主人公達をダークソウルの世界に突っ込むだけのお話 (火孚)
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この世界に希望を求めるのは間違っているだろうか
Turn ベル#1


 救い? そんなものはない


 ふと、目が覚めた。

 自分がいつ寝てしまったのかわからずに、いつものように目元を擦ろうとして違和感を覚える。

 特段朝が強いわけではない。それにも拘わらず、今の自分にはいつも起きる際に感じる後ろ髪を引かれるような感覚が一切ない。

 眠気などなく、ただ意識が『目覚めた』だけ。どちらかといえば、覚醒といった方が正しいのだろう。

 

 

「……?」

 

 

 周囲を見渡すと、石で出来た棺のようなものに囲まれた場所であることがわかる。

 はて、此処は何処なのだろうと首を傾げてみても、記憶に思い当たる節はない。

 先程までは、確かにオラリオへと続く街道を歩いていたはずなのだ。それが、どうしてこんな場所に?

 

 

「……取り敢えず、人を探して聞いてみなきゃ」

 

 

 此処でいくら考えていても、所詮憶測でしかなく合っているという保証すら得られない。それならば、先に進む方がいくらかはましというものだろう。

 そう考え、棺から這い出した少年は改めて周囲を見渡した。

 やはり、周囲の景色は記憶にあるどの風景とも違い、苔むした岩や明らかに人の手の入っていない道などを進んでいくと分かれ道に出た。

 そして、少年はその分かれ道に人が立っているのを見つけ安堵のため息をつく。

 

 

「あの、すみません……?」

 

 

 声をかけてから、気付く。

 ボロボロのフードとマントを身にまとったその人影は、声をかけるまで所在なさげにゆらゆらと揺らしていた体の動きをピタリと止め、少年をまっすぐと見据える。

 そのフードの下から覗く肌は真っ青で、様子もどこかおかしい。

 一体どうしたんだ、と少年が慌てて駆け寄ろうとした時、それに先行してぼろマントの男が動いた。

 

 

――その手に、鈍く光る短刀を携えて。

 

 

「え……? うわっ!?」

 

 

 突然斬りかかられた少年は反応が遅れ、避け損なった刃が腕を浅く切り裂く。

 腕を切り裂かれる、などという体験をしたことがあるものは稀だろう。この少年も、その例に漏れず平穏無事な人生を送ってきたただの一般人だ。

 恐怖と痛み、そして何故切りつけられたのかという疑問が少年の中に駆け巡り、その動きを止めさせた。

 一瞬のすき、と言うにはあまりに長すぎる硬直。

 その格好のタイミングを、ぼろマントの男は見逃さなかった。

 再び短刀を振り上げると、動けないでいる少年に向かってなんの躊躇いもなく振り下ろした。

 刃が肉に食い込み、切り裂く。

 鈍い音が周囲に響き、鮮血が舞った。

 

 

「う、ぐあぁぁぁぁッ!?」

 

 

 胸を大きく切り裂かれ、腕のときとは比較にならないような痛みが少年を襲った。

 一体、何が起きているのか。自分は今、どうなっているのか。

 少年がそれを理解したときには、すでに死は少年のことを捕らえていた。

 

 

「――ぁ」

 

 

 突き出された短刀が、少年の喉を貫く。

 声にならない悲鳴と、ガボッという血を吹き出す音が響き渡った直後。

 少年の意識は、明確な死によって黒く塗りつぶされた。 




 初めましての方は初めまして、そうでない方も初めまして。
 知り合いにベル君をダークソウルの世界に突っ込んだというなんとも可愛そうなことをしている人がいて、その人との話の途中でふとお前も書けよみたいなことを言われたのが、この作品のきっかけです。知り合いの作品が気になる方はそれとなく調べてみてください。
 実はダンまちの方はよく読み込んでいないので、ベル君の言動におかしなところがあってもご容赦ください。でも多分あってるはず。アニメではこんな感じだった気がする……
 私にはプロットを書くとかそういう能力はないので、このお話しはグンダ戦が終わったら次の主人公へとバトンタッチします。
 グンダ戦のあと、主人公がどうなるのかについては、皆々様のご想像におまかせいたします。興が乗ったら書くかもしれませんが、多分書かないです。三作品更新とか私には荷が重すぎる……
 基本的にダークソウルの世界は「希望? そんなことより糞団子だ」的な価値観なので(偏見)、それに習って希望を取っ払ってみます。
 まぁ、グンダを倒してから漸くダークソウルが始まるので、それくらいやってもらわないとですもんね。
 こちらの更新は気が向いたらですので、早いときもあれば月一更新のときもあるかもしれません。字数少ないからもうちょっと早いかな……
 それでは、次のお話でお会いしましょう。


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Turn ベル#2

あらゆる生あるものの目指すところは死である――フロイト


「――うわあぁぁぁぁぁあああッ!?」

 

 

 悲鳴を上げながら、少年は体を跳ね上げるようにして目を覚ます。

 胸のあたりを押さえつけ、恐怖の色を混ぜた瞳で周囲を見渡すも、そこに人影はない。

 しばらくの間震えてその場から動けなかった少年は、やがて少し落ち着きを取り戻したのか強張らせていた体から徐々に力を抜いていった。

 

 

「……あれ? 僕は、今……」

 

 

 周囲に脅威がいないことを確認して一息ついたとたん、先ほどの体験がフラッシュバックしてくる。

 切り裂かれた胸。迫りくる鈍い色を放つ短刀。そして、死。

 そう、確かにあの時自分は――死んだのでは、ないのか?

 

 

「……ッ!」

 

 

 処理が追い付かないままそこまで考えた少年は、何かに気が付いて慌てて自分の体をまさぐった。

 そして、一つの事実に気が付く。

 

 

――ない。

 

 

 切り裂かれたはずの腕、胸、喉のいずれにも、傷一つ存在しない。

 ならば、あれは夢だったのか? 現実には起こってはいない、ただの幻想?

 

 

「……そんなわけ、あるもんか」

 

 

 少年があの時感じた痛み、そして恐怖は、ただの幻想として片づけてしまうにはあまりにも生々しかった。

 ならば、あれは現実に自分の身に起きたことなのか? そう考えると、今度はなぜ自分が生きているのかという問題にぶつかる。

 自分は喉を貫かれて死んだはずで。例えあの後誰かに救い出されていたとしても、助かる見込みなど欠片もなかっただろう。

 では、一体なぜ? 自分の身に、何が起きているんだ?

 

 

「確かめ、なきゃ……」

 

 

 ふらり、とよろめきながらも少年は立ち上がった。

 当然、恐怖はある。先ほど自分の身に起きたことを、理解したくないと脳が訴えている。

 だが、確かめなければいけない。そうしなければ、前に進むことすらできない。

 理性の片隅でそう理解した少年は、震える足で歩を進めた。

 先ほど通った道。記憶に新しい風景。

 あれは夢などではなかったのだと突きつけられているような気がして、少年は顔をゆがませる。

 

 

――遅々とした足取りで、どれほど歩いただろうか。

 

 

「……い、た」

 

 

 見覚えのある分かれ道。そこに、見覚えのある男が所在なさげに体を揺らしていた。

 まだ、こちらに気が付いていないのだろう。襲ってくる様子は見られず、それが逆に少年の恐怖心をあおった。

 見つかれば、また殺される。また痛い思いをする。また――どうしようもなく、恐怖する。

 

 

「……ッ」

 

 

 殺されるのは嫌だ。痛いのは嫌だ。怖いのも嫌だ。

 いやだいやだいやだ。なんで、どうして、僕は……

 少年の心が悲鳴を上げる。これ以上はやめてくれと、許しを請う。

 そして、無垢なゆえに恐怖に対する耐性がなかった少年の心は、つぶれてしまう前に一つの結論をはじき出した。

 

 

――殺されるのが嫌なら。

――痛いのが嫌なら。

――怖いのが嫌なら。

 

 

――そうされないように、消せばいいじゃないか。

 

 

 冷たい思考。普段の少年ならば、決してたどり着かないような自分本位な考え。

 果たして、この状況がそうさせたのか。少年に元々の素質があったのか。それとも、別に何かあるのか。

 一つだけ、はっきりしていることといえば。

 

 

「――やるんだ、僕が、先に……ッ」

 

 

 少年の絶望が、始まったということだけだった。




第一村人が 現れた !


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Turn ベル#3

 護身用にと持っていたナイフを握りしめ、少年はぼろマントの男へと駆け出した。当然、それに気が付いた男は体を揺らすのをやめ、少年のことをフードの下から見据える。

 ちらりと覗く青白い肌に、手に持つ鈍い色の短刀。

 それを前に怯みかけるも、もはや引き返せないとそのまま駆け抜ける。

 

 

「う……わあぁぁぁぁぁーーーッ!」

 

 

 今回先手を取ったのは、少年の方だった。

 叫び声をあげながら、型も何もない剣筋で男に切りかかる。

 その刃が男をとらえることはなかったが、避けるために体制を崩したことで突っ込んでくる少年に対しての攻撃の機会を男は失っていた。

 一方の少年は、躱されたことを理解すると同時に勢いを殺さずに肩口から男に体当たりする選択をした。

 そのタックルによってあっさりと押し倒された男は、持っていた短刀を衝撃で弾き飛ばされる。それでも、馬乗りになってくる少年に対して手を振り上げ、抵抗する様子を見せた。

 

 

「この……この!」

 

 

 その姿に、少年は恐怖し手に持ったナイフで何度も何度も男の胸を刺し貫いた。

 男の手から力が抜け地面に降ろされても尚、すぐに蘇り短刀で襲い掛かってくるような気がして少年は手を止めることができなかった。

 一体何度振り下ろしたのか、腕が疲れて振り上げることができなくなるほどになってようやく、少年は動きを止めた。

 我に返ってみれば、なんてことはない。

 抵抗もできぬ相手をめった刺しにして、命を奪っただけのこと。

 そう……ただ、それだけ(・・ ・・・・)

 

 

「ぅ、あ……僕は、僕は……?」

 

 

 少年はナイフを手放すと、よろよろと立ち上がって後ずさりする。

 違う、違うと首を振りながら、自分がなした所業を否定し、拒絶する。

 自分の身を守るためだったのだと。自分が悪いのではないと。

 躓きしりもちをついた少年は、足元に一瞬緑の光を見た気がした。

 

 

――僕は、何をしているんだろう……?

 

 

 ふと、何かが体のうちに侵入してくる感覚を覚えると同時に、そんな疑問が少年の中で首をもたげた。

 僕は、一体何をしに故郷を離れたのだったのかと。

 少年には夢があった。その夢は、人から見れば多少歪んでいるものの、英雄になりたいという実に誰でも一度は思い描くもの。

 多くのものが描き、そして夢半ばで諦めてしまう、そんな夢想。

 しかし、少年は本気で目指すつもりだったのだ。亡き祖父から教えられた英雄譚、それに焦がれた少年は、本気で。

 

 

「僕、は……!」

 

 

 こんな意味不明なところに迷い込んで、こんな不可解な現象に巻き込まれて。

 危うく死にかけて、それどころか、一度は確実に命をちらして。

 こんな時、物語に出てくる英雄ならどうするだろうかと考えて。

 違う、と少年は首を振った。

 少なくとも、これは物語ではない。

 ここに、かくあれと謳われる英雄は存在しない。

 ならば、どうすれば良いか。

 

 

「……ッ」

 

 

 何かを決意した表情を浮かべた少年は、地面に落ちていたナイフを迷いを振りきったような動作で拾い上げる。

 考えるのは後だ。悩むべき時は遙か先だ。

 今はただ、この異常な状況を前にして。

 先へ先へと進む以外に、道はないのだと、少年は理解したのだった。




展開が早い? 申し訳ない……
でもこうしないと先に進みませんから、なにとぞご容赦を


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