天命を受けし者 (gurenn)
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今回は設定です。


【主人公】真名・藤丸立香

 

通称ぐだ男。クラスは【天命者(オーダー)】。

グランドオーダーを受けた事があった者がなれるクラス。クラス相性はビーストと魔神柱に有利、他のクラスには等倍。まさに人類悪を倒すという天命を受けた者がなれるクラスと言えるだろう。

 

終局特異点において、密かに想いを寄せていたマシュがゲーティアの宝具で消滅してしまった後、激しい怒りでゲーティアに殴りかかって死んだ。ドクター・ロマンが間に合わなかったという事。

 

これまで、七つの特異点を救ってきた功績で英霊となり、英霊の座で悔やみ続けていた。そして、次があれば今度こそ人理焼却を防ぎたいと思って待ち続けた。聖杯に掛ける願いはマシュの生存。

 

たとえ長くは生きられないとしても、たとえもう自分の事を先輩と呼んでくれなくても、それでもあの攻撃で消滅してしまう事がないように。自分の生と未来はもうないから。そんな悲壮な願い。

 

一人称は『俺』で、最初に無理な召喚のされ方をした影響で特異点の旅をほとんど覚えていない。ただしマシュの事だけは鮮明に覚えており、今の自分に向けられる仲間としての目に胸を痛める。

 

レアリティは星3。コストは0。マシュと同じで物語進行で霊基再臨、絆レベルがアップする。

 

スキル

【驚異の対話力】 ランクA+++

コミュニケーション能力。曲者揃いの数多の英傑と絆を築いてきた彼の対話力は、もはや人外の域に到達している。どんなに厄介な性格の者でも、たとえ反転(オルタ)化していようとも、はたまた狂化していようとも。挙げ句の果てには、恐ろしい怪物であろうとも。彼は最良の関係を築く事ができる。味方全体の攻撃力と防御力アップ(3ターン)。

 

【天恵の知勇】 ランクA

数多の英霊、英傑から習い、習得した技術。武術や魔術の戦闘技術だけでなく、料理や野営なども完璧にこなす。全てのステータスのランクを+2にする。全カードの性能をアップ(1ターン)。

 

【生存への望み】 ランクA+

ただひた向きに、生存を願う心。その心を武器に最後まで抗い、戦い続けた。彼にとっては人理を守る事よりも生きる事が大切だった。全てが過去形になっている所が悲壮感を感じさせるだろう。ガッツ1回を付与し、ガッツが発動した後に無敵状態を付与(1ターン)。さらに、NPを100獲得する。最初の内は使えず、物語進行で習得。

 

クラススキル

【世界の恩恵】 ランクB

ビースト、魔神柱の攻撃に耐性を得る。さらに、受けるバッドステータスも効きにくくなる。

 

宝具

この絆を以て、人理を守る(カルデアス・グランドオーダー)】 ランクEX

種別・対人(自分)宝具 最大捕捉・1人

第1宝具。絆レベルが10になっていた各属性の9騎のサーヴァントの霊基を借りる事ができる。それぞれのクラスに霊基を変化させ、その英霊のスキルと武器、宝具等を使用できるようになる。

 

セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、ライダー、アサシン、バーサーカー、ルーラー、アヴェンジャーになれる宝具という事になる。力を借りる事ができるのは各属性につき1騎のみ。

 

つまり、セイバーで絆レベルが10の英霊が2騎いたとしてもその内の1騎で固定になる。この絆レベルは、ぐだ男が生前獲得していた物である。戦闘前の編成でどのクラスに変化するか決める。

 

ステータスも力を借りた英霊に近くなるが、自分のレベルはそのままなのでそれほど変化はない。さらにこの宝具を使用してる間はスキルがその英霊の物になるので天恵の知勇の効果がなくなる。

 

この拳を以て、災害を砕く(カルデアス・ラストオーダー)】 ランクC(但しビースト、魔神柱に対してのみEX)

種別・対人類悪宝具 最大捕捉・1人

第2宝具。オーダーのクラスとして戦闘中に使用する事ができる攻撃宝具。最後の抵抗として彼が放った一撃が宝具として昇華した物。その拳には彼の怒りと無念、そして後悔が秘められている。

 

属性・Buster

敵単体に、超強力な〔ビースト、魔神柱〕特攻の攻撃。<オーバーチャージで特攻威力アップ>

+自身に即死効果〔デメリット〕

 

コマンドカード配置

Quick1枚、Arts2枚、Buster2枚

 

ステータス

筋力・D(天恵の知勇により+2・B)

 

魔力・D(天恵の知勇により+2・B)

 

耐久・D(天恵の知勇により+2・B)

 

幸運・E(天恵の知勇により+2・C)

 

敏捷・C(天恵の知勇により+2・A)

 

宝具・EX

 

【主人公兼ヒロイン】藤丸六花(りつか)

平行世界の藤丸立香といえる存在。心優しい平凡な少女で、怖がり。人類最後のマスターになって世界を背負う事になってしまうが、本当は不安で仕方がない。そんな不安と恐怖を必死に隠す。

 

一人称は『私』で、性癖はノーマル。なので一部の女サーヴァントから向けられる過剰な好意からはいつも全力で逃げる。彼女曰く、『友達としてなら仲良くなりたいんだけど……』とのこと。

 

不安な時に支えてくれるオーダーこと立香に惚れてしまうが、彼が時々マシュに向けている親愛のこもった視線に胸を痛めている。元々あまり快活な少女ではないため、中々告白できないでいる。




こんな感じの設定です。立香は真名を明かす訳にもいかないので、『リツ』と名乗ります。ぐだーずとマシュの三角関係みたいな感じですが、徐々にぐだ男×ぐだ子になっていく予定です。

それでは、感想待ってます。


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序章 炎上汚染都市冬木
プロローグ


僅かでも需要はあるようで安心しました。
それでは、天命を受けし者の始まりです。


【???視点】

 

《……》

 

時間の流れも分からない、この場所で……自分はずっと悔やみ続けている。守れなかった。自分はなに一つ守れなかった。ただ守られて、大切な人は目の前で消えた。最後に、儚い笑みを残して。

 

分かっていた。自分には、なんの力もないと……いつだって守られていた。それでも、ただ必死に走り続けた。後ろを振り向かずに彼女と二人で。なんの力も持たない自分にできる事は一つだけ。

 

絶対に諦めない事。どんな状況でも、どんな敵が相手でも。それだけしか自分にはできなかった。それでも、そんな自分に多くの人達が手を貸してくれた。そのお陰で、どんな壁でも越えられた。

 

《……》

 

そんな中でも、彼女は特別な存在だった。なんの力もなく頼りない自分の隣にいつも居てくれて。頑張りましょう、と言ってくれた。彼女の笑顔とその言葉があれば、なんだってできる気がした。

 

他にも大切な仲間達はいたけれど。彼女だけは、本当に別格だった。平凡な自分が最後まで立っていられたのは間違いなく彼女のお陰だったんだ。いつだって、彼女が自分の隣に居てくれたから。

 

今でも思い出す。決して忘れない。自分の事を、『先輩』と呼んでくれた、彼女の柔らかい声を。自分に向けてくれた、彼女の柔らかい微笑みを。それらはいつまでも色褪せずに胸に刻まれてる。

 

《……》

 

そして、どうしようもなく自分の胸を苦しくしてしまうんだ。彼女の最後の声が。最後の笑みが。何度も何度も頭の中で繰り返されて。彼女の名を何度心の中で叫んだだろう。もう数え切れない。

 

《ごめん……》

 

一体何度、こうして謝っただろう。彼女に。自分の多くの仲間達に。そして自分が知らない世界中の人達に。君に守ってもらったこの命。世界中の人達の命を背負っていたというのに、自分は……

 

『最後に、殴り掛かるくらいは許してやろう』。奴は最後に、そう言った。彼女を消した憎い敵。頭が真っ白になるくらいに、怒りに支配された。そして、自分はその言葉に従った。衝動のまま。

 

その結果が、今だ。なんの力も持たない自分が、どうなったのか。守ってくれる人がいない状態でそんな事をすればどうなるのかは分かっていた。けれど、どうしても我慢ができなかったんだ……

 

彼女と共に生きる。それが、自分の望みだった。だけどもう、その望みは叶えられない。彼女は、この世から消えてしまったのだから。きっとその現実に自分の心は耐えられなかったんだと思う。

 

だから、安易な方法を取ってしまったんだ。彼女を消滅させた存在に対して怒りをぶつけるという方法を。それをすれば死ぬ事が分かっていても。そして、自分は死んだ。無力感に絶望しながら。

 

自分の拳は、奴に傷一つ付けられなかった。拳が当たった次の瞬間、自分は消し飛んだ。奴の魔力に耐えきれずに。今までの苦労を、皆の期待を、自分は台無しにしてしまった。一時の感情で……

 

《ごめん……ごめんなさい……》

 

だから、こうして謝り続けている。全てが終焉を向かえて、それでも自分は終わらなかった。魂を世界に召し上げられ、この場所に存在している。ここがなんなのかは、知識として知ってはいた。

 

自分に力を貸してくれていた多くの存在達がいた場所だから。けれど、まさか自分がここにくる事になるとは思ってなかった。自分は彼らのように偉大な存在じゃない。ごく平凡な人間だった。

 

その筈だったんだ。だけど、今までがむしゃらに走り続けた道程が、自分をこの場所へと導いた。そして、理解した。ここは現世の時間の概念から切り離された場所なんだという事を。そして……

 

《……次こそは……》

 

まだ次があるという事を。自分はもう死んだが、まだ終わりじゃない。ここに自分がいるという事はそういう事なんだと、魂で理解した。悔やむ事はまだやめられないけど、そう誓う事ができた。

 

《……けて……》

 

《……声が聞こえる……》

 

その時、自分がいるこの座に届く声が聞こえた。その声はか細く、震えていたけれど。確かにこの耳に聞こえた。その声に導かれるように、意識が浮上していくのを感じる。ああ、いよいよか……

 

《……助け……て……》

 

《……》

 

段々、はっきりと聞こえてくる。この声の先に、自分の求める物がある。そんな確信を抱きながら手を伸ばす。けれど、その声にはあともう一歩で届かない。無理な場所から喚ばれているんだな。

 

《誰か、助けて!》

 

《くっ、この……!》

 

どうしてこの声は届いたのだろうか。そんな疑問はあったが、必死に手を伸ばす。助けたい。この声が届いているのは、きっと自分だけだ。だから自分が応えなければ。ただ、それだけを思った。

 

《うおぉぉぉーっ!》

 

ビキッ! という音が辺りに響いた。無理やりにこじ開けた扉が、軋んだ音だろう。自分の存在が削られる悪寒を感じながら、声に近付いていく。そしてついにこの手がその声に届いたのだった。

 

こうして、再び始まった。自分の物語が。

 

…………………………………………………………

【六花視点】

 

「あ―――」

 

「こ、こんなのって……」

 

『二人とも、落ち着いて! ……くっ、駄目か。六花ちゃん、指示を! 冷静なのは君だけだ!』

 

周囲の声をどこか遠くに聞きながら、私は心の中で叫んだ。冷静? 私が? そんなの、ドクターの勘違いだ。私の心はただ、ずっと事態に着いていけていないだけ。一体なんなんだろうこれは。

 

目の前で起きている事が、現実だとは思えない。ここで目が覚めてから、ずっと理解できない事が続いている。そもそも私がここにいるのは不慮の事故。私は数合わせの補欠の筈だったんだから。

 

なんの覚悟もできてなかった。オルガマリー所長だって、私なんて当てにしてなかったじゃない。私は、たまたまレイシフトの才能があった一般人でしかない。それなのに、なんなのこの状況は?

 

私の目の前には、黒い人影が2つ。本物の殺気を放ちながら、私達の事を見てる。その力は人外のもので、私なんかじゃまったく手も足も出ない。ここまで守ってくれていたマシュも押されてる。

 

私が今までなんとか平静を保ててたのは、マシュが守ってくれていたから。今朝たまたま会って、最後に手を握ってあげていただけの私を、全力で守ってくれていた。だからここまで来れただけ。

 

《コレデ終ワリカ。ツマラヌ》

 

《ハ―――ハハハハハハハハハハハ!》

 

私達の様子を見て、馬鹿にしたように笑う2つの人影。サーヴァント。英霊。話だけはここまでで聞いたけど、実際に見てみるとその威圧感は半端じゃない。私達は完全に飲まれてしまっていた。

 

ドクター・ロマンが私に必死に呼び掛けてくる。モニター越しの彼からは、私は飲まれてないように見えるんだろう。けれど、それは間違いだ。私は今、足が震えてしまって動けない。怖いよ……

 

『六花ちゃん!』

 

「せ、先輩……」

 

「早くなんとかしなさい!」

 

全員が私を見ている。勝手な事を言わないで! そう叫びたかったけど、喉も震えて声が出ない。こんな所で死んじゃうの? こっちに迫ってくる2つの人影を見ながら、私は死を感じていた。

 

こんな訳が分からない状況に巻き込まれて、私は死んでしまうのだろうか。そんなの、絶対嫌だ。死にたくない! 生きたい! 心の中で私はそう叫ぶ。平凡で小さな私だけど、それでも私は……

 

「……助けて……」

 

「……先輩?」

 

「ちょっと、貴女……」

 

『六花ちゃん?』

 

「誰か、助けて!」

 

力の限り、そう叫んだ。どこかに向けて。誰かに向けて。この声が届くかは分からなかったけど。けれどその時、私は感じたんだ。私の声に応える力強い声を。その声は段々大きくなり、そして。

 

《ム? コレハ……》

 

《……!》

 

『そんな馬鹿な……あり得ない……』

 

「ここは霊脈じゃないのよ!」

 

「まさか、英霊召喚……?」

 

私の目の前に、光が溢れた。バチバチ、と電流が流れるような激しい音が周囲に響き渡り、右手の令呪が熱を発する。敵は私の目の前に溢れた光を警戒して後ろに下がり、マシュ達も目を見開く。

 

「……これ、私が……?」

 

熱を発する右手を押さえながら、私は目の前の光を見つめる。英霊召喚。さっき霊脈でやった時は失敗したのに。そんな事を考えている間も、目の前の光はどんどん強くなる。そして、爆発した。

 

「―――っ!?」

 

光の爆発に私達は目を焼かれて、一瞬だけ世界が真っ白になる。そして徐々に視界が戻ってきた。気が付くと、私の目の前には一人の人間が立って私を見ていた。その瞳に、私は目を奪われる。

 

「……やあ。君が俺のマスターか?」

 

青空だった。綺麗な青色の瞳が、穏やかな輝きを宿して私を見ている。白いローブに身を包んで、髪はフードに隠れている。けれど、フードの隙間から黒い色が見えた。彼の雰囲気は、穏やかだ。

 

一瞬、今の状況を忘れてしまう程に。どうやら、それは私だけじゃなかったみたい。マシュ達も、言葉が出てこないみたいだ。けれど、いち早く我に返ったドクター・ロマンがなにかをし始めた。

 

『イレギュラーだけど、召喚成功みたいだ。君は六花ちゃんに召喚されたサーヴァント、だね?』

 

「その筈だけど……だよね?」

 

「えっと、だと思う……けど……」

 

彼の確認に、ようやく我に返った私は答える。私の答えを聞いた彼は、また穏やかに笑った。その笑顔に、少し心臓が跳ねる。彼は、周囲の状況を見回してから、敵のサーヴァント2騎を見た。

 

「【暗殺者(アサシン)】と【槍兵(ランサー)】か……」

 

《マタ新タナサーヴァントカ》

 

《気ニスルナ。獲物ガ増エタダケダ》

 

《然リ。ダガ、警戒ハ必要ダ》

 

「っ!」

 

一方敵は、私が召喚したサーヴァントに警戒心を抱きながらも、嬉しそうに笑う。サーヴァントを倒して、聖杯を手に入れたいって事なんだろう。元々私達が襲われたのも、マシュが居たからだ。

 

『詳しく説明してる暇はない。呼び出されて早々で悪いけど、君しか頼れる戦力はいないんだ』

 

「……みたいだね……」

 

彼は私達を、特にマシュの事を見てそう言った。一瞬その穏やかな瞳が翳ったように見えたけど、すぐに敵のサーヴァントの方を向いた。見た所、彼は武器をなにも持っていないように見える。

 

『君のクラスはなんなんだい? 見た感じ、武器を持っていないみたいに見えるんだけど……』

 

「俺のクラスは……【天命者(オーダー)】だ」

 

「はあ!? なによそのクラス!」

 

『……エクストラクラスかい? それにしても、聞いた事がないクラスだ。強いといいけど……』

 

サーヴァントのクラス。七種類あるって所長から聞いたけど、そのどれにも該当しないクラス名。彼のクラスを聞いた所長は血相を変えて怒鳴り、ドクター・ロマンも困惑した様子を見せている。

 

「……大丈夫だよ。多分ね」

 

「どこが大丈夫なのよ!」

 

《話ハ終ワッタカ? ナラバ……》

 

《死ネ!》

 

彼が所長に答えて拳を構えたその瞬間、敵が彼に襲い掛かった。彼は私達を庇うように前に出て、敵の攻撃を受け止めた。武器を直接受け止めた訳じゃなくて、敵の腕を掴んで止めたみたいだ。

 

「……さすがに、2対1で素手はキツいかな」

 

どうやら敵の刃が少しかすったみたいで、彼の腕に小さな傷ができた。彼が敵を止めてくれた隙に私達は敵と距離を取る事に成功したけれど、その光景にまた不安が湧いてくる。勝てないの……?

 

「……やっぱり、【あれ】をやるしかないか」

 

「【あれ】って……?」

 

「もしかして……」

 

『【宝具】を使うつもりみたいだね。これで彼がどんな英霊なのかが分かるかもしれないよ……』

 

「だけど、逆にそれが通用しなかったら、私達は終わりって事になっちゃうじゃない! 【宝具】を使うのなら、もう少し慎重になりなさいよ!」

 

どうやら私以外は、彼がなにをしようとしているのかが分かってるみたいだ。【ほうぐ】って一体なんだろう。そんな私の疑問に答えてくれる人は誰もいなくて、私を置き去りにして事態は動く。

 

(われ)が築きしは永劫の絆。数多の星よ、その輝きで(われ)を照らせ。【この絆を以て、人理を守る(カルデアス・グランドオーダー)】」

 

彼が不思議な言葉を言った瞬間、彼の体から光が溢れて、敵を後ろに弾き飛ばした。しばらくして光が収まると、彼の姿がさっきと変わっていた。青白い半透明な鎧を着込んで、剣を持っている。

 

その剣も鎧と同じく、青白く半透明だ。まるで、通信越しのドクター・ロマンみたいだと思った。一体なにが起きたのか、私にはさっぱりだった。けれど、そんな私以上に混乱している人がいた。

 

『そんな馬鹿な……これは一体どういう事だ?』

 

「どうしたのよ、ロマン!」

 

『彼の霊基が、変化してる……今の彼のクラスは【剣士(セイバー)】に変わっているんだ。あり得ない……』

 

「なんなのよ、それ!」

 

『ぼ、僕にだってなにがなんだか……』

 

ドクター達の混乱は私には良く分からなかった。私はただ、彼の事だけを見ていた。負けないで。祈るように両手を合わせて、心の中で応援する。そんな私に彼は一瞬だけ振り返って、笑った。

 

その笑顔に、また私の心臓が跳ねた。これが私の物語の始まりを告げる音だと今の私は知らない。

 

…………………………………………………………

【立香視点】

 

「……」

 

視界が開けた時、俺の目に映ったのは琥珀色の瞳だった。怯えたような輝きを宿して俺の事を呆然と見上げるその瞳に、俺は安心させるように笑みを向ける。上手くいったらしく、怯えが消えた。

 

自分の事も今の状況も、召喚された際に頭の中に流れ込んできた。これが、英霊として召喚されるという事かと実感する。けれど自分の事についての知識に欠落があるという事にも気が付いた。

 

俺の名前は、【藤丸立香】。生前は、人類最後のマスターとして、幾つもの特異点を旅していた。だけどその旅の記憶が、なに一つ思い出せない。その旅の目的については分かっているのに……

 

人理焼却を防ぐ事。そして、俺はそれに失敗してしまった事。それは思い出せるのに、途中の旅の事は完全に抜け落ちている。どうやら相当無茶な召喚をされたようで、恐らくそれが原因だろう。

 

落ち着いて周囲を見回してみると、見覚えがある人達が何人かいた。特に、大きな盾を持って俺を見ている女の子には見覚えがありすぎた。そう、彼女の名前は、【マシュ・キリエライト】だ。

 

俺の一番大切だった女の子。だけど、今の彼女は俺の事なんて知らないだろう。ここは、俺の世界ではないのだから。知らない人を見るような彼女の瞳に、分かっていても胸が締め付けられた。

 

そんな彼女から目を逸らし、俺は自分を召喚した人物を見つめる。今のマシュにとっての先輩は、俺ではなくて彼女だ。自分にそう言い聞かせる。そう、【彼女】。その事にも俺は驚いていた。

 

そして懐かしいドクターの声がして、彼女の名前も俺と同じだという事を知った。その時に俺は、やはり彼女は違う可能性の自分なんだと心の中で理解した。後になって、字は違うと知るけど。

 

炎に包まれた町を見ながら、俺は敵と対峙する。旅の記憶は無くなってるから、今の状況が前にもあった事なのかは分からないけれど、ドクターの話を聞いて俺しか戦えないという事を理解した。

 

敵はアサシンとランサー。それに対して、自分はどうなのかと少し考えてみる。すると、また知識が頭に浮かんできた。なるほど、これは便利だ。俺のクラスはオーダー。そして、【宝具】は……

 

全てを理解して、俺は敵のサーヴァントと戦いを始めた。生前に教わった技をスキルで再現して、どうにか攻撃を受け止める事に成功した。だけどやっぱり、素手のままで武器持ち2騎はキツい。

 

先生達のようにはいかないようだ。自分の力量を改めて理解した俺は、【宝具】を使う事にした。どうすればそれが使えるのかも、頭の中に勝手に浮かんでくる。頼む、君の力を貸してくれ……

 

(われ)が築きしは永劫の絆。数多の星よ、その輝きで(われ)を照らせ。【この絆を以て、人理を守る(カルデアス・グランドオーダー)】」

 

《ふん、まったく仕方ない奴め。我が力、貴様に貸してやろう。さあ、存分に蹴散らすがいい!》

 

《……ありがとう》

 

真名解放した瞬間、頭の中で声が聞こえた。英霊の座にいる彼女の力が、全身に宿るのを感じる。そして彼女の鎧と剣が現れ、技や戦い方が頭の中に流れ込んでくる。これが俺の【宝具】か……

 

そして数秒後、さっきまでと完全に変わった俺がそこにいた。だけど、同時に気付いた。彼女の力の全てを引き出せていないという事に。恐らく、まだ俺の実力が伴っていないからなんだろうな。

 

俺の霊基がそれに見合った数値に達してないから使えない力もある、という事だろう。そう都合の良い力はないという事か。彼女のような力はまだ俺には使えない。結局、俺はまだ未熟なんだな。

 

「だけど、十分だ。これで戦える」

 

《……得体ノ知シレナイ奴ヨ》

 

《ダガ!》

 

アサシンが気配を断って、横に動いた。そして、ランサーが正面から向かってくる。ランサーが囮となって、アサシンに不意打ちさせるつもりか。敵の作戦を読んだ俺は、ランサーの槍を弾く。

 

《ッ! コノ太刀筋ハ!?》

 

「ハアァッ!」

 

《ムッ!?》

 

ランサーの槍を力任せに弾き、視界から消えようとしていたアサシンの所に蹴り飛ばす。ランサーの体は砲弾と化してアサシンにぶつかり、諸共に倒れる。敵を一塊(ひとかたまり)にした俺は、一気に接近する。

 

「蹂躙してやる」

 

《クッ……》

 

《ヤハリ、コノ太刀筋ハ奴ノ……!》

 

連続で斬撃を浴びせて、最後に巨大な魔力の刃を形成して斬り付けた。アサシンとランサーが共に吹き飛んで、周囲に魔力が吹き荒れる。さすがに圧倒的な力だな。改めてその力に戦慄を覚える。

 

《コウナレバ……》

 

《ヤルシカアルマイ》

 

「奴らも【宝具】を使う気か。なら……」

 

単純な戦闘力では俺に敵わないと悟ったらしく、奴らが魔力を高め始めた。アサシンの【宝具】は警戒が必要だ。一瞬で形勢を逆転される可能性がある。そこで俺は、剣を構えて魔力を高める。

 

《マサカ!?》

 

《ソレマデ使エルノカ!》

 

「―――卑王鉄槌。極光は反転する」

 

魔力を高める俺を見てアサシンとランサーが驚愕に固まった。何故かは分からないが、隙ありだ。敵の【宝具】の発動が遅れて、彼女の(・・・)【宝具】が間に合った。漆黒の聖剣に、巨大な魔力が宿る。

 

「光を呑め……! 【約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)】!」

 

聖剣の真の名を解放し、一気に魔力を解き放つ。極光が反転した黒い魔力の奔流が、凄まじい濁流となってアサシンとランサーを呑み込んだ。その威力は、まさに竜の吐息の如し。全てが消えた。

 

こうして、俺の最初の戦いは幕を閉じた。




という訳で、セイバーは黒王ことオルタです。

立香の宝具であるカルデアス・グランドオーダーは、立香の霊基段階で性能が上がります。
まだ一段階なので、使えるスキルや宝具に制限が付くという感じになりますね。
例えばセイバー状態だと、まだ魔力放出Aしか使えません。
直感は第1再臨、カリスマは第3再臨まで使用する事ができないという事にもなりますね。
他のクラスでも同じです。
立香自身の力が上がらないと意味がない。
そういう感じにしています。

それでは、感想を待ってます。


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