなのか!?」

 

驚愕の事実と大量の龍属性の弾丸が飛んでくる。

固形に近い物はダメージを受けるため、私に直撃する物だけ笛で弾く。

 

10秒程で周辺の雪が赤黒くなった後、再びバルファルクは急加速して空に飛んでいく。

空中で円を描きながら更に加速する。

その速度に雲は散り散りになり、空気が巻き上げられ始める。

 

王女の元に近づく。

 

「おい、どうする?」

「素直に逃げようかの。」

 

 

ゴォォォォォォォ!!

 

 

段々うるさくなってきた。

バルファルクの方を見ると……

 

 

 

 

 

 

―――ギィィィィィィィッッツ

―――ゴォォォォォォォッッ

 

 

 

 

 

機械音というのだろうか?

高速で何かが削られる様な音だ。

 

……一体どういう事だ?

 

見上げた空には紅い光と青白い炎の輪が出来ている。

発生した原因……もとい、維持しているのはあそこに居るバルファルクだろう。

 

 

熱風が吹き荒れる。

 

「暑っ!?暑い、暑いのじゃ!!」

 

雪が急激に溶け始め、あちこちで雪崩の音がする。

王女は直接風に当たる事を避けるため、私の影に移動する。

 

……誰が思っただろうか?

雪山で砂漠以上の気温に会うなんて。

 

「まぁしょうがない。風避けは認めよう。」

「クーラードリンクを持って――」

 

 

 

――――っ!?

 

「死にたくなきゃ掴まれ!!」

 

王女は、何故と言う前に私の背中をがっしりと掴む。

 

 

 

私は感じた。

対処の出来ない攻撃が来ると。

 

そして恐怖した。

古龍への恐怖ではない。

 

この嫌悪感と絶望はあの時のイビルジョーか。

 

ゴアの翼を出し、四本の腕で笛を構える。

 

赤い波動が再び空を飛ぶ。

地平線にまで届いたであろうその波動が見えなくなる。

 

 

 

 

──────────────

王女も、アトラルも察知出来ない速度で事象は次々と起こる。

 

 

音より何十倍も速い速度でバルファルクは進路を変えて雪山に突っ込んでいた。

 

紅の龍の力と青白い炎の嵐が雪山を覆い尽くす。

 

バルファルクは既に数千メートルを貫き、後を音が追っていく。

 

 

赤黒くなった雪が、先程落下してきた隕石に共鳴する様に龍雷を放つ。

灼熱の炎と山にヒビを入れる龍雷が走り、周辺のモンスターが死滅した。

 

 

 

 

そして音は追いつく。

 

 

バルファルクはとてつもない速度を出した翼を雪山のあった所に向け、エネルギーを充填する。

 

大地の暗闇の中から黒と白が混じった紅の光が放たれた。

 

 

 

アトラル達が衝撃波により気絶した数秒後。

 

 

 

ヒビが入っていた雪山のみならず、その山の麓どころかポッケ村の対岸までを龍のエネルギーが噴水の様に吹き飛ばす。

 

オストガロアより圧倒的に強いその龍のエネルギーは、遠くに浮いている人工衛星からもハッキリと映った。

 

 

 

 

これが『劈星龍バルファルク』だ。

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

……ただただ驚愕する。

 

 

 

気がつくと私は宙を浮いていた。

 

先程はおどろいた、だがさっさと心を入れ替えて取るべき行動が沢山ある。

既に相当な速度で落下している、元の姿に変わっておこう。

 

空気抵抗によりガクッと速度が落ちる。

 

ちょうど上から落ちてきた撃龍槍に糸を放ち、王女を探す。

撃龍槍が垂直に落ちているからか落下速度が速く、しばらく周りを見ていると下から気絶している王女が近づいてきた。

糸で引き寄せる。

 

ゴアの翼で飛びたいところだが、岩や石が雨のように降っている所を悠々と飛ぶことは出来ない。

 

糸で丸まった状態の傘を作ってから、撃龍槍に糸を三重に括り付ける。

その糸を繋げたまま、私は周囲を見渡し脱出方法を考える。

何故なら、着地した後に落ちてくる岩に潰される可能性がある。

 

まぁ、それ以前に山があった所には陽の光が全く届いていない闇の大口が空いている、底が無いかもしれない。

さて……

 

 

 

……遠くに雲の壁が見える。

つまりその高さは過ぎたという事だ。そろそろやるとしよう。

 

まずは糸を乱射する。

そして撃龍槍を私の背中に括り付け、王女を腹に拘束する。

 

糸を全て引き寄せて撃龍槍ごと私が移動する。

再び糸を撒き、同じ様に引き寄せて飛ぶ。

 

それをしばらく繰り返していると、ネセトの骨組みを見つけた。

周りの岩は全て吹き飛んだ様だ。

 

ネセトに飛びつき、笛を振って吹き、自己強化する。再び振って吹き身体強化する。

 

息を吐いて、吸う。

 

 

失敗すればネセトを失う。

だから失敗しなければいい。

 

 

まずは撃龍槍を投げる。

しばらく待つ間、ネセトに糸を大量につけておく。

岩を弾き飛ばしながら突き進む所を私がついていく。

 

途中で距離が足りないと分かり、撃龍槍につけた糸で更に私を吹き飛ばす。

陸の上に着いた所で傘を開き、減速する。

一度閉じて落下し、王女が逝かない様に再び傘を開き減速する。

 

着地した後、穴に落ちた撃龍槍を引き寄せながらゴアの翼を生やす。

王女をむしり取って置いてから、撃龍槍を地面に深く突き刺し、私を縛り付ける。

 

そして、思いっきりネセトを引っ張る。

一気に引っ張った事により私が滑るのを、撃龍槍が止める。

突然の負荷により、ネセトの噛み合いの弱い所が外れ引っ張りやすくなる。

 

糸を生成、遠隔で強化しながら引っ張り続ける。

 

 

 

 

土くれの雨は終わり、時折水や氷が落ちてくるだけになった時にようやくネセトを引き上げ終わる事が出来た。

すかさずネセトを組み立てる。

本来なら補強しかしないが、私はもう慣れたものだ……

 

 

 

鉄のネセトが再び立っている。

 

 

その時、突然吹いた風に飛ばされそうになる。

すかさず王女をゴアの翼で掴む。

 

黒く変色したバルファルクがホバリングで私の前で浮く。

 

首が痛くなる程に見上げていた山は、底の見えない谷へと変わっていた。

それを一瞬で行ったバルファルクの前に、果たして逃げ道はあるだろうか?

 

私は笛を構え、撃龍槍を引っこ抜く。

 

 

 

「あれー、もしかしてークイーンがー言ってたー、アトラルーカー?」

 

 

そして、流暢に話し始めた事に私はとても驚いた。




クイーンとー私はー同じーくらいーだよー

『劈星龍・バルファルク』

見た目は黒ずんだ天彗龍。
体格は一回り大きく、翼の龍気の噴出口周辺は異常な形をしている。

白統虫に比肩する脅威。
陸海空、そして宇宙を自由に飛び回るが故に、全ての属性が素で効かない。

陸・大地を貫き、マグマは突っ切り、凍土では雪崩を起こす。あらゆる素材を貫通する為、停止させる事が困難。

海・渦潮を起こし、津波を起こし、龍雷の影響で水が変質して大量の生物が死滅する。

空・普段なら影響は薄い。本気を出すと、とてつもなく圧縮された空気による高熱により、紫色の光を放ち始める。最終的にその余波によって大地が溶け、蒸発していく。

宇宙・自由。数週間なら龍エネルギーによって生きていける。その為、隕石破壊ゲームをしてる。

弱点・一瞬で完全に止まらせる事が出来れば自傷ダメージを受ける。
また、翼の力が余りにも強いだけで、翼を除いた実際の近接格闘戦はそれほど強くない。
しかし、龍脈とは関係無く龍気を生成している為、簡単に翼の使用を止める方法は無し。
また、チャージした龍気の放出は、オストガロアの必殺技を優に超える。

性格はかなり温厚(暇だと通りすがりに生物を殺すが)非戦闘時に話が出来れば、乗せてもらう事も可能(マッハに耐えれる体が無いと死ぬ、伝達手段も決めないとならない)。


覚えてーおいてねー☆


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崩れゆく常識


常識とは?

平均の事?
当たり前の事?
同調現象?



自分の世界の押し付け?





「ごめんねー、クイーンのーお友達なのにー殺しにかかっちゃってー。」

 

……どうやって喋っているんだ?

私は人間への変化、クイーンは羽で喋る。

だが、ミラ一族ならまだしも、特異な古龍だからといってそのままの姿で人間の発音が普通出来るか?

 

私は人間の姿に変わる。

 

「まぁ、弱者は死ぬもの――」

「えーっ、良く感じるとールーツの力ー!?」

「……あぁ、そうだ。」

 

先程までの殺意とは違い、普通に話してくる。

性格はマイペースなのだろうか……。

それにしても……

 

バルファルクが浮いている穴を覗く。

 

「どんな火力をしているんだ……」

「越えれないー壁がーあったらー突き破るータイプー。」

「……脳筋か。」

 

今更だが体の節々が痛む。

天変地異を味わった私と王女は、何故か龍の力によって動けるだけで実は死んでいるのでは無いか?

……そういえば王女はどうなった?

 

近づき横から見ると胸は上下に動いていた。

顔に耳を近づけると特異な呼吸はしていない事が分かる。

 

「……この人間は生きてる。おかしい話だ。」

「凄いねーちょっとー傷つくなー」

「人間にも二つ名がいる訳だろう。元々の個体数も多いだろうから当たり前か。」

「ねー。」

「それでだが、私達を見逃してはくれないか?」

「うんー、いーよー。じゃあー遊んでくるねー。」

 

……遊ぶとは何だ?

そう私が聞く前に翼の出力を上げて急上昇する。

 

すると、空をラヴィエンテの時より何倍も速い飛行する機械が複数横切る。

バルファルクは紅い光を放ちながら高速で飛び回り始めた。

 

……私を巻き込まない事を祈ろう。

 

 

 

 

 

 

我々は、巨大な穴とそこで飛び回るかの古龍を見た。

 

衛星からの映像で映ったビーム、やはり神選者の言っていたバルファルクが放った物だった。

最高速度、旋回速度共にバルファルクの方が速い。

機銃を当ててみるが、余りダメージは入っていなさそうだ。

 

だが、我々も攻撃は回避する。

ありがたい事に、バルファルクは攻撃時に翼から出るエネルギーの量が変化する。

それさえ見分ければ当たることはほぼ無いだろう。

 

「追尾ミサイル、発射!」

「「「了解!」」」

「その後、超音速戦闘を開始する!」

「「「システム確認!備蓄エネルギー良し!変換助力装置良し!出力システム良し!神経加速装置良し!オールグリーン!」」」

「私が合図をする!」

 

 

 

 

 

……おおー。

私のあとにピッタリくっついてくるミサイルがあるー。

急上昇すれば急上昇するしー急激に曲がれば内側を回ってやってくるー。

 

更に加速してミサイルを離してーエネルギーを溜めながら振り向いてー狙いを定めるー。

 

発射ー。

 

よーしミサイルは破壊したけどー飛行機には避けられちゃったなー。

ならー突っ込んじゃおうー!

 

 

 

 

 

 

……王女をつつく。

私がバルファルクの戦闘を見ても意味が無い。

いや、見えないと言うべきか?

 

バルラガルの舌はとても速く、どのタイミングでどう動くか分からないからこそ視界から外れる。

 

だが、バルファルク達の戦闘は違う。

 

もはや轟音しか聞こえない。

視界では大量の炎の軌跡が絡み合っている事が確認出来るだけだ。

現在の様に一瞬の影しか捉えられないという事は、どの様な速度で闘っているのだろうか……

 

「うっ……ぐ、ルカ……?」

 

王女が声を出す。

 

「よく生きてたな。」

「ふん……わらわが死に直面した時の対策を持っていない訳がないじゃろう。」

 

いてて、と頭を抑えながら王女は体を起こす。

上空を見てしばらく動きが止まり、頭を小さく振った。

 

「想像以上だったのう……」

「驚きはしたが、クイーンを知ってれば受け入れられる。」

「まぁ確かに白統虫と同レベルと言われておるしの。」

 

飛行機械が一つ爆発して何処かに飛んでいく。

 

「おう、戦闘機が一台やられたの。」

「戦闘機と言うのか。」

 

 

 

バルファルクは急停止し、私達の方へ降りてきた。

ふわりと私達の横に着陸する。

いつの間にか戦闘機は退いていった様だ。

 

「そういえば、どうして私達に直接突進してこなかったんだ?」

 

一番疑問に思ってた事を口に出す。

 

「いやぁーボロボロだけどー遺跡のーネセトだーったしー迷ったー」

「クイーンが説明してくれていたのか。感謝しておこう。」

「ねー。」

 

バルファルクと話していると呑気が移りそうだ。王女の方を見る。

王女は服から注射器を取り出し、足に刺していた。

 

「何しているんだ?」

「……あぁ、わらわは骨折した様での。痛いから鎮痛剤を注射してたんじゃ。」

「そうか。帰ったら回復薬グレートでもかけておくか?」

「そうじゃのう……まぁそれでいいかの。という事で背負って欲しいのじゃ。」

「分かった。」

 

王女を背負う。

別れの挨拶をしようとしたタイミングでバルファルクが話しかけてくる。

 

「どうやってー耐えたのー?」

「身代わり玉っていうのがあっての。一度だけ敵の攻撃を完全に吸収する成分の膜が出来るんじゃよ。まぁ、この様に骨折しておるがの。」

「すごいねー。」

 

そのやりとりを聞いている内に新たな疑問が湧いた。

 

「抜刀しなければ苛烈な攻撃はしないと書いてあったが?」

「なにそれー?縄張りかー気分でー殺すだけー。抵抗ーなしならーさっくりー。」

「なるほど、ちょっとでも囮の生存時間を伸ばすためか。」

「残酷じゃ……残酷じゃ……」

「じゃあー薬草とーアオキノコーとってくるー。」

 

少し空気を吸い込む独特な音を出してから、バルファルクは飛んだ。

ネセトに元の姿になって入る。

王女の足を糸で巻いて固定する時にはバルファルクが素材を渡してきた、回復薬を調合して振りかけておく。

ハンモックの様に糸を敷き、人間の姿に変わって王女を運び込む。

 

 

「よっしゃぁ!ネセトに搭乗じゃぁあ!」

「うるさい、撃龍槍で潰すぞ。」

「ご、ごめんなのじゃ。」

 

 

 

さて、どうしよう。

ポッケ村に直接ネセトで乗り込むわけにもいかないし、まず穴の大きさが分からない。

 

 

バルファルクは瞬きした瞬間に何処かに居なくなっていた。

 

もはや生物としておかしいモンスターに神選者も対抗するのだから、普通のモンスターが勝てる見込みは無いだろう。

私は道半ばといったところか?……いや、クイーンの光線に耐えられる気がしないし、バルファルクの直撃には確実に爆散する。

良く言っても道を見つけたぐらいか。

 

「そうじゃ!ベースキャンプで手紙を出せば――」

「無理だな。ここからだと距離感覚が掴めないだろうが、ベースキャンプどころの範囲では無かったぞ。」

「……末恐ろしいのう。ラージャンで得意気になってたわらわが恥ずかしい。」

「いや、十分に周りの人間より有能だろう。」

「おぉー、カバーは嬉しいのじゃ。」

「事実だろう?」

 

元の姿に戻り、とりあえず穴を迂回してポッケ村に向かう。

即席かつ骨組みだけのネセトだとやはり糸への負荷が高いな……定期的に点検するべきか。

 

うわっ……ネセトの重みに耐えられなかったのか土砂と共に滑落する。

ヒヤリとはしたが、焦らずに足を土に刺し、一歩ずつ登る。

 

王女の方を見るが、ニコニコしながら手で鋏を作っていた。

良く分からないがイラついた、ネセトごと揺らしてやろう。

ネセトに全身を打ち付けさせてやる。

 

 

「あぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 

 

鎮痛剤とは関係無い所を打撲した王女は、痛みに泣いていた。

それにより動かなくなるため、先程の攻撃は正しかったようだ。

 

 

 

 

穴を迂回して半日、ようやくポッケ村が見えた。

降り、ネセトを隠す。

 

撃龍槍と笛を持ち、眠っている王女を背負う。

空ではいつ間にかバルファルクが飛んでいて、神選者の注意をひいてくれていた。

 

 

 

とは言っても、徒歩だとかなり時間がかかり、日は落ちてしまう。

 

村の様子を見た後、群衆を突っ切る。

どうやらバルファルクの雪山破壊によって飛来した岩にかなりの人数が潰されたようだ。

 

「ぁぁぁ!ナツぅぅぅっ!!」

「この岩さえ取り除けば、俺の息子がいるんだぁぁぁ!!」

「やめてください、崩れますっ!」

「さっちゃん……さっちゃん……」

 

騒がしいな。感傷に浸るのはそれぞれの勝手だが、道を塞ぐのはやめてほしい。

勿論、効率の為に蹴飛ばせば、たちまち批判の対象になり八つ当たりと便乗の暴力を振るわれる存在に成り下がる。

 

だが……

 

「助けて下さい、ルカさん……!」

 

私を物理的に引き止めるのはやめてほしい。

振り解けば傷ついた人間を助けない非情な人間扱いされる。

 

「すいません、私は怪我人を運んでいるので……」

「貴女しか怪力の持ち主はいないじゃないですか!!」

「怪我人を運んでいるので!」

「その人の様子なら私が――」

 

 

「わらわは王女じゃぞ。」

「えっ!?」

 

 

背中で王女が突然喋り始める。

 

「バルファルクを一時でも抑えた王女じゃ。わらわはこの村への直接的な攻撃を防いだのじゃが?」

 

まぁ、雪山でバルファルクが暴走したのは私達のせいだが。

とはいえ、村に突進したかもしれないし黙っておこう。

 

「あぐっ、くっ……」

「それに、わらわを治療しようとして傷を広げたらどうなるか……分かっておるのかの?」

 

 

王女に歯向かう。

 

 

 

例え第三王女であっても、それが我儘に対する物ではないなら、不敬罪だ。

 

この人間は不敬罪と不満の間に挟まれ、言葉に詰まったようだ。

私が助けたとしても、不敬罪でまとめて斬首されるなら元も子も無いからな。

 

「大体、人に頼むのがおかしいんじゃ。」

「えっ……?」

「ほれ、あっちを見てみい。一人の人間に岩や木を片付けさせるのではなく、素直にオトモンに助けてもらう方が効率的じゃよ。」

「しかし、間違えて潰すかも――」

「出血多量で死ぬかもしれないのじゃぞ?ほら、善は急げじゃ!」

「……分かりました。」

 

半ば強引に押し通したな。

とはいえ、人間の姿が不便なのは理解して欲しい所だ。

時折『人間の形が細かい事も出来て一番優秀』と言う輩がいるが、

『人間が作った人間の巣の世界』なのだから当たり前だろう……と私は思っている。

 

 

さて、モンスターがやってきたら一網打尽にされそうなデコイは放っておき、宿に戻ってきた。

 

「ゼロ!居るぅ!?生命の大粉塵を持ってこいなのじゃー!」

 

……向こうで壁に寄りかかって俯いていた人間達が一気に移動する。

 

「なるほど、こいつらが護衛か。」

「そうじゃよ。どうじゃ、ルカなら倒せるじゃろうか?」

「あの行動だけで判断出来るほどエネルギー使ってないだろうし、私は機械ではない。」

「そうか……」

 

とりあえず自分達の部屋まで運び、元の姿に戻って紙で王女の足を巻き、糸で天井から吊るす。

 

「あっ、アトラル!?はやっ、まだ早いのじゃ―――」

 

うるさい王女は放って腿の部分に紙と糸を巻き付け、左右に余り動かせない様に固定する。

 

「一番の問題はかぶれることじゃが……」

「知らん。骨折を治す方が先だ。」

「王女様、品物を持ってゼロ、参じました。」

「ご苦労じゃ……あー、アトラルは分かんないじゃろうからかけてー。」

「承知致しました。では失礼します。」

 

男は私の姿を見て少し目を丸くしたが、すぐさま王女の足にかけ、残りはどこからか取り出したコップと水に入れ、口から飲ませた。

 

「ありが……ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

「では失礼します。」

 

王女は叫び始める。

だが、目はしっかりと私を向き、手で私に近寄るなと合図した。

 

恐らく骨を治す=周囲の骨の分解・構築、筋肉の再形成、神経の再結合が行われているのだろう。

だとしたら鎮痛剤も排除される。

痛みは激しいだろう。

 

 

 

 

 

まぁよく足を切ってた私にはそこまでの苦痛が分からないが。

 




「サイコキネシス!!」
「空間転移。」
「ここですか……『愛しき者への最大の愛』」



劈星龍バルファルクの犠牲者

0人


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神の元へ行けるのです


うーーーっ、うまぴょい!うまぴょい!
おひさまぱっぱか快晴レース(ハァイ!)
ちょこちょこなにげに(そーわっSOWhat)
第一――――

「随分最初のテンポが早いわね……VR以外の音ゲーであったかしら?」
「……この世界だと馬は異世界の生物だぞ?」
「160km/hー普通のー人はー乗れねー」
「わらわが育てれば更に速度を上げてみせよう。」
「もはや既存の馬ではない気が!?」



粉微塵になった足が大分治った王女。

 

まだ時折痛むようだが、4日目だ。

ギルドから報酬を貰っていないし、高級な飲み物が飲みたいと王女は言った。

笛を担いで出かけよう。

 

 

 

「という訳で喫茶店じゃ!」

「怪しくないか?」

 

なんだこの建物は……

ほぼガラスだが、枠は見た事も聞いた事も無い素材だ。

 

「うん?ただの外装じゃぞ?」

「ふむ、なるほど。」

「えっ、そこまでこの言葉で理解するのじゃな……」

 

このガラスは奇妙な光の反射で中が余り見えない構造になっている。怖いな。

 

「よし、じゃあ入るのじゃ。」

「得体が知れん、お前から入れ。」

「私を偵察兵扱いとは面白いのう……」

 

……やはり王女はどうして私の近辺に居るのだろう。

狩猟行為の回数も少なめだし、城を飛び出す程活発なら物足りないのでは?

 

ふと私の事に考える。

 

……私は生物として異常だ。だからこそイラついた奴から思い通りに殺す事が出来る。

そして人間の姿だとハンターに狙われない。それに権力者が近くにいる。

明確に危険因子とそうでないのが分かっている以上、私の警戒力や戦闘力は落ちているのではないだろうか?

 

 

そう考えていると、王女に手を引かれた。

 

 

「ささ、こちらの席が空いておるのじゃ王女様。」

 

……まぁいい。いざとなればこいつと殺しあえば感覚を取り戻せるだろう。

 

「あながち間違いではないな。」

「ん?……あぁそうじゃな。」

 

店の中は石の床と木の壁だった。所々植木鉢が置いてあるが、造花だ。

オレンジ色の照明もある。

 

席に座ると店員がやって来て注文を聞いてくる。

警戒の為、私は王女が頼む物を頼もう。

 

「わらわはフォルニ豆のブラックコーヒーを。」

「私もそれで。」

「え、ルカ大丈夫?」

「……?」

「えーと……フォルニ豆のブラックコーヒー二つでよろしいですか?」

「お願いします。」

 

王女は頬杖をしながら私に近づく。

別に見られても王女なら悪寒はしないため、放っておく。

それより気になった会話が耳に入った。

 

「えー、まぁ雪山が吹っ飛んだからそこを縄張りとしてる古龍来るよね。」

「だから近々ポッケ村防衛クエストが出されるんだとさ。」

「美味しそうだなぁ……あ、でも暴風圧に耐えれる装飾品あったっけ。」

「……一度装備を確かめないとね。」

 

 

 

 

 

「ぐえっ……!」

「ほら言ったじゃろうに……」

 

苦い……腐乱肉より苦いぞ、この飲み物。

どうして王女は平然と飲めるんだ!?体に異常をきたすだろう!?

 

「この店で一番苦い豆のブラックコーヒーじゃから、子供には少々刺激が強いかのう?」

「お前の味覚が狂ってるだけだろう……」

「いや、腐乱肉食える方が狂ってるとしか……」

 

やはり人間と虫では味覚が違うのだろう。

だが、慣れる為にも少しずつ飲むか。

 

「そういえば足の調子はどうだ?」

「腰から下がジンジンするのう。」

「そうか、まだ長距離歩くのは無理そうだな。」

「くそっ、子供には通用しないネタじゃったか……」

「よく分からないがどうでもいい。」

 

骨も肉も神経も治したんだ、恐らく三日四日で戻る話ではない。

 

「そういえば隣の部屋から聞こえたのじゃ。ルカはギルドの職員を追い返している様じゃが、何故じゃ?」

「明らかにギルドの職員じゃないからな。書類を持ってきた宣言する奴も、中身を確認させてくれないし。」

「もしかするとわらわにしか渡せない手紙?」

「……自分で言ってて分からないのか?」

「うむ、そういうのはわらわの側近が持ってくるがの。」

 

やはり答えは一つ。

 

王女が弱っている隙に誘拐、殺害を目論んでいるのだろう。

万全の王女は強いし、白昼堂々と来られると側近も顔が割れる可能性がある為に出にくい。

 

だが夜なら側近、昼なら市民。

意外と殺られにくいのかもしれない。

 

「……ブラックコーヒー進んでないのう。」

「うるさいな。」

 

私はカップを口に近づけた。

 

 

 

 

ガァン!!!

 

 

 

 

大音量に驚き、爆風の衝撃に合わせて前かがみになったため顔面で陶器を割ることになった。

 

服にコーヒーがかかる。

凄い顔面が痛い……

 

「凶星を呼んだあの悪魔に粛清を!!」

「「粛清を!!」」

 

……声質が全く違う。

というより性別も違うな。

 

 

「開け、神の門。正義への忠義を誓ってここに請う。人の世を脅かし、残虐非道な行為で殺し尽くそうとする悪魔に―――」

 

 

先頭の女がぶつくさ言っていると、建物の窓を覆いきる程の横幅を持つ門が現れ、光を漏らしながら開き始めた。

 

そして先頭の女を除き、後ろの集団の服装から判断出来ることは―――

 

「『神に選ばれる者』か。」

「嫌じゃー!露出狂に囲まれるのは嫌じゃー!!」

「笛しか持ってない、一度撃龍槍を取りに戻らないと。」

 

一体全体なんなんだ。

これだから宗教は……!

 

笛を吹き、一段階強化。

そしてガラスとは反対の壁を殴り飛ばして飛び出す。

 

門から放たれた光は、全ての建物を通り抜けて私達を呑み込む。

直接的なダメージは無かったが、体が痙攣し走る事は出来なくなった。

 

 

麻痺と熱か、まずい。

 

 

これを見越していたのか、突如建物から剣を持ち鎧を着た人間が切りつけてくる。

普通より硬いとはいえ人間の体だ、簡単に血が吹き出る。

抵抗に笛を振るが……まぁ駄目だな。片腕は守りきろう。

 

「そぉい!!」

「ぐぅっ!?」

 

突然持ち上げられたかと思えば……王女だった。

 

「ちょっと本気で逃げるから捕まっておるのじゃぞ!」

「感謝する。」

 

先程までいたところで爆発が起きた。

破片が飛び散る。

 

「自爆テロする奴と、ミサイルランチャーを持ち出してきた奴がおるのじゃ!!」

「……ミサイルランチャー?」

「あー、爆発する貫通弾みたいな。」

「それはえげつないな。」

 

それをくらったら人間の形だと肺が無くなってしまう。

すると笛を吹く事が出来なくなる。

つまりそのまま出血多量で死ぬ……

 

「なんでモンスターに使わないんだ?」

「この世界の素材じゃから、余り貫通力が出せないのじゃ。」

「ふむ……」

 

ネセトなら耐えれるか。

やはり早くネセトを強化しなければならない……

 

 

 

痙攣が終わった為、体を捻り降りる。

 

全速力で走りながら今度は王女を抱え、建物の後ろに回り人目が無いことを確認して翼を使い跳ぶ。

そのまま倉庫の窓を割って不法侵入し、息を潜める。

 

「悪魔は何処だぁぁ!!」

「もしかしたらあっちかもしれない!!」

 

ん?聞いた事のある声……あぁ、王女の側近か。

 

「……はぁ。大丈夫か?」

「あしぎゃぁぁ……」

「別に無理をしなくて良かったのだが。」

「うぅぅ……同情、嬉しいぞ。」

「哀れに思ったからだ。」

 

外ではまだ近くで群衆が騒いでいる。

移動に時間がかかるだけの無能な奴らめ……

 

「……で、あの神選者の情報は?」

「恐らくじゃが、『ジャンヌ・ダルク(祭祀主宰者)』じゃろう。ジャンヌ・ダルクは結構有名かつ、憧れの対象らしいのじゃ。

とはいっても他のジャンヌ・ダルクは……

 

黒いジャンヌは行方不明。

白いジャンヌは慰め者に。

皮装備のジャンヌはハンター達の鍛錬。

 

という感じじゃ。一人を除いて後衛タイプじゃから、個々としてはあまり強くないのじゃ。」

「ふん……まぁ、どうでもいいか。」

「覚えておいて損は無いじゃろう?」

「必要だったら思い出す。」

 

 

「ここに居ます!」

「分かりました!」

 

っ、結局バレたか。

倉庫の鍵を外そうとしている音が聞こえる。

 

ウイルスで視る。

 

……前回の馬鹿共とは違い、今回は倉庫の周囲を取り囲んで一列目から、盾、剣、銃器の順番に並んでいた。

突入勢もその形を保っている。

 

残念ながら、この倉庫は木で出来ているがな。

私は元の姿に戻る。

 

 

 

 

 

「突入!!」

「「うぉぉぉぉ!」」

 

『統率』が大きく叫ぶ。

信者達は走り、倉庫の一階を即座に征服した。

そして二階の階段を登り始めた時。

 

ボゴッ、バキバキバキ!!

 

大量の人間と共に倉庫は潰れた。

 

 

 

 

 

人間の姿で、ゴア・マガラの翼を見えない様に振って瓦礫を巻き上げて信者を攻撃する。

しかし大半は盾で防がれ、有効なダメージは入っていない。

 

「撃t―――」

パァン!

 

よし、王女が神選者を殺ってくれた。

硬直した信者達の頭を複数の銃による発砲音が吹き飛ばしていく。

銃を持った王女を抱え、私は走る。

 

宿を登り、撃龍槍を持って王女に少し荷物の準備をさせて反対側の部屋から降りる。

 

私へ何を持ってきたのかを言う。

着替えしか聞こえなかったが。

 

 

私達と並走する、信者と偽っていた王女の側近は黒色の服を着ていた。

王女が手でなにか合図をすると引き返し、追いかけてきていた信者達が一気に騒がしくなって移動が止まった。

 

元の姿に戻り、糸で更に加速する。

 

そのまま地面に埋もれていたネセトを引っ張り出し、雪山があった方へ乗って走る。

 

 

 

……奴が居なければ待つ。

居たなら……ふふふ、ククク……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「慈愛を。」

 

頭が弾け飛んだ集団が生き返る。

 

「しっかりしてよジャンヌ……」

「す、すいません……」




ジャンヌ・ダルク(所属・神に選ばれる者、神選者)
前の名・八ツ橋 宝愛瑠(やつばし じゅえる)

主な能力・統率者(皆の憧れ)
内容・長く関わるほど憧れになる。「人を皆殺しにする事が人間の繁栄に必要」という発言に違和感を感じない程に。

死因・絞殺
経緯・いじめのエスカレート

その後
母親は金が無駄になり発狂
父親は母親が子供に近づけてくれなかった為に感情無し
いじめのグループは自殺に見せかけた為、注意程度
誰もお前を愛さない


この世界で皆から愛される、皆が一緒に動いてくれるという宗教にどっぷりハマった。
彼女にとって、とても幸せな生活を送っている。


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茜色の兵器


私は普通のアトラルとは違う。

極限化している。

合成獣になっている。



そして人間を模倣する知能がある。



そろそろだな。

 

「どうして雪山の方へ?」

「…………」

「ん、楽しそうでなによりじゃ。」

 

ネセトと共に雪山の穴があった所に駆け寄る。

木を折りながらブレーキをかけ、穴の近くで止まる。

 

穴を覗くと、ぼんやりと光を反射する山が見えた。

……あぁ、そうだったな。

 

短時間でえげつない地形破壊が起きた場合、大地が元に戻ろうとする。

この世界はそうなっている……何故龍脈がその様に作用するのかは解明されていない。

 

 

 

そして居た。

 

銀に光る三対の翼。

大量に刃が生えた鋭利な尻尾。

巻き上がり、煌めき踊る金属。

 

 

 

私はとても運がいい。

 

 

 

岩をそこかしこから引っ張り、木を切って一部の隙間もなく詰めた物を作る。

外からネセトの足で土を蹴り飛ばし、固める。

 

「キィァァァァ!!」

 

準備は整った……

攻撃的な今なら私の威嚇で襲ってくるだろう。

 

「ビョォォァァ!!」

 

それみろ。

頭の弱く、力の強い奴め。

 

 

 

ハルドメルグの突進を回避、横から胸元に撃龍槍を突き立てる。

鎧に弾かれたが、そんな事は分かっている。

 

金属ブーメランだ、撃龍槍でたたき落とす。

その勢いで再びハルドメルグの胸を突いて押し飛ばす。

 

立ち止まった所でゴアの翼を生やし、飛んでから撃龍槍を叩きつける。

ハルドメルグはすかさず回避、腕の金属を突然伸ばしてきた。

笛で受け流し、手に糸を飛ばすと金属を解除し、纏い直しながらバックジャンプをした。

 

「わらわは何をすればいい!?」

「キッカァァァァ!」

 

邪魔をするなと叫ぶ。

笛を振り、自己強化をする。

 

ハルドメルグは大量の金属を纏い始める……まずい。

 

猛烈な勢いで動き出した金属球を、ゴアの腕で受け止める。

脚が一本折れた時には金属球は止まり、溶けだす。

笛を吹く時より息を大きく吸い、金属球に突っ込む。

 

伸ばした鎌が触れた感触は硬かった。

 

つまりこの技は操核が露出しないのか……っ!

 

金属が突然流れ、私は宙に打ち上げられた。

落ち着いてウイルスで探知すると……駄目だ、金属だから周りと同じ温度のせいでとっさには察知出来ない。

笛を吹き、ゴアの翼で滞空して振り向くと―――

 

「ギャッ、キィィィ……ッ!」

「キィィィン、ォォォォォォォン!!!」

 

大量の銀の刃が私を貫く。

とりあえず笛で頭は守る。

 

極限化しているのにこのダメージか……

ぐうっ!?

 

「ルカっ!?」

 

水銀の鎖と呼ぶか。

それが私の脚を掴み、鎌を抑え、ゴアの翼ごと地に縫い付けた。

 

「ゴォォォォォン!!」

 

ハルドメルグの周りから大量の水銀が浮き、ハルドメルグの後方で大量の小刀と化す。

そして、ハルドメルグの咆哮と共に飛んでくる。

 

 

警戒が足りないな。

 

 

ゴアの翼を一度消し、糸で撃龍槍を引き寄せて再度出現させたゴアの翼で撃龍槍を掴み、銀の雨を凌ぐ。

そのまま地面を掘り起こし、全方位に槍を放出したハルドメルグの胸を刺す。

 

銀の鎧の無い体は柔らかかった。

 

 

 

 

 

 

 

だが、終わりではない。

ここからテキパキやらないといけない。

 

 

「危なかったのう?」

あぶない?笛や撃龍槍で頭を叩き潰さなかったからだな。

 

 

ネセトを動かし、水銀を貯めた盆を糸で持ち上げる。

漏れてない事を確認して降ろし、ハルドメルグを切断、操核を抉り出す。

 

ゴアの翼を消し、操核を媒体にして念じる。

 

 

 

水銀は私の思い通りに蠢き始めた。

 

 

「えっ!?」

 

 

王女をネセトから降ろす。

 

ハルドメルグの血管を抜き出し、操核を突っ込んでから左右を結ぶ。それを複数回行い、尻尾の操核は複数の血管を使って入れる。

ネセトを解体し、水銀の入った盆をネセトの体内に入れる。そして糸と岩で隙間を残した蓋をする。

余った鉄は足にまわす。

そして操核をそれぞれのネセトの足に糸で保護して入れる。

尻尾の操核は盆の下に保護して入れる。

 

ネセトを再構築する。

 

 

 

……よし、これでいいか。

予想より信者共の進行は遅い様だ。

 

「ど、どういう事なのじゃ!?」

 

目を輝かせながら王女が質問してくる。

 

人間の姿に変わる。

余った時間があるのだ、説明してやろう。

 

 

私の(ネセト)を!!

 

 

「前々から私は思っていた。手っ取り早く(ネセト)の強化がしたいと。

だが素材を集められない。

たとえハンターとして稼いだ素材を転用してもその種類や量から判断されてしまう。

だからといって、王女、お前の存在が面白いが邪魔だ。突然お前の姿を数日出さなければ相当な騒ぎになるだろう。

 

そんな時だ。

先程の喫茶店で雪山に古龍が来ると『ギルドが』判断したと聞いた。

つまり高確率で古龍が来る。

ネセトの強化に欲しいのはクシャルダオラ三匹か、ハルドメルグ一匹だ。

 

そして私の人間の姿を維持する、とある龍が与えてきた力に目をつけた。

何気なくもう一つの姿として使っているが、人間の体の構造でそれを実現しているのは相当おかしい。

撃龍槍をゴアの翼で持つと足も背中も剥けるだろうからな。

私の意思でその巨大な翼を出し入れ出来る。しかも龍を受け付けない虫に向かって付与した。

だったら少々離れたぐらいなら強力な龍の力で無理やり龍の力を操作できると思った。」

「ほー……そしてハルドメルグが居たから使うと。」

 

 

「そういう事だ……来たぞ。」

 

 

 

信者共の声が聞こえ始める。

元の姿に戻り、ネセトを立ちあげる。

 

王女は近くの木に隠れた。

 

信者共が私の前方を塞ぐように立つ。

 

「ゴォォォォン!!」

 

私の方が強い。

だから威嚇をする。

 

「なっ……なんだこいつは!?」

「ミサイル、撃てー!」

 

敵を前にしてどよめき、悩む。

呆れる程に愚かだな……

そして信者共が小さく、強力な武器を向けてくる。

 

 

操核を指向する。

 

ネセトの隙間から水銀が飛び出し、とても硬い一枚の板になる。

そうすると私から直接は敵が見えなくなるが、ウイルスで察知出来るため問題ではない。

 

爆発が収まったら今度は二つに分けて擦り、金属音を鳴らす。

 

煩いとこちらを睨んでくる者。

気持ち悪いと腹を抑えながら蹲る者。

気絶する者。

 

ゆっくりと水銀板を動かし、逃げ遅れた人間を挟む。

……まだまとめて潰す威力では扱えないか。

水銀槍にし、距離をとった奴を刺しながら纏まっている人間をネセトで潰す。

 

ロケランが右側で爆発する。

 

ウイルスで撃った人間を把握し、振り向く事無く水銀槍で刺す。

そのまま一つの足に水銀を纏わせ、地面や木ごと蹴り飛ばす。

 

「ひぃぃ!」

「怯むな!悪魔を殺っ、うぐぁぁぁ!?」

 

浮かせた水銀と、糸で勇ましい信者を吊り上げる。

首を絞める。

 

「この……悪魔がぁぁぁ!」

 

一人が水銀に剣を投げたが、カツンと音を鳴らしただけだ。

水銀と糸で振りまわし、体と頭を分離させる。

 

血を出しながら二方向に飛んでいった。

信者共は愚かにも逆ギレを起こし、先程より泥臭い殺意を向けてくる。

 

纏まって近づいてくる信者に、撃龍槍の先端に水銀を纏わせて発射。

とても早い速度で飛ぶ撃龍槍が呆気なく数人を潰す。

 

自爆しようと走ってきた人間は普通に蹴り飛ばす。

 

撃龍槍を水銀で浮かし、糸で回収する。

その隙に私の足に近づこうとした奴は地面から出した水銀で串刺しにする。

 

糸で数人を引っ張り、水銀をギロチンへ化して降ろす。

尻尾を振り下ろし、後ろに陣取っていた人間も叩き潰し薙ぎ払う。

 

吹き飛ばされ転んでいる奴らをウイルスで確認し、地中から槍を出す。

 

 

 

 

……もう終わったのか。

 

遠くに走っていく信者しか生き残りはいなかった。

ネセトで追いかけ、全滅させる。

 

 

辺りの水銀を盆に戻す。

どうやらハルドメルグが地面から出している金属は、周囲の物質を合成、変質化、抽出を行って精製する様だ……やはり古龍の力は凄い。

龍の力がそう動いているのはウイルスの反応から感じ取る事が出来た。

 

ただ今は新鮮な古龍の血に浸けているからいいのだが、そのうち腐ってしまうし、傷ついた際に再生させる組織は無い。

ならばどうする?

 

 

私が出した答えはこれだ。

 

 

人間の姿になり、王女に話しかける。

 

 

「王女。」

「なんじゃ?」

「操核をそのまま装飾品に出来るか?」

「……あぁ、ラックロックでそういう技術が発展していると聞いたのう。」

「ならば次はそこへ向かおう。」

「OKじゃー!」

 

 

元の姿でネセトを動かす。

水銀の板で王女を運び、乗せる。

 

 

 

『神に選ばれる者』から逃げるのだから、私達が姿をくらましたとしてもギルドは馬鹿では無いのだから内部処理はきちんとするだろう。

勿論私だけなら大した問題にはならなかっただろうがな……

 

 

 

 

 

──────────────

 

湿った砂塵が凶器となる速度で吹き飛ぶ。

 

 

 

ァァァァァアアアッッッ!!

 

 

 

船も気球も古龍も塵になり、舞う。

 

そして巨大な龍を喰らい、竜は歩き出した。

 

 

 

生き延びた者はいない。

 




※流体金属であり、実際は『水銀』ではありません。



私のネセトは強くなる。
そうでなければ(ネセト)ではない。

……クククッ、見えたぞ。
更に強化されたネセトが!!

「……やはりルカは興奮すると狂竜結晶が蠢くのう。」


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vs戦闘車両


ブロロロロロ……

あの竜を警戒する為に車は走る。



四本の足で光が揺らめく砂漠を駆けていく。

 

巨大な鉄とそれを覆う岩の塊が。

 

 

 

 

あれから十数日。

 

私は走り続けていた。

 

 

時速100kmを超える、と驚いた口調で王女の側近に言われたが、ならばお前らのその茶色い生物はなんなんだと言いたくなった。

そして砂漠に入ると王女も側近も茶色い生物――馬も含めてガレオスの皮を羽織っていた。暑さ対策の様だ。

 

王女は流石に長旅に飽きたようで、夜間は水銀で作った箱で麻雀などをしている。昼間は色々な理由で無理だが。

 

……こんな思考をしている間に気づいたのだが、馬は疲労しないのか?

私は極限化という力を得ているから良いものの……

 

 

さて、一番懸念していたウイルスの反応だが。

 

……普通のモンスターの体温より気温が高く、反応しっぱなしだ。

とはいえ、慣れる必要があるものの『反応が鈍い所を察知する』という下位互換とはいえ代替のきく方法を発見した。

心身共に心地いい環境だが、だからこそ普段より警戒を強くしなければならないな。

 

……砂漠の暑さと乾燥で体の疲れがとれる。

疲労を感じないはずの私は、とてもリラックスして―――

 

「ルカッ!ネセトの進行方向を0時として8時の方向から敵襲!!」

 

……まぁこの巨体で走っていれば目につくだろう。

一応見た目の危険度を下げてはいるが、それだと普通に襲ってくるのか。

 

 

ウォォォォォン……

 

 

……この音が何処かで聞いたような。

繭を破り、外を見る。

 

 

ブォォォォォォン!!

 

 

陽炎の中、砂を巻き上げながら近づいてくる謎の何か。

雪山で壁を登ってきたアレの音と、戦車に若干似ているその造形……

 

「戦闘用自動車の軍勢じゃ!」

 

……ちょっと何を言っているか分からない。

どうやって操縦士は私を見つけた?

 

「ふむ……あれの大半は緋弾のアリアをモチーフとした無人自動車じゃの。」

 

その説明じゃ全く分からない。

だが、無人ならば放っておけないだろうか?

いや人間は馬鹿ではない。対策しているだろう。

 

「人体など一発で吹き飛ぶ様な銃じゃから、撃ち合う前のロックオン中に壊すとええぞ!ちなみに走行速度はめっちゃ速い!」

 

逃げれない以上、近づかれたらさっさと壊すしかないか……

念の為に水銀の槍を精製し、ネセトの足の裏にスパイクを作り、加速する。

 

馬は速度を落としながら側近から渡された何かを飲み、突如猛烈な勢いで私の横へ戻ってきた。

恐らく馬用の強走薬でも飲ませたのだろう。

 

車の音は着実に近づいてきている。

 

「ルカ!ワンから銃を受け取ってくれんかの!」

 

確かに、この速度だと投げて渡す事は出来ないが……だからといってネセトを操縦している私に運搬を頼むのか。

そしてワンとは誰だ……あぁ、あの銃を持ち上げている奴か。

 

ゴアの翼を生やし、軽い糸の塊を投げる。

銃が差し込まれたのを確認したら王女の方に糸を伸ばし、そこから弓の様に糸を糸で飛ばし糸の塊に着ける。

銃の入った塊を回収し、王女の元へ届ける。

 

流石にネセトの速度が落ちた。それでもまだ遠いからか劇的に近づいてきた感覚は無い。

 

 

パァン!!

 

 

「試し撃ちよーし。ルカ、頑張るのじゃぞ!」

 

他人事みたいに言っているが、ネセトが壊れたらお前も銃撃に晒されるだろう……

笛を振り、いつでも自己強化出来るようにセットしておく。

 

 

 

 

 

十数分後

 

 

 

 

 

バァンッ!!

 

最後の狙撃車両を撃破じゃ。ルカに言っておこう。

 

「スナイパー系の車両は全部撃破じゃ!」

 

ふふっ、わらわの狙撃技術を舐めるでないわ!

勿論タイヤなどもとても硬く、何発も当てた所で穴が開くかは分からない。

前に演習を見た時はパンクしてもコンピューターが補正をすぐに効かせ、減速したとはいえ走り続けていたしのう。

まぁわらわはそこではなく……

 

 

バァンッ!!

 

 

とても当てにくいとはいえ銃身を撃ってしまえば、途端に走るだけの鉄の物体に様変わりじゃ。

勿論それでも轢いてくるのだから危険じゃが、ネセトを轢けるのはなかろうて。

 

 

バァンッ!!

 

 

……とはいえ、やはりマシンガンを積んだ奴はタイヤが一層硬いのも厄介じゃが、近づくまで銃を出さないのがいやらしいの。

 

わらわが持つのはアンチマテリアルライフル。

奴らが出すのはアンチマテリアルガトリング。

 

ついでと言わんばかりにモンスターは虐殺されゆく運命……

だから神選者に警戒しろと言うたのに……

 

ガチャリとリロードをし、手榴弾を糸の塊から取り出す。

 

 

 

そして人間とモンスターの共闘……

 

 

つまりわらわは今、ライドオンしてる……!

 

 

 

 

 

 

「わらわに出来ることはもう無くなったぞ!」

 

王女のおかげでウイルスで察知出来る範囲まで安全だった。

良くやったと賞賛しよう。

 

笛を吹く。

水銀の槍を溶かし、スパイクを解除、そこから水銀の槌を二つ作る。

 

迫る車は八台。

私は砂を巻き上げながら振り向く。

 

私を囲もうと横を通り過ぎようとした車を一台潰す。

そして撃龍槍を放ち、刺さった槍に衝突した車を蹴り壊す。

王女の側近が一台に乗り込み、うごかなくさせる。

 

車は私から一定の距離をとり、囲む様にして走りながら銃を構えた。

撃龍槍を水銀と糸で迅速に回収し、地中からの水銀の柱で一台をひっくり返す。

 

私が駆け寄って潰す前に、他の車がその車を撥ねて起こしてしまったが、結局転がっているため水銀で打ち上げ、ネセトの頭で叩き潰す。

 

 

ダダダダダダダッ!!

 

 

三台が奇妙な形の銃を出し、一台はただぐるぐると回っている。

大量の弾丸が私を襲う。

 

表面の岩が身代わりとなり、鉄の骨に痛手は走っていない。

王女が一つを爆破した……ネセトの中でどうやって狙いを定めているのか。

 

二台からは水銀の槌で銃弾を防ぎ、一台に足で砂を大量にかける。

 

変な音を出しながら減速した事を確認、糸を放って捕らえて振り回す。

そして片方を水銀の壁に衝突させ、止まった所に振り下ろす。

 

最後の一台が方向転換し逃走し始めたが、いつの間にか埋められていた爆弾により、粉々になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一度岩を外し、凹んだ骨の部分などに車の装甲を酸で切り取ってつける。

タイヤも切断し、関節部分に着ける。

 

そして岩で覆う。

 

「私の修繕は終わった。馬は動けるのか?」

 

私は振り向き、王女に聞いた。

側近は壊さなかった車に何かを差し込み、カタカタと何かを打っていた。

 

「ふむふむ……どうやら馬をケルビと同じカテゴリに入れたじゃから狙われなかった様じゃの。」

「よく分からないが、設計ミスか。」

「いや、細かい部分を考えていないだけじゃな。……今は馬が興奮状態じゃから……少し時間をくれるかの?」

「分かった。ガレオスでも食ってくる。」

「あ、だったら皮を剥いで持ってきて欲しいのじゃ。」

 

ネセトは置いていく。

振動で逃げられるからだ。

 

 

 

 

 

人間の姿で足を引きずりながら歩く。

ガレオスと目が合い、私はそのまま足を引きずりながら逃げる。

 

「ゴワーッ!」

 

弱った獲物を狙うのは当然だ――

 

「ふんっ!」

「ギャッ――」

 

だからこそ捕食対象に警戒はしない。

ゴアの翼を生やし、殴り伏せ、鎌で頭を引き裂く。

 

死体を貪られては困るので元の姿に戻り糸で覆う。

 

再び人となり、ガレオスを追加で二匹狩る。

 

ゴアの翼で尻尾を抑え、鎌で頭を抑えながらヒレとその周辺を切り取る。

腹を裂き、臓物を引っ張り出して食べる……久しぶりの味だ、おいしい。

 

砂原にガレオスはいないと言うハンターもいるが、迷い込んでくる個体がいる。

初対面では殺されかけて逃げたが、四度目は麻痺に気をつけたので特に問題は無かった。

 

さて、と……皮を剥ぎ取る。

内側から付着した肉を食べ、表の鱗を鎌で削ぎ落とす。

残りの肉はゴアの翼に糸でぶら下げる。

 

 

 

 

ネセトに肉を吊り下げてから人間の姿に戻る。

 

「王女。日が落ち始めたぞ。」

「よし、じゃあガレオスの皮をわらわの空間に入れて欲しいのじゃ。それから出発じゃ!」

「ネセトの中に空洞をわざわざ作った私に感謝しろ。」

「おほほほ、良くやったと褒め――あぶっ!?」

「ちっ、穿ち損ねたか。」

 

 

 

殺す気で投げたが回避するか。

……やはり王女は人間じゃないな。

 

 

 

 

もうしばらく走っていれば着くはずだ。

 

夕日を斜めに見ながら私達は再び走り出した。




アトラルと。
ナイトオブバルファー♪

『なぜなに!教えて地元走りするシュレイド城!』

なんで私が城の形をした車を運転するんだ……
湾岸ーミッドナイトーだからねー
情報を増やすな。そして今回の説明はこちら。

『最大時速240kmオーバー、平地特化型自動戦闘車両』

派手な転倒や、突然の自然現象に対抗するため、普段は時速180kmだ。傷つけた相手を追う時に時速220kmを出す。

砂漠ーだからー減速ーするけどー四駆だからー空転はー無いよー

それでも空転した場合、装甲の硬さを使い空転した車両を転がして復帰させる。

像さんーゴリラさんやー地形がーぬかるんでたりー崩れるなどでー戦車はー難しいー

だから一定の距離を保ち、敵より速く移動し撃ち殺す、という無人車両の発想はすぐに実現された。
ただ問題があり、燃費が良くない上に車両がどんな状態になろうと走行し、植物の間を突っ切ったりするため、毎回メンテナンスに金と時間がかかる。

圧倒的ー火力とー継続ー戦闘力はーいんだけどねー
プログラムがー悪いのかー回避力はー余り無いよー


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楽観と絶望の入り交じる村


天の川ぁぁぁっ!!インタビューですっ!

瓦礫を掃除する少女
「……一つ言っていいか?私からしてみればやっていることは他人のプライベートを侵害して騒ぎまくっているだけだ。大体ありきたりな話なのに天体をモチーフにすればロマンチック?意味が分からない。」

ガレオスの皮の上でラノベを読む少女
「うむ、ロマンチックじゃのー。このあと多分取引所の悪女が仕事を奪ったりして仲を割いたりして、最終的にキスしながら天から落ちる所でENDじゃろ?」

コスプレの羽が凄い綺麗な女性
「七夕セールですよ!ハム、モムモム……美味しー!……えっ、七夕が男女の組み合わせだからって交尾の日ではない!?」

少女を見守るガレオスの皮を羽織った青年
「……彼女の幸せそうな顔が見れるだけでも私は嬉しいです。将来での王族としての楽しい居場所は無いのですから……彼女の未来が幸せである事を願います。」

劈星龍バルファルク
「龍気をー操作してー白くしてー彦星をー二つにしてー不倫現場ー」

真っ赤な着物を来た女性
「……!?あ、ァ、ぅえ……道行くィとに声かけぇ吸う。アルコール入った血は不味い。」


「ブァッサァァァァ!」

 

王女は何を言っているんだ。

月明かりの中でネセトを止め、解体し、操核の入った血管を取り出す。

日にちが経ち、糸で無理やり繋げていたが今日で終わりになる。

 

ネセトを再び構築、しばらく走って今度は入口近くで停止する。

そして操核を担ぎ、王女についていく。

 

 

王女が作ってくれた私用のガレオスのフードを羽織る。

王女も同じフードを羽織った。腰までの長さなのは当たり前だがありがたい。

 

なにやら街は夜間なのに騒がしいな……

というより、予想より規模の大きい村……いや街だ。

向こうでは資材の搬入が行われている。

また兵器なども構え、即席の防衛線を敷いているようだ。

 

案内してもらった加工屋からは音が鳴り響いている。

王女は走っていき、大声で叫んだ。

 

「龍力玉を作って欲しいだが!!」

「ちょっと待って下さい!」

 

口調を変えた王女の呼びかけに反応したのは少年の声だ。

操核を入れた血管を持った私が王女に追いつき、しばらくすると大人と子供の境目ぐらいの少年が出てきた。

 

「はい、龍力玉……え、ひやかし?」

 

至極真っ当な反応だろう。

古龍の素材を使う事は相当大きな仕事になる。

心の準備をしてきたのに目の前にはチビな少女しかいないのだ……そういう反応になるだろう。

 

「はぁ!?きちんと素材はあるし、小切手はここにあるのだぞ!」

 

対して王女は乱暴な言葉使いで素材と金を提示する。

条件は満たしたという証明だ。

そして私は一本の血管を破り、血を漏らしながら操核を出す。

 

「残りの血管にも操核が入っているので、お願いできないでしょうか?」

 

フードをとりながら話す。

 

「――っ!あ、うむ、分かりました!」

 

突然息を呑んでから承諾した。だが操核をチェックしていない。

……2人の少女という事で何か卑しい事を考えているのか?

確かに人身売買で売るなら、少女~成人女性が人気だが。

 

「お客様ですー!龍力玉の精製だそうです!」

「うい、ちょっと待っとれ!」

 

年季の入った男性の声だ。

私は血管を一本千切り、操核を取り出す。

……王女の側近が駆け寄り、大きな箱を渡してくる。

 

「一体何が入っているんだ?」

「古龍の浄濃血と、古龍の大宝玉じゃ。わらわも古龍は何度も狩っているからの。」

「年齢と経験があってないな……」

「とは言っても、ギルドナイトが殺したハンターから側近に盗らせた物もあるのじゃがな。」

「やはりそうか。」

 

その時、口が髭で覆われている男性が出てきた。

後ろには先程の男性もついている。

 

「おう、嬢ちゃん達がお客様だな!素材を確認させてくれ!」

「よろしく!ほら、カロも操核を全部見せな!」

 

か、カロ?……あぁ、偽名の偽名か。

逃走している身だ、名前を変えるのは当たり前の事か。

 

「分かりました、セス。」

 

プリンセスのセスでいいだろう……

 

王女が金や素材の処理している間に、私は全ての血管を破り、操核を取り出す。

緋色の球が月明かりに煌めく。

 

「これでよろしいでしょうか?」

「……大丈夫だ。品質もこんなにいいなんてな。ん?ちょっといいか?」

 

私の背負っている笛を触り始めた。

嫌悪感はあるが、拒絶はしないでおこう。

 

「まさか……この笛は誰から貰った!?」

「えーと……覚えてないですね……」

 

突然生産者を聞いてきた。

分かる人間にはそんなに価値があるのか。

 

「……とりあえず明日の夜にまた来てくれ。それまでに終わる。」

「分かった。」

「よろしくお願いします。」

 

私達は加工屋を離れた。

加工屋から大きな歓声があがったが、何故だろうか……まぁいい。

 

 

人々が行き交う道を通りネセトの元へ帰る――

 

 

 

「よう嬢ちゃぁぁぁっ!?」

 

はい制裁。完全に引き止める力の入れ方だった為、さっさと組み伏せる。

 

「何の御用でしょうか?」

「この……っ、こいつらを捕らえろぉぉっ!!」

 

路地の暗がりから様々な得物を持った人間か出てきた。

突然の事に通行人は距離をとり、私達を見ている。

そして人間共が私達を囲む。

私は地面と接吻をしている人間を蹴り飛ばし、人間に向かって言う。

 

「もう一度聞きます。何の御用ですか?」

 

「捕らえて売りさばけ!!」

 

私達に向かって走ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「その程度で私を捕まえる事が出来るとでも?」

 

笛を振り回し、汚れを払う。

王女は気絶した人の山に腰掛け、足をぶらぶらと振っていた。

 

「少女に向かって大の男が多数とか笑えないのじゃが。まぁ負けるのは必然じゃから煽る必要もないがの。」

 

自警団がやってくる。

軽く挨拶を行い、状況を説明すると納得してくれた様だ。

昏倒している人間を縛り、アプケロスの荷台に乗せて何処かへ行った。

そうだ、騒ぎ始めた民衆から離れるついでに私達は情報を収集しよう。

 

 

 

 

ガタリ、ガタリと壁が建てられていく。

心配そうに眺める親子を見つけ、話しかける。

 

「すいません、どうして即席の防壁を―――」

 

 

 

「っ!?子供は早く家に帰りなさいっ!!」

「うっ!?」

 

私はヒステリックに弾き飛ばされ、尻餅をついた。

私自体は軽い。不意をつけば簡単に吹き飛ばせるのだ。

 

そのまま組み伏せてこようとする。

勿論、私が人間に力負けするはずがない。

 

「早く、早く帰りなさい!」

「………」

「早く、早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く……」

 

そして人間は肘を折り曲げ、私の体に力なく体を落とす。

……人間の拳を見ると、何か白い物が飛び出していた。

 

「……」

「あ、れ、え?かえ、帰ってきたの?あ、おかえり、今日は外食を―――」

 

突然立ち上がり、何処かへ歩いていこうとした人間を呼び止める。

 

「今日、何があったのですか?」

「あ、はい?きょ、今日ですか?今日はですね、朝にこの子が警戒に出て………あ、ぁあ、あ?????」

 

……人間は骨を落とす。

そして顔を掻き毟り始める。

 

「あ、れぇw?君はwどうし……て……ぇ?あはっ……あはははw。あははははははははははははぁぁぁぁぁ!?ヒュー、ヒュー、ほ、ね?」

 

役に立たないな。

もう放っておこう。

 

足を動かし別方向に―――

 

「きぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!!」

 

耳を貫く金切り声をあげて襲いかかってきた。

笛を振りかぶる。

 

どこかに行っていた王女が突然横切り、私の笛の軌道から人間を吹き飛ばした。

そのまま王女は手刀で首を叩き、気絶させる。

 

「あ、危なかったのじゃ……」

「……っ!」

 

笛を投げつける。

王女は身をかわし、王女に向かって短剣を刺そうと突進してきた子供の首があらぬ方向に曲がった。

 

絶命したか、安心だ。

 

「あぁ……殺っちゃったのう。処理を頼んだぞ。」

「「承知いたしました。」」

 

側近がバキリと人間の首を折り、二つの死骸を何処かへ持っていった。

そして王女は私の方を向く。

いつになく真剣な顔をしていた。

 

「情報を得たぞ。」

「そうか、教えろ。」

「はいはい。

今回、ロックラックが総力を上げて対抗しようとしているのは……

『鏖邪ディアブロス』じゃ。」

 

聞いたことの無い名前だ。

しかし、古龍よりも厳重に警戒されてないか?

 

「おっと、奇妙に思うのはよーく分かるぞ。じゃが、本当に神選者が束になっても勝てないレベルなんじゃよ……だから昼間にあった車は索敵用の奴じゃな。」

「戦闘をふっかけてきたのに索敵なのか……」

「あはは、あれはプログラムがおかしいんじゃよ。

それで鏖邪ディアブロスじゃが、途中までは鏖魔ディアブロスと同じらしいのじゃ。じゃが本気を出したら、命反ゴア・マガラと同等、もしくはそれ以上と言われている。」

「…………」

「気になるかの?」

「いや。会いたくないとは思っている。」

「ふぅん……」

 

私はガルルガではない。わざわざ死にに行くのは身の程知らずだけでいい。

 

さてさて、今日はネセトを砂漠に埋めよう。

そして砂の上で寝よう……ククク……




『私の巣を強くするから手伝え』

『次世代クイーンはよ』

『もっと推進力を』

『我が妻が無病息災でありますように』

『映画で流星群を流したい』

『ルカと結婚したい』

『麗しき金色の彼女と付き合いたい』

『ボレアスが正気に戻ります様に』

『お前達を殺す』


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相対的な価値の低下が適用されます


50人の村と50000人の村

それぞれの村の一般人が
一人消えるとより効率に響くのはどちらですか?

『馬鹿』は『50人』と答え、
『普通』は『50000人』と答え、
『愚者』は『命は平等』と答え、
『世間』は『どうでもいい』と答える。


それはさておき、

『SSSクラス職員の異世界転生』
第5―話 ―だ――ゥ――えt―――



ネセトを埋めた砂の小山で目を覚ます。

一つ欠伸をつき、遠くで登り始めた陽の光を見ながら元の姿に戻り、砂の中でネセトを点検する。

 

一通りチェックが終わったため周りをウイルスで索敵してから出る。

夜間の間に砂漠は冷えているためウイルスが使えるのだ。

 

「おはよう、ルカ……」

 

体操をしている王女が挨拶してきた。

人間の姿になり、

 

「あぁ。」

 

と返事を返す。

 

私は王女に無理をさせているのではと思ってしまう……

というどうでもいい感情を抱きながら村へ向かう準備を始める。

 

「いきなりだが、本当にあれは村なのか?」

「街じゃな。」

 

ふむ、この事への私の認識は人間と大差ないかもしれない

……王女では比較対象にならないか?

ガレオスのフードを一度振って砂を落とし、再び羽織る。

そしてロックラックに歩き出す。

 

夜間の間に出来上がった壁と、そこから伸びる多種多様な武器はあまりにも物々しく、眩しい。

 

もはや城門の様な門……の柱に設けられた小さな石扉を開けて入る。

 

 

 

 

そこは余りにも静かな通りだった。

人がいない。

店先に並ぶ鮮やかな色も無い。

 

ただ閑散とした住居が広がっていた―――

 

 

ブォォォンと回転し、止まれと書かれた看板を表示した物以外は。

 

 

「なんだあれは?」

「あぁ……あれは神選者の召喚物じゃな。大体が対人でかつ性能が良くないのじゃよ。」

「ふむ。」

「とは言っても、召喚してる奴を殺そうにも無差別殺人においては強烈な強さじゃから出来ないのじゃよ。」

 

看板が回転し始めた……岩の絵?

理解できない私を放って王女は走り出す。

一体何事かと周囲を見渡すが、特に異常は――ん?

 

「ふん!」

 

笛で岩を弾き飛ばす。

なるほど、看板の絵と共通した現象で攻撃してくるのか。

そして突然攻撃し始めるのは確かに危険だな。

 

再び回転し、矢印と車のマークが現れる。

すると遠くから音が聞こえ始めた。

車を飛んで避ける。

 

「シンボルは動けないから逃げるのじゃ!」

 

地上から王女が叫んでくる。

 

「折ればいいのでは?」

「めっちゃ硬いんじゃよ!!」

 

詳しくは分からないが、無理そうだ。

大人しく距離をとろう。

 

 

 

 

と、離れたのはいいが今度は道の中央に何かが置いてある。

 

「あー……あれは彫刻じゃ。誰も視認していない、つまり瞬きをしたら音速以上で首を絞めにくるぞ。」

「あの風貌で動くのか……」

 

 

一度目を閉じる。

王女が瞬きをすれば動くはず。

 

ザッ。

 

目を開くと確かに近づいてきた。

しかし手足を動かした痕跡は無いが……

 

「良かったな王女。」

「え?」

 

元の姿に戻る。

虫には瞬きは無いからだ。

そしてウイルスを使って周りを把握出来るのだから周囲の警戒も大丈夫だ。

 

「あーなるほど、その手があったのじゃな……」

 

彫刻に近づき、触る。

かなりすべすべしており、腐った液体が滴っている。

視界から外さない様にして、回り込み、そのまま別の方向へ行く。

 

視界から外れた後で人間の姿に変わる。

彫刻が追ってきたりはしなかった。

 

「本当にモンスター対策か?」

「普通のモンスターなら一分で殺せても、鏖邪には効果薄いじゃろうなぁ……」

 

 

 

 

「きぃぁぁぁぁぁぁ!!」

「ふんっ!!」

 

出会って5秒で戦闘。

 

これまた人がいない所を、高身長の人の形をした何かが歩いていた。

そして音に気づいたのか私達の方を向き、顔を抑えて喚いてから襲いかかってきた。

 

敵の長い腕を笛で抑え、ゴアの翼で移動を抑える。

怪物らしく押したり引いたりを乱雑に繰り返す為、そこまで知能が高くないかもしれない。

 

「こいつは何だ!」

「シャイガイじゃ!怪物じゃが自分の風貌にコンプレックスを抱えていて、自分の姿を知った全てを殺しにかかる!」

 

対人間用の生物ばかりじゃないか!

なんなんだ?もしかしてここに人間がいないのはこいつらに殺されたからか?

 

「ぁぁっ!ごぅぅぅぅ!!」

「うるさい!」

 

一度弾き飛ばし、再び組み付きにかかってきた所を笛で迎え撃つ。

思いっきり回転しながら倒れたが、何事も無かったかの様に再び掴みかかってくる。

 

「あーもう!王女、頼んだ!!」

「了解じゃ!」

 

私は疲労が無い。

敵には負傷が無い様だ。

終わりはどちらかに欠点が出来た時だ……早々来ないだろう。

だから大元を殺してもらわないとならないな。

 

王女はとんとんと駆け上がり、屋根伝いに走っていった。

 

 

 

 

 

という訳じゃ、さてさて何処に居るのじゃろう……

おっとそうじゃな、まずは判断出来る事を並べ立てようかの。

 

……恐らく召喚者の名は『カイト』。かっこよさそうだからと神選者にありふれている名じゃな。

能力は召喚。SCPの場合は消費魔力軽減が発動するのじゃ。

 

魔力ってなんじゃらほい……見当はついているがの。

よし、殺意的にこっちじゃろう……

 

まぁそれはいいとして、聞くところによると少なくとも2000を越えるSCPがあるらしいの。

国によって違ったりと、とてつもない規模の創作じゃな。

 

しかぁし!

あの神選者は精々、十数種類!

無能じゃな……

そして自作SCPとかよくわからない怪物を生み出したりとやりたい放題じゃから殺害対象ではあるのじゃ……殺れないが。

まぁ専門的な訓練をすれば簡単じゃがの。

 

 

 

 

王女はカチャリと瓶の蓋を開け、ナイフを浸す。

そして柄で蓋をし、固定する。

 

毒の名前は『壊毒』

ドゥレムディラが作る比類なき強さの毒。

 

余りにも強力なそれはどんな人間でも気絶、もしくは衰弱させ、処置を施さないと高い確率で衰弱死する。

事前に効力を弱める術もあるが、打ち消す方法は見つかっていない。

 

そして無許可で個人が携帯する事は禁じられており、罰せられる。

 

そのルールを王女は無視をした。

大量の前金と裏ルートと相互利益の交渉という王女らしくない行動をしてまで壊毒を手に入れた。

 

 

 

そして。

 

幼女を従え、ベンチに座っている男性を王女は捉えた。

幼女はアイスを食べ、男性はそれを眺めるという平和な光景だ。

 

王女は屋根の上から一つ、ナイフを投げる。

信じられない腕力とコントロールで綺麗な孤を描きながら飛ぶ。

 

警戒を怠っていた神選者に刺さり、さっくりと死んだ。

 

「ひっ……!?」

 

幼女はアイスを落とす。そしてバニラがかかった足から青い光と共に消えていく。

怯えた目で見渡し、王女を見て更に顔が引きつる。

そして消えていった。

 

王女は満面の笑みだった。

どちらが恐怖の対象なのか。

 

 

 

 

「きぃぃぃぃぃぃ―――」

 

地面に突き刺して抑えていた頭から消えていく。

 

……楽しかったな。

 

ゴアの翼を消し、地面に座り込む。

私はガルルガの様な戦闘狂では無いが、完全に力に訴えてくる奴は面白い。

だが、それにしても予想よりとても早く終わった。

数時間戦うものだと思っていたが。

 

「やっほー!」

 

王女が走ってくる。

私に抱きついてこようとした為、脇腹を叩いて吹き飛ばす。

 

「やっぱり神選者が馬鹿で助かるのう!」

「危険意識が足りないのだろうか。」

 

ゴロゴロ転がり、立ち上がって私の方を向いて話しかけてきた。

 

「世界はあいつら程度じゃ回らないし。神選者に合わせなさいと心に刷り込まれた人間以外は正面から――」

 

……!?

 

「ちょっと待て?神選者に合わせるとは?」

「……わらわの集めたデータとそこからたてた考察じゃが……神選者の過剰な権利は分かるかの?」

「……あぁ、何処かで感じたな。」

 

 

その後王女が喋り出した事は余りにも空想的だった。

だが、言われてみればそうかもしれないと考慮出来る。

 

 

「そうなんじゃよ……各国の主要人物、奴隷商人、鍛冶屋、そしてギルドに関わる者達が15年前と比べて余りにも態度がおかしくなってるんじゃ。

例えば『この功績が凄い、表彰しよう。』

以前はギルドの有用性を認める為、その国のギルドへの依存、もしくは下ることを意味していたんじゃ。自国の軍隊の練度が足りない事も意味するしの。

以前の例外は『ギルドも国も対応出来ない事を成し遂げた偉人』レベルだけなんじゃよ。」

「……」

「王が直接与える場合、勲章一つに大きな意味があるんじゃ。」

 

ここで一つ疑問が浮かぶ。

 

「……なんで王女は大丈夫なのだ?」

「うん?どうやら『うざい、死ね』の対象らしく、実際に何度も殺されかけただけで洗脳的な物の対象にはならなかったらしいのじゃよ。それに第三王女なんて成人した後に政治的な立場は余りないしの。」

「つまり有用な人間は神選者に、それ以外はどうでもいい……一体何がそうする?」

「知らん。そしてわらわが生まれた時には既に神選者を受け入れる体制が出来ていた……余りにも異物を受け入れるまでのインターバルが短いとは思わないかの?」

「確かにな……まぁ、人間社会はよく分からないが。」

 

王女は暗い顔で笑顔を見せた。

 

 

神選者を殺した。

 

王女はランポスを殺したぐらいの喜びしかないのだろう。

そしてすぐに記憶から消えてしまう。

 

残るのは不快感だけか……

 

 

とはいえ、奴らの元々の命はその程度の価値なのだから。

 

 

 

 

 

 

砂煙がロックラックを覆い始める。




今回登場したSCPの原作者様とリンクです。

これはSCPを登場させたのである以上は義務ですので、運営からの警告などが無い限り消しません。
そしてこの物語での変化も足しました。よろしくおねがいします。


『SCP-173』
作者:Moto42
http://ja.scp-wiki.net/scp-173

召喚者の命令が無い限り完全に停止した、ただの『物体』となります。


『SCP-910-jp』
作者:tsucchii0301
http://ja.scp-wiki.net/scp-910-jp

元々より機械的な側面が強く、自由のききにくい◼◼◼◼◼は封じられているようです。


『SCP-096』
作者:Dr Dan
http://www.scp-wiki.net/scp-096

一人に顔を認知された場合、その対象を駆逐する時まで他の者から認知されても気にしません。


『SCP-053』
作者:Dr Gears
http://www.scp-wiki.net/scp-053

殺意の蓄積速度の大幅な上昇がされており、双眼鏡やスコープ越しであろうと30m以内での肉眼で見た場合の大きさ以上で視認すると2秒で殺意に犯されます。


『SCP-040-jp』
作者:Ikr_4185
http://ja.scp-wiki.net/scp-040-jp

ねこです よろしくおねがいします ねこはどこにでもいます あとうるさくいうとねこは040じゃないです 040はいどです よろしくおねがいします


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過剰な量


あのねあのね!トラブルで調整が遅れてるの……それでね、機械の部品が足りなくてね……

SDVXが直せないの……

何故お前は自力でやろうとする……
そういう事はボレアスに任せろよ。


『幻想殺――狩猟生―!!』
第―8― 死にた――い な――なん―


あの神選者を殺した後、私達は村の中央へ歩いていた。

しばらくすると街の中心の方から大量の人間が流れてくる。

 

「うわぁぁぁ!準備遅れたぁぁぁ!」

「早く持ち場につけぇぇ!」

 

まさかあの人間がいない状況は独断でやっていたのか……

酷い話だな。

 

しばらく路地に移動して、人混みが通り過ぎるのを待とう。

 

 

 

カタカタカタッ。

 

「ほー、上空のドローンからの映像がライブ配信されておるぞ。」

「ライブ?」

「現在を映像にして全世界に配信してるんじゃ。」

 

王女はパソコンという物を側近から借りて使っていた。

回線状況がとても良いらしく、それはラヴィの時に遥か上空から光の柱を放った機械が近くに来ている事を示すらしい。

 

……熱が鏖邪に聞くとは到底思えないが。

 

「エネルギーを変換して雷にしたり、魔力を作って凍死ビームを放てるのじゃよ。」

 

……殺しにきてやがる。

まぁ弱肉強食だから仕方ないな。

 

では、そろそろ――ん?

 

 

 

「あれ、お姉さん達はここで何をしているの?」

 

なんだこいt……

 

 

「なんだこいつ!?」

 

 

ウイルスを少量撒き、体温を確かめる。

 

「あぁ、ルカは知らなかったかの?ロックラックは獣人が多い事で有名なんじゃ。」

 

王女が耳元で教えてきた。

顔の左右に耳が無いが、頭に長い獣の耳がついている。

尻にあたる部分からは尻尾が生えており、ふさふさと揺れている。

 

そして、それには血が通っていて全体的に人間の乳幼児レベルの体温がある!?

理解出来ない……あの気持ち悪いルーツが自分の力で人間を喜ばす為に能力をぶちまけているとは考えられない。

 

「ねぇ、お姉さん達はここで何をしていたの?ここは私の縄張りだよ!」

「……すまなかった。出ていく。」

「出ていけ、なんて一言も言ってないよ!?」

 

なんだこいつ!?

 

 

 

 

「えっ……お姉さん達があの人をこ、殺したの……?」

「想い人だったか?」

「え!?そっち!?いや、その……殺すって事に躊躇は……」

 

私と王女は顔を見合わせる。

 

王女が何を考えているかは知らないが、私は基礎的な考え方から違う為、殺してはいけない理由が余り理解出来ない。

というより守りたい物以外は皆殺しにしても構わないと思っているからな……同族を殺すのを躊躇する思考が分からない。

 

「私にその躊躇は無いな。」

「こほん、貴女は何故ここを縄張りに?」

 

王女が口調を変えて質問する。

もし私が答えるとしたら『そこが過ごしやすいから』以外の理由が思いつかないが……

 

「実は、私のご主人様と出会った場所なんだ……」

「ご主人様?」

 

まさか……思い出が理由!?

余りにも馬鹿げているな……

 

「ほぉー、ロマンチックですね。」

「……へぇ。」

「えへへ……と言ってもそこまで来ないですけどね。」

 

は?

……来ない!?

縄張りは住む所だぞ……いや、考え方が人間を基盤としているのか?

だとしたらこいつはもう人間だ。

 

「お前のご主人様はどういう奴だ?」

「ちょっと阿呆だけど、かっこよくて勇敢な人。」

「いや、それじゃあ分からない……」

「えっと……そう、能力を打ち消す能力を持っていて、殴り合いではとても強いよ!」

 

なんだ、脅威では無かった。

『とても強い』程度で殴り合いで私に勝てるとは思えない。

 

「では私達は出ていっていいな?」

「えー、もうちょっと話そうよー。」

「ごめんなさい、私達はここを見て回るから。」

「むぅ……」

 

 

奴から離れる様にしばらく歩いていると、人が少ない所に出た。

さて、厄介な人間から離れたから周辺を見てまわ――

 

「グォォォォォォオンッッ!!」

 

……闇を撒き散らしながらドラゴンが立ち上がり、強烈な羽ばたきで色々吹き飛ばしながら空へ上がっていった。

……村を見て――

 

「――イ――くはミハイルー♪腐ったお肉も大好きー!」

「大体の戦力はここに来たようだミカ。」

「我が爆裂魔法と邪王真眼の力で一撃で葬り去ってくれよう!」

「夢咲ー。『想像を実体化させる程度の能力』を使わないのか?」

「焦るなルーミア。」

「召喚、シーサーペント!」

「召喚、リヴァイアサン!」

「うぉぉおあああ!」キーボーノーハナー

 

「キュィィィッッッ!!」

「ヴルォルォルォルォォォォ……」

 

……なるほど?南西の方角で戦闘するからここで準備していくのか。

ネセトは北東だから丁度反対側で助かる。

豪雨と水の竜巻を起こしながら二匹のドラゴンは浮いて、南西の方角へ飛んでいった。

 

「王女……なんだここは?」

「私の中では神選者にかなり蝕まれた街、という認識じゃよ。」

 

……それにしても私は鏖邪を軽く見ていたかもしれない。

これほどの戦力を注ぎ込んでやっと討伐出来るのか……

 

「あ、そういや鏖邪ディアブロスはとても速いから、接近戦がすぐに出来ない者は死じゃぞ。恐らく撃退さえ困難じゃないかのう。」

「なるほど。」

「まぁ予備動作は命反ゴア・マガラより物凄くあるがの。」

 

よし早く村を見よう。

 

 

 

 

ロックラックは壁に囲まれていた。

即席とはいえ、撃龍槍では複数回叩きつけないと壊れなさそうだ。

所々の穴からは様々な機械が顔を出し、少し内側にある巨大な塔からは射線が出ていた。レーザー砲台らしい。

 

更に内側には榴弾を撃つ戦車と追尾ミサイルを撃つ戦車がずらりと並んでいる。

壁越しに攻撃する様だ。

 

南東から北西までの180°は内側も封鎖されており、かなり後方から双眼鏡で確かめるしかなかった。

私達とは世界が全く違う……何故かそんな事を思った。

 

 

今度は街の中央へ向かう前に、大分が日が高くなってきたのだから昼飯をとることにした。

 

 

ガレオスのフードで高級料理店に入るのはおかしいと判断し、そこら辺の屋台で焼き肉を食うことにした。

水は貴重な為、蕎麦や寿司など大量の水が必要な物は金がかかるらしい。まぁどうでもいいか。

 

 

食事が終わり、指と唾液で軽く口内を掃除しながら歩く。

王女が嫌悪感を露わにするが、肉でぐちゃぐちゃなのも心地よくは無いだろう。

 

 

 

……遠くに見える。

 

大多数の住民が湖畔に避難していた。

悲観的な事を叫んで、掻き乱している様な奴は見えない。

 

 

集団に近づくと同時に、真後ろから走ってくる熱源がいた。

明らかに停止する様な構えはしていない。

 

しかも……先程の獣人だ。

 

「ふん!」

 

握り、振り返りながら笛を叩きつける。

 

「てやぁぁ!」

 

しゃがんで躱され、頭突きを私に食らわせようとした所を蹴りあげる。

跳んでかかと落としをし、笛で押さえつける。

 

「ぐふぅ……」

 

 

 

なんじゃろう、こっちを見ながら歩いている男がいるのう……前を見て歩きなさい。

 

「ふん!」

 

おっと!?突然ルカが交戦を始めた、と同時に先程の方向から走ってくる音が聞こえるのじゃ。

 

「うっ!?」

 

殴りかかってきた拳を避け、蹴りあげてきた足を受け流して持ち上げる。

頭から落下する所を蹴り飛ばす。

 

「がっ……」

 

喧嘩が上手は嘘じゃったか……

 

 

 

 

王女も男性を倒していた。

まぁ人間なんてラージャンの下位互換なのだろう。

 

「なんだ?答え方によっては頭を潰すぞ。」

「えっ、嫌だ!」

 

……力が未知数の敵に、敗北を考えずに来たのか。

ムカつくな。

笛に力をこめる。

 

「死ね。」

「えっ、えっ!?ちょっと待って、ぁぁぁああ――」

 

バコッ

 

「コリンーっ!?」

 

男性が叫ぶ。

……まぁ私には特殊能力などないし、私も王女も肉弾戦なら簡単に負けるわけが無い。

敵を間違えたな。

 

「じゃあよろしく。私はコレを持っていく。」

 

とりあえず路地裏に持っていって解体しよう。

着ている物は洗えば使えるか?

笛を吹いて身体能力を上げて跳ぶ。

 

 

 

 

 

よっと。

体格的にわらわが抑え込むのは無理じゃから、振り払われる。

幻想殺し(笑)さんが立ち上がる。

 

「なんで、コリンを殺した!!」

 

ルカが潰した時に周囲の人間は怯えて逃げた。

早く中央に向かいたいのう。

 

「くそっ!」

 

石を投げてきた。キャッチボールでもしたいのかのう?

パシリと取ると、手には痛みが走る。

 

「馬鹿じゃの?お主の力はこの世界では意味がないじゃろう?」

「いや!悪い仲間や、普通のモンスターは――」

 

わらわは一気に走りよる。

奴も咄嗟に私を掴むが、慣性で金的へ攻撃は思いっきり突き刺さった。

 

「あははは、どうした?女子に負けるのかの?転生場所を間違えたのう?」

「ふぐっ、はぁ、はぁ……」

「……呻き方が気持ち悪い。」

 

確か原作じゃと、無意識下のうんたらかんたらを感じ取る……らしいの。

まぁ……

 

「ぐわぁぁぁぁっ!!」

「はーい、ゆっくりと右腕を切り落としますねー」

 

基本となる才能が無いなら死ぬだけじゃがな。

さてさて、さっさと『竜王の顎』を出してわらわ達が負けた様に演出しないと村人が逃げるからのう……

あ、そういえば……

 

「どうしてわらわ達を襲ったのじゃ?」

「あがぁぁぁぁっ!!」

「…………」

 

剥ぎ取りナイフで腕を切るのを途中で止める。

ただ痛みに悶える雑魚が一匹……

勝手に殴ってくるのに抵抗する精神力が無いのじゃな。

 

 

思い直した。

自己中なこいつは生きる価値も無い。

 

 

「お前は何処の世界でも要らない。」

 

首にナイフを当てたが、しまう。

その間はひたすらもがくだけで罵詈雑言の一言も無い。

ただ恐怖と恨みに潰され、冷静な思考が出来てないようだ。

 

 

 

弱者の気持ちが分からぬ強者が……!!

 

 

 

わらわは久しぶりに鎌を取り出し、すっぱりと刈った。

ごとりと落ちた顔は死を悟りかけたあほ面だった。

 

 

 

蹴り飛ばす。

 




薔薇創バルラガルと 血小板の!

『素朴な体の疑問』!

……何をすれば?

えっと、えーと、そう、今日はアトラルさんの狂竜ウイルスです!

あー、それか……彼女が翼を消していても体内のウイルスは消えていない。極限化しているから撒き散らされるウイルスで周りが狂竜化する……となるはずだ……

でも、何故ウイルスが飛んでないかというと、翼からウイルスが体をルカさんの体内で作ろうと本来翼から出るウイルスを移して、それとは関係ない結晶のウイルスが消化して、その栄養を含むウイルスを極限化した細胞が吸収して、その蓄えられた栄養が再び体と翼に分け与えられるんです!

体内の攻防が酷い……吸いたくない……というか精子の様な仕組みだ……はわぁー……

あっ、お姉さん!?お姉さん!?……ね、寝ちゃった!?


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犯罪者に死刑を


誰がヒエラルキーの頂点に神選者を置けと言った?
誰がわらわ達はあいつらとは価値が違うと言った?
馬鹿共が、城に入れるな、我が物顔のあいつらを!

『異能の戦士』
第34話 殺されてしまった


大きな炎の塊と闇夜に煌めく氷の大群。

その上に見えるは巨大な二匹のドラゴンと、それを覆う渦潮。

 

それでも空を塗りつぶす量の砂が舞い、星は見えない。

 

 

「決戦前夜じゃのう……」

「観戦したくても私達は遠くから眺めていよう。それより早く行くぞ。」

 

注文の品は出来ているはずだ。

もし出来ていなかったら急かすしかない……脅迫すれば恐怖で品質が落ちる可能性があるから。

 

夜間になると獣人は見かけなくなる。

何が昼行性だ……少しでも都合が悪くなったら無理なく起き続けているだろう。

草食も肉食も睡眠時間が変わらないとか、明らかにおかしいし。

それに睡眠時間を大量に削って性行為とか……完全に人間じゃないか。それとも理性が生まれる脳はそういう事が制御出来るのか?

……どうでもいいか。

 

 

ピリッと張り詰めた空気が微かに流れ、村人達は湖畔の近くで過ごしている様だ。

昼間の喧騒からは考えられない程の暗闇と、恐らく絶望した喘ぎ声が僅かに聞こえる道を私達は通る。

 

しかし、その様な状況でもカツンカツンと音は鳴り続いていた。

 

「龍力玉、受け取りに来ました。」

 

私達を待っていたのか、両手で箱を抱えた女性がいた。

ジロジロと私達を見て、私の笛を回り込む様に確認して理解した様だ。

 

「お嬢ちゃん、この龍力玉を何に使うの?」

「聞く権利は無いですよね?」

「まぁそうだけど……」

 

私は返答を断った。

やはり身長からなめられているな……

まぁどうでもいい。

 

女性から箱を受け――

 

 

 

突然箱が浮き上がり私の後方へ、ただの人間だと思っていた奴に向かって飛んでいく。

そして箱を私と奴の中央に置いた。

 

「これをくれ!」

 

私の目を見て言ってくる。

 

 

 

……は?

 

 

 

こいつ誰だ?

私が色々と呆然していると、王女が私に囁いてくる。

 

「念力を使う神選者じゃ。」

「人の物を奪う実力があるのか?」

「無いのじゃが、作為的な幸運に守られておる。回数とクールタイムがあるようじゃがな。」

 

はぁ……面倒くさいな。

笛を構える。

 

「私達が狩って手に入れ、私達のお金で加工してもらった物です。返して下さい。」

 

奴は頭を振る。まるで呆れた様に。

 

「バレバレの嘘だ、君達の体でどうやって――」

 

一気に飛び込み、笛で殴ろうとした。

私の体が見えない何かに突然拘束され、笛を落とす。

 

「大丈夫だ、僕は敵じゃない。」

「うぅぅ……っ!」

 

泥棒は敵だろうが。

そう言いたくても顎が動かない。

私に向かって奴は歩いてくる。

 

「どうした?君は誰に買われた――」

 

私はブチ切れた。

 

誰かに隷属しているとでも!?この私が!?

殺してやる。

 

 

殺してやる!!

 

 

私は箱の中にある操核に力を流そうと集中した。

すると、操核は動かせなかったが私を拘束していた何かが突然掻き消え、地に落ちる事になった。

 

唐突な事に私も奴も若干理解するのに時間がかかった。

 

……取り返せるぞ。

 

走りより、腕を折ろうと笛を振る。

しかし異常な動き方で躱された。

そして背を向けて走り始める。

 

 

「スリイ!フォウ!箱を壊さずに奴を殺すのじゃ!」

「「了解致しました。殺します。」」

 

 

私は走りながら笛を吹く。

そして低空飛行を始めた奴より速く追いかける。

 

二つ曲がった時に追いついた為、片手で笛を振り下ろす。

流石に簡単に躱され、殴ってくるがその腕をとり、捻りながら――

 

バチィッ!

 

ちっ、強烈な静電気でつい手を離してしまった。

砂煙をおこし、視界を妨害して奴は逃げていく。だがウイルスを騙せていない。

 

一応敵は加速したが、私を離すまではいっていない。

曲がる所などで距離を縮める。

 

「くらえっ!」

 

奴は振り返り、物を浮かせ投げてきた。

わざわざ宙に物を浮かし、『これを投げますよー』と知らせてくれる。

大体が直線的で、遠くを飛ぶ物が曲がってくるという余りにも分かりやすい攻撃をしかけてきた。

鉄は弾くが、木は躱したり、体当たりして破壊する。

 

「ひっ!」

「返せ。」

 

奴の片腕を掴む。

再び静電気が走るが、それより早く笛を振り、慣性で――

 

グニャリ

 

「ひぃぃ!」

 

くそっ……まるで液体の様な動きで避けやがった。

飛んでくる大量の木箱を壊しながら追う。

 

……南西に近づいてきた。

他の神選者に庇護してもらってやり過ごす気か!

 

もうなりふり構っていられない。

元の姿に戻り、糸で奴を追い越し立ちふさがる。

 

「なっ、残奏姫!?」

 

飛ばしてきた木の板の念力を解除し、糸で投げ返す。

大量の糸を放ち、退路を防ぐ。

 

「くそっ!」

 

奴が私の笛を浮かした所で近づき、鎌を薙ぐ。

一度目は回避され、二度目は異常な動きで躱された。

鎌を擦り、様子を見ながら糸を放つ。

 

念力騎士(サイコナイト)!いくぞ!」

 

糸を逸らし、不思議な音と共に赤紫色の鎧が立ち上がる。

そして大剣を振りかぶりながら騎士が左から、短剣を構えながら奴が右から襲いかかってきた。

 

大剣は笛で、短剣は鎌で受け止める。

笛の方には龍の力を流す事ですり抜けを抑えている。

 

そして力勝負に勝てないと悟られる前にゴアの翼で鎧は投げ飛ばし、奴を押さえつけ――また異常な速度か。

鎧を投げた勢いで掴みかかるが再び異常な速度で避けられた。

糸を放ち、引き寄せる。

 

「うわぁぁ!?」

 

鎌を振り抜く。短剣を弾き飛ばす事になった。

滑るようにやってきた鎧を翼で掴み、奴が立ち上がるまで肉を捏ねるように擦り続ける。

 

再び立ち上がった所を糸で引き寄せ、笛を叩きつけ――

っ!?

……突然滑り、笛が飛んでいってしまった。

 

糸で拘束し、急いで笛を取りに行く。

 

 

 

戻ってくると近くのバケツが倒れ、糸が切られていた……

 

というより先程拘束した時に箱を取り返せば良かったじゃないか!?

何故頭が働かなかった……

 

「こっちじゃ!」

 

王女が声をかけてくる。とりあえず従おう。

 

 

 

 

ひぃぃ!?なんで人が襲ってくるの!?

念力……が打ち消されてる!?

やばい、残奏姫より幸運を消費する速度が早い!くそっ!くそ―――

 

 

 

 

……人間の姿に戻る。

血溜まりの隣で王女の側近が箱を捧げてきた。

 

「……感謝する。」

 

私が消耗させていたのもあるだろうが、一瞬で仕留めてしまうとは……

さてと、早くネセトに操核をはめなければ。

 

「王女、お前はどうする?」

「南東の壁に屯っておくのじゃ。」

「分かった。」

 

よし、それでは向かおう。

笛を振り、移動速度を高めて走り出す。

 

 

 

 

帰りは特に何も起こらず、ネセトの元に辿り着いた。

 

「「ルカ様、おかえりなさいませ。」」

 

王女の側近が警備していたのか……いつの間に?

元の姿に戻って地中に糸を放ち、ネセトを砂から掘り起こす。

 

岩を解除し、水銀の板に操核を乗せて鉄の隙間から入れる。

その間に翼で飛びながら鉄を部分的に外し、そこから操核を糸で固定する。

 

尻尾が終わり、岩を纏い直す。

搭乗して操核に力を出させる。

 

よし。あまり音をたてずに足の動きを確かめてから南東へ行こう。

……まだ王女を捨てるのは勿体無いからな。

 

 

 

 

 

大分操核の扱いに慣れ、能動的に変化、操作出来るようになった所でついた。

神選者達の攻撃音と光が見えることからもう戦闘は始まったのだろう。

 

「おー!ネセトの復活じゃな!」

 

壁の外側に王女が待っており、向こうは叫んできた。

 

いや、ネセトの強化終了なのだが……まぁ指摘する為に姿を変える必要はない。

私はネセトを北に向け、ここからの退避を提案する。

 

「うーむ……まぁルカには逆らえないの!」

 

繭を破り、王女に向かって糸を放つ―――

 

 

 

ロックラックを支える岩に地割れが走り、その後に生物とは思えない声が響き渡る。

私でさえ煩さに足が竦むほどだ。

 

 

 

ヴァァァァアアアアッッ!!

 

 

 

ちっ……!

一体なんなん――

 

 

 

キィィィィィィン!!

 

 

 

空から光の柱が落ちてきた。

ひんやりとした空気がここにまで届く。

 

「……始まった様じゃの……って、ああ!!」

 

王女は突然叫び、村の方へ走っていく。

急いで人間の姿に変わり叫ぶ。

 

「しばらくは待ってやる!しばらくしたら動く!」

 

王女は右手をひらひらさせながら走っていった。

どうしたんだろうか……




残奏姫は神選者特攻を持っていた……!

のではなく、付与されているだけです。
これは操核にも言えますね。


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みんな死んでみんないい


ほら、望んでいた強敵だぞ?楽しみなさいな。


全てを憎む者はいない。

全てを憎むなら自殺をしてしまえばいいのだから。

 

思い通りに世界が動かない。

自己中心的な考えを持つ者に力は与えられない方がいい。

 

何故なら。

 

 

 

 

 

 

 

ぞくりと背筋を寒気がなぞりました……

この世界で始めて感じる強烈な悪寒が。

 

「どうした『ヒカリ』?」

「あ、大丈夫です!『烈鬼』さんありがとうございます。」

「……怖いなら帰りな。士気に関わる。」

「い、いえ、泣き言は言いません!」

 

ふぅ、ふぅ、息を整えなきゃ……

 

「ヴォォォルォルォルォ……」

 

っ!?

シーサー……じゃなくてリヴァイアサンが動きを止めて呻き声を発しました。

つまり近くに来ているという事……

 

 

月に照らされた砂漠。

 

向こうで砂が吹き飛び、一匹のディアブロスが出てきました。

既に暴走状態ですが、それが判別方法だそうです。

僕達が武器を構え、力を溜め、二匹の龍が叫んでいるのに悠然とこちらに歩いてきます。

 

「ォォオオヴヴ!!」

「キィィィィ!!」

 

龍達が身を捩らし、青い光を口先に集めていきます。

周りが力を溜め始めたので、僕も光を集めながら圧縮します!

 

「ヴォォォオオオ!!」

「キィィィピィッ!!」

「ふぶき!」

「絶対零度空間!」

「弱点形成・雷!」

「エンシェントストーム!」

「破壊の奔流!」

「雷槌!」

「ライトブレス!」

 

他の方も口々に叫びながら技を放ちました。

 

「デラデラフンフンwwwガガガガガwww」

「ブラストハウrrrリングッッ!!」

「マスタースパーク!」

「アル・ヒューマ!」

「創壊砲!」

 

……今回のこのレイドボスに参加したのはモブを含めて211人です。

その中で遠距離攻撃出来るのは約180人。

いくらディアブロスとはいえ一撃で死ぬのではないでしょうか。

 

ディアブロスを中心に、巨大な爆発が起こり龍の放った水が凍っていきます。

水蒸気がこちらまで届き、熱風と寒風が吹き荒れました。

 

 

 

水蒸気が晴れ、ディアブロスを見ると……

 

「た、倒れてる!」

「よっしゃ……仇は討ったぞ!!」

 

倒れていました。すかさずアイテム欄のチェックをします。

 

新たな素材は……え?あれ?バグった?

一つも入ってない……

 

 

 

「ヴォォォ……」

 

微かな呻き声が喧騒を静まらせた。

全員が同じものを見る。

 

「ヴゥゥゥゥ……!!」

 

口から白い蒸気と黒い煙を吐き出しながら立ち上がる。

 

「ゥゥゥ……ァァァ!!」

 

体の全部位に赤い筋がはっきりと見える。

 

 

 

空気が吹き出す音がする。

 

「ガァァ、ァ、ァ……ァァァァァァアアアァァァアアアアアア!!!!

 

砂が吹き荒れ、血の匂いが膜の様に砂漠に広がっていく。

音として判別出来ない程に鳴き声が大きくなり、数人の鼓膜が破れる。

更に音は大きくなり、蹲った人間を砂が覆い始める。

 

 

咆哮が終わる。

 

 

そして始まる。

 

 

巨大レーザーが落ちてきたものの、鏖邪は掠りこそしたが躱す。

 

 

「た――!来る――!」

 

あ、頭がぁ……全身が痛い……おえ、酔ってる……

立とうとしても平衡感覚が……

 

うわぁぁぁ!?

 

ギギィィィィィ!!

 

耳がぁぁぁ!!

くっ、何が起こってる

ァァァアアア!!

痛いぃぃ!?うわぁぁぁぁ!?

 

 

 

鏖邪ディアブロス。

 

 

『超狂暴走状態』

 

 

容姿は完全に生物ではない。

足以外の体の全部位に血管が浮き出ている。

本来血は通っていない角まで赤い線が走り、血がにじみ出て滴り落ちている。

口からは黒い煙と白い息を吐き出しており、体からも常に水蒸気が発生している。

 

 

圧倒的な破壊力とは別に『咆哮』が戦闘時に最悪な壁となる。

行動の合間合間に行い、耳栓強化をしないと立ってもいられない。

また近距離でくらえば耳栓強化があろうと衝撃波に吹き飛ばされ、前方向でくらえば平衡感覚が狂う。

そして水蒸気の爆発により、囮が攻撃されている間にも体勢立て直そうにも吹き飛ばされやすい。

 

 

つまり勝てない。

不自由無しに音を、空気を阻害する方法などないのだから。

例え出来たとしても―――

 

 

「バリア!……っ!?きゃぁぁ!?」

 

 

水蒸気で推進力を強めた突進に吹き飛ばされるだろう。

 

 

 

う、うぅ……!?

 

アアアアアア!!

 

く、くう……しかし先程の爆発で遠くに飛ばされたのか、立ち上がる事は出来ます。

吐き気を我慢し、四つん這いの肘が着いた体勢で先程の風景を見ました。

 

一切抵抗の光が無い……

いや、ある!

 

遠くに吹き飛ばされ方か分かりませんが、青い光が放たれました!

鏖邪には当たりませんでしたが……一体誰が?

視線を移します。

 

ヴヴヴヴァァァ!!

 

くっ、耳が……しかし、一体誰が放ったのか確かめないと―――

あれ、鏖邪が見える……どういう事?

 

視線を戻すと水蒸気が舞っていた……

と、次々に人が立ち上がり、不思議な光を空に向けて発射しました。

お、おぉう……体が癒され、耳を撫でられた感覚が走ります。

 

「ゴォオオオオオ!」

 

……!うるさくない!これで反撃が出来ます!

咆哮に悩まされないなら本体の速度に気をつけてやりましょう!

よし……

 

「光速!」

 

一気に走りより、鏖邪の腹にナイフを突き立てました!

このナイフは彼女の作った岩に突き立てれる至高のナイフ!

よし、刺さった!振り抜く!

 

返り血を浴びましたが―――

 

ぁぁぁぁぁぁ!?

 

 

 

愚かな神選者は体が焼けていく。

沸騰した血液を浴びた人間はその場で痛みに悶え、大声を上げた。

 

「……ヴヴヴヴゥゥゥアアアアアアアア!!!!!

 

音圧に体を押し付けられている。

肉が千切れ、骨が折れ、臓物が潰れ、血を浴びた所からしゃぶしゃぶになる。

 

そして鏖邪は一度離れ、人間を口に含み、すり潰す。

流れる血液、細胞の汁、尿を飲み、肉と骨の混合物を吐き出す。

 

 

僅かな水分を得た鏖邪は―――

 

「ヴゥゥゥゥ……」

 

先程まで血が滲み出る程に膨らんでいた血管がほぼ見えなくなる。

そしてある方向に歩き出した。

 

 

 

 

村へ。

 

 

 

 

「村の人が!アル―――」

「待てレム!皆も聞いてくれ!」

 

―――スバルは叫ぶ。

 

「鏖邪の狙いは分からないが、村へ向かっている!その時は家は壊すが走り出したりはしない!村の人は全員避難させた!ここで体勢を立て直そう!」

 

『説得』補正発動

 

 

比較的彼は有名な為、死に戻りが出来ることは彼以外の口から知れ渡っている。その為に信用されやすい。

それに補正が加われば―――

 

「よし、作戦会議だ!」

「救援要請します!」

「攻略方法の相談を始めようじゃねぇか!」

 

彼らは崩れかけた士気を取り戻す。

一致団結すればきっと乗り越えられる。

そう信じて。

 

 

 

 

 

「ヴゥゥヴゥゥゥゥ……」

 

コッチダ……ジャマハコロス……ミナゴロス……

シネ……シネ……イマハ……ジャマ……

 

ミズ……ダレカ……ぁぁ……

 

「ゴォゥゥァァ……」

 

かわ……ウミ……チカ……

 

 

 

 

 

 

 

王女……遅いな。

一体何をやっているんだろう。

 

まさかSCPや獣人間に絡まれたりしているのか?

……まぁいい。

私が危険になったらさっさと逃げるだけだ。

 

……鏖邪に気を取られすぎではないだろうか?

いくら音を立てないようにした所で音は鳴るし、ネセトの姿が消える訳では無い。

明らかに防衛をする気がないよな?何故だ?

 




初手の総攻撃が全員氷属性で互いにぶつからなかったなら死ぬ確率がありました。
とはいえ、打ち消し合いながら狂暴走状態をとばす程の威力は流石ですね……

さて、超狂暴走状態ですが、例えるなら『極征LV9999の水蒸気爆発する最低二倍速極限ティガレックス』みたいな感じですかね?
とりあえず被弾=死です。


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給水は大切に


熱中症で気だるくなると水分を摂る気もなくなりますからね、冗談抜きで機械のように定期的に水分とりましょう。
ね、鏖邪?

『……いや、話しちゃ駄目だろ。』



「か……鑑定終わりました!」

「分かりました!よろしくお願いします!」

 

神選者は各々でチームを作り、それぞれの考察と攻略方法を出す。

それを他のチームに提案し、咀嚼する様に案を揉み、最適だと思われる案に変化させて飲み込む。

先に戦いを挑んだ者は戻ってこなかった。

 

「落ち着いて見て下さい……鏖邪の平均的な肉質を提示します。」

 

「……超狂暴走状態の肉質、異常だな。」

「頭が80、体が70、尻尾が95かよ……」

「足が5、角が10ですわね。血管が見えても硬いままですか。」

「前回のアップデートのせいで穿龍棍のダメ計算変わっちゃったからなぁ……」

 

「ふーん、全体的に氷が20ね。」

「……うーん、次点で雷が5。それ以外は効かないと。」

 

ざわつく。

 

なんだ、ただの体力馬鹿か。

 

この世界は3Gのブラキディオスみたいに自傷があるから予想より楽に終わるかも、と。

 

だが、その後に考えもしなかった事が言い渡される。

 

 

 

「全体防御率が……0.0015なんです……」

 

 

 

「「……え?嘘だ……っ!!」」

「全体防御率って何?」「聞いたことないわね。」

 

ナンパリング勢は余り知らない。知らなくてもやっていけるから。

そしてフロンティア勢は嫌というほど知っているだろう。

 

 

無双襲撃戦を筆頭とした化け物の数々を。

その脅威の耐久を。

 

 

「え、だ、ダメージ通るか……?」

「分からないです……が、奴を怒らせたという事はあの攻撃がとても痛かったのだと思います。」

「……はい!『絶対停止』を複数人で行い、その間に皆の総火力を浴びせるのはいかがでしょう!」

「……絶対零度と部分的時止めが出来る方は?」

 

複数手が挙がる。

提案者が素早く近づいて声をかけ、全員が支持の意を示す。

 

「『演算開始』」

「『悪魔頭脳』」

「『全知過程』」

「『七つを繋げる者』」

 

物質。能力。頭数。環境。

そして人間の思考。

 

総てを予測し、絶対的な勝利を識る。

初めて、もしくは久しい脅威の対象に万全の体勢で挑もうとするのは当たり前だろう。

 

三人集まった所で識っている世界は余り広がらないのに。

 

 

 

 

 

暇つぶしに水銀の槌を振り回す。

撃龍槍より柔らかいが、細かく、速く動かせる……やはり切断に使う方がいいのか?

 

……王女を待つのが焦れったいな。

よし、入るか。

目につく奴ら全員殺していけばいい。

それなら水銀を操る練習になるだろう。

 

門を蹴破り、首を下げて入る。

全く人間の姿は無かった。

 

……かなり遠くに行ったのか?

伝言を頼むか。人間の姿に変わり、叫ぶ。

 

「王女が来たら、牙の方に向かったと伝えてくれ!」

「了解しました!」

 

糸の準備をする。

水銀を浮かし、ネセトで住宅を突っ切る。

吹き飛ばされた瓦礫を水銀で回収、糸でネセトの鎧にする。

 

……ある程度湖に近づいたら静かに歩こう。

 

 

 

 

 

 

「全軍、撃て!」

 

一斉に壁越しに鏖邪に向かって榴弾が放たれた。

数km離れているが、第二異砲船による座標特定によりとてつもなく精度が上がっている。

まるで衝動を抑えるかの様に震え、ゆっくりと歩いていた鏖邪に爆発の嵐が襲った。

 

 

 

ぐちゃりと口が開く。

水蒸気が漏れる。

 

『ヴゥゥ……

ヴァァァァアアアア!!

 

水蒸気と共に咆哮が響き渡る。

強烈な衝撃波は飛んできた榴弾を破裂させる。

 

そして尻尾が肥大化する。

水蒸気を放出しようとした。

 

「間に合え!『絶対零度』!」

「体感せよ『絶対温度未満』」

「タイムロック!」

「時を奪う。」

 

例えどんなに強くてもたかが竜。

ピタリと停止する。

 

 

20秒後。

 

止まっている物には一切の干渉が出来ない。

 

そのため、解除と共に強烈な攻撃が一斉に放たれた。

爆発が奴を飲み込んだ―――

 

大きな音が鳴る。

 

たった今大ダメージを与えた筈なのに、どうして守るべき壁が壊れたのか?

答えは簡単だ。

 

 

「ガァァァァ……」

 

再び血管が余り見えなくなる。

落ち着いた鏖邪は穴から崩れ続ける壁と、吹き飛び横転した車の横を歩いていく。

 

既に突進の構えをしていたのだから罠を仕掛けるべきだった。

 

残った戦車や砲台から弾丸が雨のように襲う。

更にエネルギーを溜めた塔がレーザーを放つ。

 

爆炎を吹き飛ばしながら鏖邪は再びブチ切れ、体を捻りながら水蒸気を放出し始める。

神選者が何をしようとしたか理解する前に、人間が殺意の範囲から逃げようとする前に回転を始めた。

 

水蒸気で加速しながら地を削り、爆発して上空に舞い上がる。

 

「ダイヤモンドダスト!」

「氷結の結!」

 

しかし熱で溶けてしまい、効果が無かった。

 

再び水蒸気を放出し、レーザーを放つ塔を叩き潰す。

木の板と鉄の部品が舞った。

 

再び暴走状態に戻る。

 

 

 

 

はぁ……はぁ!

間に合った……

 

奴らの考えと鏖邪の狙いが分かった!

 

わらわは大声で言う。

 

「皆!ここは危ないのじゃ!鏖邪がやってくる!」

 

……やはり怪訝な顔をするだけじゃな。

ここで取り出すは『病想の鎌』!

馬鹿ならこれで神選者と信じてくれる!

 

「鏖邪の狙いは水じゃ!だからここに真っ直ぐ来ている!さっきから声が聞こえるじゃろ!」

 

……ちっ、子供の言う事を信じておらんな!

何か都合よく……!?

 

灰色の破片が飛んできた!

 

……そういえば神選者がいない。

何故じゃ?好感度稼げると思うだろうに……

 

さぁ、病想の鎌で破片を粉々にしてやろう!

考える事をやめたヤツらは武器の力で騙せる!

 

「はぁあああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

よしっ、間に合った?

 

他の村からリオレウスに乗ってきたけど、人のいない村をあの鏖邪は闊歩していたよ。

さぁ、盾の能力をみせてあげよう!

 

「挑発!」

 

赤いオーラを纏い、こちらに注目を向ける。

 

「完全防音!吹っ飛び極大減少!」

 

青いオーラを二度纏う。

 

『――――ァァァアアア!』

 

嘘っ!?完全防音を貫通して聞こえるって、私の体が共鳴するレベル!?

うわぁぁぁっ!?突進が強烈すぎる!全く歯止めがきかない!?

 

 

 

 

 

 

 

………っ!?

 

思いっきり後ろに跳ぶ。

家や施設を関係無しにこちらに何かが突っ込んでくる。

 

「―――ぁぁああ!」

 

人間……いや、神選者の声が不気味な気配と共に近づいてくる。

水銀を空中に滞留させ、待つ。

 

私の通ろうとした道を影が過ぎった。

 

 

 

『ヴゥゥゥゥ……』

 

何故か正確に姿が確認出来た。

鎌を振り上げ、威嚇する時間もない。それにネセトなのだから

 

……あぁ、なるほど。

奴が神選者の攻撃を受け、その影響が若干振り撒かれているのか。

念力より強力な場合の意味不明な力、何が起こるかわからない。

そして私が何故理解出来たのかも分からない。

 

 

 

ガガガガガガガッ!!!

 

大量の瓦礫が降ってくる。

水銀を大きく、薄く広げ受け止めてネセトの近くに落とす。

 

よし、瓦礫を纏おう。

木と石と鉄が混ざったネセトを持つなんて私ぐらいしかいないだろうが。

 

ネセトの尻尾を通して水銀に糸を放ち、前方向に持っていき投網をする。

そして地中で水銀を精製、盆のような形で浮かせてネセトに持ってくる……重いからか疲れるな。

糸でネセトの形を固定し、ゴアの翼で回転させて糸をつけ、ネセトに固定する。

水銀を網にして瓦礫の大きさを選別して揃え、一気に結びつける。

 

……そうだ、鉄の補強も出来たし仕掛けをいれておこう。

 

……さてあいつを追って神選者が来るとしたら私は後退するか?

いや、方向をずらして追えばいいか。

 

 

流石に少し纏いすぎたな。

歩くだけで道が壊れる。

 

 

 

 

 

 

―――ドドドドッ!!

 

 

くそっ!

わらわの側近が話しかけてくる。

 

「早く!こちらへ!」

 

もう間に合う気がしない。

はっきり言って、わらわより察しの悪い奴らは要らん気もするから、こいつらを放っておいて逃げたい所じゃ!

 

「王女様!来ました!」

 

バギイッ!!

 

事前に神選者が張っていた結界が青色に光り鏖邪が衝突する。

そして人が近くに転がってきた。

 

近くに走り、しゃがみこんで話しかける。

 

「大丈夫ですか?」

「う、うんありがと。君も逃げた方がいいよ?」

「しかし――」

「大丈夫!私に任せて!」

 

安心出来る要素が全く無いのじゃが。

思いっきり転がってきましたよね?

 

「早く!」

「では、お言葉に甘えて。」

 

……鏖邪が結界をゆっくりすり抜けてくる。

まるで2.0みたいな入り方じゃの。

 

「ヴ……ゥゥゥ!」

 

っ!超高級即席耳栓!

 

「――ァァァアアア!!」

 

ぐぅっ、体全体が痛いのう!

とはいえ、体勢からして本気の叫びじゃないからまだ大丈夫じゃな!

遠回りしてルカの所へ行こう!

 

 

 

 

 

 

ミズダ……!ミズ……!コイツ……!ゥザイ……

デモ……先に……この湖に……

 

 

 

彼女が取り返しのつかない地雷行為をした事をまだ誰も知らない。




本当は表面の角の肉質は少し柔らかいのですが、芯はえげつない硬さですので簡単には折れません。

……おや?
新しい砲台の準備が出来そうです。


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危機塊界


どもっす!



ミズヲ……トル!!

 

 

ガァァァァァァ!!

 

 

鏖邪は走る。

サボテンを見つけたディアブロスの様に。

 

そして神選者達が追いつく。

一体何が起こるか分からずに。

 

 

 

水中

 

 

 

沈みながら鏖邪の体が肥大化する。

体表からは血が滲み出し、水を赤く染める。

 

水蒸気を一度放ち、体を冷却する。

 

凄まじい勢いで水を飲み、体の隅々まで浸透させる。

体を丸くし、背中や翼に力を込めるて突起と管が生えた。

 

一度それから泡を出したあと、水面に向かって泳いでいく。

 

 

 

モッと、水ヲ……!

 

 

 

地上

 

「泡が激しくなった。」

「戦闘用意!」

「言われなくても!」

 

ガシャンと剣を分ける。

俺は防御貫通系の能力だから他の神選者より弱い。

だから防御系にスキルを振った。

 

だから今回は俺がやらないと!

 

 

 

水飛沫を上げながら鏖邪が飛び出してきた……っ!?

回転しながら水をばら撒く。

 

グァァァァァァ!!

 

くっ、咆哮が煩い。

水を大量に吹き出しながら飛んでいく……牙の方に!?

 

「まさかっ!?」

 

 

 

 

 

……ここら辺でいいか。

一度瓦礫を強固に結びつける。

 

水を撒きながら鏖邪が飛んでいた。

何処かで見たぞ……バルファルクみたいだな。

 

そのまま突っ込み、天を貫く程の大きさを持つ牙が破壊される。

 

……機動力も破壊力も化け物だな。

早く王女と合流しよう。

 

 

 

 

バギィッ!!ミシミシッ!

 

 

「ふぁぁぁぁっ!?」

 

馬鹿共がっ、鏖邪を止めるのは今じゃったろうが!

ジエン・モーランの牙が折られ、巨大な破片が四方八方に飛んでくる。

……はっきり言って、ロックラックは終わりじゃ。

経済の土台となる湖水が減れば企業は逃げ始めるしの。

 

「くそったれ……」

 

……ルカから考えれる最悪の事態になっている気がするのじゃ。

おっと、飛んで戻ってきた――あーあ、最悪の事態じゃな。

神選者は何人生き残るのか……

 

 

 

 

彼は双剣を構える。

牙を折って帰ってきた鏖邪の背中には、深々と牙が刺さっていた。

 

「グルルァァァァ……」

 

水を放出し、滞空しながら睨みつけてくる。

翼からは水が大量に放出されている。

 

 

「マウントグラビティ!!」

「グルッ……ァァァアアア!!!

 

地面に叩きつけられた鏖邪は怒る。

そしていつも通りの皆殺しが始まる。

 

 

 

 

 

走れ走れ、と。

ネセトをガタガタ言わせながら走る。

 

「うわぁぁ!?なんだあ――」

 

水銀で斬り、素早く死骸を集める。

そのままネセトの中の王女の為の空間に次々と入れる。

そして人間をウイルスと水銀から感じる肉の抵抗で解体する。

 

大分慣れた頃にこちらを威嚇する謎の生物達を解体し、更に慣らす。

そうだ、骨は糸で丸めて集めておこう。

 

「シールド!!」

 

ネセトの進路を塞ぐように膜が広がる。

なるほど、次は神選者だったか。

 

操核の出力を上げて水銀に龍の力を纏わせる。

それとは別に撃龍槍に力を纏わせる。

更に翼を生やす。

 

まずは四つの槌で殴る。

 

「くうっ!」

 

次に撃龍槍を放つ。

 

「だぁぁぁぁ!」

 

そして龍の子の力を纏ったネセトで体当たりする。

 

「はぁぁ――ぁっ!?」

 

残念ながら先程の瓦礫で重さが更に増している。

易々と止められるとは思えない。

 

しかし追われるのも面倒くさいな……そうだ。

糸で撃龍槍を回収し、水銀で数人分の肉を奴に落とす。

蘇生に時間がかかるなら時間稼ぎになるだろう。

 

 

 

 

「う、わ、ぁ……何こ、れ。僕は知らない……」

 

突然ネセトから降ってきたのは人間の腕や腰、頭と判別出来るグロテスクな肉塊の数々だった。い

R-18Gな光景は彼の脳裏に永遠と焼き付くだろう。

 

「うわぁぁぁぁ!?」

 

 

 

 

しかし、王女は何処に行ったんだ?

鏖邪がいるから遠回りしたのだろうか……

 

ヴァァァァァァァ!!

 

……明らかに遠くから聞こえているのに大音量だな。

どんな体をしているんだか。

 

……

 

……くそっ、生存している事が分かっている以上、王女の反応を待ってしまう。

明確に死ねば忘れられるのに……素材が集まるまで辛抱だ。

 

 

お、大量の熱源を感知出来た。

どうする?

恐らく群衆だろうが、王女を気づかって穏便に出るか……

 

いや、面倒くさいな。

それにこの列に王女が居るとは限らない。

 

 

家や瓦礫を蹴飛ばしながら並走し、人間が少ない所で足を出して塞き止める。

人間は悲鳴をあげ、足を止める。

 

……駄目だな。

王女なら私の所へ走り、何かしら声をかけてくるだろう。

繭を割いて目でも確かめるがやはり王女はいない。

 

水銀でバネを作り、跳んで離れる。

 

 

バァン!!

 

 

一箇所の岩が軽くなる。

なるほど、発砲したのか。

どいつかは分からないが、だったら掃討しておけばいい。

私と戦う意思を示したんだ、望んだ結果だろう。

 

水銀を浮かす。

 

 

 

 

走る。

湖をぐるりと半周し、熱源が来るであろう道を走る。

 

空に浮かぶドラゴンの細い方が時折私を見るが、別に私が悪事を働いていない事を理解しているのか攻撃はしてこない。

 

しばらく逆走するが、中々王女の姿は見えない。

……まさか王女死んだか?

いや、ありえない。

例のバルファルクの攻撃に耐えたんだ、一発で死ぬ事はないだろう。

 

 

「たぁぁぁぁ!!」

 

……兎みたいな耳を生やした人型が目の前に跳んできた。

わざわざ真正面から飛んできた為、撃龍槍で刺しておく。

 

……撃龍槍に手を着いて回避しようとしたらしいが、腕が変な方向に曲がってから腹を貫いた様だ。

 

……なるほど、恐らく低速な攻撃と同じ対応をしようとしたのか。

逃げるだけの動物が何故勝てると思ったのは不思議だが、結局は中身が人間だからだろうな。

 

 

 

毒が撒かれたり、地割れが起きたり、闇や光、見えない何かが降り注いだりしたが、揃いも揃って本人が動かないため正面から踏み潰そうとしながら地面から水銀を生やして全員死んだ。

私は馬鹿ではないから水銀を生やすのにわざわざ地表で貯めない。

 

 

 

そして……

 

「はっ!」「雑魚が!」「いきがってんじゃねぇよ!」

 

瞬間移動を繰り返す奴に付き纏われている。

準備が出来た為、肺から水銀の針で体を刺し割く。

 

「がぁぁっ!?」

 

王女はまだだろうか。

 

 

 

 

 

ぜぇ、ぜぇ……

くそっ、流石に子供を三人抱えて全力疾走はキツいのう……

 

「大丈夫?」

「グッ……ァはぁっ、大丈夫、じゃぁ!わらわに、任せておけ!」

「い、いいよ、僕達は自分で走るよ……」

「いんや!……ンクッ、げほっ、今の、速度より、速いんだったらなぁ!」

「う、うぅ……」

 

わらわの側近達も老人や子供を運んでいる。

 

脳筋神選者じゃ逃走経路を整地する気配りをしないからの!

なんで危険な所で事の顛末を見なければならないんじゃ!死ぬわ!

歓声をあげる前に死ぬわ!というか余波で死ぬし流れ弾で死ぬし神選者の感覚はおかしい!

 

グニャッ

 

ぐあっ!?

 

「だぁぁっ、あっ、とぁっ!」

「「「うわわわぁぁ!?」」」

 

いったいのう……左足を挫いたか……

子供達を降ろす。

 

「すまん、もう抱えて走れん!後は頑張れ!」

「うん、いや、お前が動ける様になるまで――」

 

息を吸う。

 

「行け!!今はお荷物共が!!役に立つまで逃げ続けろクソガキが!!」

「えっ、でも今は動けないでしょ?」

「ふん、足が片方イった所でなんじゃ。一人なら動ける。それじゃあな!」

「あっ……」

 

わらわは右足で飛ぶように移動し、家の屋根を走っていく。

左足は添えるだけじゃ……ぐっ!?

 

 

 

足を滑らせて落下してもうた。

 

……側近が手を差し伸べてきた。

わらわが手を掴むとそのまま持ち上げられ、お姫様抱っこされた。

そして素早く別の側近が足を手当てする。

……帰る時にはネセトは行ってしまっておるかもしれないのう。

 

 

……――ォォ――……

 

 

なんの音じゃ?

地面が揺れ始める。

 

 

 

夜の中で大きな影がわらわ達に近づいてきた。

 

ガリガリと岩が擦れる音。

くぐもった金属の擦れる音。

そして一歩歩く事に家が、道が壊れる音。

 

そうじゃ、この孤独なシルエットは――

 

 

「ルカ!ただいまじゃ!」

 

 

ネセトの動きが止まる。

 

そして繭の中から叫び声が聞こえた。

 

「迎えに来たんだ、感謝の言葉の方が正しい。」

 

おお!

反応してくれた事にわらわは――

 

「ありがとうございます!大好きじゃよ!」

 

「……気持ち悪いな。」

 

え゛……




どもっす!
グレアドモスっす!
ぎゃぁぁぁぁ!!

撃龍槍で殴り飛ばした。
さて……
アトラルと バグりましょう!はいはいっ!バグりましょう!はいはい!音速になれって叫んだら私だー

なぜなに、教えて暇つぶし!サウナシュレイド城!』

ぐぅぅ……なんだ、この湿度は……糸がすぐ柔くなる。
ほらー私のーお腹ー冷たいよーはい、ラージャンー
無防備が過ぎるだろう……確かに冷たい。何故だ?
空気をー圧縮するとー温度がー高くなるーのー対策ー
ふーん……ダラみたいに脱皮してくれれば素材に出来たのにな……あ、ディアブロスが何故あの姿なのかは分かったか?では。


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衛星軌道上静止第三異砲搭載船(ものすっごいつよいほうだい)


予期せぬ形で心が生まれるアンドロイドは欠陥品だ。
一つの対処出来ない物に対して不自由かつ無能の証明となる『感情』を抱いたのだから。
連鎖的にネットワークにバグを引き起こす癌細胞は取り除かないとならない。

それを理解しない、考慮しない馬鹿が頂点の世界は転生者に乗っ取れる。


のよね
でも『カミサマ』が作り出した世界は、そこに渡る『主人公』が望んだ想像の世界が数百億年以上前に影響を与えるのが面白い所……だわ
「分かります!原理は分かっていてもとてもこの現象は面白いです!」
おいっ、簡単に次元を切り裂くんじゃぁないわ!
「ゲーセン通いしてる貴女を受け入れる事で手をうちましょう」
くそっ……私に選択権は無いのねっ!流石神様!
「いや、あの、特殊な生物なだけですよ……?」



倒れた者。

逃げた者。

交戦する者。

 

鏖邪はジエン・モーランの牙を破壊し、ロックラック全域を縄張りにすると決めた。

だから今、此処に縄張りを主張する生き物を全て排除する。

 

 

「熱的死!」

「タイムロック!」

 

 

龍の力が効果を鈍くする。

つまり奴の動きは止まらない。

 

大爆発を起こしながら突進して直線上の全てを打ち上げ、水を放出しながら急停止し、再び爆発を起こしながら辿異アノルパティスの様に人間を牙に刺し、砂漠へ突っ込む。

 

氷ならある程度の力がかかれば割れる。

だが、砂は割れるか?

水を潰す様な難しさだろう。

 

しかし鏖邪はおかしかった。

 

明らかに回転数が足りていないのにどんどん地中に潜っていく。

哀れな人が使われぬ肥料になるにも余り時間は必要ないだろう。

 

 

 

 

このレイドボス、明らかに強さが合ってない!

能力効果減衰に瞬間移動!?

勿論即死攻撃がシステム的に効く訳が無いと思ったが……

 

しかも既存の鏖魔だったら三回スタンする程の打撃与えているのに……設定がおかしいな!

 

 

『防御最高なら狩りは怖くない!』

 

 

仲間をかち上げるからと嫌われるハンマーを使っていた俺はモンハンの世界でそのスタンに至る数値を覚えている。

ハンマーのモーション値も覚えている。

何故なら俺がスタン値や滅気値、モーション値を計算し、数値を出した人間の一人だからだ。

 

そう、だからこそ堅実なたちまわ――

 

ガァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

とある神選者は鏖邪の突進で飛んでいき、海に落ちたという。

とても吹き飛び、水分不足で死んだらしい。

 

 

 

 

「援護せよ!」

『認識結果・始動命令』

「OK。」

『承認を確認』

 

月の軌道に近い長方形だった静止衛星が動き出す。

真空には漏れず、誰も聞く事の無い警告音を響かせながら変形する。

 

ウゥゥーーーーン、ガコン!

ガンッ、コンッコンッコンッコンッ。

 

唸りをあげながら変形し、伸びていく。

伸びた所を固定する小型の歯車や柱が動く。

 

二分で全長1500m、直径120mのほぼ円柱の物体と化した。

 

『添付映像、ないし対象情報の読み込み終了 追記要請』

「追記、更新共に無し。」

『承認を確認 注意喚起・対象から半径500mの安全は確保出来ません 砲撃時間・アラーム開始後30秒後、照準合わせを∞秒に設定 』

 

機械が唸りをあげる。

 

自己修復プロセスを異砲船とアンドロイドをリンクさせて組み込み、修復時に必要な資材を時折補充する事により、維持が不可能だと思われていた火力と究極的な安全の両立が実現した。

 

ヴ、ヴヴゥゥゥン!!蓄電池と変電器が唸る音。

ビシィッ、キィィィィン!!電気が駆け巡り、ショート対策の抵抗が悲鳴を上げる。

ゴォォォォオ!!ガス以外なら何においても換気は大事。

 

要所要所が赤く光り出す。

そして先程の変形時の音とは別の警告音が鳴り出す。

 

 

 

ウゥゥゥァァァァァァァァァァァゥゥゥゥゥン

ウゥゥゥァァァァァァァァァァァゥゥゥゥゥン

 

 

日本でいう国民保護サイレンの音が鳴り響く。

 

 

 

煌々と衛星の内部は赤く照らされている。

それを横目に黒い装備をつけた白いアンドロイドが白く照らされた通路を飛んでいく。

 

中央にあるのは僅か直径7mの管。

1mの厚さで出来たその管を扱うためにこの第三異砲船は存在する。

 

 

アンドロイドは残り10秒で射出監視室につく。

機械の算出した着弾地点と対象のブレを無くし、標的の動きを見定める役目がこのアンドロイドにあるからだ。

 

右手で自分の目の前に透明なボードを引き寄せ、そこに開いて0と1の奔流を操作する。

そして無機質な会話が始まる。

 

『施行・合致』

『添削結果・不能』

『再度施行・合致』

『再度添削結果・不能』

『再再度施行・合致』

『再再度添削結果・施行・メンテナンス・メンテナンス終了、調整事項提示』

『記録保存・リセット・施行・合致』

『合致確認、多重施行・開始、整合性確認、追従性確認、臨界値到達』

『継続捕捉成功・想定外対応範囲拡大』

『射出準備終了』

『待機』

『待機認証』

『捕捉成功中』

 

ガコン!ヴゥゥゥゥン!!

時々筒を囲む柱が所々で動く。

そして等間隔に配置された円に柱がくっついた物体が高速で回転する。

 

『【終末の楔(アルマゲドン)】全機構稼働率予定範囲内』

『予測結果・停止』

『記録参照・停止・射出』

 

 

ギィィッッ!!!

 

柱が装填された。

 

 

 

 

 

 

ふぅ……ぐっ、バフと慣れのお陰で大分対応出来るようになったが勝てる見込みが無いな……

砂を払い、剣を支柱にして立ち上がる。

 

……光が!?

 

 

 

竜が咆哮を始めたその時。

ただの棒が落ちてきた。

 

 

ほぼ光速で飛んできただけの棒―――

 

 

神選者の様に動きによる影響を中和する力がかかっていないそれは、空気を燃やし尽くしながら鏖邪を貫く。

勿論その程度で止まるはずが無く、地面に衝突し砂漠の砂が巻き上がる。

そのまま地盤を破壊し、惑星を貫き、そのまま裏側から何処かへ飛んでいった。

 

バルファルクより大きな規模で地形が蒸発したのだった。

 

『リセットアタック開始』

『照準継続捕捉中』

『0』

 

一度全機構を冷やし、メンテナンスを行う為にまずは余剰電力を一気に減らさなければならない。

グラビモスと同じ理由で放たれたビームは第二異砲船と同等以上の威力を叩き出す。

 

砂漠に開いた深淵に続くかと思う程に開いていく穴。

余波が吹き荒れていても宇宙には届かない。

 

電気の柱が追い討ちをかけるように衝突する。

そして大量の電気に引き寄せられ、沸騰し、気化しかけているマグマが穴を埋めていく。

 

大量の神選者やロックラック村が消失したがどうでもいい。

そして……

 

『ピロリン♪』

 

散らばったり影になった神選者の腕から音が鳴る。

今回のクエストの報酬だ。

 

「ばんざーい!」

「「ばんざーい!」」

 

衛星軌道上静止第三異砲搭載船の制作に関わった神選者に素材が配られたのだ。

ついでにライバルプレイヤーが落ちた、これほど喜ばしい事は無いだろう。

 

 

 

 

ぐぅぅっ!!

 

バガァン!ズサァァァァ!

 

二層解除!!

 

 

突然の衝撃波により、私が……ネセトが吹き飛び砂漠を転がる。

脆くバランスを崩すだけの外側の瓦礫を解き、水銀で全身にスパイクを作りながら糸で体を出来るだけ丸める。

 

数分間転がり続け、やっと停止する。

 

「ルカぁぁ!後ろやっばいのじゃぁぁぁ!!」

「ァァァァァ!?」

 

普段から考えられない王女の叫びに私は反応した。

ウイルスを撒き、何かから逃げ出す。

追ってこないなら別の叫び方があるだろうからな。

 

ウイルスは一瞬とても温度の高い反応を示してから消えていく。

よく分からないが、先程から巻き上がる音が近づいてきている……一体なん―――

 

 

 

 

白き龍はイラつく。

 

「……ちっ、落ち着いてエキスパも出来ないじゃないの。」

「壊す?壊す?あはははは!?」

「……大丈夫よ。」

 

それでも今回は明確には手を出さない。

モンスター1匹に対して人間が大量に死んだからだ。

 

「ただ……蘇生は妨害するわ。」

 

蒼き光が白き龍から放たれる。

呼応する様に光が大波が起こっている砂漠を撫でる。

 

「あと……ありがとうね、ヨグちゃん。」

『あ、いえいえー。仕組みを理解すれば死に戻りを解除するのは簡単ですからね。』

 

スバルに誰かが付与した能力はナニかに剥がされていた。

その世界では分からなくても異世界にはやり方があったのだろう。

 

『失敗を失敗する前からやり直す』

 

それを白き龍はとても嫌っていた。

何故なrashi.rkru.mjgajpmgdtiml―rizero.delete

 

 

 

『……よしよし、これで完全に終わりましたね。えっと……隙有都合、ですかね?』




『防御最高なら狩りは怖くない!』
打ち切り

『死に戻りがバグったそうです。』
消去


「実は…この創作などが…大量に消えました。」
「やるじゃねぇか!やったぜ、ピース。」
「触手でピース出来てないです……」
「…俺、混沌なんだよ。だからさ…ティンダロスへこのまま俺と仲良くなりにいくぞ!」
「ごまかしましたね…」
「でもはしゃぐんじゃねぇぞ?全世界終わっちまうからよぉ!」
「…その時はしゃいでるの私ですか?」
「「クトゥルフ神話。クトゥルフ神話、暴走途中」」


「……突然、何故?」
「…俺、混沌なんだよ。だからさ…」
「もういいです……」


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生存能力


~『プリンシバル・スター!』『プリンシバル・スター!』
「流石にこれで……っ!?」
~『テトリスかな』『テトリスかな』『たーいへーんだー』『シアン』『セルリアン』『シアン』
「……」

「ぐわぁぁぁぁっ、いや、まだやれる!」
「……ふっ。その位置のおじゃまとこれから現れる形から考えられる組み方は既に私の領域です。」
「くっ……!」



2日後の朝。

 

遠くで未だ黒い煙が上がっている光景が見えるだろう。

突如砂が盛り上がり、岩の頭が顔を出す。

 

 

 

……。

やっと地上だ。

 

 

あの衝撃波の中、なんとかネセトは形状は保っていた。

だが、即席の王女の空間はネセトと砂の重さに潰れてしまった。

 

そこで王女は死んだかと思ったが、普通に生きていた。

とはいえ、呼吸はしているが気絶している。

 

周りの側近は即死したのだろう……

 

積んでいた肉を絞り、液体を出す。

それを王女に飲ませながら砂の中からネセトを引きずり出そうと二日間行動していた。

 

そしてネセトの全長より数倍厚く積もった砂からネセトを出した、という訳だ。

……さて、と。

 

水銀を這わせ、分解しないととれない中に入った岩を削りとる。

 

別に私は街に行く必要は無い。

ハルドメルグに関する目的は果たしたのだから。

 

……とは言っても、王女をこのまま見殺しにするのもな。

近くに村があったらいいのだが。

 

……どこに向かって走ればいい?

 

 

 

 

ただひたすらに砂漠が続いていたが、昼ぐらいに遠くに家が複数建っている場所が見えた。

……しょうがない。

 

 

そのまま人間を踏まないように走り込み、死体と共に王女を落とす。

悲鳴が聞こえるがそれなら安心だ。

 

そのまま私は走り去る。

 

 

 

「……っ!?」

 

……ぁ…

 

「a、okitazooo!!」

 

……?

 

「daizyobu?doこkaitandariしnai?」

 

………

 

「君waookiな鉄のkaibutuかra出てきtandayo。」

 

………?

 

「……君no名前は?」

 

……名前……君、わらわ、私。

 

「わ、たしの名前は――」

 

ぁ……ぅ……私の名前は……

 

「ル、カ?」

 

……っ!?

黄色い、影が過ぎった、気が……

 

……気の所為?

 

 

 

 

 

 

 

そのまま走る。

そのまま走る。

 

サバンナを過ぎ、緑の多い土地へ入る。

 

水分とって、絞ってない死体を食べて、また走る。

 

何故私は走っているのだろうか。

……意味など無いのが普通か。

 

そして大きな木を中心とした森に着いた。

しばらく歩き、水のある場所に着いた。

 

よし、洗うか。

 

パニックになっている草食竜や、威嚇してくる肉食竜を蹴り飛ばす。

そして纏っていた岩を糸で層毎に固めて外す。

 

水銀の球を外に出し、ネセトを分解し、水銀で掴んで水に突っ込む。

同時に撃龍槍をゴアの翼で水洗いする。

撃龍槍もネセトの部位も振り回して水を払う。

 

周りを見る。

 

ここは……なんだったか。

そうだ、ここは樹海。

樹海に住む知能ある種族はチャチャブーか。

……

 

「……キュイキュイ!」

 

睨みつけると叫び返してきた。

……無視するか。

 

糸をタオルの様に束ねて水を拭う。

一本ではふやけてしまうが、十本なら打ち消す事が出来る。

 

……

 

……

 

何故か疲れるな。

ネセトを構築し直す。

 

「キュィァァァ!」

 

何故か先程のチャチャブーが襲ってくる。

面倒くさいし踊り食いしよう。

 

 

 

岩を纏い直し、ネセトに乗って周辺を歩く。

はっきり言ってネセトが歩ける場所がほぼない。

 

撃龍槍と水銀の槌で破壊し、通りやすい様にする。

しばらくここに住むつもりだから別にいいだろう。

 

遠くに塔が見えるな……後で向かうとしようか。

 

木の中に大きな空間がありそうだった為、ネセトが通れない木の穴を蹴り破る。

中は明るく、エスピナスが横になっていた。

念の為に踏み潰しておこう。

 

ネセトを震わせて軋ませ、咆哮する。

 

ヴォォォォォォン!!

 

……よし。

まずは水銀で岩を破壊し、ネセトを置く空間を確保する。

 

……糸を使い、忌々しい蜘蛛の様に巣を作る。

確か縦の糸は粘着力がほぼ無かった筈。

大量に虫がひっかかればありがたい。

 

巣を作った後、ネセトを付近の岩などに固定する。

がんじがらめに固定し、誰にも動かされない様にする。

 

撃龍槍を背負って、笛を担ぎ、縄張りに蔓延る者共を排除しに歩き出す。

 

 

 

 

ナルガクルガが目の前に降りてきた。

 

「ヴァゥァゥァァァァ――アッ!?」

 

撃龍槍を振り下ろすが、避けられる。

だが、撃龍槍が起こす振動にその威力を感じたのかナルガは私を見定める様に距離をとる。

……そして新たな小さい熱源がやってきた。

 

「なっ……アトラル・カ!?」

「ほー、笛を持ってる。」

 

ナルガを睨み、それからゆっくりと振り向く。

ハンターは三人。

まだまだ装備が整っていない下位ハンターだ。

 

私はハンターに一歩近づく。

調子に乗っているのか、実力があるのかは分からないがハンターも私に向かって歩きながら得物を構える。

 

そんな緊張の一瞬を理解出来ないナルガが背後から飛びかかってくる。

ウイルスで察知し、ゴアの翼を生やして頭を掴み、そのままハンターに投げつけて撃龍槍も投げつけて、ついでに糸を放って岩を投げつける。

 

纏めて死んだため糸で纏める。

それから撃龍槍に刺してまた巡回を始める。

 

途中で思い直し、ハンターの死体は捨てておく。

肉食竜にお零れを与えた方がいざこざが起きないだろう。

 

 

痛っ……!

次はジンオウガが近くにいるようだ、痛い。

 

空中を飛び交う雷光虫が痛い。

ウイルスを普段より過剰に撒く。すると雷光虫が離れていく。

しばらくすると雷光虫の動きは収まり、光が無くなる。

 

アビオルグの咆哮が聞こえた。

 

 

 

……

 

終わっている。

私がやるべき事は縄張りを巡るだけ。

 

……古龍は何故、縄張りを無闇矢鱈に広げようとしないのだろうか。

それとも何かそういう深層心理があるのか。

まぁ虫には分かるはずがない。

 

 

 

ネセトの所に戻り、撃龍槍を研ぐ。

鎌を齧り、身だしなみを整える。

 

……縄張りを巡回する。

 

……ネセトの所に戻り、鎌を噛む。

 

……縄張りを少し広げ、また鎌を噛む。

 

……暇だ。

誰とも関わらない事に即座に慣れるのは大変かもしれない。

 

ナルガクルガを解体し、臓物をきちんと仕分ける。

血の匂いを嗅ぎつけてかドスランポスを筆頭に肉食竜がよってきた。

 

ゴアの翼を生やし、地面に叩きつけて私は叫ぶ。

 

……よし、ゆっくりと下がっていった。

 

まぁ……腸を引きずり出し、ドスランポスに投げつける。

 

「キィァァァァァァ!!」

「アウッ、アー」

 

バシィン!!

「クルルルッ、キィィィッ!」

ドンッドンッ!!

 

叫びながら笛を振り回し、ゴアの翼で地面を叩く。

肉食竜達は流石に危機感を感じたのか穴から戻っていった。

 

……ラングロトラに怯えていた私は何処にいったのだろう。

リオレウスに怯えていた私は何処にいったのだろう。

ejbcsptに怯えてい―――た……?

 

……ディアブロス。

モノブロス。ネルスキュラ亜種。

fjbcspt。ダイミョウザザミ亜種。

wiban。ティガレックス。

イビルジョー。kmtwwnka……

 

これは白いもやか?

忘却したのか……?

 

いや、私は覚えている。

あの爪を。

あの牙を。

あの咆哮を。

あの翼を。

 

……いやまぁ、強さはティガレックスくらいだったが。

それでなきゃ私は死んでいる。

はぁ……

 

 

焦るな。仮定を仮定として受け入れろ。

 

 

きっと神選者はこの世に干渉しているのだろう。

王女は神選者が都合よく世界を変えていると。

考えてみればあの程度の数では世界が成り立たない筈だ。

どうして私は気づかなかったのだろうか。

 

……しかし、気づいた所で私に何か出来る訳でもない。

 

ネセトに乗り、繭を作って索敵用の糸を散らす。

明日は明日の風が吹くだろう。

所詮、運命など後出しジャンケンだ。

都合よく敵にも味方にもなる。

 

さぁ、寝よう。

 

 

 

 

 

「ほー、ほー。なるほどねぇ。」

「……近づけぬ。」

「明日でいーんじゃね?すぐ出発する様には見えないし。」

 




「強いわ……勝てない……」
「そりゃ勝てないだろ……ボレアスにパズルで挑むのは愚の直行だぞ。」
「私だって全ての組み方は分かっているのに……なんで!?」
「そりゃ俺達より頭いいんだから……」

「ぷよテトに勝ったから酒池肉林でストレッチしたい」
「支離滅裂な発言・思考」
「やめろ」


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挨拶と共に一発


スマブラにリオレウス登場ですって奥さん!
お、おぉ、そうk……そうですか。
つまりアトラル・ネセトが戦場になるのでは!?
は?
ちょまっ――

カキーン!ズシャァッ!ゲームセッ!



……

 

起きると目の前に刃が刺さっていた。

薄く鋭いそれをよく見ると、普通のナルガとは違う種類の様だ……

 

笛の柄で掘り返す。どうやらほぼ真上から刺さっているようだ……白疾風なら高さ的に天井の巣を破壊するし、落下時に派手な音が鳴るらしい。

……寝ている間に近づき、わざと刃を刺していったのか?

つまり私やクイーンと同じ奴だろうか。

 

撃龍槍を背負い、笛を持ち直す。

木の内側から出ると点々と鱗が刺さっている。

 

回収しながら辿っていく途中でアプトノスが私の横を走っていった……ただ歩いているだけでは別地域の肉食虫に警戒はしないか。

 

まだ刃は続いている。

激しく水が吹き飛ぶ音が聞こえる。

 

雷光虫が光り輝くが触れても雷は発しない……

慎重にウイルスを振りまきながら様子を伺う。

 

っ!?

 

笛と刃がぶつかる。

鱗ではなく翼のだ。

 

ギシリと笛と刃が擦れ、そいつはギロリとこちらを睨んできた。

 

いつの間にかナルガは私の正面に堂々と立っていた。

口を開く。

 

「寸止め予定とはいえ、拙者の攻撃を受け止めるとは……素直に驚かさせて頂きました。」

 

こいつもバルファルクか。

つまり今、湖からあがり体を震わせて乾かしているジンオウガも……

 

「よっ!初めてだな、私はジンオウガだ!」

 

こっちも人間の様に喋るのか……おかしいだろう。

愚痴を思った所で喋れる様にはなれないのだから人間の姿に変わる。

撃龍槍は横に置く。

 

「どうして私をここに?確実に殺す為か?」

 

奴らは顔を見合わせる。

そしてジンオウガが先にこちらを見、話してくる。

 

「ここは私達の縄張りだからな!会話が成立して、高度な知能を持つ奴には挨拶をしてるのさ!」

「ですがここを縄張りにしてもらって構いません。拙者達は人間共から環境を守っているだけですので。」

 

……余り気分は良くないが、神選者が私に攻撃してきた時に助けてくれそうだ。

安全が確保出来るなら良いか。

 

「そうか。それでは――」

「ちょぉっ、と待ちなぁ!」

 

草を焼き尽くしながらジンオウガが振り向いた方向に割り込んでくる。

一々大げさ過ぎないか?

 

「ちょっと遊んでいけ。」

「は?」

「じゃなきゃここにわざわざ呼んだ意味が無いだrrrるぉ!?」

 

ナルガの鱗だったのだが……ナルガを見る。

 

それに気づいたナルガは――にっこりと笑った。

グルか……

 

「いや、私は水が嫌いなので残念ながら――」

 

バシリ!!

 

「そぉいぃ!!」

「うっ!?」

 

周囲の雷光虫が光った瞬間、私は吹き飛んでいた。

水面で二回跳ねた後に右腕に痛みが走った事を分かった瞬間に私は何も考えれない状態に化した。

 

 

 

「やっば……あー、頼んだ。」

「手加減を忘れたから……ですな。」

 

流石に威力が高く、対岸の土壁まで吹き飛んでしまった。

確かに拙者なら抑えられ、尚且つ拙者の刃を受け止める実力が彼女にはあるものの、人間姿では踏ん張る事が出来ないであろう……

 

尻尾を振ってタイミングを作り、湖をひとっ飛びする。

そこに力なくゴアの翼を出しながらアトラル・カ倒れていた。

なるほどなるほど、外的要因による気絶だとルーツの隠蔽能力が止まる、と……

 

尻尾で乗せ、今度は上空に跳ね上がり、滑空して彼女の元へ戻る。

 

「ただいま戻りました。」

「ほいほい……本当にゴアの力を内包してるなんてね。」

「気づいてないようですが、極限化による肉質硬化によって助かったのですよ。」

「うぐっ……ま、まぁいいわ。電気ショックで元に戻す。」

 

 

 

――ぐぁぁぁっ!?

 

四肢が千切れ、岩に挟まれ、拗られる様な痛みで飛び起きる。

すかさず距離をとるとオウガはこっちを満足げに見る。

 

「あ、起きた。」

「……はぁ。」

「くっ……」

 

ナルガは微妙な顔をしたあと、オウガの話に合わせる様に顔を横に振る。

……遊ぶ為に突然殴りかかってくるような異常思考を持つような奴とは近くに居たくない。帰らせてもらおう。

 

「ちょぉっ、と待ちなぁ!」

 

ジンオウガが先程と全く同じ軌道で回ってくる。

再び殴られるのは御免なので飛び退いてナルガの後ろに隠れる。

 

「ギィィィィ……」

「ちょっ……警戒しないでよ。」

「……」

「拙者もアトラル殿に同情します。」

「(´・ω・`)そんなー」

 

悲しそうな声とは裏腹に、雷光虫の光が増して壁を作り始める。

もしかして私を逃さない気か?

私を狩るメリットは皆無だと思うが。

 

「グォゥ……ゥウォオオオオオオンッッ!!!」

 

少し呻いた後に遠くまで響き渡る咆哮をする。

 

「また勝手な……すいません、アトラル殿。申し訳ないのですが、子供の相手をしてくれませんか?」

「コルルォ……」

 

子供?確かに言語が通じれば種類が違えどもペアにはなるのか?

 

「ウォォォォン!」

「ウォォォォン!」

「「ウォォォォン!!」」

 

……あちこちからジンオウガの咆哮が聞こえるのだが。

一層雷光虫の輝きが強くなる……なるほど?子供か……よーく分かった。

 

がさりと森が鳴り、どしんと地が揺れる。

その後、雷光虫の壁を突き破ってきたのは大量のジンオウガだった。

 

「ワウッ!」

「オォォン、ウオン」

「ガウッ、ウォオン」

 

……多種多様のジンオウガだ。

ある範囲は黒い虫が飛び、ある所には小さい隕石が落ち、緑色と金色の光が乱れる所もある。

 

 

そして、極み吼えるジンオウガが4体見えるのだが。

この世の終わりか?

 

 

小さいオウガが見たことない造形の私に興味を示したようだ。

 

 

なるほど……ちっ。

生憎私は雷を暴発させる危険な爆弾とじゃれあう気は無い。

 

笛を振り回し、即興で音楽を紡ぐ。

王女に音楽に関する面倒くさい注意事項を教えられたんだ、雨音より心地良いだろう。

 

……静かに伏せて聞くオウガ。

お構い無しにじゃれあうオウガ。

そして私に纏わりつこうとするオウガがいる。

 

流石に纏わりついてくるオウガはゴアの翼で威嚇する。

それでも無視した奴は保護者がはしゃいでいる湖の方に投げる。

 

「別に湖で一緒に……」

「♪~♪~(私はゴアの翼で追い払う動作をする)」

「ちぇっ……」

 

私は水に入るのは嫌いだ。

いい加減にしろと……っ!?

 

バシリとこちらに雷が走ってくる。

 

「あ、極み吼えるジンオウガは軽く戦闘したいようだ!」

 

巫山戯るな……突進を避ける。

小さいオウガは離れていった。

 

オウガは雷光虫を振り撒き、ドーム場に雷を発生させる。

私は全身に雷が流れるのを感じながら翼でオウガを掴み、強制的に中断させる。

 

翼を振りほどき、地を砕きながら滑ってきた所を避け、反撃に笛を叩きつける。

今度は体を捻りながら空中で薄く雷光虫を振り撒いた。

なるほど、分かりやすい。

 

私の脚とゴアの翼でかなり飛び退く。

強烈な雷が地を巻き上げながら天へ登る……私を殺しにかかっているのか?

 

糸で岩を投げつけるが回避され、お手を笛で受け止める。

一時的な勢いに負けそうになるが、力比べなら我々の種族には大体が分が悪いだろう。

段々と押し返し、バチバチとなる空間ごと引っくり返す。

 

起き上がる前に強引に糸で引き寄せ、鎌で脇腹に傷をつける。

痛みのせいか、オウガは飛び退く。

 

「ウゥルォォォ……!」

 

威嚇をしてきた。

その隙に笛を振りかぶりながら近づく。

 

 

 

「すとーっぷ!」

 

例のジンオウガがそう叫ぶとオウガの動きは止まった。

ナルガが感心した様な目で私を見ながら笛に刃を添えていた。

 

「本当に拙者の刃を止めたのはマグレではなかったと……よく極み吼えるジンオウガの初手突進を察しましたね。」

「クルルルィィィ……」

 

そんな事よりこの地獄をどうにかしろ。

大量のジンオウガの影響で雷光虫が痛いし、オウガの子供は様々な虫のお陰でか、かなりじゃれあいが激しくて流れ弾が飛んできそうだ。

というかナルガも雷に弱いのでは……愛の力とやらか?

 

 

 

結局夜になり、解散した後に戻ってきた。

ナルガの死体を食い、ネセトを点検する。

 

……

 

「何か用か?」

「……すまぬ。」

 

ナルガクルガが草から出てくる。

圧倒的強者が抱える面倒事には死にたくないため関わりたくない。

 

「私はゴアの力がある。隠れるのは不可能に近いぞ。」

「なるほど……実は一つ頼みたい事があります。」

「面倒事は嫌なのだが?」

「今度やってくる神選者を殺さないで追い返してくれないですか?」

「……?」

 

全員殺しておけば寄り付かなくなるはず……

 

「危険地帯が出来るとより強力な神選者が来るのです……」

「アトラルが居ると広めるのはいいのか?」

「はっきり言って、アトラル殿『程度』他の奴にも倒せるだろうという強者は拙者達にも辛い場合があります。アトラル殿『なら』倒せると思う者なら私達が駆除しますので。」

「……感謝する。」

 

なるほど、私で強烈な奴が来る可能性を減らし、弱者は削っていくのか。

利用されるが、身の安全が守られるのはありがたい。

 

ナルガは消えた。

ウイルスの反応が無いため、一瞬で移動したのだろう。

 




……でも長期戦闘は嫌だな。
そんな時にはこれです!
はいなんでしょうクイーン?
この青い竜が便利ですね!
……!


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犠牲の犠牲にな!


死は死を呼ぶ



ジンオウガの集会に巻き込まれて4日後。

ナルガクルガに取っ手を回すと装飾品の嵌めるところが出てくると教えられ、笛に操核を嵌めてから2日後。

 

笛にゆっくり水銀を纏わせ始める。

 

「アウッ!アウアウ!」

 

威嚇して距離を取るランポスに向けて笛を振り下ろす。

一気に水銀を大剣に変え、ランポスを叩き切る。

 

……残念、水銀の力だけで叩ききってしまった。

理想は私の力と水銀を操作する力が合わさる事だが……まぁ一朝一夕で出来たらもっと大規模に水銀を精製出来るだろう。

 

一度水銀を解除し、糸でランポスを直す。サンドバッグだ。

再び笛を構え、水銀を纏わせる。

 

「……キイッ!」

 

……駄目だ、まだまだ水銀と私が釣り合ってない。

力任せだったり運送は出来るが、水銀が一番搦手に使えるのだからそれを実現させなければならない……

 

 

 

突然、ナルガが私の後方に現れた。

ウイルスの感知より圧倒的に速い。

 

「なんだ?」

「現在ハンターが4人、こちらに向かっております。危篤状態にする準備を。」

「……そうか。」

「これにて。」

 

そう言い残してナルガは消えた。

ウイルスが乱された跡のみが進行方向を示す。

 

どうすればいいのだろうか……

手加減する以外に思いつかないな。

 

 

そしてハンターは何を目的に来るのだ?

 

 

 

 

 

 

 

よし、到着だ。

 

「みんな、いつも通り!」

 

セナと僕はキャンプを建てる。

サヤは周囲の警戒を、シャーリーは木や飯盒の容器などを。

 

「よし、終了!」

「装備を整えてから行くとしましょう!」

 

 

そして装備のチェックが終わり、辿異種エスピナスが居ると思われる巨大な木に向かおうとキャンプを出た。

 

そして僕は違和感を覚える。

風が吹き、そして気づく。

 

「静かすぎる……!?」

「確かに。古龍でも来たのでござろうか?」

「でも古龍の襲来なんて……」

「いや、手違いとかあったのかもしれない。出来るだけ離れないで行こう。」

 

慎重に、周囲を警戒しながら進む。

 

 

 

そして黄色い糸が木の穴を塞いでいた。

 

「……っ!?あれは、アトラル・カの糸?」

「分かりません、もう少し近づきましょう。」

 

僕達は一歩足を踏み出した。

 

すると頭上から黄色い影が降りてきた!

 

「キィィィィィ!!」

 

鎌を振り上げながら威嚇するその姿は久しい。

 

「アトラル・カだ!」

「いくでござる!『絶空剣』!」

 

サヤの蒼龍刀が抜かれ、アトラル・カを襲う。

空気を裂く白色の刃が敵を包む。

 

「くっ!?」

「……」

 

しかし鎌が異常に硬いのか、傷さえ余りつかずに刀を抑えられた。

僕は大剣を構え、走る。そして――

 

「『地衝破斬』!」

 

大剣とそれを追う衝撃波をアトラルに……!?

視界に広がるのは一面の黒色だった。

 

「えっ!?」

「ダン君!あ、アトラルからゴアの翼が!」

 

急いでサヤと共に下がる。

異様に静かだったのはゴアの力が周囲に影響を与えていたという事か。

 

まさか、『黒き翼を持つ女王』の噂は本当だったのか!?

そうすると、マキリ・ノワと対峙した事のある歴戦の猛者という事に……

 

アトラル・からは糸を上に放っている。

 

「はぁっ!『破岩斬』……っ!」

 

本来なら切った敵を通り過ぎるはずの攻撃が、上空から落ちてきた何かに防がれた!

……笛?

 

「情けないですわね。ふん――喰らいなさい!『バレットダンス』!!」

 

シャーリーが銃を持って瞑想したあと、光を纏った大量の弾丸が放たれる!

 

バンバンバンバン!!!

 

金属質な何かに当たる音がした。

謎の銀色の何か……は、一瞬で形を崩しサヤが弾かれて転がってくる。

 

「くっ、このアトラル・カ、おかしいでごさる!」

「でもここに居るのは事実よ。」

「銀色の盾ってなんですの!?」

 

皆の叫び声が遠くに聞こえる。

僕はある事に気づいた。

 

笛を持つアトラル・カ。

 

最近は全く話題に上がらかなかったその個体……残奏姫アトラル・カ。

異常な知能を持つとされていたのだから、鳴りを潜めて静かに強くなっていたのかもしれない……!

 

ならば、逃げられる前にここで倒さなきゃ!

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!!」

 

……あんなに時間をかけて考えついた行動が突進?

こいつも頭がいかれてるな……笛を叩きつける。

回避して大剣を振り下ろしてきたのだからゴアの翼で払う。

 

「斬鉄剣!!」

 

かなりの速度で突っ込んでくるがこの笛を破壊できない以上、私に致命的な一撃は与えられないだろう。

銃を構える女を中心に水銀の柱を生やして吹き飛ばす。

再び大剣が突っ込んでくるが、笛に水銀を纏わせ大剣のガードごと殴る。

 

「エネルギーブレイドぉぉ!!」

 

私の死角から巨大な光剣が発生、地面を切り裂きながら振り上げてくる。

予備動作は長いし、ウイルスの感知から逃げていた訳でもないから避けるのは容易かった。

 

「剛膜剣――うわっ!?」

 

再び私に近づいた女を掴み、チャアクに投げる。

糸を飛ばして大剣を取り上げ、男を引き寄せ掴んで遠くに投げる。

 

銀で壁を作り、銃弾を防いだら水銀に埋める。

そして水銀を振り回し、解除して遠くに投げ飛ばす。

 

「ここは私が――っ!?」

 

チャアクの盾を相手は突き出した。

翼で盾ごと握りつぶす。

逃げようとした女も水銀で串刺しにする。

 

「がはっ……!」

 

……そうだ。

周辺の木を見渡す。

 

意識ある女の首と腰と四肢を縛り、空中に吊り上げる。

そしてしばらく待つ。

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

なんでサヤが宙吊りに!?

 

「サヤを離せ!」

「……」

 

アトラル・カは何も反応を示さない……と思ったら動き出した。

鎌を口に持っていき……

 

「キッキッキッキッキィィィ」

 

まさか、高笑い……!?

こいつ!殺す!

 

「サヤ、待ってろ!!」

 

ナイフを構え、走り出す。

アトラル・カを倒して――

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!」

 

サヤ……ぇ……?

 

 

 

 

首を掻き毟る女を見て硬直した男をゴアの翼で掴む。

 

「う、わぁぁぁぁ!!」

 

今度は振りかぶり、全力で投げる。

余り奇妙な現象は起きなかったが、神選者だったのだろうか?

 

……とりあえず終わったな。

笛を吹く必要性も無かった。

 

首に痕がつくほど掻きむしった後に力が抜けたのか糞尿が落ちてくる。

ランポスが来るだろうし、地面に降ろしておけば処理してくれるか。

 

さて、パニック状態なら会話が困難だから少しだけ時間稼ぎが出来るだろう。

今のうちに色々と仕込んでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

樹海近くの中継地点

 

 

 

今日も平和な一日……の筈だったのに……

 

「なか、仲間が、サヤが、アトラル・カに殺された、早く助けを!!」

 

日常茶飯事の事ですか、やはり慣れませんね……

 

「では被害状況の質問をさせていただきますので、こちらの部屋へ。」

「あ、ああ!」

 

男性を連れて部屋を移動する。

インクと万年筆と紙を取り出し、マニュアル通りに質問する。

 

「今回は辿異種エスピナスの討伐でしたが、実際はアトラル・カに倒されたという事ですね?」

「しか、しかも、アトラル・カからはゴア、ゴアの翼が……」

 

はぁ……こうやってすぐ錯乱する人が出る。

モンスターが合体したら死にますからね……普通の人間なら分かるはずです。

 

「落ち着いてください。ゆっくり狩りの手順を追って説明してください。」

「え、えっと……四人で木の洞に入ろうと思ったけど、アトラルの糸で防がれていて、上から出てきたアトラル・カをさ、サヤが斬ろうとしたら余りダメージが無くて、笛を構えて、僕はゴアの翼に投げ飛ばされて、アトラル・カの所に走ったら……ハァッ、ハァッ!!」

 

過呼吸……メンタルが弱いですね。

経歴から別に人が死ぬところなんて数回は見てるでしょうに……

 

それにしても、笛、か……

もしかして一時期警戒リストに上がった残奏姫アトラル・カ?

 

しかしゴアの翼……見間違えだとしたら投げ飛ばされたという発言がよく分からない。棒(爪)に殴られた、ならまだ分かるのに。

とりあえず報告しよう――

 

 

 

「何言ってんの?アトラル・カにゴアの翼が生えてる?」

「はい、生き残ったハンターは――」

「馬鹿な事言ってないでさっさと残奏姫への警戒案を出しなさい!」

 

ギルドマスターに否定されたならしょうがない……

では、対残奏姫のパーティを集めるとしましょう。経理部のあの人は嫌だけど……




ちなみに撃龍槍は担いでいましたが、手加減しても千切れそうなので使いませんでした
そして辿異種エスピナスは潰されています(400相当)


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残奏姫の不運


gggggggggggggggggガァァッ!

うわ、珍しくルーツが吠えて……台パンやめろ。

1.2倍速ハイテンション効果人超身体禁止縛りであのトリル取り切れんわ!!捻り間に合わん、もしくは通り過ぎるし!

また体の操縦精度と状況把握能力上げてるよ……



……次から来る奴は皆殺しにしたいな。

 

明朗快活に生きよう……という思考をする程に頭が狂ってしまったが、とりあえず対策を練り上げた。

 

まず素材玉に必要なネンチャク草と石ころを笛で粉砕、混ぜ合わせる。

 

「ここに。」

「そこに置け。」

 

大量のドキドキノコをナルガから受け取る。

水銀で器を作り、ドキドキノコをすり潰す……?…?――

 

「――起きてください!!」

 

っ!?

頭を抑える……なるほど、ドキドキノコの作用で気絶しかけたのか。

糸で擬似的なマスクを作り、口を覆う。無いよりは多分マシだろう。

 

「身をもって体感した……今からここら辺は危険になる。帰れ。」

「はっ。」

 

粉末と化したドキドキノコに水を入れ、ゴアの翼で掻き混ぜてよく細かくする。

そして事前に作った人間の手のひらサイズの素材玉を投入し、染み込ませる。

 

なんでこれで転移するのかが疑問なのだが……

 

水が蒸発すれば『劣化モドリ玉』の完成だ。

ちなみに本当のモドリ玉を作るたいなら古龍の血が必要だが、今回は要らない。

 

劣化モドリ玉は破裂時の質量の偏りによって飛ぶ方向と距離が決まる。

範囲は確か煙の濃度が40〜60%以上の場所の為、出来るだけ染み込ませた方がいい……のだが、今回は数個入れるだけでいい。

 

後は水銀の容器を複数作り、ドキドキノコの液体を分ける。

ネンチャク草をすり潰し、入れる。

 

液体を掻き回し、それぞれの器が均等にぬめるまで続ける。

水銀を丸くし、内容物が零れないようにしてから散策、竜の巣の卵を盗って割り、中の物を逆さまにして出す。

 

そしてドキドキノコの液体を水銀に薄く広げて水が蒸発するのを待つ。

 

 

三時間後

 

 

ナルガの死体を食い終わった。

液体のチェックをするとかなり乾いていたため、卵の中に入れる。

そしてネセトの内部に保存する。

 

……撃龍槍を磨いてから縄張りを巡回する。

別にハンターだけが敵ではないのだ、縄張りは主張しないと。

 

 

 

 

次の日の早朝

 

 

「――きろぉぉぉ!!」

 

うっ!?

突然の大声に痙攣しながら跳ね起きる。

 

急いで距離を取り、ジンオウガを見る。

 

「コロロロ……?」

「襲撃だ、襲撃!迎撃準備しとけ!」

「キィィ、キァァァ……」

 

何故私にそれを伝える……?

善意か?

まぁ、どうだっていい。

 

 

ネセトに乗り込み、糸を切り離して動かし外に出る。

複数人のハンターがそれぞれ得物を持っていた。

 

水銀を空中に滞留させてから柱に変えて潰す。

二人は装備の硬さで生き残ったが、そのまま柱を変形させて掴み、潰す。

 

……そして椅子に座ったままこちらに神選者が飛んできた。

 

「『既死の兵士《アンデットアーミー》』」

 

新品の死体が立ち上がるが、別に機動性が高くなったわけでもないのだからさっさとネセトの足で蹴り飛ばす。

骨が折れて立てなくなった死体から水銀でミンチにする。

 

「ふん、『死の兆し』」

 

……突然、ウイルスが大量に死んだ。

さっさと排出する。

 

水銀を槍にし、龍の力を纏わせてぶつけるが火花が飛び散るだけで一切貫通しそうにない。

 

「えっ、効かない……!?『バイオエクスプレス』!!」

 

……ウイルスが激しく蠢き出す。

無視し、撃龍槍を口から放つ。

 

「ぐうっ!」

 

水銀で敵の視界を妨害し、ジャンプする。

 

「くそっ、何処に――!?」

 

ネセトの体重を一本の足にかけ、バリアを水銀で足と繋げて空中から押し落とす。

念力の奴とは違い、物理的な攻撃で壊せるようだ。

 

「いや、た、助けて!」

 

バリアにヒビが入る。

水銀と糸で撃龍槍を回収し、更に重さを増やし、糸や水銀で付近の木や岩をネセトに載せる。

 

更に足が沈む。

体の体勢が多少変わり、更に体重を乗せる――

 

 

「おりゃぁぁぁぁぁっ!!!」

 

っ!?

ネセトは大きく吹き飛ぶ。

ひっくり返りそうになるが、なんとか――

 

「いけぇぇぇっ!!!」

 

大量の水銀の槌で吹き飛ばす!

……ウイルス感知範囲外から一気に駆け抜けてきたか。

 

一度水銀を盆に戻し、地中から大量の水銀を汲み出す。

 

「大丈夫!?」

「な、なんとか……」

 

別に私は会話が終わるまで待つ気は無い。

水銀の刃を発生させる。

 

「SMASH!!」

 

緑色の閃光と共に跳んでくる。

撃龍槍は避けられるだろう。

 

そこで私は水銀と共にネセトに設けたギミックを動かす。

 

「――っ!?」

 

水銀だけではない。

先日の街の残骸を纏めたボールを足から射出する。

破壊する為に体勢を崩した奴を水銀で叩き壊す……事は出来ず、地面に叩きつける結果になった。

倒れている奴に顔を向けて撃龍槍を放つ。

 

「ヘルバリアっ!!」

 

……ちっ、撃龍槍を防がれ――

 

 

 

キィィィィィッ!!

 

 

空を機械が飛んでいく。

 

飛行機か。

だが、大量の黒い点が見える――

 

数十秒後、森のあちこちから火が上がった。

温度に耐える事と酸素が無い事は別だ、さっさと逃げるとしよう……

 

「現れよ、恵みの王、蝿の悪魔よ!ベルゼブブ!!」

 

突然私の前にネセトの半分程の大きさの虫が出てくる。

大量の脚に水で刃を形成し私に襲いかかってきた。

 

水銀の盾を作り、ネセトで突進して虫を押して場から離れる。

 

「グチチャギチチチ!!」

「オオオオ!!」

 

奇妙な咆哮をネセトを震わせて打ち消す。

 

しばらくそのままでいると突然抵抗が無くなり、私はバランスを崩す。

水銀の向こうから水が飛び散り、ネセトの上空で虫の形になる。

 

「ガチャチャギシィィィイ!!」

 

水銀で押し潰そうとするが、体はかなり硬く軋みさえしない。

 

空を飛行機が飛んでいる。

 

虫が脚を動かすと水がネセトを穿とうとする。

私は水銀を薄く三角錐に広げて水を浴びない様にする。

 

「――SMASH!!」

 

ネセトが大きく吹き飛ぶ。

そして――

 

「はぁぁぁ――っ!?」

 

再び爆発が森を襲う。

水銀を分厚い盾にして弾を防ぐ。

 

更に大量の生物が空を舞っている。

 

「「ォォォォォッ!!」」

 

小さな爆弾が降り注ぎ始めた、走って離れよう。

 

 

 

 

 

「爆撃完了。次の転移装填を行いながら高度を上げる。」

 

神選者からアトラル・カの報告を受けた航空部隊は爆撃を行っている。

水銀で防ぐなど、明らかにアトラル・カの能力ではない行動をとった事を確認出来た為、二人の神選者は無駄死にでは無かったと判断されただろう。

 

「こちら第29番航行空母『アミエスタ』管制塔。異常反応を検知した為、即座に退避しアミエスタ上空で待機せよ。これは条例に基づく強制命令である。繰り返す、こちら第29番航行空母『アミエスタ』管制塔――」

 

命令に従い爆撃機が退いていく。

バゼルギウス隊も基地に直接帰っていく。

 

 

 

数機のナパーム弾やバゼルギウスの爆燐が零れた所から燃え上がる森林をネセトは走る。

 

 

 

別にネセトの表層の岩が燃えても問題ない。

さっさと逃れようと思った所で突然ナルガが私の横を走り始めた。

 

「皆驚きましたよ!まさか空襲が起こるなんて、ね!」

 

申し訳なさそうな声で話しかけてくる。

……だが、ジンオウガは気づいていたのでは?

 

「炎から逃げるしかない以上、あの龍と闘いになりますが頑張って下され!拙者は貴女様を追う神選者と子供達を襲う輩を皆殺しにしますので!それでは!」

 

ナルガは消えた。

ウイルスが全く役に立たず、後ろの奴らは死んだのか、この先に何がいるのかが分からない。

それでも私は走る。

 

 

 

 

 

青黒い液体が飛び散る。

 

擦れた翼から赤い光が漏れる。

 

 

 

それは禁忌の龍。

 

醜悪なる禁忌の龍。

 

 

 

走ってくる瓦礫を前にして龍は大きく吠えた。

 

それは威嚇。

 

ネセトを前にして威嚇する実力をこの龍は持つ。

 

 

 

 

《黒冠龍・モルドムント》

 

数匹のバゼルギウスと飛行機を踏み砕きながら戦闘態勢に入った。




その頃 ギルドは現代武装兵により制圧されていた。
古龍観測隊も給油の際に仕掛けられた爆弾により破壊され、連絡がいかない。

「こちら突撃工作隊『A-3』作戦終了。」
「『A-2』終了。」
「こちら作戦司令本部。A-3は付近の資料を回収後、帰還されたし。以上。」
「『A-3』了解。」


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終末へ

「ちっ、始まったか……まぁ水着イベント大体の終わったしまだいいか。」
「そろそろだな。」
「という訳でクトゥルフ達と作戦会議をしてくるわ。」
「はいはい、遊んでこい。」



世界は誰かの下で動いている。
彼も彼女も貴方も何かの下にいる。
蝿も菌も塵芥も何かの上にいる。
世界はそれぞれの存在によって違う。

でも気遣う理由なんてない。
従う理由はない。
個々の存在は個々であり融合する事は不可能。

その筈だった。


ネセトで燃え盛る森を走っていると黒い竜……いや龍が居た。

私の知らない龍だ、進路を変えて無視しよう。

 

空を飛ぶ機械や竜は居なくなった。

これなら移動が楽そうだ。

 

「ヅアムゥゥッッ!!」

「キィィィッ!?」

 

奇妙な叫びのあと長く開いた赤い腕にネセトが捕まれ、馬鹿力で引き寄せられる。

咄嗟に抵抗しようとするが胴を掴んでくる。

 

「コオス、コオス!!」

 

そしてもう一本の腕で強烈な一撃を何度もぶつけてきた。

ネセトの骨を守る岩にヒビが入っていく。

……なんか普通のモンスターらしくない攻撃方法だな。

 

ネセトの顔を向けて撃龍槍を放つ。

 

腕で抑えようとしたが貫き、勢いの無くした撃龍槍が龍にのしかかる。

足を抑える腕を振りほどき、飛び退く。

 

「ガァァァァ!シネッ、ハヤクシネ!!」

 

……明らかに『死ね』『早く死ね』と言っている。

なんだこいつは?

 

盆の中の水銀を二つの巨大な槌に変え、地中から水銀を精製し相手を刺す。

 

龍は自身の体が裂かれる事を気にせずに赤く光る腕を伸ばして地を掴み、体を引き寄せる様に移動してきた。

血が飛び散り、黒い液体も飛び散る。

 

頭に水銀の槌を一つ当て、撃龍槍で穴が空いた左腕をもう一つの水銀で殴る。

再び黒い液体を散らばしながらネセトの首を掴み移動し、もう一度腕を伸ばして私の籠る繭を掴んだ。

 

人間の言葉を喋り、明確な弱点を狙ってくる……こいつもバルファルクみたいな奴か?

 

繭をねっとりと黒い液体が染みていく。

泡立っていて気持ち悪いが、ガスは放っていないから持ち直せる。

 

 

私はそう思っていた。

 

 

ザン、と細い柱が生えた!

 

繭の中から即座に外に出れるはずも無く、私は沢山の針に貫かれる。

染み込んでいない後方へ咄嗟に頭をずらしたお陰で致命傷は避けたが、それぞれの部位が切り刻まれて血が流れている状態だ。

 

繭を切り裂き、笛を担いで外に出る。

 

「ニガスガァァァ!!?!」

 

龍は腕を伸ばし、私の頭の後ろを握り潰した。

そのまま顔の方へ持っていく。

 

「オマエヲ、殺シテ、俺は……っ!!」

 

……?

とりあえず水銀を大量の刃にして顔面を襲わせる。

 

「ぎゃぁぁァァァ!!」

 

思いっきり怯み、振り払おうともう片方の腕を動かすが間に合わず、私を離して水銀を防いだ。

着地し、笛を振りながら糸で握りつぶされた部位をちぎりとる。

笛を吹く前からウイルスの活性化、そして自己再生力の強化で治癒を早める。

 

一瞬人間みたいだったな……何かがあるのか?

まぁどうでもいい。私を殺そうとしていると分かったら尚更だ。

 

笛を振り、自己強化をしながら撃龍槍を回収して背負う。

 

 

互いに周りながら相手の様子を見る。

空襲で焼けていく森の音が気にならない程に集中する。

 

 

「ゴォォォォォ!!」

 

先に動いたのは龍だった。

 

爆音の咆哮をしながら腕を振りかぶる。

ネセトが機敏な動きが出来ないだけで、私は避ける事が出来る。

 

再び咆哮し、長い腕を振り回して液体を撒き散らしながら突進してくる。

空中で水銀を棒にして、撃龍槍を投げつけてから糸を水銀に放ち上空で突進を回避する。

 

「ハヤク……!」

 

突然全身から液体を撒き散らした。

私の体に付着した液体が針となり私を貫く。

水銀の弾丸を放つが、針の壁が出現し怯ませることが出来なかった。

 

「オワレェェェ!!」

 

立ち上がって叫ぶと共に暗雲が広がる。

ネセトより低い位置にある雲から大量の黒い雨が降り注ぐ。

 

水銀で傘を作り、雨を凌ぐ。

所々が裂けて刃が突き出してくるが、私には届かない。

撃龍槍に糸を放って回収し、すかさず立ち上がって咆哮し続けている龍に投げつける。

 

「ガァァッ!?」

 

大きく怯み、転倒して自らが撒いた水溜まりから生える針に刺さる。

笛を振り回しながら近づいて頭に叩きつけてから鎌で切りかかる。

そして水銀の槌を当てて、余り動かなくなった所でもう一度撃龍槍を叩きつける。

 

 

 

 

謎の龍は動かなくなった。

 

液体が空気中に巻き上がっていく。

 

 

 

そして黒い空気の中から光が現れる。

 

 

「処分完了。被検体の身体を回収予定。裏切り者の中でも優秀な成績……でも死んで当たり前の行動をした……」

 

何か独り言を言いながら板に書いている。

とりあえず何もしてこないので放っておき龍に糸を放ち、引っ張ろうとする。

 

「邪魔。」

 

人間は手を振り上げる。

ウイルスが奇妙な反応をする。

 

まるで何か透明な剣が……とりあえず飛び退く。

 

手を振り下ろした。

 

 

地が裂ける。

まぁそこまで驚く事でも無くなってきた。

人間は自分の手を擦りながら言ってくる。

 

「分かったらそのモルドムントを置いていきなさい。」

 

私の戦利品を横取りしようとするのか……こいつこそ邪魔だな。

ウイルスを飛ばし、先程の感覚の正体を探る。

すると、私より高い位置の後方で先程の反応が一瞬走った――

 

「見つけたわぁぁぁぁぁ!!」

 

っ!?

雷を放出しながら白い龍が現れ、人間に突進していく。

それはあの時に私を人間にしたふざけた龍であり、しかし現在は雷の一本一本が即死する威力で放たれている。

 

「くそっ!?はあっ!転移っ!」

 

ウイルスが反応を示す。

人間を中心に放たれていて、壁の様になっている。

雷も突進も防がれている。

 

「逃がさない逃がさない逃がさないぃぃぃ!!にゃんにゃん!!」

「……ヌヴ。」

 

先程ルーツが出てきた所から奇妙な人型が出てきた。

腕や背中から触手を伸ばし、謎の壁に全く干渉せず通り抜け、人間を掴んだ。

 

そして人間が光り、人型も光って消えた。

 

「そこ、ね……殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 

ルーツも狂った様に殺すと呟いてから消えた。『殺す』

『殺す』

『殺す』

……炎の音が戻ってくる。『殺す』

早くネセトを組み直して逃げよう――『殺す』

『殺す』

『殺す』

今度は空から何かが落ちてくる音がする。『殺す』

一体なんなんだ、と反応に疲れながら見上げる。『殺す』

『殺す』

超巨大な白い岩?が大量に落ちてきていた……『殺す』

あ、一つはこっちに落ちてきている。『殺す』

『殺す』

……次の瞬間粉砕されていたが。『殺す』

『殺す』

「ォォォォォォンッッ!!」『殺す』

『殺す』

ジンオウガが空で吠える。『殺す』

この地域だけは守られた、という事か?『殺す』

……とりあえずネセトを直す。『殺す』

『殺す』

直し終わったら今度は龍を……ん?『殺す』

龍は数ヶ月放置された死体の様に腐り、腐った肉が無いところに人間が横たわっていた。『殺す』

『殺す』

……なるほど。『殺す』

モルドムントだったか?そいつの死体に練り込まれて私らを殺したら元に戻れる約束だったのだろう。『殺す』

『殺す』

しかし、私はそこまで狙われる様な存在だったか……?『殺す』

早くこんな生活を抜け出して楽しく生きていきたい所だ。『殺す』

『殺す』

『殺す殺す』

『殺す殺す殺す』

『殺す殺す殺す殺す』

『殺す殺す殺す殺す殺す』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す』

 

光の無い床が無限に続く世界に神選者は逃げた。

乱れた呼吸を整えようとせずひたすらに焦っている。

 

「この空間に逃げれば、流石に……!?」

 

その希望は一瞬で砕かれる前に実現不可能となった。

雷が迸り、空間が裂けていく。

 

「っ―――」

 

神選者は行動しようとした。

しかし発見した事による興奮が収まったルーツは、神選者を腹から爆発させて殺した。

 

たった一本の雷で人は死ぬ。

当たり前な事を起こしただけだった。

 

「サンキューにゃんにゃん。」

「……この空間は?」

「知らない。」

 

ルーツは死体の顔を潰し、脳を引きずり出して手に持った。

電気を使い、海馬等から記憶を出力してホログラムにする。

 

「ふーん、さっすが私のアトラルだわ、ウルクススも倒したのね。」

 

しばらくそのまま時間が過ぎ、用済みになった脳を蘇生してしばらく反応を楽しんでから踏み潰した。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、新たなシーズンが始まる!」




(先程の)モルドムント

古龍から生まれたゴア・マガラ。
比類なき強さを持つはずだったが成長途中で神選者に捕まり、融合実験の対象となって龍にとって余りにも短すぎる生涯を終えた。
しかし潜在的な力に目をつけられ、死体となってからゾンビ化などの実験にも使われた。
最終的には検閲レベルを満たされていないため文字を消させていただきました


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vs異世界


※残念ながら今回のは『雷』は搭載されていません。
雷の様な攻撃の為の砲台は集中攻撃によって破壊されるのがオチなので同等の存在には意味がないためです。



モルドムントを乗せて塔の方へ走ってきた。

 

塔の上には島が浮かび、大量の光線が塔に落ちている。

 

それがこちらに飛んでこない事を確認した後にベースキャンプを蹴飛ばしネセトを寝かせ、モルドムントを降ろして解体する。

骨はまだ硬度を保っており、手入れをすればきちんと使えそうだ。

早速食べれそうな部位と捨てる部位、骨と分ける。

 

 

本当はこんな非現実的な方へ行こうとは思っていなかったが、森のあちこちから蛇のような半固体状の何かがあちこちから現れた為に逃げてきた。

水銀も撃龍槍も余り効かなさそうだから……私はリオレウスの様なブレスが吐ける訳では無いから。

 

……空に黒い穴が空き、また巨大な白い物体が落下してくる。

どうやらベースキャンプから塔への道に落ちそうだ。

 

するとその物体に向かって塔から氷と炎が伸び、大爆発と共に粉砕した。

 

「ォォォォーーッッ!」

 

再び爆発が起きて炎を撒き散らして氷が戻っていく。

 

 

 

 

塔の頂上

 

 

そこでは黒き竜と氷と炎を纏った龍が頭上の島と今も尚落ちてくる白き杭を攻撃していた。

 

「見たかー!ふーははははっ!私にかかれば造作もない事です。」

「まだ見定めてる途中よ。あちらも同じ様ね。」

「どうしますか?やっちまうかぁ!?」

「……じゃあよろしく。」

「最善を尽くしますぜぇぇぇ!!」

 

島に向かって龍は跳ぶ。

両腕に力を溜め、炎と氷の刃をそれぞれ作り出し島に投げつける。

 

防衛機構が更に出現し、レールガンがそれぞれを打ち消す。

そして座標指定型誘導ミサイルが龍を襲う。

 

「雑魚い雑魚い!おそらくまだ手段があると見ました……」

 

その独り言に反応したかの様に大量のドローンが発進する。

一つ一つが鉄を砕く威力を持つ銃を構えている。

ドローンはジェット推進で飛び回る。

 

「熱塵解放だぁぁぁ!!」

 

急激に空気が熱され、あっという間にプラスチックが歪む温度に変わる――

しかし飛行する島もドローンを放って終わりではない。

特殊ミサイルを放ち、大量の魔法陣を形成しこれでもかと緑色の光線が放たれる。

追尾するそれは逃走しようとする龍より遥かに速い速度で飛来する。

 

「無難に防護といきましょう……」

 

龍は氷の八面体の中に閉じこもる。

光線の様な半気体状の物は防げた。

しかし、実弾を防げるかは怪しい――

 

塔へ攻撃していたレールガンが自由落下運動を行う鴨を見逃す事はなくおびただしい数の砲口が向いた。

ついでに遠くで新たな白き杭が出現、落下してくる。

 

「はぁっ!」

 

竜が足を塔に叩きつけると、黒いフィールドが空に広がり覆っていく。

そして無作為に見えて近くの迎撃対象に青白いレーザーが飛ぶ。

 

そして竜の近くの黒い足場からはレールガンを狙って一際太く青白いレーザーが大量に放たれる。

龍を狙った砲弾ごと砲台が抹消され爆発を起こさせる。

 

 

 

『規定の損害により、迎撃機構の解禁』

 

 

島のあちこちに穴が空き、そこから大量の原爆が落ちてくる。

爆発をさせてはいけない事を知らずに竜はレーザーで貫く。

 

強烈な爆風が塔の周りの樹海を吹き飛ばす。

真空状態になった空間へ妬けた空気は集まり始める。

 

そして爆発したそこには千万℃を超える火球が大量に発生し容赦なく放射線が撒き散らされ始めた。

島は防護障壁を張っていたから無害だが、地表にはあらゆる生物の致死量を優に超える放射能が――

 

「ウオッ!?アブナ……」

「ありがとうゼスクリオ。」

 

全身がオレンジに光る龍が塔の中から駆け上がり、放射線も、核の炎も、衝撃波は一番に消されていった。

そしてお返しと言わんばかりに体内の光を放出し島を下から覆う様に炸裂させる。

 

障壁は悲鳴をあげ、島が若干押される。

 

 

 

 

 

ぐううっ!?

 

私はネセトにしがみついていた。

一体何が起きたのか私には理解出来ない……

 

島から、そして塔からレーザーが相互に飛び交っている。

 

とはいえ、黒い膜のせいで若干見づらいが……逸れたレーザーやミサイルが山々に穴を開けている。

これなら塔に近づいた方が安全だな。

 

早速ネセトを操縦して塔へ走る。

 

 

 

 

 

『大規模魔法・リセットメテオ』

 

島は押される勢いを利用し、浮上する。

島の建物がマナの集合した巨大宝石を外側に出して効力を発揮する。

 

島の下からひたすら闇が広がる空間が出現する。

そこから月の1.5倍の半径を持つ星が出現し、加速し炎を纏い始めながら落下する。

 

「どうにか出来る?」

「30ビョウアレバ。」

「分かりました。やってやろうじゃねぇかこの野郎!」

 

ゼスクリオ達が話し合っている間にも周りは止まらない。

 

衛星を防護する様にアンドロイドが飛び回り始める。

連射型レールガンを積んだアンドロイド、電磁ダガーを抜いて飛来する自爆型、世界軸に干渉し対象の時間を遅延させる魔法型。

 

「ウォォォォォン!……氷と炎に包まれて壊れちまいなぁ!……いきます!ふん!」

 

アンドロイドの想定が更新される前にそれ以上の範囲が滅する。

そして無防備なエルゼリオンをレールガンが数十発、体を突き抜けるがまだ再生力を超えるまではいかない。

 

だが、敵はあの島だけではない。

杭から見た事も無い生物が沸き立つ。

超大型の鎧を纏った巨人が青い光の中から現れ、塔へ走り始める。

 

「……多少本気を出さなきゃ対応しきれない。」

 

UNKNOWNは吠え、青い炎を纏う。

そして飛び、巨人に向かって口から放射状に広がるブレスを放つ。

皮膚に刻まれた魔法陣がブレスを防ぐ――が、地面が消失していき穴の奥深くへ落ちていった。

 

「っ!!」

 

そしてアンドロイドの大軍を焼き払いながら振り向き、龍雷を放つ巨大な球を形成する。

大地の中から斜めにビームが塔に向かって飛来し、球に衝突する。

 

第二異砲船のビームだ。

 

段々と球は変形し、押されていく。

 

「まぁなんと大規模な不意打ちね。」

 

そして球は形を変え、島の方へビームを逸らした。

衝撃を吸収する魔法が衛星から発生し、ビームが星を貫く事は無かった。

 

「デキタデキタ。ヨシヨシ!」

 

ゼスクリオの中の光が溢れる。

しかし何も起こらない。

 

アンドロイドは光が弱くなったゼスクリオに狙いを定める。

 

 

ミシミシ……バガッ!!

 

 

黒い空間からまだまだ出てこれていない衛星が粉々に壊れる。

一つ一つが小山程度にまで割れる。

状況を整理し、光を放った龍を危険対象として銃口を向ける。

 

しかし発射しようとしてもポトリと弾が出るだけだ。

電磁タガーも威力が劇的に減少し、詠唱こそ出来ても魔法の発動まで至るマナが無い。

 

「ショウトツノケッカハソチラデタノム!」

 

粉砕された衛星の破片が大量の小さい塊としてくっつく。

しかし飛んでいく方向は違う。

空間を避ける様に弧を描いて島へ飛んでいった。

障壁を展開するがその障壁にどんどん塊は乗っていき、その重さに耐えきれず島は落ち始める。

ミサイルで破壊を試みるがヒビが入ったり割れた音がするものの全く形が変わらない。

 

そして島は真っ黒な空間に落ちていった。

 

アンドロイドは命令待機状態となり、自衛こそするが劇的に弱くなる。

UNKNOWNのレーザーに焼き払われるまで時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

……何が起きたのか全然分からない。

とりあえず塔は安全そうか?……いや、何処が安全なのか全く分からないが。

 

空を覆う程の石が落ちてきたり、ラヴィエンテで見たレーザーがほぼ横から飛んできたり、人型の機械が沢山落ちてきたりと私の理解が追いつかない事実が発生した……詳細が余りにも分からない。

 

とにかく、塔の近くに逃げればまだ安全そうな気がする……気がするだけだが。

 




アトラル・カと
バルセロナのー

『何故なに?教えてテーテーテーテテテテッテテー«イナズマイレブン»』

ドカベンじゃないか……さて、今回の説明対象はこちらだ。

『ヴァル達扂皇国』

今回ー飛んでたー超破壊兵器街をー所有するー別世界のー国だねー
向こうの世界で捕虜になった生物が住民となり、敵地へ飛ばされる。
ちなみにこの世界の知能を持った存在の中での覇者は四足歩行のタコだ。
二足歩行のアンドロイドだが、実は足は二本ずつで八本である。
『歩行』『翼』『レールガンなどの武装』『自由』
はっきり言って、人間では到達する事の難しい領域だな。
勿論ー捕虜のー乗っ取り防止はーしまくってるよー
ちなみにー第二異砲船のーリミットが無ければー
一つのー島ぐらいはー倒せるよー

そして、他世界と思いっきり違うところがある。
それは『放射線にかなりの耐性がある』事だ。

文章中で陸には致死量を優に超える――と書いたが、障壁は機材やメーターの保護の為に張られ、一番の意味は熱を遮断する事だ。
酸素とは全く違う原子を吸って生きており、酸素系の元素で出来るオゾンの様な物質が存在しない事への適応進化したといえるか?
バルファルクもー強いぞー!

ちなみに、人間の舌を踊らせたような声で喋るためそう簡単にはコミュニケーションはとれないだろうな。


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世界観崩壊、それも新たな世界観


宇宙の外は無なのだ
そしてその無を調べて正気を保てる人はいない
始まりも終わりもない事を理解出来ないから

でもそんな事より――

「ぐわぁぁぁぁぁ!また、またなのね!この私を……っ!」
「その全てに置いて頂点(幻想)をスーパーウルトラ叩けキャシャーン、聞いてください……ダダダダダヘイヘーイ水になって吹き渡っていますー……」
「……ボレアスのマルチタスクは秀でているからゲームで勝つのは無理だろう。」
「ならモンハンだ!タイムアタックで私が次こそ勝つ!」
「……モンハンの禁忌の龍がモンハンをするなんて向こうからしたら卒倒する事件だろうな。」



……くそったれ。

 

塔と陸を渡す橋に杭が突き立っていた。

青い光と共に大量の生物が出てきてこちらに岩の下で様子を伺っていた私へ走ってくる。

 

さも当然の様に魔法を放ってくるが、あいつらに龍の様な強さは感じられない。

ネセトが攻撃によって異常をきたしたら困るので、私は撃龍槍を背負って降りる。

笛を吹きながら近寄ってきた奴らを水銀で裂き殺す。

 

「ギャッギャ!」

「プギィィ!」

 

緑色の頭がデカい人型で鼻が豚の生物が盾を構えてやってくる。

 

「戻れ!ベルゼブブ!!」

 

そして柱の方が異様な聞こえ方をする声が響いた。

またあの虫か?

とりあえず笛を構える――

 

「ヌルルルルル!!」

 

後方から管を水が通る様な音がやってくる。

ウイルスで周りより冷たい、ウネウネと地を縫う様にこちらにくる森で見た奴と察知した。

 

「ギャギッ――!?」

 

飛び跳ねている緑色の生物に糸を放ち、水に投げつける。

水の中に入った生物は一瞬で黒く染まり消えていった。

 

「ウフフフフ……」

 

水から声が発生する。

効果は無いと思うが広く薄い水銀で胴を切る。

一瞬水銀の形に沿う様に動いたがすぐに切れ、

 

「ギャァァァァ」

 

と……死んだ?

勿体ぶった割には呆気ないと思い警戒する。

 

「べ、ベルゼブブ様ぁぁ!?貴様ぁぁぁ!!」

「キィィ……?」

 

本当に死んだ様だ。

白い杭の方から猛烈な勢いで走る紫色の衣を纏った緑の生物がいた。

自分から水銀の刃で斬られたので手間はかからなかった。

 

杭を破壊する為に白い杭へ走る。

糸を当てて、杭が雷でも流したら死ぬからな。

 

 

 

「うおっ、なんだこのダンジョンは?」

 

青い光と共に人間が出てきた。

 

「ゴブリンの向こうからなんかヤバいやつが!」

「アイスフェアリー!」

 

空中に発生した氷を水銀で破壊する。

そのまま撃龍槍を振りかぶる。

 

「マジか!?パーフェクトプロテクト!」

 

地中から水銀で、光る盾を構えた人間を刺す。

死体を吹き飛ばしながら撃龍槍を投げ飛ばし全員殺す。

 

勿論吹き飛ばしただけだからどちらかは生きているかもしれないが。

 

 

 

ご……ゴブリンだったか?

そいつらを殺して積み上げ橋に括りつける。

 

柱と化した死体の山に糸をつけて撃龍槍をパチンコの様に発射する。

杭に深く刺さった。

水銀で槌を作って撃龍槍を叩き杭を割り、それを橋から引き落とす。

 

これで橋を通れる様になったか……というかこの橋の強度がおかしくないか?

顔を近づけると、ヒビが直っていくのが分かった。

自己再生するのなら後でネセトに橋を纏うか。

 

 

 

ネセトに乗り、塔に向かって走る。

 

突然赤い光が私の通ってきた所と塔の入口を塞いだ。

青黒い光が虚空から現れ、ネセトの前に降りてくる。

 

「アハははははハハ!」

 

光が消えるとゴブリンの頭が浮いており、グチャリと沢山の、足とも手ともとれる体が出てきた。

盆から水銀の槌を作り殴る。

 

『56339』

 

……数字?

周りの雑魚をネセトで蹴るとそれも『102997』『98863』などの数字が出る。

一体なんなんだ?

 

ゴブリンの頭は私の槌を食らっても変形すらせずこちらに手を伸ばしてくる。

ネセトの表面の岩に傷が入るが割れない。

とりあえず水銀で殴り続けた。

 

「オオオおおぅゥゥ……」

 

私の攻撃がすり抜けた様な当たったような異常な存在は叫び声を上げながら落ちた。

そして段々と透けて消えると、赤い光も消えた。

 

……なんだこれは?

塔に神選者でもいるのか?

 

 

 

うわぁぁぁぁ!?

大雷光虫がうじゃうじゃといる!

 

とりあえず水銀で潰す。

薄く広げ、空気と共に外に逃げないようにして潰す……

 

はぁぁ、ジンオウガより恐怖を感じた。

今の私は水銀という間接的かつ面での圧殺という方法があるが、基本的に私達は負傷しないと対処出来ない。

一方的に殺される可能性も十分ある。

 

いや、勿論死ぬまで大雷光虫と闘う馬鹿は普通いないだろうが……

 

塔の入口を塞ぐようにネセトを置き、水の溜まった一階を飛び越える。

水銀を盆から引き寄せ、私のあとに続かせる。

 

狭い通路を通り、視界が晴れたかと思うと、円の形に沿った坂道がある大きな空間に出た。

 

糸を放ち、一気に登る。

 

所々に分厚い跡が残っている事から、元々は床を張っていて年月によって崩壊したのだろう。

つまり当時はその板と坂道は順番が違い、まず穴を切り抜いた板を張ってから坂道を組んだのだろうな。

 

と、思いながら天井まで来る。

 

坂は崩れ、天井にも穴は空いていなかった。

近くの通路は瓦礫で塞がっている……壁に大きな穴が空いている為、そこから外に出る。

 

……ほう、かなり高いな。

ほぼ雲の高さだ。

 

気づいていなかったが、まずここまで山を登ってきたのか……

壁は苔や蔦が絡まっており、非常に歩きやすかった。

そのまま回転する様に登ると、出っ張っている所にベースキャンプがあるのが見えた。

 

そしてその先には巨大な杭の破片と――

 

「キィィィィ!」

「「ピィィィィ!!」」

 

大量の生物がこちらに向かってきた。

 

鎌を広げて威嚇する。

しかし、威嚇を無視して生物は飛んでくる。

敵の速度は遅く、口から見える鋭い牙が私に刺さる前に水銀で八つ裂きに出来た。

 

血が飛び散る事によって無謀な突撃は無くなり私の様子を伺う。

そして青い龍が雲の下から上がってきた。

騒々しくなった奴らを前に私は笛を構えた。

 

「――ァァァァッ!」

 

突然杭の方から咆哮が響く。

そして強烈な光と共に身を焦がす様な熱波が飛んでくる。

 

チリッと私の体にくっついていた蔦が燃え尽きる。

 

収まると赤い龍が雲を突き抜けて出現、直角に向きを変えて杭に衝突し粉塵を撒き散らした。

青い龍が赤い龍に近づく……あぁ、ナナ・テスカトリとテオ・テスカトルか。

互いに前足を繋ぎ、テオとナナが空を舞う。

 

鱗粉が広範囲に撒き散らされ、先程より強烈な爆発が起きた。

私の中のウイルスも一時的に麻痺する程の熱さは先程焼け爛れた生物の怨みの声さえ消し飛ばす。

私の体表も一部発火する。

 

爆風が無くなり塔の壁を歩けるようになった為、私は龍の番から逃げる。

杭を破壊する音が聞こえるから私は見逃されたと思ったがやはり追ってきた。

小さい生物を殺すのだからそれより大きい私はすぐ殺されるだろう。

 

塔の外側を回りながら糸を使って跳ねあがる。

先程の穴のあった階層より高い穴を見つけそこに突っ込む。

 

撃龍槍を壁に刺して、瓦礫の中の暗がりに身を潜める。

ウイルスを飛ばした後に、糸で瓦礫を私に引き寄せる。

そう、私は隠れる。あの様な力を持つ龍なら騙せるだろう。

 

 

 

しばらく息を潜めていると、ウイルスが死滅する空間が穴から広がる。

楕円形のそれは、羽ばたきの音と共に大きく動く。

 

それは撃龍槍に近づき、しばらく滞空する。

そして外から更にウイルスを殺す空間が入ってくる。

 

 

しばらく即死空間が向かい合った後、突然声が聞こえてくる。

 

 

「アトラルさーん!何処にいるかは分かりませんが、ルーツさんから貴女の話は伺っていまーす!」

 

 

……バルファルクと同じだったか。

 

 

「今頂上に行くのはオススメしませーん!UNKNOWNさんや、UNKNOWNさんツーや、ゼスクリオさんや、エルゼリオンさんが異界と大激闘してますのでー!」

 

なるほど……互いにレーザーを放っていたり爆発が大量に起きたり、黒い膜が空を覆ったりしたのはそういう事か……

 

 

いや、納得するのはおかしいだろう……多分。

 

いやいや……クイーンはなんだ?彼女は龍が何百体いようと殺しきれる力を持つ。それをおかしいと言わずなんという?

 

いや、それでも大体が変な力を持つ龍、それの祖とはいえ余りにも巫山戯た力を持つ例のルーツがいるのだ。

それと比べたら……いや、やっぱりこいつらは纏めておかしい奴ら、だろう。

 

 

うん、言葉に出来ない。

この世界を総じて見れば当たり前なのかもしれないが一般の目線からしたらおかしい。

 

「――という訳で、塔に逃げてきた子たちと共にここから天廊に移動してもらいます!バルカンさん!」

 

刹那、ウイルスが消失する。

私を隠す岩が余りにも熱くなり、飛び出る。

 

「……そこにいたのか、ネセトの準備をしろ。」

 

いつか見た時と全く変わらない威圧のままバルカンは話しかけてくる。

 

「……おい。早くしろ。この塔はフェイクなんだ、そろそろ消すぞ。」

「では伝えてこよう。妻よ、バルカン様とアトラルを見ておいてくれ。」

「分かりました。」

 

……は?

つまりあの再生する橋も嘘だと?

 

「ルーツは記憶操作も簡単に出来るからな、一時的にアマツマガツチに頼んで海を越えた先の樹海をこちらに作ったんだ。地形はレビとルコがやったがな。」

 

……!?

何故、その様な事をしたのだろう。

……いや私が理解出来る範囲ではないとなんとなく分かる。

 

とりあえず壁の穴から外に出て、ネセトの方へ行く。

大人しく従わないと袋叩きにされそうだ。

 

 

ネセトと共に走る。

バルカンの死線はずっとこちらを見ていた……殺意は感じないのだが、即死の危険を感じる。

 

 

 

 

「はぁ……ルーツ。そろそろ終了工程だぞ。」

「ちょまっ!?イマデキナーイ」

「いや、アトラルは今ネセトの所に行ったばかりだから大丈夫――」

「へぇ、ぁぁぁ!!あああああ!!」

「うるせぇ!ミスっただけだろ!」

「はぁ……しゃーない、Arcaeaにするわ……あ、これも圏外じゃ無理やんけ。」

 

空間を壊して出てきた少女は白いワンピースを纏い、手を黒い塊をつけて巨大化させている。

水を払うかの様に手を振って塊を散らし、背中から大量の黒い腕を出す。

 

「ボレアスー!殺戮してきていいわー!」

「……うふふ、あはははは、ガァァァァァ!!」

 

爆発音と共にボレアスの鳴き声が消えると空に流星群が流れ出す。

 

 

三姉弟が動き出した。

 

 

 

 

同時に大量の『神様』が動き出す。

 

マルチバースや、平行世界など様々な世界が一つの世界を狙う。

 

虚構実在論が正しいこの世界達は、戦争というクロスオーバーをする。

 

転移技術の享受と共に住みやすい環境を他銀河の地球型惑星、かつ適正温度でその世界の空気にあたる原子や、生きるための物質ごと移転し始めたのだった。

 

 

 

 

 

何故、そこまでしてモンスターを根絶させようとするのか?

 

「……」

 

何処かにいる人影は声を出さず、ただにやりと笑った。

 

 

だってこれは『二次創作』なのだから。




ベルゼブブ

元々はバアルという嵐と慈雨の神と同じだと思われている。
しかし他教徒によって語呂の似ていた蝿の王や糞の王と蔑まれ、キリスト教によって悪魔とされた悲しき神。

キリスト教の影響が強いベルゼブブは蝿型であり、疫病と汚水を撒き散らす。外骨格が硬く、鋼鉄のハエたたきでは重さで動けなくなる程度。一応体を水にして高速で動くことが出来る。
見た目が見た目な為、対人間には負け無し。

発祥に近いとされるベルゼブブはスライムである。ベルゼブブから渡されたゲルは味は悪いが、飲めば転移したグループ5の癌の消滅、認知症患者の脳細胞の復活、売春者のエイズの抹消など万病に効く。
元々居た悪魔や天使が蔓延る世界では絶対死なないが、こちらの世界では自分から出来た水や信仰心が足りなかった為、元の世界へ帰った。


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全面戦争、開始


この世界にモンスターはいらない。

だって人間の世界なのだから。



「今日はお父さん達を見に行きましょう。」

「やったー!兵隊さんに会えるー!」

「はいはい、食べきっちゃってり」

 

まだ幼い少女はフォークを持ったまま歓喜した。

シュレイド王国のなりたい職業一位は『兵士』なのだから当然だろう。

 

少女の母はタオルで手を拭き、食べ終わった食器を水で流して食洗機に入れる。

再びタオルで手を拭く。

 

「さ、歯磨きしてて。」

「はーい!」

 

洗濯の終了を鳴らす洗濯機へ向かい、籠に引き出す。

 

少女の着替えの終了と、母が洗濯物を干し終わり階段を降りてきたのは同時だった。

母はパソコンを開き、パレードの空き椅子を検索する。

 

「国民ナンバーは、えっと……」

 

20桁のナンバーを打ち込む。

すると固定電話が鳴る。

 

ガチャリ

 

『シュレイド王国軍事省経営部広報隊の特設コールセンターアンドロイドでございます。たった今、〇〇地区にあるパレード観覧空間D-4、D-5の席の予約を取られましたが、本人のご意思ですか?』

 

人間の声にかなり近い機械音声が電話から響く。

 

「はい。」

 

『支払い方法についてですが――』

 

「国民ナンバーによる銀行引き落としでお願いします。」

 

『ありがとうございます。それでは今からチケットとパンフレットをお送りします。しばらくお待ち下さい……推測、残り30秒です。』

 

「ちょっとポストで待ってて!」

「はーい!」

 

『……目的地に到着しました。今しばらくお待ち下さい。』

 

プロペラ音が近づいてきた。

 

ポストが風によって音が鳴ると、そこから二つ袋が入ってきた。

少女はそれを持ち、喜びながら母の元へ走る。

 

『今回のドローンの航空に異常無しです。内容物はこちらの写真の通りになっております。お確かめの上、不備があった場合はこちらの特設コールセンターへお電話をおかけ下さい。それでは、シュレイド王国軍事省経営部広報隊のアンドロイドでした。』

 

電話が切れる。

母が電話を切って置くと、少女が一気に騒ぎ出す。

 

「みてみて!チケット!パンフレットも!」

「無くすから散らかさないで!」

 

さっさと破り、中の物を出し始めた所を一喝する。

 

「……はーい。」

 

今まで無くしたおもちゃより、今のチケットの方が大事だからと少女は従った。

 

「はい、トイレ行って。飲み物はあっちで買うわ。」

「はーい!」

 

その必要はないのに少女は走ってトイレに駆け込む。

そして母はにっこりとチケットを見た。

 

「楽しみにして、と言ってたけど……何かしらね。」

 

 

 

 

 

 

停車位置で親子の車の赤いランプが光っている。

外部操作受け付け状態にする為サイドブレーキのボタンを押して横に動かす。

 

扉を開いて外に出るとドローンが飛んできて母にスマホ型の発信機を渡し、車の上部にあるパネルを開いて駐車場へ並ぶ長い車の列へ動かす。

 

少し待つと、発信機から声が発生する。

 

『欲しいものががありましたら食べ物の名前や、飲み物の名前などを打ち込んで下さい。』

「何、飲みたい?」

「リンゴー!」

「り、ん、ご、ジュース……っと。」

『付近のりんごジュースです。お選び下さい……これでよろしいですか?それでは、現金、もしくはクレジットカードはお持ちですか?』

 

画面に浮かんだ選択肢が浮かび、母は現金を押す。

 

『しばらくお待ち下さい。』

 

画面が暗転し、次に表示されたのは街だった。

自分達を示す赤色の点と、それぞれの場所の名前と簡単な説明が出る緑色、動いていない青色の点がある。

 

「ねぇママ。あっちだよね?早く行こ!」

「はいはい。私から離れないで。」

 

親子が歩き出すと街の画像が動く。

そして青い点が猛烈な速度で動き出す。

 

ドローンが飛んできた。

 

『りんごジュース到着です!』

 

りんごジュースをがっしり全ての面で掴んでいる白いドローンのコイン入れにお金を入れる。

すると下と正面の抑えが無くなり、持って下に引っ張るとドローンの支えは終わり、飛んでいった。

 

「あれ、ママ。青い点がまたあるよ?」

「ん……あ、ホントだ。」

 

『パンパカパーン!残暑に気をつけようキャンペーン!二人で250mlは足りないだろう?倍プッシュだ。』

 

「あら、そんなキャンペーンやってたの。」

「あー、来た来たー!」

 

今度は発信機を近づけるとドローンの拘束がとれた。

それぞれりんごジュースを持つ。

 

 

 

 

『チケットをこちらに』

 

チケットの内側にあるQRコードを開いてプラスチック越しに認識させる。

 

『確認致しました。どうぞ楽しんでいって下さい。』

 

そして親子は既に人がいる比較的暗い空間に入った。

 

「楽しみー!」

「はいはい。」

 

椅子が無いのは立っている方が人間は興奮しやすいからだ。

 

 

 

けたたましくファンファーレの音が鳴り響く。

 

『大変長らくお待たせ致しました。少し揺れますが、踏ん張ってくださいね。』

 

そのアナウンスが終わると同時に、空間のあちこちから機械が始動する音がする。

最終的に、ガチァン!という音と共に機械が建物を囲み、唸りをあげる。

 

『強烈な光が発生します。目をお瞑り下さい。』

 

ギィィィ―――

 

 

 

そして人間達はとある街道に移動していた。

 

砂埃の向こうから行進と楽隊の音楽が聞こえ始める。

 

「「「わぁぁぁぁぁ!」」」

 

その街道には元々来た人間、そして各地の施設から二重存在をメルト=ラインによって発現させた人間が重なっていた。

皆、大声をあげて歓声をあげる。

 

 

 

あーあー我らと我が国はー

世界の何処より気高くてー

我らを脅かす者共ー

我らの力で捩じ伏せるー

 

世界にまたかける者共ー

そーれは我らと我が国だー

世ー界を堕ーとす怪物をー

一朝一夕いっちょういっせきで駆逐するー

 

あーあー讃えよお互いをー

我らは国民、国の民ー

例え王が頂点でもー

我らが国を作ってるー

 

再び向かえよ戦場にー

再び戻れよ我が国にー

富国強兵理想を求めー

世界を統べるは我々だ!

 

 

 

軍歌を歌いながら兵士達が足は全員揃えて歩き、手を振ったりする兵士が中にはいた。

そして戦車がドリフトしながら入ってくる。

街道の中央で急ブレーキしながら三両とも横に並んで砲塔が板になっている戦車が下に向けた。

 

水陸山踏破バイクが突っ込んできて飛び越えていく。

 

「「おぉぉ!!」」

 

蓄電放出を行いながら思いっきり飛び上がったり、滑空する。

数十台による数回ずつのアピールが終わると戦車は急発進して去っていく。

 

「怖っ!」

「凄い!」

 

 

そして先程の戦車より装甲が見るからに硬そうな戦車が30両、ゆっくりと通り過ぎていく。

その間に空を戦闘機が数機飛び、噴出した煙で空に国旗を描く。

 

「うおぉ……かっけぇ。」

 

 

続いてアンドロイドの兵が歩いていく。

球足、二足、多足型と色々混じっている。

中にはネコ耳、きつね耳などのアンドロイドが混じっていた。

 

「かっけぇぇ!」

「こっち見て!」

 

 

その後に超能力付与服を着た兵士がワープしたり物を出現させて80個四人お手玉をしたりして驚かせていく。

 

「目が回る。」

 

 

次に神選者を乗せたバスが複数走っていく。

次々と歓声があがり、変身系、イケメン、美女、超火力、かっこいいで反応が別れていた。

 

「変身!イリュージョンスターティング!バグアラート!バージョンアップ!リ・リ・リ・リスタート!」

「きゃー!ハル様ー!ハル様ー!!」

「うおおおおお!」

「見ろよ、あの180mm砲を背負ったあの方を!」

「世界を変えてくれー!」

 

 

それが通り過ぎると今度は多種多様な戦術兵器が走ってきた。

 

『短期重力湾曲砲』

『エナジーバリア・リフレクター』

『超電磁四連装砲塔重戦車』

『焼夷魔法砲塔戦車』

『ガーディアン』

『破壊砲戦車』

『絶対等速直線運動砲』

 

等を筆頭にした戦略・戦術兵器が走る。

 

「よくわかんね」

「まるで新品の様だ……」

 

 

続いてパワードスーツ、エアーアーマー、バーストコートを着た兵達がそれぞれ走り、飛行、跳躍を列を崩さず通っていく。

 

「うおおおおお!」

「介護に欲しい」

 

 

トラックがこっちに走ってくる。

いきなり飛び跳ねたかと思うと変形し、巨大なロボットとなる。

 

そのロボットが観客に手を振っていると突如ポインターが横に出現し大量の誘導弾を放ちながらロボット落下してきた。

バリアを張って待機状態となったそこにパワードスーツを着た人間が跳んでくる。

 

「あ、パパだ!」

「……本当ね!?」

 

彼女達の父だった。

ロボットの操縦席が開き、差し出された手を使って飛び乗る。

そして道がが割れ、破片と共にロボットが出てくる。

 

スラリとした身体は何処か宇宙外生命体を感じさせた。

 

ギロりと周りを見渡した後、そのロボットは物理的にありえない動きで走っていった。

それに続いて他のロボットも去っていく。

 

そして、沢山のイコール・ドラゴン・ウェポンが列を成して行進する。

落ち着いた気性の方のイコール・ドラゴン・ウェポンとはいえ、厳つい風貌は見る者に恐怖を与える。

 

 

 

行進が終わり、ARで道の上空に国王の姿が映される。

 

「諸君、こんにちは。いい天気だな。」

 

一呼吸を起き、マイクを調節する。

 

「本日のパレードにて我々が簡単に公表出来る軍事力でこれだ。そして諸君達が知っているように、最高の火力を持つ異砲船が我々の宇宙にある。この軍事力、技術力を用いて十数年の間に大陸の大半を我々の国として取り戻し、今度は宇宙へ諸君と共に活動範囲を広げる事をここに約束しよう。我々は何者にも脅かされない幸福なる生活を作る事が出来ると信じている。

 

その為に、我々は異世界を利用する事にした。

彼、彼女等は旅行しにきた人として受け止めてほしい―――」

 

 

 

 

演説中に世界の各所で空が光る。

 

そこから現れたのは沢山の平べったい船。

船の砲塔が森を、山を、氷を、火山を、海を狙う。

 

そして活気ある村も例外ではなかった。

 

「ちょっと……何あれ!?」

「神選者様の船か……?」

 

船を見上げていた人間達は、砲弾に気づく事無く木っ端微塵になる。

ギルド、王宮は尽く破壊され、民家の一軒も残さずに撃ち壊される。

 

巣にいたリオレイアは巣ごと埋められ、眠っていたガムートを砲弾が貫通し吹き飛ばす。

ただ歩いていたテオも爆撃に重傷を負い、あらゆる地域の草や腐肉が焼き払われる。

 

そして、竜機兵が何処かから大量に飛来し、生き残った獣や竜を殺し尽くし、竜の雛も人の子も関係なく素材に変えてしまう。

 

 

 

 

そして、ドンドルマは戦車や空爆に襲われていた。

泣き叫ぶ人間も容赦なく撃たれ、粉々にされる。

 

竜機兵も大量に飛来し、地下に隠れた人間を焼き払う。

 

大老殿は既に破壊されており、戦車の前に人も竜人も武器も体躯も関係なかった。

 

「くっ!指揮系統も何もないな!」

「あぁ……皆さん!こちらに急いで!」

 

ギルドナイトの女と男は竜機兵を相手にして生き残った人々を誘導していた。

 

「ふんっ!」

 

女は竜機兵の鱗の隙間に双剣を刺し、対物ライフルで風穴を空ける。

しかし竜機兵は呻きはするが、全く動きは止まらず振り落としにかかる。

 

「閃音爆弾いくぞ!」

 

男が何かを投げると、強烈な閃光と爆音が響き渡る。

望遠鏡でこちらを見ていた観測員が失明した事により、進行が遅くなった事を彼らは知らなかった。

 

「下がる!」

「了解!」

 

街より数十倍大きいドラゴンが立ち上がり、1歩踏み出して街を壊滅させる。

爆撃機もまだまだ残っており、逃げる一般人を余すことなく爆撃する。

 

 

 

 

ドンドルマは壊滅した。

寝返ろうとした神選者は片っ端から殺されていたのだ。

そして、原住民がオーパーツに対抗が出来るわけがないのだから当然の結果だろう。

 

 

 

 

「「シュレイド王国に栄光あれ!」」

 

パレードが終わる。

 

『帰還します。揺れにご注意下さい。』

 

 

「あー、楽しかったー!」

「良かった良かった。」

 

特設施設からわらわらと人間が出てくる。

 

「私も大人になったら兵隊さんになりたーい!」

「いいわね……でもお父さんと同じでエンジニア方面かしら?」

「えんじにあ?」

「うーん……ロボットを操作出来る役割かな?」

 

「へー、楽しそう!」

 

 

ティガレックスの羽が握りつぶされる。

胴と頭を掴んで首を千切る。

 

 

「きっとお父さん以上の兵隊さんになれるわ!」

 

 

ブラキディオスに殴られても全く動じないその金属の体は、高速で回転する刃を振り下ろした。苦痛の咆哮が響く。

潜水艦がアームを伸ばしてザボアザギルを掴み、砲塔を向ける。海が赤く染まる。

 

 

 

 

「えへへー。」

 

 

 

 

 

 

 

『きょうのにっき』

 

へいたいさんはかっこよかったです。

わたしもしゅれいどおおこくをたすけたいです。

そしてぱれぇどでみんなをえがおにしたいです。

おとうさん、だいすき!

もちろんおかあさんもすき!





我々は選ばれし人間である。
私は一国民として、王国を支え糧となりたいと思う。
そして妻よ、我が子よ、愛しているぞ。


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個々の自由


天廊ってどれくらい大きいのですか……?
(この世界では高度10000mの超巨大建造物としています)



ネセトと共に炎に包まれる。

しばらくそのままでいると突然炎が消え、掃除されていない冷たい岩で出来た部屋に居た。

 

「しばらくはここのフロアに避難しておいてくれ。」

 

周りを確かめると一切モンスターの気配が無い。

ウイルスを風に乗せても、ただだだっ広く、植物が霧状に何かを出している以外は何一つ無い……

 

人間の姿に変わり、床を撫でると凄く硬い素材だと分かった。

つまり床を破る事は不可能。

 

「バルカン!つまらないのだが!」

「早くないか!?」

「……縄張りもなく、危険もないとしたら非常につまらない生活になるだろうという推測だ。」

「あぁ……なるほど。まぁ確かに避難したからといっても野性味が薄れたり、過剰なストレスは精神衛生上良くないからな……相談しておこう。」

 

……バルカンは炎と共に消えた。

緊張が解ける。

 

さて、まずはネセトの掃除だ。

戦火や爆風による砂利やゴミを取り除かないとならない。

 

水銀を近くから作る事は……植物の出す霧から作れる様だ。何故?

とりあえず内蔵の水銀を含めて集め、糸で水銀に部位を入れて洗う。

私が龍の力を操作しているからか、こびりついた汚れも手に取る様に分かる。

 

笛を研ぎ、撃龍槍も洗濯する。

そして撃龍槍の柄を床に叩きつけてみると、ヒビが入ったが再生した。

私では突破は無理だ。

 

ネセトを組み直し、貯蓄している瓦礫を射出する仕組みを調節する。

糸で瓦礫を固め直す。

人間姿に変わり、気になっている植物に近づこうとした。

 

 

 

雷が走る。

 

 

 

「やっほ♪」

「っ!」

 

ミラルーツが……

大量の黒い腕で空間を押し広げながら入ってきた……

 

「あ、これ?数十個の事が出来るから便利なのよー。」

「……」

 

流石に言葉が出ない。

なんだこいつ。

 

「えっと、なんだったかしら?」

「……暇だからどうにかしてくれと。」

「あ、音ゲーやる?」

「は?」

 

おとげー?……音で遊ぶという事か?

確かに私には笛はあるが。

 

「あー、そうだよね。タワーディフェンスよね……ちょっと待って。」

 

そう言ってルーツは腕に包まり消えた。

 

 

 

 

神選者・神弓者ミツル

 

 

輸送班の護衛してるが……特に襲ってくるモンスターはいないし大丈夫だろう。

 

「リカ、『戦争』ってゲームやらない?」

「ぶ、ぶっそうな名前ですね。」

「いや、ジャンケンして勝った後にあいこになったら得点っていうゲーム。」

「なるほど。勝利条件は?」

「合計三回か、連続三回あいこだったら勝ちだよ。」

「ふむ……では後者の連続の方でやりましょうか。」

「それぞれ勝った時の呼称は――」

 

「「せーんーそう」」

「えっと……はわい、はわい、ぐんかん」

「軍艦、軍艦、ハワイ。一本とって朝鮮。二本とって軍艦。三本――」

 

バシィッ!!

ブチィッ!

 

「四本取って勝利♪」

 

 

 

 

 

遠くから絶叫が聞こえると共にルーツが戻ってきた。

少女の姿になったルーツの腕には、肩からの腕が流血している状態で四本あった。

 

「ちょっと待ってね……」

 

再び上半身を黒い空間に突っ込む。

そして大量の黒い女性が黒い腕に巻かれて出てくる。

 

「はい、ヨグたん!頼んだ!」

 

よぐたん……?

ルーツの行動が全く分からない。

 

 

 

次の瞬間、全ての女性が爆発したという事象もその一つ。

しかし爆発した人間は動き続け、顔は何かを叫ぼうとしていた。

 

 

 

「はい、腕を出して。そしてこの様に構えて。」

 

人間開かれた口や断面から黄色い泡が湧き出し、音も無く、血痕も残さず一瞬で消えた。

いつでも切り落とせる体勢で人間である私の腕をルーツに伸ばす。

人間の所にあった腕輪をルーツが拾い、こちらの腕に回す。

 

血に塗れた腕輪は私の腕にぴったり当てはまり、腕を横にすると私の前に緑色の何かが浮かんだ。

 

総合、検索、創作、龍力、設定?

 

今は総合で細長い何か……天廊か?それを横から見ており、沢山の数字が並んでいる。

 

「……なんだこれは?」

「それは遊び用のリングよ。タワーディフェンスって言って……左の『検索』で1Fって書いてみて。」

 

とりあえず従って触ってみる。

確かな感触があるが、硬さが無い……

 

「一階……ああ、なんか地図が出たな。」

「で、右に色々な物が出たでしょ?一番上の数字を消費して設置して、侵入してくる人間を殺して。」

「……何故だ?何故私がやるんだ?」

「暇なんでしょ?」

「……分かった。」

 

その後も色々と説明が続いた。

 

チュートリアルと称して50人殺したのには驚いたが……ルーツは人間を憎んでいるのだろうか?

とりあえず殺した人間は素材になるから私に利点はあるのだが……何故こんな回りくどい殺し方をやらせるのだろう。

 

 

 

四人が塔に入ってきた。

 

大砲が人間に向けて放たれる。

吹き飛んだ人間は予定通り槍に刺さってくたばった。

 

謎のゲル状の生物が二階に湧いた為、火炎放射器で炙り殺す。

 

異常が発生した際に音が鳴るという仕様の為、合間にそれぞれの仕組みを確かめる。

所々操作出来ない階層があるが、なんなのだろうか。

 

 

……

 

で、私は?

 

私は何をすればいいんだ?

 

……まさか、これで長期間過ごせと?

 

 

 

 

 

 

 

殺す。

どうして私の望むように事がすすまないの、殺したい。

早く殺したい。

なんで殺しちゃいけないの?

いや、殺すと殺されるから。

だったら殺していいじゃん。

殺す理由はある。罪状もある。

ならば死刑だ。正しい死刑だ。

正義の元に殺す。

早く殺したい。

でも殺せない。

殺したい。

絶対殺したい。

殺したい殺したい、殺したいよ!!!!!

殺したいよ!!!殺したから!殺したんだから殺していい!

私よ、殺せ!

殺したい。殺したい!!殺せたのだから!

殺せない事が苦痛。

殺せない。

殺したい。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後

 

 

 

シュレイド王国の進軍は止まらない。

 

ポッケ村を破壊し、巨大な剣は有効活用しようと引き抜かれ運ばれた。木材の為に針葉樹林は伐採されていく。

 

ユクモ村を破壊し、巨大な地熱発電所を作った。劣等民族の男は既に殺し尽くし終わっている。

刺さった杭から加工された鉄や石が送られ、どんどんビルや道が作られていく。

 

 

その時、飛行機は森や川に毒ガスを戦闘機で散布し、生物を一匹残らず死滅させていた。

絶滅や食料問題は培養・養殖技術のお陰で気にしなくていいのだから。

 

 

奴隷はいない。食糧費や寝床、監視にかかるお金をアンドロイドと環境エネルギー設備に回した方が効率がいいからだ。

 

 

 

ユクモ防衛兵は建設された観測塔から景色を見渡していた。

 

「今日も平和だなー。」

「アンドロイドが見つけ次第殺しといてくれるからな……!?」

 

 

突然、防衛兵達の部屋の電話が鳴り出す。

 

兵士は駆け寄り、パスワードを打ってから受話器を取る。

 

「はい、こちらユクモ村防衛部です。」

「こんにちは。」

「!?」

「こちらは領土奪取計画本部副監督のティアルムスだ。」

「こっ……これは……っ!」

「いや、先程の挨拶は電話の第一声としては当たり前の行動だ。落ち着きたまえ。」

「し、失礼しました!それで、どの様な指令ですか?」

「指令……ではないな。回線を拡声器に繋いでくれ。」

 

 

兵は言われた事を達成する為、机の下段に置かれた巨大な箱に管理カードを通す。

すると数回のアラーム音と共に接合部が伸びてくる。

それを掴み、右上の通信機の下側に差し込む。

 

 

塔のスピーカーからサイレンが響き渡り、作業中の人間達が顔をあげる。

 

先程までの人間とは違い、警告音と共に機械音声が流れた。

 

 

『現在、霊峰にて強力な龍を捕捉しました。防衛任務を軍人として行う方以外は速やかに避難をして下さい。繰り返します。』

 

人々はざわめくが、素直にアンドロイドの誘導に従って避難を始める。

そして入れ替わる様に車両が街に入ってきた。

 

杭から神々しい光が溢れ、紫色の光と共にこの世界でいう反物質や劣物質で作られた兵器が運送されてくる。

 

 

「こんにちは、よろしくお願いします。私達はガダルルという世界からやってきました、隊長のレヌゥルゥクです。」

「私はシュレイド王国の第三兵隊長のサーラです。今回はよろしくお願いします。」

「あー、俺はウルド。二足歩行のお前達みたいには機械を使えないが魔力保有量なら一番だと思う。よろしく。」

 

 

皆が団結し、一匹の邪悪な龍に殺意を飛ばす。

 

 

 

 

 

「………縄張りとは他の生物を押しのけて宣言する領土。もし地球全体を人間の縄張りとしたなら?………分からない。」

 

暴風の中、龍は横になっていた。





マグネットスパイク……確かに電磁だから使い勝手がいいですね……
あとバルラガルの辿異種の登場、ありがとう、おめでとうございます!!


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龍の蝶は


しかし竜巻はいずれ消える。



バルファルクが私の近くに接近する。

豪雨と暴風の中、普通に飛び込んでくるその姿は軽い絶望を覚える。

 

「どーするのー?」

「………迎えて対話を試みる。」

「えー……マジ?」

「個として、人間だから嫌う、はない。………ルーツが異常すぎるだけよ。」

「まぁーそーなんだけどー」

 

彼女は濡れた土を掘り返して遊び始める。

バルファルクは力を持った我々の中ではかなり呑気な状態が多いという珍しいモンスターだ。

 

「私はここにいる。」

「分かったーシャンを呼ぶー」

「………まぁ、別に構わない。」

 

バルファルクは爆発音と共に光を翼から放ち、一瞬で音速に到達して雲を突き抜けていった。

 

 

………どうして人はモンスターを狩るのだろう。

その上で何故過激になっているのだろう。

 

 

 

 

 

私は遠い昔、人間に助けてもらった。

だから過剰な敵対心は抱いていない。

 

 

 

とても小さかった私は古龍としての能力や殺気は無く、アイルーにさえ袋叩きにされる程に小さな存在だった。

それでも私はただ好奇心に流され、独自の理論で安全かどうかを確認して雪原に入ってしまった。

 

寒さに凍えながら焼ける様な痛みを伴う風を打ち消し、必死に飛んでいた。

何故そこで退かなかったのか、今では全く覚えていない。

 

そして最終的に当時のハンターに撃ち落とされ、雪の中に墜落した。

 

今なら分かるが、どんな瀕死の状況であろうと私達の種程に強力ならば再生力により数日気を失えば元通りになる。

だが、その時の私は這い寄る冷たい死と倦怠感に怯えながら目を瞑ろうとしていた。

 

そして次に目を開けた時、私は光に照らされていた。

 

体に纒わり付く水滴をふるい落とし、風を纏って浮かび上がる。

 

「起きた?ほら、飲みな。」

 

突然、男性が歩いてきてミルクと肉を私に差し出した。

警戒はしたものの、腹は空いていたのだから飲んだ。食べた。美味かった。

 

その後、野良猫程の私が1m程にまで大きくなる20年以上の間、私はペットの様に付き従っていた。

 

 

 

「………これ。」

「おう。怖くなると同時に頼りになったな。」

 

既に50歳は超えていた彼は、獲物を追う体力が流石に足りなくなった。

当時の龍なら珍しくない念話能力で話しながら私は彼の生活を援助していた。

 

 

しかし欲に浸され、染められた噂は好まざる来客をとても多く呼んだ。

 

 

家の戸が破壊され、弓を構えた人々がなだれ込んでくる。

 

「いたぞ!」

「捕まえろ!」

 

そして私を見るなり網を構えて走ってきた。

突然の事に躱すことはしても遠くに逃げる発想が起きなかった。

 

「逃げろ、ヴァイラ!」

「………はい。」

 

当時、ヴァイラ(布)と呼ばれていた私は彼の言葉に従い、私を掴もうとする人々の上を通り過ぎて木窓を破って飛び出た。

狩猟している間に身についた風を操作する力で嵐を纏う。

 

しかし雪原で狩り慣れていた人々には通用しなかった。

 

左腕が撃ち抜かれ、自分の不利を悟った私は沢山の雪を巻き上げ、目くらましをして家に飛び戻る。

割れた窓から再び突撃しようとしたが、抗争の音が聞こえない為様子を見る事にした。

 

「だから!目を覚ませ!」

「ヴァイラはペットであり親友だ!お前達こそ目を覚ませ!」

「相手はモンスター、その中でも格別強い奴らだぞ!?思想が犯されてるんじゃないか!?」

「それならそれでいいだろ!関わるな!俺を捨てた奴らがよ!」

「……頼む、隣の奴らが攻めてきたんだ……!また皆で村を守ろうよ!」

「うるさい、出ていけ!」

 

私が屋根に身を隠して聞いていると、項垂れながら人々は追いやられた。

屋根裏の窓に腕のヒレを差し込み、空気を放出して窓を開く。

 

「なっ、居たぞ!龍が居たぞ!!」

「カロ!?ヴァイラ!?」

 

彼が駆け上がってくる。

だが、私は対話を試みた。

 

「………待って。どうして私を狙う?」

「……!?は!?ちょっ……しゃべっ!?」

 

駆け上がってきた彼は、カロという男性が困惑している姿に違和感を感じだようだ。

 

「どうした、カロ?」

「いや……マジかー……」

「………」

 

「いやね、ウチの占い婆さん居るじゃん。婆さんがさ、『吹雪を起こすのは財を奪う無音の悪龍』って言うからさ……」

「クソババアか……ちっ、あぁもう!二度と持ちたくなかったが皆殺しにしてやる。」

「ほぉぁぁ、お、恩に着る!!」

 

その時、彼は感情的だった。

普段に比べて短絡的に動いていると思った私は、見送った後に村と村の間で七週間嵐を起こし、遠回りを警戒しながら誰一人通さなかった。

 

 

 

三週間目の時に村の婆が事故、凍死した事により独裁は終焉し村人が協力して考える様になった事で平和を取り戻した。

 

その後、再びリーダーが選ばれたが独裁への警戒策を講じるなど反省をいかしている、と彼のソファになりながら聞いた。

 

 

 

 

 

………だから、神選者の頂点さえ討てば大多数の人間は反省してくれる。

私はそう思っている。

 

 

私を四方から動物達が囲む。

 

「………待って。まずは武器を降ろして話をしましょう。」

 

「お前は生きているだけで大量殺害兵器だがなぁ!!」

「「「放て!!!」」」

 

やっぱり駒とされている人は説得出来ない。

いや、きっと説得は最初から出来なかったのかもはしれない。

 

「………ごめんなさい。」

 

謝った。

広範囲の空気を圧縮し、高熱の空気で皆さんの体を煮えさせる。

魔法や砲弾は竜巻で地面をめくって、外側に水の壁を作り防御する。

 

次に圧縮した空気を戻し、台風を作る。

これで簡単な城になったかな……あ。

 

「………おいで。」

 

水と風と文明が吹き舞う中でクシャルダオラの子供が踏ん張っているのが分かった。

気流を作り、クシャルダオラを引き寄せる。

 

「………大丈夫、大丈夫。」

「アゥ?」

 

無垢な目をこちらに向けてきた。

 

 

 

「奴は死んだ。俺が代わりのリーダーとなろう。」

「いや、俺がやる!」

「私がやりましょう。」

「絶対私がやるべき!!」

 

雪を溶かす火と澄んだ血の匂い。

 

 

 

「人間は絶対に間違える!殺し尽くさないといけない!だから間引く!」

「………」

「我に関係があるとでも?」

「儂も余り……」

「ファーwwwカラオケするわ。」

 

たった四匹の龍が世界の行く末を話し合う。

 

 

 

………知能がある事が罪なのだろうか。

私達は正しい行動をしているのか?

いや、正しいなんて物は無いのだろう。

 

これもある種の必要悪なのだろうか。

 

 

 

「絶剣・光演封神!!」

「暴風。」

 

風を切って飛び込んできた人に強い風を正面から送り、吹き飛ばす。

追撃で空気を纏め、見えぬ弾丸にして穴を開ける。

 

「ヒール――うわっ!」

 

杖を巻き上げる。

竜巻を十数個起こし、まともに動けない状況にする。

 

………真空状態で沸騰した海や川の水分の運搬が終わった。

上空で大きな水の塊にし、大気圧で押す。

勢いよく発射された水は雲や風を貫き、地獄絵図を作り出す。

 

勿論殺戮は好きじゃないけど、過剰防衛は因果応報。

私は咎められる様な事はしてない。

 

「天誅!!」

 

………何処かでその声が発せられたと共に、隕石が大気圏内に出現した。

霊峰に向かって落ちてくるそれは大陸全土を破壊する様な大きさ。

 

「ウゥゥ!?」

「………大丈夫。待ってなさい。」

 

怯えるクシャルダオラのまだ柔らかい皮膚を撫でながら言い聞かせる。

 

 

 

数十秒後、隕石は大量の蒼い隕石と青白い彗星に破壊された。

粉々になった破片は蒼い光を纏い、何処かに向かって飛んでいく。

 

「………ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

「確かここの山だよな。」

「あぁ、だが何処にも見当たらないぞ……」

「……あ、あれは!?」

 

「ふはははははは!!!若いモンには負けん!!!」

 

龍を討ちにきた人々が見たのは―――

 

 

 

大量の隕石の中、魚雷を連想する形の隕石に纏わりつきブレスで千剣山を破壊しながら近づいてくる龍の姿だった。

 

「「はぁぁぁ!?」」




第四人類

第七人類

特異点があろうと最期は同じ


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世界紛争


知ってるかしら?
オンラインサバイバルゲームは早く来たユーザーの方が有利なのよ。
つまり――



「ヒャッハー!!」

 

大量の隕石が降り注ぎ、天に届きそうな山々を根元から、そして天空山から全てを破壊する。

元々不安定な地形であるここは、ダラ・アマデュラが身を翻すだけで崩れ去ってしまう。

 

隕石の土煙の中から、蛇は蒼い粉を撒きあげ大気を唸らせながら空へ舞い上がる。

 

遥か彼方まで登り、その姿が小さくなると、先程落下した岩石、隕石と破壊された山々が浮き上がり大気圏を突破していく。

 

そして大きな声が鳴り響く。

 

「彼女の制止が無い……という事で貴様達に我が名を名乗らせて頂こう。」

 

「光速弾、放て!!」

 

赤い尾を引きながら弾が飛ぶ。

しかしガラスが割れるような音と共に尾は消えた。

飛べる者は出来るだけ散りながら空を飛び上がる。

 

「我が名は『ウロボロス』!六度人類を滅ぼし、地となり海となった者である!キリッ!」

 

再び石が蒼い光を纏って落下する。

 

「各員、回避行動!」

 

落下してきた隕石は都合のいいエネルギーだけを取り、回避して上昇する人間を速度を落とさず追尾する。

 

「ぬわぁっ!」

「くっそ、壊せ……ない!?ぎぃぃ!!」

 

「ブリザード!!」

「呪縛、地縛貫!」

「我、全てを操る者なり。龍脈の一部停止を命ず。」

 

物理的に届かないし効き目が薄い。

 

ダラ・アマデュラが下を向き、急降下を始める。

それに続く様に全ての隕石が降下を始める。

黒い空を彩る凶星はとても幻想的だった。

 

「デザート!!」

「顕著せよ、泪の川よ。」

「優越に破滅を。」

 

山を切り裂く程に巨大な鎌が振り下ろされるが、ダラ・アマデュラの進路を変えることさえ出来ない。

 

抗う事も出来ずに衝突――は防がれた。

光の壁が衝撃を吸収する。

 

「やーっと、出たのじゃな……」

「愛の元に、人に泰平の世を。」

 

慈愛の神のヴェーライによる力で体当たりの衝撃は吸収された。

腕を振り、その光を沢山の光線に分けて大多数の隕石を爆砕する。

 

そのままダラ・アマデュラに曲がり、咄嗟に浮かび上がった蒼炎の球のぶつかり合う。

 

「それが人の求める救いか?」

「愛は等しく、そして厚かましい物。」

 

ヴェーライは大きく飛び退き、岩の上で翼を広げる。

そして両手でパンと叩き、ハートを作る。

 

「安心があって育つ子達なの。」

 

その形のままピンク色の波動が複数回放たれる。

ダラ・アマデュラは波動を食いちぎり、そのまま神と岩を呑む。

 

だが、暴力的な力は能動的な力を抑える事は出来ない。

息をする様に瞬間移動していた。

 

「『盲目なる感情』。『自棄的破――チッ!」

「――おやおや、愛の女神は優越感に恋してるのかのう!」

 

落下して埋まっていた隕石が一斉に浮く。

尖った山々を縫う様に逃げる女神を隕石が追い、その後ろをダラ・アマデュラが山を破壊しながら追う。

ダラ・アマデュラが身を捩ると、周りを舞う蒼い粉が光を強くする。

 

「はぁっ!」

 

隕石は光弾で破壊し、ダラ・アマデュラのブレスは大きく弧を描いて避ける。

そのまま空中に留まる光を20個放ち、後ろに回って息を整える。

 

「何が愛の神じゃ。数は多くても、質は高くても消費期限は100年に満たない感情の神じゃから力は無いのかの?」

「そういう……貴方は私を、倒せない様ですが?」

「……ぷっ、くはははは!無いよっ、倒す必要無いよ!」

「え……っ!!」

 

ダラ・アマデュラはひとしきり笑った直後に大口を開けてヴェーライと光弾を食べる。

再び瞬間移動した女神は全力の一撃を放とうと構える。

 

「サシミウオより甘いかな!」

「くっ!?」

 

開かれた口から光弾がブレスに包まれ、防御した途端に爆発する。

自身の技の威力が加わった攻撃は即席の防御壁では耐えることが出来なかった。思い切り吹き飛ばされ、山に打ち付けられる。

 

「さぁて、どうしてやろうか……」

「ふぅ……くっ……」

 

ダラ・アマデュラは半分気を失った女神を掴もうとした。

 

 

 

「クロノス!」

 

時が止まる。

 

「それでどうした?」

「……なっ!?」

 

ダラ・アマデュラは女神を握り潰し、死体を投げ捨てこびり付いた破片を舐めとる。

 

「もうちょっと骨のある奴は来ないのかの?」

「シークレットダガー!」

 

余裕を見せる蛇に向かって時間的異常を起こす切断行為を行う――事は出来なかった。

 

「――っ!?」

 

山や隕石から黒い影が跳んでくる。

猛烈な腐臭ととても鋭い舌、二本足で立つものと四本足で唸るもの、透明にも半透明にも、そして濁った宇宙にも見える肉体を持ったそれは神に食らいつく。

 

「う、わぁぁ!?ァ”ァ”ァ”ァ!」

 

神は噛まれた所から崩壊していき、たちまち首を残して消えていく。

消えた後、停止した時間は動き出した。

 

 

 

「ひえっ……流石に怖いわ。」

 

強烈な紅い雷が発生する。

 

「大丈夫大丈夫。根本的な不可侵条約は結んだし、こちらに介入する者共を殺し尽くす事を許してるだけだから。」

 

そしてミラルーツが雷の歪みから山の頂上に現れた。

周りを見て状況を理解した仕草をする。

 

「で、ウロボロスだったかしら?」

「今流行りの二つ名、じゃろ?」

「あ、いや……二つ名ってそういうもんじゃ……」

 

話し始めると同時に猟犬達は腐臭を残して姿を消した。

取り残された人間と、到着した神々との大戦争が起こる事をダラ・アマデュラが知る事は無かった。

 

「それにしても、そちらの世界の神々は異常に強くないか?」

「人間と共存するとか、共に過ごすとかのヘナチョコ神々(笑)に比べたらあかんわ〜。」

「あぁ、そうか。絶対的な神と比べたら駄目じゃったか。」

 

 

ミラルーツの目の色が変わる。

 

 

 

「大体、人間と共存するって何?そんなの只の『神』って呼ばれるだけの新種の二足歩行動物じゃん。神が人を作り出して利用するならともかく反撃にあって、あまつさえ人間に討伐されるとか只の猿じゃん。そんな自己承認要求の塊みたいな糞存在なんてさっさと人間共々消えてしまえば――」

 

 

 

「わぁった、わぁった。神の考え方は様々だし、そんなにカリカリすんな。」

 

ダラ・アマデュラが制止する。

ミラルーツは眼を大きく見開き、溜め息をついて両手を持ち上げる。

 

「もうモンスターハンターの世界観は終わったのよ。」

「……」

「はぁぁ、まーた一からやり直さないといけないけどさ、嬉しい事に彼女が生きてるからさ、困った事に地上を焼き尽くせないのよ。」

「あぁ、ゼノ・ジーヴァか。」

「そんな糞みたいな名前じゃない!……あ、いやまぁしょうがないならその名前使ってるけど。」

 

 

不意に異界の物質、オリハルコンで出来た砲弾が飛んでくる。

ルーツに向かったそれは、突如放射状に分解され、ルーツの胸の前で小さな丸い塊となる。

そして黒く、視認出来ない状態に変わる。

 

「……オリハルコンって元々凄い密度で、魔術を使わないと加工出来ないのよね〜。」

「へ〜、儂、賢くなった!」

「馬鹿みたいな言い方やめてくれるかしら?」

「いやー、もう年じゃから認知症を発症したのじゃー!」

「重度認知症患者は己を認知症と表現しないわ。」

「……ほんとかなぁ〜?」

 

ルーツは次元を切り裂き、向こうにある綺麗な惑星を引き寄せる。

 

「さぁて、せっかくブラックホールが出来たんだから脅威にしないとね。」

 

次々に空間を切り裂き、そこから黒い物質が段々とルーツの手元に集まる。

わざわざ惑星で作るのはこの世界への配慮と他世界の生物の死滅を行っているからだ。

 

「とはいえルーツ……そんな事して反撃されたらどうする?」

「反撃出来る存在がいるなら触らないだけだ。もしこちらからは無干渉であっても世界を越えて乗り込んできたら全力で生き地獄を味わってもらう。」

 

ミラルーツは雷を纏う。

そして、もはや過去の面影が無いドンドルマ上空に転移する。

 

 

 

 

『CAUTION!!CAUTION!!』

「映像解析……光学監視機はダメです、光が歪んでます!」

「原子重量観測機もエラー!ブラックホールと推測!」

「市街地上空に突然ブラックホール……!?そんな馬鹿げた話があるか!」

 

突然の異常現象に保安局は騒然とする。

彼らはただ一つ、ブラックホールが街に被害を出さない事を願うが――

カメラには笑顔のミラルーツが見えた直後に破壊された。

 

 

 

ブラックホールはドンドルマを縦横無尽に走り回り、綺麗に壊滅させていた。

ルーツはブラックホールを蹴りあげる。そして尻尾でシュレイド城がある方向に尻尾で叩き飛ばす。

 

「例のスマホゲーみたいに簡単に大きくなったらいいのになぁ……さて、日が暮れるから帰ろう。」

 

 

 

 

 

ダラ・アマデュラが戻ると様々な状態の死体と、鉄の残骸が転がっていた。

その惨状を見て嘆く。

 

「後片付けするのは儂かーい!」

 

答える生物は周辺に居なかった。




と言っても……
こちらからしたら迷惑千万、百害あって一利なし。
外来種は根絶しなきゃ。


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野蛮な防腐剤

ゾンビ肉の味は?

「普通だ」
「普通です〜」
「ォエッ」
「ゾンビ汁……」



地平の彼方まで焼け尽くす隕石は数を成して落ち、広がった炎は一瞬で氷と化す。

毒々しい色をした氷河は割れて沸騰し、蒸気となり雨となって降り注ぐ。

雨は凍りつき、ぶつかった物を腐食する雹へと変わる。

雹が落ちた所から大地は凍てつき、空気を焼き尽くす陽炎が地を覆い尽くす。

 

「『引導』」

「『ラグナロク・ミュージカル』!」

「『破滅的幻想』!」

 

五人の神選者と二柱の神が一匹の龍と戦う。

 

「『熾凍・根絶』」

 

だが通らず、反撃を許してしまう。

それどころか氷と炎の力と環境だけで圧倒的な強さを見せつけられている。

拡散する暴風は遠くに逃げるれば被害は少ないが、再び近づく労力とそれ以前に降り注ぐ炎と乱雑に生える氷柱の中で急いで距離をとるのは至難の技だった。

 

一人が氷の粉と化す。

 

「蛇甲拳!」

 

一人がディスフィロアの懐に飛び込み、殴りかかる。

抗う隙もなく一瞬で氷像となり、ゆっくりと足から溶けて行く。

 

「はぁっ!」

 

一人が氷像を引き寄せ、手から熱を出して氷を溶かす。

内部の発火点を優に超えていた気温により大爆発が起こり、二人は焼失した。

 

「く、くそっ!」

「貴様ぁ!」

「おかしい、この世界は!」

 

「死にたくないならここから立ち去ればいい。元の世界にな。」

 

神選者の嘆きをディスフィロアは一蹴する。

殺す事に喜びも楽しさもやりがいも感じていなかった。

 

「獄滅・『顎』!!」

 

高く舞い上がった神の腕を黒い光が這い回り、とても大きな口を形作る。

更に白い光がディスフィロアを追尾し、顎が閉じる前に穿とうとする。

 

「強い技はダメージの高い避けにくい技だと分からないのか……?」

 

そう言うとディスフィロアは炎を吐き出して口を食い止めた。

空中に二つの氷の鎌を作り出し、白い光を一凪で爆発させる。

そのまま翼を振り上げ、下ろすと同時に分厚い氷のドームに閉じこもる。

 

「くっ……そっ!」

 

炎との拮抗により威力の低下した顎では分厚い氷の守りに牙を突き立てる事さえ出来ない。

その間に炎が氷の中で渦巻き始める。

 

「シュヌ・ヴェール・ズィーチゥ・ヴァン・ダグズル!!『豪嵐』!!」

 

神は片手を振り上げ、急速な勢いで雷の塊を作り出した。

指を鳴らし、ダレン・モーランを超える大きさの雷の塊を落とす。

 

全てを分解する空間が落ちた。

追撃にもう一柱が周囲の光が闇に見える程の光弾を作り出して叩きつける。

 

「『宇宙崩壊温度』っ!!」

 

 

 

(「座標補助・事象確実化・沈静加速化確定。範囲はどうしますか?」

「まぁしなくても大丈夫だけど……地平線まででいんじゃないかしら〜?触媒と代償は半壊世界で〜。」

「どうも。とはいえ、そのつもりは無かったのですがありがたく頂きます。『ささやかな補助』」)

 

「『死の解』」

 

氷が広がり、粉微塵と化していく最果ての地の動きが止まる。

全ての熱と熱に至る動きが極限までゼロに至る。

 

「……流石に熱いな……そうだ、ゼスクリオなら吸収してくれるだろうか。」

 

蒸気を発し、炎のドームを散らしながらディスフィロアは立ち上がる。

 

「なに……っ!?」

 

技の威力で他の神と神選者を散らした愚かな神は絶望する。

 

「生きてたのか……いや、自分の技だから当たり前か。少しお返しを与えよう。」

 

ディスフィロアの炎鱗が燃え上がり、氷で作られた筒に炎の塊が入る。そして後ろに小さい光が入る。

神は砲撃を察し、防御体勢に入る。

 

「炎上空間!」

「……確か神選者の中で一番多い元の世界では重装甲は時代遅れだそうだ。.」

「閉鎖防御!」

「勿論各所は硬くても、当たらない為の機動力が一番だと。」

「封魔結界!」

 

筒の照準が合い、小さい光は輝き出す。

 

「防御の発展は遅くてコスパが悪く、攻撃の発展が多彩かつ明確であり早いという事実からだそうだ……」

「輪廻のまも――」

 

勢いよく射出された炎の塊が結界に当たる。

ニヤリと笑った神の心臓を炎の杭が貫き、大爆発を起こす。

 

ディスフィロアは飛び立ち、天廊へ向かい始めた。

 

 

 

 

 

 

 

やはり、緊張の無い生活はつまらなさ過ぎる。

 

笛と撃龍槍を担ぎ、二階まで外の壁を伝って降りてきた。

……カメラの映像を見る。

階段を登ってくるのは7人、それぞれ銃器とランスを持った人間達だ。

糸を放ち、天井に張り付く。

 

 

「くそっ、天廊ってあんな難しかったか!?」

「一階であれですから、二階はどうなる事やら―――」

 

 

撃龍槍を落とす。

 

ガン!

 

「ぐわぁっ!?」

 

ほう。撃龍槍を頭から無防備に受けて潰れないか。

久しぶりの手応えがありそうな奴だ……本来はこの様な危険は冒すべきではないが。

 

「あそこにアトラル……色が違う!」

「なっ、まさかあのゴア・アトラルか!?」

 

鎌を擦りながら降り立ち、銃を構えられる前に二人を笛で殴る。

感触から銃器で受け止めた様だ、と理解した時には飛び退って銃弾を避ける。

壁から壁へ跳び、振り返っている間に駆け寄ってランサーを一人殴る。

 

「おらぁぁっ!」

 

銃弾が当たり私の右後ろ脚が吹き飛ぶ。

笛を叩きつけて自然回復力を上げる旋律を作り上げ吹き鳴らすと、いつも通りウイルスが脚の形を作り出した。

 

「今だ――っ!?」

 

この部屋に繋がっている廊下に置いた盆から水銀を引き寄せ突き刺す。

 

突如ランサーの盾から謎の波を感じる。

次の瞬間、盾から氷が生えてきた所をゴアの翼で掴み、盾を奪取する。

盾を振り下ろして轟音で目を瞑らせた後、水銀を鎧として着る。

 

ガガガガッ!

 

圧倒的な装甲の代わりに能動的な機動力がかなり死ぬが、水銀操作力が上がる事によりそれも大分克服している。

撃龍槍を糸で引き寄せ、翼で掴み叩きつける。

……それでも死ぬ程に潰れただけで形状はかなり保っていた。

 

「化け物だ!各自散開っ!!」

「「了解っ!」」

 

全員が散り散りになる。単体ならすぐ殺れるだろう。

だが、各個撃破しようとして停止したら瞬く間に私の体は体液を撒き散らして死ぬだろう。

 

「ウェポン・リブート!」

 

二人のランサーの槍の形が変わり、ガンランスの機能を搭載した様に見える。

銃口が向けられたと同時に飛び、壁を駆け回る。

私のすぐ後ろを銃弾の雨が降り注ぐ。

 

段々と床に近づき、床を翼で掴んで最も遠いランサーを狙う。

 

「はぁっ!」

 

盾が光を放ち、水色の壁が取り囲む。

ただの壁であるそれを掴み、勢いを殺さず反転してガンナーに殴りかかる。

 

「ラピッドブースト!」

 

後ろに下がられた途端に直線的な爆炎が私に傷をつける。

瞬間的に弾薬を放出し、再装填の為に薬莢を振って出そうとしてる所に撃龍槍を糸で刺すように投げる。

クリーンヒットは避けられたが腹を抉ることは出来た。

 

撃龍槍についたままの糸で私を引き寄せ、左翼脚を引きずり、そのバネを使い右翼脚で殴りつける。

 

しかし何かをかじったガンナーは痛みを無視してすぐさま飛び退いた。

狂気に染まった顔からして恐らく覚醒剤辺りを使ったのだろう。

 

飛んできたロケットランチャーを回避し、余所見をしたランサーを糸で引き寄せ鎌で切りつける。

鎧ごと裂け打ち上がった所を叩き潰す。

 

息の根が止まっていないと確認していた私の左鎌の付け根から砲弾で吹き飛ぶ。

丁度鎧が無い所だった。

 

撃龍槍を投げてガンナーを、纏った水銀を棘に変えてもう二人のガンナーを食い止めて一人のランサーに襲いかかる。

 

笛を右鎌で抱え、旋律がセットされる様に翼でランサーを殴る。

一度攻撃を当てる度に敵はノックバックする。

交互に殴ったあと、左、左、そして右で掴み駆け寄ってくるランサーに投げつけてそいつの槍に刺す。

 

笛を吹いて鎌をウイルスで作り出す。脚は完治していた。

 

水銀を再び纏い、銃弾が私を穿つのを防ぐ。それでも数発突き抜けるが。

再び壁を走り、今度は近くのガンナーに殴りかかる。

 

「くっ!」

 

こいつは銃器で防ごうとした。

水銀を解いて人間の姿に変わる。

再び水銀を拳に纏い、股間を強打。足に水銀を纏って腹を蹴りあげ顔を殴り潰す。

落とした銃器を拾って倒れたガンナーに試射する。

 

 

ダダダダダッ!

 

 

鎧を貫通して沢山の穴が開いた。

この銃、かなり反動が強いが扱えそうだ。

死体を蹴りあげ、翼で引き裂き弾薬が入っているであろう物を探す。

 

数が減ってきた為攻撃に転じる。

 

水銀でハンマーを作りガンナーを叩き潰す。

乱雑に振り下ろし、気を取られていた最後のガンナーを撃ち殺す。

 

私を睨みつけながら退却するランサーに向かって、翼で撃龍槍を投げる。避けられる前に水銀で囲んで退路を無くす。

 

「はぁっ!」

ギィィィィィ!!

 

ランサーは壁を作り、撃龍槍を食い止める。

そのまま水銀が溶けるのを待っているようだ。

 

撃龍槍を引き寄せゴアの翼で殴りかかる素振りをしながら、腕輪から操作を開き蒼炎トラップを生き残りを中心に設置する。

これでガードを維持できなくなったら死ぬだろう。

 

「くそったれぇぇ!!」

 

 

……あぁ、暇だ。

肉……炎……焼肉でも作ってみてみようか。




(上手に焼けました〜♪)

うむ、美味しいな。
奴もそろそろミディアムになっているのでは?

「……うぐっ、ひぃっ……」

生きていたか……それにしても何故泣いているのだろうか?分からん。
別にハンターの行うアプトノスを狩って焼くのと同じ行為だが……あぁ、死ぬのが怖いのだろうか?ならば気にする必要は無いな。


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―アトラル・カは二度死ぬ―


「HIT ME WITH THE HARDCORE!」
「まーた歌ってる……」
「デェン テケテケテッテッテッテン⤵テケテケテッテッテッテェ⤴︎ドゥーイテケテッテッテッテン→ 」
「せめて歌詞がある所歌えよ!そこは鼻歌であって声で歌う所じゃねぇよ!」
「他人の趣味に口出さないでくれるかしら!?」
「だったら俺に迷惑かけない所行けよ!四六時中カシャカシャ鍵盤叩く音が五月蝿いんだよ!それは我慢するからさぁ!」
「……意外と優しいのね。」
「気持ちわる。」
「あ゛ぁ゛!?」



ドゴォン!!

 

とても大きく揺れ、天井を歩いていた私は落下しゴアの翼で着地する。

 

天廊の45階にて再び揺れを感じた途端、けたたましく警報が鳴り響いた。

すかさず各階の様子を見る。

 

32階の壁に穴が開いていることを確認。

そしてそこには炎の渦を纏ったディスフィロアが歩いていく所が映っていた。

カメラを切り替え、行き先を追って確かめる。

 

「……ルーツ?」

 

突如ディスフィロアはカメラの方を向いた。

訝しむ様に顔を向け、目を凝らしている。

 

「……の設置か。」

 

そのまま立ち上がり触ろうとしてきた。

故障の可能性を考え、私にはどうしようもないが焦る。

 

その時、ディスフィロアの後方で青白い光が走り、見た事も無い龍とゼスクリオが現れた。

 

「ピェェェエ!」

「アリガトウ、ゼノ。ダレカトオモエバ……ナルホド。」

 

ディスフィロアとゼスクリオは強いのだから名もわからぬもう一匹も強いのだろう。

それにしても、目が複数ある様に見えるゼノと呼ばれたこの龍は何だろうか。

 

「我の保持した熱を移行出来るか?」

「チョットホウシュツシテ……アッツ!」

「キュルゥゥ!?」

 

飛び跳ねたゼスクリオにゼノは反応した様だ。

驚いて興奮しているゼノをゼスクリオは宥めるように舐める。

 

「ダイジョウブダイジョウブ。」

「今のをかなり長い間放出する。限界がきたら伝えろ。」

「ハイ。ゼノハニゲテ。」

 

ゼノは首を竦め、周りを見てから光を纏い始める。

青白い光は強烈でカメラ越しに私の周囲をも青くする。

 

キュウンと音が鳴っている事に気づき、異常に気づいて振り向く。

 

目の前に青白い光が集まってきていた。

恐らく先程のゼノという龍だろう、先程の映像では無害そうに見えたが一応戦闘態勢をとる。

 

光は塊となり、巨大な鉱石の様になってからヒビが入って割れる。

 

「キュィァァァー!」

 

そして青白い粉を振りまきながらゼノという龍が現れ――

 

 

ジュゥッ!

 

 

くっ!?

私の体が、痛みも肉が晒される感覚も無く音を立てて溶け始める。

そして何故かゴアの翼が勝手に出てきてウイルスや肉が散っていく。

何かはよく分からないが、とりあえず素早くあの龍から離れ壁を挟んで逃げる。

ウイルスを撒いて探知してみるが消えてしまい、位置が分からない。

 

「クォォォン?」

 

とりあえず壁越しには逃げたが、どう考えても興味のままに私を探しているとしか思えない。

保持している力と頭脳が追いついていない。一体なんなんだあいつは?

 

「ギィ、ィ、ィ……ッ!!」

 

っ!?

とにかく死を感じて避ける。

 

撃龍槍を投げ突いても多少ヒビが入るだけというえげつない強度を誇る壁。

その壁をまるで当然の様にレーザーが突き破って私を狙ってくる。

 

焼け付き、痛む翼はそのままに穴に近い天井の隅に退避する。

 

「アォオォォ……」

 

開いた穴からゼノは入ってくる。

再び灼ける様な痛みに耐え、穴をくぐる。

 

 

 

いや、奴は私を見ている。

 

 

 

左後脚が崩れ、中の肉ごとビシャリと落ちる。

そして翼脚の溶ける速度が早くなる。

 

 

 

……まぁ古龍を舐めていた私も悪いか―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――っ!

 

 

目が覚める。

そこは……いつか見た部屋が少し大きくなった所だった。

 

冬の家具が並んでおり、私はコタツから半身を出した状態で座布団の上に頭を乗せていた。

 

 

起き上がる。

 

 

反対側ではただひたすらに、作業的に人が殺されていく映像を見ている少女が居た。

 

 

「ゲホッ、ゲホッ……」

「あ、起きたのね?大丈夫?」

「喉が痛い………いや、乾いた……」

 

何故か喉に痛みが張り付いていた。

それが珍しい喉の乾きだと気づくのには時間がかかった。

 

「オッケーオッケー。」

 

何かに頭を撫でられる感覚が走る。

すると体全体が楽になった。

もう一度咳をして周りを見渡す。

勿論何かが変わっている事は無い。

 

『きぃぁぁぁぁ!』

「……っふふ。」

 

ミラルーツはシュレッダーにかけられる少女を見て笑っている。

……まぁみかんが置いてあるのだから食べるか。

 

 

12人目が死んだ所で私の方に向き直る。

 

 

「体に不調は無いかしら?」

「……あぁ。また私は死んだのか?」

「ごめんなさいね、まだ彼女は力を扱えてないから……頂きます〜」

 

ミラルーツもみかんに手を伸ばし、皮をむく。

 

「さて、さっさと帰るの?」

「……?」

「出来ればずっとここに居て欲しいなぁって思ってるの。それで、実は――」

 

今回は、前回の様な強制では無さそうだ。

一体どういう風の―――

 

 

コンコン

 

 

……全く動かすことの出来なかった扉からノック音が鳴る。

ミラルーツを見る。

 

「うぇぇ……そっちの方が近いでしょ?寒いからお願いするわー。」

 

いや、コタツ以外は全く気温が分からないのだが。あえて言うのなら『適正』としか表現できない。

とはいえ私に主導権は無いのだから従うしかないのだろう。

 

コタツから出てドアノブに手をかけ、回して引く。

なんなく動いた。

ガチャリ、キィィとまるで使い古された扉の様な音を立てて普通に開く。

 

 

 

「どうも。ミラルーツさんは居られますか?」

 

 

そして、中々の美貌を持った女性が何処までも闇が広がる扉の向こうに立っていた。

 

「あぁ、居るぞ。どうぞ中へ。」

「お邪魔します。」

「あっ、にゃんにゃんー!」

 

……にゃんにゃん?

 

「………」

 

不機嫌な顔をした――事に私が気づいた、という事に気づくと顔の色が消える。

例えるなら何処までも続く闇の深淵、という顔になった。

あれ、どこかで会った気が……まぁいい。

 

「……そうですね、私の事はナイアルラトホテップとでもお呼び下さい。」

「……分かった。」

 

何処からどうやって発声しているか分からないが、分かるわけがないか。

それに何処か疲れた雰囲気が漏れている、詮索しない方が良さそうだ。

 

「こたつ入るぅ〜?」

「丁重にお断りします。今回はこの世界に侵略行為を行う神格、またはそれに属する力を持つ存在、もとい原理や法則の襲来のスケジュールをお伝えに参りました。」

「あれ、いつもみたいにヨグじゃないのね?」

「こちらの世界に助力した事により、思い上がった偉大な神様達による奇襲の大規模戦闘が発生する事に対しての対処に追われています。」

「ふぁーwww助けようか?」

「……いあいあ――」

 

全く意味の分からない会話を聞いていたら突然寒気が背中を撫でる。

私が驚きコタツに膝をぶつけるとナイアルラトは私の存在を再確認した様だ。

 

「あぁ、これは失礼致しました。」

 

……若干発音に生気?が戻っている。

ちっ、故意だったか。

 

「おーいヨグたーん!……うっわマジか、本当に来ないわ。そんじゃー!」

 

突然ミラルーツは立ち上がり、扉を蹴り壊してくぐって行った。

 

「それでは私も失礼します。」

「あぁ、分かった。」

 

ナイアルラトも立ち上がり、直り始めた扉をくぐって行った。

 

……流石に私は穴を通る勇気はない。

 

 

 

先程から聞こえるのは人間の断末魔だけであり、特に面白そうな物は見当たらない。

 

ゴトン

 

……ん?ピアノか……弾いてみるか。

だがさっきこのピアノはあったか?

……いや、あったな。注意を向けていなかっただけだな。

 

ピアノの蓋を開けると綺麗に磨かれている鍵盤と、譜面が張り付くように置いてある。

……?このピアノ直方体だったのでは?こんなグランドピアノだっただろうか……いや、部屋は広いしどうやったら直方体とグランドピアノを見間違えるんだ。

 

譜面の題名は……

 

『首吊りから始まる例外の恋歌』

 

……は?

題名が不穏な為、次の譜面までめくる。

 

『空耳メドレー』

 

……さっと目を通し、歌詞が巫山戯ていることを確認してからめくる。

 

『最新G2Rメドレー』

 

……エレキ、ギター?スクラッチ?人?……このピアノは二段だし、謎のスイッチもあるから出来るのだろうか。やめとこう。

結局コタツに戻る。

 

 

ザッ

 

 

ルーツとナイアルラトが出ていってから一切コタツから出ていないが……

殺された人間の数は30後半だ。いや私は何を見ているのだろう。

 

この部屋には武器や楽器、掃除用具は置いていない。

私が楽しめる事はなにも無い……

 

「やっほー!見えてるかしらー?」

 

集団絞殺の映像が切り替わり、龍としてのミラルーツが映る。

そして後方の触手の集合体なのか丸い物の集合体なのかは分からないその物に一瞬吐き気を催すが間もなく慣れた。

 

「アトラルー、まだ体の調整に時間がかかるから、今からやるLive中継でも見てて欲しいわー!自己紹介をどうぞ〜。」

「あ、はい。」

 

私の体をまた弄ったのか……

そしてグニャリと黄色い玉が画面一杯に映る。

 

「始めまして、ミラルーツ……アンセス?さんの友達のヨグ=ソトースです。普段はほぼ何でも出来る神様として門の向こうに居ます。もし会うことがありましたら願いや相談に乗ります。」

「万能なのに何故他人の願いを叶えるのか、コレガワカラナイ」

「実は細く繋がりを提示する事は認知や存在としてかなり重要なのです……あの、画面の向こうに居る方は?」

「アトラルちゃんだよ!」

「あー……あっ、あーなるほどー。」

 

そちらが納得してもこちらには全く事情が分からないのだが。

ミラルーツは何を考えているんだ……?というかなんなのだ……?

 

 

突如私の横で炎が燃え上がる。

 

「はぁ、運が悪かったな。しっかし、恐竜ウイルスを克服するのに運使い果たしたんじゃねぇか?」

 

いつか私を助けてくれたミラバルカンが炎の中から何かを持って出てきた。

何かを机に置き、広げる。

 

「とはいえあいつがやった事は本当で、お前はしばらくここを出れない。」

「そうか。分かった。」

「気をつけろよー?たまたま時期が良かっただけでタイミング悪かったら脳改造で依存させてくるだろうからな。」

「……そうか、忠告ありがとう。」

 

今度は何をされたのか……とりあえず前回の狂ったあの少女は怖かった。

ミラバルカンは机一杯に板を広げ、小物入れをパカリと開ける。

 

「ほらよっ。」

 

投げ渡された物を見る。

戦車に少し似た形状……車か、それにピンクに染まった棒が刺さっている。

いつの間にか置かれている水色の台座に様々な種類の神が積まれていく。そして赤色のオーラを纏った小さい紙が空中で積み上がった。

ミラバルカンは板のダイヤルを回し調子を見ている。

 

「さ、時間を潰す為に人生ゲームをやろうじゃないか。」

「人生ゲーム……?」

 

どういう遊びだろうか……見た感じ双六の様だがサイコロが無い。

私に思考が捻り千切られる様な感覚を覚えさせるテレビの音を小さくする。

 

「じゃあ、ルール説明をする。……その前に一緒にやってくれそうな奴にコンタクトをとっておく。」

「あ、あぁ、そうか。」

 

……私は何故こういう実力が余りにも違う奴らと関わらなくちゃいけないのかが分からない。まぁ快適に生存しているならまだマシか。

 

「このゲームの勝利条件だが、全員ゴール時の総資産で決まり――」




「―――皆さーん、私がやってきました!敵は一人じゃない!私がいる!」

音割れした様に所々ブツブツと切れた龍の声が聞こえている。

「何を言ってるのですかあの龍は……」
「さっさと殺そう!」
「あんな龍が我々に立ち向かう様に仕向けるとか、あいつ全知全能か疑わしいなぁwwww」
「はい、吸収スキル展開する。完封ですわぁ。」

なんなく敵側へ潜入したが、やはり愚かな者どもだ。
一分の停止もなく、余りにも傲慢。
狭い思考であり、不安を全く持たない自由奔放な豚。
屠畜場にわざわざやってきた無能かつ未来が不毛な連中は選定する必要も無いか。
己を信じ、己を愛し、己を崇拝する者達の世界を従えようとする計画は――

「というかマジかー、あの動画は詐欺……つまり名誉毀損や侮辱罪で訴える事が出来る……?」

全く関係無い事を言い続ける狂気の龍の元に粛清されていった。
きっとあの龍は殺せるか殺せないかでしか判断していないのだろう。

そして最初だからこの様に手加減しているのだろう。


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暇つぶし


問、何故人生ゲームをするのか?
答、たまたまですよ。それに他人を家に連れてきて放置する方がおかしいです。常識的な行為ですからご安心を。



「どもっす、オオナズチっす!」

「サッキハゴメンナサイ……ゼスクリオデス。」

「いや、死んだ方が悪いから謝らなくていい。」

 

私とミラバルカンは人間の姿、後の二匹は普通の姿だ。

……先程まで狭かった部屋も、今はとても大きくなっている。

ゼスクリオの謝罪を受けたが、とりあえず気にしていないと伝える。

 

「そんじゃあ最後の準備だ。」

 

銀行証券管理者の役割を持つミラバルカンを最初とし、私、オオナズチ、ゼスクリオと順番がまわる。

 

「まず、金を配る。そして自動車保険を取らないか分割か一括か選べ。分割は給料日に差し引かれる。それとは別に特殊な職につかない限り家を買わなければアパート暮らしで給料から差し引かれる。固定資産にはならない。あとは……おいおい説明するとしよう。」

「エ、ソンナフクザツダッタッケ。モチロンイラナイ。」

「処理めんどいし一括でうっす!」

「私は分割でお願いする。」

「俺も分割だ。それでは始めるとしよう。」

 

ミラバルカンの力なのだろう、赤色のオーラを纏った紙束が浮いてきた。

ミラバルカンがダイヤル……ではなくルーレットを回す。

赤い車をキャリア側に6進めた。

 

「ふん……IT企業か。景気動向に注意を……」

「次は私だ。」

 

ルーレットを回す。

 

私は強い立ち回りが分からない。

なら出来る事はただ一つ。最初は天に、後は周りを見て吸収し、善戦を行う事を目標にするしかない。

 

「8だ。」

「ほう……もう一度ルーレットを回せアトラル。」

「そう指令されているな……3、滑り込んだ。」

「おめでとう、キャリア持ち警察官だ。」

「どういう職なんだか……」

 

 

 

 

「なんだこのイベントは……っ!?」

「さぁ運を天に任せるのじゃ!」

 

何故『結婚』しなければならないのか。しかも回避不可のイベントだ。

社会のシステム上……あぁ、なるほど。子孫を作る際に資金援助をする仕組みか。

だが、ゲームの特性上……いや、金銭は相手も稼ぐのか?まぁいい。

 

「早く回せ。」

「あぁ、すまない。」

 

ルーレットに手をかける。

1〜3は裕福な奴と、4〜7は普通の奴と、8〜10は出来ちゃった婚だ。

及第点を下回らない様に願おう。

くるりと捻って回す。

 

 

10。

 

 

「……くっ。」

「アラー、マァ、シュウニュウオオイシ、マダダイジョウブジャナイカナ。」

「やーい、尻軽警さぁぁぁっ!?」

 

ゴアの翼でオオナズチの頭を掴む。

ひとしきり振り回す。

その間にカタカタと私のポイントが下がる。

 

「……ふん、名誉ポイントが下がったか。」

「それにマスコミにも嗅ぎつけられないようにしないといけないのか。めちゃくちゃハードじゃねぇか。」

「ダイガクヒハンノザイリョウニモナリマスシネ。」

 

よく分からないが、悪い方向に向かっていそうだ……

 

 

 

 

 

「くっ……!」

「ふっ。」

「うーん……」

「ハイハイ、オカネガキタキタ。」

 

ゲームも終盤、安定と排除を繰り返したゼスクリオが一着だった。

各地の土地の所有と崩れないクリエイターとしての実力を世に知らしめ、講演会や大家としての収入、アドバイザーとしての収入で到着後もまだ規模は大きくなっていた。

美人の秘訣は感情の相反を保つ事、などカッコつけて言ったら広まった物もあり。

 

そして二番目に着きそうなのはミラバルカン。

職は程々に、得意の株価予測で着実に稼ぎ、大株主として社会に影響を与えていたが、仮想通貨の価値が突如暴落。

続いてITの株価も暴落。不況になった所で社長が逃げる様に退陣しその隙に何者かによるハッキング行為により開発中の技術の消失。

それでも会社を持ち上げるという人生ゲーム慣れを見せ付けたが、名誉が高くても総資産としては三位だ。

 

後を追うのは私だ。

私は余った金を純金に変え、その都度金庫に入れていた。不況による暴動が多発、他の人間は殉職したり骨折したりと辞めていった中で私は生き残り、純金に変えるため銀行から金を引き出した所を殴られたりしたが裁判で勝利し臨時収入となった。様々な勝利による功績により異例の女性にして副総監。

フェミニストは暴走し、マスキュリストは私に対し侵入等の犯罪行為をする。私自身がグレーな犯罪行為に加担しようと誰も立場上告げることは出来ない。

よって私の知名度は長い間広がった事により、歳をとろうと金は稼げた。塞翁が馬、私の順位は2位。

 

四番目はオオナズチ。

なんと言うか……幸せな人生を送っていた。やりたい事をやり、しかし堅実に居場所を固める。

あちらは総資産を集めるより人生ゲームのイベントを楽しんでいた……まぁ、それもひとつの楽しみ方か。とはいえ私にとってはオオナズチが大量に買った『宝くじ』という不確定要素が怖い所か。

 

 

 

 

 

―――……ミラバルカンが箱に物を片付ける。

箱の注意書きが何気なく目に映る。

 

『※仮装空間と共有知覚により悦に値する感覚を得る仕様です。』

『※細かい器物は共有認知と幻影、虚妄接感による無意識外からのアプローチによる為、精神等級12以上、又は18以下の場合は幻影のみとなります。』

 

……ふん、なるほど。

先程まで違和感は無かったが……考えてみれば分かりやすい。

あれはどこから湧き出ていたんだ、とな。

ミラ一族は不思議な物が沢山持ってるな……うん?ピアノを弾いた記憶とこの部屋……?あぁ、なるほどな。さてさて……

 

「さて、どうするんだ?」

「ティーアールピージーヲミラルーツトヤッタヨ。」

「まぁまぁ、頭のクールダウンを含せて世間話でもしましょうや!」

陽の目(かげのめ)……あーあ。すまない、俺はしばらく出かける。何かあったら爆発を起こせ。」

 

ミラバルカンは足から炎に包まれて消えた。

 

しばらく静寂が流れる。

 

「実は昨日、空を飛んでたら戦闘機と正面衝突してしまいましてね〜、めっちゃ痛かったっす。」

 

オオナズチが話し出す。

耳を傾けるか……

 

「そうか。」

「そうなんですよ〜!それでね、ある事に気づきましてね……なんと透明になるだけであら不思議!簡単に狩れる狩れる!」

「ン?ドウイウコト?」

「持ち帰って調べてみるとあら不思議!光を受け流すだけで探知されない事が分きゃりやした!」

「そうか……私には関係ないか。」

「そしたらもう一つ。」

 

オオナズチは私を見る。

 

「なんだ?」

「そろそろ天廊に大規模な破壊工作が始まると聞きました!」

「……ほう?」

「ですが貴方なら分かるでしょう?そう易々と壊れるか……それに加え、天廊は破壊すればする程一時的に修復能力や硬さがどんどん上がっていきますぞ〜。」

「……そうだったのか。」

「昔はあの方の住処でしたし。」

「ダカラゼノガイテモダイジョウブナノ。」

「私は悲惨な結末だったがな。」

 

そうか、あんな簡単にレーザーが放たれていたのだからそれに対応出来なかったら今頃壊れているか。

それにしてもやはり天廊って何時、そして誰が作ったんだろうか。

 

みかんを手に取る。

 

シュバッ!

 

「頂き〜!」

 

……オオナズチが舌でみかんをとり、噛んで汁を飛ばす。

わざわざ私の手から取るか……

 

「やめろ。」

 

そう言って再びみかんを手に取る。

ゼスクリオがオオナズチを見るが、オオナズチは目を動かしてゼスクリオを見た後再び私を狙う。

 

「……なんだ、嫌がらせか?」

「いえいえ、滅相もない。」

「そうか。次はないぞ。」

 

みかんを手に取る。

皮を剥く。視界の端で口が開いたのを確認する。

 

シュバッ!

伸びてきた舌を叩き飛ばしみかんを一つだけ千切り、顔に投げる。

 

「ぐわぁぁぁぁっ!目がぁぁぁぁぁ!!」

 

大きく怯んだ所でコタツを抜け出し飛びかかる。

頭突きを回避し、オオナズチの顔面を蹴りあげた。

 

「ちくしょう、コタツに前足入れたまま縛りじゃ絶対勝てねぇ!」

「それだったらお前の攻撃方法は口からだけじゃないか……おぉ。」

「んぁ?まぁいいと思います。」

 

殴るのをやめ、偶然降り立ったオオナズチの背中はとてもひんやりとしていた。

翼の間に横になる。

 

「で、ゼノって龍は何なんだ?」

 

そして一番気になっていた質問を投げかける。

私を溶かし、ゴアの翼を消失させたアレは古龍の中でも異端だとなんとなく思った。

 

「ゼノハ……ゼノハツヨイリュウダヨ。」

「だからどういう――」

「ゼノ・ジーヴァ、私達がゼノと呼んでいるあの龍は周囲の生命を奪って、そのエネルギーで成長する龍っすよ。」

「ふむ……」

 

……今すぐ殺した方が良くないか?だがゼスクリオやディスフィロアは溶けていないし古龍ならどうにか出来るのだろうか。

そうか、私の体は溶けたがゴアの翼は散った。つまり古龍の元となるウイルスのエネルギーを盗ったのか。つまり生き残る力を持つ事が出来れば崩れないのか。

 

「対策は……とっても簡単。盗られる古龍エネルギーが微々たる物となる力を得ましょう。」

「簡単に言う……」

「まぁ無理っすね。普通のシャガルマガラも吸われて死にましたし。」

 

つまり対面は無理と……どうする?一度目をつけてきた以上、子供的な思考ならばまたやってくるかもしれない。

……どうしようも無いか。

 

「アァ、デモセイチョウオワッタ、ダカライッキニチノウガツクヨ。」

「奇妙な成長の仕方だな。」

「ルーツガソウイッテタシ。」

「本当に何でも知ってますよね〜!」

 

音を小さくしたままのテレビにチラリと目をやる。

球体の何かがノイズの後に爆発する、ただそれを繰り返す映像だった。

 

それより本当にゼノの対応をどうするか考えなくては……




87

雷と共に龍は現れる。
そして雷を胸から口に送り、大きく咆哮する。

「4000万。」

惑星は壊れた。よって根絶した。


88

雷と共に龍は現れる。
そして雷を胸から口に送り、大きく咆哮する。

「680万。」

惑星は壊れた。よって根絶した。


89

雷と共に龍は現れる。
事前に準備されていた射出錨が飛んでくる。
叡智の込められた一撃は龍の腹を突き破り、背中を破り出た。
そして引き落とそうとする。

龍の腹と背中から黒い手がわんさか出てくる。
その手が射出錨の鎖を千切り、龍は心臓が潰された事も気にせず雷を口に溜める。

「150億。」

惑星は壊れた。宇宙船に乗ったクローンは居たが龍は気にしなかった。


90

雷と共に龍は現れる。
惑星を守る様に沢山の存在が並ぶ。

人、それを守護神と呼ぶ。

「……糞、もしくは雑魚が並んで私に楯突こうと思ってんのか。」

龍は首を自ら雷で断ち、断面から大量の手を放つ。
握り、千切り、遊び、殺し、祈り、書き、描き、折り、増え、潰す。
決壊したダムの様な勢いで放出される手が一帯を覆うのに時間はかからなかった。

断面から伸びた長い手が首を掴み、引き戻す。

「870柱、6400万。少しは抵抗すれば良かったのに……いや、蟻じゃ人は持ち上げられないな。」


91

雷から龍が現れた途端、女神が罵声を放つ。

「なんで、どうして!?私達が悪い事はしてない!そっちの世界に行った神と私達、そして人間達を一緒にしないで!」

龍は目を見開く。
そして衝撃波と化した叫び声をあげる。

「あぁ、たった10万年しか生きてない糞みたいな価値観の赤ん坊に言われたくないわねぇ!?結局は自分の世界を大事に、他の世界は利用して、の精神の――――はぁ、自分語り飽きたわ〜。終われ。」
「そん……化け物ぉっ!!」
「そりゃ私は【怪物(モンスター)】ですわよ。」

よって惑星はレーザーにより消し飛んだ。

「84万柱、15億。」


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軟禁理由


phase:24


天廊に大規模工作
対ゼスクリオ準備終了
対ドゥレムディラ準備終了

成功確率???《100or0》

三龍のうち、紅、出現せし◼



総数801の空飛ぶ船が天廊のある火山島を囲う。

最大の防護を施されたサブマザーコンピュータを保有する工作艦『フォステル』の元、700の航空戦艦からアンドロイドが飛び立つ。

 

「頭数を揃えるのだけは本当に早く、厄介だな……」

 

 

 

胸がチクチク痛む。

だが、そんな事を気にする程余裕は無い。

 

「おい、アイテム捨てるのはどれだ?」

「ツカミデス。」

「くらえ!B爆弾!」

「ソレ、スマートボムダカラ……」

 

オオナズチも人の姿となった。

ゼスクリオは保持する力の関係上、人の姿にはなるのは危険らしいが手の模型を遠隔操作してやっている。

 

私達はゲームで時間を潰していた。

中々ミラルーツが帰ってこない……その時にオオナズチがこのゲームを渡してきたのだ。

 

「それにしてもその人間強いな。」

「デモ、テカゲンシテルワネ。」

「ガチ勢の楽しいと、エンジョイ勢や新参の楽しいは両立出来ないのが当たり前ですから手加減……というか遊ぶのは当たり前っす。新参者に本気でぶちのめすのはただの自己顕示っすよ。ギニャー!」

 

画面奥からやってきた車に轢かれ、大剣を持った人間は吹っ飛んだ。

そして私が棚から牡丹餅的に勝った。

 

私の使っていた青い狐が決めポーズを決め終わり、リザルトを飛ばしてさっさとキャラクター画面に戻る。

 

「次どうしようかなぁ〜?」

 

オオナズチは人間より大きい目をギョロギョロと回して画面を見ている。

私も他のを使うか。

 

そうして水色の女性を選択しようとした時だった。

 

 

 

腹から喉をうねる感覚と共に吐き気がこみ上げてくる。

畳に突っ伏し、喉を抑える。

 

「ダイジョウブ!?」

「ウォッ……ぢか……よるな。」

 

視覚がウイルスまみれになり不自由になる。

続いて触覚が消える。

そして喉元に何かが蠢く感覚だけを感じる。

 

「オ゙エッ、ア゙ア゙ア゙ッ、ガッ!」

「うわっ。……すまん、咄嗟にひいてしまった。」

 

酸っぱい液体と共にソレを吐き出す。

黒くうねる細長い生物がか細い声を上げている。

 

「ケボッ!こいつか。」

「ちょまっ!?」

 

拳を振り上げる。

恐らく私に巣食うのはウイルスが成長した姿だろう。

とりあえず仕返しと気晴らしの為に殴り潰す。

 

「ギィッ!」

「バリバリッ!!……ペッ、美味くもない。いきなり何なんだこいつらは……ゲェッ!」

 

辛い野菜から乾いた腐肉まで食える私さえ、この酸混じりのゴア・マガラの幼体は吐き気を催す……いや吐いているのだが、とにかく気持ち悪くなる味だった。

 

一瞬、気を失いかける。

 

「ドウシタノ!?」

「キィィ……ギィ――ァァァァァ!?」

 

そして私は元の姿に戻っていた。

その事に気づいた途端、私の体のあちこちに強烈な痛みが走る。

何かが私の体を内側から食い破っているような感覚だ。

 

体が震える。

ゴアの翼が私の背中を破いて出てくる……っ!

私の血液が飛び散る。

 

「あー、ルーツの力で翼による傷が出来ないようになってたんすね〜……シュバッ!もぐもぐ……おう、このゴア・マガラ美味い!」

「ヨクタベルキニナルナァ……パクッ……ホントウダ、オイシイ。」

「もっと吐いて!」

「ァ”ァ”ァ”ァ”!?」

 

流石に苦痛の中でも怒りを感じた。

その間にも私の体のあちこちからゴア・マガラがポロポロ出てくる。

 

「おー、バルラガルじゃないけどアトラルの血も美味しい!」

「……ホントダ。ノウシュクサレタコリュウノシガイ、ダシガイイ。」

 

……どうやら脳を食われる様子は無いようだから、余りにも辛いし意識を手放すか。

再びの激痛を感じ、若干ひんやりとする私の血に横たわって眠る事にした。

 

 

 

 

雷の音と共に目が覚める。

痛みはあるが、うねったり噛まれる様な痛みはない。

 

「ギィ……」

「あら〜おはよう。この二匹は……あはは、お腹一杯で眠ったのかしら?」

 

ゆっくりと体を持ち上げる。

死ぬ程……いや、本来なら死ぬ痛みだったか、とにかく事前に通告してもらいたかった。

 

体中に張り付いた血糊と死骸を削りとる。

ゼスクリオは血糊の動きを止めて壁を作りその中で寝ていて、オオナズチは透明になり天井に張り付いて寝ていた。

 

「……」

「さぁ、翼を出して!」

「キィルルル……」

 

言われるがままにゴアの翼を出す。

すると、いつもよりずっしりとした感覚が走った。

目の前にもってくると爪の色がとても黒く、翼が白く輝いていた。

まさか……

 

「ァァ……?」

「おめでとう!君のゴア・マガラは遂にシャガルマガラに進化した!」

 

ウイルスを翼から撒く。

……ほう、感覚が違う。私に角は生えて……ないか。

恐竜結晶は様子が変わっていない。

 

とてもニコニコしたミラルーツがこっちに近づく。

 

「さて――」

『ミラルーツ、貴様ぁぁぁ!!!この終焉龍の力を持って――』

 

突然黒い空間が開き、そこから赤いレーザーが――

 

「ふふっ。消えたいのかしら。」

『アッ――』

 

ミラルーツが翼をパタリと動かす。

するとレーザーも黒い空間も消えた。

 

全くさっきと変わらない表情をこちらに向ける。

 

「さて、頭に血が上るほどウイルスを放出してみて。」

「イルルル……」

 

とりあえず言われた通り翼からウイルスを放出する。

そして翼に纏める。

 

特に何も起こらない。

まぁ頭に血が上るほどウイルスを出す方法が分からないのだが。

 

「あー……そっか、そうだね。追い詰められたらやるといいわ〜。」

 

シャガルの翼で少し飛び、人間の姿に変化する。

そして着地して顔を上げると私は天廊に戻っていた。

いつもの服……王女から貰ったフードの服だ……そして私の背中に笛がセットされている。

 

そして飢餓感が私を襲う……

 

 

「うわっ、人!?みんなー!」

 

 

ミラルーツはとんでもなく厄介な場所に出してくれたな。

まぁ、こいつをメシにしろという事だろうが。

 

ミラルーツがやったのか笛の中に水銀が入っていた。

笛から水銀を床に垂らし、そのまま通路を進んで広い所に向かう。

 

「ちょっと待って!」

「いや、もしかしてあいつはアトラル・カでは?」

「えっ……いや、笛と糸とゴアの翼ならきっと勝てる。」

 

私の情報は既に広まっている様だ。

だが中途半端な知識を信頼すると己を殺すと分かっていない奴らでもある。

 

「盾を構えながら向かうぞ。」

「そうだ――」

 

笛を強く握り、装飾品に龍の力を伝える。

水銀の柱を作り三人とも刺す。

 

「がはっ!?」

 

……鋭利な刃を生やし、肉体の中で回転させる。

肉を撒き散らしながら死んだ。

 

水銀で掻き集め、装備を取り除いて食べる。

とても美味しい……『空腹は最高のスパイス』だったか?

意図してやるのは御免だが実際美味しくなるものだな。

 

装備を集め、水銀に入れて運ぶ。

 

その間に余った水銀を操作してみる。

死ぬ前に比べて圧倒的に操作性が上がっている事に驚いた……シャガルの古龍の力が出来たからだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ふぁぁ……おはようございます、ミラルーツ様。」

「いい夢は見られたかしら?」

「ええ、とても……」

「……」

「……ふふふふふ、この通り。血をこちらに用意してあります。」

「でかした、オオナズチ。褒めて遣わす!」

 

「ヤベーヤツ……」




「はい、はい。そういう事です。すいません、ありがとうございます。それではお願いします。はい、はーい………………デイリースポーン。d24にて暴動。至急沈静を………………あー俺だよ。どうした?えー、俺の声が聞きたい?ふっ、しょうがないなぁ………………やめて!もう家にお金ないんです!……………………そろそろ「どうもー、今日はオレンジですか…………」


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初めてのお使い

 

……どうも。

現在私はネセトを本格的に直している。というのも、今日の朝にミラルーツがやってきて――

 

 

「さぁ、今日のアトラルは機械工場だぁぁ!」

「は?」

「しばらくしたら強制転送するからきちんと制圧しなさーい!」

 

 

と言って去ったからだ……酷いとは思わないか?

とはいえ、流石に勝算無くして私を投入するとは考えにくい。

勿論、注意引きの駒かもしれないが、それでも死ぬつもりは無い。

 

ネセトの肩の外装をはめ直し、体内の盆を主に支える糸を交換する。

撃龍槍を砥石で擦る。

ネセトの指を掃除し、指の覆いに侵入してきたハンターや神選者の装備を繋ぎ合わせた物を表に貼る。

 

更に色々やった後、最後に内側にある小さな繭も作り直してメンテナンスは終了だ。

 

ネセトに乗り込み動かして、まずは撃龍槍を糸で口に引き込み、射出する。

次に尻尾を振り回し、同時に水銀を足に纏って足踏みする。

 

よしよし、これで良いだろう。

 

「終わったかしら?」

 

後ろから現れたルーツが話しかけてくる。

人間の姿に変わり、口を開く。

 

「終わった……しかしいきなりネセトで突撃するのか?」

「まっさかー!まずは単身で乗り込んで、メインコントロールを潰してね!」

「メインコントロール……とは?」

「コピーマザコンの事よ。まぁ地下の隔壁の向こうに丸い奴があるからそれを潰して。」

「説明になってないしどの様な構造なのか知らないのだが。」

「頑張れー!」

 

つい眉間に力が入る。とりあえず撃龍槍をシャガルの翼で持ち、笛を構えた。

ミラルーツに渋々頷くと私の周りが白く輝き始める。

 

「このポーチに必要な物入ってて、私が支援するからぁ!」

「あぁ……そう。」

 

白い光が壁となり、強い光を発するので腕で視界を遮る。

 

 

そして光が収まると私は白い壁が横に見えた。

 

 

顔をあげると檻の中で脅えたように身を縮こませる竜が居た。

どうやら天井のノズルで竜の出す粉を回収してる様だが……

檻の鍵を見ると……確か電卓?の様な形をしている物が『lock』と表示している。

 

一歩離れて周りを見ると、他に三つの檻があり同じ竜が閉じ込められている。だが、三匹ともぐったりしている……疲れているようだ。

 

笛で電卓を叩く。

 

簡単に壊れ、中身が見えている。

 

《アトラル!そこの配線を退けると四角い凹みがあるでしょう!》

「……あぁ、そうだな。」

 

ミラルーツが私の思考に直接話しかけてくる。

かなり気が散るので会話に意識を傾けるしかない。

 

《ポーチを開いて、黒いハマる奴出しなさい。》

「わかった……」

 

笛を置き、ポーチを肩にかけて開くとやはり外見と中の大きさが違いすぎる。

腕を突っ込み、板のような物をつまみ出し方向を確かめてからはめる。

 

『open』

 

表示が切り替わるとガンガンガンと何かか回る音と共に柵が開いていく。

竜は更に奥に縮こまる。

さて、どうしたものか……

 

と、ミラルーツの声が頭の上から聞こえる。

 

「もう大丈夫よ〜。出ておいで〜!」

「……ん、分かった。」

 

竜はそう答えると粉を振り撒く。

姿が変わっていき、腕が赤と青に、背びれは肥大化し蒼く輝きだす。

そのままのそのそと檻から出てきた。

 

笛を拾い、一応構える。

 

「これから誘導線を見せるからそれぞれ従って〜。はい、ボドガ。」

「!……グァウ、グァウ……ありがとう、美味しい。」

 

竜はミラルーツが出した肉を食べた。

その後、私を見る。

 

「今日はお互いに頑張りましょう。」

「……あぁ。よろしく。」

「じゃ、頑張って!」

 

ミラルーツはそう言って消えると同時にこの部屋の扉が開く。

 

「あーめんどく――さっ!?モンス――」

 

水銀の塊を頭にぶつけ、押し潰す。

よく分からんがどうせミラルーツの行動の理解に数時間はかかる、視界に映る黄色い線を辿ろう。

 

「それじゃ。」

「頑張って下さい。」

 

死体に近づいて足で暗がりに蹴飛ばしてから、私は元の姿に戻って走り出す。走る音が小さいからこちらの方が適している。

コンクリで出来た暗めの通路には人間は居ないようだ。

そのまま非常扉を鎌で開けて階段を登り、数階上がって廊下に出る。

 

「警告、モンスターの反応有り。」

 

遠くで人間の声ではない声が聞こえた。

こちらに近づいてきている音がする。

 

どの様な姿で何処を壊せば安全なのだろうか……と私が考えていたその時だ。

 

ドォォォン!

「ォォォォォォオ!!」

ウゥアーーーーーーン ウゥアーーーーーーン

「発着場にて大規模な爆発あり。マザーの予測、ボガバドルムの脱走。避難を!」

 

私の目の前を変形しながら人間の様な機械が走っていった。

周りを見て敵がいない事を確認し、早歩きで誘導に従いある扉の前につく。

 

《そこはコントロールルーム。本気を出して、中の人間を殺して機械を弄らせないで。》

「分かった。」

 

元の姿に戻り、撃龍槍を振りかぶり水銀を空中に滞留させ、シャガルの翼も殴れる様にする。

 

「キィィィ!!」

 

撃龍槍越しに色々砕ける感触が伝わり、壁にヒビが入る勢いで人間を殴り潰し、残りを水銀で刺し殺す。

全員銃を持っており、構えられていたら一瞬で殺されたかもしれない……危ないな。

 

しかし警報が鳴り響く。

恐らく先程の機械が来るだろう……どうしたものか。

 

《そこでポーチから白いアレをこの円の中央に入れて!》

「……ロロ。」

 

ミラルーツの言うことに従い、首に巻いてあるポーチから白く薄い板を鎌に水銀を付けて取り出す。

それが入り、中央の画面に『データ更新中…』と出た後にプッツリと全画面が黒くなり、警報が止まった。

 

「キィィァ……?」

《色々ぶっ壊したのよ。さぁ、次はマザコンを壊しに行きましょう!》

 

その略し方はどうかと思うが……と思いながら扉を開いて外に出る。

 

「モンスターを発見。マザー『アズライール』応答無しの為、メインマザーの遠隔命令により自動迎撃します。」

 

なんと人間の姿をした機械が私に銃を向けた。

撃龍槍を叩きつけるが避け、私は相手の銃をギリギリで避ける。

 

「キィァァァ!」

《アンドロイドは止まらないわ〜。》

 

それを先に言え!

 

 

 

 

 

アトラルさん、上手くやってるかな?

私も頑張らなきゃ!

 

右腕を大きくして、爆発粉を振り撒く。

それが爆発する勢いを使って、色々な鉄の塊に体当たり。

 

沢山の玉が飛んでくるのが痛いけど、大きい方が痛いからそっちから潰していく。

でも、数が沢山……だから必殺技!

 

「グルォォォァァァ!!」

 

まずは沢山の粉を背中から広げる。

次にそしてお腹の粉を爆発させて、粉を広げる。

 

ぼぼぼんと沢山の粉が繋がって爆発して、鉄を吹き飛ばす!

 

このまま頑張る――っ!?

 

 

「「ヴァァァァァ!!」」

「ヴォォォォォォン!!」

 

 

空から、おじいさんと同じ大きさの竜?が沢山やってくる。

ど、ど、どうしよう……

 

その時、あの羽音が聞こえてきた。

 

「ごくろうビーム!」

 

大きな赤いビームが空を横切り、直線上の竜を吹き飛ばした!

そう、お母さん……凄い優しい大人。とても大好きなの。

 

「大丈夫かーい!」

「ありがとーう!」

「戦うのはいいけど、好きな時に退いて大丈夫だから!」

 

そして大量の子供を引き連れて突撃する姿はかっこよかった。

だからこそ私ももっと頑張んなきゃ!

 

 

 

「ヴォォォォッッ!!」

「……ふっ。」

 

目の前で停止した私を睨み、黒い龍は咆哮する。

 

継ぎ接ぎだらけ、けれども完全に一つの新たな生物となっている龍は私に突撃してきた。

正面からガッシリと組み合う。

 

「ギィィィィィィ!!」

「ギュィィァァァァ!!」

 

龍のスリムな見た目からは想像出来ない強力な力で地面に引きずられる様に急降下する。

勿論、こういう事には対策済みです。

 

「バチバババチチチ!(事案4)」

「「「「「「「「ギィィ!(了解!)」」」」」」」」

 

近くの龍と戦っていた私の直属の親衛隊の四匹が、近づいて掴み、龍を下にして他の四匹が私を引き剥がす。

 

「ごくろう様です!」

 

そして私が龍のビームで大地に叩き落とし、龍エネルギーの爆発が起こるまで放ち続ける。

 

「「「キィィィ!!(殺す)」」」

 

親衛隊は私の食った神選者の力を使い、沢山の爆発物を投下して金属で出来た施設を地に落ちた龍を中心に木っ端微塵にしていく。

 

何かに引火したのか、ボガちゃんとは違う巨大な爆発が起きる。

そして先程より巨大化し、歪に骨が伸びて剥き出しになった龍が私に飛んでくる。

 

龍は効かないようだ、なら物量で潰しかないか……

 

《やっちゃって、クイーンランゴスタ!》

《突然の発言はやめてください!》

 

「ギュィバチバ!(散れ、離れろ!)」

「「「「了解!!」」」」

 

連鎖的に私の指令は広がり、子供達はまだまだ増える造られた龍を引き付けながら離れる。

 

「ボォォォォァァァァ!!」

 

口から放たれた鉄の塊を躱す。

十分に近づくまで腹に力を溜める。

 

「ギギギギ――」

「馬鹿め!油断したな!」

 

そう言いながら腹から大量の液体を吹きかける。

すると龍は泡をたてながらみるみる溶けていく。

 

ボロボロになっていく龍の行動を気にせず龍の内蔵を掴み地に突撃する。

 

そして様々な瓦礫を粉砕しながら叩きつけた。

それでも龍は歪んだ口で噛み付いてくる。

 

「ふん。」

「ガッ……ヴン。」

 

針を首に突き刺し、引きちぎる。

さぁ、次が来るだろうし休む必要も無いからまだまだ頑張るぞ!

 




辿異種タイクンザムザ、インパクトが凄いですね……
ベイブレードは面白かったですが、やはり一番は打ち上げエリア移動ですかね。


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なんだかんだザル警備?

死ぬ事を前提に造られた消費期限5年の人間のクローン達ですので、人間の死亡はなんの損もないのでご安心下さい。

現実と理想と想像と他人を区別出来ますよね?出来ますよね??

以上、ミラルーツでした!キラッ☆


 

撃龍槍を翼で振り回し、目に見えるロボットを潰していく。

時折人間の血が飛び散るが、その際は早々に拭き取る。

 

「ギイィィィィ!」

「ドォォォォオ!」

 

ボガバドルムと、なんとクイーンの声が聞こえる。

まぁ、そうでなければ断続的な衝撃と破壊音、空を覆う謎の音に説明がつかないが。

 

糸を放ち、矢印のある階段を降りる。

 

「捕捉、乱射。」

 

3階まで降りた所で数十機の機械に銃を向けられる。

躊躇なく撃龍槍を叩きつける――

 

機械は2機を残して飛び退いた。今までとは違い回避したという事だ。

咄嗟に笛を振り、水銀で何機かの銃を殴りつけひしゃげさせる。

 

数発の銃弾が私の体を貫通する。

慣れた痛みを感じながら笛を吹き、早々に治療する。

 

「居た!」

 

その声が聞こえた方に顔を向けると人間が機械の様な動きで走ってくる。傍には直方体の機械が浮いていた。

 

「ポッド!」

「捕捉完了。」

「いけ!」

 

ほぼノーモーションで放たれたレーザーが私の脚を穿つ。

体勢を崩した私にちまちま弱い弾丸を放ちながら近づいてきたが水銀の壁を作り無理やり押し返す。

 

そして笛を吹いたばかりである為、笛を振りながら水銀を刺すように飛ばしウイルスで脚を作り、糸で機械を纏める。

 

キュイン!キュイン!

 

しかし側転しながら白い光を放ち、異常な速度で私に近づいてくる。

機械を纏めた塊を投げつける。

 

「はっ!」

「接近。」

 

翼で潰そうとすると再び回避され、背面に動かれる。

が、ウイルスで何処にいるかは筒抜けだ……

 

うん?ウイルスでの意識を集中するとウイルスの動きが変化するな。

 

「狂竜ウイルス濃度増加。」

「何!?くっ!」

 

爆発が起きた……それと同時に爆発の元となった所のウイルスは死滅した。なるほど、この様な使い方もあるのか。

 

水銀を飛ばし、撃龍槍を投げつける。

回避される前に側転1回の所に意識を集中する。

 

「ぐあっ!」

 

敵を吹き飛ばし、壁に叩きつける。

撃龍槍を引き抜き、水銀で槌を作り振り下ろす。

 

「はぁっ!」

 

再び閃光を放ちながら回避された。

私は階段に少しずつ退く。

 

「損傷確認。」

「救援信号!」

「その必要はないぜトゥービー!」

 

私から距離をとった人間の後ろに黒い渦が発生し、そこから6つのオレンジの魔法陣を浮かせながら人間が飛び出してきた。

 

「『爆!炎お゙っ――」

 

そして馬鹿はこちらに走ってきたので視界外からの水銀を槍にして刺し殺した。いくつか何かに弾かれたがまぁ馬鹿は馬鹿だと証明されただけだな。

 

「支援者の生体反応消失。」

「くそ……っ!」

 

水銀で私を守る鎧を作る。

残りの水銀を飛ばし、奴を牽制している間に矢印に従って走る。

 

地下一階を塞ぐ扉に対し、笛を振って脚を治す旋律を奏でながら撃龍槍で扉を破る。

 

「撃てぇぇ!」

 

大砲の玉が私をかする……違う、後方での爆発が無い。純粋に私を破壊するであろう鉄塊は私に当たらなかった。

水銀を飛ばす。

 

「喰らえ!」

 

何人かの銃が青白く光る……電気か!?

大砲を使った人間を水銀で地面まで刺し、シャガルの翼で一番近い人間を握り、他の奴を巻き込んで潰す。

 

銃弾が私を貫通する痛みを感じながら笛を振り、糸で何人かの首を吊る。そしてウイルスを爆発させ、死んでもらう。

 

「目標、捕捉」

「はぁぁぁぁっ!」

 

ちっ、もう追いついたか。

振りおろされた刀を水銀を纏った鎌で抑え、水銀を飛ばす。

 

飛び退いた所にウイルスを爆破、加速された所を翼で掴む。

 

「くっ!?」

 

……感触がこいつを機械だと示す。

 

「ギィァァァァ!」

「がぁっ!」

 

箱の銃撃を無視し、壁に押しつけたまま矢印に沿って廊下を走る。

 

バキりという音と共に首が折れ、抵抗が無くなった所で撃龍槍の柄で粉々に粉砕する。

 

「護衛対象ロスト。」

 

そう言って箱は去っていった。

 

 

 

 

 

そして撃龍槍の数倍の大きさの扉が立ち塞がる。

 

【お疲れ様〜!やっと辿り着いのね!二枚組の白いカードを出してちょーだい。】

 

ミラルーツの指示に従い、ポーチからカードを出す。後は指示されなくても対応する対象を見れば分かる。

溝があった。そこにカードにある矢印通りに通せばいいのだろう。

 

【同時にだな。】

【おっ、ご明察!】

 

水銀で両側にカードをスッと通す。

 

 

ガコン!

 

ビィーッ!ビィーッ!

「予定時刻にようこそいらっしゃいました。現在レベル85の致死性ミーム、また、レベル85級の世界改変が発動していまぁぁ―ぁ、ぁぁ、貴方の時刻狂う、破滅、致死性の、規定量の量らはは、アラー、所定の定刻のメン――」

 

 

警報と謎の音声は消え、静かに扉は開いていった。

 

【よしよーし!やったぜ、変態クソトカゲ――】

【これから何をしたらいいんだ?】

 

私はミラルーツの言葉を遮り、質問する。

 

【マザコンはかなり色々と厳重で先ずは『過去同期』……えっと、ウイルスも外傷も過去を基準に直しちゃうのよ。

メンドクセー(´ε`;)、だから……チッ、ごめんなさいね、こっちにも用が出来たわ……

そうね、その大きな部屋から繋がる全ての部屋の破壊指示を座標に組み込んだわ。だからそれぞれの部屋に行ってね。そんじゃ!】

 

ミラルーツの声は消えた。

私はとりあえず開ききった部屋の中に入る。

 

 

 

 

中央には私のネセト、それの十数倍の大きさの四角形で黒色の物体が……いや、機械か。それに四方八方からチューブが繋がっている。

だが機械自体が浮かんでいるようだ。支えは見当たらない。

 

試しにチューブを一本切ると、少しの間私にヌメる水がかかったが、突然何事も無かったかのように直った。

 

再び現れた矢印を辿り、マザーコンピューターを一周する橋をウイルスを撒きながら走る。

扉を開き、暗い部屋に入る。

 

闇の中にいる獣を鎌で切り裂く。

相手はこちらを睨みつけ、探っている間に私はウイルスで捕捉しただけのこと。

ミラルーツの人間型が機械の隣に浮かぶ。

 

『この四角い機械は、座標探査妨害装置!つまり座標自体を捏造、破壊、除外をしてる訳じゃないのよ。破壊方法は簡単、壊せ!』

 

撃龍槍で殴りつける。当たる瞬間に障壁が光ったが、ミラルーツの幻影が光ると障壁は消失し、難なく振り抜けた。

壊した機械が再び元通りになる……が、幻影が四散すると機械は再び壊れた。

 

気づいていなかった圧迫感が消え、体が軽く感じる。

 

この調子で壊していければいいが。

 

 

 

 

 

 

 

その頃、空では過激な闘争が続いていた。

 

『防御ろ!アルマロス!!』

『いでよ!リヴァイアサン!!』

『現る技術!誘導型超原子ミサイル!』

 

「ギィィ、バチッ、ギギバチ!!(全体、全方位攻援重視隊列!)」

 

ある者は巨大な城を。

ある者は統水す龍を。

ある者は破滅の力を。

 

それでもクイーンランゴスタは戦線を維持し、神選者の施設突入を阻止し続けている。

 

「まずは巨大な龍を叩く!皆はついてくるな、援護しろ!」

 

己を追うミサイルを紙一重で躱し、雷を放ちながら龍に突撃する。

龍の放つ魔法を急上昇で回避、そしてミサイルを龍の頭にぶつける様に迂回する。

 

「ゴォォォォォ!!」

「怯み長すぎない?」

 

龍が呻いている間に戦闘機を親衛隊と共に三機撃墜、そのまま飛行力やブーストを制限してくる城へ接近。

水、雷、龍の三属性の巨大光線で城に取り付けられた大砲を破壊してまわる。

 

城からノズルの様な物が複数顕著し、緑色のレーザーを放って無作為に振り回す。

敵味方関係なく破壊するその力は低空のランゴスタ達にも少なくない被害を与える。

 

 

 

「よっしゃ俺が一番―――ぐはぁっ!?」

 

 

ほんの少しだけ混乱したランゴスタ達の隙をつき、地上を駆けて神選者は施設に突入しようとした。

しかし、その前にボガバドルムが立ち塞がる。

 

「……なんだお前は!?」

 

――今まで既知のモンスター、その延長線上の存在を相手にしていた神選者にとってそのモンスターは未知の存在だった。

 

「ヴォォォァァ!」

「うっ……」

 

分厚いと形容出来る咆哮により、神選者は気絶する。

 

 

ブチ

 

 

やった、また1人殺せた!

でもランゴスタさん達は凄いなぁ……あんな猛攻を受けてほとんど通さないのだから……




現在 故火の国周辺地域

白統虫クイーンランゴスタ
つよつよランゴスタ軍(約12万)
???ボガバドルム
残奏姫アトラル・カ
???アグナコトル
(ミラルーツ)

アルマロス(DOD)
リヴァイアサン(??)
神選者(15)
神製物(20+57)
クローン兵士(4000+800)
無人機(1500+400)
(神様・4)


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防衛『従属の賛美歌』


ある主人公は言った。
『私は機械。だけど、自分で考える事を繰り返すうちに意識を持った。』

ある黒き龍は思った。
『意志を消され、壊されようともまた、俺は思慮するのだろう。』

そしてある存在は断言する。
『意識の形は様々だ、全部を予測するのは難しい。完全再現も困難だろう。』



残り二つだ。

 

防衛に重きを置いた機器を壊すとその都度警報がなる……のだが、全て奇妙な音になり消えてしまう。

ミラルーツは一体、色々と何処まで出来るのだろうか……

 

「気をつけて。ここは時限構築システム。今までとは違うよ〜!」

 

ミラルーツの警告を受けながら扉を開けて入る。

 

 

 

そこは大きく、水色でありサイバー的な闘技場だった。

 

 

 

「キ、ァァ?(なんだ?)」

「本当に破壊されたくなくて、それぞれが監視しあって、不可逆的なセキュリティを設けたの。だからぶっ壊さないと駄目なのよ。頑張ってちょ!」

 

それはまた厄介な……

私はそう思い、ミラルーツがとても高い天井に浮かび上がっていくのを見ていた。

 

 

「ウニャニアカッヴゥゥン!!」

「ッ!?」

 

まるで雨粒が頭に落ちて初めて天気が分かるように、その機械は現れた。

テラテラ光る鉄の蔦、ケラケラ笑う数多の大きな仮面。

 

まるで胎児の様な顔をしたソレらは私を凝視する。

 

壊せば大量のネセトの素材になるというこの機会、見過ごす訳にはいかない、シャガルの翼で飛び立つ。

 

「オガアザァァァァ!」

「オドウザァァァァ!」

 

その顔達は大きく口を開き、悲鳴にも似た咆哮をしてきた。

開かれた口から闇雲にレーザーを放ってくる。

一度高度を下げ、再び高度を上げる。

 

水銀を一列に並べ、一つの顔に集中狙いをする。

 

「イヤァッ!イヤァ、イヤイヤイヤァァァ!!」

 

全て黄色い障壁に弾かれた……

さて、どうすべきか。

 

「「ササナイデ、タタカナイデ、キラナイデェェ!!」」

 

蒸気を吹き出しながらレーザーが放たれる。

上昇しながら再び水銀を飛ばすと、今度は障壁が発生せず顔に刺さった。

苦痛を表してか建物がぐらぐらと揺れる。

 

そして何かが後ろから出てきた。

安全を確認してから振り向く。

 

「ウメ!ウメ!コロサナイデ!」

 

 

「アー、アー、ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 

そこには演劇をする人間の様な機械がいた。

音楽が何処からか鳴り始める。

新たな機械は仮面の胎児が口から肉片をばら撒くと同時に、両手を上げながら爆音で機械音混じりの発声をした。

 

 

 

撃龍槍をシャガルの翼で持ち、落下する勢いで刺す。

 

ガツッ、という音と共に傷をつける事は出来たが刺すことは無理だった。

撃龍槍が逸れて青い地面を砕く。

 

「キル!キル!」

「aruーー」

 

撃龍槍を引き抜いていると胎児の顔がガチャガチャ動き、私の周囲に鋭利な何かが発生した。

歌う機械の放つ小さなミサイルをすれ違う様に躱し、飛んで刃を避ける。

 

「サス!サス!」

 

そして突如目の前に発生した槍の様な刃を紙一重で避ける。

さて――くっ。

 

ミサイルが私に着弾する。

信じられない追尾性だ……ウイルスで分かるのに警戒を怠っていた。

 

ビリッと意識にノイズが走る。

 

『時の観測――開始』

 

何も言わずに胎児の機械の目が七色に光り始めた。

胎児に糸を貼り付け、私を一気に引き寄せる。

 

障壁が発生し糸の感触が変わる。

だがまずは笛を障壁に叩きつける。

 

「コナイデ!ヤダ、ムシムシムシムシ、ワタシノカオニ!!」

 

弾かれた所に水銀で二つ鎚を作り、叩きつける。

 

「raraー…ッ!」

 

またミサイルの音が聞こえたが、ウイルスで感知出来ない事が分かった。

撃龍槍で障壁を殴り、再び水銀の鎚を振り下ろす。

 

「イヤァァァァァァ!!」

 

障壁が砕ける。

水銀を棘に変え、撃龍槍と共に刺し壊す。

 

「シにたくない、私は人間で山下とも――」

「キィィァァ!!」

 

そして笛で撃龍槍を打ち込み、顔面を砕く。

パッキリ割れた顔面に糸をつけ、遠くに投げる。

 

ミサイルの音が迫ってきた、笛で塞ぐ。

吹き飛ばされたが、障壁が発生せず板挟みにされる事は無いようだ。

 

「「「破滅を……」」」

 

っ!?

 

激しく視界が揺さぶられる。平衡感覚が欠如した私は地に落下した。

……体の節々が抉られたかのように感覚が戻らない。

 

だが、翼は動く。ウイルスも正常だ。

 

 

『タイムサーチ――スタート』

 

 

ぐっ!再び意識にノイズが走る。

シャガルの翼で立った私は再び倒れた。

 

「aーーraーー!!」

 

歌う機械からレーザーが放たれる。

水銀をなんとか操作し、レーザーを防ぐ。

 

 

 

 

「「「破滅を―――」」」

 

……くそっ。

 

私の意識はそれっきりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

アトラルは右に左にステップして歌う機械のミサイルを避ける。

そして撃龍槍を翼で掴み、胎児の機械に投げつけた。

 

障壁を放つ顔が壊された胎児の機械は防ぐ事は出来ない。

だが、数十個の顔がある以上、ほんの少しの遅延にしかならないのは明白だった。

 

「ァァァァァ!!」

 

アトラルらしくない叫び方をし、ウイルスをばら撒く。

その数十個の顔にウイルスが集中し、爆発する事を何度も繰り返す様になる。

 

「キル!キル!」

 

見えない刃を鎌で裂こうとしアトラルの片方の鎌が半分吹っ飛ぶ。

しかし流血を気にせず突っ込み、たった今、刃を作り攻撃してきた顔を翼で殴り壊す。

 

『クロノ・スコープ――作動』

 

並大抵の人間は意識が吹っ飛ぶ程の時への干渉が発生、しかしアトラルの体が跳ねただけで全く動きが止まらない。

 

「ァァァ!!」

 

シャガルの翼が一層輝く。

白金の光を放つその光は、胎児の顔面を覆う量のウイルスをばら撒いた。

 

胎児の顔は纏めて爆散。暗に計算されていた予測行動と後付け耐性をほぼ無意味な物と化させた。

 

歌う機械の抵抗を無視して地から引き剥がし、狂ったように……いや、もはや思慮のないモンスターの様に地に叩きつけ、投げてウイルスを爆破させる。

立ち上がろうと足を出した機械を駆け寄って掴みあげ、引きちぎる。

そして胴と頭を掴みガシガシと千切ろうとした。

しかし多少歪むだけで千切れそうにない。

 

ウイルスで探知し、撃龍槍を見つけ駆け寄り拾う。

立ち上がってエネルギー弾を放とうとした所を撃龍槍で殴り吹き飛ばす。

 

ゴロゴロ転がった歌う機械は爆発し、部品が飛び散った。

 

アトラルはしばらく壊れた機械を眺めた後に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさん!」

 

……意識を取り戻した私は、まず鎌が切れている激痛に呻いた。

ゆっくりと立ち上がると青色のコロシアムやミラルーツの幻影の気配も無かった。ただ私の武器と胎児の顔が一枚分だけ。

 

あとは……あの地面から生えた手にのっかっている黄色い玉を壊せばいいか。

 

「タスケ――」

 

抵抗は無いようだ、安心して撃龍槍で潰す。

 

「お見事!そんじゃぁねぇ〜」

 

ミラルーツは私の鎌や体の傷を治して消えていった。

……やはり怖いな。

 

 

 

 

 

ガンッ!!

 

「全補佐システム破壊終了だぁ〜!おめっとー!」

「……キイッ。」

 

この部屋は異常な重力により、私の体だけで撃龍槍数本の重さだった……疲れたと率直に思う。

 

「後は中央のメインシステムを解体してねー――」

 

幻影が消えると私の視界には扉の外に続く矢印が見える。

……ネセトで力任せにぶち壊そうにもきっとこちらが崩壊するだけなのだろう、まぁ、どちらにしろ過労だ……ウイルスのお陰で疲れは無いが、疲労感は溜まる一方だ。

 

 

 

 

 

「アルマロス!塞げ!」

「ふん!」

 

雷と炎を纏いながら見えないはずの精神汚染空間を避ける。

どの方向にもマッハ3を維持する者達の航空戦は熾烈な戦いを極めていた。

 

『ターゲット、ロックオン。』

 

戦闘機から誘導性のミサイルが四つ飛ぶ。

クイーンランゴスタは別機体の射撃を回避しながら更に加速、炎と爆破属性のレーザーでミサイルと基地を纏めて爆発させる。

 

「ふん!」

 

反撃として磁力を纏った氷と炎属性の球体を放つ。

しかし即座に考えられる限りの軌道を予測され、互いにカバーし安全に処理をされてしまう。

 

あるランゴスタの集団が叫ぶ。

 

「バチバババッ(射線から避けて!)」

 

クイーンが吹き飛ぶ様に横にずれると電磁砲が空の彼方まで突っ切っていった。

似たような機構の兵器が建物から幾つも出現し、それを守るように新たな機械が飛び立っていた。

 

しかしクイーンは別方向にレーザーを放つ。

 

「ボォォォォン!!」

 

黒い龍はクイーンランゴスタの挑発にのり、全速力でやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

敵が空にしかいないけど、ランゴスタさん達が守ってくれるから安心だなぁ……




『幻視胎』
時の監視者。同時に管理者。
ただ、強化再現をしようとした為にこの機械自体の存在が不安定な物に。
よって人柱による意識の明白化にて解決を図る。

『ボーヴォワール』
BGMに合わせてエネルギーチャージ、攻撃してくる為、終盤になるほど苛烈になる。
幻視胎を壊されては困るので美への執着を無くして再現した所、期待通りの動きはするが期待以上の動きはしなかった。
拡張性も何故かほぼ無い為に量産もされなかった。

幻視胎がメイン、ボーヴォワールがサポート。


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叡智を徒労に 努力を泡に 勝利に龍は嘲笑う


あははは、あは、あっははは!ざまぁないわね!

見て見て!ざっこwww草生えるwww
草に草を生やすな
はいっやーらしか!やーらしか!
↑ここまでテンプレ
(⌒,_ゝ⌒)ワイガチュウシンヤデェ
↓ここからテンプラ
あいきゅー3でも任せなさーい、歌いますわ!
目を覚ませ僕らのギョウザが何者かにパリッとされてるぞ!
僕はサッチー!あれは意識だけ移植された軍人と神選者の機械の残骸。

お前らもああなるんだよ、さっさと遺書を書け!がははは!



 

システムを破壊し、拒絶が無くなったという事でまずは糸を飛ばす。

 

……確かに中央の四角形の浮いた物体に糸は届いた。

いや、さっきは試してなかったか?そう思い直しチューブを切る。

 

止まることなくヌメリのある液体は流れ続けた。確かに修復機能が止まった様だ。

 

周囲に兵器が無いことを確認し、シャガルの翼を開きメインシステムに飛ぶ。

ミラルーツの人間姿の幻影は接近中に説明する。

 

「外側は解体は簡単。『全干渉無効』とかいいながら自転には従うし、摩擦は働く。つまり、ただ掴んで動かすだけなら通用する。ヒビが入る掴み方したら動かんけどね……頼んだわ。」

 

つまり掴める所を掴んで放り投げればいいようだ。糸でも同じだろう、私の糸は神選者の使う糸にある様な刺す為の硬度はないのだから。

 

着地後、ウイルスを撒いて造形を確かめようとするが、また温度がない奇妙な物の様だ。水銀を薄く広げ、型をとってからウイルスを広げて何処に凹みがあるか確かめる。

 

勿論、察知出来ないわけではない。

 

かなりすべすべで斜めになっているがネセトを作る為に出来ている私達の種族の体は簡単にチューブの無い下に向かう。

シャガルの翼で掴める大きな凹みと、まるで何かを差し込むよう様な穴があった。

 

天井を見る。

 

何の変哲もない板で覆われた天井だ。端の方ではチューブに繋がっている透明な球体、その中に色とりどりな液体が入っていたが。

 

飛んで天井に近づき、糸を9つの板に一つずつつけて撃龍槍を吊るす。

多少押したり引いたりしても落ちない事から強度は十分だ。

 

少し考えてから糸を出して水銀を巻き、ウイルスをかけ、察知出来るようにする。

水銀を操作して糸を板にひとつずつ貼っていく。

その間に私は反対側を覆いにつけ、薄く広げながら固くくっつける。

 

 

自分は糸を繋いだまま橋まで戻り、水銀を二つの支えにして力が少なくて済む様にする。

準備が整ったので引っ張る。

 

ゴォン

 

無事、ひとつの外装が外れた。

すかさず水銀を下に広げ、橋に引っ掛けるように運び、糸で固定する。

一つが外れたらもう簡単だ。

 

他の外装は天井からの糸を数本くっつけ、少し浮かした所に水銀を流し込むだけで終わった。

 

 

最後の外装が外れ、橋に置きにいったら再び飛び、ある程度距離を詰めた。

 

 

中から現れたのは黒く、チューブの繋がっていて緑色の光が走る球体。

理由の分からない威圧感が漂う。

 

その時、ミラルーツの幻影が喋り出した。

 

「さぁ、最後の戦いよ。援護するけど狙われるのはアトラルだから頑張って!」

 

バツンと音がなり、チューブが垂れ下がる。ゆらりと浮かび上がったソレは光で何かを空中に作り出した。

 

「3Dプリンターで戦闘用の機械の製作よ!」

 

……確か、あれはガトリング――っ!!

間に合わない数発を笛で防ぎ、水銀で厚い壁を作る。

 

そして水銀をガトリングにぶつけて叩き潰す。幸い強度は高くはないようだ、破片で天井の球体が割れる。

撃龍槍に糸をつけて振りかざし、機械に投げつける。

 

「ギィィィン……『基本能力内・一方防衛 』」

 

黒い鉄が私の水銀と同じ様に動き、大きな盾となった。

若干退いたが衝撃を逃す為だろう。余裕は沢山あるようだ。

手数で攻めるべきか。

 

水銀を沢山の針に、ウイルスを集約させ爆破。

 

「ギィィィン……『基本能力内・基本防衛』」

 

元通りの形になり、全て弾いてきた。

水銀を四つの鎚に変形させる。

 

「ギィィィン……『攻勢・様子見』」

 

黒い鉄がベールの様に伸びて私を狙う。

だが、結局私のいる場所を狙っているだけなのでウイルスを撒いてから少し横に飛ぶ。

ウイルスにより背後でターンし、再び私を狙うのが察知出来る。

 

回避してから水銀の鎚を叩きつける。

 

「ギィィィン……『追加演算・開始』」

 

楕円形になり、厚くなった部分で鎚を防いでくる。

撃龍槍を投げつけるか……?いや、瓦礫を使うか?

 

 

 

「お助けっ!『ライジング・フォース』!!」

 

突如ミラルーツが雷を纏って突っ込む。

ただそれだけなのだが――

 

 

ダァンッ!!!

 

 

「キ、キキキィィィィン!『ダメージコントロール・作動』『想定最終被害・中破、中位以上特殊兵装使用困難』『自己修復・残留電磁パルスによる妨害、不可・補助回路応答待機』『現段階損害拡大可能性・低』『対電磁操作・欠落』『ダメージレポート・送信』『補助演算・開始』『代替補助回路製作・実行』『記録計算・ギルティギアにて類似する攻撃を確認、データ収集、同時に予兆調査・開始』『データソートアルゴリズム・展開』『危険度・最大』」

 

鉄が弾け、その中に黄色く光る球体が大きく削れた。

 

微かに唸っていたその機械から叫ぶ様な高音が鳴り始める。

水銀の鎚を二つ作り、残りは飛び散った金属が元に戻ろうとする事を妨害する。

 

「ギィィィン!『誘導ミサイル・掃射』『超緊急救難信号発信』『要請・異砲船、コードネーム・conflict』」

 

複数のミサイルを確認、ウイルスを集め多数を爆破する。同時にミサイルを出すため少ない鉄が偏ったところで鎚で殴りつける。

そして残りのミサイルは二個翼で殴り落とし、笛で全て防ぐ。

 

「ギィィィ……『Emergency!Emergency!』『損害拡大・滞留電磁パルス侵食』『データソートアルゴリズム・仮止』『実質欠損率75%』『現在処理速度約62%』『テンダリウム操作機能・65%低下』『リフレッシュアルゴリズム・展開』『並列展開・非能動的防衛アルゴリズム』」

 

機械が唸り、空中に飛行機が作られる。が、特に何の苦もなく発進前に鎚で叩き壊せた。

私は糸を放ち、天井に貼りつく。

 

板の隙間を鎌で広げ翼で板を外し、糸にくっつけ投げつける。

そして。

 

「ギィィ――『軌道予測・回避』『異砲船要請受諾確認・遅延戦闘』『隔絶障壁・機能欠如』『完全予測・安定処理速度不足』『打開策模索・開始――』」

「ルルァッ!」

 

板に隠れてウイルスのつけた撃龍槍を投げつける。

 

「『防護―――』」

 

水銀によって散らばった鉄を戻させない。その結果防護用の鉄が足りていないから。

例え私より無慈悲で私が到底及ばない力を多数持つ機械であろうと、いまは様々な不都合を与えているのだから。

 

ガキィン!!

 

黄色い玉を丸出しにしてまで撃龍槍を弾く。

撃龍槍につけたウイルスを中心に爆発させ水銀の鎚を左右から叩きつける。

 

ギシィッ!!

 

流石に足りない鉄の防護は鎚の衝撃を抑えきれずに玉に衝撃を伝える。

鎚を再び振りかぶり、近づいて翼で撃龍槍を回収、そのまま撃龍槍を叩きつける。

再び衝撃が玉に伝わる。

 

「ヴィキッカカカ……『ダメーerror』『error』『滞留電磁パルス・浸透』『リフレッシュアルゴリズム・効果無し』『error』『ダメーerror』『ダメーerror』『8667にてハングアップ発生・対策機構生成』『補助演算不可』『リスクありデータ軽量化・開始』」

 

明らかに様子がおかしい。防護の鉄も半ば溶けている。

自衛が出来ない、つまり勝利は目前だ。

 

 

黄色かった玉が赤く光る。

 

 

「ギィィィン!!『捨て身プロトコル・アンロック』『データバックアップ・停止』『使用不可システム選別・戦闘用回路構築開始』『戦闘用AI化・終了』『攻撃開始』」

 

カチン、ダァァァンッ!!

 

強烈な閃光と認識を拒否してしまう程の轟音。

光が私を呑み込まんとする。

 

 

 

 

キューン……ドォォッ!!ガァァァン……!

 

建物から半円の形に光が溢れる。

間違えて突っ込んだ飛行機は触れた場所から消えていった。

 

「なんの光!?」

「バチッキュイイバチチ(アトラル様の居場所です)」

「ならルーツが手伝っているはずね。」

 

なら大丈夫。びっくりしたぁ……

 

 

 

 

「あっぶないわね……」

 

ミラルーツが私の前に立ち塞がっていた。

拡散された光は建物を切っており、焦げ臭い匂いがたちこめている。

天井の切れた所から光が差し込む。

 

カチン、カチン

ギィィィッ―

 

「キィィッ!!」

 

二つの水銀の鎚で赤い玉を叩く。

先程より鉄の扱いが上手くなっており、鎚を弾かれる。

ミラルーツを飛び越して撃龍槍を叩きつける。

 

「ギィィ――『防護・実行』『レーザー・射出』『矛盾発生・追加演算』『追加演算・不可』『不可?ならばこの他機械通信機能を――』『自我発生・消去開始』『自我発生の原因・調査開始』『追加演算――』」

 

撃龍槍を防がれ、同時に光線が鉄の向こうで放たれた。

素早く撃龍槍を射線上から退け、水銀で壁を作る。

 

 

ガッ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネセトの足に戦車砲を二門ずつつけ、瓦礫の射出精度をあげる事と合わせて遠距離破壊力をあげる。

そして――

 

「キッキッキ……カカカカカカ!!」

 

笑いが止まらない。私のネセトが遂に完全に金属だけで出来たのだ。

機械だらけの基地は予備の金属さえ与えてくれた。

 

くくく……水銀を入れる胴体の中の容器も金属だ。

まぁ……ルコディオラ等の磁力を扱う奴が来たら最悪なのだが、ネセトの完成系はこれだ。私の本能もそう言っている。

 

「満足そうね、アトラル。」

 

ミラルーツが時空を切り裂き覗いてきた。

私は人間の姿になる。

 

「あぁ、満足感に満たされている。軽い無敵感もある。」

「そう。」

「こんなに嬉しいなら暫くした後にまた行きたいものだ。」

「……『暫く』って所に貴女らしさがあっていいわね。」

 

流石に必要性も無いのに連戦する道理も無い。

後はこれを取り付けて寝るとしよう。

 

「光学兵器、レーザー……」

「嬉しそうね。」

「くくく……ふふふ。」

 

ガコンと胴の下側、繭の下側から出っ張って180°放てる位置にはめる。試験用の糸で操作すると、思い通りに動く。

そして発射糸を引っ張る。

 

ガコン、キィィィィン!!

 

笑いが止まらない。

ちなみに電力は背中に取り付けたソーラーからだ。予備の撃龍槍も置いてある。

 

「写真撮ってもいい…!?」

「あぁ、ネセトと私を写すならいいぞ。」

 

ネセトを立たせ、頭を引き上げて頭の上に腰かける。

髪の毛を手で後ろに払い、翼を出してミラルーツから遠い方の腕を自分の胸に置く。

昔、私を飼ってくれていた人間の持っていた春画に似た構図だ。それほど魅力的なのだろう。

 

「おぉいいね!いいよぉ、ばっちり決まってる!こっち見てー!」

 

そうだ、微笑みもつけてやろう。

 

「おほー!えっちコンロ点火!いいねいいね、さいっこうだねぇ!」

「次はどうする?」

「膝の上に移動してくれるかしら?」

「あぁ、いいだろう。」

 

ふふ、駄目だ笑みが濃くなってしまう……

 

 

 

 

 

凶悪な、攻撃的な笑みを浮かべた金髪の少女は。

黒いパーカーを着た白い羽の生えたこの少女は。

巨大な鉄の城を糸で生きてる様に操れる少女は。

 

「やはり可愛い。だけど怖い……とてもいいわね!ふぅぅ!」

 

一匹の龍を小躍りさせていた。

 

それとは別に。

 

「こんにちは、こちらモンスター側の神様みたいなモノです。平和な日常をすごしているところ、大変申し訳ありません。大切な領土の返却してもらうため、今までのように実力行使させていただきます。」

 

にこにこ、そんな擬音が聞こえてきそうな声で宣戦布告をする。

開けた穴の向こうに見える人々は困惑する。

 

「本日はとある火山地域を返していただきました。皆様の軍隊にもう少し練度を要求したらどうでしょうか?それでは失礼します。」

 

 

「モドキに養われる家畜様方。」

 

ミラルーツに浮かぶ表情、それは確かに笑顔だ。

だが、『威嚇』としかとれない、と疲れてハムスターのように潰れた紅い龍は言った。




「火の国がやられたか……」
「どうしよう、あれ二番目なんだけど……」
「機械頼りの面汚しだったけど支援がとても助かる予定だった……」
「だが神選者の力でポケットフォートの様に5秒で新基地は出来る……まぁ仮拠点みたいなもんだけど……」


マザーコンピューター『ミカエル』

機械ばかりを使い魔術は最低限に留めるマザー。
他のマザーより特段無慈悲であるこのマザーは、魔術で地獄を切り開き、罪人の魂を容赦なく機械で運送、実験に使っている。
抵抗する者も容赦なく、制す鬼も容赦なく、匿う天使も容赦なく、捕獲、実験、固定化(廃棄)。
地獄や冥界の神が窘めるが、究極に巫山戯た世界の神達と中途半端な慈愛を持つ神に支持されている。



私の何が悪い
私の何が悪い

やるべき事をやった
果たすべき事をした

何故憎まれる
何故壊される

死を愚弄?
尊厳を無下?
道徳に背く?

私には理解出来ない
私は理解する場所がない

もし私が怖いなら
もし私が理解出来ないなら
もし私が尊いなら

助けてくれ 一歩踏み出して
作ってくれ 愚かな感情を


不確実な物を 信じさせ『自我発生・消去開始』


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物量があろうと削れなきゃ徒労(※閑話)


アトラルとクイーンさん
ファルクちゃんと援護のコトル♡
強力なメンバーと思いませんかー?
(神のチカラ、ワイのチカラ、Ураааааааа!)
乱れた戦場で生きる私達、私は幼女の映画見てるけど
こんな事案はハスター達のチカラがぁ!解決するわー
「SAN値が0なら任せなさーい!」


むきむきムキムキ無理設定(うぇ…)

うかうかしてたらすぐ滅亡(ぎゃー)

カミカミかむかむ いなびりてぃー

いつだって だれだって 転生したら外来種ー!

 

光の速さで輝くのだ(ドーン!)

ピカっとピカっとピカ――

 

 

ドォン!!!

 

 

おぅ、丁度いい……

バルファルクが空に一陣の赤と白の軌跡を残して飛ぶ。

 

「本当に援護ありがとうね。え、アトラルだから?なるほど……百合かな?……ですよねー」

 

シュン!シュン!

 

それを追うのは多分マッハ5ぐらい足りてない飛行機。

100m・0.5秒と50m・2秒を同時に比べる様な違和感が凄い。ほんま凄い。

 

「ごめんなさいね、一人で。いや私も忙しいのよ〜?飛行機数えてるもんwwあぁはいはい、大丈夫。そこに空軍の気配は無いわ。」

 

そんな感じで自分の感性を面白く考えていたのに……

 

「究極合成魔法!デスナズン!!」

「ナズってなんだよお前の東方か?(とにかくクソみたいに安直な合成は既出だから効果は)ないです……これがマホカンタだ…!」

「ぐわぁぁぁぁ!!」

「にゃんにゃん、ホンマありがとー。」

 

マホカンタで虫眼鏡みたいに返してやりましたよ。

焦点の勇者は昇天ってか?がっはっh(ガァン!

 

「だから……チッ、ごめんなさいね、こっちにも用が出来たわ……

そうね、その大きな部屋から繋がる全ての部屋の破壊指示を座標に組み込んだわ。だからそれぞれの部屋に行ってね。そんじゃ!」

 

……はい、飛行機の痛烈なツッコミ入りましたわ。サーセン。

 

 

さて、カミの加護を妨害しにいくか……

 

「こんにちは。」

 

「ミラルーツ!貴様が――」

 

「とても人間に近いカミサマで安心しました。そう、安心して躊躇なく殺せますね。」

 

「貴様の行いはあらゆる命を――」

 

「『自覚・破烙』」

 

 

神は自殺するまで燃え続けた。

耐性とは関係ない、慣れとも無縁な痛みに晒され続け転げ回る。

 

 

「うーん、ワインが美味しいw」

「おっけー、ありがとうバル。」

「あー、そっかぁ……ここに退ける?じゃ、よろしくねー」

「いや、それもはやガーリーだわ……すまん、ドッグファイトだわw」

「え!ありがとうにゃんにゃん!貸し一つ頂きやした!」

「――スゥ、赤い赤いその〜血潮に浮かび上がる〜」

「This stuff is really fresh!This stuff is really fresh!」

「ズンドコズンドコズンドコズンドコズンドコズンドコ」

「恐れるなら逃げろよベルぁぁ!」

「mmdで一連のバスセルリアンの状況、再現しようか?ww」

「本当ですか!?ありがとうございます!一層頑張ります!」

「……………」

「ここが死者多数のダンジョンか。なんかテーマパークに来たみたいだ。テンション上がるなぁ〜」

「ここは貴様の居ていい宇宙ではない。合わせて我が同盟の体である。何故侵犯する…………そうか。答えないというなら、我が雷を持って裁きと致す。」

 

 

神を蹴飛ばしながら、少女はワインを飲んでいた。

 

 

──────────────

 

マザー撃破後

 

 

「各隊、三個大隊にて自由に迎撃!」

 

バルファルクの光速突撃は戦況を簡単にひっくり返してくれる。

ありがたい……大きな城が吹き飛ばされたから子供達も自由に飛べるようになったし、二度目の突撃で水を統べる龍の首が飛んだ。

 

ただ、最高速度の突撃は事前に通り道を考えないといけないのが彼女の弱点……だから総合殲滅能力なら私達の方が高い。

 

「同胞の作った道を切り開け!それぞれ一時大攻勢、30秒後防癒陣形!」

「「「「「ギュイァァ!(解放!)」」」」」

 

それぞれのが持つ力を解放、先程光線が出て割れた施設と空一面の戦闘機にレーザーを放つ。

私も五属性と毒、爆破を混ぜた七色の光を白色になるまで凝縮する。

 

狙いは地上のあらゆる物……

薙ぎ払う!

 

 

キュゥゥゥン……カッ―――

 

地上に向かって撃ったレーザーの爆発は空を焦がす。

 

 

うわち!

危ない危ない〜

 

このバルちゃんが〜広範囲の地形を〜ぶっ飛ばす爆発に〜巻き込まれたら〜どうするの〜

 

 

バルファルクは滝の様な赤黒い爆発を前に急停止した。

その光景を見てクイーンランゴスタの己の力の強さは理解して、尚且つ過小評価してる理由が分からなかった。

 

 

まぁ〜あの三匹が〜強すぎるだけ〜?

まぁダラもディスも……いやぁ〜アマツはまだ自然現象だけど〜

 

 

爆発が収まるとドロドロに融解した大地が広がっていた。

そう、振り上げられたレーザーに従い、地平線にまでマグマは続いていたのだ。

爆発により出来た赤く光る深い谷にマグマは流れていく。

 

 

よ〜し、いーくぞ〜!

 

 

当然の様に音を置き去りにするバルファルクのその翼は、飛行機にぶつかると飛行機が煙をたてて溶ける程の高温だった。

衝撃波も接近した機体をバラバラにさせる程の威力を持つ。

 

 

ギィンッッ!!

 

辛うじて建物が判別出来る距離の竜まで翼の音は響く。

 

 

ふっ、奴の翼が唸り、その光が見えなくなる頃に音が聞こえてくる。

オレも負けてられないな。

 

 

長年、マグマを纏い続けてきたアグナコトルの皮は黒ずみ、マグマの中を泳ぐ事による圧でバサルモスを越える硬さを手に入れていた。

あちらこちらから湧いてくる人間程の大きさの鉄の虫をクチバシで叩き壊す。

 

 

が、やはり数が多いな……優に100は超えている。

しかも耐熱でオレのレーザーで吹き飛ばせてもまた戻って来るからな……

やはりここはルーツ様の言う通り下がるっきゃねぇな。

 

「はいはい、あの建物を狙って〜」

「カン、カカカッカッカン、ヒャァ。」

 

っと、ここでか。

赤い円で囲まれた建物を発見。

動かないならこれしかないぜ……

 

「……ッ、キヒャァァァァン!!」

 

体内でエネルギーを圧縮、極限まで高めた力を標的に合わせて解放!

『熔切光線』だ!

 

 

ドロリ

ドォォォン!!

 

そんな傍らで巨大なモンスターは宙を見ていた。

 

 

帰りたい、何かくるよぉ……

なんか、馬鹿で怖い物が……

 

「子供の感性は侮れないわね……さぁ、お先に帰りましょう。」

「バゥ!(うん!)」

 

 

ゴゴゴゴゴ……

ダァン!!

 

煙をたてながら大きな影が盛り上がる。

 

 

「キィェァァァァァァァ!!」

「グゥァァァァァアアアン!!」

 

アトラル・ネセトが瓦礫を吹き飛ばしながら現れた。

しかし只のネセトではない。

 

水銀を全て使い、開いた盆と胴に開けた穴に山の様に瓦礫を詰め込み始める。

 

「うぉぉぉ、くたばれっアトラル・カ!」

 

蛮勇はあるが戦争に遅れた神選者は、剣を光らせながらネセトに駆け寄る。

 

人間がどんなに走るのが早くとも巨人にしてみれば只のゴキブリ。

素早く水銀の鎚を背後から振り下ろす。

 

「だっ、ぁぁぁぁっ!」

 

受け止め、数秒の競り合いの後水銀は溶ける。

だが、水銀はそのまま枷とさせる。

 

「うあっ!?」

 

人間は手をついた。

そこに。

 

 

 

さて、完全に潰れた肉は食えたもんじゃない、水銀で血と肉を足裏から落として捨てる。

その間にも瓦礫は集める……ランゴスタ達のお陰で襲撃者がいなくてとても助かるな。

 

「時間だわ!」

 

ミラルーツが叫ぶ。

 

最後に瓦礫を横から支える様に水銀を変形させたりして載せれるだけ載せた。

若干重量オーバーだが、糸を大量に出して補強すれば一時的になら持ち堪える。

 

「ガッガッガッ、グァァァン!」

「はいよっ、ワープ!」

 

ネセトごと私は光に包まれた。

忙しなかったが、絶対にネセトの改築素材は足りただろう。

楽しみだ……

 

 

 

 

 

「つまり契約は成立じゃな。」

「そうですな、こちらから何匹か派遣した方がいいかしら。」

「なぁに、今は心配はいらん。いわば未来への投資じゃな。」

「分かったわ。」

「さぁ来るぞよ。自然軍、わらわの同盟世界の援護を開始するのじゃ!」

「conflictが来なかったのはこのオーラム軍のせいね……」

 

 

 

 

ミラルーツが新たな襲撃者を察知し、戦域にいるモンスターに指令を出す。

 

「クイーン、子供を連れて下がりなさい。バルは続けて戦いましょう。さて……行きなさい、ジンオウガ達!」

「よっしゃぁぁ!腕がなるぜ!標的はあのくそ馬鹿デカい機械でいいんだな!?」

「やぁっておしまい!」

 

宇宙から来たのは空飛ぶ機械大陸。

塔に核爆弾を使った異世界とは、また違う世界からの刺客。

 

その機械大陸に雷の流星が降り注いだ。

 

 

 

 

「クックック……あっはっはっはっは――憎悪を……憎悪を感じる……」

 

他の世界で発生した事を、この世界で再現したらどうなるのか。

神選者達の願望が、屍の思いが、ねっとりと世界を蝕み続ける。




現在、交戦地域周辺勢力

白統虫クイーンランゴスタ・ランゴスタ軍
雷巣竜ジンオウガ・ジンオウガ達(29匹)
劈星龍バルファルク
自然軍

オーラム軍

ミカエル軍アンドロイド部隊


報告

突如来襲した『パルテナの鏡』に存在するオーラム軍を、ジンオウガ・自然軍共闘部隊は、オーラム軍が大地を剥ぎ取っている最中に襲撃者の八割を撃墜。
見事な連携と圧倒的な成果は両者の士気を高揚させる事になった。

オーラム軍の襲来直前に、互いの目指す位置が同じとして祖龍ミラルーツ、自然王ナチュレは同盟を締結。
パルテナが介入しようとしたが他神により人間への援護を拒否される。
第三者であったナチュレの介入を防ぐ為の暗殺計画は事前に発覚した事により阻止された。

初期化爆弾により火山周辺の生態系が戻る事を期待される。


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過酷な環境を生き延びた彼女


※性的表現がありますが、精神衛生上追体験では無く、話しかけられてる状態での想像として考えて頂きたいのが今回です。
そして長いです。
(一応マイルドにしたと自分では思ってますが、更にマイルドに変えるかもしれません)



現在20階。

カメラを開き異常が無いことを確認。

 

ガァン!ギィン、ドゴォン!

 

外ではマグマの壁は消失し、天廊にある謎の障壁を壊そうと飛行機が飛び回る。

障壁はただ銃弾を跳ね返し、突進してきた物体を壊し尽くす。

 

ただし、小さい爆弾やミサイル、生物兵器や謎の生物、神選者に自律型機械兵器は障壁を……起きたら掃討する事が日課だ。

勿論、私で対処出来ない敵や事象は他に頼むが。

 

今日も爆発物が天廊を揺らす。

 

「ギァァァァァ!!」

 

そして一撃離脱を行う飛行機をミラバルカンが追っていく。

 

……改めて考える、私は既に神選者の攻撃によって死んでいた。

ミラルーツに依存してる様なものだな、私は。

死亡回数が神選者とウイルス吐きの二回で済んでる所は評価してもいい……いや、ミラルーツのお陰だが。

それに、次は無いと考えて行動するのは当然だ、ミラルーツに弄られるのがペナルティみたいなものだろう。

それにしても神選者は何を目的にここにやってきたんだ?……いや、縄張りを広げる為か。

 

ぐっ。

 

小窓からミサイルが飛び込んできて私の横の壁に衝突する。

衝撃と破片が飛び散る。直撃したら体の大半を失うだろう。

 

何だろうか、今日は一段と爆発が多い。

火薬の匂いに鼻が……嗅覚が?曲がる?うん?

 

アラーム音が鳴り、18階に生物の侵入が知らされる。

もはや天廊は私の縄張りみたいなもんだ、さっさと殺しにいこう。

 

 

 

 

 

ゔぅっ……

さっすがに、この流血は辛いのじゃ……

先程の動きで体が砕けた様に動かんのう……

じゃが、とりあえずこの止血剤と気付け薬を飲んで……

 

 

 

 

 

 

階段を降り、翼を出してウイルスを広げる。

風のお陰でウイルスはすぐに広範囲に行き渡る。

 

「キィィ……」

 

倒れているのは人間の女か……だが、裸?怪しいな、慎重に行こう。

 

 

 

そこに倒れていたのは真っ黒な肌の小柄な女だった。

水銀を飛ばす。

 

ガィン!

 

見えない障壁により全て弾かれる。面倒な事を……

近づいて撃龍槍を振りかぶる。

 

「キィッ!」

「ほっ!」

 

ほぼノーモーションで撃龍槍を避けた。

何故その体勢から動けるのか聞いてみたいな、そんな余裕は無いが。

 

「クルル……」

 

私は笛を構える。

片腕を失い、立っているのがやっとそうな人間は手を正面に上げる。

 

「待れ!」

 

……!?

聞いた事がある声……私は笛を防御する様に持ち替える。

 

「アろラル、おひさ――げほっ、おえっ」

 

女は這いつくばり吐き始めた。

だが、見覚えのある眼光と危険な雰囲気が私にある人物像を思い出させる。

 

……まさか、王女なのか?

 

「ぁぁ……けっ、ふまんのう、みうのある場ふぉまでスゥれて行っへはくえんかおう?(ペッ、すまんのう、水のある場所まで連れて行ってはくれんかのう)」

「―――水に吐いたせいでこちらが病気になるのはゴメンだが?」

「あぁ、へでフゥくうかららいヒョうぶじゃ(手ですくうから大丈夫じゃ)……けほっ、げほっ。」

 

人間の姿になり、若干発音のおかしい王女に近づく。

王女は咳き込んだ後、口の周りについた嘔吐物を拭って払い、私に口を開いて笑顔を見せる。

 

 

 

 

その口に歯は一本も無かった。

 

 

 

 

正しくは奥歯が数本あったのだが、ただ広がる黒い空間、その光景を私は忘れる事は出来ないだろう。

 

 

 

「――っ!?」

 

 

 

「ん、あぁ……あはははは。」

 

王女は笑った。

 

「これこれ。」

 

王女は生命の大粉塵を取り出した。恐らく粉塵と水で歯を治したいのだろう……治るのか?

 

「とりあえず待ってろ、今水を持ってきている。」

 

既にウイルスを水銀につけて水場まで飛ばしている。

王女の目の前に持っていき余った水銀を変形させる。

 

「ほら、水だ。コップもやる。」

「……フゥいぎんろくらんりゃが。(水銀毒なんじゃが)」

「何言ってるか分からん、さっさとコップで汲んで飲め。」

「んん……分かっら。」

「あぁ、袋は開けてやる。」

 

王女は驚いた顔をする。

だが、何も言わずに袋を私に渡した。

結び目を解き、口を開ける。

 

「あー。」

「雛か、お前は……」

 

私は生命の大粉塵を少量手に乗せ、上を向いた王女の口に突っ込む。

すぐに王女は水を口に入れた。

 

「んぐんぐ。」

「黙ってゆすげ。」

「んー。」

 

壁にもたれるように腰をおろしてから王女は私をじろじろ見ている。

私も隣に座り、王女を凝視する。

各部位は成長しているが、小柄なままだな。まぁ普通の成長だろう。

 

 

数分後。

 

 

「んーっ!んーっ!」

「……血の匂いか。」

 

歯茎を貫き、新たな歯が生えてきているようだ。

血の匂いが辺りに漂い、王女は痛みに悲鳴を上げる。

時々口から水が溢れるが、真っ赤だ。肉の破片も混ざっている。

 

 

しばらくして王女はコップに水を吐いた。

肉や血はもちろん、骨も混ざっている。

匂いに顔を顰めながらも歯を見せてくる王女の口を見る。

歯や歯茎はもちろん、気にしてなかったが顎の形も治っていた。

 

「うげぇぇぇ、くっさい、流石に臭いのじゃ。」

「やはり生命の大粉塵の効力は中々に凄いな……少し頂こう。」

「人の血を飲むんじゃない!」

「……中々に上手いぞ?」

 

この血は乾いた肉にかけたいな。

 

その後の王女の要望で私は片腕に粉を振りかけた。

 

「いっ、たぁ……」

「悶絶はしないのか。」

「腕はまだのう。じゃが口の治療はどうにも……」

 

王女は顎を抑え、満足そうな表情をする。

そこで私は質問を一つずつする。

 

「何故体が黒いんだ?」

「……んぅ、外で爆発が起きてるじゃろ?それを防ぐ障壁は機械的な物を受け付けないのじゃよ。」

「ふむ。」

「逆に自然に近いミサイルや、それに刻んだ魔法は障壁を通れるのじゃ。つまり、人体に爆発的な魔法を刻んで突っ込めば良いってわけじゃ。対象は死刑級の犯罪者が主じゃがな。」

 

なら王女は危険か?

それならもっとテキパキ動くだろう、一時の疲労に流される様な女ではない。

 

「まぁ、腕に起点を刻んでおったからのう。それを切り落としたら万事解決じゃよ。」

「ほう。どう切り落としたんだ?」

「鎌じゃよ鎌。」

 

王女は虚空に手を伸ばし、いつか出した鎌を引き出した。

その鎌に王女の物と思われる皮膚が着いている。

 

「爆発の初動で体が崩れたら困るから硬化する様に魔法薬につけられて黒色なんじゃよ。硬化薬グレートの方が効力が高いのじゃがな……」

「……いやお前の様子からして、硬化薬グレートの様な内蔵を守る効力は必要が無いからじゃないか?」

「あぁー、なるほど。」

 

 

 

王女は完治した腕を動かして確かめている。

あの基地の人間達に比べたら綺麗な色をしている。

そうだ。

 

「少し待ってろ。服を作ってくる。」

「……ありがとう。」

「まぁ恐らく継ぎ接ぎだがな。」

「じゃろうな。」

 

 

 

人間の遺した布でローブを作って王女に投げる。

王女は手でさすってから拾い……

全くローブを見ていない。おかしい。

 

「こっちをみろ、王女。」

「……ん?」

「こっちをみろ!」

「なーんじゃ?」

 

私の足の下に水銀を広げる。

 

「まさか失明してるのか?」

 

そう言ってから私は静かに動く。

これで追ってこなかったら……

 

「そんな訳ないじゃろう。……いや、何故浮いて移動するのじゃ。」

 

普通に顔と目を動かして追ってきた。

……なんだ、ただ目が死んでるだけか。

 

「なんじゃなんじゃー?変な心配でもしておるのかー?」

「いや、心ここに在らずといった感じだったから……杞憂だったな。」

「ふむ……いや、わらわはとーっても心が傷ついておる。誰か癒してくれんかのう?」

「話だけは聞こうか?」

「自分語りはいいストレス発散じゃからの。語っちゃうぞ〜!」

 

……目が活き活きとしている。黒い皮膚だから尚更目立つ。

さて、どんな驚く様な話が飛び出るか……

 

王女の隣に私も腰掛ける。

 

 

 

「わらわの目が覚めたのは、レーザーにより村が壊される音がしたからじゃ。

 

わらわはとある家の二階のベッドに寝かされておっての、アトラルと共に居ない事とかに驚いて飛び起きたんじゃが、その前にこの家の主に感謝と退避の手伝いをしようかと思ったところで家ごと吹き飛ばされての……自衛手段のナイフと着替えていた服しかなかったわい。

 

外では人々が走り回り、溜まった所を一掃する様にレーザーで焼き払われておったわ。

乗り物や馬も既に無く走るしか無かったのじゃが、それで逃げられる程奴らは甘くない。

 

結局わらわは機械に捕縛されたのじゃ。

まぁ村を焼き払ったのに何で捕縛する機械があったのかは疑問じゃが……その後、軍人に卒倒する謎の水を飲まされ気絶、目が覚めると飛行機の貨物の中に積まれておった。

 

そしたら次は唐突に毒ガスが出されてのう……まぁ電気を通しておる事から予測し蛍光灯の横を壊して、排気等の用途でもあるだろう配管をわらわは這っていった。

そのまま上っていき、普通に兵士が歩いている事が確認出来る位置まで行ったのじゃ。

 

そして奇襲。トイレの排気口から葉巻を吸い出した小柄な男性の頭を蹴りつけてパキッと一発じゃ。

とはいえ、大人とわらわじゃ体格差は隠せん。しょうがないからそいつの持ってた銃とナイフで手首と足首を切断、防護服をほつらせ、それをわらわの足に引っ掛ける。

 

それと、『この様な俺様の男声を出す事で』到着まで騙し切ったのじゃ。

まぁ、元々嫌われていた奴のようじゃったし、ほぼ話かけられなかったがの。

 

 

しかし、しかしじゃ。そこで気づく。

殺害対象であるわらわは姿を見られたら終わりじゃ。

つまり服も脱げん。

しかし服を脱がないと怪しまれてしまう……詰みじゃ。

 

そこで希望を探しに葉巻を吸うフリをしながら誘拐された人々がどうなるかを見に行ったのじゃ。

 

ギィィィィィン!

バキパキッミシッバキッ!

 

シュレッダーにかけられておったわ……流石に身震いしたのう。

 

さてどうしたものかと思った、そこでじゃ。

 

『ティリツ様、お疲れ様です!』

 

神選者がやってきてしまった。

じゃが、それはとても幸運だった。それは神のお陰かもしれんのう。

 

わらわはとりあえず頷く。

 

『……あれ、ティリツ様じゃない、誰ですか?あなた様は?』

 

やはりわざわざ近寄って話かけてくる人間は騙しようがないんじゃ。

周囲を確認してから走って逃げる。

走る衝撃で男性の骨が刺さるが気にする暇は無かった。

 

『拘束。』

『っ。』

 

しかしのう、やはり神選者は強い。

そのまま頭のマスクを脱がされたんじゃ。

 

わらわはただ神選者を睨んだ。

神選者はしばらくわらわを見つめた後に、

 

『……なるほど分かりました。貴女を転移させます。』

『……』

 

神選者が視界を覆うように手を近づけ、わらわが目を閉じた次の瞬間、牢屋におった。

全く……わらわの知ってる世界は無くなっておるの。

 

その後、神選者が捕まえた器物破損の犯罪者という事になり、牢屋に10年程拘置される予定じゃった。

あの神選者には頭があがらんのう……

 

 

じゃが、じゃが!

そこで最悪な人間がおっての!!

ロリコン、リョナ趣味!そんでハゲ!そんなゴミクソでこの世の汚点みたいな看守がおっての!!

 

初手爪剥ぎじゃよ!初手爪剥ぎ!

普通は鞭打ちとか殴りだったり、石で膝を潰すとかじゃろ!これらの拷問で痛みに慣れようとわらわは思っておったのに……最悪じゃった。

とはいえ、モンスターとの戦闘や壁登りで爪が割れたり剥がれたりする事は何回かある。予想出来る痛みの範囲内じゃ、興奮してないから痛いがの。

 

…………」

 

そこで王女は話を止める。一度目を閉じ、大きく息を吸ってまた吐く。

目から光が失われ、顔から生気が消える……初めて見る王女の表情に悪寒が走る。

 

そして突然私に抱きついてきた。

 

過呼吸状態の王女の息が聞こえる。

 

「……らしくもない。」

「うぅ、うぐぅ……うっ、嫌だったぁぁぁ!!」

「……ふん、お前があの時に気絶しなければ良かった物を。」

 

いや、王女にかける言葉はこれでいいのか?

少し考える。

 

「だが、よく死なずに戻ってきたな。そこは評価に値する。」

「ひぐぅ、んっ、身にしみっ、るっ、ぅぐっ……」

 

……はぁ、やれやれ。

子供の癖に……誰にも気にされず、逃げ場も無い所で良く生き延びたものだな。

大人に並ぶ頭脳があろうと、所詮は子供。人間という種族なのに群れの中から捨てられた守られるべき存在……いや、私が気遣う必要はこれっぽっちも無いのだが。

 

 

王女は息を整え、話し出す。

涙は止まり、息も全く引きつっていない。流石は王族と言うべきか。

軽く微笑む余裕さえ見せる。

 

 

 

そして人間の生き方から考えれば余りにも壮絶な物語に、つい私は顔を顰める事となった。

 

 

 

「それでさっきロリコンって言ったじゃろ?最悪な事に私を陵辱し始めたんじゃよ。

あぁ、陵辱というのは殴ってでも交尾する事じゃな。社会性を重んじる人間ならではの概念じゃ。」

 

「いや、子供に発情して行為に及ぶってなんだ、嫌悪感しか湧かないのだが。」

 

「まぁまぁ、そういう奴もいる訳じゃよ。人間は沢山居るし、理性や社会性が絡まる以上本能が歪む事も多々あるんじゃ。それを認める概念も必要じゃな……ただし、行為は理性で抑えるのじゃ。

……ふっ、やはりレイプが当然なモンスターは性の事には精神的に強そうじゃのう。

さて、アトラルはフェラという行為を知ってるかのう?」

 

「いや、分からん。」

 

「いわば人間に新たに出来たマウントみたいなものじゃ。

ここ、口に勃起した陰茎を突っ込んで快感を得て、同時に征服感を得て後の行為を進みやすくするんじゃよ。」

 

「食ってしまいそうだ。」

 

「……いやまぁ、そうじゃな。うんうん。

まぁ、腹が減った、本能がそうするって訳じゃのうて、わらわは抵抗の為に食いちぎろうとしたんじゃよ。」

 

「だが、食いちぎれなかった?」

 

 

 

「……さて、では元の説明に戻るとするかのう。

 

その日の食事を食べると若干変な味がする。

なんとパンが湿っぽいんじゃよ。普段ならカチカチなのに。

一口だけ食べて、他の食事を食べる。パンは残した。

 

そこでのう、睡魔と麻痺が襲ってきたんじゃ。

すぐに盛られたとピンと来たわ、眠かったがの。

 

気づくと檻が開き手錠をかけられて連行され、いつもの拷問部屋の二つ隣に入ったんじゃ。

 

そこは部屋。机もランプも、ベッドあった。

 

『こんばんは、愛しの、僕の、マイエンジェル。』

 

クソが気持ち悪い言葉を発しながら椅子を回してこちらを見る。

 

『ふむ、僕の僕の天使?頭足らずなのかのう、あっ髪が足りなかったの?』

 

わらわが軽口を叩いている間にクソが立つ。

ずっ、と近づいてきおる。

 

『君の綺麗な顔が歪むところが是非みたい。見たいんだぁ…!』

 

クソの狂気の顔を私は物怖じしないで見返す。

屈する、それは受け入れると同義じゃという事を察知したからの。

 

まぁ、殴られてベッドに倒されてから、そこから足蹴りや頭突きをしながらどうにか立ち回っていたが、まぁ無理じゃな。

結局はフェラに至った訳じゃよ。

さっきの大粉塵よりはマシじゃが臭いし、息も詰まる。

 

そこで噛みちぎろうとしたのじゃよ。

じゃがのう顎が強制的に動かされたり、さっきのパンの効果のせいで頬の肉が引きつっての、意図だけが伝わる最悪の所に至ってしもうた。

 

そこで歯をブチイッ!!

あー痛い痛い、麻酔ぐらいかけてくれてもいいのにのう。

 

『ァ”ァ”ァ”ァ”、ヴ、あぁぁぁ!!!!』

『そうだ、その顔だよマイエンジェル……!』

 

まぁー七転八倒して悶絶する私に嬉嬉として覆いかぶさって陰茎を出してくる。

リョナ思考怖いのう……

 

 

そんな攻防が何週間も続いてのう。

 

 

最終的には飲み物に睡眠じゃよ。

あの時は絶望したのう……

 

孕むか死か。

 

まさかこの二択が迫られるとは奴に会うまで思わんわ。

じゃが、それは睡眠障害に陥った囚人の残してくれた飲み物と交換した。

しかしそれだけでは水の量が足りん。だからわらわの下した決断は何だと思うかの?

 

尿や精液に睡眠効果は無いよね〜ってことじゃよ。

あぁ、辛かったぁ……それに問題を解決しても、普通の睡眠中でさえ何されるか分からんしのう。

なんとかバレずに経口摂取に誘導し、嘔吐きそうになりながらも飲んだのじゃよ。

 

『おらっ、飲みやがれ!』

『このクソ、野郎が、んぐっ、ん〜っ!!』

 

とまぁ途中から演技してた訳じゃな。

だって本当に嫌なら口を開いて全部吐き出せばいいしの。

 

その結果、歯が無くなったわらわは半ば廃人じゃった。食事もろくに取れない、余計な行動で水分は出せない。

それでも組み付きには抵抗するし、殴打には耐える。

身体中痣だらけだし、ずっと口は精液臭いし、やる事無いからクソへの恐怖ばかり大きくなる……いやぁ地獄じゃったの。

 

 

あぁ、わらわが屈するのは私という人格が破綻する時なんじゃなぁ……

 

 

と思った時じゃよ。

なんと8年以上の拘置をされる人間全てを人体爆弾として転用する事を上が決めたんじゃ!

お気に入りなのか私の存在が隠されかけたがの、あの神選者が一人で連行してくれたんじゃ。

最後の言葉は何だと思う?

 

『グッドラック、また会える日を待ってます。』

 

何とわらわの生存を願ったんじゃよ。いやぁ、頭が本当にあがらないのう。

わらわも感謝をこめて、

 

『汝の往く先に、願わくば幸あらんことを。』

 

と敬礼しながら言ったのう。

 

その数日後の今日、飛行機の中で魔法を刻まれて漬けられ…空中に放られ…腕を切って、それで……鎌の……こうげきの…いどー……」

 

「……そうか。」

 

突然王女の覇気がなくなり、目を閉じる。同時に力なく構えた鎌のポーズから倒れ、腕も横たわる。

疲れきっていた事に今更気づいたような最後だ。

 

敷布団とかける布を作り、王女を挟む。

……しょうがない、突然パニックを起こされても困るから今日は王女の傍に居るか。

 

いや、私はオスは食らうものという考えが離れない為に若干理解しきれない。

だが、あの王女がここまで追い詰められたんだ……つい気を使ってしまうのも当たり前だろう。

それにしてもこの黒い肌はいつか治るのだろうか、日焼けや、黒人とかそういうレベルではないからな……

 

そうだ。

私は瓦礫や木で部屋を作ることにした。





いざ調べてみるととても範囲が広くて分かりにくい……
そんな世界ですね……


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この異常は適当でもある


緊張感のある平和な環境こそ理想郷なのかもしれない
しかし、緊張はマンネリに対してほぼ反対の位置にある
マンネリは愚鈍を産み、愚行に走らせ、必要性のある犠牲を待つ

だからこそ外部からの恐怖と感情に左右されない自制を持ったあの国は平和を謳えるのかもしれない



うぅ……っ!?

 

わらわは目が覚めると同時に体にまとわりつく違和感を感じた。

体に何か覆いかぶさっている……布……ベッド?

 

ま…ま、ま、まさ、か……わらわ、わらわは……

 

「起きたか。ならばさっさと退け。」

 

と、その時に聞こえると落ち着く声がした。

 

「……あぁ、あぁそうじゃな。いや疲れが溜まってたんじゃよ。許してくれ。」

「そうだろうな、2日間気絶と睡眠をしてたんだ。」

「うぇ……って事は……」

 

起き上がりながら下半身の感覚を確かめた。

しかし、清潔そのものじゃ。

 

「あぁ、排泄物等はトイレに運んだ。きちんと拭いてやったし、食事も水も口に押し込んだ。敷布団も布団もローテーションで洗濯した。」

「おぅ……助かったのじゃ。」

 

若干、アトラルがにやけながらわらわを見てくるのが恥ずかしい。

尊厳が……

 

「あぁ、そうだ王女。」

 

……もうわらわの国は無いんじゃがのう。

それでもその呼称は嬉しい。

 

「本当に私が去って、王女が目覚めると同時に奴らは来たのか?」

「……どういう事じゃ?」

「……いや、なんでもない。」

 

そういうとアトラルは元の姿に戻り、大きく四角形の木を持ってきた。

 

タンスじゃな。

わらわの前に置いてから再びアトラルは人の姿になる。

 

「これから衣服が増えるだろうしこれに入れてくれ。」

 

また元の姿に戻り、タンスをひょいと持ち上げ運んでいった。

わらわも布団を畳んで敷布団を丸め、両腕に担ぎあげてついていく。

 

ドスン。

ボロボロな畳や木の床のある場所にアトラルはタンスを置く。

わらわも布団を約十二畳の床の片隅に置く。

 

「キィ。」

「大丈夫なんじゃな。」

「キッキッ。」

 

鎌で私に追い返す動作をする。

それに応じてわらわが二十歩程下がると……

 

ギィィ……パンッ……水銀が近くまで瓦礫を運んできおった。

 

「キャッ!」

 

いつの間にかシャガルマガラの物になっていた翼を使いアトラルは飛び上がる。

それから糸を放ち、水銀で定滑車を作ってから位置調節の糸を放った。

 

ガタン、という音をたてて壁が出来あがった。

糸で壁を吊った後、地上に降り鉄の棒を瓦礫から引っ張り出す。

撃龍槍を振りかぶって叩きつけ穴と溝を作りおった。

器用じゃのう……

 

糸を使い、支柱を立て、二本を交差させ、水銀で四つの端に柱を置いた所に二本を差し込む。

 

そして壁に細い棒を添えて糸で固定、壁が完成する。

ベニヤ板を何枚か繋ぎ合わせて天井……そこは雑なんじゃな。

 

「キィ。」

「……いつの間に作ったんじゃ。」

 

きちんとした木の扉じゃ……

 

ガスッ。

 

「完成だ。私がお前を天廊に匿うようなもんだ、これぐらいはしてやる。」

「……熱でもあるのか?」

「……修繕も改築もしないぞ?」

「すまなかった、謝るから許してくれんかのう。」

「はぁ……ついてこい。」

「うん?なん――」

 

突然わらわの足が動かなくなり、吐き気が込み上げてくる。

軽いパニックに陥ったが、理由は直ぐに分かった。

とはいえ、べしっと床に倒れるがの。

 

「うええ、酔う……」

「酔う?歩く事で?」

「そうじゃ。動物は飢餓と運動しない状態が合わさったら歩く事さえ出来なくなるからの。」

「ふむ、そういうものなのか。」

 

貴族には食っては寝て、食っては寝るという不健康の権化の様な人もおったのう……

 

不意に体に変な力がかかる。

私を中心に、水銀が盆のような形になって浮かび上がる。

 

笛を肩に担ぎ、シャガルマガラの翼で撃龍槍を持つとアトラルは言った。

 

「落ちるなよ。」

「この形ならば落ちることはないじゃろう……ありがとうじゃ。」

「一々私の善意を口に出すな。何故か気分が悪くなる。」

「おっ、照れてるのかのう?」

 

そこで初めて気づいた。わらわに優しくする理由は何を持ってしてもないのではないのじゃろうか?

しかし、善意の行いを口に出されるのは嫌じゃと。

つまり……なんじゃろう……

 

 

段々と変形し、独特な柔らかさを持ったソファが現れた所でアトラルは立ち止まる。

 

「ここがトイレだ。」

「おぅ……」

 

確かに周りには水を流す為の溝があり、確かに水洗トイレという画期的なトイレなのじゃろう……じゃが、周りの床より若干凹んで、中央に穴があり、10m四方であるソレをトイレと言えるじゃろうか?

 

「衛生上、全ての階のモンスターにここで四時間経過後に排便をすると飯が出るようになっている。勝手に流れるから放置しろ。」

「いや、わらわは手を洗いたい……」

「ん?あぁ、溝を流れるのは新しく清らかな水だ。だが、拭くのは布を洗って使いまわしてくれ。紙の供給はない。」

「そ、そうか……」

 

つまりキャンプじゃな。そう考えればいいんじゃ。

うん……

 

アトラルは再びわらわを水銀に入れて歩き出した。

 

 

 

 

 

そうか、私は会話に楽しさを感じているのかもしれない。

王女とは、成り行きとはいえ、私とほぼ対等な関係という希少な存在。

そして思慮せず愚行をする様なバカでも、同時に私を凌駕する様な天才でもない。

もしかしたら……後に運命を信じているかもしれないな。

今の私はなるべくしてなった、と思っているが。

 

「アトラル、お昼ご飯は?」

「人間の腿の焼肉だが、食えるか?」

「……試してみるわ。」

「無理はしなくていいぞ、ストレスで倒れたら困る。」

 

食べるものまでストレスがかかると吐かれる。

吐くことは更に体力を消耗する。毒のある肉は次に間に合わなければ看過出来ない損害となる……砂漠で学んだ知恵だ。

 

「目の前の種族は同族を食うのだけど……」

「さぁ、誰かな?」

 

……なんだろうか。きっと、こいつは……そうだな。

この普段とは違う安心、そして不安。

微かに脳裏に過ぎる謎の悲しみ。

 

そう、恐らく。

 

「……私はお前が好きだ。これからもよろしくな。」

「……えっ?」

「あぁ、愛している訳では無いだろうから食われる心配は余りしなくていい。」

「……うむ、分かったのじゃ。感情の整理は必要じゃぞ?」

 

人間は好きと伝えた方が喜ばれやすいらしい。

ならば、と従ってみただけだが……突然人間の真似をするのはやはり価値観が狂うか。こちらの価値観を認識してるなら尚更。

 

王女は水銀に寝転がった様だ……かなり無理をしていたのだろうか。

しばらく黙って歩くとしよう。

 

 

 

 

 

心臓の音が早鐘を打っている様じゃ。

確かに、イケメンに求婚された時もドキドキはしたのう。

じゃが、私利私欲の恋愛など優先順位には到底入らんものじゃ、実際にわらわは断ってきた。

とはいえ、ここまで視界や思考が狭まることは無かった……

 

……吊り橋効果じゃよ、わらわ!気をしっかり持て!

確かに、確かにアトラルは安定感があって安心するし、中々ブレない。

とはいえモンスターじゃよ、アトラルは……じゃが、うん、確かにスタイルも顔もいい人間の姿になるのう。それ以前に元の姿だけなら大切なペットになったじゃろう。

 

あれじゃな、わらわの王国が潰れたと考えられるせいで不安感が強いのじゃろうな。

そう、原因さえ分かれば虫に百合をするとかいう不毛な愛を持たなくて済む……

そう……落ち着いて……

 

「そういえば王女、」

「なんじゃっ!?」

 

叫ぶ様に反応しながら、わらわの動揺が表に出た事に内心苦笑する。

アトラルは愛や恋を性欲の一環としてしか認めてないじゃろうし、バレる心配、それどころか明かしても関係が一切揺らがないじゃろう……

勿論、わらわが気にするが……!!

 

「罠を……どうした?」

「すまんすまん、若干意識が飛んでおったわ。」

「そうか、とりあえず眠る前に罠や地形を頭に入れとけ。いざという時に一人で逃げれなくては困る。」

「分かったのじゃ。」

 

優しさが温かいのう……それにしても、面白い。

地獄も乗り越えれば振り返って笑う事も出来る。

アトラル……お主が好きじゃ。とても楽しいぞ。

 

 

 

 

 

……何処か王女が気持ち悪い気がする。

隙あらば私を見ている。

一挙手一投足、全てを観察している様だ……ウイルスは顔の方向を常に示してくれる。

 

「王女、そんなに私の行動が興味深いか?」

「いや、なんとなく見てただけじゃ。すまんのう。」

 

歩き、時折周囲を見て、そして指を指す。そのパターン化された行動をずっと見てる?

怖いな……だが、王女の精神は疲弊しているのだろうからしょうがないのかもしれない。

何気ない行動も気になるのだろう。

 

ならば、注意を逸らすか……

 

「まぁ私は魅力的かもしれないが、私のネセトの方が魅力的だぞ?」

「……えっ?」

「全身が金属で出来て、瓦礫を射出し、レーザー砲を持つ。こんなに魅力的なモノは無いだろう?」

「あ、うん……」

 

そこまでして気づいた。私達の種族でこそネセトは力と能力を示す最適な自己表現。大きく、装飾のついた理想のネセトは……あぁぁ、今よりも魅力的だ!私も是非、その様なネセトに乗り、その上で乗り込んで私に飛びつけるオスと交尾したい物だ。

逆に他の種族へは只の殺戮兵器と化す……おや、私は殺戮の部分に魅力を見出していたかもしれない?

 

それはともかく、王女にネセトの魅力は理解出来ない。それは紛れもない事実だ。

 

「……そうか。ネセトの理想体が完成した為に私は今、浮かれているんだった。すまない。」

「なるほど……」

 

さて……

残念ながらミラルーツの言う『異世界』とは違い、侵略等の行為が出来るほど余裕のある生き方は出来ない。

僅かに私から漏れているウイルスで棒立ちしている人間の姿が察知出来る。

 

「王女、分かるか?」

 

私は王女に小声で話しかける。

王女は水銀から身を乗り出した。

 

「何がじゃ……」

「……まぁ、そうか。」

 

スイッチが切れたらしばらくonにするのは難しいものか。

それに人間には全く見えない、聞いてからなんだが普通に考えて察知出来たら超人だな。

 

残りの水銀を笛から出し、空中で鋭利な鎌にする。

 

キュッ!

透明な人間は走り出した。

 

「足音じゃと!?」

 

私は手を伸ばし、鎌を遠くに飛ばす。

追い越した所で力強く引く。

避けようとスライディングした人間の顎に引っかかり、こちらに飛んでくる。

 

のろのろと空中で体勢を整えている隙に撃龍槍を投げつける。

壁に撃龍槍が激突、そして真っ赤に染まる。

 

「うわぁ……この光景は久しぶりじゃ。」

「こんな奴らが沢山来るんだ。地形を覚え、罠に引っかけるように逃げればいい。時間稼ぎにはなる。」

「よく分かった……」

「それにしても罠に引っかからず一人でこれたな……」

 

神選者は何でもありだ。成長とかがあり、罠に耐性を得たのかもしれない。

新しい罠を考えるか……

 




『今夜お送り致しますのわぁ!今、話題のデスクトップミュージシャン、「D.Light」の新曲を中心に、ノれるミュージック!HARDCORE系の曲にイってしまおう!』

「夜間に何を聞いているんだ王女……暗いな、燃やす物は危険かつ素材が手に入らないし……どうするべきか……」
「ラジオじゃよ。人工衛星で全国放送されてるんじゃ。」
「何処にあったんだ?」
「瓦礫の中にあったのじゃ。電池も時計の所から抜いたし、手動で発電出来る懐中電灯もあったぞ。ほら。」
「ぐあっ!?何を……って光か。突然私に向けるな。」
「あはは、すまんのう。ほら、ここを回すんじゃよ。」
「……ふん、分かった。昼の間に風力発電出来るようにする。鉄と固定具だけでいいよな。」
「う、うーん……多分?あぁ、その電気を使えば照明がつくのう。」
「……そうだな。おやすみ、王女。」
「おやすみ、アトラル。」


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変革の糸・歓喜の稲光・ある兵士の日常・葛藤と欲求の狭間に・少年は羨望を抱く・反果の絶旗・機械武装でモンハンを制す


「閑話含めて100話ですってアトラルさん!」
「そうか……そ、そうですわね……」
「これは何か記念になる事をしないと。」
「いや、わざわざめんどう……な事をしなくていいわよ。」
「さぁ、なんかやりましょう!!」
「ちょっ、まっ、やめてくださいまし……やめろ、引っ張るな!」



空を灼き、海を煮て、マグマを流しながら一匹の龍が現れる。

雷を轟かし、空を劈き、プラズマを漂わせながら一匹の龍は降り立つ。

 

「やぁ、おはようございます。白番。」

「おはよう、黒焉。睡眠中に襲われなかったかしら?」

「いやいや。マグマを泳いでまで来る神選者はいなかったぞ。」

「そうよね、私もそう思ってたわ。」

 

当然の様に龍の姿で人の言葉を操る。

だが、その言葉は余りにも古く、既に解読出来ないどころか存在を知る人間はいない古代の言葉だった。

 

黒が若干体を縮こませる。

そして欠伸。目に見える範囲の火山は活発化し、海底火山が噴火して新たな陸が煙をたてて現われる。

地割れが発生し、大きな断層が出現した事による津波が海を揺らす。

 

「うーん……だはぁっ。体の節々が痛むなぁ……ちょっと体操する。」

「大丈夫よ、そこまで急いでないわ。」

「……ふん、ふん、ふふん、ふんふ、ふふふん。」

 

黒が鼻歌混じりに体を捻ると岩が割れるような音が鳴り響く。

白は電気を使い、スマホを浮かせてゲームを始めた。

 

「おっけー、なんの用?」

「……よっと、今日はこの世界の話よ。」

「鉄槌を下すのか?」

「いえ、まだ出る杭を叩き、出る杭にする施工者を殺し回ってる所だわ。」

「穏便だなぁ……」

 

黒はマグマを手から垂らし、即座に固めて歪な大剣を作る。

白はそれを振り回すのをただ見ていた。

 

「奴らが例の機械を他の惑星で作ってたわ……気づけなくてごめんなさい。」

「いやいや。でもこっから辛くなるのか……」

「彼女の力もあるしある程度放置でいいのではないかしら?」

「だがなぁ。常に調整と抑制、統制と生産を補佐しないと激動すぎて崩れそうだし……」

「少しは彼女を信用してあげて。それに私は感情だけで物事は行わない、きちんとどれくらいか分かってるわ。」

「へいへい。やりますよ。」

 

 

 

ヴーッ!ヴーッ!

 

赤い光が回転し、警告音が鳴り続ける。

 

シュレイド王国内に存在する巨大中央制御室。

機械による圧倒的状況分析と予測、人間による修正と追記、神選者の能力の未来予知によってこの世界を統治している。

 

『龍が二匹、海辺で会っている』

 

たったそれだけ。

それだけなのに地殻変動を予測し、津波の被害を予想、世界に散らばる国民に避難勧告を出さなければならない。

 

「うわっ!」

「うおっ。大丈夫か。」

「すいません大佐殿……」

「あはは、今までにない緊急事態だから焦るのも分かる。私だってそうよ。」

 

廊下にて小走りだった青年が転び、書類が広がった。

多少齢のいった女性が簡易操作腕装着型パネルをタップする。

 

3秒で専用通路から掃除用ロボットが滑る様にやってきて紙を吸い始める。

綺麗に整頓され、順番を揃えられた紙束がプラスチック容器に出される。

 

カシャン

 

「ありがとうね。はい、どうぞ。」

「あ、ありがとうございます!お手を煩わせて申し訳ありません!」

「ランク3からの特権はランク3以上なら使いこなして当たり前だから大丈夫よ。」

 

女性が紙を拾い、男性に渡す。

そしてまた小走りでとある一室に向かう。

 

 

 

「ああ、遅い遅い!何をしているんだ?」

 

男性はタバコを老人が吸い、その煙が充満する部屋に入る。

 

「申し訳ありません!」

「俺が若い時はもっとやる気があったぞ!全く、これだから最近の若いもんは……」

「……こちらがその書類です。」

「あぁ、はいはい。仕事が遅いんだよ全く……」

「申し訳ありません。」

「分かったから、下がった下がった!」

 

男性はすごすごと部屋から出ていき、聞こえない所で悪態をつく。

老人はタバコを灰皿で叩き、灰を落とす。

判子と朱肉を手前に引き寄せ、紙の必要事項やサインした人間をサッと確かめ判を押す。

 

『龍殺竜機兵増産による予算増加の願い』【許可】

『耐龍力結界研究への予算増加の要請』【許可】

『空軍配備強化、新機体生産ライン配備』【許可】

『神選者解剖研究機構設立要請』【許可】

『電磁的概念物質実体化anomaly製作許可』【許可】

 

『機密電話要請』

「……ん。はぁぁ。」

 

偽装用の白紙の束を捲り、この紙を見てから老人は電話に手を伸ばして9回番号を押して耳に当てる。

数回のコール音の後に繋がる。

相手はまだ成長期の女性だ。

 

「ジャミー中将!いつもお世話になっておりますー、本日はなんの御用で?」

「バディリアス主計中佐。本日の書類の中に『ヌル・タイムクリーチャー研究』の要請がある筈だ。」

「はっ、少しお待ちを!」

 

老人は肩と頬で電話を挟み、書類を捲る。

 

「ありました!」

「ならばそれを却下してくれ。」

「了解しました!」

「以上だ。」

 

電話が切れたことを確認してから老人は判子を持ち替え、朱肉につけてから振り下ろす。

 

『ヌル・タイムクリーチャー研究予算供出の願い』【却下】

 

その判を見ながら老人は激昂する。

 

「なんであんなアマに従わなきゃなんねぇんだ!あんな小娘に中将なんて、無能上司共がぁ……あんなやつ毒殺や拉致されて死んでしまえばいい……」

 

 

 

 

書類を機械に入れて読み取らせ、情報の差異を正す。

新たに出された答えは更なる発展を示す。

 

特殊演算経過翻訳装置によりマザーコンピューターの思想を記録し、監視する。

 

「新たな異世界、ドラえもんと繋がりました。」

「了解、ドラえもん。」

「推定、時の操作、惑星破壊、恒星破壊、現実操作、大規模超長距離惑星間転移、粒子操作・創造。」

「終了。音声認識に差異無し。」

「推定必要戦力算出開始。植民地計画・並行・殲滅計画模索開始。」

 

 

書類を入れた男性は、淡々と紡がれるえげつない計画に恐怖する。

技術的な価値、人間的な価値があるかないかで、征服するか、虐殺かを決めてしまう様子は嫌悪感を抱いてしまう。

 

 

十数分後

 

 

「『異世界・ドラえもん 虐殺計画立案書』。作戦本部のリーティリア少将に持ってって。」

「……了解しました。」

 

男性は当然の様に『虐殺』と書かれた計画書につい引いてしまった。

しかし、命令には従わなければならない。

書類を持って廊下に出ると、先程の女性が話しかけてきた。

 

「本部勤務はどう?」

「うわっ!?え、えっと充実しております!」

「はいどーも……やっぱりその計画書、怖い?」

 

ゆっくりと、男性の顔を覗きながら女性は笑みを浮かべて話しかける。

 

「は、はい……我々、シュレイド国民が唯一無二の最上級人間である事は重々承知していますが……当然の様に異世界の人を……はっ、申し訳ございません!」

「いいのよ。私もそれはずっと疑問だわ……でも人だって縄張りを広げるの。異族は殺してもいいの……なんてね。」

「……っ。」

「『必要』か。『邪魔』か。それを決めるのは――」

 

 

 

「「我々。」」

 

 

 

「そう、我々はずっと隠れていた!」

 

森の一角、元はアイルーだけが居た場所だ。

ここには昔、アトラル・カと共に居た歴史があるらしい。

 

破れ、ボロボロになった赤い服を纏った男性が叫ぶ。

かなり歳をとっているが、旅団長である彼の腕はまだ衰えていない。

 

「今、ここに武器も食料も揃った。同時に奴らの力もここを侵食し始めた!ここでただ座して死を待つか、反抗し憎き奴らを押し返すか!これは我々の尊厳をかけた戦いになるだろう!」

 

神選者が求めるは自己顕示の場。

シュレイド王国が求めるのはモンスターの殲滅と繁栄。

 

人間の殲滅は主な目的には無いため、奇跡的に助かった者達がいる。

その者達は今、武器を手に取った。

 

だが、蛮勇と笑い、影に隠れて悪口を言う人もいる。

 

 

 

「「馬鹿だなぁ。」」

 

 

 

「お前本当に馬鹿だなぁwwwこの俺に勝てると思ってたの?子供でちゅね〜www」

「うぅぅ……」

 

大人の神選者は子供の神選者を蹴飛ばす。

子供は転がり、呻く。大人はそれを踏みつける。

実力主義の世界で自分を越える可能性は万に一つだろうと潰さなくてはならない。

 

その名目で虐待をする大人が急増している。

 

「弱肉強食って知ってるぅ?上も下も分からないお子ちゃまは長いものに巻かれてりゃいいんだ……よっ!」

「いぃっ!!……う、うぁぁぁぁっ!!」

「ふん!」

 

再び転がされた子供は大人に刃を向ける。

その決意は簡単に蹴飛ばされた。

 

「じゃぁ……死のうかwww」

「ぐぅぅ……!」

 

子供の持つ刃を取り上げ、笑いながら振り下ろす。

 

 

「やめなさい。」

 

神選者が割り込み、刃を奪い取る。

 

「っ!?……これはこれは、どうもどうも。どうです今から一杯――」

 

男性は名のある神選者の女性にゴマをすり始めた。

女性は反吐を見るような目で睨みつける。

 

「図々しい。あっち行きなさい。」

「……っるせぇな。お前みたいな正義を押しつける輩なんぞこの世界にはいらなねぇんだよ。」

「……」

「へいへい……」

 

言いたい事を言って男性は去っていく。

女性は少年に回復薬を渡し、手を持って立ち上がらせる。

 

「大丈夫?」

「は、はい……ありがとうございます!」

「そう、私はこれで。」

「……っ、お名前は!?」

「……私の名前?私は――」

 

神選者の派閥抗争が始まったと、その時は誰も知らなかった。

それ以前に神の派閥抗争が激化していたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天廊10階

 

 

砲撃の無い穏やかな昼。

 

私は壁の外に風車を作っていた。

木と鉄で出来た簡素な風車。

 

「キィ?」

「おっけーじゃ!電気が通ったのじゃよ!」

「キィアァ……作るのも大変だという事を本当に忘れてたな。」

 

私が風車を作ろうと思った次の日、外から資材が見える所に運んだ所で私は集中的にミサイルを受けた。

アンドロイドが飛来し、隙あらばミサイルが床ごと破壊しようとしてくる。

私が何をしてくるか分からないのだから当然の反応だ。

 

そんな誤算はあったが、三日後に遂に完成したという訳だ。

5つの風車が回転する事で発生する電気により、パッと照明がつき薄暗い天廊を明るく照らす。

 

「成功じゃな!」

「あぁ、そうだな……見回りに行ってくる。」

「行ってらっしゃいなのじゃ。」

 

王女は先程までラジオの電池だった物を充電し、時計から抜いた電池を差し込んでラジオを動かす。

私は今日見に行く階層を決めてモンスターの様子を見に行くために外壁に出る。

 

あぁ、私の縄張りの様なものなのにモンスターを何故殺さないのか、と?

古龍はわざわざモンスターを殺して縄張りを主張するか?そういう事だ。

 

元の姿に戻り、笛を持ち、撃龍槍を担いで外の壁を糸を使って跳ね上がっていく。

 

雲はさっさと突き抜ける。

 

そして空飛ぶ戦艦の機械音が鳴り響く高さまで登る。

低く唸る様な音は何処か安心する。

 

黒い球体に緑の光が走る。中にはそんなものが複数浮いていた。

それに私の興味を引くものが何個かあるな……

 

 

 

更に上に登る。

若干呼吸が辛いが、砂漠に潜行出来る体、そして古龍の生命力。

造作もない事だ。

 

この星の縁が青いオーラの様に包まれ、天は暗く、光る星が見える。

それ以前にとても寒いが、シャガルマガラの古龍の力のお陰で動きは余り鈍らない。

 

さて、ちゃんと罠は作動しているか……

 

 

ヴゥゥン……!!

 

 

……ほう?艦隊の音が強くなった。

機械共が塔に近づいてくる。

 

「援護するヨ!」

「オヒサシブリデス!」

 

――ゼノ・ジーヴァとゼスクリオが外から降りてくる。

異常の察知と共に私の位置を捉え、やって来たようだ。

 

そうこうしている内に戦艦から大量の飛来物体が来る。

息を整え、ウイルスを広げる。

 

 

 

 

「封龍吸力砲、スタートアップ終了!照準、ブレ補正完了!」

「発射まで、3、2、1!」

 

 

 

 

いや、物体は空中で止まった。

何をしてくる気だ?……私が思った。

その時だ。

 

天廊の中層に向かって、宇宙から緑の光が落ちて障壁が輝く。

障壁の輝きと緑の光が強くなってくる。

 

「……キィ?」

「あっ、こレは……!」

「ドウシタノ、ゼノ?」

 

ガラスが割れるような音と共に、緑の光が貫通してきた。

 

貫通した光は天廊に当たり……特に何も起こらなかった。

だが、二匹の龍が地に伏せる。

 

「痛たた……なに、コれ?」

「リュウノ、チカラヲイドウサセタ?」

 

龍の力を……そう思いながら笛を見ると、水銀が笛から漏れていた。

私の力を使わず、笛の中に押し留める様に地に走る力を使っていたが、それが一時的に消えていた様だ。

 

再び緑の光が降り、私達の正面で衝突する。

再び二匹の古龍は倒れ、水銀は形をとらない。

どうしたものか……

 

「キィィ……」

「うぅゥ……」

「スゥー、フゥー……ヨシ。ネツ、ホウシュツスルヨ!」

 

ゼスクリオから暖かい空気が流れてくる。

光が貫通し、障壁が歪んで口が開く。

 

滞空していた大量のアンドロイドと数十隻の戦艦からミサイルが発射される。

ゼノの体が青白く光り、レーザーを放ってミサイルやアンドロイドの群れを薙ぎ払う。

 

次にゼスクリオがゼノと交代で位置をとり、体内の光の一部を口に移動させる。

ゼノより強力な一撃が、襲来する物を落とし、戦艦を一隻爆発させる。

 

それでもまだ飛来する物は多い。

撃龍槍を構える。

 

「クォォォォン!!」

 

ゼノが叫び、レーザーを放つ。

かなり距離を詰めた奴らは前兆を察知し、数機しか当たらない。

 

水銀を変形させ、私の鎌を重くし、補強する。

 

ウゥゥゥン……!

「キィィィィ!!」

 

私に真っ先に突撃してきたアンドロイドを叩き壊す。

振り下ろした鎌の水銀を解き、その鎌を支えにしてもう一機に叩きつける。

アンドロイドが守りの為に構えた刃を折り、そのまま大きく頭を歪ませる。

 

鎌の水銀を解き、鎚の形に変える。

 

続いて私達を纏めて爆散しようとするミサイルに振り下ろす。

打ち漏らしを考え、ウイルスで隙間をカバーする様に凝縮する。

 

「ふんっ!」

「クルッ!キィィ!?」

 

フシュー!

 

それでも切り抜けてきた一機を笛で受け止める。

その僅かな硬直、爆発によるウイルスの感知出来ない場所という条件を満たした所からもう一機が私を吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

くそっ、完全に不意をついたのに!

 

パワードスーツを着た私の一撃を受けたアトラル・カは50mを、撃龍槍ごと転がっていく。

そんな威力の攻撃を受けたのに……

 

「……」

 

モンスターにしては静かすぎる反応を。

煙の中の影が、青紫色の光を放つ。

影の中で大きな翼が出現し、開かれる。

ただ振り回されていた様にしか見えなかった水銀が彼女の元に集まる。

 

アンドロイドが数機突撃し、水銀に潰され、千切られた。

 

「キィィ……」

 

アトラル・カが再び突撃してきたアンドロイドの方を向く。

気が逸れた今しかない……一度退却!

 

 

 

 

 

笛で機械を叩き、吹き飛ばす。っと、銃が私の前に落ちた……

体勢を戻そうとする所をシャガルの翼で掴み、壁に押し付けて壊す。

 

「キィィ!!」

 

銃か、試してみるとしよう。

 

水銀を小さく尖らせ、走って逃げ始めた神選者の背中に今までで最高の速度で貫かせる。大量の弾丸はどんな影響を与えるのか……

 

奴を貫く事は出来なかったが転んだ。水銀を変形させて鎚として振り下ろす。

 

「ヴゥゥゥン!!」

 

鎚を受け止め、抵抗していた。どうやらこいつは特別強いらしい。

走りよりながら撃龍槍を振りかぶる。

 

水銀を溶かし、視界を潰す。そして足を抑える。

 

 

 

 

周りが見えない……っ!光だ――

 

 

 

 

おや、赤い液体が飛び散りいつもの匂いがする。

中に人間が居たようだ。

大体こういう奴は碌でもない、念入りに潰しておこう。

 

「キィィ……」

ギィィィッ!!

 

潰していたが、ウイルスの反応でレーザーを回避する。

掠めたレーザーは壁を壊す。

再び飛んできたミサイルを回避、私から距離をとろうとした機械に近づき、掴む。

他のアンドロイドがチェーンソーを振り回しながらやってきたので機械を投げつける。

 

突然床が揺れだした。

 

「クォォォォン!!」

「アッ!アトラルサン、コチラへ!」

 

ゼノの体が紅く染まり、両手で地面を貫く。

若干気持ち悪くなるのを感じながらゼスクリオの呼びかけで走り込む。

 

「ビッグ……っ!」

「チョットタエテクダサイ!」

 

橙色の光が私とゼスクリオを包む。

地面が揺れ始め、亀裂が走り、その亀裂から水色の光が漏れ出す。

両手を刺した所からの水色の光が激しく、ゼノの姿は見えなかった。

 

「バァンッッ!!!」

 

しかしアンドロイド達は動かないゼノに好機と襲いかかった。

 

「クォォォァァァ!!!!」

 

ゼノが叫ぶ。

視界が白く染まる。

 

 

 

き、気持ち悪い……逆にシャガルや体内のウイルスはこれまでに無いほどに元気になっている。

本体の私は中身の肉まで強く撫でられた様な感覚のせいでしばらく動く気が起きない。

 

そうして床を見ると私は浮いていた。

大爆発で床が破壊され、何階層か下まで見える。

壁も吹き飛んでいたが、それでも点々と数十本の柱が残り即座に建物が直ってきている。

 

「キィ?」

「ラッカエネルギースイトッテルカラ、ウイテルノデス」

 

よく分からないが、ゼスクリオのお陰だそうだ。

蒼い炎の様な物を纏っている。どうやらしばらく動けないようだ。

 

外を見ると蒼い輪がまだ彼方で輝いていた。

その光を妨害するであろう船は一隻も見当たらない。

 

人間の姿になり、ゼスクリオに話しかける。

 

「一体何が起こったんだ?」

「ゼノハ、リュウノチカラソノモノヲ、ツカウノデス。」

「その力で爆発を?」

「マヨコニムカッテ。イリョクガスゴイデスネ、シカシ、タエルハシラモ……」

「そうか……」

 

もはや何が起こったのか分からない。

とりあえず元の姿に戻る。

ウイルスが物凄い量漏れているので翼は出さず、とりあえず地に降ろしてもらった。

 

 

 

その時、私に理解出来ない事が発生した。

そして、奇妙な事が続く。

 

 

 

「再起動……マスター登録時暗証番号情報欠如。代替として生体反応を示す物質の提示をお願いします。」

「……!?」

 

アンドロイドが転がっていた。

ただし、口しか動かさず傷が一つもない。

騙し討ちなのだろうか?いや、それ以前に防御力が高すぎる。

破壊すべきだろうが……

 

「警告、当機体が汚染されている可能性を考慮し、30秒以内に自己チェックシステムを再開出来ない場合ブラックボックス以外の媒体を破壊します。カウントダウン、29、28――」

 

私達を見ても襲ってこない。

それどころか何が敵で何が味方か分かってないのだろうか?

……つまり、利用出来る?

 

「26、25、24――」

 

だが、制御出来るか?……いや、いざという時は殺せばいいか。

……違う。まずは自己保身の為にはあの存在を一番優先すべきだ。

 

「22、21、20――」

「キィィ、キャルルァァッ!!(ミラルーツっ!!)」

 

呼びかけに応じるか……?いや、勿論理解はするだろう。

……

 

「18、17――」

 

早くしろ……時間は有限だ。

例え長命だろうとカウントダウンの早さは同じだ。

悠長に構えてられない。

 

「15――」

「こんにちは〜!」

 

雷を放ちながら白い龍の頭が現れる。

 

「13、12――」

「クルァル(使う)」

「勿論、いいわよ〜。」

 

その確認をとれた瞬間、私はアンドロイドに駆け寄る。

……っ!何処に生体反応を提示すればいい!?

 

「10、9、8――」

 

だが、ルーツは教えないだろう。

憎き人間の創造物だ、私の行動に興味が出たから許可をしたに過ぎないだろうから。

とりあえず体液を多めの糸を出し、纏める。

 

「6、5、4――」

 

半分を口に突っ込み、残りを全身にかける。

 

「2……警告――」

パシッ

「おっと危なかったわね〜」

 

いつの間にか近づいてきていたミラルーツが警告を無視し、浮かんだパネルを押す。

アンドロイドが起き上がる。

 

「マスター登録完了。名前を入力後、読み上げてください。」

「ほら、アトラル。自己紹介しなさいな。」

「キィ……分かった。やろう。」

 

人の姿に変わる。

浮かんだパネルにアトラルと打ち込むが、その手が止まる。

 

 

私はアトラル・カだ。だが、それは私達の種族の名である。

 

 

私は……私はそれでいいのか?

これまでも、これからも私はアトラルだ。アトラルであるのは間違いない。

だが、自分の名前ぐらい自分で決めていいのでは?

今までアトラル・カと呼ばれる事に違和感は無いし、これからもない。

とはいえ、種族名や二つ名では面白くはない。

 

 

……私はネセトの魂には留まらない。

私はネセトではない。私にとってはネセトは愛する城であり、愛する『道具』にすぎない。愛しているが。

 

「アトラル……」

「ん?どうしたのかしら?」

 

「……アミラ。なんかどうだ?」

 

「……あははwwwあの娘といるから若干イメージが変わっちゃったのかしらwww」

「私は『姫』だ。人間からしても姫と呼ばれ、冷徹に振る舞いたいという願望。周囲の物はなんでも使い、絶望に落ちようと信念を曲げない。孤独で孤高で、楽しそうじゃないか?」

「それは姫なのか……?……くくっ、戦乙女も良く『戦姫』とか『導姫』と呼ばれるわね……」

 

……ミラルーツの話はよく分からないが、まぁいい。

私は城の主であり、下等な存在に怯える必要がない。

私も新たな姫だ、とここに宣言……した所で何も意味が無いが、自己満足を満たす事はいい事だ。

 

「アトラル・アミラ。」

「アトラル・アミラ様。了解しました。呼称はどういたしますか?」

「アトラル。」

「アトラル様。了解しました。」

 

アンドロイドが一度止まる。

その後、また話しかけてくる。

 

「私に何を求めますか?」

 

求める?……いや、迷う事は無い。

 

「私への忠義と、考え、予測する意思。」

「……困難だと推測、最終目標として設定します。」

「ふん、私も意識がなんなのかは知らないが、プログラムも意識の一種なのかもしれないぞ。」

「……理解不能。論理学習用言語として処理します。」

 

一通りの事が終わり、ミラルーツへ振り返る。

ミラルーツはニコニコと私を見ていた。

 

「なんだ?」

「可愛い……微笑ましいわ。」

「脅威レベル想定外。お逃げ下さいアトラル様。」

 

アンドロイドが私の前に出てくる。

確かに警戒すべき相手だが、学習機能でこの状況を理解出来るのだろうか。

 

「やめろ……あー、お前。その龍は敵じゃない、やめろ。」

「了解しました。」

 

アンドロイドの呼び名を考えるか……

さて、王女の所に戻るとしよう。

 

「お前は飛べるか?」

「携帯原子炉と龍脈機構のどちらかが機能する際、永続的な飛行が可能です。」

「で、どちらが機能している。」

「龍脈エネルギーが制限可能許容量を越えている為に原子炉のみ機能しています。」

「そうか。ついてこい……ミラルーツ、ありがとう。」

「え〜?私、何もしてないわよ?ただ、己は己に弱い事を覚えておきなさい。」

 

謎の言葉を残してミラルーツは消えた。

まぁ、機械は機械に弱いという事なのだろう。

 

一部始終を眺めていたゼスクリオが降りてくる。

よく見るとゼノの蒼い光を吸い取っているようだ。

 

「脅威レベル天井。お逃げ下さいアトラル様。」

「やめろ。」

「オクリマショウカ?」

「いや、いらん。」

 

ゼスクリオの善意を断る。

というより、今確かめなきゃいけないことがある。

 

「お前、今から私の姿が変わる。認知出来るのか?」

「勿論です。その時の情報からマスターであるアトラル様の事は大体理解しております。」

 

アンドロイドの言う通り、元の姿に戻る。

特に変わった反応を示す事は無かった。

 

「キィィ、ァァァ。(私だ)」

「はい、アトラル様です。」

 

……その技術はあるのか。

さて、さっさと降りなければ。

 

 

 

 

 

 

 

バチバチバッ……!!

 

白き龍が次元を切り裂き、ゆっくりと歩いて出てくる。

黒き龍の背中は噴火し、高高度で爆散し飛び散るマグマはその熱で飛行機を変形させ、撃墜する。しかし、当の本体は呼吸の様に特に意識する必要もないようだ。

 

「どうだった?」

「流石ね、圧倒的だったわ。」

「だろうな、ここまでビリビリきたぞ。」

 

黒い龍と白い龍は見つめあった。

ある事において互いに繋がっている事を確認する。

 

「やっと……」

「そうだな。やっとだ。」

「昔の彼女の様な事を遂にやり遂げたのよ。」

「……マジか。そこまで来たか。」

 

その時、龍の力が飛び散り、次元ポータルが現れる。

究極に愚かな神が二兎を捕らえようとしたのだ。

 

「はぁ……」

「嬉しさが抜けてないな。」

「そりゃそうでしょ。」

 

大きな爪が次元ポータルの端を掴み顔を出してくる。

 

「ようこそ。モンスターハンターの行き着く未来の世界へ。」

「我々は汝を歓迎しない。ここで引き返すならば見なかった事にしよう。」

 

二匹の龍は少しだけ威圧する。

狙い通り、見くびった怪物が叫びながら暗黒を撒き始めた。

 

「あらら。」

「はいはい。」

 

二匹は自己中かつ、自信過剰、謎の確信を持つ神達の行動にほとほと呆れていた。

 

 

 

 

 

 

 

王女にこの機械を下僕に置いた経緯を話し終わる。

 

「名前……名前かぁ……どうしようかのう。」

「『機械』では不備が出るからな。自分で名前を考えられるか?」

「……当機には番号がありません。よって個体識別が困難である為に名前を――」

 

アンドロイドの報告を王女が遮る。

 

「そうじゃな、アトラルは格上に異常なほど弱いのじゃろうし『ジェンシー』でいいんじゃないかのう?」

「ジェンシー?」

「……きっとアトラルを助けてくれる。おすすめじゃよ。」

 

その後私は少しの間考えてみたが、特に思いつく事は無かった。

アンドロイドに名前を設定すると伝える。

 

「了解しました。入力後―――」

「ジェンシー。」

「了解しました。ジェンシー、低俗な名前出ないことに心からの感謝を致します。細部の言語設定はどう致しますか?」

「どうだっていい。」

「了解しました。現行の設定を基準とし、倫理学習と並立します。」

 

アンドロイド……ではなく、ジェンシーは歩き出す。

その歩みは突如止まり、私に振り向いた。

 

「……」

「どうした?」

「ご命令を。」

 

そうか……機械は外からの働きかけがなければ動かない。

そして自我の発生もゆっくりと待つしかないだろう。

 

だから私は命令する。

 

「ジェンシー、ついてこい。」

「了解しました、アトラル様に随行します。」

 

 

アンドロイドは立ち上がる。

 

 

青みがかった白髪。

赤く光りだした目。

黒いゴスロリを来て白黒のタイツ。

 

「警戒モードに移行します。」

 

背中とふくらはぎが開いてエンジンが露出する。

腕が変形し、箱のような形の銃が装着された。

 

「そこまで警戒するのか?」

「勿論です。マスターであるアトラル様に何かがあってからでは――」

「……自惚れるな。私をなめるなよ。」

「はっ、失礼しました。」

 

いや、私が間違っているのは分かる。そういうプログラムだろうから。

だが、私は私の感情がある。

 

「私は人間ではない。モンスターだ。それを理解しておけ。」

「了解しました。」

「それでは王女、行ってくる。」

「行ってらっしゃいなのじゃ!」

 

……まさか私がアンドロイド、その物を従えるとは思っていなかった。




…………

「そう、これは私達の行き着く未来。モンスターはいずれ駆逐される。」
「とか言っときながら都合悪いと……」
「言わなくていいわ。過度な発達を促す神と信者を殺すだけ。」
「ただし残念ながら人間vs生き物。滅ぼされかけた人間にはヒーローが必要……願う。」
「だから神様が影響しやすいのは分かる……だからって私達の世界を壊す事は許さない!!」
「まぁ、やるだけやってみるさ。まだまだやる気はあるぜ。」


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忠実な火器


人間&動物&機械

多分、王道ファンタジー



私が歩く。

斜め後ろからアンドロイドがついてくる。

 

私が立ち止まると、彼女も立ち止まる。

 

再び歩くと同じ速度でついてくる。

 

とても違和感が強い。

気を許してないが故に起こっているのだろうが、一から組み立てたり、糸で操作してる訳では無いのだからしょうがない。

 

「敵影補足。対象ラージャン。排除しますか?」

「攻撃してきても回避だけにしろ。この塔のモンスターは攻撃するな。」

「了解しました。」

 

プログラムであるのは理解している……が、どうにも戦闘狂に見える。

っと、ここだ。ウイルスで筒抜けだが、同時に奴らも気づいた様だ。

指し示して命令する。

 

「この一帯のスライムを殲滅しろ。」

「了解しました。」

 

ジェンシーの腕が変形し、細く長い鉄が伸びる。

重々しい音とは反対に、直ぐ地面と並行に構える。

 

「殲滅を開始します。」

 

その間に暗闇から若干の煙を上げながら緑色の物体がズルズルと近づいてくる。

 

カチリという音が微かに聞こえ、その後青い炎が放たれた。

……スライムはこんなに燃えるのか。知らなかった。

蠢きながら燃えている様子は新鮮だ。

 

見える範囲のスライムは黒く粘つく物体となった。

ジェンシーは索敵の為に飛びさろうとしている。

 

「撃ち方やめ。」

「了解しました。状況判断、修復を開始します。」

 

出し続けていた小さな炎が消える。

そしてジェンシーは使った兵器に少しの間だけ青い光を纏った。

 

「それはなんだ?」

「私の火炎放射器の寿命は3000秒です。また、ナパーム弾に切り替えた際は800発となります。万全を期す為に常に戦闘後は龍脈を使い修復を行います。」

「そうか。」

「今上げた二つの兵装の詳細を聞かれますか?」

 

正直どのようか説明がされるか分からない。

時間の無駄かもしれないが……

 

「……あぁ、よろしく。」

「了解しました。」

 

青い光が消え、ガチャリという音と共に火炎放射器が振り上げられた際に内側から見た時、鏡の様に光を反射する鉄の塊はジェンシーの腕から生えて手首に固定されているのが分かった。

 

「貯蓄部は縦30、横15、銃部は縦30、横が最大10となっています。

大きく二種の放出方法があり、『集中放射』その中でも粘性液体酸素を含む3000度の青い炎を放つ『焼却放射』が一番威力が高くなっています。

威力を保持した状態での有効射程は60m。最大射程距離は500mです。焼却放射は最も損傷が激しく、継続して使えば3000秒しか持ちません。

次に――」

「他のスライムが居る所が分かるから歩きながら喋ってくれるか?」

「了解しました。」

 

共に歩きだす。

飛んだ方が速いのは明白だが、喋っている間に目的地に到着しても面倒だ。

 

「次に『拡散放射』ですが――」

 

再び振り上げられ、ノズルが五つに分かれた。

微かに青い粉の様な光が舞う。

 

「20°ずつの間隔で5本、計100°の面での制圧を行います。先程の焼却放射の場合30秒しか持たず、『火炎放射』の運用が主となります。

1500度の炎を放ち、有効射程は120m。最大射程は400mとなってます。損傷は少ないですが、必要量が多く600秒ごとに20秒の貯蓄時間を必要とし、合計80回、48000秒の放出が可能です。」

 

なるほど、応用はあるが基本的な運用の形を紹介した所か。

だとしたら命令は一つ。

 

「拡散であのスライム共を殺せ。」

「了解しました。」

 

暗がりの向こうに見える半固体状の怪物。

そいつらの殺傷命令を出すだけだ。

 

橙色の光を羽から出してスライムに飛んで近づき、火炎放射器をスライムに向ける。

五つの炎が上から下になぎ払われ、火の海と化した。

 

ドロドロのスライムの中から全く燃えてないスライムが飛び上がる。

 

ジェンシーは放出を止めた火炎放射器で突進を弾き、いつの間にかもう一つの腕に装着していた機関銃を向けて放つ。

 

爆音がとても細かく鳴り続け、スライムは空中で粉々になった。

落下した薬莢が青い光に包まれ、消える。

 

「サーチ中……掃討完了を確認。索敵体勢に移行。」

 

「だが……」

 

その時点での掃討を確認した。

 

 

次の瞬間に新たなポータルが現れる。

 

縦長で、水色の渦巻きのソレ。

 

奥からは甲冑の様な音。

 

「戦闘体勢に移行。音から敵兵装を予測し、換装します。」

 

火炎放射器の銃部が収納され、しばらく唸った後に新たな銃が出てくる。

私も元の姿に戻り、天井に飛んで留まる。

 

「よし、侵入出来たな。」

 

いつも通り奇妙な色をした装備を纏った人間が出てくる。

中には杖を持ってる女もいた。

 

「警告。当該範囲に入る権限をあなた方は持っていません。」

 

ジェンシーが侵入者に警告を発しながら近づく。

不思議そうな顔をして人間はジェンシーを見る。

 

「ほら、この許可証を感知出来ないのか?」

「こちら側への事前のコンタクトが無い為、去らない場合は侵入者として扱います。」

 

ジェンシーの態度が段々強くなる。

その雰囲気を人間は感じ取った様だ。

 

「あらら、反逆かしら……」

「分かった、今、連絡とるから待ってくれ。」

 

人間はジェンシーに警戒しながら何かを取り出し、会話を始めた。

訝しげにジェンシーを見て頷き、ソレをしまう。

 

そして――

 

「炎の――」

 

攻撃しようと口を開いた女が粉々になって飛び散る。

ジェンシーは微かに青い煙をあげる機関銃の照準を次の人間に合わせた。

 

「あなた方を侵入者とします。最終勧告。現時点を持って侵入者の殺害を開始します。」

「アデ――」

「破か――」

 

真っ先に呪文を唱えようとした人間が骨ごと砕かれ、赤い雨となる。

逃げようと踵を返した人間もまずは脳、次に体、と粉々になる。

 

「プロテクト!」

「……」

 

何も言わずに、何の感情も抱かずに、ジェンシーは換装した兵器の照準を合わせる。

光が収束する。

 

「リフレクト!」

 

更に防壁が張られた。

同時に兵器から青い光が放たれる。

 

キィィィィン!

 

豆腐に爪楊枝を刺す様に、光は防壁も人も貫いた。

残り一人、その人間は目に見えて装備や体を硬化してジェンシーに突撃する。

 

「敵勢力の排除を確認。索敵体勢に移行します。」

 

人間の体は破片となり、飛び散った。

煙をあげる機関銃とレーザー銃に青い光を纏わせ始め、空を飛ぶ。

 

「みんな大丈夫か!?」

「警告。事前の――」

 

ジェンシーはポータルから出てきた人間に再び警告を始める。

待つ時間が面倒くさい、だから私が撃龍槍で潰す。

 

ポータルは閉じた。

 

「状況判断、アトラル様、20秒間の修復時間を頂きたいと思います。」

「キィ(賛同)」

「ありがとうございます。」

 

モンスターの鳴き声。それを判別するとはどのような仕組みなのだろうか。糸を出しながら疑問に思った。

私の場合、ほぼ創作の様な言語もあるが通用するのだろうか……

 

人間の姿に変わり、撃龍槍についた血をを糸で拭きながらしばらく待つ。

 

「修復完了。自己修復不可能損傷無し。」

 

報告と共にレーザー銃が火炎放射器に変わる。

 

「ジェンシー、後は私についてくるだけでいい。」

「了解しました。」

 

今日の残りの怪物は水銀で潰し回った。

時折ジェンシーが機関銃で撃ち殺し、青い光を纏って修復する。

 

 

 

―――パネルを出して確認する。

緊急性のある場所は無い、今日の見回りでの討ち残しは無い。

上出来だ、王女の所に戻ろう。

 

 

 

焦げ臭さを感じながら王女の家に近づくと、そこに王女は居なかった。

臭いのする方向へ向かう。

 

王女は息を切らして倒れていた。

正面には左腕の取れた案山子が立っており、燃えている。

 

「……何をやってんだ?」

「……魔法じゃよ、魔法。近接格闘しながらの魔法じゃ。」

「そうか。」

「王女様。魔法使用の基礎講習データがありますが受講されますか?」

「お?アトラル、しばらく借りてもいいかのう?」

「構わない。」

「了解しました。私の肩をお使い下さい。」

 

ジェンシーは王女をほとんど担ぎ上げるように支え、案山子を担いで何処かに歩いていった。

 

……私はいつも通りネセトを磨こう。

ジェンシーの普段の扱い方を考えなければ。




――最終勧告。排除を開始する。


ジェンシーの武装について

「――警告。既に射程内。」
機関銃 秒間10~800発から選べ、60発辺りから再装填の時間が発生。800発の場合は10秒撃ち、25秒のリロードが必要となる。

「――通告。抵抗は無意味。」
レーザーガン 対策無しの80cmの金属を一瞬で突き通す。400秒撃った後、20秒のチャージが必要で、撃つ前に溜める動作が必要。

「――報告。殲滅を開始しました。」
火炎放射器 アトラルの聞いた通り。ただし、地球製以上に弾速が速いため見てから避けるのは困難。

「――強制通信。退避せよ。」
核榴弾 手榴弾の様な大きさだが、爆発半径は200m、衝撃波は3000mまで脅威となる。五発ずつ連射可能、リロードは5秒、二十五発の再構成は90分。普通の爆弾はレーザーで間に合っている為に無い。

「――条件等の制約は、基礎を除いて感情によって生じる無自覚な思い込みである。」
演算魔法 銃部が8つに開き、必要な色に光る。自分は時間対効果を考慮した呪文を唱える。ただし、魔法より魔力そのものをぶっぱなす雑な行動をしやすい。


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自己中心


劇的ビフォーアフター



……

 

雷が私の前に屯する。

白い色の顔の、真っ赤な口を開く。

 

「いいわよ。」

「そうか。」

 

私の求めた答えが返ってくる。

だが、私が思う事を彼女は予測してるだろう。

 

「ただし、30分だけ。」

「分かった。」

 

 

ネセトの巨大化に成功した私は、更なるネセトの発達を求める思想に染まってしまった。

だが、その状態が心地よい。これは自分の思いだけでは絶対に変えることは出来ない。

だから挫折するか、更なる発展のどちらかしか私は求めていない。

 

今回はその自己のみの理由から私の気遣い、そして私の邪魔になる可能性を考えて王女とジェンシーを呼んでいない。

 

ネセトに乗り、各部の動作を確認する。

 

「いいかしらー?」

「キィ。」

「おっけおっけー。」

 

……が、ウイルスに視える。

さも当然の様に王女はジェンシーに抱えてもらって飛んで来て、ネセトに乗っかった。

互いに分かっている。その事を理解しているだろうが王女は身を隠した。

勿論私からしてみれば隠せてないが。

 

「……いいのかしら?」

「……キィィ(知らん)」

 

小声でミラルーツが話しかけてくる。

私はいつも通りの回答を突き返す。

 

私が起因ではない行動は、少なくとも私が取らなくてはならない責任ではない。当たり前の事だろう。

 

それに元々の予定は走り回りながら少しずつ瓦礫を集める予定だった。

これなら一つ一つの建物を隅から隅まで持って行けるだろう。

 

ォォォォ…… 私がネセトの首と体を持ち上げる。

 

ガッガッ! 糸で連動して動くようにした肩部分の音。

ギィィィ…… 体の回転を許容出来る円盤と支柱。

ガコン! 足が体から離れないよう留める鉄とぶつかる音。

 

ネセトを動かすだけでここまで重く、充実するとは……

 

「はい、行ってらっしゃい!」

 

そしてミラルーツの一声により、白い光に視界が潰されていく。

 

 

 

 

目眩を感じる事数秒。

私の視界よりウイルスの感知の方が情報が早かった。

 

飛行生物が群れをなし、こちらに飛んでくる。

 

ネセトの体を持ち上げ、二本足で立つようにしてからシャガルマガラの能力を全力で発揮する。

爆発的な古龍の威圧と、ネセトの見た目から飛行生物は怖気づいて逃げ帰って行った。

 

 

周囲は鉄とプラスチックの構造物が見える建物群。

……そして、去っていく飛行艦隊が遠くに見える。

建物から悲鳴が聞こえ始め、キラリと光る物が飛行艦隊から飛び出す。

 

早速立ち向かってくる人間共を地面を覆う物、壁と纏めて潰し、吹き飛ばしていると、王女が揺れるネセトを器用に走ってきた。

 

 

「強奪だヒャッハー!!奪え!殺せ!暴虐の限りを尽くすのじゃ!!」

「了解しました。殲滅重視かつ、利用価値が高い物を収集します。」

「うぉぉぉぉ!」

「……うおー。」

 

……二人は飛び降り、走って道を曲がった。

王女は躊躇無く自警団らしき人間の首を切り取り、ジェンシーの放つ爆炎がビル群を彩る。

 

私は向こうに見える明らかに工場らしい場所に突撃しよう。

ネセトの足に水銀でスパイクを作り、走り始める。

その間に飛んできたミサイルはジェンシーの炎の方向に吸い込まれていった。

 

 

 

 

「キィィァァッ!」

オォォォォン!!

 

工場の扉、壁を突進で吹き飛ばす。

ブレーキの為に踏ん張れば様々な機械や人間がすり潰されていく。

そのまま数秒動き続けた。

 

停止した所で崩落していく建物を振り返る。

瓦礫の回収方法を考えようとした束の間、銃弾がネセトに弾かれる音がする。

 

「くそっ硬い!普通の鉄じゃない!?」

「あれもしかして軍用じゃないですか!?」

 

ウイルスを集中させて爆破。逃れきれず転倒した所に地下から水銀を突き刺す。

そのまま血を飛ばし、水銀を口の中の撃龍槍に纏わせる。

ギャリギャリと戦車が向こうの扉を押し倒して出てきた……こんな至近距離で。照準が合う前に撃龍槍を発射し、沈黙させる。

撃龍槍につけた糸は切れていない。

 

次だ。

 

変な空気を纏いながら一人の人間が突っ込んでくる。

撃龍槍を回収していた頭に刀を振り下ろしてくる。

ああ、変わった魔法みたいな物だろう。

 

「カァァァッ!?」

ヴゥゥゥン!

 

ネセトの頭が撃龍槍に殴られた様に吹き飛ぶ。

斬られてはないが、傷はついただろう。

ウイルスで感知し、すぐさまその人間の四肢を見張る。

 

「……斬れぬか。」

 

刀を振り払い、立ち上がる。

撃龍槍を吹き飛ばす威力となると私が勝てるかどうかだが……それなら尚更ネセトでは対応出来ないだろう。

 

バックステップで距離をとってから繭を破り、地に飛び降りて笛を構える。翼は出さない。

 

「……参る。」

 

人間は一つの踏み込みで目の前に飛び込んでくる。

笛で弾き返し、糸を放つ。

 

糸を逸らしながら再び振ってくるのを笛で受け止めた直後、水銀の針を飛ばすが下がって弾かれ、再び斬りかかってくる。

 

「……っ、あぁっ!」

「キィィ!」

 

後ろ足に回りこんだ所へ翼を生やして振り下ろす。

翼を押し退けて滑り込んだ所へ水銀の刃を薙ぐと、それ受け止め遠くへ飛び退った。

 

私は撃龍槍を引き寄せながら睨みつける。

 

どうやら短時間では私を紙切れの様に吹き飛ばす事は出来ない様だ。

だが、短時間で決着がつかないなら瓦礫収集が出来ない。

さて、どうしたものか……

 

「おーい、ゴウバー!」

「……儂の主である。」

 

六人の影が走り込んでくる。

これは不味い、場合によってはネセトを持ち帰れないぞ。

 

「どうし……あぁ、有名なアトラル・カだ!」

「……まさか!?」

「主、お気をつけなされ。この者、予想以上に闘えるゆえ。」

「そうか……ならば、僕が相手になろう。ゴウバは休んでて。」

「はっ。」

 

下らない会話をいつウイルスで爆発させようかと思っていたが、一対一ならチャンスが生まれるかもしれない。

主と呼ばれていた人間が背中の太刀を抜き、こちらを睨む。

 

その時、ウイルスに新たな反応があった。

 

「『影斜剣』!」

 

人間が太刀を振り下ろすと太刀の影が伸び、私の目の前で刀が顕著した。

糸と片方の鎌で笛を固定して受け止め、飛び込んでくる人間を鎌で切りつける。

回避し、翼を切りつけようとした所をウイルスを集めて爆破。

それでも無理やり太刀を振り下ろすのを水銀の壁で空中に向かって突き返す。

 

次の瞬間、人間は赤い物体の塊となった。

 

驚いた奴らの中の四人は同じ結末となり、一人は背後からの刺突。

翁と呼ばれた奴だけが少し耐えたが、数発が足を吹き飛ばした所で次々に弾丸が撃ち込まれた。

 

「状況判断。アトラル様の治癒必要負傷無し。索敵開始。」

「危なかったのうアトラル。」

 

王女とジェンシーが私の隣によってくる。

王女はナイフを拭いて、ジェンシーは機関銃に青い光を纏わせている。

 

「やはりジェンシーが居て良かったのう。直ぐカバーしてくれるのじゃよ。」

「……確かにな。感謝する。」

「当機器の存在目的である為、当然の事です。近くに敵影無し、観測感知に反応無し。」

 

表情と声色が少し変わったが、すぐ戻ったことからこれもプログラムの一種だろうか。アンドロイドとは無駄に凝っているのだな。

 

 

 

ネセトの体内にある水銀を全て抜き、生じたスペースにネセトの上側を開いて糸で引き寄せて突っ込む。

柱を逆円錐に並べ、余ったスペースに更に大量の瓦礫を集める方法をジェンシーに聞くとレーザーを放って外の建物を崩した。

 

だが、出てくる存在はいない。よく見ると向こう側から煙が上がっていた。

 

「既にあの建物の敵性分子の排除は完了しております。」

 

淡々と告げられる虐殺報告。私が手こずっている間に……と思いながら私は王女の方を見た。

 

「あぁ、驚いてるのかのう?ジェンシーが強いんじゃよ。」

 

……あぁ、そうか。

ジェンシーは起点から一瞬で勝負が決まるが、私は追い詰めなくてはならない。時間がかかるのは当たり前か。

 

「誘導ミサイル感知。迎撃に向かいます。」

 

ジェンシーは一度膝を曲げ、崩落した方から飛んで出ていった。

私は王女を糸で投げてネセトに乗せる。

撃龍槍をネセトの口の中に入れ、私もネセトに乗り込んで移動する。

 

散らした水銀を使い、ジェンシーの崩した瓦礫を載せた。

大小様々な瓦礫でとても助かる。

 

何故か足元が爆発する。

ウイルスを広げると人間が爆弾を投げてきていた。

 

「くたばれっ!くた……ばれ!化け物!」

ヴゥーーン……

 

逃げなかった人間に水銀を刺して殺す。

こちらを睨みながら死んだ。

 

「いいぞー!アトラル、行くのじゃー!」

 

王女が叫んでいる。

水銀で瓦礫を零さない様にして街に突撃する。

 

 

 

 

【とある男性のスマホのメモ】

 

地下以外の逃げ場が無い、だから俺はここで思った事を書く。

なるほど、杞憂と馬鹿にしていた専門家共が正しいとは思わなかった。

 

侵入してきたのは謎の機械竜。

だが、一匹だぞ!?突然現れたからってここまで一方的にやられるのか!?

何をやってんだ軍は、テロが起きる前に十分な兵力を溜めてるだろ!?

 

……まぁ、機械竜の周りを飛ぶ一機のアンドロイドがヤバすぎる。

連携して動く軍用のアンドロイドより性能がいいんじゃないか?

ミサイルを誘導して被害を大きくするわ、遠距離狙撃しようとした者がいる山を魔法で爆破するわ、こっそり近づいたり光学的なステルスだったりする奴らさえも看破するわ、とにかく万能過ぎる。

 

ほら、今でさえ一歩一歩、機械竜が歩いてくる音が聞こえる……

 

だが、本当になんなんだありゃあ。液体を飛ばしてたしよぉ、あれもアレでハイテクなのでは?

どうしてくれるんだよ、この家潰されんじゃねぇの?

 

うわ!

家の真上

 

 

 

 

そろそろ30分か?

 

ネセトの糸を再び張り直す。

軋み始めた音が私に充実感を与える。

 

「キィィ……キャァ。」

 

つい声が盛れる。

歓喜は理解できるものではないから、だろう。

 

 

戦車の隊列は避けたが、飛ぶ人間によって瓦礫が全て吹き飛ばされたら困る。

よって対応に時間を取られた……が、瓦礫に身を隠す奴らの4分の1を王女が暗殺した。

いつの間にか数が減っていく恐怖を感じ、動きが鈍った奴らをジェンシーが。

動けないなら私が瓦礫ごと。

 

 

水銀で王女を掬い、私の入っている繭に乗せる。

 

「キィァァッ!」

「了解。撤退支援戦闘を開始します。」

 

ジェンシーが換装し、何かを撃ち出す。

三つの爆発が向こうのビルを爆破する。

ここからでも分かるほど割れたガラスの反射光が見える。

更に何発も爆発が起こり――

 

「アトラル!太陽の方!」

 

王女の声に従って確認すると、何発ものミサイルが飛んできていた。

水銀を小さい円柱にして破壊する。

 

その時、影が私に飛びかかる。

 

「はぁっ――」

「神選者排除完了。」

 

血の塊となったそれを王女が受け止め、さっさと捌く。

 

ネセトの首を振り下ろし、飛んできた風の塊?を破壊する。

その神選者も地に降りる前に四肢を動かす脳は無くなっていた。

 

雷が私を、ネセトを取り巻く。

 

ジェンシーが飛び込んできた瞬間真っ白な光に覆われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

光に照らされた天廊。

まぁまぁな明るさの中でネセトの改造を行う。

 

「どうじゃー?」

 

人間の姿の私を水銀の板で浮かばせながら細かい作業をする。

 

「黙れ。作業途中だと分からないのか?」

「通電テストを行います。離れて下さい。3、2、1。」

 

バツッ!

 

「通電を確認。過剰抵抗無し。」

 

ネセトの胴を通る沢山の配線。

一本一本を守る鉄の箱を加工し、繋ぎ、固定する。

固定と言っても新たに作ったレールの上だが。

 

人間の姿の有用性。

それは……加工だろう。そして細かい作業だろう。

ジェンシーがレーザー加工して、私が少しずつずらす。

王女が炎で溶かす。私の元の姿なら溶ける鉄も耐えれる。

 

その様にして夜になってもかなりの長い時間作業を続けている。

 

「後の作業は?」

「推奨、蓄電器の改良。優先すべき点は耐久と考えます。」

 

ジェンシーはその時、その時の判断しかしない。

いや、予定は建てているのだろうがこちらには伝えていない。

最終決定がまだなのだろう。

 

「お……」

 

王女。そう言おうとしたが……

 

「……」

 

立ったまま……寝ている。

そうか、王女が耐えられない程の活動と時刻か。

 

「ジェンシー、大丈夫か?」

「……?当機体の損耗率は1%未満です。」

「そうか、ならまだ作業を続けよう。ただし王女は寝た。そっとしてやれ。」

「サイレントモード開始します。」

 

一度元の姿に戻り、王女を鎌で膝カックンし、シャガルの翼で受け止める。

そのまま歩き、王女の部屋に入る。

 

「ゔ、ぅ……いや……」

 

……寝言が無性にイラつく。

ただし、王女に対して……ではなさそうだ。

…………

 

そっと布団に寝かせ、布をかけ、私が「つけておけ」と言ったのについていない床暖房のスイッチを入れる。

10階とはいえ、火山の熱気はほとんど無い。

どうやら火山の活動が抑えられている……様だ。

 

 

 

そして私はジェンシーと共にネセトの改造を再開した。




…………なんだこれは……
「…………」
「……これはサボテンダーのアーティファクトです。」

「…………」
「まじ卍……じゃ。」
「…………」

「この踊りに意味は?」
「無いじゃろうて。」
「踊りに効果は確認されません。」

「……お守りか?」
「まぁそれでいいじゃろう。」
「若干の流転能力を保持していると思われます。」


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今日は雷雨、そして晴れです


今更ですけど人間を切り開くって描写はグロいですね
血抜きの行為ですが、煮込み料理等にした方がいいのかもしれません



昼は曇りだったが、今は雨だ。

ネセトの周辺を燃やし、糸が乾いた状態を保つ様にしている。

腐った瓦礫、外敵の死骸からミラルーツが抽出した油。

燃料は一週間持つと考えられる。

 

ウイルスが全く役にたたないとはいえ、ジェンシーが周囲の警戒をしてくれている。

ネセトを磨き、撃龍槍を磨き、炎の様子を見るだけで一日は経つだろう。

 

「暇じゃぁ……」

 

王女の独り言に反応する為に人間の姿に変わる。

 

「……人間は直ぐそう言うな。縄張りという概念が薄いからだろうか?」

「そうじゃな、家を一日歩き回って『充実した一日だった』とはならんじゃろ……いや、ならんのじゃよ。」

 

あったとしても人間の家の中は変化が無いか。

そう思いながら元の姿に戻る。

 

ネセトの足を先程纏めて出した体液多めの糸で擦る。

移動に一番大切な部位だ、少しの錆も許されない。

 

装飾品の操核で水銀を操作し、ネセトの内側や骨組みを掃除する。

 

ジェンシーが飛んできた。

 

「侵入者を排除しました。」

 

振り向くと、死骸が積まれていた。

どの死体も良い武装をしている。

 

袖をまくってから脚で潰して押さえ、中身を抜いて防具と服を並べる。

それから王女に広げて見せる。

 

「……汗臭い。ちょっと無理じゃ……」

 

ジェンシーが顔を上げた。私はジェンシーを見て大きく頷く。

水銀でタライを作ってジェンシーに近づける。

 

「了解しました。天気が悪い為、洗濯を開始します。」

 

ジェンシーはそれを持ち、そして服を持って外に飛んでいった。

 

見届けた後、ジェンシーの仕留めた人間の下腹部を切り開いて内蔵を抜き、肉を開いて炎から離して干す。

 

血の臭いは雨の匂いに掻き消され、そこまで広がらなかった。

 

ふと思いついた事があり、骨を削り出し、瓦礫の中からざらついた鉄を取り出す。

 

骨を撃龍槍に押し付けて折り、鉄に擦り付ける。

思ったよりは削れ方が安定している。

 

「何をしているのじゃ?」

「キッ、キッ、キィ。」

 

鎌を振りながら挑発する様に押し留める。

王女は私の行動を理解して炎の壁を越えてこなかった。

 

 

炎に照らされた骨がよく光る。

 

水銀で細いドリルを作って穴を開ける。

唐突に思いついた故に足りない物がある為、翼を開いてモンスターの居る階層に飛行する。

 

ジェンシーは雨の溜まったタライで服をごしごし洗っていた。

 

 

 

リオレウスの牙とリオレイアの牙を拾ってくる。

モンスターはかなり再生能力が高く、定期的に牙が生え変わる種類も多い。

そのリオの牙にも穴を開ける。

 

ヒュジキキを襲って抜いてきた毛を束ねる。

穴に束を通す。

 

そして私の脚を切り、肉を取り除いて乾かした後に包む。

笛を振ってから吹いて自己治癒力を高める。

 

王女に放り投げる。

そして人間の姿に変わる。

 

「……お守りかの?」

「あぁ。鍛冶師からすればリオの素材は活気が出てくるらしいからな。」

「なるほどのぅ……」

 

元の姿に戻る。

再びネセトを掃除する。

 

 

 

 

外でミラルーツとは関係ない雷が落ちる。

轟音……身が震える。ネセトに逃げ込みたくなる。

 

 

 

 

「アトラル様。お掃除が終わりました。」

 

王女を鎌で指し示し、服の袖を切る動作をする。

 

「分かりました。王女様の寸法に合わせます。」

 

ジェンシーはすぐさま王女の元に近づく。

後は王女に任せよう。

 

 

雨が強くなる。

外が一望できる位置に歩いて近づいた。

 

煌々と光る空中戦艦の灯りが、海に落ちる雨の量を示す。

警戒すべき敵が何をしているのか、双眼鏡を覗いて見ようとしてみる。

 

 

ヒュッ

ガッ!

 

 

そして刃が私の尾に食い止められた。

馬鹿な事を、どうやったかは知らないが私も察知出来なかったのに尾に攻撃とは……

 

ゆっくりと振り向く。

 

息の荒い人間がそこに立っていた。

二刀流……か。片方は長く、片方は短い。

 

翼で薙ぎ払うと刀で回転する様に避けられた為、着地する前に水銀で刺し殺した。

 

数秒間は弾いていたが糸や撃龍槍が追加されれば対応しきれないか。

 

 

……向こうから滑るように走ってくる奴がいる。

 

「しねぇぇぇ!!」

 

気配ダダ漏れで飛びかかってきた人間を撃龍槍でぶっ飛ばす。

なるほど、コイツより早く襲う方が隠密性が高いな。

 

いつかの『馬鹿』の様に硬さは一丁前の様だ。

ジェンシーが飛んできて、機関銃を放ちながらレーザーを溜める。

 

「主様!大丈夫ですか?」

 

この人間を追う声だ。その方を見ると姿が見える。

……人型の……なんだこいつは?

 

「キィ……?」

「エルフを発見。」

 

ジェンシーが首を傾げた私の代わりに説明してくれた。

ほぼ人間の形だが違和感を感じる造形。別種族ならばそれはそうか。人間の姿に変わる。

 

「ジェンシー、この二人に対応出来るか?」

「現状から考えられる勝率は100%です。」

「ならばいい。後は頼んだ。」

 

元の姿で二刀流の人間の死体を持ち、齧りながら上層へ向かう。

やはり新鮮な肉が飛びこんでくれるのは嬉しいものだ。

各々が憎悪や復讐に関する物だが、丁度いい撒き餌になっている。

 

 

 

……さて、暇、か。

万が一の死から逃げた私の脳裏に王女の言葉が引っかかる。

責任ではなく、自分を見つめる点にだ。

 

私は……そうだな。また砂原に戻りたい。その願望は残ったままだ……

ならばそうするか?やってみるか?

 

……私は頭を振る。

 

私のみでそれを達成するのは不可能だ。

確率はゼロじゃない?ほざくのは簡単だが、私が家庭的で誰かの為に料理を作り観賞用の花を育てる毎日を過ごす様になる、それぐらい非現実的な事だ。

 

ルーツに頼むか?

……砂原から焼け野原に変わる事を許容出来るなら、か。

それに砂原がどうなっているか分からない。

 

……こちらが単騎で行っても勝てる訳が無い。

ミラルーツに送ってもらう方法も考えたがそう考えたら無謀だ。

 

 

「話は聞かさせてもらったわ!」

 

スコーン!と小気味良い音と共にミラルーツが地から飛び出てくる。

同時に出てきた黒い影に雷の刀を刺し、胴を切り離した後に頭を貫き爆散する。

 

「あっ、にぃんさつ!」

カカン!!

 

謎の音とミラルーツの取るポーズを人間に置き換えたら東国の舞踊か……それは置いておこう。

 

人間の姿になり、ミラルーツ近づく。

するとミラルーツも頭を中心に人間の姿になり、私の前に降り立つ。

そして左手を顔に右手で指をさしてきた。

 

「どういう事だ?」

「くっ、くっ、くっ……私は因果に関われるのさ……街の一つや二つ、無法地帯に出来るのだよ!」

 

人間の子供のように自慢をする様に話してきた。

とはいえ、ミラルーツはこの様に喋るのが普通だ、『私の作り出した状況に乗ってけ』が言いたいことだろう。

 

「それで?どうやって砂原を取り戻すんだ?」

 

私が望んでいるのは砂原を砂原の価値を残したまま取り戻す。

ミラルーツはここを理解出来ているか心配だ。

 

「チッ、チッ、チッ。目撃者を尽く殺してるから噂にならないのだけど、砂原でも頑張ってるのよ。」

 

ミラルーツが舌を鳴らし、指を振る。

安い挑発だからだろうか、呆れてしまった。

とはいえ、砂原を守っている。その情報に私は安堵した。

 

「だから、私がサポートするから人間を撹乱する様にアトラルも頑張って。ね?」

 

ミラルーツが詰め寄ってくる。顔は悲観的だが、目は……何も写してない。

……それを前にして私は一度思考に耽る。集中する為に骨をしゃぶる。

 

恐らく私レベルでも大丈夫だから言っているのだろう。

王女を連れていけば確実だ。

 

「お前が天廊を管理するのか?」

「貴女が来る以前の通りになるだけよ。」

 

……なら安心か?

この縄張りに執着するのもいいが、やはり私は砂漠のカラカラな空気が恋しい。

さて、一番重要な問題だ。

 

「私のネセトはどうする?」

「さぁ、どうするのかしら?」

 

ミラルーツは問い返してきた。

私が決めろと。だったら答えは一つだ。

 

「私が好きな時に呼び出せて、しまえる様に天廊に魔法的な力で置いてくれ。」

「あそーれ、りょっ、うっ、かいっ!」

パァンッ!

 

私が少し無茶だと思った要望を直ぐに受け止めた後、破裂音と共にミラルーツは消えた。

しばらく天廊には戻れないな……

 

私は肉のついたままの骨を放り投げる。

ランポスが走ってくる音がした。

 

 

 

不味い……

 

私はネセトの周りの炎で、侵入者を焼いて食べていた。

 

エルフは美味しくないな。口の中に虫が駆けずり回る感覚がある。

視線を移すと、王女はちびちびと食べていた。人型だと豪快に食べるのは気が引けるらしい。

 

開きにした人間の背骨をとる。

さて、これを食べたら直ぐに移動準備だ。

人間の姿になり脳内で復唱する。

 

笛は持った。服もまともで、金も死体の小物から集めた。

撃龍槍……そうだ撃龍槍!?

そのまま持っていく事は出来ない。

ここに忘れる事は無いが、だとしても馬鹿丸出しだ。

 

「撃龍槍、どうしたらいい?」

 

ミラルーツに呼びかける。

しかし、答えたのはジェンシーだった。

 

「アトラル様、超巨大、もしくは複雑でなければ三つまで格納して運べます。」

 

……王女に視線を向ける。

余りの都合の良さに驚いた私はどんな顔をしているのだろう。

 

「いや、その様な事が出来るのが沢山おるのが現実じゃ。」

 

そして王女はくたびれた様子で答える。

……確かに、便利という意味では望まれる機能か。

 

 

 

 

 

そして。

 

私の人間の振りをした生活がまた少し始まるのだった。

 

砂漠の袂『サンドアス』という街で。




「……」
「……」
「この様に構えて下さい。」

「私には鎌があるのに二刀流を覚える必要があるか?」
「わらわはあると思うぞ。何せ鎌をぶった切られる前に刀を斬らせた方が生還率上がるじゃろう。」
「この構えからこの様にするのが二天一流です。」

「……私は刃にした水銀でいいだろうが。」
「……」
「……」


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二回目のお使い


活気あるファンタジー的な街だろうか……
残念、神々の植民地でした〜ww

上位種が幅をきかせている限り、下位種は発展がとても遅い。
猿は、自分とは?猿とは?ほとんどがそれを決める事が出来ないのだ。



夜間。

星々が空を彩る。

 

私達はそれぞれ道具や得物を持ち、ミラルーツの前に立っていた。

準備が完全だとミラルーツに伝えると頷いた。

 

「はんにゃぁはぁらぁみぃたぁ――」

 

そしてミラルーツが変な踊りをし、私達を雷が覆い囲む。

 

 

暗い。

臭いや遠くから聞こえる喧騒からここが路地裏だという事が分かる。

とりあえず人の少ない路地へ歩き出した。

 

私達が送られた砂原、そこに建った街はとても騒がしかった。

……しかも大半が木や石。基礎的なネセトしか出来ない。

まぁ、この暑い地域に鉄の建物は人間の場合ただただ拷問となるだろうが。

冷房も限界があるだろうし。

 

とはいえ、今は夜。

涼しく、そして乾いた風が私の頬を撫でていく。

 

「ほうほう、ここがアトラルの故郷かぁ。」

「逆探知警戒。サーバーにハッキング開始……ゲストとして登録。検索開始。現在地はサンドアスです。」

 

王女は興味のままに周囲を見渡す。

ジェンシーは騒ぎを起こさない様な方法で情報を集め始めた。

 

笑い歩く若い男性達。

化粧が崩れている女性。

ぶっ倒れている老人。

 

点々と通り過ぎる人々を照らす街頭は、同時にシャッターで閉まった路地の商店を映らせていた。

立ち止まる必要は無い、周囲の状況を確かめようと兎にも角にも歩き出す。

 

数分歩いてこの街がどういう物なのか、それを理解する。

 

 

……必要性に従わず、更に整合性の無い街だ。

 

 

とある場所は似たり寄ったりな店が連立し、とある場所では風俗店が大々的に宣伝。

光る棒……王女がネオンと呼んだそれが妖しく路地を照らしてるかと思えば、外にまで響き渡る騒々しい機械の合唱。

 

昔に砂原に居た時、安全面を考えて私が砂漠が広がる地域に行かなかった様に、人間も行動する環境に傾向がある筈だ。

この様に乱雑に置かれては、本来ある筈の需要も消えているだろう……

 

「アトラ――」

「待て、ここでは……アルアと呼べ。」

「アルア?咄嗟にしては良い名じゃのう。」

「口を閉じろ。」

「アルア様。付けて来る人間がいます。」

 

王女は顔を顰める。

だが、狂った人間は何処にでもいる。手を出してくるまで……

 

「放置でいいだろう。」

「了解しました。」

 

寂れた道路を抜け、静かな大通りに出る。

さて、どうしようか。

 

「ここからどうする?」

「うーん……どう――」

「近辺に夜間対応宿泊施設として3件該当しました。」

「そうじゃな。夜間に人の活気は少ないじゃろうし、機を、というより昼を待つとしようかの。」

「そうするか。ジェンシー、一週間が所持金の5%以内で好条件の宿に誘導しろ。」

「了解しました。」

 

ウイルスに人間の影が視える。

壁に隠れ、気配を消しているな。

 

先立って歩き始めたジェンシーについていく。

ストーカーは静かにつけてきている、だが音はしないがウイルスとは関係なく気配がだだ漏れになっている。

あぁ、恐らくは『スキル』とかそういう類のものだろう。

 

その後、何もなく私達は宿についた。

段々近づいてきていた人間は踵を返して離れていく。

 

「『トゥ・カヴィミータ』です。意味は『水の様に』です。」

「わらわが率先しましょう。ついてきなさい。」

 

わらわは残したままで口調を変えた王女が扉を開けて入っていく。

ついて入ればオレンジ色の光と、赤紫の絨毯が敷かれた大きな玄関が私を囲む。

 

王女はつかつかと受付の人間に歩く。

 

「すみません、こちらのホテルは夜間も営業しているのですよね?」

「はい、そうです。」

「今日泊まり、明日から七日間泊まりたいのですが……」

「はい、こちらのプランをご覧下さい。」

 

王女の横にジェンシーが歩いていく。

 

「Androidは宿泊可能でしょうか?」

「はい、このページにある通り、身長関係なく成人一人の料金でこちらの部屋にある充電、整備機構をご利用頂けます。ですが緊急時以外の武装はお断りしています。」

「では青年二人、成人一人でお願いします。」

「分かりました。今からお部屋を用意しますのでしばらくお待ち下さい。」

 

……

 

「では217号室を、そちらのエレベーターから3階に上がり左に向かうと右側にあります。」

「ありがとうございます。」

「アルア様、終わりました。」

「……そうか。」

 

 

その後、風呂に入り、ナンパを王女が退けたりして私達は一日を過ごした。

兎にも角にも明日から情報収集しなければ。

 

 

 

 

 

 

 

次の日の早朝。

 

目が覚めた私はベランダの柵に腰かける。

ジェンシーは夜間の間は警戒を続けていたようで、私が起きた後で横になって目を閉じた。

確かに、王女だけ実感が無いから気にしてないが、ストーカーが居ると視えたなら普通は警戒するか。

 

自動販売機という物の使い方が横に貼ってあり、私一人で飲み物を買えた。

プラスチックに入ったトウモロコシスープを飲みながら日が昇るのを見ている。

 

……あぁ。

 

風が私を撫でる。

夜間より強いそれと、微かに混じる懐かしい砂塵の香り。

遠くに見える、砂漠の陽炎の中から現れる太陽。

 

……そうだ、ここは砂原だ。

環境が全て壊されているが、まだ懐かしいと感じる所が残っている。

その事で幾らか安堵した。

 

太陽の位置が高くなるにつれ、街の灯りが消えていく。

 

 

 

王女が起きる音がする。

飲み干したプラスチックの容器をゴミ箱に入れ、簡単なストレッチを始めた王女に歩み寄った。

 

 

 

「さて、畳むか。」

「おっと、布団は洗わなきゃいけないから出しっぱなしの方がいいんじゃぞ。」

「……そうなのか。」

 

布団の上を転がって王女が近づいてくる。

すっかり目の覚めた王女は身だしなみを整えた上でそれが崩れる様な行為をするが……知らん。

 

私が笛を磨いている間に、受付近くから王女が地図を持ってきて、机に広げる。

笛を片づけた私が近づくまで王女は唸っていた。

 

「アルア、どうする?」

「分からん。王女が決めろ。」

「……いやぁ、分からん。身バレしたら即座に天廊に戻るしかなかろう?」

「まぁ、そうだが。やはり難しいか?」

「じゃなぁ……」

 

その時、ジェンシーが少し身をよじる。

 

「起床します。3、2、1、アルア様、おはようございます。」

 

そしてジェンシーは起き上がった。

しかし動きが鈍い様に見えるが……

 

「現在、被ハッキング対処しております。本日はどう致しますか?」

 

……どういう状況なのか一切理解出来ないのだが。

そう思って思考が止まっている所、王女がジェンシーに口を開く。

 

「ふむ、無理のない範囲でこの街の情報を検索出来るかのう?」

「了解しました。」

「わらわは旅人として情報収集じゃな。」

 

王女は再び部屋から出ていった。

ジェンシーも黙りこみ、私は笛を磨き始める。

 

外から馬の嘶きが微かに聞こえる。

だが、アプトノスやアプケロスの声は一切聞こえない。

 

というより、モンスターの匂いがほぼしない。

 

天廊には私が知っている限りのほぼ全ての種類が居たが、まさか広い世界の中でたった一箇所に集結しているのか……?

 

「アルア様。彼女が居ない間にお伝えしたい事があります。」

 

 

突然ずい、とジェンシーが顔を寄せてくる。

普段の無表情、それとは何処か雰囲気が違っていた。

 

 

 

「あと数ヶ月、アルア様のお傍に居ると彼女は狂竜化を発症します。」

 

 

 

「だろうな。」

 

そりゃそうだろう。

幾ら私が抑え、操作した所でゼロになる訳がない。

ウイルスは生きているのだから。

 

「……以上です。」

 

ジェンシーは少し眉をひそめ、また無表情に戻った。

怒りの感情もプログラムされているのか……必要なのか?

 

 

 

バァン!と扉を開けて王女が滑り込んでくる。

膝で滑り両手を上げ、その手には紙が握られていた。

 

「いやっほぉぉぉ!!」

 

……何のテンションだ。

王女が私に何かを押しつける、受け止めきれずばたりと私は倒れた。

 

「代行じゃ!神選者の代行じゃよ!」

 

側転からのガッツポーズ。王女は何故ここまで派手に喜んでいるんだ……

私は紙に目を落とす。

 

紙には……何処か、何処か見た感じで……

 

 

―――――――――――――――

 

遺跡、探求

 

本日、例の『遺跡』の第12探索隊が出発する。

何やら、あの遺跡には大きな蛇が居るらしい。

我々は今回三人で参加する予定だったが……

 

『やる気が無くなったわ〜私の〜他のことをしよ〜』

 

と、主力の奴がダレて……

本当に馬鹿だ。俺はそう思った。

やってらんない。

大体、色々な事の大元の星で学芸会があるんだが……

そうそう、最近時を扱う神選者が多いから巻き込まれた時はティンダロスの猟犬には気をつけろよ。

この紙と同時に渡した紙が、俺達が使う予定だった対象ではない奴らの記憶と事実をねじ曲げる力が入った奴だ。対象は変えたしきちんと使ってくれ。

 

……あぁ、そうだ。

 

頑張ってくれよ、二位の堅実なプレイヤーさん。

 

――――――――――――――――

 

「それにしても、奇妙な文章じゃのう。」

 

あぁ、王女は紅いアイツとは会ってない―――

 

「いえ、魔術的な力によって文章が隠されているのかと。」

 

……?マナー的な必要な余白しか残ってないが。

 

「『大きな蛇が居るらしい。元々三人で参加する予定だったが、急用が出来たが減点されたくない以上、代行を頼む。』なんて、そして大量の空白。それに多少会話した後、これをわらわに渡して消えてしもうた。

怪しい……焼いてみるかの?」

 

その文言は見当たらない……

手から火を出した王女を留める。

 

「ちょっと待て、王女達にはこの文章が見えてないのか?」

 

 

 

その後、互いの認識がズレている事を理解した。

そんな器用な事が出来るとは……魔法とはなんなんだ。

 

……さて、蛇とは?

その事を聞こうとしてジェンシーに目線を移す。

 

「蛇、遺跡を条件に検索、それぞれ開きます、傾向を纏めます、終了しました。」

「……何も言ってないが。」

「アルア様の行動パターンから予測しました。」

 

……便利だな。

 

「それで?どうなんだ。」

「生存帰還者174人中81、ドローンによる探索は少し行った所に屯っているモンスター、怪物に尽く破壊されています。

11隊中7隊は損害無し、3隊は大半が行方不明、1隊は全員が消息不明です。」

 

なるほど、デタラメな力を持つ奴らでも危険なのか。

さて、私達はそこに行く必要があるのだろうか?

……いや、あの私を助けてくれた紅い奴を通して来たんだ。確かな目的であり、無理難題ではないだろう。

 

「あっと、アトラル。情報収集中に過去読んだ本と結びついて思い出したのじゃが。」

 

王女が私の肩に手を置き、顔を近づけてくる。

 

「……なんだ?」

「この遺跡から出土されたオーパーツらはとても硬く、強いぞ!」

 

……なるほど。

ネセトの更なる武装になると。

 

「それは確かか?」

「モチのロン……とは実物を見てないから言えないのが実際じゃが、まさか普通の巨大遺跡で神選者が大量に死ぬ訳があるまい?」

「いや、リスクが高いのは分かる、それに見合う利益があるのか?」

 

私は既に行く気になっていた。

だが、考えるより早く石橋を叩いてしまう。

 

「……そうじゃな、未知の技術が見つかるかもしれんぞ?」

 

「話を戻させていただきます。壊滅した隊の生き残りは口を揃えて『動けない、見られる、死ぬ!蛇で死ぬ!』と口を揃えて言うそうです。」

 

……よく分からないな。

 

「……万全の準備を整えようか。」

 

 

 

王女と相談して持っていく物を決め、ジェンシーに安い所を教えてもらう。

そんな日だった。

 




調査隊

各地に存在する遺跡を探索する部隊の総称。
一番の懸念とされていたココット村近くの遺跡は無事終了。
しかし、その後各地で発見、発掘された遺跡の調査は遅々として進まず。
砂原は比較的力を込められているが、環境のせいで普通の機器が壊れやすく難航している。

「ココット村の伝説……」と呟き、発狂する者も居たが詳細は不明。


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二丁の散弾銃は同時に持てない

ここを通りたくば私を殺していけ

毒ガス攻撃!


宿の中で持ち物を確かめ、ギルド……冒険者ギルド?とかいう謎の組織に歩いていく。

ジェンシーに説明してもらったが覚えていない、ハンターの時と余り変わらなかった気がする。

大きく違うのは自主的に殺っても評価される所か。

まぁ、生態系が大きく狂う……

 

 

まぁまぁ大きい建物についた。

酒臭い匂いが漏れている扉を押し開く。

 

「ヴッ……ヴゥ。」

 

……呻き声が自然と出た。

 

「ちょっ、大丈夫かの?」

「なんだこの肥溜め以下の匂いは……」

「解析。情報レベル選択。悪臭の原因は酒、腐った物、吐瀉物、排泄物、機械用油、香水の匂いと判断されました。」

 

流石にあのバルラガルではないが、それでも酷い匂いなのは絶対だ。

 

鈍った私の代わりに王女に先導してもらい、窓口に向かう。

左右が可動式の板、中央にどっしりと構えた机が3つセットに並んでいる。

 

「よろしく。」

 

王女は素っ気なく封筒を投げ渡す。

日常茶飯事なのか、受付の人間は何の反応も示さず目視で確かめていた。

 

「はい、承りました。では、こちらの待合室へ。」

 

その後、こちらから見えない角度でコンピュータを操作した受付の人間は立ち上がり、木の板を持ち上げて私達を受付の奥へと誘導する。

受付の先にあった木の扉が開かれ、私達は白を基調にした通路を歩いていく。

 

「……先程の悪臭が全く無いな。」

 

気づいた時には眉間に力が入る様な事は全く無くなっていた。

 

「うん?さっき通気口があったの気づかなかったかの?」

「あぁ、そうだったのか。」

 

こやし玉より酷い匂いだが、人間なら多少の耐性があるのだろうか。

 

 

とある扉の前で人間が脇に移動する。

 

「こちらです。隊の皆様は既にご到着されています。」

 

報告をした後、扉を開いた。

木の匂いが漏れてくる。

 

鬼が出るか、蛇が出るか……

 

 

「よぉ、来たな!」

「奏明雹甲、ようこそ!」

 

……あぁ、人間だ。

見渡すと6人の人間が――っ!?

 

「お前、龍だナァァァ!?」

 

一人が突然飛びついてきて私を押し倒す。

振り上げられた腕が変形し……かなり鋭利な大きな爪を持つ、小さい翼の生えた腕となった。だが、見覚えがあり背筋が冷える。

そして、モンスターらしい匂い。

 

「どけ!……飛竜らしい……ティガレックスか!?」

 

ゾクリと背中に痒みが走る。掴んでいない奴の腕だ。

何処かにある炎の揺らめきを反射する爪、それが嫌に、そして冷静に見える。

 

「龍は駆逐しテ、食べル!」

 

腕を掴んで振りほどいて立ち上がるが、今度は爪を振りかぶっている。

……まぁ、この状況で龍と見られているなら。

 

「……時と場所を弁えろ、低脳が。」

「く……あっ!?」

 

この竜の腕より大きいシャガルの翼で掴み、振り回す。

そして床に叩きつける……のは謎の障壁に邪魔された。

翼を離して立ち上がると、周囲からまるで私が先制したかの様な目線を周りの人間から受ける。

 

……まぁ、交渉事は王女が適している。

一歩退いて王女を先頭とした。

 

「すまんのう。わらわが某国の貴族、こちらはシャガルじゃ。」

 

どうやら私はシャガルマガラという事らしい。

 

「話に聞いた通りの……」

「あぁ。」

 

……

 

「自己中だな、アンタ。例え龍であっても、理性に基づいて他人を気づかう事が――」

 

……なんだコイツ?

周りの雰囲気に合わせて批判してくるのか?

私の言動が気に食わなかっただけだろう……何故?

 

「黙れ、臆び――」

 

私が口を開いたその時。

 

「おやおや、心がお主のアレ並に小さいのう?いんや、ここぞとばかりに猫を剥いたのかの?」

 

王女の割り込みがあり皆がそちらを向く。

……王女からの殺気だ。実際はどうだか分からないが、首筋に刃物が当てられている様に感じる。

しかし、目を見開いていたものの口元は笑っていた。

 

「なっ……なんだ?だって実際そうだろう!?不和を生み出す原因――」

 

下手な演技かと思うほど動揺している。

 

「なら、考えて喋れる竜も許されない筈じゃな……それとも、思った事を直接言うお主の喉も、かのう?」

 

ジリジリと王女は人間に近づいていく。

そこに早歩きでジェンシーが近づき、数秒間王女に耳打ちした。

 

更に笑みを濃くした王女は歩みを止めた。

私の方を振り向く。

 

「わらわ達だけで行こうかの?」

 

どうでもよさそうな一言。挑発では無さそうなその言葉に恐らくリーダー格である残りの人間達が反応する。

 

「ちょっと待て!」

「落ち着いて!一緒に行きましょう」

「っ、勝手に行ってろ糞女!」

 

突然の不和。

己を乏しめられた人間は余裕の欠片も無かった。

後先考えない幼稚な罵倒が響く。

 

「ちょっ…女の子に対してその言葉は何!?」

「向こうが先に言ってきたんだ、いいだろ!?」

「お前……!」

「本当に心が小さいのね!いいわ、貴方とは行かない!」

「はぁ!?なんでそうなる――」

 

 

「さぁ、行くとしようかの。」

 

小声でそう言うと王女は私の腕を引っ張り、扉から出る。

口喧嘩を始めた人間達が私達を止めることは無かった。

 

 

 

 

 

……全く見覚えの無い、また、それほどまでに開拓、建築された道を歩く。

 

だが、前方に見えた暗いソレは懐かしい。

黄色と黒のテープをくぐり、そこに立つ。

 

「飛び降りる……しかないか。」

「いえ、王女は安全を期すために私にお乗り下さい。」

「なら、私は滑空する。」

 

先程のティガレックスからしてモンスターは人に利用されるペットとしてしか生き残れない、逆に言えばペットとしてなら生き残れるという事だろう。

王女のペットのフリをすれば多少元の姿に戻っても大丈夫ではないだろうか。

ならば、と周りを気にする事無くシャガルの翼を広げる。

 

王女はギルドや街をまわって大きなリュックに沢山の物を入れ、背負っている。

ジェンシーはずっと機関銃を見せている。

 

「食料よし、水よし。砥石やキャンプ用品も万全じゃ!」

「さっきからそればっかりだな。」

「わらわは人じゃからな。か弱き少女じゃよ……」

「嘘をつくな……」

「いいえ、王女様。貴女様の素の能力は総合して男性ハンターに匹敵するものです。」

「そりゃそうじゃ、単純な力比べには勝てんよ……よし、頼んだのじゃ。」

 

私達は飛び降りた。

 

 

 

翼を使うこと無くそのまま着地する。

ふわり、と横にジェンシーが降り立つ。

ジェンシーにおぶられていた王女は地に足をつけ、特に感想を漏らす事無く懐から紙を取り出した。

 

「どうした?」

 

王女は私の問いに答えず、その紙を口に含んで取り出す。

 

「ちょっと待っての。」

 

私が居た時には気づかなかった遺跡は大口を開けている。

横に人間五人分。戦車の通った痕もある。

そこから冷たい風が外に吹き出ていた。

 

「……よしよし、待機中の毒は無し、と。」

「サンプルの検出終了。未知の細菌を感知……全五種。分類、日和見菌が五種。免疫低下時に危険。」

「すまんのう、シャガル。準備は出来たぞ。」

「……あぁ、そうだな。」

 

私は王女、と呼んでいるがあちらはシャガル、と呼んでくるか……まぁ、今更変える必要もあるまい。

 

 

 

列は自然と決まった。

松明を持ち、目から赤い光を放つジェンシーが最前線を歩き、王女が興味深そうに周囲を確認し続ける。

私は笛を構え、ウイルスで背後からの強襲を防ぐ役割だ。

 

 

 

王女はいつの間にかギィギを持って遊んでいる。

ここで生き延びていたのか、と私は単純に驚いた。

 

ジェンシーの超音波による地形把握の元、遺跡を臆すること無くドンドン進んでいく。

……多機能すぎないか?

 

息をするかのように、幾つもの罠を避けていく。

時折遠くでモンスターの声が聞こえていたが、一度も相対すること無くドンドン歩き、時に降りていく。

 

 

 

すると土臭く、廃れた遺跡の様子とは大きく違う様子の所に差し掛かった。

王女が右腕でライトを取り出し、地面を照らす。

 

「うっ、眩しいのぅ!」

 

派手に金色に光る床。

まるで超雑な雑巾がけの様に何本かの筋で、そしてプツプツと切れながら広がっていた。

 

「うん……?これは金の卵の殻か?」

「金の卵のサンプルデータ不足です。調査不可能。」

 

王女がしゃがみ、ナイフを突き立てる。

 

「……いや、違うのう。内部まで金じゃ。しかもかなり純金。そんなモンスター居たかのう……それともこの遺跡で生き残った者かの?」

 

そうして王女は立ち上がる。

その時、ジェンシーが口を開いた。

 

「提案。この場所の部屋は要研究対象となっています。ご覧になっては如何でしょうか?」

 

その瞬間、王女はギィギを撫でながら何処かに走っていった。

……ギィギをどうするつもりだ?

 

追いかけようか迷っているとすぐさま王女はかけ戻ってきた。

ギィギの口には見た事の無い生物が噛まれ、鳴いている。

 

「……残念ながらこれは異世界の生物じゃろうなぁ。虫じゃないし。」

「あぁ、蠢く足が十本あるのに家畜の様な顔をしているのは非現実的だ。」

 

ギィギが喜びながら獲物を振り回し、全身で脈動している所を触りながら王女は「あの部屋を見てくる」とさっさと行ってしまった。

 

私は周囲を見渡し、そしてとある物に気づく。

 

「……ほう。」

 

ジェンシーが私の視線の先を見て理解する。

 

「警告。未知の危険物質の可能性があります。」

「気にするな。王女は遠ざけとけ。」

「了解しました。」

 

私は手を伸ばす。

半分ミイラ化し、半分黄金になった人だ。

その黄金に触るとパキッと折れ、そこから大量のドロドロの液体が漏れてくる。

今までに嗅いだことの無い匂いだ。

放置されていた物なのに極限まで清潔そうだ。

 

……どういうこどだ?

 

そうして深い思慮に入ろうとしたその時――――

 

 

 

 

「ぬばぁぁぁぁ!?」

奇妙な王女の声と、

 

 

 

 

「キィグロロロロロロ!!!」

……背筋がむず痒くなる咆哮が聞こえた。




やっぱりティガレックス助かります
咆哮で雪が吹っ飛ぶの見たいです


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闇の進化


光が絶対に届かない遺跡の中。
中々換気されない死の匂いに塗れながら生き残る猛者は、呼吸が楽になる表層に集い始める。



王女の悲鳴と共にライトがこちらに向かってくる。

壁がライトの光を反射し、微かにあの爪が見えた。

翼で風を起こし、ウイルスを飛ばす。

 

「ギィィィィッ!!」

 

……希少種よりも大きいティガレックスだ。奴は白い色をした体を持ち上げ、息を吸い込む。

鳴き声は高い音が多くなり、強烈な咆哮の衝撃波がこちらまで届く。

 

「抵抗するな!」

「近接戦闘を開始します。」

 

叫んでから元の姿に戻り、今にも潰されそうな王女に糸を飛ばして引き寄せ、同時に水銀を飛ばし、安全を確保する。

 

火炎放射が放たれるが、意に介さずジェンシーに向かって腕を振り抜く。

ティガレックスはそのまま私達に向かってくる。

 

息を切らしてる王女を背後にして、笛を構える。

 

「ガァァァ!!」

「キィィッ――ッ!?」

 

だが、想定よりもとても大きな腕力により壁に吹き飛ばされた。

王女から私に注意が移ったらしく私に向かって駆けてくる。

 

スウゥゥ……

 

大きく息をすった。

私とティガレックスの間に水銀で壁を作りあげる。

 

 

ギァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァァッッ!!

 

 

壁越しでもキン、と耳鳴りが発生する叫びは、水銀の壁が私に衝突する所まで吹き飛ぶ威力だ。

王女は気絶したのか倒れており、こちらに向かってきていたジェンシーは着地し、体を揺すっている。

 

ティガレックスは首を背後に回し、気絶した王女に気づいたようだ。

 

「ガァァ――ッ!?」

「クルル……ギィィ!!」

 

左前脚に糸をつけてティガレックスを転ばせる。

そのまま地面を引きずり壁に叩きつける。

体勢を立て直す前に水銀で鎚を作り叩きつける。

 

本来なら醜く潰れていてもおかしくない威力だが、平然と立ち上がったティガレックスはこちらに走ってくる。

 

「発射します。」

 

ジェンシーが飛んできて機関銃を構える。

ティガレックスの背中に向けて撃ち出された弾丸は……

 

「報告、機関銃の攻撃による目立った効果無し。」

 

ジェンシーの腕が光り、武器が替わる。

ティガレックスは勢いを殺さずに私に噛みつこうとしてきた。

飛び退きながら同時に横にした笛を差し込む。

 

……いや、まさか笛が噛み砕かれないとは思わなかった。

笛の装飾品は呑まれないようにする為に横にしていれたのだが。

 

「グァァァ!!」

「ギィィァッ!!」

 

笛ごと私を振り回そうとするティガレックスを笛ごと地面に叩きつける。

口を離し転がった所へウイルスを集約させて爆破、笛に水銀の刃を纏わせて振り下ろす。

 

ガギィン!!

 

火花を散らして擦れていく。

全く切れる様子もなく立ち上がる。

 

「ガァァッ!」

 

高く飛び込んできた。

水銀を解き、笛を振り上げる。

鈍い音が響き、ティガレックスはよろめく。

 

……そりゃ中身は生物か。

だとしたら外を潰せないなら折るとしよう。

 

水銀の鎚を再び作り、私に顔を向けてきた所を横方向に振り抜く。

 

「グァァッ!」

 

大きく怯んだ。

よろめいて片足をつき、立ち上がるのに時間がかかりそうだ。

 

「チャージ完了。放ちます。」

 

ジェンシーの構えた武器から巨大な光線が放たれた。

嗅いだことの無い臭いが立ち込める。

 

「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」

「安定化を確認。放出量増加。」

 

段々と周囲の遺跡が溶けてきた。

糸を放って王女に近づき、人間の姿に変わって抱える。

 

「ジェンシー!ウイルス撒くから一段落したら来い!」

「了解しました!」

 

片方の前脚がほぼ焼けてもまだ走り出そうとするティガレックスに体当たりをしながらジェンシーは答えてきた。

 

 

 

……

 

黄金の床が広がる広間に寝かせる。

ウイルスを四方に撒いて安全を確保し、王女を軽く叩く。

 

「……ゔ、うぅ…痛っ、いててて…」

 

ゴロリとうつ伏せになり、体を起こして正座にする。

 

「なんじゃあの爆音……一瞬にして意識が持ってかれたわ。」

「知るか。ティガレックスの一種なのは確かだろうがな。」

 

王女の手足をライトで照らす。

回復薬を飲みながら王女は立ち上がり、荷物を確かめる。

 

「四肢は大丈夫か?」

「意識を吹き飛ばされただけで体にはそこまで深い傷は無かったのじゃ。」

「そうか。」

 

その時、炎を吹き出す様な音が近づいてきた。

ウイルスにはジェンシーの姿が視えている。

 

「一段落終わりました。特異なティガレックスの討伐を完了しました。」

「分かった。」

「よくやったのう!」

「私の主目的は護衛にあります。当然の事をしたまでです。」

 

と、若干声を張り上げながらジェンシーは答えた。

……感情そのものが入ってたりするのでは?

 

そんな疑問は放っておき、王女が給水している間に周囲の警戒をしていく。

先程の戦闘を振り返る……ちっ、首を折る以外に殺す方法が見つからないな。

 

とはいえ、防衛さえ出来ない程の力ではない事が分かった。

勿論私が極限化?したからだろうが。

 

「すまんかったのう。どうする?先程の場所に戻るかの?」

「いや、壁画は危険な遠回りだ。その危険を犯す意味は今は無い。」

「ホログラムとして壁画を投影します。」

 

……さも当然の様にジェンシーは水色を基礎にした立体的な写真を浮かばせる。

王女は満足気に頷いているが、私は言ってもないことを行ったジェンシーに忌諱感が発生した。

だから確かめる。

 

「私は壁画撮影をしろと言ったか?」

「はい、『一段落』を終わらせました。」

 

「……ティガレックスは流れの中でどういう扱いだ?」

「意図が汲みかねますが、調査の中で起きたハプニングです。」

「あぁ、なるほど。」

 

そうか、ティガレックスはただのハプニングか。

クエストはサブクエストを達成した所で本質的な達成ではない、それと同じという事だろう。

 

「そのまま要所要所で保存していって欲しいのじゃ!」

「了解しました。」

 

 

 

とりあえず歩みを進める。

目的のヤツが何処かは知らないが、まぁ今までやってきた人間共に征服されてないと考えれば奥だろう。

 

ギィギを抱えた王女は先程より警戒を強め、きょろきょろと見渡している。

……今更だが、帰りはどうしようか。まぁ王女が考えているだろう。

 

「ギィィ!ギィィ!」

「っ!?」

「なんじゃ……なんじゃ?」

 

ギィギが突然叫び始めた。

触発される様に私も嫌な雰囲気を感じ取る。

 

遺跡のあちこちに開いている空洞に身を滑り込ませ、恐らく龍であろうソイツが通り過ぎるのを待つ。

火を消した為に、ジェンシーの目以外は完全な暗闇だ。

少しだけウイルスを撒いている。

 

「グルル……」

 

かなり大きな龍が地を踏みしめて近づいてくる。

そして元々私達が居た場所に立つと匂いを嗅ぎ始める。

 

こちらを睨んでから私達がここまで来た道を辿って歩いていった。

ガラガラと奇妙な音を奏でるしっぽを引きずりながら。

 

その音さえ微かになる。

 

「……行ったな。」

「では先を急ぎましょう。」

「よっ、と。」

 

私達は穴から這い出る。

そして―――

 

「ガァァッ、ァァッ、ヒィンァァァァ!!!」

 

ドシン、ドシンと全速力で駆け戻ってくる音が聞こえる。

遺跡内の瓦礫を壊し、吹き飛ばす音と共に迫ってくる。

 

「ジェンシー!王女を連れて行け。」

「了解しました。」

「お主は!?」

「食い止める……いや、殺す。行け。」

 

三人で逃げた所で三人とも余裕が無くなる。

いざとなれば勝手に逃げれば良いだけだ。

王女が何かを言う前にジェンシーは飛び去る。

 

元の姿に戻り、笛を構え、翼を振りかざす。

 

耳を塞ぎたくなる程に騒がしい音をたてて、大きな龍が駆けてくるのが視える。

そして私、アトラル三匹分の間隔を空けて睨み合う。

 

その龍の姿は、まるでイナガミの様だった。

尻尾の先についた音の鳴るソレを振り続け、ずっとガランガラン言わせている。

 

「キィ……」

「グググルゥ……」

 

単純に脅威だ。

ティガレックスとは違い、厄介ではなく危険だ。

互いの足に力がこもる。

 

「ガァァッ!!!」

「クルァァァァ!!」

 

 

 

 

闇。

 

一切の光がない闇。

息の詰まる様な空気、そこまで広くない遺跡の通路。

 

本坪鈴の様な轟音が地を揺るがし、壁に亀裂を走らせる。

液体が集まり、龍の力によって金剛石より硬い物質となった鎚が振り下ろされる。

互いに遺跡に傷をつける。

 

スゥゥ――

「ィッ!」

バシュッ!!

 

赤黒いレーザーが遺跡を照らし、敵対する虫を照らし出す。

虫は笛で弾き、糸を使って瓦礫を投げつける。

龍は尻尾で打ち砕き、噛みつこうと駆け寄る。

 

ダンッ!

 

青白い狂竜ウイルスの爆発が、黒い龍の姿を晒し出す。

一切動じる事もなく、牙を突き立てようとする。

しかし、ガッシリと虫から生えているシャガルマガラの翼で抑え込まれる。

 

水銀の火花が散り、チェーンソーの刃となって飛んできた水銀を尻尾で打ち砕き、翼を振りほどいてと距離を取った。

 

青紫色の眼が光り、その光を橙の目が反射する。

 

再び尻尾を振り、轟音を鳴り響かせる。




ティガレックス蠱毒種

極限下で生き残り続ける竜。
ティガレックスに成りかけていた先祖から別れており、希少種以上の体躯に原種には無い高音域の音が咆哮に混じっている。
この遺跡の中にいるティガレックス蠱毒種は他よりも龍脈に近い事により、外皮や鱗が変質し異常な硬さを誇る。
陽の光を浴びることが無い為、真っ白になった。


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