報せたがりな神様になりまして (夕凪煉音)
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序章 

輪廻転生という仏教の思想を知る者は多いだろう。

何故唐突にこのような話をしたかというと、私が一度人としての生を終えた後に仮称謎生命体に生まれ変わったからである。

 

そもそも謎生命体とはなにか。未だにそれすらもよく分からないが、知的生命体ではあるようだ。具体的に説明をするならば、各々の姿に共通点など1つもなくとも各々を同族として扱い、時には同調し、時には敵対しながら生きる、寿命が極端に長い知的生命体ということになるか。

そこに加えるとするならば、前世では超常現象として扱われたであろう能力を各々が持っていることだろう。その能力は同朋達各々の個性の1つと言えるだろうと感じるくらいには多彩な能力があるが、それらを一つ一つ挙げていくときりがないので触れないこととする。その能力を含めた個性で各々を区別し、名としている。

そして欲望に忠実に生きる同朋が多いために命を散らす同朋もまた多いのも特徴か。まあ、消えた端からまた新しい同胞達は増えるものだから余り減った気はしないが。

少なくともこの世界で生まれて数百年経って私や私の同朋達について私が知っていることはこの程度である。同朋達各々のことについて挙げるとこれまたきりがないのでこれにも触れないこととする。

 

 

とまあ、私の生まれた種族?についてはこの程度にして、次は私のことについて話していこうか。

真名は“大智の天蓋”。この世で知らないことはないとされる知恵者だ。勿論知らないことも多い。しかしながら、大量の情報を収集するための能力とそれを全て蓄えておける程度の記憶力、他の同朋達に聞かれたことにはだいたい答えられる程の智恵を持っている。

弱い同朋達が生き延びるための知恵、強い者が弱い者を統率するための術、弱い者が強い者に打ち勝つ為の策、同朋達が退屈しないための何か、と言った同朋達の生活に直接関係するもの。

世界の構造のこと、世界の外側のこと、世界で起き得る自然現象のこと、我々が扱う能力のこと、そして我々がどういう存在か、など世界の構成要素に関するもの。

ありとあらゆる同朋達からありとあらゆる質問を受け、答えが分かっているものについてはだいたい答えた。

 

その結果がこれである。

 

「おお、先生!その知ぃぃ識は、一体全体どぅぉおおぉおやってぇぇぇえぇえぇ!?そしてどぉおおこから導きだしたものなのですか!?」

「ああ、それは確かに私も気になるな。師よ、宜しければお聞かせ願えますか?」

「それが私の本質だから(適当)」

 

この世界の知識人たちから見事に慕われてしまったのである。その結果私塾のようなものを定期的に開くことになった。

が、その顔触れの個性が凄い。

発明家な狂科学者に非力な自在師、弱気な牛骨に三眼の女。

中でも特に優れている4人を挙げるだけでもこの有様。

狂科学者はその知識欲の趣くままに実験を繰り返して多くの同朋達に迷惑がられている。自在師はその存在自体は弱々しいがそこから生み出す自在法は最早芸術の域に達するほど。牛骨は弱気なれども賢者と呼ばれるだけの才覚を持っている。三眼の女は創造神の眷属として世界中で暗躍している。

それぞれ世界に多大な影響を与える存在であることは想像に難くない。

その筈なのにこの私塾にこの4人が揃っていると2人の狂人を2人の常識人が宥めつつ議論を重ねる構図が出来上がる。その熱は師である私を除いて何人たりとも入っていけない程である。

 

 

これから、ここに至るまでの主要な出来事でも思い出しながら記憶をまとめてみようかと思う。

 



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神と呼ばれる

お気に入り登録ありがとうございます。
投稿10分でお気に入り登録されてました…。恐ろしい。

尚、本日後1話投稿予定です。


この世界には神という存在がある。

普通の同朋達とは一線を画す能力を持った存在であり、システムのことである。

 

この概念を文字通り創ったのが概念をも生み出す大蛇、創造神“祭礼の蛇”である。

そのことを世界中に広く知らしめたのが揺蕩う神霊“覚の嘯吟”であり、そのあり方を以て導きの神と称され、一方では有り難がられ、一方では煙たがられている。

 

いつしか大蛇は、神の権能を補佐する存在として“眷属”という概念を創り出し、自らの眷属を3体生み出した。

そして神霊はそのことを世界に伝えると共に、自らを補佐する存在を同朋達の中でも特に情報収集に長けた者の中から選んで、“眷属”に任命した。

 

と、言うのがこの世界の文字通りの神話の一部分とでも言うべきものである、と言うことになっている。

勿論導きの神の“眷属”の部分は彼らくらいしか知り得ないことではあるが、勿論例外もある。

と言うよりも、文字通りの真実を知る者がいるのであるが、何を隠そう私のことだ。

 

始まりは本当に気紛れだったのだ。

私が生まれたのは世界の黎明期とでも言うべき時代だった。その世界でどう生きるか考えた私はまず知を求めた。

そしてその後様々な同朋達に相談を受けて智を授けた。

そこで止まっていればよかったのだろうが、何を血迷ったのか文字通り世界中全ての同朋達に様々な知恵を発信してしまったのである。それだけのことを行えるだけの知識も術も有った。そして発信する際には偽名を名乗った。則ち“覚の嘯吟”である。

ここまで言えば後はもう分かるだろうが、情報を粗方発信し終わった頃に神という概念が出来、それをも発信したら、神の一柱として“覚の嘯吟”という架空の同朋が宛がわれたのである。

そこからはまあ大変。導きの神を探して自らの陣営に率いられようと画策する同朋達の増えること増えること。

私は自分が導きの神であることを隠すために発信の頻度を落とし、特に重要な事柄を知らしめるのみに止めるようになった。

そんな時に都合良く“眷属”という概念が出来た。これ幸いと私は情報を世界中に発信するための術を神の儀式という形に昇華させた。後は簡単で、私は導きの神の眷属と偽り、導きの神の眷属を任命した。彼らは嬉々として命を犠牲に儀式を執り行った。私はその様子には若干の恐怖を覚えたが、私は対外的には導きの神の最初の眷属である。ある意味では関係のないことと考えることにした。

 

 

この世界の神たち、断罪を司る炎の巨人からは異色の神と評され、概念の創造を行う大蛇からは「珍しがり」と評されている。その外の神々とは未だに会ったことはないので定かではないが、覚の嘯吟としての私を神扱いしているのは伝聞に聞いたことがある。

 



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大蛇との邂逅

私が彼と出会ったのは、“祭礼の蛇”が神の概念を創り、“覚の嘯吟”としての私が導きの神となって暫く経った頃のことである。

 

「お前は…もしや導きの神か?」

私は同朋達が少ない所を歩いていただけなのに、何故かそう呼び止められたのである。

相手を見てみると、巨大な黒い蛇。創造神であった。

何となく誤魔化せないと直感した私は彼にこう言った。

「そちらの名は偽りであって、私は“大智の天蓋”と言うのだ」

「そうか」

彼はそう言った後に少し間を置いてからこう切り出した。

「知恵者よ。お前は何がしたいのだ?」

この世界の神同士の最初の問答はこうして幕を上げた。

 

「何がしたい、とは?」

「なに、余は同朋達が好きだ。だからその願いを叶えるべく神という概念を創り、自ら神となった。しかし、お前の場合はただ面白おかしく様々なことを伝え続けたことで余と時をほぼ同じくして神となった。お前が何をしたくてそれらを伝え続け、神にまでなったのか聴いてみたかったのよ。そう思っていたらたまたまではあるが、お前を見つけて直感的に導きの神だと思った。これは運命ではないかと思っての先の言よ」

回りくどい言い方ではあるが、芯の通った立派な存在であることは分かった。ならばこそ言ってやろうではないか。私がやりたかったことを。

「私は世界を守りたいのだよ」

「守りたい、と言うか」

「ああ。世界の黎明期、我々は突如としてこの世に生まれ、同朋達の誰もが必死に生きていた。どのように生きればいいのか、どのように歩めば良いのか、全て手探りだった。その中で無為に争い命を散らした者さえいた。そんな者を減らす為に情報を発信し続けた。しかし私自身の名は当時悪い意味で有名だったのでな。架空の同朋“覚の嘯吟”として伝えたのよ」

「その結果が導きの神か」

「そうだな。“覚の嘯吟”の名は便利だった。否、便利すぎたと言っても良いだろう。勿論真実しか伝えてはいないが、それでも恨みを買うことも多い中で、真実を伝え続けて同朋達を応援するための隠れ蓑として。実際に導きの神を探した者達はかなりの数いたようだからな」

そこで一旦間を置いてから話を続ける。

「これから先、新たな概念が生まれるだろう。新たな生きるための術が生まれるだろう。新たな娯楽が生まれるだろう。その中でより便利に生きるための術を同朋達は選ぶだろう。そして…あくまで可能性でしかないが、危険が伴うかも知れない事すらあるだろう。それを行った同朋だけでなく、その周りの同朋達、ひいてはこの世界を滅ぼす事すら考えられる。それを避けるための術を識り、彼らを導いていきたい。勿論、これからは私以外でも様々なことを考え、予想して、同朋達を導いていく、貴殿や私の生徒達のような同朋達もいるだろうから、私の助けなくば儚くその業績も識られずに朽ちていくような、そんなものを中心に伝えていくことになるだろう。それが私の生き方だよ」

「そうか、そういう生き方もあるのだな」

彼は少し考えた後にそれだけ言って去って行った。

 



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