円卓の騎士が幻想入り (日本人)
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銀腕の騎士と裏切りの騎士が幻想入り
あと文章の書き方変えてみました。
────あぁ・・・、
────ようやく命を果たす事が出来た・・・。
────千年以上にも及ぶ我が不忠を・・・。
────あぁ、願わくば・・・、
────どうか・・・ご無事で我が主よ・・・。
────某日本のとある場所
「・・・あれは?」
とある神社の境内で一人の巫女が呟く。その視線は空を翔ける一条の流星に注がれていた。
「白・・・うぅん、違う銀色の流れ星・・・?」
その流星は白銀に輝いていた。普通ならありえない銀の流星。だが〝ここ〟ではそんな事は日常茶飯事である。
やがて流星は山の向こうに消えていった。数瞬後、山の向こう側が光ったと思うと一斉に鳥達が羽ばたき、山から遠ざかって行く。巫女はその様子を眺め、
「・・・また何かの異変かしら。ハァ・・・仕方ないわね。」
巫女は〝浮かび上がり〟流星が落ちた方向へと向かう。巫女の名は〝博麗霊夢〟。ここ《 幻想郷》最強の巫女であり、一流の戦士でもあった。
「うぅ・・・?ここ・・・は?」
薄暗い森の中で“彼”は目覚める。彼の風貌は如何にも騎士と言った感じの格好だった。銀の鎧に白無地のマント、艶のない銀髪を後ろで束ねている。その容貌は美青年と言った言葉が良く似合う。────そして何よりも目を引く銀に染まった右腕。甲冑の類ではない。関節部でさえ銀色に染まっている。どう言う仕組みか分からないがそれは``義手´´であるという事が朧気に理解出来た。彼は困惑した様子だ。
「ここは・・・?私は王に聖剣を返還して・・・そうだ、そして間違いなく消えた筈・・・なら何故・・・。」
彼は酷く困惑している。何故自分が生きているのか理解出来ていないようだ。
────彼の名はベディヴィエール。アーサー王の配下である円卓の騎士の末席である隻腕の騎士であり、円卓内で最も王に近かった騎士。彼はアーサー王の死の間際、聖剣返還の任を果たした人物として知られている────表向きは。彼は聖剣返還の任を果たせず、聖剣の呪いによりアーサー王を探し千年以上も世界をさまよい続けた。結果、彼は全て遠き理想郷へと辿り着き、人類を救う為の戦いに身を投じることとなる。その際に〝花の魔術師マーリン〟により義手を与えられていた。その際、彼は人類最後のマスターの手を借り聖剣返還を成し遂げ、消滅した────否、する筈だった。しかし、彼は今どことも知れない森の中にいる。しかも────
「これは・・・受肉している?」
彼の肉体は聖剣の呪いによって崩壊を留めていたに過ぎない。聖剣が無くなった今朽ち果てている筈────にも関わらず受肉しており、なおかつ健康体のようだ。が、それだけならまだしも、
「・・・何故この腕が?」
────彼の腕は〝花の魔術師〟がケルトの戦神であるヌァザの腕をモデルに“聖剣を核にして”創り上げた義手。つまり聖剣返還の際に王へ返還した筈のもの。自身の手元に残る筈が無いのだ。
「・・・今はここが何処か知る事が先決、か。」
ベディヴィエールは悩んでも仕方ないと言うように立ち上がり、歩き出す。────自身の状況も確認せずに────
「しまった・・・これは・・・。」
────数十分程歩き続けた彼は自分が迷った事を悟った。彼は円卓では数少ない常識人であり────常識に当てはまらない天然でもあった。よくよく考えれば自分が居たのはどことも知れぬ森の中。そんな所で何も考えず歩き続ければ迷うのは必然。ベディヴィエールは頭を抱えながら考える。
「(どうしたものか・・・。まさかモードレッド卿の様に森ごと薙ぎ払う訳にも行かないでしょうし・・・。)」
何をやっているんだモードレッド卿。そしてベディヴィエールよ、冗談でもそんな事を考えるんじゃない。ベディヴィエールが早速天然を発揮していると少し開けた場所に出る。彼の目の前には小さな一軒家があった。
「ここの住人でしょうか・・・取り敢えず話を聞かなくては。」
ベディヴィエールは家の扉の前に立ち、軽くノックをする。
「はーい、今行くぜー。」
中から男口調の女性の声が聞こえてくる。ベディヴィエールはようやく人に会えたと安堵して────
「どうしたんだよ霊夢?ノックなんかせずにさっさと入って────」
────中から下着姿の少女が出てきて硬直する。それは目の前の少女も同様でそのまま見つめ合う。目の前の少女は金髪でくっきりとした目をしている中々の美少女だ。少し女性としての凹凸に欠けるが、まだまだ未来があるだろう。こんな状況ながらベディヴィエールはそんな事を考えていた。両者の間を沈黙が支配する。そのまま数秒間、先に復活したのは少女だった。
「うっ、うわぁぁぁぁあああ!?」
顔を真っ赤にしてドタバタと家の中に戻って行く。ベディヴィエールはその音を聞いてようやくハッとなる。どうしたものかと考えていると先程の少女が戻って来た。今度は服を来ているがそのデザインが少々奇抜だった。如何にも魔女と言った服装をしている。その姿を見て思わずと言った様にベディヴィエールは顔を顰める。
「(魔女・・・か。どうしてもモルガンを思い出してしまいますね・・・。)」
モルガン────アーサー王物語に登場する魔女であり、裏切りの騎士モードレッドの母親にして、円卓崩壊の切っ掛けでもある。円卓の騎士である彼があまりいい感情を抱かないのも当然である。目の前の少女は顔を真っ赤にしながら、
「・・・見たのか?」
か細い声で聞いてくる。ベディヴィエールは少しどもりながも答える。
「え、えぇ・・・その・・・すみません。」
「い、いやいや私の勘違いのせいだから気にしないでいいぜ!とっ、ところで!あんたはどうしたんだ?なんで魔法の森に?」
「(魔法の森?)」
ベディヴィエールは地球上にそんな場所があったのかと思いながら考える。そんな様子を見て少女は、
「もしかして・・・あんた〝外来人〟か?」
「・・?すみません、その外来人というのは?」
「あぁ〜、説明が長くなりそうだから取り敢えず上がってくれ。」
「良いのですか?申し出は有難いのですが・・・。」
「いいってことよ。困った時はお互い様だぜ!(まぁ〝あれ〟はなんとかなるか)」
少女はそう言ってニカリと笑う。魅力的な笑顔だとベティヴィエールは思った。
「それではお言葉に甘えて。」
ベディヴィエールは家の中に入っていった。その様子を見ていた者が居たが殺気が無かったので彼は特に注意は払わなかった。
「これは・・・大スクープですよ・・・!」
その見ていた者がいわゆるマスゴミと呼ばれる類の者だと言う事を彼は知らなかった。それがこの世界において彼の最初の不幸だろう。
「これは・・・。」
家の中に入った瞬間彼は絶句してしまった。少女の家はいわゆるゴミ屋敷の類であった。所々に本や服が散乱している。・・・明らかに下着類と分かる物もあった。どう考えても年頃の少女の家出はない。
「ちょっと散らかってるけど気にしないで寛いでくれ。
」
「・・・“ちょっと”?」
一瞬聞き間違いかと思ったが目の前の惨状がそう出ない事を示している。彼が唖然としているのも気づかず少女は話し始める。
「私の名前は霧雨魔理沙!よろしくだぜ!」
「・・・私はベディヴィエールと申します。早速ですがミス・霧雨。」
「ん?なんだぜ?」
「掃除をしましょう。」
「・・・えっ?」
「ほぇ〜。」
魔理沙が素っ頓狂な声をあげる。家の中は見違えるほど綺麗になっていた。彼────ベディヴィエールは円卓の騎士ではあるものの、執事としての役割もこなしていた。その家事スキルは赤い外套のオカン系サーヴァントや、良妻系腹黒狐にも劣らない。
「全く・・・ミス・霧雨?若いうちに家事くらい出来るようにならないと将来苦労しますよ?」
「うっ!いや、その、」
「いいですかミス・霧雨?貴女も女性である以上、将来は誰かと契りを結び、子を産み、母になります。その時に家事が出来なければ困る事になりますよ?」
「どっ、どうせ私みたいな可愛げのない女を貰ってくれる奴なんて居ないからいいのぜ!(うぅ、言ってて悲しくなってきたのぜ・・・。)」
「全く・・・ミス・霧雨。私からしたら貴女は充分魅力的な女性ですよ?」
「えっ・・・。」
ここでベディヴィエールは見事天然を発揮し、魔理沙を赤面させる。本人にはそんなつもりは一切無いのだが傍から見たら完全に口説き文句である。そんな事に気づかずにベティヴィエールは掃除を再開するために家の奥の部屋に向かう。彼が扉に手を掛けた所で魔理沙が再起動する。そしてベディヴィエールをみて、
「あっ!そっちは!」
慌てて止めようとするが、既に遅かった。ベディヴィエールが扉を開くとそこには────
────自身が敬愛する主を討った騎士が眠っていた。
「なっ・・・!?何故・・・貴女が?」
魔理沙はベディヴィエールの尋常ではない様子に尻込みしながらも彼に近寄る。
「お、おい!?どうしたんだ!?」
「・・・ミス・霧雨。彼女とはどこで?」
「へっ?あ、あぁ・・・三日前だっけか、森で倒れてたんだよ。傷はないけどかなり顔色悪かったから医者に見せたんだけど過労らしい。で、未だに目を覚まさないんだけど・・・。」
「・・・そうですか。」
ベディヴィエールはそれだけ言うと寝ている騎士に目を向け────
「────起きているのでしょう?モードレッド卿。」
「・・・チッ、やっぱり騙せねぇか。」
そう言ってムクリとモードレッドと呼ばれた騎士起き上がる。
「へっ!?寝てたんじゃ・・・?」
「起きたのはついさっきだよ。こいつの気配を感じたから起きたんだ。それで?なんでお前がここに居るんだ?サー・ベディヴィエール卿。」
「それはこちらの台詞だ、サー・モードレッド卿。」
────今ここに彼らの幻想郷生活が幕を開けた────
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幻想郷での戦いー英霊の真髄を見よ
あと幻想郷の時間軸は春雪異変が終わってから一ヶ月くらい経っている設定です。
2017/11/22 クラレント→燦然と輝く王剣に変更しました。
2017年11/28 一部修正しました。
「オレが此処にいる理由ねぇ・・・」
目の前の騎士────モードレッドは考え込む様に唸る。やがて納得した様に頷きベディヴィエールを見る。
「・・・“アイツ”が原因だろ。間違いなく。てかそれしか考えられねェ」
「・・・やはり“彼”ですか」
呆れた様に二人は嘆息する。魔理沙はそんな二人の話についていけずオロオロと狼狽える。
「な、なぁ・・・“アイツ”とか“彼”とか一体全体誰の事なんだ?」
「誰って・・・なぁ?」
「えぇ・・・間違いなく────」
二人は顔を見合わせ全く同じタイミングで、
「「花の魔術師マーリン」」
と、言い放った。魔理沙は何を言われたか分からず数瞬瞬きをして、一気に爆発した。
「ええええええええええええええええええええええええええええええ!!!???ま、ままままままマーリンって!?あのマーリンか!?ソロモン王と並ぶ大魔術師っ!?ふっ、ふふふふふ二人はマーリンと知り合いなのか!?」
「知り合いっつーか・・・」
「元同僚ですね」
「元同僚ォ!?そんなの円卓の騎士ぐらいしかいな・・・え?ちょっと待てよ?モードレッドってことは・・・え?でも女だし・・・」
「オレは男だっ!!!」
魔理沙のこいつは女発言にブチ切れるモードレッド。彼女は過去の召喚で女扱いされてマスターを殺しかけている。それほど男にこだわる人物であった。・・・まぁ某水着のサモさんには面影が残っていなかったが。最終的に日焼けサモさんまで進化するし。
「いやどう見ても女だろ!?ッ・・・胸だって私よりあるじゃないか!」
「これは母上似だ!!」
「母親に似るだけで男に胸があってたまるかぁっ!!」
それは持たざる者の魂の叫びであった。魔理沙は涙目でベディヴィエールの方を向く。
「ハァ・・・ハァ・・・でことはベディもそうなのか?」
「ベディ・・・いえ何でもありません。私は確かに円卓の騎士の一員で古参の部類なのですが・・・まぁ伝説では〝あの時〟以外殆ど語られないですしね」
「あの時?」
するとベディヴィエールは苦い顔をし、
「・・・聖剣返還の際です。」
「聖剣返還・・・あぁ!!アーサー王が死の間際、配下の騎士に命じて聖剣を返しに行かせたあの!ってことはベティがその騎士なのか!?」
魔理沙が大興奮するのとは対象的にベディヴィエールは苦い顔のままだ。魔理沙はそれに気付き、
「・・・どうかしたのか?」
「いえ・・・何でもありません」
「所でよぉ〝ベディ〟?」
ベディヴィエールを先程魔理沙が呼んだ呼び方で呼ぶモードレッド。思いっきりニヤついている。傍から見たらからかっているようだが、ベディヴィエールはそれが〝彼女なりの気遣い〟だと気付き、心の中で感謝すると共に、マスターといい、何故自分の名前を略したがるのだろうかと悩む。
「・・・何でしょうかモードレッド卿」
「お前は何処まで憶えてるんだ?」
それが特異点での事だと察したベディヴィエールは自身が体験した事を全て話す。マーリンからこの腕を与えられた事、円卓の騎士と対立したこと、アーサー王と戦ったこと、聖剣返還については魔理沙がいるので誤魔化したが、自身が憶えている全てを話した。
「そうか・・・オレは第四の記憶しかねェんだ。第六の話はマスターから聞いただけだからな・・・つーわけでお前のその〝腕〟の事も知らねェ。まぁ興味無い訳じゃねェけど今更だ・・・。所でよぉ・・・」
モードレッドは一度言葉を切り、
「〝気付いてるか〟?」
真剣な眼差しでベディヴィエールを見る。
「えぇ勿論。〝敵意を持った存在〟がこちらに接近していますね。それも物凄い速度で」
「え!?マジか!?そんなの全然感じられ────」
「────でしょうね。敵意は全て我々に向いています。」
「────ハハッ!面白れェ!丁度体が鈍ってたんだ。リハビリ相手に叩き潰してやる!」
そう言ってモードレッドは壁に立てかけてあった大剣────クラレントを肩に担ぎ扉へ向かう。
「待ちなさいモードレッド卿」
そんな彼女をベディヴィエールは止める。モードレッドはイラついた様に、
「なんだよ?暴れちゃダメだってか?」
「いえ、そういう訳ではありません。ただ────」
ベディヴィエールは真剣な表情で、
「────やり過ぎないように。決して殺してはいけませんよ?手加減を忘れないでください」
「・・・チッ、わーったよ。手加減すりゃいいんだろ?」
モードレッドはそう言って部屋を出ていきベディヴィエールもそれに続く。一方魔理沙は二人の会話に唖然としていた。
「(冗談だろ?いくら円卓の騎士を名乗ってるとはいえ・・・ていうか本当かどうかも分からないし・・・それなのに〝手加減〟?いくら何でも幻想郷を舐め過ぎだぜ・・・。それにこの気配・・・まさか・・・)だとするとやばい!あの二人じゃ敵わない!」
魔理沙は焦って家を飛び出した。その心配が杞憂であり危険なのは己の親友だと言う事に彼女は気付かなかった。
「────貴女が異変の主犯かしら?ま、答えなくても良いけどね、倒すから」
「────ハッ。随分と余裕だなァオイ?」
魔理沙の家から少し離れた場所で二人の少女が対峙────片方は宙に浮かんでいるが────していた。ベディヴィエールは少し離れた場所から様子を伺っている。黒髪の少女────博麗霊夢は目の前の金髪の少女────モードレッドを冷静に観察する。
「(強いわね・・・人間にしては。魔理沙と同じくらいかしら?だったら勝ち目はある・・・でも)」
霊夢は彼女の持つ大剣に目を向ける。
「(幻想郷で大剣使い?あの半人半霊ならまだしも・・・こいつは人間みたいだし・・・)」
「なぁオイ」
霊夢が思考に耽っているとモードレッドが話し掛けて来る。
「・・・何かしら?」
「さっさとヤろうぜ?こっちは戦いたくてウズウズしてんだ」
そう言ってクラレントをブォンッと振るう。
「(こいつ戦闘狂か・・・)・・・いいわ、なら────遠慮なく食らいなさい!」
そう言って霊夢は大量の御札をモードレッドへ放つ。モードレッドはそれを躱し────
「おぉっ!?」
────たと思ったらその御札はモードレッドをホーミングし、追い掛けてくる。そのあいだも霊夢は大量の御札を飛ばしてくる。
「ハッ!いいなぁそう来なくちゃ!」
モードレッドは立ち止まりホーミングしてくる御札を迎え撃つ。
「ッラァ!!」
モードレッドは追い掛けてくる御札を全てクラレントで切り払う────しかも片腕で。ベティヴィエールの「手加減しろ」と言った言葉を律義に守っているのだ。
「(クハハッ!楽しいなぁ!やっぱり戦はいい!)」
モードレッドはこの戦いを楽しんで居たが霊夢はそれどころではない。
「(嘘でしょ!?あの大剣を片腕で!?どんな力してんのよ!?剣筋が全く見えない!こうなったら・・・)」
霊夢は表情を引き締め、一枚の札を手に持つ。
「霊符《夢想封印 》」
霊夢が札を構え前に突き出すと、色とりどりの球体が現れる。一つ一つが霊夢の数倍はある球体だ。それはモードレッドに次々と襲いかかる。が、モードレッドは慌てた様子を見せず不敵な笑みを浮かべる。
「『燦然と輝く王剣《クラレント》』!!!」
愛剣の名を呼び横薙ぎに一閃する。すると剣から魔力の奔流が迸り、夢想封印をあっさりと薙ぎ払う。
「嘘・・・」
霊夢は信じられないと言った様に呟く。だが忘れてはいけない。これはただ剣閃に魔力を纏わせ飛ばしただけである。宝具の真髄である“真名解放”を彼女は行っていないのだから。モードレッドは呆然としている霊夢の所にまで飛び上がり剣を振り下ろす。
「っ!?うあぁっ!?」
咄嗟にお祓い棒でガードする霊夢だが、そのまま地面に叩きつけられる。そのままモードレッドは霊夢に剣を突き立て────
「んなっ!?」
────ようとしたところで霊夢が“消える”。そして思わず狼狽えたモードレッドを何かが縛り付ける。
「なっ!これは・・・糸か!?(解けねぇ!魔力が込められてやがる!)」
「無駄よ。人間如きに解かれるほどヤワじゃないわ。」
モードレッドは振り向こうとし、自身の喉元に刃が突きつけられているのに気づく。
「(あっちゃぁ油断したか・・・)」
「そのまま大人しくしていろ人間。こちらも無益な殺生は望むところではない。」
刀を持った銀髪の少女はモードレッドに警告する。離れた場所には霊夢と指から糸を飛ばしている金髪の少女。そして銀髪のメイドがいた。
「咲夜・・・アリスに妖夢も・・・助かったわ。」
「それより霊夢彼女は?」
咲夜と呼ばれたメイドが霊夢に問いかける。
「・・・多分貴女達と同じよ。あの銀の流れ星を追いかけていったらこいつに出会ったのよ。あとはこの通りよ。」
「そう・・・じゃぁこのまま目的を聞きだしましょう。その方がさっさと・・・ッ!?妖夢ッ!!」
「ッ!?はァっ!」
咲夜が焦った声をあげる。何事かと妖夢と呼ばれた刀の少女は振り返ろうとする前に刀を振るう。が、あっさりと受け止められる。妖夢に攻撃を仕掛けたのは細身の長剣を持った銀騎士────ベディヴィエールであった。彼はそのまま妖夢を吹き飛ばし、モードレッドに近寄って彼女を拘束している糸を斬る。
「申し訳ありませんモードレッド卿。どうやら彼女達を甘く見ていたようです。」
「・・・ったりめーだ。ハナから本気出しときゃさっさと終わってたんだ」
「あれぐらい言わなければ貴女はいつもやりすぎるでしょう」
ベディヴィエールはハァと溜息をつく。相当過去に苦労していたようだ。そんな二人を警戒しながら金髪の少女────アリスが話し掛ける。
「・・・貴方達は何者?何が目的なの?」
「我々目的はありません。そこの彼女がこちらに敵意を持って我々に戦いを挑んだのです」
「そう・・・貴方達の名は?」
「私はベディヴィエール。彼女はモードレッドと言います」
「・・・ふざけてるのかしら?」
咲夜がどこからかナイフを取り出し、殺気をぶつけてくる。ベティヴィエールはそれを涼して顔で流す。
「別に巫山戯ている訳ではなく本名です」
「・・・取り敢えず、貴方達を拘束させて貰うわ。何をするか分からないもの」
「断わる。お前らに構う理由なんてないからな」
モードレッドはきっぱりと断り、ベディヴィエールもそれに反対する様子はない。彼らは目の前の少女達を信用していない。自らの戦力を晒したくないのだ。
「────なら無理矢理にでも従ってもらうわ」
そう言って四人の少女達は戦闘態勢に入る。それを見た騎士達もだ。両者達の間に重苦しい空気が流れ────
「ちょっと待つんだぜーーーー!!!!」
────少女の声でそれが霧散する。それは魔理沙であった。空から箒に乗って飛ぶという如何にも魔女といったスタイルである。そのまま魔理沙はベディヴィエール達の傍に降り立つ
「魔理沙!?なんでそいつらの方に!?」
アリスが驚きの声をあげるが、それは魔理沙も同様だ。
「それはこっちのセリフだぜ!なんでベティ達とお前らが戦かってるんだ!?」
「・・・ちょっと魔理沙?その人達と知り合いなの?」
「えぇっとそうだな今説明する。」
────少女説明中
「・・・つまり全て私達の勘違いだったと?」
「そういう事なんだぜ」
霊夢達は頭を抱える。つまり自分らの勘違いで目の前二人に迷惑を掛けてしまったということだ。そして何より信じられないのは────
「お二人が円卓の騎士────という事ですよ」
咲夜とアリスは信じられない様子だ。一方霊夢と妖夢は何のことか分からない。
「あの・・・咲夜さん?円卓の騎士って?」
「・・・五、六世紀頃に存在したと言われるある王の配下の騎士達の事よ。王を含め、騎士達は聖剣魔剣の類を携え、王の為に戦ったと言われているわ」
「したと言われるって・・・架空の人物って事ですか?」
「それはよく分かっていないわ。ハッキリしているのは騎士達は何れも一騎当千の勇者だったという事。この人達が本人なら私達が敵わないのも納得出来るけど・・・伝説と性別も違うし・・・貴方達は何故幻想郷に?」
「それが分かれば苦労しねーよ。あの魔術師に聞け」
「あの魔術師って・・・まさか?」
「花の魔術師マーリンの事です」
「あの大魔術師マーリン!?」
アリスを見て強烈な既視感に襲われる騎士達であった。
「あの・・・ベディヴィエール卿?貴方は伝説では隻腕だった筈ですが・・・」
咲夜の質問にベディヴィエールは右腕を上げ、
「これは義手ですよ。マーリン殿に造って頂いたものです。」
「「あのマーリンお手製のマジックアイテム!!!???」」
魔女二人は大興奮してベディヴィエールの右腕に迫る。完全に獲物を狙う肉食獣の目であった。霊夢は嘆息し、
「・・・取り敢えずうちの神社移動しましょ。話はそこで出来るわ」
ちなみに神社への移動ですが、モードレッドはモルガンに習った魔術で、ベディヴィエールも似たような感じで魔術を使った飛行で移動しました。特異点で使わなかったのははぐれサーヴァントだったので魔力を自由に使えなかったのと、ベディヴィエールは霊基が限界近かったので使えなかったということでオナシャス。
2017年12月17日 やうゆうさん。誤字報告ありがとうございます。
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紅き館の吸血鬼
2017/11/25 一部加筆修正しました。
博麗神社へ移動したベディヴィエール達はそのまま自分達の身の上を話した。サーヴァントの事や特異点の事は話さなかった。余計な混乱を招きたくないからだ。話が終わった後、これからどうするかと悩んでいると、
「泊まるとこないんでしょ?じゃ、うちに泊まりなさい」
と、霊夢の一言であっさり解決した。ベディヴィエール達はそのまま少女達と夕飯を食べ、眠りについた。なお、夕食担当はベティヴィエールで、少女達にはかなり好評だったそうな。ついでに言えば咲夜と妖夢は主を待たせているとのことで夕食後に帰っていった。そして翌日、彼は未だ起きてこない少女達の朝食を作っていた。その手際は赤い主夫もかくやといった風だ。彼がそのまま料理をしていると霊夢が起きてきた。
「おはよ〜・・・って・・・うわっ何これあんたが作ったの?」
「えぇおはようございますミス・博麗「ちょっと待ちなさい」はい?」
「そのミスなんちゃらって言うのやめてよむずがゆい。普通に霊夢でいいわよ」
「わかりました霊夢。それで朝食なのですが・・・和食で構いませんか?」
「いいけど・・・あんた何でも作れるのね」
「世界中を放浪していましたからね」
そう言ってベディヴィエールは寂しそうに笑う。彼はアーサー王を探して世界中を巡っていたのだ。
「それにしたって手際良すぎでしょ・・・あんたいったい何歳よ?妖怪の類?」
「元は人間ですよ・・・。年齢は大体一五〇〇といったところでしょうか」
「並の妖怪より長生きじゃないの・・・、取り敢えず家事は任せていいかしら?」
「えぇ構いませんよ」
「ならよろしくね」
その後、少女達が起きてきた所で霊夢の話をしたら、皆も普通に読んで欲しいとの事で皆名前呼びで落ち着いた。食卓を囲む中、外から声が聞こえる。
「新聞でーす!霊夢さーん!いませんかー?」
「・・・あのバカラス。せっかくいい気分だったのに・・・」
霊夢が嘆息すると縁側から一人の少女が入ってくる。背中から黒い羽を生やした少女だ。少女は霊夢に新聞を渡したあとベディヴィエールとモードレッドを見ると、
「あやや?見ない人がいますねってそちらの彼は・・・」
ベディヴィエールを見て少女は面白そうな顔をする。
「あの・・・?私の顔に何か「ちょっと文!?これどういうこと!」え?」
霊夢が新聞片手に大声をあげる。モードレッドはその様子を見て何かあったのかと新聞を見る。
「ぷっ、『霧雨魔理沙、下着姿で愛しの彼をお出迎え』って何だこれ?」
モードレッドは笑ながら新聞を読み上げる。魔理沙は顔を真っ赤にして、
「ちょっ!?どういう事なんだぜ!?」
「だって魔理沙さんそこの彼を下着姿で出迎えてたじゃないですか。あっと、私は清く正しく美しく!の文々。新聞の射命丸文です!どうぞお見知り置きを!」
「何が清く正しく美しくだぁぁぁぁぁあああ!あることないことかいてばっかりだろ!?」
「で、早速なんですが貴方がたのお名前は?あとそちらの方は魔理沙さんとどういうご関係で?」
「無視するなぁぁぁぁあああ!!!」
魔理沙の叫びを無視して話を進めるマスゴミこと射命丸文。そんな質問にベディヴィエールは律義に答える。
「私はベディヴィエールと申します。彼女はモードレッド。こちらで言う外来人ですね・・・、彼女との関係・・・そうですね少々身体に叩き込んだだけの関係ですが」
「「「「「へっ!?」」」」」
モードレッド含め、少女達は唖然とする。対象的に射命丸は目を輝かせる。
「それはっ!?具体的にどんな風に!?」
「それは・・・彼女は物覚えが少し悪い様でしたので何度も教え込む形でしたね。身体に」
忘れてはいけない。ベディヴィエールはド天然なのである。今の自分の発言がどれほど危険なのか気づいていない。
「こっここここここれはぁぁぁあ!!大ッスクープキタッーーーーーー!!!!」
「えっちょまっ待てーーーーー!!!!」
魔理沙の静止も聞かず射命丸は飛びさっていった。アリスはギギギギと首をベティヴィエールに向け、
「あの・・・ベディさん?貴方魔理沙に何を・・・?」
「・・・?ただ掃除の仕方を教えただけですが?」
それを言ったところでモードレッドがゆらりと立ち上がる。その顔は真紅に染まっていた。
「そっ、そそそそそそういうことは・・・」
クラレントを振りかぶり、
「ハッキリ言えーーーー!!!!!!」
思いきり振り抜く。何故と思う間もなくベティヴィエールは吹き飛ばされ、森の中に突っ込んだ。モードレッド────全英霊中、一、二を争う程の初心であった。
あの後、モードレッド達の怒りが収まるまでベベディヴィエールは散々こき下ろされた。ベディヴィエールは天然故に何故自分が怒られたのか理解出来なかったが、涙目の魔理沙を見て何も言えなかった。
そして現在、ベディヴィエール・モードレッド・魔理沙の三人は吸血鬼の住まう館────紅魔館を目指していた。昨夜に咲夜から、
「お嬢様が貴方達に会いたがっているから来てくれないかしら?」
と、言われていたのだ。彼らは特に何も言う事は無かったので了承した。そして今、魔理沙の案内のもと彼らは紅魔館を目指している。
「なぁちょっと聞いていいか?」
飛行中に魔理沙が話しかけてくる。
「何でしょうか?」
「二人とも吸血鬼って聞いて何も思わないのか?何か凄く平然としてるけど・・・」
「あぁその事ですか」
ベディヴィエールは平然と答える。
「並の吸血鬼程度なら何人も討伐しているので別に今更何も思う所はありませんよ。彼らは誇り高い種族ですから余程の事がない限り無闇に攻撃してきませんからね」
「へ、へぇー・・・」
あまりにもぶっ飛んだ答えにそんな返事しか返せない魔理沙。
「・・・モードレッドは?」
「同僚に居たからな二人程」
「・・・吸血鬼が?」
「吸血鬼が」
「どんな職場だよ・・・」
どうやら魑魅魍魎が跋扈する幻想郷在住の魔理沙からしてもカルデアは人外魔境の様だ。そんな話をしながら飛んで行くと湖の向こうに深紅の館が見えてきた。まるで全体が血のような紅に染まっている。あまり趣味がいいとは言えないなとモードレッドは思った。ベディヴィエールは「わざわざ全体を赤に染める必要があったのでしょうか・・・」などと、とんちんかんな事を呟いていた。三人が館の門の前に降り立つと、門の隣の壁にチャイナドレスを着た紅い髪の女性が眠っていた。恐らく門番なのだろうが眠っていては意味が無い。おまけに鼻から馬鹿でかい鼻ちょうちんが出ている。魔理沙は彼女を無視してそのまま館に入ろうとしたが、ベディヴィエールは女性に近づき、
「もし、レディ。こんな所で寝ていては風邪を引きますよ」
と、女性の肩を揺すって起こそうとした。二、三回揺すると鼻ちょうちんが割れ、女性が目を覚ます。
「ふわぁい・・・?なんでふか・・・って咲夜さん!?寝てませんよ・・・って咲夜さんじゃない・・・?」
起き抜けで混乱しているようである。
「申し訳ありませんレディ。こんな所で寝ていては風邪を引くと思いましたので起こさせて頂きました」
「へっ!?あっはいありがとうございます!私は紅魔館の門番の紅美鈴と申します。あの・・・貴方達は?」
「私達は十六夜咲夜殿の招待を受け、参りました。私はベディヴィエール、彼女はモードレッドと申します。そして彼女が────」
「────霧雨魔理沙ですよね?」
「おや、お知り合いで?」
「知り合いも何も、よくここの図書館から本を盗み出していくんですよ。お陰でこっちはいい迷惑ですよ」
美鈴の言葉を聞いて、ベディヴィエールは咎めるような視線を魔理沙に送る。
「魔理沙・・・、そんな事をしているのですか?」
「べっ、別に盗んでる訳じゃないぜ!死ぬまで借りてるだけだぜ!」
「胸を張って言う事ではありません。それを世間一般では盗人と言うのです。いいですか?近日中に返しなさい。借りるにしても所有者に許可をとってください」
「いやだから・・・」
「返しなさい」
「・・・わかったよ」
モードレッドと美鈴を置いてきぼりにしてベディヴィエールは魔理沙に説教を始めてしまう。二人はなんとも言えない様子であった。しばらくして魔理沙が口を開く。
「そっ、そうだ!あまり待たせても悪いから早く行こうぜ!」
「あぁ・・・それもそうですね。案内を頼めますか?」
「────かしこまりました」
何も無い空間から咲夜が突然現れる。ベディヴィエールとモードレッドは軽く目を見開くが、魔理沙は平然としている。どうやらこういった登場の仕方は初めてでは無いらしい。
「(魔術を使った転移か?でも全く魔力を感じない転移なんて母上でも無いと無理だ。だったらいったい・・・)」
「(これは・・・、空間転移の類でしょうか?にしては何か・・・まさか?)」
ベディヴィエール達は咲夜が行った事を考察する。ベディヴィエールは過去の経験から咲夜の行った事の正体をほぼ看破していた。一方美鈴は上司の登場に焦りまくる。
「えっ!咲夜さん!?いつからいたんですか!?」
「貴女が彼らが来たことにも気付かずに居眠りしていた頃からよ・・・、全く・・・お客様に見苦しい姿を見せないでちょうだい」
「うぅ・・・申し訳ないですぅ・・・」
咲夜が現れたと思ったら流れるように美鈴へ説教を始めてしまった。咲夜はベディヴィエールの方を向き、謝罪する。
「申し訳ありませんベディヴィエール卿。お見苦しいものを・・・」
「申し訳ありません・・・」
美鈴も同じ様に謝罪する。ベディヴィエールはクスリと笑い、
「いえ、見苦しくなどありませんよ。可愛らしい寝顔でしたよ、レディ」
「えっ」
美鈴はみるみると顔を赤くしていく。彼女にしてみれば異性の、それも美青年に無防備な寝顔を見られ、あまつさえ可愛いなどと言われるのは初めてだからだ。当然“レディ”などと言われた事も無い。そしてそんな美鈴を見て、ベディヴィエールの後ろの金髪少女達は目付きを鋭くし、明らかに機嫌が悪くなる。咲夜はそんな少女達の反応を以外に思いつつ、ベディヴィエールの紳士的な応対に、流石騎士だと感心していた。そして自らの主が待っているのを思い出し、
「それではベディヴィエール卿、モードレッド卿。我が主がお待ちです。どうぞ中へ」
「わかりました。それではまた」
最後に美鈴に笑いかけるベティヴィエール。美鈴はさらに顔を赤くし、それを見た少女達はさらに機嫌を悪くする。そんな事に気付かないベディヴィエールは咲夜に続いて館の中に入って行った。
────紅魔館の地下
「・・・誰か入ってきた?」
薄暗い地下室の中一人の少女が呟く。その部屋の状態は凄惨の一言。壁には血と肉片がこびり付き、所々に蜘蛛の巣状のヒビが走っている。少女は幼い見た目に似つかわしくない凶悪な笑みを浮かべる。
「新しい“オモチャ”かなぁ・・・?ふふふっ♪楽しめるといいなぁ・・・♪」
少女は笑う。残酷な悪魔の様に────無垢な赤子の様に────
「────ここです」
咲夜に案内され辿りついたのは一つの部屋の前だった。中から何者かがこちらを伺っているのをベディヴィエールとモードレッドは感じ取っていた。咲夜はノックをし、
「お嬢様。お二人をお連れしました」
『────入りなさい』
中から少女の声が響く。 咲夜は扉を開け、ベディヴィエール達を中に招き入れる。
「────ようこそ紅魔館へ、サー・ベディヴィエール卿、サー・モードレッド卿。貴方達を歓迎するわ。」
扉を開けた先に居たのは幼い少女。だがその体からは重厚な威圧感が流れ出ている。
「私の名はレミリア・スカーレット。誇り高き吸血鬼、ヴラド・ツペシェの末裔にしてスカーレット家の当主よ」
「お初にお目にかかります円卓が末席、ベディヴィエールと申します」
「同じく円卓が一人、モードレッドだ」
ベティヴィエールは丁寧に、モードレッドは慇懃無礼に返答する。ベディヴィエールがモードレッドの態度を注意しようとする前に彼女が口を開く。
「しっかし、お前がヴラドのオッサンの子孫ねぇ・・・似てねぇなぁ」
「モードレッド卿、失礼ですよ」
「事実じゃねぇか」
「ちょっと待ちなさい」
ベディヴィエールがモードレッドを諌めるが、そんな事は耳に入らないようだ。モードレッドは気にせず言葉を続ける。レミリアは聞捨てならないとばかりに思わず口を挟む。
「貴女、ヴラド公にお会いしたことが?」
「ん、あぁ。おっさんともう一人、吸血鬼の同僚がいたぞ 」
「・・・ちなみにその同僚の名は?」
「“血の伯爵夫人”」
「エリザベート・バートリーですか・・・」
咲夜が呆れたように呟く。ヴラド・ツペシェこと、ヴラド三世はドラキュラ伯爵のモデルであり、ルーマニアを統べる王であった。その苛烈な政策ぶりから〝串刺し公〟の異名を持つ。“血の伯爵夫人”ことエリザベート・バートリーはハンガリーの貴族で、数百人の処女を自らの美貌を保つ為に殺し、その血を浴び続けた殺人鬼。彼女は吸血鬼カーミラのモデルにもなっている。
「・・・ヴラド公と同じ職場って・・・生きていた時代も違いますよね?」
「あぁ、それは────」
モードレッドはカルデアの事を話す。彼女は第六特異点攻略後にカルデアに召喚され、ある程度カルデアの事を把握している。
「外の世界がそんな事になっているなんて・・・。戻ろうとは思わないの?」
「仮に外に出たとしても、人理焼却の影響で外に出た瞬間に死亡する事も考えられます。カルデアとも合流出来るかわかりませんし、不容易にここから出ない方がいいでしょう」
「そう・・・、ねぇ、もっとヴラド公の話を聞かせてくれない?」
「モードレッド卿お願いします。私はカルデアに詳しくないので」
「おう、いいぜ」
「でしたら、ベディヴィエール卿はパチュリー様の所に行って頂けますか?」
「?そのパチュリーと言うのは?」
「この紅魔館に住む魔法使いです。貴方の腕の話をしたら是非会ってみたいとの事でしたので・・・」
「わかりました。ここは任せましたよモードレッド卿」
「任せとけって、ヴラドのオッサンのとっておきの話をしてやるよ」
「是非聞かせてちょうだい!」
ベディヴィエールは咲夜の案内の元、パチュリーの所へ向かった。モードレッドはレミリアにヴラド三世の話をして、レミリアは自身の憧れが想像以上に家庭的だった事に戸惑いを隠せなかった。
「あははっ♪きたきた♪」
紅魔館の地下では少女が相変わらずの笑みを浮かべている。
「一人はお姉様の所・・・、もう一人はパチュリーのとこかな?まぁいいや」
少女は背中の宝石の様な翼を広げる。
「さァ・・・アソビマショウ?」
少女の名はフランドール・スカーレット。レミリア・スカーレットの妹にして、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』を持つ幻想郷屈指の危険人物である。
「ここは・・・」
咲夜に案内された先は大きな図書館であった。ぱっと見て数億冊はあるだろう。ちなみに魔理沙もちゃっかり付いてきている。先に進むと机があり、一人の少女が座っていた。紫色の髪と服装をしている。側には黒い羽生えた赤髪の少女。
「(悪魔・・・か)」
ベディヴィエールは気配で赤髪の少女の正体を悟る。彼は警戒を怠らないように近づく。
「パチュリー様、彼をお連れしました」
「ありがとう咲夜。レミィのとこに行ってなさい」
「かしこまりました」
咲夜は先程と同じ様に一瞬て消える。パチュリーと呼ばれた少女はベディヴィエール達に向き直る。
「さて、何か余計なおまけがいるようだけど・・・、まぁいいわ。私の名はパチュリー・ノーレッジ。お会いできて光栄よサー・ベディヴィエール卿。それと隣のは私の使い魔の小悪魔よ」
「小悪魔と申します」
赤髪の少女は丁寧にお辞儀をする。
「ご丁寧にどうも。ベディヴィエールと申します」
「早速で悪いのだけれど・・・その右腕を見せてもらっていいかしら?」
「・・・構いませんよ」
パチュリーの頼みを了承し、銀の右腕《アガート・ラム》を差し出す。この腕は花の魔術師マーリン特製のマジックアイテムである。魔法使いである彼女が惹かれるのも無理は無かった。
「これは・・・関節部まで一体となってるのね・・・動力源は不明・・・と言うより内側から溢れている・・・」
パチュリーはぶつぶつと呟き、疑問に思ったことをベディヴィエールに聞く。
「これの材料はいったい何なの?」
「えっ」
ベディヴィエールは思わず言葉に詰まる。以前なら約束された勝利の剣と答えていたのだろうが、現在のこれが何で作られているのか彼も知らないのだ。ベディヴィエールがどう答えるか迷っていると突如、爆発音が響く。
「っ!?何が!?」
ベディヴィエールが何事かと叫ぶ。パチュリーが慌てたように、
「これは・・・不味い!!貴方達!早く避難を────」
「────あはっ」
聞こえた────聞こえてしまったとパチュリーはゆっくりと振り向く。そこに居たのはフランドール・スカーレットであった。彼女はゆっくりとベディヴィエールを見て、
「アソボゥ?」
狂気的な笑顔を向けてくる。殺気を感じたベディヴィエールは瞬時に腰の剣を向き放ち、構える。
「────お相手しましょう」
相手は言葉が通じない────ならは実力で押し通る。
「あははっ♪」
フランドールの狂気の笑みを受け止めながらベディヴィエールは彼女に迫って行った────
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悪魔の妹
2017/11/25 加筆修正しました。
「あははっ♪壊れちゃえ!」
「くっ・・・」
フランドールはその見た目から想像出来ない程の速度で腕を振るう。ベディヴィエールはそれを剣で弾くが、想像以上の力の前に吹き飛ばされてしまう。そのままフランドールはベディヴィエールに大量の弾幕を放つ。ベディヴィエールは瞬時に体制を立て直し、弾幕を剣で斬り裂く。高速の斬撃は無数の弾幕を全て切り払った。彼は右腕を本当の意味で“使っていない”。つまり本気では無いということ。今の剣技は一五〇〇年に及ぶ旅の中で身につけた剣技である。今現在の彼の剣技は円卓最強であるランスロットすら優に上回る。第六特異点では自身の魂と身体が限界近く、『銀色の腕』を使ってなおまともに剣を振るえなかった。しかし、今の健康体の身体ならば、彼本来の実力を充分に発揮することが出来る。フランドールは弾幕を剣で斬り裂かれた事に対して狂喜乱舞する。
「すごいすごい!これだけやってもまだ壊れない!ねぇ、もっと遊びましょう!」
「く・・・」
ベディヴィエールは戸惑い隠せない。彼が出会ってきた吸血鬼達は皆誇り高く、戦いを“遊び”などとは言わない。自身が認めた相手には敬意を表する者達である。ところが、目の前の吸血鬼の少女は狂気的な笑みを浮かべ、とても吸血鬼とは思えない言葉を発している。彼が戸惑うのも無理は無かった。
「フラン!やめなさい!」
「フラン!やめるんだぜ!」
「妹様やめてください!」
パチュリー達はフランドールを止めようと声をかける。まさかベディヴィエール達の気配を察知してフランドールが出て来るなど完全に予想外だった。こんな事なら封印術式をフランドールの部屋に施しておけば良かったと、パチュリーは歯噛みする。そんな彼女達をフランドールは鬱陶しそうに一瞥する。その瞳は憎悪で染まっていた。
「うるさいなぁ・・・、邪魔しないでよ!
禁忌『クランベリートラップ』」
フランドールはパチュリー達に向かってスペルカードを放つ。パチュリー達は慌てて避けるが、弾幕の内一つが小悪魔に直撃してしまう。
「があっ!?」
「こあっ!?」
パチュリーが悲痛な叫びをあげる。パチュリー達は慌てて助けようと近づく。が、それが不味かった。
「禁忌『フォーオブアカインド』」
フランドールがスペルカードを唱えるとフランドールが四人に分身する。流れて来た弾幕をを避けていたベティヴィエールはその光景を見て不味いと感じ、パチュリー達の元に駆ける。
「「「「壊れちゃえ!!! 禁忌『カゴメカゴメ』」」」」
四人のフランドールによる常識を逸した大量の弾幕が一箇所に集まったパチュリー達に放たれる。パチュリー達が避ける事が出来ない事を悟ったベティヴィエールは自身の右腕を解放する。
「『
その言葉と共にベディヴィエールの右腕を極光が包み込む。それは剣を伝い、光の刃を作り出す。パチュリー達の前に立ったベディヴィエールはそれを一気に振り抜く。
「セヤァアアア!!」
光の刃は弾幕を全て飲み込み、かき消す。フランドールは自身の攻撃を防がれたことに驚愕し、パチュリー達はその光景に驚愕していた。彼女達もあの状況から助かるとは思っていなかったのだ。フランドールは顔を歪め、襲いかかって来る。左右から二人同時に貫手を繰り出してくるが、ベディヴィエールはそれを剣で払う。離れたところからもう二人が弾幕を放つが全て切り払われる。
「その剣・・・邪魔!」
一人のフランドールが右手を突き出し握り込む。
「キュっとして・・・」
ベディヴィエールは悪寒を感じ咄嗟に剣から手を離す。
「ドカーン!」
フランドールが手を開くと同時に剣が爆発四散する。ベディヴィエールはその爆発をモロに受けてしまう。
「ぐあっ!」
ベディヴィエールは吹き飛び、何とか受け身をとって体制を立て直す。今の衝撃で後頭部の髪を束ねていた紐がちぎれ、ベディヴィエールの髪型はポニーテールからセミロングへと変わった。フランドール達は一様に黒い棒を取り出し、
「「「「禁忌『レーヴァテイン』」」」
スペルを発動させる。棒から焔が吹き出し、大剣を形作る。その大きさは十mを優に超える。
「「「「壊れちゃえ!!!」」」」
フランドール達がレーヴァテインを振りかぶった瞬間、ベディヴィエールは“宝具”を解放する。
「『我が魂喰らいて迸れ、銀の流星』!」
右手は手刀を形作り、それを構える。右腕からは先程以上の極光が溢れ出る。
「『
────一閃。
レーヴァテインと三人のフランドールは全て極光に飲み込まれ最後の一人は余波を喰らって吹き飛び、床に叩きつけられる。慌てて起き上がるが、そこにパチュリー達の姿はあってもベディヴィエールの姿は無い。
「────これで終わりです。」
後頭部に衝撃を感じた瞬間、フランドールの意識は暗転した。
レミリア達が異変を察知して到達した時には全てが終わっていた。そこには治療を受ける小悪魔と魔理沙、パチュリー、そしてフランドールを抱えたベディヴィエールがいた。レミリア達はすぐさま駆け寄る。
「パチェ!何があったの!?」
「レミィ・・・、見ての通りよ。フランが暴れたの。彼のお陰で被害は小さかったけど・・・」
「そう・・・」
レミリアはベディヴィエールに向き直る。
「申し訳ないベティヴィエール卿。私の妹が迷惑を・・・」
「いえ、私は大丈夫ですので。それより・・・」
ベディヴィエールは一度言葉を切り、
「何故この少女がここまで“狂っている”のか・・・、お聞かせ願えますか?」
「・・・おい、狂っているってどういう事だ?」
モードレッドが疑問の声を上げ、ベディヴィエールはそれに答える。
「・・・この少女は見ての通り吸血鬼です。しかし、吸血鬼にあるまじき行動や発言、加えて戦闘中に見せた深い憎悪。戦闘狂の吸血鬼は確かにいますが、この子程ではない。ここまで言えば・・・分かりますよね?」
「・・・わかったわ。話しましょう、全て」
そうしてレミリアは語り出す。少女の名はフランドール・スカーレット。レミリアより五つ下のか495歳で名前から分かるように彼女の妹。その人生の殆どを暗い地下室で過ごしてきた。その理由は彼女が持つ能力が原因であった。『あらゆるものを破壊する程度の能力』 それがフランドール・スカーレットの能力である。レミリアは自分の能力である『運命を見る程度の能力』によってフランドールが能力を制御出来ず、惨劇を引き起こす事を知った。レミリアはフランドールが惨劇を引き起こす事が無いように地下室に閉じ込めた。そのまま数百年、フランドールは地下室で暮らしていた。
「・・・これが全てよ」
室内を重苦しい沈黙が覆う。誰もが苦い顔をする中、モードレッドは呆れたように口を開く。
「おいレミリア。お前バカか?」
「なっ・・・!」
「モードレッド卿!!」
レミリアは唖然とし、咲夜は咎めるような声を上げる。が、モードレッドは気にせず話し続ける。
「あのなぁ・・・制御出来ないってんなら制御出来るように鍛錬させなきゃ意味ねーだろ。それを地下室閉じ込めてそのまま飼い殺しじゃあこいつもそりゃ怒る。というか、精神崩壊してない分すげぇ方だな。それだけの気力があるんだ。制御出来ない保証もないだろ?早い話、お前の怠慢が原因だよレミリア」
「・・・ッ!」
何も言えなかった。モードレッドの言ったことは全て正論で自身が目を背けてきた事ばかりだったからだ。ベディヴィエールはフランドールを咲夜に渡し、レミリアを見据える。
「・・・」
レミリアは俯いたままだ。
「レミリア殿」
真剣な声音であるベディヴィエールが彼女の名を呼ぶ。レミリアびくりと肩を飛び上がらせ、ベディヴィエールの方を向く。
「ベディヴィエール卿・・・」
「今からでも遅くはない。一度彼女と話してみてはどうでしょうか」
「そんな・・・今更どんな話を・・・」
「話す内容では無く、“話す事”が重要なのです。貴方達には時間がある。だからゆっくりと・・・ゆっくりとでいいです。歩み寄る事は出来ないでしょうか」
ベディヴィエールはレミリアに語りかける。彼は長い旅の中で彼女達の様な家族を何組も見てきた。その結果、家族の絆が崩壊する場面も見てきた。彼女達にはそうなって欲しくないというベディヴィエールの思い。それはレミリアにしっかりと伝わっていた。レミリアはベディヴィエールを見据え、
「・・・話してみるわ、フランと。・・・ありがとうベディヴィエール卿。背中を押してくれて」
ニコリと柔らかい笑顔を浮かべるレミリア。やはり彼女には笑顔が似合うと彼は思った。
「所でお前剣はどうしたんだ?」
モードレッドの一言で、剣が破壊された事を思い出す。無手で戦えない事も無いがやはり剣があった方がいい。その事をレミリアに言うと、
「残念だけど・・・、うちは武器を必要としないから置いてないのよ・・・ごめんなさい」
レミリアは申し訳なさそうに謝る。ベディヴィエールは慌てて気にしてないと行った。しかし、流石に武器が無いのは困った。どうしようか悩んでいると、
「そう言えば貴方達、それ以外に服は持っているの?」
レミリアがそんな事を聞いてくる。
「いえ、着の身着のままでここに来たもので・・・、暮らす場所もしっかり定まっている訳では無いので・・・」
「そう・・・咲夜」
「はい?」
「彼らに似合う服を見繕ってちょうだい。なるべくいいものをね」
「かしこまりました」
そう言って咲夜は消える。能力を使ったのだろう。ベディヴィエールはレミリアの言葉に驚き、
「いいのですか?」
「構わないわよ。貴方には迷惑をかけてしまったし、モードレッド卿にはなかなかおもしろい話を聞かせてもらったしね。武器は用意出来ないけどこれくらいはさせてちょうだい?」
「それは・・・ありがとうございます、レミリア殿」
「サンキューなレミリア」
「レミリアでいいわよベディヴィエール卿」
二人はレミリアに礼を言い、レミリアは敬称はいらないと彼に言う。しばらくして咲夜が戻ってきた。いくつかの服を持ってきたので二人は自分に合ったものを選んで着る。モードレッドは白のフード付きパーカーにジーンズ、スニーカーとシンプルな格好。ベディヴィエールは黒いTシャツの上から黒いコート、ジーンズに黒いブーツと、どこかのファッションモデルの様な格好である。なまじ美青年なため似合っており、彼の銀髪が黒い服装によく栄えた。
「これは・・・こんな良いものを頂いてもよろしいのでしょうか?」
「どうせ誰も着ない服だから構わないわよ・・・。何となく外の世界の服を集めてたのがこんなとこで役に立つ何て思わなかったけど」
「しかし・・・」
「あーもう!メンドくせーなお前は!くれるって言ってんだから貰っとけ!普段着がねーのも困るだろ。四六時中鎧来てる訳にも行かないんだから」
「そうですね・・・有難く頂いておきます」
「構わないと言ってるでしょう?所で貴方達・・・、行く所が無いなら紅魔館で暮らしてみる?」
レミリアが有難い申し出をしてくれた。しかし、
「────申し訳ありません、私達もまだこの世界に付いて把握しきれていないのです。しばらくは幻想郷の中心部である人里に拠点を置こうと考えていたので・・・、気持ちは嬉しいのですが・・・」
「そう・・・なら仕方ないわね」
「申し訳ありません・・・」
「いいわよ別に。でも────」
そう言うとレミリアはベディヴィエールに近づき、
────チュッ
「「「「「!?」」」」」
ベディヴィエールの頬にキスをした。ベディヴィエールは惚けたような顔をしている。
「────また此処に来なさい。“私に会いに”・・・ね」
そう言って、踵を返してしまうレミリア。こちらからは見えないが間違い無く顔は真っ赤だろう。後ろから複数の殺気がベディヴィエールに飛ばされる中、レミリアは恋する乙女の顔をしていたと、近くを通った妖精メイドは後に語ったと言う────
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人里での日常
────幻想郷にあるとある庵────
「ふふっ、私が眠っている間に随分面白い事になってるわねぇ藍?」
「はっ・・・」
そこに居たのは二人の美女であった。金色の長髪に、紫の道士服を着た女性、同じく道士服を着ていて、不自然な盛り上がりのある帽子をかぶった女性。後者の背後には狐の尻尾が幾本も蠢いている。藍と呼ばれた女性は畏まりながら話し始める。
「数週間前の事です。幻想郷に正体不明の銀星が落下し、それと同時に一人の外来人の男の出現が確認されています。男の名はベディヴィエール、更に男の知り合いらしきモードレッドと言う女、更に太陽の花畑周辺に〝夜が訪れない〟現象が発生。原因は花畑周辺に〝謎の剣〟を発見しましたのでそれが原因かと」
「ふぅん・・・続けて」
「はっ・・・、モードレッドは霊夢、七色、メイド、庭師の四人と交戦し、少なくとも霊夢を追い詰めています。ベディヴィエールは紅魔館の悪魔の妹を凌駕する実力の持ち主・・・正直、白玉楼の先代の庭師の魂魄妖忌以上の技量の持ち主かと」
「彼よりも?それほどの実力者が・・・何故?忘れ去られた訳でも無いでしょうに」
「結界に異常はありませんでした。恐らく何者かが転移系の術式を使って送り込んだのかと思われます」
「・・・外部の人間が幻想郷の事を?」
「恐らくは。それとベディヴィエールとモードレッドという名前ですが・・・外の世界の書物に同じ名前が乗っていました。しかし・・・」
「何かあったの?」
「はっ・・・、その・・・書物によると彼らが存在したのは今から一五〇〇年程以前の〝ぶりてん〟という国で、しかも彼らは〝存在しない可能性が高い〟人物なのです。」
「・・・つまり私達妖怪に近い側の存在という事?」
「かと思われます。しかし、謎なのがモードレッドの方は書物と性別が違うのです。ベディヴィエールに至っては聖遺物クラスと思われるものを材料にして造った義手を装着しています。いったい何処で手に入れたのか・・・」
「そう・・・ますます怪しいわね・・・、仕方ない、か・・・」
そう言うと女性は立ち上がる。
「・・・どちらへ?」
「決まっているでしょう?彼らの所よ」
「ッ!?危険すぎます!」
「直接見なければ分からないこともあるでしょう?万が一、危険だと判断すれば消えてもらうわ」
「・・・わかりました。しかし、その前にこれを」
そう言って藍は一冊の本を差し出す。
「これは?」
「彼らが載っていた書物です。題名は────」
「────アーサー王物語、と言うようです」
紅魔館での出来事から二週間程が経過した。現在、ベディヴィエールとモードレッドは霊夢達の紹介を受け、人里の守護者、上白沢慧音の家で暮らしている。何故慧音の家なのかというと、ベディヴィエールが慧音が営んでいる寺子屋の教師を務めているからだ。何故こうなったのかというと、霊夢達と人里を訪れた日に、丁度人里を妖怪が襲撃してきたのだが、襲ってきた妖怪達をベディヴィエールとモードレッドの二人があっさりと殲滅してみせたのが理由であった。その事で里の人間から好感を持たれ、更に知識も豊富な事に気づいた慧音が彼を誘ったのだ。ちなみに、妖怪を倒したことにより男の子からは憧れを、その見た目から彼は寺子屋の女の子達に絶大な人気を誇る。教え方も上手く、慧音よりも好評なので慧音自身は複雑な心境である。なお、先日の文々。新聞に載っていた『外来人の男、霧雨魔理沙を調教!?』という記事について子供達に散々問い詰められたのは別の話。モードレッドは寺子屋の生徒の一人であるミスティア・ローレライの経営する居酒屋で看板娘として働いている。モードレッド自身も教養はあるのだが、本人いわく、
「体を動かす方が性に合ってる」
との事だ。その快活な見た目と男勝りな性格から男性客にも女性客にも人気は高い。セクハラ行為を働いた不届き者は問答無用で鉄拳制裁を食らっていたが。
「────ベディ先生さようならー!」
「さようなら。気をつけて帰りなさい」
ベディヴィエールは授業を終えた生徒達を送り出す。子供達は元気に手を振って帰って行った。
「本当にベディは人気だな。私よりも評判いいんじゃないか?」
同じように授業を終えた慧音が話しかけてくる。
「そのような事はありませんよ慧音。慧音だって子供達に慕われてるでしょう?」
「お前程人気では無いけどな・・・。それにしても本当に助かったよ。お前みたいな優秀な教師役何て滅多に居ないからな」
「そう言ってもらえると有難いです」
ベディヴィエールは苦笑する。本当に大した事はしていないと本人は思っている様だが、慧音の負担を大幅に肩代わりしてくれたりなど、こちらの事を気遣いながら自身の仕事を完璧にこなすなど普通は出来ない。慧音はこのままここで教師として暮らして欲しいと本気で思っていた。
「────やっほー、慧音いるー?」
玄関の方から声が聞こえてくる。そのままドタドタと上がり込んでくる。来ていたのは白髪に赤いもんぺの少女────藤原妹紅であった。彼女は不老不死の薬を飲んで不死になった〝蓬莱人〟である。ベディヴィエール程では無いが長い時を生きている。彼女は慧音と同じように親しくなった者の一人であった。
「妹紅か。いらっしゃい」
「こんにちは妹紅」
「慧音。ベディもいたのか。こんにちは」
彼女の態度を最初こそ注意していたベティヴィエールであったが、何度言っても聞かないので既に諦めていた。
「暇だから遊びに来たよ〜」
「全く・・・、少しは他に趣味を見つけたらどうだ?」
「粗方の事はやり尽してるからここに来てんの。慧音といると退屈しないしね」
「それはどうも」
「所でベディ、教師生活はどう?」
「そうですね・・・、随分と充実していますよ。それこそここに来る以前には考えられない程」
「それはよかった。私もここは大好きだからね。所で二人共・・・、このあと、どう?」
右手でお猪口を摘むような仕草をしながら妹紅がニシシと笑いかけてくる。
「そうだな・・・私はいいぞ。ベディはどうする?」
「折角ですので私も」
「よし来た!ならミスティアの店で────」
「────その話、少し待って頂けないかしら?」
突如として謎の裂け目が虚空に開き、そこから一人の女性が生えてくる。
「────初めましてベディヴィエールさん?私は八雲紫。幻想郷の管理者であり、妖怪を統括する立場の者でもあるわ」
「・・・私に何か?」
ベディヴィエールは訝しむ。なぜ今更になって自分の目の前に彼女は現れたのか。そして何が目的なのか。ベディヴィエールの視線に気付いた紫はクスリと笑う。
「ごめんなさいね、最近まで冬眠していたものだから貴方の所に来るまでに時間がかかったのよ」
「・・・妖怪も冬眠をするのですね」
ベディヴィエールは警戒を緩めない。目の前の胡散臭い女妖怪が全く信用できると思えない。
「あら、そんな目で見ないで頂戴?ゆかりん傷付いちゃう♪」
・・・無駄にキャピキャピした言動に気が抜けてしまいそうになる。ベディヴィエールは慧音と妹紅に何時もこんな感じなのかという視線を送るが、返ってきたのは諦めろといった感じの眼差しだった。
「────さて、冗談はこれくらいにして本題に入らせてもらうわ」
途端に真剣な表情になる紫。その身体からは、妖怪の賢者の名に相応しい風格が漂っている。
「貴方ともう一人────モードレッドと言ったかしら?貴方達は何が目的で、どうやって幻想郷に入り込んだのかしら?」
「・・・それはどういう意味で?」
「幻想郷は〝忘れ去られた者〟が辿り着く理想郷。貴方達の様に知名度の高い者達が入り込むことは無い。にも関わらず、貴方達は幻想入りして尚且つ、幻想郷を覆う結界には侵入した形跡が微塵も残っていない・・・、何かあると思うのは当然でしょう?私には幻想郷を守る義務がある。何かあれば貴方達を〝消す〟事も視野に入れています」
「成程・・・どうやらこちらの事も調べられている様ですね・・・」
自分達が円卓の騎士である事、既に死亡している筈の人間だということ、更に存在すらも危ぶまれる人間だということも。ベディヴィエールは嘆息し、今現在でわかっている事を話す。
────青年説明中────
「────つまり何故幻想郷にいるのかもわからず、原因と思われる者は基本接触は不可能だと言うの?」
「はい」
ベディヴィエールは特異点の事や、サーヴァント、自身らが幻想入りした原因であろう花の魔術師について紫に話した。紫は訝しみながらもそれを受け入れた。到底信じきれることでは無いが、少なくとも彼の目は真剣だった。そこだけは信用してもいいと思った。
「・・・わかったわ。とりあえずは貴方を信用しましょう。しかし貴方達が幻想郷に仇なす存在ならば────私が貴方達を殺す。それだけは覚悟しておきなさい」
「わかりました────我々もただやられるつもりは毛頭ありませんが」
「そう・・・なら精々頑張りなさい」
そう言って紫は空間の裂け目────スキマを開き、そこに入ろうとしたところで思い出した様にベディヴィエールの方を向く。
「あぁそうそう、一つ言い忘れていたけど・・・、太陽の花畑と呼ばれる場所なのだけれどね?〝日が沈まない〟のよ。確か貴方達のお仲間にそんな能力を持った人がいたはずだけれど?」
「ッ!?まさか・・・」
日が沈まない────それで思い起こされるのは特異点にて獅子心王のギフトをその身に刻まれた太陽の騎士────ガウェイン。
「まさか・・・彼が?」
「さあ?花畑周辺には〝謎の剣〟が突きたっていたらしいけれど・・・、とにかく貴方達が原因かも知れないから何とかしてちょうだい。彼処に住んでいる妖怪の怒りを買う前にね」
そう言って紫はスキマに入り、帰っていった。
「・・・何か凄いことになっちゃったね」
「そうだな・・・、ベティ。大丈夫か?」
「えぇ、何とか・・・」
「ま、気にしても始まんないしさ、飲みに行こう!」
「お前は・・・全く。まぁ、確かに妹紅の言う事にも一理ある。今は忘れろ」
「そうします・・・」
ベディヴィエールは慧音達と共に家を出る。その間も彼の疑念は晴れなかった。
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顕現せしめし太陽の聖剣────その名は転輪する勝利の剣
2017/11/25 加筆修正しました。
2017/11/29 誤字を修正しました。
────翌日。昨夜、慧音達と共にミスティアの店に呑みに行った際にモードレッドに紫から聞いた話をすると、
「行くぞ!あの
モードレッドは何故かチルノ達バカルテットと相性が良い。根本的な事が似ているからだろうか。モードレッドは本気で焦っていて、クラレントを担ぎ、今にも太陽の花畑に突撃して行きそうな勢いであった。流石にもう遅いという事で何とか彼女を諫め、今日今現在、彼らは太陽の花畑を目指している。
「しっかし、なんでよりにもよってアイツ何だ!?マーリンの野郎どれだけこっちに迷惑かけんだよ!」
モードレッドは相変わらず憤慨している。それもそうだろう。自分の友人達が幼女愛好家の被害に逢おうとしているのだ。気が気でないのもわかる。確かにガウェインは「女性は若ければ若い程良い」などとほざくロリコン野郎であるが・・・何故円卓の騎士は変態が多いのであろうか・・・。
「モードレッド卿。落ち着いてください。マーリン殿も何か考えのあっての行動でしょう」
「考えがあったらあの変態をこんなとこに送り込むか!?まだトリスタンとかの方がマシだぞ!」
「・・・そもそも何故マーリン殿は我々を此処に送り込んだのでしょうか?」
ベディヴィエールが疑問を口にする。それはモードレッドも薄々考えていた事だ。ベディヴィエールはまだ分からないでも無い。気まぐれなかの魔術師の事だ。「面白そう」という理由で消えゆく彼を此処に送り込んでも不思議ではないが、何故モードレッドや────恐らくだが────ガウェインまでもを送り込んだのか。その疑念が彼らの中で渦巻いていた。
「・・・考えてもしょうがねぇ。今は奴がいるのかどうかの確認だ」
「そうですね・・・行きましょう」
彼らは太陽の花畑を目指し、歩き続ける。花畑の番人が待ち受けているとも知らずに────
「────此処か」
「その様ですね」
あれから数十分程経った。彼らは英霊の身体能力にものを言わせてろくに舗装されていない幻想郷の道を踏破し、僅か数十分で太陽の花畑に辿り着いていた。(ちなみに空を飛ばなかったのは幻想郷の地形を細かく把握する為であり、彼らが地上に慣れているという事もある。)
「しかし・・・、これは凄いですね・・・」
「あぁ・・・だが────」
二人は目の前の光景に目を奪われていた。司会を覆い尽くす幾万本の向日葵達。その光景はいっそ、幻想的ですらあった。ただ────
「────これはおかしいだろ」
目の前の向日葵達は全てが太陽に背を向け、とある方向を向いている。その先からは彼らのよく知る雰囲気が流れて来ていた。しかし────
「なぁ・・・こいつは・・・」
「えぇ・・・ガウェイン卿“では無い”。よく似てはいますが・・・」
そう・・・それは彼らよく知る雰囲気とは似て異なるものだった。更に────
「似ている・・・」
「あ?何にだよ?」
ベディヴィエールはその名を口にする。
「『約束された勝利の剣』・・・」
「ッ!?」
モードレッドはその名を聞いて驚愕する。それは己を討った騎士であり、実父でもある騎士の愛剣の名であった。
「まさか・・・父上が?」
「いえ、王の気配はしません。それにどちらかと言うとこれは・・・」
ベディヴィエールは何事かを考え、数瞬首肯すると、
「────行ってみましょう」
モードレッドにそう告げて歩き始める。モードレッドは慌てて彼について行った。
「────そう、ありがとう」
向日葵に囲まれたとある一軒家。その中で一人の女性が花に話しかけていた。女性は一言、二言花と会話したかのような素振りを見せると花に礼を言って立ち上がる。
「うふふ、誰だか知らないけれど・・・花達を害そうと言うのなら容赦はしないわよ?」
サディスティックな笑みを浮かべ、女性は家を出て歩き始める。その方向はベディヴィエール達が向かっている方向であった。
「……」
ベディヴィエールは向日葵達を掻き分けて進む中、終始無言であった。モードレッドは周囲を警戒しながら彼の後をついて行く。
「(ベディの奴一体どうした?さっきから無言で・・・、ていうか約束された勝利の剣と似ているってどういう意味だ?・・・ダメだ、わかんねぇ・・・取り敢えず黙ってついて行くのが正解か?)」
そんな事を考えながらベディヴィエールについて行くモードレッド(結局、ベディヴィエールは長いからという事でベディ呼びに落ち着いた)。更に進むと、少し開けた場所に出た。向日葵が全て中心を向いている円形の広場だ。そしてその中央には────
「なっ・・・」
モードレッドは驚愕する。そこにあったのは────
「やはり────【
「これは・・・何モンだ!」
「────あら、人間にしては中々の反応速度ね。楽しめそうだわァ」
そこには緑髪紅眼の美女が日傘を携えて佇んでいる。平時ならその美貌を楽しむ余裕があるのだろうが────彼女から漂う殺気がそれを許さない。
「ふふっ。随分と不躾な人達ね。勝手に花畑に入った挙句に、そこにあるものを持って行こうとするなんて」
「「・・・」」
ベディヴィエール達は驚愕する。自分達に接近を気付かせない程の技量、そして彼女から漂う英霊クラスの雰囲気。例え人外の存在だとしても“ありえない”。此処がどんな所だろうと現代に英霊クラスの妖魔が存在するはずが無い。あるとすればそれは人為的な────
「ッ!?まさか・・・転輪する勝利の剣の!?」
「!ッチ!そういう事かよ・・・ッ!」
そう────太陽の聖剣が発する強大な力、それが垂れ流しになっているのだ。妖怪が影響を受けても何ら不思議ではない。しかし、それにしたって強化の度合いが異常である。ベディヴィエールはそこから彼女の正体を導き出した。
「貴女は・・・植物系の妖怪ですね?」
「あら、よく分かったわね。そうよ私は花妖怪の風見幽香。ここの向日葵達を育てている者よ」
やはりと、ベディヴィエールは自分の推測があっていたことを確信する。植物が有す光合成に近い事を行って彼女は聖剣の力を吸収しているのだ。
「そうですか・・・。ミス・風見、その剣を回収させてはもらえないでしょうか」
「あら、何故?」
「〝それ〟は人の身には余るものだ。もちろん妖魔にも」
「そう・・・。残念だけど受け付けられないわね」
「オイ・・・」
モードレッドが剣呑な声を上げる。いざとなれば力ずくで奪う構えだ。
「あら、怖い怖い・・・。ふふっ。あぁ、受け付けられない理由だけど、この剣が花達に活力を与えてくれるからよ。貴方達も分かるでしょう?」
そう────此処の花は異常な程活力に満ちている────それこそ注ぎ込まれる活力に耐えきれず、朽ちてしまいそうな程。それは目の前の彼女も同様である。一介の妖怪如きが太陽の聖剣の力を浴び続けて平気な訳が無いのだ。このままでは幽香は命を落とすだろう。
「どうしても・・・回収させる気はありませんか?」
「言ったでしょう?それに私は花妖怪よ?花の健康を害する様な事を許すとでも?」
「それは────」
「────もういい」
モードレッドはベディヴィエールを遮って前に出る。殺気が漲り、幽香の殺気とぶつかり合い空間が震える様な錯覚を引き起こす。
「渡す気が無いってんなら・・・力ずくで奪うまでだ!」
「野蛮ね。でも────」
モードレッドが燦然と輝く王剣を構え、幽香が日傘を構える。
「────嫌いじゃないわ!」
ベディヴィエールが止める間も無く戦いは幕を開けた────
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フラワーマスターとの戦い────宝具、解放
「────下がれ!」
モードレッドはベディヴィエールを押し退け前に出る。そして幽香が振るう傘を受け止める。モードレッドは幽香の膂力に押されながらも受け止める
「あら、以外とやるのね貴女」
「テメェこそ・・・傘の癖に・・・丈夫すぎンだろォ!」
モードレッドは無理矢理傘をかち上げ、幽香に切りかかるがあっさりと躱される。幽香は剣を躱され、無防備になったモードレッドに傘を振るう。モードレッドは後ろに飛んで躱し、それを追いかけてきた幽香が振るう傘を受け止める。
「モードレッド卿!」
ベディヴィエールが援護に入ろうとするが、
「邪魔すんな!オレだけで充分だ!」
モードレッドは叫んでベディヴィエールを制止する。
────負けられない
彼女の中にはその想いがあった。円卓の騎士として、アーサー王の息子として目の前の女に負ける訳にはいかない。他者の力を借りるなどもってのほかだ。何より〝その剣〟に二度と敗北する訳にはいかない。
「うっ、らァアアアアアアアア!!!」
モードレッドは幽香を押し返した。その光景に幽香は驚き、一瞬力が緩んだ。その瞬間をモードレッドが逃すはずも無く、
「ハッ!」
紅雷を纏った燦然と輝く王剣で幽香の傘を切り飛ばした。幽香は舌打ちし、転輪する勝利の剣の所まで下がる。
「あら、お気に入りの傘だったのだけれど」
「・・・ハッ!テメェの得物を破壊されておいて随分と余裕だなぁ?」
「あら、余裕が無い訳じゃ無いのよ?」
幽香はクスリと笑い────聖剣に手を伸ばす。
「ッ!?待────」
ベディヴィエールが制止の声を上げるが既に遅く、幽香は聖剣を地面より引き抜く。────瞬間、彼女の存在が急激に膨れ上がった様な錯覚────否、まさに幽香の力が膨れ上がっている。太陽の聖剣の加護が彼女に力を与えているのだろう。花妖怪という特性も相まって、並の英霊以上の雰囲気を発している。
「────ふふっ、先程の様には行かないわよ?」
「ッ!!」
モードレッドは剣を構え、切りかかる。が、あっさりと受け止めれる。
「なっ!?」
「・・・少し場所を変えましょうか?」
「ッ!?」
咄嗟に身体の前に剣を構え────そこに転輪する勝利の剣が直撃する。しまったと思った時には既に遅く、彼女は吹き飛ばされていた。モードレッドが飛んでいった方向に幽香も飛んでいく。ベディヴィエールは慌てて彼女らを追いかけた。
「ぐっ、ぅうううう・・・ッ!」
モードレッドは吹き飛ばされ、地面にしたたかに体を打ち付けていた。何とか立ち上がるもダメージが抜けきっていない事がわかる。そこに幽香が飛んでくる。
「あら、もう終わり?存外大した事ないのね」
「言ってろ・・・クソがッ!」
モードレッドは剣を支えにし、立ち上がる。
「丈夫ね貴女。まぁ、すぐに関係無くなるけれど」
そう言って幽香は殺気を放ち始める。確実にモードレッドを殺す気の様だ。それを見てモードレッドはベディヴィエールの〝言い付けを破る〟。
「あら?」
「ッ!ハァアアアアアアアアア!!!」
モードレッドの全身から赤黒い魔力が迸り彼女を治癒、強化していく。その力は先程とは比べ物にならない程強大である。
「悪ぃな・・・こっからは本気だ!!」
「あぁ・・・イイわねぇ・・・そそるわァ・・・」
恍惚の笑みを浮かべ剣を構える幽香。彼女は強者との戦いを好む生粋の戦闘狂でもある。
「そんな顔してられるのも今の内だっ!」
モードレッドは袈裟懸けに切りかかる。幽香はそれを受け止め、お返しとばかりに突きを放つ。モードレッドは紅雷を纏った手刀でそれを弾き、切り上げる。それは幽香の頬を浅く切り裂き、後退させる。
「ッ!やるわね・・・何故最初から本気で来なかったのかしら?」
「めんどくせぇ事に・・・アイツに言われてたんでな!」
モードレッドは紅雷を纏った剣で薙ぎ払う。それを飛び上がって避けた幽香は弾幕を飛ばし、モードレッドから距離をとる。モードレッドは無駄とばかりに弾幕を切り裂き、幽香に切りかかる。かろうじて受け止めた幽香だが、鍔迫り合いに持ち込まれてしまう。モードレッドの力は先程とは比べ物にならないほど大きくなっていた。徐々に押されていく幽香だが、足元の植物を操り、モードレッドに向かって槍の様にして放つ。それに気づいたモードレッドは間一髪でそれを躱す。胸当てに掠るが直接的なダメージは皆無だ。
「ハァ・・・ハァ・・・」
幽香は肩で息をしているが、モードレッドは涼しい顔だ。モードレッドは目にも止まらぬ連撃を幽香に叩き込む。幽香はそれを全て剣で受ける。彼女らの間に無数の剣閃が閃き、一つ閃く事に幽香の傷が増えていく。
「ハッ!どうしたどうしたァ!!」
「ッ!」
既に形勢は逆転している。モードレッドが剣を振るうたびに幽香の傷は増えていく。幽香の剣は掠りもしない。もはや勝敗は明らかであった。
「なぁ、さっさとそいつを渡してくれよ。もうお前はオレには勝てねぇぞ」
「ッ!それは・・・どうかし、っら!」
幽香は剣を振るい、それをモードレッドは受け止める。その反動を利用して幽香は下がる。
「これでも・・・喰らいなさい!」
転輪する勝利の剣に妖力が集中し、力が強まっていく。モードレッドは相手が奥の手を出してきた事を理解した。
「ハッ!上等ォ!」
モードレッドは燦然と輝く王剣を構える。〝宝具〟を解放しようとしているのだ。
「『この剣は、我が父を滅ぼし邪剣』!!」
「『マスタースパーク』!!!」
一足早く幽香がカラフルな光線を放つ。その規模は本来幽香が放つもの以上であったが、
「『
燦然と輝く王剣より放たれし、破滅の紅雷に幽香ごと飲み込まれ消滅した。そのまま幽香は吹き飛ばされる。後に残ったのは抉られた地面となぎ倒された木々のみであった。モードレッドは幽香が吹き飛ばされた方向に歩いていった。
「うぅ・・・」
「見つけたぜ・・・」
モードレッドは倒れている幽香に近づく、その姿は戦場での雰囲気を纏い、普段とは別人の様だった。対して幽香は重症。ボロボロで全身から血を流していて、所々に火傷も負っている。更に気絶しているようだ。モードレッドは幽香にトドメを刺そうと剣を振り上げ────
────一気に振り下ろした所で銀腕に受け止められた。
「なっ!?オイベディ!何で邪魔する!」
それは彼女らを追いかけてきたベディヴィエールであった。宝具の発動を感知した彼はその方向に向かった。その途中で幽香にトドメを刺そうとするモードレッドを見つけたのである。
「モードレッド卿!彼女はもう戦えない!トドメを刺す必要は────」
「────甘い事言ってんじゃねぇぞ!こいつは殺す気で向かって来たんだぞ!?殺されても文句は言えねぇだろ!」
「それでも!無抵抗の人間を殺すなど!それでも貴女は騎士かッ!」
「ッチ!分かったよ・・・」
モードレッドはようやく剣を下ろす。ベディヴィエールは宝具の使用について話を聞こうとし────
────プツン
────た所でモードレッドの胸当てが二つに割れ、硬直する。彼女の小ぶりだが形の良い乳房、その小さな桜色の突起があらわになり、それを目に収めた所で────
「────キャアアアアアアアアアア!!!!!」
────何とも女性らしい悲鳴を上げたモードレッドにより殴り飛ばされ、意識を失った。
「・・・うっ、ここ・・・は?」
幽香は目を覚ました時、そこは外ではなく家であった。しかも、
「(ここは・・・私の家?)」
そう、幽香は彼女の自宅で目を覚ましていた。何故と幽香の頭を疑問が埋め尽くしていると、
「────目が覚めましたか」
「ッ!?」
声がした方向には銀髪黒服の美青年が立っていた。手にはティーカップがのったお盆を持っている。
「申し訳ない、僭越ながら貴女の自宅と思われたこの家に運ばせて頂きました。この紅茶もこの家にあった物ですが・・・どうぞ」
「えっ、えぇ・・・頂くわ」
幽香は茶を受け取りながら周囲を確認すると少し離れた椅子に顰めっ面をして目に見えて不機嫌な少女────モードレッドが座っていた。目の前の青年────ベティヴィエールにも見覚えがある。幽香は青年が差し出した茶を飲み(「美味っ!」)、何故こんな事になっているのか聞きたかったのだが寝起きで混乱していて的外れ事を聞いてしまう。
「その・・・私を運んだってどんな風に?(って何を聞いてるの私は!?)」
「・・・?横抱きですが何か?」
その言葉を聞いて幽香は暫し思考する。
横抱き=お姫様抱っこ+目の前の美青年=気絶した自分を抱える美青年
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」
幽香は顔を真っ赤に染める。自分は何て恥ずかしい事を!?とパニックになっている。対してベディヴィエールは何故幽香が顔を赤くしているのか分からない。モードレッドにぶっ飛ばされて意識を失い、ようやく起きた後、傷ついた幽香を彼女の家と思わしきこの家にモードレッドと共に辿り着いた。幽香を横抱きに抱えている間、モードレッドは何故か不機嫌だったが今はいい。幽香が起き、何故か自身を運んだ方法について問われたので答えたら彼女が真っ赤になった────何故?ベディヴィエールは何処か悪いのかと幽香の額と自身の額をくっつけ、熱を測る。幽香は一層顔を真っ赤にし、ベディヴィエールは「やはり体調が・・・?」と的外れな事を呟いている。そんな彼を見てモードレッドが益々機嫌を悪くするが気付かない。
「どうやら体調が良くない様ですね。さ、横になって休んで」
「ッ!?いやっ、大丈夫!大丈夫だから!」
「いやしかし」
「大丈夫だから!!」
「?わかりました・・・!」
ベディヴィエールが離れると幽香はようやく平常心を取り戻す。ベディヴィエールは幽香を見て大丈夫そうだなと判断し、当初の目的について話しかける。
「それで・・・ミス・風見。転輪する勝利の剣についてですが・・・」
「・・・」
幽香は無言になる。自分を助けてくれた人物とはいえ、花達に活力を与えるあの剣を渡す事は出来ない。あれがあれば例え冬だろうとその命を枯らさずに花達は生きる事が出来る。だから渡せない────そう応えようとした所で、突如、モードレッドが口を開く。
「言っとくがあの剣を使うのは辞めとけ。あのままじゃ花も耐えられない」
「・・・それはどういう意味?」
「決まってる。普通の花が長時間聖剣の力を受け続けてる時点で奇跡だ。あれ以上受け続けたら全て枯れ果てるぞ」
「なっ!?」
幽香は驚愕する。花達を害していたのが自分だったなんて────
「────そしてそれはお前にも言えることだ」
「・・・私に?」
「あぁ。確かにお前は並の妖怪よりゃ強えよ。お前の妖気に当てられ続けたのが花達にも良かったんだろうな、だから聖剣の力に耐えられた。だけどお前は直接聖剣の力を引き出しやがった。あれ以上続けてたらお前の体は文字通り〝弾け飛んでいた〟ぞ」
「ッ!?」
幽香は自信がとてつもなく危ない橋を渡っていた事を理解する。モードレッドに助けられた事も。
「・・・感謝するわ。私を、花達を救ってくれてありがとう」
「・・・気にすんな」
幽香が礼を言うと、照れたのか顔を赤くしながらモードレッドは顔を逸らす。そんな姿をかわいいと幽香は思った。
「それでは・・・聖剣はこちらで回収させて頂きますがよろしいですか?」
「構わないわ・・・あぁそう、貴方達の名前を聞いていなかったわね」
「これは失礼を・・・ベディヴィエールと申します」
「モードレッドだ」
「そう・・・お二人共、またいらっしゃい。歓迎するわ。それとベディヴィエールさん。この紅茶とても美味しかったわ。また入れてくださる?」
「ありがとうございます。それならば次の機会にでも」
「えぇ、楽しみにしてるわ」
ベディヴィエールと幽香が笑い合う。モードレッドはそれを見て不機嫌そうに、
「・・・オイ、人里に戻るぞ!慧音達にも報告しなけりゃならないんだ!オレは店があるしな!ほら、帰るぞ!」
「えっ、えぇ、それではミス・風見────」
「────幽香」
「えっ?」
「幽香と読んで頂戴。私もベディって呼ぶから」
そう言って可愛らしく微笑む幽香。ベディヴィエールも同じ様に微笑み、
「えぇ────それではまた、幽香」
そう言ってモードレッドと共に去っていった。なお、最後のやり取りがモードレッドを更に不機嫌にしたのは言うまでもない。幽香は微笑んでいた────少しだけ頬を赤く染めて────
────幻想郷のとある竹林の中
そこの名は『永遠亭』。幻想郷の迷いの竹林と呼ばれる場所にある屋敷。そこの縁側に黒髪で薄桃色の着物を着た少女と銀髪で真ん中で赤と青に別れた変わった服装の女性が月を見上げて佇んでいる。
「────いよいよね永琳」
黒髪の少女が銀髪の女性に話しかける。永琳と呼ばれた女性は「そうですね」と返答する。
「性懲りもなく私達を連れ戻そうと言うのだから・・・。向こうも暇な事ね」
「ですが厄介な事に変わりは無い・・・一週間後の満月ですか・・・」
「えぇそうよ。満月さえ乗り切れば・・・」
そう言葉を切り、月を見上げる少女。
「────誰が帰るものですか」
月を見上げる瞳は強烈な意思を宿していた────
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少女達の追跡劇
嬉しすぎるッ!
あと今回は日常回になります。
「はァっ!?アイツに恋人ォ!?」
太陽の花畑で転輪する勝利の剣を回収して3日程経った。相変わらずベディヴィエールは教師、モードレッドは居酒屋の看板娘として働いている。そして今モードレッド、慧音、妹紅の3人は慧音の家で飲んでいた。所謂女子会というやつだ。ベディヴィエールは自警団の男達と飲みに行っている。そこで妹紅による特大の爆弾が投下された。
「もっ、妹紅?それは確かなのか?」
「本当だって!結構前からベディが私達以外の女の人と歩いてるのを見かけたってよく聞くんだよ!私もそれっぽいの見ちゃったし!」
「マ、マジか!?」
「マジもマジ、大マジだって!」
彼女らが何の話をしているのかと言うと〝ベディヴィエールに恋人がいるらしい〟と言ったものである。何でも同じ女性と何度も仲睦まじく歩いていたらしく、女性の方は顔を赤らめ、恋人同士にしか見えなかったという。
「うーむ・・・しかしベディに?何かの間違いでは?」
慧音がそういうのも無理は無かった。彼女らはベディヴィエールの鈍感&天然ぶりをよーーーーく知っている。これまでに里の女性達は大部分が彼に心を奪われているからだ。しかも本人はその事に気付いていない。某ワンサマー君並の鈍感野郎である。
「でもそれにしたって目撃情報が多すぎるんだよ。これはひょっとしたらひょっとするかも・・・」
「うーむ・・・」
慧音と妹紅が唸っているとモードレッドが一言。
「・・・ぞ」
「ん?」
「どうしたモードレッド?」
「アイツを尾行するぞ!」
「はっ!?」
「ちょ!?落ち着けモードレッド!」
「落ち着けるかよ!あの野郎、絶対に相手を突き止めてやる!」
憤慨するモードレッド。本人は気付いていないが、その目は嫉妬の炎で燃え上がっていた。
「モードレッド・・・気になるのは分かるが流石に尾行と言うのは如何なものかと思うぞ」
「ん。でも慧音は良いの?」
妹紅が突然そんな事を言う。
「どういう事だ妹紅?」
「え?だって慧音ってベディの事好きでしょ?」
「なっ!?」
「へっ!?」
「慧音ってよくベティの事目で追ってるよね?傍から見たら恋する乙女そのものじゃん」
「そっ、そそそそそうなのか慧音!?」
「そっ、そそそそそんな訳ないだろう!?」
二人とも動揺し過ぎである。更に妹紅が言う。
「慧音。このままじゃそのうちあのバカラスの新聞に載ってそれこそチャンスが無くなるよ?それにベディにそんな気は無いかもしれないけど既成事実作られちゃったら終わりだよ?」
〝既成事実〟という言葉に二人は反応し、顔を見合わせる。
「・・・モードレッド」
「・・・おう」
「明日、ちょうど寺子屋は休みだ。ベディが何処かに出掛けるようならやるぞ」
「わかった。隠蔽系の術はアイツには効かない。一発で見破られるだろうから協力者を使うぞ。目星も付けてる」
「え、早くない?」
「了解だ。ベディが例の女と接触した場合は?」
「協力者を使って介入するぞ。相手の女が何してるか分からねぇからな」
「ちょ、無視?無視なの?」
「それはいいな。だが協力者は信用できるのか?」
「安心しろ。余計な事をすれば即刻始末するから」
「成程、それならば安心だな」
「ねぇ話し聞いて?それと全然安心じゃ無いからね?」
妹紅は後悔するが時すでに遅し。少女達の追跡計画は着々と進行していった。
翌日の昼食後、
「それでは行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けてな」
「・・・行ったか?」
「・・・行ったようだな」
「よし、なら始めるぞ霊夢、バカラス」
「・・・何で私が・・・」
「あやや、乗り気でないですね霊夢さん」
「当たり前じゃない・・・ていうか何であんたが?」
「私が追跡役だからですよ。いや〜最近はスクープの種が多いですね〜♪」
「余計な事をしたら即刻斬り捨てるからな」
「わ、分かってますよ〜・・・、だからその剣下ろしてくださいよ・・・」
「・・・なんかごめんね二人とも」
「あんた・・・妹紅だっけ?あんたが気にすることじゃ無いわよ。それでこのバカラスはともかく何で私が?」
「以前幻想郷演義を稗田家で見させてもらった時に博麗の巫女が持つ陰陽玉には通信機能があって映像も送ることが可能だと書いていたのを思い出してな」
「あの阿求・・・余計な事を」
「さて、射命丸。お前は陰陽玉を持ってベティを追え。霊夢は陰陽玉での通信役だ。成功すれば報酬は弾むぞ」
「早速やるわよ文。持っていきなさい」
流石霊夢。報酬が絡むと別人の様である。
「わかりました!それでは行ってきます!」
「くれぐれもバレるんじゃないぞ」
「もちろんです!」
そう言って文は飛び去った行った。
『ベディさんを発見しました!』
数分後、文からそんな声とともに映像が送られてくる。
「ふむ・・・今の所は普通だな」
「見たいだな」
「な?もう止めよう?ベティに限って何も無いって」
「何言ってる妹紅。まだ始まったばかりだぞ」
「・・・」
モードレッドは既に画面(?)に集中している。霊夢は報酬に釣られて既に堕ちた。この場に妹紅の味方はいない。妹紅が「何とかして終わらせないと!」と悩んでいると、文から報告が来る。
『ベディさんが誰かと接触。これは・・・チルノさん、大妖精さん、ルーミアさん、リグルさん、ミスティアさんですね』
「「・・・!!!」」
慧音とモードレッドは画面に鼻先が触れそうな勢いで近づく。表情には鬼気迫るものがあった。隙間から妹紅も映像を除く。
『あー!ベディせんせーだー!』
『こ、こんにちはベディ先生』
『こんにちはー』
『こんにちは』
『こんにちはベディさん』
『こんにちは皆さん』
全員朗らかに挨拶を交す。
『うーん、彼女達はシロ見たいですねぇ。手を出してたらやばい人ですけど』
文から実況が入るがそんな事聞いちゃいない慧音とモードレッドは怪しそうな、具体的に言えば『ベディヴィエールに落とされた』者はいないかチェックする。
「どうだ?」
「今の所1番危ないのは大妖精ぐらいか?それも大した事は無いから大丈夫だろ────」
『あやや、これは・・・』
画面を見るとチルノとルーミアがベディに抱きついている。そんな様子を見て躊躇いがちにベディヴィエールの服の裾を摘む大妖精とリグル。ミスティアは何故か1人余裕の表情。そんな光景を見て慧音達の目が光を失い、空気が重くなる。「ヒッ!」という悲鳴を無視して空気は重さを増していく。チルノとルーミアはまだ良い。⑨だから恋愛についてはわかっていないからだ。それでも彼女達にとってはベディヴィエールに抱きついている時点で嫉妬の対象だが。更に大妖精とリグル。あれは完璧に惚れている。更にミスティア。彼女は5人の中で最もベディヴィエールとの交流が大きい。彼女の店が彼の行きつけの場所だからだ。あの顔は恋敵に1歩リードしているという優越感から来るものだろう。
『あ、あの〜?何か禍々しいナニカが陰陽玉から漂ってるんですけど〜?』
射命丸の声も耳に入らない。モードレッドは「どうやって消してやろうか・・・」などと呟いているし、慧音は「次の授業では覚悟しておけよ・・・最も次があればの話だが」と、完全に殺る気スイッチオンになっている。するとようやくベディヴィエールが彼女らと別れ、空気が多少軽くなる。
『あの・・・まだやります?』
文は内心不安になりながら問う。早く終わってくれと内心叫びまくっているが、
「「行け」」
無情にもその一言で続行が決まってしまう。文は貧乏くじを引いたことを自覚し、ベディヴィエールの追跡に戻った。
『あ、また誰かと・・・。次は・・・あれは紅魔館の門番の?』
再び文から通信が入り、再び画面に接近する二人。もはや止められぬと悟った妹紅は諦めて画面を覗く。
『こんにちは美鈴殿。紅魔館の方々はお元気ですか?』
『!?こっ、こここここんにちはベディさん!お、お嬢様達は元気ですよ!?』
あきらかに顔を赤くしてどもりながらベディヴィエールと挨拶を交す紅美鈴。これまたわかりやすい程のベティヴィエールにベタ惚れの様だ。先程のように空気が重くなる。
『あの・・・その・・・』
美鈴が顔を赤らめ、俯かせていると、
『これは・・・失礼します』
ベディヴィエールはそっと美鈴の額と自分の額をくっつける。バキリと音がした方向を妹紅が見ると畳が真っ二つに割れている。割れた畳は二枚、その畳の上にいるのは慧音とモードレッド。どうやら踏み割ったようだ。妹紅はベディヴィエールにもう勘弁してくれと内心言うがベディヴィエールは止まらない。
『ん・・・。少し熱いですね。風邪かも知れませんから今日は帰って安静にしておいた方がいいですよ』
『・・・』
美鈴は放心している。
『美鈴殿?』
『はっ!だ、だだだだだ大丈夫です!?失礼しますっ!!!』
『あっ・・・』
美鈴は顔をもはや真紅に染めて走り去ってしまった。そんな様子を見てベディヴィエールは一言、
『風邪を移したくなかったのでしょうか・・・』
流石ベティ。これで彼も一級フラグ建築士の仲間入りだ。そんな事を思いながら妹紅が軽く現実逃避していると、軽く涙目なった文から
『・・・まだ続けるんですかぁ?』
「「無論」」
まるで死刑宣告を受けた死刑囚の様な足取り(?)で文は追跡を再開した。
『いましたよ・・・また女の人・・・もう勘弁してくださいよぉ・・・』
半泣きの文から報告がくる。画面には狐の尻尾を生やした女性が写っていた。
「あれは・・・スキマ妖怪の式か?」
「例のベディに釘を指したって言う奴の仲間か?」
「まぁ、部下の様なものだ。しかし何故・・・」
二人が考察していると画面内の二人は二言三言話したかと思うと二人して歩き出す。そう、〝二人して〟だ。
「!」
「これは・・・」
「まさかスキマ妖怪の式と?」
あきらかに動揺する二人。スキマ妖怪の式とは八雲藍の事である。そのままベディヴィエール達は人里のとある一角に歩いてく。
「あの方向は・・・まさか!?」
「何かあるのか?」
「宿屋だ」
「宿ぉ?ここに宿なんて必要無いだろ?」
「よく考えろモードレッド。成熟した男女、そして宿屋。この二つから導き出されるものを」
モードレッドはしばし顎に手を当てて考える。
大人の男+大人の女+そういう宿=そういう事
モードレッドの顔がボンッ!と音を立てて赤く染まる。
「なっ!?てことはアイツら・・・」
「そういう事だ!文屋!そのまま二人を見張っていろ!私達もすぐに行く。モードレッド、行くぞ!」
「おう!」
「えっちょ慧音!?」
飛び出す慧音とモードレッド。それを追う妹紅。ついでとばかりに霊夢もついて行った。
「ここで間違いないか?」
「は、はい」
文の案内の元、ベディヴィエール達が入っていった宿屋に辿り着く慧音達。店主を
『む・・・やはり何度やってもなれないな・・・』
『女性とはそういうものですよ。それでも緊張しないでくれた方がやりやすいですが』
『善処しよう・・・。では頼む』
『わかりました。さあ、力を抜いて・・・』
『んっ・・・くぅ・・・あっ・・・』
『これは・・・随分と溜まってますね』
『し、仕方んっ・・・無いだろう!?前回から・・・つぅ・・・5日も経ってるんだから・・・ふぅあ・・・もっと・・・優しくぅ・・・』
『すぐに良くなりますよ。ほら、もうこんなに・・・』
『んァああっ!』
どう考えても〝そういう事〟をしているとしか思えない声が聞こえてくる。慧音とモードレッドは顔を見合わせ、部屋の襖をスパーン!と勢い良く開ける。
「お前達!何をやってる!」
「テメェら何してやがる!?」
「「なっ!?」」
そこには薄い着物のみを身につけ、頬を上気させた藍とコートを脱ぎ、藍の上に載っているベディヴィエールだった。あきらかに二人とも動揺している。(当然ちゃ当然だが)
「ど、どうして此処に?」
「それはこちらの台詞だ!お前こそこんな所に女を連れ込んで何をしている!?」
「あぁ・・・答えなくていいぜ?今すぐ剣のサビにしてやるからよォ!」
「ちょ、ちょっと待てお前ら!何か勘違いして無いか!?」
「「あぁ!?」」
剣呑な声をあげる二人に文が泡を吹いて気絶し、妹紅は悲鳴をあげ、霊夢は関係無いとばかりにそっぽを向く。そんな事を彼女らに藍は一言、
「私は彼の按摩を受けていただけだぞ?」
「「「「・・・え?」」」」
素っ頓狂な声をあげる4人。
「いやな・・・私は元々彼の監視を紫様から仰せつかっていたのだが・・・彼に見つかってしまった時に私が疲れ気味だという事を見抜かれてな。彼が〝まっさーじ〟してくれると言うので任せたら思いの他効いてな・・・たまにこうやって頼んでいたんだ」
「見た感じかなりお疲れの様でしたので・・・」
「・・・じゃあ何でここら辺の宿に?ここらの宿が〝そういう目的〟のもんだってあんたも知ってるだろう?」
妹紅が尋ねると藍は恥ずかしそうに、
「その・・・知り合いに見られるのが恥ずかしかったと言うか・・・紫様にバレて面倒な事にしたく無かったというか・・・」
「つまり噂の女の正体はベディさんの按摩を受けに来た藍だったと・・・」
「噂になっていたのか!?」
「そりゃ、外来人の男、それも有名な人が女と歩いてたら噂にもなるわよ」
霊夢が呆れたように溜息をつく。
「ま、何にせよこれで一件落着「「して無い」」・・・へ?」
見ると慧音とモードレッドがベディヴィエールに詰め寄っている。
「あの・・・二人とも?どうしたのですか・・・?」
「「やれ」」
「え?」
「オレたちにもマッサージしろっつってんだよ」
「まさかスキマ妖怪の式に出来て私達に出来ないとは言うまい?」
二人の謎の気迫に飲まれ、ベディヴィエールはタジタジになりながらも了承した。妹紅はようやく終わった事に安堵しながらもまたこんな事があるのかと胃を痛めていた。あまりのストレスに不老不死の再生力も追い付いていないようだ。そしてこの後モードレッド、慧音、妹紅、文、霊夢はベディヴィエールのマッサージを受けて完全にダウンしてしまった。その後、ベディヴィエールのマッサージが一部の少女達の間で有名になったという────
次回から永夜異変の開始となります。
ちなみに現在ベディヴィエールがフラグを建てたのは魔理沙、レミリア、美鈴(?)、藍(?)、慧音、幽香、バカルテット+α(?)で、メインヒロイン枠はモードレッドとなります。()がついてるキャラはこのあとの正妻戦争の準参加枠です。後これからもフラグは建ちまくります。・・・ハーレムタグつけた方がいいかなぁ?
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永き夜〜①
今回からはとうとう異変に直接関わっていきます。後、完全に独自設定ぶち込んで行きますんでよろしくお願いします。ちなみに、回収した転輪する勝利の剣はベティに装備させてます。
「────困ったものね」
空を見上げ、霊夢が一人呟く。その空は星々が輝くまさに満天と呼ぶにふさわしい。だがその満天にポッカリと穴が空いている。〝月が消えている〟のだ。今夜は丁度満月、
決して月が消えるなどということはありえない。そう────これはまさに〝異変〟であった。
「────おーい、霊夢!」
異変を嗅ぎつけたのか魔理沙が霊夢の元にやって来る。これがこの二人の異変時のお決まりのパターンである。
「魔理沙、この異変の主犯に心当たりは?」
「うーん・・・紅魔館の連中は無いだろうし・・・」
「当たり前じゃない」
「とわっ!?咲夜かよ・・・脅かさないでくれ・・・」
「咲夜、何でここに?」
「お嬢様の言伝をね。『私は今、美鈴と共に異変の主犯と思われる者がいる場所を目指している。パチェの分析によるとこの異変は何者かが大規模な術式を使って起こしている可能性が高い。そしてその術式の発生源、およびこの異変の主犯が居ると思われる場所は────』」
「────遅くなりました!」
「ごめんなさい、遅れたわ」
咲夜が場所を言おうとした瞬間、妖夢とアリスがやって来る。
「遅くなったって・・・別に待ち合わせしてた訳じゃないんだけど・・・」
「別にいいだろ?戦力も充分に揃ったし、これなら異変解決も楽勝だろ!」
「霊夢さん。幽々子様から言伝が」
「幽々子から?」
「はい。何でも今回の異変がちょっと洒落にならないとか。紫様と行動を共にするとおっしゃってました」
「アイツらは・・・何考えてんのかしら?・・・まぁいいか。咲夜、説明の続きをお願い」
「わかったわ。『場所は────』」
「『────迷いの竹林』」
「これは・・・」
霊夢達が集まっている頃、ベディヴィエール達も空の異常に気付き、これが異変であることを察知していた。更にはベディヴィエールとモードレッドはその超人的な察知能力から、発生源と思われる気配も感知、特定していた。
「これが異変って奴か?にしても随分と地味だな」
「地味でいいだろう・・・紅い霧とか冬が終わらないとかよりは・・・」
「お陰で私なんか吹雪の中、雪を溶かすために一日中燃え続けてたんだから・・・」
「まぁこのまま何も無ければいいのだが────」
「────そういう訳にも行きませんね」
既に空の異常に気付いた人里の住民達が騒ぎ出している。この異変を放っておく訳にもいかず、慧音達は今回の件の方針をまとめる。
「よし!じゃ、オレが行って異変の元凶ぶっ飛ばして終わりだな!」
モードレッドが胸を張って自信満々に言うが、
「「「駄目だ(です)(でしょ)」」」
「何でだよ!?」
3人から速攻でダメ出しを食らう。
「モードレッド。まず、異変の主犯が何処にいるかもわからないのにそんな事を行っても虚しいだけだぞ?」
「何か任せたら任せたで異変越えの大惨事になりそう」
「前科があるので駄目です」
ボコボコである。
「ちょ!?大惨事なんて起こさねぇよ!てかベディ!前科って何だよ!?」
モードレッドが抗議すると、ベディヴィエールから疲れ切った雰囲気が漂い出す。
「過去、貴女の暴走で私がどれほど苦労したとお思いで?」
「うっ」
彼らが円卓の元一つに纏まっていた時代、ベディヴィエールはモードレッドのお目付け役として彼女の仕事に同行する事が多かった。その際、例えば野盗の討伐などではモードレッドは部下を置いて暴れ回る事が多かった────周辺の村などに被害を及ぼして。そういった事後処理をベディヴィエールは一手に引き受けていたのだ。ぶっちゃけ彼の胃に穴が空いたのも10や20ではきかない。
「いや・・・それは悪かったけど・・・」
「ですので、今回モードレッド卿は人里の防衛に徹して下さい。この混乱に乗じて妖怪が襲ってこないとも限りませんから」
「だったら私も残ろう。私の能力はこういったことにうってつけだからな」
「じゃ、私はベティと異変の解決に廻るよ」
「わかりました。モードレッド卿もいいですね?」
「わーったよ・・・」
そのような会話の後、ベディヴィエールは転輪する勝利の剣を携え、妹紅と共に飛び去っていった。
────彼らが向かう先には竹林が広がっていた。
「ここね」
迷いの竹林の上空に霊夢達はいた。あきらかに通常時ではありえない程強大な力が竹林内から発せられている。それは異変の元凶が此処に居ると言う事だ。
「パチュリーの思った通りってことか」
「どうしますか?この人数ですし別れましょうか?」
「それがいいかもね。魔理沙、あんたは私について来なさい」
「へいへい了解、っと。お前達はどうする」
「私が一人で行きます」
「妖夢?良いの?」
妖夢の発言に思わずアリスは聞いてしまう。
「大丈夫よ。その子分身出来るから」
「分身!?」
「分身って・・・あれは半霊ですからね?」
妖夢がとる戦法の一つに自身の半霊を人型に変化させ、攻撃するといったものがある。確かに傍から見れば分身であろう。
「取り敢えずは異変の主犯を見つける事が最優先よ。何かあったら・・・そうね、空にスペカでも撃って知らせなさい」
「「「「了解」」」」
「それじゃ、行くわよ!」
霊夢の号令に合わせ、3組の少女達は竹林内へバラバラに別れて行った。
霊夢達から遅れる事数分後、ベディヴィエールと妹紅も竹林に辿り着いていた。
「ここか・・・てことは〝彼処〟の連中かな?」
妹紅は何か知っている様だ。
「何か心当たりでも?」
「此処の奥に〝永遠亭〟って言う所があってさ。ここが異変の発生源ってならアイツら位しか居ないだろうって思ってね」
「ではそこに行ってみましょうか」
「私が案内するよ。此処に迷い込んだ人間の案内とかを良くやってるしね」
妹紅の本業は迷いの竹林に迷い込んだ外来人などの救出、および案内であり、竹林内の事に関してはかなり詳しい。ベディヴィエールに異存は無かった。
「行こうか」
「そうですね」
それだけ言って歩き出した妹紅にベディヴィエールはついて行く。その足取りは迷いの無いものであったが、妹紅の顔がやけに暗い事に気付く。
「妹紅?どうかしたのですか?」
「・・・何でもないよ」
妹紅はそれだけ言って歩き続ける。何でもない筈が無かったが、あまり聞くのも失礼と思い、そのまま無言で妹紅について行く。やがて数十分程歩いたであろうか。ベディヴィエールは自分達で無い二人分の足音を聞き取る。
「妹紅、誰か来ます」
「・・・早速お出ましかな?」
妹紅から殺気が放たれ始める。その尋常ではない────いっそ憎悪と言ってもいい程の殺気にベディヴィエールは一瞬驚くも、すぐに臨戦態勢に移る。やがて姿を現したのは二人の少女────十六夜咲夜とアリス・マーガトロイドであった。その姿を見て妹紅が殺気を収める。
「何だあんた達か。悪いね、異変の元凶と思わしき奴と面識があってね。そいつかと思ったんだ」
咲夜は人里へよく買い物に来るし、アリスは人里で子供達の為に人形劇をよく開いている。妹紅が彼女らと面識があってもおかしくは無い。妹紅は彼女らに気軽に近づくが、彼女らは無言で微動だにしない。流石におかしいと思ったベディヴィエールは彼女らの顔を見て────
────その顔に〝感情〟が一切無い事に気付く。
「妹紅!!」
慌てて妹紅に呼びかけるも────
「ベティ?いったいどうし────え?」
────既に遅かった。妹紅は自身の腹部を見る。そこにはナイフが根元まで刺さっていて────
────瞬間、妹紅の周辺に大量のナイフと武器を持った人形が出現し、その全てを彼女に突き立てる。
「がっ!?ァアッ!ぎっ!?」
無慈悲な殺意の塊は妹紅の身体をズタズタに引き裂き、貫く。アリスが手を伸ばし、その手から伸びた糸が妹紅の首にかかる。
「よせっ!!!」
ベディヴィエールが手を伸ばす。その声も虚しく────
「ア゛ッ」
────アリスの腕が振るわれ、ゴキンッという音と共に妹紅の首が折れ曲がり、ベディヴィエールの方向を向く。その目は何も映していなかった────
「妹紅ォォォォォオ!!」
ベディヴィエールは剣を振り抜いて糸を切断、妹紅を抱き寄せて二人から距離をとる。
「妹紅ッ!?妹紅!!」
ベディヴィエールは必死に呼びかけるが妹紅は答えない。彼にはわかった────わかってしまった。幾度も、それこそ数えきれない程戦場で死ぬ兵達を見てきた彼にはわかった。妹紅は、もう、〝動かない〟のだと。完全な致命傷であった。
「ッッ!よくもッ・・・!」
ベディヴィエールは憤怒の表情で咲夜達を見る。二人は無言で戦闘態勢をとる。その目に光は無い。〝何者かによって操られている〟のだとベディヴィエールはあたりをつけた。
「楽に死ねると思わない事だな・・・!」
ベディヴィエールは異変の元凶に怒りを抱きながら剣を構える。此処に、一つの悲劇と共に戦いが幕を開ける────
どうも日本人です。え?なになに「こんなのベディじゃない!」?はい、自分でも書いててそう思いました。すいません・・・。
感想、批判、評価、誤字脱字報告など、お待ちしております。
2017/12/17 lumi27さん。誤字報告ありがとうございます。
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永き夜〜②
2017/12/25 加筆修正しました。
「せいっ!」
ベティヴィエールは咲夜達に切りかかる。彼は怒っていた。目の前で〝大切な友人が殺された〟のだ。憤怒しない方が無理な話である。最も、憤怒のあまり〝重要な事〟を失念していたが。
「「・・・」」
咲夜達は一瞬で目の前から消え、ベティヴィエールから離れた所に出現する。それを見てベティヴィエールは思わず舌打ちする。
「やはり・・・!時を止めているのか・・・!」
彼の考察通りである。十六夜咲夜の能力は『時間を操る程度の能力』。操る、と言っても彼女は基本時を短い間しか止めていない。〝時を操る〟という〝禁忌〟を扱う能力なのだ。無理に使えば彼女は廃人と成り果てるだろう。
「短い時間だろうと脅威には変わりないか・・・ッ!」
そしてもう一人。七色の人形遣い、アリス・マーガトロイド。彼女が放つ魔法がベティヴィエールを狙っていた。そもそも彼女らが曲がりなりにもベティヴィエールと戦えているのは〝時を止める〟という反則技、優秀なサポート役であるアリスの存在、ベティヴィエールが彼女らの肉体を傷付けないよう手加減しているからである。何より彼女らはこの異変の元凶では無い。恐らくこのあとにも敵が控えている以上、無駄な消耗は避けたかった。しかし、彼女らは徐々にではあるが、ベティヴィエールを追い詰めていった。
「くぁ!?」
咲夜が大量のナイフをベティヴィエールの死角に放ち、それをかろうじて避けるが避けた先に放たれていたアリスの魔法に直撃してしまう。火花が迸り、ベティヴィエールは吹き飛ばされる。
「グッ!・・・不味い」
ベティヴィエールの体力も無限では無い。このままではダメージを蓄積され、負けるのが目に見えていた。
「だが・・・負けるわけにはぁ!」
ベティヴィエールは吠え、彼女らに向かって行った────
────永遠亭
竹林の奥にある屋敷────永遠亭の庭先で一人の少女が立っていた。その足元には西洋的な幾何学模様が描かれている。少し離れた場所には銀髪の女性────永琳の姿も見えた。
「姫様・・・本気でやるのですか?」
「当たり前じゃない永琳。今此処には私達の自由への希望を潰さんとする輩が大勢押し寄せてきているのよ?だったら少しでも勝てるようにした方が良いでしょ?」
「しかし・・・そんな不確かなものに頼らずとも・・・」
「やらないよりはマシよ」
少女はそう言うと幾何学模様に霊力を注ぎ込み始める。それと同時に幾何学模様が赤い光を帯び始める。そのまま少女は微動だにしない。不審に思った永琳は少女に話しかける。
「あの・・・姫様?やり方はわかっているのですか?」
「気合いよ」
「ちょ!?輝夜!」
思わず昔の癖で少女を名前で呼んでしまう永琳。少女────輝夜はクスリと笑い、
「こんなものは気合で何とかなるのよ!さぁ!さっさと───────来なさい!!!!!」
輝夜はそう言って自身の能力────〝永遠と須臾を操る程度の能力〟を使い、無尽蔵の霊力を〝永遠〟に自身へ供給し、注ぎ込む。赤い輝きが一際強くなるが、それだけで何も起こらない。
「あぁもう!さっさとぉぉぉぉぉお────」
輝夜が更に霊力を注ぎ込む。
「〝来ぉぉぉぉぉぉおい〟!!!!!!」
瞬間、辺り一面を赤い輝きが覆い尽くす。それと同時に幾何学模様から何かが溢れだし、輝夜を吹き飛ばす。永琳は吹き飛ばされぬように踏ん張るだけで精一杯の様だ。やがて輝きは収まり始め、数秒後には元の夜の静寂を取り戻した。
「・・・ッ!姫様!」
永琳は輝夜に駆け寄る。
「姫様!?ご無事ですか姫様!!」
思わずヒステリックに叫んでしまった永琳だが、輝夜が自分を見ていない事に気付く。具体的には〝永琳の後ろ〟を向いている。その視線を追って振り向いた先には────
────濡羽のような黒髪を後頭部でまとめ、身の丈に合わぬ古代剣を携えた美しい少女が佇んでいた。少女は戦装束に身を包んでいる。永琳はその美しさに見惚れる。まさに〝神がかった〟美しさである。彼女が持つその身に合わぬ古代剣が放つアンバランスさも気にならない。
「────そなたか、我を呼び出したのは」
その口から放たれる声がようやく輝夜達を正気に戻す。慌てて輝夜は立ち上がり、目の前の少女に向かって告げる。
「────えぇ。私、蓬莱山輝夜が貴方を呼び出したの。早速だけど────ッツ!」
────ここに近づく者を排除しろ────そう言おうとした輝夜だが、右手に走った痛みに思わず蹲る。
「姫様!?」
永琳が慌てて近寄り、輝夜の右手を確認する────剣を意匠した血のように紅い紋様が浮かんでいた。
「これは・・・?」
「────それは令呪。我々サーヴァントに対する三度だけの“絶対命令権”。どうやら汝が我のマスターの様だな」
「令呪・・・?それにサーヴァントって・・・いえ、今はいいわ。貴方が私が呼び出した存在・・・でいいのよね?」
「然り」
「貴方の名は?」
「真名は明かせぬ。汝如きに呼ばせる様なものでは無い。我の事はセイバーと呼べ」
「何かムカつくわね・・・まぁいいわ。セイバー。此処に敵意を持って近づく者共を殲滅しなさい!」
「いいだろう。しからば」
そう言い残してセイバーは闇の中へ飛び込んでゆく。すぐにその姿は見えなくなり、思わず輝夜は尻餅をつく。
「姫様!?大丈夫ですか!?」
永琳が輝夜に駆け寄る。
「大丈夫よ・・・それにしても成功・・・でいいのよね?」
「私に聞かれても・・・」
彼女ら自身達が行った儀式の事を全くと言っていいほど知らない。精々が“強力な使い魔”を呼び出せるもの────といっただけである。この儀式の正式名称は────英霊召喚システム・フェイト。人理を守る為に過去の英雄達を呼び出す装置、その原型である。その儀式は時にして英霊を超えた英霊────神霊、つまり神をも呼び出す代物である。この儀式は本来その英霊に由来する者を触媒に用いる。そのようにして目的の英霊を呼び出すのだ。ただし、何の触媒も用いずこれを行う場合は、大きな対価を払い、強力な英霊を呼び出す仕組みになっている。ここで問題だ────輝夜の無尽蔵の霊力を対価として注ぎ込まれたこの儀式、果たして〝英霊如き〟が召喚されるであろうか?彼女らは気付いていなかった。先程の少女が〝神力〟を放っていた事に────
「がっ!!」
吹き飛ばされるベティヴィエール。先程から既に幾度もこのような光景が繰り広げられていた。咲夜がナイフを放ち、ベティヴィエールが避け、アリスの攻撃を喰らう。流石に慣れ、直撃は避けて来たが、いずれこのままでは力尽きるのは明白であった。
「何か・・・何か無いか・・・?」
ふと周りを見回すベティヴィエール。彼は放たれたナイフが一本も落ちていないことに気が付く。
「・・・時を止めて回収しているのか?」
顔を思わず歪め────この状況を打破する策を思いつく。半分以上が運であるが何もしないよりはマシである。ベティヴィエールはそのまま彼女らの攻撃を待ち構える。彼が攻撃を仕掛けてこないのを見た彼女らは先程のようにナイフを放つ。ベティヴィエールはそれを避け、アリスの魔法を喰らう。
「くっ!」
ベティヴィエールは体制を立て直すと、周りのナイフが一瞬で消える。咲夜の手には先程まで無かったナイフが握られている。それを見たベティヴィエールは────ニヤリと笑みを浮かべる。
「────かかった」
「ッッッ!!??」
咲夜の手元のナイフからベティヴィエールの仕込んだ魔術が発動し電流が流れる。その事に咲夜は思わず同様する────それはベティヴィエールが狙っていた絶好の機会だった。
「フッ!!」
「「!?」」
一瞬で二人の元に飛び込み、二人の腹部に当て身を食らわせる。二人は呻き声をあげ、全身を弛緩させて崩れ落ちた。
「ようやく終わったか・・・」
この戦いは終わった。しかしあまりにも代償は大きかった。
────妹紅の死
その事が彼の胸に突き刺さる。
────守れなかった
彼の胸には後悔の念が渦巻いていた。あと少し、あと少し早ければ彼女を救えた────ベティヴィエールは沈痛な面持ちで妹紅〝だったもの〟が転がっている方を向き────
────ピンピンしている妹紅と目が合う
「・・・・・・・・・はっ?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまうベティヴィエール。妹紅は笑いながらすまなそうに言う。
「いや〜ごめんごめん!久々に“殺された”から復活に手間かかっちゃったよ」
ベティヴィエールは数秒硬直し、ハッとなって妹紅に駆け寄る。
「妹紅!」
「へ?何ベティって!?何して・・・ちょ、あん!」
ベティヴィエールは真剣な顔で妹紅の身体をまさぐる。傍から見れば変質者であるが、彼は至って真剣である。妹紅はその感触に悶えている。
「ベティ・・・んんっ・・・やめ・・・ふぁっ・・・だからっ・・・ッ!やめろーーーーー!!!!」
「ぐぉっ!?」
妹紅の拳がベティヴィエールの鳩尾に突き刺さり、その威力にベティヴィエールは数歩後退してしまう。妹紅は息を荒くしながらもベティヴィエールから距離をとる。
「ハァーッ!ハァーッ!ベティ!何のつもり!?」
妹紅は顔を赤くしてベティに叫ぶが、ベティはそれどころではない。────死んだと思った友人が生きていてしかも元気に鳩尾にストレートを決めてくるという状況で落ち着ける筈も無いだろう。ベティヴィエールは妹紅を見て一言、
「何故・・・生きて?」
その質問に一瞬妹紅はキョトンとする。そして呆れた様に溜息をつく。
「ベティ・・・私が不老不死だって事忘れてない?」
「────あ」
すっかり失念していた────そんなベティヴィエールの様子にもう一度ため息をつく妹紅。そして言い聞かせる様にベティヴィエールに言う。
「いいベティ?私は不老不死だから死なないの。だから致命傷を被うが平気。さっきの貴方は私がやられた事で冷静さを失っていた。違う?」
「それは・・・」
確かにその通りである。ベティヴィエールは妹紅が不老不死と知っていながら取り乱した。妹紅の惨状を目の前にしてそんな事は全て吹き飛んでしまったのだ。例え死なないとしても痛みは感じるだろう。苦しみを感じるだろう。そのような苦しみを味わっていながら妹紅は冷静だった。
「別に死ぬのは慣れてるから。貴方は気にしなくて────」
「────それは出来ない」
妹紅の言葉をバッサリと斬り捨てる。妹紅は驚いた顔をしているが構わず続ける。
「〝死ぬのは慣れている〟?それがどうした。例え死なないとしても痛みは消えない。苦しみは消えない。何より────“命が消える感覚”は消えない。私は貴方を守れず、みすみすそんな苦しみを与えてしまった。それを気にしないなど出来る訳が無い」
「それは・・・私は何回も死んでるから気にしないし・・・」
「“あの感覚”を気にしないなど出来る訳が無い」
ベティヴィエールがその言葉を口にした瞬間妹紅の顔が変わる。
「まさか・・・ベティ・・・も?」
「────永い旅路の中、死す事は幾度もあった。時に殺され、時に餓死、時には灰となって燃え尽きる事もあった────その中で幾度も“命が消える感覚”を味わった。あれは人の本能に刻まれる恐怖。慣れる事など出来ようはずもない────妹紅。貴方はもっと自分をいたわって下さい。誰も貴方が傷付くのを望んでいない。そして私も────貴方が傷付く姿は見たくない」
「ベティ・・・」
ベティヴィエールの言葉に妹紅は自らを恥じる。ベティヴィエールかその時何かに気付くが妹紅は気付かない。
「(何わかったような事言ってんだ私。ベティはもっと長い間苦しんだんだ。それを・・・)」
「その・・・妹紅」
「ベティ・・・ありがとう。それと・・・ごめん。何て言うか・・・目が覚めたよ。不老不死に頼って皆やベティに迷惑かけて・・・心配させちゃってごめん」
「えぇ・・・その・・・どういたしまして・・・」
「・・・?」
何故かしどろもどろになるベティヴィエール。妹紅は怪訝に思ってベティヴィエールに聞く。
「ベティ?どうしたの?」
「その・・・妹紅、服が・・・」
「・・・服?」
妹紅は自身の服を見る。────咲夜達の攻撃でズタズタにされ、ベティヴィエールにまさぐられた事に寄って8割方肌が露出している自身の姿を確認した妹紅はみるみる赤くなっていき────
「ベティの・・・バカァァァァアアア!!!」
「ふぐぉ!?」
────両手で身体を隠しながらベティヴィエールの顔面に蹴りを叩き込んだ────
戦闘描写が上手くいかねぇ・・・。アドバイス下さいお願いします。いやホントマジで。
2017/11/29 一部修正しました
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永き夜〜③
もう嫌になる・・・。
「ぐ・・・うぅあ・・・」
「お嬢様!!っぐあ!?」
「美鈴っ!?」
迷いの竹林の一角。そこではたった一人による〝蹂躙〟が繰り広げられていた。〝戦闘〟では無い、〝蹂躙〟である。紅魔館の当主であり、幻想郷でもかなりの上位実力者であるレミリア・スカーレット。普段は怠け者の門番だが、その実力は事実上の〝紅魔館最強〟である紅美鈴。その二人がなすすべなく、〝たった一人の少女〟に叩きのめされているのである。彼女らを知る者にとっては悪夢とも言える光景であった。美鈴を吹き飛ばした少女────セイバーはつまらなそうに吐き捨てる。
「つまらんな。我の力が必要な程の事態だと期待してみれば・・・。フンッ、此度の現界は外れだな」
心底残念でならないと言った風に呟くセイバー。どうやら彼女もまた強者を求める類の人種の様だ。セイバーの傲慢なもの言いにレミリアは苛立つ。彼女もまた強者、それと同時に人の上に立つ者である。目の前の矮小な、礼儀を知らぬ下等な〝人間〟如きにこれ程の屈辱を味合わされたのだ。誇り高い彼女にとって許容できる事では無かった。
「・・・ッ!下等な人間ごときがァ・・・!突然襲い掛かってきて何のつもりだ!」
「我は我を呼び出した・・・一応だがマスターに『この先に敵意を持って侵入する者を排除しろ』と言われただけなのでな。だから貴様らを排除したのみ。そして────」
セイバーは一旦言葉を切る。そして────
「────我を〝人間〟如きと一緒にするなよ羽虫が」
「ッ!?う・・・うぁ・・・」
セイバーの体から放たれた強烈な威圧感に声すら出せなくなる。体が酸素を求め呼吸を行おうとするが喉すらも動かない。レミリアはたまらず地面に倒れ込み、とうとう威圧感に屈し、そのまま意識を失った。
「フン・・・ようやく倒れたか・・・」
セイバーは倒れ込んだレミリアを見てようやく威圧を止める。セイバーの威圧が解けた瞬間────
「キッサマァ!」
────倒れていた美鈴がセイバーに殴りかかるが、
「フッ!」
「がっ!?」
セイバーが剣を一振りした瞬間、美鈴は吹き飛んで地面に叩き付けられる。
「ぐぅぅぅうう・・・!」
「しぶといな。まぁ、先程の羽虫よりはマシか」
「ッ!お嬢様を・・・侮辱ッ・・・するなぁ!!」
「五月蝿い」
「ごっ!?」
再び飛びかかるもあっさりと叩き伏せられる。セイバーは美鈴など眼中に無い様にそこから去ろうとするが、突然明後日の方向を向く。
「────出てこい」
口から発せられたのは命令。そこには何人たりとも逆らえない強制力があった。やがて竹林の間から一人の少女が何かを肩に担ぎながら出てくる。彼女の頭部からは兎の耳が生えている。
「何者だ」
セイバーの威圧に大分気圧されながらも問いに答える。
「わ、私は鈴仙・優曇華院・イナバです・・・。師匠の命で侵入者を排除していました・・・」
そう言って肩に担いだもの────気絶している妖夢をセイバーに見せる。美鈴はそれを見て確然とする。妖夢はけして弱い訳では無い。それがやられたという事は目の前の兎女はそれ以上の実力、更にその口ぶりからすると更に上がいる様だ。美鈴はあまりの戦力差に絶望する。敵はこれ程までに強いのかと────
「成程。マスターの従者か」
「そのマスターって言う人が誰だか知りませんけど・・・貴女が師匠が言ってた助っ人ですか?」
「恐らくそうだろうな」
「恐らくって・・・」
「文句ならマスターに言え。我を呼び出したかと思えばいきなり侵入者を排除しろときた。随分と人使いの荒いマスターだ・・・」
「だからマスターって誰何ですか・・・。と、ところでそこの人、まだ意識があるみたいですけど?」
「む?あぁ、そう言えばいたな・・・」
「忘れてたんですか・・・。まぁ、意識があるなら好都合です。〝コレ〟でやっちゃいましょうか」
そう言って鈴仙は怪しい色の液体が入った注射器を取り出す。
「なんだそれは?」
「〝コレ〟は師匠が調合した薬で意識を混濁させる効果があるものです。〝コレ〟で意識を朦朧とさせてから私の能力で意識を操る事が出来るんですよ。もう既に二人程操ってますし」
説明しながら鈴仙が近付いてくる。
「ま・・・て・・・」
「待ちませんよ」
そう言って鈴仙は美鈴の首筋に注射器の針を近付ける。
「(申し訳ありません・・・お嬢様・・・咲夜さん・・・)」
「諦めました?じゃあさっさと終わらせますね」
針が美鈴の肌に触れる。
「(ごめんなさい・・・皆さん)」
諦めようとした彼女の脳裏に様々な人々が浮かび上がる。主人にその妹、同僚達。最後に浮かび上がったのは────
────銀色の騎士の姿であった。
「ッ!」
鈴仙が指に力を込める。
「(嫌だ・・・)」
針が肌を突き破る。
「(嫌だ・・・ッ!)」
鈴仙が更に指に力を込める。
「( 助けて・・・
ベティさんっ!!!)」
「セヤッ!」
「うわっ!?」
風を切る音がして慌てて鈴仙が飛び退く。代わりに美鈴の傍に立ったのは────
「ご無事ですか、美鈴殿」
「ベティ・・・さぁん・・・ッ!!」
────悠然と佇む銀の騎士。それを見て彼女は意識を失った。
時は少し遡る。ベティヴィエールと妹紅は咲夜とアリスを抱え、竹林の中を歩いていた。その足取りは先ほどよりも速い。原因は謎の紅い輝き。突如発生した光に胸騒ぎを覚えた二人は目的地へ進む速度を早めていた。(ちなみに、妹紅は先程のやり取りがあってから、ベティヴィエールのマントを纏って身体を隠している)
「しっかし・・・何なんだろな、あの光」
「わかりません・・・。しかしあまり良くないものでしょう」
「確かに何か禍々しい感じがしたからなぁ」
「いずれにせよ放っておく訳にも・・・ッ!?」
「なぁっ!?これ・・・は・・・」
彼らを貫く強烈な威圧感。ベティヴィエールは驚愕のあまり崩れ落ちかける。
「(ありえない・・・ッ!これは・・・〝英霊の気配〟ッ!)」
その威圧感はまさに英霊達が発する威圧感に酷似している。これ程の威圧感を感じたのは風見幽香以来である。だがアレは所詮紛い物。借り物の力を振りかざしていただけである。しかし、今度のものは文字通り〝桁が違った〟。そのまま二人が動けないでいるとやがて威圧感は消え去る。
「今の・・・なに?」
「・・・ッ!」
ベティヴィエールは妹紅の問に答えず、彼女に咲夜を渡して走り出す。
「え!?ちょ、ベティ!?」
ベティヴィエールはそのまま威圧感の発生源に向かい走る。数分後、彼が見たのは倒れ伏しているレミリアと美鈴。その近くで佇む少女。そして美鈴に何かを打ち込もうとする兎耳の少女。ベティヴィエールは咄嗟に剣を振るって美鈴から兎耳の少女────鈴仙を離す。
「セヤッ!」
「うわっ!?」
すぐさま美鈴と鈴仙の間に入る。
「ご無事ですか、美鈴殿」
「ベティ・・・さぁん・・・ッ!」
そう言って美鈴は気を失う。無事を確認したいが黒髪の少女から発せられる威圧感がそれを許さない。ベティヴィエールは先程の威圧感も彼女が発生源だろうと当たりをつける。
「ベティ!」
ベティヴィエールに遅れて妹紅がやって来る。妹紅が抱えている咲夜達を見て鈴仙が焦った様な声を上げる。
「嘘っ!?もうやられちゃったの!?」
ベティヴィエールはそれを聞いて鈴仙を睨みつける。
「────一つ聞く。彼女らを操っていたのは貴様か?」
ベティヴィエールの口から普段の彼からは考えられない程の怒りが含まれた言葉が飛び出す。口調も怒りの余り変わっている。鈴仙は気圧されながらも答える。
「・・・そうだけど。それが何か?」
「そしてそれを美鈴殿にも施そうとしていたと言う訳か」
ベティヴィエールは美鈴を見ながら言う。彼の怒りに恐怖し、体が震えだす。鈴仙はそれを抑えながら精一杯の虚勢を張る。
「だ、だから何だって言うの!?敵に容赦する必要何て無いじゃない!」
「そうか・・・ならば────」
ベティヴィエールは鈴仙に剣の切っ先を向ける。
「────貴様の様な外道を斬るのにも容赦などいるまい?」
ベティヴィエールから殺気が放たれる。鈴仙だけでなく傍にいただけの妹紅にも明確に感じ取れる程の殺意。それだけ彼は憤怒していた。
「────待て」
と、ここで今まで何も言わなかったセイバーが動く。鈴仙とベティヴィエールの間に入った彼女は獰猛な笑みを浮かべていた。
「退け。貴様に用は無い」
「それは無理な相談だ。ようやく見つけた〝獲物〟を誰が逃がすと思う?」
「・・・チッ。妹紅あの外道を逃がさないようにしておいて下さい」
「わ、わかったよ。ベティは?」
「私は────」
ベティヴィエールは剣を構える。彼に合わせる様にセイバーも剣を構える。
「ちょ、セイバーさん!?」
「黙っとれい兎。我は────」
「────この獣を仕留めてから行く」
「────この獲物を仕留めてから行く」
────異界の地にて英霊同士が激突する。それは、外の世界は愚か幻想郷の常識すら覆す人知を超えた戦いである事を幻想郷の住民達は知る事となる────
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竹林の激闘────地上に降り立つ月よりの使者
何かタイトル詐欺になってる気がするけど気にしない。イイネ?
ふんっ!」
「ッ!」
セイバーが剣を振るい、ベディヴィエールがそれを受け止める。ガキンッ!と金属音が竹林に響き渡る。
「ほう・・・なかなかやる様だな」
「それはこちらの台詞・・・ハッ!」
「甘い!」
ベディヴィエールが横薙ぎを繰り出すがあっさりと受け流される。ベディヴィエールは瞬時に剣を逆手に持ち替え再び振るう。セイバーは少し目を見張るが、すぐに笑みを浮かべ、篭手で受け止める。
「面白いやり方だな?まるで道化師だ」
「・・・ッ」
ベディヴィエールは内心驚愕していた。彼自身、セイバーに負けるつもりは毛頭無い。今の一撃も本気で殺す気で放ったものだ。それをセイバーはあっさり防いで見せた。今現在、彼にはセイバーに勝つビジョンが〝全く浮かんで来ない〟。それは自身よりもセイバーの方が“強い”という事を示していた。
「・・・ッ!
「む・・・?ほぅ・・・宝具か?」
ベディヴィエールは銀腕を起動させ、セイバーに強化された高速の剣戟を見舞う。しかし、セイバーはその複数の剣閃を意図も簡単に防ぎ、右腕のみで剣を振るい、ベディヴィエールを吹っ飛ばす。
「ガッ!」
「ベディ!?」
「余所見をしている暇は無いですよ?」
「ッ!?邪魔を・・・するな!」
少し離れた場所で妹紅は鈴仙と戦っていた。ベディヴィエールが吹き飛ばされたのを見て駆け寄ろうとするが鈴仙がそれを許さない。だがこれは妹紅にとっては幸運だった。何故なら、彼らの戦いは既に妹紅達の様な〝ヒト〟では無く、人智を越えた〝英霊〟達の領域に入り込んでいたからだ。
「ふんっ!」
「・・・ッチィ!」
「そらっ!」
「ぐぅ・・・ッ!」
吹き飛ばされた先では目にも止まらぬ剣戟の応酬が繰り広げられていた。もはや常人には捉えることも出来ない速度で剣が振るわれる。ただし、剣を振るう二人の顔は対照的である。苦々しい表情────ベディヴィエールに対して涼し気な顔────セイバーはベディヴィエールの攻撃をものともせずに剣を振るっていた。
ベディヴィエールはセイバーを中心に弧を描く様に動きながら攻撃を仕掛けている。時に横、時に斜め後ろ、時に正面────あらゆる面からセイバーに攻撃を仕掛ける。それをセイバーは軽く払い除けている。身の丈に合わぬ大剣で全方位から襲い来る剣戟を全て打ち払っているのだ。竹林に幾度と無く響き渡る金属音がそれを証明している。ベディヴィエールは歯噛し、剣戟の速度を上げるがその全てが打ち払われる。
「(速すぎる・・・ッ。ならばッ!)」
ベディヴィエールは一旦下がり、銀腕を通じて極光を剣に纏わせる。剣から光が溢れ出し、ベディヴィエールは剣を思いっきり一閃させる。溢れ出した極光は周囲の竹を巻き込み、セイバーを飲み込まんと迫り来るが────
「────ぬるい」
セイバーは蒼雷を剣に纏わせ極光を迎え撃つ────数秒拮抗した後に極光はあっさりと霧散した。ベディヴィエールは顔を歪め、セイバーは唇を歪める。
「今度はこちらからだ」
セイバーは頭上に剣を掲げる。
「
そう言って剣を振り下ろす。頭上に悪寒を感じ、咄嗟にベディヴィエールは後方に飛び退る。それが幸をそうした。一瞬後、彼がいた場所には天空からの裁き────落雷が突き刺さっていた。
「グッ!?」
躱したはいいが衝撃で飛び散った放電と光を直撃で食らう。咄嗟に庇った結果、ベディヴィエールは左半身を痺れさせ、左目は殆ど何も見えない状態に陥っていた。
「────ほう、耐えたか」
セイバーは嬉しそうに言う。その体から一層殺気を放ちながら彼女はゆっくりと剣を構える。ベディヴィエールは文字通り絶対絶命であった。方や満身創痍、方や五体満足、勝敗は火を見るよりも明らかであった。
「ならば────!我が魂喰らいて迸れ、銀の流星────!」
「ほう、まだ足掻くか。ならば────」
セイバーは剣を両手で持ち大上段に構える。
「こちらもそれ相応のもので迎え撃とう」
剣が稲妻を纏う。それよりも早くベティヴィエールは右腕を振るう。
「
銀腕から溢れ出した極光がセイバーを飲み込まんと迫り────
「────
────大剣から放たれた蒼雷の奔流に飲み込まれる。ベディヴィエールは信じられないといった顔のまま蒼雷に飲み込まれていった。それを確認したセイバーは剣を振るい、背中の鞘に収める。
「ふむ、重畳、と言った所か。悪くは無かったぞ人間の騎士よ」
セイバーは次の瞬間にはベディヴィエールに興味を無くし、次なる侵入者を始末しようと動き出すが────
「む?これは・・・」
自身の身体が〝呼び出される〟ことに気づく。
「面倒な・・・まぁ、此度はマスターがおるから仕方無し、か」
そう呟いた次の瞬間、一陣の風が吹き荒ぶ。風が収まった時にはセイバーの姿は何処にもなく、ただ戦いの爪痕だけが残っていた────
────そしてこの時、幻想郷を覆っていた〝とある術式〟が切り裂かれたことに彼女は気付かなかった。
────セイバー達の決着より数分前────
「────それで?つまり貴方達は月からの追手を防ぐ為にこの異変を起こしたってこと?」
「その認識で構わないわ」
「何ともまぁ・・・人騒がせな奴らだぜ」
「仕方ないでしょ、こっちは死活問題だったんだから」
「ともあれ、これで解決ってことでいいのよね紫?」
「そうね幽々子。藍もお疲れ様」
「もったいないお言葉です」
一方で竹林の奥深くにある永遠亭では全ての戦いが終わっていた。そこには異変解決組である霊夢、魔理沙、紫、藍、そして白玉楼の主である西行寺幽々子、異変元凶組である蓬莱山輝夜と八意永琳がいた。そもそも何故この異変を起こしたのか?それは月の民にとってはの禁忌である不老不死の罪を犯した罪人である輝夜と永琳、そして脱走兵である鈴仙・優曇華院・イナバを追って来る月人達から逃げ切る為である。彼女達はまず幻想郷を覆うように特殊な術式を発動させ、月から見て幻想郷を隠した。それが幻想郷では月が消失した様に見えたのである。月人達は幻想郷に侵入する為に幻想郷の結界が〝弱まる〟時期を狙い幻想郷のに侵入、輝夜達を連れ帰る算段であったのだが肝心な所で幻想郷の場所をロストし、次の結界が弱まる時期まで耐えるハメになる────これを永遠に繰り返し逃げ切るつもりだったそうだ。そして幻想郷に侵入する為のタイムリミットは二十四時間。つまりこの異変は一日限定の異変なので特に問題は無いという結論に落ち着いたのだ。
「ねぇ、ところで聞いていいかしら?」
唐突に霊夢が口を開く。
「何かしら?」
「さっきから竹林の方でドンパチやってるけど止めなくていいの?ていうか片方が明らかに〝とんでもない〟んだけど?」
それは彼女達全員が聞きたい事でもあった。ちなみに竹林でのドンパチとはここにいる彼女達は知る由もないがベディヴィエールとセイバーの戦闘の事である。
「あ、」
「・・・忘れてた」
思わずといった風に呟く輝夜達に霊夢達は呆れた様な目を向ける。
「それで?あれはなんなの?」
「あー・・・多分あれは私が呼び出した迎撃用の使い魔よ」
「多分って・・・それに使い魔?」
「そ。永琳が魔導書に書かれていた術式を再現してくれたからそれを使って呼び出したの。確かまだ召喚陣が残っていたはずだから見てみる?」
「・・・お願いするわ」
「そ。じゃ、ついてきて」
輝夜達に連れられ、召喚陣の元へ向かう霊夢達。向かった先には未だに紅い光を放つ召喚陣が残っていた。
「これよ」
「何か禍々しいわね・・・これはどう言ったものなの?」
「さぁ?」
「さぁってあんたね・・・。仕方ない、魔理沙」
「あいよ、さてさてどんなもんなのか・・・?ん?ん!?んんんんん!!??」
突然魔理沙が唸り声を上げる。
「ちょっと魔理沙?どうしたの?」
「いやこれ・・・召喚っていうか・・・反魂の法に近いものだぜ?」
「「「はぁ!?」」」
思わず叫ぶ一同。反魂の法────つまりは死者蘇生術やゾンビ、キョンシーを創り出す技術の総称である。その術式は一般には禁忌とされる技術であり、なおかつ現代の魔法使い達でも再現の難しいものである。
「ちょ!?何でそんなもんが!?どういう事よ!?」
霊夢は思わず輝夜に詰め寄る。
「いや私も知らないわよ!?永琳!?」
「・・・私も初耳よ」
「・・・魔理沙、貴女は術式の解析を急いで。藍、貴女は向こうの確認を────ッ!?」
紫が指示を出そうとしたその時、少し離れた場所で天を衝くほど巨大な蒼い剣が現れる。
「「「「「「「は?」」」」」」」
思わず一同は素っ頓狂な声を上げる。そして蒼い剣が振り下ろされた瞬間────
────幻想郷を覆っていた術式が切り裂かれ、満月が顕になる。
「んなぁ!?」
「不味い!これでは────」
その光景に顔を青くして輝夜は叫ぶ。そして次の瞬間には幻想郷覆っていた博麗大結界を〝突き破って何か〟が永遠亭に向かっているのを霊夢達視認した。
「そんな馬鹿な!?」
紫は思わず呟く。博麗大結界────幻想郷を楽園足らしめていた所以であり、幻想郷を守護する最強の結界である。それが破られたのだ。管理者たる彼女にとっては悪夢に等しい光景だろう。やがて〝何か〟は永遠亭の周囲に降り立ち霊夢達を囲むように布陣する。その姿は幻想郷からして見れば明らかなオーバーテクノロジー────紛うことなき月人達である。そしてその中心には帽子をかぶり、扇を携えた少女と、ポニーテールに刀を構えた少女が冷たい目でこちらを見下ろしていた。それを見て永琳は顔を青くして呟く。
「豊姫・・・依姫・・・」
「お久しぶりですわ永琳先生」
「実に千年以上ぶりですね」
そう言って少女達────豊姫と依姫はこちらへ手を差し出す。
「さぁ、帰りましょう?もう月詠様は貴女達の罪は問わないと仰っているわ」
「先生と輝夜様、そしてあの玉兎の身の安全は保証します。ですから「ふざけんじゃないわよッッッ!!!!」・・・輝夜様?」
「身の安全は保証する?ふざけないで!貴方達と共に戻ったところで人体実験のモルモットになるのは目に見えてるわ!」
「ですから身の安全は保証すると────」
「それであの耄碌した爺共の慰み者になれって?冗談じゃない!帰って溜まるもんですか!!」
「・・・仕方ありませんね、姉上」
「えぇ、実力行使で行きましょうか」
そう言って殺気を放ち始める二人霊夢達は思わず身構える。
「姫様方、一緒にいる地上人共はいかが致しますか?」
「殲滅しなさい。どうせ穢らわしい地上人と木っ端妖怪よ。誰にも迷惑はかからないしね」
ここで彼女の言う〝誰〟に地上の民は含まれていない。彼ら月人達は地上の存在を穢らわしいものとして見下しているのだ。輝夜は何かないかと周りを見渡し、そこで右手の令呪が目に入る。
「(・・・確かセイバーは〝絶対命令権〟って言ってたわよね?ならもしかしたら・・・!)来て────
セイバー!!!」
その声と共に令呪が紅く光り輝き、その1角が失われる。それと同時に輝夜の正面に大剣を背負った少女が現れる。
「やれやれ、人使いが荒いなマスター?」
「セイバー!遅いわよ!」
「我にそんな口のきき方をするとは・・・マスターでなければ斬っているぞ?それで?どうしたのだ?」
「あぁもう!?周りを見なさい!」
「ふむ?」
セイバーはその場でぐるりと辺りを見回す。
「ふむ、この木っ端共がどうかしたか?」
「こいつらは敵!殲滅しなさい!」
「全く、まぁ戦えるのならば文句はないが・・・」
「────随分と好き勝手を言ってくれる」
セイバーが声のした方向に目を向けると額に青筋を浮かべた依姫が刀を抜き放っている。よく見れば豊姫や周囲の兵士達も同様のようだ。セイバーは背中から大剣を引き抜こうとし────
「む」
────そのまま持ち手から手を離す。
「え、ちょセイバー!?」
「すまぬがマスター、我はあの小娘に〝手は出せぬ〟」
「な・・・ッ!?どういう事よ!?」
「詳しくは言えん。此度の聖杯戦争のこともわかっておらぬのだ。これ以上話せば我が真名も明かさねばならなくなる。それは我の望むところでは無い」
セイバーが何かを言っているが輝夜の耳には入らない。思わず膝をつく輝夜。まさかの最大戦力が戦闘放棄。残った面子では依姫一人にも敵わない。輝夜の心は既に絶望に囚われていた。
一方、紫は幻想郷の存続の為に必要な霊夢、万が一為の自分の後継者である藍を逃がすために必死に策を練っていた。月人の少女達────綿月豊姫、依姫姉妹の実力はよく知っている。過去、月面戦争と呼ばれる戦いにおいて彼女達には幻想郷において最高クラスの実力を持つ紫ですら手も足も出ない程の敗北を喫しているのだ。自分の生存は絶望的、ならばせめて彼女達だけでもと思った紫。スキマを開こうとし────
「・・・スキマが開けない?」
思わずと言った風に呟く紫。それを聞きつけた豊姫は鼻で笑う。
「あら逃がすとでも?貴女の様な害虫対策の術式を私が用意してないとでも?」
「(────終わった)」
輝夜に引き続き紫も膝をつく。藍が駆け寄るがそれすら気にならない。完全に詰んでいた。自分が月に戦いを挑まなければ或いは何とかなったかもしれない。過去の自分の愚かしさのツケがここに来て回ってくるとは何とも因果。あまりの情けなさに涙が出てくる。
「(誰か────)
助けて・・・」
────それは小さな小さな声
────だが、確かに聞き届けられた
────一人の少女の願いを・・・〝聖杯〟は聞き届けた
────次の瞬間、召喚陣が強く輝き出す。
「な!?」
「くっ・・・総員!戦闘態勢!」
月人達が身構える中、幻想郷の面々はそれに魅入っていた。やがて召喚陣がひときわ強く輝き、〝幾筋もの光が飛び散る〟。そしてそのうちの二つが紫の前に落ち、強く輝く。やがて光が晴れるとそこには────
────赤いの外套に身を包んだ褐色の肌に白髪の男
────九本の狐の尾を生やした美女
────何処か恐ろしくも神々しい者達が立っていた。やがて赤い外套の男が口を開く。
「────やれやれ、全く・・・随分と急な召喚だな?」
「────アナタはまだ良いでしょう?私なんかわざわざご主人様為にちぎり捨てた尻尾までついてきてるんですけど!?あーんもう!これじゃあご主人様を他の尻尾に奪われちゃいますぅ〜!!」
「ならばそのまま統合していればいいだろう。・・・さて、」
二人がこちらを振り向く。
「「問おう、君(貴女)が私のマスターか?」」
────かくして、幻想郷の地にて新たな英霊達が顕現した
────その先の行く末は滅びか、願いか
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もう1人の白面金毛九尾の狐
あと妄想全部ぶっこみたくてカオスになっちまったよぉぉぉぉぉぉお!!!
あと遅くなりましたがあけましておめでとうございます。今年もこの小説(駄文)をよろしくお願いします。
「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」
その場にいた者達は人妖問わず固まっていた。それはそうだろう。突然召喚陣が起動したかと思えば二人の人間(?)が現れ、今まさに絶望のどん底に叩き落とされていた紫に手を差し伸べているのだから。誰もが一言も発せない中、
「「痛っ」」
二人の少女の声が響き渡る。声を上げた片割れである紫は自身の右手の甲に目を向ける。そこには先程までは無かった紅の紋章が浮かび上がっていた。
「えっ・・・?何・・・これ・・・」
「む、それは令呪!それに私と魔力回路《パス》が繋がってる・・・ってことはアナタが私のマスターですね?」
「え・・・?マスターって・・・?」
「はい。サーヴァント・キャスター、御身の願いを聞き届け馳せ参じました。これより、貴女の剣となりましょう」
「サーヴァント・・・?それにキャスターって「すまないが少しいいだろうか?」・・・え?」
紫は既に混乱の極みである。突然変な二人組が現れ、右手の甲に変な紋章が浮かび上がり、目の前の九尾の狐は自身の事をマスターと呼び、と既にパンク寸前である。そこに突然赤い外套の男が話しかけてくる。
「君がキャスターのマスターならば私のマスターは何処にいるのだ?まさか二体同時召喚を行った訳でもあるまい?」
「ねぇ・・・」
霊夢が声を上げる。何事かと思いそちらを向く。
「もしかして・・・〝コレ〟?」
霊夢の右手の甲には紫と同じ紅の紋章が刻まれていた。
「ふむ、確かに魔力回路《パス》は繋がっているし令呪もある・・・ということは君が私のマスターか────サーヴァント・アーチャー、ここに馳せ参じた。これより、我が弓は君と共に在る」
「しっかし変ですねぇ?私、まだ前のマスターとの聖杯戦争中だったんですけど?」
「それは私もだよキャスター。どうも我々は〝座〟からではなく前回の召喚地から直接呼び出されているようだ。それに聖杯からの情報によればここは〝我々の居た世界では無い〟様だ」
「まぁ、現代にこんなに妖魔がウロウロしてる場所なんてありませんしねぇ・・・、オマケに私の〝同位体〟まで居るみたいですし」
「おいおい調べていくしか無いさ・・・さて、マスター?今の状況について聞きたいのだが?」
「・・・色々聞きたい事があるけどまぁいいわ。私達は今敵に囲まれていてピンチなの。で、突然召喚陣が光ったと思ったらアンタ達が出てきた」
「敵・・・?」
アーチャーはぐるりと辺りを見回す。キャスターもそれに習う。周囲には武装した兵士達が殺気立ってこちらを向いていた。
「ふむ・・・君達、引く気は無いかね?」
「・・・何?」
依姫が怪訝な声を上げる。
「こちらとしても争い事は好まないのでね。引いてくれると有難いのだが」
「・・・随分と面白い事を言うのね、下賎な地上人如きが」
豊姫がクスリと笑いながら殺気を向けて来る。
「マスター、話が通じないのだが?それと地上人とはどういう事かね?」
「・・・向こうは鼻から話を聞く気がないわよ。アイツら月人は私達地上人を見下してるから」
「成程、彼女達が・・・」
「なーんか気に入りませんねぇ」
キャスターが軽くイラついたように言う。
「キャスター、気持ちは分かるが抑えてくれ」
「だって私は月の王たるご主人様に仕えていたんですよ?こんな連中が月の民だなんてご主人様が知ったらどれほどお嘆きになる事か・・・」
「・・・待て」
よよよ・・・と崩れ落ちる真似をするキャスター。月人達は聞き捨てならないとばかりに目を鋭くする。
「〝月の王に仕えていた〟?貴様は月詠様に仕えていたと言うのか?」
「はぁ?あんな地味子と麗しき私のご主人様を一緒にしないでください」
「なっ・・・!貴様ッ!月詠様への侮辱は許さんぞッ!」
「だって事実ですし?」
「きっさまぁッ!」
激昂する月人達。アーチャーは呆れたように言う。
「キャスター、煽らないでくれ」
「だって事実なんですからしょうがないでしょう?」
「・・・それでもだ」
「はーい。ま、ここは私だけで充分ですからアーチャーさんは私のマスター連れて下がっていて下さい。腰が抜けてるのか動けないみたいですし?」
「全く・・・なら頼んだぞ?」
そう言うとアーチャーは紫をお姫様抱っこで抱え上げる。
「へっ?えっ!?」
「すまないが少し我慢してくれ。キャスターから君の避難を頼まれたのでね」
「ぅ、うん・・・」
紫は思わず顔を赤らめる。その様子を見てキャスターはニヤ付きながら月人達に向き直る。
「さて、と・・・始めましょうか?」
「貴様・・・たかが畜生風情が我らに叶うとでも?」
「畜生風情ねぇ・・・ならば名乗らせて貰いましょうか?
今宵、この幻想の地へ降り立つは
幾多もの治世を滅ぼした大いなる災い!
落とした国は数知れず、堕とした男は星の数、
付いた異名が白面金毛九尾の狐!
我が真名は玉藻の前!さぁ、覚悟は・・・宜しいですか?」
何処からともなく豪華な装飾が施された円盤を取り出し、名乗りを上げるキャスター────玉藻の前。紫は思わず耳を疑う。その名は自身の式である八雲藍の〝過去の名〟であるからだ。そんな紫の心境も何処吹く風、戦いは始まった────否、それは戦いでは無い。
────一方的な蹂躙である
「ほいっと!」
そんな声を上げ、キャスターは腕を振るう。その動きに合わせて円盤は宙を舞い、月人達に襲いかかる。
「ッ!?」
「速いっ!?」
かろうじて綿月姉妹はそれを躱す。体勢を立て直した依姫は周囲の兵士達に命じる。
「目標目の前!撃て!」
が、いつまで経っても銃声が聞こえない。
「どうした?早く撃ッ!?」
思わず兵士達の方を向くと既に兵士達はこと切れていた────体から無数剣を生やして。
「馬鹿なッ!?」
抜剣する音は聞こえ無かった。そして兵士達に突き刺さっている剣は百本を超えている。それ程の数が何処から?必死に思考する依姫だが、それを許すキャスターでは無い。
「炎天よ、迸れ!」
キャスターが呪符を投げつける。呪符は炎塊となって依姫達に襲いかかった。
「くっ、《建御名方神》よ!」
依姫は自身の能力を使って建御名方神の力を身に纏い、炎塊を切り払う。豊姫は弾幕をキャスターに放つが、
「『呪法・黒天洞』」
キャスターの張る結界に全て阻まれる。
「妖怪如きが・・・!ならば斬り捨てる!」
依姫はキャスターに接近し、斬り捨てようとし────
「・・・ふっ!」
「がっ!?」
「依姫ちゃん!?」
────キャスターの拳が依姫の腹にのめり込み、依姫の体がくの字に折れる。キャスターはそのまま依姫を豊姫の方向へ蹴り飛ばす。豊姫は何とか依姫を受け止める。依姫は気絶していた。
「生憎私、接近戦も出来るキャスターなので」
さらにキャスターは呪符を取り出し、投げつける。
「氷天よ、砕け!」
今度は呪符は氷塊となって彼女らに降り注ぐ。豊姫は何とか迎撃するが、砕けた氷刃が彼女の肌を切り裂く。
「きゃぁあああああ!!!??」
その光景を霊夢達は信じられないと言った表情で見ていた。無理も無い、彼女らが決して叶わない程の実力者がこうもあっさりと叩き潰されているのだから。
「よく覚えておけ────」
そんな中アーチャーが視線を霊夢達に向け、口を開く。
「────〝コレ〟が我々英霊だ」
「・・・貴方の〝アレ〟も?」
「そうだ」
霊夢が言う〝アレ〟────〝何も無い空間から剣を生み出した〟事だろうと、アーチャーは辺りをつけ、キャスターの方に視線を戻した。
「くっ・・・」
勝てない────豊姫は既に目の前の相手に勝つ事が出来ない事を悟っていた。既に彼女の目的はどうやって豊姫を逃がすがに変わっている。そんな彼女の心中を察してか、キャスターの攻撃はさらに激しくなる。
「言っておきますけど逃がしませんよ?またこんな事になるなんてごめんですからね」
「くぅ・・ッ!」
豊姫は弾幕を放ち、何とか攻撃を凌ぐ。しかし、そのスキをついてキャスターは攻撃を放つ。
「そこっ!」
「くぁあああ!?」
豊姫は気絶している依姫事吹きとばされる。キャスターはトドメを刺そうと追撃しようと彼女らに近づく。
「
が、突如現れた焔の壁に阻まれる。
「なっ!?コレってレオさんの!?」
「これは・・・?」
豊姫は目の前の炎壁がキャスターからの攻撃から自分達を守った事を理解した。だが何者が?そんな思考に囚われていると足音がした。その方向を向くと、身体中に傷を負い、所々黒焦げた鎧を纏う銀騎士────ベディヴィエールが立っていた。ベディヴィエールは豊姫達を一瞥し、
「撤退を」
それだけ言って炎壁の中に飛び込んで行った。
「彼は・・・?」
疑問は尽きなかったが依姫の事もあり、豊姫は妹を連れ、月に撤退していった。
炎壁の中に飛び込んで来たベディヴィエールを見て霊夢達は驚愕する。それ程までに彼はボロボロだった。
「霊夢・・・なぜ異変の主犯達と?」
ベディヴィエールは霊夢に問う。が、霊夢が口を開く前に凶悪な笑みを浮かべたセイバーがベディヴィエールに斬り掛かる。ベディヴィエールその一閃を受け止める。
「くははっ!まさか生きておるとはなぁ!」
「黙れ獣風情が・・・ッ!」
そのまま彼らは斬り合いを────
「ストーーーーープッ!」
────行なおうとしたところでキャスターの叫びによって阻まれる。
「とりあえず御二方共、状況を整理したいので斬り合いはあとにしていただけるとありがたいんですが」
それに便乗するような形で霊夢も言葉を発す。
「ベディさんも落ち着いて!異変はもう解決したから!」
「・・・それはどういう事ですか?」
「・・・つまり先程の彼女らは敵でそれに対抗するためにセイバーを呼び出し、こちらの人々を操っていた、と?」
「えぇ、そうよ」
ベディヴィエールの目の前には永琳が立っている。彼女は彼にこれまでの異変の詳細を話しているところだった。
「成程、詳細は分かりました・・・が、私は貴女達を許す事は出来ない」
「分かっているわ、それだけの事を私達はしたでもね────」
永琳はそこで一旦言葉を区切る。
「────全ての事は私が支持したこと。恨むなら私だけを恨んでちょうだい」
「・・・善処しましょう」
それだけ言ってベディヴィエールは去ろうとする。
「待ちなさい」
しかし永琳に呼び止められる。
「まだ、何か?」
「私はこれでも医者よ?貴方、その怪我で治療も受けず帰させるとでも?」
何か言おうとしたベディヴィエールだが、永琳は「言い訳は聞かないわよ?」との事だ。
「・・・しばらくよろしくお願いします」
「よろしい♪」
そのまま永琳に連れられベディヴィエールは永遠亭の中に入っていった。
────ここに後に〝永夜異変〟と呼ばれる異変は幕を閉じた
キャス狐はEXTRAから、アーチャーはstaynight+Grandorderみたいな感じになってます。
あとこんな名乗りは作者の気分で出てきます。ご了承ください。
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大宴会────花の魔術師は何を語る
あと説明会+過去最多文字数
「────急げッ!客は待ってはくれないぞ!」
「そんな事はわかってます!てか、あのピンク!何処ぞの桃色玉じゃあるまいしバキュームなんてしてんじゃねーですよッ!!?」
「本っっっっ当にウチの幽々子様がすいませんッ!!!」
「喋る暇があるなら手を動かしなさい妖夢!!」
「くっ!いったいあの体のどこにあんな量が入るんですか!?」
「幽々子様の胃の中はブラックホールみたいなものなんです!!気にしたら負けです!」
「あぁもう!!少しは遠慮してくださいよあの底無しピンク!!?」
────現在、ベディヴィエール・アーチャー・キャスター・妖夢・咲夜の5人は必死の形相で料理を作っていた。何故か?それは今朝まで遡る────
───────朝 慧音宅
「────宴会、ですか?」
「あぁ、異変が解決したら博麗神社で盛大に宴会を開くのが此処のやり方なんだ。お前も異変の解決に一役買った訳だしな。参加しても悪い様には扱われないだろうさ」
「モードレッド卿達は?」
「勿論参加する・・・というか既に博麗神社に行って飲んでる事だろうな。あぁ、安心しろ。経費は全て永遠亭持ちだからな。遠慮することは無いぞ」
「そうですか・・・なら、是非参加させていただきます」
「なら準備して向かおうか」
「そうしましょうか」
そう言って慧音と共に博麗神社に向かったベディヴィエールなのだが────
「何・・・だと・・・」
────目の前の青い着物を着た桃髪の女性が大量の宴会料理を吸い込んでいる。食べているのではなく、〝吸い込んでいる〟。次々と運ばれていく料理は7割近くが彼女の口の中に消えていった。(ちなみに、モードレッド達は既に酒盛りも真っ最中)信じられない面持ちでベティヴィエールが見ていた。隣で慧音も絶句している。ふと、件の女性がこちらに振り向き、食事の手を止め、話しかけてくる。
「貴方が、ベディヴィエールさん?」
「え、えぇ・・・ベディヴィエールと申します・・・」
困惑しながら自己紹介するベディヴィエール。そんな様子を女性はクスリと笑い、
「私は西行寺幽々子。紫の親友よ♪」
「・・・彼女の?」
「えぇ♪」
ニコニコと笑いながら自己紹介する幽々子。ベディヴィエールは彼女に得体の知れない何かを感じ取っていた。その事について指摘しようとしたところで料理の山(文字通り)が妖夢に抱えられ運ばれて来た。そこで妖夢と目が合い、
「ベディさん!!?助けて下さい!!!?」
「・・・は?」
そして冒頭に戻る────
「青椒肉絲十人前仕上がったぞ!持っていけ!」
「はいっ!」
「カルボナーラ二十人前仕上がったわ!!持っていきなさい妖夢!!」
「は、はいっ!」
「刺身の盛り合わせ十五人前も出来たから持っていってください!あとあのピンクに自重するように言ってくださいっ!」
「無理です!!」
「鶏肉の香草焼き十人前仕上がりました!妖夢殿、お願いします!」
「〜〜〜〜〜〜!!!!あぁもう!!いい加減にしてくださいよ幽々子様ぁ!!!??」
────二時間後、ようやく満足した幽々子は食事の手を止め、ベディヴィエール達は宴会料理にありつくのだった。
「────久しぶりね、ベディヴィエール卿」
「レミリア殿・・・ですか・・・」
「・・・疲れてるようだけど大丈夫かしら?」
「はは・・・まさか料理がこんなにも疲れるものだとは思いませんでしたよ・・・」
「本当にお疲れ様。ワインがあるけど・・・どう?」
「ありがとうございます、頂きます」
今現在、ベディヴィエールは紅魔館の面々と会っていた。レミリアを筆頭に先程までベディヴィエール達と料理をしていた咲夜、普段図書館から出てこないパチュリーと小悪魔、門番の美鈴、そして何処かベディヴィエールに引き気味のフランドールと紅魔館組が全員揃っていた。無人の紅魔館は結界を張って侵入者が入れない様にしているらしい。暫くするとおずおずとフランドールが話しかけてくる。
「あの・・・お兄様」
「・・・お兄様?」
「あ、うん。その・・・ダメ?」
「いえ、構いませんが・・・何故?」
困惑するベディヴィエール。
「えっと・・・なんかお兄様って呼びたくなっただけなんだけど・・・ダメ・・・かな?」
怯えたように言葉を発すフランドール。まるで拒絶されるのを恐れるかの様に。横目でレミリアを見ると懇願するような目でこちらを見ている。ベディヴィエールに向き直り、
「────分かりました。では、私もフランと呼んでも構いませんか?」
その言葉を聞くとフランドール────フランは喜色満面の笑みを浮かべ、ベディヴィエールに抱き着いてくる。
「ありがとうお兄様!」
そのまま猫のように頬ずりしてくるフランに苦笑を浮かべる。レミリアも微笑んでいたが突然真面目な顔になり、
「────フラン。ベディヴィエール卿に何か言うことがあるでしょう?」
その言葉聞き、ハッとなったフランは彼から離れ、向き直る。
「あの・・・お兄様、この前はごめんなさい!」
そう言って頭を下げるフラン。よく見るとその小さな身体は少し震えている。ベディヴィエールは微笑みながらフランの頭に手を乗せそのまま頭を優しく撫でる。
「あっ・・・」
「気にしてませんよ。フラン、頭を上げて。今はこの宴会を楽しみましょう?」
そう言って頭を撫で続ける。
「ふわぁ・・・んにゃあ・・・」
だんだんとフランの顔が蕩けてきている。流石に不味いと思ったのか咲夜が止めに入る。
「ベディヴィエール卿、ワインをどうぞ」
「あぁ、ありがとうございます咲夜殿」
最後に軽く一撫でしてフランから手を離し、ワインを受け取るベディヴィエール。手が離れる際、「あっ・・・」と寂しそうな声が発せられたが誰も気付かなかった。そしてベディヴィエールがワインを飲む度に、
「べ、ベディさん!どうぞ!」
「ありがとうございます美鈴殿」
無くなる度、
「どうぞベディヴィエール卿」
「すいませんレミリア殿」
無くなる度、
「はいっ!お兄様!」
「フラン、ありがとうございます」
と、カパカパ飲まされる。レミリア達がこんな事をしているのには理由がある。それはフランの一言が切っ掛けであった。
「酔ったらお兄様ってどんな風になるのかなぁ?」
そんな風に漏らしたフランの言葉を聞き、レミリアの脳裏に面白い考えが浮かび上がる。
────ベディヴィエール卿を酔わせてみたい
あわよくば酔いつぶれた彼を介抱してそのまま一緒の布団で────などと考えついたレミリアは美鈴とフランに協力させベディヴィエールにワインを飲ませ続ける事にしたのだ。美鈴も、そして恐らくフランも好ましく想っている男性のお世話(?)が出来るのだから断らないだろう────と見事にレミリアの考え道理になっていた。
ちなみにパチュリー達は巻き込まれちゃ叶わんと少し避けたところで呑んでいる。既に彼らの周りにはワインのビンが数十本程転がっていて、そのうちの九割がベティヴィエールが飲み干したものである。が、一向に酔った様子が無い。流石に焦り始めたレミリアはベディヴィエールに聞いてみることにした。
「ベティヴィエール卿?もうそろそろ酔ったのでは無いかしら?良ければ「いえ、〝この程度〟なら大丈夫ですよ」・・・えっ?」
────明らかにとんでもない量を呑んでいるのに〝この程度〟?一体どういった肝臓をしているんだ?
美鈴とフランは驚愕するレミリアを他所に、ベディヴィエールに酌をし続ける。美鈴はワイン以外が原因で顔を赤く染め、フランは無邪気な笑顔を浮かべている。そのまま暫く飲み続けていると彼らに近づいてくる人物がいた。
「────こんにちはベディヴィエールさん。少しよろしいかしら?」
ベディヴィエール達はそちらを向き、
「・・・永琳殿」
今回の異変の主犯の一人である八意永琳がそこに立っていた。
「姫様が、貴方に会いたいと言っているのだけど・・・いいかしら?」
「・・・わかりました」
ベディヴィエールはレミリア達に礼を言うと輝夜達のところに戻る永琳の後をついて行った。なお、悔しがるレミリアが自棄飲みして翌日二日酔いに悩まされるのだがそれは別の話────
「────貴方がベディヴィエール?」
「はい、ベディヴィエールと申します」
「うーん、長いからベディって呼ぶわね。私は蓬莱山輝夜。そっちが永琳でその隣が因幡てゐ。最後にその子が鈴仙・優曇華院・イナバよ」
「改めてよろしくね」
「よろしく〜」
「・・・・・・」
普通に挨拶する三人に対し、鈴仙はこちらを警戒しているのか睨んでくる。ベディヴィエールふと、セイバーがいないことに気づく。
「・・・彼女は?」
その一言で察したのか、宴会場の一角を指さす輝夜。その方向を見ると、
「〜〜〜〜〜っくはぁ〜〜〜〜〜うめぇ!お前もいい飲みっぷりじゃねぇか!」
「全く・・・少し頭を冷やせ。酔っ払い構うほど我は暇ではない」
「あ〜〜〜〜ん?そう言うお前こそ酔ってんじゃねぇかぁ〜〜〜〜?」
「ふん・・・我がこの程度で酔う筈が無いだろう」
「ほ〜言うねぇ〜。じゃあ、飲み比べと以降じゃねぇか!」
「断る。なぜ貴様如きに付き合わねばならない?」
「ん〜〜〜?何だぁ?怖いのかぁ?」
「────貴様が潰れるまで付き合ってやる」
「ハハっ!そう来なくちゃなぁ!」
「・・・・・・」
ベディヴィエールは何も見なかったことにして輝夜に向き直る。輝夜も察したのかベディヴィエールと同じように向き直る。
「先ずは謝罪を────この度は私の従者が貴方の友人を傷つけたことを詫びるわ、ごめんなさい」
そう言って頭を下げる輝夜。永琳も同じ様に頭を下げている。
「ちょ、姫様!?師匠!?何で・・・!」
「必死だったとはいえ、私達がやった事は外道と罵られても文句は言えない事よ。そして支持したのは私達────だから彼に謝罪するの」
そう言って頭を下げ続ける永琳達。鈴仙は納得がいかないようだ。やがてベディヴィエールが口を開く。
「・・・謝罪ならば彼女らにしてください。そしてこちらの要求をひとつ飲んで頂きたい」
「なっ!?」
「構わないわ」
「姫様!?」
「鈴仙、少し黙っていなさい」
輝夜はとっくに覚悟を決めていた。輝夜は自身の容姿が優れている事を自覚している。そして過去、彼女に求婚した者達は彼女を〝そういう目〟で見ている者が大半であった。────身体を差し出せ────そう要求されると思っていた彼女は────
「────人里の病人の方々の治療を請け負って頂きたい」
「・・・え?」
ベディヴィエールの要求に目を丸くする。思わず彼女は問う。
「そ、そんな事で・・・?いいの・・・?」
「寧ろこれが最上だと思うのですが?」
ベディヴィエールはそんな風に問い返してくる。その言葉を聞き、輝夜は呆気にとられた後、思わず声を上げて笑う。
「くふっ・・・!あははははははははははっ!!」
「ひ、姫様?」
「どうか・・・されましたか?」
腹が痛い。一頻り笑ってようやく収まってくれた。輝夜は改めて彼に向き直る。
「いいわ。その要求受けましょう。永琳、いいわよね?」
「えぇ、構わないわよ」
よく見ると永琳もクスクスと笑っている。何となくほっこりした気持ちになった。
「それじゃあ改めて・・・よろしくね、ベディ」
「こちらこそ」
ベディヴィエールもニコリと微笑む。それから暫くの間、彼らは会話を楽しむのだった。
「────それじゃあ改まして、私達サーヴァントの事について話したいと思いますけども・・・構いませんね?マスター」
「えぇ、お願いするわキャスター」
「て事でよろしくお願いしますねアーチャーさん」
「やれやれ・・・」
先程の賑やかな雰囲気と一変して、宴会場は静まり返る。何故こんな事になっているのかと言うと、紫がキャスター達に彼女らの事の説明を求めたからである。キャスター達も「今後の事を考えたらそうした方が良いでしょう」との事だったのでとりあえず宴会に集った面々に説明する事になったのだ。最初にアーチャーが口を開く。
「まずサーヴァントについてだが・・・サーヴァントとは人類史において何らかの偉業を果たした偉人や、神話の英雄達が精霊へと昇華したものだ。これらを纏めて英霊と呼ぶ。偶に神話上の神々がサーヴァントとして召喚される事があるがそう言った場合はサーヴァントクラスまで力が制限される。彼らは神霊と呼ばれているな」
アリスが手を挙げる。
「神話の英雄達と言うけれど彼らの大半は存在しないのではないの?」
「ふむ、いい質問だ。彼らの中には確かに存在が危ぶまれる者達もいる。が、彼らの名は人類の多くが認知しているだろう?間違いも多くの人々がそれを真実と思えばそれが真実と成る。ある意味人々の思いが形を成した者が英霊と呼ばれる存在だ」
「成程ね・・・わかったわ、ありがとう」
「では続けるぞ。サーヴァント達は規模の大小の差はあれど必ず宝具と呼ばれるものを所有している」
「宝具と言うのは?」
「聖杯戦争においてサーヴァント達が有す切り札だ。そのサーヴァント達の正体を掴む上で重要なキーでもある。アーサー王のエクスカリバー、クー・フーリンのゲイ・ボルグ等だな」
「その聖杯戦争と言うのは?」
「聖杯と呼ばれる万能の願望器を巡って七人の魔術師達がセイバー、ランサー、アーチャー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーの七つのクラスに当てはめられた七騎のサーヴァント達を召喚し、戦わせるものだ。まぁ、速い話ただの殺し合いさ」
「クラスってのは?」
「クラスはサーヴァントのカテゴリーの事だ。基本サーヴァントの正体を隠す為サーヴァント達の本名である真名の他にクラス名で呼ばれる。先程述べた七騎以外にもエクストラクラスと呼ばれるものもある。聖杯戦争に以上が発生した場合に召喚されるルーラー、復讐者が適性を持つアヴェンジャー、と言ったところだ」
パチュリーが手を挙げる。
「私から質問。貴方達は幻想郷でその聖杯戦争を行うつもりなの?」
「いや、そもそも今回の召喚自体がイレギュラー過ぎる上にマスター今の所全てのマスターが聖杯戦争の存在自体を知らないからな。争いはこちらとしても望むものではないのでね。セイバー、及びキャスターとは既に相互不可侵という事で話がついている」
「ふん・・・」
「ま、そゆ事ですね」
「そう・・・、ならこちらとしても安全を期したいから貴方達の真名、及び宝具について教えてもらえる?」
「私は構わないが・・・構わないか?セイバー、キャスター」
「そうですねぇ、私は構いませんけど・・・」
「我は断るぞ。何故このような連中に我が真名と宝具について話さねばならん?」
あんまりな物言いにキャスターがセイバーをジト目で睨む。
「セイバーさん?話聞いてました?それとも理解できないほど頭が残念なんですかね?」
「やかましいぞ引きこもりが。貴様なんぞに指図される筋合いは無い」
「あぁやだやだ。これだから話の通じない斬殺狂は」
「遊び半分で国を滅ぼす貴様が言えた口ではなかろう?」
互いに毒を吐き合うセイバー達。話にならないのでアーチャーが止めに入った。
「そこまでにしておけ二人とも。キャスター、君はセイバーとは知り合いなのか?」
「えぇ、勿論。ウチの駄弟以上の戦狂ですよ」
「男漁りを繰り返すお前が言えた口か?」
「生憎私は既にご主人様に操を捧げておりますので。いつまでも未通の行き遅れ処女の貴方よりはマシですから」
「────斬るぞ貴様」
「────やって見なさいこのおこぼ」
「だから落ち着けと言っているだろう」
ヒートアップする二人を宥めるアーチャー。この時、ベティヴィエールや幻想郷の従者含む苦労人達はアーチャーに妙な共感を得たとか得なかったとか。
「セイバー、君も面倒は望まないだろう?余計な凝りが残る前に折れてはくれないか?」
「・・・・・・ッチ、面倒だが仕方ないか。いいだろう、貴様の言うとうりにしてやる」
「感謝する」
「ふん・・・、よく聞くがいい。我が真名は〘建御雷神〙。この名を魂に刻んでおくが良い」
「「「「「「・・・・・・は?」」」」」」
一同から間抜けな声が上がる。それほどその名は衝撃的だったのだ。輝夜が震えながらセイバーに問う。
「え?何?てことは私って神様呼び出しちゃったって事?え?マジ?」
「ふん、やっと我の偉大さがわかったか?」
────つまりは私は神様をパシってたの!?
ビビりまくる輝夜。
「という事はその剣がかの有名な〘布都御魂剣〙か?」
「あぁそうだ。これこそ我が友の半身にして日ノ本最高の剣である布都御魂剣である」
「はいはい剣自慢はそこまでにしてください。コホンッ、改ましてキャスターこと〘玉藻前〙です。そしてこっちがサーヴァント界でもっとも役に立たねー宝具ランキング上位の〘八咫鏡〙ですね」
「「「「「いやいやいやいやいやいやいやいや!!!」」」」」
「?どうしたんです?」
「ちょ、キャスター!?八咫鏡ってあの三種の神器の!?」
「えぇ、そうですけど?」
「何でそんなものを!?」
「あ、言い忘れてましたけど私って本体から分かれた子機みたいなものなんですよ。これは本体から派生した宝具ですから」
「待って待って待って待って!?てことは貴方の本体って・・・!?」
「天照大神ですけど何か?あ、でも私の事は玉藻かキャスターって呼んでくださいね?本体の事は嫌いなので」
「嫌いって・・・そんな事でいいの?」
「いいんですいいんです、どうせ人間を弄ぶ事にしか興味ないんですから」
「そんなんでいいのかよ日本の最高神・・・」
魔理沙が思わず零す。それはそうだろう。一般的な天照大神のイメージと違い過ぎるのだから。ここで藍が手を挙げる。
「ならば玉藻の前と言うのは?」
「ん?あぁ、ならばこちらの世界についても話す必要がありますね。てことでアーチャーさん」
「全く・・・まず前提として我々はこの世界の人間では無い。そして我々の世界では平行世界の存在が証明されている」
「つまりお前達は平行世界の住人だと?」
「ま、そういう事ですよこっちの世界の〝玉藻前〟さん?」
「・・・気づいていたか」
「そりゃ平行世界とはいえ自分の事ですし?私が玉藻前と名乗っているのは本体の子機である私が私たちの世界における玉藻前だから、という事です」
「そうか・・・感謝する」
「いえいえ」
「ふむ、大分長くなったが私だな。私の真名は〘エミヤシロウ〙。三流魔術師である現代の英霊さ」
「つまりほかの英霊達と比べて歴史が浅いってこと?」
「あぁ。そして私の宝具は〘
「「「はぁ!!?」」」
魔理沙、アリス、パチュリーの三人が叫ぶ。
「どうかしたか?」
「いやいやいやいやいやいや固有結界って!?」
「それこそ禁呪クラスの大魔術じゃない!!」
「そんなものが使えるのに三流魔術師って嫌味かっ!!」
「そういう訳では無いさ。私が使える魔術は解析、強化、投影の3つだけ。せいぜい────」
────投影、開始《トレース・オン》
そう言ってアーチャーは自身の愛剣でもある干将・莫耶を投影する。
「こんな風に魔力を編んだ武器を精製できる位だ」
「ちょ、ちょっと見せるんだぜ!」
魔理沙が干将・莫耶をアーチャーからひったくる。
「これは・・・嘘だろ・・・?しっかり固定化されてる・・・投影魔術でこんな完成度の高いものを・・・?そんなレベルの事が出来るのに三流って・・・」
みるみる落ち込んでいく魔理沙。だがそれより酷いのがアリスとパチュリーである。
「こんな・・・こんな事って・・・」
「私の・・・私の数百年はいったい・・・」
落ち込みようが半端じゃない。負のオーラが辺りに漂っている。軽く引きながらアーチャー、
「ま、まぁ取り敢えずはこんなところだ。それでは宴会の続きを楽しむとしようか?」
アーチャーの一言で再び宴会場には華やかな雰囲気が戻って来るのだった────
────深夜、皆が宴会場で酔い潰れている頃、ベディヴィエールは一人外にいた。
「────聖杯戦争、か」
魔術師達の我欲で引き起こされる戦い。それが幻想郷で行われる。つまり幻想郷に〝聖杯が存在〟するということである。アーチャー達は話が通じるから良かったがこれから会うサーヴァント、そしてマスター達は?聖杯を手に入れようとするのでは?彼の脳裏はそんな事で溢れていた。本来魔術師は自身のために行動するもの。ここにはいない正義の味方を志した少年、人の為に人を殺す覚悟を決め月の王となった少年/少女、そして彼と共にあった人類最後のマスターと言った者達は極小数の例外である。此度の聖杯戦争を起こしたものは恐らく魔術師だろう。
────もしその者が襲い掛かってきたら自分は大切な人達を守れるのだろうか
「────うん、悩むのはいい事だよベディヴィエール卿」
「ッ!?」
咄嗟に声がした方向を振り向く。そこには白のローブを纏った白髪の青年が立っていた。彼の足元には不思議な花が咲き誇っている。そう、彼は正しく────
「マーリン・・・殿・・・?」
「うん、久しぶりだねベディヴィエール卿。さて、何か聞きたい事があるみたいだけど何かな?」
「・・・第一に、何故我々を此処に?」
「うーん、君を送り込んだのは僕なんだけどね?モードレッド卿とガラディーンに関しては完全に予想外なんだよねぇ」
「つまり完全なイレギュラーだと?」
「うん、そうだね。理由に関しては────」
「関しては?」
「何となくかな?」
「・・・ならこの地で聖杯戦争を起こそうとしているのは貴方か?」
若干の殺気を滲ませて問う。もしそうならば────
「いやいや違うよ?だから殺気を収めて」
「・・・では誰が?」
途端にマーリンは真剣な表情になる。
「その事だよベディヴィエール卿。本来僕は出てくるつもりが無かったんだよ」
「ならば何故?」
「この地で〝聖杯大戦〟が行われようとしているからさ」
「聖杯・・・大戦?」
「七騎対七騎の聖杯戦争。本来行われるはずのない異形の聖杯戦争。それが聖杯大戦さ。それが行われると知った僕はここに来た」
「ならば手を?」
首を横に振るマーリン。
「残念だけど僕は手を貸すことが出来ない。だからこれを持ってきた」
そう言ってマーリンが差し出したのは────
「
それは彼の右腕となっている筈のもので────
「こういう事さ」
そう言って杖を一振りするマーリン。その途端、ベティヴィエールの右腕が消失し、何かが地に落ちる。
「これは・・・!?」
それは約束された勝利の剣と全く同じ見た目をしていた。
「
そう言った瞬間、約束された勝利の剣の贋作はゆっくりと消えていった。
「何故・・・これを?」
「本物の約束された勝利の剣で創った銀腕は負担が大き過ぎるからね。それで代用していたのだけどそうも行かなくなった。だからこれを持ってきたのさ」
もう一度杖を振るうマーリン。彼の手から約束された勝利の剣が消え、ベティヴィエールの右半身には先程と同じ様に銀腕が存在していた。マーリンは杖を下ろす。
「僕に出来るのはここまでだ。あとは頼んだよベティヴィエール卿」
「マーリン殿・・・ありがとうございます」
「うん、頑張ってね」
そう言って振り返るマーリン────
「あぁ、そうそう」
────突如振り返る。
「さっき僕が黒幕じゃないかって言ったけどあれは半分正解だよ」
「えっ・・・?」
「黒幕は〝僕であって僕じゃ無い〟それだけさ・・・」
マーリンが言い切ると一陣の風が吹き、思わず顔を庇う。顔をあげると既にマーリンの姿は無かった。
「・・・マーリン殿」
その声は夜の闇に呑まれて消えていった────
現在判明しているサーヴァント達+鯖達に作者が抱いてるイメージ
セイバー────建御雷神(性知識零のクーデレ)
ランサー────真名不明(無双)
アーチャー────エミヤ(Fateの女誑し達の原点)
ライダー────真名不明(MONKEY)
キャスター────玉藻の前・九尾Ver.(白野一筋純情狐)
アサシン────真名不明(MONONOFU)
バーサーカー────真名不明(純情ボーイ)
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今作品における設定と番外編
まずこの作品におけるベディヴィエール達の扱い、幻想郷で起こった事件の詳細。そして追加スキルなど。
・ベディヴィエールは第六特異点後、マーリンの手によって幻想郷に送りこまれた。理由は不明。モードレッドと転輪する勝利の剣の幻想入りはマーリンにとっても完全なイレギュラーで原因は不明。原因は不明だが受肉(恐らくマーリンの仕業と思われる)しており、健康体な上、銀腕アガート・ラムを所持している。ただし、素材には永久に遥か黄金の剣が使用されており、宴会後にマーリンと遭遇した際に本来の約束された勝利の剣を使用した銀腕と交換されている。ヒロインはまだまだ増える予定。ステータスはFGOと同じ。だがいくつかのスキルが追加されているが詳しくは後述。ちなみにマーリン曰く、送り込んだ理由は「面白そう」だとか。それが真意かどうかはわからない。
・モードレッドは第四特異点の記憶を保持。Apocryphaの記憶もうっすら。この作品ではベディヴィエールに対して恋心を抱いているが本人はそれを認めようとはしない。第六特異点後にカルデアに召喚されたのでアーチャーやキャスターとも面識がある。こちらも受肉しており、原因は不明。ステータスはFGOと同じ。こちらもいくつか追加スキルがある。
・玉藻前はEXTRA、CCCの記憶を保持。FGOの記憶は無し。理由としては月で岸波白野に召喚されていた最中に無理矢理召喚された為。マスターである八雲紫には「まだまだ岸波白野には及ばない」と突き放している。その一方で彼女の恋を応援する一面もあり、今作品では九尾状態で召喚され、立場は姉御的な感じになる予定。同位体ということで八雲藍と仲が良く、橙の事は文字通り猫可愛がりしている。
ステイタスは筋力D
耐久D
敏捷B+
魔力EX
幸運D
宝具EX
詳細としては九尾状態になった事で魔力が急激に増加し、それに合わせ宝具も本来の使用法で使うことが出来るようになったが本人が使いたがらない。ついでとばかりにいくつかのステータスも向上している。尻尾は本体から分離して九人の玉藻ことタマモナインに変化が可能。さらに九尾になった事によって封印していた神性が抑えられなくなり神性EXを獲得してしまった。
・エミヤシロウはstaynightにおける衛宮士郎としての記憶、FGOにおけるエミヤとしての記憶を保持。今作品のエミヤシロウは聖杯戦争後、正義の味方として世界を巡っていた。基本はアーチャーと変わりないが、体内に全て遠き理想郷を保持。理由は後述とする。
現在のヒロイン予定キャラは霊夢、紫、守矢神社組となっています。え?何でかって?女たらしで有名なエミヤにヒロインがいないのはおかしいでしょ?ステータスはFGOと同じ。幻想郷の女性達のプライドを尽くへし折る程の料理の腕前を誇る。
・建御雷神は今作品でのオリジナルサーヴァントである。ちなみにFGOで本人が出ても全く関係ないのであしからず。見た目はISの篠ノ之箒を大人っぽくした感じでCV沢城みゆき。武装は軽装の戦甲冑で、布都御魂剣を所持。イメージはベルセルクのガッツの大剣。正確はギルガメッシュを薄くした感じで結構傲慢。だがギルガメッシュとは違い、それ相応の実力を備えている。性知識は皆無であり、〝そういう本〟を見ると真っ赤になって気絶するレベルで初心。モードレッドといい勝負である。
なおステータスは筋力EX
耐久A+
敏捷B+
魔力B-
幸運C
宝具EX
保有スキル
・対魔力A ・天性の肉体EX ・神性EX ・カリスマA- 直感EX
固有スキル
・武神EX⋯⋯あらゆる武具の扱いに大きな補正。例え初めて扱う武器であろうと自らの手足のように振るう事が出来る。
・神武討征EX⋯⋯国譲りの偉業がスキル化したもので、国津神に対しては絶対的な効力を発揮するスキル。具体的にはステータスへの超補正など。
宝具《布都御魂剣》
ランクEX
対国宝具
最大レンジ 約四千km
・建御雷神が親友である経津主神から譲り受けた神剣。その宝具としてのランクは天叢雲剣や乖離剣エアにも劣らない。ちなみにベティヴィエールには真名解放を行っていない状態で使っている。
宝具《?????》
ランク不明
対界宝具
最大レンジ不明
・全てが謎に包まれた建御雷神本来の宝具。唯一わかっているのは乖離剣エアと同じ対界宝具である事だけである。
補足説明⋯⋯筋力EXという完全脳筋型な上、その他にもランクEXを連発しているもはやチートなサーヴァント。ちなみに直感EXとは軽い未来予知が行えるレベルである。今現在確認されているサーヴァントで彼女を倒せる可能性があるのはほんの数名程度である。
・銀腕の解釈については、この作品ではベディヴィエールの魂を燃料に稼働しているある種の超エンジンで、事実銀腕を装備したベディヴィエールの魂を燃料として使うならば、彼の体の事を無視すれば事実上の永久機関が創り出せる、といった解釈。銀腕を真名解放すればするほど彼の体は滅びて行き、使いすぎれば体は崩壊する。が、聖剣による呪いのお陰で肉体の崩壊が留っており、銀腕がある限り事実上の永遠の苦しみを味わう事となる。が、当初銀腕に使用していたのが永久に遥か黄金の剣だったのが幸いし、本来の銀腕の使用の際に発生する魂を焼き尽くすような痛みは発生しなかった。それを彼が疑問に思わなかったのは返還したはずの銀腕があるなら何があってもおかしくないよネ!と言った考えから。
・転輪する勝利の剣は本来ガウェインにしか使いこなせないが、銀腕の原材料である約束された勝利の剣と同調させることにより無理矢理使っている状態。聖剣集う絢爛の城を出す事が出来たのはこの為。(この作品ではCCCでレオが使ったものはガウェインの術式の再現であり、転輪する勝利の剣があるのでベディヴィエールにも使えているという事になっています)え?聖剣集う絢爛の城を出した理由?かっこよかったからですが何か?
・ベディヴィエール、モードレッドの二人はスキルとして魔術B、B+をそれぞれ持っています。モードレッドの方が高いのはモルガンの血を引いているため。
・アーチャーことエミヤシロウは全て遠き理想郷を所持。恐らく聖剣の気配に引かれたことによるもので、エミヤシロウを依代として呼び出されたと見られる。
・セイバーこと建御雷神、キャスターこと玉藻の扱いについては、まず並行世界とは別に各世界に置いて〝神〟と呼ばれる者達がいる空間が存在し、そこにある建御雷神の本体から切り放された子機が各世界においての建御雷神という扱い。玉藻は自身の事を天照大神の子機と言ったが、正確には天照大神の子機の子機という扱いになる。なお、東方Projectの世界の建御雷神、天照大神の記憶を聖杯を通じて僅かに所持している。
・弾幕ごっこを彼らが行わない理由は殺傷力が高すぎる為。例えばアーチャーなどが放てば串刺し死体の出来上がりである。
・ベディヴィエール、モードレッド、セイバー、キャスターは空を飛べるが、基本地上にいた方が強い上に、その気になれば斬撃などを飛ばせるので飛ぶ必要が無い。アーチャーは赤原猟犬だの偽・螺旋剣がある上これらは事実上どの弾幕よりも射程が長く、多少離れた程度なら余裕で一撃必殺なので飛ぶ必要が無い。
・太陽の花畑での戦いについて。風見幽香は花妖怪という特性を利用し、植物にとっての恵みの一つである太陽を司る転輪する勝利の剣の力を吸い取り、一時的なパワーアップを果たしていた。花畑の向日葵達もその影響を受けており、聖剣がつきたっていた方向を向いていた。幽香本人や向日葵達は聖剣の力を吸いすぎるあまり(本人の自覚のないまま)死亡する寸前だった所をベティヴィエール達に助けられた。
永遠亭の綿々が起こした異変については原作とは違い幻想郷を特殊な結界で覆い亜空間に転送、月人達から身を隠すという荒技を実行。その際何らかの原因で幻想入りしていた英霊召喚システムの原型を使用しセイバーこと建御雷神を召喚した。そしてベディヴィエールとセイバーの戦闘の余波で結界が破壊され元の空間に戻ったタイミングで月人達が輝夜達を捕捉し、襲来した。(この際宝具の撃ち合いで相手が神霊とはいえベディヴィエールが撃ち負けたのは銀腕が本来のものでは無かったため。)なおその際に建御雷神が依姫を攻撃しなかったのは依姫を幻想郷がある世界の建御雷神が守護していたため。余談だが、異なる世界の神同士の間では互いに深く関わらないという不文律が存在する。この不文律によりセイバーは依姫に手を出さなかった。ちなみにこの事は宴会後に輝夜達には話している。
・ベディヴィエールとアーチャーは執事スキルEX持ち。
・マーリンがベディヴィエールの仮の義手として使っていた永久に遥か黄金の剣は、長い旅路の末に全て遠き理想郷へと辿り着いた衛宮士郎がいる世界の衛宮士郎に頼んで創ってもらったもの。マーリンが第二魔法使ってるけどグランドクラスのキャスターだから何も不思議は無いよネ!
──番外編・霊夢とアーチャー──
「んん⋯⋯」
早朝、霊夢は神社の中の一室で目を覚ます。服装はピンクの寝間着で、リボンは外して髪を下ろしている。
「ふわぁ⋯⋯⋯⋯もう朝なのね」
そう一人心地ると起き上がり、布団を押入れの中へしまう。そのままいつもの巫女服に着替え、朝食を作ろうと台所へ向かう。
廊下を歩いているとふと、鼻を刺激する香ばしい匂いに気がつく。匂いがする方向を辿ると、台所へ続いていた。
────一体誰が?
気になった霊夢は台所へと入る。そこには褐色の肌に白髪、黒のボディーアーマーを身に着けた男が食事を作っていた。霊夢はその姿を見て、彼がここにいる理由を思い出す。────彼の名はアーチャー。無論、本名は別にあるが、本人がそう呼んでくれと言うのでそう呼んでいる。彼は霊夢のサーヴァントとなり、博麗神社で暮らす事になったのだ。ふと、アーチャーが霊夢に顔を向ける。
「おはよう霊夢。もうすぐ朝食が、出来上がるから居間で待っているといい」
「⋯⋯そうさせてもらうわ」
霊夢はそう言って居間へと向かった。
────およそ4日前の異変の後、大きく変わった事が二つあった。1つは先程も言ったがアーチャーの事。未だ彼の事はよくわからないが、悪人ではないとは思う。そういえば、と宴会の時の事を思い出す。
「あの時ベディさん達と何を話していたのかしら?」
宴会中、外の空気に当たろうと庭に出た時、ベディヴィエールやアーチャーだけでなくモードレッド、セイバー、キャスターといった面々と何かを話していたようだった。よく聞き取れなかったが、「⋯⋯大戦が⋯⋯」とか、「⋯ーリンのや⋯⋯」などと誰かに文句を言っているように見えた。が、あまり気にしてもいられないので放っておいた。そんな事を考えている内にアーチャーが朝食を
「霊夢、
「⋯⋯気づいてたのね」
「何度もやられたら嫌でも気付くさ」
ニヒルな笑みを浮かべるアーチャーの横にスキマが開き、紫が出てくる。────そう、変わった事のもう一つ、紫が博麗神社へ朝食を取りに来るようになったのだ。アーチャーの作る朝食を食べに来る、というのは建前で、本人は自覚してはいないが、想いを寄せるアーチャーへと会いに来るのが目的である。────そう、紫はアーチャーに恋をしているのだ。あの胡散臭く、正体がしれない怪しさ満点の妖怪の賢者が、だ。理由としては異変の際にアーチャーに抱き上げられ、微笑まれた事なのだろが。それにしてもチョロいと思ってしまった。まぁ、本人も満更ではないみたいだし、一目惚れみたいなものだと納得する事にする。そう胸中で納得し、アーチャーの作った味噌汁を口にする。
「美味しい⋯⋯」
思わずうっとりと呟く。毎回彼の料理には驚嘆させられる。明らかに自分よりも、そして店などで食べる料理よりも美味い。自分としては料理で負けている事に悔しさを感じる。
「(今度咲夜たちに料理、習おうかしら⋯)」
そんな事を考えながら朝食を食べ終わる。紫はアーチャーに一言言って帰っていた。アーチャーは食器を片付け、洗濯物を干しに行っている。霊夢は特にやる事も無かったので居間でゴロゴロしていた。やがて数分後、
「⋯⋯⋯暇ね」
そう、暇、暇なのだ。家事はアーチャーがやってくれるし、腹立たしい事だがそもそもこんな神社に参拝客なんてやって来ない。つまりはやる事が無いのだ。暇だ暇だとうんうん唸っていると、洗濯を終えたアーチャーが襖を開けて入ってくる。
「霊夢、洗濯は終わっ⋯⋯どうかしたのか?」
唸っているのを心配されてしまった。
「別に⋯⋯何もやる事が無いから暇なのよ」
「暇、か。ならば鍛錬でもしたらどうだ?博麗の巫女とやらは幻想郷の非常戦力でもあるのだろう?」
「嫌よ、めんどくさい」
アーチャーの提案をバッサリ斬り捨てる霊夢。その様子に、アーチャーは思わず苦笑する。
「何よ⋯⋯」
「いや、何、少しおかしかっただけさ」
そう言いながら笑みを浮かべるアーチャー。霊夢は少しその様子にイラつき、何かいい暇つぶしは無いものかと考えを巡らせる。ふと、アーチャーの事を何も知らない事に気付き、せっかくなので聞いてみようと口を開く。
「ねぇ、アーチャー。貴方って生前は何をしてたの?」
「どうした、藪から棒に」
「別に良いでしょ、気になったのよ」
「別に構わないが⋯⋯そうだな、何処から話そうか」
そう言ってアーチャーはポツリポツリと語り出した。
────とある少年の一番古い記憶、それは燃え盛る街並みだった。少年は歩いた。歩いて、歩いて、歩き続けた。やがて力尽きた少年はとある男に救われる。少年が運び込まれた病院にて、男は自分の事を魔法使いと名乗った。そしてこのまま施設へ向かうか、自分に引き取られるかと言ったので少年は男の養子として男に引き取られる事にした。やがて時が経ち、少年は義父から魔術を教わる。その中で、義父の夢を聞いた。
────僕はね、正義の味方になりたかったんだ。
なれなかったのか?と少年は聞いた。義父はコクリと頷き、
────正義の味方は期間限定でね、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。
そう答えた義父の顔は寂しそうだった。少年は思わず言った。
────なら、俺がなってやる。正義の味方に。
そう言った少年を義父は驚いた様に見つめていた。やがて、
────あぁ、安心した。
それだけ、言った。やがて、義父は息を引き取り、少年は独りになった。それでも少年の周りには自分を助けてくれる人が沢山いた。少年はやがて成長し、18歳になった。その時、少年は巻き込まれたのだ。魔術師達が聖杯を巡って争う戦い────聖杯戦争に。少年は、金の髪を持つ美しい騎士王と共に戦い続けた。時に友人と、時に義姉と、時に最古の英雄王と、そして────未来の自分と。その自分は己の全てを否定し、絶望した。己と戦い、腹を貫かれてもなお、少年は己の理想を貫き通した。
『誰かを助けたいという想いは!決して、間違いなんかじゃ無いから!!』
そう未来の自分に告げ、少年は未来を打ち砕いた。
聖杯戦争を終え、正義の味方として活動した後、少年は息を引き取った。
────その後、彼が呼び出されたのはかつての故郷だった。己が愛した、しかし変わってしまった少女を守る為、かつての自分と同じ色の髪をした少女と、自分の後輩に似た薄い紫髪の少女達の前に立ち塞がった。
結果として、少女達に敗北した。少女達と違い、信念も何も無い彼が勝てる筈が無かったのだ。その後、少女達によって召喚され、人理焼却を防ぐ為の長い旅路へと少年は旅立った────
「────と、こんなところか」
「⋯⋯⋯」
話し終え、一息つくアーチャー。反対に霊夢は無言だった。それはそうだろう。人生の密度が違い過ぎる。魑魅魍魎が跋扈する幻想郷であってもこのような人生を送るようなものはいない。アーチャーは霊夢の様子に少し後悔する。
「(やはり、この年頃の少女にはキツかったか)」
そう思い、謝罪しようとすると、
「一つ、聞かせて」
霊夢が口を開く。
「貴方は────後悔してるの?」
その問にアーチャーはフッと笑い、
「愚問だな────無論、後悔はしているさ。助けられなかった命も多い。が、だからこそ後悔は無い。大事なのは私が救えた命もある、という事だけだ。それを否定するのは彼らの“今”を否定する事。今はこれで────充分さ」
一見矛盾しているとも見えるその答え。霊夢は何も言わずに「そう⋯⋯」とだけ呟いた。それきり両者の間に会話は無かった。
────今日も、一日は過ぎて行く
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