ターレル(レルター)まとめ (たまたま(pixiv共通))
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ヴァルハラで

帝国のラスト捏造ターレルです。
バッドエンドです。
性描写あります


帝国は敗戦の足音が近づきこの帝都は戦場となっていた。

本部の高官達は裁かれるのを待つだけであったが現場の兵士達は市街戦を繰り返していた。

 

そんな中、第203航空魔導大隊。既に定数を割り大隊の形も成してはいないが奮戦をしている。その大隊を率いるのは「白銀」ターニャ・デクレチャフ。

幼い頃より前線で戦う最古参の魔導士官は今もその絶大なる魔力を振るい戦っていた。

彼女しか使えないエレニウム95式魔導宝珠で

大きく敵を後退させ、魔力が尽き、彼女が後退すると敵が前進と、日々、一進一退を繰り返していた。

 

そんな状況の中、辞令を渡す為に参謀本部に彼女を呼び出す。ここが未だに無事なのは彼女の働きがあってこそである。

出頭した彼女はそれを事務的に受け取ると

自嘲めかしくにふっと息を吐いた。

 

「「閣下」と呼ばれる立場に憧れはありましたがこんな時でないとそれになれなかったとは」「何とも言いようがありません。」

准将への昇進の辞令である。

「慎んでお受けいたします。」

 

彼女は既に10代半ばを過ぎている年齢のはずだがその姿は幼女のまま成長をしていない。

「これは最後のご褒美という事でしょうか?」

「そうなるな。」

敗戦直前、私達に未来はない。戦って死ぬか。戦犯として死ぬか。待っているのはどちらかしかない。それでも戦う彼女。

何故こんな状況にあって未だに冷静なのだろうか?

 

「冷静だな」

心の中の疑問が漏れてしまった。

「私は軍人ですから、命令に従うのみです」

「そうか」

彼女は出会った頃からなにも変わらない。

軍令に忠実で献身的。

彼女が懸案した通りに戦争を終えていれば

結果はもっと違ったのだろう。

彼女はその見た目や過激とも思われる言動とは裏腹に、いつも母国の未来を憂い、案じていた。

愚かしい事に、その言葉に帝国は耳を傾けなかったのである。

 

「夢はついに叶いませんでしたがね」

彼女が呟く。

夢?そんな物があったのか?

常に現実のみを見ているその姿しか知らない。

 

疑問符を頭に浮かばせた私に、

「エリート出世で後方勤務ですよ。お恥ずかしながら。」

「出世は出来ましたが、、」

少し遠い目をして語る彼女。

 

そう言えば後方勤務への異動希望を何度か出していた事があった事を思い出す。

それは前線で戦いたいが為のパフォーマンスとして誰もが見ていた。本心であったのか、、

確かにそれはもう叶わぬ夢だ。

彼女の事を正確に分かりえた者などあったのであろうか。この私も含めて。

「そうか、、、」

 

だがそんな彼女に私はこの命令を下さなければならない。

「貴官には帝都の防衛の総指揮を取ってもらいたい。」

今朝、指揮官が死んだのでその代わりだ。

もう現場を動かせる様な士官の生き残りも少ない。203の大隊の部隊は生き残っている方だ。

彼女に手塩にかけて育てられ、常に前線で帝国の最精鋭として戦ってきたことだけはある。

 

「了解しました。」

お手本のような敬礼をし、目の前から去ろうとする彼女の手を私は咄嗟に掴んでしまった。

「レルゲン閣下、まだ何か?」

振り返り、私を見つめてくる彼女の碧眼の

美しさは変わらなかった。

 

私はそのまま彼女を壁に押し付け身動きを取れなくしてしまった。彼女を見つめる。

いつも透き通る様な白い肌は煤けていて戦場の激しさを感じた。

 

「エーリッヒ?」

ファーストネームで呼ばれる。幾度か体を重ねる事はあっても彼女は恋人ではなかった。

お互いの事を良く知っている様で知らなかった。そんな関係であった2人。

 

頭の高さを彼女に合わせて膝をつく。

「君を行かせたくない」

一瞬驚いた顔を私に見せたがすぐにいつもの鉄面皮に戻る。

「今更ですか?貴方が命令をしたのに。」

そう、今更だ。

私はこの生まれ育った帝国を救えなかった事よりも今迄彼女にきちんと愛を伝え、愛さなかった事に後悔をしていたのだ。

 

「ターニャ」名前を呼び、彼女の唇を奪う。

抵抗をされるが程なく受け入られた。

「済まない」

唇を離し謝る。

「何故お謝りに?」嫌味だろうか。

だが私は後悔の為に素直に答える。

「君をきちんと愛さなかった。」

 

ふぅと彼女が小さく息を吐く

「貴方には立場や色々背負っていた物がありました。それは私が壊して良いものではなく、それは正しかったのです。」

 

貴族の出自で将来が有望であった士官と孤児院で育ち前線で戦う魔道士官の幼女。その組み合わせは側から見れば異常に見えたであろう。

もし2人が恋人ともなればスキャンダルでは済まない話題になった事は間違いない。

しかし、そんな心配はすでに徒労に終わっている。今はもう誰も2人の邪魔をする物は無い。

 

だが、

「もう行かなければ、、、」

私を振り解こうとする。

「私が行かなければ、ここはすぐにでも陥てしまいます。」

さほど遠くない所から砲弾の音が絶え間なく聞こえてくる。参謀本部が陥ちればこの戦争は終わり、彼女の命も尽きることになる。

私の命で彼女を助ける事が出来たらどんなにかよかっただろう。

逃がすチャンスはあった。だがそれを私はしなかったのだ。最後まで側にいる為に。彼女の命を奪うのは私なのだ。

 

「ターニャ」

名前を呼び、床に彼女を押し倒す。

私はそのまま強引に軍服を剥がし彼女を抱いた。

 

…………

 

「一緒に死ぬおつもりですか?」

事が終わっても表情を崩さない彼女に問われた。

「貴方に少しでも長く生きて欲しくて戦っていたのに」

私の返事を待たずターニャは軍服を整え、

「出ます」と

私を置いて飛び出していってしまった。

 

「愛している」その言葉を伝える事が出来なかった。

私は残していた最後のタバコに火を付け、帰りをひたすらに待っていた。

だが、彼女をこの手で2度と抱く事は出来なかった。帝都の空からターニャは墜ちた。

 

「白銀」を失った帝国軍は脆く、程なくして帝都は陥落。帝国は無条件降伏の宣言を行った。

私は敗戦国の高級士官として戦争の責任を取る為に死刑台へと登る。

 

「ターニャ、「愛している。」ヴァルハラで私と共に、、」

 

多くの国を巻き込んだ世界大戦は長くの戦いを経てようやく終焉を迎えた。




軍人なので本来なら銃殺刑となりますが、
話しの都合上絞首刑になってしまっています。


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君の側にいる私

いちゃいちゃしているだけの
ターレルです。


「ターニャ」

名を呼ばれて目が覚めた。

自分の官舎では無い。眠っていたのは大きくて柔らかいベッドの上。

 

「おはよう。よく眠れたかね?」

隣には紺の髪色の男。

私に声をかけた後メガネを探している。

ベッドの脇の鏡台にあるのを見つけて、それを渡す。

「ああ、ありがとう。」

きっちりとして真面目な性格の彼も、朝では髪型も崩れてしまっている。

普段とのギャップに少し可笑しくなってしまい、「ふふっ」と笑い、髪を弄った。

 

ようやく貰えた休暇にこの男、エーリッヒ・フォン・レルゲンの屋敷に泊まり込んだ。

帝都ベルンの中心部からそう遠く無い場所に

居を構えているというだけでその身分の高さが分かってしまう。

 

「おはようターニャ。、、どこか体に違和感などは無いだろうか?」

上半身が裸のままで体を起こし、真面目に心配そうな顔で聞いてくる彼。

 

そういえば、脚の間がヒリヒリする。

下腹部も何だか重い。

ああ、、、、

思い出した。

 

昨夜、2人はようやく結ばれたのだ。

 

身体に関しては気にするほどでは無いので

「特には。おはようございます。エーリッヒ」

心配をさせない様にそう答えた。

私達は2人でいる時は名前で呼び合っていた。

 

 

………

 

隣で寝ている、金髪の幼女。

私は彼女をようやく手に入れる事が出来たのだ。愛しいターニャ。

 

思えば彼女との出会いは最悪であった。

外見は幼女、中身は完璧な軍人。

私は暫くそのギャップについていけなかった。

 

彼女のお守りを命令された時は貧乏くじを引いたものだと思ったのだが、

いつからか彼女の騎士になった気分になっていった。その高潔さを守るために、側にいる事が誇らしかった。

彼女の大隊の部下達は恐らくこんな気分で彼女の側で戦っているだろう。

 

「ターニャ」と声をかけると彼女が目を覚ました。私が眼鏡を探していると渡してくれる。

何が面白いのか少し笑って、私の髪を弄った。

 

とうとう昨晩してしまった行為に後悔は無かったが、私が犯したまだ小さなその身体の心配をした。

だが、平気な様に答えたので安心をした。

 

おはようのキスをして服を着替えさせるが、着ていたネグリジェとほぼ変わらないシンプルなワンピースを選んだ。

彼女は部下に貰ったというサイズの合わないネグリジェと軍服以外ロクな衣服を所持していなかったので急いで幾つか用意をしたのだが、着ないのであれば余り意味はなかった。

 

私も軍服に着替えが終わると部屋に朝食が運ばれてきた。

「こんなに食べられません。珈琲だけで大丈夫なのですが。」

彼女は普段から少食過ぎる。正直その体躯は痩せ過ぎではなかろうか。

「食べなさい。君は成長期だろう。食べたら珈琲を淹れよう。」

私が言えば少しは口に運ぶのだが、よくこれで戦場を駆け回っていられるものだ。

 

「私は仕事があるので参謀本部だ。何かあったらそこに。夕食までには帰る予定だ。昼間は好きにしていて構わない。」

「わかりました。」

 

珈琲を飲みながら会話を交わす。

正直1人にするには昨日の今日でもあるし、何よりせっかくの彼女の休暇を2人で過ごせないのに気が引けるが仕方ない。

彼女を置いて屋敷を出た。

 

……………

 

食器類が片付けられて、部屋に1人。

エーリッヒがいないので暇になってしまった。

暫くは本を読んでいたが、結局、軍服に着替え屋敷の外に出た。マガジンスタンドで新聞を購入し、いつものゾルカ食堂へと向かう事にした。

 

いつもの珈琲を飲みながら考える。

エーリッヒは優しいが、

私が軍人である事があまり好きでは無い気がする。守られ過ぎるのだ。まるでそこから私が逃げ出さないように。

私は守られるより、守りたい。彼の役に立ちたい。私にはその力もあるのだ。宝珠を触りながら彼を思う。

 

そもそも私は男なのだ。なのに彼の側にいたい。矛盾しているのはわかっている。

1人でいると冷静になれるのに、、、。

 

新聞を開いていたが頭に入らず、彼の事ばかりを考えていた。

……………

 

今日は仕事中に上官に上の空だと言われてしまった。この私とした事が、、、

 

帰路につき、煙草を咥えながら以前の記憶を蘇らせていた。

いつかの参謀本部での軍議の時であった。

ようやく解散という時には既に周りは真っ暗になっていた。

女性を1人で帰す訳にもいかず私の迎えの車で送っていこうと乗せたのだが、そのまま屋敷に連れ込んでしまった。

その夜、特に何かをした訳ではないのだ。

 

ただ、闇夜の月の光でその肌は透けて、私を見つめる碧眼は澄んでいた。

「私はあなたのお役に立てていますでしょうか?」

私にそんな事を問いかけた。

彼女が私の事を想っていた事を知った。私だけでなく彼女を私も欲しかったのだ。

私達は恋人として過ごす様になった。

 

だがしかし、

彼女は体も小さく、私の身勝手で乱暴に扱えば壊れてしまいそうで怖かった。彼女の成長を大切に待つ事にした。そう誓ったのだ。

互いに名前で呼ぶようになり2人の仲が進み、彼女に大人のキスや、体を触れられる喜びを教えてしまっても一線は越えなかったのだ。

 

だが、今回の彼女の久しぶりの帰都で、

もうお互い我慢が出来なかった。

彼女は私を求め、私は彼女を求めた。

 

……………

 

「お帰りなさい。エーリッヒ」

ターニャが本を読みながら部屋で待っていた。

椅子から立ち上がり、軍服を脱ぐのを手伝おうとして、彼女はつま先立ちでぷるぷるしている。

仕事中でもよく見る光景だがつい可笑しくて笑ってしまう。

ターニャがムッとした。

 

彼女は屋敷では基本この部屋にしかいない。

自由にして良いとは言っているのだが

気を使わせてしまっているのだろうか?

食事も専らこの部屋で2人でとる。

 

「街で流行りのお菓子を買ってきた。ターニャに食べて欲しくてね。」

「私を太らせたいのですか?」

1人にさせていたのでちょっとしたお詫びのつもりだったのだが、、、

確かにもう少し肉づきは良い方が触り心地も良いものになるのだろうかと、余計な事を考えてしまう。まあ、言えば怒るだろう。

 

「1人にしていたお詫びだ。」素直に言えば、

「ならば、いただきます。」素直に応えるのだ。彼女の扱いにも慣れてきた。

 

食後に珈琲を淹れ、ゆっくりと過ごす。

「なんですか?」

彼女を見ていた。

「いや、君の口にあったかな?」

「ええ!もちろん。こちらでいただける珈琲はいつも美味しいです。勿論お菓子も。」

笑み浮かべる。彼女が喜べば私も嬉しい。

 

「今日は1日何をしていた?」素朴な疑問だ。

「いつものゾルカ食堂でお茶をしていました。」

「それだけか?」「ええ。」

年頃の娘だと言うのに。

しかも軍服で出かけたのであろう。

見慣れない新聞。恐らく珈琲を飲んで読んでいた物だ。少し呆れてしまう。

「貴方といられればそれで。」十分です。と彼女は言う。

 

彼女の愛は献身的だ。何がそうさせるのか。

幼い頃より軍人として生きてきてそれしか知らないからだろうか?いつも自分の居場所を欲しがっている。

 

「心配は要らない。私は君の側にいる。」

彼女を安心させる為のセリフであったが、本当は逆だ。私が離れたくないのだ。その為の言葉。

彼女をこの部屋にずっと閉じ込めてしまいたい。私の側からいなくならない様に。

 

「エーリッヒ」名前を呼ばれる。

「私が貴方を守ります。」

私は銃を持って先頭で戦う部類の軍人ではない。確かに私は彼女の様にはなれない。

だが、「それは私の役目だ。守られる為に側にいたいと思った訳ではない」

「私も同じでなのです。」

ああ、そうなのか。同じなのだ。

お互いを思う気持ちがお互いに溢れ過ぎている。

 

次はいつ会えるかわからない。彼女は戦場へ戻る。彼女を失うのが怖い。

「必ず生きて貴方のもとに帰ります。」

その気持ちを悟ったのか、真っ直ぐに私を見つめ、その目は強い意志で私に伝える。

「そうだな」私は彼女を信じて待つしかない。

 

彼女の頰に手で触れる。

その肌はとても柔らかい

そのまま顎に手をやり顔を上を向かせ唇を

重ねる。

 

「愛している。ターニャ」

「私もです。エーリッヒ」

言葉で伝える事は大事だ。私と彼女で誓いを交わすのだ。

彼女を抱き抱えベッドへ連れて行く。

 

「明日は2人で何処かへ出かけよう。」

「そうですね。貴方となら何処へでも。」

明日の約束をし、今日も夜を迎える。

2度目の契りは優しく、2人で食べた菓子のように甘かった。



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「約束」

twitter用にさらっと短い物の予定が
微妙な長さになってしまったので
こちらで初出です。

いちゃついているだけです。


クリスマスが近づいて、イルミネーションや飾り付けには彩られてはいなかった。

日本が異常なのだ、あれはただのイベント。帝都の神の子らは戦場にいる家族を思い、帰りを待つ者たちが祈りを捧げていた。

 

私はいつもの様に教会で存在Xへの恨みを込めて祈っていた。

そして先程の事も、くどくどと心の中で叫んでいた。気持ちの持って行き場が無く、こんな所で祈るなど私としては大いに不本意でしか無い。

 

礼拝堂ではクリスマスのミサの為に子供達が劇や聖歌の練習をしていた。

懐かしい。神とやらの為に祈った事などないが、育った孤児院が教会預かりだったのであそこにいた歳までやらされた。聖母役など何の因果か。

私は現実逃避の為に思い出に耽っていた。

 

「熱心だな、、。君なら教会だと思った。」

現実に引き戻したのは覚えのある声。私はその聞こえて来た方向には目線を合わせなかった。

 

「わざわざ追いかけてきたのですか?」

「そうだ」

彼はあっさりとそんな返事を返してきた。

 

「外に出ましょう、、」

静かな礼拝堂。人の目線が自分達に向けられていた。私は溜息をひとつついて、彼を外へ促した。

 

「何をしに来たのですか?エーリッヒ。」

会う時間すらも惜しい位に仕事漬けになっているのはお互い様。会えない事は辛いが祖国の為を思えばそれも我慢できた。

それでも。今回ばかりは違う。

「何だったのですか?さっきのあれは!」

「言い訳位して欲しかったです!」

 

「ターニャ、だから追いかけて来た。」

そのいつも真面目で隙が無さそうに見える態度も、今は私の神経を逆なでしている。

 

「ほう、では、詫びの一つでもしてくれるのでしょうね、、」

私は普段彼には見せない、戦場で敵を撃つ時にする表情に変えた。

この今の態度で、私から引いたのなら彼とはもう終わりだな。とも思いながら。

 

「済まない」

頭を下げる彼。

「最高の珈琲を用意しよう。今日は私が夕食を奢る。勿論何処か良い所で。デザートも付けよう」

私の扱いを彼は知っている。だがこれで許してしまったら、私は食べ物に釣られた子供みたいでは無いか。

 

「それだけですか?」

むっ!と黙る。

たまには少し我儘でもいいだろう。

エーリッヒが悪いのだから。

 

周りを少し見渡すと彼は私を抱き寄せた。

「本当に済まなかったターニャ」

そう言い私にキスをした。

狡いです。結局いつも私が貴方を許して終わるのだから。

 

「約束、、、して下さい」

「ああ。」

 

「きちんと守って下さい!」

「ああ。」

 

「君には敵わない、、」

私だって、貴方には敵わない。

 

「クリスマスの約束は必ず守る、、、 。

「約束、、ですよ。」

「ああ」

 

私の怒りの熱がようやく冷めたのを確認すると、彼はほっと息をついた。

 

「まずは、一つ目の約束を果たさないとならないな。」

彼はそう言い、体を離し私の手を取る。

 

「ターニャ。私と食事を一緒にして欲しい。」

「エーリッヒ、容赦はしませんよ。」

ニヤリと笑う私。

参ったとばかりに表情を変えた。

「存分に。」

 

食事の会計の時に青い顔になったエーリッヒを見て私はようやく彼を許した。

 



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守り石

フォロワーさんへのお誕生日SSです。
12月の誕生石をモチーフにしています。
若干直しています。



街で見つけた小さな石。

女性の守り石だという。

青く美しい光を放っていたそれは彼女の瞳の様だと思った。

 

何かに惹かれる様に私はそれを手に入れていた。

戦場に出る彼女へ贈るなら御守りとして相応しいとも思った。

小さなレースの袋に入ったそれを私は胸にしまった。

 

その夜、帰宅したのは既に日付も変わっていた。部屋の明かりはついたままで、彼女がまだ起きていることがわかった。

 

「お帰りなさい。エーリッヒ」

と迎えてくれたのだが、こんな時間まで起きているなんて全く仕方ない。

だから背が伸びないのだとは口には出さず、

「ああ、ただいま。」と返事をした。

彼女はいつもの様にベットの上で本を読んでいた。

 

軍服を脱ぎ、寝巻きに着替える。

ベッドの彼女の横に入ると、

しまっておいたあの石を手渡した。

「ブルージルコン…。綺麗ですね。」

手に取り、明かりに透かしていたそれはやはりとても美しかった。

「ありがとうございます。」

彼女はとても喜んでいた。

 

危険から女性を守る守り石。

全てが彼女にふさわしい。

 

「これは深い意味もあるのでしょうか?」

えっ!なんだそれは⁉︎

「冗談です」

慌てる私を見て、彼女は笑っていたが、意外と本気の目であったので冷や汗をかきそうであった。

別の意味もあったのか……………。

(後で調べておこう)

彼女の博識さに時折私は驚かされる。

 

解かれていた髪はふわふわとその肩にかかっていた。

「ターニャ」

そう、彼女の名を呼びながら髪に触れ、

肌に触れ、キスをした。

「こんなもの贈られたのでしたら、

責任を取っていただかないとですね」

クスクスと小さく笑っている。

やはりあまり冗談ではないらしい。

 

手にあった石を枕元に置き、私の眼鏡をその手ででそっと外す。眼鏡は石の横に置いた様だ。

私は側にいる彼女しか見えなくなった。

 

「エーリッヒ」と名前を呼ばれ、その小さな手が私の頰に触れる。

彼女からのキスを受けた。

「どう責任を取ればよいのだ。」

「エーリッヒは真面目ですね。」

私の言葉にそう言われ、やはり笑っている。今日の彼女はよく笑う。

贈り物のせいだろうか。それで喜ぶなどやはり小さくても女性なのだな。

年相応の顔を彼女はなかなか見せてくれないので私も自然と顔が綻んでしまった。

 

いつもの様に何度もキスをした。

「いつかで良いですよ。まだ私には早いですから。」

「そうか。」分からずそう答えてしまったが大丈夫であっただろうか。

まあいい。私はターニャ以外に、もう誰かを愛する事は無いだろうから。

 

求める彼女に私は答える。

私の求めに彼女も答えてくれる。

私は彼女との平和な未来を思っていた。




ブルージルコンの意味です。

女性の厄除けやペストなどの病気避け。
出産のお守りです。


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朝露

クリスマスのTwitter向けに書いた裸レルゲン祭用
pixivには未掲載。
性描写があります。



「貴方は何故、いつも裸で夜を過ごすのですか?」

「君と同じだ。服というものが鬱陶しいのだよ。」

確かに私は服とは機能的に着用出来ればそれで良いと思っている。

軍服はと言うと、私は軍人でその制服。

ただそれだけだ。だから着ている。

 

彼はいつも昼間は私と同じ様に軍服を着ているが寝る時は何も着ていない。

剥き出しの肌の腕で抱かれて寝るのに、慣れてしまっている自分がいた。

 

少なくとも私は初めはネグリジェを着ていたのだが、彼といつしか素肌を重ねる事が当たり前になっていた。

直接触れるその体温は幼女の私の身体より少し低くて触れているととても気持ちが良かった。彼は逆に私を抱いて暖かいと言う。 お互いの体温を吸いあってちょうど良いのかもしれなかった。

 

体を丸め寝ている私を後ろから抱きかかえる様に彼は眠る。

大きなベッドに小さくまるまっている私達。それが心が安らぐ時だった。

 

「おはようターニャ」

彼が唇にキスして目がさめる。

その言葉通りに体を起こそうとしてもなかなか離してくれないその腕は、私の身体を弄び始めた。

昨晩も彼を受け入れていたこの身体はとても怠くて敏感で、彼の手が触れるたびに小さい声が漏れてしまった。

「起きないのですか?」

と、ささやかな抵抗をしてみたのだが

「起きている」と言う彼にそのまま好きにされてしまっていた。

 

部屋にはシーツが擦れる音と私の荒くなっていく声と彼の甘い息遣いだけが聞こえていた。

「ん、エーリッヒ……」

彼の名を呼ぶ。

「ターニャ」私の名を呼んだその口で胸を愛撫をし始めた。小さな突起をその中に含まれると我慢が出来なかった。

「ふっ、ああっ!」

私が声をあげると彼は喜んだ。

 

こんな風に私達が一緒にいられる時間は限られていた。

戦場を駆けずり回る幼女と後方のエリート士官。 私が居たかった場所に彼がいる。

後方勤務を望んでいるのは安全だけを求めている訳でなく彼がいるから。

心労で痛めている彼を支えたかった。

けれど私は戦場に出る事を求めらてた。

上官の彼に命令をされれば行くしかない。

その時の彼はいつだって眉間に皺を寄せ

前線に送る事を謝り辛そうに見送った。

 

身体を求められたのはいつからだったか覚えていない。

頑なにそれを拒否していた私が女性としての快感を覚えてしまった途端、堕ちていくのは早かった。こんな小さな身体でも彼を求めずにはいられなかった。

そんな私を犯した後、いつもうっすらと彼のその顔に見える罪悪感は私の物だけで少し嬉しかった。

でもそれも初めだけ。

今はこうして時間さえあれば彼は私を抱き、お互いに快楽に溺れていた。

 

「ターニャ」

よがる私の名を呼んで存在を確かめる。

彼は私に染み付いた硝煙と血の匂いで、不安に酔っていた。

「白銀」は返り血で汚れた「錆銀」だと、

敵から付けられた侮蔑の二つ名。

彼はそんな戦場でついた錆を私から落としてくれる。

激しくせめたてていても私に触れるその手はとても優しい。私が壊れないようにそっと触れていく。

 

唇が重なる。何度も何度も。

起きた時のキスをキスではないと言えるくらい濃厚で頭がくらくらしてきた。

「舌を………」

最後まで言い終わる前にそれを差し出す私に、彼は満足した様にニヤリと笑った様に見えた。

 

自分の吐く息で乾いてしまっていた唇が絡み合う舌で濡れていった。

「ん、んん、はぁ…」

彼の舌は私の中に進入して、舐り続けた。

 

このまままた、溺れてしまう。

この辺りにしておかないと。

「エーリッヒ…そろそろ………」

時計は針を回り、仕事の時間が迫っていた。

「やれやれ」

彼は名残惜しそうに私にまたキスをする。

「続きはまた今晩に。ターニャ。」

 

2人でそれぞれの軍服を身に纏い、私達はそれぞれの戦場へ向かう。

彼と私は戦う場所は違っても、帰る場所が同じである事が幸せだった。

 

また私は彼の元へ帰るのだ。

 




朝露-儚いもの、命そのものを表す事もあります。


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Er trägt eine Brille.(彼は眼鏡をかけている)&胃腸の日

短い、ただただ甘いターレルです。
文字数少なくて2本いっしょに載せてしまっています。




Er trägt eine Brille.(彼は眼鏡をかけている

 

彼の眼鏡をふと、かけてみたくなった。

私の体に腕を絡ませていた彼は、既にその意識を夢魔の元に旅出させていたので私はそこから簡単に抜け出る事出来た。

彼はその腕の置き場が無くなると寝返りを打ち、反対を向いてしまった。

 

枕もとにあったそれをそっと手に取った。

いつも彼のしている眼鏡。コンタクトレンズなど無いこの時代で、魔力のない彼にはこの眼鏡だけが視力の補正をしてくれていた。

 

自分の顔に近づけてかけてみた。それはぶかぶかで、つるは耳にかからない。度は強くレンズ越しの先の景色は歪んでいて、ほんの少し覗いただけなのにぐらぐらして気分が悪くなった。

 

こんなにも彼は目が悪かったのか。

それを意識をした事は無かったのだ。

そういえば、彼は朝になるとを私を見て、眉間に皺を寄せていたのは、怒っているからではなく見えていない所為なのかと、やっと理解した。

怒っているのかと聞いても「いや」と彼は憮然に答えるばかりだったから。

 

彼がまた寝返りを打ち、こちらを向き直したので眼鏡をあった場所にそっと戻した。

それを覗くと彼はとても疲れている顔をしていて切れ長の目の下にはクマが出来ていた。それなのに、少しでも時間ができればこうして私を抱いていた。

彼には「無理をして欲しくは無い」と、言葉で伝えた事もあったのだが、「無理では無い。君とは、会いたい時には会えないから。」と言われてしまえば私は彼を責めらず、彼を受け入れてしまっていた。

 

とても少ない時間の逢瀬を楽しんだ後、彼はすぐに意識を失うように眠りについた。

夢魔の悪夢にうなされているのか、時折小さな声が聞こえた。

ただの寝言だと言ってしまえばそれまでだが、時折私の名を呼ぶので返事を返した。

そんな私の声が聞こえているのだろうか?

返事をすると険しいその表情が、和らいでいく。こんな風に彼が少しでも楽になるなら私は幾らでもそれに答えよう。

 

彼は寝ていてもその眉間に皺を寄せていたので、そこを指で押さえて皺を伸ばした。

「癖になってしまいますよ」と。

 

私は彼の腕の中に戻り、目を閉じた。

朝になると、また険しい表情で私の存在を確認するのだろう。

彼の名を呼べばその表情は和らぐのだろうか。

 

私はいつも彼が名を呼ぶのを待っていた。

明日は私から彼の名を呼んでみよう。

そうすれば私が彼の側にいる事を伝えられる。

彼はきっと笑って私を抱きしめる。

 

……………

 

胃腸の日

 

ことっ、と音のした方へ視線を向けると年端もいかぬ幼女がこちらを心配そうに見ていた。

机の上に置かれた小さな小瓶。

「貴方は無理をし過ぎです。」

そう言われ、小さな手で白い粒とコップに入った水を渡された。私は素直にそれを受け取り、口に放り込む。

薬を飲む事には慣れてしまっていて、水が無くとも飲みこむが出来てしまうのだが、わざわざ用意してくれたそれで口へ流し込んだ。

ふぅと息をつくと彼女も安心したのか、先程までの険しい表情が柔らかくかわる。

 

「心配をかけてすまない。」

私を蝕むこの胃痛は、仕事の負担によるものだとは分かっている。このところは更に激務が続いてますます酷くなっている気がする。

彼女に気を使わせてしまうのは、この私の不徳だ。命の危険の無い後方にいる私はこの程度の事位どうということはない。小さな彼女が前線で背負っている重荷に比べたら………。

 

私の前に立ってこちらを見ている彼女。触れたい。私はこの手を伸ばした。

「少しはお休みになってください。」

優しく響くその言葉と共にその小さな体を抱き締める。彼女は少し驚いた様な表情で私を聖母の様に抱きしめる。

「エーリッヒ、貴方はこの帝国に無くてはならない方です。」

お側におります。

彼女がいれば私はこの悲惨な世界でも生きていけるだろう。

私の大切な…小さな。

妖精で悪魔な幼女。

 

 




2018年初投稿です。
今年もよろしくお願いします。

Twitter様でしたので、短くてすみません。


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三葉(さんよう)

Twitterで出た、ターレルヴァイというワードからの
レルゲン、ターニャ、ヴァイスの3角関係です。

性描写はありません。

こちらはpixivのヴァイタニャ纏めの2にも
掲載しています。



‪三葉

 

自分の所属している部隊は彼から命令を受けとる事が多い。しかし、自分とレルゲン中佐殿とは階級が違いすぎて直接の接点はなかった。

彼女と中佐殿が2人きりで屯所の一室へと消える。そこでは命令のやり取りをなされているだけの場所だったが、自分では立ち入る事の出来ない領域であり、そこへは超えてはいけない自分に悶えるしか無かった。

 

部屋の外で待機して待っていた。

連れ添って出てきたレルゲン中佐に敬礼を

する。彼女は自分に並び彼を見送る。

 

自分の前を通る瞬間、彼は言葉を口に、いや正確には声にそれは出てはいなかった。

『カノジョニナニカアッタラユルサナイ』

自分に一瞥だけして立ち去る男もまた妖精と悪魔の使徒であったか。故に、自分だけが彼が抱いていた物を理解する事が出来てしまった。

 

隣にいる自分の胸ほどにも背丈がない彼女の横顔は険しい顔をしていた。それを見てまた次の仕事も困難を極めるものなのだと震えてくる。

だが彼女と自分がいれば………。

 

「どうしたヴァイス」

そう言い、自分を見上げる顔にはすぐに我々を安心させるかのような無邪気な笑顔に変わっていた。

伝令役の中佐殿などに言われなくとも、彼女は我々のいや自分の大切な………。

 

その場で抱きしめなくなる衝動を抑えながら、彼女の口より発せられた命令を自分はこなしていく。

この命がある限り自分は貴女の側に………。

 

………

 

淡々と目の前の幼女に参謀本部の命令を伝えていく。好物の珈琲を飲みながら、私の口から発せられる厳しい命令を全てを理解し、即座に反応と対応を見せる彼女。

その時見せる小さな仕草さえも私の頭に忘れる事のない記憶として刻み込んでいく。

次はいつ会えるか分からない。これが最期かもしれない。いつも彼女を危険な死地へ送り込むのはこの私。

 

少しでも彼女を見ていたい。いつまでも同じ場で同じ空気に触れていたいが、彼女への仕事は緊急性が高い。即座の出撃の為に連れ添って部屋を出る。ふわりと動きに合わせて舞う金の髪から私の煙草の匂いが漂ってきた。

 

廊下で部隊の副長が敬礼をしていた。

彼女の側にいることを許された男。

つい口に出そうになったセリフをその男は間違い無く理解をしていた。

そうか、この男もまた………。

 

私の持つ感情を理解をしながら表情を変えないその男に、待つことしか出来ない私の気持ちが側にいる貴様に分かるものか。

そう叫びたい衝動に駆られながら彼女の元を去る。

 

彼女の煙草の匂いは次に会うときはあの男と同じ硝煙の匂いに変わっている。いつもの事だ。

いつもの………。

 

………

 

2人の男が入れ替わりに側を離れ、側にいる。私は間を揺れながら、煙草の煙を纏い、硝煙の匂いのする戦場を駆ける。

 



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愛妻家の日

1月31日の愛妻家の日の
甘いターレルです。
夫婦ネタとなります。


仕事が終わったのは、既に夜半も過ぎていた。帰り支度をして帰宅という時、ふと彼女の執務室に寄って見た。その部屋の灯りは落ちてはおらず、まだそこにいる事が分かった。

 

私はやれやれと部屋のドアをノックしたが、返事はなかったので、勝手に開けて入室をした。そっと扉を開けると、小さな明かりのみを灯して机に向かっていた彼女。

 

集中をしているせいか私の気配にも気づいていない様だった。

もう一度扉をコツコツと手の甲で叩いてみるとようやくその顔を上げ、

「ああ、エーリッヒ」

と私の名を呼び笑った。

 

「私より遅くまでいるとはね。」

呆れた様に言葉を吐くと、

「貴方の所為ですよ」と返されてしまった。

確かに昼間、新たな命令を彼女に伝えたばかりであった。

 

その為にこんな時間まで仕事をしているのだと彼女はその表情のみで私に訴えた。

 

「ターニャ。いい加減に帰るとしよう。」

彼女の副官や部下達は概ね帰宅した様で、ここはとても静かだった。

 

正直、過去私1人なら帰るのも面倒で参謀本部に連泊していた頃も多々あったのだ。

しかし、彼女と夫婦になってからは必ず帰宅をするようにしていた。なにせ一緒に居られる時間が限られている。

仕事中は仕方ないにしても、夜くらいは2人で過ごしたいと思っていた。

 

それを彼女も分かっていてくれてる様なのだが、今日ばかりはまだ片付けないと行かない仕事が残っている様だった。

「中間管理職なのだ。私も命令をされているだけだよ。」

「知っていますよ。エーリッヒ。もう間も無く終わります。そこで待っていらっしゃるつもりなら、珈琲の1杯位淹れてきて下さると嬉しいのですが。」

そう言い、空になっていたのカップを私に見せた。上官を顎で使うのかと思いつつも、

「分かったよ。ターニャ。」

着ていたコートと軍帽を脱ぎ、彼女に言われままにした。

 

彼女は大の珈琲愛好家だ。ただ、最近はカップはその小さな手の1つに持たれたままである。流石に飲み過ぎでは無いかと心配になっているのだ。カフェインは彼女の、女性の体に良くはないだろう。私達は夫婦なのだ、これからの事を考えると……。

…と、とても恥ずかしくなってのでそこで私の思考は停止していた。

 

カップを2つ用意して私もご相伴に預かった。机に置くと、「ありがとうございますと」私の顔を見ずに礼を返した。

私は特にこだわりは無いのだが、味にうるさい彼女の為に淹れるのもにも慣れてきた様で、我ながら美味しいと思った。

 

カリカリと滑るように右手で紙にペンを走らせ、左手でカップを口に運んでいた。私は待っている間にやる事もなかったので、椅子に座り、時計と彼女を交互に見つめていた。

孤児院育ちであったが、達筆で他の者にも引けを取らない書類をいつも書き上げていた。流石は12騎士の参謀将校だと周りは言うのだが、私は初めから知っていた。

 

「エーリッヒ。お待たせしました。」

身体を軽く揺らされ気がついたらターニャが私の顔を覗いていた。

「無理して待っていなくても、良かったのですよ。」

どうやら私はいつのまにか意識が無くなっていたらしい。

「済まない」

「いえ、少しでも休んでください。貴方は根を詰めすぎるから。」

まだ幼いと言える彼女に気を使わせてしまっていたので、

「それは君も同じだろう」

と同じ言葉をかけた。

彼女はふふっと髪を揺らしながら笑った。

 

外套を彼女に羽織らせると

「中佐殿に手伝わせてしまいましたね。」

と軍帽を被った。

私もそれに続いて支度をして、2人で部屋を出た。

 

街灯も殆ど付いていない夜道を彼女を1人で歩かせたく無かった。最近は物盗りや女性への暴漢なども少なく無いと聞いていた。

いくら優秀な魔導師で宝珠の力で大の大人に遅れを取らない事は分かっていても、彼女の見た目は幼いだけでない。私の妻なのだ。

 

少し冷たい風に肩を竦める彼女を引き寄せた。「流石に軍服のままでは」と言う言葉は無視をした。

「エーリッヒ?」

 

「明日はベルンを立つのだろう?」

「ええ。また貴方を1人にさせてしまいますね……。」

私が離れるのを拒んでいる事を彼女は知っている。

「戻りますよ。必ず」

「ああ…」

私はそれしか返せなかった。

 

「珈琲美味しかったです。ありがとうございます。」

「チョコレートでもあれば良かったのだが」

「いいえ」

 

彼女は笑っている。

ならば私も笑って送り出そう。

 

そして再び会えた時には最上級の珈琲を用意しておくと。

「約束ですよ。」

「ああ、必ず」

「チョコレートもあれば」

そのどちらも今では手に入りにくい物であったが、彼女はの唯一の可愛いわがままだ、喜んで用意をしよう。

 

私は彼女を抱きしめて、2人の家へと帰宅した。

 

2018.01.31



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その紫煙を抱(いだ)いて

2月18日の嫌煙運動の日にちなんだ タバコがらみのターレルです。
甘いです。短いです。


その紫煙を抱(いだ)いて。

 

「私と一緒の時は吸わないと言う約束ですよ。」

「あ、ああ。そうだったな。」

ベッドのサイドボードへ手を伸ばそうとした動作だけで、彼女には私が今から何をするか分かった様だった。

一言謝り彼女の顔を見ると、

「そうですよ。」

と言わんばかりに怒りがこもったその碧い瞳が私を見つめていた。

 

参謀本部での激務を、煙草に火をつける事でこなしてきた私はすっかりそれを口まで運ぶ一連の動作が無意識になっていた。

 

同じベッドには私のシャツを1枚だけ身につけた幼女と言うほどの幼き女性が、恋人がいた。彼女は煙草の煙をとにかく嫌がった。彼女の所属している特殊な兵科では煙草自体はあまり歓迎されないというが、楽しむ者が皆無という訳でもあるまい。

 

それでも彼女はとことん嫌がるのだ。

恋人であってもそれほど長い時間を共にする事が出来ない2人。

ではせめて、

「私の前だけでも」と約束をさせられた。

「吸いすぎですよ」とも。

 

私の身体を心配しているのか、単に嫌いなだけなのかその心は計り知れないが、苦笑しながら一度伸ばしかけた腕を戻すと彼女は満足そうにしていた。

 

手持ち無沙汰になってしまったその腕を、彼女の腰に回し私に引き寄せる。

「ならば私を慰めてくれ無いか」

口が寂しくてしかたない。この手もそうだ。

共にいる時間がとても惜しい。

 

この様な関係になってから、そこそこの時は経ってはいたが、仕事で共にいる時間よりも、恐らく数えられるほどの短い時間しか、私達2人きりでこの様に側にいる事が出来ていない。

 

彼女の全てを感じていたいなど、この私が思うなんて。自嘲気味に彼女に出会った頃を思い返してしまう。

化け物と恐れていた彼女を愛す事になるなんて。

 

「エーリッヒ」

私の名を呼びながら、小さな顔が近づくと唇が重なった。小さな舌がそのまま唇を割り侵入してくるが、私の中を侵すことはできそうにない。私は舌を絡めながら主導権を握るために、彼女の中へ押し返した。

離れた後の彼女は不満げに

「私に慰められたかったのでは無いのですか?」と私を責めた。

 

普段はあまり彼女からしてくれないキス。少し恥ずかしげなその顔はとても愛おしかった。

 

「その通りだターニャ」

返事をするとそのままベッドに押し倒す。

もう今晩だけでも、何度こうしたか分からない。しかし、幾度もなく彼女を支配した所で私は満足など出来やしなかった。

こんな小さな体をと躊躇した事があった事などすっかり忘れてしまっていた事に自分でも呆れ返ってしまう。

 

私の顔に小さなその手が伸びると、その眼鏡を外し、サイドボードの私の煙草の側にそれをおいた。

彼女が私を受け入れるのサインを確認すると私は彼女を愛するのだった。

 

「本当は、貴方の煙草の匂いは嫌いでは無いのです。」

呟きは小さい物で本当にそう言ったのかもう一度聞き直そうとすると彼女は私の煙草を1本手に取った。

「貰っても良いですか?」

というので反射的に「ああ」と答えてしまったがまさか彼女が吸うのかと驚いた。

が、それを手に握ったまま、彼女は床に散らばったいた軍服を拾うと上着の内側のポケットへとそれを丁寧にしまっていた。「これで貴方と飛べます。」

お守りがわりです。と笑っていた。

 

「でも今吸うのはダメですよ。貴方も懲りないですね。エーリッヒ。」

隙あらば私が煙草に手を伸ばしたくなっているのを彼女は見逃しはしなかった。

 

「私がいない時だけ吸っても構いません。でも、その時は私を思い出して下さい。」

 

 

またこの腕から離れ、戦場に行ってしまった彼女。今はこうして触れられない金の髪と敵を見据えても、私を見てはくれない碧い瞳を細い煙草を咥えながら約束通りに思い出していた。

 

彼女は私を胸に抱きながらこの空を飛んでいる。

 

「苦い」そういいながら噛み付いた。

紫煙の染み付いた私の指には彼女の歯の跡が少し残っていた。

これが消えないうちに帰って着て欲しいと彼女と同じ瞳の空に願いをかけた。

 

2018.02.18.嫌煙運動の日




煙草の臭いが嫌いでも
彼のはオッケーな甘いターレルでした。
ありがとうございます


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菓子と唇

マシュマロ日&ホワイトデーのターレル
激甘注意。


甘いターレルです。

マシュマロの日&ホワイトデー

 

私の執務室で私の仕事が終わるのを待っていたいた彼女。直を持て余し、何かと動かしていたその唇を見てるとなんだかあの不思議な菓子を思いだす。

甘い物には詳しく話し無いので、なんと言ったか、その名称を私は思い出せないでいた。

 

「どうかされましたか?」

私の視線に気づいたようにこちらに顔を向けてき来る。

「いや、何でもない」

「?」

そう答えたがまあ、不審に思えてしまったようだ。

彼女の顔が近づいて、そのぷっくりとした唇がそっと開く。

「エーリッヒ?」

私の名を呼ぶ彼女。

私はあの菓子の感触を思い出してしまっていた。柔らかくて弾力があってこの唇の様な……。

 

いや、我に返って良く見れば、座っていた椅子には大きな紙袋があった。

「それは?」

「部下達から、ホワイトデーのお返しに貰ったものです。」

ごそごそと紙袋を開けて私にそれを見せた。キャンディーや甘い物。彼女の好きそうな菓子がそこには詰まっていた。

 

ホワイトデーとは一体……。

私の頭をの中を一瞬で疑問符が埋まってしまったので、意味が分からず聞いてみた。

「バレンタインのお返しですよ。」

そう言いながらクスクスと笑う彼女。

 

「エーリッヒには期待してませんでしたから。」

バレンタイには彼女にチョコレートを貰っていた。大事に食べたそれにお返しの1つも出来ない恋人など、失格なのではないだろうか。

 

「うちの連中はイベントが好きなだけですから。貴方はこの日の存在自体、知らないと思ってましたし。」

慰められてしまった。こんな私の胸丈も無い小さな恋人に。

「済まない。」

「いいえ。」

焦って謝る私に彼女は笑っていた。

 

ああならばせめて、彼女の好きな珈琲を淹れよう。

「ターニャ。丁度、良い豆が手に入ったのだ。飲んではくれないか?」

「喜んで。エーリッヒ。」

 

私が淹れた珈琲をテーブルで待っていた彼女。

「これは茶菓子にいたしましょう」

そう言いながら袋から菓子を出してき行く。その中の1つが気になり手に取ると「マシュマロがお好きなのですか?」

と彼女に問われその名を思い出した。

 

そうか、マシュマロだ。

「ああ、そうだな。これは君の唇に似ている。」

そう言いながら、その柔さに触れたい私は、彼女の唇を強引に奪った。

 

結局の所、ホワイトデーなのに私が彼女の唇を貰ってしまった様な感じになってしまった。

「貴方の珈琲も味あわせて下さい。」

だが、長いキスの後のそんな一言が、私を救ってくれた。

 

2018.03.14.




フォロワーさんの絵をインスピレーションに
書かせていただきました。


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三遍回って煙草にしょ

禁煙の日とよい夫婦の日という事で
激甘なターレルです。


火をつけようとすると持っていた筈のその指から煙草が消えていた。

「吸いすぎではありませんか?」

彼女の手には、先程私が箱から出したばかりのそれが有った。

 

「ターニャ。それを返しなさい。」

「いいえ返しません。そもそも私の前では煙草は吸わないと約束した筈ですが。」

 

覚えているとも。

だが私は「ああ」と曖昧に答えてしまった。

 

「いっその事このまま禁煙をなさってはいかがです?」

いかん、返事の仕方を間違えた。これは怒っている。

彼女は他の何よりも煙草の煙が嫌いなのだ。ここで誤魔化しても話を拗らせるだけである。

 

「ターニャ。分かった。吸わないから返してくれ。」

今時分、嗜好品の煙草は貴重品。小さなその手の中で無残に折られるのも忍びない。

 

「本当ですね。エーリッヒ。」

「ああ。」

私の返事にしぶしぶとそれを差し出した。

「貴方といると髪も軍服も、煙草の臭いがついてしまいます。」

 

そう言われても、今更禁煙となど私には無理である。

手持ち無沙汰になってしまっているこの手は煙草の箱の入った胸ポケットへと無意識に動いてしまっていた様で、

「エーリッヒ…言ったそばから貴方は…。」

彼女の呟きは私への非難ではなく、ただただ呆れたのだと伝えていた。

「…済まない。」

ああ、降参だ。私は煙草を箱ごと彼女に手渡した。

 

「体にも良くありませんよ。」

受け取ったそれを見ながら私に優しく語りかける。

「知っている………。」

彼女はいつも私の心配をしているのは知っている。私が彼女の無事を祈るのと同じくらいに想ってくれている。

 

……

 

『本当なら新居に臭いをつけたく無いのですが。仕方ありません。』

この家に2人で住む事になった時に決めた約束だった。

それが彼女にとっての妥協案。ならば私も守らねばフェアでは無いのだが、私の煙草の量は増えるばかり。

 

こうして彼女が帰って来る度に、煙草の事で喧嘩をしてしまっている。2人で一緒にいられるのは限りある貴重な時間なのだ。こんな風に過ごしてしまうのはあまりに勿体ない。

 

未だにふらふらとしているこの手で彼女を引き寄せ耳元で囁く。

「口が寂しいんだが。」

「全く。我慢くらいして下さい。」

「ターニャ。君が慰めてくれるのなら。いくらでも。」

私達は夫婦になったのだ。これくらいの事は期待しても構わんだろう。

 

「仕事中の貴方からは想像が出来無い姿ですね。」

クスリと笑いながら私の頰に触れ、

「随分と私に甘えて下さる。」

そう言いながらキスをしてくれた。

 

彼女を私の妻にしてからも、私達は戦争という現実からは逃れられなかった。

こうしてずっと側にいたいのに。

 

「苦…」

「エーリッヒやはり煙草をやめませんか?」

甘い筈の口づけの後の言葉がそれか…。

私は溜息をつきそうになる。

 

「まあ、でもこれが貴方の匂いなのですが……。」

彼女の小さな独り言。

「どんな悲惨な戦場でも貴方を忘れないでいられる。」

 

その言葉を耳にして私は思わず彼女を抱きしめてしまった。

彼女を失うのが1番恐ろしい。

 

「どうやら私は禁煙をしなくて良さそうだな。ターニャ。」

冗談のようにそれを口にすると

「エーリッヒ。貴方って人は…仕方ないですね。」

 

私の腕の中の小さな妻は降参したように私を抱き返した。

 

2018.04.22.




タイトルの意味
さんべんまわってたばこにしょ
休む事は後にして手落ちのない様に念入りに確認せよ。

要はいちゃいちゃしろって事ですね。


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紫煙の君

5月31日は世界禁煙デー
と言うわけで禁煙を頑張る?ターレルです。


「少佐には関係ないのだが、これは参謀将校への共通の通達なので、一応渡しておく。」

「はぁ…。」

 

上官の前で思わず気の抜けた返事をしてしまい慌てて背筋を伸ばしそれを受け取った。

「禁煙期間?ですか?」

軽く目を通せばそんな事が書いてあった。

「そうなのだ…」

目の前のゼートゥーア閣下は溜息をつくのを我慢しているのか微妙な顔で言葉を返した。

 

なにやら国際法に則った物で帝国以下、参加各国が示し合わせての事らしい。

なるほどそれで上官各位が皆揃って憂鬱な顔をしているのか。

私からしたら会議室に渦巻く煙が無くなるならそれだけでも大歓迎なのであるが、

ヘビースモーカーだらけのこの参謀本部。本人達にとっては死活問題なのであろう。

 

喫煙年齢に満たない私には確かに関係がない話であったが身近な人が喫煙者であればそれはまた違って来るのだ。

 

………

 

「いい気味です。」

「貴官はまたそうやって…。」

 

気がつけば手持ち無沙汰に指をクルクルと動かしイライラしている。今日だけでもこれだ。果たして期間中持つのかも分からない。命令なら仕方ないと私は禁煙をする羽目になっていた。

 

小悪魔な顔をした幼女が、おとなしく私の腕の中にいるのは私からタバコの臭いがしないからだろう。

彼女の前では吸わない約束ではあったが、仕事であれだけの量を常日頃ふかしていれば、服や髪に臭いが染み付いていた。

お陰でこちらは嬉しくとも、毎度彼女のあの顰めっ面を会うたびに拝む事になっていた。

満面の笑みで迎えられたのはもしかしたら初めて経験であったかのもしれなかった。

 

「もう少し言い方はないのかね…。」

呆れた様に返事を返せば

「では、大変結構。」

ああ言えばこう言う。彼女の口の悪さには舌を巻く。

 

ああ、と諦めて彼女を引き寄せれば嬉しそうにしていた。私達はお互いの仕事柄、滅多に会う事が出来ないのだ。2人の時間は大切にしたい。

私の負けだと言わんばかりに白旗代わりにキスを迫っても嫌がられる事は無なかった。

 

こんなに素直な彼女の姿を見られるならば、確かにこのまま禁煙を続けても良い気がして来た。

しかし長年愛飲してきたのだ。そんな簡単にはいかない様で、無意識で今は取り上げられたそれを探してしまう。

 

そんな私を目敏く見抜き、彼女は目が笑ってない笑顔に変貌してしまうので、私は我慢をするしかなかった。

 

「中毒者にはきついですね〜」

 

くつくつと小さな声で笑っている。何故こんな幼女に囚われているのか。

はぁと思わずため息が出てしまいそうになる。

 

そう言えば、煙草はアルコールと同じで中毒症状になれば病気と同じらしい。彼女が力説をしていた事がある。

 

「いっそそのまま永遠に禁煙をして下さればいいのに…」

 

これは願望と言うか希望というか…強制なのだろうか。

私の身体の心配をしている事は分かるのだが、余りに迫真に迫るその言葉に、思わず気持ち冷や汗をかいてしまいそうになる。

 

とりあえずできる所まではやるしかないと私は心に誓ったのだった。

 

………

 

彼女がまた戦場に行ってしまい、その間に

例の禁煙期間は終了していた。

 

参謀本部の会議室にはいつもの光景が広がっていた。いや、禁煙前より遥かに多い煙が漂っている。そこでは葉巻を咥えながら上官達は談笑に耽っていた。

 

「おお!中佐。君も一本やらないかね。」

上官からの申し出を断る術は私には無かった。

 

「こんな企画は無くした方がいい。やはり煙草がなくてはな!」

ルーデンドルフ閣下が豪快に笑いながら私の背中を叩いている。

 

私は細巻きに火を付け咥えた。

「美味い…」

久しぶりの煙草。一度咥えて仕舞えば後戻りは出来なかった。私はそれをゆっくりと味わいながら、次に彼女にあった時の言い訳ばかり考えていた。

 

………

 

「お久しぶりです。」

「ああ…。」

 

私は出迎えに来たレルゲン中佐殿と、歯切れの悪い挨拶を交わしていた。

 

どうやら約束は果たされなかった様だったのだ。顔を近づけて匂いを嗅げばやはりいつものタバコの臭い。

 

「吸いましたね。」

上目遣いに少し凄んで責め寄れば彼はあっさりと白状をした。

「まぁ、期待してませんでしたし…。」

私がそれ以上責めるそぶりをしなかったので彼は明らかにほっとした表情になっていた。

 

先に挨拶をしたゼートゥーア閣下から聞いた話に寄ると、禁煙の努力はかなり頑張っていたらしい。最後はまあ、あの方々から勧められてしまったら一介の中佐殿程度では断れなかった筈。軍とは縦割り制度。これは仕方ない。

 

彼ばかり責めるのも可哀想だ。

「タバコの臭いがしない貴方は貴方ではない気がしますしね。」

ふっと笑いかけながら、そんなセリフを

エーリッヒに向けてもう一度帰都の挨拶をし直した。

 

「エーリッヒ。ただいま戻りました。」

「おかえり。ターニャ」

 

彼の禁煙はまたの機会に。

 

2018.05.30.

世界禁煙デー




甘いターレルでした。


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