Wild Flowers~風と雲と冒険と~ (尾久出麒次郎)
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登場人物(出会い編)

 カミル・トレンメル(15)

 

 マゼラン共和国の辺境に住むゼネバス系の少年、祖父はマゼラン陸軍特殊部隊将校、アルベルト・トレンメルで父はマゼラン陸軍中尉。性格は内向的で、それを自覚して悩んでいるがそれを行動で補っている。紺色の少し長い髪に、エメラルドグリーンの瞳、柔和で頼りなさそうな顔立ちだが趣味は射撃全般、釣り、ハンティング、ホバーボードとアウトドアで週末や長期休みは山で過ごす、ゾイドを畏怖しながらも対等な生き物としてる。

 ヘルガに恋心を抱いたことで、旅に出る決意をする。

 イメージCV:花江夏樹

 

 

 ヘルガ・カミシロ・シュティーア本名:セリーナ・ソラノ・シュタウフェンベルク・フォン・アーカディア(15)

 

 アーカディア王国の王女と同じ名前で瓜二つの少女。革命で国を追われる、母親は極東の国、扶桑皇国出身、長い黒髪に美しい東洋人の顔立ちにディープスカイブルーの瞳、頻繁に抜け出しては城下町で遊び、そして三獣士に連れ戻されるのを幼少の頃から繰り返してるお淑やかなお転婆娘で何度も危ない目に遭っている。特技は料理等、家事全般で将来の夢はお嫁さんか旅人、古代ゾイド人の血を引くのか、水色の二つに分けた楕円がある。

 カミルの恋心薄々気付いてるがまんざらではない様子。

 イメージCV:早見沙織

 

 

 

 アーカディア王国三獣士

 下記の三人はヘルガととある理由で力を蓄えながらアーカディアを目指している。

 

 ハロルド・ヒギンズ(34)

 

 元共和国海兵隊中尉のレオマスター、戦争中は『濃紺の死神』『マリーン・レオマスター』と恐れられた。戦闘以外は寡黙で口数は少ないが戦争中に子どもに関するトラウマを背負い。ヘルガを守るためとなると命を顧みないこともある、軍人らしく鍛えた体には無数の傷跡があり、葉巻の愛好家でコクピットにアルミ灰皿を仕込んでいる。顔立ちは整ってるが無精髭、無造作に伸ばした髪、それにアビエイターのサングラスで近寄りがたいが情に厚い、ゾイドを戦友として接する。各種銃器、特に近接戦闘に長ける。

 カミルの恋心には中立的な立場で見守っていく様子。

 イメージCV:中村悠一

 

 

 イヴァーナ・ミッシェル・クオーリ(未公開)

 

 アーカディア近衛師団少佐、古代ゾイド人の血を引く女性。旅のリーダー的なポジション、生真面目でヘルガには王女としての自覚を持って欲しいと口うるさい。堅苦しいため未だに独身で結婚願望が強い、時には嫉妬する等大人気ない一面あり。酒豪でガイロス産黒ビールが大好物だが嫌煙家。クリーム色の長い髪を纏めに丸眼鏡で背の高い美人で額には宝石のような赤い模様がある。暗殺と拷問、諜報を得意とする。

 カミルの恋心には真っ向から反対してるが関係は良好。教育係兼護衛。

 イメージCV:大原さやか

 

 

 ヨハン・オルベルト・シュバルツ(30)

 

 ガイロス帝国陸軍第一装甲師団出身の大尉、トーマ・リヒャルト・シュバルツの子孫。電子機器全般と射撃戦を得意としてる、瞬間湯沸かし器で明るく能天気、イヴァーナとよく小競り合いをしたりカミルとヘルガと遊び相手をする等、オタクな少年がそのまま大人になった男で極東の小さな島国、極東の国東亜国に行くのが夢でそのために極東語を勉強している。

 カミルの恋心には応援してるが羨ましがってる。狙撃、料理、ハッキングが得意。

 イメージCV:杉田智和

 

 

 カミルの同級生たち。

 

 アヤメリア・ハミルトン(15)

 

 お節介で気の強い男勝りな幼馴染、それでいて明るく前向きな性格。カミルは小さい頃から泣かされていたがある日からみるみる逞しくなっていくカミルに惹かれていた。バレー部で体力は高い。彼女も感化されて数人の仲間ある決意をする。金髪ショートカットに長身で引き締まった四肢、大きな胸と男子生徒から畏怖と煩悩の対象となっている。

 イメージCV:東山奈央

 

 ジョエル・カーチス(15)

 

 カミルのクラスメイトでセブタウン整備工場長の息子で、陽気で飄々として性格でゾイド好きなことからカミルと気が合うよき理解者。大人びたイケメンの顔立ちと、悪戯小僧がそのまま大きくなったような性格、因みに彼もバンの書籍を読んでいて将来は賞金稼ぎとアーバインに憧れてるらしい。

 イメージCV:木村良平

 

 セレナ・ワーナー(15)

 

 セミロングのストロベリー・ブロンドの小柄でスレンダー女の子、天真爛漫で好奇心旺盛で勘が鋭く。アヤメリアがカミルに恋心を抱いてることに感じ、カミルはヘルガに恋心を抱いてることを勘付いてる。ゾイドとの親和性も高い、アヤメリアとは仲が良く男女分け隔てなく接するため交友関係は広い。

 イメージCV:瀬戸麻沙美

 

 

 カミルの家族

 

 トラゥデル・トレンメル(37)

 カミルの母親、農場で働いて女手一つで二人の子を育て、若い頃に苦労した経験もありカミルには全うな道に進んで欲しいという。

 イメージCV:岡村明美

 

 ウルスラ・トレンメル(13)

 カミルの妹、勤勉で真面目でしっかり者。ゼネバス人の先祖が色濃く出ていて白磁の肌に金色の髪に整った顔立ちの美少女。ここ最近、男の子たちからも注目されてるがまだまだお兄ちゃんに甘えたい盛りのお兄ちゃん子。

 イメージCV:茅野愛衣

 

 民間軍事会社ホワイトファング

 

 サイモン(41)

 ホワイトファング社の社長兼指揮官、浅黒い肌にサングラスに金髪オールバック。徹底的な現実主義者で、金のために動いている。

 イメージCV:玄田哲章

 

 シュペール(38)

 サイモンの右腕役の参謀、元ネオゼネバス帝国陸軍将校で口数は少ない実直な性格、三白眼の痩せた顔立ちで、何を考えてるのか読めない。

 

 ドルトア(24)

 大学卒業したばかりの優秀な斥候担当、無鉄砲な性格で深追いし易い。童顔の黒髪ロンゲのインテリっぽい。

 

 タカシ(28)

 中卒ニートだったが、色々あってホワイトファングに就職する。それなりに長く働いており腕は立つが面倒臭がりでお喋り。

 

 ユウスケ(27)

 高卒フリーターだったが、色々あってホワイトファング就職、タカシとは気が合う一緒に行動する、小さな仕事を黙々とこなす。

 

 



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出会い編
プロローグ


 本作は二次創作であり、公式設定、作者の脳内妄想、作者の黒歴史ノートを基に再構成しています。


 プロローグ

 

 銀河の彼方にある『惑星Zi』そこには、優れた戦闘能力を持った金属生命体『ゾイド』が存在した。ゾイドは自ら戦う意思をもち、惑星Ziにおける帝国と共和国の戦争の中、最強兵器として君臨していた。

 これは、いくつもの戦乱が続き、幾多の英雄が生まれては歴史の闇の中へ消えていく時代のある物語。

 

 北エウロペ南東部の国、マゼラン共和国辺境の町セブタウン。

 

 西エウロペ大陸の小国で起きた紛争はカミル・トレンメルにとってニュースの中の出来事だった。

 陸軍中尉の父が戦死するまでは。

 母親から聞いた話しでは父は多国籍軍のゾイド乗りだったという。

 父は基地で超小型ゾイドを使った自爆テロに巻き込まれ、亡くなった。らしくない最期だったと葬儀に参列した軍の関係者の人は口を揃えて言った。

 父親はいつも家を空けてることが多く、帰ってくるといつも片道一日かけて多国籍軍が駐留するマゼラン陸軍基地に連れて遊びに行き、配備されていた複座型シールドライガー*1の後席に乗せてもらい、ゾイドの操縦を学んだ。

 葬儀を終え、カミルは父の死と悲しみを幼い子どもながらに受け入れた。しかし、まだ実感が沸かないまま、母親に部屋の掃除に駆り出された。

 掃除……面倒臭い、父の部屋に入ると机の上に置いてあった厚手のハードカバーの本が目に入る。

 カミルは吸い寄せられるかのように歩み寄り、なんとなく手に取る。

 

『風と雲と冒険と 著:バン・フライハイト、フィーネ・エレシーヌ・リネ』

 

 父さんがよく読んでた本だとカミルは手に取る。カミルも近所の子たちと同じように外国の漫画とか読んでいて、カミルも文字ばかりの小説を読まず漫画ばかり読んでいた。

 カミルはゆっくりとページを開き、心が吸い込まれるように惹かれた。

 

 かつて、自由と勇気……そして、あくなき探究心を持つ者が立っていた。

 彼は、戦争の嵐が吹き荒れるこの星で、平和のために立ち上がった。

 そして、彼は戦いを終結へと導いた後、旅立っていった。

 彼の愛したものは、風と雲と冒険だった……。

 

 南エウロペ大陸のエレミア砂漠で盗賊に襲われ、オーガノイドのジークとの出会いやシールドライガーを復活させて撃退したこと、古代ゾイド人の少女フィーネとの出会い。

 読書に夢中になってた時に二つ下の妹、ウルスラが現実に引き戻した。

「ああっ! お母さんお兄ちゃんが掃除サボってる!」

「カミル!! もう何サボってるのよ、全然掃除してないじゃない!!」

 夫を失ったばかりの母親はヒステリックに怒鳴り、カミルはビクッとした。

「ご、ごめんなさい」

 カミルは慌てて本を閉じると、怒鳴り声を聞いた猟師の祖父がやってきた。

「どうしたんだいトラゥデル?」

「お祖父ちゃん、カミルが掃除サボって本を読んでたのよ!」

 母親は叱ってくれと言わんばかりに祖父を見つめながら言う。

「カミルが? ほう珍しいなぁ」

 祖父のアルベルト・トレンメルは鋭く細い目で珍しそうに見つめる、どこを見てるんだろう? 祖父の視線はカミルの手元に向けられていた。

「カミル……掃除はもういいから読んできなさい。後はお祖父ちゃんとウルスラに任せなさい」

「ええっ!? お祖父ちゃんお兄ちゃんばっかりズルイ!」

 ウルスラは駄々こねると、アルベルトはポンと頭を置いた。

「カミルは遊んでたんじゃない、勉強してたんだ。漫画ではなく、本を読んで勉強をしてたんだよ」

「お祖父ちゃん、いいんですか?」

 溜息吐いた母親が訊いて祖父はゆっくり、そしてはっきりと言った。

「ああ。カミル、しっかり読んできなさい」

「ありがとう、お祖父ちゃん!」

 カミルは嬉しそうに微笑んで部屋を飛び出し、机に向かって読み耽った。

 心躍る冒険談だった。様々な人との出会いと別れ、生涯のライバル――レイヴンとの出会いと対決、新しいゾイドで生涯の愛機、ブレードライガー*2。一度お腹が空いたところでお昼ご飯を食べて、またすぐに続きを読む。

 イヴポリスで二度目のデスザウラー*3との死闘まで書かれ、読み終わった時には日が暮れていた。そして翌日には学校の図書室に入り浸り、バン・フライハイトや歴史に名を残したゾイド乗りたちの本を読み漁った。

 その中には時空を超え、遥かなる歴史(とき)に名を馳せた英雄たちと力を合わせ、惑星Ziの危機を救うという荒唐無稽だが心躍る小説でもたびたび登場し、カミルはいつしか志を抱いた。

 

 僕も、バン・フライハイトみたいになって冒険の旅がしたい! 最高の相棒であるゾイドに乗って旅がしたい。

 

 その頃からだった。

 町外れの山にライガーがいるという。

 その噂を聞いたカミルは早速、祖父にホバーボードを買って貰い、祖父が亡くなるまでの間、いろんなことを教わった。銃の扱い、自然の中での暮らし方、ゾイドとの接し方、身の守り方と様々だった。

 

 

解説

 

・マゼラン共和国

 北エウロペ南東部にあるの内陸国、公用語は共通言語とマゼラン語で新興国ほど裕福ではないが教育環境が非常に充実してるため識字率は先進国並み。

 人口約七〇〇万人で首都はパタゴニア、近年極端な教育方針によって裕福層を中心に優秀な人材が海外留学してそのまま移住するという海外流出が問題となっており、国際社会からも声が上がっている。

 国土の六〇%はミューズ森林地帯で産業は主に化石燃料や鉱物資源、野生ゾイドの生息域も広いため多く八割がヘリック共和国に輸出されている(残りはアンダー海の島国ブリタニア連邦)

*1
へリック共和国のライオン型の大型高速機動ゾイド、タテガミにEシールドを装備しており単にライガーと呼んでも通じる

*2
シールドライガーの後継機、Eシールドに加えて側腹部にレーザーブレードを装備してロケットブースターで高速接近しながら敵を切り裂く戦法を得意とする

*3
恐竜型ゾイド。惑星を何度も焼き滅ぼす力と非常に高度な知能を持ち、通常のゾイドが生き物に対してデスザウラーは神話の怪獣と呼べるほどの差があり古代ゾイド人の文明を滅ぼしたことから破滅の魔獣と呼ばれてる



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第一話、その1

 第一話、始まりの出会いは、冒険の始まり

 

『――アーカディア王国のセリーナ王女がヘリック共和国訪問のため昨日夕方、王室専用機に乗ってアーカナ国際空港を出発しました。セリーナ王女は首都ヘリックシティで行われる第二次大陸間戦争戦没者追悼式典に出席するため、アーカナ国際空港を出発。今朝、ヘリックシティにあるファミロン国際空港に到着し、へリック共和国のキャメロン大統領と会談、夕食の晩餐会ではガイロス帝国のツェッペリン皇帝とも会談される予定です――』

 

 カミル・トレンメルは早朝、拠点にしてる森の廃屋で多機能携帯端末――Ziフォンのラジオアプリでニュースを聞きながら朝食のベーコンエッグサンドを作り、スープを温めて紅茶を淹れた。

 身長一七三センチの細身で、紺色の髪にエメラルドグリーンの鋭い瞳にはアンバランスな程の柔和な顔立ちの美少年だ。趣味は射撃全般、釣り、ハンティング、ホバーボードで、週末や長期休みは山や森で過ごすのが日課だった。

 あの日から三年経ってカミルは一五歳になり、もうすぐ地元の中学校を卒業して、マゼランの首都パタゴニアにある全寮制の学校に進学するという。

 そこでの三年間、規則正しい寮生活をしながら勉強し、スポーツやクラブ活動に打ち込み、週末は生徒全員で奉仕活動を行うという生活だという。聞いただけでカミルは絶句し、他の生徒もみんな苦い表情をして首を横に振った。

 これにはカミルも含めてみんな反発したがどうすることもできない。だが、それをなんとかする時間はまだある。

 それよりもカミルにはやらなければいけないことがあるのだ。

「よし……今日こそ、あのライガーを見つけよう」

 カミルは食後の片づけを済ませてホバーボードに乗ってコントローラーのスイッチをONすると地面から一〇センチ浮く。こいつは時速五〇キロにまでリミッターがかけられてるが、ネットで知った改造方法で一二〇キロにまで出せるようにしてる。

 カミルはコントローラーを右手で握って加速させる、廃屋に面した獣道で発進するとホバーボードを徐々に加速させ、朝の爽やかな空気を切り裂いて走り抜ける。

 森の所々には野良ゾイドが生息してる。捕獲された野生ゾイドが戦闘用ゾイドに改造されたあと、何らかの理由で人の手を離れて野生に戻ったゾイドだ。大人しかったり、人間慣れしてる奴も多くいて、よほど刺激したりしなければ滅多に襲うことはない。

 するとカミルは「ん?」とホバーボードを減速させた。

「あのゾイド……この辺りに住んでたっけ?」

 カミルの視線の先にいるのはネオゼネバス帝国製の超小型カマキリ型ゾイド、ディマンティスだ。

 第二次大陸間戦争の頃、ネオゼネバス帝国軍や鉄竜騎兵団(アイゼンドラグーン)の主力ゾイドで、集団殺法や奇襲攻撃を得意とし、背中のガトリングガンで死角をカバーしてるのも特徴だ。

 本来は北エウロペ大陸北東、テルダロス海の向こう側であるテルポイ大陸やニクス大陸に生息してるゾイドだ。

「もしかすると、誰か乗ってるのかな?」

 見たところ国籍マークもないが、苔が生えてる様子も無く明らかに整備が行き届いてる状態だった。旅人? いや別の大陸からここまであの超小型ゾイドで、それも一人で行けるほど甘いものじゃない。

 バン・フライハイトに影響されて旅に出たゾイド乗りの中には旅の途中で命を落としたり、未だ行方不明の者も多くもいる。

 盗賊や野良ゾイドに襲われたり、風土病に侵されたり、内戦や紛争に巻き込またり、山や森、砂漠で遭難し、遺体が死後数ヶ月~数十年経って発見されたケースも多い。

 特に単独での旅は死亡率が比較的高く、複数で行くとある程度下がるがそれでも政情不安な国では危険がいっぱいだと言っていい、バン・フライハイト自身も何度も命の危機に直面してる。

 もしかすると仲間とはぐれたのかもしれない。そして助けを呼びたくても呼べない、もしかすると怪我してるか何かの病気かもしれないと、カミルはディマンティスに接近して呼びかけた。

「あの……おはようございます! 旅の方ですか?」

 呼びかけると、ディマンティスはカミルの方を見た。

 

 

 アヤメリア・ハミルトンは朝早く起きて朝食を作り、洗濯物を干す。

 金髪ショートカットに長身で引き締まった四肢、大きな胸と健康的なスタイルから男子生徒から畏怖と煩悩の対象となっている。その男勝りで豪快っぷりは学校ではちょっとした有名人だ。

「おはようございますおばさん、カミルはまた森?」

 アヤメリアは柵越しの隣にある幼馴染の家の庭でカミルの母親であるトラゥデルが呆れながらも、もう慣れたという表情で洗濯物を干していた。

「おはようアヤメリアちゃん、言うまでもないわよ。カミルったら、昨日の夕方に私が農作業から帰ってくる前に行ったらしいわ……ウルスラが止めても言うこと聞かないし……あの子、森にでも住むつもりなのかしら?」

「だよね、あたしが言っても全然言うことを聞かないのよ……昔とはまるで考えられないわ」

「そうよねぇ……アヤメリアちゃん、よくカミルを泣かしてたわね」

 おばさんはそう言って苦笑するとアヤメリアは少し気まずい気分になる。小さい頃から友達と混ざって遊ぶようなことはせず、一人で遊んで漫画を読んでいてそれで自分が余計なお世話をしてよく泣かしていた。

「あははは……それにしても、カミルってお父さんやお祖父さんが亡くなってから……日を追うごとに逞しくなってるような気がするわ。生傷も増えちゃってるけど」

 アヤメリアは感慨深いと感じながら、カミルの横顔を脳裏に浮かべる。

 ここ三年、カミルは去年亡くなった猟師の祖父に鍛えられて、日を追うごとに逞しくなっていていつの間にか身長も追い越していた。

 だがホバーボードで一〇回以上転び、八回崖下に転落、あるいは滑落、三回は骨折、遭難して二週間以上徒歩で満身創痍になって帰ってきたこともあったし、一年半前には都会の病院に搬送され、一週間の昏睡状態で生死の境を彷徨って二ヶ月は入院した。

 アヤメリアは最近、日を追うごとに逞しくなっていくカミルのことを、いつの間にか異性として意識するようになってきた。

 おばさんは首を傾げながら、何かを思い出そうとする。

「そうねぇ、死んだ亭主が残した一冊の本を読み耽っていたわ……あれが何だったのかは思い出せないけど、きっとカミルの心を強く揺さ振るものだったと思うの」

「それあたしにも教えてくれなかったわ。カミル、あたしに逆らえないはずなのにあの本のことになると必死になるのよ、それも怖いくらい……そうだ! カミル一度だけ言ってた! バン・フライハイトに憧れてるって!」

 アヤメリアはハッとして言うと、おばさんも思い出したかのように言う。

「そうそう、それそれ!」

 バン・フライハイト――歴史の教科書には必ずと言って良いほど載ってる。二度もこの惑星Ziの危機を救った伝説の英雄。二度目のデスザウラー戦後、世界中を旅してそして歴史の表舞台から忽然と姿を消した。

 その冒険を記した書籍が世界中のゾイド乗りにとって聖書であり、教科書であり、英雄伝となってる『風と雲と冒険と』だ。彼は世界中を旅した後、故郷のウィンドコロニーでパパオ農家をしながら晩年を過ごし、静かにその生涯を終えたという。

 今でもウィンドコロニーに彼の墓を訪れる者は絶えず、観光地にもなっていて世界中のゾイド乗り達にとって聖地巡礼の場所になっている。

「でも小学生ならともかく一五歳にもなって、冒険したいってそれはないと思うわ」

「当然よ! 明日も知れぬ冒険に行きたいなんて……本当どうかしてるわ」

 アヤメリアの言うことにおばさんは溜息吐く、カミル……どうしてあそこまでバン・フライハイトに憧れたんだろう? 別に強くなくったって、周りと上手く合わさって生きていければ困ることなんてないのに。

 

 

 カミルはホバーボードで迷宮のような森の中を全速力で駆け抜ける。全身から冷汗を噴出しながら、追いかけて来るディマンティスから逃れようとしていた。

 ヤバイヤバイヤバイ! これじゃエレミア砂漠でガイサック*1に追いかけられるバン・フライハイトじゃないか! そうだ、ディマンティスは個体数が多い上にそれなりの攻撃性を持っている、だからネオゼネバスも採用したんだ。

 カミルは後方に神経を張らせながらも、樹木をかわしながら進む。遮蔽物が殆どない砂漠だったら後ろ向く余裕は多少あるが、森の中で余所見したら斜面や岩、木に激突して運良くて即死、最悪死ぬまでベッドの上だ。

「駄目だ、このまま行ったら越境してしまう!」

 ここから先はビース共和国領で国境警備隊に運よくてしょっ引かれるか、最悪射殺される可能性もある。国境はこの先約六キロ、仕方ない命を落とすくらいなら国境警備隊に助けを求めるしかない。

 カミルは行ったことのない先に向かうと、見晴らしのいい場所に出た!

 次の瞬間、カミルを乗せたホバーボードは急斜面を滑リ落ち、速度計は時速一四〇キロにまで加速してるのを示している、強烈な風圧に晒されて吹き飛ばされそうだった。

「うわぁあああああああっ!!」

 カミルは顔面蒼白になって絶叫しながらもホバーボードを斜面に対して横に、少しずつブレーキをかけながらジグザグに急斜面を滑り降りると、ディマンティスはジタバタしながら滑落していった。

 おかしい、野良ゾイドならこれくらいの急斜面、難なく下れるのに……何かが干渉して動きに支障が出た?

「やはりあのディマンティス……人が乗ってる!」

 カミルは確信するとだいぶ減速したとは言え余所見運転したことを悔いることになった。森の樹木に隠れていた戦争遺跡が、目の前に立ち塞がったのだ。

「しまった!」

 急ブレーキをかけるが間に合わずに壁に激突、ディマンティスもコントロール不能のまま戦争遺跡の建物に突っ込んだ。カミルは壁に叩きつけられることなく、茂みがクッションになって致命傷は免れたが、それでもしばらく動けそうにない程の鈍い激痛だった。

 

 解説

 

・Ziフォン

 ヘリック共和国のオレンジ社製多機能携帯端末で惑星Zi全域で使えることをコンセプトに開発された、地球で言うなら超高性能な進化したスマートフォン。

 

・ビース共和国

 マゼランの東に位置する国家、かつて東方大陸の企業ゾイテックからブロックスゾイドのライセンス生産権を得て独自に開発するほどの技術力を持っていたが東の隣国旧ダイナス帝国と天然資源を巡る国境紛争、エウロペ恐慌による金融危機、マゼランのソーア山の大噴火による飢饉の三重苦で経済システムは崩壊して急激に衰退。

 政治家や裕福層は国外に脱出したため国土は荒れ果て、代わりに軍事政権による独裁政治が続いているが都市部ではテロリスト、郊外や地方では盗賊やゲリラたちが潜伏している。

*1
共和国製小型のサソリ型ゾイド砂漠での奇襲を得意とし、無人機型や重装甲型等のバリエーションも多い



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第一話、その2

実はアニメゾイド無印第一話のオマージュ満載です。


 戦争遺跡から北西約一・五キロにある突き出た見晴らしのいい中腹で、隣にいるタカシは双眼鏡を覗いて様子を見てたが無線が入って思わず舌打ちした。ああ機嫌を損ねたなと、ユウスケはタカシが露骨に不機嫌な表情で無線機を取るのを見る。

『こちらドルトア! 戦争遺跡の瓦礫に挟まれてディマンティスが動けない! クソッ、コンバットシステムがフリーズしてる! 救援を要請する!』

「了解、ちょっと待ってろ!」

 無線の送信ボタンを離すと、タカシはありったけの悪態を吐き始めた。

「ったくドルトアの奴! 使えやしねぇっ! 斥候任務で野良ゾイドのフリをしてりゃいいものの、声かけられた途端自分から襲いやがった! 共和国製ならともかく、帝国ゾイドだから外から乗ってるのがバレにくいはずなのによ! 余計な仕事を増やしやがって! あいつ帝国出身じゃなかったのか?」

「仕方ないさ、帝国は帝国でもガイロス出身だ。ガイロスは一〇年位前に徴兵制度が廃止されたの知らなかったのか? それに、ディマンティスはデルポイ大陸やニクス大陸とか海の向こうに生息するゾイドだ。不審に思って近づいたんだろう」

「知ってたけどさ、まさかあんなに使えねぇとは知らなかったんだよ! ったく!」

「まっ俺も同意見だ。第二次大陸間戦争以来ガイロスとネオゼネバスは伝統的に仲が悪い、トライアングル・ダラス*1を挟んで睨めっこを一〇〇年以上続けてる……そんな中で徴兵制度を廃止したのは苦渋を決断だっただろう」

 ユウスケは踵を反し、救出に向かうためブラックライモスの所へと歩き出す。

「でもよ、俺だってニートでお前はフリーターだったんだが、今じゃ一人の立派なゾイド乗りだって社長も行ってたぜ! ほらニート徴兵論とかさぁ――」

「俺たちは民間軍事会社(PMC)所属だ、軍隊とは違う。比較的自由な所でゾイドの操縦を学ぶことができたんだ。それに昔に比べて兵器やコンピュータの技術が高度化・専門化が進んで、これらを扱う軍人の専門職化が進んでる。無理矢理連れてきたやる気のない奴にやらせても軍事予算を浪費するだけさ!」

 ユウスケとタカシは社会の底辺で生活していたがPMCであるホワイトファング社で徹頭徹尾ゾイドの操縦を学び、ブラックライモス*2に乗っている。

 ユウスケはブラックライモスのコクピットに入るとシートベルトを着用、補助動力装置(APU)のスイッチを入れ、バッテリー電源をONにするとコクピット内のパネルが点灯すると、始動前チェックを行う。

 左から右へと各種コントロールスイッチ及び装置、ナビゲーション及び無線装置、敵味方識別装置であるIFF、操縦桿であるスロットルレバー、レーダーコントロールパネル、ゾイドの燃料である原始海水と同じ成分のリキッドイオン(ゲル状の液体であるレッゲルでも可能)コントロールスイッチ等々……これらが決まった位置にあることを確認して次に各種パネルや警告灯のチェック。

「さあ仕事だぜ、相棒!」

 ユウスケは前面計器パネル下のあるエンジンスターターを勢い良く回す。内臓電源がONになって操縦系統がゾイドの生命核であるゾイドコアに接続され、多機能ディスプレイ(MFD)が点灯し、ZOIDS ON! ブラックライモスは唸る。

 一連の動作をしなくてもゾイドは生き物だから自分で歩いたりするが、操縦はゾイドコアに接続しないとできない。精神リンクもできないことはないが、できる人は限られている。

「機嫌は良いようだな、誰かさんと違って……行くぜ!」

 ユウスケは操縦桿を左右のスロットルレバーを握り、押し出した。

 

 

 ようやく歩けるようになったカミルは体を状態を確認する。骨は折れてない、外傷も大したことないようだ、立ち上がって少し歩くとホバーボードが真っ二つと無残な姿に変わり果て、カミルは顔面蒼白になって悲鳴を上げた。

「ああっ!! 僕のホバーボードが!! どうしよう……これじゃ帰れないよ……」

 カミルは全身の力が抜けて両膝を落として、両手を地面に着けた。

 セブタウンまで約二五キロ……最低限のサバイバルキットはあるが、山を迂回するルートを通ると最低でも二~三日はかかる。

 バン・フライハイトだったらめげずに戦争遺跡で使えそうなパーツで修理しようとしたんだっけ? 改めて彼の精神的な逞しさに感服する、カミルは立ち上がって真っ二つになったホバーボードを持って遺跡に入る。

 中は薄暗く、カミルはヒップホルスターからヘリック共和国製四五口径一四連発の大型自動拳銃GF45――通常の五インチモデルの銃身を延長した、競技及び狩猟用の六インチロングスライドモデルのL型を右手で抜き、銃下部に装着したフラッシュライトを点灯させる。いつでも発砲できるようにスライドを引いて装填、セイフティレバーを下に動かしてデコッキング。

 遺跡の中は案内板が残っており中央大陸(デルポイ)語だ。この先は……格納庫と書かれている、もしかしたら動かせるゾイド――いやもう逃げ出して野良ゾイドになってるのかもしれない。

 五分くらい緩やかな左カーブの通路を歩くと、格納庫に通じる鋼鉄製の扉が立ち塞がってカミルはGF45LをセーフティをONにしてホルスターに戻すと、真っ二つになったホバーボードを置いた。

 開くといいけど……カミルは両手で扉を掴むと深呼吸して息を止め、思いっ切り力を込めて引き戸を開ける。重い! カミルが全力で振り絞ってやっと動いた、錆びついて油が切れた機械のようにガリガリと耳に障るような音が響く。

 なんとか通れるくらいまで開け切ると、荒い呼吸と全身汗まみれになっていた。

「なんとか開いた……」

 あの日から元軍人で猟師の祖父に鍛えてもらったが、やはりまだまだ未熟だと痛感する。扉に寄りかかって座り少し休憩、腰のベルトに固定した水筒を取って水を飲んだ。それで落ち着くと、GF45Lをホルスターから抜いて立ち上がった。

 扉をくぐると、中はかなり広くカミルの中学校の敷地より広いドーム球場並みの広さだった。天井が所々に落ちていて太陽光が差しているから、フラッシュライトは必要なさそうだが、端の方は暗くて見えにくい。

 カミルは慎重に格納庫を進むうちに何かがいると金属の匂いがして、ぞわっと肌で感じた。何だろう? さっきのディマンティス? それもすぐ近くいる、全身の肌に微弱な電流が流れてるような感じがする。カミルの目と鼻の先、約四~五メートル先に目が妖しく光った。

 こっちを見てる、しかも大きい。カミルはゴクリと息を呑んで恐る恐るフラッシュライトを点灯させた。

 白い装甲型キャノピーに光るカメラアイ、所々にレーザーコートが剥がれたされた鋭い牙、タテガミを思わせるバリアブルラジエーター、全身にある大小無数の傷跡は数え切れない程の死線を潜り抜けてきた歴戦の猛者の証だろう。

 大型のライオン型ゾイドのライガーゼロだ! 元々はガイロス帝国製だが第二次大陸間戦争前半のエウロペ大陸戦争時にへリック共和国軍に鹵獲されて今じゃ、へリック、ガイロス、ネオゼネバスの三カ国で使用されてるゾイドだ。

 カミルは一目でライガーゼロだと認識した瞬間、フラッシュライトに刺激されたライガーゼロは怒鳴るように吠えた。

「うわぁああああああっ!!」

 カミルは思わず両耳を塞いで両目を閉じると、凍り付いたかのように動けなくなる。

 ライガーからすれば人間なんて虫けら同然だ。生身で高速機動ゾイドに襲われる恐怖は本で読んだことがあるが、実際に体験するとは夢にも思わなかった。

 カミルは恐る恐る目を開けるとライガーゼロは顔を至近距離まで近づけて「グルル」と唸りながら舐め回すように見ている。気になるのかな? カミルはライガーゼロから視線を逸らさずにゆっくりGF45Lをホルスターに戻して両手を見せる。

「よしよし……大丈夫だよ……脅かしてごめんね……悪気はないんだ」

 カミルは優しく声をかけ、ゆっくり手を伸ばすとライガーゼロは一歩後ずさり警戒心を露にしながら威嚇する姿勢を取り、唸る。

「そうだよね。ごめんね……勝手に君の縄張りに入っちゃって……でもね、僕はずっと君に会いたかったんだ。君に会うために、強くなりたいって自分を鍛えてたんだ……まだまだ君に釣り合う人間じゃないけどね」

 カミルはそれ以上は伸ばさず優しい口調で語りかける。するとライガーゼロは真っ直ぐカミルの瞳を見つめる、まるで心の奥底まで覗かれてるようだ。自我の強いゾイドは時に人間以上の知性を見せることがあり、一目で良い人と悪い人を見分けられるという。

 自分は試されてる。ライガーゼロに相応しい人間かどうかカミルは臆することなく真っ直ぐライガーゼロを見つめる。ライガーゼロは肯定も否定することもない様子で、威嚇姿勢をやめてお腹を地面に着けてリラックスしてる様子だった。

「ああ……少なくとも、僕のことは悪く見てるわけじゃないんだね」

 もしかしたらコクピットに導いてくれるとまではいかないか、バン・フライハイトだったら乗せてたかも? まぁ僕はそんなものだったのかもしれない。そう思っていた時、格納庫の壁が轟音を立ててぶち破って奴が現れた。

『やっと見つけたぜホバーボードの小僧! よくも俺をコケにしてくれたな!』

 さっきのディマンティス! やはりパイロットが乗ってるらしく、外部スピーカー越しにガイロス訛りの共通言語(リングワ・フランカ)で怒りを露にしてる。カミルは声をかけただけで追いかけたのはこっちの方だと言いたいが、巨大な物に睨まれるという本能的な恐怖から両足がガタガタと震えて動けない。

 突然の闖入者にライガーゼロは唸って威嚇体勢に入る、だがディマンティスの狙いは自分だ。

『ほう小僧、珍しいライガーを連れてるな! 乗らせはしないぜ!』

 ディマンティスは両腕にある二連装機関銃で威嚇射撃、カミルとライガーゼロの間を引き裂くように着弾して土煙が舞い上がる。一発一発が、命を簡単に奪う銃弾が目の前の空間を貫く、カミルはガチガチと震え全身が萎縮して動けない。

 こいつは気まぐれ一つで自分を一瞬で肉塊にしてしまう! するとディマンティスは自分の入ってきた扉に向かって機関銃を撃ち込み、天井を崩して退路を断った。

 絶体絶命だ。

『そのまま動くんじゃねぇぞ小僧、このライガーはいただくぜ』

 ライガーを手懐けたと思ってる? カミルはライガーゼロと目を合わせると力強い唸りで、まるで大丈夫、諦めるなと励ましてるようだ。確証はないけどライガーゼロは味方してくれる、その気になればあいつは一捻りだ。

「ラ、ライガーゼロをどうするつもりだ!!」

『ああ? 決まってるじゃないか売るんだよ、ライガーゼロは貴重なレアゾイドだ。一〇年は遊んで暮らせる金が入るからな』

 下劣だ……ゾイドは売り物でも金づるでもない。人間と同じ生き物なのに……こんな奴に僕は……僕は……カミルは拳をゆっくりと握り締めた。悔しさと怒りが、メラメラと静かに燃え上がってきて叫んだ。

「違う!! ゾイドは売り買いするものじゃない!!」

『ほほう、そんな立場でよく言えるな』

 ディマンティスは二連装機関銃を向ける、やられる! カミルは反射的に両腕で庇って目を閉じた瞬間。ライガーゼロがカミルを庇うように前に出ると、二連装機関銃が火を噴くがそれに怯まず飛び掛る、ディマンティスはあっさりとかわした。

『おっと!! こんな狭い場所で暴れていいのか!? 小僧が下敷きになるぞ!!』

 ディマンティスは両腕の二連装機関銃を天井に向けて乱射、ドームの破片が落下してきて砕け散り、カミルを襲う。目の前に重さ数キロある建材が落ちてきて、カミルは足がすくむが、すぐに死にたくない! という生存本能が働いてライガーとは逆方向へ走る。

 クソッ! 僕がライガーの足を引っ張ってるんだ。ならば、カミルは腰のホルスターからGF45Lを抜いてセーフティOFFにして引き金を引いた。

 格納庫内に響く機関銃の銃声に比べれば四五口径弾の銃声は豆鉄砲だった。それでもカミルはディマンティスに向かって撃ちまくり、たちまちマガジン内の一四発を撃ち尽す。たちまち攻撃に気付いたディマンティスがカミルに視線を向ける。

「僕はこっちだ! 来い!」

 カミルは叫びながら格納庫の外に向かって後ろ向きに走る。僕が外に出ればあいつも追ってくる、外に出ればディマンティスなんて一捻りだ。

『テメェ逃げるんじゃねぇっ!!』

 ディマンティスはチョコチョコと動きながら背中を向け、口径も連射速度も桁違いのガトリングガンを掃射。カミルは乗り捨てられたトラックの陰に跳び込み、直撃は免れたが真上からドームの建材が落ちてきた。

 カミルは体を丸くして死に備えた。潰される! 轟音とともに歯を食いしばった……生きてる。

 その代わりライガーゼロの唸り声が耳に入った。顔を上げるとライガーゼロの下顎が見え、首を振って払いのけた。

「ライガー? 君が助けてくれたの?」

 頷いてるかのように唸る、カミルが立ち上がるとライガーゼロは屈んでコクピットを開けた。カミルは迷わず乗り込んでシートベルトを締め、安全バーを下げて始動前チェックを省き、父に教わった始動方法を思い出しながらスターターレバーを引くと操縦系統がゾイドコアに接続された。

 MFDが点灯するとコクピットを閉じて操縦桿を握る。その生命感――カミルにはゾイドが生きてるという生命の鼓動を感じた。凄い、このゾイドは桁違いだがそれに浸ってる暇はなかった。

 すぐそこまで凄まじい爆炎と爆音が複数重なり、衝撃がコクピットにまで伝わる。

「あいつの仲間か!?」

 今度こそ格納庫が砂煙を上げて倒壊した。

 

 

『ガンガン撃ちまくれ! 倒壊させて奴の動きを止めろ!』

「わかってるよ、ドルトア! お前はさっさと社長に報告して来い!」

 ユウスケは無線でドルトアの無事を確認しながらブラックライモスの電磁キャノンのトリガーをリズムよく引いて連射する。隣にいるタカシは悪態吐きながら更に、ミサイル攻撃を加えた。

『ったく! ガキ一人相手に何でこんなに使わないといけねぇんだよ!?』

 全くだ、ミサイルも電磁キャノンのバッテリー代も決して安くない。コンバットシステムをフリーズさせて社長のゾイドなら抑えられる、それで元を取り返そう。そう思ってると戦争遺跡の格納庫は轟音を立てて倒壊。

 不謹慎だがガキの頃ニューヘリックシティの世界貿易センタービルに飛行ゾイドが突っ込んだ自爆テロ事件を思い出す。

 倒壊に巻き込まれた人間は殆ど助からなかったらしい、格納庫はたちまち煙に包まれて見えなくなる。

『よっしゃあっ!! やったぜざまあみろ!!』

「油断するなタカシ、ドルトアはライガーゼロだと言ってた」

 ユウスケは各種センサーを操作して確認すると反応あり! 風で煙が晴れるとユウスケは操縦桿を握り締めた。

 白いライガーゼロは全身を震わせて埃を振り払って堂々とした姿を現し、一瞥すると天に向かって猛々しい雄叫びを上げ、大気の震動させてるかのように体が震えた。

 ユウスケと同じだったのか、ブラックライモスは勝手に一歩後ずさるとタカシは無線越しに怒鳴る。

『ユウスケ! 何ビビッてるんだ! ライガーゼロは高速機動ゾイドだ、熟練パイロットでも難しいって言われてるゾイドだぞ! あのガキが乗ってたとしても乗りこなせるわけがねぇっ!』

「わかってる、わかってるが……」

 ユウスケが身構えてるとタカシは怯まずに突っ込む、ブラックライモスは自分より大きいディバイソン*3を倒したという記録が残ってるが、それは奇襲に限ったことだ。

「おいタカシ! 正面から突っ込むな! クソッ、聞いちゃいねぇ!! どうなっても知らねぇぞ!」

 ライガーゼロも躊躇うことなく正面から襲い掛かる、今更タカシを止めても止まるあいつじゃない。クソッ! これじゃあ伝説のゾイド乗りを相手にした盗賊になった気分じゃねぇか!

 

 

 突っ込んでくるブラックライモスにカミルは臆することなく正面から突っ込み、紙一重で突撃戦用超硬度ドリルを回避すると、右前足を軸にしてスピンターン! かわされたブラックライモスは慌てて停止した一瞬の隙に跳びかかって左前足の一撃を加える、それで十分だった。

『なんだこいつ! 速いぞ!』

 敵パイロットの無線が聞える。

『そんなこと言ってる暇あったら助けろ、ユウスケ!』

『無理だ! クソッ! 当たれ!』

 もう一機は仲間を助けようと電磁キャノンを向けるがカミルはホバーボードで鍛えた反射神経でそれより速く、操縦桿を前に押し込むと全身をバネのようにしてスタートダッシュ!

「ぐうっ! 凄い!」

 コクピットのカミルは座席に押し付けられるような感覚を味わう。速度計を見ると一瞬で時速二一〇キロにまで加速し、更に加速して歯を食い縛る。

 凄い! 父さんとシールドライガーに乗ってた時以上だ。

 敵のブラックライモスは電磁キャノン、二連衝撃砲を撃ちまくるが着弾する前にライガー自身が照準から外れてる。カミルは更に加速させて、ブラックライモスの回りを円を描いて徐々に狭めるとタイミングを見計らった。

「そこだっ! はぁあああああっ!!」

 カミルは操縦桿の左片方を引っ張って急ブレーキをかけ、左に急旋回。そしてほぼ水平に跳びかかり、ブラックライモスの左脇腹に右前足でストレートを叩き込んだ。

『おわぁあああああっ!!』

 八五トンの機体に時速二〇〇キロ以上のスピードで脇腹を叩きつけられ、ブラックライモスとパイロットは耐えられず断末魔の悲鳴を上げる。

 そのまま押し倒して、離脱して距離を取ると二機のブラックライモスはよろよろと立ち上がる。カミルは安堵した。悪党とは言え無事ならいい、あとは撤退してくれることを祈りながら身構える。

 来るなら来い! カミルは操縦桿を握り締める。

『クソッ! 引くぞタカシ!』

『逃げるのか!? あんなガキに負けて!』

『馬鹿言え、相手はライガーゼロだ。しかも下手な素人以上に危険な奴が乗ってる!』

『チッ! 撤退だ! 覚えてろよぉっ!』

『奴め、まるで……まるでバン・フライハイトだ!』

 その捨て台詞が妙に耳に残り二機のブラックライモスは逃走。やがて見えなくなるとライガーゼロは天に向かって勝利の雄叫びを上げた。

 カミルは全身の力が抜けて安堵の息を吐くコクピットを開けてライガーゼロから降りると、春の時期とはいえまだひんやりした山の空気を吸い、やっと気が休まった。

 同時に歓喜で体が震え、拳を強く握り締める。

 

 ――まるでバン・フライハイトだ!

 

 僕が……バン・フライハイト、カミルはライガーゼロを見上げて目を輝かせ、そして声の限り叫んだ。

「やった……やったぁああああっ! 勝ったぁっ! 勝ったよ!!」

 カミルは初めて味わう勝利に草地を思いっ切り転がる。学校のいじめっ子よりも怖い奴らに勝ったなんて! いや……一人で勝ったんじゃない、ライガーゼロのおかげだ。

「ありがとう、君のおかげだよ……そうだ、君の名前は……どうしよう?」

 さすがにジークにするわけにもいかない。カミルはそう考えてるとライガーゼロは屈んで頭もとの薄く消えかかった文字を見せる。中央大陸(デルポイ)語だ、えっと共通言語で言えば「SYLVIA」と書かれている。

「シル……ヴィア? 君の名前は……シルヴィア!」

 名前で呼ぶとシルヴィアは嬉しそうに吠える、以前のパイロットが名前を付けたということはゾイドを生き物として接した。いい人だったのかもしれない、するとシルヴィアはコクピットを開けた。

「よし、それじゃあ帰ろう。よろしくねシルヴィア!」

 シルヴィアはまた嬉しそうに雄叫びを上げた。

 

 解説

 

・共通言語(リングワ・フランカ)

 地球移民の言葉でグローバリー三世号の乗組員たちが持ち込んだ言葉、つまり英語であるいはEnglishならぬ、Zinglishとも言う。

 

・ガリル・アーモリーGF45

 45口径大型自動拳銃、ガーディアンフォース制式拳銃。金属フレーム、ダブルアクション、デコッキングレバー兼セーフティ、ショートリコイル方式等の枯れた技術で作られたため信頼性は高い。

 ストッピングパワーを重視した45口径弾を14発装填している。他にも9mm口径型のGF9は18発、40口径型のGF40は16発装填可能である。元々民間向けだが軍や警察にも採用されて特殊作戦用GF45T、スポーツ兼ハンティング用ロングスライド型GF45L コンパクト型のGF45C、スポーツシューティングマッチ用ロングスライド、コンペンセイター付きのGF45S等がある。

 モデルはダブルカラムのM1911拳銃及びHK45

*1
デルポイ大陸とニクス大陸を結ぶ海域、ダラス海域内にある航行が困難な魔の海域

*2
帝国製サイ型中型重装甲・重武装ゾイド、腹部側面に大型電磁キャノンを装備して角は回転ドリルとなって敵を貫く

*3
共和国製の大型のバッファロー型重装甲・重武装ゾイド、前面の一七連突撃砲と鋭い角による強襲作戦を得意とする



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第一話、その3

ヒロイン登場の回です、イメージCVは早見沙織さんかな?


 サイモンは野戦テントで昼食を食べながら、何となくここでの生活も悪くないと考えていた。

 無駄なく鍛えられた筋肉質のボディ、浅黒い肌にサングラス、金髪オールバックのサイモンは今思い出しても虫酸が走る。

 西エウロペの小国で起きた紛争が一段落し、施設警備や身辺警護の仕事をしてたが現地雇用した馬鹿が仲の悪い民間人に汎用機関銃(GPMG)で蜂の巣にしやがった。

 宗派か政治思想かで対立してたか知らないがそれで責任を問われて業務停止処分を食らい、ヘリックに帰ってもバッシングは避けられねぇから北エウロペ南部の新興国、それもゾイドバトルで食ってる寂れた田舎町を根城にして仕事を始めた。

 始めたみたらなかなか悪くねぇ、こっちは強力な重戦闘ゾイドを持ってるからそこらの盗賊連中を束ねることに成功した。おかげで周辺の町や村の親切な人たちに感謝されたこともあって関係も良好、この前セブタウンに行った時は農民の人たちが気前よく収穫したトウモロコシやパパオの実を分けてくれた。

 半分盗賊半分PMCのホワイトファング社はこれからどうなるかわからねぇが、なんとかやっていけそうだと思っていた時だった。

「社長、ただいま戻りました」

 三白眼の痩せた顔立ちの参謀、ゼネバス人のシュペールが野戦テントに入ってきた。昨日まで隣町――と言っても五〇キロ近く離れてる農村で買い出しから戻ってきた所だった。丁度食べ終えたサイモンは労いの言葉と手に入れた地元産のシガレットを一本出す。

「お疲れ、吸うか?」

「ありがとうございます。報告が一つ」

 シュペールはそう言ってシガレットを受け取って口に咥え、使い捨てライターで火を点けるとビジネスバッグからタブレットを取り出す。

 サイモンもシガレットを咥えながら表示されたタブレットの画面を見ると、少々ぶれていて不鮮明だが珍しいゾイドの画像だ。

「先ほどユウスケからの報告です。タカシとドルトアの三人がこのライガーゼロに遭遇して撃破されたそうです、なんとか帰還しましたが……ブラックライモス二機は現在、修理中だそうです」

「そうか、いい機会だ。そろそろあの二人を新しい機体に乗せて修理を終えた二機は他の連中に回してやれ……それで? そのライガーゼロは?」

「はい、地元の少年が乗っていたそうです」

 驚いた、まるでバン・フライハイトだとサイモンは紫煙を吹かす。

 ライガーゼロは二度目のデスザウラー戦後、帝国と共和国の両国で作られたゾイドだ。バーサークフューラーと共にドクターDとガイロスの科学者ドクトルFとの共同開発した作品だ。

 もっとも共和国はバーサークフューラーを採用せずに数年遅れて東方大陸のゾイテック社と共同で凱龍輝を作ったが、ライガーゼロは両陣営で使われて幾多の戦乱で同型機同士、血で血を洗う戦いを繰り広げた。

 ライガーゼロは個体数の少ない希少なゾイドだ。サイモンも一度だけ、それも共和国軍陸軍少佐時代に見たことがある、帝国軍の機体だったが。

「それで? その地元の少年というのは?」

「はい、ユウスケ曰くドルトアがヘマをやらかして追い回したそうです」

「やっぱり現地雇用した奴らで偵察に出すべきだったな」

 それでサイモンは苦笑する。

「それともう一つ……食糧の買い出しを終えてコンテナに積み終えた時、コクピット越しに見つけて撮ったものですが」

 シュペールはタブレットの画像をスライドさせると、かなり鮮明な画像でどこかで見たことのある少女だった。

「この少女は三人の護衛らしき者を連れていました……アーカディア王女のセリーナ・ソラノ・シュタウフェンベルク・フォン・アーカディアと瓜二つです」

「そんな馬鹿な、セリーナ王女は今テルダロス海の向こうだぞ、双子じゃ――待てよ」

「社長もお気づきだと思います。アーカディアでは双子が生まれると弟や妹の方はすぐに殺してしまうという因習があり、アトレー前国王がまだ一二歳の時に反乱を起こしたのは父、当時の国王の双子の弟だったとアトレー前国王も公表してます。もしかすると彼女は妹で密かに生かされていた」

 シュペールの言う通りなのかもしれない、だが単に瓜二つなだけかもしれない。サイモンは腕を組んで考えて訊いた。

「単に瓜二つだけかもしれないがシュペールの言う通りだったら……金になるかもしれないな、そいつは今どこに?」

「買い出しに行ったセブタウンです、近くに潜伏してる連中がいますので……掻っ攫いますか?」

「いや、とりあえずできるだけ情報を集めろ。それからでも遅くない」

「わかりました、早速連絡します」

「頼んだぞ」

 サイモンが言うとシュペールは野戦テントを出る。Ziフォンでニュースサイトを見るとデルポイ大陸に向ったセリーナ王女は正装に髪を纏め、綺麗な化粧もしてるがさっき見た限りは間違いない。

 さて掻っ攫ってアーカディア政府の弱みでも握るか? 小国とは言え観光とサイバー産業や軍事・医療・農業等の各分野で潤っているし、大手IT企業であるゴーグル、カプセルソフト、イントラ社等が開発拠点を置いてる。

 それに秘匿してるとなれば簡単には動けないはずだと、サイモンは笑みを浮かべた。

「たっぷり稼がせてくれよ王女様」

 

 

 セブタウンまであと一〇キロの所だ。幸いゾイドに搭載する電子機器――ゾビオニクスはまだ生きてたようでカミルはセブタウンを目指す間に、各種ソフトウェアのインストールと不要なソフトのアンインストール、ソフトウェアのアップデートをしていた。

「これで大体いいかな? CASは……念のため残しとこう、えっとGPSの座標はこれで……おっ地図が表示された」

 コクピット内に警報が鳴り響いた。レーダーを見ると前方約一四〇〇~一五〇〇メートル先に接近するゾイドがいる、衝突防止装置が働いて警報を鳴らしたんだろう。

 カメラが捉え、不鮮明な映像が拡大されるとカミルは目を見開いた。ここでは見かけないゾイドで、さっきの奴らの仲間かもしれないと操縦桿を握り締める。

 *1コマンドウルフとは別種の大型ゾイド、ケーニッヒウルフだ。

 戦乱の時代に作られ、ライガーゼロに匹敵するゾイドだ。

 背面にはデュアルスナイパーライフル、左右前足の肩にはAZ五連装ミサイルポッドを二基ずつ装備してる。

 シルヴィアは威嚇するように唸るとカミルも戦闘体勢に入る。

 対峙したケーニッヒウルフも攻撃態勢を取り、ジリジリとした睨み合いになる。

 さっきは二対一で勝ったが今度は違う、性能的には互角だが腕には正直自信がない。だけどここで引いたらあいつらに捕まることになる、ケーニッヒウルフはいつでも跳びかかれる体勢を取ってるが跳びかかる気配はない、隙を窺ってるようだ。

 もの凄い緊張感、神経がピリピリして、精神的な疲労のようなものを感じる。その状態がなんと一時間以上続いたように感じ、カミルは腕時計に視線を落とすと一〇分程度しか立ってないと思った瞬間、奴が跳びかかってきた!

 あいつはコクピット内が見えるのか!? カミルはシルヴィアをサイドステップで回避させると、着地の瞬間に覆いかぶさるように襲い掛かる。

 そこだ! だがケーニッヒウルフはそれを見越したのか、着地の反動を利用してサイドステップ!

 がら空きだと思いながら着地した瞬間にケーニッヒウルフは思いっ切り突進! 衝撃でコクピット内が上下左右前後と激しく震動する。突き飛ばされたシルヴィアは苦しそうに唸りながら立ち上がる。

「こいつ……強い、クソッ!」

 各部損傷を示す警報が鳴り響き、カミルは胸部のAZ二連装ショックカノンの引き金を引くが弾が出ず別の警告音がなる。MFDには発射装置故障と表示されていた。そうだ長年整備されてなかったからか、火器は使用不能だ。

 この分だと背中にあるイオンターボブースターも使えそうにない。

「シルヴィア、大丈夫?」

 カミルが気を遣って声をかけると、まだまだいけると唸る。それはどこか嬉しそうな唸り声で、体を振るわせて土や石を払い落としてケーニッヒウルフに向って吼えた。

 まだまだ自分はこの程度では倒れない、と言わんばかりにカミルは操縦桿を握り直す。今度はこっちから行くぞ! 奴も真っ直ぐ突っ込んでくる! 望むところだ! カミルはストレートで跳びかからせようとする。

 だがケーニッヒウルフはさっき自分がやったような覆いかぶさる跳びかかり、カミルは慌ててブレーキをかけるか加速して突っ切るかを迷う。その一瞬の判断が遅れ、コクピット内が激しく上下に揺さ振られた。

「うわぁああああっ!!」

 カミルは悲鳴を上げ、頭部が地面に叩きつけられる寸前だった。

「このぉっ!!」

 カミルは強引にシルヴィアの機体を後足で立ち上がらせ、ケーニッヒウルフを見下ろす形になる。シルヴィアは両前足を振りかざし、口を開けてレーザーファングを閃かせ、首筋を狙う! 押さえて噛み付き、首をへし折れば操縦系統に致命傷を与えられる。

 人間で言えば首の骨を折るようなものだ。するとケーニッヒウルフは紙一重、それこそシルヴィアとケーニッヒウルフの間は五〇センチもないくらいで装甲式じゃなかったらお互いどんな奴か? 目を合わせてたかもしれない。

 紙一重!? こいつはエースパイロットか! 睨み合ってた時に感じたあの威圧感、ゾイドから発せられた物じゃない。

 パイロットから発せられてケーニッヒウルフを通し、増幅されたものだ。

 ケーニッヒウルフは素早く後退するがこの距離なら! シルヴィアは両前足を突き出すと、相手もほぼ同時に突き出して押し合いになる。

「はぁああああああっ!!」

 カミルは叫びながら重くなった二つの操縦桿を力技で前に押し出す、このまま押し倒そうとした瞬間、ケーニッヒウルフは力を緩めて電磁エネルギーを帯びた牙が首元に噛み付きシルヴィアは悲鳴を上げた。

 電気系統や操縦系統の異常を報せる警告音が五月蝿く鳴り響き、計器類が異常な数値を示し、コクピット内に電流が流れてカミルも感電して悲鳴を上げた。

「うああああああああっ!!」

 コンバットシステムがフリーズする! シルヴィアは電磁エネルギーに苦しみながら右前足で強引にケーニッヒウルフの顔面を殴って引き剥がす。

「はぁ……はぁ……はぁ……なんて奴だあいつ」

 気がつくとカミルは全身汗だくになり、全身の筋肉や肺、心臓が酷使されていた。

 ここまで戦えたのはゾイドとしての性能と、シルヴィア自身の戦闘経験からだろう。野良ゾイドになってからも、いや戦争の頃からずっと戦い続けてきたんだろう。なのに僕は……僕は……カミルは歯をギリギリと食い縛って、駄目だ……ここで折れたら……例え足を引っ張ってるとしても。

「次で決めようシルヴィア……長期戦に持ち込まれたら……勝ち目はない」

 するとコクピット内にアラームが鳴る、警告音とは違う。MFDを見るとケーニッヒウルフのデータが表示されていた背部に冷却ファンが点滅「WEAK POINT」と表示されてそれが弱点だと理解した。

 なるほど、ほんの少しだけ勝てる気がしてきた。

 狙いは背中のファン、でも奴が機体を熟知している可能性もある。だがそれしかないとカミルは腹を括って操縦桿を握りなおすと、再びケーニッヒウルフから攻めてきた。それならカウンター攻撃だ、ケーニッヒウルフは猛ダッシュでスピードに乗ると走り幅跳びの要領で飛び掛る。

「今だ!!」

 シルヴィアを後足で立ち上がらせ、突進してきたケーニッヒウルフを受け止めて押し倒されんと、後足で踏ん張って前足で背中の冷却ファンを狙う。もらった! 次の瞬間、コクピット内を衝撃が激しく揺さ振る。

「うおわっ!!」

 衝撃は今まで以上で下顎の損傷を示す警告が表示される。どうやら奴は機体を強引に立ち上がらせ、下顎に頭突きをかましたらしい。人間で言うならアッパーを食らうような感じで、地面に突っ伏した。

「クソッ! シルヴィア! 頑張れ!」

 操縦桿を必死で動かすが立ち上がろうとせず、抑揚のない電子音が鳴り響いてMFDに「COMBAT SYSTEM FREEZE」と表示される。畜生!

 奴らの仲間ならこいつを渡す訳にはいかない、ならばせめてとカミルは自分の無力さに打ちひしがれながら再起動操作を行う。

 立ち上がりに数十秒~数分、それまでにどうにかして体一つであいつを引きつけよう。

 ゆっくりと歩み寄ってくるケーニッヒウルフ、カミルはコクピットのシートベルトを外して安全バーを上げると、ホルスターからGF45Lを抜いた。予備マガジンはもうない、銃に入ってるので最後だ。

 マガジンを抜いて残弾数を確認、戻してプレスチェック(※スライドやボルトを少し引いて薬室に弾が装填されてるのを確認)した。

「いい? シルヴィア……僕があいつを引きつける。僕に構わずその間に逃げて!」

 カミルは躊躇わずにコクピットハッチを開けて降りると、シルヴィアは早まるな! やめろ! と言ってるように必死で唸る、歩み寄ってくるケーニッヒウルフは生身で対峙すると威圧感よりも絶望感が大きい。

 カミルは歯を食い縛ってGF45Lを頭部に向けるとケーニッヒウルフはカミルを見下ろす形になる。すると何を思ったのか、ケーニッヒウルフは頭を地面に着けるとコクピットハッチが開いた。

 なるほど、一対一の決闘かとカミルは銃口を向けてサムセーフティを下にしてOFF、ハンマーを起こして引き金に指をかける。きっと元軍人のゾイド乗りかもしれない、そう思っていたが意外な声だった。

「銃を降ろして下さい! 人が乗ってるとは思わなかったんです!」

 柔らかく透き通るような同い年くらいの女の子の声でカミルは思わず目を見開く。

「えっ……君は?」

 カミルはGF45Lを降ろして警戒を解かずに動きを窺うと、長い黒髪をフワリとなびかせて降りてきた。

 綺麗だ……思わず見惚れてしまい、心を奪われた。

 その少女は背中まで長い黒髪のハーフアップに美しい東洋人の顔立ち、目を合わせたら心が吸い込まれて虜になりそうなディープスカイブルーの宝石のような瞳、古代ゾイド人の血を引いてるのか額には水色の二つに分けた縦の楕円がある。

 深窓の令嬢なのか、フリル付きの白いブラウスに紺色のロングスカートのお淑やかな印象だが、履いてるのは厳ついショートブーツだった。

「あ……君は……どうしてこのゾイドに」

「ああ、この子は一〇歳の頃からの友達で……リリアって名前なの」

 なんだ、そりゃあ叶わない訳だとカミルは肩を落としてGF45LをデコッキングしてセーフティをONにしてホルスターに戻した。

「そうか、シルヴィアとはついさっき乗ったばかりだから、四~五年乗ってるような君には叶わないや」

「うん……五年くらい乗ってるけど……私も……まだまだなの」

 それでも凄いよ。カミルは女の子に負けたのは悔しいがあれでもきっとバン・フライハイトの足下にも及ばないだろう。彼はゾイドに乗り初めて二年で伝説の凄腕になったんだ。

「ん? ってことは君も一五歳?」

「うん、同い年……だったのかな?」

 少女は少し照れ臭そうに柔らかそうな頬を少し赤らめて言う。カミルは思わずその仕草になんて可愛いんだと見惚れてると、再起動したシルヴィアが立ち上がった。

「この子、シルヴィアって言うんだね」

「あ……うん、さっき……盗賊に襲われて一緒にやっつけたんだ……あっ、僕はカミル! カミル・トレンメル、この近くのセブタウンに住んでるんだ」

 カミルはドキドキさせながら自己紹介すると少女もはにかみながら少し躊躇って自己紹介する。その姿がとても愛らしい、お淑やかなお嬢様そのものだ。

「私は……ヘルガ、ヘルガ・カミシロ・シュティーア」

「ヘルガ……でもどこかで、あっ!?」

 カミルは思い出した。今朝のZiフォンで見たことがある。もしかして偽名を使ってお忍びで旅をしてるのかもしれない、お嬢様どころかお姫様だ!

「君はもしかして、アーカディア王国の――」

「しーっ!」

 ヘルガは周囲に誰もいないのに、慌てた様子で細い人差し指を口元に立てた。

「あ、あの子はもう一人の私で、私はもう一人のあの子なの……あまり大きな声で言わないでね、カミル君」

「わ、わかったよヘルガ」

 カミルはつまりは影武者かなにだろうと思う、僕たちにはわからないアーカディア王家の事情があるのかもしれない。

 

 解説

 

 民間軍事会社ホワイトファング

・表向きはゾイドによる警備・護衛・軍事訓練を行う民間軍事会社。西エウロペのとある小国で民間人銃撃事件を起こしたため、業務停止処分を受けて辺境の国マゼランの更に辺境の田舎に流れつく。ホワイトファングのように管理が行き届かずPMCの一部は盗賊団同然に成り下がって社会問題となっている。ヘリック共和国のPMCだが、一部帝国製ゾイドを使用している。

*1
共和国製中型オオカミ型高速ゾイド、シールドライガーを補佐する機体だが、バランスのいい性能と操縦性と汎用性の高さでベストセラーゾイドの一つとなっている



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第二話、その1

 第二話、旅するお姫様、揺れ動く関係

 

 おかしい、そろそろ戻ってきてもいい頃だ。

 ハロルド・ヒギンズはセブタウン近郊の空き地でドライシガーを携帯灰皿に入れ、腕時計を見ると丁度予定時刻だ。

 姫様が日課の散歩に行く間太いドライシガーを吸う。アーカディア王国三獣士として姫様の護衛兼教育係であるハロルドの日課だ。

 三四歳で身長一八八センチのガッシリと鍛えぬいた体格、彫りの深い顔立ちに無精髭、無造作に伸ばした髪、海軍の飛行ゾイド乗り(アヴィエイター)の友人から貰ったティアドロップのサングラスをかけ、黒いスーツにロングトレンチコートと殺し屋のような近寄りがたい雰囲気を放っている。

 マズいなそろそろ戻ってこないと、イヴァーナがヒステリック起こす。そばに駐機していたネイビーブルーのシールドライガーであるアリエル二世に乗ろうとすると、ハロルドは足を止めた。

「帰ってきた? いや、もう一機いる」

 ハロルドは聞えてくる足音と駆動音の方向を見ると、姫様のケーニッヒウルフ――リリアと……何てことだ! ライガーゼロを連れている。苔の生え具合と傷だらけで野良ゾイドと一目でわかったが、並んで歩いてるということは誰かが操縦してるということだ。

 でもこんな辺境に一体誰が? ハロルドが驚いてる間、待ちわびていたかのようにイヴァーナ・ミッシェル・クオーリが走ってきた。

 古代ゾイド人の血を引き、代々アーカディア王家に仕えるクオーリ家の長女だ。元近衛師団少佐でアーカディア王立諜報特務省(ASIS)にも働いてたという。

 クリーム色の長い髪を纏めて丸眼鏡にグラスグリーンの瞳に背の高い美人で額には宝石のような赤い模様があり、上着の下にはいつでも戦えるように強化服を身に纏ってる。

「おかえりなさいませ姫様! そのライガーゼロは!?」

 よかったなイヴァーナ、丁度いいタイミングで戻ってくれて。案の定というか、イヴァーナは大袈裟に安堵と驚きの表情を見せると外部スピーカーから姫様の透き通る声が聞えた。

『ごめんなさいイヴァーナ、ハロルド、少し遅くなっちゃって』

「ヒヤヒヤしましたよ姫様……そちらのライガーゼロは?」

 ハロルドは訊いて見上げると、少し間を置いて気まずそうな口調になる。

『ああ、えっと……野良ゾイドだと思って間違えちゃったの』

『あ、あの! 僕が盗賊を追い払って帰る途中仲間だと勘違いしたんです!』

 同い年くらいの少年の声だった。するとライガーゼロが頭を降ろしてコクピットハッチが開き、降りてきた。

 姫様と同い年のくらいの大人しくて柔和で頼りなさそうな顔立ちの美少年だった。

「君が……このライガーゼロに?」

「はい、シルヴィアって名前です……さっき乗り始めたばかりですけど」

「驚いたな少年。このライガー……シルヴィアに認められるなんて」

 ハロルドはサングラスを外す、精悍で鋭いが同時に優しさを秘めた眼差しで戦いや争い事を好まなさそうな少年を見つめる。少年は臆することなく、ハロルドに少し恥かしそうに微笑んで言う。

「はい、盗賊に襲われて……成り行きで……帰る途中でヘルガを盗賊の仲間と勘違いしてしまって……」

「つまり、姫様に狼藉を働いたということですね?」

 イヴァーナはまるでデスザウラーが起動したかのように瞳を光らせた。ハロルドは全身から冷や汗が噴き出す、イヴァーナは姫様に近づく男に対しては決して容赦しない。

 特に同い年の少年には。

 身の危険を肌で感じ取ったのか、少年は顔を引き攣らせて青くなる。

「えっ!? ええっと……まさかヘルガが乗ってるとは思わず、盗賊の仲間と勘違いしちゃって……交戦したんですけど」

「交戦? じゃあリリアの傷はあなたがつけたのですね!? それと気安く姫様のことを名前で呼ぶとはいい度胸ですね!!」

 イヴァーナは怒りのオーラを発しながら歩み寄る。これはマズイとハロルドはコクピットにいる姫様に無言で合図する、よく見ると機体各所に土埃がこびりついて格闘戦の痕跡が残ってる。

 慌てた様子でリリアは顔を下げてその間にコクピットを開け、飛び降りて制止した。

「イヴァーナ待って! カミル君は悪くないわ!」

「姫様、人は見た目で判断できません!! おとなしく人畜無害を装って、実は姫様の貞操を狙ってる不貞な輩かもしれませんよ!!」

 イヴァーナはまるで自分が絶対正しいとでも主張してるように、キッとした眼差しで姫様を見つめてハロルドは見てられないと呆れ、有無を言わせない強めの口調で肩をポンと叩いて制止した。

「そこまでにしておけイヴァーナ、子ども相手にみっともないぞ」

「イヴァーナ、落ち度は私にもあるわ。だから……」

 姫様は凛とした眼差しで真っ直ぐイヴァーナを見つめると、彼女は溜息吐いた。

「……わかりました、今回は私の早とちりです」

 自分の早合点を認めるというよりは姫様のわがままを仕方なく受け入れてるかのようだった。ハロルドはその瞬間を見逃さず、割って入るように歩み寄って姫様と少年に労いの言葉をかける。

「姫様、朝の散歩がこのようなことになるとは……少年、連れが失礼した。姫様とお手合わせしたそうだな、手も足も出なかっただろ?」

「いいえ、カミル君……初めてとは思えなかったわ」

 姫様は首を横に振って称えるかのようにカミルという少年を見つめると、カミルは首を横に振って否定した。

「いや、ヘルガが凄かったんだよ。本格的にゾイドに乗って戦うの今日が初めてだったから、シルヴィアに乗せられていただけだよ」

 ハロルドはライガーゼロのシルヴィアを見上げる、まさかこの優しそうな少年が? ハロルドは思わず高揚し微笑み、真っ直ぐカミルの瞳を見つめて怖がらせないように配慮しながら声をかけた。

「少年、是非話しを聞かせてくれないか? 僕はハロルド・ヒギンズ。共和国軍でライガー乗りだったから、興味がある」

「カミル・トレンメルです。勿論お話しします!」

 カミルは不思議なことに一目で素直に肯き、怖がる様子もない。

「ちょっとハロルド、この少年に話しを聞いてどうするんですか?」

「イヴァーナ、このライガーゼロ……シルヴィアのメンテナンスを手配してくれ!」

「どうして私が!?」

 イヴァーナは元近衛師団少佐で惑星Zi最強の諜報機関であるASISの局員でもあった。国外でいくつものテロリスト捜索・逮捕・暗殺作戦に参加しているからイヴァーナがやったら尋問という名の拷問になりかねない。

「この辺りの情報収集にもなるかもしれない。姫様とカミル君に悪いと思うなら、メンテナンスの手配をしてくれ」

「はいはい、すぐに手配します」

 イヴァーナは露骨に不満な表情で言った。

 

 

 シルヴィアのコクピット内でセブタウンの幹線道路をゆっくり歩くと、町の住人――近所の人たちは勿論だが学校の同級生や先生も見ている。

 セブタウンは小さな農業の町だが、同時に古くから旅人たちの憩いの場で全盛期には旅人たちで賑わって情報交換、出会い、別れと様々な物語が生まれた。

 そのため様々な商店、モーテル、駐機場、不釣合いな程の大きなゾイドの整備工場がありセブタウンの収入源にもなっている。

 近郊には大都市に繋がる鉄道駅もあり、カミルも中学校を卒業したらセブタウン駅から数時間かけて都市部にある全寮制の学校へ進学する。

 全盛期の四割に減ったが今でも旅人が訪れ、大型ゾイドに乗ってやってくる人は稀だからたちまち注目が集まる。

 まさか、アヤメリアとか母さんも見てないよね? 装甲式のコクピットで助かったとカミルは落ち着かない気分だ、すると右斜め前方に妹のウルスラが母親と見てる。まさかバレてないよね? カミルは恐る恐る集音マイクのつまみを回してスイッチを入れると、スピーカーは酷い雑音で、辛うじて聞えるくらいだった。

『ほら……れ……おにい……てる』

『……ミルが!? あ……ほん……に』

 通りかかる瞬間、モニター越しに表情を窺うと母親と妹は驚いてる様子だった。カミルはあまりにも酷い雑音にスイッチをOFFにして、心配してるようだからとカミルは減速してシートベルトを外し安全バーを上げる、頭を少し下げてコクピットを開けると「おーっ!」と村の人々たちが声を上げる。

「母さん! ウルスラ!」

「あっ! お兄ちゃんよ! おーい!!」

 カミルは誇らしげに手を振ると、ウルスラははしゃいで手を振って母親は驚きながら訊いた。

「カミル! あなたまさか本当にカミルなの!?」

「そうだよ! びっくりした!?」

「それ以上よ! あんたこんな大きなゾイド、家に置く場所ないわよ!」

「近所の里山か裏庭があるでしょっ!」

 カミルはそう言ってコクピットに入り、シートベルトを再度装着して安全バーを下げるとゾイドの整備工場が見えてきた。カミルはシルヴィアを工場スタッフの誘導に従いながらバックで格納庫に入れる、シビアな操縦だったがシルヴィアは慣れていたのか、的確な位置にあっさりと止まる。

 カミルはシルヴィアから降りると、すぐに工場スタッフと整備用のゾイドたちが仕事にかかる。

「それじゃシルヴィア、いい子にしててね」

 カミルは見上げて言うとシルヴィアは素直に肯いて唸る。これから野良ゾイドを再び戦闘ゾイドに使えるようにする復帰整備が行われ、凡そ数日はかかるのだ。

 工場の応接室に入るとハロルドはソファーに座って紅茶を飲み、イヴァーナは領収書に頭を抱えている、ヘルガは工場スタッフではない男と楽しげに話してる。

「やぁ、君がカミル君だね。姫様から話しを聞いてるよ」

 低めで厚みのある声だ。背丈はハロルドより低いがそれでも鍛えられた体格だ。ブラウンの髪にハロルドとはまた違った鋭い目をしている。顔立ちも爽やかで人懐っこいイケメンと言った感じだ。

「揃ったから紹介するね。彼はヨハン・オルベルト・シュバルツ、元ガイロス帝国軍の中尉さんよ」

 ヘルガが紹介するとカミルはどこかで聞いたことがある気がした。

「シュバルツって……あのガイロス帝国国防陸軍第一装甲師団カール・リヒテン・シュバルツ!?」

「はははははっ、恥ずかしながら君の思ってる通りさ」

 ヨハンと握手を交わしてカミルはただただ驚くばかりだ。『風と雲と冒険と』でも二人のシュバルツが登場した。一人はカール・リヒテン・シュバルツでガイロス帝国軍屈指の名指揮官。もう一人は弟のトーマ・リヒャルト・シュバルツでゾビオニクスの発展に大きく貢献したことで知られてる。その人たちの末裔とは驚きだった。

 続いてヘルガはハロルドに目を向けて紹介する。

「彼はハロルド・ヒギンズ、元共和国海兵隊の中尉さんよ」

「よろしくカミル君」

「はい」

 カミルはハロルドのゴツイ手を握る。強面でマフィアのボディガードか殺し屋みたいな見た目だが、意外と優しく綺麗な目をしている。父と同じ匂いがして、カミルは自然とこの人なら信頼していいと感じとっていた。

「で、彼女がイヴァーナよ。元近衛師団の少佐で、私の幼い頃からの家庭教師なの」

「初めましてカミル君、私は姫様の護衛兼教育係のイヴァーナ・ミッシェル・クオーリです。言っておきますけど、姫様に手を出そうなんてく・れ・ぐ・れ・もお考えにならないように、いいですね?」

 イヴァーナはデスザウラー級の威圧感を放ち、エメラルドグリーンの瞳を光らせながら歩み寄る。カミルは生身で荷電粒子砲発射寸前のデスザウラーに睨まれ、ロックオンされた気分だった。

「威圧するなよイヴァーナ、いい歳して若い子に相手にみっともないぞ。姫様も年頃だし色んなことを知っていい年頃だ、それとも嫉妬かい?」

 ヨハンは臆することなく火に油を注ぐようなことをニヤニヤしながら言うと目標をヨハンに変更する。

「嫉妬ですって? ヨハン、この私が姫様に嫉妬するとでも?」

「いやいや姫様ではなく、青春真っ只中の思春期の少年少女にだよ。み・そ――おっと! 用事を思い出したので、それじゃあっ!」

「待ちなさい!」

 ヨハンはイヴァーナのストレートを紙一重でかわすと部屋を出て逃走する。イヴァーナはどこから出したのか、小型のナイフを取り出して追いかけた。

 カミルは二人の背中を見送って訊く。

「大丈夫なの? あれ」

「い、いつもことなの……ヨハンはイヴァーナの遊び相手みたいで、イヴァーナもまんざらではない様子なのよ」

 ヘルガは表情を引き攣らせて苦笑し、ハロルドは溜息吐いて苦笑した。

「全くよく飽きないものだ。それじゃあ座って話しを聞かせてくれないか?」

「はい」

 カミルは座って事情を説明した。

 

 三年前からシルヴィアを追っていたこと、旅人かと思ってディマンティスに声をかけたら襲われ、シルヴィアと出会ったこと、ヘルガと一戦を交えたこと、今日のことを覚えてる限り詳しく話した。

 

「そうか……最近この辺りに兼業で盗賊をしてるPMCがいるという噂を聞いたことがある。近くにガーディアンフォース*1のパトロールが来てたから、どうやら本当らしい。姫様、すぐにマゼランの治安機関及びガーディアンフォースに通報します」

 ハロルドはすぐにヘルガと目を合わせるとヘルガは「はい」と強い芯の秘めた声で言った。ハロルドはすぐに治安機関及びガーディアンフォースに通報すると、近隣の基地から無人航空機(UAV)型ゾイドと偵察隊を派遣してガーディアンフォースと共同で掃討作戦を始めるという。

 ハロルドは少し安堵した表情で言う、あの二人はまだ戻っていない。

「よし、後は彼らに任せよう。カミル君のおかげで少なくとも安全な旅ができる」

「ありがとうカミル君、おかげで旅が少し安全になるわ」

 ヘルガは安堵した笑みを見せる。それがとても愛らしくて、カミルは目を逸らしながら浮かんできた疑問を問う。

「いいよ、その……ヘルガたちはどうして旅を?」

 それでヘルガの表情は少し固まり、沈んだような複雑な表情になってハロルドはサングラスをかけて表情を隠す。

 カミルは悪いことを訊いてしまったのかもしれないと悔やみ、咄嗟に謝る。

「ごめん! 訊いちゃいけなかった?」

「ううん……私たち……力を蓄えてるの」

「それって……強くなるため? 修行の旅?」

「ぷっ! うふふふふふっ! ちょっと違うけどそんなところね!」

 答えは曖昧だったが、カミルはヘルガの可愛らしい笑顔と笑い声にホッと安堵の笑みを浮かべるとハロルドも苦笑した。

「ちょっと事情があってね、まっそんなところだ。今日はありがとう、それと整備中の間シルヴィアにも顔を見せた方がいい。私たちも二週間くらいは滞在する予定だ」

 それは遠回しにまた会いにおいでと言ってるようにも聞こえ、カミルは「はい」と嬉しい気持ちで肯いた。

*1
へリック共和国とガイロス帝国が共同で設立した国際対テロ特務部隊、世界各地に支部を置いておりゾイドを使ったテロリストや犯罪組織の摘発、場合によっては駆逐掃討を行う



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第二話、その2

 まさかあのカミルが本当にライガーゼロを見つけるとは!

 それだけでも凄いが、まさか手懐けてしまったのは驚きだった。

 ジョエル・カーチスは格納庫のキャットウォークで、整備中のシルヴィアという名前のライガーゼロに畏怖の念を抱きながら見ていた。

 セブタウン整備工場長の息子で陽気で飄々とした性格とカミル同様ゾイド好きなことから気が合い、大人びて整った顔立ちでそれなりにモテる。

 小学校の頃からよくカミルを整備工場に連れて行って見学させ、遊び場にしていた。もっともここ三年は山に入り浸って滅多に来なかったが。

 

 翌日の学校に行くと噂はあっという間に行き渡っていて登校すると、カミルはたちまち質問攻めに遭っていた。

 

「おはようカミル! あの白いライガーに乗ってたんだって?」「聞いたぜ、カミルあのライガーをどうやって手懐けたんだ?」「なぁ、あのケーニッヒウルフと戦ったんだって?」「ついに見つけたんだって? あの白いライガーを」

 

 この間ジョエルが割り込むは余地はなく、昼食の時間に食堂でようやくカミルと話すことができた。

「一躍有名人だなカミル、そのライガーゼロ……シルヴィアって名前だっけ」

「そうだよ。野良ゾイドだったけどね」

「ああ、聞いてる。ショックカノンやイオンターボブースター、各種センサー類は全部交換、今日からオーバーホールするって親父が言ってた」

「ということはまだ始まったばかりか……どれくらいかかるかな?」

「だいたい一週間、卒業の日までには十分間に合うぜ」

「そうか……ならよかった」

 カミルは安堵の表情を見せる、やはりカミルは卒業したら旅に出るつもりだろう。あのシルヴィアに乗って、それに関しては肯定も否定しないのが建前だが本音は寧ろ一緒に行きたい。

 ジョエルも数ヶ月前にあるゾイドを見つけて連れて帰ったら即行で親父に意図がバレてしまって、その日のうちに里山に帰されてしまった。森へ帰る時に凄く寂しそうな仕草をしていたのが、未だに頭から離れない。

 あいつ今どうしてるかな? カミルがバン・フライハイトに憧れてるなら俺はアーバイン・キャバリエーレのような賞金稼ぎになりたいと思ってる。

「なぁ、一緒に来てた人たち……整備費用負担してくれたんだよな? 親父も驚いてたぜ、あんなにポンと金を出す客はそうそういないってさ……何者なんだ? あの人たち?」

「詳しくはわからないけど……強くなるために修行の旅をしてるって」

「ふ~ん……まあ、旅の目的は人それぞれだからな」

 ケーニッヒウルフのパイロットに関しては噂が一人歩きしてる。無精髭にサングラスの強面なヘリック人の男、インテリ系オタクっぽいガイロス人の男、はたまた女子力(物理)全開のキャリアウーマンみたいなアーカディア人女性、そしてセリーナ王女そっくりの絶世の黒髪ロング美少女だという。

 そう思っていた時、背後からカミルの天敵が現れた。

「ねぇカミル、ジョエル、放課後予定空いてる?」

「えっ? な、何……アヤメリア」

 アヤメリアのご登場にカミルは警戒体勢に入るが、いつも一緒にいるセミロングのストロベリー・ブロンドに小柄でスレンダーな女の子、セレナ・ワーナーはそれを気にする様子もなく訊いてきた。

「放課後ちょっとさ、書店に探してる本があるんだけど一緒に手伝ってくれない?」

「何を探してるんだ?」

 ジョエルが訊くとアヤメリアは人差し指を立ててこっそりと小声で言った。

「バン・フライハイトの本よ『風と雲と冒険と』あれ……急にまた読んでみたくなったの」

 それでカミルは微かに動揺してるようだが、気付いてるのか気付いてないのかわからないがアヤメリアはカミルに有無を言わせないような目になる。

「ねぇカミル、手伝ってくれるよね?」

「待ってくれアヤメリア、カミルはライガーの整備に立ち会わないといけないからさ」

「あらそう。ならいいわ」

 ジョエルが代わりに言うとアヤメリアはあっさり引いた。これは何か別のことを企んでるなと、ジト目で二人を見るとセレナは不敵な笑みを浮かべてジョエルは嫌な予感がした。

 

 予感は当たってしまった。カミルは表情には出さなかったが上機嫌で学校を出て行くと、アヤメリアは険しい表情で急に予定を変更した。

「カミルを尾行するわよ!」

「やっぱり……何が目的なんだ?」

 ジョエルは怪訝な目で見ると、セレナはワクワクした様子で話す。

「いやね。あのおっきなウルフに乗ってたパイロットが、同い年の女の子って噂でアヤメリアはそれが気になって気になってしょうがないのよ。もしかしたらカミルと仲良くしてるのかもしれないって、アヤメリアはカミルのことが――」

「そんなんじゃないわ! さっさと行くわよ!」

 アヤメリアは必死で否定するが、尾行する二人を横にジョエルは少し考えてあり得る事だという結論を出す。カミルとアヤメリアは幼馴染で、よくカミルにちょっかい出しては泣かしていたという。

 だがここ三年、それは鳴りを潜めて週末になると山に入り浸ってだんだん逞しくなっていた。

「ねぇジョエル、あんたここの工場長の息子でしょ?」

「無茶言うな、許可を取らないと俺でも入れねぇって」

 整備工場に正門に到着するが整備区画は工場長の息子と言えど関係者以外立入禁止の区域だ。

 アヤメリアは「それなら!」と向かいの切り立った崖のある小山に指差して登った。

 工場内には忙しく作業車やゾイドが行き交っている、この中からカミルを見つけられるのだろうか? アヤメリアは鞄から双眼鏡を取り出して探す。

「さぁて、カミルはどこにいるのかしら?」

「はぁ……はぁ……アヤメリア……あんまり……近づいたら落ちちゃうよ」

 セレナは完全に息が上がっていて、ジョエルは格納庫周辺に目を凝らして探すが、流石に見つからない。すると旅一座のゾイドなのかグスタフ*1が見えた。

「アヤメリア、ちょっと貸してくれ!」

「うん、ちょっとだけよ」

 ジョエルは双眼鏡を覗くと近年多国籍軍の頭を悩ませてる即席爆発装置(IED)対策したグスタフMRAP(耐地雷・伏撃防護型)で機体の数だけバリエーションがあると言われてる。

 国籍マークはアーカディア王国のだがグスタフMRAPは民間にも多く出回っていてあの機体に限って言えば通信機能を強化した大型のアンテナに、甲高いエンジン音……恐らく、ガイロスのシュタウフェンベルク機械工場製大馬力エンジンに換装して速度とペイロードを強化してるのかもしれない。

 他にはネイビーブルーのシールドライガー、ヘリック陸軍ではなく海軍傘下の水陸両用作戦や大規模緊急即応部隊である海兵隊所属に見えるが、国籍マークはアーカディア王国のものだ。

 隣にいるのはディバイソンでカラーリングはヘリック陸軍のだが、国籍マークやはりアーカディア王国のだ。

 するとケーニッヒウルフが入ってきてその先には……カミル! ケーニッヒウルフは頭を下げるとコクピットハッチが開き、降りてきたのは思わず見惚れてしまう程の綺麗な黒髪の女の子だった。

「ねぇ、あれカミルじゃない!?」

「えっ!? 返して!」

 セレナは二~三〇〇メートル以上先にいるカミルに指を差すと、アヤメリアはすぐさま反応してジョエルから分捕って覗くとすぐに発見した。

「いた! カミル! ちょっと誰よあの子!?」

「えっ? 見せて見せて!」

 セレナが双眼鏡を借りて覗き「おおっ!」と、まるでいいものを見つけたかのような高い声になる。

「うわぁ……綺麗な子、あらあらぁ……カミル、あんな笑顔学校じゃ見せてくれないわ。あれさ、絶対恋してるって顔よ!」

「ええっ!? ちょっと、うわっ!」

 アヤメリアとセレナの二人は崖の上でバランスを崩してふらつき、ジョエルは反射的に動いた。

 

 

 カミルは放課後シルヴィアの様子を見に行く。整備工場のスタッフによれば今日から一週間は装甲版を外し、全身の整備にかかるという。

 久し振りに整備工場を見回ろうと駐機場に入る。検査を終えたのかリリアが格納庫から出てきてカミルは思わず微笑んで手を振ると、駐機場に入って適当な場所に停めてコクピットを開け、ヘルガが降りて来た。

「カミル君、学校終わったの?」

「うん、シルヴィアの様子を見に行ったところなんだ。これからリリアと散歩?」

 カミルはリリアの頭部に触れて訊くと、ヘルガは途端に饒舌に喋る。

「うん、リリア――ケーニッヒウルフやコマンドウルフ系統のゾイドは定期的に散歩させないとストレスを溜めちゃうの。軍用だと戦闘訓練とかで発散できるけど、私たちみたいに旅してるとずっと歩きっぱなしで町に到着したら休ませて、その後は情報収集も兼ねて町の周りを散歩させてるの」

「でも一人じゃ危ないんじゃない? 君と出会った時も一人だったけど」

「その時はハロルドを呼ぶわ、それにリリアが一生懸命私を守ってくれたのは一度や二度じゃないの! リリアは私の友達だから、その分を労ってあげないと」

「そうか……昨日出会った時、叶わなかったわけだ」

 カミルは昨日の手も足も出なかった状況を思い出しながら言うと、ヘルガは首を横に振った。

「ううん、私はまだまだよ。射撃の腕だとヨハンが上だし戦術はイヴァーナの足下には及ばないわ、格闘戦もハロルドに詰めが甘いっていつも言われてる。私はただ、リリアに乗せられてるようなものなの……私、一人じゃ弱いから」

 ヘルガは微かに暗い表情になる。上には上がいる、カミルはリリアと目を合わせると静かに唸る。一人じゃ弱い、だから強くなるために、修行の旅をしてるのかもしれない。

「僕も……強くなりたくて去年亡くなった祖父に銃の扱い方、自然の中での暮らし方、ゾイドとの接し方、身の守り方を教わったよ。おかげで山で自給自足できるくらいになったけどね」

「カミル君、野生児ね」

 ヘルガはクスリと笑みを浮かべるとジャンプしてリリアの上顎に腰掛け、少し躊躇いがちな口調で話す。

「私ね……生まれてからずっと……お城で暮らしてたの。普通の女の子のように普通の学校には行かせてもらえなくて、イヴァーナや家庭教師の先生たちに、ヨハンからは礼儀作法やヴァイオリン、武術を教わり、ハロルドからゾイドの操縦を学ぶ……それ以外にも夜は毎晩のように国内外の政府高官の人を招いて晩餐会が開かれたわ……同い年の友達なんていなかった……外に出る時と言えば外遊や週に一回通う、王立図書館で本をたくさん借りるのが楽しみだった……特に冒険小説や青春恋愛小説を読むのが好きで……それが当たり前のことだと思っていた。でもね、一二歳の時にあの本を読んでから私は普通の女の子として外の世界に飛び出したいっていう衝動に駆られたの」

「あの本?」

 カミルは呟くと、ヘルガは微笑んで言おうとした時リリアが静かに険しく唸った。

「どうしたのリリア?」

 ヘルガはすぐに降りて訊くと、リリアは顔を上げて首を小さく上下に動かしてる。まるであれを見ろと言ってるかのようだ。カミルはリリアの視線の先を見ると整備工場向かいの切り立った崖に人が三人、ぶら下がっていカミルは指を差した。

「ヘルガ! あれ!」

「大変……リリア!」

 ヘルガの言葉でリリアはコクピットを開けながら頭を下げると、ヘルガは素早く飛び乗る。お淑やかな見た目に反してかなりのお転婆だ。

「カミル君! 乗って!」

「えっ!? わかった!」

 カミルも迷わず飛び乗ってコクピットに入る。勢いで入ったのはよかったが、ヘルガはコンソールパネルを降ろし、コクピットハッチを閉じると、一気に狭くなってヘルガに覆いかぶさるような状態になってしまう。

「えっ? ちょっ――ヘルガ!」

「しっかり捕まって! 跳ぶわよ!」

 ヘルガはモニターをONにすると躊躇う様子もない。カミルは安全バーに捕まって歯を食い縛った瞬間、リリアはフェンスを跳び越えるためダッシュ、ジャンプ! Gに押さえられて現場に急行する間ほんの数秒間、ヘルガと密着状態だった。

 汗と香水の混ざった生々しくもいい匂い、柔らかくて暖かい肌に微かに聞える吐息に滑らかな唇、一瞬の時間が長く引き延ばされてるように感じた。

「カミル君! 開けるわよ!」

 ヘルガの凛とした声が耳元でダイレクトに響き、振り向くと目を見開いた。

「ジョエル! セレナ! アヤメリア!」

 ジョエルが左手で突き出た木の枝に捕まって、右手でセレナを離すまいと握ってる。セレナは右手でジョエルの、左手でアヤメリアの手を掴み、必死に引き千切られそうな体を気力で持ち応えさせていた。

 

 解説

 グスタフMRAP

・発展途上国に駐留する多国籍軍を悩ませている地雷やIED対策を施したグスタフ、部隊レベルで様々な改修がされており、バリエーションは機体の数だけある。ヘルガたち一行はシュタウフェンベルク社製大馬力エンジンに換装して速度とペイロードを増やし。大型のアンテナを装備、機体後方には大型のキャンピングトレーラーを繋いで牽引してる。

武装:アーカディア・ウェポン・インダストリーズ社製120mmショートレールガン

*1
ダンゴムシ型輸送用ゾイドで官民軍問わず幅広く使用されている



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第二話、その3

 クソッ! 絶対に離すかよ……畜生、枝が今にも折れそうだ! 崖の高さは一〇メートルくらい。落ちたら運良くて一生車椅子、悪けりゃ即死だ! ジョエルは何とか二人を引き上げようとするが、完全にぶら下がった状態で力を入れるたびに枝が静かに悲鳴を上げてる。

「離すんじゃねぇぞ二人とも! 引き上げてやるからな!」

「体が、体が千切れちゃう! 痛い……」

 悲鳴を上げるセレナ、自分と女子生徒にしては大柄なアヤメリアの体重を受けながら右手で何とか自分の手に縋りついてる、その華奢な腕じゃ落ちるのも時間の問題だ。

「セレナお願い……なんとか頑張って、ジョエル! セレナをちゃんと引き上げなさいよ! 男でしょ!」

「わかってるようるせぇなぁっ!! なんでよりにもよって一番重いお前が下だなんてよ!!」

「失礼ね!! あたしそんなに重くないわよ!!」

 アヤメリアは震えた声で叫ぶと枝の軋む音が聞える。クソッこのままじゃ三人とも落ちる! 汗で今にも滑り落ちそうなセレナの右手と、どんどん曲がっていく木の枝を掴む左手、クソッ! 離してたまるかよ!

 ジョエルはせめて誰かが気付いてくれればと整備工場の方を見ると、さっきのケーニッヒウルフがいない。おいおいカミルはあの黒髪の女の子とデートか? そう思った瞬間、自分を恥じることになった。

 自分たちの真下にケーニッヒウルフが滑り込み、コクピットハッチが開くと出てきたのはカミルだった! ケーニッヒウルフが頭の横に右前足をくっつけると、カミルは飛び移った。

「ジョエル! セレナ! アヤメリア!」

 カミルは両腕を広げて受け止める体勢になりながら叫ぶと、ジョエルは微笑みながら叫んだ。

「カミル……セレナ! アヤメリアを離せ!」

「ええっ!? でも!」

「いいから離せ! アヤメリアなら大丈夫だ!」

 ジョエルはビキビキと曲がり始めた枝の悲鳴を聞きながら叫ぶと、アヤメリアは裏返った声で悲鳴を上げた。

「ちょっと本気なの!? あたし死んじゃうって!」

「いいから早く! 枝が折れる、助かりたかったら離せ!」

 ジョエルは今まで叫んだことのない声で怒鳴り散らすとセレナは下を向いてようやく気付き、そして離した。

「ごめん、アヤメリア」

「えっ……いやぁあああああああっ!!」

 断末魔の悲鳴で落下するアヤメリアを、カミルはお姫様抱っこで見事にしっかりと受け止めた! ナイスキャッチ! 心でガッツポーズを決めた瞬間、枝が折れた。畜生、セレナを! ジョエルは固い地面に叩きつけられる瞬間までセレナの手を離すまいと歯を食い縛った。

「あいた!」

「うおわっ!」

 地面ではなく黒い金属の塊の上に尻餅ついた。すぐ崖の上はすぐそこで、ゆっくりと低くなった。

「大丈夫ですか! お怪我はありませんか!?」

 コクピットから降りて来た女の子は、透き通るような柔らかい声でセレナは目を丸くして呟いた。

「あの子が……パイロット?」

「みたいだな、アヤメリアも大丈夫そうだな。降りられるか?」

「うん、それよりさっ! あれをもっと近くで見よう!」

 にやけるセレナの視線の先にはお姫様抱っこしてるカミルの姿だ、ジョエルは肯いて手を振った。

「大丈夫、ありがとう! 助かったよ!」

 

 それから大人たちが何事かと言わんばかりに駆けつけ、それからみんなで事情を説明して注意されたが、カミルとヘルガの二人は賞賛されてアヤメリアはその二人を、複雑な表情で見つめていた。

 

 

 カミルはアヤメリアと帰り、怖い目に遭ったからか口を閉ざしたままだ。いつもはからかわれながら歩いて帰ってるのに、アヤメリアは俯いたままだった。昔は散々泣かされ、粗暴でお姉さんぶった誰よりも強い幼馴染なのに……それでもやっぱり女の子だもんね、カミルは声をかけた。

「大丈夫? やっぱり怖かったよね?」

 アヤメリアは俯いたままコクリと肯くと、ボソボソと唇が動いて辛うじて聞き取れた。

「初めてなの……お姫様抱っこされるの……男の子に」

「えっ?」

 アヤメリアは顔を上げると、感慨深そうな顔をしていた。

「カミル、あんた……本当に逞しくなったね。昔は臆病で、女の子にも負けるくらい弱くて……よく泣いてたわね」

「僕を泣かしてたのはいつも君だろ?」

「はははははっ、そうよね。でも、その泣き虫カミルが……あたしを助けたのよ」

「女の子にはこの前も負けたよ、ライガーゼロのシルヴィアを見つけた日にね」

「あのヘルガって子と戦ったの?」

「うん、圧倒的だった」

 カミルは今でもあの圧倒的な強さは頭から離れない。シルヴィアに乗っていたからあそこまでもったのだ。

 それでもあの三人の付き人たちには叶わないという、だとしたらバン・フライハイトや生涯のライバル、レイヴンは? 一体どれくらいの次元だったんだろう? そうだ、カミルは家の前に着くと昼休みのことを思い出した。

「アヤメリア、すぐ戻るからそこで待ってて」

「いいけど」

 カミルは急いで「ただいま!」と言って家に入り、自室の棚から愛読書を取って急いで戻ると玄関前でアヤメリアは待っていた。

「はいこれ、読みたかったんだって?」

「おおっ!! 『風と雲と冒険と』じゃん!!」

「うん、死んだ父さんがよく読んでいた大切な本なんだ」

 これはカミルの大切な宝物、アヤメリアは粗暴で意地悪だけど筋は通す女の子だ。アヤメリアは数秒間カミルの目を見つめると、嬉しそうな表情で女の子らしい、愛らしい笑顔になる。

「ありがとうカミル。来週辺りに返すね」

「うん、感想聞かせてね」

「勿論よ、じゃあね!」

 カミルはその嬉しそうな背中を見送った。

 

 翌日から、カミルとアヤメリアは『風と雲と冒険と』で語り合い。昼休みはZiフォンでネットにアクセスしてバン・フライハイトやその仲間たちの生涯、その後の時代のゾイド乗りたちのことを教えた。

 放課後になるとジョエル、セレナを連れてヘルガの所へ行って遊んだりした。ヘルガはセレナとアヤメリアともすぐに打ち解け、三人で仲の良いグループが出来上がった。

 そんな日々が一週間過ぎる。

 

 シルヴィアの整備は終わり、格納庫から出てきたシルヴィアは上機嫌で、母親は呆れた表情でしばらくの間、家の裏庭の空き地に駐機してていいと、やっと折れてくれた。

 その夕方の帰り、すっかり馴染んだかと思ったアヤメリアと話していた時だった。

「――カミルってヘルガと話す時……可愛い声で笑うよね?」

「えっ? なんか……久し振りに酷いこと言われた気がする」

「酷いも何も、ありのままを言ってるのよカミル」

 アヤメリアは真剣な眼差しだ、今までとは見たこともない雰囲気でカミルは思わず困惑の表情を浮かべ、アヤメリアは問い詰めた。

「ヘルガのこと、どう思っている?」

「どう思ってるって……」

 カミルはヘルガのことが頭から離れなかった。学校にはいない、上品でお淑やかで誰よりも芯の強い、それこそ深窓の令嬢――いやお姫様だ。そんなヘルガのことを?

「セレナが見抜いてたわよ。あんた……あの子に恋してるんだって?」

「えっ!?」

 それでカミルはハッとした。アヤメリアはキッと見つめ、徐々に口調が強くなる。

「やっぱりね、ヘルガの付き人――イヴァーナさんが言ってたわ。あの子はいずれ国を背負うお姫様なのよ。あんたに釣り合うと思ってるの? 王子様やお姫様、身分の差を乗り越えた恋なんて、所詮は大人になりきれない大人たちの叶わない妄想! フィクションに過ぎないのよ!」

 カミルは両手を握り締めた。ヘルガに抱いてる感情、これが好きかどうかなんてわからない。確かに僕とヘルガでは身分の差は違いすぎる、だけど。

「どうしてそんなことを言うんだ!? 僕はヘルガが普通の女の子だろうが、お姫様だろうが関係ないよ。アヤメリアだってヘルガとあんなに仲良くしてたじゃない。友達同士じゃなかったのかよ!?」

「それとこれとは別よ! あの子は……住む世界が違いすぎるのよ!」

 アヤメリアはヘルガを除け者にしてる、少なくともカミルにはそう感じた。アヤメリアは決して仲間外れをしたりするような子じゃない、こんなことなら、自分が除け者にされた方がよかった。

「じゃあ君がヘルガに優しくしたのは嘘だったのか!」

「嘘じゃないわよ!」

「じゃあ何が言いたいんだよ!! 僕がヘルガを好きになろうがどうだろうが、僕の勝手だろ、そんなにヘルガが気に入らないのかよ!?」

「気に入らないのはあんたの気持ちよ!! この前出会ったばかりの女の子を好きになるなんて、馬鹿じゃない!? あたしだって……カミルのことが好きなのよ!!」

 アヤメリアは吐き捨てて家へと走リ出し、カミルは引き止めようとしたが足の早い彼女だ。止めようがなく、カミルは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 ハロルドは民家の壁に寄りかかってリトルシガーを吸い終え、カミルの同級生の少女――アヤメリアが跳び出してハロルドに気付くことなく、走り去っていた。一瞬見えた横顔には涙が夕日に反射していた。

 少し遠回りして帰ろう。ハロルドは携帯灰皿に吸殻を入れるとモーテルを遠回りする形で帰り、イヴァーナと姫様の部屋にノックして入った。

「ただいま戻りました」

 部屋に入ると姫様はテーブルで教科書とノートを広げ、イヴァーナの授業を受けていた。

「あら珍しいですねハロルド、わざわざ」

「おかえりなさいハロルド、そろそろ夕食を作ってくるわね」

 姫様は日課である授業を終え、モーテルの裏に駐機してあるグスタフMRAP――マルゴに繋いでる居住コンテナに向った。旅に出てからは家庭的なヨハンと料理を教わりながら作り、姫様は花嫁修業と密かに言ってる。

「それで? 私に用があるんですよね?」

「そうだ、あの子たちの関係をこじらせるのはやめろ。姫様が聞いたら悲しむ」

 ハロルドは全て見抜いていた、この一週間ハロルドはヘルガの所へ遊びに来た少年少女たちを見守っていた。ヨハンは一緒に遊び、イヴァーナは時折声をかけたり少年たちを脅して怖がらせ、ヨハンにからかわれては追い掛け回して和ませていた。

「なんのことです? 私はただ――」

「ヨハンや姫様をごましても、僕だけはごまかせないぞ! 今日、アヤメリアと言う女の子にカミル君が姫様に思いを寄せてることを話しただろ?」

「あら、私はただカミル君が一時の気の迷いから目覚めさせるには丁度いいと思ってたんですけどね。それにアヤメリアさん、幼馴染のカミル君に思いを寄せてますから」

 イヴァーナは涼しい笑顔で言うが、その裏にはどんな犠牲を払ってでも冷酷なまでに姫様を守り、強い王女に育てるという任務を遂行する鋼鉄の意志が秘められてる。

「任務のためだからと言って、煽っていいのか?」

「私は任務のためなら、どんな汚名も受けるわ。例え姫様に嫌われて、殺されることになっても」

「そうか……大した神経だ」

 この女は何を言っても無駄だ。一度任務を始めたら相応の権限を持つ者――国王でもない限りやめないだろう。ハロルドは部屋を出て向かいの部屋に帰って一人、もう一本吸いたい気分だった。

 嫌煙のヨハンには悪いと思いながらリトルシガーを取り、シガーマッチで点火した。

 

 それから夕食を取り、深夜になると一番神経が張り詰める時間帯になる。

 時計を見ると深夜一時で今頃、姫様は向かいの部屋でぐっすり寝てる。

 相部屋のイヴァーナは隣のベッドで襲撃に備えて暗器を仕込んだ普段着のまま、枕元には357口径マグナムリボルバー拳銃――ルイス&スヴェンソンRS435を置いて眠ってる。

 姫様より遅く寝て、早く起きる、熟睡しても一瞬で目を覚ます技能を持っているから頼もしいと同時に、恐ろしくもある。

 ハロルドは電気を消した部屋でプレートキャリアを装備し、北エウロペ連合やアーカディアで採用されてる七・六二ミリ短小弾を使用する傑作突撃銃――NK30の個人防衛火器(PDW)仕様の九インチ銃身モデル――NKS30Uを持って椅子に座っていた。

 骨董品クラスの旧式だがアーカディアでは近代改修されて通常型の一六・三インチ、空挺・特殊部隊用の一三インチタイプがあり、ハロルドとヨハンのはサプレッサーと近接戦闘用ダットサイト、フォアグリップが装着されている。

 ヨハンもタクティカルブーツを履いたまま寝てはいるが緊急時には静かに叩き起こして数秒で戦闘体勢を取らせなければならない。そろそろヨハンも寝入っただろう、そう思ってポケットの太くて長いドライシガーに手を伸ばした時、微弱な電流が流れた。

「ヨハン、起きろ!」

「……敵襲か?」

 できる限り小声でポンポンと叩くと張り詰めた口調に悟ってくれたようで素早く起きる。プレートキャリアは寝たまま身に付けていてヨハンは自分のNKS30Uを取ってチャージングハンドルを引き、重量ある亜音速弾を装填。

「囲まれてる、脱出だ」

 ハロルドが言った瞬間、Ziフォンが震えた。バイヴのパターンからしてイヴァーナも気付いたようだ。ハロルドはヨハンとアイコンタクトしてセーフティをセミオート。慎重に素早く、ドアを開けて構えながら廊下に出るとまだ中には侵入してないようだ。

「クリア」

 ハロルドが静かに鋭く聞えるような声で言う、ヨハンはあらかじめ決めておいたリズムでノックするとドアの向こうから落ち着いたノックが返ってくる。姫様だ、ゆっくり慎重に開けると薄いグリーンのネグリジェ姿の姫様がイヴァーナの上着を羽織ってる。

「狙いは私?」

「ええ姫様、囲まれています。窓には近づかないで」

 ハロルドは注意を促す。誘拐か暗殺かまではわからない、後者ならどこかに暗視スコープ付きライフルを構えたスナイパーがいる可能性もある。ここはモーテルの二階、上下左右どこからでも襲ってくる可能性がある。

 全方向に神経を張り巡らせると、天井から叩く音が複数こちらに近づいてくる。足音でヨハンは天井に銃口を向けるが、ハロルドは「まだ撃つな」と左手で制止しながら聴覚を研ぎ澄ます、足音から判断して二人だ。

 屋根の縁からバルコニーに降りてくるつもりだ。ハロルドは合図して、ヨハンと二人同時に素早く二発、壁越しに撃たれた二人は短い断末魔を上げて倒れた。部屋を出てハロルドが前衛、その後ろにイヴァーナが姫様の護衛、殿がヨハンだ。一階に通じる階段に向かい、踊り場に入った瞬間に下にいる銃を持った男たちと鉢合わせになった。

「いたぞ! 女の子だけは生かして捕らえろ!」

 敵が短機関銃をフルオート掃射しながら叫ぶ、静寂が破られて深夜のモーテルが戦場と化した。

「目的は私のようね」

 姫様はぐっと堪えた表情になる。やはり目的は姫様の身柄だ! ハロルドはNKS30Uで反撃、こんな時にも悲鳴を上げずにいる姫様は強い。

「やはりお目当ては姫様ね! どいつもこいつも姫様姫様と! たまには私も狙いなさいよ!」

 イヴァーナは悪態つきながらNKS30Uをフルオートで撃ちまくる、おい一〇〇連ドラムマガジン付けてるからと言ってそんなに撃つな、サプレッサーがだめになるぞ。

 ハロルドはポーチからMkZ破片手榴弾を取り出し、安全ピンを抜いて投げつけた。

「フラグアウト!」

 ハロルドは叫ぶと、転がり落ちた手榴弾は炸裂とともに断末魔が響き、煙と火薬の燃える匂いを感じながら倒れた男二人に足先で突くと動かない、即死のようだ。一階の踊り場に出ると裏口から出ればすぐそこは駐機場だ、オーナーには悪いが早過ぎるチェックアウトだ。

 宿泊料も前払いで済ませてる、駐機場から一番近い出口に向う。何の遮蔽物もない廊下だが、姫様の暗殺ならこのままハロルドたちと一緒に機関銃でモーテルごと蜂の巣にすればいい。

 誘拐なら、姫様を傷つけずに連れて来いと言われてる。すると正面玄関からガラスが割れ、慌しく入ってくる足音、銃特有の金属音も混ざって聞える。イヴァーナはヨハンの肩を叩き、アイコンタクト。

 廊下に設置された自動販売機に目をやると、ヨハンは肯いた。

「ハロルド! ここは俺とイヴァーナで押さえるから、姫様を!」

「駄目よヨハン! どうするの!?」

 姫様が悲痛な声で拒否するとヨハンは「こうするんですよ!」と言ってイヴァーナと自動販売機を引き倒した。イヴァーナは凛とした声で突き放すように言う。

「姫様、私よりハロルドの傍が安全です!」

「姫様早く!」

 ハロルドが強く促すと姫様はハロルドの所に身を寄せる。ここから先は通さないと言わんばかりにヨハンとイヴァーナは制圧射撃を開始、ハロルドは姫様を連れて外に出ると敵の気配はない。

 よし、敵の気配はない。リリアとハロルドのシールドライガー――アリエル二世まではすぐそこだ。そう思った瞬間、反対側の道路からジャンプしたのか真上から何かが通りかかり、自分たちの目の前に着地した。

 闇夜に輝く不気味な目はディマンティスだった。 

 クソッ! NKS30Uじゃコクピットの装甲貫通は無理だ。スピーカーからガイロス訛りの共通言語が響く。

『おとなしくその子を渡しな、命だけは助けてやる!』

「姫様を簡単に渡すほど、僕は甘くないぞ!」

 ハロルドはNKS30Uをフルオート射撃で威嚇すると、ディマンティスは両腕の機関銃を向ける。クソッ! 咄嗟に姫様を庇い、フルオート射撃の銃声と地面に着弾する音が耳元でコンクリート片が舞い、脇腹に熱い物に切り裂かれて激痛が走った。

 チッ! 破片か銃弾か!? 海兵隊時代に老兵から聞いたのだが、戦場では銃弾より飛んでくる破片にやられるケースが多いと聞いたことがある。だがどうやら俺は前者になったらしい。

「ハロルド! 出血してる!」

 気付かれたか、しかもかなり量が多い。姫様は必死で傷口を押さえて、出血を止めようとしてる。

「これぐらい心配要りません姫様!」

「でも、このままじゃ――」

 姫様のことだ、三獣士を助けるために敵に自分の身柄を引き渡しかねない。それだけは絶対に駄目だ! ハロルドは激痛に耐えながら右手でNKS30Uを構えて振り向いた瞬間、ディマンティスの胴体は巨大な足に踏みつけられ、銃撃も止んだ。

 パイロットも必死でもがくが不可能だ、ハロルドは闇夜に輝く黄金色の目を見て確信した。姫様も驚愕の表情を浮かべると、昨日復帰整備を終えたばかりのライガーゼロ、シルヴィアが雄叫びを上げた。

 

 解説

・ノースエウロペ・コンツェルンNK30

・7.62mm口径短小弾を使用する北エウロペ連合国制式アサルトライフル。旧式で命中精度に難があるが構造が非常に単純なため恐ろしい程頑丈に作られてる。民兵から特殊部隊にまで使用されて各国でライセンス・コピー品が作られ、単にNKと通じる。折り畳みストックは標準で後方部隊護身用や屋内突入用のNKS30U、空挺・特殊部隊用カービンNK30U、5.45mm口径型NK55等がある。

 

・ルイス&スヴェンソンRS435

・ヘリック共和国の大手老舗銃器メーカー、ストーナー社と並ぶ企業R&S社の回転式拳銃で8連発シリンダーに357口径マグナム弾を使用する。4インチの357口径で435なので6インチで44口径の場合は644で装弾数は六発のみ、最大クラスの物は10.5インチで50口径は105とゼロは省略される。イヴァーナが使用してるのはRS435である。



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第三話、その1

 第三話、迫る魔の手からの逃避行

 

 カミルはその夜、早めに寝てZiフォンで深夜一時にバイヴモードで一旦起きる。

 家族が寝静まったのを確認し、旅立ちに備えてあらかじめ纏めていたバックパックをベッドの下から引きずり出した。ふと、カミルはアヤメリアに『風と雲と冒険と』を返してもらってないことに気付く。

 でもまあ卒業の日まで返してくれればいい。でもどうしてアヤメリアは弱虫な僕を好きになったんだろう? そんなに逞しくなったとは思えない。そう考えながら裏の空き地に行き、シルヴィアのコクピットをハッチを開けると座席後部のスペースにバックパックを入れる。

 そして一度部屋に戻り、現金や貴重品を入れたウエストバッグを取ってコクピットに放り込もうとした時、遠くで銃声が聞えた。カミルは最初聞き違いかな? と耳を澄ませるとガラスの割れる音も加わり、盗賊かもしれないとカミルはシルヴィアのコクピットに入って安全バーとシートベルトを装着。

 座席シートの下にあった古い操縦マニュアル通りに始動前チェックを行う。よし、スターターレバーを引いてZOIDS ON! MFDが点灯してモニターが暗い外の風景を映すと、モニターコントロールスイッチを摘んで夜間戦闘モードに回す。

 外の風景がグリーンになり、両方のフットペダルを踏み込むと固定されたペダルが解放されて戻り、シルヴィアは立ち上がった。コクピット内に駆動音が響き、これが母親や妹を起こさないかと気がかりだが、急がないといけない。

「シルヴィア、家や畑を潰さないでね」

 カミルが注意しながら慎重に操縦桿を動かして空き地を出る、銃声の方角は整備工場向かいのモーテル、ヘルガたちが泊まってる場所だ。そこに低速で接近、探知されないように両方のフットペダルを踏み込んで腹這いになり、左右の操縦桿を前に押し出す。

 この腹這い移動方法は第二次大陸間戦争の頃、氷と雪に閉ざされたニカイドス諸島の守備隊がライガーゼロ・パンツァー*1の負担を軽減するために編み出した方法だという。姿勢を低くしながら移動することでレーダー等の探知リスクを落とし、ライガーゼロの瞬発力で一瞬で跳びかかるという奇襲攻撃が可能だが、実際にやるのは初めてだ。

 駐機場に近づいた瞬間。コクピット内で警報が鳴り響く、ロックされた! カミルの全身から冷や汗が噴き出る。前方のディマンティスが背中のガトリングガンに付いてるレーザー照準機でロックオン、自動迎撃システム付き遠隔操作式無人銃座(RWS)だ。

 今頃、コクピットで接近警報が鳴ってるかもしれない。カミルは回転し始めたガトリングガンに躊躇わずフットペダルを解放して操縦桿を一気に押し出した。

 シルヴィアは跳びかかり、カミルは一気に座席に押し付けられる。どれくらいの加減で行けばいいかわからなかったが、シルヴィアが補整して正確にディマンティスの胴体を叩き潰す。

 シルヴィアは獲物を仕留めたと言わんばかりに雄叫びを上げる、見下ろすとハロルドとヘルガが驚きの表情で見上げていた。

『カミル君? カミル君なの!?』

 スピーカー越しのヘルガの声。カミルは胸を撫で下ろしながらも叫んだ。

「ヘルガ! ハロルドさん! 大丈夫ですか!?」

 ハロルドは負傷してるらしく、左脇腹を押さえて立ち上がりながら叫んだ。

『カミル君、説明してる暇はない! 姫様を連れてできるだけ遠くへ逃げろ!』

『ハロルド何言ってるの! 一緒に逃げるのよ!』

『一緒に逃げても足手纏いになるだけです! 私はここで敵を食い止めます!』

 ハロルドはそう言って左腕の端末(よく見るとZiコンガントレット*2だ)を操作し、ネイビーブルーのシールドライガーであるアリエル二世とリリアが歩み寄ってきて、頭を下げてコクピットを開け、ハロルドがコクピットへと促す。

『さぁ姫様、私は大丈夫です。早く!』

『ハロルド、絶対に死んでは駄目よ!』

『約束します!』

 ハロルドはそう言ってコクピットを閉じる。ヘルガもリリアのコクピットに入ると、スピーカーにヘルガの声が少し震えていた。

『カミル君、狙いは私なの! お願い……私と一緒に逃げて!』

 カミルは今どんな事態かは完全には把握できてないが、考える時間はなかった。

「わかった! 隠れられる場所がある! ついてきて!」

 カミルはいつも入り浸ってるソーア山の方へと向い。後方警戒レーダーを確認するとしっかりついて来てくれた。カミルはいっそのこと、二人っきりの逃避行の旅に出ようかと頭を過ぎった。

 

 

 サイモンは野戦テント内で現場にいるシュペールの報告を聞き、眉を顰めた。

「全員に撤退だと伝えろ!! 村は燃やすな、あの村には大事なクライアントもいる。遺体も必ず回収しろ、以上だ!」

 サイモンは無線機を置き、苛立ってると思いながら日付が変わって三本目のシガレットを取り出して点火する。溜息と一緒に煙を吹かした、これから一人一人死んだ奴の家族に手紙を書かないといけない、戦死ではなく職務中の事故死として扱われるのが不憫でたまらない。

 シュペールや仲が良かった奴も手伝ってくれるのはありがたいが、辛い仕事だ。それにしてもアーカディア王国の王女には護衛兼教育係の三獣士がいるのは知ってたが、まさか因縁のハロルドがいたとは……やれやれ、海兵隊連中は海軍と海で仕事してればよかったものの、俺たちの仕事場にまでしゃしゃり出てきやがって。

 だが最大の誤算はライガーゼロのガキが介入してくるとは思わなかった。サイモンは短くなったシガレットの灰を灰皿に落とす。待てよ、このまま合流すればシールドライガー、ディバイソン、ケーニッヒウルフ、グスタフMRAP、ライガーゼロ……大型ゾイド混成一個小隊か、となるとやるべきことは決まってる。

 奴らが合流する前に、セブタウンの外で潰しておかないといけない。

 元手を取り戻すにはライガーゼロとケーニッヒウルフを鹵獲する。幸いこっちには二機相手にしても渡り合えるゾイドがある。

 サイモンは灰皿に煙草を押し付けるとシュペールから再び報告が入り、スピーカーから淡々とした声が響く。

『こちらシュペール。社長、全員の撤退は完了しました……戦死者六名、重傷八名、軽傷一二名です。ディマンティスもパイロットは無事でしたがゾイドコアの損傷が激しく、手の施しようがありません。機密保持のため、電子機器類には自爆装置で破壊済みです』

「そうか……よくやった。すぐに戻って……ゆっくり休めと伝えろ」

 三〇人程送ったのに、これほどの大被害を出すとは本国の特殊部隊の連中が聞いたら騒ぎ出すぜ。六人か……誰が死んで誰が生き残ったんだ?

「それと偵察機を飛ばせ、とにかく気付かれないように監視して何かあれば報告するだけでいい」

『わかりました。すぐにブロラバーン*3の発進準備させます』

「ああ、そうしてくれ」

 サイモンはもう一本シガレットを取り出して肯いた。

 

 

 翌朝。

 

 夕べは大変だった。ロッジに到着すると、ヘルガは不安と疲労に満ちた表情で降りてきたから、カミルはすぐにいつも使ってるベッドで寝るように促した。ヘルガは驚くほど冷静だったが、追撃が来るかもしれないのでカミルはウトウトしながら一晩中見張りをした。

「もう朝の五時か」

 夜が明け、眠れない夜を過ごしたカミルは隠れ家である空き家のロッジで温かい朝食を作っていた。もしもの時に備え、GF45Lと祖父の遺品である狩猟用ポンプアクションショットガン――HM210を装備していたが襲撃はなく、夜が明けるとなんとなくホッとした。

 だがZiフォンを家に置いてきてしまったから、家や学校に連絡できない。家族や友達はみんな心配してるだろう。

 カミルはベーコンエッグサンドと山菜スープ、それから温かい紅茶(その昔、地球移民が持ってきたものでアンダー海の島国、ブリタニア連邦産のダージリンと呼ばれてる)をトレイに載せ、ヘルガが寝てるベッドの横にあるテーブルに静かに置くと、ヘルガの寝顔に思わず目が行って息が止まりそうになる。

 ほんの少し開いた唇や、寝汗で額や耳元に張り付いた長い黒髪と微かに聞える寝息と共にほんの僅かに上下し、横から仰向けに寝返りを打った乳房のラインが生々しい。

 カミルは首を横に振りながらダイニングルームに戻ろうと踵を反すが、ヘルガの「ん……」とやけに艶かしい声がすると布団とグリーンのネグリジェが擦れる音が妙に響く。

「お、おはようヘルガ」

「あ……おはようカミル君、昨日はありがとう。助けてくれて」

「ああ、うん」

 カミルは恐る恐る振り向いて肯くと、ベッドに座るヘルガはとても上品で寝起きにも関わらず、柔らかく温かい笑みを浮かべて思わず言った。

「い……一緒に、食べようか……その、僕が作ったんだ」

「それじゃあ、いただきます」

 ヘルガが肯くとカミルはそそくさと自分の分のトレイを持ってきて、朝食を摂る。夕べの話しを聞くと夜中突然イヴァーナに起こされ、上着を着せられたかと思ったら何者かが襲撃したという。ディマンティスに襲われてもう駄目かと思った時、カミルが助けに来たという。

「そうだったのか、僕は……ちょっと夜中にシルヴィアの所に行ったら、銃声が聞えて駆けつけたんだ」

 食べ終わったカミルは少し冷めたダージリンを飲みながら言う、ヘルガもダージリンを飲むと少し目の色が変わった。

「この紅茶……美味しい」

「アーカディア王国はコーヒー派が多いって聞くけど、ヘルガもコーヒー派?」

 カミルが訊くとヘルガは「うーん」と曖昧な、何か複雑な表情だった。

「私ね……コーヒーは砂糖にミルクを入れないと飲めないの、あっ! でもこの紅茶、砂糖なしで飲めるわ!」

 ヘルガはディープスカイブルーの瞳を輝かせて言うと、空になったマグカップの底を見つめながら恥かしそう顔になる。

「実はね……旅に出た時から、毎朝コーヒー飲むが苦行だったの。イヴァーナが……アーカディア王国を背負う王女がコーヒーを飲めないのでは国民に顔向けできません! って言うのよ……私は我慢してブラックを飲んでるけどイヴァーナ凄い飲み方するのよ」

「へぇ、何か入れたりするの?」

 カミルはティーポットを取って淹れると、ヘルガも「いい?」と言ってマグカップを差し出すと丁度いいところでなくなった。

「うん……それがね……塩を入れるの」

「塩?」

「うん、それ自体はエウロペの国々の人たちも飲んでるけど……イヴァーナの場合、塩の容器をこうひっくり返してドザザーって」

 ヘルガは紅茶のカップに透明の容器をひっくり返す、そういえば古代ゾイド人は塩入りコーヒーを飲む習慣があったと、最近の研究で明らかになったらしい。

 カミルは口元を引き攣らせて言った。

「まるでフィーネ・エレシーヌ・リネだ……あれでよく長生きしたものだよ。そういえば古代ゾイド人と塩コーヒーでこんなジョークがある。古代ゾイド人はコーヒーに塩派とそれ以外派の間で世界規模の戦争になり、デスザウラーの逆鱗に触れて滅ぼされたって」

「ふふふふふっ、案外そうかもね」

 ヘルガは上品だけど、屈託のない笑み。カミルも微笑む、まるで――と思った瞬間、電話の着信を告げる電子音が鳴り二人の時間は終わりだと言わんばかりに鳴り響く。

「あっ、そうだ! そろそろ連絡しなきゃ!」

 ヘルガは枕元に置いてあった大柄なエルワチウム社製の衛星電話を取る。

「もしもし……イヴァーナ! よかった。ごめんなさい、起きるのが遅くなっちゃって、ハロルドとヨハンは? よかった……無事なのね。うん、替わって! ハロルド! よかった――」

 ヘルガはようやく、本当に安堵した口調になる。さっきまで話してる間にもきっと押し潰されそうな不安を押し隠していたんだろう、あの三獣士の人たちの無事が確認された。

 今度は本当の意味で、上品で屈託のない笑みが見られるといいな。

 カミルはやりきれない気持ちで残りの紅茶を飲み干すと、ヘルガは微笑みながら「ハロルドからよ」と衛星電話を差し出して受け取る。

「もしもしハロルドさん?」

『カミル君、夕べは本当にありがとう。必ずお礼はする、すまないが……もう少しの間だけ、姫様を守って欲しい』

 ハロルドは口調はとても重かった。本来自分たちが果たすべき責務を、何の取り得もない自分にさせているのだ。カミルはその責任重大な任務を、やり遂げられるのは自分しかいないと、カミルは唇を噛み締めた。

「はい、やります」

『ありがとう、合流ポイントは姫様に伝えてある。後で訊いてくれ』

「はい、そうだ! 村の様子は?」

『ああ、姫様とカミル君が行った後撤退した。やはり目的は姫様だろう、君のお母さんと妹さん、それから友達が来ていた。彼らには……これから探しに行く、必ず連れて帰ると約束している。だからカミル君、死ぬんじゃないぞ!』

「はい、勿論です」

『よし――ん? ヨハンが替わりたいと言ってる、替わるぞ』

 ハロルドからヨハンに替わる、あの人は真面目だが、同時に気さくでお茶目なガイロス人でカミルはすぐに好きになった。

『カミル君、夕べはちゃんと眠れたか?』

「いいえ、一晩中見張っていましたから……眠れなくて」

『大丈夫か? 休める時に休むのもゾイド乗りの大事な仕事だぞ。ん? 待てよ、ということは……姫様の寝顔も拝めたのか?』

 カミルはビクッ! となり、何を言い出すんだこの人は! た、確かに寝顔を見て意識はしたけどさ。そしてヨハンはまるでカミルの表情が見えてるかのようにからかう。

『返事がないぞカミル君、さては姫様のことを意識したな、図星か? 図星だな!?』

「な、何を言ってるんですかヨハンさん!」

『ごまかさなくていいんだぞカミル君、姫様だってもう恋を知ってもいいお年頃だ。なんなら生きて帰れたら姫様のファーストキスをもらっていいんだぞ』

 ぼ……僕が……ヘルガと……キス!? カミルの心拍数が危険なレベルにまで上がり、ヘルガと唇を重ねる光景を過ぎらせる。その間にヨハンからイヴァーナへと替わった。

『ちょっとヨハン! 変なこと言わないで替わりなさい!』

『ちょっ! おいイヴァーナ、話しが終わってな――』

『カミル君! 夕べは感謝します。姫様と朝食も食べられたそうですね?』

 イヴァーナの威圧感は電話越しでも伝わり、カミルは思わず直立姿勢になる。

「は、はい!」

『いいですか? もし姫様に破廉恥な真似をしたら……ASISの迎賓館で「特別なおもてなし」をさせていただきますから、楽しみにしててくださいね』

 それでカミルは背筋が凍った。以前ハロルドが教えてくれたがイヴァーナは元ASISの局員で尋問官の仕事をしてたという。曰く、表に出れば国際社会から激しく非難されるようなことが日常的に行われ、その過程で死んだ者は「病死」「自殺」として処理されたという。

 ASISの迎賓館というのは世界各地に置いてある秘密収容所の隠語で「特別なおもてなし」というのは恐らく非人道的な尋問や拷問のフルコースだろう、カミルの全身から脂汗が噴き出る。

『返事は!』

「は、はい!」

『では、く・れ・ぐ・れ・も、姫様に下心は抱かないように、いいですね!』

 それで電話は切れ、カミルは思わず溜息吐きながらヘルガに返す。

「どうしたのカミル君、またイヴァーナに脅されたの?」

「うん、何かあったらASISの迎賓館で特別なおもてなしだって」

「まぁっ! イヴァーナったらもう……私のことになるとすぐこれなんだから」

 ヘルガは不満げに呆れた表情になった。

 

 さて、朝食も食べ終わったから合流地点に向おう。ヘルガが教えてくれた合流地点はここから先にあるカルデラの向こう側、野生ゾイドが多く生息する過酷な自然の楽園だ。

 カミルは隠れ家に置いてあった荷物をコクピット後部に纏めると、私服に着替えたヘルガが出てきた。

「お待たせ、行こうか」

「うん、それじゃあ出発しよう!」

 カミルはコクピットに座って装甲式キャノピーを閉めた。始動前チェックとナビゲーションパネルに合流地点の座標を入力して立ち上がらせた。目覚めたシルヴィアは背を伸ばして体を震わせ、欠伸すると隣にいるリリアも同様の動きをする。

「おはようシルヴィア、さあ行こうか」

 カミルはゆっくり歩かせると自動操縦に切り替える。障害物などはゾイド自身が判断して回避してくれるから居眠りしても大丈夫だし、なにかあれば警報で報せてくれる。その間カミルは各種レーダー類を監視、警戒、後方にはヘルガの乗るリリアがついて来る。

 森を抜けると外輪山の麓に到着、これから山を越えてカルデラに入って指定したポイントに向かう。

 

 さあ、冒険の始まりだ!

 

 解説

 

・ホームディフェンス・マニュファクチャリングHM210

・ヘリック共和国製の12ゲージポンプアクションショットガン、故障が少なくパーツ交換も容易でタクティカル、セキュリティ、ハンティングと多用途に使用できる優れものでカミルは二六インチバレルに装弾数四発の狩猟モデルを使用してる。元々HM社は民間用ハンティングガンを製造してたが最近軍用・法執行機関市場にも手を出している。

*1
ライガーゼロの砲撃戦形態、実弾型の武器で固めた大火力・重装甲で機体の負担が非常に重いという欠点を抱えていた。

*2
ゾイド乗り達が使う電子機器。遠隔操作機能によってゾイドを呼び出すことも可能

*3
超小型ゾイドよりも更に小さいアタックゾイド、共和国製のトンボ型飛行ゾイド



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第三話、その2

 その頃、ハロルドたちも出発していた。前衛としてアリエル二世、真ん中にイヴァーナの乗るグスタフMRAPのマルゴ、殿(しんがり)としてヨハンの乗るディバイソンのビッグマザーが警戒に当たっていた。

 ハロルドはシガーを吸いたい気分だった。コクピットにアルミ製灰皿を固定してるが、警戒中は禁煙でMFDに表示されてるレーダーには時々反応が出るが、だいたいは野良ゾイドか人間に改造されてない野生ゾイドだ。神経を張り巡らせてると、イヴァーナから通信が入ってキャノピーモニターに表示される。

『ハロルド、姫様のこと本当に彼に任せて大丈夫なんですか?』

「カミル君のことか? 彼ならきっとやってくれる」

 ハロルドはこの一週間カミルと接して感じた。あの澄んだ瞳、あれは間違いなく何かを決意したような瞳だ、本人も気付いてないようだが。

『ゾイド乗り特有の熱さを秘めてるとでも? あんな軟弱な男の子にですか?』

『確かに今の彼は弱い、一緒に遊んでる時も自分から前に出るタイプじゃない。むしろ女の子たちに振り回されてた』

 ヨハンもモニター通信で入ってきた。彼は子どもたちの遊び相手として交流を深め、彼らからすれば気さくで優しいお兄さんそのものだった。

『でも、だからこそ強いゾイド乗りになれるという素質を微かに感じた。カミル君にはあのライガーゼロがいる。俺は……シルヴィアが彼を成長させてくれると信じてる』

「そうだな、姫様にはリリアがいるしカミル君にはシルヴィアがいる……多感な思春期の子たちにとってゾイドは無限の可能性を秘めた最高の相棒でもあり、教師でもあり、兄弟でもあり、戦友でもある。どんな時も付き従って、本当に大切なことを教えてくれる」

 自分の思うままに言う、しばしの間沈黙が流れるとヨハンが「ぷっ」と噴き出した。

『クサイ台詞だな、ハロルド。でも好きだぜ、その台詞』

『私はハロルドは一人前の、当たり前の大人かと思っていましたが』

 イヴァーナはドン引きしてるような表情だった。

「どう言われようと構わないさ、姫様もリリアは大切な友達だっていつも言ってた」

 ハロルドが肯くと、イヴァーナは懐かしげな表情を見せる。

『私は姫様が三歳の頃から見てきましたが、一〇歳の時に姫様の操縦するゾイドが……まさかケーニッヒウルフになった時は驚きました。精鋭揃いの近衛師団でも持て余してた機体なのに……一年経つ頃には二人の兄と国内を走り回ってましたわね、ハロルドが来たのはその頃ですね』

「ああ、その頃から姫様は荒削りだったが、才能を開花させていた。ブレードライガーがあれば僕ももっと姫様に色々なことを教え、鍛えることができた」

『初耳だなハロルドは元々ブレードライガー乗りだったなんて、俺はシールドライガーDCS-J*1に乗ってると思ってたんだが』

「帝国じゃレオマスターはDCS-Jを使ってるイメージが根付いてるようだが、それは昔の話だ。僕のように格闘戦志向のレオマスターはDCS-Jよりブレードライガーを好んでいる」

 悔しいがハロルドの乗ってるアリエル二世は近代改修を重ねてるが、性能はリリアには及ばず一〇〇%の力を出してもアリエルがついていけない。この旅で、もしブレードライガーに乗ってたらと歯がゆい思いを何度も味わった。イヴァーナはそれでもハロルドに温かい言葉をかける。

『でも、姫様はより繊細で精密な操縦もこなせるようになりました。ハロルドのおかげですよ』

「そうか、だが僕にできることは限られてる」

 そう、ハロルドが教えることができるのはゾイドの操縦と身の守り方くらいだ。それにはヨハンも肯く。

『そうだな、俺たち大人でも教えられることは限られてる。友達との付き合い方や恋なんて同年代の子たちに――』

『姫様にはその必要はありません!! 同年代の友達なんて、王女としての公務や学業に支障をきたすだけです!!』

『イヴァーナ、前から思ったがお前プライベートの友達いねぇだろ?』

『なぁっ!? 失礼ですねヨハン!!』

 また言い争いが始まった、ハロルドはリトルシガーを吸いたいと思いながら水筒を取って水を飲むと、警報が鳴った。

 レーダーを見ると完全に囲まれていた。山間の道路に入った瞬間、待ってましたと言わんばかりに前後左右に合計二五~三〇機、反応具合から見て小中型ゾイドだ。

 コクピット内はロックオン警報がうるさく鳴り響き、ハロルドの神経を逆撫でする。

『そこのシールドライガー、ディバイソン、及びグスタフのパイロットに告ぐ! 直ちに武装解除して投降せよ! さもなくば一斉攻撃する!』

 投降を呼びかけてきたのは正面にいるコマンドウルフ四機の一個小隊だろう、目視できてるのは四機だけだ。残りは山の斜面の向こう側にでも隠れてるのだろう。

 四機とも背中の五〇ミリビーム砲をこっちに向けている、ハロルドは深呼吸して操縦桿を握り締めブリーフィングで決めた通りの手順を踏んだ。

 

 

 その頃、セブタウンでは凄惨な銃撃戦の起きたモーテルの駐機場から、ライガーゼロの足跡を逆に辿るとジョエルはカミルの家に辿り着き、更に辿ると裏庭の空き地に続いてる。

 間違いない、カミルはライガーゼロに乗ってモーテルに行き、そしてどこかへ消えた。カミル、どこへ消えたんだ? そう思ってるとカミルの母親が玄関から出てきた。

「あらジョエル君、いらっしゃい」

「あっ、こんにちわおばさん」

「上がってらっしゃい、アヤメリアちゃん達もいるわ」

 おばさんは学校をサボったことを咎めることはななかった。手招きされて中に入ると、ダイニングルームにアヤメリアとセレナが来ていて、真っ先に気付いたセレナは挨拶する。

「おっす、ジョエル」

「あら、ジョエルも学校サボり?」

 アヤメリアは思い詰めた表情だった。今日は学校だったが、カミルが突然消えたことで学校中で話題になり、アヤメリアは学校を休んでセレナは午前中に早退してジョエルも次の休み時間で早退した。

 ジョエルが席に座ると、おばさんがコーヒーを淹れてくれた。ジョエルはブラック、セレナはミルクと砂糖、アヤメリアは何故か塩を入れていた。

 おばさんは申し訳なさそうな表情でコーヒーを配る。

「みんな……いつもありがとう、カミルのこと良くしてくれて……心配だから来てくれたのね」

「おばさん、これ……カミルに、まだ返してないの」

 アヤメリアがテーブルに出したのは以前、ジョエルもカミルに貸してもらった愛読書『風と雲と冒険と』だ。おばさんは悲しげな笑みを浮かべながら取り、パラパラとページを捲る。

「ああこれね……戦死した主人がよく読んでいたものよ」

「ねぇ、カミルってもしかしてさ……あのお姫様と駆け落ちしたのかな?」

 セレナが言うとそれで全員の表情が固まり、ジョエルは何を言ってるんだこいつ? と思ってるとアヤメリアは強く否定した。

「ま、まさか! そんなことあるはずないわよ! あいつにそんな度胸ないわよ、ましてやさぁ、この前出会ったばかりの女の子とさ!」

「でも、そういう話しあり得ないことはないと思う。あのお姫様……ヘルガといっぱいお話ししたんだけど、普通の女の子になりたいって気持ちが見え隠れしてた」

 なるほどセレナの言うことも一理ある。ヘルガに学校に通って友達を作り、一緒に泣いたり笑ったり、時には喧嘩もしたと話すと、とても羨ましそうな顔をして耳を傾けていた。

 決して口にはしなかったが、セレナは人の本心を見抜くのに長けていた。

 おばさんは首を横に振って否定しなかった。

「あり得ないとは言えないわ、アヤメリアちゃんがもうカミルを泣かしていた時とは違うように……カミルもアヤメリアちゃんに泣かされていた弱虫な子じゃないわ。ライガーが見つからずに卒業の日を迎えて、パタゴニアの学校に行く日に言うつもりだったんだけど、カミルはこの三年間とても逞しくなったわ……色んなことを自然の中で学び、鍛えられ、成長した。ライガーは見つけられなかったけど、それは決して無駄なことじゃなかったよって……見送るはずだったのにね」

「あたしもわかってたわよ……カミル、なんであんな子と駆け落ちするのかしら? どこがいいのよ、ただ綺麗なだけの温室育ちじゃない!」

 アヤメリアの瞳には嫉妬と悔しさが入り混じってるように見える。ジョエルは腕を組んで少し考えて言った。

「初対面の時に拳を交えたからじゃないか?」

「どういうこと、ジョエル?」

 セレナが首を傾げて訊くと、ジョエルは大まかにわかりやすく説明する。

 愛読書である『風と雲と冒険と』で書かれていたことだ。バン・フライハイトがまだシールドライガーに乗ってた頃、共和国軍のハーマンと帝国軍のシュバルツという二人の士官が敵同士として戦場で戦った。その二人は戦後、酒を酌み交わす仲になったという。

 それを説明するとセレナはわかり易く例えた。

「ようするに、河原で殴り合ってたらいつの間にか友情や絆が芽生えたってことね!」

「そういうことだ。でもあいつが何も言わずにどこか遠くへ行くようなことは絶対にしない」

 ジョエルはそう断言した。

 

 

 ブリーフィング通り、ハロルドのアリエル二世は躊躇うことなくシールドを展開してビーム砲の集中砲火を凌ぐと、ジャンプで飛び掛り、的確に一番前にいたコマンドウルフを上から強襲して倒す。

 一瞬でリーダー格のウルフを見抜き、そいつを牙で引き裂いた。

 その間に他の三機は何もできずに戸惑い、立ち往生していた。コマンドウルフは集団戦を得意とするが、裏を返せばリーダー格がいないと能力を発揮できないという弊害がある。

 リーダーを失った残りは統制が崩れ、成す術もなく撃破された。

『目標撃破! イヴァーナ! 次の敵を!』

「前方から八機、更に後方から四機!」

 イヴァーナは操縦席の右に設置した端末を右手で素早く操作、前後のカメラを作動させると前方から*2アロザウラー、後方はブラックライモスだ。素早くビッグマザーとアリエル二世に中継を繋げると素早くヨハンが行動に移す。

『了解! ブラックライモスは私が引き受ける! 行くぞビッグマザー!』

 ヨハンはブラックライモスの主砲である電磁キャノンの最小射程圏内に飛び込み、近接戦用ビーム砲を受けてもものともせず、ツインクラッシャーホーンで一機目を突き飛ばし、踏みつけると誤射(フレンドリー・ファイア)を恐れた残り三機の動きに一瞬躊躇いが生じる。

 ヨハンはその一瞬を逃さず、対ゾイド三連衝撃砲を一連射につき三発発射され、二連射で二機とも撃破すると後方の一機が突撃戦用超硬度ドリルを回転させながら突撃するが、後足で思いっ切り一蹴された。

 その間にもハロルドはアリエル二世を巧みに操り、瞬時に指揮官機を見極めて白兵戦で撃破すると、対ゾイド三連衝撃砲で掃射する。

 イヴァーナは二人の操縦技術の高さに息を呑みながら、絶え間なく入ってくるレーダーやセンサー、カメラから入ってくる膨大な情報を収集、取捨選択、処理してヨハンとハロルドに伝えて指揮、あとは各自で判断してくれる。

 前方のアロザウラーの数が多い、イヴァーナは火器管制装置(FCS)を操作して機体に内蔵してある二連装ショートレールガンを展開した。

「ハロルド! 支援砲撃するから射線から退避して!」

『了解』

 アリエル二世は射線に入らないよう、ギリギリで立ち回っている。イヴァーナは手動照準で狙う、ロックオンすればたちまち相手のコクピットにロックオン警報が鳴り響き、攻撃を報せてしまう。

 今だ! イヴァーナは引き金を引いた瞬間、背後からアロザウラーが撃ち抜かれて爆散すると、振り向いたもう一機に発砲。一瞬で撃ち抜いて真っ二つに吹き飛ばす、射程は少々短いが直撃すれば大型ゾイドに致命傷を与えられるほどの威力だ。

『イヴァーナ、あまり撃ち過ぎるな。こいつらは僕一人で十分だ!』

「無茶しないでください、まだ前方に一〇機! 後方にも一〇機来てます!」

 レーダーを見ると、更に増えている。にも関わらず、ヨハンはどこか余裕のある表情と口調だった。

『数は多いが勝てない訳じゃない、敵の統制も連携がなってないな』

『僕もそう感じる、典型的な素人の物量攻めだ。指揮官が不在なのかもしれない』

 ハロルドも囲まれてるにも関わらず余裕を感じてる、だが二人とも決して油断はしてない。

これが実戦経験豊富なゾイド乗りの貫禄かとイヴァーナはゾクッとした。

「ヨハン、私の後ろ南西から更に四機、これで一四機! 合計二四機よ!」

『数に頼っては勝てないことを教育してやろう。イヴァーナ、データリンクを!』

「了解!」

 あれで一気に殲滅するつもりね。イヴァーナはマルゴを左手の操縦桿を握り、最小限の動きで回避させながら右手で端末のキーボードをドラム奏者のように絶え間なく打ち続け、エンターキーを叩く。

『ロックオン・データリンク、ビッグマザー! メガロマックス・ファイアッ!!』

 ビッグマザーは機体を上に向けて一〇五ミリ一七連突撃砲が一斉に稼動すると、砲口が一斉にチャージされてビーム砲のように発射。いったん上空に打ち上げたホーミング砲弾はやがて散らばり、各々の目標に上空から襲い掛かって着弾、炸裂。

 いつもながら見事だとイヴァーナはレーダー画面を見る。アリエル二世やマルゴには当てたり、砲弾の炸裂に巻き込まれないことを考慮しながら一瞬で脅威度の高い目標を選別し、攻撃する。

『こちらハロルド、残敵の掃討を開始する!』

「了解、残った敵がビッグマザーに攻撃を開始したわ」

 砲弾の雨の中が止むと同時に立ち上る煙の中をアリエル二世は息のある敵ゾイドに容赦なく爪と牙で襲い掛かり、止めを刺し、確実に息の根を止める。敵の最優先目標となったビッグマザーも正面から三連衝撃砲を撃ちながら突進して突き飛ばし、死角をアリエル二世がカバーする。

 イヴァーナもマルゴを旋回させながらショートレールガンを撃つ、あくまで自衛用装備だから射角は限られてる。

 あなたが最後です! 最後の一機であるアロザウラーを撃ち抜くと、新たな接近警報が鳴った。

 大型ゾイドが四機、時速二〇〇キロ以上のスピードで接近してくる。

「北東から大型ゾイドが四機、時速二〇〇キロで接近中!」

『高速機動ゾイド!? あんなものまで持ってたのか!?』

 ヨハンは思わずうろたえた表情を見せるが、ハロルドは落ち着いた表情だ。

『うろたえるなヨハン、奴らはPMCだ。強力なゾイドを持っていてもおかしくない、ここは俺が行く。支援砲撃頼むぞ!』

『りょ、了解!』

「了解、くれぐれもビッグマザーの射程から出ないように」

 イヴァーナはMFDに表示されてるレーダーに、先行するアリエル二世を見ながら言った。

 沈黙が流れる、張り詰めた空気だ。ハロルドはライガー系のエキスパートとは言え四対一、しかも性能的に格下――ブレードライガーより優れてる部分あげるなら操縦性が素直なシールドライガーだ。苦戦は免れないだろう。

 ほんの六〇秒程度の時間が三〇分に引き延ばされた気分だった。

『目視で確認、シールドライガー系統が四機』

 それでイヴァーナは背筋が凍り付く、姫様申し訳ありません……。

*1
大型ビームキャノンを装備したシールドライガーDCSの低下した格闘戦能力と運動性を解消した機体、補助エンジンと動力機関によって総合性能は高いが操縦性が劣悪で最初の生産では七機しか作られずレオマスター専用機となった

*2
共和国製中型の恐竜型ゾイド、各国の軍隊のみならず治安局等の法執行機関でも採用されている



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第三話、その3

 さすがセリーナ王女を守るアーカディア王国三獣士、腕は本物だ。盗賊で結成した三〇機以上の混成部隊はたちまち全滅だ。

 元*1ゾイドウォーリアー(地域によってはZiファイターと呼ばれてる)のジャスティンはシールドライガーコマンダー仕様(CSP)のコクピット内でレーダーを見ると一機だけ先行してくる。

 スピードと事前情報から見てネイビーブルーのシールドライガーだろう、レオマスターだがなんだが所詮は共和国軍を退役した奴だ。こっちにはDCSのビームキャノンに火炎放射器と重機関砲、おまけに時速三〇〇キロにまで出せるブースター付きだ、それにノーマル一機とDCSが二機と、この四機に囲まれれば社長の巨大ゾイドだって相手にできる。

「さてどんな奴だ?」

 ジャスティンはどんな獲物かと思いながら、揺るやかな斜面の下約二五〇メートル先にいる目標を目視で確認。思わず笑いそうで同じ気分だったのか、仲間たちも無線を入れてきた。

 

『おいおい、俺たち四機相手に一機 元海兵隊のレオマスターだと聞いててっきりDCS-Jかと思ってたら、ノーマル仕様のシールドライガーとは!』『ハハハハハハッ!! おいおい、ジャスティン一回降伏勧告した方がいいんじゃねぇの?』『ホントホント馬鹿じゃねぇの? おい、レオマスターさんよぉ! 聞えてるなら降りな! 命だけは助けてやるぜ!』

 

 全くだとジャスティンは重機関砲でロックオンしながら無線で呼びかけた。

「聞えるか? シールドライガーのパイロット、一度だけだ。降伏するならコクピットから出ろよ、なんなら社長と交渉してこっちに来ないか? たっぷり報酬くれるぜ!」

 ジャスティンはそう言いながらいつでも発砲できるよう、トリガーに指をかけた。

『こちらマリーンレオマスター、悪いが僕たちは金で雇われる者じゃない』

「ほう、そうか……残念だよ!」

 ジャスティンは同時に引き金を引き、重機関砲やビームキャノン、三連衝撃砲も撃ちまくる。他の三機も一斉に集中砲火を浴びせた、いくらEシールドを張っても耐えられまい。DCSのビームキャノンを六門、衝撃砲を一二門、その他諸々の火器を一斉発射したんだ、荷電粒子砲に迫る威力があるはずだと撃破を確信していた。

 

 

 素人め! 着弾直前にEシールドを張り、着弾の衝撃に耐えながらフットペダルを思いっ切り踏み込み、腹這いで後退させるとビームや衝撃砲、各種火器の着弾の衝撃に耐える。

 Eシールドが飛び散る破片を防ぎ、ある程度衝撃を緩和してくれる。耐えろ、耐えるんだアリエル! ハロルドは時折飛んでくる砲弾に耐えながら歯を食い縛る。脇腹の銃創が開いたりしないか心配だったが、そうなる前に砲撃が止むとシールドを解除。

「行くぞアリエル!」

 ハロルドはアリエル二世をクラウチングスタートの要領でダッシュさせ! ジグザグのランダム走行で左右と急加速のGに耐え、速度計が一瞬で時速二二五キロにまで跳ね上がる。

『な、なんだと!?』

 動揺する敵パイロット。一気に坂道を駆け上がり、真っ先に反応したのはDCSだ。ビームキャノンの最小射程内だから近過ぎて手動照準でもない限り撃てない。ハロルドは背中のAMD二連装ビーム砲を展開して至近距離からダブルタップ射撃で怯ませ、右前足でタテガミ部分をぶっ叩くとビームキャノン後方のエネルギータンクが見えた!

 ハロルドはその一瞬で二連装ビーム砲弾を叩き込み、離脱!

『火災警報!? 自動消火装置が作動しない!! うわぁあああっ!!』

 敵パイロットがパニックになってる間にスピンターンするとDCSはエネルギータンクに火が点いてケーブルを伝ってビームキャノンにも燃え移り、チャンバーに装填された高密度のエネルギーにも引火して大爆発した。DCSやJ型の弱点、というよりエネルギータンクはある程度装甲に覆われてるが、火が点いたら非常に危険だ。

 共和国軍時代は強制排除して全速離脱するという訓練をしていた。しかも実際にやるのは非常に危険なので、VR訓練で行っていた。

『コニー!! おい、応答しろ!!』

『グライド!! 奴はもう駄目だ!! おい!!』

 残り三機! ハロルドは仲間がやられて動揺してるもう一機の真っ直ぐシールドライガーに跳びかかる。

『うわぁああああっ!!』

 悲鳴を上げる暇があったら回避行動を取れ! 気付いたようだがもう遅い、一気に押し上げられて仰向けに倒すと右からロックオン警報が鳴る。

 右サイドからDCSとCSPが至近距離から狙っていた。

『グライド今助ける! コニーの仇だ、死ねえっ!!』

 ハロルドは両フットペダルを思いっ切り踏み込み、左スロットルを最後部、右スロットルを最前部にする操作を一瞬でやって両フットペダルを解除! 左サイドステップしながら空中で左右のスロットルの位置を逆転させ、頭部を右九〇度に向けた。

 アリエル二世が着地すると、着地時の衝撃を利用して体を屈めて両フットペダルを深く踏み込み、両スロットルを前に突き出す。アリエル二世は敵のシールドライガーを盾にして至近距離からの激しい砲撃を凌ぐ。

『ああああああぁぁぁっ!!』

 グライドとかいう敵パイロットの断末魔が生々しく響き渡る。

『ジャスティン! 撃つな! やめろ!』

 敵パイロットが制止するとすぐに止んだが敵のシールドライガーは至近距離から誤射を受けてEシールドの恩恵を受けることなく、キャノピーは割れてコクピットは焼け焦げて機体も無残な有様だった。

『てめぇよくも!! よくもグライドを!!』

「僕が殺したでも言いたいのか? 引き金を引いたのは君たちだ、君たちが下手くそなばかりに仲間を死なせたんだ、グライドが浮かばれない。なぁ今どんな気持ちだ? 今どんな気持ちか、教えてくれるか?」

 ハロルドはただ単に事実を告げながら、ヨハンから教わったネットスラングをもじって挑発するとDCSが遅いかかってきた。

『て、てめぇ! 殺してやらあぁっ!!』

『よせロビー、奴の挑発に乗るな!』

 リーダーであるCSPのジャスティンの制止を振り切り、ロビーのDCSが跳びかかってくる。ハロルドはEシールドを張ってDCSの腹部に叩き込んで弾き返し、右側面に転倒すると跳びかかった。

 両前足でビームキャノンユニットに損傷を与えるとそれだけで十分だった。

『おい! ロビー、強制排除して離脱しろ! おい!!』

 アリエル二世を離脱させてる間にジャスティンの必死の呼びかけも虚しく、DCSは誘爆して大爆発、もう意識を失ってたかもしれない。

 ハロルドは無線でさっきのをそのまま返した。

「降伏するか? 一度きりだぞ。それともレオマスターの僕から言わせればそんな邪道装備の機体で立ち向かうつもりか?」

『だ、誰が降伏するかよ! こいつの機体性能を舐めるんじゃねぇ! あんたが乗っていたDCS-J以上だ!』

 ハロルドは鼻で笑った、典型的な性能頼りのゾイド乗りだ。

 もう少し骨のある奴かと思ってたが残念だ。

 その証拠に威嚇のつもりか火炎放射器をぶっ放している、射程も短く対ゾイド用では威力不足、対人用では戦争条約で禁止されてる。

 対峙するシールドライガーCSPは海兵隊時代にも何回か見たことあるがみんな火炎放射器を外し、重機関砲も通常のビーム砲に戻していた。

「確かに僕は君に勝てない、君がこの機体性能を引き出せたらな!」

『うるせえっ! 俺はこれでも元ゾイドウォーリアーだ、ブルーシティカップで優勝したことだってあるんだ! 思い知れ!』

 全速力で突進してくると、ハロルドは左右のミサイルポッドを展開してロックオン。四発発射、熱源誘導の小型ミサイルは火炎放射器に着弾して破壊、燃料に誘爆して怯んで転倒するがすぐにリカバリーする。

『畜生、ならばこれでどうだ!』

 ジャスティンはCSPの大型ブースターを点火させて加速して一撃を仕掛けるが、ハロルドはそれを数十センチ単位でかわす。もっともブレードライガーなら数センチ単位でかわせるが、ハロルドは素早く一八〇度回して見逃さず再度ミサイルを二発発射。

 だがあっさり外れてしまった。やはりシールドライガーのミサイルポッドは歩兵が携行する赤外線誘導ミサイルを束ねた程度だ、それに搭載してたものは東方大陸産の旧式の安いデッドコピー品だ。

 超小型ゾイドや車両相手にできても*2ゴドス以上は無理だ。

『はははははははっ!! そんなもので倒せるとでも思ったのか?』

「粗悪なデッドコピー品じゃ戦闘以前の問題だな」

 ハロルドはミサイルポッドを収納しながら走らせる、するとCSPは横に並んで走りながらぶつけてくる。ハロルドもやり返すと、ジャスティンも見越していたのか大型ブースターを全開にして急加速した。

 今だ! ハロルドはミサイルポッドを展開してロックオンして残りの全弾を在庫処分として発射、至近距離だからいくら粗悪品の赤外線誘導でも当たる。

『うわぁあああああっ!! 畜生!! よくも!!』

 スピーカー越しにジャスティンの悲鳴と火災警報が聞えた。CSPはビームキャノンユニットと大型ブースターを強制排除、ハロルドはフットペダルを踏み込んで両スロットルを後ろに引いて急ブレーキをかけて停止。

 高速走行しながら排除された装備はアリエル二世の遥か前方で大爆発、何とか巻き込まれずに済んだが敵機はそのまま逃走。

 捨て台詞を吐いて走り去って行った。

『クソッ! 次に会ったらもっと強くなって息の根を止めてやる! 覚えてろ!』

 敵前逃亡か……本来なら軍法会議だ。ハロルドはふとまだ海兵隊員の心を忘れてないということに気付き、自嘲気味になりながら戦闘後のチェックリストを行う。各部損傷の度合いは軽微、砲撃の破片で傷を負った程度で戦闘に支障はないが、終わったらまたセブタウンの整備工場に点検してもらったほうがいいかも。

「こちらハロルド、敵のシールドライガーを三機撃破、残りは逃走」

『イヴァーナ了解、流石はレオマスター。ヨハンはいらなかったですね』

『何!? 俺とビッグマザーがいなかったら二人ともやられてたと思うぞ!』

『冗談ですよ、今からそちらに向います』

 あまり褒めることも冗談も言わないイヴァーナの、惜しみない賞賛だった。

 

 

 サイモンは野戦基地の簡易格納庫で整備士と外部点検中、シュペールが入ってきた。報告に来たんだろうと、思いながら歩み寄る。

「社長、ジャスティンから報告です」

「ああ、どうだった?」

「派遣した部隊は全滅、ジャスティン達も部下三人が戦死しました」

「そうか……また家族に手紙を書かないといけないな」

 サイモンは目を伏せて三人の冥福を祈りながらシガレットを取り出し、オイルライターで点火した。

「手紙はジャスティンが書くそうです、プライベートでも仲が良かったそうで」

「ああ、知ってる。あいつのフォローを頼む……しかし、流石はアーカディア王国三獣士だ。派遣部隊を全滅させやがった。おかげで仕事の手間が省けた」

「省けた? と言いますと?」

「ああ、お前にも言ってなかったな……実はな、以前セブタウンの町長から依頼があったんだ。この辺りに跋扈する盗賊を排除して欲しいって依頼だった、どうやら奴らは俺たちの傘下に入った後もこっそりいろいろ悪事を働いてたらしい」

 それは他の町や村も同じだった、誘拐や追いはぎ等、あれほど口を酸っぱくして言ったにも関わらずやめなかったから、サイモンは最適な方法で責任を取らせてやった。

 おかげで最小限の出費で依頼を行うことができた。シュペールは納得した様子で肯く。

「なるほど、今更仕事をクビにするわけにもいかなかったから、彼らにやらせたと」

「ああ、おかげで奴らは本物だと確信したよ」

 あの盗賊が烏合の衆だったこともあったが、全滅してくれたおかげで奴らが本物だと教えてくれた。

「社長もうずうずしてるようですね」

「やはりわかるか? こいつとまた思う存分暴れることができるからな」

 シュペールに言われてサイモンは思わず見上げた。久し振りにゾイド乗りの血が騒ぐ、経営者としての仕事の合間に訓練は欠かさずやっていたが、実戦は久し振りだ。

 ロールアウトから一五〇年以上経って主役の座を後継機に譲ったが、今でもヘリック共和国軍の象徴と呼ばれて改良型が陸海空軍及び海兵隊で使用されているゾイドだ。

 ロールアウト当時は装備されてなかったが、今ではすっかり標準仕様の長い砲塔を備えている。

 サイモンは陸軍時代から乗り、見た目は初期から変わってないが内部機構は大幅に変わっていて一度だけだがジェノハイドラを格闘戦で退けたことがあった。

 シュペールは懐かしげに言う。

「私もネオゼネバス軍時代に一度遭遇しました、あの時は本当に死を覚悟しましたよ」

「味方にするととても頼もしいぞ」

「頼りにしてますよ社長」

 シュペールも精悍な笑みを浮かべた。

*1
戦闘競技ゾイドバトルを行う戦士の総称、10代半ばの学生から50代以上の退役軍人までいる

*2
共和国製小型の恐竜型ゾイド本国では退役したが世界各国の軍隊、民間にも採用されて近年都市部でのテロリストやゲリラの手に渡って問題となっている



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第四話、その1

 第四話、芽生える心、抱く夢

 

 エウロペ最大の火山地帯、ソーア山カルデラの外輪山を登る険しい山道は左右を針葉樹林で囲まれている。

 大型ゾイドが一機通れるくらいの幅しかない山道だが、ホバーボードでは針葉樹に遮られて見えなかったものが見え、澄み切った空気のおかげか遠くがくっきりと見える。

 どこまでも広がる緑に覆われた山々、雄大な自然の中、寄り添うように小さな町や村、田園地帯が見える。針葉樹林の道を抜けると外輪山山頂は緑で覆われた広い高原で、カミルはここをホバーボードで駆け抜けるのが好きだった。

 一歩一歩踏み締めるごとにその心地良い感触がシルヴィアの機体を通して伝わる、草花を揺らす心地良い風が吹き、カミルはコクピットを開けてみたいと思う。

 外輪山頂上から見下ろす光景はまさに風景画やポストカードの題材になりそうだ。

 ソーア山は元々巨大な火山の火口で、中央には今も活動して噴煙を上げる火山があり、その周りに緑溢れて生い茂る森や澄んだ湖や清らかな川、放棄された田畑や雨風に浸食されて朽ち果てようとする町が見える。

 天候は快晴、雨も降る心配もないなとカミルは無線を開いた。

「ヘルガ、ここで少し休憩しよう。風が気持ちいいよ」

『じゃあ……少し休もうか』

 スピーカーから透き通った声が聞こえ、リリアが隣に来る。カミルはフットペダルを踏み込んでシルヴィアを腹這いにし、コクピットを開けると吹き付ける春の風が少し冷たく、ひんやりとした新鮮な空気が美味しい。

 カミルはコクピットから降りると、ヘルガは長い睫毛の目を閉じて両腕を大きく広げて深呼吸しながら、全身で春の風を受け止める。綺麗だ、本当に僕と同い年なのだろうか? ヘルガは何度も深呼吸し、そのたびにブラウスの胸元が張りつき花弁のような唇から吐息が微かに聞える。

 カミルも遠くの火山を見つめながら、風に身を委ねる。

「いい風だね」

「風が気持ちいい……どこまでも走り抜けていけそう」

 ヘルガも吹き付ける風に長い黒髪をなびかせ、ディープスカイブルーの瞳はカルデラの向こう側、どこか遠くを見ているようだ。故郷のアーカディアが恋しいのかな? そう思ってる時、巨大な影がカミルとヘルガの真上を通った。

 ヘルガはハッと驚いて見上げた。

「今のは? 野生ゾイド!?」

「うん、サラマンダーだ」

「サラマンダー? 野生体は絶滅したはずなのに?」

 ヘルガは瞳を輝かせ、興奮を抑えてるかのように言う。サラマンダーはヘリック空軍の象徴とも言える翼竜型の大型ゾイドで、野生体はほぼ絶滅。人工繁殖がつい最近成功したばかりだ。

 カミルは白銀に輝くサラマンダーを目で追う。

「デルポイ大陸ではね。でもエウロペに渡った種がここで繁殖してるんだ。ここは野生ゾイドの捕獲禁止区域だから、人間に脅かされることなく暮らしている……いわばゾイドの楽園みたいな場所だ」

 カミルはシルヴィアに視線を移す、カルデラ内部は危険がいっぱいだと母親から聞いてたが、同時に驚きの連続だった。

「三年間、シルヴィアを探すのに隅々まで回ったからここは僕にとって裏庭みたいなものなんだ。学校では絶対に得られないことを沢山得たよ。自然の偉大さと厳しさに、そこでの暮らし方、ゾイドへの敬意……亡くなったお祖父ちゃんから沢山教わったんだ」

 カミルは自然と誇らしげにな口調になっている、ちょっとかっこつけたかな? ヘルガは吹き付ける風に黒髪をなびかせながら空を見上げた。

「お祖父様は凄い人だったんだね……そうだ!」

 ヘルガは何を思いついたのか、ショートブーツを脱いだ。形のいい白い素足が露になって、草花の生える地面に着けて高い歓声を上げた。

「くすぐったいけど気持ちいい……一度やってみたかったの。カミル君、このことはイヴァーナには内緒にしててね」

 ヘルガは悪戯っぽい笑みで口元に細い人差し指を立てる、それを向けられたカミルは思わずドキドキしながら肯いて訊いた。

「あっ、うん。でもどうして?」

「イヴァーナったら人前で、特に同年代の男の子の前で肌を晒しちゃはしたないから駄目だって」

 あの人か……あの人どんだけ厳しいんだろう? カミルは思わず苦笑した。

「わ……わかった、二人だけの秘密って……ことかな?」

「ふふふふふふ……そうね」

 ヘルガは上品だが、素のままの笑顔で肯いた。

 

 

 しばらく休憩すると再び出発してカルデラ内部へと降りる。かつてはソーア山の火口でもある場所だ。

 旅立って約三ヶ月、これまで三獣士に守られながら力を蓄える旅をしてきた。守られるばかりではなく、みんなに料理を作ったり旅の一行の代表として重大な決断を下す役割を果たしてきた。

 いろんな国や地域を旅し、いろんな人たちと出会い、別れ、傷付け合い、助け合ってきた、善意を踏み躙られて人間の醜い本性や、知りたくなかった世界の現実を目の当たりにしてきて目を覆いたくなる時もあった。

 その度に三獣士に守られ、旅先で会った人たちと仲良くなることもあった。

 友達もできて、特に男の子たちから注目された。勿論、イヴァーナが立ち塞がったが彼女の目を盗んで恋心を伝える子も多くいた、でも私には果たすべき役目がある。

 だから受け止めることは許されなかったし、イヴァーナが全力で私を守った。

 

 そして今、ヘルガはまさに“冒険”と呼ぶに相応しい出来事にいる。

 

 守ってくれる三獣士はいない、明日まで自分とリリア、前を歩いてるカミルというライガーゼロの男の子、自分のことを意識してるのは感じた。ゾイドに乗った同年代の男の子は多くいた、ゾイドウォーリアーとかZiファイターとかで比較的裕福な国の子たちだった。

 リリアを自動操縦にして想いに耽ってると、カミルから無線が入った。

『ヘルガ、降りたらあの山の麓に向かう、野生ゾイドや野良ゾイドがいっぱいいるから気をつけてね』

「うん、どうすればいい?」

『うーん……ケーニッヒウルフとライガーゼロだから、下手に威圧したり刺激したりしないようにかな?』

 カミルは少し考えた口調で言うと、カルデラを流れる広い川を渡る。それほど深くないが対岸にはディバイソン野生体の群れが水を飲みにやってきてる、大きさは様々で中にはまだ成長途中の若い個体もいて興味があるのかこっちを見てる。

 ヘルガは刺激しないようにリリアをなだめながら、操縦桿と一体化したコントロールパネルをゆっくり押し込む。

 川を渡って向こう岸に行くと、平らな平原で様々な草食型野生ゾイドがのんびりと暮らしてる。草食型ゾイドは金属成分を多く含んだ草や放棄されて野生化した野菜を食べているという、これほどの数の野生ゾイドを見るのは初めてだった。

 するとその中に混じって野良ゾイドの*1レッドホーンが目に入る。機体には弾痕が生々しく残り、苔が生え、塗装は剥げ落ち、背中の砲塔は千切れた痕跡があってかなり年季が入ってるようだ。

 幾多の戦乱の中で乗り捨てられたんだろう、だけどのそのレッドホーンは自由を謳歌してるのか不思議と穏やかなようにも見える。するとその先には野生体レッドホーンが数体いて、距離を取りながら野良レッドホーンを警戒してる。

「カミル君、今すれ違ったレッドホーン……」

『ああ、半年前くらい前かな? ここに住み着いたんだ。レッドホーンは本来群れで行動するんだけど、野良ゾイドだから人間の臭いが染み付いて仲間に入れてくれないみたい』

「じゃあ……あの子はずっと独りぼっちってこと?」

『うん、群れで行動する野生ゾイドは例え同胞でも野良ゾイドを嫌がるんだ。染み付いた人間の臭いでね』

 ヘルガは振り向いて野生体を静かに見守ってる野良レッドホーンを見る、穏やかに過ごす姿がどこか寂しそうでヘルガには胸の中がモヤモヤする感じがした。

 せっかく戦いから解放されて自由になったのに、独りぼっちだなんて……。

 その時、リリアが足を止めて唸ってヘルガも何かを感じた。何か来る! ヘルガは頭を切り替え、操縦桿の無線送信ボタンを押しながら言う。

「カミル君、何か来るわ!」

『ああ、シルヴィアもざわついてる』

 カミルも気付いたらしい。シルヴィアは野生体のいる場所の左側にある森に向け、威嚇するように唸って、リリアも同様の反応をした。ヘルガは念のためデュアルスナイパーライフルを展開、前足の五連装ミサイルポッドもいつでもロックして発射できる体勢を取った。

 すると気付いたレッドホーンの群れも逃げ出した。森の中から弾丸のように飛び出してきたのは、野生のコマンドウルフだ! しかも複数いる! たちまちレッドホーンの群れは逃げ出すがコマンドウルフの群れは半円状に囲んで襲おうとしない。

 何をしてるんだろう? ヘルガは固唾を呑んで見守りながらレッドホーンの群れに視線をやると大人たちが丸い陣形を作り、その中に小さい子どもたちを入れる。これなら大丈夫かと思っていた時、群れから離れた大人より一回り小さい亜生体がいた。

「いけない! 逃げて!」

 思わずヘルガが叫ぶと同時にコマンドウルフの群れが襲い掛かった。体格は勝るが複数で襲われたら一溜まりもない、亜生体の若いレッドホーンは必死に振り払いながら逃げるが、一体が跳びかかるとそれを容易く振り払う。だがその一瞬の隙に他の一体が背中に噛み付いた。

 悲鳴を上げるレッドホーンに容赦なく次々と襲い掛かり、群れはそれをただ見てるだけだ。何もできずに仲間が食べられるのを見てる、きっと悔しくて悲しいんだろうと思っていた時、一体がヘルガの後ろからやってきてすぐ横を走り抜けた。

 他にはぐれた子がいた? ヘルガはそのレッドホーンに視線を向けたが思わず「えっ!?」と見開いた。さっきの野良レッドホーンが、こっちだと言わんばかりに吠えながら突っ込んでくると一体が襲い掛かって突き飛ばす。

 すると他のコマンドウルフも獲物を切り替えて次々と襲うが、野良レッドホーンは戦闘経験が豊富なのか野生の亜生体より無駄のない動きで立ち回る。

「頑張って……」

 ヘルガは思わず呟いた。命拾いした亜生体は仲間の所に駆け寄って安堵したようだが、野良レッドホーンは多勢に無勢で次第に追い詰められていき、二〇分以上の攻防戦が続いた。

 

 やがて野良レッドホーンは力尽きて動かなくなり、コマンドウルフたちは引きずり出したゾイドコアを巡って取り合いをする。群れのリーダーらしきコマンドウルフは満足そうにゾイドコアを半分を噛み砕いて飲み込むと、おこぼれや飛び散った破片、残骸を仲間たちが食べる。

 独りぼっちのレッドホーンは最期に群れを守ったが、野生体のレッドホーンの群れは既にその場を後にしていた。

 これが野良ゾイドの孤独な末路、ヘルガは切なくて胸が締め付けられそうになってると森からコマンドウルフの小さな個体が複数出てきた。

 ご馳走だと言わんばかりに子どもたちは我先にとレッドホーンの残骸にかぶりつく。

 ゾイドの残骸は分解されて土に還るが、極稀にエレミア砂漠のように過酷な環境や野生ゾイドが消えた地域では残骸が数十年も残るケースがあるという。

 食べ終わったコマンドウルフたちは満足そうにリラックスした様子になり、子どもたちはよっぽど嬉しかったのか、お互いにじゃれ合って遊んでいる。

「そろそろ行こうか?」

『うん、くれぐれも刺激しないようにね』

「気をつけるわ」

 ヘルガは肯いて操縦桿を握って群れから迂回するコースを取る。コマンドウルフの群れはみんな「ジーッ」とこっちを見ている、興味があるのか警戒してるのか、きっと両方なんだろう。

 

 ソーア湖に近づくと町に入る。放棄された高級ホテルやリゾート施設、ショッピングモールやコンベンションセンターが立ち並び、各所を結ぶモノレールは所々が崩れ落ちていた。ひび割れた道路には草が生え、乗り捨てられた車やバスが金属成分を栄養源とする植物に侵食されていた。

「カミル君ここ……一体なにがあったの?」

『ここソーアシティは五〇年前まで農村と温泉街が寄り集まった町だったけど……三〇年前に大規模な開発事業でこの辺りは見ての通り、ホテルやいろんなリゾート施設や温泉、カジノ、遊園地が作られたんだ。あの火山の麓にある湖は温泉湖になっていて、今でも入れる。その向こう側、ソーア山の北半分はゾイドバトルのフィールドになってたんだ、かつてはマゼランの*2マッカレーとか、北エウロペの楽園とかで呼ばれてたんだ』

「呼ばれていた?」

『うん、二〇年前にソーア山が大噴火を起こしたんだ。麓の温泉湖の町は火山灰と火砕流、溶岩に飲み込まれ、この町も降り積もる火山灰で機能停止。追い討ちをかけるようにエウロペ恐慌によるマゼランの財政危機でこの町は人がいなくなり、やがてゴーストタウンになった。そして今は……野生ゾイドたちの楽園になっている……僕はこの廃墟を結構気に入ってるんだけどね。この辺りは小型ゾイドたちの隠れ家になってるんだ』

 カミルの言う通りだ。

 遠くに見えるホテルらしき高層ビルの壁面には大小種類を問わず昆虫型ゾイドが張り付き、屋上には鳥型の野生ゾイドが巣を作っていた。

 ゾイドだけが住む町、それはまるで人間が滅びた後の世界にいるようにも感じた。

 

 朽ち果てた町を抜けると湖岸を辿る幹線道路に出た、町の外は田畑があって放棄された農民の小さな家や豪邸も見られる。数キロ歩いた所で森の端にあるコテージ前でシルヴィアは足を止めた。

『ヘルガ、そろそろここでお昼にしよう。お腹空いてない?』

「うん、ちょっと早いけどそうしようか」

 時計を見ると一一時前でヘルガは肯き、リリアから降りる。湖畔から吹く春の風は穏やかで、ひんやりとした空気だ。カミルはシルヴィアのコクピット後部から何かを取り出すと、バックパックを引っ張り出したかと思ったら手にはショットガンを持っていた。

「そこで待っててね、今からお昼を用意するから」

 カミルはそう言うと、ショットガンを持って森の中に入っていった。

 一人になったヘルガは草花の生える地面に座り、ショートブーツを脱いだ。外気に触れた足先がひんやりとした地面に足を着けると、冷たくて気持ちよく、春のポカポカ陽気と相まって思わず寝転がってみる。

 暖かい陽射しとひんやりした風で過ごしやすく、思わずウトウトしてしまう。

 昨夜はイヴァーナに起こされてリリアに乗ってカミル君と隠れ家に逃げ、粗末なベッドで寝たけどあまり眠れずに朝を迎えた。

 リリアのコクピットで自動操縦にしても、警戒を解くわけにはいかない。あの襲撃者の仲間たちがいつまた襲ってくるのか……ヘルガは眠気には勝てずに重くなった目蓋に屈してしまった。

 どこかで火薬の弾けるような音が聞えたが、一回だけでそれ以降は聞えなかった。

 どれくらい経ったんだろう? ボーッと目蓋を開けるとカミルの着ていた上着が上半身を包むように羽織られていた。カミル君? 一度戻ってきたのかな? 傍らには温かい焚き火が静かに燃えていて、山菜や野菜が袋詰めにされていた。

「カミル君?」

 起き上がって見回すと、カミルは背を向けて調理していた。

「ヘルガ起きた? 今作ってるからもう少し待っててね」

「何作ってるの?」

 ヘルガは起き上がって、カミルの肩越しに覗くと毛を抜かれた首なしの水鳥で思わずギョッとしそうになった。

「!? カミル君、これって」

「ああ、さっきそこにいたカモをこれで獲ったんだ」

 カミルは傍に置いてある二六インチ銃身の狩猟用ポンプアクションショットガン――HM210に視線を向けて言う。

 そうか、さっきのは銃声だったんだとヘルガは思い出す。

「血抜きと毛抜きが終わったから、今から解体するね」

 解体? まさかとヘルガが思ってるとカミルは腰のベルトから鋭く光るナイフを抜いて慣れた手つきで切り開き、躊躇うことなく内臓を取り出し、取り尽くすと、部位を切り分けていった。

 ヘルガは青褪め、一気に食欲が萎えたような気がした。

 ずっと城で育ち、料理する時も肉を切ったことはあるが、それは全て解体済みの部位のみだった。しかし、毛を抜かれてが首ない水鳥だとわかるものが、腹を切り裂かれて内臓を取り出され、バラバラに解体されるという。

 ヘルガには恐ろしく、強烈で、グロテスクなものだった。

「ん? どうしたのヘルガ、どこか気分でも悪いの? もしかして風邪引いた?」

「う、ううん大丈夫?」

 ヘルガは引き攣った表情で笑って誤魔化した。

 だが、カミルが串に刺して焼き始めた頃から香ばしい肉の焼ける匂いが徐々に、そして急速にお腹が空き、そして腹の虫が鳴った。

「あっ……」

「あはははははっ、もう少しでできるよ」

 カミルに聞かれてしまい、男の子にしては愛らしい笑顔で言う。何なの? この恥ずかしさは? ヘルガは頬を赤らめたが、カミルの言う通り二人分の昼食ができた。

 カモと山菜の串焼、山菜スープとパンをあっという間に作ってしまった。

「さあ……食べようか」

「う、うん!」

 ヘルガはもう理性が食欲に呑み込まれ、串焼きにかぶりついた。カリッとした皮の食感に辛い塩胡椒、ジューシーな肉汁の溢れる柔らかい肉の味が舌に広がる、美味しい! さっきまで青褪めていた自分が馬鹿みたいだと感じるほどだった。

 熱々の山菜スープも美味しく、精力が漲る美味しい食事だった。

*1
帝国製大型スティラコサウルス型ゾイド、豊富な重火器と重装甲で動く要塞の異名を持つ

*2
山岳地帯にある有名な観光都市



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第四話、その2

推奨BGM:wild flowers


 昼食を食べ終えてシルヴィアのコクピットに入るとこの時期にしか見られない、ある場所へ連れて行こうとカミルは決意した。

 それは誰にも見せていない、教えてない秘密の場所で見つけたのは二年前のことだった。シルヴィアを探してカルデラ内を探索していた時に見つけた場所だ。

「ヘルガ、これからソーア山に登らない? 眺めのいいとっておきの場所があるんだ」

 なんだかデートに誘ってるような気分で、ドキドキしながらぎこちない口調になる。

『ソーア山の山頂に? 大丈夫かな?』

「大丈夫、火口付近はさすがに危ないけど周りの山なら大丈夫さ」

『そ……それじゃあ行ってみようかな?』

 そうこなくちゃ! カミルは高鳴る鼓動を抑えながら進路を登山道に向け、シルヴィアは静かに歩き始める。

 ソーア山は成層火山で一見穏やかに見えるが、落石に警戒しなければならない。数十センチから数メートルの落石はそんなに珍しいものじゃない。事実、大噴火の前年に登山道の大規模落石事故で多数の死者が出ている。

「ヘルガ、くれぐれも落石には気をつけて時々大きな岩が転がってくるから」

『う、うん、気をつけるわ』

 ヘルガの口調は少し強張る。だが見晴らしのいい緑に囲まれた登山道はあいつらからも見つかりやすいが、ここまで来るのは容易ではない。

『カミル君、あの人たちに見つかったりしないかな?』

「ヘルガ、見晴らしのいいところだけど外輪山とか、登山道に沢山の野良ゾイドや上空には飛行ゾイドもいるよね?」

『うん、微かに見える』

「ソーア山カルデラ全域は野生ゾイドの縄張りなんだ。だから暴れたり騒いだりすると、縄張りを荒らされたとみなしてたちまち襲ってくる……だから、ここに住むゾイドたちには敬意を払い、荒らしたりしないように気をつけないといけないんだ」

 いつもはホバーボードで登山道を走っていたが、今回は大型高速機動ゾイドのコクピット内だ。刺激しないように気をつけないといけない、コクピット内は快適だけど直に風を切り裂いて走る気持ちよさを味わえないのはちょっと残念だ。

『敬意……ちょっと難しいわね』

「難しく考えなくていいよ、さぁ! もうすぐ山頂だ!」

 カミルはヘルガがどんな表情を見せてくれるんだろう? 期待と不安を感じながら火口へ通じる朽ち果てた大きなロープウェー駅駐車場にシルヴィアを駐機させる。

「ヘルガ、ここからは歩いて行こう」

『えっ? 大丈夫なの?』

「大丈夫、ほんの二キロちょっとさ……それにコクピットから見るより自分の目で見た方がいい」

 カミルはそう言ってフットペダルを踏み込んで固定し、腹這いの状態にするとエンジンを停止して後部スペースからメインの六〇リットルのバックパックとは別の二八リットルのサブのデイパックを取って背負い、ウエストバッグを身に着けるとコクピットを開けて降りる。

 外の空気は暖かいがひんやりとした春風が吹きつけ、火口は穏やかな白い噴煙を上げている。ヘルガもコクピットを開けて降りてくると、長い黒髪が風にゆらゆらとなびかせて上目遣いになって訊いた。

「カミル君、これからどこに行くの?」

「えっと……今の時期にしか見られない風景さ、ついてきて」

 カミルは火口とは反対方向の道を歩き始め、あそこなら登りきった瞬間目の前の美しい光景が見られる。喜んでくれるといいな、喜ぶ顔を見るのが楽しみだ。カミルは期待に胸を躍らせながら登山道を歩く。

 途中の岩場まで来るとここを登りきれば目的地だがカミルは振り向いてヘルガの表情を窺う、やっぱり山道は慣れてないのだろうか少し辛そうだ。

「ヘルガ、大丈夫?」

「大丈夫よ……もう少しだったね?」

「うん、もしキツイなら言ってね」

 カミルは普段から山の中を歩ける服装をしてるが、ヘルガはお姫様育ちだからか丈夫なショートブーツを履いてるとはいえ、ロングスカートという山歩きには向かない服装だ。カミルはできるだけ歩きやすいコースを歩く、もう少しだ。

 

 登り切った場所まで来ると、一万年前までは火口だった場所が平原になっていて、カミルの期待通りこの場所、この時期にしか見られないものが絨毯のように一面に広がっていた。

「わぁ……綺麗……これ全部花なの?」

 ヘルガの表情とディープスカイブルーの瞳はまさに宝石のように輝かせた。

 目の前に広がる平原を覆いつくすソーア山とその周辺にしか咲かない青と白のワイルドフラワーの花畑が広がっていた。

「うん、ここにしか咲かない貴重なソーアソウの花なんだ。セブタウンのお土産屋さんに造花で作った花冠が売ってるくらいにね」

 カミルは坂を下り、一面に広がるソーアソウの花畑の端に座って足を伸ばす。ソーアソウの香りとともに心地良い風が吹く。

 ヘルガは吹き付ける風に身を委ねるかのように両腕を広げて全身で受け止めるかのように深呼吸する。それはまるで翼を生やし、大空に飛び立とうとする天使のようでカミルはその横顔に心を奪われる。

「静かで……いい所ね……ここにしか咲かない花……」

 ヘルガはしゃがんでソーアソウの白い花を興味津々で観察する。喉が渇いてるかもしれないと、カミルはデイパックから水筒を取ったが、ここで深刻なミスに気付いた。

 いつも一人で来てるから水筒は直飲みタイプで一つしか持ってきてない、春の陽気で山道を歩いて汗だくで喉が渇いてるがまだ我慢できるくらいだ。

「ヘルガ、の……喉……渇いてない?」

「えっ? ありがとう、私……荷物セブタウンに置いてきちゃったから、水筒持って来れなかったの」

 ヘルガは隣で横座りになり、躊躇う様子もなく受け取ってキャップを開ける。カミルはその動作一つ一つを目で追って徐々に心拍数が上がる。洗ったとはいえいつも自分が使ってる物だ、ヘルガは躊躇うことなく飲む。

 ああ……完全に間接キスだ。恋愛小説が好きって言ってたヘルガが知っていてもおかしくない。カミルはドキドキのあまり全身から汗が噴き出て、ゆっくりと背を向ける。

「はい、カミル君。喉渇いてるでしょ?」

「ぼ、僕はいいよ……」

「駄目よカミル君、汗をかいてるし喉が渇いてなくても飲まなきゃ!」

 ヘルガに言われるとカミルは断りきれず水筒を受け取り、水筒を軽く一振りすると四分の一くらいは飲んだようだ。カミルはできるだけ平静を装いながら、水筒を恐る恐る口につけて飲んだ。

 ……いかん! いつも飲んでる水なのに意識してまう。極微小とはいえ女の子の唾液が混ざってるのかのしれないと思う僕はやっぱり変だろうか? 半分を残してカミルは蓋を閉める。

「ねぇカミル君……」

 ヘルガの妙に妖艶な声がしてヘルガの顔を見る。頬は赤らみ、柔らかそうな唇に白く細い人差し指と中指を当て、艶やかで情欲を抱いてしまいそうな微笑を浮かべていた。

「やっぱり……カミル君は……意識するのかな?」

「ふぇっ!? な、何を?」

 カミルは恥らうヘルガをマジマジと見つめ、頭の中で最良の言葉を模索する。

「あ、あのね! で、でもそれを意識するのって自意識過剰な思春期の子だって! イヴァーナが言ってたし! それに命に関わるような事態だったらそんなことも言えないから! えっと、その……カミル君、ごめんね……私が水筒忘れたばかりに!」

 ヘルガはあたふたしながら謝るが、ヘルガは何も悪くない。

「へ……ヘルガは何も悪くないよ、そうだ!」

 思わずカミルは立ち上がってヘルガを見下ろすような状態になり、驚いたヘルガは座ったまま仰け反る。

「えっ!? ど、どうしたの?」

「ちょっとここで待ってて!」

「う、うん!」

 ヘルガが困惑しながらも肯くと、カミルはかつてソーアソウの花畑に敷かれ、今は花に侵食されたか細い道に入った。

 カミルは見回しながら良さそうなのを集めながら編みこむ、大丈夫だ。妹のウルスラや母親にせがまれて作ったことは何度もあるし、生花でもやったこともある。

「できた!」

 カミルはできた物を見つめる、我ながらいい出来だと微笑んで後ろ手でそれを隠してヘルガの所に戻る。ヘルガはキョトンとした表情で見つめる、視線はきっと後ろで隠してる物だろう。

「ヘルガ……目をつぶって」

「う……うん」

 ヘルガは目をつぶるとこっそり後ろに回り込み、それをゆっくり頭の上に乗せた。

「目、開けていいよ」

「うん……えっ? これ……花冠?」

 ヘルガは両手で頭に乗せられたソーアソウの花冠を手に取る。

「わぁ……カミル君こんな素敵な物の作れるんだ」

「うん……母親の内職の手伝いをしてるうちに……特技になったんだ」

 カミルは照れ笑いしながらも自慢げに言う、ヘルガは上目遣いになりながら花冠を被って照れ笑いする。

「えへへへ……ティアラとかなら城の舞踏会や夜会で被ったけど……まさかこれが被れるなんて、夢にも思わなかったわ」

 ヘルガは無邪気な少女そのものの笑顔を見せ、カミルは思わず口元を緩める。もしかするとヘルガがセリーナ王女なら公私問わず、誰かにこんな顔を見せることは許されなかったのかもしれない。

 カミルはその無邪気な微笑みを目に焼き付けた。するとヘルガは立ち上がって、ソーアソウの花畑の奥を見つめながら訊いた。

「ねぇ、入ってみてもいいかな?」

「うん、ここも公園として整備されてたから……気をつけて、凄く狭いから」

 カミルが前を歩き、ヘルガは花を踏まないように視線を下にしてロングスカートの裾を摘み上げ、後ろからついてくる。花畑の真ん中に近づく間穏やかな風と共に時折強い風が吹く。二〇分くらい歩いただろうか、花畑の真ん中にまで辿り着いた。

「ヘルガ、周りを見回してごらん」

 カミルは期待を込めた笑みを浮かべながら振り向く。ヘルガは澄み切った笑顔で周囲三六〇度一面に広がるソーアソウの花畑に心躍ったかのように両腕を広げ、くるりとバレエダンサーのように回りながら歩き、ロングスカートの裾がふわりと広がる。

「あっ……」

 吹きつける強い風でカミルの作った花冠はヘルガの頭から離れ、長い黒髪がまるで手を伸ばして掴もうとしてるかのようになびき、ヘルガも咄嗟に右手を伸ばしたが、ソーアソウの花冠ははるか遠くの花畑の中に消えていった。

 回っていたヘルガはふらりとバランスを崩し、後ろに倒れる。

「ふわっ!」

「危ない!」

 カミルは咄嗟に右手を伸ばしてヘルガの白く細い左手を掴むが、一緒に寝転がるように花畑に倒れた。幸いソーアソウがクッションになっていて頭を打つことなく、二人とも仰向けの状態でボーッと空を見上げる。

「ヘルガ、大丈夫? 痛い所はない?」

「うん……花冠、飛んでいっちゃったね」

「あんな遠くまで飛ばされたら探しようがないよ」

 カミルが顔を横に向けるとすぐそばにヘルガの顔が合い、目が合った。雪のように白い頬、心が吸い込まれそうなディープスカイブルーの輝きを放つ瞳と、額の水色の二つに分けた縦の楕円が、太陽の光に反射してるようにも見えた。

 カミルはヘルガのひんやりした手の感触を堪能しながら呟く。

「せっかく作ったのにね」

「でも……ここに来てよかった」

 ヘルガは笑みを絶やさず右手の甲を額に乗せる。

「僕しか知らないんだ。この場所を誰かに教えたのは……ヘルガが初めてなんだ」

「世界で私とカミル君しか知らない、二人だけの場所……素敵ね」

「ずっと……こうしていたいな……」

 カミルは聞えるか聞えないかくらいの声で呟く、名残惜しいがそろそろ日が傾き始めて下山しないといけない時間だった。



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第四話、その3

 ソーア山の麓にある湖の水源は二つある、一つは地下から自噴する火山性温泉とカルデラを流れる川から分岐して水が流れ込む、そのため場所によっては熱かったり冷たかったりする温泉湖でもある。

 カミルとヘルガが今いる場所は丁度入れるくらいの湯気が立つ暖かい場所で、ヘルガを通してハロルドが指定した合流ポイントの近くだ。

 そこには天然温泉も湧いている。

 ソーア山の山頂はカルデラ内に比べて気温がかなり低い、しかも冷たくて強い風が吹きつける。

 そう考えると山頂に咲くソーアソウはとても逞しいものだと感心する。

 今夜は冷えるなと、カミルは設置したテントの近くで焚き火を起こし、昼に作った山菜スープをアレンジして昼間に獲った炭水化物とたんぱく質、それぞれを多く含んだ二種類の豆とカモ肉の残りを放り込み、コトコトと煮込んだ山菜シチューを作った。

「美味しかった……野生の味がするって言ったら変かな?」

「変じゃないさ、シチューの素を除いて全部この山で採れたものだよ」

「凄いね……ずっと城で暮らしてたら、こんな経験できなかったわ」

 やがて日が沈み、今夜は新月で星空がハッキリと見えるだろうとカミルは空を見上げる、するとヘルガは憂いだ表情で湯気の立つ湖のほとりに近づく。

「やっぱりあの人たちのことが心配?」

「うん……ハロルドもヨハンも、アーカディアに来る前は幾多の死線を潜り抜けてたし、イヴァーナも経験豊富だから大丈夫だと思う……でもやっぱり」

「不安、なんだね……今朝の衛星電話は?」

「駄目なの。今朝話した時、ハロルドが言ってた……傍受される危険性があるから控えてって」

 ヘルガの言う通り、襲ってきた奴らはゾイドを使ってくる盗賊だ。今朝の衛星電話で話していたことを、電子戦用ゾイドを使って傍受されてもおかしくない。カミルはふと夕暮れに光る一番星を見つけた時だった。

 リリアが突然唸り、静かに動き出して立ち上がるとヘルガはリリアを見上げる。

「どうしたのリリア?」

 ヘルガを守るかのようにリリアは右前足を置き、温泉湖に睨みを利かせると闇に包まれた湖面から何か出てくる。ヘルガの傍に駆け寄ったカミル、シルヴィアは対照的に動じる様子もないが、油断してる様子もない。

 シルヴィアにとってソーア山が勝手知ったる我が家だということが窺える。

「あれは……ヘルディガンナー?」

 浮上してきたのは野良ゾイドの*1ヘルディガンナーで、闇夜に赤く光り、妖しささえ感じる目がこちらの様子を窺っている。次の瞬間、リリアは威嚇するように吠えながら襲い掛かるが、それより速くヘルディガンナーは水面下に潜って逃げた。

 襲い掛かる時に水飛沫が派手に跳ね上がり、カミルとヘルガはそれをダイレクトに浴びてびしょ濡れになってしまった。リリアは両足の半分を水に浸かったところで反転して戻ると、主人の叱責を受けることになる。

「コラ、リリア!! 見境なく襲っちゃ駄目でしょ!!」

 ヘルガに叱られたリリアは案の条、落ち込んだかのように「くぅ~ん」と唸る。それがなんだか妙におかしくておかしくて、カミルはヘルガと目を合わせると笑いが込み上げてきた。

「ぷっ……あはははははっはははっはっ!」

「ふふふふふふふっ……リリア! もう怒ってないからいいわよ!」

 だがリリアはいじけたのか、ぷいと顔を背けて駐機してた場所に戻ると、カミルは微笑みながらリリアを見つめる。

「あーあ、いじけちゃった」

「いつもなのよ、私が叱るとしばらく落ち込んじゃうの」

 びしょ濡れになったカミルとヘルガ、温泉湖のお湯を浴びたとはいえ今夜は気温が低い。このままじゃ運良くても風邪を引くし、最悪低体温症だ。

 カミルはホルスターからGF45Lに装着したフラッシュライトを点灯させ、テントに駆け寄ってバックパックから厚手のバスタオルとフェイスタオルを二枚ずつ取り出す。

 その間ヘルガは焚き火の近くに湧いてある天然温泉の縁に立ち、躊躇うことなくショートブーツを脱いでロングスカートも脱いだ。真っ直ぐとしなやかだが、その分濃縮された強靭さを秘める美脚を晒すとブラウスのボタンに手をかけた。

「!? ヘルガ!?」

 体を温めるために温泉に入るのは正しいけど、せめて一言頼むよ! カミルは咄嗟に背を向けながら温泉の縁、手の届く所に一枚ずつ置いた。

 下着のスリップも脱いで一糸まとわぬ姿となったヘルガは、すらりとしたきめ細かくて白い背中に彫刻の女神像のようにくびれた腰、安産型とされる丸い桃尻を露にして強く言った。

「カミル君も脱いで、入らないとこのままじゃ風邪引くわ!」

「う……うん!」

 カミルは躊躇いながら服を脱いで、下半身をタオルで隠しながら温泉に入って肩まで浸かる。

 

 まさか、一国の王女かもしれない女の子と一緒に温泉だなんて……ジョエルが知ったらきっと「うらやまけしからん!」と言われるだろう。肩まで浸かったカミルはモジモジしながら、奮い立つ下半身を鎮めようとする。

 円形の小さな天然温泉だから隠れる岩場もない、カミルは頬を赤らめながら目を逸らして見上げるとソーア山の黒い影が聳え立ってる。

 すると向かいで肩まで浸かり、見上げるヘルガは恥じらいながら手招きする。

「カミル君……こっちに来て、星が凄く綺麗よ」

「えっ!? う、うん」

 カミルは恐る恐るヘルガの隣に移り、ソーア山を背にして見上げた。

 その瞬間、カミルは恥じらいを忘れるほどの空一面の星屑に心奪われ、清々しくなる。

「今日は見頃だったんだ……こんなに綺麗な星空、滅多に見られないよ!」

 カミルはシルヴィアを探す三年間、野宿していた時に星空を見上げたことはあるが、これほど綺麗に澄み切った星空は片手程度しか見たことがない。

 何よりも幸運なのはこの感動を共有できる女の子と一緒に見ていることだ。

「綺麗……王立アイヴァン天文台で見たことあるけど、自分の目で見るのは初めてよ」

「うん、今の時期なら……肉眼では見えないけど……あの位置に、分かるかな? あの赤い星と青い星の間」

 カミルは右腕を伸ばして夜空一面に散りばめられ、きらめき光る砂粒の中から赤い宝石と青い宝石の粒を見つけるように指を差す。ヘルガは視線をカミルの指先を追って肩に触れるか触れないかまでに寄せる。

「あの、横に並んでる二つの星?」

「うん、赤い星がユーリ・ガガーリンで青い星がアラン・シェパード……その間にある銀河の中心を挟んで六〇〇〇〇光年先にある太陽系、そこには僕たちのご先祖様の故郷、地球というこの惑星Ziより少し大きな星に住んでたんだ」

 するとヘルガは微笑みながら肯き、カミルは近くなったヘルガの横顔を見つめながら耳を傾ける。

「本で読んだことあるわ。ガガーリンとシェパードはその星の国で一番最初に宇宙に行った人の名前で、地球の人々を乗せたグローバリー三世号は二つの星の間を通り抜け……この惑星Ziにやってきた、そしてご先祖様たちは様々なことを教え、伝え、そして残る者と帰る者に別れ、地球へ帰って行った」

 視線を追いかける先には無限の夜空を覆いつくさんばかりの光り輝く星たち。カミルは大昔、地球の人々は宇宙に様々な夢を見出したということを思い出す。

「そうか、ヘルガは前に話してくれたね。王立図書館でたくさんの本を借りて読むのが楽しみだって」

「うん、だからこうしてカミル君と一緒に温泉に入ってるのが……その、ラブコメディみたいというか恋愛小説みたいというか、ロマンスというか……」

 ヘルガははにかみながら口元まで浸かる。カミルは改めて自分の置かれた状況下に心臓が張り裂けそうになる。ただ、一つ気になったことがあったので訊いた。

「恋愛小説はともかくラブコメディというのは? 恋愛(ラブストーリー)と喜劇(コメディ)を兼ねたお話し?」

「うん、ヨハンがよくタブレットで極東連邦の東亜国っていう国の電子書籍読んでるの、知ってるかな? 東亜国って」

「知ってる東方大陸にある極東連邦の国で、精密機械工業やサブカルチャーで有名な国だよね?」

「その東亜国ってアニメや漫画、ライト……ノベルっていうジャンルの小説を電子書籍で読んでいてそれが好きな人のことをオタク? っという人達で、ヨハンはいつか東亜国のアズマノミヤコにある世界有数の電気街に行きたいって……でも極東の言葉……凄く難しいのよね。とにかくヨハンはそのラブコメディというのを電子書籍で読んでるの」

 ヘルガの話しにカミルは東亜国を奇怪で不思議な国だという印象を抱く。

「ヨハンは電子書籍を勧めてくれるけど、私はやっぱり紙の本がいいな……一ページ一ページを捲るという醍醐味と、書いた人の思いが詰まった重み」

「僕も紙の本派かな? まあ山や森に篭ることが多いから、Ziフォンの充電はなかなかできないということもあるけどね。よく読む本とかある?」

「うん、一二歳の時に出会った本があるの。それを読んで以来……普通の女の子としてこの広い世界を見て回りたいって夢を抱いたの」

 カミルは前にもこんなことを話してたような気がした、まだ教えてもらってない本の名前を訊いた。

「その本というのは?」

 温泉で柔らかそうな頬が火照ったヘルガの滑らかな桃色の唇に、微笑みが浮かんでその本の名を口にした。

「その本は……『風と雲と冒険と』……バン・フライハイトの自叙伝よ」

 その瞬間、カミルは出会った時から心の片隅で芽生えていたヘルガへの感情が一気に成長し、やがて巨大樹となるがそれがなんなのかわからない。だけど同時に可能性を感じた、この子は僕と同じ夢を抱いてるのかもしれない。

 カミルは数秒間何も考えずに固まると、ヘルガの瞳を射抜くような眼差しで見つめ、迷うことなくヘルガの左手を取って両手で優しく包むように握ると、ヘルガは火照った頬が更に赤く染まる。

「カ、カミル君!?」

「ヘルガ、笑わないで――いや、笑ってもいい。僕の夢、聞いてくれる?」

「う、うん!」

「僕は君と同じだと思うんだ、僕も君と同じ歳に『風と雲と冒険と』を読み、そして志した。僕も……バン・フライハイトみたいになって冒険の旅がしたい! 最高の相棒であるゾイドに乗って旅がしたい!」

 カミルは話しては笑われ、馬鹿にされ、否定された夢を久し振りに露にした。

 ヘルガは頬を赤く染めたままカミルを見つめ、自分の手が柔らかくて白いヘルガの手を両手で包むように握ってることに気付き、ゆっくりと惜しむように離した。

「ご、ごめん……やっぱり変だったよね僕!」

 カミルはあたふたしながら謝るが、ヘルガは高速機動ゾイドを操縦してるとは思えないほどの繊細な指先を、艶やかで桃色の唇に着け無垢な微笑みを見せた。

「ううん……変じゃないわ。とても素敵な夢よ」

「でも……危険も多いし、命を落とす人も多くいる」

「それでも……自分の足で旅をして、自分の目で世界を見て回るというのは……凄く素晴らしいことよ」

 ヘルガは濁りも迷いもない笑みで否定しなかった。それでカミルは巨大樹のように成長した感情がなんなのか、ようやく理解した。

 

 ああ……そうか、僕は……ヘルガのことが好きになったんだ。

 

「ヘルガ……ありがとう、そう言ってくれたの君が初めてだよ」

 恋をした。人を好きになった。この心地良い心臓の鼓動はきっと生まれて初めてに違いない。カミルはそっと右手をヘルガの手に重ねると、ヘルガは頬を赤らめて見つめる。

「カ、カミル君?」

「ヘルガ……こんなに綺麗な星空は滅多に見られない、だから……僕と一緒にこの目で焼き付けて欲しい!」

「うん……こんなに綺麗な星空、プラネタリウムじゃ絶対に見られないわ」

 ヘルガは夢の世界にいるかのようにうっとりした表情を見せ、重ねた手を優しく握ってくれた。今度はカミルが「あっ」として少し驚き、見つめるとヘルガは右人差し指を立てて微笑み、それを唇につけて天使のような甘い声で囁いた。

「みんなには、特にイヴァーナには……内緒よ」

「勿論、だって……この思い出は僕たち二人だけのものにしたいんだ」

 好きだと言う勇気はまだない、だけどこうしている時間がずっと続いて欲しいとカミルは願う、いつしか二人の肩は触れ合ってゆったりとした穏やかな時間が流れる。

 でも、もうそろそろ上がらないとのぼせてしまう、名残惜しいけど。

「ヘルガ……温まってきたから、そろそろ上がろうか」

「そうしたいけど……着替えを持ってきてないからどうしよう?」

「……ちょっと待ってて!」

 カミルは上がるとすぐに体をタオルで拭いてバックパックから衣服を取る、上着はともかく下着はどうする? カミルは試しに訊く。

「ヘルガ、下着とかは濡れてなかった?」

 カミルは厚手の上着を持って振り向くと思わずギョッとして凝視する。

「パンツは大丈夫だったけど他は全部濡れてるわ」

 ヘルガは冷やさないよう焚き火で温まりながらバスタオルで体を拭いてる。彫刻の女神像のように健やかで艶かしい裸体、焚き火の炎がより一層官能的に照らす。カミルはすぐに目を逸らした。

「こ、これ……ないよりはいいと思うから」

「あ、ありがとう」

 カミルは一瞬だけとはいえヘルガの妖しく濡れた黒髪に、均整を取りながらも豊かで新鮮な果実のように瑞々しく、ハリのある乳房を目に強く焼き付けながら服を着て、濡れた衣服をあらかじめ用意した洗濯用ロープにかける。

「ねぇカミル君、寝袋……入れるかな?」

「えっ?」

「カミル君も眠らないと、明日は早いわ」

 ヘルガの言う通りだが、まさかと思っているとヘルガはテントを開けてカミルが用意した寝袋を見ると、ヘルガは頬を赤らめながら躊躇いがちに言った。

「二人分……入れるわ」

 そりゃそうだ。高価であることを引き換えに、ゆったりした快適さとオールシーズン使えるタイプのだからなんとか二人は入る。カミルはさすがにマズイと立てかけてあったHM210を取って焚き火の傍に座ろうとしたが、ヘルガが強く止めた。

「駄目よカミル君! 一晩中起きてたらゾイドの操縦に支障が出るし、体力も持たないわ! イヴァーナには絶対に内緒にするから!」

「わ……わかった、は……入るよ」

 カミルは躊躇いながら恐る恐る入ると、ヘルガも寝袋に入る。カミルは背中を向けるが滑らかな背中が擦れる音とヘルガの生足が触れる。これって、視点を変えればもの凄く羨ましいことじゃない? ヘルガが寝袋に入り切って枕元のランタンを消すとしばらく沈黙が続くが、ヘルガは楽しそうだった。

「ふふふふ……男の子の匂いがする……カミル君の匂いね」

 なんだろうこの燃えるような感覚、体がムラムラというかジリジリというか下半身が熱せられた鉄のように熱く、全身が猛烈にヘルガを欲しがってる。

 あの背中に、あのお尻に、あの足に、あの髪に、あの頬に触りたい。特にあのおっぱいは別格だ、触って揉みしだきたい。いやそれ以上に具体的にはわからないがとにかく貪り尽くしたい! カミルは抑えきれずに言葉にした。

「ヘルガ……ねぇ……抱き締めて……いい?」

「うん、いいよ……もしかするとカミル君も同じこと考えてた?」

「えっ? 考えてるのかもしれないけど、そういうの……わからないから」

「私もよ……ヨハンが教えようとするけど、いつもイヴァーナが止めるのよ」

「あの人は……じゃあ……こっち、向くね」

 カミルは苦笑してヘルガの方を向くと心地良い汗の匂いがした。これが女の子の、ヘルガの匂いかと思ってるとヘルガはゆっくりカミルと向き合う、澄み切ったディープスカイブルーの瞳に水色の二つに分けた縦の楕円、美しい東洋人の顔立ちに桃色の唇までの距離は一〇センチ~五センチでお互いの吐息を感じるほどだった。

 ヘルガはゆっくりと両腕を背中に回す。

「男の子ってこんなに温かいんだ……いいわよカミル君」

「うん、それじゃあ」

 カミルはゆっくりと両腕を上げ、背中に回そうとした時に右手の親指に柔らかいものに触れてヘルガ「あっ……」と短く喘いだ。

「あっ、ごめん……」

 カミルは慌てて謝ると、ヘルガは微笑む。

「うふふふふふ、カミル君も男の子だものヨハン言ってたわ……年頃の男の子はみんなエッチだって、恋愛小説でもこういうシーン沢山読んだことあるけど……そんなことしたらカミル君、イヴァーナに殺されるから……子守歌……歌うね」

 カミルは肯いて両腕を背中に回すとヘルガの素肌が直に触れる。ギューッと抱き合うとカミルの胸板にヘルガの柔らかい乳房が押し付けられ、しなやかな足が絡みつき、ズボン越しに熱くなった下半身もヘルガの肌に押し付けられる。

 そしてヘルガは歌い始めた、聞いたことのない言葉……共通言語ではなくアーカディア語だ。歌詞はわからないけど綺麗な歌声、まるで眠りの世界に誘う天使のように彼女の温もりと安らぎを感じながら静かに目を閉じた。

 ああ、そうだ。僕は昨日から寝てなかったんだ。

*1
帝国製イグアナ型水陸両用ゾイド、湿地帯や浅瀬での戦闘を得意とし、砂漠戦型も存在する



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第五話、その1

 第五話、見せつけろ、その勇気を!

 

 朝、鳥のさえずりでそろそろ起きる時間だとカミルは目を覚ます。

 朝焼けの中、燃え尽きようとする焚き火に燃料を追加して再び起こすと、昨日の残った山菜シチューをアレンジしてスライスした食パンに挟み、熱したフライパンでクロックムッシュを作る。

 その間カミルはシルヴィアを探していたある日のことを思い出す。

 

 金曜日のことだった。その日クラスの男子たちの間で、一人が整備工場職員宿舎のゴミ捨て場にポルノビデオを拾ったと話題になった。丁度その頃、学校では外部の講師を招いて性教育の授業をやってみんないきがっていたが、カミルはシルヴィアを探すため興味を抱かなかった。

 ジョエルは週末みんなで家に集まって鑑賞会やろうと強く誘い、カミルはすぐにでも山に入りたかったから断った。

 月曜日に結果を聞くと、拾った男子生徒の家族が隣町の市場まで買い物に行くのを見計らって鑑賞会を開いたが、その日はグスタフに乗った行商人の移動市場がやって来て、家族が予定より早く帰ってきて良い所で見つかって中止になった。

 その放課後、ジョエルたち参加した男子生徒は先生に呼び出し食らったという。

 

 クロックムッシュが出来上がり、紅茶を淹れるためお湯を沸かす。洗濯用のロープが上下に揺れると、ヘルガの声がした。

「おはようカミル君、スリップが乾いててよかったわ。でも上着はまだみたい」

「お、おはようヘルガ……あ……あの、そこに……ズボンとか上着、あるから」

 カミルは振り向きたいという衝動を抑えながら、テントの方を指した。沸騰した湯気を噴くヤカンを取って紅茶を二人分淹れる、その間にヘルガはカミルのズボンを穿くと乾いていたショートブーツを履いて駆け寄ってきた。

「ありがとう。ブカブカだけど温かい……わあ美味しそう!」

「朝食に、しようか」

「うん……これ男の子のだから、やっぱり大きいわね」

 ヘルガには大きかったらしく、ズボンはブカブカでベルトで何とか締めてるが、上着には袖が長くて手の甲が隠れていた。カミルは昨夜のことと、夢の中で見たことが頭からしばらく離れずモジモジしながら朝食を摂った。

 

 

 合流まであと三〇分、イヴァーナは昨夜あまり眠れなかったようだが大丈夫だろうか? ハロルドはアリエル二世のコクピットで周辺警戒をしながら外輪山中腹の山道を歩いてると、二時の方向からレーダーに二機の大型ゾイドの反応があった。

 レーダーでこの二機をマークしてカメラを連動させ、拡大した映像がキャノピーに表示されると姫様のリリアとカミルのシルヴィアで、気を緩まずに無線で伝える。

「ヨハン、イヴァーナ、二時方向に姫様とカミル君がいる!」

『こちらでも確認した、二人とも昨夜はどうだったか早く聞きたいものだな』

 ヨハンも安心したような柔らかい口調だが、反対にイヴァーナはタガが外れたかのように無線で必死に呼びかける。

『姫様が!! 姫様!! イヴァーナです!! 聞えますか!? 聞えてるのならモニター通信で顔見せてください!! 姫様!! ヨハン、どきなさい!!』

『えっ? うわっ! 危ないだろイヴァーナ!!』

 無線越しに衝突警報が鳴り響いてヨハンはビッグマザーを咄嗟に避けさせて追突事故を回避するが、レーダーで後方から時速一〇〇キロで接近するグスタフを捉えるとたちまちコクピット内に接近警報が鳴り響き、ハロルドはアリエル二世を右ステップで回避させた。

 イヴァーナの呼びかけに応えるかのようかのように、モニター通信が開かれ、およそ三六時間振りに姫様が顔を見せた。

『イヴァーナ! みんな、心配かけてごめんなさい!』

『姫様!! わたくしイヴァーナも今からそっちに――』

 イヴァーナは急ぐあまりマルゴがぬかるみにはまり、勢いよく回転する車輪に泥が飛び散ってキャノピーの半分近くを覆った。アリエル二世は溜まらず首を横に振って泥を払いのけるが、マルゴは必死に抜け出そうとあがくが抜け出せずエンスト。

『大丈夫かイヴァーナ――っておい! マルゴを見捨てるつもりか?』

 ヨハンの言葉を聞かず、イヴァーナはコクピットを開けて飛び出し、リリアの所へと駆け寄る。やれやれとハロルドは仕方ないとマルゴの傍にアリエル二世を置いてコクピットを開け、主人に見捨てられたマルゴのコクピットに入った。

「ヨハン、すまないがマルゴを押してくれ! 合図する!」

『了解、準備できたら合図してくれ』

 ハロルドはマニュアル車のように、クラッチペダルを踏込んでシフトレバーをニュートラルにすると、フィンガーリフトレバーを引いて再起動。MFDが点灯した。コクピットを閉め、シフトレバーを一速にした。

「いいぞヨハン、頼む」

『了解、ビッグマザー押し上げろ!』

 後ろからビッグマザーに優しく押されながら発進させてぬかるみから脱出し、そのまま姫様の所へ向かうとすぐに追いつき、ハンドブレーキをかけてシフトレバーをニュートラルにし、エンジンを切らずに降りた。

 丁度折りよく姫様はリリアから降りてきて、カミルも降りてきた。

 姫様は大きめのズボンをベルトで締め、ダボダボの上着を着ていてイヴァーナは驚愕してワナワナと震える。

「姫様! その格好は!?」

「ああ……着替えがなかったから、カミル君のを借りたの」

 ヘルガは照れ臭そうに言うと、ハロルドは安堵の息を漏らした。

「姫様、よくぞご無事で」

「ハロルド、怪我は大丈夫?」

「はい、まだ高速戦闘の時には痛みますが」

 応急処置で昨日の盗賊団大部隊にシールドライガー四機と交戦した時、戦闘に夢中で気付かなかったが傷が開いた、その後はゆっくり手厚く縫合して塞いだが。

 するとヨハンもビッグマザーから降りてきた。

「姫様、ご無事で何よりです」

「ヨハンも心配かけてごめんなさい」

 三獣士全員と再会してホッとしたのか、姫様は安堵の笑みを浮かべるとカミルはちょっと気まずそうな表情だったがハロルドは安堵の笑みを浮かべて礼を言う。

「カミル君、姫様を守ってくれて本当にありがとう。感謝する」

「い、いいえ……僕はその、特に守るようなことはしてないです」

 カミルは恥かしげに頬を赤らめながら言うと、イヴァーナは微笑んでさすがに労いの言葉はかけるだろうとハロルドは思っていた。

「カミル君、昨日から姫様を守ってくれたことには感謝します。しかし、姫様によからぬことをしてはいませんよね?」

 怖い微笑みでカミルを威圧して目の前まで迫り、カミルは一歩後ずさる。ハロルドは自分の甘さを痛感しながらフォローする。

「イヴァーナ、カミル君は危険を顧みず姫様を助け、守ってくれた。もういいだろ?」

「しかしハロルド、姫様の格好を見なさい! カミル君は年頃の女の子に自分の服を着せた、これはもう破廉恥です!」

 イヴァーナは断言するのを強調するかのように指を差すと、姫様は間に入った。

「待ってイヴァーナ! カミル君は私に悪いことしてないわ! むしろ……美味しい食事を振舞ってくれて、山頂の綺麗な花畑に連れて行ってくれたし、美しい星空を一緒に見上げた。守るだけでじゃなく、いろんなことを教えてくれたの!」

 ヘルガは袖に隠れた手を胸に当ててイヴァーナに臆することなく睨む、沈黙が続くとイヴァーナは溜息吐いて両手を挙げる。降参の合図だ、イヴァーナが姫様の我侭を仕方なくだが聞き入れた合図で、ヘルガはホッと安堵したがイヴァーナは何気なく訊いた。

「全く……姫様、どうして衣服を汚したのですか?」

「濡らしちゃったのよ、リリアが野良ゾイドを追い立てたから……」

「カミル君と一緒に濡れたのね? そのあとはどうやって暖を取りました?」

「えっ?」

 姫様は平静を装ってるが勘の鋭い人間には明らかに動揺してると気付くだろう、イヴァーナはそれを見逃さずハロルドは安堵した自分の甘さを再度痛感する。

「姫様、隠し事をしなくてもこのイヴァーナは全てお見通しです。姫様が喋らなくても、私がカミル君に問い詰めればいいだけですから」

「カミル君は関係ないわ、あったとしても私の責任よ! どうしてそこまで訊くの!?」

 姫様は首を横に振りながら詰め寄り、イヴァーナは動じる様子もなく冷淡な口調で正論を振りかざす。

「あなたがアーカディア王国の王女である以上、私の任務は姫様が王女としてふさわしい人間形成です。あなたにはアーカディアの未来を背負い、その使命を全うする責任と義務があることを、いつになったら自覚されるのですか?」

 イヴァーナの言う通りだ。姫様はアーカディア王家に生まれたからにはアーカディア王国の将来を背負い、支え、様々な面で国を守る宿命を生涯背負う、だが背負う方はどう考えてるんだろう? 

 現国王にも王妃とは別に若い頃、極東連邦の東亜国にいる女性と秘密の遠距離恋愛をした。それで生まれたのが姫様だ、王妃は表面上は普通に接してるが本心では疎ましく思っている。

 姫様は俯いて呟いた。

「なら……もう……いらない……わよ」

「なんです? ハッキリ言ってください」

 イヴァーナは一切の妥協を許さない厳格な教師の眼差しで言う、姫様は顔を上げてヒステリックに振舞った。

「もういらないわ! あなたや宿命に縛られて生きるくらいなら、王女の地位なんてもう――」

 火薬が弾けたかのような乾いた音が響く、冷酷なまでに無表情のイヴァーナは予備動作なしで姫様の頬を手加減なしで平手打ちした。

「それ以上言うのなら私も容赦しません……そのような言葉を口にすることを、絶対に許しません」

 姫様は屈する様子もなく、親の仇を見るような敵意を剥き出しにした表情で一睨みすると、何も言わずイヴァーナの制止を振り切って逃げるかのように走り出す。

「待ちなさい! 逃げるのですか!? あなたのやるべきことから!! 多くのアーカディア国民の命を救うという使命から逃げるのですか!?」

「待てイヴァーナ! ヨハン、カミル君と姫様を頼む」

 ハロルドは追いかけようとするイヴァーナを止めて、ヨハンとアイコンタクトする。

「わかった任せろ」

 ヨハンは追いかける。ハロルドは追おうとするイヴァーナの肩に右手を乗せると、反射的にイヴァーナは振り向いてハロルドの手首を掴んで技をかけようとするが、読んでいたハロルドは逆に関節技で拘束する。

「放しなさいハロルド!! わかってるの!?」

「わかってる。こういう時はヨハンが適任だ……それに、姫様はもう……いつまでも僕たちに頼りっきりの女の子ではない。わかるか?」

「わかってます。けど……姫様が姫様であるためには知らなくていいことも沢山あるんです、大事な時期に異性を知ることは特に!」

「姫様は王女である以上に人間だ。多感な思春期の少女は迷宮よりも複雑でガラス細工のように繊細だ。今のままでは重圧に精神を押し潰されて人間らしさを失う! 姫様は必死でそれを耐え抜こうとしてる」

「ハロルド、それより……あなたはどうしてあの少年を信頼してるのですか?」

「カミル君のことか、彼を一目見たとき……自分でもわからない何かを感じた」

 ハロルドは断言して拘束を解いた。イヴァーナは溜息吐いて心を奥底を覗くかのような眼差しで訊いた。

「どういうことか、説明してもらえますか?」

「いいだろう、姫様が戻ってくるまで……昔話でもしよう」

 ハロルドはポケットからドライシガーを取り出した。

 

 

 針葉樹林の奥に走って逃げるヘルガにカミルは追いかける、どんな言葉をかけたらいいのかわからない。だが一人で二〇キロ四方人のいない林や山の中を歩くのは危険だ、林を抜けるとそこは中腹に突き出た崖だ。

 ヘルガはそこで立ち止まる。カミルはゆっくり歩み寄って声をかけようとした時、ヘルガは思いっきり鼻から息を吸い込んで深呼吸するのかと思った瞬間。

 

「うああああああああああああああーっ!!」

 

 大型の野生ゾイドがカルデラ全土に声を響かせんばかりに叫ぶと、両手を両膝に置いて前屈みになり、カミルは右手を遠慮がちに伸ばす。

「ヘルガ……その」

「ウザい……」

 ヘルガが呟き、カミルは伸ばした手をピタリと止める。

「あああああああもう!! ウザい……うるさい! 鬱陶しい!! なんなのよイヴァーナは! 男の子と一緒にいたくらいで何ムキになってるのよ!! それとも何!? 自分が青春小説のような学生時代を送れなかったからって嫉妬してるってわけ!! いつもそうよ!! アーカナの王立図書館に出かければ誰も近づかないように睨み回すし! 旅に出ればいつもイヴァーナがついてきて横から口を出す! 家庭教師とか護衛兼教育係の範疇を超えてるわ!!」

 今までずっと溜めていたのか、不満を吐き出し、時には暴言をも交えるとヘルガは振り向いて訊いた。

「――カミル君、あなたの学校にもいるでしょう!? 規則とか生活態度とか、とにかく口うるさくて束縛してくる先生!!」

「う、うん……いるいる」

「想像してみて! その先生がシャワーとトイレの時以外は四六時中自分の傍にいて座る時の動作や作法一つにも口を出してくるのよ!」

「……そりゃあ嫌気が刺すね」

 カミルは堅苦しく自由のない生活を想像し、表情を引き攣らせる。パタゴニアの全寮制の学校もこんな生活なのかな? ヘルガはカミルの瞳を真っ直ぐ見つめて言い放つ。

「そうでしょ! もう嫌になってくるわ!!」

 それはまるで自分の溜まりに溜まった不満を聞いて欲しいと訴えてる眼差しで、カミルは安堵して思わず微笑む。

「ぷっ! ふふふふふ」

「笑わないでよカミル君!」

「ごめんごめんヘルガ、落ち込んでるのかと思ってたよ」

「落ち込むくらいなら……立ち向かうわ」

 強い意志を秘めた眼差し、僕はこんなに強い女の子を好きになったんだ。

「それなら、一度本人に言いたいことを言ってみたら? 案外たじろぐかも?」

「うん、わかった! やってみるわ!」

 ヘルガは自信に満ちた精悍な微笑みと眼差しを見せて肯き、一緒に来た道を戻る。カミルもその後に続くが、そこで気付いた。

 ヨハンが木に隠れて聞いていた事にヘルガは驚いた。

「ヨハン! 今まで聞いてたの?」

「も、申し訳ありません姫様! この山道は一人で歩くのは危険でしたので……しかしイヴァーナへの不満、私も同感です!」

 ヨハンは背筋を伸ばして言うと、ヘルガは微笑んで首を横に振った。

「いいのよ。どんな時もヨハンは味方してくれる、そう言うところ好きよ」

 それでカミルは複雑な気分になる。三獣士として信頼してるという意味でなのかもしれないけど、好きな女の子が自分以外の人を好きって言うと、なんだか悔しい気持ちが芽生えてしまうのだ。



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第五話、その2

 話し終えたハロルドはドライシガーも半分吸った、話しを聞かせたイヴァーナは動じる様子もない。

「そんな過去があったのですね」

 ただその一言だった。大袈裟だが、感受性の強い多感な姫様だったらきっと涙を流してたのかもしれない。

「そういうことだ……姫様やカミル君には、そうなって欲しくない」

 すると林の奥から姫様を連れたカミルとヨハンが戻ってきた、すると何を思ったのか姫様はリリアに乗り、カミルもシルヴィアのコクピットに入った。

『イヴァーナ、あなたが容赦しないなら! 私も容赦しないわ!』

「姫様! なんの真似ですか!? 頭を冷やしたのかと思えば!」

 イヴァーナは毅然とした態度で振舞う。

『私がそう簡単に頭冷やして反省すると思った? 引っ叩けば言うことを聞くとでも思ってるの!?』

「ひ、姫様何を! 言いたいことがあるのなら、降りて直接言ってください!」

『嫌よ! 直接言っても、どうせまた引っ叩くでしょ! 悔しかったらイヴァーナもマルゴに乗りなさい!』

 ハロルドはもう笑うしかなかった。あんな露骨にイヴァーナに反抗するのは初めてでもう堪え切れなかった。

「ハロルド、何を笑ってるの!」

「イヴァーナ、わからないのか? くくくくく……はははははははっ! ありゃ反抗期だぞ!」

「姫様が反抗期だなんて、そんな――」

「わからないのか? 姫様はもう一五歳だ。いつまでもお前や親の言うことを聞くような子じゃない。むしろ来ないから心配してた……姫様、この際日頃の鬱憤をぶつけても構いません! そろそろ来る頃かと思っていましたよ!」

 ハロルドはこれほど愉快な気分は久し振りだった。

『聞いた? イヴァーナ! この際だから言わせてもらうけど……今の私……イヴァーナのことが大っ嫌いよ!!』

「なあっ! 姫様何を言ってるのです! 私は姫様のために時には――」

『そういうところが嫌いなのよ! 四六時中見張って何かあれば横からしゃしゃり出て口出す! この際だから言うわ! この旅が始まって以来昨日は一番楽しかったわ! カミル君と一緒にソーア山に連れて行ってくれたし、ソーアソウの花冠を私のために作ってくれたわ!』

 姫様が言い出すとイヴァーナは目を見開き、明らかに動揺していた。花冠を作れるなんて器用なんだなとハロルドは感心する。

『私のためにカモを獲り、山菜や豆を集め、美味しい料理を振舞ってくれた! 一緒に温かい温泉に入って綺麗な星空を見上げ、一緒にテントで寝たわ! 昨日見たことや学んだこと、アーカディアでは絶対に得られない大切な思い出よ!』

「ひ、姫様がそんな……カミル君と……私の知ってる姫様は……いったいどこに」

 イヴァーナは怒るのを通り越して動揺を露にして取り乱すと、ヨハンが諭す。

「いい加減認めたらどうだイヴァーナ、姫様はもう一五だ。いつまでもお前に頼りっきりで素直に言うことを聞く幼い女の子ではない……姫様は王女である以前に、多感な時期にいるティーンエイジャーだ……我々三獣士と言えど過干渉すればそれこそ信頼を失う。それに……この旅はアーカディアの未来がかかってると同時に、姫様の視野を広げて成長させるのに絶好の機会だと思う」

「……カミル君のこと、決して認めたわけじゃありませんからね……姫様、もう昨日のことはお訊きしません。感情的になって引っ叩いてしまい、申し訳ありませんでした」

 イヴァーナは非を認めると姫様もなんとなく安堵した口調になる。

『私を引っ叩いたことはもういいわ。その代わり……カミル君のこと、もう悪く言ったりするのはもうやめて』

「……承知しました」

 イヴァーナは苦渋の決断を下した表情で、苦い物を吐き出すように言う。ハロルドはホッと安堵し、ドライシガーを携帯灰皿に入れた。

「それじゃあ姫様、私たちも行きましょう……まだ安心できません」

 合流して一悶着あったがまだ安心できない、奴らがすぐそこまで来てるかもしれないのだ。ガーディアンフォースが来るまで、奴らから振り切らないといけないのだ。

 

 イヴァーナがモーテルから持ってきた姫様の持ち物を返却すると、姫様はすぐに着替えて、全員がコクピットに入り出発する。行き先はビース・マゼラン国境警備隊基地で、予定通りならもうすぐガーディアンフォースのホエールカイザーが来る頃だ。

 だがもし敵に遭遇したら無線で救援を呼びたいが、カルデラ内の通信は劣悪な環境だ。

 惑星Zi特有の磁場と強い磁気を含んだ溶岩のおかげで、比較的近い距離は出来ても遠い距離となると特別な機材が必要になる。

 しかも国境警備隊基地は外輪山外側の麓にあるのだ。

 後は奴らを振り切って基地に辿り着けば盗賊兼PMCを一掃してくれる。

 ハロルドは先行して斥候のため、ソーア山麓の温泉街を偵察していた。

 この辺りは火砕流と溶岩流で埋もれ、ゴツゴツして冷え固まった溶岩で足場は悪く、二〇年前の大噴火で飛んできた噴石や岩がそこらじゅうに転がっていた。センサーやレーダーだけでなく目視で周囲を見回すと、レーダーに反応が出た瞬間ロックオン警報が鳴り響いた。

 三時方向からでハロルドはすぐにアリエル二世を急加速させ、回避行動を行うと後ろで砲弾が着弾した。更に別方向――九時の方向からもロックオン警報が鳴り響き、加速するが間に合わないとEシールドを展開するとビーム掃射が飛んできた。

 この掃射、連射速度からしてビームガトリングか! ハロルドは回避しながら掃射が止まった瞬間、飛んできた方向に三連衝撃砲を撃とうと敵の姿を確認した。そいつは冷え固まった溶岩地帯の斜面の上にいて、赤いボディ一本角のゾイドで大型ビームガトリング砲を背負っている。

 レッドホーンガトリングカスタム(GC)だ! 性能的にはガイロス帝国のダークホーン*1と変わりないが、わざわざ赤にしてるということは相手はゼネバス人か! ハロルドは攻撃しようとすると後方から敵機、時速三〇〇キロ以上で接近してくる敵機を咄嗟にアリエル二世を左にずらした。

 掃射を交わして通過した敵機に舌打ちした、クソッ! ミサイルは昨日の戦闘で使い切ってしまった! 敵はサイカーチス*2だった。

『報告で聞いた通り、さすがはマリーン・レオマスターだ』

 敵は大胆にもモニター通信してくる、ゼネバス訛りの共通言語?

「ゼネバス人とはな、こんな所じゃダークホーンの方がいいと思うぞ」

 パイロットは三白眼の痩せた顔立ちの男だった。

『ご心配なく、そのためにもう一人連れてきただから……行くぞドルトア、あのシールドライガーを仕留めるぞ!』

 レッドホーンGCのパイロットはサイカーチスに乗ってるドルトアというパイロットに指示を出すと、サイカーチスは再び斜め後方から突っ込んでくる。ハロルドは回避行動に入りながら通信した。

「こちらハロルド! 敵のレッドホーンGCとサイカーチスに遭遇! 交戦を開始する!」

 

 

 通信を聞いた一行に緊張が走る、斥候に向かったハロルドが敵と接触したのだ。こうなった場合の手順はあらかじめ決めてる、迂回して予備のルートに変更するが当然その先には敵が待ち構えてる可能性もある。

 間を置かずにイヴァーナがモニター通信で指示を出す。

『みんな聞きましたね! 予定通りルートを変更するわ、ヨハン! 前衛お願い!』

「了解した」

 ヨハンはFCSを操作し、各種兵装の残弾を再度チェックする。一〇五ミリ一七連突撃砲の残弾数を見るとメガロマックス用のホーミング弾はあと二回しか撃てない、ミサイルはまだあるが、どれくらいの敵が残存してるかわからない以上無駄撃ちは厳禁だ。

 それ以前にハロルドが心配だ。いくらレオマスターとはいえ、対地攻撃に優れたサイカーチスと重装甲と攻撃力を兼ね備えたレッドーホーン……しかも大型のビームガトリング砲搭載型だ。

 DCS-Jならビームキャノンによる火力、ブレードライガーなら機動性と運動性で翻弄してレーザーブレードで倒せるがノーマルのシールドライガーでは決定打に欠ける。俺だったらどうするか? だがそれを考えるのは任務が終わってからでも遅くない、今はできる限り早くここを離れてガーディアンフォースに助けを求めるだけだ。

 敵は少数……もし五機を仕留めるならそれなりの部隊を送り込むか? だが昨日の戦闘で相当数の戦力を消耗してるとすればどうする?

 ヨハンは警戒しながらカルデラの農村地帯を歩く、警報が鳴り響きレーダーを見ると正面に一機のゾイドがレーダー照射、次の瞬間には警報がなる。

「ロックオンされた! 全機散開しろ!」

 ヨハンが叫ぶと今度は接近警報、左から放棄された穀物倉庫の壁をぶち破って現れたのはセイバータイガー*3でそのまま跳びかかる、待ち伏せアンブッシュしてたのか!

 セイバータイガーが前足で一撃を与える間際、咄嗟に受け流してビッグマザーのダメージを最小限に抑え、イヴァーナがマルゴのショートレールガンを撃った。命中しなかったが追い討ちをやめて回避する。

『ヨハン、大丈夫ですか!』

「すまんイヴァーナ、敵はセイバータイガーにレッドホーンだ……みんな奴の狙いは恐らくは戦力の分散だ!」

 無線で後続機に伝えると、敵も傍受してたのかどちらかの敵パイロットの声が響いた。

『その通りだ、どこに逃げても仲間が待ち伏せしてるぜ……いくら腕が良くても、囲まれれば逃れられまい』

「目的はなんだ? 姫様の身柄か?」

 ヨハンが訊くともう一人の敵パイロットが答える。

『その通り、その姫様がアーカディア王国王室の者なら……今アーカナにいるセリーナ王女は影武者だということを全世界に暴露する……他の王族にも影武者疑惑が浮上してアーカディアは国際的な信用を失うことになるな』

『それはどうかしら? 今私たちが連れている姫様の方が……実は影武者だったら? あなたたちはアーカディア人の少女を誘拐したことで、盗賊からテロ組織に格上げされてガーディアンフォースやASISに地の果てまで命を狙われ続けるわ』

 イヴァーナも揺さ振りかけるが、レッドホーンのパイロットは動じる様子はない。

「どうかな? お姫様以外全員に口を塞いでもらえばいいだけの話しだ!」

 レッドホーンが砲撃してくる、ビッグマザーは回避行動を取って砲弾の破片を浴びながら直撃しないことを祈り、三連衝撃砲を撃ちながら叫ぶ。

「姫様! 私のビッグマザーでは逃げ切れません! ここに踏みとどまって敵を押さえます!」

『でも、ヨハン! あなた一人では――』

 姫様はモニター通信を通して首を横に振ると、イヴァーナが割って入る。

『私も一緒に戦います、ヨハン一人では心配ですからね。それにマルゴは守りは固いですけど足は遅い、カミル君!! 何が何でも、絶対姫様を守り抜きなさい!!』

『勿論です、行こうヘルガ! 僕たちならセイバータイガーを振り切れる!』

『で、でもカミル君……せっかく再会できたのに』

 姫様が弱気になると、イヴァーナが一喝する。

『お行きなさい! その少年とともに、アーカディア王国の未来のために!』

『ヘルガ! 急ごう! 最短ルートを知ってる!』

 カミルの迷いのない声がレシーバーに響く。本当に不思議な子だ、出会って二週間も経ってないのに、心の底から彼なら姫様のことを任せてもいいと思う自分がいる。もしかするとカミル君と姫様は運命の出会い? だとすれば羨ましい限りだ。

 ヨハンはほんの一瞬だけ微笑むと、目の前にいるセイバータイガーとレッドホーンに集中させた。

「行くぞビッグマザー! イヴァーナ、やられるなよ!」

『勿論、わかってます! こんな奴らにやられる三獣士じゃありません!』

 イヴァーナはマルゴを急発進させた。

 

 

 サイモンはコクピット内で無人航空機(UAV)型ブロラバーンのオペレーターからの報告を待ってると、予定通り無線が入った。

『社長、予定通りです。先ほどドルトアとシュペールがシールドライガーと交戦を開始、間を置かずにセイバータイガーに乗ったタカシとレッドホーンに乗ったユウスケが、グスタフMRAPとディバイソンとの交戦を開始しました』

「了解、それで? あのケーニッヒウルフのお姫様とライガーゼロの少年は?」

『はい、現在この二機はソーアシティ方面に向かってます。市街地を抜けて切れ目となってるカルデラの出入口へと向かうつもりでしょう……向かう先は恐らくビース共和国との国境警備隊基地です、先ほど国境警備隊の無線を傍受したのですが……ガーディアンフォースがこちらに向かっています、タイムリミットは早くて二時間ですね』

「わかった、お前たちはいつでも撤退できるよう準備しろ。お姫様を捕まえて人質にすれば向こうも簡単には動けまい、アーカディア政府も慎重にならざるを得ないだろう。そろそろ俺も出るぜ!」

『わかりました、健闘を祈ります』

「ありがとう、これが成功したら今夜はハメを外して飲むぞ!」

 サイモンはコクピットの計器、スイッチ類のチェックを再度行うとスリープモードを解除するため操縦桿を握って少し動かす、その巨体は目覚めて赤く目を光らせた。

「さあ行くぜ、今から行けば……会敵予定地点はソーア市中心部だ!」

 その姿は命を宿した機械仕掛けの巨像そのもので二六五トンの巨体を支える二本足は大地を一歩一歩踏み締めるごとに、地響きを鳴らして静かな空気を震えさせ、木に止まっていた鳥は一斉に飛び立ち、野生野良を問わずその姿を見たゾイドたちは怯え、竦み、逃げ出す。

 強靭な両腕はどんな俊足を誇る高速ゾイドも決して逃がさず、鋭い爪は大抵の装甲を強引に引き裂き、捕まれれば恐るべき握力で握り潰される運命にある。

 キャノピー越しに光る目は神話の怪物のように睨まれれば石のように硬直させ、萎縮させ、震え上がらせる、そして開けば全てを飲み込みかねない巨大な口は長く、太く、鋭い牙がズラリと綺麗に並び、餌食になれば陸上ゾイドでは惑星Zi最強クラスと言われている顎に噛み砕かれる。

 そして背中にはディプレイとも象徴とも言われる背鰭が並び、身長にも匹敵する長い尻尾は振り払うだけで同クラスのゾイドに致命傷を与えるほどのパワーを秘めている。

 サイモンの乗るゾイドは獲物を求めてゆっくりと進撃開始。ロールアウト時にはなかったが今ではすっかり標準装備となった二門の大型長距離砲を携えて。

*1
レッドホーンの大型ガトリング砲搭載型

*2
帝国製カブトムシ型ゾイドで現実の戦闘ヘリに当たる飛行ゾイド

*3
虎型高速機動ゾイドでシールドライガーのライバル



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第五話、その3

 カミルはソーアシティに入って中心部を通過し、険しい外輪山を越えれば一気に時間が短縮できる。あの斜面は少々危険だが高速機動ゾイドなら一気に駆け上がれるかもしれないと、カミルは自動操縦モードにしてMFDのタッチパネルを操作して外輪山の最短ルートをシルヴィアに伝える。

「シルヴィア、ちょっと険しい道になるけど大丈夫?」

 カミルが訊くとシルヴィアは自信ありげに唸る、それなら大丈夫だろうと少し安堵するが妙に胸騒ぎがする。さっきから野良野生問わず、縄張り意識の強いゾイドたちとすれ違うがみんな自分たちの進行方向とは逆へと全速力で逃げてる。

 ヘルガも気付いてるようだった。

『カミル君、何か様子が変よ!』

「うん、僕もこんなことは初めてだ!」

 この辺りの頂点捕食者である野生コマンドウルフの群れとすれ違う、彼らすら逃げ出す程の何かが? 二〇年前のソーア山大噴火を扱ったドキュメンタリー番組で噴火前、ゾイドたちが一斉に逃げ出す資料映像を見たことあるが、今の光景はまさにそのままだ。

 このソーア山に何かが起きている、カミルとシルヴィアも神経をピリピリさせるが速度は落とさない。できれば遭遇しないことを祈ったが、無駄だった。

「うわっ!」

 シルヴィアは突然急停止し、カミルの体にシートベルトが食い込む。リリアも急停止して、威嚇する体勢になりながらデュアルスナイパーライフルを展開する。

『カミル君、何かが来るわ!』

「ああ、シルヴィアもピリピリしてる」

 カミルはFCSを操作して安全装置を解除する。足音が一歩一歩、重厚に響いて確実に近づいてくる。

 

 姿を現したのは共和国軍の象徴とも言える巨大ゾイド、ゴジュラスだった。

 

 しかも今ではすっかり標準装備となった、ロングレンジバスターキャノン――通称:ゴジュラスキャノン二門と左手に近接戦闘用の盾を兼ねた四連装ショックカノン付きのガナータイプだ! 

「ゴジュラス! あんなゾイドがどうしてここに?」

『やぁ少年、君のことは町長さんから聞いているよ、まさか本当に手に入れるとは……私の名はサイモンだ。よろしくカミル・トレンメル君』

 サイモンという浅黒い肌にサングラスの男は余裕の笑みを見せ、ヘリック訛りの共通言語で喋りながらモニター通信で呼びかけてきた。

「目的はなんだ! ヘルガは絶対に渡さないぞ!」

『勿論わかってるさカミル君……君やそのお姫様のこと、準備の合間に一昨日の夜からずっとUAVで監視させてもらったよ。大自然の中での素晴らしいロマンスだったね、見てるこっちが羨ましくなるくらいだよ』

 ずっと上空から見られてたという訳か、カミルは操縦桿を握り締めて歯をギリギリと噛み締める。一歩一歩近づいてくるゴジュラスにシルヴィアは威嚇すると、ゴジュラスは前傾姿勢になって猛々しく吠える。

『失礼した、こいつは気が短くてね……我慢をよく知らないんだ』

 サイモンは今から戦う相手にも関わらず、非礼を詫びる。

 カルデラのゾイドたちが我先にと逃げ出す理由をカミルを身をもって感じていた。

 ゴジュラスの恐ろしさは巨体によるパワーでも、鋭く巨大な爪や牙でも、長く頑丈な尻尾でもない。

 どんな奴だろうと容赦なく全力で引き裂き、噛み砕き、薙ぎ倒す残虐性だ。

『さて少年、おとなしくそのお姫様を渡せば……身柄は保障しよう、君のお母さんが作ったトウモロコシは美味かった。それに幼い妹には心優しい兄が必要だ』

「僕の家族を盾にするつもりか!」

『そうじゃない、セブタウンの人たちはみんな親切でいい人たちだ。守らなければならないし、私も部下も養わないといけない……だからカミル君、これ以上親や妹、友人たちに迷惑をかけて悲しませるつもりかい?』

 サイモンの問いかけにカミルは操縦桿を握り締める。ゴジュラスはカミルの前に堂々と仁王立ちして見下ろす。正直言って怖い、ヘルガを渡せば助けてくれるかもしれない、でも……ここで屈したら僕は。

 神経が凍り付き、四肢が震え、体中が怖いと訴えてる。

 首を縦に振ればいいだけじゃないか、そうすれば生きて村に帰れる。カミルに迷いがジワジワと侵食し、それを必死に振り払おうと葛藤してる時、リリアが右隣に並ぶ。

『カミル君、その人の言う通りに従って、私は大丈夫だから』

「ヘルガ! 何を言ってるんだ! 何されるかわからないんだぞ!」

『ええ、私が……普通の女の子ならね』

 ヘルガは目を閉じながら首を横に振った。そしてディープスカイブルーの瞳を開いて優しげな眼差しから、高貴な王女の目に変わる。

『カミル君の身柄は保障して下さい! よろしいですね?』

「従ってくれるのかお姫様? それとも君は影武者なのか?」

『少なくとも、手荒な扱いをすればASISやアーカディアの民が黙っていません……何故なら私はセリーナ・ソラノ・シュタウフェンベルク・フォン・アーカディアの半身であり表裏一体の存在、ヘルガ・カミシロ・シュティーア! あの子が死ねば私は死ぬ、そして私が死ねばあの子も死ぬ!』

『影武者でも双子でもなさそうだな、まあいい後でアーカディア王室や政府に聞けばいいだけの話しだ』

 サイモンは首を傾げたが、すぐに勝利を確信したような笑みになる。ヘルガは覚悟の中に悲しみを秘めた微笑みで最後の挨拶をする。

『カミル君、今までありがとう。あなたと過ごした日々を忘れないわ……元気でね』

 リリアが前に出ようと前足を上げる、その瞬間が限りなく長く引き伸ばされた。

 ヘルガが行ってしまう、もう二度と手の届かない所に! 初めて好きになった女の子をこんな形で失うくらいなら! カミルは叫んだ。

「ヘルガアアアァァァーッ!!」

 カミルに応えるかのようにシルヴィアはリリアの進路を塞いだ。ヘルガは困惑した表情になって。

『カミル君なんのつもり!? 相手は凶悪なゴジュラスにベテランよ!! この前ゾイドに乗り始めたカミル君に叶うはずないわ!!』

「わかってるよ、ヘルガの言う通り僕は弱い……だけど、ハロルドさんはこんな僕に言ったんだヘルガを守ってくれって……それに、ここで逃げたら僕は……俺は一生バン・フライハイトに顔向けできない!!」

 俺は、バン・フライハイトのような立派なゾイド乗りになるんだ! バンだってあの強大なデスザウラーを二度も倒したんだ、みんなと力を合わせて! だから俺もヘルガと一緒にこいつを倒す。

「ヘルガ、一緒に戦おう!」

 カミルはモニター越しに見つめて言うと、ヘルガは思わぬ言葉に驚きを隠せない表情になったが、次の瞬間には前向きな覚悟を決めた笑みになった。

『うん! サイモンさん、申し訳ありませんけど……この私をコクピットから引きずり出して生け捕りにしてみなさい!』

『ははははははっはははっ!! そう来たか、面白い! 面白いぞカミル少年、覚悟ができてるなら、さあ……行くぞ!』

 サイモンはまるでこの状況を楽しんでるかのように高笑いした。ゴジュラスは戦闘体勢に入った途端、左腕の四連装ショックカノンが動いてを撃った。

 カミルはホバーボードで鍛えた反射神経で動きを察知して回避、ゼロコンマ数秒前にいた場所に着弾。その動きを呼んでたかのようにゴジュラスは両脇腹の二連想七〇ミリ重機関砲を撃ってくるがビルを盾に一時退避すると、モニター通信の回線を変えてサイモンからは聞えないようにする。

『カミル君、あいつは足が遅い上に小回りが利かない! 死角から回り込むわ!』

「わかった! シルヴィア……あいつを引きつけるぞ!」

 ヘルガの提案に、カミルはシルヴィアを幹線道路に出してわざと姿を晒す。

 四連装ショックカノンと七〇ミリ重機関砲の掃射をかわし、二〇八ミリショックカノンで牽制してソーアシティ中心街を瓦礫の山に変えていく。

 その間にヘルガが手痛い一撃を加えてくれるはずだ。

 

 

 ヘルガはカミルが必死で回避しながら注意を引いてる間、背後から狙い撃つ。背中のデュアルスナイパーライフルは長距離攻撃用だ、近距離戦では不利だがその分威力は絶大で直撃すれば致命傷は避けられない。

 リリアをゴジュラスの背後に回りこませると折り畳んでいたライフルを展開、ヘッドギアを被ってロックオン、MFDに表示されたライフルの照準を頼りに狙いを定める。

 狙いは首と背中の背鰭の間、ここを破壊されれば人間で言うなら脊髄損傷と同じ状態になる。ヘルガは引き金を引こうとした瞬間、ゴジュラスの尻尾先の銃座と根元にあるビーム砲が一斉に動くとヘルガは攻撃を一時中止。

 マルチディスチャージャーを前方に向けて煙幕とチャフを噴射、同時にライフルを折り畳んでヘッドギアを脱ぎながら避退すると、ゴジュラスはこっちを向いて象徴的なゴジュラスキャノンが動いて発砲! 激しい爆炎を噴き、砲声が響いた。

「!!」

 直撃はしなかったが、砲弾はリリアを左右から挟むかのようにして着弾。両サイドから体がバラバラになりそうな衝撃と朽ち果てた建物の、外装内装問わずガラス材、木材、鉄鋼材等の建材が破片となって襲いかかり、リリアを剃刀のように薄い無数の切り傷だらけにする。

『ヘルガ!』

 カミルの悲痛な悲鳴が響いた。各種警報が鳴り、MFDが損傷箇所を表示する。

 シルヴィアはゴジュラスに真っ直ぐ向かってくる、カミル君駄目! 突っ込んじゃ――声が出ない程の鈍い激痛だった。シルヴィアが跳びかかって背後から襲おうとすると、ゴジュラスは後ろに目がついてるかのように前傾姿勢になった。

 後継機のゴジュラスギガのような姿勢になるとシルヴィアは意図せず跳び越え、道路に着地してスライティングターンした。だがゴジュラスは前傾のままロケットブースターを点火してシルヴィアに突進! 二六五トンの巨体が正面からシルヴィアを突き飛ばした。

『うわあああああああっ!!』

「カミル君!!」

 ヘルガは絞り出すように叫ぶ、突き飛ばされたシルヴィアは数十メートル飛ばされて地面に叩きつけられた。

「カミル君!! カミル君!! しっかりして!!」

『いってぇ……ホバーボードで転んだ時より痛い……』

 無事なようだがぐっと痛みを堪えてるようだ。迫るゴジュラス、どうする? そう思ってた時カミルは提案する。

『ヘルガ、あの大きなホテルビル……崩せる?』

「それって、あのエレガンスホテルビル?」

 ヘルガの視線の先には長方形の大きなホテルだ。世界的に有名なエレガンスグループのだから一目でわかった。錆びつき、朽ち果て、植物に侵食されてる、崩れやすくなってるのかもしれない。

『うん、僕が引き付けるからヘルガはビルの中層階辺りをミサイルで攻撃して!』

「わかったわ!」

 ヘルガは肯くと二手に別れ、リリアを射撃ポジションまで移動させる。その間にカミルはショックカノンで牽制しながら、ゴジュラスをホテルビル前まで誘導する。でもどうやってミサイルを? いいえ、ここはカミル君を信じよう。

 ヘルガは両前足のミサイルポッドを展開させる、シルヴィアはゴジュラスの回りを走り回り、ホテル前の広場まで誘導するとカミルは叫んだ。

『今だ! フレアをロックしろ!』

 シルヴィアはホテルの外壁を走りながらフレアをばら撒いた、本来は飛来するミサイルをかわすための防御兵装でFCSはばら撒かれ、ゆっくり降下するフレアをロックオンして赤外線誘導ミサイルを一〇発を一斉発射した。

 気付いたゴジュラスはリリアの方に向いてゴジュラスキャノンを撃とうとするが、一〇発のうち二発がゴジュラスに命中すると残りはホテルの外壁に着弾。脆くなったホテルビルは最初、ミシミシと小さい悲鳴が重なってやがて上層階が自重に耐えられずに倒れるように轟音と辺りを覆いつくすほどの砂煙を上げて崩れ落ちた。

 ゴジュラスは逃げようするが手遅れだった。

 ふとヘルガはイヴァーナから習った歴史の授業を思い出す。生まれる前、ニューヘリックシティの世界貿易センタービルに飛行ゾイドが突っ込んだという自爆テロ事件だ。その翌年から西エウロペの小国のテロ組織をあぶり出すための戦争が始まり、対テロ戦争の時代が始まった。

 カミルは逃げ切ったらしく、自分の所にまで駆け寄ってくる。

『よし! あいつは倒壊に巻き込まれた! あれなら助からない!』

「やったかしら?」

 ヘルガはヘッドギアを被り、暗視カメラとスコープを作動させズームイン・アウトを繰り返しながら撃破確認を行う。煙の中から二つの目が赤く光った瞬間、ゴジュラスキャノンが火を噴いて砲口と爆炎が煙を吹き飛ばした。

「えっ!?」

 ヘルガが目を見開いた瞬間、砲弾の一発がシルヴィアの真横に着弾、もう一発もリリアの近くで着弾、カミルの悲鳴が生々しく響いた。

『うあああああっ!!』

「ああああっ!!」

 ヘルガはさっきと同じくらいの衝撃でコクピット内が激しく揺さ振られてリリアは右側臥位に転倒する。遠くなった意識を必死で呼び戻し、全身の鈍い激痛に耐えながら、額から流れ出る血を手で拭い各種警報スイッチを切って立ち上がらせると、細かい傷だらけのゴジュラスはボロボロのシルヴィアと対峙していた。

『ヘルガを……絶対に……渡すものか!』

『少年、いい心意気だ。だがそれがいつまで続くかな!』

 サイモンの冷淡な声が聞えるとゴジュラスは跳びかかったシルヴィアを両手で捕まえ、受け止めると地面に振り落とし、足で踏み付け、蹴ったくり、尻尾で叩きつける。

 これじゃ一方的なリンチだ! 大柄な大人が小さな子どもに虐待を加えるかのように叩き付けられ、その度にシルヴィアは悲鳴を上げる。

「やめて……そんなことしたら、カミル君が……カミル君が死んじゃう……お願い、お願いだから! もうやめてええええぇぇぇぇーっ!!」

 ヘルガは泣きじゃくり、取り乱して悲鳴を上げながらライフルを展開して引き金を引くが弾が出ない!

 警報が虚しく鳴り響き、MFDには発射装置故障と表示されるとミサイルに切り替えてゴジュラスにロックオンするが別の警報が鳴り響く。

 ヘルガは構わず発射したが今度は前足の付け根がいくつもの爆発を起こし、コクピットに喧しく警報が鳴り、MFDに前足の付け根が損傷したことを報せる。ミサイルが正常に発射されず、ポッドが爆発したらしい。

 ヘルガはミサイルポッドとライフルを強制排除すると、ゴジュラスは四連装ショックカノンをシルヴィアに向けて止めを刺そうとする。駄目! カミル君!! ヘルガはリリアを全速力で突っ込ませる。

『カミル・トレンメル君、君のような勇敢な少年を……私は生涯忘れない、せめて苦しまず――』

「駄目ええええっ!!」

 ヘルガは滅多に使わない諸刃の剣というべきあの技を発動させ、リリアの牙に電磁エネルギーを集中させて跳びかかった。



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第六話、その1

 第六話、問われる覚悟、その決意

 

 戦闘開始からどれくらい経った? ふとハロルドは肩で呼吸しながらサイカーチスの攻撃をかわす。次の瞬間にはロックオン警報が鳴ってレッドホーンGCのリニアキャノンが飛んでくると、温泉街の旅館という東洋風のホテルを盾にして伏せ、ダメージを最小限にする。

 二対一での戦闘は初めてじゃないがあのサイカーチスがしつこい、逃げ回ってる間や反撃する瞬間に仕掛けてくる。しかも常に背後から正確に、あのレッドホーンGCのサポートに徹していて、決して倒そうとしない。

 それなら、ハロルドはアリエル二世を加速させて溶岩地帯を抜け、平原の方に向けて逃走する。勿論レッドホーンGCの射界には入らない方向だ。

『逃げるつもりか? レオマスターの名が泣くぞ、ドルトア! 追え! 私もすぐに追いつく!』

『了解っす!』

 予想通りサイカーチスが追いかけてくる、現在速度は二四五キロ……二五〇キロ! 最高速度だ。後部カメラの映像が表示されたMFDを見るとサイカーチスはグイグイと距離を縮めていく。

 まだだ、もう少し……もう少し、頑張れアリエル……四肢の関節部分の温度が上昇しイエローゾーンに入って過熱警報がなる、レッドゾーンに入ったら最悪四肢の関節が自壊してクラッシュだ! もうちょっと……今だ!

 ハロルドは渾身の力を込めて両方のスロットルレバーを引いて急ブレーキ! 前に押し出されそうなGに耐えながら背中のAMD二連装二〇ミリビーム砲を展開、オーバーシュートしたサイカーチスに向けて三連衝撃砲と共に発砲。

 ビームの一発が翼を折り、錐揉み降下した。

『うわぁあああああっ!!』

 ドルトアの回復操作をしようとしたようだが間に合わず、高度も低すぎたため一瞬で回転しながら墜落。サイカーチスは爆発炎上。幸いすぐにベイルアウトしたらしく、パラシュートでゆっくり降下してくる。

 あの高度では錐揉みからの回復は間に合わないと判断したんだろう、いい判断だ。ハロルドは反転し、冷却用ラジエーターを展開して四肢の関節部を冷却した。

 

 

 その頃、ヨハンはレッドホーンとセイバータイガーに翻弄されていた。

『オラオラどうした? アーカディア王国三獣士の力はこんなものか?』

 セイバータイガーのパイロットであるタカシが挑発する。

『タカシそろそろ終わりにするぞ、こんな奴らを相手に遊んでる暇はない!』

 レッドホーンに乗ったユウスケは砲撃させまいと、三連装リニアキャノンや地対空ビーム砲を撃ち、ヨハンに向かってくるセイバータイガーを支援。砲弾の雨には直撃さえしなければ多少は耐えられるが、セイバータイガーはヒット&アウェイを仕掛けてきた。

「ぐおわっ!」

『ヨハン! 何をやってるのですか! 見てられませんよ!』

 イヴァーナのマルゴにはもうショートレールガンの弾は残ってない。マルゴことグスタフMRAPは戦闘用ではないし旅の大事な足だ。だが相手してる二機のゾイド、錬度はそれほどではないがそれを連携プレイで見事に補っている。

「イヴァーナ、ショートレールガンの弾がないだろ! それにゾイド戦は得意じゃないはずだ!」

『それでも、できることはあります!』

 するとマルゴは急加速してレッドホーンに向かって突っ込み、ヨハンは制止する。

「イヴァーナよせ! 危険だ!」

 レッドホーンも正面から向かっていく。

『受け止めてやる! うおおおおおっ!!』

 レッドホーンとマルゴはぶつかり合う、通常ならパワーも重量もレッドホーンの方が上だがマルゴのエンジンがけたたましく吠える。

『な、なんだこいつ! このグスタフ、パワーがすげえ! タカシ!』

 そうだマルゴのエンジンは通常のものより強力なものを積んでいる。マルゴと押し合いになったユウスケはタカシに助けを求めると、セイバータイガーが前足で引き裂いて牙で装甲を破ろうとしてるが苦戦してる。

『今です! ヨハン!』

『撃てるか!? あんたの仲間も巻き添えだぞ!!』

 イヴァーナの叫びにユウスケは遮るが、ヨハンは迷わずに専用のホーミング弾に切り替えて装填しロックオン。迷わずトリガーを引いた。

「ビッグマザー! メガロマックス・ファイアッ!!」

 一〇五ミリ一七連突撃砲が一斉に稼動し、砲口が一斉にチャージされてビーム砲のように発射された。

『なんだと!?』

『う、うわああああっ!!』

 ユウスケは困惑し、タカシは絶叫。ホーミング砲弾は器用にセイバータイガーとレッドホーンに襲い掛かって撃ち抜き、撃破した。

「よし! 各個撃破確認!」

『ヨハン! 撃てとは言いましたけどメガロマックスを撃つなんて、何を考えてるんですか!!』

「あははははすまん、すまん、グスタフの装甲なら一発や二発誤射しても大丈夫かなと思ってね!!」

『呆れたわ。先を急ぎましょう!』

 イヴァーナは溜息吐いて表情を切り替えると、ヨハンも気持ちと表情を切り替えて次の戦闘に備えてのチェックリストを行いながら先を急ぐ。砲弾は残り少ないメガロマックスもあと一発分しかない。ハロルドは大丈夫だろうか?

 

 

 レッドホーンGCのガトリング掃射をかわしながら溶岩地帯を走り抜ける、もう火器の弾薬やエネルギーはあまりない。ならば爪と牙のみで決着をつけるしかない!

『サイカーチスを落とすとは見事だ! さあどうするレオマスター? いくら腕が良くてもノーマルのシールドライガーでは手も足も出まい!』

 シュペールという男はガトリング砲を向けながら挑発してくる。

 奴はソーア山斜面の突き出た場所にいて、溶岩地帯を見下ろせる場所にいる。撃ち下ろしには絶好のポジションだ、どうする? 一度撤退してソーア山の斜面を迂回しながら奇襲をかけるか? いや駄目だ時間がかかり過ぎる!

 一刻も早く撃破して姫様と合流しないと、溶岩に埋もれたビルを盾にしてると岩石が目の前で転がった。

 

 

 シュペールはシールドライガーが出てくる瞬間を狙おうとビームガトリング砲の照準を合わせる、さあ出て来いレオマスター! 狩ってやる! 出で来ないなら、これだ。

 対ゾイド三連装リニアキャノンを撃ち、ビルを倒壊させると舞い上がった煙の中から姿を現したかと思ったら闇雲に二連装ビーム砲を乱射、数発は突き出た足下に残りは遥か後ろ、背後の斜面に着弾した。

「闇雲に撃ってどうする? 当たったとしても破れると思っているのか?」

『破れないなら、破ってもらえばいい』

「何?」

 シュペールはハロルドの言葉を解さないまま、ロックしようとすると何かが転がって当たる音がした。何だ? そう思った瞬間、今度は大きな物がぶつかった衝撃がして斜面下に転がっていく、岩? こう思ってる間にもどんどん増えていく。

 シュペールはシールドライガーに警戒しながら後部カメラを作動させると、後ろの斜面一帯から砂煙を上げながら相当なスピードで岩石が転がってくる。しかも数え切れないほどだった。

「そうか! 大規模な落石事故を意図的に起こしたというわけか!」

 シュペールはやむを得ずシールドライガーとは逆の方向に向かって走らせ、あちこちぶつけながら落石から安全圏内に脱出すると、MFDが足回りに軽度の損傷箇所を表示する。クソッ! 激しい動きをすればたちまち傷が広がるような損傷だ。

 奴はどこに? 避退したか? 正面? いや違う、どこだ!? シュペールは周囲を見回すと見つけて目を見開いた。

「なんだと!?」

 シールドライガーは転がる無数の落石を避けながら渡り、しかもスピードを殆ど落とさず接近してくる!

「避けきれるのか!?」

 怖気づきそうになるシュペールはビームガトリング砲を撃ちまくるが大小の岩石に阻まれ、避けられる。当たった! そう思った瞬間、砲身が過熱して安全装置が作動してビームが出なくなった。

「しまった! 兵装を――うわっ!!」

 コクピット内が揺さ振られ、レッドホーンが悲鳴を上げる。シールドライガーの得意技であるEシールドを張って敵に体当たりする、シールドアタックで背中の武装は抉り取られたのだ。

「クソッたれ! ならば!」

 格闘戦だと思った瞬間、足回りの損傷が頭を過ぎるが極力負担をかけないようにシールドライガーを正面に捉えようとしたが、次の瞬間には真横にシールドライガーが現れてその長い牙を深々と首に食い込ませた。

 

 COMBAT SYSTEM FREEZE

 

 抑揚のない電子音と共にMFDが静かに告げる。クソッ! 万策尽きたか! さすがレオマスターだ、その名は伊達じゃない。シュペールは敵といえど賞賛せざるを得なかった。

 

 

 ハロルドはレッドホーンGCを撃破し、戦闘後のチェックリストを行う。

『さすがはレオマスターだ……この腕なら有名なゾイドバトルチームやPMCからの誘いがあって金も名声も女も手に入ったはずだ』

 背中の武装はもぎ取られ、首をへし折られたレッドホーンGCだが通信機能はまだ生きてるらしく、パイロットの無線が聞える。

「確かに、お前の言う通り望めばアリエル二世をブレードライガーにできた。そうすればお前をもっと早く倒せた」

『ちっ! その通りだな、なぜ三獣士をやってる? たいした報酬じゃないだろ?』

「家族を養うには十分だ、もうすぐガーディアンフォースが来る。野良ゾイドや野生ゾイドに襲われたくなかったら……緊急用国際救難信号を発しておくことだ」

 ハロルドはそう言ってアリエル二世を発進させて、無線周波数を切り替える。

「こちらハロルド、ヨハン、イヴァーナ、敵を撃破した」

『こちらイヴァーナ、こっちもなんとか片付けたわ。こちらの位置はわかります? 合流に向かってください』

「了解、ん? あれは?」

 ハロルドは機体カメラを拡大させるとエレガンスシティホテルが倒壊してる、間違いない。ソーアシティで一番大きなホテルだが、何があった? その煙の中からゴジュラスが微かに見えると、ハロルドの海兵隊時代に受けたトラウマがフラッシュバックする。

 

 ライガーゼロ・イクス……今の姫様と同じ年頃の少年と少女の駆け落ち……ゴジュラス……白いドレスを血に染めて冷たくなった少女……目の前で自らの命を絶った少年……。

 

『どうしたのハロルド、応答して!』

「イヴァーナ! これからソーアシティに向かう! そこで合流しよう!」

『えっ!? ちょっと、ハロルド――』

 イヴァーナの制止を振り切るため無線のつまみを回して周波数を変える。アリエル二世を可能な限りのスピードで疾走させる。今度は、今度は絶対に死なせない! 姫様! カミル君! 絶対に死ぬんじゃないぞ!!

 入り組んだ市街地に入る、クソッ! 最初にゴジュラスを視認してからどれくらい立った? 次の曲がり角にターンするとゴジュラスはボロボロなって倒れたシルヴィアに止めを刺そうと四連装ショックカノンを向ける。

 ゴジュラスを挟んで向こう側からリリアが跳びかかってそれを右腕でいとも容易く弾き返した。

「姫様!! クソッ!! うおおおおおおおおおっ!!」

 ハロルドはEシールドを張り、跳びかかって左腕のショックカノンを破壊。そのままリリアの所に駆け寄って周波数を合わせた。

「姫様!! お怪我は!?」

『ハロルド、お願い……カミル君を助けて!!』

 姫様は泣きじゃくりながら縋るように言うと、ゴジュラスのパイロットがモニター通信を繋いできた。

『ほほう、誰かと思えばハロルド・ヒギンズ特務大尉じゃないか』

「サイモン! まさかあんたとここで再会するとはな! 今はアーカディア王家直属の者でね、それに退役した時少佐になったよ」

『アーカディア王国三獣士とは出世したな』

「あいにく安月給でね、だがこの仕事に就いてよかったよ……思う存分お前をぶん殴ることできるからな!!」

 ハロルドはビーム砲と衝撃砲を展開して撃ちまくる、大して効果はないが引き寄せるには十分だ。トリガーを引きながらハロルドはモニター通信を介して必死でカミルに呼びかける。

「カミル君!! 応答しろ、カミル・トレンメル!!」

『うっ、うう……ハロルド……さん?』

 よかった、生きてる。ハロルドは安堵しながらも油断せずゴジュラスの重機関砲をかわして叫んだ。

「姫様!! カミル君を頼む!!」

『はい!!』

 姫様は肯いてリリアをシルヴィアの所に向かわせ、ハロルドはゴジュラスと対峙。

「サイモン、お前の相手はこの私だ!」

『そう簡単に誘いに乗るか!!』

 サイモンはリリアの動きを読んでたらしく、脇をすり抜けようとするリリアを大股で歩み寄って尻尾で叩き飛ばす。

『あああああっ!!』

「姫様! クソッ!」

 今度は必ず守り抜いてやる! こいつもろとも地獄に落ちててでも、もう目の前で若い命が失われるのは……もうたくさんだ! その時、意識を取り戻したカミルはハロルドに訊いた。

『ハロルドさん……どうすれば、こいつに勝てます? ゾイド乗りの経験も技術もない僕が、どうすればこいつに勝てます?』

『少年、それでも私に立ち向かうつもりか?』

 サイモンは余裕の表情だ。カミルは額から出血し、肩を上下させて気力だけで意識を保ってるような状態だ。サイモンの問いにカミルは俯いて呟く。

『……当たり前だ』

『何?』

 サイモンが訊くと、カミルはカッと顔を上げて吠えた。

『好きになった女の子を守る! 俺はヘルガのことが好きだ!! ハロルドさん、俺はヘルガを守りたい!! どうすればこいつを倒せる?』

 カミルの問いにハロルドは答えた。



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第六話、その2

推奨BGM:wild flowers(Instrumental)


『カミル君……残念だが今の君にこいつを倒せる術も力もない』

 ハロルドの言葉は冷酷だった。心が折れてしまいそうだった、それでも……ヘルガを守りたい! その気持ちがカミルを踏み止まらせる。こいつに勝たないといけない、それでもハロルドさんは勝てないと言ったが……その言葉には続きがあった!

『そう、君一人ではな!』

 ハロルドが強く言い放つとどこからか砲弾が飛んで来てゴジュラスに着弾、怯んだ隙にカミルはシルヴィアをダッシュさせてゴジュラスの脇をぬける。

『クソッ! 新手か!』

 悪態吐くサイモン、ヨハンがビッグマザーに乗って駆けつけて来た。

『すまない! 遅くなった! だが聞かせてもらったよカミル君!』

 その後ろにはマルゴ、イヴァーナも来てくれた。

『聞いてましたわよカミル君!! 姫様に恋心抱くなんて、あなたはとんでもない愚か者です!!』

『ヨハン! イヴァーナ! こいつを倒すぞ!』

 ハロルドは内心嬉しそうに言ってるのが聞えた。ゴジュラスが怯んでる隙にカミルはリリアの所に駆け寄り、無線通信でヘルガに呼びかける。

「ヘルガ! ヘルガ! しっかりして!」

『私は大丈夫よカミル君……一緒に、あいつを倒そう!』

 ヘルガはモニター通信で返事した肩を上下させ、顔色も極度の疲労に満ち、額には血を拭った跡があり、表情と眼差しも気力で保ってるようだった。それでカミルも不思議と負ける気がしなかった。

「うん、みんなでね!」

 カミルが肯くとヘルガはリリアを立ち上がらせ、叱咤激励する。

『リリア!! もう少し頑張って!! みんなが来たからあと一息よ!!』

 リリアはそれに応えるかのように雄叫びを上げると、カミルは背後からの気配に気付いてジャンプさせるとゴジュラスが尻尾で叩きつけてきた。着地と同時に反転、ショックカノンを撃って牽制すると、イヴァーナが指示を出す。

『ヨハン! メガロマックスとありったけの弾丸でボコボコにしてやりなさい! 怯んだその隙にハロルド! 姫様! カミル君! 閃光矢陣(アローファランクス)です!』

『了解!』

 ヨハンは肯き、ビッグマザーの砲撃体勢に入らせる。

「アローファランクス!?」

 カミルは聞き慣れない言葉にともヘルガが簡潔に言う。

「三機同時に格闘攻撃よ! カミル君、私は左から行くからあなたは右から同時に、ハロルドが攻撃した次の瞬間よ!」

『そうだ、僕が体当たりした瞬間、二人でとどめを刺せ!!』

 ハロルドも一度避退して距離を取るとアリエル二世のEシールドを展開、シールドライガーに乗ったことはあるがEシールドを展開するのを見るのは初めてだった。サイモンもそうはさせんと言わんばかりに砲撃してくる。

『やらせるか!!』

 ゴジュラスキャノンが稼動するとカミルはシルヴィアをおすわり状態にしてショックカノンの射角を確保、一瞬で照準して撃ちまくった。

 砲塔を支える根元が損傷し片方がへし折れて落ちると、ゴジュラスの機体バランスが崩してよろめいた状態で砲撃したため、転倒しなかったが大きな隙ができて、サイモンは悪態を吐いてるのが聞えた。

『クソッたれ! やってくれるじゃねぇか!』

 よし! 崩れる瞬間を確認するとカミルは反転させて距離を取って加速する。

『ビッグマザー!! メガロマックスプラス……ファイア!!』

 すれ違いざまにビッグマザーがディバイソンの必殺技、メガロマックスで一〇五ミリ一七連突撃砲が一気に火を噴き、更に左右の八連ミサイルポッドから全弾発射! 本で読んだことあるが見るのは初めてだ。

 反転させると、砲弾とミサイルの雨がゴジュラスに着弾した。

「凄い! 今のはメガロマックス!?」

『ミサイルを加えてプラスだ! 本当は三連衝撃砲と小口径四連バスーカも使いたいけど、残しておかないとね!』

 ヨハンは自慢げな口調で言う。一瞬だけ左隣を見るとアリエル二世がいてその向こうにはリリアがいる。アリエル二世はゴジュラスに向かって全速力でダッシュ、見るとあれだけの砲撃を受けてもまだ動いていた。

『カミル君、私が合図するからハロルドがアタックを決めた瞬間、同時に左右から跳びかかるわよ!』

「わかった!」

 無線を介し、ビルの向こうにいるヘルガと目を合わせたかのようにカミルは迷わず肯くと、頬の頭部強制冷却システムを展開して両前足の爪にエネルギーを集中させてあの技を使う。

 できるか? 大丈夫、シルヴィアを信じろ。

 体勢を立て直したゴジュラスは二連装七〇ミリ重機関砲を乱射する。

『ハロルドオォォォォォォッ!!』

 サイモンは叫びながら乱射する。アリエル二世はシールドを張りながら殆どスピードを落とさす、弾幕を潜り抜けて一気にゴジュラスの土手っ腹に風穴を開けるかのように突進。シールドアタックだ!

 突進の反動を利用してアリエル二世は後方に跳んだ瞬間、ヘルガが叫んだ。

『カミル君……今よ!!』

「いっけぇええええっ!!」

 ジャンプの瞬間、飛距離を稼ぐためにイオンターボブースターを一瞬だけ噴射。

 リリアも同時に跳びかかり、牙に電磁エネルギーを集中させる。

『エレクトリックファンガー!!』

「ストライクレーザークロー!!」

 カミルはヘルガと同時に叫んで満身創痍のゴジュラスに爪と牙を叩き込んだ。人間で言うなら左右の頚動脈に、電磁エネルギーを帯びたリリアの牙は抉り、シルヴィアのストライクレーザークローが一撃で深々と切り裂いた。

 ゴジュラスは天に向かって断末魔の悲鳴を上げた。

 二機が着地すると、油断することなく距離を取って様子を窺う。

 緊張の瞬間、ゴジュラスは頭を天に向けたまましばらく硬直した後、力尽きたのかその場で崩れ落ちるかのように前に倒れた。

『目標の撃破を確認! 敵ゾイド沈黙!』

 ハロルドの嬉しさが篭った言葉でカミルは晴れやかな表情になり、ヘルガもモニター通信を介して晴れやかで嬉しそうな笑顔を見せた。

『やった! やったよカミル君! 勝った!!』

「うん! 君のおかげだよヘルガ!!」

 カミルは礼を言うと上空から二隻の大型輸送艦型ゾイド、ホエールカイザーがゆっくりと降下してきた。ようやくガーディアン・フォースの到着だ。

 

 ガーディアンフォースによって盗賊団兼PMC、ホワイトファングのメンバーは身柄を拘束され、ホエールカイザーに乗って連行される。カミルは手錠をかけられたメンバーのボスで、ゴジュラスのパイロットであるサイモンを見送る。

「少年、町長やセブタウンの連中に伝えてくれ……今まで俺や部下のことを良くしてくれて大いに感謝してるってな」

 カミルは唇を噛む、間違いない。この人本当は悪い人じゃないと思いながら訊いた。

「それじゃあどうしてヘルガを狙ったんですか?」

「金だよ金、会社の経営状態が良くなくてね……ボスの仕事は部下だけじゃなくその家族も養わなきゃいけない……大人の世界には綺麗事では済まされないことが多くある。まっ、結果的に多くの犠牲を出したからな、その責任も取らないといけない」

 その目は盗賊の頭ではなく、厳しい世間の荒波や命がけの修羅場を多く潜り抜けてきた男の目だった。サイモンは満足げな笑みを浮かべ、ハロルドに視線を向けた。

「ハロルド! この少年と……お姫様には素質と無限の可能性がある、かつてお前が救おうとしたあの二人のようにな!」

 ハロルドは何も言わない、サイモンはガーディアンフォース隊員に急かされる。

「早く乗れ、時間がない」

 サイモンは「フッ」と不敵な笑みを浮かべてホエールカイザーへと歩く。

「少年!! 君は私たちのようにはなるな!! なんせこの私を負かしたのだかな!! はははははは! はははははは……はーっはははははははは!!」

 潔く敗北を認めたサイモン厳つい豪快な笑い声は爽やかさえ感じるほどだった。

 

 そして、カミルとヘルガの冒険は終わりを迎えようとしていた。

 

 満身創痍の五機はセブタウンに帰還すると真っ直ぐ整備工場に向かう、そこでカミルはシルヴィアのコクピットを開けて降りると、格納庫入り口に母親のトラゥデルと妹のウルスラが待っていた。

 ウルスラはホバーボードで転んで入院し、退院した時のように駆け寄ってきた。

「お兄ちゃん! どこ行ってたのよ、お母さんも心配してたのよ!」

「ごめんウルスラ……心配かけて、母さん……またやらかしちゃった」

 カミルは申し訳ないと思いながら謝り、母親は完全に怒ってるという顔だった。

「カミル……あんた……」

「ごめん! 母さん、心配かけたのは謝るよ!!」

 引っ叩かれても文句言えない状態だ、だが次の瞬間母親は溜息吐いて苦笑した。

「カミル、父さんに似てきたわね。それに、一皮剥けたって感じがするわ」

「ごめんなさい」

「あたしのことはいいから、早く事務所に行ってジョエル君たちに顔見せてきなさい! それで初めて冒険は終りなんだから、家で待ってるわ!」

「ありがとう母さん! 行ってくる!」

 カミルは礼を言って格納庫を出て事務所に入ると、ジョエル、アヤメリア、セレナが待っていて、真っ先にジョエルが飛び込んできた。

「おかえりカミル! 絶対生きて帰るって信じてたぜ!」

「ジョエル……ごめんね心配かけて」

 ジョエルはカミルが苦しいと感じるほど抱き締める。

「ほら、アヤメリア言ってたでしょ? カミルは帰ってくるって、おかえりなさい!」

 セレナは誇らしげに言いながらウィンクして微笑むと、アヤメリアは少し気まずそうな表情で立ち上がり、一歩ずつ躊躇いながら歩み寄ってきた。

「おかえりカミル……あのさこれ、読んだから返すね」

 アヤメリアは名残惜しそうに『風と雲と冒険と』を返すと、カミルは受け取る。アヤメリアは苦笑しながら訊いた。

「あんたがバン・フライハイトに憧れる理由が、少しわかったような気がしたわ……本気で、バン・フライハイトのような英雄になりたいの?」

 アヤメリアの問いにカミルは首を横に振った。

「ううん、僕はバン・フライハイトの足下にも及ばない……でも、僕は彼のように自分の足で世界を回り、自分の目で世界を見たいんだ」

「そうだったんだ……カミル、やっぱりヘルガのことが好き?」

 アヤメリアは迷いを捨てたかのような表情で問い詰めると、カミルは臆することなく肯いた。

「うん、ヘルガは僕の夢を素敵な夢だと笑顔で言ってくれた!」

 冗談だと笑ったんじゃない、笑顔で真剣に受け入れてくれた。アヤメリアはカミルの言葉を受け止めたのか、微かに瞳が潤ったように見えた瞬間一変していつもの明るい笑顔に変わった。

「そうか! カミル……あんたは自分がいつまでも弱い男の子だと思ってたけどさ……今のあんた、立派な男の顔よ! 明日、学校のみんなに武勇伝聞かせてあげな! 安心したから、帰るね! それじゃ!」

「ああっおい、アヤメ――」

 帰るアヤメリアを引き止めようとするジョエルをセレナはポンと肩を置いた。その表情は無表情で首を軽く左右に振ると、セレナはカミルに訊いた。

「ねぇカミル、あんだけシルヴィアちゃんがボロボロになったんだから、どんな奴と戦ったの? 話しを聞かせてくれない? ジョエルも気になるでしょ?」

「そうだな、聞かせてくれないか? どんな奴らだったんだ?」

 ジョエルも肯いてソファーに座ると、カミルはどこから話そうかと思いながらソファーに座り、モーテルでヘルガを助けに行くところから話し始めた。

 

 

 格納庫脇のベンチに座り、工場長から貰った一本のプレミアムシガーを吸っていた。

 本当は静かな所で吸いたかったが、良さそうな場所をアヤメリアに先を越されていた。しかもそこでうずくまって泣いていたのだから、よけい居辛くなってここで吸ってた。

 すると隣にヨハンがさりげなく座ってきて、ハロルドはリラックスして訊いた。

「どうだヨハン、ビッグマザーの調子は?」

「少し時間がかかるそうだ、セブタウンを出るにはもう一週間と言ったところか?」

「ああ、それとさっき姫様とイヴァーナは買出しから帰ってきた……姫様もどうやら一歩大人に近づいたらしい」

「どうしてそう言える?」

「姫様とすれ違う時……買い物籠の中にナプキンが入ってた。きっと初潮が来たんだろう……実はさっき、カミル君から相談があってな、昨夜……姫様と愛し合う夢を見て下着を汚したってさ」

「そうか、カミル君も一歩大人に近づいたわけか……ヨハン一応訊くが真面目に話を聞いたよな?」

「当たり前だ! カミル君は父親がいない!」

 ヨハンは真剣な表情で言う、そういえばヨハンの特技は多感な思春期の子たちの心を掴むのに長けているんだった。旅先で姫様と同い年くらいの子からラブレターを渡すよう頼まれたこともあったよな? ハロルドは思わず口元が緩む。

 するとヨハンもリラックスした様子で足を組み、整備中のアリエル二世を見上げる。

「今回は本当にカミル君に助けられたな、何かお礼しないと」

「そうだな、どんなお礼がいいと思う? 姫様を命がけで守ってくれたから」

「いいこと思いついた! 姫様がメイドに扮してご主人様のカミル君にご奉仕!」

 ヨハンの提案にハロルドは苦笑せざるを得なかった。

「ははははははは……確かにいいかもな、姫様も城の人たちのように働いてみたいって言ってたが現実的ではないな、俺たちに残された時間も十分とは言えん」

「だろうな。整備が終わり次第、また俺たちもここを発たないといけない」

「ま、一回くらい本人に訊いてみよう。イヴァーナも帰ってきたしな……出発までの時間はまだある」

 ハロルドは残りのプレミアムシガーを満喫すると、姫様とイヴァーナのいる居住コンテナに帰る。ほんの一日空けた程度なのに四人揃うのは久し振りに感じる空気だった。

 イヴァーナは一刻も早くセブタウンを発ちたい様子だった。

「姫様、ゾイドの修理と整備、及び補給が終わり次第ここを発ちます」

「ええ、それまでもう少し時間あるわ」

 姫様の凛とした表情は変わらないがどこか寂しげだった、いつものことだ。立ち寄った町を発つ時いい友達ができるとこんな表情になる、だが今回ばかりは少し違う。同い年の男の子に助けられ、守られ、心を通わせた。

 姫様はどう思ってるんだろう? するとヨハンは提案した。

「姫様、イヴァーナ、一つ言わせてくれ、今回の件だがカミル君には大いに助けられた……正直このままセブタウンを去るのも気が引ける……自分は彼に何かお礼をするべきだと思う」

「私も同意見だ、彼がいなかったら私たちもどうなっていたかと思う。一度カミル君本人に訊いてみたいと思う」

 ハロルドも賛同するがイヴァーナは首を横に振る。

「その必要はありません! 私たちは一刻も早くここを発たねばなりませんし、旅を終えてからアーカディア政府がカミル君の家族、いいえセブタウンに援助と言う形で行えば、マゼラン政府にも今後の貸しが作れます! 全てが終わった後のアーカディアのことを考えれば味方は多い方がいいです!」

「ゾイドたちの整備修理が終わるまで数日かかる。その間にできることでいい」

 ハロルドはあの少年を政治利用するつもりか? と言いたかったが姫様の前で口にするわけにはいかない。姫様も察したのか遠回しに鋭い口調で言った。

「イヴァーナ、カミル君は政治の道具なんかじゃない。一度……カミル君に訊いてみましょう」

 台詞の後半は柔らかく穏やかで、表情も年頃の女の子そのものだった。イヴァーナは微かに気に入らないという表情を露にしていた。



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第六話、その3

 すぐに一行は整備工場にいるカミルの所に行く、ジョエルという少年の案内でカミルはシルヴィアを整備してる格納庫に行き、格納庫脇のベンチでシルヴィアをボーっと見上げていた。

 ヨハンは気さくな口調で声をかける。

「カミル君、ちょっといいかい?」

「ヨハンさん? どうしたんですか、みんな改まった顔をして」

 カミルはベンチから立ち上がって一行を見回した。イヴァーナは一歩引いた所から腕を組んで壁に寄りかかって傍観者に徹するような位置に立ち、ヘルガは改まった口調になる。

「カミル君、本当にありがとう。イヴァーナも素っ気ない態度をしてるけど本当は感謝してるわ」

 それでカミルは照れ臭さそうな表情になる。

「ヘルガ、僕は別にその……君を……守りたかったから、ただそれだけなんだ」

「君はゴジュラスに恐れず立ち向かったんだ、胸を張っていいんだぞ」

 ハロルドは精悍な笑みは鳴りを潜め、温かい笑みで言うとカミルが首を振る。

「そんなことないですよ、僕はあの時凄く怖かったしもう一度戦えと言われたらできるかどうかわからない。最後に止めを刺す時に息を合わせられたのも、シルヴィアのおかげだと思ってます」

「そう謙遜しなくていい、確かに君一人で倒すのは無理だった。でもシルヴィアは最後まで諦めずに応えてくれたのは? 君はシルヴィアを心で動かしていたんだ」

 そうハロルドはゴジュラスに止めを刺す瞬間、姫様のアシストがあったとは言えあそこまで息を合わせられるのは経験豊富なパイロットであることは勿論、ゾイド自身の豊富な戦闘経験がないと難しい。

 彼は経験不足を心で補う、彼はゾイドを心で動かしたんだ。

 話しが脱線しそうになる、ハロルドは軌道修正する。

「まあ難しく考えなくていい。実は僕たち君にお礼がしたいと思ってきたんだ」

「カミル君、何か困ってることとかない? お父さんがいなくて家が貧しくて困ってるとか、私たちもできる限りのことをするから」

 姫様は親身になって聞く姿勢だが、カミルの表情は何か重大な決断を迫られたかのような険しい表情になっている。もしかすると、彼の家庭に借金とかの重大な問題でも抱えてるのかもしれない。

「うちは特に……祖父の残してくれた遺産と母が農場で働いて安定してますし、僕も妹も学校に行けてます」

 まあ確かにセブタウンは見たところ豊かとは言えないが、貧困というわけではない。ハロルドは少し安心した面持ちで訊く。

「そうか、何か君個人で私たちに頼みたいことないか?」

「あります」

 カミルは迷うことなく肯き、少し間を置いて決意の眼差しになる。

「僕を……旅の仲間に入れてください!」

 一行に電流が走り、姫様は自分の聞いたこと言葉が信じられないような瞳でカミルを見つめ、イヴァーナが真っ先に前に出る。

「なっ!? 何を言ってるんですか! 私たちの旅は旅行とは全く違うんですよ! 私たちだって何度も命の危機に陥ったことか!」

 幾多の死線を潜り抜けてきたイヴァーナの鋭利なエメラルドグリーンの眼差しがそれを物語っている、それでもカミルは臆することなく面と向かって言う。

「わかってます。イヴァーナさん……このエウロペを旅することは、いつ命を落としてもおかしくないことをよく知ってます。旅するゾイド乗りたちが内戦や紛争、風土病、盗賊や野良ゾイドの襲撃、人里離れた山や砂漠での遭難、様々な原因で命を落としたり何十年経っても未だに行方不明の人がいることを」

「それなら何故!? あなたにはあなたの安定した進むべき道があるわ! パタゴニアの学校に行けばゾイドウォーリアーになる道だってあります! レールから外れてもいくらでもチャンスはあります! 私たちのやることは……脱線すればそのまま死の谷底へ真っ逆さまに落ちるんですよ!」

「わかっています、それでも俺は……バン・フライハイトのようなゾイド乗りになりたんです!」

 カミルは一歩も引かない、ハロルドは肯定も否定もせずただ耳を傾け、ヨハンは腕を組んだ。

「イヴァーナ、カミル君は確かに今は頼りないが俺たちが鍛えればいい。共通言語を喋れるし、姫様の話からしてサバイバルの心得もあるし兵士としての素質も十分ある。それにホバーボードで何回も死ぬような目に遭ってるから度胸もいい、俺個人としてはカミル君のことはとても気に入ってる。連れて行ってもいいと思ってるくらいだ」

 随分大胆な意見だとハロルドは苦笑すると、姫様はそれを見逃さなかった。

「ハロルドはヨハンの意見に賛成なの?」

「なんとも言えません、私としては彼自身がどれほどの覚悟があるのか……姫様自身はどう思ってます?」

「仲間になってくれるのは嬉しいけど、これから先のことを考えると危険な目に遭わせたくないわ」

 姫様は内心嬉しさと同時に自分のために彼を、過酷な運命に巻き込みたくないという思いが入り混じって葛藤してるようだ。

 ハロルドとしてはカミルが人生を左右する程の覚悟を決めてるのか、あるいは思春期特有の後先考えない恋心と冒険心によるものなのか? これは本人でもわからないし、どれほどの覚悟かわからないなら試すしかない。

「カミル君、もし僕たちと旅がしたいのなら……君の覚悟を試したい」

 ハロルドの言葉を、カミルはあるがままを受け止めるような表情だった。

 

 そして別れの日が来るまで、以前と同じように姫様はカミルとその友達と遊んで一日一日を大切に過ごす。イヴァーナも前ほど口うるさく介入してくることはなかった。

 カミルたちの卒業の日を経て、セブタウン発つ日はあっという間にやってくる。

 

 

 パタゴニアへ旅発つ数日前、ヘルガたちとの別れの日が来た。

 整備工場では四機のゾイドが格納庫を出て出発の時を待つ。カミルはジョエル、アヤメリア、セレナと四人で最後の挨拶をしていた。

「皆さん、このたびはカミルがお世話になりました」

 セレナがお礼を言うとハロルドは微笑む。

「ははははははは世話になったの僕たちの方だよ。セレナさんの方こそ、姫様のことを良くしてくれて本当にありがとう」

 イヴァーナも別れ際なのか、少し寂しそうに微笑んで優しく感謝の言葉を述べる。

「カミル君、姫様を守ってくれてありがとう。でももう無茶しちゃ駄目ですよ。アヤメリアさん、彼のこと頼みましたわよ」

 この三週間、イヴァーナと一番気が合ったのはアヤメリアだった。

「はい、イヴァーナさんもいつか素敵な人を見つけてくださいね」

「もう! 言わなくてもわかってますわよ、あなたこそパタゴニアに行けばきっと素敵な出会いが待ってること信じてます!」

 イヴァーナは朗らかな笑みを浮かべながらアヤメリアの頭を撫でる。

 それを聞いたジョエルはニヤける。

「それはどうかな? アヤメリアってガサツで男勝りだし」

「そういう子が好きな子がいるんだよねこれが」

「そりゃあ楽しみっすね! ヨハンさん」

「そう! 人生楽しんだ者勝ちだジョエル君、落ち着いたらいつかアーカディアにおいで、いつでも待ってるからな」

「はい! ありがとうございました!」

 ジョエルはヨハンと固い握手を交わす。

 カミルはヘルガを見つめ、ヘルガもカミルを見つめていた。カミルはヘルガに触れたいという気持ちを必死で抑え、息が詰まりそうだった。

「ヘルガ、君はこの旅が終わったらどうするつもり?」

「終わったら……王女としてアーカディアを支えていく責務が待ってるわ」

 ヘルガの言葉は重い。生まれた時からアーカディア王国の王族として宿命を背負い、いつかはどこかの国の貴族や上流階級の人と結婚するのかもしれない。もしかすると政略結婚だってあり得るのかもしれない。

「カミル君……本当にありがとう、守ってくれるだけじゃなく……いろんなことを教えてくれて、ほんの少しの間だけ……普通の女の子になれた気がしたわ」

「僕も、君と一緒に冒険ができて楽しかった」

 そして一人の女の子を好きになったという気持ち、だけど絶対に自分の思いを伝えてはいけない、カミルにはそんな気がして拳を握り締める。もう二度と会えないかもしれないのなら、いっそのこと好きだと伝えればいいのに、でもその言葉はヘルガは傷つけてしまうのかもしれない。

「ヘルガ……俺――」

「姫様、そろそろ行きましょう」

 イヴァーナの有無を言わせないハッキリした硬い口調で、ヘルガは間を置かずに返す。

「すぐに行くわ!」

 そう言った瞬間、ヘルガは歩み寄って左手をカミルの右頬に触れ、顔を近づけた。その場にいた全員が驚愕して注目する視線を感じなががら、カミルは固まった。

「私のこと、好きになってくれてありがとう……君と見た花畑と星空、ずっと忘れないから」

 カミルの耳元にヘルガの甘美な吐息と囁き、カミルは好きになった女の子と心が通じ合えたと確信して嬉しかった。ヘルガはカミルから離れ、手を伸ばすともう届くことはない距離、それでも。

「ヘルガ!」

 カミルの引き止めるような声に、ヘルガは立ち止まって振り向く。

「いつか……いつか必ず、君に会いに行くから! シルヴィアに乗って君に会いに来るから!」

「……うん、待ってるわ」

 ヘルガの微笑みは叶うことのない約束を、健気に信じようとしてるようにも見えた。そしてリリアに乗るとセブタウンに別れを告げるかのように雄叫びを上げ、アリエル二世も吼えると四機のゾイドは動き出しセブタウンを去って行った。

 セレナは名残惜しそうに呟く。

「行っちゃった……可愛い子だったね」

「でも、あの人たちには行くべき道があるように、私たちにも行くべき道があるわ」

 アヤメリアも寂しそうに腕を組むと、ジョエルはポンとカミルの肩に手を乗せる。

「カミル、会いに行くんなら早い方がいいぜ……でないとお前より顔も頭もよくて金を持ってる男に、先を越されちまうぞ」

「わかってる、だから言ったんだ」

 カミルはそう言うと踵を反して家へと歩いた。

 

 家に帰ると、母親は家で洗濯ものを取り込んでいた。

「おかえりなさいカミル、家の裏にいたシルヴィアちゃんはどうしたの?」

「ああ……シルヴィアは……パタゴニアには連れて行けないよ」

「そう、置いてよかったと思うわ。大きいけど素直でかわいかったのよ……父さんのゾイドが好きな理由、少しわかったわ」

 母親は少し残念そうな表情をしていた。カミルは自室に入るとベッドに転がって『風と雲と冒険と』を開く、もう読み返すのは何度目だろう? ふと、そう思いながらカミルは初めて開いた時の気持ちを思い出すが、すぐに考えるのをやめた。

 

 旅立ちの日はすぐそこまで来ているのだから。



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エピローグ

 エピローグ

 

 彼女はこの大陸で生まれ、小さな二本足の者たちに捕まり、体を作り変えられてから幾多の時が流れ、数年前に縄張り争いを制して女王として支配したソーア山国境地帯を歩いていた。

 

 生まれた時はこのエウロペの大地で暮らしていた。

 ここではない、周りを湖で囲まれた高い山の麓で暮らしていた。

 二本足の者たちはその山をオリンポス山と呼んで畏れ、彼女はその山の女王として君臨していた。

 

 二本足の者たちに捕まるまでは。

 

 あの日のことは今でも覚えてる。

 獲物をたらふく食べ終えてねぐらに戻ると、二本足の者たちの配下となった獲物や天敵たちが待ち構えて自分を生け捕りにしたのだ。

 気が付くと狭苦しい所に閉じ込められ、抵抗すれば雷に打たれたかのように何度も痺れさせられた。

 連れて行かれた場所では獲物、天敵、自分と似た種族問わず体を作り変えられ、自分も二本足の者たちが作った精巧で不便な体に作り変えられた。

 

 最初の主人は新しい自分の体に馴染むように献身的に接して尽くしてくれた。

 テストパイロットとかいう者で自分の頭の中に入っては操るが、彼は自分に敬意を持って乗ってくれた。

 彼女は彼だけに心を許したが、長くは続かなかった。

 最初の主人の表情は今も覚えてる、とても寂しくて悲しそうな顔をしていたのが今でも心の中に残ってる。

 

 それからずっと幾多の戦乱の時代を戦い続け、幾多の強敵と出会っては打ち勝ち、時には辛酸を舐め尽し、主人を失って自分だけが生き残り、彷徨っては拾われて修理されるとまた新しい主人に従う。

 二本足の者たちは十人十色だった。

 

 ある者は自分を便利な道具としか見ておらず、動けない体になるまで酷使された末、獲物や天敵、自分と似た種族の死骸が集められた場所に捨てられてどれくらいの間、雨風に晒され続けたのかわからない。

 

 錆びつき、がたついた体に善良な二本足の者たちが言うゾイドコアだけが生き長らえ、また新しい体を作ってもらった。

 

 その者は自分のことをやがてシルヴィアと呼び、捕まって作り変えられる前では感じなかった温かさと安らぎ、他者を思いやるということを教えてくれた。

 

 どれくらいの時が過ぎたのかもうわからない。だが彼女は体を作り変えた二本足の者たちに怒りと憎しみを抱きながらも同時に良い者と悪い者、どっちつかずの者がいることを学んだ。

 そして同胞を思いやる者もいれば、冷酷に扱う者もいてそれが複雑に絡み合って戦争という二本足の者たち同士が戦いを続けていた。

 

 今度の主人はとても幼いが、一目見た時自分に敬意を払うどころかその小さな体で守ろうとしてくれた。この二本足の者には従う価値がある。

 彼女は彼を新しい主人として迎え入れ、作り変えられる前は天敵だった種を主人の仲間と一緒に倒した。

 リリアとかいう、群れてる奴らとは明らかに違う大きい奴でとても手強い奴だった。主人は必死で勝とうと努力したが、リリアとその主人は彼女からすれば経験もそれなりにあって一枚上手の奴だった。

 

 彼女は思い返しながらソーア山外輪山を登る。

 新しい主人と出会う前に見つけたお気に入りの場所。

 カルデラと火山が一望できる見晴らしのいい場所だ。その場所は温泉湖やソーアシティが見下ろせる見晴らしのいい場所で彼女はその淵に立つ。

 

 眩しい朝日に照らされる楽園。

 

 この短い間だったが君臨し、女王として支配した楽園と呼ぶにふさわしいカルデラの大地に別れを告げるため、どこまでも響き、大気を震わせる女王の咆哮を轟かせた。



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旅立ち編
登場人物(旅立ち編)


 ノア・カワシマ・アイゼンハイム(18)

 黒髪のショートポニーに幼い顔立ち、二重まぶたに色白の美少年。体格は細くて頼りなさそうだが身体能力は高い。気弱でお人好しの優しい性格で本人も自覚している。女系家族で育ったためか仕草、嗜好、外見でラオからは女の子より女の子らしいと称され、ヘルガとは違う意味で気が合うがれっきとした男の子でカミルもたじろぐほど可愛い。

 幼い頃に母親を亡くし、姉が母親代わりだっためシスコン兼マザコン。

 好みは女性のタイプは年上の甘やかしてくれる巨乳のお姉さん。

 一人称:僕 

 イメージCV:松岡禎丞

 

 ラオ・ラン・ラウン(17)

 ガリン族保守派の娘、褐色肌に黒髪ポニーテールで前髪を真ん中分けしてる。アヤメリアとは違う意味で前向きで男勝り、さっぱりした性格で腕っぷしも強く、気になる男を見つけたら迷わずアプローチするほど積極的、かなりの巨乳で顔立ちもいいが女の子にしては大柄なのを気にしてる様子。親には改革派とはあまり関わらないように言われてるが、本人は反発して独学で共通言語を習得している、コンパウンドボウの名手で夜目が効く。

 搭乗機:ハウンドソルジャー(ラナ)

 戦術:斥候及び高速戦闘

 武器:R&Bスタローン社製コンパウンドボウ

 一人称:あたし

 イメージCV:本渡楓

 

 ゴードン・スターム・ルガー(16)

 エリオットの友達、一九〇センチに体重一〇〇キロ越えで肩幅の広い巨漢でガキ大将がそのまま大きくなったような少年、学校では野球をしていて喧嘩も非常に強く、短気で気性が荒く口も悪いが不器用で面倒見は良く正義感も強いため慕う者も多い。見た目はカミル曰く若い頃のロブ・ハーマンに似てるという。

 搭乗機:カノンフォート(マーガレット)→ディバイソン(ビッグマザー)

 戦術:格闘戦による突撃

 一人称:俺or俺様

 イメージCV:たてかべ和也

 

 サミュエル・ハートフィールド(16)

 へリック共和国の大手広告代理会社のハートフィールド広告社社長の息子で顔が非常に広く、それを鼻にかける典型的な大金持ちのイヤミな奴、口が上手く要領が良いため、大人受けは良くゴードンの腰巾着でおさまっている、危機的状況に陥ると大変弱いうえにマザコン疑惑あり、手先が非常に器用で特に兵器やゾイドのメンテナンスが得意、通称:サム。

 搭乗機:コマンドウルフAC(エマ)

 戦術:支援砲撃及び奇襲攻撃

 一人称:僕

 イメージCV:肝付兼太

 

 

 ゼルマ・ヘクセ・ヘーネル(26)

 スレンダーで長身の切れ長の瞳に黒髪ショートに片目隠れの女性士官だが、ある理由で祖国には密かに嫌悪を抱いてる。

 テラガイスト準軍事組織ハイパーの隠密作戦部門シャドー所属の中尉である人物のお目付け役で戦死したある人物の姉――シャルロッテの士官学校時代の先輩、陸軍情報部を経てテラガイストとなる。

 搭乗機:ダークスパイナー(シャル)

 戦術:ジャミングによる妨害と格闘戦

 一人称:私

 イメージCV:恒松あゆみ

 

 オメガ

 灰色のワシ型オーガノイド、合体すると最低限の損傷回復と飛躍的な能力向上。危機に陥るとオメガモードに入る。発動すると機体が青白く光り、残像が見えるほどの高速移動と巨大ゾイドを一撃で沈めるほど攻撃力を発揮するが、パイロットの肉体的精神的にも負担は凄まじく平均三分で長く持って五分弱が限界。

 従順で遊び好き、買い物の荷物持ちやカメラを装着して偵察したりする。対人戦では鋭い爪と嘴が武器になり、全身がマグナムライフルの徹甲弾をものともせず、対物火器を使わない限り倒すのは困難。

 

 シグマ

 鶴型の白いのオーガノイド、人懐っこい性格であるが合体すると損傷回復とパイロットの精神を安定させてパイロットの持つ潜在能力をフルに引き出す。

 そのため能力を発揮させるにはパイロットの経験が必要、対人戦ではオメガと同様鋭い爪と嘴が武器になり、全身がマグナムライフルの徹甲弾をものともせず、対物火器を使わない限り倒すのは困難。



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プロローグ

 プロローグ

 

 銀河の彼方にある『惑星Zi』そこには、優れた戦闘能力を持った金属生命体『ゾイド』が存在した。ゾイドは自ら戦う意思をもち、惑星Ziにおける帝国と共和国の戦争の中、最強兵器として君臨していた。

 これはいくつもの戦乱が続く時代、幾多の英雄が生まれては歴史の闇の中へ消えていく時代の物語。

 

 北エウロペ南東部の国、マゼラン共和国辺境の町セブタウン。

 

 別れの前夜、カミルは狭いベッドの上で母親にも内緒で買っておいたポンプアクションショットガン――HM210の仕様違いのモデルを取り出す。

 三年間シルヴィアを探しながら獲った獲物や山菜を売って稼いだ金で買った物だ。

 祖父のが狩猟用の二六インチ対して短い銃身の一八インチバレル、マガジンチューブも延長してストックもピストルグリップ付き、装弾数も四発の狩猟用に対して六発のタクティカルモデルだ。

 旅人たちの護身用には七・六二ミリ口径のやポンプアクション式ショットガンが人気だ。特にポンプアクション式ショットガンは一二番口径00バック弾は殺傷能力が高く、装填する際に独特の甲高い金属音が響く。

 これが発砲前の威嚇や警告に効果があり、誕生から数百年経った今でも軍や警察に使われる理由の一つでもある。しかも使う弾薬の種類を選ばず、故障も少ない。カミルは思わず唾を飲み込みながらスリングベルトを装着する。

 この銃が火を噴くことは誰かの命を奪うことになる。

 出来れば使われる瞬間が来ない方がいいのだが、カミルはすぐにその甘い考えを、首を振って捨てた。

 殺さなきゃ殺される、僕が躊躇ったばかりに祖父は強盗に殺されたのだ。

 敵の命を奪うことを躊躇って命を落としたゾイド乗りや旅人も多くいる。

 それに今までシルヴィアを探す間、生きる糧を得るために沢山の水鳥や動物を撃った。

 動物を撃つのも人間を撃つのも同じだ、それは都合のいい言い訳に過ぎないのかもしれない。

 人を殺めればその人は一生罪を背負う、自分と戦ったあのゴジュラスのパイロットだって自分の部下や家族の生活のために罪を背負った。ハロルド・ヒギンズもきっとその覚悟まで試してるのかもしれない。

 

 僕は旅するお姫様と出会い、冒険し、そして恋をした。一緒に力を合わせてヘルガを狙う悪党たちを屈服させ、そして心を交わした。僕はヘルガと一緒にいたい、旅したい、冒険したい、そばにいたい、もっと話しをしたい。

 僕の心と身体はもうヘルガのことでいっぱいだった。だけどヘルガの背負う使命はとてつもなく重い、ハロルドさんはそれをも背負う覚悟があるかと訊いた、僕はもう心に決めていた。

 

 夜中の午前一時、カミルはこっそり静かに家の裏の空き地にいるシルヴィアの所まで来る。

「シルヴィア、静かにみんなを起こさないようにね」

 シルヴィアは唸ることなく、静かに頭を下げてコクピットをゆっくり開けた。

 ここ数日、母親も妹も時折シルヴィアに声をかけたりしている。シルヴィアも大人しくして母親曰く「素直でいい子」妹のウルスラも「大きくて可愛い」と言っていた。

 

 でもそれも今日までだ、僕はもう覚悟を決めたんだ。

 

 コクピットをゆっくり開けると、カミルはHM210にバックパックやデイパック、ウェストバッグをコクピット後部に押し込む。

 そしてカミルはコクピットに座り、安全バーとシートベルトを着用、始動前チェックを行う。

 左から右へと各種コントロールスイッチ装置、ナビゲーション及び無線装置、敵味方識別装置であるIFF、操縦桿であるスロットルレバー、レーダーコントロールパネル、ゾイドの燃料である原始海水と同じ成分のリキッドイオン(ゲル状の液体であるレッゲルでも可能)コントロールスイッチ等々……これらが決まった位置にあることを確認して次に各種パネルや警告灯のチェック。

 よし、スターターレバーを引いてZOIDS ON! MFDが点灯してモニターが暗い外の風景を映して、モニターコントロールスイッチを摘んで自動モードに回す。

 外の風景が自動的にグリーンになり、両方のフットペダルを踏み込むと固定されたペダルが解放されて戻り、シルヴィアは立ち上がった。コクピット内に駆動音が響き、自動操縦装置の設定をしながらセブタウンの外れにある街道まで来ると、シルヴィアの頭を降ろしてコクピットを降りる。

「それじゃシルヴィア、また会おうね」

 シルヴィアは寂しそうに、あるいはカミルのことを心配してるかのようにも聞こえた。

「僕なら大丈夫、ちゃんと上手くやるからさ……寂しい思いはさせないよ」

カミルはふと、父親の最後に言葉を交わした時のことを思い出す。

 

――心配するな、俺は今度もちゃんと帰ってくるさ

 

 それが父親の最後に聞いた言葉だった。

 カミルは父親のように死ぬつもりはない。だけどここには、マゼランには二度と帰ってこれないのかもしれない、その覚悟も必要だとカミルは両手を握りしめて奮い立たせると、カミルは踵を反して家に向かって歩み始める。

 シルヴィアも歩き始め、カミルは足を止めて振り向きたい衝動を抑える。シルヴィアも足を止めることなく、足音や駆動音も徐々に遠ざかっていった。



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第七話、その1

 第七話、ここから始めよう、全てを!

 

「カミル! 逃げろ! 逃げるんだ!」

 叩き起こされて目が覚めたばかりのように重い瞼とぼやけた視界、祖父の必死の怒鳴り声が曇って聞こえる。

 真夜中、カミルの寝室で家に入ってきた厳つい強盗と祖父は取っ組み合いになり、カミルは尻餅ついてガタガタと震えていた。強盗の男は手に小型リボルバー拳銃を持っている。

 祖父の手にも中型のマグナムリボルバー拳銃が握られてお互いに銃口を向け合おうと取っ組み合いをしてる。

母親のトラゥデルと妹のウルスラは隣の家に逃げて保安官を呼びに行き、カミルは逃げ遅れたのだ。

「この! 死に損ないが! 放せジジイ!」

 強盗の男は剛腕の祖父の手から逃れようと抵抗し、祖父は必死でカミルに逃げるよう促す。

「カミル! わしのことはいいから早く! 走れ!」

 カミルは四つん這いになって死に物狂いで両手両足を動かし、リビングのテーブルに縋りながらようやく立つと目の前にはポンプアクション式の散弾銃――HM210と弾薬であるショットシェルが置いてあった。

 祖父が分解掃除していたのだろう、クリーニングキットも置いてあった。

 これならお祖父ちゃんを助けられる! でも、そんなことしたら……カミルがおろおろと数秒間、躊躇した次の瞬間。

「ぐあああぁぁぁっ!」

 銃声と祖父の痛々しい悲鳴が背後から響いて背筋が凍った。お祖父ちゃんが強盗に撃たれた! 次は自分だとカミルは背筋が凍り、目の前にあるHM210を取る。

 母親は反対してたが、祖父は自分や妹に銃の扱い方を教わっていた。見たところ銃の清掃をする前後だったんだろう。

 カミルは弾薬であるショットシェルを取りHM210のローディングゲートに入れると、背後から強盗の声が響いた。

「おいガキ! どこだ! どこにいる!」

 足音がゆっくり一歩ずつ近づいて来て扉がゆっくりと開く。カミルはHM210を持ってテーブルクロスが敷かれたテーブルの下に隠れる。気付かれたら殺される……殺される! カミルは本能的な恐怖と戦いながら通り過ぎるのを待つ。

「逃げたか……まあいい」

 足音が目の前まで通り過ぎ、別の部屋に入って物色する音が聞こえた。やがてカミルは恐怖よりも祖父を撃った強盗への怒りが芽生えそれが徐々に勝り、音を立てずにテーブルから出て母親の部屋まで近づく前に安全装置を解除した。

 半開きになってる扉から強盗の背中が見えた、気付いてない。

 カミルはゆっくり照準を背中に合わせてフォアエンドを勢い良く前後させて鋭い金属音が響く、強盗が気付いて振り向いた瞬間、引き金を引いた。

 

 頭の中で凄まじい銃声が響いた瞬間、カミルは目を覚ました。

 寝汗でシーツと毛布がぐっしょり濡れていて、またあの日の夢を見たかと起き上がって頭を抱えた。

 あのあとまだ息のあった祖父が這いながらやってきて、カミルは泣きながら話した。

 

――お祖父ちゃん……僕……人を撃っちゃった……。

 

――ああ、わかってる。いいかい……カミル、わしが撃ったんだ……銃を渡しなさい。

 

 カミルはHM210を渡すと、祖父は最後の力を振り絞るかのように言い聞かせた。

 

――いいかいカミル……人を殺すのは絶対にいけないことだ……だが、世の中は今のように綺麗事や正論が通用しないのが当たり前だ……もしそんな時が来ても今日のことを思い出せ、一人を殺せばもう一〇人、一〇〇人殺しても同じだ。 

 

 それが最期の言葉だった。

 あの後すぐ保安官が来て、家に押し入った祖父は強盗に撃たれて最期の力を振り絞って散弾銃で射殺したと処理された。もしあの時、早く逃げてリビングに逃げて銃を取っていたら多分、少なくとも祖父を救えたかもしれない。

 Ziフォンを見ると朝の七時前だった。

 

 ヘルガたちが旅立って数日が経ち、パタゴニアに旅立つ日ももうすぐ近づいてきた。

 リビングに入るとテレビでは朝のニュース番組が放送され、昨日の現地時間の午後三時頃、アーカディア王国首都アーカナにあるアーカディア城でアトレー・アーカディア前国王が演説中に突然、心臓発作を起こしアーカナ市内の王立病院にて搬送されたと、ニュースは報じた。

「あ、おはようお兄ちゃん!」

 妹のウルスラは丁度コーヒーをカップに注いでる所だった。

 ウルスラは二つ下の一三歳で金色の長い髪にエメラルドグリーンの大きな瞳、北エウロペの人間にしては珍しく透き通る白い柔肌、人懐っこい小動物を思わせる愛くるしい顔立ちで童話の主人公になれそうな美少女だ。

「おはようウルスラ」

 カミルは今日も妹は可愛いと慈しむ眼差しで見つめ、微笑む。

 トレンメル家のルーツはゼネバス帝国にあり、第二次大陸間戦争時代にエウロペに進軍したガイロス帝国軍かヘリック共和国軍の残留したゼネバス系人兵士たちの子孫だ。

 どちらかはわからないが、カミルは紺色の髪でウルスラは金髪だ。

 そしてこのセブタウンは残留兵士たちが森を切り開き、畑を耕し、旅人たちの憩いの場を作った限りなく村に近い小さな町だ。

 母親はもう農場の仕事に出かけたのだろう。ウルスラは朝食を作って一緒に食べると他愛ない話をしてるうちにこの前の冒険の話になる。

「――すぐに風で吹き飛ばされちゃったけど、あの時内職手伝っていてよかったよ。その後は一緒に星空も見上げた……シルヴィアを探してる間、片手程度しか見られなかった綺麗な星空をね」

 さすがにずぶ濡れになって一緒に温泉に入って、裸になって一緒の寝袋で寝たなんて言えないけどねと、内心付け加えるとウルスラは率直に訊いた。

「ねぇお兄ちゃん、あのお姫様のこと好き?」

「……うん、勿論さ」

 カミルは一呼吸置いて首を縦に振ると、ウルスラは無邪気にニッコリと笑顔になる。

「優しくて綺麗な人だったもんね!」

「それだけじゃないよ、僕より強くて大胆で……別れ際に言ってくれたんだ。私のこと好きになってくれてありがとうって」

 カミルは視線を落として呟くと、ウルスラは大きな瞳で見つめる。

「また……会いたい?」

「……うん!」

 カミルは満面の笑みで頷く。

「会えるわよ、あんたが大人になって自分でお金稼げるようになったらさ、アーカディアに行って……あの冒険はいい思い出だったって笑い合える日が来るわ」

 隣に住んでる幼馴染みのアヤメリア・ハミルトンがいつの間にか入ってきた。

 母親はアヤメリアのことを信頼していて、カミルが山に行ってる間の留守中にウルスラの面倒を任せるほどだった。

「あっ! おはようございますアヤメリアさん! コーヒー淹れましょうか?」

 ウルスラもアヤメリアのことを姉のように信頼している。

「あっ、いいよすぐに出かけるから、それでさカミル……裏には置いてたライガーゼロのシルヴィア……本当に逃がしたの?」

「うん、パタゴニアには連れて行けないから」

「そう、パタゴニアには……ね」

 アヤメリアはカミルの心の奥底を覗くように見つめる。カミルは極力逸らさないように見つめる、一瞬でも逸らしたら見抜かれそうだった。

「ねぇ、せっかくだからさ……ちょっと付き合ってよ、ここにいらえるのも……そう長くないからさ」

 アヤメリアの言う通りだ、ここにはもう長くはいられない。

 

 

 セブタウンが一望できる高台でパティンは双眼鏡でライガーゼロを探していた。

 盗賊団「荒野の蜃気楼」は盗賊兼PMCのホワイトファングのおかげで一時活動を大幅に縮小していたが、あのライガーゼロの少年とケーニッヒウルフの少女とその三人の護衛のおかげで瓦解、社長のサイモンと社員はガーディアン・フォースに逮捕された。

 そしてケーニッヒウルフの少女とその護衛の三人は旅だってしまったがライガーゼロはまだ残っている、パティンは無線機で待機してる仲間に指示を送る。

「あの小僧は真っ直ぐメルヴィに向かってる。母親は農場で仕事の真っ最中だ、妹さんは家で留守番してる、すぐに作戦を開始しろ」

『了解』

 目標の家の近くに潜んでる仲間が返事すると、パティンは油断せず双眼鏡で目標の動きを確認する。

 目標のライガーゼロの持ち主である少年は世界中に店舗があるコーヒーチェーン店――メルヴィルコーヒー(略称:メルヴィ)のセブタウン店に友人と歩いて向かってる。

 ライガーゼロ強奪作戦開始だ、パティンは森に隠していた巨大蛇型ゾイド――レティックピュトンのコクピットに入った。

 

 

 ウルスラ・トレンメルは不安な気持ちで誰もいない家で一人、台所で洗い物をしていた。

 もうすぐお兄ちゃんはあのお姫様の後を追いかけて旅に出る、お姫様との恋は応援してあげたいけどお父さんも死んで、お祖父ちゃんも死んで、今度は大好きなお兄ちゃんが危険な旅に出て……。

 ウルスラは首を横に振って涙を堪えながら否定した。

 そんなことはない! これまでホバーボードで一〇回以上転び、八回崖下に転落、あるいは滑落、三回骨折して去年の今頃は首都の病院に搬送され、一週間の昏睡状態なっても生きて帰ってきたんだから!

 お兄ちゃんが死ぬはずない、だってシルヴィアちゃんだって一緒だから一人じゃない!

 気がついたらウルスラは一人ですすり泣いていた。お父さん、お祖父ちゃん、お願い……お兄ちゃんを守って、涙を拭いながら洗い物を終えると扉が開いて足音がした。

「お母さん? もう帰ってきたの?」

ウルスラはタオルで手を拭いて出入口に行くと誰もいない、あれ? 気のせいかなとウルスラは台所に戻ろうとした次の瞬間、口元を押さえられた!

「んっ!?」

「静かに、死にたくないなら大人しくしろ」

 知らない丸刈りの厳つい男がナイフをウルスラの目の前に銀色に光らせてる、首の頸動脈を切られれば一分足らずで失血死する。ウルスラはこれまで経験したことのない命の危険にガタガタ震えながら心で叫んだ。

 お兄ちゃん助けて! 怖い! 助けて! お兄ちゃん!

 

 解説

 

 メルヴィルコーヒー

 ヘリック共和国に本社を置くコーヒーチェーン店、元々は地球のシアトル系コーヒーショップのスター〇〇クスやタ○○ズコーヒーのグローバリー三世号店の店員たちが興した会社で二一世紀の地球以上に世界中に展開しており、発展途上国の田舎町から多国籍軍基地にも店舗ができるほど知名度は高い。略称はメルヴィで通じる。

 ライバルはエイハブコーヒーでこちらも世界各地で展開してエイハブで通じる。

 

 レティックピュトン

 ブリタニア連邦製の大型ニシキヘビ型ゾイド、長い体を持ち格闘戦時には締め上げてゾイドコアを圧迫し、駆動系統を破壊して戦闘不能に追い込む。奇襲用・陸軍機で射撃兵装は乏しいが、隠密性と機動性は高くとぐろを巻きにしてコンテナに入れて空挺降下できる。地中に潜れる、静粛性に優れるため特にブリタニア()陸軍特殊()空挺部隊()の主力ゾイドとなっている。

 全長49.5メートル 全高5.5メートル 重量70.7トン 最高速度時速190キロ

 武装

 ブリタニア・ロイヤル・システムズ社製12.7ミリ機関銃二挺

 ブリタニア・ロイヤル・システムズ社製35.7インチマグナムカノン 

 ヘレフォード・エレクトロニクス・ディフェンス社製光学迷彩

 ヘレフォード・エレクトロニクス・ディフェンス社製Eシールドジェネレーター 

 レーサーファング

 

 

 

 



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第七話、その2

 カミルはアヤメリアの言われるがまジョエルの父親が工場長を勤める整備工場の近くにあるメルヴィのセブタウン店に連れて行かれる。

 店内のテーブル席は少なく客も殆どいないが、その代わりに工場で働いてる従業員が朝・昼・夕方にテイクアウト注文で大繁盛を通り越して戦場と化すという。

 店内に入ると、ジョエルとセレナが待っていてカミルはアイスティーを注文してアヤメリアはミルクと砂糖たっぷりのコーヒーを注文し、ジョエルとセレナのいる席に座ると世間話しをして、セレナはこんな話しをする。

「――それでさ、SNSで東亜国の人と話してパタゴニアは首都そのものがブラックだって、ほら持って行けるものも凄く限られてるし、学校だと朝課外もあるし放課後のクラブ活動も任意という名の強制参加が義務で課せられてるって、土日もクラブ活動や奉仕活動で休みがない……あっちの人たちでは国そのものがブラック企業で、共通言語で言うならスウェットショップ……ヘリックの人はディストピアだって話してた」

「でもそれが当たり前じゃないの? それにマゼランと海外の人じゃ考えとか違うし、世界中にはあたしたち以上に恵まれない人たちが――」

 アヤメリアの言葉を遮るかのようにセレナはテーブルを叩きながら勢いよく立ち上がって指を差す。

「それよ! アヤメリアのその考えが一番危ないわ! 最初は信じられなかったけど、私決めたの! パタゴニアに潜り込んでこの目で確かめてそして本当なら、洗いざらい世界に暴露してやるってね!」

 セレナは右手を握り締め、志しを明かすと店内のテーブルや椅子に照明が揺れる。

 いつもの地震かと最初は思った、ここは北エウロペ最大のカルデラ――ソーア山の近くで現在も活動しているから時々火山性地震が起きる。

「いや、これは地震じゃない。大型ゾイドだ」

 真っ先にジョエルが気付く、さすが工場長の息子だ。カミルも近づいてることを感じながら立ち上がる。ガラス越しに外を見ると大型の蛇型ゾイドだった。

「あれはレティックピュトン……ブリタニア連邦のゾイドだ!」

 ジョエルはガラス張りに張り付いて言う。

 装甲式のコクピットにオリーブドラブ装甲を纏ったカーキ色の長いゾイドだ。

 陸軍の隠密偵察や奇襲に使う機体だ、駆動音も比較的静かで気付いた近所の人達も何事かと窓を開けてる人は少なく、外に出てる人たちはその危険な雰囲気を放つ姿を目に焼き付けている。

 カミルは扉を開けて外に出るとレティックピュトンがお店の前を通過する。

 国籍マークは付けてないから多分旅の者だろう、もし盗賊ならこんな正々堂々と町の中に入るとは思えない。

「随分大きいな」

 カミルはネットや書籍で見たことあるが本物は初めてだ。

 大方整備工場近くの駐機場に向かうのだろうと思いながら見送ってすぐ後に、見慣れないくたびれた旧式の四輪駆動車(4WD)がメルヴィの前で停車すると、降りてきたのは褐色肌にドレッドヘアー、逞しい筋肉質のタンクトップ姿のエウロペ人の男で、訛りの強いマゼラン語だった。

「君がカミル・トレンメルかな? ライガーゼロの少年というのは?」

「……カミル・トレンメルは僕だ」

 カミルは嫌な予感がすると思いながら返事する。男はニヤリとして見つめると一同が凍り付く、右手にはネオゼネバス製ガストン自動拳銃、左手にはZiフォンが握られて片手で器用に操作する。

「なるほど、瞳の色が兄妹そっくりだな」

 カミルは全身の肌が粟立って嫌な予感がした、その予感はすぐに的中する。

「これが何かわかるよな?」

 男がZiフォンを見せるとカミルは目を見開いた。

 甘えん坊だけどしっかり者のウルスラが屈強な男に刃物を突き付けられ、恐怖に満ちた顔で震えていた。

『お兄ちゃん! 助けて!』

「ウルスラ!? どうしてこんなことを!?」

 カミルはドレッドヘアーの男に訊くと、男はニヤニヤしながら見つめる。

「まあ落ち着け、君のライガーゼロを俺達に渡せば無傷で返してやるよ」

 軽い言動を見せるドレッドヘアーの男にカミルは敵意を剥き出しにして睨む。

「シルヴィアが目的ならどうして妹を人質に取る!? 妹が何をした!?」

「妹を無事に返して欲しいなら、素直にライガーゼロを渡すんだ」

「シルヴィアならもう山に帰した! 欲しいなら自分達で捕まえればいいはずだ!」

 カミルは噛み締めながら言うが、男には見抜かれていた。

「おいおい確かに山にはいるけど手放してないんだよな?」

 カミルは冷たい手で心臓を鷲掴みにされたように凍り付く、見抜かれてる! 表情に出さないように睨むが無駄な足掻きだった。

「図星だぜカミル君、もうすぐパタゴニアに行くんだろう? ライガーとお別れした方が身のためだぜ」

「カミル……シルヴィアを逃がしてなかったの」

 アヤメリアはなんとも言えない表情でジッと見つめると、ドレッドヘアーの男は下衆顔で気持ち悪い笑みで神経を逆撫でする口調になる。

「ほ~ら、お友達が心配してるよカミル君……言うことを聞かないと無垢で可愛い可愛い妹ちゃんどうなっちゃうかな~?」

「ひっ……」

 セレナは察したのか怯えて震えている、それを見透かしたのかドレッドヘアーの男はねっとりと絡み付くような口調でセレナを見つめながらおぞましいことを口にする。

「ウルスラちゃんみたいに可愛いくて綺麗なお人形さんみたいな子は裏の世界では高く売れるんだよ……どこかの店に買われてあの幼い身体のうちから無数の男の相手をさせられて、何度も何度もお腹を大きくさせられた末に病気塗れになるかも?」

「くっ……この下衆野郎!!」

 ジョエルは銃を向けられてるにも物怖じせずに言い放つと、ドレッドヘアーの男はもう一つ思いついたらしく別の末路を話す。

「いやいや待て、或いはどこかの部族に売られて幼いうちに好きでもない男と結婚させられるかもしれない、ウルスラちゃん一三歳って言ってたからね……そろそろ好きな男の子ができてもおかしくないよねぇ~」

「なんてこと……お願い! あたしがライガーを渡すように説得するからウルスラちゃんを返して!」

 アヤメリアは青褪めた表情で怯え、必死に懇願するとドレッドヘアーの男はニヤニヤしながらカミルを見つめる。

「悪いがお嬢ちゃん、決めるのはカミル君だぜ! なぁ可愛い妹ちゃんを返して欲しいだろ? ライガーを渡すだけでいいんだ」

「……わかった。シルヴィアを呼び出したい、その代わりウルスラと会わせてくれ」

 カミルは要求を聞き入れたように見せかけることにすると、ドレッドヘアーの男は「ヒュー」と口笛鳴らすと、四輪駆動者のドアを開ける。

「いいぜ、全員車に乗りな」

 男はガストン拳銃を全員に向けている、カミルは助手席に座ってその後ろにセレナ、アヤメリア、ジョエルの三人が座ると、男は運転席に座ると四輪駆動車を発進させてセブタウンの郊外へと向かう。

 

 到着した場所は開けた郊外で、その真ん中に帝国製中型のサーバルキャット型偵察用高速ゾイドのスカウトサーバルが一機、ぽつんと立って頭を下げてコクピットを開け、その先にパイロットらしき男がウルスラにナイフを突き付けて待っていた。

「あいつ……まさか」

 ジョエルは何かを確信した様子でスカウトサーバルを見つめると4WDが停車する。

「連れて来たぜ、兄貴と一緒にお友達とオマケが付いちまったけどよ」

ドレッドヘアーの男がキーを差したまま降りて言うと、ウルスラを人質に取ってる丸刈りの男はカミルを見るなりニヤリと笑みを浮かべ、ウルスラは悲痛な声を上げる。

「お兄ちゃん助けて! 死にたくない!」

「ウルスラちゃん! 待っててすぐに助けるから!」

 アヤメリアは青褪めた表情でウルスラを励ますが、次の瞬間には「なんとかして!」と言わんばかりの眼差しでカミルを見つめる、カミルはわかってると頷く。

大丈夫、ウルスラは助けるし、シルヴィアも渡すつもりはない。

 カミルは呼吸を整えて状況把握した上で丸刈りの男に言う。

「すぐにシルヴィアを呼ぶ、だから妹を放せ」

「ライガーを呼んだら……な」

 丸刈りの男はねっとりと気味の悪い笑みを見せると、カミルは首にかけてある犬笛に似た笛を取り出す。シルヴィアを整備してる間に買ったもので既に覚えさせてる、自動操縦でセブタウンの近くの森に潜ませてるから近くにいるはずだ。

 カミルは笛を吹くと高すぎて人間には殆ど聞こえない音を発する、すると森の奥から足音と共に振動が近づいてくる。二人の盗賊は確信したのか余裕の笑みを見せながら見回すと、木々の間から唸り声を上げながらシルヴィアが姿を現した。

 丸刈りの男は見上げて畏怖の念を抱いてるようだ。

「ほほう……こいつがライガーゼロか、本物は初めてみるぜ」

「ああ、シルヴィアって名前の通りいい女だな」

 ドレッドヘアーの男もニヤニヤしながら言うと、カミルはウルスラを見つめて言う。

「約束だ。妹を返してもらう」

「OK約束だ、さぁお兄ちゃんの所に帰りな」

 丸刈りの男はナイフを鞘に納めてウルスラを解放すると、ウルスラは涙を溢しながらカミルの所に駆け寄って抱き付く。

「お兄ちゃん!」

「ウルスラ……もう大丈夫だ」

 カミルはそっと抱き締めながらシルヴィアと目を合わせる。アヤメリアも安堵した表情を見せるがまだ終わっていない、寧ろここからだ。ジョエルは油断した表情を見せず、セレナも怯えたままだ。

「おっと、まだ終わってないぜお前ら……俺達は盗賊だからな」

 丸刈りの男はナイフの代わりに、ホルスターからガストン拳銃を取り出してカミル達に向けると、アヤメリアが抗議する。

「ちょっと話が違うわよ! ライガーゼロを渡すんだしあたし達はもう関係な――」

 言わせないと遮るかのようにドレッドヘアーの男がガストン拳銃を発砲、一瞬で命を奪う銃声で黙らせると、震えるアヤメリアに歩み寄りながら銃口を突きつける。

「世間知らずにも程があるぜお嬢ちゃん」

「嘘……お願いやめて……死にたくない」

 怯えるアヤメリアにドレッドヘアーの男は背中を見せた、腰には大型のシースナイフ。丸刈りの男は死角をカバーするかのようにこっちに銃口を向けてる、シルヴィアはカミルを見つめて唸る、まるで覚悟を問うかのように。

 大丈夫だシルヴィア、僕はもう覚悟してるから。

 カミルはウルスラをそっと離すと、ジョエルに託して彼と目が合う。察してくれたのか悟られないよう目で頷いてくれた、カミルは親友に感謝しながらシルヴィアを見上げ、心と目で合図した。

 やれ!(Do it)

 その瞬間、シルヴィアは初めて出会った時のように盗賊二人に耳をつんざくような声で吠えかかり、たまらず全員は耳を塞ぐ、カミルを除いて。

 今だ! カミルは躊躇いなくドレッドヘアーの男に背後から音もなく近づき、奴の腰のシースナイフを鞘から右手で素早く抜くと、左手で口許を押さえてナイフを持った右手で脇腹を刺してそのまま勢い良く腎臓と肝臓等の臓器を切り裂き、血肉と共に撒き散らす!

「いやぁああああああっ!!」

 アヤメリアは悲鳴を上げて男は断末魔の悲鳴を上げる間もなく、口からも夥しい量の血を吐いてその場で崩れ落ち、ガストン拳銃を落とす。

「ジョエル! みんなを連れて逃げろ!」

 カミルは叫びながらガストン拳銃を拾う、気付いた丸刈りの男だがもう遅い! カミルは祖父に教わった通りに膝射で拳銃を構える。丸刈りの男は片手で拳銃を構えながら驚きの表情で目を開いた。

 素早く引き心地の悪いトリガーを引いて二発発砲。

 胴体に二発叩き込むダブルタップを決め、すぐに立つと虫の息だったドレッドヘアーの男の頭を一発撃ち抜いてどどめを刺し、近づいて倒れた丸刈りの男の頭部に一発撃ち込んで止めを刺した。

「カミル……あんた何やってるのよ……」

 泣きじゃくるアヤメリアは命の危険よりも、幼馴染みの男の子が躊躇うことなく引き金を引いて人の命を奪う光景が信じられないようだ。

 すると、ジョエルはスカウトサーバルへと足を向けてカミルは制止する。

「ジョエル! 何やってるんだ!」

「俺はこいつに乗ったことがある! セレナ! アヤメリアとウルスラちゃんを、運転できるな!?」

 ジョエルは大声で訊くと、頭を切り替えたセレナは叫んで親指を立てる。

「任せて! アヤメリア! ウルスラちゃん! 逃げるわよ!」

 カミルはみんなの前で惨い光景を見せたが、悔やんでも仕方ない。カミルはシルヴィアのコクピットを開けて搭乗、手早くシートベルトを締めて安全バーを降ろして電子機器を立ち上げた。

 

 解説

 

 ガストンシリーズ

 ネオゼネバス製ポリマーフレーム自動拳銃、シンプルかつ三重の安全装置であるトリガーセイフティ、ストライカーの前進を阻むするドロップセイフティ、ストライカーが雷管を叩くのを阻むファイアリングピンセイフティを持つ、口径や大きさはさまざまで世界中の軍隊や警察機関、特殊部隊に幅広く採用されていて、かつての敵国へリック共和国軍の特殊部隊やニューへリック市警も採用するほどである。一部を除いて口径と大きささえ合えばマガジンも共用可能、9㎜口径フルサイズならG9F、コンシールドキャリーで45口径ならG45CCとなる。

 パテント自体はグローバリー三世号の時代以前に失効してるため作ってない銃器メーカーを見つけるのが難しいレベル、モデルはグロック及び各社製ストライカー式ポリマーフレームピストル。

 

 スカウトサーバル

 ガイロス帝国製サーバルキャット型高速偵察ゾイド、ライトニングサイクスの反省を踏まえて開発された機体である。ライガーゼロイクス並みのステルス性能に加えて、高性能レーダーや各種センサーを装備し、対ステルス性能も高い。シャドーフォックスとよく比較されることが多いが、スカウトサーバルが軽量で個体数も多く、ジャンプ力に優れている。

 全長16.5メートル 全高8.7メートル 重量49トン 最高速度時速275km/h

 カール・ヴァイス社製ヘッドギア

 シュタウフェンベルグ電子工業社製光学迷彩

 レインメタル社製パルスレーザーカービン

 レインメタル社製12.7mm機関銃二門(ライセンス生産品)

 エレクトロンファング

 ストライクレーザークロー

 

 

 



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第七話、その3

 セレナはウルスラとアヤメリアを後部座席に座らせ、キーを差しっぱなしだったことをいいことに回してディーゼルエンジンスタート! 独特の振動と共に始動するがマニュアル車だ!

「もう……何でよりにもよってマニュアル車なのよ!?」

 セレナは重いクラッチを踏み込んでシフトレバーを一速にしてパーキングブレーキ(PKB)解除して発進! ペダルやシフトレバーが硬い! ステアリング重い! マニュアル車だから難しい!

 やっぱりVRゲームで鍛えておいてよかった!

 後部に座るウルスラは驚きの声を上げる。

「セレナさん凄い! 車運転できるんですね!」

「あたしはワーナー農場主の娘よ! VRゲームで鍛えてるからね!」

 セレナの家族は祖母が農場主であり、祖父が大地主でセブタウンの土地をいくつも所有して貸し付け、父が町長をしているから一番の金持ちだ! 舗装されてない道を4WDで走るがVRとは違って振動も酷かった。

「そんなの持ってたんですかセレナさん!? どこで買ったんです!?」

 驚いたウルスラは問い詰めると、セレナは前を向いたまま激しいエンジン音と振動の騒音に負けないほどの大声で叫びながらデコボコ道を運転する。

「通販で買ったのよ! ミューズっていう通販サイト知らない!? 二年前マゼランに進出してきたのよ! シートベルト締めて!」

 セレナはシートベルトを締めるように促すとセブタウンに通じる森に挟まれた街道を走り、保安官事務所へと急ぐ、そこには自警団もいるから逃げ込めば一先ず大丈夫なはずだが、アヤメリアはカミルが人を殺したショックで震えていた。

「嘘よ……あんなに優しいカミルが……人を殺すなんて」

「アヤメリア! しっかり! あたしもあんたもジョエルも、ウルスラちゃんも助かったんだから!」

 セレナはディーゼルエンジン音に負けない声で叫ぶ。

 確かにカミルのしたことは人道的にはアウトだよ! でも、今は保安官事務所に逃げることを考えろ! そう思ってカーブに差し掛かった瞬間、前を塞ぐように中型ゾイドが森の中から姿を現した。

「嘘っ! ヤバッ!!」

 セレナは固いクラッチとブレーキを両足に全体重をかけ、甲高いスキール音を響かせながら前足ギリギリで止まると前に飛ばされされそうになる。

「二人とも大丈夫!?」

 セレナは後ろを向いて訊くがシートベルトしてたのが幸いして、アヤメリアはなんとか頷く。

「うん……大丈夫」

「セレナさん上上!!」

 ウルスラは必死で叫んでるとセレナは上を向くと、黒い共和国製キツネ型高速偵察ゾイド――シャドーフォックスが前足を上げて4WDを踏み潰そうとしてる。

 目を見開いたセレナはあっ、死んだと悟った瞬間。シルヴィアが突進してシャドーフォックスを突き飛ばした。

 次の瞬間にはシャドーフォックス一〇〇メートル以上前方に木々を倒しながら右側臥位に転がり、シルヴィアの外部スピーカーからカミルの声が響く。

『大丈夫かセレナ!』

「サンキューカミル! 必ず二人を安全な所に送り届けるわ!」

 セレナはギアを一速にしてアクセルペダルを踏んで発進させた。

 

 

 危なかった……あとゼロコンマ数秒遅かったら三人ともサンドイッチにされてた。

 カミルは全身から冷や汗を流しながら倒れ、よろよろと立ち上がるシャドーフォックスを睨むが、糸の切れた人形のごとく崩れ落ちるように倒れた。

 パイロットは気絶したのか力尽きたまま動かない。

 よし! 突進する時、下顎に当たった。人間でいうなら脳震盪の状態だ、すると無線機の受信を告げる着信音が鳴り響いて無線機のスイッチを入れると雑音と共にジョエルの声が聞こえた。

『カミ……そっ……行……』

「ジョエル! なんだって!? もう一度言ってくれ!」

『シャ……フォ……スが逃げ……クソっ! 追い付けない』

 カミルは右手のスロットルの送信ボタンを押して返事しながら左手で無線周波数のツマミを回すと、音声がクリアになる。

「わかった! 無線の周波数はそのままにして! こっちでも捕まえてみる!」

『OK! 頼んだぞ!』

 ジョエルの返事がクリアになってMFDのレーダー画面を見ると、反応はジョエルのスカウトサーバルだけだ。シャドーフォックスはレーダーに反応しにくいが、見つけられない訳じゃない、カミルはシルヴィアを前進させて走ると思った通りだ。

 木々の枝が不自然に動いたり折れたりしてる、まるで見えない何かが進んでるように。

 カミルはそれに立ち塞がるように前に回り込む、シルヴィアが雄叫びを上げるとそれは怖じ気づいたかのように急減速すると、さっきと同じように突進すると手応えあり!

「よし! 二機目を倒した! ジョエル! セレナ達をエスコートしよう!」

『ああ、任せろ!』

 カミルが大まかな操縦でシルヴィアが最良の戦法を選択を取ってくれる。

 このライガーゼロは数十年にも及ぶ戦乱の時代を生き抜いた経験豊富なゾイドだと感じ取りながら、セブタウンに通じる森に挟まれた道路を戻って4WDの前を先行する。

 すると赤外線レーダーが前に何かいると、反応を示している。

「? 何かいる?」

 森の中からさっきの巨大蛇型ゾイド――レティックピュトンが光学迷彩を解除して立ちはだかり巨大な口を開けて威嚇、カミルはシルヴィアを急停止させて外部スピーカーで報せる。

「セレナ! 盗賊達の仲間だ! 迂回しろ!」 

 声が届いたのか、後部警戒レーダーに映ってる4WDが急停止して森に入るとジョエルのスカウトサーバルが横に立つ、スピーカーからレティックピュトンのパイロットらしき男の憎悪に満ちた声が聞こえた。

『よぉお前ら、聞いたぞ……よくも俺の仲間二人を殺しやがったな!』 

『あ、あれはあんたの仲間が子供に銃を向けてナイフを突き付けたからだろ!』

 ジョエルが反論するが、カミルは言葉を真っ向から受け止めた。ああ、そうだなんとでも言えばいい、僕は人殺しだ。

「……そうだ、僕はあんたの仲間を殺した。妹と友達を守るためにね……あんただってそうだろ? 生きるために誰かを殺めたことを!」

『……それなら、わかってるんだろうな!』

 男の私怨に満ちた声と同時にレティックピュトンが大口を開けて口腔内のマグナムカノンを展開、カミルは反射的に回避行動を取ると砲口が火を噴く。

 背後で砲弾が炸裂して爆炎の混じった土煙が上がる、シルヴィアをレティックピュトンの周りを走らせる。大型の蛇型ゾイドは下手に格闘攻撃したらたちまち巻き付かれ、あっという間に絞め殺される。

「ジョエル! 下手に格闘攻撃するな、一瞬で絞め殺されるぞ!」

『わかった! ガンガン撃ちまくってボコボコにしてやるぜ!』

 ジョエルのスカウトサーバルが背中のパルスレーザーカービンを撃つが、レティックピュトンの装甲は重戦闘ゾイド仕様で固い。それなら! カミルはイオンターボブースターの燃料の残量計をチェックする。

「行くぞシルヴィア!」

 カミルは背中にあるぺリング(P)ウィンストン(W)社製のITB-Z041イオンターボブースターを展開して点火、加速しながらレティックピュトンに接近、ショックカノンを撃ちながら接近して怯ませながらジャンプ!

 ストライクレーザークローを閃かせながら首を狙って胴体を踏みつけ、着地の反動を利用して再びジャンプして離脱! イオンターボブースターを切ってスライティングターンすると、ダメージは与えたがまだ倒れる様子はない。

「……仕留め損ねた!」

 祖父から教わったが、中途半端にダメージを与えた手負いの状態が一番危険だ、より狂暴になって仕掛けてくるだろう。事実レティックピュトンはシルヴィアに執拗に狙いを定め、マグナムカノンを展開し、撃って噛みつこうとしてくる。

 シルヴィアは完全に読んでいるのか後ろに飛び退いて回避すると、ジョエルが通信してくる。

『気を付けろカミル! もし巻き付かれたら一瞬で駆動系統を潰されるぞ!』

 さすが整備工場長の息子だ、具体的にどうなるかまで伝えてくれる。

「うん、気を付けると言いたいけど……どうやって倒す? 早いところケリを着けないと!」

『そうだな……あの、マグナムカノン……食らったら終わりだが、射程が短い上に自動装填装置の構造上の関係で次弾装填に少し時間かかる……一発撃ったら二~三秒隙ができる、なんとかして動きを封じることができればな』

 ジョエルは必死で考えてるようだ、確かに書籍やネットで知った話ではブリタニア・ロイヤル・システムズ社製三五・七インチマグナムカノンは実弾兵器で、自動装填装置の関係で次弾装填に二~三秒かかるという。

『……仕方ねぇ、腹を括るか!』

 カミルは何をするんだ? と訊こうとした瞬間、ジョエルは捨て身のつもりなのかスカウトサーバルを正面から跳びかからせ、レティックピュトンの喉元に噛みつこうとする。

「駄目だ! ジョエル! 無茶するな!」

 カミルの悲痛な叫びも虚しく、スカウトサーバルはたちまち巻き付かれて絶対絶命だ! レティックピュトンのパイロットが無線で挑発してくる。

『さぁどうする? 大事なお友達が絞め殺されるぞ!』

『カミル! 躊躇うな! こいつを倒してあのお姫様を追いかけるんだろ!』

 モニター通信越しにジョエルは叫ぶ、見透かされてたのか、ジョエルに……カミルは思わず動揺して声を上げた。

「知ってたのかよジョエル!」

『俺どころかアヤメリアやセレナ、きっとウルスラちゃんだって気付いてたぜ!』

 ジョエルはモニター越しに不敵な笑みを見せると、祖父の顔が重なった。

 死なせない……今度は死なせない! 今度は死なせない!!

「行くぞシルヴィア!」

 カミルはジョエルの覚悟に応えるために、真っ直ぐレティックピュトンの口に向けて走り出してイオンターボブースターを点火、全神経を集中させて見えないコクピットの敵が引き金を引く瞬間を見計らう。

『これで終わりだ!』

 その瞬間、レティックピュトンのマグナムカノンが火を噴くと同時にシルヴィアはスピードを保ったまま、体を左に傾けて砲弾の射線を逸らす! さすがシルヴィアだ! 右半身を浅く切り裂かれ、押し潰されそうな横Gを瞬間的に感覚を感じながら、ブースターをオフにして頬の頭部強制冷却システムを展開して両前足の爪にエネルギーを集中させる。

「いけぇぇぇえええええっ! ストライクレーザークロー!!」

 シルヴィアの右前足をレティックピュトンの口腔に叩き込み、マグナムカノンを紙クズのようにくしゃくしゃにして引き抜くと、コクピットの真後ろにあるマグナムカノンの弾薬庫が誘爆! ジョエルが歓声を上げる。

『やったぜカミル! やったな!』

 カミルはパイロットは爆死しただろうと確信する。レティックピュトンは力尽きたように倒れるのを見届けると、解放されたスカウトサーバルは這い出して来てジッとシルヴィアを見つめていた。

『……カミル?』

 ジョエルは何かを察したような眼差しだった。

 

 解説

 

 ミューズ・ドット・コム・インク

 へリック共和国に本社を置く多国籍テクノロジー企業で通称「ミューズ」ネットスラングでは「森林」あるいは「森」で通じる。世界一六ヵ国でサイトを運営しており、ネット通信販売をメインに電子書籍やビデオ・オンデマンド等のサービスを行っている。

 元々はグローバリー三世号の地球でア○○ン従業員の子孫や、一部の冒険商人達が興した会社で、名前は地球の南米アマゾンに因んで北エウロペ大陸のミューズ森林地帯から。



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第七話、その4

次回からいよいよ冒険の旅の始まりです!

推奨EDテーマ
上條恒彦「だれかが風の中で」


 昏倒させた二機のシャドーフォックス盗賊はセレナが助けを呼び、再起動する前に駆けつけた自警団のゴドスによって捕縛され、パイロットの盗賊二人は保安官に身柄を拘束された。

 カミルが殺した二人の盗賊とレティックピュトンのパイロットは死亡が確認され、セブタウンの共同墓地に埋葬するという。保安官との事情聴取が終わる頃には日が傾き、カミルは自宅の裏庭でシルヴィアを駐機させると、リビングのテーブルに座ってみんなに全てを話した。

「じゃあ……お祖父ちゃんを撃った強盗を散弾銃で殺したのはカミル、あなただったのね」

 農場から駆けつけた母親に問われて、カミルは重く頷くとジョエルも重い口を開く。

「俺……なんとなく……薄々気付いてた。カミル……祖父ちゃんが死んだ後、週末シルヴィアを探すため山に引きこもったよな? あれさ、俺達のこと気遣って距離を置こうとしてたんじゃないかって思ったんだ」

「うん……今思えばそうかもしれない」

 カミルは重く頷くと、アヤメリアは思い詰めた眼差しで涙を浮かべて問い詰める。

「だったら……どうしてもっと早く話してくれなかったの!?」

「話したところでどうなる? みんなを苦しめるだけだよ、相手が強盗殺人犯とはいえ友達が人殺しなんて」

 カミルは虚しい笑みで首を横に振ると、アヤメリアは捲し立てる。

「でも……でも――」

 泣き乱すアヤメリアにセレナはジッと冷静に見据えた表情でそっと肩に触れる、アヤメリアはセレナと目を合わせると何かを諭されたのか、コクリと頷いた。

 カミルはあの瞬間を思い出す、自分でも恐ろしくなるほど鮮やかに動くことができたのは妹を助けるために殺すと迷いを捨てたからだ。 

「ウルスラを助ける時……僕は――」

「言わないで!」

 ウルスラの悲痛な声が小さな家に響き、泣きながら捲し立てる。

「お兄ちゃんは悪くない! だって、お祖父ちゃんだって言ってた! 綺麗事や正論は時に自分や大切な誰かの命を殺めるって! だから……お兄ちゃんは……悪くない……悪くない!」

「うん、わかってるよウルスラちゃん……カミルは悪くないわ」

 セレナはそっとウルスラを抱き締めると、カミルは安堵すると妹が淹れてくれたコーヒーを口にする。すっかり冷めてしまったが、美味しいけどいつもより苦味を強く感じた。

「カミル、話してくれてありがとう。パタゴニアではみんなであんたのこと守るから」

 アヤメリアは涙を拭って言うと、カミルは虚しさを超えて爽やかな笑みで首を横に振った。

「……僕はもう、みんなとは行けない」

 そう言ってカップのコーヒーを飲み干し、席を立つと母親は覚悟を問う眼差しになる。

「カミル……本当に行くんだね、シルヴィアちゃんと」

「……うん、僕はもう決めたから!」

 カミルはテーブルの向こう側にいるみんなが見えない壁に隔たれ、もう戻れない気がした。それはみんなもわかってる様子だった、それでもウルスラは引き止めるようにカミルに両腕で精一杯抱き付く。

「お兄ちゃん!」

「……ウルスラ」

 カミルは両手をウルスラの肩にそっと置いて少し屈み、妹の視線に合わせてエメラルドグリーンの瞳を見つめる。

「お兄ちゃん……約束して! いつか、必ず帰って来るって!」

「うん、いつになるかわからないけど……約束する!」

 カミルは絶対に守らないといけない約束だと肝に命じると、ウルスラはギュッと抱き締めてくれた。カミルも最期かもしれないウルスラの温もりを全身で、噛み締める。

「お兄ちゃん……大好き!」

 ウルスラは柔らかい唇をカミルの頬にキスすると、カミルも温かく見つめて微笑みウルスラの頬にキスした。

「うん、僕もだよ。ウルスラは世界で一番可愛い妹だから」

「えへへへ……」

 ウルスラは嬉しそうに微笑んで、ジョエルも気の抜けた笑みになる。

「カミル……やっぱお前、シスコンだろ」

 ジョエルに指摘されて今更否定しようという考えすらなかった。

「ああ、そうさ! 妹を愛さない兄がいるものか!」

 カミルは晴れやかな笑顔で言い切った。

 

 

 ウルスラは母親と手を繋ぎ、夕暮れのセブタウンを出て街道へと歩き去って行くシルヴィアを見送る。不安がないと言えば嘘になると、唇を噛む。アヤメリアは未練を噛み締めてるような眼差しで母親に問う。

「本当に引き止めなくてよかったんですか?」

「止めて聞くような子じゃないわ……お父さんの背中やバン・フライハイトの本を読んで育った子だから、それに……うちの家系の男は広い外の世界を見て回るのがお似合いみたい!」

 気丈な笑顔で見送る母親の言う通りだ。祖父はマゼラン陸軍の特殊部隊隊員として、父はマゼラン陸軍将校として世界を回っていた、お兄ちゃん……絶対に帰ってきてね。母親の握る手が強くなってウルスラは母親の横顔を見る。

「……お母さん」

 母親の頬に伝う涙が夕日に反射していた。

「大丈夫、お兄ちゃんにはお祖父ちゃんとお父さんがついてるから」

「……うん、勿論よ……」

 母親は強く頷くが、それ以上にジョエルがボロボロと涙を流していた。

「カミル……あの親不孝者……本当にあのお姫様を追いかける奴があるかよ、妹を愛してるなら……置いて行くことないだろ」

「ジョエル、カミルは一度決めたら聞かないの知ってるでしょ? それに、止めなかったのは信じてるんでしょ? 必ず帰ってくるって」

 セレナは優しくジョエルの肩を手に乗せて言うと、彼は強く頷いた。

 

 

 さよなら僕の育った町、セブタウン。

 さよなら僕に生きる術を教えたソーア山。

 さよなら母さん、親不孝な僕を許して下さい。

 さよならジョエル、僕の友達でいてくれてありがとう。

 さよならセレナ、僕を影から応援してくれてありがとう。

 さよならアヤメリア、最後まで僕を気遣ってくれてありがとう。

 さよならウルスラ、僕の世界で一番可愛くて、優しくて、大事な妹。

 カミルはシルヴィアをオートパイロットモードに設定し、コクピットに座ったままで心の中で何度も別れを告げながら徐々にセブタウンを離れて行く、すると心中を察したのか心配するように唸る。

「……うん、僕は大丈夫だよシルヴィア……ごめんね心配かけて、さて……国境まで五〇キロ……最初に訪れる国はガリン共和国だな」

 そして約束の地でもある。MFDに表示された地図を見ると国境検問所(チェックポイント)までの直線距離は三六キロだが街道は大きくS字を描いて山間部を歩くコースになってる。

 するとシルヴィアが唸る。

「ん? どうしたの? うわっ!」

 シルヴィアは突然走り出し、急加速のGでシートに押し付けられる。シルヴィアは街道を外れ、深い森に入って道無き道を駆け抜けるカミルはMFDの地図とGPSで位置を把握すると真っ直ぐ山に向かってる。

「シルヴィア……もしかして近道!?」

 そうだと言わんばかりに唸る、木を掻き分けて疾走するとたちまち野良ゾイドは驚いて逃げ出し、木々に止まって寛いでいた鳥逹も驚いて一斉に飛び立つ。カミルは高揚させながらシルヴィアに委ねる。

 足場の悪い岩場を軽々と飛び越え、夕日の山頂に達すると一度止まり、マゼランに別れを告げるかのように雄叫びを上げた。

 

 

 ガリン共和国首都チャトウィンにあるホテルのスイートルームでヘルガは夕食を食べ終え、バルコニーで一人紅茶を飲んで物思いに耽っていた。眼下は静かな中庭があり、首都と呼ぶにはみずぼらしくて騒がしい街並みとは対照的だ。

 ヘルガはカップの紅茶を飲み干した。

「早く……会いにいらっしゃい……そして、私を……」

 その先を言葉にしてはいけない、だけど言葉にしたい。

 アーカディア王国を旅だってそろそろ四ヶ月経とうとしてる、旅の途中に出会った男の子逹の中には私に恋心を寄せて来る子もいて、別れ際の挨拶はいつも決まっていた。

 

――私のこと好きになってくれてありがとう。

 

 一緒に過ごした思い出を忘れないと告げて別れる、男の子逹はみんな君との思い出を忘れないと言う子もいれば、いつか必ず君に会いに来ると叶わない約束も交わした。

「私を……外の世界に……連れ去って……」

 最後の言葉は形のいい妖艶な唇の動きだけで、発したかどうか怪しい。

 思い返せば生まれた時から囚われの姫だ。アーカディア王国国王の父としきたりを破って極東系とゼネバス系のハーフである母と禁じられた大恋愛の末に生まれたのがヘルガだ。

 思春期に入った頃、イヴァーナの目を盗んでヨハンから貰ったタブレットで生まれた当時の各社の新聞をダウンロードして王家の一大スキャンダルだと大々的に報道されて父も批判された。

 当時のアトレー国王は例え異国の血が混じっても、生まれてきた孫に罪はないと公に宣言したため終息。

 母は王立研究所の研究員で今も働いている。だけど実母には滅多に会わせて貰えず、二人の義兄には分け隔てなく可愛がられたが、元老院の娘で王妃でもある義母には遠回しにいびられ、腫れ物扱いされ、あからさまに政略結婚のために育てる方針を取っていた。

 いずれは会ったことのない元老院議長の息子か孫と結婚させられるだろう、あるいはアーカディア王国の財閥企業の跡取り息子かもしれない。

「お祖父様……」

 ヘルガはZiフォンの共通言語で書かれたニューへリックタイムズのニュースサイトを見る。

 

『アーカディア王国アトレー・アーカディア前国王、アーカナ市内の王立病院にて心臓発作のため崩御』

 

 ヘルガはZiフォンを握り締める。できるならすぐにでも帰国して葬儀に参列したい、お祖父様に私を受け入れてくれてありがとうと伝えたいと唇を噛んだ。

 わかっていたとは言え、やはり辛い……でもお祖父様はもうしがらみから解放されて、きっと向こうでレジーナお祖母様と再会して穏やかに過ごしてるのだろう。

 ヘルガの祖母であるレジーナ・クォーリはイヴァーナと同じ家庭教師兼三獣士だった、曾祖父の双子の弟が起こしたクーデターの後、アトレー国王と結婚して献身的に王国の再建に尽力。

 二四歳の時に父を産んで亡くなった。

 ヘルガの思い出に浸ろうと目を瞑ろうとした時、ドアの開く音が静かな部屋に響いた。

「姫様、ただいま戻りました」

 家庭教師兼護衛の三獣士のイヴァーナが戻ると、ヘルガは頭を切り替えた。

 弱音を吐いてる暇はない、今は力を蓄えて来るべき日が来たらアーカディア王国を救わなきゃいけないのだから!

 

 解説

 ガリン共和国

 マゼランの南東にある共和国で北にビース共和国と隣接している。

 首都はチャトウィンで人口約一〇二万人、領土の八割は森林や山岳地で豊富な天然資源が存在し、最近は観光や留学生、外国企業の受け入れてるため外国人の数もかなり多い。

 ガリン族は伝統的な暮らしを守る保守派と、マゼラン・ブリタニア寄りの先進国や外国資本を受け入れ、発展させる改革派があり、それぞれに穏健派と強硬派との派閥争いにより結果的に経済格差等が問題となっている。

 チャトウィンの生活水準は先進国並みに高く、改革派の拠点となってる。

 

 



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第八話、その1

 第八話、約束の地、ガリン共和国

 

 夕日の沈んだマゼラン・ガリン国境検問所の町――フレンドシップタウンは意外とのどかで、旅するゾイド乗りのゾイド逹が国境通過待ちのため並んでるとは思っいてたが、ゾイドの姿はそんなになかった。

 そのため、シルヴィアのようなライガーゼロのような大型ゾイドは浮いてると言っていい程目立っていた。一度降りて国境検問所の受け付けに向かい、パスポートを提出して出入国手続きを行う。

 予め発行しておいたパスポートを見せると、褐色の審査官はあっさりスタンプを押してくれた。

「はい、行っていいよ」

「ありがとうございます。意外とすんなり通れるものなんですね」

 カミルは思わず口にすると退屈そうにしてた入国管理官は饒舌に、まるで暇潰しの相手を見つけたかのように嬉々としてガリン訛りの強いマゼラン語で喋る。

「ああ、マゼランやガリンは北エウロペ連合加盟国だからね。ジャバル協定に加盟してる国の裁量でちょっと面倒な手続きで行ける国もあれば、お散歩感覚で国境を越えられる国もあるよ! ただ、チャトウィンに行く時は気を付けてね……マゼラン程治安はあまり良くないし、治安の良い地区と悪い地区の格差が大きいからね!」

「はい、ありがとうございます」

「いってらっしゃい! そしてガリンにようこそ!」

 入国管理官はガリン訛りの共通言語で見送ってくれた。

 手続きを終えて国境を通過すると、約束の期限までまだ四日はある。

 ガリン共和国は小さな国で首都まで四〇キロだが、今夜はフレンドシップタウンのモーテルで休むことにしよう、マゼランに入国したカミルはすぐにMFDでインターネットに接続して空いてるモーテルを探すとすぐに見つかって候補が出る。

 幸い北エウロペ加盟国には共通の通貨がある、シルヴィアを探す間に山菜や獲った水鳥や動物の肉を売って稼いだ貯金もあるが、思わぬ出費でいつ底をついてもおかしくない。

 いくつかの候補を探すと、安くて評判のいいモーテルが見つかる。

「このモーテルにするか」

 カミルはMFDの地図に入力させるとナビゲーションモードに切り替えた。

 駐機場に入ると、セブタウンのモーテルとは違って舗装されてないただの空き地みたいで、シルヴィアから降りてこぢんまりとしたフロントに入ってチェックインを済ませる。

 すれ違う人も旅人なのか、マントを身に纏っていた。

「すぐそこの一〇一号室です」

「ありがとうございます」

 フロントでカミルは鍵を受け取り、宛がわれた部屋の鍵を開けると、カミルはようやくホッとしてシングルサイズのベッドに寝転がり、長い一日だった。夕食は母親が作ってくれた弁当を食べてシャワー浴びたらもう寝ようと、ベッドから起き上がった。

 そして母親が作ってくれた弁当を食べ、ハードカバーのノートを開いて今日の出来事を書くと、シャワーを浴びて質素だフカフカのベッドで早めに眠った。

 

 

 今日も来なかったか……ハロルド・ヒギンズはどこか安堵した表情でドライシガーを吸い終えて携帯灰皿に入れて腕時計を見るとホテルに戻るため、歩き始める。

 日が沈んで暗くなり始めたチャトウィンにある独立記念公園の時計台を離れ、首都と呼ぶにはみすぼらしい街並みだが治安もそこそこ良い。それにもうすぐ独立記念際で町中が祭りの準備に忙しい雰囲気だ。

 できる限り明るい場所を通って数少ない近代的な建物が立ち並ぶ中心地区のチャトウィンにあるホテルの部屋に戻る。

 宛がわれた部屋にはヨハンがタブレットで電子書籍を読んでいた。

「お帰りハロルド、街の様子はどうだった?」

「来た頃に比べて、保守強硬派の兵士の数が増えてきたような気がする。イヴァーナは?」

 ハロルドはソファに座って頼まれて買ってきたおやつをヨハンに渡しながら訊く。

「ああ、姫様の部屋で今頃確か歴史の授業で……王国年代記をやってるはず」

「よくわかるな」

「どんな授業をするのか姫様が話してくれたよ」

 ヨハンは微笑んで頷きながら言う。

 窓の外を見ると、来た時に比べて突撃銃で武装した兵士や民生用ピックアップトラックの荷台に重機関銃や無反動砲を搭載したテクニカルも見かけるようになった。

 

 この国はビース共和国の少数民族であるガリン族が二〇年前のソーア山大噴火、エウロペ恐慌、そして北東の隣国のダイナス帝国との天然資源を巡る国境紛争の混乱に乗じてビース共和国から独立した。

 このチャトウィンも難民キャンプから発展した街だが外国からの留学生や観光客、企業を受け入れて発展させようとする改革派とガリン民族の伝統的な暮らしを守ろうという保守派がいてそれぞれ穏健派と強硬派の派閥争いや経済格差が問題になっている。

 

 ハロルドはテーブルに座ってホテルの売店で買った共通言語の夕刊を広げると、マゼランで姫様と冒険した少年の言葉が甦る。

 

――僕を……旅の仲間に入れてください

 

 マゼラン辺境の田舎町セブタウンでカミルは人生を左右する眼差しで、一世一代の覚悟を告げた。ヨハンは淹れたブラックコーヒーのカップを置く、因みにブラック派だ。

「ハロルド、コーヒーを淹れた置いておくぞ」

「ありがとう、念のため訊くが……塩は入れてないよな?」

 ハロルドは恐る恐るコーヒーカップを取って訊くと、ヨハンはにやける。

「勿論だ、ちゃんとブラックで塩を入れてない」

「助かる」

 ハロルドはどうしてドクターDは晩年塩コーヒーを愛飲してたのに亡くなるその日まで健康でいたのが謎だと思ったが、そう考える時じゃないと思ってるとヨハンも呟く。

「約束の日まであと三日だな」

「ああ、今までの会った子達の中で一番意志の強さを感じたよ」

 ハロルドはあの時、カミルに覚悟を訊いた。

 

――カミル君、もし君が僕達と本気で姫様のために、命をかけて共に旅をしたいのなら……ガリン共和国のチャトウィンという街がある、そこの観光名所である独立記念公園の時計台がある。

 期限は今から二週間後の一七時、そこで待ってる。

 

 言葉ではなく行動で覚悟を問う、それがハロルドのやり方だった。

「でも本当に来るのか? 今まで一緒に旅をしたいって言う子はいたが、ハロルドがあんな風に覚悟を問うのは初めてだったぞ」

「ああ、言葉よりも行動で問う方がいい」

 ハロルドはブラックコーヒーを一口飲んだ。

 

 

 翌日の朝、カミルは着替えてモーテルを出るとシルヴィアに乗ってフレンドシップタウンを発つ、さよならマゼランと心の中で別れを言いながらチャトウィンへと向かう。

 地図上の直線距離にして四〇キロだがマゼランとは違う。

「さすがにここは走れないよシルヴィア」

 カミルが言うと、シルヴィアは不満げに唸る。

 昨日みたいに近道はできない。なぜなら広い街道の端には数十メートルごとに大きく描かれたおどろおどろしい髑髏マークに、ガリン語と共通言語で「危険! 地雷源!」と書かれた赤い標識にカミルは思わず、寒気を感じる。

 ここがマゼランじゃないことが思い知らされる、それに町中の看板もガリン語だった。

 まあ、気長にゆっくり行こう。制限速度を示す標識はないしシルヴィアなら避けるかもしれないけど、旅立って早々衝突事故なんて笑えないからな。

 

 結局首都チャトウィンに到着したのがお昼前だった。

 チャトウィンは中央区に加えて五つの東西南北の区に分かれてる。外国人旅行客や旅人逹もよく利用するという東区に向かうが、西から進入するので、西区と南区を通らないといけない。

「……中央区は進入禁止になってるからな」

 カミルはシルヴィアを立ち止まらせる。

 中央区は行政・司法・立法の機能を持ち治安維持の関係で許可されたゾイド以外は進入禁止だ。考えた末、カミルは一度来た道を戻り大型ゾイドが通行できる道路があり、西区を避ける南区から進入するコースを取る。

 西区はガリン民族の伝統的な建築物や田園がチラホラ見られる程度で、後は掘っ立て小屋がぎっしりと密集しており、貧困層が多く住む、早い話がスラム街で治安も悪いという。

 南区はガリン民族防衛軍(GNDA)やガリン政府と契約したPMCが駐留している。物々しい雰囲気だが、こっちは比較にならないほど整備されてるし、治安も比較的いい。

 PMCが配備してるゾイドも多くいて、比較的通りやすかった。

 東区に入ると見るからに最近建てられた小綺麗な建物が立ち並び、カミルはフレンドシップタウンを出る前に買ったガイドブックを開いてこの近くにゾイド乗りやバックパッカーの泊まる宿を探す。

「よし、ここにしようか」

 カミルはゾイド乗り向けのモーテルに一つだけ空いてる駐機場に入って降り、チェックインを済ませるともうお昼御飯の時間だ。フロントのおじさんによればもうすぐ独立記念際で観光客も多く来てるという。

「運がよかったね、あんちゃん! もうすぐ満杯になるところだったよ。だけどもし北区に行くなら気を付けてね。最近西区にいる保守派のチンピラやギャングが荒らし回って、外国人を目の敵にしてるんだ」

「西区ならさっき通るのを避けて南区から入って遠回りしましたよ」

「あそこは難民キャンプ時代から取り残されたスラムだから、元々チャトウィンは難民キャンプだったがね……海外から帰ってきた改革派の人々がこの劣悪な難民キャンプを変えたんだ。でも保守派から見れば時期に大国の外国資本にこの国を食い荒らされると危惧してるんだ」

 荷物を部屋に置いてパスポート等の貴重品を入れたボディバッグを身に付けると、座りっぱなしだった背を伸ばして肩のこりを解した。

「さて……観光に行くか」

 モーテルを出ると市内を走るバスは一〇分置きにバス停にやってくる、セブタウンにもバスは走ってたが二時間に一本だ、発展途上国とは言えさすが首都だ。修学旅行で行ったパタゴニア程栄えてる訳じゃないが、むしろチャトウィンの方が活気がある気がした。

 カミルは古びたバスに乗ると、様々な人種の人々が乗っている。観光客、ビジネスマン、ゾイド乗りらしき旅人、ゾイドに乗らず自分の足で旅するバックパッカーと様々だった。

「おお……」

 カミルは窓の外の風景に瞳を輝かせる、自分の住んでたセブタウンから凡そ一〇〇キロ足らずの所にこんな街があったなんて、この風景をジョエル逹に見せたらどんな表情を見せてくれるんだろう?

チャトウィン北区の繁華街であるマナプロウのバス停に止まると、カミルは降りて周囲を見回して思わずZiフォンを取り出してカメラモードにして独立記念のモニュメントを撮った。

 カミルは行き交う人の多さに圧倒される。

 凄い、セブタウンのお祭りでもこんなに人は集まらない……これが都会か、あっ! 映画館もある! カミルはビルの大型スクリーンの映像に足を止める。

 

 扇情的なBGMと共にバラエティ番組の支配者が腕を伸ばして紹介する。

『ギュンター・プロイツェン・ムーロアさんです!』

 観客の拍手と大袈裟な演出と共にスーツ姿のギュンター・プロイツェンがスタジオに入り、世界的に有名な声優ヤマデラのナレーションが流れる。

『超完成度の高い、物真似芸人に! ゼネバス中が大熱狂!!……でも実は彼……ホンモノだった(※タイムスリップしてきた)』

『これよりこの国は生まれ変わる!』

 スタジオで演説するプロイツェン。

『一体世界はどうなってしまうのか!? 帰ってきたプロイツェン!』

『ゼネバス・ガイロス問題ネタは笑えない』

 釘を刺す重役にプロイツェンは真剣な鋭い眼差しで頷く。

『……ああ、笑い事じゃない』

 

 そういえばスクリーンで映画は見たことないな、カミルは苦笑しながらその場を後にする。それから一人、ガリンの家庭料理を出してるレストランで昼食を食べ、観光地を回ってマゼランよりも物価が安いことに驚きながら一日を過ごした。

 

 解説

 ガリン民族防衛軍(GNDA)

 ガリン共和国の軍事組織、設立当初は少数の小型ゾイドにバラバラの装備だったが現在は小国の正規軍に匹敵する規模を持ち、何れは陸軍と空軍に発展させる予定。

 未だにPMCに大きく頼っており、更にGNDAも一枚岩ではなく保守派と改革派に分かれている。

 主に北エウロペ製のゾイドや共和国軍の旧式ゾイドが多いが山岳部におけるゲリラ戦の錬度は非常に高い。

 

 



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第八話、その2

 中央区の宿泊してるホテルを出ると、ヘルガは今日の午前中はラウン首相と非公式での会談を行い、午後からはヨハンの引率で外出、チャトウィンで知り合った友達と北区の街で遊ぶ約束をしていた。

「お待たせラオ!」

「待ってました! マナプロウに行こう!」

 ラオ・ラン・ラウンはガリン共和国評議会議長で国家元首――ティアン・ロン・ラウン首相の娘だ。

 褐色の肌に黒髪のポニーテールで前髪を真ん中分けにし、女の子にしては大柄で色っぽい豊満な体型と旺盛な好奇心を秘めた眼差しと瞳に顔立ち、おおらかで明るくて真っ直ぐ、それでいてガリン族の伝統的な民族衣装は身に纏わずキャップを被り、ジャケットを着て、ジーンズやスニーカーを履いてる。

 すっかり外国の文化に染まってる少数民族の友達にヘルガは少し心配する。

「大丈夫なの? こんな格好して、お父さん保守派なのに?」

「あたしはあたし、父さんは父さん! 政治のことは興味ないし! いつかは国を出て自分の足でヘリックに留学したいの!」

 保守派の娘が外国のファッションや文化にどっぷり浸かってる。ラウン首相に娘を説得してくれないかと頼まれたが、これは無理だろう。陽気だけどかなり意地っ張りで頑固だという。

 すると明らかに偶然を装ってきたのが見え見えなヘリック人留学生の男の子二人がビルの間の小道から姿を現し、威勢よく歩み寄ってきた。

「よおラオ! ヘルガ! これからマナプロウに遊びに行くなら一緒に行こうぜ!」

 ゴードン・スターム・ルガーだ。金髪の角刈りに自己主張の強そうな眼光と声太った顔立ち、身長一九〇センチに体重一〇〇キロ以上の巨漢で学校では野球チームに入っているという。

「ゴードン、サム、あんた逹のことお・よ・び・じゃ・な・いんだけど!」

 ラオは露骨に蔑む表情になり、面倒臭そうに言うともう一人が軽く受け流すような態度を見せる。

「まあまあそう言うなよ、いいじゃないか、みんなで行った方が楽しいだろ?」

 気取った言動と表情のサミュエル・ハートフィールド――愛称:サムで男の子にしては小柄で、小綺麗な服を着て髪を整え、古典的な漫画に出てくる金持ちの坊っちゃまがそのまま大きなって出てきたような子だ。

 ヘリックシティに本社を置き、アーカディアにも関連企業がある大手広告代理店ハートフィールド・グループの御曹司だ。祖父が会長で伯父が社長、父が重役で次期社長だという、サム曰くハートフィールド・グループはエネルギー資源開発に参入して成長の見込みがあるガリン共和国のチャトウィンに市場開拓をしに家族でついてきたという。

「み・ん・なでという割りにはノアがいないんだけど?」

 ラオの言う通りネオゼネバスからの留学生のノアはいつも仲間外れにしてる、ゼネバス人だからだろうか? ゴードンは気にも留める様子もなさそうだ。

「誘ってないし放って置けよあんな根暗! それに五人で行ったらあいつが余って余計惨めだろ?」

「そうそう! ちょっと顔がいいからって生意気なノアを誘ってもつまらないだけ!」

 サムも強く同調するように何度も首を縦に振るが、ノアはちょっとどころか稀代の中性的な美少年で、性格も凄くいいから女の子にもモテる。要はこの二人はノアに嫉妬してるらしい、ラオは涙目になってヨハンに泣きつく。

「もう! ヨハンさん! この二人に何か言ってくださいよぉぉぉっ!」

「まあまあ誘ってないなら、後で彼に埋め合わせすればいいよ! 独立記念際は彼も誘って、それにマナプロウで見かけたら今の二人みたいに声をかけて誘えばいい……だよね?」

 ヨハンは笑顔で言うと軽く圧力をかけてるのに気付いたのか、二人は「は、はい……」と頷いた。それから五人でファーストフードを食べ、一緒にブティックを回ったりアーカディアにも進出してきた東方大陸諸国の飲み物であるタピオカドリンクのお店で買い飲みする。

「う~ん美味しい! この独特の食感は癖になるぅ~!」

 ラオは美味しそうに飲むと、ゴードンは豪快に笑いながら無神経に言う。

「なんかそれ、両生類か魚の卵みたいだな!」

 一瞬で空気が凍り付き、サムは全身から冷や汗が噴き出して青褪める。

「ゴードン……それだけは言っちゃ駄目」

 ラオは静かにドスの利いた声になる。

「おい……お前言っちゃいけないこと言ったわね」

「まあまあ、卵って自然界では栄養価の高い食べ物だから」

 ヨハンも冷や汗を流しながらフォローする。ヘルガは甘いタピオカドリンクを飲んでるとアーカディアにいた頃、城を抜け出してアーカナの城下町で親しくなった三人の女の子逹の顔が否応なく浮かび上がる。

 サフラ……リモール……ゴルダ……会いたいよ、会って四人でアーカナの城下町をお喋りしながら歩きたい。するとヨハンは気遣う声になる。

「姫様、大丈夫ですか?」

「ああ、ごめんねヨハン……なんでもない」

「そんな弱気な顔をしてたらまたイヴァーナに叱られますよ」

「うん、わかってる……イヴァーナもちゃんと見てるのは知ってるから」

 ヘルガが市井(しせい)に赴く時はヨハンが護衛兼引率し、イヴァーナとハロルドが少し離れた所で監視・警戒に当たっている。だからこの前、サムと二人になった瞬間に口説いてきた時には神出鬼没で現れて怖がらせたものだ。

「ん? ……あいつら……!?」

 ラオは大通りにある交差点の向こう側に視線をやった瞬間、目の色が変わって丁度青になった横断歩道を走り出す。

「ごめん! 急用ができた! それじゃまた!」

「あっ! ラオ! 待ってどこ行くの!?」

 ラオを追いかけようとすると、神出鬼没のイヴァーナが立ち塞がって止めに入る。

「姫様、追う必要はありません」

「でも! でも……ラオに何かあったら……」

 ヘルガは以前訪れた政情不安な国で、友達になった女の子が「急用ができた」と言って帰り、その翌日に凄惨な暴行を受けた遺体で発見されたことがある。

「下手に追いかければ、姫様の身を危険に晒します……そうする訳にはいきません」

 ヘルガは追いかけたい気持ちを堪え、頷くしかなかった。心配をよそにサムはヘルガの隣に立つ。

「大丈夫だよ、あいつはギャングの連中とも顔が広いし、僕と遊びに行こう!」

「おいサム! 抜け駆けはさせないぞ!」

 ゴードンは乱暴にサムの頭を掴むと、イヴァーナがデスザウラーのような威圧感満載の怖い笑みで殺気を放つ。

「そうですよ、それ以前姫様に近づこうなんていい度胸ですね」

「ひぃっ!」

 短く悲鳴を上げるサム、ヘルガに近づく男の子をイヴァーナが脅すのはいつものことだった。

 

 

 約束の時刻が近づいてきた。

 チャトウィンの観光地である独立記念公園の時計台であと三日までの一七時に待つという、独立記念際に備えてここでもお祭りの準備をしている。時計を見ると、待ち合わせまで三〇分近くあるなと思っていた時だった。

「よお坊や、ここで誰かと待ち合わせかい?」

 声をかけられたカミルは本能的に危険を悟った。

 声の主はガリン族の男で白いタンクトップで鼻や耳にピアスをしていて、二人の仲間を連れてる。三人共筋肉質で露出度の高い服装で肌にはびっしりとタトゥーを彫っている。

 明らかに観光地に来るような奴じゃない、モーテルのおじさんが行ってた西区のギャングかと感じながらカミルは平静を装いながらにこやかに頷く。

「ええ、そうですけど」

「ほぉ……もしかして女かい?」

 サングラスをかけた子分の片割れは小指を立てて言うと、カミルは思わず馬鹿にしてるなと顔を微かに顰める。

「まぁ正確にはそうじゃないんですけどね」

「へぇ……もし、これからデートならよ……西区に案内してやるよ……北区は平和だけど刺激がないぜ、西区の方が刺激に満ちて楽しいぞ」

 モヒカン頭の子分は馴れ馴れしく言いながら肩を組んでくると、カミルは静かに殺気を放ちながら試しに訊いてみる。

「お兄さん逹もしかして……ギャング?」

「……ほう、そういう坊やも……殺しをやったのかい?」

「……故郷に居られなくなってね」

 声色と眼差しの変わったカミル声に放つ本物の殺気を感じ取ったのか、モヒカン男は微かに動揺してピアスの男も身構える。

「そうか、これ以上は話さなくていいぜ――」

「コラァッあんた逹! また観光客の子を脅してるわね!」

 二つくらい年上の黒髪に褐色の艶っぽい女の子が襲いかからんばかりに駆け寄って来ると、ピアスの男とは警察に睨まれたかのように、退散を命じる。

「ゲェッ! ラオ! おい、引き上げるぞ!」

「クソッ! 縁があったらまた会おうぜ!」

 モヒカン男はそう言って親分の後を追って逃げると、女の子は睨みながら悪態を吐く。

「全く……性懲りもなく外国人の子にちょっかい出すんだから。君、大丈夫?」

「うん、ありがとう」

「ここにいると、危ないから東区に行くわよ!」

 女の子は問答無用でカミルの手を引っ張り、独立記念公園から無理矢理引きずり出される。

「えっ? ちょっと待って! ここで――」

「Ziフォンで連絡すればいいでしょ! 危ないから行くよ!」

 カミルは名前も知らない女の子に引っ張られる、参ったなアヤメリアと同類の女の子だなと思わず溜め息吐きたくなった。

 

 

 その頃、ハロルドも待ち合わせの時間に急ごうとしたが、姫様にラオの無事を確認して欲しいと頼まれ、すぐに探しに行くことにした。カミル君には悪いがあまり我儘を言わない姫様が我儘を言うのは相当なものなので、まず独立記念公園で祭りの準備をしてる人達に聞き込みを行うとすぐに見つかった。

 祭りの準備をしてる年配の大工が教えてくれた。

「ああ、時計台の所で一人で待ってる子を連れて東区に行ったよ。うちの馬鹿息子が悪い友達二人と絡んできてね……その子を助けて東区の方に連れて行ったんだ」

「そうか、ありがとう」

 ハロルドはお礼のチップを渡してすぐにバスに乗って東区に向かった。

 

 

 その頃、カミルは東区に連れて行かれてしまって仕方ない、明日にしようと思いながらラオと言う女の子と話しながら東区の様々なダイナーが立ち並ぶ通りを歩き、自分の素性を明かすと彼女は驚きの表情を見せる。

「じゃあ……ゾイド乗りなのは本当なんだ!」

「うん、ここで路銀を稼ぐことも覚えておきたいから……日雇いの仕事とかある?」

 カミルは訊いてみると、ラオは少し躊躇った眼差しで留学生や観光客が集まるという両端にあるダイナーに目をやる。

「それなら、この辺りの店には必ずある掲示板に日雇いのアルバイト求人があるわ……どれもキツい上に賃金が高いほど危険度が高いから気をつけてね」

「どんなのがあるの?」

「最近、ここから北東にあるカンカー村の遺跡に住み着いた野良ゾイドの駆除作戦よ……もし安全な仕事をしたいなら――あっ、丁度いい所にいたノア! ノア!」

 ラオは大きく手を振って呼び掛けると、ダイナーに入ろうとした黒髪のショートポニーテールの子がこちらに気付いて歩み寄ってきた。

「やぁラオ、どうしたの? そちらの子は?」

 女の子にしては声が低くて背も高いが、幼げな顔立ちに黒髪に二重瞼の色白で顔立ちの美形で、ヘルガみたいに東洋系の血が流れてるのかもしれない。ラオはカミルを紹介すると性別不明の子は自己紹介する。

「僕はノア……ノア・カワシマ・アイゼンハイム、ネオゼネバスからの留学生さ」

「よ、よろしく……ノア、僕はカミル……カミル・トレンメル」

 カミルは男の子? 女の子? どっちだ? と内心激しく困惑しながら訊こうとした時、ラオは踵を反した。

「それじゃあたしも明日に備えて帰るから!」

「うん、またね」

 ノアは手を振って彼女を見送るがおい待て! 丸投げかよ! カミルはたった今さっき出会った少女に縋るような眼差しになるが、ノアは愛らしい笑顔で手招きする。

「お腹空いたでしょ? ここのお店安くて美味しいんだ!」

「そう……だね、食べようか」

 カミルは固く頷いてノアと一緒にダイナーに入った。



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第八話、その3

オリジナルゾイド第二弾登場します。


 東区を走るバスの中でハロルドはのんびり歩いてるラオを見つけ、安堵すると近くのバス停で降りてラオを追いかけて声をかける。

「ラオさん!」

「ん? ああハロルドさん、どうしたんですか?」

「あっ、いいえ……姫様が心配していたので」

 ハロルドはそれだけ言うとラオは大袈裟に笑う。

「アッハハハハハハ……もう、あの子ったら心配性なんだから……さっき普段は西区を縄張りにしてるチンピラが観光客かと思ったらゾイド乗りの男の子を尾行してたの! 独立記念公園の時計台に待ってるのは危ないからって!」

 ハロルドはまさか……そんなと、内心高揚しながら人相を訊いた。

「ラオさん、その子は……君より少し年下で、紺色の髪にエメラルドグリーンの瞳の少年だった?」

「ええそうでしたよ! それにエウロペの人にしては白くて綺麗な顔をしてました! もしかして知り合いですか!?」

 ラオは興味津々なのか瞳を輝かせて訊くと、ハロルドは微笑みながら頷いて訊いた。

「その少年の名前は……カミル・トレンメルですか?」

「やっぱり知り合いなんですね!」

「ああ……明日は日没までに北区と東区の間、近郊のバルマ農場にいる。もし会ったら伝えてくれ! 君の覚悟、よくわかったと」

「はい、伝えておきます!」

 ラオはニッコリ笑顔で頷いてすぐに中央区のホテルに戻ると、部屋に入るなり不安に満ちた表情の姫様が歩み寄って来る。

「おかえりなさいハロルド、ラオは見つかった?」

「はい、ラオさんのことは心配いりません……」

 ハロルドは温かい笑みで微笑むと、姫様も安心した表情で微笑む。

「よかった……ねぇハロルド、何かいいことでもあったの?」

 姫様は秘密を探る無邪気な年頃の女の子の顔で訊く。

「バレてしまいましたか? さすがは姫様……ですが、今はまだ秘密です」

「イヴァーナにもね!」

 姫様は白い歯を見せて微笑みながら口元に人差し指を立てると、ハロルドは微笑みながら頷くと姫様は無邪気に笑った。

 

 

 ダイナーに入るとこの通りの店には必ずあるという掲示板に、日雇い求人の張り紙がびっしり貼られ、農園の収穫作業や祭りの準備手伝い、野良ゾイドの駆除と様々でカミルは思わず関心する。

「へぇ……色々あるんだな」

「僕は留学生だから、明日はこのバルマ農場に行ってパパオの収穫を手伝うよ」

 ノアは日給もそこそこのバルマ農場でパパオの収穫作業手伝いだという。

 そういえばこの時期、パパオの収穫シーズンかと思いながら四人席でノアと向かい合って座るとウェイトレスが来てカミルはベーコンチーズバーガーとミネラルウォーター、ノアはダブルチーズバーガーとコーラ、サイドメニューでサラダとフライドチキンにを注文してるとヘリック人の二人が図々しく座ってきた。

「よぉノア! 今夜はここでディナーか?」

「ああゴードン、サム、丁度良かった一緒に食べようか」

 ノアは快く頷く。ゴードンという男と知り合いらしい、大柄でなんとなくへリック軍に入隊する前――学生時代のロブ・ハーマンみたいだと思ってると、カミルの隣には対照的に小柄な腰巾着みたいな奴が座った。

「見かけない顔でだね? 貧乏旅行中のバックパッカーかい?」

「そう言わないであげてサム、彼ゾイド乗りなんだ」

 ノアはにこやかにフォローしてカミルは自己紹介してマゼランから来たことを話す。

「へぇ……僕らとあまり変わらなさそうなのに? マゼランの田舎者が?」

 サムという奴は初対面にも関わらず、さりげなくマゼラン人を見下すような眼差しに信用したくないと思いながら、ディナーを食べてる間、サムは聞いてもいないのに自慢ばかりしてる。

「僕はね、世界的に有名な大手広告代理店――以下省略」

 ノアやゴードンも慣れてる様子で適当に聞き流してる様子だった。

「それで? 明日はどこ行くんだ? ノアは男の癖にバルマ農場でパパオの実を収穫して小銭稼ぎかい?」

 サムは見下した表情で訊く、やっぱりノアは男だったんだ。

「収穫作業は力仕事もあるから男手も必要なんだ、ゴードンとサムは明日のカンカー村の遺跡で野良ゾイドの駆除だっけ?」

 ノアはサムの嫌味を受け流してると、フライドチキンを一切れ取ったカミルは訊いた。

「そこってラオが話してたカンカー村の野良ゾイドだっけ?」

「ああ、しかも倒した数によっては報酬上乗せしてくれるってよ。ソルダットアントの群れが遺跡に住み着いて……明日の九時にカンカー村の集会所に現地集合だって」

 ゴードンは話す。なるほどソルダットアントは北エウロペ連合国が共同開発した小型のアリ型ゾイドで一体一体は弱いけど数十機単位の群れを作るから脅威だ。それならとカミルはこちらも一機でも多い方がいいと判断した。

「ねぇ……その仕事、もう少し詳しく聞かせてくれない?」

 

 翌日の朝、カミルはカンカー村の集会所にある広い部屋でゾイド乗りの荒くれ者逹に混じってテーブルを囲んでいた。テーブルには地図と野良ゾイドの写真が数点、村の自警団のリーダーの男が説明する。

「――野良ゾイドのソルダットアント逹は観光地であるここから東のカンカー遺跡に住み着いて、近づくものを無差別に攻撃してくる。しかも先日、遺跡近くにある集落のペンションが襲われてオーナー夫婦二人と宿泊客三人が死亡した。遺跡はしばらく営業停止、一刻も早く野良ゾイドを駆除しなければ……この村は収入源の半分以上を失うことになる」

 カミルは説明を聞きながら見回すと、昨日知り合ったラオやゴードン、サムもいた。

「――アント駆除作戦である……オペレーション・ヒドラメチルノン。ヒドラ作戦のフェイズ1は高速機動ゾイドによる威力偵察と陽動で遺跡の南西のカンカー平野部に誘き寄せ、退避を確認したらフェイズ2に移行、あらかじめ仕掛けておいたIEDやかき集めた爆薬を爆破、その後、砲撃ゾイドによる火力攻撃で追い討ち、フェイズ3はGNDAとPMCの航空部隊が空爆を行う、そしてフェイズ4で小型ゾイドや高速機動ゾイドで残敵掃討作戦を行う……この中で仕事が初めてな奴はいるか?」

 自警団のリーダーは視線で舐め回しながら言うと、カミルは恐る恐る正直に手を上げると一斉に注目が集まってリーダーの男が訊いた。

「そうか君だけか、名前と乗るゾイドは?」

「カミル・トレンメルです……乗るゾイドはシルヴィ――ライガーゼロです」

 それで集会所の部屋の空気がざわつくが、リーダーの男は頷いてラオとサムに言う。

「よし、君はフェイズ1でコールサインはスカウト2だ。ラオはカミルのサポートを、誘き寄せるだけでいいから遺跡での火器使用は必要最小限に抑えてくれ……くれぐれも遺跡を傷付けないように」

 ラオは「はい」と緊張感のある表情で返事すると解散、作戦開始は三〇分後でラオはカミルの所に歩み寄る。

「カミル、あたし逹の役目は群れを刺激して誘き寄せよ、無線周波数は一五五・六メガヘルツで、あたしも限りサポートするから、くれぐれも無理をしないでね……やられないように意識して無謀な行動は絶対にやらないように!」

「うん、ありがとう」

 カミルは頷くとゴードンは不満気な表情で嫌味を言う。

「ライガーに乗ってるからっていい気になるなよ! ゾイドバトルとは違うんだから!」

「そうだぞ、くれぐれもヘマするじゃないぞマゼランの田舎者の貧乏人!」

 サムも便乗してカミルはムッとすると、ラオはやれやれと苦笑しながらフォローする。

「気にしないで二人ともあんたが美男子でライガー乗りだから嫉妬してるのよ」

「そうなのか?」

 カミルもあまり気にしてるつもりはなかった、するとラオは「あっ」と何かを思い出したような素振りを見せた。

「そうだ! カミル……と思ったけど、終わってからでも遅くないか」

「なんのこと?」

「ううん、終わってから話すわ、さっさと終わらせよう!」

「うん、わかった」

 カミルはラオは何を話そうとしたんだろうと思いながら、一旦忘れるよう言い聞かせてシルヴィアのコックピットに座る。安全バーを降ろしてシートベルトを装着するとエンジン始動、無線周波数を合わせるとラオのハウンドソルジャーも起動した。

 

 二機で山間部の遺跡の近くまで行き、目標地点から五キロの南の場所で配置に就くとカミルの属する二機だけのスカウトチームリーダーであるラオが報告する。

指揮所(CP)よりスカウト1へ、配置完了。指示があるまで待機します』

『CP了解、そのまま待機せよ』

 カンガー村の集会所にある臨時の指揮所(CP)から待機の指示が出る。

 

 その間にチャトウィン南区にあるガリン唯一の空港であるチャトウィン国際空港からPMCのルイボス・エア社所属で航空爆弾を装備したプテラス四機と大型のサーモバリック爆弾をワイヤーでぶら下げたGNDAのサイカーチスとダブルソーダが二機ずつ出撃する。

 カンカー村遺跡南西の平野部には南東と南西にGNDAとPMCに臨時で雇ったゾイド乗りで構成されたフェイズ2の砲兵隊やフェイズ4で殲滅にかかる遊撃隊が待機していた。

 

『各隊、配置完了を確認。これよりヒドラ作戦フェイズ1を開始、スカウトチームは威力偵察を開始せよ、繰り返す威力偵察を開始せよ。射撃を行う場合は遺跡に注意!』

 始まった! カミルは汗が滲み出たスロットルレバーを握り締めると、ラオはモニター通信を繋いだ。

『それじゃカミル、行くわよ!』

「了解!」

 カミルは緊張の籠った声になる。今のうちに胸のショックカノンをいつでも撃てるように安全装置(マスターアーム)を解除すると、山間部を塞ぐように作ったダムか城壁にも見える構造物の入り口からソルダットアントの群れが察知したのか、威嚇しながら迫ってくる。

『来た、あたしから行くわ! 行くわよラナ!』

 ラオが先行して「RANA」という名前のハウンドソルジャーの首の両側面に槍――クロスソーダー前方に展開していて、見せしめと言わんばかりに一機を串刺しにして放り投げると、怒りに駆られた二機が襲い掛かる。

「行くぞシルヴィア! あの二機をやる!」

 カミルはラナに襲い掛かる二機のソルダットアントのうち一機に前足で押さえつけ、そのまま噛みついて引きちぎり、その間に残り一機をラナが両前足で押さえつけて急所に頭部と胸部を繋ぐ接合部を噛み砕いて無力化するとラオは褒める。

『やるじゃないカミル! さあ……わんさか湧いてきたわよ』

「さぁ……来い!」

 カミルは湧いてきたソルダットアントの群れに向け、ショックカノンを一度だけ砲撃する、砲弾は群れの手前で激しく炸裂させた。

『よし、威力偵察はこれくらいにして陽動に入るわよ!』

 ラオの指示でカミルはシルヴィアを反転させて逃走に入る、あとはつかず離れずの距離を保ちながら平野部まで誘き寄せるだけだと思った瞬間だった。

 追いかけてきた群れの中の数機が、背中にあるガスト式二連装二三ミリ機関砲を撃ち始めた。

「撃ってきた!? こいつら野良ゾイドじゃないのか!?」

 カミルは思わず戸惑う野良ゾイドは確か火器管制装置(FCS)が使えず、火器の使用ができないはずで、ラオも戸惑っていた。

『どういうこと? まさか……スリーパー!?』

「スリーパー!? 遺跡に何で!? って、前からも!」

 正面からも一〇機近くのソルダットアントだ。止まったら逆に危険だと判断したカミルはシルヴィアを加速させ、退路を塞ごうとしてるソルダットアントに群れに向けてショックカノンを撃つ。

「止まるな! 撃ちながら道を切り開け!」

『このっ! 邪魔だからどきなさい!』

 ラオはラナの背中の砲塔バインドバスターや胸部の三連装ブレストボンバーで砲撃し、クロスソーダーで串刺しにしたまま道を切り開き、撃ち漏らしたソルダットアントを引き裂き、踏み潰し、食い千切る。

 待ち伏せを突破すると、ソルダットアント逹の中に紛れて腹部にビームランチャーを搭載した機体が砲撃し、シルヴィアのすぐそばで着弾・炸裂して悠長に誘き寄せてる場合じゃないと加速させてラオは悲鳴に近い声を上げる。

『スカウト1よりCP! ソルダットアント逹は火器を使用してる! 野良ゾイドじゃない! スリーパーよ!』

『こちらCP了解、スカウトチームは当初の予定通り陽動せよ! もう少しだ!』

 CPの言う通りカンカー平野に出るとカミルはシルヴィアを加速させて一八〇度スライディングターンしてショックカノンを撃ち、殿(しんがり)となって足止めを試みるが次から次へと湧いてくる。

「やっぱり無理か」

 カミルはシルヴィアを反転させると、平野部の端から端まで走り向けてスライディングターンするとソルダットアント逹の数は五〇機以上はいて、ラオはCPに報告する。

『スカウト1よりCP、ソルダットアント一個大隊、カンカー平野に時速約四〇キロでに進入し街道を南西に向かって進行中』

『こちらCP了解、ヒドラ作戦フェイズ2に移行する。スカウトチームは退避してフェイズ4に備えて待機』

『スカウト1了解』

 ラオに続いてカミルは「スカウト2了解」と返事した。

 

 解説

 

 ソルダットアント

 北エウロペ連合製のアリ型汎用小型ゾイド、生産性と整備性を考慮された設計から「北エウロペ版ガイサック」と呼ばれるほど、顎の力は凄まじく四機係でアイアンコングを持ち上げたという記録がある、共和国軍も採用を検討したが政治的な理由で見送られた。

 腹部は換装可能で輸送コンテナ、地対空ミサイル、榴弾砲等の火器、ゾイドを麻痺させるポイズンニードルやEシールド等と幅は広い。

 北エウロペ連合諸国は勿論、発展途上国や民間用として非武装型も多く輸出、ライセンス・コピー生産されてベストセラーになったが近年民間型に武装が施されテロリストや盗賊に使用されるという問題も起きている。指揮官用のカラリェーヴァ女王蟻モデルも存在する。

 全長10.1メートル 全高3.3メートル 重量17.7トン 最高速度時速150km/h

 キラーバイトファング

 スタリコフ設計局二連装ガスト式23mm機関砲(背部)

 



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第八話、その4

 カンカー遺跡から誘き出されたソルダットアントの大群は山に囲まれた小さな平野に身を晒していた。そしてカンカー平野の南西と南東にある山の斜面にはゾイド乗りの傭兵、PMCやGNDAの多種多様なゾイドが十字砲火(クロスファイア)の瞬間を今か今かと待ち構えているに違いない。

『ヒドラ作戦フェイズ2に移行、起爆せよ。繰り返す起爆せよ!』

『了解、ヒドラ作戦フェイズ2開始、起爆!』

 GNDAの工作兵がカンカー平野のあちこちに仕掛けておいた梱包爆薬やIEDのスイッチを押す、今回のためにかき集めた梱包爆薬、対ゾイド用地雷、プラスチック爆弾、IED、土木工事用のダイナマイトが一斉に起爆。

 平野は爆炎と土煙で覆い尽くされ、ソルダットアント逹は爆風に晒されて千切れ飛び、空中に放り投げられ、音速で飛んでくる破片にズタズタにされた。幾重にも響いた凄まじい爆音が収まり、平野が静まり返ると間髪入れず指揮官が合図する。

『起爆を確認、全機射撃開始! 撃て!』

 待機していたゾイド逹が一斉に榴弾砲、ビーム砲、ロケット弾、ミサイルの雨を降らせる。その中にはゴードンの乗るカノンフォートが重撃砲を撃ち、サムのコマンドウルフACの背中にある二連装二五〇ミリロングレンジキャノンが火を噴いた。

 更に山の向こう側で待機していたGNDAのキャノリーモルガとPMCのカノントータスがだめ押しと言わんばかりに一斉に砲撃、時間を置いて一際大きな爆炎と爆音が響き渡る。

 念には念を入れて更に十字砲火を加えると、そのままフェイズ3に移行する。

『ヒドラ作戦フェイズ3に移行、地上部隊は爆撃時の空振に備えろ! 航空部隊爆撃を開始!』

『了解、ボマー各機……攻撃開始(Fire ready now)! 爆弾投下(Bomb the way)!』

 ゾイド乗りの何人かがコックピット越しに見上げた空から黒い塊のような物体、数千メートルの高度からPMC所属のプテラスが四機、大型のGPS誘導爆弾を二発ずつ投下。

 地面に突き刺さったり、ソルダットアントに直接突きったりして派手に炸裂すると、砲弾とは比べ物にならないほどの空振が連続で何度も襲い掛かってくる。

 

 

 カミルはシルヴィアのコックピット内で凄まじい空振に揺さぶられ、シルヴィアも困惑いてる様子だ。

 そういえば二〇年前にソーア山が噴火した時も爆発の空振で麓のソーアシティの街並みは窓ガラスが割れ、一五〇キロ以上先の首都パタゴニアでも観測されたことを思い出してると、ラオは驚きの声を上げる。

『うわぁぁぉぉぉっ! 今のヤバくない!?』

「もっとデカイのが来る! ラオ、伏せて!」

 カミルはシルヴィアを伏せさせると、ラオも感じ取ったのか慌ててラナの姿勢を低くさせるとサイカーチスとダブルソーダが二機ずつ、一トンはある大型のサーモバリック爆弾を一発ずつワイヤーでぶら下げてる。

 本来はサラマンダーのような大型爆撃機、ストームソーダーの戦闘爆撃機型に搭載する代物だ、GNDAは確か高価な超音速飛行ゾイドは保有してない。

「あれ、どこであんなもの手に入れたんだ?」

『さぁ、武器商人かPMC辺りから仕入れたんじゃない?』

 ラオは興味なさげに空を見上げながら言うと、土煙が晴れないうちにワイヤーが切り離されて投下、さっきよりも強烈な爆音と空振が襲いかかってラオは歓声を上がる。

『うわっ!! 超ヤバあああぁぁぁぁいっ!!』

 他のGNDAやPMC、ゾイド乗り逹も無線越しに歓声の声を上げる。

 

『ひぃやぁふぅぅうううううう!! 今のすげぇぇぇえええっ!!』『ヤバいヤバい!! 超ヤバかったぜ!』『やったか!? やったのか!?』『おいおいそりゃあフラグだぜ! まあ現実は違うけどよ!』『それにしてもヤバかったぜ今のは! さすがの野良ゾイド逹も生き残れないんじゃね!?』

 

『こちらボマーリーダー全弾投下! 爆撃効果判定(BDA)を頼む!』

 上空のプテラスの編隊長からの通信、どれくらいの損害を与えたかを求めてる。早速伝えるためサイカーチスが一機、晴れつつある土煙に接近すると、シルヴィアが威嚇するように唸る。

「どうしたのシルヴィア? ……まさか!」

 カミルは全身の産毛が逆立ち、偵察に向かったサイカーチスに目を向けた瞬間、土煙の中から一筋のビームが放たれてサイカーチスの胴体にクリーンヒット! サイカーチスは空中で爆散した。

 この駆除に参加する者、全てに衝撃が走る。

 土煙が晴れるとソルダットアント逹が寄り集まってEシールドを展開してる、砲弾やビーム、ミサイルや爆弾の雨を凌いでたのだ。敵の損害は全体の三~四割程度、通常の軍隊なら全滅と言っていい程だがこいつらはスリーパーゾイドだ。

『Eシールド!? ソルダットアントには付いてないはずよ!』

 困惑するラオ、カミルもカメラの倍率を拡大して見ると腹部に大型Eシールドジェネレーターを装備したソルダットアントが、ドーム状のシールドを展開。その周りを囲むようにソルダットアントが寄り集まって鉄の暴風を凌いでいたのだ。

 駆除作戦に参加してるゾイド乗り逹は動揺する。

 

『おいおいおい! ありゃブリタニア製のEシールドだぞ! なんでスリーパーなんかに搭載してるんだ!?』『知るわけないだろ! おいCP、このままフェイズ4に移行するか?』『こちらキャノリー1、全機一二〇ミリ砲の残弾なし、繰り返す全機一二〇ミリ砲の残弾なし!』『砲兵隊、今から大砲を強制排除して手伝いに来てくれないか? 一緒に暴れようぜ!』『無茶言うな! 山の向こうから撃ってるから一時間かかるぞ! それに砲塔の再装着にだって金かかるんだ! お宅らPMCと違ってGNDAは金ないんだから!』『カノントータスじゃ纏わりつかれて食われるだけだぜ』

 

『こちらCP、全機ヒドラ作戦フェイズ4に移行せよ! 繰り返すフェイズ4に移行せよ! 今から増援も呼び寄せる!』

 よし、最後の仕上げと言いたいが敵が半数以上が残ってる、ゴードンは楽観的なことを言う。

『三割やったから実質全滅だろ?』

『あれのどこが全滅だよ! あんな数を相手にするのか?』

 対するサムは精一杯の声を張ってる、怯えてるのだろうがラオは物怖じせずにラナのクロスソーダーを展開する。

『相手にするに決まってるでしょ、カミル』

「うん、行くぞシルヴィア!」

 カミルはシルヴィアを前進させ、ソルダットアント逹の群れの中にショックカノンを撃ちながら突っ込んでいくと、ラオが注意する。

『カミル! 一撃で葬るつもりで! 仕留め損ねたり、手間取ってると、纏わりつかれるわ!』

「了解!」

 カミルはショックカノンを撃たれて倒れた一機目に狙いを定め、前足の爪を閃かせてゾイドコアがある胸部を深々と切り裂く! 次の瞬間には次の敵は? とシルヴィアは常に次はどう動くか考えてるかのようだ。

 大顎を開けて噛みつきかかってくる奴に強靭な前足でカウンターパンチを決めて弾き飛ばし、カミルは瞬時にショックカノンのトリガーを引いて止めを刺す。シルヴィアはパンチが得意技のようだ。

『うわあああああぁぁっ! 纏わりつかれた! 引き剥がしてくれ!』

 サムが悲鳴を上げてる、助けるか? 嫌味な奴だが見捨てていい理由にはならない。

「ラオ、サムを助けてくる!」

『OK! 援護するわ! 無理に引き剥がさずに息の根を止めてからよ!』

「わかった、行くぞシルヴィア!」

 カミルはすぐにサムのコマンドウルフACを見つけると、イオンブースターを数秒だけ点火する。ブースターの燃料メーター数値が勢いよく減らして駆けつけ、そのまま胴体に噛みついてるソルダットアントの胸部に噛みついてゾイドコアを噛み潰した。

「サム! 大丈夫?」

『ありがとう、助かった!』

 サムが礼を言いながらコマンドウルフACは身震いして、振り払うと仕返しと言わんばかりにロングレンジキャノンを撃つ、全然減ってないような気がするのは気のせいか? 上空のサイカーチスやダブルソーダが仇討ちと言わんばかりに掃射する。

 すると、腹部に二連装対空砲機関を装備したソルダットアントが対空砲火をお見舞いしてダブルソーダが撃墜されて墜落すると爆発炎上した、これはもはや駆除じゃなくて戦闘だった。

 

 

 カミルが旅立って二日目、あと四日でセブタウンを出てパタゴニアへと旅立つ日。

 セブタウンで回収した盗賊のゾイドであるシャドーフォックス二機は自警団の駐機場でもあるセレナの家の敷地に駐機されていた。ジョエルはマリンと名付けたスカウトサーバルに乗って遊びに来ていた。

 マゼランの伝統的な建築家屋に対して地主兼村長兼農場主のお金持ちな家は近代的な屋敷で、セレナは自分の部屋を持ってるお嬢様だが、それに鼻にもかけない気さくな所がみんなに好かれてる。

「セレナ、いるか? 遊びに来たぞ」

「はぁ……ケーニッヒウルフ強すぎ、一瞬でやられちゃった」

 先客としてアヤメリアがいて、丁度ゲームが終わったのかソファーに座ってVRヘルメットを脱ぎ、セレナも満足げにVRヘルメットを脱いでいたところだ。

「でもアヤメリア、結構マルチプレイで白熱してたじゃない! おっ、いらっしゃいジョエル! ゲームやる?」

「さっきまで何やってたの?」

 ジョエルは苦笑しながら訊くと、アヤメリアはゾイドの操縦シミュレーターソフトのパッケージを見せる。

「これよ、これに課金して、シャドーフォックスを買って特訓も兼ねてマルチプレイであそんでたの! 丁度ケーニッヒウルフがいたから対戦を申し込んだのはいいけど一瞬でやられちゃった」

「ケーニッヒウルフって……あのお姫様だったらもっと早くやられると思うぜ、一〇歳の頃から乗り回してたんだから」

「なんでヘルガだってわかるのよ?」

 アヤメリアは唇を尖らせると、セレナはニッコリ笑顔で暴露する。

「アヤメリアったら、いつかあのお姫様と再会したら勝ってやるって意気込んでたのよ!」

「ちょっとセレナ! 余計なこと言わないでよ!」

 アヤメリアは顔を真っ赤にしながら裏返った声になる。

「お姫様に勝つってお前ら……何かよからぬことを企んでるだろ?」

 ジョエルはシャドーフォックスという時点で嫌な予感を通り越して、ニヤリと笑みを浮かべたくなる気分だった。それを察したのかアヤメリアも不敵な笑みを見せる。

「ええ、そうよ……あの馬鹿を追いかけて連れ戻すわ、これから実際に動かしてみようと思うの、あんたもスカウトサーバルで付き合ってくれる?」

 それはあくまでも名目に過ぎないとジョエルも微笑んで頷いた。



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第九話、その1

 第九話、独立記念祭

 

 チャトウィン近郊のバルマ農場ではヘルガは農民の娘逹に混じってロングスカートを履いてスカーフを被り、籠を身に付けて収穫ハサミを持ってパパオの実を収穫し、ハロルドやヨハン、イヴァーナも姫様に目を配らせながら農作業を手伝って汗を流していた。

 同じく手伝いでやってきたネオゼネバスからの留学生ノアはパパオの実がぎっしりつまったプラスチックの大きな籠を二段重ねる。

「これ全部あっちの倉庫に持っていけばいいんだね?」

「うん、新しい籠も貰ってきて」

 ノアは女の子みたいな顔をしてるけど、やっぱり男の子なんだとヘルガは頼もしく感じる。

 袖を腕捲りしていて露になった腕はほっそりとしているが、ギリギリに締め上げた金属の繊維のような筋肉だ。がっしりした体格のいい農場主の娘はうっとりした表情で見ながらヘルガに訊く。

「ねぇねぇ、ノア君って彼女いるのかな?」

「うーん、いないけど告白されても断ってるみたい……彼、年上の女性が好みって話してくれたけど」

 ヘルガは以前何気なく聞いた話を思い出しながら言うと、イヴァーナはいつものように青筋立てて不満げな様子だ。

「姫様、今はそんな色恋沙汰の話を必要あります?」

「いいじゃないイヴァーナ、それに明日は独立記念祭だし……花火もやるみたいだから、男の子をデートに誘いたくなるわよ」

「姫様はどうなされます? ラオさんと遊びに出掛けるんですよね?」

 イヴァーナは男の子と遊ぶのは許さないつもりだ。

 まあいつものことだけど……私に思いを寄せてるサムことサミュエル・ハートフィールド、家柄にはさすがのイヴァーナも関心を寄せたけど、それだけだった。

「ん? あれは……ライトスパイカー?」

 イヴァーナの視線の先には農道をスレスレに飛ぶライトスパイカーが、敷地に入って農夫はエンジンを切らずに降りると、慌てた様子で深刻そうに農場主のバルマおじさんと何かを話してる。

「どうしたんだろう?」

 ヘルガは手を止めると、農場主で太っちょ禿げ頭のバルマおじさんが駆け寄ってきてハロルドに事情を話す。

「ヘリックの旦那! あんたシールドライガーに乗ってるんだろ? ガイロスの兄ちゃんにも伝えて欲しいんだ! カンカー村の遺跡で野良ゾイドの駆除してる奴らが手を焼いてるんだ!」

「カンカー村の野良ゾイド駆除に? そんなに手を焼いてるのか?」

 気になったのかヨハンも駆け寄って訊くと、バルマさんは深刻な表情で言う。

「ああ、どうやら野良ゾイドではなくスリーパーみたいなんだ」

「スリーパー!? 野良ゾイドとは訳が違うぞ!」

 ハロルドも驚きの声を上げると、ヘルガはいても立ってもいられなくなってイヴァーナと目を合わせる、カンカー遺跡は明後日調査に入る予定だ。

「行きましょう、姫様」

 イヴァーナが頷くと、ヘルガはバルマさんの所へ駆け寄る。

「ハロルド、ヨハン、行きましょう! バルマさん……作業の途中ですけど」

「ヘルガのお嬢さんも行くなら気を付けてな、スリーパーは戦闘ゾイドだ……野良ゾイドとは訳が違うぞ」

 バルマさんは心配した様子で言う、だけど戦闘ゾイド相手なら嫌というほどやってきたしスリーパーの群れを突破したことだってあるのだから!

 

 

 カミルは腹部にEシールド発生機を装備したソルダットアントを葬り、これで何機目だと数える間もなく、カミルはこんな長時間の戦闘は初めてだと思いながら肩を上下させながら次の目標を探す。

「クソッ……キリがない!」

『損傷を受けたゾイドはすぐに下がらせて! ゴードン! サム! あんた逹も退きなさい!』

 ラオはモニター通信で叫ぶと、受信したゴードンも辛そうに肩を上下させる。

『クソッ! まだ終わってねぇぞ!』

『ゴードンもう無理だよ! 逃げようよ! 増援も来るからさ!』

 サムの方は数万分の一秒でも早くこの場を逃れたいんだろう、半ベソかいてる様子だがゴードンの方は意地を張ってる様子だ。彼のカノンフォートは片方角が折れて重撃砲も損傷し、各所にソルダットアントに噛まれた跡があってガタついてるのがわかる。

『まだまだだ、最後の一匹まで踏み潰し――』

『ゴードン! サムの言うことを聞きなさい! あんたのカノンフォートもボロボロよ! 何かあっても助けられないし、邪魔だから退いて!』

『くっ……わかった! 行くぞサム!』

 ようやくゴードンは聞き入れてサムはコマンドウルフACのスモークディスチャージャーで白煙を撒いて撤退する。

 ラオのハウンドソルジャー、ラナのクロスソーダーは二本とも葬ってきたソルダットアント逹のオイルでベットリだ。

『全く……一体何匹いるのよ』

「こっちも数えるのを諦めたよ」

 カミルは向かってくるソルダットアントにショックカノンを撃ち込むが残弾もそろそろヤバイ! 既にカンカー平野はソルダットアントの残骸や纏わりつかれ、息の根を止められた味方ゾイドの残骸も少なくない。

 レーダーには緊急用国際救難信号を発しているがいずれもソルダットアント逹によって反応が消えていく。

『こちらスイーパー6! コンバットシステムがフリーズした上に纏わりつかれた! 助けてくれ! うわぁああ――』

 時折助けを求めるパイロットの断末魔が聞こえた後は無線が途切れる、その度にカミルは冷たい戦慄を感じ、ラオは無線越しに悔しそうに悪態を吐く。

『クソッ! こいつらパイロットまで殺してる! 恐らくデストロイモードにしてるわ』

「何のためにこんなことを!」

 ゾイドのスリーパー技術が飛躍的に発展したのはバン・フライハイトがイヴポリスでデスザウラーを倒した後に起きた第二次大陸間戦争だ。

 ネオゼネバス帝国が大量投入したキメラ・ブロックスというこの星の生態系を破壊しかねない人間の手で作られ、命とは呼べない悪魔逹をコントロールするシステムが飛躍的に進化したのだ。

 それまでは拠点防衛や待ち伏せにしか使われなかったスリーパーが、今ではAIが複雑な命令を理解して驚異度の高い敵を自己判断能力できるくらいにまで進化してる。

『こちらCP、ソルダットアントのスリーパーならどこかに指揮を取ってる女王アリ(カラリエーヴァ)がいるはずだ!』

『スカウト1よりCP女王アリ(カラリエーヴァ)ね了解! でもどこにいる? どう見分ければいい?』

『指揮官機というのは大体通信機能を強化した大型のアンテナを装備してる、目立つようなアンテナを装備してる奴を探せ! そいつを倒せば少なくとも統制を崩せるはずだ!』

『聞こえたカミル?』

「聞こえたよラオ!」

 カミルはレーダーと目視で探す、指揮官機を倒せば統制を崩すことができるはずだが簡単に発見できれば苦労しない、落ち着けどこかにいると思いながら見極めようとするがソルダットアント逹は絶え間なく襲いかかってくる。

 気がつけば今まともに動けるのはシルヴィアと、ラオのハウンドソルジャーのラナにいくつかのペアだけだ、作戦前にラオのアドバイス通りに動いて正解だったと思った瞬間、それぞれの残骸の下で隠れていた二機のソルダットアントがラナに奇襲をかけた。

『ぐっ! ヤバッ!』

 ラオは反応が遅れ、ラナはたちまち噛み付かれた。カミルは「ラオ!」と叫んで右後ろ足に噛みついた一機に狙いを定め、シルヴィアがストライキレーザークローで真っ二つにした。

『この! 離れろ!』

 ラオはラーニャを大きく体を振らせ、背中の砲塔の上にしがみつき、お尻のポイズンニードル(毒針)を突き刺したソルダットアントは揺さぶられ砲口の前にさらされた瞬間、火を噴いて爆砕させる。

「大丈夫かラオ!」

『右後ろ足の駆動系をやられた、おまけに操縦の反応が鈍い……毒針ね、離脱するわ』

「撤退を援護する、もうすぐ増援も来るから頑張って!」

 カミルはなんとかラオを安全な所までエスコートしようとしようとすると、チャンスと言わんばかりに取り囲んで群がってくる。マズい! カミルはシルヴィアはラナをやらせないと近づくソルダットアントを振り払い、近づけまいと威嚇するが逆に挑んでくる有り様だ。

『カミル! あたしのことはいいから逃げて! 君までやられちゃうよ!』

 ラオは悲痛な声で叫ぶが、できるわけがない! 置いてったら確実にやられる、カミルは目の前の敵を葬りながら困惑する。

「逃げろって……君はどうするんだ!?」

 ラオは必死でぐっと唇を噛み、泣くのを精一杯堪えた表情で声を絞り出す。

『あたしだってゾイド乗りよ……こうなる覚悟はいつだってできてる……だから! あたしのことはいいから! 走って!』

 

――カミル! わしのことはいいから早く! 走れ!

 

 強盗に撃たれて死んだ祖父の顔と言葉が重なる一瞬、数万分の一秒が引き伸ばされてカミルは躊躇う。ここでラオを犠牲にして逃げるか? それともラオを見捨てないで一緒に死ぬか? 駄目だ、ここで死ぬわけにはいかないし、ここでラオを見殺しにしたらヘルガに顔向けできない。

 カミルはギリギリとスロットルレバーを握り締めると、シルヴィアは励ますように唸る。

「シルヴィア?」

 カミルは呟くとシルヴィアは道を開けろと言わんばかりに激しく何度も吼える。そうだ、僕は一人じゃない、シルヴィアがいる!

「シルヴィア! 絶対にラオを守り抜こう!」

『何言ってるのよカミル! このままじゃあんたも死ぬわよ!』

「見捨てるなんて俺にはできない! ましてやどちらかが死んで、どちらかが生き残るなんて後味の悪い結末はごめんだ!」

 カミルはソルダットアントを退けながら叫ぶ、まだ冒険は始まったばかりなんだ!

 後味の悪い結末なんて誰も望んでない! MFDのレーダーに二機のゾイドが接近してくる、スピードと反応から見て大型高速機動ゾイドだろう、先にラオが気付いた。

『増援二機、こっちに来る!』

「えっ?」

 カミルはMFDのレーダーを一瞬だけ見る、自分を囲むソルダットアント逹の群れに突っ込んだ! カミルは目視で確認するために視線を向けると二機の大型高速機動ゾイドがジャンプして包囲網の中に飛び込んだ。

 

 ケーニッヒウルフとネイビーブルーのシールドライガー! 

 

 カミルは高揚し、そして見逃さなかった。

 ケーニッヒウルフには「LILLIA」、シールドライガーは「ARIELⅡ」と描かれた小さなペイントを! 着地してラナを囲むとモニター通信が入ってきた。

『カミル君! 大丈夫!?』

「ヘルガ! 僕よりラオを! ラナが毒針にやられた!」

 カミルは嬉しい気持ちを抑えながら、伝えるとハロルドがモニター通信を入れてきた。

『包囲網を突破するぞ! 僕が先頭に立つから姫様とカミル君はラオを!』

 ハロルドはアリエル二世のEシールドを展開して突撃、ソルダットアントを蹴散らしながら道を切り開いてラオは必死にラナを励ます。

『ラナ! もう少しだから頑張って! あなたは強い子よ!』

『カミル君! 私が右を守るから、左を!』

 ヘルガはリリアを走らせながらラナの右側を守る位置に就くと、カミルは「わかった!」と言ってラーニャの左側を守る位置に就く。カミルはショックカノンの残弾を打ち切るつもりで撃ち、包囲網を突破に成功するとGNDAの増援部隊を連れてヨハンのディバイソン「ビッグマザー」とイヴァーナのグスタフMRAP「マルゴ」が到着した。

 ヨハンはカミルのシルヴィアを見るなり嬉しそうにモニター通信を入れてきた。

『カミル君! まさか本当に姫様に会いに来るなんて大したものだよ!』

『ホント、まさか本当に行動に移すなんて……あなたは本当に救いようのない、世界一の愚か者ですね!』

 イヴァーナは怒りと呆れでいっぱいの表情でモニター通信を入れると、ヘルガはラオとカミルにモニター通信する。

『ラオ、もう大丈夫よあとは任せて……カミル君も』

 カミルは返事の前に損傷状態をチェックする、各所に細かい傷はあるが戦闘に支障はないと、ヘルガに言う。

「僕はまだ大丈夫、ラオのアドバイスとシルヴィアのおかげでね」

『言ってくれるじゃないカミル、まっ伝言の手間が省けましたねハロルドさん』

 ラオも安堵した表情になると、ハロルドは『そうだな』苦笑するとカミルはシルヴィアを反転させると、左にリリアが立ってイヴァーナは指揮を取る。

『GNDAの残存部隊は増援部隊と合流してフォーメーションを組み直して! ヨハンはありったけの火力をばら蒔いてハロルドはカミル君と撹乱! 姫様は女王アリ(カラリエーヴァ)を! 指揮を取ってるスリーパーを見つけたましたので、データを送信します!』

 レーダーに多数のソルダットアントの中に一点だけ白から赤に変わり、イヴァーナは指示を飛ばした。

『ハロルド、カミル君! ヨハン火力が投射するから怯んだら群れを撹乱して、ヨハン! 全弾使い切るつもりでやりなさい!』

『了解!』

 ヨハンのビッグマザーが両頬の八連ミサイルポッドを発射、ミサイルはトップアタックオードで一斉に一度上空に上がった後、真上から襲いかかるように弾着! 追い討ちとして一七連突撃砲が一斉に火を噴く。

『ビッグマザー、メガロマックス・ファイヤー!!』

 ヨハンの掛け声と共に一斉にビームの砲弾が襲いかかる、凄まじい火力投射を受けたソルダットアント逹は爆炎に晒され、吹き飛ばされ、群れに隙ができた。

『よし行くぞカミル君!』

 ハロルドはアリエル二世の三連衝撃砲、両脇の展開式ミサイルポッド、背中の二連装ビーム砲を展開して一斉に発射してすぐに収納、Eシールドを展開して残骸もろとも弾き飛ばす。

「もう少しだ、頑張ろうシルヴィア!」

 シルヴィアは唸る、カミルはストライクレーザークローを閃かせ、イオンターボブースターを展開して点火、群れの中に飛び込んで撹乱でパニックに陥れた。



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第九話、その2

 ヘルガはリリアを平野にある小高い丘の上へと走らせてヘッドギアを被る。

 撃ち下ろしにはいいポジションだ、ソーアシティの戦闘後に回収して再装着してもらったデュアルスナイパーライフルを展開させる。ゼロイングや試射もしてるから問題ない、女王アリ(カラリエーヴァ)をレーダーでロックオン、それに連動してリリアは頭部を向けて長大なライフル砲身も動く。

「……見つけた!」

 ヘルガは女王アリ(カラリエーヴァ)に狙いを定める。

 触覚の複合通信アンテナが大型で、腹部には大型レーダーを搭載している。動き回るソルダットアント逹が何重にも遮るが、こいつの破壊力や貫通力は大型の重装甲ゾイドも一撃で風穴が空くレベルだ。

 ヘルガは躊躇うことなく引き金を引くと、ライフル弾は極超音速で射出されて五機以上のソルダットアントを体を貫き、足を抉り、腹部を爆裂させた末、女王アリ(カラリエーヴァ)のゾイドコアを貫いて爆散した。

「当たった!」

 上空にPMC所属のプテラスが通過するとCPから通信が入る。 

『こちらCP、こちらでも女王アリ(カラリエーヴァ)の撃破を確認した。各機、残敵掃討に移行せよ!』

 ヘルガはデュアルスナイパーライフルを収納、ヘッドギアも後方に回すと指揮を取る|女王アリを失い、統制の崩れたソルダットアント逹は散々に逃走を始めた。

 

 

『CPより全機に告ぐ、現時刻を持ってヒドラ作戦終了する。繰り返すただ今を持ってヒドラ作戦を終了する……全機、帰投せよ』

 カミルは周りに動いてるソルダットアントがいなくなり、残骸だけが残っていることに気付くと、戦闘もいつの間にか終わっていた。

カミルはようやく安堵すると、疲れがドッと押し寄せてきた。

「なんとか……生き残った、お疲れシルヴィア」

 シルヴィアもさすがに堪えたように唸った。

 

 

 カンカー村の指揮所に戻ると、損傷して撤退したゾイドもいてフェイズ2で砲撃し、フェイズ4で掃討を行ったゾイドは二〇機はいたが未帰還機は一三機だった。

 事後処理とカンカー平野に残された生存者の救助も手伝ったから終わって報酬を受け取ったのは夜の七時過ぎだった。

 戦死者一五人、重軽傷者四人で戦死者の分は生還者に山分けだという、ラオは貰った報酬を懐を入れてカミルと指揮所に出ると、背を伸ばす。

「ああ終わった……カミル、あの時は本当にありがとうね」

 ラオは緊張の糸を緩めた瞬間、無線越しに見知った人逹の断末魔や悲鳴、恋人や母親を呼ぶ声が頭に甦って寒気を感じ、表情が固まって俯くとカミルが心配した表情で覗き込む。

「ラオ、大丈夫?」 

「……やっぱりあの時、死ななくてよかった……生きててよかった」

 ラオはあの時カミルに自分を置いて逃げるように促したことを思い出す、下手すれば見捨てられてもおかしくなかったと、寒気を感じて両腕で抱いて震える。

「本当のこと言うとね……あの時……見捨てずに踏み留まってくれたの……嬉しかった」

「ラオ……もう、あんなこと言わないでね……助けて欲しい時は、助けてって叫んでいいから……」

 カミルの言葉は優しく、その横顔はとても勇ましくて誰よりも男らしかった。

 ラオは芽生えようとしてる気持ちに内心静かに困惑する、えっ? 何? ちょっとやだっ! 相手は年下の子よ! ああ、でも目は鋭いし、ワイルドな美少年だし! ドキドキが止まらない!

 ラオは困惑して無言のままゾイドを駐機してる広場で歩くと、ヘルガのガードマン三人が話していた。 

 最初に目についたのがヨハンだった。

「調べてみたがやはりスリーパーだった。自動操縦装置の方は華国連邦製で、各国のPMCや北エウロペ連合加盟国が使ってる物だから特定は難しいだろう」

「だろうな、裏で糸を引いてるのは最近北エウロペ連合進出してる華国連邦か……植民地時代に支配していた元宗主国のブリタニアか、あるいは独立元のビース共和国かもしれない……ガリンは最近豊富なエルワチウム・ゼロやダイヤモンドの鉱脈が見つかったからな」

 ハロルドも頷きながら話し、イヴァーナも推測を口にしていた。

「狙いは恐らく豊富な天然資源の採掘利権かもしれません、それを巡って改革派と保守派が水面下で争ってるから……ラオさん! それに……カミル君」

「こんばんわイヴァーナさん、やっぱりカミルと知り合いだったんですね」

 ラオはイヴァーナがカミルを怒りと困惑、様々な感情が複雑に混じった眼差しで見つめていて、カミルはそれを一身で受け止めてる様子だ。

「こんばんわイヴァーナさん」

「カミル君あなた……なんて馬鹿なことをしたんですか!! ハロルドに唆されて本当にやるなんて!! わかってるんですか!? あなたは自分の一生を棒に振ったんですよ!!」

 イヴァーナはカミルに殴りかからんばかりに歩み寄ろうとすると、ハロルドが右腕を横に伸ばして遮るように止める。

「よせイヴァーナ、カミル君……姫様の背負うものは君が思ってる以上にずっと重い……最後にもう一度訊く、姫様を守るために見知った人を見殺しにしたり、見捨てたり、殺めたりする覚悟はあるか?」

 ハロルドは冷徹な眼差しで覚悟を問う、ほんの一秒間が長く感じる沈黙だった。

 カミルはぎゅっと拳を握り締め、死ぬことをわかったうえで行くことを決めた兵士のように頷いた。

「……はい、僕の手は既に……誰かの命を奪いました……そして、ずっと前から自分の一生を棒に振っています」

 その瞬間、ラオは芽生えようする感情を押し殺し、断腸の重いで切り捨てることにした。

 この年下の男の子は一人で背負うには重過ぎるも使命を背負おうとしている。自分も一緒に背負える自信がないし、きっともう心はあのお姫様でいっぱいだ。

 無表情だったハロルドは緊張を解いたかのように「フッ」と微笑む。

「……なんとなく感じてたよカミル君、アーカディア王国三獣士に四人目ができたな」

「そうだな、三獣士見習いかあるいか……アーカディア王国四天王というのはどうだ?」

 一歩引いた位置でジッと見守っていたヨハンも気さくに微笑みながらイヴァーナに言うと、彼女は嫌悪感を露にする。

「やめて下さい! ファントム騎士団じゃあるまいし……三獣士見習いで結構です」

 イヴァーナも渋々認めたようで、ヨハンは安堵した表情だ。

「そうだな、明後日カンカー遺跡の調査にも同行させよう。カミル君……姫様は駐機場の近くにある湖の畔で待ってる」

「はい! ラオ、今日はありがとう」

 カミルはお礼を言うと、ラオは悲しみを押し殺した笑みで頷いた。

「うん、あたしの方こそ……祈ってるわ」

 まさか、恋心が芽生える前に失恋しちゃうなんてね。

 

 

 カミルは胸の高鳴りを感じながら、徐々に歩みを速めてヘルガが待ってるというグスタフMRAPのマルゴが駐機している近くの湖の畔に走ると、水面には二つの月明かりの中で、彼女が湖に向けて立っていた。

 背中まで長いハーフアップの黒髪を風に靡かせ、スカーフを被り、ロングスカートを履いて農民の娘の格好をしていた。カミルは一歩一歩踏みしめながら歩み寄る、別れたのはついこの前なのに数年振りに再会するような気持ちで、愛しい彼女の名前を口にした。

「……ヘルガ」

 一呼吸置いて彼女はゆっくりと澄み切った微笑みをカミルに向ける。

「カミル君……」

 ヘルガだ……ヘルガが今、目の前にいて僕に微笑んでいる、カミルは嬉しさで胸一杯のあまりに高揚し、抱き締めたい衝動を抑えながらゆっくりと告げると、声が震えた。

「ヘルガ……君に、会いに来たよ……」

 ヘルガもゆっくり歩み寄り、見つめ合い、微笑み合い、やがてお互いの手が届く距離にまでなると、ゆっくりと手を伸ばして触れ合い、やがて指を絡ませる。

 もう離したくないという気持ちを込めて。

「うん……やっと……本当に……本当に会いに来てくれた!」

 ヘルガは嬉しそうに目に涙を浮かべながらカミルを見つめると、胸元に身を寄せ、そして委ねる。カミルはそっと優しく包むように抱き締める、ずっとこうしていたい……このまま時間が止まって欲しいと願うくらいだった。

 温かい……いい匂い……柔らかい……誰にも渡したくない。

「これから僕は……君と一緒に旅をする、何が待ってるかわからないけど」

「うん、だけど……君と一緒なら、乗り越えられる気がするわ」

 ヘルガは顔を上げると、その表情は重い使命や覚悟を前向きに背負う意志が込められていた。カミルはヘルガと見つめ合い、今こそ胸に秘めていた思いをちゃんと伝えようと決した。

「ヘルガ、僕は――」

「はいはいそこまでですよ! 姫様、カミル君!」

 イヴァーナが我慢に我慢を重ねてもう限界だという顰めっ面で、ズカズカと歩み寄ってくるとヘルガは不満を露にして頬を膨らませる。

「もうイヴァーナったら! いつもいいところで割り込んでくるんだから!」

「姫様、あなたの御身分をお忘れですか? それに身分違いの恋なんて――」

「私のお祖母様だって三獣士の一人でしたよ! お祖父様は燃えるようなお話をよく聞かせてくれましたし……元三獣士の方が書いたノンフィクションも読みましたから!」

 ヘルガは不都合な事実を口にするとイヴァーナは「ぐぬぬ」と唸ると、ヨハンは愉快そうに静か笑ってハロルドも微笑みながらヘルガを見つめていた。



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