ユウとレイ (takoyaki)
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1話

俺は本を読みながら、横にいる優に

 

「来週、研究所に行くと思う」とつぶやいた。

 

優は特に気にした様子もなく「そうか」とだけ言ってきた。

 

これがこの世界での最後の会話となるとも知らずに...

 

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《 優視点 》

 

玲とはよく図書館であっていた。玲も俺も親から虐待され(まぁ、俺の場合は父親だけだったが)

 

学校にも行けず、常識や知識を図書館で身に着けるしかなかったからだ。

 

玲は俺より知識を覚えるのがとても速く、かなりの量の本を素早く読んでは、

 

俺がわからない内容や部分、漢字などを教えてくれた。

 

でも、いつしかその量は、異常ともいえるほど多くなっていた。いや異常だった。

 

俺はなんでそんなにも覚えられるのか気になって、玲に素直に聞いてみた。

 

「なんで、そんなに覚えるのが速いんだ?」

 

「...生まれつきの能力かな」

 

「その能力って何なんだ?」

 

「親が言うには、完全記憶だってさ。これが原因で気色悪がってんだろうよ、あいつらは」

 

「...そうだったのか...」

 

俺はその時、正直うらやましいと思ってしまった。でもそれが原因で虐待されていると知り、

 

正直にうらやましいとは言えなかった。

 

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《 玲視点 》

 

研究所に入ることになった。

 

どんな場所か知らないが、よくない場所であることぐらいはわかる。

 

でも、もう親に会わなくてよくなるのであれば、喜んで入りたかった。

 

まぁ、行くことに対して不安はあったが...

 

どうやら、あいつらが研究員から大金をもらう代わりに、俺を研究させることを許したようだ。

 

本音は俺に早く出て行ってほしいのだろう。

 

 

図書館に行くと案の定、優がいた。

 

優は俺が研究所に行くと知ったら、何か心配してくれるだろうか。

 

「来週、研究所に行くと思う」

 

「そうか」

 

ただその一言で返されたことに俺は驚いた。

 

でも、逆に「大丈夫なのか」とか言われて心配されたら、それはそれでどう返事すればいいのだろう。

 

たぶん、俺は困ってしまうだろう。研究所に行くことに対してもっと不安になるかもしれない。

 

そういうことを考えたうえで、優は「そうか」と言ったのかもしれない。

 

でも、あの時の優は、特に気にしていなかった気がしないでもない。

 

確かなのは、あの時の俺は困ることも、もっと不安になることもなかったということだ。

 

 

その後、俺は研究所に入った。

 

研究員たちは俺に完全記憶以外にも能力がある、と思っているようだ。

 

俺が把握している能力は完全記憶以外にもあるが、

 

これを機に他の能力を見つけてみるのもいいかもしれない。

 

その時の俺はそんな風に思っていた。その時までは...

 

 

あれからどれくらいの時間が経っただろう。

 

何回気絶したかさえ、もう数える気になれない。

 

体のあちこちにアザができ、精神は今にも狂ってしまいそうだ。

 

 

あれからどれくらい時間が経っただろう。

 

前にもこんなことを思った気がする。

 

でも、もうどうでもいい。俺は今、この世を去ろうとしている。

 

短い間だったが、やっとこの研究所から解放されると思うと清々しく感じる。

 

後悔はない。いや1つあったな。

 

 

最後にもう一度、アイツに会いたかった...

 

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優転生半年前、玲はこの世を去った。

 



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2話

《 研究員視点 》

 

今回、入ってきた奴は、まだ小学生のガキらしい。

 

生まれつきの能力があるらしいが、戦闘ができなかったら意味はない。

 

他にも能力はありそうだから、調べがいはあるが...

 

 

どうやら、こいつは使えない奴らしい。

 

戦闘をさせても1時間もたたずに気絶してしまう、かと言って耐久力があるわけでもない。

 

回復能力も皆無で、薬を使わないと動こうともしない。

 

だが、相手の動きを見極める力はあるようだ。

 

まるで相手の次の行動がわかっているかのように動く。しかも、 相手の動きを最小限の動きだけで避ける。

 

しかし、そのどちらも体がついていけていない。

 

所詮は、ただのガキということか。鍛えれば多少は動けるようになるだろうが...

 

いや、ないな。耐久力がねぇし、やる気も感じられねぇ。

 

俺もこいつを鍛える気がないし、

 

なにせ、こいつの目が気に入らない。

 

大体のガキは泣いたり諦めた目をするが、こいつはそんなんじゃない。

 

この目は相手をあざ笑っている目だ。馬鹿にしてる目だ。

 

気に入らねぇ。

 

こいつは俺の手で必ず殺す。できるだけ痛めつけて殺す。

 

でも、こんな奴だが伸びしろはある。

 

殺したことがばれたら俺は間違いなく研究所から殺されるだろう。

 

俺が殺されないためには、どうしたらいい...

 

そうか。殺す理由を作ればいい。

 

今のこいつは誰から見ても戦闘能力に欠けている。

 

そんな奴に伸びしろがなかったら...

 

死んでも誰も何も言わないだろう。

 

死因は薬に耐えられなかった、とでもすればいい。

 

そうなれば話は早い。

 

研究結果に伸びしろはなく、戦闘能力にも欠けると書いてしまえばいい。

 

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《 研究結果 》

 

大矢 玲

 

能力:完全記憶、読心、精密分析

 

伸びしろはなく、戦闘能力にも欠ける。

 

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今から楽しみだ。人を殺すことにも興味があったが、それよりも

 

あいつが苦しむ顔が見たい。どんな表情をしてくれるだろうか。

 

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なぜだ。なぜ、あいつがいない。

 

1時間前まではここにいたはずだ。

 

逃げ出したのか?あいつがここから?

 

いや、ありえない。この研究所は複雑なパスワードによって守られている。

 

それを突破できたとしても、すぐに外にいる兵士に取り押さえられるはずだ。

 

しかも、そんなことが起こったとしたら誰かが見つけて騒ぎになるだろう。

 

なぜなんだ。わからない...

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その日の夜、玲の担当だった研究員は玲を逃がした、として殺された。

 




研究結果の設定
研究結果は機械が書き、その内容を担当者の研究員が確認し上部の者に提出する。


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