剣?魔法?いやいや時代は運でしょ! (高崎瑞希)
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キャラ設定などなど(二十二話現在)

ちょっとキャラ設定がごちゃごちゃしてきたので整理。
ストーリーには深く関わらない程度に色々書いていこうかね…
なんか矛盾とかあったら教えてくださいな。


・山崎神(男)18歳

  ひきニートだった。猫大好き。しかし動物には好かれない…

  捨て猫に構ってしまったせいで他界。転生した。

 

 

・シン(女)18歳、体は大体7歳くらい。

 属性:変質

 山崎神が女神によって転生した後の姿。

 確かにロリコンではあったかもしれないが…ロリになりたかったわけではない。

 転生時に女神からもらったのは運の上限解放、&凸。いわゆるラックチート。

 運で魔法の発動などすべてが決まるこの世界においては最強のチートだろう。

 

 

・女神(女)年齢不詳

 シンを転生させた女神。

 特に名前はない。「強いて言うなら麗しの女神様とかがいいな!」…ノーコメントで。

 運の世界だと言わずに転生させようとした役に立たないペチャパイダ女神。本当に身長も胸も小さ「何か言った?」…いえ、なんでもないです。

 

 

・フェリス・ドレシア(女)17歳

 属性:水

 シンが異世界で初めて出会った女の子。

 金髪、爆乳。脱いだらすごい。

 優しくて料理上手。ゴブリンの卵は特にお気に入り。

 魔力量は多いが運は低い。なのにシンと別れてからもカジノに行っているとかいないとか…

 

 

・ブリー・ドレシア(男)40代前半

 属性:大地

 フェリスのお父さんであり、シンの仮の親。

 そして魔法を教えてくれた先生でもある。

 なお、昔は先生をしていた。今は辞めて別の仕事をしているようだが。

 実はゴブリンの卵は苦手。でもフェリスが頑張って取ってくるから頑張って食べている。

 最近はシンとの修行のおかげでフェリスも実力がつき、ゴブリンの卵以外も頻繁に食べられるようになり喜んでいる。

 

 

・アルティア・エストリア(女)7歳

 属性:風

 インディゴ出身のお嬢様

 エストリア家四女。

 金髪さらさらストレート。大体Bくらい(何がとは言わないけども!)

 シンの最初にできた友達。バスの中で話しかけられた。

 自称『シンさんの一番の親友』

 シンさんファンクラブNO1 兼 会長

 「シンさんについてなら誰にも負けません!」

 …黙っていればすごい美人さん。

 

 

・ルゥ(女)7歳

 属性:火

 シンのルームメイト。頭が残念。

 一人っ子

 赤髪ショート。AAA(何がとは言わn(ry )

 色々なところでシンと張り合おうとする負けず嫌い。

 ただし、頭や運が残念なのでいつも空回り。

 それでも朝はシンよりも早く起きたり、お風呂では先に体を洗ったり湯船に浸かったりと小さな事でも勝とうと頑張っている。

 後、頭が残ね「何回言うのよ!?まだ魔力が足りてないだけだもん!すぐにシンを追い越して見せるわ!」

 何を隠そう作者の一番のお気に入りキャラ。

 ……頭が残念!

 ティアと同じく黙っていれば可愛い。

 

 

・ラヴニール(男)

 属性:不明

 メリア学園の学園長

 白い髭が特徴で、サンタさんと言われても違和感無し。

 いつも学園長室の椅子に座っている。

 立って歩いているのを見た人はいない。

という噂があったが、最近はよく外でも見かける。

 

 

・アリア(女)××歳

 属性:水

 一年C組の担任であり、一年生の実践で水属性を担当。

 身長が約130㎝(シン見立て)

 鮮やかな青髪が腰まで伸びている。

 『小さい』『可愛い』はNGワード

 年齢は怖すぎて聞けない。

 基本はノリがいい。怒らせなければ毎日楽しい授業が送れる。まぁ、シンはよく寝ているようだが…

 たまに一年生に混じってどこに行ったか分からn「…ん?(笑顔の圧力)」とても大人な優しい先生です。

ちなみにシンさんファンクラブNO33。なぜかすごく嬉しそう。

 

・ガイ(男)

 属性:火

 一年A組の担任であり、一年生の実践で火属性を担当。

 ……んー…特に言うこと無し。

 

 

・アーニャ・エストリア(女)9歳

 属性:風

 ティアのお姉さんで、現在三年生。

 エストリア家三女

 極度のシスコン。ティアはこの世で一番可愛いと思っている。

 二年生の時にミス・メリアを受賞。

 最近はシンの存在に危険を感じ、倒そうとあれこれ策を練っているらしい。

 

 

・リナ(女)9歳

 属性:大地

 双子の姉。アーニャの付き人であり、いつも一緒にいる。

 剣の道を極めんとする魔剣士。

 この世界では珍しい黒髪。しかもツインテ。萌え。

 

 

・レナ(女)9歳

 属性:大地

 双子の妹。姉と一緒にアーニャの付き人をしている。

 魔剣士だが、あまり刀は好きではない。

 姉と同じく黒髪ツインテ。萌え。

 

 




とりあえず1000文字いってたのでこの辺で。
追加でキャラ出したらまたここにも追加していきます。
なお、忘れている設定なども思い出したら書くかも…

…あ、一人忘れてた。空飛ぶ先生何も決めてないや…
……とりあえず名前は…『ウイングマン』で。
「俺の名はウイングマン!」と言っていた過去は黒歴史。


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本編
プロローグ  異世界転生…したけどさ…


今日は12月25日。世間ではクリスマスと言われている日だ。

 

「はぁ…」

 

まあ俺には関係ないが。

 

俺は山崎神。神と書いてしんと読む。

親がゲーム好きだから俺にこんな名前を付けやがった。

ちなみに現在ひきニート。

こんな名前のせいで学校ではいじめられ不登校。結果何もせずに18歳になってしまった。

 

「腹へったな…」

 

冷蔵庫を開けに行く。しかし…

 

「何もねぇ…」

 

冷蔵庫の中は空っぽだった。

 

「マジかよ…」

 

ぐぅ~…

 

「腹へった…どうするかな…」

 

ぐぅ~…

 

「我慢…はできないな…買いに行くか…」

 

着替えをしてドアを開ける。

 

「うわ…さっむ。」

 

雪が降っていた。しばらく外出てなかったからな…

 

「さみー。急いで買いに行こう。」

 

 

 

 

 

徒歩30秒。家のすぐ横にコンビニがあるというのは便利だな。

うぃーん。

 

「いらっしゃいませー!」

「うわぁ…」

 

コンビニの中はクリスマス一色。店員さえサンタの格好をしている。

さらにいらつくのは…

 

「なんでコンビニなんかでいちゃついてんだよ…」

 

腕を組んで楽しそうに話している男女。カップルだろう。

 

「くそ…なんで他人の誕生日にこんな楽しそうなんだ…」

 

さっさと買って帰ろう。

 

「これと…あとは水も買っとくか…」

 

必要なものをかごに投げ込む。

 

「お願いします。」

「はい。108円が一点…130円が…」

「このあとどうする?」

「アキの家行こ♥」

「おう。一晩楽しもうぜ。」

 

なんで真後ろでいちゃつくんだよ!もう一つカウンター空いてるだろ!あっち行け!

 

「以上で2840円です。」

「あ、はい。」

 

お金を支払う。袋を持ってコンビニを出る。

 

 

 

「うぜぇ…さっさと帰って限定クエストの続きするか。」

家に向かって歩き出…そうとしたとき。

 

 

にゃー…

 

「あ?」

 

猫だ。一匹だけ道路の脇で箱の中で丸まっている。

 

「お前も一人なのか…?」

 

にゃー。

 

「そうか…仲間だな。これでも食うか?」

 

さっき買った弁当を開けて焼き鮭を渡す。

 

にゃ!

 

「うわっ!」

 

顔を引っ掛かれた。いってぇ…

 

「前が…見えねぇ…」

 

くそっ…猫め…優しくしてやったのに…

ふらつく。やべぇ…足元が…

ききーっ!

 

「は?」

 

体に痛みが走る。急に脚が地面から離れる。

 

「え?」

 

何も見えないし体は痛いし…

 

「ねこぉーーー!!!」

 

どさっ!

地面に体がつく。さらに痛みが強くなる。

意識が薄れていく…猫に殺されるとか…最悪な人生だったな…

そこで意識が永遠に途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はずだった。

 

「はっ!」

 

意識が覚醒する。

目の前に女の子の顔があった。

 

「うわっ!」

「あ。目が覚めた?遅い。もっと早く起きてよ。」

 

女の子が話しかけている。改めて見ると…かわいいな。

 

「えっと…あの…その…あ、あなたは…?」

 

自慢じゃないが俺はコミュ症だ。他人と関わることなんて滅多になかった。

 

「私は女神だよ♪」

「…は?」

「きみの人生…あまりにかわいそうだったから…」

「はぁ…」

「ま、まぁ一度くらいは助けてあげてもいいかな?て思っただけだから!それだけ!」

「はぁ…」

「さっきから『はぁ』しか言ってないじゃん。もっとなんかないの?」

「あ、ありがとうございます。」

「よろしい。」

 

ふんっ!と無い胸を張っている。

 

「それで…ここは?」

「ここは天界の一部屋。今からあなたを助けてあげる。」

「はぁ…別に助けてもらわなくてもいいんですが…」

「へぇ?それが魔法が使える世界に転生できるとしても?」

「え?」

 

ちょっと待ってくれ。異世界転生?今そういったのか?

 

「て、転生?できるの?」

「うん!それでね…」

「うん!」

 

テンションが上がってきた。異世界転生と聞いたら上げるしかないでしょ!

 

「きみの人生には同情するから一つだけ…」

 

きた!お決まりのチートゲットだ!

 

「願いを叶えてあげるよ!何がいい?」

 

やっぱり!どうしようか…やっぱりベタなのは魔力上限アップとか…魔法無詠唱とか…悩むな…

 

「ひ、一つだけ?」

「うん。あまり待たせるとゼロになるかもよ♥」

「ちょ、ちょっと待って!」

 

どうしよう…いや。やっぱりこれだ!

 

「全属性を使えるようにして!」

「へぇ…あなたもそうなんだ。役に立たないのにね。バカばっかり」

「え…ま、待って待って!」

「何さ。叶えてあげるから少し待ってよ。」

「その叶えるのを待って!役に立たないってどういうこと?」

「はぁ…説明してほしい?」

「うん。お願いします。」

「今から送るのは魔法の世界。それは聞いたよね?」

「うん。」

「そこでは全てが運で決まるんだ。」

「はぁ…?」

 

どういうことだ…?

 

「何をするにも運が必要ってことだよ。」

「ああ。なるほど。」

 

運が大切ってことか。

 

「え?それ皆に言ってる?」

「いや?聞かれてないし。」

「そこ一番大切!言わなきゃいけないとこ!」

 

この女神最悪だ。必要なことを話してねぇ。 

 

「え?運が大切…ってことは…」

 

これが一番いいのでは…?

 

「運の上限解放して凸らせることできる?」

「もちろん。なんで皆それ言わないのか不思議だよねー。」

 

明らかにこの女神が言っていないからだ。

 

「じゃあそれが願いってことでOK?」

「うん。」

「わかった。それと転生者皆に与えられる特典なんだけど…」

「へぇ。まだ何がもらえるの?」

「人のステータスを見ることができるよ。ただし転生者同士では見れないからそこんとこ注意してね。」

「なるほど。」

「じゃあ送るよ!」

「あ!待て!」

「は?待て?」

「あ…いや。待ってください。」

「はぁ…何?」

「他に隠してることはない?…ですか?」

「ないない。集中するから黙れ~。」

 

うっ…これ以上邪魔するとまずそうだ。静かにしとこう。

 

「開け~…扉!」

「は?」

 

ごごごごご…

目の前に大きな扉が出現し…開き始めた。

 

「さぁ。いってらっしゃい!くすくす…」

「よっしゃ!新しい世界へ…!」

 

一歩を踏み出した。目の前が真っ白になる。

 

 

 

 

 

視界が開ける。

 

「うわっ…すげえ。」

 

声が漏れる…あれ?

 

「あー。てすてす…は?」

 

声がやけに高い。もう声変わりしていたはずだが…

 

「まさか…あの女神…」

「よんだ?」

 

目の前にさっきの女神が現れた。

 

「お前何しやがった!」

 

声がすごく高い。なんだこの声…

 

「いやぁw羨ましそうにw私を見てたからw女の子にしてあげたよw喜べwロリだぞw」

「ふっざけんなぁーーーーー!!!!!」

 

山崎神。18歳。男。ひきニート。

異世界で女の子になりました…これから俺どうなるの!?



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一話  異世界って…色々すごい…

「ふっざけんなぁーーーーー!!!!!」

「あ、ちなみにあまり叫ばないほうがいいよ?」

「黙れ!戻せよ!こんな姿で俺は…」

「ほら。よってきた。」

「はぁ?」

 

周りを見渡すと…

 

「ひっ…」 

 

すぐそこにゴブリンがいた。

 

「私はこの世界に干渉できないからね。がんば♪」

「この悪魔がぁ!」

「しゃぁ!」

 

ゴブリンが殴りかかってきた。

 

「な、何か武器は…何かないのかよ…」

「最低限のお金はあるはずだよ?それじゃあね♪」

「は?待て!待ってください!助けて!」

「じゃ!」

 

すっ…と女神の姿が消えた。

 

「くそ…金だけでどうすれば…」

 

初めて出会うモンスター。目の前で棍棒を振り回している。

よく見たら牙すごいし…よだれ垂れてるし…

 

「くそ…くそっ…」

 

腰も抜けてしまった。もうだめだ…また死ぬのかよ…

そのとき。

 

「ぐあっ!?」

 

ゴブリンが倒れた。

 

「大丈夫?怪我はない?」

「ひっく…くそ…く…え?」

「あーあ…泣いちゃって…もう大丈夫だからね。」

 

頭を撫でられる。なぜだろう。すごく落ち着く…

 

「大丈夫。もう怖くないよー。」

 

あぁ…安心したら急に眠気が…

そしてそこで意識が途切れた。

 

 

 

 

 

「はっ!」

「あら。起きた?」

 

なんかデジャブだな。でも目の前にいるのはあのダ女神じゃない。

 

「えっと…」

「あ。連れてきちゃってごめんね?放っておくわけにはいかなかったしさ。

私はフェリス・ドレシア。フェリスでいいよ。」

 

フェリスがすぐ横に座る。

 

「あ、俺は…」

 

なんて名乗れば良いのだろうか…神は前世の名前だし…

 

「もう。女の子が『俺』なんて使ったらダメだよ?

せっかくかわいいんだから…」

 

フェリスに注意された。かわいい上に優しい。どこぞのダ女神とは大違いだ。

 

「あ…えっと…わ、私?は…」

「うんうん」

 

すごい頷いている。

こんなにかわいい子がすぐ横に…やばい。緊張する。

 

「し、神…です。」

 

結局前世の名前を答えた。こんな状況でしゃれた名前を出せなんてムリだ。

 

「シンちゃんか。かわいい名前だね!」

 

また頭を撫でられる。なんだろう。この気持ちは…

 

「い、いや…そんなこと…ないです…」

「~~~!!もう!かわいい!かわいすぎるよ!」

 

ぎゅうっ…と抱き締められた。

む、胸が…もろに顔に…柔らかくて暖かくて…

前世では見たことも触ったこともない豊満な……息が…

 

「んーー!!」

 

抱きつかれたまま背中を叩く。もう…息が…

 

「あ。ごめんね?つい…」

 

フェリスが離れる。少し名残惜しい気もするが…命大事に。

 

「だ、大丈夫です。」

「うん。良かった。それじゃあ君のことを教えてくれるかな?」

「えっと…」

 

何を話せば良いのだろうか。転生しました。なんて言えないし…

 

「わ、わからないです…」

 

結果。何も喋らないを選んだ。

 

「そっか…」

 

フェリスは黙りこんで何かを考え始めた。

 

「記憶喪失てきなやつかな。お父さんが帰ってきたら聞けるんだけど…」

「ただいま。」

 

誰かが入ってきたみたいだ。

 

「あ!お父さん!ぴったりだよ!」

「うん?どうしたんだい。フェリス…」

 

目があった。

 

「こ、こんにちは」

 

軽く会釈する。

 

「フェリス。説明して?」

「えっとね…」

 

 

 

 

 

 

「なるほど…記憶が…」

 

状況を理解してくれたらしい。

 

「わかった。しばらくはうちにいるといい。フェリス。面倒を見てやれよ。」

「はーい!ねぇねぇ。シンちゃん。」

「はい?」

「お風呂入ろ!お互い汚れてるしさ!」

 

お、お風呂!?それは…さすがにまずいのでは…これは断ったほうが…

 

「よし行こー!」

「えっ?ちょっ…」

 

抱き抱えられて強制的に連れていかれる。

 

 

 

 

 

 

 

「とうちゃーく!」

「うぅ…」

 

結局なすすべはなかった。

 

「おっふろー!おっふろー!」

 

フェリスが服を脱ぎ始める。

 

「うわっ!」

 

服の上からでも圧倒的な存在感を放っていた胸が解き放たれた。

すごい…服を脱ぐとこんなにも…

 

「どうしたの?」

「あっ!いや!なんでもないです!」

 

しまった…じろじろ見ていたのがばれてしまったのだろうか。

 

「もう。早く脱がなきゃ。入れないでしょ。」

「え?」

 

ばれてはいなかった。のだが…

 

「ほら。ばんざーい!」

「ば、ばんざーい…」

「とぅっ!」

 

服が脱がされる。そして下を向くと…

 

「うわぁ…」

 

そこには水平線が広がっていた…

比べるものが違うと分かっていても…フェリスはすごいな。

 

「ほら、足あげて。」

 

気がつくとお互い全裸だった。

 

「あっ…」

 

そうだ。今の俺は女の子だった。本来付いているものが付いていない…

 

「っ…」

 

下を向いていられなかった。前を向くと…

 

「どうしたの?早く入ろうよ。」

 

フェリスの裸が…

目のやり場に困る…

 

「もう…仕方ないなぁ。」

 

またフェリスに抱っこされる。

目の前に豊満に育った胸が…

 

「あれ?」

 

ちらっと見えた肩には…

 

「あ、これ?この前ちょっとミスしちゃってさ…やられちゃった。」

 

女の子にはふさわしくない大きな傷があった。

 

「大丈夫だから。さっ、どぼーん!」

 

お湯に投げ込まれた。

 

「詰めて詰めてー!」

 

 

 

 

 

 

そのままお風呂に入り、体を洗い洗われ、お風呂をあがる。

 

「ふぅ。気持ちよかったね!」

「う、うん…そうですね。」

 

正直初めての女の子の体が気になってしょうがなかった。

 

「気になってたんだけどさ…」

「はい?」

 

フェリスが尋ねてくる。

 

「なんでそんなに硬いの?」

 

つい下を見てしまう。いや、付いてないんだけど…

 

「もっと気楽にいこーよ。敬語はもうやめてね。」

「あ…」

 

そっちか。そうだよね。そっちしかないよね。

 

「わかりま…わ、わかったよ。」

「うん♪よろしい。」

 

心なしか嬉しそうだ。

 

「私妹欲しかったんだよねー。」

「そ、そうなんだー(棒)。」 

 

男だけど…

お風呂からあがるとフェリスのお父さんが待っていた。

 

「少し話をしたいんだが…いいかな?」

「なになに?記憶のこと?」

「いや、それはまだわからないが…今後のことだ。」

「な、なんですか?」

「いや。さっきはああいったが…うちはそこまで裕福な方ではないんだ。見ず知らずの君をいつまでもここに置いておくわけにはいかない。わかってくれるね?」

「は、はい。」

 

まあ当然だろう。俺はこの人たちとは何も関係はないのだから。

 

「お父さんひどい!」

「し、しかしだな…」

 

お父さんがたじろいでいる。やっぱり父っていうのは娘に弱いものなのかな。

 

「じゃあ…私働きます!」

 

つい言ってしまった。

 

「は?いや…その年で仕事は…」

「じゃあ私と狩りに行こ!安全なところからさ!」

「フェリス!?」

「いいじゃん!いいでしょ?そしたらシンちゃんと一緒に居られるよね?ね?」

 

フェリスがお父さんに言い寄る。

 

「あ、ああ…まぁそれなら…」

 

お父さん折れた!娘に弱いのはたしかみたいだね。

 

「やった!じゃあ明日一緒に行こうね!シンちゃん!」

「うん!」

「じゃあ今日は遅いし…一緒に寝よう!」

「えっ…」

 

また抱き抱えられる。

もう抵抗はしない。この体じゃあムダだとわかったからね。

そのまま一晩フェリスの抱き枕となっていた…

 

 

 

 

次の日…



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二話  俺は女の子

「ふわぁ…」

 

眠い…この体不便すぎる…

 

「あれ?」

 

もうフェリスがいない。

 

「あ!シンちゃん起きた!おはよ!」

「あ、うん。おはよう。」

 

ドアからフェリスが顔を出す。

 

「早く早く!そんな格好じゃ狩りに行けないよ!

まずは服を買いに行くから!朝ごはん早く食べなきゃ!」

 

急かされる。そういや服昨日のままだ…

体が縮むときに一緒に服も縮んでいてくれて助かった。

危うく全裸になるところだったぜ…

 

「はーやーくー!」

「はいはい…」

 

体を起こし、朝ごはんを食べにいく。

 

「うわぁ…すごい。」

 

テーブルにはたくさんの卵料理が並んでいた。

 

「全部私が取ってきたんだ!」

「へぇ。すごいね」

 

口に運ぶ。

 

「うっ…」

 

全然口に入らない…そういや体縮んでたんだった…

 

「はぁ…」

 

少し切って改めて口に運ぶ。

 

「おいしい…」

「でしょ!今日はシンちゃんもそれ取りに行くんだよ!」

「へぇ。ちなみに何の卵なの?」

「ゴブリン!」

「ぶっ!」

 

吹いてしまった。

 

「あぁ…もう、もったいない。ちゃんと吹かずに食べてよね。」

「食えるか!」

 

あのゴブリンの卵だって?食えるわけないだろ!

 

「ええ?何で?こんなにおいしいのに…」

 

おいしいのは認める。認めるけど…

 

「食欲が失せたよ…」

「そう?食べないと狩りなんてできないと思うよ?」

「うっ…」

 

た、確かに…この世界はまだ何が起こるかわからない。

何が起こってもいいように準備はしておくべきだ。

 

「うぅ…目をつぶれば…なんとか…」

 

勇気が出ない。口に運ばずに皿の上でいじっていると…

 

「はい。あーん!」

「え?」

 

顔を上げると目の前に卵がある。

その向こうでフェリスがフォークを構えていた。

 

「あーん!」

「ぇ…う、うん…」

 

女の子があーんをしてくれている。

すごく嬉しいシチュエーションだ。この卵じゃなければ…

卵がプルプルし始めた。あ、うでの限界かな?

し、仕方ない…男だろ!覚悟を決めろ!

 

「あ、あーん…」

「はい♪」

 

食べる。うん。おいしい。

 

「ゴブリンじゃないゴブリンじゃないゴブリンじゃ…」

 

ひたすら暗示をする。考えなければ大丈夫。大丈夫だ…

 

「あーん。」

 

もぐもぐ…

 

「はい♪」

 

もぐもぐ…

 

 

 

 

 

 

「完食!よく食べたね!」

「うん…美味しかったです。」

「よし!行こう!」

「気を付けろよ。」

「うわっ!」

 

お父さんがいた。すぐ横に。気づかなかった…

 

「いってきます!」

「きまーす。」

「よし!かわいい服を探そう!」

 

いや。狩りをするのだから動きやすい服だろう。

 

 

 

 

 

 

「到着!」

「お、おぉ…」

 

ザ!女の子!って感じのお店に着いた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

耳が長い。エルフだろうか…

 

「この子に似合いそうな服ありますか!」

「はい!でしたら…」

 

エルフの店員さんがフリフリの服やスカートを持ってくる。

 

「はい。着てみて!」

「え…」

 

試着室に連れていかれる。着るしかないのか…

 

「はぁ…仕方ない」

 

着ている服を脱ぎ、渡されたかわいい服を着る。と…

 

「うわっ…」

 

渡されていたのはミニスカート。でもはいていたのはトランクス。思いっきり見えている…

 

「これ…いいのか?」

 

いや、ダメだろう。

 

「こうなったら…」

 

パンツに手をかける。

 

 

 

 

 

 

「お、お待たせ…」

 

試着室のカーテンを開ける。

 

「やっぱり!かわいい!」

「似合ってますよ!お客様!でも…」

 

うっ…やっぱりばれたか?

 

「スカートはもう少し上げたほうがいいかと…」

 

やっぱり…すーすーするから下げていたのだが…

 

「…えっ…」

 

スカートを上げようとした店員さんの動きが止まった。

 

「え…えっと…すぐに持ってきますね…」

「はい…すいません…」

 

すごく恥ずかしい…でも店員さんが察しのいい人でよかった。

 

「なになに?どうしたの?」

 

一人何もわかっていないフェリスがおろおろしている。

 

「お、お待たせしましたー…どうぞ…」

「ありがとうございます…」

「え?パンツはいてないの?なんで?」

 

フェリスが驚いていた。せっかく店員さんが黙っていてくれたのに。もう喋るな。

 

「よし。これで大丈夫…なのか?」

 

なにせこんな格好をしたことなどない。

 

「えっと…」

 

カーテンを開ける。

 

「…はい!似合ってますよ!」

 

店員さんがスカートを見ながら誉めてくれる。

…恥ずかしい…女の子はいつもこんな感じなのか…?

 

「うん!いいね!これください!」

 

フェリスがもう買おうとしていた。

 

「いや…これスカート…」

「次は上だね!お願いします!」

「はい。少々お待ちください。」

「あの…」

 

本当話聞かないな!どうなっても知らないぞ!

 

「どうぞ!」

 

 

こうして俺は女の子に着せかえられていった…

 

 

 

 

「以上で6800Gですね。」

「はい。」

「それと現在くじ引きを行っておりまして、最大半額になるチャンスがあります。」

「え?くじ引き?」

 

これは俺の運がどれくらいいいのか試すチャンスだ。

 

「引かせて!私引きたい!」

「うん。いいよ。」

 

フェリスにだっこされてカウンターの上のくじを引く。

ころころ…

 

「え?金だ…」

 

金の球が出てきた。

 

「お、おめでとうございます!半額です!」

「やった!やったね!シンちゃん!」

「おお…すげえ。」

 

どうやら本当に運はいいらしい。

これを使えば…

 

「ねぇ。フェリスお姉ちゃん。」

「~~~!!!なになに?お姉ちゃんになにか用かな?」

 

この反応…呼ばれたかったのかな?

 

「この辺にくじ引き屋みたいなのってない?」

「え?あるにはあるけど…」

「行きたい!」

「でも当たらないと思うよ?あれ大人向けだし…」

「お姉ちゃん!」

「よし行こう!」

 

ちょろい。将来が心配だよ…

 

「えっと…3400Gになります。」

「はい!」

 

お金を払ってお店を出る。

 

 

 

 

 

「ここが…」

 

大きなカジノみたいだ。いや、これカジノじゃない?

 

「行こっ!」

 

手を引かれ中に入る。

回りからの目線がすごい…

 

「何回引く?」

「一回だけ。」

 

机の上に『一回500G』と書かれている。

現在の持ち金は500G。フェリスに迷惑はかけられないから自費だ。

 

「一回お願いします。」

 

足を伸ばしカウンターの上に手だけだしてお金を支払う。

 

「はいよ。」

 

大きなあのガラガラ回すくじが出てきた。

ちなみに一等は世界に一本しかない昔あのマーリンが使っていた(と思われる)杖。

外すと…ドラドの実、と書かれている。

一等の杖はきっともってて損にはならないはずだ。

 

「いざ…勝負!」

 

ガラガラガラ…

 

「こい!」

 

ころころ…

出てきたのは…



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三話  やっぱり運こそが最強だ

ころころ…出てきたのは…

 

「おお!お嬢ちゃんおめでとう!一等だ!」

 

虹色に光輝く玉だった。

 

「ほら、一等の杖だ。」

「あ、ありがとうございます…」

 

すごい。さすがは運MAXだ。

 

「私も!私も引きたい!」

「500Gだ。」

「はい!」

 

フェリスがお金を店の人に渡す。

 

「よーし!一等…は出ちゃったから…二等!当てるぞ!」

 

意気込んでいる。

そういえば、あのダ女神は転生者には人のステータスを見ることが出来ると言っていた。

フェリスのステータスを見ることが出来るのだろうか…

 

「ええと…」

 

フェリスをじーっと見てみる。

 

するとフェリスの頭の上にぼうっと何かが浮かんできた。

 

「これが…ステータス?」

 

もうすぐ…もうすぐ読めそうだ。

 

「何て書いてあるんだ…?」

 

見えたのは…

 

フェリス

力  40  魔力 70

体力 85  運  5

属性 水

 

「なるほど…」

 

さすがは異世界。魔力とかもあるのか。

属性?魔法の種類だろうか…

というか…

 

「運が5って…低っ!」

「何かいった?シンちゃん。」

 

もうフェリスは取っ手に手を掛けていた。

 

「待って!引いちゃ…」

「えい♪」

 

ガラガラ コロン…

 

「残念、外れだね。また来な。」

「ええ!?そんなぁ…も、もう一回引いたら今度はでるかも…」

 

出てきた玉の色は白色。

しかももう一度引こうとしている。

 

「は、早く行こ!狩り!狩りしてみたいな!」

「えぇ?もう一回だけ…」

「今すぐ!行きたいの!」

 

これ以上引かせても絶対に白しかでない。

だって運5だよ?無理に決まってる。

 

「そっか…仕方ない。行こうか。」

「うん!」

 

 

 

 

 

「よし、この辺かな。」

 

草原の中にある岩場で立ち止まる。

 

「まずはゴブリンを追い払う魔法を教えるね。」

「は、はい!」

 

魔法!ついに魔法を使えるのか!どんな魔法だろう。

 

「見ててね。ファイア!」

 

ボッ! 火の玉が浮かび上がる。

 

「あれ?フェリスって水属性じゃなかったっけ…」

 

もう一度確かめる。うん。確かに属性は水だと書いてある。

 

「え?言ってたっけ?確かに私は水属性だよ。」

「え…じゃあこれ…水なの?」

 

目の前で火の玉が燃えている。これは水だったのか…

 

「いやいや。そんなわけないよな。」

 

「こういった初級魔法は誰でも使えるんだよ。だからシンちゃんもきっと使える。」

「はぁ、なるほど。」

 

初級魔法は誰でも使える。他には何が…

 

「まぁその辺は帰ってから説明するよ。今はこのファイアだけ覚えれたら大丈夫だから。」

「ふぅん。どうすればいいの?」

「頭の中に火の玉を思い浮かべて…」

「ふむふむ」

 

ボッ!

 

「うわっ!」

 

出た。なんだ。思ったより簡単じゃないか。

 

「え…?もうでたの?私は数日かかったのに…」

 

ポカーンとしている。口が閉じないようだ。

 

「あ…えっと…よし!ゴブリンを追い出そう!頑張るぞー!おー!」

 

フェリスが無理やり気合いを入れる。

 

「おー」

 

のってみた。ちょっと楽しい。

 

「あそこにゴブリンはいるからね!」

 

と指差したのはとある洞窟。

うおお!ダンジョンみたいだ!気合い入るな!

 

「行くよ…静かにね。」

「うん。」

 

そーっと、そーっと…洞窟に入る。

 

「うーん…まだ気配は無いなぁ。お出かけ中かな?」

「えー?残念。」

 

俺の初魔法。使ってみたかったのだが…

 

「いないなら大丈夫かな。ファイア!」

 

ボッ!周りが明るくなる。

 

「へぇ…」

 

よくあるRPGみたいな洞窟だ。ん?なんだろうこれは。

 

「んー…ボタン?」

「どしたの?」

「あ…えっと…ボタンみたいなものが…」

「え?どれどれ…」

「あ、勝手に押すと危な…」

 

ポチッ!

 

「うおい!」

 

押しやがった!何が出てくる…?

ごごごごご…

 

「うーん…隠し通路みたいだね。さすが、シンちゃん!

行ってみよう!」

 

 

 

 

 

 

「おお!すげぇ!」

 

隠し通路をひたすら進むと…たくさんの黄金が…

 

「すごい!これだけあれば…しばらくは卵以外も食べられそう!」

 

フェリスの目が輝いている。

 

「えっ?いつも卵だけなの…?」

「うん。たくさん卵が取れたときだけ他のものと交換するんだけど…」

 

フェリスが黄金を持ち上げる。

 

「これは高値で売れそう!ありがと!シンちゃん!もって帰ろ!」

「とは言っても…」

 

俺は今や幼女。フェリスも華奢なのであまり持てそうにない。

 

「RPGならカバンにいくらでも入るのになぁ…」

「何してるの?ほら。たくさん持って!」

 

フェリスは胸元に黄金を入れている。

 

「は…?そんなところに入るの?」

「思ったより入るよ!便利!」

 

さすがはフェリスの豊満な胸。すごいな。

 

「よし。俺も…」

 

胸元に黄金を運ぶ。

 

「えいっ!」

 

ゴトッ!

 

「……………」

「……………」

 

足元に黄金が転がる。

 

「あ、あはは…まだシンちゃんには早いかな…?」

「うぅ…」

 

自分の胸元を眺める。見事な水平線だ。

 

「…あれ?」

 

何かが見えてきた。

 

「なんだこれ…」

 

力  15  魔力 30

体力 10  運  99999

属性 変質

 

「は?」

 

転生者は見れないと言っていたはずだが…あれは他人の話だったのか…

 

「というか…運すごいな。」

 

おそらく上限は999だろう。他と恐ろしくかけ離れている。

 

「うん…?」

 

まだ下に続いているようだ。なんだろう。

 

「えっと…」

 

手をスライドしてみる。すると文字も一緒に移動した。

 

「おっ?」

 

属性 変質

パーティ フェリス

バックを具現化

バックを霊体化

中身を確認

 

「バック?これじゃないか?」

 

『バックを具現化』を押してみる。

しゅいーん!

 

「おお。鞄が出てきた!」

 

小さなポーチだ。これに入るのだろうか…

 

「試しに入れてみよう。」

 

そのポーチよりも少し大きめの金塊を手に取る。そして…

 

「えぃっ!」

 

ポーチに思いっきり刺した!

 

「おお!」

 

ぬるぬる入る!なんだこれ!楽しい!

 

「おぉ。じゃあ次はこれを…」

 

ぬるぬる…

 

「じゃあこれ…」

 

ぬるぬる…

 

「これだ!」

 

金でできた石像。これはいくらなんでも…

ぬるぬる…

 

「はいった!」

 

これは使える。すごい便利だ。

 

「あれ?黄金が無くなっちゃった…シンちゃん?どこ行ったの?」

「黄金は全部持ったよ。帰ろう。」

「えぇ?またまたぁ。持てるわけないじゃん。」

「これ見て。」

 

さっきのステータス画面からバックを選び、中の石像を出す。

ずしーん!

 

「きゃっ!な、何これ…」

「はい。しゅーりょー。」

 

ぬるぬる…

 

「あれ?消えちゃった…」

「もう持ってるから。帰ろうよ。」

「なに!?シンちゃんもう魔法使えたの!?先に言ってよ!?」

 

いやぁ…ついさっきまで俺も知らなかったし…

 

「じゃあ出ようか。ゴブリンが帰ってくる前に。」

「うん。」

 

 

 

 

 

 

現在換金屋。

 

「う、うそ!?こんなに!?」

「はい。これくらいはあるかと…」

 

フェリスが驚いている。

それはそうだ。目の前にはいままで見たことの無いような桁の数字が並んでいる。

 

「ほ、本当に…?」

「はい。どうされますか?換金します?」

「はい!ぜひお願いします!シンちゃんもいいよね?」

 

もちろう依存はない。助けてもらったわけだし。

 

「では少々お待ちください。」

「やったね!大金持ちだよ!」

「うん。やったね。」

 

フェリスが俺の手を握ってピョンピョン跳んでいる。

む、胸が…跳ねている…

 

「う…」

 

顔がうつむく。これ以上は見ていられない。

 

「どしたの?」

 

フェリスが覗きこんでくる。

 

「いや、夕食が楽しみだなぁって思って…」

「そうだね!何食べようかなぁ…」

 

今度はクルクル回りだした。感情豊かだなぁ…

 

「お待たせしました。1000万Gです。」

「ありがとーございます!さっ!買い物だぁ!」

 

ちなみにもらったお金は再びバックの中にいれる。

そして外に出ると…

 

「おい!お前ら!」

「え?」

 

数人の男に取り囲まれた。

 

「今お金受け取ってたよなぁ。ちょっと分けてくれよ」

「いいだろ?少しくらいさぁ。」

「はぁ?」

 

なんなんだこいつらは…ステータスを見て…あれ?

 

「見えない…」

「そう!俺たちも転生者さ!お前が何を願ったか知らねぇが…俺に勝てると思うな!」

 

そういって右手を上げこちらに向ける。

 

「スティール!」

「なっ!?」

 

相手の持ち物を盗む魔法!?くそっ!お金が…

 

「あれ?盗めない…」

「え?」

 

急いで確認する。お金は盗られてなかった。

 

「な、なんで…スティール!スティール!」

 

繰り返しているが全然盗めていない。

 

「あ…そうか。」

 

ここは全てが運で決まる世界。おそらく魔法の発動も運なのだ。そして俺の運は99999。勝てるはずがない。

 

「くそっ…こうなったら…」

 

男どもが殴りかかってくる。ふっ。幼女なめるなよ!

 

「誰か助けてー!」

「なっ…!」

「このおじさん達が『ぐへへ。いい体してるなぁお嬢ちゃん』って言ってくるの!」

「はぁ!?そんなこと一言も…」

 

周りにギャラリーが集まってくる。

 

「く…くそ…!覚えてろよ!」

 

男どもが逃げていった。ざまあみろ

 

「怖かった…すごいねシンちゃん。」

「うん。帰ろうか。」

 

そして家への道へ一歩を踏み出した。



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四話  やっぱり女の子はわからない

「なっ…!?」

 

お父さんが驚いている。それはそうだ。急に大金が入ってきたのだから。

 

「ど、どうしたんだ?こんなにたくさん…」

「シンちゃんがね!見つけたの!」

「へぇ…」

 

お父さんがこちらを見る。

 

「君は…すごいな。俺達に幸運を運んできた天使のようだ。」

「えへへ…ありがとうございます。」

「その…朝はああ言ったが…これからもここにいてもいいからね。」

「ありがとう!」

「やったね!シンちゃん!」

「うん。」

 

フェリスも喜んでくれている。

 

「使うお金だけ持って買い物行こ!」

「うん。それじゃあ…えっと…」

「お父さんと呼んでくれていいよ。」

「はい。いってきます。お父さん。」

「いってらっしゃい。」

 

 

 

 

 

 

「これいいな!」

「そう?使う?」

「なんかいいじゃん!」

 

手に持っているのは高級そうな包丁。

 

「でももう家にあったじゃん。」

「ええ?でも…」

 

悩んでいる。どうして必要のないものを買うのだろうか。

 

「でもさ。ちょっとくらい贅沢してもよくない?」

「じゃあ食べ物とか買おうよ。」

「わかってないなぁ」

 

顔を横にふる。

 

「ずっと使えるもの買った方がいいに決まってるじゃん!」

「そうかなぁ…」

「そうだよ!」

 

 

 

 

 

結局流されて買ってしまった。

 

「えへへ…楽しみだなぁ。」

 

フェリスはとても幸せそうだ。まぁ嬉しそうだからいいか。

 

「よし。他にも色々買って帰ろうか。」

「あとは食べ物だけね。それ以外は許さん。」

「えぇ…」

「えぇじゃありません。」

「はーい…」

 

その他色々と買って家に帰った。

 

 

 

 

 

「おお。お帰り。」

「ただいま!待っててね!すぐに夕食作っちゃうから!」

 

ふんふーん!と鼻歌を歌いながらキッチンへ向かうフェリス。

 

「な、何かあったのか?」

「新しい包丁を買ってさ…」

「え?前のは…」

「まだあるみたいだけど…」

「じゃあいらないじゃん。」

「ですよねぇ…」

 

はぁ…と二人でため息をこぼす。

 

「ははっ…君とは気が合いそうだ。」

「私もそう思う。」

 

…あれ?いつの間にか一人称が『私』になってる…この体にも馴染んできたのかな?

 

「おっまたせー!」

 

フェリスが料理を運んでくる。

 

「あの包丁すごいよ!めっちゃ切れる!」

「それはよかったね。いただきまーす。」

「雑ぅ!扱い雑じゃない!?」

「はいはい。食べようか。」

「うぅ…」

 

泣きそうになりながら料理を口に運ぶ。

 

「おいしい!」

 

フェリスが笑顔になる。本当に感情豊かだなぁ。

 

「私も…」パクッ

「うまっ!何これ!」

 

今朝の卵もおいしかったが…さらに上をいく美味しさだ!

「すごいな…」

 

お父さんもビックリしている。

 

「あ、そうだ。ねぇフェリス。」

「ふぇ?」

 

口いっぱいに食べ物を詰め込んでいる。頬がパンパン。

 

「魔法のこと教えてよ。」

「ゴクッ…それならお父さんに聞いて!」

「え?」

「お父さんは魔法学校の教師だったんだ!」

「そうなの?」

「ああ。昔の話だけどね。」

 

すごい。教師だったのか。なのになんでその子供はこんなに残念なんだ…

 

「教えて!」

「ああ。どのくらい魔法について知っているかな?」

「えっと…」

 

属性があること。初級魔法は誰でも使えること。くらいかな…?

 

「なるほど。最初から全部話した方が良さそうだ。」

「よろしくお願いします。」

 

頭を下げる。

 

こうしてお父さんの魔法講座が始まった。



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五話  これが魔法…!?

お父さんの魔法講座が始まった。

 

「食べながら聞いてね。

まずはこの世界の魔法は大きくわけると5つだ。何かわかるかい?」

「ええと…」

 

なんだろう…属性をこたえればいいのかな?

 

「水と…火と…あとは…風と…土?と…なんだろう」

「うん。大体正解。4つめは大地と教えるんだけど…土でもいいかな。

それともうひとつは無だ。」

 

なるほど。よくある感じだ。

 

「そして…ごく稀にこの5つとは違う珍しい属性を持つものがいる。」

 

「それは…変質ですか?」

 

俺の属性は変質だった。珍しいのだろうか…

 

「そう。よく知っているね。」

「私の属性は変質なので。」

「え?」

 

お父さんは驚いている。珍しいと言っていたしね。

 

「フェリス。聖水を渡したのかい?」

「んぅ?渡してないよ?」

「じゃあどこで知ったんだ…?」

「え?あっ!」

 

ステータスを見れることを知らないのだろうか。

 

「えっと…だったらいいなって…」

 

お父さんは少し怪しんでいる…

 

「まぁいいか。試してみよう。ちょっと待っててね。」

 

スプーンをおいて部屋に入っていく。

 

「おまたせ」

 

手に何かの瓶をもってかえってきた。

 

「これがさっき話していた聖水だよ。」

 

空の器に注ぐ。

 

「持ってみて。」

 

その器を渡された。

 

「あ…はい。」

 

受けとった…瞬間

ぱん!

 

「きゃっ!」

 

水が弾けとんだ。

 

「え…えっと…」

「驚いたな…」

 

皆ビックリ。何が起こったのだろう。

お父さんが話し出す

 

「その水の反応で属性がわかるんだ。

例えば、火なら蒸発してなくなる。風なら波打つ。みたいにね。」

「なるほど」

 

じゃあこの反応は…?

 

「爆発は変質だ。」

 

あぁ。やっぱり。

 

「変質ってどんなことが出来るんですか?」

「変質は少し特殊でね…全ての属性を扱える。」

「は?」

 

チートじゃないか。願ってもいないのに…あの女神やるな。

 

「ただし、どのくらい扱えるかは運次第だ。

全然扱えない者もいるし、逆に全てを極めたものもいる。」

 

運次第…最高だ。

 

「あとは魔法を扱うためには魔力が必要になる。」

「ふむ。」

 

まぁ予想通りだな。

 

「魔力量は実際に魔法を使ってみないとわからない。

その辺は学校に行かせないとわからないが…」

「いあえてあええばいいあん。」

「は?」

 

突然フェリスが口を挟んできた。

 

「口の中を無くしてから喋りなさい。」

「ゴクッ 行かせてあげればいいじゃん。」

「いや…だが…」

「このお金はシンちゃんが見つけたものだし。

シンちゃんの為に使って上げようよ。」

「いや、いいよ。お姉ちゃん。」

 

さすがにそこまでしてもらうわけにはいかない。

 

「いいの!私は包丁もらったし。それに学校にいくお金を使ってもまだ余るじゃん。」

「まぁ…確かにこれだけあれば充分だが…」

 

お父さんが悩んでいる。

 

「…そうだな。これだけ色々貰ったんだ。何か返さないとな。」

「いいの?お父さん…」

「ああ。色々学んでくるといい。」

「んー…でもシンちゃんとはお別れかぁ…寂しくなるなぁ」

「ただ…まだこの年齢じゃ入れないと思うから入るのは来年だな。」

「やった!あと一年いっぱい思い出作ろうね!」

「俺も教えられることは教えてやろう。」

「うん!お願いします!」

 

こうして楽しい一年が始まった。



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六話  ここは俺の故郷

水龍の剣!(ウォーター・ソード)

「なんの!風龍の盾!(ウイング・シールド)

 

水を風で吹き飛ばす。

この一年で様々な魔法を扱えるようになった。

そしてあの時当てたあの杖。これすごいね。

お父さんが言うには

『これは魔法の威力を増幅させるすごい杖だ』

だって。あのカジノすごい。本物扱ってやがった。

 

「よし。今日の修行も終了!」

「ありがとうございました!」

「疲れたぁ…」

 

俺の修行に二人は付き合ってくれている。

 

「はぁ…シンちゃんともこれで最後かぁ…」

 

そう。俺は明日この家を旅立つ。フェリスとの魔法の撃ち合いも今日で最後だ。

 

「そんな顔しないでよ。オレまで寂しくなるじゃん。」

 

 

ちなみに、俺の一人称は『オレ』に落ち着いた。

『俺』はダメなのに『オレ』はかわいいからOK!だってさ。

なにが違うのか全然わからない…

 

 

「お父さんもありがとね!」

「いままでよく頑張ったな。」

 

優しいお父さん。他人の俺をここまでかわいがってくれて…

本当に感謝しかない。

 

 

 

「よし!今日も行こうか!」

「うん!」

 

修行のあとはフェリスと二人で狩りへ行く。お互いいままでよりも魔法が強化されたこともあり、ゴブリン以外も倒せるようになってきた。

 

「あまり遠くへ行くなよ。」

「うん!いってきます!」

「いってきます!」

 

 

 

「おっ!シンちゃん!今日もお姉ちゃんとおでかけかい?」

「うん!」

「そうかい!じゃあこれ持っていきな!」

 

リンゴを投げられる。

 

「いつもありがとね!おねえさん!」

「まあ!おねえさんだなんて!シンちゃんは正直ね!」

「あはは…じゃあ行ってくる!」

「いってらっしゃい」

 

歩きながらリンゴをかじる。

ちなみに正式名称はリンゴじゃないみたいだけど…見た目も味もリンゴだからリンゴと呼んでいる。

 

「仲いいなぁ!」

「えへへ…そんなことないですよ。」

「いやいや!いつも一緒にいるじゃない!」

「これ持っていきな!」

「ほら!やるよ!」

「わぁ!ありがとう!」

 

いつもこの道を通るし、買い物もたまにするからみんな顔馴染みだ。

さらに若い子が少ないということもあり俺とフェリスは特に可愛がられている。

歩くだけで色々なものが貰える。

一年前のひきニートだった自分からは考えられないことだ。

 

「今日もいっぱい貰っちゃったね。後でたくさん買って帰らなきゃ!」

「うん。そうだね。」

 

はなしながら私たちは草原へ足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は久々にクマいこうか!」

「うん!」

「じゃあシンちゃん。よろしく!」

「はーい!風の靴!(ウイング・ブーツ)

 

俺とフェリスの足に風がまとわりつく。

そして急に体が軽くなる。

 

「よし。行くよ!」

「よーい…どん!」

 

ダッシュ!すごい勢いで周りの風景が変わっていく。

おそらく時速80キロくらい出ているのではないだろうか。

 

 

「ここだね。」 

 

数秒で穴につく。クマは…いるみたいだ。

 

「お姉ちゃん。」

「うん。水龍の鎖!(ウォーター・チェイン)

 

水の鎖が顕れる。

 

「ぐあっ!」

 

クマに絡まりつく。動きを封じ込めた。

 

「よし!燃える黒い炎!(ヘル・フレイム)

「ぐあぁ!」

 

クマが黒い炎に包まれる。

 

「もう…いつもやりすぎだよ?ウォーター」

「あはは…ごめんね。」

 

クマに水がかかり燃えていた姿が露になる。

 

「よし。帰ろうか。」

「うん。」

 

クマをバックに入れる。もうこの作業も慣れたものだ。

 

風の靴!(ウイング・ブーツ)

 

再び風をまとう。

 

「ひゃっほぉぉぉう!」

 

このスピードは癖になりそうだ…

 

 

 

 

 

「ただいま帰りましたぁ!」

「おかえり。」

 

いつも通りお父さんが出迎えてくれる。

 

「あれ?それは…?」

「うん?これか?これはな…」

 

お父さんの手には何か握られている。

 

「ウサギだな。」

「ウサギ…」

「うまいんだが…動きが速くてな。捕まえるのが難しい。一匹がやっとだった。」

「へぇ…そうなんだ。」

「フェリス。早速だか料理してくれ。」

「はーい!シンちゃんも楽しみに待っててね!」

「うん。お姉ちゃんがんばってね!」

「はうっ!うん!がんばるよ!」

 

そして出てきた夕食はいつもよりもすごく豪華だった。

 

 

 

 

 

次の日…

「うわーん!シンちゃーん!元気でね!グスッ」

「お姉ちゃん…泣かないでよ。」

「いつでも帰ってくるといい。ここはもう君の家だ。」

「うん。お父さんありがとう。」

「そうだぜ!いつでも戻ってこいよな!」

「シンちゃん!がんばってね!」

「うん!みんなもありがとうね!」

 

町のみんなが見送ってくれる。

本当に…俺は幸せだな…

 

「いってきます!」

 

みんなと別れるのはもちろん寂しいが…

明日からは新しい学校生活だ…元ニートの俺に…いや。考えるな!みんなが見送ってくれた!きっと…きっと最高の学校生活にしてみせる!

 

「がんばるぞぉ!」

 

こうして俺の学校生活が始まった。



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七話  新しい友達

ガタッガタッ…

今、俺は馬車にひかれて学校に向かっている。

馬車とはいってもバスのような物を馬が引っ張っているだけだが。

周りには俺と同じ制服を着ている人もいる。

 

「はぁ…緊張するなぁ…」

「ですねぇ…」

「え?」

 

独り言のつもりだったのだが…返事が返ってきた。

 

「あ…ごめんなさい…私も緊張してまして…」

「あぁ。一緒だ。」

「あの…少し話しませんか?」

「はい。いいですよ。」

 

話しかけてきたのは同じ制服を着た小さな女の子。

髪の毛がさらさらで金髪。すごいオーラを放っている。

 

「どこから来られたんですか?」

 

女の子に尋ねられた。

 

「トサです。」

 

トサとはフェリスと過ごしたあの村だ。

 

「ちなみに…えっと…」

「あら。自己紹介がまだでしたわね。

私はアルティア・エストリア。ティアと呼んでください。」

「オレはシンです。」

 

互いに自己紹介をする。

 

「ティアさんはどこから?」

「私はインディゴからですわ。」

「インディゴって…」

 

聞いたことがある。確か王国の中心街だ。しかもあそこに住んでいるのは…

 

「ティアさんって…もしかしてお嬢様?」

「あら…ばれてしまいましたか。」

 

やっぱり。俺とはオーラが違う。 

 

「あれ?なんでお嬢様がこんな馬車なんかに…」

「一人でやっていく為の特訓の一貫です。

お父様達の期待に添えるようがんばります…!」

 

おお。すごく燃えている。

 

「なるほど。将来のための特訓ですか。」

「はい!」

 

きらきらの笑顔だ。眩しいなぁ。

 

 

 

などと話していると学校の前に着いた。

馬車から降りると…

 

「は…?」

 

目の前には大きなグラウンドが広がっていた。

 

「え?建物見えないんだけど…?」

「少し歩かなければいけないようですね」

 

少し?見えもしないほどの距離を?

 

「めんどくさい!」

 

こういうときに使えるのが魔法だ。いやぁ便利!

 

「ティアさん!」

「は、はいっ!」

「とばしますよ!ついてきてくださいね!」

「え?」

風の靴!(ウイング・ブーツ)

「も、もう魔法を…しかも中級魔法…」

 

ティアが何か言っている。

だが今の俺は軽くイラついている。

 

「行くぞぉ!」

 

ティアの手を握る。

 

「ふぇっ…」

 

ダッシュ!急激に加速する。

 

「ふぁぁぁぁぁ!?」

 

ティアが目を回している。だが知らん!

 

 

 

 

 

「はぁはぁ…着いたんですの…?」

「ですかねぇ…」

 

なにせ地図など持っていない。現在地すら不明だ。

 

「あら。新入生?」

 

回りを見渡していると声をかけられた。

 

「はい。そうです。」

 

ティアが受け答えしている。

面倒見の良さそうなおばちゃんだ。

 

「中に入りな。ここは学生寮だよ。」

「おお。」

 

どうやら無事着いていたようだ。

 

「行きましょう。」

「うん。」

 

 

 

中に入る。

 

「二人とも名前は?」

 

おばちゃんが聞いてくる。

 

「シンです。」

「アルティアですわ。」

「えっと…シンさんは203号室。アルティアさんは227号室だね。」

「あら。お別れですわね。」

「そうですね。まぁまた会えますよ。」

「ええ…」

「それじゃあ。オレこっちなんで。」

「あ、あの!」

「はい?」

「その…私はいままでずっと城にいて…同年代の方との関わりはあまりなくて…」

「はぁ…」

 

何が言いたいのだろうか。

 

「わ、私と!お友だちになっていただけませんか!」

「ああ。もちろん。こっちからお願いしたいくらいだよ!」

「ありがとうございます!それと…」

「うん?まだ何か?」

「後でお部屋を伺ってもよろしいですか?」

「うん。いいよ。」

「ありがとうございます!それでは!」

「おう。また後でね。」

 

そして203号室へ向かう。

 

「おお。なかなか広い。」

 

部屋はなかなかの大きさだ。

大きな窓。大きなクローゼット。大きな2つのベッド…2つ?

 

「あら。あなたが私のルームメイト?」

「え?」

 

部屋の入り口を見ると…赤髪の女の子が。

 

「あなたは手前ね。私窓側がいい。」

「は?」

「ベッド」

 

はぁ…なんでわからないの?と言いたそうな目で見てくる。

ちなみに今俺が座っているのは窓側のベッド。こいつどけって言ってるのか…?

 

「なんで?」

「はぁ?」

 

別にどちらでもいいのだがあえて反発してみる。

 

「へぇ?私に逆らうんだ?」

 

なんか偉そうだな。

 

「ファイア!」

 

急に火を出した。

 

「…で?」

「なっ…わ、私はもう魔法使えるの!だからどきなさい!」

「へぇ…オレも使えるけど?」

「は?あなたなんかが使えるわけないでしょ。」

「はぁ…火龍の剣!(ファイア・ソード)

「えっ…」

 

火属性のようだから火の中級魔法を使ってみた。

 

「も、もう中級魔法を…」

 

あ。泣きそう。そろそろやめてあげよう。

 

「別にベッドは譲ってもいいよ。ほら。」

 

荷物を持って隣のヘッドへ移動する。

 

「うん…ありがと…」

 

べそをかきながらベッドに座る。

 

「えっと…シンです。よろしく。」

「グスッ…ルゥ…です…」

「ルゥさんか。これからよろしく。」

「うん…」

 

その時…

コンコン

ドアが叩かれる。

 

「どうぞ」

「し、失礼します…」

「あ、ティア!もう来たの?早くない?」

 

まだ荷物すら開けていない。

 

「あっ…すみません…早いですよね…」

「いや!大丈夫!入って!」

 

ティアが隣に座る。

 

「それで…なんか用?」

「あ。はい。えっとですね…」

 

ワイワイ…

これが女子トークか。思ったより楽しいな。

 

「それもいいね…」

 

ふと後ろから視線を感じる。後ろを向くと…

 

「っ…」

 

ルゥが視線を背ける。

 

「ルゥさん?」

「な、なによ」

 

うーん…相変わらずだなぁ…

 

「一緒に話しません?」

「はぁ?なんで私が…」

「じゃあいいです。」

「なっ…ちょっと…」

 

あ。また泣きそう。

 

「うそうそ。おいで?」

「うん…」

 

歩いてくる。だいぶルゥのタイプはわかってきた。

結構寂しがりだな。そして軽くツンデレも入っていそう…

 

「ルゥさんですか。はじめまして。ティアですわ。」

「はぁ?何を勝手に…」

「ルゥ?」

「うっ…よろしく…」

「はい。よろしくお願いします。」

 

一日目。友達ができました。

二人とも個性が強いけど…知り合いがいない私にとってはとても心強いです。

明日は始業式。ついに学校生活が始まる…!



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八話  始業式

目が覚める。そこには見慣れない天井が広がっていた。

…そうだ。今日は始業式だ。そろそろ起きなきゃ…

 

「あら。起きた?」

「うん。おはよう…」

 

ルゥはもう起きていた。早いなぁ…

 

「着替えたら…その…えっと…」

「なに?」

 

もじもじしている。これはこれでかわいい。

 

「その…い、一緒に…朝ごはん食べに行かない?」

「うん。いいよ。」

「やたっ!」

 

両手で小さくガッツポーズ。いちいちかわいいな。

 

「ちょっと待ってね。」

「うん!」

 

あまり待たせてもまずいし…急いで着替えよう。

 

 

「よし。行こうか!」

「うん!」

 

玄関を出る。ルゥは後ろからついてくる。なんか…従順なペットみたいだ…

 

「あれ?」

「あら。おはようございます。」

 

ティアがいた。

 

「どうしたの?一緒に朝ごはん行く?」

「はい。お願いしてもよろしいでしょうか。」

「うん。でも…」

 

ティアは一人だ。

 

「ルームメイトはどうしたの?他の友達と一緒に行っちゃった?」

「それが…」 

 

下を向いてしまった。あれ?もしかして地雷踏んだ…?

 

「なぜか『私なんかが一緒の部屋でごめんね!』と言って出ていかれました…」

 

あぁ…オーラが凄いもんな。子供には耐えられないかもしれない。

 

「そっか…じゃあ一緒に行こう。」

「はい♪」

「ルゥもいいよね?」

「まぁ…シンがいいなら…」

「よし。行こう!」

 

 

昨日三人でガールズトークをしたからかな…俺たちは大分仲良くなれた。ティアのことも大分わかったし、ルゥの扱い方もわかった。まぁルゥは気を許してくれたこともあり苦労は少なくなったが。

 

 

 

   

 

 

 

「ここが食堂…」

「でっかいねー」

「そうですか?これくらいは普通では…」

 

ティア…やっぱりすごい娘なんだな…

 

「えっと…どこに行けば…」

 

食堂にはたくさんの生徒がいる。

ほとんどが手を止めこちらを見ていたが。

まぁ真横にお嬢様がいるのだ。それも仕方ないか…

 

「あ、あそこかな?」

 

数人が列を作っている。

 

 

近づくと…

 

「す、すいませんっ!」

 

ざあっ!

カウンターまでの道ができた。

 

「い、いや…待つから…並んでていいよ?」

「いえ…でも…」

「ティアはそういうの望んでないから。」

「はい。」

 

ティアも頷いている。ただ一人…

 

「ふっ…私のために道を開けるか…いい心意気だ…」

 

ルゥがなんかほざいている。あれ?中二病も入ってたのか?

 

「あの…中級魔法を使えるって本当ですか?」

 

前にいた女の子に聞かれた。

 

「え?オレ?あ…うん。使えるよ。」

「ひぅっ…ど、どうぞ…」

 

また道が開く。あれ?もしかして怖がられてるの俺?

 

「いや…なんで?」

「だって…目上の方を優先しなきゃ…」

「いやいや!同級生だよね!?」

 

話し方からおそらく相手も新入生だ。

 

「は、はい…」

「じゃあ前に行って。」

「いや…でも…」

「行って?」

 

首をかしげてイラついているアピールしてみる。実際イラついてはいないが。

 

「は、はい!失礼します!」

 

やっと入ってくれた。

 

「はぁ…」

 

食事を受け取り席につく。

 

「シンさんはやはりすごいのですね。」

「いやぁ…そんなことは…」

「そりゃあそうよ!私に勝ったんだからね!」

「はいはい。座ろうか。」

 

疲れる…まさか魔法を使っただけでこんなことになるとは…

俺くらいの年の子はまだ使えないものなのかな。

実際ティアは使えないみたいだし。

 

「すこし自粛した方がいいのかな…」

「じしゅく?なにそれ。」

 

説明めんどくせぇ…

 

「は?わかんないの?」

「うっ…わ、わかるし!」

「それはよかった。」

 

わいわい楽しく朝ごはんを食べる。

周りからの視線さえなければ最高なのだが…

 

「はぁ…居心地悪…」

 

 

 

 

 

 

「疲れた…」

 

二人と並んでグラウンドへ向かう。

 

「シンさん大人気でしたね。」

「何をどう見たらそうなるのかな?」

 

あれが人気だと感じるとは…お嬢様はわからない。

 

「この辺でいいのかな…」

 

グラウンドに着いた。具体的な場所は指定されてないからな…どの辺にいればいいのやら…

 

「みなさん!おはよう!」

「うわっ!」

 

びっくりした…突然声が聞こえてきた。

 

「ははは!新入生諸君!驚いたかな?」

 

すごく驚いた。全然姿が見えない。どこにいるんだ?

 

「上を見てみたまえ!」

 

上を向くと…人が浮いていた。

 

「はぁ?」

 

すごい。これも魔法?

 

「これは空中浮遊(スカイウォーク)さ。」

 

疑問に答えてくれた。どうやら魔法らしい。

 

「風属性の上級魔法だ!頑張れば使えるようになるかもだぜ?

その才能を引き出すのがここ!メリア学園だ!」

「すごいですわね…シンさんも飛べるんですの?」

「いや…上級魔法はまだ…」

 

何かあったら危ないから…ということで教えてもらえなかったのだ。

 

「なに言ってるの?シンは火属性なんだから使えるわけないじゃない。」

「「え?」」

 

ルゥは何を言っているのだろうか…俺は火だなんて言った記憶はないが…

 

「え?だって…火の中級魔法使ってたよね…?」

「えっと…ん?あぁ!そういえば!」

 

昨日部屋ですこしおどろかせてやろうとしたときだ。

 

「いえ、シンさんは風属性では?

来るときに風の中級魔法使ってましたし。」

 

二人が首をかしげている。

 

「ごめん。言ってなかったね。オレの属性は変質なんだ。」

「へん…?なにそれ。そんな属性あるの?」

「聞いたことはありますが…今では珍しいと聞きました。」

「そ!そうね!聞いたことはあるね!」

 

ティアは多少知識があるらしい。ルゥは…聞いての通りだ。

 

「へい!そこ!喋らないでね!」

「うっ…はーい」

 

注意されてしまった。静かにしておこう。

 

「じゃあ改めて…皆!ポケットの中を見てくれ!」

 

ポケットに手をいれる。すると何かが入っていた。

これは…紙だね。

 

「さっきこっそり入れさせてもらったよ!そこにはクラス分けが書いてある!さぁ!運命の瞬間だ!」

「うぅ…緊張します…」

「そうだね。一緒のクラスになれるといいね。」

 

まぁそこまで心配はしていないが。だって俺の運知ってる?

 

「よっ!」

 

勢いよく開く。そこにはCと書かれていた。

 

「どうだった?」

「私はCですわ。」

「私も。」

「オレもだよ!」

「やったね!」

「ええ!同じクラスです!」

 

だろうね。これで一年間は同じクラスだ。

 

「それじゃあそれぞれのクラスへ移動!初HRだ!」

「行こっ!」

「おう!」

 

初めての友達と同じクラスになれた。一年間楽しくなりそうだ。

 

しかし…そんな期待はすぐに裏切られることとなった…



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九話  新しい夢

歩いてクラスへ向かう。のだが…

 

「おっそ…」

 

全然進まない。入口狭くない?全員一斉にクラスへ向かうべきじゃなかっただろ…

 

「はぁ…こういうとき空飛べたらなぁ…」

「空を飛べても入口は結局皆さん同じですよ。」

「うっ…確かに…じゃあ瞬間移動とか…無理か…」

 

聞いたことがないし、火や風でどうにかなりそうにもない。

 

「早く進まないかなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

「やっと入れた…」

 

数分待ってやっと教室に入れた。

黒板には『自由に座ってください』と書いてあるし。

 

「一緒に座ろうか。」

「はい。」

「うん。」

 

空いていた席に座る。3席固まって空いていてよかった。これも運かな。

 

「はーい!揃ってますかー?」

 

前の扉が開きかわいい人が入ってきた。

 

「揃ってますね。それじゃあ自己紹介を…」

 

黒板の文字を消して何かを書き始める。

 

「アリアです。このクラスの担任、そして魔法学を教えます。よろしくね。」

 

先生だった。しかも担任だった。かわいいとか言ってすいません…

 

「それと…シンさん。」

「え?あ、はい。なんですか?」

 

突然名前を呼ばれた。なんだろう…

 

「学園長がおよびです。行ってきてください。」

「え?今?」

「はい。」

「えっと………どこに行けばいいんですか?」

「あ…えっと、ここを出て右に曲がって…」

 

 

 

 

 

 

「ここか…」

 

目の前には大きな扉が。上に『学園長室』と書かれたプレートが貼ってある。

コンコン

 

「失礼します。」

 

扉を開く。

 

「うん?君は…」

 

中には白いおひげのおじいさんがいた。

ザ・魔法使い!って感じの人だな…

 

「シンです。」

「おお。君が…座りたまえ。」

 

椅子に座る。何を言われるんだろう…いきなり風の靴(ウイング・ブーツ)とか使っちゃったからな…怒られるのかな…

 

「まずは…中級魔法を使ったというのは本当かね?」

やっぱりか…どうしよう…ごまかせ…ないよね。

「はい。」

 

正直に答える。

 

「そうか…まだ若いのにすごいの。」

「いえ…」

「君は将来やりたいことはあるかい?」

「え?えっと…」

 

改めて聞かれると…俺のやりたいことってなんだろう。

正直魔法が使いたい!って気持ちだけで転生したからな…

 

「まだ決まってはいないか。それでは一つ提案があるのだが」

「はい?」

 

提案?怒られるわけではなさそうだ。

 

「君は誰も使えない魔法を使ってみたいとは思わないかね?」

「え…」

 

誰も使えない魔法…興味が無いといったら嘘になる。

 

「でも…オレなんかに使えるんですか?」

「それはまだわからん。だが可能性はあると思っておる。」

「はぁ…」

 

なぜだろう…俺の運がチートだから?でもそれは知らないはずだ。

 

「まあまずは話だけでも聞いてみんか。」

 

そしておじいさんは話始めた。

 

「君は無属性を知っているかい?」

「はい。」

 

頷く。

 

「この属性について何を知っている?」

「えっと…」

 

五属性の一つであること。それと確か無属性は他のどの属性でも使えたはずだ。

 

「その通り。無属性は誰にでも使うことが可能だ。

しかし、これらは全て多くの魔力を消費する。」

「へぇ…」 

 

それは知らなかった。

 

「さらに…無属性にはもはや扱うことができない魔法が存在するのだ。

君は転移できたら…と考えたことはないかね?」

「あります!出来るんですか!?」

 

ついさっき思ったばかりだ。本当に使えるのなら使ってみたい。

 

「転移魔法やハイディング…姿を消す魔法じゃな。そういった魔法が無属性には存在するのじゃ。」

「へぇ…でもなんで扱えないんですか?」

「転移しようとしても失敗。または衣服など軽いものだけが転移してしまうということがよくあるのだ。

無属性は運要素が強すぎる。

今の魔法使いに扱いきれるものではない。」

「えっ!運ですか!」

 

やった!運に関しては俺は無敵だ。

 

「まぁスティールは失敗しても損はないからな…使っている者もいるようだが。」

「あぁ…」

 

なんかいたなそんなやつ…いきなり襲われたんだっけ。

今なら返り討ちにできる気がする。

 

「さらに上の発動すら出来ない魔法もある。」

 

聞きたいかね?と言いたげな目でこちらを見ている。

 

「それはなんですか?」

「魔法使いには致命的な…魔法を打ち消す魔法じゃ!」

「え…そんなものが…?」

「ある。いや、あったと言う方が正しいな。今では使えるものはおらん。

どうじゃ?使ってみたいとは思わんかね?」

「それは…まぁ…」

 

面白そうだ。しかし、誰にも使えない魔法か…

 

「誰でも使えるが誰にも扱えない無属性。極めてみんか?」

「でも…なんでオレに…」

「その年で中級魔法を安定して使えておるというのはなかなかの逸材じゃ。

君にワシの夢を託したい。

それに…君は運がいいようだしな。」

「な…」

 

なぜそれを…?

 

「先ほど運という言葉に過剰に反応しておっただろう。

年寄りの目はごまかせんぞ?」

「はは…そうですね。」

 

せっかく転生して第二の人生を得たんだ。他のやつらには出来ないことをやってみたい。

 

「やります。やらせてください!」

「そうか。いい返事じゃな。」

 

誰でも使えるが誰にも扱えない無属性。面白そうだ。

新しい人生の新しい夢。とりあえず目標ができた。

 

「それにあたってな…この学校には飛び級制度があるのじゃ。」

「は、はぁ…」

 

それにあたって?ということは…

 

「もう中級魔法が使えるのであれば…四年まで飛ばすことができる。」

「なっ…」

 

飛び級…三年間を飛ばせるのはすごく楽だ。もう知っていることをもう一度学ばなくてもいいし。でも…

 

「魔力を増やすためにもより上の環境で学ぶというのは良いと思うしの。

もちろん強制ではないが…おすすめはするぞ。」

 

せっかくできた友達…ティアとルゥをおいてというのは…

 

「どうする?」

 

俺が出した結論は…



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十話  ついに楽しい学校生活が…は?

「どうする?」

 

俺は…

 

「いえ、せっかくですけど遠慮しておきます。」

「む。そうか?」

「はい。魔力を増やすことも必要だとわかってはいます。

でも…オレは友達と一緒に頑張りたいです。

一緒に魔法を極めていきたいです。

だから…飛び級はありがたい提案なのですが…すいません。」

 

せっかく友達ができたんだ。これから前世ではできなかった楽しい学校生活を送れそうなのにそれを蹴るのはいやだ。

 

「ふぉっふぉっふぉっ。青春じゃな。何かあったらワシのところに来るといい。助けになるぞ。」

「はい。ありがとうございます。」

 

「失礼しました。」

 

学園長室を出る。

 

「ふぅ…緊張した…」

 

まさか飛び級を提案されるとは。

でも…新しい目標ができた。

無属性を極める。誰にも使えない魔法。使えるようになってやる!

 

「よし。教室に戻ろう。」

 

 

 

 

 

 

「だから…」

 

声が聞こえる。うわぁ…これ入ったらシーンとするやつだ…

学校に遅刻したときの空気になるやつだよ…

 

「でも…ボーッと立っているわけにもいかないし…行くか!」

 

覚悟を決める。いざ、決戦の地へ…!

 

 

 

「おかえり。今これからについて話してたの。座って。」

「え?あ、はい。」

 

思ったより普通に迎えられた。良かった…シーンとしなくて…

 

「何の話だったのですか?」

 

ティアに尋ねられる。

 

「えっと…なんでもないよ。ちょっと魔法について話しただけ。」

 

飛び級のことは話さない方がいいだろう。

それに無属性については…

 

『無属性はまだ謎が多い。今話した魔法についてはこの学園でも上位のものしか知らないのじゃ。

あまり他の者に話すでないぞ。使おうとして失敗されたらかなわんからな。』

 

と学園長に言われた。俺なら良いのかとは思ったが…興味はあったので黙って聞いていた。

 

「そうですか。怒られたわけではないのですね。良かった…」

「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。」

「わ、私は心配してなかったけど…」

「うん。ルゥもありがと。」

「なっ…だから…」

「そこー!静かにしてねー!」

「うっ…はーい…」

 

先生に怒られた。

 

「続きを…どこまで話したっけ?」

「授業についてだよ!先生忘れないで!」

「あ、そっか。ごめんね。」 

 

教室が笑いに包まれる。あぁ…学校って感じがする…

 

「授業は座学と実践の二種類。

座学はみんな一緒にこの教室で私が教えます。

実践は属性ごとにわかれます。

ちなみに私は水だよ。水の子はよろしくね!」

「俺なんだろ…」

「私も知らないよ。」

「僕は火!このまえパパが教えてくれたから。」

 

教室がざわつく。自分の属性を知らない子もいるみたいだ。

俺はお父さんが教えてくれたけど…教えない家もあるのだろうか。

 

「あの…先生。」

「はい。なんですか?シンさん。」

「それ無属性はありますか?」

「え?」

 

きょとんとしている。あれ?俺変なこと聞いた…?

 

「無属性はないですけど…どうしてですか?」

「ああ、いや、ないならいいんです。忘れてください。」

「そうですか。では今から…」

 

あ!そうだ!

 

「せ、先生!もう一ついいですか!」

「へっ…は、はい。なんですか?」

「変質はどうなりますか?」

 

今では変質はとても珍しいと言っていた。ほとんどいない属性でも教えてくれるんだろうか。

 

「へ…変質?シンさんの属性は変質なの?」

「はい。」

 

やはり珍しいらしい。

 

「えっと…どうなるんでしょう…」

「えぇ…」

 

担任なのに…確認しておいて欲しかった。

するとそんな俺の気持ちを感じたのか…

 

「ちょ、ちょっと待っててね!今!今確認してくるから!」

 

パタパタと走って教室を出ていく。かわいいな。

パタパタ…と足音が遠ざかって…あれ?近づいてくる。

 

「ねぇ!」

 

戻ってきた。なんだろう…

 

「そこに聖水があるから!シンさん!」

「へ?あ、はい。」

「皆の属性教えてあげて!」

「は!?ちょっと…」

 

行ってしまった…普通そんな大切なことただの新入生に頼むか…?

 

「あ…えっと…それじゃあ自分の属性がわからない人は前に出てきてくださーい…」

「「「はーい!」」」

 

おお…これが先生の気持ちか…ちょっと気持ちいいな…

 

 

 

一人ずつ器に入れた聖水を渡す。

ちなみに本来は魔力を注いだら反応するらしい。

魔力は赤ちゃんの頃自然と制御できるようになるらしいが…

俺はこの世界に来ていきなりだったから制御できずに爆発させてしまったみたいだ。

ごめんお父さん…ビックリさせて…今はもう大丈夫だから!

 

「これは…大地だね。そっちは…火だ。」

 

一人ずつ教えていく。クラスのほとんどの子が教えてーと寄ってくる。

皆知らないのか…

 

「あの…どうでしょうか。」

「え?えっと…この反応は…」

 

ティアも聞きにきた。そういえば知らないって言ってたね。

 

「風…だね。」

「まぁ。ありがとうございます。」

「シン!私は!?私は!?」

「ルゥは…あれ?ルゥ?」

 

お前は魔法使ってなかったか?

 

「私の属性は?」

「いや、知ってるでしょ…」

 

ちなみに反応は火。まぁそうだろうな。

 

「知らないから聞いてるんでしょ。」

「でもファイア使ってたじゃん。」

「あれは初級魔法だから…誰でも使えるじゃない。」

「あれ?そういえばそうだね…」

 

ということは俺の勘違いだったか…でも…

 

「自分の属性知らないのに初級魔法は使えるって…どういう教育されてんだよ。」

「し、知らないわよ!」

 

おーおー。怒っちゃって… 

 

「火だよ。」

「そ、そう…ありがと。」

 

教えてあげた。いじるとかわいいんだけど…やりすぎると泣きそうになるからね。

 

「皆わかった?」

 

お。俺に全部丸投げした先生が帰ってきた。

 

「シンさんは全部だって。」

「は?」

 

今なんて?

 

「だから全部。全属性の実践を体験しなさいって学園長が」

「えっと…それはどうやって?オレの体一つしかないんですけど…」

 

一時間ごとに違う属性を習うのだろうか。さすがにそれだと周りからすごく遅れそうだが…

 

「課題だって。」

「え?」

「課題。一時間にそれぞれの属性の課題をクリアすること。一つクリアして先生のOKを貰ったら次の属性の場所に移動してまた次の課題を行う。

『4つクリアし続けることができたら進級させてやろう。』

学園長からの伝言です。」

「いやいや…無理でしょ。」

「それと…『頑張れよ!少女!ワシの夢を叶えてくれ!』と言われていました。」

「なっ…」

 

あの…クソジジイがぁ!

 

 

こうして地獄の授業が始まってしまった…



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十一話  ちょっと休憩

学校生活一日目は無事に終了。

まぁ精神的に大ダメージをくらったが…

 

「くそ…全属性使えるとかチートじゃん!とか思ってたのに…まさかあんな鬼日程組まれるとは…」

「ふっ…大変そうね。」

「おお。ルゥも頑張れよ。」

「うん。もちろん!絶対シンを抜かしてみせるんだから!」

 

やる気だな。

 

「ふっ…負けないからな。」

「こっちの台詞よ!」

「まだ中級魔法使えないくせに」ボソッ

「なっ…あ、明日の授業で習得してみせるもん!」

 

ふぅ…やっぱりルゥいじりは楽しいな。癒される。

ちなみに今は先生の話も終わり自室でくつろいでいる。

もうこのあと予定はないので風呂に入りお互い寝巻きだ。

ルゥは白いワンピースを着ている。いつもとは違い今は清楚な雰囲気が漂っている。

 

「覚悟してなさいよね!」

 

……喋らなければ美人さんなんだけどなぁ……

 

 

 

 

 

 

次の日…

 

「朝ごはんに行きましょう。」

 

今日もティアが訪ねてきた。まだうまくいってないのかな…

 

「ルゥ!行くよ!」

「ふぁーい…」

 

眠そう。制服上手に着れてないし…

 

「ほら。ちゃんとして。」

 

服を直してあげる。まだ女の子らしい膨らみはないが…柔らかいな…

 

「んっ…」

「あっ!ごめん!」

 

さわりすぎた!?しまった…ついに俺捕まるのか…

 

「んー…だいじょぶ…」

 

はぁ…良かった。にしても…静かだとやっぱりお人形みたいでかわいい。

 

「よし。行こう。」

 

直し終わり俺はティアに声をかける。

 

「むぅ…」

 

ほっぺがプクッと膨れている。こっちもかわいいな。

 

「はら。行くよ。」

 

ティアの頭を撫でる。すると…

 

「ふぁぁ…」

 

顔が緩む。ティアは俺より少し背が高いからつま先立ちしなければいけないから少し辛い。

 

「行こー!」

 

二人の手を握り歩き出す。

 

 

 

 

 

食堂で仲良く朝ごはんを食べる。

昨日は見なかった人も結構いるな。

 

「はぁ…」

 

そして相変わらず視線が痛い…

 

「いつまで続くのかな…」

 

 

 

 

教室に入ると…

 

「あ!シンちゃんだ!おはよう!」

「え…あ…うん。おはよう…」

 

皆から挨拶される。なんでだ…?

 

「今シンさんはCクラスの間で人気者なんですよ。」

 

ティアが教えてくれる。

 

「はぁ…なんで?」

 

人気になる理由が全く思い浮かばない。

 

「シンさんはすごい魔法が使えるのに威張ったりしないから。

それと優しく教えてくれたから。という理由が多いようですね。」

「は?それどこ情報?」

 

教えた記憶は無いのだが…

 

「クラスの皆さんが昨日聞きにこられました。シンさんの情報が欲しい…と。」

「その…教えたというのは…?」

「昨日の属性のことでしょう。あのときのシンさんは本当に格好よくて…」

 

あぁ。あれか。普通に教えただけなんだけどな…

 

「もうファンクラブもできてますよ。」

「はぁ!?」

 

なんで!俺のファンクラブとかなんの得にもならないだろ!

 

「まぁ作ったのは私ですが。」

「ティア!?何してくれてんの!?」

「私NO1ですよ!ファン第1号です!」

 

キャッキャッと嬉しそうにカードを見せてくれる。

この笑顔のためなら我慢も…

 

「できるか!解散!即!か!い!さ!ん!」

「無理ですよ!もうクラスの皆さん入ってますし!」

「は!?」

 

後ろを振り向く。そこではクラスの皆が…

 

「えへへ…」

 

手を振っていた。

 

「あ、あはは…」

 

手を振り返す。すると…

 

「きゃー!」

「振ってくれたよ!やった!」

 

女の子たちが喜んでハイタッチしている。

男共もなんか照れくさそうにしている。

 

「…喜んでいいのかな…?」

「ま、待って!私その話知らないんだけど!?」

 

ルゥが騒いでいる。

 

「だってルゥさんは昨日の夜私の部屋に来られなかったじゃないですか。」

「え?皆行ったの?」

「はい。昨日は皆さんでお泊まりしながらシンさんについて一晩中話してました!」

「はぁ!?なにしてんの!」

 

まだ出会って一晩だよ!?なんでそんなことになってんの…

 

「わ!私も!私も入りたい!」

「ちょ…ルゥまで…」

「はい。どうぞ。」

カードが手渡される。

「はぁ…どれどれ…」

カードには…

 

シンさんファンクラブNO32

ルゥ

 

と、手書き感満載で書かれていた。

 

「さ、32?32人もいるの?このクラスって何人だったっけ…」

「33人よ。」

「ふぁっ!?」

 

いきなり教室の扉が開きアリア先生が入ってくる。

 

「せ、先生!怪しげな集まりができてます!止めてください!」

「アルティアさん。」

「は、はい…」

 

空気が固まる。これはさすがにフォローした方が良さそう…

 

「せ、先生…多分悪気はないと…」

「私もいれてくれるかしら。」

「はい!もちろん!」

「うぉい!お前ら全員バカだろ!」

「どうぞ!」

「ありがとう!」

「作るな!渡すな!先生も受け取らないで!」

「はい。じゃあ朝のホームルームを始めます。」

「普通に始めた!なんで!?」

「先生が話してますよ。静かにしてください。」

「ティアがそれ言うの!?おかしくない!?」

「まぁまぁ。落ち着いて。」

「ルゥになだめられた!もう終わりだ!」

「は、はぁ!?なんでよ!」

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

二日目の朝。ファンクラブができました。ちなみにメンバーはクラス32人と先生の計33人です。

 

どうしてこうなった…



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十二話  実践訓練開始

「さて。それじゃあホームルームを始めます。」

 

何事も無かったかのように始まるHR。

 

「だめだ…朝から疲れた…眠…」

 

意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

意識が戻る。やば…寝てた…

 

「あら。起きました?」

 

ティアが覗きこんでくる。

 

「おお…どのくらい寝てた…?」

「今は三時間目です。」

 

てことは…三時間か。三時間!?

 

「起こしてよ!」

「寝顔可愛らしかったです!」

 

めっちゃいい顔で親指を立てる。

最近ティアのお嬢様なイメージが崩れてきてるんだよなぁ…

 

「シンさん。おはよう。」

「あ、先生。おはようございま…じゃない!起こしてくださいよ!」

「いやぁ…寝顔が(ry」

「あんたも…いや、先生もですか!」

「しっかりおさえました!」

 

ティアが四角い箱を持っている。なんだろう…

 

「カメラです。」

「消せ!」

「嫌です。後で皆さんに配布します!」

「「「うぉー!!!」」」

 

クラスがどよめく。なんだお前ら!俺のこと好きすぎだろ!

 

「とまぁ、冗談は置いといて。」

 

置いとかれた…

 

「来週は新入生歓迎クラス別オリエンテーリングです。

しっかり話を聞いて魔法を使えるようになって優勝しましょうね!」

「おおー!」

 

クラスが一致団結している。これは俺もしっかり参加せねば…!

 

「じゃあ続きを。魔法には初級魔法や中級魔法などがあってね…」

 

先生が話すことは全てもう知っていることばかりだ。

正直暇だな…

 

「ぐー…」

 

結局お昼まで寝ていた。

 

 

 

 

 

 

ゴーンゴーンゴーン

授業の終わりを告げる鐘がなる。

 

「今日の授業はここまで。昼からは実践だからね。皆…特にシンさんは頑張ってね。」

「ん…ふぁーい…」

 

ついに午前の授業が終わってしまった。

 

「お昼行こ!」

「おう。」

「あ、あの…私たちも一緒に食べてもいい?」

「え?」

 

クラスの子達だった。もちろん…

 

「いいよ。一緒に行こう。」

「きゃあ!やったね!」

「おれ達もいい?」

「えっと…うん。」

「あ、じゃあ俺も…」

 

俺たちは教室を出て食堂へ向かう。

通りかかった色んな人が足を止める。

皆の目が点だ。口はポカーンとあいている。

それはそうだろう。なぜなら…俺の後ろには32人のクラスメイトがついてきているのだから。

 

「誰か…助けてくれ…」

 

 

 

 

 

 

昼食を食べ終わる。

ちなみに昼食中は皆座れる大テーブルを占領し、俺の趣味やら好きなものやらスリーサイズやら聞かれた。

…最後のを聞いてきたやつは殴っておきました。

 

 

 

 

 

「さて。実践かぁ。どうなるかな。」

 

どんな課題が出るのだろうか。少し怖いが…寝顔をばらまかれる恐怖に比べれば!

…しかもあの写真さ…すごいよく撮れてるんだよ…俺も一枚欲しいくらいだ。

 

「まずは火だな。」

 

そして火の実践場所に向かう。

 

「よっ!ルゥ!」

 

ルゥはもう先に来ていた。

 

「遅いわね!私の勝ちだわ!」

「あーはいはい。」

 

もうそっちの勝ちでいいよ…今はあまり疲れたくないんだ。

 

「雑ぅ!扱い雑じゃない!?い、いや…別に構って欲しい訳じゃ…」

 

あーもう!かわいいなぁ!ナデナデ…

 

「ひゃっ!うぅ…もう…えへへ…」

 

ちょろい。などと考えていたのだが…

 

「が、頑張ったらシンちゃんが撫でてくれる…!?」

「ヤバい…絶対に魔法習得してみせる…!」

「よし!皆!やるぞ!」

「「「おー!!!」」」

 

いや、だから!お前ら俺のこと好きすぎだろ!

 

「お前がシンか。モテモテだな。羨ましいぞ?」

「別に嬉しくは…」

 

後ろを振り向く。そこには大きな男の人が…

 

「いやはや…皆のやる気を引き出すとは。なかなかやるな!」

「えっと…先生ですか?」

「おお。そうだな。先に自己紹介をしておこう。

俺はガイ。Aクラスの担任をしている。お前ら火属性の担当でもあるぞ。よろしくな!」

 

すごく親しみが持てる先生だ。でもこういう先生はできもしない課題を出してきそうな…

 

「さて、シン。それでは課題を発表しよう。」

 

きた!何だろう…あまり難しくないものがいいな…

 

「お前の全力の魔法を見せてくれ。」

「え?それだけ?」

 

拍子抜けだ。もっとヤバいやつかと…

 

「ん?もっと課題が欲しいか?」

 

ブンブン!と顔を横に振る。

 

「そうか…まぁ初日だしな。それくらいでいいだろう。」

「はい。」

 

うーん…全力かぁ…何にしよう。

 

「じゃあ…いきます!」

「おう!お前の本気を見せてみろ!」

燃えさかる黒い炎(デス・フレイム)!」

 

俺の使える火属性の魔法の中では一番威力のある魔法だ。

 

「うわぁ…すごい…」

 

皆ボーっと見ている。ルゥは尊敬と衝撃の混ざったような顔をしている。うわぁ。写真撮りたい。

 

「おお。なかなかの威力だ。もういいぞ。消してくれ。」

「え?消せませんけど…」

「は…?」

「えっと…」

「………」

「………」

「水属性も使えるよな?」

「威力が足りません。」

「………」

「………」

「誰かアリア先生を呼んでこい!」

「うわぁぁぁ!風の靴ぅ(ウイング・ブーツ)!」

 

風をまとい走る。ひたすら走る。

 

「アリアせんせーい!助けて!」

「え…え!?」

風の靴(ウイング・ブーツ)!」

 

説明している時間はない。先生にも風を分け与える。そして再び走った。ひたすら走った。

 

「もう…火属性の中級魔法を扱うときは水属性の講師が付き添うように決まっているでしょう!」

「いや…まさか一年がここまでやるとは…」

「先に言っておいたでしょう!中級魔法を扱うことができると!聞いていなかったんですか!?」

 

アリア先生ガチギレだ。ガイ先生はすごく小さくなっている。さすがにかわいそう…

ただでさえ小さいアリア先生よりも小さく見える。

 

「ん?何か言ったかな?」

「え…いや…なにも…」

 

俺今声出してたか…?相変わらず身長に関しては敏感だな…

 

「あの…課題はOKですか?」

「お?おお!もちろん!今日は合格だ!」

「やった!じゃあアリア先生。水をお願いします!」

「はいはい。まぁ水も初日は同じよ。全力を見せて。ただし、扱える範囲内でね。」

「はい。」

 

水もクリア。風や大地も無事クリアだ。

 

「終わったぁ…」

 

全力の中級魔法4連発&全力疾走。きつい…

 

「なんででないのかしら…」

 

ルゥもベッドに倒れこんでいる。なかなか火属性の魔法が発動しないようだ。

 

「ねぇ。シン。」

「なに?心身ともに疲れきっているオレになにか用かな?」

「な…なんかコツとかあるの?」

 

全力で話しかけるなアピールしたのに聞いてきやがった…

 

「イメージかな。後は自分を信じること。できるよ!頑張れ!」

 

また少し雑になってしまったが…ルゥは嬉しそうだった。

 

「あ、ありがと。頑張ってみる。」

「おー…」

 

もう無理だ…おやすみ…

 

その後毎日授業を聞き課題をクリアし続け一週間。

ついに明日はクラス別オリエンテーリングだ。

皆張り切っている。

『シンさんに勝利を!』

あれ?宗教かな…?

とりあえず…明日が楽しみだ。どうなるのかな…



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十三話  オリエンテーリング…どころじゃない…

「今日はオリエンテーリングです。優勝目指してがんばってね!」

「「「はーい!」」」

 

皆元気だな。これは俺も負けてはいられない。

 

「じゃあ学級代表は一言どうぞ。」

 

しーん…

 

「ん?」

 

視線が俺に集まっている。ま、まさか…

 

「シンさん。呼ばれてますよ。」

「やっぱりか!いつの間に決められたの!?」

「寝てたときですね。」

「普通寝てるやつ代表にするか!?」

「満場一致でシンさんでしたね。諦めてください。」

「ほら、早くしなさいw」

 

めっちゃルゥが笑っている。お前一回地獄に落ちろ。

 

「はぁ…仕方ないな。」

 

立ち上がる。皆が拍手している。

わー!パチパチパチパチ…しーん…

おお。すごい。拍手してたのに喋ろうとしたら皆が静かになった。

 

「えっと…盛り上がってますか!」

「「「いぇーい!!!」」」

「優勝するぞ!」

「「「おー!!!」」」

 

これだけ団結してて負ける未来が見えない。

目指せ優勝!

 

 

 

 

 

 

「ルールを説明するよ!」

 

前に空を飛んでいた先生だ。

 

「今現在校内にはたくさんの上級生が散らばっている!

見つけて上級生の出す条件をクリアしたらスタンプが貰えるぞ!

スタンプは六種類!誰が何を持っているかはわからない。

さらに!一部の先生は特別ボーナスだ!

条件は少し難しいがクリアできればスタンプ3つ貰えるぞ!

ただし先生は隠れているからがんばって見つけ出してくれ!

さらにスタンプを持っていないダミーの先生もいる!

まぁ、何かあったときのための監視役だな。

それぞれのクラスには3つに分かれてもらいそれぞれスタンプを集めにいってもらう!

全員がここ!グラウンドに一番早く戻ってきたクラスが優勝だ!

頑張れよ!未来の魔術師ども!」

 

なるほど。つまり俺たちは3つに分かれてそれぞれがスタンプを6つ集めて戻ってくれば良いわけか。

じゃあまずは3チームに分けないと…

 

「Cクラスー!集まれー!じゃんけんしよう!」

「「「おー!」」」

「ジャーンケーンポン!」

 

結果…

「よろしくお願いしますね。」

「うん。よろしく。」

「一緒に頑張ろうね!」

「おう!」

 

ティアとクラスの仲間が数人。

残念ながらルゥは同じチームにはなれなかった。

 

「よし!シンに勝つわよ!」

 

まぁ楽しそうだしいっか。

 

「シンさんの足を引っ張らないように!」

「頑張るぞ!」

「「「おー!」」」

 

皆やる気は充分だ。

 

「一番早く戻ってきたチームのメンバーにはシンさんの寝巻き&寝起きの写真を配布するよ!」

「は!?いつ撮ったの!?ねぇ!ティア!」

 

いきなりとんでもないことをティアが言い出した。

 

「それは教えられません!」

 

と言いながらチラッとルゥの方を見た。

つられてそっちを向くと…

 

「っ…」

 

顔を背けた。

 

「お前か!」

「な、なんのこと!?」

「わかりました。シンさんのチームが一番に戻ってきたら配布はまた今度の機会に。

ただし!一番でなければ一年生皆さんに配布します!」

「はぁ!?やめろ!」

「最近は他クラスからもファンクラブに入る方もいますし。きっと喜びます!」

「いやだぁ!」

「では最初に戻ってきてください!」

「いざ!開幕だぁ!」

 

先生が空気を読まずスタート宣言。

 

 

 

オリエンテーリングが始まった。

皆に負けないように頑張るぞ!

……いや、まじで。乙女の朝をばらされるわけにはいかない。

絶対に一番に戻ってきてやる…!

 

…あれ…?そういえば仲間であり敵であるティアは同じチームじゃなかったっけ…?

→俺が一番に戻ってくる。

 →誰も写真が貰えない。

  →同じチームのやつらは写真が欲しい。

   →俺は邪魔される。

なんてこった…オレの仲間は誰もいないのか…!

 

こうして俺の孤独な戦いが始まってしまった…



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十四話  オリエンテーリング前編

「よし。行こうか。」

「あ、ちょっと待って。」

 

行こうとする皆を引き止める。

 

「先生。一つ聞いてもいいですか?」

「お?なんだ?俺と話したいってか!もう皆スタンプ集めにいったのに俺と話したいとは物好きだな!」

 

空から降りてきた先生に声をかける。

 

「シンさん。早く探しにいかなくてもいいんですか?」

「うん。少しだけ待ってて。」

 

確かにこれは時間を無駄にする行為だ。

もし違っていたら自分から写真をばらまいてしまうが…

 

「先生。校内と言っていましたがそれは学校内という意味ですか?それとも学校の敷地内?」

「敷地内だな。裏山なんかも入るから早く行った方がいいぞ?」

 

ちなみここ、メリア学園はすごく広い。

今いるグラウンドだけでも端から端が見えないくらい広いのだが、学校の裏には大きな山もあるのだ。

なにやら自然と触れあうのも大事!ということらしい。

 

「ということは…このグラウンドも敷地内ですよね?」

「ふっ…ああ。そうだな。」

 

先生がニヤッと笑う。

 

「ならですよ…」

 

ニヤッと笑い返す。

 

「先生…スタンプ持ってません?」

「えっ…」

 

仲間達が唖然としていた。

そんななか言葉を発したのは…

 

「で、でもシンさん。先生は進行役もしてるんですよ?忙しいのに持っているわけないじゃないですか。」

 

ティアだった。その言葉に反応して

 

「そ、そうだよね。さすがに忙しいし…」

「でもこれで写真はゲットしたも同然じゃない?」

「やったぜ!シンちゃんの寝巻き&寝起き写真…」

 

くそ…やっぱり持っていないのだろうか。直感で動くべきじゃなかった…

 

「ははははは!長いこと司会をやっているが俺に話しかけてきたのはお前が初めてだ!

ははは…さすがだな。若いが洞察力がいい!良い魔術師になりそうだ!」

 

先生が笑いだした。洞察力というか…運任せの直感なのだが

 

「はぁ…笑わせてもらった。ではお答えしよう。確かに私はスタンプを持っている。」

「よし!」

 

危なかった!持ってなかったらヤバかったな…

 

「じゃあ条件は何ですか?見つけたご褒美に簡単にして欲しいなぁ…なんて」

 

できるわけないだろうな…と思いながら聞いてみる。

 

「うーん…今までこんなことなかったからな…どうするかな…」

 

先生悩み中。早くしてくれ。

 

 

 

 

 

「よし!決めた!」

「やっとですか!何です?」

 

数分待たされたがやっと決まったらしい。

 

空中浮遊(スカイ・ウォーク)!」

 

先生が再び浮かび上がり、俺たちの頭上で静止した。

 

「ここまで人を浮かび上がらせる。それが条件だ!」

 

おお。人を飛ばせと…どうやって?

 

「ちょっと集合。」

「なんですか?」

「どうすれば良いと思う?」

「うーん…土台を作って持ち上げるというのは?大地属性の人はたくさんいますし。」

「なるほど。」

「それは飛んでないからダメだ!」

 

先生から待ったが入る。

 

「うーん…じゃあさ、単純にストームで飛ばすというのは?」

「そうですね。それしかないと思います。」

「賛成!」

「よし。やろう!」

 

皆賛成してくれた。じゃあ…

 

「えっと…リーシャちゃん…だっけ?」

 

まだ学校生活一週間。名前を覚えきれていないのだがあっているだろうか…

 

「は、はい!なんでしょう?」

 

チームの中で一番小柄な女の子が返事してくれた。どうやらあっていたらしい。

 

「飛んでみない?」

「ふぇっ?えと…はい。お役にたてるなら頑張ります!」

 

おお。まだ生まれて6.7年だろうに…すごく礼儀正しい子だ。

 

「ストーム使える子はどのくらいいる?」

「あ、はい!私風属性です!」

 

ティアが手を上げた。

 

「うん。他は?」

 

しーん…

 

「…え?まじで。?一人?」

「みたいですね。皆最初は自分の属性の初級魔法から練習しますから。風属性は私一人のようです。」

 

うわぁ…まじかよ…

 

「どうする?諦めるか?無理そうなら他のやつ探しにいくのも一つの手だぞ?」

「いえ!やります!」

 

せっかく見つけたのだ。絶対にクリアしてみせる!

 

 

 

 

 

「じゃあ…」

 

リーシャちゃんを二人ではさみこむ。

 

「よし。いくよ!」

「はい!」

「「ストーム!」」

 

二人で魔法を唱える。

ぶわっ!風が巻き起こる。

「きゃっ!」

 

巻き起こり…リーシャちゃんのスカートを持ち上げてしまった。

かわいいパン…じゃない!

 

「ご、ごめん!しっかり押さえておいてね。」

「うぅ…は、はい…」

 

涙目だ。本当にごめん。

 

「それにしても…」

 

全然持ち上がる気配がない。

 

「うーん…」

 

一度魔法を止めて考え直す。

 

「どうした?リタイアか?」

「待っててください!」

 

イラッときたので先生に怒鳴り返す。

 

「お、おぅ…」

 

どうしようか。圧倒的に魔力も人手も足りない。

ん?魔力?

 

「先生。道具は使っても良いんですか?」

「怒鳴らなくても…え?なに?なんか言った?」

「道具の使用はOKですか!」

「ああ。寮や教室から持ってこなければOKだ。この辺にあるものを使ってお題をクリアするのもオリエンテーリングの醍醐味だな!」

「じゃあ…」

 

自分の手をじっと見つめる。

すると…懐かしのステータス画面が浮かび上がってきた。

 

力  40 魔力 88

体力 62 運  99999

属性 変質

 

おお。色々と成長してる。でも今必要なのはここじゃない。

 

「えっと…」

 

スライドしてさらに下を見る。

 

バックを具現化

バックを霊体化

中身を確認

 

これだ。中身を確認して…

 

「あった!まーりんのつえー!(ドラ○もん風)」

「なっ…転移!?」

 

皆が驚いている。あ、そうか。ステータス画面見えないから突然杖が現れたように見えるのか。まぁそんなことはどうでもいい。

 

「よし。もう一回いくよ!ストーム!」

「え…あ、ス、ストーム!」

 

ぶわぁっ!

さっきとは比べ物にならない程の風が…いや、台風が巻き起こる。

 

「きゃぁぁ!」

 

バサバサと制服をたなびかせているリーシャの足が…地面から離れた!

 

「よし!いけぇ!」

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

「うぉっ!」

 

先生も巻き込まれそうになって離れていく。

リーシャちゃんは…飛んで飛んで飛んで…あれ?飛びすぎじゃない?

大体10メートルくらい飛んでしまっている。

 

「あああああ!!!」

 

落ちてきた!やばっ…先生は…どっかいってるし…

 

「くっ…ストーム!」

 

ぶわっ!風を作り出し、空中で受け止める。

 

「良かった…」

 

魔力を調節してゆっくり下ろす。そのまま抱き抱えた。

 

「ごめんね。大丈夫?」

「ふぁ!?だ、大丈夫ですぅ…」

 

あぁ…泣きそう。本当にごめん。やりすぎた。

 

「リーシャずるい!」

「私も!私もしてほしい!」

「え?」

 

あの高さまで飛ばしてほしいのだろうか。俺は絶対に嫌だな。高いところ苦手だし。

 

「シ、シンさん!私も!」

 

ティアもか。好きだねぇ…

 

「だっこしてください!」

 

………ん?なんのことだ?

まてまて。いったん状況を整理しよう。

俺はリーシャを高く飛ばしてしまった。

だから風で受け止め、ふらつくと危ないから抱き抱えた。

そしてリーシャをお姫様だっこナウ…

 

「うわっ!ごめん!」

 

あわてて下ろす。

 

「あ…」

 

ちょっと残念そう。でもずっとしているわけにもいかない。

 

「私も!」

「俺も!」

「くそ…どうしよう…」

 

あ、そうだ。

 

「じゃあこうしよう。俺たちが一番に戻ってこれたら皆にしてあげる。どう?」

 

うーん…と考え始める。じゃあこの間に…

 

「せんせーい!スタンプください!」

 

離れていた先生にスタンプを貰いにいく。

戻ってくると…

 

「何してるんですか!早くいきますよ!」

 

皆がいつも以上にやる気だった。これなら写真をばらまかれなくても良さそうだ

 

「よし。いくぞ!」

「「「おー!!!」」」

 

 

 

俺たちは残り3つのスタンプを集めに走り出した。



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十五話  オリエンテーリング後編

「よし。いくぞ!」

「「「おー!!!」」」

 

まずは校舎に入る。

 

「……!」

「よし。クリアだね。スタンプをあげよう。」

 

右側に上級生と条件をクリアしたらしい同級生がいた。

 

「あそこに上級生がいるね。行ってみようか。」

「そうですね。行ってみましょう。」

 

「お。話題のルーキーちゃんだ。」

 

先輩方の間でも噂になってるのか…

 

「あ、あの…これら以外のスタンプ持ってますか?」

 

先ほど先生に貰ったスタンプを見せる。

 

「それは言えないな。気になるなら条件をクリアして確かめてみると良いよ。」

 

なるほど…誰が何を持っているのかわからないのにさらにクリアしないと確かめられない。

もう持っているスタンプだった場合は無駄足になってしまうというわけか。

これはスタンプを集めれば集めるほど残りを見つけるのが大変そうだ。

すごく時間がかかりそう………俺以外はな!

ある意味これは運ゲーだ。なら大丈夫。

 

「条件は何ですか?」

「僕の条件は…無属性を除いた四属性全ての魔法を見せることだよ。」

 

ふむ。楽勝だ。俺一人でもクリアは可能だが…せっかくのオリエンテーリングだ。皆で協力しよう。

 

「火属性の人!」

「はいっ!」

「よろしく。」

「はーい!ファイア!」

 

 

「クリアだ。おめでとう。」

 

特に俺はなにもすることなくクリアできた。

 

「それで…スタンプは?」

「ああ。これだよ。」

 

差し出された物と自分達のカードに押された物を見比べる。

 

「ない…ですね。お願いします!」

「はい。どうぞ。」

 

これで四種類。あと二つだ。

 

 

 

 

 

 

 

「終わったぁ!」

 

結果一度もスタンプが被ることなく六種類を集め終わった。

一度だけなぜかすごく難しい条件を出されたが…

再びマーリンの杖が降臨し無事クリア。

 

「よし。戻ろう!」

「はい。急ぎましょう!」

「ダッシュ!」

 

俺一人なら風の靴(ウイング・ブーツ)ですぐなのだが…

さすがにこの人数は無理だ。魔力がもたないし、風の靴は足を早くするだけで実際は体力も使うので走り回った今では足ももたない。

 

普通に走ってグラウンドに戻る。

 

「お?もう戻ってきたのか。早いな。」

 

先生しかいなかった。

 

「やった!一番だ!」

「疲れたぁ…」

「でもこれでだっこが…」

 

げ…そういやそんな約束したな…でも今は無理…

 

「普通なら1.2時間かかるのにな。お前ら数十分で戻ってきやがって…新記録だぜ?時代に名を残したな!」

 

先生楽しそう。ずっとここに一人だったのかな…

 

「シンさーん。だっこしてくださーい!」

 

ティアが寄ってくる。今は疲れてるから無理だってのに…

 

「お願いします!」

「頼んだぜ!シン!」

 

男の子たちは呼び捨てにし始めた。いや、まぁ仲良くなれたのは良いことなのだが…

男が女に抱えられてプライドはないのか?

ないんだろうな…まだ女の子の方が成長の早い時期だし。

俺より大きいやつはあまりいない。

ティアが少し背が高いくらいか…

 

「良いんですか?」

「え?な、何が?」

 

突然ティアの声の音程が少し下がる。な、何だろう…

 

「ゆっくりしてたらルゥさんが戻ってきます。」

「そうだね。」

「そしたらどうなりますか?」

「え?」

 

どうなる…とは…?

 

「シンさんはだっこをします。約束なので。」

「お、おう…」

 

約束してしまったものは仕方ない。ただ今は疲れてるから無理なだけで…

 

「ルゥさんの目の前でしてしまった場合…」

「場合?」

「かなりの確率で泣くでしょう。」

「え…」

 

想像してみる。もしルゥに見られたら…

『いいなぁ…私も…あ、いや。してほしい訳じゃ…うぅ…』

うん。泣くね。もしくは拗ねるね。

はぁ…体力回復魔法とかないのかな…ヒール!とか…

あれは傷を直すだけか。体力は回復しないんだっけ。

 

「仕方ない…やるか!」

「やった!お願いします!」

「あ!シンもういる!」

「なっ…」

 

ルゥが戻ってきてしまった。

 

「はぁ…残念。また勝てなかった…次!次は勝つから!

それで…何してるの?」

 

今の状況は…ティアが片足を俺の腕の位置まであげて乗ろうとしている。

うん。知らない人が見るとなにしてんだろって思うよね。

でも言うわけにはいかない。言ってしまうと面倒くさいことに…

 

「お姫様だっこです!」

 

言いやがったよ!!

 

「へ?」

 

ポカーンとしている。そりゃそうだ。

 

「一番になったご褒美です!」

「なっ…ずるい!あっ…いや…別にしてほしい訳じゃ…」

 

すごい。大体予想通りだ。行動が読みやすいんだよなぁ。

 

「うぅ…」

 

ちらちらとこちらを見ている。

なんだこのかわいい生物は。放っておけるわけがない。

 

「はぁ…わかったよ!全員してやるから待ってろ!」

 

パアッと皆の顔が明るくなる。

 

「ただし!もう一チームが次戻ってきたらな!他の組が先に戻ってきたら全員無しだ!」

「やった!早く戻ってきて!」

 

こういった賭けに持ち込めば俺は無敵だ。ふっ…勝ったな…

 

「あ!戻ってきた!」

「は?」

 

だ、誰だ?どのチームが…

 

「やった!C組だ!」

「なん…だと…!」

 

揃ってしまった…ということは…

 

「だっこ!だっこ!だっこ!」

 

だっこコールが始まる。

 

「うるせぇ!わかったよ!全員一列に並べ!」

「「「うわーい!」」」

 

………

数十分後

閉会式では足がガクブルで立てませんでしたとさ…

そしてなぜか

『立てないのなら私が支えます!』

とティアに抱かれたまま閉会式に出てしまいました。

回りからの視線が痛かったです…



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十六話  オリエンテーリング後

「終わったな…」

 

オリエンテーリングが終わった。

もちろん俺たちCクラスは他のクラスと大きく差をつけて優勝。

 

「楽しかったですね。」

「シンに勝てなかった…」

 

まだ言ってるよ。

 

「次は…魔法祭ですか。」

 

ビクッ!ルゥの肩が跳ねる。

 

「そう!魔法祭!私の手が火を吹くわ!」

 

本当に火が出るから笑えないな。ところで…

 

「魔法祭って…なに?」

「シンさん知らないんですか?どうしてこの学校に入ったんです?」

 

いや…お父さんに勧められたからだけど…

 

「シン!負けないからね!」

「いや、だから…魔法祭ってなに?」

「魔法祭はですね…」

 

ティアが話し出そうとしたそのとき。

 

「ちょっといいか?」

「え?」

 

横から声をかけられた。

俺たちよりも背が高い。おそらく上級生だろう。

しかし一番目を引いたのは…

 

「黒だ…」

 

黒髪だった。しかもツインテ。これは『萌え』というやつか

この世界で黒髪は初めて見た。なんか親近感わくな…

 

「シン」

「え?はい。オレですか?」

 

俺に用事のようだ。何だろう…

 

「一緒に来てくれ。」

「あ、はい。」

 

くるっと回り歩き出した。俺たちもあとに続く。

 

「ああ。すまない。およびなのはシンだけだ。」

「え、あ、そうですか。じゃあ先に戻っててよ。」

「はい。後で魔法祭についてゆっくり話しましょうね。」

「さっさと戻ってきなさいよ。」

「うん。」

「こっちだ。」

 

二人とわかれる。どこにつれていかれるのだろうか…

 

 

 

 

「あの…まだですか?」

「もう少しだ。」

 

大分歩いた。もう裏山に入っている。さっきまでオリエンテーリングで歩いていたから足が…

 

「連れてきました。」

「ご苦労ですわ。」

 

金髪の女性ともう一人黒髪の女性がいた。

 

「えっと…なにか用ですか?」

「貴方…ずいぶんと人気のようね。」

 

あぁ…別に望んでなった訳じゃないんだけどな…

 

「貴方もミス・メリアになりたいんですの?」

「は?」

 

なんの話だろう。

 

「このアーニャ・エストリア様に勝てると思っているのですか?」

 

横の黒髪の人が言葉を発した。

ん?エストリア?どこかで聞いたような…

 

「自己紹介が遅れましたわね。私はアーニャ・エストリア。貴方がたぶらかしたアルティア・エストリアの姉ですわ。」

「あっ!」

 

そうだ。ティアの名前だ。思い出した。けど…

 

「たぶらかしたって…何?」

「だってそうでしょう。少し見ない間に口を開くと『シンさんシンさん』と言うようになっていて…」

「いや、オレ関係な…」

「だからお仕置きです。私のティアをあんなにして…」

 

うわ…シスコンこじらせてるやつですか…

 

「それに…貴方を放置しておくとミス・メリアになれると調子に乗りそうですし。」

「だから…ミス・メリアってなに…」

「抜刀!」

「「はい!」」

「は?」

 

横の黒髪の二人がどこからか茶色い刀を出してきた。

 

「え…え?」

「ファイア!」

 

ボッ! 火が出る。そして刀で…刺した!

 

「な、何してるの…?」

「いざ…勝負!」

 

刀の刃の部分に火がまとわりつく。

 

「それって…火龍の剣(ファイア・ソード)?」

「に見えるだろ?私は大地属性だ。」

 

ステータス画面を確認する。確かに大地属性だ。

 

「なんで…」

 

火龍の剣(ファイア・ソード)は火属性の中級魔法だ。

大地属性の彼女が使えるはずがない。

 

「魔剣士を知らないのか?」

 

ま、魔剣士?

 

「刀に魔法を宿して戦う剣士のことだ。そんなことも知らないとは…」

 

なんかバカにされた。でも今のうちに…

 

風の(ウイング)…」

「させないよ?ウォール!」

 

前方を除いた三方向に壁が出現する。

 

「悪いな。恨みはないが…少し痛い目にあってくれ。」

「くっ…」

 

さすがは大地属性。壁が厚い。これは…壊せそうにないな…

 

「はぁっ!」

 

刀が迫る。

 

帰らなきゃ…俺は…ティア達と魔法祭について話す約束をしたんだ…!

 

 

 

「な、何!?」

 

 

 

次も…ルゥに負けるわけにはいかない。だから…怪我をする訳にはいかない…!

戻るんだ…あの部屋へ…帰るんだ…!!

 

 

 

視界が歪む。体から力が抜ける。地面が迫る。

 

 

 

「あ、貴方…何しようとしているの!?」

 

 

 

何か言っている…よく聞こえないが…

 

 

 

 

俺は意識を失った。

 

 



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十七話  生死の境

なにも見えない…なにも聞こえない…

 

ここはどこだろう…

 

真っ暗な世界にただ一人…

 

そのとき頭上から光がさした。

 

戻らなきゃ…ティアや…ルゥや…皆が待っているあの場所へ…

 

 

 

 

 

「ん…」

 

目が覚める。

すると…

 

「あ!やっと起きた!遅いよ!」

 

目の前に俺を転生させた女神がいた。

 

「は?え…え?」

「もー…せっかく転生させてあげたのにさ。なんで一年ちょっとで死にかけてるの?」

「え…っと…死?」

 

女神がいる…てことは…俺は死んだのか?いや、今死にかけていると言っていた。ということは…

 

「オレまだ死んでないよね?」

「うん。ギリギリね。」

 

とりあえずは良かった。でもだとすると疑問が残る。

 

「ねぇ…なんでオレはまたここに連れてこられたの?」

「それはね…ちょっと暇だったからだよ!」

 

…は?

 

「今日も死人の魂見てたんだけどね?なかなか面白そうな魂ないなーって思ってたら君がいたの。」

「はぁ…」

「別に久しぶりに話したかった訳じゃないからね!

暇だっただけだから!」

「はいはい。あの世界に戻してくれる?」

 

女神様がショックを受けている。

 

「そ、そんなに私と話したくない?」

「いや…そういう訳じゃ…」

「わ、私だって忙しいんだから!早く帰ってよね!」

「ええ…」

 

情緒不安定すぎないか?この女神…

 

「グスッ…もう送るから!送るからね!」

 

扉が現れる。でも…もう少しだけ話を…

 

「じゃーね!!」

 

カパッ!地面に立っている感覚が無くなる。

下を向くと…

 

足下に穴が開いていた。

 

「は?はぁぁぁぁぁ!?」

「また来てねー!」

 

あのダ女神がぁぁぁ!

扉出したんだから扉使えよぉぉぉ!

 

 

 

再び真っ暗な世界に閉じ込められる。

でも今度は大丈夫。きっと戻れる。なぜか強くそう思える。

 

「ーーーーー!」

 

なにか聞こえる。さっきまでは聞こえなかったなにかが…

 

「シーーーん!おーーーさーーー!」

 

これは…ティアの声か?いや、きっとそうだ。

 

「ティア!ここだよ!」

 

「はーーーもどーーー!」

 

ルゥの声もする。早く…どこだ…どこから聞こえる…?

回りを見渡しても暗闇ばかりだ。

 

「ティア!ルゥ!みんな!」

 

 

 

 

「シンさん!」

「シン!」

 

視界が開ける。目の前には女神…ではない二人の女の子が…

 

「良かったです…本当に…本当に良かったです…」

「まったく…心配かけるんじゃないわよ。バカ…」

 

ティアに抱きつかれる。ルゥは少し遠くから見ていた。

 

「えっと…ここは…?」

 

どこだろう。見慣れない場所だ。

 

「保健室です。シンさん部屋の前で倒れてたんですよ?

私たちの方が先に戻り始めたはずなのに部屋に戻ったら倒れてて本当にビックリしました。

それに死ぬかもしれない状況だって言われて…」

 

……部屋の前?俺が倒れたのは裏山のはずだ…

あの三人が部屋まで運んできてくれたのだろうか。

だが…特に怪我はしていない。

意識を失って抵抗できない俺を見逃すようなやつには見えなかったが…

 

「おお。シン。起きたか。」

 

学園長が入ってきた。

 

「すまん。少し二人で話させてくれんか?」

 

「はい。じゃあシンさん。また後で来ますね」

「あんたいないと暇なんだから…早く戻ってきなさいよね」

「うん。ありがとう」

 

二人が部屋を出ていく。

 

「さて…まずは状況について知りたいんじゃが」

「えっと…」

 

どこまで話していいものか…襲われたことを話すとティアのお姉さんが…

 

「裏山に行ったら…急に視界が歪んで…」

 

黙っていることにした。言ってもなにかあるわけでもないし…

 

「ふむ…やはりか…」

 

あごをおさえて考え始めた。

 

「あのときの時空の歪みはきみのせいじゃったか。

ついでに聞くが…回りには誰もおらんかったのか?」

「え…と…多分…」

「そうか…ではおそらく…」

 

学園長の言葉が止まる。言うか悩んでいるようだが…

 

「それは…転移じゃな。」

「て…転移?」

 

というと…無属性の…?

 

「きみが倒れた原因は魔力ぎれじゃ。」

「え?」

「しかもかなりの。多少足りない程度ならすぐに回復するが…

きみは完全に魔力がきれておった。

あの女の子たちがわけてくれていなかったら死んでいたかもしれんぞ?

本当に運が良かったのう。」

「えと…魔力ぎれと転移はどう結び付くのですか?」

「言ったであろう。無属性は多くの魔力を使うと。

オリエンテーリング後なのにそんな無茶をすれば魔力もきれるわい。」

 

なるほど…斬られる前に転移できたのか。

魔力ぎれ…確かに納得できる。

 

「しかしな…魔力が不十分な状態で転移を成功させるとは…

本当に運がいいのう。下手をすれば部屋の前で全裸。なんてことにもなりかねんかったぞ。」

 

うわっ…それはヤバイ。良かったよ…うまくいって…

 

「まぁ今はゆっくり休め。もうすぐ魔法祭じゃしな。

無茶はいかんぞ。休憩も大事じゃ」

「あ、はい。」

 

そういえば…魔法祭についてティアに聞かなきゃな…

 

「だるさが消えたら部屋に戻ってもいいからの。」

「はい。」

 

でも今は休みたい。魔力が少ない影響だろうか。やけに眠い

 

「ふわーぁ…」

「しっかり休めよ。」

「はい…」

 

俺は眠りに着いた。

明日の授業…出られるかな…



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十八話  魔法祭とは…?

「ふわぁぁ…」

 

目が覚める。白い天井が目にはいる。

時刻は…11時か…え?

 

「11時!?授業始まってるじゃん!」

 

ヤバい…急がなきゃ…

着替え…はしなくていいな。もう制服着てるし。

スカートシワシワだけど…この際仕方ない。

荷物は…ない。

そりゃそうだ。昨日はオリエンテーリングだった。

 

「まずは部屋に戻るか…」

 

グー…

 

「お腹減ったな…」

 

よし。まずは食事だ。

そろそろお昼だし。朝も食べてないしな。

 

 

 

 

「ご飯だー!今日は何かな。」

 

食堂についた。誰もいない。まぁ当然だが。

 

「オバチャーン!今日は何…」

 

あれ?厨房にも誰もいない?

 

「あら?どうしたんだい?今は授業中だろう。」

 

奥からでてきた。仕込み中かな?

 

「いや、ちょっとお腹が空いて…」

「サボりかい。ダメだよ?」

「あの…今まで寝てて…」

「寝坊か!まったく…」

 

うぅ…何て説明すれば…仕方ない。

 

「し、失礼しました!」

 

逃げた。ひたすらに走った。だって!話通じないんだもん!

 

 

 

「ふぅ…」

 

部屋についた。疲れているのに走らせないでほしい。

 

「ええと…今日の時間割りは…確か…」

 

午後からは…実践だったかな。

 

「教科書いらないじゃん!」

 

やってしまった…走り損だよ…

 

「んあぁ…」

 

ベッドに倒れこむ。あ…柔らかい…

 

 

 

 

 

 

「シンさん!起きてください!」

「ふぇ?」

 

あれ…?寝てしまっていたようだ。体を起こすとすぐ横にティアがいた。

 

「おはようございます。保健室に行ったら居られなかったので驚きました。」

「うん。ごめんね。お腹空いてさ。」

「え?もう昼食は食べられたのですか?」

「いや、まだだよ。」

「では行きましょう!魔法祭についても話したいですし。」

「そうだね。行こうか。…あれ?そういえばルゥは?」

 

見渡す限り近くにはいない。

 

「先に行って席を取ってくれています。」

「あ、そうなんだ。」

「はい。じゃんけんに負けたので。」

「あ…そう…なんだ…」

 

詳しくは聞くまい…

 

 

 

 

「遅いわよ!」

「ごめんね。ちょっと色々あってさ。」

「3つも席取ってる女の子がいるよ…って白い目で見られたんだからね!」

「ごめんごめん」

 

頭を撫でる。

 

「んっ…べ、別にいいけど…」

 

うーん。相変わらずチョロすぎじゃないですかね。チョルゥですか。

 

「食べましょうか。実践授業が始まってしまいます。」

「あ、そうだね。食べようか。」

 

三人並んで食事をとる。

「では…どこからお話ししましょうか。」

「えっと…ぜ、全部で。」

「はい。まず魔法祭とは…」

「全力で戦う!戦争よ!」

 

ルゥが騒ぎ出す。

 

「どうどう…で、魔法祭って?」

「日頃の鍛練の成果を試す大会だと聞いています。

学年ごとにトーナメント戦を行い一番を決めて、それぞれの学年の一番同士が再び戦います。」

「もし仮にオレが一番になったら…?」

「他の学年の一番の方々と魔法で戦うことになりますね。」

「でも、高学年の方が色々な魔法使えるよね?」

「そうですね。なので私たち一年生は私たちの中で一番をとれればすごい方です。」

「甘い!甘いわ!私は六年だろうが倒して見せる!」

「はいはい」

 

なるほどね。それぞれの魔法を競いあう大会みたいだ。

 

「さらに、優勝すると…」

「すると?」

「学費や食堂代が半額になります。」

「え?」

 

学費なんてあったのか…

フェリスの顔が浮かぶ。確かに半分になれば助かるだろうな…

 

「シンは無理よ。だって私が優勝するからね!」

「ルゥさんこそ無理ですよ。まだ魔法安定してないじゃないですか。」

「うっ…うるさいわね!できるわよ!」

 

顔が真っ赤だ。

 

「さてと、ごちそうさま。」

「ごちそうさまです。」

「へ?は、早くない?ちょっと待ってよ!」

「うん。じゃあね。早く食べなよ。」

「なっ…ま…待ってってばぁ…」

 

あら、やり過ぎたかな。泣きそうになっちゃった。

 

「ごめんね。大丈夫だよ。待ってるからね。」

 

再び頭を撫でる。

 

「グスッ…うん…うん…」

 

おとなしいと小動物みたいで可愛いな。

でもルゥ!って感じがないから早く戻ってほしい。

 

「よし!食べた!行くわよ!」

 

復活はやっ!さすがはチョルゥ。

 

「頑張るぞ!おー!」

 

うん。チョルゥ。

 

 

 

 

「疲れたー…」

 

一日が終わった。

疲れた体で四属性の授業はなかなか辛かった。

 

「ねえねえ」

「ん?」

 

ルゥが話しかけてくる。

 

「魔法教えてよ!」

 

「…は?」

 

疲れてんだけど…!?



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十九話  助けて、シン

「魔法教えてよ!」

「はぁ?」

 

いきなり何を言い出すんだ…

 

「今日のお昼にも言われたんだけどさ…

私まだまだ魔法が安定しないんだよね。」

「はぁ…」

 

まだ一年生だし…それは普通ではないだろうか

 

「でさ?シンはもう中級魔法を使いこなしてるじゃない?」

「まぁ…そうだね。」

「だからさ!コツとかあったら教えてほしいな!って思って…

前に『イメージ!』って言われたから意識はしてるんだけど…」

 

あぁ、なるほど。まぁ見るだけならいいかな。

 

「じゃあ…とりあえず魔法使ってみてよ」

「うん。ファイア!」

 

ボッ!

小さな火の玉がでる。

 

「でるじゃん。」

「うん。初級はね。でもさ…火龍の剣(ファイア・ソード)!」

 

シーン…

 

「ほら。中級はでないの…」

 

シュン…としている。やっぱり落ち込んでるのかな…

でも俺は気づいたら撃てるようになってたからな…

どうしよう…とりあえずステータス見てみようか。

 

「ルゥ、じっとしててね。」

「え?あ、うん。」

 

じっとルゥを見つめる。

 

「あ、あの…そんなに見られると…」

 

体をくねらせ始めた。見にくいな…

 

「動くな」

「あ、はい。」

 

やっとステータスが浮かんできた。

 

 

ルゥ

 

力  37 魔力 40

体力 25 運  -50

属性 火

 

 

うーん…魔力が足りてな…いぃ!?

運が…マイナス…だと…!?

 

「ね、ねぇ…なにかわかった?」

「え…と…」

 

なんていえば良いのだろうか…

才能がない。とか言ったら傷つくだろうしな…

 

 

改めて言おう

ここは全てが運で決まる世界である。

もちろん魔法の発動も運だ。

だから上級になればなるほど発動や扱いが難しくなる。

魔力を上げれば多少は運を補うこともできるが…

ここがRPGなら装備で補えるんだけどな…

 

 

「ま、魔力が足りてないのかな…?」

 

結局運がない。なんて言えなかった。

だって運がないなんてどうしようもないじゃん!

 

「魔力かー…どうすればいいのかな?」

「魔力は魔法の使用によって増えたりもするからね

毎日の授業を大切に受けるくらいしかないのかな。」

「そっか…魔法祭に間に合うかな?」

「そもそも魔法祭っていつなの?」

「一ヶ月後よ。」

 

一ヶ月後か…正直間に合うかは全くわからない。

 

「うーん…わからないけど…やっぱりイメージしながら魔法を使うことかな。」

「ん…」

 

またシュンとしてしまった。

あ、そうだ!

 

「一時的になら魔力を上げれるかも…」

「え?なに!?どうやるの!?」

「ちょっと待ってね。」

 

自分の手を見つめステータス画面を表示し、バッグを出す。

 

「マーリンの杖ー!」

「え?なにそれ!?どうやるの!?」

 

あれ?見せたことなかったっけ。

 

「はい。これ持ってもう一回やってみて」

「え?う、うん…」

 

杖を手渡す。

 

「えっと…火龍の剣(ファイア・ソード)!」

 

ボゥッ!

 

「できた!やった!」

 

ピョンピョン跳び跳ねている。

右手に火の剣、左手に杖。

なんか面白いな。夢に出てきそうだ。

想像してみる。

 

今の格好で『シンー!』と近寄ってくる…

 

「うっわwヤバいw」

「え?なに?なんで笑ってるの?」

「いや、なんでもないよ。」

「そう?ありがとうね。」

 

杖を受けとる。

 

「魔法を使うイメージはできた?」

「うん!もう大丈夫な気がする!」

「それは良かったね。じゃあ寝ようか。」

「あ!他の魔法も試してていい?」

「え?あー…うん。先に寝てるね。」

「うん!」

 

ベッドに寝転がる。疲れたな…眠い…

 

火龍の鎖(ファイア・チェイン)!」

 

ねむ…

 

「やった!これも撃てる!」

 

ね…

 

「あ、あれ?消えない…ど、どうしよ!シン!」

 

………

 

「うるさいな!眠れないよ!」

「だって!消えなくなっちゃったんだもん!」

「知るか!消せ!」

「ムーリー!助けて!シン!」

「あーもう!めんどくさいなぁ!」

 

騒がしいけど…憎めないんだよなぁ…

 

「ありがと♪」

「はぁ…寝るよ。」

「うん。」

 

やっと眠れる…

 

「明日も借りていい?」

「やだ!」

 

 

そして一ヶ月後…



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二十話  魔法祭開催

一ヶ月後…

 

「魔法祭!開催だあ!」

 

また空を飛んでいる。飛ぶの好きなのかな…あの先生は。

今俺たちはグラウンドの真ん中に集められている。

回りには多くのテントが。

上級生はお店を出せるようだ。

トーナメントに参加しない生徒も楽しめるように、とのことだ。

 

「すごい熱気だね。」

「そりゃそうよ!ついに私が一番になるときがきたのよ!」

「はいはいそうだね。ティアはトーナメントに参加するの?」

「いえ。私は参加はしません。シンさんを応援してます!」

「ありがとね。でもルゥも応援してあげてね。」

「はーい。」

「俺たちも応援してるぜ!」

「シンちゃん!頑張ってね!」

 

クラスの皆。もといファンクラブの皆が応援してくれている。

 

「うん。頑張るよ。」

「キャー!」

 

ブンブン手を振っている。これがアイドルの気持ち…なのかな?

 

「さて…と。トーナメント表を見に行こうか。」

「うん!」

「私も行きます。」

「うん。行こうか。」

 

周りから人がいなくなっていく。

どうやらもう解散していたようだ。

三人で表のあるところまで歩く。

 

「何人くらい参加してるのかな?」

「シンさんは話題になってますからね。優勝は無理だと参加しない人もいたみたいですよ。」

「え?」

 

それは申し訳ないな。なんかごめん。

 

「私は勝つわよ!」

「ふっ…望むところだ…!」

 

 

「着きましたね。」

「うん。オレの名前は…」

 

思ったより多かった。大体一、二年生合わせて30人くらいかな…?

 

「あ!私第一試合!最初ね!」

「あれ?オレの名前が…」

 

……ない……?

 

「あ、ありましたよ。」

「え?どこ?」

「一番上です。」

「は?」

 

言われて上を見る。すると…

 

「えっと…どういうこと?」

 

トーナメント表の一番上。一本だけ線が伸びている。

その上には通常は『優勝!』と書かれているのだが…

一年生のところだけは『シンとの戦い』と書かれている。

 

「気づいたか。」

「お。学園長だ。これなんですか?」

 

後ろから学園長が寄ってきた。

 

「いやな?シンが最初から参加したら確実に優勝してしまうじゃろ?」

「いや、まぁ…可能性は…無くはないですね。」

「ないわ!だって私が…」

「はいはい。静かにしててくださいね。」

 

横で二人がじゃれている。いいなぁ…俺も混じろうかな…

 

「話を続けても良いかな?」

「うぇ?あぁ、はい。」

「うむ。じゃからシンと当たってしまった生徒がかわいそうじゃからな。

最初からシン以外で戦い一番になったものがシンと戦うというのが良いと思ったのじゃ。」

「はぁ…差別ですか?」

「当たり前じゃ。お主は特別じゃからな。中級魔法を扱える一年生など今までいなかったからの。」

「でもそしたらオレ暇ですよね?」

「仲間のサポートでもしてやれば良かろう。」

「あぁ、そうですね。」

 

まぁ、お店も出てることだし…楽しめるかな。

 

「じゃあ一緒にお店を回りましょう!」

「うん。でもまずはルゥの応援だね。」

「ふっ!安心して頂点でふんぞり返ってるといいわ!

私がシンを倒してあげる!」

「うん。安心して待ってるよ。」

 

すごい自信だな。あの運で…あの運で…!

 

「さて。一試合目だったよね。」

「うん!今からよ!相手は…知らないけど…」

「私の友達です。私と同じ風属性の子ですね。」

「そっか。頑張れ!ルゥ!」

「もちろんよ!」

 

 

ついに魔法祭が始まった。

俺の出番は最後。しばらくは応援だ。

頑張れよ!ルゥ!



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二十一話  ルゥ…

さて…と。簡単に状況を説明しよう。

 

「頑張れよ!ルゥ!」

「もちろんよ!」

 

と見送ったまでは良かった。

 

『一試合目を始めます』

 

始まってすぐに…

 

「ファイア!アーンド、ウォール!」

 

ルゥの呪文が炸裂。相手を閉じ込めて圧倒的勝利だ。

どうやら相手の子はまだ魔法が安定していなかったらしい。

自分の属性の初級魔法さえ安定しない子に向かってルゥはなんと大人げないのか…

 

「勝った!勝ったわよ!シン!見てる!?」

 

まったくあいつは…

 

「ティア」

「はい。」

 

お互い向かい合ってうなずく。そして…

 

「さて。どんな出し物があるのかなー。」

「そうですね。楽しみです。」

 

くるっと後ろを向いて歩き出した。

 

「あれ!?シン!ティア!どこ!?」

 

なにも聞こえないなー!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お。迷路?」

「本当ですね。挑戦してみますか?」

「うん。楽しそうだしね。」

「はい。」

 

入り口と思われる場所に立っている上級生に話しかける。

 

「すいません。これ遊べますか?」

「はい。大丈夫ですよ。挑戦しますか?」

「はい!ぜひ!」

「わかりました。では軽く説明しますね。」

 

迷路に説明なんか必要なのだろうか…

 

「私たちの迷路はとても難しいのです!」

 

ふっ…転生人間をなめるなよ!俺は迷路の絶対に攻略できる方法を知っているのだ!

 

「なお、ずっと壁に手をついて歩いていけばゴールにたどり着けるなんて思ったら大間違いです。」

 

………前言撤回しよう。この迷路は難しいな………

 

「近くで大地属性の仲間が中をリニューアルしているので何度でも楽しめますよ!」

「あー…なるほど。」

「なので出れなくなる可能性もありますが…挑戦しますか?」

「えっと…リタイアは可能ですか?」

「はい。叫んでいただければ。」

「わかりました。ティアはどうする?」

「私は…一緒に行ってもいいですか?」

「はい。大丈夫ですよ。」

「じゃあ一緒にいこうか。」

「はい!」

「では、こちらへどうぞ。」

 

促され一歩を踏み出し…

 

「あーー!!シン見つけた!」

「くっ…」

 

見つかった…だと…!

 

「よし。行くか。」

「はい。」

 

一歩を踏み出した。

 

「なっ…待ちなさいよ!私も!私も入ります!入れて!」

「では説明を…」

「いらない!いらないから早く入れて!」

「え…わ、わかりました。ではこちらへどうぞ。」

 

後ろからルゥも入ってくる。

 

「急ごうか。どっちへ行く?」

「ええと…シンさんはどちらがいいと思いますか?」

「んー…右…かな。」

「ではこちらで。」

 

自分の運を信じて右へ曲がる。すると…

 

ごごごごごごご………

 

「「え!?」」

 

真後ろに壁が出現した。もう後戻りは出来ない。

 

「よし。進むか。」

「はい。」

 

ルゥよりも早くゴールしなければ…何を言われるかわかったもんじゃないな。

 

「右…右…左…」

「はい…はい…はい?」

 

壁。うーん…

 

「戻るか。」

「そうですね。」

「あーー!!また壁!?なんで!?」

 

向こうも楽しそうだな。負けるわけにはいかない。

 

「よっしゃ!まっすぐ!」

「はい!」

 

三又に分かれたみちの真ん中を突っ走る。と…

 

「あれ?」

「あ!出口ですね!」

「よっしゃ!ルゥは…」

 

見た感じはいない。

 

「おめでとうございます。お仲間よりも早いですよ。」

「やったね!」

「はい!」

 

ティアとハイタッチをかます。

 

「良かった…」

「では次はどうしますか?」

「うーん…」

 

ルゥを待つ?それとも先に…?

 

「ティア」

「はい。」

 

再び向かい合ってうなずく。

 

「あそこ行ってみよう。」

「はい。」

 

 

「また壁!?シンー!助けてー!!!」

 

 

がんばれ。ルゥ。

 



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二十二話  やっぱりルゥだ…

「ふぅ…色々あるな。」

「そうですね。楽しいです。」

「うん。」

「そうね。私を置いて二人だけで楽しそうだったわね!」

「はは…悪かったって。今は一緒に回ってるだろ?」

 

最初はティアと二人でまわっていたのだが、ルゥの叫びがあまりにうるさ…もといかわいそうだったので引き取り今は三人でまわっている。

 

「そろそろ次の試合じゃないか?」

「え?あ、そうね。」

「行きましょうか。」

「うん。ねぇシン?わかってるわよね?」

「んー?大丈夫だよ。なぁ?」

「はい♪」

 

ティアと顔を合わせて笑う。

だって…ねぇ?もうふりにしか聞こえないもんな。

 

「悪い顔してる!絶対に置いていかないでよね!」

「はいはい。早く行けよ。相手を待たせんな。」

「頑張ってくださいね。」

「うん!」

 

ルゥが走っていく。残された俺たちも、

 

「よし。応援に行くか。」

「はい。おそらく勝つでしょうね。」

「まぁ…オレが教えたしな。」

「そうみたいですね。私も教えてほしいです。」

「それはまた今度かな。」

 

そう。あの日教えろとルゥが言ってきた日からほぼ毎日俺は魔法を見せられコメントを求められてきた。

俺が言うのもあれだがルゥはなかなかの実力だと思う。

ただ…運が…相手もやり手だったら負ける可能性もある。

相手も一試合目を勝ち上がった子だ。しっかり見ておきたい。

もしかしたら俺と戦う可能性もあるしね。

 

 

 

 

 

「あの子が次の対戦相手か…」

「強そうですね。」

「そう?」

 

ルゥの向かいに立っているのは背の高い男の子。

一年生にしては大きい方だが…魔法使いと言うよりはケンカとかのほうが強そうだ。

 

『八試合目を始めます』

 

八試合目か…ということは一回戦は七試合ということになる。

つまり参加人数は14人。俺を合わせて15人か。

ちゃんとトーナメント表見てなかったからな…後でもう一度見に行こう。

などと考えている間に…

 

「あれ?どういう状況?」

 

目の前には空高く二本の土でできた円柱が伸びていた。

 

「一試合目でルゥさんが壁を作って火をつけたじゃないですか。」

「え?あ、うん。そうだね。」

「初級魔法でも簡単にできる!と人気になっているらしくて」

「はぁ…」

「皆さんまずは相手を閉じ込め始めたみたいです。」

「はぁ!?」

 

つまりあの円柱の中に二人はいるわけだ。

 

「出れるの?」

「今までの試合では砕いて出てたみたいですが…」

 

この試合はまったく動きがない。

声は聞こえてくるのだが…

 

「ファイア!ファイア!くそっ!なんだこの壁!硬ぇ!」

火龍の剣(ファイア・ソード)!あれ?出ない!」

 

ルゥは魔法が発動しないようだ。ずっと俺と魔法を使っていたこともあり魔力は鍛えられているらしい。

そのせいで硬い壁を作り出し対戦相手も抜け出せなくなっている。

 

「え…これどうなるの?」

「そうですね…審判の判断にもよりますが…」

 

『このまま動きのない場合は両者とも負けとなります』

 

「はい!?やばいじゃん!ルゥ!」

「ルゥさん!頑張ってください!」

 

「はっ!シンの応援が聞こえる!負けてたまるかぁ!」

 

お、おぉ…すごいやる気だ。頑張れ!ルゥ!

 

火龍の剣(ファイア・ソード)ォ!!」

 

ザァァァァァ…

 

壁が崩れ落ちる。すると中から出てきたのは…

 

「え…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地面に頭を擦り付けている男の子だった。

 

「は?」

 

男の子も顔をキョロキョロさせている。

どうやら彼が壊したようではないが…とういうことだ…?

 

『少々お待ちください』

 

審判の人が他の上級生を呼んできた。

空を飛び円柱の中を上から確認して…腕を胸の前でクロスさせた。

 

『ルゥさん魔力切れによってリタイアです。』

 

「ルゥーーー!!!」

「あらぁ…」

 

魔力切れだと…!最後の中級魔法張り切ってたからなぁ…

運が無いのに無理するから…

 

「きゅうー…」

 

目を回したルゥが運び出されてきた。

そして救護室へ運ばれていく。

 

「あー…」

「えっと…どうしますか?」

「んー…多分しばらくは寝てるだろうね…」

「そうですね。シンさんもそうでしたし。」

「まぁ怪我したわけじゃないし…少し回ってから様子を見に行こうか。」

「はい。ルゥさんなら心配ないでしょう。丈夫ですし。」

「ははっ!違いないね。」

 

後ろを向いて歩き始める。と、そのとき…

 

「あ!シンちゃんいた!」

「え?」

 

懐かしい声が聞こえてきた。横を見ると…



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二十三話  懐かしい顔

前回設定を投稿したせいでしおりがずれたみたいですね…
すいませんでした。もう途中に差し込むことは無いです(多分)。


「あ!シンちゃんいた!」

「え?」

 

横を見ると…

 

「あれ?フェリスじゃん。何してるの?」

「何してるの?って…シンちゃんに会いに来たに決まってるじゃない。」

「はい…?」

 

ここはメリア学園だ。部外者であるフェリスが入ることはできないのでは…

 

「今日はお祭りですからね。学校外からも入ることができるんですよ。」

「あ、そうなんだ。」

 

なぜ今まで気が付かなかったのだろう…ルゥから逃げていたからかな。周りが見えていなかったのだろう。

 

「それで…その子はお友達?」

 

フェリスが俺の横を指さして言う。

 

「うん。ティアだよ。」

「アルティア・エスタリカです。よろしくお願いします。」

 

ぺこり、と頭を下げる。こういった礼儀正しい仕草を見ているとやっぱりティアはお嬢様なんだな…って実感する。

 

「エスタリカ…」

「あ、お父さん。久しぶりですね。」

「…え?あ、あぁ…そうだね。大きくなったな。」

 

いたのか…気がつかなかった…

 

「ねぇねぇ。シンちゃんは全部回った?」

「いや、まだ迷路に入ってみたくらいかな。」

「そうなの?私たちは今来たところなんだよ。シンちゃんは行きたい所とかある?」

「んー…何かあったかな…」

「屋台は結構ありましたが…他は火や水のショーや空中浮遊体験などですかね。」

 

ルゥと一緒に回れたのは少しの時間しかなかった。すぐに二回戦が始まってしまったからだ。

 

「そもそも地図が無いのが間違ってるだろ…」

「いいじゃん!私たちはまだ全然回ってないし一緒に見て回ろうよ。」

「うん。そうだね。」

 

まぁゆっくり回ればいいか。

 

「シン」

「え?なに?」

 

お父さんが喋った!いや、そりゃ喋るだろ…

 

「トーナメントは参加していないのか?」

「いや、してるけど…」

「じゃあ次の対戦があるだろう。歩いて回りながら話すか。」

「あ、いや、対戦は数時間後なんだ。色々あってね…」

 

話すと長くなる。いや、中級魔法を使えるから。で一言なのか…?

 

「まぁいいや。とりあえず回ろう。」

「じゃあ私はルゥさんを見てきますね。」

「え?」

 

声をかける前にティアは行ってしまった。

 

「むー…お友だちからもシンちゃんの話聞きたかったのに…」

「気を使ってくれたのかな…」

「良い友達を持ったな。」

「ん…」

 

まさかそのティアがファンクラブを作った…なんて言えない。

 

「行こうか。」

「うん!」

 

その後は三人でゆっくり回った。

さっきはルゥと一緒だったからね…ゆっくり回れなかったんだ。

色々面白かった。でもまさかショーに乱入するとは…

フェリスってこんなに破天荒だったっけ?ルゥよりも酷いな…

久々の二人との行動は楽しかった。時間が立つのも忘れるほどに…

 

 

 

「そろそろ時間だな。」

「え?」

 

気がつけば数時間がたっていた。もう俺の出番だ。

 

「そうだね。行ってくるよ。」

「頑張れ!私との特訓を忘れるな!」

「うん。」

 

その特訓のせいでファンクラブは出来るしトーナメントは最後までシードだし…

あれ?良いことしかない?

 

「頑張れよ。」

「はい。」

 

行こう。勝てば次は他の学年との試合だ。

そこでも勝てれば優勝。学費などが半額になる。

お父さんの負担も半額。きっと楽になるはずだ。

 

「シン!勝ってね!」

「シンさん!頑張ってください!」

 

二人も応援に来てくれている。良かった。ルゥ復活したのか。

 

「うんがんば…」

 

声のした方を見て驚く。

 

『シンが優勝だ!』

 

大きな幕が掲げられていた。

Oh…ファンクラブの皆さん…やりますな…

 

 

 

 

『一年生最終戦を始めます』




さて。次は最終戦なのですが…
番外編挟みます。せっかくのリアル○○○○○なので。
本編真夏ですが真冬のイベントやったるぞ!


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番外編  クリパ (前編)

「はぁ…」

 

憂鬱だ。なぜなら今日は12月24日。

明日は俺の命日。そしてずっとボッチだったあの頃を思い出してしまう。

唯一、昨年は楽しかった。

朝起きると枕元に大きな袋が置かれていて中には大量のゴブリンのたま…

…思い出すのは止めよう。笑顔なフェリスとお父さんの顔を覚えている。それで十分だ。

 

「でもなぁ…」

 

今年はメリア学園にいる。今フェリスはいない。

 

「ね、ねぇ…シン…起きてる…?」

「んぁ…?寝てる。」

「起きてるじゃん!ねぇ。明日はなんの日か知ってる?」

 

お前もその名を口にさせたいのか…!

 

「赤い服を着た白髭のおじさんが勝手に部屋に上がりこんできて荷物を置いていく日だろ?」

「え?」

「あ?」

 

ぽかーん…と口が開いている。

これじゃあ残念なルゥには通じなかったか…

 

「サンタが来る日だろ?」

「え?」

「あ?」

 

これでも通じない…だと…!

 

「クリスマスだよ?」

「おう。」

 

何が言いたいのだ。クリスマスなんだからサンタが来る日であっているだろ。

 

「で?クリスマスだからなに?」

「うん…その…ね?」

 

首をこてっ…と傾ける。可愛い仕草ではあるのだが…何が言いたいのかわからない。

なにせ俺は眠い。そして寒い。何もしたくない。

だって明日は俺が死んで二年の記念日だぜ?忘れて今日明日と眠り続けたい。

 

「で?」

「え…いや…ね?」

「おやすみ」

 

いつまでも『ね?』しか言わないのでちょっと放っておいてみる。

 

「あ!ちょっと待って!お願いします!お願いします!」

 

んあぁ…揺さぶらないでぇぇ…布団が…布団が落ちる…寒い…

 

「やめぃ」

「ひぅっ…」

 

どすっ。チョップをいれる。

 

「で?話は?」

「う、うん…明日のことなんだけど…何か欲しい物ある?」

「はぁ…なんでオレにそれを聞くの?」

「はぁ?もう7年も生きてて明日何をする日か知らないの?おっくれてるぅ~!」

 

イラァ…

 

「おやすみ」

「にゃぁーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で?明日はなにがしたかったの?」

「ぐすっ…うん。えっとね…」

 

そのまま伝えると長くなるので簡潔にまとめると…

 

明日はクリスマスだ。

そしてなんとこの国にはサンタはいないらしい。

その代わりに自分達が日頃お世話になっている人に贈り物をする日なのだとか。

さらに明日は何かが起こる…!らしい。

 

最後のは直接言われたわけでは無いのだが…まぁルゥはわかりやすいから…何かたくらんでんのかな…

 

「だから俺の欲しい物が知りたい…と。」

「うん。あと、ティアの欲しい物も知りたいな…」

 

ダメ?と言いたげな上目づかい。くそ…うまくなったな…!

 

「わかったよ。じゃあティアに聞きに行こうか。」

「あ、いや。できればティアにはサプライズで渡したいの。」

「え?なんで?」

「いや…なんか…知られたくないじゃん?だからシンに相談したかったわけで…」

「ふーん…」

 

多少はプライドというものがあるのか。

 

「だから…その…一緒に買い物行こ!」

「おやすみ」

 

せっかくの冬休み。しかも命日なうえに寒い。寒い!

 

「やだやだやだやだ!なんでなんで!?行こ!行こーよ!」

 

んあぁ…馬乗りだぁぁ…上に乗られてるよぉぉ…でも軽いな。布団落ちないしこれなら放っておいても…

 

「なーんーでー!!!いーこーうーよー!!!」

 

跳ねるなぁ!腹に…腹にくるから…

 

「やめぃ」

「ひぅっ…」

 

ったく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ!これ可愛い!」

「うん。そうだね。可愛いね。」

 

結局流されて来てしまった。ちなみに今はアクセサリーショップに来ている。

自分が欲しいものがティアも欲しいだろ。と丸め込んだ結果だ。

 

「これ!これがいい!」

「そうだね。いいね。」

 

お。あっちにプラモデルショップあるじゃん。後で行ってみよう。

 

「あ、これもいいな。どう思う?」

「うん。思うね。」

 

んー…その隣は…食べ物屋だ。うわぁ…また会ったな。ゴブリンの卵よ…!

 

「…ねぇ。シンはバカだよね?」

「うん。ルゥはバカだね。」

 

ははは!お前は絶対に食わない!そこで寂しく見てやが…

 

「とうっ!」

「いた…なに?なんで今オレ叩かれたの?」

「全然話聞いてないじゃん!そんなに気になるなら待ってて!」

 

ルゥが走っていく。どこに行って…そこは…ま…まさか…

 

「はい!ゆで卵!」

「………」

 

来た…持ってきやがった…しかもゆで卵!特に味付け無し!そのままゴブリンの卵だよ!

なんでこんな店でゆで卵なんか売ってんだ。もっとオムライスとか作れよ。

 

「はい!」

 

しかも殻剥いて口元まで持ってきてるし…

 

「はい!!」

 

アクセサリーショップのど真ん中で卵を突きつけられる女の子。なんだこの絵は。

 

「食べてもいいよ。」

「え?いいの?」

「うん。」

「やった!いただきまーす!」

 

はぁ…よくこんなとこで食べれるな…お。これいいな。値段も安いし。ティアに買っていこう。

 

「はい。ネックレス一点ですね。」

「お願いします。」

 

 

 

 

「ほら。行くよ。」

「んむ?私まだ買ってな…」

「次はどこ行くかなー…」

「ひどい!私まだ食べてるのに…じゃなかった。買ってないのに!」

 

放っておいて歩き始める。次は…うん。一応ルゥのも買っておいてやるか。

 

 

別のお店でルゥへのプレゼントを買い、寮に帰る。

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

「楽しかったねぇ。」

「まぁ…そうだな。」

 

思ってたよりも楽しかった。後は明日を乗りきれば…!

結局何があるのかわからなかったんだよな…ルゥのくせに。こんなに口が固いとは…!

 

「んじゃ。おやすみ。」

「えぇ!まだ夕方だよ!あそぼーよー!」

「乗るな跳ねるな叩くな!わかった!わかったよ!」

 

 

そのまま就寝時間までルゥに構っていた。そのせいで眠い…

 

「こんどこそ寝るからな。もう起こすなよ。」

「くー…」

「お前…まぁいいや。おやすみ…」

 

 

時計の針はどんどん進み…次の日。



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番外編  クリパ (後編)

「んん…」

 

暖かい…体がポカポカする。

まるで湯たんぽに抱きしめられているようだ…

顔にも何か暖かいものが当たっている。

 

「んん…?」

「んっ…」

 

柔らかい…顔にジャストフィットなこの感触…眠気を誘う柔らかさ…

あれ?こんなに枕って最高だったっけ…?

というか今しゃべっ…

 

「ん?」

「あら?」

 

意識が覚醒する。しかし目の前は真っ暗。

顔を柔らかいものから引き離す。もう少し暖まりたかったが…

 

「おはようございます♪シンさん♪」

「ティア…なにしてんの?」

 

見上げたところにはティアの顔があった。

目の前にはティアの胸が…

 

「快眠を提供しようと思いまして。」

「うん。最高でした。」

 

はっ…!つい本音が出てしまった…

 

「さて。皆さん待ってますよ。」

「はい?」

 

状況がいまいちつかめないのだが…なぜティアが部屋にいるのだ?ルゥは?皆さんって誰?

聞きたいことはたくさんあるのだがとりあえず…

 

「ティアさんや」

「はい」

「なんでオレの服のボタンを外してるのかな?」

「着替えを手伝ってあげようと思いまして。」

「大丈夫だから。脱がさなくていいから。下もやめてね?」

「遠慮はいりませんよぅ。」

 

すでに上はシャツ一枚。下も半分脱げている。

これは…諦めるしかないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完成です!」

 

脱がされ着せられ…俺の仕事はなにもなかった。

ずっと脱がされていく服を眺めていただけだ。

いや…さすがに下着まで脱がされそうになったときは抵抗したよ?『じゃあ私も脱ぎますから!』とか言い出した時は頭大丈夫か?と思いました。

 

そして今の格好は…真っ赤。赤い服に赤いズボン。赤い帽子…

 

「ティア…サンタって知ってる?」

「今のシンさんの格好の人ですよね。良い子にはプレゼントをくれるやさしいおじさんです。」

 

…あれ?この世界にもサンタはいるのか?でも昨日ルゥは…

あいつ嘘ついたのか?いや、そんなことができるやつじゃない。ということは…さては知らないな?あいつ。後でからかってやろう。覚えてろよ。

 

「では行きましょう!」

「どこに?」

「行けばわかります。さぁ!行きましょう!」

 

手を繋ぎ歩き出す。ルゥは…いない。先に行ったのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと…?」

 

ついたのは1年C組の教室。冬休みの今は誰もいないはずだが…中からはざわざわと声が聞こえる。

 

「どうぞ。入ってください。」

「う、うん。」

 

ガラガラ…ドアを開けると…

 

 

 

 

 

 

 

「「「メリークリスマス!」」」

 

クラスの皆に迎えられた。皆サンタのコスだ。見慣れた教室が真っ赤に染まっている。

 

「えっと…何してるの?」

「今日はクリスマスなので…皆で祝おうと思いまして。せっかくならパーっとやりたいなーと思い先生に相談したら…」

 

『じゃあ教室を使ってパーティしよっか♪』

 

おぅ…さすがはアリア先生。行動力は無駄にあるね。ロリのくせに。ロリのくせに!

 

「ねぇ。なにか失礼なこと考えてない?」

「うわっ!先生…いたんですか…」

 

同級生たちの間から先生が出てきた。

全然気がつかなかった…生徒にまぎれすぎじゃないですかね…

 

「それじゃあ主役も来たことだし…クリスマスパーティを始めましょうか!」

「「「「うおーーー!!!」」」」

 

教室が一気に騒がしくなる。

パーティか…久々だな。いつもクリスマスは部屋に一人引きこもってたからな…

 

「シンさんシンさん!一緒にケーキに入刀しましょう!」

「え?ケーキ?そんな切るほどのものは…」

 

言葉が出なくなる。どこに置いてあったのだろうか。三段のケーキが机の上にドンッと置かれていた。

 

「頑張りました。」

「すごいの買ってきたね…」

「え?そんなお金はないので…作りましたよ?」

「は?これ全部?」

「はい。頑張りました。」

 

机にはケーキの他にサラダや肉など豪華な料理が乗っている。

これらすべて手作り…?すごいな。

 

「入刀!しましょう!」

「おう!」

 

今日くらいははしゃいでもいいだろう。だってクリスマスだ。一年に一度しかないお祭りなのだ。

 

「にゅーとー!」

「「「「わぁーーー!!!」」」」

 

大きな包丁がケーキに刺さるのを合図にそれぞれ食事を始める。教室は賑やかになった。

 

 

 

 

「美味しいですか?」

「うん。ティアも手伝ったの?すごいね。」

「はい♪」

 

 

 

 

時間はどんどん過ぎていく。気がつけばもう夕方。楽しい時間はすぐに終わってしまう。

楽しい時間の中で一番驚いたのはカラオケが始まった時だ。

俺にもマイクが回ってくる。しかしクリスマスソングなど知らない俺のチョイスは…

 

「きーみーがーぁーよーぉーわぁー…」

 

「「「「うぉーーー!!!」」」」

 

恐ろしく盛り上がりました。内容なんてどうでもいいんだろうね。歌うという行為が盛り上がるのかな。

 

 

 

 

パーティや片付けが終わり、俺はティアを誘って俺たちの部屋へ…

 

 

 

 

 

「なにかご用ですか?」

「うん。はい、これ。」

 

昨日買ったネックレスを手渡す。

 

「え…これって…」

「クリスマスプレゼントだよ。」

「あ!それあのお店の!ずるい!」

 

ルゥも反応した。あ、そうだ…

 

「ねぇルゥ。サンタさんって知ってる?」

「はい?昨日も言ってたけどなんなの?それ。」

「ふーん。知らないんだぁ。ふーん。」

「うぐっ…し、知ってるし!あれでしょ?あのー…あれよ!」

 

わちゃわちゃと手を動かしてなにかのアピール。

サンタをアピールしようとしてるのかな…

 

「ルゥ。はい、これ。」

「え…あ、ありがと…」

 

ルゥにはブレスレットを。最初見たときのイメージがピッタリだったのだ。

 

「シンさん。ありがとうございます。大切にしますね。」

「うん。」

「あの…私も…これ…」

 

ルゥも袋を取りだしティアと俺に手渡した。

 

「あ…」

「い、一応お世話になってるし!これからも仲良く…ってことで…その…」

 

真っ赤だ。指をお腹の前でモジモジさせている。

破壊力は抜群。俺の心にクリーンヒット!

 

「ふふ。ありがとうございます。まさかルゥさんから貰えるなんて…大切にしますね。どちらも。」

 

ん?どちらも?

 

「シンさん。欲しいですか?」

「何を…すごいな!欲しい!」

 

見せられたのはカメラの画像。中にはさっきのルゥのレア画像。

 

「え?なに?私にも見せて。」

「………」

「………」

 

ティアと顔を見合わせ…笑う。

 

「ダメだな。」

「ダメですね。」

「な…なんで!?」

 

これは見せるべきではない。俺たちだけの物だ。

 

「では私からも…」

 

持っていた鞄の中から出てきたのは…二つの袋。

 

「どうぞ。」

「え…いいの?」

「はい。お二人のことを考えて作りました。」

 

中には…

 

「おぉ…」

 

輝く指輪が。

 

「え?作ったっていった?」

「はい。せっかくなら手作りしたいと思ったので。」

「うわぁ…きれい…」

 

ルゥも中を見て驚いているようだ。

すごいな。さすがはお嬢様。裁縫なんかもできるのか。

すごくしっかりしている。売り物だと言われても納得できるレベルだ。

 

「私のもあるので、三人お揃いですよ。」

「ありがとう。大切にするよ。」

「私も!」

「せっかくなのではめさせてくれませんか?」

「え?あ、うん。喜んで。」

 

右手を差し出す。なのに左手を持たれ…薬指に指輪をはめられる。

 

「えぇ…」

 

左手薬指…ま、まぁいいか。相手は女の子だし…

 

「…」ワクワク

 

すごいこっち見てる…なんかルゥもこっち見てるし…

 

「はぁ…指出して。」

「はい!」

「わ、私も!私も!」

 

三人左手を並べて…微笑む。

いいな…こういうの…

 

「写真とりましょう!皆で!」

 

ティアがタイマーをセットし横へ。

それぞれの贈り物を身につけ、三人左手を胸の前に掲げて…

 

カシャッ!

 

 

指にはまっている指輪。部屋に飾られている写真。

この日を忘れることはないだろう。

今日は今までで最高のクリスマス。最高の思い出。

 

絶対に色あせない俺たちだけの…



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二十四話  最終戦

『一年生最終戦を始めます』

 

さて。始まってしまった。俺、初試合なんだよね…とりあえず様子を…

 

「ウォール!」

 

四方に壁が出現。んー…何をされるのかな…

 

「ウォーター!ウォーター!ウォーター!」

「おー…」

 

上空に大量の水が出現した。

そして…

 

「うっわ…びっしょびしょだよ…」

 

どんどん水が貯まる。すでにお腹の辺りまで水は貯まっている。

 

「リタイアした方がいいよ!」

 

相手は言っているが…この戦法で勝てると思わないでほしい。

 

「さて…どうしようかな…」

 

体が水に浮かぶ。壁の上から顔をだし相手を確認。

座り込んでいる。余裕だね!もう閉じ込めたと思っているのかな。

お前はルゥか!油断したらダメだよ!

 

「よし。水の鎖(ウォーター・チェイン)!」

「え?」

 

相手を拘束して動きを止める。

多分抜け出すことはできないと思うが、慢心、ダメ、絶対。

 

「どうする?ねぇ?どうする?」

「うー…んー…!」

 

抜け出そうとしているが…無理だろう。

 

 

 

「うぅ…リタイア…」

 

数十秒後。相手の子はリタイアを宣言。

俺の優勝が確定した。次は全学年との対戦だ。

 

「シンさん!おめでとうございます!」

 

わぁーーー!!!

 

騒がしいことこの上ないけど嬉しいな。

ティアなんかピョンピョン跳び跳ねているし、ルゥも…あれ?ルゥは…

 

「おめでと!」

「うん。ありがとう。」

 

舞台から降りる。周りを見渡すが…ルゥの姿はどこにもない。

 

「ねぇ。ルゥは?」

「え?横に…いませんね。どこ行ったのでしょうか。」

「皆知らない?」

 

首を縦に振る者はいない。どうやら勝手にいなくなったらしい。

 

「ふーん…まぁいいか。すぐ戻ってくるでしょ。」

 

次の対戦までは時間は少ない。少し休もう。

 

「疲れたから休んでくるよ。」

「あ、お供しますね。」

 

ティアもついてきた。二人で救護室へ向かう。

 

 

 

「おー。シンじゃないか。どうだ?勝ったか?」

「はい。なんとか。」

 

救護室の先生と話す。なんども魔力切れでお世話になったからね。仲良しだ。

 

「そうか!勝ったか!じゃあなんでここ来たんだ?」

「いやー…疲れまして。休ませてくれません?」

「今は誰もいないからな。ベッドは空いてるし好きに使っていいぞ。」

 

良かった。無事休めそうで。

 

「じゃあ少し借りますね。」

「おう。そっちのお嬢ちゃんはどうする?」

「あ。私はシンさんを見てますので。お構い無く♪」

 

………いや。戻れよ。休めねぇよ。

そんな目で見るんじゃねぇ。追い払えねぇから…

 

 

 

 

 

「にゃはー」

「なんでですかね?ティアさん?」

 

目の前にティアの顔が。

 

「休ませろ。」

「私のー胸でー眠れー!」

「なんか死にそうだから止めてくれ。」

「そのときは私が守りますから!」

 

はぁ…まぁ仕方ない。ティアは許そう。たまに胸を触ってくる以外は無害だし。

ただ、その光景を笑顔で眺める男教師。お前は許さん!

 

 

 

 

「シン!シンはおるか!?」

 

学園長が飛び込んできた。休ませろ。

 

「ルゥちゃんが!」

「は?」

 

なに?怪しい男についていったとか?

 

『魔法を教えてあげるからおいで?』

『うわーい!シンを越えるチャンスね!』

 

ありそう。すごいありそう。これからはちゃんと見張っとかなきゃ…

 

「さらわれたようじゃ!」

 

 

………マジで?



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二十五話  彼女は俺の…

「まずはこれを見てくれ!」

 

ブォン!

 

目の前に大きなスクリーンが出現する。

そしてそこには先程の俺の戦いが写っていた。

 

「後ろにルゥちゃんがいるじゃろ?」

「そうですね。でもそれが…え?」

 

確かに目の前にはルゥがいる。いや、いた。

フードを被った人がルゥに近づいたと思ったら突然二人とも消えてしまった。

 

「い、いったい何が…」

「おそらくは転移魔法じゃろうが…他人まで飛ばすのは不可能に近い。

こやつの正体は全くわからんのだ…」

「そんな…」

 

無属性の魔法を扱っている。それだけでもかなりの上級者だ。

さらに二人目を飛ばす…恐ろしいほどの運の高さだ。

学園長の言う通り不可能なのだろう。この世界の人間には。

 

「どこに行ったのかはわからないんですか?」

「うむ…正直想像もつかん。転移魔法を使ったのじゃから時空の歪みなどはあるかもしれんが…」

 

時空の歪み…?それがあるところにルゥは…?

 

「シンさん。」

「………え?あ、なに?」

「時空の歪み…利用しましょう。」

「利用?」

 

いったいなにを…相手は時空に穴を開けて別の場所に移動したのだ。

移動先にも歪みはあるかもしれないが、どこにあるのかはわからないし…

 

「歪みがあるなら、そこを私たちも通ればいいんですよ。」

「…そうか!」

 

確かにそうだ!穴が開いているなら通れるはず!

俺は一度転移を成功させている。

あのときは魔力が足りていなかったから倒れてしまったが今は違う。

たった一度しか戦闘をしていない。魔力は十分だ。

 

「ティア」

「はい。どこまでもお供します。」

 

友達を拐っておいてただですむと思うなよ…!

 

「ま、待ちなさい!何を…」

「早くしないと歪みが消えちゃうかもしれないじゃないですか。

今は立ち止まっている時間はありません。残りの試合は不戦敗でいいです。」

 

それだけ言って立ち上がる。

ティアと一緒に部屋を出て向かうのはさっきまで俺がいた場所。

 

でもどうする?

転移はおそらく出来るだろう。

だが二人可能かはわからない。ティアの運は転移に耐えられるのだろうか。

俺だけで行ったほうがいいのだろうか…

 

ぎゅっ

 

不意に手が握られる。

驚いてティアの方を向くと…

 

「シンさん。何か変なこと考えてませんか?」

「え?いや…」

「だいたいはわかります。成功するのだろうか。シンさんはともかく、私が飛ぶことは可能なのだろうか…と。」

 

…さすがはティアだ。これは隠し事出来そうにないな…

 

「うん…ティアはどうなるかわからない。危ないからオレだけで…」

「何いっているんですか?シンさんはバカだったのですか?」

「いや…でも…」

「ルゥさんは私のお友だちです。シンさんと同じくらい大切なお友だちです。

そのお友だちが拐われて…シンさんは危険をおかそうとしている。

なのに私は黙ってみていろと…出来るわけないでしょう!」

「………」

 

こんなティアは初めてだ…

いつも笑っているティアが…嬉しそうに俺たちを見ているティアが…怒っている。

これを置いていく?それこそ俺はバカだ。

今ムチャをしないでなんのためのチートだ。運だ。

友達を救えないチートなんて役に立つか!!!

 

「そうだね。ごめん。」

「はい。私はシンさんファンクラブの会長です。

いつもあなたの側にいますよ。ずーーーっと。」

「う、うん…ちょっと怖いね…」

「でも嬉しいでしょう?」

「ははっ…違いないや。」

「ふふっ…やっと笑いましたね。」

 

あぁ…そうだ。俺には横にいてくれる子がいるじゃないか。

でも今は一人足りない。俺たちに笑いをくれる彼女が…

 

「ティア。行くよ。」

「はい。」

 

しっかりと手を繋ぎ、指を絡ませる。

絶対に離れないように。絶対に離さないように。

失敗はできない。いや、しない。だって横には…

 

「「転移!!」」

 

彼女がいるのだから。



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二十六話  

タイトル考えるのめんどくさい…
思いついたら書き足しますわ


「「転移!!」」

 

視界が歪む。体がぐらつく。

初めての感覚。前はなすすべなく体から力が抜けていったが今は違う。

転移するために、ルゥを助けるために使っているのだ。

待ってろよ。あんなやつ吹き飛ばしてやる!

 

「うおぉぉぉぉぉ!!!」

「やあぁぁぁぁぁ!!!」

 

目の前が真っ白になる。右手に力が入る。ちゃんと横にはティアがいる。大丈夫。行ける!

 

 

 

 

 

 

「うっ…うん?えっと…ここは…」

 

目を開けるとそこは一面の緑…

 

「あっ!ティア!?」

「は、はい…大丈夫です…」

 

ふぅ…良かった。無事に着いたみたいだ。でもここは…

 

「森…ですかね…」

「そうみたいだね。」

 

右も左も草木に囲まれている。

どっちにいけばいいのだろうか…

ん?ちょっと草木が折れている。誰かが通ったような…

 

「こっちだな。行こう。」

 

ティアの手を引いて進む。

もちろん警戒は忘れない。いつどこからフードのやつが出てくるか…

ルゥも探さなくては。敵と会わずに助けられるのならそれがベストなのだが…

 

「シンさん。あれ…」

「ん?あれは…」

 

小屋…か?中にルゥがいればいいけど…

ゆっくり近づき、小さな窓から中を覗…

 

「ん?君は…」

「っ…」

 

後ろから誰かに話しかけられた。

ゆっくりと後ろを振り向く…と。

 

「エルフ…?」

 

長い緑色の髪の毛からのびる長い耳。

着ている服にはルゥをさらっていったあのフードがついている。

間違いない。ルゥをさらっていったやつだ。

 

「ティア…先に…」

「行かせると思う?ウォール!」

 

前方を除く三方向に壁が。すぐそこに小屋が見えてたのに…ティアだけでも先に行かせたかったのだが…

仕方ない。やるしか…ない!

でも…こいつに何なら通じる…?

仮にも無属性魔法の習得者だ。そこらの中級魔法じゃ叶わないだろう。

 

「突然ぼくの土地に入ってきといてさらに家まで入り込もうなんて…ずうずうしくないかい?ファイア!」

「くっそ!風の靴(ウイング・ブーツ)燃え盛る龍の剣(フレイム・ソード)!」

 

風の靴でスピードを上げてから一撃で仕留める!…つもりだったのだが…

 

キィン!

 

「なかなかやるね…中級魔法を使いこなしてる。さすがは転生者だ。」

 

相手の刀に防がれる。おもいっきり振り下ろしたのに止められた。だったら…

バックステップ…からの…つき!

捉えた!完全に射程範囲内…

 

「甘いよ」

 

姿が消えた。突然目の前から。

 

「っ!」

 

後ろから殺気!

慌てて前に飛び出す。さっきまで俺がいた場所には大きな穴が…

これが…これが本当の魔法使いのバトルか…

正直なめていた。魔法打っときゃ勝てるだろとか甘い考えでここに来たことじたいが間違いだ。

これは本気で挑まなきゃ…

 

(戦法…っ…えっと…)

 

考えている間にもどんどん攻撃は飛んでくる。

だがほとんどが初級魔法だ。完全になめられている。

 

「くそ!火龍の鎖(ファイア・チェイン)!」

 

考える時間をよこせぇぇぇ!!!

 

「ルクスー?この壁なに…いやぁぁぁ!!!」

 

やった!なんか違うの釣り上げた!

ん?今の声は…それにあの赤髪は…

 

「ルゥ!?」

「ルゥさん!?」

「あちゃー…出てきちゃったか…」

 

良かった…生きてたか…すごい安心した…

 

「なんで!?なんで拘束されたの?熱い!熱いんだけど!?誰かー!助け…あれ?シンだ。何してるの?こんなところで…熱い!助けてー!」

 

外した…さすがはエルフだ。俺なんかとは魔法の練度が違う。

多分勝てない。ここはルゥだけでも連れて帰るのが得策…?

 

「仕方ないね。えっと…シンちゃん、であってるかな?

まずはうちにおいでよ。歓迎するよ。そっちの娘もね。」

 

…は?今まで殺そうとしといてそれはさすがに…

 

「ちょっとルゥに会わせたくなくてね。もう会っちゃったからしょうがない。君にも話しておくよ。ルゥにかけられた呪いについて…」

「呪い?」

 

壁が下がっていく。再び周りが見渡せるようになった。

フードのやつは小屋のある方に歩いていく。

怪しみながらもティアと手を繋いでゆっくりついていく。

ドアを開いて『どうぞ』と中に招き入れてくれた。

思ったより中は広い。これ…空間置換とかしてない?

なに?エルフってなんでもできるの?俺にもできるかな?

 

「じゃあ話そうか。」

 

ルゥの呪いについて…そう言って話始めた。

 

「ねぇ!助けて!なんで?なんで無視なの?皆だけ小屋に入ってずるくない?ねぇ?ずるくない?」

 

…忘れてないよ!本当だよ!

 

助け出してから改めて話始めた。




設定やら番外編やら含めるともう30話らしいですよ奥さん!

まぁ本当ですの?処女作だから5話程度で完結させよう!などとほざいていたあの作者がよくここまで書けたものですわね!


はい。すいません。作者です。
本当に…よくこんなに続いてんなー…と言いたいくらい楽しく続いてます。まぁ楽しいのは僕だけかもしれませんが。
さすがにそろそろ限界かな…なんて思ったりするのでそろそろ終わりも考えてます。というかムリヤリにでも終わらせます。
短い期間ですが最後まで読んでいただけるとうれしいな!


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二十七話

今回会話文多目です。
まぁ移動とかしてないからね。状況説明いらないしね。
読みづらいかなー…いや。まぁ大丈夫か。読めるでしょ!


「さてと。ぼくと出会うまでのことはルゥに話してもらおうか。よろしく。」

「うん?わかった。…え?何を話せって?」

 

あー、うん。これはルゥだ。間違いない。気が抜けるな…

俺とティアが並んで座り、前にルゥとフードのやつが座っている。気を抜いてはいけない。そうわかってはいるのだが、ルゥのボーッとした顔を見ているとどうにも…

 

「ぼくと出会った日のことだよ。忘れたことはないって言ってたでしょ?」

「あぁ。あの日ね。わかった。」

 

そういって『うーん…』とうなりながらも話が始まった。

 

「あの日は…平和な一日でした。」

 

「平和じゃない一日とは」

 

「シンさん。静かに。」

 

「なにもすることのなかった私はひたすら村を走り回ってたんだけど…」

 

「バカじゃん」

 

「シンさん。しずk (ry」

 

「そのとき私は見つけてしまった…そう…あいつを…」

 

「「ゴクッ…」」

 

「ヘラクレスオオカブトを!」

 

「マジで!?」

 

驚き立ち上がる。イスが倒れたがムシ。ティアが直してくれるのを横目に見ながら

 

「あ、あの…ヘラクレスを!?」

 

「そうよ!これは追いかけるしかないじゃない!

私は走った。ひたすら走った。たとえ足がもつれようとも。こけようとも。崖から…転がり落ちようとも…!」

 

「あぁ。それは普通だな。」

 

「えっ…?」

 

なぜ驚く?だってヘラクレスだよ?あの。追いかけない理由がないじゃん。たとえ崖から転がり落ちようとも…

 

ティアと見つめあうこと数秒。俺たちはひとつの結論に至った。

 

『昔から…ルゥはバカだったんだ…』

 

「その落ちた先にこの小屋があってね。そこでルクスと出会ったの。」

 

うんうん。と頷くフードの人。どうやら彼がルクス君らしい。

にしても…整った顔してるな…エルフだからかな。可愛い系だな。エルフか…魔力量すごそうだな…

 

「うん?ぼくの顔になにかついているかい?エルフは珍しいのかな?」

 

「あ…いや…」

 

見えない。ステータスが見えない。ということは…

 

「ふふっ…ぼくも転生者だよ。まぁその辺はまた後で二人でゆっくり話そうか。

さて。ぼくと出会ったことだしここからはぼくが話すよ。」

 

やっぱり転生者か。さっきの戦闘中に転生者について話してたからもしかしてとは思ったんだけど…

『エルフになりたい』とか願ったのかな?

 

「ぼくはこの世界に来てから様々な魔法を作り出した。

今までにあった魔法について学んで改良もした。

その中でも特にぼくの興味を引いたのは『魔法を打ち消す魔法』だ。」

 

「っ!」

 

学園長が言っていた今の魔法使いには扱いきれない魔法。それが『魔法を打ち消す魔法』。それを…こいつも…

 

「でも魔法の発動方法はどこにも載っていなかった。確かに魔法はイメージで発動する。それでも…誰も使ったことがない。そう思うだけで心のどこかにストッパーがかかるんだろうね。なかなか発動はできなかった。

だからぼくは考えを変えた。魔法が発動できないならそれに似た新しい魔法を開発すればいいではないか…とね。」

 

新しい魔法を作り出す…可能なのだろうか。

確かに魔法はイメージ。ならば別の世界の知識を活かせばもっと色々な魔法を使えたのかな…

それにしても、このエルフ頭が柔軟だな。

 

「そして魔法の発動には運が大きく作用する。だったら…」

 

「え?ちょ…ちょっと待って。今何て言った?」

 

「魔法の発動には運が大きく作用する。」

 

「どこでそれを知ったの?」

 

この世界の人はそれを知らないはずだ。文献には書かれていないし。それを知っているのはあのダ女神だけのはずだ。でもそのダ女神も人には言わないとか言ってたし…

 

「女神様だよ。転生時に教えてくれたんだ。」

 

あんのダ女神がぁぁぁ!!!

 

あぁん?聞かれてないから言ってない、みたいなこと言ってたよな?

もうダメだ。あのダ女神をこ○したい衝動に刈られまくっている。

出てこいよ!おらおらダ女神さんやぁ!出てこいやぁ!!!

 

「あ、あの…シンさん…話についていけないのですが…」

 

あ。ごめんね。そりゃ転生とか女神とかわからないよね。

まぁまた後で話すよ。

 

「んー…続けてもいいかな?」

 

「うん。話止めてごめん。」

 

「ふふっ…魔法の発動に運が必要ならそれを奪えばいい。ぼくはそう考えたんだよ。」

 

…は?運を…奪う…?

 

「でもこの辺は森ばかりでモルモットはいない。どうしようかなーと思ってたら…」

 

「ルゥが降ってきた…?」

 

「正解」

 

ということは…ルゥの運がマイナスなのは…

 

「そっ。ルゥで試しちゃった♪」

 

「え!?何を!?」

 

「おいルゥさんや。なぜ君が知らないのさ…」

 

とにかく謎がひとつ解けた。ルゥの運が低すぎる理由が。

問題は…

 

「それで?運を元に戻すことや通常よりも増やすことなんかはできるの?」

 

「奪えたんだから逆に渡すこともできる…とは思ってたんだけどねー…出来なかったよ…

それを踏まえて君にお願いがあるんだ。」

 

 

ルゥを元に戻してやってくれないかな?

 

 



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最終話

「シンさん?起きてますか?」

「うん。もう朝食?」

「はい。着替えたら来てくださいね。」

 

部屋からティアが出ていく。

相変わらず可愛い。あの頃よりも随分背も伸びたし、ボン、キュッ、ボン!な感じになってきている。俺とは大違いだ…

ちなみに今いるのはティアの実家。見習いの魔法使いである。

今、俺が求めるのはただひとつの魔法。そう。あの魔法…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルゥを元に戻してやってくれないかな?

 

 

言われなくても。しかし、運を吸収した本人がムリだったと言っているものを俺は出来るのだろうか…

 

「ねぇ…全然話が見えないんだけど…?」

「お前はこいつに騙されてるぞって話だよ。」

「心外だなぁ。ぼくは落ちてきた彼女を助けたんだよ?ついでにちょっと運を貰ったくらいいいじゃないか。」

「そのせいでこいつは魔法を使えなくなってるんだよ!」

 

ちょっと運を…で人の魔法使い人生に終止符打たれるとか…

とにかく試してみよう。何かの拍子に運が上がるかもしれないし。

 

「………」

「えっと…シンさん?何をしているのですか?」

 

現在俺は両手をルゥの方に伸ばしている。

頭の中で『運よ~…上がれ~…』なんて唱えてみたものの…変化はない。

 

「いや…ちょっと試してみたかっただけだから。なんでもないよ。」

 

まぁダメだよね。他になにか…

 

「ねえねえ。」

「あ?問題引き起こした張本人がなにか?」

「ひどいなーもう。いやさ。良い方法を思い付いたんだけど。」

「なに。しょうもない方法だったら命はないよ?」

「はぁ…教えるのやめようかな~」

 

イラァ

 

「無言で剣出さないでくれる?怖い。怖いから。」

「じゃあ早く話せ。至急。」

 

はぁ…手荒いなぁ…何て言いながらも提案。

 

「ぼくが皆から運をひたすら貰って後はその運でなんとかする。」

「よし。表出ろや。」

 

そんなことで俺の運を越えられると思っているのかぁ!

99999だぞ?というか簡単に越えられたら転生特典の意味が…

 

「シンさん。落ち着いてください。」

「あ?あぁ…ごめんね。ちょっとあまりにこいつがむかつくもんで…」

「はぁ…じゃあ君はなんとか出来るのかい?転生の特典はなんだい?役に立つものなのかな?」

「やってみないとわからないだろ。それにこの世界においては多分一番役に立つし。」

「そっか。じゃあやってみなよ。期限は…成人まで。10年くらいは待ってあげるよ。

それで無理ならぼくが引き取るから。」

「お前…何様だよ。」

「ぼくかい?ぼくはエルフ様さ!尊敬したまえ!」

 

どやぁ!

 

椅子から立ち上がり右手を頭にあて、左手をこちらに突き出している。

もうダメだ。こいつに構っていたらどれだけ時間があっても足りない。

 

「わかった。成人までな。おいルゥ。帰るぞ」

「んー…ふぇ?あ、終わった?」

 

寝てやがった…まぁ…仕方ないか。お前悪くないもんな。悪いのは全部…

 

どやぁ!

 

いまだにポーズを決めているこのエルフだ。

見てろよ。俺が絶対に助けてやるからな。

 

 

学園を思い浮かべ、三人で叫ぶ。

 

「「「転移!」」」

 

 

 

「またおいでよ!ぼくずっと一人で暇なんだよね。」

 

「誰が来るか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから既に8年。

俺たちはメリア学園を卒業し、インディゴにあるティアの実家に御世話になりながら中等部で魔法を学んでいる。

ティアの家はお金持ちだということもあり、様々な資料が揃っていた。

無属性魔法についても書かれていたが、どこにも運については書かれてない。つまり自分で発明するしかない。

 

「ふわぁ…おはよう…」

「ルゥさん。遅いですよ。」

「だって昨日は夜遅くまで魔法の勉強してたから…」

 

ちなみにルゥも一緒にここに住ませてもらっている。

運が無いなら魔力量で…!とポジティブシンキングで毎日頑張っている。

そのおかげもあってか最近中級魔法を使えるようになったらしい。教えている俺も嬉しいかぎりだ。

 

「シンよ。今日もよろしく頼むぞ!」

「あ、はい!」

 

俺の使いたい魔法はまだまだだ。それでも俺は無属性魔法を極めた。

スティールも成功率100%。転移も一度行ったことのある場所なら確実に行ける。

もともとあった運に魔力も増えてきたからだ。

 

そのせいで俺の肩書きは『見習い魔法使い』なのに現役の魔法使いに魔法を教えている。

ティアのお父さんにも、だ。

 

色々な人と触れあい様々な考えを皆と共有して高めあう。

最高の環境を整えてくれたティアやティアのお父さんに感謝。

ここに来ることを許してくれたフェリスやお父さんにも感謝。

そして…毎日一緒に楽しんでくれているルゥに感謝。

 

 

「ルゥ」

「んー…」

「待っててね。」

「ん?うん!」

 

 

「ティア」

「はい」

「ありがとうね。」

「ふふ…いつでも頼ってくださいね。私は…シンさんと一緒にいられて本当に毎日楽しいんです。」

「うん。よろしく頼むよ。」

「はいっ!」

 

本当に楽しい毎日。

不謹慎かもしれないが…あのエルフのおかげで今の俺たちがある。

出会った全ての人が俺の養分となっている。

元ヒキニートの俺でも…頼ってくれる人がいるのなら…役に立てるのなら…

 

 

「じゃあ行こうか」

 

「うんっ!」

 

 

救ってみせる。俺の運は…きっと…そのためにあったのだから…





完・結!

あー…楽しかった!
『もっと運要素使えただろ』『もっとうまい表現あっただろ』
全て終わった今ではそう思う。

それでもお気に入り、評価、コメント、などなどしてくださった皆さんのおかげでついにここまでたどりつけました。
こんな駄文を最後まで読んでくださって…本当に…皆さんにも感謝!ありがとう!

これからもどこかで出会ったら気軽に声をかけてね!
もっと成長できるよう…頑張るからね!


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