職業=ボーダー隊員な社畜と功名餓鬼、時々JKのボーダー生活日誌 (地雷一等兵)
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第1話 B級3位部隊、鷹原隊


思い付きで書いた作品です。
あまり期待はしないでください。

では本編をどうぞ↓


ボーダーB級部隊のトップスリー部隊はどこかと聞かれれば、隊員達は皆こう答える。

“二宮、影浦、鷹原だ”と。

 

ではそれぞれどんな部隊なのかと問われればこんな答えが返ってくる。

“スーツ、攻撃偏重、色物部隊”と。

 

ではさらに鷹原隊のメンバーはどんな奴らだと聞けば、どんな答えが返ってくるだろうか、答えはこれだ。

 

「不死身の社畜隊長」

 

「功名餓鬼なネコミミ」

 

「パルクール狙撃兵」

 

「オペ子ちゃんは天使」

 

「一人ゲリラ戦」

 

「悪鬼羅刹道化師」

 

「移動砲台」

 

「唯一の清涼剤」

 

 

変わった人間の多いボーダーにおいて色物部隊と称される彼らはどんな人間なのだろうか。

 

この話はそんな変人達の集う鷹原隊の日常とボーダー任務の日々を描いた物語である。

 

 

 

「ヒャッハー手柄だにゃ~!!」

 

「あっ!ネコ!テメェ、そのモールモッドはオレの獲物──」

 

「さっさと狩らない方が悪いにゃ!」

 

わらわらとゲートの中から沸いてでるトリオン兵の群れの中で、猫耳フードを被った少女が駆け抜ける。

そして彼女の駆けた場所では大量のトリオン兵が弱点のコアからトリオンを吹き出し活動を止める。

 

『射線通りました、これより狙撃を開始します。』

 

手短な通信からすぐ後にライフルによる狙撃が始まった。その狙撃は一発ごとに角度を変えていき、次々とトリオン兵を葬る。

 

たった3人のこの部隊は何倍もの数のトリオン兵を紙でも切るような感覚でしばき倒していく。

 

 

 

 

「ひーふーみー……、にゃはは、結構稼げたにゃ~。これも隊長達の援護のお陰だにゃ。」

 

「おう、そうかい。」

 

現れたトリオン兵を片っ端から千切っては投げ、切り刻み、爆発させ、狙撃していった彼らは任務時間を終え次の隊員と交代すると、本部にある隊室で談笑を始めていた。

 

「ワリィな慧、いつもお前の指示が通らなくてよ。」

 

「大丈夫ですって。澪さんもランク戦の時はある程度指示は聞いてくれますし、慣れましたから。」

 

あははと笑って隊長の謝罪を受け流すのは誰もやりたがらなかった鷹原隊のオペレーターを二つ返事で引き受けた二条慧(ニジョウ ケイ)だ。

そんな彼女はお茶請けのどら焼きをもぐもぐと頬張っている。

 

「にゃ、そう言えば鋼にゃん達とランク戦の約束があったにゃ!」

 

思い出したように席を立ったネコミミは急いで支度をして隊室を出ていった。

その様子を見送ったスナイパーの蓮川がゆっくりと席を立つ。

 

「私も少し狙撃し足りないので、ちょっと模擬戦してきます。」

 

「おう、行ってこい。」

 

さっきまで散々っぱら狙撃してた癖に、などとは言わない。そんな事を言えば次の任務で不運な流れ弾が飛んで来るのが明白だからだ。

因みに言うと、鈴鳴第一の別役隊員が蓮川のノートにお茶を溢してダメにしてしまった時は、合同任務で不幸な流れ弾に数発遭遇したことがある。

 

 

 

「にゃ~にゃにゃ~にゃにゃ~。」

 

鷹原隊の切り込み隊長ことアタッカーの猫葉澪(ネコバ ミオ)はご機嫌に鼻唄を歌いながらとてとてと廊下を歩く。小学生にも見える小柄な体と、袖の余ったネコミミフード付きパーカーはその行動をより一層微笑ましく見せる。

しかしそんな彼女の表情は見えない。お面で顔を隠しているからだ。

これは彼女がボーダーに入隊した時から着けているもので、彼女の素顔を知るのは極々一部の人間だけである。

 

一説には昔の大規模進攻の時に負った傷があるからだとか、単に顔を見せたくないからとか、素顔を見せた相手と結婚せねばならない風習の村出身だとか、色々な噂が囁かれている。

 

 

「来たか。」

 

「待たせたにゃ~。防衛任務の後にまったりしてたらついついにゃ…。」

 

ブースにたどり着いたら彼女を迎えるのはボーダーNo.4アタッカーである村上鋼である。

彼はB級部隊の隊長である荒船を通じて知り合った仲で、今ではプライベートでも親交があるほど仲が良い。

 

「それじゃあ早速始めるにゃ!」

 

元気一番に叫ぶと、猫葉と村上はそれぞれ隣の部屋に入っていった。

 

 

 

「……。」

 

トリオン体のまま、無言で廊下を歩くのは鷹原隊のスナイパー、蓮川蓮(ハスカワ レン)である。

鷹原隊の一員と言ってもまだ鷹原隊入隊から3ヶ月という新人、C級隊員の時に才能を見込んだ鷹原によってスカウトされB級昇格と同時に入隊を果たしたのだ。

まだ高校1年生という華の女子高生で、趣味はパルクールとボルダリングというアクティブな女の子。将来の夢はボーダーに永久就職という隊長の鷹原や猫葉と同じ道を歩もうとしている。

 

「お、蓮川ちゃん!」

 

「北添さん、どうもご無沙汰してます。」

 

そんな彼女に話しかけたのはB級2位部隊の影浦隊ガンナーである北添尋だ。ふくよかで優しい彼はある種年下隊員にとって相談できるお兄さん的なポジションにある。

 

「どうしたの? こっちの方で見かけるなんて珍しいね。」

 

「いえ、防衛任務で撃ち足りなかったので模擬戦しに来ました。」

 

「あはは、蓮川ちゃんらしいね。それならガンナーの人とかが今日はいっぱいいるから満足できるんじゃないかな?」

 

そう言って北添がブースの方を指差すとそこには確かに諏訪隊の諏訪と堤や香取隊の若村などが見える。

その光景に蓮川はニッと笑ってそこに向けて足を進める。

 

 

 

「ふ~…。さてと書類を片付けますか…。」

 

そう呟いて隊室の一角に置かれているデスクに座るのはB級3位部隊の鷹原隊を率いる鷹原啓(タカハラ ヒロシ)、21歳である。

自己紹介の定型文は「鷹原啓、21歳、職業はボーダー隊員です」だ。高校卒業後、進学することなくボーダー隊員として社畜の毎日を送っている。

そんな彼の1日を簡単に表すと、「朝起きて牛乳のんで朝メシ食って牛乳のんで体操して防衛任務に出て昼メシ食って牛乳のんで防衛任務に出て晩メシ食って牛乳のんで防衛任務に出てシャワー浴びて寝る」というものだ。

 

それを知る者達はこう呼ぶ、「社畜を越えた社畜」と。

 

しかし彼の凄い所はその常軌を逸した出動回数だけではない。

彼の逸話に華を添えるエピソードとして、彼はランク戦においてベイルアウトしたことがない。正確に言うとベイルアウトしたことは何度かあるのだが、その原因は損傷を受けて長期間戦ったことによるトリオン漏出過多によるものである。その一方で、トリオン供給機関や伝達機関をやられるといった、一撃でのベイルアウト、言い換えるならば即死の一撃を一度たりとも受けたことがないのである。

 

誰が呼んだかいつの間に定着した彼の渾名が「不死身の社畜隊長」である。

 

 

 

「ニャハハハハハ!!その首貰い受けるにゃ!」

 

余っている袖を貫通するように飛び出た3本のスコーピオンがブンッと勢いよく振られる。しかし村上もそれには慣れているのかレイガストで受け止めて冷静にもう片方の手で握っている弧月で切り返す。

その切り返しを身を翻して避けた猫葉はグラスホッパーを起動して屋根の上に退避する。

 

彼女の戦闘体は普段着と同じで、ネコミミフード付きの隊服で袖も余ってぶらぶらしている。

しかし、その袖の手があるであろう場所には3つの穴が空いており、そこから爪のようにスコーピオンが伸びている。

 

「相変わらず冷静だにゃ、もっと奇襲に慌ててくれてもいいんにゃよ?」

 

「悪いな、お前の手の内は全部知ってるから。」

 

「知られちゃってたにゃ!」

 

オーバーリアクションで反応する猫葉に村上は思わず笑いそうになる。しかし、それもまた猫葉の釣りかもと思いすぐに気を引き締め直す。

 

「にゃ~、鋼にゃんとの勝負はやっぱり楽しいにゃ!」

 

そう嬉しそうに呟くと猫葉はぴょんと屋根の上から飛び降りるとグラスホッパーを起動してぐるぐると村上の周囲を飛び回る。

 

「ニャハハハハハ!見切れるかにゃ!?」

 

「ピンボールか…。流石のキレだな。」

 

体ではなく目だけで猫葉の動きを追う村上はぐっと腰を落として力を入れる。

そして一瞬、猫葉が仕掛ける振りをして反転しようとした瞬間に村上は大きく踏み込んで猫葉の体を両断した。

 

 

 

「ふにゃ~…、5対5、また勝ち越せなかったにゃ…。」

 

項垂れて個室から出てきた猫葉は駄々っ子のようにぐるぐると両腕を回す。

そんな猫葉の頭にポンと優しく手が置かれた。

 

「むしろ、鋼に負け越さないお前がすげぇよ。」

 

「にゃ~、荒ふにゃん~。」

 

声の主は荒船隊の隊長にして、村上に剣を教えた人物である荒船であった。

荒船はワシワシとフードの上から乱雑に猫葉の頭を撫でる。

そんな事をしていると猫葉が出てきた部屋の隣の部屋から村上が出てきた。

 

「! 荒船、こっちに来てたのか。」

 

「まぁな、お前と猫葉の試合があるって風の噂で聞いてよ。」

 

荒船を見つけた村上がそのまま歩み寄る。

会話をしながらも荒船は猫葉を撫でることを止めない。

 

 

「にゃ~、荒ふにゃん、折角だから模擬戦しないかにゃ?」

 

村上と荒船の会話が暫くして落ち着いた頃、そう言って猫葉が切り出した。その言葉を聞いた荒船は口の端を少しだけつり上げる。

 

「良いぜ、久々にお前をぶった斬ってやる。」

 

「にゃにゃ~、そう来なきゃだにゃ!」

 

アッハッハと高笑いしながら二人はとなり同士の個室に入っていった。

その後ろ姿を村上は見届けて近くのソファに座るのであった。

 

 

 

 

「ち、どこに行きやがった!?」

 

イラついた口調で叫びながら諏訪は周りを見渡す。しかし幾ら見渡せども視界には建物と、街路樹しか映らない。

確かに相手はどこかに存在するはずなのに、影も形も現さないその状況にショットガンを握る手に思わず力が入る。

 

時折ガサガサと街路樹の葉が音を立てればそちらを振り向き、時には建物の影に隠れる。

そして、場が動いた。

 

「っ!来やがったな!」

 

諏訪が見たのは屋根の上から放たれる大量のトリオンキューブだった。

それを見た諏訪は恐らく着弾するであろう場所、現在地から急いで後退する。着弾したトリオンキューブは周囲を巻き込んで爆発し、瓦礫の山を作り上げる。

 

爆撃され、既に居場所が割れている事を悟った諏訪はバックワームを解除してメテオラが飛んできた場所へと駆ける。

 

その先には周りよりもやや高い建物、なるほどスナイパーが陣取る訳だと諏訪は納得する。

 

「はっ、吹っ飛ばしてやる!」

 

諏訪は走りながら空いている片方の手にもう一つショットガンを取り出した。

が、その諏訪の足首から下を右から飛んできたライフルの一撃が吹き飛ばす。

全力で走っている最中で片足を吹き飛ばされた諏訪は勢いのままに転ぶも咄嗟の判断で受け身を取り、物陰に入る。

 

「ちっ! 移動砲台め、足が速えなぁ、こんちくしょう! さっさと移動しねぇ──!?」

 

悪態を吐きながら射線から外れようとした諏訪の胸を正面から飛来したアイビスの弾丸が撃ち抜き、ベイルアウトさせる。

 

 

「チキショー!またかよ!!」

 

「またまた勝たせていただきました!」

 

模擬戦を終えると部屋から出てきた諏訪がワシワシと自分の髪を乱雑に掻く。その様子を隊員の堤が苦笑いしながら見守っている。

諏訪から少し遅れて部屋から出てきた蓮川はほくほく顔で、とても満たされていた。

 

「めちゃめちゃ良い笑顔しやがって、この移動砲台が…。」

 

「生駒隊の隠岐みたいな高機動スナイパー、か…。」

 

「違えぞ、若村。こいつは隠岐みてぇに移動してから撃ってる訳じゃねぇ。グラスホッパーで移動しながら狙撃してくる変態だ。」

 

「なー! 年若い華の女子高生に変態とは酷いですよ、諏訪さん!」

 

諏訪の言い分にむぅと拗ねたような顔を浮かべて蓮川は抗議する。

 

蓮川蓮、B級昇格し、鷹原隊に入隊したばかりのニューフェイス。しかしながらその実態はA級スナイパーにも迫る変態的な技量と、グラスホッパー・テレポーターを活かした機動力を兼ね備える変態スナイパーである。

狙撃の心得を木崎レイジに教わり、グラスホッパーの使い方を緑川と猫葉から教わった。

そして彼女の特性を後押ししたのが趣味のパルクールとボルダリングである。生身でもとんでもない身体能力を誇る彼女はトリオン体になることで更なる地形踏破能力を手に入れたのだ。

そんな彼女の渾名は誰が付けたか“パルクール狙撃兵”である。

 

 

「不死身の社畜隊長」、「功名餓鬼なネコミミ」、「パルクール狙撃兵」、そんな色物な3人が集まった鷹原隊。

彼らの未来がどうなるのか、それはあのエリート隊員にさえも分からない。

 

 

 

 





何か感想がありましたらよろしくお願いします。
作者が小躍りして喜びます。

…続く、のかなぁ…?



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人物紹介

職業=ボーダー隊員な社畜と功名餓鬼、時々JKのボーダー生活日誌の登場人物紹介です。

メンバーのトリガー構成に疑問がありましたら気軽にご質問ください。

ではどうぞ↓


・鷹原隊

鷹原 啓(オールラウンダー)

猫葉 澪(アタッカー)

蓮川 蓮(スナイパー)

二条 慧(オペレーター)

 

…B級3位に位置する部隊で、前シーズンまでは戦闘員は鷹原と猫葉の二人だけであったが3ヶ月前にB級に昇格したスナイパーの蓮川蓮を加入させて手数を増やすことに成功した。

前まではA級にもっとも近いと言われていたが、二宮隊、影浦隊の降格により現在の位置に定着するようになった。

 

 

隊長:鷹原 啓(タカハラ ヒロシ)

ボーダーB級部隊の隊長。変人ばかりの部隊に染まりきり感覚が麻痺ってきている一方で書類仕事をきっちりこなす社畜系隊長。

メイントリガー

・アイビス

・メテオラ

・ハウンド

・シールド

 

サブトリガー

・レイガスト

・エスクード

・スパイダー

 

 

…ボーダー隊員歴四年弱のベテラン勢。四年前の大規模進攻の直後にボーダーに入隊した。

生き残ることを前提にした守備的な動きを得意とする隊員。正面からの撃ち合いの為にアイビスを片手で持ってブッパしてくる。本人はガンナー寄りのオールラウンダーだと言い張っている。

エスクードやスパイダーで陣地を形成し、アイビスや、メテオラ等をブッパしていくスタイル。ランク戦での役割は相手チームのエースやキーパーソンを完全にマークして味方を自由にさせる楔役を担当している。

22歳で職業はボーダー隊員。大学には進学せず、そのままボーダー永久就職を敢行した人物。

「功名餓鬼なネコミミ」、「パルクール狙撃兵」という2人の隊員の力を十全に発揮できるように日々頭を抱えている。

朝起きて牛乳のんで朝メシ食って牛乳のんで体操して出撃して昼メシ食って牛乳のんで出撃して晩メシ食って牛乳のんで出撃してシャワー浴びて寝るという毎日を送っている。

 

身長187cm

好きなもの…仕事、トレーニング、牛乳

嫌いなもの…仕事をしないこと

 

 

 

「功名餓鬼なネコミミ」

隊員①:猫葉 澪(ネコバ ミオ)

隊長と周りから「功名餓鬼」と渾名されたバーサーカー的な少女。

 

メイントリガー

・スコーピオン

・シールド

・グラスホッパー

・メテオラ

 

サブトリガー

・スコーピオン

・シールド

・バックワーム

・グラスホッパー

 

…近接戦を志向する高機動タイプのアタッカー。一応隊長の鷹原とは同期の間柄である。

普段着は猫耳パーカーを被り、顔を隠すお面をつけている。

そのためか彼女の素顔を知っている者はボーダー内でも極一部である。

いつもダボダボで袖の余っている服を着て、ネコミミフードを被っている。背の高さは黒江双葉と変わらないくらいに低いが一応義務教育は終えているらしい。この人もまた職業ボーダー隊員である。

トリオン体でも猫耳フードを被り、顔をお面で隠し、余った袖をいつもぶらぶらさせている。

手元の見えない状態からスコーピオンでの奇襲が得意技。

キャラ付けの為なのか、はたまたただの道化なのか、語尾は「~にゃ」など猫っぽい振る舞いを見せる。

普段は隊室の炬燵に入ってごろごろしているか、他の隊員達と模擬戦をするなどして過ごしている。

昔、堤や太刀川と言ったメンバー達と話しているところを加古に捕まり炒飯を食べさせられたことがあるが、運よくまともな炒飯にありつけた。しかし2度目の加古炒飯“イカ刺しイチゴジャム炒飯”によって敢えなく死んだ。

 

給料出来高制のB級であるがゆえに、防衛任務に出た際は誰よりもネイバーをしばきに掛かる。そして殺す。

 

身長143cm

好きなもの…ランク戦、ボーダーの皆、抱きつくこと、お昼寝

嫌いなもの…お面の下を見られること

 

 

 

「パルクール狙撃兵」

隊員②:蓮川 蓮(ハスカワ レン)

逆から呼んでもハスカワレンになる。両親はどんな気持ちでこの名前を付けたのだろうか。

 

メイントリガー

・アイビス

・イーグレット

・スコーピオン

・グラスホッパー

 

サブトリガー

・テレポーター

・バックワーム

 

…趣味はパルクールとボルダリングというアクティブな高校1年生の女の子。

鷹原隊には加入というか、B級に昇格してからまだ3ヶ月しか経っていない。

狙撃の師匠は木崎レイジさん。スナイパーの癖にグラスホッパーとテレポーターをセットしている高機動タイプのスナイパーでよく動く。グラスホッパーでの高速機動中でも狙撃をしてくる変態的な腕前を持つ。

模擬戦でアクロバティック狙撃を何度も決めており、グラスホッパーに憧れるC級隊員が増えているとかいないとか。また、メテオラを装備し、作戦次第ではグラスホッパーからの爆撃を行うこともある。

師匠木崎に惚れており、現在はパーフェクトオールラウンダーを目指してブレードトリガーも練習中。晴れてパーフェクトオールラウンダーになれた暁には告白しようと考えている。

高校卒業後は進学ではなくボーダーへの就職を希望している。

尊敬する人物は木崎レイジとシモ・ハユハ。

 

身長167cm

好きなもの…木崎レイジ、トレーニング、音楽を聞くこと(ロック、メタル等)

嫌いなもの…ヘビィメタルをヘビメタと略す人

 

 

 

オペ子:二条 慧(ニジョウ ケイ)

…変人達の巣窟、鷹原隊のメンバーの中で唯一普通の女の子。ボーダー提携の普通校に通う高校2年生。

社畜と名高い鷹原と功名餓鬼と呼ばれていた猫葉二人がコンビを組む鷹原隊の2代目オペレーターを引き受けた優しい人。

鷹原達が2代目オペレーターを探していた時に、皆が避けていた勧誘を引き受けたのが始まりである。

 

今では鷹原隊のオカンのような立場になりつつある。隊室で一晩明かした猫葉に朝食を与えたり、事務仕事中に寝落ちした鷹原を起こして栄養剤を服用させたり、蓮川に勉強を教えたりと、防衛任務の時よりも普段の方が充実している。

 

身長154cm

好きなもの…鷹原隊、料理、甘いもの

嫌いなもの…だらしないときの鷹原隊長、迅のセクハラ

 

 

 





こんな感じです。



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第2話 鷹原隊の普段の光景


第2話が出来ました。

これからもこの文字数を維持出来ればいいんですが…。

では本編をどうぞ↓


──グーテンモーゲーン グーテンモーゲーン グーテ──

 

「……朝、か…。」

 

目覚まし時計を止めた鷹原はそのまま布団から起き上がるとごりごりと首を鳴らし、冷蔵庫を開ける。

そして中に入っていた牛乳瓶の中味を一気に飲み干した。

 

「さて、今日も1日働きますか。」

 

周りから社畜と呼ばれる鷹原の朝は早い。

朝日が顔を出すかどうかという時間に起きてまず牛乳を一瓶空ける。

それからいつもの朝食を摂る。もちろん飲み物は牛乳一瓶だ。

起きてから朝食までの間で既に牛乳二瓶を空けている。

 

そして二瓶目の牛乳を飲み干した後は体操という名のハードなガチトレーニングを行い、ランニングがてら走ってボーダー本部に向かう。

 

 

 

「おはよーさん。」

 

「おはようだにゃ!」

 

隊室では既にいた猫葉がもきゅもきゅとリンゴサラダを頬張っていた。

一口大にカットされたリンゴをフォークで刺して口に運んでいる。もちろんその時もお面は外していない。

食べる時にはお面を口元から離して顎とお面の間に出来た隙間からフォークを入れてリンゴを食べていく。

 

もちろん年中袖を余らせた服を来ている猫葉に料理が出来るわけはない。

鷹原が隊室に入ってから少しして、奥に備えられているキッチンから慧が顔を出した。

学校の制服の上からシンプルなエプロンを巻いた彼女は鷹原の顔を見ると“おはようございます”と挨拶してまたキッチンに引っ込んでいく。

 

そして暫くしてからトタタタとエプロンを外した慧が駆ける。

 

「すいません、学校に行ってきます!」

 

「おう、行ってこい。」

 

「また放課後に会おうにゃ~。」

 

慌てた様子で隊室から出ていった慧を見送った二人はふぅと一息入れる。

そして猫葉が残りのリンゴサラダを食べ終えて立ち上がる。

 

「にゃにゃ~、ごちそうさまにゃ。」

 

「うっし、出撃だ。」

 

「にゃ~!」

 

腹ごしらえもおわった二人は意気揚々と仕事場まで歩いて行った。

 

 

 

「待たせたな。」

 

「にゃにゃ~!」

 

警戒区域の一角に着いた二人は既にそこで待機していた人物達に声を掛ける。

 

「来た来た!」

 

「お疲れさまです!」

 

そこにいたのはB級部隊、柿崎隊の3人であった。

挨拶を交わしていると柿崎隊のオペレーターの宇井からも通信が入る。

 

『おはようございます、鷹原さん、猫葉さん。』

 

「あい、おはよう。ごめんね宇井ちゃん、うちのオペレートまで任せちゃって。」

 

『大丈夫ですよ、慧さんの分まで任せてください。』

 

通信越しに笑う宇井に鷹原は“ええ子やぁ”と感心の声を漏らした。

そも、なぜこの場に鷹原隊の蓮川とオペレーターの慧が不在かと言うと、それが鷹原隊の方針だからという理由だ。

多くのボーダーの隊員達は学生であり、学校に通いながらボーダー隊員としての業務を行う。基本的に彼らはボーダー提携学校に通い、防衛任務があるなら学校を早退・公欠、遅刻が認められる。

がしかし、社畜と功名餓鬼はそれを良しとしなかった。

“学生なら学生としての務めを果たしなさい。それに学生の時にしか得られない物もあるんだから“とまだ学生の蓮川と慧に言い渡し、平日朝から昼までの防衛任務に基本的には参加させないようにしたのだ。もちろん、非常事態やランク戦などの例外はあるが。

故に鷹原隊のJK二人組の防衛任務は放課後の夕方と土日に限られている。

 

そのため、オペレーター不在の平日昼間の防衛任務の際はこうして合同で任務にあたる部隊のオペレーターに頼むことになるのである。

 

 

『…来ます。誘導誤差0.76!』

 

暫しの雑談を交わしていると、オペレーターの宇井がアラートを鳴らす。

するとその直後に黒い穴が空間に開き、その中から大量のトリオン兵が現れる。

 

「来たにゃ来たにゃ!手柄だにゃ!!」

 

「モールモッド、バムスターの存在を確認!交戦を開始する。」

 

トリオン兵を視認した鷹原と猫葉は即座に戦闘態勢に入る。鷹原はアイビスを取り出す。そして猫葉は左右の袖から猫の爪のようにそれぞれ3本のブレードが飛び出した。

 

「柿崎!そっちは任せた!」

 

「オッケーです!」

 

鷹原隊と柿崎隊はそれぞれトリオン兵の群れにあたる為に左右に別れる。

 

 

「ネコ!フォローはしてやるから好きに突っ込め!」

 

「言われなくてもだにゃ!」

 

アイビスでバムスターの頭を吹っ飛ばしながら鷹原は指示を出す。その指示に猫葉はいつものように笑いながらモールモッドの群れに突っ込んでいく。

 

「ニャハッ!にゃっはらにゃ~!」

 

目の前にいるモールモッドが爪を振り下ろすと、猫葉はそれをひらりと避け、左の爪スコーピオンでモールモッドの眼に3本の傷を与えて活動を停止させ、返す刀で後ろにいたモールモッドを右手のブレードで縦に切り裂いた。

そして着地と同時にその切り裂いたモールモッドを踏み台にして飛び込み、飛び込み先にいたモールモッドを切り裂く。

 

「ニャッハッハ! その首置いてくにゃ!」

 

『…モールモッドに、首…?』

 

通信で猫葉の言葉を聞いていた宇井が首を傾げた。

 

 

 

「討ち漏らしか?らしくねぇぞ。」

 

猫葉よりも後ろでバムスターにアイビスを撃ち込んでいた鷹原のもとにモールモッドが駆け、明らかにその爪は鷹原を狙っていた。

しかし、その爪は鷹原に届かない。

 

モールモッドが鷹原に襲い掛かる直前に地面から迫り出してその体をかち上げ、自由を奪う。

そして鷹原はすかさず剥き出しの眼にアイビスの銃口を突き付ける。

 

「長い銃身にはこういう使い道もあるんだぜ!」

 

言うが早いか鷹原はアイビスの引き鉄を引いて止めを刺した。

そして衝撃でモールモッドの体がずり落ちるとエスクードの上に乗って砲撃を再開する。

 

 

 

『反応なし、終わりました。』

 

付近に沸いて出るトリオン兵を一掃すると宇井がそう通達した。

すると鷹原は武装を解除して近くの瓦礫に座り込んだ。

 

「おけ、じゃあ回収班を呼んでくれ。それと、今回はありがとう、オレらのオペレートは誰もやりたがらないからさぁ。」

 

『あはは、確かに大変でしたけど…、まぁ、嫌じゃないですよ。』

 

自虐気味に呟く鷹原の言葉に宇井は小さく笑いながら返す。その最中、猫葉は柿崎の背中に乗ったり、巴の背中に抱きついたりしていた。

 

「ニャハハハハハ、ザキさんの背中は落ち着くにゃ~。」

 

「お、おい、降りろ!」

 

「じゃあ、コタにゃんの背中で我慢するにゃ!」

 

「うわっ、ちょっと猫葉センパイ!?」

 

柿崎に注意された猫葉はそのままピョンと巴の背中に跳び移る。

跳び移られた巴は──猫葉が軽いことと、巴がトリオン体であるために体勢を崩すことはないが──その隊服に埋もれていた小山を押し当てられて軽く戸惑っていた。

ボーダー隊員と言ってもやはり男の子である。色々と巴の思春期少年のアレがアレしてしまいそうになる直前に鷹原が猫葉の首根っこを掴んで引き剥がす。

 

「さっさと帰るぞ。まだ午後の防衛任務が残ってんだ。」

 

「そうだったにゃ~。お昼ご飯は何にしようかにゃ~。」

 

首根っこを捕まれてぷらーんぷらんしながら連れてかれていく猫葉とそれを持っていく鷹原達を見送った柿崎隊の巴と照屋は呆気にとられていた。

 

「…本職は防衛任務だって公言するだけありますね、やっぱり…。チームランク戦とはまた、違ったプレッシャーというか…。」

 

「………。」

 

照屋の感想に“まぁそうだな”と曖昧に柿崎は返す。

そうして帰路に着く柿崎隊であったが、その日巴は終始無言であった。

 

午前の鷹原隊の戦果は実に柿崎隊の2倍であったという。

 

 

 

「いただきます。」

 

「いただきますにゃ。」

 

ところ変わってボーダー本部の食堂では鷹原と猫葉が昼食を摂っていた。

鷹原の選んだのは日替り定食、今日は生姜焼きのようだ。もちろんその横には牛乳瓶。当たり前のように置かれている。これで本日3瓶目である。

猫葉チョイスは焼き魚定食である。余り袖で器用に箸を握り、細かな小骨もしっかり取り除いて食べていく。もちろんお面は着けたままだ。

 

「ふにゃ!」

 

ご飯の最中、猫葉が何かを察知したかのように跳ねてテーブルの下に隠れた。

すると暫くして加古隊隊長の加古望が鷹原達のテーブルに来た。

 

「どうも鷹原さん。澪ちゃんを探してるんですけど。」

 

相も変わらずセレブ感溢れるオーラを放つ彼女の質問にテーブル下の猫葉はビクビク震える。

 

「どしたの加古ちゃん。ネコならいないよ。」

 

「そう…、新しい炒飯のレシピが思い浮かんだから試食してもらおうと思ってたのに…。」

 

「そ、そうか…。今さっき堤を見掛けたから、そっちに行ったらどうだ?」

 

「そうですね。ありがとうございました。お食事中お邪魔してごめんない。それじゃまた任務の時に。」

 

モデルのように整った体と綺麗な長髪を翻して加古は去っていく。鷹原はこれから犠牲になるであろう堤に心の中で合掌しつつ、加古の背中を見送った。

そして完全に加古が見えなくなったことを確認した鷹原が足元を爪先で軽く2回叩いた。

 

「…もう行ったぞ。」

 

「ふにゃ、助かったにゃ…。」

 

震える声でお礼を述べながら猫葉はテーブルの下から這い出てくる。

猫葉はかつて加古望の創作炒飯の外れレシピ、通称“加古炒飯”の餌食となった一人である。因みにその時のレシピは「イカ刺しイチゴジャム炒飯」である。

 

それ以来猫葉は加古の気配に対して敏感であり、特に新しい炒飯を思い付いた時の気配が分かるらしく、その反応は戦闘時と同等かそれ以上の反応を見せるようになった。

 

曰く、「死の気配が近付いてくるにゃ」らしい。

 

 

 

『昼間いなかった分はちゃんと取り返します!』

 

「同じくです!」

 

昼間の任務もしっかりこなし、今は夕方…どちらかというと晩に近い時間帯。学生組の蓮川と慧が合流した鷹原隊はまたもや防衛任務に出ていた。

鷹原と猫葉は今日3度目の防衛任務である。

 

今回も同じように開いたゲートに突っ込んではトリオン兵をフルボッコにしていく。

 

 

「ネコ!右に流れたモールモッド全部お前に任せる! 蓮、お前は奥のバムスターの群れをやれ。オレはバンダーをやる!」

 

「了解にゃ!」

 

「了解です!」

 

鷹原の指示によって3人はその場から急いで行動を開始する。

 

猫葉はいつものように左右から爪スコーピオンを生やしモールモッドの群れの中を駆け抜けていく。

そして彼女の通った後では複数のモールモッド達が眼からトリオンを吹き出して活動を止める。

 

 

「決めます!」

 

グラスホッパーを巧みに駆使して高度を保ちながらバムスターの装甲を撃ち抜いて眼に止めを刺していた蓮川は残りが1体であることを確認すると、イーグレットをしまう。

そしてその残りの1体に視線を向けた次の瞬間、数十メートルは離れていた蓮川とバムスターの距離はなくなっていた。

 

「そこです!」

 

蓮川が右手に握ったスコーピオンでバムスターの眼を切り裂いた。

バムスターは切り裂かれた傷から夥しい量のトリオンを噴出し、その巨体を崩した。

 

 

「蓮ナーイス!」

 

横目で蓮川の行動を見守っていた鷹原が最後の1体に止めを刺した。

周りにはこれでもかと言うほどのトリオン兵の残骸が横たわっている。

 

「ニャハハハハハ、一杯倒せたにゃ!これで懐も暖まるにゃ~。」

 

「ろくに金使わん奴が何言ってんだ。」

 

「使わないんじゃないにゃ!必要な時に備えてるだけにゃ。」

 

鷹原の言葉に猫葉は右手の袖をブンブンと回して抗議する。そんな彼女のジェスチャーに鷹原は“はいはい…。”と受け流すことにした。

そうやって二人が会話を交わしていると、建物と建物の間を使って軽やかに蓮川が跳んできた。

 

「お疲れさまです。」

 

「おう、お疲れさん。スコーピオンの扱いも上手くなったな。」

 

「ありがとうございます!これも師匠の歌川さんのお陰です!」

 

鷹原に誉められた蓮川はビシッと敬礼する。

そんな彼女を見て猫葉は小さく笑う。

 

「これなら6月のランク戦が楽しみだにゃ!今度こそカゲにゃんに勝ってみせるにゃ!」

 

「はい!私も2回目のシーズンなので、前回よりももっと活躍します!」

 

「ま、そうだな。そろそろ万年3位部隊からは卒業したいところだ。その為にも蓮、お前に働いてもらうからな。前シーズンは最後の2試合しか出さなかったが、今回からはフルで出てもらう。」

 

「お任せください!この蓮川蓮、粉骨砕身、全弾命中、一撃必殺の覚悟でやらせていただきます!」

 

「頼もしい限りだにゃ!」

 

張り切って笑顔を見せる蓮川の背中に猫葉が飛び乗る。蓮川は慣れているのか猫葉を背負ったままピョンピョン跳び跳ねる。

 

「もちろん、慧にも頑張ってもらうぞ。」

 

『はい!私も頑張りますよー!』

 

通信越しで顔は見えないが、彼女の声は弾んでいた。

彼女もまた、ランク戦を楽しみにしているのだろう。

 

そうやって軽い雑談を交わしながら時間を潰し、交代の時間まで彼ら鷹原隊は警戒区域内の担当区画を巡回した。

 

 

夜になれば鷹原が学生の蓮川と慧を家まで送り届け、猫葉はまだ本部でランク戦をしている正隊員に勝負を吹っ掛けていく。

二人を送ってきた鷹原が隊室で書類仕事に取り掛かると、ランク戦を終えて帰って来た猫葉が炬燵に入ってすやすやと寝息をたてる。

 

 

コレがいつもの鷹原隊の光景である。

 

 

 





人物紹介

鷹原啓
…隊員達からはヒロさん、タカさん、鷹原などと呼ばれている。好きなものは牛乳と防衛任務で、よくA級の風間が任務やトレーニング終わりに鷹原隊の隊室に来ては鷹原と牛乳を飲む姿が目撃されている。

これからはちょくちょく後書きか前書きに人物の紹介を挟んでいきたいと思います。
この作品だけの設定とかもたぶん盛り込まれる予定なので。

ではまた次回にお会いしましょう。ノシ



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第3話 特別任務をもらった鷹原隊


時間軸を一気に吹っ飛ばして原作の時間軸に突入します。

では本編をどうぞ↓


「よく来てくれた鷹原隊の諸君。」

 

もう4月も過ぎ去り5月の頭、春の装いが強くなってきた三門市にあるボーダーのとある部屋の中に響くのはボーダー最高司令である城戸の落ち着いた声である。

そしてその言葉を掛けられているのは鷹原隊の四人であった。

 

今年1回目のチームランク戦を終えてまたもやB級3位の位置に落ち着き、次のランク戦でも3位スタートが確定した鷹原隊の面々は、何故か上層部に呼び出しを食らっていたのだ。

呼び出された本人達には何も心当たりがなく、何か気付かない内にやらかしてしまったのだろうかと首をひねっていた。

 

「今回呼び出したのは、最近発生しているイレギュラーゲートについてだ。君らも話に聞いていると思う。」

 

城戸に代わって口を開いたのは忍田本部長だ。

忍田の言葉に鷹原は首を縦に振る。

 

「最近警戒区域外で発生しているゲートですよね? 今までは運よく非番の隊員が付近にいたから大事には至っていないと聞いていますが…。」

 

「ああそうだ。今までは運が良かっただけだ。このままではいつか市民に被害が及ぶかもしれない。」

 

そう語る忍田の表情は真剣そのものだった。

市民の無事と街の平和を第一に考える彼からすれば今回の事態は気が気でないのだろう。

 

「そこでだ、君たち鷹原隊の四人には特別防衛任務を行ってもらう。」

 

「特別防衛任務…ですか…?」

 

蓮川がポツリと漏らした疑問に忍田は小さく頷いた。

 

「通常の防衛任務の代わりに、市内の巡回を行ってもらう。もしも市内でゲートが開いた場合、即刻対処にあたってくれ。」

 

「了解しました。鷹原隊4名、その任務を遂行いたします。ただ…。」

 

「分かっている。蓮川隊員と二条隊員の件については他の隊員でどうにかする。」

 

「申し訳ありません。助かります。」

 

忍田の気遣いに鷹原は頭を下げた。

もちろん本部長である忍田は鷹原隊の方針は知っているし、他の隊員にも非常時でなければ学業の方にも力を入れてほしいと思っている。特に自分の弟子やその周辺の人間には。

それになにより、鷹原隊の鷹原、猫葉の二人だけであっても任務に支障はないと判断したのも大きい。

1日3度の防衛任務に出ながら傷一つ追わない鷹原と、機動力が高く街中でもその実力を十分に発揮できる猫葉の二人を信用しているのだ。

 

 

「それでは特別任務の件、よろしく頼む。」

 

「はい。」

 

それから説明を受け、二言三言言葉を交わすと鷹原隊の面々は退室した。

 

 

「き、ききき、緊張しました~。」

 

「お、同じく、です…。」

 

退室すると蓮川と慧がその場にへたり込みそうになる。そんな二人を猫葉が背中を押して支えてやる。

 

「無理もないにゃ。」

 

「まぁ、呼び出されて入った部屋に幹部勢揃いだもんな…、しゃあない。」

 

足が生まれたての小鹿のようになっている二人を見て、猫葉と鷹原は同情の眼を向ける。

それもそうだ。一般的な隊員からすれば城戸司令や忍田本部長を始めとした幹部に会う機会などそうそうない。

況してや正面で顔を合わせるのは強面の城戸司令、まだ慣れていない中学・高校生にはやや刺激が強い。

 

「まぁ、特別任務もいつも通りだ。蓮と慧は昼間は学校、合流は放課後からだ。」

 

「「はい。」」

 

鷹原の言葉に二人は頷く。

返答を聞いた鷹原は頷くと「トリガー構成いじるかな~。」と呟きながら隊室へと戻っていき、猫葉もその後ろをとてとてと着いていく。

 

 

 

「そぉい!」

 

「うおっ!?」

 

トリガー構成をいじった鷹原はランク戦ルームにてやんちゃしていた。

警戒区域外、それも市街地でメテオラやアイビスをぶっぱなそうものなら始末書行きも有り得るのだ。

それゆえ鷹原はいつものトリガー構成からアイビスとメテオラの2つを外し、今はスラスターとアステロイドを入れて試運転をしていたのである。

 

その犠牲者は運悪くランク戦ルームに来てしまっていたアタッカー諸君だ。

もともと鷹原はレイガストを盾代わりに使う防御寄りのシューター・ガンナーである。

それゆえにアイビスとメテオラを取り上げられようが基本の立ち回りは変わらない。

 

鷹原のチームランク戦での役割は相手エースやキーパーソンの足止めが主である。

そこにはアタッカーランクトップ10に入る村上と生駒や影浦、王子と言った変則的なアタッカーに個人総合2位の二宮やなどの一癖も二癖もある面々もいる。

それらを抑えながら時にはアタッカーの距離で渡り合ってきたこの男にとってアタッカー用トリガーの間合いもまた自分の間合い、それに何度も見てきた動きである。

 

 

「そこだぁ!!」

 

「くそっ!」

 

鷹原は笹森の弧月をレイガストで受け止めるとスラスターを起動させ無理矢理壁際まで押し込む。

 

「アステロイド!」

 

無理矢理壁に押さえつけると、そのまま笹森の心臓に向かって特大のトリオン弾をぶっぱなす。

ゼロ距離での一撃に笹森もフルガードで対応するが鷹原の弾丸はそのシールドを撃ち抜いて笹森のトリオン体を貫いた。

致命傷を受けた笹森のトリオン体は爆発四散、勝ったのは鷹原である。

 

 

「うん、慣れてきた。」

 

ひとしきり模擬戦を終えると、何度もログを見返して鷹原は満足げに頷いた。

その近くでは鷹原の調整に付き合わされたアタッカー達がいる。

 

「なんか、ごめんよ。今度焼肉奢るからさ。」

 

「「ゴチになりまーす。」」

 

その中で付き合わされた米屋と緑川は顔を上げて手を合わせる。それに釣られて巴や笹森、奧寺に小荒井、三浦らも遠慮がちに頭を下げた。

 

 

 

「やっぱり冬は炬燵だにゃ~。」

 

「だよな~。」

 

B級2位影浦隊の隊室で猫葉は影浦隊オペレーターの仁礼と一緒に炬燵に入って寝転んでいる。

そうしてゴロゴロとしていると隊室のドアが開き、二人組の男が入ってきた。

 

「ああ?! 猫ヤローまた来てんのかよ。」

 

「おぉ、猫葉ちゃん、いらっしゃい。」

 

「にゃにゃ、お邪魔してるにゃ。」

 

入ってきた──と言うよりも帰って来たと言った方が良いが──のは影浦隊隊長の影浦雅人とガンナーの北添尋である。

猫葉が隊室を訪ねてくることは影浦隊にとってはもはや日常茶飯事であり、見慣れた光景だ。

こうして他の隊員が彼女を迎えるなか、影浦が猫葉を見て何かを言うのも一つのお約束となっている。

 

「ニャハハ、カゲにゃんもそんなに怒んないでほしいにゃ。」

 

「その呼び方は止めろ。」

 

「にゃ~、そんなこと言わないでほしいにゃ…。」

 

炬燵から出て項垂れる猫葉を見て影浦はガシガシとそのボサボサ頭を掻くと猫葉から視線を外して“好きにしやがれ”と小さく呟いた。

その言葉に機嫌をよくした猫葉はその場から跳ねて影浦の背中に飛び乗る。

 

「にゃ~、やったにゃ。カゲにゃんが許可してくれたにゃ。」

 

「離れろ!引っ付くのまでは許可してねぇ!」

 

影浦は背中に手を回して猫葉の首根っこの辺りを掴むと半ば強引に引き剥がした。首根っこを捕まれた猫葉は影浦に捕まれてぷらーんとしている。

 

「ゾエ!」

 

「はいはい。」

 

北添は影浦が乱暴に放り投げた猫葉を柔らかい体で受け止める。

 

「にゃ~、ゾエにゃんのお腹は暖かいにゃ。」

 

「あはは。」

 

北添が猫を抱き抱えるように彼女を抱っこしてあやしていると、やがて猫葉はそのまま静かな寝息を立て始め、北添の腕の中ですやすやと眠り始めた。

 

「猫葉ちゃん、寝ちゃったね。」

 

「そのままタカさん所に連れてけよ。うちの隊室で寝られても面倒だ。」

 

「分かってるよ。じゃあ行ってくるね。」

 

北添は猫葉を起こさないように優しく抱えたまま、鷹原隊の隊室に向かう。

その道中、他の隊員に見つかるが“まぁ猫葉だからな”と皆が口にした。

 

 

 

「…そうでした、歌川さんはいないんでした…。」

 

俯きながら蓮川はとぼとぼと廊下を歩く。

彼女のスコーピオンの師匠である歌川はとある事情で留守にしている。

ネイバーフッド遠征でこちらの世界を出ているからだ。

 

早くパーフェクトオールラウンダーになりたい蓮川は修業熱心である。

任務無しの日はもちろんのこと、任務終わりにだって歌川のもとを訪れては一対一の稽古をつけてもらっている。

ここ最近は歌川が遠征で留守にしているため、他のスコーピオン使いをあたっていたが、今日はうっかりその事を失念していたのだ。

 

「どうしようかな…。緑川くんは感覚で話すから分かりにくいし、風間さんも菊地原さんもいないし、影浦さんは怖いし、加古さんには近寄るなって言われてるし、香取さんは教えてくれないし、王子さんは今日は無理って言ってたし、嵐山さんや木虎さん、時枝さんは今は忙しいだろうし…。あれぇ? 誰もいない?!」

 

ブツブツとスコーピオンを使う隊員の顔を思い浮かべていくと、そこに教えてもらえる人物が見当たらないことに蓮川は驚愕した。

そして今日はスコーピオンは無理だと悟った彼女は小さく溜め息を吐きながら個人ランク戦ルームに足を向けた。

 

 

 

 





近接戦アイビスという個性を取っ払った鷹原隊長、アレ? 修とほぼ一緒のトリガー構成になったぞ?
ていうか、修じゃね?
と言うことに気付いた。
レイガストを盾にするシューターだからね、仕方ないね。


人物紹介

猫葉 澪
…鷹原隊のアタッカーでエース。蓮川入隊前の鷹原隊は基本的に鷹原が厄介なのを止めてる内に猫葉がポイントを刈り取るスタイルだった。
特に好きなものはランク戦と人に抱きつくこと。
スコーピオンとグラスホッパーを使った機動戦が得意。
色んな人に抱きついている。
お気に入りは北添と柿崎、巴、国近、三上らしい。
パーカーで分かりにくいが胸はそこそこある模様。



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第4話 三雲修という隊員


原作に本格突入ですよ。

え?鷹原隊の夏と冬のランク戦はって?
それは後に書く予定です。はい。
書きますとも。

では本編をどうぞ↓


特別任務を与えられた鷹原と猫葉は今日も今日とて市街地に繰り出していた。

それなりに背の高い鷹原と、ネコミミフード+お面のロリ体型な猫葉のコンビは遠巻きに視線を集めていた。

 

それに気付かないほど二人は鈍感ではなく、特別任務初日からこの視線に居心地の悪さを感じていた。

 

 

「……トリオン体になろっかな…。ボーダー隊員だって分かってくれればたぶんこの視線もなんとかなるよな?」

 

「戦闘じゃないんにゃから視線くらい我慢するにゃ。」

 

苦笑いを浮かべる鷹原に、隣でオレンジジュースを飲んでいた猫葉が返す。

視線の原因をほぼ一手に担っている猫葉の言葉に鷹原は“あぁそうかい”と取り出しかけていたトリガーをポケットに戻した。

 

その時だった。

二人の歩く道が急に曇ったように薄暗くなる。

二人が異変を感じて見上げるとそこにはネイバー達の出てくるゲートが発生していた。

 

「来たな。ネコ!」

 

「分かってるにゃ!」

 

「「トリガー、オンッ!!」」

 

二人は直ぐ様トリガーを取り出し、戦闘体へと換装する。

そして猫葉は即座にゲートの開いた場所へと駆ける。

 

「ネイバーは我々ボーダーが対処します!市民の皆さんは急いで避難してください!」

 

よく通る大きな鷹原の声によってその場にいた人達ははっと我に返って一目散に逃げ出した。

 

「綾辻ちゃん、こっちにトリオン兵出現、そっちはどうだ?」

 

『いえ、こちらの区画はまだ何も反応ありません。今隊員をそちらに向かわせます。』

 

「了解した。」

 

『鷹原さん!!』

 

目の前のトリオン兵に眼を向けて通信を切ろうとした鷹原の耳に通信が入る。

 

『大変です、三門市立中学校でゲート発生!トリオン兵が出現しました!』

 

「近くに隊員は!?」

 

『一番近いのは鷹原隊、次いで嵐山隊です!』

 

「分かったオレが向かう。ネコ!聞いてたな!!」

 

通信しながら鷹原はトリオン兵相手に無双している猫葉に問う。

 

「聞いてたにゃ。さっさと行くにゃ!」

 

「任せた!」

 

猫葉の言葉に鷹原は急いでその場を後にして三門市立中学校へと駆ける。

近隣に誰もボーダー隊員がいない場所でのトリオン兵襲撃、それが意味するのは民間人への被害である。

鷹原は頭の中に思い浮かぶ最悪のビジョンを振り払って走った。

 

 

 

「見えた!」

 

鷹原が現場に到着するとまず最初に校舎の外壁をよじ登るモールモッドの姿が見えた。

そして彼が駆けつけると同時に2つあったはずのトリオン兵の反応が消える。一瞬それに意識を持っていかれそうになった鷹原であったが今はそれどころではない。

すかさずそのモールモッドに向けて走り出す。

 

「エスクード!」

 

鷹原が左足を打ち付けると校舎の壁からボーダーのエンブレムが描かれた壁が突き出し、モールモッドの体を吹き飛ばす。

 

「スラスターオン!!」

 

そして鷹原は吹き飛ばされて仰向けに倒れたモールモッドに向けてレイガストを振り下ろして両断した。

モールモッドは切られた場所から大量のトリオンを吹き出して事切れる。

 

「綾辻、トリオン兵の撃退は終わった。追加もたぶんない。」

 

『了解しました。さすが鷹原さんです。猫葉さんの方も片付いたみたいですし、今嵐山さん達もそちらに向かっています。』

 

「ああ、それでよ。この付近にボーダー隊員は非番の隊員を含めてもいなかったんだよな?」

 

『は、はい。本部の話ですと正隊員は誰も…。』

 

鷹原の質問に対して首を傾げる綾辻であったが、鷹原は返ってきた答えに困惑した。

そしてそれを解消しようと大穴の空いた場所から校舎に入る。

 

するとそこにいたのは二人の中学生と既に事切れたモールモッドだった。

そのうちの一人、眼鏡を掛けた方の少年はその背中に背の小さい白髪頭の少年を庇うように立ちながら、ひどく緊張した様子で鷹原を見る。

 

「…これは誰がやったんだ?」

 

鷹原の問いを受けて眼鏡の少年は緊張した面持ちのまま前に進み出る。

 

「…自分がやりました、C級隊員の三雲修です…。隊務規定違反だとは分かっていました。しかし緊急時、正隊員を待っていては間に合わないと判断したので…。」

 

眼鏡の少年が放った“C級隊員”の言葉に鷹原は驚いた。

C級隊員とは即ち訓練兵、正隊員のように戦闘用のトリガーを与えられておらず、性能の低い訓練用トリガーが与えられ、また訓練室以外でのトリガー使用が禁止されている。

 

こんな少年が性能の低い訓練用トリガーで戦闘用トリオン兵のモールモッドをこうも鮮やかに処理できるものなのかと、鷹原は素直に驚いていた。

背に小柄な少年を庇っているのは恐らく同級生を助けようとしていたのだろうと納得する。

 

「そうか、取り合えず現場調査と負傷者の確認をする。着いてきてくれ、三雲くん。」

 

「は、はい!」

 

倒れているモールモッドのブレードに血液が付いていないことに安堵した鷹原は現場を直接見ていた当事者の三雲修に現場調査の手伝いを頼んだところ、彼は動揺しながらも頷き、鷹原の後ろを着いていった。

 

 

死傷者ゼロ、不審なトリガー反応なし。調査の結果それが分かった。

先日、ボーダー本部近くの警戒区域内で、大型トリオン兵が粉々に粉砕され、所有者不明、未知のトリガーが使われた形跡のみが残るという事件があった。

そのため、現在の防衛任務では撃退したトリオン兵や現場の厳重な調査が求められるようになったのだ。

 

 

 

「センパイ凄いッス!」

 

「かっこよかった!」

 

調査を終え、生徒達の輪に戻っていった三雲は同級生や後輩たちに囲まれていた。

その様子を鷹原は校舎の壁に寄りかかりながら眺めている。

 

「鷹原さん!」

 

「ん? 嵐山か。」

 

そんな時、赤いジャージスタイルの隊服を来たA級5位、嵐山隊の3人が現場に到着した。

 

「お疲れ、一応死傷者はなし。現場からはボーダー以外のトリオン反応はなかったよ。」

 

「そうですか、よかった…。」

 

鷹原の死傷者なしの報告にほっと一息ついた嵐山は爽やかな笑顔になる。

いつ見ても爽やかボーイだと鷹原は感心する。

誰よりも熱いハートで平和を守りたいと思ってるから広報任務も任されているんだろうなぁと心の中で呟いた。

 

「流石ですね鷹原さん。自分達が着く前に終わらせて、しかも死傷者ゼロ…。」

 

「いや、オレは間に合ってなかったよ、たぶん…。」

 

木虎の言葉に鷹原は首を振る。その返答に疑問を抱いた3人が聞き返すと鷹原は生徒たちに囲まれている三雲を指差して説明した。

自分は間に合っていなかったであろうこと、そして三雲修というC級隊員が生徒たちを助け、2体いたモールモッドのうちの1体を処理してくれたことを。

 

「C級隊員…ですか。」

 

「……。」

 

鷹原の説明を受けた彼らは驚愕の表情で三雲に視線を向ける。

三雲もその視線に気付いたのか、神妙な面持ちで彼らに近づく。

 

「C級隊員の三雲修です。他の隊員の到着を待っていたら手遅れになると判断して、トリガーを使用しました。」

 

先ほど鷹原に言った規定違反だと理解しているという言葉の通り、三雲の顔色は優れなかった。

しかし、そんな三雲と違い報告を受けた嵐山は三雲の肩に手を置くと三雲に笑い掛ける。

 

「よくやってくれた。」

 

「…え…?」

 

三雲も予想外な答えが返ってきたことで困惑した表情で顔をあげる。

 

「鷹原さんの言っている通りなら君のお陰で死傷者はゼロだ。オレの弟と妹もこの学校に通っていてね。」

 

そう言った嵐山は視界の端に件の兄弟達を見つけると名前を呼びながら飛び付いた。

それを見た鷹原はあの重度なシスコンブラコンさえなけりゃパーフェクトな隊長さんなんだけどなぁと思ったとか思ってないとか。

 

「訓練用トリガーでモールモッドを倒すなんて、正隊員にもできる人は少ないぞ。」

 

「嵐山隊長、違反者を褒めるのはやめてください。」

 

妹弟に頬擦りしながらそう言う嵐山に木虎が苦言を呈する。

この場はこの二人に任せておけば良いかと思った鷹原はその横で暇そうにしている時枝と一緒に校舎内の調査を提案する。

 

「頼めるか?」

 

「勿論です。イレギュラーゲートの調査も任務の内ですから。」

 

「助かるよ。今度焼肉奢るわ。」

 

「ありがとうございます。最近オフがなかったので気分転換したかったんですよ。」

 

軽い雑談を挟みながら鷹原は時枝を連れて校舎内の調査に向かう。

トリガー反応の調査は出来ても、イレギュラーゲート発生の件に関しては複数人で調べた方が良いだろうという判断である。

 

 

「……鋭い一撃だな。訓練用トリガーでこれをやったってのは驚きだ。」

 

「確かに…、急所を一太刀ですか…。」

 

モールモッドが暴れた場所や現れた場所、モールモッド内部を調べても変わった所など発見できなかった彼らは改めて見るその傷跡に首を捻っていた。

 

「…なんで、こんな芸当出来る奴が今まで無名だったんだ? 彼には悪いけど、三雲修という隊員がC級にいることも、ましてやこんな芸当が出来るC級がいるとも聞いてない。」

 

「…言われてみれば。これだけのことが出来るなら入隊時に話題に上るはず…。少なくとも仮入隊の時からは…。」

 

「意図的に実力を隠していた…?」

 

「まさか! そんなことするメリットがありませんよ。話を聞く限り、正義感が強いみたいですし、わざわざC級に留まるなんて、よっぽどの理由がないと…。」

 

「そうなんだよなぁ…。」

 

尽きない疑問に二人はふーむと唸る。がこれ以上は推測でしかないと判断すると、回収班の到着を待つために嵐山達のいる場所へともどる。

 

が、しかし、そこでは木虎が何やら先ほどの白髪の少年と言い争っているようで場の空気は険悪な感じになっていた。

 

「木虎、何してんのさ。一般人相手に噛みつかない。」

 

「しかしですね、時枝先輩…。鷹原さんからも何か言ってください!」

 

「おう、せめて会話の流れくらい説明してから意見を求めてくれや。」

 

時枝に諌められても止まらずに納得していない様子の木虎は鷹原に話題を振る。この場は隊長の嵐山が納めるべき案件じゃないのかと鷹原は嵐山の方を見やるが、嵐山はここは年長が納めるべきでしょと言いたげな笑顔を向けている。

 

「まず何があったのか説明してくれよ。話はそっからだ。」

 

「それは──」

 

鷹原の言葉に木虎は言葉を紡ぐ。

木虎が三雲に対して隊務規定違反を犯したのだからとキツい言葉を掛けていたところ、空閑と名乗る例の白髪頭が間に乱入。

そこから口論がヒートアップして、そこに鷹原と時枝が戻ってきたのだ。

 

「なるほどね…。」

 

そこまで鷹原は顎に手を当てて考える。そして考えが纏まったのか、顎から手を離して頷くと真っ直ぐ三雲の方を向いた。

 

「三雲くん、今日はありがとう。助かったよ。」

 

鷹原は素直に例を述べた。その対応に木虎は驚いた顔を浮かべるが嵐山と時枝は“まぁそうだろうな”という顔になる。

 

「た、鷹原さん!?」

 

木虎は慌てたように鷹原へと詰め寄るが、そんな木虎を鷹原は“まぁまぁ”と宥める。

 

「落ち着けって。…確かに彼は隊務規定違反をした、けれども大勢の人を救ったんだ。違反した部分だけを見てバッドと切り捨てるのは勿体ないとオレは判断するよ。それに──」

 

バツが悪そうに頭を掻いて鷹原は言葉を続ける。

 

「もし三雲くんがいなかったら被害は校舎の破損だけじゃすまなかっただろうし、彼が隊務規定違反を犯したのも元を辿れば不甲斐ないオレたちの責任だ。三雲くんを責めるのは違うとオレは思うよ。」

 

「で、ですが…。」

 

「それに彼の処分を決めるのはオレたちじゃない。上だ。ここでいくら議論をしても何もならんよ。」

 

そう言って鷹原は背を向けてボーダー本部のある方へと足を向ける。

 

「嵐山、今から報告しに行かなきゃない。着いてきてくれ。三雲くんのことも口添えしなきゃならんしな。」

 

「はい!」

 

嵐山は嬉々として鷹原の後を着いていこうとする。

そんな二人の前に白髪の空閑という少年が立つ。

 

「あんた凄いね。本心からそう言うことが言えるんだ。」

 

「…オレは社畜だからな。上から任された仕事の尻拭いを下にやらせるのは社畜としてのオレの流儀に悖るのさ。」

 

「ほうほう、シャチク…。なるほどなるほど。」

 

白髪の少年はふむふむと納得した様子で頷くと「呼び止めて悪かったね」と一言謝って道を開ける。

不思議な少年だと思いながらも今は上にどう説明しようかということを考えていた鷹原は少年のことを頭の片隅に追いやって本部に向かったのだった。

 

 

 





簡単に納得する鷹原隊長、マジチョロですわ。


人物紹介

蓮川蓮
…上から読んでも下から読んでも蓮川蓮。
スナイパーとして入隊。入隊式のスナイパーの訓練説明中に彼女の腕前を見た鷹原が勧誘。師匠として後に想い人となる木崎レイジを紹介される。
そしてB級に昇格を果たした彼女はスナイパーという枠に囚われることなくグラスホッパーとテレポーターを迷うことなくセットした。
スコーピオンの師は鷹原の紹介で風間の下を訪れたが、風間が“それなら…。”と歌川を紹介し、今に至る。
アクロバットしても揺れることのない体型。
実際その胸は平坦であった。




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第5話 自称実力派エリートという胡散臭い肩書き

若干間が開いてしまいました。

と言うよりもプレゼンとレポートとテストが重なったのが悪いのですよ。
私は悪くねぇ‼

では本編をどうぞ↓


「三雲…修…にゃ?」

 

「あぁ、聞いたことないか?」

 

「ん~、記憶にないにゃ~。」

 

中学校にゲートが開いた日の夜、上層部への報告が終わった鷹原は隊室で猫葉に三雲のことを聞いた。

しかし返ってきた答えは知らないの一点張りである。

 

「訓練用トリガーでモールモッドを倒せるとか、ほんとにゃ?」

 

「状況とトリガー反応を見ればな。あの場には彼以外にボーダー隊員はいなかった。そんでもって切られたモールモッドからは彼のトリガーの反応しかなかったんだ。」

 

隊室の炬燵でのんびりと寝転がっている猫葉は鷹原の説明に唸る。

が、直ぐに猫葉は考えることをやめた。

 

「気にしてても仕方にゃいにゃ。今度試合すれば分かるにゃ。」

 

そう言って猫葉は炬燵の中に引っ込んでいった。

その猫葉のいつも通りな姿を見た鷹原は苦笑いを浮かべ、書類作業に戻った。

 

(…結局、木虎の言ってたアレはなんだったんだ?)

 

鷹原は書類と向き合いながら少し前の事を思い出す。

 

 

 

 

時は遡って夕方、三雲修がボーダー本部に向かおうとしていたとき、何故かそこには人だかりができておりその中心には嵐山隊の木虎藍がいた。

 

「三雲修くん、貴方をボーダー本部へ連行します。」

 

木虎のその言葉に若干周りがざわついたが木虎はそんなことを気にせず三雲と共にボーダー本部へと向かう。

その途中で着いてきた空閑少年と木虎藍とが言い争いを始める。

そんな二人の言い争いに隣でそれを見ていた三雲は冷や汗を浮かべていた。

 

「だいたい──」

 

橋に差し掛かって木虎が空閑少年に言い返そうとしたとき、けたたましい音を立てる警報と避難を促すアナウンスが周囲に響く。

そして川の上にゲートが開き、中から今まで見てきたどのトリオン兵よりも巨大な魚のような外見のトリオン兵が出現した。

 

「イ、イレギュラーゲート!?」

 

「こんな街中で!?」

 

突然現れたそれに木虎と三雲は驚愕の声を上げる。

しかし隣にいた空閑少年はさして驚いた様子はなく、宙に浮く巨大なトリオン兵を見上げていた。

 

そしてトリオン兵が現れて暫くするとゆっくりと宙に浮きながら移動していたそれは腹の部分から何かを投下し、下に落ちたそれは周囲の物を爆発で吹き飛ばしていく。

それを見た木虎と三雲の二人はマズイと思ったのかトリガーを起動してその爆撃しているトリオン兵のいる方へと走り出す。

 

三雲はそのまま木虎と別れて市街地へと走り、木虎はワイヤーガンを使って爆撃型の上に乗る。

 

 

 

爆撃の被害に遭った場所では建物が崩れ、中には瓦礫によって屋内に閉じ込められる人達もいる。

そのうちの一ヶ所ではまだ幼い子どもが瓦礫に閉じ込められた母親と一緒にいるとぐずっていた。

母親は子どもにここから早く離れるように言うが子どもはそれを泣きながら嫌だと言って聞かない。

 

その子どもの頭上、大きな瓦礫が落下してきた。子どもはそれに気づいていない。このままでは子どもが瓦礫の下敷きになってしまうというところに、白いジャージスタイルの少年が子どもを庇う形で瓦礫を背中に受ける。

誰であろう三雲修であった。

 

「怪我はない?」

 

「う、うん…。」

 

三雲は子どもに怪我がないことを確認すると直ぐ様母親が閉じ込められている場所の瓦礫を退かす。

そしてそこひいた人達が続々と外に出ると、他にも閉じ込められている人がいるとの話を聞いて直ぐにその方へ駆け出した。

 

 

 

「固いわね、けどこれくらいどうってことないわ!」

 

木虎はスコーピオンで切りつけ、爆撃型の装甲を剥がすと剥き出しになった内部へとハンドガンのトリオン弾を撃ち込んでいく。

 

『あー、あー、木虎ちゃん、聞こえる?』

 

「鷹原さん…。はい、聞こえてます。」

 

『一応駆けつけてはみたけど、どういう状況?』

 

通信で聞こえてきたのは鷹原の声だった。

本部への報告後、午後のシフトを果たすために街中に来ていたのだろう。

彼はそういう人間だと分かっている人からすれば簡単に予測できた。

 

「もうそろそろ落とせます。私は大丈夫ですので鷹原さんは市民の救助をお願いします。」

 

『オーケー! 任せたぜ。』

 

その声とともに通信は切れる。

木虎は通信中も止めなかった射撃を一層強め、爆撃型撃墜に拍車を掛ける。

そして暫くすると、背中から2列で柱のようなものが競り上がり、開いていた爆撃型の口が閉じる。

明らかに異常事態だと分かるそれに木虎は背中に乗ったまま周囲を見渡す。

 

よく見れば爆撃型はまだ被害を受けていない街の方に向かっていた。

 

「まさかこのまま街に落ちるつもり!?」

 

木虎は慌てた様子で片手にスコーピオンを出し、一番近い柱を切りつけるが、弾かれたように刃が通らない。

 

「固い!どんなトリオン濃度なのよ!」

 

何度も何度もスコーピオンで切りつけるも一向に傷が付く様子はない。

そうこうしているうちに爆撃型は街までもうすぐの場所まで迫っていた。

 

「止まれ、止まりなさい!」

 

切りつけ、銃弾を撃ち込んでいる木虎の頭に様々な感情が浮かぶ。

このままトリオン兵が落ちることへの不安。

街を守れなかったことへの責任。

大見得切って失敗する自分への呵責。

そして自分を信じて任せてくれた鷹原への申し訳なさ、様々な感情がない交ぜになる。

 

「お願い、止まって!!」

 

懇願にも似た木虎の叫びが響く。

その直後祈りが通じたのか、爆撃型はガクンという衝撃とともに空中で一瞬だけ動きを止め、次の瞬間には近くにある広い川に引き込まれるように落ちていった。

そして爆撃型が着水すると、メテオラの爆発が可愛く見えるほど大規模な爆発が起こり、川の水を吹き飛ばす。

 

 

「お疲れさん。さすが木虎だな、あんなデカいのを一人で落とすなんてよ。」

 

そう言って鷹原は川の中で茫然と立ち尽くし、水が滴っている木虎に手を伸ばす。

しかし木虎は鷹原の言葉に首を振った。

 

「…私の力だけではないと思います…。」

 

「…どういうことだ?」

 

妙に自信なさげにしている木虎の言葉に鷹原はスッと目を細める。

がそれよりも先にと木虎を川から引き上げて、土手を上りながら会話を続ける。

 

「最後、あのトリオン兵は自爆しようとしていました。私はそれをどうにもできなくて…。もうダメだと思ったとき、引っ張られたように川に落ちたんです。」

 

「…引っ張られた…か。」

 

木虎の証言に鷹原はふぅむと唸って顎に手を当てる。

がしかし、少しして心当たりが見つからないことを確信すると顎に当てていた手をぶらぶらと振る。

 

「ダーメだな。出来そうな奴が一人もいそうにない。」

 

頭の中にB級からA級の隊員全てを思い浮かべるもののあれだけ巨大なトリオン兵を引き寄せられるような隊員に心当たりがまるでなく、鷹原は諦める。

そうして川縁の道までやって来ると三雲が市民に囲まれているのが見えた。

 

それから鷹原と木虎は損害に対する補償云々の話を市民からされるのだがそれら全ての一切合切をボーダー上層部にぶん投げて三雲修を本部に連れていった。

 

 

 

「考えてもしゃあないな…。さて、書類あり、コーヒーよし、チョコレートよし。ラストスパートだな。」

 

デスクの上に置かれたいつもの物を確認した鷹原は再度ボールペンを手にとって作業を再開した。

 

 

──時間は少しだけ遡って夕方頃

 

 

「全員揃ったようだな、では始めよう。」

 

ボーダー本部にある会議室、そこでは総司令の城戸、本部長の忍田、開発室長の鬼怒田、メディア対策室長の根付、外務・営業部長の唐沢に加え、玉狛支部長の林藤が座っており、彼らと対峙するように呼び出された三雲修、そして自称実力派エリートの迅悠一がいた。

 

「それで、三雲くんの処分に関してだが──」

 

「そんなもんクビに決まっとろぉが!!」

 

「そうですよ、市民の方々にボーダーは緩いと思われても困りますからね。」

 

忍田の言葉を遮って鬼怒田が口を開いた。

その鬼怒田の怒声に根付が続く。がしかし、ボーダー本部最強の男はその程度で止まらない。

 

「しかしだな、三雲くんの行動は結果として市民の命を救っている!それに関しては嵐山隊や鷹原くんからの報告書を読んでいただければ分かる。有事の際にここまでの働きが出来る人材は貴重だ、クビではなく正隊員としてその実力を行使してもらうのが有意義だろう!」

 

「しかしですねぇ…。」

 

ダンッとテーブルの上に紙束を置いた忍田は根付と鬼怒田を一睨みする。その眼光に思わず二人は視線を逸らした。

 

 

その後、なんやかんやがあって三雲修の処分は迅悠一に一任されることとなる。

まさかこの一件、この出会いで自分達の仕事が増えることになるとはこの時鷹原隊の面々は予想にもしていなかったのである。

 

 

 

 

 




タイトル詐欺ですよ。今回の話は迅さんメインじゃなかったのです。
ま、その内スポットは当たりますよ。はい。

人物紹介

二条 慧

鷹原隊2代目のオペレーターを務める女子高生。
よく隊室で寝泊まりしている(生息している)鷹原と猫葉の世話をするのが主な仕事と化している。
書類仕事は鷹原が全部やっちゃうから他の仕事なんてあんまりないから仕方ない。
料理が得意でよく隊室のキッチンで料理をしている。もちろん某A級部隊の隊長のような独創性溢れたエキセントリックなものではない。

オペレートはしっかりこなせるCカップ。





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第6話 大規模掃討作戦


前回投稿が何時だっけ、なんて気にしてたら大変なことになってました。

では本編をどうぞ↓


 

 

 

「やぁやぁ、おはようさん。」

 

三雲修の隊務規定違反の翌朝、自称エリートの迅が鷹原隊の隊室を訪れた。

 

「おはようにゃ。」

 

「お前がここに来るなんて珍しいじゃねぇの。」

 

珍しく朝の隊室に全員揃っている鷹原隊のうち、鷹原と猫葉が迅に絡む。

 

「いや~鷹原さんとはあんまり時間が合わなくてね。まぁでも、鷹原さんにはこれから色々とやってもらわなきゃいけないから。あ、はいこれ、指令書。」

 

「お前のサイドエフェクトか?」

 

ぴらっと差し出された紙を受け取って、鷹原はそれに一通り目を通すと、隣の猫葉にもそれを見せる。

そして迅から離れて携帯を取り出すと、ある番号に電話を掛けた。

そして通話が始まるまでの時間に慧に話しかける。

 

「慧、今日は学校休んでくれ。学校にはオレからも連絡するから。──あ、もしもし蓮か? 今から隊室に来てくれ。 学校?あぁ、休んでくれ。一応オレからも学校には連絡しとく。」

 

そう言って二言三言言葉を交わして鷹原は通話を切る。

その横では学校に連絡を入れた慧がエプロンを着けていた。

 

 

 

「蓮川蓮、ただいま到着しました。」

 

「うし、揃ったな。」

 

蓮川が到着する頃には朝食を摂り終えた鷹原が牛乳瓶片手にソファに座り、モキュモキュと猫葉が炬燵で暖を取りながらサラダを食べていた。

 

「その前になんで呼ばれたのか説明ください。」

 

「そうだな。んじゃ、はい。」

 

蓮川の質問に鷹原は迅が持ってきた指令書を渡す。

それを受け取ってスススッと目を通した蓮川は書類を鷹原に返す。

 

「緊急招集…ですか? 何があったのですか?」

 

「知らん。けど迅の奴があんだけ余裕かましてるなら心配いらんよ。オレの勘もそう言ってる。」

 

“勘”そう鷹原が口にすると、慧と蓮川の緊張一辺倒だった雰囲気が幾分か緩む。

 

 

 

そして昼頃、事態は動いた。

迅が持ち帰ってきた新種のトリオン兵、見た目こそかなり小さく虫のようにも見えるそれが今までのイレギュラーゲートの原因らしかった。

 

隊室で待機していた鷹原達にも忍田から緊急出動の命令がかかり、一斉に動き出す。

ボーダーの正隊員どころか、訓練生のC級までも動員した大規模な作戦である。

 

 

 

 

「…これで何体目ですか?」

 

「…50から先は数えてない。」

 

「ニャァアアアアアアッ!! キリがないにゃ!!」

 

スコーピオンとレイガストでそれぞれ小型トリオン兵に止めを刺している鷹原と蓮川の横で、猫葉が発狂していた。

どれだけ仕留めてもわらわらと沸いて出てくる小型トリオン兵、その外見的な嫌悪感も相まって猫葉の我慢も限界に達しようとしていたのだ。

 

ブンブンと爪形に伸ばしたスコーピオンを振り回している猫葉は、心なしかお面までも怒っているように見える。

 

「フーッ!フーッ!」

 

「落ち着けよ…。」

 

「…猫さん…。」

 

猫葉が本当に猫だったら毛を全部逆立ててるだろうなと考えた蓮川は少し微笑ましいものを見るような目を猫葉に向ける。

 

「にゃ~、こうなったらトリオン兵も、ネイバーも、B級もA級も片っ端から刻んでってやるにゃ!誰彼構わず八つ当たりだにゃ!」

 

「おい、やめろバカ! また他のアタッカーにトラウマ植え付ける気か!?」

 

肩をいからせてずんずんと何処かに行こうとする猫葉を鷹原は首根っこを掴んで引き留める。

 

「離すにゃ!このままじゃストレスでおかしくなるにゃ!」

 

「おう、そのストレス発散の犠牲になるアタッカーのことも考えてやれ! あの夏の惨劇を忘れたのかよ!」

 

「関係ないにゃ~!!」

 

首根っこを掴まれながらじたばたともがく猫葉を見て、鷹原は絶対に離してはならないと悟った。

もしも今の猫葉を野に放ってしまったなら、確実に惨劇が起こると本能が察知したのだ。

 

「あの辻ちゃんの悲しみを背負った目を見ても同じことが言えんのか? ガチ泣きしてたんだぞ!!」

 

「そんなの知らないにゃ~! ぶにゃ~、ソロランク戦がしたいにゃ~。」

 

さっきまでもがいていたかと思えば今度はわんわんと泣き始めた。

ころころと子供のように感情を変える猫葉に鷹原はハァと溜め息を一つ吐いた。

 

「…お困りみたいですね。」

 

「那須と熊谷か。うん、困ってる。」

 

鷹原は猫葉の首根っこを掴んだまま声を掛けてきた後輩の方を向く。

そこには苦笑いを浮かべる那須と熊谷の二人がいた。

 

「にゃ~ソロランク戦~!」

 

「今は我慢しろ。」

 

「あ~、私でよければ後で相手になりますよ?」

 

「ホントかにゃ!?」

 

鷹原に首根っこを掴まれたままもがく猫葉を見かねて熊谷がそう切り出した。

すると猫葉はそれまでのくずりっぷりが嘘のようにピタッと泣き止み、熊谷の方を向く。

 

「ええ。もちろんこの任務が終わってからですけど。」

 

「いいにゃいいにゃ!約束だにゃ!そうと決まれば早速終わらせるにゃ!!」

 

大きな声で笑い声を上げながら、猫葉はレーダーを展開し駆け出した。その方向は偶然なのか狙ってなのか、件の小型トリオン兵が最も多い場所である。

そんな猫葉を追いかけるように鷹原と蓮川が駆け出した。

 

 

その後、悪鬼羅刹の如き活躍を見せた猫葉によってその一帯に潜んでいた小型トリオン兵を一掃したという。

 

 

 

 

そうしてこの特別大規模作戦開始から数時間後、もう日も沈み始めている頃になって、通信ですべての小型トリオン兵を討伐できた事を告げられ、参加していた隊員達は疲労から大きく息を溢した。

 

「にゃ~、やっと終ったにゃ。」

 

「だな…。あぁ…、これって特別手当とか出ないのか?」

 

「出るわけないにゃ。」

 

トリオン体から生身に戻った鷹原は隊室に戻るとペキペキと身体を鳴らしてストレッチする。

そして猫葉の言葉に“だよなぁ”と呟いて鷹原は溜め息を吐いた。

アレだけの量のトリオン兵を狩り尽くし、イレギュラーゲートの発生がなくなるように尽力したというのに手当てもないというのは、いくら社畜の彼でも堪えるというものだ。

 

まぁそんな事はパルクール狙撃兵や功名餓鬼には関係なく、二人はそそくさと隊室から出ていき、ソロランク戦をしに行った。その二人の後ろ姿に“薄情者ぉ…。”と呟いた鷹原は暫くするとゴソゴソと押し入れの中から大きな瓶を取り出し、ある人物たちに電話を掛ける。

 

 

その頃、鷹原隊のポイントゲッターを務めるパルクール狙撃兵と功名餓鬼はと言えば───

 

 

「ヒャッハー!だにゃっ!!」

 

「狙い…撃つッ!!」

 

たまたま来ていた隊員達に勝負を吹っ掛けていた。

猫葉は約束していた熊谷と、蓮川は手当たり次第に格上だろうが構わずに勝負を挑んでいる。

特に猫葉との勝負には上位アタッカー達がこぞって詰め掛け、入れ替わりながら勝負を続ける。

その試合風景はモニターにも映し出され、その場にいたC級達はおろか、B級隊員の目も釘付けにした。

 

「ニャッハッハーッ!!」

 

「この…ッ!!」

 

変態的な機動を続けながら猫葉は対戦相手の首を飛ばす。

ボーダーNo.4アタッカーとも互角に渡り合い、時には無慈悲に首を撥ね飛ばせるのが鷹原隊のエースアタッカー、猫葉澪である。

 

どうして鷹原と猫葉の二人しか戦闘要員のいなかった鷹原隊がB級3位、もっと言えば二宮隊、影浦隊が下りてくる前はB級1位を維持出来ていたのかと言えば、この猫葉による脅威的なポイント取得能力が大きいだろう。

隊員が3人に増えたとて、それは変わらない。依然として鷹原隊のエースはこの猫葉なのだ。

 

 

 

 

「おぅ、来たか。」

 

夜もそろそろ更けようかという時間に鷹原隊の隊室を訪れたのはボーダー隊員の成人組のメンバーであり、鷹原の飲み仲間達だ。

面子は開発部の雷蔵、諏訪隊の二人、加古と言う顔触れだ。

 

「木崎は来れないし、冬島さんも太刀川もいないし、二宮からは返信がない。しゃあないな。」

 

そう言って鷹原は人数分のお猪口を炬燵の植に並べ、中央に一升瓶を置く。

それに貼られてあるラベルを見た面々はニヤリと笑った。

 

 

 





この後どうなったのか…。

では次回でお会いしましょうノシ



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第7話 鷹原隊のちょっと抜けた日常


前回の続き~

では本編をどうぞ↓


 

 

大量のラッド駆除から一日、C級隊員まで動員した大規模な作戦の翌日のこと。

鷹原隊オペレーターの慧は鼻唄混じりに本部の廊下を歩いていた。

 

その理由は本人しか知らないが、その様子から周りの隊員やオペレーター仲間からは変な勘繰りを入れらることもあった。それを慧は軽々といなし、はぐらかしつつ、自分達の隊室に向かう。

 

「おはようございまー──…キャァアアアアッ!!?」

 

ご機嫌のまま隊室の扉を開けた彼女の視界に飛び込んで来たのは、隊室の床に突っ伏して倒れる鷹原と猫葉の姿であった。

散乱した様子の隊室、いつもならしっかりと揃えられた状態でデスクの上に置かれているはずの書類は辺りに散乱し、猫葉のテリトリーである炬燵周辺も荒れており、部屋の中にはいくつかの紙コップと、空になった一升瓶などの瓶類が何本か転がっている。。

そして、部屋からは慧にとって嗅ぎ慣れない匂いが、ほんの僅かではあったが漂っていた。

 

「た、たたたたたたたたた、たか、か、鷹原隊長!?」

 

そんな様子の隊室を見て、慌てて慧は部屋の中に踏み込み、突っ伏している鷹原の体を揺する。

 

軽く揺すると小さな呻き声をあげたので、その事にほっと慧は安堵する。

続いて近くで倒れている猫葉にも同様に呼び掛けながら体を揺すると、こちらもまた小さく「に“ゃ“あ“」と呻いた。

 

「さっきの悲鳴って!?」

 

「何があったんですか!?」

 

そうこうしていると、先程の慧の悲鳴を聞き付けた柿崎隊の柿崎と巴が隊室の入り口に姿を現した。

 

「タカさん? 猫葉? 一体何が…?」

 

「ね、猫葉センパーイ、大丈夫ですか?」

 

鷹原を仰向けに寝かせて体を揺する柿崎はその一瞬後にあることに気付いた。そう、この部屋の匂いである。

 

「さ、酒臭っ!!」

 

「え、お酒…?」

 

柿崎の言葉に慧はスンスンともう一度部屋の匂いを嗅いだ。すると、そのキツい匂いに顔をしかめる。

それは確かにアルコールの匂いであった。

 

「──ん、ぅんん?」

 

そうこうしていると、部屋の中、もっと具体的に言えばソファの陰から何者かの唸り声が聞こえてきた。

その声の主はゆっくりと頭を押さえながら立ち上がる。

 

「あぁ、ここは…、そうだ昨日…。」

 

その人物とは諏訪だった。諏訪はダルそうに周囲を見渡すと何かを思い出してその場に蹲った。

 

「ああ~、気持ちワリイ…。飲みすぎたなこりゃ。おい、起きろ堤、雷蔵。」

 

嗚咽を漏らしながら諏訪は隣に転がっている堤と雷蔵を起こす。諏訪に起こされた二人は気持ち悪そうに頭を抱えて、周りを見た。

 

「ここは、鷹原隊の…。」

 

「ぅぅ…、気持ち悪い…。」

 

堤も雷蔵も顔色は悪く、酒臭い。どうやらこの二人も二日酔いのようだ。

その時、周囲を見渡した堤があることに気付き、3人に尋ねる。

 

「加古さんは?」

 

「…あ~、あれ? 加古はどうしたんだっけか…。いた記憶はあったんだが…。」

 

「お酒が進んで、おつまみが無くなって、それから…ぅ、頭が…。」

 

「そう、ツマミが無くなったんで、確か加古ちゃんが…。」

 

四人は朧気な記憶を手繰り、昨日の状況を思い出す。そしてあることを思い出すと、一気に顔が青ざめた。

 

「あ~、思い出した。そうだよ酔った勢いで加古ちゃんが料理を始めたんだ…。」

 

「そうだった…。で、加古の奴はどこだ?」

 

「さぁ…。」

 

四人は具合悪そうにしながら慧の淹れたお茶を飲み干していく。

そして二日酔いの薬を飲んでから各々の隊室へと戻っていった。

 

 

「もう! お酒に呑まれないでくださいって言ったじゃないですか。」

 

「すまん…。つい、な…。」

 

柿崎や巴に礼を述べて見送った後、慧は隊室の掃除に取りかかる。

まずグロッキーな状態の猫葉を持ち上げて埃を払うと、優しくソファの上に寝かせた。

そして顔色の悪い鷹原を少しだけ強い口調で諫めながら床に落ちているゴミを片付ける。

 

「さて、と…。猫葉さんも加古さんの炒飯を?」

 

「当たりだ。だからそっとしてやってくれ。死ぬほど疲れてる。」

 

「はい、分かりました。」

 

鷹原の言葉に慧はブランケットを取り出すと、ソファの上で蹲る猫葉に掛けてやった。

 

 

 

そんな事が起きている一方で、鷹原隊の狙撃手(スナイパー)、蓮川はと言うと……

 

 

(捕捉…完了…。)

 

狙撃手合同の訓練に参加していた。

今回の訓練は市街地マップの中でレーダーを使わずに他の隊員を捕捉、狙撃するもので、撃った数と撃たれた数によるポイント制となっている。

隠れて撃って移動してまた隠れて撃つ。狙撃手の基本を一辺に学ぶための合同訓練がこれだ。

 

(狙い…撃つッ!!)

 

蓮川はスコープの先にいる鈴鳴第一の狙撃手、別役太一の後頭部を照準のセンターに捉えて引き金を引く。

そして一瞬で着弾確認をするとその場から直ぐ様離脱した。

 

(これで別役さん、茜さん、穂刈さんを撃てた。後は隠密…。)

 

高いビルの階段を窓から撃たれないように低い姿勢で駆け降りている蓮川はそんな事を思っていた。

そんな時の事である。パリンッと蓮川の眼前のガラスを割りながらダイナミックに荒船が飛び込んできたのだ。突然のことに目を点にして呆然としてしまった蓮川は反応できずに荒船の至近距離狙撃を受けてしまった。

そして蓮川に当てた荒船は直ぐ様また別の窓を割ってダイナミックに蓮川の前から姿を消す。

 

「……はい?」

 

アクション映画もビックリの所業に蓮川は数秒間目を丸くしていた。

しかし直ぐ様我に返ると狙われないように移動を開始する。

 

(…あれが荒船さん、アクション派スナイパーと呼ばれてる理由がなんとなく分かった気がします。)

 

バックワームのマントを翻し、イーグレットを抱えながら蓮川は走る。いつもであればグラスホッパーを使って縦横無尽に駆け回る、もとい跳ね回るのだが、今回の訓練では狙撃用トリガーとバックワームのみの使用となっているため、地道に走るしかないのだ。

 

(最警戒すべきは…奈良坂さん、古寺さん、絵馬さん、隠岐さん、佐鳥さん、東さん…。ナンバーワンの当真さんが居ないのが救いかな?)

 

既に被弾1を貰っている蓮川は慎重にクリアリング・索敵をしながら市街を走る。

が、しかしボーダートップクラスの狙撃手には変態しかおらず、どう隠れても軒並み警戒していた面々の内半分からは狙撃を受けた。

それでも当てれば5ポイント、撃たれてもマイナス2ポイントという条件のため、他の撃てるメンバーを狙うことでなんとかポイントを維持していく。

 

 

そうこうして、1セット目が終わると全員が1度フロアに集まる。

そうすることで、そのセットの反省を皆で意見交換しながら行えるのだ。

 

「よう、蓮川。」

 

「荒船さん…。」

 

部屋を出た蓮川に真っ先に話し掛けてきたのは荒船だった。

荒船は帽子のつばを上げ、しっかりした視線を蓮川に投げ掛ける。そんな荒船の目を見た蓮川は訓練中に喰らったあの奇襲を思い出して苦笑いを浮かべる。

 

「鷹さんにスカウトされたって言ってもやっぱり新人だな。あれくらいは警戒して然るべきだ。」

 

「いや、あんな事してくる狙撃手って荒船さんくらいのものじゃ…。」

 

「そうだな、狙撃手ならオレだけかもな。でも、ランク戦になれば攻撃手(アタッカー)がいる、身軽な連中がな。ま、オレが言いたいのはそれだけさ。」

 

それだけ言うと荒船は気が済んだのか、さっさと別の場所へと向かっていった。

 

 

 

 

その後、今回の訓練は日が暮れるまで何セットも行われたらしい。その順位で蓮川は10位代前半から後半をマークする大健闘だったという。

 

 

 

 

 





蓮川蓮のランク戦デビューはもうまもなく。

では次回でお会いしましょうノシ



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第8話 鷹原隊のランク戦


さて、いよいよランク戦です。
まだ玉狛第二(三雲隊)がいない時期のですが。

では本編をどうぞ↓


 

 

「さて…やっとだな。」

 

「はい!」

 

6月となり、今年もまた2度目のB級ランク戦が開催される事となった。

そして土曜日、B級ランク戦第二節の一試合目の組み合わせはと言うと……

 

B級2位影浦隊、3位鷹原隊、4位生駒隊の組み合わせとなった。

 

蓮川はランク戦を何度こなしても慣れないらしく、彼女の様子はどこか緊張しているようだ。

それでも緊張を押し殺し、みなぎるヤル気でシャドーボクシングを始めている。

 

「それじゃあ、ブリーフィングを始めるか。蓮もちょっと落ち着けな。」

 

昂りすぎて空回りしそうな蓮川を宥めてから鷹原は隊室の中央にある作戦会議用のテーブルに全員を集める。

 

「相手はカゲとタツの部隊、どっちも射程持ちが二人だ。カゲの所はユズルとゾエがカゲをサポートして点を取るスタイル。で、タツの部隊は四人いる長所を活かした連携で攻めてくるタイプだな。」

 

「どう動くにゃ?」

 

「……いつも通りだな。オレが楔役になるから、お前と蓮で点を取ってくれ。ただ蓮、無理はするなよ。」

 

「了解したにゃ~。」

 

「わ、分かりました! 全身全霊を尽くします!!」

 

鷹原の言葉に猫葉は嬉しそうに腕を振り、蓮川は畏まったように敬礼した。

 

 

 

「…やっぱタカさん所の狙撃手(スナイパー)、ヤバいな。え、ヤバない? まずあの機動力ヤバいやろ。」

 

「ヤバいっす。」

 

生駒隊の隊室ではメンバー5人が集まって、ランク戦前の最後のミーティングをしていた。主な話題と言えば、今回初めてランク戦に参加する鷹原隊の蓮川蓮についてである。

 

「個人戦の記録(ログ)とか全部見ましたけど、グラスホッパーで飛びながら撃つとか、隠岐でも出来ん芸当やんか。」

 

「そうですね、それでいてきっちり当てるんやからズルいわ。」

 

「それに加えてなんやタカさんも今回張り切っとるらしいやんか。前衛組はあんま突っ走らんときや。」

 

「それな。たった一人でゲリラ戦とかワケわからんわ。」

 

口々に鷹原隊の事を話題に出す生駒隊の面々だが、その鷹原隊よりも順位の上な影浦隊がいることも忘れてはいない。

この試合のマップ選択権を持つ彼らはそれも加味した上で戦術を練ってきた。

現1位と2位の二宮隊、影浦隊がA級にいた頃は鷹原隊と共にB級ツートップを死守してきた彼らの実力は確かなものである。

 

 

 

「頭ッからタカさんのところかよ、面倒だ。」

 

「こればっかりは仕方ないよ。」

 

影浦隊の隊室ではボサボサ頭の隊長影浦が個人戦の記録を映したモニターを見ながら画面の中の蓮川を見る。

そんな影浦の言葉を肯定するように影浦隊狙撃手の絵馬が頷いた。

 

「ホント、鷹原隊は嫌な相手だよねー。猫葉ちゃんと鷹原さんだけでも厄介なのに蓮川ちゃんもポイントを狙ってくるんだもん。」

 

「狙撃手の蓮川さんの実力は確かだよ。狙撃手としての基礎もしっかりしてるみたいだし。」

 

「どうでもいい。オレは猫ヤローと遊ぶだけだ。」

 

影浦はぶっきらぼうにそう答えると、北添や絵馬と顔を合わせることなく開始時間までソファに寝転がった。

 

 

 

 

「それではB級ランク戦初日昼の部、開始して行きたいと思います! 実況は(わたくし)武富桜子が、そして解説席には東隊隊長の東春秋さん、三輪隊の米屋隊員にお越しいただきました!」

 

「どもっす!」

 

「よろしく。」

 

桜子の紹介に解説席に座る二人が会場内に向けて挨拶をする。

東の解説、そしてB級上位の試合とあってか会場内にはちらほらとA級やソロランク上位の隊員の姿が見える。

 

「それでは解説のお二人にこの試合の見所を紹介して頂きたいと思います。」

 

「そうですね、まずは鷹原隊の鷹原が誰を押さえに行くか、じゃないでしょうか。」

 

「それはあるなー。オレの予想はイコさんだけど。」

 

解説二人の言葉に会場内にいる正隊員達は大きく頷く。

 

「鷹原ですが、生存能力だけならボーダーでもトップクラスです。鷹原隊はそれを活かして厄介な隊の隊員を鷹原が抑え、他の隊員がポイントを奪うと言う戦術を核として使ってきます。」

 

「タカさんに目を付けられたらその試合は自由に動けねぇからな。カゲさんは猫ッチを徹底的に狙うだろうし、マークに付くとしたらイコさんでしょ。」

 

「同感だな。」

 

米屋と東はそれぞれの見てきた経験則に当てはめてすらすらと予想を述べていく。その言葉に他の正隊員たちも思い当たる節があるのか、小さく首を縦に振る。

 

「なるほどぉ…。おっと、もう転送開始の時間となってしまいました! それではB級ランク戦初日昼の部、開始します!!」

 

桜子の言葉と同時に三隊のメンバーは一斉にマップへと転送された。

 

 

 

「ん…こりゃ市街地B…か。」

 

今回生駒隊が選んだマップは市街地B、路地や遮蔽物が多いため屋内外問わず入り組んだ作りになっている。

背の低い宅地だけでなくマンションや学校、ショッピングモールなど高い建物と低い建物が混在する地形であり、場所によっては射線が通りにくく、見通しも悪いマップだ。

狙撃手は随時場所を細かく移すことを要求されるマップでもある。

 

転送位置は各隊ともにバラバラとなっており、ここから合流もしくは各個撃破に分かれるだろう。

 

 

「さて、やりますか。」

 

マップ中央に転送された鷹原は周囲を確認するとスパイダーを起動した。

そして次々と建物や道路にスパイダーの鋼線を張り巡らせながら移動する。

 

 

『さぁ、各隊一斉に動き出す。まずはスナイパー3人と猫葉隊員がバックワームを起動! 生駒隊は合流を目指す模様。』

 

『人数で勝っているのが生駒隊の強みですからね。個人で動いて各個撃破されたんじゃ目も当てられません。』

 

『お、そろそろ来るぜ。』

 

展開を見守っていた米屋だったが、ある隊員が高所に登ったのを見て呟いた。その直後にバックワームを起動していない隊員達のいる方向へとトリオンの榴弾が撃ち落とされる。

 

 

「ちぃ! ゾエか!」

 

 

「アカンわ。」

 

 

「ホンマ腹立つこれ。」

 

 

「うひゃー?!」

 

 

メテオラを撃ち込まれた四人は苦々しげに弾の飛んできた方向を睨むが直ぐ様その場所から逃れるように走る。

メテオラによって家屋は壊れ、周囲には瓦礫が散乱していた。

 

 

「ゾエの野郎…、折角作ってた巣が半壊かよ。ネコ!」

 

「にゃにゃ、今向かってるにゃ。」

 

通信で鷹原は猫葉と連絡を取るが、その意図を先に組んでいた猫葉は言葉を先回りして行動に移していた。

頼もしすぎるエースの言葉に鷹原は猫葉との通信を切って自身の役割に切り替える。

 

(…砂の二人は身を隠して位置不明。ゾエはネコが狩りに行った。集合しようとしてるのが生駒隊の3人…。じゃあ浮いた一人がカゲだな。)

 

走りながらスパイダーの鋼線をばら蒔きレーダーを確認する鷹原は冷静に各個の動きを観察する。

転送されたマップ中央から東方向へと走る鷹原と、それを応用に合流位置をマップ中央付近に定めた生駒隊、そしてマップ北から砲撃を仕掛けてきた北添、そしてそれを仕留めに詰めるマップ北東の猫葉と、場が一気に動き出す。

 

 

そして開始から数分、最初のぶつかり合いが起こった。

 

「早いとこ逃げないと、誰が来るか分からないね。」

 

「そうだぞ、さっさと逃げて身を隠せ!」

 

レーダー頼りの爆撃を行った影浦隊の北添はバックワームを起動し、突撃銃型トリガー片手にマップの東方向へと走っていた。

マップ南東側にはチームメイトである絵馬が狙撃位置に張り込んでおり、その援護を貰うために中央を迂回して逃げ込もうとしているのである。

が、そんな北添に一人の死神が迫っていた。

 

「にゃにゃ…。」

 

猫葉はバックワームを身に纏い、音もなく北添へと忍び寄る。

狭い路地、家屋の陰を巧みに使い猫葉は北添の状態をつぶさに観察し、隙を伺う。

そして完全に北添の死角を取ると、潜んでいる物陰から飛び出して斬りかかった。

 

「その首、貰うにゃ!」

 

「うそ~ん…。」

 

死角から飛び出した猫葉による一撃は北添に避けることも許さずに首を撥ね飛ばした。

そして北添の戦闘体は活動限界を迎えベイルアウトする。

 

 

「やられた~! ユズル、気を付けてね、東側は猫葉ちゃんがいるよ。」

 

「了解。こっちは中央の援護に回るよ。」

 

ベイルアウトして隊室に戻された北添は直ぐ様マップ南東部に身を隠していた絵馬に忠告した。

 

 

 

『猫葉隊員による奇襲攻撃で先制点は鷹原隊!』

 

『見事に刺さった形ですね。』

 

『ありゃしゃあねぇな。完全な死角からだもんよ。』

 

猫葉の強襲、そしてポイント奪取にそれを初めて見たC級隊員達からどよめきが起こる。

 

『警戒はしてたんだろうけど、猫ッチの方が上手だったな、ありゃ。完全に緊張の緩んだ瞬間を狙われた、ああなったらそう簡単には反応できねぇな。』

 

『アレが鷹原隊の猫葉ですよ。鷹原隊が二人しかいなかった時でさえもA級に一番近かったと言われていた理由の1つです。』

 

冷静に分析していた二人の言葉に桜子は“なるほど”と頷いてから会場内のモニターに視線を移す。

そこには合流を終えた生駒隊とマップ東よりの中央で生駒隊を待ち構える鷹原、そしてその中央を迂回して北添がベイルアウトした地点を目指す影浦が見える。

 

『……始まりますね。』

 

『一人ゲリラ戦、ホンットにワケわからねぇ。』

 

 

 

「…止まれ。」

 

「あ~、スパイダーや。」

 

中央に辿り着いた生駒隊の3人は至るところに張り巡らされたスパイダーの鋼線を見て足を止める。

最早B級上位にとっては見慣れた光景でもあるそれを見て生駒と水上は頭を捻った。

 

「これ、無闇に突っ込んだらアカンやつやな。」

 

「スパイダー気にしながら走って抜けようもんならアイビスでドーンとか来そうやわ。」

 

「迂回して抜けてく方がええんとちゃいます?」

 

などと目の前のスパイダーの網を見ながら考えを纏めている内にある人物が飛来する。

 

「ロックオン…ッ!」

 

バックワームを翻しながらグラスホッパーで飛び回る蓮川だった。

蓮川は生駒隊とエンゲージするとバックワームを解除し、手にイーグレットを取り出す。

 

「来よった。」

 

「隠岐!」

 

「分かってますよ。今抑えに行きます。」

 

蓮川の飛来を認識した3人は即座に戦闘体勢に入る。

そして水上は通信で隠岐を呼び寄せると両手にトリオンキューブを出す。

 

「良い的だぜ!」

 

蓮川へ視線が集中しているとき、スパイダーエリアの中、水上の背後からアイビスの弾丸が放たれた。

ゴウという音を立てて迫り来る弾丸を水上はオーバーリアクションを取りながら回避し、飛んできた方向を見やる。そこにはエスクードの壁を背にしながらアイビスを構える鷹原が堂々と立っていた。

 

「タカさんも来たわ。」

 

「…ヤバいな。」

 

スパイダーの鋼線エリアを背負いながら前を蓮川、後ろに鷹原を抱えた生駒隊。

この試合は早くも混戦の気配を醸し出していた。

 

 

 





長くなるので次回に続きます。

では次回でお会いしましょうノシ



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第9話 続 鷹原隊のランク戦


前回の続きです。

では本編をどうぞ↓


 

 

『さぁ場が混沌と化して参りました。マップ中央付近では合流した生駒隊を、鷹原隊の鷹原隊長、蓮川隊員が迎え撃つ形。一方で猫葉隊員はバックワームを起動したまま自由に動く!』

 

『これは、絵馬隊員を狙ってますね。』

 

狙撃手(スナイパー)がいなくなればその分自由に動けるもんな。』

 

『しかし、絵馬隊員はバックワームでレーダーには映りません。どうやって探すのでしょうか…?』

 

『猫葉隊員は見た目と言葉遣いはアレですが、ああ見えて洞察力や思考力に優れています。恐らくですが、北添の逃走経路や行こうとしていた先から絵馬隊員の居場所を予想しているのかもしれません。』

 

『な、なるほど…。』

 

東の解説に桜子はごくりと息を呑む。

 

 

 

「海! あんま突出するな!」

 

「はい!」

 

生駒隊は3人ともお互いがフォロー出来る距離を保ちながら鷹原・蓮川の二人と対峙している。

グラスホッパーを使って動き回る南沢に水上が注意する。

 

「蓮! あんまり飛び過ぎるなよ。射線が通らない場所を選んだとは言え、飛び過ぎたら意味がない。」

 

「了解です!」

 

鷹原はワイヤー地帯を押し広げながら生駒隊の3人に砲撃する。

そして蓮川は鷹原の張ったワイヤーを巧みに使い、機動力を一切損なわずに狭い住宅街を低空で飛び回る。

 

「さて、そろそろ行くぜ!」

 

鷹原は右手に持ったアイビスをしまい、左手にレイガストを取り出した。

完全にヤル気満々な鷹原は右手に巨大なトリオンキューブを取り出すと27分割してぶっぱなした。

 

追尾弾(ハウンド)!」

 

グラスホッパーで宙を飛ぶ南沢に対して放たれたトリオン弾はそれぞれの軌道を描いて迫る。

その弾丸からフォローするように生駒と水上がそれぞれシールドを飛ばして南沢を守る。

 

「そこだ!」

 

「ん、うぉわっ!?」

 

南沢のフォローに回る水上の足元からエスクードが高速で生え、水上を上にかち上げる。

エスクードでかち上げられ、バランスを崩した水上に蓮川がグラスホッパーで迫り、スコーピオンで足を切り落とす。

しかしそれを見逃す生駒ではなく、蓮川が水上の右足を切り落とした瞬間に旋空を起動して切りつけた。が蓮川もそこら辺は心得ているらしく、水上の足を切り落とした直後には離脱の体勢となっており、生駒旋空の被害は受けなかった。

 

 

 

『水上隊員、足を負傷! これは痛い!』

 

『首じゃなくて足狙いか、蓮川の奴なかなか分かってんじゃん。』

 

『連携の中核を担う水上の機動力が無くなったのは生駒隊としてはキツいでしょう。』

 

 

 

「見つけたぞ、猫ヤロー!!」

 

「ニャニャッ!?」

 

猫葉が絵馬を捕捉しこれから仕留めようかという時に影浦は横合いから殴り付けるように乱入した。

好戦的な視線を猫葉に投げ掛ける影浦を見て彼女は体を絵馬から影浦へと向けて交戦の構えを取る。

両者ともに得物はスコーピオンの二刀流、近距離でバチバチと斬り合う展開になるだろう。

影浦が猫葉に仕掛けたことで出来た時間は絵馬がその場から逃げるには充分であり、次の瞬間には絵馬がそのエリアからは離脱していた。

 

「ニャハハ、カゲにゃんだにゃ!」

 

「さぁ、遊ぼうぜ!」

 

 

 

『マップ東部では影浦隊長と猫葉隊員の一騎討ち! 影浦隊長のインターセプトで時間を貰った絵馬隊員は中央へと向かう模様!』

 

『まぁカゲさんがああなったらユズルが点を取るしかねぇもんな。』

 

『中央の乱戦で少しでも点を取れれば…と言ったところでしょうか。』

 

 

 

「あんま壁に寄らんときや、エスクードで吹っ飛ばされんで。」

 

「せやったわ。」

 

生駒隊オペレーターの細井の注意に片足を持っていかれた水上が頭を掻く。

先ほどのエスクードによる崩しからの一撃を警戒し、生駒隊の3人は壁や家屋から離れて鷹原、蓮川と向かい合っている。

 

「掛かってこいよ。このワイヤーが怖いか? 建物ごと斬っても良いんだぜ?」

 

「いや、お断りしますわ。絶対なんか仕込んでるもん、それ。」

 

レイガストを構えながら不敵に笑う鷹原の誘いに生駒は首を横に振る。

その返答に鷹原は“そうだよな。”とだけ言った。

そんな鷹原の隣にはワイヤーの上に器用に立つ蓮川の姿がある。

 

(隠岐、タカさん狙えるか?)

 

(…いや、無理ッすね。上手い具合に射線が切られてますわ。他のポイントやと高さが足りひんし…。)

 

離れた場所からスコープを覗いている隠岐はその射線の通らなさに辟易していた。

どうにかして通る場所を見つけても、そこからは鷹原の出したエスクードの壁が邪魔になり視界が通らず、壁のない場所に行けば高度が足りずに狙いきれない。

上手い場所に陣取られたと隠岐は内心舌打ちしていた。

 

(建物斬って射線を通すか?)

 

(それやったら間違いなくメテオラが起爆しますよ?)

 

内部通信で次の1手を模索している生駒と水上だがその刺す1手が見つからなかった。

1度退いて戦場を変えるという手段もあるが、既に1点を獲得している鷹原隊からすればわざわざ地形の有利を捨ててまでがめつく行くほどでもない。生駒も水上もそれを理解しているが故に次の1手が思い浮かばないのだ。

 

「…やるしかない。」

 

生駒は弧月を握ると上段に構えて一気に振り下ろした。

旋空によって伸びた弧月は鋭く空を斬り、鷹原と蓮川のいるばしょまで伸びてそこに張ってあったワイヤーを全て両断する。

もちろん目の前で振り下ろされるそれを黙ってみている訳もなく鷹原も蓮川も横に跳んで避けている。

そして生駒旋空によってワイヤーが両断された直後のこと、通路の両脇に建てられている家屋の壁や屋根が吹き飛び、瓦礫の嵐で視界が塞がると同時に爆風が生駒隊を襲う。

 

「やっぱ仕掛けてたわ。」

 

「知ってた。」

 

「うはーっ!?」

 

北添のメテオラ爆撃とは違い明確に吹き飛ばし、爆発に巻き込む気満々なその爆発に生駒隊の3人は宙を舞う。

 

「そこ…。」

 

爆発で吹き飛んだ南沢に向かって蓮川はグラスホッパーで飛ぶ。そして右手で南沢の頭を掴むと彼の頭の上で逆立ちするようにしてグラスホッパーで跳ねる。

 

「今っ!」

 

「っ!?」

 

南沢の頭上で逆立ちしたことで粉塵の中から出た蓮川の足を隠岐は逃さずにイーグレットで狙い撃ち、撥ね飛ばす。

しかしそれでも蓮川は動きを止めない。

彼女は南沢の背後に降りながら首を捻ると同時に切り落とした。

供給器官を破壊された南沢のトリオン体は限界を迎えベイルアウトする。

そして足を狙撃され落ちていく蓮川の前には弧月を構えた生駒が待ち構えていた。

 

「もろた!」

 

「くっ!」

 

弧月を構えた生駒を見た瞬間に蓮川は反射的にグラスホッパーの準備をした。しかしそれを使わせる隙すら与えずに生駒は弧月を振り抜き、蓮川のトリオン体を両断した。

だが生駒が蓮川を両断したと同時にアイビスの弾丸が背後から生駒の頭部を撃ち抜く。

生駒、蓮川のトリオン体はそれぞれ活動限界を迎え、ベイルアウトしていった。

 

「そこやっ!」

 

「無駄ァ!」

 

生駒を背後からアイビスでヘッドショットした鷹原に対して水上はトリオンの弾丸を複数放つものの、それを予測していた鷹原のエスクードによって阻まれ、成果は挙げられなかった。

逆に鷹原はエスクードの陰でトリオンキューブを27分割して水上に向けて撃つ。

もちろん水上はフルガードでそれを堪えるが鷹原はそれも計算に入れていたのか、次の瞬間にはエスクードの上に登ってアイビスを構えた。左右から迫る追尾弾を防ぐ為にシールドを左右に広く展開していた水上は正面から放たれるアイビスの弾丸を受け止めることが出来ないだろうと踏んでの事であるが、鷹原がアイビスの引き金を引くよりも先に、別のトリオン弾が水上に直撃し、ベイルアウトさせる。

そしてそれと同時にマップ東部でも二つの光が飛んでいき、ベイルアウトを知らせた。

 

「よっし! ユズルよくやった!」

 

「別に、この程度…。」

 

水上に止めを刺した絵馬はそのままアイビスからイーグレットに持ち替えて鷹原を狙うが、既に鷹原は家屋の陰に避難していた。

 

 

 

 

 

『お、おお!? 一気に場が動いたぁ!! 鷹原隊、蓮川隊員と猫葉隊員がベイルアウトしたものの一気に3得点!! 一方の影浦隊、生駒隊は狙撃手以外の隊員がベイルアウト!』

 

『鷹原の陣地で迂闊に攻めればこうなります。そしてあの混戦を上手く利用して点を取った絵馬を誉めるべきですね。』

 

『てか、猫ッチとカゲさんは相討ちか。こりゃタカさん所の勝ちだな。』

 

『確かに、この状態なら鷹原も落ちないし、隠岐も絵馬も落ちることはないな。』

 

米屋と東の言葉通り、残り3人の状態で場は硬直しタイムアップとなった。

 

 

『タイムアップ! 4対2対1で鷹原隊の勝利となります!』

 

『ま、今回は運も味方したって感じだな。』

 

『確かに、転送位置も鷹原隊にとって都合の良いように動いた。』

 

その後東と米屋によるこの試合の感想が述べられ、締められた。

 

 

 

 





少し分かり難いですよね。

では次回でお会いしましょうノシ




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第10話 迎え撃つ準備


前回の話はだいぶ前の投稿になってますね。
申しわけありません。

では本編をどうぞ↓



 

 

「あぁ…寒い…。」

 

12月も半ばを過ぎそろそろ年末になろうかという時期、寒さもいよいよ本格化してきた頃のことである。

雪がちらつく三門市を鷹原は静かに歩いていた。

こんな時は熱燗で一杯……などという事を考えながら鷹原は真っ直ぐにボーダー本部を目指す。なぜか?それは呼び出しを食らったからだ。

別に鷹原は書類の締め切りを破ったり、城戸司令の車を叩き割ったり、水の上を走ったりもしていない。後者二つをやらかしたのはノーマルトリガー最強の男、前者は乗り物に弱いA級隊長だ。

吐いた息も白く染まる中、ぎゅっぎゅと足元の雪が固まる音を聞きながらようやく鷹原は本部に到着した。

ついでに自分の隊室に顔を出せばコタツムリと化した猫葉が炬燵から顔だけ出して眠っている。

近くにミカンの皮が日本列島の形に置かれていることから、彼女がかなり暇であったことが伺えた。

 

そしてそんな隊室を後にして向かうのは会議室だ。

ここ最近、様々なゴタゴタがあったものの、一介の社畜に過ぎない彼は噂や憶測でしか話を聞くことができず、その裏にある真実はまるで知らない。

強いて言えばA級トップが帰還してきたら迅がS級からA級になったということくらいだ。

迅がA級になったことでまた試合ができると猫葉や太刀川は万歳しながらよろこんでいたことが周囲の記憶に新しい。

そしてこの前、迅、太刀川、猫葉の3人が主体になって四つ巴の混成チーム戦を行い、ボーダー内が大きく盛り上がったこともあった。もちろんそれには鷹原も参加している。

ボーダーA級、B級のオールスターが集ったそのチーム戦は今でも話題に上る。

 

さて、そんな話題は今は脇に置いておくとして鷹原が会議室の扉を開けて入るとそこにはボーダーの上層部に加え、東春秋、風間、太刀川、冬島と言ったボーダーを代表する隊員が揃っていた。

 

「自分が一番最後……ですか?」

 

「いや、まだ来てないのがいるよ。」

 

負い目を感じかけていた鷹原に東が優しく声を掛ける。

こういう気配りが人気の秘訣なんだとか。

そうして鷹原が席に着くとまたガチャリと会議室の扉が開けられ、数人の人が入ってきた。

 

「どーも、連れてきましたよ。」

 

「遅れました。」

 

入ってきたのは迅と三輪に米屋、そしてカピバラに乗った子供と、あの時鷹原に質問した白髪の少年だった。

前3人はともかく、その後ろに着いてきたチビッ子二人プラスカピバラの登場に東たちは疑問を抱く。

いやカピバラの方は林藤支部長の親戚であるから問題は、いや問題はあるのだが、それよりも白髪の方だ。彼と東は面識がないためどうも首を傾げてしまう。

 

「……本部長、この少年は?」

 

「彼の名前は空閑遊真、近界民(ネイバー)だ。」

 

「……は……?!」

 

忍田本部長の言葉に東と鷹原が驚愕の声を上げる。しかし他の面々が何も動じていないことから知らないのは自分達だけだと二人は自分を落ち着けた。

動揺を押さえ込んだ二人を見て忍田本部長は話を続ける。

 

「彼には近界民の立場から迅の予知した大規模侵攻防衛のアドバイザーとなってもらう。」

 

「蛇の道は蛇……と。」

 

「そうだ。」

 

東の言葉に忍田はコクりと頷いて遊真の方を見やる。

するとさっきまでいなかった小さな黒い炊飯器が流暢な言葉を操りだした。

 

「遊真のお目付け役のレプリカだ。どうぞよろしく。」

 

太刀川たちもその存在は知らなかったようで初めて見る自立型トリオン兵の存在に目を点にしていた。

しかしそれにも構わずレプリカは話を進めていく。この世界とどの世界が近いのか、そしてこの前現れた新型を使うのはどこの国なのか、事細かに説明していく。

その話から細かな特徴を一字一句逃さず鷹原はノートに書き込んでいった。

そして話題は佳境に入る。それは侵攻する可能性のある国がこちらの世界から離れるまでの間に敷く、防衛体制のことだ。

 

「基本的にはいつも通り……、しかないのでは?」

 

「その心は?」

 

鷹原が挙手して意見を述べると太刀川が面白そうな視線を向けて続きを求める。

 

「あー、アレだ。今から条件に合致する惑星国家が離れていくまでにだいぶ日にちがあるだろ? その間ずっと警戒してたらへばっちまうよ。」

 

鷹原の主張に太刀川は“たしかにそうだ。”と頷き、次の言葉を待つ。

他の面々も鷹原の主張には賛同しているようで口を挟まない。

 

「だからこの大規模侵攻を教えるのは一部の隊員、A級全員とB級の一部隊員にして箝口令を敷きましょう。」

 

「へぇ、教えない……か。」

 

「あぁ、教えちまうと変に身構えたりする奴も出るだろうし。」

 

「そりゃそうだ。今までと規模の違う数が攻めて来るんだ。身構えない奴は小数だ。」

 

淡々と述べる鷹原の論に太刀川は相づちを打ちながら口を挟む。

タイミングよく挟まれるそれに鷹原はすらすらと言葉を紡いでいく。そうやって最後まで結論に辿り着いた鷹原が周りを見渡して意見を述べると求めると先ずは東と忍田が賛同の言葉を口にした。

 

「確かにB級まで運用するならそれが一番だろう。」

 

「その点で賛成だ。でも予備戦力をほぼなくすって点には疑問があるな。どうしてだ?」

 

「迅が言うには規模はかなりデカいらしい。今まで何回かあった中規模侵攻よりも、ね。その状態で生駒隊、王子隊、影浦隊、二宮隊を遊ばせるのは正直キツいと思います。」

 

「そうは言っても万が一があるのでは……?」

 

鷹原の意見に根付が口を挟む。しかしその言葉に鷹原は首を横に振って続ける。

 

「始めから全力でことに当たらなければと、自分はそう思います。相手は数でこちらを上回る、だから処理を誤れば被害は一気に増えるはずです。」

 

「なるほどね、出て来た端から叩っ切れば安全で簡単ってわけだ。」

 

根付の言葉を否定する鷹原の発言に“ほほう”と楽しげな笑みを浮かべた太刀川が賛同する意見を述べる。

その太刀川の脳筋的発言に鷹原はニュアンスは間違ってないと言いたげに頷いた。

戦闘狂(バトルジャンキー)な太刀川の言葉であるが、それだけに分かりやすい。

太刀川の賛同、それに続く形で風間と冬島も賛成し場は鷹原の全力防衛案を採用する流れとなった。

 

そうやって大まかな案の枠が完成すれば次は枠の中、細かな部分を詰めていく。

B級の誰に伝えて、誰に伝えないのか。警戒期間の間のシフトはどうするのか。C級の扱いはどうするのか。

様々な事が話し合われる。

 

会議が始まってから数時間、たっぷりも話し合われた内容はとても濃く、実のあるものになった。

そうして完成した防衛案を早速実行に移すために上層部はそれぞれの仕事に取りかかるのだった。

 

 

 






ではまた次回でお会いしましょうノシ




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第11話 社畜のクリスマス


さーて、季節感なんて無視ですよ。
作中時間はそうなんだから。

では本編をどうぞ↓


 

 

クリスマス、それは誰もが童心に返る日。

こんな格言を知っているだろうか?

「クリスマスの日には童心に返ることもいいだろう、クリスマスの素晴らしき創始者もその日は誰よりも子供であったのだから。」

 

警戒期間であっても彼らは特に変わらない。アルコールを摂らないだけでやることはいつもの彼らである。

いつもの身体の大きな子供だ。

 

 

 

「どうもタカさん、メリクリです。」

 

「あいあい、メリクリ~。」

 

鷹原隊の隊室、特に飾り付けもされていないそこに生駒隊の面々が入ってくる。ただし隠岐はいない。

そして鷹原隊も二条がいない。

お互い一人ずついないもののそれなりに大人数であり、部屋の中はやや手狭な印象に早変わりする。

 

「どもども招待いただきまして。」

 

「あー、いいのいいの。どうせ暇だし、この3人よりかは誰か呼んだ方がよ。」

 

丁寧に菓子折りを持参して頭を下げた生駒に対して鷹原は軽く受け流す。

そして炬燵やテーブルを指差して座るように促した。

鷹原の進めもあり、生駒隊のみんなはそれぞれ座る。

未成年が多いこともあり、この場にアルコールの類いはない。

テーブルの上にはチキンやケーキ、ローストビーフにミンスパイと言ったいかにもなクリスマス料理が置かれ、炬燵の上には寄せ鍋がある。

これを準備したのは蓮川と鷹原である。

生駒と水上、鷹原がテーブル、蓮川に南沢と真織が炬燵を選んだ。

しかしその時、一人足りないことに気が付いた生駒がキョロキョロと部屋を見渡して、それでも見つけられず鷹原に尋ねる。

 

「あのタカさん、ネコさんは?」

 

「ん? いるだろそこに。」

 

生駒の質問に対して鷹原が炬燵を指差すと蓮川がぺらりと炬燵の毛布を捲る。するとそこには炬燵の中で丸くなってうとうとしていた猫葉の姿があった。

 

「ほんまに猫みたいやわ。」

 

「酸欠とか大丈夫なんすか?」

 

ぺらりと捲られた毛布の脇から中を覗き込む真織と南沢は驚いた顔で猫葉を見つめる。

しかし猫葉はお面で顔は分からないものの、すやすやと心地よさそうに寝息を立てていた。

 

「大丈夫だろ、息してるし。」

 

「たぶん大丈夫でしょう、はい。」

 

「そういうもの、なんか?」

 

「おう、ネコに生きてるかどうかを気に掛けるのもアホらしいくらいだ。生き延びることに関しちゃコイツは相当だ。」

 

心配を他所に鷹原はそんなことは全くないと言い切った。その言葉には彼女に対する信頼がはっきりと現れている。

長年相棒として連れ添ってきた仲だからこそできる断言なのだろう。

 

それからクリスマスパーティーは盛り上がりを見せる。若くて食欲旺盛なボーダー隊員の彼らは用意されている料理を全て平らげると会話に花を咲かせたり、誰が持ち込んだのやらゲームをして時間を過ごす。

南沢や真織、水上に蓮川と年齢の近い彼らはウノやトランプで多いに盛り上がっている。

そんな中でテーブルに座る隊長二人は顔を付き合わせて話していた。

 

「てか、隠岐くんは来ないのか?」

 

「あー、アイツは誘ったんすけど断られました。なんや先約があるとか。」

 

「ほーん……、うちの慧もだ。」

 

その言葉を交わした瞬間、二人はニヤリと笑う。

 

「隠岐のやつ、定期的に連絡取れない時があるんすよ。」

 

「奇遇だな、慧もそうだ。時には“連絡しないでくれ”っていう時もある。」

 

ある種確信を持った二人はさらにニヤケ面を増し鷹原はA4の用紙を、生駒はスマートフォンの画面を見せる。

 

「慧のシフト表だ。」

 

「これは隠岐のやつです。」

 

二人はその2つを交互に見比べると“よっし”と声を上げてハイタッチし、その手を握り合う。

そして確信をさらに深めた二人はニヤニヤとした笑いを浮かべる。

 

「これはいっぺん鎌かけるしかないよなぁ!」

 

「もちろん!」

 

悪い顔をした二人はそのまま悪巧みを開始する。

その一方で隊員組はいつの間にかカラオケ大会へと移行し、今は蓮川がZebrahead(ゼブラヘッド)の“Anthem(アンセム)”からAC/DCの“Back_In_Black”に、またZebraheadに戻って“Rescue_ Me”、さらにはエアロスミスの“Walk_This_Way”に繋げ、Rhapsody_ of_fireの“Emerald_Sword”に行き、最後もZebraheadで“All_FOR_NONE_AND_NONE_FOR_All”と6曲のメドレーを熱唱していた。

力強く、丁寧に、全霊を込めて歌い上げる蓮川の姿は気高く、美しく、見る聞く者全てを魅了した。

そして歌いきった蓮川が満足げに頭を振ると、テンションの激しさを物語るようにその縛った長髪が舞う。

その歌の熱に当てられた南沢や真織は思わず拍手を打ち鳴らし、聞き入っていた水上も目を点にしていた。

あの生駒でさえも視線が蓮川に釘付けになっている。

 

「す、すげぇ……。」

 

「ほんま凄いわ……、蓮川ちゃんてまだ高1やろ? なんでそんな歌えんねん。」

 

「惚れてまうやん。」

 

惜しみ無い称賛の声に蓮川は照れたようにタオルで汗を拭い微笑んだ。

 

「そ、そんな褒めなくても……照れちゃいますよ。」

 

口角をちいさく吊り上げ、熱唱で火照った頬を更に紅潮させた蓮川は逃げるように部屋の隅に座る。

ここまでハードルが上げられた中で自ら歌おうと思う者はなく、そのままの流れでカラオケ大会は終了した。

 

 

 

そうやって時間は過ぎていき、片付けを終えて生駒隊も帰って行った頃、鷹原隊の隊室を訪れる者がいた。

 

「あ、あの……猫葉先輩はいますか?」

 

柿崎隊の巴虎太郎だ。巴は遠慮がちに隊室の戸を開けて顔を覗かせるとキョロキョロと視線を動かして猫葉を探す。

すると彼の声を聞いてかモゾモゾと炬燵の中から猫葉が顔を出した。

今の彼女は顔の上半分を隠すデザインのお面を被っており、猫のような口元が見えていた。

 

「にゃー……コタにゃん、かにゃ?」

 

「あ、猫葉先輩!」

 

戸の隙間から顔を出し隊室に猫葉を発見した巴は上ずった声を発して彼女の名前を呼ぶ。

モゾモゾと炬燵の中から這い出た猫葉はゆったりとした動きで近寄り、そっと彼に抱きついた。

 

「ふにゃー、やっぱり抱き心地がいいにゃ。にゃふふ……。」

 

「ちょ、猫葉先輩!? あ、首筋に顔を埋めないで……、ぁ、くすぐったい、あ、ひ……!」

 

巴に抱きついた猫葉はその感触を堪能するように力を強めていき、しっかりと抱きつくと彼の首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。

寝起きで寝惚けているのだろうか、いつもより積極的に抱きつく猫葉に巴の顔は真っ赤である。

 

「あ、あの、ぅん、猫葉先輩……!」

 

「ふにゃ~、いい匂いするにゃ~。う~ん……。」

 

「もう……、しっかりしてください!」

 

まだまだ寝惚けているようで眠そうに目を開けながら抱きついて猫葉はうとうとと言葉を話す。

顔を真っ赤にしながら巴は理性を保ち、何とかして猫葉を自分から引き剥がした。

 

「ふにゃ~? ん~……、コタにゃんだにゃ!」

 

「ふわっ!?」

 

しっかりと意識を覚醒させた猫葉は巴の存在を認めるとぎゅっと勢いよく抱きついた。

しかし今回のそれはかなりライトに、ただ背中に腕を回しただけだ。

いつもの猫葉に戻って安心したような残念なような顔を浮かべる巴は猫葉の腕を掴んでロックを外すと、両手を握る。

 

「こ、ここ、この後時間はありますか?!」

 

「にゃ~?」

 

真っ赤な顔で切り出した巴の言葉に猫葉は首を傾げて数秒間思考を回しすと、首を縦に振った。

その仕草に巴の顔はぱぁと明るくなる。

 

「いいにゃ、この後もすることなんてないからにゃ~。」

 

「じゃ、じゃあ……!」

 

「にゃ! コタにゃんに着いてくにゃ~!」

 

猫葉の返答で巴は嬉しそうに万歳し、早速と言わんばかりに猫葉の手を引いてどこかに去っていった。

隊室に残された鷹原と蓮川はもうすることもないなと、隊室を後にした。

 

 

その翌日のことである。

いつものように防衛任務を終えた鷹原は隊室を訪れ、二条と顔を合わせるとニヤニヤとした顔になる。

その表情を見た二条は頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。

 

「そうだ慧、昨日は彼氏とどうなったんだ?」

 

「っ!? そんな、隠岐くんと私はそんな関係じゃ……!!」

 

「ん、やっぱり隠岐か。」

 

「なっ!? た、鷹原隊長!?」

 

簡単な鎌をかけられ語るに落ちたチョロい二条慧、彼女の恋仲である隊員のことは瞬く間に広まることになった(主に生駒経由で)。

 

 

 

 

 





社畜にだってクリスマスくらいありますよ。


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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第12話 有望な新人たち


さて、そろそろあの大規模侵攻なんですよね。

では本編をどうぞ↓に


 

 

新年を迎え、ボーダーの正式入隊日のこと。

鷹原隊の面々は今日も今日とて防衛任務……ではなかった。

入隊式の後に行われるガイダンスの指導官として蓮川が呼ばれ、それに付き添う形で鷹原と猫葉も本部にいた。

目的は新人のヘッドハント(勧誘&物理)である。

目ぼしい新人がいれば声を掛けるつもりで彼らはここに顔を出していた。

 

 

「目ぼしい新人はいねぇがぁ?」

 

「そう簡単に蓮にゃんクラスは見っからないにゃ。」

 

ぎらつく目で周囲を見渡す鷹原と猫のようにまったりしている猫葉の二人はかなり目立っている。

それは彼らとほぼ同じ目的で来ている正隊員の視点からもそうであり、ともすれば新入隊員からはかなり奇怪な目で見られている。

 

 

「なぁ、あれって……。」

 

「しっ! 目を合わすな!」

 

「鷹原隊員?」

 

「マジで! おれファンなんだけど!」

 

ぼそぼそと話題に上る彼らだが反応はおおよそ二つ、ヤバイ輩を見るような目と憧れの目だ。

ボーダーの公式サイトなどをよく見ている者からすれば鷹原は割と有名な存在である。そのボーダーや平和に対する献身的な姿勢からよくホームページに名前が載っているからだ。

中身は単なるワーカーホリックの社畜だが。

 

 

さてこの話題は置いておくとして、本題。

アタッカー・ガンナー合同のカリキュラムだ。仮想空間内でトリオン兵と戦い撃破タイムを測ると言う単純なもの。

ちなみに鷹原も猫葉も四年前のボーダー設立当初のメンバーであるため、この種目を新人時代にやったことはない。

 

 

「今回は不作だなぁ……。」

 

「にゃにゃ、そう何人も駿にゃんとか双葉にゃんみたいなのがいてたまるかにゃ。あんなのがぽんぽんいたら今頃ボーダーは人外の巣窟にゃ。」

 

「今でも割とそうだと思うが……。」

 

人外と聞いて思い浮かんだ人物を数えてしまった鷹原は思わず苦笑いを浮かべる。

総合トップの太刀川はもちろんそれに追従する二宮も人間という枠からはみ出しているし、それを上回るレベルで忍田も大きくはみ出しているだろう。

他にもボーダーには人間からはみ出している者が大勢いる。

そんな連中と新人を比べるのは酷というものだろう。

しかし情けないのもまた事実だ。

これまでのトップが今の1分切りとは、と鷹原は落胆する。

しかしその目は次の瞬間に瞠目に変わる。

 

 

「……!?」

 

「ネコ、見えたか?」

 

「勿論にゃ。でも……半端ないにゃ~。」

 

鷹原の問に答えた猫葉、お面のせいで顔は見えないが恐らく笑っているのだろうことが声色から窺える。

記録0.6秒、おおよそ新人の出せる記録ではないそれを記録したのはあの空閑遊真であった。

 

「にゃっにゃ! 戦い慣れてる匂いだにゃ~。」

 

「手強そうだな……。あれは。」

 

それまでの最速記録、緑川の四秒を大きく塗り替えた彼にざわざわと視線が集まっていた。

 

 

そしてそんな新人たちの騒ぎを遠巻きに見ている正隊員たちも驚きを隠せていない。

目ぼしい人材を発掘に来ていた彼らも、目の前で見えた新人離れした所業に舌を巻いている。

 

(あれは……三雲修? 正隊員に上がってたのか……。)

 

その中で木虎に絡まれている三雲を発見した鷹原は小さく笑う。

そんな中、

 

「どぉりゃあ!!」

 

『記録12秒!』

 

空閑には及ばないものの、それなりにいい記録を出すものがいた。

その人物は周りよりも頭ひとつ高い身長と広い肩幅をした少年。顔にはまだ幼さが残るものの、絵に描いたような熱血少年という感じだった。

 

「にゃにゃ、あの子もいいにゃ! 絶対に強くなれる顔してるにゃ~。」

 

「えっと……C級の(そよぎ)正義(まさよし)か。名前通りの正義漢って感じだな。」

 

ぺらぺらと新人C級隊員のことが書かれた資料を捲って行き着くと、そのデータに目を通す。

なぜ持っているかと言えば、今回のC級正式入隊日に行われるガイダンス資料、もっと言えばその新人たちの資料は鷹原がほぼほぼ纏めたからだ。職権濫用ではない、当然の権利だ。

ボーダー入隊試験の監督官や面接官も務めることがたる鷹原にしてみればこれくらいあってもいいだろうという心理である。

 

そんなこんなで伸び代のありそうな新人たちに声を掛けながら鷹原はその日を過ごした。

その後、ソロランク戦ルームに移行した猫葉がうずうずしていたのは言うまでもない。

 

さて一方その頃、スナイパー組……

 

広大な訓練ルームが与えられているスナイパー達はその訓練室に新人たちを集めていた。

責任者は嵐山隊の佐鳥である。

 

「と言うわけでスナイパーのトリガーは三種類あるのね。実際に見てみた方が早いかな?」

 

「そうですね、誰にしますか?」

 

「そうだなぁ……、そうだそこの、えーと雨取さん!試しに撃ってみよう!」

 

蓮川と佐鳥の軽快なやり取りは聞くものの耳を引き付ける。

そう言って佐鳥はその場にいる新人の中から一番背の低い少女にアイビスを使わせる。

少女はアイビスをセットして的に照準を合わせると引き金を引く。

アイビスの銃口から放たれた弾丸は狙撃の一撃など軽く越え、もはや砲撃の域に達していた。それは設置されてあた的を軽々と木っ端微塵にし、果ては本部基地の外壁も貫通したのだった。

 

「え……?!」

 

「はぇ……?!」

 

その余りの衝撃にその場の正隊員は間の抜けた声を出す。

いくらアイビスが威力に特化しているからといえど、基地の外壁までぶち抜くとなると話は変わってくる。

そこから導き出されるのは黒トリガーにも匹敵するトリオンの持ち主ということ。

この後、思わず行われた佐鳥と蓮川の土下座返し、爆音を聞き付けて駆けつけた鬼怒田によるチョップ制裁が佐鳥と蓮川を待っていたのだがそれは省略する。

 

 

ボーダー、それはもしかすると人外の巣窟なのかもしれない。

 

 

 






さぁ梵くんの立ち位置はどこか!

こうご期待!!



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第13話 大規模侵攻①


さて、この話となりました。

では本編をどうぞ↓


 

 

正式入隊日も終えた1月の半ば、それは突然やってきた。

警戒区域が墨をぶちまけたように黒く染まったと、思えるほどの大量のゲートが出現したのだ。

 

「おいでなすったな、行くぞネコ!」

 

「にゃっはっはっ、このスコーピオンでバラバラにしてやるにゃ!」

 

市街地の中にいた鷹原と猫葉は警戒区域に駆け出した。

他にもこの異常事態に対して知らされていた隊員も知らなかった隊員もトリガーを持って走り出す。

 

 

「さぁ迎え撃つぞ。」

 

「本部から見て西、北西、東、南、南西の五方向に侵攻しています。」

 

「分散か、面倒だな。こちらをバラけさせる狙いか?」

 

モニターを睨みながら腕を組んでいる忍田の顔は渋かった。

だがその決断は早い。

 

「現場の部隊を三つに分けて東、南西、南の敵に当たらせろ。」

 

「了解です。」

 

「ちょ、西と北西は?!」

 

慌てるように声をあげる根付に対して大丈夫だと忍田が首を振る。

彼の視線の先には西と北西を映すモニター、そこにはそれぞれ一人の人物がいた。

 

「迅と天羽に任せている。」

 

そこにいるのはボーダーS級隊員の天羽とA級に降格した元S級の迅だった。

こと単体での戦力という点で彼ら二人に匹敵するのはボーダー広しとは言え数えるほどしかいない。

 

「あの二人なら安心だね、こういうときは頼りになるよ。」

 

「ええ、そして部隊が到着するまでは……。」

 

「分かっとる。基地のトリオンで罠を展開している。それで時間を稼げるわい。」

 

「そしてその時間があれば……。」

 

『鷹原隊現場に到着!! 仕事に掛かります!』

 

『諏訪隊現着! トリオン兵を排除する!』

 

『鈴鳴第二!!現場に到着しました!』

 

『東隊現場に到着。任務遂行に入ります!』

 

『王子隊到着。これより作戦行動に出ます。』

 

『生駒隊到着です。』

 

本部司令室に次々と入る現場到着の連絡。それはボーダー隊員によるトリオン兵の殲滅戦を意味している。

 

 

 

「にゃんばらりん!!」

 

「オラ!」

 

南西方面の一角で一騎当千の無双ぶりを発揮するのは鷹原と猫葉だ。

スナイパーの蓮川は学校にいたために合流できていない。が、他の地区で別の隊員と連携してことに当たったいるという連絡はあった。

 

「シールドもないならアイビスも防げねぇだろ!!」

 

「このスコーピオンの錆だにゃ。」

 

エスクードのバリケードを使ってトリオン兵の進行を妨げながら無防備な箇所にアイビスを撃ち込む。トリオン兵ならシールドもないため不意を討つことも大して必要ないため気が楽なのだとか。

そして猫葉もスコーピオンをいつものように三股にして鉤爪のようにして振り回し、トリオン兵を切り裂いていく。

南西方面だけ異様に流れていくトリオン兵が少ないのは彼らが理由だろう。

 

他の地区も順調に排除できている。このままのペースであれば大丈夫だろう、そう思った時にそれは姿を現した。

 

 

「あん……?」

 

「なんだ……、新型?」

 

諏訪隊の前に

 

 

「大型の中から新しいのが……。」

 

「来馬先輩さがってください、こいつはやばそうだ。」

 

鈴鳴第二の前に

 

 

「なんだこいつは……!」

 

東隊の前に

 

そして

 

「にゃはは、ヤバそうな奴だにゃ。」

 

「ネコ、気を抜くなよ。」

 

鷹原隊の前にも

 

 

 

基地南部方面、東隊……

 

 

「小荒井、奥寺、警戒を密にしろ。」

 

「「はい!」」

 

突如として現れた新型トリオン兵は人型に近く二足歩行していた。

大きな手とウサギのような足が特徴的なフォルムをしている。大きさは3メートルほどと、トリオン兵にしては普通な大きさだ。

 

「新型か……様子を見ながら攻める──!?」

 

「はや──!」

 

周囲の様子を伺うようにじっとしていたその新型は停止状態から急加速して一気に東隊と距離を詰める。

そしてその大きな腕を振りかぶり東に迫る。

それを咄嗟にアタッカーの奥寺と小荒井がインターセプトの為に間に割って入った。だが……

 

「ちぃ、重いっ……!!」

 

「奥寺っ!!」

 

振りかぶった腕を叩きつけ、奥寺を押し潰した新型、その勢いのままに小荒井に仕掛ける。

振り下ろさなかった方の腕を横凪ぎに払って小荒井を民家に叩きつけた。その衝撃で民家の壁は倒壊する。

そして小荒井に大してトドメの一撃を加えようとした時ら東によるアイビスの銃撃が新型の動きを止めた。

弾は新型の腕によって弾かれるものの、次に仕掛けるには十分な時間を稼ぐ。

 

「この……!」

 

「行くぜ!!」

 

小荒井は掴まれたまま腕だけ出して弧月を振りかぶり、奥寺は新型の背後から仕掛ける。

しかし、新型の背から針が飛び出したかと思えば目が眩むような光を放つ。そして背後の奥寺などいないかのように小荒井の腕を掴んだ。

 

 

「電撃?!」

 

「腕が!?」

 

針からの電撃によって奥寺は無力化され、小荒井は腕を一瞬でもぎ取られた。

そのパワーへの驚愕と新型の次の行動にその場の動きが一瞬止まる。新型の腹が割れ、中から虫の足のようなものが飛び出て小荒井を拘束しようと迫る。

 

「うわ、何これ、キモい!!」

 

「小荒井!」

 

腕をもがれ抵抗のできない小荒井を東は咄嗟の機転で頭を撃ち抜くことでベイルアウトさせて救出した。

 

 

 

『本部へ、こちら東隊。新型と遭遇し交戦中。サイズは3メートル強、人型、戦闘力は高い。特徴的な動きとしてこちらを捉えようとする動きがある。』

 

本部に対してあくまで冷静に伝えられる情報。それは即座に全隊員へと伝えられることとなる。

それは鷹原たちにも伝わっている。

 

 

 

「にゃはは、B級は合流しろ……ねぇ。」

 

「状況は最悪、だな、こりゃ。」

 

現れた新型を撃退し、東を中心としたB級合同に合流する為に移動しようとしていた鷹原と猫葉の前に新型が三体現れた。

 

 

 

 

 





絶対長くなる




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第14話 大規模侵攻②


彼らは主人公です。でも、一介の精鋭部隊に過ぎません。

では本編をどうぞ↓


 

 

「B級は合流してそれぞれ一ヶ所ずつ討伐しろ、か。」

 

「たぶん正解にゃ。各個撃破してたらこいつに会っておしまいにゃ。」

 

「だよなぁ……。」

 

B級隊員に下った合流命令。それは東指揮するAチームと二宮指揮するBチームとに分かれてそれぞれトリオン兵を撃退しろというもの。

しかし、その前に情報を得ようと新型の残骸を解体して分析していた鷹原と猫葉の前に新たな新型が現れる。その数3体。

数で負けている上に、新型の戦闘力はバムスターやモールモッドの比ではない。そんな状況にふたりは息を呑む。

 

「やるしかないな。掴みと電撃にだけ気を付けろよ。」

 

「分かってるにゃ。」

 

『万が一の撤退ルートを送ります。』

 

「サンキュー慧。」

 

オペレーターからの支援も受けて腹を決めた二人は行動に移した。

猫葉はグラスホッパーを使って飛び回り新型の気を引き、その間に鷹原がスパイダーを張り巡らす。

 

「にゃははは!!」

 

「さて……3体同時か……。」

 

常に2体の死角を取るように跳ね回る猫葉と、スパイダーの鋼線によって新型の動きを制限する鷹原によって巨体の新型は思うように動けないように見える。

 

「にゃーはっはっは!!」

 

「おらぁ!!」

 

そして仕掛ける。

アイビスの砲撃で一体の反応を引き寄せ、続いてそれとは別の個体Bの足をスパイダーで地面と繋げる。

そうしている間に猫葉がCへと攻撃する。

Cは素早く反応を示し、猫葉の攻撃を防ぐために腕を上げる。そしてCのガードに合わせてBがカウンターをしようと動き出すが、足と地面がつながっていた為に初動が遅れる。

その遅れだけで猫葉には十分な時間になる。

 

「にゃんばらりん!!」

 

猫葉はCのガードした腕を支点にして体を回転させる。すると、Cの口の中にあるコアに3本の深い傷が刻まれ、行動を停止する。

そして遅れて到着したBのパンチを猫葉はグラスホッパーを使って跳ねて遠ざかることで回避した。

そして鷹原は眼前に迫るAに対して壁から足元にエスクードを飛び出させることで転ばせる。

 

「ネコ!」

 

「にゃはっは!!」

 

そうして転んだAに対して猫葉はスコーピオンを伸ばして迫る。

しかし、それをさせまいとBが間に入る。が、

 

「そこだ!」

 

今度は猫葉を囮に鷹原が接近してBの腹をレイガストで切り裂く。その鷹原を掴もうと迫る腕をエスクードで退けた鷹原は振り向き様にメテオラを放つ。

弾ける爆炎に新型Bの視界を塞いだ鷹原は距離を開けて、Aの足をスパイダーで地面と結ぶ。

 

「ネコ!」

 

「にゃっはっは!」

 

鷹腹はそのままレイガストを起動させAに仕掛ける。

その間に猫葉は手負いのBの周りを高速で跳ね回る。そうして新型との1対1の状況を作って二人は動く。

 

『こちら、鷹原!本部応答願います!』

 

『忍田だ。どうした。』

 

『生駒隊か二宮隊を増援としてこちらにください。それだけで南西地区を守りきって見せますよ。』

 

『いいだろう。増援には生駒隊を向かわせる。南西地区をたのんだぞ。』

 

『お任せください!!』

 

通信の先で鷹原がニヤリと笑う。

その場ではバラバラに引き裂かれ、砲撃で粉々にされた新型とトリオン兵が転がっている。

 

 

 

薄暗い空間。そこにいる人影の人数から見ればやや手狭なその空間に彼らはいた。

黒い角を生やした3人の男女、白い角の生えた2人の青年。そして杖をついている老人。

しかしこの6人全員が百戦錬磨を思わせる強者のオーラを纏っている。

 

「ほほ……これはこれは。玄界(ミデン)の兵士も、なかなか手強い……。」

 

老人がそう呟くと一番若い青年がコクりと頷く。

が、それに反論するように黒い角をした片目の黒い青年が言葉を発する。

 

「関係ねぇよ、ラービットはまだプレーン体だろうが。」

 

「それでも、この壁使いと猫の小娘はなかなかのやり手と思うがな。エネドラよ……。」

 

「あぁん? こんなもん雑魚だっつの。」

 

苛立つように眉間に皺を寄せる黒角の青年、エネドラに微かな笑みを浮かべる大柄な男は両手をあげて首を振る。

その姿を見てエネドラは舌打ちをして席に着く。

 

「だが、……ここまで対応されるとなるとこちらも次の手に出ざるを得ないな。エネドラ、ランバネイン、ヒュース、頼めるか?」

 

「任せろよ。玄界の猿なんざ蹴散らしてやる。」

 

「任せろ。兄……いや、指揮官殿。」

 

「お任せください。」

 

3人は立ち上がると女の用意した黒い窓枠の中に入っていく。

その先は三門市……、トリオン兵と激戦を繰り広げていたボーダー隊員たちの目の前だ。

 

 

 

「人型トリオン兵です!!」

 

「人型だと……!」

 

「仕掛けて来たか……。」

 

ゲートの反応とそれに応じるように出てきた反応に本部の沢村が声をあげる。

そこから次々と入電される人型の目撃情報に忍田と城戸、鬼怒田は唸る。

 

 

 

B級合同Aチーム(東春秋指揮)のいる東部方面ではというと……

 

 

「ひ、人型ですよ東さん!!」

 

「なんか、ヤバい雰囲気……ですね。」

 

「下がるぞ太一、蓮。コイツはヤバい……!」

 

スナイパーとして援護に回ってい東、蓮川、別役の前にランバネインが現れたのだ。

経験から来る危機察知で直ぐ様撤退に動く東とそれにつられる形で動き始めた二人、彼らを逃がすまいと、ランバネインがトリガーを起動する。

 

『B級Aチームに通達、こちら東。現在人型と遭遇、これより撤退しつつ戦力を図る。各員警戒!』

 

東の通信に、近くに隠れていた隊員たちの緊張感は一際高まる。

多くの隊員たちが始めてみるであろう人型、それがどれほど強いのか分からない。その事に皆ひっそりと息を呑む。

 

「はてさて、どれほどやるのか……。」

 

ランバネインの腕が変形し大砲の形になる。逃げながら横目でそれを見ていた蓮川と東はヤバいと察知して足を速める。

まずは一発着弾する。周囲を爆発で巻き込みながら破裂する砲弾の一撃に蓮川はグラスホッパーを起動した。

そして二発目、まだ遠くの地面を抉り取った爆発と物陰に隠れた太一。

そして三発目、起動したグラスホッパーで東と自身、そして太一それぞれを飛ばそうとするが、放たれた三発目が太一の隠れていた車に直撃した。

グラスホッパーによって弾かれた太一の体は直撃こそ免れたものの、片腕と片足をたった一発で持っていかれた。

 

「太一!」

 

「足が!?」

 

吹き飛ばされた太一の傷口から止めどなくトリオンが漏れ出る。

しかしまだ生きている。グラスホッパーでその場から大きく離れることが出来た二人はイーグレットを構えた。しかし弾はまだ飛んでこない。ランバネインはそのまま吹き飛んだ太一に連射してトドメを刺していたからだ。

その隙、注意がまだこちらに完全に向ききっていないこの瞬間しかないと二人は、いや周りは判断した。

次の瞬間に5発の狙撃がランバネインを襲う。

 

(ガードされた!?)

 

(不味い!!)

 

太一のものであるベイルアウトの光が空を走った瞬間のこと。ランバネインは放たれた5発の狙撃全てをシールドで防いでいたのだ。

 

「伏兵が三枚!!」

 

『逃げろ!!』

 

東の指示とほぼ同時、ランバネインは大量の弾を狙撃が飛んできた3方向に向かって放つ。

その弾はスナイパーが潜んでいたビルを崩し、その中に潜んでいた彼らをベイルアウトさせるには十分な破壊力だった。

3方向の内2方向からベイルアウトの光が走る。

 

「さぁ、まだいるんだろう?」

 

自信満々に笑うランバネインに、逃げきれた東と蓮川は冷や汗をかくのだった。

 

 

 

 

 

 

 





何人生き残れるのか。

ではまた次回でお会いしましょうノシ


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第15話 大規模侵攻③


エネドラさんの黒トリガーって、強いよなぁやっぱり……


では本編をどうぞ↓


 

 

「あぁん?なんだ?かなりいるじゃねぇか。」

 

二宮が指揮を任されているB級合同Bチームの担当する南地区には、黒角の青年、エネドラが現れた。

マントから漏れでるように黒い何かを纏いながら現れた彼に目の前の二宮は眉間に皺を寄せる。

 

『こちら二宮……、人型と遭遇。角は黒、ブラックトリガーだ。……本部?』

 

『すまガザ通信が……ガザッザザ……』

 

『本部っ!?』

 

通信の様子がおかしいことに不安を感じた二宮は慌てて本部の方を見る。そこにはこの前の爆撃型トリオン兵が複数、本部に突撃しようとしていた。

 

「なるほどな。仕方ない、犬飼、辻、やるぞ。」

 

「犬飼了解!」

 

「辻、了解!」

 

二宮の合図に犬飼も辻も獲物をエネドラに向ける。

その裏で彼の指揮するBチームは止めどなく襲ってくるトリオン兵を相手に奮闘する。

人型や新型には勝てなくとも彼らはB級隊員、普通のトリオン兵は雑作もないことだ。

彼らが無理ならB級上位、そしてA級がいる。

そして上位陣はそんな彼らの信頼があるからこそ手を抜かない。

彼らボーダーの防衛任務はこの信頼のサイクルで成り立っている。

 

 

「アステロイド!」

 

「効かねぇなぁ!!」

 

トリオンキューブを分割して放たれた弾丸はエネドラを捉えるものの、水面に石を投げ込んだように手応えがない。

次いで辻が旋空を起動させて中距離からの斬撃を放ち、犬飼が弾丸をばら蒔いてエネドラの体を両断し蜂の巣にした。のだが、直ぐにその体は再生する。

 

「っ……!?」

 

「あれあれ~、ヤバ気かな?」

 

辻は驚きの顔を浮かべてエネドラから距離を取り、犬飼もおどけたように笑うも、目の奥は笑っていない。

迅の風刃や天羽で実感はしているが、実際に目の前で戦うことになって実感する黒トリガーの厄介さ。それも、単純な力押しが通用しない相手ということもあってか、犬飼と辻は息を呑んだ。

 

 

『辻、犬飼。解析の時間を稼ぐぞ。可能な限りパターンを試す。』

 

『犬飼了解!』

 

『辻、了解。』

 

二宮の言葉に二人は散会し、3人でエネドラを囲むように位置する。

 

「メテオラ!」

 

「どこにあるのかなっと!」

 

「叩き切る!」

 

二宮のメテオラ、犬飼の掃射、そして追い討つように放たれる鋭い辻の旋空はエネドラを攻め立てる。

だが……

 

「無駄っつってんだろ猿が!」

 

「っ?!」

 

それでもエネドラは倒れなかった。倒せなかった。

一斉攻撃を受けても形を保ち、攻勢に出る。

その一瞬前の気配を直感で感じ取った二宮は直ぐ様その場から飛び退き、視界の端で捉えていた二人もその場から跳ぶ。

その直後に彼らのいた場所の真下から大量のブレードが飛び出した。あと一瞬遅ければ無事でなかったと、犬飼は顔を青くする。

 

「マジでヤバいやつじゃん。」

 

「硬質化と、液体化……か。やはり点ではなく面で攻めるぞ。」

 

「はい。」

 

少しだけ動揺の色を見せる犬飼に対して二宮は変わらずいつもの調子で指示を出す。その態度に二人も普段の落ち着きを取り戻した。

 

『足を止めるな、足元からの攻撃に気を配れ。』

 

『了解!』

 

『了解!』

 

二宮隊の3人は足を止めず常に動き回ってエネドラを逃がさない。

シューター、ガンナー、旋空と、射程持ち3人の二宮隊による中距離からの猛攻。これならばいかに黒トリガーと言えども無事ではないだろう。オペレーター氷見はそう思った。

だが、そう上手くいかなかった。突然のことだった。辻の体からブレードが飛び出し、トリオン供給機関を破壊したのだ。

 

「こ、これ、は……?!」

 

ビキビキとひび割れの音を立てながら辻のトリオン体は崩壊しベイルアウトする。

不可解な辻のダウンに二宮は思考を回す。

 

『氷見、あの時の辻に何があったか報告しろ。』

 

『は、はい! あの時の辻くんの体内から、交戦中の黒トリガーと同じトリオン反応が発生、その直後にブレードで体内の供給機関を破壊されています!』

 

(体内にトリオン反応……。)

 

氷見からの報告を聞いて二宮は頭を捻る。東の元で戦略・戦術を習っていた彼は観察する眼にも優れていた。

そしてそれを活かす頭もある。

 

『犬飼、あまり距離を詰めすぎるなよ。いま、辻と氷見に解析させている。それまでここに足止めさせればいい。』

 

『了解っす!』

 

二宮も犬飼もさらに慎重に距離を測りながら牽制する。

トリオン体であるならばどこかに伝達・供給機関があるはずである。

それさえ破壊できれば如何に黒トリガーと言えども無事ではない。

二宮もそれを狙っている。狙っているが故にメテオラを使って範囲を巻き込んでいるのだが、効果はないように見えるのだ。

 

「何回やっても無駄だって、分かんねぇのか?猿がよぉ!!」

 

遠巻きに削る二宮と犬飼にキレたエネドラが今までよりも激しくブレードで攻め立てるも、元から前のめりになっていない二人はどうにかその凶刃から逃れる。

しかしそれすらもエネドラは気に入らないのか眉間に更に皺を寄せて歯噛みする。

 

「チョロチョロとうざってぇ猿だなぁ!!」

 

「っ!?」

 

苛立ちを隠せないように怒鳴り付けるエネドラは次の瞬間に足元に大量のブレードを叩きつけて粉塵を巻き上げる。

それを見た犬飼と二宮は急いで足元にシールドを展開するも何も起こらない。

煙が晴れてそこを見れば、大きな穴が空いておりエネドラの姿はどこにもない。

 

「逃げられたか……。」

 

「みたいっすね。」

 

穴を慎重に見下ろしながら二宮と犬飼はそれぞれ周囲の気配に気を配る。

しかしエネドラの気配はなく、完全に遠くへと離れたと確信した。

 

『本部……。』

 

『あぁ、大丈夫だ。黒トリガーと遭遇とのことだが。』

 

『はい、逃げられました。今オペレーターからも映像を送りますが、能力は液体化と固体化。供給機関その他を体内で移動させていると思われる。使用者は攻撃的な性格でこちらのことを見下すような言動をしていました。』

 

『了解した。引き続き市街地の掃討に当たれ。』

 

『了解。』

 

忍田への報告も終わると二人は周囲の部隊に合流し、南地区のトリオン兵を一掃していく。

 

そしてその頃、市民の避難に当たっていたC級と、その援護に回っていた三雲修及び木虎藍はと言えば……

 

「かなり流れて来てるわね!」

 

「あぁ、やっぱり数が多いんだ!」

 

新型や人型近界民の出現による混乱の隙を突いて、または強引な数の暴力によってボーダーの防衛線を抜けてきたトリオン兵の排除に追われていた。

その多くが戦闘用のモールモッドや飛行型である。

 

「いくらなんでも多すぎる!」

 

「他の隊の援護があれば……!!」

 

いくら木虎がA級と言えど対応できる範囲には限りがある。

木虎がうち漏らしたトリオン兵をどうにか三雲が捌くものの、それでも数が多く、C級隊員たちは走って逃げる。

 

『本部!こちら嵐山隊木虎! 至急増援を願います。』

 

『了解した。至急部隊を向かわせる。なに、すぐに到着する。』

 

『了解です。』

 

本部との通信を切った木虎はスコーピオンで目の前のトリオン兵を切り刻む。

それでも目の前に迫るトリオン兵は多く、背後のC級に気を使う余裕はほとんどなかった。

 

 

 

 

 

 





他の二次創作の人みたいにパラメーターとか出した方がいいですかね?


では次回でお会いしましょうノシ



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