剣の世界を佐々木小次郎(偽)が行く (折れたサンティの槍)
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ソードアート・オンライン
始まり


ダークソウル3でFateの佐々木小次郎再現っぽいキャラを作りながら妄想していたら書きたくなったので、勢いで書いてみたら意外に大変だったため、ハーメルンで小説を書いている人たちって凄いんだな、と思いました。(小並感)
そんな感じの小説なので、反省と後悔はいつかするかもしれないし、しないかもしれない。

11/24 少し修正しました。
12/17 加筆&修正


気がつくと自分は真っ暗な謎の空間にいた。

名前詐欺の公王なんかが出てきそうだなどとぼんやりと思っていたら、公王ではなく、なんか神様っぽい服装の青年がいた。

 

「そんな死んだ魚の目をしていたら女にモテないぞ」

「うるせーやい、てかもっと他に言うことあるだろオッサン」

 

青年がツッコんだ。だろうな。

 

「ここはどこであろうか?」

「死後の世界」

「ほうほう、あなたは?」

「反応薄っ。……俺は、今はアンタみたいな奴ら担当の神の代わりにこの部屋を任されている神だ」

「やはり神様であったか、というか自分は死んだのか」

「ついさっき、ぽっくりと逝ったばっかりだろうが。分かってるだろ」

「おう、それはもう」

 

先程寿命で逝ったばかりですとも。

青年改め神様が穏やかな声音で聞いてきた。

 

「……騒いだり、喚いたり、しないんだな」

「それはまあ、それなりに満足して逝けたからなぁ」

 

ある男(・・・)に憧れてやってみたいと思い、周りの反対を振り切ってやってみた剣術は、山ごもりとか師との特訓なんかが死ぬほどキツかったが悪くはなかった。

己の人生を振り返ってみようと思ったらそれしか頭に出てこなかったが、満足して逝ったと言えるだろう。

 

「女を愛することはしなかった、いやできなかったみたいだがな」

 

何処からか取り出した椅子に座りながら、目の前の神様が言う。

そう、長い年月をキツい山ごもりや特訓やらで過ごした結果、女に愛されるような人間ではなくなっていたし、刀を振るうことばかり、したり考えたりしていた。それ故に女を愛することも無かったのだ。

良い人生ではあった。

人としての幸せはあまり無かったが。

 

「そこでだ、元ここ担当のクソやろ……ではなく神をぶっとばし……ぶっ飛ばして機嫌が良い自分が、お前を転生させてやろう」

「途中で取り繕うの諦めたな……というかその神は何をしたのだ」

「自分の娯楽のためだけに若い人間を殺しまくって、いろんな世界に送りまくっていたぞ?」

「それは酷い」

 

それより転生?転生といえばあの、チート能力やら現代知識やらで剣と魔法の異世界で暴れたり暴れなかったりするあれか?それとも仏教で考えてられている輪廻転生というやつだろうか。

 

「安心しな、異世界転生の方だ。お前には、二次創作物によくある方の転生をしてもらうぞ」

「ほう、何処の世界に行くのだ?」

「希望があるなら応えてやるぞ?お前が元いたような世界でも、『お前たちが空想の中のものだと思っている世界』でもな」

「……今割と衝撃的な言葉が聞こえたのだが……そうだなぁ、もし私に行きたい世界があるのだとしたら……」

 

もし、私の望みが叶うのだとしたら。

目を閉じ、数瞬考えた後、目を開き、言う。

 

「私の憧れた、あの男(・・・)のいる領域に至ること……それが私の望み」

「……いやもう至っていると思うんだが(・・・・・・・・・・・・・)

「いやいや、今の私ではサーヴァントと打ち合うことなどとてもとても」

 

それにまだ満足していないしな。

と思っていたら「えぇ……」と何故か引かれた。解せぬ。

 

「……それじゃあアンタの望みを叶えられる世界に送ってやるよ。その望みを叶えられる環境もおまけして付けてやる……それで良いか?」

「ああ、それで良い……ありがとう」

「それじゃ、良い新生をな」

 

神様がそう言った次の瞬間、身体が足元から少しずつ消えていく。その間、目の前の神様を、ただ見つめ続ける。

そして意識が薄れていく最中、

 

「ああそうだ、最後に一つだけ」

 

と神様は言った。

最後の言葉を聞くために、薄れていく意識を必死に留める。

 

「アンタなりに幸せを探してみな。たまには剣を忘れて、美味いモン食ったり、女にちょっかい出すとかしてな」

 

と、口角を上げながら、そう言った。

 

ああ、うん、そうだな……まぁ、善処はしよう。

そう思いながら私の意識は消えていった。

 

 

 

 

 

ただ一人、真っ暗な空間で、神は呟く。

 

「……ただ"かっこよかった"からと、それだけの、少年の様な憧れの果てに秘剣を獲得(不可能を可能に)した男よ……お前の行く末を、見届けさせてもらうぞ」

 

 




とりあえず好きな様に書いてみようと思います。


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原作前・笹木家にて

オリ主・オリキャラ(オリ主の弟)の名前は割と適当。
オリ主の見た目は髪色と瞳色が黒い以外は、ほぼFateの佐々木小次郎。
そんな感じです。

11/24 少し修正、ちょっとだけ変えてみました。


side なし

 

その少年の名前は笹木小太郎、現在15歳である。生まれた時に普通の赤子よりも小さかったことが名前の理由だ。

 

彼の現在までを大雑把に振り返ろう。

 

生まれ育った場所は、畑が遠くまで広く続くような田舎であった。

赤子から始まり、4歳の時に自我が芽生え、前世を思い出した。幸い、それが全くの他人のものではなく、自分の昔の記憶、経験であると感じられたため、混乱したりパニックに陥ることはなかった。

前世の記憶がある事は、10歳の頃に今の家族に話した。自分に前世かの記憶があること、どんな前世であったか、どんな人間であったかを、全てではないが、今の家族である父・母・祖父に。

あんな前世を持っていれば、普通の子供の様に振る舞うことはできるはずもなく、それ故に、周囲の人間に不気味な子供だと思われていたことがあったからである。

もし拒絶されたとしてもそれを受け入れて、どうにかして1人ででも生きていこう、などと思いながら。

 

自分たちの息子に、知らない誰かの記憶が宿っていると知っても拒絶されることは無く、それを受け入れた。お前も笹木家の一員だと笑いながら。

 

その時、小太郎は思った。

ああ、自分は何と幸せ者なのだろうかと、この家族に生まれて良かったと、笑い合う家族に抱かれながら涙を流したのは、今でも小太郎にとって良い思い出だ。

 

次の日からは、弟に「勉強教えて!」とねだられる様になったり、昔から剣を振るっていた祖父と、弟が剣道で通っている道場で木刀の打ち合いをする様になったりはしたが、家族との仲は悪くなることはなかった。

そうして、父と母の畑仕事を手伝ったり、昔の記憶をどうにか振り絞りながら勉強したり、身体を鍛えながら剣を振るって過ごした5年後、

 

 

祖父の命は、寿命によって蝕まれ、あとわずかとなっていた。

 

 

 

 

 

side 弟(健次郎)

 

じいちゃんが布団で寝ながら、父さんの顔を、母さんの顔を、兄さんの顔を、そして僕の顔を順に見回しながら笑っていた。

父さんは、泣いている母さんを抱きしめてながら、目に涙を溜めている。

兄さんは、そんなじいちゃんの顔を見て、涙を流しながら、穏やかに笑っていた。

じいちゃんを慕っていた、沢山の人たちが顔を覆ったり、下を向いたりしながら泣いていた。

僕の視界は、そんな光景がかろうじて見える、というぐらいにボヤけて見えていた。

ここにいる全員が、もう分かってしまっていた。

もうじいちゃんの命は、数日ももたないということに。

 

「お父さん、俺たちに何かしてほしいことはないか?」

 

父さんが、じいちゃんにそう言った。

残りわずかな命のじいちゃんのために、出来るかぎりじいちゃんの望みを叶えてあげたいと、ここにいる全ての人間がそう思っていた。

じいちゃんが、口を開く。

 

「……小太郎」

「なんだい、じいさん」

「私に、見せてほしい。お前がかつて話した、前世の最期に振るうことのできた、人の域を超えた、神域の技を

…………出来るか?」

 

驚いた様な顔をした兄さんは、また穏やかな笑みを浮かべ、

 

「……最期までそんなことを言うなんて、じいさんはじいさんなんだな……ああ、もちろん、出来るとも」

 

ニヤリと笑いながら立ち上がり、部屋を出た。

 

 

 

 

 

「いいぞ、じいさん」

 

数分後、兄さんはそう言って襖を開け放ち、そのまま広い庭に降りていく。剣道着に着替えていたその背中には、身長165センチの兄さんの頭の天辺から足首までもある、(つば)のない太刀が背負われていた。

 

「あの刀は……」

 

そう、あれは確か僕が10歳ぐらいの時、じいちゃんの友人さんが「なんか作ってみたくなったから」というそれだけの理由で本当に作ってウチ持ってきたものだ。

その刀について調べてみたらかなり驚いて、つい「とんでもねーもん作りやがったなあのオッサン」と呟いてしまったのを覚えている。

じいちゃんが「いや渡されても使わねーから」と言って物置小屋の奥に放り込み、友人さんは四つん這いになって落ち込んでいたが。

 

しゃりん___と、静かな音と共に、兄さんの手によって、その刀は抜かれた。

 

「あれは、俺が作った……」

その友人さんが、呆然とした顔で言う。

 

この太刀は、ある刀の贋作だ。

その刀の正式名称は、備前長船長光(びぜんおさふねながみつ)

 

 

 

 

そして___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___物干し竿、と呼ばれている。

 

 

その物干し竿を、兄さんは慣れているかの様に扱い、振るっている……いや、実際に慣れているのだろう。

兄さんがで剣、というか木刀を振り始めたのは10歳の頃だったけど、その時から既に大人用の長いものを使っていた。

 

「……どちらも贋作故、少しは異なるが……この刀も、久方ぶりに振るうなぁ……」

 

兄さんはずっと、ずっと昔から物干し竿を振るっていたんだな。

何度か試しに振るっていた兄さんは、僕たちに背中を向けたまま、言った。

 

「いくよ……じいさん」

 

その直後、

 

「……!?駄目よお義父さん!立ち上がったら!」

 

そんな、母さんの叫び声に釣られて、そちらに振り返ると、

そこには、掛け布団が肩に掛かったまま立ち上がっているじいちゃんがいた。

思わず声を上げようとして、

 

「……邪魔を、しないでくれ」

 

凄まじい威圧を放っていた。

それは、燃え尽きようとしている蝋燭の火が、最期に一瞬大きくなるかのような、そんな風に見えた。

ゆっくり、ゆっくりと歩きだしたじいちゃんは、やがて縁側にたどり着くと、そこに腰掛け、兄さんをひたすらに凝視している。

 

絶対に見逃すものか、と。

首だけ振り返っていた兄さんは「ふっ」と笑い、また正面を向いた。

 

 

石火春雷(せっかしゅんらい)……一刀にて、証を示す」

 

 

その声音には、

 

前世の記憶なんてものを持って生まれてしまった自分を、家族だと言ってくれた恩人のために、

 

今から見せるこの技に、前世と今世、数十年という長い年月を歩んできた、今の自分が出せる全てを込めるかのような、

 

そんな、覚悟が感じられた。

 

兄さんが動きだす。

右足を後ろに引き、物干し竿を顔の横まで持ち上げ、刃を空に向け、右手と左手は持ち替えず、右手は空に向けられた刃側を握り、左手は添えるように持ち、そうして……

 

 

 

 

 

 

構えた(・・・)

 

 

 

……構えた(・・・)

 

その違和感に、ずっと兄さんの剣を見てきた僕とじいちゃんだけが気づいた。

僕も、じいちゃんも、息を呑む。

兄さんがじいちゃんと、割と本気で打ち合う時も、1人で木刀を振るう時も、兄さんは構えることは無い。そんな無形を旨とした兄さんが構えを取った(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「秘剣______」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛する家族(じいちゃん)に見せる為だけに、全てを込めた神技は、

 

 

 

放たれた___。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______燕返し」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明るく輝く満月が、そこにいた全ての人間に、神技を魅せた。

じいちゃんは、

 

 

 

 

 

穏やかに、満足そうに笑いながら、目を閉じて、眠って、

 

目覚めることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 無し

 

 

それから十数年後。

 

遠い遠い、どこかの世界で。

 

記憶に無い、しかし確かに魂の内に刻まれた『誰か』に追いつこうと。

 

刀を振るう青年がいたとか。

 

 




熱が入ってすんごいのを書いてしまった。
いつの日か黒歴史になるかも知れないが、まぁ今は満足してるからいいか。

オリ主弟の健次郎は、自分の中では髪色と瞳色が黒い衛宮士郎ですが、好きな様に想像してみてください。

オリ主の小太郎は15歳、弟の健次郎は14歳。
次は、1年ぐらい飛んで、オリ主がリンクスタートします。
そんな感じ。


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小太郎、都会に立つ

今回は特にめちゃくちゃな展開に、ご都合主義。
とりあえず、原作キャラと絡みやすそうな感じに、と欲張った結果、こんな風に。しかもリンクスタートしないという。

とりあえず今回は、主人公が物干し竿みたいな木刀もらったり、
埼玉県川越市(原作主人公一家も住んでいる町)で、高校に通いながらバイトとかして、頑張って1人暮らしするぞっていうそれだけの話なので、この前書きだけ読んで本文スルーでもいいと思います。
とりあえず、とっとと原作突入したいと思いながら書いたので。

次話こそはリンクスタートしますが、筆者が設定を結構忘れていたりしたので、復習のつもりでSAO1巻を買い直してきます。

まあそんな感じです。

11/24 少し変えてみました。


side 小太郎

 

私、笹木小太郎16歳は、田舎を離れて埼玉県川越市で1人暮らしを始めた。

 

田舎で物干し竿振ったり(真剣)、物干し竿振ったり(母の家事手伝い中の悪ふざけ。始めて10秒後に母に叩かれた)、最近の便利な機械を使いながら畑仕事を手伝ったりするのも良いものではあったが、やはりというか何というか、娯楽が少ないと思ってしまったからだ。

1人暮らしがしたいと思ったのもあるが。

確かに前世では山ごもりなんてしていたが、それも20代後半辺りから始めたものなので、それまでは西暦20○○年のスマホ・テレビ・ゲーム・文庫・マンガなどなど、沢山の娯楽に浸っていたのである……それ程の娯楽の存在する現代日本で、何故なにもかも放り出して山ごもりなんてできたのだろうかと、自分でも不思議に思う。

まあとにかく、都会の高校に通いながら1人暮らしで、好き放題剣を振るったり、娯楽に浸ったり、剣を振るったりしたいのだよ!

 

……と父と母に熱弁したら、二つ返事でOKしてくれた。

 

とりあえず流石に物干し竿は持って行けないだろうなぁ、なんて思っていたら、「なんか作りたくなって作ってみたから、1人暮らし記念に持って行け」と、木刀作りに長けたじいさんのやべー友人さんに『物干し竿型木刀』を貰えて、大いに喜んだ。耐久性良し、扱いやすさ良し、燕返し良し(・・・・・)、という逸品である。

木刀と真剣では、やはり勝手が違い、慣れが必要かもしれないが。

ということを健次郎に話したら、燕返しも使える、の辺りで「えぇ……」と思いきり引かれたが。

 

1人暮らしをする場所は「どうせなら前世でも行ったことの無い町にしよう」という割と適当な理由と、家賃、自分の直感から選ばれた。

金銭面は、仕送りとバイトで頑張ってみる。

高校は筆記試験を、少ない前世の知識も絞り出しながら挑み、どうにか合格した。

 

そんなこんなで、家族やご近所さん、じいさんの友人さん方に見送られながら、都会に旅立つのだった。

まあ、高校の長期休みとかには帰るけれども。

 

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

 

・ここから筆者コメント。(2018/2.28)

この小説にはほとんど関係のない話なので、読み飛ばして頂いても、忘れてもらっても構いません。

 

 

 

 

 

この話の後半にはちょっとしたオマケ話が書いてありました。

が、僕の中で黒歴史になりそうな予感がしたので勝手ながら消させていただきました。

ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。

深夜のおかしなテンションで書き殴ってしまったものなので……。

 

ここに書いていた人物(転生後の笹木じいさん)の物語を書く予定は、全くありません。

でも天然チートな脳筋野郎(という設定)なので、SFな世界でもない限りは案外いい感じに生きているんじゃないかなぁ……。




じいさんの友人さん方は、1人につき1つ、何かしらの技能を極めた者たちばかりだったりする。(絶対に、何かしらの形で、オリ主に物干し竿を持たせようという、それだけの筆者の目論見によって生まれた設定である)


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はじまりの日 『小太郎、リンク・スタート』

今確認したら、赤い評価バーにお気に入り151件……。
どうやら自分の中の妄想はそこそこ面白いらしい。
これからもこの調子で書いていくかと思いきや、なんとこの筆者、小説執筆初心者のくせに並行連載するつもりである。
詳しくは活動報告にて。
しかし続きはスマホがぶっ壊れでもしない限りは、何ヶ月かかろうが完結まで投稿していきます。

あとFGOの柳但(っぽいオリ主)の小説も書いたので、よろしければそちらもどうぞ。


side 小太郎

 

 

がやがやと、大勢の人間が騒ぐ声が聞こえてくる。

 

目を開けてみれば、中世の時代の何処かの国のような建物と、これまた大勢の人間が、口を開けながらの笑顔で周りを見渡していたり、はたまた迷いなく何処かへ走り出していたりしている。「帰ってきた……この世界に!」なんて声を上げている青年もいた。

 

「はははっ……」

 

思わず笑い声が漏れた。

存外自分もこんな世界が来るのを楽しみにしていたのかもしれない。

自分の持つ技を、誰かと自由に競い合える、こんな世界を。

先程走って行った青年を真似る様に私も叫ぶ。

 

「この世界で生まれるであろう強豪たちよ……お前たちの力、見せて貰うぞ!」

 

 

side 無し

 

 

2022年5月に発売されたゲームハード《ナーヴギア》は仮想現実(バーチャル・リアリティ)への完全(フル)ダイブを可能にし、更にその数ヶ月後、2ヶ月間のベータテストを経て、ナーヴギア初のVRMMO(仮想大規模オンライン)RPG(ロールプレイングゲーム)ソフト__《ソードアート・オンライン》が発売。

そして今日、2022年11月6日にその正式サービスが開始された。

 

ソードアート・オンライン(以下SAOと略)が発表された時、小太郎は大いに焦った。

ナーヴギアが発売された時こそ興奮したものの、リリースされたいくつかソフトの詳細を知っていた小太郎は、「高い上に、どうせ剣を振るう事も出来んのだろう?」と、ナーヴギアを買うことすらしてこなかったからだ。

SAOの詳細を、大雑把にしか調べなかった小太郎であったが、とにかく「やりたい!」と思った小太郎は、バイトの収入や実家からの仕送りを可能な限り貯め、SAOのソフトハード同梱版を近所の電気屋に3日間並んだ後、ようやく購入することが出来た。

(立ったまま寝ることが出来る様にしてくれてありがとう我が師よ!)などと思ったとか。

弟にメールで購入報告を送ると「兄さんと同じ高校に受かれてナーヴギアとSAO買えたら、一緒に冒険しよう!」なんて返信が来て、その様を想像してワクワクしたり。

 

 

そして正式サービス開始と同時にリンク・スタートし、

冒頭に至る。

 

 

 

 

ようやくログインすることの出来たSAOでまず小太郎が決めた事は、とりあえず物干し竿とまでは行かなくとも何かしらの刀を購入し、フィールドで身体を動かしてみる、というものだ。

だがしかし、武器購入時点から既に障害が発生した。

 

「普通の刀すら売っていない……だと……」

 

SAOでは、曲刀をとにかく長い間扱い続けることによって、エクストラスキル《カタナ》を習得することが出来る。

が、そんなエクストラスキルを始まったばかりの1層で習得するなど想定されている筈もなく、「あとで手に入るスキルの武器だし…」と思われた結果、この《はじまりの街》どころか1層には刀は店売りされていない。

 

「"ソードアート"、などと言うからには刀ぐらいはあると思ったのだがなぁ……いつか手に入れられるのだろうか……」

 

ぼやきながらもとりあえず曲刀だけ購入し、トボトボと街の門をくぐりフィールドに出る、小太郎改めプレイヤーネーム《Kotarou(コタロウ)》なのであった。




しかしオリ主は刀を持てず。
割と早い段階で刀入手しますけどね。


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はじまりの日2 『コタロウの苦悩』

この筆者、また連載小説始めたってよ。
大丈夫か?こいついつか自分で首を絞める様になったりしないか?
まぁ自分のペースでのんびりと、一緒に更新して行きたいですね。


side コタロウ(オリ主)

 

 

気を取り直して歩き続け、はじまりの街の外に出てからほんの十数歩だけ歩いてみれば、青々とした美しい草原が広大に広がっており、前を向けば何処かの町か村に繋がっているであろう街道長く続き、右を向けば遥か遠くに森が見え、左を向けば湖が陽光を反射しこれまた白く美しくきらめきを放っている。

 

「なんとも美しい景色ではないか……」

 

ここいらで座り込んで酒でも飲みながら、ひたすらぼーっとしたり、考え事に浸ったり、無心で刀を振る事が出来ればどれ程良かったものか。

しかし此処は剣を振り回し、敵を倒したりして強くなっていくためのフィールドであり、草原のそこらじゅうに青い猪がうろついており、派手な髪色をしたプレイヤーたちが複数囲んでいたり、一人のプレイヤーが猪の突進を避けたすれ違いさまに、何かは分からないが"剣を光らせながら"攻撃を放ち、猪をガラスの様に砕け散らせていた。

あの光る刀身は何かのスキルかアイテムであろうか。

 

「おっと、そういえばスキルの確認を(おこた)っていたな」

 

この世界には魔法は無いが多種多様なスキルが存在しており、戦うだけでなく、鍛治や革細工に裁縫といった"製造系スキル"や、釣りに料理に音楽などの"日常系スキル"なんてものもあるのだとか。

そのうち鍛冶屋や衣服屋、魚屋やレストランなどを"プレイヤーたち自身が"建てて商売を始めたり、《はじまりの街》の中央広場なんかで楽器を持って演奏したり歌を歌ったりするプレイヤーも現れたりするかもしれない。

 

さて、そんな多種多様なスキルの中から私が選び、自らのスキル欄にセットしたスキルは、

 

 

 

 

 

 

 

《鍛治》スキル、であった。

 

刀探しのついでに散策したはじまりの街で見つけたNPC鍛冶屋で知った事であるが、誰かに武器のメンテナンスを頼む際、当然ではあるが対価として金銭……この世界では《コル》を支払わなければならないのだ。

 

いずれ自分の使用武器は《物干し竿》になるわけだが、この太刀で相手の攻撃を逸らすでもなく受け流すでもなく、まともに"受けて"しまえば物干し竿はぽっきりとへし折れてしまう。

そうなってしまえば後は"Fate/SN桜ルートの佐々木小次郎"並に悲惨な事になるであろう……いやそれは言い過ぎだった。

とにかく物干し竿はその長身故に脆く、たびたびメンテが必要になるであろう。

 

そこで先程の"誰かに武器のメンテを頼む際の話"に戻る。

常に武器の耐久値を気にしながら戦い、街に戻るたびに鍛治屋に寄ってコルを支払ってメンテしてもらう……なんてプレイをしていたらはじまりの街のそこらに売っている黒パンも食えなくなるどころか、その前に私の精神が死ぬ。

 

ならばいっそのこと少なくとも武器のメンテぐらいは自分で出来る様になってしまい、あわよくば自分で物干し竿を作ってしまおう、という考えに至ったのだ。

街の外なんかで武器のメンテが出来る様になれば、より戦いやすくなるだろう。

鍛冶屋になる気は毛頭無いが。

赤点ギリギリ取らない程度の学しかない自分には、職人の如く鉄を眺めているよりも棒振りの様に剣を振り回しているのがお似合いだと思うしな。

 

それから少し調べて見つけたスキルに"武器種の名前を持ったスキル"もいくつか有りはしたが、やはりというかなんというか刀のスキルは存在せず、そもそもそれぞれの"武器名スキル"をセットしても攻撃力が変化したりはしない様である……この武器名スキルは何の為に有るのだろうか、セットした武器名スキルの武器が鍛治スキルで作りやすくなったりするのだろうか。

刀の武器名スキルが存在しないのだから余計に付ける意味が無い。

そして"刀身を光らせる何か"は割と時間をかけて探してみたものの、習得可能スキル欄にはそれっぽいスキルは確認できなかった。

ということは、自分が前世でやってた死にゲーにあった"武器エンチャントアイテム"の様なものであろうか。

 

さて、それではそろそろ、

 

「"この身体"を動かしてみようか!」

 

 

 

↓ ↓ ↓ ↓ ↓(時間経過)

 

 

 

それから何度かのレベルアップの後。

砕け散りガラス片となった猪を倒し獲得した経験値やコルを確認した私は、その場に座り込みそこから見える景色を眺めていた。

 

時は既に夕方。

広大に広がっていた青々しい草原は(ほの)かに赤みを帯び始めた陽光の下で美しく輝いている。

遥か北には森のシルエット、南には湖面が橙色にきらめいており、東にははじまりの街の外壁を薄く望むことができ、西には無限に続くかの様な空と金色に染まる雲の群れが。

 

そんな景色を眺めながら、とりあえずさっきまでの自分をゆっくりと振り返る。

まず、始めこそ戸惑いが有ったが慣れてしまえば現実の自分と同じ様に身体を動かせた。

試しに走ってみたが、体感でも現実と同じ速度で、更に脳の信号で身体を動かしているからかリラックスして走ればかなり長時間走る事が出来た。

これは、長距離移動に役立つ良い情報を得たと思う。

 

そして"刀"と付いているからと選んだ曲刀だが……短く軽く刀とはほとんど違う感覚で、自分にはとても扱いづらく感じた。

始めこそ意気揚々と猪と戦っていたものの、使いたい武器を無理矢理封じられた事とこの曲刀の扱いづらさも相まってか、今ではこれで戦ってても全く楽しくないのである。

『つまらないものは、それだけでよい武器ではあり得ない』とは前世でやっていた死にゲーに出てきた言葉であるが、まさにその通りであろう。

 

「しばらくはこの武器か……ハァ……」

 

とため息混じりに言いながら立ち上がり、街の外に出る時の様にトボトボと街に戻ろうとしたその時、

 

 

 

リンゴーン、リンゴーンと、

 

 

 

鐘の様な大ボリュームのサウンドが鳴り響き、思わず驚きで飛び上がる。

 

「何だ何だ、17時を告げる鐘かこれは?それにしては大きすぎて喧しいぞ」

 

と口に出しながら時刻を確認してみれば、デジタルの時計は[17:30]と表示されている。

 

「これは一体___」

 

言いかけた自分の体を、鮮やかなブルーの光の球体が包み込む。

その光が一際強く脈打ち視界を奪い、そして青の輝きが薄れ風景が戻ればそこは既に、ゲームのスタート地点であるはじまりの街の中央広場であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてこのゲーム(SAO)遊びではなくな(デスゲームとな)った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プレイヤーの諸君、

 

 

 

 

私の世界へようこそ』

 

 

 




うちのオリ主はこんな感じになった。

【悲報】オリ主、ソードスキル使わないどころか存在すら知らない。

現実と同じ速度(現時点で俊敏C=全英霊の平均。超人としては普通)。ちなみにゲームでもリアルでもまだまだ速くなります。

所々修正したりするかもです。


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はじまりの日3 『コタロウ、ストーキングする』

しばらく第1層

デスゲームの開始を告げられた時、
コタロウは。

12/8 少し修正&加筆

6/2 最後辺りの書き換え。


side コタロウ

 

「___さて、どうしたものか」

 

時を少しだけ巻き戻る。

 

 

ログインしている全プレイヤーを、《はじまりの街》の中央広場に集めた《茅場晶彦》が告げた言葉は

 

・ログアウトボタンが消滅しているが、これは不具合ではなくこのゲームの本来の仕様である。

 

・外部の人間によるナーヴギアの停止あるいは解除が試みられた場合、ナーヴギアが使用者の脳を破壊し死亡させる。(既に犠牲者も出ている)

 

・今後このゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能せず、ヒットポイントがゼロになったプレイヤーは、その瞬間現実でも死亡する。

 

・ゲームから解放されるには、アインクラッド最上階の第100層まで辿り着き、そこに待つラスボスを倒してゲームをクリアすれば良い。

 

……というものだ。

 

 

『諸君の健闘を祈る』という言葉を残して茅場が消え去った後の広場は、

 

泣きだす子供、

怒鳴る大人、

絶望する男、

恐怖に震える女、

 

茅場の手によって現実と同じ姿に変えられた(・・・・・・・・・・・・)プレイヤーたちによる、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 

そのプレイヤーの群れの中から真っ先に飛び出した、"女顔の少年と野武士面の男"の後をなんとなく、自身の気配を周囲に(・・・・・・・・・)溶け込ませながら(・・・・・・・・)追いかけて、今に至る。

 

「さて、どうしたものか」

 

路地裏に駆け込んだ二人の会話を近くの露店から盗み聞きしつつ、左右の手で曲刀をクルクルと弄ぶ。

どうやら少年はレベルを上げて強くなる為に早々に次の街へ向かうらしい。

野武士面の男は友人たちの為に残るらしいが。

 

自分はどうするか。

何もせず街に篭り、救助やクリアを待つのか。

クリアを目指して強くなって行くのか。

 

「まぁ……選択肢など一つしかあるまい」

 

クリアを目指そう。

こんな所で物干し竿を持つ事も、何かを成す事も出来ずに篭るのだけは絶対に嫌だ。

 

これから混雑するらしいはじまりの街周辺では満足に強くなる事は出来ないのだとか。

しかし自分は他の狩場を知っている訳では無い。

ならば___

 

男の走り去る音が聞こえる、話は終わった様だ。

私は気配を遮断しつつ露店から飛び出し、少年の追跡を開始した。

会話を聞くに少年は、少なくとも恐らくは第1層の知識を有しているらしい事が分かり、それならばしばらくその知識を利用させて貰おう、と思いたったのだ。

故に、こっそりついて行く事にした。

 

「許せよ少年、これも生きる為だ」

 

走る少年の少し離れた場所からついて行く。

 

私はこの世界ではまだ弱い。

だから、剣を振るい、強くなる。

立ちはだかる敵、その全てを斬り伏せて進む。

ただ生きる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………敵が出てきても少年がすれ違い様に全て倒していってしまうから、経験値もアイテムも全く獲得できん……」




短いですが、キリが良いので今回はここまで。

今更オリ主の名前が《風魔小太郎》と被っている事に気づいた筆者なのであった。


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はじまりの日4 『コタロウ、初クエスト』

オリ主は、喋る時なんかは佐々木小次郎の口調を意識して喋ります。

……小次郎口調に出来ていれば良いなぁ……。


side コタロウ

 

少年に見つからぬ様に追跡を始めてから40分近く経ち、ようやく村に辿り着いた。

モンスターの入って来れないらしい安全圏に入る事が出来て、ようやく一安心と言った所か。

 

この村の名前は《ホルンカ》というらしい。

村に着いて休むのかと思われた少年は、しかし村の狭い広場に面した建物……武器屋に入ったかと思うとハーフコートに着替えて、更に道具屋に寄ってから民家に入り込んでしまった。

部屋でも借りるのか?

 

とりあえず自分も武器屋に寄ってみたが、この村で売っている武器はどれもはじまりの街で売られているものよりも、攻撃力は高いが耐久度が低い様で、結局防御力を上げるために少年と同じハーフコートを購入した。

私は武器が無ければ攻撃を捌く事も出来ないからなぁ。

 

更に道具屋で回復ポーションをいくつか購入し、ちらりと少年の入った民家の方を見てみれば、丁度少年が民家から飛び出して来たところだ。

部屋は借りないのか?

 

直後、広場中央にある小さな(やぐら)の鐘が音楽を奏でた。

時間を確かめてみれば時刻は[19:00]となっていた。

まだ早いが明日に備えてそろそろ休もうか……そういえば宿屋に泊まらずに民家で部屋を借りたりする事は出来るのだろうか。

ちらりと少年が出て来た民家に目をやる。

NPCとはいえ人の家なのだから出来ないのかもしれないが『百聞は一見にしかず』と言うし、何より上手く行ったら宿代が浮くかもしれないし、試してみようか。

そうして少年が出た民家にお邪魔してみる。

 

「邪魔をさせてもらうぞ」

 

そう言いながら扉を開けて入る。

奥の台所で鍋をかき回していた女性……のNPCが振り向き、こちらを見て言った。

 

「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事を差し上げたいけれど、今は何も無いの。出せるのは、一杯のお水くらいのもの」

 

おお、こんな不法侵入者の様な自分に水を出してくれるとは。

そういえば長時間走り続けていたからか、喉が渇いている……ナーブギアはこんな感覚まで再現出来るのか。

それでは遠慮なく。

 

「それで良い、頂こう」

 

女性は古びたカップに水差しから水を注ぐと、私の前にあるテーブルに置いた。

私が椅子に座り、水を一息に飲み干すと、女性はほんの少し笑ってから再び鍋に向き直った。

 

「…………む?」

 

そういえば、女性は先程「食事は出せない」と言っていたが、目の前では何かがコトコトと煮えている。

何を作っているのだろうか、と疑問が湧いた時。

 

隣の部屋に続く扉の向こうから、こんこん、と子供が咳き込む様な声がした。

それを聞いた女性が、哀しそうに肩を落とす。

 

どうやら身体の悪い子供がいるらしい、と考えた直後。

 

「ッ!?……なんだ?」

 

女性の頭上に"金色の疑問符"が点灯した……いきなり出てきた為かなり驚いた。

 

これは……確か、猪の相手をしながら読んでいたチュートリアルでは、クエスト発生の証だったか。

 

「何か困っている事でもあるのか?」

 

とりあえずいくつかあるらしい《NPCクエスト受諾フレーズ》というやつを言ってみる。

すると、頭上の《?》を点滅させながら、女性がゆっくりとこちらに振り向いた。

 

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 

 

 

↓ ↓ ↓ ↓ ↓

 

 

 

スパッと要約すると、『娘の病気を治すために、森にいる危険な捕食植物たちの内の、花を咲かせている個体から胚珠を取ってきて欲しい。取ってきてくれれば、お礼に先祖伝来の長剣を差し上げます』という話を、娘さんの空咳と共に聞いたのであった。

 

刀で無いなら長剣はいらないが、NPCとは言え子供は助けたいと思い、「それならば、私に任せて貰おうか」と言って民家を出たのであった。

おそらくは、少年もこのクエストを受けたのであろう。

 

村で休むという予定を変更し、少年を追う様に村を出る。

 

ふと、『現実では今どうなっているのだろうか』と考えた。

……案外、自分の家族や実家のご近所さんなんかは『小太郎なら大丈夫だろう』といった感じで、当然の様に帰ってくるのを待っているのかも知れない。

 

「ならば、その期待に応えてやらねばな」

 

自らを鼓舞する様に、危険な夜の森に足を踏み入れた。




今更ですが人物の名前は基本、"現実では漢字、ゲーム内ではプレイヤーネーム"になります。

しばらくは第1層ですかね。


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はじまりの日5 『《黒の剣士》と《無形侍》はこうして出会う』

少し難産でした。
とりあえずこんな感じで投稿。

それぞれの話のサブタイトルは、

○○○(時系列的には、原作のこの話の中)『○○○(筆者が気分で付けたサブタイトル)』

という感じです。


side キリト

 

 

俺がホルンカの村で受けたクエストを今日中に終わらせるために、森の中で《リトルネペント》を倒し続けていた時に《その男》は現れた。

 

それが俺とアイツとの、親友という関係の始まりだ。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

(このゲームでネカマプレイしようとしていた男たちは悲惨だなぁ)

なんて、少し余裕が出てきた頭でそんな事を考えつつ、森に入ってから十一匹目のネペントを倒した俺の聴覚に、軽やかなファンファーレが響き、それと同時に金色のライトエフェクトが全身を包んだ。

モンスターを倒した事で、経験値がレベルアップ必要量を超えたのだ。

 

もしパーティープレイ中ならば、周囲から「おめでとう」という声が湧き上がっただろう。

代わりに木の葉がざわざわと鳴る音を聞きながら、俺は剣を背中の鞘に収め、メインメニュー・ウインドウを開いてからステータスタブに移動し、加算されたステータスアップポイントを、筋力に1、敏捷に2振った。

 

そうしてステータスアップ操作を終え、ウインドウを消したその時、

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう、なかなか動きが良いな、少年」

 

後ろから、そんな声がかけられた。

 

突然の事に驚き、内心で警戒を怠っていた自分を罵りながら、素早く振り向く。

振り向いた先にいたのは俺よりも背の高い、多分年上の、長い黒髪を後頭部の上辺りで束ねた鋭い目つきの美男だった。

その男が、右手を右腰に置きながら、ぽかんと口を開けていた。

小さく息を吐きながら身体の緊張を解くと、その男が謝罪をしてきた。

 

「……む、済まんな、驚かしてしまったか」

「いや……こちらこそ、過剰反応してしまって、すみません」

「ああ、敬語など使わなくても良い。そういうのは不慣れなのであろう?それにここでは、互いにただ戦う者であるしな」

 

今の短い会話の中で、口調から俺の性格を当ててみせた男に、今度は心の中で驚く事になった。

しかし気になった点があった為、遠慮なくタメ口で聞いてみた。

 

「もうここに来てるなんて、随分早いんだな。誰かがこの森まで来るのは、もう2〜3時間後だと思っていたんだけど」

「なに、自分一人の力で来た訳では無いさ。ただこの辺りに(・・・・・)詳しそうな者に(・・・・・・・)付いて行った(・・・・・・)だけなのだからな」

 

男の言い方からすると、発売日にSAOを買ったビギナーで、付いて行った……という事はベータテスターの知り合いがいたのだろう。

……いくら《このクエスト》の報酬が良いと言っても、ビギナーにいきなりやらせるなんて。

しかもこの様子では、別れて個別行動を取っているのか、あるいは俺の様に…………嫌な予想が頭をよぎったが、とにかく酷いベータテスターもいたものだ。

 

「……アンタもあのクエストの為に、この森に入って来たのか?」

「おうとも、少女の為に胚珠とやらを取ってくる、というものであろう?げえむ(ゲーム)の中とはいえ、女子(おなご)は助けたいと思い、な」

「…………なんか、良いな……そういうの……」

 

その男の侍口調と、クエストを受けた理由に、思わず感嘆の声が出てしまった。

 

そして同時に羨ましくなった。

この世界がデスゲームになっていなければ、自分もこんな風に純粋に、この世界を楽しむ事が出来たのでは無いか、と。

少し暗い気持ちになってしまっていた俺を見ながら、男は何か考えていた。

 

「……ふむ……これも何かの縁であろう。

少年よ、一つ提案なのだが、この様な男と二人で良ければ、この森の中でしばらく共に行動するというのはどうだ?」

「あ、いやでも、これは一人用のクエストだから、俺の分とアンタの分で、二つ集めなきゃいけないぞ?」

 

反射的にそう答える。

クエストには、パーティー状態で遂行すれば全員がクリア出来るものと、そうで無いものがあり、この《森の秘薬》は後者のものだ。

しかし男は特に気にしていない様に笑いながら言った。

 

「そうだとしても、二人で動いた方が効率が良いであろう。

それに、少年が目的の物を手に入れられたのなら、そこで別れても良い。

なに、こう見えて私は現実でも剣を振り回していてな、少年の足手纏いにはならないと約束しよう」

 

二人の方が効率が良い……確かにそれはその通りだ。

ソロだと安全性を考慮して孤立しているモンスターしか狙えないが、二人いれば敵も同時にに二体まで相手に出来る。

目標を選ぶ時間も短縮出来るぶん、時間辺りで倒せる数は増え、《花付きネペント》の出現率も上がるだろう。

 

だけど、はじまりの街で、あの陽気な刀使い《クライン》を……初めての友だちを見捨ててきた俺なんかに、今更パーティーなど組む資格があるのだろうか……。

そう悩みながら、目線を地面に向けていた俺は「それにな……」という男の暗い声に、目線を上げた。

 

「恥ずかしい話……胚珠を落とす捕食植物は滅多に居ない、とは確かに話には聞いていたのだが……ただでさえ不気味な夜の森の中を、今から一人で彷徨(さまよ)いたいとは思えず、しかし出直すのも面倒だと思ってしまっていてなぁ……。

本当に嫌なのであれば断ってしまっても一向に構わないのだが、ここは一つ、情けない年上の世話をすると思って、付き合ってはくれないか?」

 

大袈裟な動きで溜息を吐いたり、肩を竦めたりしている男の姿を見ていたら、何となく

(もう(しばら)くは一緒に居ても良いかな)

なんて思ったりした。

 

……後になってこの時の事を思い出すと、静かな夜の森の中で、また一人になるのが嫌だったのだろう、と思う。

 

気が付けば俺の中の悩みも吹き飛んでおり、俺の口元は笑っていた。

 

「そこまで言われたのなら、仕方がない……良いぜ、アンタの分も集まるまで、付き合ってやるよ」

「おお、良いのか少年!いやぁ助かった!付き合ってくれるのであれば、ますます手は抜けんな!このコタロウ、今の私が出せる全力で働かせて貰おう!」

 

余程嬉しかったのか、ハイテンションでそう叫んだ男に、思わず苦笑する。

視界に表示されているその男のカラー・カーソルに触れて、パーティー参加申請を出した時、まだ名前を名乗っていなかった事を思い出した。

 

「そういえば自己紹介がまだだったな。俺は《キリト》だ。さっき聞いたけど一応、アンタは?」

 

目の前に現れたパーティー参加申請に驚きつつも、勢い良くOKを押した男は、

 

「私の名は《コタロウ》と言う。よろしく頼むぞ、キリト!」

 

そう言って、嬉しそうに笑った。




オリ主は、佐々木小次郎の口調を真似たりはしますが、あくまでオリ主であり、小次郎とは違います。

そんな感じです。


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はじまりの日6 『穏やかな夜の森、裏切り者は現れず』

オリ主の"佐々木小次郎口調"に違和感を感じるかもしれませんが、それは『オリ主だから』という理由では無く、単に筆者が未熟だからです。

あ、1層はプログレッシブ1巻の前半(アニメで言うなら第2話)までは書きたいと思っています。


side キリト

 

 

自己紹介の後、俺とコタロウはしばらく、ひたすらネペントを狩り続けた。

 

しかしコタロウの戦闘を見ていると、どうしても気になる点が出てきてしまった。

コタロウがネペントを倒したのを確認してから、それを指摘する為に声をかけた。

 

「なあコタロウ」

「どうした?キリト」

「さっきから気になっていたんだが、コタロウは《ソードスキル》を使わないのか?」

 

俺のその言葉を聞いたコタロウは、

 

 

 

「……そーど、すきる?」

 

それはそれは見事な片言で、そう返してきた。

 

「……えっと、もしかしてソードスキル、知らなかったのか……?」

「うむ……そういえば、SAOの事は碌に調べられなかったからなぁ……」

「ソードスキルを知らないって、よっぽどだな……」

こんな事(デスゲーム)になるとは思わなかったし、SAOとナーヴギアを買うためのバイトで忙しくてな……それでそのそーどすきる(ソードスキル)とやらは、どの様なものなのだ?」

「それは、こういうものだ……よッ!」

 

言いながら素早く構え、単独でうろついていたネペントの、その弱点に目掛けて剣を振り上げる。

そうして発動させた《ホリゾンタル》が、ネペントの茎を断ち切り、HPをゼロにした後ガラス片に変えた。

 

「……そーどすきる(ソードスキル)とは、あの光る剣の事だったのか……」

「なんだ、知ってはいたのか。それぞれの技に決められた構えをすると始動して、後は体が勝手に動いて攻撃してくれるんだ。さらに、普通に武器を振るよりも大きなダメージが与えられるんだ」

「……体が勝手に動く、とは?」

「ああ、発動した後はシステムが体を操縦してくれるんだよ。だから発動したら、自分が何もしなくても技が終わるまで動いてくれるんだ」

「…………なるほど……」

「ただ弱点もあって、ソードスキルが終了すると強制的に《技後硬直》が起きて、全く体を動かせない時間が生まれてしまうんだ。ソードスキルを無理矢理止めようとしても硬直しちゃうんだけど……」

「…………………………………………」

 

俺の説明を聞いたコタロウは、顎に手をやって長考している。

……なんとなく、良く似合っていると思った。

そうしてしばらく考えていたコタロウの口から、俺からすればかなり衝撃的な言葉が飛び出してきた。

 

「……うむ、私には必要無いな(・・・・・・・・)

「………………は?」

 

思わずそんな声が出てきた。

 

「必要無いって……使わないって事か!?」

「そうだとも。勝手に体を動かされるのも、勝手に体を止められるのも嫌でな……まぁ私の内では長所に比べて短所が大きすぎたという事よ」

「……でもそれだと後になってから辛いと思うぞ?」

「なぁに、その時はその時に考えるし、案外そうでも無いかもしれんぞ?」

「……はぁ……ま、コタロウがそれで良いなら無理強(むりじ)いはしないよ」

「すまんな、教えてもらったというのに」

「いやいや、コタロウはコタロウのやりたい様にやれば良いよ」

 

それに、そうやって進んで行ったコタロウがどうなるのか、結構気になったりするし。

コタロウの言う通り、案外どうにかなったりしてな。

 

「それじゃあスキルは?それも付けないのか?」

「いいや、とりあえず鍛治スキルと、この森で使えるのではと《隠蔽(はいでぃんぐ)》スキルを取ってある」

「鍛治屋になるつもりなのか?」

「店を出すつもりは無いが、自分の武具を自分で修理したり、自分で作ったりしたいと思ってな」

「なるほどなぁ……あ、でも、隠蔽スキルはこの森ではあんまり役に立たないと思うぞ?」

「?……そうなのか?」

「ああ。隠蔽スキルの効果は簡単に言ってしまうと"相手から自分が見えなくなる"ものなんだけど、ネペントみたいな()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には効果が薄いんだよ」

「なるほど、確かにあの植物には目が無いのだし、恐らくは聴覚や嗅覚、地面から伝わってきた振動などで相手を感知しているのかもしれんな」

 

 

 

「そういえば、コタロウは『女の子を助けたい』って理由でこのクエストを受けたんだよな?報酬の事はどう思っているんだ?」

「"先祖伝来の長剣"……と聞いたが、キリトはそれが何か知っているのか?」

「ああ、《アニールブレード》っていう片手剣だけど……」

「予想はしていたが、やはり刀では無いか……」

「コタロウは"カタナ"が使いたかったのか?」

「ああ、現実で使い慣れていてな……いつになれば刀を振るえるのだろうなぁ……」

「……いや、もしかしたらすぐにゲット出来るかもしれないぞ?」

「本当か!?」

「おっおう……えっと、鍛治屋に武器を持って行けば、その武器を《インゴット》っていう武具を作る為の金属に変える事が出来る……らしいんだ。だから何かしらの武器をインゴットに変えてから……」

「刀として作り直す事が出来れば、という事だな!」

「いやでも、ベータテストの時には誰も入手出来なかったからか、《モンスター専用カテゴリ》って呼ばれていた物を入手出来るか分からないし、出来たとしてもまず現時点でその《インゴット化(仮称)》が出来るかは分からないし……」

「だが私にとっては、その可能性があるだけでも十分に希望足り得るものだとも。このくえすと(クエスト)が終わった後にでも試してみるとするさ」

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

そんな風にいろいろな話をしながらネペントを狩り続けて。

どうにか二人分の胚珠を入手できたのは、二人合わせて二百体以上のネペントを倒した後だった。

時刻は[21:30]、壊れかけの剣でどうにか帰ってきたホルンカの村には、数名のプレイヤーの姿があった。

彼らも元ベータテスターだろう……そういえば。

 

「なあ、結局コタロウが付いて行ったのって誰だったんだ?」

「私の左隣にいる男だな」

 

コタロウはそう即答した。

 

「………………俺かよ!!」

「そんな事よりも、まだあの女性は起きているであろうし、早く胚珠を渡しに行ってやろうではないか」

「お前なぁ………もう面倒だからいいや……。俺は道具屋でポーション補充してくるから、コタロウが先に行ってろよ」

「では、遠慮なくそうさせてもらおうか」

 

そう言ったコタロウは、クエストを受けた民家に向かおうとして、こちらに向き直り、何やら腕を動かし始めた。

 

数秒後、俺の視界に"コタロウのフレンド申請"のウインドウが現れた。

 

「これは……」

「これで互いに連絡を取り合う事が出来るらしい。……キリトには、本当に世話になったからな。私などが其方に対して出来る事など、そう多くは無いだろうが……この恩は、いつか必ず返させてもらおう」

 

コタロウのその目には、強い意志が込められているのを感じた。

 

俺はその目を見つめ返しながら、

 

「ま、コタロウが忘れてなかったらありがたく受け取るよ……よろしく頼むぜ」

 

コタロウのフレンド申請の、OKを押す。

それを見たコタロウは、フッと笑った。

 

「……さて、私はこのクエストを終わらせたら一晩休んでから鍛治屋のある《はじまりの街》に戻るが、キリトはどうする?」

「俺は少し休んでから、貰ったアニールブレードでレベル上げをしに行くよ」

「そうか……ではここで解散だな。無理はせずに、死なない程度には休めよ」

「ああ、分かってるさ」

 

 

 

 

 

「生きてまた会おう、キリト」

「ああ、必ずまた会おう、コタロウ」

 

今度こそコタロウは、こちらに振り返る事無く民家に歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

次の日の昼。

 

【差出人:コタロウ

鍛治屋で刀を作れたぞ!感謝するぞキリト!】

 

というメッセージの内容に驚き、食べてる最中だった黒パンが気管に入って思わず咳き込む俺なのであった。




原作死亡キャラの生存
《コペル》……『はじまりの日(原作小説8巻)』にて、モンスターを使ったプレイヤー・キルによってキリトを殺して胚珠を入手しようしたが、誘き寄せたネペントたちによって殺された。
この小説の世界ではキリトに出会わず、堅実にネペントを倒し続けて胚珠を入手した。
この小説での今後の出番は多分無い。


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星なき夜のアリア 『《閃光》と《無形侍》の初会合』

ぐわああああああああ!
一カ月も空けてしまったああああ!
さらに8日に貰った感想に「今週中には更新うんぬん」とか言ってたのにカレンダー的にはもう次週だああああああ!

……本当にすみません。
言い訳はいろいろありますが、大体筆者が悪いです、はい。
そして最近忙しいので、次話もまた遅れると思います。
でも少なくとも、一カ月に一話は投稿できる様に頑張ります(震え声)。


side 三人称

 

 

このゲーム……《ソードアート・オンライン》が"正式サービス"を開始してから、一ヶ月が経過した。

『《トールバーナ》にて、第1層フロアボス攻略会議が開かれる』という情報を得たコタロウは、そのトールバーナという街に来ていた。

攻略会議は今日の午後4時。

つい先程確認した現在時刻は[15:00]……つまり午後3時。

 

(早く来すぎてしまったが……さて、時間まで何をしていようか……)

 

などと暇潰しの方法を考えていたものの、コタロウの頭の中で思い浮かんだ事と言えば、『ひたすら剣の素振りをする』とか、『キリトの情報によって入手し、それをさらに強化した《打刀+5》の手入れをする』とか、『鍛治スキルを上げる為に最近手に入れた簡易鍛治道具を使って、適当に店で買った武器を要らない素材で強化する』とか、『店売りパンを、キリトが教えてくれたクエストで手に入れたクリームを付けて食べる』とかその程度であった。

 

キリトとコタロウは、正式サービス開始初日にホルンカの村で別れて以来一度も会ってはいないが、メッセージでのやり取りは良くしている。

【最近は、実付きネペントの実を()()()()()()()()レベル上げをする事があるぞ。もちろん他のプレイヤーを巻き込まない様にな。慣れれば良いレベル上げになるぞ。】

というメッセージを受け取ったキリトがメッセージ・ウインドウを開きながら呆然としていたとか。

 

閑話休題。

コタロウは、とりあえず適当に鍛治スキル上げを始めるために武具屋に向かう事にした。

 

(早く、物干し竿が欲しいな……)

 

などと思いながら。

 

 

↓ ↓ ↓ ↓ ↓

 

 

1時間程暇を潰したコタロウは、第1層フロアボス攻略会議に参加していた。

 

会議の開かれる【トールバーナ】の噴水広場に集まったプレイヤーの数は……自分を含めて四十五人であった。

その中には、常に最前線で動き回っていたのだから来るだろうと予想していた、SAOでの始めての友人キリトもいた。

道具屋で無料配布していた《エリア別攻撃本(鼠マーク)》によれば、このSAOでは一つのパーティーに最大六人が参加でき、ボス戦ではそれを八つまで合わせて合計四十八人の連結(レイド)パーティーを作る事ができるらしい。

 

(彼ら全員が命がけのフロアボス戦に参加してくれるのであれば、なかなか良い感じに集まったのではないだろうか)

 

コタロウは既に四十四人が集まっている広場の後方……さりげなく、キリトからほんの数メートル離れた右横に落ち着いた。

直後、パンパン、と手を叩く音と共に、よく通る大声が耳に届いた。

 

「はーい!それじゃあ、そろそろ始めさせてもらいまーす!」

 

その声の主は、広場中央の噴水の縁に助走も無くひらりと飛び乗った。

そして広場に集まったプレイヤーたちに向き直り、爽やかな笑顔を浮かべる。

 

「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!オレの名は《ディアベル》!職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

長身の各所に金属防具を着けているイケメン片手剣使い(ソードマン)は、笑顔と同じ様に爽やかにそう言った。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

攻略会議の内容は大幅に割愛させて貰おう。

というのも、特にコタロウが大きく動いた訳では無いからである。

 

攻略会議では『第一層フロアボスの部屋が発見された』という事が発表され、情報屋によるベータテスト時の情報を元に、フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》の特徴や攻略方法などが話された。

途中《キバオウ》というプレイヤーが乱入し騒いだりしたものの、それも黒人のプレイヤーに鎮静させられていた。

そしてキバオウが退いた後、ディアベルがこんな発言をした。

 

「それじゃあみんな、近くにいる人や仲間とパーティーを組んでみてくれ!パーティーを組んでくれれば役割分担もしやすいからな!」

 

その声に何となく「さて、キリトと組むか、どうしようか…」などと考え始めたコタロウを置き去りにして、他のプレイヤーたちによって七つの六人パーティーはアッサリと完成してしまっていた。

 

(…………まぁ、目立たない後ろの方でじっとしていた自分が悪いのだろうがなぁ……)

 

と心中で密かに涙を流しながらも、仕方がないといった感じに肩を竦めたコタロウは、結局キリトとパーティーを組む事にした。

 

左方向に目を向ければ、顔をフード付きケープで覆っている人物に話しかけているキリトの姿があった。

どうやら余ってしまったキリトは、同じく余ってしまったあの人物とパーティーを組む事にしたらしい。

 

(ならば同じ余り者として私も混ぜて貰おうか!)

 

と何故か変な方向にテンションを上げたコタロウは、キリトたちに近づきながら声を掛けた。

メッセージでのやり取りはあったが、直接顔を合わせるのは一ヶ月ぶりである。

 

「久しぶりだなぁキリトよ!」

「うん?」

 

名前を呼ばれたキリトは声の主へと顔を向け、コタロウの姿を確認した。

 

「コタロウか!?久しぶりだな!」

 

思わず歓喜の声を上げたキリトは、すぐ隣にいたケープの人物にジト目で睨み付けられているのに気付き、咳払いした後本来の調子に戻った。

 

「ンンッ……また、生きて顔を合わせられて嬉しいよ。コタロウも今回のボス戦に参加するのか?」

 

寄ってきたコタロウに、キリトが話しかける。

 

「ああ、レベル的にも技量的にも足手まといにはならないだろうと思ってな」

「そっか……コタロウが参加してくれるなら心強いよ」

「……この人、知り合い?」

 

その声にコタロウはキリトから視線を外し、その隣にいたケープの人物に目を向けた。

体型は痩せ型にやや小柄、声からして少女で、腰に付けている武器は……刺突剣だろう。

コタロウが適当に買っては鍛治スキル上げの為に強化していた武器種の一つである。

 

「おっと、自己紹介が遅れて申し訳ない。私の名はコタロウ、しがない刀使いであり、キリトの友人だ。……そちらの名を伺っても?」

「…………《アスナ》」

 

コタロウはキリトから送られてきたパーティー参加申請にOKを押した。

 

「ではアスナ嬢、暫しの間よろしく頼む」

 

そのコタロウの言葉にケープの少女……アスナは口を開かず、しかしコクリと頷いた。

 

その後ディアベルは、出来上がった七つの六人パーティーを検分した後、それぞれのパーティーから数人を入れ替えて目的別の部隊へと編成し直した。

余り者三人組(キリト・アスナ・コタロウ)に与えられた役割はボス戦開始時、ボスの体力が一定以上減少するたびに現れる取り巻き《ルインコボルド・センチネル》の殲滅部隊……の、サポートである……『ボス戦の邪魔にならない様に後方で大人しくしてて』と言われている気がしなくもない。

 

「……ボスに一回も攻撃出来ずに終わっちゃうじゃない」

 

アスナは、コタロウたちに役割を言い渡してから去っていったディアベルを睨み付けながらそう言った。

 

「仕方ないだろ、三人しかいないんだから。"スイッチ"で"POTローテ"するにも時間が足りないんだ」

 

そう答えたキリトにアスナは振り向き、言い返す……事は無く、

 

「……すいっち?ぽっとろーて?」

 

……と呟きながら首を傾げた。

漫画であれば頭上にクエスチョンマークが見えていたであろう。

アスナはベータテスターでも無ければ、パーティーを組んだ事も無いので仕方がないのだが。

 

「……あとで全部詳しく説明する。この場で立ち話じゃとても終わらないから」

 

キリトのその言葉にアスナは無言で頷いた。

それを確認したキリトはコタロウに振り返った。

 

「コタロウも、説明必要か?」

「いや、私は何度かパーティー組んだ事があってな。既に教えてもらっている」

「……そういえばそんな事言ってたな、メッセージで」

 

実はこの男、レベル上げの為にホルンカの村に戻るまでの道中や、ホルンカの森でのレベル上げの最中に、何度か臨時パーティー組んでいたりする。

 

……これは余談ではあるが。

コタロウのお陰で、十数名のプレイヤーは()()()()()()()()()()()()()《アニールブレード》を入手できたとか。

 

噴水の方に戻ったディアベルは再びパン、パンと手を叩き注目を集めた。

 

「最後に、ドロップしたコルやアイテムはゲットした者の物とする!……では、解散!」

 

ディアベルのその言葉によって締められ、第一層フロアボス攻略会議は終了した。

 




"スイッチ"・"POTローテ"とは。

前衛が相手を怯ませるなどして隙を作った後に下がり、後衛が前に出ながら相手のターゲットを譲り受ける……という戦術を"スイッチ"という。

第一層の回復アイテムには『1秒毎にHPを○○ポイント回復させる』という効果を持つ《回復ポット》しか無く、プレイヤーのHPを一気に回復させるアイテムは現時点では存在していない。
故に回復アイテムを使ってからも、しばらく仲間に時間を稼いでもらう必要がある。
そして自分の回復が終わった後、時間稼ぎをしていた仲間とスイッチして仲間の回復の時間を稼ぎ、仲間が回復したらまたスイッチして……というのを繰り返すのが"POTローテ"である。

……以上、筆者が全く調べずに想像で書いた用語解説でした。
大体こんな感じだと思いますが、原作のどっかに書いてありますかね?

そんな事より、『ソードアート・オンライン プログレッシブ』第一巻は良いぞ。
第一層フロアボス攻略も書かれていたりしますが、アニメとは違う展開も多いので「アニメでもう見てるから……」なんて人にもオススメです。
あとキリトとアスナの絡みやアルゴの出番も多い。
筆者はここすき→287ページのぐるぐるお目々+私服なアスナさん。
ここもすき→話のサブタイトルが中二っぽいけどカッコいい。


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星なき夜のアリア2 『第1層フロアボス戦・開始直前』

僕が好きな様に書くと決めた小説ですが、評価やお気に入り登録をしてくれていたり、待っていて下さる読者様方もいるので謝罪を。
遅れてしまってすみませんでした。
言い訳をさせていただきますと、真面目にめちゃくちゃ忙しかった時期があり、どうにかそれを乗り越えたら"頑張った自分へのご褒美"などと言いながらモンハンやっていたり、別の小説書いたり、ハーメルンで面白そうな小説を漁ったりで、ダラダラダラダラダラダラとこの小説の執筆(?)を放置していました。
まぁそんな感じなので、今後僕の小説の更新を待つ時は、あんまり期待しないで待っていて下さい。


皆さま、モンハンワールド楽しんでいますか?
人それぞれ向き不向きはあるでしょうが、僕は楽しんでいます。
得意武器はもちろん太刀










……と、言うとでも思ったかッ!
ガンランスだッ!!(至極どうでもいい)


side キリト

 

第1層フロアボス攻略会議の翌日、一人も欠ける事無く集まった四十五人は迷宮区最上階を踏破し、ボス部屋前にいた。

とりあえずここまで、背筋が凍る様な場面はあったものの、死者が出なかった事にこっそり胸を撫で下ろした。

四十八人(フルレイド)パーティーに近い人数での行軍(こうぐん)はこの場にいるプレイヤーのほとんどが初体験であり、この世界では"初めてである行為"には例外無く事故の危険を内包しているからだ。

 

そして俺は、ついに姿を現した巨大な二枚扉を仰ぎ見ていた。

……背が低く、集団の後方にいるためやや爪先立ちになっているが。

 

「………顔は良いがその(さま)では格好つかぬなぁ」

「………………フフッ」

 

コタロウうるさい、アスナもこっそり吹き出すな。

 

灰色の石で作られている二枚扉の表面には、恐ろしげな獣頭人身の怪物が浮き彫りされている。

獣頭人身のコボルドと言えば他のMMO(大規模多人数同時参加型オンライン)ゲームでは大抵雑魚中の雑魚モンスターだが、このSAOにおいては亜人型(デミヒューマン)である、というだけで(あなど)れない強敵だ。

何故ならば奴等は剣や斧などの武器を操る能力を持ち、さらには()()()()()()()使()()()()()()()()()()()のだ。

 

通常攻撃を遥かに上回る速度、威力、命中補正を付与された剣技(ソードスキル)は、プレイヤーなら最初に習得出来る様なモノであっても、無防備状態でクリティカルヒットしてしまえばHPをとんでもない量持っていかれてしまうのだ。

パーティーメンバーのレイピア使い・アスナが、単発突きソードスキル《リニアー》一つだけで迷宮区最上部まで到達出来た事が、ソードスキルの強さと恐ろしさを証明している。

 

……そしてコボルドのソードスキルを紙一重で躱したり刀で受け流したりした後、カウンターの一撃(ソードスキル未使用)で首を刎ね、即死させるコタロウはハッキリ言って異常である。

 

「(ソードスキルを)あんな風に対処するなんて怖くないの?」

 

と、思わず聞いたらしいアスナの問いに対してコタロウは、

 

「最初の構えからどの様な技が来るのかは大体分かるからなぁ。私にとってはそれ程難しくはないぞ?」

 

などと答えた。

 

「……そんな事続けていたら、近い将来死ぬわよ、あなた」

「その時は、私がまだその程度の剣士であったというだけの事であろう」

 

なんて会話があったり。

頼むから俺のフレンドリストに死亡者を載せないでくれよ……?

 

閑話休題。

 

「二人共、少し良いか?」

 

俺は作戦の最終確認をするために、アスナとコタロウを引き寄せた。

 

「……今日の戦闘で俺たちが相手する《ルインコボルド・センチネル》は、ボスの取り巻きの雑魚扱いだけど充分強敵なんだ。昨日、ざっと説明したけど、頭と胴体の大部分を金属鎧でガッチリ守っているから、適当に攻撃しているだけじゃ倒せない」

 

俺の言葉にアスナとコタロウは頷く。

 

「わかってる。貫けるのは喉元一点だけ、でしょ」

「そうだ。俺とコタロウが奴等に隙を作るから、すかさずスイッチで飛び込んでくれ」

 

俺の言葉を聞いた二人は再び躊躇う事無く頷く。

そしてアスナは大扉に向き直った。

「コタロウはソードスキルを使わない」と言った後のアスナは今日までコタロウを良く思っていなかったけど、実際にその戦う様を見た後では、少なくとも信用はする様にしたらしい。

 

「……死ぬなよ?」

 

ふ、と笑いながら、コタロウがそんな事を言ってきた。

 

「……そっちこそ!」

 

そう答えた後、俺も正面を向いた。

前方では、丁度七つのパーティーを並ばせ終えたディアベルが、大扉の前に立ったところだった。

 

「みんな……俺から言う事はたった一つだ」

 

ディアベルは、レイドメンバーを見渡した後、長剣を掲げながら言った。

 

「…………勝とうぜ!!」

 

四十三人のプレイヤーたちはそれに頷き返す。

ディアベル(ナイト)は左手を大扉の中央に当て、思い切り押し開けた___。

 

 




短い……そして小次郎成分が無さすぎる……。

もういっそのこと、次話(と僕)には期待しないで待っていて下さい。
待って無くてもいいです。


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ストーリーをすっ飛ばして、筆者が書きたいと思っていた話だけ書いた……そんな感じの小説置き場
『コタロウ vs ヒースクリフ』前編


長らく更新が止まってしまっており、誠に申し訳ありませんでした。
今回の話についてですが、前回の続きではありません。
では何かと言いますと、ほとんど活動報告のコピペになりますが。

最後に更新したのが第1層フロアボス《イルファング・ザ・コボルドロード》戦の直前で、その続きの戦闘シーンを書いていこう……と、数ヶ月前までそう思っていたのですが、僕がいろいろと忙しくなってしまい、更に"僕が本来書きたいと思っていた話"を書けるのが当分先の事になってしまう、という事もあってこの小説を書くやる気がドンドン失われていってしまったのです。

そしてとうとう吹っ切れて「このまま失踪するぐらいなら、もうストーリーとかすっ飛ばして、書きたい話だけ書いていくわ」という考えに至り、そう決めつけると途端に精神的に楽になってしまい、書いたのがこの話です。

ここからが重要なのですが、ストーリーを楽しみにして下さっている読者様(がいるのかどうかはともかく)には大変申し訳ありませんが、ストーリーはこれより当分、或いは一切更新される事は無いと思います。



……ぶっちゃけ言ってしまえば「とっととカッコイイ佐々木小次郎もどきの戦闘シーンが書きたかったんだよッ!!」ということです。
これからはこの小説は『なんとなく僕が書きたいと思っていた話を、文才が無いなりに、スローペースで、割と頻繁に別小説執筆という名の寄り道をしながら頑張って書いていく』という、そんな感じの動きになっていくと思います。

全力で控えめに言っても自分がクソ野郎であると、自分で思いますが、何とぞご理解の程よろしくお願いいたします。





長いので三行でまとめますと、

前回の続き執筆は絶望的、
僕の都合で執筆方針変更、
とりあえず僕はクソ。

です。



そんな感じですが、小説をどうぞ。


side キリト

 

無限にも思えた激闘の果てに、ついに第75層フロアボスモンスター……《ザ・スカルリーパー》がその巨体を四散させた後も、誰一人として歓声を上げる余裕のある者はいなかった。

皆、倒れるように黒曜石の床に座り込み、或いは仰向(あおむ)けに転がって荒い息を繰り返している。

 

「終わった……の……?」

「ああ……終わった……」

 

アスナとのそんなやりとりの直後、不意に全身を重い疲労感が襲い、堪らず床に膝をつき、アスナと背中合わせに座り込む。

もう、しばらくは動く事は出来そうになかった。

 

「………………ふぅ…………」

 

コタロウは俺の右側の少し離れた場所で、彼自身の身の丈程もあるという脅威の長さを持つ太刀__《物干し竿》を鞘に収めた後、それを抱えながら座り込んだ。

それ程耐久値の高くない武器にも関わらず、周囲のプレイヤーを巻き込まない為に、フロアボスの攻撃を逸らす事無く度々受け止めていたので、耐久値もう限界に近いだろう。

 

『恋人と、仲間たちと共に生き残れた』と、そう思っても、手放しで喜べる状況ではない。

 

あまりにも犠牲者が多過ぎた。

開始直後に三人が散った後も、確実なペースで禍々しいオブジェクト破砕(プレイヤー死亡)音が響き続け、俺は六人まで数えたところで無理矢理その作業をやめていた。

 

「何人、やられた……?」

 

俺の左の方でぐったりと座り込んでいたクラインが、掠れた声で聞いてきた。

その隣で仰向けに寝転がって手足を投げ出していたエギルも、顔だけをこちらに向けてくる。

俺は右手を振ってマップを呼び出し、表示された緑の光点……ボス戦に参加していたプレイヤーの数を数える。

出発時の人数から犠牲者の数を逆算して___

 

 

 

 

 

 

 

 

「___十四人、死んだ」

 

……自分で数えておきながら、信じる事が出来ない。

皆、トップレベルの、歴戦のプレイヤーだった筈だ。

たとえ離脱や、結晶アイテム無効化空間による瞬間回復不可の状況とはいえ、生き残る事を優先した戦い方をしていれば、おいそれと死ぬ様な事は無い。

……そう、思っていたのに……。

 

「……嘘だろ……」

 

エギルの声にも普段の張りは全くなかった。

 

これで漸く四分の三……まだこの上に二十五層もあるのだ。

数千人ものプレイヤーがいる、と言っても、最前線で真剣にクリアを目指しているのは数百人、といったところだろう。

一層ごとにこれだけの犠牲を出していってしまえば、最後にラスボスと対面できるのはたった一人……などという様な事態にもなりかねない。

 

恐らくそうなった場合、残るのは間違いなく"あの男"だろう。

 

俺は視線を部屋の奥に向ける。

そこには、他の者達が全員床に伏す中、背筋を伸ばし立つ紅衣の男……ヒースクリフがいた。

 

無論、彼も無傷ではなかった。

ヒースクリフに視線を合わせてカーソルを表示させると、HPバーが五割近くまで減少しているのが見て取れた。

俺とアスナが二人がかりでどうにか防ぎ続けたあの巨大な骨鎌を、一人で捌ききっていたのだ。

数値的なダメージに留まらず、疲労困憊して倒れても不思議ではない……筈なのだが、悠揚迫らぬその立ち姿には、精神的な消耗など皆無と思わせるものがあった。

まったく、信じられないタフさだ。

 

俺は疲労で座り込みながらぼんやりとヒースクリフの横顔を見つめ続けた。

その男の表情はあくまで穏やかだ。

無言で、床にうずくまる《血盟騎士団》のメンバーや他のプレイヤー達を見下ろしている。

 

暖かい、(いつく)しむ様な視線。

言わば___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

言わば、ゲーム画面の向こう側で動くキャラクター達を見るような。

 

 

 

 

 

 

 

 

その刹那、俺の全身を恐ろしい程の戦慄が貫いた。

 

意識が一気に覚醒する。

指先から脳の中心までが急速に冷えていく。

俺の中に生まれたある予感、微かな発想の種がみるみる膨らみ、疑念と言う名の芽を伸ばしていく。

 

ヒースクリフのあの視線と穏やかさ。

アレは傷付いた仲間を労わる表情では無い。

俺達と同じ場所立っているのでは無い。

アレは、遥かな高みから慈悲を垂れる……神の表情だ。

 

かつて彼とデュエルをした時の、恐るべき超反応を思い出す。

あれは人間の……否、SAO(このゲーム)のシステムに許されたプレイヤーの限界速度を超えていた。

 

彼の日頃の態度……最強ギルドのリーダーでありながら、自ら命令を発すること無く、団員たちに万事を委ね、ただ見守り続けていた。

あれは自身の配下を信頼していたからでは無く……一般のプレイヤーたちには知り得ない事を知るが故の自制だったのか?

 

SAO(このゲーム)のルールに縛られぬ存在、しかしNPCなどではないだろう。

単なるプログラムには、あの様な慈悲に溢れた表情はできないのだから。

 

 

 

NPCでも無く、一般のプレイヤーでも無いのであれば、残る可能性は唯一つ。

だが、それをどうすれば確認できるのか。

方法は無いのか___

 

 

 

 

 

___いや、ある。

今この瞬間、この状況でのみ可能な方法が、たった一つだけ。

 

ヒースクリフのHPバーを見つめる。

過酷な戦いを経て大きく減少している……が、半分にまでは達していない。

辛うじて、本当にギリギリの所でグリーン表示に留まっている。

未だ(かつ)て、ただの一度もイエローゾーンに……HP50パーセント以下に陥った事の無い、圧倒的な防御力の男。

 

俺とのデュエルの時、そのHPが半分を割り込もうとしたその寸前、ヒースクリフの表情が険しさを表す様に動いたのを俺は見た。

あれはHPがイエロー表示になる事を恐れたのではない。

そうでは無く、恐らくは……。

 

俺は頭の中で情報を整理した後立ち上がり、一瞬だけ右側に……正確には、今現在アスナと同程度に信頼している親友に視線を向けてから、ゆっくりと右手の剣……《エリュシデータ》を握り直した。

極小さな動きで、徐々に右足を引いていき、僅かに腰を下げ、低空ダッシュの準備姿勢を取る。

ヒースクリフは俺の動きに気づいていない。

人を見下ろす神の如き視線は、打ちひしがれるギルド団員にのみ向けられている。

 

……仮に俺の予想が全くの的外れであったならば、俺は犯罪者プレイヤーへと転落し、容赦無い制裁を受ける事になるだろう。

 

(その時は……ゴメンな……)

 

俺は俺のすぐ後ろに腰を落としているアスナをちらりと見やった。

同時にアスナも顔を上げ、視線が交錯する。

 

「キリト君……?」

 

アスナが困惑している様な表情浮かべながら、微かにそう声を発した。

その直後、俺の右足は地面を蹴った。

俺はヒースクリフとの距離、約十メートルを床ギリギリの高さを保ちながら全速力で、一瞬にして駆け抜け、右手の剣を捻りながら突き上げた。

片手剣の基本突進ソードスキル《レイジスパイク》だ。

威力の弱い技故、これが命中してもヒースクリフを殺してしまうことは無い。

しかし、俺の予想通りなら、これが命中すれば___。

 

視界の端からペールブルーの閃光を引きながら迫る剣尖(けんせん)に、ヒースクリフは流石の反応速度で気付き、目を見開いて驚愕の表情を浮かべたが、即座に左手の大盾を構え……俺の剣を弾き逸らした。

 

 

 

 

 

(……今の不意打ちに対応出来るなんてな……流石、と言うべきか……)

 

 

剣と大盾が衝突した事で生まれた火花と、その向こうに見えるヒースクリフをぼんやりと眺めながら、俺は驚きを噛み締めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……しかし、俺の攻撃が防がれる事は予想出来ていた事だ。

そう簡単にあの防御を突破する事は不可能だろう、と。

 

(……だから、___)

 

もしも、俺が失敗した時の為に。

心なしか、その表情が勝ち誇っているかの様に見えるヒースクリフには悪いが___

 

 

 

(___保険を用意しておいて良かった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___犯罪者プレイヤーに堕ちる可能性があるにも関わらず、躊躇い無く走ってくれる親友がいてくれて、良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コタロウ___!!」

 

「___心得た」

 

 

 

 

 

俺が放った全速力での《レイジスパイク》……その数倍の速度で(・・・・・・・・)、先程まで座り込んでいた場所から疾走してきたコタロウは俺の抜き去っていき、俺の剣を大盾で弾き逸らした事で晒されているヒースクリフの右側に回り込み、斬り上げた。

 

 

 

 

 

そして…………俺の予想は的中した。

 

コタロウの刀がヒースクリフの斬り裂く……その寸前で、刀は目に見えない障壁に激突した。

ガキィィィィィン……という甲高(かんだか)い音を鳴らしてコタロウの刀が真っ二つにへし折れる。

そしてコタロウとヒースクリフの中間に紫色の……システムカラーのメッセージが表示された。

 

 

 

 

 

【Immortal Object】。

 システム的不死(・・・・・・・)

 

 

 

死に怯える有限の存在である俺たちプレイヤーにはあり得ない属性。

俺とのデュエルの時、ヒースクリフが恐れたのは、まさにこの神的加護が暴露されてしまう事だったのだ。




中途半端ですが今回はここまで。

スローペースで書いていきますので、読者様方は思う存分この小説の存在を忘れて、日々を過ごして下さいませ。


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