隣の席の文学少女 (ユウツ)
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良いセンスだ

坂柳と迷ったんですけど椎名書いてる人いないから椎名にしようと、見切り発車注意。


 

 「今日はここまでだ、復習を忘れず行うように」

 

 教卓に立つクラスの担任である坂上数馬はそう言って眼鏡をくいっと上げ、教材をまとめて教室を後にする。それを確認した俺はいそいそと帰宅準備を始めた。

 

 (この学校に来てからもう1カ月か)

 

 東京都高度育成高等学校、俺が通うこの学校は希望する進学・就職先にほぼ100パーセントこたえ、全寮制で学校内にはさまざまな施設が揃っている。また、学校からは毎月お金が10万円も支給されるという夢の学校と、つい先日まではそう思っていた。しかし、そんな夢のような話もあるわけはなかった。俺は昨日の坂上の話を思い出す。

 

 「遅刻に欠席、授業態度などの評価によって査定され、君たちの持つクラスポイントは490と半分ほどまで減少した、それにより、今月支給されるプライベートポイントも半分まで落ちたのだ」

 

 どうやらクラスの様子を監視カメラあたりで見られていたらしく、それをもとに評価しているだろうと、Cクラスの支配者の龍園翔が推測した。Cクラスのポイントが半分で済んでいるのも龍園がクラスでがらが悪い奴をまとめたからだろう。俺たちの下のDクラスは0ポイントで龍園はクラスの注目をそこに移し、クラスの混乱を鎮めたのだ。

 龍園はDクラスを潰そうと画策しているようだが、まあ俺には興味がないようで良かった、あいつの側近なんてぱしりみたいなものだからごめんだし。

 そうして鞄に教材を入れ終えた俺は教室を出ようと立ち上がる。しかし、この時俺は昨日の事を考えていて周りが見えてなく、前に人がいることに気づかなかった。俺の席は窓際最後列で出口のある横を向いた時、隣の席の生徒も立ち上がっていることに気づかなかった。

 

 「きゃっ……!」

 「あっ、すまん」

 

 ぶつかった女子生徒は衝撃で持っていた本を落としてしまった。俺はそれを拾おうとすると。

 本はアイリッシュの『幻の女』にチャンドラーの長いお別れか、どちらも歴代ミステリーの名作として有名な作品だ。

 

 「良いセンスだ」

 「……!」

 

 俺が某ゲームの有名なセリフを言うと、女子生徒は突然目を輝かせて俺に詰め寄った、というか近いんですけど……

 

 「知っているのですか?」

 「……っ、まあアイリッシュの方は中々好きだな、というか離れてくれないか」

 

 それを聞くと彼女は離れるどころかより一層距離を詰めてきて、俺が拾った本の手に自らの手を重ねてきた。きらきら輝いてる目を俺の顔に近づけた。その様子にクラスの視線がこちらに集まる、幸い龍園は授業が終わってすぐ教室を出たようで助かった。

 

 「私もこの作品はとても好きでして、特に処刑が迫っても女性の行方が掴めないあの焦燥感は何と言っても「ちょ、ちょっと待ってくれ」何でしょうか?」

 

 そう言うと彼女はようやく離れてくれた、というか俺は君の名前も知らないんだけど…………、まあ隣同士で自己紹介もしてないのもあれなんだけど。

 

 「あーっと、すまん、ちょっと急ぎの用があるんだ、それじゃ……」

 「あっ……」

 

 そして俺は拾った本を彼女の机の上に置いて鞄を抱えなおし、足早に教室を後にする。クラスから出るまですごい数の視線を浴びた、本当に龍園がいなくて良かった……。

 俺は校舎から出ると、彼女の事を考えながら。

 

 「氷菓、読みたいなあ」

 

 どこかの古典部部長の行動に似ていた、と思いながら、俺は図書館へと向かった。




主人公のデータはそのうち書きます。


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お隣よろしいでしょうか

序盤で飛ばす奴は三日坊主、情報源は俺。のんびり書こうと思います。


 なんと素晴らしい学校だろうか、まさか氷菓だけでなく古典部シリーズが全て揃っているとは……、それで気づいたのだがこの図書館には少数だがラノベも置いてあるようだ。流石は国が運営するだけある、のか? しかし、ここでラノベを借りるのは恥ずかしい、中学生みたいだが、俺はオタクもどきにすぎないので真のオタクのように堂々とはできない。つまりラノベも図書館で読むしかない。まあそんなことより、俺は氷菓を手にとって適当な席に座り読み始める。

 ふむ、久しぶりに読んだがやはり良い、それと読みたくなった理由があの子が千反田さんに似ているからというくだらない理由だが。こう見始めるとアニメも見たくなってしまうな。この学校にネカフェはあるのだろうか、なんだかありそうだな、俺が見ていないだけで、今度探してみよう。

 そんなことを考えながら、読み進めていると、不意に横から声が掛かる。

 

 「すいません、お隣よろしいでしょうか?」

 

 誰だ、全く席はいくらでも空いてるだろうに。俺は不機嫌なオーラを隠さず眉を顰めながら声の主へと視線を向けた。すると声の主は先ほどぶつかった女子生徒だった。俺は驚いて目を丸めたが、考えてみれば彼女は小説を持っていたんだから、ここに来るのも変じゃない。

 

 「えっと、さっきの……」

 「先ほどぶりですね、急ぎの用事は済んだのでしょうか?」

 「んっ……?」

 

 そういえばそんなことを言ったな、あれはただあの場から逃げ出すために適当に言っただけなんだが……。俺は一応ごまかすことにした。

 

 「あ、ああ……まあすぐに済む用だったからさ」

 「そうですか、随分早く終わったんですね」

 

 こいつわかってて言ってるな、そりゃあさっきの事からまだ30分も経ってないからな、俺をいじめてるのか?

 

 「それで、お隣よろしいでしょうか?」

 「はっ? あ、ああ……でも他にも席は空いてると思うんだが?」

 「いえ、私はあなたに用があるので」

 

 俺は別にないんですけど……

 

 「まあ、構わないが」

 「そうですか、では失礼します。えっと、同じクラスの安藤修永(しゅうえい)君ですよね?」

 「そうだけど……何で俺の名前知ってるんだ? 自己紹介なんてしてないだろう」

 「それは同じクラスですし、ましてや隣の席なので」

 

 すごいなこの子はまさかクラス全員の名前を知ってるのか? 俺なんて担任と龍園と山田アルベルトしか覚えてないのに……

 

 「そうか、すまん大変申し訳ないんだが、俺は君の名前を知らないんだ」

 「そうですか、安藤君とは一度も話したことがないとはいえ、悲しいですね。同じCクラスの椎名ひよりといいます」

 

 このちょくちょく心に刺さる言葉はわざとなのか、それとも天然か……?

 

 「そうか、それで椎名さん? なんか俺に用かな?」

 「はい、そうですね……言ってしまうと、安藤君と本の話がしたかったのです。まあ、大義名分として級友との仲を深めるといったところでしょうか」

 

 まあ、さっきの教室での様子を見ればそれしかないだろうな。けど困ったな、俺は海外ミステリーをそんなに深く読んでるわけじゃないんだが、偶々椎名さんが落とした本が読んだことのある本だっただけなのに。くそう、どうして俺はあの時かっこつけてあんなこと言ったんだ、俺はどこの伝説の英雄だよまったく……

 

 「……嫌、でしょうか?」

 「ふぐっ……!」

 

 俺がうんうん唸っていると椎名さんは悲しげな表情を浮かべてシュンとしてしまった。そんな表情されたら断れる男はいないだろう。

 

 「……俺の拙い知識で良ければ椎名さんのお相手になるよ」

 「本当ですか?」

 「お、おう」

 

 そう言うと椎名さんはまたも俺に詰め寄ってくる、この男を殺しに来るような行動は演技なのか、それとも希少な天然ものなんだろうか、普段女子と会話なんてしない俺にはまったくわからない。ただ言えることは、どちらにせよ勘違いだけはしちゃいけない、現実は二次元のようにうまくはないって兄が言っていたからな。自分をしっかり、よし! ……あ、良い匂い。

 俺は決意が一瞬で崩壊したが、ほんの少し残っていたようでなんとか椎名さんを正面の席に座らせることに成功し、ある程度俺も落ち着いた。

 

 それからは椎名さんと好きな小説の話やどんなシーンが良いかなどの話をした、やはり彼女はミステリーが好きなようで、彼女はわざわざ有名どころを選んで話してくれるおかげで普通に会話が成り立った、やはり椎名さんはとてもいい子のようだ、それを疑う俺の心はなんて汚れているんだ、彼女は天然記念人として守ってあげようと誓った。そして好きな小説の話をしてる椎名さんはとてもいきいきしていてとても輝いていた、まるで花のような可憐さがそこにはあった。

 すると突然俺の手元の文庫に気づいたようで首を傾げた。可愛い。

 

 「そちらは?」

 「これか、『氷菓』っていうんだけど、椎名さんを見て急にまた読みたくなってな、こうして読みに来た次第だ」

 「私を見て、ですか?」

 「ああ…………ん?」

 

 (しまった口が滑った)

 

 「何故、私のことを見て読みたくなったのでしょうか?」

 

 どうする、なんて説明すればいいんだ、椎名さんがヒロインに似てたからなんて言ったらきっと彼女はどんななのか聞いてくるだろう、詰め寄ってくるところが似ているなんて言えないだろう、それじゃあ俺が彼女をすごく意識しているみたいじゃないか……それで変態だなこいつ、みたいな目で見られたら俺のガラスのハートは粉々に砕けるぞ。

 

 「あ、あーこれもミステリー小説でな、椎名さんが持っているミステリー小説を見て読みたくなったんだよ」

 

 それを聞くと椎名さんは目を輝かした。どうやら日本のミステリーはあまり読んでいないようだ。それになんとかごまかせた。しかしやはり似ているな、椎名さんの場合は普段が抜けたようなほんわかって感じだからギャップがすごいな。

 

 「どのような内容なのでしょうか?」 

 「そうだな、簡単に言えば……省エネ主義の主人公が謎が大好きのヒロインと古典部という部活に入り、謎を解いていくいわゆる学園ミステリーというやつだ」

 

 椎名さんは俺の話に「なるほど」と言って顎に手を置き、本の内容を妄想しているようだ。

 

 「読むか? 俺はもう1度読んでるからさ」

 「よろしいんでしょうか?」

 「もちろん、それにもし気に入ってもらえたなら紹介した方としても嬉しいってもんだよ」

 「そうですか……では、お言葉に甘えて」

 

 俺は手元にあった『氷菓』を椎名さんに手渡す。彼女は小さく頭を下げてから本を受け取った。あ、また良い匂い……って、これじゃ俺ただの匂いフェチの変態じゃないか、落ち着け、落ち着くんだ。

 

 「ありがとうございます。そうだ、私も安藤君におすすめの本を紹介します。ここで少し待っていて下さい」

 

 そう言って椎名さんは席を立ちミステリーコーナーの棚へ向かった。少しすると戻ってきて、俺の前に1冊の本を差し出した。

 

 「ドロシー・L・セイヤーズの『誰の死体?』です。ピーター卿シリーズの1作目でして、一度読めばシリーズを読みたくなること必至の本です」

 「そうか、ありがとう椎名さん。読み終わったら感想を伝えるよ」

 「そうしていただけると嬉しいです。私もこちらを読んだら感想をお伝えしますね」

 

 椎名さんは『氷菓』を掲げてそう言った後、壁に掛かっている時計に視線を向ける。それにつられて俺も時計を見るとあと5分ほどで7時になるというところ七時には受付が閉まるので、急がなければならない。それにしてももう2時間以上も経っていたのか。

 

 「もうこんな時間だったのか、随分話し込んだな」

 「そうですね、急いで手続きを済ませましょうか」

 

 俺は「そうだな」と返し、椎名さんと受付に向かった。

 俺と椎名さんは無事本を借り帰路について並んで帰っていた。

 

 「今日はありがとうございました、とても有意義な時間でした」

 「こちらこそ、時間を早く感じたよ、それより椎名さんの好みに合ってなかったらごめんね」

 「それは大丈夫ですよ」

 「何で?」

 「安藤君が面白いと思ったのなら心配は要りません」

 

 この子はまた……不意打ちで殺しに来ないでくれよ。

 

 「……そう言ってもらえると嬉しいよ」

 「ええ」

 

 俺がまいった、とばかりに肩を竦めると椎名さんは小さく笑い、それにつられて俺も笑ってしまう。

 

 「私意外でした、安藤君、クラスでは一切喋らないのに話してみるととても面白い方でした。Cクラスには小説が好みの方はいらっしゃらないので」

 「あー、人と話すのが苦手でな、それに龍園にも注目されたくなかったからな。しかし、椎名さんも話している所なんてほとんど見ないぞ」

 「似た者同士、ですね」

 「だな」

 

 そうしてまた笑い合った、さっきより少しだけ大きく。そして寮に着きエレベーターに乗った。中は俺と椎名さんだけだ。そして男子は下の階なので修永の方が先に着いた。

 

 「それじゃ、また明日」

 「ええ、おやすみなさい」

 

 お互いに手を振り合い、エレベーターのドアが閉まるまで振り続けた。

 そして部屋に戻った俺はベッドに腰掛けてふー、と息を吐いて落ち着いた。

 

 (濃い一日だったな、女子とこんなに話したのは生まれて初めてなんじゃないのか?)

 

 そしてベッドの上でぼーっとしている「あっ」と声をあげた。

 

 「連絡先くらい聞けば良かった」

 

 

 

 ――同時刻、ひよりの部屋――

 

 「そういえば、安藤君の連絡先を聞くべきでしたかね」

 

 

 

 やはり似た者同士な二人だった。

 

 

 

 

 

 

 




主人公はチーとにはしないけどどこかでかっこいい所を見せたい……。
誤字脱字、批判などありましたら遠慮なく言って下さい。


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胃が痛くなる今日この頃

 原作をかなりぱくってしまった……。 
 



 唐突だが、兄の話をしよう。

 俺には1人兄がおり、名前を安藤一成という。兄は俺の4つ上でこの学校のOBだ。兄は超高スペックでなんでもできる完璧超人。皆から慕われ、旅行で海外に旅行に行けば帰るまでに友人を必ず10人は作る程の俺とは考えられないほどのコミュニケーション力を持っている。中学に入る前までは俺も兄にさまざまなことで付き合わされた。それからはオタク文化に触れていったが……。

 この学校を卒業してからは父の安藤コーポレーションに就いて1年もせずに重役として会社に貢献している。まあ、有体に言って天才というやつだ。

 アニメやゲームを始めてからはあまり関わらなくなって、そのまま兄は高校に行って三年も離れたからか、距離感が掴めなくなっていた。

 

 (まあ、急に話しかけてきたと思ったらこの学校を紹介されたからな……)

 

 

 _______________

 

 

 昨日の人生初の女子との関わりから翌日の朝、俺は昨晩読み終わった『誰の死体?』を鞄にしまい、登校の準備を終え、部屋を出発する。

 俺は多分読むのが早い、小説ならどんなものでも大体一時間程で読み終わってしまう。しかし、いつも通り眠いのは、愚かにも入学してすぐに買ったゲームを深夜までやっていたからだ。俺もまた、Sシステムを知って絶望した残念な人間だった。しかし、本当にCクラスで良かった。Dクラスだったらこの程度の絶望じゃあ済まないだろう。

 俺は下のボタンを押してエレベーターを待った。ぼーっとしていると到着したようでドアが開いた。するとドアの正面に立っていた椎名さんと目が合った。すると彼女は「おはようございます」と言って小さく頭を下げた。俺も「おはよう」と言って中に入る。

 

 「朝は早いんですね」

 「そうだな、人ごみは苦手なんだ。朝は良い気分でいたいしな」

 

 俺が朝早いのは以前、ゲームで寝坊した時にエレベーターが人でごったしていてその日はすごく不機嫌になった。そのせいかその日は誰も俺に話しかけてこなかった…………あ、それいつもだ。

 そういうことがあってからは前よりも一時間は早く起きるようになった。ゲームで徹夜してもその日が印象づいてしまい、勝手に起きる身体になった。

 

 「今日も眠そうな顔をしてますね」

 「え、俺そんな顔してる?」

 「ええ、特に目が。今にも閉じてしまいそうです」

 「この目は生来こうなんだけど……」

 

 そんな目をしているだろうか、家族からは特に言われたことはないんだけど。というか椎名さんこそ昨日と同じで抜けた顔をしている。君も似たようなものだと思うけど……。

 椎名さんと話している内に一階に着いたようで、エレベーターを降りる。俺と椎名さんは並んで学校へ向かった。

 

 (そういえば、兄以外で一緒に登校なんて初めてだな)

 

 俺は初めて兄以外のしかも異性との登校に胸が熱くなった。

 そこで俺は昨日借りた小説のことを思い出す。

 

 「そういや、昨日帰ってから『誰の死体?』を読んだよ」

 

 そう言うと椎名さんは足を止め、先ほどまでのふわふわした表情から一転して目を輝かし、昨日のように俺に詰め寄ってきた。ていうかこの子相変わらずガードなさすぎでしょ、本当昨日もそうだが勘弁してほしい。…………くっ、柔らかい!

 朝から葛藤する修永であった。

 

 「もう読み終えたのですか、どうでしたか?」

 「あ、ああストーリーとしては王道といった感じだったな、中でもピーター卿の閃きのシーンでは俺も興奮したよ」

 「わかります、とてもわかります。戦争という精神的に追い込まれる状態での緊張感のある中でピーター卿が閃く時の興奮がとても好きなんです」

 「そ、そうか」

 

 相変わらず、小説の話となると急に饒舌になる。やはり千反田さんに似ている。しかしなんというか、彼女の場合は普段猫っぽいのだが、小説の話の時だけ犬に豹変するような、そんなイメージだ。俺の心のATフィールドよ頼むからもってくれ。

 

 「それにしても、安藤君は読むのが早いですね。特段ミステリーが好きというわけではないのに」

 「そうだな、前から結構読んでたからかな」

 「そうですか、ちなみに普段はどのようなジャンルを好むのですか?」

 「うーん……案外神話とかの創作物とか、あとはラノベとか……」

 「ラノベとはライトノベルのことですか?」

 「あっ……ああ、そうだ」

 

 やはり恥ずかしいな、これも俺がにわかオタクだからか。

 椎名さんは俺から離れ、学校へ向かいながら会話する。

 

 「私は読んだことはないのですが、面白いのでしょうか?」

 「どうだろうな、俺は結構好きだが……」

 「そうですか……それなら良ければまたおすすめのものがあれば紹介してくれませんか?」

 「まあ、構わないけど……」

 「ありがとうございます、昨日紹介された『氷菓』もとても面白かったので楽しみです」

 「もう読み終わってたのか」

 「ええ、とても面白かったのですぐに読み終わりました。それでですね……」

 

 それから椎名さんは楽しそうに『氷菓』の話をした。どうやら椎名さんに合ってくれたようで助かった。これならまあ、ラノベもいくつかは紹介できるだろう。無難に俺ガイルあたりにするか。その前に古典部シリーズはまだあるからな。そのことを椎名さんに言うと、彼女は今日借りに行くと言っていた。

 

 「あ、もう教室に着きましたね」

 「ああ、そうだな……」

 「……どうしたんですか?」

 「いや……」

 

 そうしてる内に教室に到着した。このまま共に行けば少なからずクラスからは注目されるが、ここで別々に行こうなんて言えば、彼女は何故かと問い詰めてくるだろう、そんな現場を見られて変な噂が経って龍園の耳に入るよりは堂々と入った方がましだろう。

 

 「よし、行こうか」

 「はい……?」

 

 決意をした俺は椎名さんと共に教室に入る。わずかに早歩きをして少し距離を取っているのは俺の最後の抵抗か。

 教室に入った俺はあるはずの好奇の視線が全くないことに気づいた。教室を見渡せば、まだほとんど生徒はいなかった。そういえば、この時間はまだ生徒が少ない。いつも登校して知っているなずなのに、焦りと動揺ですっかり頭から抜けていた。ともかく安心した俺は自分の席についた。時間とともに生徒もちらほら来始める。その様子をボーっとしながら見つめていた。

 

 「安藤君」

 

 (しまったーーーーーーっ! そういえば隣の席は椎名さんだったんだ!)

 

 落ち着いた心を一瞬で動揺した俺は教室にいる生徒から注目される。先ほどより生徒の数は増え、ありえないものを見ているかのようにかなりの数の視線を感じる。椎名さんはそんな空気も全く読まずに俺に話しかけてくる。

 

 「あの……安藤君?」

 「…………」

 

 なんて言えばいいんだ、というか空気読めよ! わかるだろ、一瞬で視線が集まっただろ、俺もあなたも普段喋らないだろ、わかってくれよ……。

 若干涙目の俺はどう返答すれば良いか迷う、ここはいっそ無視するか……と考えていると。

 

 「……どうして無視するんですか、こっちを見て下さい」

 

 そう言って椎名さんはずいっと顔を寄せる。心なしか椎名さんの頬は膨らんでるように見える。そしてクラスの視線はより一層強くなる。龍園はさして興味もないのかこちらを見向きもしない。

 

 「返事をしてくれないと、悲しいです……」

 「何だい、椎名さん?」

 「……? えっと、よろしければ今日昼食をご一緒しませんか?」

 「ああ…………あ?」

 

 クラスの時が一瞬で止まった。

 この猫は今何て言ったんだ? 昼を、一緒にだと……? 

 クラスの生徒たちは「なになに、どゆこと!?」と騒いでいる。また、龍園までもがこちらを目を丸くして見ていた。

  

 「どうですか?」

 「いや、えっと……まあ、いいぞ」

 「そうですか、それは良かったです」

 

 クラスからの視線がやまない。始業のチャイムが鳴り、坂上が入ってきてからも何人かの生徒はちらちらとこちらを窺ってくる。

 なんとなくまだ昼の時間が来てほしくないと考えたが、無情にも時は過ぎ去っていく。隣の椎名さんをちらっと横目で窺うと心なしかうきうきしているような。

 そしてとうとう授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、昼休みに入ってしまった。

 

 「では行きましょうか」

 「ああ、そうだな……」

 

 俺と椎名さんは席から立ち上がり、食堂へと向かうため教室を出る。教室を出るまでの間はとても胃が痛かった。

 

 

 _______________

 

 

 程なくして食堂に着いた、俺は1度だけ利用したことがあるが、それ以来来なくなった。理由はまあ、混んでるからだ。なので普段俺は朝ご飯の残りをおにぎりにして人気のない場所で食べて、後はボーっとしている。たまにいちゃいちゃしているカップルがいる時は別の場所で食べている。この学校は異常なまでに広いのでいくらでも場所はあった。

 

 食堂に入ると券売機の列に並ぶ。相変わらず多い。椎名さんは先ほどからきょろきょろと周りを見て落ち着かない様子だった。

 

 「人が多いのですね」

 「えっ、初めて来たのか?」

 「はい、普段は朝にコンビニで買って教室で食べていますね。安藤君はよく利用されるんですか?」

 「いや、俺は1度だけ食堂で食べたが、それからは外で朝の残りをおにぎりにして食べている」

 「そうだったのですか……てっきり、いつも教室にいないので食堂を利用されてるとばかり思っていました」

 

 すると椎名さんは急に申し訳なさそうな顔をした。

 

 「もしかして、今日も昼食を持ってきていましたか?」

 「ああ、まあ……別に良いさ。言わなかった俺が悪い。それに、俺結構食べるほうだからさ、ここで食べても普通に全部食べれる。だからあまり気にしないでくれ」

 

 椎名さんの申し訳ない顔が見てられなかったので早口で俺はまくしたてた。

 

 「そう、ですか……分かりました。では、明日からは一緒に外で食べるということで」

 「えっ……明日も?」

 「安藤君は私と昼食を共にするのは嫌でしょうか……?」

 

 またそんな顔をして……。こういう時の椎名さんはまさにシュンとした犬そのものだ。

 

 「いや、俺も椎名さんとご一緒できるなら嬉しいよ」

 「そうですか、それなら良かったです」

 

 椎名さんと話しているとようやく俺たちに順番が回ってきた。ここはレディファーストということで椎名さんに先を譲った。しかし、椎名さんはボタンのメニューをじっと見ながら、どれにしようかと指を上下左右させて迷っていた。

 

 「ちょっと待って下さいね……」

 

 後ろにはまだ結構な数の生徒が並んでおり、早くしろと言っているかのような視線を感じ、とても居心地が悪い。2分程してようやく決めたのか、日替わり定食を選んでいた。針のむしろから早く抜け出したい俺は選ぶ余裕もないので椎名さんと同じ日替わり定食を押して、列を抜け出す。

 

 「少し迷ってしまいました」

 「いや、全然、いいよ。問題ない」

 「…………?」

 

 明らかに憔悴した俺を見て椎名さんは首を傾げたが、カウンターから定食が出たのを見て元に戻った。

 この時間はどこも密集しているのでトレーを持ってなんとか空いている席に座るのがやっとだった。

 椎名さんもかなり居心地が悪そうだ。

 

 「なるほど、安藤君がここを利用しなくなったのも分かりますね」

 

 椎名さんは鬱陶しげに言うと俺の顔を見て少しふきだした。

 

 「安藤君、今すごい顔してますよ。いかにも不機嫌といった感じです」

 「そ、そうか? 自分ではわかんないけど、とにかく人ごみは苦手なんだ」

 「そうですね、私も安藤君ほどではありませんが苦手です」

 

 そうしてさっさと食べて出ようという結論に達した俺たちは定食を食べ始めた。

 椎名さんはとても行儀よく食べており、作法もしっかりしているようだ。それに見惚れていた俺に気づいた椎名さんは箸を置いた。

 

 「あの、私の顔になにか付いていますか?」

 「いや……綺麗だなって思って……」

 「……えっ?」

 「あっ、違うんだ。食べ方がすごい綺麗だなって、そういう意味で……」

 「そ、そうですか……」

 「う、うん……」

 

 空気が悪くなったので俺はご飯の入った茶碗を掻きこむようにして顔を隠した。ちらっと椎名さんを見ると、いつもの抜けた顔だったがほんのりと頬が赤くなっていた。

 

 食堂の喧噪のなかでのこの微妙に甘い空気で先ほどまで感じていた胃の痛みなど完全に吹き飛んだ修永は少し胸が熱い事に気が付いたが、恋愛経験どころか異性と友達にすらなったことのなかった修永はそれが何故なのか分からなかった。そしてそれは椎名も同じだった。

 

   

 

 




 アイディアはあっても椎名さんだとそれを表現するのが難しい。
 次話のあとがきで主人公のデータ出します。兄があれなのでまあまあ高スペックになると思いますが、大して意味はありません。たぶん。

 一成「……僕の出番は?」
 作者「ねえよ」
 一成「……泣」 


 誤字脱字、批判ありましたら報告お願いします。


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魔王な椎名さん

高度育成高等学校学生データベース

氏名   安藤修永
クラス  1年C組
部活動  無所属
誕生日  8月25日

評価
学力    C-
知性    D
判断力   D-
身体能力  C-
協調性   E

面接官からのコメント
学力身体能力は平均をやや下回る。小学6年生の時に授業に出ずに家にいた時期がある。ただ、それまでは成績も優秀だったのでやる気の問題だと思われる。コミュニケーションを疎かにして小・中学校と友人と呼べるものはいない。面接ではしっかり受け答えができていたので、自ら率先して関わっていく自主性を磨く必要がある。

担任メモ
クラスメイトの椎名ひよりとよく行動を共にしているようで良い傾向に見える。経過観察を続ける。



 

 修永がひよりと共に昼食を食べてから1週間が経過した。授業がある平日は毎日共に登校し、お互いが紹介した本の批評を行う。教室に入ると最初の頃は「またか!?」「あの2人って……」と騒いでいたが、3日ほど経つと慣れたようでクラス内も落ち着いていた。ただ、クラスの中であの二人は付き合っているという結論に至ったようだが……。

 2人の仲も中々進展したようで修永はひよりを椎名と呼ぶぐらいの仲にはなった。(本当はひよりが同い年でさん付けは距離を感じると言ったからなのだが……)

 

 今日も椎名と一緒に人気のないベンチで昼食を食べながら、最近貸した俺ガイルの話をしている。俺が持ってきた数少ないラノベだ。金曜日に3冊貸したのだが、土曜日の朝に電話がきて追加を頼まれ、面倒だから12巻まで全部渡したのだが、日曜日の夕方に電話で「読み終わったので返したいのですが……」と言われた時は戦慄した。

 ちなみに電話番号とメールアドレスは学食に行った日の帰りに俺が頼んで交換してもらった。他人の連絡先を聞くのがあんなに緊張するものだとは思わなかった。

 

 「そういえば、もう少しで中間テストですが、勉強は進んでいますか?」

 「……そうなの?」

 

 椎名は溜め息を吐いて少しジト目気味になった。最近椎名は俺を糾弾する時よくジト目になる。その時は口調も強い感じになり、大体言い返せない。正にあなたは俺のお母さんですか、という感じである。

 

 「はぁ、坂上先生が何度も言ってましたよ。授業に出てるのに何で知らないんですか」

 「いや、考え事とかしてると聞き逃しちゃうんだよね」 

 「それは教師の話よりも大事なんですか?」

 「いや、まあ、どうだろね」

 「ということは一切テスト勉強はしていないと、そういうことですね」

 「まあ、そういうことになりますかね……」

 

 ていうか別にテスト勉強しなくても適当にやれば、平均点は取れるしな……。

 

 「では、今日からテストまで授業が終わった後図書館でテスト勉強をしましょう」

 「……わかりました」

 「それでは、そろそろ教室に戻りましょう」

 「うい」

 

 ベンチから立ち上がると椎名は思い出したように「あっ」と声を上げた。

 

 「テスト勉強するからといって、授業を疎かにしてはだめですよ」

 「……はい」

 

 俺は小さく返事をして教室に向かう椎名に付いていく。

 

 

 _______________

 

 

 授業が終わり、椎名と図書館に向かった。図書館内はテスト勉強のためか、いつもより席が埋まっていた。俺と椎名は適当な席に座り、椎名が実力を見るためと全教科のテスト形式のプリントをやった。

 とりあえず初日なので俺は簡単な問題を9割ほど正答にして、中間ぐらいの問題を半分ほど、そして比較的難しい問題は1割正答にした。採点のために椎名に渡した。

 椎名は採点をしていき、最後まで終えてふむと頷いた。

 

 「基本的な所はできていますね、たまにケアレスミスがありますが、数をこなせば問題ないでしょう。あとは応用がこなせるようになれば、テストは心配なさそうですね」

 

 まあ、そうなるようにしたからな。というか、このテスト予想問題作ったのって椎名だよな。こんなの作れるって椎名って相当頭が良いのか?

 

 「なあ椎名。この間の小テスト何点だった?」

 「小テストですか? 確か90点辺りでしたね」

 「……なあ、何で椎名ってCクラスなんだ? あのテスト結構難しかったと思うんだけど……」

 

 確かあの小テストは80点までは簡単に取れるが、最後の小問がかなり難しいはず……。90点台を取るにはあれを何問か正解しないといけない。そんな奴がCクラスにいるのはおかしいだろ。

 

 「そうですね、これは推測……というかほぼ確証なんですけど、学力だけが採点基準ではないということでしょう。試験を行ったわけではありませんが、身体能力、それにコミュニケーション能力などといった部分の情報を何らかの形で得て、それを基準に振り分けられた、と考えます。私どちらも苦手ですから」

 「なるほど、他のクラスの生徒を知らんから何とも言えないけど……確かに椎名は運動もコミュ力もないな」

 

 俺がそう言うと椎名は少しだけむっとした。

 

 「自分でわかってはいますけど、そこまで断定されると傷つきますね……」

 「いや、ごめんごめん」

 「いいですよ、私が運動ができないのは事実ですし……。ただコミュニケーションに関しては安藤君は言えないと思いますけど……」

 

 それを言われると痛い。事実、俺が学校で会話できるのは椎名だけだからな。

 椎名がつんとして俺が苦笑いしていると、奥の席からバンっと机を叩く音がして肩がびくっとした。そちらの方に視線を向けると赤髪の男子生徒が黒髪の猫目の女子生徒の胸ぐらを掴んで何か言い争っている。男子の方は大声で暴言を言っているのはわかるが、女子の方は声が小さくて何を言っているかわからない。ていうかあれ胸触ってね? セクハラじゃね? 合法セクハラか?

 

 「あれは確かDクラスの……図書館であんな大声で。他人の迷惑は考えられないのでしょうか」

 

 椎名は不機嫌気味にそう言った。赤髪の男子は鞄を持って図書館を出て行った。それに続いて二人の男子生徒も出て行った。黒髪の女子はまた勉強を始め、二人の男女が困惑した表情でその女子を見つめる。

 

 「何があったんだろうな?」

 「容姿などで決めつけは良くないでしょうが、大方テスト勉強をしない不良生徒のために勉強会を開いたものの、あの女子生徒が強く言いすぎてあの男子生徒の不満が爆発したんでしょう」

 「なんか、ぴったり合ってそうですごいな……」

 

 実際ほぼその通りというひよりの才能を発揮していた。

 

 「まあ、赤点は即退学ですからね、あの様子だとかなり危ないのでしょう」

 「えっ!? そうなのか」

 「えぇ、まあ。ただ安藤君は問題ないと思いますよ今の状態でも半分ほどは取れるでしょうし。これから勉強すれば余裕でしょう」

 「そ、そうか、よろしく頼む」

 「はい、任せて下さい」

 

 さっきの出来事で空気が悪くなったので今日の勉強会はお開きとなった。

 

 

 次の日の朝、俺はレンタルビデオ店で借りた俺ガイルの1期を一気見したので一晩中起きていたのでとても眠かった。まあ、椎名に普段から眠そうな目をしていると言われたし大丈夫だろ。

 

 そう思っていた時期が俺にもありました。

 

 「馬鹿なんですか?」

 「すいませんでした」

 

 現在、俺は椎名に超謝っていた。何故かと言えば、椎名にいつもより眠そうと言われ、ごまかそうとしたが、一瞬でばれてこんな状況になった。というか、こんな直球に罵倒されたのは初めてだ。

 

 「そうですか、安藤君は私が本を読む間も惜しんで予想問題を作っている間、アニメを見ていたと。そうですか、そうですか」

 

 椎名はいや、椎名さんは笑っているが目が笑っていない。まじで怖いんだけど……。

 

 「安藤君? どうでしたか、楽しかったですか、安藤君? どうなんですか、目をそらしてないでこちらを見て下さい」

 

 というか、すでに登校してる生徒もいるんだけど……。めっちゃ視線を感じる椎名は全く気にせず、いつもの抜けた目ではなくホラーじみた目で詰め寄ってくる。いつもの犬のような詰め寄り方ではなく、ゾンビのような、今にも襲いかかりそうな感じだ。

 

 「あの……」

 「何ですか?」

 「い、いやぁぁぁ、返却日が近くて、それで……「何ですか?」はい、僕が悪かったです。申し訳ありません」

 

 椎名ははぁと溜め息を吐いた。

 

 「今日、安藤君の部屋に行きます」

 「はい…………はい?」

 「安藤君は近くに娯楽物があると、また勉強しなさそうですから。テストまで私が預かっておきます」

 「いや、でも「何か問題がありますか?」ないです、はい」

 

 「では、行きましょう。遅刻すると良くないですから」

 「はい」

 「あっ、そうでした」

 「な、なに?」

 「眠いからって授業で寝ちゃだめですよ」

 「はい、もちろんです」

 

 椎名さんはにこりと微笑んだ。

 

 「もし寝たら……」

 「ね、寝たら……?」

 「私、ちょこっとだけ怒るかもしれません」

 

 俺は絶句した。あれで怒っていたわけではない、ちょこっとも。もし、怒ったらあれより怖いのかと恐怖し、栄養ドリンクもびっくりなくらい眠気が覚めた。椎名がいれば全国の一夜漬けの子たちは助かるんじゃなかろうか。一家に一人椎名。

 授業中も眠くなって瞼が落ち始めると、隣から強烈な殺気が俺を襲い、目が覚める。俺の近くの席の生徒も肩をびくっとさせる程だった。

 

 授業も終わり、椎名が無言の圧力を掛けてきて俺はしゅばっと立って、前を行く椎名に付いていく。

 俺の部屋に着いて椎名を入れた。というか、異性を部屋に入れるなんて入学した頃の俺じゃ考えられないな。理由はちょっとあれだが……。

 部屋に入った後俺と椎名は朝と同じ状況になった。しかも今回は俺は土下座で椎名が俺を見下ろす形になっていた。

 

 「これは何ですか?」

 「p〇4です」

 「ぷ、ぷれ? んんっ、まあゲームですね」

 「はい……」 

 「やったんですか?」

 「いや、その「やったんですか?」やりました」

 「これは私が預かります」

 「どうぞ……」

 

 そうして、紙袋にp〇4やパソコンを入れて椎名に差し出した。

 

 「それでは今日はこれで帰ります」

 「えっ、勉強は?」

 「睡眠を取らずに勉強をしても大して集中はできませんから、それなら今日はしっかりと睡眠を取って明日集中してやった方がいいので」

 「あ、ありがとう」

 「いえ、それでは、お邪魔しました」

 「あぁ、また明日」

 

 椎名はドアに手を掛けたところで止まった。

 

 「そうだ……テストが終わったら『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』のアニメ、私も見たいのでもう一度借りて下さい。もちろん安藤君の自腹で」

 「わ、わかった」 

 「それでは、今度こそ。おやすみなさい」

 「あぁ、それじゃ」

 

 …………染まってくなぁ。あ、俺のせいか。

 

 

 それからは毎日椎名と図書館で勉強した。一度自分の勉強は良いのかと聞いたが、教えることも勉強になると言われたのでそれからは気にしなくなった。

 

 

 _______________

 

 テスト3日前

 

 今日は椎名が茶道部に少し寄ると言っていたので、時間潰しに校舎の近くを徘徊していた。というか、テスト目前なのに部活があるんだなと思った。

 

 テニスコートの近くにいると、怒鳴り声が聞こえた。近くにいた茶髪の男子がそちらを見て、俺も横から声のした方を覗く。そこには前に図書館で騒いでいた赤髪の生徒と龍園とその仲間1号・2号が対峙していた。赤髪の生徒は龍園の仲間1号・2号に取り押さえられた。その後、龍園が何か言ったかと思えば、赤髪の生徒が襲いかかろうとして一触即発の瞬間横からピンクっぽい髪の女子生徒が仲介に入った。

 すげーな、あんなとこに入るなんて俺じゃ怖すぎて無理だ。まあ、椎名の方が怖いけど。

 

 あの女子生徒と龍園が何か言い合った後龍園はこの場を去って行った。クラス一緒なのに一瞥もされなかった。まあ、いいんだけど……。

 その後その様子を見ていた茶髪の男子が赤髪の子を抑えた。ふむ、ここはCクラスとして謝っておくか。

 

 「あの……」

 「んだテメェ!」

 「怖いな……」

 「須藤落ち着け」

 「そうだよ、それで君は?」

 「あー、えっとCクラスの安藤修永だ。さっきはうちのクラスの龍園がすまないな」

 「テメェ、龍園の野郎の仲間か!」

 

 須藤という生徒は俺がCクラスの人間だと知ると再度威嚇してきた。

 

 「須藤落ち着け……すまん、俺はDクラスの綾小路清隆だ」

 「いや、良いよ。多分龍園が原因だろうから仕方ない」

 

 須藤君は不機嫌気味にさっさと鞄を持ってどこかへ行ってしまった。

 綾小路君と自己紹介していると先ほど仲介をしていた女子が「ふーん」と興味深そうに俺のことを見ていた。

 

 「な、なんだ?」

 「いんや、Cクラスに龍園君に従ってない生徒がいると思わなくてさ」

 「あぁ、俺にはあまり興味がないんだよ、俺は支配するに値しないカスってところだよ」

 「へー、そうは見えないけどなあ」

 「と、ところで君の名前は?」

 「えっ? あ、あぁごめんね。私は一之瀬帆波。Bクラスだよっ」

 「そうか、よろしく一之瀬さん」

 

 一之瀬さんは笑顔で「うんっ」と元気に言った。もてるだろうなぁ、こういうの。俺には縁の無い話だけど。

 

 「ねえ、安藤君も綾小路君も、連絡先交換しようよ」

 「えっ、あ……あぁ、いいぞ」

 「俺も構わない」

 

 人生2回目のいや、綾小路君も入れたら3回目だが、同年代の連絡先をゲットした。それにしても綾小路君はクールだな、女子の連絡先に一切動じてない。慣れてるのか。こやつもて男か。

 俺が羨ましげな目を向けると綾小路君は首を傾げた。

 

 「何だ?」

 「いや、別に」

 「それじゃ、何かあったら連絡していいかな?」

 「ん? あぁ俺は構わないけど、自分のクラスの情報はあまり話せないぞ。大して知ってるわけでもないけど」

 「まあ、もしかしたら遊ぶことになったりするかもしれないでしょ?」

 「うん?」

 「綾小路君もよろしくね?」

 「あぁ、よろしく」

 

 やはりクールだ、かっこいい。しかし、俺が女子と遊ぶ時が来る日はあるのだろうか。

 

 「それじゃあねー!」

 「あぁ、じゃあな」「またな」

 

 そうして2人と別れた。なんにせよ2つも連絡先を入手できるなんて今日は良い日だ。俺の高校生活も捨てたもんじゃないんじゃないだろうか。

 俺はふふっと不敵に笑った。

 

 「あ、椎名のとこ行かなきゃ」

 

 時間を確認するとすでに30分も経っていたので急いで図書館に向かった。

 

 

 _______________

 

 

 中間テストがつつがなく終わった。あれからさらに3日間みっちり勉強させられた俺はようやく終わりが来て歓喜の念が絶えなかった。

 ちなみに一応テストでは8割台の点数にしたので椎名も文句はないだろう。

 

 俺は椎名から帰ってきたゲームやりながら、喜びを噛みしめていた。

 その時不意に俺の携帯が鳴った。俺はゲームの手を止めて携帯を見るとメールが1件来ていた。椎名からだ。

 

 「んんっ? …………はっ?」

 

 俺はメールを開き、内容を確認すると素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 『テストお疲れ様でした。ところで安藤君、明日は空いていますか? もし空いていたら、テストの労いも兼ねてどこか遊びに行きませんか?』

 

 

 これは…………で、デート!?

 

 

  

 




これ書くために一回売ったよう実の1~4巻を買いに行った。これこそ無駄遣い。
 
一成「ねえ、僕本当に出番ないの?」
作者「…………」
一成「何か言ってくれよ……」
作者「……ワンチャン……」
一成「!?」
作者「ねえよ」
一成「……(泣)」

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龍園君はツンデレ

原作第2巻と絡ませようとしてたけど、あれってテスト直後じゃないよなと気づき、まるまる書き直すはめになった。


 中間テストが終わり、椎名からテストのお疲れ会ということで食事に誘われた翌日の土曜日。

 あの後椎名はただ食事に誘っただけなのに俺は何を期待してるんだ。と、途端に急激に恥ずかしくなった。

 しかし女子とどこかへ行くなんて初めてなことで昨日の夜は全く落ち着かなかった。俺は基本休日は部屋で過ごすからな、服を選ぶのにあれだけかかるとは思わなかった。結局動きやすい格好にしたんだが。

 昨日の内にメールでとりあえず昼前に寮前集合で色々見てから決めるということになった。

 

 そして現在集合30分前、俺は部屋を出ていた。なんとなく椎名ならかなり前から待ってるんじゃないだろうかと思い向かったわけだが……。

 

 (まじでいた…………)

 

 俺は寮から出ると出てすぐのところに見慣れた淡い水色の髪の少女を見つけた。椎名はいつもの抜けた目でボーっとしていた。

 

 「おはよう椎名。ごめん、待たせたかな?」

 「おはようございます安藤君。いえ、まだ集合時間前ですから。安藤君が気にすることはありません」

 「そうか……? ちなみになんだが、何時から待ってた?」

 「そうですね、ほんの10分前ぐらいですかね」

 

 デートの逆テンプレまがいのことをして俺は椎名の全身を見た。めちゃくちゃ可愛い。というかふわ可愛い。何言ってるかわかんないと思うけど、実物を見ればわかる。いつものゆるふわオーラが増し増しになっている。

 この間の土曜に俺ガイルを貸すために会った時は制服だったので椎名の私服姿を見るのはこれが初めてになる。

 俺は静かに感動していた。

 

 「その格好似合ってるよ」

 「そうですか、良かったです。変じゃないかなって心配してましたから」

 「いやいや、自分の語彙力の無さを恨むくらいだよ」

 「ふふっ、ありがとうございます。安藤君も格好良いですよ」

 

 椎名は微笑んだ。今の彼女の写真があれば、俺はいくらでも払って喜んで買うだろう。

 

 

 _______________

 

 

 寮から少し歩き、レストラン街に来た。ここに来る間に休日を楽しんでる男子生徒たちは椎名の私服姿に目を奪われたのか、椎名が通ると後ろを振り返るものがかなりいた。やはり椎名はかなり可愛いということだな、知っていたが……。

 その椎名の隣にいるのが俺というのはどう見ても釣り合わないだろう。現に何人かの男子から訝しげな視線を送られているのだから。椎名はコミュ力抜きで容姿だけ見れば、かなりの美少女でこの学校の1年の中でもかなり上位に入るだろう。対して俺は平凡な容姿。身長も175と高身長というわけでもない。眠そうな目も合わせて全く釣り合ってない。

 俺が自分の残念な容姿を恨んでいると不意に椎名が振り返った。

 

 「初めて来ましたが、すごい数ですね……。何にしましょうか?」

 「そうだな、俺はなんでもいいが……」

 「そうですか……うーん、ではここなどはどうでしょう」

 「よし、そこにしよう」

 

 そしてオムライスの店に入った。

 店員に連れられ、席に着いてメニューを選んだ。俺はデミグラスソースの、椎名はホワイトソースのオムライスにして椎名は標準のSサイズ、俺は一回り大きいMサイズにしてマルゲリータピザを一緒に食べるということで注文した。セットドリンクバーも頼んだ。

 

 ドリンクを取ってきて少しして商品が届いた。ジュースの入ったコップを合わせて乾杯をした。

 

 「中間テストお疲れ様でした」

 「あぁ、椎名のおかげで高得点が取れたよ」

 「いえ、そんな。安藤君が頑張ったからですよ」

 

 感謝は受け取ってほしいものだ。それから会話をしながら食事を楽しんだ。

 俺はテスト前に起こった出来事を話した。

 

 「そうですか、龍園君とDクラスの方が……」

 「あぁ、まあDクラスに退学者は出なかったみたいだけどな」

 「龍園君は方法はあれですが、あれでCクラスのために行動しているんですよ」

 「そうだったのか、龍園がツンデレだったとは」

 「ツンデレ、とは?」

 「ん? あぁ、まあ簡単に言えば雪乃だな」

 

 椎名はぷっと吹き出して肩を震わせている。

 

 「なるほど、そうかもしれませんね。けど龍園君が聞いたらどんな顔をしますかね」

 「やめてくれ、それで山田みたいに龍園に使われるのはごめんだぞ」

 「山田君達もああ見えて龍園君を慕ってるんですよ」

 「へぇー」

 

 弱みとかを握られたわけではないんだな。

 それからはいつも通り小説の話を始めた。椎名は戦う系のものでも物語がしっかりしていれば問題ないようだ。どうやら俺ガイルがかなり気に入ったのか、早く他のラノベも見たいようだった。

 

 「椎名、わざわざ俺から借りなくても、ラノベなら図書館にいくつかあるぞ?」

 「いえ、安藤君から借りたいので……」

 「ん……?」

 

 それはどういうことだろうか、多分無自覚で言ったんだろうが、恥ずかしいから本当やめてほしい。この天然娘め。

 

 「安藤君、何で横を向いてるんですか?」

 「いや……自分の精神の弱さを悔やんだだけだよ」

 

 まじで綾小路君のような心の強さが欲しい。あんな感じでクールにできたら女子は惚れるんだろう。(実際は綾小路も女子に全く慣れていないことを修永は知らない)

 俺が何故落ち込んでいるのかわからない椎名は首を傾げた。

 

 「それで、これからどうしましょうか?」

 「え、どうするって……?」

 「この後の予定はどうするのか、ということです」

 「あ、あぁ、そういうこと」

 「はい」

 

 てっきり一緒に昼食べたら帰ると思ってたんだが……。そういえば。

 

 「テスト終わったら、俺ガイルのアニメ見たいって言ってたよな? だから、借りに行かないか?」

 「そういえば、そうでしたね……では、そうしましょうか」

 「あぁ、ちなみに聞くが、椎名の部屋にプレイヤーはあるのか?」

 「……ありませんよ? 私の部屋にはパソコンもテレビもありませんし……」

 「はっ? じゃあどうやって見るんだよ」

 

 というか今時パソコンもテレビもない部屋なんて珍しいな。しかし本当にどうするんだ?

 

 「安藤君の部屋で見ればいいじゃないですか」

 

 今何て言った、この天然は。だからまじで勘違いするからやめろって本当に切実に。

 

 「もしかしてご迷惑だったでしょうか……?」

 「いや椎名、あまり安易にそういうことは言うもんじゃないぞ。男の部屋なんてみんな魔窟なんだぞ」

 「……? 前に安藤君の部屋にお邪魔した時はそんなことはありませんでしたが……」

 「いや、だから、そういうことじゃなくてだな?」

 「……なるほど、心配要りませんよ。安藤君のことは信用していますから」

 「っ……」

 

 俺の心にクリティカルヒット! ATフィールドが作用していません!

 俺の汚い心が椎名の純粋無垢な心にズタズタに打ち砕かれた。

 

 俺と椎名は食事を終え、店を出てレンタルビデオショップに向かった。

 

 「とてもおいしかったですね」

 「そうだな、たまにはああいうのも良いが、ポイントが無くなっちまう」

 「ポイントは有限ですからね」

 「けど、もうすぐ6月だからな」

 「そうですね、ポイントが増えていれば良いんですが……」

 「龍園のことだから何か策は打ってるんだろうから心配はないけどな」

 

 今回の中間テストでクラスの平均が高かったのも龍園がなにかしたんだろう。あいつにかかれば、一気に100ポイントぐらい増えるんじゃないだろうか。俺のポイントはゲームを買ったりラノベを買ったりしたとはいえ、かなり余裕はある。しかし、ポイントはあるにこしたことはないからな。

 しかし、クラスの情報をほとんど知らない俺って一体……。

 

 「流石はゆきのん、ということでしょうか」

 「ぶはっ」

 

 椎名の不意打ちで盛大に吹き出してしまった。ただ、椎名? それは全国のゆきのんファンを怒らせるからやめような?

 

 

 _______________

 

 

 あの後レンタルビデオショップに行き、俺ガイルのDVDを借りて寮の部屋に戻っていた。なんとなくベッドには座りにくかったので、座布団の上に座って見ていた。

 椎名はあまり感情を表に出さないが、最近はなんとなくだが、感情の機微がわかるようになってきた。なんとなーく雰囲気がわかる。今も、材木座が出るシーンや、戸塚の朝チュンのシーンでは楽しそうな雰囲気だ。初見でこの様子を見たら、全然楽しくないのかと心配になるだろう。

 椎名の感情がわかるようになってから知ったが、小説を読むからか、彼女は結構感じやすいタイプのようだ。変な意味ではない、断じてない!

 

 そうしてもう夕方といった頃、ようやく1期を見終えた。椎名はふぅーと息を吐いた。

 

 「面白いですね、アニメは。声や絵でしか、わからないこともあります」

 「そうか、気に入ってもらえたなら良かった」

 「はい。アニメでも比企谷君は捻くれてましたね。あの生き方は救われませんが判ってくれる人ができればいいですね。多分どちらかになると思いますが……」

 「そうだな、2期では絵が1期とは全然違うぞ」

 「そうなんですか、ではまた見ましょう」

 

 やっぱり俺の部屋なんですね……。まあいいけど。これからは絶対部屋を汚くできないな。

 

 「今日はありがとうございました」

 「いや、今度来るときは2期を借りとくよ」

 「それは嬉しいですね、あとこちらもありがとうございます」

 

 椎名は俺が今日貸した『ココロコネクト』を掲げた。

 

 「では、また明日」

 「あ……あぁ、うん。それじゃ」

 

 やっぱり1日読み終わるんだね。今回も全巻貸したんだけど。今度彼女が広辞苑をどれくらいで読み終えるかやてみたいな。小説じゃないが。

 それで椎名は帰った。後で気づいたがこれは家デートだったのではとまた身悶えていた。

 

 

 ちなみに次の日に小説を返すついでに俺ガイル2期を見たのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 




一成「デート描写苦手なのって経験ないから?」
作者「ばっ、ちげーよ。経験ありまくりだから」
一成「あっそう(したり顔)」
作者「お前あとがきでも出さないよ?」
一成「とか言っちゃって出すんでしょ? ツンデレなんだから」
作者「…………」
一成「図星? 図星ですかー、あっちょ、その振りかぶったこぶしを下ろ、ぐえっ」

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計算されたあざとさは悪。ならば天然は正義

この話にシリアスは合わないだろうに。何故か衝動で書いてしまった。


 少年は類いまれなる才能を有していた。

 大抵のことはすぐにできてしまう。

 

 少年は自らの才能を恨んだ。

 これではまったく楽しくない。

 

 少年は自分の兄を尊敬した。

 自分の兄はすごいのだと、兄より弟が優っているなどあってはならないと……。

 

 そうして少年は勝とうとしなくなり、上手な負け方を覚えた。

 

 少年は楽しいことを模索した。

 そして少年は発見した。こんなにも楽しいことが世の中にはあったのだと知った。

 それからの少年の人生は色づいたものとなった。

 

 そして…………

 

 少年は彼女に出会った。

 

 

 _______________

 

 

 椎名と食事に行った数日後、Cクラス内騒がしかった。それもそのはず、今日は6月1日。毎月のプライベートポイントがもらえる日である。俺たちCクラスは中間テストでの頑張りと1年生のご褒美というのがあり、100ポイント程クラスポイントを伸ばしていた。しかし、その支給されるはずのポイントが入っていなかったのである。

 朝椎名と登校する時もその話題になったが、おそらく学校の不備だろうという結論に至った。

 

 「おはよう皆の衆。今日はやけに騒がしいな?」

 

 チャイムが鳴ると共に担任の坂上が入室した。

 

 「おい、坂上。これはどういうことだ。ポイントが支給されてねえじゃねえか」

 

 龍園が坂上に携帯の画面を見せた。それと同時にクラスからも抗議の言葉が飛ぶ。

 

 「それについては今説明する。とりあえず立っているものは席に着け」

 

 坂上の言葉にクラスのものがしぶしぶ座り始めた。

 

 「こちらの方で少しトラブルがあってだな。1年へのポイントの支給が遅れている。今回のことは完全にこちらの落ち度だ。君たちには申し訳ないが待っていてくれ給え」

 「おい、それに関してポイントのプラスなんかはねえのか?」

 「ないな。あぁ、そうだポイントが支給されるまでにポイントが増減すればその分のポイントが支給される。そこは注意しときたまえ」

 「なるほど……。はっ、それは注意しねえといけねえなあ」

 

 龍園は口元をにやりと歪め、悪者っぽい顔をした。ただ、あの顔もこの前椎名と話した、龍園はツンデレというのを思い出してしまい。つい笑ってしまいそうになる。

 

 

 その日の昼休み。いつものように椎名と昼食をとっていた。

 

 「龍園君がまた何か良くないことを思いついたようですね」

 「そうなのか……?」

 「多分そうだと思います。坂上先生もわざわざ意味深に説明してましたし……。おそらくまたDクラスと何か起こすつもりなんでしょう」

 

 なるほど、まあ最初に手をつけるべきはDクラスだからな。多分ポイントを減らそうと考えているってところだろうか。まあクラスのことはツンデレ龍園に任せるべきだろう。椎名が何も言わないならそこに文句はないんだろう。

 

 

 

 _______________

 

 

 次の日の朝、ホームルームで異変が一発でわかった。

 クラスの3人の男子生徒が包帯やらを巻いて重症なのである。クラスの連中もちらちらとそちらに視線を送っていた。

 これが昨日椎名が言っていた龍園の策なのか……?

 坂上からの連絡事項でなにが起こったかがわかった。

 

 「先日、学校で生徒間のトラブルがあった。クラスの小宮、近藤、そして石崎とDクラスの生徒と暴力事件があった」

 

 クラス内がざわついた。

 

 「静かにするんだ。うちの生徒が一方的に殴られた。それに関してうちのクラスから殴った男子生徒に訴えを出した。一週間後生徒会を交えて審議を行う。場合によってはその生徒は退学、クラスポイントも削減となる」

 

 なるほど、この方法はひどいな。やはり龍園に注目されたくはないな。いくらクラスのためとはいえ、殴られたりするのは嫌だからな。

 

 「いくらなんでも、これはひどすぎます」

 

 椎名は悲しそうな表情だった。

 

 「そうだな、Dクラスには本当に申し訳ないな」

 「全くです。しかし、起こってしまったことは仕方ありません」

 「あぁ、3人がかりで無傷で一方的にやられるなんて普通ありえないけどな」

 「はい、坂上先生も龍園君の策に乗り気のようですし、教師なのに何を考えているんでしょうか」

 

 椎名は溜め息を吐いた。

 一応俺の方で綾小路君に謝罪のメールを送っておくことにしよう。

 

 

 _______________

 

 

 日曜日の昼頃、俺は家電量販店に向かっていた。昨日の夜に謝ってイヤホンを踏んで割ってしまった。接続が悪くなっていたので携帯の充電器などもついでに買ってしまおうと思い至ったのだ。

 

 「安藤か……?」

 

 家電量販店に着いた俺に後ろから声が掛かった。綾小路君だ横には2人の女子生徒がいる。両手に花というやつだろうか。どちらも可愛い、というかでかい。なにがとは言わないけど。髪の長い女子は俺の視線からか、綾小路君の後ろに隠れた。

 

 「綾小路君か、デート……ではないよな?」

 「全然違うな、今日はちょっと用があって来たんだ」

 「綾小路君、この人は?」

 

 茶髪の女子が首を傾げた。なんていうか、もう1人の子とは対照的な子だな。

 

 「あぁ、この前知り合ったCクラスの安藤だ」

 「えっと、安藤修永だ。よろ、しく?」

 「そうなんだっ、私はDクラスの櫛田桔梗だよっ。よろしくね?」

 「ああ、よろしく」

 

 というか櫛田さんって子近いんだけど……いまだに俺は椎名の接近には慣れてないのだ。この櫛田さん、あざといな。こういうタイプの人は苦手だな。

 俺は眉を顰めて後ずさった。

 

 「えっ……?」

 「ん……?」

 

 櫛田さんは俺の顔を見て一瞬驚いた顔をした。そんなに不細工だろうか俺の顔は。

 

 「えっと、それでそちらは……?」

 

 俺は強引に話を変えて、綾小路君の後ろに隠れている女子に視線を向ける。

 

 「ああ、佐倉」

 「あ、えっと、はい。Dクラスの佐倉愛里、です」

 

 佐倉さんは目を伏せながら言った。

 

 「それで、安藤は何でここに?」

 「ん? あぁ、イヤホンを壊してな、新しく買いに来たんだ」

 「そうなのか」

 「うん。あ、そうだ。メールでも言ったが、うちの生徒がすまなかったな」

 

 俺は3人に向かって頭を下げた。

 

 「いや、安藤は今回のことに関係ないんだろう? それに須藤が暴力を振るったのは事実だしな」

 「そうだよっ、私は気にしてないよ」

 「…………」

 「そうか、悪いな。なんとかしてあげたいが、俺は何もできないんだ」

 「問題ないさ。なにかあったら聞いても良いか?」

 「そうそう。それに、私たちもなんとか須藤君の無罪が証明できないか色々調べてるんだ」

 

 相変わらず綾小路君はクールだ。てか櫛田さん本当あざといな。しかも一応俺Cクラスだから敵のはずなんだけど。

 

 「……まあ、なんかあったら何時でも聞いてくれ。龍園がいない所なら喜んで駆けつける」

 「嫌いなのか……」

 「嫌いなんだね……」

 「……」

 

 というかこの佐倉さん全く喋らない。出会った頃の椎名をさらに悪くした感じだ。

 どうやら、今日はこの佐倉さんのデジカメを直しに来たようで、修理の受付に向かった。俺は一番安いイヤホンと充電器を買って店を出る。綾小路君達も申請が終わっていた。俺は手を上げて帰ろうとする。すると綾小路君は手を上げ返してくれたが、櫛田さんがこちらに小走りで来た。

 なんか一度あざといと思うと、走り方まであざとく見えてしまうな。

 櫛田さんは俺の前に来ると、ふぅと息を吐いた。あざとい。

 早く椎名の癒しが欲しい。

 

 「何か用かな、櫛田さん」

 「えっとね、連絡先交換しないかな? この学校中のみんなと友達になりたいんだ」

 「…………まあ、構わないけど」

 「ありがとうっ」

 

 それで連絡先を交換して軽く手を上げた。

 

 「それじゃ」

 「え? あっ……」

 

 この場を離れないとこのあざといオーラに毒されそうなのでさっさと帰宅する。後ろから小さく「…………ちっ」と聞こえた気がした。

 

 

 _______________

 

 

 明日には暴力事件の審議が行われる。俺と椎名は一緒に登校すると、階段の踊り場の掲示板の前に綾小路君とこの間の一之瀬さんと見知らぬ男子生徒がいた。イケメンだ。身長が高くて切れ目の超イケメン。

 すると一之瀬さんが俺に気づいた。

 

 「あっ、おはよー安藤君っ」

 「ん、おはよう安藤」

 「あぁ、おはよう。何かあるのか?」

 

 掲示板を見ると、今回の暴力事件に関する情報を持つ生徒を募集する貼り紙がしてあった。

 

 「これは……」

 「それ、私と同じBクラスの神埼君が貼ったんだよ」

 「残念ながら良い情報はなかったがな。それで、こちらは?」

 「あっ、紹介するね。Cクラスの安藤君。さっきも言ったけどこっちがBクラスの神埼君」

 「Cクラス……?」

 

 俺がCクラスと聞くと神埼君は俺を訝しむように見た。それを見て一之瀬さんは付け足す。

 

 「大丈夫だよ。安藤君は神埼君が思ってるような人じゃないよ」

 「いや、構わないよ一之瀬さん。Cクラスの印象が悪いのも仕方がない」

 「……すまん。俺の早とちりだった。Cクラスにもお前みたいな生徒がいたんだな」

 「それで、そっちの子は安藤君の友達?」

 

 一之瀬さんが今まで黙っていた椎名に目を向けた。何故か椎名は半目で俺をじとーっと見ていた。

 

 「あぁ、悪い。紹介するよ、同じクラスの椎名だ。椎名、こっちがBクラスの一之瀬さんと神崎君、それとこっちがDクラスの綾小路君」

 「椎名ひよりです。安藤君とはとても仲よくさせていただいています」

 

 ん? 普通に友達ですでいいのでは? それに心なしか一之瀬さんに対して言っていたような。

 

 「なるほどね~。安藤君も隅に置けないね。一之瀬帆波だよ、よろしくね」

 「綾小路清隆だ、よろしく」

 「神埼隆二だ、よろしく」

 「よろしくお願いします。それと、私たちのクラスの生徒がDクラスに失礼なことを、本当にすみませんでした」

 「俺からも、すまなかった」

 

 俺と椎名は揃って頭を下げた。頭を上げると神埼君が目を丸くしている。

 

 「驚いた? 神埼君」

 「本当に驚いたな。Cクラスは皆龍園に支配されていると思っていたが……」

 「支配はされてるでしょうね。ただ、私たちは特にそういうことに関心がないので……。龍園君も何も言ってこないですし、自由にやらせていただいています」

 「まぁ、龍園にとっては取るに足らない人間だからな。椎名は違うかもだけど」

 

 そう言って俺は肩を竦めてみせた。

 

 「それで、須藤君の無罪は証明できそうか?」

 「いや、どうしても須藤が一方的に殴ったというのが重く圧し掛かる。うまくやったとして、良くて半々だな」

 「Dクラスの目撃者の意見を合わせれば頑張って7対3ってところじゃないか?」

 「目撃者がいたんですか、それは良かったですね」

 

 やはり目撃者がいても無罪にはならないか、まあ、須藤君の方は無傷だからな。難しいだろう。

  

 「それに、一之瀬が学校のHPで目撃者がいないか呼び掛けたんだが……それで情報が来てな。今はその話をしていたんだ」

 「どんな内容だったのですか?」

 「例のCクラスの石崎君が中学時代相当な悪だったみたいで、喧嘩の腕も相当たつって地元で有名だったみたいなの」

 「なるほど、それでその須藤君という方が一方的に殴ったのはおかしいとそういうことですね」

 「ああ、それでもしかしたらわざとやられたのでは、と考えていたんだ」

 

 まあ、悪っぽい顔してるもんな彼ら。

 

 「とりあえず、情報くれた子にはポイント振り込んであげないとね。あ、でも相手は匿名希望か……どうやってポイント譲渡すればいいんだろ?」

 「良かったら教えようか?」

 「綾小路君わかるの?」

  

 そうして一之瀬さんは綾小路君に身を寄せた。なんというか近いな、まるで恋人みたいだ。それに一之瀬さんのある部分が綾小路君の体に押し付けられている。でかい。

 俺がそんなことを考えていると一瞬寒気がした。横を向くと椎名が魔王状態で俺を見ていた。相変わらず目が笑っていない。というか何で怒ってるんだ……?椎名は小さい声で「やはり大きい方が……」と言っていた。

 椎名さんからの視線攻撃に耐えていると操作が終わったようで一之瀬さんが綾小路君から離れた。何故か綾小路君はじっと一之瀬さんを見て黙っていた。

 

 「じゃあ、行こうか」

 「ああ」

 「そうですね」

 「うん」

 「…………」

 

 俺たちは歩きだしたが、綾小路君はその場で黙って立ちつくしていた。

 

 「……? 行かないのか、綾小路君」

 「ああ、すまん」

 

 ようやく綾小路君は歩きだした。

 

 「安藤君」

 「ん? 何だ、椎名」

 「後で、一之瀬さんとどういう関係なのか教えて下さいね?」

 「……? まあ、構わないけど」

 

 というか、何でまだ魔王状態なんですかね椎名さんや。というか一之瀬さんと会ったのは二回目なんだが。

 そして教室で椎名にそのことを話すと、椎名は顔を少し赤くして慌てていた。

 

 

 _______________

 

 

 あれから数日後、翌日の審議では決まらなかったようで、再審議が行われることになった。が、何故かその前に石崎君達(石崎君だけ覚えた)が訴えを取り下げ、事件はなかったことになった。

 後で聞いた話によれば綾小路君と一之瀬さんがうまくやったようで、彼らは訴えを取り下げたらしい。

 

 「本当に良かったですね、どうやったかはわかりませんが……なかったことにするというのはDクラスにとって一番良い結果で終わったのではないでしょうか」

 「そうだな、龍園も驚いていたし、坂上も悔しそうだったな」

 「そうですね、これが良い薬となればいいのですが……」

 「そうはならんだろうな」

 「ですね……ままならないものです」

 

 本当にその通りである。しかし、龍園を出し抜くなんて、綾小路君はすごいな。いや、一之瀬さんが考えたのか?まあどちらにせよ、龍園も簡単にはうまくいかないということだな。

 

 まあそんなことどうでもいい。今の日常が壊されなければそれで。

 

 もし、その日常を邪魔したり、俺や椎名に害を為すなら―――――

 

 

 

 ―――――俺が潰す。

 

 

 

 俺は小さく笑った。

 

 

 

 そんな中二病染みたことを考えている一方ひよりの方は。

 

 (私はどうして安藤君が一之瀬さんと親しいことで不機嫌になったのでしょう? 安藤君を取られるなどと思ったのでしょうか、安藤君は私のものではないのに)

 

 他人の観察には長けたひよりだが、自分のことはわからない鈍感だった。彼女が自分の嫉妬という感情に気づくのはいつになるのか。

 ただすでに修永の家で良くアニメを見る2人はそこらのカップルよりもカップルらしい。しかしそれ故、2人の距離が近すぎるのも2人の進展を邪魔する弊害となっている。

  

 

  




まじでシリアス向いてない。そう切実に思った今日この頃。

一成「アニメ版では鈴音がヤンキーを成敗したのに原作では帆波だよね」
作者「お前脇役の分際でなに呼び捨てしてんの?」
一成「俺は鈴音押しです」
作者「(何でこいつ段々でかい態度とるようになってんだろ)」
作者「ていうかお前キャラぶれてない? 僕ちゃんキャラだろ?」
一成「いや~、話と関係ないなら別に良いかなって」
作者「なに開き直ってんだよ……」
一成「これからも世界を大いに盛り上げるための安藤一成をよろしく」
作者「消失見たんだな……」
一成「急に見たくなるよね、長くなっちゃった。それじゃ、また!」
作者「完全に仕切っちゃってるよ。はい、また」

 余談ですが、神埼君って打つと何回かかんざっくあんってなるんですよね。カタカナにすればガンダムみたいですね。はい。

 誤字脱字、批判ありましたら報告お願いします。感想も待ってます!(切実に)


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やはりクラナドは人生

いや、坂柳を出そう出そうと思っても、どう出せばいいのか全くわからないまま7話まで。


 現在寮の俺の部屋。最近は平日でも俺の部屋が侵略されている。椎名はもうかなりの数のラノベを読み、たまにアニメで見たセリフを言ってしまうまであった。この間いつもの抜けた顔で「やっはろー、です」と言われた時はまじでどうすりゃいいのか本当に困った。

 

 そして今日も俺の部屋でアニメを見ているわけだが……。

 

 「……っ、…………っっ!」

 

 椎名さん、泣いてます。『クラナド』見て泣いてます。時々「渚さん……っ!」とか言ったりしている。あの椎名を泣かすとは流石だ。というかこの様子だとk〇y作品は基本泣くんじゃないだろうか。やはり彼女は感受性が高い。まあ、俺も感動したよ? 泣きはしなかったけど……。

 というか椎名が気になって全くアニメに集中できない。

 ようやく見終わり俺はやっとかと脱力した。

 

 「なあ……大丈夫か?」

 「……はいっ……ごめんなさい」

 「いや、良いんだけどさ……」

 

 俺は椎名を洗面所に行くように促した。まともに顔見れなくてずっと顔を背けてたよ。

 すると椎名は戻ってきた。

 

 「すいません失礼しました。とても感動しちゃって」

 「そうか、それは良かったね」

 「はい、これを見ない人は人生を捨ててますね」

 「そんなに良かったのか……?」

 

 まあクラナドは人生とまで言われてるからな。

 てか君も俺が紹介しなきゃ絶対見ないだろうから。人生捨てかけてたんじゃないのか?

 

 「はい。安藤君こちらの原作はないのですか?」

 「んー、ないこともないと思うけど……。これはゲームからアニメになったからなー」

 「そうですか、ゲーム……。安藤君がやってるようなものですか?」

 「そうだな、中学の時はやってたかな……」

 

 確かあのときは面白そうなギャルゲーを片っ端から手をつけてたからな。今は普通にドラ〇エとかメジャーなゲームしかやってないな。

 あ、そういえば―――――

 

 「今日、新刊の発売日だ……」

 

 あ、俺の隣にいる子の雰囲気が変わった。失言だったな今のは。最近の椎名はこの状態になるとめっちゃ近くなる。最初の頃よりも断然。というか、普段一緒にいる時も肩が触れるぐらい近い。確か、一之瀬さんたちに椎名を紹介してから近いんだよな、何でだろ。当初、椎名の柔らかい所が色々当たって、俺の理性がやばかったので離れてくれるよう頼んだのだが、シュンとする椎名が見ていられなかったので許容することにした。1週間もしたら慣れるだろうと考えた俺をひどく後悔した。

 

 「行きましょう……!」

 「そうだな、行くか」

 

 テレビの電源を切り、俺は軽く伸びをした。

 もうすぐ夏休みだな。あ、その前に期末テストだ……。嫌なこと思い出した。

 また勉強三昧と思うと憂鬱になる修永だったが、椎名と勉強できるなら良いかと思った。

 

 部屋を出ると6月特有の梅雨のジメジメが身体を襲う。暖かくなったとはいえ、これはなんとなしにだるくなってくる。

 

 「晴れてよかったな」

 「そうですね、最近はずっと雨続きでしたから。湿気で私の小説がふにゃふにゃになってうんざりしてたんです」

 「そうだな、昼も教室で食うはめになったし……」

 

 あれは騒がしくてたまらなかった。

 てか女の子は髪の毛とかを気にするもんじゃないのか……。そこで本の心配するとは流石椎名クオリティー。

 

  

 本屋でラノベの新刊を購入した俺と椎名はケヤキモールのカフェにいた。

 

 「もうすぐ期末テストですが、勉強は進んでいますか?」

 「おお、やってるよ? 余裕余裕」

 「やってないんですね……」

 

 椎名は溜め息を吐いた。というか何故ばれたし。

 

 「また勉強会をしましょうか」

 「それはいいが……椎名は自分の勉強は良いのか?」

 「私は授業を聞いていればテストはできます。ですが、私には安藤君を監督する義務がありますから」

 「俺は選手かなにかなのか?」

 

 まあ椎名になら喜んで監督されるけど……。

 

 「あっ、安藤君に椎名さんだー!」

 

 不意にカフェの入り口から名前が呼ばれる。入口を見ると、一之瀬さんがいた。

 一之瀬さんはレジに向かいカップを持って俺たちの隣の席に座った。

 

 「こんにちは。安藤君、椎名さん!」

 「こんにちは。一之瀬さん」

 「どうも……」

 「今日? は1人なのか?」

 「ううん、これから友達と買い物に行くんだけど、早く来ちゃったからここで時間潰そうと思って」

 「そういうことでしたか」

 

 一之瀬さんと椎名は雑談を始めた。この間紹介した時はあまり仲良さそうに見えなかったが、どうやら杞憂だったみたいだ。俺はちょっとと言ってトイレに向かった。

 

 

 _______________

 

 

 安藤君がお手洗いに行った後一之瀬さんが私に詰め寄ってきました。

 

 「な、何でしょうか……?」

 「私、気になってたんだけどさ。椎名さんと安藤君っていつから付き合ってるの?」

 「はい……?」

 

 一之瀬さんは何を言ったんですか。私と安藤君が付き合っている?

 

 「あの……別に安藤君とは交際関係にあるわけではないのですが……」

 「えーー!? 2人って付き合ってないの?」

 「はい、まあ」

 

 一之瀬さんは目を丸くして心底驚いているというのが見てとれます。

 

 「あの、他人から見れば私たちは、その……付き合っている様に見えるのでしょうか?」

 「いや、まあ。というか、あれで付き合ってないってのはさすがに……」

 

 そうなのでしょうか、安藤君とは普通に仲が良いだけだと思いますが。

 

 「椎名さんは安藤君のこと好きじゃないの?」

 「好きですよ? もちろんです」

 「あぁ……なるほどねえ」

 

 一之瀬さんは苦笑いをしました。

 

 「そうだ、ねえ椎名さん。連絡先交換しない? 私椎名さんと友達になりたいな。BクラスとかCクラスとか関係なくさ」

 「……そうですね、私も嬉しいです。よろしくお願いします」

 「本当? やった。じゃあさこれからはひよりちゃんって呼んでいいかな……?」

 「良いですよ、となると私も下の名前で呼ぶべきでしょうか?」

 「うーんそうだね、強要するわけじゃないけど、私だけ下の名前で呼ぶのもね……。距離感じちゃうし。ひよりちゃんとは対等な友達でいたい、かな?」

 

 なるほど、そういうものですか。ただ、龍園君は彼女を敵視していますし……。

 

 「わかりました。帆波さん、と呼ばせていただきます。一応Cクラスの面子もありますから、時と場合に依るかもしれませんが……」

 「ありがとう! そうだね、Cクラスの子がいるときは前と同じように呼ぶよ!」

 

 いえ、できればそういう時は話しかけないでほしいのですが……。まあ龍園君に何か言われたら、Bクラスの内情を探っているなどと言っておきますか。

 すると安藤君がお手洗いから戻ってきました。

 

 

 _______________

 

 

 トイレから戻ると一之瀬さんが椎名に楽しそうに話掛けていた。椎名の方も別に嫌って雰囲気ではない。

 というか、2人とも下の名前で呼び合っている。俺がいない間に何があったんだ。

 まあ、仲良くなったのなら別にいいか。

 俺が戻ると一之瀬さんは「もう行かなきゃ」と言ってカフェから出て行った。それに倣って俺たちも帰宅することにした。

 ケヤキモールを出ると、雨が降っていた。

 

 「まじかよ……さっきまでめちゃくちゃ快晴だったのに……」

 「本当ですね、天気予報は晴れだったんですが……」

 

 俺と椎名は深く溜め息を吐いた。

 雨は結構な勢いで降っており、本が濡れてしまうので結局コンビニに寄って傘を購入した。俺が2本買おうとすると、椎名にもったいないと止められてしまい、1本だけ購入した。つまり何が言いたいかというと……

 

 「安藤君肩が濡れてますよ。もう少しこちらに寄って下さい」

 

 ……こういうことである。わかるだろう? これは俗に言う相合傘というやつだ。 

 そして今椎名にもう少しこちらに寄れと言われたが、すでに近いのである。具体的には肩と肩が触れ合う距離。これ以上近づけばもう完全にくっつくことになる。そうなってしまえば俺の精神はもたない。

 

 「いや、大したことないから。気にしないでくれ」」

 

 俺が躊躇っていると、椎名は不機嫌そうな顔になった。

 

 「何が大したことないですか……びしょびしょですよ。まったく……」

 

 椎名は呆れるように言いながら俺の方に寄って来た。めちゃくちゃ近いです。なんというか、心底たまりません。

 俺が感慨に耽ってると椎名からの追撃が俺を襲う。

 

 「まだ当たってますね。それなら……」

 「なっ……椎名さん!?」

 「これなら濡れませんね」

 

 椎名は俺の腕に抱きつくようにした、まあ要するに腕組みである。こんなん恋人同士がするもんだろ! まあ椎名は無自覚でやってるだろうけどさ! 本当天然って怖い!

 結局寮に着くまでの間僅か10分もなかったが、着いた頃には俺はすでに瀕死状態。

 

 今日購入したラノベをだしに、なんとか椎名を部屋に帰すことができた。

 部屋に帰ってきてベッドに倒れ込んだ俺はめのまえがまっくらになった。

 

 




感想見て結局超大幅に改稿した。実際帆波との繋がりが欲しかっただけだしね。最初の方見た人は本当すいません。
 
一成「短くない?」
作者「原作関係ないと、ちょっと」
一成「気抜けてるんじゃないのか?」
作者「そうだな、このコーナーなくせば、その分増えるかもな」
一成「あ、待って嘘です冗談ですごめんなさい!」

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橘書記は小動物可愛い

ついに坂柳登場。しかし、敵にしてしまった。坂柳好きはごめんなさい。本当は私も坂柳は好きなんです。


 昼休み。夏休みまであと数日、と迫ったところで俺と椎名はいつもの如く一緒にいた。

 ここ数日、学校の生徒たちはみな浮足立っている。その理由としては3つ。1つは苦難多き期末テストを戦い抜いたこと。1つはあと数日で夏休みだということ。そして最後に夏休みにある豪華客船旅行が要因だろう。

 現に俺たちCクラスも教室内がやけに騒がしかった。

 

 「皆さん、随分浮足立っていましたね」

 「そうだな。まあ仕方ないだろう」

 「そうですね……」

 

 椎名は神妙な面持ちで言った。何か気になることでもあるのだろうか?

 

 「安藤君はこの旅行、どう思いますか?」

 「どうって……ただの旅行じゃないのか?」

 「この学校がただの旅行をすると思いますか?」

 「なるほど……まあ、しないだろうな」

 

 なるほど。まあ、無償でそんなうまい話はないわな。

 

 「まあ、気にしなくて良いんじゃないか? また龍園がどうにかするだろ」

 「またそんな他人任せな……。私も人のことは言えませんが」

 「一応他クラスへのケアはやるけどな……。幸いBとDクラスならパイプは持ったし」

 「そうですね。帆波さんはBクラスのリーダーらしいですから」

 

 そうなのか、やけに知っているな。カフェで会ってからそんなに仲良くなったのか。

 

 「まあ、なんにせよ、俺は旅行を楽しむさ。そっちの方が退屈しない」

 「そうですね。私も楽しむことにします」

 

 ちなみに豪華客船と聞くが、バーなんかもあるんだろうか。一度あのしゃかしゃかを見たいと思っていたんだが……。

 

 

 _______________

 

 

 その日の放課後。椎名は今日、茶道部の集まりがあるらしいので1人で帰宅する。1学期最後の部活らしく夏休みは自由参加らしい。1度「安藤君も来ますか?」と聞かれたが、正座は苦手なので遠慮させてもらった。 

 

 校舎を出て、歩いていると前方から数人の生徒がこちらに向かってきていた。真ん中にいる銀髪の女子生徒は杖を使って歩いている。なるほど、他の人たちは彼女が足が悪いのを気にして付き添っているのか。なんと素晴らしい福祉精神だろうか。俺も見習、わないけど、尊敬はしよう。

 俺が横にずれると、その集団も同じ様に横に移動した。あっ、良くあるやつね、と思った俺はもう1度横にずれた。するとまた同じ様にして横に動いた。

 なんか怖いんだけど……。さっきまで気づいてなかったけど、この人たち全員俺のこと見てるんだけど。えっ、もしかしてリンチ? これがジャパニーズリンチ? 俺なんかしましたかね、障がい者の方にすら恨みを持たれていたということでしょうか。

 いや、まだわからない俺と同じように動いてこいつ邪魔だなって思っただけかもしれない、ならばこのままずれずに進めばいいんだ。俺に用があるわけない!

 

 「御機嫌よう?」

 

 あっちゃったよ…………。

 ということはリンチ確定か、久々だが、まあなんとかなるだろう。満足すれば終わるだろう。

 

 「どうも。俺に何か用か?」

 「ええ、そうですね。夏休みに入る前にあなたと話してみたかったんです。とても興味があったので、Cクラスの安藤君?」

 「えっ、俺をリンチするんじゃないの?」

 

 俺がそういうと銀髪の少女は一瞬疑問符を浮かべ、すぐにふっと笑った。

 

 「そんな野蛮なことは致しませんよ。第一、監視カメラがありますしね」

 「そうか、良かった。何か恨みでも買ったのかと思った。あれ? それじゃあ何で俺の名前を……?」

 「そうですね、龍園君に支配されていない生徒がいると聞きまして、興味深かったので調べてもらいました」

 

 くそう、龍園の奴め。関わっても関わらなくても俺に被害をだすなんてなんて奴だ。

 

 「いや、俺は取るに足らない人間だからな。龍園も興味がないんだろ」

 「本当にそうでしょうか?」

 「本当も何も、事実だからな」

 「私はそうは思いませんが……」

 

 こいつ……。

 

 「怖いですね、そう睨まないでください。私は提案をしに来たのですよ」

 「提案……?」

 「ええ。安藤君私の派閥に入りませんか?」

 「派閥?」

 「そうです。あー、自己紹介が遅れましたね。私、Aクラスの坂柳有栖と申します」

 

 坂柳という少女が言うと、それに倣って傍にいる2人の生徒も名前を言った。男子の方は橋本正義、女子の方は神室真澄というらしい。

 というかこの神室さんって子、すげー不機嫌そうな顔をしてる。何がそんなに不満なんだろう。

 

 「今、私たちAクラスでは私の派閥。そして葛城君という男子の派閥で二分されています」

 「はあ……」

 「それで私は安藤君にオファーを掛けに来たのです」

 「何がどうしてそうなったのかは知らんが……俺は入らん、興味がない。第一俺にお前の派閥とやらに入ることで俺に何のメリットもないしな」

 「貴様、坂柳さんをお前呼ばわりだと!」

 

 橋本君が俺の言葉に食ってかかる。随分と忠誠心が高い生徒だ。

 

 「やめなさい、橋本君。私は気にしていませんから」

 「しかし、坂柳さん!」

 「やめなさいと言ったのが聞こえないのですか?」

 「っ……!? すいませんでした」

 「忠誠心が高くても、躾がなってないなら飼い主の底が知れるな」

 「なんだと!」

 

 俺が煽るように言うと橋本君が激昂して迫ってくる。

 その時――――――

 

 「何をしている」

 

 低く凛々しい声が響く。橋本君もそれを聞いて制止する。

 声の方を見ると眼鏡の切れ目のイケメンがこちらを見ていた。横に女子もいる。というかあの眼鏡の人、どっかで見たことあるんだよな……。

 

 「これはこれは生徒会長。何か用ですか……?」

 

 なるほど、生徒会長か道理で見覚えあるなと思った。

 

 「坂柳、何の騒ぎだ?」

 「いえ、うちのクラスの橋本君がCクラスの安藤君との話で盛り上がってしまっただけです」

 「そうは見えなかったが……」

 

 生徒会長はこちらを見てくる。癪だが、今回は坂柳に乗っかるか。

 

 「坂柳の言う通りですよ生徒会長。ねえ、橋本君?」

 「そうなのか?」

 「え、あぁ、そうです生徒会長」

 「ふむ、まあ問題がないならそれでいい」

 「では、今日は戻ります。安藤君? やはり私の目に狂いはないと思っています。では、またいつか」

 

 そう言って坂柳たちはこの場を去っていく。できればもう会いたくないな。

 俺も帰ろうと思うと急に生徒会長から話しかけられた。

 

 「お前が安藤修永か?」

 

 え、何で俺の名前知ってるわけ? いつから俺はそんな有名人になっちゃったの?

 

 「まあ、そうですが……」

 「なるほど、安藤先輩の言ってた通りの男だな」

 「……兄を知ってるんですか?」

 「ああ。俺が1年の頃、生徒会で世話になった。安藤先輩は生徒会長だったからな」

 「なるほど……」

 「お前のことはよく聞かされた。聞いてた通りの奴だ」

 

 兄は俺のことを話したのか。ならこの人は大丈夫だろう。兄の人の見る目はすごい。絶対に口外しないからこそ兄は話したんだろう。

 俺はおどけるようにして言った。

 

 「兄と比べて平凡なつまらない男でしょう?」

 「そうだな、とてもつまらなそうだな。ただ、もっと無口だと聞いたが、この学校に来て何かあったのだろう。安藤先輩もそれを望んでいたからな」

 「そうですね、確かに良い出会いはありましたね」

 「そうか……先輩には何かあったら手助けしてくれと頼まれたが、必要ないようだな」

 

 生徒会長はそう言うと傍にいる女子に話しかけた。

 

 「橘。まだ書記の席が1つ空いていたな?」

 「はい。先日申し込みのあったAクラスの1年生は1次面接で落としましたので」

 「安藤。お前が望むなら書記の席を譲っても構わん」

 

 生徒会長の提案に橘さんはひどく驚いていた。

 

 「せ、生徒会長……本気ですか?」

 「不服か?」

 「い、いえ。生徒会長が仰るなら、私に異存はありません」

 「どうだ、安藤」

 「いえ、遠慮しときます。俺には荷が重いです」

 「まあ、そうだろうな」

 

 提案したにしてはあっさりとしている。

 生徒会長の言葉を聞いて橘さんがさらに驚いた。

 

 「えええっ? 生徒会長からのお誘いを断るんですか!?」

 

 この人さっきからなんなんだ、小動物でも見てるようだ。端的に言って飼いたい。

 俺が犯罪染みた、っていうか一発で捕まるであろうことを考えていると生徒会長は踵を返した。

 

 「行くぞ橘」

 「は、はいっ」

 「安藤、気をつけろよ」

 

 それは何に対して言っているのか、含みのあるような言い方だった。

 

 

 _______________

 

 

 生徒会長と坂柳との邂逅から数日後、つつがなく1学期も終了し、いよいよ夏休みに入る。ちなみにあの後、椎名に生徒会長の名前を聞いたところ、呆れた様子で教えてもらえた。堀北学というらしい。

 夏休みに入るとすぐに2週間の旅行がある。ということで今日と明日は俺の部屋でアニメの一気見の予定だ。船では本は読めるが、アニメは見れないからな。

 ちなみに今の椎名の流行りは『リゼロ』らしい。バトル物は好きじゃないらしいが、スバルが能力でなんとかして生き抜くところが好きらしい。椎名の押しキャラはアルだそうです。女子って無条件でイケメン好きなわけじゃないんだと知りました。

 

 「思ったより残酷な描写が多いですよね。アニメでも結構血や音がすごいですし」

 「そうだな。椎名はこういうの苦手か?」

 「いえ、別に。私は平気ですよ?」

 「そうなんだ、ちなみにホラーとかは苦手なのか?」

 「…………いえ、苦手ではないですけど」

 

 今、なんか間があったような。椎名を見ると少しだけ動揺していた。

 その様子を見て俺のいたずら心が疼いた。

 

 「そうなのかー」

 「……何ですか、その棒読みは」

 

 俺がにやにやしていると椎名はむっとして頬を膨らませた。

 

 「いや別に? そういえば今日はたまたま、たまたま借りた映画があるんだが一緒に見ないか?」

 「何故そんなにたまたまを強調するのかわかりませんが、良いですよ」

 

 いや実際たまたまなんだよね。

 椎名の了承を得た俺は椎名が帰ったら見ようと思ってた呪〇のディスクを入れて再生した。

 

 「これは……ホラー映画ですか」

 「ああ、椎名が帰ったら見ようと思って一緒に借りたんだ」

 

 雰囲気を作るために電気を消した。

 映画が始まる。椎名は平気そうな顔をしているが、若干顔が引きつっている。やはり苦手なのか。

 椎名は絶叫こそしないものの、そういうシーンが来るたんびに肩がびくっと震える。特に何もないシーンでも身体が小刻みにぷるぷると震えている。

 俺はその様子を見て終始笑いをこらえていた。

 映画が終わると椎名は深く息を吐いた。

 俺はそれでもにやにやが収まらず、椎名は涙目で俺をキッと睨んできた。

 

 「安藤君はいじわるです……」

 「くふっ。すまんすまん、強がる椎名なんて初めて見たからな。少し魔が差したんだ」 

 「小説で読む分には平気なんですけどね……。映像になると少し……」

 「そうか、震えを抑えようとする椎名は中々可愛かったけどな」

 「え?」

 「ん? …………あっ」

 

 しまった。なにナチュラルに可愛いとか言ってんだ俺は。俺と椎名で無言の空間が形成される。

 

 「あ、あー! これでも見るかー!」

 「……はい」

 

 羞恥を誤魔化すように俺は慌てた様子で『Charlotte』のディスクをp〇4に入れ再生した。

 先ほどのことで恥ずかしかった俺は内容もまったく頭に入ってこない。さらに電気を点け忘れた俺は昨日徹夜したせいか眠気は最高潮だった。すると少しして俺はいつの間にか意識が途切れていた。

 

 

 _______________

 

 

 「安藤君……?」

 

 隣の男子の雰囲気が変わったことに気づいた私は男子の名を呼びました。安藤君を見ると座ったまま、目を閉じて寝息を立てていた。どうやら眠ってしまったようだ。

 

 「また、朝までゲームでもしてたんでしょうね……」

 

 私は溜め息を吐いた。こっちはさっき言われたことで動揺していたというのにまったく呑気な男ですね。

 寝ている安藤君を見て私は思いました。これは先ほどの仕返しができるのでは、と。

 そうして私は口元を歪ませました。どう仕返ししてやろうか。そこでさっき見た『リゼロ』のエミリアがスバルに膝枕をするシーンを思い出しました。起きた時膝枕されていればかなり動揺するんじゃないでしょうか?

 私は安藤君が驚き、慌てふためく姿を思い描きます。これなら十分仕返しになるだろうと思った私は女の子座りから正座の体制になり、安藤君の頭を私の膝の上に乗せました。

 

 「楽しみですね……」

 

 私はにこにこと微笑みながら安藤君が起きるまでアニメを見ながら待ちました。そういえば、エミリアが頭を撫でていたのを思い出し何となく安藤君の頭を撫でました。癖のないショートカット。多分彼のことですから髪のケアなんて特にしていないでしょう。それに苦労している女子はさぞ羨ましいでしょうね。私はそんなことはありませんが。

 そんなことを考えながら頭を撫で続けていると私はそのまま眠ってしまった。

 




描写は少ないけど橘書記ってめっちゃ可愛いと思います。具体的にタイトルにしちゃうほどの可愛さ。

作者「お前がうるさいから出してやったぞ?」
一成「いや、え!?」
作者「なんだよ、感謝しろよ」
一成「あ、ありがとう?」
作者「おう、もう出番ないから」
一成「えっ、は? まじ?」
作者「もち」
一成「…………」

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旅行前のデート

椎名のキャラが崩れます。いや前からだけど今回はよりひどいです。注意を。それと次から原作3巻に入ります。


 …………これは一体どういう状況だろうか。

 

 「すー、すー……」

 

 俺の頭上では椎名が目を閉じて規則正しく寝息を立てていた。

 めちゃくちゃ可愛い。写真撮りたい。じゃなくて!

 というか頭になんか柔らかい感触が……ってこれ!?

 

 「っ!?」

 

 寝惚けていた意識が一気に覚醒して、俺は自分が椎名に膝枕されていることに気づいた。

 俺は驚いて飛び起きそうになったが、椎名を起こすのは悪いと冷静になった。頭には椎名の手が置かれていて多分撫でられていたのだろうか。これではまるで子供のようだと恥ずかしくなった。

 もうすでに6時だが、少しは寝かせるべきだろうと思い、俺は慎重に椎名の手を退かし、椎名が起きないようにそっと起きた。そして椎名をベッドの上に運び、横にした。

 

 (何故寝落ちしたんだ……!)

 

 俺は切実に昨日の俺を悔やんだ。

 意図してではないとはいえ、お泊りを体験してしまった。というか椎名も椎名だ、膝枕してるってことは俺が寝落ちした時は起きていたはずだろう。それなら俺を起こしてくれよ……! 何で深い眠りに誘っちゃうんだよ!

 俺は深く溜め息を吐いた。

 

 「……朝飯でも作るか」

 

 俺はキッチンに向かい、朝食を作り始める。

 普段は適当に作るが、今日は椎名もいるし気合いを入れて作るか。

 そう思い俺は目玉焼き、ウィンナー、味噌汁を作った。そういえば、椎名は米派だろうか?

 考えていると匂いにつられたのか椎名がキッチンにやってきた。

 

 「おはようございます。とってもおいしそうですね」

 「ああ、おはよう。ちょっと待ってくれ、もうすぐできる。ちなみに椎名は朝は米で良かったか?」

 「はい、構いませんよ」

 「そうか、それなら良かった」

 「はい、。あの、顔を洗いたいので洗面所をお借りしても良いですか?」

 「あぁ、いいぞ」

 

 俺は完成した料理をテーブルに運ぶ。並び終えると椎名が戻ってくる。座布団に座り、手を合わせ「いただきます」と声にし、朝食を食べ始めた。

 

 「椎名、昨日は途中で寝ちゃってごめん」

 「いえ、私も寝てしまいましたから同罪です。あ、この味噌汁おいしいです」

 「ありがとう。……じゃなくてっ」

 「……?」

 「何で起こしてくれなかったんだ。そうじゃなくてもさっさと帰ればよかっただろ」

 「……はっ、そうでした!」

 

 椎名はそう言うと落ち込んで小さく「仕返しが……」と言っていた。何のことだろう。

 

 「安藤君、どうでした?」

 「何が」

 「ですから、膝枕です」

 「どうって…………最高でした」

 「いえ、そうではなくて。驚きましたか?」

 「はっ? あ、ああ、まぁ。かなり。」

 「そうですか。それならやったかいがあります。その時寝てしまっていたのは残念でしたが……」

 

 俺が言うと椎名は満足したように微笑みながらうんうんと頷いた。

 直に俺たちは朝食を食べ終えた。

 

 「ごちそうさまでした、とってもおいしかったです」

 「お粗末さん。口に合ったなら良かったよ」

 「はい。こんなにおいしいなら毎日いただきたいです」 

 「…………」

 

 この天然が! 朝一発で衝撃のファーストブリットを叩きこんできやがった。流石は天然恐るべし。逆だと思うけど……。

 

 「んんっ……ともかく、もう帰った方がいいだろ」

 「そうですね。ですがその前にお皿くらい洗わせて下さい」

 「ああ、頼むわ」

 

 そう言って椎名とキッチンに立った。椎名が皿を洗い、俺がそれを拭いて水切りかごに置いていった。こうしているとなんだか……いやいや。

 

 「こうしていると、まるで新婚夫婦のようですね」

 「ぐはっ……!」

 

 椎名から撃滅のセカンドブリットが炸裂! 修永のライフはもうゼロよ!

 というか、何で言ったし、普通思っても言わないだろ。

 落ち着け俺。どうせ椎名のことだ、大した意味もなく言っただけに違いないんだ。

 

 「ふー、よし。落ち着いた」

 「……?」

 「それじゃあ、部屋に戻りな。またアニメ見るにしても着替えたりしたいだろ?」

 「そうですね。それでは、1度戻ります」

 「おう」

 

 玄関で椎名は靴を履き、ドアを開け、る前にこっちを振り返った。

 そして強烈な置き土産を残していった。

 

 「なんだ?」

 「これは俗に言う朝帰りというものなんですかね」

 「はっ?」

 「それでは、またあとで」

 

 椎名は部屋を出て行った。

 抹殺のラストブリットが炸裂した。オーバーキル! 

 

 俺は玄関の前に立ち尽くし、椎名からの連絡で携帯が鳴り響くまで停止していた。

 寝起きの椎名は俺には荷が重すぎたようです。 

 ていうか朝帰りなんてどこで知ったんだよ。多分そういう意味で言ったんじゃないと思うけど……。

 

 

 ________________

 

 

 結局今日は部屋にいると俺がもたなそうなので、出掛けることにした。

 お互い準備を整え、時間をおいて寮の前に集まり、とりあえずケヤキモールに向かう。

 というか前々から思ってたんだけど、椎名っていつ勉強してんのかな? 思い返してみれば、部屋であれだけ本を読んでて、最近は俺の部屋でアニメ見て、テスト前も俺の勉強見て自分のをしてるとこはほとんど見ない……。前に授業を聞けば十分と言っていたが、マジだったんだな。しかし、本当もったいない。運動は仕方ないにしても、コミュニケーション力があれば、間違いなくAクラスの逸材だろうに。

 

 「今日はどうしましょうか。まだお昼には早すぎますし……」

 「そうだな。うーん?」

 

 そういえば、俺と椎名は純粋な遊び目的で出掛けたことないな。休日一緒でも、新刊の購入とかアニメ借りに行って、そのままカフェに寄って俺の部屋だからな。健全な高校生の休日とは言えない。ましてや異性同士だとなおさらだ。

 しかし、普通の高校生って何して遊ぶんだ?

 俺は思いついた高校生っぽい遊びを出していく。

 

 「カラオケ、ゲーセン、映画、とか」

 「ふむ……」

 「ボウリング、ショッピング、帰る。どれにする?」

 「最後のはどうなんでしょう……」

 

 椎名は溜め息を吐き、安藤君ですしと納得していた。ちょっと悲しい。

 

 「私1度ゲームセンターというものに行ってみたかったんです。安藤君の貸すものに何度も出ていて、気になっていたんです」

 「そうなのか? じゃあ、行くか」 

 「はい……!」

 

 目的地の決まった俺たちはゲーセンに向かう。多分椎名はあまり好きじゃないと思うけどなー。

 ゲーセンに到着し、中に入った瞬間椎名が眉を顰めた。

 

 「随分騒がしいですね」

 「うん。言うと思ってた」

 

 まあ予想してましたよ。椎名は基本静かなところが好きだからな。俺は人が少なければうるさくても問題ないけど。

 眉を顰めていた椎名だが、UFOキャッチャーを見るなり目を輝かせた。

 

 「これが噂の……やってみてもいいですか?」

 「お、おう」

 

 椎名は猫のぬいぐるみのUFOキャッチャーをやり始める。クッションになるような顔がでかいやつだ。椎名は初めてだからか、全くとれない。椎名は無言で黙々とプレイする。声には出さないが、不機嫌だ。顔を見ずともわかるほどに……。彼女は随分のめり込むタイプのようだ。

 

 「…………」

 「……偉い人は言いました。UFOキャッチャーは貯金箱であると」

 「くっ……」

 

 俺が有名なネタを使うと椎名はようやく停止し、こちらを向いた。若干涙目である。そんなに欲しいのか?

 椎名は俺を見てからぬいぐるみに視線を向け、また俺を見る。まるで何か俺に訴えているかのようだ。そんな捨てられた子犬みたいな目で見るなよ……。

 俺は溜め息を吐いてUFOキャッチャーの前に立ち携帯でポイントを払い、プレイする。

 1回目でぬいぐるみの向きを変え、2回目で耳の部分をうまく引っ掛けて掴むことができ、ゲットした。

 

 「あっ、取れた……」

 「……」

 

 ぬいぐるみを出し、椎名を見ると少し悔しそうな顔をしていた。まあ君は10回以上やって取れなくて俺は2回で取ったから、わからなくもないけど……。

 椎名は猫のクッション型ぬいぐるみをじーっと見ている。俺が左右上下にぬいぐるみを動かすと椎名もそれにつられて視線が動く。

 このまま楽しむのも良いが、あまり悪ふざけしすぎて不機嫌になられても困るしな。

 俺は椎名の前にぬいぐるみを差し出した。

 

 「椎名、これあげるよ」

 「いいんですか……?」

 「もちろん」

 「あ、ありがとうございます」

 

 椎名は俺からぬいぐるみを受け取ると、最初は戸惑っていたが、すぐに嬉しそうな顔をしてぬいぐるみを抱きしめた。はい、とても可愛いです。

 そしてその後はゲーセン内をぶらぶらしていると椎名があるものを見つけて立ち止まった。

 

 「安藤君、プリクラですよプリクラ! あの伝説の……!」

 「いや、ちょっ……!」

 「行きましょう」

 「待ってって、うわっ」

 

 椎名は俺の腕を掴んでプリクラの筐体の方へ向かう。何がどう伝説なのかはわからないが、アニメ知識だろう。

 プリクラの中に入ると椎名は目を輝かして中を興味深そうに見る。

 

 「こんな風になってるんですね。アニメで見てどんなものなのかずっと気になってたんです」

 

 やはりアニメで見て興味が出たそうだ。

 

 「俺は写真は苦手なんだが……」

 

 昔、七五三の時に写真屋さんまで行ったのだが。笑ってくれと言われたので笑ったのに、全然笑えていなかったらしく、撮影に2時間以上かかってしまったことがある。どうやら俺は兄のような作り笑いは一生できないのだと思い知った日だった。それ以来なんとなく写真は面倒なものとして俺の中で決定されてしまった。

 そんな黒歴史を思い出している間に、椎名はさっさとポイントを払ってしまい、始まってしまう。本当話聞かないねあなた。

 

 「安藤君、さあさあ」

 

 椎名はカメラの前に移動すると俺を手招きする。仕方ないかと諦めた俺は椎名の横に移動した。

 すると目の前に女性2人が写っている写真が現れ、機械音で「ポーズをとってね」と聞こえた。俺たちはポーズなどわからないので写真の2人を真似て撮ることにした。

 最初は横に並んでポーズをとるだけだったが背中を合わせたり、カメラに顔を寄せて頬をくっつけたりなど接触が多いのがあった。真似ることに集中している俺は特に気にせずにポーズをとった。

 撮影が終わってから、ようやく自分が恥ずかしいことをしていることに気づき、羞恥で悶え死にそうだった。

 落書きができると言われ、椎名は軽快に向かっていた。

 

 「これが、やってみたかったんです」

 

 どうやら椎名の目的はこちらだったようだ。

 まだ顔が熱い俺は椎名に飲み物を買うと言って離れた。だって今写真見たら、俺気絶する自身あるぞ。

 自販機で自分と椎名の飲み物を買った俺は落ち着いた後、プリクラに戻った。ちょうど椎名は出てきていた。椎名は写真を見てにこにことしていたのでまあ、やったかいはあるだろう。

 俺はさっき買ったお茶を椎名に渡した。

 

 「ありがとうございます。ごめんなさい、ポイントが……」

 「いや、いいさ。プリクラは椎名が払ってくれたからな」

 「そうですか、すいません」

 

 椎名は申し訳なさそうにお茶を受け取った。

 

 「それにしても疲れた。写真は本当に苦手なんだ」

 「そうなんですか?」

 「ああ、どうも作り笑いの才能がなくてな」

 「……? でも、安藤君普通に笑えていますよ?」

 「えっ?」

 

 すると椎名は俺の前に写真を出した。

 写真の中の男女は正にバカップルといったポーズをとっていた。そして女子の方は嬉しそうに笑っており、男子の方もしょうがないといった感じで小さく笑っていた。

 

 「誰だこいつは……」

 「……? 安藤君ですよ?」

 「……俺って目さえ美化されれば結構イケメンになれたかもしれないのか……」

 「……よくわかりませんが、安藤君は普通に格好良いと思いますけど……」

 「……」

 

 俺はさりげない天然アタックを耐える。

 そして椎名は2枚ある写真の1枚を俺に差し出した。

 

 「どうぞ……」

 「あ、ありがとう」

 

 俺はまだ写真の中の男が自分であるのが信じれなく、何度も写真を確認した。しかしどうあってもそこにいるのは俺と椎名の2人。

 俺は何度目かわからないが、再度自分の目を恨んだ。

 その後椎名に「私は安藤君の目、好きですよ?」と言われ、耐えられなかったのは秘密。

 

 それと、ちょびっとだけ写真が好きになりました。

 

 

 

 

 

 




ゲーセンなんて学校にあるかわからないけど、お許しください。
 
作者「話すネタないから今日中止ね」
一成「ひどいよ! ここしか出番ないんだから!」
作者「チッ、じゃあ昨日ようやくWW2買いました」
一成「それ近況報告じゃん!」
作者「ここ書くのに使う時間で1話かけるんだよ!」
一成「たった100文字でそんなにかかるの!?」
作者「1度書いたからにはつまんなくてもやめられないんだよぉぉぉ!」
一成「そんなに嫌なの!?」

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ツンデレ、来襲。

3巻突入です。龍園はこんなに綺麗じゃない!


 常夏の海。広がる青空。澄み切った空気。そよぐ潮風は優しく体を包み込み、真夏の猛暑を感じさせない太平洋のど真ん中。そう、ここはまさにシーパラダイス。

 ふむ今何かシンパシーのようなものを感じたな、まあいいか。

 現在俺は椎名と共に豪華客船のデッキにいる。朝食を食べたら、自由と言われていたのでどうせなら一番眺めが良い所から海が見たいということで来たのだが、まさにシーパラダイス。他の生徒たちもみなこの景色に見とれているものばかりだ。

 

 「本当に素晴らしい景色ですね」

 「まったくだな、客船内もすごかったしな」

 

 そう。この客船内には一流の有名レストランにシアター、高級スパまで完備されている。ちなみに俺が行きたいと思っていたバーもあった。後で絶対行こう。

 こんな贅の極みのような旅行を高校1年生がする。予定ではこれから向かう無人島にあるペンションで1週間、その後はこの客船で1週間を過ごすということになっている。

 

 『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』

 

 突如そんなアナウンスが流れる。すると、椎名が首を傾げた。

 

 「意義……ですか。妙な言い回しですね」

 「そうだな、意義……つまりその景色に価値があるということか」

 「やはりただの旅行ではないようですね」

 「まあ、俺はどうでもいいけど……」

 

 そう言うと椎名が俺をジト目で見て「またそんなことを……」と呟いた。

 直に生徒が続々と集まると、数分後その島は姿を現した。

 生徒たちはそれに気づき、一斉にデッキに集まった。

 

 「テメェ何しやがる!」

 

 すると少し離れた場所が騒ぎ始めた。どうやら生徒間でいざこざがあったようだ。そちらに視線を向けるとDクラスの須藤君や綾小路君がいた。

 

 「またあの男子ですか……」

 「まあ、そう言うなよ」

 

 椎名は中間テスト前に図書館で騒いでたのを見たせいか、須藤君のことはかなり好きじゃないようだ。

 少しすると、船首の方から綾小路君一行が出てきた。かなり怪訝なムードだな。話しかけるのはやめておこう。

 すると綾小路君の所から1人の男子が女子の方へ向かっていく。何かを決意したような顔だ。俺は生告白だろうか、と楽しみになり、聞き耳をたてた。そういえば、あの女子、何か見たことあるな。

 どうやら告白ではなく、下の名前で呼んでいいかという提案だった。

 すると少しして男子が膝から崩れ落ち天を仰いだ。

 

 「うおおおおおお!! 桔梗ちゃあああああん!」

 

 どうやら了承を得たようである。俺はそれを聞きながら、出会って4ヶ月経つと下の名前を呼ぶのが普通なのだろうかと思い、出会って3カ月程の隣にいる女子の名前を思い出す。

 

 「ひより……か」

 「えっ?」 

 「ん、なんだ?」

 「いえ、今、私の名前を呼んだので」

 「はっ?」

 

 口に出してしまったのだろうか。失敗した。俺はなんとか椎名に弁明しようとする。

 

 「あー、椎名? 今のは違うんだ」

 「…………」

 「なんというかその……あそこの男子が下の名前呼んで良いか聞いてて。それで椎名の名前なんだっけなーって思ってな」

 「…………」

 「それでつい口にしてしまったというか、とにかくそういうことなんだ」

 「…………」

 

 俺が必死に弁明しても椎名は何も言わない。とても怖いです。だって何も言わないのにじーっと俺のこと見てるんだもん。そんなに名前を呼んだのは気に障っただろうか……。

 

 「あの……椎名?」

 「…………」

 「し、椎名さーん?」

 「……つーん」

 

 なんか効果音みたいの出たよ。てか何だよつーんって、可愛すぎかよ。

 椎名は頬を膨らませてそれでも俺のことじーっと見る。

 

 「椎名、謝るから許してくれ」

 「…………」

 「なあ、椎名?」

 「…………」

 「……ひより?」 

 「なんでしょう、修永くん?」

 

 俺が椎名の名前を呼ぶと膨らませていた顔を一瞬で笑顔に変えて俺の名前を呼んだ。ていうか名前呼んで良いのね。それにしても普通に言ってくれればいいのに……。

 俺としい、じゃなかった、ひよりの仲が進展? していると周囲がワッと騒がしくなった。

 視線を向けると島が肉眼で見える位置まで来ていたようである。それにしても生徒たちが騒がしい。しかし、何故か船は浅橋には付かずに島の周りを回り始めた。どうやら島の全体像を見せるためらしい。それにしてもでかい。これはさすがというしかないな。

 

 「これが、意義ある景色ですか」

 「まあ、この景色には確かに価値はあるんじゃないか?」

 「そうですね……」

 

 『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は全て部屋に置いてくるようお願いします。また暫くお手洗いに行けない可能性がありますので、きちんと済ませておいてください」

 

 そんなアナウンスが流れ、俺たちは部屋に戻った。

 それから準備を終え、もう一度デッキに行くとAクラスから順に船から降りた。携帯の持ち込みは禁止らしく、坂上に渡した。

 その後Aクラスの真嶋先生が爆弾発言が発せられた。

 

 「ではこれより――――――本年度最初の特別試験を行いたいと思う」

 

 その言葉にほぼ全てのクラスの生徒を動揺が襲った。

 やはりしっ、ひよりの言う通りだったということか。

 

 「期限は今から1週間。8月7日に終了となる。君たちはこれからの1週間、この無人島で集団生活を行い過ごすことが試験となる」

 

 生徒たちの動揺の中、特別試験の内容が説明されていく。

 簡潔に言えば、この試験では専用のポイントが300ポイントが支給され、このポイントでさまざまなものが買える。買えるものはマニュアルに載っているもの。ちなみにテントが2つ、懐中電灯を2つ。マッチ1箱、歯ブラシも各自1つ配布され、日焼け止め、生理用品は無制限で使用できるらしい。そしてここがこの試験の肝であるところである、残ったポイントは全てクラスポイントに加算されるということである。それを聞いた生徒たちは驚きに包まれた。

 その後各クラスで集まり、話し合いが始まった。そして坂上がこちらに来ると追加ルールが説明された。しかし俺たちのクラスではそれも意味がないだろう。

 

 「まさか、ポイントを全部使うとはな……」

 「そうですね、龍園君らしいとも思いますけど」

 

 そう。俺たちCクラスはこの試験に真面目に取り組まないことで決定した。決めたのはもちろん龍園なんだが、流石にクラスでもそれは納得できなかったものも多くいたが、全員龍園が黙らせた。どうやら自分で何とかするようだ。そして俺たちCクラスはバーベキューに水着でビーチバレー、ましてや水上バイクなどもして、夏休みを謳歌している。

 俺とひよりはポイントで購入したテーブルで話していた。

 

 「まあ、当の龍園本人はどっか行ったけどな……」

 「それと伊吹さんと金田君ですね」

 「……?」

 「はーっ、クラスメイトですよ? ショートカットの女の子と眼鏡の男の子です」

 「あーっ、あのよく龍園に熱い視線を送ってる女の子か」

 「まあ、ある意味熱い視線ですね……」

 

 すると龍園が戻ってきた。

 

 「伊吹さんと金田君がいませんね……」

 「本当だな」

 「何となく予想はつきますけどね……」

 

 するとひよりは悲しげな表情をした。

 

 「まあしかし、今は楽しんだ方が得じゃないか? せっかくの夏休みだ、明日の夕方にはこの島を去るしな」

 「そうですね。私に構わず、海に行ったらどうですか? 修永君も退屈でしょう」

 「ふむ、それは明日にしようかな。今日は砂遊びでもするよ」 

 

 俺はほくそ笑みながら、気が散らないように少し離れた生徒がいない場所に陣取り、砂であるものを作り始めた。2時間後、完成したので俺はひよりを呼びに行く。

 ひよりは俺についてきて、俺が作ったものを見て目を丸くした。俺が作ったものとはイタリアのピサの斜塔である。それもかなりリアルな自信がある。高さも俺の首の高さほどまであり、倒れそうで倒れない感じを忠実に再現してある。

 

 「これは……すごいですね。少し押せば崩れてしまいそうです」

 

 ひよりは興味深そうに周りをぐるぐる回りながら目を輝かせて興味深そうに見ている。

 

 「どうだ、俺の無駄能力の1つは」

 

 俺はドヤ顔でひよりに言った。昔、海に行ったときに兄が他の人と遊んでいて暇だった俺は適当に城とかを作っていたら、ついていた能力である。なにせ海に行くたんびにやっていたからな。ちなみに俺が作ると人が集まり、記念撮影とかどう作ったかと聞かれたりするのにうんざりして作ったらすぐ壊すようにしていた。

 

 「じゃ、壊すから」

 「えっ!? 壊しちゃうんですか?」

 「うん、これで注目浴びるの嫌だしね」

 「そうですか、もったいないですが仕方ないですね。携帯の持ち込みができれば、写真をとったんですが……」

 「また作ればいいのさ」

 「そうですね。じゃあその時は一緒に記念撮影しましょうね」

 「…………おう」

 

 一緒に海に行くのは確定なんですね……多分また無自覚だろうけど。

 ひよりに壊すか聞いたんだが、流石にそれは気が引けるらしく、俺がさっさと崩してしまった。崩れる時、ひよりが「ああ!」と言っている姿はなんか可愛かったです。

 

  

 _______________

 

 

 砂浜で遊んでから数時間が経った。俺はクラスのテントから離れた岩場に腰を下ろしていた。別に普段喋らない男子のいるテントに行きたくないからとかではないぞ。まあどうせ俺はいてもいなくても変わらないと思われてるだろうけど……。

 左腕についている腕時計で時刻を確認すると、もう12時を越えるところで、もうすぐ1日が終わる。俺は海にうつる月を見つめながら、ぼーっとしていた。すると俺の近くに気配を感じた。ひよりだろうか、と思った俺は意外な人物に虚を突かれる。

 

 「よぉ安藤、なにたそがれてやがんだよ」

 

 龍園だった。龍園は俺の近くに来ると俺の横に腰掛けた。

 

 「ハッ、鳩が豆鉄砲くらった顔ってのはまさに今のお前の顔だろうな」

 「何で……」

 「俺が来たかって? ひよりだと思ったか?」

 「まあ、そうだな……」

 

 というか龍園はひよりを下の名前で呼ぶような仲だったのか、意外だな。

 

 「何のようだ?」

 「あぁん? 用がなきゃお前と話しちゃいけねェのかよ? クラスメイトが交流するってのは普通じゃねえのか?」

 「まぁ、健全な高校生ならそうだろうな。けど、お前は俺に用があってきたんだろ?」

 「いまだに俺をお前なんて呼ぶ奴はCクラスじゃお前と伊吹だけだな。まあ、用ってほどのことじゃねえ。単純にちょっと話でもしようと思ってな」

 

 俺は龍園が普通に話をしようという初めての状況に戸惑いが隠せない。

 

 「俺はお前が実力を隠してると思っている」

 「はあ……」

 「別にそれに文句を言おうってんじゃねえ。ただ……」

 

 龍園は俺の胸ぐらを掴んで思い切り睨みつけてきた。

 

 「俺に歯向かうなってことだ」 

 「しないさ、怖いし。それに俺には大した実力もないし……」

 「そうやっておどける時点で平凡な奴とは違うってことなんだよ。まあ、お前はぬるま湯にでも浸かってろ。ひよりと何しようが別に俺は興味ねえよ。ただ、俺に歯向かうようなら、お前を支配してやる。それだけだ」

 

 龍園君中々優しい。俺は感動した。自分の邪魔をしなければ俺には干渉しないということは、つまり放置してくれるということ、龍園君の部下にもされず、こき使われることもない。なんて素晴らしい上司だろうか。俺の中で龍園君の株はぐんぐんと上昇していき、君付けするまでになった。

 

 「任せてくれ、龍園君の邪魔は絶対しないよ!」

 「あん? まあ良い、客もいるようだしな」

 「客……?」

 「それじゃあな」

 

 そう言って龍園君はさっさと戻ってしまった。どうでも良いが、龍園君は良い人ということで良いだろう。そう納得した俺はまた人の気配を感じ、そちらを見ると、ひよりがいた。龍園君が言っていた客とはひよりのことだったのか。

 

 「何で来たんだ?」

 「多分修永君のことですから、みんなと同じテントにはいないと思って。そしたら龍園君に会いまして……。ここにいるのを聞いたので来ました」

 「来ましたって……」

 

 俺は呆れた様子でひよりを見たがひよりの方はそんなことも意に介さなかった。

 

 「それで、龍園君とのお話はいかがでした?」

 「……まぁ、驚きはしたけどな。荒い奴だけど、俺は嫌いじゃない。確かにひよりの言うこともあながち間違いじゃなかったな」

 「それは良かったですね」

 

 するとひよりは恍惚とした表情で海の方を見つめた。

 

 「良い景色だよな。これだけでも来たかいがある」

 「そうですね。とても幻想的で……」

 

 それから数分程お互い会話もなく、ただ海にうつる月を見つめ続けた。

 

 「遂に龍園君に化けの皮が剥がされましたね?」

 

 ひよりがこちらも見ずに言ってくる。

 

 「龍園君も言っていたが何のことだ?」

 「私をあまりみくびらないでください。観察には自信があります」

 「…………」

 

 そんなのは俺も知っている。この3カ月ほどでひよりの観察力が秀でてるのはよくわかった。

 

 「修永君が何故実力を隠しているのかは知りません。テストで頭が悪いふりをしていたのも見ていればわかります」

 「……幻滅したか?」

 

 俺の発言、これはほぼ肯定の意味で言った。ひよりも理解しただろう。

 ここでひよりをごまかそうとすることもできた。ただ、それをすれば何か大事なものを失う気がした。 

 

 「それこそまさかですね。私が修永君を嫌うはずがありません」

 「またそんなことを……」

 「……?」

 

 こんな状況でも炸裂するひよりの天然発言に照れるように頬を掻いて呆れ口調で言うとひよりは首を傾げた。

 

 「修永君が何故そうするのか、詳しくは聞きません。でも……」

 「……でも?」

 「待ってます。ずっと……。修永君にとって私が信頼に足る人物になるまで」

 「それは……」

 

 何でこう……彼女は、そんなにまで俺のことを。

 罪悪感でいられなくなった俺は髪をがりがりと掻く。

 

 「わかった。その時が来るようなら話す」

 「はい……。あっ、でもできればCクラスのために頑張ってくださいね?」

 「そうだな……姫の願いとあれば聞かないわけにはいかない。今回は無理だが次があれば……。龍園君もひよりの言うようにそこまで悪い奴じゃなかったしな」

 

 ああ見えてクラスの奴にはまあまあ良い奴だ。山田君が慕っているというのもあながち間違いじゃないのかもしれない。呼び捨てじゃなくなったし……。

 それを聞くとひよりはにっこりと笑った。夜の幻想的な景色に彼女の笑顔はさながら有名な絵画のようだった。

 するとひよりは思い出したかのように手を合わせた。

 

 「龍園君といえば……はい、どうぞ」

 

 そう言ってひよりは懐から袋のようなものを俺に差し出した。確認するとそれは寝袋だった。

 

 「これは……」

 「龍園君が余ったからやる、だそうです」

 「……まじでツンデレだったのか、あいつは?」

 「かもしれませんね」

 

 俺が苦笑いで言うとひよりは微笑んで同意した。

 

 「では、戻ります。あっそうでした」

 「?」

 「明日は水着を着るので楽しみにしていてくださいね」

 「はっ?」

 「それでは、おやすみなさい」

 「え、あ、おやすみ……」

 

 ひよりは最後に爆弾を残してテントに戻って行った。

 俺は寝袋に入り、ひよりの水着姿を想像して、悶々としながら眠りについた。 

 




なんか違う、妄想を文字にするのって難しい。こんなはずじゃなかった。
今頑張って干支試験どうしよっかなって考えています。主人公兎グループで良いのかなあ? それについて更新が遅れます。多分。

一成「原作パクリすぎじゃね?」
作者「しゃあない、説明はしないとじゃん? 最初だけだし」
一成「確かに……」
作者「それに写すだけに見えるけど、案外そっちの方が大変だったしね」
一成「へー、まぁ、普段は妄想をそのままぶつけてる駄文だもんね」
作者「うるせえよ。太平洋の真ん中に落とすぞ」
一成「やめて!」

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マスターはマブダチ

他のよう実の二次創作読んでて思ったのが、俺の話ぽんぽん進みすぎじゃね? けどこれ書き始めたの7巻のところの妄想浮かんだからだししょうがないよね!(勝手に納得)


無人島生活2日目。今日でこの無人島を去ることになる。今日もCクラスの生徒たちは思い思いに夏休みの旅行を満喫している。初めは龍園君に反対してたものたちも2日目ともなればそんなことは忘れたかのように楽しんでいる。

 しかし、そんな夏休みを楽しんでいるものたちの中で俺だけは海の前でどぎまぎとしていた。昨日の夜にひよりから水着を着ると言われてからずっとこの状態だ。

 昨日のうちに岩場の奥に人がいないスポットを見つけていたのでそこで遊ぶということになった。それでひよりには先に行ってくれと言われている。

 

 「お待たせしました」

 

 海を前にどぎまぎしていると不意に後ろから声がかかる。遂に来たかと俺は意を決し、バッと後ろを振り返った。

 

 「……パーカー?」

 「はい。他の方に肌を曝すのは恥ずかしいので」

 

 それって俺には恥ずかしくないってことですか。いや、俺のことは男として見ていないということを暗に意味しているのだろうか……。嬉しいのか悲しいのかわからんが、ひよりの水着姿が見れるならどっちでもいいか。

 するとひよりはパーカーを脱ぎ始めた。なんだか妙に色っぽい。俺はいつもの彼女のゆるふわ雰囲気とのギャップにどきどきとしていた。

 ひよりはパーカーを完全に脱ぐのではなく、チャックを開けて前をはだけさせて俺を上目遣いで見た。

 

 「あの……どうでしょうか……」

 

 ひよりは若干頬を赤らめて恥ずかしそうにする。そして肝心の水着だが、ビキニである。色は白でフリルがついたタイプの。それがひよりの透き通るような白い肌にマッチしてまるで1つの白磁のようだった。そこまで大きいとは言えないが、高校1年生としては平均であろう双胸に目がいかないように気をつける。そして彼女の恥ずかしがる様が若干の幼さを出してそれが絶妙にはまって……って俺は何を評論してるんだ。言うべきことがあるだろう!

 ひよりは俺の言葉を待っているのか足を擦らせてもじもじしている。可愛い。

 

 「め、めっちゃ可愛い、ぞ?」

 「……何故疑問系なんですか……。でも、ありがとうございます。恥ずかしいですが、着た甲斐があります」

 「わ、悪い……」

 「いいですよ。修永君も水着似合ってますよ」

 「おう」

 「それに……」

 「っ!?」

 

 ひよりは俺に近づくと腕やら腹筋やらを触ってきた。くすぐったいが、そんなことよりひよりの2つのお山が俺に当たってしまいそうだ。

 ひよりはそんなことも気にせず興味深そうに俺の身体をチェックしている。

 

 「前から思っていましたけど、やっぱり修永君の身体ががっちりしてますね。普段だらだらしている人間には見えません」

 「そうか……? 特に筋トレとかはしてないが」

 「では天性のものでしょうか。運動できない人からしたら羨ましいことこの上ないですね」

 

 それは自分のことを言ってるんだろうか。ひよりにこんな無駄な筋肉はついてほしくないぞ。

 ひよりは満足したのか俺から離れて、近くの木陰にパーカーを置きに行って戻ってきた。

 

 「それでは、泳ぎますか?」

 「そうだな。ちなみにひよりは泳げるのか?」

 「心配要りません。浮き輪を借りてきたので問題ありません」

 「つまり泳げないということか……」

 

 なんかひよりが浮き輪を持つと子供っぽくなる気が……ってちょっと待て。

 

 「膨らませてこなかったのか?」

 「あ……失念してました。膨らませてきます」

 「俺が行くよ。そっちの方が早いだろうし……」

 「でも……」

 「ここで女に行かせるのはダサいからさ。俺にやらせてくれ」

 「……わかりました。すいません、お願いします」

 「おう」

 

 俺は畳んである浮き輪を持ってテントの方に戻る。すると龍園君のパラソルの所に綾小路君と黒髪の女子がいた。龍園君はその女子に厭らしい笑みを浮かべている。あっ、石崎君がジュースシャワーしてる。もったいない。

 少しして綾小路君とその女子が離れたので俺はそれを追った。

 

 「綾小路君ー」

 

 俺が声を掛けると2人はその場で停止した。

 

 「安藤か……」

 「おはよう。今日は偵察か何か……?」

 「まあ、そんなところだ」

 「誰……?」

 

 俺と綾小路君が話していると隣にいる女子が俺を睨んで警戒しながら綾小路君に問いかけた。

 

 「あー……Cクラスの安藤だ。中間テストの時に色々あって知り合ったんだ」

 「安藤……あー。確か一之瀬さんが言っていたCクラスの面白い人ね」

 

 なんかやはり俺は有名人になってしまったのだろうか。というか一之瀬さん、変なことを流すのはやめていただきたい。

 

 「えっと……それで君は?」

 「知らないのか、安藤?」

 

 俺が頷くと綾小路君は驚いた表情をする。彼女も有名人なのだろうか?

 

 「Dクラスの掘北鈴音よ」

 「ちなみに生徒会長の妹だ」

 

 堀北さんが仏頂面で言うと綾小路君がそう捕捉した。というか生徒会長とはあの人のことを言ってるんだろうか。だとしたらまったく。

 

 「似てないな……」

 「っ!?」

 

 俺がそう言うと、彼女はバッとこちらに顔を向け、恨みがましいような視線を送ってきた。

 

 「そ、それより、偵察の成果はあったか?」

 

 怖くなった俺は綾小路君に視線を向けてそう言って話を変えた。

 

 「全然だな。堀北はどうだ?」

 「正直論外ね。Cクラスは試験を放棄したと思ってるわ」

 

 2人はそう言った。まあ、それが普通だろうな。というか堀北さん、そんな強く言わなくても……。

 

 「まあ、そう思うよな」

 「あなたはどうなの。龍園君に支配されて無理やりでしょうけど……」

 「それは違うな堀北さん。俺は悪くないと思ってる。そして、クラスの人間も大半がそう思ってるはずだよ」

 

 俺がそう言うと堀北さんはそれを鼻で笑った。

 

 「あなたも龍園君に忠実な駒というわけね」

 「さあ、どうだろ。ただ、この試験のテーマは『自由』。すぐに人のやり方を馬鹿にする君の固い頭じゃ、龍園君は倒せないと思うけど」

 「龍園、君?」

 「くだらないわ。行きましょう綾小路君。ここにいても何も得るものはないわ」

 「あ、ああ……」

 

 綾小路君は戸惑いながら堀北さんについてここを離れていった。

 少しサービスしすぎたと思ったけど、彼女には無理だったかな。あれでは龍園君には一生勝てないだろうな。

 その後俺は急いで浮き輪を膨らませ、ひよりのいる所に急いで向かった。

 

 

 「そんなことがあったんですか」

 「まあね。あの会長に妹がいたとは知らなかった。全然似てなかったけど……」

 

 現在、俺とひよりは2人で海の上でぷかぷか浮きながらさっきあったことを話していた。

 

 「可愛かったんですか?」

 「何が……?」

 「その堀北さんという女子です」

 「さあ? 可愛かったんじゃないか?」

 

 俺がそう言うとひよりが真顔になった。なんというか怖い、魔王状態一歩手前といった感じだ。

 

 「そうですか、可愛かったんですか。それは良かったですね」

 「何で顔を顔をそんなに近づけるんだ。というか、可愛いのかもしれないが、初対面で睨んでくるような人だったんだぞ……。俺は苦手だ」

 「まあ、わかってましたけどね」

 

 浮気を疑われる夫とはこういう気分なんだろうか。いやそもそも俺とひよりはそういう関係じゃないし……。

 

 「ともあれ、このままでは龍園君の1人勝ちになるのではないでしょうか」

 「そうだな。俺は龍園君がやられる姿は見てみたい気もするが……」

 「不謹慎ですよ。ですが、わからなくもありませんけどね」

 「まあ、5日後のお楽しみといった感じかね」

 「そうですね」

 

 その後は海から上がり、バーベキューでできたものを適当に食べて、砂浜でひよりにケルン大聖堂を作ってくれと言われたので、作った。作ってる間ずっとひよりが背中にくっついて興味深そうに見ていたので、いつもより時間がかかってしまったが何とか作ることができた。昨日約束したいつか、は今日になってしまったようだ。

 そんなこんなで夕方になり、俺たちCクラスは体調不良を言い訳に船に戻ることになった。3人を除いて。

 そして船の上で夕食をとった俺とひよりはバーで談笑していた。

 

 「随分嬉しそうですね。そんなに来たかったんですか?」

 「ああ、ここに来ることが俺の往年の夢だったんだ」

 「……随分と小さな夢ですね……」

 

 ひよりは呆れてものも言えないといった感じだった。しかしここのバーテンダーはとても優しい。俺がシャカシャカするやつが見たいと言ったら、喜んでやってくれた。それだけではなく、くるくる回したり、投げたりして大いに楽しませてくれた。これから旅行の間は毎日来ようと思った。

 

 「ですが、修永君が子供のように目を輝かせているのはとても可愛らしかったです」

 「えっ、そんなだった?」

 「はい。あんな修永君は新鮮でしたね」

 

 そう言ってひよりは微笑んだ。俺は逆にそんな姿を見せてしまい、恥ずかしさが絶えなかった。話を変えようと俺は船に戻るときの話を切り出した。

 

 「んんっ、それにしても龍園君は戻らなかったな」

 「はい。まあ、わかっていたことですけどね」

 

 そう。龍園君は帰りの船に乗らずに島に残ったのである。

 

 「ああ見えてクラスのためを一番思ってるのは龍園君ですからね」

 「ほんとね。けど多分彼は自覚してないだろうね」

 「そうですね。だからこそ山田君は慕っているんでしょう。他の方にも気づいてもらえればいいんですが……」

 「報われないもんだね。本人はそんなこと望んでないだろうけど……」

 「前修永君が言っていたように伊吹さんが龍園君に熱い視線を送っているというのもあながち間違っていないかもしれませんね」

 

 なるほど。案外適当に言ったんだが、ありえなくはないか。この旅行でカップルがいくつかできたと聞くし、伊吹さんとやらは島に残って龍園君の指示で動いてるらしいし、何か進展でもあれば面白いな。

 

 「まあ、龍園君は鈍感そうだから、もしそうだとしてもかなり時間が掛かると思うけどね」

 「あっ、そうですね。そう考えるとなんだか物語のようですね。伊吹さんが苦労しそうです」

 

 それから俺とひよりは龍園君に聞かれたら、間違いなく怒るであろう勝手な妄想話で盛り上がった。

 

 

 _______________

 

 

 それから5日後。特別試験が終了した。俺とひよりは部屋のテレビでモニターされたその結果を見ていつも? のバーに来ていた。俺とひよりは心底驚いていた。なぜなら-----

 

 「まさかうちが最下位とはな……」

 「私も驚きました。それにまさかDクラスが1位とは、さすがに思いもよりませんでした」

 「ああ。モニターでも龍園君は相当驚いてたしな……」

 「つまり龍園君も予想していなかったことだったんでしょう」

 「ああ……あ、マスター、レモンスカッシュをお願い」

 「……」

 

 俺はマスターから差し出されたレモンスカッシュを飲んだ。この5日ここに入り浸っての俺のお気に入りである。今日もうまい。

 

 「ぷはっ、今日もいい味出してるね。最高だよマスター」 

 「……」

 「すごい馴れ馴れしいですね……」

 

 俺がしたり顔でマスターに言うと、マスターは当然とばかりの顔をした後、シェイカーで新しい飲み物を作って俺とひよりの前に差し出した。

 

 「……」

 「嬉しかったんですね……」

 「今日も渋くて決まってるだろ?」

 「渋い、ですが、随分仲が良いんですね?」

 「そりゃあ、ほとんどずっとここにいるからね。マスターとはもうマブダチだよ」

 「……」

 「呆れますね。せっかくの旅行を楽しむ言っていたのは修永君ですよ?」

 「楽しんでるじゃないか。それにひよりもどうせ部屋でずっと小説読んでたんだろ?」

 「まあ、そうですが……」

 

 そう言ってひよりは呆れた様子で出されたものを飲み始めた。

 

 「あ、おいしいです」

 「ファジーネーブルだな。やっぱうまいな」

 「ファジーネーブル?」

 「ああ。オレンジジュースにピーチシロップを入れたものだよ」

 「なるほど、甘くておいしいです」

 

 ひよりがそう言うとマスターはさらに機嫌が良くなったのかシェイクパフォーマンスを披露した。やはり格好いい。弟子入りしようかな。

 

 「それでさっきの試験結果ですが……」

 「ああ。ひよりはどう思ってるんだ?」

 「私はまず間違いなく、Dクラスに龍園君の策を見破るキレ者がいると思っています。ただ、そんな人がいれば龍園君が気づかないはずがありません」

 「つまりそのキレ者とやらは普段は表立って動いてるような奴じゃないな」

 「はい。おそらくは」

 

 なるほど、Dクラスにそんな人間がいるのか。おそらくDクラス内でもその人物のことを知っているのはごく小数だろう。でなければ、やはり龍園君に気づかれる。

 

 「一本取られましたね……」

 「そうだな。ま、これで龍園君も気を引き締めるだろう」

 「そうですね。出し抜かれて黙っているような人でもありませんし……。それに恐らく……」

 「……?」

 「この旅行、まだ何かあると思います」

 「また特別試験か?」

 「それはわかりませんが、多分そうでしょう」

 

 確かに、日程ではさらに1週間もある。その間に何もないというのは考えにくいかもしれないな。

 

 「つまり、逆襲のチャンスということです」

 「確かに……龍園君も本気で挑むだろうな」

 「はい。それに……」

 「……?」

 

 ひよりは俺を見つめてにこりと微笑んだ。

 

 「今回は私の騎士様もいますから」

 「……」

 

 そういえばそんな話もしたか。ならまあ、少しは頑張るとするか。

 俺は肩を竦めて見せた後、騎士っぽく礼をした。

 

 「姫の願いとあれば……」

 まあ、俺の出番がなければそれがベストだけど。

 そう言ってお互いに小さく笑った。

 そしてその3日後。ひよりの予想通り、豪華客船に乗っている生徒全員の携帯が同時に鳴った。




雑になった……。水着とバーを書きたかっただけなのにどうしてこうなった……。

一成「深夜テンションで書いたからじゃない?」
作者「多分」
一成「ファジーネーブルなんて飲んだことあんの?」
作者「ない。ていうか未成年だから、酒飲んだことない」
一成「じゃあ書くなよ……」
作者「気をつけます……」

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名探偵ひより!

干支試験のポイント合算がまったくうまくいかない……衣笠先生ーーー!!


 無人島での特別試験から3日後。ひよりの予想通り、新たな特別試験を開始するメールが豪華客船の上にいる全生徒に送られた。そのメールには指定した時間までに指定された客室に集合するようにも書かれていた。そして俺とひよりの指定時間と集合場所は違っていた。

 

 俺は指定された時間に203号室に向かうと、Bクラス担任の星之宮先生と女子が3人がいて今回の特別試験の説明を受けた。内容としてはクラスから3~4人を干支になぞられた12のグループに分け、そのグループで行われるもののようだ。その時に説明に同席した女子が同じクラスなのを知った。俺は兎グループに配属された。ちなみに兎グループのメンバーはこんな感じだった。

 

 Aクラス・竹本茂(たけもとしげる) 町田浩二(まちだこうじ) 森重卓郎(もりしげたくろう)

 Bクラス・一之瀬帆波(いちのせほなみ) 浜口哲也(はまぐちてつや) 別府良太(べっぷりょうた)

 Cクラス・安藤修永(あんどうしゅうえい) 真鍋志保(まなべしほ) 藪菜々美(やぶななみ) 山下沙希(やましたさき)

 Dクラス・綾小路清隆(あやのこうじきよたか) 軽井沢恵(かるいざわけい) 外村秀雄(そとむらひでお) 幸村輝彦(ゆきむらてるひこ)

 

 なんと綾小路君と一之瀬さんと同じグループだった。

 そしてこの試験の肝と言えるだろう部分がある。それが1つのグループに1人いる『優待者』の存在だ。この試験の結果は4つしかない。

 

 結果1、試験終了時に『優待者』を『優待者』とそのクラスメイトを除く全員の解答が一致する。結果2、同様の場合に解答が一致しない。結果3、試験終了前に『優待者』と思われる者を学校に告げ、正解する。結果4、同様の場合にその解答が不正解する。簡単に言えばこの4つだ。この4つでいえば、難しいのは結果1、一番なりやすいのは結果2だろう。

 

 明日の午前8時に一斉メールが送られ、そこで『優待者』の者にそのことが伝えられる。試験は4日後の午後9時までで1日に2度、グループで所定の時間と部屋で1時間の話し合いが行われる。そしてその間は退室は基本認められていない。

 なんとも面倒そうな試験だが、とりあえずひよりと合流してからだな。

 とりあえずそう考えた俺はいつものバーでひよりを待つことにした。

 

 約1時間後ひよりの所も終わったようで俺と合流した。

 

 「お待たせしました」

 「いや、それで、どのグループだった?」

 「私は巳のグループでした。修永君は卯ですよね」 

 「ああ、一之瀬さんがいた。ちょっと厳しそうだ」

 「それはそれは」

 

 俺が肩を竦めてみせるとひよりはお疲れ様とでも言わんばかりに微笑んだ。

 

 「ひよりはこの試験どう思う?」

 「まだなんとも言えませんね。ただ、この試験で必要なのは考える力。先生があれだけわかりやすく説明していたので間違いなくそこがポイントでしょう」

 「確かにな……。なんにせよ、明日の『優待者』発表までは何もわからないな」

 「そうですね。それでは今日はもう戻りましょう」

 

 そう言ってひよりは立ち上がった。しかし俺は微動だにしない。

 

 「修永君?」

 「悪い、俺はまだここにいるよ」

 

 部屋にいるとルームメイトと全く話せない疎外感が嫌だからなんて言えない。ひよりは首を傾げたが、何か察したようで溜め息を吐きながらしょうがないといった顔でもう1度席に着いた。

 

 「ひより?」

 「なんだか、喉が渇きました。修永君のおすすめをお願いします」

 

 ひよりの優しさが心に染みる。俺は若干涙ぐみながらマスターにレモンスカッシュを注文してひよりとの会話に花を咲かせた。

 

 

 _______________

 

 

 翌日の朝。朝食を食べた後、俺たちCクラスは龍園君の招集を受けた。どうやら『優待者』を知るためのようだ。そして8時ちょうどに全員の携帯が鳴った。すぐに届いたメールを確認した。どうやら俺は『優待者』には選ばれなかった。ひよりの方を見ると、首を振った。ひよりも『優待者』には選ばれなかったようだ。

 

 「おい、『優待者』に選ばれた奴は手を上げろ」

 

 龍園君がそう言うと男女4人の生徒が手を上げた。龍園君はその中の1人から携帯の画面を見た。どうやらメールの内容を確認してるようだ。

 

 「なるほどな。とりあえずお前ら、ばれないように勝手にやれ。俺は行くところがある。行くぞ伊吹」

 

 そう言うと龍園君は伊吹さんを連れて、さっさとその場を去って行った。どうやら今回は『優待者』が誰だか知りたかっただけのようだ。

 

 「俺たちも行くか、ひより」

 「そうですね、修永君」

 

 俺とひよりもその場を離れた。後ろからは「このリア充がー!!」と悲痛な叫びが聞こえた。やはり龍園君と伊吹さんはそういう関係なのだろうか?

 

 その後昼食を食べて試験会場に向かった。2階の兎と書かれたプレートが架けられた部屋に辿り着き、中に入った。すでに俺以外の生徒は揃っていた。目を向けると綾小路君に一之瀬さんと目が合った。一之瀬さんは微笑みながら手を振ってきた。俺は軽く会釈はしておいた。

 程なくして試験開始の時刻を迎えると船内スピーカーの音が部屋に響いた。

 

 『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 随分適当だな。生徒の自主性に任せるとは言っていたが、本当にその通りだな。突然の状況に動揺してグループ内に重たい空気が流れる。すると一之瀬さんが立ち上がった。

 

 「はいちゅうもーく。大体の名前は分かっているけど、一応学校からの指示もあったことだし、自己紹介したほうがいいと思うな。初めて顔を合わせる人もいるかもしれないし」

 

 さすがは一之瀬さん、Bクラスのリーダーをやってるのは知っていたが、こういう場でも率先して動けるのは素直にすごい。それにかなり慣れた様子だ。

 それからAクラスの生徒と一悶着あったが自己紹介は普通に行われた。

 自己紹介が終わるとそれからは一之瀬さんが取り仕切った。どうやら結果1を求めるのが一之瀬さんの策のようだ。他も何人かはそれに同意の様子だった。Aクラスの生徒は納得してなかったが。

 

 「安藤君はどうかな?」

 

 どうしたものか。この試験勝つのはそう難しいものではない。どうやら兎グループのCクラスに『優待者』はいないから、勝つにはそいつを見破るだけで良い。ただ、それでは全体の勝ちには成り得ない。すぐに試験が終わって一之瀬さんが他に集中するとなったりすれば、龍園君の邪魔になるしな。長引かせるにはとりあえず従っとくか。

 

 「俺もそれでいいかな。ポイントは欲しいし」

 

 俺が同意すると綾小路君達が続いた。するとまたAクラスの生徒が批判をした。Aクラスの町田という生徒が一之瀬さんたちとぶつかり合う。最初はAクラスの試験の間、一切話し合いをしないという意見に過半数が賛成していたが、一之瀬さんが一石を投じ、また迷う生徒が大半になった。その場はAとBの戦いだった。どうやらCとDはお呼びじゃないようである。

 結局話し合いはまとまりをえず、途中うちのクラスの真鍋さんとDクラスの軽井沢さんとの間でひと悶着あったぐらいで特に実りのある話は行われなかった。というか俺だけ一人ぼっちというか、なんか寂しかった。

 

 「一応、話し合いの場はあと5回作れるし、ひとまず今回は解散にしようか」

 

 一之瀬さんはさっぱりした声でそう言った。

 すると先ほどひと悶着あった軽井沢さんが声を上げて真鍋さんの足を踏んづけた。あれが女の本性なのだろうか。恐ろしいものである。ひよりが天然で本当に良かった。

 

 「安藤……」

 「あぁ、綾小路君」

 

 部屋を出ると、後ろから綾小路君に話しかけられた。

 

 「どうだった、今回の話し合い」

 「どうもこうも。話し合いとして成り立ってなかったと思うけど……」

 「確かにな」

 

 そんなことは分かり切ってるだろうに。

 

 「そういえば、無人島の試験ではDクラスはすごかったね」

 「まあな。堀北が頑張ってくれたおかげだ」

 「堀北さんが……?」

 

 ということは龍園君を欺いたのは堀北さんというのだろうか。…………それはないだろう。彼女と話せばそんなことは不可能なのはすぐにわかる。あの感じを演技で出してたならすごいが、まずないだろう。なるほど、Dクラスにはやはり裏から手を引く人物がいるんだろう。そいつはきっと堀北さんを隠れ蓑にしているということか。

 

 「すごいな、堀北さんは。まさか龍園君を欺くとは思いもしなかったよ」

 「Cクラスは随分奇抜な手段だったな」

 「確かにね……。ただ、あれも一種のチームワークだよ。俺たちは龍園君を信じて託した。結果はあれだったけどね」

 「……そうか」

 「それじゃ……」

 「ああ」

 

 綾小路君、やはり格好良いな……。

 

 そして、結局その日は2回目の話し合いも1回目と同じように特に意味のない時間となった。

 

 

 ________________

 

 

 「それは本当か……?」

 「はい。まだ推測ですけど」

 

 現在、バーでひよりと今日のことを話していると、ひよりがもしかしたら『優待者』の法則に気づいたかもしれないと言ったのだ。

 ひよりは1枚の紙を俺の前に差し出した。確認するとそこには巳のグループのメンバーが書いてあった。

 

 「それで、これを見てなにかわかるのか?」

 「恐らくですが、名前順でしょう」

 「名前順?」

 「はい。要するに干支の順番に位置する名字の生徒が『優待者』だと思います」

 

 なるほど、俺はもう1度メンバーを確認すると確かに巳の6番目に朝に手を上げた『優待者』の男子生徒の名前が記されていた。これが正しいならひよりの洞察は凄まじいな。俺はいつも一緒にいる女子生徒に戦慄を覚えた。

 

 「ひよりだけは敵に回したくないな」

 「良く言いますよ……」

 

 なるほど。となると俺のグループの『優待者』は……Dクラスの軽井沢さんか。まあ、まだ間違っているかもしれないが……。

 

 「とりあえず、龍園君に言いに行くか?」

 「いえ、その必要はないでしょう。恐らく龍園君も今日か明日には気づくでしょう。クラスの『優待者』は把握していますから」

 「すごいな龍園君は……。俺じゃ絶対無理だわ」

 「修永君はこの試験はあまり向いてないでしょうね。私は偶々気づきましたが、恐らくしっかりとメンバーの情報収集をしなければわからないでしょう。修永君は人の名前を覚えるのが苦手そうですから」

 

 いや、別に苦手ってわけじゃないんだけど。多分関わらないだろうから覚える必要はないと思ってるだけなんだよね……。

 

 「結局今回俺の出番はなかったな」

 「そうですね、修永君はCクラスの切り札として温存ということになりますね」

 

 それは買い被り過ぎだろう。第一俺はひよりの指示にしか従わないぞ。

 すると突然俺とひよりの携帯が一斉に鳴った。

 

 「何だ……?」

 「これは学校からのメールですね」

 

 俺とひよりは首を傾げながら、届いたメールの内容を確認した。すると俺とひよりの顔は一瞬で驚愕に変わった。

 

 『猿グループの試験が終了いたしました。猿グループの方は以後試験へ参加する必要はありません。他の生徒の邪魔をしないよう気をつけて行動して下さい」

 

 「これは……どういうことだ?」

 「わかりません」

 

 試験結果はどうなったのかはわからない。試験の詳細は終了日の午後11時にならないとわからないが、これがもし正解してるなら―――――

 

 「ひよりと同じく、法則に気づいた奴がいるってことか?」

 「それはないでしょう」

 

 その俺の言葉をひよりはばっさりと切った。

 

 「法則を見つけたなら、恐らくクラスメイトに教えて一斉に見抜くはずですから、気づいたわけではないと思います。純粋に話し合いの場で『優待者』を見つけたのでしょう」

 「確かにそうだな。しかし、何でこのタイミングなんだ?」

 

 『優待者』を見つけたならすぐに学校に報告すればいいのに、迷ったにしてももう0時近い。さすがに遅すぎるだろう。

 

 「それは私にもわかりません。私たちを惑わすつもりなのか、ただ単に気分屋なのか」

 「流石にそれはないだろう。まあ、とにもかくにも真相は結果が発表されなきゃわからんな。ただの独断専行かもしれんし……」

 「そうですね。あまり気にしないのがベストでしょうね」

 

 

 結局今日はお開きということになり、俺はデッキにいた。部屋に戻ろうとしたら中から騒ぎが聞こえて逃げたのは内緒である。そして今はなんと男女の逢引きを目撃してしまい、隠れたところである。

 遠目で女子の方は良くわからないが、男子の方はなんと綾小路君だった。

 

 (ああっ、抱きついた。これからイケないことでもしてしまうんだろうか)

 

 俺がどきどきしながら見ているとそんなこともなく、すぐに離れて、女子の方は船内に戻って行ってしまった。しかし、残念なことにその女子が船に戻るときに俺の横を通り、俺と目が合ってしまった。

 

 「…………」

 「安藤君?」

 

 何でこの子は俺の名前を知ってるのだろうか、すると綾小路君もこちらに気づき、近づいてきた。なんか心なしか顔が赤いな。

 

 「何で安藤がここにいるんだ?」

 「すまん、涼みに来ただけなんだが、まさか2人が逢引きしてるとは思わなかったんだ。許してほしい」

 

 俺はそう言ってすぐさま謝罪をした。

 

 「ち、違うぞ安藤。俺と櫛田は別に逢引きなんてしてない!」

 「そ、そうだよっ安藤君っ。私たちは別にそういう関係じゃないから!」

 

 2人は慌てた様子で俺に言う。しかしそんな顔を赤らめながら言われても困るのだが……。

 

 「じゃ、じゃあ、おやすみ。それじゃ!」

 「あっ、安藤君!」「おい、安藤!」

 

 俺は2人の制止の声を無視してその場を逃げ出した。

 ふむバーに行こうと思ったけど、やめとこうかな。そろそろ先生たちが集まる時間帯だし、今日はさっさと部屋で寝よう。流石にルームメイトももう寝ているだろう。

 俺は誰も起きていないことを願い、部屋に戻ると、もう誰も起きていなかったので無事寝床につくことができた。

 

 

 

 _______________

 

 

 俺と櫛田が逢引きしていると勘違いした安藤は走って逃げてしまい、俺と櫛田は弁明すらできなかった。

 色々あり過ぎて疲れた俺は冷静になると喉が渇き、自販機に行くと、近くのバーで奇妙な組み合わせの3人組を見つけた。茶柱先生にBクラス担任の星之宮先生。そしてAクラスの真嶋先生だ。

 3人は思い出話? に花を咲かせていた。

 

 「それより……どういうつもりだ、チエ」

 

 すると茶柱先生は怪訝なムードで星之宮先生に詰め寄った。

 どうやら、この学校では竜グループにクラスの代表を集めるのが恒例らしい。しかし、どうやら俺の様子を探るために一之瀬を兎グループに送ったと話していた。

 

 「私は本当に偶然で一之瀬さんを兎グループに送っただけだよー? 島の試験が終わった時、綾小路君がリーダーだったことなんて全然気になってないしー?」

 「そういうことか」

 

 真嶋先生は納得したように頷くが、すぐに星之宮先生を厳しくたしなめる。

 

 「規則ではないがモラルは守ってくれ」

 「もー信用ないなぁ。それに私ばっかり責められてるけど、坂上先生だって問題じゃない? 龍園君を竜グループに当ててきてるし……それにCクラスには彼もいるしね」

 「そうだな。あいつの弟がまさかCクラスとは……」

 「彼が介入すれば龍園君も合わせて手に負えないし、彼を扱える子がいればだけど……」

 「なんにせよ、今年は例年と違い、生徒の質が特殊なようだからな」

 

 この試験に関する情報はほとんど得られなかったが、そろそろ引き返そう。収穫もあったしな……。それにしてもCクラスの彼とは誰のことだろうか……。先生が警戒するほどの人物。まさかとは思うが……。

 俺はその『彼』という人物を考えながら、部屋に戻った。

 




何度計算してもCクラスの『優待者』が4人いないとあわないからこうなりました。異論は認めるけどあんまり虐めないで!

一成「更新遅れたね」
作者「うん」
一成「何で?」 
作者「何で、主人公の名字安藤にしちゃったんだろうって嘆いてた」
一成「あー、伊吹さんいないもんね」
作者「他も重要人物だからはずせないし、大変だった」
一成「お疲れ」
作者「うん」
一成「(今日は素直だな……)」
作者「(本当に疲れたんだよ)」
一成「(こいつ、直接脳内に……!)」

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来客はだる絡み

盲腸で書けなかった。言い訳じゃないよ、うん、全然。


 「上がりー!」

 

 室内にそんな声が響き渡る。

 干支試験2日目。俺たち兎グル―プは現在大富豪を行っていた。俺たち、といってもBクラスの生徒とDクラスの綾小路君とぽっちゃり君と俺だけなんだが……。今日も話し合いにはほとんど行われず、それをみかねた一之瀬さんがトランプを出して時間潰しをしようと提案したのである。

 結局、そのままトランプで遊んでいると終了のアナウンスが告げられ、3回目のディスカッションも終わった。

 

 「さてとー。ちょっと行ってくるね」

 

 一之瀬さんが唐突にそう言った。どうやらAクラスの籠城作戦を指示した葛城君に会いに行くそうだ。

 

 「もしよかったら俺もついていっていいか?」

 「ん? それは全然良いけど、綾小路君も葛城君に?」

 「そういうわけじゃないけどな……」

 

 すると綾小路君が同行したいと申し出た。その後何故か俺に振り返った。

 

 「安藤も一緒に行かないか?」

 「ん? ……何で?」

 「……特に意味はない。しいて言うなら暇そうだったからだな」

 「…………」

 

 この子ひどくない? てかそんな理由で誘わないで欲しいんだけど……。あ、でも。確か葛城君とやらがいるグループには龍園君もいたな。少し用があったし、ついていくか。どうせ暇ですから。

 

 「わかった。俺もついて行く。良いかな、一之瀬さん?」

 「別に構わないよ。それじゃ、急ごうか」

 

 そう言って一之瀬さんは小走りに竜グループのディスカッションが行われている場所まで向かった。

 すぐに竜グループのプレートが架けられている部屋の前に辿り着いた。

 

 「結構時間かかってるね」

 

 一之瀬さんの言う通りまだ竜グループは話し合いを行っているようだ。

 10分後ようやく扉が開き、生徒が出てきた。一之瀬さんはその中のスキンヘッドで強面の男子に話しかけた。どうやらあれが葛城君のようだ。話を聞いているとどうやらうまくいかなかったようだ。

 すると葛城君は俺に視線を向けた。

 

 「そっちの男子は無人島で見たが、こちらは初めて見る顔だな。Bクラスか?」

 「あー違うよ。彼はCクラスの安藤君」

 「Cクラスだと……?」

 

 俺がCクラスだと知ると、葛城君は鋭い眼差しで俺を見た。というかその容姿でされるとそこいらのチンピラじゃちびっちゃうよ? 俺はまだ大丈夫……。

 

 「Aクラスの葛城だ。よろしく頼む」

 「ああ、Cクラスの安藤です。よろしくお願いします」

 

 つい動揺して敬語になっちゃったよ。ていうか葛城君、先生って言われてもさほど違和感ないと思う……。

 

 「では一之瀬、俺はこれで失礼する」

 「うん。時間とらせてごめんね」

 

 一之瀬さんはその場で葛城君を見送る。その後こちらを振り返って肩を竦めた。

 

 「あれじゃ、どうにもなんないね。それにしても神埼君達出てこないね」

 

 確かに遅い。Aクラスは話し合いはしないから出てきたが、他のクラスの生徒はまだ話し合いを行っているようだ。実際のところ、1時間が過ぎてもそれから話し合いをしても問題はない。

 結局、30分ほど待って、ようやく他の生徒が退出した。しかし、そこに龍園君の姿はなく、神埼君と堀北さんと話し合っているらしい。しかし不幸なことに出てきた生徒の中には昨日綾小路君と逢引きしていた櫛田さんがいた。

 

 「あれ、綾小路君と一之瀬さん、それに安藤君!?」

 

 彼女は俺を見るなり昨日のことを思い出したのかあわあわとする。

 

 「大丈夫だ、櫛田。さっき安藤には弁明しておいた」

 「えっ、そうなの?」

 

 そうなのである。実は今日のディスカッションが始まる前に綾小路君から約30分ほど、俺と櫛田がどういう関係か、というのを力説され、昨日のは逢引きではなく、不幸な偶然だったと知った。ちなみにその時、櫛田さんとは家電屋で会っていたことを思い出した。そこで綾小路君もあのあざとい少女の蜘蛛の糸に引っ掛けられているのだと知り、可哀相になった俺は今日行きつけのバーがあるから行こうと誘ってあげた。

 

 「良かった~。それにしても珍しい組み合わせだね?」

 

 櫛田さんは俺たちが一緒にいることに驚きを隠せないようだ。まあ、B、C、Dクラスの生徒が一緒にいるなんておかしいもんね。しかも特別試験中ならなおさらだ。

 

 「堀北さんと神崎君を待ってるんだけど、まだ話し合い中?」

 「その2人ならまだ龍園君と話してるよ。中に入ったら?」

 

 櫛田さんは扉に手をかけて言った。一之瀬さんは終わるまで待つと言ったが、結局櫛田さんに強引に部屋に招かれた。中に入ると、3人は距離を置いて座っていた。俺たちが中に入ると3人からの視線を浴びた。龍園君だけは口を歪めたが、他2人は大した反応もしなかった。

 

 「よう。わざわざ偵察に来たのか? まあ、遠慮せず座れよ。……何でお前がいるんだよ?」

 

 龍園君は俺に気づくと眉を顰めて俺を睨んできた。

 

 「いや、そこの綾小路君に誘われたからさ」

 「綾小路……ああ、鈴音の腰巾着か。お前はいつも女のケツを追ってんな。守ってくれる鈴音がいなけりゃ今度は一之瀬かよ」

 

 龍園君は綾小路君を一瞥して呆れた口調で言った。てっきりこの前デートをしていたから、女の子の方が綾小路君にくっついてるのだと思うのだが……。

 

 「鈴音もこんな金魚の糞にいつまでも構ってないで俺の女になれよ、そうすりゃ最高の気分を味わせてやるぜ?」

 「結構よ。けれど意外ね。あなたのクラスは全員自分の支配下だとか言っていたのに、独断行動するような生徒がいるけど?」

 

 堀北さんは龍園君の下卑た視線を軽くかわして逆に龍園君を挑発するような視線を送る。

 

 「取るに足らないカスにわざわざ俺が手を下す必要はねえだけだ」

 「どうかしらね?」

 

 そのまま十数秒と睨み合いが続いたが、その沈黙を一之瀬さんが破った。

 

 「2人で盛り上がるのも良いけど、私たちも混ぜてくれないかな? 3人が何を話し合ってたのかも気になるしんだけど」

 「クク。そうだったな、おい一之瀬、俺はお前に面白い提案があるんだ」

 「提案? 一応聞くけどどんな提案なのかな?」

 「くだらない話よ、聞くだけ無駄だわ」

 

 堀北さんはすでに龍園君の話を聞いたようで切り捨てるように否定する。

 龍園君の提案とはB、C、Dクラスで優待者の情報を共有してこの試験の全容を看破しようというものだった。確かにひよりの見つけたあの法則に龍園君が至っていても自分のクラスの情報だけではそれが違う可能性があると考えたのだろう。しかし一之瀬さんは龍園君の提案を一蹴した。

 

 「ごめんね龍園君。Bクラスには君の行動で傷つけられた生徒がいる。ポイントのためだけに簡単に手は組めないよ」

 「そうか、それは残念だな」

 

 龍園君はこう言うがまったく残念そうには見えない。しかし、さすがはBクラスでリーダー的役割を持っている一之瀬さんだ。龍園君に対してあそこまで動じずにいられるとは。

 龍園君は部屋を出ようとドアに向かう時、一瞬綾小路君に視線を向けてなにかを口にした。そしてそのまま出て行ってしまった。ここは俺も退散したほうが良いかな。

 

 「えっと、みんなうちの龍園君がごめんね。クラスを代表して謝るよ」 

 「いやいや、安藤君が悪いわけじゃないから」

 「そうだな、逆に安藤に同情する」

 

 俺が頭を下げると一之瀬さんと神崎君が優しくそう言ってくれる。しかし、堀北さんは俺に鋭い視線を向ける。

 

 「私はあなたが龍園君に指示されてそういう態度をとっていると思うんだけど」

 「おい堀北、それは安藤に失礼だろ」

 「そうかしら? 無人島で良くわかったでしょう。Cクラスはそういうやり方をしてくるって。それなら彼がこちらに取り入って情報を流さないとも限らないでしょう?」

 「……確かに」

 「何で安藤が納得するんだ……」

 

 俺の反応に神埼君が呆れ口調で言ってくる。

 

 「いやー、実際俺が逆の立場なら俺もそう思うかも、と……。でも俺は別に龍園君に指示されてるわけじゃないよ、それに彼は俺のこと嫌いみたいだしね」

 「どうかしらね……」

 「おい、堀北」

 「あはは……。お邪魔みたいだし、俺はもう行くよ。そうすれば問題も解決する」

 

 変わらず俺に疑いの視線をかけ続ける堀北さんに苦笑し、俺は退散の意をとなえる。

 

 「悪いな安藤、堀北には俺から言っておく」

 

 綾小路君が申し訳なさそうにそう言った。俺は別に気にしていないと手を軽く振りながらさっさと部屋を退出した。

 

 その後4回目のディスカッションもほとんど進展がないまま終了した。しかし少し気になったのはうちのクラスの女子とおそらくDクラスの軽井沢さんがまたいざこざを起こしていた。てか町田君、あの子に良いように使われてる気がするけど大丈夫だろうか。まあ、随分くっついていたし、それを考えれば役得だろう。綾小路君に聞いたのだが、彼氏いるらしいぞ、その子。

 

 

 _______________

 

 

 その日の夜、バーでひよりと談笑してると意外な客が来た。

 

 「あ、安藤君だ―」

 「……」

 

 Bクラス担任の星之宮先生とDクラス担任の茶柱先生だ。星之宮先生は何故か俺の隣の席につき、茶柱先生もその隣に座った。

 

 「おやおや、デートかな? しかもこんな場所で、大人だねー。サエちゃんも見習ってほしいよねー」

 「おい」

 「ごめんごめん」

 「しかし、何故こんなところにいるんだ。ここはお前たちが来るような場所じゃないだろう」

 「まあ、ここは人がいないですし、それに1度来たら気にいったんで」

 「へえ、人がいないところで何をするのかな? そっちの子は同じクラスの椎名さんだよね?」

 

 この人はのりがいちいち隣のおばさんみたいだな。めっちゃにやにやしてるし……。

 

 「……ただ飲み物を飲んで他愛のない会話をするだけですよ」

 「そうですね」

 「へー? 2人は学校でも結構噂になってるけど、そういう関係じゃないのかな?」

 「おい、生徒のプライベートだぞ」

 「もう、サエちゃんは厳しいなー」

 「ただの友達ですよ」

 「へー、そうー」

 

 何だその棒読みは。すると星之宮先生は少し声色を変えた。

 

 「安藤君は今回の試験、どんな感じかな?」

 「どう、とは?」

 「もう優待者を見抜いたのかな?」

 「いえ、さっぱりです。でも龍園君はもう色々わかってるみたいですよ」

 「ふーん。椎名さんは?」

 「私も同じですね。Aクラスが沈黙を徹底してるのでほとんどのグループは同じだと思います」

 「2人ともつまんなーい」

 

 星之宮先生はウィスキーを頼むとそれを一気に呷った。

 

 「おい、生徒の前だぞ」

 「いいじゃない別に」

 「はあ。お前たち、もう戻った方が良いぞ、こいつ酔うと面倒だからな」

 「そんなことないわよー」

 

 俺とひよりは茶柱先生とマスターに頭を下げて、さっさとその場を離れた。後ろで星之宮先生がうるさかったが気にしない方がいいだろう。

 

 「あの2人は随分仲良しですね」

 「だな。あ、そうだ。龍園が言ってたけど今回のグループ分けで竜グループは優秀な奴を集めたグループだって言ってたんだけど、どう思う?」

 「……私も最初そう思いましたが、それだと不可解な点があります」

 「一之瀬さんだよな……」

 「はい。それに成績順でなら龍園君は選ばれません。恐らく先生が独断で分けている、というのが私の見解です」

 

 確かにな。そうなると普通に考えてひよりが選ばれてないのも変だしな。

 

 「しかし、Dクラスは残念ですね」

 「何で?」

 「修永君の話では龍園君の話についていけてないのは堀北さんです」

 「あー、まあな」

 「龍園君が言うように堀北さんはクラスの内情を理解していないのでしょう」

 

 確かに、堀北さんは他人を頼らずって感じがするけど龍園君みたいにクラスを支配してるわけでもないようだしな。すると突然ひよりは立ち止まり、考えるように手に顎を乗せた。

 

 「どうした?」

 「一之瀬さんが兎グループにいるのが先生によってなされたならそれに意味があるはずです」

 「というと?」

 「……これは推測ですが、一之瀬さんを修永君にぶつけるためだったのでは」

 「それは過剰評価だろ」

 「どうでしょう。修永君に、というわけではないかもしれませんが、意図があるのは間違いないと思います」

 

 確かにそう言われるとそんな気がする。もしかしたら俺の兄を知っているからそんなことをしているのかもしれないな。

 

 「まあ、どういう意図があるにせよ、もしひよりの推測が当たってるなら、それは無駄に終わるな。俺は特に何も行動を起こすつもりはないし」

 「相変わらず消極的ですね」

 「元々俺はこういう奴だ」

 「そうでしたね」

 

 そう言ってひよりは溜め息をもらす。逆にひよりはかなり積極的だよな。こんなぽわぽわしてるのにかなり向上心がある。最初は思ってもみなかった。

 

 「それでも、最終日、恐らく修永君の兎グループでは何かアクションがあるでしょう」

 「うん、俺もそう思う」

 

 実際俺じゃなくてひよりならその観察眼でその場の状況をしっかりと把握できるんだが。

 

 「まあ、明日は1日休みだし、じっくり考えてみる。優待者を報告してポイントを得るよりも他クラスの情報を得た方が良いと思うし」

 「はい、それが賢明だと思います。私も一緒に考えますよ」

 「ありがとう、それじゃおやすみ」

 「はい、また明日」

 

 

 

 




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高みの見物

正直、Cクラスの時点で干支試験主人公することないよなと今更思った私でした。


 試験最終日に突入した。昨日のインターバルの日に牛グループの試験が終了するという事態があったが、それ以外には特に何もなかった。昨日ひよりと話し合った結果、こちらは見に徹底することにした。50万プライベートポイントが欲しくないかと聞かれれば実際欲しいが、目先の欲をとり、相手に疑念を残すのはよくない。

 

 5回目のディスカッション、前の回と大して変わらずトランプをして遊んでいた。しかし、妙なことがあった。うちのクラスの女子たちが一切軽井沢さんと関わらなかった。そして心なしかお互いの様子も少しおかしかった。

 俺がそのことを考えながら6回目のディスカッションに向かう。開始まで30分ほどあるが、別にひよりがディスカッションでいなくてすることがなかったからではない。

 部屋に到着し、入室すると床で寝ている一之瀬さんとそれをじっと見ている綾小路君がいた。具体的には下半身の部分を注視していた。

 綾小路君は俺に気づくと血相を変えて慌てふためいた。俺は綾小路君の肩に手をぽんと置いた。

 

 「気にしなくていい。男の性だ」

 「いや、違うんだ」

 「ただ、犯罪だけはよしてくれ。一時の幸福のために青春を捨てるのはもったいない」

 「何でそうなるんだ……。勘違いだ」

 「まあまあ、とりあえず向こうで聞くから、かつ丼は好きか?」

 「いやいや、何でそんなに飛躍してるんだ。それにどこの刑事ドラマだ……」

 

 俺と綾小路君は一之瀬さんを起こさないように部屋の隅に移動して腰を下ろした。

 

 「ま、さっきのは冗談だよ。一之瀬さんは魅力的だから、あれで一切関心を示してなかったら、綾小路君がそっち系の人間だと思っちゃうよ」

 「それは勘弁してくれ……」

 

 実際、君と同じクラスの外村君なら間違いなくスカートの中を覗いた気がする。それは偏見か……。

 俺と綾小路君が話していると可愛らしい音が室内に響いた。それは一之瀬さんの携帯から鳴っていた。

 

 「んぅ」

 

 一之瀬さんは目を閉じたまま後頭部にある携帯を無造作にとって、アラームを止めた。目をこすりながら上半身を起こすと俺と綾小路君の存在に気づいた。

 

 「おーはよー綾小路君に安藤君。ごめんアラームで驚かせちゃったかな?」

 「いや、別に。よく眠ってたみたいだな」

 

 綾小路君、それは何だか観察していたみたいに聞こえる。

 

 「ごめんねグースカ寝ちゃって。2人とも早いねまだ20分あるよ?」

 「俺はさっき来たばかりだけど」

 「俺もだ……一之瀬こそ、いつ頃から来ていたんだ?」

 「1時間前かな。頭の整理もしたかったし」

 「成果あり、ってことか?」

 「それなりにかな」

 

 そう言って一之瀬さんは俺たちの横に腰を下ろした。この状況では俺はお邪魔だろうか。

 

 「試験まで時間あるし、少し話でもしよっか。2人が迷惑じゃなきゃだけど」

 「別に迷惑じゃない」

 「俺も別に良いよ。このまま無言で過ごすのは退屈だしね」

 

 てっきり、トランプで遊んで時間を潰すと思っていたけど。

 

 「じゃあ決まり。実は2人に聞きたいことがあってね。クラスの子には全員聞いたんだけど、2人はAクラスに上がりたいって思いは強い?」

 

 結構普通の質問だな。

 綾小路君はAクラスに上がりたいと言っていた。まあ、当然か、そうでなければこの学校に入った意味がない。

 

 「安藤君は?」

 「んーまあ、俺も上がりたいかな?」

 「何で疑問形?」

 「いや、俺がこの学校に来た理由って兄がここのOBだからなんだ」

 「そうなのか」

 「ってことはお兄さんに勧められて?」

 「いや、勧められてはいないな。どの学校でもよかったし、強いて言うならこの学校は1人暮らしができるから、かな?」

 「そんな理由でよく入学できたな……」

 

 俺がこの学校に来た理由に2人は苦笑した。

 

 「ってことは安藤君はそこまでAクラスに上がることに固執してないのかな?」

 「いや、どうだろね。うちのクラスには龍園君がいるから」

 「安藤、気になっていたんだが、何で無人島試験の後から龍園を君付けにしてるんだ?」

 「あ、確かに。前は呼び捨てだったよね?」

 「……心境の変化、かな。龍園君は俺の思っているような人じゃなかったから」

 「それはどういう?」

 「企業秘密、かな。まあ、そんな大層な話じゃないけど、これを言ったら龍園君に怒られちゃいそうだからさ」

 「ふーん……」

 

 俺の言に一之瀬さんは少し訝しむように俺を見たが、すぐにいつも通りになる。

 

 「この勝負、2人は勝つための道筋見たいのを見つけたか?」

 「うーんそうだね。そのヒントは得たと思ってるよ」

 

 綾小路君の問いに一之瀬さんはそう答えた。まあ、素直に情報を言うわけないか。けど、やはりこの6回目の試験で何かが起こるな。

 綾小路君は俺に視線を向けるが俺は「さっぱり」と言って首を横に振った。

 

 「ならこの勝負、AかBのどちらかが勝つ勝負になりそうだな」

 「それは蓋を開けてみるまではわからないよ。私が狙う勝ち方は―――――」

 

 肝心な部分を言う前に試験時間が近づいたのか続々と生徒が入ってきて最後までは聞けなかった。

 全員が部屋に入室し、一之瀬さんが短く挨拶をした後、すぐに事態が動いた。綾小路君と確かBクラスの浜口くんが同タイミングで切り出した。しかし、タイミングでも図ってたのだろうか、綾小路君はいつになく真剣な顔だが……。2人はどうぞどうぞをしていたが、結局浜口君が先に話すことになった。浜口君の意見とは全員が携帯の学校から送られてきたメールを見せて優待者を割り出し、結果1に導くというものだった。他のBクラスの生徒はそれに同意を示し、一之瀬さんも笑顔で流れに沿うようにスカートの右ポケットに手を入れた。

 

 「私もずっと悩んでいたんだけど、浜口君の言葉を聞いてわかったの。その、今まで黙っていたんだけどね……」

 

 そんな意味深な言葉を言いながら携帯を出そうとしている瞬間、綾小路君が前に出て携帯を差し出した。あちゃ、ひよりの予想通りの展開になっちゃったな。

 

 「うん、綾小路君も優待者じゃないみたいだね」

 

 ここからは茶番だが、付き合ってやるか。流石に綾小路君が見せただけではどうしようかと迷っている生徒ばかりだ。

 

 「俺も見せるよ」

 

 俺は一之瀬さんの前まで進み、メールを開いて一之瀬さんに見せた。すると他の面子が続々と携帯を出してくる。それは自分を守るため、Cクラスの面々も最初は行かない姿勢だったが、自分が優待者と疑われたくないのか携帯を差し出してきた。それに続き、軽井沢さんと外村君も携帯を差し出して優待者ではなかった。

 

 「乗り遅れちゃったけど私も見せるね」

 

 改めて左ポケットから携帯を取り出し、みんなに見えるように差し出した。一之瀬さんも優待者じゃないようだ。これで携帯を見せていないのはAクラスとDクラスの幸村君だけとなった。

 

 「待て一之瀬。さっ言いかけたことは何だったんだ。今まで黙っていたこととは?」

 

 Aクラスの町田君が忘れずに突っ込んでくる。

 

 「あれは、ただ私もずっと同じ考えを持っていたって言いたかっただけだよ?」

 「そんなことか」

 

 一之瀬さんはさして動じることもなくそう答えた。

 Aクラスの生徒を見るとかなり前のめりになっている。流石にこの流れに乗らないわけにはいかないのだろう。すると幸村君が折れたように携帯をとった。幸村くんは苦悶の表情をして裏切らないで欲しいとこちらに願った。 他の生徒はほとんどが幸村君が優待者だと確信している。

 するとAクラスが余裕の表情で携帯を差し出した。それを確認した幸村君表情を曇らせながら携帯を操作する。

 

 「……嘘をついてすまなかった綾小路……」

 

 そう謝ると、学校からのメールを開き、みんなに見えるように差し出した。そこに書いてあったのはみんなと違う文章、優待者と記された文があった。

 それを見て一層驚いたのはDクラスの面々だった。

 部屋には重いムードが走り、優待者は幸村君だと明かされた。浜口君が幸村君に謝り、Aクラスの面々は笑みを浮かべている。

 やはり見に回ってよかったな。優待者が判明し、いつもと表情が違う生徒が3人いる。1人は眉を顰めながら口元を少し歪めている幸村君。2人目は全体を見回していつもより真面目な顔で思案顔の一之瀬さん。そして3人目はちらちらと綾小路君に視線を向けて表情の硬い軽井沢さん。

 ま、今回2人の利害は一致してるわけだし、どっちがどちらの配役でやるかに過ぎないしな、綾小路君。

 

 室内に幸村君が持っていた携帯が鳴り響く。それに度肝を抜かれたように驚いたのは幸村君。慌てた様子で携帯を落としてしまい、画面が表を向いたまま震える。発信者の名前は「一之瀬」。

 その本人の一之瀬さんは携帯を耳に当てて真剣な眼差しで幸村君と綾小路君を見た。

 

 「何をしているんだ一之瀬。こんなときに幸村の携帯に電話をかける必要はないだろう」

 

 何も知らない町田君が一之瀬さんに怪訝な視線を向ける。

 一之瀬さんは静かに電話を切って携帯を拾い、それを綾小路君に渡す。

 

 「この優待者と書かれたメールの持ち主、幸村君のじゃなくて綾小路君のだよね? だって今私が電話をかけたのは綾小路君で幸村君じゃないんだから」

 

 それから町田君が血相を変えて綾小路君に差し出された携帯を手にする。一之瀬さんは綾小路君達の作戦を見破った。どうやら自分のクラスに優待者がいたら携帯をとりかえるという作戦をとるかもしれなかったと話した。しかしその作戦には電話番号という弱点があった。どうやらSIMカードの交換を試したらしいが携帯は2台とも使用できなくなったらしい。

 幸村君はそれを聞いて顔面蒼白となり、「くそっ!」と叫ぶ。終了5分前のアナウンスが鳴った。

 

 「残念だったな幸村。まあ、良い線言ってたけどな?」

 

 町田君が幸村君の様子を見てにやにやと笑いながら、侮辱するように言った。

 これで綾小路君が優待者だと確信しただろう。続々と部屋を退出していく、幸村君は綾小路君に悪態をつきながら、悔しそうに出て行った。俺もさっさと退出しよう。今回の要になった2人は聞かれたくない話もあるだろうし……。

 

 「お疲れ、綾小路君」

 「ああ、それじゃあな」

 

 俺は綾小路君に軽く労いを入れて部屋を退出した。少しすると携帯が鳴った。恐らく裏切り者が出たのだろう、まああの感じで裏切らない方が無理か。Cクラスの子じゃないと良いんだが……。その後また携帯が今度は4度鳴り響いた。俺は携帯を開いてメールを確認すると鼠、馬、鳥、猪のグループが裏切り者の登場で終了した旨が記されていた。俺はそれを確認するとにやりと笑いながら、人のいない通路を進む。

 

 

 _______________

 

 

 夜の午後11時前。俺とひよりは船外のデッキにいた。この時間の船内はどこも人で盛況していて人が少なかったのはここだけだったのだ。

 

 「お疲れ様でした修永君」

 「ああ。ひよりもお疲れ」

 

 俺はデッキの手すりに身をよせながらお互いに労いの言葉をかけあう。その後試験結果のメールが送られるまで軽く会話をしながら待った。すぐに俺とひよりの携帯が鳴った。内容を確認すると虎、蛇、羊、犬グループが優待者の存在が判明せず結果2。鼠、馬、猿、鳥、猪グループが裏切り者の正解で結果3。牛、兎グループが裏切り者の不正解で結果4。そして竜グループだけが全員の答えが一致したため結果1となった。そしてその後にクラスごとのポイントの振り分けが記されていた。

 

 Aクラス……マイナス200cl プラス200万pl

 Bクラス……変動なし      プラス250万pl

 Cクラス……プラス150cl  プラス550万pl

 Dクラス……プラス50cl   プラス300万pl

 

 「大方予想どおりですね」

 「ああ。Dクラスがプラスなのが妙だけどな」

 「それはおそらく1日目で終了した猿グループでしょう。あそこの優待者はCクラスの生徒ですから」

 

 ってことは猿グループのDクラスの誰かは本当に話し合いだけで優待者を見破ったのか。とんでもないな。

 

 「ですが、龍園君も意地が悪いですね。敢えて竜グループは結果1にしてDクラスを挑発してるのでしょう」

 「確かにな。今頃Dクラスの生徒の所に行ってたりして」

 「彼なら十分ありえそうですね……」

 

 堀北さんも可哀相に、まあ龍園君はそういう人だししょうがないな。

 

 「今回はこちらの圧勝、ということになりますね」

 「そうだな。情報も得たし」

 「綾小路君のことですか?」

 「確証するわけじゃないけどね。ひよりが法則を見つけたからこそわかったことだよ」

 「龍園君は気づいていないでしょうね」

 「気にはしてたと思うぞ? 綾小路君、いつも堀北さんと一緒だから」

 

 少なくとも一之瀬さんと同じ発想をするほどの人間なのだろう、綾小路君は。そして一之瀬さんもうすうすそれには感づいてるはずだ。

 すると唐突にひよりが空を見上げた。

 

 「相変わらず凄いですよね」

 「ああ、都会じゃまず見られない光景だな」

 「はい……」

 

 前回来た時はいちゃいちゃしているカップルと綾小路君と櫛田さんのまぐわいで気にも留めなかったが、この景色だけでも相当な価値がある。今は結果発表だからか、リア充どもがいなくてとてもいい。

 寒いのかひよりが身ぶるいをする。今は夏真っ盛りだが、夜中でもありかなり寒い。

 

 「そろそろ中に戻るか?」

 「……もう少し見ていたいです」

 「そうか、じゃあ……」

 

 俺はジャージの上を脱いでひよりに差し出した。

 

 「それでは修永君が寒くないですか?」

 「いや、俺は別にだいじょう……」

 

 すると潮風が吹き、俺は身ぶるいをした。

 

 「……」

 「……」

 「……はぁ、早く上着を着て下さい」

 「ごめん」

 

 俺が上着を着直すとひよりが抱きつくくらい身を俺に寄せた。俺は固まってしまい動けない。

 

 「ちょっと、ひより?」

 「こうすれば、温かいですね」

 「いや、まあ、そうだな……」

 

 そうかもしれないけどさ、どうなんどろうか。まあ、出掛けた時とかもたまに近い時あるし、多分俺のことを信頼してくれてる証だと思えば、だが異性としてまったく見られていないというのは悲しい。

 俺は諦めたように溜め息を吐いてひよりの手を握った。

 

 「……!」

 「これならもっと温かいだろ?」

 「そうですね」

 

 ひよりは一瞬驚いたがすぐににこりと微笑んで手を握り返した。

 こうして俺たちの豪華客船旅行は終わりを迎えた。

 

 




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主人公の誕生日を変更しました。意図は次でわかるはず。


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俺はブラコンじゃない!

ひよりのキャラ崩壊。私の妄想全開。


 特別試験も終了し、夏休みもあと数日というところ。俺はハルヒのように夏休みを繰り返したいと思うも、それはたんに2学期の授業を嫌ってのことなだけがする。ただ、新鮮な未来にわくわくする自分もいて何とも言えない気分だ。

 俺の夏休みの過ごし方はシンプルだ。基本部屋で何かをするに限る。これはひよりにも言えたことで今回の特別試験の期間を除いた日は9割方俺の部屋で過ごした。最初は俺も疑問を持ったものだが直に慣れ、ひよりが俺の部屋にいるのが定着していた。そしてすることは基本アニメを見るか本談義、またはお互いに黙って本を読むかたまに部屋のゲームで遊んだり、まあインドアの極みである。

 そんな日々を送るのが常だが今日はひよりが新しいゲームを持ってきた。

 

 『マリカ』だ。それもなつかしきWiiの8がついてない奴だ。

 

 今日は部屋に来た時からいつもと違う雰囲気だったがこれのことだったのだ。自分で買ったのだろうか、ひよりはそこまで節約に固執してるわけじゃないが不必要な出費は抑える人間のはずだが……。また何かに触発でもされたのだろうか。しかし、ひよりがゲームショップに1人で『マリカ』を買いに行っている光景が想像できない。

 

 「今日はこれで遊びましょう」

 「いいけど、何でマリカ?」

 「そうですね、私はいつも修永君のお部屋でお世話になっているのでそのお返し、でしょうか? ただ修永君の趣味的にはゲームが良いかと思ってそれでネットで調べたところこれなら私でも遊べそうだな、と」

 

 ん、ん? まあ、何となくはわかるが、確かにひよりは俺の部屋で俺の飯を食べるし世話してるといえばそうなんだろうか。ただしっかり食費は貰っているし、最近はひよりも料理を覚えようと一緒に作ってるからお返しの必要はないけど、まあせっかくの厚意だし、いいか。

 

 「じゃあ、やるか」

 「はい」

 

 俺はWiiを準備して『マリカ』のカセットを入れ、起動する。取扱説明書を読んで操作方法を理解した俺とひよりは軽く練習で操作の確認をした。

 そしてキャラクターを選択してグランプリで比較的簡単そうなキノコカップを選択した。ちなみに俺はヨッシーをひよりはマリオを選んだ。

 

 「修永君、負けませんよ」

 「え、あ、ああ」

 

 レースが始まる前にそう宣言される。ひよりは案外勝負にはこだわるタイプなのだろうか。

 すると1つ目のレースが始まる。彼女は勉強だけでなくゲームの才能もまあまああったようで余裕でCPUを抜いていき、1周目はマリオが1位、2周目はヨッシーが1位と接戦を繰り広げる。そして最後の3周目、俺のヨッシーが1位でゴール前まで来るもひよりのマリオが赤甲羅をヨッシーに当てて抜き去り、マリオが1位となった。

 

 「やりました!」

 「負けたー」

 

 ひよりはとても嬉しそうな顔をしてこちらを見る。とても楽しそうだ。

 その後も同じような展開で毎回ひよりが1位、俺が2位という結果になる。だが勝っているひよりはレースが進むごとに不機嫌になっていき、4レース目が終わるとリモコンを床に置いた。何やら怪訝なムードを感じ取った俺はひよりに視線を向けるとひよりは俺を睨んでいた。それは初めて見る顔で一発で怒っているのがわかった。

 

 「ひ、ひより?」

 「不愉快です」

 「え?」

 「この4レース、全てで最後の最後に私が修永君を抜いて勝つ展開でした」

 「……すごいんじゃないのか?」

 「それを本気で言ってるならより一層不愉快です。あなたはわざとこういう展開で私を勝たせていたのでしょう?」

 「いや、それは買い被りじゃないか? 第一、今日初めてプレイするんだ、そんなうまいことできないだろ」

 「4レース目で私がわざとバナナに引っかかるたびにスピードを落としたのもですか?」

 「……」

 

 俺が言い淀むとひよりははぁ、と溜め息を吐く。

 

 「無人島でも言いましたが、あなたに信頼されるまでは私は何も聞くつもりはありません。ですが、ゲームでまでそんな自分を殺すような生き方をするんですか?」

 「……」

 「私に気をつかって気持ちよく勝たせれば私が満足すると、そう考えたんですか?」

 「それは……」

 「でしたらそれは私への侮辱です。私は今とても満足とは程遠い気持ちです」

 

 俺はそれを聞いて茫然とし、後悔の念が俺を襲った。

 

 「ごめん……」

 

 俺がその言葉を絞り出すと彼女は一転してにこりと微笑んだ。

 

 「もう一回やりませんか?」

 「良いのか?」

 「はい。でも、今度は真剣にやって下さいね?」

 「……ああ、悪かった」

 

 俺とひよりはもう一度レースを始めた。結果は4レース全て俺の1位で終わった。今度はひよりはとても楽しそうだった。だが、同時にとても悔しそうだった。

 

 「楽しかったです。ですがとても悔しいです、もう一度やりましょう」

 「いいよ」

 「次は負けません」

 「おう、俺も負けない」

 

 ひよりは結構負けず嫌いなようだ。

 そして俺たちの表情は最初とうって変って笑顔で『マリカ』を楽しんだ。

 

 「さっき、ひよりは俺が自分を殺してる生き方をしてるっていったよな」

 「……あくまで例えです。私の主観にすぎません」

 

 『マリカ』をしながら唐突にそう言うとひよりもこちらを見ずにそう返してくる。

 

 「俺には1人、兄がいるんだが、兄はとても優秀で何でもできた。学校では1番の人気者で俺とは違って友達もたくさんいた」

 「修永君は昔から友達がいなかったんですか」

 「……んんっ。兄は俺をいつも連れまわした、どこに行く時もだ。多分家で1人でいる俺を見かねたんだろうな」

 「……」

 「サッカーにバスケ、野球といろんなスポーツをやって鬼ごっことかの遊びもした」

 「楽しそうですね」

 「ああ、楽しかった、ほんと。俺が凡人であったならな」

 「どういうことですか?」

 「簡単に言えば俺は才能の塊だった。自慢じゃないぞ、それに兄だって才能の塊みたいな人だ。前はこの学校で生徒会長をしていたらしいしな。だけど、兄は1度も1位になれなかった。かけっこでも何でも競い合うものなら何でもだ。全部において俺に負けた、4つも下の弟にだ。それに気づいたのが小5の時だな。それから俺は兄を避けるようになった。その後兄はこの学校に入学して俺はひよりが言うようなこんな生き方をするようになった」

 

 俺は昔を思い出すように話した。すると隣のひよりが俺の正面に来て両頬をむぎゅっとする。俺はリモコンを持っていて反応できなかった。

 

 「馬鹿ですね、すごい馬鹿です、真性の馬鹿です」

 

 なんかすごい罵倒されたんだが、ていうか顔が近い……鼻がすれすれな距離だ。

 

 「馬鹿ってひどくないか?」

 「ひどくありませんよ、修永君はお兄さんに自分が勝つのは申し訳ないとか考えていたんじゃないんですか?」

 「それは……そうかもしれない」

 「それが大間違いです。修永君は本当は怖かったんですよ」

 「怖かった?」

 「はい。自分が大好きなお兄さんに嫌われるのが怖かった。人気者のお兄さんよりも4つも下の弟の方が優れていて、それでお兄さんよりも自分がほめたたえられて恨まれることが嫌だったんですよ」

 「いや、大好きなって……それに俺は別にそんなこと……」

 「違いません。私は修永君のお兄さんに会ったことはないのでわかりませんがお兄さんは修永君を恨むことはないと思います。逆に私なら弟に気を使われる方がよっぽど嫌です。お兄さんも同じように考えてるでしょう」

 

 ひよりはいつもとは違った真面目な表情で俺の目をまっすぐと見て言った。

 

 「聞きますけど、お兄さんが一度でも修永君に恨みつらみを言っていましたか?」

 「……ない、な。悔しそうにはしてたけど、さっきのひよりと同じ感じだった」

 「そうでしょうね。でも話を聞いた感じだと修永君、一度もお兄さんにさっき私にしたようなやり方で勝負事をしたことがないでしょう?」

 

 言われてみれば、確かに。俺が兄と関わらなくなる前までは普通に本気で兄と競っていた。

 

 「恐らくですが、お兄さんも私と同じように、いえ、私よりも早く修永君がそんなくだらないことをしているのに気付き、それを咎めたでしょう。しかし、お兄さんはこの学校に来て関わりがなくなり、修永君は中学校でそんなやり方をしてる内にそれが定着してしまった。違いますか?」

 「そう、かな?」

 「勝って喜んでる人たちを見て自分は正しいことをしてるとか考えたんでしょうが、それは人を馬鹿にした行為です」

 「……」

 「でも誰も言ってくれなかったんですか? お兄さんじゃなくてもともだ……母親や父親とか」

 

 どうせ俺は友達いないよ、悲しくなんてない。

 

 「うちの家は両親とも共働きで父さんは会社の社長で母さんは父さんの秘書で基本家にはいない。だから家ではいつも兄と2人だった」

 「まあ、それは不幸だと思うしかないですね」

 「そうかな」

 「思ったんですけど、修永君がお兄さんより優秀でも人気者にはなれないですよね? 修永君、碌に友達できないほどコミュニケーション力ないですし、自主性も皆無ですし……」

 

 あってると思うけどこの子ひどくない? 俺の心を的確にえぐってくるんだけど。すごい真顔だしね。

 

 「でも良かったです」

 「何が?」

 「私も結構気にしていたのに修永君がそんなくだらない理由でこんなくだらないことをしていたことが判明して私の気苦労を返せ、って感じですが。無人島であんなくさいことまで言わせておいて結局は大好きなお兄さんに嫌われるのが怖かっただけなんて理由だったなんて、ねえ?」

 「目が怖いよひよりさん……」

 

 俺がぷるぷると震えているとひよりは頬から手を離して溜め息を吐いた。

 

 「ともかく、もうこんなくだらないことはしないでください」

 「……努力する」

 「し・な・い・で・く・だ・さ・い」

 「はい……」

 「じゃあ、仕切り直しです」

 「おう」

 

 ひよりは隣に座りなおしてまた『マリカ』を始める。

 

 「ひより……」

 「何ですか?」

 「ありが、とう?」

 「何で疑問形なんですか……。別に私は大切な人の話を聞いて少し叱っただけです」

 「あはは……ごめん、ありがとう」

 「良いです、今回は修永君の勝手な思い込みと不幸が招いたことです。でももう、やらないでしょう?」

 「もちろん、ひよりに嫌われたくないし、怒ってるひよりはあまり見たくない」

 「賢明です。それにしても私が怒るとそんなに怖いですか?」

 「ああ。本当に怖かった」

 

 あれはもう何だろうか、静かな怖さというか、気温が一気に下がる感覚を覚えたぞ。

 

 「では生涯見ないように努力して下さい」

 「ああ、あ?」

 

 今、なんかおかしかったような? そんなことないか。

 俺は首を傾げたが気になることがあったのでそれをひよりに聞く。

 

 「ちなみにさ、もし俺が手を抜いたらどうする?」

 

 そう聞くとひよりがにっこりと笑って、しかし目が笑っていない笑みでこちらを見た。

 

 「聞きたいですか?」

 「だ、大丈夫でーす」

 

 絶対やらないように気をつけよう。

 

 「でも、目立つのとか嫌なんだけど……体育祭とか」

 「勝つのは確定なんですか……まあ、そこは私がなんとかします」

 「まじか、よろしく」

 

 ひよりに任せておけばどうとでもなる気がする。

 

 「修永君はモテたいとか言うわりには目立つことが嫌いですよね。他人に話しかけられると警戒心むき出しですし……。だから友達いないんですよ」

 「いや、いるから、綾小路君とか。……っていうかそんなこと言ってるけどひよりだって友達いないじゃん」

 「とかとはなんですか、それ以外にいるんですか? それに私だって帆波さんと友達、で、す?」

 「疑問形になってるじゃん……」

 「都合の悪い部分をスル―しないでください。修永君本当は綾小路君以外友達いないでしょう?」

 「くっ、ちょっと待て。今思い出すから……」

 

 俺が考え込むとひよりは残念なものを見る目で見てくる。

 

 「もういいですよ……」

 「いや待て……あ、神埼君とか!」

 

 いや、でも神埼君は友達と言えるのだろうか、いやそもそも綾小路君すら友達なのだろうか。会話ができる仲、というだけで向こうは一切そんなことは感じてないとか……。

 

 「なあ、ひより。友達の定義って何だ?」

 「どうでしょう、人によって違うと思いますが、プライベートで遊べるような仲じゃないですか?」

 

 そうだったのか……てことは俺、友達いないじゃん……。

 

 「ひよりは一之瀬さんと遊んだことある?」

 「…………ありますよ?」

 「今の間はなんだ?」

 「いえ……あ、茶道部の方、は友達ではないですね」

 「俺たち、お互い寂しい高校生活だな」

 「はい……」

 

 ひよりが一緒だったから気づかなかったけど、俺ひよりいなかったらただのボッチじゃん。ん、待てよ?

 

 「俺とひよりはどういう関係になるんだ?」

 「ふむ……遊ぶ仲ではあるので友達、ということになるんじゃないですか?」

 「友達、か……」

 「友達、です……」

 

 俺は友達という言葉に何か違和感を覚え、複雑な気持ちになった。何でだ? 隣を見るとひよりもよくわからない表情をしていた。

 

 「俺とひよりの仲が友達なら、友達はその人の部屋で遊んだり、一緒に飯を食わなきゃいけないのか」

 「そういうことになりますね」

 「……」

 「……」

 「無理だな」

 「でしょうね」

 

 人の部屋に入るなんて俺には無理だ。綾小路君とかもできれば俺の部屋には入ってほしくない。

 

 「私たちの仲は友達よりももう1つ上のランクかもしれませんね」

 「おお、それは?」

 「とても仲が良い、信頼できる唯一無二の存在を世間では親友と呼ぶそうです」

 「あー、なるほど。あれか、岡崎と春原的な」

 

 確か岡崎は春原の部屋に入り浸っていたからあれが親友というなら確かに今の俺たちにはぴったりだな。

 

 「じゃあ、友達のハードルも下がって綾小路君と神崎君は俺の友達ということになるな」

 「では、私も帆波さんと友達ですね」

 「よし、解決した」

 「そもそも始まってたんですか?」

 「まあ、細かいことは良いじゃん」

 

 その後、『マリカ』を終えて、遅い昼食を食べた。ちなみに今日はお世話?になったということで俺が腕によりをかけて振る舞った。 

 その後、本を読んだ後、本談義をするとひよりがケヤキモールに夏休みの間だけ来ている有名な占い師が相当当たるらしいと評判になっているらしい。

 

 「占いか。俺はあまり意識したことはないな」

 「修永君は占いは信じないタイプですか?」

 「信じないっていうか、興味がないだけだな。ひよりは?」

 「そうですね、私も本では読んだことはありますが、よくてニュースで見る程度でしょうか」

 

 ひよりもどちらでもない系の人間か。あれはコールドリーディングとか当たり障りのないことを言ってるだけと否定してる人がいたりするからな。

 

 「そんなに当たるのか?」

 「らしいですよ。どうやら2人1組みで占ってるらしく毎日行列ができるらしいですよ」

 「リア充が……」

 「言うと思いました」

 「ま、俺には関係ないことだな。金払ってまで占いをしてもらいたくはないし、そもそも行列に並ぶなんて絶対嫌だし」

 「私も同じですかね。行列は食堂でもうこりごりです」

 

 懐かしい。あれはひよりと知り合ってすぐのことだろう。と言ってもあの時は20分も待ってないが占い師の方は1時間以上は待つことになるだろう。別に待つのは嫌いじゃないが俺は行列が嫌なのだ。

 

 「そうだ、占いやってみましょうよ。携帯のアプリならできるでしょう?」

 「おう、いいよ」

 

 ひよりは自分の携帯を取り出し、占いのサイトを開いた。どうせならと占い師と同じく2人の仲を占うことにした。ひよりは自分の名前と生年月日、血液型を入力し俺の名前を入力する。

 

 「安藤修永、と……生年月日と血液型は?」

 「ひよりと同じ年で8月25日、血液型はO型だよ」

 「はい、わかり……え?」

 「ん、なんか変だった?」

 

 するとひよりは30秒ほど停止した後、立ち上がり、帰り支度を始める。

 

 「今日は帰ります」

 「え、占い結果は?」

 「用事を思い出したので」

 「あ、うん、わかった」

 「それでは、おじゃましました」

 「じゃあな」

 

 そうしてひよりはさっさと帰ってしまった。

 何故帰ってしまったのだろう。何か気を悪くするようなことでもあったか?

 

 「占いの結果が悪かったから、とか?」

 

 そう思った俺は携帯で同じサイトを開いて情報を入力して占うと書かれたボタンを押す。すると10秒ほどして占い結果が表示された。結果にはまず上に2人の仲をパーセンテージで記されており、その下に説明が書いてあったのだが……。

 

 「-100%だと……」

 

 そこに記されていたのは0を通り越したマイナスという最悪の結果だった。これを見てひよりはショックを受けたのだろうか。というかマイナスがあって良いのだろうか。下の2人の説明を見ると、色々と書いてあったが要点を言えば水と油のような関係でしょうと書いてあった。

 

 占いが少し嫌いになった1日になった。

 

 




占い行かせるか迷ったけど、正直この2人を占い師に行かせるにはかなり強引になるなと思い、結局あきらめました。
誤字脱字、批判などありましたら報告お願いします。感想も待ってます!


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