とある海賊の奇妙な冒険記 (カンさん)
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幼少期編
主人公日記 一ページ目


 ○月○日

 

 こちらの世界の文字に慣れるために、日記を書くことにした。

 そのために五歳の誕生日に親父に日記を頼んだのだが、親父は「その顔でか?」と笑っていた。似合わないのはオレが一番理解している。腹が立ったから、親父の顔を思いっきりぶん殴ってやったが……ピンピンしていやがった。それどころか、殴ったこっちの拳の方が痛ぇ。

 

 さて、親父に対しての愚痴はここまでにしておこう。

 

 と言っても、何を書けば良いのやら……特に思いつかないから、現在分かっているこの世界とオレについて書いておこうか。情報の整理という奴だ。

 

 オレの名はジョット。どういう訳か死んで生まれ変わった人間だ。転生、という奴だろう。

 前世は○○○○という名の日本人だった。しかし、今は少し違う。

 黒い髪は前と同じだが、瞳は青い。親父曰く母親譲りの綺麗な青だとか。

 育ちは東の海(イーストブルー)のジャカルタ諸島。人間は二人しか居ない。

 勉強して飯食って親父と殴り合うのが日常の……前の世界とは全くの別世界だ。

 

 最初は外国の田舎かと思ったが、まさか異世界だとは……。

 文字を覚えて新聞を見た時は驚いた。海賊が力を付けて、群雄割拠する世界……どんな世紀末だ。

 いや、むしろ親父のアホみたいな肌の硬さに納得したが。

 あの男、拳で岩を粉砕するからな……。

 果たして、オレは生きていけるのだろうか。

 

 

 

 ○月◇日

 

 この世界に海賊がいやに多く活発な理由が分かった。

 偉大なる航路(グランドライン)を唯一制覇し、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を見つけた伝説の男――海賊王ゴールド・ロジャー。

 この男が死に際に解き放った言葉が時代を作った。大海賊時代という時代を。

 

 つまり、この世界における最悪の犯罪者であり憧れでもあるらしい。

 というか、親父が憧れていた。

 

 軽い気持ちで聞いたら、まさか夜通しで海賊王伝説を話されるとは。

 普段も酒飲んでヘラヘラ笑っている男だったが、この話になるといつも以上に酒を飲んでベロンベロンに酔っぱらっていた。

 この世界の事を知れたのは良かったが、しばらく親父に海賊王について聞くのは御免だな。

 

 

 ○月△日

 

 昨日訓練していなかったから、と言われて親父に森の奥に放り込まれた。

 頭から落ちてすげえ痛い。

 というか、毎日殴り合っていたのは訓練だったのかよ。

 くそ、あの酔っ払いめ。帰ったら貯蔵されている酒全部売ってやる。

 いや、それよりもあいつの部屋にあ――(文字が掠れている)

 

 

 

 ○月□日。

 

 この森は何なんだ。明らかに常識外の動物……いや、怪物がいるんだが。

 特にライオン、ゴリラ、ワニっぽい奴らが厄介だ。最近親父が痛がるほど威力の上がったオレの拳が効かねえ。親父みたいに肌を黒くして硬くしているのとは違う。単純に力不足だ。

 何とかしないとまともに食料の調達ができねぇ。

 隙を突いて手に入れたのは、星型の黄色い謎の果物。明らかに怪しいが……何か食って力付けねえとオレが食われちまう。

 どうか、毒がありませんよーに。

 

 

 

 ○月▽日

 

 なんか出た。なんか見える。

 そうとしか言いようがない。急に周りの景色がぼやけて見えた。

 いや、ぼやけるというのは少し違う。

 木や土、魚、動物。そしてオレの両手にぼんやりと煙のようなモノが見える。

 こう、包み込むようにモヤモヤ、と。

 何故急にこんなことになったのか。原因はあのくっそ不味い果物だろう。あれを食って、あまりの不味さに耐えながら寝て起きたらこうなったのだ。

 毒は無かったが、それ以上にやばいモノが入っていたな。

 

 だが、悪いことばかりじゃない。

 このモヤモヤ、どうやら生き物によって大きさや形、色、濃さが変わるらしい。

 例えば、折れた木は集中して見ないと分からないほど薄く小さいが、太くどっしりとした木は色濃く周りの木を侵食するほどはっきりとしていた。

 そして、このモヤモヤはあの怪物たちにもあり、後ろからの奇襲に気が付くことができた。

 さらに、オレのモヤモヤを相手のモヤモヤにぶつけると、今まで効かなかったオレの拳が嘘のように効いた。まさかパンチ一発で倒せるとは思わなかった。

 

 こうして書くと至れり尽くせりのようだが、いくつか欠点がある。

 一つは、眠れない。

 あのモヤモヤ、目を閉じても見える。いや、実際には見えていないんだが、モヤモヤだけが瞼の裏に写っているような……。

 とにかく、気になって眠れない。感覚的に慣れれば解決できそうだが……。

 

 そしてもう一つ。これが致命的だ。

 オレ、カナヅチになった。

 魚を獲ろうと川に飛び込んだ瞬間、力が抜けて底へと沈みかけた。

 運良く魚を獲りに来たクマの一撃で吹き飛ばされたが……アレが無かったら死んでた。

 下手をしたら、風呂入っている時も危なくないか?

 

 

 ○月●日

 

 親父に森の中に放り込まれて一週間。ようやく親父が迎えに来た。

 とりあえず出会い頭に頭をぶん殴っておいた。あのモヤモヤ込みで。

 すると、いつものヘラヘラ顔が吹き飛んで思いっきり痛がっていた。吐き気がどうのこうの言っていたが……飲み過ぎじゃないのか?

 まあ、五歳児を虐待したクソ親父に仕返しできてオレは少しスッキリした。 

 その後、復活した親父の拳骨で首まで地面に埋められたが。

 

 それと、なんかオレに一つ下の妹ができた。親父が拾ってきたらしい。

 名前はメアリーって言うらしい。金髪翠眼の美少女、と親父は言っていた。

 ガキに何を言っているんだ、と思った。

 と言うか、オレよりも年下なのに流暢に話せる。まるで手本みたいだった。

 親父は可愛いじゃろ? とデレデレしていたが……なーんか引っかかる。

 

 とりあえず、家事手伝い要員が一人増えたのは良い事だ。

 

 

 ○月◆日

 

 あのクソガキ……頭いかれてやがる。いきなり人を泥棒呼ばわりしやがって。

 

 今日の朝、あのクソガキが突然、オレが一週間放り込まれた森に行きたいと言い出した。

 親父はもちろん反対。可愛い娘をあんな危ない所に行かせないとか、吐き気がする人間でも一筋縄ではいかない場所だとか、色々言ってた。とりあえず実の息子をそんな場所に放り込むなと殴っておいた。モヤモヤ付きで。

 その後、オレも一応説得した。家族になったからな。その時はそう思っていたし、ガキが行くような場所じゃないと知っているからだ。

 バカでかい怪物がうようよ居て、あの果物が無ければ死んでいた。

 オレがそう言うと、当然あのガキは顔色を変えて問い詰めて来た。あの果物について。

 妙な事に、あのガキはオレが食ったあのクソ不味い果物の特徴を知っていた。オレがそれを食べたと伝えると、絶望した顔になり「この泥棒!」と言って頬をぶん殴って飛び出していった。訳が分からねえ。

 親父も驚いたのか呆然としていて、気が付くと急いで追いかけて行った。

 それから二人は帰って来ず、夜になった。

 まったく、あのガキも腹立つが親父も親父だ。デレデレしやがって。

 ムシャクシャしたから、あいつらの飯は作らなかった。せいぜい不味い飯でも食ってろ。

 

 

 ○月■日。

 

 メアリーに殺されかけた。

 この世界どうなってんだ!?

 

 



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主人公日記 二ページ目

 ○月#日

 

 あの女狂ってやがる。

 昨晩オレを殺そうとしたメアリーだが、オレを殺そうとした動機はオレが食ったあの果物を取り戻すため、らしい。いや、もうオレの腹の中にはねえだろ。サイコパスかよ。色々と怖いので、現在縄で縛って吊るしている。親父は元気があってよろしいと笑っているが……ふざけんな。

 

 親父に海軍に突き出さないのか? と聞いた所、面倒くさいしオレが行ったら面倒なことになる、と言っていた。物臭過ぎるだろ。

 オレが不満そうにしていると、男なら女の夜這いくらい受け止めろって言いやがった。とりあえず今日も飯を作ってやらん。

 

 

 ○月&日

 

 相変わらず泥棒やらトクテンがどうのこうのとメアリーが煩いが、今日は一つだけ発見があった。

 どうやら、オレが食ったあの果物は悪魔の実と呼ばれる希少な代物らしい。

 超常的な力を得る代わりに海に嫌われて一生カナヅチになるとか。もっと早く知りたかったぜ。

 しかしそれ以上に納得いかないのは親父だ。

 吐き気をコントロールできたんじゃないのか! っていきなり拳骨してきやがった。迎えうった拳がいてえ。というかゴインってなんだよゴインって。人の体から出て良い音じゃねえよ。

 それになんだよ吐き気のコントロールって。酒飲みまくっているお前がコントロールしろよ。

 あと、一応オレの妹にあたる存在Xよ。何故オレを見て吐けるの? って聞く。

 オレは赤ちゃんか何かか?

 

 

 ○月¥日

 

 メアリーがようやく、オレの暗殺……というか、オレが食った悪魔の実を諦めた。それどころか一転して馴れ馴れしくなった。うざってえ。何が「おにいさま~♡」だ。拳骨したら吐き気するとか。いや、大袈裟だろう。

 だが、一つだけ役に立つ情報をこいつが持っていた。それは、オレが食べた悪魔の実について。

 オレが食った悪魔の実は、ありとあらゆる生命力を見る事ができ、触ることができるらしい。どうやらオレが見ていたモヤモヤは生命力だったようだ。

 親父にダメージを与えることができたのも、この悪魔の実で生命力に直接ダメージを与えたからだとか。この力なら、ロギアとやらにもダメージを与えることができるとのこと。

 しかし、この悪魔の実の本質はこれだけではないらしく、修行すればさらに色々なことができるらしい。

 

 それを聞いて良い拾い物をしたと思った。この悪魔の実があれば、親父の浪費癖に悩まされずに済む。今は大丈夫だが、こう毎日バカスカ酒を飲まれていたら生活できなくなるからな。

 オレがそう言うと、メアリーは微妙そうな顔をして「もっと鍛えて将来に備えないの?」と言われた。よく分からん。

 それはそれとして。

 横で話を聞いていた親父が珍しく真剣な顔をしていたのが気になった。そんなに酒をセーブされるのが嫌なのか?

 

 

 ○月@日

 

 どうやらメアリーは将来海賊になるそうだ。17歳……つまり13年後には偉大なる航路(グランドライン)に入って、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を見つけるとのこと。

 四歳で既に未来設計図を描くとか……この世界の子どもは凄いな。

 そんな風に感心していると、親父がどうせならお前も行けと言われた。ちょっと意味が分からない。

 確かにワンピースは興味あるが、何も海賊にならなくても良いじゃないのか? 冒険家とか探検家とか。

 そう尋ねると、ワンピースを探すと海軍にしょっ引かれるとのこと。ヤバいな、海軍。宝見つけるのにも許可がいるのか?

 それにしても海賊ねぇ……オレは人様に迷惑をかけたくないんだけどな。

 

 

 ○月:日

 

 メアリーがうるさい。

 親父の言葉を真に受けて「私が船長だから!」と騒いでいた。なんだよ最悪の世代って。物騒だな。

 

 それと、これからも定期的に森の奥に放り込まれることが確定した。

 オレが食った悪魔の実の制御のためらしい。あと吐き気。もう吐き気は良いよ。

 悪魔の実の力は強大で、暴走したら大変な事になることもあるらしい。しかもオレが食ったのは生命力に関係するもの。何が起きるか分からない。

 理由は分かったが、五歳児にすることじゃないと思う。何処に訴えれば良いのだろうか?

 

 あと、メアリーもこの修行に参加するらしい。私の力見せてあげるとか言っていたが……不安でしかない。

 

 

 ○月*日

 

 不安が的中した。メアリーが既にグロッキーだ。

 というか、こいつの行動が色々とおかしい。

 「ソル!」と叫んで走り獣に気づかれたり、「シガン!」って叫んで突き指して痛がったり、はてには巨大ゴリラに殴られそうになって「テッカイ」って叫ぶだけ。死にに来たのだろうか。今は話が違うってブツブツ言いながら、オレが焼いたワニ肉に齧り付いている。

 何処か安全な場所を見つけないとな……。

 

 

 ○月+日

 

 この森はおかしい、とメアリーが言い出した。

 そんなの当たり前だろと言うと、そういうことじゃないと何時になく真剣な声で言った。

 なんでも、ここに居る馬鹿でかい猛獣たちは、本来ならカームベルトって所にある島に生息する化け物で、最弱の海と言われる東の海に居る筈がない。

 海軍が気が付けば駆除しに来るレベル……らしい。

 ……なんでこいつがそんなこと知っているんだろう。

 そして、それとまともに戦えているオレもおかしいらしい。

 思わずお前が言うなと叫んでしまった。

 

 というか、おかしいのは今更だろと思うオレは手遅れなのだろうか。

 

 

 ○月$日

 

 原因は親父だった。

 何でも、オレを鍛えるためにメアリーが言っていた島から何体か密漁して来たとのこと。

 さらっと生態系壊してやがった。

 海軍には内緒にな? とウインクした時は本当にイラっと来た。

 

 しかし聞きたいことがあったオレはグッと堪えて、オレの体の異常性について聞いてみた。すると親父はあっけらかんと「知らん」と一言。

 ただ、母さんも生まれつき体が丈夫だったらしくその辺が遺伝しているんじゃないか? と言っていた。いや、オレの母さん一体何者だよ……。

 

 

 ○月・日

 

 最近、メアリーがオレの事を妙なニックネームで呼び始めた。森に放り込まれた時くらいだろうか? 何度オレの名前はジョットだと言ってもニックネームで呼んでくる。相変わらず変な奴だ。

 

 それと親父がオレを洗脳しようとしてくる。昨日オレが言った海軍入隊発言が原因らしい。

 海軍は正義正義うるさいぞーとか。その点海賊は自由で良いぞーって。息子に犯罪を薦めんなよ……。

 

 しかし、将来何になるのかは決めておいた方が良いのは確かだ。

 オレが現在行っている訓練は、親父が立派な海賊にしようとして始まったことだ。そんな他人に強制させられても成果が出る筈もない。親父の反応を見れば一目瞭然。

 人は、何かを目指して努力して初めて本気になれる。

 せっかくの二度目の人生だ。オレも何か夢を探すか。

 

 

 ○月<日

 

 今日は親父に客が来た。珍しく酒に酔っておらず、いつものヘラヘラした態度は何処に行ったのかビシッとしている。服装も黒いスーツだ。

 一体だれが来るのだろうかと思っていると、やって来たのは麦わら帽子を被った男と複数人の男達だった。というか海賊だった。名前は確か、シャンクスだったか? どこかで聞いたことがある気がする。多分新聞で見た気がするから、名の通った海賊なのだろう。オレん家新聞取っていないから情報が曖昧だ。今度親父に契約して貰うように頼んでみるか。隣の島でいちいち買うのもめんどいし。古いし。

 

 シャンクスたちは何処か呑気な海賊だった。それと子ども好きだった。オレの事をチビ助と呼びからかってくる。それを見た親父が「オレの息子があのシャンクスさんにチビ助って呼ばれてる……!」って号泣してキモかった。

 メアリーは大人の男の人が怖いのか、シャンクスたちから離れていた。物陰からチラチラと見ていたが普通に気が付かれていると思う。

 

 それと、親父がシャンクスに何か誘われていた。凄い喜んでいたけど、どうやらオレ達の世話をしないといけないからって断っていた。……世話?

 しかし断られたシャンクスは気にした様子もなく、二泊三日くらいここで泊まらせてくれと言ってきた。親父はそれを泣いて喜んで引き受けて、何処に隠してたのか高級そうな酒を取りに何処かへ行った。

 それを見たシャンクスは「相変わらずだな、アイツ」と呟いていた。昔からああなんかい。

 

 その後の宴会は楽しかった。子ども子どもとからかってくるのには、少しイラっとしたが。

 それとメアリーのせいでオレの妙なニックネームが広まった。意味も分からず面白半分に呼んで来やがる。訂正させるのはもう諦めた。

 

 

 ○月>日

 

 シャンクスやべえ。親父くらい強い。

 いや、強いというのは悪魔の実の力で分かっていたんだけど、あそこまで強いとは思わなかった。

 特に最後のあのカウンター。オレが唯一惜しいと思えた一撃を迎え撃ったあの「ドクンッ」てくる奴。一瞬空間が震えたんじゃないかと思った。いや、多分震えていたと思う。

 今も少し鳥肌が立っている。親父もそうだったのか、引き攣った笑みを浮かべていた。

 

 そう言えば、シャンクスに妙なことを聞かれたな。生まれた場所だったり、オレのフルネームだったり。オレがフルネームを答えると途端に驚いて、親父を連れてどっか行った。

 というか、オレってこの東の海(イーストブルー)出身じゃなかったんだな。いや、生まれてそう時間が経たないうちにこの海に来たらしいけど。親父が言うには、かなり遠くて行くにも一苦労だとか。よく分からん。

 

 それはそうと、メアリーは何時になったら起きるんだ? シャンクスとオレの戦闘を見たいって言って見学したのはこいつなのに、途中で寝やがって。

 

 

 ○月!日

 

 今日、シャンクスに人生相談をした。海賊のシャンクスに。

 普通なら海賊に人生相談なぞしないが……シャンクスという男の存在は、オレの狭い世界を吹き飛ばせた。

 親父が言っていた海賊は自由。やりたい事をやりたいようにできる。そして、冒険の数々。

 空の果てにある黄金郷。深海にある魚人と人魚の楽園。一面砂だらけの国。一年中振り続ける雪国。そして、最後に辿り着く――ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)がある伝説の島。年甲斐もなく……っていうのはちょっとおかしいが、シャンクスから聞いた冒険話は心底震えた。

 一緒に聞いていたメアリーもそうだったのか、興奮を抑えられない様子だった。

 

 それはオレも同じだった。それこそ行ってみたいと思えるほどに。

 この世界に生まれて……いや、前世合わせて初めての感覚だ。

 この命、この人生を賭けて冒険をし、終着点にあるひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を手に入れたい――海賊王になりたい。

 

 親父が言っていた事が今ならよく分かる。

 オレも海賊になりたい!

 

 

 ○月?日

 

 出港際にシャンクスに「将来オレの船に乗らないか?」と誘われた。すると、言われた当人であるオレではなく、親父とメアリーが叫び驚いていた。

 でも断った。シャンクスは強い。彼の下に居れば安全に冒険だけをできるだろう。だが、オレはシャンクスから聞いた話みたいに自分の力で……自分の仲間たちと冒険をしたいと思った。だから断った。

 するとシャンクスは笑って「なら、これからライバルだな。新世界で会おう」と一言残して去って行った。

 ……親父じゃないけど、カッコよかったな。オレもいつか、ああいう男になりたいものだ。

 

 そのためにも海賊になるために力と知識を付けないとな。親父もメアリーも協力してくれるらしいし。

 

 ――待っていてくれシャンクス。すぐに追いついてやる。

 

 

 ○月A日

 

 『吐き』じゃなくて『覇気』なのね。どういう勘違いしてんだオレは。

 穴があったら入りたい。

 



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主人公日記 三ページ目

 ▼月●日

 

 親父にまた新しい日記を買ってもらった。これで三冊目だ。

 初めは文字を覚えるために始めたが、今では習慣になっている。

 親父と修行をして、飯作って、修行して、隣町……は今は無くなって隣の島に買い物に行って、修行して、飯作って、風呂入って、日記書いて、寝る。

 海賊になってひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を見つけると決めたあの時から続いているオレの日常だ。習慣化もするか。

 

 しかしメアリーは体が丈夫じゃないのか、修行を始めて一ヶ月でギブアップした。……本人はオレたちの方が異常だと叫んでいるが、まぁごもっともである。それに年齢も年齢だしな。

 だからメアリーは修行に耐えられる年齢になるまで、航海術や操舵術、海図の描き方といった海で役立つ知識を勉強することになった。オレも空いた時間に親父に習っているが、こればかりはメアリーの方に軍配が上がる。早く始めたうえに、オレが猛獣共と戦っている間も勉強しているからな。

 しかし、本人は納得行っていないらしい。私は船長になるのに! といつも頬を膨らませている。……別に良いと思うんだけどな。

 

 そう言えばそのメアリーだが、今現在親父と一緒に島を出て行った。何でも、一度行ってみたい島があるそうで、親父に頼み込んでいた。

 だが、その島は親父にとって近づきたくない島なのか、なかなか首を縦に振らなかった。

 ……そんなに「パパ。きらい」がショックだったのかねぇ。

 そこまで長く滞在する気はないのか、数日経ったらすぐに帰ってくると言っていた。つまり、オレはそれまで一人だ。よって今から森で修行だ。親父もメアリーも居ないしな。仕方ない。

 それにしても、親父も変なこと言う。オレの事を聞かれてもフルネームで教えたり、親父の事を話したらいけないなんて。それも海兵には特に、なんて。

 いったい過去に何をしたんだか……。

 

 

 ▼月■日

 

 最近、行き詰まりを感じている。

 三年前に食べた悪魔の実の能力だが、はっきり言ってまだ使いこなせていない。

 オレが修行してできたのは以下の三つ。

 浮き出た生命力を拳に重ねて殴る。生命力だけをぶつけて気絶させる。生命力を探知して相手の強さや位置、動きを読む。

 うん。覇気でできるね。親父も外れだったか? と言うくらいにオレの悪魔の実は覇気でできることと被っている。加えて、オレは先天的に覇気を使えるからか、能力を使うよりも覇気を使う方が良かったりする。カナヅチになっただけ……。

 しかしメアリーは違う意見なのか、別の使い方があるのだと言う。オレの今の使い方はただの片鱗でしかなく、使いこなせば今の二倍以上は強くなれると力説していた。というか詳しいなこいつ。

 だからオレは今もこうして最近懐いてきた猛獣共に付き合って貰って、能力を使いこなそうと修行をしているのだが……先は長い。

 とりあえず明日家に帰って考えよう。

 

 

 ▼月▲日

 

 親父やメアリーが居ないのに、今日は騒がしい日だった。

 

 オレ達が住む島は、オレ達以外は猛獣しか居ない。だから、人が来ることなんて滅多になく、来るとしても漂流者くらいだ。来客として来たのはシャンクスたちくらいだ。

 その珍しい来客が、今日一日だけで三人も来た。それも、どれも信じられないくらい強い。

 

 まず一人目。

 鋭い目が忘れられない黒刀を持った剣士。名前はミホーク。

 こいつはいきなり鋭い殺気を飛ばしたと思ったら、オレ達の家を地面ごと真っ二つにしやがった。

 いや、本当あいつ頭おかしい。

 いきなり何しやがる!? と問い詰めたら、お前がシャンクスの腕を奪った猛者か? と質問を返された。今思い返しても意味が分からん。

 で、家を真っ二つにされてキレたオレは正常な判断ができずにミホークに突撃。全力の覇気を込めた拳で襲い掛かったが……流石は自称シャンクスのライバル。結局斬られて終わりだった。おかげで血が抜けて冷静になったけど。

 

 その後は詳しい話を聞いてお互いの認識を改めて、互いに名前を預けて別れた。まとめるとこんな感じ。

 良い土産話ができたと笑っていたから、仲良くはなったと思う。あまり話さない人だったけど。

 

 そして二人目。

 次の人は海軍だった。凄い生命力に溢れた爺さん。

 なんか、さっき鷹の目が島を出て行くの見たとか何とか言って上陸してきた。

 その爺さんは真っ二つにされた家を見てオレに謝ると、家を直すのを手伝ってくれた。ミホークの上司か何かだったのかな?

 豪快で力強すぎて逆に壁を壊す爺さんだったけど、良い人だった。海で獲れた海王類までくれたし。でも海軍に入らないか? と勧誘されて断った時はヒヤリとした。まさか海賊になるとは言わんよな? って。

 なんでも、海兵にするために育てていた孫が海賊になると言っていて悩んでいるらしい。オレと年が近いのもあって思い出したとか。

 その時は追及を免れたが……一瞬見せた戦士の気迫はやばかったな。

 あんなのが海軍に居るとは……もっと強くならんと。

 

 そして最後の一人は親父の知り合いで、泳いで来たらしい。全身ずぶ濡れだった。

 何でも親父に呼び出されていたらしく、しかし行き違いになってしまった。伝言を預かっていないうえに、電伝虫にかけても繋がらないのでほとほと困った。

 仕方ないのでオレが買い出しで使っている舟と食料を渡して、帰ってもらう事にした。親父が帰ってきたら、きつく言わないとな。

 それにしても、あのレイさんって人は何者なのだろう。海軍の爺さんみたいに生命力が凄く強いし、親父が居ない理由を周囲を視ただけで分かったし。

 それに去り際に言った「己を知り、己を信じ、己を呼び起こせ。さすれば、己の運命に立ち向かう事ができる」って……いったい何のことだったんだ? いやに心に残るし……。

 

 

 ▼月★日

 

 買い出しの時に大渦に巻き込まれて死にかけた。食料を入れるための空き樽に入って溺れる事は無かったけど、目を回して気絶した。しかし運良く流された先の島の人間に救助されて助かった。

 今はオレを助けた子ども、ウソップの家に泊めて貰っている。

 それと、小舟でも良いから舟と海図を見つけないと。この事が親父とメアリー(アイツら)にバレたら面倒だ。絶対に弄って来る。

 

 

 ▼月*日

 

 今日、親友であり兄弟であり、そしてライバルができた。

 その名前はキャプテン・ウソップ。

 後から気づいたが、ウソップはシャンクスの仲間のヤソップの息子だった。それを知ったウソップは凄く驚いていた。あの赤髪の仲間なのか、と。そしてそれと同時に誇りに思っていた。

 ウソップはヤソップの事を勇敢なる海の戦士として尊敬し、何時か自分もそうなりたいと言っていた。オレもシャンクスに感化されて海賊に憧れたから、同じ夢を持つウソップの事を気に入った。

 気が合ったオレたちは夢について語り合ったり、ウソップのパチンコの腕に驚かされたり、岩を砕いてドン引きされたり、目を閉じたまま気配を読む方法を教えたり……まるで長年の友のように笑い合った。

 

 ウソップが部下にしてやると長い鼻を揺らしながら言えば丁重に断り、逆にオレの船に乗らないか? と誘うと凄く悩んで断られた。

 まぁ、当然だよな。ウソップとオレは友であると同時にライバルだ。認め合ったからこそ、同じ船には乗れない。相手への敬意があるからこそ、だ。

 その代わりに兄弟の盃を交わし、オレ達の間に強固な繋がりを作った。

 海賊の高みで競い合うために。

 ……ウソップには面と向かって言っていないが、もしあいつが困っていたら力になる予定だ。これを聞いたらウソップ怒るかもしれないがな。

 

 

 『余計なお世話だぞ兄弟!! けど、おれも同じ気持ちだ! byキャプテン・ウソップ』

 

 

 ▼月~日

 

 ウソップの奴、オレの日記を読んでやがった。

 だからあんなに笑っていたのか。今度会ったらデコピンだ。

 

 オレは島を出て自分の家に戻って来た。

 船と地図が見つかったからな。

 ウソップは残念そうにしていたが……男の別れに涙は似合わねえ。海で会おうと嘘を吐かず本音をぶつけてオレを送り出した。

 

 大渦に巻き込まれた時はどうなるかと思ったが、良い出会いをした。

 ライバルに負けないように、オレももっともっと強くならねえとな。

 

 

 ▼月@日

 

 帰って来たメアリーが部屋に閉じ籠っている。

 中からは「ごめんなさいごめんなさい」と生気の無い声しか聞こえない。

 ……いったい何があったんだ?

 



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主人公日記 四ページ目

 

 ☆月(日。

 

 メアリーが引き篭もりになって一年経った。

 アイツは外界が怖いと言い、自分の部屋で一人っきりだ。理由を聞いても答えてくれないので分からないが、どうにも何かに圧し潰されてしまったように見える。

 さっき扉に耳を当てた所、ネガティブな事は言っていないので今日は大丈夫だと思う。酷い時は自殺を試みるからな……。

 

 それと、今日は能力の力が強くなったと思う。

 今までは薄っすらとモヤモヤが揺らめいていただけだったが、今日は色彩が付いて姿形が変わった。一瞬だけだけど。

 親父も驚いていた。パンチを二発喰らった感触だったと言っていた。これを鍛えたらオレは四本の腕でラッシュができる事になる。そうすれば、いつも余裕綽々な親父の鼻を明かすことができる。

 

 

 ☆月)日

 

 親父から能力の課題を三つ出された。

 一つは、あの腕を息をするように、できて当然だと思うように扱えと言ってきた。能力を自分の体の延長線上にあると思い込む事で、さらに強く進化させるとのこと。

 二つ目は、精密な操作をすること。今も日記を作った腕で書いているが、力加減が難しく何本もペンを折ってしまった。遠くにあるものをオレの元に来させる訓練もしているが、かなり疲れる。距離が開けば開くほど色彩が無くなり、モヤモヤに戻ってしまう。

 三つめは、己を知り、己を信じ、己を呼び起こせ。昔レイさんが去り際に言った言葉だ。親父も同じ事言っていた。抽象的過ぎてよく分からないと言うと、親父は何時か分かると言ってそれ以上は何も話さなかった。

 

 

 ☆月?日

 

 買い出しの帰りの途中、漂流者を見つけた。男とオレと同じくらいの子どもだった。

 何でも85日間もの間、ずっと孤島で飢えに耐えていたらしい。

 とりあえず、飯を作って食わせて近くの島に向かった。親父に頼んで舟を改造していて正解だった。オレ、買い出しに行くとちょくちょく大渦やら嵐に巻き込まれて漂流するからな……。能力者だから泳げねえし。

 

 

 ☆月*日。

 

 救助した二人は、無事に元気を取り戻した。お礼に宝を貰ってくれと言われたが、親父が腐るほど持っているからと断っておいた。するとガキが遠慮するなとかなりの金額の宝を貰った。換金して二十万ベリーくらいかな? オレはこれでも十分過ぎるほどだったのだが、もっと持って行けとしつこく言われて、代わりにゼフの調理メモを貰った。この前親父に味付けについて文句言われたからな。これで見返してやる。

 

 あの二人は、海上レストランを作るらしい。海で漂流して餓死しかけている人たちを助けるため。多分こんな感じのことを言っていた。

 海賊でもか? と聞くと、ゼフって人は当たり前だと笑っていた。

 サンジも手伝うと張り切っていた。

 海賊になって、偉大なる航路(グランドライン)に行く前に寄ってみるか。

 

 

 ☆月_日

 

 東の海って偉大なる航路(グランドライン)並みに気候が荒れているのか?

 そう思うほど、オレの舟は嵐によく遭遇して漂流する。

 しかも少し舟が壊れたから、帰るのが遅くなりそうだ。

 そんな風に困っていると、島の住人の女の人に助けられた。

 名前はベルメール。ナミとノジコっていう名前の娘が居る。

 ベルメールさんは、オレの舟が直るまで家に住んで良いと言っていた。良い人だ。

 ……金が無いと言うと、体で払って貰おうかなんて冗談をしかけてくる困った人だが。しかも、それを娘のナミが真似するものだから手に負えない。

 

 とりあえず宝をあげた。しかし突き返された。強情な人だ。

 

 

 ☆月@日

 

 ベルメールさんの家は貧乏らしい。それなのにオレを泊めた上に宿代が要らないなんて……。

 なんか癪だったので、海獣を獲って来た。そしたら拳骨された。扉開けたら海獣で驚いたらしい。でも食費が浮くと喜んでくれた。

 ちなみにどうやって獲ったのか? と聞かれたので気合(覇気)で気絶させて獲って来たと伝えておいた。すると妙なものを見る目で見られた。失礼な。

 

 

 ☆月¥日

 

 ナミは世界地図を作るのが夢らしい。でかい夢だと言うと照れていた。

 オレも自分の夢を教えると、探検家とか冒険家じゃいけないの? と言われ、オレは熱く海賊について語った。

 海賊は自由。宴を飲んで楽しみ、夢と冒険を追い続ける勇敢なる海の戦士だと。

 しかしナミは女だからか「へー」と気の無い返事を返された。

 なんか寂しかった。

 

 そう言えば、最近ノジコがゼフの調理メモに興味を持っていた。料理の練習をしてベルメールさんの手伝いをしたいってさ。

 メモさせてくれと頼まれたので、オレはそれに了承した。でもさ、ナミやベルメールさんみたいに体で払うみたいな事は言うなよ……本当似た者家族だ。

 そう言うとノジコは嬉しそうに笑っていた。

 

 

 ☆月~日

 

 舟が直ったので明日旅立つことにした。

 その事を三人に伝えると、別れを惜しんでくれた。

 

 ベルメールさんに宝を全部あげると言ったが、全然聞いてくれない。大人が子どもの世話になる訳にはいかないと。

 まぁ、最初から分かっていた事だけど。だからベルメールさんじゃなくてナミたちにあげた。するとまぁ大変。情けをかけられるために助けたんじゃないと怒られた。

 だからオレも義理を返すために、出せるものを出しただけだと突っ返した。

 結局お互いに譲らず、半分だけ受け取って貰う事に。

 頑固だな、と呟くとお前が言うなと返された。

 

 

 ☆月+日

 

 確かに半分受け取って貰ったけど、持って帰るとは言ってないもんね!

 舟を出してしばらくして響いた怒声にそう返したけど……次会った時がちょっと怖いな。女は……母は強いと言うし。

 

 それにしても、最後までマセてたなあの二人。将来は良い女になる。

 

 

 ☆月=日

 

 メアリーが復活していた。なんかテンションがハイになっていて「私は周りの人たちを守るんだ!」と叫んでいた。……心壊れたのか?

 親父に聞いてみると、泣きたいだけ泣かして、食いたいだけ食わして、寝たいだけ寝かせたらしい。うん、よく分からんが元気にはなったんだな。帰って来て早々抱き着いて頬にキスして来やがったしな。

 

 後、オレの船に乗せてくれと言われた。最初は買い出し用の事かと思って放り投げたら、違うと怒られた。

 何でも、もう船長になるのは諦めたらしい。と言うか、今回の事で自分は船長の器じゃないと気づいたとか。だから、オレの船に乗っていくとのこと。

 割り切り過ぎじゃないか?

 少し心配になって親父に聞くも、仲が良くてよろしいとのこと。

 

 なんか納得行かない。

 

 

 ☆月;日

 

 買い出しに行こうとしたら、親父に止められた。

 何でも、オレが買い出しに行くと高確率で漂流するから流石に心配だと言われた。このままだと東の海を制覇するんじゃないか? と半ば呆れられた状態で言われた。失礼な親だ。

 メアリーは、偉大なる航路(グランドライン)で生きていけるの? と煎餅をボリボリ食い散らかしながら茶化してきた。

 違うと言いきれない自分が憎い。

 

 それと、これから修行が本格的に厳しくなるからという理由もある。今までは年を考えて抑えていたらしい。……あれで? 

 死なないように頑張れとも言われた。グダグダして体力が落ちたメアリーは白目を剥いていた。

 

 

 ☆月▲日

 

 むり、しぬ

 

 



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番外・奇妙な主人公の妹(書き足し済み)

 皆さんこんにちは! 私、メアリー! 

 現在私は――

 

「オラァ!!」

「何が『オラァ!!』だ! 気合じゃなくて覇気を込めろ!」

 

 ――爆心地の近くでダウンしています。

 目の前で繰り広げられる人外二人によるラッシュ比べ。ガキンだとかゴインだとかあり得ない音を立てて、衝撃波が私の長い髪をぐしゃぐしゃにする。

 でも、こんなの新世界じゃあ当たり前の風景なんだろうなー……此処東の海なんだけどね!

 

 私は転生者だ。ネット小説でよくあるトラック事故でひき肉にされちゃって気が付いたら神様の所に居た。あ、でも別に神様のミスだとかそういう事じゃない。

 ただ、私には転生する権利があって、私はそれを行使してこの世界――ワンピースの世界に来た。

 子どもの頃から大好きだったワンピース。その世界に行けると聞いた瞬間、私はいの一番にそこを希望した。もしその世界に行ったらやってみたい事がいっぱいあったからね! でも、普通に転生したらすぐに死ぬことは分かっていたので、強くなれる環境と私の考えた悪魔の実、才能を神様に特典として貰った。

 そして私は、無事にこの世界に転生した。しかも、金髪美幼女として! 前世が平凡な容姿で友達に『モブ子』なんて言われていたから嬉しかった~。おかげで私を見つけたパパ(こう呼んだら喜んでくれる)に気に入って貰って養子にして貰い、将来有望そうな男の子と兄妹となってこれからが楽しみだ!

 そんな風に思っていた時期がありました。

 

「――これで満足かくそ親父!!」

 

 パパの挑発に苛立った兄ジョットの腕が黒く染まり、さらに体から飛び出したオーラが第二の腕となって、パパの顔面へと強く叩きつけられる。

 空間を震わせるほどの威圧感……というか覇王色の覇気が爆発して、島全体が揺れたかのような錯覚に陥る。

 それにしても、相変わらず凄いなぁコレ。こんなの受けたら普通気絶するよ。私が初めて受けたあの時……シャンクスとジョットの覇気のぶつかり合いを間近で受けた時はしばらく起き上がれなかったし。

 

 さて、私が現実を見る羽目になった原因だが……それは兄、ジョットの存在だ。

 

 兄は強い。生まれつき体が強く無意識に覇気を使うほどに才能がある。パパは特別な血が二つも流れているからと言っていた。

 兄は運命に愛されている。私が見つける前にオラオラの実を食べて、何度も遭難しても生還する。

 兄はこの世界で生きている。原作主人公のルフィのようにシャンクスに感化され、海賊王を目指し、『待っている』と期待されていた。

 

(それに比べて私は……)

 

 もうね。スタート地点から突き離されている。勝てないと見て取り入ろうとしても全く靡かないし。それどころか間近で規格外な所を見せつけられて、私は争うという気持ち自体をへし折られた。

 

 そしてそんな兄に劣等感を感じて焦った私は、時期を見てこの海で起きる一つの悲劇――サボの失踪を防ごうとした。転生者だから悲劇を改変できるって考えていた。

 パパに頼み込んでようやくドーン島に行ったけど……結局私は何もできなかった。

 ルフィとは友達になれたけど、エースとサボには信用されなかった。何か企んでいるだろって。でも正直に言う事ができずそのままズルズルと過ごし、結果私はブルージャムに捕らえられてパパに助けられただけだった。それどころか、ルフィとエースを喧嘩させてしまい無駄な怪我をさせてしまった。

 そして致命的なのは――サボの救出失敗。いや、それどころか私のせいで本当に死ぬところだった。舟が無ければ航海しないと思って壊したけど、私たちの舟を盗られて結局海に出て……原作通りに天竜人に撃たれた。しかも、私たちの舟は丈夫に作られていて滅多なことでは壊れない。それによって天竜人は何度も何度も舟に砲弾をぶち込み、徹底的に破壊した。

 

 あの時、私は怖かった。私のせいでサボが死んでしまうって。

 でもその後ドラゴンさんがサボを助けている所を見てホッとして――自分の醜さに気が付いた。

 私は、誰かを助ける事ができる人間じゃない。

 全部自分の好きな事を、やりたい事をして、それに綺麗な理由を取って付けた――モブ以下の三流クズだった。

 

 それを自覚した私は、島に戻って引き篭もった。

 自分の小ささに嫌悪して、でも自殺する勇気が無かった。それに外が凄く怖くて、今出たら責められると思った。

 それと同時に私の事を心配してくれる兄とパパが嬉しくて、外に出ようと思うも結局自分勝手だと思って……。

 

 そんな風に悪循環に陥っていた私を救ったのは、兄が買い出し(遭難)する前に私に言った言葉だった。

 

『テメエは自分の事をちっぽけな存在だと思っているだろうが、オレはそうは思わねえ。テメエはテメエの恐怖を乗り越えようとしている。それってすげえ事じゃねえのか?』

 

 最初は分からなかったけど、兄が言ったのだと思うとすぐに分かった。

 ふざけて呼んだあのあだ名。しっくり来たからずっと呼んでいたけど……今では()()なのではないか? と思っている。

 とにかく私は、兄の言葉に背を押されて外に出る事を決意した。部屋を出て、家を出て、そして虚像の自分の殻を破って――私は、自分ができる範囲の事をしようと決めた。

 パパにその事を教えると『お前が決めたことなら、それでいい』と笑ってくれた。

 それが嬉しくて、私は兄が帰ってきたらこの気持ちを感謝と一緒にぶつけようと思った。

 

『ただい――』

『ジョジョーー! 私、今最高にハイッて奴だーー!』

『――いきなり何しやがる。愚妹』

『ぶへえ!?』

 

 ……まぁ、兄はツンデレだから躱されたけど。

 

 こうして私は、本当にこの世界に生まれたのでした。

 めでたしめでたし。

 

 

 

「……妄想は済んだか?」

「はっ! ジョジョ!」

 

 気が付いたら、兄とパパの修行が終わっていた。

 兄はこちらを残念そうな目で見ている。

 というか妄想って酷くない? ……え? 遠い目をして口を半開きにして涎垂れてた!? そう言われて口元を拭うと『マヌケは見つかったようだな』と言われた。くそ、ハメられた!

 

「というか、その『ジョジョ』って言うのやめろ。最近親父も真似して来やがる」

「えー、良いじゃん。『ジョン・スター・D・ジョット』のジョンとジョットを合わせて『ジョジョ』! カッコいいと思うよ? それに、パパがフルネームであまり名乗るなって言っていたじゃない」

「それなら普通にジョットで良いだろう。それに、オレはこの名前を隠すつもりもない」

「それだと何処かのマフィアみたいで……それにオラオラだし?」

「……? オラオラの実がどうかしたのか?」

「ううん。何でもー!」

 

 あながち、間違っていないと思うんだよねー。多分パパが言っていた特別な血ってアレのことだし。……なんでこの世界にあの血筋があるのかは知らないけど。

 まぁ、この世界を私の知っているワンピースと同じだと考えるのはやめとこうか。パパがこの海に居る時点でおかしいし。パパもパパで謎だよねー。

 

「おい。そろそろ飯だ。手伝え」

「はいはーい! ……あ、ジョジョ。海賊旗とか一味の名前って決めた?」

「ああ? それはちいとばかし気が早いんじゃねえか」

「良いじゃん良いじゃん。こういうのは大事だし、カッコ悪かったらシャンクスさんに笑われるよ?」

「ふん。だったらテメエが決めろ。そう聞いてくるってことは、もう決めているんだろう?」

「うん。オラオラの実を食べたジョジョにピッタリなもの。それの名前はね。ク――」

「おーいジョジョ。酒無くなったから買ってくるわぁ。ヒック!」

「飲み過ぎだ、くそ親父!」

「――ア……って聞いてよ!」

 

 パパを追いかけるジョジョを、私は追いかけた。その大きな背中を。

 ……いつか絶対に追いつくからね、ジョジョ!




首筋に星型の痣はありません(後々メアリーにタトゥーを付けられる)

はい、という訳で今まで伏せていた主人公の本名と悪魔の実を出しました。
やっと出せた

それはそうと、この小説ってクロスオーバータグを付けないといけない部類に入るのかな? と思って取説を見たところ書いた方が良いなーと思ったので、この話を投稿した時点で付いていると思います。
特典とか転移じゃなくても居るみたいですね。確認不足で後出しみたいになりました。クロスオーバーが嫌いな方は申し訳ありません。予想していた人はこれからも楽しんでください。
それにともなってタイトルも変えます。ここまでするならやるっきゃねえと。

おかしいな? 此処直した方が良いな。と思った所は是非とも指摘してください。
感想お待ちしております


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楽園編
主人公日記 五ページ目


 ■月○日

 

 メアリーから服を貰った。

 見慣れないデザインで、前世の学ランに似た服だった。あと帽子も貰った。結構しっくり来る。この世界はこういう服もあるのか。

 気に入ったのでありがとうとお礼を言うと、デレ来たー! といつものように訳の分からない言葉を叫んでいた。

 

 それと、海賊旗のデザインも見せて貰った。オレが今日貰った帽子を被った髑髏の後ろに十字架が描かれていた。素直にカッコいいと思った。

 褒めたら調子乗るから言わなかったけど。

 

 

 ■月△日

 

 親父が島を出てシャンクスの所へ向かった。

 もう教える事はないと言って、寂し気に……しかし満足した顔で言った。

 思えば、親父には男手一つでここまで育ててもらった。色々とだらしない所もあったけど、あの人がオレの父親で良かったと思う。

 見送る時、オレはちゃんと今まで通りで居られただろうか。……追い付かないといけない人が増えたな。

 

 そう言えば、出航するなら慎重にしろと言われた。何でも、これからしばらく東の海が荒れるから、と。どういう意味なのだろうか。

 

 

 ■月□日

 

 前々から分かっていた事だけど……親父は海賊だった。本人は驚かせるために黙っていたみたいだけど。今思えば、そのために新聞を取らせなかったのだろう。

 早速やらかしたみたいで、海軍と戦った後そのまま偉大なる航路(グランドライン)に入ったらしい。政府は二十数年ぶりに復活した最悪の海賊を絶対に捕まえると言っていた。

 親父、世界政府に凄く警戒されているじゃねーか。……まぁ、手配書のあり得ない額から察するに、想像もできないことをしたんだろうな。

 もしかしてその事を言いたくないから黙っていた……? いや、あの親父にそれはないか。

 

 さて、オレたちも準備でき次第出発だ。

 それまで修行のおさらいをしよう。

 

 

 ■月◇日

 

 今日、妙な奴らが来た。たしか、サイファーポールだったか?

 いきなりこの島にやって来たかと思うと、親父の事を聞いて来た。

 オレが質問に答えるといきなり指を突き出して攻撃して来た。確か、メアリーがガキの頃に叫んでいた『シガン』って奴だ。他にも妙な技を使っていた。

 とりあえず殴って気絶させて、オーラと覇気を使って全員投げ飛ばしておいた。運が良ければ何処かの島で救助されているだろう。

 

 ただ、メアリーが凄く怖がっていたから予定を早めて出発することにした。

 森の動物たちにも伝えておかないとな。

 

 

 ■月▽日

 

 島を出た。森の動物たちが別れを惜しんでくれていた。アイツらは強いから生きていけるだろう。

 

 メアリーと相談した結果、まずは船を探す事にした。

 改造しているとはいえ、流石に小舟で行けるほど偉大なる航路(グランドライン)は甘くない。船を売っている場所を見つけて買わないと。

 それと、仲間も見つけないとな。

 

 

 ■月&日

 

 メアリーにどんな星の元で生まれたの? と言われた。意味が分からん。

 

 今日、遭難者を見つけた。それもただの遭難者じゃない。

 かなり衰弱していて見つけるのが遅れたら死んでいたと思う。

 何とか薬と能力で毒抜きはできたが……。

 遭難者の名前はギン。ある海賊団に所属していたが、色々あって追い出されたらしい。

 

 これからどうするのかと聞くと、ギンも偉大なる航路(グランドライン)に向かうつもりのようだ。それを聞いたメアリーが仲間にスカウトしていた。まぁ、断られたけど。

 しかし、偉大なる航路(グランドライン)に入る前の島までは同行すると言っていた。助けてくれたお礼らしい。義理堅い奴だ。仲間にならないのが残念だ。

 

 

 ■月$日

 

 とりあえず島を経由しながら、造船している島に向かう事にした。

 小舟で行くには少々時間が掛かるし危険だからな。オレは能力者だし。

 メアリーは行ってみたい島が幾つかあるみたいだが……あのサイファーポールって言うのが気になるらしい。相変わらず怖がりだ。

 ギンはこの舟に乗っている間は従うとのこと。

 

 

 ■月%日

 

 偶然、シロップ村に寄ることになった。

 平和な村で特に何も無いからすぐに出たが、ウソップが居ない事は何となく分かった。

 おそらく、何処かの海で元気にやっているだろう。

 アイツが海賊団を率いているのか、それとも誰かを支えているのか……。もし後者だったら一度見てみたい。オレの勧誘を断ったアイツのお眼鏡に適った人間に。

 まぁ、もし居たらの話だが。

 

 

 ■月‘日

 

 今、あまり穏やかな気分では居られない。早く島に……ココヤシ村に着かないのかと遅い船に苛立った。

 さっき新聞を見て知ったのだが、ココヤシ村を含むコノミ諸島がアーロンって言う魚人に支配されていたらしい。しかも、死傷者も出ていた。

 もしかしたら、アイツらも……。

 いや、変な事を書くもんじゃないな。取り合えずココヤシ村に着かないと。

 

 

 ■月*日

 

 すげえからかわれた。ベルメールさんとノジコに。

 何が「お姉さんの事心配してくれたんだ?」だ。年を考え……って書くとまた拳骨喰らうな。

 

 それにしても、無事でよかった。

 長い間辛い思いをしたみたいだが、生きてくれて良かった。

 たった数日の縁でしかなかったが、彼女たちは困っていたオレを助けてくれた恩人。だから、一番辛い時に助ける事ができなかったのが悔しい。それと同時に無事でホッとした。

 

 ……本人たちには絶対に言わないがな。またからかわれる。

 

 それにしても、麦わらを被った海賊か。

 何でも、腕が伸びる能力者で、偉大なる航路(グランドライン)の海賊に勝てるほど強いらしい。ギンも知り合いらしく、何処か穏やかに笑っていた。後、サンジとゼフさんとも知り合い……というか、前に所属していた海賊団が襲撃したとか。

 詳しくは聞かなかったけど、それが関係しているんだろうな。ギンが降ろされた理由は。

 

 ただ、メアリーは少し辛そうにしていたが……どうしたんだ?

 

 

 ■月=日

 

 ベルメールさんにオレが置いて行った財宝が返された。

 何でも、この宝のおかげでベルメールさんたちは今こうして生きていられる、と。

 まぁ、受け取らなかったんだけどな。

 ベルメールさんは足が動かなくなっていた。アーロンにやられたうえに、まともな治療ができなかったらしい。だから、この宝を使って治してくれと頼んだ。

 すると、何時かの日のようにお互い譲らず、半分に分けることにした。その時に、この前みたいな事をするなよ? と凄まれた。覚えていたのか。

 

 

 ■月?日

 

 ベルメールさんの怒声が懐かしい。

 横でメアリーが本当に良いの? と聞いて来たが……お互いに分かっていたことだから気にするなと言っておいた。

 

 それと、件の麦わらの海賊の顔を確認した。手配書に出ていた。三千万の賞金がかけられていた。横で見ていたギンが驚いていた。東の海でこの金額、それも初頭手配が三千万というのは破格だと。

 それだけ海軍や世界政府が警戒しているとも言う。

 

 にしても、この麦わら帽子シャンクスのに似ているな。

 

 

 ■月!日

 

 ギンも大分調子が良くなったようだ。

 着いた島で鉄球が付いたトンファーで体を慣らしていた。

 組み手に付き合おうか? と尋ねるも断られた。

 海獣みたいにミンチにされるのはゴメンだと。

 オレはいったいどういう目で見られているんだ。

 

 

 ■月~日

 

 メアリーが海賊に攫われた。帰りが遅いと思ったら誘拐かよ!

 親父にあれだけ注意されていたって言うのに。見てくれは良いから、攫われやすいのは当たり前だ。本人に言ったらどや顔するが。

 とりあえず、追いかけないといけねえ。

 ギンも心配しているしな。

 

 

 ■月<日

 

 現在、メアリーとメアリーを誘拐した海賊団を正座させている。

 あいつら、オレが駆け付けた時にはもう宴をしてやがった。メアリーを中心に。

 何が起きているのかと愚妹に問い質すと、何でもこの海賊団はメアリーに惚れ込んで、是非自分たちの一味に加えようとスカウトしたらしい。

 最初は断っていたメアリーだったが、自分を持ち上げる彼らにすっかり気を良くしてしまったらしい。

 何が「もっと私を褒めて!」だ。奥底にしまっている本音が出ているじゃねえか。

 まぁ、流石に冗談なのかしっかりと断っていたけど……しばらく反省してろ! という意味で正座させてい――

 

 

【これ以上は燃えていて読めない】

 




ギン「この日記、丈夫過ぎじゃないですか?」


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主人公日記 六ページ目

 ■月A日

 

 日記を新しく買う羽目になった。そう愚痴を零すと、クルー全員から「命が助かっただけでも良いだろ!」と言われた。

 

 さて、三日前の傷も癒えたので日記再開だ。

 そう言えば、メアリーに航海日誌も書いてくれと頼まれた。それをオレは断ってメアリーに書かせることにした。いや、だってこのままだとアイツすることが何も無いし。

 

 それにしても海軍にはあんな危険な奴が居るのか。少しでも海賊の気があれば、予め根絶やしにする……と。何とか退けたけど、もっと強くならないとな。覇気が使えても熱いものは熱いし、能力の発展に着手しなければ。

 

 しかし、何も悪い事ばかりじゃない。

 オレ達が求めていた船と仲間が一気に解決した。三日前のあの戦いでメアリーを勧誘した海賊たちだが、どうもオレ達と同じように最近海に出たばかりらしい。

 島で真面目に働くよりも、夢を求めて船に出た。そんなアホな……しかしオレ達と同じ志を持つ彼らは何時しか気が合い、一つの海賊――クルセイダー海賊団(メアリー命名)となった。皆カッコいいと喜んでいた。

 今では立派な船に海賊旗も掲げている。ようやく海賊らしくなってきた。

 

 

 ■月B日

 

 先ほど、別の海賊船に遭遇して戦闘になった。

 少し意外だったのが、船員たちが結構戦えることだった。オレがあのマグマ野郎と戦っている時は一目散に逃げていたのに。そう言うと、普通の海賊だったらアイツとは戦わないと呆れられてしまった。

 

 それと、ギンは完全に体調を取り戻した。オーラを流し込んで生命力を底上げし続けたおかげで、前よりも動きやすいと言っていた。

 ただ、最近ギンがオレ達と距離を取ろうとする。

 疑問に思っているとメアリーが「仲間になりたくなったんじゃないの?」と言っていた。

 だったらもう一度誘おうとすると、まだ前の海賊団に未練があるみたいだからそっとしておけと言われた。

 そういうモノなのかねぇ。

 

 

 ■月C日

 

 ギンが血相を変えて小舟で飛びだして行った。

 理由は新聞に書かれていたとある海賊団のことだ。

 クリーク海賊団とやらが島一つを襲って戦力を強化し、暴れているらしい。さらに海上レストラン・バラティエに報復しに向かっているとギンが言っていた。

 ギンはそれを阻止しに行った。自分を救ってくれた恩人の大切な場所を守るために。相変わらず義理堅い。

 

 という訳で、少し寄り道することにした。皆もオレと同じ気持ちみたいだったし。

 

 

 ■月D日

 

 ギンが仲間になった。もう未練は無いらしい。

 改めてオレの船に乗るからか、これからは船長と呼ぶとのこと。

 

 それと、クリークたちは全員縄で縛って、オレを追って来たマグマ野郎に押し付けた。大量に溶岩をぶっ放して来て一苦労だったけど。

 追って来なかったので、クリークを先に処理したのだと思う。数は多いからなクリーク海賊団。

 

 で、ギンの仲間入りを祝して現在進行形で宴をしている。メアリーはマグマ野郎から一刻も早く逃げるためにさっさと偉大なる航路(グランドライン)に入りたいと言っていたが、今では酒に呑まれて一緒に騒いでいる。

 

 さて、オレも参加するか。

 

 

 ■月E日

 

 メアリー他数名が二日酔いでダウンしている。加えて船酔いも。部屋の奥から呻き声がして軽くホラーだ。

 楽しいのは分かるが、もうちょい自制しろと注意しておいた。するとギンに「いや、あんだけ飲んで平気なアンタがおかしい」と言われた。

 

 とりあえず、後で見張りと買い出しに分担しないとな。宴をしたから予想以上に食料が無くなった。酒はほとんど無いし。

 

 

 ■月F日

 

 一日引き篭もって元気が出たのか、メアリーが急にこんな事を言い出した。

 誰が副船長になるか、と。自分がやりたいという気持ちを前面に押し出して。

 しかし、自分から副船長をするって言うのが恥ずかしいのか、皆に問い掛けていた。すると、意見が二つに割れた。メアリーとギンに。

 

 メアリーを推しているのは、単純にメアリーが可愛いから、とのこと。紅一点に何かしらの付加価値が欲しかったのだろうか? それを聞いたメアリーが少しいじけた。何でも、冷静な判断力とか航海術とか医術とか……そういう能力が評価されると思っていたらしい。じゃあそれを言えよって話だろ。

 

 そしてギンを推している連中は、先日のクリーク海賊団との戦いで見せた漢気に惚れ込んだらしい。本人はケジメを付けただけだと言っていたが。

 

 で、その後は話し合いがヒートアップしてお互いに副船長候補の良い所を叫び合うという、二人にとっての公開処刑となった。結局恥ずかしさで死にそうな顔をしていた二人が拳骨して止めると、船長であるオレに決めてくれと言われた。かなり必死な顔で。

 

 こうして、頼まれたオレは副船長をメアリーに決めた。本人がやりたいみたいだし、ギンは副船長じゃなくて良いって言っていたし。

 そう皆に伝えるとメアリーが怒った。皆の前で言うな、と。

 

 

 ■月G日

 

 始まりと終わりの町ローグタウンで偉大なる航路(グランドライン)突入前最後の出航準備に取り掛かった。流石に偉大なる航路(グランドライン)前だから、みんな念入りに準備していた。ギンの脅しめいた警告があったからだろう。そのギンは留守番していたが。

 ローグタウンでは親父が言っていたログポースと幾つかのエターナルポースを買っておいた。これが無いとまともに航海できないみたいだし。

 それと、処刑台にも行ったんだが……海賊同士の抗争中に落雷が起きて壊れてしまったらしい。一度見てみたかったんだけどなぁ。

 

 あと、妙に住民たちから怖がられていた。オレの顔を見た途端驚いて、中には悲鳴を上げて逃げていく始末。飯食った時も「お代は結構ですから!」と委縮され、港に着いた時は人だかりができていた。オレが来ると蜘蛛の巣を散らすように逃げて行ったけど。

 メアリーたちに聞いても理由が分からず、オレ達は疑問に思いながらもローグタウンを去った。

 

 

 ■月H日

 

 リバースマウンテン。昇る海流とは凄い物が見れた。これが偉大なる航路(グランドライン)か。

 

 現在はクロッカスさんの所で休憩している。船員たちが絶叫し過ぎてグロッキーだったからな。クロッカスさんも今日は此処で停泊していけと言われた。その代わり飯を奢れと言われたが。

 

 早く行ってみたいが、焦ったら全滅するって言われたし。

 気長に進むか。

 

 

 ■月I日

 

 ローグタウンで住民に怖がられていた理由が分かった。

 オレ、どうやら賞金首になったらしい。船員たちが記念に部屋に飾ろうと騒ぎ出して、止める間もなく飾られた。こういう時は早いんだよな……。

 

 それと、クロッカスさんは親父と知り合いだったみたいだ。その事が分かると笑顔で色々と教えてくれた。

 あと、オレの母さんも知っているらしい。どんな人だったのかと聞くと、親父から聞いていないのかと聞き返されてしまった。

 そうだと答えると、親父が言っていないのなら自分が言う訳にはいかないと話して貰えなかった。

 

 あと、オレが賞金首になった事で宴が始まった。

 こいつら、何かと理由付けて宴をしたがるな。

 まっ、オレもその一人だけど。

 

 

△▼△▼△▼△▼

 

 

 ジョットの部屋には、彼の手配書が額縁に収められた状態で飾られた。

 そこには――

 

『星屑のジョジョ 懸賞金1億ベリー』

 

 ――と、初頭手配としては異例の億越え。

 これが彼らにとって……そして世界にとってどういう意味なのかを、本人たちは知らなかった。

 

 




日記では分からない所を第三者視点で送るつもりなので、タイトルを少し変更しました。

この後、主人公日記を書くか他者視点を書くかは気分次第です。


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番外・世界の甲板から〜1億の男〜

「ベルメールさん! ちょっとこれ見て!」

「うん? どうしたんだい、ノジコ」

 

 東の海(イーストブルー)。コノミ諸島、ココヤシ村。その外れの一軒家。

 足の治療のため、家でゆっくりしていたベルメールの元に、ノジコが血相を変えて飛んできた。さっき収穫したみかんが泥棒にでも盗られたのだろうか? もしそうなら、その泥棒は絶対に捕まえないといけない。

 と、呑気に考えていると、ノジコは一つの手配書を突き出した。

 そこには、何年も前に一度出会い、そして少し前に再会した一人の男の顔が写っていた。戦闘中に撮ったのか、顔中傷だらけで険しい表情を浮かべたジョットの横顔が写っている。何も知らない人間が見ればとんでもない極悪人に見えるだろう。しかし、ベルメールは違った。

 

「お、早速お尋ね者になったのかあの坊やは。えっと懸賞金は……1億!?」

「ね? ね? 凄いでしょ!」

 

 先ほど自分がした同じリアクションをしたベルメールに、ノジコが我が事のように喜びを露わにして笑みを浮かべた。この手配書の事を教えてくれたココヤシ村の駐在ゲンゾウは何を喜んでいるんだと注意していたが。

 

「それはもう凄いさ。こんな凶悪犯見たことないよ! 初頭手配で、それもこの海でこの金額は前代未聞さ!」

「そんな事言って、ベルメールさんそんなに驚いていないよ?」

「ん? まあ、あの子ならあり得るかなって思ってね」

「そうなんだ? 実は私も!」

 

 本来なら彼の身を案じ、心配するのが普通だ。

 だが、ジョットなら大丈夫という根拠の無い信頼が彼女たちに笑顔を浮かび上がらせ、彼の海賊としてのデビューを祝した。

 

 

 

 そして、同じ海で彼の事を一人祝っている者も居た。

 

 海上レストラン・バラティエ。

 戦うコックさんとして有名な彼らは、今日も訪れる客のために料理を振る舞い、そしてゼフが作った賄いを食べていた。席に着いた彼らはゼフの料理を味わいながらも、少し戸惑った様子を見せていた。

 

「なんか、今日のオーナー機嫌が良かったな」

「ああ。賄いも全部作ったし。豪華だし」

「結構高い酒を部屋に持って行ったのを見たぞ」

 

 バラティエのコックたちが不思議そうに首を傾げているなか、ゼフはジョットの手配書を見ながら、一人で酒を飲んでいた。

 

「……あん時のガキが、随分デカくなったじゃねえか」

 

 体格も背丈も顔つきも随分変わっていたが、ゼフは海賊としての勘で『星屑のジョジョ』が自分とサンジを助けた子どもだと気付いていた。

 あれから会うことはなかったが、こうして成長した姿を確認するのは感慨深い。

 ただ、一つだけ不満がある。

 それは……。

 

「ったく、さっさと偉大なる航路(グランドライン)に行きやがって。飯くらい食いに来いってんだ」

 

 自分の夢を彼に見せることができなかった事だ。

 

「まっ、また戻って来た時に食わしてやるか」

 

 そう呟くと、ゼフは酒をグイッと飲み干した。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「……」

 

 場所は移って偉大なる航路(グランドライン)

 最近この海に入って来たとある海賊が、アラバスタという国を目指して船を進めていた。

 船の名はゴーイングメリー号。その船に乗っているのは懸賞金3000万ベリー『麦わらのルフィ』とその一味。

 次の島リトルガーデンに向かう最中、航海士ナミは新聞に書かれていたとある情報に関心を寄せていた。

 前面に押し出されているのは、偉大なる航路(グランドライン)で暴れる海賊たちの話題……ではなく、それらを押し退けて東の海(イーストブルー)で起きた一つの出来事が書かれていた。

 それは、海軍大将赤犬が無名の海賊に重傷を負わされたという前代未聞の大事件。それも、最弱の海と呼ばれる東の海(イーストブルー)で。

 海軍は事を重く見て件の海賊……星屑のジョジョに1億ベリーの懸賞金を懸けていた。

 

 ナミは、自分の故郷の海でそんな事が起きていたと知り、初めは酷く動揺した。しかし、新聞に挟まれていた手配書を見ると奇妙な感覚にとらわれて、今では不思議なほど落ち着いている。

 

「どうしたんだい? ナミさん」

「あ、サンジくん」

 

 そんな彼女にいち早く気づいたコックのサンジが話しかけ、彼女の持っていた新聞に気が付くと書かれていた内容を流し読みした。

 すると、書かれていた内容に驚いて目を見開く。

 

「こいつぁ……またとんでもない奴が現れたな」

 

 ここ最近新聞に載り世間を騒がせている海賊は多い。

 彼ら……麦わらの一味に加えて、死の外科医トラファルガー・ロー。魔術師ホーキンス。赤旗X・ドレーク。ユースタス“キャプテン”キッド。他にも政府に危険視されている海賊はまだまだ存在し、これからも勢力を拡大していく事は明らかだった。

 

 そんな彼らを背後から殴りつけるかのように現れた1億のルーキー。

 無視するにはあまりにも大きな存在だった。

 

(こんなのが後ろから来ているって知ったら、そりゃあ怖えよな)

 

 サンジは、件の海賊にナミが怯えているのだとアタリをつけた。

 ならば、彼がすることは決まっていた。自分の温かい愛で震えるナミさんを包み込む。

 そしてあわよくば……。

 そう考えて、いつもの調子でサンジは目にハートを浮かべて船上を舞う。

 

「心配しないでナミすわぁ~ん! そんな奴が来ても、貴女の騎士であるこのオレ、サンジがこの命を掛けてでもお守りしむぁ~す!」

「え? ……ああ、うん、そうよね。普通なら怖がるところよね……」

「……あれ?」

 

 しかし、返って来たのはナミの曖昧な返事。

 どうしたのだろうか? と首を傾げるサンジ。

 そんな彼にナミは、自分だけでは理解できないからか、今自分が感じている違和感をそのままサンジに話す。

 

「この手配書を見たら、何だか怖いとかそういう気持ちが吹き飛んで……それで、えっと何と言うか……」

「……?」

「これなんだけど……」

 

 そう言ってナミが渡して来たのは星屑のジョジョの手配書だった。

 厳つい表情を浮かべて、見る者に畏怖を与える迫力があった。我がままな子どもにこの手配書を見せて『良い子にしていないと、この海賊が来るぞ』と言えば、すぐに良い子になりそうなほどに。逆に、アウトローな男性が好みな女性は、バッチコイと言いそうなイケメンだった。

 

「なーんか気になるのよねぇ。何というか、初めて見た気がしないって言うか……」

 

 現在感じている違和感に近い言葉を並べるも、未だにスッキリしなかった。

 

(多分気のせいだと思うけど……)

 

 今は別の何かに考えを囚われている場合ではない。

 女好きで、男には興味無いサンジなら『スカした野郎だ』と吐き捨てて、それにナミが苦笑しておしまい。その筈だった。しかし……。

 

「こいつは……」

「? どうしたの、サンジくん?」

「いや……なんかコレ見てると妙な既視感が……。

 バラティエにでも来たのか? いや、それにしてははっきりと覚えていないし……」

 

 記憶を掘り返してみるも、このような()()()()に会った覚えが無かった。もし顔を合わせていたら忘れる事はないほどの存在感があるにも関わらず。

 

「あれ? サンジくんも?」

「……どうやら、そのようで」

「同じ海出身だから何処かで会っていたりするかもね。何処かの海賊だったのかも」

「お~いサンジ! おれ腹減った! 肉食いてえ」

 

 二人揃って頭を捻っていると、腹を空かせたこの船の船長がサンジを呼んだ。呼ばれたサンジは呑気な彼にため息を吐いて、キッチンに向かうことにした。

 

「ナミさん、あまり気にしても仕方ねえよ。それに、今は後ろを気にするより前を気にした方が良い。なんせ相手が相手だからな……」

「うん……そうね。ありがとうサンジくん」

「いえいえ~~! ナミさんのためなら、オレは人生の参謀総長に――」

「サンジーー! 肉ーー!」

「っるせえ! 聞こえてるよ! じゃあ、ナミさん。オレはあいつ黙らせて来る」

「うん、分かった」

 

 サンジは『肉! 肉!』と騒ぐルフィのケツに一つ蹴りを入れるとキッチンに入って行った。そんな彼と入れ違いになるように先ほどまでルフィと騒いでいたウソップが彼女に近づき、手に持っている手配書に視線を送りながら尋ねる。

 

「何の話をしていたんだ?」

「後ろから追って来る1億の賞金首」

「は!?」

 

 ナミは軽くウソップに伝えた。

 するとウソップは顔を真っ青にし、ガクブルと体を震わせて、ナミが『追い付かれたらやばいかも』と冗談交じりに言うと。両手を上げて悲鳴を上げた。

 

「なんでそんな怪物が東の海(イーストブルー)に!? ああ、どうか鉢合わせしませんよーに」

「手配書、見る?」

「怖くて見れねーよ! 夢に出るわ!」

 

 しばらく後方への気配探知を巡らせておこう、と過剰に怖がるウソップ。

 それを見て可笑しそうにナミは笑った。

 

 彼らがこの奇妙な縁に気づくのは、もう少し先の話である。

 

 

 △▼△▼△▼

 

 

「――分かった、奴には私から伝えておく。……ああ、無理はするなよ」

『ガチャ』

「……はぁ」

「終わったか? どうじゃったアイツの調子は?」

 

 電伝虫の受話器を置き、深いため息を吐いたのは海軍本部元帥センゴク。先ほどまで怒りに燃えていた赤犬とこの時期に新たに発生した頭痛の種に、彼は頭を押さえた。そんな彼の傍では海軍本部中将ガープが、持参した煎餅を齧りながら赤犬について問いかけた。

 

「傷の方はほぼ癒えたようだが、頭に血が昇っていた。全く、忌々しい限りだ。クルセイダー海賊団……!」

「サカズキを怒らして逃げ切るとはな。なかなかできることじゃないぞ、ぶわははははは!」

「笑っとる場合かガープ!」 

 

 何処までも楽観的なガープにセンゴクの額には血管が浮き出ている。

 常に自由気ままな彼を見ていると、自分も元帥の立場を放り出して傍観を決め込みたいほどの事態。

 おかきを食いながら笑っている自分を思い浮かべて、まるでガープみたいだと頭を振った。自分が今居なくなると、世界が混乱するのは分かり切っているので元帥として最善の手を打たなければならない。

 

「この小僧、明らかに奴()の息子だ」

「それしかあり得んじゃろ。奴がワシに向かって言ったんじゃからな」

「くっ……どうにか1億まで()()()()、何時まで騙し通せるか」

 

 そもそも、血筋、強さを考慮すれば、本来のジョットの賞金額はもっと上だった。彼を1億の賞金首にするのは、真正面から戦って逃げ切られた赤犬の評価を、ひいては海軍の評価を下げる行為だ。

 もしこれが新世界の海で起きたのなら、何も問題は無かった。しかし現実は現実。

 五老星から下された無理難題を何とか達成したセンゴクは、心労のあまり少し痩せているように見えた。

 むしろ、これはただの時間稼ぎだという事を理解している。だからこそ、早急に対処しなければならない。ならないが……。

 

 現在、動かせる戦力はあまりにも少ない。

 大将黄猿と数人の中将は現在新世界で四皇への牽制に向かっており、大将青雉は療養中。大参謀おつるはシャボンディ諸島で睨みを利かせ、ガープも消耗している。

 そんな状態で四皇の……特にロジャー海賊団に出し抜かれた事のあるビッグマムにジョットの全てがバレれば――海軍の手には負えない事態になる。

 

「ビッグマムやカイドウならともかく、白ひげは察しているじゃろうな」

「赤髪は言うに及ばず、な」

「今にして思えば、これも奴の策の一つだろう……くそ、隠者め……! 世界を混乱させる気かっ」

「案外奴の気まぐれに振り回されただけかもしれんぞ。もしそうなら、ワシに喧嘩なぞ売らん」

「それが分かっているから腹が立つんだ! ああ、くそ。アイツが関わるとロクな事にならない……!」

 

 あの時も、その時も、エッド・ウォーの時も、とブツブツ愚痴を零すセンゴク。

 かなり参っているようで、流石のガープもいつもの調子で話しかけることはできなかった。

 センゴクが一通り胸の奥で燻っていた苛立ちを吐き出したのを見ると、ガープは問い掛ける。

 

「で、どっちが行くんじゃ?」

「……青雉だ」

「まぁ、妥当じゃろうな。クザンには悪いが」

 

 これからの動きを確認したガープは、よっこいせと立ち上がるとその場を後にしようと歩き出す。

 青雉が動くのなら、その間にガープは傷を癒し、この先の戦いに備える必要がある。

 センゴクもそのつもりでそう決めたのだ。

 

「さて、飯食って寝て……山を幾つか殴って来るか」

「大人しく傷を癒せ、この自由人!!」

 

 平然と自然破壊を口にする腐れ縁に、センゴクはこの日最後の叫び声を上げた。

 




ちょっと口説くしすぎた。それなのにはっきりと判明させていない。ちょいと反省。

追記

青雉療養中は間違えてませんのでご了承ください


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主人公日記 七ページ目

 〒月&日

 

 クロッカスさんとラブーンと別れて海に出た。

 ログポースに従って進めばいつか『ラフテル』に辿り着けるらしいが……この海は凄いな。

 雪が降ったり、桜が舞ったり、雨が降ったと思ったら日差しになり、気が付いたら船が逆走して今までの常識が通じない。

 予め偉大なる航路(グランドライン)については聞いていたが、予想以上だった。今は天候も海も落ち着いているので、ローテーションを組んで舵を取っている。

 早くこの海に適応しないとな……。

 

 

 〒月:日

 

 ギンに言われて初めて知ったが、どうやらオレのオーラは色を変える事が出来るらしい。詳しく聞いてみると、最初は赤犬のマグマで赤く見えたと思っていたが、よくよく見るとオレの腕から出ていたのはいつもの透明色ではなく赤色。さらに、最後の一撃を叩き込んだ時は一瞬だけだったけど水色に変わったとのこと。

 試しに力を込めてみると深い青色に変化した。面白かったので色々と変化させて遊んでいると……ぶっ倒れた。どうやら、代償無しにできる技では無いようで、体力がごっそりと削られた。

 メアリーにオーラは生命力なんだから、いきなりそんな事すれば当たり前だとギン共々怒られた。

 くそ、メアリーの癖に生意気な……。

 

 

 〒月・日

 

 メアリーが賞金首になりたいと言っていたので、赤犬と戦うか? と言ってみたところ全力で拒否されて『殺す気か!?』と言われた。アイツと戦ったら一億になれるんだけどな。大将一人一億。……なんか安く感じる。

 

 で、メアリーに触発されてか他のクルー達も賞金首になりたいと言い出した。ファッションか何かだと勘違いしていないか?

 

 

 〒月=日

 

 偉大なる航路(グランドライン)初の島に辿り着いた。オレが上陸したのは夏島で、顔がデカイ人間や動物が住んでいた。顔がデカイせいで体が小さく見える。オレ達と変わらないのにな。

 この島でログが溜まるのは20時間らしいので、補給するだけに留めておいた。

 

 

 〒月×日

 

 メアリーが昨日の島で高い買い物をした。なんと、悪魔の実だった。これで戦力アップできると喜んでいた。コツコツと小遣いを貯めていたのは知っていたが……この為だったのか。今まで立ち寄った島でも探していたらしい。

 で、メアリーが食べた悪魔の実の名前は『スカスカの実』。あらゆる物体を通り抜ける能力だ。

 いや、能力が発動した瞬間はビックリした。いきなり船板の中に消えたかと思えば、そのまま海の中で溺れて危うく死に掛けて、能力に慣れるまで覇気を使えるオレに掴まって泣いていた。……オレも一緒に沈み始めた時は流石に焦ったが。

 やれやれ。メアリーには早く能力に慣れて貰わないと。

 

 

 〒月%日

 

 メアリー、能力に慣れるの早くないか? 

 

 能力者自身を死なせるハズレだと思われていたスカスカの実だったが、使いこなすと凄い力を発揮する有用な悪魔の実だった。

 足の裏以外の体を能力で通り抜けるようにすると、覇気を纏わせた攻撃以外はすべて通り抜ける事ができる。クルー達が無遠慮にメアリーの体に手を突っ込む光景はセクハラ以外の何物でも無かったが、戦闘でこれを使えば相手の攻撃を避ける事ができ、罠や障害物も有って無いようなものだ。

 加えて、この能力は他人や物にも効果があり、海獣が何度襲って来ても通り抜けて楽だった。

 

 メアリーは他にも使い方があり、研究のしがいがあると目を輝かせている。能力を使った戦闘方法も考えているのだろう。鎖やら爆弾やら、途中で武器だけ透過解除やら物騒な言葉を漏らしていた。

 ……兄として少し心配である。

 

 

 〒月/日

 

 ログポースが示す島に辿り着いた。町が見えたのでなるべく目立たない所に船を止めた。オレ達は既にお尋ね者。軽率な行動をすればまたマグマ野郎みたいな輩に追われそうだからな。

 

 で、入ってみた町の感想は……言っちゃ悪いが普通だな。偉大なる航路(グランドライン)の島にしては穏やかな気候だ。航海が大変だっただけに余計にそう感じる。

 

 思わずそう言うと、すれ違い様に「ありがとう」と言われた。……何でだ?

 

 そういえば、何処かで見たことあるスーツを着た男たちが居たな。デカくて丸いのと歌舞伎で路銀を稼いでいる男だ。オーラを見る限り、この町の人間じゃないみたいだが……。

 

 

 〒月$日

 

 妙な噂を聞いた。何でも、この島の近くに革命軍の支部基地があり、世界政府の諜報機関の人間が暗殺をしに来ている、と。……何でここまで詳しい内容の噂が流れているんだ。

 

 そして、その噂を聞いた人たちは不安そうにしていた。何でも、この島は少し前まで国と国の戦争に巻き込まれていたらしい。この島にある鉱山から取れる鉄は、特殊な性質を持っていて強い武器が作れるとのこと。それを採掘するためにこの島は国に無理矢理支配下にされて、先住民である彼らは奴隷のように扱き使われたり、兵士として連れて行かれたりしたらしい。しかし、それを革命軍が介入し、以後戦火の渦に巻き込まれないようにしている、とのこと。

 だからもし革命軍の人間が殺されれば、再び戦争によって荒れる。

 

 その事を教えてくれた女の子は泣きそうな顔で、もう誰かが死ぬのはイヤだと言っていた。女の子の両親は既に連れていかれてしまったようで、養子に取った酒場の店主も辛そうな顔をしていた。

 

 オレはこの町は普通だと思っていた。しかし、それは違った。この町はようやく平和になったんだ。

 それを再び奪われようとしている。

 

 

 〒月^日

 

 今日、オレは特に理由は無いが町に出てゆっくりと酒を飲みたくなった。そしてまたもや偶然にも、近くにある基地っぽい所に宝がある予感がして、無性に行きたくなった。もしそこに誰か居ても、何か起きていても知らないが、オレ達海賊にとって目の上のタンコブである世界政府の諜報機関の人間が居たら、防衛本能が働いて倒してしまうかもしれない。

 

 そして、それはメアリーもギンもクルーの皆も同じだったようだ。ならば全員で行こうと思い立ち……現在牢屋の中にぶち込まれている。

 どうやら先住民が居たようで、オレ達はあっという間に捕らえられてしまった。その時につい口から不審な気配を建物の中に感じると言ってしまったが……忙しなく動いている所から察するに、戦闘中なようだ。

 

 やれやれ。見聞色の覇気を広範囲に張り巡らせ続けるのは疲れるな。メアリーが鍵を取って来るまで覇気の回復を待つか。

 この後は、いやが応にも防衛本能が働くからな。

 

 

 〒月〜日

 

 CP9。正義の……いや、世界政府の正義の為なら、何でもする戦闘集団。そして、人造兵器パシフィスタ。

 海賊で、一億の賞金首であるオレが言うのも何だが……あんな吐き気のする正義は一生理解できる気がしねぇな。

 世界の為だ、平和の為だと抗弁垂れながら弱者を利用して踏み躙る。それに抗うのが悪だと云うのなら、オレは一生悪で良い。自分曲げてまで生きたくないしな……。

 

 しかし、本当に良かったのだろうか。あの女の子に……いや、島の住民達が望むままに鉱山を殴り砕いたが、アレはアレで有効活用すれば革命軍の力になると思ったんだが。

 そう尋ねると、革命軍も扱いに困っていたようでオレがさっさと壊して悩みの種が消えたと笑っていた。

 

 それにしても縄張りか……海賊は、特に偉大なる航路(グランドライン)後半の海賊達は縄張りを持って居るらしいが、この海に来て早々持つ事になるとは思わなかった。

 いや、このまま前に進むのが心配だとクルー達が言うものだから革命軍の提案に乗ったし、島の人達も喜んでくれたから何も問題無いが……まだ一億の賞金首なだけの海賊だからなぁ。

 

 革命軍が守っている間に力を付けないとな。アイツらはもうオレの仲間みたいなものだし。

 

 

 〒月,日

 

 次の島に向かって出発した。その際に島の人達と革命軍に見送って貰った。

 あの島はすぐに強くなるだろう。

 守って貰うばかりじゃイヤだ。自分たちも戦う、と革命軍に守る為の戦い方を教えて貰っていたしな。ひとつなぎの大秘宝(ワンピース )を見つけて、偉大なる航路(グランドライン)を一周して戻って来た時が楽しみだ。

 

 さて、次はどんな島かな?

 

 

〒月€日

 

懸賞金が二億に上がっていた。




世界政府及び海軍本部「おっ、案の定暴れとるやんけ。懸賞金上げたろ」


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主人公日記 八ページ目

 #月*日

 

 オレの懸賞金が二億に上がると同時に、新聞ではオレ達の事が好き勝手書かれていた。鉱山を()()()()壊したやら、世界政府に対して敵対の意志があるとか無いとか……。

 全く、自分たちに都合良く書きやがって。おかげでオレたちはイカれた海賊として見られてやがる。海賊だから、今更って感じだが。

 

 ああ、そうそう。

 今回の事件で懸賞金が二億に上がったオレだが、この船から新たに懸賞金を懸けられた奴が何人か出た。

 

 鬼人のギン。懸賞金6000万ベリー。一人でCP9の一人を倒した事と政府が開発したというパシフィスタの足止めをしていた事から、その戦闘能力の高さを危険視されたのだろう。オレと負けず劣らず厳つい顔で写っていた。

 で、もう一人はメアリーなんだが……片手を顔にかざしてポーズを取っていた。本人は呻き声を発しながら、スパンダムがどうのこうのと恨み声を上げていた。戦闘中はノリノリだったのに、どうしたのだろうか邪眼のメアリー様は。ちなみに懸賞金は5000万ベリーだ。

 

 他にも300万や200万とクルーたちにも懸賞金が懸けられていた。パシフィスタのレーザーで吹き飛ばされて瀕死だったとは思えない程、喜び騒いでいる。また傷口開いてぶっ倒れないで欲しいのだが……。

 

 

 追記:あのアホ共、案の定傷口開いてぶっ倒れやがった。オレの能力は万能じゃねえんだぞ全く。

 

 

 #月$日

 

 メアリーから聞いて初めて知ったが、CP9が使っていた妙な技は六式っつー超人技らしい。海軍の将校たちも使っているのだとか。

 で、ギンはそれを有用だと思ったのか、戦闘での経験を元に自分のモノにしようとしていた。我流かつ一度の戦闘でしか見ていなかったからか苦労しているが、オレが見る限り五回は地面を蹴っていたので、すぐに会得できるだろう。

 それに触発されたという訳ではないが、オレもCP9の技の一つを再現してみた。オーラを使ったから別のモノになり、メアリーに『スター・フィンガー』と名付けられた。アイツ、邪眼のメアリーを恥ずかしがっている割に、こういう事好きだよな……。ギンのにも付けようとしていたが逃げられていた。相変わらず騒がしい奴らだ。

 

 

 #月=日

 

 辿り着いた島で、えらい大物の海賊と出会った。

 名を火拳のエース。白ひげ海賊団の二番隊隊長で新世界の海賊。

 何でも、黒ひげという海賊を追っているらしい。……ちなみに、オレのクルーの後ろ姿が丸っ切り同じで飛び蹴りをかましたのだとか。それを見て仲間を傷つけられたとプッツンしたオレとエースが戦闘になり、近くの海軍を呼び寄せて返り討ちにしている内に誤解が解けた、というのが先ほどの顛末。謝罪を受け入れて今は宴会中。

 

 エースに白ひげの傘下に誘われたが断っておいた。オレは海賊王になる男だ。誰かの下につくつもりは無い。そう返すと弟を思い出すと言っていた。誰の事かと聞くと、麦わらの事だと答えられた。

 

 ……しかし、一つだけ気になることがある。

 皆が寝静まった夜。メアリーとエースが何か話していた。船を降りる云々ではなかったため、盗み聞きはしなかったが……。

 

 メアリー、お前何でエースに謝っていたんだ?

 

 

 #月+日

 

 エースは黒ひげを探しに船を降りて行った。去り際に妹を大切にしてやれと言われた、下の兄弟を持つ者同士で何か感じるものがあるのだろう。テメエもなと返すと不敵な笑みを浮かべて、何時か戦って負かして白ひげの名を背負わせてやると言われた。

 

 ――上等だ。オレは誰にも負けねえぞエース?

 

 ちなみに、センチメンタルになっていたメアリーはクルーたちから激しい追及を受けている。エースに惚れたんですか!? と涙ながらに縋りつくのは見ていて情けない。ギンも泣かないまでも「マジなんですか?」と真面目に聞いてくる始末。

 

 エース、オレたちを白ひげのトコに置いたら……コレらも付いてくるんだけど。

 良いのか?

 

 

 #月&日

 

 同行者ができた。魚人のハチ、人魚のケイミ―とヒトデのパッパグだ。

 出会いは、オレ達の船を襲って来た海獣を殴り倒した所、ケイミ―とパッパグが吐き出されたことだ。ボーっとしているからか、良くあるらしい。

 その後、ケイミ―を探しに来たハチと出会いお礼にタコ焼きを食わせて貰った。秘伝のタレを使っているらしく凄く美味かった。意気投合したオレたちはしばらく一緒に航海する事にし、次の島に向かって進んでいる。

 

 

 #月%日

 

 クルーたちはケイミーにメロメロだった。流石は夢を求めて海に出た男達。何時か魚人島に行きたいと叫んでいた。

 そして、ちょうどケイミ―たちは魚人島出身なようで、色々と話を聞いた。その島に行くための手段、シャボンディ諸島、コーティングなど。磁気を帯びていない島だからログポースでは辿り着けないらしく、周辺の海図を渡してくれた。至れり尽くせりだな。

 

 

 #月:日

 

 メアリーが新聞を見てホッとしていた。覗いてみると、ある国の内乱が治まったらしい。アラバスタ王国って言うらしいが……相変わらずこいつはオレ達の知らない事を知っているんだな。今更だから聞かねえが。

 

 それと麦わらの懸賞金が一億に上がっていた。クルーからは海賊狩りのゾロという名の剣士が6000万に。どっちも強そうだ。

 

 ギンも恩人かつライバルの躍進に笑みを浮かべていた。

 

 

 #月>日

 

 一つ判明した事実がある。それは、ハチがかつて東の海でベルメールさんたちを苦しめた魚人海賊団の一員だったこと。

 それを知ったのは偶然だった。手配書を見たあいつが驚き、話を聞いて、ベルメールさんの話を……足が動かないあの人を思い出し――オレは、殴っちゃあいけない拳を必死に抑え込んでいた。

 最初は驚いていたハチも、クルーたちも、オレとメアリーから聞かされた話を聞いて黙り込んだ。

 

 ハチは、オレに謝った。そして後悔していた。ナミたちに酷いことをしたと。許されることではないと。断罪されても仕方のないことだと。罰なら甘んじて受けると。

 ケイミーとパッパグは泣いていた。どうか、話を聞いてあげてと。クルーたちは黙っていた。船長のオレに従うと。ギンは言った。いつもの自分を思い出してくれと。メアリーは言った。ハチをどうこうするのなら、アーロンが何故東の海に来てああいう事をしたのか。知る必要がある。

 

 それを聞いてオレは、ハチから話を聞いた。

 タイヨウの海賊団。フィッシャー・タイガーの死。魚人と人間の確執。アーロンの怒り。そして、あのコノミ諸島で起きた悲劇。

 

 全てを聞いたオレは――ハチにまず謝罪した。いきなり、友達に殺気をぶつけてすまない、と。すると戸惑っていたので包み隠さずオレの気持ちを伝えた。未熟な自分への戒めとして此処にも書いておく。

 

 ハチに対して怒ったのはベルメールさんたちに酷いことをしたから。だが、それは八つ当たりでしかなかった。オレは、恩人たちが本当に苦しい時に助ける事ができず、それが悔しいと思い――何もできなかった自分が情けなかった。オレにハチに怒りを向ける資格が無かった。だから謝った。まるで己の失態を取り返すかのようなあの行為に。

 だけど、それと同時にして欲しい事がある。傷つけたベルメールさんやノジコ、ナミ。そしてコノミ諸島の皆。彼らに何時かしっかりと謝って欲しい、と。その時は友として一緒に頭を下げるから、どうか。

 ハチは、人を愛することができる優しい奴だ。そんな奴だからオレは友だと思い、そして後悔しているのなら、するべきことをして欲しい。そして、魚人と人間、その他種族関係なく世界中の皆に美味しいタコ焼きを作ってやれ。

 

 以上の事をオレはハチに言った。オレの気持ちはこうだったと思う。

 ハチも泣きながら約束してくれたし、何時か東の海に行くと言っていた。麦わらたちに会ったら謝りたいとも言っていた。オレはそれを黙って聞いていた。

 

 ここで終わったら良かったんだが、感動したクルーたちが泣き叫びながら宴を始めた。今日の事は忘れないと叫び、やれフィッシャー・タイガー大好きだ! やれハチ頑張れ! 手伝うよ! 後オレの事を褒めちぎる奴は酒飲んで寝て貰った。恥ずかしいんだよ……!

 しかし手遅れだったようで、ケイミーとパッパグに泣かれながらハチを殺さなくてありがとうと言われた。普段どう見ているのかが窺える……。

 ギンはギンで泣きながら黙々と飯食って「アンタについて来て良かった」と言われた。一番困る態度で何もできなかったぜ……。

 

 そんな風に疲れているとメアリーにこう尋ねられた。

 

『なんで数日間しか世話になっていないのにそこまで入れ込むの?』と。

 それに対してオレはこう答えた。

 『数日間も世話になったんだ。当たり前だろ』って。するとマザコンと言われた。それに対して抗議するも、アイツも女だからか()()()の話題では敵わなかった。

 

 

 #月」日

 

 今日、世界政府から妙な手紙が届いた。

 それは、王下七武海への勧誘。

 七武海の一人、クロコダイルがアラバスタの件で海軍に捕らえられて称号剥奪となり、その空いた席を埋めるためにオレの元に白羽の矢が立った、と。

 七武海に必要なのは言ってしまえば強さと悪名だと言っていた。それをオレは満たしているから、アンタの所に話が来たんだとクルーたちが興奮した様子で言っていた。

 

 興味無いので破って捨てた。

 

 すると全員から驚きの声を上げられて、メアリーにはすげえ怒られた。

 今の時期に入ったら、救える人が居るのに、と。

 そうは言ってもオレは海賊だ。自由にやるのに七武海は必要無いしむしろ邪魔だ。そう言うと皆納得し、メアリーは落ち込んだ。そんなにショックだったのかね?

 

 あとケイミーたちに二億なの!? と驚かれ、今更かよ!? と逆にこちらが驚き返した。ジョジョっちんって強いんだねーとケイミーには呑気にそう言われて、パッパグは流石同じスターだ! とフルネームを名乗って以来妙な親近感を覚えられ、ハチにはすげえなジョジョと感心された。

 

 そういえば、ハチは王下七武海の一人、海峡のジンベエと知り合いだったので、どんな奴なのかを聞いてみた。すると、とても強く義理堅い人だと。仲間の為に自分に命を張れるとも言っていた。

 一度、会ってみたいものだ。

 



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栞 一億になった理由

後書きにて、今回の話に関する作者からのメッセージを書きました。興味がある人はそちらから見ても良いかもしれませんでし。


 

「オレの話を聞きたい?」

「うん! ジョジョっちんの冒険話、聞きたいと前々から思っていたんだ~」

 

 偉大なる航路(グランドライン)。とある島。

 彼らクルセイダー海賊団と海上タコ焼き屋『タコヤキ8』一行は、近くの島に停泊し宴を開いていた。

 

「財宝にかんぱ~~いっ!」

「メアリーの副船長にかんぱ~~い!」

「宝を見つける副船長の邪眼にかんぱ~~い!」

 

「全員そこに直れ!! 地底深くに埋めてやるっ!!」

 

 

 

「……相変わらず騒がしい奴らだ」

「でも楽しいよージョジョっちん」

 

 少し離れた所で、静かに酒を飲むジョット。その隣にはケイミーとパッパグ。そしてハチたちが、副船長とクルーたちの鬼ごっこを見て笑っていた。

 別の場所では、ギンが他のクルーと飯を食らいつつ傍観していた。ジョットが怒る前に止めるつもりなのだろう。エースの一件以来、この船では彼を怒らせてはいけないと暗黙のルールが敷かれていた。もし怒らせれば、ジョットのラッシュで空を飛ぶことになるのだから。本人は、仲間にそんな事はしないと否定するが……。

 

「ああ、知っているよ。アイツらは理由さえあれば……いや、理由が無くても宴を開くからな。初めて会った時からそうだった」

「そうなの?」

「ああ。誘拐したメアリーと酒飲んで騒いでいた」

「いや、メアリーはメアリーで一緒になって騒ぐなよ!」 

 

 思わずパッパグが突っ込むと、ジョットはご尤もと頷く。

 そしてグラスに入っていた酒を飲み干すと、思い出したかのように呟いた。

 

「そういや、あのマグマ野郎と会ったのもあの時だったな」

「にゅー? マグマ野郎って……赤犬のことか?」

「ああ、そいつだ」

「……お前ら、よくあの大将から逃げ切れたな」

 

 ハチは心の底からそう思っていた。

 大将の恐ろしさはよく知っている。特に、今の三大将たちは。

 かつて彼の船長だったアーロンも――当時は中将だったが――大将の一人に捕らえられてしまった事がある。それを無しにしても最高戦力と言われている。並みの海賊では太刀打ちできない。

 だから、興味よりも恐怖の方が勝ってしまう。

 

「なあなあ! 我が同士スターよ! その時の話、聞かせてくれよ!」

「あ、私も聞いてみたーい! ジョジョっちんの冒険のお話!」

 

 しかし、そのまた逆も然り。

 ケイミ―とパッパグが話してくれとせがんだ。それを見たハチが止めようとするも……。

 

「別に構わねえぞ? と言っても、アイツがどれだけ強いのかくらいしか分かんねーが」

「それでも聞きたーい!」

「ああ、分かった。だからそこまではしゃぐんじゃねーぜケイミー。……さて、確かあの日は海が穏やかな日だった。そんないい日だって言うのに、オレは誘拐されたメアリーを――」

 

 ジョットは語り出した。東の海(イーストブルー)で赤犬と初めて邂逅した事を。

 そして、彼が賞金首となった原因となる戦いを。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 軽いノリで海賊を始めた若者たちとメアリーを正座させていたジョットが、ふと視線を明後日の方へと向けた。

 

(なんだ……?)

 

 視界の隅でチラリと映った赤いオーラ。それは、今のジョットには本来見えない筈の物。

 彼の目には能力の影響でオーラが見える。人や動物、土や海、果てには空気中の小さなものまで。そんな物が常時全て見えている。しかしそれはジョットに不要な情報を与え続けるという事であり、気が休まらず疲れるので普段は能力を抑え込んでいる。

 しかし、その状態の彼の目に映るという事は、それだけ強いオーラを持っているという事。

 ジョットは、その赤いオーラに意識を集中させて――顔を強張らせた。

 

(こいつは――)

 

 相手のオーラの濃さにジョットは戦闘態勢に入った。それにギンが気付くと同時に、草木を押しのけて一人の男がこの場に現れた。

 

「貴様ら、ここで何しとるんじゃ」

 

 赤いスーツに海軍の帽子。そしてコートの背には『正義』の二文字。

 いきなり現れた男に怪訝な表情を浮かべた新米海賊たちだったが、それが海軍の人間だと気づくと驚きに目を見開き、そしてソレが誰かを理解すると大口を開いて絶叫した。

 

「海軍本部大将……赤犬~~!?」

「なんで大将がこの島に……いや、東の海(イーストブルー)に居るんだよ!」

「何しに来たんだ!?」

 

 ――全くその通りだ……! ギンの頬にタラリと冷や汗が流れた。大将と言えば海軍の最高戦力。そんなものがこの東の海に来ている事に、そしてよりにもよってこの島で鉢合わせた不運に、覆わず胸中で悪態を吐いた。

 しかし当の本人は、騒ぎ立つ海賊たちの声に苛立ちを露わにするだけだった。

 ギロリと睨みつけると途端に静かになる。

 

(一睨みするだけで、このプレッシャーかよ……!)

 

 ギンの脳裏にトラウマが蘇る。

 かつてない緊張感に包まれた中、ゆっくりと赤犬が口を開く。

 

「海岸に海賊旗を掲げた船が一隻、小舟が一隻あった。……あの海賊船は誰のものじゃ?」

 

 不味い、とギンは思った。

 この世界で海賊旗を掲げる事は、海軍と敵対する意味を持つ。つまり、ここで正直に話せば彼の『徹底的な正義』の元、すぐさま処刑されてしまうだろう。

 

 船の持ち主である彼らは恐怖で口を開くことができなかった。しかし、思いっきり体を跳ね上がらせてしまい、赤犬の目が彼らを射抜く。

 お前らか、と目が言っていた。

 睨まれた新米海賊団は自分たちの死を覚悟した。

 しかし、この絶体絶命の中、メアリーが手を挙げて言い放った。

 

「いいえ、ここには海賊は居ません!」

「……なんじゃと?」

 

 ――何を言っているんだあの娘は!? その場に誰もがそう思った。

 赤犬に睨みつけられて、全身を振るわせて冷や汗をダラダラと流しながらも、メアリーは生き残るために舌を回す。

 

「確かに海賊旗を掲げてはいますが、あれは酒を飲んでふざけて掲げただけです! 確かにちょっと……ほんの少し……いや、ミジンコくらい『海賊してみたいな~』と思う気持ちがあったりなかったりしていたのかもしれませんが、彼らがやった事と言えば船乗って海に出て宴会したくらい。つまりまだ海賊未満! むしろ海軍が守るべき民なのです!」

(よくもまぁペラペラと……)

 

 ギンは、即興で言葉を紡いでいくメアリーに一種の尊敬の念を抱いていた。

 だが、こんな話を信じる者が居る筈もない。むしろ、嘘吐くなと逆上させるだけだ。

 そう思っていたギンだったが……。

 

「ふむ……なるほど、そういうことじゃったか」

「「「信じた!?」」」

 

 意外にも赤犬がメアリーの言葉に耳を傾けた。

 その場に居た者たち全員が信じられないと目を見開く中、どうにか事態を穏便に解決できそうだとメアリーが安堵の息を吐く。

 

 ……それが、的外れだという事はすぐに分かった。

 

 ――ボッ!

 

 突如、赤犬の腕が発火し、彼の腕から赤黒くドロリとした熱い物が地面に落ち、そのまま熔かす。

 マグマだ。

 赤犬は殺気を放ちながら己の悪魔の実の能力――マグマグの実の力を行使した。

 

「ちょ、なんで!? 彼らは海賊じゃ――」

「――おどれが言ったんじゃろうが。『海賊に憧れているかもしれない』と」

「え……まさか、それだけで……?」

「何を言いちょる。悪は早めに絶っておくに限る。正義のためになぁ……!」

 

 ゆっくり、ゆっくりと歩を進める赤犬。少しでも危険な思想を抱くのなら、此処で見逃して悪を増やすよりも此処で摘み取っておく。

 海賊は生かしてはおけない悪なのだから。

 

 メアリーは、赤犬の過激さに言葉を失っていた。海軍は民を守る者。だから、そこを突けばいくら赤犬でも思い留まってくれると……楽観視していた。

 ――逃げないと。みんな、殺される。

 拳を握り締めて、兄であるジョットを呼ぼうとし――その前に赤犬の前に新米海賊たちが立ち塞がり、船長を務めていた男が一歩前に出て叫ぶ。

 

「――赤犬さんよぉ、アンタの言い分は分かった。理解はできねえけどな!」

「海賊になろうとするクズに、理解されんでも良いわい」

「ああ、そうかい……後、さっきのメアリーちゃんの言葉訂正させて貰うぜ――オレ達は、自分の意志で海賊になった! 何故なら――」

 

 

「「「――そこに夢があるからさ!!」」」

 

 全員が同じ言葉を叫んだ。

 涙は流れ、膝は笑い、死の恐怖に震えながら……しかし、自分たちの夢に嘘を吐かなかった。

 

「それに、オレ達は結構な悪だぜ? なんせあの可愛いメアリーちゃんを誘拐したんだ。殺されても文句が言えねえ大罪だっ!」

「……何が言いたい?」

「つまり、海賊はオレ達で、メアリーちゃんたちはただの一般人だ! ――そこんトコ間違えんなよマグマ野郎!」

「――ふん。だったら、さっさと往生せぇやっ!!」

 

 マグマ化した赤犬の右腕が膨張し、そのまま海賊たちに向けて振るわれた。それを見た新米海賊たちは肩を寄せ合ってメアリーの壁となる。それが最後の意地だった。

 後ろからメアリーの悲鳴が上がり、衝撃が体を揺さぶり、肉を焦がす臭いが僅かに鼻の奥をくすぐる。

 しかし、痛みは無かった。心臓の鼓動が煩く聞こえる。何時まで経っても死が訪れない。

 一人が恐る恐る目を開いて――息を呑む。それに続いて一人、また一人と目を開いていき、目の前の光景に思考を奪われた。

 そしてギンもまた、その信じられない光景に言葉を失っていた。

 

 赤犬の拳を、ジョットが受け止めていた。

 じりじりとマグマの熱で肌を焼かれながらも、一歩も退かない。

 その事実に、赤犬の目が(ゴミ)を処分する目から敵を見据える目へと変わった。

 

「……! なんじゃい、貴様は……!」

「カッコイイ先輩の啖呵に痺れて、ちぃとばかし遅れたが……オレも海賊だ。海軍!」

 

 不敵な笑みを浮かべて、ジョットは赤犬の拳を押し返した。

 流動し続ける己の腕が弾かれて、赤犬は胴ががら空きになりながらも呟いた。

 

「――能力、いや覇気か?」

「両方だ、マグマ野郎――オラァ!!」

 

 気合一発。オーラで包み込んだ覇気で黒く変色した腕を、思いっきり赤犬の腹部に叩き付ける。赤犬の体は衝撃によって森の中へと吹き飛んでいった。

 赤犬はロギアの能力の持ち主。その赤犬を殴ったジョットに、助けられた海賊たちが驚きの声を上げた。

 

「何で赤犬を殴れるんだ!? でもすげえ!!」

「死ぬかと思った。死ぬかと思った……!」

「うおおおおお! ジョジョの兄貴イイイイ!!」

 

 

「――やかましい! まだ終わってねぇぞ!」

 

 ジョットの怒声が響き渡り、浮かれていた彼らを現実に戻す。

 

「アイツ、オレの拳を受け流しやがった……!」

「え!? でも、覇気だったらロギアの実体も捉えるんじゃ……」

 

 メアリーが覇気を知っているのなら誰もが知っている常識を口にする。

 ジョットも当然その事を知っており、だからこそ赤犬がした芸当に舌を巻いた。

 

その前に(・・・・)覇気で読んで避けたんだ。吹き飛ばしてやったがダメージはねぇ。……ちっ、これがロギアって奴か。悪いが、そう何度も庇いきれる相手じゃ――」

 

 オーラと覇気の昂ぶりを感じ取り、ジョットが皆の前に出る。

 すると、森の奥から巨大な溶岩が彼らに襲い掛かって来た。周りの木々は燃える間もなく溶かされ、地面を抉りながら突き進む。

 

「――オラオラオラオラオラオラオラ、オラァッ!!」

 

 それをジョットのラッシュが迎え撃つ。己の腕二本。オーラで作り上げた腕二本。合計四本の腕で溶岩を殴って、殴って、殴って――打ち砕いた。

 二度目の防御に成功したが……

 

「っ……」

 

 ジョットの腕は酷い火傷を負っていた。いくら覇気を纏おうとも、赤犬のマグマを防ぎ切る事はできなかった。オーラを見れば、所々穴が開いているように見えた。ジョットはそれを他の場所から手繰り寄せて塞ぐ。すると、火傷を負っていた彼の腕が逆再生するように元に戻って行った。

 問題なく動く事を確認すると、ジョットはすぐさまメアリーたちに指示を出す。

 

「オレがアイツを食い止める! その間に船の出航準備をしておけ!」

「う、うん分かった!」

「ギン! 向こうにも敵は居る。悪いがそっちは頼んだ!」

「……ああ、分かった」

 

 仲間たちはすぐに頷くと海岸に向かって走り出す。

 そして、今度は新米海賊団たちに向き――

 

「テメエらも手伝え! 死にたくなかったら――」

『もう、走ってまーーす!』

「――っと。そ、そうか」

 

 ――しかし、既にジョットから遠く離れて、ギンたちよりも早く海に向かって走っていた。一目散とはこういう事を言うのだろう。ジョットは逃げ足の早さに目を丸くさせつつも、すぐに意識を切り替えて森を睨む。

 

(これで、後ろを気にしないで済む)

 

 ジョットの視線の先には、彼の言った通りにダメージが全くない赤犬の姿があった。

 赤犬も既に戦闘態勢に入っており、全身から噴き出すマグマが地面を熔かす。

 その熱にジョットの額に汗が流れ、しかし臆することなく自分を見据える彼に赤犬が口を開いた。

 

「貴様のような奴が、まさかこの東の海(イーストブルー)に存在したとはのぅ……」

「海賊王が生まれた海だ。案外、オレ以外にもヤベー奴が居るかもしれねーぜ?」

「ふん。少なくとも、今まで処分してきたゴミクズよりも貴様は燃えにくいと見える」

「そうか。ゴミの分別はしっかりしねーとな」

「ああ。――貴様は、跡形もなく熔かさんと世界に悪影響が出るからのぅ! 『大噴火ァ!』」

 

 再びマグマが解き放たれ、それをジョットが受け止めるが……。

 

「――!?」

「いくら覇気が使えようが、この質量……耐えれるもんなら、耐えてみろォ!」

 

 そのまま体ごと押し出され、島の中央の山に辿り着き、そしてそのまま岩壁に叩き付けられ、なおも侵食していく。破壊音を立てながら、マグマはジョットを巻き込んだまま突き進んでいき、ついには島の反対側に飛び出した。

 

「かはっ……!?」

 

 勢いそのまま投げ出され、地面に放り出される。武装色の覇気を纏っていなければ、ジョットは既に体の原型を留めていなかっただろう。だが、ダメージは甚大だ。オーラ操作である程度回復できるとはいえ、生命力が尽きればそれもできなくなる。その上、回復をすればする程体力が無くなり、長時間の戦闘が困難になる。

 故に、ジョットに求められるのは短期決戦。しかし……。

 

「『流星火山!』」

 

 敵が、あまりにも強い!

 空から大量のマグマがその名の通り流星の如く降り注ぐ。

 

(メアリーたちが船を確保するまで、全力で戦い続けるしかない……!)

 

 空を埋め尽くすマグマを前に、ジョットは覚悟を決めて拳にオーラを込めた。

 そのオーラは、赤く燃えているように……見えた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「え~~~!? ジ、ジョジョっちん死んじゃうよ~~~う!」

「落ち着けケイミー。我が同志スターは生きているぞ」

 

 一区切り付いたので、ジョットは酒を飲んで口を潤した。

 話を聞いていた三人も興奮で喉が渇いたのかそれぞれ飲み物を飲んだ。

 

「懐かしい話だね」

「メアリー。聞いていたのか」

「うん。あの戦いは、私も覚えているから」

 

 近づいて来たメアリーが彼らの元に加わると、彼女は補足としてケイミ―達に付け加えた。

 

「ちなみに、私達が海軍から船を取り返したのに30分かかったの。その間、船長は私達を守り続けた事になる」

「守り続けた?」

 

 メアリーの妙な言い回しに違和感を抱くハチ。

 メアリーは頷いて当時の事を振り返って言葉を続ける。

 

「赤犬は、私達に攻撃をしかけた」

 

 あのまま戦い続けても決着が着かないと踏んだのか、それとも別の理由か。それは赤犬本人にしか分からないが、赤犬はメアリーたちの方へとマグマを飛ばし、その度にジョットは妨害していた。

 しかし、その結果僅かな均衡が崩れ、ジョットは徐々に抑える事ができなくなり、メアリーたちの海岸まで押し出されてしまった。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「グっ……!」

「ジョジョッ!?」

 

 マグマと共に海岸に放り出されたのは、メアリーが初めて見る傷だらけの兄の姿。

 いつも強く、正直負ける姿を想像できなかった。しかしこうして満身創痍な所を見ると改めて、今現在が非常に危険な状況である事を理解させられた。

 

(軍艦を壊して航海できないようにした。海兵たちは縛って動けないようにした。折角頑張ってここまで来たのに、あとは赤犬だけなのに……!)

 

「貴様ら、このワシから逃げれるとおもっちょるんかっ!」

 

 ジョットを追って海岸に辿り着いた赤犬は、沈み始めている軍艦と縛られて気絶している海兵を見て、次に視線がメアリー達に移る。

 海賊は、絶対に逃がさない。

 赤犬の腕からマグマが膨れ上がり、船ごと彼女たちを葬り去ろうとする。

 

「よう見ちょれよ。貴様が守ろうとしたものが、今此処で消え去る……!」

「――ジョジョっ!」

「『大噴火』ァ!」

 

 ――終わった、とメアリーは思った。

 迫り来る巨大な赤き拳を前に、マグマの熱さを前に、自分は死ぬのだと思った。

 ギンも同じだった。どうしようもないと思った。ジョットみたいにマグマを殴る力も無ければ、立ち向かう気力も無い。偉大なる航路(グランドライン)に行く事もできず、此処で死ぬのだと思った。

 

 だが、ジョットは動いた。考えるよりも早く体がメアリー達の前に出て、赤犬のマグマを受け止めた。

 

「ぐ、おおおおおお!?」

「ジョジョ!」

「ジョジョさん!」

「ジョジョの兄貴!」

 

 覇気で受け止め、マグマがその上から熔かし、オーラが無理矢理再生する。

 ジョットの体力はほとんど無い。寿命を削りながら強引に赤犬の大噴火を止めていた。

 

「しぶといのぅ――いい加減、死ねやァ!」

 

 マグマの力が倍増し、ジョットにかかる負荷が増し――ジョットの姿がマグマの中に消えた。

 

『ジョジョオオオオオッ!?』

 

 ――獲った、と赤犬が勝利を確信したその時、彼は腕に鋭い痛みを感じた。

 

「む……ガッ!?」

 

 そして次の瞬間、肥大化した己の腕の中からジョットが飛び出した。そして、水色のオーラを纏った拳をそのまま赤犬の脳天に振り下ろす! 

 すぐさま赤犬は防御するべく頭部をマグマに変えた。

だが、それは失敗だった。

ジョットの拳が直撃し、赤犬の頭が割れ、崩れ去り、そしてそのまま吹き飛ばした! 

 

「やっとこさ……一撃入れてやったぜ!」

「ジョジョ!」

 

 メアリーがジョットに駆け寄る中、赤犬は立ち上がろうとして……体が上手く動かせなかった。

 体が、寒い。マグマである自分が、凍え死んでしまいそうな程寒い。

 吐き気もした。視界は回り、能力を使おうとすればするほど己の体が崩れていく。

 

(それでも、ワシは海兵じゃ……海賊を逃がす訳には……!)

 

 ボヤけた視界の中、赤犬は地面を蹴った。拳を握り、振り被って、憎き海賊に向かって思いっきり振り下ろした。

 だが、それは容易く受け止められ、右頬を殴られた。

 

「っ……こいつの執念には、凄みがある……! 生半可な覚悟じゃあオレ達がやられる……! 悔しいが、今回はオレ達の負けだ……引き揚げるぞ、メアリー!」

「うん、分かった!」

「待て、海賊ぅ……いや、ジョ……ジョッ! 貴様は……貴様だけはこのワシがァ……!」

 

 お互いにもう覇気も能力も使う事はできない。

 このまま戦い続ければどちらかが死ぬだろう。そして、赤犬は死んででもジョットを殺そうとする。

 しかし、ジョジョは此処で死ぬ気は無かった。海賊王になるために、今回の戦いは自分の負けだと認めて、みっともなく、生き汚く、尻尾を巻いて逃げる。

 そして……。

 

「マグマ野郎……お前は、このオレが何時か必ず倒す。それまで待っていろ……!」

「くそ……くそがああああああ!!」

 

 ――赤犬の怒号を背に、彼らは無人島を脱出した。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「――てな感じでな。新聞では随分と持ち上げているが、実際に負けたのはオレ達だ。だから正直一億の懸賞金も納得していな――」

「もうジョジョッ。まだ言っているの? 確かにジョジョは不服かもしれないけど、私たちは……助けられた私たちは感謝しているし、あなたの事を誇りに思っている。あまり卑下すると私たちに失礼だし、クルセイダー海賊団の名に泥を塗る行為だって何度も言ったでしょ?」

「……はぁ、そうだな」

「それに――」

 

 そこでメアリーはニッコリと笑って、クルー代表としてこの言葉を送る。あの後、島から逃げて勝てなかったと悔しがった彼に言ったあの言葉を。

 

「いつか絶対大将倒して海賊王になる。私たちは皆、それを信じている」

「……やれやれ。期待がでかいな」

「潰れそう? プレッシャーに?」

「いや――これくらいが丁度良い」

「……そっ」

 

 じゃ、私は私刑が済んでいないので。そう言ってメアリーは再びクルーたちを追いかけ始めた。岩陰からこそこそと盗み見ていたのだろう。若干ニヤついていた。遠くの方からまた騒がしい声が聞こえ始めた。

 

「悪いな、置いてけぼりにして」

「ううん! そんなことないよ! 聞いていてドキドキした!」

「流石スターだな! 惚れ直すぜ!」

「にゅ~。どのみちお前がすっげえ強いっていうのも分かった」

 

 どうやら、今回の話に満足したようで三人とも思い思いの感想を述べている。

 ジョットにとっては惨敗の一言。人前でも、日記でも何てことない風に装っているが人一倍気にしている。あの時、能力が変化しなければ此処には居なかったのだから。

 だからこそ、ジョットはもう負けないと決めて今まで戦って来た。

 仲間たちが、自分を信じてくれているのだから。

 

「さて、飲み直そう。ハチ、今度はお前の話を聞かせてくれ」

「にゅ!? オレがか?」

「あ、じゃああの話をしようよ! ナマズさんたちを救った――」

「おー! 良いなケイミー! じゃあ聞いてくれスターよ! 今回語られるのはオレ達を救った一人の優しき魚人――」

 

 ――こうして、しばらくの間島から人の声が止む事は無かった。

 




読了後の気分を害するかもしれないので、隙間を空けています。
このまま読みたい人は読み飛ばしてください。



















主人公が一億になった際に、私の書き方が悪かったのか主人公が赤犬をボコって力が四皇クラスなのか。そのような感想がありました。
答えたくても答えられず、今のいままで曖昧に返して来ましたが、今日ようやくどれくらいの強さなのかを示す事が出来ました。
今回の話によって今まで主人公に抱いていた全能感を壊されるかもしれません。話が違うじゃないかと思うかもしれません。
しかし、私はこう考えて書いている。その事を頭の隅に置いて欲しく、またこれからも楽しんで読んで欲しいため、今回の話を執筆しました。


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主人公日記 九ページ目(内容修正)

内容を修正しました。詳しくは後書きにて。


 々月°日

 

 ハチたちと別れる事になった。

 なんでも、とある島でたこ焼き選手権があるから、是非とも参加したいらしくその島に向かうだとか。そして、ケイミーとパッパグも付いていくと言っていた。

 突然の別れだが仕方ない。オレ達はオレ達の航海が、そしてハチにはハチの夢がある。再会を約束して、今日は宴だ。クルー達も寂しい寂しいって言っていたからな。というか、人魚のケイミーと別れるのが惜しいだけだと思う。

 

 

 々月¥日

 

 ここ最近、会う海賊船全てが逃げていく。

『クルセイダー海賊団だー』だの、『星屑のジョジョだー』と言って逃げていく。果てには宝を差し出して命だけはと頭を下げてくる者まで……。

 そのせいか分からないが、最近船の空気が弛んでる。オレ達は凄いんだ。他の海賊に畏怖される程の存在なんだ。そのような考えが透けて見え、オレが律してもあまり効果が無い。メアリーも悪魔の実を手に入れて、さらに賞金首になったからかこの空気を助長している節がある。一応は危機感を持っているが、まだ甘い。

 ギンもオレと同じ考えなのか、あまり良い顔をしていない。

 

 何とかしないと、マズイことになる。オレの直感がそう言っていた。

 

 

 々月]日

 

 凍傷でしばらく腕が動かせないが……あの日の事は書いておきたいので、今のうちに詳しく書いておく。それに、この『もう一人のオレ』の操作練習にもなる。マスターすれば、オレは何倍にも強くなれる。それこそ、大将を倒せるほどに……。

 

 さて、事の始まりはオレ達がある島に到着した事にさかのぼる。そこは言ってしまえば柄の悪い島だった。ログポースによく示されるのか、オレ達以外にもたくさんの海賊が居た。『カモが来た』と思ったのか、オレ達が船を降りると同時に囲まれるくらいにはな。だが、奴らはオレ達の事に気づくと途端に媚びへつらって去っていった。

 今思えば、この時から片鱗は出ていたのだと思う。クルーの誰かが『喧嘩売る相手を選べ』と言っていたのが妙に頭に残り、思わず拳骨した。そんな事を言っていれば何時か痛い目に遭うぞ、と。オレは本気でそう言ったのだが、メアリーが止めに入った為に有耶無耶になってしまった。

 幸いログは半日で貯まるため、問題を起こす前にさっさと島を出て性根を叩き直そうと思っていた。だが、その考えは甘かった。

 

 酒場で、ある海賊団と抗争状態に陥った。

 相手はユースタス“キャプテン”キッド率いるキッド海賊団。ユースタスがオレを挑発し、オレが無視するも他の奴らが騒ぎ立った。そこからは売り言葉に買い言葉。穏便に済ませるのは無理だと判断したオレは場所を変えようとし……しかし、奴は民間人に構わず攻撃して来た。

 戦闘中に拾った言葉から察するに、奴はオレの存在が気に食わなかったらしい。調子に乗っているやら温いやら好き放題言っていた。かく言うオレもアイツの粗暴な振る舞いは気に食わなかった。だから、ちぃとばかし頭に来て相手をしたのだが……そこで思わぬ横槍が入った。

 

 それは、海軍本部大将青雉。奴は、民間人に構わず大技を使うユースタスの片腕を凍らせると戦闘を無理矢理止めた。流石のユースタスも大将を相手に下手な動きが出来ないのか、行動が慎重になっていた。

 それはオレ達のクルー、そして他の海賊達も同じで逃げ出したり警戒したりして、奴の次の動きに注目した。

 だが、青雉はオレ達……正確にはオレに向かって凄く迷惑そうな顔で『何で問題起こすの?』と言ってきた。

 今思い返してもあれは無いな、と思う。奴は、オレの存在には気が付いていたが無視するつもりだったらしい。非番――聞く限りサボりだが――な上、先日ある海賊に負わされた傷が治っていない状態で、赤犬に傷を負わせたオレと戦うのは怠い。そう言っていた。……本当に無いな。赤犬と別の意味でこんな奴が居るのか、と思った。

 

 そして、戦闘を……それも民間人に迷惑を掛けるのなら見て見ぬ振りも出来ない。故にこうして出張って来たと言いつつ、しかし青雉は意外そうな顔をしながらオレに『海賊らしくないな』と言い出し……次の瞬間オレを見逃すと言った。

 見逃しても見逃さなくてもこれ以上ないほど危険だが、民間人に迷惑をかける訳でもない。それに準備不足では手を出せばどうなるのかは立証済み。故に、万全の状態で迎え撃つ為にお互い此処で手引きしようと言い出した。それに食いついたのがメアリーだった。大将とはまだ戦う時ではないと。今は手を引こうと。それにクルー達にも被害が出るから、と。

 

 だが、本当に逃げて良いのか? 海賊王を目指す男が、敵わないから逃げる。そう言って逃げても良いのか。しかし、船長として線引きを誤る訳には――。

 

 そんなオレの思考を吹き飛ばしたのは、ユースタスだった。

 海賊王になるこのオレが、海軍に見逃されて生きるくらいなら死んだ方がマシだ。と。

 粗暴な奴だと思っていたが、海賊王を目指す気持ちは強い。素直にそう思い、オレは船長として失格かもしれないが――青雉と闘う事を決めた。

 

 戦う場所は島の外れ。クルー達には先に船に帰って貰う事にした。これは、オレのワガママだから。船長としては間違っている判断だから。

 

 そして結果は――赤犬の時同様オレの負け、だ。

 オレは覇気でガードしたとはいえ一度は全身氷漬けになり、青雉はオレの新しい力の一撃とユースタスの決死の一撃でダメージを負った。すると奴はさっさと島を出た。恐らく最初からある程度戦って帰るつもりだったのだろう。

 ユースタスも同じ考えだったのか、去り際にえらい顔で怒り狂っていた。かく言うオレも頭に来ていない訳ではないんだがな……。収穫があったとは言え、赤犬の時以上の屈辱だ。

 

 勝つって言ったんだけどな……。

 もっと強くならねぇと――(文字が掠れて読めない)

 

 

 々月|日

 

 昨日の日記、これも暴走なのか? オレの思ってた事まで詳しく書いているじゃねぇか。ここまで事細かに書くつもりは無かったんだがな……。

 

 さて、ようやく体が動くようになって外に出てみれば……クルー達全員が泣きながら土下座していた。一体全体どうしたんだ? と思って聞いてみると、どうやら悔しかったらしい。オレが生きていたのはもう一人のオレで分かっていたが、氷漬けになって動かなかったオレを見て、自分たちが情けなく思った、と。

 オレがいなければ氷になっていたのは自分達だと。それどころか、ここまで生きて来れたのは、冒険できたのはオレに頼っていたからだと。それなのに、自分達海賊団が偉くなったと勘違いをし……船長であるオレを殺しかけた。

 許される事ではない。だが、謝りたかった。

 そう言って彼らは泣いた。そして、どうかあなたの仲間でいさせてくれと。オレに付いていけるように強くなるからと。メアリーも。ギンも。全員がそう言った。

 

 

 

 とりあえず拳骨して当たり前だと言っておいた。

 オレは、アイツら以外と航海するつもりは無いからな。

 全く。こうして海賊出来ていると感謝しているのはこっちだって言うのに。それに、こんなオレを船長と呼んでくれるのはこいつらしか居ない。

 ……たまには、オレから宴を開くか。そうだな、理由は……いつも通り何でも良いな。

 

 

 々月÷日

 

 メアリーが、私副船長失格だよね、と落ち込んでいた。

 どうやら、あの弛んだ空気を助長していた事を気にしているらしい。

 反省できるだけ、良いと思う。それに船長であるオレも認識が甘かったし。もしこれがもっと危機的状況だったならば――。

 オレ達は未熟だ。だからこそ成長できる。落ち込んでいられない。海賊王を目指した時から分かっていた筈なのだから。

 

 

 々月→日

 

 力には明確なイメージが必要である。だが、オレ一人ではできない。

 そこで役に立つのが邪眼のメアリー様だ。

 相談したところ、絵を描いて体が紫色の男を見せてこれをイメージしろと言われて名前も付けられた。

 

 星屑のジョジョから『スター』。

 強い絆の宝石言葉を持つ『プラチナ』

 

 それらを合わせて『スタープラチナ』。

 オレ達クルセイダー海賊団が作り上げた何者にも負けない絶対の力。

 それがようやくこうして表に出てきた。

 甲板で力強く、そしてはっきりと佇んでいるスタープラチナを見てメアリーはこう言った。

 

 アレは、オレのオーラが生み出したもう一つのビジョン。立ち向かう者として、側に立つ己自身。自分を見失わない限り、オレはもっともっと強くなれる。

 

 そう言われて、何故メアリーがそんなことを知っているのか、どういう意味なのか。そんな小さな事はどうでも良くなり、ただ魂がそういう事(・・・・・)なのだと理解した。

 

 オレはもう一人のオレ(スタープラチナ)にもう一度誓った。必ず海賊王になる、と。

 すると、もう一人のオレ(スタープラチナ)はニヒルに笑った……ように見えた。

 

 




内容を書き直しました。

・ユースタスを結果的に庇う行為→海賊王を目指す男としての意地
・主人公とメアリーの反省シーンを追加

公開しておいて書き直すという優柔不断な行為お許しください。
基本やりたいようにやり、反応に一喜一憂した結果です。

主人公の性格を考慮して修正しましたので、これでご了承ください


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主人公日記 十ページ目

 ¥月い日

 

 何となく予想していたが、オレの懸賞金が上がっていた。1億上がって3億になっていた。ちなみにユースタスは5000万上がって2億1500万に。

 青雉と戦った事は新聞には載っていないが、少なくとも海軍の間では知らされていると見て良い。これから遭遇する敵のレベルも高くなる事だろう。クルー達も先日の事があったからか、喜ぶのではなく気を引き締めていた。……まぁ、今のところは好きにさせとこう。

 

 

 ¥月ろ日

 

 青雉と戦っていた時の事を思い出して、ふと気になった事があった。それは、ユースタスの攻撃が何故ロギアである青雉に当たったのか、だ。

 ユースタスの能力は武器……というよりも金属を引き寄せたり突き放したりする能力だ。武装色の覇気を使ったのかと思ったが、そのような気配はしなかったし、オレが使っているのを見て驚いていたようにも見えた。だから、奴が何かしらの技をしたのでは無く、オレが……オレのスタープラチナが何か影響を与えたのではないか。

 

 そう考えてメアリーに相談すると、その可能性は大いにあると言っていた。それどころか、何か掴んだのか『キッドの攻撃が当たった理由が分かったら、戦力アップに繋がるかもしれない』と言っていた。そしてその事についてはこっちが調べるから、オレはスタープラチナを自然に操作できるように練習しておけ。色んなモノに手を出すよりも、一つのことに集中してた方が良いから、とも言っていた。

 能力についてはメアリーの方が詳しいので、オレはその助言に従ってスタープラチナの訓練に勤しんでいる。ギンに手伝って貰いながら。

 

 

 ¥月は日

 

 オレとスタープラチナ。どちらかが動くと片方の動きが悪くなる。単純な作業……ラッシュなどは問題無いが、複雑な動きをしようとすると途端に隙が増える。これじゃあ大将クラスに通じねぇな。

 何か良い案は無いだろうか? そう思っているとメアリーからの指摘が入った。どうやら、意識する事自体良くないらしい。そう考えている時点で、スタープラチナを……オラオラの能力に振り回されている、と。

 

 良く意味が分からなかったので、実践してみるとメアリーが言って……すれ違いざまに下着のシャツだけを抜き取りやがった。少なくとも、以前CP9と戦った時は、こんなに自然に出来なかった筈だ。そう思って聞くと、どんな能力でも使い方次第であり得ないような事もできる。そして、その域に至るにはできて当たり前だと思う事だと言っていた。メアリーは、日常の生活の何気ない生活でも使い続けてここまで至ったらしい。それにしてもレベルの上がり方が半端ないが……。そう思って聞くと、こういう能力の使い方を考えるのは得意、というか好きだと言っていた。見本となる知識もあるとか……。

 

 それで、結論を言うとオレも常日頃から使って慣らすべきだ。その為の第一段階として……キャベツの千切り。新聞の書写。折り紙を命じられた。……本当に強くなれるのだろうか? 思わずそう尋ねると、基礎の戦闘能力は親父に鍛えられているから、そっちを鍛えてもあまり意味が無い。スタープラチナがオレの体と同じくらい動くように――動かす、ではなく動く、がミソらしい――精密かつスピードを鍛える為に今できるのはこれくらいだと言われた。船の上で出来るのはこれくらいだと。それと、気絶しない程度にスタープラチナを使うようにとも言われた。持続率を上げるのと、やはり慣れる為にも必要な事らしい。

 

 ……やれやれ。アイツも親父の娘だな。ギリギリ出来るラインを見極めてやがる。

 

 

 ¥月に日

 

 なんだか、介護を受けているみたいだ。

 飯も、風呂も、着替えも全部スタープラチナでやっているからか落ち着かない。メアリーはその気持ちが無くなればスタープラチナの動きも良くなると言っていた。

 ちなみにメアリーも似たような事をしていた。スカスカの身で脱ぐ服と着る服を透過させてタイミング良く解除し、まるでマジックの様な早着替えだった。クルーの奴らは、覗けないと泣いていたが……。

 だが、そんなメアリーでも通り抜ける事が出来ない物がある。それは、海水だ。岩に当たりそうになった時、透過せず回避したのは海に面している船の部分を透過する事が出来なかったから。

 便利だと思っていたが、出来る事と出来ない事もあるんだな。

 

 

 ¥月ほ日

 

 メアリーから、例の件がわかったと言われた。クルー達にも手伝って貰う事に。

 用意したのはただの棒切れだった。メアリーはそれをクルーに持たせて、透過した状態のメアリーの手に当ててくれと言った。

 1回目。当然ながら失敗。

 次に、オレがオーラを纏わせて当てる。結果は成功。

 その次は、オレがメアリーの肩に触れてオーラを流した状態でクルーに触れて貰う。結果は……成功。

 最後に、棒切れにオーラを纏わせたクルーに当てて貰う。結果は、成功。

 

 実験が終わって、メアリーが言った。ユースタスの攻撃が当たったのは、青雉の体に大量のオーラが流し込まれて残留していたから。もしくは、ユースタスが飛ばした武器にオレのオーラが纏わせてあったから。意識が朦朧としていた為、詳しい事は覚えていないが……メアリーの考察は正しいと思う。オーラの塊であるスタープラチナが青雉を殴ったのは覚えているし、こっちに飛んで来た武器をオーラで纏った腕で弾いた……様な気がする。

 

 そして、今回の事が分かったメアリーは嬉しそうにしていた。これから先のロギアへの対抗手段が手に入った、と。それもクルー全員の。

 覇気を覚えるのが早いが、センスも時間が要る為に直ぐには無理だが、相手は待ってくれない。そこで判明したオレのオーラ付与は武器になると言っていた。

 特に、触れ続けていなければならない覇気よりも、間接的かつ半永続的に強化できるオーラなら汎用性があるとの事。覇気が使えない現状なら尚更に。

 

 強敵には苦しいが、無抵抗にやられる事は無い。

 唯一の欠点は、触れる事ができる様になるだけで、覇気のように硬化できる訳では無いという事だろうか。

 

 

 ¥月へ日

 

 昨日判明したオーラ付与の事だが、その事ですこし揉めた。

 

 クルー達が、オレに負担を掛けたくないと言って来たのだ。自分たちで強くなると決めたのに、オレの力で戦える様になっても意味が無いと。それくらいなら覇気を覚えて力になりたい、と。

 それに対してメアリーが、確かに覇気を使えたら強くなれる。でもそれは将来的にという意味であって今すぐでは無い。使えるようになるには才能があっても年単位で掛かるし、使えないかもしれない。だったら、今出来ることを考えてオレの力に頼るべき。

 

 どちらの言い分も分かるが、少し意固地になってしまった。

 クルー達は強くなりたい。それはメアリーも同じだ。

 違うのは方法で、それに納得できるかできないか、だ。

 それに、行き着く先は同じだ。メアリーもオレの力に頼り切るつもりは無いと言っていた。アイツらなら、何時か覇気を使えるようになる。

 

 だから、オレは強くなるという意味を考えて、もう一度お互いに考えて欲しいと伝えた。オレが船長命令で決めたらその場は何とかなるだろう。この先の危険を考えればその方が良いのかもしれない。しかし、それは一種の思考放棄なのではないかと思う。

 

 少し、他人事だとも思うかもしれない。

 だが、オレだけが強くなっても、考えただけでダメなのは分かり切った事だ。

 今、オレ達は成長しようとしている。その機会をみすみす見逃すっていうのは違うし、奪う訳にはいかない。

 

 答えだけを得ても意味が無いのだ。

 

 

 ¥月と日

 

 偉大なる航路(グランドライン)は普通の海と違う。

 突然現れた嵐は、それを強く痛感させる程の激しさだった。全身を叩きつける豪雨。船を浮かす程の竜巻。生き物のように暴れる大波。舵を取ることもできず、皆船にしがみ付くので精一杯だった。途中で振り落とされてしまえば終わりだ。

 

 

 さて、久しぶりに漂着したが……一体此処は何処だろうか?

 やれやれ。偉大なる航路(こっち)に来てからは遭難する事が無かったんだがな……。とりあえず、何とかアイツらに連絡しねぇとな。

 それにしても、帽子がねぇっていうのも落ち着かないな。結構気に入っていたんだがな。

 

 

 ¥月ち日

 

 森の中に入ったが、流石は偉大なる航路(グランドライン)。奇妙な生物でいっぱいだ。なんというか、動物と植物が入り混じったような生物が多い。普通の動物もいるっちゃあいるが、この森ではヒエラルキーが低いようで、餌として捕食されている。

 

 

 ¥月り日

 

 森を抜けた先に国があった……のだが、どうも様子がおかしい。

 高い外壁で中が見えず、門番は銃を持っている。あの森の生物を見た後だと、警戒しているのは当然の事だと思った。そう、ここまでは良い。しかしまさか通行料が払えないと見るや否や発砲してくるとは思わなかった。

 取り敢えず気絶させて服を失敬して中に入ったが……何というか活気が無い。兵士以外は見窄らしい格好をし、首輪をして生活している。まるで奴隷だ。

 しかも空き家が多く、オレがこうして悠々と使う程度には管理されていない。電伝虫も居ないし、アイツらに連絡する事も出来ない。恐らく、この国の中央にある城にあるのだろうが……嫌な臭いがしやがる。

 嗅いだ事のない、悪意の塊の臭いだ。それも飛びっきりの。

 

 

 ¥月ぬ日

 

 いきなり襲撃を受けた。国の兵士かと思えば、イヤに手強い。

 特にあの鉄パイプを持った男。覇気を使っていた。メアリー曰く、偉大なる航路(グランドライン)前半で覇気を使う人間は少ないって言っていたが……何故こうも鉢合わせる?

 それに、妙な体術を使う女も居たな。空間のオーラを揺らしていやがった。

 何とか撒いたが、次に遭ったら厄介だな。特にあの鉄パイプ野郎。

 

 明日には城に忍び込んでみるか。

 メアリー達に連絡を取って、そしてこの国の現状を理解する為に。



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主人公日記 十一ページ目

 ¥月る日

 

 城に侵入し、メアリー達への連絡を試みたが……繋がらなかった。電伝虫が『え? 何言ってんの?』みたいな顔をしていたのが印象的だった。まるで、存在しないモノを聞かれて困っているような……。

 

 それと、この国は結構ヤバイ所だった。偉大なる航路(グランドライン)特有の生物かと思っていたあの動植物。アレは、この国が作った人工生物だった。盗み聞いた所、ケットウやらベガパングやらよく分からない単語を使っていたが、どうやら他所から盗んだ技術で戦力強化を狙っているらしい。そして、実験対象はこの国の民たちも含まれている、と。いや正確には他所から誘拐して来た人間が……だ。

 吐き気がする。

 メアリー達と合流するのはもう少し後になりそうだ。

 

 

 ¥月を日

 

 現在、オレは革命軍と一緒に居る。

 というよりも、先日襲って来た奴らが革命軍だった。あの時は変装していたため、この国の兵士だと思って襲って来たらしい。偶然にも、近くにこいつらの拠点があったからだ。

 そして、戦闘の際に見た能力からオレの正体を見破った彼らは、こちらに接触しに来た。城の中でいきなり名前を呼ばれた時は驚いた。城の中を探っていたら、背後から名前を呼ばれるんだからな。

 

 それにしても、まさか真正面から協力してくれと頼まれるとは思わなかった。いくら支部の奴らを結果的に助けたとはいえ、海賊のオレに頭を下げるか? まぁ、仲間のために頭を下げる事ができる男は嫌いじゃねーが。

 それに、メアリー達と合流する為に船を出してくれるらしいしな。連絡が取れない以上、アイツらと合流するにはこれしかない。取引って奴だ。

 

 さて、そろそろ寝るか。明日はサボの野郎と城の中で暴れなくちゃならないからな。体力は温存しねーと。

 

 

 ¥月わ日

 

 サボと共にこの国の王を倒し、研究施設を破壊し、最終兵器だというキマイラを倒してこの国は革命軍によって救われた。現在は革命軍が呼んだ仲間と共にそれぞれ故郷に連れて行っている最中だ。

 

 オレもメアリー達とようやく連絡を取る事ができ、合流する為の島に向かって船を進めている。向こうでも色々とあったみたいだが、詳しい事は合流してから聞こう。

 

 それにしても……あの科学者が言っていた事が気になるな。

 ジョン・スター。星の一族。ケットウインシ。Dを滅ぼす者。

 聞き取れた言葉を適当に書いたが……よく分からない。オレに流れる特別な血とやらが関係するみたいだが……。

 サボは気にしても仕方ないと言っていたが……何故だろうな。奴の言葉が頭の中で響きやがる。

 自害するのを止める事ができれば、もっと話が聞けたんだがな。

 

 そういえば、サボやコアラから革命軍に誘われた。しかし当然断った。するとコアラが不思議そうに「革命軍の方が合ってると思う。考え方とか行動が海賊らしくない」と言い出し、サボも何故海賊に? と尋ねてきた。どうやら、あの科学者の言葉から何かしらの理由があって仕方なく海賊を……みたいな事を考えているらしい。

 

 別に隠す事でも無いし、妙な勘違いを解く為にもオレはシャンクスに憧れて、海賊王を目指す為にこの海に出たと答えた。すると、コアラはシャンクスと知り合いだという事に驚き、サボは……何処か呆然としていた。

 頭を押さえて、オレの言葉に聞き覚えがあると言い出す。コアラが心配する中、サボはオレに「何処かで会った事があるのか?」と聞いていた。どうやらサボは記憶喪失で、革命軍のトップであるドラゴンに助け出される前の事を覚えていないらしい。唯一覚えていたのは家に帰りたくないという気持ちのみ。そして、ドラゴンに拾われたのは東の海。だから、先ほどの言葉を聞いて記憶を失う前のサボは自分の事を知っているのでは、と思ったとの事。

 

 しかし残念ながらオレの記憶にサボの姿は無く、力になる事は出来なかった。それにサボは少し落胆していた。コアラはサボを励まし、今日は休むようにと言って遠慮するサボを寝室に投げ込んでいた。今も隣の部屋から二人の声が聞こえる。聞く感じ、サボも調子を取り戻しているみたいだ。

 

 だが、妙だな。記憶を失っても尚家に帰りたくないと強く思うのに、サボは誰かを探している。最も親しい存在である家族がいる家以外の繋がり。彼はそれを無意識ながら気にしているように見えた。

 何か大切な約束でもしていたのだろうか。

 

 

 ¥月か日

 

 コアラにオレの能力でサボの記憶喪失を治せないか聞いてきた。

 オラオラの能力はオーラ……生命力を操る力だ。その中には他者のオーラを操り、活性化させて回復する力を高めるものがある。以前CP9のシガンで負わされたクルー達の傷を治したのもこの力だ。しかし、あくまで本人の生命力を使うので、死にかけだったり寿命だったり生命力が衰えている時はこの方法は使えない。その場合はオレの生命力を分け与えれば使えるが……サボの場合はどうだろう。

 あまり詳しくないが、記憶喪失は記憶の怪我だと思えばできるかもしれない。サボの生命力を活性化させて失った記憶を取り戻させる。……やった事が無いのでどうなるか分からないが。

 だから本人にどうするか聞いてみたところ、是非頼むと言われてしまった。昨日の件でサボは己が失った記憶が何なのか気になるらしい。故に取り戻せるなら……。

 

 コアラとサボ以外の革命軍の奴らにも頼まれて、オレは治療に取り掛かる事にした。しかしミスをしたら何が起きるか分からない為、近くの島で鎮静剤や薬などを補給してから取り掛かる事にした。

 

 

 ¥月よ日

 

 今日は疲れた……。スタープラチナが使えるようになって良かったと思う。

 

 現在、サボは眠っている。あれだけ暴れて苦しんだのだから当然だ。スタープラチナとオレの二人掛かりでようやく抑えつける事ができるほどの力だ。限界以上の力を使って自分と戦ったのだろう。オーラを見る限り、安定している為明日にでも目を覚ます。結果はその時だ。

 

 しかし、問題はコアラだった。苦しんでいたサボを見て責任を感じていた。あんなに苦しむのなら、頼むのは間違いだったのでは、と。革命軍の仲間が励ましていたが、未だに落ち込んでいる。今はサボの看病をしている。

 

 

 ¥月た日

 

 サボが目を覚ました。しかし、記憶は完全に取り戻す事は出来なかったようだ。

 だが、自分が何故家に帰りたくなかったのかは思い出したらしい。家に居てもずっと孤独で、頭が痛くおかしくなりそうで、そして町の人間に激しい嫌悪感を抱いていた、と。詳しい事はまだ思い出していないようだが、そう思うだけの何かがあったらしい。

 そして、サボには兄弟が居たらしい。それが兄か弟か、何人居たのかは未だに分からないらしいが、その兄弟だけは大切な存在だったのは確かだ。思い出せない事に苦しむくらいには。それこそ、治療の時よりも。

 

 もう少し治療を続ければ進展があるかもしれないが、残念ながら時間だ。明日、メアリー達と合流する島に着く。それに、サボ達も次の任務がある。

 

 あまり力になれなかったが……サボは大丈夫だと言っていた。

 何時か思い出す、と。

 

 

 ¥月れ日

 

 サボ達と別れ、メアリー達と合流した。全員無事で安心した。

 と思っていたら、向こうは向こうで大変だったらしい。

 海軍と戦ったり、オカマに遭遇したり、オリに閉じ込められたり。中々の波乱万丈な航海だったようだ。

 

 それと、オレが遭難する前に揉めていたオーラについてだが、折り合いが付いたらしく使っていく事にしたらしい。オレが居ない間の戦闘で頭が冷え、使えるものを使わないと生き残れない事を痛感した、と。しかしそれと同時に早く強くなって、この力を使わなくても良いようにするとも言っていた。

 メアリーもギンも賛同しているようで、後日検証しながら新しい武器を作成する予定だ。

 

 そういえば、メアリーが驚いていたな。オレが随分スタープラチナを自在に操っている事に。遭難してからも使い続けた甲斐があったものだ。

 

 それよりも、オレはギンの機動力が上がっている事に驚いたんだが。確か、ソルだったか? 足の速さなら、この船で一番だろう。速度を利用した新技も凄まじい力だった。敵の能力を攻略する為に頑張ったそうだ。

 

 オレが居ない間に随分と成長していたな。仲間として嬉しい。

 

 

 ¥月そ日

 

 今日は、最も驚いた日で最も笑った日だ。

 ベルメールさんの村を救った麦わらの一味だが、なんとエニエスロビーで大暴れして一味全員が賞金首になっていた。

 最初はまた暴れたか、とか。ナミは元気みたいだな、とかそう思っていた。しかし、二つの手配書を見た途端その考えは吹き飛んだ。

 一つ目は、懸賞金3000万ベリー、狙撃の王様そげキング。

 仮面で隠しているが一目見て分かった、こいつ、ウソップだ、と。まさか麦わらの一味に所属していたとは。立派な戦士になっているようで、兄弟として嬉しい。

 そう零すとメアリーが飲んでいたお茶を噴き出し、クルー達はオレに兄弟が居た事に驚いていた。問い詰めて来るので昔の事を話すと、手配者を見ながらクルー達は「やべーよ。船長の兄弟とか絶対強いよ」「世界政府の旗を撃ち抜いたらしいぜ? 普通できねーよこんな事」「そげキングやべー」と戦慄していた。メアリーは頭を抱えて「そんなの聞いてない」「やっぱジョジョはそういう星の下に生まれた」とブツブツと呟いていた。

 

 で、次が問題なのだが……サンジも手配書に載っていた。額も7700万と高く、一味として活躍しているみたいだが……写真が問題だった。落書きのような、しかし特徴を捉えた似顔絵で。オレとギンは思わず噴き出してしまった。ギンは恩人に失礼だと堪えようとしていたが、まぁ無理だよな。久しぶりじゃないか? 自分が声を上げて笑ったのは。

 クルー達がギョッとしてオレを見ていたが、そんなに意外だっただろうか。

 おそらく、ゼフさんもこれを見て笑っているに違いない。オレだって笑ったのだから。

 

 何はともあれ、アイツらが元気にやっているようで良かった。次に会える時が楽しみだ。

 




次回でグランドライン前半の冒険が終わります。
シャボンディ諸島編に入る前に色々と書くことがありますけど、ね


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主人公日記 十二ページ目

 $月×日

 

 メアリーが面白い物を手に入れていた。

 だいやる、という奴らしい。昨日オレの首を獲りに来た海賊から奪ったようだ。

 音を録音したり、風を出したり、光を出したり。中でもメアリーが気に入っていたのはインパクトダイヤルという奴だ。能力と相性が良いらしい。オレの拳の衝撃を入れてくれと頼まれて本気で振り下ろしたら……耐え切れず壊れてしまい、オレとメアリーは衝撃で船から落ちた。

 急いで救助され、二人揃ってギンに怒られてしまった。なんか、デジャヴ。

 何が起きたのか説明するとさらに怒られた。覇気とオーラ込めた本気の一撃を無闇に使わないでくれと。

 まあ、予備にいくつかあったらしく、その後はハンマーで地道に衝撃を貯めていた。

 

 

 $月÷日

 

 船が限界だった。

 原因は昨日のオレの一撃かと思ったら、どうやら前々から騙し騙しだった模様。船大工担当のラン曰く、次の島に着く前に……。

 一味の為にも、そしてここまで頑張った船の為にも次の島で船を新調して、もう休ませてあげるべきだと言っていた。

 悔しいが、それ以上に悔しいのがアイツらだろう。元々アイツらが用意して海に出た思い出深い仲間だ。オレもこの船には助けられた。だから、専門家の言う通りにもう休んで貰おう。

 

 

 $月+日

 

 船との別れを済ませて、現在新しい船を造って貰っている。造って貰っているのは、ランも驚くほどの腕を持つ船大工だ。

 何でも、元はウォーターセブンという造船業が盛んな水の都出身の船大工で、今は引退している。

 しかし、最後に凄い船を造ろうと考えており、そこに偶然にもオレ達が来て、せっかくだから造らせてくれと頼みこんで来た。

 そこでメアリーとの交渉を経て、オレ達は完成するのを待っている。

 メアリーやラン、他数名の造船技術を持っているクルー達は手伝っている。どうにも、メアリーの能力や以前手に入れたダイヤルを活かす船を造るつもりのようだ。

 

 完成まで時間がある。それまで修行でもしておこう。

 

 

 $月#日

 

 

 造船所からの会話が不吉過ぎる。

 空を飛ぶやら、ジェットやら、電磁浮遊やら。

 アイツら、船を造っているんだよな?

 

 

 $月/日

 

 鉄を叩く音が聞こえる。

 おかしいな。木材を叩いているようにしか見えなかったんだが……。

 ギンはここは偉大なる航路(グランドライン)だから、と言って何処か諦めた表情を浮かべていた。

 

 

 $月→日

 

 船ができた。できたのだが……。

 こんな事があり得るのか?

 浮いている。船が浮いているのだ。それは海に着水……着水? しても同じで、しかし普通の船のように浮いている。

 どういう事だ?

 そう思って聞くと、何でもこの船に使った木は特殊な特徴を持っており、何処にいても一定の高さでフワフワと浮き続け、とある方法以外では決して沈まないだとか。

 いや、これで航海できるのか? と聞くと、浮いている分風の影響を諸に受けるらしく、扱い方を間違えればひっくり返ったり、横転したり、果てには回転し続けると言った。

 大丈夫なのか?

 思わず不安になると、それを解消する為にダイヤルを使ってバランスを保つように組み込んでおり、この船のマニュアルや航海方法を纏めているとの事。

 それに、海に面していないからメアリーのスカスカの能力をフルに使えると言っていた。敵船からの砲撃も怖くないと言っていた。覇気が込められた攻撃は無理っぽいが。

 

 ……メアリーがここまで言うんだ。信じてみるか。

 

 

 $月*日

 

 予想以上に凄い船だった。海に面していない分抵抗力が無いからか、速度がある。かと言ってフラフラするかと思えばそんな事はなく安定していて、大岩や障害物もメアリーの能力で問題なく透過できた。

 航海の仕方も普段とそこまで変わらず、メアリーとクルー達がダイヤルを利用した秘密兵器を使えば、オレ達は何処までだって行ける。

 そんなオレ達の航海を支える新たな仲間の名前を此処に記そう。

 

 レッド・イーグル号。赤き鷲の名を持つこの船でオレは海賊王になる。

 

 

 $月☆日

 

 メアリーが、今着いた島の次が魚人島だと言っていた。ハチ達は元気だろうか。シャボンディ諸島で再会する予定だったが……ケイミーは海獣に食べられていないだろうか。

 

 そういえば、ギンが気になることを言っていたな。

 この島の住民たちが凄く親切だと。しかし決して目を合わさず、何処か余所余所しい。あまり長居するのは危険かもしれないと言っていた。クリーク海賊団に居た時……クリークの事を思い出すと言っていた。

 

 警戒しておいた方が良いな。

 

 

 $月°日

 

(何も書かれていない)

 

 

 $月×日

 

(何も書かれていない)

(涙の跡が付いている)

 

 

 $月◇日

 

(何も書かれていない)

(涙の跡が付いている)

 

 

 $月○日

 

(何も書かれていない)

(涙の跡が付いている)

 

 

 

 

 $月〒日

 

 明日書く。疲れた。

 

 

 $月:日

 

 さて、何から書こうか。日記を書くのも五日ぶりだからな。

 と言っても、あのマグマ野郎と青雉と戦っていたというだけなんだがな。メアリー達が引き返して来なかったら、あの爺さんにやられてこの日記も書けなかったか。

 いや、逃がされたと言うべきか? 青雉が気になる事を言っていたし。

 まぁ、良い。順序立てて起きた事を書くか。

 

 

 まず、あの島は海軍が用意した罠だった。予め住民を避難させ、オレ達を監視しながら大将二人を待っていた。

 気付いた時には軍艦に島を包囲され、青雉の能力で海を凍らされたのを見た時は、船が浮いていた事とメアリーの能力に感謝した。

 最初は全員で逃げようとしたが、マグマ野郎を放って置くと全滅は確実だった為、オレは残って皆には逃げて貰った。後で必ず会おうと言ったが、アイツらにはオレが死ぬつもりで残ったように見えたらしく、再会した時は全員に殴られた。一応怪我人なんだけどな。

 しかし、アイツらが居なければ捕まっていたのは確かだ。

 戦闘の余波で島は壊滅し、軍艦を盗もうとすればマグマ野郎に破壊され、仕方なく青雉が凍らせた海上で戦い続けた。

 倒すのではなく、生き残る事を優先したからこそ三日は保ったが、援軍でやって来たあの爺さん……いや、英雄ガープが来た時は正直にヤベェと思った。弱っていたとはいえ、拳骨一発でスタープラチナを消し飛ばすとは思わなかった。オレの生命力で作ったからクソ痛ェし、大将二人には囲まれるし。

 しかし、オレはこうして生きている。ご都合主義だと思うほどの、悪運によって。

 青雉がやる気だったら。マグマ野郎にダメージが無かったら。ガープの爺さんがもっと早く来ていたら。メアリー達が来なかったら。メアリーが大将二人を道連れに海の中に落ちなかったら。船を新しく変えてなかったら。戦いの余波で軍艦の数が減っていなかったら。そんな様々な要因が重なった結果、オレ達は生きている。

 今はその事を喜ぼう。

 

 

 $月=日

 

 メアリーとギン。二人とも、オレを助けるために傷を負った。

 メアリーは大将二人によって両腕に跡が残る傷を負った。火傷と凍傷で泣き叫んでいたのを今でも思い出す。時間が経てば問題無く動かせるが……。ギンもガープの一撃で武器ごと両腕の骨が折れて、表では何でもないようにしていたが夜中に呻いているのを知っている。本人は「覇気でガードして貰わなかったら、砕けていました」と言っていたが……。

 

 いや、これ以上はやめておこう。構い過ぎて二人からまた怒られる。回復するまで待とう。

 

 

 $月<日

 

 手配書を見て、いよいよ海軍の殺意の高さが伝わって来た。

 星屑のジョジョ。懸賞金5億ベリー。

 邪眼のメアリー。懸賞金9800万ベリー。

 鬼人のギン。懸賞金8800万ベリー。

 一目瞭然。大幅に額を上げて来やがった。オレは一気に2億上がり、二人も1億近くまで引き上げられている。

 メアリーは何処か微妙な顔をしていたが。どうせなら1億にしてくれ、と。しかしそれと同時に額にビビったり喜んだり悔しがったりと忙しない。

 クルー達は素直に祝福し、宴の準備をしている。

 手伝おうとすると休めと言われた。

 もう体は問題無いんだがな、そう言うと両腕に包帯を巻いたギンに「アンタの回復力はおかしい」と言われた。メアリーにも同じ事を言われた。

 

 

 $月[日

 

 新聞にエースが捕まったという情報が入った。

 何でも、黒ひげという海賊が倒したらしい。その黒ひげはエースを捕まえた事によって七武海に入ったとの事。

 黒ひげと言えば、エースが探していた男のことだ。という事は、エースはそいつに返り討ちに……。

 

 メアリーは、戦争が起きると言っていた。エースの所属する白ひげ海賊団の船長である白ひげは部下を息子と呼び大切にする。エースが捕らえられた以上、世界政府と白ひげの衝突は確実だ、と。

 

 しかし、メアリーはそれ以上の何かを見ている。これから海軍がどう動くのかを理解している。そして、それを気にしてかメアリーの顔色は優れない。

 アイツのそんな顔を見ているとあの時の夜を思い出す。エースと話していた時の事を。

 

 ……こりゃあ、怪我を早く治しておかねぇとな。

 

 

 $月△日

 

 懐かしいモノを見た。

 オレ達はレッドラインに辿り着いた。この壁の向こうにシャンクスや親父が居ると思うと、感慨深いものがある。

 ちなみに、メアリーの能力で通り抜けられるか聞いて見たところ、途中で止まって生き埋めになるからやめておけと言われた。それに、魚人島に行きたいとブーイングを受けた。オレも冒険したいからな。聞いてみただけだと伝えて安心させておく。

 ……泣くほど人魚見たいのか、アイツら。

 

 

 $月◯日

 

 シャボンディ諸島に着いた。

 適当な所に船を止めてハチ達を探すか。

 もしくは、親父の知り合いのレイさんを探すか。別れる前に此処に居ると書いてあったからな。気付いて良かったぜ。

 

 

 

 

 

 

 




これからしばらく日記風の投稿はありません
やっぱり彼らとの再会は普通に書いてみたいので。
その前にセンゴクさんの胃の荒れ具合をチェックします。
他に書く事あった気がしましたけど……忘れたので思い出したら書きます


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番外・世界の甲板から~5億の男~

早く出来たので投稿、と


「ぶわっはっはっはっは! まさか空を飛んで逃げるとは! ルフィと言い、最近の海賊は空飛ぶ船がトレンドなのか?」

「笑うなガープ! ああ……胃が痛い」

 

 海軍本部で胃を押さえるセンゴク。先日行われた『ジョン・スター・D・ジョット討伐作戦』の失敗の後始末によって、苦労が絶えない。

 五老星からのネチネチとした嫌味に耐え、何とか倒れずに済んでいるが……正直限界だった。帰っておかき食べたいと五分ごとに呟いていた姿は、ガープと肩を並べた英雄の一人とは思えないほど弱り切っていた。

 

「くそ、次々と問題を起こしおって……!」

「奴の息子だからなぁ」

「貴様の孫のことも言っているのだ!」

 

 最近の海軍は様々な対応に追われている。それも、世界中で問題を起こす海賊のせいだ。

 麦わらのルフィは七武海を二人倒し、エニエスロビーでは大暴れ。隠者はビッグマムとカイドウの戦争を誘発させて消耗させると、本人はそのまま赤髪の元へトンズラ。黒ひげは火拳のエースを捕らえて七武海に加入。星屑のジョットは大将と何度も戦って逃げ切り、非公式だが革命軍と共に一つの国を落とした。

 どうしろと言うのだ。白ひげとの戦争を起こす前に危険分子を排除しようとすれば、逆にこちらの戦力を削るだけ削って逃げられる始末。

 メディアはもはや星屑のジョジョの次の活躍に夢中になり、情報規制を行うも意味がない。すぐにでも彼の出生が明らかになるだろう。

 

 そして、さらなる追撃をしようにも時間は無い。全海兵にしばらくの間星屑のジョジョに接触する事を禁止し、これ以上の戦力を失わないようにした。そうしなければ、今すぐにでもシャボンディ諸島に向かう者が居るからだ。冥王レイリーの影がちらつくあの島に不用意に戦力を送り込めば、どうなるか分かったものではない。

 

「で、どうすんじゃ?」

「――星屑のジョジョは、白ひげの後に処理しよう」

「まぁ……妥当じゃろうな。伝説を相手に、他の奴らに構ってられんわい」

 

 見て見ぬふり。後回し。色々あるが、センゴクは顔に濃い疲労の色を浮かべながら次の仕事に取り掛かった。

 

 

 ――彼が、再び胃を押さえるまで……後数日。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「シャンクスさん、お久しぶりです!」

「お前、いろいろとやらかしておいて、何普通に挨拶しに来ているんだ……」

 

 偉大なる航路(グランドライン)後半の『新世界』。

 現在此処は、海軍が手を引くほどに荒れていた。

 ビッグマムとカイドウは怒り狂い、白ひげはエース奪還に動き、そして赤髪は被害が拡大しないように牽制中。

 このような事態を起こした男、隠者……ジョットの父にシャンクスの顔は引きつっていた。

 

「いや~。片や美味そうな菓子。片や美味そうな酒を持っていたんでね。それに、あいつらの警戒網をくぐり抜けて此処に来るには、潰し合わせませんと」

「相変わらず性格が悪いな。大将をジョットにぶつけたのもお前の仕業だろう?」

 

 ジョットの父は、カイドウの元からくすねてきた酒を飲みながら軽快に話す。

 

「アイツに足りないのは実戦経験でしてね。覇気だけならそこらの奴に負けません。ただ、それだけじゃあいざって時にやられますから」

「だが、アイツはアンタの息子だ。その意味を知らない訳じゃ無いだろう」

 

 他にもビッグマムの所から盗んだ話すケーキ。ガープが持っていた煎餅。他にも様々な盗品をその場に出してシャンクスに振る舞いながら、ジョットの父は語る。

 

「早いか遅いかの話ですぜ? それに読み通りセンゴクの野郎が情報操作して、こっちの海にバレないようにしていた。おかげで良い修行になっただろうよ」

「……」

「不満、ですか?」

「アイツは、俺の友だからな。だから、要らない重荷を背負わせる事が――我慢ならん」

「――それはお節介って話だ。赤髪の小僧」

 

 ジョットの父の雰囲気が変わる。

 そこには、海賊王のクルーに憧れを持つ飲んだくれの男は無く、長い時を生きた賢者の姿があった。

 

「アイツは、ジョン・スターの血を持つ人間だ。Dの意志も受け継いでいる。世界と戦うにはまだまだ足りねえよ。同情するくらいなら、殺してやれ――それが、アイツへの救いって奴だ」

「……」

「――おっと。すんません。興奮しやした。どうも久しぶりに運動した所為で血が騒ぐ」

「……いや、気にしないで良い。ただ、心配だっただけさ」

「そうですか」

「ああ。……ところで、これは?」

「ああ。これですか?」

 

 シャンクスが目を付けたその先には、一つの酒瓶があった。かなり上等でジョットの父も飲むのを楽しみにしているのだろう。見るからに美味しそうなそれに興味を持ったシャンクスが尋ねてみた。すると……。

 

「天竜人は生かしておく価値はねえが、流石は世界貴族って呼ばれるだけはある。四皇の酒よりも美味い」

「……お前、こっちの海にどうやって来たんだ?」

「おつるちゃんがシャボンディ諸島に居たんで、上から来ました」

「……」

 

 ――ここで、彼が犯した罪を話そう。

 ビッグマムの縄張りに侵入し、甘いお菓子を盗むこと――52回。

 カイドウの酒を盗むこと――32回。

 白ひげの船から宴会用の酒を盗むこと――21回。

 海軍本部、並びに支部の基地に侵入し、食事をすること――合わせて423回。

 聖地マリージョアに侵入し、酒を盗むこと――10回。

 

 他にも様々な盗みを働いているが、総じて彼は相手が気づく前にその場を去る。

 常に陰に潜み、やりたい放題する彼は隠者と名付けられ、世界中の猛者から嫌われていた。

 そんな彼に唯一勝てた者は――この世にはもう居ない。

 

「美味いなー。やっぱそこらの物とは格が違う」

「……味音痴が何を言っているんだか」

「酷いですぜ、シャンクスさん」

 

 シャンクスは、そっと一人ため息を吐いた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 星屑のジョジョの懸賞金が5億に上がり、そしてシャボンディ諸島に着いた事は……彼らの耳にも届いていた。

 今回は、そんな彼らの反応を見てみよう。

 

 

――カポネ“ギャング”ベッジの場合。

 

「ほう。随分と持ち上げられているではないか、この男」

 

 部下から渡された新聞を見ながら、ベッジは笑みを浮かべた。

 最初は、ただ単に逃げ足が速いだけかと思っていた。しかし、実際はここまで大将を退けて航海を続けるだけの強さがある。

 超新星と言われている自分たちよりも頭一つ抜けているのも、分かるというもの。

 そう評価するベッジに、部下たちはごくりと生唾を飲んだ。頭目が一目置く存在に畏怖と戦慄を覚えたのだ。

 

「一度、会って話がしてみたいものだ」

 

 こいつとなら、組んでも良いかもしれない。

 新世界での戦いを思い浮かべて、ベッジは浮かべた笑みを深めた。

 

 

 ――“大喰らい”ジュエリー・ボニーの場合。

 

「厄介な奴がこの島にやって来たねぇ」

 

 ピザを食べながら、新聞に載っている星屑のジョジョを睨み付けるボニー。

 大将を何度も退けた実績から、この島でやってはいけない暗黙のルールを破りそうだと思ったのだ。

 そのルールとは、天竜人に手を出すこと。この男なら、海軍大将なんて知らないと言わんばかりにやらかす可能性が大いにある。

 

「ちっ。気に食わないねぇ」

 

 ピザを呑み込んで、ボニーは眉間に皺を作った。

 賢くない男は、嫌いだった。

 

 

 ――“魔術師”バジル・ホーキンスの場合。

 

「占うまでもないな」

 

 ある場所へ向けて歩いていく星屑のジョジョの背中を見ながら、彼は思わず呟いた。

 見ただけで分かった。あの男は、この島で必ず騒動を起こす。そして、自分たちはそれに巻き込まれるだろう、と。

 それを聞いたクルー達が、すぐにでも出港しようと言う。巻き添えで全滅はごめんだからだ。

 しかし、ホーキンスは無用だと言った。何故なら、自分たちに死相が出ていないからだ。

 だが――。

 

「やはり、か」

 

 ホーキンスは、星が描かれたタロットカードを見ながら呟いた。

 

「この島で、奴に敵うルーキーは居ない……」

 

 もし、彼らが名を上げようと挑めば――結果は勝率ゼロ。結果に従ってホーキンスは星屑のジョジョに手を出さない。

 彼に勝つ未来が見えるその日まで。

 

 

 ――“海鳴り”スクラッチメン・アプーの場合。

 

「うっはー。こいつはやべえな……」

 

 アプーは額に流れた汗を、己の長い腕で拭った。

 5億の男の実力はどんなものか?

 ちょっとした好奇心からちょっかいを出そうとしたところ……。

 

「こっから何メートルあると思ってんだ? コエーコエー」

 

 彼が現在居るのは、とある建物の屋上。星屑のジョジョとは随分距離が離れている。しかし、いざ能力を使おうとした瞬間、直接心臓を握りしめられたような錯覚を覚えた。よく見れば、こちらを睨み付けて威圧していた。傍にいたクルーが気絶していた事から何かしたのだろう。自分に意識があったのは、警告するため。

 容易に触れてはいけない。そう思わせるヤバさがあった。

 

「大将退けたのも伊達じゃないってか」

 

 アプーは、気絶した部下を叩き起こしてその場を後にした。

 

 

 ――“赤旗”X・ドレークの場合。

 

「……覇王色の覇気。この時点で扱えるのか」

 

 アプーに警告をし、クルーを連れて歩き出した星屑のジョジョを見ながらドレークは戦慄した。元海軍少将だった彼は覇気の事を知っている。中将以上が普通に使っているそれが、習得するのにどれだけ時間がかかり、そして難しいかも。

 それを普通に使っている星屑のジョジョの異常さを、恐らく超新星の中で最も理解しているだろう。

 

「しかし……」

 

 気になるのは、その力をどう手に入れたのかだ。

 海軍で鍛えたのなら噂で聞くはず。新世界出身ならば、此処に居るのはおかしい。

 自然発生か、もしくは師匠が怪物か。

 戦闘になった時の事を想像し、ドレークは首を振った。

 今は情報が少ない。しばらく傍観しよう、と。

 

 

 ――“死の外科医”トラファルガー・ローの場合。

 

「星屑屋……アンタ、何人殺した?」

 

 前を通りかかった星屑のジョジョに向かって、ローは声をかけた。

 前々から興味はあった。ある目的の為に海賊をしている彼は、星屑のジョジョの力ならあるいは……と考えていた。

 ジョットが歩みを止めて、ローの前で止まる。

 不吉な表情で見上げるローと上から威圧感たっぷりに見下ろすジョット。二人の間の空気が重くなり、両海賊団のクルーたちの頬に一筋の汗が流れる。

 

「興味深い奴を連れているな」

 

 しかし、ジョットはそれだけを言うと歩き出した。

 ローは呆気に取られて間抜けな表情を浮かべる。興味深い? 誰の事だ?

 そう考え、後ろを振り返り――すぐに分かった。

 

「どうした、キャプテン?」

「……」

 

 自分の目は曇っていたのだろうか。

 女に頭を叩かれ、副船長らしき男と話しているジョットの背中を見ながらそう思った。

 

 

 

 ――“怪僧”ウルージの場合。

 

「あれは、心網(マントラ)。青海人が何故……?」

 

 賞金稼ぎを一蹴りし、『シャッキー’sぼったくりBAR』と書かれた建物に入っていく星屑のジョジョ一行を見送りながら、ウルージは先ほどの戦闘を思い出していた。

 彼の体から浮かび上がった魔人。繰り出されるラッシュは目に見えず、本体の拳は地面を――正確にはマングローブだが――揺らすほどの一撃。それを見て逃げ出した賞金稼ぎを軟弱者となじるには、あまりにもレベルが違いすぎる。

 少なくとも、何も対策をせずに彼の前に出たくはない。

 

「しかし……」

 

 だが、それ以上に気になる人間がいた。

 太陽の日差しを受けてキラキラと光る金色の長髪。色気を醸し出す美しい白肌。そして、男なら誰もが触れたいと思うほどの艶めかしい女体。

 

「……」

 

 僧を名乗りながらも、この男……大の女好きである。

 大男が頬を染める姿は、少しばかり不気味だった。

 

 

 ――キッド海賊団の場合。

 

「あのくそ野郎が!」

「落ち着け、キッド」

 

 とある酒場で荒々しくナイフを突き立てるキッド。刃の先には、星屑のジョジョの手配書があり、かなりズタズタにされている。新聞は既にボロボロに引き裂かれて捨てられた。そんな船長を宥めるのは、キッドと同じく億越えのルーキー。“殺戮武人”キラー。仮面の穴からため息が漏れ出て、それをキッドが睨み付ける。

 

「テメエは覚えていねえのか! こいつに無様にも生かされた事を!」

「忘れる訳がないだろう」

 

 彼らは、不本意ながら星屑のジョジョに救われた過去を持つ。と言っても、本人からすれば結果的にそうなっただけで、助ける気はさらさら無かったが。

 

「くそ、気に食わねえ……!」

 

 キッドは、海賊でありながら人を救う星屑のジョジョが気に入らなかった。

 自分とは正反対の人間で、しかし度胸も力も名声も……キッドよりもあった。

 全てが気に入らなかった。気に入らないのに……助けられた。

 これほど屈辱的な事はない。何時かお礼参りしてやろうと思い、他の有象無象に目が行かなくなるくらいには……キッドは星屑のジョジョに固執していた。

 

「だがキッド。此処で手を出せばあの日と同じ目にあうぞ」

「分かっている! アイツをぶっ潰すのは――新世界でだ!」

 

 執念の炎を燃やして、キッドは再びナイフを振り下ろした。

 

 

 

 そして――数日後。

 

 

 ――麦わらの一味の場合。

 

 

「あれが、シャボンディ諸島だ!!」

 

 ついにこの島に、12人の超新星が集結した。

 




次回、麦わらの一味を主軸に書きます


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シャボンディ諸島編
二つの海賊団


「ん? なんだ?」

 

 先ほどちょっとした戦闘で傷がついたため、船――サウザンドサニー号を修理していたフランキーが、こちらに向かってくる人影に気が付いた。

 数は二十人くらいだろうか。見るからにガラの悪い恰好をしており、一目で同業者……海賊だと分かった。

 恐らく、麦わらの名を聞いて名声を取りに来たのだろう。体に仕込まれた兵器の調子を確認しながら、フランキーはこの船に残った二人の仲間に声をかけた。

 

「おい! 敵が来たぞ!」

「え!? マジかよおい!」

「聞いた通り治安が悪いんだな……ご苦労なこって」

 

 報告を聞いたウソップは震え上がってビビり、サンジは煙草の煙を吹きながら立ち上がる。ナミに頼まれて留守番していたが、まさか本当に来るとは思わなかったようで、海賊の柄の悪さと欲深さに呆れの声を出した。

 

「……」

 

 先日の傷は、もう癒えている。ゾロの献身によって。

 次にあのような強敵が来れば――そんな事を考えつつ、彼は船の上から敵の姿を確認した。

 敵は、ゾロゾロと船に近づく。しかし、何処か様子がおかしい。武器を持っておらず、顔は緊張して、そして敵意が感じられない。

 どういうことだ? 違和感に眉を潜めていると、近づいてきた海賊がこちらに向かって大きな声で次のように述べた。

 

「――此処に、狙撃の王様そげキングが居るのを確認した!! 話がある! どうか、船に上げて貰えないだろうか!!」

 

「……お呼びだぞ、そげキング」

「なんでじゃああああ!!??」

 

 お目当てはどうやらウソップなようで、指名されたウソップが卒倒しそうなほど顔を真っ青にさせて絶叫した。

 え? なにかした? ……しましたね。でも、他の奴らと比べたら可愛いもんだろうおれは!? とウソップは内心混乱しまくっていた。

 

「早く追っ払ってくれよ。船を直してーんだ」

「宝が目当てじゃないなら良いか。ナミさんも許してくれる」

「鬼か貴様ら!?」

 

「あの! お返事は!?」

「ひい!?」

 

 切迫した状況ではないからか、サンジとフランキーは素っ気ない。

 どうやら一人で切り抜けないといけないようで、急かしてくる海賊の前に嫌々ながらウソップは姿を現した。……そげキングとして。

 

「私に何か用かね、海賊の諸君!」

 

 仮面とマントを身に着け、腕を組むその姿に彼らがどよめきの声を上げる。

 口々に「手配書と同じだ」「あれが、世界政府の旗を撃った……」「なんか、貫禄あるな」と評価を口にする。その反応にウソップは、あれ? これ意外とイケるんじゃね? と思い直した。このまま堂々としていれば、彼らは逃げ出すかもしれない。

 

「あの、すみません! あなたがシロップ村のウソップですか!?」

「――」

 

 そんな楽観的な考えは吹き飛んでしまったが。

 どういうわけか、彼らはウソップの正体を見破っていた。ご丁寧に出身地を添えて。頭が真っ白になり、ウソップは体を硬直させた。そげキングとして手配書に載っていた安心感が打ち壊され、心臓がキュッとなる。

 サンジとフランキーも流石に妙だと思ったのか、眉を顰めて彼らを見た。もしかしたら、厄介な相手なのかもしれない。とりあえずウソップには相手から情報を引き出して貰おうと思い……。

 

「いや、おれはそんな男は――」

「ウソップさんですよね?」

「いや、ちが」

「ウソップさんですよね?」

「あの、だから」

「ウソップさんですよね?」

「…………はい」

「なに押し負けてんだ!?」

「だってよ~サンジ~」

 

 青を通り越して白くなった顔のまま、ウソップは口元を押さえた。もう、死ぬかもしれない。

 あっさり正体を明かした仲間にキレつつ、サンジは眼下の海賊たちに尋ねた。

 

「で、うちの狙撃手に何か用か?」

「何って。そんなもん――」

 

 ――挨拶に決まっているでしょう?

 そう言って、彼らは笑みを浮かべた。まるで、これから起きる出来事が楽しみで楽しみで堪らない……そんな笑みだった。

 ウソップは彼らの引きつった笑い声にヒュッと息を吸って気絶しそうになる。フランキーは少しだけ同情の視線を向けた。サンジは、新しい煙草に火をつけて一服。

 これは、思っていたよりも面倒な事態になった。偉大なる航路(グランドライン)前半を制覇した海賊たちは、どうやら頭のネジが飛んでいるらしい。

 いや、三人しか居ない時を狙ったと考えると用心深いと言うべきか。

 ともかく、戦闘は避けられないらしい。

 

「お、お前ら! おれに手を出してみろ! 八千人の部下が黙ってねーぞ!」

「バカ。この島まで来た海賊がその程度でビビる訳が――」

 

「え!? 八千人!?」

「そんな数相手にできねえよ!」

「せ、船長に言ったらどうにかなるかな……」

 

「信じるのかよ! このくそ海賊ども!!」

「落ち着けよサンジ。……で、お前らいったい何なんだ」

 

 何なんだこいつら。率直にサンジはそう思った。

 やりにくいったらありゃしない。

 完全に相手のペースに乱されている二人を見て、フランキーがため息を吐き、海賊たちに何者かと聞いた。

 目的を知るためにも、まず相手の素性を明らかにした方が良い。

 そう思って何気に尋ねた。

 

「あ、これは申し遅れました。俺たち、クルセイダー海賊団の一味です」

「なるほど、クルセイダー海賊団――」

 

 そこまで言って、フランキーの言葉は止まった。

 耳から入った情報が脳に辿り着き、理解するのに時間が経った。しかし、それが終わると瞬時に腕に備え付けられた銃口を相手に向け、最大限の警戒を示す。横のサンジも足を構えていつでも攻撃できるように備えた。

 

「は!? クルセイダー海賊団!?」

 

 ウソップが驚愕の声を上げる。クルセイダー海賊団と言えば、以前自分たちが手も足も出なかった青雉に傷を負わせ、ルフィの祖父であり海軍の英雄であるガープが「手を出したら死ぬぞ?」と警告して来たイカれた海賊たちだ。

 そんなやばい奴らが、何故自分たちに近づく?

 三人は、思いもよらない緊急事態に内心悪態をついた。

 こんな奴ら相手に、船を守り切れるのか?

 決死の表情を浮かべたサンジ達に、クルセイダー海賊団は……。

 

「……あれ? なんか空気やばくね?」

「実は、俺も何となーくそう思ってた」

「これ、怒られるパターンじゃん」

「……拳骨? 生き埋め? 説教?」

「フルコースですね、分かります」

 

 ようやく互いに認識の違いがある事を理解したらしい。しかも、それを解くには容易ではないくらいに。

 ちょっと兄弟との再会を楽しみにしている船長にサプライズを、と思っていたのにどうしてこうなった。このままではトップスリーに怒られてしまう。

 そこまで考えて、彼らは思いだした。此処に来る前に、誰と行動していたのかを。

 そして「問題起こしたら、分かっているよな?」と凄まれたことを。

 そして……「トイレ行くから先に行っていてくれ」と言っていった事を。

 

「――おい、お前ら。何をしているんだ?」

 

 背後から、クルセイダー海賊団にとって聞き慣れた……そして、サンジにとっては久しい声が聞こえた。

 男達は、後からやって来た彼の名前を叫んだ。

 

 ――ギン、と。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「ん?」

「どうしたの、ナミ?」

 

 30GR(グローブ)にてショッピングを楽しんでいたナミの目に、一つの人だかりが見えた。それに気づいたロビンが尋ねると、彼女はすっと指さす。

 指の先では、どうやら女と男が揉めているらしく、言い争う声が聞こえる。

 海賊が多いと耳にしていたが、こんな所でも騒動を起こすのか。海賊の荒々しさに自分の立場を棚に上げてため息を吐くと歩き出す。それを呼び止めるのはロビンだ。

 

「ちょっとナミ。ここで騒ぎを起こしたら……」

「なに言ってんのよ。私は止める側。それに、あんなの放っておけないわ」

 

 船長であるルフィの影響か、ナミは何でもないようにそう言った。その様子にロビンは困ったような……しかし嬉しそうな笑みを浮かべて彼女に続いた。やはり彼女も麦わらの一味だということだ。

 二人が近づくと、喧騒の声の内容が聞き取れるようになって来た。周りの観光客は迷惑そうに見るものの、止めようとはしない。面倒ごとには関わりたくないなのだろう。

 

「いや、だから私知らないって」

「嘘つけ! お前がおれの弟の財布盗んだのを、この目で確かに見たぞ!」

「そうだ! そうだ! おれの財布盗んだろ!」

 

 一人は、綺麗な金髪の少女だった。同性のナミから見ても綺麗だと思うほどの女性で、そっと吐くため息は色気に満ちている。横目でチラリと見ると、ギャラリーの何人かは彼女の色香にやられて目をハートにしていた。

 対して、そんな彼女に因縁をつけているのは体が大きく、そして筋肉のついた男たち。かつて、海賊専門の泥棒として磨き上げられた観察眼が言っていた。彼らは海賊だと。小奇麗な服を着て市民に成り済ましているが一発で分かった。

 

「証拠でもあるんですか?」

「そんなもん、お前の体を調べれば分かるだろう!」

 

 そう言って、男は彼女の腕を掴んだ。

 とんだ言いがかりだ。男の欲望で淀んだ目を見れば、何を目的に彼女に絡んだのか理解した。財布を盗られた弟だという男も、浮かんだ笑みを隠し切れておらず、口元から下劣な声が出てきた。

 

 ――放っておけない。そう思って一歩踏み出そうとしたナミをロビンが止めた。仲間からの予想外な行動に思わず、振り返って何故? と非難の視線を送る。だが、それ以上にロビンの表情は険しかった。

 

「相手は、9800万ベリーの賞金首よ」

「え!?」

 

 ロビンの口から放たれた言葉に、思わず体を硬直させる。

 一歩1億に届いていないが、それでも高額の賞金首だ。少なくとも、自分一人では手に負えないだろう。

 しかし――。

 

「だったら! なおさら――」

「違うわ、ナミ。賞金首なのは……彼女の方よ」

「え?」

 

 

「ぎゃああああああ!?」

「あ、あに――う、うわああああああ!?」

 

 瞬間、どよめきと悲鳴が上がった。

 ロビンに向いていた視線を元に戻すと、そこには信じられない光景が広がっていた。

 少女に絡んでいた男たちの胸から下が地面に埋まって、そして尚も下に沈もうとしていた。それを為したのは、男たちの頭に軽く触れている――金髪の少女。

 

「な、なんだこれ? 助けてくれええええ!!」

「こわい! こわいよあにきいいいい!」

「……命乞い? 助かりたいの?」

 

 未知の恐怖に震える男たちを撫でながら、少女はゾッとするような冷たい声で囁いた。

 彼女の言葉に男たちは全力で頷き、「自分たちが悪かった」「もうしない」「嘘ついてすみませんでした!」と泣き叫ぶ。

 

「そう……でも、あなた達はそう言って命乞いする人たちは何人殺したの?」

「あ、ああ……」

「いざ自分の番になったら許してくれって頼み込むなんて――虫の良い話だと思わない?」

「ああ……あああああ……!」

「――地獄の底で、一生懺悔していなさいな」

「あああああああああ――」

 

 叫び声を最後に、男たちは完全に地中へと消えた……。

 

「――よっと」

 

 そして、すぐさま少女は今し方埋めた男二人を引き上げた。男たちは恐怖で死んだと思ったのか、酷い顔で気絶している。

 

「起きる前に、海軍に引き渡しといてください」

 

 ドサリと捨てられた二人を一瞥した彼女は、すれ違いざまに一連の出来事を見ていたギャラリーの一人に頼むとその場を後にした。

 

 彼女が居なくなると、次第に静かになっていたこの場に人の声が戻り、ざわざわと騒ぎ立つ。引き渡しを頼まれた男は他の者たちと共に気絶した男を縛っていく。

 その光景を見ながらナミが一言。

 

「何だったの、あれ……」

 

 ナミの呟きに答えたのは、ロビンだった。

 

「“邪眼”のメアリー。クルセイダー海賊団の副船長よ」

「え!? あの子が?」

「ええ。手配書では手で顔を隠しているけど……色々と噂を聞くわ」

 

 曰く、その瞳の前では海王類は首を垂れるしかない、だとか。

 曰く、邪眼で睨まれた者は寿命が削られ死に至るだとか。

 曰く、彼女の邪眼は全てを見通し、相手の思考や過去現在未来を意のままに操るだとか。

 

「それ、本気で言っている?」

「少なくとも、世界政府は“邪眼”という通り名を名付けるほどに危険視している。もっとも――」

 

 それ以上に危険視している存在が、トップにいるけどね。

 ロビンの言葉にナミは複雑そうな顔をし、悠々と歩き去る“邪眼”のメアリーの背中を見つめていた。

 

 

(やっば!! あれって絶対ナミとロビンじゃん! 私、緊張してやらかしていないよね!? 恥ずかしいことしていないよね!?)

 

 本人が何を考えているのか知らずに……。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 ハチの案内の元、コーティング職人であるレイさん(・・・・)に会うべく、シャッキー’sぼったくりBARにやって来たルフィたちは、店主のシャクヤク……シャッキーにこのシャボンディ諸島に集った超新星達の話を聞いていた。

 

「――この中の誰かが次世代の海賊達を引っ張っていく存在に成長するかもね。いずれにしろ、これだけのルーキーが一気になだれ込めば新世界も只じゃ済まないわ。

 キャプテン・キッドがキミより賞金が高いのは、民間人に多大な被害を与えていたから。今はその辺大人しくなっているけど……」

「……う~ん?」

「あら? どうしたのモンキーちゃん。キャプテン・キッドの事。会ったことあるの?」

「いや、ソイツじゃねえ。クル……何とかの海賊のジョジョって奴の話をどっかで聞いた事あるんだ。何処だったかなー?」

 

 しかし、ルフィはあまりシャッキーの話を聞いていなかった。ライバルがたくさん居るという事は何となく分かったが、その中で出てきた名前がずっと気になっていた。

 結構最近だったような? と頭を捻って思い出そうとするルフィ。そんな彼に助け舟を出したのはチョッパーだった。

 

「ルフィ。お前のじいちゃんが言ってぞ。ウォーターセブンで」

「え? そうなんですか?」

「あ~。確かじいちゃんがそんな事言ってたな」

「ふふふ……あのガープが警告を、ね。まぁ、それも当然かもね。ジョジョくん、あのガープに加えて青雉、赤犬から逃げたんですもの」

 

 さらりとシャッキーがつい先日新聞の一面を飾った話題を口にすると、ルフィたちは目を大きく開いて驚いた。

 

「え~~~~!? じいちゃんと青キジから逃げたのか!?」

「ちょちょちょちょちょちょっと待ってください! 大将二人とルフィさんのおじいさんから逃げるって、驚きすぎて目が飛び出そうなんですけど! あ、私目が無いんですけど。ヨホホホホ!」

「やっぱ5億って凄いんだな……」

 

「――そう。彼は単純な強さであそこまで上り詰めている。超新星の中でも特別よ、彼は。それに、彼結構良い男だったし」

「にゅ? シャッキー。ジョジョの奴此処に来たのか?」

 

 シャッキーの言葉に引っかかる所があり、別の席で話を聞いていたハチが彼女に尋ねた。すると、シャッキーは頷いた。

 すると、今度はルフィがハチの言葉に反応した。

 

「なんだお前ら。そのジョジョって奴と知り合いなのか?」

「ジョジョっちんとは友達だよ!」

「そして同じスターであり、同志でもある!」

「にゅ~。此処に来る途中一緒に航海したんだ。途中で別れたんだけどな」

 

 言い忘れてすまん、とハチは謝った。トビウオライダーズや天竜人の件でドタドタし、伝える機会が無かったのだ。

 

「ナミに後で伝えねえとな」

「うん? なんでそこでナミが出てくるんだ?」

 

 ハチが零した言葉に、チョッパーが反応する。

 ブルックもルフィも首を傾げて不思議そうにしている。しかし、その反応を見てハチもまた不思議に思った。

 

「にゅ? だってジョジョとナミは昔に会った事あるって言っていたぞ」

「え――」

 

 

『えええええええ!?』

 

 ブルックとチョッパーの驚きの声が、店の外まで響き渡った。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「おい、そこのアンタ」

「ん?」

 

 銃で撃たれて怪我をしている男を担いでいたゾロは、少し困っていた。病院に連れて行こうにも場所が分からない。道を尋ねようにも、通行人は面倒ごとはごめんなのかゾロを避けて足早に歩いていく。ゾロも、そんな気の悪い相手に頼りたくない。しかし、すぐにでも肩に担いだ男を病院に連れて行きたく、適当に近くを通った男に話しかけた。

 すると、ゾロが話しかけた男はこちらを向き……目の色を変えた。少なくとも、他の奴らよりも話が分かると思った。

 

「病院を探している。場所、教えてくれないか?」

「……そこを真っすぐ進めば直ぐに着く」

「悪いな、ありがとう」

 

 道を聞いたゾロは言われた場所に向かって歩き出そうとする。しかし、それを男が呼び止めた。

 

「待ちな」

「あん?」

「その男……出血が酷い。応急処置をするから貸せ」

「は? おい――」

 

 そう言うと、男はゾロから怪我人を引き剥がすと地面に寝かせる。

 そして体をじっくり見ると、血が出ている傷口を見る。

 

「弾丸が入ってやがるな」

 

 すっと男が手を差し伸ばすと――次の瞬間、彼の手には銃弾が現れた。

 その様子を背後から見ていたゾロは、目を細めた。

 

(青……いや、紫か? 一瞬何か見えたような――)

「終わったぞ」

「ん? そうか」

 

 思考に耽っている間に、治療が終わったようだ。

 男が体を退けると、傷口が塞がって血も止まっていた。

 ――何かの能力か?

 そう疑問に思いながらも、ゾロが再び男を担ごうとすると……。

 

「……マリィ……」

 

 呻き声と共に女の名前が呟かれた。

 それを耳にした男は、視線を遠くにやって何かを確認すると、歩き出したゾロに言った。

 

「その男に伝えてくれ」

「あ?」

「取られたもんは、取り返す、とな」

 

 用件を言うだけ言って歩き去る男を見ながら、ゾロは思う。

 

(……強いな、あいつ)

 

 肌で感じた、底知れぬ実力に。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「――1番GRに、レイさんが居るんだな?」

『うん、そうだよ。ヒューマンショップで売られてる』

 

 電伝虫でメアリーと話しながら、ジョットは黒服を着た男の頭から手を放した。辺りには気絶した同じような恰好をした男がおり、傍には涙を流して目の前の光景に絶句している女性。

 

「分かった。近くに居るからオレが向かう」

『あ、私も行くよ。……ちなみに、いま何しているの?』

「記憶消去と……整形だな」

『なにしてんの!?』

 

 メアリーからの突っ込みを聞き流しながら、ジョットは涙を流してお礼を言う女性を解放した。女性は己の婚約者の元に走り去っていく。

 そんな彼女を見送るジョットに、メアリーが恐る恐る言った。無駄だと思いながら。

 

『言っておくけど、天竜人には手を出さないでね?』

「善処する」

『分かっていたよこんちくしょう!』

 

 ガチャッと荒々しく通信を切られながら、ジョットは1番GRに向かって歩き出した。

 そこで再会と邂逅がある事を知らずに。

 



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天竜人

「――特製シャボン玉だと?」

「はい、現在シャボンディ諸島には凶悪な海賊が滞在しているらしく……海軍本部元帥センゴクが是非着用を、と連絡があり……」

 

 時は遡って、ロズワード一家がシャボンディ諸島に到着した頃。

 彼らは、護衛の男からセンゴクの伝言を聞いていた。

 ジョットがシャボンディ諸島に上陸している事は、既に海軍及び世界政府の耳に届いている。他にも超新星が集い、現在シャボンディ諸島は政府から見て危険な状態だと言える。そんな中ロズワード一家がシャボンディ諸島に訪れるのは、火薬に火をつけるのと同じ行為。しかし、世界貴族に『シャボンディ諸島に行くのは止めてくれ』と懇願する事もできず、センゴクは妥協案として特製シャボン玉で万が一(・・・)に備えて身を守る為の手段を講じたのだが……。

 

「ふん。海軍ごときが生意気だえ。気に入らない。そんなもの、捨て置くえ」

「しかし、ロズワード聖。御身にもしもの事がありましたら……」

「なんだ、お前。世界貴族たるこの私に意見するのかえ。生意気だえ」

「え。いや、そんな事は――」

 

 銃声が三発響いた。心臓を打たれた男は、そのまま倒れて血を流し……絶命。

 心底不愉快だと顔を歪めながら、ロズワード聖はシャボンディ諸島に上陸しようと娘と息子に声をかける。

 

「行くぞシャルリア。チャルロス」

「はい、お父様」

「う~ん……?」

 

 しかし、チャルロス聖はセンゴクが用意した特製シャボン玉が気になったのか、ジロジロと見つめている。

 横から、上から、下から覗き込む。

 目新しいからだろうか。チャルロス聖は近くの護衛の男に尋ねた。

 

「これって凄いのかね?」

「はい。何でも、海軍の有名な科学者が作り上げた防御性に特化した代物らしく……迫撃砲を受けても割れないだとか」

「良く分かんないけど、付けてみるえ」

 

 そう言うと、チャルロス聖は特製シャボン玉を装着した。

 すると、何処となく心地良い感触がした。吸う空気も美味しく感じ、朝から感じていた鼻づまりも解消されてスッキリ。

 外界からの脅威を防ぐ以外にも、傷や体調を癒す効果があるらしい。

 ――これは、良い拾い物だえ。

 父親と妹が付けなかったシャボン玉の効果に笑みを浮かべた。チャルロス聖は鼻歌混じりに喜ぶと、早速自慢しようと父親達に目を向けたところ……。

 

「あれ? お父様たちは何処に行ったえ?」

「お先に参られました」

「なに!? 何でそれを早く言わないえ!」

 

 パンッとまた一つ銃声の音が辺りに響いた。

 

「まったく、早くお父様の所に行くえ」

 

 こうして、チャルロス聖は特製シャボン玉を装着した状態でシャボンディ諸島に上陸した。

 その結果、自分が酷い目に遭うと知らずに……。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「まさか、アンタが冥王シルバーズ・レイリーだったとはな……レイさん。いや、レイリーさん」

「あまりその名で呼んでくれるな。海軍にバレると厄介だからな」

 

 ヒューマンショップの従業員を気絶させ、牢屋に辿り着いたジョットはレイさん……レイリーと再会していた。

 幼き頃東の海で出会った父親の知り合いが、まさか海賊王の右腕だとは知らず驚いたらしい。普段ほとんど顔色を変えないジョットにしては珍しく表情を変えていた。

 

(只者ではないと思っていたが……親父の野郎)

 

 とはいえ、これで先日出会ったシャッキ―の言葉の意味が分かった。確かに彼ならば、そうそう死にはしないだろう。

 どこか納得しながら、ジョットは立ち上がる。

 そんな彼に、空になった酒瓶を捨てながらレイリーが尋ねた。

 

「表に行くのかね? どうやら、何かあったようだが」

 

 先ほど、観客席から大きな物音がした。首輪が爆発した音では無いようだが……ジョットは心配だった。

 

「アンタから聞いた若い人魚……特徴や言動からして、おそらくオレの友達(ダチ)だ。こんなトコに居ると分かった以上、黙っていられねぇ」

「……そうかい。では、私は稼ぎに行こう。元々そのつもりだったしね」

 

 そう言うと、レイリーは牢屋を後にした。

 おそらく、この店の売り上げや貴族たちから掏るつもりなのだろう。本来なら咎めるべき行為だが、相手が相手だからかジョットは止めなかった。

 彼は振り返って、他の奴隷にされかけた人たちの首輪を外していたメアリーを呼ぶ。

 

「行くぞ、メアリー」

「分かった。この巨人くんで最後だから。……はぁ、このまま行けば天竜人に目を付けられずに済むかなぁ……無理だろうなぁ」

「早く行くぞ」

「あ、ちょっと待ってよ!」

「俺も行こう。助けられた礼だ」

 

 ジョットの後を、メアリーと助けられた巨人スタンセンが追いかけた。

 

 

 ――そして数分後、彼女たちはジョットの怒りを目にする。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 シャルリア宮がケイミーに向かって銃を放とうとした瞬間、突如ステージ上の壁が吹き飛んだ。麦わらの一味も、警備兵も、そしてシャルリア宮も驚いて音のした方へと向いた。

 

「な、何アマス!?」

 

 瓦礫の奥から現れたのは、ジョットだった。彼の登場に反応を示したのが数名。怒りと戸惑いと困惑と――驚愕。

 そんな事などつゆ知らず、壁を突き破ってステージに出たジョットは、警備兵、応戦する麦わらの一味、そして最後に首輪を繋げられた状態のケイミーを見て――一瞬で彼女の傍に移動した。

 そして、すぐさま銃を突き付けていたシャルリア宮の銃に手を添えると……そのまま握り潰し、発砲寸前だった銃は彼の手の中で暴発した。

 

「……な!?」

「――オレの友達(ダチ)に何してんだ?」

 

 突然の事態に目を丸くするシャルリア宮。

 しかし、ジョットに睨みつけられ――覇気で気絶させられた。至近距離で彼の覇気を受けたシャルリア宮は成す術もなく、そのままステージへと落ちた。

 それを確認すると、ジョットはケイミーの方へと振り向く。

 

「無事か、ケイミー?」

「ジ、ジョジョっちん!」

 

 今まで絶望の表情を浮かべていたケイミーが笑顔を浮かべた。

 目の端には涙が浮かんでおり、それを拭おうとして……自分の手が血だらけなのに気づくとポケットからハンカチを渡した。すると、ケイミーはありがとうと一言礼を言い、チーンッと鼻水を吹いた。

 ケイミーが安心したのを確認すると、次にジョットは、こちらに視線を向けている警備兵たちと麦わらの一味へと振り返る。

 

「……見る限り、敵はあっちか」

 

 そう呟くと――彼は、覇王色の覇気を解放した。

 すると、今まで麦わらの一味の捕縛のために動いていた警備兵たちが意識を失ってその場に崩れ落ちた。

 その異様な光景に、彼らの動揺は大きい。

 

「え? なんだ? 何が起きたんだ!?」

「あの方が何かしたようですが……」

「アイツは、さっきの……」

 

 チョッパーは周りを見渡して驚愕を声に出し、ブルックはジョットに視線を向け、そしてゾロは解き放たれた気迫に思わず刀を構えていた。

 

「あれは……星屑のジョジョ」

「ジョジョ? ジョジョってシャッキーやじいちゃんが言ってた……」

「ええ。それに、あれは邪眼のメアリー。クルセイダー海賊団の2トップが何故此処に?」

 

 ロビンはジョジョの出現に眉を顰め、ルフィは最近聞いた名前に反応し、

 

「ちっ……! こんな所で会うとはな……!」

「星屑屋……何故アイツが此処に?」

 

 ライバルたちは、この先で最も障害となる壁を睨みつけ、

 

「……あれって」

「……何処かで見た覚えが……」

 

 手配書を見ていた時から感じていた違和感が強くなるのを自覚するナミとサンジ。

 そして――。

 

「は……! おま……! ジョットオオオオ!?!?」

 

 ウソップは久しぶりに再会した親友であり、ライバルであり……。

 

「む……! ウソップか? 元気そうだな、兄弟」

 

 盃を交わした兄弟であるジョットに驚愕の声を上げた。

 

『兄弟!?!?』

 

 そして、それはこの場に居る全員も同じだった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「あのジョジョに、兄弟だと……! 妹だけじゃなかったのか!?」

「何者だ、あの鼻が長い男……」

 

 突如明かされた新たな真実に、キッドとローは警戒の目をウソップに向けた。

 ジョットは油断ならない男であり、そしてその妹であるメアリーもまた厄介な存在だった。故に、その兄弟を警戒するのも当然。今まで無名なまま麦わらの一味に属しているのも不気味だった。ルフィを隠れ蓑にしているのか? もしくは、別の理由か?

 彼らの頭の中のブラックリストにウソップの名前と顔が記される。

 

「元気だったのかお前! 会えて嬉しいぞ、こんちくしょー!」

 

 そんな事など知らず、ウソップは両腕を上げて喜びを顕にした。知らぬが仏をそのまま体現している。2年後、偉い目に会うとは知らずに……。

 

 さて、置いてけぼりにされた麦わらの一味はと言うと……。

 

「はーっ、驚いた。ウソップって兄弟居たんだ。鼻長くないけど」

「あの男がウソップの兄弟か……鼻は長くねえな」

 

 ルフィとゾロは驚きつつも、ウソップの特徴的な鼻が遺伝されていない事に首を傾げる。

 

「いやー……ウソップさん凄い兄弟をお持ちで。私、驚き過ぎて目ん玉飛び出てしまいました。もうありませんけど」

「ウソップの兄ちゃんなのかな? それともウソップが兄ちゃんなのかな?」

「驚いたわ……世界って狭いのね」

 

 驚き過ぎて、逆に落ち着くブルック、チョッパー、ロビン。

 しかしそんな中、二名ほど別の理由で驚いている者が居た。

 サンジとナミである。

 

「は……? ジョジョって、ジョットの事だったのか? いや、しかし……」

「うそ、本当……? あれが、ジョット……? え、でも……」

 

 ウソップの言葉で、二人はようやく手配書の違和感に気が付いた。

 凶悪な犯罪者だと新聞で書かれ、英雄ガープに警告される程の存在。にも関わらず、手配書を見ると湧き上がってくる――安心感。

 しかし、それと同時に信じられない気持ちもあった。

 ウソップとの再会に穏やかな表情を浮かべていたジョットが、ナミとサンジを見つけて目を見開いた。

 

「ナミ……サンジ……! 久しぶりだな、お前ら。ちと(ツラ)ァ変わったか?」

『いや、お前が言うな!!』

 

 二人揃って全力でツッコミを入れた。

 彼らが、ジョットが『星屑のジョジョ』だと気づかなかった理由。それは、顔立ちの変化。

 過去に出会った時は、まだお互いに子どもだった。その時のジョットの顔は少し目元が鋭くも穏やかな顔立ちだった。彼の父親は将来海賊になるぞと笑っていたが、ナミたちにとっては自分たちを救ってくれた恩人というフィルターを抜きにしても、優しいものだった。

 しかし、時が経ち……結果はコレである。

 違う。あまりにも違う。あの時の、見ず知らずの人を助ける彼は何処に行ったのか? そう思ってしまうほどに変わってしまった。

 

「時は……残酷だ……!」

「ごめん、ベルメールさん……私、ジョットを真人間に育てる事が……!」

「お前ら、喧嘩売っているならはっきり言えや」

「いや、あの反応は仕方ない気が……」

 

 後ろでメアリーが何か言っている気がしたが、ジョットは聞こえないフリをした。……少し、傷ついた訳ではない。

 

「にゅ~……ジ、ジョジョ……」

「――! ハチ? お前、どうしたんだその傷……!?」

 

 そんな彼の耳に、以前航路を別れた友の声が聞こえた。

 そちらに目を向けると、胸の包帯を血で染めたハチがいた。チョッパーに治療を受けながら、彼に視線を向けている。

 胸の傷具合を見るべく、ジョットはハチの元へ一足跳ぶ。

 

「撃たれたのか……誰にやられた?」

「は……?(え? あれ? さっきまであそこに居たよな?)」

 

 一瞬で移動したジョットにチョッパーが目を白黒させるなか、彼はハチの傷を診ていた。

 心臓は撃たれていないが、場所が場所だ。治療が良かったのか、安静にしていれば数日後には治るだろう。これなら、オーラで無理矢理治さなくても良い。

 ハチの無事を理解した事で、ジョットは友達にこんな事をした相手が誰なのか。それを本人に尋ねた。

 

「にゅ~……き、気にしないでくれジョジョ」

友達(ダチ)が撃たれて、頭に来ない奴は居ねえよ……少し、頭借りるぞ」

 

 そう言うと、ジョットはハチの頭に手を置いた。すると、彼の手からゆらりとオーラが揺らめき、彼の腕を伝ってハチのオーラをほんの少し吸収する。

 サボの記憶喪失を治そうとした際に偶然手に入れた、オラオラの実のちょっとした応用技。こうして直接触れないといけないが、場合によっては強力であり危険な力である。

 ジョットの頭の中で、ハチの視点で何が起きたのかを視て、聴いて、理解した。

 そっと手を離したジョットは、ルフィへと顔を向けた。

 

「麦わら。アンタがハチを助けてくれたのか。礼を言わせてくれ。ありがとう」

「??? おう、どういたしまして」

 

 良く分からないが、ジョットの礼を素直に受け取るルフィ。そんな彼をジッと見ながらジョットは奇妙な感覚を覚えていた。

 そしてそれはルフィも同じようで、お互いに視線を通わせる。

 ――コイツは……。

 警戒はしていない。敵意も無い。ただ、目の前の相手を無視する事が出来なかった。

 海賊団のトップ同士の間に起きた奇妙な空間。威圧感とも違うその空気の重さに、誰かがゴクリと生唾を飲み込む。

 ジョットが口を開こうとした瞬間――。

 

「う……な、何が起きたんだえ~」

 

 聞こえる筈の無い声が響いた。

 ルフィに殴られた頬を腫れ上げさせて、フラフラと立ち上がるのはチャルロス聖だ。

 何故、彼が起き上がった? 彼を殴った本人であるルフィも、ルフィの拳の威力を知っている一味も、驚いた表情で彼を見上げる。

 その理由は、チャルロス聖が装着した特製シャボン玉にある。

 ルフィの拳は、そのシャボン玉で阻まれて威力を落とし、その後気絶したチャルロス聖の傷をシャボン玉が癒していたのだ。現に、流れ出ていた血も、腫れ上がった頬も治り、問題なく言葉を発する事ができる。

 チャルロス聖は、意識が飛ぶ前の事を思い出そうとし――会場の惨状に目を丸くした。

 

「な、なんだえ!? お父様!? シャルリア!? 何がどうなっているんだえ~!?」

 

 父と妹が倒れている事に驚くチャルロス聖。

 しかし、すぐに視界にメアリーによって首輪を外された自分が買った(・・・)ケイミーと獲った(・・・)ハチが治療を受けているのを見て……目の色を変えた。

 

「お前たち、何しているんだえ?」

「は……?」

「なにを勝手にわちしの奴隷(ペット)に触れているんだえ!」

 

 ルフィに殴り飛ばされて記憶が飛んだのか、それとも都合が良い事だけを記憶しているのか。チャルロス聖は己の所有物に手を出されたと勘違いして癇癪を引き起こし、ステージ上のメアリーとハチの治療を行っていたチョッパー、そしてその傍に居たパッパグに向かって乱暴に銃を撃った。

 

「きゃあ!?」

「うわ!?」

「ぎゃああああ!?」

 

 メアリーは己の能力でケイミーごと透過する事で銃弾が当たらないようにし、チョッパーとパッパグはジョットが前に出て銃弾を指で掴む事で被弾しなかった。

 元々命中率は良くなかったが、明確に防がれた事でチャルロス聖の苛立ちはピークに達する。

 

「なんだお前ら、ムカつくえ! 何下々民がわちしの前で立っているんだえ! 礼儀を知らない奴だえ! お前ら、全員死刑――」

「おい、テメエか。テメエがハチを撃ったのか」

「ひょ!?」

 

 またもや一瞬で会場を移動するジョット。ルフィは、ジョットが地面を十回蹴る動作をしていたのを見た。

 CP9の奴らと同じ事をしている。

 自分も同種の技を使っているからこそ、見抜けた。

 いや、それは良い。それよりも、意識を向けるべきなのは――場を支配している圧倒的な怒気。初めて会ったルフィでも理解した。あの男は……ジョットはプッツンしている。

 ルフィが場を解決した事で沈静化していた怒りが、チャルロス聖が起き上がった事で再び燃え上がったのだ。

 ジョットは、シャボン玉の中に腕を突っ込んでチャルロス聖の顔を掴んでいた。

 

「……!」

「だから何だ? って顔をしているな――何なんだテメエは? 何故ハチを撃った? 理由が分からねえ。……いや、理解したくねえってのが本音だ。さっきのテメエの言動はふざけ過ぎていて、耳にも入れたくねえ」

「――」

 

 チャルロス聖の目に怒りの感情が浮かび上がる。そして、顔を掴まれていた事で明後日の方に向いていた手を……銃をジョットの額に向けた。

 

「ジョット、危ねえ!」

「ジョジョ!」

「スター、避けてくれぇ!」

 

 ウソップとメアリーの悲鳴が響き、ナミとサンジが息を呑む。

 銃声が響き、ジョットの帽子が弾かれて宙を舞った。

 タラリ、と血がジョットの額を流れる。だが、銃弾は彼の脳天を貫通しなかった。黒く染まった彼の肌が間一髪弾丸を弾いて、無傷とはいかずとも致命傷には至らなかった。

 それに初めて恐怖するチャルロス聖。生意気な奴も、イラつく奴も、気に入らない奴も、全て殺してきた(おもちゃ)が効かなかったのだ。チャルロス聖は、バッ! とジョットの腕を振り払って叫ぶ。

 

「何なんだえ! おまえ、なんで死なないんだえ! なんで偉いわちしに逆らうんだえ!!」

「……本気で、言っているのか?」

「わちしに生意気な奴は死なないといけないんだえ! それが、普通なんだえ!」

 

 叫びながら、何度も何度もジョットに向かって銃を撃ち続ける。

 カチカチ、と弾が無くなっても弾き続ける。しかし、出ない事が分かるとついには持っていた銃を投げつけた。それでも、ジョットはチャルロス聖を睨みつけていた。

 

「おい! お前ら! いつものようにこいつらを捕らえるんだえ! 何寝ているんだえ!」

 

 常に付き従う兵たちは、動かない。既に無力化されているからだ。

 役に立たない奴らだ、とチャルロス聖が怒り狂う。

 

「おい! そこの下々民! こいつを殺すんだえ! 何をそこで突っ立っているんだえ!」

 

 果てには、ルフィやキッド、ローたち意識がある者たちまでに命令する始末。

 逆に睨み付けられて、苛立ちが募る。

 

「お前ら、全員生意気なんだえーー!」

 

 チャルロス聖の叫び声が会場に響き渡った。

 興奮したからか、ハアハアッと息を切らす。

 そんなチャルロス聖を、ジョットが見下ろしたまま静かに口を開いた。

 

「テメエは……オレの敵じゃあねぇ。悪でもねぇ。かと言って、世界政府や海軍のような正義でもねぇ」

「ハァ……ハァ……! なにを、言っているんだえ……! 訳が分からないえ!」

「だろうな。テメエは、世界を知らねぇ。だから己の行いの意味を知らずに、何処までも残酷な事ができる。ヒトを撃つ。ヒトを奴隷にする。ヒトを……殺せちまう」

「何なんだえ……何なんだえ!! 何が、言いたいんだえ!!!」

「いや、哀れすぎて……何も言えねえ」

 

 その言葉を最後に、ジョットは――胸の中にある虚しさを消し去り、怒りを爆発させた。

 

「――オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

「――」

 

 今まで、このような気持ちで拳を振るった事があっただろうか? 正義を名乗る敵や、吐き気のする敵、そして立ち塞がる敵には遠慮なく振るって来た。だが、目の前の()()()()()()()に振るうのは初めてだった。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

「――」

 

 だからだろう。ジョットの胸にかつてないほどの怒りが沸き上がったのは。

 ()()()()のせいで、ケイミーとハチが傷つけられた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!!」

「――」

 

 ――それが、許せなかった。

 故に今日、ジョットは立ち向かう為でもなく、相手を倒すためでもなく、ただ友を傷つけた存在を視界の中から消し去るつもりで――ラッシュを叩き込んだ。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァッ!!!!」

「ゲボグボアアアアアアアア!!??」

 

 トドメの一撃で、約40秒間空中に浮き続けていたチャルロス聖は、特製シャボン玉を割られながら、壁を突き破って、外を包囲していた海軍の上空を飛び越え――島の反対側まで吹き飛んで行った。

 

「――やれやれ。二度と会いたくねえな、天竜人」

 

 それを見送ることなく、ジョットは呟いた。

 いつものようにムスッとした表情を浮かべながら。

 




ルフィの行動、主人公の動き、主人公の存在で生じた変化を考慮した結果、こうなりました
悪だと断ずるには、天竜人はアレ過ぎる。


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包囲網突破

「いい加減にしろ!! あの海賊共!!」

「ひぃ!?」

 

 センゴクの怒鳴り声が部屋中に響き渡り、報告しに来た海兵は委縮して目に涙を浮かべる。“仏のセンゴク”とは何だったのか、と思う程に彼の顔は酷く歪んでいる。それだけ麦わらのルフィと星屑のジョジョがやらかした事は大きい。

 

(くそ、やはり騒動を起こしたか……!)

 

 ……正直、予想しなかったと言えば嘘になる。海賊の手によって世界貴族が命を落としたとなれば、流石の海軍本部も立場が危なくなる。その最悪の事態を防ぐため、ベガパンクに依頼して特製シャボン玉を作らせた。しかし、結果はご覧の通りだ。ロズワード聖とシャルリア宮は人質となり――実際は気絶しているのを放置しているだけだが――チャルロス聖は島の反対側まで吹き飛ばされ意識不明の重体。

 片方だけでも厄介なのに、揃うと相乗効果で目も当てられない事態になった。

 白ひげとの戦争を控えている今、戦力を消耗させる訳には行かない。

 しかし、世界貴族に手を出された以上、大将を派遣しなければならない。

 大将二人に食い下がる海賊――星屑のジョジョが居るシャボンディ諸島に。

 

「怖いねェ~。世界貴族に手を出す無鉄砲さ」

 

 湯飲みに入った茶を飲みながらそう呟くのは海軍本部大将、黄猿。先日まで四皇への牽制として新世界に居たのだが……どうやら、休む暇なく次の仕事に取り掛かる必要がありそうだ。

 黄猿は、星屑のジョジョの手配書を見ながら目を細める。

 三人居る大将の中で唯一彼と相見えていない。故に、ジョットの正確な強さは知らず……しかし、彼が他の超新星と格が違うのは理解していた。

 中将以下の戦力では、鎧袖一触の元葬り去られるだろう。それは先日の戦闘で明らかになっている。被害を受けたのは何も大将だけでは無いのだ。

 他の二人が傷を負っている以上、出動できるのは黄猿しか居ないのだが……。

 

「こうなった以上わっしが行かんといけませんが……星屑のジョジョはどうするので?」

「……!」

 

 言外に、自分一人でジョットを相手取ると不味いのでは? と黄猿はセンゴクに視線を送る。ルーキー相手に情けないと言うには、ジョットに流れる血と今まで築き上げられた悪名が邪魔をした。

 世界貴族の要請を受けて海軍の面子を守るか。

 後の戦争の為に、戦力を温存するか。

 センゴクは、苦虫を噛み潰したような表情で決断した。

 

「……星屑のジョジョは、戦争の後に必ず捕まえる……!」

「じゃあ……そういう事で?」

「ああ……だがっ! 他のルーキー共……特に麦わらのルフィは必ず捕らえろ!」

 

 主犯格であるルフィを差し出せば、世界貴族の抗議も少しは和らぐだろう。

 正義を掲げる海軍としてはあまりにも情けない話だが……。

 最悪、ジョットの真名を公表して黙らせる必要がある。その時に起きる混乱を想像し、センゴクは胃を抑えた。

 

「では、吉報をお待ちください」

「ああ、頼んだぞ!」

 

 センゴクの指示に黄猿は頷くと、湯飲みを机の上に置いて出口に向かう。

 しかし……。

 

「おやァ……?」

「……貴様は」

 

 シャボンディ諸島に向かおうとした黄猿を阻むように現れた一人の男に、センゴクと黄猿は表情を変えた。

 

 ――しばらくして、幾つかの軍艦がシャボンディ諸島へと出発した。

 強張った表情を浮かべた海兵達と、大将を乗せて……。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

(――おいおい。強いとは分かっていたが、なんつースピードのラッシュだ)

 

 ジョットのラッシュを目にしたゾロは戦慄していた。紫色の魔人のようなモノが出てきたかと思えば、()()()()()()()速いスピードでチャルロス聖に無数の拳を浴びせていた。傍目から見て辛うじて何をしているのかが分かったが……向けられたチャルロス聖は何をされたのか分からず、そのまま気絶しただろう。もし自分に向けられたら……そう考えてゾロはゾッとした。

 

 そして、同じ光景を見て口を開く者が居た。

 キッドだ。

 

「はっ! また人助けか? ジョジョ」

「……なんだ、テメェか」

 

 青雉の一件以来、久方ぶりに顔を合わせた二人は――互いに相手を睨み付けていた。

 強さも信念も認め合っているが、やはり目の前の相手が気に食わないのだろう。チャルロス聖のリタイアで霧散した緊迫した空気が、再び重くなるのをその場に居た誰もが感じ取っていた。

 

 ――そこに、一つの覇気がジョットに叩き付けられた。まるで、無用な戦いはするなと言わんばかりに。

 それによって、ジョットは……いや、ジョット、キッド、ロー、ルフィ、ウソップの五人はステージへと視線を向けた。すると、舞台の袖から二人の男が出てきた。

 

「おいおい! 既に首輪も手錠も外されているじゃないか! 何が起きているんだ!?」

「私の言った通りだろう? 既に事は終わっている、と」

 

 鍵を持ったフランキーは、戦闘が終わり、そしてメアリーの能力によって首輪を外されたケイミーと売られる寸前だった奴隷未満の者たちを見て、混乱を露わにする。

 その後からは途中フランキーと合流したレイリーが、酒を飲みながら現れる。それを見たハチが戸惑いの言葉を発した。

 

「にゅ~……レ、レイリー?」

 

 ――レイリーだと?

 耳にした大物の名に、キッドとローの頬に冷や汗が垂れる。海賊王の右腕が何故此処に?

 

「ハチ、久しぶりだな! ……む、どうしたんだその傷は」

「天竜人に撃たれたんです。それを彼らが……」

 

 二人のキャプテンが戦慄している中、メアリーから事の顛末を聞いたレイリーの視線はルフィへと向く。

 

「――君が……いや、君たちが私の友人を助けてくれたのか。ありがとう、モンキー・D・ルフィくん」

「ん? おっさん、おれの事知っているのか?」

「ああ。君のことは――いや、その話は後でしよう」

「?」

 

 レイリーの言葉に首を傾げていると、焦燥し切ったウソップがルフィへと叫んだ。

 

「お、おいルフィやべぇぞ! この島にやべえのが来てる!! 多分大将って奴だ! それに……何だこれ? 妙な奴もいっぱい来てる!」

 

 ウソップの言葉を受けて、麦わらの一味の表情が変わる。今までの冒険で、ウソップの勘は大勢の敵や強敵の気配を感じ取っては一味に警告をしてきた。そして実際に彼の言った事は当たり、何度も助けられて来た。

 

『犯人は速やかにロズワード一家を解放しなさい! 直「大将」が到着する! 早々に降伏する事を勧める! ――どうなっても知らんぞルーキー共!!』

 

 まるでウソップの言葉を裏付けるように、外から海軍の怒声が拡声器越しに響いた。

 ローとキッドのウソップへの警戒度が上がり、レイリーは感心したような表情を浮かべ、メアリーは「あーあ」と同情の視線を向けた。本人はその事を知らない。

 レイリーは視線をジョットへと向けた。

 

「ジョットくん。申し訳ないが表の敵は任せても良いかね? 海軍に正体がバレてしまったら住みづらくなる」

「……はぁ。やれやれ、人使いの荒いじいさんだ」

 

 ため息を吐いたジョットは表に出ようと歩みを進め……。

 

「はっ。テメェの世話になるかよ、ジョジョ!」

「……ユースタス」

「何だったらそこで休んでろ。オレが全て蹴散らしてやる」

「――あ?」

 

 ピキリ、と青筋を立てたジョットに、メアリーはため息を吐いた。

 

「もののついでだ。お前ら助けてやるよ」

「――なんだとっ!」

「――っ!」

 

 そして、メアリーと同じように麦わらの一味とハートの海賊団もため息を吐いた。

 この場に、「助けてやる」と言われて黙っている船長は――居ない。

 誰かが言った。なんて短気な奴らだ、と。それに反論する声は出なかった。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「あーあ……ジョジョも単純だなーもう」

 

 四人のキャプテンが言い争いながら表に出るのを見送りながら、メアリーはそっと呟いた。ジョットが覇王色の覇気を使えば直ぐに終わる。レイリーもそう思って彼に頼んだのだが……聞こえてきた言葉から察するに、使わないだろう。効率よりも、ライバルへの意地を取ったようだ。

 

「巨人くん。申し訳ないけど、彼らの保護を頼んでも良いかな?」

「ああ、任せろ。アンタたちには恩がある! 麦わらの仲間たちもありがとう! アンタたちが暴れなかったら、オレ達は奴隷になっていた!」

「ありがとう!」

「ありがとうございます!」

「この恩は一生忘れません!」

「おう! 気にすんな!」

「お前が言うのかよ!」

 

 奴隷にされかけた者たちが礼を言う中、海賊たちは自分たちの船長に続くべく歩を進める。

 そんななか、メアリーはフランキーに背負われたケイミーの元に向かった。

 

「大変な目に遭ったね、ケイミー」

「メアっちん! さっきはありがとう!」

「ん? お前ら、知り合いなのか?」

 

 親しげに話す二人に、フランキーが眉を顰めて尋ねた。

 それにケイミーとメアリーは頷く。

 

「うん! 友達だよ!」

「ハチ達と航海した事があってね。……あなたが“サイボーグ”フランキー?」

「おう! その通り! このオレ様が麦わらの一味の船大工にして、スーパーな漢! フランキー様だ! サイン要るか?」

「うん、是非」

「要るのかよ!?」

 

 前を歩いていたパッパグが振り向いて突っ込みを入れた。

 何処から出したのか、色紙にサインを書いて貰ったメアリーは満足そうな顔をしている。それを見たある男が反応した。

 サンジである。

 彼はシュバッとメアリーの傍に降り立つと、決め顔で彼女に近づいた。

 

「麗しのレディ。そんな変態よりも、この黒足のサンジのサインをどうか受け取って貰えませんか? ――というか君のサインが欲しいな~~~~~!!」

「おいおい照れるじゃねーか」

 

 サンジが目をハートにし、変態と言われたフランキーが嬉しそうにする中、他の者たちは呆れた視線を向けていた。海軍に囲まれても尚、平常心で居られるのは流石と言うべきか……。

 そんな中、サンジに言い寄られたメアリーが俯いて体をプルプルと震わせていた。それにレディを泣かせたのか!? とサンジが慌てふためく。

 

「ど、どうしたんだい! えっと、メアリーちゃん!? 俺、何か気に障ることでも……」

「えっぐ、ぐず……ち、違うの……! お、女の子扱いしてくれたの久しぶりだったから嬉しくて……!」

「……はい?」

 

 メアリーは言った。能力の扱いが上手くなる度に、強くなる度に、懸賞金が上がる度に、クルー達からの扱いが女の子から副船長へと変わった事に。

 そして、敵からは邪眼のメアリーと恐れられた事に。

 ジョットとギンは元々女の子扱いしていない事に。

 だからだろう。成長と共に消失したと思われた、女の子として見られる事がこんなにも嬉しく思えるのは。

 

「あ、ありがとうございます……!」

「メ、メアリーちゃん……!」

 

 ――サンジは思った。必ずかの邪悪な星屑のジョジョを討ち倒し、目の前のレディの笑顔を取り戻すと。

 

「アホらしい……」

 

 それにゾロは呆れ切った声で呟き……。

 何人かはその言葉に頷いた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

 人質の解放と降伏を訴えかけて数分後。ヒューマンショップ正面入り口が俄かに騒がしくなった。言い争う声がし、それが徐々に近付いて来ている。

 

「――出て来たぞ! 構えろ!」

 

 号令と共に、海兵達は銃を構える。しかし、顔に浮かんだ緊張は隠し切れず、前代未聞の巨悪事件を犯した海賊への畏怖が浮かび上がっていた。

 やがて、その姿を露わにした四人の面影に海兵達に動揺が走った。

 

「あれは……全員船長(キャプテン)だ!」

「先陣切って出て来やがった!」

 

 錚々たる面々に海軍達はゴクリと生唾を飲んだ。

 世間を騒がし、新聞で何度も取り上げられた超新星。その内の四人が一堂に会する光景は圧巻の一言。

 

「お前ら、下がってて良いぞ!」

 

 ――懸賞金3億ベリー。麦わらのルフィ。

 

「お前ら全員下がっていろって言ったんだ!」

 

 ――懸賞金3億1500万ベリー。ユースタス“キャプテン”キッド。

 

「おれに命令するな……貴様から消してやろうか? ユースタス屋」

 

 ――懸賞金2億ベリー。死の外科医トラファルガー・ロー。

 

「舐められたまま引き下がれるかよ」

 

 ――懸賞金5億ベリー。星屑のジョジョ。

 

 億越えの賞金首が張り合って海軍の目前に躍り出た。

 その堂々たる佇まいに、指揮を執る准将が指示を下した。

 

「迫撃砲、撃てェ!」

 

 超新星達に向けられた四つの迫撃砲が火を吹いた。

 しかし、彼らは数々の困難を潜り抜けて偉大なる航路(グランドライン)前半の海を制した猛者達。この程度の砲撃など脅威足り得ない。

 

「“ゴムゴムの〜……風船!”」

 

 思いっきり体を膨張させるルフィ。膨らんだ彼のゴムの体は迫撃砲の砲弾を受け止めて勢いを殺すと、ゴムの元に戻る性質を利用して跳ね返した。海兵達は戻ってきた砲弾で吹き飛ばされていく。

 

「“反発(リペル)”」

 

 片腕を突き出してキッドが呟くと、砲弾は彼の手に触れる前に制止し、まるで逆再生したかのように砲弾を放った迫撃砲に戻って行く。反発した砲弾は迫撃砲に直撃し、構えていた海兵達を巻き込んで爆発させた。

 

「“ROOM(ルーム)”」

 

 ローと海兵を囲うように不透明な(サークル)が生まれた。取り込まれた海兵が戸惑う中、ローは担いでいた妖刀を振るう。すると、(サークル)の中に居た海兵の首と体が分断された。

 

「“シャンブルズ”」

 

 そして次の瞬間、ローに放たれた砲弾と海兵の首の居場所が一瞬で入れ替わり……着弾。訳が分からず悲鳴を上げる海兵の生首を手の中で弄びながら、ローは不敵な笑みを浮かべる。

 

「オーラビジョン――スタープラチナ!」

 

 オーラを具現化し現れたジョットの半身は、放たれた砲弾をまるで柔らかいボールを受け止めるかのように優しくキャッチした。そしてそのまま片手で持つと、その場で激しく回転する、体を軸に何度も何度も回り続けて――。

 

「オラァ!!」

 

 次の瞬間、放たれた豪速球は迫撃砲を貫通し地面を抉り続け……遥か後方で爆発した。

 

「は、迫撃砲が効かない!」

「気を付けろ! 全員能力者だ!」

 

 早速それぞれの能力を行使し、海軍の攻撃を物ともしない超新星たち。ルーキーとは思えないほどの精強さに海兵たちの間で動揺が走る。

 

「お前ら、変な能力だな~」

「お前に言われたかねえよ」

 

 今までも何度か能力者を見て来たルフィだが、それでも彼らの能力は珍しく感じるらしく感嘆の声を上げた。しかし、キッドにとってはルフィこそが一番妙な能力だと思っているらしく、言葉少なく返した。

 

「助けてー! どうなっているんだこれー!?」

「しかし数が多いな……星屑屋。アンタがさっきしたアレ……使うつもりは無いのか?」

「使っても良いが……ユースタスに絡まれるのはゴメンだ。それに、顔に使うなって書いてあるぜ」

「は……違いない」

 

 船長として、同盟を組んでいない海賊の力を借りて生き延びるつもりは無いのだろう。最も早く確実にこの場を切り抜ける方法を問いながらも、ローはジョットの覇気の力に頼る気はさらさら無かった。

 ジョットも、今の体の状態で彼らと戦う気はないのか、積極的に使う気はないようだ。――それに、駆け付けて来るであろう大将との戦いの前に、覇気の無駄遣いをするつもりは無かった。

 

「さて――」

 

 ローが動いた。

 手に持っていた海兵の生首を敵に向かって投げつける。

 

「ぎゃああああ!?」

「ぎゃああああ!? お前何で生きているんだよ!」

「分からねえよ! というか体が熱い!」

「感覚あるの!?」

「あそこでお前の体が燃えているぞ!」

「アッチの体が熱いー!」

 

 動揺している間にローはROOM(ルーム)を展開した。彼が食べた悪魔の実はオペオペの実。彼の手術室(サークル)に居る患者(てき)は、抵抗する事ができず強制的に外科手術を受ける事になる。

 ローは、先程よりも多くROOM(ルーム)内に入った海兵たちの体を、一瞬でバラバラに切断した。そして、そのまま支配下に置いた海兵たちの腕や足、胴体を操り出鱈目に組み立てた。

 

「うおおお!? なんじゃこりゃあ!?」

「お前、それ俺の胴体だ!」

「おれの腕返してー!」

「足六本もいらねえよー!」

 

「やれやれ。恐ろしい能力だな」

 

 それを傍から見ながら、ジョットも動く。

 オーラの可視化を行い、地面を見る。彼が探しているのは力の溜まり場。何処にどの程度のオーラを流し込めば良いのか分かれば、彼は鉄の要塞や鉱山でも破壊できる。

 

「そこか……」

 

 見つけた場所に向かって、ジョットは赤いオーラを纏った拳を叩き付けた。すると、地面の下を流れていたオーラが外界からの影響で暴走し、ジョットの誘導でそのまま海兵たちの足元に流れていき……。

 

「ん? なんか、地面が熱いぞ?」

「湯気が出ていないか、ここ?」

 

 そしてそのまま――触れれば火傷するほど熱いシャボン玉が海兵たちを襲った。

 

『ぎゃああああ!?』

「メアリーなら“シャボンランチャー”と名付けそうだな」

 

 のたうち回る海兵を見ながら呑気に呟いていたジョットの視界に、二つのオーラの昂ぶりが入る。

 そちらを見ると、キッドとルフィが大技を繰り出そうとしていた。片や磁力で数多の武器を集めて巨大な腕を形成し、片や膨大な量の空気を骨に送り込み巨人族の腕へと変化させていた。

 

「くそ! くそ! くそおおお! 一人だけでも厄介なのに四人も……!」

「こんなの、どう対処すれば良いんだ!」

 

 海軍が混乱する中、二人の海賊は笑みを浮かべて……腕を振り下ろした。

 

「喰らいやがれ!」

「“ゴムゴムの~……巨人の銃(ギガント・ピストル)!!”」

 

 地面が揺れ動くほどの二つの巨大な拳は、海軍の陣形を完全に崩壊させた。

 海兵たちは軒並み吹き飛ばされ、武器は瓦礫となって積み重なっている。

 振動を建物の中から感じ取っていた海賊たちは、外に広がる光景に舌を巻いた。

 

「イキナリこれかよ!」

「あの二人も当然のように能力者か」

「ス、スンゴー! 目を疑いますね! 私、目ないんですけどーー!!」

 

「あーあー。暴れちゃって船長(キャプテン)……」

 

「気の早い奴らだ」

 

「予想通りというか何というか……」

 

「わははははは! なかなか頼もしいじゃないか!」

 

 クルー達は、敵船もしくは自分の船の船長の力に警戒、驚き、呆れ、達観とそれぞれ反応を示す。

 レイリーは次世代の海賊の力に喜びを隠し切れない。

 

「なんだそりゃあ麦わら屋。締まらねえな」

「そうか?」

「強力な分、反動があるみてえだな」

「こうなれば陣形もクソもねえだろ。後は敵味方入り乱れての乱戦だ!」

 

 海軍も同じ考えなのか、ヒューマンショップから出てきた海賊たち……特に賞金首に反応を示す。億越えがさらにもう二人追加されたからか、海軍は一層引き締めて隊列を組み直し、討ち倒さんと殺到し始めた。

 

「――それじゃあな麦わら。お前に一目会えて良かったぜ。次に出くわした時は容赦しねえ……」

 

 意地の張り合いから始まった共闘もここまでだろう。それを感じ取ったのかキッドが口を開く。

 噂のイカれた海賊がどのようなものか。実際に目にしてそれ以上だと分かり……彼もまたこの先の海で戦う事になるライバルだと確信していた。故に、ここで宣戦布告をしたのだが――。

 

「ふ~ん。でも、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を見つけるのはおれだぞ」

『――!』

 

 その言葉を口にする意味を、彼らは知っていた。

 その存在を信じていない者も居り、夢を見るバカだと笑う者も居ただろう。

 だが、彼らはそんな海賊たちに勝ち――こうしてこの場に立っている。

 信念無き者に、新世界を行くことは不可能。キッドは、真の意味で麦わらとの邂逅に喜びを感じ――改めて宣戦布告をする。

 

「――それを見つけるのはオレだ。新世界で会おうぜ!」

 

 そう言って、キッドは自分たちのクルーを連れて海軍の包囲網を破るべく進撃する。返事はしなかったが、彼らの答えは口にせずとも決まっていた。

 負けるつもりは無い。ライバルの背を後にし、それぞれがこの場から去るべく行動を開始する。

 ローが海軍の攻撃を部下に任せて建物に戻るなか、ジョットはルフィへと声をかけた。

 

「麦わら。お前らの目的はレイさんだろう?」

「ん? ああ、そういえばそうだった。船をコーティングしてもらうつもりだったんだ」

「なら目的地は一緒だな。――それに、お前とは話がしたかった」

 

 呑気に会話をする彼らに向かって、海兵が襲い掛かる。

 しかし、その前にサンジが躍り出て蹴散らした。

 

「サンジ!」

「テメェら、さっさとズらかるぞ! あっちに足もあるしな」

 

 サンジの指し示す先には、トビウオライダーズが居た。

 トビウオの速さなら、すぐにこの場から離脱できるだろう。良い逃走手段を持っているじゃねえか、とジョットは関心した……のだが。

 

「……何故オレを睨む、サンジ?」

「うるせえ! メアリーちゃんを泣かせるお前はおれの敵だ!」

「どうせつまらない理由だろ」

「何だとこの野郎! というかルフィ、お前寝るな!」

 

 サンジとジョットが言い争う中、ルフィはブルックの技で眠っていた。先ほどの度胸ある言葉に感心していたジョットは、自分のクルー達を思い出していた。

 

「おい! 四人とも! 急げ!」

 

 他の者は全員包囲網を脱したのか、殿を務めていたジョットとルフィたちに向かってウソップが離脱するように言った。

 それを受けてジョットはルフィたちの後を追って走り出すが……。

 ふと、頭上に暗雲が立ち込めているのを見て――今すぐにでも雷を吐き出しそうなオーラの揺らめきに表情を変えた。

 

「“サンダーボルト=テンポ”」

 

 ギリギリ落雷の射程範囲外に出たジョットは、黒こげになった海軍を見てナミに文句を言った。

 

「おいナミ! テメェ、なんつーもん繰り出してんだ!」

「あら? この程度でやられるタマじゃないでしょ?」

「……ケッ。逞しく育ったもんだ」

 

 踵を返して走り出すナミと並走するジョットに向かって、彼女は不敵な笑みを浮かべた。

 

「強い女は好みじゃない?」

「ふっ。さぁな」

「……ふふ」

 

 久しぶりのやり取りに、二人は笑みを浮かべた。

 懐かしい。積もる話もあるが――それは後で良いだろう。互いにそう思ったのか、彼らは黙って走り続ける。

 

「テメェこの野郎ーー! ナミさんに色目使っているんじゃねーー!」

「……アイツも変わらないな」

「……昔から()()なの?」

「……ああ」

 

 嫉妬で燃え上がるサンジに、二人は何とも言えない表情を浮かべた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

『――じゃあ、引き続きお願いね?』

「はい。サンジさん達には船を任してください、と」

『うん、分かった――ガチャ』

 

 メアリーからの報告を受けたギンは、視線をクルーたちに向ける。

 彼らは正座した状態で安堵の息を吐いた。ケイミーが攫われたと聞いた時は泣き叫んで騒がしかった彼らだが、メアリーからの電伝虫で無事を知ってからは大人しくなった。

 

「いやー、良かった」

「本当本当。一時はどうなるかと」

「これは祝杯を挙げて、麦わらさん達と宴をしねえとな!」

 

「お前ら、反省する気あるのか……?」

 

 ギンのドスの効いた言葉に、クルー達は姿勢を正した。

 

「まったく、お前らと来たら……」

「いや、でもギンの兄貴! 俺たちはただ船長にサプライズしようと……」

「傍から見たら、名を上げようとしている海賊にしか見えなかったが?」

「そんなぁ! 武装解いて近づいたのに……」

「顔が怖いんだよ」

「いや、ギンの兄貴も大概……」

「あん?」

『すみませんでしたー!!』

 

 大げさに謝罪をするクルー達にため息を吐きながらも、ギンはもう少ししたら解放するつもりだった。悪気が無いのは知っているし、サウザンドサニー号をトビウオライダーズが来るまで守る必要があるからだ。自分たちの船の様子も見ないといけない。

 

「それにしても……」

 

 久しぶりに会ったサンジは、随分と強くなっていた。自分も強くなっている自覚はあったが……まともにやり合ったらどうなるか分からない。海賊王を目指す以上、何れ戦うことになる。

 ――まぁ、今は再会できた事と無事を喜ぼう。

 ギンは、顔を合わせた時の事を思い出した。

 

 

 

『お前、ギンか!? こんな所で会うなんて……』

『はい! ……サンジさん、おれ約束を守りました!』

『……! ああ、そうだな! ルフィも喜ぶぞ!』

 

 

 

 その後すぐにケイミーの件で、詳しい話はできなかったが……。

 

(船長たちは、今麦わらさん達と一緒に居る)

 

 後で合流するだろう。……その時に、改めて彼らに紹介しよう。

 自分の自慢の船長と海賊団を……。

 

「ん? ニュースクー?」

 

 そんななか、空から新聞が落ちてきた。それを取ったギンは新聞に目を通し――驚愕した。

 

「こいつは……!」

 

 海軍本部が火拳のエースを公開処刑する事を……決定した。

 それに伴って、来るべく戦争に備えると。

 

「メアリー副船長が言っていた事が当たった……!」

 

 時代が、変わろうとしていた。

 




本当はもっと進めるつもりでした
原作沿いの話なので、薄味に感じるかも


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麦わらと星屑

 海軍を振り切った麦わらの一味とジョットたちは、シャッキーの元へと帰還し、そこで様々な話を聞いた。

 レイリーの正体。海賊王の公開処刑の真実。ポーネグリフ。

 レイリーは、海賊が……いや、世界が知りたい情報を幾つも知っていた。

 途中ウソップがひとつなぎの大宝(ワンピース)が最後の島に存在するのか聞こうとしてひと悶着あったが……レイリーからの話は一段落した。

 

 流れで話を聞いていたジョットは、今まで密かに抱いていた疑問が氷解して、ルフィへと視線を向けていた。

 

「何処かで見たと思っていたが……麦わら。お前のその帽子、シャンクスから託されたモノだったんだな」

「ん? おめぇシャンクスを知っているのか?」

「ああ。……アイツは、オレの憧れの人だ」

「……!」

「もしアイツと出会わなかったら……オレは海賊王を目指さず、海軍か賞金稼ぎにでもなっていただろう」

 

 レイリーの話と麦わら帽子を見て、ジョットは遠い記憶の日の事を思い出す。

 やりたい事が見つからず、親父に言われるまま体を鍛える何処か惰性的な日々。あの時のジョットには、人として生きる根っこの部分が無かった。

 それを変えたのがシャンクスだ。

 ジョットは普段誰にも口にしないが……ルフィの前では饒舌に語った。

 

「オレは、アイツ……いやあの人に感謝している。だから嬉しいんだ……シャンクスが己の宝物を託した海賊と、こうして会えたのが」

「……ししし! おれも嬉しいぞ! 同じようにシャンクスに憧れた奴が居てよ!」

「だが、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を見つけるのはオレだ。友の恩人といえど、これだけは譲れねえ」

「なんだと! ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を見つけるのはおれだ! ……ん? 恩人?」

 

 ジョットの言葉に憤っていたルフィだったが、言葉の隅に気になるものを見つけて首を傾げる。その言葉に反応を示したのは――ナミだった。

 ジョットの視線が彼女に向かう。

 

偉大なる航路(グランドライン)に入る前に――ベルメールさんの所に行った。そして、足を怪我しているのを見た」

「……」

「ハチからも話を聞いた。……お前らにとっては終わった事で、ナミにとっては思い出したくない事かもしれねえ。――だが、言わせてくれ」

 

 そう言って、ジョットは椅子から立ち上がって――麦わらの一味に向かって土下座をした。

 

「――ナミを、ノジコを、ベルメールさんを……ココヤシ村の皆を救ってくれてありがとう! そして、気づかなくてすまなかった、ナミ!」

「……!」

 

 ジョットは、ずっと後悔していた。

 もし、自分がもっと早く気づいていれば……ナミの苦しみを和らげる事ができたのではないか? IFの話であり得ない話だが、それと同時にあり得た話でもある。

 気づかなかったのだから仕方ない。そう思うには……ジョットは強かった。救う事ができる人間が救えなかったのだ。

 

「……ジョット、アンタがこの事を知ったらそういう顔をするって何となく分かってた。昔から真面目だしね。宝を全部置いていくくらいには」

「……」

「……正直、何度もアンタに助けを求めた事があった。……それでも来なくて、何で来てくれないの? って逆恨みした事も」

「っ! それは、当然の――」

「でも! ……ルフィが、皆が助けてくれたから」

 

 ナミは――笑っていた。

 自分はもう、笑うことができる。笑う事ができるように……そうさせてくれる仲間が居たから気に病む必要は無い。彼女はそう言っているのだ。

 ――本当に、逞しくなったな。

 幼き頃に見たナミを思い出し、そして目の前に居る強い……ベルメールのように強くなった女性へと成長したナミを見て――ジョットはもう一度深く頭を下げて「ありがとう」と言った。今度は、謝る事はなかった。

 

「良いよ別に。おれはただ仲間を助けただけだし」

「うおおおおーーん! 良い話だぜお前ら~~! オレぁお前らの事大好きだ~~!」

「水臭いぜ兄弟! おれたちは当然の事をしたまでさ!」

「ヨホホホ! ジョジョさん、見た目と違って情に厚いお人なんですね!」

 

 事件に加わった者も、直接関わっていない者も……麦わらの一味は笑顔でナミの側に居た。その光景を見たジョットは穏やかな表情を浮かべて――感謝の念を抱き続けた。

 

「良い仲間を持ったな、ナミ」

「ええ。自慢の仲間よ!」

 

 ナミは笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

「しかし、何故オレの事を知らなかったんだ?」

「そりゃあお前の顔が激変したからだろう」

「テメェの手配書程じゃねぇよ。サンジ」

「何だとテメェ! 卸すぞコラァ!」

 

 先ほども手配書の件で一騒動あったからか、サンジの怒り具合は相当なものだった。その時の事を思い出したのか、ブルックは過呼吸になるくらい思い出し笑いをしてサンジに蹴り飛ばされる。

 話を戻す為に、ジョットの視線はウソップに向いた。

 

「ウソップはすぐに分かったみたいだが……」

「そうだよな。ナミとサンジが気づかなかったのに、何でウソップだけ分かったんだ?」

 

 誰もが抱いた疑問を、チョッパーが口にする。うーん、と皆が首を傾げるなか、ウソップは穏やかな表情で答える。

 

「ふっ。兄弟の顔を忘れる訳が無いだろう。おれ達には切っても切れねぇ絆があるのさ」

「お〜! すげぇなウソップ!」

「なんか、腹立つわね……」

 

 しかし、ウソップが彼の名前を叫ぶまで気づかなかったナミは強く反論しなかった。それに、ジョットが嬉しそうにしているのも理由の一つだった。

 気分が良いのか、胸を張って得意げな顔をするウソップ。心なしか長い鼻が伸びているように見える。

 そんなウソップを見たロビンが彼に向かって、誰もが忘れているであろう事実を言った。

 

「でもね、ウソップ。彼、5億の賞金首よ?」

「おうよ! ああ、星屑のジョジョがジョットだと分かっていれば、お前らにもっと早く兄弟の素晴らしさを話せたのになー……」

「いえ、そうじゃなくて……。海軍や他の海賊にこの事がバレたら、あなた真っ先に狙われるわよ?」

「……ん?」

「あ、妹の私からも言っとくけどロビンさんの言う事合ってるよ。いや~、私がジョジョの妹だと知った時の赤犬の顔は怖かったなー……」

「……ん゛?」

 

 ロビンとメアリーによって突き付けられた事実によって、ウソップのテンションは急落下した。

 よくよく考えれば分かる事だった。海軍が大将を何度も派遣する程危険視されているジョジョ。その彼に兄弟が居ると知れば、一気に警戒されてしまうだろう。現に、オークション会場に居たキッドとローには既にマークされている。海軍にバレれば懸賞金は跳ね上がり、海軍の猛者たち……最悪の場合大将が出張って来るかもしれない。

 妹のメアリーの実感の籠ったセリフも後押しし、ウソップに重い現実が圧し掛かる。

 

「いや~~~~~!? 大将はいや~~~~!? 助けて~~ジョットォゥ……」

「気にするなウソップ。兄弟のお前なら大丈夫だ」

「兄弟の信頼が痛い!」

「それに、お前らはもう既に天竜人に手を出している。大将と遭遇するのも時間の問題だ」

 

 これからの航海を続けていくには、大将と遭遇する訳には行かない。その事を思い出したのか、何人かは恐怖で顔を引きつらせる。ルフィやゾロといった一味の最高戦力も楽観視していない。大将の実力は身を持って知っているからだ。

 ジョットにしても、まだ先日の怪我が治り切っていないし、メアリーやギンも同様である。一味が生き残るためには、しばらく身を隠す必要があった。

 

 ――それでも、いざとなったら戦うつもりだが。

 

「ねぇ、私から提案があるんだけど」

「ん? なんだ?」

「どうした、メアリー?」

 

 そんな中、メアリーが全員の視線を集めて口を開いた。

 

「同盟組まない?」

「同盟?」

 

 彼女のいきなりの提案に、麦わらの一味は目を丸くさせる。若干同盟の意味を理解していない者も居るが……。

 あらかじめ、相手側の反応を予想していたのか、メアリーは用意していたセリフをスラスラと口にする。

 

「そう。大将が来るっていうのもそうだけど、新世界には海軍以外にも強敵がたくさん居る。特に四皇……ビッグマム。百獣のカイドウ。赤髪のシャンクス。そして、白ひげ――海賊王を目指す以上、何れ衝突する海の皇帝たち。彼らを退けるには……私たちはまだまだ力が足りない」

 

 ごくり、と誰かが生唾を飲んだ。

 そうだ、此処は偉大なる航路(グランドライン)前半の最後の島であり、新世界の入り口でもあるのだ。今メアリーが口にした怪物達が君臨する海の。

 改めて自覚したのか、ウソップやナミは冷や汗をかいて、目には薄っすらと涙が浮かんでいる。

 そして、比較的冷静な何人かはメアリーの言葉に魅力を感じていた。

 四皇に挑むのなら、確かにこの同盟は渡りに船だ。海賊の同盟に裏切りは付き物だが、相手がジョットならその心配も必要無いだろう。そう思える程度には、麦わらの一味は彼に信頼を寄せている。

 メアリーは、各々の顔つきから手ごたえを感じて、さらに畳み掛ける。

 

「一つの海賊団で切り抜けられる程、彼らは甘くない。それに、あなた達にとって有力な情報も渡す。だから、これからは力を合わせて……」

「――断る!」

「――オレも反対だ、メアリー」

『えええ?!』

 

 しかし、予想外の方向から反対の声が上がった。

 両海賊団の船長(キャプテン)達からだ。

 途端、ルフィの元にナミとウソップが、ジョットの元にメアリーが詰め寄った。

 

「ちょっとちょっと! 何で断るのよ!」

「何が不満なんだテメエ! この話に悪いところ一つもねえじゃねえか!」

「だってよ、お前ら――」

 

「ジョジョもジョジョだよ! 何で反対とか言うかな!?」

「あのな、メアリー――」

 

 ギャースカ口を揃えて文句を言う船員(クルー)たちに向かって、彼らは答える。

 

『なんか、そういう理由で手を組むのが気に食わない』

 

 異口同音でジョットとルフィはそう答えた。

 するとお互いに視線が合い、頷き合う。

 

「だよなー? 理由がイヤだよなー?」

「ああ。海賊王を目指す人間が、そんな理由で同盟を組むなんて考えられねえ」

 

「ふざけんなお前ら!」

「そんなに気が合うなら良いじゃない!」

「新世界舐めすぎ!」

「メアリーちゃんの提案蹴ってんじゃねえよくそ野郎ども!」

 

 ウソップ、ナミ、メアリーのブーイングがバー内を飛び交う。

 何となくルフィが断る理由を察していた他の一味が苦笑し、サンジは言い出しっぺがメアリーだからか、彼女たちに味方した。

 

「ルフィ達の言い分も分かる」

「ゾロ!」

 

 ルフィ達の意見に身を寄せるゾロに、チョッパーは涙目で非難の視線を彼に送った。

 

「だが、この先俺達の敵わない敵はわんさか居るだろう……それも事実だ」

「……」

 

 ゾロの脳裏に二人の男が浮かび上がる。

 一人は、己の夢のために必ず倒さなくてはならない男――“鷹の目ミホーク”。もう一人は、以前スリラーバークで遭遇した“暴君くま”。

 それ以上のレベルの敵が居るのが新世界だ。

 もちろん、現状に満足するつもりは無い。強くなるのは当たり前だ。

 しかし、生きてそこまで行くのなら――気に入らない事の一つや二つ飲み込むべきなんじゃないのか?

 ゾロの鋭い目が、ルフィとジョットを射抜く。

 

「どうすんだ? 一味の命を預かるトップとして……!」

「……ふん。猛獣のような男かと思えば――一杯食わされたな。

 麦わら、同盟の理由は気に食わないが……オレはお前となら仲良くしたいと思っている」

「お! それも同じだな! だったらよ、こうしようぜ!」

 

 にしし、と笑みを浮かべてルフィは言った。

 

「最後の島で海賊王の座をかけて戦うまで――それまでおれ達は友達! それで行こう!」

「――はは! 友達だから同盟を組む。ああ、良いなそれ」

 

 ジョットは笑顔を浮かべて、ルフィに向かって手を差し出した。

 

「よろしくな麦わら」

「ああ! ジョジョ!」

 

 それをルフィは力強く握り締め、それを見つめる麦わらの一味とメアリーは歓声を上げた。

 

 ――此処に、麦わらの一味とクルセイダー海賊団による同盟が結成された。

 後に、彼らは新世界で数々の事件を引き起こすのだが……その話はまた何れ。

 

 

 

 

 

「メアリー、すまなかったな。お前も珍しく皆の事を考えてくれたのに」

「珍しく!? 珍しくって言った!?」

「いや、だってこういう突飛な話をする時は自分の欲望に従っている時で……」

「う゛! い、いや今回ばかりは一味を思って……」

 

 そんな兄弟のやり取りを見ていたルフィが、難しい顔をして首を傾げる。

 彼の視線はメアリーに向けられている。彼女を見ていると何かを思い出しそうなのだ。

 

「なぁ、メアリーって言ったか? お前、おれと何処かで会った事あるか?」

「――っ! さぁ……私は覚えていないよ。ジョジョみたいに小さい頃に()()会ったかもしれないね」

「そっか」

「……」

 

 ジョットは、メアリーが一瞬表情を険しくするのを見逃さなかった。

 あの顔は、以前に見たことがある。エースと夜中話していた時だ。

 しかし、ジョットは問いただす事無く見送った。

 

 メアリーは、そんなジョットの内心を知らず、早速同盟を組んだルフィ達に向かって情報を明け渡した。

 

「今回、派遣されると思われる大将は黄猿。ピカピカの実を食べた光人間。自然系悪魔の実の能力者だから、普通の攻撃は効かない」

「ロギア? 青キジやケムリンみたいな奴らか」

「そう。実体を捉える術が無い以上、遭遇は避けるべき」

 

 大将の恐ろしさを改めて耳にして、全員苦い顔だ。

 完敗した青雉と同格となると、今の自分たちでは敵わない。歯がゆいが事実なだけに、彼らは逃げる事を第一に考えた。

 その前に、疑問に思った事があったのか、ロビンがメアリーに問うた。

 

「ちょっと待って。何で来るのが黄猿だって分かるの?」

「ただの消去法。他の大将――青雉と赤犬はジョジョとの戦闘で深手を負っている」

 

 そう言われて、全員納得がいった顔をした。

 ジョジョが大将二人を退けた話は有名だ。ルフィの耳にも入っている程だ。シャッキーに教えて貰うまで知らなかったが。

 皆のジョットを見る目が、少し変わる。まるで、バグか何かのようだ。その視線にジョットはムッとした。

 

「あ! でもよ、それならジョットの近くに居れば安全じゃないか?」

「そうよね! 大将二人を退けたのなら、一人ぐらい――」

「悪いが、オレもそう何度も無理はできねえ」

 

 名案だと先程まで沈んでいた表情を明るくさせるナミとウソップに、ジョットが待ったをかけた。彼は、立ち上がると着ている上着とシャツを脱ぎ始めた。

 すると、彼らの目には痛々しい傷跡が映った。凍傷、火傷、打撲痕――オーラで治癒をしているが、それでもまだ完治していない。

 メアリーはその時の事を思い出したのか、そっと目を伏せ、ナミ達は息を呑んだ。

 

「正直、自分でも良く生きていると思っている――それだけの敵なんだ。大将って奴は」

「す、すまねえ兄弟……」

「いや……だが、もしもの時は戦うつもりだ。オレはこんな所で死ぬつもりはねえし、友達を死なせるつもりもねぇ」

 

 それに、大将と戦うのは慣れているしな。冗談を交えてジョットは言う。

 

 ――これで、彼らの行動は決まった。

 レイリーがサウザンドサニー号のコーティング作業を終えるまでの三日間。両海賊団は大将黄猿から身を隠して逃げ続ける。もし片方どちらかが危なかったら救援に向かい、時間を稼いでジョットを中心に撃退。

 他にも様々な予想外の出来事が起きた場合は、臨機応変に立ち回る。

 ざっくばらんに、メアリーは皆に伝えた。

 

「ん? お前らのコーティングはどうするんだ?」

「一応終えているけど、レイリーさんに見て貰って何か問題があったら直すよ」

 

 ルフィの疑問にそう答えると、他に質問があるか見渡した。

 無いようで、全員黙って頷いた。

 そうと決まれば早速行動だ。

 

「にゅ~。麦わら、ジョジョ。オレのせいで済まないな……」

「どうか無事でいてくれよ、お前ら!」

「気を付けてねルフィちん! ジョジョっちん! 皆!」

 

「さて、私も行くとしよう」

 

「ハチ達もな。……じゃあ、オレ達は一度自分たちの船に戻る。ギン達と合流しねえとな」

「おう! 分かった! ……ん? ギン?」

「ルフィ、その話は後でしてやる。――じゃあな、ジョット。そしてメアリーちゅわあん!」

 

 シャッキーやハチ達BAR残留組、レイリー、ルフィ達麦わらの一味と別れて、ジョットはメアリーと共にレッド・イーグル号を隠しているGRへと足を進めた。背中越しに聞こえるナミやウソップたちの声を聞きながら、ジョットはメアリーに問う。

 

「……良いのか。麦わらにエースの事を言わなくて」

「……うん。今知ると、大将に集中できなくなるから。それに……」

「ああ、言い辛いなら良い。オレが知らなくても良い事なんだろう」

「……ごめん」

 

 静かに歩み続ける二人。しかし、その沈黙に耐え切れなかったのかメアリーが呟く。

 

「ルフィは……本当は何で最初同盟を断ったのかな?」

「ん?」

「私が……隠し事をしているからかな?」

 

 本人が居ないからだろう。メアリーは、自分の胸の中にある本音を曝け出した。

 彼の前に居ると、自分の失敗を……許されてはいけない過ちを思い出す。そのためにジクジクと胸が痛んで、しかしそれ以上の痛みに彼らは襲われ……もしかしたらこの先でも、苦しめられるかもしれない。

 そう思うと、メアリーはどうしても自分の行動に自信が持てなくなる。

 これで良かったのか? 変えた方が改善されるのではないか?

 そう考えるだけで彼女は――。

 

「――考えすぎだ。麦わらはお前が心配する程弱くねえよ」

「……」

 

 そう言って、ジョットはメアリーの頭をクシャリと乱暴に撫で付けた。

 それにメアリーは幾分か救われた気持ちになって「ありがとう」と小さく呟いた。

 

「――っ! この感覚は、まさか」

 

 だが、次の瞬間ジョットの様子が一変した。

 振り返って遥か遠くを睨み付けて、酷く狼狽していた。

 ――何故、この気配が此処に?

 覇気を使えないメアリーは、ジョットが感じ取った気配が何なのか分からない。

 しかし、良くない事が起きている事は分かった。

 

「ジョジョ! 何が起きたの!?」

「ああ、待て。早く麦わらたちに――」

 

 メアリーに説明する時間も惜しいのか、ジョットは懐から電伝虫を取り出して――殺気に反応してメアリーを担ぐとその場を跳んだ。

 瞬間、爆発。

 彼方から放たれたレーザーが地面に着弾すると同時に、ジョットが落とした電伝虫が吹き飛ばされていく。

 回避したジョットは、ギロリとこちらに攻撃をした敵を――大将“黄猿”を睨み付けた。

 

「おぉ~……噂通り“覇気”を使うようだねぇ……星屑のジョジョ」

「なるほど、あれが噂の超新星か」

「てめぇら……!」

 

 感心した声を出す黄猿の背後から、何十体ものパシフィスタを引き連れた戦桃丸が現れた。

 いきなりかち合った大将に……いや、本来ならルフィ達と遭遇する敵にメアリーは動揺した。

 何故彼らが此処に居る? そう考えて、ジョットが居るからだと思い直す。

 海軍は、ジョットに流れる血を危険視して執拗に大将を送ってきた。天竜人に手を出したジョットを逃がす気はないのだろう。

 そう考えたメアリーに向かって、ジョットが普段聞かない焦った声で叫ぶ。

 

「メアリー! 今すぐレイさんの元へ行け!」

「え?」

「あの人なら、麦わらたちをカバーできる筈だ!」

 

 何を、言っているのだろうか?

 何故、ルフィたちを心配するのか?

 何故――危険なのはルフィたちの方だと言わんばかりに、ジョットは焦っているのだろうか。

 

「大将は――こいつだけじゃねえ!!」

 

 絶望の言葉が彼女の鼓膜を震わせた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「ああああああああ!?」

「サンジーー!」

 

 足を抑えて、サンジが苦痛の声を上げる。ウソップが彼の名を呼ぶが、いつもの皮肉屋な言葉は帰ってこない。

 ウソップは、目の前に広がる光景が嘘だと思いたかった。理解できなかった。だが――それは紛れもない現実。目を逸らす事が許されない事実だ。

 

 回避したものの、攻撃の余波で胸を焦がされた――ルフィ。

 レーザーの直撃で既にダウンしている――ゾロ。

 蹴り抜いた足が凍り、悶絶している――サンジ。

 

 王下七武海の暴君くまに似た謎の男を倒すと同時に、新たに現れた二人の男とパシフィスタ。彼らの力は常軌を脱しており、麦わらの一味主戦力の三人は……倒れ伏していた。

 

「あらら……随分と疲労していたようだな――麦わらの一味」

「パシフィスタ程度でこの様か……なぁ、ガープ中将の孫」

 

 地面を冷気によって凍らせる男――海軍本部大将“青雉”。

 触れた地面を溶かすマグマ人間――海軍本部大将“赤犬”。

 

 海軍の最高戦力“三大将”。その全てが此処シャボンディ諸島に集結していた。

 この日、この島に居る海賊たちは――地獄を見る。

 



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崩壊

「ふざけんな星屑ッ! パシフィスタ(そいつら)はおめぇのサンドバッグじゃねぇんだぞっ!」

 

 口の端から血を流して倒れ伏している戦桃丸。しかし、ジョットはそんな事知らんとばかりに、射程範囲に入ったパシフィスタに()()叩き込むと、鋭い視線を黄猿へと向ける。

 

「キィイイザァアルゥゥウーーッ!!」

「怖いねぇ~~……この強さ、どう考えてもルーキーじゃないでしょ」

 

 雄叫びを上げて黄猿へと飛び掛かり、覇気で染まった腕を振り下ろすジョットを見ながら、戦桃丸はパンチ一発で沈んだ己の体に苛立ちを覚え……それと同時に目の前の化物のデタラメさに戦慄した。

 彼は、ベガパンクのボディーガードだ。世界政府にとって最重要人物である彼の身を守る戦桃丸の強さ(硬さ)は、そんじょそこらの海賊では手も足も出ない程に高い。そんな彼が、ジョットのパンチによって一発KOしたのは、やられた本人にとっても黄猿にとっても予想外だった。当然、そんなパンチにパシフィスタ程度が耐えられるはずもなく、ジョットの拳でスクラップになっていった。

 

(パンク野郎が言っていた事が、よ~く分かったぜ……!)

 

 ベガパンクは、今回ジョットの足止めとしてパシフィスタが運用される事を知ると、戦桃丸に戦闘よりもデータ収集に集中して欲しいと言った。

 

 ――彼の前ではパシフィスタは戦力にならず、片っ端から壊されるだろう。

 ――改良をしようにも、現在の科学力では彼の……彼の血に流れる力の前では不可能。

 ――この後の本命の為にもデータを収集してより強くするべきだ。

 

 ベガパンクは、ジョットに壊される事を前提に考えて、既にパシフィスタの改良、量産化に乗り出していた。とある国で一人の科学者が試作品を持ち出し、勝手に運用した事があったのだが、その時の戦闘の時点でベガパンクは未来を見ていた。

 故に、戦桃丸にデータの収集を命じたのだが……。

 

「これじゃあ、データもクソもねえじゃねえか」

 

 目の前に広がる残骸の山を視界に入れながら、戦桃丸は悪態を吐いた。

 現在、ジョットの相手をしているのは黄猿のみ。

 メアリーは既にこの場を去って、レイリーの元に向かって合流。その後、猛スピードでルフィ達の元へ()()()で駆け付けている。

 だが、それでもジョットの表情は優れなかった。

 

「テメェ……やる気あるのか!!」

「そうだねぇ~……正直なところ、無いねぇ~」

 

 間延びした声でそう答えると、黄猿は空中に移動し両手の指で円を作る。すると、彼の手元が光だし、そこから無数の弾丸が解き放たれた。

 

八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

「チィッ――“スタープラチナ!”」

 

 舌打ちをし、前面にオーラで作ったもう一人の己を作り出す。

 そして――。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 降り注ぐ光の弾丸を、一発一発ラッシュで打ち消していく。

 しかし、幾つかの弾丸を取り逃がし本体のジョットに被弾してしまう。体から血を流しながら、それでもジョットは怯まない。

 弾丸が止む前にスタープラチナでラッシュしながら、黄猿の元へ飛ぶが――。

 

「おっと――近づかせないよぉ?」

 

 その前に、光となった黄猿が移動してジョットの射程範囲から逃れた。それを見たジョットの額の青筋が数を増やしていく。

 

「黄猿―――!!」

「そう怒りなさんなって――これが、わっしの任務なんでねぇ……」

 

 凄まじい形相で再び殴りかかってくるジョットから距離を取りながら、黄猿は数時間前の事を思い出していた。

 

 

 

『わしゃあ反対です、センゴクさん』

『赤犬……』

 

 任務遂行の為にシャボンディ諸島に向かおうとした黄猿を止め、センゴクに異議を唱えたのは赤犬だった。未だに先日の戦いの傷が癒えていないのか、体の至るところに包帯が巻かれていた。そんな痛々しい赤犬に向かって、センゴクがギロリと睨み付ける。

 

『どういう意味だ』

『イタズラに戦力を失うと言うとるんです。ジョジョの奴を無視しようと、アイツは必ず噛み付いてくる。そうなりゃあ戦争どころじゃない』

『ん~~……じゃあどうするつもりだい?』

 

 言外にジョットにやられると言われた黄猿は、赤犬と青雉の傷を見ているからか目くじらを立てる事はなかった。

 しかし、現状他に良案があるとは思えず赤犬に問いかけた。

 すると……。

 

『――天竜人に手を出した麦わらは、わしとクザンで処理する。ボルサリーノ。貴様はわしらの邪魔をせんよう、あのバカを抑えとけ』

『!? ば、馬鹿者! そんな事認められるか! 貴様らが暴れると島がどうなると思っておる!』

『それに、その傷で動いても大丈夫なのかい? 君らの損失は海軍にとって痛手だと思うがねぇ……』

『ふん。覇気も使えんヒヨっ子にやられるようなら、この先の戦争で役に立たん! だが――』

 

 

 

 

 

 ――ジョジョ(アイツ)は違う。せいぜい、抜かれんようにしとけよ、ボルサリーノ。

 

「とは言ってもねぇ……こりゃ貧乏くじを引かされたかもしれないねぇ」

 

 簡単に言ってくれる、と別の戦場に居る赤犬に対して悪態を吐きながら、黄猿は己の腹部を押さえた。

 そこは、戦闘が開始してすぐジョットに付けられた傷だ。以前から目撃情報があった冥王レイリーだったが、ジョット達の口振りから察するにこの島に居るらしい。そして、彼らと麦わらは冥王と知己の存在らしく、助力を求めようとメアリーはこの場を逃げ出そうとしていた。その際、戦桃丸と共に妨害しようとし――射程範囲に入った彼らはジョットによって大ダメージを負った。

 ロギアでなければ、危なかったかもしれない。そう思えるほどの桁違いの覇気だった。加えて……。

 

(あの妙な物……時間が経つ度に速くなっているねぇ)

 

 光人間である黄猿の目から見ても、ジョットのスタープラチナのラッシュのスピードは異常だった。先ほど八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を数弾撃ち消し損なったスタープラチナだが、戦闘開始時に光の弾丸を……それも視界を埋め尽くす程の量を捌くスピードは無かった。

 とてつもない速度で成長している。戦いの中で、ジョットは強くなっている。

 もう少しすれば黄猿の光速に対応するスピードを……いや()()()()のスピードを得るかもしれない。それこそ、覇気で見切る事が不可能な程に。

 

「さっさと麦わらを捕らえてくれよぉ~……このままだと、色々と覚悟しないといけない」

 

 巨大なマングローブを粉砕するジョットを見ながら黄猿はそう呟いた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「なんで大将が二人も此処に居るんだよォオオ!!」

 

 絶望を前に、ウソップが涙を流しながら叫ぶ。

 既に、一味は満身創痍だ。戦える者は居らず、ゾロにいたっては動くことすらできない。スリラーバークで負った傷が未だ癒えていないのだろう。パシフィスタのレーザーで撃たれてから身動き一つできない状態だった。

 ルフィも、胸を焼かれた痛みで立っているのもやっと。サンジは下手に動けば足が砕けてしまう。

 何処か心の拠り所だった三人の姿に、一味の心は折れかけていた。

 ウソップも恐怖で体が動かない。ただ、受け入れられない現実に対して泣き叫ぶだけだ。

 

「恨むなら、星屑のジョジョを恨め。奴が居なければわしらが此処に来る事も無かった!」

 

 しかし、次の瞬間ウソップの耳に兄弟の名前が響く。

 星屑のジョジョ――ジョットの事だ。

 

「あいつの存在が、お前らを殺す! 天竜人に手を出しただけなら兎も角、あいつと同じ時期にこの島に辿り着き、問題を起こした! その時点で貴様らの運命は決まっとったんじゃ!」

「おい、サカズキ。それ問題発言だぞ。仮にも世界貴族に……」

「ふん。心にも無い事をほざくな! ――ジョジョは存在自体が悪! あいつの存在が災いをもたらすんじゃ!」

 

 過激な赤犬の発言だが――おそらく、この騒動に巻き込まれた海賊たちは牢獄の中で口々にこう言うだろう。

 星屑のジョジョのせいでこうなった。

 星屑のジョジョが大将を退け、この島に来なければ海賊として生きていけた。そう思える程に、彼が海軍に与えた影響は大きい。

 白ひげとの戦争を控えた今、事態の早期解決のために三大将を派遣する思い切った決断。それを後押ししたのは他ならぬジョットの存在だ。

 故に、赤犬は言う。

 

「あいつは、存在してならん悪じゃ!」

 

 ――だが、それを許さない男が居た。

 プツン、とウソップの頭の中で何かが切れた。

 

「――待てよ。テメェ、ジョットの事を好き勝手言いやがって……!」

「ダメよ、ウソップ!」

「待てウソップ! やめろォ!」

「止めるなロビン! ルフィ! ジョットが――おれの兄弟が侮辱されたんだぞ! こんな事言われて黙っていられるかぁ!!」

「――アァ? あいつの……兄弟じゃと……?」

 

 ギロリ、と赤犬の目に殺意が浮かぶ。

 海軍本部大将の殺気がウソップにぶつけられ、彼の体がガタガタと震えだし……しかし心だけは折れなかった。

 それだけの怒りが、ウソップの体を、心を、己を奮い立たせていたからだ。

 

「貴様があいつの兄弟じゃと? 嘘を吐くなぁ!!」

「嘘じゃねえ!! おれは、あいつと盃を交わした正真正銘の兄弟だ!」

 

 赤犬の怒号に負けずに、ウソップが叫び返した。

 かつて、ウソップは百計のクロに父を、己の身に流れる海賊の血を馬鹿にされた事がある。いつもくだらない嘘や保身のために嘘を吐くウソップだが、己の誇りを汚されたり憧れの人を馬鹿にされた時は――嘘を吐かない。

 

「確かにあいつは凄い海賊になって兄弟として釣り合っているのか不安になる――けど、あいつはおれの事を兄弟だと言ってくれたんだ! お互いの夢を語り合ったあの時から何も変わらねえ――おれの憧れの兄弟なんだよ! その兄弟を馬鹿にするのは、このおれ様が絶対に許さねえ!!」

「ウソップ……」

 

 ナミは、ウソップが何故ジョットの事を覚えて……いや、忘れなかったのか理解した。

 お互いに相手の事を信頼し、兄弟だと思うからこそ――忘れることはなかった。

 シャッキーのBARで言っていた切っても切れない絆。それは、誇張でも何でもない本心からの言葉だったのだ。

 

「手配書に載ってもいないゴミが――」

「ああ、そうだ! だが、今に見てろ! このキャプテン――いや、ゴッド・ウソップが、ジョットに負けない程の男になってやる!」

 

 キャプテンでも、キングでもない。ジョットに並び立つのなら――神にでもならないといけない。

 その決意を胸に発した言葉は、赤犬の脳裏に少し前の記憶が蘇る。

 まだジョットのクルーでもなかった男たちが、体を震わせながら赤犬に向かって『海賊だ!』と叫んだあの日。

 あれからだ。あれから始まったのだ――屈辱の日々は。

 

「――ふんっ!」

「ぐあ!?」

「ウソップ!? こんにゃ――ぶほっ!?」

 忌々しい記憶を振り払うかのように、マグマ化させた腕をウソップの頬に叩き付ける赤犬。殴られた衝撃でウソップの体は宙に浮き、そして地面に沈む。

 それを見たルフィが突っ込むも“大将を援護せよ”とプログラムされたパシフィスタによって殴り飛ばされた。

 

「あ、ぐあ……ああああああああ!?!?」

 

 ルフィが遠くに吹き飛ばされ、殴られたウソップを見た仲間が悲鳴を上げるも、しかしそれ以上に大きな……痛みに悶えるウソップの絶叫が掻き消した。

 いつものように大質量のマグマを作り出すのではなく、表面をマグマ化させただけだからかウソップの頬が溶けて無くなる事はなかった。しかし、それでもマグマ。ウソップは今まで感じた事が無い程の激痛に襲われていた。

 

「この程度の痛みで泣き叫ぶ奴が神を名乗るか――見苦しい。あまりにも見苦しいぞ海賊!」

「――い、痛くねえ……!」

「あァ?」

「痛くねえって言ってんだ! こんなもの、大した事無ぇ! おれの怒りに比べたら、温い!!」

 

 火傷した頬を抑えながらも、ウソップは立ち上がる。

 

「ジョットが何度も……逃げれる、筈だァ! あいつの凄さに比べたら、お前の能力なんて屁の河童だぁ!」

 

 赤犬を睨み付けながら言葉を吐き続ける。

 

「おれ達兄弟は、お前なんかには負けねえぞ!」

 

 決して、負けない。ジョットを、兄弟を馬鹿にしたこいつだけには――心で負けたくない。

 

「もう一回、言うぞ……!」

 

 その一心で、本来なら敵わない相手にウソップは挑み続ける。今の彼を止めるには――もう、殺すしかない。

 

「海軍大将赤犬! お前のマグマは、おれの怒りに比べれば温いぞ! その程度じゃあおれは止まらねえ!!」

「なら――とっとと死ねぇ海賊ッ!!」

 

 ゴプリッと湧き出したマグマを、赤犬は目の前の()に向かって全力で解き放ち――ウソップはそのまま飲み込まれた。

 明らかに過剰な能力の解放に、ナミも、ロビンも、チョッパーも、フランキーも、ブルックも、サンジも、ゾロも、そしてルフィも――絶望の声を上げた。

 

『ウソップーー!?』

 

 だが――青雉だけは気づいていた。

 

「避けろ、サカズキ!」

 

 青雉の警告の叫びと共に、マグマから飛び出したのは――冥王レイリー。

 その背にはメアリーが片腕でしがみ付き、そして限界が来て気絶したウソップを掴んでいた。

 レイリーの覇気が籠った蹴りが赤犬の腹部に――直撃。衝撃によって赤犬が後方に飛ぶ。

 

「――冥王!!」

「やれやれ……随分仕事熱心じゃないか――赤犬くん。青雉くん」

 

 ウソップの生んだ数十秒が――彼らを救った。

 ジョットを除いて、唯一大将と戦える者がこの場に間に合った。

 そして――。

 

 

「――生きていたか、ロロノア」

 

 この男もまた、どうにか間に合った。

 

「お前は――」

 

 意識が朦朧とするなか、ゾロが見上げた先には――正真正銘の王下七武海“バーソロミュー・くま”が居た。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

「ぬぅ……!」

 

 現在……黄猿は追い詰められていた。

 マングローブを背に、正面からジョットとスタープラチナのラッシュの壁が襲い掛かっていた。光の弾丸で相殺しているが、ジョットは拳を焼かれてもラッシュを止めなかった。

 回避をしようにも、隙間がほとんどなく、唯一空いている上は明らかに罠。黄猿の行動を制限して、ジョットが用意した選択肢を選んだ瞬間――訪れるのはラッシュによる蹂躙。

 

「――天照!!」

 

 なら、どれも選ばず作ればいい。

 黄猿の指先から強烈な光が放たれる。しかし、これに相手を殺す力はない。あるのは――視力を奪うこと。

 黄猿の次の行動を注意深く見ていたジョットは、目を焼かれて視界が真っ白になる。

 

「油断大敵――」

 

 その隙をついて、黄猿が光の速度の蹴りをジョットの脳天に叩き込み――。

 

「――オラァ!!」

「――!?!?」

 

 それでも尚、ジョットは己の拳を黄猿の腹にぶち込んだ。

 瞬間、両者の距離は勢いよく離れる。お互いの強烈な一撃で体が吹き飛んで行き、ジョットは地面に体を何度も跳ねらせ、黄猿は何本かの巨大なマングローブを貫通していった。

 ジョットも黄猿もダメージは、大きい。

 だが、状況はジョットにとって有利だ。

 

「――あいつらの、所へ、行かねえと」

 

 

 オーラで視力を治しながら、ジョットは覇気に従って麦わらの達の元へと走った。

 だが、どういうことだろうか。

 

 ――何故、感じる気配の数がこんなにも少ない?

 ――何故、気配が……一つずつ無くなっていく。

 

「……レイさんは――いやっ! そんな筈あるわけねえ!」

 

 頭に浮かんだ最悪の事態を振り切り、ジョットは走る。走る。走る。

 そして、徐々に視力が戻り、ルフィの気配を身近に感じて、彼の目に映ったその光景は――。

 

「さよならだ。麦わらのルフィ……もう出会う事もないだろう」

 

 麦わらの一味が完全崩壊した瞬間だった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 オレは、また間に合わなかったのか?

 友達が消される前に、駆け付ける事もできなかったのか?

 誰がそんな事をした?

 誰が――オレの友達に手を出したんだ――。

 

 

 ――ジョットの血が、『ジョン・スターの血』が、彼を怒りに染めた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 くまの手……肉球によって麦わらの一味は何処か別の場所へと消された。その行動を、赤犬も、青雉も、レイリーも止める事ができなかった。

 大将達は、レイリーを解放すれば麦わらの一味は逃がされる為に。

 レイリーは、大将達を放置すれば死者が出る為に。

 故に、彼らはくまの暴挙を防ぐ事が出来なかった。

 

 麦わらの一味もまた、抗う事ができなかった。パシフィスタで満身創痍だった彼らは、立ち向かう者から順に消され――船長のルフィを最後にその島から完全に消え去った。

 

 メアリーは、ウソップの手を掴んだ状態で能力を行使された為に巻き込まれ、そして――。

 

 バーソロミュー・くまは何を目的に動いたのか。唯一知っているメアリーは飛ばされ、レイリーは耳元で「麦わらの一味を逃がしたい」と囁かれただけで詳しい事は知らない。

 立場的には味方に近い大将達は――殺気を含んだ視線をくまに送っている時点で明らかだろう。

 

「貴様、自分が何をしちょるのか――」

 

 裏切りに等しい行動をしたくまに、赤犬が口を開いた瞬間――荒れ狂う覇王色の覇気がその場に居た者達を威圧した。一瞬意識が飛びかけ、耐えて発生源を見れば――そこには修羅が居た。

 

「――ジョォジョオオオオオ!! 貴様、よくもわしの前に……!」

「待て、サカズキ。……様子が変だ」

 

 ジョットの目には、くましか映っていなかった。ルフィを消した光景を見て、彼を完全に敵として捉えている。くまも、噂で聞くジョットに振り向き――瞬間、鉄の顔面から嫌な音が響く。

 ジョットに殴られたのだと理解したのは、彼の殴打が八発叩き込められた時だった。それだけ彼の拳が速く、そして重かった。まともに喰らっていてはスクラップになる。

 くまは咄嗟にジョットの拳に合わせて肉球を構えた。彼の肉球は能力によって万物を弾く力がある。ジョットのパンチの衝撃を、先ほどのルフィのパンチの様に弾こうとしたくまだったのだが――。

 

「――っ!」

「ぐっ……!」

 

 殺しきれない。ボキッとジョットの腕が折れて体は後方に飛び、くまもまた後ろへと吹き飛ぶ。初めての経験にくまは驚いていた。星屑のジョジョとは、ここまでデタラメの強さだったのだろうか、と。

 そして、その疑問は赤犬達もだった。

 

「なんじゃい、あのパワーは!」

「怒りによって目覚めた……ってところか? 厄介な」

 

 起き上がったジョットは、変な方向に曲がった腕を掴むと音を立てて元に戻しオーラで治療――いや、再生する。

 しかし、彼のオーラが足りないのかガクンッと膝を折る。黄猿との戦闘で体力を消費したからだろう。動きが鈍い己の体に苛立ちを覚え――背後からのレーザーに貫かれて苦悶の表情を浮かべる。

 

「……!」

「わっしを忘れて貰っては困るね〜……星屑のジョジョ」

 

 頭から血を流し、腹部から夥しい血を流す黄猿。瀕死の状態だがそこは流石の大将。すぐ様戦線復帰してジョットを追い掛けた。そこに当初の任務は無い。自己判断の元――ジョットは此処で殺さないといけないと思ったからだ。

 そして、それは他の大将達も同様だ。

 

「やっと……貴様を殺せる……!」

 

 赤犬は言わずとも。

 

「センゴクさんの指示では戦闘禁止だったが……こうなったら仕方ないか」

 

 青雉もジョットの危険性を考慮して戦闘態勢に入る。

 これに焦るのはレイリーだ。全員手負いとはいえ、三大将相手に生き残るのは至難の技。老体の身の自分にとっても、半ば理性を失っているジョットにとっても。

 そんななか、一人の男が現れる。先ほどジョットに吹き飛ばされたくまだ。

 彼は、ジョットに向かって手を……肉球を振り下ろした。戦って分かったが、まともに相手をしたら身が持たない。故に、ルフィ達と同じように、しかし脅威をこの場から消すという別の理由で能力を発動させた。

 ポンっと軽い音が響き、ジョットはくまの能力でシャボンディ諸島を――。

 

「っ、ぐっ、うううう……!」

 

 去る事は無かった。嫌な予感がしたジョットは、両腕を地面にめり込ませるとその場に無理矢理留まった。これに驚いたのはくまだ。未だかつて、このような方法で能力を耐えた者は居ない。

 ジョットを遥か彼方に弾き飛ばそうとする力が、耐えるジョットの腕に負荷を掛けてブシュッ、ビシュッと嫌な音を立てて血が吹き出す。

 

「暴君……! 貴様、また!」

 

 赤犬の怒声を耳にしながら、くまは二度目の能力の行使に入った。ポンっと再び軽快な音が響くも、ジョットはまだ耐えている。今にも千切れそうな程腕から血が次々と吹き出し、ジョットはくまを見上げて睨みつける。

 

「許さねぇ……兄弟と友達を消したお前を――」

「なるほど、そういう事か」

 

 くまは、ジョットが吐き出した恨みが込もった声に納得し、彼の耳元に口を寄せると――。

 

「麦わらの一味は――生きている」

「――」

「だが――お前はどうなるか分からない」

 

 そう言ってくまは三度目の能力を使い――ジョットはシャボンディ諸島から消え失せた。

 

 

 

 

「やってくれたのぅ……くまッ!」

「これは大問題だねぇ……」

「やれやれ……センゴクさんになんて報告すれば良いんだか」

「……」

 

 ――こうして、後に語られる海軍三大将とルーキー達の騒動は幕を閉じ。

 ――麦わらの一味とクルセイダー海賊団船長並びに副船長は……行方不明となる。

 




被害状況
キッド、ロー。協力してパシフィスタを退けて逃亡に成功。
アプー、ホーキンス、ドレーク、ウルージ。原作通りに黄猿にやられるも逃亡に成功。
ベッジ。一度氷漬けになるも、部下の手によって解凍され無事逃亡に成功。
ボニー。赤犬に一度捕らえられるも、黄猿がジョットによって吹き飛ばされた際の戦闘の余波で軍艦が転覆。その時の混乱に乗じて逃亡。
他の海賊。マグマで溶けたり氷漬けにされたり光で撃たれたりして牢獄の中。
シャボンディ諸島。いくつかのマングローブ消失。崩壊は免れた。
ギン率いるクルセイダー海賊団。シャッキーの手を借りて無事にやり過ごす。しかし、船員達の士気は――消失。
メアリー。途中ウソップとはぐれ、そして――。


次回は日記です


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主人公日記 十三ページ目(後書き追加)

 #月&日

 

 初めての経験だ。空を飛びながら日記を書くっていうのは。

 シャボンディ諸島での失態は、オレの冷静さを失わさせた。一晩経ってそう思える程には落ち着いた。麦わら達もオレと同じようにこうして空を飛んでいるのだろう。あの男の言葉を信じるのなら生きている。実際、そのようになりそうな現象は赤い土の大陸(レッドライン)に叩きつけられた時に分かった。体への衝撃が無く、肉球のヘコみが出来上がった事から、そういう能力なのだろう。

 という事は、アイツは最初から麦わら達を逃す気だったという事に――。

 

 麦わら達の生存率が上がったのは喜ばしい。だが、オレはどうなるか分からないらしい。アイツは別れ際にそう言った。その意味をオレは何となく察している。

 赤い土の大陸(レッドライン)に激突したオレはアイツの能力で一度停止し、次は空に向かって吹き飛んだ。その後、壁の頂上を越えてしばらくして空中で能力が切れたのか、次は赤い土の大陸(レッドライン)のその先の海に向かって飛んだ。

 ……新世界、入っちまったな。

 メアリーやギン、アイツらに何て言おう。それに、三大将が居るあの島に居て無事だろうか。メアリーはあの場に居なかったから、レイさんに救援を頼んだ後ギン達の元に向かったのだろうか。

 何とか連絡手段を見つけて、アイツらの無事を確認しねぇとな。

 ……その前に、自分の無事を祈るか。海に落ちてしまえば能力者のオレはお陀仏だ。

 

 

 #月$日

 

 運が良いのか悪いのか……オレは海に落ちることは無かったが、海賊船に落ちてしまった。しかもここの奴ら、かなり強い。甲板に肉球のヘコみを作った(実際はオレじゃあねぇが)オレにキレると、縛り付けて牢屋の中に入れた。抵抗しようにも腕は折れ、腹に穴が空いた状態で満足に動く事ができず、パイナップル頭の男にカウンターを入れた後動けなくなってしまった。

 海楼石の手錠で拘束されて上手く力が出ない。日記を書くのも疲れる。

 引き千切っても腕に取り付けられたままでは満足に動けないな。

 怪我をしているなら尚更だ。

 

 

 先ほど、飯を持って来た此処の海賊の船員が海楼石の手錠を外してくれた。最初はどうやって引き千切っているんだと驚いていたが、オレが正直に答えるとドン引きした顔をして外してくれた。動き辛かったから助かる。

 しかし牢屋から出す訳には行かないらしい。今は時期が悪く、オレに構っている暇が無いとの事。さらに船長の身に何かあったらマズイので、首を取りに来たのなら後にしてくれと言われた。

 どうやら単身敵船に突っ込んで来たと思っていたらしい。心外だ。

 オレにその気はないと伝えると何となく分かっていたとアッサリ答えられる。

 言質は取ったと笑うと、男は……いや、マルコはオヤジに掛け合うと言って行ってしまった。エースから友達だと聞いていたらしい。

 ……この時、アイツらが――白ひげ海賊団がピリピリしていた理由をオレは悟った。メアリーが言っていた言葉を思い出して。

 

 

 牢屋から出されたらオレは、船医に治療して貰い寝床を与えられた。白ひげには感謝しねぇとな。怪我も治して貰ったし。

 それにしても、此処の船医は凄いな。みるみるうちに怪我が治っていく。そう呟くとお前の体が凄いだけだと謙遜していたが。

 

 それと、此処の船の奴らはオレの親父と母親を知っているらしい。

 白ひげに親父は元気か? と聞かれて出航前に別れたと答えるとアイツの息子だったのかと驚き、何人かの視線に怒りが湧き上がっていた。白ひげに親の罪を息子に向けるなと一喝されて直ぐに無くなったが……親父、何したんだ? 聞くと頭が痛くなりそうだから尋ねなかったが。

 そしてそれ以上に気になるのが母親の存在だ。白ひげは親父の存在と海軍がオレを執拗に狙っていた事から、オレに流れるジョン・スターの血の事を言い当てた。すると、親父の名に驚いていた白ひげの息子たちが絶句し、ジョン・スターの血が残っていた事実が信じられないと白ひげに事の真偽を問うていた。

 白ひげもそれまで薄っすらと浮かべていた笑みを消すと真剣な表情で頷き、オレは置いてけぼりにされた。マルコにどういう事だと聞くと、お前に流れている血は親父の息子だという事よりもヤバいと言い出し、それが世間にバレれば世界政府は何がなんでもオレを殺そうとする、との事。親父の息子という時点で四皇を始めとした名のある海賊達がオレを狙う理由があるのに、こんな事があるのかと頭を抱えていた。

 流石にオレもそこまで言われては呑気にしていられず、白ひげにジョン・スターの血とは何だと尋ねた。今までの航海で、ある国では星の一族と呼ばれるそれは何なのか。その答えをこの男は知っている。

 しかし、白ひげは答えなかった。親父が黙っている以上、他人である自分が語る事じゃないと返された。

 ただ、オレが母親を知らない理由だけは教えてくれた。

 ジョン・スターの血を引く者は一世代に一人だけ。病気かと思えば、そうではなく、もはや呪いの様に古の時代から定められた運命だとジョン・スターの血を知る者は口々に言うらしい。

 しかし白ひげは違うと言った。お前は、母の愛で守られて生きている。親父の制止を振り切り、世界を相手取って死んだ。故に、オレが海に出るまでその存在を知られる事が無く、こうしてこの歳まで生きて来られた、と。

 母親を恨んでも良いが、その事は知っておいて欲しいと締めくくり、オレは――素直に頷く事しか出来なかった。すると白ひげは優しい顔でオレの頭を撫でるとさっさと傷を治せと言ってオレを部屋に放り込んだ。エースの友達を死なせる訳にはいかねえ、と言って。

 そんな白ひげを見て、オレは白ひげ海賊団のクルー達が彼の事をオヤジだと言っている理由が分かった気がした。

 

 そしてオレは個室でこうして傷の手当てを受けて日記を書いている。こうして纏めると長いな……。

 それに、借りも出来た。

 

 

 #月○日

 

 白ひげ海賊団のクルー達と飯を食いながら、少しだけ母親の事を聞いた。何でも、この船に長く居る者たちはオレの母親の事を『姐さん』と呼んでいたらしい。だから死んだと聞いた時は泣いたし、息子であるオレがこうして此処に居るのは嬉しいと言っていた。

 それと同時に母親を唆し攫っていったあの糞爺は絶対に許さんと、親父への殺意は並大抵のものでは無かった。姐さんが惚れたから余計に、とも言っていた。

 白ひげはどう思っているんだ? と本人に聞くと、アイツが決めた事にいちいち口出ししねぇよと言いつつ、少しだけ寂しそうにしていた。オレの母親も白ひげに娘と言われていたようで、ジョン・スターの運命で親を亡くして独りで泣いていた所を白ひげに拾われたとの事。昔からヤンチャで、オレを見ているとよく思い出すと言っていた。そして親父の方に似なくて良かったと割と本気の顔でそう言った。擁護できねぇな……。酒飲んで常に酔っ払っている親父を思い出し、そう思った。

 

 しかし、白ひげがオレの母親の親なら……オレは孫って事になるのだろうか? そう思って口にすると白ひげはポカンと驚いた顔をして、次の瞬間には口を開いて大きく笑った。

 試しに爺さんと呟いてみると笑い過ぎて傷が開いて大騒ぎになった。戦争前に死ぬとか洒落にならんと白ひげ海賊団は大慌て。そして以後オレに白ひげに向かって爺さんと呼ぶのは禁止だと言われた。

 なんでオレが怒られにゃならんのだ。

 

 ……戦争、か。

 

 #月☆日

 

 白ひげ達は、エースを助けに行くと言っていた。

 息子が殺されると聞いて黙っていられない、海賊団全員がそう言っていた。

 それと同時に、オレに申し訳無さそうにしていた。海軍に動きを察知される訳にはいかないので、安易に電伝虫を使う事も出来ない。魚人島まではこの船で大人しくしていてくれと言われた。魚人島に着けば、コーティングした船でシャボンディ諸島に帰る事ができるから、と。そして、白ひげ海賊団が入手した情報では三大将が捕らえた海賊にクルセイダー海賊団の名は無かった事から、アイツらは生きているともオレを安心させるように言った。

 

 それだけ白ひげ達はこの戦いに本気なのだろう。その気概を見て白ひげの家族を思う気持ちに感服し、しかしそれと同時にオレは自分の扱いに納得できなかった。

 確かに、勝手に居なくなったオレを心配しているアイツらの身の安全の確保を想うのなら、白ひげ達の力を借りて、逆らわずに従って帰るべきだ。しかし、白ひげ海賊団には怪我を手当てして貰い、白ひげからは母親について教えて貰った恩がある。その恩を返さずに、さらにはシャボンディ諸島までの帰り道を全て整えて貰ってノコノコ帰るのは……あまりにも男として不義理で、船長として情けないのでは? そう思ってしまった。そう答えると周りの奴らには頑固者と呆れられ、白ひげ傘下の海賊からは四皇が相手なら気にする必要は無いのでは? と言われた。

 しかし、オレはその言葉に従う事はできない。そう突っ返すと白ひげは生意気な小僧だと笑った。それと同時に、どう恩を返す? と面白そうにこちらを見ながら尋ねる。

 それに対して、オレはこう答えた。

 

 エースを助ける為の戦いに、オレも混ぜろと。

 

 途端、白ひげは目つきを鋭くさせ、隊長達は怒りを顕にし怒号が船上に響いた。馬鹿にしているのかと。この戦いの意味を理解しているのかと。ジョン・スターのお前が海軍の全戦力が集う場所に行って命があると思っているのかと。口々にオレが放った言葉に反対し、詰め寄って来た。そこからは売り言葉に買い言葉。覇気も能力も使わなかったが全員で殴り合い、互いの主張を押し付けて……いや、もはや意地を張り合っていただけだな。今思うと。気の良い奴らで家族を大切に思う奴らだ。助けられたっていうのもあるが、オレも何処か気に入っていたんだろう。向こうも『姐さん』と慕っていたオレの母親の息子だからか、情が湧いている様に見えた。

 

 だからオレはこいつらの助けになりたいし、本気でやり合ってその後に仲良くなって宴をした――友達のエースを助けたい。

 

 しかしアイツらも母親の形見であり、エースの友達でもあるオレを危険な目に合わせる訳には行かない。そして白ひげ海賊団としての矜持がオレを巻き込む事を許さなかった。

 

 一歩も譲らないオレ達。そんなオレ達を止めたのは白ひげだった。

 白ひげは、オレがこの戦争に参加すれば真っ先に狙われると言っていた。『親の罪子報う』なんざ下らないが、海軍はそう思っていない。この船の人間じゃない以上止めることはできないが、それでも戦場に行くのか。命を賭けるのか。

 白ひげはオレにそう問いかけ――オレは自分の言葉を撤回しなかった。

 すると、白ひげは「死んだら船長失格だ。せいぜい乗る船を失うなよ」と言って、以後オレの行動は白ひげの預かりとなった。

 隊長達は絶対死ぬなよやら、死んだらオレ達白ひげ海賊団の恥やら、今すぐ縛ってシャボンディ諸島に送り届けてやりたいやらと好き勝手に不満を口にした。嬉しく思いつつもオレは一海賊の船長だから気にするなと言えば、気にするわどアホ! と怒鳴られて再び喧嘩が勃発し、白ひげの独特な笑い声を耳にしながら決意した。

 

 絶対にエースを助けよう。こいつらの為にも。爺さんの為にも。

 

 

 #月÷日

 

 ニュースクーで妙な記事が出回っていた。

 いったい何処から仕入れて来たのか、オレと麦わらの一味が海賊同盟を結成したという情報が漏れていた。シャッキーやハチ達が言いふらすとは思えないし、メアリーは……可能性がありそうだなぁ。新聞に書かれている内容が麦わらに手を出せば、大将を退けるクルセイダー海賊団が黙っていないみたいな事が書かれている。空飛ぶ船は直ぐに駆け付け、あなたの大切な人が……とも書いてあるしな。強みを最大限使ってやがる。散り散りになった麦わら達を庇う為だろうか? アイツも動いている事が分かって安心した。

 

 マルコは新聞を見て、オレとエースの弟である麦わらが海賊同盟を結成した事に驚くと同時に、お前の妹は別ベクトルでヤバいなと言っていた。やっている事が四皇並みに厄介だと。聞くとビッグマムもその力を使って自分に従わない相手に肉親の遺骨を届けて、逆らったらどうなるかを思い知らせるらしい。胸糞悪いな。そしてそれと似たような事をしているうちの副船長の未来が心配だ。世界から見たオレの悪名を上手く使っているが、それが妹だとな……。

 それにまた邪眼がどうのこうのと書かれている。これはアイツの指示じゃ無いだろう。悶えている姿が目に浮かぶ。

 妹は親父の方に似ちまったなと白ひげが少し悲しそうにしてたので、親父が拾って来た子だと説明すると親父の影響かと納得した。というよりもジョン・スターの運命で血が繋がっていない事は分かっていたと言っていた。

 それを聞いた隊長達がお前がジョン・スターの血を受け継いで良かったと言っていたが、もしメアリーが受け継いでいたらどう思ったんだ? そう聞くと全員顔を逸らして質問に答えず、任務で忙しいと理由付けて海軍の偵察艦隊を沈めに行った。

 メアリーが此処に居なくて良かったと思う。多分泣くぞアイツ。最近クルセイダー海賊団でヤバイのは邪眼のメアリーでは無いのか? みたいな風潮あるし……。

 

 

 #月<日

 

 魚人島にて白ひげ傘下の海賊団と合流した。コーティングを終え次第前半の海に行き、公開処刑される当日にはマリンフォードにて海軍を強襲しエースを奪還する。その際に元帥センゴクが練っているであろう作戦、そしてオレがシャボンディ諸島で(結果的に)消耗させた戦力、新戦力のパシフィスタを元に考慮して、それぞれの細やかな取り決めをした。オレは白ひげの預かりとなっている為、しばらく共に動くが……戦争になればそれも解除されるだろう。その時の為にオレも完治に向けてゆっくりしよう。それと、オーラで爺さん白ひげの体を少しでも回復させないと。ハナッタレが余計な気を回すなと悪態吐かれるが、勝つ為だから文句言うなと言っておいた。全く、頑固な男だ。

 

 

 #月>日

 

 今まで大将と何度もぶつかって来たが……もうそろそろ逃げるのは終わりにしよう。

 

 友を救う為には、恩を返す為には、義理を通す為には、アイツらは一番の障害となる。

 

 今まで散々追い駆け回して来たんだ。仕返しの一つや二つしてもバチは当たらねえだろ。

 

 さぁ、待っていろよ。海軍。

 

 次は、オレの番だ。

 

 覚悟は良いか? オレはできてる。




白ひげ達がエースとジョットが友達だと知っているのは、エースが白ひげに定時連絡をした時に話したからです。


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決戦前

 エース公開処刑前日――。

 

 現在、海軍本部マリンフォードでは、来たるべき戦に備えて着々と戦力が集い始めていた。

 

 世界最強の剣士“鷹の目ジュラキュール・ミホーク”。

 シャボンディ諸島にて麦わらの一味及び星屑のジョジョと邪眼のメアリーを遥か彼方へと飛ばした“暴君バーソロミュー・くま”。

 アマゾン・リリー皇帝にして九蛇海賊団船長“海賊女帝ボア・ハンコック”。

 スリラーバークにて麦わらの一味と邂逅した“ゲッコー・モリア”。

 ドレスローザ国王並びにドンキホーテ海賊団(ファミリー)船長“天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴ”。

 そして、この戦争の引き金でもあり元白ひげ海賊団二番隊隊員“黒ひげマーシャル・D・ティーチ”。

 どれもが曲者揃いの世界政府によって公認された海賊――王下七武海。

 後もう一人“海侠のジンベエ”を除いた七武海が既にマリンフォードに集結している中、海軍もまたその戦力を集結させていた。

 ローグタウン、アラバスタで麦わらの一味と邂逅した“白猟のスモーカー”。その部下たしぎ。元七武海サー・クロコダイルが秘密裏に作り上げていた犯罪組織『バロックワークス』に所属していたMr.2ボン・クレー並びにMr.3を捕らえ、ジョット不在のクルセイダー海賊団を追い詰めた“黒檻のヒナ”。その部下ジャンゴ、フルボディ。

 さらに、ガープ並びにセンゴクと同期にして“大参謀”の異名を持つ“つる”。その妹分にして“桃色客あしらい”の異名を持つギオン中将。海軍初の巨人海兵“ジョン・ジャイアント”。他にもトキカケ、モザンビア、ラクロワ、ロンズ、メイナード、バスティーユ等々……名立たる将校達が、来たる戦争に向けてそれぞれの正義を背に決戦の地に赴いた。

 

 そして、それは海軍本部最高戦力――大将達もまた同様だった。

 

「クザン大将! お食事の時間です!」

「んぐ……あー……。あ~らら、もうその時間?」

 

 部屋に入って来た海兵の声に、いつもならアイマスクを取ることなく寝続ける男が、すっと起きた。それに海兵は返事をしながらも、以前から感じていた事を口にした。

 

「はい! ……それにしても、いつもより寝起きが良いですね?」

「どうもこの体(・・・)になってから、体力が有り余ってなァ……眠りが浅い」

 

 アイマスクをズラして、いつもよりすっきりとした表情を浮かべる男。

 ――海軍本部大将“青雉”クザン。

 

「お~……それじゃあ戦争には間に合うんだねェ……?」

『ああ。ベガパンクの野郎、かなり前から量産化に向けて動いていたみてえだ』

 

 電伝虫越しに傷が癒えた戦桃丸からの報告に、ほっと息を吐く()()()()()()()

 シャボンディ諸島で……否、星屑のジョジョがCP9と戦った島――現在はスターダスト島と呼ばれている――で試作品を壊した時点で、ベガパンクはパシフィスタの量産化に乗り出していた。そしてそれは少し前に成功し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()まで生産に成功していた。

 それだけの刺激を星屑のジョジョから受け――彼はそれに応えたのだ。

 

「それはそれは……助かるねぇ~」

『それに、オジキを()()()()()()能力のおかげで星屑の野郎に壊された奴らも元に戻ったぜ』

 

 加えて、思わぬ誤算が起きたと話す戦桃丸に、男はサングラスを湯気で曇らせながらゆっくりと湯飲みを傾けた。

 ――海軍本部大将“黄猿”ボルサリーノ。

 

「おい、貴様! そこで何をしている!? そこはサカズキ大将の――」

 

 大将の部屋に無遠慮に入ろうとする見慣れぬ30代の男(・・・・・)に、見掛けた海兵が呼び止めた。戦争前でピリピリしていた事、入ろうとしている部屋が怒らせてはいけない男の部屋だった事、この状況で問題を起こさせない。その一心で叫んだ海兵の声は少しだけ怒気が含まれており、それを受けた男はギロリとその海兵を睨みつけ――。

 

「なんじゃい、騒がしいのぅ」

「え……もしかして、貴方は――?」

「他に誰に見えるんじゃ?」

「し、失礼しました!」

「……ふん」

 

 ()()()()()()()声が見慣れぬ男の口から放たれ、海兵は思わず直立して敬礼をした。

 それを見た男は鼻を鳴らして一瞥すると、部屋の中へと入って行った。それを見送った海兵は脱力し、入り口の傍にある表札を見る。そして、自分の見間違いではない事を確認すると……何が起きているのか分からず混乱した。しかし、先ほど部屋に入った男が、この部屋の持ち主である事は先ほどの声で確実であり……海兵はますます意味が分からず首を傾げた。

 

「上官の顔くらい、覚えられんのか最近の海兵は」

 

 男は自室にてそう愚痴を零した。

 ――海軍本部大将“赤犬”サカズキ。

 

 

 

 このように、海軍の戦力は滞りなく集まり、そして強化されていた。

 しかし、それと同時に海軍本部の海兵達の間では奇妙な噂が流れていた。

 一つは、星屑のジョジョによって重傷を受けて集中治療室に居た大将達が既に姿を消していること。そして、もう一つは見慣れない……しかし何処かで見たことのある三人の男達が現れ、中将達が戸惑いながらも年下の彼らに敬意を表している事。

 海兵たちの間で動揺が走る光景を見ながら、つるはため息を吐いて近々情報の統制を図る事を決める。そして――。

 

「昔を思い出すね……アイツらの姿は」

 

 三人の男達の()()()()姿()に懐かしさを覚えていた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「随分と掻き回されたようだな……センゴク」

 

 通された部屋でそう呟くのは2年前に組織された遊撃隊の隊長にして、このマリンフォードに集う名立たる海兵たちを育て上げた教官。そして、かつて海軍本部大将として海賊たちを捕らえて来た“黒腕”の異名を持つ伝説の海兵、その男の名は――ゼファー。

 海で数多くの能力者の海賊を捕らえて来たゼファーは、戦争前にセンゴクによって呼び戻されていた。

 

「言うな。貴様だってジョン・スターの名を知っているだろう?」

「ふん。あの三人のやられようを見れば分かる。アインが居なければ、どうなっていた事か……」

 

 ジョン・スター・D・ジョット討伐作戦。並びにシャボンディ諸島で起きた天竜人騒動。この二つの事件で、海軍最高戦力と言われている三大将は戦争前だと決して無視できない傷を負った。ベガパンクの開発した自然系能力者の流動する肉体を元に考察された集中治療器で、戦争に向けてその傷を癒そうとしていたが……それでも戦争までに間に合うか分からなかった。

 故にセンゴクはゼファーたち遊撃隊を呼び戻し、彼の部下の女海兵アインのモドモドの実の能力で、傷を負っていない年齢――いや、それぞれ前線で戦っていた最も強き年齢まで戻した。

 それによって、彼らは戦闘経験はそのままに、加齢で衰えていた身体能力と覇気を取り戻した。現在はそれぞれ若返った体を動かして、戦争に向けて調整している。

 

 また、ジョットが壊したパシフィスタもアインの能力で()()()()()まで元に戻している。海の性質を持つ容器越しに彼女の能力を使う事で戻す時間を調整した結果、ベガパンクが前もって量産化していた事もありパシフィスタはその数を倍に増やし、ジョットとの戦闘のデータを元にその半数が改良された。

 

「“禍を転じて福と為す”……そう考える事もできるが」

「――その“(わざわい)”が大きすぎるのだ! くそ、忌々しい男だ。星屑のジョジョ……!」

 

 センゴクは数日前の事を思い出していた。五老星は三大将を安易に動かし、そして傷を負わせた事をネチネチと責め、世界貴族からは件の海賊たちを捕らえる事ができなかった事を責められた。おかげで薬とおかゆが何よりの友となってしまった。

 

「――だが、それと同時にアイツの名のおかげで白ひげに集中できる」

「相手がジョン・スター……それを聞いた世界貴族の顔が浮かぶ」

 

 五老星はアインのモドモドの実の能力で傷を戻すと説き伏せ、世界貴族には“ジョン・スター”の忌み名と“隠者”の彼らにとって恐怖の代名詞を教える事で、鳴り響く抗議の電伝虫を黙らせた。そうしなければ、白ひげに集中する事ができないからだ。

 そうさせた星屑のジョジョに対して怒りを思い出したのか、センゴクは思わず叫んだ。それを見ながらゼファーは呼び戻された時から言っていた事を口にする。

 

「だが、アインが居なければ戦力を欠いた状態で戦う事もあり得た――何度も言うが、アインの能力はあくまで戻す力。傷を癒す力じゃない。諸刃の剣だ。怪我を負った状態で元の年齢に戻れば死ぬ。もしくは、戦争中にアインの身にもしもの事があれば――」

「ああ、分かっている……! お前のその部下は、安全な場所で待機して貰う!」

「アイツを相手にする以上、安全な場所なんて無ぇと思うが――まぁ、良い。その約束を守る限り、オレ達も戦おう」

「……すまない」

「ガープの奴が、使い物にならんだろうからな。英雄が空けた穴は遊撃隊が埋める」

 

 本来なら、退役した身としてこの戦争は傍観する予定だったゼファー。

 しかし、海軍の現状を顧みて自分たちも戦う事を決意する。故に、スマッシャーも取り外してアインの疲労が回復次第能力を使って貰う予定だった。戦闘中に年齢が戻る危険性を考えれば、モドモドの能力は使わない方が良いのだが――そう言っていられるほど相手は甘くない。

 

「だが、オレはまだ納得していないぞ――黒ひげを七武海にしたのは」

「……」

「この戦争は、アイツが引き起こしたと言って良い。火拳のエースが捕らえられた経緯を聞けば、あの男は信用ならん」

 

 エースは、重罪人である黒ひげを追いかけ――敗れてインペルダウンに収容された。

 世界政府は、火拳のエースを倒す力を持つ黒ひげの力を認めたようだが……ゼファーは別の視点から黒ひげを見ていた。

 白ひげの船から逃げた黒ひげは何をしたのか? その答えは、白ひげの事を知っていれば自ずと辿り着く。

 

「――仲間を裏切るような奴が、大人しくしている筈がない。相手が白ひげなら尚更だ。せいぜい、あの男の動向には気を付けるんだな」

「……分かった」

 

 ゼファーの忠告にセンゴクは頷き――それから暫くしてエース公開処刑五時間前に、黒ひげはマリンフォードから姿を消した。正義の門が開き、非認証の軍艦が通り抜けたという情報と共に。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 時は、少し遡る。

 

「――いん、じゃああああああ!!」

「おーおー。カイドウの野郎、あんなに大声を出して」

 

 赤髪海賊団の旗艦“レッドフォース号”の船上から、沈んでいく百獣の海賊団並びにカイドウを見ながら、そう呑気に呟くのはジョットの父。

 四皇が己の名を怒りと共に叫んでいるというのに、その顔に全く恐れは無かった。むしろ、船から盗んだ酒を煽り肴にしている。

 

「さて、間に合えば良いが……」

「少なくとも、戦争開始には間に合いませんぜ――俺たちが着いた時には、既に時代は変わっている」

 

 シャンクスの呟きに、ジョットの父はそう返した。

 白ひげがシャンクスの警告を無視した時点で、既に決まった事だった。

 いや、もしかしたらもっと前に決まっていたのかもしれない。黒ひげが逃げ出した時。それをエースが追った時。もしくは――。

 そんな事を考えながら、ジョットの父は呟く。

 

「さて、テメエはどう動く――ジョット?」

 

 己の息子の名を呟きながら――。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「……」

「サボくん」

「ああ、分かっている」

 

 ある海で、コアラに呼ばれたサボは振り返った。

 

「任務は絶対に成功させる」

「でも……」

「それ以上言うな――おれが決めた事だ」

 

 そう言って、サボは先日まで頭痛に悩まされた己の頭に触れる。

 しかし、今は嘘のように無い。まるで、そんな物は無かったかのような、もしくは全て忘れてしまったかのような――。

 そんな彼を見て、コアラは心配そうにしている。

 サボの事を想えば、止めるべきなのかもしれない。しかし、痛みに顔を歪んでいた時の事を思い出し――彼女は何も言わない。コアラは、ただ彼の傍で支え続ける。仲間として――。

 

「――」

 

 海風に髪を揺らしながら、サボは誰かの言葉を――無意識に呟いた。

 それに気づく者は――誰も居なかった。

 

 




これにてシャボンディ諸島編は終了です。
そして、次回からはいよいよ頂上戦争に突入!
丁度一ヶ月でここまで行けました。原作消化早いな…


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番外編 もしもジョットが海兵だったら?

 

IFSTORY もしもジョットが海兵だったら?

 

「メアリーめ……次々と問題を起こしやがって」

 

 新たに発行された手配書を見ながら、オレはそっとため息を吐く。

 まだ一緒に暮らしていた時に海賊になると言っていたあの少女が、今ではエニエスロビーを滅ぼすまでの凶悪な一味の一人として立派な札付きとなってしまった。

 しかし、オレはそれに対して悲しいという気持ちを抱かなかった。

 あの時、オレはアイツに海賊になるとはどういう意味を持つのかを聞いたのだ。それに対してアイツは分かっていると言い、現にこうして“邪眼のメアリー”として一億ベリーの懸賞金を掛けられている。こうなれば、あらゆる強敵がアイツを殺しに来るし、それも覚悟の上だろう。

 

「で、問題はコイツだな……」

 

 オレが視線を向けた先には、笑顔を浮かべてピースしている麦わら帽子を被った男。名をモンキー・D・ルフィ。ファミリーネームから分かる通りに英雄ガープの孫にして、革命軍ドラゴンの息子。とある理由で最近知ったのだが、この暴れっぷりも世界最悪の犯罪者の息子だと思えば納得できる。

 それと同時に、もしかしたら自分もコイツのようになっていたのかもしれないと思った。オレの父“隠者ジョセフ”も大層な悪党。やっている事は大規模な小犯罪って感じだが……。

 この前も青雉さんや赤犬のおっさんにちょっかいを出し、被害を受けた奴らから抗議を受けて辟易としている。血縁者なのだから何とかしてくれ、とな。

 全く。五歳の時に遭難したっきり顔を合わせていないというのに……。特に赤犬のおっさんの怒りは面倒だったな。相性最悪っていうのもあるが、ついキレて喧嘩してしまった。その後センゴク元帥に怒られたが……。悪の血筋だからって突っかかって来やがって。

 

 話を戻そう。

 この麦わらのルフィだが、オレの勘がコイツは近々大きな問題を起こすと言っている。

 12人の超新星の中でも飛びっきりの問題児。

 火拳のエース公開処刑を控えた今、海軍はかつてない緊張状態に陥っている。そんな時にコイツが何かやらかせば……確実にオレが出なくてはならないだろう。

 

 ――臨時新大将“黒狼(こくろう)”として。

 

 その時オレは“誇りある正義”の元、麦わらの首を――獲る。

 一時家族だった女の船長であろうとも……。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 そして、暫くしてオレの勘が正しかった事は証明された。

 天竜人を人質に取った凶悪事件。主犯は麦わらのルフィ。共犯者としてユースタス“キャプテン”キッド並びにトラファルガー・ロー。

 個人的には胸がスカッとする案件だが、時期が悪い。

 白ひげと戦争を控えている現状、天竜人程度の事件に囚われている場合ではない。

 

 故に、さっさと面倒事は片付けるに限る。

 

「オレが行きましょう」

「ジョット……!」

 

 報告を受けて苦悶の表情を浮かべていたセンゴク元帥が、まるで救いを得たかのように表情を明るくさせた。自分で言うのも何だが赤犬のおっさん関係以外では、オレは模範的な海兵だと自負している。

 先日も脱走して行方を暗ましていた金獅子が海軍本部を警告しに来た時も捕らえたし、本部の菓子を盗りに来たあのアホ親父も返り討ちにした。

 ……いや、これは何か違うな。

 とにかく、センゴク元帥はオレに期待の視線を向けている。オレもそれに応えたい。腰を浮かした黄猿さんには悪いがな。

 

「それに、新大将の実力を海賊共に見せつけるパフォーマンスにもなります。ここで釘を刺しておけば、下手に奴らも動かないでしょう」

「ああ、そうだな。全くその通りだ! 一刻も早く解決してくれ!」

「分かりました。では、行ってきます」

「頑張ってねぇ~」

 

 センゴク元帥と黄猿さんの激励の声を耳にしながら、オレはシャボンディ諸島に向かった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 一般海兵と別れてパシフィスタの指揮を執る戦桃丸と合流する途中、オレは偶然にも大きな得物を見つけた。

 そいつの名は“魔術師ホーキンス”。億越えの超新星の一人だ。

 

「船長! 逃げてください!」

「そいつ、新大将の黒狼(こくろう)です! 不味いですよ!」

 

 ホーキンスは、自分のクルー達が焦った声で逃げるように警告の言葉を発する。

 しかし、ホーキンス自身はタロットカードを使って何やら占いをしている模様。逃亡やら防御やらブツブツと独り言を呟いているが……こんなものが当たるのだろうか?

 物珍しさから近くで見ていたオレに、ホーキンスは占いを終えたのか視線をこちらに向ける。

 

「――勝率0%。噂の新大将が何の用だ?」

「天竜人に手を出した麦わらたちを捕らえに来た」

「なるほど。なら、おれには関係の無い話だ。用が無いのなら、目の前から消えてくれ」

「悪いがそうはいかない。オレは海兵だ――海賊を見逃す理由が無い。魔術師ホーキンス」

 

 その言葉を最後に、オレはスタープラチナを解放。飛び出した己の半身はホーキンスの横っ面を殴りつけ、奴はそのままガラ空きの民家に吹き飛んで行った。

 

「ホーキンス船長!!」

 

 建物が崩れる音が響き、ホーキンスのクルー達が悲鳴を上げる。

 大将を前にして、船長の心配をするとは……よほど慕っているのか。それとも唯一の心の拠り所なのか。どちらにしても、大将を前に随分と呑気なものだ。

 さっさと捕縛しようと足を前に出すと同時に、見聞色の覇気がホーキンスはまだ死んでいないと訴えかけて来た。

 ……バカな。確かに手応えはあった筈。

 視線をモクモクと沸き起こる土煙の向こうへと移す。そこには、スタープラチナの拳を受けたにも関わらず、平然と立ち上がっているホーキンスの姿があった。

 

「妙な能力だな。ロギアでは無さそうだが」

「それはこちらの台詞だ――まさか、一発で二体も減らされるとは思わなかった」

 

 ボトリボトリとホーキンスの体から何かが落ちた。

 藁人形? 頭部が無い体だけの人形が力なく横たわっており、それがスタープラチナの攻撃を防いだ原因だというのは分かった。

 元々そういう形状なのか、それとも違うのか。

 その理由を確かめるため、オレは懐の中に入れていた銃弾をスタープラチナに持たせて――指で弾く。すると、衝撃音が響き弾丸は真っすぐとホーキンスの額に向かって……直撃。ホーキンスの体が後方へと倒れ、しかしすぐに起き上がった。頭部に穴が空いた藁人形を体から排出して。

 

「なるほど……何かしらの身代わりか。それでオレの攻撃をやり過ごしているようだ。だが――」

「……」

「無限という話はあるまい。時間が経てば、お前は終わりだ」

 

 種が分かれば後は簡単だ。

 攻撃をやり過ごせないようになるまで殺し続ければ良い。

 今度は本体であるオレも動いて目の前の敵をさっさと片付けよう。そう一歩踏み出した時だった。空から巨漢が落ちて来たのは。

 

「ぐあっ!」

 

 傷だらけになり苦悶の表情を浮かべる――怪僧ウルージ。それを追いかけてこの場に降り立つパシフィスタ。

 息も絶え絶えな表情で目の前の男ウルージは言った。

 

「まいった……降参! なんて強さだ!」

「潔いな、怪僧ウルージ」

「……!?!? なんと、新大将黒狼! なんて悲運……! 正面には七武海。後方には大将。もはやここまで……!」

「そうでもないぞ怪僧ウルージ。貴様に死相は出ていない」

 

 海賊同士だからか。もしくは海軍を前にしているからか。

 ホーキンスはウルージに慰めの言葉を送っていた。いや、ただ単に占いで見た結果を口にしているだけという線もある。

 しかしそうなると、オレも舐められたものだ。オレを相手にして無事でいられると思っているらしい。

 その考えが如何に甘いか――思い知らしてやろうか。

 大将としての責務を果たそうと一歩を踏み出した途端、またもや乱入者が現れた。

 その乱入者はメイスと剣でパシフィスタの横から突撃し、建物へと叩き付ける。ガラガラと瓦礫に埋まるパシフィスタから、それを為した敵へと視線を向けた。

 そしてその正体を知ったオレは思わず眉を顰めて口を開いた。

 

「テメエは……裏切り者のドレークじゃねえか」

「――! しまった。大将と出逢うつもりはなかった!」

 

 新聞で見た時はまさかと思っていたが……こうして見ると現実だと言うのが分かる。

 こちらを睨み付けるドレークの額には冷や汗が一つ垂れていた。同じ海軍なら、オレの強さを理解している。少将まで昇りつめたとはいえ――オレはその上を行った男だ。

 見かけた億越えを捕らえるための寄り道だったが、思いもよらない収穫だ。

 ――ここは、オレ一人でやらせてもらおう。

 

「パシフィスタ。オレがやる。テメエは手を出すな」

「了解。攻撃行動を中止。以後、大将黒狼の指示があるまで待機する」

 

 その言葉に一瞬希望を見る海賊たち。

 ……つくづく舐められたものだ。

 オレは、剃で一番遠い位置に居るドレークに近づくと……黒いオーラと覇気で染まった拳を叩き付ける。

 

「“黒色の(ブラック)オーラドライブ!”」

「ぐ――がはっ!?」

 

 黄猿さんには敵わないが、少将程度の実力なら気づかない速度。

 しかしこれまでの航海である程度成長していたのか、ドレークは直前に鉄塊をし――オレはそれを粉砕して殴り飛ばした。

 一瞬で視界の奥へと遠ざかり姿が見えなくなる。しばらくして遠くで土煙が上がる。運が良ければ生きているだろうが……意識はあるまい。

 

「“因果晒し!”」

「“降魔の相!”」

 

 背後から巨大化したウルージと藁の怪物へと変化したホーキンスが襲い掛かる。それを見聞色の覇気で見切り、まずはウルージの懐に入る。

 そして、未だにオレの姿を捕らえていない奴の腹に軽く手で触れる。その感触でオレの居場所に気づいたようだが、もう遅い。

 

「オーラドライブ!」

「ぐおおおおおおお!?」

 

 激痛に悲鳴を上げるウルージ。見るからに肉体操作の技を使用していたので、それを利用して体内のオーラを暴走させてやった。すると今まで受けていたダメージもあってか、ウルージは血を吐いて気絶。

 それを見送ると、右からオレの頭を狙っていたホーキンスの攻撃を避け背後に回る。

 

「船長! 後ろです!」

「遅い」

 

 ホーキンスが振り向くよりも早く、黒く染まったスタープラチナの拳が奴の体を貫通した。ボトリ、と次々と藁人形が落ちていく。

 それを見たホーキンスの表情が驚きの色に染まった。何故? って顔をしているな。

 これもまたウルージにした事と一緒だ。ホーキンスが何かしらの手段で繋いでいた誰かの生命力を絶たせて貰っただけの事。

 種が分かれば後は簡単とは、そういう意味だ。

 

「お前らの抵抗は――無駄なんだ」

『無駄無駄無駄無駄――無駄ァ!!』

 

 全ての藁人形を消費したホーキンスの体に、スタープラチナのラッシュが襲い掛かる。ラッシュの途中で気を失ったようだがスタープラチナは止まらずそのまま殴り続け……最後には蹴り上げて瓦礫の中へと吹き飛ばした。

 戦闘で柄にもなく興奮しているのだろうか。どんどん凶暴性を増していくな。

 

「さて――次はお前だ」

「は?」

 

 ある方法で先ほどから戦闘を覗いていた海賊――“海鳴りスクラッチメン・アプー”からすれば、オレは一瞬で移動したように見えるだろう。実際は違うが。

 こちらに振り返るアプーだが、そろそろ奴らを捕まえなくてはならない。

 無駄な時間を吹き飛ばす、スタープラチナの無数の拳が海鳴りを吹き飛ばした。

 

「アジャパアアアア!?」

「ふう……もしもしこちら海軍大将黒狼。超新星四名を撃退した。オレは麦わら達を追うから、捕縛は任せた」

『は! かしこまりました!』

 

 パシフィスタに見張らせておけば、下手に抵抗もできないだろう。

 海兵へと繋いでいた電伝虫を別の番号にかける。

 

「戦桃丸。こちら黒狼。犯人は何処に居る?」

『既にバラけたよ! 寄り道するからだ!』

「ああ、すまない――お前はユースタスとトラファルガーを追え。麦わらはオレが捕らえる」

『いきなり掛けて来たかと思えば指示しやがって――了解! で、パシフィスタは要るか?』

「いや――オレ一人で良い」

 

 そう返すと、オレは見聞色の覇気で感じ取った懐かしき気配……いや、件の一味の元へと向かった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 全員で何とかパシフィスタを倒した麦わらの一味。

 疲労困憊で息も絶え絶えな彼らだが、今すぐにも移動してこの場から離れなければならなかった。友を救う為とはいえ、彼らは天竜人に手を出してしまった。それによって海軍は軍艦と大将をシャボンディ諸島に派遣している。

 大将に見つかれば命は無い。

 故に早く逃げなくてはならない。

 

「皆、早く此処から――」

 

 ルフィの初めての仲間であり、副船長であるメアリーが一味に声を掛けた途端。

 突如上空から飛来した何かが麦わらの一味達のすぐ近くに着弾した。

 ドゴンッ! と大きな音が響き揺れが彼らの疲れ切った体に響く。

 

「な、なんだ! 今度はなんだ!」

 

 急いで立ち上がったウソップは己の武器を構えて土煙の向こうに居る誰かを警戒する。そしてそれは他の者も同じで、それぞれ戦闘態勢に入った。

 それはメアリーも同じで、ジャラリと服の袖から鎖を垂らして敵を見据え――現れた男に目を見開いた。

 

「アナタは――ジョット!」

 

 ジョット。その言葉にロビンの顔が険しいものに変わる。

 

「気を付けて! その男、大将よ!」

 

 ロビンの言葉に、全員が驚き――非常に不味い状況だと理解した。

 現在、麦わらの一味はベストコンディションからほど遠い。その状態で……いやそもそも全快の状態で戦っても大将に勝てる可能性は低い。

 むしろ全滅の可能性がグンッと高くなった。

 白い帽子に海軍のコートを着た男――黒狼のジョットは視線をメアリーへと向けた。

 

「久方ぶりだな――妹よ」

「あら。まだ私の事を家族だと思っていてくれたの?」

 

 ジョットから放たれた言葉に、一味の間に動揺が走る。

 海軍大将がメアリーの兄? どういう事だ?

 昔から意味深な発言や行動をするメアリーだが、今回もまた一味を驚かせる。

 ルフィが英雄ガープの孫だと知った時も驚いたが……。

 しかし、この事実を好機と見た者が居た。ナミとウソップだ。

 

「おいメアリー! こいつお前の兄貴なんだろ! 何とか見逃して貰う事はできないか!」

「そうよメアリー! あ、でもルフィのお爺さんは結局……」

「それは無理な話だ」

 

 少しだけ緩んだ空気をジョットが払拭した。

 ジロリと彼らを見下すと、麦わらの一味にとって死刑宣告に近い言葉を吐いた。

 

「天竜人に手を出された以上――大将としてお前らを捕らえなければならない。これは決定事項だ」

「――っ。アナタは、天竜人の肩を持つの!?」

「肩を持つかどうかの話ではない――悪いがこれも仕事だ」

 

 メアリーの問いかけに、ジョットは感情を押し殺した声で答える。

 天竜人の事は彼も嫌いだ。だが、好き嫌いで任務を選べる立場ではないのだ、海軍本部大将というのは。

 故に、命令通りに彼は麦わらの一味を捕らえる。

 

「仕事って――」

「待て、メアリー!」

 

 尚も食い下がるメアリーを船長であるルフィが止めた。

 フラフラの体で一味の前に出ると、強い眼差しでジョットを見上げる。

 こうして前に立つと分かる。この男は、青雉と同格の存在だと――。

 

「おれが、相手だ……!」

「……」

 

 拳を握り締め、構えるルフィ。

 そんな彼を止めようとメアリーが前に出ようとし、そんな彼女をサンジが止める。

 

「サンジ!」

「逃げてくれメアリーちゃん。――大丈夫。今回はルフィだけに任せねえ」

 

 そう言うと、サンジはキッとジョットを睨み付けた。

 現状、一味の中で最高戦力なのはルフィとサンジのみ。ゾロはスリラーバークで負った傷が癒え切っておらず、走るのでやっとだ。

 だから、ここはルフィとサンジが残って時間稼ぎを――。

 

「――全員、逃がさんよ」

 

 しかし、そんなサンジの覚悟は――ジョットが放った覇王色の覇気で吹き飛ばされた。

 ヒューマンショップ会場でレイリーが行った謎の技。それと同じ事をジョットが行い麦わらの一味を威圧する。

 手加減されたからか、それとも前もってレイリーのモノを見たからか。気絶する事は無かったが――彼らは理解させられた。大将というものを、そしてこの男の容赦の無さを。

 

「――“ギア(セカンド)!”」

 

 体の震えを血流を流し込んで無理矢理吹き飛ばし、体から煙を出しながらルフィが拳を突き出した。

 ギア2はルフィの技を一段階強くする力。その力はCP9を打ち倒す程強力で、しかしその反面体力の消耗が激しい。

 

「“ゴムゴムの――JET(ジェット)(ピストル)!”」

 

 高速で放たれたルフィの拳は、しかしジョットに見切られて容易く受け止められてしまう。

 

「な!? ――うわ!?」

 

 そして、掴んだそのゴムの腕を勢いよく地面に向かって振り下ろした。

 凄まじい力で引っ張られたルフィは抵抗する事ができずそのまま地面に叩きつけられ、体の半分が埋まってしまった。

 

「くそ! “悪魔風脚(ディアブルジャンブ)!”」

「駄目よサンジくん!」

「よせ、サンジ!」

 

 それを見たサンジが飛び出した。背後から仲間の静止の声が響くが自分がやらなければ誰がやる。

 片足が摩擦熱によって赤く染まる。六式の鉄塊ですら打ち抜くこの蹴り技はサンジにとっての切り札とも言える。

 

「“画竜点睛(フランバージュ)ショット!”」

 

 それをルフィへと視線を向けているジョットの脳天に向かって振り下ろした。

 しかし……。

 

「右足の蹴り」

「な!?」

 

 ジョットは振り向く事無く首を傾けて避けると、作り出したスタープラチナの拳でサンジの腹を強打。思わずサンジは血を吐き出し、顔は苦痛で歪む。

 

「サンジーーー!!」

「あれは、スタープラチナ……! なんで!?」

 

 ウソップが悲鳴の声を上げ、メアリーは目の前の光景が信じられないと口を押さえる。

 一撃でサンジはダウンし、呻きながら地面に落ちた。

 ジョットは、そんなサンジを無視して視線を残りの一味へと向ける。

 

(――不味い)

 

「ゾロ!」

 

 限界の体を無理矢理動かして、ゾロが三本の刀を持ってジョットへと立ち向かった。

 サンジがやられてショックを受けていた一味は、その彼の動きに触発されて援護するべくそれぞれの力と技の行使に出た。

 

「やめろ……お前ら、逃げろ……!」

 

 ジョットの足元で痛みに耐えながら、サンジは仲間にそう言った。

 一撃喰らって分かるこの男の異常さ。スタープラチナの拳の痛み。

 彼の攻撃は――普通ではない。

 

「“九輪咲き(ヌエベフルール)――ツイスト”」

 

 ロビンがハナハナの実の能力でジョットの体から九本の手を咲かせる。そして無理矢理体を捻じ曲げ動きを拘束しようとするが――。

 

「っ、まったく動かない!」

 

 まるで鋼鉄を押しているかのようにビクともしなかった。

 それどころか……。

 

「オーラドライブ」

「ああ!?」

「ロビン!?」

 

 ジョットが流した攻撃性の高いオーラによって、逆にロビンに痛みを送り込まれてしまった。

 激痛にロビンが思わず悲鳴と共に能力を解除してしまう。

 それを見た仲間たちが仇を討つと言わんばかりに力を込めた。

 

「“三刀流――鬼斬り!”」

「“重量強化(ヘビーポイント)――重量(ヘビー)ゴング!”」

「“ストロングハンマー!”」

 

 ゾロ、チョッパー、フランキーが当たれば相手がダウンする程のパワーある一撃をそれぞれ叩き込もうとジョットに接近。一つ防げば、他の二つがあるという打算だった。

 しかし、次の瞬間三人は全身を強い衝撃が走り、痛みが襲う。何が起きたのか理解する前に、弾丸のように勢いよく後ろへと吹き飛んだ。ゾロに至っては傷が開いて危険な状態だ。体中に駆け巡る感触から殴られたのだと分かるが……いつ、どうやってしたのか分からない。

 

「……は!」

 

 そしてそれは、サンジを救おうと動いていたブルックも同じであり、次の瞬間骨が砕けるのではと錯覚しそうな痛みを感じ、肩に担いだサンジごと吹き飛ばされた。

 

「くそ! いったい何が起きているんだよ!」

『ウソップ! 早く抜いてくれ!』

 

 次々とダウンする仲間たちを見ながらウソップはルフィを引き抜こうとしていた。

 しかし、心は恐怖でいっぱいだった。気が付いたら仲間が傷つけられ、そして倒れていく。

 今までの敵は能力の正体が分かる分まだマシだった。

 だが、あれは違う。何の能力が分からず、訳が分からないまま殺されてしまう。それほどの恐ろしさで頭がどうにかなりそうだった。

 

「よくも皆を……!」

「! おい待てナミ! 相手の力が分からないうちに攻撃は――」

 

 仲間をやられて恐怖よりも怒りが勝ったナミが動く。

 ウソップの静止を無視して天候棒(クリマ・タクト)で雷雲を作り出し、その自然の驚異をジョットに向かって誘導する。

 

「“サンダーボルト=テンポ!”」

 

 雷鳴が轟き、光が人を穿つ。

 今度こそ攻撃が入ったと確信するナミだが、ウソップは違った。

 

「ナミーーーー!! 後ろだーーー!」

「え……っ!?」

 

 振り返ると、確かにジョットが居た。ナミが先ほど雷を落とした場所には――誰も居ない。

 死の恐怖に顔を引きつらせるナミ。そんなナミを救おうとウソップが己の武器を構え、技を放つ。

 

「“必殺鉛星!”」

 

 高速で撃ち出されたパチンコの玉がジョットに向かって放たれた。

 せめて意識を逸らせば、おそらく地面の中に潜伏しているメアリーが動く筈だ。

 そう考えての援護射撃だったが――。

 

「――ふん!」

 

 驚くことに、突如ジョットは己の拳を地面に叩きつけた。

 局所的な地震が起き亀裂が走り、隆起した地面からメアリーが投げ出された。

 スカスカの実で下から攻撃しようとした彼女は、彼の覇気を含んだ振動で大ダメージを受けていた。頭から血を流し気絶している。

 

「メア――」

 

 仲間の名を叫ぼうとしたウソップは、それ以上口を開く事ができなかった。

 飛来したパチンコの玉が彼の肩を穿ち、激痛で倒れてしまったからだ。

 肩から血を流し、痛みに悶えるウソップ。そんな彼のすぐ傍に、再び一瞬で移動するジョット。

 

「ぐあ……ち、ちくしょ――」

 

 ズシンッと振動が起き――ウソップも気を失った。

 まだ数人意識がある者が居るが、それでも理解していた。

 この男には勝てない、と。

 しかしルフィは違った。

 ジョットの拳によって地面が隆起した事により、彼はようやく抜け出す事に成功していた。

 そして、目の前の光景に――吠えた。

 

「お前――おれの仲間に何してんだああああああ!!」

 

 ギア2を全開に再びジョットに突っ込むルフィ。

 仲間たちが必死に彼を呼び止めるが、仲間を傷つけられたルフィは止まる事が出来ない。

 

「“ゴムゴムの――銃乱打(ガトリング)ゥ!!”」

 

 超高速で放たれる拳の雨。ゴムの性質を利用したこの技は様々な強敵を打ち破って来た。

 だが……。

 

『無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!』

 

 それ以上の速さで、まるで時間が止まっている間に放たれたと思ってしまう程のラッシュが、ルフィの銃乱打(ガトリング)()一つ一つを丁寧に撃ち落としていく。

 拳同士が激突する度に、本来打撃が効かない筈のルフィの両腕に鈍い痛みが襲い掛かる。

 それでも尚、歯を食いしばって痛みに耐えて両腕を動かすルフィ。

 

「――無駄だ。諦めろ」

 

 しかし――届かなかった。

 スタープラチナのラッシュの速度がルフィの拳の数を上回り、次第に拳ではなく体へと当たっていき――ルフィは全身を殴られて吹き飛ばされた。

 

『ルフィ!!』

「終わりだ――麦わらのルフィ」

 

 仲間たちが叫び、ジョットがトドメを刺そうと腕を大きく振り被り――。

 

「――旅行をするなら、何処に行きたい」

「! お前は――」

 

意識の外からの攻撃によって、シャボンディ諸島から飛んだ。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――申し訳ありません。オレの失態です」

『気にするな……とは言わないが。くまの妨害が無ければ任務は達成できたのだ。そう気を落とすな』

 

 現在、ジョットはとある冬島に飛ばされていた。

 何とか連絡手段を見つけ、こうしてセンゴクと通信を取っているが……結局麦わらの一味には逃げられたらしい。

 

『戦争には間に合いそうか?』

「はい。必ず」

『それなら良い。天竜人の対応は黄猿に任せてある。お前は一刻も早く帰る事だけを考えろ』

 

 それだけを言ってセンゴクは通信を切った。

 電伝虫が目を閉じると、ジョットは息を吐いて上を見た。

 

(戦争か……正直興味ないな)

 

 ジョットは今――虚しさを覚えていた。

 遭難先でゼファーという男に拾われ、そのまま海軍となったが……そこに彼の意志は無かった。

 ゼファーはジョットの素性を知ると、一刻も早く自分の身を守れる地位を得るべきだと言い鍛えた。

 その結果、こうして白ひげの戦争に備えるためとはいえ大将まで上り詰めた。

 だが――。

 

「オレは、本当にそれで良いのか」

 

 風に吹かれて、ジョットの正義のコートが()()()()()()()地に落ちた。

 




正義に属すと闇落ちする主人公がいるらしい…

今回のジョットは本編のような出会いや仲間が居ない場合のIFです。ナミとかウソップとか。そしてシャンクス。
故に本編では絶対に口にしない「無駄」という言葉を使います。

お気に入り7000記念に作ったのになんか暗いなー。
本編も仕上がり次第投稿します!


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頂上戦争編
開戦


 世界政府が白ひげと戦争をしてでも、火拳のエースを公開処刑する理由――それは、エースが海賊王ゴールド・ロジャーの実の息子だからだ。

 当時血眼になって探した鬼の子は、海賊次世代の頂点に必ず立つ。その芽を摘むことは、世界政府にとって大きな意味を持つ。

 エースがロジャーの息子であるという事実を否定し、白ひげの息子だと叫ぼうが――既に、開戦の火蓋は切って落とされたのだ。

 

「来たぞォーーー!!」

「全員、戦闘態勢!」

 

 看守塔にて、海上を見張っていた海兵が叫び警報が鳴り響く。

 

「いきなり現れたぞ……!? 何処から出てきた!」

 

 突如現れた総勢43隻の海賊艦隊にセンゴクの表情が険しいものになる。

 “遊騎士ドーマ”“雷卿マクガイ”“ディカルバン兄弟”“大渦蜘蛛スクアード”。新世界にて名を轟かせる錚々たる面々に、海兵たちの間に戦慄が走る。

 しかし、あの男は――白ひげの姿は確認できず、センゴクは海上に注意を呼びかけ――それが間違いだとすぐに気づいた。

 

 初めに気づいたのは、処刑台の下に座る大将たち。次いで、英雄ガープ、大参謀つる。

 

「――こりゃあ、とんでもねえ所から現れやしねえか?」

「……布陣を間違えたかねえ」

 

 次第に、海兵たちも気づき始めた。

 湾内から気泡が発生し、ゴボ、ゴボボ……と音がする。それと同時に海底に影が映り――彼らはようやく気づいた。

 

「――そういう、事か……! あいつら全船、コーティング船で海底を進んでいたのか!」

 

 いくら海上に目を配ろうとも、海の中に居るのなら見える筈もなく。

 白ひげ傘下の海賊艦隊の出現に気を取られた海軍は――最も恐ろしい男を懐まで呼び寄せてしまった。

 水飛沫を上げて、白ひげ海賊団旗艦“モビーディック号”が姿を現し、それに続くように3隻の海賊船も湾内の海上に飛び出した。

 そして、船上に居るのはもちろん……。

 

「“不死鳥マルコ”! “ダイヤモンド・ジョズ”! “花剣のビスタ”!

 ――14人の隊長達の姿を確認! そして――」

 

「グラララ……おれの息子は無事か? センゴク」

 

「――四皇“白ひげ”です!!」

 

 急接近されたセンゴクは歯噛みし、エースは現れた白ひげに苦悶の表情を浮かべた。

 

「何で、見捨ててくれなかったんだ……! おれの身勝手で、こうなっちまったのに――」

 

 そう叫ぶエースに、白ひげの……家族たちの声が彼に優しく語りかける。

 

「おれは行けと言った筈だぜ……なぁ、マルコ?」

「ああ。おれも聞いたよい! 苦労かけちまったなエース!」

「……ウソつけ! バカ言ってんじゃねえよ! あんたがあの時、止めたのにおれは――」

 

 家族の優しい嘘に、エースは身が張り裂けそうな思いだった。

 できる事なら、自分なんて見捨てて新世界に帰って欲しい――しかし、家族だからこそその願いは聞き届けられない事をよく理解している。

 家族を助ける。

 その一心で此処まで来た彼らの覚悟は――もう誰にも止められない。

 

「――おれ達の仲間に手を出せば、どうなるか思い知らせてやるよい!」

「お前を傷つけた奴はァ、誰一人生かしちゃおかねえぞエース!」

「待っていろエース! 今すぐに助けるぞ!」

 

 マルコの啖呵を筆頭に、エースの仲間が――家族が士気を爆発させる。

 

「とんでもねぇモン呼び寄せたなァ……」

「気味が悪いねぇ~~……」

 

 そんな白ひげ海賊団に、思わず言葉を零す青雉と黄猿。

 傷を癒し、全盛期以上の肉体まで若返ろうとも相手は四皇。

 大将と言えども、油断をすればただでは済まない。

 そんな敵を見据えたセリフに、赤犬も反応を示す。

 

「ふん。何を今更言うちょるん――」

 

 しかし、その途中で言葉を途切らせ――彼は、モビーディック号の船内から現れた一人の男に目を奪われた。

 同時刻、処刑台の上で白ひげを睨み付けていたセンゴクもまた口を大きく開いて驚きを顕にする。

 その男は階段をゆっくりと……しかし堂々と昇り、白ひげの隣に立つと全海兵の前に姿を現した。海兵たちは、その男が誰かすぐに理解した。

 記憶に新しかった。過去に起こした戦いから注目をしていた。手配書を見て震えが止まらなかった……様々な理由があるが、この場に居る者で、彼を知らない者は居ない。

 

 エースは、白ひげの隣に現れた男――いや、友に向かって戸惑いの声を上げる。

 

「――ジョジョ!? 何で、お前が此処に……!」

 

 鎖で繋がれたエースの姿に何かしら感じるものがあるのだろう。

 男は、エースの問いに簡潔に答えた。

 

「――カッコイイ先輩方の啖呵に痺れて、ちぃとばかし遅れたが……オレも助けに来たぜ、エース(友よ)

 

 男は――ジョットは、不敵な笑みを浮かべてそう答えた。

 

 ――星屑のジョジョ、参戦!

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「アレァ……星屑のジョジョじゃねえか!」

「懸賞金五億ベリーの怪物……何故、白ひげ海賊団と共に!?」

 

 葉巻から白い煙を吹き出しながら、スモーカーはこの場に現れた超新星の海賊を睨み付けた。たしぎは、この場に居る誰もが抱いている疑問を口にし、しかしこの戦場に全くと怖気づいていない怪物に早くも畏怖を感じていた。

 ザワザワと海兵たちの間で戸惑いの声が伝染し、ざわめきが広場を包みこみ――。

 

「――ジョォオオオオッジョオオオオオオオ!!!」

 

 それらを吹き飛ばす怒号が赤犬から解き放たれた。

 ビリビリと空間を震わせる程の咆哮。何事だと海兵たちが振り返り、両隣に居た大将達は耳を抑え、上に居るセンゴクは胃を押さえた。

 尋常じゃない怒りの感情を向けられたジョットは、鬱陶しそうな顔をしてため息を一つ。

 

「“大噴火ッッ!!”」

 大質量の憤怒のマグマが赤犬の腕から解き放たれ、憎き怨敵を葬り去らんとジョットに向かって死の咢を開く。

 いきなりの大技に海兵たちは目玉が飛び出す程の驚愕を顕にし、白ひげ海賊団たちは迎撃しようと構え――しかし、その前にジョットが飛び出した。

 舟板を蹴って宙へと飛ぶと、腕を覇気で黒く染め、青色のオーラを纏わせる。

 そしてそのまま――一撃。

 轟音が響き渡り、赤犬の“大噴火”は見事受け止められた。

 

「大将の攻撃を受け止めたーー!?」

「あの腕……覇気か? いや、能力か?」

 

「両方だ、海軍――オラァ!!」

 

 ジョットは、受け止めていた巨大な溶岩を広場に集結している海兵たちに向かって――振り下ろした。

 それを見た海兵たちは悲鳴を上げる。

 あんなものに圧し潰されたら一溜まりもない。

 中将たちがそれぞれ覇気を纏わせて迎撃準備を取る中、赤犬の隣で座っていた青雉が動いた。

 

「“氷河時代(アイスエイジ)!!”」

 

 ジョットが弾き飛ばした赤犬のマグマを、青雉は己の能力によって一瞬で凍らせる。

 さらに……。

 

「“アイス(ブロック)――暴雉嘴(フェザントベック)!!”」

 

 雉型の巨大な氷の彫刻を作り出し、そのままジョットに押し返した。

 

(マグマの次は氷。そして極めつけは――)

 

 自分に向かって飛んでくる氷塊を湾内の海へと叩き落して、ジョットは空を見上げる。

 そこには、光の速度でジョットの上を取っていた黄猿が既に攻撃態勢に入っていた。

 

「“八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)!”」

 

 両手の指で作った円から、無数の光の弾丸が雨のように発射される。

 視界が黄色一色で染め上がるなか、ジョットは迫りくる弾丸を見聞色の覇気で見切りながら能力を使用した。

 

「“オーラビジョン――スタープラチナ!”」

 

 前面に現れたジョットの半身スタープラチナ。

 スタープラチナは、拳を強く握りしめて――まるで時が止まっていると錯覚しそうな程のスピードで、本体に降り注ぐ弾丸にラッシュを叩き込む。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 シャボンディ諸島の時よりも洗練されたスタープラチナの拳は――その背後に攻撃を通さない。それを見た黄猿は早々に攻撃を中止し、青雉と共に広場に降り立った。

 捌き切って仕事を終えたスタープラチナはジョットの体の中へと戻り、ジョットは空を蹴って白ひげの隣に着地する。

 

「おめぇ……随分と赤犬の小僧に嫌われてるなァ。そういう所は、父親にそっくりだ」

「向こうが噛み付いて来るんだ……オレはそれを振り払っているだけだ」

 

 隠者の影を見て、白ひげは何処か複雑そうにため息を吐く。ジョットは心外だと言わんばかりに顔を歪めて悪態を吐く。

 その光景を……いや、先ほどの一連の戦闘を見ていた海兵たちは、次々と頭の中に入ってくる情報に混乱していた。

 

「なんでルーキーが大将三人の攻撃を捌き切っているんだ!?」

「それよりも、何故白ひげと共に居る? 傘下に入ったのか!?」

「それにしては横で堂々として……」

「何であんなのが偉大なる航路(グランドライン)前半の海に居る!? レベルが違うぞ!」

「そもそも、どうしてこの戦争に参加したんだ!?」

 

 海兵たちの動揺は大きく、その原因とも言える赤犬に向かってセンゴクは頭上から怒鳴りつけた。

 

「赤犬!! 大将ともあろう者が、感情のままに動くとは……恥を知れぇ!!」

 

 しかし、センゴクの怒声に赤犬は反応を示さずドカリと椅子に座った。

 図星を突かれたのか、帽子を目深く被りだんまりを決め込んだ。だが、内心湧き上がっている怒りのマグマは、今こうしている間にもフツフツと煮え滾っている。

 そんな赤犬から視線をジョットへと移し、センゴクは叫んだ。

 

「星屑のジョジョ! 貴様がどういう理由で白ひげに加担しているのかは知らないが――生きて此処から逃げられると思うな!!」

「やれやれ……どうやら嫌われているのは赤犬からだけでは無いようだ」

 

 余裕綽々な態度のジョットの反応に、センゴクは歯噛みしつつも――口を開く。

 海賊王ゴールド・ロジャーの実子である火拳のエースを公開処刑するために整えたこの場だが――自分から向かってくるのなら、もう構わない。

 どうせ、この戦争後には情報を公開する予定だったのだ。それが少しだけ早くなっただけの事。それに、ジョットもこの処刑に無関係では無いのだ。

 

「良いだろう――全海兵に告ぐ! その男もまた、海賊次世代の頂点に立つだけの力と血を引き継いでいる! 故に、今日、この場でその男を抹殺せよ!」

 

 突然のセンゴクの言葉に海兵たちは戸惑いの表情を浮かべ、ジョットの事を本人以上に知っている者達は目を細めた。

 ついに、この名が全世界に解き放たれるのか、と。

 

「星屑のジョジョ――本名は“ジョン・スター・D・ジョット”!」

 

 ジョン・スターの名に、まさかと誰もが目を見開く。

 

「かつてゴールド・ロジャーを海賊王へと導いた“災厄の女王ジョン・(スター)・リード”と――」

 

 実在してはいけない血を引いた人間に、心臓の鼓動が早くなる。

 

「世界最悪の犯罪者にして海賊王ゴールド・ロジャーの傘下、“隠者ブラン・D・ジョセフ”の血をその身に宿す――」

 

 口にするのも恐ろしいその名に恐怖し、目の前の存在がその血の半分を引いている事に、誰もが耳を疑う。

 

「火拳のエース以上の――“有害因子”だ。ルーキーと見て油断すれば――こちらがやられるぞ!!」

 

 センゴクの口から放たれた衝撃は――全世界を震わせた。

 途絶えた筈の最悪の血筋。それが今こうして蘇り――再び世界を混乱の渦へと陥れようとしている。

 映像電伝虫で実際に見て聞いた記者たちは、あまりにも衝撃的なスクープに腰を抜かし。

 彼を知りつつも、根幹の部分を知らない者たちはその事実をどう受け止めれば良いのか分からずに震えた。

 

「フッフッフッ……! 流石に、驚いたぜ! あのクソッタレな一族が生きていたとは!」

 

 特殊な過去を持つ者は、その意味を正しく理解し――。

 

「キーッシッシッシ! あの強さ! あの肉体! 影かゾンビか悩むぜ!」

 

 ある者は、純粋にその強さを欲しがり――。

 

「ルフィの同盟相手が隠者の息子……!」

 

 ある者は、父親の悪名に目を細める。

 

 反応は様々だが、一つだけ明確な事がある。

 それは、海軍は絶対にジョットを此処から逃がさないという事。

 もしかしたら、白ひげ以上に優先してその命を……その血を絶とうとするのかもしれない。

 殺気立つ海兵たちを見ながら、ジョットは呟いた。

 

「どうも実感が沸かないが……親父が隠す訳だ」

「グラララ……怖気づいたか?」

「いや――身が引き締まった。丁度良い……!」

 

 ギラリと鋭い眼光を目の前の強大な敵に向けるジョット。

 そこに恐れはない。あるのは、立ち塞がる敵を薙ぎ倒し、友を救うという覚悟だけ。

 それを見た白ひげは一層笑みを浮かべて――構えた。

 

「威勢が良いこった――始めるぞ、野郎ども!!」

 

 白ひげが両腕を左右に叩き付けると共に、地震の力が海を爆発させ、それと共鳴するかのように――白ひげ海賊団達の雄叫びがマリンフォードを震わせた。

 白ひげ海賊団と海軍の戦争が――今、始まった。

 



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戦局のカギを握る者達

 ――もう一度。

 空を思いっきり蹴り、その勢いのまま処刑台へと弾丸のように跳ぶジョット。

 しかし、目の前の空間が突如光ると、そこから人の体、足が出現し彼を阻む。

 

「だから、いい加減しつこいってぇ~……」

 

 覇気を込め、光速で移動した黄猿の蹴りを受け止める。

 ビリビリと空間が震え、ジョットはもう一度空を蹴ろうとし――下からの殺気に反応して後退する。すると、視界に氷の矛が過ぎ去り先ほどまでジョットが居た場所を穿つ。

 呑気にこちらを見つめる青雉を睨み付け、ジョットは黄猿の追撃のレーザーを避けるとスタート地点――白ひげの元へと戻った。

 

「――やっぱりダメか」

「無駄に体力消費してんじゃねえぞハナッタレ」

 

 それは問題ない、と返しつつ、ジョットは海軍の強固な守りに内心舌を巻いていた。

 ジョットは、開戦してから五回処刑台まで跳んだ。

 馬鹿正直に地上から大勢の海兵を薙ぎ倒して行くくらいなら、そっちの方が早いのでは? そう考えての試みだったのだが――結果は御覧の通り。

 初めは、一番惜しい所まで行った。大気を殴りつけ海震を引き起こした白ひげに気を取られた海軍の虚をついたのだが……赤犬によって阻まれてしまった。

 その後も、隙を突いては処刑台まで跳ぼうとしたのだが、大将達に警戒されてしまい段々と距離を詰める事が出来なくなって来た。

 

「こりゃあ、オレも降りた方が良いな……」

 

 そう言って、ジョットは青雉が凍らせた湾内の氷を見る。開戦直後は波に揺れていた海水も、今では海賊と海軍の戦場となっている。船の身動きを封じられたと見るべきか、能力者にとっての最大の敵を無力化させてくれたと見るべきか。

 軽々と地形を変える大将の力を改めて実感しながらも、ジョットはふと呟く。

 

「それにしても何だってんだ。……アイツら、シャボンディ諸島で負った筈の傷がねぇ。それに、妙に動きが良いというか……」

「……今更か。大方、何かしらの能力だろう。見た目から察するに、時間か肉体を操作する系統の能力者だな」

「なるほど。アイツら、若返っているのか。通りでオーラが若々しく揺らめいている筈だ」

「グララララッ! 大将がパワーアップしているっていうのに、お前も大概だなジョジョ!」

 

 今気づいたと納得するジョットに白ひげは面白そうに笑った。

 

「だが、厄介なのは変わりねえ。センゴクの事だ。能力者は何処か別の場所に隠しているに違いない――この戦争中に見つけて始末するのは無理だな」

「ふん。だったら、今の……いや、過去のアイツらをぶっ飛ばせば良いだけの話だ。最初(ハナ)からそう変わらねえ」

「グラララララァ! 違いない!」

 

 全盛期以上の力を持つ海軍大将相手に不敵な笑みを浮かべる海賊二人。

 敵が強くなろうが弱くなろうが、この戦争の目的はただ一つ。

 エースを取り返すだけだ。

 

「じゃあ、行ってくる」

「せいぜい死ぬなよ、若造!」

 

 白ひげの激励の言葉を背に、ジョットは氷の戦場に降り立った。

 視線を動かせば見た事ある顔や初めて見る敵と味方が、入り乱れて暴れ回っている。

 あちこちから砲弾の音や怒声が響き渡り、見聞色の覇気を抑えなければならない程様々な情報が入って来る。

 自分に迫る危機にだけ気を付けて、ジョットは走り出した。

 

「星屑が来たぞーー!」

「奴を打ち取れ! 此処で確実に仕留めるのだ!」

 

 ジョットの動きに気づいた海軍の目が彼に向く。

 剣、銃、大砲……様々な武器を手に彼に殺到した。

 しかし――。

 

「オラァッ!!」

「グアッーー!?」

「分かっていたけど強ぇーーッ!?」

 

 鎧袖一触。彼の射程範囲に入った海兵たちは一撃で吹き飛ばされていく。

 彼の動く足は止まらず、走るスピードは衰えない。

 

「鉄塊! ――ガハッ」

袷羽檻(あわせばおり)! ――止まらない、ヒナ驚愕」

「ホワイト・ブロー! ――チッ、当たらねえ!」

 

 鉄を砕き、檻を引きちぎり、死角からの攻撃を最小限の動きで避ける。

 ――誰が止めれば良いんだ、あんなの。

 将校クラスは決して弱くない。しかし、彼の動きを阻害する事すらできない。

 片っ端から海兵たちを薙ぎ倒していくジョットの姿に、改めて畏怖する海兵たち。

 大将と互角にやり合う以上、中将ですら相手になるか不安だ。

 白ひげ海賊団を相手取る以上、ジョットだけに戦力を送る訳には行かず……。

 故に、彼らに動いて貰うしかない。

 

「――出番だぞ、海の屑共!」

 

 処刑台から轟くセンゴクの声に応えるように、五人の影が戦場に降り立った。

 

「フッフッフッ……! オレもそろそろ楽しませて貰おうか……!」

 

 “天夜叉ドンキホーテ・ドフラミンゴ”。

 

「キシシ! おい星屑! テメェ、影を抜かれるのとゾンビ兵にされるのどっちが好みだ?」

 

 “ゲッコー・モリア”。

 

「久しいな気高き者」

 

 “鷹の目ジュラキュール・ミホーク”。

 

「あの方の友と言えど――容赦できぬ」

 

 “海賊女帝ボア・ハンコック”。

 

「――星屑の、ジョジョ」

 

 “暴君バーソロミュー・くま”。

 

 開戦まもなくして、戦局を左右するカギが動き出した。

 いずれも名を轟かせる海賊たち。

 幾多の困難と強敵を退けてこの場に立つ彼ら王下七武海の力は――例え新世界の海賊と言えども油断すれば足元をすくわれる。

 世界政府に認められた曲者たちを前に、ジョットは初めて足を止めた。

 そして、構える。

 

「知った顔も知らない顔も勢揃い――友の為にオレは止まらねえ! 通させて貰うぞ!」

 

 覇気を全開に、ジョットは敵の懐へと飛び込んだ――。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 最初に動いたのは、鷹の目だった。

 ジョットが幼き日に遭い、些細な行き違いから始まった拳と剣のちょっとした死闘。それが両者の脳裏に浮かび上がり――それぞれの得物(拳/剣)で振り払って、敵の息の根を止めんとその力を振るう。

 鷹の目の愛剣――黒刀“夜”。最上大業物12工の一つであり、世界最強の剣。その剣から放たれる斬撃は巨大なガレオン船すら真っ二つにする。

 その死の刃が、ジョットへと解き放たれた。

 

(あの時は避けるので精一杯だった――だが今はっ!)

 

 それをジョットは――白羽取りで受け止めた!

 

「な――」

「鷹の目の斬撃を受け止め――ぎゃあああああ!?」

 

 その光景に周囲で戦っていた海兵や海賊たちが驚きに口を開き、しかしジョットが逸らした斬撃に巻き込まれて吹き飛んで行った。

 

「あ、すまん」

 

 氷の地面に向けて逸らしたとはいえ、仲間に軽度の傷を負わしてしまった。

 謝った彼に向かって、起き上がった白ひげ海賊団の面々から『軽いわ!?』と怒られてしまう。

 だが、ジョットにそれに応える時間は無い。

 

「星屑のジョジョ、排除する」

 

 なにせ、敵は一人ではなく五人なのだから。

 既に肉体の改造を終えPX-0へと生まれ変わったバーソロミュー・くま。彼の口からレーザーが三発放たれた。黄猿のレーザーを模して作られたその威力は、当たれば脅威。しかし見聞色の覇気を使えるジョットからすれば、機械に搭載されたプログラム通りの動きは単調過ぎて避けやすい。

 全て回避すると、ジョットは攻勢に出る。

 

「オラァ!」

 

 覇気を込めた一撃を一番近くにいたくまに向かって放つ。

 だが、その攻撃を隙と見たのかハンコックが能力と覇気を帯びた脚で彼を横から蹴り上げた。

 

「“芳香脚(パヒューム・フェムル)!”」

「!!」

 

 攻撃を中止し防御したジョットの腕が石化する。

 オーラで見ると、桃色のオーラが彼のオーラを侵食していた。まるで、大将たちの攻撃を相殺している自分と同じように――。

 ジョットはオーラを流し込んで腕に纏わりついていた桃色のオーラを吹き飛ばし、石化を解除する。

 そして鷹の目の斬撃とくまの妙な形の衝撃波を躱し――動きが止まった。

 

「――こいつは」

「“寄生糸(パラサイト)”……フッフッフ。常人の倍以上でようやくか。化け物だな星屑!」

 

 オーラでもギリギリ見える細い糸。それが、ドフラミンゴの手から伸びてジョットの動きを止めていた。

 無理に動こうとすればギチギチと嫌な音が体の奥から響き、その抵抗力に内心冷や汗をかくドフラミンゴ。もしこの戦争が起きる前に遭遇していれば、自分もただでは済まなかったかもしれない。

 しかし、この場には他に敵が居る。

 

「“影法師(ドッペルマン)”――“欠片蝙蝠(ブリックバット)”」

 

 モリアのカゲカゲの実の能力が発動し、モリアの影から大量の黒に染まった蝙蝠がジョットに殺到する。次々と彼の体に噛み付きダメージを与えようとするが……覇気で固められた彼の体は蝙蝠程度の牙なんぞ通さない。

 ガキンガキンと硬い音響き、攻撃が効かないと見たモリアは捕獲に切り替えた。

 

「“影箱(ブラックボックス)!”」

 

 影の蝙蝠たちが噛み付くのを止め、彼を立方体の影の中へと閉じ込めた。

 七武海たちの視界から消えるジョット。

 ドフラミンゴとの連携でようやく進撃が止まったジョットに、海兵たちは活気立ち、海賊たちはゴクリと生唾を飲む。

 

「キーッシッシッシッ!! さぁて、まずは影から頂くとするか。こいつの影は、今までの影と比べ物にならない程強いに違いねえ!」

 

 影と本体を切り離すハサミを手に、影箱(ブラックボックス)に近づくモリア。

 しかし、それを見ている他の七武海は――特にドフラミンゴは、檻の中の猛獣が既に鎖から解き放たれているのを理解していた。

 

「は――」

 

 轟音が響き影箱(ブラックボックス)が壊れるのと、モリアが一撃で後方へと吹き飛ばされるのは同時だった。

 壁に激突し意識が飛ぶモリア。腹部には拳型の凹みが深々と付けられており、本人は口から血を流してグッタリとしている。

 

「フフフ。やっぱ化け――」

 

 次はドフラミンゴだった。左頬に撃ち込まれたジョットの拳が、そのまま氷に叩き付けられ彼を中心にヒビが入り、隆起する。

 水飛沫と粉微塵になった氷が高く舞い上がり、二人の七武海が早くもダメージを負った。

 

「――っ!」

 

 背筋に走った悪寒に従い、ハンコックはその場から跳び下がる。瞬間、彼女の目の前の氷が砕け散り蜘蛛の巣状に入ったヒビの中心に、めり込んだ拳を引き抜くジョットが視界に映る。

 

「止まっていられねえんだ。邪魔をするなら、女でも容赦しねえぞ」

「恐ろしい男じゃ……!」

 

 険しい表情でハンコックは呟いた。

 目の前の男は――ルフィとは別の意味で見た事が無い人間だった。

 そして抱く感情もまた真逆であった……。

 

「フ……」

 

 ミホークは、あの時見逃した己の判断が間違っていなかったのだと嬉しく思い――同時に戦慄もしていた。

 今まで数多の強き者と出会って来た。その度に感じるのは、世界最強の剣士である自分と戦える相手への敬意と喜び。しかし、目の前の男はそれ以上の感情――“強敵に挑む”という久しい気持ちを思い浮かばせた。

 海軍と結んだ協定外の案件だが――できる事なら、この男を倒してみたいと思った。

 この、黒刀で。

 

「っ……くそっ。首がイカれるかと思った! ジョン・スターめ」

 

 そして、ジョットから手痛いしっぺ返しを喰らったドフラミンゴは、額に青筋を浮かばせていた。半ば楽しむために参加したこの戦い――少し、本気になっても良いと思えるほどには苛立った。

 元々血筋的にも因縁がある。やはりこうして目の前にすると騒ぐのだろう。海賊に落ちようとも、流れる赤い血は変わらない。

 

 一方、ジョットは内心焦っていた。

 王下七武海。強さはまちまちだが、流石にこの戦争に呼ばれるだけの力はある。全員が実力者であり、それぞれの能力が厄介だった。

 万物を切り裂く斬撃。生命力を石に変える力。弾き飛ばす肉球とレーザー。変幻自在の影。動きを阻害する糸。

 全力を出して立ち向かえば切り抜けられるかもしれない。しかし、後の事を考えれば体力は温存しておきたい。

 

「曲者……まさにその通りだな」

 

 ジョットは考える。このまま七武海を引き付けて仲間の負担を減らすか。

 それとも無理やりにでも振り切って処刑台まで突っ走るか。

 周りの戦況を顧みるジョットの耳に、大きく重い足音が聞こえた。

 チラリと視線を向ければ巨人族よりも遥かに大きな影。

 白ひげから聞いた魔人の子孫であるリトルオーズjr。

 巨人海兵を蹴散らし、場をさらに混乱させるその姿に頼もしさを覚える。

 さらに隊長達も中将や大将達を相手に一歩も引かず、思わず笑みを浮かべた。

 

「――よし、決めた」

 

 仲間達の奮闘振りを見たジョットは次の行動を決め――こちらを油断なく見据える七武海達へと視線を戻す。

 まずは、彼らを振り切らなければならない。ジョットは改めて拳を握り締めた。



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兄と弟

「“五色糸(ゴシキート)!”」

 

 ドフラミンゴの指先から鋭い切れ味を持つ糸が飛び出し、切り刻まんとジョットに向かって振り下ろされた。普通に喰らえばなます切りにされるだろう凶刃。しかしジョットの覇気は生半可な攻撃を通さない。ギャリギャリと本来なら聞こえる筈も無い音が戦場に響き、ジョットの腕が糸を弾く。

 反撃と言わんばかりに振るわれた拳が風圧を生み出し、その余波にドフラミンゴの体が宙に浮く。その中心に向かって、スタープラチナの鋭い拳が深々と刺さる。

 すると、ドフラミンゴは苦悶の表情を浮かべて――糸屑となって消え去った。

 そして、その影で攻撃準備に出ていたドフラミンゴと、そのタイミングに合わせるべく動いていた七武海たちが各々遠距離攻撃を放つ。

 

「“降無頼糸(フルブライト)!”」

「“つっぱり圧力(パッド)砲”」

「“虜の矢(スレイブアロー)!”」

「ふんっ」

 

 糸が、肉球型の衝撃波が、石化させる矢が、斬撃が。

 ジョットの命を絶たんと彼に襲い掛かる。

 

「オラオラオラオラオラオラ!!」

 

 ジョットは覇気を込めた腕で糸の刺突を受け止め、矢と衝撃波をスタープラチナで弾き、斬撃を回避する。そして、腕に突き刺さった糸にオーラを流し込み、ドフラミンゴに向かってジョットの攻撃性の高い黄色のオーラが迸る。

 バチッ! と弾ける音がすると共にドフラミンゴの体が痺れ、ジョットは糸を掴んで腕から引き抜くとそのまま勢いよく引き寄せる。一瞬の隙を見せたドフラミンゴは、ジョットの拳を諸に喰らい苦痛の表情を浮かべる。

 減り込んだ拳を振り抜き、モリア同様ドフラミンゴを吹き飛ばすジョット。血を吐いて吹き飛ぶ敵を見送り、残りの敵を見据える。

 後、三人。

 彼らを倒しておけば、エース救出への道が大きく前進すると判断したジョット。しかし、そう決断して戦闘を行うも相手が何処か消極的なのもあり中々撃破できないで居た。先ほど吹き飛ばしたドフラミンゴも見た目に反してダメージが少なく、咄嗟に能力と覇気で防いだ事が分かった。加えて、彼のオーラが徐々に回復しているのを見るに、自己修復する術も持っているらしい。

 一番初めに倒したモリアもそろそろ起き上がる頃だろう。大ダメージを与えたとはいえパンチ一発。あの程度の傷は今までの戦いで何度も経験しているだろうとジョットは思っていた。

 

(それに……)

 

 チラリ、とジョットは処刑台前で倒れ伏しているオーズを見る。

 一刻前には巨人海兵たちを次々と薙ぎ倒し、その巨体で処刑台前まで辿り着く事ができたオーズだったが……。

 突如桃色と茶色の強いオーラを持つ男と女の中将たちによって両足を切断され、赤犬のマグマで腹を撃ち抜かれてダウンした。

 それを見たジョットは内心焦った。

 中将たちの実力にバラつきがあるのは何となく察していたが、ガープ以外で大将に匹敵する力を持つ者が居るとは思わなかったのだ。しかし、白ひげ海賊団の隊長を数人相手にしてオーラの揺らめきが少ない事から、その実力の高さがうかがえる。

 オーズがやられた事で一瞬下がった士気は、白ひげの怒りと共に回復しているが……このままで良い筈がない。

 

(何か狙っているな……)

 

 海兵たちは何かを狙っている。後続の白ひげ傘下の海賊たちが大量に湾内に侵入しても、落ち着いて対処している。まるでそれが狙いだと言わんばかりに。

 

(白ひげの爺さんも気付いていると思うが……)

 

 ――とにかく。ジョットは此処で七武海に足止めを喰らっている場合では無いのだ。

 ジョットは、魚人島にて白ひげの治療中に発見した新技を使って一気に勝負を決めようとオーラの力を極限以上に解放しようとし……。

 

「――ぅわあああああ……」

 

 空からの何処か聞き覚えのある声に動きを止めた。

 戦場で最も愚かな行為。しかし、彼が攻撃される事はなかった。

 何故なら――この戦場に居る者たち全員が空へと視線を向けていたからだ。

 

 ――落下してくる軍艦と、それに乗っていたであろう囚人と変態と……それらを引き連れた麦わらのルフィに。

 

 軍艦は、赤犬のマグマで溶けた海水の中へと落ちた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――ルフィ!?」

「エーーーースーーーー!! やっと会えたぞおおおおお!!」

 

 突如現れた弟に思わずエースは叫び、ルフィはボロボロの格好で嬉しそうに声を上げた。

 海兵たちは、空からの闖入者たちに目を向け、驚愕を顕にする。

 

「助けに来たぞおおおおおッ!!」

「ぎゃははははは! 世界よ、覚悟しろ!!」

「さすがに総戦力!! ハンパじゃナッシブルね!!」

 

 王下七武海“海侠のジンベエ”に元七武海だった“クロコダイル”。さらに“革命軍のイワンコフ”に加えて過去に名を馳せた海賊たちが、麦わらのルフィを先頭にこの場に現れた。

 

「ガープ! また貴様の家族だぞ!」

「ルフィ……!」

 

 超新星の問題児のもう一人がこの場に現れて、センゴクの顔は歪みに歪みまくっていた。ガープもまた己の孫がこの戦場に現れた事に頭を抱えた。

 

「話題に事欠かん男だ、麦わら」

「ルフィ……! そなた、よくぞご無事で……!」

「ゲフッ! ……フ、フッフッフ……七武海も新旧お揃いで……そしてあれがもう一人の大問題ルーキー麦わらか!」

 

 彼に縁がある者も無い者も、ルフィの登場に顔色を変えた。

 そして――。

 

「麦わら……無事だったか……! ――ん?」

 

 同盟相手(友達)の無事でジョットは表情を柔らかくさせ……ルフィの傍らに立つ男が不審な行動をするのを見て、今まで戦っていた七武海たちを置いて高速で飛び出した。それを見たミホークは黒刀を構え……無駄だと判断して刀を下げた。

 

「――それが貴様の答えだなジンベエ!」

「そうじゃ! わしゃあ七武海をやめる!」

「何にせよあのチームはおかしいぞ。到底まとまった目的があるとは思えん……少なくともこの戦場では」

 

 一方、怒りの表情でジンベエに問い掛けるセンゴクの横で、ガープは険しい表情でインペルダウンの囚人たちを見据えた。

 此処には彼らにとって海軍以上に魅力的な“首”がある。エースを助けに来たルフィとは違う目的で彼に同行した者は多い。

 

「ん? クロコボーイは?」

「あそこだ! あんにゃろう抜け駆けしやがって!!」

 

 イワンコフとバギーが気づくも、既にクロコダイルは一人白ひげの背後に回っていた。

 左手の大型フックで、彼の首を取ろうとその凶刃をギラつかせている。

 

「久しぶりだな、白ひげ!」

 

 クロコダイルの凶行に白ひげを親と慕う者たちが動きを見せ――その前に、海水で足を濡らしたルフィがフックを弾いた。

 

「ちっ、麦わ――」

 

 己を止めた相手を睨み付け――しかし次の瞬間襲った悪寒にクロコダイルの体が無意識に後方へと下がった。それと同時に、彼が居た場所に男――ジョットが拳を振り抜いた状態で現れた。

 拳圧でモビーディック号の船上に突風が発生し、しかしそれ以上の威圧がクロコダイルに叩き付けられた。向けられる敵意に険しい表情を浮かべるクロコダイルの脳裏に、少し前に……ルフィに負けてインペルダウンに収容される前に見た手配書の顔が浮かび上がった。

 

(こいつは、確か……星屑のジョジョ!)

 

 初頭手配で一億ベリーの賞金首となった怪物。かつて自分が立ち上げた組織バロックワークスでも要注意人物として動向を見張っていた海賊だ。

 

「なんだ、あの小僧は?」

「あれは“星屑のジョジョ”! 麦わらボーイと同じ超新星(スーパールーキー)! 確かに彼が此処に居るのは謎ッシブルね」

「――! あの目。もしや姐さんの……!」

 

 バギー、イワンコフ、ジンベエもルフィと共に白ひげを守った男に視線を向けた。

 無知故に口を開いて囚人たちにさらに尊敬され、情報を集めていた故にジョットがこの場に居る事に首を傾げ、そして昔に世話になった人の面影を思い出し、目を見開く。

 一部の人間以外、ジョットが何故白ひげを助けるのか不思議に思っていた。新聞から見て取れた情報から、星屑のジョジョは猛スピードで成り上がっている。それを考えると逆にクロコダイルのように白ひげの首を獲りに行ってもおかしくない。クロコダイルもまたそう思いながらも、彼はルフィへと視線を向けた。

 

「麦わら……何故お前が白ひげを庇う? おれとお前の協定は既に達成された筈! 邪魔される筋合いはねえぞ」

「やっぱりこのおっさんが“白ひげ”か! じゃあ手ェ出すな! エースはこのおっさんを気に入ってんだからよ!」

 

 白ひげを庇うように立つルフィの隣にジョットが歩み寄り、彼と共にクロコダイルの前に立ち塞がる。さらに白ひげの部下の海賊たちが武器を手にクロコダイルを牽制した。

 これでクロコダイルは下手に動けない。

 それを確認したジョットは視線をルフィへと向け、ルフィもまたジョットへと視線を向けた。

 

「無事だったか麦わら!」

「ジョジョ! 久しぶりだな~。でも何でお前が此処に居るんだ?」

「色々と事情があるが――オレもお前と目的は同じだ」

「! そっか、にしし!」

 

 お互いに無事を喜ぶ次世代の海賊たちに視線を向ける白ひげ。

 麦わら帽子を見て、別の船の海賊同士が海軍を前に笑っているのを見て――昔を思い出してしまった。だからだろうか。白ひげが自然と口を開いたのは。

 

「小僧、その麦わら帽子……“赤髪”が昔被ってたやつに似ているな……」

「おっさんシャンクス知ってんのか! これ預かってんだシャンクスから!」

 

 “――新しい時代に懸けてきた”

 “――見てくれオヤジ! こいつおれの弟なんだ!”

 “――麦わらは、オレの同盟相手なんだ”

 

 目の前にいる小さな男が、白ひげが認めた男や愛した家族。そして己の娘の忘れ形見が嬉しそうに語った男だと――すぐに分かった。

 

「兄貴を助けに来たのか?」

「ああ、そうだ」

 

 平然と答えるルフィに、白ひげは力強く見据えて問いかける。

 

「相手が誰だかわかってんだろうな。おめェごときじゃ命はねぇぞ!」

 

 この先の戦場で、命を懸ける覚悟があるのか。

 彼らが認めた男がどれだけ強いのか見定めようとし――ルフィはそれ以上の答えを以てして、白ひげに応える。

 

「うるせえ! お前がそんな事決めんな! おれは知ってんだぞ。お前海賊王になりてェんだろ! 

 ――“海賊王”になるのはおれだ!!」

 

 自分を疑わず、己を偽らないあまりにも愚直で――しっかりと真っすぐな心の叫び。

 その姿にかつての友でありライバルであった男を思い出し……白ひげは笑った。

 

「……クソ生意気な――足引っ張りやがったら承知しねェぞハナッタレ!」

「おれはおれのやりてェ様にやる! エースはおれが助ける!」

 

『し、白ひげと張り合っとるゥーーー!?』

「……そうだよな。お前はそういう男だよな」

 

 恐れを知らないルフィの行動にイワンコフたちは戦慄し、ジョットは傍らで笑みを零した。

 あの破天荒な行動を見ているとどうも――兄弟や友を任せても大丈夫だと安心できる。

 そして、この場に置いては……。

 

「エースの処刑時間が早まる? 確かにそう言ったのか?」

「なんかの準備ができてからって言っていたけど、後は暗号でよくわかんなかった。エースを助けてェのは同じだからそれだけ教えといてやる!」

 

 何やら重要な話を続ける二人の会話に、ジョットは戦闘中に気になっていた事を報告する。

 

「海兵たちは広場から一定の距離を離れないように動いている。恐らくその準備ができ次第退くつもりだ」

「そうか。それは大事な事を聞いた。すまねぇな」

「いいんだ、気にするな!」

 

『何であいつ白ひげと対等に喋ってんだよーー!』

「エース今行くぞおおおお!」

 

 周りの海賊たちがルフィの行動に体を震わせているなか、ルフィは船から降りて戦場へと突っ込んだ。

 それを見たジョットが白ひげに向かって言う。

 

「海軍の妙な動きの方はアンタに任せる。オレはあいつのサポートをしてやりてェ」

「グララララ! ……エースの弟だ。死なせるなよ!」

「当然だ!」

 

『そしてアイツはさっきから何なんだ!? どういう立ち位置の人―――!?』

 

 奇異の視線を向けられながらも、ジョットは戦場に再び舞い戻る。

 ――もう、あんな思いはごめんだ。

 シャボンディ諸島での戦いを思い出しながら、ジョットはルフィに向かってレーザーを放つ黄猿へと接近する。そして、攻撃を妨害する為に覇気を纏った拳を振り下ろした。

 

「オラァ!」

「おっと……星屑のジョジョ……相変わらず鬱陶しいねぇ~……」

「ジョジョ!」

 

 光の速度で距離を取る黄猿。先ほどまで自分が居た場所を見ると、ジョットの拳で氷が割れていた。

 ジョットは黄猿を警戒しながらもルフィの隣へと移動し、並走する。

 

「援護する麦わら――同盟相手だしな」

「おう! ありがとう!」

 

 礼を述べるルフィの顔が光で照らされる。

 また黄猿かとそちらを見れば、そこには大口を開いてレーザーを放とうとするくまが居た。

 

「あいつ! おれ達をバラバラにした……!」

 

 ルフィが敵の正体を思い出すと同時に、くまのレーザーが解き放たれた。

 ジョットは斜線上に入り、覇気を纏った腕で弾こうと構える。

 

「“DEATH WINK(デス・ウィンク)!”」

 

 しかしその前に、イワンコフのまばたきがくまの体に直撃しレーザーがあらぬ方向へと飛んでいく。

 

「ありがとうイワちゃん!」

「すまないな、顔がデカいの」

「ヴァターシは麦わらボーイを死なせない事が使命だッキャブル! 当然の事……誰が顔がデカいって!?」

 

 イワンコフもまたルフィを助ける為に隣を走る。

 しかし――敵はどんどん来る。

 

「ム~ギ~ワ~ラ~! テメエは星屑と一緒にゾンビにしてやる!! 行けゾンビ兵ども!」

 

 ジョットの一撃から回復し戦線復帰したモリアとそのゾンビ兵。

 

「悪いが赤髪……この力慎みはせんぞ」

 

 未だ健在のミホーク。

 

「フッフッフ! 戦場が混乱して来たな……!」

 

 傷を癒したドフラミンゴ。

 

「麦わらを討ち取れ!!」

「奴がインペルダウン脱獄の主犯だァ!」

「どんどん行けェ~……!」

 

 数多の将校と海兵たち。そして大将。

 この戦場のありとあらゆる戦力が己の弟に向けられるのを見たエースが――叫んだ。

 

「――来るなルフィーー!!」

「え……?」

 

 兄の叫びに一瞬動きを止めるルフィ。その隙を狙って海兵が斬りかかるが、ジョットに殴り飛ばされて遥か遠くへと消える。

 戦いはまだ続いている。それでもルフィは兄の言葉に耳を傾けていた。

 

「分かっている筈だぞ! おれもお前も海賊なんだ! 思うままに海へ進んだ筈だ!」

「……!」

 

 傍らに座るガープの顔が歪む。

 彼の胸の中にあるのは家族を海賊にしてしまった事への後悔か、それとも家族が処刑されるというのに、孫たちが殺されかかっているというのに動けない己への虚しさか。

 

「おれにはおれの冒険がある! おれにはおれの仲間がいる! お前に立ち入られる筋合いはねぇ!

 ――お前みてェな弱虫が! おれを助けに来るなんて……それをおれが許すとでも思ってんのか!? こんな屈辱はねェ! 帰れよルフィ! 何故来たんだ!!」

 

 エースは、ルフィに死んで欲しくなかった。

 彼がこの戦場で生き残るには――あまりにも此処は危険だ。己の失態で家族が傷つき、弟が命を落としてしまえば……エースは自分が許せなくなるだろう。

 故に、必死にルフィを遠ざけた――だが。

 

「――おれは、弟だ!!」

 

 兄の苦悩を――ルフィは吹き飛ばした。

 

「海賊のルールなんておれは知らねェ!」

「分からず屋が……!」

 

 止まらないルフィにますます顔を険しくさせるエース。

 海兵たちはルフィの言葉に戸惑いを見せ、暴れるルーキーに疑惑の視線を向ける。

 そんな彼らを叱咤するように、センゴクの声が通信機越しに戦場に響いた。

 

「――何をしている! たかだかルーキー一人に戦況を左右されるな!

 その男もまた未来の『有害因子』。幼い頃にエースと共に育った義兄弟であり、その血筋は――“革命家”ドラゴンの実の息子だ!」

 

 ドラゴンの息子。海賊王ゴールド・ロジャー。隠者ブラン・D・ジョセフと負けず劣らずの――最悪の血筋。目の前のルーキーがエースやジョットと同じように逃がしてはいけない“悪”だと知った海兵たちは……目の色を変えた。

 

()()ドラゴンの息子!?」

「海賊王の息子と義兄弟だと!?」

「加えて隠者の息子と同盟を結んでいる――奴は危険だ!」

 

 そのビッグネームに戦場の物たちは戸惑い、驚き、納得し――そしてルフィの本当の(・・・)脅威に気が付いた。

 あの男は生かしてはいけない。放って置けば――この先の海で最も脅威となる存在になり得る。海兵たちが武器を手に殺到し……。

 

「“ゴムゴムの――銃乱打(ガトリング)!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 しかし、それをジョットが共に吹き飛ばした。

 そして、エースを強く見据えて――叫ぶ。

 

 

「エーーースーーー! 好きなだけ何とでも言えェ! おれは死んでも助けるぞォ!!」

「……!」

 

 彼の叫び声にエースは言葉に詰まり……ジョットは()()()()()()()()()()()なのかを理解した。

 

 




one dayの時のOPアニメで強キャラ達が技を出しながら登場するの好きです
この作品の場合、主人公はやっぱりスタープラチナを出すのかな?


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大進撃

「“ゴムゴムの――”」

「跳んだ!?」

「馬鹿め。空中では避けられまい!」

 

 身軽さを利用して空高く跳び上がるルフィ。それを見た海兵は驚くも、すぐに格好の的だと判断して大砲や銃を構える。

 ルフィにその系統の攻撃は通じないが、中には将校も居る。もしかしたら覇気を使う者が居るのかもしれない。

 しかし、そんな事は関係なく彼らはルフィに攻撃する事はできなかった。

 

「ふん!!」

「うわ!? 氷が!?」

「星屑のジョジョだ! あいつがパンチ一発で砕きやがったァ!!」

「パンチ一発ゥ!?」

 

 オーラで何処をどのくらいの力で殴れば周囲の氷を崩せるのか。それを見切って放たれたジョットの拳は、ルフィたちを狙っていた海兵たちの足場を崩す。彼らは銃を構える事ができず、その場で立つのがやっとだ。

 しかし、そうなればどうなるのかは――上を見れば分かる。

 数人の海兵がハッと気づいていた上を見上げるのももう遅い。

 

「“スタンプ乱打(ガトリング)!”」

『ぎゃあああああ!?』

 

 ゴムの性質を利用した連続蹴りは、次々と海兵たちを捉える。

 ジョットが氷を砕いたこともあり、彼らは冷たい海の中へと沈んでいった。

 

「くそこいつ!」

 

 同胞をやられて頭に血が昇った海兵が、ジョットに向かって刀を振り下ろした。

 

「よっと」

「ぶへえ!?」

 

 それを見たルフィが腕を伸ばして殴りつけ。

 

「オラァ!」

「ぐほっ!?」

 

 ルフィが着地する瞬間を狙っていた海兵を、ジョットのスタープラチナで氷塊を投げる事で妨害し……。

 

 殴る。投げる。蹴る。オーラで痺らせる。銃弾を跳ね返す。

 彼らは、時に助け合いながら、時には連携しながら近づく海兵たちを吹き飛ばして行った。

 その光景に海兵たちは恐れ、一人、また一人と後退る。

 

「どけ、お前ら!」

「あの程度のチビ人間に何を恐れる!」

「巨人族の力思い知れ!」

 

 そこに巨人兵三名が、ルフィ達を潰そうと動いた。歩く度に氷の大地が揺れ動き、ルフィは向かって来る敵を前に親指を噛んで技を発動させる。

 

「“ギア(サード)――骨風船!”」

「なるほど……麦わら、援護する!」

 

 跳び上がったルフィの背後に追従するように、ジョットもまた跳び上がる。

 ゴムの性質を利用して、巨大化させた腕を後方へと伸ばすルフィ。ジョットはその腕に着地すると、両手で触れる。

 

「――武装色硬化!」

「なんだ、これ!?」

 

 ジョットが覇気で強化すると、ルフィは己の巨大な腕が黒く染まり……しかしそれ以上に凄まじい力が纏わりついているのを感じ取っていた。

 それに戸惑うルフィにジョットが叫ぶ。

 

「気にするな麦わら! お前はそのまま叩き込め!」

「――おう! “ゴムゴムの――巨人の銃(ギガント・ピストル)!!”」

『ぐ――があああああ!?!?』

 

 武器を構えて突進した巨人三人は、覇気で強化されたルフィの一撃で武器を破壊され、そのまま気絶した。

 巨人たちを倒したルフィは技の反動で小さく縮み、氷の大地に落ちる前にジョットに首根っこを掴まされて救助された。

 

「あれは良い一撃だが……反動が厄介だな」

「そうなんだよなー。あれ強ェけどしばらく小さくなるんだよ!」

 

 子どもの姿で文句垂れるその姿にジョットは密かにため息を吐き、ハンコックは目をハートにして仰け反っていた。どうやら愛しい人の幼い姿に心撃たれたらしい。周囲の海兵たちが「星屑のジョジョが何かしたのか!?」と騒いでいる。

 とはいえ、戦場で戦えなくなるのは不味い。ジョットはルフィの縮小された彼のオーラを見て、手を加えても問題ない事を確認すると能力で刺激する。

 すると、ルフィの体はミョンッと元に戻り、本人は縮小化が解除されて驚いていた。

 

「わわっ!? な、なんだ?」

「お前のオーラを元に戻した。……おそらく技にまだ慣れていないだけなのだろう。もっと強くなれば反動無しで巨大化を使える」

「そうなのか! そっかァー……ところでよ、さっきのあの黒いの何だったんだ?」

「“覇気”という奴だ。見た感じお前も――いや、その話は後にしよう。今は戦争中だ」

 

 そう言って、ジョットは突っ込んできた海兵を殴り飛ばし、ルフィも自分に襲い掛かって来た敵を吹き飛ばした。

 ルフィがドラゴンの息子だと知り、海兵たちは今まで以上に殺意高く彼らを討ち倒そうとしている。ジョットとルフィが手を組んでエースを助けようとするその光景は、海軍にとって不吉以外の何物でもない。彼らの思い通りにすれば――海軍はかつてない危険因子を世に解き放つ事になる。

 

「麦わらァ~~! 星屑ゥ~~!」

「モリアか……厄介な奴が居るな……!」

 

 そんな海軍とは他所に、私情でルフィたちを襲うモリア。

 目の前の二人には酷い目に遭わされた。片やスリラーバークで集めた影を解放され、片や一撃で己を吹き飛ばしプライドを傷つけた。無視するにはあまりにも目障りだった。

 

「行け! ゾンビ兵たち!」

 

 此処は戦場。時間が経てば経つほど死者が増え、相対的にモリアの兵士が増える。

 近くに居た海兵たちから手当たり次第に影を引き抜くと、モリアはそれを死者に植え付け己の私兵にした。新世界の海賊並びに名を馳せる海兵たちの肉体と影を持ったゾンビたちが、主の指示に従ってルフィたちに襲い掛かった。

 

「スタープラチナ!」

「無駄だ星屑! オレ様のゾンビ兵は死なねえ! いくらテメエの拳が強くとも、死者は殺せねえだろ!」

 

 飛び掛かって来たゾンビの大群をスタープラチナのラッシュが吹き飛ばし、しかしそれを見るモリアは嘲笑う。かつて新世界でカイドウと戦った時は、仲間が生きている人間だったから負け、そして失う喪失感を味わった。その時の屈辱からモリアは死なないゾンビ兵を求めて――現在に至る。

 故に、モリアは己のゾンビ兵に自信を持っていた。考え得る限りで最強の兵士だと。

 だが――相手が悪かった。

 

「――ハア!?」

 

 目の前の光景にモリアが叫んだ。

 スタープラチナに殴られたゾンビ兵達が――影を吐き出して倒れていく。

 弱点である塩を喰らった訳でもないのに一体どうやって?

 

「取って付けた(オーラ)なぞ、オレのスタープラチナに敵う訳がねえ!」

「星屑……!」

 

 答えは簡単。相性が悪かったからだ。

 モリアが相手から奪う影は、相手の半身そのもの。故に死体に植え付ければ元の持ち主の力を発揮する兵士となる。だが、オーラを操り、見る事ができるジョットからすれば、モリアのゾンビ兵程倒しやすい敵は居ない。死体に引っ付いている(オーラ)を叩いて剥がせば良いのだから。

 ジョットの能力に歯噛みするモリア。そんな彼にさらなる天敵が現れる。

 

 突如海水がゾンビ兵たちを飲み込み、その口から次々と影を吐き出していく。

 

「便利な能力じゃのう……確か名はジョットさんだったか?」

「ジンベエ!」

「ジンベエ? じゃあ、こいつがあの……」

 

 助太刀に入った男にルフィが喜びの声を上げる。ジョットは目の前の男がハチから聞いた王下七武海の一人“海侠のジンベエ”だと知ると、目を見開いて驚いた。

 先ほどは白ひげと麦わらに気が取られて気が付かなかったようだ。

 しかし、何故七武海の彼がこちら側に? と疑問に思い――ハチの言葉を思い出して一人納得した。

 

「なるほど。聞いた通りの漢だな」

「……父親から聞いたか?」

「いや、友達(ダチ)からだ――アイツはアンタに任せる」

「ああ、任せておけ」

 

 頼むぞジンベエ! と叫んで処刑台へと向かうルフィを見送り、ジンベエは目の前の敵へと向き直る。

 

「ワシが相手じゃモリア! ルフィ君たちの邪魔はさせんぞ!」

「ジンベエ~~! お前が一番邪魔なようだな!」

 

 怒り狂うモリアとジンベエが激突する。

 

 一方、モリアをジンベエに任せて先に進むルフィ達の前に、再び敵が立ち塞がる。

 暴君くまと鷹の目のミホークだ。

 

「あいつは、鷹の目! あんな強いのと相手していられねえぞ!」

「くま野郎の能力も厄介だ。あの肉球でまた別の場所に飛ばされたら洒落にならん」

 

 迂回して進むか。もしくはルフィを先に進めるか。

 そう考えていたジョットの頭上を二つの影が飛び出した。

 

DEATH WINK(デス・ウィンク)!」

「イワちゃん!」

 

「はっ!!」

「ビスタ!」

 

 まばたきでくまを弾き飛ばすイワンコフ。ミホークに斬りかかる白ひげ5番隊隊長“花剣のビスタ”。

 新たなる援軍にそれぞれ名を呼ぶルフィとジョット。

 

「麦わらボーイ! こいつは私に任せっチャブル!」

「行けジョット! 此処は私たちに任せろ!」

「分かった、ありがとう!」

「恩に着る」

 

 素直に従って、二人は戦場を駆け抜けた。

 

 イワンコフは数年顔を見ないうちに豹変した元同胞に、己の顔を大きくさせていきり立つ。

 

「ヴァナータに何が起きたのか分からないけど、麦わらボーイに害を為すのなら手加減しない!」

「……」

 

「“花剣のビスタ”か」

「オレを知っているのか?」

「知らない方がおかしかろう」

 

 七武海を足止めし、死なせてはならない男達を守る為――二人は目の前の強敵に踊りかかった。

 

「ハアハアッ! ――おりゃっ!」

「……」

 

 走りながら戦うルフィを見ながら、ジョットは眉を顰めていた。

 随分と消耗している。しかしそれも無理もない。

 ルフィはインペルダウンに潜り込み、そこに収容されていたエースを助けるべく暴れていたからだ。毒に侵されて一度死にかけても尚。

 ジョットの目から見たルフィの体はボロボロだ。先ほど縮んだ時に体を元に戻すためにオーラを流し込んだのだが、その時にルフィの体は限界を超えている事に気が付いていた。

 言っても止まらないだろうから黙っていたが……このまま戦わせるのは少し危ない。

 ジョットは隣で走るルフィの背中に触れる。急に触られたルフィが「ん?」と不思議そうに彼を見た。

 

「はっ!」

「んびびびび!?」

 

 そして、次の瞬間ビリビリッとした感触がルフィを襲った。

 

「お前! いきなり何すんだジョジョ!」

 

 突然の事にルフィがジョットに吠える。

 ゴムの体で電気が効かないルフィが初めて感じる強い痺れ。それに戸惑ったというのもあるが、戦いの最中……それもエースを助けようとしている時にイタズラをされたのでは堪ったものではない。

 ジョットは、海兵を殴り飛ばしながら簡潔に言った。

 

「お前のオーラがボロボロだったからな。少し治させて貰った」

「オーラ??」

「さっきから見ている筈なんだがな……つまり、元気になるって事だ」

「そっか! 言われてみれば確かに!」

 

 そう言ってルフィは腕を伸ばして海兵を殴り飛ばす。ジョットの言う通りさっきよりも調子が良いみたいだ。加えて、拳が何やらモヤモヤしたものに纏わりつかれている。

 それを見たジョットが少しだけ驚いていた。何故なら、今ルフィが纏っているそれはジョットが治療用に流したオーラであり、決して強化するためのものではない。それでもルフィが使っているという事は――。

 

「麦わらァ!」

「あいつ、ケムリン!」

 

 そんな時、突如ルフィの名を呼ぶ怒号が響いた。

 前を見ると体を煙に変えて勢いよくこちらに向かってくる海兵の姿があった。

 彼はスモーカー。ルフィに因縁ある敵だ。

 スモーカーは海楼石が入っている十手を構えて突貫する。それを迎え撃つため、ルフィが拳を構えた。

 

「“ゴムゴムの――”」

「無駄だ! お前の能力じゃあおれには勝て――」

 

 しかしスモーカーは止まらない。何故なら彼の体は煙だからだ。

 覇気を使えないルフィでは、彼の実体を捉える事は不可能!

 ――本来ならば。

 

「“――(ピストル)ゥ!”」

「――ぐっ……!?」

 

 深々と突き刺さったルフィの拳に、スモーカーの顔が痛みで歪む。

 その光景にルフィも驚いた表情を浮かべ、パチンッと戻った己の拳を見て不思議そうにしている。

 

「どういう事だ……くそ!」

 

 訳が分からない。しかし、止まる訳にはいかない。

 再び己の体を煙にしてルフィへと襲い掛かるスモーカーだが。

 

「ルフィの邪魔をするでない!」

「ぐっ!」

 

 ルフィの前に突如ハンコックが現れ、スモーカーを足蹴にした。

 それに海兵の間で動揺が走る。

 

「海賊女帝が麦わらの援護を!?」

「ハンコック……テメエも七武海をやめるつもりか!」

「黙れ! わらわの愛しき人に手を出すのなら容赦せぬぞ!」

 

 覇気を全開にしてそう叫ぶハンコックは、流石は七武海でありアマゾン・リリーの皇帝だと見るべきか。

 彼女の姿に海兵は恐れおののき……しかし美しさに目が眩んでメロメロだ。

 ハンコックは振り返るとこっそりとルフィにある物を渡した。

 

「ルフィ、これを。兄の手錠の鍵じゃ。これでそなたの兄を救うのじゃ」

「ハンコック……! ありがとう!! 恩に着るよ!」

「はぁん♡」

 

 嬉しさのあまりハンコックに抱き着いて喜びを顕にするルフィ。

 しかしそれ以上に嬉しいのがハンコックだった。今までは何処か自分に都合の良い妄想をしていたが、これは違う。正真正銘本人からの抱擁だ。

 名前を呼んでもらうだけで嬉しいのに、このような事があっていいのか? と思ってしまう。美しいから何をしても良いと思っている彼女が、だ。

 

「これが……プロポーズ!?」

「ありがとう!」

「何だったんだ?」

 

 嬉しさのあまり崩れ去るハンコックに、こっそり礼を言いながら走るルフィ。それを追いながらあまり状況を理解していないジョット。

 海兵たちはハンコックがルフィにやられたと騒ぎ立ち、スモーカーは走り去るルフィを追いかけようとするが……。

 

「“芳香脚(パヒューム・フェムル)!”」

「っ……テメエ、海軍の邪魔をしてただで済むと思ってんのか!」

「――何をしようとも、わらわは許される。何故なら――わらわが美しいから!」

 

 そう言って見下し過ぎて逆に見上げるハンコック。

 スモーカーにとってはふざけた態度だが――ルフィを追うには、目の前の女が邪魔だった。しばらく追えそうにない現状に、ギリッと葉巻を強く噛む。

 

「知り合いか?」

「ああ! あいつには何度も助けられた!」

「そうか――だったら、それに報いる為にも必ずエースを救うぞ!」

「ああ!」

 

 ジョットの言葉に、ルフィは力強く答えた。

 

 

 

 ――仲間たちの手を借りて、着実に処刑台までの距離を詰めていくルフィとジョット。

 友の為、兄の為、家族の為――ただ一人の為に彼らは走り続ける。

 そして、それを迎え撃つ海軍はこの先の海の平和の為に戦力を惜しまず投入し――次の一手を繰り出す。

 

「あいつら、何をしているんだ!?」

「エースの処刑までまだ時間がある筈だぞ!?」

 

 早まる処刑。切られる映像電伝虫の通信。

 

「湾頭を見ろ! 何かいるぞ!」

「おれ達の仲間じゃねえ! 氷の裏を通って回り込んできたんだ!」

 

 現れるのは世界政府が作り出した人間兵器『パシフィスタ』。

 

「さァ、お前ら出番だぜ!」

 

 そして――蘇る伝説の海兵。

 

「遊撃隊――この黒腕のゼファーに続けェ! 海軍の正義の元、海賊共を殲滅しろォ!!」

 

 開戦より約一時間半の死闘を経た頃、海軍が大きく仕掛ける。

 戦争は急速に流れを変え――最終局面へと一気に雪崩れ込む!

 

 




ドフラミンゴさんはジョット関わるのが正直嫌だったので
原作通りクロコダイルさんを誘った所原作通りフラれました


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愛する(バカな)息子たち

「うらぁあああ!」

『ぎゃああああ!?』

 

 右腕に取り付けられた巨大な武器バトルスマッシャーで、元海軍大将ゼファーは海賊達を次々と吹き飛ばしていった。過去に覇気の達人として敵からは恐れられ、味方からは頼りにされたゼファーの体術は、並大抵の者では太刀打ちできない。

 遊撃隊を率いたゼファーは白ひげ傘下の海賊たちを吹き飛ばしながら、確実に湾内へと追い込んでいく。

 

「老兵を引っ張り出して来たか、センゴクめ……!」

 

 湾頭右方からはゼファー並びに新世界で数多の能力者持ちの海賊を仕留めてきた遊撃隊。

 湾頭左方からはベガパンクが開発、改造、量産した人間兵器パシフィスタ。

 予め周りの軍艦を打ち崩したため、全方位から狙われるという最悪の事態にはならなかったが……それでも被害は甚大だ。

 青雉が凍らした高波によって逃げる場所は無く、前に進むしかない。

 白ひげの指示のもと、傘下の海賊たちは一気に広場に向かって駆けていく。

 

 そんな時だ。白ひげの元に一人の男――スクアードが現れたのは。

 

「スクアード。無事だったのか!」

「……」

 

 先ほど周りの軍艦の包囲網を崩す際に連絡をしようとした傘下の海賊スクアード。

 連絡が取れずディカルバン兄弟に指揮を任せたのだが、どうやら彼は海兵に討ち取られた訳では無かったらしい。

 息子の無事に白ひげが安堵の声を声を上げるも、スクアードは俯いて何も答えなかった。

 その様子に内心首を傾げる白ひげだが、ここは戦場。時間は待ってくれない。彼はスクアードの指示を下した。

 

「相手は持てる戦力を全てぶつけて来た。こうなりゃあ一気に攻め込む他ねェ! おれも出る!」

「……なぁ、オヤッさん。その前に一つだけ答えてくれねえか?」

 

 薙刀を手に一歩踏み出した白ひげを阻むように、スクアードは前に出てここで初めて口を開く。その光景を戦闘中のマルコが見つけ、そして次第に他の隊長たちや傘下の海賊の目にも止まる。

何故スクアードがあそこに? そう疑問に思う中――彼は、手に持った刀を鞘から引き抜き……。

 

「――アンタが、エースの命を買う為に傘下の海賊の首を売ったってのは……本当なのか!?」

「……!?」

 

 その刀を親と慕う男に向け――スクアードの怒号が戦場に響いた。

 彼の言葉は……白ひげ海賊団を大きく揺らした。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「おれは反対だ! こいつをオヤッさんの船に乗せるのは!!」

 

 時は遡り。

 白ひげ海賊団と傘下の海賊団が集結し、船のコーティング作業をし待機していた頃。

 白ひげは、今回のエース奪還の戦いに参加する事となったジョットの存在を傘下の海賊たちに伝えていた。もちろん、彼がどのような血筋を持ち、どのような考えを持ち、どのような経緯で此処に居るのか余すことなく。

 しかし、それに待ったを掛けたのが“大渦蜘蛛”スクアードだった。

 彼は過去に白ひげに救われた事もあり、人一倍忠義心の強い真っ直ぐな人間だった。

 だからこそ、得体の知れないジョットの参入に真っ先に反対した。

 

「そいつは、隠者の息子だ! 何を仕出かすか分からねえ!」

「オレはエースを助けたいだけだ」

「どうだかな……! この機を狙ってオヤッさんの首を獲りに来たって言う方がまだ分かる!」

「スクアード落ち着け。そいつにあの狸爺の狡猾さはねェよ」

「――だが! あの女のように裏切る可能性がある!」

 

 その言葉を言った瞬間、空気が凍った。

 マルコが険しい表情を浮かべて、今のスクアードの発言に口を挟んだ。

 

「スクアード! 今は姐さんの事は関係無ェよい!」

「関係ならあるぞ! そいつは――オヤッさんを裏切って隠者に付いて行き、ロジャーを海賊王にした裏切りの者の血を引いているじゃねえか!」

 

 スクアードは……ロジャーの手によって仲間を失った過去がある。

 悲しみに暮れ、絶望していた彼を救い上げたのが白ひげであり、温かく迎え入れたのが今の隊長たちとジョットの母リードである。

 スクアードは白ひげ海賊団を愛していた――だからこそ、白ひげを裏切ったジョン・スター・リードを許せない。

 

「それは、あのクソッタレに着いて行った後にロジャーの傘下に入って……!」

「うるせえ! とにかく、おれぁ認めねえぞ! もう、あんな裏切りはごめんだ! ただでさえ、エースがロジャーの息子だって知って混乱してんのに、こんな……」

「……」

 

 頭を抱えてギリッと歯を食いしばるスクアード。そんな真っ直ぐな息子を見て白ひげは目を閉じる。親の罪を子に問うなと言っても、スクアードは上手く踏ん切りが着かないだろう。その考えは隊長たちも同じであり、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 

「――アンタの考えは正しいぜ、スクアード」

 

 そんな時、ジョットが動いた。

 黙ってスクアードの言葉を聞いていたジョットは、何と彼の言う事を肯定した。その発言に傘下の海賊たちの目が戸惑いの色から疑いの色へと変わり、濃くなっていく。

 ジョットの突然の行動に隊長たちは戸惑いを見せ、彼に何を言い出すんだと詰め寄った。

 

「おいジョット! これ以上話をややこしくするな!」

「ややこしい? 何処がだ? これ以上無いほどシンプルな話じゃねーか。なぁ、スクアード」

「……どういう意味だ」

 

 自分を睨み付けるスクアードの瞳を、ジョットは真っ直ぐな目で見返した。まるで彼の母のように。

 一瞬過った考えを打ち消し、スクアードは再度問いかける。

 

「さっきテメエは裏切るって言ったよな! それはどういう事だ!」

「ああ。確かに言った。しかしちぃとばかし言葉が少なかった……オレはこう言いたかったんだ」

 

 全員が見守る中、ジョットはスクアードに――否、白ひげ海賊団全員に聞こえる声ではっきりと言った。

 

「――白ひげがエースの命を諦めた時、オレは白ひげを裏切る」

「――な」

 

 白ひげがエースを裏切る。それはつまり、息子の命をみすみす見逃すという事であり――。

 その言葉の意味を理解した瞬間、スクアードは感情を爆発させてジョットに掴みかかり刀を抜いて叫んだ。

 

「オヤッさんがそんな事する訳ねェだろ!! テメェ舐めた事を抜かすな!」

「そうだ! オヤッさんを馬鹿にするな!」

「白ひげは仲間を絶対に売らない! そんな事も知らねえのかテメェは!?」

 

 ジョットの言葉に怒りを覚えたのはスクアードだけではない。他の者たちも口々に彼を罵倒し、白ひげを悪く言うなと叫んだ。

 たった一人に向けられた新世界の海賊たちの怒り。それは、並みの人間なら卒倒しそうな程過激で、比例して彼らが白ひげをどれだけ慕っているのかがうかがえる。

 

「――テメェ、何笑っていやがる」

「いや、白ひげの爺さんの凄さを改めて知ってな――なぁ、スクアード」

 

 ジョットはスクアードの手を優しく振りほどくと、彼が持っていた刀を握りしめた。

 ポタポタと赤い滴が地面にシミを作り、しかしジョットはそれを気にせず刀を己の喉元へと向けさせると……目の前のスクアードに言った。

 

「アンタの信じる白ひげは絶対にエースを見捨てねぇ。だったら、オレが裏切る事もねぇよ」

「っ!? そ、それとこれとは話が違――」

「いいや、同じだ」

 

 グイッとジョットがさらに刀を自分へと引き寄せ、それにスクアードは思わず抵抗した。地面へと落ちる血が増え、しかしそれ以上に目の前の男から目が離せなかった。

 

「アンタが信じる男はデケェ人間だ。家族の命救う為に世界に喧嘩売る男――今まで見たことねぇよ。横取り考える小せぇ輩なんて、飲み込まれて仕舞いだ」

「あ、ぐ……!」

「別にオレの事を信用しなくて良い。オレも勝手にエースを助ける口だからな。信用しろっていうのが無理な話だ。だが――」

 

 ジョットの刀を握る力が増し、血が噴き出した。

 

「テメェの信じる親父が決めた事くらい、信じてみろ! 息子だろ? 大渦蜘蛛スクアード!」

 

 ――それでも信用ならなかったら、いつでもオレを殺しに来い。いくらでも相手になってやる。

 

 そう言って、彼は無理矢理白ひげ傘下の海賊たちを黙らせ……後に「無茶し過ぎだ」と白ひげから拳骨を貰った。

 

 その時の光景を思い出し、スクアードは考えた。

 あの男は信じても良いのだろうか? オヤジと慕う白ひげの言う事なのだから、彼の……ジョットの言う通りに、白ひげを信じて戦っても良いのだろうか。

 

 その考えは戦争が始まってからも胸の奥で燻り続け、しかし白ひげと肩を並べて立ち、時には助けに入る光景を見ているうちに信じても良いのでは? と思い直していた。

 

「――白ひげは、お前たち傘下の海賊の首を売り、エースの命を買った!」

 

 そんな時だ。海軍大将赤犬が、スクアードに接触して来たのは。

 初めは敵の言う事だと信じず、口車に乗らないと切って捨てていた。反乱因子を名乗り、白ひげを刺せば助けると言われても首を縦には降らなかった。

 だが――。

 

「ああ、そうかい。――じゃが、星屑のジョジョが生きている限り、お前らの未来は無い」

「……どういう意味だ!」

「妙だと思わんかったか? 偉大なる航路(グランドライン)前半に居た筈のアイツが、新世界の白ひげの船に居る事に! 奴は政府と白ひげを繋ぐパイプ役として現れたんじゃ!」

「……テメエはこう言いたいのか。星屑のジョジョが初めから裏切り者だと! だったら、何故お前はあいつの顔を見た時、真っ先に攻撃して――」

「言ったじゃろう。わしはこの作戦に反対しとると。現に、元帥から睨まれた……それでもわしはあの悪の血を引く海賊を殺さにゃならん! 仲間の命が惜しいなら、わしに協力しろ――大渦蜘蛛スクアード!」

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「どういう事だ……?」

「オヤッさんが俺たちを売った? そんな事がある訳――」

 

 スクアードの言葉に戸惑う海賊たちの背後から、次々とパシフィスタがレーザーで撃ち抜いていく。ひとまず逃げようと海賊たちは足を動かし……気づいた。前には海兵。側面は青雉が凍らせた高波。だが、それを作ったのは――白ひげだ。

 これでは、傘下の海賊たちは袋の鼠だ。これではまるで、本当に――。

 

「そんな、まさか本当に……!」

「これじゃあ逃げ切れねえ!」

「見ろ! 湾頭から来た奴ら、傘下の海賊(俺達)しか狙ってねえ!」

 

 傘下の海賊たちの顔に絶望の色が浮かび上がる。

 白ひげの為なら命は惜しくないと着いて来た彼らだが、もしこれが政府との茶番劇だとしたら――これほど間抜けな事はない。

 傘下の海賊たちの悲鳴と怒号を耳にしながら、モビーディック号の上でスクアードと白ひげは対峙していた。

 

「なぁ、オヤッさん……どうなんだ?」

 

 スクアードの顔は酷い有様だった。赤犬から告げられた言葉と現状が見事に一致しており、まるで彼の言っている事は本当で――目の前にいる男が裏切っていたのだと言わんばかりに、次々と傘下の海賊たちが襲われている。

 できれば、このような光景を見たくなかった。嘘であって欲しかった。

 

「答えられねえのか?」

 

 白ひげに「違う」と一言言って欲しかった。

 

「だったらおれは――馬鹿な息子だ!」

 

 故に、彼は――刀を思いっ切り振り下ろした。

 

「アンタを……疑う事ができねぇ!!」

 

 白ひげに向けていた刀は船上を深く切り付けただけで、白ひげ自身に傷はない。

 その光景に足を止めていた者たちが呆然と見上げる。マルコは飛び上がろうとしていた己の体を止め、ジョットは振り返って黙って見つめ、赤犬は舌打ちを打った。

 スクアードは、ポロポロと涙を流しながら叫んだ。

 

「もし赤犬の野郎が言っていた事が本当ならおれは死ぬ! オヤッさんを信じて死ぬ間抜けだ! でも、おれはそれで良い! オヤッさんを疑って生きるくらいなら――死んで馬鹿な息子であり続けるッ!!」

「――スクアード」

 

 スクアードは――赤犬の言葉に耳を傾けなかった。

 白ひげに問いかけたい事はたくさんある。何故エースの事を言ってくれなかった。何故黙っていた。何故ジョットを信じる事ができた。

 だが、彼はそれを押し殺してただ家族のために戦うと決めた。

 何故なら、白ひげが世界で唯一「オヤッさん」と呼ぶ事ができる父親だからだ。

 そして、彼らも同じだった。

 

「おらぁ!! 逃げるのはもう止めだ! こいつら倒してエースを助けるんだ!」

「ああ……そうだな! オヤッさんが裏切ったとかそんなのもう関係ねぇ! 疑うくらいなら、馬鹿な息子で居ようぜ!」

「どけぇ! このデカブツ! 俺たちの邪魔をするなぁ!」

 

 傘下の海賊たちは逃げ惑うの止めて、立ち塞がるパシフィスタに殺到し、踏み越えてエースの元へと駆け抜けた。

 裏切り? 結構! 息子のまま死ねるのなら本望だ!

 彼らは、彼らの信じる白ひげの為に、海軍に立ち向かった。そこに疑心は無く、彼らは獰猛な笑みを浮かべて雄叫びを上げた。

 

「……グラララララ! スクアード、おれはお前を誇りに思うぞ!」

「――オヤッさん!」

 

 そして、そう思う気持ちはスクアードだけにでは無い。追い込まれても尚、白ひげを慕う息子たち。白ひげの向ける特別な感情に彼らは見事応えてみせた。

 なら、それに応えるのが親というもの。

 

「――ふん!」

 

 白ひげは、グラグラの実の能力で両サイドにある氷の壁を打ち砕いた。

 阻まれた障害が無くなり、軍艦も無事でいつでも逃げる事ができる。

 しかし――。

 

「――覚悟は良いか、野郎ども!!」

『オオオオオオオッ!!』

 

 誰一人、振り返る事無く前を見て走り続けた。

 彼らにもはや退路は必要ない。

 必要なのは――エースへと続く道のみ!

 

「行くぞ野郎ども! エースを救い出せぇ!!」

 

 白ひげが戦場に降り立ち、海賊たちは一気に広場に向かって突き進んだ。

 それを見て萎縮する海兵たち。

 彼らを止めるには――生半可な覚悟では足りない。

 信じるものの為に戦う者は誰よりも強いのだから。

 

「――やっぱり凄ぇな。白ひげ海賊団」

 

 それを見ていたジョットは、戦場では似つかわしくない穏やかな笑みを浮かべた。

 



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激突

「サカズキの野郎。作戦失敗しているじゃねえか」

 

 士気が上がり、エースの元へと走る白ひげ傘下の海賊を見ながら、ゼファーは口元を綻ばせながら呟いた。

 口では文句を言いつつも、何処かこの状況に納得している様に見えた。

 センゴクは掻き回せれば良いと言っていたが……これでは逆効果ではないか。

 

「センゴクの奴衰えたか? もしくはニューゲートが上を行ったか……いや、違うな」

 

 ゼファーは、戦場に立って感じ取っていた。

 長年の勘と言うべきか、彼の知らない“ナニカ”がこの戦争に深く根付いている。

 ゼファーは、その原因であろう男へと視線を向ける。振り返って笑みを浮かべて、隣の麦わらの少年と何か話している。

 

(センゴクが手古摺る訳だ……)

 

 頭を抱えてブツブツと文句を言っていた友を思い浮かべながら、ゼファーも動く。

 策が破られ、白ひげが動く以上この先の行動は決まっていた。

 

「遊撃隊。今すぐこの戦場を離れて広場の海兵と合流し、防衛に当たれ! 海賊共の追い込みは人造兵器とオレがやる!」

「はっ! ゼファー先生!」

 

 ゼファーの指示に従って踵を返す教え子の背中を見送りながら、彼はモビーディック号から降りた白ひげを見る。

 

「さて、オレの本来の仕事をさせて貰おうか」

 

 ゼファーは、能力者の海賊たちを次々と狩っている実績を持つ男だ。

 腕に取り付けられたバトルスマッシャーは海楼石で作り出した兵器。つまり、彼の武器は能力者に対して無類の強さを誇るという事だ。

 今までは作戦によって傘下の海賊たちを襲っていたゼファー。しかし、もうその戒めは必要ない。着実に戦力を削る為――隊長たちを狙うことにした。

 

「はっ!」

 

 ゼファーが跳んだ。月歩を使って空を蹴り、一番最初に視界で捉えた男――3番隊隊長“ダイヤモンド・ジョズ”に狙いを定め、右腕のバトルスマッシャーを振り下ろした。

 ジョズは、直前に気付いて己の能力を行使し体をダイヤへと変化させる。そして、こちらに向かってくるゼファーの一撃を迎え撃つべく、クロコダイルを吹き飛ばす威力を持つ技を使った。

 

「“プリリアント・パンク!”」

 

 ダイヤモンド化させた腕でのラリアット。喰らえばダメージは必須。

 しかし、ゼファーの右腕はそれを受け止め……あろうことか押し返した。

 苦悶の表情を浮かべて後退るジョズ。激突した際の脱力感から、ゼファーの巨大な義手の正体に気付いたのだ。

 そんなジョズにゼファーが笑みを浮かべて襲い掛かる。

 

「ダイヤモンド・ジョズ! 3番隊隊長とか呼ばれて、良い気になっているんじゃねえのか!」

「なにを……!」

 

 海楼石の腕とダイヤの腕が音を立てて激突する。

 しかし相性の差でゼファーが有利だからか、打ち合う度にジョズの動きが鈍くなっていく。

 覇気が込められた左腕も厄介で、巨大な右腕をフェイクに近づき腹部に叩き込んで来る。素手な分スピードもあり、ジョズは何発も良いものを喰らった。

 そして――。

 

「ぐっ――」

「覇気も使えるようだが――修練が足りんなァ!」

 

 海楼石の腕がジョズの巨体を捕らえた。

 そして、義手に仕込まれた機能を作動させる。

 

「“スマッシュ・ブラスター!”」

 

 スマッシャーから巨人族を一撃で屠る威力の砲撃が放たれ、ジョズは爆煙に包み込まれ――そのまま白目を剥いて気絶していた。

 それを見た海賊たちが目を見開き、叫んだ。

 

「ジョズ隊長ーー!」

「そんな、隊長があんなあっさり……!」

 

 戦慄する海賊たちを視界に入れながら、ゼファーは倒したジョズを捨て置くと前に出る。

 そして、スマッシャーを構えてショックで体を固くした海賊たちを吹き飛ばした。

 

『ぎゃああああ!?』

「せいぜい生き残れよ海賊共ォ! おれを止めるのなら、命を懸けろォ!」

 

 そう言うと、ゼファーは次の標的の元へと跳んだ。

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 ゼファーが隊長格を狙って襲い掛かると同時に、白ひげも動いていた。

 グラグラの実で島を傾けさせて海兵たちのバランスを崩させ、目の前に立ち塞がった巨人海兵ジョン・ジャイアントを一発で仕留めた。さらに地震の力はそのまま処刑台へと射線上の海兵たちを吹き飛ばしながら突き進む。その力に海兵たちは恐れ戦き、海賊たちは勝鬨の声を上げる。

 だが、三大将によって白ひげの一撃は逸らされてしまい、海軍の強固な守りを堂々と見せつけた。

 

「氷の下に落ちるかと思った……! あのおっさん、味方も敵も関係無しか」

「白ひげ海賊団の者たちは邪魔にならねぇように動いている。オレ達も合わせた方が良さそうだ」

 

 グラグラの実の影響で海の中に落ちかけたルフィの言葉にジョットが答える。

 白ひげが動いた事で大分戦場が混乱した。しかし、海兵の邪魔が無くなった分広場までの道が一気にできた。妨害の無い今がチャンスだ。

 ルフィが腕を伸ばして、エースの元へと向かおうとする。しかし、突如氷の下から飛び出した鋼鉄の壁で弾かれてしまった。

 

「な、なんだ!?」

 

 戸惑いの声を上げるルフィ。壁が飛び出したのはルフィの目の前だけではない。

 まるで湾内を囲うかのように壁が現れた。まるで、海賊たちを袋小路にしているかのように。

 海賊たちが壁に攻撃を仕掛けるが、頑丈に作られており傷一つ付かない。

 ジョットは、壁の強靭な耐久力と備え付けられた大砲に嫌な予感を感じていた。

 

「まさか――」

 

 ジョットは、勘を頼りに跳び上がった。下からルフィが呼び掛けるが、それに応える暇もない。

 ジョットが壁の高さを乗り越えると同時に――目の前に赤犬の“流星火山”が迫り来ていた。

 ――やはり、そうか。

 氷の大地に溶岩が降り注げばどうなるか。子どもでも分かる事だ。そうなれば海賊たちは海に放り出され、壁に取り付けられた大砲とパシフィスタによって袋叩きに遭う。

 それを何としてでも防ぐために、ジョットはスタープラチナと共に目の前の溶岩群を打ち壊す。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

 

 幾つかの溶岩を壊すも、広範囲に放たれた溶岩を防ぐには二人では足りなかった。

 打ち漏らした溶岩が氷を溶かし、海上の船を沈めていく。そして、その中には白ひげ海賊団を長い間支え続けたモビーディック号の姿があった。

 

「モビーディック号が!」

「ちくしょう! 俺たちの船が!」

 

 白ひげは、燃えて海の底へと沈んでいく長年の相棒に心の中で謝る。

 だが、もう立ち止まってはいられない。この戦いで命を落とした者は多い。それに報いる為にも、エースを何としてでも助け出さなくてはならない。

 白ひげは、自分たちを阻む壁に向かって能力を使用した。しかし、大きな音を立ててへこむだけで壊れない。どうやら、この日の為に特注で作った代物なようだ。

 そうなると、唯一の突破口であるオーズの上を行くしかない。海兵たちが待ち構えていようともだ。

 そう考えてルフィが突っ込むが……あえなく砲撃の集中砲火にあって返り討ちにされた。

 それを赤犬の溶岩を蹴散らしながら見ていたジョットが、ルフィの元へと戻る。同時に、それぞれ相手をしていた敵が撤退した事で手が空いたジンベエとイワンコフも合流した。

 

「ルフィくん! 無茶をするな!」

「敵が唯一空いているあの道を放って置く訳が無いっシブル! むしろ罠よ!」

「ゼェゼェ……だってよ! あいつらエースの処刑をするって……!」

「ああ。オレも聞いた――いよいよやべえな」

 

 ルフィの焦る気持ちは、白ひげたちと同じだ。

 だが、急げば急ぐほど海軍の思う壺。

 どうすれば――打開策を考えるジョットたちに、ルフィが言った。

 

「――頼みがある!」

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 突如、湾内から一つの海流が飛び出した。それは海軍が作動させた包囲壁を乗り越え――三大将の立つ広場へと着弾した。

 そして、その中から出てきたのは――麦わらのルフィ。

 折れたマストを手に、彼は息を切らしながら海軍の最高戦力を前に立つ。

 

「あららら……とうとう此処まで来たか。だが、お前にはまだ早いよこのステージには」

「堂々としちょるのぅ……ドラゴンの息子」

「怖いねェ~……その若さ」

 

 その心意気は認めざるを得ない。しかし、現実は違う。

 ルフィが大将を……それも三人を相手にするには、青雉の言うようにまだ時期が早い。一人でまともにやり合えば、彼の命は無いだろう。

 

 ――そう、一人なら。

 

「――違う、上だ!」

 

 センゴクが叫ぶと同時に、広場上空から猛スピードで落下する影があった。

 その影は、ルフィの前に降り立つと、ギロリと目の前の大将を見据える。ルフィの無理矢理な侵入に気を取られた隙を突いた突貫。現れた男――ジョットに大将たちの表情が変わった。

 

「お前らの相手は――オレだ三大将!」

「ジョジョ……貴様……!」

 

 忌々し気に赤犬がジョットを睨み付け、青雉と黄猿も視線を鋭くさせる。

 

「行け、麦わら! 此処はオレに任せろ!」

「おう!」

 

 ジョットの言葉に答えると同時に、ルフィが三大将に向かって手に持ったマストを投げつける。しかし青雉によって瞬時に凍らせられ――それを死角にジョットが懐に入り込んだ。

 

「――っ!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラ!!」

 

 覇気が込められた必殺の拳。それが青雉を襲う。

 まともに喰らえば致命傷は確実なそれを、青雉は覇気で見切ってロギアの実体の無い体と覇気で受け流す。しかし、ジョットはそれに構わず青雉が凍らせたマストを掴むとオーラを流し込んで補強。そしてそのまま横へとぶん回した。

 

「ふん!」

 

 赤犬のマグマの拳と激突し、触れた箇所は氷が解けて、そして木材は燃え、折れる。

 真っ二つになったマストを、ジョットはギア2で駆け抜けたルフィの背中へと投げる。

 

「うわ!?」

 

 それと同時に、光の速度で移動していた黄猿のレーザーの直撃を躱す事に成功する。

 黄猿は忌々しそうにジョットを見て、処刑台へと走るルフィを見て……どちらが脅威かを考えた結果他の二人の大将たちの隣へと戻る。

 一瞬の攻防に海兵たちが生唾を飲んで見守る中、青雉が口を開く。

 

「さっきまでのように麦わらのお守りをしなくて良いのか、星屑のジョジョ」

「どういう意味だ」

「麦わらは――死ぬぞ。おれ達が止めなくても中将クラスで対処可能だ」

 

 青雉の言うように、ギア2を使用しているルフィの動きを数人の中将たちが捉えて追い込んでいる。

 ジョットの能力である程度回復したとはいえ付け焼刃。根っこの部分はボロボロだ。体力を消耗するギア2を使えばすぐにバテる。

 

「配役を間違えたね~星屑のジョジョ。アイツを捨て石に、君が処刑台に行った方がまだ可能性があった筈」

 

 ジョットはルフィと違って空を飛ぶ事ができる。ルフィが広場に飛び込んだと同時に、開戦時に行ったような突貫をすれば、あるいはエースの元へと届く事ができたかもしれない。

 

「お前ともあろう者が、何故自分よりも弱い男に付き従う? あまり苛立たせるなよジョジョ」

 

 赤犬が理解できないと言わんばかりにジョットを睨み付けた。

 自分が認めた男の行動が、彼の怒りのマグマを逆撫でするのだろう。麦わらを無視して突っ込めば、あるいはあの時七武海を退ければもっと早く此処に立てただろうに、と。

 

 大将たちの問いに対して、ジョットの答えはシンプルな物だった。

 

同盟相手(ダチ)が絶対助けるって言ってんだ。だったら、それに手を貸すのは当たり前じゃねえか――なぁ、三大将さんよ」

『……』

 

 ジョットは、ルフィに対して幾つかの恩がある。これは、それの恩返し――という訳ではない。

 友達が命を懸けて兄を救おうとしている。それを黙って見過ごすのは、クルセイダー海賊団の船長としてあまりにも情けない。

 そして、何よりも根幹の部分が白ひげ達への感情と同じなのだ。白ひげ達を気に入って、友達のエースを助ける為に戦争に参加した事と。

 兄の為に必死になって、戸惑い無く命を懸ける弟の姿に手を貸したいと思った事は。

 効率だとか実力だとか、そういう問題ではない。

 ジョットの魂が麦わらのルフィを全力で援護しろと言っていたのだ。そして、ジョットはそれに従っただけだ。

 

「それと、これは個人的な事なんだが――」

 

 そして、何よりも――。

 

「アンタ達との決着を付けようと思ってな、三大将さんよォ……!」

 

 負けっぱなしというのは、男として我慢ならないというのが本音だ。

 まるで獣のように獰猛な笑みを浮かべるジョット。それに対して大将達は――それぞれ能力の力が漏れ出していた。

 冷気が地面を凍らせ、垂れるマグマが全てを熔かし、指先の光が視界を覆う。

 感情に反応したロギアの力は、主の指示を今か今かと待ち望んでいた――目の前の舐め腐った若造を殺せと。殺意を形にして。

 

「――そうかい。もう何も言わないよ~……光の怖さ、教えてあげるよ」

「――もう少し、物は考えて言って欲しいものだ……粉々になっても知らんぞ」

「――ああ。人を苛立たせる才能は兄弟も妹も変わらんのぅ……存在ごと熔かしてやる」

「いつでも来い――オレはとっくの昔に覚悟決めてんだ」

『――ほざけ!!』

 

 マグマが、氷が、光が、オーラが――広場を死地へと変える。

 近くに居た海兵たちは恐怖に顔を引きつらせ、中将たちも冷や汗を流しながら距離を取る。

 壁の向こうに脅威が居る事も忘れ、彼らは恐れた。三大将と星屑のジョジョ達の決闘の被害に遭う事に。

 それだけ大将達の怒りが恐ろしく……ジョジョの覚悟に圧倒されたからだ。

 

 白ひげが能力を使用していないにも関わらず、マリンフォードが大きく揺れた。

 



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星の導き

『ォオオオオオオーーッ!!』

「怖いね~。前よりも化け物染みている」

 

 もはや独立しているとも言って良い程に暴れるスタープラチナ。

 スタープラチナのラッシュは、一度捕まれば光の速度で移動できる黄猿でも脱出するのに苦労する速さだ。ジョットのオーラで作られた存在なので、青雉と赤犬にも当然攻撃が効く。故に、スタープラチナを抑え込むのは自然と黄猿の仕事となった。

 しかし、シャボンディ諸島で戦った時よりもスタープラチナは雄々しく、荒々しく、そして凶暴だった。まるで意志を持っているかのように雄叫びを上げて黄猿に襲い掛かっていた。

 光の剣――天叢雲剣(あまのむらくも)で打ち合い、超高速の戦闘を繰り広げているが――目の前のスタープラチナはここまで速かっただろうか。

 何発か防ぎ切れず、光の体に走る衝撃に眉を顰めながら黄猿はスタープラチナの脅威を直接感じ取っていた。ロギア特攻の覇気に似た力――オラオラの実の本質から外れだしている悪魔に、黄猿は戦慄を覚える。これは、この世に野放しにしてはいけない。傷が治り、全盛期の肉体を得た黄猿を圧倒する速さと尚成長するその異常さ。放って置けば――世界を支配する力を手に入れる。

 もう数えるのも億劫になる程の打ち合いをしながら、黄猿はそう思った。

 

 

 

 そして、青雉もまた目の前の海賊に戦慄していた。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァ!」

「ぐっ……!」

 

 かつてジョットを倒すために、赤犬と共に一つの島と数多の軍艦を犠牲にジョットを追い詰めた事がある。三日間の戦闘は互いに無視できない傷を付けた。

 しかし、大将たちはモドモドの実の能力によって傷を治した――厳密には違うが――上、全盛期の肉体まで若返った。元々自然(ロギア)の実の能力者で衰えているという訳では無かったが、それでも若返った分動きやすい。少なくともこれで隊長格に遅れを取るという事は無くなった。

 だが、彼はどうだ?

 何故、彼はここまで動ける? 何故、彼は傷を負ってもなお、前へと歩み続ける? 何故彼は――大将三人同時に相手にしても一歩も退かない? 何故……気迫でこちらが圧されている?

 それは、あり得てはならない光景だ。これでは、まるで――。

 

「“大噴火!”」

「“アイス(ブロック)――両棘矛(パルチザン)!”」

「オラァ!」

 

 ――四皇クラスの化け物じゃないか。

 赤犬と放った攻撃が弾き飛ばされ、吹き飛ばされながら青雉はそう思った。

 普段だらけきった態度を見せる彼が、冷や汗を垂らす程にジョットは恐ろしい存在だった。初めて会った時は“だらけきった正義”の元、彼と戦い、そしてその時は見逃して次の戦いに持ち越したが――その結果がコレだと思うと笑えて来る。

 別に後悔はしていない。己の正義は確固たる意志を持って選んだものだ。今更それを疑う気は無い。

 だが――。

 

「――そうも言っていられないか」

 

 認識を改めないといけない敵だ。危険だとか、血筋だとか、そういう問題じゃない。

 青雉は、正義と書かれたコートを触れると――瞳に燃え上がる信念を宿らせて再びジョットへと挑んだ。

 

 

 

 赤犬は、ジョットが初めて戦った海軍の人間であり、成長のきっかけを作った人間であり、海賊として旗揚げした瞬間を目撃した人間だ。

 ジョットが彼と出会わなかったら、ここまで辿り着けなかったのかもしれない。そう思える程に、赤犬はジョットの海賊人生に影響を与えた因縁深き人間だ。

 互いに嫌悪し殺し合う仲だが、敵として認め合っている。

 だからこそ、赤犬はジョットを必ず己の手で殺すと決めているし、ジョットは赤犬を倒すと決めていた。

 

「オラァ!」

 

 水色のオーラと覇気を纏ったジョットの拳が、赤犬のマグマ化した拳とぶつかる。

 思えば、この力の使い方も赤犬と戦って得た物だ。

 悪魔の実の能力に詳しいメアリー曰く、ジョットのオラオラの実の能力は補色関係にあるオーラを打ち消す力がある。

 マグマが持つ赤いオーラ。冷気が持つ水色のオーラ。光が持つ黄色のオーラ。それらと補色関係にあるオーラをぶつけ干渉すれば、大ダメージを与える事が可能だ。無意識に使った時は、マグマの体を持つ赤犬に凍え死にそうな程の寒気を与えた程だ。自然の力を持つロギアにとって、彼のオーラの力は天敵と言えよう。

 まるで、海軍大将を倒すための力と言える。

 

「ジョォオオッ、ジョオオオオオ!!」

 

 そして、その力を持ったジョットはまるで運命のように三大将と対峙していた。

 赤犬の怒号が広場に響き、彼が拳を地面に叩き付けると共にマグマの柱がいくつも噴き出す。周りの海兵たちは巻き込まれないように必死で、悲鳴を上げながら逃げていく。

 しかし、力を向けられた本人であるジョットは笑みを浮かべて襲い掛かるマグマの柱を蹴散らしながら、拳を赤犬へと叩き付け……本日何度目かの至近距離で睨み合う。

 相手を倒す/殺すという意志が交差した。

 

『いい加減、倒れろ!』

 

 異口同音にそう叫ぶと、彼らは激しくラッシュを打ち続ける。

 既に、広場の一角は原型を留めていない。

 ジョットが死ぬか。三大将達が倒れるか。決着が着かない限り、この死闘は続くのだろうと思われた。

 

 海兵たちが戦闘の余波で満身創痍になりながらそう考えていると、さらなる凶報が彼らを襲う。

 ――白ひげ海賊団が、包囲網を破って広場に雪崩れ込んだ。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「白ひげが広場に降りたぞーー!!」

 

 意識を取り戻したオーズの力を借り、モビーディック号の同じクジラを模した巨大船に乗り込んだ白ひげ海賊団。外輪船(パドルシップ)の特性を利用し、見事全員広場に侵入する事に成功した。

 それを見たガープとセンゴクは表情を険しくさせ、三大将とジョットの戦闘で混乱していた海兵たちはさらなる脅威に顔を引きつらせる。

 広場に降り立った白ひげは、薙刀にグラグラの力を纏わせて海兵たちを吹き飛ばし、視線を三大将と戦っているジョットへと向ける。

 

「あのアホンダラ……無茶しやがって……!」

 

 驚くべきスピードで成長するジョットに、白ひげは一瞬悲しそうに顔を伏せ――叫んだ。

 

「野郎ども! エースを救い出し、海軍を滅ぼせぇええええッ!!」

『うおおおおおお!!』

 

 白ひげの指示の元、海賊たちは此処が正念場だと言わんばかりに海軍に突っ込んだ。

 包囲壁で閉ざされたこの空間は、海兵にとっても不味い。ガープが思わず呟く程だ。

 白ひげもグラグラの能力を最大限使って進撃している。それを止めようと中将以下海軍将校が挑むが……ジョットの能力によって回復しているからか、物ともせず蹴散らしていく。

 これでは、エースを処刑する前に海軍が持たない。無理に強行しようにも、先ほど妨害したクロコダイルのように阻まれるだけだ。ドフラミンゴと激突している元七武海の男をチラリと見てそう思った。

 

「……」

 

見聞色の覇気で広場に直行している友の気配を感じ取り、センゴクは目を閉じ――決断する。

 

「――ガープ。お前に家族を手に掛けろとは言わん。だが、我々の邪魔だけはするな」

「……分かっとる」

 

 その言葉を聞くと――センゴクが動いた。

 戦争に置いて、総指揮官が動くのは愚の骨頂。エースの処刑を終えていない今なら尚更だ。

 しかし、三大将が止められている以上白ひげを止める事ができるのは――彼()だけだ。

 センゴクの体が空中で変化する。巨大化し、黄金に輝き、正義のトップが此処に君臨する。

 仏のセンゴク。その異名通りの姿になった彼は、こちらを見上げて構える白ひげと――激突した。

 地震と衝撃波が拮抗し、その衝撃は周囲に及ぶ。地面が罅割れ、大気は震え、人が飛ぶ。

 

「そう易々と、此処を潰して貰っては困る!」

「グララララ……だったら、守ってみせろ!」

 

 そう言うと、白ひげは大気を殴りつけ、衝撃がセンゴクへと襲い掛かる。

 しかし、直撃する瞬間何者かが割り込んで地震の力を打ち消した。

 

「センゴク、おれも混ぜて貰おうか!」

「ゼファー……!」

 

 割り込んで来たのはゼファーだった。彼が広場に辿り着くと同時に、痛みで顔を歪ませたマルコが包囲壁の上に降り立つ。どうやら、能力を使ってゼファーを今まで抑え込んでいたものの、突破されてしまったようだ。白ひげの前にセンゴクと共に立つゼファーを睨み付け、炎の翼を広げるマルコだが――。

 

「マルコ! 目的を見失うな!」

「オヤジ……」

「おれたちァ、エースを救いに来たんだ――それを、あのアホンダラに教えろ」

「……分かったよい。隊長達はおれに続け!」

 

 白ひげの意を汲んだマルコは、広場に降り立った隊長たちを引き連れて移動した。

 それを見送った白ひげは構えると、目の前の長年戦い続けた敵を見据える。

 

「懐かしい顔ぶれだ。昔を思い出す」

「同感だ――だが、そろそろ終わりにしようぜニューゲート」

「その通りだ。この戦争――我々が勝たせてもらう」

「グララララ……できるものならなッ!」

 

 マリンフォードが、再び揺れる。

 地面に走る罅はまるで悲鳴のようだった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「ハア……ハア……エーーースーーーッ!!」

 

 処刑台まで走る続けるルフィ。その体はボロボロだった。

 ジョットが施したオーラは尽き、ギアは使用できないまでに疲弊し、ただ叫びのみ。

 ゴムの腕を引き絞り、処刑台まで一気に伸ばそうとするが――。

 

(ソル)!」

「うあっ!?」

 

 三人の中将に急接近され……そのまま覇気が込められた腕で思いっきり殴り飛ばされた。

 先ほどまでは何とか野生の勘で避け続けられていた攻撃も、今ではこうして直撃を受ける始末。

 体力の限界もあり、ルフィの意識が飛び掛けた。

 

「ぐふぅ……!」

「麦わら!?」

 

 さらに、不幸なことに……いや、中将たちが狙ってやったのだろう。

 ルフィが吹き飛ばされたその先は、ジョットと三大将が激突している戦場だった。啖呵を切ったジョットの体にも様々な傷が見られ、血が流れている。

 少しだけ息を切らしながら、ジョットは意識が朦朧としているルフィを見て――すぐさま抱えると回避行動に移る。

 

「今更逃げるのは無しだよォ~星屑」

「黄猿……!」

 

 踵落としで地面に亀裂を走らせる黄猿を睨み付けながら、ジョットは後ろへと跳び。

 そんな彼に、両サイドから覇気と能力を纏った腕を叩き付けるべく先回りしていた赤犬と青雉が迫る。

 

「あらら。麦わらを庇う余裕あると思ってんの星屑?」

「麦わら共々死に晒せぇジョジョ!」

 

 それを、ジョットはスタープラチナと共に覇気で纏った腕で受け止めた。

 此処で初めてジョットの動きが止まった。

 それを見逃す大将ではない。

 黄猿のレーザーがジョットの体を貫いた。

 

「庇うからだよォ~……わっし達を倒すんじゃなかったのかい?」

 

 ジョットの背後で爆発が起きる。

 それでも、ジョットは膝を折らなかった。それどころか黄猿を強く睨みつける始末。

 レーザーを撃たれて表情を変えないジョットに黄猿は呆れ……狙いを彼が抱えている麦わらへと向ける。

 

「そのゴミクズが、君を殺すよォ星屑……同盟相手を間違えたねぇ~……」

「っ……!」

 

 額に青筋を立てたジョットが、怒りを爆発させようとした瞬間。

 

「ハアッ!!」

「――ッ!」

 

 青い炎の翼を羽ばたかせて、マルコが黄猿を横から蹴り飛ばした。

 不意を突かれた黄猿は直撃し、瓦礫の中へと消える。

 

「はっ!」

「せいっ!」

 

 マルコの登場に一瞬気を取られた赤犬と青雉は、背後から援軍に来た隊長たちの覇気を纏った攻撃でジョットから無理矢理距離を取らされた。マルコを筆頭に隊長たちは、ジョットを庇うように立ち塞がる。

 ジョットは顔を険しくさせながら、大将たちを見据えるマルコの背中に向かって尋ねる。そこに、少しだけ怒りの感情を乗せて。

 

「テメエら、何をしている。此処はオレ一人で――」

「目的をはき違えるなよい、ジョット」

「……何?」

「お前は、此処に何をしに来た? 三大将との喧嘩か? 確かに今のお前なら止められる――だがな」

 

 振り返ったマルコの瞳には、確かに怒りの炎があった。

 

「それじゃあダメなんだ。ジョン・スターの血を持つお前がそれをしたら……お前の母の様に此処で死ぬ」

「……」

「やっぱりかよい。お前、死ぬ気で戦っていたな」

「死ぬ気はない。勝つ気でいた」

「だったら一人で戦うな。――とりあえず、お前は下がってろ。今のお前に、大将たちは任せておけない」

 

 そう言うと、マルコを先頭に隊長たちは大将たちと激突した。

 一度戦闘を中断したからか、一気に疲労がジョットを襲いガクンッと膝を着きそうになる。そんな彼に白ひげ海賊団の船医とイワンコフが駆け寄った。

 

「大丈夫かジョット!」

「麦わらボーイ! ……やっぱりもう限界っシブルね。船医、麦わらボーイを安全な所へ。彼はもう十分に戦った。これ以上は命が危ない」

「ああ、分かっ……」

 

 イワンコフの言葉に頷く船医の腕を、意識を失った筈のルフィが払う。

 それに皆が驚く。ジョットの目から見てももう限界に近い。

 しかし、彼は――。

 

「おれは、まだ戦うぞ……」

「しかし……!」

「たった一人の、兄ちゃんなんだッ! やるだけやって死ぬなら良い……! でも、此処で倒れてエースを助けられなかったら――後で死にたくなるッ!! だからイワちゃん! おれに戦う力をくれ!」

 

 とても重い覚悟――大切な者を失いたくないという想いが、ジョットの目に映った。

 それと同時に理解した。マルコが何故自分を退かせたのかを。彼もまた、姐さんと慕う女性の息子を失いたくなかったのだ。そこにはジョットを退かせる凄みがあり、そして今のルフィにもまた同じ凄みがあった。

 

(いや……そんな事は分かっていた)

 

 ジョットは――それを改めて思い出した。兄に向かって叫ぶルフィを助けると決めた己の直感を。

 だからこそ消費を覚悟でオーラをルフィに譲渡したのだ。

 だが、それでは足りなかった。

 故に、ジョットは決めた。

 

「無茶を言うなっシブル! ヴァナタに死なれたらドラゴンに合わせる顔面が――」

「その願い、聞き遂げようぜ革命軍」

「星屑……!」

 

 反対するイワンコフをジョットが止め、彼は屈んでルフィと視線を合わせた。

 疲労で瞼が半分降りているが、それでもその瞳には強い光があった。

 もう、ジョットが躊躇する理由は無い。

 

「ルフィ。オレはお前がこの戦場に来た時――何故か、エースを救うのはお前しかいないと思ってた」

「ハァ……ハァ……ッ!」

「何故そう思ったのか。最初は良く分からなかった。だが――それが今分かった気がする。

 オレがすべき仕事は、一刻も早くエースの元に辿り付く事じゃなかった。三大将を引き受ける事じゃなかった。死ぬ気になってこのマリンフォードごと海軍を沈める事じゃなかった」

 

 戦う最中、己の使命を考えていたジョットは――ついにはっきりと見えた答えを口にする。

 

「お前を、エースの元に届ける事だったんだ。だから、オレもここまで来れた」

「ヴァナタ、何を言って……」

「麦わら――いや、モンキー・D・ルフィ。約束してくれ。兄を救うと。そうすればオレはお前に魂を懸ける!」

「――ああ……! 約束……する……!」

 

 ジョットの魂の問いかけに、ルフィは全力で応えた。

 

「革命軍。お前の力が麦わらの命まで回復できないなら――オレが肩代わりする。だから、コイツの願い聞き遂げてくれ」

「~~~~勝手にしやがれェ! このバキャッブル共!」

 

 イワンコフの能力が、ルフィの体にさらなる力を与える。

 ドクンッと彼の心臓が激しく脈打つ。

 

「スタープラチナ――こいつを、頼むぞ」

 

 そして、ジョットは己の半身であるスタープラチナを作り出し――それを純粋なオーラに変換し直してその全てをルフィの体へと送り込んだ。

 ルフィの体を青白いオーラが包み込み、インペルダウンから負って来た肉体の傷、疲労が癒え……いや、()()()()の力が宿った。

 荒れ狂う力を感じ取りながらも、ルフィは静かにエースへと続く道を見据えた。

 ジョットはほとんどのオーラを失った事で座り込み、反対に立ち上がったルフィの背中に一言。

 

「――行ってこい。ルフィ!」

「――おうッ!」

 

 友の魂を胸に、ルフィが戦場を駆け抜ける。その速度は、ギア2を使っていないにも関わらず速かった。

 青白いオーラを纏った彼の動きを見た海軍将校たちが驚きに目を見開く。あれでは、まるで――。

 

「行かせないよォ~……麦わらのルフィ」

 

 そんななか、隊長たちと戦っていた黄猿が立ち塞がる。指先が光り出し、レーザーが三発撃ち出される。

 見聞色の覇気が使えなければ回避する事も困難。ルフィは覇気を使えない。故に今まで何度も黄猿の攻撃の餌食になっていた。

 しかし――。

 

(右、左、右)

「……!」

 

 頭の中に浮かんだイメージ通りに、ルフィは頭を傾け――黄猿のレーザーを回避した。

 それに一瞬驚くも、黄猿はまぐれだと判断して追撃のレーザーを放ち……。

 

「ふっ」

 

 しかし、ルフィは冷静に避け続けた。まるで黄猿の攻撃が何処から来るのか分かっているかのように。

 それを見た黄猿は構えを変え、ルフィは腕を後方へと伸ばしながら捩じりを入れる。

 

「――“ゴムゴムの……”」

「“八咫鏡(やたのかがみ)”」

「やばい。逃げろエースの弟!」

 

 光の速度で移動した黄猿は、ルフィの頭上に現れると蹴りを放った。

 それを見た白ひげ海賊団が顔を引きつらせ――次の瞬間驚きに変わる。

 

「“STAR(スター)回転銃(ライフル)ゥウッ!!”」

「ぐぅ……!?」

 

 黄猿の蹴りを避け、渾身の一撃をぶち込むルフィ。油断していた黄猿は体に走る痛みに顔を歪ませ、ルフィの拳によって吹き飛ばされた。

 大将に一撃叩き込んだルフィに海兵たちは……特に先ほどルフィを追い込んだ中将たちは信じられないと己の目を疑い、処刑台の上で見ていたエースは驚きに呆然とし、そしてそれを後方から見ていたジョットは――。

 

「良い物見れたぜ、ルフィ」

 

 スカッとした表情を浮かべて笑っていた。まるで、こうなる事が分かっていたと言わんばかりに。

 

「あ、あれは……?」

「オレの新技って奴だ。白ひげの爺さんにうっかり大量のオーラを流し込んだ時に発見した切り札だ」

 

 謂わば、オーラによるドーピングのようなものだ。

 オーラの探知、干渉、攻撃。それらの限界を無理矢理こじ開ける力だ。本来ならオラオラの実の能力者であるジョットでしか制御できない力。しかし、昔から野生染みた生活をしていたからか、それとも持って生まれた性質か、ルフィは無意識にその力を使いこなしている。

 

(ソル)――」

 

 剃で近づくモモンガ中将の動きを正確に捉え――。

 

指銃(シガン)!」

 

 背後からダルメシアン中将の指の刺突を避け――。

 

「“ゴムゴムの――STAR(スター)銃乱打(ガトリング)!”」

「ぐっ」

「ぬあっ!?」

 

 オーラで纏った拳の乱打で返り討ちにしていた。

 あまりにも劇的な変化にイワンコフは驚いていた。

 

「革命軍。オレにもル……麦わらにした奴を頼む」

「……はっ! な、何を言っているッチャブル! あれは疲労を誤魔化すためのもの! 見る限り、ヴァナタヘロヘロじゃない! ……さっきのアレ、強力だけど随分と疲れるようね。恐らく、能力も使えないでしょう。ヴァナタは此処で――」

 

 確かにイワンコフの言う通り、現在ジョットは能力をまともに使えない。スタープラチナは彼の半身。それを構成するオーラをルフィに渡したという事は、内包するオーラをほとんど渡したという事と同義。無理に戦えば消耗が増すと、イワンコフはジョットの申し出を断ろうとし――。

 隣で、ズンッと地面に穴が空いた。そちらを見ると、ジョットが拳を叩き付けていた。

 

「まだ、覇気がある。拳がある。足がある――戦う意志がある! お前が止めても、オレは行くぞ!」

「~~~!! 麦わらボーイと関わりのある奴らは、無茶をするッチャブルね!」

 

 せいぜい死ぬなよ星屑ボーイ!

 そう叫んでイワンコフはテンション・ホルモンをジョットに注入した。

 ドクンッと心臓が脈打ち、ジョットが立ち上がる。

 

「ありがとうよ――名前は」

「エンポリオ・イワンコフ。この顔面と共に覚えておきな!」

「ああ、忘れないだろうよ――ありがとう」

 

 その言葉を最後に、ジョットは戦場に舞い戻った。

 一応オーラが使えるか試してみたものの、薄っすらと纏えるだけでしばらく使えそうになかった。

 しかし、彼はそれで構わなかった。

 能力が使えずとも、彼は戦える。

 覇気を纏い、ジョットは目の前の敵――赤犬へと殴りかかる。

 赤犬は拳を受け止め、マルコは乱入してきたジョットに怒りの声を上げる。

 

「――ジョジョッ!」

「お前、下がってろって……!」

「言われたが、従うとは言っていないぜマルコ?」

 

 赤犬を弾き飛ばし、マルコの隣に降り立つジョット。

 しばらく厳しい視線をジョットに向けていたマルコだったが、ため息を吐くと赤犬へと構える。

 

「死ぬなよジョット!」

「分かっている!」

 

 マルコの言葉に返しながら、ジョットは赤犬へと殴りかかった。

 




活動報告にて、今回の話について述べました
興味がありましたらご覧ください。


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命の灯火

「分からん……分からんのうジョジョ! 何故お前がこいつらの為に戦う!」

「なに……?」

 

 マルコと共に戦っているジョジョの耳に、赤犬の叫び声が入る。

 

「貴様は誰かに従う男じゃあない! 例え四皇でも噛み付く狂犬じゃろう!」

「――何が言いたい」

「家族ごっこをしているアホ共に飲まれたのか――そう聞いとるんじゃ!」

 

 赤犬は吠える。ジョットを認めているが故に、ロジャーに負けて海にのさばっている敗北者に頭を垂れているかのようなその光景に我慢ならなかったのだ。

 彼の激情に反応するかのように、赤犬のマグマが煮え滾る。

 

「テメエ……!」

「貴様もじゃ不死鳥マルコ。それほどの力がありながら、何故あの時代の敗北者に従う?」

「お前には分からねぇさ、赤犬」

 

 激昂しかけるマルコを制して、ジョジョが前に出る。

 赤犬の煽りを受けて妙に静かだ。

 彼は真っすぐと赤犬を見据えて答えた。

 

「なんじゃと?」

「白ひげの爺さんにとって、そしてこいつらにとって“家族”は大切な宝なんだ」

「宝じゃと?」

「ああ。こいつらは海賊だ。自由に生きる海賊だ。だが、その胸には常に大切な物を持っていて……そして、そのためだったら世界とだって戦える。唯一存在する不可侵のルールだ。

 だから、その宝に手を出したお前たちは此処で負ける」

「わしらが負けるじゃと……!」

 

 聞き捨てらないと赤犬はジョットに殴りかかった。

 その腕は過去最高に巨大なマグマの奔流。当たれば並みの覇気使いであれば巻き込まれ、不死鳥の力を持つマルコといえどただでは済まない。

 

「わしら海軍が悪である貴様らに負ける筈がなかろうがっ!!」

「ジョット!」

 

 マルコがジョットの名を叫ぶが、彼は退かなかった。

 それどころか前へと出て――。

 

「――だからテメエは分からねえのさ」

「ぐ……!?」

 

 そのまま赤犬の腕を消し飛ばした。

 なけなしのオーラを纏い、限界まで高めたジョットの覇気が赤犬のマグマを打ち破った。

 激痛に赤犬が膝を着き、拳を振り抜いた状態から堂々と仁王立ちするジョジョを下から睨みつけた。

 

「大切な物を守る奴は強い――オレでも知っているぜ?」

「っ……ジョジョォ……!」

 

 ジョットは、処刑台へと視線を向け――自分たちが勝ったその瞬間を目にした。

 そして――。

 

(……早まるなよ、爺さん)

 

 戦争前からこびり付く嫌な予感に不安を感じていた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「旦那ァ! あいつら通しても良かったんですか! 特にあのメアリーとか言うイカれた女は――」

 

 皮製のギプスを顔に装着した男が船上で喚いた。

 彼は顔を腫れさせ、体中ボロボロだった。随分と痛めつけられたようで不満を顕にしている。マリンフォードに向かって行く船を睨み付けながら、グルルルルと唸る。元々小心者かつ傲慢な性格だからか、敵対していたとある海賊に良いようにしてやられた事が気に食わなかったのだろう。

 見た目が良いから「おれの女にしてやる」と言ったところ……元々彼に向ける絶対零度の視線がさらに冷たくなり、それ以降ボコボコにされた。

 故に、さっさと追いかけて船を沈めようと申し出る。しかし……。

 

「黙れ、耳障りだ」

 

 それに対して、この船で最も立場の高い男は視線を送る事無く切って捨てた。肩に乗った鳩が「クルッポー」と鳴き、喚いていた男は口を両手で抑えた。

 

「それに、今更行って何ができると言うんだ」

 

 肩に鳩を乗せた男は、必死になって死地に向かおうとする男を思い浮かべる。

 戦闘の際に負った手に持った武器の一撃は、鉄塊を使っても尚重い一撃だった。男にとっては理解できない感情だが……それもまた強さの一つなのだろうと、視線を戻す。

 

「おれ達の仕事は終わりだ。後は海軍に任せる」

「なんじゃ? 本当にわしらは行かんのか?」

 

 男の決定に、鼻の長い男が再度尋ねる。

 すると、肩に鳩を乗せた男は言葉少なく答えた。

 

「任務の範疇から外れるからな――行くぞ」

 

 その言葉を最後に、白ひげ海賊団と海軍の戦争が始まる前から行われた抗争は幕を閉じた。

 

 

 

「おつる中将!」

「ん? どうしたんだい?」

 

 混乱する戦場の最中、つるの元に一人の海兵が慌てた表情を浮かべて駆け寄った。

 センゴクが前に出ている以上、彼女に報告をするのが最適だと判断したのだろう。

 つるは、海兵からの報告に眉を顰めて呟いた。

 

「空飛ぶ船……だって?」

 

 報告を聞いた彼女の脳裏には一つの海賊団の存在が浮かび上がっていた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 “――必ず兄貴、救ってこいやァアアッ!!”

 “――行ってこい、ルフィ!”

 

 友の手を借り、背を押され――。

 

 “――野郎ども! 麦わらのルフィを全力で援護しろォ!!”

 

 その想いに、応えろと伝説が叫び――。

 

 “――やっぱり凄いやルフィさん……”

 “――兄を救いたいのなら、わしを殺していけ麦わらのルフィ!”

 

 立ち塞がる友と祖父を振り切り、辿り着くのは――。

 

「来たぞ、エースッ!」

「お前っていう奴は、本当に……!」

 

 今はたった一人の兄の元。様々な想いを託された彼は、見事――それに応えてみせた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

(良い物を見れた……)

 

 爆炎の中に現れる炎のトンネルから現れるエースとルフィ。

 白ひげ傘下の海賊たちは喜び上がり、インペルダウンからルフィに力を貸してきた囚人たちは奇跡を前に驚きを顕にする。

 解放されたエースはルフィと共に暴れ回り、彼らの逃げ道を作ろうと仲間たちが動く。

 その光景を見た白ひげは穏やかな表情を浮かべていた。

 センゴクとゼファーとの死闘で頭から血を流し、そして戦闘以外の理由で息を切らしていた。

 白ひげは、胸を抑えていた。

 

(ジョットがしてくれた“繋ぎ”も、そろそろ切れる頃か……)

 

 もう少し持ってくれと限界が来た肉体に鞭を打ちながら、白ひげは広範囲に地震の力を使って本日何度目かの能力を使った。

 突然の動きの変化に、センゴクとゼファーは眉を顰める。

 やはり付き合いが長いからか、白ひげの考えを読み取り始めたのだろう。だが、その前に――白ひげは愛する息子たちに伝えた。

 

 最期の船長命令を。

 

「――聞けェええ! 白ひげ海賊団!」

 

 突然叫ぶ白ひげに、戦場に居る者たちの視線が集まり……そして嫌な予感がした。

 目立った傷は無い。しかし、荒々しく息を切らして胸を押さえている。それがどういう意味を持つのか、知らない息子たちではない。

 ジョットもまた、少しだけ戻った能力で白ひげを見て――険しい表情を浮かべた。

 

「オヤジ……?」

「爺さん、やはり……!」

 

 覚悟を決めた白ひげは言った。

 息子たちとの決別の言葉を。

 

「お前らとおれはここで別れる! 全員必ず生きて――無事新世界へ帰還しろ!」

 

 白ひげは――初めから此処を己の死に場所と決めていた。

 残り少ない寿命。それを息子たちの為に使うのなら、本望だと思っていた。

 そしてそれは、かつて救う事ができなかった忘れ形見であるジョットと出会い、スクアードたち息子が自分を信じて前を進む姿を見て――一層強くなった。

 自分は時代の残党だ。この時代にケリを着け、次世代の命に繋ぐ事が――運命なのだとそう思っていた。

 

「イヤだ……オヤッさん!!」

「待ってくれよオヤジ! おれはアンタとまだ一緒に居てえよ!」

 

 息子たちの叫びが聞こえる。

 

「オヤッさん! おれァ、アンタに死んで欲しくてあんな事を言ったんじゃねぇぞ!」

 

 スクアードが泣き叫ぶ。

 

「オヤジィ!!」

 

 エースが叫ぶ。

 

 それを、白ひげは――。

 

「行けェ! 野郎共ォ!!」

 

 大気を殴りつけて、振り切った。

 要塞に罅が入り、町が次々と崩れていく。元々この戦争で随分と傷ついていた事もあり、マリンフォードは限界寸前だった。そこを白ひげの能力が刺激し、地面が断裂していく。

 

「あらら……これは流石に不味いな」

「おォ~……流石は白ひげ。化け物染みているねェ~……」

 

 青雉と黄猿は、マリンフォードを本気で潰す気の白ひげを見て駆ける。

 センゴクとゼファーを前にしても尚暴れるあの化け物を止めるために、

 

「“八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)”」

「“アイス(ブロック)――両棘矛(パルチザン)!”」

 

 光の弾丸が、氷の矛が白ひげに突き立てられる。

 

「“スマッシュ・ボンバー!”」

 

 さらにゼファーのバトルスマッシャーが火を吹き、白ひげに直撃する。

 しかし、白ひげは尚も立ち塞がり吠えた。

 

「ぐっ……ぬあああああああ!!」

 

 黄猿、青雉、ゼファーを吹き飛ばし、地震の力がマリンフォードにどんどん罅を入れていく。

決して振り返らず、暴れるその姿に息子たちは泣き崩れた。

 しかし、一人、また一人と立ち上がって駆けていく。

 

「エース! 行こう、おっさんの覚悟が……!」

「……分かっている!」

 

 ルフィの呼び掛けにエースは答えると、その場で膝を着き――頭を下げた。

 薙刀を振るい続け、海軍を蹴散らしながら白ひげは一言だけ言う。

 

「――おれが親父で良かったか?」

「――もちろんだ!」

「……グラララ」

 

 それだけ聞けて満足なのか、白ひげは笑うと――再びその力を振るった。

 エースも踵を返し、ルフィ達ともにこの場を去る。

 海軍は、逃げるエースとルフィを追おうとするも……しかし白ひげが暴れて立ち塞がる。

 彼らを追うには、白ひげが邪魔だ。しかし、彼を乗り越えるにはあまりにも壁が高かった。

 

「――爺さん」

「ジョットか……お前もさっさと――」

 

 ジョットは、白ひげの言葉を全て聞く事無く地面を殴りつけた。

 すると、罅はやがて穴となり、その面積を大きくさせ――海兵たちが容易に海賊たちを追えない程の深い大穴ができた。

 それによって白ひげとジョットは海軍の前で完全に孤立した。大穴の向こうには白ひげ海賊団たちが見ており、目には涙を浮かべている。まるで、この穴がなければすぐにでも白ひげの元へと駆け付けそうな程に。

 

「こうでもしないと、あいつらは止まらねぇだろうからな」

「……ふん。礼は言わねえぞ? それよりもさっさと――」

「――オレはっ! アンタの息子でも、部下でもない! ……だから、アンタの命令に従う義理もない……!」

 

 それ以上は言わせないとジョットは叫んだ。

 彼はエースを助けると同時に――死ぬつもりの白ひげの運命も変えようとしていた。

 僅か数日の時間だったが、ジョットが白ひげの事を気に入るのには十分な時間だった。そして、その覚悟も察した。

 だが、ジョットはそれを認める事ができなかった。

 

「アンタらはオレに言ったよな。死ぬなと。死なせる訳にはいかねえと――それはオレも同じだ!

 時代の残党だとか知らねえが、アイツらはアンタが必要で……!

 それに言っていたじゃねえか! アンタ、この戦争の後、オレの母親の事を――」

「――もう良い。ありがとうな、ジョット」

 

 しかし、突如頭に感じる重みにジョットは言葉に詰まった。

 帽子越しに感じるそれは、かつての父親ジョセフからの物とは違い……しかし“親の愛”がしっかりと伝わって来た。

 

「おめェを息子と呼ぶ事はできなかったが――孫だとは思っていた」

「――」

「じゃあな……アイツらを、頼む」

 

 そう言って白ひげは……限りなく手加減した地震の力をジョットの腹に叩き込み、大穴の向こうへと吹き飛ばした。

 ジョットは口から血を吐きながら空を飛び、その先に居たマルコが受け止めた。

 

「……ぐ、がはっ! ま、待て……爺さん……!」

「マルコォ!! ……そのハナタレ放すんじゃねえぞ!」

 

 振り返らずに叫ぶ白ひげの言葉に、マルコは無言で頷き……ジョットは白ひげへと腕を伸ばした。

 

「さぁ……終わりにするぞ海軍!!」

 

 白ひげがそう叫んで、地震の力を使おうとした瞬間――。

 

 

 

「――ゼハハハ。まだ元気そうじゃねえか親父?」

 

 闇の声が、戦場に響いた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 時は同じくして。

 ルフィたちと船に向かって走っていたエースの目の前で、突如マグマが噴き出した。そして、そこから現れるのは――大将赤犬。

 彼は地面を熔かしてエース達を先回りしていたらしい。ジョットに受けたダメージが残っているのか、肩で息をして右腕は復元し切れていない。

 しかしそれでも尚エース達を追うのは――執念か。それともジョットへの意趣返しか。

 構えるエースとルフィを見て、赤犬が呟く。

 

「家族が宝……ふんっ。つまり貴様らはゴミで、白ひげはゴミ山の大将という訳か」

「……なんだと?」

 

 エースの表情が強張った。父親という存在に嫌悪しか抱いていなかった自分を救った存在への侮辱。

 彼の逃げる足を止めるには充分だった。

 

「滑稽だとは思わんか? 何十年も敗北者として海にのさばり」

「黙れ……」

「正しくない人間が家族家族と阿呆みたいに口走り」

「黙れ……」

「そしてマヌケにもその家族から裏切られ」

「黙れ……!」

「それを追ったお前は捕まり――それを助けようと此処で死ぬ!」

「――黙れえええええ!」

 

 居場所をくれた大恩人。温かく迎え入れてくれたからこそ、エースは偉大な男であり愛してくれた父親を……白ひげを王にしたかった。

 だからこそ、白ひげの名に泥を塗った黒ひげが許せず……捕まった自分も許せなかった。

 だが、何よりも許せないのは――白ひげを侮辱される事だった。

 

「“白ひげ”はこの時代を作った大海賊だ! 敗北者なんかじゃねぇ!! ――この時代の名が、“白ひげ”だ!!」

 

 怒り炎と覇気が籠った“火拳”が、赤犬の放った執念のマグマとぶつかり……。

 

「ぬう……!」

「ぐああああ!?」

 

 エースは炎の体を焼かれて悶え、赤犬は小さな痛みに顔を歪める。ジョットに付けられた傷に響いたのだろう。その時の痛みで一瞬攻撃が逸れてしまった。

 しかし、赤犬にとっては関係ない。

 エースの炎を焼き尽くす質量と熱量を持つマグマを新たに作り出しながら、赤犬は痛みで悶えるエースに言った。

 

「お前の炎をも焼き尽くせるのがわしの“マグマグの実”! 貴様を此処で殺すのは造作も無いが――」

「エースから離れろ!!」

 

 ギロリ、と背後から殴りかかるルフィを見る。それを見たエースはぞっとした。

 オーラを纏った今のルフィの攻撃は確かに赤犬に当たるだろう。だが――オーラがあるからと言って、彼のマグマを防げる訳ではない。

 

「――よう、見ちょれ」

「――おい、待て!」

 

 エースの静止を聞かず、赤犬は振り返ってそのまま腕を突き出し――。

 

「――え?」

「……!」

 

 赤犬のマグマは――エースを貫いた。

 

『――エースゥウウッ!?』

 

 白ひげ海賊団の悲鳴が広場に木霊し、ルフィの持っていたエースのビブルカードがヒラヒラと舞って……そのまま地面に落ちた。

 



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二つの闇

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 エースが貫かれた。炎を焼き尽くすマグマによって。

 その絶望的な光景を前に、海賊たちは言葉を無くした。

 故に、一番初めに声を――戸惑いの声を上げたのは彼だった。

 

「――どういう、事じゃ?」

 

 赤犬は、信じられないとばかりに目の前のエースを見る。確かに今、赤犬はエースの体をマグマ化させた腕で貫いている。例え炎の体でも回避不可能な事は先ほど明らかにされた。

 エースも、痛みが無い事に目を見開いて驚いている。

 いったい、何故? 赤犬が自分の身に起きた不可解な出来事にしばし混乱するなか――戦場を駆ける一人の男が、群衆の中から飛び出した。海賊たちがそれに気づき、男の姿を視界に捉える。

 

「この腕は、嵩取る権力を引き裂く為の“爪”」

 

 その男は、鉄パイプを持っていた。

 

「だが、今は!」

 

 その男は、顔に火傷の痕を残していた。

 

「兄弟を救う為の――拳だ!」

 

 その男は、胸に――兄弟への絆を取り戻していた。

 

「――メアリー! 巻き込まれるなよ!」

「――うん、分かっている!」

 

 男は、地面から赤犬の足を掴んでいる少女――メアリーに叫び、思いっきり腕を引き絞り――放った。

 

「“竜爪拳!”」

「ぐっ……!?」

 

 覇気が込められた拳をまともに喰らった赤犬は、勢いよく吹き飛ばされる。これまでの戦闘で負っていた傷もあり、彼の顔は苦悶の表情を浮かべていた。

 その際にマグマの腕がエースの体から抜けるも、彼の胸には傷跡一つ無かった。

 しかし、エースは……いや、エースとルフィはそれよりも目を奪われる存在があった。

 それは、幼き日に――10年前に永遠に別れた筈の兄弟。本来なら、再会する事ができない。能力で姿を模していると言った方がまだ説得力がある。

 だが――。

 

「――久しぶりだな、ルフィ……エース……! 今度は、間に合ったぞ」

『――サボ!!』

 

 男の――サボの言葉に、ルフィとエースは涙を流した。

 ルフィなど、そのままサボに抱き着いて大声を上げて泣き叫んだ。

 頭の中ではまだ現実を理解していないのだろうが――それでも、喜ばずにはいられなかった。

 

「ザボオ゛オ゛オ゛オ゛――!!」

「ちょ、おま、ルフィ! 嬉しいのは分かるが、此処は戦場……!」

「だって……だっ――」

 

 サボに抱き着いて涙を流していたルフィは――突如気絶した。プシューッと彼の体から空気が抜けたような音がし、オーラが消える事によって。

 それに、その場に居た者たちが驚いた。

 

『ええええええ!?』

 

 特に久しぶりに再会したサボはそれが顕著であり、ダランッと力無く人形のように白目を剥くルフィの首元を掴んで揺さぶった。

 それでもルフィは起きない。しかしそれも仕方のない事だ。

 ジョットのオーラで傷や疲労を癒したとはいえ、やはりインペルダウンからの無茶は流石のジョットの持つオーラ量でも完全に癒す事はできなかった。イワンコフの能力で騙していたが、それでも戦闘で使用していたという事もあり、ルフィに託されたオーラは確実に減り、それが今彼の肉体に現れたのだ。

 

「ルフィ! そりゃあ無いぜ! おれがどれだけお前らと会いたいと思って……!」

「……本当に、サボなんだな」

 

 そして、その光景を見たエースは目の前にいるサボが本物だと確信し静かに涙を流す。

 あの日、死んだと思っていた兄弟が生きていた。それが分かって――凄く嬉しい。

 

「サボ……生きていてくれてありがとう……!」

「……ああ」

 

 サボも、そんなエースに気が付くと目を閉じて穏やかな笑みを浮かべるとポンと彼の肩に手を置く。一層、エースの肩が強く揺れた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――良かった」

 

 そして、その光景を見ていたメアリーは地面に半分体を埋めた状態で眺めていた。

 

 メアリーは、ウソップと逸れた際、運良く革命軍の船の上に落ちた。

 しかし、彼女自身はくまの能力の対象外だったため大怪我を負ってしまい、今日まで満足に動く事ができなかった。

 それでも、彼女は自分ができる事をした。麦わらの一味が少しでも動きやすくなれるように革命軍の力を借りて世界に自分たちの名を売り(その際自分の悪名も上がった)、サボに何度も訴えかけて記憶を思い出して貰い、そして此処に来た。

 本当は、もっと確実な方法でエースを助けようとしたのだが……サイファーポールによって今のいままで足止めを喰らっていた。

 思い出すと、彼女は涙が出そうだった。

 周りからの疑いの視線。畏怖の目。眼帯してくれませんか? と頼み込まれる事21回。

 違う。そういう涙の種類ではない。

 ――とにかく。

 

「本当に、良かった……!」

 

 10年前に失敗したトラウマを乗り越え、ようやく手繰り寄せた運命。彼女は、それを無駄にするつもりは無かった。

 メアリーは、地面から抜け出すと肩に子電伝虫を乗せて振り返る。そこには、既に立ち上がってこちらを睨み付ける赤犬の姿があった。

 

「邪眼のメアリー……そうか。確かクルセイダー海賊団は……」

「そういう事。私たちは革命軍とのパイプを持っている――それがどういう意味を持つか知っているでしょう?」

「ふん。ドラゴンの息子である麦わらが居る以上あり得ん話じゃあないのぅ――だが、それで退く海軍じゃないぞ!」

 

 ドロッとマグマを大量に体から生成する赤犬。その威圧感にサボとエースが再会を喜ぶのを止めて構えるが――それをメアリーが止めた。

 

「任せて」

「メアリー? お前まで……だが、そいつは――」

「待て、エース。此処はメアリーに任せよう――おれ達を震わせたあの邪眼……いや、さらに進化した邪王真眼に」

「――」

 

 真剣な表情で信頼の言葉を吐くサボに、メアリーはひゅっと浅く息を吐いた。

 自業自得だとはいえ、こうも真面目にその言葉を吐き出されるとメアリーは死にたくなった。しかし、相手を畏怖させるには効果的であり、見る者を魅了する彼女の容姿とは相性抜群だった。

 メアリーは、スッと己の片手で己の左目を隠すと――エキサイトした。

 

「――海軍大将赤犬。

 何故アナタがジョットと死闘を繰り広げて、尚此処に居るのか。

 何故若返っているのか。何故傷が完治しているのか――その答えは一つ」

「……!」

 

 隠された彼女の瞳が――金色へと変化した瞳が赤犬を射抜いた。

 それに赤犬は言い寄れぬ悪寒を感じた。あり得る筈がない。細心の注意を払い、この戦争で影響が及ばない遠く離れた地に居る筈だ。だが、目の前の少女を見ていると、思わずそれ以上言うのを止めろと叫びそうになり……しかしメアリーは構わず続けた。

 

「――アインという女海兵の悪魔の実……モドモドの実の能力で、全盛期の時代まで戻したから」

「――貴様、それを何処で……!」

「――私の通り名は知っている?」

 

 一瞬表情を暗くさせるも、メアリーは赤犬に逆に問う。

 聞かれた赤犬は、何故今更そんな事をと眉を顰める。

 

「なんでそんな事……って考えたわね(・・・・・)

「っ! 貴様、まさか――」

「そう。私の瞳は対象の思考を読み取れる――案外、単純なのね」

「貴様……!」

「そして! 進化した私の邪眼――邪王真眼は、記憶を呼び起こし、その力を行使する!」

 

 そう言って、彼女は腕を伸ばしパチンッと指を鳴らした。

 すると、次の瞬間赤犬の――否、モドモドの実の支配下にあった者/物たちに変化が訪れた。

 

「ぐ、ぬああ……! まさか……まさかッ……!」

「“戻って”貰うわ――アナタの本来の姿に……!」

「ぬううう……邪眼の、メアリイイイイ! ――がはっ……!?」

 

 赤犬は、メアリーを睨み付け――肉体が重傷を負っていた時に戻り倒れ伏した。

 この戦争と戦争前にジョットによって負わされた傷は、赤犬を追い詰めるには充分だった。荒く息を吐きながらも、しばらく立ち上がれそうにない。

 それを見たメアリーは優雅に微笑み――。

 

(死にたい……)

(いやいや。凄い演技だったぜメアリーちゃん)

 

 子電伝虫から、男――ジョットの父ジョセフの声が響く。

 

 メアリーは、別に邪眼を持っていないただの痛々しい少女だ。この世界ではあまり見かけない中二病を駆使するスカスカの実を食べたただの少女だ。

 故に、彼女に相手の心を覗く力は無いし、見た能力を想起させて使用する事もできない。

 では、何故彼女は赤犬たちの体を元に戻したのか。それはとてもシンプルな答え。

 

(でもありがとうパパ。おかげで助かったよ)

(愛する娘の為だ――今からシャンクスさんと一緒に向かう。それまで持ち堪えてくれ)

 

 ジョセフにアインを倒して貰っただけだ。メアリーの台詞と合わせて。

 このトリックを聞いた時、メアリーはジョセフに「ねえ必要? これ必要?」と何度も尋ね「相手を怖がらせるには丁度良い」と言われた。つまりそこまで必要ではない。

 それどころか、立場的に味方である白ひげ海賊団から畏怖の眼で見られている。彼女は正直泣きたかった。

 

 ――とは言っても、これで敵の戦力を削る事は出来た。

 ふざけているように見えて、彼女とジョセフの仕事はこの戦争に大いに貢献している。今頃、別の戦場では大将たちとゼファーの肉体が元に戻り、パシフィスタの半数は機能停止に陥っているだろう。

 

(さて、後はジョットの野郎だ。さっさとソイツ引き摺って撤退しな)

(うん、分かった)

 

 子電伝虫を切ると、メアリーはエース達の元へと走り寄る。

 

「エース! ジョットは!?」

「ジョット? そう言えば――」

「お、おい! 見ろアレ!」

 

 エースがメアリーの言葉に応えようとした瞬間、誰かが上を指差して声を上げた。

 メアリーたちは、その声に反応して空を見上げると――。

 

「――なに……あれ……?」

 

 フワフワと浮く幾つもの海賊船と軍艦が、そこにあった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 時は、少しだけ遡る。

 

「ゼハハハハハ……! 久しぶりだなオヤジィ……!」

「ティーチ! テメエ、どの面下げて出て来やがった!」

 

 白ひげ海賊団の怒りと殺気が、一人の男に向かって放たれる。

 “黒ひげ”マーシャル・D・ティーチ。白ひげ海賊団の鉄の掟を破り脱走し、それを追ったエースを倒し――この戦争を引き起こした張本人だ。

 黒ひげは、新たなる仲間と共に()()()()()()に乗って眼下の海賊と海軍を見下ろしていた。海兵たちは、黒ひげの後ろに控える顔ぶれを見て青褪めた。

 

 “『鬼保安官』ラフィット”“『チャンピオン』ジーザス・バージェス”“『音越』ヴァン・オーガー”“『死神』ドクQ”“『巨大戦艦』サンファン・ウルフ”“『悪政王』アバロ・ピサロ”“大酒のバスコ・ショット”“『若月狩り』カタリーナ・デボン”“雨のシリュウ”。

 そして――。

 

「ジハハハハ! 懐かしい顔ぶれじゃねえか、おい」

 

 “金獅子のシキ”。かつて両足を斬り落としインペルダウンを初めて脱獄した男であり、ルフィに敗れてインペルダウンに収容されていた伝説の海賊だった。

 それを見たセンゴクは、険しい表情を浮かべて叫ぶ。

 

「貴様ら……マゼランはどうした!? インペルダウンはどうなった!?」

「ジハハ……たっぷりとお礼をしたぜ? ――なあ、テメエら?」

 

 センゴクの問いに笑みを浮かべて答えたシキは、後ろに控えている脱獄囚たちに尋ねた。

 すると、下劣な笑い声が響きその悪名高き顔が良く見えるように前へと出る。

 彼らは、黒ひげ曰く補欠合格者。黒ひげが行ったゲームに勝てずとも、その生命力の高さをシキに買われてこの場にやって来た最悪の海賊たち。つまり、彼らは全員――レベル6の死刑囚だ。

 

「まさか……黒ひげの野郎! やりやがった!」

「一人だけでもヤバいのが、あんなに……!」

 

 そんなものが、世に解き放たれれば――世界はパニックになる。

 海軍たちは事の大きさに気付き、顔を青褪めさせた。

 

「シキ……テメエ、ティーチの下についたのか」

 

 そんななか、黒ひげたちを見上げていた白ひげがシキに問い掛ける。

 

「ジハハハハ……違うな、同盟だ! こいつは見所がある上に、オレの事をよく理解している! お前も面白いもんを持っていたじゃねえか」

「……ゼハハハ。そういう訳だオヤジ。オレはシキと組んでこの世界を手に入れるぜ!」

「――そうか、興味ねえな……だが!!」

 

 白ひげが構えた。それを見たシキが能力を使い、幾つもの軍艦や海賊船を射線上に移動させた。しかし、次の瞬間船は全て大破し、黒ひげたちが乗っていた軍艦は広場へと落ちた。

 海軍たちはそれに巻き込まれて吹き飛び、黒ひげたちは体のあちこちをぶつけながらも無事だった。

 

「くそ……容赦ねえな! あるわけねえか!」

「てめえだけは息子とは呼べねえな、ティーチ!! おれの船のたった一つの鉄のルールを破り、お前は仲間を殺した!」

 

 白ひげの怒りは凄まじく、そしてそれは彼の息子であるマルコたちも同じだった。

 だが――。

 

「手ェ出すんじゃねえぞテメエら! 

 ――4番隊隊長のサッチの無念! このバカの命を取っておれがケジメをつける!」

「確かに、アンタならできそうだ――おい、シキ!!」

「分かってらァ!!」

 

 黒ひげの呼び掛けに、一人だけ空中に回避していたシキが腕を大きく振り下ろした。

 瞬間、空高くから紫色の液体が白ひげに向かって降り注いだ。

 それを白ひげは能力で吹き飛ばそうとするも――。

 

「“闇水(くろうず)”」

「!!」

 

 シキの部下になった死刑囚の能力で、いつの間にか白ひげのすぐ傍にいた黒ひげがその巨体に触れる。すると、白ひげは能力が使えなくなり液体――マゼランの猛毒を浴びた。

 

『オヤジイイィ!!』

「ぐっ……!?」

「ゼハハハハハ! どうだオヤジ! マゼランの毒は!? 痛ェだろ!?」

 

 再びシキの部下の能力で自分だけ回避した黒ひげは、一先ず毒で弱体化させた白ひげから視線を外す。そして、背後にいる海軍に目を向ける。

 

「ショーが始まる前に邪魔されても困るんでな――シキ、頼んだぜ」

「ジハハハハ! ああ、任せろ――テメエら、海軍にはでかい恨みあるよな? それを此処で晴らすぞ!」

 

 そう言うと、シキは再び空に船を幾つも浮かせて、彼の言葉に反応した部下たちが声を上げて下劣な笑みを浮かべる。

 中にはゼファーが捕らえた凶悪な能力者もおり、海兵たちは自然と険しい表情を浮かべる。一人一人が強く凶悪な海賊。油断をすればあっと言う間にやられてしまうだろう。

 

「あらら。これは厄介な事になったな」

「ん~。怖いね~。とりあえず全員死刑でしょ」

「センゴク。急いで海兵たちを下がらせろ。あれは、並みの実力じゃあ太刀打ちできんぞ」

 

 しかし、海兵たちは何処かこの危機を脱すことができると思っていた。

 此処には海軍大将が二人と元大将が一人居る。加えてセンゴク元帥も居り、英雄ガープも健在。抑え込むは容易かと思われた。

 しかし――。

 

「ぬ――」

「む――」

「これは――」

 

 突如、三人の体を襲う異変。モドモドの実の能力で若返っていた体が次々と、この時代のものへと戻るではないか。

 それに、センゴクは焦る。ゼファーはまだしも、黄猿と青雉にはジョットに受けたダメージが残っている。戦争でも少なからず傷を負っており、その状態で戻れば――。

 

「っ……!」

「これは……不味いねェ……」

 

 大将二人がガクンッと膝を折る。ギリギリ戦えるが、大幅な戦力ダウンは確実だ。

 ゼファーは、己の部下のアインに何か起きたのだと理解し狼狽している。

 

(不味い――)

 

 センゴクの顔に、焦燥がはっきりと現れた。

 それを見たシキが笑みを浮かべ――叫ぶ。

 

「行くぞ野郎共――海軍を滅ぼせえええ!」

『オオオオオ!!』

 

「くそ――全員構えろ! 油断は決してするなぁ!!」

『オオオオオ!!』

 

 死刑囚たちは恨みを返すべく。

 海軍は、それを取り押さえるべく武器を構えて突貫し。

 シキは巨大な船を降らせ、それをセンゴクが打ち壊し――激しい戦闘が始まった。

 

 そして――。

 

「ゼハハハ……! 親子喧嘩と行こうぜ、オヤジ!」

「ティーチ……!」

 

 白ひげと黒ひげも激突し……。

 

「……っ」

 

 星の名を持つ男は……まだ目覚めなかった。

 



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エドワード・ニューゲート

「それにしても驚いたわ。まさか麦わらボーイと火拳ボーイがサボの兄弟だったなんて」

「イワさん! 無事だったか!」

 

 サボがイワンコフを見て表情を和らげる。

 子どもの時から世話になっている人の無事に喜んでいるようだった。

 

「それにしても、よくドラゴンが許したッチャブルね」

「ああ……一応表向きは任務なんだ。この戦争に参加する同士の救助……ってね」

「それってヴァターシの事? 何故それを――」

「ああ、それはメアリーの邪王真眼で――」

 

「――サボくん!」

 

 戦場に、少女の声が響く。

 名前を呼ばれたサボは、そちらに振り返り表情を明るくさせる。

 

「コアラ! お前たちも無事に――」

「この要件人間!」

「げふ!?」

 

 少女コアラは、サボに向かって勢いよく拳を振り抜いた。

 思いっきり殴られたサボは痛む頬を抑えながら抗議する。

 

「痛ェな! 何するんだ!」

「当たり前でしょ! いきなりメアリーを掴んだと思ったら言うだけ言って先走って……!」

 

 コアラの不満に、革命軍の仲間たちも同じ気持ちなのか半目でサボを見ていた。

 しかし無理もない。CP9達を振り切ったと安堵したと思えば、彼はさっさとメアリーと共にマリンフォードに向かったのだから。彼がどれだけ急いでいるかは、先ほどの戦闘で嫌というほど理解できる。戦闘中、滅多に気を乱さないサボが足止めするCP9に激昂するほどだ。

 それでも、戦争に介入するのだからもっと慎重になって欲しいというのがコアラ達の見解だ。

 頬を膨らませて怒るコアラにサボが困っていると、彼女を見て反応を示す者が居た。

 

「コアラ!? お前、コアラか!?」

「あ、ジンベエさん……!」

 

 コアラが、ジンベエを見て思わず再会を喜び顔を綻ばせ……しかし、すぐに顔を伏せた。

 かつてフィッシャー・タイガー率いるタイヨウの海賊団の手によって彼女は故郷に返して貰った。しかし、フィッシャー・タイガーはその後コアラの故郷の人間が海軍に通報した事により……。

 大人になり、色々と知った彼女はタイヨウの海賊団に合わせる顔が無かった。

 それに、今は戦争中だ。再会を喜ぶのも、話をするのも後にした方が良い。

 ジンベエもそれを何となく察したのか、それ以上何も言わず押し黙った。

 コアラはそんなジンベエに感謝しつつ、サボに話しかける。

 

「サボくん。火拳のエース……いや、君の兄弟は?」

「……あいつなら、あそこに居る」

 

 サボは、コアラの問いにすっとある方角を指差す。

 そこには、他の白ひげ海賊団の面々と共に白ひげと黒ひげ海賊団の戦闘を見守るエースの姿があった。拳を強く握り締めて、必死に飛び出すのを堪えていた。

 

「なんで? 早く此処から逃げないと!」

 

 この戦争で最も狙われるのはエースだ。故に、コアラは早く逃げるべきだと進言する。

 しかし、その言葉にサボは首を横に振った。

 

「おれもそう言った……だが、エースは聞き入れてくれなかった」

「なんで?」

「……」

 

 サボがエースを呼び止めた時、彼はこう言った。

 

『――助けに来てくれたのは分かっている。お前が言っている事が正しいのも……だが、これで最後なんだ。オヤジの姿を見るのは』

 

 エースは、自分を救ってくれた人の最期を看取りたいと言っていた。

 本当なら、自分が代わりに黒ひげと決着を付けたいと思っている。

 しかし、彼は白ひげの船長命令で生きて新世界に帰らないといけない。故に――戦わず、皆と共に見守っていた。

 それを聞いたコアラは何か言いたそうにしていたが、サボがこれ以上何も言わない為にそれ以上の追及を止めた。

 

「……そう言えば、メアリーは?」

「赤犬を放置するのは危ないから、気絶している今のうちに埋めると言って居なくなった」

「……」

 

 ちなみに、コアラはメアリーの事が苦手である。

 一応友人なのだが、それでもやはり……彼女の行動のえげつなさが理由でいまいち距離を縮める事ができないでいた。

 なお、本人は現在持参した爆弾やダイヤルを駆使して地下通路を破壊していた。彼女が恐れられる日々はまだまだ続く。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「はあ!!」

 

 ガープの拳骨が、マリンフォードで暴れる死刑囚の頬に直撃する。かつては山を砕く力を持つそれは、衰えても尚凄まじい威力を持っている。覇気が込められた事もあり、死刑囚は己の自然(ロギア)の能力で回避する事もできず沈められた。

 しかし、ガープの表情は険しいままだった。こちらが一人倒す間に、向こうは大勢の海兵を殺している。その原因は――。

 

「ジハハハハ! ほれ。ほれ。防いでみろヒヨッコ共ォ!」

 

 センゴクとゼファーを相手にしながら、次々と能力で大破した軍艦や海賊船を降らせては、それを再び浮かび上がらせて降らせるシキ。実質、彼一人で海軍は甚大な損害を受けている。

 

「くそ……調子に乗るなァ!!」

「待てゼファー! 今のお前では!」

 

 老いた体でゼファーが空に浮くシキへと突貫する。それをセンゴクが止めるも、シキはあくどい笑みを浮かべてソレをゼファーと己の間に割り込ませる。すると、バトルスマッシャーで殴り掛かっていたゼファーは、直撃する前に攻撃をピタリと止めた。

 バトルスマッシャーの先には、息絶えた海兵……それもゼファーの教え子である遊撃隊に所属する者。シキは、背中に背負られた武器に能力を使用し、ゼファーから身を守る盾としたのだ。

 

「死んだ奴は生物じゃねえよな?」

「――シキィイイイッ!!」

 

 まるで彼の部下を物扱いするかのような発言に、激昂し叫ぶゼファー。シキはそれを鼻で笑うと海兵越しに斬撃を放つ。ゼファーはそれを防ぐも、己の部下に行ったさらなる侮辱に、怒りでどうにかなりそうだった。受け止めた息絶えた海兵を胸に抱きながら地面に降り立ち、叫んだ。

 

「貴様は……貴様だけはッ!!」

「相変わらず甘ちゃんだなゼファー。テメエが相手にしてんのは海賊だぞ?」

 

 しかし、シキはゼファーの怒りを受け流しながらチラリと白ひげと戦っている黒ひげを見る。

 

「さて……もう少し付き合って貰うぞテメエら!!」

 

 そう叫ぶと、シキは再び船の残骸を能力で浮かび上がらせた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「ふんっ!」

「ゼハハハ! 流石だなオヤジ! 毒を喰らってもなお、まだ動けるとはなぁ!」

 

 嗤いながら、黒ひげは白ひげの地震の力を無効化する。

 サッチを殺し、手に入れた悪魔の実。希少な自然(ロギア)の中でもさらに異質の――ヤミヤミの実。黒ひげの体から吐き出された闇は全てを飲み込み、悪魔の実の力ですら例外ではない。

 闇水(くろうず)を発動させ、闇に染まった拳で何度も白ひげを殴る。毒を喰らっているというのもあるが、彼の拳を受けた白ひげは苦悶の表情を浮かべる。

 黒ひげは、何度も何度も殴りながら嗤い続けた。

 

「おれはアンタを尊敬していたが、今じゃあただの死に掛けの老人! 聞けばルーキー共に介護して貰って、ようやく息子一人救い出したらしいじゃねえか!」

「あいつ……!」

 

 あまりにもあんまりな物言いに、白ひげを父親と慕う者たちが怒りで飛び出そうとした。黒ひげはそれを愉快気に眺めながら、なお拳を白ひげに叩き込みながら薄汚い言葉を吐いた。

 

「アンタの時代は終わったんだ! これからはおれの時代だ!」

 

 そう叫び、一際強い一撃を白ひげに叩き込み――その腕を白ひげに掴まれる。

 

「は――」

「ティーチ……テメエの弱点は慢心し、軽率な行動をする事。昔から何度も言っていたが――どうやら聞いていなかったようだな」

「な……は、放せこの――」

 

 喚く黒ひげの顔面を白ひげの拳が捉える。ヤミヤミの力で能力が使えずとも、覇気で強化された白ひげの鉄拳は一瞬で意識が飛び掛けるほど強烈だ。

 思わず黒ひげは腕を放し――そのまま顔を摑まれて地面に叩き付けられる。

 そして蘇るのは地震の力。黒ひげは、その光景にゾッとして白ひげの腕を掴んで無力化する事も忘れて叫んだ。

 

「ま、待てオヤジ! おれは息子だぞ! 本当に殺す気――」

 

 彼の命乞いは聞き入れて貰えず――白ひげの子を想う怒りが爆発した。

 強い地震の力が彼らを中心に解放され、衝撃が戦場にいた者たちに響き渡る。黒ひげの戦いを傍観していたクルーたちもそれぞれ表情を変えた。

 やはり伝説の海賊。老いても、毒を喰らっても尚あれ程の力がまだ残っている。

 隆起した地面の中央で、白ひげはまだ息がある黒ひげを強く睨み付けていた。

 

「ハァ……ハァ……! こ、この死にぞこないが……! テメエら、やっちまえ!」

 

 黒ひげの叫び声と共に、彼に見出されたクルーたちが各々武器を手に白ひげに殺到する。

 それを見た白ひげが薙刀を構え、地震の力を解放しようとするも……。

 

「地震は起こさせねえ! “闇水(くろうず)!”」

「……!」

 

 足元で倒れていた黒ひげによって地震の力が打ち消される。

 攻撃を妨害された際に生じたその隙を、黒ひげ海賊団は見逃さない。

 殺意と悪意が形となって白ひげの体に次々と傷をつけていく。

 銃声が響き、肉が切り裂かれる音が鼓膜を震わせ、それを見て悲鳴を上げる白ひげ海賊団。

 

「ぬああああああ!!」

 

 それでも尚、白ひげは倒れなかった。能力が使えない状態で、襲い掛かる黒ひげ海賊団を薙刀で薙ぎ払う。吹き飛ばされた面々はまだここまで力が残っているのかと戦慄する。

 

「ちっ。流石にしぶといな」

 

 空から戦況を見守っていたシキが動いた。

 己の能力の支配下にある刀剣類を先ほどまで乗っていた軍艦から浮かび上がらせると、そのまま黒ひげ海賊団と戦っている白ひげへと突き立てた。

 もちろん、マゼランの毒がたっぷりと塗り付けられている。

 幾つもの剣や刀が白ひげの体を貫き、動きが止まった。

 

「今だァあああ! ありったけの弾丸をぶち込めェええ!」

 

 畏怖が入り混じった叫び声と共に、黒ひげ海賊団の総攻撃が始まる。

 目を覆いたくなるような蹂躙。それを白ひげ海賊団たちは泣きながらも見ていた。助けたくても、飛び出したくても、それでも白ひげの船長命令――いや、彼との最後の約束を守る為に耐えて、その光景を目に焼き付けた。

 やがて弾が尽きたのか、銃声が鳴り止む。

 

「ちっ……おいシキ! こっちに武器を――」

「いや、その必要はねェ。もうこの怪物は直に死ぬ」

 

 シリュウの言う通り、白ひげはもう立っているのでやっとだった。

 意地で何とか戦っていたが、老いた体にマゼランの毒は強力過ぎた。

 それでも激痛に耐え、命の灯を必死に燃え上がらせて戦っていたのは愛する息子の為。

 しかしそれも限界だった。

 

(済まねえな息子たち……)

 

 朦朧とする意識の中、白ひげは心の中で息子に詫びた。

 目の前の邪悪なる男を道連れに落とし前を付けるつもりが、それもできそうになかった。

 唯一の心残りを前に、しかし白ひげの心は満たされていた。

 

(あいつらには、たくさんのものを貰ったなァ……)

 

 エドワード・ニューゲートは、海賊でありながら財宝に興味が無かった。

 彼が欲したのは――家族。

 世間は白ひげ海賊団は、彼の名と力で守られていると認識しているが……白ひげもまた彼ら家族によって守られていたのだ。孤独という、世界を壊す力がありながらも堪えられない絶望から。

 

(本当に、おれには勿体無ェ奴らだ……)

 

 白ひげの脳裏に家族全員の顔が思い浮かぶ。

 スクアードが馬鹿な息子で良いと言ってくれた時は、本当に嬉しかった。息子たちが次々と命を落とす光景は、胸が張り裂けそうな程苦しかった。エースを救う事ができて本当に良かった。

 そして思い出すのは最後の最後に出会った……孫の事だ。

 

 “――オヤジィ! 空から変な奴が!”

 “――変な奴だァ?”

 “――その、何というか……日記を書きながら逆さまで降って来たんだ!”

 “――ああ?”

 

 奇妙な奴が来たと思った。

 

 “――グラララ。お前が星屑か”

 “――そういうアンタが白ひげか……ひげ、凄いな”

 “――堂々としている……ジョセフの野郎は元気か?”

 “――さあな。随分前に別れた……親父の事知ってんのか?”

 “――……親父!?!?”

 

 両親に似ていると思った。

 

 “――どうしても話さないんだな”

 “――さっきからそう言ってんだろアホンダラ。この先の海で親父に聞きやがれ”

 “――頑固ジジイ……”

 “――グラララ。そういうテメエは生意気小僧だ”

 

 自分に少し似ていると思った。

 

 “――なるほど。つまり、俺の母親はアンタの娘だった訳か”

 “――ああ、そうなるな”

 “――ふむ……という事は、オレはさしずめアンタの孫って事になるな”

 “――孫? テメエが? グララララッ!!”

 “――ちょ、オヤジそんな大声で笑ったら……!”

 “――爺さん?”

 “――グラララ! グラララ―ーゲホゥ!?”

 “――オヤジィ!?”

 “――オヤジの古傷が開いた!?”

 “――なんで古傷!?”

 

 爺さんと言われて嬉しいと思った。

 

 “――白ひげ”

 “――なんだァ、ジョット”

 “――……死ぬなよ”

 “――……グラララ。おれァ白ひげだぞ?”

 

 ……済まない、と思った。

 

 たったの数日という短い時間。しかし、彼と過ごしたこの時間はとても楽しいものだった。

 そしてそれは彼の息子たちも同じであり、これから仲良くしているだろうと思っていた。

 だからこそ、彼に自分の息子たちを託した。そんな彼に、黒ひげという男をこの世に残すのが申し訳なく思い――しかしすぐに不必要な心配だと悟る。

 

(あいつなら、きっと――)

 

 ……もう、彼に時間は無かった。

 毒が、彼を奈落の底へ落とそうとしている。白ひげにそれに抗う術はなく――。

 

(ジョット、最期にお前と会えて、本当に――)

 

 

 

 

 

「――立ったまま、死んでやがる……!」

 

 息子たちの泣き叫ぶ声を背中に、白ひげはこの世を去った。

 数多の傷を受け、毒に冒されながらも、その体屈することなく――。

 

 そして、その誇り高き後ろ姿には……あるいはその海賊人生に――一切の逃げ傷なし。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 白ひげの死に悲しむ間も無く、()()は行われた。

 

「ハァ……ハァ……! この時を、待っていた! 始めるぞ!」

 

 黒ひげ海賊団が突如白ひげの遺体を囲うと、黒い大きな布でその姿を隠した。

 それを見た海兵たちも、白ひげ海賊団の面々も表情を険しくする。

 

「ジハハハハ! 失敗するなよ、黒ひげ!」

 

 黒ひげもまた布の中に入り、黒ひげ海賊団たちはそれを邪魔しないように守りについた。

 下手に動けず、しばらく時間が経ち中から黒ひげが出て来た。

 しかし、中から出て来た黒ひげにも、白ひげの体にもなんら変化は無かった。

 黒ひげ海賊団たちは何が起きたのか――いや、これから起きるショーを知っているのかニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

「よし! テメエら、船に乗り込めえ!」

「ちっ、もう終わりか!」

「そう言うな! 巻き込まれるとヤバいぞ!」

 

「巻き込まれる……?」

 

 シキの部下になった死刑囚たちは急いで引き返し、軍艦に乗り込む。

 最後にサンファン・ウルフが乗ったのを確認すると、シキは黒ひげの邪魔にならないように軍艦を空高く浮かび上がらせ、自身は黒ひげ海賊団の面々の隣に降り立った。

 黒ひげ海賊団たちの前に出た黒ひげは、警戒する海軍を見据えてその太い指を突き付けた。

 

「海軍~~……おめェらに、おれの力ってモンを見せておこう! 晴れて再び敵となるわけだ」

 

 邪悪に笑いながらそう言うと、黒ひげは右腕を思いっ切り地面に叩き付けた。

 

「“闇穴道(ブラックホール)!”」

「うわ!?」

「なんだ!?」

 

 瞬間、全てを引きずり込む闇が広がり海兵たちを飲み込む。

 

「これがおれの“ヤミヤミの実”の能力(ちから)! そして――」

「……! あれは……あの構えは!?」

 

 腕を引き絞り構えるその姿に――海兵たちの背に悪寒が走る。

 それはまさに先ほどまで黒ひげと戦い、この戦争でマリンフォードを壊滅寸前まで追い込んだ男の能力。

 黒ひげの拳が大気に叩き付けられ、ビリビリと衝撃が走り――海軍本部が完全に崩壊した。

 

「あれは、グラグラの実の能力!」

「オヤジの能力が何で!?」

 

 見間違う筈も無い。黒ひげは――白ひげのグラグラの能力を手に入れた。

 方法は分からないが、それだけは確かな真実だ。

 

「ゼハハハハハ! 全てを無に還す“闇の引力”! 全てを破壊する“地震の力”!

 手に入れたぞ……これで、もうおれに敵はいねェ! おれこそが最強だ!!

 ビッグマムも! カイドウも! 赤髪も! そして! あの隠者でさえおれを止められねェ!

 ――ここから先は、おれの時代だ!! ゼハハハハハ……ゼーッハッハッハッハッ!!」

 

 世界中の人々が恐怖した。この先の未来に。

 目の前に映る光景は、まさに未来の縮図だと誰もが理解させられた。

 圧倒的な悪を前に市民は、世界政府は、海軍は恐怖した。

 

 白ひげ海賊団たちも同じだった。自分たちをいつも守っていた偉大な男の力が、あの過去最悪の“敵”に奪われてしまった事に怒り、そして恐怖した。

 しかし、下手に手を出せばどうなるかは――海軍の要塞を見れば明らかだった。

 

 皆が闇と破壊の絶望に包まれるなか――一人の男がようやく動いた。

 男は、ずっと見ていた。白ひげの最期を。そして――プッツンするのに十分なその光景を。

 彼の血が、ジョン・スターの血が、彼に力を与える。怒りが肉体を動かし、魂を震わせ――。

 

「――船長! 危ない!」

「ああ? なん――」

 

 バージェスの警告に振り返った黒ひげの目の前に――瞳に怒りの炎を宿らせたジョットの姿が映る。ジョットの意志に反応し、消えた筈のスタープラチナが蘇り――その拳が黒ひげの頬に減り込み、吹き飛ばした。

 

「――オラァアアアアッ!!」

「――ぐはァ!?」 

 

 背中から落ち、こちらを睨み付ける黒ひげに向かって――ジョットは宣戦布告した。

 

「――返して貰うぞ、爺さんの魂」

 

 強い眼差しで敵を見据える瞳から、一つの雫が流れ頬を濡らした。

 




白ひげのワンピース宣言が無いのは仕様です


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テメェはオレを怒らせた

今年最後の投稿ゥゥウウ!!


「うわああああああ! オヤジィィイイイイ!!」

 

 朦朧とする意識の中、ジョットの耳に悲しみの声が聞こえた。

 マルコやビスタといった隊長達。スクアードやドーマの傘下の海賊。そして救い出されたエース。彼らは全員「オヤジ」と叫び、泣いていた。

 体の芯に響く痛みに耐えながら、ジョットは目を見開き――理解した。

 ドス黒いオーラを持つ男が率いる海賊団を前に、どっしりと構える白ひげの身には既にオーラが無かった。それでも尚、彼は薙刀を振るい、背中の息子たちを守るように戦い続けていた。

 白ひげはもう死んでいる。しかし、彼の強い意志が無理矢理体を動かしていた。それに今気づいたジョットは――。

 ……いや、違う。これは記憶だ。ジョットは全て見ていた筈だ。白ひげが自分の息子たちを……そして孫のように思っていたと言ったジョットを助けるべく、一人で戦っているその雄姿をしっかりと焼き付けた筈だ。その母と同じ青い瞳で。

 

 しかし、ジョットはよく見えず受け入れる事ができなかった。目の前の光景が歪んで……涙で歪んだせいで良く見えなかったのだ。

 

(――オレは、爺さんを……)

 

 助ける事ができなかった。

 失意と悲しみに、ジョットは目を閉じようとし――。

 

『――目を閉じるなよジョット』

「――」

 

 頭の中に響く声に、彼は思わず視線を上げる。

 そこには蹂躙される白ひげしか居らず、彼に声を掛ける祖父の姿は無かった。

 しかし、今確かにジョットに声が届いた。

 

『グララララ……これもお前のオラオラ実の覚醒って奴かジョット』

「じい……さん……!」

 

 ジョットの眼に、オーラが集う。

 やがてそれは人の形となり――白ひげエドワード・ニューゲートとなった。

 白ひげは、グララララと笑いながら拳を握り締めると、思いっきりジョットの頭に拳骨をした。

 音はせず、痛みも無いが――ジョットは確かに頭を殴られた感触を味わった。

 何が起きているのか分からない。それは白ひげも同じようで、まるで残された短い時間を使うかのように、ジョットに一方的に話した。

 

『ジョット、おれは死なねえよ』

「……」

『お前たちがおれの事を忘れねえ限り、おれはお前たちの中で生き続ける――だからよ、前を向いて立ち上がれ。海賊王になるんだろ?』

「……最期くらい、別れの言葉を言えよ爺さん」

『グララララ! 言いたい事くらい、既に伝わっているだろうが! ここによ!』

 

 笑ってそう言うと、白ひげはドンッとジョットの胸を叩いた。

 太く逞しく……しかし今にも消えそうな腕を見て、ジョットは思いっきり堪え忍んだ。しかし、頬を濡らす涙は次から次へと流れてくる。

 

『ジョット、お前は優しい奴だ。だから先に言っておく――これからティーチがおれの体に何しようと怒りに飲まれるな。テメェの頭で考えてからの行動なら何も言わねえが、『血』には飲まれるなよ?』

 

 チラリと黒い布の中に入る黒ひげを見ながらそう忠告し、彼は己の手を見る。

 もう、時間が無い。これが最期の言葉だ。

 白ひげは、その言葉をしっかりと伝えた。愛する娘の忘れ形見に――ではなく。

 

『ジョット。最期に、お前と出会えて本当に良かったぜ』

 

 たった一人愛した孫に向けて――。

 その言葉()を受け取ったジョットは――静かに泣き続けた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

(――すまねえな、爺さん。アンタの忠告聞けそうにねェ!)

 

 頬を押さえて起き上がる黒ひげを睨み付けながら、ジョットは白ひげに謝っていた。

 白ひげが最期の時間を使って伝えた助言。それに従う事はできないとジョットは確信していた。血がどうとか、そういう話じゃない。

 長年家族を守るために使っていた()を、最強の座などというちっぽけものの為に奪った黒ひげをジョットは許せなかった。

 

(あんな光景見せられて、頭に来ねえ奴は居ねえ!)

 

 怒りの感情を叩き付けるジョットに、黒ひげは戸惑いの表情を浮かべる。

 目の前の男は、かつて成り上がる為の生贄として目を付けていた候補の一人だ。しかし、初頭手配一億という不可解な現象から、計画に支障が出ると判断して見逃していた。現に、驚きの速さで成り上がっており、少しだけ薄ら寒さを覚えている。

 そんな男が何故此処に居る? それに、何故目の前の男を見て妙な既視感を覚える?

 黒ひげが奇妙な感覚に戸惑っていると、崖の向こうから白ひげ海賊団の声が響いた。

 

「ジョット! 何をしているんだ!」

「戻って来い! お前、体ボロボロじゃねえか!」

「ジョットの奴、まさかティーチの野郎と戦うつもりか?」

 

「――ジョット、だと?」

 

 聞こえて来た言葉に、黒ひげの胸の中に沸き起こっていた違和感が霧散した。

 ジョット。それは、黒ひげにとって特別な意味を持つ。

 全てを理解した黒ひげは、必然的にジョットという男の正体にも気付いた。センゴクの暴露を耳にしていないにも関わらず、だ。

 しかし、それは当然の事である。何せ、黒ひげは――ジョットと因縁を持つ男なのだから。

 

「ゼハハ……ゼハハハハハ! ゼハハハハハァッ!」

「せ、船長?」

 

 黒ひげの様子に、思わず戸惑うクルーたち。

 しかし、そんな事など気にならないとばかりに黒ひげはジョットだけを見ていた。

 まさか、存在していたとは。そして、こうして相見えるとは思わなかった。

 黒ひげは、運命に感謝しつつ口を開いた。

 

「そうか……お前がジョットか! なるほど、()()()ジョジョか! 良い名じゃねえか! なぁおい――リードの姐さんの息子さんよォ?」

「リード……なるほど、そういう事ですか」

 

 黒ひげの言葉に、ラフィットは納得したと言わんばかりに頷いた。

 かつて、黒ひげ海賊団に所属して間もない頃、彼は黒ひげからある話を聞かされていた。

 バージェスたち古株も同じなのか、戸惑いの表情を消してニヤニヤとジョットを見る。

 ジョットは、そんな彼らの視線を向けられながらも黙って黒ひげを睨み付けていた。

 

「お前の事はよォく知っているぜ! お前よりもなァ! なんせ、おれァ白ひげ海賊団でも古株だったからな。姐さんに子どもができた時、男だったら『ジョット』と名付けるって言っていたぜ? ――ジョジョ! テメェも隊長たち(そいつら)から色々話を聞かされたんだろ? 綺麗な姐さんの話をよォ!」

「……」

「随分と慕われていただろ? 姐さんは優しかったからなァ。海の嫌われ者のおれ達を、オヤジと共に温かく受け止めてくれた! ――だが、そんな姐さんにも闇があった! おれとオヤジしか知らねえ闇がな!」

「姐さんの闇……だと?」

 

 マルコ、初めて聞いたその言葉に戸惑いの表情を浮かべる。それを見た黒ひげはニヤリと笑みを浮かべ――まるで、その事を此処で暴露するのが楽しくて楽しくて仕方ないかのように、叫んだ。

 

「――姐さんは、白ひげ海賊団の鉄の掟……仲間殺しの罪を犯しかけた」

『――』

 

 その言葉を聞いた白ひげ海賊団たちは――全力で否定した。

 

「ふざけんな!」

「姐さんがそんな事する筈がねえ!」

「いいや、事実だ! ――その殺しかけた仲間っていうのがおれなんだからな!」

 

 黒ひげは言う。自分は、ジョットの母リードに殺されかけたと。

 

「姐さんは気づいていたのさ、おれの恐ろしさに。だからおれを暗殺しようとし――失敗した。船に居られなくなった姐さんは、隠者の野郎に着いて行って船を降りたのさ! 己の罪を隠すために!」

「そんな、バカな事が……!」

 

 白ひげ海賊団は、明かされた真実に大きく動揺した。

 理由はどうあれ、慕っていた女性(ヒト)が罪を犯しかけていたという事実を受け入れる事ができなかったのだ。

 特にマルコやスクアードと言った彼女に世話になった者はそれが顕著で、思わず膝を着いてしまう程だ。

 

「そしてジョジョ! お前随分オヤジの事を慕っているようだが――全てを知っているおれからすれば、哀れで滑稽だ」

「――どういう事だ」

「疑問に思わなかったのか? 罪を犯しかけたとはいえ、それでも姐さんはオヤジにとって娘だった――だがな」

 

 これまでは全て前置きだったのだろう。黒ひげは、これが言いたくてリードに殺されかけたという己の唯一の失敗を明かし、長々と語っていた。

 黒ひげは、決定的な言葉をジョットに突き付けた。

 

「オヤジは、姐さんを――お前の母親を見殺しにしたんだよ!」

「――」

「鉄の掟に触れ、船を降りたお前の母親は見捨てられたのさ! 口では娘と言いつつ、オヤジにとって姐さんは既に()()だった! そして、それを知らず都合の良い話を聞かされたお前は、良いように利用されたってわけだ! 

 

 

 オヤジはもう一度欲しかったんだよ! ジョン・スターの血がさァ!!」

「――テメェ!!」

 

 ジョットは思いっきり地面を蹴った。埋没するほど強く。

 弾丸のように黒ひげへと飛び出し、スタープラチナがその拳を限界まで握り締める。

 しかし、それを見据える黒ひげは笑っていた。

 

「“闇水(くろうず)!”」

 

 黒ひげの闇が――スタープラチナを掻き消した。今まで数々の困難と強敵を退け、打ち倒してきた彼の魂が、初めから存在しないかのように消えた。

 ジョットの腕を掴んだ黒ひげは、反対の拳を握り締め――グラグラの実の力を宿らせそれを思いっきりジョットの胸に叩き込んだ。

 大気がヒビ割れ、衝撃が地面を走り、ジョットは大量の血を吐いて吹き飛んだ。

 

『ジョット!!』

 

 直撃。世界を破壊する力が、たった一人の人間に撃ち込まれた。その光景を目にした白ひげ海賊団たちは、悲鳴を上げる。

 背中を地面に付けていたジョットは、ヨロヨロと立ち上がり黒ひげを睨み付ける。

 それを見た黒ひげは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「ゼハハハハハ……そうだ。男って奴はそうでなくちゃあな、ジョジョ! ――“闇水(くろうず)!”」

 

 黒ひげは、闇の引力でジョットを自分の元へと引き寄せる。そして、反対の腕に地震の力を宿らせた。

 もう一度叩き込むつもりだと理解した白ひげ海賊団たちは、それぞれ武器を構え、空を飛べる者はジョットを助けようとし――。

 

「――来るなァ!!」

 

 ――ジョットの一喝で止められた。

 体が動かなかった。まるで、オヤジと慕う白ひげに言われたかのように――。

 自分たちの身に起きた異変に白ひげ海賊団の面々が戸惑うなか、再び地震が起きた。

 ハッとして全員が揺れの発信源に目を向けると、そこには黒ひげに拳を叩き付けるジョットの姿があった。

 

「ジョ――」

「――オラァ!!」

 

 白ひげ海賊団の悲鳴を遮るように、ジョットの怒号が広場に響く。

 覇気で黒く変化した拳が、黒ひげの腹に深々と突き刺さっていた。地震の力を叩き込まれてもジョットは怯まず反撃をしていた。あまりにも重い一撃に、異様な体の構造を持ち常人以上にタフである黒ひげですら意識を飛ばしかけた。

 闇の手で掴まれたまま、ジョットがもう一度拳を叩き込む。

 

「オラァ!!」

「ぐっ……痛ェなこん畜生がァあああ!!」

 

 意識を繋げて、黒ひげが地震の力が宿った拳でジョットを殴りつけた。

 ビキリと大気がヒビ割れる音が響き、マリンフォードにさらなる負担を掛けながらジョットもまた吹き飛ぶ。

 

「ぐっ、ハァ……ハァ……!」

「船長! 大丈夫か!?」

「手ェ貸そうかティーチ」

「いや、テメェらは手を出すな……ゼハハハ。やはり、ジョン・スターの拳は良く効くぜェ……!」

 

 殴られた場所を押さえながらも、黒ひげは立ち上がる。ジョットもまた、満身創痍の体を起こしスタープラチナを出して構える。

 

「だが、()()の地震の力の方がずっと重い! 能力が使えないと踏んで、それを囮に近づき拳を叩き込むってのは良い作戦だが……相手が悪かったな。テメェがおれを倒す前に、テメェが死ぬぜ? 自慢じゃねえが、我慢比べは得意なんだ――試してみようぜ!」

 

 黒ひげが再び闇水を使いジョットを引き付け、スタープラチナが消え――ゼロ距離でお互いの拳が叩き付けられる。しかし、誰の目から見ても明らかだった。

 白ひげのグラグラの実を奪った黒ひげの一撃の方が遥かに威力が高いと。黒ひげがその太い腕を振るう度にジョットの体が吹き飛び、周囲に被害が及んでいく。これではまるで死刑だ。ジョットも己の拳を叩き込んでいるが、その度に地震の力を叩き込まれては身が持たない。

 白ひげ海賊団たちは、その目を覆いたくなる光景を見ながら泣き叫んで懇願した。もう止めてくれと。ジョットに手を出すなと。しかし、全員が目の前の崖から飛び出して無理矢理止める事ができなかった。恐怖によって体が動かないのではない。それ以上の力で強制的に地面に縫い付けられているかのように動けなかったのだ。

 

「……センゴク元帥。我々はどうしたら」

「――手を出すな。手を出せば、こちらがやられる」

 

 そしてまた海軍も動けなかった。海兵たちは地震の脅威に怯え立ち竦んでいる。

 将校の一人がセンゴクに指示を仰ぐと、彼は全軍に動くなと指示を下した。

 

「そう、ですよね。白ひげの力が星屑のジョジョ一人に向けられている今、下手に動けば――」

「そうではない……!」

「え?」

「本当に危険なのは――星屑のジョジョの方だ!」

 

 センゴクは――今、見極めようとしていた。

 何度も何度も地震の力に叩き付けられながらも、スタープラチナを展開して立ち上がるジョットに。そして、今この瞬間も成長を続ける彼の力に。

 

 そろそろ足場が無くなりそうなほど地震が地面を破壊し尽くした頃、ジョットが血濡れになったのを確認した黒ひげは息を切らしながらも笑みを浮かべた。

 

「――予想以上だ」

 

 誰が想像できようか。グラグラの実の能力の直撃を何度も受けながら立ち上がる男が居る事に。最初は笑っていた黒ひげ海賊団たちは、次第に表情を引きつらせ、今では額に汗を垂らして信じられないと目を見開いていた。

 しかし、黒ひげはその光景に満足していた。まるで、それこそが当然だと言わんばかりに。

 

「よく耐えたなジョジョ。褒めてやるぜ……おそらくこの先に居ねえぞ。これほどまでに()()の地震の力を受けて立ち上がる男はよ……」

「……!」

「なぁ、ジョジョ……オメエ、おれの息子にならねえか?」

 

 その言葉に、誰もが反応を示した。

 元白ひげ海賊団だった彼がそれを口にするという事は、つまり――。

 

「ゼハハハ! お前を此処で殺すのは惜しい! それによ、おれァ姐さんを狙っていたんだ! あんなに良い女他に居ねえよ! 隠者の野郎が持って行かなきゃあ、おれがあの人を手に入れていたんだ! つまり、オメエがおれの息子になる可能性もあった訳だ!

 だから、呼んでいいぜ――白ひげ海賊団(あいつら)が白ひげに向かって呼んでいたみたいに“オヤジ”ってよう!!」

「ティーチ! 貴様あああああああ!!」

 

 もう我慢できないと白ひげ海賊団が怒りのままに動き出す。

 マルコは不死鳥の力を使って翼を広げ、エースは全身を炎に変え、ビスタは剣を構え、全員が崖を飛び越えて黒ひげに襲い掛かろうとした。

 

「待てお前らァ!!」

 

 しかし、またしてもジョットが止めた。

 

「止めるなジョジョ! そいつは、おれたちの絆をバカにしたんだ!」

「ああ、そうだ! 絶対に許せねえよい!」

 

 それでも、白ひげ海賊団の怒りは収まらない。ジョットの言葉に耳を貸さず既に黒ひげを殺す気満々だ。

 マルコなど、既に空を飛んで羽ばたいている。

 止まらない怒号。それをジョットは――。

 

「――爺さんとの約束を破るのかァ!!」

『……!!』

 

 それ以上の意志を持って止めた。彼の声が彼らの胸に響き――最後の船長命令、否、白ひげとの最後の約束を思い出させた。

 生きて、皆無事に新世界に帰還する。それが、白ひげが最後に放った言葉。

 マルコは、ジョットの言葉で――彼の意図を理解した。

 

「ジョット……お前、まさか……!」

「こんな奴のために、爺さんとの約束を破るな! もう、あの人の言葉は聞けねえんだ! だったら――最後くらい素直に聞きやがれこのアホンダラァ!!」

 

 ジョットは――白ひげの魂を懸けた決断を守るために戦っている。

 黒ひげの挑発に乗り、白ひげ海賊団(彼ら)が戦ってしまえば――それが全て無駄となってしまう。

 故に、白ひげ海賊団ではないジョットが、孫と認められ息子を頼むと託されたジョットが――何より、一つの海賊団の船長に敬意を表し、クルセイダー海賊団の船長である星屑のジョジョが、代わりに黒ひげと戦っている。

 

「……分かった」

 

 彼の意志を理解した白ひげ海賊団は――足を止めた。

 白ひげとの約束を守る為。

 そして――。

 

「だから――どうか、そいつをぶっ飛ばしてくれ、星屑のジョジョ!!」

「――ああ、任せろ!!」

 

 目の前の船長に、自分たちの未来を託す為に。

 ジョットは、仲間たちの声を背に走り出した。

 

「ゼハハハハハ! 交渉決裂だな! だったら死んで貰うぞジョジョ!! “闇水(くろうず)!”」

 

 闇の引力が、ジョットの体を捉え、黒ひげへと引き寄せる。

 黒ひげは、闇に染まった反対の腕に地震の力を宿らせて構えた。

 

(ゼハハ……そうだ、もっと怒れジョジョ!! お前の母はジョン・スターの血に飲まれて死んだ! お前も同じ運命を辿るが良い……!)

 

 どう転ぼうと、これが最後だ。それをお互いに理解していた。故に、黒ひげは――ジョン・スターの血に訴えかけて、彼を殺すための言葉を吐いた。

 

「ジョジョ! 最後に言っておく――おれァ嬉しかったぜ! お前の母親が死んでよォ! ゼハハハハハ!」

 

 その言葉を最後に黒ひげは――拳を振り被って叩き付けた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 ジョットは、黒ひげを倒すには――スタープラチナの力が必要不可欠だと理解していた。

 何故ならば、スタープラチナの拳は、ジョット自身の拳よりも、黄猿の光よりもずっと速いからだ。故に、彼はこう考えた。

 

 黒ひげの闇に飲まれる前に、奪われた白ひげの力で破壊される前に、スタープラチナをぶちかませばいい、と。

 その為に、彼は何度も黒ひげの拳を喰らいながらも見極めていた。そして、ついに見つけた。スタープラチナの拳を叩き付ける最高のタイミングを。そこを突けば、ジョットは黒ひげに勝てると確信していた。

 一秒にも満たないその一瞬。彼は、そこに全てを懸けた。

 

(来やがれ、黒ひげ……!)

 

 高笑いを浮かべて体を引き寄せる黒ひげ。

 

(射程範囲に入った瞬間が――)

 

 それをジッと見ながら、ジョットはスタープラチナを構え、そして――。

 

(テメェの最後だ!)

 

 ――意識が、()()()スタープラチナに追いついた。

 

『オオオオオオオオーーーッ!!』

 

 視界がモノクロに変わり、全てが止まった世界でスタープラチナが歓喜の声を上げた。

 まるで、ようやく主に認識して貰えたと喜ぶかのように。それを驚きの表情で見上げるのはジョットだ。

 風も、水も、空も、人も。

 誰も居ない静止世界の中で、ジョットのスタープラチナだけが動いていた。いったい何故――?

 

 

 

 ――これは、ジョットは知らない事だが。

 スタープラチナはとっくの昔に限界を超えていた。青雉との戦いで初めて具現化した時から。スタープラチナはオーラの塊。肉体という足枷が無い彼のスピードは、常識を遥かに超え、光の速度を超える速さを持っていた。

 しかし、本体の意識に引っ張られていたスタープラチナはその力を十分に発揮する事ができなかった。本体の居る世界に合わせて動くスタープラチナは、さぞ窮屈だっただろう。

 だが、ここでようやくジョットの意識は壁を超えた。ほんの指先一つだが、それでも本当のスタープラチナを認識した。

 それによって、黒ひげに触れられるまでの一瞬が少しだけ伸び、目の前の邪悪をぶっ飛ばす為の時間が与えられた。

 ジョットはそれを全て理解していない――しかし、それでもいつもと同じようにスタープラチナに命じた。

 

「――奴をぶっ飛ばせ! スタープラチナ!!」

『オオオオオッ!!』

 

 スタープラチナの拳が叩き込まれ――それは瞬きする間もなく無数の拳となった。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ』

 

 白ひげ海賊団を侮辱された怒りを。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ』

 

 母を侮辱された怒りを。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ』

 

 父を侮辱された怒りを。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァアアアアッ!!』

 

 そして――白ひげ(爺さん)を侮辱された怒りを叩き込んだ。叩き付けられた衝撃が一瞬だけ突風を引き起こし、しかし停止した世界に飲み込まれる。

 そこで限界だったのだろう。全身全霊のラッシュを叩き込むと同時に世界に色が戻り――そして時は動き出す。

 

「ぷぎょろばでぃがああああああ!?!?」

「な――船長うううう!?」

 

 黒ひげの全身に突如襲う拳の暴風雨。それを意識の外から叩き込まれた黒ひげは、気絶と意識の覚醒を何度も繰り返しながら勢いよく吹き飛んで行き――シキが浮かび上がらせた軍艦に突っ込んでいった。

 大穴を空け、白目を剥き何本も歯が折れ、時折痙攣をする黒ひげ。その場に居た者たち全員が何が起きたのか理解できずに居るなか、ジョットは空高く吹っ飛んで行った黒ひげにすっと指を差す。

 

「テメェの敗因はたった一つだぜ、黒ひげ。たった一つの単純(シンプル)な答えだ」

 

 そして、聞こえていないだろうが――はっきりと伝えた。

 

「――テメェはオレを怒らせた」

 




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星屑のジョジョ 前編

 

「……っ」

 

 ガクンッとジョットの体が崩れ落ちかけた。しかし、それも無理もない。地震の力を何度もその身で受け、立っているのも奇跡なほど体がボロボロだ。

 加えて、先ほどの時を止める力。消耗が激しいのか、ジョットは途轍もない疲労感を感じ取っていた。もはや、意地で立っている状態だ。

 しかし、まだだ。

 黒ひげをぶっ飛ばしたが――まだ生きている。すなわち、白ひげの魂をまだ取り返していない。下がっていた頭を上げ、ジョットは軍艦に突っ込んだ黒ひげを再度睨み付け――。

 

「“波動エルボー!!”」

「ぐっ……!?」

 

 ――意識外からの攻撃を、まともに受けてしまった。本来なら見聞色の覇気で容易に見切れる一撃。微弱に覇気が込められていたようで、ジョットの体内が波動によるダメージで悲鳴を上げ口から赤い血が垂れる。

 

「ジョット!」

「テメエ……卑怯だぞ!」

 

 その光景を見た白ひげ海賊団の面々が悲鳴を上げる。しかし、それを黒ひげ海賊団が鼻で笑って返す。

 

「ホホホ! 海賊が何を言っているのですか? 弱り切った脅威をみすみす逃す程、ウチはバカではないので」

 

 しかし、ラフィットは余裕綽々な態度とは裏腹に内心焦っていた。

 当初の計画と比べて、随分と狂ってしまった。

 今此処で黒ひげが誰かに倒されるのは非常に不味い。映像電伝虫で世界中に発信されていたのも悪かった。これでは、いくら最強の力を手に入れようとも要らぬ面倒が増えるのは確実。不安材料は、できるだけ排除したいのがラフィットの考えだった。

 

「ウィーハッハッハッハッ! 死ね星屑!」

 

 バージェスの巨漢から繰り出されるラリアットがジョットに叩き込まれる。

 その感触から、バージェスはジョットに覇気を使うだけの余力はない事を確信した。

 今なら殺せる。

 悪意に染まった笑みがバージェスの顔を歪め――そして、次の瞬間物理的な力で顔がさらに歪んだ。

 殴られたのだと認識したのは、吹き飛ばされて頬の痛みに悶えた後だった。

 殴り飛ばされたバージェスを見て、そしてそれを為したジョットに黒ひげ海賊団は信じられないと目を見開く。

 

「まさか、そんな……!」

「――オレを、その程度の攻撃で殺せると思うなよ。黒ひげ海賊団……!」

 

 怪物。

 満身創痍の状態で、こちらを睨み付けるジョットの姿に彼らは戦慄した。

 覇気も、そして能力も使えない。

 にも関わらず、このプレッシャーはなんだ? 氷のつららを背中に突っ込まれたようなこの悪寒は何だ?

 ――この男は、今此処で殺さなくてはならない。

 各々武器を手に、黒ひげ海賊団がジョットに殺到する。それをジョットは己の体一つで迎え撃った。

 

 銃撃がジョットの体に穴を空け、剣や槍が肉を裂く。

 それでも尚、ジョットは己の拳で襲い掛かる黒ひげ海賊団たちに大立ち回りした。

 血が濡れていない所を探すのが難しいと思える程の傷を受けても尚、彼は立ち続けた。

 その姿に白ひげ海賊団たちは泣き叫び、ジョットの言葉に反して飛び出し、それを彼の言葉を守る為に止め、悲鳴だけが広場に響いた。

 そして、それを傍観していたセンゴクが――屈辱の表情を浮かべて、全海兵に指示を下した。

 

「――全軍。海賊共を殲滅せよ……!」

「え?」

 

 その言葉に、誰もが耳を疑った。

 火拳のエースは解放され、白ひげは黒ひげによって討ち倒され、要塞は全壊。

 もうこの戦争は、海軍と白ひげ海賊団のものとは言えない。

 それ程までに、黒ひげ海賊団とジョットが戦場を掻き回した。今、彼らに手を出そうものなら、民衆の――いや、全世界の人々の海軍に対する信頼が崩れてしまう。そして、その中には海兵も含まれていた。

 それでも尚、センゴクは海兵たちに指示を下した。

 このままでは、()()()海軍が負けてしまうから。

 例え、醜態を晒そうとも――此処で結果を残さなくてはならない!

 センゴクは、己の立場を失う事も承知で叫んだ。

 

「奴らをこのマリンフォードから逃がすなァ! 海軍の力を、今此処で示せェ!」

 

 覇気を伴った声は、海兵たちの体を動かした。空を飛べる者は黒ひげ海賊団とジョットたちを飛び越え、崖の先にいる白ひげ海賊団、特にエースに向かって青雉を先頭に襲い掛かる。空を飛べない者は地下通路に向かい……すぐに引き返して全て破壊されている事をセンゴクに伝えた。センゴクはそれを受けて、回り込むように指示。

 それを空から見ていたシキも動く。

 

白ひげ海賊団(奴ら)に被害が無いってのは、癪だな」

 

 シキは、崩壊したマリンフォードの要塞と町の瓦礫を能力で浮かした。そして、ジョットが空けた大穴を塞ぐように次々と瓦礫を放り込んでいく。それによって、分断されていた崖が無くなり、シキはこちらを見上げて睨み付けるセンゴクへと笑みを返した。

 

「さぁ。とっと目的を完遂しなセンゴク?」

「シキ……!」

 

 さらなる屈辱に身を焦がしながらも、センゴクはそれを振り切って指示を下す。

 

「瓦礫を超えて、火拳を討ち取れ! 金獅子の動向には常に注意しながらな!」

 

 瓦礫に足を取られないようにしながら、そしてシキの動向に警戒しながら海兵たちは白ひげ海賊団に襲い掛かる。

 

「くそ、させるか……!」

 

 それを見たジョットは、黒ひげ海賊団たちに傷を付けられながらも妨害しようとし――。

 

「隙だらけだねェ~、星屑のジョジョ」

「黄ざ――」

「君には今此処で死んで貰うよォ~」

 

 黄猿の光速の蹴りが、ジョットの頭を捉えた。

 メシリッと嫌な音を立ててジョットの体が吹き飛び、白ひげ海賊団は海兵たちに応戦しながらもそれを見た。

 

「ジョット!!」

「不味い! このままじゃアイツが……!」

「もう、我慢できねえ! おれァ助けるぞ! オヤッさんの為にあそこまで頑張ったアイツを見殺しにできねえ!」

「待て! 向こうにはパシフィスタが居る! 多分罠だ!」

「お前は平気なのかよ! ジョットがあんな目にあって!」

「平気な訳あるか! おれだって……!」

 

 

 ――戦場は、まるで息を吹き返したかのように混乱した。

 

「海賊共を討ち取れェ!」

「火拳を必ず仕留めろォ!」

「星屑を此処から逃がすなァ!」

 

 海軍は己の正義を世に知らせる為に。

 

「この死にぞこないが……倒れろ!!」

「ホホホ。あなたは、存在してはいけない――此処で消します」

「そういう事だ……これもまた、運命……」

 

黒ひげ海賊団は最も巨大な脅威を潰す為に。

 

「ジョットを助けるぞォ!」

「オヤジとの約束はどうするんだ!?」

「その約束の為に、アイツは戦っているんだァ!」

 

白ひげ海賊団は白ひげとの約束と、それを守らせる為に死力を尽くしたジョットに揺れ。

 

「エース、どうする……?」

「決まっているだろ……ジョジョの援護をする!」

「分かった――おれも一緒に戦おう!」

 

 運命を変えられた兄弟は、その大恩を返すために動く。

 

 まるで第二ラウンドとも言うべき騒々しさに、中継を見ていた民衆たちはまるで地獄を見ているかのようだった。

 もう、海軍も海賊もない。そこにあるのは人が死に、殺すのが当たり前の狂った世界。

 心の弱いもの、純情な者は思わず目を逸らしてしまう程だった。

 

「――あ」

 

 そんななか、映像を見ていた誰かが呟いた。

 

 そして、同時刻。ようやく地下で破壊工作をしていたメアリーが地上に出た時、その目に映ったのは……。

 

「――え?」

 

 空からの地震の力と、地中から飛び出したマグマの拳が――ジョットの体を貫いた瞬間だった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

『ジョットーーー!!?』

「か、ふっ……!」

 

 ゴポリッと血の塊がジョットの口から吐き出された。

 地震の力で全身が悲鳴を上げた瞬間の一撃だった。常人の何倍も強靭な肉体を持つジョットでも――限界以上のダメージだった。

 その光景に、メアリーや白ひげ海賊団たちが悲鳴を上げ、彼に襲い掛かっていた黒ひげ海賊団と黄猿はそれぞれ足を止めて、各々の友軍へと視線を向ける。

 

「船長……無事でしたか?」

「ゼェ……ハァ……これが無事に見えるのなら、ドクQに目を治して貰いなラフィット」

 

 歯がほとんど折れ、鼻が曲がった黒ひげはゆっくりと空に浮く板切れに乗りながら降り立った。その目に、白ひげに指摘された慢心は無い。代わりにあるのは、闇よりもドス黒いジョットへの憎悪。その憎しみが、本来動かない体を突き動かしたのだろうか。

 

「オォ~……無事だったのかいサカズキ~」

「ふん……この程度でやられる程、柔ではないわ……!」

 

 ジョットの腹を撃ち抜き、内臓を焼いたマグマを流動させながら赤犬は黄猿の問いに答えた。一度は限界以上のダメージで死にかけた赤犬だったが、それすらも執念のマグマと化して復活し、そして弱り切っていたジョットに致命的な傷を負わせた。

 しかし、それが自分自身だけの力ではない事が不満なのか、その顔には苛立ちが募っていた。

 

「――うおおおおおおおおお!!」

「――ジョジョ!?」

 

 一瞬、現実を受け止める事ができなかったメアリーだったが、ジョットの雄叫びに覚醒すると走り出した。

 

「ダメ――それ以上はダメ、ジョジョ!!」

 

 意識を失っても尚、己の敵へと突貫するジョットに向かって。

 

「まるで猛獣だねェ……」

「奴はもう助からん――引導を渡してやる」

 

 赤犬と黄猿がそれぞれマグマとレーザーを撃ち出す。

 ジョットの肉体に次々と穴が空き、肉が焦げ、溶け、抉れていく。

 しかし――まるで逆再生するかのように傷が戻っていく。

 

「なんじゃ――」

 

 それに驚いた赤犬は、剃で一気に距離を詰めたジョットの拳で殴り飛ばされる。普段なら受ける筈も無い攻撃。しかし、今までの傷のせいで動けなかったのだろう。彼は、いとも容易く地面に崩れ落ちた。

 

「――ぬうん!!」

 

 赤犬が殴り飛ばされた事に動揺を見せず、黄猿は冷静にジョットへと攻撃を繰り出していた。光の剣を作り出し――彼が突き出していた腕を綺麗に切断した。

 これで自慢の拳は、永遠に無くなった。

 次は、首を狙おう。

 返す刀で、黄猿は勢いよくジョットの首へと光の剣を振るった。

 

「……冗談でしょう」

 

 しかし、それは受け止められてしまった――ジョットの歯によって。

 その光景に思わず呟き、次の瞬間強い殴打が黄猿の腹部へと叩き込まれた。そちらへと視線を送れば、どうやら腕を斬り落とされた状態で殴りつけたらしい。

 バキリッと剣が噛み砕かれ、叩き込まれた腕は勢いよく振り抜かれ、黄猿もまた赤犬と同じ末路を辿った。

 

「――ッ!」

 

 ジョットは――いや、ジョン・スターの血に飲まれてしまったジョットだったモノは、落ちていた己の腕をグチャリと不快な音を立てて無理矢理引っ付けると、次はお前だと言わんばかりに黒ひげへと視線を向ける。

 その目は、頭から流れ出た血で赤く染まっていた。バージェスは、そんなジョットを見て先ほどまで自分はアレと殴り合っていたのかと恐れおののく。唯一黒ひげだけは変わらず憎悪の目でジョットを見ていた。

 

「――」

 

 ジョットの腕の切断面から黒いオーラが湧き出て、腕全体を覆う。

 覇気による変化とは別の色彩変化。いや、もはや侵食と言っても良いだろう。

 その光景を遠く離れた場所から見ていたドフラミンゴは、感じる力の禍々しさに冷や汗を流しながらも呟いた。

 

「能力には“覚醒”があるが――あれは、違うな。

 いわば“暴走”! 奴に流れる血が、悪魔の実を変質させてやがる」

 

 少なくとも、アレと相手をするのはゴメンだと思う程に危険極まりない。

 能力の暴走はジョットの体の半分まで侵食し、まるで悪魔そのものにでもなりそうな歪な形をしていた。

 

「“流星火山!”」

「おらァ!!」

 

 しかし、黒ひげと赤犬は怯まなかった。

 地震の力と大量の火山弾がジョットに襲い掛かる。

 当たれば死は確実。

 

「――」

 

 それをジョットは受け止めた。

 そして、受け止めた地震と火山弾を――オーラに変換して己の物とした。

 さらに黒いオーラの侵食が進み、ますます化け物染みた姿になっていくジョット。

 このままでは不味い。

 そう判断した黒ひげの動きは早かった。

 

「“闇水(くろうず)!”」

 

 地震の力は無効化され、それどころか自分の物へと変換されてしまう。

 なら、闇の引力で引き寄せて――能力の力を引きずり込む。

 引力によって黒ひげの元へと引き寄せられたジョットは、黒ひげの目論見通りに暴走したオーラを全て引きずり込まれた。四分の一まで侵食していた黒いオーラが消え去り、全身に様々な傷を作り腹に風穴を空けたジョットが姿を現す。

 

「死ねェ! ジョジョ!!」

 

 そして、渾身の一撃を地震の力と共に叩き込み――ジョットの体からは力が抜け、彼は勢いよく吹き飛び包囲壁へと叩き付けられた。

 巨大なへこみの中央からズルズルと落ちていき、ドサリと地面に横たわる。

 

『ジョット!!』

 

 それを見た白ひげ海賊団たちの行動は早かった。逃げていた者も、応戦していた者も、彼を救おうと海兵の実力者たちに囲まれていたエースとサボも、全員がジョットを助ける為に動いた。

 敵を振り切って、一刻も早くジョットを確保してマリンフォードから脱出する。皆が同じことを考えていた。此処で死なせては白ひげに合わす顔が無い。何より――彼を死なせる訳には行かなかった。

 

「――トドメじゃあ! ジョジョォオオ!!」

 

 しかし――地面を熔かして進む赤犬が早かった。いや、その執念が誰よりも先にジョットの元へと辿り着かせたと言うべきか。

 一足早く到着した赤犬が、倒れ伏すジョットの前に飛び出し、全てを熔かす凶悪な拳を振り下ろした。

 エースが炎を撃ち出そうと構える。サボが駆け出す。マルコが攻撃を受けながらもジョットへと飛ぶ。しかし、彼らの前には中将以上の海兵たちが居る。まるで、赤犬の邪魔をさせないと言わんばかりに。今この瞬間だけは妨害に徹している。

 もう、彼らでは間に合わない。

 

「――させるかァアアーーッ!!」

 

 ――だからこそ、ノーマークだった彼が間に合った。

 気絶してジンベエに背負られていたルフィが、一撃が赤犬のマグマを逸らした。ルフィが繰り出した拳には、僅かながらにオーラが宿っていた。ギリギリ一撃分残っていたようだ。

 ジュウジュウと音を立てて焼かれながらも、ルフィは痛みに堪えて反対の腕でジョットを掴んで引き寄せた。反動で胸に飛び込んだ際に、ベチャリと赤い血がルフィの体に飛び散る。それに、普段は能天気なルフィも顔を強張らせた。

 もし、今血濡れになっているのが他の人間だったら、もう助からないと思う程の重傷だった。傍に居たジンベエが呻く。

 

「ぐっ……不味いぞ。早くこの場から逃げ出して手当てせねば!」

「ああ、分かった! ……死ぬなよ、ジョジョ!! おれ、お前にまだちゃんと礼を言ってねえんだ!」

「それはおれ達もだ、ルフィ」

「サボ! それに、エースも!」

 

 海軍の包囲網を破ったサボとエースがルフィたちに合流する。後ろには革命軍の面々も着いて来ていた。

 

「さっさとズラかるぞ――おれ達が此処に居たら、マルコ達の邪魔になる」

 

 そう言って、何かに堪えるようにエースは振り返った。

 その先には、黒ひげ海賊団と対峙するマルコ達が居た。

 

「ゼハハハハ……そこを退けよマルコ。そして隊長たち」

「黙れよい! オヤジの為、ジョットの為今まで我慢していたが――あんなの見せられた以上、もう止まれないよい!」

「オヤジ達に代わって、お前に引導を渡してやる!」

「――お前らじゃあ無理だ。この残党兵共が!」

 

 何がなんでもジョットを殺したい黒ひげ。何がなんでもジョットを生かしたいマルコたち。エースは、自分たちが此処から居なくなればマルコ達も無茶しないで済む事を理解していた。

 海軍の狙いである自分たちは、一刻も早く此処から立ち去らなければならない。

 

「海兵を一人でも足止めしろォ!」

「ジョットたちを逃がすんだァ!」

 

 そしてそれは海軍を止めている白ひげ海賊団たちに対しても言える事だ。

 此処で戦う事が許されないエースは、拳を握り締めながら走った。

 ジンベエとルフィたちも走る。それを守る為に、サボたち革命軍も走る。

 湾内にある船に向かって走り続ける。

 

「よし、海に出ればこちらの勝ち――」

「海が、凍ってる!!」

 

 しかし、それを阻むように湾内の海水は凍っていた。下を見れば、青雉が氷の大地に手を付けてこちらを見上げていた。

 エースが拳に火を宿らせ、全てを燃やそうと構えた瞬間、後ろから響いた声に振り返る。

 

「みんな、走って!」

「メアリー!? お前、今まで何処に――」

 

 背後から走って来たのはメアリーだった。

 彼女は、傷だらけのジョットを視界に入れないようにしていた。何故なら、今の彼を見てしまえば――心が折れて正常な判断ができそうにないからだ。

 故に、彼女は自分の本心を騙し続けて最善を求め続ける。

 

「私の能力があれば、氷なんて関係ない! だから、早く船に――」

「――行かせないよォ~」

「――お前も此処で死んで貰うぞ、邪眼」

 

 必死に叫ぶメアリーの背後に、マグマと光が現れやがて人の形となる。

 彼女は、咄嗟に己の体を能力で透過状態にするが――光が左肩を射抜き、右腕がマグマで焼かれた。

 

「う――」

 

 痛みで泣き叫びそうになり、彼女はガリッと舌を噛んで無理矢理止めた。

 鼻腔の奥に己の肉が焼かれる嫌な臭いが擽り、鼓膜に後ろの皆の叫び声が聞こえる。

 

「まずは貴様からじゃ、邪眼!」

「星屑の妹なら、此処で消さないとねェ~……」

 

 ルフィたちが、助けようと引き返すのをメアリーは感じ取っていた。

 来るな! と叫ぼうとして、喉の奥が引っ付いて上手く声が出なかった。

 視界が、光とマグマの二色で埋め尽くされ、そして――。

 

「――どう、して……?」

「……っ」

 

 目の前には、赤犬と黄猿の攻撃を受けて――力なくそこに佇んでいるジョットが居た。

 



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星屑のジョジョ 後編

二話同時投稿なのでお気を付けください
そしてあけおめ、ことよろです!!!


 

「――どう、して……?」

「……っ」

 

 目の前に、ジョットが立っていて。

 そして、光で左胸を貫かれ、マグマで二つ目の風穴を空けたジョットが庇うように立っていた。それを見たメアリーは呆然と見上げ、そして、ジョットの瞳に光が無い事に気が付き――。

 

「“STAR(スター)(ピストル)ゥウッ!!”」

「“火拳ッ!!”」

 

 その頭上を、オーラを纏った拳と炎の拳がそれぞれ赤犬と黄猿を後ろに退かせた。やはりそれぞれジョットのダメージが体に響いているのだろう。普段ならなんて事は無い攻撃を回避している。

 しかし、険しい表情を浮かべているのはルフィたちだった。

 

「すまねえ、メアリー! ジョットを、止める事ができなかった!」

「ちくしょう……悔やんでもッ、悔やみ切れねえッ!」

 

 二人の声は震えていて、それを聞いたメアリーの心は大きく揺れ動いた。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで、二人して謝るの? おかしいよ。それじゃあ、まるで――」

「――ジョジョは、もう助からん」

「黙れェ! お前、それ以上何も言うなァ!!」

 

 ルフィが、叫ぶが赤犬はそれを無視した。

 しかし、メアリーはむしろルフィの叫び声でさらに大きく心を揺れ動かした。

 なんで、そこまで必死になって否定をする? ()()()あり得ない事なんだから、赤犬の好きに言わせれば良いのに。

 そう思いつつも、メアリーは口に出さず震える手でジョットを抱き締めて立ち上がる。

 でも、上手くできなかった。重くて、力が入らなくて――ジョットが地面に崩れ落ちる。

 

「ぁ――ごめん、ジョジョ。痛かったよね? ちゃんと、担ぐから……」

 

 メアリーはそう言って、ジョットの肩に腕を回すと立ち上がった。

 しかし、やっぱり重くて、そして体が痛くて、でもそれ以上にジョットが痛いから――。

 そんな事を呆然と、夢心地に考えながらメアリーはフラフラとジンベエたちの元へと歩く。早く、此処から逃げる為に。

 

「邪眼の……!」

「……メアリー」

 

 しかし、何故だろうか。ジンベエとサボの顔が――まるで、痛ましいものを見るかのように歪んでいた。

 やめてよ。そんな目でこっちを見ないでよ。

 そう叫びたくても、しかしそれをしたら認めてしまいそうで――そして、そう考えている時点で、メアリーの頭の中はぐちゃぐちゃだった。

 

「――諦めろ邪眼。お前の兄は、もう助からん」

 

 それでも、赤犬の言葉はスルッと頭の中に入って来た。

 

「そいつは、お前を庇って死んだんじゃ」

「元々死ぬ寸前だったけど……それじゃあもう助からないよねェ~……」

「お前! いい加減――」

「うるさいなぁ」

 

 ルフィの激昂を遮って、メアリーの声が戦場に響く。

 しかし、その声の質はこの場に置いては異質だった。

 まるで、本を読んでいる時に傍で騒がれて眉を顰めたような――そんな、日常で感じている苛立ちを吐き出すかのような言い方だった。

 思わず、ルフィが黙ってしまうかのような――ゾッとする気味の悪さがあった。

 メアリーが振り返り、その眼には何も映っていなかった。

 

「ジョジョが死ぬ訳無いじゃん? 今まで何度もピンチを退けてきた無敵の海賊なんだよ? どんな重傷を負っても、すぐに治ったジョジョだったらすぐに――」

「――ふん。心が壊れたか。邪王真眼とやらで、未来を視たらどうなんじゃ」

「……そうだねー。うん、やっぱり元気だよ。いつものように皆が騒いで、それをジョジョが怒って、ギンが苦笑いしている光景だ」

 

 あまりにも痛ましい。その光景に、誰もが口を挟めなかった。

 ルフィも、エースも、サボも、ジンベエも、革命軍も。

 

「ジョジョは、私の光なんだ。何もないスカスカの、神様がテキトーに作った見た目が良いだけの肉人形だった私に、中身をくれたお兄ちゃんなんだ。そんな、神様よりも凄いお兄ちゃんが死ぬ訳が――」

 

 彼女がどれだけ兄を慕っていたのかなど――いや、もはや縋っているとも言って良い。

 それは、この光景を見れば明らかだった。

 だが、赤犬は――それを壊す。

 

「――よく覚えとけ邪眼。そいつは、お前のせいで死んだ」

「――え」

「っ! テメエ、赤犬! 何を言うつもりだ! その口閉じろ!」

 

 エースが止めようとするが、それを黄猿が阻む。

 赤犬は、エースの叫び声を無視してメアリーに現実を認識させるように丁寧に分かりやすく伝えた。

 

「貴様が、ジョジョにとって大切なクルーで家族だったために死んだんじゃ」

「……」

「そして、お前は弱かった」

「……ェ」

「だから、強いあいつはお前を守らんといかん。そしてそれは今この時だけの話ではない」

「……れェ」

「お前の弱さが――いや、クルセイダー海賊団の弱さが、常にジョジョを傷つけ殺したんじゃ」

「――黙れェエエッ!!」

 

 目を大きく開いて、心臓の鼓動を早くさせながらメアリーが突っ込む。

 その手には爆弾が握られていた。それを赤犬の体の中に突っ込み、心臓を破壊するつもりだった。それだけの殺意がメアリーにあった。

 効くのか効かないのか。自分への被害はどうなのか。それを考えられない程に、彼女は怒りによって正気を失っていた。

 そんな彼女に、赤犬は表情を変えず肉体をマグマに変えていた。淡々と作業をするかのように。

 

「待て、メアリー!」

 

 エースが叫ぶ。

 

「止めるんだ、メアリー!」

 

 サボが叫ぶ。

 

「よせ、メアリー!!」

 

 ルフィが叫ぶ。

 

 しかし、彼女は止まらない。

 色んな声が彼女の体の中に入ろうとも、それをまるで能力のように透き通らせて赤犬に特攻する。まるで、死に場所を求めているようで、とても見ていられなかった。

 誰も望んでいない事を、彼女は行おうとしている。それを止めるには、ルフィたちの声は遠く離れて、メアリーの心の壁はぶ厚かった。

 

「――狂ったまま死ね、邪眼」

 

 赤犬の声を、冷え切った心で聞きながらメアリーはそっと目を閉じ、そして――。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

(――ああ、うるさいなぁ)

 

 微睡(まどろみ)のなか、ジョットは闇の中を漂っていた。

 見聞色の覇気で聞く心の声のように、たくさんの声がジョットに届いていた。

 

 ――ジョットオオオオ!

 ――くそ、くそおおおお!

 ――ジョットが、死んじまったァあああ!!

 ――お前ら絶対に許さねえええ!!

 

(――聞いた事あるなァ……まぁ、でも)

 

 どうでも、良いか。そう考えたジョットはもう一度目を閉じ――。

 

 ――ジョット! ……ジョット!

 

 妹の声が聞こえた。それに、ジョットは目を開き……次第に、聞こえてくる心の声に耳を傾け始めていた。

 

 ――ジョット! おれは、お前にまだありがとうって言ってねええ!

 ――ジョジョ! お前、死ぬなよ! じゃないと、文句も感謝の言葉を言えねえじゃねえか!

 ――ジョジョ! お前、人の兄弟救っといて自分の妹を泣かすんじゃねえよ!

 ――あーらら? 随分とボロボロだなァジョジョ。

 

 傾けてしまえば、後は雪崩に乗って全ての声が聞こえた。

 ジョットが耳を抑えても、目を閉じても、口を閉じても、皆の声が聞こえてくる。

 その度に、ジョットは疲れているんだ。もう頑張っただろう。放って置いてくれと。まるで投げ出すようにそっぽを向く。

 

 ――息子たちを、頼んだぞ。

 

(……)

 

 しかし、()()()を聞いてしまったジョットは――少しだけため息を吐いて立ち上がった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――やれやれ。うるさすぎて、戻って来ちまったぜメアリー」

 

 もう、諦めていた声が耳の奥に響いてハッと目を見開き、彼女は振り返ろうとし――服を強く掴まれて後ろへと勢いよく放り投げられた。

 しかし、彼女はそれに抗議の声を上げなかった。むしろ、もっと別の事に対して文句の言葉を吐き出していた。

 それは、本来ならあり得ない事。ルフィも、エースも、サボも――そして赤犬ですら、信じられないと目を見開く中、メアリーは叫んだ。

 

「――遅いよ、ジョジョ!!」

「そりゃあどうも、すまねえな!」

 

 しかし、ジョットは笑みを浮かべてそう返し――。

 

「な、ジョジョ貴様、何故――」

 

 拳を思いっきり握り締め――。

 

「――ぬぐああああ!?」

「――妹を泣かしているんじゃねえよ、このマグマ野郎」

 

 ――止まった世界の中で殴れるだけ殴った後、そう吐き捨てた。

 そんなジョットを見ながら、サボが思わず呟いた。

 

「し、信じられん……! 今、ジョットの命は完全に消えていた! それが、何で急に……!」

「――決まっているだろう、サボ」

 

 もう一度時を止めて、黄猿を赤犬同様殴り飛ばしたジョットは、サボへと振り返ってこう返した。

 

「オレが、無敵の海賊で神様よりも凄いお兄ちゃんだから――だろう?」

「……誰が言ったのそれ?」

 

 涙を拭いながらメアリーがそう尋ねれば、ジョットはいつものようにこう答える。

 

「――お前しか居ないだろう、メアリー」

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「さて……」

 

 血だらけで立ち上がったジョットは、スーッと息を吸い込むと――思いっきり叫んだ。

 

「全軍――退けェええ!!」

 

 ビリビリと空間を震わせる程の大声。覇王色の覇気も込められているのか、一般海兵たちは次々と倒れていく。

 そんななか、今まで戦っていた者たちはぎょっとしてジョットの方へと振り向いた。

 まだ、あれだけの余力を残しているのか、と。

 

「ジョットの言う通りだ! おれたちも引き上げるよい!」

 

 ジョットの声を聞いて、黒ひげたちと戦っていたマルコたちも撤退を始めた。海兵の数が一気に減ったのもあり、海軍と戦っていた白ひげ海賊団はどんどん退却していく。

 それを追う海軍を見ながら、ジョットはドサリと座り込んだ。

 これで本当の本当に、力を出し切ったらしい。

 

「ル……麦わら。すまねえが、オレの体頼む」

「おう! 任せろ!」

 

 にかっと嬉しそうな笑みを浮かべて、ルフィはジョットを背負った。

 そして、メアリーはエースが背負う。

 

「さっさとズラかるぞ!」

「あ、うん――でも、まだ青雉が」

 

 赤犬と黄猿は吹き飛ばしたとはいえ、まだ大将は残っている。

 それに、センゴクやゼファーと言った歴戦の海兵も未だ健在だ。本格的な撤退を始めた今、追撃はさらに激しいものとなるはず。

 そう不安に思っていると、メアリーはふと何かを感じ取っていた。

 先ほどまでは感じなかった気配だったが、どうもザワザワと感じ取れて落ち着かない。しかしそんななか、彼女は海中から何かが来るのを感じ取っていた。

 

「――あそこ!」

「ん?」

 

 メアリーが突如、ある場所を指差す。すると、その先の海が盛り上がり一つの潜水艦が浮上した。そして、船の中から出て来た人物にルフィが声を上げた。

 

「あ! あいつは!」

 

 ルフィの声が聞こえたのだろう。その潜水艦の持ち主――“死の外科医”トラファルガー・ローは、ルフィたちへと視線を向けると叫んだ。

 

「――悪縁も縁。此処で死なれてもつまらねェ。

 おれは医者だ! 星屑屋をこっちに渡せ!」

 

 意外な人物の助っ人に何も知らない者は驚きの表情を浮かべ、動揺を顕にした。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「さて――ちょっとイジメてきますか」

 

 時を同じくして。

 世界最悪の海賊が、マリンフォードに到着した。

 




活動報告にて、今話についてちょっとした裏話を書きました
興味ある人は覗いてみてください


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終戦

「コビー! おいどうしたんだ!?」

「わ、分からない……! ただ、頭が割れるように痛くて、苦しいんだ……!」

 

 突如、コビーの体に異変が起きる。

 戦場のど真ん中で頭を抑え、必死に聞こえてくる声から耳を塞いでいた。しかし、声はどんどん大きく、そして深く彼の心に響いてくる。

 

 ――くそ、兄弟がやられた!

 ――逃げろォ! 生きて此処から逃げるんだァ!

 

 必死に生きようとする者。

 

 ――誰か……誰か、助けてくれ……。

 ――死にたくねェ……アイツが、待っているのに……。

 

 死を前に助けを求める者。

 

 ――全員殺せェ! 火拳を! 星屑を! 麦わらを逃がすなァ!

 ――戦え! 立てぬ者は捨て置け! 屍を越えて、奴らを殲滅しろォ!

 

 そして、それらを蹂躙する――正義。

 

 ――正義! 正義! 正義!

 ――正義! 正義! 正義!

 ――正義! 正義! 正義!

 

 コビーは、聞こえてくる様々な声に圧し潰されそうになっていた。

 気分が悪い。吐き出してしまいそうだ。

 でもやっぱり一番は……とても悲しい。

 それが苦しくて、耐え切れなくて――。

 

「あ、おいコビー!」

 

 コビーは、ヘルメッポの静止の声を振り切って戦場を駆け抜けた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「死の外科医か! 何故、此処に居る?」

「そんな事はどうでも良い! 早くそいつを渡せ!」

 

 ジンベエの戸惑いの声に、ローは切って捨てて急かした。

 超新星と呼ばれ注目される程の実力者と言えど、この死地に長居すれば命は無い。現に、彼の視界に映る空に眩い光を放つ人間が現れる。

 黄猿だった。彼は、ジョットに停止した世界で殴られ吹き飛ばされながらも、すぐに復帰し追撃しにこの場に現れた。そして、死にかけのジョットを守るルフィたちではなく、潜水艦に乗ったローを狙った。あれで逃げられると厄介だと判断したからだ。

 

八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)

 

 無数の弾丸が、潜水艦を覆いつくすかのように放たれた。

 それを見たローは舌打ちをして、能力を使う。

 

「“ROOM(ルーム)――シャンブルズ!”」

 

 展開した(サークル)に入った船と自分の潜水艦の位置を入れ替える。瞬間、入れ替わった船はハチの巣にされ、そのまま沈んでいった。本来の持ち主がこれを見れば、大層憤慨していただろう。しかし、ローにそれを気にする殊勝さも余裕も無かった。

 彼は、能力の使用を最大限使い(サークル)を大きくする。そして、手に持った刀を振るい湾内にある氷を幾つかのブロックへと切り分ける。

 

「連続で移動する! 全員、振り落とされるな!」

『了解!』

 

 ローの指示に、ハートの海賊団は応えた。

 

「何をするつもりか分からないけど、死んでもらうよォ~」

 

 黄猿が指先からレーザーを放ち、しかし貫いたのは氷塊だった。

 潜水艦は別の位置に移動していた。

 

「ん~?」

 

 疑問に思いながらも黄猿は何度もレーザーを発射し、その度に潜水艦は避け続ける。

 それを見た黄猿はローの能力の一端を理解した。どうやら、物と物の位置を入れ替える事ができるらしい。

しかし連続使用は堪えるようで、ローの額には脂汗が浮かんでいる。

 

「早くそいつを渡せ!」

「ああ、分かった!」

 

 ジョットを背負っていたルフィが、腕を伸ばしてローの潜水艦の手すりを掴んだ。そして、元に戻る性質を利用して、そのまま勢いよく潜水艦に向かって突っ込んだ。

 メアリーを背負ったエースは空に浮く氷塊を足場に潜水艦へと近づき、それにサボたちも続く。

 

「“槍波!”」

「おっと」

 

 ジンベエは、能力者にとって弱点である海水を使って黄猿を牽制する。

 黄猿はそれを回避すると、氷の大地を歩く青雉の隣に着地した。

 

「厄介だねェ~。このままだと逃げられるよォ~」

「火拳が居る以上、凍らせる前に溶かされそうだ」

 

 青雉の視線の先には、凍った先から溶けていく氷があった。

 ローの元へと向かいながらも、足先から炎をチラつかせて常に青雉を警戒している。凍らせるには、エースは天敵だった。故に、潜水艦を海水ごと凍らせる事は不可能であり、黄猿の攻撃もあの能力で避けられてしまう。

 普段だったら余裕を持って対処可能だった。しかし、今はジョットのダメージがそれぞれ残っている。一番軽傷な青雉ですら、一般的に見れば重傷だ。黄猿など、スタープラチナで滅多打ちにされたせいで、体の所々に穴が空いている。向こうも死にかけだった為に、ロギアの体で治せる傷ではあるが……能力を使えば使う程、意識が遠のく。

 それでも、大将としてジョットたちを逃がす訳には行かない。そしてそれは、この男も同様だった。

 

「――じゃったら、避けられん程の大質量で熔かすまでじゃ」

「サカズキ!」

「貴様らはどいちょれ――これで、しまいにする」

 

 ボコリッとサカズキの両腕から大量の溶岩が溢れ出す。

 視線の先には、ルフィたちが潜水艦の中へとジョットを運んでいく姿。

 あれを――ジョットを潜水艦ごと墜とせば海軍の勝利だ。

 

「“流星――」

 

 限界を超えて、赤犬が能力を使用し――。

 

 

「――そこまでだァアア!!」

 

 しかし、その前に、戦場に一人の若き海兵の叫び声が響いた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「なんだ?」

「海兵?」

 

 海賊も、海兵も――誰もが一瞬動きを止めてそちらを見た。

 そこには、今まさに能力を使用する赤犬の背中に向かって叫んでいるコビーの姿があった。赤犬は、己に向けられた大声に腕を本来の物へと戻して振り返る。

 酷い顔だった。涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、頭痛で顔は歪み切っており――しかし、この戦場で誰よりも悲しんでいた。

 

「もう止めましょうよ! こんな戦い、もう止めましょうよ!」

 

 彼は懇願した。戦うのを止めよう、と。

 

「逃げる海賊の背中を追いかけて!」

 

 海賊たちは思った。なんて情けない声で――強い叫びだ、と。

 

「死んでいく仲間を踏みつけて!」

 

 海兵は思った。なんて優しい言葉で――しかし、この場では何て的外れなのだ、と。

 

「それでも追って、殺されて、殺して、死んで――命が勿体ない!!」

「――貴様は、何を言うちょるんじゃ。命が勿体ないじゃと? ――恥を知れェ!!」

 

 そして、赤犬は――怒りを顕にした。

 

「今此処で! 海賊を! ジョジョを取り逃がせば、海軍の面目は丸つぶれじゃろうが!」

「……貴方は! 大将である貴方は! 海軍の面目の為なら死んでも良いと言うのですか!?」

「そうじゃ! ――弱い正義じゃ何も守れん! 悪である海賊を滅ぼせん正義じゃあ意味が無い! 正しくない正義は――無意味なんじゃ! だから、此処でわしらが止まったら、海軍は――」

 

 ――海軍は、この戦争で大敗していると言っても良い程海賊によって掻き回されてしまった。エースは解放され、ジョットは命を繋ぎ、そして今まさにこのマリンフォードから逃げ出そうとしている。それを許せば、赤犬の言うように海軍の面目は丸つぶれだ。

 そうなれば、世界中の海が荒れるだろう。海賊たちが調子づき、一般人は眠れぬ夜を過ごす。

 それだけは阻止しなくてはならない。故に、ジョットたちを殺すまでは止まれないのだ。

 

「――違う」

「――ああ?」

 

 しかし、コビーはそれを否定した。

 

「違う。違う違う――違う! こんなの正義じゃない! 助けられる人を見捨てて、人を殺し続けるなんて、正義じゃない。こんなのは――」

 

 コビーは、尚も己の中に響く声に苦しみながらも――叫んだ。

 

「――ただの暴力だァ!!」

『――!?』

 

 そして、その言葉は――数人の海兵を動かした。

 

「おい、たしぎィ! すぐに怪我人の手当てをしろォ!」

「! おい、お前スモーカーだな!? いきなり何を――」

「黙れ! ……ちっ。軍の犬になるつもりは無かったんだがな。戦争の気に充てられた……!」

 

「ジャンゴ。フルボディ。あなた達も怪我人の手当てを」

「し、しかし」

「早くしなさい! ……ヒナ、動揺」

 

 白猟のスモーカー。黒檻のヒナと言った将校を筆頭に、数人の海兵たちが戦闘を止めて救助に動き出した。中には、トキカケと言った中将クラスも居り、海軍は二つに割れた。

 人命救助に乗り出す者。それに異を唱え、戦闘続行を訴える者。

 センゴクは戦場を静かに見据え、何処か達観した表情を浮かべていた。

 ――もう、取り返しはつかないのかもしれない。

 トップとしては間違えている。しかし――仁義という正義を貫くにはどうしたら良いのか。それを考えると、センゴクは動けずに居た。

 

 

 ――が、それを許せない者も居る。

 

「――正しくない海兵は要らん。早急に去ねェ!!」

 

 戦場で起きた異変に赤犬は怒りの感情を募らせ、それをマグマと変えてコビーに向かって解き放った。

 コビーは迫り来る死に泣き叫んだ。しかし、後悔は無かった。やるだけやったのだから。言いたい事を言ったのだから。それで死ぬのなら、自分はその程度の人間だったのだろうと思いながら――気絶した。せめて痛みを感じないように。

 

「――よくやった、若い海兵」

 

 しかし、コビーはマグマに包まれて熔けて死ぬ事は無かった。

 

「お前が命を……誇りを懸けて生み出した“勇気ある数秒”は良くか悪くか……」

 

 コビーを庇うように一人の男が現れた。

 

「たった今()()()()()を大きく変えた!」

 

 そして、その男に海兵たちは――いや、世界中の人間が見覚えがあった。

 左目に走る三本の傷。赤い頭髪。失われた片腕。

 彼は白ひげと同じ四皇にして、海賊王ゴールド・ロジャーの元クルー。

 名を――赤髪のシャンクス。

 

「――この戦争を終わらせに来た!」

 

 二人の少年の運命を変えた男の登場に――マリンフォードは震えた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「……」

「良いの、ルフィ?」

 

 マリンフォードに一瞬顔を向けかけたルフィは、すぐに視線を船内へと戻した。そんな彼にエースの背中に居るメアリーが問いかける。

 シャンクスに声を掛けなくて良いのかと。しかし、彼女は問い掛ける前から分かっていた。

 

「――今会ったら、約束が違うからな」

「そっか」

 

 ――新世界で待っている。

 幼き頃に、麦わら帽子と共に託された言葉を思い出しながら、ルフィは前へと進む。

 

「それに、今はジョジョだ! トラ男! 早くジョジョを治してくれ!」

『トラ男!?』

「ああ」

 

 ハートの海賊団のクルーがルフィの妙なあだ名に反応するなか、ローはシャンクスに向けていた視線を外すと、己もまた船内へと入った。

 

「逃がさないよォ~」

 

 それを見た黄猿が飛び上がり――。

 

「――残念黄猿くん! それ以上はドクターストップだ」

「!! お前は、いん――」

 

 しかし、目の前に突如現れた男によって妨害される。

 現れたその男に、黄猿は驚愕の表情を浮かべ――しかし、次の瞬間大量の黄色いカプセルに包まれて光の肉体の大半を削られた。パチュンという軽快の音とは裏腹に、下へと落ちる黄猿は苦悶の表情を浮かべている。

 

「ぐっ……相変わらず、性格が悪い……!」

 

 覇気が込められていないため、実体にはダメージがない。しかし、痛みはある。

 ジョットに負わされた傷に堪えて動いていた黄猿にとって効果覿面だった。大の字に倒れた黄猿は、まともに動く事ができなかった。

 

「ボルサリーノ!」

「はい、次」

 

 一瞬で倒された黄猿に声を掛けた青雉は――背後からの不快な声……それこそ、蛇が這いずるような声に悪寒を感じて、能力で空気を凍らしながら腕を振り切った。

 しかし、その腕は容易く受け止められ覇気でガードされてしまう。

 さらに、突如空から様々な形をしたブロック状の何かが降り注ぎ青雉を圧し潰した。それは、ある程度組み立てられると横一列に爆発を起こし、青雉はプスプスと煙を出しながら倒れた。

 

「あいつは――」

「ほれ、最後」

 

 黄猿。青雉が一瞬で倒された光景を見た赤犬は、この場に現れたのがシャンクスだけでは無い事を理解し――腹部に叩き付けられた拳で体内の空気を一気に吐いた。

 そこには、黄猿と青雉を無力化した男――ジョセフが居り、ニヤリとあくどい笑みを浮かべると覇気とは違う、別種のエネルギーを纏ったアッパーを赤犬に叩き込んだ。

 

「――」

「はい、三タテ。随分とうちのモンに痛めつけられたようだな小僧共」

 

 赤犬は、今までのしぶとさが嘘のように声も無く気を失った。

 それを為したジョセフはこっちに来る時に盗んだ天竜人の酒を飲みながら、ジョットの暴れっぷりに満足そうにしていた。

 

「あ、あれは……間違いない!」

「世界最悪の海賊――」

 

 そして海兵たちは、この場に現れた世界で最も恐るべき男を前に、体を震わせて叫んだ。

 

『隠者ジョセフだああああ!?』

 

 そんな中、センゴクは表情を険しくさせて叫んだ。

 

「――隠者! 貴様、何故此処に……!」

「ん? シャンクスさんが言っていただろう? この戦争を止めに来たって」

 

 ジョセフの言葉に、彼の事を良く知る者は物凄く嫌な顔をした。後から続いた赤髪の海賊団も同様だ。

彼がそう言うのなら、そうなのだろう。しかし、どうやって止めるのかが問題だった。

 隠者へと嫌悪や憎悪の視線が送られるなか、シャンクスが口を開く。

 

「――これ以上を欲しても、両軍被害は無益に拡大する一方だ。まだ暴れ足りない奴が居るのなら……来い! おれ達が相手をしてやる!」

 

 その気迫に海兵たちは圧された。白ひげ海賊団と戦った後に、赤髪海賊団と戦えばどうなるのかは――火を見るよりも明らかだ。

 そして、シャンクスは己の傷が疼くのを感じながら一人の男へと向ける。

 

「どうだ、ティーチ――いや、黒ひげ!」

「……ゼハハハハハ! やめておこう! 欲しい物は手に入れたんだ。お前らと戦うにゃあ、まだ時期が早え。

 ――それに、今の状態でそこの糞爺と関わるのはゴメンだ! 行くぞ、野郎共!」

 

 黒ひげは、シャンクス……そしてジョセフに視線を向けるとバージェスに肩を貸して貰いながらシキの能力下にある岩盤に乗った。

 

「ああ……おい、シキ!」

「……なんだァ、糞爺?」

「せいぜい呑まれるなよ――闇によォ」

「……ジハハハハ! 相変わらず訳の分からない奴だ!」

 

 シキは、ジョセフの言葉を受け取らず黒ひげと共に戦場を去った。

 それを見送ったシャンクスは、視線をセンゴクへと向ける。

 

「お前たちはどうする――海軍」

「ふざけるな! 此処で我々が手を引けるものか! 白ひげ海賊団を殲滅し、その首を晒してこそ――」

「あ~らら。まーだ戦争したいのか? 四皇と」

 

 シャンクスの言葉に反応した将校に向かって、ジョセフは心底嬉しそうに笑みを浮かべた。それを見たシャンクスが眉を顰め、センゴクが慌てて今の言葉を撤回しようとし、白ひげ海賊団はジョセフの次の行動に警戒を示す。

 皆の注目を集めるなか、ジョセフは懐からある物を取り出した。それを見た海兵が、思わず呟く。

 

「エターナルポース?」

「戦争止めないなら、お前らにこれやるよ。んで、満足するまで戦争に付き合う――ビッグマムとカイドウが、此処に……マリンフォードに来るまでなァ?」

『……!?』

 

 ジョセフが取り出したエターナルポースには――ラフテル、と書かれていた。

 それを見たセンゴクたちの反応は速かった。センゴクが大仏と化し、ガープとゼファーが覇気で腕を黒く硬化させ、おつるは能力でいつでもあの老害を洗い流せるようにと構える。

 隙を見つければ、すぐに突貫してあのエターナルポースを破壊するつもりだった。それでも、隠者なら壊せないように細工してそうで、嫌になる。

 ビッグマムとカイドウがジョセフを執拗に襲うその根幹――海賊王への近道が海軍の手に渡るという事は、つまり此処に現存する四皇が集結するという事だ。

 そうなれば、いよいよ海軍は不味い。赤髪、カイドウ、ビッグマムとの四巴の戦いになれば、真っ先に消されるのは海軍だ。

 

「貴様……!」

「お~怖い怖い。大丈夫大丈夫。これは家族以外には渡さないから! 複製して世界にばら撒いたりしないから!」

「ジョセフ。これ以上煽るな」

「こりゃ失敬。ちょっと興奮していたようで。何せ――」

 

 ――大事な大事なあの子の忘れ形見が、傷つけられたのだからさァ。

 

 ドロリとした悪意が戦場を包み込む。黒ひげの闇とも、ジョットの黒いオーラとも、メアリーの邪王真眼とも違うその異質な恐怖に、海兵たちは動けずにいた。

 ジョセフの足は赤犬の頭に置かれており、ふとした瞬間にそのまま踏み砕きそうな雰囲気だった。

 シャンクスが戒めるも、止まるかどうか不安だった。彼の額には冷や汗が垂れている。

 

「――分かった!」

「元帥!」

「責任は、私が取る!」

 

 センゴクは――元帥として、最後の命令を下した。

 思えば、星屑のジョジョを発見した時から決まっていたのかもしれない――そう思える程に、海軍は彼に振り回され……敗れた。

 

「負傷者の手当てを急げ――戦争は終わりだ!」

 

 センゴクの声を受け――世界にその情報全てが流れる。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「いやーバギーさんお久しぶりです!」

「ぎゃあああああ!? こ、こっち来るな糞爺!」

 

 戦争が終わり、両軍が退却するなかジョセフはこそこそとバギーに近づいてちょっかいを出していた。

 過去のトラウマからバギーは思わず叫び、それを見た囚人たちは感涙している。どうやら、バギーの世界最悪の海賊に対する態度に心打たれたらしい。それすらもジョセフの掌の上で、バギーは何となくそれを察知して逃げようとしている。

 

「まぁまぁバギーの旦那。ちょっと待ってくださいよ。実はこれ……盗んだ宝の地図なんですけどね」

「宝の地図!?」

「ええ、はい。で、これを是非ともバギー様に献上しようと思いまして」

「マジか!?」

 

 嬉しそうに喰いつくバギーに、ジョセフはニヤリとあくどい笑みを浮かべた。

 それを見たのはMr.3のみで、他の囚人たちはバギーの偉大さ(偽)で前が見えなかった。

 

「でも、その代わりといっちゃあなんですけど。バギー大明神様にちょっとお願いが」

「おう! 何でも言ってみろ! オレ様たちの仲じゃねえか!」

(敬称がテキトー過ぎるガネ)

 

 バギーの了承を得たジョセフは彼の手を握り、絶対に逃げられないようにすると――そのお願いを言った。

 

「そっか、良かった良かった! じゃあちょっくら一緒に海王類の巣に飛び込もう!」

「……へ?」

 

 バギーがポカンと口を開く中、Mr.3は天を仰ぎ見た。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――ジョジョが死ぬ? どういう事だおい!」

「落ち着くんじゃルフィ君! ……説明して貰おうか?」

 

 憤るルフィを抑えて、ジンベエがローに尋ねる。

 今のいままでオペをしていたローは、淡々と答えた。

 

「どうもこうもねえ。おれは死人を生き返らせる術を持っていないってだけだ」

「死人? それってつまり、ジョジョが死んだって事?」

 

 ローの言葉に、目の前が暗くなるメアリー。

 しかし、それをローが否定した。

 

「いや、そうとも言い切れねェ……詳しい事はおれも良く分からねえが星屑屋は今生き返ろうとしている」

「生き返る? そんな事、可能なのか?」

「おれも正直驚いた。あれほど生命力の強い生き物は見た事が無い。死んでもなお、生に縋りついているというか……」

 

 エースの問いに答えながらも、まだ自分の中で整理できていないのかブツブツと自問自答を繰り返すロー。

 取り合えず分かっている事を伝えることにしたのか顔を上げた。

 

「能力の覚醒は知っているか?」

「なんだそれ?」

「私は知ってる。でも、それがどうしたの?」

「星屑屋は今、能力の覚醒に至っている」

 

 悪魔の実の能力が覚醒すれば、周囲に影響を及ぼしこれまで以上の力を発揮する事が可能だ。そして、ロー曰くジョットもその状態にあるという。

 

「奴は今、周囲の物や生物の生命力を支配下に置き、己の身に還元させて驚くべき速さで肉体の再生を行っている。おれのROOMもどんどん削られて……全く酷い目にあったものだ」

「……ねえ、何が言いたいの?」

「今の星屑屋をオペすることができない。したくても、生命力を吸うんだからな」

 

 此処は海の中だ。故に、彼は潜水艦に居る者たちから生命力を吸い上げて体の傷を治癒しているが――それでも足りない。

 ローが能力を使う度に生命力を吸われては、救えるものも救えない。

 そのことを理解したジンベエたちは頭を抱えた。彼を生かしている能力が、彼を救えない。

 万事休すか。

 しかし、メアリーは違った。

 

「ねえ、生命力の強い生き物が居ればジョジョは救えるの?」

「……ああ、そうなるな。だが、奴の馬鹿げた容量を満たす生命力は――」

「心当たりはある――ルフィ!」

「ん?」

 

 メアリーは、ルフィの肩に手を乗せて――言った。

 

「ボア・ハンコックに頼みたい事があるの――協力して!」

 

 彼女の言葉に、ルフィは――いつものように笑みを浮かべて頷いた。

 




シャンクスに10回ほど「余計なことするなよ?」と言われてラフテル(?)のエターナルポースを出した隠者さん
これには海軍に対する牽制以外にも意味が…
それは次回か次次回くらいに判明します!


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予兆

 戦争が終わり、世界に報じられたのは――白ひげの死。

 それを受けて、人々の反応は様々だった。

 

「白ひげ海賊団が滅んだんだ!」

「海軍の勝利だーー!」

 

 世界的に有名な海賊の死に浮き足立ち、絶対的正義である海軍の勝利を疑わない者。

 

「本当に勝ったのか?」

「どうだろうな……敗けたとは言っていないが、勝ったとも言えないだろう」

 

 冷静に戦争の結果を分析し、海軍に疑惑の眼差しを向ける者。

 どちらにしても、海軍に対する民衆の印象は――確実に変わる。それをどう活かすのかが……海軍の成長に掛かっていると言える。

 

 現に、少数ながら動く者が居た。

 

「――海軍の勝利とか、白ひげの死には興味は無ェ。問題なのは、隠者が海軍に見せつけたエターナルポースだ」

 

 彼らは、隠者の言動にある可能性を見出していた。

 海軍の手に渡れば、ビッグマムとカイドウが後半の海“新世界”から前半の海“楽園”に来るという言葉。そして、それに過剰に反応するセンゴクたち。

 何故、そこまで警戒したのか。まるで、隠者の言葉に意味があるような――四皇が追い求める物だと答えているような、焦り具合だった。

 

「あるぞ……四皇が求める宝――ワンピースがあるんだ!」

「もしくは、それに連なる何かだ!」

 

 気づいた者は少ない。しかし、逆に言えばそれに気付くだけの頭はあり――彼らが、他の有象無象の者たちよりも一歩前に出た事は明らかだった。

 

 そして、また別の視点から動く者が居た。

 

「ジョン・スターだと……! 奴を手に入れろ! あれさえあれば、我らの悲願が――」

 

 太古から続く血統に反応する者。

 

「黒ひげって奴はすげーよ! あいつの船に乗れば勝ち組だ!」

「金獅子のシキと同盟って話だ! 此処でグズグズしている暇はねえ!」

 

 新たなる台風の目となる者たちに目を向ける者。

 

「星屑のジョジョ! 良いね良いねェ! あの漢気には惚れたぜ!」

「大将を何度も退け、海軍を掻き回した男――海賊にも、宝にも興味は無いが……ああいう男の下で戦うとどれだけ楽しいんだろうなァ」

 

 彗星のごとく現れ、暴れ回った男に憧れを持つ者。

 そして――。

 

「――ハハハハ……ママママ! 隠者の野郎、随分と息子が大事みたいだねェ……! だったら、やる事は一つだ」

 

「隠者の息子。それもジョン・スターか……。オレを、殺せるかもしれねえな。だったら――」

 

 

 

『新世界で待っているよ、星屑のジョジョ! おれはお前を歓迎する!』

 

 

 ――そして。

 己を脅かす()になり得るかもしれない一人の海賊に、笑みを浮かべる海の皇帝たち。

 

 様々な海で、様々な者たちが動き出す。それを明確に感じ取っているのは――僅かの人間だけだった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――やはり、そうか……!」

「はい――レベル6から脱獄した者は、黒ひげ並びにシキが連れ出した者だけではありません。他にも数名居ました……!」

 

 ブランニューからの報告に、センゴクの表情は険しいものとなった。

 戦争が終結して、はいおしまいという訳にはいかない。

 白ひげとの戦争で負った被害状況の確認。世界各地で起こるであろう海賊たちの暴走。そして鎮圧。やることは山ほどある。

 その中でも、インペルダウンで起きたレベル6での惨劇は――思わず目を覆いたくなるほど酷かった。黒ひげとシキが連れ出した極悪な犯罪者以外にも脱獄した者は居る。

 

「今現在最も警戒すべきなのは“世界の破壊者”ワールド。“赤の伯爵”レッドフィールドかと存じ上げます。老いたとはいえ、どちらも白ひげやシキと匹敵する伝説……それが解き放たれた今――」

「分かっている……! だが、最も警戒すべきなのはジョン・スター・D・ジョットだ! 奴の懸賞金を本来の相応しい額にし、しかるべき対処を――」

「その事についてですが、元帥……その、世界政府から報告が」

 

 ブランニューは――伝えた。

 これ以上、海軍の信頼を失うようなことは控えるべきだと。故に、レベル6からの脱獄者の存在は包み隠し、星屑のジョジョたちの懸賞金を跳ね上げさせることは禁止だと。

 それを聞いたセンゴクは――世界政府への怒りを叫んだ。

 

「――ふざけるな! 奴だけは、野放しにしてはならん!」

 

 しかし、センゴクの声は――聞き届けられる事は無かった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 ――凪の帯。女ヶ島より北西の無人島“ルスカイナ”。

 かつて、ここには一つの国があった――しかし、それは今は昔の話。何故なら、人は敗れたのだ。猛獣との生存競争に。

 そんな果てしなく危険な島にて――ルフィたちは戦っていた。

 

「“ゴムゴムの(ピストル)!”」

「“火拳!”」

「“竜の息吹!”」

 

 次から次へと出てくる強大で凶暴な猛獣たち。一体一体が、現在のルフィよりも強く、七武海であるボア・ハンコックですら危険だという程――この島は人が生きるのに厳しい世界。にも関わらず、何故彼らは此処で猛獣たちと戦っているのか。それは――。

 

「待ってろよジョジョーー! 今すぐ肉持って行くからなーー!」

 

 全てはジョジョを救うためだった……。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「ルスカイナ、じゃと。そなた、何故その島のことを知っている?」

 

 サロメに追跡させ、海軍の軍艦で追って来た海賊女帝ボア・ハンコック。船内から出て来たルフィの無事な姿に、目に涙を浮かばせて喜んでいたのも束の間。彼女は、ルフィを通してメアリーからある頼み事をされていた。

 それは、女ヶ島の北西にある無人島ルスカイナまでの案内だった。

 

「邪王真眼で」

「そうか」

 

 血ヘドを吐きそうな顔でメアリーがそう言えば、ルフィ以外への興味が薄い彼女はそれで納得した。しかし、それで首を縦に振るかというと、話は別である。

 

「何故わらわがそのような事をせねばならんのじゃ?」

「頼むよハンコック! ジョジョを助けてーんだ!」

「はぁい♡」

『変わり身早っ!?』

 

 ルフィの鶴の一声で180度態度を変えたが。

 それを見たメアリーは、視線をハンコックから話を聞いていた者たちへと向ける。特に戦闘能力が一定水準上に居るであろうエース、サボ、ジンベエ、イワンコフだ。

 

「これから行く島には、凄く強い猛獣がたくさん居るの。そこの猛獣だったら、ジョジョの体を治すための生命力を得られる可能性が高い。ただ、その分手強いから……」

「なるほど、そこでわしらの出番という訳じゃな――引き受けよう。ジョットさんには恩がある」

「おれも手伝おう。オヤジの為に戦ってくれたからな……それに、こいつはおれの友達だ」

「当然おれもだ。ジョットには、ルフィとエースが世話になった」

「ヴァターシは悪いけど、国に帰らせて貰うわ! 星屑ボーイの事が心配だけど、こっちでもやる事がある。だから、サボ。ヴァターシの分まで頼むわよ!」

 

 イワンコフたちニューカマー組は、海軍の軍艦を使って故郷の島に帰り、その他の面々はジョット蘇生の為に力を貸す事にした。

 

「おれも手伝うよ!」

「ルフィ! そなた、もう体が限界では……」

「だけどよ! おれ、あいつにすっげえ助けられたんだ! ……正直、あいつの力が無かったら、死んでいたかもしれねえ。エースを助けられなかったかもしれねえ」

 

 ルフィは、己の拳を見て呟いた。

 先ほどまでの戦いを――いや、シャボンディ諸島で大将達に惨敗した時からの事を思い出す。今の自分は、あまりにも弱い。仲間を守る事ができず、散り散りになってしまった。それが、どれだけ苦しかったのか……思い出すだけで胸が痛む。

 そして、その経験をもしかしたらあの戦争で……エースを失うという形で、もう一度体験する羽目になっていたのかもしれない。そうなると、ルフィはおそらく――死にたくなる程悔やむだろう。

 だからこそ、ジョットが一度死んでメアリーが絶望した表情を浮かべた時――どうする事もできなかった自分が許せなかった。

 結局は本人が気合で持ち直したが――それもどれだけ持つか。

 

「おれ、あいつを助けてェんだ!」

 

 ルフィは、自分を助けてくれたジョットを、今度は自分が助けると言った。

 その言葉を口にしたルフィの目は真っすぐで――誰も、彼に意見する者は居なかった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 ――こうして、ルフィたちはルスカイナの猛獣たちを狩ってはジョットの元へと運んでいる。その際に、なるべく生命力を吸わせる為に殺さないように注意している。

 その所為か、それとも今までの疲労の所為か、ルフィは第一グループの中で早々にバテていた。

 

「ゼェ……ゼェ……! つ、疲れたぁ……」

「どうした、ルフィ? もう疲れたのか?」

「ムッ……!」

 

 エースの挑発的な物言いに、思わず表情を歪ませるルフィ。地面に大の字になって倒れていた体を無理矢理起こすと、己の兄に向かって吠えた。

 

「そんな事ねェ! ちょっと休憩していただけだ!」

「さっき疲れたって言っていたじゃねえか」

「それは、その……たまたまだ!」

「ははは! どんな言い訳だよそれ」

 

 ルフィの言葉に、サボが笑みを零した。

 ムスッとしたままそっぽを向くルフィに、エースもまた笑みを浮かべると己の体を火に変えて背中を向ける。

 

「その猛獣たちをジョジョの所に持って行ってくれ。おれは、もう少し狩って来るよ」

 

 その言葉にルフィは驚いた表情を浮かべた。何故なら、此処ルスカイナは本当に危険な場所だからだ。全快のルフィでも敵わない猛獣がゴロゴロ存在し、いくらロギア()のエースでも危ないのではないか? そう考えてしまった。

 現に、メアリーもチームを作って一人で行動しないように厳命した程だ。ハンコックも、ルフィの身を案じて彼と同じチームになろうとしたくらいだ――ただ単にルフィと共に居たいだけかもしれないが。

 

「待てよエース。此処の猛獣は強いから一人で行くなってメアリーが……」

「ルフィ。行かせてやれ。エース。危なくなったら逃げ……はしないだろうから、すぐにおれ達を呼べよ?」

「ああ、分かっているよ」

 

 止めるルフィをサボが遮って、彼はエースの単独行動を許した。

 エースは言葉少なく去っていき、それを見送ったルフィはサボを非難がましく見る。

 その視線に気づいたサボは、苦笑してルフィにエースを一人で行かせた……いや、一人にする時間を設けた理由を述べた。

 

「察してやれルフィ――あいつは、親父と慕う男を失ったんだ」

「あ……」

「ジョットがあの黒ひげって男と戦わなかったら――突っ込んで行ったのはエースだろう。今、あいつには時間が必要だ」

「そっか……そうだよな」

 

 エースは、責任を感じている。白ひげが死んだのは自分のせいだと。

 黒ひげを倒していれば。黒ひげを追わなければ。

 終わった事だと切り替えるには白ひげの死は重く、受け入れがたい現実だった。

 だから、こうして猛獣たちと戦って何も考えないでいられる時間はエースにとって有難かった。

 それを察したサボはエースの好きにさせ、ルフィに分かりやすく伝えた。兄の苦しみを理解したルフィは、素直に頷いてそれ以上は言わなかった。

 二人は、仕留めた猛獣たちを引き摺ってジョットの元へと向かう。

 

「でもおれ、サボが生きててほんとに驚いたぞ」

「ああ……おれ、少し前まで記憶喪失だったんだ」

「きおくそうしつ?」

「お前たちの事を忘れていたって事だよ」

 

 サボは、今までの事を全てルフィに話した。

 親の元から逃げ出し海に出たものの、砲弾で撃たれて船は沈み自分は意識不明の重体。運良くルフィの父であるドラゴンに救われて一命を取り留めたものの、全てを忘れてしまっていた。

 そして、革命軍のメンバーとして成長し、戦い続け――最初にジョットと出会い、次にメアリーと出会った。

 

「あの二人には感謝している……ジョットがきっかけをくれて、モタモタしているおれをメアリーが引っ張り上げたんだ!」

 

 ジョットの治療は――彼に、大切なモノがある事を思い出させた。

 メアリーの呼び掛けは――彼に、大切なモノを守らせる記憶()を蘇らせた。

 

「だから、今度はおれがあの二人を助ける! ジョットが死んだら、あの兄妹は永遠に離れ離れだ。あんな思いはしなくて良い!」

「そっか……あ、ところでよ」

「ん?」

「おれ、メアリーの事何処かで見た事あるんだよなー。サボは何か知らないか?」

「……え?」

 

 サボは信じられないものを見る顔でルフィへと振り返る。

 ルフィは首を傾げて不思議そうにし、サボは頭を抑える。

 

「いや……あの様子から負い目を感じているのは分かっていたけど……でもなぁ」

「サボ?」

「……あのなぁルフィ。メアリーは、お前の友達だぞ?」

「へ? そうなのか?」

「ほら、ダダンの所に帰った途端に友達になってくれって言った」

「……あー! あー! 思い出した! あのメアリーか!」

 

 ルフィは思い出した。ある日突然ダダンの元に現れ、ルフィたちと友達になりたいと言って来た一人の少女の事を。

 

「あの時、警戒していたおれとエースは覚えていて、唯一友達になったお前が何で忘れているんだ……?」

「いやー。びっくりした! でもメアリーも言えば良いのに」

「そこはほら……本人も色々あるからな。とにかく、この事は本人から言い出すまで黙っておけよ? あいつ気にしているから」

「おう! 分かった」

 

 そうこうしているうちに、二人はジョットの元へと辿り着いた。

 そこには、生命力を吸われて衰弱していく猛獣たちとオペをするロー。そして寝たきりのジョットを心配そうに見るメアリーが居た。

 メアリーは、ルフィたちが帰って来たのに気が付くとそちらに視線を送る。

 

「ルフィ。サボ。あれ? エースは?」

「今一人で狩りをしている……それに、あいつには一人になる時間が必要だからな」

「そっか」

 

 何となく察したメアリーは、それ以上何も言わなかった。

 サボが獲って来た猛獣と衰弱した猛獣の位置を替えていると、ルフィがメアリーに近づいて言った。

 

「メアリー。おれたちダダンの所で会った事あるんだな」

「ぶーっ!?」

「おいこらルフィ! お前、そういう所全く変わってねえな!」

 

 トラウマを思い出して白目を剥くメアリー。

 それを見たサボが叫んでルフィに覇気を込めた拳骨を叩き込んだ。

 

「痛ェ!? 何すんだ!」

「お前、デリカシーってものが無いのか!?」

「何だよそれ! ……美味いのか?」

「このアホ―!」

「あばばばばばば」

「お前らうるせえ! オペの邪魔だ!」

 

 わいわいがやがやと騒ぐルフィたち。それを猛獣を狩り終えて帰って来たジンベエは不思議そうに眺めて一言。

 

「元気じゃな、あいつら」

 

 その言葉には、何処か呆れの感情が入り混じっていた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「サボくんたち大丈夫かなー?」

 

 ルスカイナの海岸では、コアラ達革命軍とローを除いたハートの海賊団のクルー達が見張りをしていた。可能性は限りなく低いが、もし海軍が此処を嗅ぎ付けてやって来たら厄介な事になる。故に警戒して監視を務めているのだが……。

 

「はぁ……おれ達の船が無事だったらなぁ」

「まだ言うのか革命軍! おれたちは助けたんだぞ!」

 

 革命軍に所属する若い男の呟きに、ハートの海賊団のクルーが反応した。

 実は、革命軍の船は黄猿のレーザーで沈められてしまった。ローたちの潜水艦の身代わりとなって。幸い船内には人も重要な物も無かったため、ただ単に足を失っただけだが……それでも、真っ先に潰された光景を見た時は思わず叫んでしまったのだ。

 そしてその事に革命軍が愚痴を零し、ハートの海賊団が反応を示し……このようなやり取りが先ほどから何度か行われている。

 その度にコアラが止めていたが、流石に疲れたのか聞き流している。

 

「ばーかばーか!」

「あーほあーほ!」

 

 レベルが低いのも理由の一つだったりする。

 

「はぁ……ん?」

 

 ため息を吐いたコアラの視界に、ふと何かが映る。

 もしやと思いそちらを見れば――海軍の軍艦が二隻こちらに向かって進んでいた。

 まさか、本当に海軍に嗅ぎ付けられたのか!?

 コアラは急いで望遠鏡を取り出して船上に居る者を確認する。もしこれが大将……それも赤犬だったら不味い。潜水する前に見た所、彼はまだ健在だったのだ。

 マグマによる蹂躙はこのルスカイナを破壊し尽くすだろう。

 

「――え?」

 

 コアラの頬に汗が伝う。結果を言えば、赤犬は居なかった。

 その代わり、とんでもない大物が()()居た。

 

「お、見えた。ジョットたちはあそこに居るな」

 

 一人は隠者ジョセフ。

 

「さて……無事だと良いがな」

 

 そしてもう一人は――冥王シルバーズ・レイリー。

 コアラは手に持っていた望遠鏡を落として……叫んだ。

 

「何であの二人が此処に居るのーー!?」

 

 しかし、彼女の叫びに答える者は……誰も居なかった。

 



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世界最悪の海賊

「いやー、懐かしいなこの島」

 

 上陸したジョセフの言葉に、レイリーが何処か呆れた視線を彼に送る。

 

「そう言えば、随分昔に此処の猛獣を連れ出したんだったな。それも東の海(イースト・ブルー)に」

「へへへ。まぁあれっすよ。ジョットを鍛えるなら、此処の猛獣くらい強くねーといけませんから」

 

 何でもないように言っているが、下手をすれば東の海の生態系が崩れる可能性もあった。その事をジョセフは理解しているが、しかし全く気にしている素振りは見せていなかった。

 本人曰く、上手く調教しているから大丈夫だと言っているが――それも言い訳臭く感じてしまうレイリー。そんな彼の視線にジョセフは気づきながらも触れずに、振り返って軍艦に乗っているバギーたちに手を振った。

 

「キャプテン・バギー、送ってくれてありがとうございました! じゃあ、また会った時はよろしく!」

『いやいやいやいやいや!』

 

 しかし、バギーたちはそんなジョセフを呼び止めた。

 

「ふざけんなテメエ! 海王類蔓延るこの凪の帯に放り出されて、生きていける訳ねえだろ!」

『そーだそーだ!』

 

 ここまで来るまで、何度か大型の海王類が軍艦を襲った。その度にジョセフが追い払い、途中拾ったレイリーもそれを手伝い、何とか此処ルスカイナまで辿り着いたが……。

 ここでジョセフたちとはいさよならすれば、確実にバギーたちは海王類の餌となってしまうだろう。

 彼らを足代わりに使っていたジョセフは、流石に責任を感じたのか……。

 

「あー……大丈夫! バギー様ならきっと!」

「投げやりだガネ!」

 

 ……そんな事は無かった。

 ブーブーと不満を顕にするバギー一味に、ジョセフはどうしたものかと悩み――。

 

「――面倒だから、此処で殺すか」

「よしお前ら早く出航だ大丈夫オレ様が着いてる何も問題なしそれ行けそれ行けバギー様がとおおおる!」

『イエス! キャプテン・バギー!』

 

 一息で指示を下すバギーとそれに従う囚人たち。

 彼らは急いで軍艦を動かしてルスカイナから……いやジョセフから逃げるように出航した。残ったのはジョセフたちともう一つの軍艦。そして事の顛末を見ていたコアラたちだった。

 ジョセフは、ぬるりと頭をコアラたちに向ける。

 その生理的に不快感を与える動きにコアラたちが悲鳴を上げるなか、ジョセフは笑顔で彼女たちに尋ねた。

 

「俺の息子は何処に居る?」

「あの、その……」

「ジョセフ。無駄に威圧するな! まったく……」

 

 ――結局レイリーが応対し、二人はコアラに案内されてジョットの元へ向かった。

 そこには、能力を使ってジョットの手術を行うロー。メアリーと何か話しているルフィ。仲が良さそうな二人に嫉妬しているハンコック。エースと合流し、肉を焼いているサボとジンベエ。

 他にも九蛇の海賊団が居る筈だが……現在猛獣を狩りに向かっており此処には居ない。

 

「思ったより元気そうだなルフィ君。それにメアリーちゃん」

「え? レイリー?」

 

 戦いで疲れた体を癒していた面々は、ルフィの言葉に振り向き、そして実際に目にして驚いた。

 

「冥王……つまり、海賊王の――」

 

 特にエースの反応はあまりよろしい物では無かった。

 彼は、自分の血の繋がった父であるロジャーに対してあまり良い感情を抱いていない。だからといって、同じ船に乗っていたレイリーまで嫌悪の感情を向ける訳ではないが……それでも手放しで喜べる事でも無かった。

 

 皆がレイリーの登場に驚くなか、メアリーは彼の後ろに続いてやって来た人物に目を見開いた。

 

「パパ!?」

「ようメアリーちゃん! 実際に顔を合わせるのは久しぶりだなァ」

『――パパァ!?』

 

 そして、周りの者たちは彼女の言葉にさらに驚き、視線をジョセフとメアリーと行ったり来たりさせる。

 

「そうか。メアリーはジョットの妹! すなわち隠者のジョセフの娘という事になる!」

 

 サボは、思い浮かべた家系図から正確に彼らの関係性を当て嵌め――。

 

「だが、それはおかしいぞ! リードの姐さん曰くジョン・スターの一族は一世代に一人じゃ! つまり――貴様! リードの姐さんに隠れて浮気でもしたのか!」

 

 過去の行いから、ジンベエは隠者に厳しい目を向け――。

 

「誰だ、あのおっさん」

 

 無知から不思議そうに視線を送るルフィ。

 

 反応は様々だが、一言で言うなら混沌。

 それをジョセフは面白そうに眺めて、持参した酒を飲む。

 一つ一つに答えても良いが、今は――ジョットに用がある。

 

「ちょっとどいてくれ」

「!? いつのまに――」

 

 ジョセフは、一瞬で――それこそ見聞色の覇気でも見切るのが難しい方法でジョットの傍に移動する。いきなりすぐ傍に現れたジョセフにローが驚くなか、ジョセフは屈んで意識を失っているジョットの体を()た。

 

「ん~~……こりゃあ随分とやられたなァ……。それに、悪魔の実がオペの邪魔をしてやがる」

「こいつ、一目見て……!」

「そう驚くなオペオペの小僧。こんなの、経験があれば誰でも分かる」

 

 そう言って、ジョセフはぐるりと辺りを見渡す。

 そこには、ルフィたちが必死になって集めた猛獣たち。彼らは、ジョットのオラオラの覚醒によってどんどん生命力を吸われているが――ジョセフから言わせればイタチごっこ。大元をどうにかしなければ、ジョットを救うには時間が掛かる。

 

(大方、変な知識持ってるメアリーちゃんの指示だろうなァ……確かに二週間もすれば目が覚めるだろうが――それじゃあまどろっこしいな)

 

 ジョセフは、時間が掛かるという理由でさっさとジョットを治す事にした。

 彼は、右手を手刀の形にすると――それをジョットの心臓に突き刺した。鮮血が舞い、ジョセフの頬に返り血が飛びり付く。

 

「な――」

「――お前! ジョジョに何してるんだ!!」

「うそ、パパ……?」

 

 ジョセフの凶行に、メアリー達が絶句するなか――ジョットに変化が起きた。

 ドクンッ……ドクンッと心臓が脈打ち、ジョセフに貫かれた場所から黒いオーラが噴出し――彼の肉体は漆黒に包まれた。

 メアリーは、ジョセフからジョット――だったモノへと視線を移す。彼女は、あれを見たことがある。戦争中に黒ひげと大将たちに追い詰められた時に見せた暴走。あれが、今此処で起きている。

 

「よし、何とか成功したな」

「ちょっと、何したの!?」

 

 黒いオーラで包まれて異形の姿に変化し、獣のようにグルルル……っと喉を鳴らすジョットを指差し、メアリーはジョセフに詰め寄った。他の者たちもジョットへと視線を送り、構えている。明らかに普通の状態ではなく、その原因とも言えるジョセフへの敵意は当然のものだった。

 メアリーもまた同じで、怒りの表情でジョセフを睨み付ける。それにジョセフはヘラヘラと笑いながら答えた。

 

「安心しろ、安心しろよメアリーちゃん。何もそこまで顔真っ赤にさせて怒る事ないじゃないか。俺ァ、ジョット(アイツ)を救う為の裏技を使っただけさ」

「裏技?」

「ああ。今のジョットは悪魔の実が暴走し、辺りの物を手当たり次第に喰らい尽くす化け物になっている。ほら、見てみろ」

 

 ジョセフが示すその先には、足元の地面を無理矢理オーラに変えて取り組むジョットの姿があった。そして、次には辺りに転がる猛獣へと狙いを付けて飛び掛かると、直接噛み付いて再びオーラに変えて己の血肉へとしていく。

 覚醒した時は、ギリギリまでオーラを取り込んでいたが、暴走している今は相手の存在全てをオーラに変えて喰らっている。言うなれば捕食。その光景にメアリーはぞっとし、ジョセフに聞いた。

 

「大丈夫なの?」

「それはどっちだいメアリーちゃん?」

「両方」

 

 明らかに普通じゃないジョット。

 そして、それに巻き込まれる可能性の高い自分たち。

 メアリーの問いに、ジョセフは簡潔に答えた。

 

「ジョットは大丈夫だ。傷が癒えて目が覚めたら暴走も治まる」

「そう……で、私たちは?」

「そりゃあ、もちろ――」

 

 突如、メアリーの視界からジョセフが消え失せ、代わりに黒く巨大な何かが過ぎ去った。そして、離れた場所から大きな音が響き、全員がそちらを向くと、そこには岩に減り込んだジョセフが居た。

 どうやら、ジョットの体から伸びる尾の形をしたオーラが、ジョセフを叩き付けたらしい。

 ジョセフは、口から血を吐き出しながら――答えた。

 

「――うん、こりゃあ死ねるな。すまん! 暴走舐めてた!」

『ふざけんなこの野郎!!』

 

 満身創痍でプルプルと体を震わせて『計算違いだった』とほざくジョセフに、全員が吠えた。

 こいつ、事態を悪化させただけじゃないか。

 しかし、突っ込んでいる暇もない。暴走したジョットは既に周りの猛獣たちを白骨死体に変えて、次のターゲットに狙いを定めている。

 

「くそ、どうする!?」

「どうするって言ったって……」

 

 ――大将やグラグラの実の直撃を受けても耐える強靭な体。

 ――幼少の頃から鍛え抜かれた武装色の覇気。

 ――触れるモノを全てオーラに変える漆黒のオーラ。

 ――そして、隠者と呼ばれて恐れられる男に不意打ちをぶちかます程の速度。

 

 メアリー達の判断は速かった。

 

『逃げるぞ!!』

 

 反転して、ダッシュでこの場を走り去るメアリー達。抑え込むには、少しばかり厄介な相手だった。それはレイリーも同じなのか、殿を務めつつも逃げるメアリー達に続いた。

 

「あ、ちょっと待ってメアリーちゃん。レイリーさん。海賊たちさん。逃げる前に助けてくんない? おーい?」

『グルルルル……』

「うわーお!? 俺の糞長い人生の中でも、トップ3に入る程のピンチだぜこりゃあよう! しかし、俺は信じてる! 息子のジョットなら、奇跡が起きて――」

『ガアアアアアア!!』

「痛い! 噛んだ! 息子が父親である俺を噛んだ! テメエふざけんなよジョット! 誰がここまで育てたんだと思って――」

『グオオオ!!』

「うそ、ごめん、許して! 心なしかグリグリするのヤメテ! ちょ、おま、右腕が白骨化してる! 待て、死ぬ! マジで死ぬ! ゲームオーバーになる!」

 

 

 

「ああああああああああ!?!?」

 

 何処か余裕そうなその叫びを聞きながら誰もが思った。

 あいつ、さっさと死なねーかな、と。

 ジョットの父親に対する物言いにしてはあまりにも酷かったが――不思議と誰もそれを咎めなかった。

 娘であるメアリーでさえ。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 ――16時間後。

 

「いやぁ、死ぬほど痛い目にあった」

「何で死んでねーんだお前」

 

 傷が完全に癒え、暴走が収まり眠っているジョットの隣で、酒を飲みながら笑うジョセフにエースがズバッと斬り込んだ。

 どうやら、ジョットの心臓を貫き、暴走に追い込んだ事が頭に来ているらしい。ジョセフのふざけた態度で実感し辛いが、一歩間違えればジョットは仲間を己の手で殺すこともあり得たのだ。そして、その対象にはジョセフも入っている。

 だからか、自然とエースの口調は刺々しいものとなっていた。

 

「いや、三回くらい死んだぜ?」

「何を言っているんだ……」

「まぁ、そういきり立つなロジャーさんの息子さん」

「――」

 

 明らかに挑発をしているジョセフに、ピキリとエースの額に青筋が走る。

 ボッ! とエースの右腕が炎に変わりそれをサボとルフィが止める。

 

「待てエース! こいつはジョットの父親だ! 信じたくねーけど!」

「このおっさんはジョジョを助けてくれたんだ! 一応!」

 

 だから、攻撃するのは止めてくれ。そう懇願する兄弟たちに、エースは深呼吸をして目を閉じた。

 そして、ギロリとジョセフを睨み付ける。

 

「あの時言っただろう。おれはエースだって。それに、おれの親父は白ひげだ」

「あー、そう言えばそうだったな。悪いな無神経に」

「……分かったなら、良い。それと、ジョットを助けてくれてありがとう」

 

 気に食わないが――目の前の男はジョットを救った。故に、礼を述べるのは当たり前だった。それが、自分の事を“ロジャーの息子”としてしか見ない男だとしてもだ。

 エースからの礼を受け取ったジョセフは、次に何か聞きたそうにしているメアリーへと視線を向ける。彼女もまた、義父に向ける感情が、少し前と比べて厳しいものへと変わっていた。

 幼き頃は優しい父親だと思っていたが――こうして時間を置いて再会すると分かる異常さ。その事に気付いていなかった事にメアリーは薄ら寒いものを感じつつ、それでも育てた人だからと無理矢理己の感情に折り合いをつけてジョセフと向き合った。

 

「お父さん、聞きたい事があるの」

「あれ? パパって言ってくれないの?」

「茶化さないで! ……どうして此処に居るの? 確か、シャンクスさんの船に居るって話だけど」

 

 後ろでルフィが「シャンクスの船に乗っているのか!?」と一人驚いているが、メアリーはジョセフだけを見ていた。

 それに対して、ジョセフは一言。

 

「いや、普通にジョットを助ける為だから。ジョットにはまだこんな所で死んで貰う訳には行かねェからなァ。だから、さっきみたいな荒療治をさせて貰った」

「でも、治すなら時間掛けても……」

「あー、ダメダメ。ジョットはもう前半の海(こっち)に居ちゃあ不味いんだ。さっさと新世界に行って貰わねーと色々とヤバい」

「どういう事?」

「んー。詳しい事を省くと――モタモタしてると、四皇のカイドウとビッグマムがこっちに来る」

「は?」

「シャンクスさんが何とかしてくれるだろうけど、それでも持って二週間だろう。だからジョットにはさっさと新世界入りして貰いたい。

 というか、一番スムーズなルートだと、今頃新世界で暴れて貰っていたつもりだったんだがなァ。やっぱり人生って難しい」

「ちょ? ええ?」

 

 ジョセフの不可解な言葉にメアリーが首を傾げていると、のそりと起き上がる影があった。

 

「――最悪な目覚めだな。隣に酔っ払いがいやがる」

『ジョジョ/ジョット!』

 

 ジョットの目覚めに、皆が喜びの表情を浮かべる。

 彼らは詰め寄ると口々に、今まで溜め込んでいた感情を解き放った。

 

「ジョジョ! 戦争じゃあ助けてくれてありがとうな! おれ、お前のおかげでエースを助ける事ができた!」

「おいこらジョジョ! テメエ、助けてくれた事には礼を言うが弟に無茶させて、そしてそれ以上に無茶しやがって……! 何から言えば良いか分からねえよ!」

「ジョット! 本当にありがとう! お前の力でこいつらを思い出すきっかけを得られた!」

「ジョジョ! 本当に無茶して……! 私たちがどれだけ心配したか――」

「ジョット。起きたなら久しぶりに飯作ってくれ」

「――喧しい! 全員で言われても聞こえねーよ!」

 

 詰め寄って来たルフィたちを、ジョットが振り払った。

 しかし、彼らが自分のことを心配していた事は良く分かり――彼はボロボロの帽子を深く被って「ありがとう」と確かに口にした。

 ひっくり返っていたルフィたちも、それを見てそれぞれ笑みを浮かべてジョットの復活を喜んだ。

 

「お前にも世話になったな、トラファルガー」

「いや。こんな所でくたばって貰ってもつまらないからな」

 

 木に寄りかかり、傍観していたローはジョットの礼の言葉を受け流すとクルリと背中を向ける。

 ジョットが目覚めたのなら、彼が此処に居る理由はもう無い。ローは、この場から立ち去るつもりだった。

 

「この礼は必ず返す」

「……ふっ。お前なら、期待しても良さそうだ」

 

 それだけ言うと、ローは木々の暗闇に姿を消して去って行った。

 その光景をボーっと見ていたメアリーの背後に、ソロリとジョセフが近づき……。

 

「“クールキャラの掛け合い、ご馳走様”とか考えてる?」

「――何が言いたいの?」

「いんや……うんうん。メアリーちゃんも成長したみたいで良かったねー」

「だから! 何が言いたいの!?」

「何してんだあいつら……」

 

 メアリーとジョセフのやり取りに、ジョットは呆れつつも近づかなかった。巻き込まれると面倒なのは、昔からよく知っているからだ。

 すると、自然とジョットは次に気になる人物へと視線が向く。

 レイリーだ。

 

「レイさん。アンタ、どうして此処に?」

「なに、私も戦争の様子は見ていたのでね。気になったから動いた所、ジョセフに拾われて一緒に来たのさ」

 

 ジョットの問いに答えると、次にレイリーはルフィへと視線を送る。

 

「ルフィくん。君はどうする?」

「ん? 何がだ?」

「これからの事だ――君は、シャボンディ諸島での事を覚えているかい」

 

 ルフィの脳裏に、あの日の出来事が浮かび上がる。

 大将にやられ、くまに飛ばされ――最も己の無力を悔いたあの日の事を。

 ごくり、とルフィが生唾を飲み頬には冷や汗が垂れる。

 そんな彼の様子に、レイリーはルフィの心情を察するとある提案を出した。

 

「ルフィ君――私から一つ提案がある」

 

 レイリーの申し出に――ルフィは頷いた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 数日後。世界各地で、二つのニュースが世界中で注目されていた。

 

 一つは、マリンフォード頂上決戦にて白ひげを討ち取り、新世界で快進撃を続ける黒ひげ海賊団と同盟相手の金獅子のシキについて。

 黒ひげは、白ひげの縄張りについて熟知しており、次々とそれらを己の物としていた。

 四皇の座を狙う海賊たちの間では一歩リードと言ったところだろう。彼のこれからの行動に、世界が震えていた。

 

 そして、もう一つ。それは――。

 

「そうか……ルフィはそちらの道を選んだのだな」

『ええ、そうです。レイリーさんの元で“覇気”の修行をするようでして』

 

 新世界のとある島で、シャンクスは電伝虫でジョセフと連絡を取り合っていた。

 彼の手には、先日ルフィが起こした『マリンフォードで新時代への16点鐘』。世間では、ルフィが海軍、並びに他のライバルに向けての宣戦布告とされているが――それはフェイク。ルフィの真の狙いは、彼の右腕に刻まれた仲間へのメッセージ。

 それをジョセフから聞いたシャンクスは、ルフィの決断に笑みを零し――次にジョットについて尋ねる。

 

「ジョットは――こっちに来るのか?」

『はい。準備ならもうできているんでね――くっくっくっ……暫くは退屈しなくて済みますぜ?』

「ふっ……相変わらず性格が悪い」

 

 それぞれ、ジョットの新世界入りを喜ぶジョセフとシャンクス。

 思えば、あの日から随分と経ったとシャンクスは目を閉じた。ジョセフを探しに東の海に来てみれば――真っすぐな目をした少年が居た。しかし、その心には迷いがあり……思わず背中を押してしまった。

 辛い世界に引き摺り込んだと後悔はしていない。ただ、仲間たちと仲良くしているのなら……シャンクスはそれで満足だった。ルフィとも仲が良いのが、さらにシャンクスの笑みを深めた。

 

(お前に会える日を待っているぞ、ジョット)

 

 ジョットの成長に思いを馳せているなか、ふとシャンクスはジョセフに尋ねた。

 

「ジョセフ、一つ聞きたい事がある」

『なんですか?』

「お前がマリンフォードで見せたエターナルポース……あれは本当に“ラフテル”を指し示しているのか?」

 

 シャンクスは、ジョセフの性格から考えて誰もが飛びつく餌を持って来るとは思っていなかった。しかし、気になるのはあの言葉。

 

 ――これは家族以外には渡さないから!

 

 何故、あのような言葉を吐いたのか。それも――嘘偽りなく。

 ジョセフがあのエターナルポースを大事に持っているのは、隣に居て何となく感じていた。しかし、指し示す先がラフテルだからこそ生じる矛盾。ジョセフは、ラフテルにもワンピースにも興味を示していない筈だった。

 故に、シャンクスは問うた。そのエターナルポースが示しているのは何処だ、と。

 

『……まぁ、察しの通りラフテルではありませんね。というか、ラフテルのエターナルポースなんてありませんし、持ってないですよ』

「なら、お前がそこまで大事にして……息子の命を海軍から救う為に使った切り札は何だ?」

『……別に。示しているのは人も獣も宝も無い。何も無い無人島ですよ』

 

 シャンクスの問いに、ジョセフは嘘を吐かずに答えた。

 いつもと違って飄々とした態度ではなく、世界で遊ぶ最悪の海賊としてではなく。

 

『ただ――一つだけ、墓があるだけです。俺にとって大切な墓が、ね』

 

 たった一人の女性(ヒト)を想う夫として――。

 ジョセフは、持っていたエターナルポースに張り付けたシールを剥がし、そこに刻まれた島の名前を愛しそうに見る。

 そこには“ジョースター島”と書かれていた。

 




はい、てな訳でラフテルへのエターナルポースはありません。
これ知ったら釣られた海賊達はブチ切れますね。
さすが世界一最悪な海賊です


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それぞれの道

 

「……」

 

 ルスカイナの奥地にて、一人ジョットは空を見上げていた。

 他の皆は、海岸で別れの挨拶をしているだろう。特にルフィとエースとサボは、永遠に叶わないと思われていた兄弟三人による再会が叶ったという事もあり、別れを惜しんでいた。ジョットがこっそりと抜け出す前にチラリと見たところ、メアリーもまた何か思う所があるのだろう。彼らを見て薄っすら涙を浮かべていた。

 ジョットもまた、エースが助かって良かったと思っている。

 ――思っているのだが……。

 

「……っ」

 

 一つだけ悔いがあるとすれば――黒ひげから白ひげの魂を解放するという約束を守れなかった事だろう。

 黒ひげは、今新世界で暴れている。白ひげの船に乗っていた際に得た縄張りの知識とそのグラグラの能力にて。シキと組んでいるからか、その快進撃は凄まじい。瞬く間に勢力を拡大している。

 もし、あの時ジョットが黒ひげを仕留めていれば――こうにはならなかった。

 

「……違うな」

 

 ジョットが一番辛かったのは、やはり白ひげを助けることができなかった事だ。

 黒ひげへの怒りよりも、そちらの方がずっと心に残っている。現状を冷静に分析して『打倒黒ひげ』と考える前に――彼は悔いた。

 白ひげを――自分に母の事を教え、彼女の愛を伝えてくれた偉大な男を失った事が何よりも悲しかった。

 

「――オラァ!!」

 

 目の前にある岩壁を、感情と共に殴りつける。すると、地響きが起こりガラガラと目の前に瓦礫の山が出来上がり、近くでジョットを狙っていた猛獣たちはその光景に目を剥いて逃げ出し……しかし、ジョットの心は晴れなかった。

 彼は、再び空を見上げる。

 

「……爺さんは、死んだ」

 

 そして、まるで自分を叱咤するかのように呟いた。

 

「……もっと強くならねえとな――アホンダラって言われねえように」

 

 それを影から見ていた男は――気づかれないうちにそっとその場を離れた。胸の中で、彼に礼を述べながら。

 

 しばらくして、ジョットはルフィたちの元へと戻った。

 彼の頬には、涙の跡は残っていなかった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「ジョジョ! さっきそっちの方からすげー音がしたけど、大丈夫だったか?」

「ああ。オレは大丈夫だ」

 

 ルフィの言葉にそう返しながら、ジョットはジョセフが奪って来た軍艦に乗り込んでいる革命軍の面々を見る。彼らは、この船を使って基地に戻るらしい。船の上にはサボが居り、現れたジョットに気が付くと笑顔で手を振った。

 

「ジョット! お前には、本当に感謝している! この先、何か困った事があったら連絡してくれ。いつでも駆け付ける!」

「ああ、ありがとう。その時は、頼らせて貰う」

 

 そしてジョットは、顔見知りのコアラや革命軍のメンバーと別れの挨拶をし、一足先に海に出た彼らをルフィらと共に見送った。見えなくなるまで手を振り続け、次に出航するのはジョットたちだ。

 ジョット、メアリー、エース、ジョセフは、ジンベエが呼んだジンベエザメに乗ってシャボンディ諸島に向かいギンたちと合流後、そこからレッドイーグル号で魚人島に向かう予定だった。

 既に他の皆はルフィと別れの挨拶を済ませているのか、彼はジョットに視線を送っていた。

 

「ジョジョ! 戦争じゃあ、本当にありがとうな! おれ、此処で強くなって――そして、絶対に追いつくから!」

 

 ルフィは、二年間此処で修行する。彼のクルーもまた、それぞれ二年後に備えて各々の道を歩んで強くなろうとしているだろう。

 レイリーの提案に乗って一度足を止め、力を付ける事をルフィは決めた。

 そしてそれは、ジョットがルフィの先を行く事と同義であり――彼は、それに追いついてみせると決意を新たに宣言した。

 

「――ああ。新世界で待っている」

 

 そして、ジョットはその言葉をしっかりと受け止めて――ルフィと別れてシャボンディ諸島に向かった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「やはり生きとったか……」

 

 病室で、新聞を広げるのは海軍大将赤犬ことサカズキだった。

 彼は、しばらくは治療に専念する事になっている。戦争前と戦争中でも、彼は深い傷を負わされた。そして、それを為したのはジョットだ。

 本当なら、今すぐにでも軍艦に乗ってジョットの首を獲りに行きたい。しかし、それ以上に思うのが、このままで良いのかという疑問。

 海軍は、今回の戦争で成果を得られなかった。それもこれも全て――ジョットが悪い。

 ただの恨みから来る言いがかりだと言うには、あまりにも彼の影響力は強い。

 

「――さらに強い正義の力が必要じゃな」

 

 サカズキは、先日自分の元に現れた使者から受け取った“推薦状”を見て――決意する。

 ジョットを、メアリーを、ウソップを――海賊を滅ぼすために。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「元帥を止めるようだなセンゴク」

「ああ……お前はどうするゼファー?」

 

 センゴクの部屋にて、体に包帯を巻いた老人たちが顔を突き合わせていた。

 先ほどセンゴクはコング総帥に元帥を退位する事を告げ、現場から離れる意志を伝えた。これからの時代に老兵がのさばっても意味が無い。

 そう考えての行動だった。

 ……決して、次々と舞い込むストレスに嫌気が差した訳ではない。

 

 ゼファーは、センゴクの決定にあまり表情を変えず答えた。

 

「クザンを推薦するようだな」

「ああ。普段はやる気を見せん男だが、奴なら……」

「くくく……かつてのヒヨッコが元帥に、ね。時は流れるものだ」

「……お前は、まだ戦うつもりか」

「――ああ。一人、倒さなくてはならない海賊が居る」

 

 ゼファーは、戦争が終わってから得た情報から早急に倒すべき()を見つけた。

 邪眼――いや、新たに発行される予定の手配書では“邪王真眼のメアリー”になるだろう。彼女の力は、海軍にとって脅威になる。スカスカの実とはまた違う能力。世界政府や海軍は、彼女の邪王真眼の能力を測りかねている。

 黒ひげのように二つの悪魔の実を得ているのか。もしくは、全く別の能力か。

 どちらにしても、彼女はエースやジョットに次いで危険視されている存在だ。そして、ゼファーにとっては教え子を手に掛けた憎き敵である。

 

「それにしても謎だな。遠くに居る敵を害す力があるとは……」

「ああ。アインやビンズは、奴の眼によって気絶させられていた」

 

 アインたち曰く、意識を失う前に見たのは闇の中でも光る赤く禍々しい瞳だったそうだ。

 メアリーは、相手の記憶にある力を行使すると言っていたが――能力の真髄は別の所にあるのかもしれない。

 

「野放しにできん。兄共々な」

 

 海軍の正義に則り、ゼファーは力強くそう宣言し――しかし、一年後。その正義に彼は裏切られ、世界を憎む破壊者となった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「ウソップン。無理だん! この島でずっと目隠しをして生きるのは!」

 

 ボーイン列島に飛ばされたウソップは――現在、死にかけていた。

 この島の不思議な食べ物によって肥大化した肉のおかげで心臓にまで至っていないが――それでも、猛獣や食肉植物に負わされた傷が痛々しい。

 息を切らして目隠しをした状態のウソップは、声がする方へ顔を向けて言った。

 

「ルフィには……おれ様の力が必要なんだ! だから、この程度でへこたれちゃあいられないんだ!」

「しかし、あまりにも無謀だん! 死んだら、元も子も――」

「それに! おれには、絶対に追いつきたい兄弟と、倒したい奴が居る!」

 

 ヘラクレスンの言葉を遮る程の強い決意が、ウソップの口から放たれた。

 思い出すだけでも、頬に残った大きな火傷痕が痛みだす。兄弟をバカにした相手を前に、ウソップは何もすることができなかった。他人が見れば、海軍大将にあれだけの啖呵を切れるのなら大したものだと称賛するかもしれないが――ウソップはそれ()()ではダメだと思っていた。

 

「絶対にあり得ないような嘘を、本当にできるくらいの男じゃないと――おれはジョットの隣に立てねえ! あのマグマ野郎にも勝てねえ!」

「それで目隠しなのかん?」

「目隠しだけじゃねえ! 慣れたら耳! さらに慣れたら鼻――おれは、この力をこの二年間でモノにしてやる!」

 

 そう言ってウソップは、振り向いて自分に襲い掛かろうとしていた食肉動物を火薬星で打ち抜いた。その光景に、ヘラクレスンは圧倒される。

 今、この瞬間にもウソップは――強くなるための修行をしている。

 いや、それどころではない。彼の言い分が嘘でなければ、これからずっと……二年後に仲間と会うその時まで休み事無く気配を読む力――見聞色の覇気を鍛え続けると言っているのだ。

 それは狂気の沙汰であり――かつてジョットが苦しんで一ヶ月で断念した修行方法だ。

 ヘラクレスンは、そのウソップの決意に畏怖を覚え、しかしそれ以上の感情の高鳴りに体を震わせ――。

 

「あ、でもポップグリーンの勉強は見ないと分かんねえな」

「台無しだなん! ウソップン!?」

 

 目隠しをズラしてそう言うウソップに、ヘラクレスンは思わず突っ込んだ。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「皆、心配かけたな!」

『船長!!』

 

 シャボンディ諸島に着き、自分たちの船に戻ったジョットはクルセイダー海賊団のクルーたちと合流していた。

 全員、戦争を見ていたのか目に涙を浮かべている。シャッキ―から無事だという話は聞いていたが、それでもこうして実際に目にするまで気が気でなかったのだろう。

 彼らは、ジョットの元に集うと彼の無事を喜んだ。

 ジョットは、彼らに応対しながらも違和感を感じていた。一人、見当たらない人物が居る。

 ギンだ。

 

「おい、ギンが見当たら――」

「ジョジョ、上だ!」

 

 エースの警告の言葉に咄嗟に上を向くと、そこには――武器を構えたギンが襲い掛かる光景が広がっていた。

 一瞬、理解が及ばず意識に空白が生まれる。

 しかしすぐに持ち直すと覇気を纏った腕で受け止め、弾き飛ばす。それでもギンは止まらない。

 

「おい、ギン! 何しやがる!」

「……」

 

 だが、彼は答えない。それどころか、さらに可笑しな事が起きる。

 ジョットを取り囲んでいたクルセイダー海賊団のクルーたちが、まるで戦いの場を作るかのように距離を置いて円を作った。

 彼らの行動にジョットもメアリーも訳が分からず困惑した。

 襲われているジョットを見て、ジンベエとエースが飛び出そうとするがそれをジョセフが止める。

 

「何で止めるんだ!」

「そうじゃ! ジョットさんは病み上がりだぞ。あまり無茶させちゃ――」

「黙ってろよ……こりゃアイツがケジメ付けねえといけねえ事だ」

 

 ジョセフに止められたエース達は、仕方なくその戦いを見守る事にした。

 ジョットは、ギンの攻撃を捌きながらも問いかけた。

 

「ギン! 攻撃を止めろ!」

「……」

「くそ……」

 

 止まらないギンを見て――ジョットは覇王色の覇気をギンに叩き付けた。

 意識を飛ばして、この場を収めようとしたのだが――ギンは、飛びそうになる意識を舌を噛んで堪えた。口の端から血が流れ、それを見たジョットが驚き――隙ができる。

 そして、ギンはそこを見逃さず剃で間合いを詰めると渾身の一撃を叩き込んだ。

 鈍い音が辺りに響く。

 

「ジョジョ!」

 

 メアリーが声を上げ――ギンのトンファーが砕け散った。

 衝撃に耐えきれず壊れてしまったらしい。対して、ジョットは武装色の覇気で体を硬化させていたため、ダメージはゼロ。

 バラバラと落ちる武器の破片を見てようやくギンは止まり、その場に座り込んだ。

 

「は、はは……やっぱり船長はすげえよ。病み上がりなのに、おれの一撃がまったく効かねえ――いや、違うな。おれが弱いだけだ。冥王レイリーの――赤犬の言う通りだ」

「ギン、お前……」

 

 ギンの声を聞いて初めて――ジョットは彼の心の悲鳴に気が付いた。

 

「なァ、船長。おれ達、戦争にアンタが参加していると聞いて居ても立っても居られなくて駆け付けようとしたんだ――でも、冥王レイリーに止められた。『君たちが行っても犬死するだけだ』って」

 

 しかし、ギンたちはそれで止まる程賢くなかった。

 レイリーの静止を振り切ってマリンフォードに向かおうとし――全員叩きのめされた。

 無暗に命を粗末するだけだと、レイリーは彼らに傷を負わせてでも止めた。

 彼一人にやられるようでは、ただ死にに行くだけだと無理矢理理解させられた。

 そして――戦争中に赤犬がメアリーに放った言葉に全員心臓を鷲掴みにされた気分だった。

 

「なァ、船長――おれ達、弱いよなァ。アンタの足、引っ張っちまうよなァ――こんなに無様な男ァ他に居ねえよなァ!」

 

 ギンは――いや、クルセイダー海賊団たちは泣いていた。

 自分たちの無力さに。

 

「アンタの力に成りたくても! 追いつきたくても! 支えたくても! おれ達は弱すぎる! 赤犬の言う通り、おれ達の弱さが――アンタを傷つけるんだ!」

 

 ギンは、苦しんでいた。自分とジョットの間にある圧倒的な壁と、そしてそれを乗り越える事ができない事実に。

 自分が一歩進めば、ジョットは十歩も百歩も――何千歩も先に進んで行く。

 いつか追い付こうではダメだ。今すぐにでも追い付かないと――ジョットは自分たちの知らない場所で死んでしまう。

 それが辛くて、でもどうしようも無くて――ギンは泣いていた。

 

「なァ船長……おれ、アンタに相応しいクルーなのか? ただの足手纏いで居るのが――死ぬほど辛いんだ!」

「ギン……」

 

 ギンの魂の叫びに、他のクルー達も声を上げる。

 

「俺たちもだ船長!」

「あの日、自分たちの無力に嘆いて強くなろうとしたけど――まだ足りないって事が分かった」

「このままじゃ俺たち、アンタを殺してしまう!」

「悔しくて堪らねえよ!」

「船長……俺たち必要なのか?」

 

 彼らは情けなくも、ジョットに自分たちの存在意義を問い掛ける。

 もし、邪魔だと足手纏いだと言うのなら――船を降りる事も考えていた。

 それで、彼がこの先何不自由なく航海できるのなら、と。

 そんな彼らを見てジョットは――大きく大きくため息を吐いた。

 

「テメエら、全員そこに並べ」

「はい?」

「並べこのアホンダラァ!!」

 

 ジョットの怒号が響き渡り、クルー達は体を跳ねらせて急いで一列に並んだ。

 ギンだけは俯いて涙を流していたが、クルーに促されて彼も並んだ。

 

「メアリー、お前もだ」

「……うん、分かった」

 

 そして、密かに彼らと同じ思いを抱いていたメアリーも列に加わる。

 ジョットの前には、クルセイダー海賊団22人が勢揃いしている。

 全員、東の海から此処まで共に航海して来たジョットの仲間たちだ。

 こうして眺めているとジョットの脳裏にこれまでの出来事が思い浮かび――そして、一度も『邪魔だな』と思った事は無かった。

 

「――こういうのガラじゃねえんだけどな」

 

 ジョットは、視線が集まるなか――ゴホンッと咳ばらいをして答えた。

 

「おれァ、ランみたいに船を直せねえ。ヤックルみたいに歌が上手くねえ。テキラスみたいに傷を治せねえ」

「せ、船長何を……?」

 

 ジョットは突然、クルーたち一人一人の名を上げていき普段航海でしている役割を述べていく。彼らにとってはやって当然のこと。それがジョットの口から次々に放たれていく。

 当人たちは気が付いていないようだが――外野の人間たちは気が付いているようで笑みを浮かべていた。

 

「――アーサーは剣術が上手く、咄嗟の判断が鋭い。ギンはクルー達の総括をし、戦力の強化をしている。それに、毎晩自主練をしているのも知っている。メアリーは普段ふざけているが、いざという時は度肝を抜くような行動力がある。

 ……全部、お前らがやってきた()()事だ。実感湧かねえみてえだが、今までオレはお前らに助けられて此処に居る。一人じゃ無理だったんだ。そして何より――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 クルーの居ない海賊団など、ひとりぼっちの海賊など、ジョットは考えられなかった。

 彼らが居たからこそクルセイダー海賊団は成立し、彼は船長で居られた。

 彼らの弱さがジョットを殺す? 足手纏い? ジョットにとってはそんな()()()()はどうでも良かった。

 

「強さ弱さじゃねえよ――お前らだから、一緒に海賊してんだ。今更こんな事言わせるな」

『船長ーー!!』

 

 クルーたちは号泣し――今度こそ心の底からジョットの生還を喜んだ。

 自分たちを必要としてくれる。そう言ってくれるジョットの言葉に涙を流した。

 ――彼らはもう疑わないだろう。自分たちがクルセイダー海賊団でいる事を。そして、ジョットが彼らを仲間だと思ってくれている事を。

 

「――船長、それでもおれは……!」

 

 そして、ギンもまた同じ気持ちだった――だからこそ譲れない物がある。

 認めてくれたからこそ。必要だと言ってくれたからこそ。仲間だと言ってくれたからこそ。

 ギンは、現状に満足できない。強欲にも力を求める。

 ジョットは、その揺らがない決意に少し困った表情を浮かべ――後ろから響く声に振り返った。

 

「ジョット。そいつ、おれが強くしてやろうか?」

「親父……」

「その兄ちゃんは、お前の言葉を受け止めても止まらねえよ――正直、これだけの意志の強い人間が誰かの下に着いているってのも面白い」

 

 ジョセフは、ギンの可能性に久しぶりに興奮していた。

 ジョットを鍛えていた時の高揚感を思い出す。もし、この男を鍛えたら――そう考えると浮かび上がる笑みが収まらない。

 しかし、それに待ったをかけたのはジョットだ。

 

「断る。お前に任せるのは不安でしかない」

「酷いな。父親相手に」

「――父親だからこそ、だ。血の繋がったオレで()()なら、ギンがどうなるか。分かったもんじゃねえ」

 

 ピリピリとした空気が、両者の間で生まれる。

 ジョセフは酒を飲んでヘラヘラと笑っているが、ジョットの目は真剣だ。

 まるで、敵から仲間を守るように。明らかに肉親に向ける目ではなく、しかし彼の事をよく知る者なら当然の反応だと頷くだろう。

 それだけジョセフは()()に容赦が無い。

 

「――船長、行かせてくれ」

「ギン」

「あの人に着いて行って強くなれるならオレは――世界最悪の海賊にだって魂を売ってやります!」

「ほう……言うじゃねえか小僧――いや、ギンって言ったな。ますます気になった」

「おい、親父! ……ギン、考え直せっ」

 

 このままでは不味い。

 焦りの表情を浮かべ、昔を思い出しながらギンを止めるジョットだが……ギンは止まらない。

 

「船長。おれァ、アンタを助けに行けなくて死ぬほど苦しかった。あんな思いをしないためにも、どうか止めないでくれ……!」

「――だが」

「漢の約束だ! おれァ死なねえ! 絶対に強くなって、アンタが無茶したら殺してでも止められるような漢になってやる! それでも止めるのなら――おれを殺してくれ星屑のジョジョ!」

 

 ギンの言葉は本気だった。此処でジョットが首を縦に振らなければ、死ぬつもりな程に――重く固い覚悟だった。

 もう、ジョットの言葉では考えが変わらないのだろう。

 ジョットは、ため息を吐いて帽子を深く被ると――。

 

「――分かった。……あの時(クリークの時)みたいに船長命令は要るか?」

「――要りません。これは、おれが決めた事ですから」

 

 その言葉を聞いたジョットは、一つ頷いて鋭い視線をジョセフに向ける。

 

「親父。もしギンが死んだら――お前を百回殺す」

「親に言う言葉じゃねえな――そりゃあギン次第だ」

 

 ジョットの釘刺しに動じず、ジョセフは笑って言った。

 

 

 ――こうして、ギンはジョセフの元で修行をすることになり一時クルセイダー海賊団から離脱した。

 この時の判断をジョットは後に後悔し怒り、しかしギンは強く逞しく成長した。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「さて――ジンベエ、案内を頼む」

「ああ、任せろ」

 

 ジョットは、ジンベエを信頼してそう言った。

 この後船の中で色々と話すつもりだが、時間はたっぷりある。

 ジンベエもまた話したい事があるようで、退屈はしなさそうだ。

 

「エースは魚人島までだな」

「ああ。それでもよろしく頼む」

 

 エースは、魚人島で白ひげ海賊団たちと合流する予定だ。

 そこまでは一緒に航海をする事となっている。

 彼の力があれば、深海でも活躍する事間違いない。

 

「メアリー。いつでも行けるか?」

「うん、準備オッケー! 皆がやってくれたから!」

「船長が認めてくれた力だからな!」

「船長が褒めてくれたからな!」

「今日までは許すが、しつこいと船から放り出すぞ」

 

 クルセイダー海賊団は、いつも通りのテンションに戻っていた。

 ギンは居ないが、彼とはすぐに会える。ジョットはそう信じて彼の覚悟を認めた。

 なら、もう何も言うまい。後は待つだけだ。

 

「じゃあ――行くぞ、野郎共! 魚人島に!」

『おう!』

 

 ジョットの声に皆が応え――レッドイーグル号は深海へと進んだ。

 いざ行かん。魚人島へ。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「さて、鍛えると言ったが――その前にお前のステータスを見させてもらうぞ?」

「ステータス?」

 

 レッドラインのすぐ傍に、ジョセフとギンは居た。

 小舟で壁に近づくと、ジョセフがギンに向き合うとその赤く染まった目で彼を見る。

 ギンは、全てを見透かされているような感覚に気味の悪さを覚え、しかしそれは実のところ当たっていた。

 

 ジョセフは“ゲムゲムの実”を食べたゲーム人間。

 あらゆる事象をゲームに基づいて行動する事ができる能力者だ。

 この能力により、彼は“潜入ゲーム”で敵の基地や陣地に侵入したり、キャラメイキングで名前や容姿を変えたりする事ができる。

 また、とある能力の禁術が作用し彼には永遠に近い命が与えられているが……それはまた別の話。

 現在、彼の目にはギンの筋力、脚力、覇気の容量、がデータ化されて映し出されている。

 これにより、彼をどのように育成すれば、どれだけ強くなれるのかが分かる。

 

「分かりやすくて良いなァ。ジョットの野郎は色々とバグっててこっちが合わせないといけなかったからなァ」

「は、はぁ……?」

「うーん。こりゃあ、下手に悪魔の実(オプション)付けない方が良いかねぇ」

 

 考えが纏まったのか、ジョセフは『よし!』と呟くとギンに笑顔で言った。

 

「まずは壁、昇ってみるか」

「……はい?」

 

 ――後にギンは、ジョセフの修行(拷問)を受けてこう述べた。

 

『確かに強くなりました、心身共に。その事には感謝してます。しかし、あの人の事を人として見る事ができなくなりました。……というか、本当に船長の父親なんですか?』

 

 その事を知らないギンは綺麗な瞳で『はい!』と応えた。

 彼の瞳が濁るまで、後26時間。

 




第一部完!
てな訳で後書き的なものをこれから活動報告でダラダラと書きます


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新世界編
主人公日記 十四ページ目+α


新世界編、開始ィ!


 @月☆日

 

 コーティングによって深海へと潜っていくレッドイーグル号。

 爺さんの船で新世界からこっちに来る時に見た光景だが、二度目でも目を奪われる程綺麗だ。

 それはメアリーやクルー達も同じようで、海の神秘に騒いでいる。後、人魚姫が楽しみなのか既に踊っている奴らもいる。

 エースとジンベエは慣れたもので、近づいて来た海獣達をそれぞれの力で蹴散らしている。

 経験者が居るから、魚人島まで安心していけるだろう。

 それはそれとして、オレ達はジンベエと改めて話をした。ハチから聞かされたアーロンの話だ。

 ハチの名前が出て疑問に思っていたジンベエだったが、オレが友達だと教えると驚いた。どうやらアーロンと一緒に捕まっていると思っていたらしい。

 それとクルー達からの補足によるとハチはルフィ達の船を守っているらしい。シャボンディ諸島に着いたら海軍に見つからないようにするため、さっさと船に向かったから知らなかったが……。

 そして、オレは伝えた。アーロンが虐げていた人間の中にオレの友達が居て、その一人が麦わらの一味に居ることも。

 それを知ったジンベエは苦しそうな顔をしていた。それでも伝えるべきだと思っていた。

 ジンベエは教えてくれてありがとうと言い、二年後に魚人島に来る彼らとしっかり向き合って話すと言った。……ハチの言っていた通りの漢だ。

 その後もフィッシャー・タイガーの話や(クルー達がフィッシャー・タイガーの事が好きだと伝えると嬉しそうな顔をしていた)オレの母との出会いの話など色々と話した。

 それにしても驚いたな。まさかジンベエもオレの母と知り合いだったとは。聞くところによると、良く遭難する母を探していたらしい。

 ……遭難、ねぇ。

 メアリーの視線が突き刺さった。悪かったな、よく遭難してよ。

 魚人島にはタイヨウの海賊団が居るから、紹介してくれると言っていた。それを聞いてオレもクルー達も是非会いたいと言った。

 

 だが、それとは別にジンベエは唸っていた。尋ねても個人的な問題らしいが……どうしたのだろうか?

 

 

 

 辺りが暗くなり少し肌寒くなって来た頃、エースとある話をした。

 爺さんの事だ。どうやら、ルスカイナで……あー、なんだ。気分が落ち込んでいた所を見られたらしい。

 エースは、オレと爺さんの関係をあまり知らなかったからジンベエの話を聞いて驚いて……爺さんの為に死力を尽くしたオレに改めて礼を言いたい、と。

 ……エースは、名を上げる為に海賊になり、世界に自分の存在を認めさせるのが目的だったらしい。しかし、あの戦争を通じて本当に欲しかったモノが分かったらしい。

 そしてそれは既に手に入れていて、同時に失ってしまった。

 エースは、皆の前で流さなかった涙をオレの前で流した。

 父親の死に悲しんで……。

 オレ達は、爺さんが好きそうな味の酒を共に飲んだ。

 少し、しょっぱかった。

 

 

 @月#日

 

 深海の航海を終えてオレ達はつい昨日魚人島に到着した。

 以前は船にずっと乗ったままで上陸しなかったが凄いところだ。深海なのに光も空も空気もある。人魚が空を泳ぐ光景には目を奪われた。

 仲良くなったタイヨウの海賊団達の案内の元、色々な場所を巡った。ただ、ジンベエが七武海を辞めたから少し居辛いらしい。

 クルー達はマーメイドカフェに夢中で現在進行形で全力で楽しんでる。楽しむのは良いがお小遣いの前借りはさせんぞ?

 ただ、楽しい事ばかりではない。

 魚人島は爺さんの縄張りだった。しかしその爺さんが死んでしまい抑止力を失ったこの島は、ガラの悪い海賊達がよく来る。

 クソ腹立つことに、地上では人魚は高く売れる。それを狙っての事だろう。実際笑いながらそう言っていた奴が居て……思わずぶん殴ってしまった。

 エースもジンベエも事の重大さに気付いているようで、どうにかしようと考えている。

 とにかく、白ひげ海賊団が来るまで馬鹿な海賊達はオレ達で牽制する事にした。自分で言いたくないが、オレの名を知らない者は居ないだろう。メアリーじゃないが、使えるものは使うだけだ。

 

 

 @月*日

 

 マーメイドカフェを満喫し過ぎなアホどもを迎えに行った所、ある女性と出会った。

 名をマダム・シャーリー。美人な人魚で……爺さんの死を予言で当てた人物。

 彼女はオレ達がこの島に来ることも予言していたようだった。何でもクルセイダー海賊団の旗のイメージが強く見えて、魚人島と強い関わりを持つとか。

 それとマダムの予言ではオレもあの戦争で死ぬ筈だったらしい。しかしその予言だけは外れてオレはこうして此処にいる。彼女はそれに驚きつつも嬉しかったようだ。

 先日助けた人魚の件も含めてお礼に割引すると言っていたが、丁重に断らせて貰った。アイツらにはいい薬だ。

 それよりも、礼をするならベタベタと引っ付いてくる人魚達をどうにかして欲しいんだが……メアリーやクルー達の視線が痛い。

 

 エースやジンベエもオレと一緒に助けたんだがなぁ……。

 というか、この島の人たちはオレにフレンドリー過ぎる気がする。

 そうボヤくと、シャーリーは「何も知らないんだね」と言って笑っていた。

 どういう事だと聞くと、明日分かると言って教えてくれなかった。……占いで何か見たのだろうか?

 

 それと、シャーリーがメアリーに「じゃおうしんがん」とやらについて聞いていた。何でも、メアリーにも未来を視る力があるとか。初耳なんだが。

 その事について聞かれたメアリーは顔を真っ赤にさせて逃げ出し、その日は布団を被って悶えていた。何をやらかしたのか知らんが、夜中に突然奇声を上げるのは勘弁して欲しい。奮発してでももう一部屋借りれば良かっただろうか。

 

 

 @月?日

 

 現在、オレ達は竜宮城に招待されている。そして宴会をした。

 こう書いたらあれだけど、色々とあったのだ。突然この国の王子たちがやって来て、この国の王様が待っていると言われて……。

 クルー達は驚いて口を大きく開いていた。マーメードカフェで楽しんだ後に激変した青い顔はかなり面白かった。メアリーも驚いて、何故呼ばれているのか分からない様子だった。ジンベエは知っているみたいだったが。

 

 で、肝心の呼ばれた理由だが……どうもオレの母親関係らしい。

 ネプチューン曰く、オレの母はこの国を気に入っていて、かつて存命だったオトヒメ王妃と仲が良く、海賊が荒らそうものならすぐに飛んで来て懲らしめる程に入れ込んでいたとのこと。

 だから、息子であるオレの存在をあの戦争で知って、この島にやって来たら歓迎するつもりだったと伝えられた。……この前は戦争の準備で上陸しなかったからな。

 それにしても、妙にこの島の人たちがフレンドリーな理由が分かった。今までは“星屑のジョジョ”として恐れられていたが、彼らは“ジョン・スター・リードの息子”としてオレを見ていたのか。

 だからあの時……人魚たちを攫おうとしていた海賊をぶっ飛ばした時、ジンベエは嬉しそうに笑っていたのか。酒を飲みながらネプチューンに「リードの姐さんを思い出した」と話していた。それを聞いたネプチューンは、オレの今までの暴れっぷりに納得していた。

 ……オレの母親、本当にどんな人だったんだ?

 

 

 @月‘日

 

 明日、バンダー・デッケンというストーカー野郎を捕らえに行く事になった。

 ネプチューンの娘であり、クルー達が一目見たいと喚く程の存在――人魚姫であるしらほし。彼女をあの塔から解放するために……いや、違うな。メアリーの友達を助けるために、オレ達はバンダー・デッケンを捕まえる。

 8年もあんな所に居るのは、可哀そうというのはオレも同じ気持ちだしな。

 メアリーの邪王真眼があれば大丈夫だろう。ジンベエもエースもクルー達も、そしてネプチューン達もその力を頼りにしている。あいつも珍しくやる気だしな。

 しらほしも「邪王真眼の事をもっと教えてください!」と初めは怖がっていたのが嘘のように、キラキラとした目でメアリーに懐いていたのは、今思い出しても微笑ましかった。

 メアリーは友達が少ないからなぁ……友達ができてオレは嬉しい。

 ただ、メアリーの目が濁っていたり「純真な目が心を抉る……」と胸を抑えていたのが気になった。

 どうしたんだ? と聞いてもしらほしが「女の子同士の秘密です」と言って笑っていたから……まぁ大丈夫なんだろう。

 

 

 @月%日

 

 ジンベエやフカボシ達と共に無事にバンダー・デッケンを捕らえる事に成功した。

 それにしてもはっきりとしらほしの口から(電伝虫越しとはいえ)振られた途端、殺そうとするとは……恋愛ってのはよく分からん。

 そう呟くとジンベエに結婚する時は周りと相談してくれと懇願された。疑問に思う前に、オレの両親の事を思い浮かべて納得してしまった。

 なんでオレの母親は親父を選んだのか、永遠の謎だ。ジンベエもそれだけは分からんと言っていた。

 

 ともあれ、これでしらほしもある程度自由に動けるようになる。早速海の森にお墓参りをしに行くと言っていた。流石に護衛を付けるようだが、それでも嬉しそうにしていた。

 

 

 @月$日

 

 ようやく、白ひげ海賊団から迎えがやって来た。やって来たのはスクアードだった。

 で、やって来たスクアードはオレとエースと顔を合わせるなり頭を下げた。

 何でも、一度でも仲間であるエースを疑った事と、爺さんのために命を懸けたオレに負の感情を抱いた自分が許せなかったらしい。だから、どうか殴ってくれと懇願された。

 まぁ、オレもエースもきっぱりと断ったけどな。

 あんな立派な……爺さんを最後まで信じると言った男をオレは殴れねえ。エースも、家族相手にそんなことはできないと言っていた。

 それでもスクアードは納得しなかったが、エースがこれからが大変なんだから

 その時に力を貸してくれと笑って……スクアードは涙を流しながら「ありがとう」と何度も何度も言い続けた。

 

 白ひげ海賊団の絆を再確認し、これでめでたしめでたしだったら良かったんだが――招かれざる客がやって来た。

 ビッグマム海賊団の使者だ。

 アイツらは、ネプチューンとビジネスの話があると言って半ば強引に竜宮城に乗り込んだ。

 四皇を相手に下手な対応をすればどうなるのか――それを盾に笑みを浮かべる顔は、正直に言って苛立った。

 それと、オレに執拗に絡んで来るのがウザかった。ユースタスたちがどうのこうの、持て囃されて良い気になるななど。随分と好き勝手言ってくれた。くだらなすぎて、相手をするのも面倒だった。

 そして、竜宮城でビッグマムからの使者、ネプチューンと右大臣、左大臣。白ひげ海賊団のエースとスクアード。向こうからの要望でオレも加えて――ビッグマムが魚人島を縄張りにして他の海賊から守ってやるという伝言が伝えられた。

 その言葉に皆は衝撃を受け、エース達は怒りで表情を険しくさせて思わず怒鳴った。提案するかのように言っているが、明らかに爺さんの縄張りへの侵略行為。それが許せなかったんだろう。加えて、一ヶ月に10トンの甘い菓子を献上し、破ったら滅ぼすなど――正直に言って狂ってやがる。

 だが、魚人島からすれば……エース達には悪いが渡りに船だ。爺さん亡き今、海賊にとって格好の的であるこの島を守れるのは同じ四皇クラスだ。

 魚人島を想うのなら、どうすれば良いのか――賢い選択を待っているとビッグマムの使者たちは述べた。彼らはもう魚人島を縄張りにできると思っていたのか、口々にお菓子が楽しみだと言っていた。

 エース達は悔しそうにし、ネプチューン達は苦悶の表情を浮かべ――それを見たオレの口は自然と動いていた。

 

 ビッグマムと直接話をさせろ、と。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「テメエがビッグマムか?」

『そういうお前が噂の星屑のジョジョだね?』

 

 電伝虫越しに、四皇の声が竜宮城内に響く。

 先ほどまで余裕の表情を浮かべていたビッグマムの使者たちは、ハラハラとした表情でビッグマムと話すジョットを見ていた。

 どうやら、ビッグマムの事を心底恐れているようでジョットが無礼な態度を取らないか気が気でないようだった。

 ネプチューン達も生唾を飲んでその光景を見ており、彼らの会話に耳を傾けている。

 

『で、隠者の息子がこのおれに何の用だい?』

「魚人島が欲しいんだってな」

『まぁね。何でも、魚人島のお菓子は大変美味しいそうじゃないか! 白ひげの野郎が邪魔で食った事ないが――想像しただけで涎が止まらないねぇ』

 

 そう言ってビッグマムは笑う。子分が子分なら、その親玉も親玉だろうか。

 既にビッグマムの頭の中では魚人島は、彼女の物になっているらしい。

 それを聞くジョットは――冷たい声で言った。

 

「――つまらねえなビッグマム」

『――あ?』

「ちょ……!? 貴様、ママになんて口の利き方を!?」

 

 使者がジョットを止めようとするが――彼にギロリと睨まれて動けなくなる。先ほどまで散々前半の海でおだてられていると笑っていたルーキーに、だ。

 ビッグマムに対する畏怖に勝るとも劣らないそのプレッシャーに、冷や汗がドッと溢れ出す。この島に来て竜宮城に来るまでしつこく纏わりついて、ビジネスの話もビッグマム海賊団の力を知らしめようとしていたのだが――もし過去に戻れるのなら、殴ってでも自分を止めていた。

 

超新星(ヒヨッコ共)と同じ? 誰が言ったんだそんな事!)

 

 石のように固まる使者から視線を外し、ジョットは電伝虫に向かって言葉の続きを言った。

 

『どういう意味だい? 星屑のジョジョ』

「爺さんが死んだ途端、火事場泥棒のように縄張りを掠め取る――それがつまらないって言ってんだ。欲しいなら、白ひげの爺さんから直接奪えよ海賊らしく」

『言ってくれるねぇ……!』

 

 ジョットの知る四皇――白ひげとシャンクスは偉大な海賊だった。

 星の数ほど存在する海賊たちの頂点に位置すると言われる海の皇帝。ジョットは肩書きに恥じない彼らを深く尊敬していた。

 だから、それと同列な扱いを受けているビッグマムの言動に苛立ち、そして何よりも――。

 

「テメエにこの島は任せられねえ――魚人島はオレの縄張りにする」

『――!?』

 

 この無茶苦茶な女に、かつて母が愛したこの島を、白ひげ守っていたこの島を蹂躙される事が許せなかった。

 

「魚人島が欲しいなら、オレを倒して奪え! 四皇ビッグマム!」

 

 ジョットは、臆することなくビッグマムに宣戦布告をした。

 それを聞いた周りの人間は驚きのあまり口を大きく開き、そしてビッグマムは……暫くして大声を出して笑った。

 

『ハハハハ……ママママ! ヒヨッコのお前が、一丁前に四皇であるおれに喧嘩を売るのかい? ちょっと注目されたからって調子に乗るんじゃないよ!』

「……」

『だが――面白い。良いだろう、その喧嘩買ったよ! 魚人島を手に入れるのは少しの間だけ我慢してやる――精々新世界で足掻きな! 星屑のジョジョ!』

「――言われるまでもない。だが、オレからも一つだけ言いたい事がある」

『ああ?』

 

 ジョットは、電伝虫越しにふんぞり返っているビッグマムに向かって言った。

 

「オレは四皇()()で止まっているテメエに負けるつもりはねぇ! 精々足元掬われないように気を付けな――ビッグマム!」

『……!』

 

 ――こうして、ジョットは新世界入りする前に四皇ビッグマムに向かって宣戦布告。

 彼の言葉を竜宮城で聞いた者たちは度肝を抜かし、ジョット一人だけが強く電伝虫を睨み付けていた。

 

 




ちなみにホーディは隠れてます
時期早々ですし相手も悪いですから、用意周到な彼は手を出さないでしょう
ジンベエが一緒に居るなら尚更です
メアリーも邪王真眼で見つけ出そうとしましたが、何処に居るのか分からず断念。しらほしの抱える秘密を共有して、気持ちを軽くする程度に留めておきました
それと原作ではジンベエが七武海に入って魚人島を縄張りにして貰ってましたが、こちらではある男のせいでビッグマムが美味しいお菓子を求めてこうなりました。


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主人公日記 十五ページ目

@月$日

 

 ビッグマムに喧嘩を売った。そう伝えると「どうしてそうなった?」と海の森から帰って来たメアリーが頭を抱え、クルー達は「しらほしちゃんとキャッキャウフフしてた時間に戻りたい……」と遠い目をしていた。

 海の森から帰って来たしらほしは最近良く笑うようになり「勇ましいんですね!」と言い、フカボシ達は事の顛末を聞いて驚いていた。

 まぁ、オレも流石に勝手に決めて悪いと思ってネプチューンとエース達に謝った。オレが勝手に縄張りにするって言っても困るし、白ひげ海賊団からすれば乗っ取りみたいなものだ。

しかしエースはオレなら申し分ない。むしろ頼むと言い、スクアードは反対する奴はおれが説得すると言った。……助かるなぁ。

ネプチューンは別に気にしていないと言い、むしろ、オレ達のこれからの航海が心配だと言っていた。大丈夫だろ。

 そう答えるとメアリー達がぶち切れてオレに説教して来た。心の準備をさせろって。結局諦めて仕方ないな―と笑うのがお決まりだが。

 

 ――で、だ。ネプチューンは魚人島をオレの縄張りにする事を認めた訳だが……そこでジンベエがある申し出をして来た。

 

 それは、ジンベエを含むタイヨウの海賊団がクルセイダー海賊団の傘下に入る事。

 ジンベエはかつて七武海だった。それには様々な理由があり、その一つに魚人島を海賊たちから守るためというものがあった。しかし、先日の戦争で魚人島を守る二つの()は無くなり、この先この国を守るには大きな名が必要だった。

 だからこそ、オレが……世界最悪の海賊“隠者ジョセフ”の息子であり、ジョン・スターの血を引き、大将を退ける“星屑のジョジョ”がこの島を縄張りにする事に恩を感じ、仁義に則りオレの下に着くと言った。

 元七武海のジンベエがオレの下に着けば、海賊たちはさらに魚人島に手を出せない。

 ゆえに、ジンベエが傘下になる理由は十分だ。

 だが、オレは別に子分は要らないんだけどなぁ。同盟で良いだろ。

 そう言っても聞き入れて貰えず、メアリーやエース。そして何よりこの国の王であるネプチューンに頭を下げられてしまい――誠に不服ながら傘下の海賊ができてしまった。

 他のタイヨウの海賊団のクルー達が反対したり、魚人島の人たちが嫌がったら同盟にするぞと言っても、結局こうなった。

 国中でお祭り騒ぎになって皆喜んでいる。どうやら逃げていったビッグマムの使者たちから、この話が漏れていたらしく受け入れられてしまった。子どもたちがジンベエの親分だからジョジョ大親分だ! と言い出した時は、どんな顔をすれば良いのか分からなかった。

 悪乗りしてタイヨウの海賊団たちも言い出す始末。

 シャーリーが「私の占い、当たるでしょ?」と言って笑っていたが……そういう事かよ。

 海賊だからあまり堅気の人間に感謝される事が無いから、少しくすぐったい。

 

 

@月)日

 

 今日、フカボシ達の案内の元オトヒメ王妃の墓参りに行った。

 魚人島がオレの縄張りになるから。かつてオレの母と友だったから。

 色々と理由はあるが……やはり話を聞いて、線香を上げたいと思ったからだ。

 フカボシ達は、母の意志と夢を継いで魚人島の地上への移住を為そうとしている。二年後の世界会議に向けて署名を集めている。

 ……彼らは強い。素直にそう思った。

 

 墓参りを済ませた後、オレ達はエース達を見送った。

 戦争の事、縄張りの事、爺さんの事。……そして、オレが倒し損ねた黒ひげの事。

 彼らもこのまま黙っているつもりは無いらしい。エースもスクアードもその眼には覚悟があった。

 もし何かあったら駆け付ける。

 そう伝えるとこっちの台詞だと言われた。

 エースは相変わらず負けず嫌いだ。

 

 

 @月!日

 

 さて、いい加減オレ達も新世界に行こう。

 明日になったら、オレ達は遂に新世界入りだ。

 三つの指針を示すログポースも手に入れた。クルー達もビッグマムへの恐怖を克服……というよりも自棄になって掛かって来いと叫んでやる気十分だ。

 しらほしがオレ達……特にメアリーとの別れを惜しんでいたが、また再会する事を約束していたようで、フカボシ達とその光景を温かく見守った。

そうしたらメアリーがニヤニヤするなと怒って来たが、しらほしに「え? 嫌、なのですか?」と言われてフォローに回っていたのは面白く、オレやクルー達に見せない素の状態で「私たちズットモ(?)だから!」と叫んで、その様子は竜宮城に居た者たちからの視線を集めるほど必死で「名とは違い、邪な人間では無いのだな」やら「かなわんわー」と感心されていた。

その後部屋で顔を真っ赤にさせて悶えていたのは……黙っていてやるか。

 

 そして、新世界に行くのはオレ達だけではない。

 ジンベエたちタイヨウの海賊団が、クルセイダー海賊団の傘下に入った事をアピールする為にしばらくオレ達の航海に着いて来く事になった。

 ビッグマムに喧嘩を売ったからか、メアリー達は泣いて喜んでいた。七武海が居るのなら心強い、と。

 オレもジンベエ達と冒険ができるのは嬉しいし楽しみだ。

 アピール云々は考えず、これからを楽しもう。

 それともう一人着いてくる奴が居る。

 元バンダー・デッケンの部下、ワダツミだ。

 ワダツミは早々にバンダー・デッケンに裏切られてしまった。それを可哀そうと思ったのか、もしくはワダツミを収容する牢が無いからか、彼はタイヨウの海賊団が身元を引き受ける事になった。この航海で問題が無いと判断されれば、その巨体を活かして魚人島の守備を任せるつもりだ。

 それと、深海を進む際に船を引っ張って貰う予定でもある。

 いきなり人数が増えたが――いよいよシャンクス達が居る海だ。

 再会して、成長したオレを見て貰って、あの時オレに夢を与えたあの人に言うんだ。

 ありがとう、と。

 

 

 @月“日

 

 魚人島を出発し、新世界に向かって深海を航海中、事件が発生した。

 船に、一人の女が乗り込んでいた。

 それも宝物庫の中に。

 気づいたのは、魚人島を出発して暫く後。飯を食って日記の整理をしていたら数が足りない事に気付き、見聞色の覇気を使って船の中を調べて――発見。

 で、甲板に連行して軽い尋問をしたのだが……妙な事になった。

 

 整理するために、まずは船に乗り込んだ女の名前を此処に記そう。

 彼女の名前はカリーナ。本人ははっきりと明言しなかったが泥棒だ。宝物庫に潜んでいたというのもあるが、本人がナミと知り合いだと言っていた。確認の為に記憶を見せて貰ったが事実だった。

 魚人島には今回みたいに海賊船に潜んで上陸したらしい。深海という珍しい環境から、見つからなかったとか。

 で、今回も同様にオレ達の船を狙って潜り込んだとの事。世間を騒がせているオレ達の船なら、大層山のように宝があると思ったらしい。

 ……ここまで問題なく尋問できていた。ここから話がややこしくなった。

 カリーナは、いきなりオレに惚れたと言い出した。一目惚れとか何とか言って、言い寄って来た。それを見たクルー達の反応は、今思い出しても凄かった。

 羨ましいやら、何でアンタだけやら、ジョジョから離れろ(自主規制)やら……オレが死にかけた時もよりも感情を動かしていないか?

 で、憤るアイツらを落ち着かせて聞いたところ、元々タイプだったやら、実際に見て痺れたやら尤もらしい事を言っていた。……オレが書いた日記を持って。

 大方、日記の方は弱みを握ろうとかそんな事を考えていたのだろう。今は厳重に保管しているが。

 その辺りの所を指摘すると一瞬押し黙って、また色気を使おうとしていたが、メアリーがやばかったので彼女の処遇を決める事にした。

 と言っても、意見を取り入れたのはジンベエたちからだけだったが。

 メアリー達が「何故!?」と心外そうに言っていたが、当然の判断だと思う。メアリーは普段と違って正常な判断ができないし、クルー達は色気であっさりとカリーナに傾く。

 そう伝えると反論は無くなった。

 で、カリーナの処遇だが……しばらく一緒に来て貰う事にした。

 それを聞いたカリーナは嬉しそうにしていたが――甘い。

宝を盗もうとしたんだ。ちょっとした罰くらいあっても良いだろうとジンベエたちが言う。新世界に行ったら、過酷な航海が待っている。それに着いて来て貰うだけで、十分に罰になる。

 それに、何かしようとしてもオレが止めれば良いし、その時はオレの判断で彼女を好きにする……。

 そういう事になった。

 

 

 @月<日

 

 カリーナがグロッキーになっていた。

 まぁ、新世界だしな。前半の海とは桁違いな海だ。

 それと、レッドイーグル号が空を飛び、そして操作する事が難しい事を知って苦い顔をしていた。それを見たメアリーが笑っていたので、仕事の量を倍にしておいた。

 なんでー!? と叫び、それを見たカリーナが笑っていたので彼女も仕事の量を増やしておいた。

 余裕が無くなれば、無駄にいがみ合う事も無いだろう。

 それに、何となくあの二人は仲良くなれる気がする。……傍から見たらいつも喧嘩しているが。

 まるで、麦わらの所のロロノアとサンジみたいだ。

 

 ああ、それとあの戦争でオレ達の懸賞金が上がっていた。

 まずオレは5億から一気に7億に上がっていた。それを見たジンベエは、ジョン・スターの名が知れ渡ったのにこの金額は低いと言っていた。そういうものなのかね。

 それと麦わらは4億。エースは6億5000万。サボは5億200万だった。他にも見慣れた奴らの懸賞金が上がっていたが……中でも気になったのがこの二人だ。

 一人は、オレの妹のメアリー。懸賞金はオレと同じように2億上がって2億9800万ベリー。最初はその金額に喜びつつも震えるのかと思ったら、別の所に喰いついていた。

 邪王真眼のメアリー。二つ名がそう変わっていた。しかも、写真もより禍々しいポーズをして、クルー達が思わず「眼帯してください」と言うほどだった。どうやら赤犬を追い詰めた時のモノらしい。

 その後のメアリーはヤバかった。能力使いながら、いつの間にか習得していたCP9の技を使って、全力で暴れ回っていた。こう、弾丸のようにビュンビュン飛び回るみたいな。皆が不思議そうにし、カリーナが邪王真眼と呼ぶまで彼女は悶え続けた。やっぱり仲良いだろうアイツら。

 そして、もう一人はオレの兄弟であるウソップだ。

 以前のそげキングの手配書は破棄され、新たに発行されたのは仮面越しではなくどうどうと素顔を晒したウソップのもの。

 ゴッド・ウソップ。懸賞金2億ベリー。

 初めは、何故此処まで跳ね上がったんだ? と、ウソップの力が世界に認められて嬉しく思いつつも疑問に思った。

 その答えは、メアリーに聞いた。

 何でも、あの赤犬に啖呵切ったらしい。記事を見ると、赤犬が呼び掛けてこうなったらしい。

 ――負けてられないな。

 とりあえず、久しぶりにこの船で宴会をする事にした。

 今日は、気持ちよく酔えそうだ。

 

 

 @月■日

 

 新世界初めての島に着いた。

 ライジン島という、常に雷が落ち続ける島だった。

 最初は唖然としていたが――よくよく考えればこれはチャンスだ。

 オレは、あの戦争で能力が覚醒したらしい。そのおかげで今こうして生きているわけだが、今はその力は使えない。

 魚人島でも試したが、上手くいかず何でだ? と思っていたが……今分かった。

 覇気は、実戦で……それも死にそうな程の激闘をして強くなる。

 そしてオレの能力は覇気に似ている。つまり、ライジン島のような過酷な島なら――覚醒の制御に一歩近づけるのかもしれない。

 そうと決まれば早い。この後上陸だ。傘を売っている婆さんが居たが、命綱があると本当の危機にはならない。ゆえに、体一つで行く。

 という訳で、少し筆を休める。

 

 

 @月□日

 

 (何も書かれていない)

 

 

 @月▲日

 

 (何も書かれていない)

 

 

 @月▽日

 

 (何も書かれていない)

 

 

 @月○日

 

 寝る時間になって、ようやく説教から解放された……。

 ジンベエもメアリーも容赦ないな……。何処から持って来たんだ。海楼石の重石なんて。

 さて、オレの試みだが……結果を言うと成功した。

 と言っても、感覚的に習得率20%といったところ。もう少し続ければ……具体的には後八回くらい死んで蘇生できれば完全に使えるようになると思う。

 だが、これ以上するとメアリーの言う通り「趣味:自殺」になりかねんしな……。

 あと、ジンベエに「そうじゃった。あの隠者の息子でもあったんじゃった……!」と悲壮感たっぷりに天を仰がれるのもキツイ。それとカリーナやアラディン達からドン引きされるのも、クルー達から「知ってた」という目で見られるのも堪える。

 ワダツミだけがオレの味方だったぜ……。

 とりあえず、蘇生作業をしてくれたメアリーには、今度お礼をしないとな。

 

 さて、次の島はどんな所だろうか……?

 




カリーナ

ワンピースフィルムゴールドで登場した映画キャラ。
かつてナミと同業者で、ナミからは女狐と言われている。
ナミ並みにスタイル抜群である。
黒くて大きいモノを「なんて大きいの?」と頬を赤らめて言うシーンは映画作中で屈指の名シーンだと作者は思ってます。
今作では、メアリーとよくキャットファイトして服が乱れ、クルー達の目の保養となっている。


今後も映画キャラが出るので、その度に紹介します


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主人公日記 十六ページ目

<月→日

 

 えらいことになったな……。

 新世界を航海中、一つの事件が世界を驚かせた。おそらく、世界中の人間があの記事に注目している。

 赤犬……いや、サカズキが新元帥になった。対立候補である青雉と十日間に及ぶ決闘の末、アイツはその地位をもぎ取った。

 記事によると、青雉はギリギリ死んでおらず、しかし海軍を去ったらしい。これからの情勢の変化に、皆が目を離せないだろう。

 それと、ジンベエがオレに警告をしていた。サカズキはオレに執着していた。そのサカズキが前線を退いて組織のトップに立つという事は――それだけ、奴も本気だと言うこと。

 オレを捕らえる為に、全力を注ぐ事は明らかだ。

 これからの海軍の動きに注意しねぇとな……。

 

 

<月〆日

 

 メアリー、お前何したんだ……?

 思わずそう尋ねてしまうような事が今日起きた。元帥が変わって注意しなくてはと思った矢先にだ。

 戦争の時に白ひげ海賊団の隊長達を次々と無力化していた元海軍大将にして海賊遊撃隊隊長――黒腕のゼファー。

 そいつが、どういう訳かメアリーを狙って追いかけて来た。察するに戦争で何かやらかしたみたいだが……えらく目の敵にされているな。お前の邪王真眼は危険だ〜やら、その眼で何人の人を視て来たやら、ゼファーがそう叫ぶ度にメアリーが悶えていた。

 流石のカリーナも同情した目をアイツに向けて、それがさらに追い詰めていた。

 

 メアリーの反応でギャグっぽい感じになっていたが、実際に戦闘になると厄介だった。

 植物を操る忍者の格好をした男の海兵に、メアリー曰く物や人の時間を戻す能力を持った女海兵。

 そして極め付けは膨大な戦闘経験と熟練の技、能力者の弱点である海楼石で作られた兵器。スタープラチナの拳が全く効かないというのは初めての経験で、奴を相手取る時は覇気を主に使っていくしかない。

 

 今回は犠牲も無く退けたが、おそらくこれからも追って来るだろう。かつてのサカズキのように。

 メアリーが凄い嫌そうにし、「ジョジョの気持ちが何となく分かった……」と言っていたのが印象的だった。

 

 

<月#日

 

 サカズキの奴が……というよりも世界政府と海軍が早速動き出した。

 青雉という巨大な戦力を失った穴を埋める為か、奴らは世界徴兵をしてより強い軍隊を作ろうとしている。名のある賞金稼ぎや腕に覚えのある者達が名乗りを上げている。

 ジンベエも険しい表情で記事を見ていた。青雉が抜け、サカズキが元帥になった事で三大将のうち二つ席が空いている。それを埋める為かもしれないと言っていた。それこそ、有力候補として上がっている将校達よりも化け物染みた力を持った猛者を求めて。

 

<月「日

 

 今日は珍しい物を手に入れた。見るのは随分と久し振りになる。

 悪魔の実だ。それも二つ。

 襲って来た海賊を返り討ちにしたのだが、どうやら取引に使う物だったらしく、えらく大切に保管されていた。おそらく本物だろう。

 で、問題は誰が食うかだ。

 本来なら、手に入れた奴が食えば良いのだが、生憎見つけたのは能力者であるオレとメアリー。オレ達が食ったら死んでしまう。

 だから、後日何かしらの方法で決める事にした。それに、どんな能力なのか分からないしな。

 

 

<月=日

 

 海賊なら、欲しいものは自力で手に入れろ。

 そんな訳で、辿り着いた島で悪魔の実争奪戦を開始する事にした。

 ルールは簡単。オレとメアリーがそれぞれ悪魔の実を持って逃げ、それを奪った者が勝ち。

 メアリーは能力を使うし、オレは手加減はするが取られないように抵抗する。つまり、生半可な力では悪魔の実を手に入れる事はできない。

 今までの自分を乗り越えて、掴み取ってみせろとは……メアリーも言うじゃないか。後で悶えていたが。

 ゼファーとの戦いで何人かが覇気を感じ取っていたから、それをどう活かすのか。それとも全く別の手段で、個性を活かしてオレ達を欺くのか。

 それが楽しみで思わず笑っていると、メアリーも同じ笑みを浮かべていた。こういう所は兄妹だなと思った。

 ちなみにカリーナとジンベエ達は参加しないとの事。悪魔の実を食べてカナヅチになるのは嫌だと言っていた。

 

 

<月〒日

 

 悪魔の実は、無事にそれぞれの者たちが手に入れた。

 まず、メアリーから悪魔の実を奪ったのは船大工担当のランだ。

 アイツは、何度もメアリーに挑んだ結果、一瞬だけだが覇気を使ってスカスカの実を攻略して手に入れたらしい。他の者たちもそれを狙っていたみたいだが、見事チャンスを物にした。

 そして肝心の能力だが……名前はシャボシャボの実。能力はシャボン玉を作り出して操ること。

 一見外れに見えるが、この能力かなり有用だ。

 何せ、シャボンディ諸島のシャボン玉と同じ性質を持つシャボン玉を作る事ができ、それを自由自在に動かせるのだから。これに喜んだのはシャボンディ諸島でシャボン玉自転車を買わされた奴だ。シャボン玉があの島でしか使えないと知って、金を無駄にしたと落ち込んでいたのだが……ランの能力でいつでもシャボン玉自転車を漕げる。

 買い物に行った時も、結構便利だ。シャボン玉の中に入れれば持ち歩くのが凄い楽。

 そして何よりもシャボンコーティングで潜水が可能になった事が大きい。ランはレイさんから深海での航海のノウハウを習っているから、これからはシャボンコーティングで海軍の追跡から逃れる術を手に入れた事になる。海水に浸かっても能力が解ける事はなく、影響もほとんど無い。ハッキリ言って当たりだ。

 他にも弾ける強さを上げて攻撃手段にできたりと、これからの能力の発展に期待大だ。その辺はメアリーが考えると言っていたから任せるつもりだ。

 

 そして次。

 オレから悪魔の実を手に入れたのはアーサーだった。

 元々勘の良い奴だと思っていたが、どうやらそれは見聞色の覇気だったらしく先読みされてしまった。手加減していたとはいえだ。

 元々ギンの次に強く、故郷である南の海のとある王国の剣術で前々から敵を薙ぎ払っていた。加えてオレの下に着く前はアイツらの船長になる器の男であり、だからか他のクルー達よりも高く懸賞金が6000万と頭一つ抜きん出ていた。

 アイツらには悪いが……ギンが居ない今、オレから悪魔の実を奪うのはアーサーだと思っていた。

 で、アイツが食べたのはナギナギの実という音を消す能力だった。一見外れに見えるが、戦闘で音を消すというのは中々に厄介だ。爆弾や銃といった威力があるもののデカイ音を出す武器には有効だろう。

 剣術を使うアーサーなら、背後に回って斬るみたいな事もできる。アイツなら使いこなすだろう。

 それとメアリーが何故か咽せていた。どうしたのだろうか。

 

 ともかく、これでアイツらは強くなれるだろう。強い意志があるなら尚更だ。

 

<月|日

 

 強い意志は良いが、スケベに対しても強い意志を持つなよあのアホンダラ……。

 前々からメアリー達の風呂を覗こうとして、その度に制裁を喰らっていたが……音を消してまで覗きたいのかアイツら?

 結局、最近見聞色の覇気に目覚めた(まだまだだが)メアリーによってバレてボコられ、カリーナから金を巻き上げられていたが。

 とりあえずくだらん考えが起きないくらいに、オレ自ら徹底的に鍛える事にする。

 

 

<月+日

 

 今日はカリーナとアラディン達にギンの事を話した。

 クルセイダー海賊団のNo.3が居ない事を疑問に思ったカリーナが聞いて来たのがキッカケだった。こっちに来て色々とあったからなぁ……。

 良い機会だからギンの事を教えておいた。アイツがどういう人間で、どのような出会いを経てオレ達の仲間になったのか。思えば、ギンが正式に仲間になったあの時に、このクルセイダー海賊団が結成されたんだな……。

 話を聞いたアラディン達は是非とも会ってみたいと言い、シャボンディ諸島で一度しか顔を合わせていないジンベエはじっくり話してみたいと言いつつ、親父と一緒に居る事に不安を感じていた。

 こればかりはオレも同じだ。アイツなら「強くなる為」と言って平気で人道から外れた事をするからなぁ……本格的に修行を始めた時の事は思い出したく無い。

 ギン、元気だろうか……。あれから一ヶ月経っている。今のオレには無事を祈る事しかできない。

 

 

<月〜日

 

 ……かつて、フィッシャー・タイガーはマリージョアを襲撃して天竜人から多くの奴隷を解放した。その話はハチやジンベエから聞いているし、その後どうなったか知っている。

 そして天竜人にとってどれだけ忌々しい事件だったのか――それも理解している筈だ。

 だからこそ、今日の新聞を見て驚いた。

 マリージョアが――再び襲撃され、奴隷が解放された、なんて。

 新聞ではその事がデカデカと載せられており、七武海に加入した千両道化のバギーが隅に追いやられている。

 天竜人は絶対にこの事を許さないだろう。そして、海軍は未だ判明してない襲撃犯を追いかけ捕らえる。いや、サカズキならそのまま殺すのかもしれない。

 フィッシャー・タイガーの事を知っている身としては色々と複雑な心境だ。それはジンベエ達タイヨウの海賊団も同じだろう。思うところがあるのか、記事を読んで唸っている。

 どうか捕まらないで欲しいと思う。

 

 

<月…日

 

 サカズキの野郎、やりやがった。

 海軍が世界徴兵で軍事力をどんどん上げているのは知っていた。そして、その中に大将クラスが居るであろう事も予想していた。

 だが――まさか、五大将制度とは、ねぇ……。

 海軍は、既存の三大将制度を廃止し、新たに五大将制度を設立させた。世界徴兵で海兵になった者を二人、中将から昇格した者二人、そして黄猿を入れて――五人だ。多分先日のマリージョア襲撃事件も関係しているのだろう。天竜人の為に動かす大将の数を増やしたという見方ができる。

 メアリーはオレが三大将を相手に暴れたから数増やしたんじゃない? と何処か疲れた表情で言っていた。ここ最近邪王真眼で視た未来と違うみたいで、色々と悩んでいるらしい。

 ……いや、どう考えても、ランとアーサーの能力特訓メニューで徹夜して寝不足なだけだろうから無理矢理寝かせておいた。どうせ後で自分の発言に気付いて悶える。

 ただ、ジンベエはメアリーの言葉を戯れ言だと思っていないらしく警戒していた。特に藤虎と緑牛は世界徴兵で大将になった化け物。遭遇したら無理に戦うべきではないと言っていた。

 それを聞いたオレは、繰り上がりに大将になった桃兎と茶豚は大丈夫なのか? と聞くと、オーズの足をぶった斬り白ひげ海賊団の隊長格を複数相手取って一歩も退かなかった事から十分強敵だと言っていた。というか、無闇に戦おうとするなと怒られてしまった。

 ……そういう訳にはいかねぇんだけどな。

 

<月×日

 

 マリージョアを襲撃したのが誰だったのか、今日分かった。

 ギンだった。どうやら、軍艦奪って奴隷達を連れて新世界に入ったらしいが……アイツ、何をしているんだ?

 いや、正確には親父に何をさせられている?

 懸賞金も一気に跳ね上がっているし……にも関わらず親父の事は全く触れられていない。

 今すぐに連絡を取りたいが、何処に居るか分からない。本当に大丈夫なのだろうか?

 ……まさか、これも修行? 大将を誘き寄せる為? いや、それよりも何故一ヶ月経ってギンがマリージョアを襲撃したのか。何故アイツが奴隷を解放したのか。そもそもどうやってあそこまで行ったのか? それを考えて、親父のやりそうな事を連想すると――すぐに飛んで行って、ギンを連れ戻したい衝動に駆られる。

 もしオレが予想していた事が合っていたら、親父にギンを任せたのは失敗だった。

 何故なら、おそらくギンは……。

 ……この事は、黙っていよう。今強くなろうとしているアイツらを邪魔したら、ギンが怒るだろうからな。

 とりあえず、次に親父にあったら百回殺そう。警告はしたんだ。向こうがそのつもりなら、こっちも出るとこ出てやる。

 あー……今日は酒飲んで寝よう。

 

 

<月:日

 

 ギンがマリージョア襲撃事件の犯人と判明した事で、オレ達の懸賞金がギン以外5000万ずつ上がった。十中八九天竜人が絡んでいる。オレ、思いっきりラッシュ叩き込んだしな。向こうからしたら、また手を出しやがった、て感覚なのだろう。

 ギンは2億7000万ベリーとなり、これでオレ達の船で億越えになったのは四人だ。これからどんどん強敵達が襲って来る。

 それまでに、出来るだけ強くならないとな……。

 アイツらも努力しているが――オレも負けてられない。

 だからギン。お前も負けずに頑張ってくれ。




この時点でルフィと別れて一ヶ月以上経ってます。
今後の時系列はなるべく原作に沿っていく予定ですが、変更するところは変更します。

それにしてもようやく戦力強化できそうです
モブクルーの中から、サブキャラに昇華させるというのは考えていました。原作のベッジの所のヴィド達みたいな感じですね
とりあえずクルーの中で最も早く名前が出たランと、ジョットが居なかったら船長だったアーサーを出しました。
能力と名前は決めてますが、詳しい容姿はそこまで説明しないというか決めていないというか……いや、アーサーは分かりやすいかな?
今後書く予定の日記じゃない所で活躍させる予定ですので楽しみにしていてください。


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主人公日記 十七ページ目

 $月+日

 

 今日、ビッグマムの傘下の海賊と交戦、そしてこれを撃退した。精々足掻けと言っていたが……どうやらそういう意味だったらしい。

 しかしオレ達も強くなった。それに今はジンベエ達も居る。そこまでアイツらとの戦闘は苦じゃなかったが数が多く疲れた。

 

 問題はその後だ。海軍の奴ら、何処から嗅ぎつけたのか、包囲網を敷いていやがった。どうも敵船の海賊達の電伝虫を盗聴して、オレ達の存在に気付いたらしい。

 しかもゼファーも一緒に居て、連戦に加えて激戦。クルー達の疲労がピークに達し、ランのシャボンコーティングを使って潜水して戦線を離脱。あのまま戦っていたら、大将格が二、三人送り込まれていただろう。それが出来るくらいに海軍は強くなっている。

 特にG-5のヴェルゴという男の覇気は、他の中将とはレベルが違っており、オレの拳をまともに喰らって立ち上がる程に強かった。だが、それ以上に奴から感じた殺気が海兵らしく無い事が気になった。視たオーラも、むしろ海賊のような、正義を謳う人間側の者とは思えない程冷たい色をしていた。

 荒くれ者が多いG-5を纏めているからだろうか? とにかくアレは注意した方が良い。

 

 $月-日

 

 最近、ようやくジンベエがオレの傘下になった事が世間に浸透し始めた。

 ……元々、そういう理由だったが今でも気に食わないな。傘下というのは。

 それと本人の前では言わないが、ジンベエは義理でオレの下に着いている。それ自体は別に悪く思っていないし、アイツの性格はオレも好ましく思っている。

 だが、今までのアイツの行動を……アラディンから聞いた話を考えると、もう少し自分に素直になっても良いと思うんだけどな。

 アラディンも同じ気持ちなようで、しかしオレから言うのは止めておいてくれと頼まれた。いつかジンベエが、己の中で結論を出す。そう信じていた。

 だからオレもアラディンのように待つ事にした。

 

 

 $月/日

 

 かつて、シャッキーから聞いたシャボンディ諸島に集まったオレを含めた超新星。そこに黒ひげを入れて世間では最悪の世代と呼ばれているらしい。……どっかで聞いたことあるな。新聞に載る大事件の数々では、大抵この最悪の世代が関わっており、世間ではイかれた奴らだと書かれている。

 特に黒ひげの事は酷い書かれようだが、それと同時にアイツの力が認められているとも取れる。……爺さんの力と縄張りを奪って、な。

 いつか絶対にぶっ飛ばさないといけない。その為にはあの時の力をコントロールできるようにならなければ。

 

 

 $月!日

 

 到着した島で、最悪の世代の一人である“海鳴り”スクラッチメン・アプーと遭遇した。

 当然ながら向こうもオレの事を知っており、一触即発の空気になる。しかし、船長であるスクラッチメンが止めるとそれも収まり、衝突することはなかった。

 それよりも気になったのは、スクラッチメンのあの傷だ。相対して分かるが、アイツは弱くない。だから、あそこまでボロボロに……それこそ完膚無きまでに打倒されているのは普通じゃないと思う。

 奴は何も語らなかったが、何かあったんだろう。

 

 

 $月)日

 

 新世界に入って随分と経った。当初はデタラメな気候にいっぱいいっぱいだったオレ達も随分と成長をした。何人かは覇気を扱えるようになり、アーサーは愛剣を半分の確率で黒刀へと強化できるようになった。ランもメアリーの指導もあって能力の使い方が上達し、能力者でありながら水中戦が可能となった。シャボン玉を割られたら沈むが……。

 カリーナも随分と逞しくなった。そう伝えるとあまりいい顔をせず「綺麗になったって言ってくれた方が嬉しいんですけど?」と言って、初めて会った時のように色仕掛けをし、いつものようにメアリーと喧嘩をしていた。アイツ、絶対にメアリーとの喧嘩を楽しんでいるだろう。

 そしてメアリーだが、アイツも強くなった。CP9の六式のうち「剃」「月歩」「嵐脚」「指銃」の四つを既にマスターし、最近は能力と併用した新しい技を作っている。かなり凶悪な技で、正直オレもアイツとは戦いたくないくらいにエグイ。

 この前、海賊相手に試し打ちをしているのを見たが……いったい何処を目指しているのだろうか。というか、アイツの手にスカスカの能力が渡ったのが一番やばかった気がする。さらに極めたらオレでも防ぐのが難しくなる。

 見聞色の覇気も人並みには使えるようになっている。武装色の覇気は未だに苦手みたいだが、感覚は掴んでいるようなので近いうちにラン達に追い着くだろう。ラン達はラン達で見聞色の方は難航しているからな。

 お互いに得意なもの、不得意なものを教えあっていけば強くなる。

 オレはそれが嬉しい……嬉しいのだが。

 何故アイツらは、オレが手伝おうとすると全力で拒否をするのだろうか?

 ジンベエに聞いても目を逸らされるし、メアリーにははっきりと邪魔だと言われる始末。

 ……今日はもう寝よう。

 

 

 $月=日

 

 さて、どうしたものか……。

 航海の途中、ある冬島に迷い込んだ。それがまさか四皇カイドウのお気に入りの島だとは。

 ただ迷い込んだだけだからさっさと去ろうと思ったが……ある男によってそれが阻まれた。

 その男の名はX・ドレーク。赤旗の異名を持つ最悪の世代の一人。奴はカイドウの傘下になったのか、オレを見つけると戦いを仕掛けてきた。どうもカイドウがオレに用があるらしい。十中八九親父関係だろう。

 ドレークは動物(ゾオン)系古代種の悪魔の実の能力者で、覇気を纏ったオレの肌にその強靭な顎で歯を食い込ませてきた時は少し驚いた。しかし、オレも柔な鍛え方はしていない。逆に硬度を上げて歯を折ってやった。

 だが、今となってはそれも少し後悔している。ドレークは、どうもオレ達を捕らえるつもりは無く、追い出すのが目的だったらしい。好意からか、それとも別の意図があったのか。どういう理由でそうしたのかは知らないが……今度会ったら牛乳を渡そう。

 

 

 $月~日

 

 またゼファーの奴が襲い掛かってきた。もう挨拶をしたら即戦闘みたいな感じだ。

 ただ、今回はメアリーが直接ゼファーと戦っていた。

 いい加減、謂れのない罪で追われるのが嫌になったらしい。聞いたところ、戦争での奇行は親父の指示で行っていただとか。今思うと、多分掌の上でコロコロと転がされていただけだと思う。

 親父は性格が悪いからな。昔の日記を見てみると、改竄した跡があった。何が「……追い付かないといけない人が増えたな」だ。他にも所々手を付けやがって。おそらく同行していた時にこっそりと変えたんだろう、能力を使って。

 時間でも止めたか、過去を変えたか。もしくは事実を変えたか。その辺は分からないが、考えるだけ無駄だろう。

 で、メアリーもその事にやっと気づいて親父に対してキレて、半ば八つ当たり気味にゼファーと戦った。

 

 

 

 その結果懸賞金が5200万上がって4億になった。

 掛ける言葉が見つからなかった。即日繰り上げだった。

 この5200万は、アイツが自分で上げたものだ。もう立派に邪王真眼だ。

 メアリーは、泣いた。

 

 

 $月$日

 

 カリーナが熱を出して倒れた。偉大なる航路(グランドライン)は天候や季節が滅茶苦茶だからな。町のある島に向かって、薬を調達する事にした。船医が言うには、今持っている薬では完璧に治らないらしい。

 それに、ここ最近は海賊やら海軍やらで忙しくまともに買い出しも出来なかったしな。

 クルー達もお小遣い貯まっているから楽しむと息巻いていた。

 ジンベエ達は船番しておくらしい。ワダツミはおいしいお菓子が欲しいと言っていた。

 色々と買っておくか

 

 

 $月&日

 

 あのアマ、絶対に許さん。

 “大食らい”ジュエリー・ボニーの能力で、不覚にもオレは弱体化させられてしまった。というか幼児化した。

 そのせいで熱で倒れていた筈のカリーナに好き勝手弄ばれるわ、メアリーがそれに対抗して窒息させられかけるわと散々だった。クルー達は、逃げたジュエリー・ボニーを探して「俺達も!」とアホな事を抜かしていた。

 幸い、時間をかけてオラオラの能力で解除したが……あの姿で風呂に入れられかけた時はどうしようかと思った。

 とりあえず、次にあのアマに会ったら泣かす。絶対に泣かす。

 

 

 $月°日

 

 変な奴に襲われた。

 ボクの人気を返せとか最悪の世代は全員殺すだとか、特にオレはとか……今も良く分からん。

 だが、流石新世界の海賊と言うべきか。実力は折り紙付きだった。本人が言うには才能だけで此処まで来たらしいが……それでも十分強い。

 オレの拳を受けて砕けなかったあの剣と、美麗さを兼ね備えた(本人曰く)剣技は厄介だった。何とか気絶させる事ができたが――その後の方がもっと厄介だった。

 顔が豹変したかと思うと、見聞色の覇気で見切るのが難しい速度で斬りかかってきた。殺気を感じて咄嗟に武装色の覇気でガードしていなかったら……おそらくオレはこの世に居なかっただろう。

 時止め……スタープラチナ・ザ・ワールド(いつもの如くメアリー命名)でようやく対処できた。偉い目にあったが……その分時止めの力の良い練習になった。

 ……いや、アイツとはもうあまり会いたくないな。奴とぶつかる度にメアリーの目が何となく怖かった。キャベンディッシュの追っかけが送る視線とはまた違った熱視線。カリーナがドン引きして「よろしい、ならば布教だ」と言って部屋に籠ったが……何だったんだろうな?

 

 

 $月@日

 

 

 カリーナが、メアリーは腐っていると言っていた。どういう意味なのだろうか?

 別にモリアが従えていたゾンビって訳じゃあないし、初めて会った時のようなクレイジーさは無い。聞き返しても、ジョットは知らなくて良い世界だと言っていたが……。

 メアリーも何やら反省しているのか、珍しくカリーナに謝っていた。あの後何があったんだ?

 

 今日は珍しく海賊や海軍からの追手が無かった。辿り着いた島も、新世界にしては普通で穏やかな夏島だった。

 この前立ち寄った町でタイミングよく水着を買ったので、今回は修行無しの完全休暇にした。そう伝えると全員喜び思い思いに過ごし始めた。

 クルー達は競争したり、アラディン達にボードを引っ張って貰ってはしゃいだり、ランの能力でダイビングを楽しんでいた。本来なら能力者であるオレは、海に入ると力が抜けて溺れるが、ランの能力のおかげで海を楽しむことができた。

 カリーナは日光浴をしていた。例によって男どもは……まぁそういう事だ。

 メアリーもカリーナと一緒に、浜辺でゆっくりするかと思えば、クルー達と一緒になって騒いでいた。まるで子どもみたいに。

 ただ、オレがジンベエ達と海獣を獲りに行っていた時に何かあったらしく、クルー達の頬に真っ赤な紅葉ができていた。聞いても顔を真っ赤にさせて聞くなと言うので追及しなかったが――とりあえず兄としてクルー達の記憶を一部消しておいた。

 鬼とか悪魔とか言われたが知らん。オレは海賊だ。

 で、夜は海獣の肉を使ってバーベキューをした。いつも栄養を考えて料理を作っているが……こういう時くらいは、思いっきり食っても良いだろう。

 普段口うるさく言っているからか、アイツらの喜びっぷりは凄かった。美味しそうに食べていたので、食いながら漏らしていた愚痴の数々には目を瞑ろう。しっかりとメモはしておいたが。

 さて、今日の日記はこれくらいにしようか。まだ騒ぎ足りないし、オレも行こう。

 



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主人公日記 十八ページ目

 々月/日

 

 次の島に向かって出発した。久しぶりに羽を伸ばせて気分爽快だ。

 ただ、歌って飲んで騒いだ後の仕事は、凄く怠い。それは皆同じなのか、少し気が抜けていた。

 まぁ、海軍を見つけたらすぐに切り替えていたから問題無さそうだったが。

 ゼファーも大将級も居なかった為、余裕を持って対応できた。それと、クルー達も強くなっているというのもある。昔親父が言っていたが、覇気は実戦で強くなると言っていた。新世界という過酷な環境での戦いは、思っていたよりもアイツらを強くしていた。

 そろそろ、オレのオーラを纏った武器を使わなくてもこの新世界で戦えるようになるだろう。アイツらが、強くなっている実感を得て喜んでいるのを見るとオレも嬉しい。

 ……こんな事、早々アイツらには言えねえがな。

 

 

 々月―日

 

 ログポースが示す次の島は、どうやら人が住んでいる……それも爺さんが縄張りにしていた島らしい。ジンベエがそれに気づき、白ひげ海賊団の傘下のどの海賊団が取り仕切っているのかを教えてくれた。

 

 爺さんの縄張りは、四皇を含めた様々な海賊が己の物にしようと暴れている。あの魚人島のように無茶苦茶な見返りを求める奴も居るだろう。爺さんは見返りを求めていなかったようだが。

 ジンベエがその事について聞いて来たが、オレは何も見返りを求めている訳ではない。前半の海にある縄張り(今はスターダスト島と呼ばれているらしい)にも、何かくれと言った覚えもない。

 オレは冒険できれば良い。そう伝えるとジンベエは「そうか」と笑って頷いた。

 

 で、これから向かう島は爺さんが死んでも尚、白ひげ海賊団の縄張りのままだ。傘下の海賊の強さが、他の海賊を寄せ付けないという理由もあるのだろうが……恐らくエースとマルコの“名”の力も使っているのだろう。

 エースは、海賊王の息子だ。そのビッグネームを本人は嫌っているが……影響力はでかい。そのエースが一番隊隊長マルコと共に、縄張りに手を出そうとする海賊たちを牽制して現状を維持している。

 ……だが、爺さんが死んだのは大きい。黒ひげは、爺さんの縄張りを熟知している上にグラグラの実の力を使って暴れている。それによって幾つかはアイツに奪われてしまった。

 何とか抵抗をしているが……旗色が悪いのはエース達だろう。

 新聞では冷戦状態みたいだが……詳しい事を知りたい。次の島で、連絡を取ってみようか。

 

 

 々月+日

 

 ――ああ、怒りでどうにかなりそうだ。

 

 オレは、今、過去最悪と言って良い程機嫌が悪い。

 辿り着いた島で、白ひげ傘下の海賊にエース達の無事を確認できたのは良かった。

 戦争で共に戦った仲だと言って、オレ達を持て成してくれた所までは良かった。

 ――アイツ等が来るまでは。

 

 傘下の海賊の元に、とある親子が訪れた。

 そして、その親子は――爺さんの息子と愛人と名乗った。

 男の名はエドワード・ウィーブル。女の名はバッキン。

 奴らは、自分たちが白ひげの“本当の”家族だと名乗り、爺さんの莫大な遺産は自分たちにこそ相応しいと言っていた。だから、それを手に入れる為に傘下の海賊にその在り処を聞きに来たらしい。

 ……正直、アイツらが爺さんの息子かどうかは興味ない。それが本当でも嘘でも、あのクソババアが欲しているのは金だけだ。

 

 ――だが、あの言葉だけは許せなかった。

 爺さんの宝を“家族ごっこ”だと言い、アイツらの絆を“偽物”だと言い――何より“くだらない”と言った事が許せねえ。

 だから思わずプッツンして追い出す事にしたが――本当にアイツらは、オレととことん合わない部類の人間だ。

 カタギの奴らに遠慮無しに暴れて、気に掛けても1ベリーも得にならないだと?

 無理矢理場所を変えなかったら何人死んでいたか……そう考えるとゾッとする程に、あの男は強かった。

 今でも斬られた跡が疼く。昔、元大将の腕を斬り落としたというのもあながち嘘じゃない。並みの人間では……認めるのは癪だが歯が立たないだろうな。

 オレ達が遺産の場所が知らないと分かって早々に去って行ったが……今度会ったらタダじゃ置かない。

 アイツらは、今後も遺産を求めて白ひげ海賊団に手を出すだろう。マルコ達に伝えねえとな。

 

 

 々月?日

 

 昨日の戦いは、不本意ながらオレを成長させた。覚醒の習得率は……半分を超えただろうか。まだまだ甘いが。やはり、実戦が一番強くなりやすい。

 それと、オーラに武装色の覇気を纏わせるという新技を開発できた。スタープラチナに覇気を纏わせる事ができれば、さらなる進化もできると確信している。

 そして、メアリーが思いついたあの技。アレが使えるようになれば、この先の航海で便利になるし……必要になる。

 覚醒の制御と新技……やれやれ、一気にやる事が増えたな。

 

 

 々月{日

 

 ユラユラと揺れるオーラの手がなんかワカメみたい。

 メアリーがそう言ったせいで、上手く集中できなくなったじゃねーか。

 イメージが伝わったせいか、ワカメみたいな色になっちまったし……。

 おかげで皆に爆笑されてしまい、恥を掻いてしまった。とりあえず、メアリーが夜な夜な――(消されている)。

 

 

 々月}日

 

 くだらねー事で、兄妹喧嘩するもんじゃねーな……。

 何気にカリーナの「人間らしいところ、初めて見た」と言われたのが何とも……。

 まぁ、十年以上一緒に居るんだ。喧嘩くらいはするし、お互いの事は分かっている。兄妹っていうのはそういうもんだろう。

 

 それと、今日は偉い強い海兵と戦った。戦争では見なかったから恐らく世界徴兵で大将になったという噂の海兵だ。新聞でも新世界の海賊たちを次々と捕らえ、その実力は確かなものだった。いや……黄猿並みの化け物だ。

 名は確か藤虎。察するに重力を操る能力者だ。レッドイーグル号が空中から落とされた時は肝を冷やした。ジンベエと協力して犠牲無く戦線離脱できたが……隕石落とすとかデタラメすぎる。時を止める事が出来なかったら、ラッシュが間に合わず破壊する事ができなかった。

 次に戦う時は、場所を考えないとな。空を飛ぶレッドイーグル号は、藤虎に対して相性が悪い。

 

 

 々月#日

 

 黒ひげと同盟を組んだ伝説の海賊――金獅子のシキ。

 そいつが、どうも妙な動きを見せているらしい。

 今知ったのだが、奴はどうも東の海を滅ぼすために20年掛けて計画を練り、傘下の海賊を集め――しかし、麦わらに阻まれて再びインペルダウンに収容された。

 黒ひげの手引きによって脱獄したシキはまた東の海を狙うのだろうか。その時は、今度はオレが止めなくては……。

 

 

 々月|日

 

 かつて、世界の破壊者と恐れられたバーンディ・ワールドという海賊が前半の海で暴れているらしい。天竜人の護衛船に手を出して、復活した事を大々的にアピールしていた。それを受けて政府は七武海を召集していた。

 記事に載っていた場所を見ると、麦わらが修行をしている島と近い。凪の帯上にある島だから心配無い……と見るには、いささか楽観的だろうか。

 ……あの技を使ってみるか。感覚的には、そろそろできそうだ。

 

 

 々月%日

 

 オーラに武装色の覇気を纏わせて攻撃力を上げるっていうのは、今までも考えていた。そして、オレは元々武装色の覇気を扱うのが得意で比較的早く物にすることもできた。

 だが、見聞色の覇気を纏わせるのは難航していた。

 元々メアリーが思いついた技で、覇気の性質と似ているオラオラの実の能力となら効果も性質も進化できるのではないか? と見ていた。そしてそれは実際その通りで……今回初めて成功した。おそらく先日の藤虎との戦闘のおかげだろう。アイツは盲目でありながら見聞色の覇気を使ってこちらの位置を正確に特定していたからな。その影響を受けたのだと思っている。

 見聞色の覇気で、万物の気配や音、強さを聴いて視る力をオーラと混ぜて出来上がったその技の名は――“オーラビジョン・ハーミットパープル”。形状は紫色のオーラを纏った茨で、スタープラチナとはまた別の形として現れたもう一つのオレの新能力。

 このハーミットパープルは、オーラで限界以上に高められた見聞色の覇気を利用した念写能力。カメラを使えば、遠く離れた位置にある風景を映し出す事も可能だ。……金が掛かるのが難点だが。今回は、麦わらのビブルカードを使ったのでかなり詳細な情報を得られた。カメラを三つ使ったところ、それぞれに麦わらが誰かと戦っている姿が映っていた。

 一つ目には、ひげを生やした大柄な男。記事に写っていたワールドだ。覇気を使いこなしているようで、かなりの強敵だ。二つ目は、その男に炎を纏った拳を叩き付ける麦わらの姿。どうやら覇気を使えるようになり……面白い新技を使えるようになったようだ。そして最後の三つ目には、青く発光した……いや電気か? それにしてはどうも見覚えがある技を麦わらが使っていた。それを見たメアリーが摩擦電気がどうのこうのと言って、オレの方を凝視していた。良く分からん。

 とにかく、麦わらは大丈夫そうだ。順調に強くなっているようだしな。

 ジンベエも嬉しそうにしていた。

 

 

 々月!日

 

 ハーミットパープルの練習も兼ねて、遠くに離れた知人達を念写する事にした。

 しかしカメラが勿体ないので四枚までだ。

 一人目はナミ。何やら卵のようなものを持って難しい顔をしている。背後には雲の上に建物があり、どうやら空島ってところに居るらしい。あと、お風呂シーンじゃなかったとか、お約束外すとか精度低いっすねと文句垂れていたクルーは、ハーミットパープルで吊るしておいた。制御とお仕置きを兼ねた合理的な修行方法だ。ジンベエは呆れていたが。

 カリーナも、久しぶりに見るナミに優しい顔をしていた。同業者として目を掛けていた時からナミの事が気になっていたのだろう。アーロンの下に居た時は余裕が無かったらしいからな……。

 いかん、文字に感情が映っている。ジンベエと一緒に落ち込んで、メアリーに突っ込まれたばかりだというのに。ナミもあの時言っていたしな。麦わらに助けて貰ったって。だから本人の居ない所で気にしても仕方ない。

 

 二人目はウソップだった。以前見た時よりも筋肉が増え、かなり鍛えているのが分かる。

 ただ、気になったのは右頬に大きな火傷痕がある事だ。どうやら、サカズキのマグマで焼かれたらしい。アイツの火傷痕は見覚えがあるからすぐに分かった。……流石はオレの兄弟だ。

 

 そして三人目はサンジなんだが……アイツ、どうしたんだ?

 何故か化粧をして女物の服を着て化け物と戦っていた。いや、オカマという奴か?

 顔から滲み出る絶望の感情が何とも言えない。女好きのアイツの心情を考えると涙が出てくる。二年後大丈夫だろうか? 女に飢え過ぎて変な方向に歪んでなきゃ良いが……。

 それと、オカマを見て涙を流すクルー達が少し怖かった。何故か「ボンちゃん」と言って誰かを思い出して、誰かを惜しんでいる。メアリーに聞いても曖昧に笑みを浮かべるだけだった。オカマから、誰かを連想したらしい。

 

 そして最後はギンだ。

 そこには船の上で宴会をしているのか、笑顔で騒いでいる光景が映っていた。マリージョアで解放した奴隷と行動を共にしているのは知っていた。新聞で何度も載っていたからな。

 余程慕われているのだろう。チラリと映っている人たちは皆ギンに笑顔を向けていた。

 海軍に執拗に追われていると知った時はハラハラしていたが――元気そうで何よりだ。

 

 ……ただ、親父の姿が見当たらないのが気になった。ただ写っていないだけか?

 

 

 々月&日

 

 現在、オレ達は全速力である海域へと向かっている。皆、異論は無く切迫した表情で船を動かしていた。

 そうさせるだけの記事が、今日発行された。

 マリージョアを襲撃したギンが乗っていた船が――海軍大将桃兎と緑牛によって討ち倒され、行方不明になった。海軍は、どうやら重い腰を上げてギンを仕留めにかかり……結果は一面に掲載された沈む船の姿。

 記事では、鬼人のギンは死亡と報じられているが――オレは、信じたくない。

 例え、念写して何も写らなくても、だ。

 アイツの無事を信じて、オレ達は船を進める。

 

 

 々月‘日

 

 ギンを見つける事はできなかった。

 代わりに見つけたのは――念写で写った際に見掛けた笑顔が、苦悶の表情で歪んで骸となった元奴隷たち。

 彼らの背には、天竜人の焼印を隠す為か星の焼印が付けられていた。かつてフィッシャー・タイガーがしたように。

 彼らは、近くの島で丁寧に埋葬した。あのままあの海に放置するのは嫌だったからだ。

 ……現在、クルー達は酷く落ち込んでいる。ギンの死を信じていないと言いつつも……もしかしたらと思っている。そして、もし生きていたとしても――あまりにも残酷だ。

 今日は、島に停泊してゆっくりとする事にした。

 

 

 々月)日

 

 オレ達は前に進むことにした。

 ギンは、多分苦しんでいる。だが、アイツは言ったんだ。強くなって、オレの元に戻って来ると。それを信じないで――何が船長だ。アイツは、絶対に生きている。

 だから、合流した時に胸を張って出迎える事ができるように――オレ達は前に進むしか無いんだ。

 クルー達も涙を流しながら頷いた。

 

 オレ達はギンを信じて前へと進む。

 



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主人公日記 十九ページ目

 %月@日

 

 ギンが行方不明になって一週間以上経った。クルー達はようやく普段の調子を取り戻し始めた。……いや、ここ最近は戦闘に次ぐ戦闘で考える暇が無かっただけか。

 オレも、日記に手付かずだったしな……。

 ビッグマムからの刺客の数も増えて来た。二日前なんて、ビッグマムの実子が傘下の海賊を引き連れて来たからな。ビッグマムの子どもは色んな種の混血だったり、そのほとんどが能力者らしい。手配書のリストを見せて貰ったが、総合懸賞金がどれくらいあるのか分からない。それくらい曲者揃いで大勢力だ。

 これからは一段と気を引き締めていこう。

 

 

 %月$日

 

 海軍が本部の位置を新世界へと移したらしい。

 まぁ、アイツならやりそうだ。これで新世界にもっとたくさんの海軍の精鋭たちが送り込まれるようになった。どんどん強化されているのを肌で感じた。

 それと同時に、シャボンディ諸島に集結する海賊たちはこちらの海に来やすくなっただろう。つまり、魚人島に訪れる海賊も増えたって事だ。

 ……強くならねえとな。

 

 

 %月°日

 

 百獣の海賊団と戦闘になった。

 親父が持っているエターナルポースを渡せやら、親父の居場所を教えろやら、こちらが知らんと言っても聞く耳持たずって感じで襲って来やがった。

 何とか倒したが……妙な悪魔の実を使っていた。

 動物系、もしくは超人系だろうか? 体の一部が獣に変化するなんて初めて見た。それに、悪魔の実特有のオーラにしては、随分と歪な形と色をしていた。

 ……本当に悪魔の実なのだろうか?

 

 

 %月÷日

 

 百獣の海賊団、しつこい。

 何が知らない事は罪、だ。話さないなら部下から殺すやら、痛めつければ親父が駆け付けるやら……。

 頭来た。次来たら船を全て沈めて、敵を全員覇気とオーラ全開で投げ飛ばしてやる。

 

 

 %月#日

 

 全員、投げ飛ばした。しばらく来ないだろう。

 12時間の戦闘は流石に疲れた……。

 

 

 %月/日

 

 ヤバい奴が来た。今までの百獣海賊団の戦闘員とは比べ物にならないくらいにだ。

 奴の名はジャック。三人の大幹部「災害」の一人で異名は旱害のジャック。懸賞金は10億ベリーで……その金額に見合う強さと凶悪さを併せ持った男だった。

 ゾウゾウの実古代種の力か、それとも生来の強さかは知らないが、奴は異様にタフな肉体を持っていた。それにパワーもあり、久しぶりに体の芯に響く一撃を喰らった。藤虎以来の強敵だった。ジンベエと二人がかりで戦って、戦争で麦わらに使った過剰回転(オーバードライブ)(メアリー命名)も使って、そして最後は海に落としたが……アレでも倒しきれたとは到底思えない。

 攻撃は通じるんだが、あの底知れない体力は正直に言って厄介だ。オーラの量も化け物クラスで、だからこそあの男を従えているというカイドウという男は一体どれほどの力を有しているのか。

 そう思うと、さらに強くならないといけない。

 

 

 %月=日

 

 そう言えば、カリーナと一緒に居るのが当然のようになっている。

 ふとそう思って、本人に言ってみると照れた表情で「皆と冒険するの楽しくって」と言っていた。初めて会ったあの時の裏で何か考えての笑みではなく、本心からの笑顔だった。

 傍らで聞いていたクルー達はカリーナのその様子に雄たけびを上げて喜び、メアリーも口では何だかんだ言いながら口元を綻ばせていた。

 ただ、カリーナ自身はこの船に居続ける事を疑問視しているようだった。

 自分にその資格があるのか、と。

 ……そんな事、気にしなくて良いんだけどなぁ。

 

 

 %月○日

 

 町で妙なガキと出会い、そして行動を共にする事になった。

 名前はミスキナ・オルガ。見た目は一見普通の六歳くらいの女の子だが……持っているオーラが凄く多い。長い年月を掛けて蓄積されたような……そんな風に見える。

 時折浮かべるあくどい顔や言動も子どもの物には思えないし……しかし子どもらしいところもある。思った事をそのまま口にしたり、可愛いものに釣られたり。

 色々と変な所もあるが……。それよりも気になる事ができた。

 天竜人直轄のCP0が出張って来る程の宝――ピュアゴールド。それを聞いたカリーナが目の色を変えて、オルガの言う不思議な場所とやらに向かう事になった。

 オルガはピュアゴールドは自分の物だと言っていたが……あまりそうは見えなかったな。

 

 とりあえず、久しぶりの宝探しだ。海賊らしく楽しく行こう。

 

 

 %月〒日

 

 鎖を操る能力を持った海賊と海軍とゼファー達が一気に襲い掛かって来た。

 四つ巴……というには、随分とオレ達が狙われていた気がする。

 ただ、ゼファーたちを見た海軍の別動隊が妙に慌てていたり、ゼファーが珍しくメアリーにではなくその別動隊に険しい視線を送っていたのが気になった。

 しかし詳しい事情を知る意味も興味も無かった為、早々に戦線を離脱してピュアゴールドがある場所まで行こうとしたら……巨大なチョウチンアンコウことボンボリ様に飲み込まれた。

 オルガ曰く、この中にピュアゴールドがあるらしいが――さて、この先には何があるだろうか。

 

 

 %月^日

 

(何も書かれていない)

 

 

 %月々日

 

 ピュアゴールドは手に入らなかった。

 しかし、その代わりに新たな仲間を手に入れた。

 オルガとその父アシエ、そして水上トカゲのエリザベスとチャベス(メアリー命名)だ。

 それにしても、改めてオルガを見ても信じられないな。まさか、6歳の姿のまま200年生きているなんて。それを言ったらアシエのおっさんもそうなんだが。

 それだけ、アシエの作ったピュアゴールドは凄まじい力を有していたってことになる。天竜人やマッド・トレジャーが欲しがるのも分かる。今もあの馬鹿でかいチョウチンアンコウの中探しているのだろうか。

 

 だが、もうピュアゴールドを求める人間はこれ以上現れないだろう。アシエももう作らないと言っていたし……オルガの病気も治るしな。注射させるのに苦労したが、アイツ本当に200歳超えか?

 まぁ、年は関係ないか。これからは父親と一緒に海賊をするんだと笑顔だった。ずっと恨んでいた分、これからは楽しむ、と。

 その手伝いって訳じゃないんだが――オレ達はオルガ達を受け入れた。

 

 

 %月「日

 

 アシエに相談された。どうも今の肥満体をどうにかしたいらしい。

 200年間恐竜のフリをして肉ばかり食い続けた弊害が体に出て、ピュアゴールドの恩恵が無くなった今体調不良を起こして死んでしまうかもしれない、と言っていた。

 新世界で航海するなら尚更で、オレもそれは同じ考えだったので引き受けたのだが……何故かメアリーを筆頭にクルー達に止められた。

 何故だ。効率良く痩せる事ができるトレーニングを提示しただけなのに。

 オレがそう言っても全員「死ぬわ!?」と叫び、アシエは頼んで来たにも関わらず「この事は無かった事に……」と言い出し、オルガは「ジョットは鬼教官だわさ」と呆れる始末。……何か間違っていたのだろうか。

 

 

 %月:日

 

 アシエが痩せた。本人が作り出した怪し気な薬で。

 それにメアリーとカリーナが飛びついたので、慌てて止めた。

 海賊はスタイル維持するの大変だとか何とか言っていたが、オレの勘が言っていた。こいつらに、というか女にあの薬はやべえ。

 アシエも何となく理解したのか、その薬を海楼石の倉庫で厳重に保管した。メアリー達の絶叫が凄かった。

 いや、それ以上に凄いのはアシエの力か。人間を不老にするピュアゴールドを作ることができる事から、何となく分かっていたが……その道では鬼才と言って良い程の力を持っている。

 アシエの事がバレたら、世界中の人間がアイツの事を狙うだろう。仲間になったんだから、ちゃんと守らないとな……。

 アシエも、ピュアゴールドによって妻を亡くし、オルガと仲違いをした事を悔いているのか、オレの話に頷いていた。

 

 

 %月*日

 

 アシエとメアリーが、オルガの為に何か作っていた。

 妙な知識があるメアリーとアシエ……こいつらが揃うとヤバいと言うのが分かった。

 ログポース型麻酔銃やら、ダイヤルエンジン付き水陸両用スケートボートやら、キック力増強シューズやら、髪留め型変声器やら……。

 メアリーは何処からそういうアイデアが浮かんだのか、アシエは何故全部言われた通りに作れるのか。そうツッコミたかったができなかった。オルガが滅茶苦茶喜んでいたしな……。

 ただ、ログポース型麻酔銃の麻酔針で相手を眠らせた後、髪留め型変声器使って遊ぶのはどうにかしろ。眠っているアーサーと普通に会話していて、起きた本人に「どうしたんすか?」って不思議そうに言われて少し混乱したじゃねーか。

 メアリーの指示らしいので、反省文三枚渡した。悲鳴を上げていたが、当たり前だ。

 

 追記。

 

 反省も後悔もしていないと書いてあったので、反省文を二倍にしておいた。反省も後悔もしやがれ。

 

 

 %月→日

 

 アシエから、凄い話を聞いた。

 昔、オレの親父と会った事があるらしい。それと、オレのご先祖様にも。

 まず親父。親父は、まぁ何となく察していたが不老の人間だった。クルー達は驚いていたが……ジンベエは納得していた。何でも、白ひげの爺さんが親父に「ジジイ」と言っていたのが気になったらしい。

 話を戻すが、親父がアシエに接触したのは……ピュアゴールドを作ろうとしたから、らしい。第一声が「それを作るな」で、捨て台詞が「誰にとっても不幸なことになる」だった。

 当時は意味が分からなかったらしいが――今なら分かるとアシエは言った。方法も理由も分からないが、親父はピュアゴールドの力を知っていたんだ。その不老の力を。

 ……親父は、酒を飲み過ぎると時々女の名前を口にする時がある。最初は遊んだ相手か何かだと思っていたが……込められた憎悪からそういうものじゃない事はすぐに分かった。

 一生恨むと言っていた。不老の親父のその言葉にどれだけの想いが込められているのか――そう考えると、アシエの前に現れたのはいつものような道楽ではなく本心からなのかもしれない。

 

 そして、オレのご先祖様だが……200年前の時点では結構有名な名前だったらしい。それも今よりも。

 しかも、現代の悪名ではなく英雄として語られていたとか。オルガも知っていたのか、ジョン・スターの昔話を聞かされたことがあると言っていた。今はもう覚えていないらしいが。まぁ、当時は本当に六歳児で病気によって寝たきりだったからな。仕方ないだろう。

 こう言うと、オルガは拗ねるだろうが。

 それにしても英雄、ね。それも邪悪な吸血鬼を討ったとか……。

 

 

 %月〜日

 

 辿り着いた島で、アシエが痩せる薬を在庫処分のついでに売っていた。

 その結果小金持ちになり、そのお金でオルガに美味しいステーキをごちそうしていた。

 オレ達は二人の邪魔にならないように、別の場所で飯を食べつつ痩せる薬に執着する二人を慰めた。いい加減諦めれば良いのに。




アニメオリジナルキャラ説明


ミスキナ・オルガ
団長ではないので感想欄で「止まるんじゃねぇぞ」とか言わないように!(真面目な話、原作関係無い感想で書くのはどーかと思う)
映画film GOLDの前日譚を描いたアニメ、ハートオブゴールドで登場した200歳越えの少女。金髪で合法ロリとか何処かの真祖の吸血鬼を思い出しますね…
ボンジリ様という名の巨大なチョウチンアンコウの中で、体内に生息する恐竜から逃げながら果物や野菜を摂取して生き長らえていた。そのせいか肉が大好物
多分知らない人がほとんどだと思うので、画像検索するかレンタルして見るのも良いと思う。


ミスキナ・アシエ
ピュアゴールドという所持した、不老になる石を作った科学者。多分ベガパング並みの天才だと思われる。オルガとは別の場所で恐竜の子供のフリをして200年生き長らえるも、肉ばかり食べて偏った食生活をした結果丸々太った姿に。しかし怪しげな薬で元に戻った。
今作では開発枠として活躍する予定。メアリーの妄想を具現化するヤバいやつ。誰か止めろ。

マッド・トレジャー
過去にナミとカリーナを捕らえて痛めつけたらしい。ちょっと詳しく知りたい。
ジャラジャラの実の悪魔の実の持ち主で鎖を体内から出して操る能力。宝を見つけることに意味を見出す人間
今後の登場予定はない


ハートオブゴールドはナミが喉“チンコ”と言ったり、ロビンが「大きいわね…」と感心した声で呟く見所があるかもしれないしないかもしれない

それと関係無いけど、ゲストキャラクターって棒読みだなーと思い、ジョットがメアリーを煽る時に「お前いつも棒読みだな」と考えていたりしたけど、メアリーの声を考えるの面倒なので没にした裏話があったりします。


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主人公日記 二十ページ目+???

 ¥月#日

 

 今日は珍しい……いや、意外な人物とでも言うべきだろうか?

 以前ならば、その力と立場から遭遇したくないと思っていた人間で、しかし今ではもう追って追われる立場でもない……つまり、オレ達とは良く分からない関係であり、しかし因縁のある相手と出会った。

 名をクザン。元海軍大将青雉だ。

 奴は、少し前に赤犬に敗れて海軍を去った。それ以降の足取りを誰も知らなかったが……まさかああして偶然にも遭遇するとは思わなかった。

 赤犬との戦闘で負ったのか、体の所々に火傷の痕があり、足も片方無くなり氷で義足を作っていた。しかし、感じる覇気は昔と変わらず未だに健在。

 だから、オレ達と戦う理由が無くても思わず身構えてしまった。

 

 それと、だ。どうにも青雉の奴、黒ひげと手を組んでいる……らしい。

 らしい、というのはまだそうと決まった訳じゃ無いからだ。ただ、メアリーの質問に反応していたことから恐らく……。

 ただ、奴に頭を垂れている訳ではなく、何か考えのあっての事だというのは何となく察せた。立場が変われば見れる景色が変わる。そう言っていた。

 それに、オレと戦うのはコリゴリだと言っていた。割と本気の口調で。

 

 後、青雉……ではなくクザンから幾つかの情報を買った(メアリーが)。

 先日戦った百獣の海賊団のジャックだが、今でも生きているらしい。やはり仕留め切れていなかったか。メアリーは、連戦で疲れていたから仕方ないと言っていたが――ああいう輩を倒しきれなかったのは、痛手だ。

 ジンベエも同じ考えらしく、神妙な顔をして頷いていた。あの時確認していればと言っているが……同じ海域に留まると、すぐに海軍に捕捉されるからな……。昨日戦った緑牛も、藤虎並みにヤバかったしな。戦闘が長引くと他の大将が来てしまう。海に落とされないように戦うのも疲れる。

 青雉がオレ達の前に現れたのも、緑牛との戦闘を聞いて立ち寄ったらしいし。……新世界で、そんな気軽な行動ができるのはアイツくらいだろう。

 

 そして、次の情報だが……最近ゼファー達と海軍本部の間で大きな衝突があったらしい。

 今は沈静化しているらしいが……ゼファーはオレ達を執拗に追って来ている。しかし、ここ最近はその頻度が下がって来ている。それと何か関係があるのだろうか? メアリーも神妙な顔をしていた。

 

 他にも色々と気になる情報があったが……特に気になったのは黒ひげと金獅子が、妙な動きをしている事。

 黒ひげ陣営ではなく、黒ひげと金獅子が、だ。

 青雉も詳しい情報を知らないようだが――近々アイツらが動くのは確か。そして、それにオレが巻き込まれるのは確実で十分に気をつけろとのこと。

 

 青雉はそれを最後に、去って行った。

 それにしても――かなり厄介な事になっているな。今後もさらに気を付けて行動しないとな。

 

 

 ¥月/日

 

 今日はオルガが活躍していた。

 アシエが作った道具を駆使して、海軍の船を転覆させていた。

 それにしても、あのキック力増強シューズっていうのは凄いな。大人の意識を吹き飛ばす威力があるのだから。ただ、ロギアや体力のあるゾオン相手だと少しキツイかもしれないが。

 アシエも改良しなくては、と呟いてメアリーとまた何か話している。……不安だなぁ。

 

 それと、パシフィスタを一体捕獲した。前々からメアリーが興味あったらしい。アシエとまた何か企んでいるのだろう。

 

 

 ¥月$日

 

 ……ビッグマムの縄張りに入った。いや、誘導されたと言うべきか?

 入った途端に、ビッグマムの幹部――いや、子どもか――が現れた。

 オレを倒して、ショウセイになると言っていた。

 それで、いつも通り倒して投げ飛ばした所――天候が荒れて、無数の艦隊が現れた。

 メアリーは、その光景を見てこう言った。

 

 

 

 ――怒りの軍団、と。

 

 

 ¥月+日

 

 怒りの軍団を撃破したオレ達は――このままビッグマムの所へ殴り込むことにした。

 元々、アイツとは決着を付けるつもりだったのだ。それが今来ただけ、ということ。

 ただ、クルー達の疲労が限界を超えている。シャーロット家の人間だと名乗っていた男の一人を、全員で力を合わせて戦い、見事破って見せたが――その代償も大きい。

 このまま突き進んでも……全滅は確実。

 だが、今更尻尾巻いて逃げるっていうのは……オレ等らしくないよな。

 全員、腹は据わったと言っていた。ジンベエたちタイヨウの海賊団たちも、魚人島のために戦うと言っていた。アシエもオルガもカリーナも。

 唯一心配なのはメアリーだが――いや、これ以上言うのは止めよう。

 

 オレ達は、もう進むしかないのだから。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――ペロリン。流石は隠者の息子と言うべきか。ルーキーのように甘くはない、と」

 

 怒りの軍団を退けたという情報は、瞬く間に万国に駆け巡った。

 そして、その情報を耳にし感心したように口を開くのはシャーロット家長男にして“キャンディ大臣”ペロスペロー。

 彼は、突き進む船上で静かに笑った。

 言葉とは裏腹に、あまり驚いていない様子だった。部下の海賊たちが口を開く。

 

「でも、奴もこれで終わりですね!」

「何たってペロスペロー様に加えて“豆大臣”ダイフク様、“こんがり大臣”オーブン様や“生クリーム大臣”オペラ様。さらにさらに! “四将星”からはスナック様とクラッカー様!」

「プクククククーーッ! これであの生意気な星屑も終わりですね!」

 

 部下たちの言うように、ジョットに再び派遣された軍隊は先日の“怒りの軍団”よりも戦力を大幅に強化されている。組み込まれたシャーロット家のほとんどは、兄弟姉妹の中でも選りすぐりのエリートであり、実力も懸賞金も化け物クラス。

 怒りの軍団を撃破したと聞いた時は、驚いてビビっていた彼らも、ビッグマム海賊団の大戦力に気を良くして笑っていた。

 それをペロスペローは……。

 

「――“キャンディマン”」

「ぎゃああああああ!?」

「なぁ!? いきなり何をするんですペロスペロー様ァ!?」

 

 何人かをペロペロの実の能力でキャンディで拘束し、そのまま全身を覆う。悲鳴を上げていた部下たちは、そのまま大きく開いていた口の中にキャンディを入れられ溺れていく。

 呼吸ができず、もがく男たちにペロスペローは笑みを浮かべながら……しかし冷たい視線で部下たちを見下ろしていた。

 

「キャンディより甘い考えのバカは、いらねえよペロリン。そうやって油断している役立たずのせいでこれ以上の失態を重ねてみろ――ママに魂全部持ってかれるだろうに」

 

 ――ペロスペローは、ジョットを“敵”として見ていた。

 そしてそれは、この軍隊に組み込まれているシャーロット家の者たちにも当てはまる。

 差し向けた刺客を次々と倒し、カイドウの所のジャックを退け、怒りの軍団を踏み越えてビッグマムの元へ行く人間を――果たして、ルーキーと侮れるだろうか。

 ビッグマムは笑っていたが……上の兄弟姉妹たちは、あの日の事を思い出していた。

 ロジャーがビッグマムを出し抜き、ラフテルに行き――そして海賊王になった日の事を。

 忘れてはならない。ビッグマムを出し抜いたあの船には――ジョン・スターの人間が居り、そしてその血筋が再び此処にやって来たのだから。

 

(寿命を抜かれるのは、ゴメンだ……ペロリン)

 

 幾つかの窒息死体を踏み越え、ペロスペローはギロリと船上に居る部下たちを見る。

 

「ルーキーと侮るな! 四皇を相手にしていると思え! キャンディのように甘い奴は、即死刑だ!」

『は!!』

 

 おそらく、他の船でもシャーロット家の者たちが部下たちに念押ししているだろう。

 それだけ、今回起きている事件は深刻だ。

 ビッグマムは、海賊王へと近づく為の鍵が自分からやって来たと笑っているが――あの頂上戦争を見たペロスペローは、即甘い考えを捨てた。

 さらに――。

 

『ぺロス兄。星屑をママの所に行かせたらいけねえ。とんでもない事が起きる予感がする……!』

(未来を視た訳じゃないようだが……用心深いあの(カタクリ)の事だ。素直に従った方が良い)

 

「――敵影、確認!」

 

 出発する直前に、カタクリの言葉を思い出していたペロスペローの耳に、部下からの声が響く。

 バッと顔を上げて、船上から遠くへと目を向ける。

 クルセイダー海賊団は、空を飛ぶ船で航海している。ゆえに、空に視線を向ければすぐに分かると思っていた。

 しかし、ペロスペローの目に、船の影は見えなかった。だが、敵の影は良く見えた。

 

「――な」

 

 ジョットは、居た。

 正確には、ジョットだけしか居なかった。

 空を蹴って、真っすぐこちらに向かっているジョットだけが居り、辺りには船の影も無い。クルセイダー海賊団が乗っているレッドイーグル号も、傘下のタイヨウの海賊団も。何処にもない。

 どういう事だと、ペロスペローが眉間に皺を寄せると同時にジョットが船に降り立った。ペロスペローが乗る船の……彼の目の前に。

 

「テメエが、この軍隊の頭か?」

「ペロリン。初めましてだなジョン・スター・D・ジョット。いきなりで悪いが、質問させて貰おう――君たちのクルーは何処に行った?」

「――敵に教えると思うか?」

 

 それだけを言って、ジョットはペロスペローに殴り掛かり……ペロスペローのキャンディウォールに阻まれる。ビキリと罅が入る壁を見ながら、ペロスペローは思考を切り替える。

 

「全く――あまり私たちを舐めないで欲しい」

 

 囮であろうジョットを倒すために。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 クルセイダー海賊団は、四つのチームに別れた。

 一つ目は、タイヨウの海賊団の逃走経路を確保する為のAチーム。船をランのシャボンコーティングで潜水させ、魚人の水中でも自由に活動できる力を最大に活かし、ビッグマム海賊団の情報確保手段であるウミウシの無力化を図る為でもある。このウミウシをどうにかしなければ、ビッグマム海賊団からの追撃を逃れるのは厳しいとメアリーの邪王真眼(未来知識)が言い、タイヨウの海賊団が対処する事になった。また、ビッグマム海賊団の実子のほとんどは能力者なため、逃亡するのに海中は適しているという側面もある。

 

「アラディン! おそらくあれがウミウシだ!」

「ああ。しばらく眠ってもらおう……!」

 

 

 二つ目は、ジョットを海賊王にする為に必要不可欠であるロード・ポーネグリフを奪取するBチーム。つまり、ビッグマムの根城であるホールケーキ(シャトー)に侵入し、ビッグマムや強力な力を持つシャーロット家の人間の目を欺き、宝物庫に辿り着くという最も過酷で危険な任務を持つチームだ。メンバーはメアリー、ジンベエ、カリーナだ。メアリーのスカスカで障害物をすり抜け、カリーナの泥棒としての技術を駆使して盗み出し、ジンベエがその護衛に当たる。少数精鋭による電撃作戦が要であり、彼女たちの働き次第でクルセイダー海賊団はビッグマムに勝つ事ができる。

 

「ジンベエ、カリーナ。絶対にロード・ポーネグリフを手に入れるよ!」

「ウシシ! 泥棒の血が騒ぐね!」

「……ああ」

 

 三つ目はアーサーやラン、アシエ、オルガ達クルセイダー海賊団のCチーム。彼らは、アラディン達Aチームとメアリー達Bチームが仕事をしやすくする為の囮だ。空を飛べる船で派手に暴れまわる事で、ホールケーキアイランドの戦力を分散するのが仕事。メアリー達が逃げた後は、ランのシャボンコーディングで水中に逃げアラディン達と合流して逃げる予定だ。現在はアーサーの能力で音を消して、万国の空高くを飛んでホールケーキアイランドに向かっている。

 

「――お前ら、気合入れていくぞ!」

「アーサーさん。能力で声が聞こえません」

 

 そして、最後のDチーム――というよりもジョット。

 彼もまた囮であり――クルセイダー海賊団の主戦力。

 ジョットは、突き進むだけだ。魚人島での喧嘩を正式にビッグマムに売るために、真正面から、向かい来る敵を薙ぎ払って。

 

『オオオオオオオーー!!』

「ビッグマムを出せ!! 用があるのは、アイツだけだ……!!」

 

 拳を叩き込み、スタープラチナが雄叫びを上げ、ジョットの鋭い眼光が敵を威圧する。

 彼の足元にはたくさんのチェス戎兵と海賊たちが倒れ伏していた。

 ジョットの拳によって半壊した船の中、ペロスペローはドクドクと流れ出る血を抑えながら思わず呟いた。

 

「――化け物め……!」

 

 スタープラチナの雄叫びが轟き――船に衝撃が走った。

 

 そして――。

 

「ブリュレ、ミラーワールドを使う」

「何処に行く気だい、カタクリ兄さん?」

「決まっている――星屑の所だ」

 

 ――10億越えの男も動き出した。

 



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『手加減しない』

 

 ペロスペローのキャンディアーマーを貫き、その本人を殴り飛ばしたジョットは、ギロリと辺りを見渡す。すると、ビクッ! とチェス戎兵や部下の海賊たちが体を震わせる。覇王色の覇気を使っていないのに、彼らの体には悪寒が走っており――それだけ、目の前の存在に畏怖しているということ。

 特にチェス戎兵は、ジョットの背後で佇むスタープラチナの存在感にすっかり委縮してしまった。

 あれはダメだ。自分たちと似た存在だが――格が違う。

 故に動けない。

 ジョットは、他の船がこちらに向かってくるの見ながら、拳を構えてペロスペローへと躍りかかる。

 

「――ッ! キャンディウォール!」

 

瓦礫に埋まり、腹から血を流しているペロスペローは己の目の前に能力で作ったキャンディの壁を作る。

 キャンディと侮るなかれ。その強度は、並みの覇気の一撃ではビクともしない。

 ――そう、()()なら。

 

「右腕集中――過剰回転(オーバードライブ)!!」

 

 ジョットの右腕が覇気で黒く染まり、さらにその上からスタープラチナの右腕分のオーラが還元、燃焼されて強化され――そしてそのオーラも覇気で黒く染まる。

 傍から見れば、ジョットの右腕が黒く肥大化したように――それこそ巨人族の腕のように見える。ルフィのギア3を参考にしたのだろうか。

 しかし、今回は一点集中。ジョットは目の前の壁の硬さを瞬時に感じ取り、覇気で固まったオーラをギュッと縮小させる。ビキビキと右腕から何かが潰れる音を響かせながら、ジョットは拳を放つ。

 すると、ペロスペローのキャンディウォールは主人を守る役割を放棄して一瞬で砕け散り、吹き飛ぶキャンディの破片の中ジョットは突き進む。このままペロスペローを倒すつもりらしい。

 ――だが、それは阻まれる。

 

「――魔人斬(マジギレン)!」

「ふんっ!!」

 

 黒い肌を持った魔人と、とてつもない熱を持った薙刀がジョットの行く手を阻む。

 ジュウジュウと己の拳が焼かれているのを感じながら、ジョットの目は増援の姿を確認する。

 

「まさか一人でこの艦隊に挑むとは……」

「少し、調子に乗っているのではないか?」

 

 豆大臣のダイフクとこんがり大臣のオーブンだ。

 メアリーの情報から、ビッグマム海賊団の中でも化け物級の力を持つという要注意人物。ジョットの超強化された一撃を受け止めた事からも、その実力の高さが窺える。

 己の体を擦って魔人を出すダイフクと、能力で温度を上げて過熱するオーブンは、ジョットを冷たく見下ろしていた。ペロスペローの居る船に突っ込んだジョットを見て、すぐ駆け付けた彼らは、ジョットの行動に落胆にも近い感情を抱いていた。無謀という言葉ですら足りないジョットの特攻。これではまるで、万全の状態で討伐しに来た自分たちがアホではないか。元王下七武海や邪王真眼メアリーという巨大な戦力がジョットを支えているからこそ、ここまでやって来た。彼らはそう思っていた。

 しかし、いざ蓋を開けてみれば――残っていたのはたった一人。バカにされていると思うのは当然のことだった。

 そんな二人の様子を見て――ジョットとペロスペローは顔色を変えた。

 ジョットは笑みを。ペロスペローは焦りの表情を。

 

「ダイフク! オーブン! ソイツの射程範囲に入るな!」

『――!?』

 

 ペロスペローの言葉に一瞬、二人の意識に隙が生じる。

 それをジョットは見逃さなかった。

 

「――スタープラチナ・ザ・ワールド」

 

 瞬間――時が止まる。停止した世界で動けるのは、ジョットのスタープラチナのみ。

 スタープラチナは、ジョットの右腕に纏わりついていたオーラを、まるでハイタッチするかのように受け取ると失っていた片腕を取り戻す。

 そして、左腕を覇気で強化し――両腕を黒く染めたスタープラチナは目の前の敵にラッシュを叩き込んだ。ペロスペローを吹き飛ばした時と同じように――腹部一点に向かって。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァ!!』

 

 停止世界での活動限界時間――3秒を使ったスタープラチナのラッシュは、十分に目の前の男達にダメージを与えた。

 スタープラチナの腕の色が戻り、定位置のジョットの背後に戻って静かに息を吐く。それと同時に色あせた世界が元通りに戻り――。

 

「ぐほォッ!?」

「ぐあっ!?」

 

瞬間、ダイフクとオーブンは血を吐き、苦悶の表情を浮かべて吹き飛んだ。

 まるで先ほどのペロスペローと同じで、自分と同じ目に遭った兄弟たちにペロスペローは舌打ちをした。油断するからだ、と。

 しかし、それと同時に混乱もしていた。

 

(こいつ……いったいどういう能力なんだ?)

 

 ダイフクと似たような能力かと思えば――全く異質の能力。

 気が付けば殴られており、しかもキャンディアーマーを貫く拳を持っている。先ほどダイフクとオーブンがやられた際に、研ぎ澄ませた見聞色の覇気でジョットとスタープラチナの動きを観察しても――やはり、意味が分からない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 唯一分かるのは、近すぎると訳も分からず攻撃されるという事。ゆえに、ペロスペローは遠距離から攻撃を仕掛けようとするが――。

 

「キャンディ――」

「――オラァ!」

 

 ジョットの覇気が強すぎて、本物の飴細工を壊していくように突き進む。

 ――やはり、目の前の男は怪物だ。これで懸賞金7億5000万とは、海軍の目は曇っているのではないだろうか。

 能力で次々と飴の壁を作り、ジョットの動きを少しでも阻害しながらペロスペローは内心舌を巻く。油断も慢心もしていないが――それでも、足りないものがあった。

 それは、圧倒的な危機感。何処かにまだあった己の四皇の幹部という立場に対する自信と、ルーキーだと侮る気持ちが、敵の脅威度を計り間違えた。後ろで起き上がったダイフクとオーブンも同じ思いなのだろう。感じる気配から、一切の余裕が無くなった。

 だからこそ、ペロスペローは心の中で悪態を吐く。

 

「オオオオオオーーッ!!」

(コイツを生け捕りにするってのは無理な話だ――ママ)

 

 ジョットを討伐する際の事を思い出し、ペロスペローは苦い味の飴を舐めたように顔を歪ませた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「ハハハハ――ママママ! 怒りの軍団を倒したか、星屑のジョジョ! まぁ、それも当然だねェ。何せ、あのジャックを倒したのだから」

 

 死亡記事は出ていないが、ジョットはジンベエと共にジャックを倒した――それも、連日連夜、百獣の海賊団と戦った後に、だ。加えてクルー達を欠けさせる事無く勝利しているのだから、彼の強さは本物だろう。

 一部記事では、ジョットがジンベエと共に倒したという点から、弱体化しているのではという見解があるが――いち側面の事実を見てそう断じるのはナンセンスと言える。

 

 ――だが、ビッグマムからすれば、それは当たり前の事。

 あの戦争を見た時から、ジョットの厄介さは理解している。

 ゆえに、次はどうやってあの男を手に入れるのかが問題だ。

 怒りの軍団は、クルセイダー海賊団の手によって倒された。なら、こちらも戦力を出し惜しみするつもりはない。

 

「ペロスペロー……星屑のジョジョは強いだろうけど、絶対に生きて捕らえるんだ。アイツは、このおれを海賊王にしてくれる鍵――分かっているだろうね?」

「……ッ! ああ、もちろんさママ!」

「ハハハハ……ママママ! ――だが、他の奴らは殺せ! 特に邪王真眼のメアリー……アイツの眼が本当なら、消すに限る」

 

 ――まぁ、ジョジョを手に入れれば後はどうでも良いがねェ。

 

 そう言ってビッグマムは笑い続けた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

(ママは星屑を手に入れれば良いと言っていた――だが、こいつは、それができる相手じゃない!)

 

 ビッグマムは自分の勝利を疑っていない。ゆえに、ジョットの捕縛を命じた。

 彼の強さを認めつつも、やはり四皇として何処か彼のことを見下している。

 だが、それは別にいい。彼女は、ビッグマム海賊団の頂点にして要だ。ビッグマムの強さは普通の人間では絶対に辿り着けない場所にある。

 自分たち息子は、彼女の求めるものを手に入れる為に、死力を尽くすだけ。それだけだが――。

 

「オオオオ――オラァッ!!」

「グ――がアアアアッ!?!?」

「スナック!」

 

 視線の先では、ジョットがまたシャーロット家の者を……それも四将星の一角であるスナックを倒した。突き刺さった拳を振り抜かれ、スナックは後方の船へと吹き飛ばされ……撃沈。増援が、この船に来る度にジョットに沈められていく。

 クラッカーの強靭なビスケット兵も早々に殴り壊され、久しく見るその素顔を外界に晒してダイフクやオーブンと共にジョットへと襲い掛かっていた。

 だが――。

 

「――ちっ!」

「――ぐっ!」

「――がっ!」

 

 ある一定の距離まで近づくと、いつの間にか殴り飛ばされている。殴られた本人たちも、何が起きたのか理解できていないのか混乱した表情を浮かべているが、しかしその眼には敵意がギラギラと光っていた。

 ただ、それでもジョットの不可思議な能力は解明できない。はっきり言って、全員で掛かればジョットを制圧できる力は持っている。それができないのは、あの不可思議な能力だ。悪魔の実とは別の異質な能力。それが、ジョットを生き長らえさせ、それどころか次々と幹部たちを沈めていく。

 

「くそ! 近づいてやられるなら遠距離攻撃だファ!」

 

 焦った“生クリーム大臣”オペラが能力を行使する。敵を捕らえて痛みを与え、発火させる生クリームがジョットへと襲い掛かった。それを見たダイフク、オーブン、クラッカーは飛び上がって攻撃範囲から逃れる。

 

「オペラ様! まだ我々が――ぎゃあああああ!?」

 

 ジョットを包囲していた部下の海賊が生クリームによって身動きが取れなくなり、痛みによって絶叫を上げる。中には発火して全身を焦がす者も居た。

 どうやら、味方ごと……正確には足手纏いごとジョットを倒すつもりなようだ。

 囲っていた海賊たちが発火して燃えているのを見て、生クリームの危険性を理解したジョットは――能力の覚醒を使用した。

 生クリームの下の甲板をオーラに変え、波のように盛り上がらせる。そしてそれをそのまま敵陣に向かって押し返した。

 

「ぎゃあああああ!?」

「ちっ! 能力の覚醒もしているのか!」

 

 ビスケット兵を自分の目の前に集結させて盾にしながら、クラッカーがぼやく。

 遠距離攻撃の対策も取っている事が判明し、苦い顔をする。

 自慢のビスケット兵を壊されたクラッカーは、ジョットの危険性を理解していた。自分の力が破られれば、その分相手の強さも分かりやすい。

 だから、彼はあまり積極的に前に出なかった。痛いのが嫌いだというのもあるが――それ以上に、ビスケット兵を容易く粉砕する一撃を喰らえばどうなるか、想像するだけでゾッとする。

 スナックが戻って来ていない事からも、それが良く分かる。

 とりあえず、態勢を整えようと後ろに退がろうとし――。

 

「避けろ! クラッカー!」

「え?」

 

 兄であるオーブンの警告の言葉が聞こえた時には、もう遅く……。

 

「――オーラ、武装色硬化」

 

 覚醒で操ったオーラが覇気で強化され――そのまま槍のように突き刺された。

 

「……がッ!?」

 

 ビスケット兵が崩れ去り、クラッカーも白目を剥いて気絶した。

 一瞬の隙を突いたジョットは、ギロリと次の敵を見据える。睨まれた海賊たちは顔を真っ青にさせて恐れ戦いた。

 

「四将星が、二人もやられた……!」

「化け物だ、あいつ……!」

 

 すっかり戦意を失った部下たちに、オーブンは舌打ちを打つ。

 戦場の流れを奪われたのは不味い。このまま暴れさせれば、被害は甚大なものになる。

 増援がまだまだ居るとはいえ、オーブンは……いや、幹部たちはジョットを相手に攻めあぐねていた。

 

「――なるほど。これは普通の人間では相手が悪いな」

 

 そんな時だ。頼りになる兄弟の声が聞こえたのは。

 

「――っ!」

 

 船に取り付けられた鏡から、覇気で黒く染まった腕が伸びる。勢いよく伸びたソレは、ジョットに直撃する。しかし、覇気でガードしたようでジョットにダメージはない。

 しかし――。

 

「これは――カタクリか!」

 

 ジョットの体は、粘着性の高いモチによって拘束されそのまま鏡へと引き寄せられ――鏡の世界へと引きずり込まれた。

 それを成した男――“粉大臣”にして“四将星”の一人、シャーロット・カタクリはジョットに引っ付けていたモチごとブン投げる。それと同時にジョットを拘束していたモチが弾け飛び、ジョットが降り立った。弾け飛んだモチが何か強い力を流し込まれたかのように、ビタンビタンと跳ね回る。あのまま拘束していれば、カタクリは痺れるオーラによってダメージを負っていただろう。それを回避したカタクリは――()()()()()()()()()を視せてくるジョットに対する警戒度を上げた。

 

「カタクリ!」

「ぺロス兄。アイツはオレが引き受ける。どうやら、コイツは普通の人間とは違うらしい――コイツを止めるには、食い煩いを発症させたママを相手にする……それくらいの気持ちで戦わないといけない」

「それほどか……ペロリン」

「だが、問題は()()ある。消えた奴らの船、傘下の海賊。海侠のジンベエ。そして、恐らくオレと似た能力を持つ邪王真眼のメアリー……。奴ら、何か企んでやがる」

 

 ゆえに、カタクリは言った。

 自分がジョットを抑えている間に、厄介な奴らを始末しろ、と。

 彼は、見聞色の覇気を鍛えすぎて相手の少し先の未来を視る事ができる。とはいえ、この場に居ないメアリー達の未来は視えないが――経験が言っている。

 目の前の海賊たちの好きにさせてはいけない。

 

「ブリュレ! 他の者たちは退去させたな?」

「もちろんだよカタクリお兄ちゃん! さっき言われた通り、誰も入れないようにしておいた!」

「そうか。なら、お前はぺロス兄たちとクルセイダー海賊団たちを追え」

 

 分かった。そう言うとブリュレは鏡から現実世界の向こうへと出て行き――カタクリが鏡を割った。よくよく見てみると、辺りの鏡は全て割られており向こうの世界からこちらの世界を確認できないようにしている。

 

「――徹底しているな」

 

 それを見たジョットが、思わず口を開いた。

 戦闘開始から今までほとんど言葉を発する事が無かったジョットに、カタクリは視線を向ける。そして――。

 

「『何か見られたくないものがあるのか。それとも別の意味があるのか――まぁ、良い。オレは、お前を倒してビッグマムの所へ行くだけだ』」

 

 全く同じタイミングで、ジョットと同じ言葉を吐いた。

 口癖、感情、それらを読み取ったその言葉にジョットの視線が鋭くなる。

 戦闘に置いて、思考を……いや、未来を読まれるのは

 

「……随分と、ママに執着しているんだな星屑」

「――なるほど、噂の未来視か」

「ああ、そうだ。――未来を読まれる厄介さは、身に染みているようだな」

「親父……ってまた読まれたのか」

 

 だが――ジョットは、未来を読まれ続けての戦闘に慣れている。

 本人は、そこまで行く事はできていないが……対処は可能だ。

 隠者ジョセフとの訓練の賜物だと、未来視で知ったカタクリは拳を構える。

 それに応じて、ジョットも構えた。

 

「オレの能力がバレているのなら、話は早い――悪いが、手加減するつもりは無い」

「奇遇だな――オレもだ」

 

 ――此処からが踏ん張りどころだな。

 

 互いにそう考え……覇王色の覇気がぶつかり合い、空間が震えた。

 



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激戦区

 

「――そろそろ浮上するぞ」

 

 ザバァッと音を立てて、一つの影が海上に浮上した。

 それは、ジンベエが呼び寄せたジンベエザメだった。その背にはランのシャボシャボの実で海中でも息ができるようにシャボン玉に包まれたメアリーとカリーナが居り、久しぶりの外界にフウ……と息を吐いた。

 

「上手く行ったみたいね」

 

 ジョットがペロスペロー達の軍隊を相手取っている間に、クルセイダー海賊団並びにタイヨウの海賊団は海中を進んでそれぞれの目的地に向かった。今頃、各々の仕事に取り掛かり始めている頃だろう。僅かに浮かんだ心配の感情を抑えつけ、メアリーは前を見据える。

 

「あれがホールケーキアイランド……」

 

 彼女たちの仕事は、ビッグマムの根城であるホールケーキ城に侵入し、ロード・ポーネグリフの写しを奪取する事。最悪の場合、四皇本人を相手取る事になるのでジョットと同じくらいに危険な仕事だ。加えて、海中に居るウミウシによって、既にこちらの居場所はバレていると思っても良い。それが分かっているからこそ、彼女たちはジンベエザメの背に乗って真っすぐ突き進む事ができたのだが――これからは、敵にバレないようにしないといけない。

ジンベエザメの背から、岸に上がり上陸する三人は顔を隠しながら町の中へと入る。

 

「さて……これからどうする? メアリー」

「しばらくは隠密と情報収集。アーサー達が現れて、此処に残った主戦力を誘き寄せたら城の中に侵入する」

「上手く行くの?」

 

 ジンベエの問いに答えたメアリーに、カリーナが眉を顰めて尋ねる。

 四皇は、この海の皇帝だ。そんな相手をする以上、どれだけ策を練っても足りない。そう思うのは必然だった。腕っぷしが弱いながらも海賊相手に泥棒稼業をして来たカリーナの勘が警鐘を鳴らしていた。

 

「大丈夫……って言いたい所だけど、流石に四皇相手だとそう楽観的には言えないね」

「だったら……」

 

 もう少し、計画を見直さないか? そう意見しようとして――メアリーの目を見た途端、カリーナは言葉に詰まった。

 メアリーは、酷く穏やかな表情を浮かべていた。これから四皇の城に入るというのに。

 

「大丈夫。なんて言ったって、私たちはクルセイダー海賊団。ジョジョが無事な限り、決して折れない!」

「メアリー……?」

「――そう。ジョジョが居る限り、クルセイダー海賊団は大丈夫。ジョジョは、こんな所で立ち止まっていられない……海賊王になるまでは」

 

 話は終わり。そう言ってメアリーは情報収集の為に動き出した。そんな彼女の背中を見ながら、カリーナは言いようのない不安を覚えた。

 メアリーは臆病な人間だ。それなのに、ビッグマムの縄張りに入ってから一度も弱音を吐かない。それに、今回の役割も彼女が決めて、危ない仕事を積極的に引き受けていた。

 

(どうしたの、メアリー?)

 

 友の異変にカリーナは表情を固くし――それを後ろからジンベエだけが黙して聞いていた。まるでメアリーの心情を分かっているかのように。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「シャシャシャッ! ママに逆らう人間が居るとはねえ」

 

 ビッグマムの縄張りの海中にて、一人の人魚……いや、半人魚が居た。

 彼女の名前はシャーロット・プラリネ。数多く居るビッグマムの娘の一人だ。

 

「あれが噂のクルセイダー海賊団……いや、傘下のタイヨウの海賊団か」

 

 彼女は、襲撃者が居ると聞いて野次馬しに来た。特にビッグマムから出向けと言われた訳でもないし、母親であるあの女(・・・)を助ける為に動いているためではない。

 ただ単に興味があって覗きに来ただけだ。だから、タイヨウの海賊団がウミウシを無力化しているのを、優等生よろしく兄弟や傘下の海賊たちに教える気は無かった。どうせ、既に敵戦力を把握しているというのもあったが。

 

「……」

 

 しかし、何故か彼女は次第に見ているだけでは満足できない――そう思って来た。

 不思議な感覚だ。彼らを――正確には彼を見ていると、覗いているだけでは居られない。そんな、自分でも理解できない感情が彼女の胸の中で渦巻いていた。

 そのまま放置するのは気分が悪く、だから彼女は思うがままに行動した。

 

「シャシャシャシャ!」

 

 そんな突飛な行動は――彼女の母シャーロット・リンリンと何処か似ていた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――アーサーさん。そろそろ、ホールケーキ城上空に到着します」

「ああ、分かった」

 

 クルーからの報告に、アーサーはナギナギの実の能力の精密なコントロールに意識を傾けた。こちらの攻撃は無音に、しかし味方の間での音は消さない。

 この能力を得てからメアリーに導かれて、最近ようやくモノにして来た。しかし、やはり個々に能力を使い分けるのは難しく、覇気で己の剣を磨き上げる方が自分に合っていると日々思っている。

 だが、アーサーはこの能力が好きだった。……別に覗きの際に音を消せるから、ではない。使い方次第で仲間を助ける事ができる優しい能力だからだ。

 メアリーから聞かされた魔法を使うピエロと少年の話。彼女が又聞きしたのか、それとも実際にあった話なのかは分からない。それでも、そういう使い方もあるのだと知ったアーサーはナギナギの実の能力が好きになった。

 そして、今回もこの能力はジョットや仲間を助ける力を持っている。それを気づかせてくれたメアリーに感謝しつつも――別れた際に見た彼女の表情を思い浮かべて不安になる。

 

「アーサーさん」

「ランか」

「そろそろ俺の能力で船を降ろします」

「ああ、分かった」

 

 シャボンコーティングで浮力を奪い下降させると伝えたランだが、その後も彼の後ろに立ち続けた。何か言いたい事があるのだろう。

 それを察したアーサーが尋ねる。

 

「どうした?」

「いえ、その……メアリー副船長の事なんですが」

「――今は、自分の仕事に専念しろ。本人がそう言っていたんだ」

「でも、あんな言い方……!」

 

 尚を食い下がろうとするランを、アーサーが黙らせた。

 

「ラン……オレたちがどうこう言っても、あの人は止まらない」

「……」

「船長を信じよう。……今はそれしかない」

「――分かりました」

 

 不満そうにしながらも、ランは立ち去り船が下へと落ち始めた。どうやら、自分の仕事に取り掛かり始めたらしい。雲が下から上へと流れるのを見ながら、アーサーは意識を集中させる。背後で「お、落ちるだわさ~!」「オ、オルガー!」と騒ぐ親子の声を聞きながら。あの二人は今回裏方なので、大人しくして欲しい所だが……。

 そんな他愛のない事を思いながら――アーサーは、眼下に映ったホールケーキ城に己の愛剣を向けて叫ぶ。

 

「砲撃用意! 目標ホールケーキ城! ――ふんぞり返っているビッグマム海賊団に景気よくぶっ放しな!」

『おおおおおおおお!!』

 

 アーサーの声にクルー達が応え――そして次の瞬間、砲弾が城に直撃した。

 音も無く、しかし衝撃と火薬を撒き散らしながら。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

『わあ!? なんだ!?』

『空飛ぶ船が城に攻撃しているぞ!』

『でも変だぞ! 音が全くしない!』

 

『どうなっている! 何故敵の接近に気付かなかった!』

『急に城が揺れた~~!』

『うわ、食器が落ちた!』

 

『報告! ホールケーキ城にクルセイダー海賊団が現れた模様!』

『ペロリン! やはり空を飛んでいたか!』

『おい! 邪王真眼は居たのか?』

『それが。全く姿を現していないようでして――』

 

 

 

「――外は大騒ぎだぞ。良いのか、放って置いて」

「兄弟たちに任せるさ……オレの仕事は、お前を倒してママの所に連れて行くことだ」

 

 鏡を通して向こうの世界の住人の声がこちらの世界に響くなか、無数の打撃音が両者の間で響き合う。カタクリが能力の覚醒で無数の腕を作り出しラッシュを叩き込み、それをジョットが同じようにオーラで迎え討っていた。武装色の覇気がぶつかり合い、鈍い音が空間を震わせる。そんななか、割れた鏡の破片から聞こえる万国中の住民の言葉から、ジョットは仲間たちが動き始めた事を察した。

 戦闘の余波で辺り一面ボロボロだが、生き残った鏡があるようだ。と言っても、人が出入りする大きさは無いが。

 しかし、二人は鏡の向こうから聞こえる声に全く興味を示さなかった。それだけ相手に集中しているという事であり――。

 

「えらくオレを買っているんだな、アンタ」

「当たり前だ。あの戦争を見て、お前をルーキーと侮る程オレは驕っていない」

「そうか」

 

 ――何よりも、目の前の敵を認めているという事。気を抜けば一瞬でやられると確信しており、それと同時に一気に倒す術を互いに持っている。

 それを理解しているからこそ、カタクリもジョットも相手に集中していた。

 

(しかし、未来を読まれるっていうのも厄介だな)

 

 カタクリは、戦闘に入ってから能力の覚醒による攻撃を主軸にして戦っている。地面や壁を触手状のモチに変えて雨あられと降らせ、ジョットが近づこうとすれば退がって接近させない。

 未来を視たのだろう。ジョットが近距離――正確にはスタープラチナの射程距離に入った瞬間にどうなるのかを。それを読まれたジョットは内心舌打ちをする。

 

(戦って分かるが、こいつの方が覚醒の操り方が巧い。今は何とか誤魔化しているが、そのうち手数が無くなって競り負ける)

 

 それが分かっているからこそ、ジョットはカタクリを射程距離に入れようとしていた。

 

(コイツを近寄らせたらダメだ)

 

 一方、カタクリはジョットの予想通りにスタープラチナの異常さに気が付いていた。覚醒で牽制しながら、自分がジョットの射程距離に入った未来を視て――眉を顰める。

 

(星屑の後ろに居るアレが拳を構えた後、見えるのはダメージを負った自分の姿。オレの見聞色の覇気でも見切れないスピード……と考えるには違和感がある)

 

 スタープラチナが構えて、傷を負ったカタクリが映る未来まで行く工程がどうもチグハグだと彼は思っていた。どれだけ速い拳でも、未来を視る事ができる自分なら回避をする事は可能だ。現に、昔海軍大将黄猿との戦いでも、光の速度の攻撃を避け切った経験がある。

 

(星屑は、黄猿よりも速いのか?)

 

 そう考えて――すぐに否定した。それでは、あの未来の光景に説明がつかない、と。

 

(まだ判断材料が足りないな――)

 

 モチとオーラの拳の連打を観察して、現段階ではジョットが時止めを使っていないと確信したカタクリは次の手を撃った。

 

「“無双ドーナツ”――“力餅!”」

 

 ドーナツ状のモチの穴から飛び出した拳がジョットに向かって放たれた。

 それを見たジョットが己の拳を覇気で強化して受け止め――しかしカタクリの猛攻は止まらない。

 

「まだだ――“雨垂モチ”」

 

 触手状のモチが降り注ぎ。

 

「“餅吟着”」

 

 さらに無数の無双ドーナツから力餅が、ジョットの四方八方から放たれる。

 初撃を受け止めたジョットは、現在無防備な状態だ。今までの相手なら、できる限りダメージを減らそうと雨垂モチか餅吟着を迎撃する。

 しかし、目の前のジョットは違う。カタクリは、既に未来視で捌き切っている姿を見ていた。後は、それをどうやって凌ぐかが問題だ。

 

(さあ、どうやって捌く――星屑のジョジョ)

 

 雨垂モチと餅吟着がジョットの射程距離に入り――次の瞬間、カタクリの支配下にあったモチが全て弾け飛んだ。

 

「――!?」

 

 注意深く見ていたカタクリは驚愕の表情を浮かべる。

 ――見えなかったのだ。ジョットの動きが。未来視で予め見ていても、彼の動きを捉える事ができなかった。黄猿と戦った時ですら、視る事ができたというのに。

 

「……っ! なるほど」

 

 そして、その致命的な隙をジョットは見逃さない。

 カタクリの能力の覚醒でモチに触れ、今度は彼の能力の覚醒でオーラに変えるとカタクリに向かって拳の雨を解き放った。

 

「ちィッ!」

 

 それをカタクリは受け止めた。体を変形させて避けるのではなく。

 全ての拳を迎撃し終わった後、カタクリの眼に己の腕が茨に絡みつかれている未来が映り、それと同時に痺れるオーラが彼の肉体を襲った。

 

「ぐっ!?」

「冷静さを失えば未来を視れないんだったな――カタクリ!」

 

 拳の雨を隠れ蓑に、ハーミットパープルを伸ばしてオーラを流し込んだジョット。痛みに顔を歪めるカタクリを見て、彼はグイッと茨を引き寄せて無理矢理射程範囲に入れようとする。しかし、その前にカタクリが腕を細くして脱出し、距離を取った。

 ジョットは、深追いせずに油断なくカタクリを見据えた。対してカタクリはプルプルと震える腕を抑えて口を開く。

 

「……そうだったな。お前は、未来を視る相手とは腐る程戦って来たんだったな」

「まぁな。おかげでアンタと戦える」

 

 油断なく拳を構えるジョットを見て、()()足りなかったかとカタクリは眉を顰めた。

 ジョットの時止めの解明に意識を持って行った為に、意識外からの攻撃でダメージを負ってしまった。悪魔の実の力は鍛え方次第で化けると言うが――指導が良かったのだろうと彼はアタリを付けた。

 

「だが――おかげでヒントを得られた」

「なに?」

 

 ハーミットパープルは、確かにカタクリにダメージを与えたが――それと同時にジョットの能力を解明するカギを得た。

 モチモチの実の能力の覚醒が、鏡の世界を侵食する。地面から、壁から、天井から触手状のモチが伸び――一つの結界を作り出した。空間を埋め尽くすように伸びた細長いモチの触手は、少しでも動けば体に触れてしまいそうだった。

 

「ハーミットパープルと言ったな。見聞色の覇気と能力を交えた技……実に興味深い」

「……テメエ、まさか」

「ああ、そうだ。触れた途端に迎撃する――貴様の技を参考にさせて貰った」

 

 見聞色の覇気と覚醒を使いこなすカタクリだからこそ、できた荒業。

 視界に広がるモチの結界にジョットは顔を歪め、カタクリは能力を使うべく拳を振り被り――。

 

「視させて貰うぞ――貴様のその力!」

 

 そして、四方八方から再び力餅が降り注ぎ――鈍い音が一つ響いた。

 



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覚悟とは

「――なるほど」

 

 力餅は全て叩き落され、モチの結界は全て引き千切られた。普通の人間ならモチに体を絡み取られ、覇気を纏った拳で滅多打ちにされるだろう。

 しかし、カタクリは信じていた。ジョットが全て捌き切るのを。だからこそ、一発でも当たれば今後に支障をきたすように、力餅の一つ一つに殺意を込めて全力で放った。

 結果、見事ジョットはカタクリの信頼に応え――。

 

「ちっ……!」

 

 こうして顔を歪めて舌打ちをしている。

 

「まさか時間に干渉しているとは思わなかったぞ、星屑のジョジョ」

 

 ジョットのスタープラチナは、全ての攻撃を、結界を、時が止まった世界で迎撃した。例え視界を埋め尽くす攻撃が来ようとも射程範囲に入れば、彼の拳はそれら全てを尽く打ち砕く。そして、その時間を認識できるのは現状ジョットのみで、他の人間からすれば一瞬で返り討ちに遭ったと錯覚する。

 それはカタクリも例外ではないが――()()()()()、彼にジョットの能力の秘密を暴くきっかけを与えた。

 

「……おそらく、そいつ(スタープラチナ)は黄猿よりも速いんだろう。オレの見聞色の覇気でも見切れないのがその証拠だ。だが、お前の見聞色の覇気だけは――視る事ができる」

「……」

「未来視ではない……現在(いま)という時間を視る、オレとは別の道で極めた見聞色の覇気……それがお前のあの技の正体だ」

「――驚いたな。そこまで分かるものなのか」

「分かるさ。全ての攻撃を同時に迎撃し、そして何より……」

 

 スッとカタクリがジョットの足元を指す。しかし、そこには何もない。あるのは地面だけだ。だが――ジョットは、その意味を理解している。

 何故なら――。

 

『――ジョット(オレ)自身は、時が止まった世界を動く事ができない』

 

 カタクリとジョットの声が重なった。

 

「そうだ。攻撃を捌き切った後バレないようにソイツ(スタープラチナ)を元の位置に戻しているんだろうが、1㎜ズレていた。対してお前自身は全く動いていない。それがその技の正体だ」

「……随分と長く喋るじゃねーか。そんなに解説するのが好きなのか?」

「――お前は、オレに勝てない。そう言っている。現に――お前の倒し方は分かった」

「っ!」

 

 カタクリが拳を構え、それを視た(・・)ジョットが前に出る。腕を覇気で黒く染め、スタープラチナと共にカタクリとの距離をゼロにしようとしていた。時止めの射程範囲に入れるつもりだ。そうしなければ不味いと知って(・・・)いるからだ。

 だが、カタクリの方が一歩速かった。無数の無双ドーナツが次々と作り出され、力餅のラッシュが四方八方からジョットに襲い掛かる。受け止めれば動きが止まり袋叩きに遭うだろう。ゆえにジョットは仕方なく力を使った。

 

「スタープラチナ・ザ・ワールド!」

 

 視界を埋め尽くす拳の雨。一つ一つに覇気が込められている。それをジョットのスタープラチナは……。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』

 

 止まった世界の中で、無数のラッシュが弾き、潰し、逸らし、打ち砕く。

 全ての攻撃を迎撃し――しかし、ジョットの顔は優れない。むしろ、より一層険しくなりこちらを見据えるカタクリを睨んでいた。

 だが、この止まった世界でできる事は無いし、時間も無い。

 ゆえに、ジョットは時を動かし――()()()()()()()()()()()()()()に耐えるべく、全身を覇気で固めた。

カタクリの力餅がジョットの体を打ち、鉄を叩くような鈍い音が絶え間なく響く。拳のラッシュで歩みを止めたジョットを見ながら、カタクリは己の拳を能力で変形させて覇気で黒く染めて口を開いた。

 

「確かに時を止め、その世界で動けるソイツ(スタープラチナ)は脅威だ。だが、射程距離が短い」

 

 スタープラチナの拳の射程距離は2mだ。つまり、その範囲内の攻撃なら迎撃可能だが――射程外の攻撃を迎撃する事は不可能。

 

「そして、その時止めは連続使用ができない……今までの戦いからインターバルは五秒か?」

 

 インターバルがなければ、今こうしてジョットは拳の雨に晒されていないだろう。それを見切ったからこそカタクリは第一波で時止めを使わせ、第二波でジョットの動きを止めた。

 もし時止めのなか、ジョット自身が動く事ができれば展開は変わっていたのかもしれない。動きたい時に動けず、止めたい時に止められない。なんて皮肉だろうか。

 

「さらに! 覇気を使う以上、時止めも無限ではない! 悪いが、一気に決めさせて貰うぞ!」

 

 だが、カタクリは容赦しない。ここで初めてジョットに向かって距離を詰めて拳を構えていた。次の時止めまで後4秒。射程範囲に入った瞬間に時を止められる事は無い。ゆえに、カタクリは確実にダメージを与える為に、覚醒による攻撃ではなく自身の体で放つ強い一撃を叩き込むつもりだ。

 

「“角餅!”」

 

 覇気が込められた角ばった拳が、力餅に殴られ続けるジョットに向けて放たれ――。

 

「――オラァ!」

「――!?」

 

 ジョットの拳と激突した。

 ビキリと嫌な音がカタクリの拳から響き、さらに罅が入る。覇気と能力で硬質化されたカタクリの拳が、だ。

 

「ぐっ……!」

 

 鋭い痛みに、思わず呻き声を上げるカタクリ。今まで数多の強敵と戦って来たが覇気のぶつかり合いで押し負ける事は無かった。その痛みはカタクリに決して小さくない動揺を与える。

 だが、それ以上にカタクリが動揺しているのは――先ほどのジョットの動き。

 未来を視て攻撃をした自分に()()()()ジョット。それが何を意味するのか――彼はすぐに気が付いた。

 

「――貴様……!」

「言った筈だぜ。未来を視る相手と何度も戦っていると」

 

 カタクリがジョットの時止めの力に気付いて攻略法を得ると同時に、ジョットもまたカタクリにダメージを与える方法を持っている。

 未来を視て攻撃するのなら、こちらも未来を視てカウンターを叩き込めば良い。ジョットはカタクリやジョセフのように見聞色の覇気で未来を視るのは正直苦手だ。カタクリのように自由自在に視たり、素質のある人間が短時間で会得するという事は無い。

 だが、彼は知っている。未来を視る敵との戦い方を。そしてその戦いを五歳の時から、ジョセフが海に出るまで続けていた。

 

「それとカタクリ。一つ訂正させてもらう」

「……」

「テメエはスタープラチナの拳に警戒しているようだが――パワーなら、オレの拳の方が上だ」

「……ああ、そのようだな」

 

 自然(ロギア)に似た特殊な超人(パラミシア)の能力のおかげで、カタクリの拳はすぐに再生する。しかしダメージはしっかりと叩き込まれており、彼の拳はプルプルと震えていた。

 それはつまり、ジョットの拳はカタクリの拳以上という事であり、まともに喰らえばどうなるか。未来を視なくてもカタクリは分かっていた。

 それでもカタクリは拳を構える。ジョットを倒すには自分の拳を叩き込むしかない。その過程で何度拳が砕けようとも……。

 

「手札は互いに分かった。後はどちらが勝つかだ」

「当然、勝つのはオレ達だ」

「――そのような未来は無い!」

 

 二人の覇気が再び激突し、近くにある鏡に新たな罅が入った。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――右に旋回! 数は3!」

「速くしろ! 回避できなかったら()()()()だ!」

 

 レッドイーグル号の甲板上でアーサーの怒声が響き渡る。クルー達は急いで舵輪を回し、備え付けられたダイヤルを操作し、船を動かしていた。アーサーの指示通りに船を移動させたと気を緩める時間もなく、船が大きく揺れ動く。

 

「当たったのか?」

「いや、風圧で傾いただけだ!」

「くそ! 分かっていたが、四皇の幹部はデタラメだな!」

 

 そう悪態を吐いて睨むその先には、カタクリ、クラッカー、スナックと同じ四将星スムージー。彼女は、ホールケーキ城の屋上にて能力で巨大化、それこそ巨人族並みに肉体を大きくさせ、手に持った武器で斬撃を飛ばしていた。

 

「チッ。生意気に避けやがって」

 

 舌打ちを放つ彼女はチラリと視線を下へと向ける。それは、自らが立っているホールケーキ城。この国の象徴でありビッグマムが住む家でもある。だが、そのホールケーキ城はあちらこちらから黒い煙を発生させて外壁が破壊されていた。

 突如上空に現れたレッドイーグル号は()()()()砲撃を放ち、ホールケーキ城の周囲をグルリと回りながら何度も何度も攻撃し続けていた。

 音は無いのに、振動と爆発が起こる。すぐに敵襲に気が付いたスムージーたちは迎撃に入り、レッドイーグル号を視界に捉えて牽制を続けているが……。

 

「くそ、厄介な」

 

 敵に優秀な将が居るのか。それとも見聞色の覇気に長けた者が居るのか。距離があり、向こうが制空権を得ているとはいえ、こちらの攻撃はなかなか当てる事ができないでいた。それにスムージーは苛立ちを覚え、通信機越しに部下に向かって怒鳴り付けた。

 

「まだ侵入できないのか?」

『も、申し訳ございません! 近くまで寄る事ができるのですが、割れると爆風を起こすシャボン玉が邪魔をして……』

「数を活かせ! 多方向から攻めて錯乱しろ!」

『り、了解!』

 

 空戦能力を持つホーミーズや部下たちが苦戦している事に、さらにスムージーは苛立った。

 

「くそ、早くしなければ……!」

 

 しかし、その苛立ちの根底にあるのは――恐れ。

 

「早く奴らを片付けなければママに叱られる(寿命を取られる)

 

 四皇の一人であり、このビッグマム海賊団の頂点である彼女の――シャーロット・リンリンに逆らう事ができる者はこの国には居ない。

 彼女の機嫌を損ねれば、例え実の子といえど例外なく命を落とす。

 それができるのがビッグマムという女海賊であり、そう認識されるだけの理由がある。

 ゆえに、スムージーは必死にホールケーキアイランドを騒がせる原因であるレッドイーグル号を墜とそうとする。ママと呼ぶビッグマムに叱られないように(殺されないように)

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――此処だね、カリーナ」

「うん。この城の構図から計算するに間違いないよ」

 

 現在、メアリー達はホールケーキ城の外壁に居た。本来なら、アーサー達がレッドイーグル号で暴れて陽動をしている間に中に侵入するつもりだったのだが、ジョットを警戒しているのか、はたまた他の理由か、三人は侵入する事ができなかった。

 しかし、メアリーはすぐにカリーナの泥棒としての経験と知恵を元に、宝物庫にある場所を突き止め、ホールケーキ城のある地点の外壁に辿り着いていた。

 

「なるほど、メアリーさんのスカスカの能力があれば……」

「出入り自由って訳ね! ウシシ! でも、それができるなら最初からすれば良かったのに……」

「敵の目がアーサー達に行っている今だからできる事だよ。最初っからしたら、気づかれてすぐに捕まっちゃう」

 

 宝物庫の警備は固い。過去に起きたとある出来事が原因で、ビッグマムはロード・ポーネグリフを誰にも盗られないように厳重に保管している。さらに、息子や娘たちにも滅多なことでは中に入れない程だ。

 アーサー達によって攪乱している今だからこそ、比較的安全に忍び込める。

 

「それじゃあ、行くよ」

 

 そう言って、メアリーはカリーナとジンベエの手を取って壁の中へと入り、月歩で空を何度か蹴る。それを繰り返していると、壁の中の暗闇が解け、視界に広がるのは鉄格子と宝箱。

 

「……良かった。壁を海楼石で補強してなくて」

「……ん? ちょっと待ってメアリー。それどういう事?」

「ん? いや、私のコレも悪魔の実の能力だから、海楼石に触ったら危ないかなーって」

「――って、それって私たちかなり危ないじゃない!」

「下手したら壁の一部になっとったか……」

 

 顔を青くさせてブルリと体を震わせるカリーナと、こめかみに汗をタラリと垂らすジンベエ。先ほどメアリーが言っていた事が現実だったらかなり危なかった。カリーナの文句も正当なもの。

 しかし、それでもメアリーは自信を持ってこの方法を取った。それだけの根拠があるのかもしれないが――。

 

「のうメアリーさんや。此処に来てから思っとるんじゃが――」

「――ジンベエ。()()()()それは後。さっさと写しを取るよ」

 

 取り付く島もなく、メアリーが鉄格子から外に出てロード・ポーネグリフがある場所へと歩く。それを見たカリーナは眉を顰めて首を傾げて呟いた。

 

「なにカリカリしてんだろ……そんなに、ジョットに怒られたのが堪えたのかな?」

 

 まっ、いつものことか。そう言ってカリーナはそそくさと別の宝箱に手を出そうとし……メアリーに「そんな暇ないから」と注意されて再び文句を垂れる。

 

「ほら、アンタも手伝って」

「良いじゃないちょっとくらい。四皇のお宝なんてそうそう盗めない……ん? ちょっと数多くない?」

「良いから、手伝って!」

 

 傍目から見れば、いつもと同じ光景に見える。

 しかしジンベエの目にはそう移らなかった。

 

「……ワシには覚悟しとるようにしか見えんのう」

 

 四皇を相手にするのなら、十分な心構えだ。

 実際、ジンベエもビッグマムの縄張りに入る際に、ジョットの恩返しの為にいつでも命を使()()覚悟を持っていた。

 だが、メアリーのそれは違う。

クルセイダー海賊団のクルー達がそう言って、メアリーと同じチームのジンベエに警告した。どうか、彼女から目を離さないでくれ。何かあったらすぐにジョットに連絡してくれと。

 

「使うのと捨てるのは違うぞ、メアリーさん」

 

 ジンベエの呟きは、彼女の耳には届かなかった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

「ママ! 侵入者だよ侵入者!」

「ああ? 侵入者ァ?」

「うん。しかも宝物庫に居るね!」

「――なんだって?」

 

 ――とある部屋で、一人の怪物が動き出した。

 



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トリックORトリート

コソコソ(( ̄_|


「――それは本当か、ヴェルゴ?」

『ああ。確かな情報だ。現に、海軍本部は泡食って戦力を投入している』

 

 ヴェルゴの言葉に、ドフラミンゴの肩が震える。

 

 ――やはり、あの一族は頭が狂ってやがる。

 

 クルセイダー海賊団がビッグマムの縄張りに入り、そのまま抗争状態になったという情報は彼を笑わせるには充分なものだった。

 頭角を現して一年足らずで、四皇の一人に挑む。そうできることではないが、かつてルーキーだったクロコダイルもまた今は亡き白ひげに挑んで敗北した経歴を持つ。

 問題は、四皇に喧嘩吹っ掛けたのが()()星屑のジョジョだという事。

 東の海で赤犬を退け、偉大なる航路前半の海では数多の海賊や海兵を海の藻屑にし、あの頂上戦争では白ひげや麦わらのルフィと共に火拳のエースを奪還した。

 その後の活躍も耳にしていたが――まさか、勢力が未熟な状態で四皇に挑むとは思わなかった。

 今頃、全世界に居る裏の人間たちはこの情報を独自の手段で手に入れ、そして呆れると共に落胆するだろう。

 世間を賑わせた星屑のジョジョは、もうダメだ。

 ビッグマムに歯向かえばどうなるのか。それを考慮すると、クルセイダー海賊団は()()()()()()終わる。ほとんどの人間がそう考えるだろう。

 

 ――だが、ドフラミンゴは違った。

 

「フッフッフッフッ……! おもしれぇじゃねえか、星屑のジョジョ!」

『……まるで、奴の生存を疑っていない声だな』

「当たり前だヴェルゴ――奴は、負けはしない」

 

 頂上戦争で直接ぶつかったからこそ分かる。

 あの男は、例え四皇相手でも怖気付かない。そしてその気高き魂は、まるで質の悪い毒のように周りに伝染し強くする。

 その影響力は、死の運命に縛り付けられていた火拳のエースを救い出した。

 

「四皇に挑んだって事はあの石が狙いか。フッフッフ……星の一族の末裔があの石を求めるってのも可笑しな話だ」

『……?』

「いや、何でもない――それより、海軍はどう動いている?」

『ああ。五大将のうち、黄猿、茶豚、藤虎の三人を投入させ、他にも名のある中将クラスを派遣させている。軍艦は――数えるのも馬鹿らしい数だ』

「だろうな。あの新元帥様は、星屑にご執心だからな。ビッグマムとやり合って消耗した所を一網打尽って所だろう」

 

 そうなれば、仲間の一人や二人死ぬのかもしれない。ジョットを討ち取れないと断言できないのが、彼の規格外なところ。

 海軍はビッグマムの縄張りを囲むように戦力を展開して、クルセイダー海賊団を待ち構えているだろう。

 その光景を想像したドフラミンゴは、フッと鼻で笑うと――。

 

「――礼を言うぞヴェルゴ。こんなに面白いと思ったのは戦争以来だ」

『……? ああ、分かった。時間だからそろそろ切るぞ』

 

 ガチャッと通信が切れた電伝虫に、ドフラミンゴは一度受話器を置くと、ダイヤルを回す。

 とある番号に掛けると電伝虫が、遠く離れた地に居る電伝虫と繋がり――低く重い声が彼の耳に響いた。

 

『――何の用だ、ジョーカー』

 

 その大物の声に、ドフラミンゴは浮かべていた笑みをさらに深めた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 ――パリン!

 

「うお!? な、なんだ!?」

 

 現在、万国はとある事件が発生している。

 それは、突然鏡が割れるというあり得ない現象。しかもただ無差別に起きる訳ではなく、割れるのは国の外側から中側に向かって、だ。まるで誰かが走り抜け様に割っているかのようだ。

 それが数時間前から絶え間なく続き、国民たちは不気味がって大臣たちに連絡するが……どういう訳かほとんどの大臣が出払っていて連絡が付かない。

 国民たちの対応をするのは、立場の低い者……いわゆる下っ端がほとんどで、国民たちは言いようのない不安を抱いていた。

 普段なら、問題解決に動く大臣たちが一様に留守にし連絡が付かない。そしてそれは数時間前からずっと続いており――。

 何かが起きているのだと、国民たちは理解し、彼らは最後にはとある場所へと視線を向ける。

 その視線の先には、この国の首都ホールケーキアイランド。この国の女王シャーロット・リンリンことビッグマムの居る地であり、暗雲立ち込める不気味な空が広がっていた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 ズシンッ……と()が響いた。

 それと同時に船が傾き……アーサーは険しい表情を浮かべて舌打ちする。

 

「くそ……! 捕まったか……!」

 

 振り返ったアーサーの視線の先には、モクモクと黒い煙を出して海に沈んでいくレッドイーグル号の姿が。音が響いた事から恐らく覇気を纏った攻撃。それがレッドイーグル号の船体の後方を貫き、(ダイヤル)エンジンの幾つかを破壊したのだろう。見聞色の覇気で船員(クルー)が欠けていないのは分かるが――非常に不味い。

 船が崩れた事で、一気に崩れた。

 

「余所見している暇があるのか!」

「くっ……!」

 

 空を飛べる海賊がアーサーに襲い掛かる。空を蹴り斧を振り被って彼に振り下ろした。

 それをアーサーは見聞色の覇気で見切って避けると、覇気で強化した剣で海賊を斬り捨てる。手に持つ剣が血に濡れ、海賊は苦悶の表情を浮かべて下へと落ちていく。

 先ほどから何度も見た光景だ。

 だが、気を抜けば自分がそうなるのは目に見えている。

 アーサーは強い眼差しで前を見る。

 

「意外と粘るなクルセイダー海賊団」

「船長と副船長以外は大したことないって話だった筈じゃない。どういう事?」

「曲がりなりにも新世界を生き延びて此処に来ているんだ。その程度の実力はあるって事だ」

「カシシシシ! でも死ニかケじゃないか! サクサクッと倒して菓子を食いたい!」

 

 チラホラと見えるキャラの濃いのは、おそらくシャーロット家の人間。それが数人アーサーを見て嘲笑い、それらに付き従うように控える配下の海賊が数十人。

 はっきり言おう。アーサーは彼らを相手に勝てると思っていない。かと言って全員を足止めできるかと言っても不可能……いや、既に抜かれている。遠目に見た所、船上でも既に戦いが起きており、シャボシャボの能力を持つランを軸にして何とか持ちこたえているようだが――このまま戦闘を続ければ全滅する事をアーサーは理解していた。

 加えて――。

 

「――連絡があった。ペロス兄さんたちがもうすぐ着くってさ」

「スムージー姉さんが『そのまま相手をしていろ』だってさ。つまりイジメて良いって事だよね!」

「そうは言ってないだろう。まっ、結果的にそうなるけど」

 

 ――ジョットに釣られていた怒りの軍団が引き返してきた。

 その情報に思わず、アーサーは奥歯を強く噛む。ギリッと音が響き、彼の焦りが表に出た。

 だが、彼らは()()退く事は許されない。その()が来るまで、何としてもビッグマムの戦力を自分たちの元に集めないといけない。

 それでも、アーサーは心の中で思わず急かした。

 

(早くしてくれメアリー副船長……! このままだと、俺達がやられるぞ!)

 

 作戦の要であるメアリーに向かって。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「よし、これでOK! さっさとズらかろう!」

「そうじゃの。早くアーサー達と合流せねば、彼らの命が危ない」

「……」

 

 ロード・ポーネグリフの写しを手に入れたメアリーたちは、彼女の能力で壁を抜けて脱出しようと試みる。

 しかし……。

 

 ――ゴンッッッ!!

 

『――!?』

 

その前に宝物庫の扉が勢いよく吹き飛ばされ、凄まじい覇気と怒気が室内を満たした。

それによって全員足を止めた。……いや、強制的に足を止めさせられたと言った方が正しいか。

 特にカリーナとメアリーは一瞬意識が飛び掛け、しかし背筋に走った悪寒で無理矢理意識を取り戻させられた。二人は、全身から冷や汗を流し体をガタガタと震わせながら振り返る。ジンベエはそんな二人を庇うように前に立ち、現れた規格外な存在に顔を険しくさせた。

 

「――テメエら、此処で何をしていた……!」

「四皇……ビッグマム……!」

 

 そこに居たのは憤怒の表情を浮かべるビッグマムが居た。彼女の感情に呼応するかのように、ビッグマムの傍らに佇む特性ホーミーズ――プロメテウス、ゼウス、ナポレオンはそれぞれ炎、雷、剣気を滾らせて、メアリーたちを睨み付けていた。

 ビッグマムの視線が、メアリーが背負っている鞄に向くと――全ての殺気がメアリー一人に叩き付けられる。

 

「もしかして、おれのロード・ポーネグリフを盗もうとしたんじゃないだろうな――邪王真眼のメアリー?」

 

 鞄から突き出たロールは、明らかに何かを写している。

 それが何なのかを一瞬で理解したビッグマムの反応は顕著で、彼女の脳裏には遠い過去の出来事が思い起こされ――隣に居たプロメテウスが動いた。

 

「焼き尽くしてやる!」

 

 頬が膨らんだと思った瞬間、吐き出されたのは灼熱の炎。

 町一つを容易く滅ぼす炎がメアリーたちに襲い掛かり、それを見た瞬間メアリーはジンベエとカリーナの手を掴んで飛び上がると能力を発動させた。

 するとプロメテウスの炎は彼女たちの体をすり抜け壁に激突し、真っ赤に染めた。

 攻撃を回避してビッグマムの目の前に降り立った三人は、しかしすぐにその場から駆け出した。メアリーは剃を使い、ジンベエは魚人族の優れた身体能力を駆使し、カリーナを抱える。

 

「ロード・ポーネグリフを返せ!」

 

 ゼウスが吠えると同時に、落雷が発生した。光と音が宝物庫を包み込む。

 一発でも当たれば即死級の攻撃を、メアリーたちは見聞色の覇気を用いて回避した。雷が何度も地面を撃ち、ビリビリと空間が震える。

 

「止まれ、プロメテウス。ゼウス」

 

 その光景を見ていたビッグマムは目を細めると、プロメテウスとゼウスを止めた。

 すると、二体のホーミーズはその命令に従い粛々と彼女の傍らに戻る。しかし、その表情は敵であるメアリーたちに対して不満を顕にしていた。生意気にも攻撃を読んで躱した二人に。

 そしてメアリー達はというと、突然攻撃を止めたビッグマムに怪訝な表情を浮かべる。まるで理解ができない、と。

 対して、ビッグマムは先ほどの怒り具合が嘘のように穏やかな表情を浮かべ、彼女たちに……いや、正確にはジンベエに話しかけた。

 

「ママママ……ハハハハ! まさか本当にジョジョの下に着いていたとはねぇ、海侠のジンベエ?」

「ワシがあの人の傘下に下った理由。知らんとは言わせんぞビッグマム」

「もちろんさ。魚人島を守るためだろう? 親と違って優しい奴だ」

 

 言葉とは裏腹に、その声には多分にジョットを貶す感情が含まれていた。

 当然、義に厚いジンベエが黙っていられる筈も無く、目を鋭くさせて一歩前に出た。

 しかし、それをメアリーが遮る。

 

「……は、話をしに来ただけかしら? ビッグマム?」

「……ふん。邪王真眼のメアリー。体を震わせて恐怖にビビッている小物に、おれは用はないねぇ――今なら見逃してやる。ロード・ポーネグリフの写しを捨てて、とっとと失せな」

「……っ」

 

 ギロリ、と彼女を一睨みしてそう吐き捨てるビッグマムに、息を飲むメアリー。この島に来た時から己を騙していたが――やはり、怖い。

 見聞色の覇気を鍛えた所為もあって、彼女の化け物染みた強さを肌で実感し本能が対峙する事を拒んでいる。

 それを見抜いたビッグマムは、当初警戒していた事もあり落胆は大きく、苛立ってもいた。

 

「だが、ジンベエ。お前には話がある。それも、お前にとっても良い話さ」

 

 しかしそれ以上に魅力的な人材が自分の元へと転がり込んできた。

 かつて七武海だった男で、魚人であるジンベエはビッグマムの食指が疼く程に欲しい人物だった。

 だから宝物庫に忍び込んだ怒りを抑え、こうして勧誘に乗り出した。

 彼を自分の物にする交渉材料ならたくさんある。彼女は、それをチラつかせる。

 

「お前がおれの傘下に入れば、魚人島は菓子をくれる限り平和だ。ジョジョなんていう不安定な勢力に縋る必要もない」

「何をバカな事を。わしが、その誘いに乗ると思うたか……!」

「だが――クルセイダー海賊団はもう終わりだ」

 

 怒りに震えるジンベエに、ビッグマムはニヤリと笑みを浮かべて言った。

 ジョットに未来は無いと。

 

「今、あいつはビッグマム海賊団の最高傑作カタクリと戦ってる。戦闘が始まってから随分と経つが――星屑のジョジョが勝つ事は万に一つも無い」

「……!」

 

 10億超えの賞金首の名を聞いて、流石のジンベエも顔色を変えた。

 作戦では、なるべく強者を引き付ける囮役を買って出たジョット。当然、カタクリとの戦闘も視野に入れていた。それでも、相手がカタクリとなると心配せずにはいられない。

 さらにビッグマムは続ける。

 

「それに、だ。もし仮にジョジョの奴がカタクリを退けても――もう、おれらはクルセイダー海賊団を許す気は無い」

 

 死刑宣告に等しい言葉を。

 

「例えこの縄張りから逃げても、地の果てまで追いかけるし、奴のクルーの故郷も消し炭にしてやるつもりだ。

 そして、それはお前たちタイヨウの海賊団も例外じゃあない」

「そんな、酷い……!」

 

 容赦の無いその物言いに、カリーナが思わず呟いた。

 それをビッグマムが笑って吹き飛ばす。

 

「ママママ……ハハハハ! 海賊の世界に酷いもクソもあるか! 四皇ビッグマムに楯突いたらどうなるのか、分からないバカはただ死ぬだけだ!

 だがな、ジンベエ。お前を死なせるのは惜しい。だからお前を殺さずに誘っているんだ――故郷を火の海に変えたくはないだろう?」

「……」

 

 残酷なその言葉に、ジンベエは黙って睨み返す。

 此処でジョットを裏切って、ビッグマムの傘下に下る? そんなの願い下げだ。

 そんな生き方をすれば、一生後悔する。

 だから、ジンベエの答えは決まっていた。

 

「悔いの残る生き方はせんと決まっている! 悪いが、断らせてもらう!」

「……もう少し利口だと思ったんだがねぇ」

 

 ――交渉は決裂した。そうなれば、後は簡単だ。目の前に居るのは、晴れて敵となる。

 ビッグマムの上がっていた口角が下がる。ゴミ掃除に感情はいらない。

 ジンベエの覇気が強まった。この窮地を脱するには覚悟が必要だ。

 集中し、相手を見据え、拳を構えるジンベエは――トンッと、突然胸に何かを押し付けられた。

 

「――カリーナ! ジンベエにしがみ付いて!」

「へ?」

「はやく!」

 

 メアリーに指示を出されたカリーナは最初は呆然としていたが、再度強く言われて半ば反射的にジンベエにしがみ付いた。

 それを確認したメアリーは、右手である物をジンベエの懐に忍び込ませると、彼の胸に突き付けた(ダイヤル)――衝撃貝(インパクトダイヤル)を起動させた。

 

「ぬ……!?」

「きゃっ!?」

 

 予想外の衝撃にジンベエの体が壁に向かって吹き飛んだ。胸に走る痛みにジンベエが血を吐き、しがみ付いたカリーナは小さく悲鳴を漏らす。

 その光景をビッグマムたちはポカンと眺め、それを為した当の本人であるメアリーは――笑っていた。

 先ほどの体の震えが嘘のように止まり、堂々と佇んでいる。

 

「――メアリー!」

 

 その彼女に、ジンベエの怒号に近い雄叫びが上がった。

 しかし、彼女は穏やかな笑みを浮かべたまま一言。

 

「――ジョットをお願い」

 

 それを最後に一瞬ジンベエ達の視界が暗闇に包まれ、次の瞬間外に放り出された。

 メアリーの仕業だろう。船を丸々透過できる彼女なら、造作もないことだった。

 

壁の向こうに消えた仲間たちを見届けた後、メアリーはビッグマムへと振り返る。

 そこには、心底理解できないと顔を歪ませるビッグマムが居た。

 

「……お前は、さっきまでそこでプルプル震えていたんじゃないのかい?」

 

 だからこそビッグマムは取るに足らない小物だと見切りを付けて、視界から消していた。

 

「おれが怖くないのかい?」

「怖いよ。今も怖い――でも、それ以上に怖いのが、クルセイダー海賊団が終わること」

「……ああ?」

「本当は分かっていた。アナタに今挑んだらどうなるのか。でも、もう止まれない所まで来ていたから、いっぱいいっぱい考えて――皆を生き残らせるにはこれしかないって、分かったんだ」

 

 メアリーは、この世界の人間が知らない事を知っている。

 故に、ビッグマムの縄張りに入った時――心底恐怖した。

 もう、だめかもしれない。ジョットは死なないのかもしれないが――クルセイダー海賊団は終わる。

 そうなれば、ジョットは海賊王になれない。その未来を回避するためにどうしたら良いのか。その答えを今のいままで探し続けていたメアリー。

 

「……いや、本当は分かっていたんだ。これしかないって」

「何を言っているんだい?」

「アナタには分からないのかもしれないね。

でも、もう遅い。もう引き返せない――私も、アナタも」

 

 決意を決めたメアリーは、背中に背負っていたバッグをドサリと降ろし、手をその中に突っ込む。ロード・ポーネグリフの写しが何枚も詰め込まれており、幾つかのロールが外に飛び出している。

 それを見たビッグマムは、先ほどのメアリーの物言いに困惑していた顔を一転させ、怒りに染めて叫ぶ。

 

「そうだ! ロード・ポーネグリフの写し! 邪王真眼のメアリー! それをさっさと返しな! お前らが持っていても仕方のないものだ!」

「ジンベエたちと別れて、そしてアナタの前に立っている今、私がこれを持っている意味はない。だから、欲しかったら上げる――でも、本当にそれで良いの?」

「何がだ!?」

「アナタにとって……シャーロット・リンリンにとって重要なのは()()()だと思うけど?」

 

 フフフ……っと見る者をゾッとさせる笑みを浮かべてメアリーが取り出したのは、一人の女性が写る写真だった。

 メアリーにイライラしていたビッグマムはそれを見た途端顔を青褪めさせて体中から冷や汗を流す。

 それは、マザー・カルメル。ビッグマムにとって命よりも大切なモノ。

 

「な、な、な……!?」

「ママ! くそ、その写真を放せーー!」

 

 狼狽するビッグマムを見たプロメテウスが動こうとした瞬間、メアリーが叫んだ。

 

「――動けばこの写真を割るぞ!」

「止まれえええええプロメテウスゥゥゥゥッ!!」

「ッッッ!!?」

 

 ビタッッと動きが止まるプロメテウス。いや、それだけではない。隣のゼウスも、ビッグマムの頭の上のナポレオンも全く動けなくなっていた。

 彼らに魂を与えた張本人であるビッグマムが、心の底から命じた指令が強すぎたせいだ。現に、話す事も出来ない。

 息を荒げ、メアリーに叫ぶビッグマム。

 

「貴様、それを何処で……! まさか、頂上戦争で使った能力か!?」

「その辺りは勝手に想像して貰って……問題は、アナタがどちらを取るか、という話」

「……何?」

「ロード・ポーネグリフとマザーカルメル……どっちが欲しいの? って話。

 そうね、四皇ビッグマム(アナタ)風に言うのなら――ロード・ポーネグリフORマザー・カルメル?」

「ぐ、ぐ、ぐぐぐぐぐ……!」

「まさに魂への呼び掛け――さァ、さっさと選んで! どっちを取るの!? ロード・ポーネグリフ!? マザー・カルメル!?」

 

 身動きができないゼウスは思った。

 あれは、悪魔だと。

 何故、ビッグマムの弱点とも言えるマザー・カルメルの存在を知っているのかは分からない。だが、それを……それを普通脅迫材料にするだろうか?

 怖い。()の底から、メアリーという女が怖いと思った。

 

 冷や汗が垂れ、ボタボタと顔中から水滴が落ちる中、ビッグマムは絞り出すように言った。

 

「……―――――ルだ」

「え? 小さくて聞こえない。もっと大きい声で」

「――マザー・カルメルだ!」

 

 ビッグマムは、はっきりと、ロード・ポーネグリフを諦めて、マザー・カルメルを求めると答えた。

 必死な表情で、四皇だとは思えない程に弱々しく叫ぶ彼女に、メアリーは――。

 

「そう……でもごめんなさい。時間切れ」

 

 パリンッと呆気なくマザー・カルメルの写真を地面に叩き付けて……割った。

 それを見ていたビッグマムは、しばらくの間何が起きたのか理解できずに呆然とし、しかしすぐに体を震わせて目には涙を浮かばせて……。

 

「な、なんで……おれは、確かにマザー・カルメルだって……時間切れなんて……聞いていな――」

 

 ズリズリと膝を擦り剝かせながら、メアリーの足元に散らばったマザー・カルメルの写真を求めるビッグマム。

 しかし、それをメアリーがパキンッと踏みつけて割砕き。

 

「――そう言って、今まで何人の人間を破滅に追い込んだのかしら? 四皇ビッグマム」

「ああ……ああああ……」

「酷いもクソもない……アナタの言葉よ? 私、悪くないわ」

「わ、悪い……お、お前が、お前が――」

(ママ! しっかりして!)

(くそ、命令されて動かない!)

(不味い、このままじゃママが――)

 

 ホーミーズたちが危惧した通りに、ビッグマムの目から理性の色は消え失せ、グルグルと渦を巻き――感情が爆発した。

 

「ああああああああああああああ!! マザァァアアアア!!!」

 

 覇王色の覇気と爆音が解き放たれ――ホールケーキ城の宝物庫が吹き飛んだ。

 



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VS世界を統べる皇帝

「オラァ!」

「フンッ!」

 

 拳と拳がぶつかり空気が、空間が──鏡の世界が揺れる。

 カタクリとジョットが激突して数時間が経過していた。お互いの手の内を確認してからは完全な力比べとなり、地力の差が出始めていた。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 拳から血を流しながら肩で息をする。それだけ目の前の相手との戦いは体力と覇気を消費するという事。

 

「流石、と言った所か」

 

 思わず称賛の言葉を口にし。

 

「──四皇に真正面から挑んでくるだけはある」

 

 カタクリは拳から流れる血を能力で何とか止血しながらも──目の前の、自分よりも軽傷なジョットに対して恐れにも似た感情を抱いた。

 

 初めての経験である。

 カタクリは過去これまでに敵に対して恐怖という感情を抱いた事はない。カイドウに対しても己の母と同じ化け物と認識しつつも最後に勝つのはウチだという絶対的な信頼によって感じた事はなかった。

 

 だが。

 

 だが、目の前の男は──。

 

(こいつ、戦えば戦うほど強くなっていきやがる……!)

 

 初めは自分よりも少しだけ武装色の覇気が強い程度だった。時を止める力も見聞色の覇気により対処でき、負ける気がしなかった。

 だが、単純な力比べとなってからは話が別だ。

 拮抗から押され始め、その次は何とか食らい付き、今では何とか倒されないように騙し騙しと……その戦いの内容は変わっている。

 故にカタクリは確信した。

 

「星屑のジョジョ。お前は──」

「『お前はママの脅威となる。此処で確実に消す』か?」

「──ああ、そうだ」

 

 ジョジョが未来を読んでカタクリの言葉を口にすれば、カタクリは当然の事のように頷く。

 

 もはやジョジョとカタクリの間に初めにあった差は無い。

 

 いや正確にはある。

 それを理解しているが故の先ほどのカタクリの言葉だ。

 

(こいつの武装色の覇気は既に──)

 

 そこまで思考した所で──カタクリは突如未来を視た。

 そしてその未来を視た彼の表情は一気に焦りの表情を浮かべて、視線をジョジョから壁に立てかけてある鏡へと向けた。

 

「お兄ちゃん!」

「ブリュレ! こっちに来るな!」

 

 ブリュレとカタクリの言葉はほぼ同時に紡がれた。

 しかしそれ以上にジョジョが素早く行動に移していた。

 カタクリが視線を外すと同時に駆け出し、鏡の中から顔を出したブリュレの首を掴む。

 

「ぐえ!?」

「──カタクリ、教えてくれて助かったぜ」

「……!」

 

 ジョジョは未来を視てカタクリの動きを先読みし、ブリュレの確保に成功した。

 彼の目的はカタクリを倒す事ではない。足止めだ。

 ならば、このままカタクリを鏡の世界に残す事は大きな意味を持つ。

 

 しかし、カタクリが視た未来は違った。

 彼は険しい顔をして叫ぶ。

 

「ふ、ふん! 今更外に出たって遅いさ。何せ──」

「よせ、ブリュレ!」

 

 しかしカタクリの言葉は届かず。

 

「もう邪王心眼のメアリーはママに殺されたんだからね」

 

 彼女の口から紡がれた言葉は。

 

「──は?」

 

 易々とパンドラの箱を開けた。

 

 

 ◆

 

 

 飴によってギチギチに拘束された空飛ぶ船──レッドイーグル号。

 羽ばたくための翼を失った鳥は地に落ちるのと同じように無残にも横たわるその姿は哀愁が漂う。

 しかしそれ以上に惨めなのは──飴で拘束されて生かされているクルセイダー海賊団。

 彼らはビッグマム海賊団に敗れ、それどころか殺される事なくこうして生き恥を晒している。

 彼らは言った。今すぐ俺たちを殺せと。

 しかしビッグマム海賊団は言う。お前らは簡単には殺さないと。

 

「くそ、何が目的だ……」

 

 悪態を吐く誰かの言葉に応える様にズシンズシンと地響き……否、重い足音が響く。

 その音にクルセイダー海賊団はまさかと顔をしかめ、ビッグマム海賊団は自分たちの王の道を開けるために左右に分かれ──。

 

「マーマママ……ハーハハハ!」

 

 そして現れるのは四皇ビッグマム。

 彼女は上機嫌に笑いながらクルセイダー海賊団の前に現れると、彼らを見下ろして言った。

 

「よくもまぁ無謀にもこのおれの国に乗り込んできたね。褒めてやろう」

 

 言葉とは裏腹にその声には嘲笑の感情が色濃く滲んでいた。

 しかし、クルセイダー海賊団たちはそんな事はどうでもよかった。

 今彼らの視線はビッグマムに向いていない。彼らの視線の先は……。

 

「──副船長?」

 

 ビッグマムに鷲掴みにされてグッタリとしている一人の少女。

 本来ならあの様な隙を、敵に捕えられる様な隙を晒さない人間だ。

 いや違う。

 何故彼女は何も反応も示さない? 

 何故彼女は──動かない? 

 

「ん? ああ、()()返すよ」

 

 そう言うとビッグマムはまるでゴミを捨てるかの様にメアリーを放り投げ、彼女はそのままクルセイダー海賊団達の前に堕ちた。

 そしてそれ以降全く動かず、まるで死んでいるかの様に。

 

 いや違う。

 

 彼女は、メアリーは、クルセイダー海賊団副船長は。

 

「もう魂は全部貰ったからね」

「副船長ぉおおおおおおお!!」

 

 ビッグマムに殺された。

 その事を理解した彼らは慟哭を上げた。メアリーには届かないにも関わらず。それでも叫ばずにはいられなかった。

 それを見たビッグマムは気を良くして嗤い、反対の手に握っているメアリーの魂を見る。

 

「コイツにはしてやられたよ本当に。このオレに怯えながらも一矢報いたって奴さ──心臓を直接蹴られた時は死んだと思ったよ」

 

 メアリーの攻撃はビッグマムを殺し切る事は出来なかった。

 マザー・カルメルの写真を割って動揺させて、どんな攻撃も跳ね返す鉄の風船をただの肉の塊までに下げた。

 その上でスカスカの能力と武装色の覇気を込めた一撃を加えて──負けた。

 そこからは混乱したビッグマムの能力により魂を抜き取られて形勢逆転。ビッグマムすら何が起きたのか覚えてないし、メアリーに対して恐怖心を抱いているが──彼女の死はビッグマムを四皇に戻した。

 

「さて。コイツはロード・ポーネグリフの写しを持っていなかった。つまりジンベエかお前らが持っている訳だが──」

「ママ。コイツらは持っていないよ。確認した」

 

 マムの子どもの一人がそう言えば「そうだろうね」とビッグマムは頷いた。

 

「コイツらにそれだけの力が無いのは分かっているよ。だからさ」

 

 ニヤリと彼女は笑みを浮かべて。

 

「出てこいジンベエ! お前の持っている写しを返しな! さもないとコイツらを一人一分毎に殺していく!」

「──!」

 

 そこで初めて彼らは自分達が生かされた理由に気付く。

 彼らは人質だ。ジンベエを誘き寄せる為の。

 義理深いジンベエなら、仲間が殺されると言われれば必ず出てくるだろう。例え罠だと分かっていても。

 

「やめろ! 俺たちを殺せ!」

「役に立てない所か、足を引っ張るくらいなら死んでやる!」

 

 口々にそう叫ぶ彼らにペロスペローは嘲笑しながら言った。

 

「そう逸るな。望み通り殺してやるから」

「がぼ!?」

 

 そう言って彼はクルセイダー海賊団の一人を己の能力で口を塞ぐ。さらに口からキャンディーを流し込み固めていく。

 

「これから一人ずつ丁寧に殺していく──精々ジンベエに命乞いするんだな、ペロリン」

「ママママ……ハーハハハ!」

「ちくしょう……ちくしょおおおおお!」

 

 ビッグマム海賊団の嗤い声とクルセイダー海賊団の叫び声が、トットランドに木霊する。

 誰もがビッグマム海賊団の、ビッグマムの勝利を確信していた。所詮はルーキー。四皇の相手ではない、と。

 

 だから。

 

 誰もが彼の怒りに不意を突かれた。

 

「おい」

 

 そしてそれは、ビッグマムさえも──。

 

「何してやがる、テメェら」

 

 トン、と重さを感じさせない軽快さでビッグマムの前に着地したジョジョは、その場に居る全員の視線を独り占めしながら拳を握り締める。そして──。

 

「ジョ──」

「──オラァ!」

 

 ビッグマムが口を開くと同時にその拳を彼女の横っ面に叩きつけ──そのまま殴り飛ばした。

()()()()()()()()()()ビッグマムは吹き飛んでいき、自分の国の街を壊しながら瓦礫の中に沈んでいった。

 

 あり得ない。

 

 その光景を見たビッグマム海賊団達は呆然とし、故にジョジョに次の行動を許した。

 

「オラァ!」

 

 オーラを纏った拳を地面に叩き付ける。瞬間、ジョジョから発せられたオーラはクルセイダー海賊団、レッドイーグル号まで伝わりペロスペローのキャンディーは粉々に砕け散った。

 

「は?」

 

 ペロスペローは何が起きたのか理解出来ずアホ面を晒し。

 

「お前は一足先にリタイアだ」

 

 目の前に一瞬で移動したジョジョに腹部を思いっきり殴られ、しかし衝撃は体内に留まるように能力が行使された結果、白目を剥いてそのまま崩れ落ちた。

 それを確認したジョジョは直ぐに叫んだ。

 

「ジンベエ! テメェら!」

 

 彼の声にクルセイダー海賊団と、近くに潜んでいたジンベエとカリーナが反応を示す。

 

「今すぐ船を出して逃げろ!」

「だが、お前さんはどうする!?」

 

 突然の命令にジンベエが返すと、ジョジョはゆっくりと瓦礫の向こうを見て静かに言った。

 

「返して貰う。アレは──オレのだ」

 

 ジョジョの視線の先が爆発が起きたかの様に瓦礫が吹き飛んだ。

 そこには殴られた頬にアザを作り口元から血を流しながらも笑みを浮かべているビッグマムが居た。

 

「マーマママ……やってくれるねぇ星屑のジョジョ! テメェら兄妹は油断ならねぇな……!」

 

 ナポレオンを手に、プロメテウスをその身に宿し、そしてゼウスに乗ったビッグマムはキレていた。

 しかしジョジョもまたプッツンきており、ジンベエが思わず二の足を踏む程だ。

 

「……すまん。ワシが居ながらメアリーさんが」

「──気にするな」

 

 謝罪するジンベエの言葉を遮り、ゆっくりと歩を進めるジョジョ。

 

「オレが全部ひっくり返す。だからそっちは頼む──集中させてくれ」

「っ……分かった!」

 

 ジンベエはすぐに踵を返し、クルセイダー海賊団達と共にレッドイーグル号に乗り込んだ。

 それを確認するのも惜しいのか、ジョジョはビッグマムにどんどん近付いていく。

 ビッグマムもまたゆっくりとジョジョに近付いていく。

 

「へぇ。向かって来るのか? 真正面から。このおれに。四皇ビッグマムに」

「近付かなきゃア、テメェをブチのめせないんでな」

 

 その不敵な言葉にビッグマムは嗤う。

 

「マーマママ……! だったら十分近付くんだな!」

 

 漏れ出る覇王色の覇気が二人の間で衝突し、空間が悲鳴を上げる。

 その光景にビッグマム海賊団達は巻き込まれない様にと距離を取った。

 

 まるで、カイドウとビッグマムが戦う時の様に。

 

 そして、お互いに射程圏内に入ると同時に──。

 

「オラァ!」

「ハーハハハッ!」

 

 拳と剣がぶつかり──否、触れずにそのまませめぎ合い、覇気がエネルギーとなって衝撃波となって島を、海を、国を揺れ動かし。

 

 世界を統べる皇帝の一人と、その先を目指す男の戦いが始まった。

 



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威国と波紋疾走

 覇気と覇気のぶつかり合いで、空気にヒビが入らんばかりに衝撃が走る。

 その一瞬は周りにいる者達にとっては永遠にも思える程の力の衝突。

 しかし本人達には開戦の一撃でしかなく、直ぐに次の攻撃に移った。

 

「スタープラチナ!」

「ナポレオン!」

 

 それぞれの武器の名を呼ぶジョジョとビッグマム。

 ジョジョの背後からは時を越える速さを持つ魔人がその拳を固く握り締め。

 ビッグマムの手にある魔剣は、己を創り出した創造者の力を一身に受けて笑みを浮かべる。

 

 先に仕掛けたのはビッグマムだった。

 

「喰らいな!」

 

 ──威国!! 

 

 魔剣から放たれるのは、自分を追放した国の奥義を真似た技。

 しかし猿真似と言えども扱う者が化け物ならば、その技の威力に何ら劣化など無い。

 大地を破壊する剣圧がジョジョに向かって放たれた。ジョジョはその一撃を──。

 

「オラァ!」

 

 ──己の拳で殴り逸らした。

 その光景を見たビッグマム海賊団は、特に彼女の実子達は目と口を大きく開いて唖然とした。

 あり得ない。自分達の母の、四皇の一撃を真正面から受けて逸らすなど……! 

 

 しかし彼らは勘違いしている。

 ジョジョの攻撃はまだ終わっていない。

 

「スタープラチナ・ザ・ワールド!」

 

 その名を叫んだ瞬間、ジョジョ以外の時が止まる。

 自分だけの世界へと足を踏み入れたジョジョは、己の半身に命ずる。

 

『ジョジョ。絶対に何があっても諦めないでね』

 

 妹を殺した敵を討つ為に。

 取られたモノを取り返す為に。

 

「──っ、やれ! スタープラチナ!」

『オラァ!』

 

 スタープラチナの拳が無防備なビッグマムの頬にぶつかる。

 そして始まるのは高速のラッシュ。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!』

 

 時を止められていられる時間いっぱいに、ラッシュを叩き込むスタープラチナ。

 しかし何故かジョジョの表情は優れず、時を止める限界が来ると舌打ちをしてスタープラチナを自分の中に戻した。

 

 同時に動き出す時間。

 

「ぐぼぁ……!」

 

 そして一瞬で叩き込まれるスタープラチナのラッシュ。

 瞬間ビッグマムの全身の肉が揺れ動き、窪み、衝撃が走る。

 突然の出来事に、そして何より感じる痛みにビッグマムは目を白黒とさせる。

 

 自分を傷付ける存在など、そう居ない。先ほどの覇気同士のぶつかり合いだって互角でダメージにはならなかった。

 

 しかし今の一撃は、それら全てを無視してビッグマムの体の内側に入ってきた。

 

「妙な力を使うね──だけど!」

 

 痛みはある。ダメージもある。しかし。

 

「オレを殺せる程じゃねぇ!」

 

 ナポレオンによる斬撃が飛ぶ。

 それを避けながらジョジョは内心舌打ちした。何故なら彼女が言っている事は彼が今感じた手応えと全く同じ物だったからだ。

 攻撃は当たる。ダメージも与えられる。だが倒しきれない。そんな歯痒さを感じながら、ジョジョは拳に覇気を纏わせて地を蹴った。

 

「ゼウス!」

「はいママ!」

 

 ゼウスから降りた彼女の片手に雷雲が纏わりつく。そしてそのまま天候を一変させる程の雷が収束し──。

 

 ──雷霆! 

 

 それを突っ込んで来たジョジョに向かって振り下ろした。

 

「っ……!」

「マーマママ! 馬鹿正直に向かって来るからさ!」

 

 雷の放出を継続させながらビッグマムはジョジョを掴み上から抑えつける。

 

「ひよっこがオレに敵うと思ってのぼせ上がり、そして最後は殺される! 見飽きた光景だ──ジョジョ! テメェも結局その一人でしかなかったのさ」

 

 ジョジョが膝をつく。

 

「さらには自分の妹を殺されて──お前は守れねぇよ! あの時……頂上決戦の時の様に!」

 

 ジョジョの居る地面が陥没する。

 

「お前は死なせたのさ! メアリーも! ニューゲートの奴も!」

 

 嘲笑の声を上げながら、ビッグマムはもう片手に持っているナポレオンにて、ジョジョを上下に斬り裂こうと思いっきり薙ぎ払った。

 

「──させねぇよ」

 

 しかしジョジョは、ナポレオンの一撃を冷静に受け止め。

 

「オレはもう──死なせねぇ」

 

 そしてスタープラチナが拳を携えてジョジョの背後に現れ。

 

「だから、邪魔する奴は全部ぶち壊す!」

『オラァ!』

 

 スタープラチナの拳が、ナポレオンの刀身を半ばから殴り折った。

 

「ギャアアアアアア!?」

「ナポレオン!?」

 

 ナポレオンが悲鳴を上げ、ビッグマムが驚きの声を上げる。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラ──オラァ!』

 

 スタープラチナの高速のラッシュがナポレオンの半身を粉々に殴り砕いた。

 その光景を見たナポレオンは痛みとショックで白目を剥き、帽子へと戻る。

 ビッグマムは舌打ちをし、ゼウスの力を引き上げるが──。

 

「ビッグマム。テメェはそこでいつまでも踏ん反り返ってな」

 

 するとビッグマムの手から抜け出したジョジョは彼女の懐に飛び込み、そしてスタープラチナを自分の中に戻す。

 

「オレは先に行くぞ」

 

 そして拳を固く握り締めて、腕を引き絞り、オーラを纏わせる。

 すると彼の拳に全てのエネルギーが収束する。空間が波打ち、震える程のエネルギーが。

 

(──その構えは!?)

 

 その光景を見たビッグマムは、ジョジョにある男の姿が重なって見えた。

 

 世界を滅ぼす力を持つと言われた男。

 最も海賊王に近い男。

 四皇“白ひげ”エドワード・ニューゲート。

 

「まず──」

「──吹き飛べ、アホんダラァ!!!」

 

 叩き込まれたジョジョの拳は、ビッグマムの体の外と内側両方から揺り動かし、その衝撃は彼女の背後まで及び──島が大きく揺れ動いた。

 

 

 ◆

 

 

「それは本当なのお兄ちゃん?」

「ああ、本当だ」

 

 鏡の世界から抜け出すと同時に放り出されたブリュレは、直ぐに兄カタクリの元へ向かい、ビッグマム──ジョジョが向かった場所に一番近い鏡へと向かっていた。

 その道中、カタクリから聞いた話は到底信じられる物では無かった。

 

「だが俺は見えた。ジョジョがママを倒す未来を」

 

 確定している未来では無いが、可能性のある未来だ。ビッグマムの子どもとしては到底信じられない話だが、実際にジョジョと戦ったカタクリは無い話では無いなと感じていた。

 

「奴はあの頂上決戦で死にかけながらも敵を倒した……いや、そもそも」

 

 ジョン・スターの血統。隠者の息子。驚異的な身体能力と武装色の覇気。時を止める力。そして成長速度。

 ジョジョは格上との戦いを繰り広げる事で強くなっていったが、ここまでの材料があれば当然と言えた。

 

「もしかしたら奴は今日──」

 

 カイドウやビッグマムの領域に足を踏み入れるのかもしれない。

 

 

 ◆

 

 

 猿真似といえども扱う者が化け物ならば、その技は奥義になる。

 ビッグマムの威国と同じ様にジョジョのその拳は一つの技として完成されていた。

 それも、ビッグマムを追い詰める事が出来る程の技として。

 

「オラァ!」

「ガハァ!?」

 

 ビッグマムに拳を叩き込むと同時に地震が起き、彼女は血を吐く。

 グラグラと意識が揺れ、久しく忘れていた痛みに意識が戻る。

 すぐ様自分も相手を殴り飛ばすが、武装色の覇気で防がれて、仕方無く覇王色の覇気を込めてダメージを与える。

 それにより距離が空くが、ジョジョはすぐに駆け出しビッグマムに殴りかかる。

 

「ハァ……ハァ……! 調子に乗るんじゃねぇぞ!」

 

 全力を込めた覇気でジョジョの地震の力が込められた拳を受け止める。

 

「オレは四皇だ! テメェに舐められたらお終いだ!」

 

 そう叫ぶとビッグマムはプロメテウスを掴み、

 

天下の炎(ヘブンリーフォイア)!!」

 

 全てを焼き尽くす炎を叩き付ける。

 

「オラァ!」

 

 しかしジョジョがオーラと覇気を込めて空間を殴り付けると、亀裂が走り、砕け散り、衝撃波がプロメテウスを吹き飛ばした。

 

「ギャアアアアアア!?」

「ちっ……! ゼウス!」

 

 地震の衝撃で全身の炎が掻き出されていくプロメテウスは悲鳴を上げてビッグマムの手から離れた。

 それを見たビッグマムはならばとゼウスの口に手を突っ込み雷の力を増幅させる。

 

「雷て──」

「オラァ!」

 

 しかし今度は叩き込む前にジョジョにゼウスごと殴り飛ばされた。

 

「ガ……!?」

「ギャアアアアア!?」

 

 地震の力がビッグマムの肉体と精神を揺り動かし、ゼウスは全身の雲を剥がされながらプロメテウス同様吹き飛ぶ。

 ビッグマムはズシンと大きな音を立てながら地面に横たわると血を吐きながら内心悪態を吐く。

 

(どうなってやがる……! ナポレオンも、プロメテウスも、ゼウスも効かない! いや、それどころかオレの力が……!)

 

 動揺しているビッグマムを他所に、ジョジョは己の拳を見つめる。

 胸に思い浮かぶのは背中に傷跡の無い男の姿。

 

「……今、この技の名前が決まった」

 

 その男に感謝の思いを抱きながらジョジョは呟く。

 

白色の波紋疾走(ホワイト・オーバードライブ)

 

 父の如き深く、広い色。そして、敵を打ち払う姿はあらゆる色を消す白。

 それが今この瞬間ジョジョが手に入れた力。

 

「──ビッグマム」

 

 ジョジョはその拳を握り締めながら彼女に言った。

 

「メアリーの魂を返せ──そうすれば今回は許してやる」

「──」

 

 ジョジョは不遜にもビッグマム相手に上から目線で話しかけた。

 四皇相手に、世界を統べる海の皇帝に。

 その言葉は、その態度は、ビッグマムを怒らせるのに十分だった。

 

「ハーハハハ……マーマママ!」

 

 ビッグマムは一度笑うと──覇王色の覇気を全開にしながら激しい怒気を撒き散らしながら叫んだ。

 

「オレを怒らせるのは、父親譲りみてぇだなジョジョ!」

 

 彼女の手に一つの魂が現れる。

 ジョジョはその魂が誰の物なのかを直ぐに気付く。

 メアリーだ。

 素直に返してくれる、とは考えていない。

 実際ジョジョの予想は当たっており、ビッグマムはニヤリと笑みを浮かべると見せつける様にしてその魂を自分の胸に叩き込んだ。

 

「アイツにはオレの心臓を傷付けられたからねぇ。直ぐに治るかと思ったが、テメェ相手だとその時間も惜しい」

 

 ビッグマムの能力はソルソルの実。相手から魂を引き抜き、物にその魂を注ぎ込み生命を与える事ができる。

 そして彼女は自分の骨を物として見立てて他者の魂を注ぎ込むことで、骨折していようとも継続して戦う術を持っている。

 つまり彼女が今回したのは──メアリーの魂を使って自分の傷付いた心臓に生命を宿しホーミーズ化させたという訳だ。

 それが意味する事は──。

 

「さぁ! 取り返せるものなら取り返してみな!」

「野郎……!」

 

 ジョジョに対する完全な嫌がらせ。

 その行為に怒りを燃やすジョジョだが、ビッグマムもまたキレていた。目の前の男を殺したい程に。

 

「ナポレオン! プロメテウス! ゼウス!」

 

 彼女は自分の寿命を使って三体の傷付いた体を修復、強化を行う。

 ナポレオンの刀身にプロメテウスの炎が纏わり付き、ゼウスはビッグマムを乗せて移動手段となる。

 

「さらに5年分のオレの寿命を使ってやる──お前はそうでもしないと殺せないからな!」

 

 ビッグマムが能力を使って自分の寿命で肉体を強化する。

 目が妖しく光り、肉体は巨大化し、覇気も膨れ上がっていく。

 さらにナポレオン達の存在感も上がっていき──彼女の本気が窺える。

 

「星屑のジョジョ。テメェをもう下とは見ねぇ──死ぬまでやり合うぞ!」

「──上等だ」

 

 ビッグマムの破壊の一撃とジョジョの一撃が再び激突し──最終決戦が幕を上げた。

 



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