青春は神憑りにつき…… (蓬操)
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序章~再出発は神様と共に~

努力は裏切らないと教わった。大切な人から贈られたその言葉を信じて、僕は野球を続けてきた。

打撃はイマイチでも、足の早さと守備範囲に定評のある二塁手にまでなっていた。

小学校、中学校と大好きだった野球をしていた。

ある試合を境に、僕は野球から逃げた。野球だけではなく当時の仲間達から、生まれ育った町から逃げた。

周りの目が恐くてビクビクする毎日が嫌になった。

 

ここならば、かつての僕を知る人はいない。

町から遠く離れた場所にある神原学園。

寮暮らしになると聞いたときは嫌がることなく、何にも考えずに受け入れた。

編入試験を通り、入学するのは僕だけらしい。

嘘か本当か。この学園の生徒は漏れ無く神に憑かれているらしい。

なんで幽霊ではなく、神なんだろう……。

まあ神や幽霊に憑かれようがどうでもいい。普通に学園生活を送り、ただ卒業する。

その後はなんとかなるだろう。

校門を通ると、その先は大きな十字路があり、中心には噴水が設置されていた。

 

1.男なら真っ直ぐ進むべし。

2.お箸を持つ手でしょ右へ 。

3.縁起は悪くても関係ねえ左へ。

 

さて、どうしようかな。

というか、1度来ただけで道を覚えてるわけないんだから、せめて地図くらい用意すべきだろ。

たかが教室に向かうだけなんだから、深く考えるのも馬鹿馬鹿しい。

また考えることを放棄して、僕は左の道へ進んだ。

この選択が、僕の未来を左右するターニングポイントだとは知らずに。

 

 

しばらく歩くと、校舎……にしては古く、怪談に出てきそうな建物を見つけた。

ハズレだったんだなと思うも、せっかく来たんだし、校内見学の一環として見ていくことにした。

中はちゃんとした学校だ。玄関があって近くには階段もある。

ただ音沙汰の無い学校ほど怖いものはない。 息する音と足音が、やけに大きく反響して聞こえる。

3階立てのようだが、3階と2階は教室しかなく興味が湧かず、直ぐ様1階へ戻った。

1階は視聴覚室や職員室、それに理科室と美術室と技術室があった。

視聴覚室から順に入ってみると当時のプリント類や教科書で散らかっていた。

職員室も同様で、理科室と技術室はそれぞれの器材や実習に使う材料も散乱していた。

いくら田舎と言えど、使わない建物をボロクソになるまで放置するとは。

 

そして1番最後に美術室へ入った。

特に意味は無い。単に見ていったら最後だっただけ。

美術室も例に漏れ無い散らかり様だ。

椅子は机に上げられ、全部教室の後方へ追いやられていた。

絵や彫刻など、かつてここにいたであろう先人たちの忘れ物が、教室のほとんどを占拠していた。

絵心も無ければ、興味関心も無い。

そんな僕でも、何故かもう少しだけ見ていようとここに留まってしまう。

……しばらく眺めながら、時間を忘れていたことを思い出した。

どっちにしろ遅刻扱いだろうし、迷うような造りにしてる学園側の責任だろう。

しかし編入初日からは……と思い始めて、ようやく立ち去ろうと振り返った。

すると、誰もいなかった教壇に座って足をブラブラ遊ばせている女の子がいた。

……正直、むちゃくちゃドッキリしたが、声に出ないよう抑えた。

意を決して声をかける。

 

「君はこの学園の生徒ですか? 僕は今日からここに編入する者ですが」

 

…………………………。

 

「話……聞こえてます?」

 

……………………!

あ、こっち向いた。

 

「学園のこと知らないから案内してくれますか?」

「貴方は、私が見えるんですか?」

 

「……いや見えるも何も、この部屋僕と君以外誰かいるのか?」

 

………………。

 

なんだろう。急に表情も明るくな……

「やったぁ♪ これで私も人に憑けます!」

 

女の子は思いっきり僕を抱き締めた。どこか違和感を覚えつつ、女の子に抱きつかれる喜びをゆっくり味わう。

「えっと、ツケル?ってどうゆうこと?」

 

「……? この学園の生徒になる人ならわかってると思ったんですが」

 

僕の瞳と女の子の瞳が逢う。透き通るような藍色が僕には眩しくて、思わず目を反らしそうになった。

 

「ここでは皆さん、私達神様に取り憑かれることを義務付けられているんですよ」

 

「……そうだった、かな?」

 

「見える神様は十人十色。人によって違いがあるわけです。つまり私は貴方にしか見つけることの出来ない神様でございます」

 

「…………僕がここに来たのって偶然のたまったまなんだけど、そうすると君は一生誰にも見つけられないままってことになるよね?」

 

「その通り。ですから、貴方からはどう思われようとも、私にとってはこの出逢いに運命を感じます」

 

こっ恥ずかしい台詞をこうもスラスラと。

言われるこっちが赤くなるよ……。

 

「とゆーか、憑かれるの確定なの?」

 

「確定です。おめでとうございます」

 

「そうか。ところで、学園に住み着いているなら、案内をしてほしいんだけど」

 

「神様に物を頼む態度ですかそれ」

 

「神様だろうと地縛霊だろうと、取り憑いているなら上下関係もないだろ」

 

「神様は偉いんですよ」

 

「知るか。それに権力とか地位とかで威張る奴大嫌いなんだよ」

いくら実力で上回っていようとも、先輩の命令に逆らえなかった頃を思い出し、唾のように言葉を吐き捨てた。

 

「…………………」

 

「ご、ごめん……なさい。別に君が嫌いとかじゃなくて、そういうカテゴリーの輩が嫌いだってだけだから。真顔で涙流さないで怖いから」

 

何だかなぁ……本当に神様なんだろうかこの娘。

 



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貴方に秘めた可能性を……

こんにちわ、蓬操です。

前書きの使い方がわからないため、
初投稿では何も書かずに投稿してしまいました。
挨拶もこんにちわではなく、初めましてですよね?

最初はオリジナル作品ではなく、
二次創作を考えていましたが、
原作のキャラを掴みきれて無いので、
投稿まではまだ遠いかもしれません。

書き溜めているわけではありませんので
更新頻度は少ないと思ってください。

拙いと思いますが、この作品が私の始めの一歩です。
温かく見守っていただけたら有難いです。




「そういえば、貴方の名前は?」

 

「天城大地。僕には不釣り合いな名前だよ」

 

「親から貰ったものを悪く言うのは感心しませんね」

 

結局彼女に頼る他に手段は無く、古い校舎を出て先程の分岐点まで戻ることになった。

神様という確証は無いけど、生徒手帳の校則にはっきり書いてあるし、あとはここの生徒にでも出会えば何か分かるかもしれないな。

「別に悪く言ったんじゃなくて、名前負けしてるって話だよ」

 

「名前負け……ですか。まあ生物は皆、生前に名前など持ってませんし。名前なんて完全に後付けな設定です」

 

「君が神様だとしても、その発言は如何なものだろう……そういえば君の名前は?」

 

「はい?」

 

「はい?じゃなくてね。僕は名乗ったんだから、君も名乗るのが常識だろう」

 

「ああ、そうでしたね。私は華凰優希と名乗ってますよ」

 

「…………え。神様って和名なの?」

「だって日本ですから。その名前の方が違和感ありませんし」

 

「何でもいいけど、他の人に知られることまずないはずだよね?」

僕にしか見えないのなら、そんな心配不要なはずだ。

 

「普通にしていれば、の話なんですけどね」

 

「含みのある回答だな」

 

「貴方に取り憑いてるので、その気になれば憑依出来ます」

 

「!? ……それは僕を乗っ取るということ……?」

 

突然過ぎて、初めて慌ててしまった。

そんな僕の様子に、華凰は控え目に微笑んだ。

「貴方も慌てるんですね。中々笑ったり驚いたりしないものでしたから」

 

「ポーカーフェイスだねとはよく言われるよ」

 

元からではないが、あの試合以前からそう言われることが多くなった。

中にはどうしたんだ? いつもの元気はどこいった? などと気にかける人もいた。

いつものって何だよ。365日元気一杯でいられるわけないだろうが。

 

「どうやら気に障ったみたいですね」

 

「勝手に思考を……というより、そういうことも出来るのか」

 

「思考というより、貴方の感情が私にも伝わりますので、それで察しました」

 

「君に嘘を吐くのは難易度が高そうだね」

 

「神様を騙すなんて愚行はお勧めしません。それに私達は一心同体です。少しずつでも、私は貴方に信頼してもらえるよう努めます」

 

「…………そうか」

 

「ですから、その手始めに教室まで案内しませんとね」

 

そう話し込んでいる間に、分かれ道へ戻ってきた。

あの校舎へ向かうときよりも、時間が掛かったような気がする。

「普通に真っ直ぐ進んでいれば良かったんですけどね」

 

「ここに来たのは編入試験以来だから忘れてたんだ」

 

「ただの方向音痴なのでは? 貴方の記憶を辿ると迷子になって泣きじゃくって」

 

「人の過去を掘り起こさないで。……なんか相手にするの疲れてきたな」

 

幽霊でやれる範囲越えてないか? まあ憑依されたら今度は僕が記憶を覗いてやるが。

 

「ちなみに華凰は何歳なの? 見た目は僕の同級生とあんま変わんないよね」

 

華凰は少し思案する。

「天城くんよりかは年上ですね。容姿は10代後半から変わってないので、そう見られても不思議ではありません」

 

10代後半から変わらないのは凄いな。でも、質問の回答になってないよなこれ。

……にしても、やっぱりモテモテだったんだろう。神様って言い張るとこを除けば、素直に可愛いと思うし……。

「可愛いだなんてそんな……」

「だから勝手に思考や記憶を覗かないで! プライバシーの侵害で訴えるぞ!」

 

とりあえず、華凰の言う通りに真っ直ぐの道を進む。

その先に見つけた校舎は

外観は真新しく、生徒がいることも窓から確認できた。

最初からここにいた訳じゃないから、色々と0から始まるわけだ。

華凰は……カテゴリーしづらい存在なのでカウントはしない。

とにかく適当に歩いて他の人に華凰が見えるのかどうか調べないと。

 

「いい加減認めてくれてもいいのに」

 

「うるさい。さっさと職員室行って遅刻したことへの謝罪。教室へ行くのはそれからだよ」

 

……歩き回ったにしても、妙に疲れてるな。野球から離れて1クール置いたら流石に基礎体力も減るもんだな。

 

 

 

「……第一印象悪すぎ」

 

「まあまあ。落ち着きなさい」

 

神様というか幽霊であることが確定とか。

全生徒がそういう人間だったからいいけど、弄られキャラのレッテル貼られたのは完全に終わった。

 

「1匹狼を気取るつもりが、まさか群れを作ることになるとは思いませんでしたね……ふふっ」

 

「十中八九君のせいじゃないか。前の学校では寡黙で押し通してたのにさ。今後のこと全く考えてないぞ」

 

廊下で1人ガックリ肩を落とす。もうそのまま取れてしまえばいいよ……。

 

「天城くんがいけないんですよ。私の言うこと全部に反応して」

 

「悪乗りが過ぎるだろ! 顔を赤くなって、緊張しちゃってかわいいって言われちゃっただろ!」

 

まあまあと落とした肩に華凰はそっと手を乗せた。

「貴方は今のままじゃいけません」

 

急に凛とした表情を見せた華凰の雰囲気が一変し、無意識に身体が強張った。

 

「神様としての忠告、というのは建前で。やはり私は貴方をただ見てるだけではいられないようです」

 

強張った身体が、意図も容易く華凰と向き合う。

また藍色の瞳に逢う。

純度高く綺麗なその瞳を見つめる権利は僕にはない。

見えない何かから逃げ去るように目を泳がせるも、彼女は逃がす気がないようで。

 

「仲間や家族、それまでの環境を捨てて、ここへやって来たのでしょう? 貴方には大切なものを守るということを学んでいただきます」

 

「その大切なものをゴミみたいに、簡単に捨てた。信頼も一瞬にして無に帰したから。だから誰も僕を知らない遠くへ……逃げてしまいたかった」

 

逃げる以外の選択肢が僕には見えなかった。

可能性が崖っぷちで生きていたのなら、僕はそれを躊躇いなく突き飛ばしてしまったんだろう。

 

「神原学園に来た目的なんてない。ただ平穏な学園生活を送って、普通に卒業して、その後は…………」

 

「まだ決められないんですよね。自分の夢が壊れてしまい、未来像を描けなくなったから」

 

華凰が僕の両手を包んでくれた。

触れてる感覚は無くても、見えてるだけで…………なんか…………。

 

「大丈夫です。私が天城くんの可能性を示します。貴方にはまだ見えてない選択肢を、これから卒業まで、たくさん見せてあげます」

 

「……野球以外何が出来るんだかわかんない人間だぞ。そう簡単に代わりの夢が出来ると思わないでよ」

 

「私は難易度の高い方が燃えるタイプですので、ご心配なく」

 

根拠の無い自信はどっから来るんだか。それでも彼女の言葉に重みを感じた。

 

「……じゃあ寮に向かうとするか」

 

「授業はどうするんですか?」

 

雰囲気が出逢った時に戻ってる……どっちが素なんだろう。

 

「編入初日は、お世話になる教室へ挨拶するだけ。後の時間は寮の整理に充てるんだとさ」

 

「私も一緒に住むことになりますしね。やっと環境の良い部屋で寝られます♪」

 

やっぱり付いてくるんだ……。

 

「寝る前に神様……の定義とか君が何における神様なのか、頭の引き出しに仕舞わないといけない情報もあるしさ、行くよ」

 

まあ、あんな場所に居たんだし、大体は想像がついているけどね。

 

「じゃあ友好の証に手を繋ぎましょうか?」

 

「左手が空気を纏ったようにしか思えないけどさ……」

 

出逢ったばかりで、こんなにも話し込むなんて思わなかった。

線引きを忘れないように……そう注意しながら、彼女に本音を溢す。

 

「手を繋いだみたいに温かく感じるね。これから2年間よろしく、優希」

 




序章の2話目でした。

登場人物が未だに2人なのは寂しいですね。
次回も2人だけになりますが。

1週間後を目安に書ききれるよう、
仕事の合間の一筆は欠かさずに……。


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青春が始まる前日のこと。

序章の3話目です。

序章が何話まで続くのかわかりませんが
自分の中で決めている区切りまでは
ずっと序章のままと考えてます。

書くペースが上がっていますが
気にせず、マイペースに進めていきます。



学園よりも奥。登坂を歩くこと15分。

辺りが森で囲まれた別荘のような建物、学園寮に辿り着いた。

華凰はもちろん疲労することなく、涼しい顔して鼻歌まで歌う余裕っぷりだ。

登坂の序盤から息が上がっていた僕にとって、目の前でそれをやられるのは堪忍袋の緒をチクチク刺激した。

しかし頂上で見る景色は、木々で埋め尽くされていて、より自然を感じられた。

その清々しさで苛々は冷却され、平常心を取り戻すことができた。

まずは寮長さんへ挨拶。

この時期に編入するのは稀だから、部屋を確保できたのは奇跡に近いとのこと。

白髪のオールバックがよく似合うおじいちゃんで、困ったら寮長室にいつでもおいでと言ってくれた。

それと、もう君に神様はいるのかい?と聞かれ、返答に困ったが、神原学園の関係者だし知っているものと判断し、素直に答えた。

ただ神様がもたらすのは必ずしも良いことばかりではないから気を付けた方がいいと忠告された。

当然憑いて来ている華凰はおじいちゃんをジーっと睨み付けていた。

怒る気持ちも分からなくないが、見えないからって好き放題に動かないでほしい。

寮は屋上付き4階立て構造で、3階の212号室が僕の部屋だ。

ご丁寧にドアに掛けられた表札には天城大地の名前が筆のタッチで書かれている。

微妙に残る空白の意味は無視してドアを開けた。

家にあった自分の部屋より、ちょっぴり狭い。

片隅に積まれた段ボール以外何も無い部屋。

収納の中には、おじいちゃんが説明してくれた通り布団一式揃っている。

玄関そばに小さなキッチンがあり、小さな冷蔵庫も付いている。

暖房、冷房の設備があるのも嬉しい。

 

「内装は意外と新しいですね。最近改装したのでしょうか?」

 

キラキラに目を輝かせてはしゃぐ華凰。

 

「珍しげに見てるけど、僕に出逢う前にも見てるんじゃないの?」

 

「何を言いますか。あの美術室から離れてませんよ」

 

華凰はやれやれと呆れて言葉を吐いた。

 

「じゃあなんで学園の敷地内把握してるの?」

 

当然の質問を投げると、華凰は冷静にそれを取って返した。

 

「あの校舎は2年前まで使われていました。だからあそこにあった作品や教科書もあれば、美術室内の掲示物もあります」

 

よく見てなかったから、あんまりわかんないけど話に合わせておこう。

 

「確かに教科書は散らかってたね」

 

「校舎が使われなくなるのなら当たり前ですが、生徒にお知らせしますよね」

 

「それは学園側の義務だし」

 

「お知らせと一緒に学園内の地図を配布されましたが、美術室内の掲示板にも貼り出されました。それを眺めながら新校舎の構造を想像するのが楽しみでした」

 

「それは……悲しい楽しみだね」

 

「今日はほんの一部でも拝見出来たのが幸せでした。天城くん、ありがとうございます♪」

 

普段真顔なくせに、こういう時に微笑むのは卑怯だね。

 

「お礼は、僕の左手にでも言いなよ。これが原因で、ここに来たようなものだから」

 

そう言いながら、左手の甲に残る傷痕を擦る。

過去を覗けるのであれば、口に出す必要もないと僕はそれ以上も何も言わなかった。

 

「先程手を繋いだときに思いましたが、どうされたんですかそれ?」

 

華凰は純粋に疑問を投げつけてきた。

嫌な思い出を面白可笑しく話せるほど、僕の心は強くない。

 

「気になるんなら頭の中を覗けばいいだろう」

 

「……いえ、それは止めておきます」

 

声色と言葉で華凰は察したのか、追求しようとはしなかった。

ただ、「貴方は今のままじゃいけません」、あの言葉からして、てっきり覗かれてるんだと思っていたけど……勘繰りが過ぎたかな。

 

「真剣な話は後にするとして、日がある内に荷物整理するよ」

 

「家族まで捨てた割には随分と自宅から持ち込みましたね?」

 

「僕自身が働いて得たお金で買ったものだし。自分の物は全部持ってきた。色々準備が必要だったから、そのお金も底を突いてるけど」

 

「働く気力はあったんですか」

 

「事が起こる以前の話。野球をやってたから、周りに比べて劣るものの、体力には自信を持って……そういえばさ」

 

「ん? どうしました?」

 

「華凰に憑かれてから、体力の減りが早いというか、疲れやすくなってるんだけど、金縛りとかしてないよね?」

 

短距離走より持久走が得意な身として、無視できない問題だ。

馬鹿みたいな体力があったからこそ、野球しながら働くこともできた。

神原学園編入後も働くことを視野に入れていた僕からすれば、金縛りであってほしいと願う所だ。

しかし僕は彼女の返答を、理解しようとしなかった。

 

「金縛りは知りませんが、学園内において天城くんは神憑りしてるので、私の能力と合わさった状態なんですよ」

 

「………………は?」

 

「私は体力からっきしなので、恐らく体力の他に運動能力も下がっているはずです」

 

神憑り……? よくわからないけど、体力無くなったの他に運動音痴にでもなったんだと言いたいのか?

 

「聞かれるまで黙ってるつもりでしたが、試しに段ボールのどれか1つ持ってみてください」

 

言われた通りに段ボールの1番上を取った……その瞬間である。

 

「!!? おもっ!?」

 

「危ないですね」

 

と華凰は涼しい顔して段ボールを支えてくれた……支えて?

 

「あ、ありがとう。でも、どうして段ボールに触れてるの?」

 

「それは実体化したからです。貴方と2人っきりの時しかならないと心に決めてるのでご安心を」

 

幽霊が実体化出来たら生きてるのか死んでいるのか、よくわからなくなるね。

 

「実体化出来るのは学園の敷地内に限定されてますし、何より普通に幽霊でいる時よりも疲れますしお腹も空きます」

 

「生きてるのと変わんないな。あと遠回しにご飯が食べたいって言ってるのそれ」

 

「天城くんに逢えたからこそ、こうしていられるんです。それに食べ物を見てるだけって想像以上に耐え難いものなんですよっ!」

 

お供え物として置いていればいいってわけではないらしい。

 

「晩御飯は後で考えるとして、実体化しているなら模様替え手伝ってよ」

 

「…………………………」

 

「露骨に不満そうにしない。働かざる者食うべからず、だからな」

 

「……ナンデスカソレハ?」

 

「壊れたフリしても無駄だから諦めて」

 

ブツブツ文句を呟きながら、渋々段ボールを運んでくれる華凰。

何故か体力と運動能力が落ちたようなので力仕事は任せる。男も女も人も神も関係ない。

 

「終わったら神憑りとか実体化とか、その他諸々の事について話してもらうからね?」

 

「話さなくても天城くんが私の頭を覗いてくれたら……」

 

「それが出来ないから話せと言っとるんだ阿呆。一般人なめてるのか?」

 

 

夕陽が山に隠れ始めた頃、殺風景だった部屋はようやく僕の色に染まった。

床には水色のカーペットを敷き、窓には黒いカーテン付けた。

窓際に組み立て式のベッド。部屋の中央に足が折り畳める丸い木製のテーブル。

収納の襖を塞がぬよう、これまた組み立て式の本棚を2つ設置。漫画や雑誌、教科書の類いはここへ。

コンセントも念のため蛸足を持ってきたので、繋いでテーブルの下へ。

そこへ全財産の5分の3を注ぎ込んだノートパソコンに繋いでいる充電器を差込み、テーブルにパソコンを置いて完成。

寮長のおじいちゃん曰く、ネット環境は2、3年前に整えたので使えるとのことなので、早速慣れた手つきでパソコンの設定を終わらせた。

 

「天城くん」

 

作業を終えて一息吐くと、華凰に名前を呼ばれた。

 

「晩御飯ならもうちょい待ってて。流石に休ませてほし」

 

「どうして私のマストアイテム、キャンバスが無いんですか」

 

荷物を整理しながら華凰の話を聞いた。

何でも自分は【芸術】の神様だとのこと。

この【芸術】という枠組みが非常に広いため、得意な事は多いが、知識量あっても専門家に劣る。

所謂、広く浅くというやつだろう。

その華凰に神憑りされている僕はその恩恵を受けているらしく、下がった能力もあれば上がった能力もある。

それが何なのか分からないが、上がった能力は元々鍛えれば、それだけの力を発揮できるというもので、言うなれば生まれた時から持っていた才能に似ている。

能力が意味わかんない事になっているのは、この学園内での話であって、外に出れば恩恵の影響は受けないとのこと。

小学生の頃から鍛えてきた筋肉が最早飾りとなってしまったのは、今までの努力を否定された気がして嫌になるよ。

 

「キャンバスなら、あのオンボロ校舎から自分で持ってきなさい」

 

「神様の言う通りにしないと罰が当たりますよ」

 

「対等だって言ったろ? 君も一心同体って言った以上、上も下もないよ」

 

部活動に入る気は無いのに、そんな重たいものを持ってこようなど思わない。

 

「それに僕は絵が下手だし、あっても邪魔くさいんだよね」

 

「私の恩恵を受けている今の貴方なら絵を上手く描けます。神様の保証付きです」

 

「描く機会があればね。とりあえず生徒手帳にパソコンのメアド書いとかないと」

 

「あれ? 同級生達とは仲良くなるつもりはない、そんなようなことを仰ってませんでした?」

 

華凰は露骨に僕を煽る。

言ってやったことへの満足感なのか、ここぞとばかりのどや顔を決めていた。

 

「華凰のせいで、あんな状況になっちゃったし。それに僕は現状から変わらないといけないんだろ? なら簡単な所から変えてみるんだ」

 

行動。これほど手軽に変えられるものはないだろう。

大概日々生活する中で詳細は違えど、大枠そのものは変化しない。

起床→朝食→洗顔→歯磨き→身支度→登校→授業→昼食→授業→部活→下校→勉強→晩御飯→風呂→就寝。これが学校に通う人間の生活サイクルだとして、何回も繰り返されると、当たり前に思うか飽きてくるかのどちらかになるだろう。

固定される箇所は別にして、その他自由に出来る時間帯は、慣れないことをすることにしよう。

そこを変えるだけでも、日々過ごすのも楽しくなるのではと僕は思う。

 

「と言っても、華凰に憑かれた事が何よりも大きい変化だよ」

 

「天城くん…………」

 

「まあその変化が、どういったベクトルに向くのかわからないけどね」

 

「私の感動返してください」

 

「真顔にならない。晩御飯の準備……と言っても、調理器具は鍋とフライパンくらいしかないし、今日の所はカップ麺だな」

 

「カップ麺……全然お腹が満たされなさそうです」

 

「君が想像するよりも量があるから安心して。じゃあ貴重品を持って、購買所に行こう」

 

靴を履き、ドアを開ける前に後ろを振り返り、開けたときは違う風景を見て、新しい生活が始まることを再度自覚した。




3話が終わりまして、
ようやく2人以外の人物が出ましたね笑

1話目もそうですが、名前が判明するまでに
話数を跨いだりしてますが、
特に決まってないとかではなく、
適切な時に名前を出したいというだけです。

物語の語り手は天城くんなので、
彼と関わりを持つことで初めて名前が分かる。
現実においても私自身関わりが浅いと
教えられたとしても忘れてしまいますし笑

次は4話目ですね。
やっと学園生活始まります。
朝から同級生達とちゃんと授業を受けます。

思えば学園ものって登場人物が多いですね。
各々キャラクター像を書き分けられるように
じっくり時間をかけて書いてきます。

ここまで読んで下さった皆様へ
まだまだ拙い作品をお読みいただき
ありがとうございます。
この作品がいつまで続くのか
私にもわかりませんが
温かい目で見守って頂ければ幸いです。


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人を信じられるように……

こんばんは。蓬操です。

やっと第4話ですね。
天城くんと華凰の学園生活いよいよ始まります。
そういえばルビの機能がよくわからず使ってないので、
名前の読み方がわからない方いらっしゃるかと。

天城 大地(アマギ ダイチ)
華凰 優希(カホウ ユウキ)

作中で示せればいいのですが、
まだ慣れてないため申し訳ありません。

そして今回で名前つきの登場人物来ます笑
おじいちゃんとかじゃなく、名前あります。
人物を増やすのは大変だと思う今日この頃。

それでは本編をお楽しみください。どうぞ。




朝は大概目覚ましをセットしておく。

昔から設定した時間よりも前に起きる癖があるから、普段は遅刻知らずだ。

しかしスマホやら携帯やらは持っておらず、部屋に飾っていたペンギン型時計を持ってきている。

設定した時間になるとペンペンと可愛い鳴き声がするらしいが、1度も聞いたことはない。

 

「天城くん、カップ麺おかわり~……」

 

何の躊躇いもなく、俺の隣で寝ている神様。

カップ麺……そんなに美味しかったんだろうか。

いつの時代の人だったのか分からないし、大分昔の人かもしれない。

格好は神原学園の女子の制服を着ている。ここの生徒と言われても、誰も疑わないくらい似合っている。

神様が寝ている内に朝飯を作ることにしよう。

 

さて昨日買ってきたパンとベーコンで、ベーコントーストが出来た。

米が欲しかったが、経済的余裕も無いので、いまは我慢だ。

「いただきます」

「いただきま~す♪」

 

ガブッと口一杯頬張る。

しかし向かい合う形で、反対側を食べている人がいた。

端から見たら……。

ベーコンの大半を持っていった華凰は、その旨味にご満悦だった。

 

「僕の朝飯……」

 

「おはようございます、天城くん。食事の前くらいは起こしてください」

 

「いや基本的に食事いらないでしょ君」

 

「昨日働いた分の駄賃じゃあ足りません。私も貴方と同じく1日3食いただきますので、そのつもりで」

 

「…………」ポカッ!

 

「あいたっ! 何をするんですか」

 

「さっきトースト食べてたから実体化してるだろうと思ったから。やっぱりこちらから殴ることも出来るんだね」

 

「殴る必要性を感じません」

 

「食べ物の怨み、だよ」

 

ベーコンだけ取っておいて何を言うんだ。

残りのパンを食べ終えて、制服に着替える。

見られて困りはしなかったが、途中で華凰は突然顔を真っ赤にして部屋から出ていった。

とりあえず着替え終わり、用意していた鞄を手に外へ出た。

ちゃんと鍵を閉めて。

気持ちを新たに振り向くと、体育座りで僕を見つめる華凰がいた。

文句言いたげな顔してたけど無視して登校することにした。

 

 

 

2年B組。1学年4クラスある学園だが、このクラスの生徒は人当たりの良い人が多い。

皆からは絶対にCクラスやDクラスの教室へは行かないようにと釘を刺された。

交流が無いせいか、どんな人達なのか気になるのが本音だ。

1クラス20名であり、僕が編入する前に誰かが転校したため、クラスの人数に変動はない。

ただこんな田舎の学園にしては、人数が多いような気がしてならない。

 

「大地ぃ~、おはよう!」

席が近いのに声が大きい……正直に言うとかなりうるさい。

 

「朝から声大きいよ。日永……だっけ」

 

「洋光な。ひ・ろ・み・つ・な!」

 

日永洋光と言う彼は、自己紹介のあと、やたらしつこく話しかけられた。

お前女子受けいいんだな! あと筋肉スゴっ!なんか運動してたん?

と言った具合に、質問のマシンガン乱れ撃ちしてくる始末だ。嫌いではないけど。

 

「まあ、ここの授業初めて受けるから、色々教えてくれると助かるよ」

 

「任せろ!」

 

名前に負けないくらい眩しい男だ。

彼みたいな人がいたら、チームも少しは変わっていたんだろうか。

 

「1時間目って科学だよね?」

 

「おう、そうだそ」

 

「僕ら、ここにいていいのかな? 科学とかって大概実験室に移動するよね」

 

「………っあああ!!」

 

「!!??」ビクッ!!

 

今日1出ました。

 

「な、なに移動だったの? じゃあ早く道具持って向かわなきゃ」

 

「宿題……忘れてたわぁ」

 

なんとも間の抜けた台詞に呆れてしまった。

 

「なんで、宿題あるって教えてくれないんだよ、大地!」

 

「ここの授業受けるのが初めてって言っただろ! そんな事情知るか!」

 

彼は、あんまり頭が良くないかもしれない。

 

「天城さん、おはよう」

 

日永とは正反対の控え目な声が聴こえた。

 

「おはよう…………えっ、とぉ…………」

 

「月夜ちゃん、聞いてくれよ!」

 

月夜ちゃんと呼ばれたその子は、腰まで伸びた黒髪が綺麗で、スカートも膝に掛かる程度にしていたり、学園の紹介されそうなほど模範的だ。

月夜…………。ごめん、名字が出てこない。

 

「星河と呼んでください。相変わらず馴れ馴れしい人ですね、日永さんは」

 

「そこがオレの良いところであり、ダメなところだからな!」

 

「自覚はしてたんだね」

 

思わず口から零れた。悪気は……ないはず。

 

「ほら、天城さんも思っていたようですよ」

 

「そりゃヒドいよ、大地!」

 

「だって、出会ってまだ2日じゃないか。それをまるで幼馴染みたいに」

 

「大地悪い。幼なじみは女の子が理想的なんだ。男は受け付けんわ」

 

「僕から言い寄った風に断るのは可笑しいからな。あと心底どうでもいいね」

 

(貴方って人とこんなに話せるんですね)

 

他の人には見えない華凰が急に喋りだして、僕は思わず反応する。

こいつ直接脳内に、という気持ちはこんなんだろうか。

 

「天城さんは、まだ慣れないみたいですね」

 

″何が″が抜けていても、その空白を埋めるのは考えるまでもなかった。

 

「少し前までは考えられない事態だからね」

 

「大地の神様って女の子ぉ?」

 

「言ったところで、僕以外には見えないらしいし、確かめようもないよ」

 

「そうですよ日永さん。知ったところで無益なんですから」

 

話を降った君がそれを言いますか。

 

(…………)

 

「仕方ないなぁ」

 

「星河……さん、1時間目の科学って場所ここでいいの?」

 

「いえ実験があるので、移動しないと」

 

「じゃあ移動しようか。駄弁って遅れて怒られるのは嫌だからね」

 

話す最中にまとめていた道具を持って、席から立ち上がった。

 

「どっちにしろ、オレは怒られるし嫌だなあ」

 

「自業自得でしょ、天城さん一緒に行きましょうか」

 

「場所分かってないから、案内を頼みたかったんだ。ありがとう、星河さん」

 

星河さんに先導されながら、理科実験室へ到着すると、同級生達に無茶苦茶歓迎され、あまりの注目に顔を伏せてしまった。

ちなみに日永は、どうやら保健室へ逃げ込んだようだが、申告した嘘の病状のせいで酷い目に遭ったというのはまた別の話だ。

ーーー神原学園 屋上ーーー

 

1人静かに過ごそうと思い、屋上へやって来た。

最近の学校は屋上が封鎖されているのが普通なのに、ここは普通に扉が開いていた。

それにしても、星河さんは少し苦手だ。

見た目は特に奇抜なわけでもないけど、目がどこか冷めているようで。

自分の内面を見られないよう、プレッシャーを放っているように感じた。

彼女もまた、詮索されたくない過去があるのかもしれない。

僕も同級生達とは一線を引いている。まだ2日目だ。誰がどんな奴なのかわからない今はこうしているのが1番良い。

 

「貴方はそうやって警戒して……もっとオープンになりましょうよ」

 

いつの間にか隣に座っていた華凰。

 

「……昼食狙って来たな」

 

「お腹が空いたので、何か食べ物をください」

 

「その前に、オープンになれるわけないだろ。1度信用得ると、それを無くさないようにって必死になるよね?」

 

「それが普通ですしね」

 

「信用も信頼も無くした身としては、失った時の皆の眼……あんなで見られるのは御免なんだよ。だから大切にならなくていい。近すぎず遠すぎず。そんな関係が丁度いいんだよ」

 

「でも、そんな風に思うのは貴方自身、周りを大切に思ってきたからではありませんか!」

 

初めて……華凰が怒った。

僕を睨む瞳には涙がうっすら浮かべていた。

いきなりことに、僕はちょっぴり動揺した。

 

「そうだね。大切だと思ってたさ。だから周りの期待に応えようと、この左手が治った後も頑張ってみたのにさ……皆は僕を諦めた」

 

「それなら、家族くらいはそばにいて」

 

「その家族に、いの1番に捨てられた気持ち。君に分かるのかな、神様」

 

「っ!」

 

「野球選手の契約金だとか年棒だとか。そういうの期待されていただけ。自分から捨てたなんて強がったけど、捨てられたが正しい表現なんだよね」

 

「……だからといって」

 

華凰は苦しそうに言葉を繋げようとする。

神様が元は何だったのかなんて僕は知らない。

人の姿を借りている何かかもしれない。

たった2日だ。それだけの時間で、分かったなんて軽々しく言ってほしくない。そう思っただけ。

 

「人を見放すのは早計です。貴方はまだ16年しか生きていないじゃないですか」

 

「!」

 

「たった16年で人間の何が分かったんですか? 天城くんの周り以外にも人はいます」

 

「…………」

 

「そして貴方に手を差し伸べてくれる人が、ここにはいます」

日永や、星河さんのことを言ってるのかな。

日永は軟派だし、星河さんは不思議ちゃんだし。あの2人のどこを信じたらいいんだよ……。

 

「先ずはその人達を信じることから始めてみたらいいじゃないですか」

 

「なんでそんなに、僕を人と関わらせようとするんだよ?」

 

「孤独のままじゃ、誰だって生きてはいけません。それと…………」グシグシ

 

華凰は涙を拭い、笑顔でこう告げた。

 

「貴方が私から卒業した後も幸せでいてほしいんです」

 

「っ!?」

 

幽霊の癖に……。

なんて綺麗な笑顔で言うんだ。幸せになってほしいとか、そんなことを言うのは過去を振り返っても君が初めてだね……華凰。

 

「卒業……なんて言葉、編入早々聞かされると思わなかったけどさ。じゃあ君が消えるまでに人を信じられるようにするよ」

 

「私のことは、どうなんでしょうか?」

 

「どうなんでしょうって言われても……。うーん……神様だからノーカンで」

 

「えっ」

 

「泣きそうな顔しない。だって神様を信じる者は救われるって言うだろ? 君が僕の神様なんだったら信じたっていいじゃないか」

 

「…………」

 

「な、なんだよ」

 

「いえ、そんな素直に言えるなら最初から言って下さいよ……///」

 

泣いたり照れたり忙しい人?だね。

 

「ごめん。心に何重も鍵かけてるから開くのに時間掛かるタイプだからさ僕は」

 

「それじゃあ、次は私の能力の見せ場ですね!」

 

次? ああそうか、美術の時間か。移動もまた案内してもらわないといけないし切り上げるか。

 

「じゃあ残りのクリームパン、食べ指しだけどいる?」

 

「是非とも」

 

回答早いなぁ。

僕がひょいっと投げると、華凰はそれに飛び付きクリームパンを口で見事にキャッチした。

いつも、幸せそうに食べるんだよね華凰は。

 

「僕も君が今みたいに幸せそうにしてくれた方が癒されるから、そのままでいてよ華凰」

 

彼女が食べるのに夢中で、僕の呟きはそっと風に流されていった。

扉へ向かって歩き出すと、小さな足音が近づいてきたのを確認して、僕らは屋上を跡にした。

 

 




以上、序章の第4話でした。

日永 洋光(ヒナガ ヒロミツ)
星河 月夜(ホシカワ ツキヨ)

新たに出てきましたこの2人。
天城くんが人を信じるきっかけになるのでしょうか。
2人の事を信じるところからが
彼の本当の再出発なのかもしれませんね。

信用を築くのは大変なこと。
信用を無くすのは容易なこと。
身を持って知っているからこそ、
天城くんにはそれを学んでほしいですね。
華凰ちゃん、そこのところ頼んだよ。

…………なんか恥ずかしくなってきたので、
この辺で失礼します…………。



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神憑りが意味するもの。

こんばんは、蓬操です。

序章の第5話ですね。
仕事の合間に書いていると、
あっという間に文字が埋まって恐い。

因みに「青春は神憑りにつき ……」は
ハーメルンに直書きではなく、
携帯のメールで下書きして、それをコピペしてます。

ハーメルンだと横幅が大きすぎて、
非常に慣れないためです。

ですが、何とか慣れるようになろうと、
最近ある原作の二次創作として試しに書いてます。
中々慣れず、完成がいつになるのか不透明です。

二次創作は連載形式にしない方向なので、
書き上がるのに時間がどうしても掛かりますね。
年内にアップ出来たらいいなと思う今日この頃。




ーーー神原学園1階 美術室ーーー

 

教室へ戻ると、日永と星河さんが待っていた。

美術で使う道具も貸し出されるため、持っていくものは筆記用具と教科書、資料集と手軽だ。

日永の様子が若干おかしいと思ったのだが、とりあえず無視をして3人揃って美術室へ向かった。

僕自身それまでの授業は受けてないため、最初は誰かの似顔絵をデッサンしてていいと言われ、実質見学のようなものだ。

 

(誰でも自由に描いていいって言われたけど、誰にしようかな)

 

日永は授業中落ち着きなくて常に動いているし、星河さんは気付かれたら後が恐いし……。

 

(意外と臆病者ですね、天城くん……ふふっ)

 

うるさい。大体絵は下手だし、上手く描く自信あるわけないじゃん。

 

(大丈夫。私が憑いてるんですから、保証します)

…………まあ、描かなきゃいけないし、早く人を見つけて……。

 

辺りを見回していると、1人寂しそうに授業を聞いてる女の子がいた。

目線は先生がいる教壇かノートにしか動いてない。

あの子を描いてみようかな。

まっさらな画用紙に鉛筆を走らせた。

顔から順に描いていく。本人のクール加減とは違って童顔で小顔なんだ。

眉毛を弄ったりした跡もなく自然に伸びている。

目が二重なのは自前なんだろうか。

少しふっくらした口元の色も良い。

高校生の割りに、化粧っ気のない純粋なすっぴんらしい。

心の中でとはいえ気持ち悪いな僕……。

 

(私がバッチリ聞いてますけどね)ジトー

 

そんな視線向けないでくれよ。絵を描く上で観察は重要だろ。他意はないよ。

 

(ふーん……でも、私の能力だけあって、やはり上手いではありませんか)

 

確かに。生涯で最高の出来ではなかろうか。

思わず、目が点になる。

 

(例え私の力を加えても、元が駄目ならこうはいきません)

 

プラマイゼロ。むしろマーイ。そんなギャグをしていた芸人を思い出した。

 

(天城くんには元々絵を描く素質はあったんです。最初に描いたのが上手くいかず諦めたから気付けなかったんでしょう)

 

諦めた……いやあの絵の出来で、練習して磨けばこうなるとは誰も予想つかないだろ。

でも事実、僕の手で描かれた彼女はそこにいる本人をそのまま閉じ込めた写真の様に思えた。

 

「天城さん、描き終えましたか?」

 

美術の教科担任が、僕の様子を見て、問いかけてきた。

 

「はい。とりあえず一通り終わったので、これで提出します」

 

席から立ちあがり、先生の前へ歩き、それを手渡した。

渡した後、気にせず席に戻る。授業の時間も僅かだし、先生の話を聞くだけでいいだろう。

 

「好実先生、天城くんの作品もみんなのと一緒に飾りますよねー?」

 

……みんなのと?

 

「そうですね! 天城さんも今日から晴れて、このクラスの一員ですし! 今度美術室前の廊下に貼っておきますので見たい人はどうぞ!」

 

好実先生と呼ばれたその人は急にテンションが上がったみたいだ。

クラス全員飾られているのなら、僕に拒否権はないよね。

 

(天城くん、やっぱり″すまほ″とやらを買いましょう。写真撮りたいです)

 

そんな金あるわけないし、僕では契約出来ないから無理。

それに写真撮るだけなら、インスタントカメラで充分だ。

購買で売ってたような気がするから、それで我慢して。

顔を向けずに、言葉を思い浮かべるだけで伝わる……テレパシー使ってるみたいで楽しいな。

 

ーーー神原学園3階 2年B組教室ーーー

 

放課後。日永と星河さんはそれぞれ部活動に入ってるらしく、早々に教室から出ていった。

今朝、担任の宇津見先生から渡された諸々のプリント類に目を通す。

学校だよりとか学年だよりとか、そういったものは流して良いとして、問題は入部届けだよな。

部活に入る意思が無いことを伝えたのだが、この学園において部活動は義務化されていた。

それを知った瞬間、僕の学園生活計画が無惨に崩れ去った。

 

(そう落ち込まないで下さい。色んな事を試せるいい機会だと思いましょう)

 

そうは言ってもね……。

別に今日決めなきゃいけないわけでもない。

締め切りは来週の水曜なんだから、見たり体験したりして、のんびり決めればいいか。

 

(今日の夜御飯は、なんでしょうか)

 

涎を垂らしてる顔が容易に浮かぶ。

実体化してないのなら食べる必要性皆無でしょ?

もっとも晩飯はまだ決まってないんだけどさ。

ーーー神原学園1階 玄関前廊下ーーー

 

後ろの華凰の気配を確認しつつ、買い物をするため購買へ向かう。

昼時に買っても、取り置きはしてくれない。

運が良ければ刺身や寿司なども置いているそうで、これを狙っている。

しかし、野球でもそうだったが、狙っている球ほど中々来ないもの。

ここは欲がオーラに出ないよう″普通″でいることが肝心だ。

 

(天城くんはオカルト好きですね。狙ったものが取れるかどうかなんて所詮運じゃないですか)

 

君みたいな幽霊に出逢えたら、そりゃあオカルトを信じたくもなるでしょうよ。

 

「そこのキミぃ~!!」

 

突然の大声に身体がビクついた。

廊下では反響するから、大声出さないでくれ。

そう心に思いながら歩いていると、両肩に重いものがのしかかり、体勢を崩された。

 

「いたた……。急に何が起き」

「キミが桃ちゃん描いた少年だね!?」

 

女の人は目をギラギラさせて、そう問い詰める。

なんだかわからないけど、その人からレモンの香りが漂い鼻を刺激した。

いい匂いだ……と呆けつつ、少しずつ冷静さを取り戻し我に返る。

 

「その……桃ちゃんっというのは……僕のクラスの……」

 

名前を把握してないので、疑問符が付かないよう言葉を濁す。

クラスメイトを知らないというのは、とんだ薄情者だと言われ兼ねないし。

 

「そうそ! 桃ちゃんはアタシの初めての後輩なの! 部活は別々で、ただ委員会が同じってだけだったんだよね。でもあの子、どこかふわっふわしてて危なっかしいでしょ? これはもう放って置けないって思ったら一直線! 桃ちゃんに猛烈なアタックをしてたら去年の学園祭前に心を開いたから、学園祭連れ回してね、互いに食べ過ぎてしばらく食べるのを控えた記憶が新しいよ! でも密かに寮で夜な夜なお菓子を食べてたけど、桃ちゃんには内緒よ内緒っ! 約束だよ! あ、それからキミ、美術部入らない? というかあの絵を見せられたらスカウトせずにはいられないっしょ! いやぁ桃ちゃんには感謝感謝だよ! そんなわけで是非とも我が美術部へ入部しよ♪ ね?」

 

言葉のガトリングが、鼓膜に撃ち込まれた。

ほぼ0距離と言っても差し支えない程に近く、そのくせ弾が大きいから性質が悪い。途中からは完全に死体蹴りである。

たぶんというか絶対、日永に会わせてはいけない人物だよこの人。

そして話を聞く限りでは先輩らしい彼女の押しにやられたんだろうね、その桃ちゃんとやらは。

 

「熱烈な……アプローチありがたいんですけど。今日決めるつもりではなかったし。まだ他の部活動も見てないので」

「なら余計よ! 選択肢が増える前にキミを確保したいのよ!」

 

銃声が鳴り止まない。

出来たら関わりたくないんだけど……

「大丈夫、キミなら必ず即戦力になれる! 年俸は決めてないけどそこは出来高払いで、何なら次期部長も確約す」

 

その言葉を聞いた瞬間、急に世界は暗転し、僕の意識が途切れた。

 

「貴女は大きな失敗をしましたね」

 

…………あれ? 目の前にいるのって先ほどのガトリングと、僕?

なんか身体が浮いてるような気がしてならないんだけど。何が起きた?

 

「天城くんに対して、その誘い文句は禁句ですので」

 

「………………」

 

おお、銃声が止んだ。

というか、この状態ってまさか……。

 

「それ以前に、学園に来てまだ2日目の天城くんに対して、そんな押し迫るような真似は威圧感を生み出し、天城くんも嫌がります。それに彼は野球を通して負ってしまった心の傷を治すためにここへやって来たというのに。ここの学園の生徒は物珍しさだけで寄ってたかってまったく。興味本位で近付く人、私は大嫌いです」

 

完全に華凰だな口調といい。ただ見たことがないくらい激おこの様子。

僕のために怒ってくれるのは嬉しいけど、あることないことを言うのは止めてほしい。

普段はあまり感情出さない分、爆発力が凄まじい。

 

「天城くんを誘いたかったら、その態度を改めてから来なさい。それでは失礼します」

 

そう言った華凰が入っている僕の身体は、先輩を置いて即座に立ち去った。

 

「あちゃー、あちらの神様怒らせちゃったかー」

 

そんな独り言を拾ってしまうも、僕は僕を追うことに必死だったため彼女に声を掛けられなかった。

今度先輩と会ったとき、どんな顔したらいいのだろう。

関わりたくないと思ってるのに、僕はその事ばかり気にしてしまった。

 

ーーー学園寮 212号室ーーー

 

「いきなり何してくれてんの君は」

 

夜御飯にする前に、僕はフローリングの上で華凰を正座させていた。

当然の光景である。

「なんで前兆なく、超常現象起こすの? いきなり幽体離脱とか、あのガトリングに撃たれてマジで死ん……そこまでは思ってないけど、なんで死んだ!? くらいには思ったんだよ?」

 

「ごめんなさい。朝からストレスが溜まっていたのでやってしまいました」

 

「要するにイライラしたからやっちゃいましたって言いたいのかな? 万引き犯かお前は」

 

「神様は犯罪などに手を染めたりしません!」

 

「ツッコミの台詞として言っただけであって、別に犯人扱いしたんじゃないよ」

 

あの後、元に戻ったときは既に寮にいて、両手が重いなと思ったら、大量に買い込まれたカップ麺の入った袋を持たされていた。

とりあえず華凰を部屋に置いといて、疲労に苛まれながら購買まで歩き、ある程度返品した後、目当ての物を購入して帰ってきた。そして現在に至る。

 

「互いに自己紹介してないし、こっちの過去暴露した所で納得するわけないだろ」

 

「ですが、天城くんを追い込んだあの言葉が出たとき、明らかに貴方は動揺したじゃないですか!」

 

確かに年俸がどうとかの言葉を聞いて、視界が回っている感覚に陥った。

両親に攻められたその時と同じように、自分の存在があやふやになった。

異常だ。言葉1つで、こんなにも心は揺さぶられ、歪みそうになる。

なんて脆いことか。

 

「トラウマ抱えてたらああもなるだろ!」

 

「ならあそこ黙っていたら、流れで美術部に入ることになってるんですよ? 折角これから色んな可能性を探ろうとする、天城くんの覚悟が台無しにされると思うと私には堪えられませんでした」

 

「だからって、身体に乗り移っていい理由にはならないぞ。本当に僕を思ってるんなら、前以て僕に伝えること。予想外の出来事はびっくりするから嫌なんだよ」

 

「……それでいいのですか?」

 

「良いも何も、今後こういうことが無いとは言い切れないし。ただ乗り移るんなら、事前に報告してってことさ。あとそれと」

 

「?」

 

「もしまた僕の身体で好き放題してたら、脳内でも会話しないからね」

 

「…………」ウルウル

 

「涙目になってもダメだよ。君が前に言ったよね? 僕らは一心同体って。なら、身体だけじゃなくて心も1つにしないといけないでしょ?」

 

「はい……」

 

「なら、尚更2人でこれから決める約束事くらい互いに守ろうよ。それを守り抜くことで、僕も少しずつ君を信頼できるようになると思うから」

 

「天城くん……」

 

「その約束事は御飯の後でいいだろ。流石に疲れて腹が減りすぎたわ」

 

それがなんであったかは、敢えて聞かない。

どういった現象で、どういった縛りがあるのか。

華凰が話してくれないのは、まだ僕を信じてない所があるからかもしれない。

みんなはまだ2日目だと言うのに対し、当事者の僕としてはこの2日間があっという間に過ぎたように感じた。

神様の恩恵や乗り移りを味わった身として、ある考えが頭に過ってしまった。

それは全生徒が神様に取り憑かれているのなら、学園内にいる間は各々、神様の恩恵に隠された本当の自分を押し殺して生きているのではないか、ということ。

他にもいくつか思い浮かんだけど、今はこの考えが吸盤のように貼り付いて離れない。

 

『学園内において天城くんは神憑りしてるので、私の能力と合わさった状態なんですよ』

 

裏を返せば、学園の外に出れば本当の自分に戻るということ。

神様の影に隠れている人と仲良くなるには、どうすればいいんだろう。

2日目にしてよく話す、あの2人のことを思って考える。

その最中、視界が静かに閉じていき、今日という日が終わってしまった。

 

 




以上、序章の第5話でした。
ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。

ふと思ったのですが『次回予告』のようなもの
やってみたいものですね笑
何度書いてみても最後にスタンバイ!と
付け足したくなるのは何故でしょうか笑

さて11月の終わりまでに5話も書いていたのは
少し驚いてしまいました笑
年内には序章は終わる予定です。
第1章までもう少しです。
年越し直前くらいには
第1章の1話を投稿出来るように頑張ります。


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週末は理不尽により……

こんにちは。蓬操です。
昨日に続き、短めですが投稿です。

今日も23時に投稿するつもりでしたが
このペースならあと2回で序章も終われそうですね。

休みの日は時間を気にしなくていいのが良い。



週末なのに校舎へ来ているのは可笑しいと思いつつ、現在は文芸部の部室にお邪魔している。

読書は比較的する方だし、誰1人声を発さずページを捲る音、筆を走らせる音だけで満たされた空間は好きだ。

だから文字を読みながらの考え事も非常に捗る。

例えばこの週末。運動系の部活動を除き、様々な部活動を体験させてもらった。

手芸部、科学部、料理研究部、テーブルゲーム部、占い部、数学部、英語研究部などなど。

数々の体験を通して、神憑りの状態にある僕について分かったことがある。

華凰が″芸術″の神様だとすれば、それに関したことが出来るようになるだけだと思っていた。

しかし、実際は″芸術″と括れない分野においても、そつなくこなせていた。

数学や科学などがまさしくそれだ。

ここに来る以前は全体で見ると成績の悪かった教科だったのに、部員の人達の説明も難なく理解できていた。

しかし絵が描けたこの前のこともあるし、″芸術″の神様なんだろうけど。

僕に掛かる恩恵は、広い分野を平均以上にこなせる″器用さ″だ。

そうすると、華凰の言う″能力が上がった″という表現は少し間違っているような気がする。

 

「天城さん」

 

正解なのか間違いなのか解答を思う中、部室にいたもう1人が僕を呼び掛けた。

僕も、その人の名前を呼んだ。

 

「星河さん、どうしましたか?」

 

「いえ、長いこと部室に居てくれてるから、他の部活動はいいのかなと」

 

同級生の星河さんと部室で鉢合わせたときはビックリしたのと同時に納得した。

文芸部は3年生が進路を決めるのに手一杯で、部室に来ることは全く無いらしい。

星河さんは先代から部長を任されている。それでもどっかの誰かのように入部を押し迫ることもなければ、勧誘しようという気さえも見えない。

かと言って、部室に長居する僕を追い出そうとせず、気遣ってくれる。

今日まで何度か彼女と話してきたけど、いまいち彼女という人間がわからず、意図せず警戒してしまう。

 

「寮にいても、時間を無駄にするだけ。こうして部活動体験している方が何かと勉強になるし」

 

「勉強……ですか」

 

「学園に来て数日間。まだ学園の生活に慣れないし、神様について理解するのに時間が掛かりそうだからね」

 

星河さんには、神様について話してみた。

彼女なら周りにおいそれと話し回ったりしないだろうと判断したからだ。

華凰の詳細については、もちろん秘密に。

 

「それより小説、書いてるんだろ? 僕と話してていいの?」

 

「もう起承転結の転まで書けてます。これは自分の趣味の範疇だから、そこまで集中するものでもないの」

 

「そうか。まあでも、ちょうど現実に帰って来たし、ここいらで出ていくことにするよ」

 

「そうですか……」

 

そう言うと、彼女の視線は作文用紙に戻った。

 

「また、本が読みたくなったら来ていいかな?」

 

入部するかどうか別としてね。

 

「それは構いませんが」

 

彼女は視線をそのまま、

筆を走らせながらこう続けた。

 

「出来たら、入部を考えてくれたら嬉しいです」

 

顔色を変えずに星河さんはそう言った。

もっと嬉しそうにしても良さそうなのに。

 

「わかったよ。じゃあまた月曜日、教室でね」

 

 

文芸部の部室を出て、僕は見学に行ってない部活動を探し始めた。

廊下で走り込む運動部?の人達とすれ違う。

男女が混ざるそれらに、″桃ちゃん″が居るのを確認した。

「! …………」

 

向こうもこちらに気付いたようだ。

あの後、本人から名前も教えてもらい、白幡桃子という。

白幡さんは、僕が先輩から一方的な勧誘をされたことを知ったらしく。

 

『ご、ごめんね大地くん!』

 

彼女からの第一声がそれだった。いきなり名前呼びなのが印象的だった。

髪はセミロングで眼鏡の似合う、星河さんとはまた違う文学少女みたいな白幡さん。

そのアワアワした様子を見ていると、あの人が言っていた″危なっかしい″というのも頷ける。

勧誘自体は嬉しかったし、先輩の態度に問題があっただけだから気にしなくていいと伝えた。

『でも、あたしが勝手に喜んで舞い上がって彩夏先輩に話したのが原因だもん。先輩はこれと決めたら中々ぶれない人で、その、ごめんね』

 

あの絵を見て、そう思ってくれたんだ。

勝手に描いてしまったし、一歩引かれるかなと思ってたのが、その一言でで一蹴された。

ただ今はまだ自分の実力で描けたわけじゃないのが申し訳ないけど。

 

『なんであたしをモデルにしたかは知らないけど、出来たら新しく1枚描いてくれないかな。部屋に飾りたいよ』

 

そう言われた僕は断る理由も無かったため、授業用のノートを取り出し、その1ページに彼女を閉じ込めた。

『ありがとう』

 

お礼を言った彼女の微笑みが寂しげに見えたのが少し気になった。

 

『どういたしまして』

 

詮索できなかった。今は出来なくてもいい。

時間が流れて、いつかなんでもない話で笑い合えるくらい仲良くなれてからでも遅くはない。

約2年近く、この校舎で共に過ごすんだ。

ゆっくり。焦る必要はない。

 

すれ違う彼女にエールを込めて軽く手を降った。

彼女はそっと顔を背けたとき、ちょっとショックを受けたのは僕だけの秘密だ。

 

 

そのあと吹奏楽部、軽音楽部、合唱部と音楽系統の部活を体験した。

どの楽器、どのパートもこなせた。音楽の″お″の字も知らないような僕が。

やはり″器用さ″がかなり強化されているにしても、出来すぎて恐くなる。

華凰が言うには、若干水増ししている所はあれど、基本的にはその人の持つ潜在能力を引き出しているだけ。

人間が筋肉本来の力が使えないのを、神様がそれを使えるように解放している状態だとのこと。

 

ただそれなりの代償があり、僕の場合は今まで鍛えてきた筋力や体力を失ったらしい。

その証拠に疲れやすかったり、重い物を持てなくなっている。

さらに推測通り、学園の外に出れば、失ったものとそれまで積んだ経験は残ることもわかった。

以前までは、喧嘩を売られても、返り討ちに出来るほどに強かった。

 

だけど……

 

「編入生。お前の神様は祈っても何にもしてくれない無能だなオイ」

 

今の僕は暴力に弱い。

たたでさえ心の弱い僕が、身体まで弱くされた。

 

恩恵の代償を痛みで味わい、動かない身体は引きずられる。

 

誰も来ない旧校舎の散らかった教室に投げ捨てられた。

声も出せず、天井を見つめるしか出来ない僕の意識は静かに終わっていった。

 




以上、序章の第6話でした。

突如、天城の身に災難が降り掛かった。
その末に直面する陰と陽は彼を惑わす。
己の無力さに嘆く人と神。
それを助けるは彼に関わりを持つ者たち。
差し伸べられた手に彼の行動は……。

次回、序章の第7話「それでも君は……」

次回予告、こんな感じでいいんでしょうか?
とりあえず第7話は1週間以内に投稿する予定です。

最後にここまで読んでくださり
誠にありがとうございます。
読んでくださる貴方がいるおかげで
私は書き続けることが出来ます。

本当にありがとうございます。
それではこの辺で、失礼します。



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それでも君は……

こんばんは。蓬操です。

序章の第7話、無事に書けました。
ここで、先に行っておきます。
前回第6話の次回予告は無意味です笑

というよりも、次回予告を考慮せずに
序章の終わりに向かってく事だけを考えて
書いてしまったのです泣

現段階での構想上、序章もあと1~2話です。
10話目はコメディ寄りの箸休めを予定。
休むことも大事なことなのです。

それでは序章の第7話を、お楽しみください。




目を覚ますと、慣れ親しんだ温もりに包まれていた。

身体全体に痛みが走り、声が漏れてしまう。

確か、誰だか知らない奴に絡まれてボコボコにされたんだっけ。

今までもそうだったが、いつも相手から仕掛けて来るから、遠慮なく返り討ちにしてきた。

ただ黙ってやられて過ごすのは、その暴力に屈して受け入れたと言っていいだろう。

今回、やられながら自分が置かれている状況を思い知らされた。

恩恵の代償を忘れて、売られた喧嘩を買ってしまった僕が悪いな。

何とか身体を起こそうとした。

 

♪ペンペンッ ペンペンッ♪

 

何故かセットされていた目覚ましが鳴った。

いまの気分的に、それはあまりに鬱陶しく、かわいいだなんて一欠片も思えなかった。

 

「うるさいっ」ベシッ!

 

騒音を止めて、辺りを見渡した。

 

「すー……すー……」

 

パソコンの画面を開いたまま寝ている華凰を見つけた。

顔には涙の跡が刻まれている。大分心配かけちゃったんだろう。

何故、彼女は傍にいなかったのか。聞くつもりはない。

僕に非があるのは当然だし、華凰を責めたところで八つ当たりでしかないんだから。

考えてみれば、喧嘩で負けたのは人生初だな。

予定していた部活動見学も今日は中止にしよう。

華凰が治療してくれたみたいで悪いけど、念のため保健室へ行っておこう。

普通の学校とは違うここならば、土日祝日でも診てくれるかもしれない。

……そういえば、服が部屋着になっている。

 

「………うはっ!」

「!?」

 

いきなり飛び起きた華凰。途端に辺りをキョロキョロし出した。

そして僕を見つけるなり、力強く抱き締めてきた。

 

「……華凰。その、痛いんだけどさ」

 

「神様を働かせたのですから、少し我慢してください」

 

華凰は僕の胸に顔を押し付けていて、彼女の表情は伺えない。

僕は出来るだけ、彼女から目を反らして、言うべき言葉を吐いた。

 

「心配、かけてごめん。それと手当てとか、慣れてないだろうにさ。ありがとう」

 

「……私の″器用さ″を以てすれば、ある程度出来るようになります。それと謝らないで下さい」

 

僕の背に回してる両手がシャツをグッと掴んだ。

 

「私こそ、貴方の傍を離れ、危機に駆け付ける事が出来ず申し訳ありませんでしたっ……」

 

彼女の謝罪に、どんな言葉を返せばいいんだろう。

 

気にしなくていいよ。

君のせいで痛い目に遭ったよ。

現状を理解してない僕が悪いんだから。

あの時こそ、君が乗り移ってさえいればっ!

感情に任せて動いた結果だから仕方ないよ。

いつの間にかいなくなって、どこにいってんだ!

今まで返り討ちにしてきた罰が昨日下っただけ。

何が神様の恩恵だ、良いことなんか何も……。

 

嘘と本音が混ざり合う。

何が嘘で何が本当なのか、僕は気付いていながら、言いたい事を言い始めた。

 

「野球に限った話じゃないけどさ」

 

「?」

 

「実力が物を言う世界では生まれの後先は何の意味も成さないんだ。だから意図せずに先輩を蹴落とし、そうして恨まれて襲われ、痛いのは嫌いだからと抗い、人を傷付けてきた」

 

先輩を差し置いて、グラウンドに立っても圧をかけられ、挙げ句の果てに脅されて喧嘩を売られて。

実力で取ったのに、理不尽としか思えない。

才能が無い上に身長も足りない僕は、ただ練習して実力を付けようと努力をしただけなのに。

出来ることに胡座をかいた怠け者は抜かされて当然だと思っていたから。

 

「昨日こうしてやられたのも、僕には必要だったかもしれない。 殴る痛みを知ってても、殴られる本当の痛みまでは知らなかったから」

 

「天城くん……」

 

「痛くて辛くて、そんな思いの中で浮かぶ名前を僕は叫べなかった。1人で居ようした自分が、どれだけ愚かだったか身に染みて、助けてなんて言えなかった」

 

やり返すのは止めよう。

あいつに同じ痛みを与えても、その暴力がまた争い呼ぶだけ。不毛だ。

傷が治った頃にでも、話し掛けてやればいい。

人であれば、ある程度は耳を傾けてくれるはず。

 

「悔しい気持ちは分かるよ。でも仕返しはしちゃダメなんだ。あいつもまた神憑りにある身だ。もしかすると…………かもしれないだろ?」

 

「…………貴方って人はわかりません。自分を傷付けた相手のことなのに、何故そこまで?」

 

僕の胸中を打ち明けると、分かってくれたのか華凰はそれ以上何も言わなかった。

 

「そんなわけだから、まずは日永と星河さんと友達になれるように頑張ることにする」

 

「それは良い事ですね」

 

「だから明日教室に行って、日永と星河さんが怪我について聞いてきたら、正直に話すよ」

 

「…………あの2人がどう思うかは別として、まあそれでいいでしょう」

 

「で、いつまで抱きついてるの?」

 

「私を不安にさせた時間だけです」

 

「それって一晩中じゃない? 抱きつかれても傷は治らないでしょ。保健室行ってくるから後にして」

 

「女子に抱きつかれて嬉しいくせに」

 

「そうだね。否定はしないよ」

 

それは本音である。

ただ自然と実体化してるようだけど、頻繁にしないでほしいと願う。

恩恵だけでもその代償を味わった身だからこそ、実体化と憑依についても、それなりの代償はあるはずだ。

そしてこれらは漏れなく全生徒の共通項だろう。

神原学園がこんな田舎にあり尚且つ有名にもならないのは、こうしたオカルト要素が強く、生徒の負担があるからなのかもしれない。

街中にあったら、色々騒がれて面倒になるんだろうね。

 

「寮長のおじいちゃんが言った通りかもね」

 

「寮長の? あの台詞のことですか?」

 

「人間の行動と同じ。善意が不幸を、悪意が幸を呼ぶことだってあるんだよきっと」

 

「私の善意は、どうなんでしょうか? 神様だからと偉そうに説教したりしてましたから……」アセアセ

 

「……まだほんの数日間だから、君の善意が何を呼ぶのかなんてわかるわけないだろ」

 

「…………」シュン

 

「そういえば、君は僕にしか見つけられないって言ってたよね。結局は、実体化も憑依も僕無しでは出来ないから周りに見えなかっただっけか」

 

「はい、言い……ました」

 

「最初にあの言葉を聞いたとき、半分はゾッとして怖かったな」

 

「こ……こわい……」ガーン

 

「もう半分は嬉しいと思ってたんだ」

 

「!」

 

「僕にしか見つけられないということは、君には僕が必要だったということでしょ? 初めて必要とされた気がして嬉しかった」

 

あの時言えなかった僕の本音。

神様なのかどうか、幽霊だからなんだとか。

半信半疑でいたけど、正直答えはどうでも良かった。

なのに華凰は必死に神様ぶったり、わざわざ実体になったり僕に乗り移ったり。

感情に身を任せての行動もあったけど、全部僕に信じてもらいたくて、認めてもらいたくて起こしたものだって思う。

確かに昨日は助けてもらえなかったけど。たった1度の失敗で見捨てるような人間にはなりたくない。

そうされた時の痛みを知ってる今だから、僕は強く思うんだ。

 

「僕にも君が必要なんだよ。君に出逢って説教されたからこそ、僕は前を向いて歩き始めた。卒業までの間だとしても、新しい道の上は誰かと一緒に歩きたいと思えるようになった。ありがとうじゃあ足りないくらいに感謝してる」

 

「…………」

 

「だから君を見捨てるような真似は絶対にしないよ。目の前の神様に誓って」

 

「!?」

 

僕はハッキリと言った。

それは華凰に何かあった時の力になりたいという決意を込めての宣誓。

言葉の裏側は、言ったり書いたりした当人にしか真意はわからない。

素直に言えばいいものを、僕はそこに隠した。

"芸術"の神様なら、それくらいの事は簡単に察してほしいところだ。

 

 

 

翌日。教室へ行くと、想像した通り日永は騒々しかった。

「大地!? そのケガ、週末何があったん!? 部活仲間から色んな部を回ってるって聞いたぞ! 部に入ってすらいないのに、もう先輩にイビられてるのか? それな」

 

「落ち着いて日永さん。天城さん大丈夫?」

 

一瞬、星河さんが日永を睨んだような気がしたけど、気のせいであってほしい。

 

「一昨日に部活動の見学に行ってて、その帰りにDクラスの人に絡まれてこの有様」

 

「編入生も大変だな! しっかし、絡まれた割りには無事なようで何よりだ!」

 

「無事ってさ、身体のあちこちが痛いんだよ?」

 

「C組やD組と喧嘩した人の7割くらいは重症を負って学園を去っていくの」

 

星河さんはそう告げた。

相変わらず、顔もほとんど変わらず、声に抑揚も無いから何を思ってるのか分かりづらい。

 

「運が良いのか悪いのか。天城さんはよくわかりませんね。でも、大事に至らなくてよかった」

 

「! …………僕も星河さんがよくわからないからお互い様だね」

 

「でもよ大地。男にだって逃げていい時はあるんだぞ。なんでそうしなかったん?」

 

「前の学校まではよく喧嘩売られてたから、いつもの調子で受けちゃってさ。ここが神原学園だって事をすっかり忘れてたせいで、ボコボコにされちゃったのさ」

 

「お前のその筋肉は飾りかよっ!?」

 

飾りです。少なくともここにいる間は。

 

「喧嘩慣れしてる、というのは意外」

 

「前の学校じゃあ因縁つけられるの日常茶飯事だったし。黙って殴られる趣味はないからね」

 

「D組の野郎が強すぎただけで、案外大地が弱いわけじゃなかったりしてな!」

 

無理矢理持ち上げないで。本当に弱ってるんだからさ。

 

 

明日が部活動入部届けの締め切りだ。

あれ以来、先輩は現れず勧誘は諦めたものだと思われる。

確かに失礼な態度ではあったが、入部してほしいという気持ちが強すぎただけだろう。

実際、勧誘された事自体は嬉しかったし。

しかしあの時、勧誘を断ったのは華凰であって僕じゃないからな。

ちゃんと僕の言葉で、気持ちを伝えるのが筋だ。

その思いを胸に美術室前廊下までやって来た。

廊下にはたくさんの生徒の絵が飾られている。

華凰が眺めていたおかげで、自分の作品がどこにあるのか探すまでもなかった。

白幡桃子の授業風景を描いた作品。

なんで彼女なのか。理由を浮かべるほど、深く考えていなかった。

ただ目に留まったから、描いてみようって思っただけ。

あの時は華凰からの恩恵を知るために試し描きした。それを素直に言うのは白幡に対して失礼極まりないだろう。

さて。部室であろう美術室からは賑やかに声が宙を行き交っている。

扉を開けようと、僕は手を伸ばした。

 

「じゃあアタシは、出かけてそのまま直帰するからお後はよろしくね!」ガララッ

 

思いっきり後ずさる。

心臓に悪いし、驚くの嫌だから止めてほしい。

 

「あっ……」

「こんにちは、先日はどうも」

 

てっきり部室内に引っ張られるかと覚悟した。

だけど、その覚悟は無意味だった。

 

「場所、変えよっか!」

 

変わらない笑顔はそこにあるのに、あの時ほどの輝きを感じられない。

先導する彼女を追っている間、僕は勧誘の返事をどう言おうか、迷い続けていた。

 




以上、序章の第7話でした。
いかがでしたしょうか?

第8話、第9話にて終わる予定の序章。

アニメが好きで、原作を読むこともあります。
例えばラノベの第1巻の序章は私が読んだ限りでは、
ほんの数ページ、多くても十数ページとか。

私にとって序章はスタートに立つのに欠かせない
大切な準備運動の様なものです。
第1章でやればいいじゃん←ダメです!

冗長だと言われようとも、
序章は起承転結の前を担う大事な役割があります。

色々言ってしまいましたね笑
序章が長くて申し訳ありませんが、
あともう少しなので、よろしくお願いいたします。

ここまで読んで下さり
本当にありがとうございました。



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僕達で決めたこと

こんばんは。蓬操です。

序章の第8話ですね。

読み返していると自分の拙さを実感します。
第9話と箸休めが終わったら
もう少し試行錯誤してから
第1章に入りたいですね。

第9話は最長となるのが確定なので、
長く期間を空けてしまいますが
どうか待っていてくださるようお願いします。

今回は後書なし。

それでは序章の第8話をどうぞ。




先輩に連れられ、校舎の裏側へ来た。

普通であれば告白とか思い浮かべるだろうけど、2回会っただけで、それをする人はいない。

 

「ごめんね! ご足労掛けた上に、ここまで連れ出しちゃって」

 

「いえ別に構いませんが」

 

「頭の包帯どしたの?」

 

「これは野郎に絡まれてボコられただけですね。おかげで休みが1日潰れました」

 

「見た目に寄らず、血の気のある子だね~」

 

先輩は僕の包帯をマジマジと見つめながら、撫でてきた。

 

「あの……」

 

「ありゃりゃ! 左手の傷痕ヒドイじゃない! 大丈夫なの?」

 

何故こうも地雷を踏んでいくんだろこの人はっ。

 

「学園に来る以前の傷ですから大丈夫です」

 

「野球……が関係しているんだよね?」

 

「この手と一緒に、夢も希望も砕けたんですけどね。まあ詳しい事は話したくないので控えます」

 

先輩はそれまでの笑顔をしまって、泣きそうな顔を浮かべて俯いた。

 

「度々、アタシって失礼だね。傷付ける、つもりなんてこれっぽっちもないのに」

 

「まあ今日で会ったの2回目なのに、的確に傷痕を抉るような発言出来るの逆に凄いですよ」

 

「皮肉しか聞こえない」

 

先輩は一向に顔を上げない。

ただ思ったことをそのまま言っただけなんだけど、先輩もこんな感じかもしれない。

 

「とりあえず、勧誘についてですが、断ったのは"僕"じゃないので改めて返事をしに来ました」

 

「! でも、キミの神様に嫌われちゃったみたいじゃんか」

 

「関係無いですよ。仮にそうだとしたら、先輩は僕を諦めるんですか?」

 

ストレートにぶつける。

それが真っ直ぐに思いをぶつけてきた人への誠意だ。

伝えたい気持ちが強すぎて、踏み潰されそうになっても、それを跳ね返してやるくらいの気持ちでいないといけない。

 

「…………」

 

「結論から言いますと、僕は部活動をしません」

 

「!?」

 

僕の発言に、先輩はハッと顔を上げた。

うっすら見えた涙の跡は見なかったことにした。

 

「なに言ってんの? 部活動に入るのは義務だよ」

 

「神様を付けられるのと同じで?」

 

「それは……」

 

「学園に着て、試験の時にも神様に取り憑かれるという話をして鵜呑みする人間はいません。大方、鼻で笑い飛ばして終了でしょう」

 

部活を断るだけなのに、わかってもらおうと、打ち明ける予定の胸の内をさらけ出した。

 

「取り憑いた神様は、取り憑かれた人間にしか見えない。神様は取り憑いた人間に乗り移る。神様は条件が合えば実体化出来る。神様の話を持ち出さないこと。それも校則にありましたけど、守る気はありません」

 

「そんなことしていいの? 学園がキミに危害を加えるかもよ?」

 

「先輩に話してる時点で破ってますし、何より」スゥゥゥ

 

『僕達で決めたことですから』

 

「!?」

 

フッ「色んな部活動の体験をさせてもらって楽しかった。僕はこれからもそうしていきたい。自由にたくさんの事を学んでいきたいんです。だから、頼まれたその時は力を貸していこうと思います」

 

僕には野球以外にも選択肢があった。可能性がまだ残されている。

嫌な予感を振り払った後は、楽しい学園生活を送りたいものだ。

 

「た、だから! それはキミの勝手な考えな訳で、学園が受け入れてくれるかどうかなんてわからないでしょ!」

 

「それを含めて、答え合わせをするために明日、担任部活動をやらない事を告げて、学園長と話せるようお願いするつもりです。まだ編入試験の面接以来、挨拶をしてなかったので、そのついでとでも言って」

 

臆面も無く、僕はそう告げた。

なんでこんな行動を起こしてるのか。

逆らう事は怖い事。

この学園に来ていなければ。

華凰に出会わなければ。

心の中で色んな言葉に襲われているのに、僕は僕の思ってる以上に、度胸があるらしい。

"神様"が関わってるのなら、僕達がやろうと決めた事は天罰が下るようなことかもしれない。

勘違いしないでほしい。

たった数日間いただけのここに入れ込んでるわけじゃない。

華凰から話を聞いて、本当の事だったらと思うと背筋が凍って、何とかしたいと思っただけ。

嘘であってほしい。 嘘なのが1番いい。

そう願いながら、明日の解答を臨む。

 

「そういえば自己紹介まだですね。僕は天城大地と言います。先輩は?」

 

「葉風亜樹……」

 

「じゃあ亜樹先輩。また話したいことあったら、呼んでいただいて構いませんので失礼します」タタッ

 

「あっ! ちょい……!」

 

「それと、白幡ちゃん押しに弱いようなので、あまり迫らないようにして下さいね」

 

亜樹先輩を残して、その場を立ち去った。

 

 

 

もう授業は終わった。

明日は色んな事が起こるんだろう。

学園長に駆け寄って何の解決になるのか知らないけど。

自分の未来のために動き始めなければならない。

そう覚悟を決め、寮へ向かおうと歩いてると、突然腕を掴まれた。

 

「もう帰りますか?」

 

振り向いた先に、星河さんがいた。表情はいつもと変わらない真顔だ。

 

「部活に入ってない僕は寮へ帰る以外に用事なんてないからね」

 

「それなら、少しだけ話がしたいけれど、いい?」

 

「部活動の事なら、日永もいるときに話した通り、僕はどこにも入らないよ?」

 

「そういう些細な話じゃなくて」

 

僕の腕に伝わる力が強くなる。

その意図を汲めず、僕は首を傾げて彼女の言葉を待った。

何かを決めたように、僕の目を見つめて、ようやく口は開かれた。

 

「天城さんが、行おうとしてる事について詳しく話が聞きたい」

 

「……ただ先生に、入部しませんって言うだけ」

 

「違う!」

 

星河さんから初めてハッキリとした否定を聞いた。

近距離な上に大きな声。

何度もやられて慣れてきた事に嫌気が差した。

 

「神様についてだね。だって動かないと何にも変わらない。この学園に新しい生徒が来て神様に取り憑かれての繰り返し。どこかでそれを脱却しないといけないでしょ?」

 

「だからって、別に天城さんが行う必要性を感じない。他の誰かがきっと……」

 

「待ってたら誰かがやってくれるんだろうか」

 

誰かに任せるということは、誰かに責任を押し付けることだ。

そのくせ、その誰かが失敗をすれば寄って集って責め立てる。

任されたいとかじゃなくて、誰もやろうとしない事を僕はやりたい。

 

「神様に取り憑かれる事についての考え方は人それぞれだと思う。でも、人間の勝手で維持されているこの現状は打破されるべきなんだよ」

 

「田舎にある、普通の学園にしたいということですか?」

 

「それが1番いいね。でさ、星河さんは神様についてどう思う?」

 

その問いかけに星河さんは僕から目を反らして思案した。

 

「良い事もありますが、それは神様がいるからであって、自分で得たものではありません」

 

当然、星河さんだって何かを代償にして得た恩恵を受けている。

それが何なのかは聞いたりしない。彼女から話してくれるその時まで待つことにする。

 

「わたしもあなたも。ここにいる皆さんは、神様の力を自分の力と錯覚しているんです。神様に申し訳ありませんが、わたしは天城さんの意見を支持します」

 

真顔の多い彼女が優しい微笑み。

こんな表情も出来るんだということ、そして僕の話に賛同したことに驚かされてしまった。

 

 「ありがとう。その気持ちだけでも嬉しいよ」

 

 「でも部員全然いないから、時々本を読みに来てほしい」

 

 「時間を作れたら行くよ。特に話も出来ないかもしれないけど」

 

 「わたしも、話すのは苦手だから気にしないで」

 

 「それじゃあ今日はこれで。また明日ね、星河さん」

 

 「はい、また明日」

 

 

 

 星河さんと別れ、寮へ帰った。

 部屋に戻った途端、身体をベットへ放り投げた。

 話疲れと歩き疲れに襲われ、ものすごく怠い。

 夜ご飯も作る気力が無い。ただお湯を沸かして注いで3分待つだけなのに、それすら煩わしい。 

 

 「気持ちは分かりますが、ご飯はしっかり食べないといけませんよ? 大地くん」

 

 倒れた横に彼女はいた。

 慣れてきたせいか、あまり驚かなくなった。

 

 「元はと言えば、君があんなこと言うから」

 

 「でも全てを話してって言ったのは貴方ですよ?」

 

 「互いに秘密は無しって決めた以上は仕方ないだろ。それに君は僕の記憶を全部見たんだからさ」

 

 約束事を決めようとしたあの夜。僕達は互いを曝け出した。

 まず僕の記憶を彼女に覗かせて、その後で彼女について全部聞かせてもらった。

 これから一緒にいる上で、大切な約束事をいくつか決めた。 

 その1つが秘密を作らないこと。 

 互いにどういった人間で、どういった神様なのかを知る必要があった。

 おかげで、とんでもない学校に編入してしまったと思った。 

 

 「でも君の秘密に比べると、僕の過去がどれだけちっぽけだったか思い知らされたよ」

 

 「過去は誰かのと比べるものではありません。貴方の辛さが、誰かと同じなんてこともないんですから」

 

 「優希は凄いね。僕だったら、そんな風に誰かを諭すなんて出来ないし」

 

 「私は私の持論を述べているだけです。まあ語る相手も、私には貴方しかいませんので……」

 

 ある時から今まで。優希は1人だった。

 それを回避する術があったのか、僕にはわからない。

 優希の全てを聞いたからこそ、僕は彼女のそばにいてあげたいと強く思うようになった。 

 

 「僕に出逢えてよかったね、優希」

 

 「自分で言ってしまうんですかそれを」

 

 ピンポ~ン 

 

 僕達の会話を呼び鈴が横切った。

 出るのも面倒だし、居留守使おう。

 

 ドンドン! ダ~イ~チ~クン!

 

 なんで僕の部屋を知ってるんだろうか。

 怠いと思いつつ、これ以上被害が広がる前に、僕は部屋の扉を開けた。 

 



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始まりを告げる終わり

部屋から連れ出され、僕は学園の外に来ている。

学園の長い下り坂を下って10分程度の場所にバス停がある。

平日でも3時間に1本しか出ないバスに乗って30分。

田舎らしさと都会らしさが半々に混ざったような街へ到着する。

連れ出した当人は、何やらアイスを買いに出て、未だ戻ってこない。

ここまでに掛かった時間よりも、ベンチに座ってボーっとしてる時間の方が長く感じる。

 

「ま、待たせたね大地」

 

何ともたどたどしい口調で呼ばれた。

名前に負けないほどの眩しさはどこへいったんだろうか。

 

「日永。アイス買うのに時間掛かりすぎじゃないか? 何かあったの?」

 

汗だくで帰ってきた彼を見て、問いかけた。

その手に持ってるアイスが溶けそうなので、なるべく早く渡してほしい。

 

「い、いや買う事自体は直ぐ終わったんだ? そ、その~……買うまでに、色んな人に割り込まれたり、いざ買おうとしたら声を掛けられて写真撮るようにお願いされたり……」

 

日永は人差し指をツンツンと合わせ、目もこっちに向けず話した。

 

「普段の君はどこ行ったのさ?」

 

「学園のあれは、常に神様が乗り移ってるから、あんなハイテンションでいて、1年の頃からこんな感じでさ」

 

恐らく生き返ったようで楽しいんだろうな。

優希も同じようなこと言ってたし。

 

「そういう大地は変わらないのな」

 

「それは少し違うね」

 

僕は直ぐ様否定をした。

間髪入れずに言ったせいか、日永は少し後ずさった。

 

「神様に出逢う前は、人間が嫌いになって、何も信じられないくらいに駄目になってた。この学園に来て出逢った神様は、そんな僕を怒ってくれたんだ。貴方は今のままじゃダメですって」

 

出逢った頃を思い出す。

そこを出発点に、今日までの事を思い出す。

日が浅くて記憶が濃い。

学園に来て過ごした時間が有意義に感じられる。

 

「大地って、そんな風に笑うんだな」

 

「え? いま笑ってた?」

 

「うん。笑ってた。教室の時にいたみたいな作り笑いじゃなくて、本当に嬉しそうにさ」

 

「作り笑いって。酷いよそれ」

 

「神様が乗り移ってる時は端から見てるようなものだから、そんな風に見えてたんだよ」

 

はっきり物を言うくせに、まだ視点はウロチョロしている。

まあそれはいいとして、明日の答え次第では、1番最初に何とかしてやりたいな。

神様に依存してるのは、ほぼ確定と言っていい。

ただ依存をどうにかするのは、時間が掛かりそうだな。

 

「作り笑いは否定しないけどさ」

 

「そこは否定しようや」

 

「神様がきっかけとはいえ、僕が変われたのは、僕に話しかけてくれた君達のおかげでもあるんだ。ありがとう」

 

「い、いや俺はっ、神様の影に隠れてる卑怯者だし!」

 

「じゃあさ」ヒョイ

 

待ちきれなかった僕は、無理やり彼からアイスを奪い取り、溶けかけの甘味を舐めた。

 

「学園でも出てきなよ。難しいのであれば、少しずつ時間を増やしていけばいいし」

 

「簡単に、言うなよ! それが出来たら、お前に言われる前からやっているさ!」

 

「それはごめん……」

 

「お前みたいに、簡単に変われない奴もいるんだ。人が信じられないとか、過去に何があったか知らないけどっ」

 

唇を噛み締め、絞り出すように彼は言い放った。

 

「自分だけが、不幸みたいな面、するんじゃねえよっ! 端から見てて、ムカつくんだそれっ!」

 

それまで塞き止めていた物を吐き出し、日永は疲れきって肩で息をした。

しかし、彼の表情は苦しんで見える。言いたいこと言ったであろうに、何故なんだろう。

 

「それを言いたいがために、連れ出したのかな?」

 

「い、いやっ、ごめん! そうじゃないんだ! 違うくて!」

 

「否定は可笑しいよ。だってそれが君の思ってたことなんだろ? 」ペロ…パリパリ

 

「そ……それは」

 

「君が神様のいない学園の外に僕を連れ出した意図が見えないな。いや、聞くのは後日でいい」モグモグ……ヒョイパクッ

 

ベトベトに汚れた手を拭きながら、僕は続けた。

 

「正直怒ってる今聞いても、曲解してしまいそうだから」

 

「あ……そ、その」

 

「別に不幸自慢してないし、僕が君の過去を知らないように、君も僕の過去を知らない。どっちがどうとか関係ない」

 

日永は返す言葉を探すように惑う。

普段、マシンガン撃たれてる仕返しではないけど、あんな風に言われたら頭に来てしまう。

遠慮を忘れて、僕は言葉を投げつけた。

 

「過去は比べるものじゃない。何であれ、その人にとって悲しく不幸に見舞われば、そういう面になっちゃうだろ」

 

「…………」

 

「実際、色々と酷い目に遭った。僕はそこから立ち上がろうとしてるだけだ。君はどうなの?」

 

「オ、オレだって少しは……」

 

彼なりの努力はしてるのかもしれない。

それが見えていない以上、僕にはどうしても努力してるとは信じ難い。

 

「学園でも"君自身"が話せないと、いつまでたっても成長しないよ」

 

「!…………」

 

居づらくなって、僕はその場から去ることを考えた。

 

「君の本性が見えたのが唯一の収穫だね。じゃあ神様が待っているし、僕は帰るよ」

 

「まっ、待てよっ! オ、オオッ、オレの話は終わってな」

 

「じゃあ明日、学園で」

 

そう言い残し、寮へ帰るためのバス停へ向かう。

丁度来ていたバスに乗り、彼を置き去りにした。

彼と彼の神様は正反対なんだろう。

あれだけ性格が違えば、流石にわかる。

寮に戻るまでの間。

彼がなんで神様のいない学園の外へ、僕を連れ出したのか。

 

『大地っ! 時間あんだろ! お前来たばっかで街を見てないだろ! 一緒に行こうぜ!』

 

…………。完全に神様の仕業であって、彼の意思じゃないじゃんかあれ。

 

 

「どうでした? 神様のいない彼を見て」

 

優希は部屋へ戻った僕に言った。

 

「どうもしないよ。学園では常に憑依状態してるのには驚いたけど。優希、君は知ってたね?」

 

「はい。あの方から私が見えていたかは別に、私からは見えてましたから。姿と魂が同じなら、中身は神様しかいない」

 

「神様? というより、幽霊同士は見えるの?」

 

「か・み・さ・ま・です! 魂のみしか存在してないもの同士ですし、何ら不思議ではありません」

 

そういうものなのか。

 

「日永自身は生きてるから、魂だけになっても優希は見えないのが自然だね」

 

「しかし、このまま放って置くと彼自身の為にもなりません」

 

「だから日永に取り憑いてる神様が気を効かして、学園の外へ出掛けるようにしたのか」

 

最も、その神様も僕には見えない。

神様同士で話が出来るのであれば、そこから情報を得ればいいだけなので問題は無いからいいか。

 

「日永の神様と話した?」

 

「詳細は伏せますが」

 

優希は前置きして、日永の神様との話、その概要を教えてくれた。

 

「日永くんの心配していらっしゃっいました。あのチャラけた態度にムカムカしましたが」イライラ

 

「日永に憑依してない方がうざいんだなあれ」

 

「大分日永くんが好きなのようで、だからこそ自分が憑依し続けることを止めようと試みていますが」

 

優希は俯き、片手で顔を覆った。

 

「日永くんに大甘なので、最終的に折れて憑依するようです」

 

「なんでそこは、日永本人と一緒なんだよ」

 

なんというか、色々と苦労しそうだね。

 

「優希のこと、信じてないわけじゃないけど、明日の答えを聞かないと、まだ動けないね」

 

「学園の内と外。そこを使い分けるのが鍵かと」

 

「それでも、全員救えるわけじゃないのは、どことなく分かってる」

 

「そうですね。今更10を救うことなんて叶いません。下手したらもう……最高学年の中には」

 

「義務でも使命でもない。僕達がやりたいからやっているだけ。救いたいと思う人だけ救えれば、それでいい」

 

なんとしても問い質す。

優希が教えてくれたこと。それが事実だとすれば、この学園は壊れてしまえばいい。

他に同じような考えを持ってる人がいても、関わる必要もない。

むしろ僕が動くまで動けずにいた臆病者と協力なんて出来ない。

 

「味方を無下にしてはいけませんからね」

 

「僕が誰と仲良くしようと僕の勝手だよ。友達100人作ろうって話じゃないんだからさ」

 

「それもそうですね」ハー

 

優希はため息を吐く。

何度言っても意味なしと呆れたのだろう。

 

「明日に備えてもう寝ようか」

 

「その前に、私へのお土産は?」

 

……………………………。

 

「週末、何か探しておくから許して?」

 

「仕方ありませんね」

 

消灯し、ベットに横たわり眠りにつく。

相変わらず、優希は僕の隣で寝ている。なんでか実体化している。

思わずは僕は壁に顔を向ける。思春期の男には心臓に悪すぎる。

何を考えてるのやら。

 

 

翌日の放課後。部活動入部届を提出しなかった僕は、担任に直談判し学園長と話せるようにしてもらった。

担任からは何でもいいから入れと言われたが、従う気は毛頭ない。

折れた担任に、学園長室まで連れられて、現在に至る。

 

「やあ、天城大地くん。面接の時とは大分変わったね、見違えたぞ」

 

20代後半くらいであろう男がそこにいた。

清潔感のある見た目と裏腹に出てくる言葉は雑に砕けている。

 

「学園に来て色々とありましたからね」

 

「その様子だと、もう神様を見つけたんだ?」

 

「初日の時点で出逢いました。あの校則が嘘じゃないんだと思い知らされましたね」

 

「そうさ。あんな校則信じるバカはそうはいない。そんなものはいないと一蹴し、何の迷いもなく入学してくれる。でなきゃ試験のレベルを低く設定した意味がないよ」

 

悪怯れる様子もなく、学園長は吐き捨てた。

終いには煙草を1本取り出し、火を点けた。

 

「学園内は火気厳禁なのでは?」

 

「いいだろ別に。私と君し……いやもう1人いるんだっけ?」

 

学園長の目線は僕の隣にいる優希へ向けられる。

 

「学園長には見えているんですか?」

 

「ん? そりゃあ神様だからね。そこにいる奴と違って、純粋のね」

 

学園長が神様……。

 

「校則を定めたのも、 あなたですか」

 

「だって学園創った頃からいるんだし、それくらいいいじゃん。でも、君は校則に従わないと」

 

「はい。部活動に入りません。僕は僕のやりたいようにするだけです」

 

「ふぅ~ん……」

 

不敵な笑みを浮かべて、僕に歩み寄ってきた。

 

「ダ~メ。折角手に入れた神様の力、その身体に馴染ませてあげないといけないんだ。折鶴先生から聞いたよ。君は美術部で決まり。私でそう手続きしておくよ」

 

「馴染ませて、神様に身体を渡せるようにしておけってことですか?」

 

「! そこの人から話を聞いちゃった?」

 

「神様の身に起きたことは全部聞きました。幽霊が実体化したり、憑依が出来たり、恩恵と言って神様の力をもらえたりするその意味を教えてくれました」

 

「意味?」

 

「あなたの目的は、神様を世の中へ進出させることなんじゃないですか?」

 

「…………というと?」

 

「憑依をする事で魂を受け入れやすくして、恩恵で与えた力を取り憑いた人間に馴染ませて、実体化する事で魂をこの世に留まらせている。そして……」

 

意を決して結論を述べる。

 

「最終的に、取り憑いた人間と神様の魂が入れ替わり、神様が学園を出ていく。これが、この学園で言う"卒業"です」

 

「何人もの人間を見てきたけど、そこに辿り着いたのは1番早かったね」

 

「神様から直接聞いたので。いま話したこと、事実ということでいいんですね?」

 

「紛れもない事実さ。神様はこの学園にいくらでも転がっている。君にはそいつしか見えなくてもね」

 

「あなたが純粋な神様というのは?」

 

「そのまんまさ。神様の力だけ持ってる人間と違う。魂も器も生まれた頃から神様」

 

目の前にしているのが神様だとして、この人に何が出来るのかはわからない。

 

「神様だからって、人間をただの器としか見ないあなたの身勝手に付き合わされるのは御免です」

 

「ほぅ。君は人間に見捨てられて、死んだっていいって位に絶望してたから、話を聞いたところで何にもしないって思ってたのに。私の人間を見る目を曇ってきたかな」

 

確かにそう思っていた。

誰も信じられなくなって、家族から見捨てられてた。

ならば僕の方から捨ててやるとさえ思った。

神原学園を偶然に見つけて、場所も田舎だし、その内どこかへ誰もいない山奥へ消えようとも考えていた。

 

「神様でなくても、その子は僕を勇気づけてくれた。卒業までに何を変えられるのか。何を救えるのか予想もできません」

 

「そうだね。君のその正義感?はどこから来るものだい?」

 

「僕は僕の救いたいと思う人を救う。だから、あなたが描いているシナリオ通りにならないよう動いてみます」

 

「どんな結末になっても?」

 

「はい。最悪だろうと最善だろうと結末は決まっていません。僕が迎えたい終わりへ向かうために残されてる可能性を信じて、"僕達"が卒業出来るように行動していくだけです」

 

学園長に、神様に宣戦布告のような形になってしまった。

優希が、この学園の被害者だと知ったその時に心は決まった。何の後悔もない。

 

「じゃあ君の自由に動いてみるといい。君達2人を泳がせたところで学園が壊れるわけでもないからね」ケロ

 

「それが目的ではないので」

 

「正気に戻れば、こんな面白い人間だったとは嬉しい誤算さ」クスクス

 

「個人的には、そのにやけ顔をいつか崩してやりたいと思います」

 

「楽しみにしているよ♪ ああ、それと」

 

学園長室を去ろうとした僕に1つの事実を突きつけられる。

 

「左手痛かったろ? グローブはめてたから、遠慮なく思いっきり踏みつけちゃったんだ。謝るの遅れたね。ごめんごめん」

 

突然言われた言葉に、僕は金縛りを受けたように動けなかった。

あの試合に、こんな奴がいたのかすら思い出せないでいる。

でも、言い方を考えると、まるで自分がやったことのように言い……

 

「そう感情的になるなよ。神様気取りのお嬢ちゃん?」

 

「"卒業"から長い時間が経ちましたけど、相変わらずの畜生ですね貴様は」

 

気が付いて振り向くと、優希が学園長に馬乗りし、殴り掛かっていた。

 

「優希。実体化を解いてよ。そんな事するために来たんじゃない」

 

「貴方のためでもあります。そして何より、この現状を招いた元凶を、私が許せません」

 

「許せない? ありがとうございますの間違いじゃないの? だってここに彼が来るように仕向けてあげたんだからさ」

 

「人間1人の全てを壊しておいて、へらへら笑っている貴様に言われても説得力は皆無です」

 

「優希!」

 

こんな大声を出して叫んだのは初めてかもしれない。

 

「例え、その神様を消したとしても、壊されたものは元に戻らないよ」

 

「…………」

 

「過ぎ去った事は何をしても上書き出来ないから、僕はそれを背負いながら未来を探す事に決めたんだ」

 

「立派な決意だ事」

「黙りなさい」

 

「そのためにも、もうこいつに関わらない方がいい。さっきのが事実なら、こいつは自分の思った筋書きにするためなら何でもしてきそうだし。僕達の部屋へ帰ろう?」

 

「…………わ、かりました」

 

優希は実体化を解き、ふわふわ浮きながら僕の背後についた。

 

「ご迷惑おかけしましてすみません。失礼します」ペコ

 

「バイバーイ♪」

 

とりあえず校則にあまり縛りはないようで、自分達の行動も咎めないとのことだが、あれは神というより悪魔に分類されると思う。

最初から最後まで、煽りがうざい神様だったな。

やっとこの学園で過ごす意味を見つけた気がする。

あれは許せない存在だが、現時点でどうにかする術もない。あの試合をきっかけに負った傷は深い。

表向き……いや、優希と一緒に学園を出ること。それが僕の思い描く結末だ。

その最中で、もしあいつに対抗出来る術を手にしたなら、僕は独りで立ち向かおうと思う。

出来ることなら、そんな日が来ることなく、卒業まで時間が流れることを強く願う。

 

 




こんばんは。蓬操です。

これにて序章の終わりです。
次回は日常的な話を予定してます。
年末前に序章を終えてホッとしてます。

お恥ずかしながら、何かを書ききるの初めてです。
書くための準備をして、その段階で終わって……。
書ききる達成感はいいものですね。

この調子で第1章も頑張って参りますので
よろしくお願いします。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。




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番外談話

おはようございます。蓬操です。

番外談話という短い話出来ましたので、
投稿します。

今後思い付いたら編集して
話を増やすかもしれませんが、
読んでいただけるとありがたいです。

本編と関係のあるなしは秘密です。




『番外談話その1』

 

天城大地「日永は1年生の時、神様と出逢ってどう思ったの?」

 

日永洋光?「ヨーコーはオレを見て気絶したな! 見つけた時点で神憑り完了だから、実体化して何とか部屋まで背負ったわ!」

 

華凰優希「神である貴方に聞いてません。大地くんは日永洋光くんに聞いたんです」

 

優希「まあ、彼自身は相変わらず教室の隅にいますが」

 

日永洋光「」ガタガタブツブツ

 

大地「日永本人の性格と外見がミスマッチ過ぎるよな」

 

洋光(神)「おうよ! オレのアイデアで金色に染め上げ、Yシャツは半袖! 上着の袖を捲れば鍛え上げた筋肉! どうだ? いま流行りの細マッチョスタイル!」シャピーン!

 

洋光(人)「」ブツブツブツブツ

 

優希「元は黒髪の地味メガネくんだったのではないでしょうか? あと私的には大地くんの方が……」

 

大地「優希。後で日永に謝りなさいね」

 

優希「はい」シュン

 

大地(落ち込んでる姿は可愛いのに)

 

優希「止してください。デレてしまいます///」

 

大地「照れてしまうじゃないの?」アトシコウヲノゾクナ!

 

洋光(神)「夫婦漫才は程々にしろ! クソっ! 羨ましいったらありゃしねーよ!!」

 

洋光(人)「ボクモ、オンナノコガヨカッタナァ...」ボソ

 

 

 

『番外談話その2』

 

大地「星河さんは日永のアレ知ってた?」

 

月夜「月夜と呼んでください。そうね……去年の体育祭では輝いていて、その舞台裏で【もう……無理っスよ神様ぁ~】と吐いていた弱音で察したの」

 

大地「妙にモノマネ上手くない?」

 

月夜「唯一の隠し芸だから」

 

優希「披露する舞台も無いのに、なんて宝の持ち腐れ」

 

月夜「この女の子は?」

 

大地「神様擬きの少女」

 

優希「劇場版の副題みたいな呼び名を作らないでください」

 

大地「事実を述べただけなのに」

 

月夜「案外楽しそうで何よりね……」

 

 

『番外談話その3』

 

折鶴千騎「天城ちゃん、やっぱ美術部に来てよ」

 

大地「だから、どこの部にも入りません。助っ人とかで呼ばれるのは構いませんから、それで納得してよ」

 

優希「そうです。天城くんから自由を奪わないでください」

 

千騎「なぜ教師である私が悪魔みたいに扱われるのか」

 

大地「胡散臭いお兄さんだから」

 

優希「生理的に受け付けません」

 

千騎「そこのお嬢ちゃん辛辣過ぎない? 天城ちゃん、妹のしつけがなってないなぁ」

 

優希「」ブチィッ

 

優希「大地くん、身体を貸してください」

 

大地「嫌だよ」

 

優希「何故です? あいつを殴れないじゃないですか」

 

大地「うっかり左手でしそうだから無理」

 

 

『番外談話その4』

 

葉風亜樹「大地くーん! 桃ちゃん見なかった?」

 

大地「見ていませんけど、どうかしました?」

 

亜樹「いやぁ委員会の仕事溜まりにたまって消化しきれないから、手伝ってほしくてさー!」

 

大地「恐らく押し付けられると思って、亜樹先輩を避けてるのかもしれませんね」

 

亜樹「ひどい! せいぜい3:7だよ!」プンプン

 

大地「だから逃げられるんだって言ってんだよ」

 

亜樹「なら君が手伝ってよ! 困った時はいつでも言ってくれとか言ってたじゃん!」

 

大地「若干の捏造は置いといて、頼まれたら仕方無いですね」

 

亜樹「大地くんありがとう! 大好きっ!」ギュー

 

大地「先輩、僕も男なので抱きつかれるのは///」

 

優希(…………)ジー

 

白幡桃子(大地くん、可哀想だったけど満更でもないみたい。そのままあたしの代わりに頑張ってね)コソ

 

洋光(大地の奴、爆発しないかな)メラ

 

大地(色んな視線を感じて気味悪いな。でも、抱きつかれるのは、やはり悪くないね)ハァ

 

亜樹「さあ桃ちゃん見つけて1:3:6で仕事するぞー!」ギュー

 

大地「割合がおかしいですって。あと照れてるので早く放してください///」

 

その後、桃子も見つかり3人で仕事をした。

割合については聞かないでほしい。

 

『番外談話その5』

 

学園長「神を差し置いて、何やら楽しそうだな」

 

大地「いや、お前出てこなくていいよ」

 

優希「引っ込んでろ」

 

学園長「随分な言われ様だなオイ」

 

学園長「いいか。そこの地縛霊と違い、私は学園の外に出ることも出来るんだ。その気になれば、君達がよく行くコンビニやファストフード店とか潰せるよ?」

 

大地「規模が大きいんだか小さいんだか」

 

優希「外に出られるなら、学園から出ていって子どもを作ればよろしいのでは? こんな悪行より、よっぽどマシです」

 

学園長「…………………………」ズーン

 

大地「この話、触れない方が良さそうだよ優希」ヒソヒソ

 

優希「そうですね大地くん」ヒソヒソ←本当はここぞとばかりに責め立てたい。

 

学園長「何故、私には彼女ができない?」

 

大地と優希『そのクソ悪趣味な性格のせいだろうが』

 

学園長「慰めてくれたっていいのに」シクシク

 

 



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第1章~神原学園の日常~

こんばんわ。蓬操です。

第1章の1話目が出来ました。
導入的な話としています。最初ですから。

作中の季節が夏前と少し羨ましいですね。
雪も根付いた昨今、滑らぬよう気をつける日々。
歩道もそんなんなので、たたでさえない素早さは
冬にはかなり減少し鈍間と化します笑

風邪気味な私は今日もマスクを着用して
仕事を頑張っています。

読んでくださる方々も、
体調に気をつけてくださいね。
それでは、後程。



学園長と話をしてから2週間が経ち、もう6月に入った頃。

言葉の通り、あいつが特に何かしてくることはなく、僕は色んな部活動に顔を出している。

交流する内に名前も覚えられ、非常勤の様な扱いで拒まれることはない。

空いてる時間は街でアルバイトをしている。申請用紙を提出し許可を得たから問題はない。

懐も少し温かくなり、生活に潤いが出始め、今日も優希との接し方を考えている。

 

「天城くん。難しい顔してどうしたの?」

 

隣で昼食を共にしている星河さんに問われた。

学園の校庭でのんびりしていたら、いつの間にかやって来てて、また驚かされた。

星河さんが作ってくれたおにぎりを食べながら、僕は答えた。

 

「ここ最近、部活の助っ人をしてバイトして勉強してさ。神様関係除けば、普通の高校生活送れてるなって感じちゃってね」モグモグ

 

「そこ以外、特殊な所はないわね。平和なのは良いことじゃないの?」オイシイ?

 

「それはそうだけど、このままじゃ結局何にも変わらないしさ」オイシイヨ

 

「神様が元はこの学園に通う生徒って教えてもらった時は信じがたかったけれど……」コレモドウ?

 

「でも、図書室にあった過去の卒業アルバムに神様の姿は確かにあったんだよ」イタダキマス

 

学園の卒業生だと聞く前に、優希から話してもらえたから知っていたけど、念のため調べてみることにした。

B組の図書委員をしている本町和人くんに聞いてみたら、OBの卒業アルバムがあったとのこと。

閲覧するのに制限はなく生徒であれば、誰でも手に取れる代物だ。

その1冊の中に、優希は確かに閉じ込められていた。

名前も"華凰優希"と表記されていた。つまり、最初から彼女は本名を名乗っていたことになる。

というよりも、それしか名前が無いんだから当たり前かな。

 

「星河さんは図書室に行かないの?」

 

「天城さんも来たよねうちの部室に。あれだけの本があればわたしは満足です」

 

「そう。おにぎり、ごちそうさまでした」スクッ

 

「もう行くんですか?」

 

「今日は助っ人無しだからバイトに行ってくる。外は神様と関係無いから存分に力を振るえるし」

 

「バイト……何の?」

 

「イベントの設営と撤去を手伝ったり、たまに運営スタッフとして参加してるよ……近々祭りがあるみたいなんだ」

 

「そうなんですか? 知らなかった……」

 

「じゃあまた明日ね、星河さん」

 

「……月夜と呼んでくださいって言ってるのに」

 

 

街の中心にある大きな公園がある。樋浦が丘公園と言うらしい。

7月の初めに盆踊りを開催するが、これは8月にやる本番に向けた前座のようなものだ。

夏は野球する前に近所の公園に集まり、ラジオ体操していたのが懐かしい。

その祭りの準備に僕は参加している。意外にも時給は悪くない。

配線コードを持って走ったり、テントの設営を手伝ったり、神原学園にいては出来ないことができて気分がいい。

徐々に完成へ向かう風景に、優希も連れていけないかと思ってしまった。

にしても、陽射しが強くて汗が止まらない。首に巻いたタオルも汗を吸いすぎて気持ち悪い。

 

「あれ? 大地くん?」

 

名前を呼ばれ、辺りを見回した。

 

「あ、白幡さん……と本町くん?」

 

2人は制服姿で、ここまで来たのかな。

 

「お疲れ様、天城くん。委員の仕事で来たら、君の姿を見かけたらさ」

 

「バイトだよ。部活の助っ人もないし、勉強をするより身体を動かしたかったんだ」

 

「見かけに寄らずアウトドアな」

 

「見かけも何も、元野球少年だからね。基本、外で遊ぶのが好きだよ」

 

「運動系やらないの?」

 

「やれないしやりたくない。というか、2人とも僕の体育での醜態を見ているだろ?」

 

「「あっ……」」

 

2人して地雷を踏んでしまったとばかりに青ざめてしまった。

自己紹介で、野球をやってたことを言っていたため、ものすごく期待をさせてしまったのだが、アレのお陰でクラスの注目は直ぐに解かれた。

 

「そんな申し訳無さそうにしないで。その分、外ではこうして力を発揮出来てるんだからさ」

 

隠すつもりもないので、淡々とそう告げる。

白幡さんは勘づいたのか、そういうことなんだと小さく呟いた。聞こえてしまったけど。

対して本町くんはそれがどうした?とばかりに首を傾げて僕を見ている。

そこに違和感を覚えてしまったことを僕は無視した。

 

「2人は祭りに来るの? 前座のような祭りだから華やかさに欠けるけど、休日を過ごすには良いと思うよ」

 

「大地くん、何か勘違いしてない?」

 

「してないしてない。ただ手伝いをしているから宣伝してるだけだって」

 

「まあ暇であればね。丁度誘おっと思ってる人がいるし」

 

意外な反応が帰ってきた。

 

「是非とも来てほしいな。当日は運が良ければやぐら太鼓叩かせてもらえるかもしれないよ?」

 

「太鼓か。幼い頃に叩かせてもらったことはあるな。流石にブランクあるし選ばれないよう影に徹しておこう」

 

「そんな大層なものじゃないでしょ。でも叩いてみたいね……」

 

白幡さんはチラチラ僕を見ている。

何の意図があるのかわからないけど、僕のその日について教えることにした。

 

「祭りの当日は出店の手伝いがあるから僕が参加するのは難しいけど」

 

「…………」シュン

 

「客が来なくて暇そうにしてたら大丈夫だから、その時は声を掛けてくれると嬉しいな」

 

「…………」パァァ

 

「天城さ、わざとかその言動は?」

 

「わざと? ただ僕は2人に向けて言っただけだよ。祭りを1人で、というのは寂しいだろ?」

 

オーイ、ダイチィ! コッチタノムワ!!

 

「呼ばれちゃったみたいだから、仕事に戻るよ」

 

「いやこっちこそ。仕事中に話し込んじゃって悪かったな」

 

「お仕事、頑張ってね」

 

「うん、頑張ってくるよ。じゃあね」タタタッ

 

 

仕事を終えて寮へ帰ってきたが、やはり疲れるのが早い。

最中は問題なく作業に集中出来たし、重たい物を持つのも苦でなかった。

学園の門でいじけていた優希の元へ駆け寄り、門を通った瞬間だった。

ゲームで例えるなら、強制的に基礎体力値が減少したような感じ。

本来下がり様のない値が下がり、体力が空っぽの状態となり倒れ込んだ。

実体化してくれた優希が部屋まで運んでくれた。

経験値は積んでるのに、ステータスが上がらないとか納得がいかないよ。

いつの間に、パソコンを使い込んだのか。

今日は優希が検索で見つけた料理としてカレーを作ってくれた。

ご飯の炊きたては無理なので、共同キッチンに備わってるレンジで温めたそれに盛る。

カレーなんていつ以来だろうか。

優希特製のカレーは実家のものよりも甘く、僕好みの味付けで美味しかった。

こうした1日が繰り返されて現在に至る。

気付けばもう6月なんだな。

今はこれでいい。何かと頭を回転させては疲れ果てて、大切なものを見失いやすい。

そう言い聞かせて、僕は眠りにつく。

変わらなければならないその瞬間まで、この気持ちのままでいさせてほしいな。




第1章も1話目でした。

気のせいか少年が出てるの少ないような。
天城くんのクラスメイト、新しく出てきましたね。

第1章のゴールも何となく構想があり、
主要となる人あるいは神様も決めてます。

ただ1話毎に終わったら
番外談話を書こうと考えています。

書けたら投稿されていると思いますので
読んでいただけると幸いです。



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番外談話②~神様気取りの少女の日常~

おはようございます。蓬操です。

番外談話2回目ですね。これを読む前に
第1章の1話目を読むことを推奨します。
前回のような、ショートコントではなく
ショートストーリー仕立てでございます。

台本形式なのは変わりませんので
本編よりかは読みやすいかと思います。

今回の主役は華凰優希です。
彼がいない一時の彼女の日常を書きました。
それでは、お楽しみください。




華凰優希「大地くんはいま寝てるようですね」フワフワ

 

天城大地「zzz」

 

優希「今の内に実体化しましょう」スッ

 

優希「大地くんがいないとなれないのは不便ですね」

 

優希「久々にパソコンを触れました。Coocleで検索しましょう。しかし、私の時代はノートパソコンありませんでしたし、時間の流れは凄いです」カタカタカチカチ

 

優希「あ、これは……」ポワポワ

 

優希『 大地くん、それはなんですか?』

 

大地『大きめの鍋だよ。1人暮らしの予定が2人暮らしになっちゃったからね』

 

優希『それは申し訳ありませんが、シチューか何か作るんですか?』

 

大地『料理の腕が無いから、カップ麺ばっかなんだよ。簡単に作れたら苦労しないよ』

 

優希『何を言いますか。野菜と肉を切って鍋に入れて煮てルーを溶かせば出来るでしょう』

 

大地『1日の終わりに、そんな労力は残されてません無理です』

 

優希『私が食べたいんです。大地くんが嫌なら私が作ります』

 

大地『大丈夫? 指切ったりしない?』

 

優希『私は器用な少女ですから心配は無用です』

 

大地『…………』ジトー

 

優希『信じてください』

 

優希「カレーのレシピですか。見た所で材料が揃っていなければ意味を成しません」

 

優希「…………」

 

優希「チョットダケ……」カチッ

 

 

優希「結局大地くんに頼んで材料揃えてもらいました。大地くんの帰宅後に作ります」フンス

 

大地「包丁の使い方わかる? 野菜は水洗いで充分だからね? 火を使うときは離れちゃダメだよ?」

 

優希「貴方が見てる前で作るんですから。家庭科の授業は受けてるので、それくらいわかります。さっさと稼ぎに行って、早く帰ってきてください」ワクワク

 

大地「僕が近くにいないと実体化出来ないしね」

 

優希「正確には学園の敷地内にいればいいんですけどね」

 

大地「バイトは学園内にないから流石にな……じゃあ行ってくるわ」

 

優希「はい。行ってらっしゃい」ニコ

 

チョットジカンガタッタヨ-!

アキセンパイナニイッテルンデスカ?

 

優希「あ。身体が浮いてきました。大地くんが学園を出たようですね。さて敷地内を彷徨きましょう。移動も楽ですし」フワフワ

 

----神原学園 校庭----

 

優希「いつ見渡しても広いですね。陸上部、野球部、サッカー部、アメフト部とこれだけの部活動が練習してますし」

 

優希「…………」

 

優希「野球をしてた頃の大地くん……」ポワポワ

 

『ピッチャー! バッター勝負バッター勝負! ランナー気にするな!』

 

『無理に点を取ろうとするな! みんなで繋いでいくぞ!』

 

『よっしゃあ! サヨナラだー! これで甲子園まであと1つだ! 締まっていこう!』

 

優希「記憶を覗いた時の大地くん、口調も性格も今とは全く違いますね」フフフ

 

優希「でも、その後を思うと私は……」グス

 

ヒナガ-!! キアイガタランゾー!!

ムリッス……タイリョクガモタナイッス

センパイヘロヘロジャナイスカ!

 

優希「あれは日永さん? ああ人で合ってますね。後ろに彼の神様が着いて行ってます」クシクシ

 

優希「私にピースしてないで日永さんを助けなさい。可哀想ですから」

 

---神原学園 校舎裏---

 

優希「ここは亜樹さんに連れてこられた場所ですね。そういえば美術部からはまだ助っ人頼まれてませんね……ん?」

 

??「君の事が好きなんだ! オレと付き合ってください」

 

??「…………」

 

優希「放課後ともなれば、こんな場面に遭遇することあるでしょう」

 

優希「羨ましいですね……しかしあれは……」

 

??「飛垣渉さん……申し訳ありません」ペコ

 

飛垣渉「!!」

 

??「あなたの思いは手紙と今の言葉でわかりました。しかし、わたしはあなたに好意を抱いてませんよ」

 

渉「星河。オレ、そこまで言われることしたかな?」

 

星河月夜「そうですね。わたしの大切な人を傷付けたあなたを、わたしは好きになれません。だからあなたの告白をお断りします」

 

渉「大切な? 思い当たりがないなあ」

 

月夜「それだけあなたにはどうでもよいことということ。ならば、即刻この場を立ち去って、2度とわたしの前に現れないでください」

 

渉「ちょっ待てよ! せめて、せめて友達からでもいい! オレが悪い事したなら謝る! だからさ」

 

月夜「ただ謝るだけで済むと?」ジロ

 

渉「!?」ゾクッ

 

月夜「自分の過ちを理解しないままの謝罪に誠意なんてあるわけありませんよね。これ以上わたしを怒らせないで。さっさと消えてください!」

 

渉「わ、わかった。お前なんか、ただ告白すれば簡単に付き合えると思ったからだっ! 本心で好きだなんて思ってねーよ! バーカッ!」タタタッ!

 

優希「…………それが貴女の本心であれば何にも言いませんが。告白した相手に対し、些か失礼ではありませんか」

 

優希「しかし、貴女に私は見えません。もし貴女に憑いていれば、私はその行いを良しとしませんけどね」スゥッ

 

 

---神原学園 旧校舎 美術室---

 

優希「やっぱり落ち着きますねここは。作品が乱雑に散らかってるのが味噌です」

 

優希「ここでずっと、私を見つけてくれる人を待っていました」

 

優希「文明開化が成されるほど時代は流れ、私は彼に出逢えました」

 

優希「やはり私は彼に尽くしたい。彼は幽霊と言う不可思議な存在である私を受け入れてくれた」

 

優希「神様気取りの人間である私を受け入れて、私を自由にしようと行動してくれている」

 

優希「私の……この気持ちは貴方の思い描く結末には不要なんでしょうか」

 

優希「大地くん…………」

 

 

優希はその後、門で彼を待った。

帰ってきた彼は門に足を踏み入れた途端に力尽きてしまい、優希は嬉しそうに彼を部屋まで運んだ。

彼が眠っている間に作られたカレーは強い甘さの中に、ほんの僅かに苦味を感じたと、食べてくれた人は涙を浮かべなから感想を語ったそうだ。

 




以上、番外談話②でした。

本編で喋ってない優希に焦点を合わせました。

第1章の2話目に繋がるよう書きました。
まだ執筆中ではありますが笑

後半。酔っぱらいながら書いたので
誤字脱字があるかもしれません。
それについては後日直すのでお許しください。

ここまで、読んでくださり
誠にありがとうございます。蓬操


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