俺は本を読みながら、横にいる優に
「来週、研究所に行くと思う」とつぶやいた。
優は特に気にした様子もなく「そうか」とだけ言ってきた。
これがこの世界での最後の会話となるとも知らずに...
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《 優視点 》
玲とはよく図書館であっていた。玲も俺も親から虐待され(まぁ、俺の場合は父親だけだったが)
学校にも行けず、常識や知識を図書館で身に着けるしかなかったからだ。
玲は俺より知識を覚えるのがとても速く、かなりの量の本を素早く読んでは、
俺がわからない内容や部分、漢字などを教えてくれた。
でも、いつしかその量は、異常ともいえるほど多くなっていた。いや異常だった。
俺はなんでそんなにも覚えられるのか気になって、玲に素直に聞いてみた。
「なんで、そんなに覚えるのが速いんだ?」
「...生まれつきの能力かな」
「その能力って何なんだ?」
「親が言うには、完全記憶だってさ。これが原因で気色悪がってんだろうよ、あいつらは」
「...そうだったのか...」
俺はその時、正直うらやましいと思ってしまった。でもそれが原因で虐待されていると知り、
正直にうらやましいとは言えなかった。
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《 玲視点 》
研究所に入ることになった。
どんな場所か知らないが、よくない場所であることぐらいはわかる。
でも、もう親に会わなくてよくなるのであれば、喜んで入りたかった。
まぁ、行くことに対して不安はあったが...
どうやら、あいつらが研究員から大金をもらう代わりに、俺を研究させることを許したようだ。
本音は俺に早く出て行ってほしいのだろう。
図書館に行くと案の定、優がいた。
優は俺が研究所に行くと知ったら、何か心配してくれるだろうか。
「来週、研究所に行くと思う」
「そうか」
ただその一言で返されたことに俺は驚いた。
でも、逆に「大丈夫なのか」とか言われて心配されたら、それはそれでどう返事すればいいのだろう。
たぶん、俺は困ってしまうだろう。研究所に行くことに対してもっと不安になるかもしれない。
そういうことを考えたうえで、優は「そうか」と言ったのかもしれない。
でも、あの時の優は、特に気にしていなかった気がしないでもない。
確かなのは、あの時の俺は困ることも、もっと不安になることもなかったということだ。
その後、俺は研究所に入った。
研究員たちは俺に完全記憶以外にも能力がある、と思っているようだ。
俺が把握している能力は完全記憶以外にもあるが、
これを機に他の能力を見つけてみるのもいいかもしれない。
その時の俺はそんな風に思っていた。その時までは...
あれからどれくらいの時間が経っただろう。
何回気絶したかさえ、もう数える気になれない。
体のあちこちにアザができ、精神は今にも狂ってしまいそうだ。
あれからどれくらい時間が経っただろう。
前にもこんなことを思った気がする。
でも、もうどうでもいい。俺は今、この世を去ろうとしている。
短い間だったが、やっとこの研究所から解放されると思うと清々しく感じる。
後悔はない。いや1つあったな。
最後にもう一度、アイツに会いたかった...
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優転生半年前、玲はこの世を去った。
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2話
《 研究員視点 》
今回、入ってきた奴は、まだ小学生のガキらしい。
生まれつきの能力があるらしいが、戦闘ができなかったら意味はない。
他にも能力はありそうだから、調べがいはあるが...
どうやら、こいつは使えない奴らしい。
戦闘をさせても1時間もたたずに気絶してしまう、かと言って耐久力があるわけでもない。
回復能力も皆無で、薬を使わないと動こうともしない。
だが、相手の動きを見極める力はあるようだ。
まるで相手の次の行動がわかっているかのように動く。しかも、 相手の動きを最小限の動きだけで避ける。
しかし、そのどちらも体がついていけていない。
所詮は、ただのガキということか。鍛えれば多少は動けるようになるだろうが...
いや、ないな。耐久力がねぇし、やる気も感じられねぇ。
俺もこいつを鍛える気がないし、
なにせ、こいつの目が気に入らない。
大体のガキは泣いたり諦めた目をするが、こいつはそんなんじゃない。
この目は相手をあざ笑っている目だ。馬鹿にしてる目だ。
気に入らねぇ。
こいつは俺の手で必ず殺す。できるだけ痛めつけて殺す。
でも、こんな奴だが伸びしろはある。
殺したことがばれたら俺は間違いなく研究所から殺されるだろう。
俺が殺されないためには、どうしたらいい...
そうか。殺す理由を作ればいい。
今のこいつは誰から見ても戦闘能力に欠けている。
そんな奴に伸びしろがなかったら...
死んでも誰も何も言わないだろう。
死因は薬に耐えられなかった、とでもすればいい。
そうなれば話は早い。
研究結果に伸びしろはなく、戦闘能力にも欠けると書いてしまえばいい。
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《 研究結果 》
大矢 玲
能力:完全記憶、読心、精密分析
伸びしろはなく、戦闘能力にも欠ける。
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今から楽しみだ。人を殺すことにも興味があったが、それよりも
あいつが苦しむ顔が見たい。どんな表情をしてくれるだろうか。
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なぜだ。なぜ、あいつがいない。
1時間前まではここにいたはずだ。
逃げ出したのか?あいつがここから?
いや、ありえない。この研究所は複雑なパスワードによって守られている。
それを突破できたとしても、すぐに外にいる兵士に取り押さえられるはずだ。
しかも、そんなことが起こったとしたら誰かが見つけて騒ぎになるだろう。
なぜなんだ。わからない...
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その日の夜、玲の担当だった研究員は玲を逃がした、として殺された。
研究結果の設定
研究結果は機械が書き、その内容を担当者の研究員が確認し上部の者に提出する。
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