衛宮士郎は正義の味方である (星ノ瀬 竜牙)
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[番外編]Happy Birthday 樹ちゃん

ランキング入りしてるやん!?
やべぇよ……やべぇよ……となりながら書いた番外編。

今後の展開のネタバレが多く含まれてるので
それを了承の上で読んでいただけると幸いです。
時系列的には結城友奈は勇者である本編の後日談、勇者の章の前日談
つまりは結城友奈は勇者であるSの時系列での話になります。

12/7は樹ちゃんの誕生日。
皆も祝いましょう!
……ちなみに私のリアルの友人も12/7が誕生日で樹ちゃんと一緒なんですよね。羨ましい。


番外編だから本編より駄文なのは許してください……


「はぁ〜……」

 

「随分と深い溜め息だな、どうしたんだ?」

 

士郎にとって親しい友人(?)である(ふう)が溜め息を吐く。

 

「そろそろ、樹の誕生日なのよ」

 

「あぁ……そういえば、12/7だったな。彼女の誕生日は。

大方、誕生日プレゼントを迷っている。といったところか?」

 

「そうなのよねぇ……毎年上げてるんだけど……

さすがに同じ物をプレゼントってわけにもいかないし……迷ってるのよねぇ」

 

「出来る姉は大変だな」

 

「何よ、他人事みたいに」

 

ムスッとする風。

だが、士郎にとっては

事実でしかないからだろうか、肩を竦め、苦笑しながら述べる。

 

「事実、他人事だろう?

他所の家庭事情に口を出せる程、私は偉くないさ」

 

「いやまあ、たしかにそうだけどね……」

 

「それで?君は、樹に何をしてやるつもりだ?」

 

驚いた様子で風は士郎を見る。

 

「む、その顔はなんだ」

 

「いや……さっき自分で他人事だって言ったじゃない」

 

「たしかに、家庭事情的に言えば。だがね。

だが、勇者部の部員としては別だろう?」

 

「やっぱり、アンタ……捻くれてるわね」

 

「否定はしない」

 

士郎のなんとも言えない表情を見て、クスッと風は笑う。

 

「アンタと話すとやっぱり色々吹っ切れるわねぇ

決めたわ、今年は皆で誕生日パーティーよ!」

 

「なるほど……たしかに、下手な誕生日プレゼントより

そっちの方が喜ぶだろうな」

 

士郎は風の案に納得がいった様子で頷く。

 

「よし、じゃあ決めたわ。

シロウ、樹と誕生日の日に買い物に行きなさい

私が樹に行かせるようにするから」

 

「いきなりだな……で、理由は?」

 

「樹の誕生日パーティーの準備の間の

時間稼ぎをアンタに頼みたいのよ。お願いできる?」

 

「了解した、風。ケーキはどうする?」

 

「東郷と私で……と思ったんだけど……

前日に手伝ってくれる?」

 

手を合わせて頼む風。

その姿を見て苦笑しつつ士郎は了承する。

 

「……やれやれ……別に構わんよ、

だが妥協は許さんと思っておけ」

 

「……人選間違ったかしら」

 

士郎の有無を言わさんぞといった様子に

風は顔を引き攣らせるのだった。

 

────

 

「なるほど、樹ちゃんの……分かりました」

 

「サンキュー東郷!アンタが居てくれるとほんと助かるわ!」

 

「それに、士郎くんが居るなら

会心の出来になるとは思いますし」

 

「待て、君の中での私の認識はやはりそんな感じなのか?」

 

「あら、事実を言ったまでよ?」

 

「……納得がいかん」

 

東郷の微笑む姿をジト目で睨みつける士郎。

二年程経っても士郎がオカンという認識は

東郷の中で変わっていなかったようだ。

 

「あ、風先輩!私達はどうすれば良いですか?」

 

三人の会話を聞いていた友奈が質問してくる。

 

「そうね……友奈達は飾り付けの準備お願いできるかしら?」

 

「分かりました!」

 

「お、じゃあ私達もか、風先輩?」

 

達は、と風に言われ銀が自分達も飾り付けか。と聞いてくる。

 

「そうね、お願いできるかしら?」

 

「了解ッス!園子、夏凜、友奈!頑張ろうな!」

 

「お〜♪いっつんの誕生日、頑張らなきゃね〜♪」

 

「仕方ないわね……」

 

「うん!頑張ろうね!銀ちゃん!!」

 

銀、園子、夏凜、友奈の四人は気合いを入れるのだった。

 

「うんうん、じゃあそれぞれ……

樹の誕生日パーティーに向けて頑張るわよ!」

 

「「「「「おー!!」」」」」

 

────

 

「すいません、衛宮先輩……買い物を手伝ってもらって……」

 

誕生日当日。

士郎は風に言われた通り、樹と一緒に商店街に来ていた。

 

「いや、構わんさ。オレも暇だったしね。

風に頼まれた時は何事かと思ったが……」

 

「あはは……ごめんなさいお姉ちゃんが急に呼び出して……」

 

「なに、気にしてないさ。それで買う物は決まっているのか?」

 

「あ、はい!メモをお姉ちゃんから渡されたので!」

 

「……そこは用意周到だな

 

樹が風に渡されたメモを士郎に見せる。

しっかりと、時間が掛かるように

タイムセールの物も買ってくるように書かれていた。

用意周到である。

 

「どうかしましたか?」

 

「……いや、タイムセールの物もあるし、

それ以外を買ってもタイムセールの時まで

待たなきゃいけなさそうだな。と思っただけさ」

 

「え!?そうなんですか!?

……ほんとだ……もう、お姉ちゃんってば」

 

「ハハ、今に始まった事ではないだろ?」

 

「そうですけど……

こういうのはしっかり言っておいて欲しいです」

 

「たしかにな……」

 

二人で苦笑いするのだった。

ちなみに噂された当人がくしゃみをしていたのは二人は知る由もない。

 

「……しかし、何故私の家で祝う事になっているのか

 

士郎はボソリと、樹に聞こえない音量で呟く。

そう、何故か誕生日会が士郎の家で行われる事になっていた。

いや、広いといった理由である程度納得はしたが……

正直に言えば、風と樹の家で良くないか。と思った。

誕生日会に広さは殆ど関係ないと言われて納得した後に気付いたのだ。

 

「衛宮先輩?」

 

「ん?どうしたんだ、樹」

 

「なんだか難しい顔してましたよ?」

 

「む、そうか……

すまない、色々考え事があってな。気にしないでくれ」

 

「はぁ……?」

 

士郎の苦笑いに樹は首を傾げるのだった。

 

────その後、買い物をある程度済ませ、

残すはタイムセールの物だけになった。

 

「後は……タイムセールの物だけですね……となると……」

 

「後、十分弱待ちか」

 

士郎はスマホの時計を確認して答える。

 

「後、十分……ここで待つしかないですね」

 

「そうだな……別の場所に行けるような時間でもないしな」

 

二人で待つ事になったのだが、

突如、士郎のスマホに連絡が入る。

連絡してきた相手の名前は『犬吠埼風』と書かれていた

 

「……風か、なんだこんな時に」

 

「お姉ちゃんからですか?」

 

「ああ……少し席を外すぞ」

 

「分かりました」

 

樹から離れて、風と通話する

 

「どうしたんだ、風?」

 

『そっちは大丈夫かなーと思ってね』

 

「問題はない。後はタイムセールの品だけだ」

 

『お、じゃあ丁度タイミングは良かったのね』

 

「という事は……終わったのか?」

 

『ええ、準備も滞りなく終わったわよ

……途中、夏凜が料理にサプリ入れようとしたけどね』

 

「……阻止したか?」

 

『ええ、私と銀と東郷で全力阻止したわ』

 

「良くやった」

 

『当然よ、女子力舐めんな』

 

ガッツポーズを息の合ったタイミングでする風と士郎だった。

 

「……じゃあ、後はタイムセールが終わったら

そっちに行けば良いんだな?」

 

『そうね、お願いするわ

……あ、それと……波に呑まれないように注意してあげてね』

 

「……タイムセールの恐怖はオレが一番良く知っている。

安心しろ、それぐらいは努めさせてもらうさ」

 

そう、タイムセールの時の主婦は怖い。

競い合う相手だからこそ、士郎も風も理解していた。

 

『下手をすれば勇者より強いんじゃないかしら……』

 

「否定できないのが辛いところだな……最早一種の執念だよアレ」

 

『「はぁ……」』

 

二人して思い出し、溜め息を吐くのだった。

 

『ん、じゃあ切るわね。寄り道しないでよ?』

 

「オレはするつもりはないぞ。樹は知らんがな」

 

『そこは大丈夫でしょ。じゃ、後でね』

 

「ああ、後でな」

 

士郎は通話を切り、樹のもとに戻る。

 

「待たせたか?」

 

「大丈夫ですよ、結構話し込んでましたけど……

何かありました?」

 

「特にはないよ、まあ君の事を心配する内容だったな」

 

「うぅ……お姉ちゃんはまた……」

 

恥ずかしそうに顔を赤くする樹。

 

「仕方ないだろう、アイツにとって君は

可愛い妹なんだ。甘んじて受け入れてやれ」

 

「うぅ……はい……」

 

「っと……そろそろ時間か……」

 

「え……あ、ほんとですね」

 

ふと、時間を確認するとそろそろタイムセールが始まる時間だった。

士郎は何かを考え込むと、樹の方を見て爆弾発言をする。

 

「……樹、手を繋ぐか?」

 

「え?……うぇええええ!?なんでですかああ!?」

 

「そこまで驚くことか!?」

 

「だ、だって衛宮先輩と……ふえええ!?」

 

「落ち着け、樹。タイムセールは怖いんだ……

はぐれてしまう事がよくある。

……だから手を繋いでた方が良いだろうと思っただけだ」

 

「……え、えっと……そ、そういう事ですか、

じゃ、じゃあ……失礼して」

 

そっと恥ずかしそうに、樹は士郎の手を握る。

その様子を見て、周りの人が

「あらあら」と微笑ましそうに見ていたり

「ケッ……リア充が」と妬ましそうに

見ていたりしているのは余談である。

 

────

 

「……え、衛宮先輩の……言ってた、理由……分かり、ました」

 

「は……はは……分かって、くれたなら……問題は……ないさ」

 

士郎と樹は二人揃って、疲れきっていた。

そう、タイムセールの地獄を味わったのだ。

 

「す……凄い……ですね……主婦の人……

バーテックスと……戦った時より……疲れました……」

 

「……姉妹揃って……似たような事を

……さすが、というべきか」

 

「お姉……ちゃん……なんて、言ってた……んですか……」

 

「自分達……勇者より……強いんじゃないか……だとさ……」

 

「ひ、否定……できないですね……」

 

樹も体験してしまったからこそ、安易に否定できなくなった。

経験していなかったらすぐさま否定していただろう。

だが、コレを経験してしまった樹は、

否定どころか納得してしまいそうになっていた。

 

「さて……お目当てのものはなんとか買えたし……そろそろ行こうか」

 

「そうですね……はふぅ……疲れました……」

 

「同じくだよ……毎回の事だが……これにだけは勝てないな……」

 

疲れた様子で溜め息を吐いて、トボトボと帰る士郎と樹であった。

 

〔今から行く、準備しておけ〕

〔了解!……大丈夫だった?〕

〔死にそう〕

〔……ドンマイ〕

 

士郎と風がこんなやり取りを

チャットでしていたのは余談である。

 

 

────

 

「えっと……私はどうして衛宮先輩の家の中に居るんですか?」

 

「それは、和室に入ってからのお楽しみというヤツさ」

 

「え?それって?」

 

「ほら、良いから入った入った」

 

「わわ!?衛宮先輩……何を────」

 

樹を和室に押し込むと……

 

パン!パン!とクラッカーの音が鳴り響き……

 

「樹ちゃん!」

 

「誕生日〜」

 

「せーのっ」

 

「「「「「「おめでとう!」」」」」」

 

「え?……ええええええ!?」

 

「お、驚いてるわねー、樹!」

 

士郎以外の全員がクラッカーを鳴らして

樹の誕生日を祝う。

 

樹は何が何やら、理解出来ていない様子だった。

 

「お姉ちゃん!?これってどういう事!?」

 

「今日、樹の誕生日でしょ?

だから、少し前から計画してたのよ」

 

「え?じゃあ皆さんが最近なんだか色々忙しそうにしてたのって……」

 

「うん!樹ちゃんの為なんだよ♪」

 

「あの……もしかして士郎さんも……」

 

「グルだよ。今日の買い物はこの為に、風が考えていたんだ。

準備の時間稼ぎにな」

 

サムズアップしながら、イェーイと士郎は笑う。

 

「ささ、主役が居なきゃパーティーは盛り上がらないし……

樹も座りなさいな」

 

「ケーキもぼた餅もあるわよ。樹ちゃん」

 

「結局ぼた餅作ったのかよ……」

 

「時間が余っちゃったから」

 

机には色々なご馳走とケーキ(とぼた餅)が並んでいた。

ケーキの上には「Happy Birthday 樹」と

ホワイトチョコにチョコソースで書かれていた

 

「わぁ……ありがとうございます!」

 

「サプライズ成功ね!」

 

「だな!夏凜、園子!」

 

「いぇーい、大成功〜♪」

 

サプライズは大成功。

その後、飲めや食えやの大騒ぎだった。

 

「さて、お腹も膨れたし……誕生日プレゼントを渡す時間ね!」

 

「ええ!?そこまでしてもらうのはさすがに悪いよ、お姉ちゃん」

 

「気にしないの!皆、乗り気だったんだから」

 

「……風も買ったのか」

 

「ま……皆、用意してるのに私だけない。ってのもアレだしね」

 

「だろうな」

 

そんな訳で、誕生日プレゼントを順番に渡すのだった。

 

「じゃあ、私達からだな!」

 

最初は園子と銀からだった。

園子が本を樹に手渡す。

 

「イッつんの為に書いた小説だよ〜。読んでみてね〜」

 

「ちなみに私が絵を書いたぞ!」

 

「お二人共、ありがとうございます!

……えっと『仲良し姉妹』?」

 

「うん、イッつん達がモデルなんだよ〜」

 

「お、私達がモデルだなんて、園子も分かってるじゃない」

 

「ありがとうございます、

読み終わったら感想を言いますね!」

 

「うん、楽しみにしてるよ〜イッつん♪」

 

「絵の方の感想も頼むぞ!」

 

「じゃあ次は私だね!」

 

次は友奈から。手渡されたのは押し花の栞だ。

 

「鳴子百合の押し花だよ、

園ちゃん達の小説の栞に使ってみてね!」

 

「素敵ですね。ありがとうございます、友奈さん!」

 

「じゃあ、次は私ね」

 

友奈の次は東郷だった。

 

「つまらないものだけど……料理のレシピ本よ

風先輩から料理を練習してるって

聞いたから良かったら読んでみてね」

 

「ありがとうございます、東郷さん!

こういうの欲しかったので嬉しいです!」

 

「そう、良かった。喜んでくれて♪」

 

「珍しいな須美がそういうの渡すって」

 

「うん、わっしーのことだから

戦艦とかの図鑑渡すのかなって思ってた〜」

 

「……たしかにな」

 

「三人共、どういう意味?

私もそこまでじゃないわよ」

 

とは言いつつも、最初はそれを渡そうとしてたりしていたのは

全くの余談である。

 

「それじゃあ次は私ね。樹、サプリとにぼしよ!

必要な時に使いなさい!」

 

「よりによってサプリとにぼし!?

……あ、ありがとうございます?」

 

夏凜から渡されたのはまさかのサプリとにぼしだった。

 

「にぼっしーらしいねぇ〜♪」

 

「ちょっと夏凜、うちの妹に変なの渡さないでくれる?」

 

「変って何よ!変って!!」

 

「アハハハ……」

 

「じゃあ次はオレか」

 

士郎はそう言うと、押入れに入れておいた紙袋を取り出して

それを樹に渡す。

 

「……これって、手袋とマフラーですか?」

 

「ああ、オレからはそれだ。

これから寒くなるし、自転車通学にも便利だと思ってな」

 

「ありがとうございます!衛宮先輩!

ちなみにこれって……」

 

「?……オレの手編みだが?」

 

「まさかの手編み!?」

 

「え、これ手編みなの?

ウナクロで売ってる手袋とマフラーと思ってたわ……」

 

「む、失礼だな。手編みで悪いかよ」

 

「いやこれ……お店に並んでるようなのと

差がないぐらいに上手いじゃない……」

 

やはりこの男、家事スキルAなだけはある。

掃除洗濯料理裁縫、なんでもござれだった。

 

「じゃあ、締めは私かしら」

 

「そうだな、最後は姉が締めないとダメだろ」

 

「そうね、樹。私からはこれね」

 

マイクを風は手渡した。

 

「へ?これって……」

 

「樹、オーディションに受かってたでしょ?

だから、歌の練習に必要かなーって……

あ、機器の方は家にあるわよ」

 

「でもいいの?お姉ちゃん、これ高いんじゃ……」

 

「いーの、いーの!大赦からの手当てで買える値段だったから気にしないで」

 

「……やっぱりすごいな大赦」

 

「そうだね……」

 

風の言葉に、思わず顔を引き攣らせる

士郎と友奈だった。

というか、それだけ手当てが出るのも充分凄いのである。

 

「うん……ありがとう、お姉ちゃん!」

 

「やれやれ……やっぱり風に持っていかれたわね」

 

「元から、夏凜のは酷かった気が……」

 

「銀!それどういう意味!?」

 

「いや、別になんでもないです」

 

銀の意見に夏凜は噛み付く。

サプリとにぼしプレゼントは普通有り得ない。

うん、有り得ないのである。

 

「さて、じゃあ改めて……

 

……樹、誕生日おめでとう!」

 

「「「「「おめでとう!!」」」」」

 

「────はい、素敵な誕生日になりました!」

 

これは、ささやかな日常の一時。

その一端。架け替えのない、幸せな一日の物語。

 

───Happy Birthday、犬吠埼 樹───




にぼっしーのサプリとにぼし。
これは今日のにぼっしーの中の人のヒロk……樹里さんのTwitterから取ったネタです。
これ見た時私爆笑してましたw


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番外編 神樹館のバレンタイン

Happy Valentine!

そんなわけで番外編。
タイトル通り神樹館メンバーのバレンタインの番外編です。
時系列は、本編スタートの少し前となります。

甘いお話を届けれたら幸いです。
……くめゆキャラ一人入れてるけど、口調とか合ってるか不安。
……これで合ってたよね?


時は遡り、神世紀298年、2月14日。

この日は、世界中の女性が慌ただしい日になり……

世界中の男性がそわそわする日でもある。

 

そしてこれはそんな日でも

平凡で、それでいて少しだけいつもと違う彼のお話。

 

────────

 

「え、チョコ?」

 

「は、はい!士郎さんに渡したくて!」

 

「……俺で良いのか?」

 

「士郎さんに渡したいんです!これ、受け取って下さい!」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

「で、では失礼しましゅ!!」

 

あっという間に走り去っていく四年生の女の子。

────これで、もう十人目である。

 

チョコをくれるのはありがたいが……

増え過ぎるのも問題ではある。と個人的には思っている。

 

過剰摂取は体に悪いしなぁ……

 

「……士郎。居た」

 

うぅむ、と唸っていると見覚えのある少女が

こちらにトコトコとやって来る。

 

「……ん?ああ、しずくか。どうした?」

 

山伏(やまぶし) しずく。

無愛想、というよりは感情表現が乏しい少女。

同級生であり、何度かクラスが一緒になったこともある。

彼女にはちょっとした秘密があったりするのだが……まあそれは今度にでも。

 

「……チョコ、貰ったの?」

 

手提げ袋に入っているラッピングされた箱を見ながら

しずくはそう聞いてくる。

 

「ああ、これで十人目だ……参ったなぁ……

そんなわざわざ義理チョコをくれなくても良いんだが……」

 

「多分、義理チョコじゃない。と……思う」

 

「え?どういう事だよ?」

 

「……士郎、やっぱり鈍感」

 

「なんでそうなるんだよ……?」

 

分かるように説明して欲しいものだ。

……いつも、上手いことはぐらかされている気がする。

 

「……ん、これ」

 

「え?……これは?」

 

しずくから一つ。箱を手渡される。

 

「言わなくても、分かる……今日はバレンタイン。

女の子が渡すのは一つだけ……」

 

「いや……そうなんだが……良いのか?」

 

「士郎、いつも私を助けてくれた。

だから……その御礼」

 

少し恥ずかしそうに、しずくは箱を押し付けてくる。

 

「御礼って……大したことはしてないだろ?

あまり他人の家庭事情には首突っ込めないし……

それに、今だって────」

 

「別に、大丈夫」

 

「大丈夫って……」

 

「……此処で、士郎が話し相手になってくれるだけで楽しいから」

 

「んなっ!?」

 

はっきりとそう告げてくるしずくに顔を赤くしてしまう

 

「……照れてる?」

 

「照れてないッ!」

 

「じゃあ、受け取って……」

 

「……はぁ……分かったよ。ありがとう、しずく」

 

グイグイと押し付けてくる箱を観念して受け取る。

……普段は物静かなのに、

俺と話す時だけグイグイ来るよなぁ……しずくって。

 

「ん、……一応言っておく、義理じゃない」

 

「え、今なんて────?」

 

「それじゃ……」

 

「……俺の聞き間違いだよな?」

 

トテトテと、離れていくしずくを見つめながら

俺はそう思う。義理じゃないって言ってた気がするけど……聞き間違いだよな?

 

しばらく、うーむ……と唸る事になるのは仕方ないことだと思う。

 

────────

 

「うぉ!?士郎さん、なんすかこのチョコの量は!?」

 

銀が驚いた様子で俺の机の上に

どっさりとあるチョコの山を見つめてくる

 

「……全部貰ったやつだ、義理チョコ。

いつも助けてくれる御礼らしい」

 

「……にしては多くないか?」

 

「そりゃ同級生だけじゃなくて

下級生とかからも貰ってるしなぁ……」

 

「うひゃーそりゃまた……」

 

言葉に嘘偽りはない。

六年生の先輩や、四年生などの後輩からも貰ってしまったのは事実だ。

 

「問題はこれをどう処理するかってのもあるが……

お返しなんだよな……」

 

「お返しって……まさか全員分作る気か!?」

 

「……そのつもりなんだが?」

 

「いやいやいやいや!?流石に無理があるって!」

 

銀は全力で否定してくる。

……そこまで否定されると傷付くんだが。

 

「銀ちゃん、分からないよー?

衛宮君ならやってのけそうじゃない?」

 

「……いや、まあそりゃそうだけど……兎に角!

ダメなもんはダメだ!こんなに貰ってるのに、

お返しの分だけでどんだけ費用かけるつもりだよ!?

軽く野口英世は二枚ぐらい飛ぶぞ!?」

 

「……それを言われると痛いな」

 

1000円札が二枚飛ぶのは割と痛い。

……だけど、貰ったからには返したいしなぁ。

 

「兎に角だ!返すなよ!?良いな!?」

 

「なんでそこまで……理由があるのか?」

 

「うっ……いやそれはだな……」

 

「なんだよ?」

 

銀は言い淀む。

……言い淀むってことはやっぱりなにかあるよな。

そう疑い始めた時、横の席の同級生が口を開く。

 

「衛宮君、銀ちゃんはねー

衛宮君が沢山チョコを貰ってるのに嫉────」

 

「わあああああ!?わああああああ!!

言うなって馬鹿ー!?」

 

「し……?」

 

……その次に何かあるのだろうか。

銀も顔を真っ赤にしているが……

 

もしや風邪か!?

 

「うひゃう!?し、しししし士郎!?

なんでおでこくっつけるんだよ!?」

 

「……うん、平熱だな。

え?ああいや……顔が赤かったし熱があるのかなって……」

 

「ねぇよ!士郎の馬鹿!!」

 

「えぇ……?」

 

ふくれっ面になって、銀は自分の席に戻る。

……いったいなんだったんだ?

 

「衛宮君って、罪作りな男に将来なりそうだよねー」

 

「俺が?……いやいや、それこそ有り得ないって」

 

「そうかなー?絶対大人になったら、

プレイボーイだと思うなぁ、私」

 

「そんな言葉何処から覚えてくるんだよ。お前……」

 

「お兄ちゃんのベットの下からだけど?」

 

「聞きたくなかったよ……そんな他所様の家庭事情……」

 

将来絶対、コイツはからかい上手になると思った。

 

────────

 

「はーい、えみやん。私からのプレゼントだよ〜♪」

 

「……こりゃまた、随分と大きな」

 

他のチョコよりも二回り程

大きなラッピングされた箱を園子から手渡される。

 

「えへへー、手作りだよ〜

召使いさん達に危ないからやめなさい〜って言われたけど

無理言って作らせてもらったんだ〜♪」

 

「そりゃまた……召使いさん達の苦労が目に浮かぶな……」

 

「いっぱい作ったから、ちゃんと食べて明日、感想教えてね〜」

 

「ああ、わかった……って明日までに完食しろと!?」

 

「え〜、出来ないの〜!?」

 

「いやいや……それは流石に無理が……

ただでさえ沢山貰ってるのに……」

 

「……ダメ?」

 

「うぐっ……」

 

上目遣いで見てくるのは卑怯だと思った。

……くそ、普通に可愛いし、断り辛い!

 

「……分かりました、善処します」

 

「わぁ〜い、やった〜!」

 

……結局、俺が折れて渋々ではあるが了承するのだった。

食べ切れるかな……チョコ……。

 

「えみやん、私は本気だからね〜」

 

「え」

 

「じゃあね!SeeYou〜!」

 

……なんだか、外堀を少し埋められた気がしたのは

俺の気の所為だろうか。

 

────────

 

「衛宮くん、ちょっと良いですか?」

 

帰る準備をしていると、鷲尾が声を掛けてくる。

 

「鷲尾か、どうしたんだ?」

 

「……その……特に、用事があるわけじゃないのだけど

……これ!」

 

そう言って、鷲尾がラッピングされた箱を渡してくる

 

「……これは?」

 

「ひ、日頃の御礼です!

た、他意はないですよ!?ないですからね!?」

 

「お、おう……」

 

そこまで念を押されるとなんだか畏まってしまうんだが……。、

 

「えっと……ちょこというのを作ったのは今回が初めてなので……

口に合うか分からないのだけど……食べてくれると嬉しいわ」

 

恥ずかしそうにそう告げる鷲尾。

調理実習で上手いとは知ってたけど……チョコを作るのは初めてなのか。

意外だった。

 

「……ああ、ありがとう。鷲尾。家で食べさせてもらうよ」

 

「……!……はっ!?

コホン!……それじゃあ、衛宮君。また明日」

 

少し、鷲尾の顔が輝いた気がしたが気の所為だろう。

 

「ああ、また明日な。鷲尾」

 

「ええ。……義理じゃない事って……伝えるべきなのかしら?

 

「ん?なんか言ったか、鷲尾?」

 

「な、なんでもないわよっ!?」

 

「あ、おい!」

 

顔を赤くして、鷲尾は走り去っていく。

……鞄忘れてるけど、良いのか……鷲尾。

 

ちなみにその後、恥ずかしそうにしながら

鞄を取りに戻って来た鷲尾が居た事は……

本人の名誉の為に黙っておくことにした。

 

────────

 

「しかし……この山、本当にどうするべきか……」

 

自宅に持って帰ってきた大量のチョコを見て考え込む。

……ざっと見るだけで三十はあるんだよなぁ。

 

しかも……1個だけやたらと目立つぐらい大きいし……

言わずもがな、園子のである。

 

「とりあえず、冷蔵庫に入れておくか……

溶けたら申し訳ないし……」

 

ポリポリと頭を掻いてから

入りそうな分だけ、冷蔵庫に入れる事にした。

 

そして、チョコを入れている時に

インターホンが鳴る。

 

「はーい、今出ます!」

 

誰だろうか。と思いながら、玄関を開ける。

すると、そこには銀が居て────

 

ピシャンと、玄関を閉めた。

 

「はて……俺の幻覚だろうか……銀が居たような────?」

 

「ってなんで閉めるんだよ!?」

 

「わぁっ!?やっぱり幻覚じゃなかった!?」

 

勢いよく玄関を開けて不機嫌そうな表情で銀が怒鳴ってきた。

どうやら、幻覚ではなかったらしい。

 

 

「それで……何の用だ?」

 

「あ……えーっとだな……その……」

 

モジモジしながら、顔を赤くして言い淀む銀。

具合でも悪いのか……?

まさか……

 

「トイレか?」

 

「違うわいっ!士郎の馬鹿!」

 

「あ痛ッ!?」

 

思いっきり脳天にチョップをかまされた。

 

「痛っつぅ………」

 

おっし、言うぞ……渡すぞ……!

士郎!」

 

頭を摩っていると、銀が大声で名前を呼ぶ。

 

「いてて……なんだよ?」

 

「こ、これ!バレンタインのチョコ!私の手作り!!」

 

銀がそう言って、

チョコの入ったハート型のラッピングされた箱を手渡してくる。

 

「ぎ……ぎ……」

 

「ぎ?」

 

「義理だかんな!」

 

「お、おう?」

 

それは、わざわざ言う事だろうか……

 

「って、ああ違う!今のなし!ノーカンで!」

 

「いやノーカンって……」

 

「え、えっとだな……その上手く出来てるか分からないから

あんま期待はするなよ!

……あーその……じゃあな!」

 

「あ、おい!」

 

一目散に去っていく銀を見て、ポカンとしてしまう。

結局何が言いたかったんだろうか……

 

「……どうせここまで来たなら、上がって行けばよかったのに。

お茶とか淹れるつもりだったんだが……」

 

貰ったハート型の箱のラッピングを外し、蓋を開ける。

そこには、ハート型のチョコと一緒に赤い菊の花が添えられていて────

 

「言いたい事があるなら、言ってくれれば良いんだがな……」

 

乙女心とは難しい。

そう思いながら、ハート型のチョコを齧るが……

 

「うげえええ!?にっが!?

苦ッ!?なにこれ!?カカオ95%のやつ!?

銀のやつ……カカオの分量間違えて作ったな……」

 

とてつもないほどの苦さだった。

ほぼカカオなのでは。と思うほどに。

嫌がらせか。と思ってしまうほどに。

 

「うげえ……これ完食出来るかな……」

 

他のチョコより、これを食べきる事が出来るかが不安になった。

 

 

ちなみに全くの余談だが、後日。

銀にチョコの作り方を教えるハメになったのは言うまでもない。

 

こんな苦い思いは、今回だけで満足だよ……。




これを見て、本編が辛くなったなら……私の計画通り。

私の策にはまったな!愚か者め!(愉悦スマイル)


銀ちゃんは最初あまり料理とか出来なかったんじゃないかなって思ってる。
この小説では士郎に手取り足取り教えて貰って上手くなったって感じの妄想してます((


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IF√ 腐り果てた鉄の章
【鉄心1】遭遇、喪失【IF花結い】


めちゃくちゃお久しぶりです……

スランプに陥ってたり、小説の設定とかプロットとか書いてたスマホのデータが吹っ飛んだりで全然書けてませんでした…1年半ぶりですね……許して……

本編は全く書けてないのに、IFは書けるようになったってマジ?
……まあ、実際データ消えちゃったんですよね。本編の。書き直ししてます…
設定とかプロットも消えちゃったから一から練り直しだよ畜生!!


そんな訳で息抜きです。原作のゆゆゆいよりシリアスになるIFです。
さらにいえばこの小説内の現在のエミヤではないので要注意。


守れなかった。間に合わなかった。救えなかった。助けれなかった。

オレは救える者ではなかった。

 

『どうして■■■■が死ななくちゃダメだったの!

なんでっ!!なんでっ!!!そんな力があるのに……

どうして■■■■を救ってくれなかったのっ!!!!

こんなことなら……■■■■じゃなくて、お前が死ねば良かったのにっ!!

………ぁ』

 

『■■■■!言い過ぎよっ!!』

 

呪いだ。その言葉はアレを蝕むには充分だったのだろう。

そしてアレは、その言葉を聞いて。嗤っていたのだ。

 

誰に対して嘲笑ったのか。そんなもの自分以外にないだろう。

 

『クハ……ハハハハッ!ハハハハハハハハッ!!』

 

正義?それがなんだ、そんな理想で救えるはずなどない。

少なくとも、オレはそれを理解した。

 

あぁ……なら、いっそ……

 

『イイじゃないか……鏖殺しだ』

 

怪物は殺す。一つ残さず全て殺してやる。

オレは正義の味方ではない。オレは……■■■だ

 

───────

 

俺は………誰だったのか……何も思い出せない。

焼き付いているのは、剣が突き刺さる荒野と燃える世界。

 

何も無い。伽藍堂……あぁ……俺はいったい……何を目指していたのだろうか……?

 

───────

 

「ここは……あぁ…そうか、呼ばれたのか……俺は……」

 

何処ともわからぬ場所で佇みながら理解した。

……ナニカに呼ばれ、ナニカを成さねばならぬと。

 

「正解だよー、英霊さん?」

 

「誰だ……?お前は……?」

 

「んー、そうだねー……赤嶺。と名乗っておこうかなー?」

 

男の傍に赤を連想させる服を着込んだ褐色肌の少女が

くすくすと笑みを浮かべて立っていた。

 

「……なるほど、神に引っ張られてきたか」

 

「そうだねー…貴方を排除或いはこちらに引き込めって言われてね」

 

「……ほう、ならばオレを殺すか?」

 

拳銃を取り出して少女をギロリと男は睨みつける。

 

「よしてよー…私は貴方と戦う気なんて更々ないんだから」

 

「そうか…つまらん……」

 

手を挙げ無抵抗をアピールする少女に少し興味を失せ、銃を仕舞う。

……戦う気がないとはつまらんことだ。

 

「まあ……私は抑止力の守護者さんと戦う度胸はないしねー。

幾ら神様のお力をお借りできてても圧倒的に私の方が不利でしょ?」

 

「……勝てない戦いは挑まない主義か。まあいい。否定もせんしな」

 

戦いの経験の数において有利なのは圧倒的にこちらだ。

そういう点では確かに不利だろう。

 

「じゃあ……協力してくれるのかなー?英霊さん?」

 

「…ふん、構わんさ。どうやら共通の目的で召喚されたようだからな

……」

 

「ふふ…良かったー…♪それじゃあ、よろしくね。英霊さん?

……あ、名前はなんて呼んだらいいかなー?」

 

赤嶺と名乗った少女の言葉に、男は腕を組みどうすべきか考える。

……名前、か。既に俺を語るものなど残骸程度でしかない。……ならば、

 

「そうだな………

 

 

───────『無銘(むめい)』。そう呼んでおけ。赤嶺」

 

「……無銘さん……ねー……じゃあ、よろしくね。無銘さん?」

 

何処か悪どい笑みを浮かべて、黒い外套の男は名乗り。それに釣られるように赤嶺という少女も妖しげな笑みを浮かべたのだった。

 

───────

 

樹海と呼ばれる神が作り出した空間の中で

怪物と少女達が戦っている。

 

「コイツら!?前より連携取れてないか!?」

 

「……それだけではなさそうだっ……!的確にこちらの隙をついてくる……はぁっ!!」

 

刀を振るう金の髪に青き装束の少女は乃木若葉、隣に居る盾を構えた橙色の装束の少女は土居球子。

どちらも西暦を生きた勇者である。

 

「もしかして…これも赤嶺ちゃんの仕業かな……?」

 

「何にせよ……厄介極まりないわねっ!そこぉ!」

 

篭手をつけた、桃の髪に桃色の装束の少女、結城友奈に

二刀流で赤い装束を着込んだ三好夏凜が答えながら、怪物、バーテックスを切り裂く。

 

「やっほー、勇者のみなさーん♪」

 

そんな中、ことの元凶と言われていた赤嶺友奈が現れた。

 

「出たわね、赤嶺友奈!」

 

「今日は、なーんの御用なわけ?」

 

ここに居る勇者と呼ばれる少女達が警戒する理由は明白だった。

赤嶺友奈は、彼女達にとっては敵。それだけの話だった。

 

「そんな警戒しなくてもいいのにー。

……今日はもう一度ご挨拶。ああ、私の自己紹介じゃないよ?」

 

赤嶺はクスクスと笑いながら、そんな言葉を告げた。

 

「自己紹介だと……お前以外にもそちら側に降った者がいると?」

 

「正解とも言えるし不正解とも言えるかな?

……ただ、あの人は呼ばれただけ。命じられただけ。

彼は命じられた事は絶対行う人だからねー。まるでロボットでしょ?」

 

心底おかしそうに、赤嶺友奈は嘲笑う。

仲間であろう者の紹介を馬鹿らしそうに嗤っていた。

 

「彼?……男の人?」

 

「「っ………!?」」

 

誰かの呟きに、心当たりがあった二人の少女が身体を竦ませた。

 

「ふふ、せーかいだよ♪

そして……そっちの鷲尾須美ちゃん達にとーっても縁のある人。

誰か分かってるんじゃないかな?東郷美森さん、乃木園子さん?」

 

「…嘘。嘘よ……彼は……どんな事があっても、造反神側につくなんて……」

 

「と、東郷さん?」

 

親友である東郷美森のおかしくなった様子に結城友奈は困惑する。

何度かこんな様子を見た事はあった。だが、今回のは今まででも一番様子がおかしい。と結城友奈は理解出来た。

 

「なにが、言いたいのかな。赤嶺ゆーゆっ!」

 

「あはっ、そんな怖い顔しない方がいいよー?大っきい方の乃木園子さん?

ちっちゃい方の貴女が困惑しちゃうじゃない?

あ、怖い顔しちゃうのも当然だよね。だって、貴女が彼を壊しちゃったんだから?」

 

「っ!お前……!」

 

中学生の乃木園子は、赤嶺友奈は射殺さんとばかりに睨み付けた。

 

「おお、怖い怖い……じゃ、改めて。来てもいいよ?名もなき英霊さん?」

 

「……ふん、随分と長話していたじゃあないか。赤嶺」

 

赤嶺友奈の言葉を合図に、黒い外套を着込んだ少年が現れた。

 

「ごめんねー?この前こてんぱんにされちゃったから

ちょーっと私怨が出ちゃった♪」

 

おかしそうにけらけらと赤嶺友奈は嗤う。

 

「そうか、別に構わんが……時間の無駄だろう」

 

少年はただ当然のように無駄だと言い切る。

彼にとってはそうでしかないから。会話など不要なのだ。

敵に話し合いなど意味は無いと宿る霊基が告げている。

 

「ぁ……うそ……そんな……どうして……っ……?」

 

「っ…………!!」

 

「……ふむ、どうやら其方の勇者の中にはオレを知っている輩がいるようだな。

ならば、自己紹介など不要か。

オレよりも其方の勇者の方が(・・・・・・・・・・・・・)オレに関しては詳しいだろう(・・・・・・・・・・・・・・)

 

事実を当然のように告げる。彼には記憶はない。

故に、自分を知る者が居るならそちら側の方が自分より自分の事は詳しいのだから。

 

「いやいや、そこは答えてあげなよー……そっちの方が面白いし?」

 

「オレは貴様の愉悦対象ではないのだがな。まあいい、ならば自己紹介はしておくとしよう。

……とはいえ、オレを語るものは既にない。いや、とうの昔に無くなったというべきか。ふむ……まあ、無銘とでも呼べばいいだろう」

 

複雑そうに、それでいてどうでも良さそうに。他人事のように、彼は己の名を告げた。いや、既に名ですらない。記憶のない彼に名などないのだから。

 

「………っ、そん……な……」

 

「……ぁ…………」

 

「東郷さんっ!?」

 

「園子っ!?どうしたっ!?」

 

その言葉だけで、二人の勇者が戦意喪失するには充分だった。

当然だ。彼をそこまで堕としたのは、腐り果てさせたのは……他でもないその二人なのだから

 

「……赤嶺。オレは間違えた発言でもしたか?」

 

「してないよー?あの二人が崩れ落ちたのは自業自得。

……錬鉄の英雄を腐り果てさせた原因なんだし」

 

「そうか。オレはアレを全く知らんが(・・・・・・)……

目の前で崩れ落ちると罪悪感を多少なり感じてしまうな」

 

「っ…………」

 

「………ぁ……」

 

少年の発言は蕣の少女と睡蓮、或いは蓮の少女にはトドメとも言えるものだった。

 

「ちょっとあんた!!園子と東郷の友人なんでしょ!?

友人ならもうちょっと声を掛けてやりなさいよ!」

 

「何の事だ?オレは園子と東郷という名に覚えがないが?」

 

「んなっ……アンタねっ!!」

 

「にぼっしーっ!いいの……ごめんね、大丈夫だから…」

 

「園子……っ」

 

「ほぅ、随分と勇ましいな……」

 

乃木園子の無理をして作った笑みを見て

三好夏凜は顔を辛そうに歪ませて、直後に無銘を睨みつける。

その様子を嘲笑うように無銘は見つめていた。

 

「もしかして〜……未来のえみやんなの?」

 

一触即発の空気。そんな中、発言したのは青薔薇の少女、小さい方の乃木園子だった。

 

「えみやん……それが誰かは知らんが、オレを語っていたモノに似ているな」

 

「あれれ〜、人違い?」

 

少し思考したあと、発言する無銘にぽかんとして首を傾げる。

彼女の予想は当たっている。が、その答えを知る二人は答える事はない。

当然、本人も記憶がないのだから知る由もない。

 

「いや、園子さん。流石にあんな不良というかボブっぽいのが士郎とは思いたくないぞ……」

 

「確かに…外国の人間のような容姿をしてないもの、士郎くんは

……東郷さんと園子さんが知っているという事は私達の知人って事なんでしょうけど……少なくともアレは士郎くんじゃないと思うわ」

 

園子の友人である菊の少女、過去の東郷美森……鷲尾須美と

牡丹の少女、三ノ輪銀は否定する。

 

当然だ。あのお人好しの塊である友人がこんなはずが無い。

それでいて、顔に亀裂が入ったような歪に見える容姿もしていないはずなのだから。

 

「こほん。まあ、そんな訳で今日は本当に改めての挨拶だからね。

これでさよならさせてもらうよー?」

 

「逃がすと思っているのか……!」

 

赤嶺友奈が去ろうとし、それを乃木若葉が追い掛けようとするが────

 

「……ふん」

 

「なっ……!?」

 

それを無銘が黒い銃剣から彼女の頭に目掛けて弾丸を放つ事で阻止をする。

精霊バリアにより当たる事はなかった若葉だったが……それ以上に目の前の男に恐怖した。

 

なんの躊躇もなく、銃を撃った事。そして頭部を狙っていた事。

もし精霊バリアがなければ、今この時空にいなければ……?

 

そう、乃木若葉は今の一発で死んでいた。故に、若葉は冷や汗を流した。

それと同時に理解もした。

この男は赤嶺と違う。本気で殺す……いつでも自分達を殺せるのだ。と

 

「存外、精霊とは厄介なもののようだな……」

 

「うっわ、えげつないねー……

精霊バリアなかったら今ので死んでたよ。大英雄様……」

 

面倒くさそうに顔を顰める無銘と

相方の無慈悲さに苦笑いしつつもそれでこそだと微笑む赤嶺。

 

「というわけだ。此処は撤退させてもらおう。無論、邪魔をするのであれば……

何発でも撃ち込むだけだがな」

 

そう言うと、無銘はどこからともなく何かを取り出し、その物体の栓を抜く。

 

閃光手榴弾(スタングレネード)っ!?目を閉じて耳を塞ぎなさいっ!」

 

その物体の事をゲームで知っていた(こおり) 千景(ちかげ)は大声で伝わるように叫ぶ。

 

「えっ……きゃああああああっ!?!?」

 

耳を劈くような轟音と、強い光に視界を奪われる勇者達。

視界が戻る頃には……

 

「……っ、逃げられたわね」

 

「無銘……か、恐ろしいヤツだな……」

 

既に造反神側の勇者の姿は、跡形もなかった。

そして、同時に無銘という男が驚異的だという事が神樹側の勇者達に刻まれるのだった。

 

「…どうして……どうし、て………」

 

「…………っ……私は……」

 

「東郷さん……そのちゃん……」

 

だが、何よりも……神樹側の最高戦力と言える中学生の乃木園子。

そして、カガミブネを使う東郷美森の心が既に折れかかっていることが

……当分の間の問題になるのだろう。幾ら強くとも、まだ子供である少女に叩き付けられた現実は、大き過ぎたのだ。

 

それは、世界の真実と同じ程に───────




無銘

名のなき英雄。言うなれば腐り果てた鉄。
彼はただの少年であり正義の味方に成り果てるはずだった者。

だが、紅い牡丹を救えず間に合わなかったが故に、心が鉄になり徐々に腐っていった。
英霊にも勇者にもなれない、ただの機械となった掃除屋。

必要とあれば悪を為すだろう。


本編との分岐点はわすゆ編11話。間に合うか間に合わなかったか。
それだけである。(本家風の条件なら、三人のうちの誰かの好感度が足りなかった。)


IFルートは初っ端からそのっちと東郷さんの心を叩き折っていくスタイル。


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【鉄心1.5】赤嶺友奈は憧れていた【IF HBD】

赤嶺ちゃんハピバ話。
1日遅れになったけどね!!ごめんね!!

いやー、友奈の中でもエミヤっぽいこの子のお話は書くしかないでしょってことで。
書きましたよ。はい。

まだ蓮華ちゃん達の口調とか性格はほぼ不明なんで名前だけ出しです。

急いだから駄文かもしれないけど許してね(


夢を見ていた。遠い日の夢。

私が、勇者として戦っていた頃の夢を。

 

───────

 

「……ああ、起きたのかね。ユウナ」

 

「あれ……もしかして私寝ちゃってた?アーチャーさん」

 

焚き火の前で座り込んだ紅い外套の男性が視界に映った。

私のような褐色の肌に、紅い色の装束。……私達と一緒に戦っている人だ。

 

「それはもうぐっすりとな。……レンゲ達が疲れているから休ませようと言ってな」

 

「起こしてくれて良かったのに……」

 

全く、気遣いするぐらいならレンゲ達も休めばいいと言うのに。と呆れた様子で彼は火の調子を見ていた。こんな御時世で休むもどうもないと思うんだけどね

 

「私も概ね彼女達と同意見だったのでな。君達は勇者であれど生身の人間だ。

無理を強いれば、身体に異常が生じる。私のような亡霊と違ってな

……それに、年端もいかない可愛い少女に無理をさせるのは個人的に好かん」

 

「そういうとこだよ、アーチャー」

 

さり気なく口から出る誑し発言に思わずジト目になってしまう。

これをお世辞じゃなくて、真面目に言ってしまっているあたりこの人はタチが悪い。

 

「まて、今さり気なく私を罵倒しなかったか、ユウナ」

 

「だって、本当にそういう所だし」

 

「……何故だ」

 

解せん。と顔を顰めるアーチャー。

……不思議とこの人と居ると、緊張感が抜けていく。心の底……或いは魂か。

そんな奥深くからリラックスできるのだ。まるで、私が産まれる前に共に居たことがあるように

 

「……ねえ、アーチャー。どうして私達に手を貸したの?」

 

「唐突だな。ユウナ。どうした?」

 

「ごめん。ちょっと気になっちゃって」

 

意外そうに此方を見つめるアーチャー。

確かに私からこういう事に触れるのは初めてだったかもしれない。

 

「……そうだな……君にも教えた通り。私は元より神樹側だ。

嘗ての勇者に召喚され共に戦った。そしてその後は神樹と契約する形でこの地の守護者になった。ここまでは理解しているだろう?」

 

「うん、そして私達のサーヴァント?として召喚される形になってるんだよね」

 

それぞれ一人に一角ずつ与えられた片手に浮かぶ紅い紋様。

アーチャー曰く英霊を使役する為に必要な令呪というものらしい。

それを見つめながら答える。

 

「その通りだ。今回はよく分からない召喚法だったがね。

……三人に同時に使役されるとは予想できなかったな。私も」

 

やれやれ。と呆れたように肩を竦ませて苦笑いをする。

……ってちょっと待って。

 

「それ結局答えじゃないよね!?」

 

「む、バレたか。誤魔化したつもりだったのだが……」

 

「そういう所だって言ってるでしょー!!

それに、召喚した所で……私達を殺す事だって出来たし。従わないって選択もあったよね?」

 

「確かにその通りだが……言っただろう?私はいたいけな少女に無理をさせるのは好かんと。女性に刃を向けるのは言語道断だとも。

……まあ、相手にもよるがね」

 

あの尼僧擬きめ。と珍しく悪態をつくアーチャーにちょっと驚く。

女難の相は出てるってよく言われてたけど……あのアーチャーが嫌な顔をする女性って一体どんな人だったんだろうか………

 

──────ふふふ、ソワカソワカ……♪

 

「!?!?」

 

「どうした。ユウナ。急に辺りを見回して」

 

「いや……なんだろう……18禁な寒気が……」

 

「何を言っているんだ君は……」

 

「だってそうとしか言い様がないもんっ!?」

 

訝しげな目で見られたが本当にそうとしか言い様がない寒気がしたのだ。

あれ絶対気付いちゃいけないやつだ。うん、スルーしよう!

 

「って、話が脱線してるよ!教えてよ!ホントの理由!!」

 

「君が脱線させたのだろう……全く……私とて無益な殺傷は好まん。

……ただ。君達がその役目を負うより、私の方が適任だと判断した。

なに、気にする事はない。あの手の宗教団体の排除は経験済みだからな」

 

ニヒルに笑みを浮かべるこの人に、チクリと胸が痛くなった。

……やっぱりこの人は自分を勘定に入れていないんだ。

 

「それに、君はどちらにせよ生かさねばならない理由がある」

 

「?、なにか言った?」

 

「いや、独り言だ。気にする必要はない。

あとは個人的な感情だ。……オレは正義の……いや、なんでもない」

 

「えー、そこで切られたら気になるんだけどっ!?」

 

「はは、そこは察せというやつだ。ユウナ

どんな形であれ。私は君達に召喚されたサーヴァントだ。

君達を助けるさ。安心しろ。マスター。私はどんな時でも君達の味方だとも」

 

穏やかな笑みを浮かべるアーチャーに気が緩んでしまう。

……全く。この人は本当にどうしようもないんだから。

 

 

───────体は剣で出来ている

 

それは私だって同じだ。

 

───────血潮は鉄で、心は硝子

 

貴方は決して間違ってない。

 

───────幾たびの戦場を越えて不敗

 

貴方は本当の正義の味方だった。ってそう思っている。

 

───────ただの一度も敗走はなく。ただの一度も理解されない

 

悲しい夢だと思った。それと同時に素敵な理想だと思った。

 

───────彼の者は常に独り、剣の丘で勝利に酔う

 

ああ、そうだ。私はこのどうしようもない正義の味方(バカな人)

 

───────故に、その生涯に意味はなく

 

私はどうしようもなく、その背中に

 

───────その身体は、きっと剣で出来ていた。

 

憧れてしまっていたんだと思う。

 

 

──────────────

 

「……あれ、寝てた」

 

「……随分と長い休憩だったようだな。赤嶺」

 

目が覚めた時、そこに居たのはあの人に似ている誰かだった。

……いや、正確にはあの人であってあの人ではないのだろう。

 

「何故オレの顔を見つめる?」

 

無銘。と名乗る彼は怪訝そうな顔でこちらを見る。

相も変わらず、無愛想な人だと思う。

 

「なんでもないよー?無銘くん」

 

「そうか。まあいい」

 

「……相変わらずノリが悪いねー」

 

「生憎だが。オレにそういうのを求めるのはお門違いだぞ。赤嶺」

 

呆れたように肩を竦められた。……何故か解せない。

 

「……ふむ、そういえば。忘れていたな。

いつものようにそのまま忘れてしまったままになるところだった」

 

「え、なんのこと?」

 

彼はどこからともなく、リボンで留められた小包を取り出す。

いったいどこから取り出したのかというのは触れない方がいいかもしれない。

 

「……赤嶺。今日はお前の誕生日だろう?これはその品だ」

 

「ヴェ!?」

 

「なんだその声は。オレがそれ程までに薄情者に見えたか?」

 

「え、いや……というかなんで私の誕生日知ってるの……?」

 

そう。知ってるはずがない。あの人ならともかく

彼が知っているはずはないのに……

 

「……さて、何故だろうな。オレもよく分かっていないが

何故かふとな。気にする事はないだろう。たまたまオレのふと思い出したような事が合っていたというだけなのだからな」

 

顔を心底不思議そうに顰めてなんとも言えないような表情を浮かべる。

記憶になくとも覚えていたのか。何にせよ、嬉しかった。

あの頃のアーチャーと話しているようで。懐かしかった。

 

「……ここで開けても構わんぞ?」

 

「ううん、自室に持って帰って開けるよ。ありがとう。無銘くん」

 

「礼は要らん。士気向上や、これからの協力関係上必要だと判断しただけだからな」

 

彼はそういうと、姿を消した。お得意の霊体化だろうか。

 

「……ありがとう。アーチャー。ううん、エミヤさん」

 

改めて、私は覚悟を決めた。

……なんとしても、彼を元に……戻す事を。

英霊エミヤはこの先の未来で必要だから。

 

……だから私は、彼の為に、勇者達のために。悪を演じよう。

それが、私のお役目なのだから───────




赤嶺友奈√が解放されました((
(条件 鉄心√かつ、無銘が赤嶺友奈の誕生日を思い出すこと)

エミヤ
お馴染みあの英霊。ただし召喚方法とか色々違うらしい。

無銘
何故か赤嶺友奈の誕生日を知っていた。というか思い出した。
知らない筈なのに何故だろう。まあいいか。と自分に対して詮索すらしていない。

赤嶺ゆーゆ
エミヤに憧れた子。
無銘も彼だと知っている為になんとかして戻そうとする決意を固めた。
悪を演じることと言いその先は地獄だぞルートである。
頑張れ赤嶺ちゃん。もしかしたら無銘を救えるかもしれないぞ(


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鷲尾須美の章
プロローグ


活動報告で書いたエミヤの方
勇者の章がPVの時点で不穏なので書いたやっつけです。
駄文多めなんで、誰かこれを元に作り直して下さい、何でもしますから!
とりあえず鷲尾須美編は完結目指します(目指せるとは言ってない)


夢を見た────

 

男の夢を見た────

 

正義の味方に憧れた、男の夢を見た────

 

そして、その夢の結末はいつも────

 

────────

 

 

「ッ────!?」

 

思わず飛び起きた。

嫌な汗が大量に出ていた。

 

「衛宮くん、大丈夫ですか?」

 

ふと、横を見ると隣の席の……知人?友人?である

鷲尾(わしお) 須美(すみ)が心配そうにこちらを見つめていた。

 

「ああ……いや、大丈夫だ……気にするな」

 

「その割には顔色悪いわよ?」

 

「ハハハ……少し嫌な夢を見ただけだよ……悪夢ってやつかな」

 

鷲尾の言葉に苦笑する。

最近よく見る夢で、

俺が……いや、これは思い浮かべない方が良いのかもしれない。

 

「……まあ、良いです。でも、体調管理は怠らないようにね」

 

「ハハハ……肝に銘じさせてもらうよ。鷲尾」

 

まだ、疑いの目を向けてくる鷲尾に

少し目を逸らして、苦笑いする。

まぁ、悪夢なんて言ってすぐ信じたりしないよなぁ……

いや、俺の知る中じゃ1人ぐらい信じそうな奴が居るけれども。

 

その該当者になる

少し、遠くに居るお気に入りの猫(?)の枕(サンチョという名前らしい)を机に置き

その上に頭を乗せ涎を垂らしながら

グッスリと眠っている少女、乃木(のぎ) 園子(そのこ)

視線をやるのだった。

 

って……

 

「俺も人の事言えないけど……園子も寝てるのかよ……」

 

思わず、呆れてしまった。

相変わらずというかなんというか……

あんな呑気な天然お嬢様であるが

あれでも天才児なのだから凄いものだ。

 

ちょっとぐらい授業を居眠りしても

問題を解けるのだから本気で凄い。

少しだけ俺にもその知識を分けて欲しい程だ。

 

「……これで大丈夫なのかしら」

 

「ん?鷲尾、なんか言ったか?」

 

ふと、小さな声で鷲尾が呟く。

が、聞こえなかったので思わず聞き返した。

 

「な、なんでもないわ!衛宮くん!」

 

「??……まあ、別になんでもないなら良いけどさ」

 

慌てた様子で答えてくる鷲尾に

少し首を傾げてしまうが、これ以上はまずいだろうと判断して

大人しく引き下がる事にした。

 

「おはようございます」

 

その直後、この神樹館小学校六年一組の

担任である、安芸ねえ……じゃなかった。

安芸(あき)先生が教室に入ってくる。

 

この様子だと……銀のやつ……今日も遅刻か。

いや……アイツのトラブル体質とか知ってると仕方ないと思えてしまうが……

 

「はざーっす!間に合った!!」

 

と、噂をしているとその噂の当人、三ノ輪(みのわ) (ぎん)が扉開けてやってきた。

 

「三ノ輪さん、間に合ってません」

 

「イテ……すいません……」

 

安芸先生が呆れた様子で銀の頭を軽くポスンと出席簿で叩き、

クラスからドッと笑いが起きるのだった。

 

……うん、今日も相変わらずで何よりだ。

 

「……衛宮くん、なんだか遠い目してるわよ?」

 

「……気にしないでくれ、鷲尾」

 

うん、今銀が「教科書忘れた!」

とか言ってて、お前何の為に学校に来たんだよ。

とか思ってないからね。決して思ってないからな。

何度目だよお前。とかも思ってないからな。

 

「衛宮くん……」

 

「言うな鷲尾、俺も辛い」

 

「うん、何も言わないでおくわね……」

 

鷲尾は俺の様子をなんとなく察したのか

何か言いたそうに同情の目を向けてくるも

引き下がってくれるのだった。

 

うん、今はその優しさが凄く嬉しい。

ありがとう鷲尾。

 

結婚しy……ゲフンゲフン。なんでもない。

 

 

 

これが、今の俺の日常だ。

だけど……この日常がすぐに無くなるだなんて

この時は思いもしなかった────




PV不穏過ぎるんだよなぁ……
キービジュアルも不穏……不穏過ぎない?

誰か勇者の皆を助けてくれよなー頼むよー



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第1話 覚醒の鼓動

今回割と無理矢理なのでガバガバかもしれない。

お兄さん許して!何でもしますから!


はは、なんの冗談だ────

 

あの時、俺は正直にそう思った。

 

人が戦うには余りにも強大過ぎる敵。

そんな奴等とたった三人の少女が……

俺の知人が戦っていたのだから。

 

────思えば、あの時だった。

俺が、■■■■■の力を手にしたのは。

 

そして、この時からだった。

■■が無くなっていったのは。

 

そして、この時はまだ……自分の使っている力の■■が

■■を■うという事に気付きもしなかった────

 

 

────────────

 

 

なんだかんだ、ありはしたものの

昼休みも終わろうとしていた。

 

「にしても、衛宮は羨ましいよ」

 

「どうしたんだよ、急に?」

 

ふと、一緒にぼーっとしていた友人がボヤいた。

 

「いやだって、あの我が校で憧れの的である

鷲尾さんと隣の席ってだけでも羨ましいのに

乃木さんや三ノ輪さんとも知り合いときた。

こりゃもう呪うしかないなって」

 

「物騒だなおい!?それは俺に言わず大赦の人達に言えよ!?」

 

物騒な事を言い出す友人に思わず口元を引き攣らせた。

好きでこうなったわけではない。

親が大赦で共働きである俺の家系。そこそこ位も高いらしい。

ただ、忙しいらしく殆ど家に帰ってきたことはない。

おかげで、広い和風の屋敷を持て余している程だ。

 

なのでお屋敷は親戚に当たる安芸先生……

俺は安芸ねえと昔から呼んでいた、

彼女とほぼ2人暮らしという現状である。

 

そして、安芸ねえが……たしか現在の勇者?を見守る役目らしい。

ただ、教師という立場上。目を離す機会が多い為

俺が見ておいてくれ。と頼まれた結果、こんな事になったのである。

 

好きでなったわけじゃないんだ。本当に。

いや、そりゃ役得だけども。

 

まあ、俺が彼女達と知り合いなのは

ある意味お役目のお陰なのである。

 

それでも銀とは結構昔から仲が良かったりするが。

 

 

 

そんな風に何気なく過去を振り返っていたら

 

ふと、風が止み、音が消えた────

 

「…………え?

────止まってる?」

 

周囲を見渡すと、自分以外の生徒が動いていなかった。

まるで、時が止まったように────

 

いや、違う。実際に時が止まっている。

なんとなくだが、そう感じた。

 

「どうなってるんだ……これ……」

 

困惑していた俺の耳に鈴の音が入ってきた。

 

「鈴……?どこから……」

 

その直後、俺の視界を光が、花びらが、遮った────

 

「────ッ!」

 

そして、目を開けた時、俺の視界には

 

「は────?」

 

色とりどりの樹木の根があった────

 

「な、なんでさ────!?

 

俺がこう叫んでしまったのは多分間違いじゃない。

うん、間違いじゃないと信じたいなぁ……。

 

────

 

 

とりあえず、状況整理だ。

時が止まって、鈴の音が聞こえて、光が視界を遮ったら

目の前は辺り一面カラフルな木の根っこ

 

うん、訳分かんねぇ。

そんでもって大橋だけが残ってるのは此処から見て分かった。

なんで数km離れた場所にある大橋が見えるのかは……

もう突っ込まない方が良いかこれ。

 

建物なんもねぇし。

と、大橋の方を見つめると

何やら巨大な異形が迫ってきているのが見えた。

 

「水が上に行ってる……なんだよあれ……」

 

間違いなく、触れてはならないものだ。

人の手には余る怪物だと理解した。

 

だが、そこに……赤と青と紫のナニカが怪物のもとに跳んでいった。

 

いや、ナニカじゃない。あれは見覚えのある顔だった。

人であの顔は……

 

「まさか────」

 

嫌な予感がした。

どうか間違いであってくれと────

 

「どうして、アイツらが……!?」

 

────

 

士郎が駆け付けてくる一方で

鷲尾須美、乃木園子、三ノ輪銀の三人が

巨大な異形、世界を殺す存在、バーテックスと戦っていた。

 

「水のせいで……矢が思ったように……!!」

 

いや、正確に言うのであれば苦戦していた。

 

「あぁもう!決定打が全然ない!!どうする鷲尾さん!」

 

「いきなり私に言われても────!?」

 

銀の言葉に焦る様子の須美。

その時、ふと……信じられないモノを見た。

 

「どうして……どうして、衛宮くんが居るの!?」

 

なぜなら、そこには本来居ない、

いや居てはいけない筈の人間が居たのだから。

 

「嘘だろ……!?」

 

「なんでえみやんが此処に〜!?」

 

「やっぱり……見間違いじゃなかった……どうして……」

 

四人がそれぞれの反応を見せる。

一人は有り得ないモノを見たように

一人は嘘であって欲しいと願うように────

 

「悪い、鷲尾さん!」

 

「あ……三ノ輪さん!?」

 

銀が須美達を置いて、士郎のもとに走っていく。

 

「士郎!なんでお前が此処に居るんだよ!?」

 

「銀!?……アレはなんなんだよ!?

お前らのそれはなんなんだ!?」

 

「あーもう!一々説明できるか!

とにかく!士郎は何処か隠れてろ!!」

 

銀のその言葉は、自分にとって一番聞きたくない言葉だった。

 

「それは嫌だ!」

 

「なんでだよ!?」

 

「女の子に戦わせて、

黙って見てるなんてできるか!」

 

「あー、なんでこんな時に、士郎は頑固者なんだよ!!」

 

そんな風に怒鳴られるが、俺は嫌だった。

此処で引いたら、後悔してしまうと思ったから。

 

その時、銀の後ろに水の塊が接近している事に気付いた。

 

「ミノさん!後ろ!!」

 

「しまっ……!?」

 

園子の言葉に銀は後ろを向くが間に合わない。

……だったら、俺がどうするべきかなんて分かりきっている。

 

「銀────!」

 

「士郎、何を────ッ!?」

 

銀を俺は突き飛ばす。

目の前には既に水塊が迫っていた。

 

あぁ────俺は此処で死ぬのか────

 

そうなんとなくだが理解できた。

 

死の間際は焦る、冷静、虚無。などといろんな説があるが

どうやら俺は……冷静なタイプらしい。

 

はは────

まあ、助けて死ねるなら……まだ良いのかな────

 

────それで良いのか?

 

ふと、声が聞こえた気がした。

 

……それで良いのかって?

仕方ないじゃないか、だってもうどうしようもないんだから────

 

────本当にそうか?

 

あぁ、だって此処からどうやって生き残れる?

そんな事、不可能じゃないか────

 

────答えは既にあるだろう?

 

答え?そんなもの俺には────

 

────本当は理解しているだろう、自分が成すべき事など

 

成すべき事……

その時、俺は意図せず、一つの言葉を口にした。

 

同調(トレース)開始(オン)────」

 

その時、静電気のような痛みが全身に走り

嘔吐感と異物を無理矢理起こしたような感覚があった。

だが、それでも思考は冷静(クリア)そのものだった。

 

……水塊が遅く動いてるように見えた。

 

────なら、どうする?

 

 

「今、俺は何を────」

 

水塊を避ける為に

後ろに跳んだ感覚だけは残っていた。

樹の根を蹴って、後ろに跳んだのだけは理解出来た。

 

だが────

 

「……どうやってこんなに後ろに跳んだんだ、俺」

 

「衛宮くん……?」

 

常人じゃ考えられない程跳んでいたのだ。具体的には10m程。

 

前を見ると、再び水の塊が接近してきていた。

 

どうする────避けているだけじゃ────

 

その時、紅い外套が見えた気がした。

 

「え?」

 

荒野に立ち尽くす、

紅い外套を纏った白髪の男の背中が目の前に見えた。

そうだ────この男の背中を知っている────

 

この男の結末も知っている────

 

この男の在り方も、総て知っている────

 

そうだ、この男は────

 

「えみやん!」

 

「ッ────!」

 

園子の言葉でさっき見えたモノが全て消え、先程の景色に戻る。

 

しまった、幻覚に気を取られ過ぎたか────!?

 

再び水塊が目の前に迫ってきていた。

 

ッ……避けてばかりじゃキリがない。どうする。

 

────対抗の手段は既にある。

 

あぁ、そうか……なら……やるしかない────

 

投影(トレース)開始(オン)────」

 

自分のその言葉に合わせて、

脳内で無数の剣が現れ、一つの夫婦剣に至った。

 

「ハァッ────!!」

 

そして、俺は……水塊を斬り裂いていた。

 

「士郎……それ……?」

 

「衛宮くん……」

 

「ふぉおお……えみやんカッコイイ!」

 

「え────?」

 

手元を見ると、白と黒の夫婦剣を俺は両手に握り締めていた。

 

「これは……干将(かんしょう)莫耶(ばくや)……?」

 

太極図の模様が刻まれた二本の剣の名が頭に過ぎった。

 

「ガッ────!?」

 

その剣を握っていた白髪の男……その風景が目に映ると同時に

何かが砕け、崩れる音が聞こえた────

 

「────今のは」

 

「士郎!」

 

「銀か……」

 

「なんだよそれ!!そんなの有るなら最初っから言えよー!

士郎が死んじゃうかと思ったんだぞ!?」

 

何処か拗ねたように、叫ぶ銀に苦笑してしまう。

 

 

「すまないな、銀。

いや、まぁ……オレ自身、

こんな力があったとは思わなかったんだが……

それに、さっきの────」

 

「えみやん、かっこよかったよー!!」

 

「うぉ!?……いきなり抱き着くのはやめろと

言わなかったか、園子?」

 

急に抱き着いてきた園子の頭を撫でる。

撫でられてか、顔がニヤける園子。

ふむ、このなんとも言えない背徳感はなんだろうか。

────なるほど、これが保護欲か。

 

「えへへ〜」

 

「ふむ、聞いてないなこれは」

 

「撫でてるからだと思うぞー」

 

呆れたようなジト目でこちらを見つめてくる銀。

そうか、オレのせいか……オレのせいなのか?

なんだか昔からこんな感じだったような気が……

 

「って、そんな事してる場合じゃなああああああい!!」

 

「わわわっ!?」

 

「うわ!?」

 

「おおう!?」

 

鷲尾の叫び声に全員が正気に戻る。

ビックリした……。

 

「全く、三人とも……まだ敵は────!」

 

そういえばそうだった……すっかり抜けていた。

 

「……で、どうするべきだ。これ」

 

「どうって……どうする?」

 

「うーん、総攻撃ぃ?」

 

「無茶ぶりも良いとこね……」

 

……良い意見なしか。

いや、待てよ……?

 

「総攻撃……意外と良い案かもしれん」

 

「え!?」

 

オレの言葉に驚いたように鷲尾が視線をこちらにやる。

 

「……その、言っちゃ悪いかもしれんが

……まだ三人は連携をやった事がないんだろ?」

 

「あー……たしかに、まだしてないんだよなぁ……」

 

銀が困ったように苦笑する。

やっぱりか……ちょっと見た感じだったが……

まだ互いの状況把握が上手いようには思えなかった。

 

「つまり、互いの力量がまだ把握できてないわけだ。

……そんな状況で作戦を練っても上手く行く可能性は低い」

 

「なるほど、たしかに言われてみればそうね……」

 

鷲尾はオレの意見に一理あると思ったのか頷く。

……やっぱり理解が早いのは鷲尾か。

 

「だったらいっその事、

攻撃の手を休めずにダメージを与え続けるべきだろう」

 

「おー、猛攻撃だね!」

 

「そういう事だ。

それだけやれば、相手は撤退を余儀なくされるというものさ

さて、オレの意見に乗ってくれるか?」

 

ニヤリと笑ったオレを見て

三人はコクリと頷くのだった────




次回、本格的戦闘

だけど戦闘描写上手く書ける気がしない……


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第2話 グラジオラス

勇者の章 1話から既に不穏過ぎる……アカンて……アカンて(白目)

英霊墓標にはのわゆ登場勇者の他にも
ゆゆゆいで初登場だった棗ちゃんの名前や、まだ未登場の人物の名前も……
やべぇよ……やべぇよ……


ビックリしたといえば、ビックリした。

彼が此処に居るなんて思いもしなかったから。

 

だけど、彼が■を■り■した時……なんだか安堵した。

彼もきっとこちら側に居てくれるのだろう。と

不謹慎だがそれだけで安心してしまった私は

だいぶ彼に絆されいるんだな。って思う

 

だからこそ、細かな異変に気付けなかったのかもしれない。

ずっと知っていると思っていた。

誰よりも理解してると思っていた。

だからこそ……油断していて気付けなかった。

 

あの時、気付けていたら……

彼は、■■を■いながら

私達と一緒に戦うという選択をさせずに済んだのだから……

 

気付いた時は……既に遅すぎた。

 

もう私にはきっと……

彼に親しく話し掛ける事も、名前を呼ぶ事も許されない。

それほど……大きな罪を、

私は……私達は犯してしまったんだから────

 

勇者御記 298.■.■■

 

────────

 

「さてと、じゃあ仕掛けるとするか?」

 

三人が作戦に乗ってくれたところで

タイミングを計らうように、オレが言う。

が、銀が何か言いたそうにこちらを見て……

 

「その前に、士郎……ソレどうする気だ?」

 

ビシッと銀が指を指した場所を見る。

指した場所にはオレ。

位置的には……

 

「あ────」

 

ここで気付いた。

そうだ、オレ……制服のままだ。

 

盲点だった……たしかにこれが破れたりするのは非常にまずい。

銀が言いたそうにしていた理由は分かったし。

なんとなくどういう意図で言い難かったのか理解した。

 

そりゃ異性に対して服の事言うのは恥ずかしいよなぁ。

 

「たしかに、服の事は盲点だった。

……少し待ってろ」

 

干将・莫耶を地面に突き刺し

オレの脳内を詮索する。

 

────耐久性に優れ且つ動きやすい服

 

あっさりと、ソレは見つかった。

黒い服と黒いズボン……そして、紅い外套────

 

ああ、あの男が愛用していたモノだ。

これなら耐久性も大丈夫だし……動きやすい。

 

投影(トレース)開始(オン)────」

 

オレの言葉と同時に、制服が上書きされるように

袖なしのアンダースーツのような黒い服と

黒いズボン、靴も上履きから黒い靴に変わり……

その上に紅い外套を羽織るような形になった。

 

あの男と同じ衣装だ。

赤原礼装……たしかとある聖人の聖骸布……だった気がする。

オレはこれを手に入れたあの男当人ではないので曖昧な知識しかないのだが……

 

ふむ、ただこれだとキャラ被りだし……

一つアレンジしてみるか……

 

この前、百均で見つけた

紅いバンダナを投影して頭に巻いた。

 

「……こんなものか」

 

くるりと一回転してから、体を軽く動かす。

ふむ、動きやすい……これなら行けるか

 

「「ふぉおおおお……」」

 

チラっと園子と銀の方を見ると

二人揃って目を輝かせていた……

そんなに目を輝かせる程だろうか、この衣装。

 

「これで服は問題ないだろう。

耐久性は保証できるし……この通り、動きやすいからな」

 

「…………」

 

「どうしたんだ、鷲尾?」

 

なんだか不満げに見つめてくる鷲尾に首を傾げてしまう。

何か、気に障るようなことをしただろうか。

 

「いえ、別に……

日本人なのに西洋風な衣装に不満とかはありませんから」

 

「鷲尾……オレ、時々お前の事が分からなくなる……」

 

……なんとなくだが彼女が

和風系の方が好きだということは理解した。

それ以外はなんか……理解できそうにない領域の気がした。

 

……正直和装は動き難いものが多いので遠慮したい

動きやすい忍者衣装は耐久性に不安が出るしな。

 

「さて、茶番はここまでにしよう。

鷲尾、園子、銀。準備はできてるか?」

 

「当然です」

 

「バッチグーだよ!」

 

「あったりまえよ!」

 

オレの言葉に自信満々に答える三人。

なら、問題はないか。

 

「よし、じゃあ行こうか────」

 

それぞれが己の獲物を構え、巨大な敵に向かい合った。

 

────────

 

「ハァッ────!」

 

まずは、オレと銀が先陣を────

 

「こいつで、どうだ!!」

 

切る!!

 

左右の丸い部分を二人で斬りつける……が、

 

「チッ────浅いかッ!!」

 

斬り落とす事ができなかった。

此処で斬り落とせていれば……多少楽だったんだが……

いや、今はそれについて考えてる暇はない……!!

 

「園子!!」

 

「オッケー!突撃ぃいいい!!」

 

オレの合図で園子が中心の少し下部分に突貫する。

……此処だ。

 

「鷲尾!!」

 

「……これで────!!」

 

合図に頷いて、園子を援護する形で鷲尾が矢を連続で放つ。

 

「うわわ!?貫通しちゃった!?」

 

よし────園子が敵を貫通してこっち側に……

 

「銀!!」

 

「おっしゃあ!」

 

二人でもう一度跳び上がり……

 

「これでも────」

 

「喰らっとけぇ!!」

 

銀が下から、オレが上から斬りかかる────

 

だが、此処で油断した────

 

「なっ────!?」

 

パキンと、干将・莫耶が折れたのだ

 

「士郎!?────しまっ」

 

オレに気を取られた、銀は水塊に囚われる。

 

「銀────クソッ!!」

 

大橋の柱部分を蹴って、銀のもとに駆け寄る。

 

「ミノさん!」

 

「三ノ輪さん!」

 

「銀!大……丈……夫……か?」

 

全員が銀の方に駆け寄ると……

銀が、水塊を飲んでいた。

 

飲んでいたのだ────

 

「ゲッフ……おええ……」

 

流石は異形と戦えるようにされてるというべきか……

これ飲めるのかよ……。

 

「大丈夫?ミノさん?」

 

「うぇえ……始めはサイダーだけど、

途中からウーロン茶に変化した……気持ち悪い……」

 

心配そうに聞いてきた、園子に

銀は吐き気を催した様子で味の感想を述べた。

 

「味あるんだ……」

 

「ゲテモノね……」

 

「……ファミレスのドリンクバーでやりそうなヤツだなオイ」

 

流石にこれにはオレも、鷲尾も、園子も口元を引き攣らせた。

そんな飲み物は絶対飲みたくない。

いや、真面目に。飲んだら吐く自身がある。

 

「それで、どうするんだよ……士郎の剣、折れちゃったし……」

 

「……そうね、衛宮くん。大丈夫なの?」

 

……そうだ、剣が折れたんだ。

ポッキリと……

なら考えろ、この場合……あの男ならどうした────?

 

────■■、■■■■■■■。

 

「────そうか、ならもう一度」

 

「衛宮くん?」

 

「投影、開始────」

 

干将・莫耶をオレはもう一度手に握った。

……再び、砕ける音が聞こえた気がした。

 

「え?」

 

「おお、二本目だぁ!」

 

「それって……」

 

「なるほど……

どうやら、オレのこの力は……剣を複製できるモノらしい」

 

そして、少しだけ……この力を理解した。

この力は……剣を創り出す代物だと。

 

「つまり、実質無限に剣を出せるってことか!?」

 

「ああ、そう考えて貰って構わない」

 

銀の言葉に肯定する。

無限……そうだ、たしかこの剣は────

 

「ッ!三人共!離れて!!」

 

その時、鷲尾が真っ先に気付いた、

敵の明確な殺意に────

 

離れて、オレ達の足下に矢を放ち

爆風で弾き飛ばした。

 

「うわ!?」

 

「ひゃああ!?」

 

「うぉ!?」

 

プレス攻撃。

間違いなく、彼処に居たら死んでいた────

 

「すまない、鷲尾……助かった────」

 

「……危なかったぁ……あんの敵めぇ!」

 

「てぇええい!」

 

オレ、銀、園子で攻撃にかかり、鷲尾が援護射撃をする。

 

さっきの感じで理解した……

おそらく、コイツの弱点は下の貫通していた部分────

 

「そこだ────!」

 

オレは干将・莫耶を投げ、敵の下部分に刺す。

 

「────壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

ふと、口が勝手に動いた────

その時、突き刺さっていた干将・莫耶が爆発した────

 

「剣が爆発!?」

 

「剣に火薬が入ってたのぉ!?」

 

銀と園子がビックリするように

爆発した部分を見てからこちらを見る。

 

今の……オレがしたのか────?

 

「衛宮くん、今のは……」

 

「あ、ああ……多分、オレが……したんだと思う────」

 

自分がした実感がなく、戸惑ってしまう。

まるで……他の誰かに身体を動かされたような────

 

その時、敵を見ると……くるりと逆方向に向きを変え、

来た道を引き返して行くのが見えた

 

そして、花弁が……降り注ぐ────

 

「これは────?」

 

「鎮花の儀……?」

 

「つまり……私達の……」

 

「勝ち……?」

 

三人の言葉を聞き、力が抜け、座り込んだ。

そうか……勝った……のか────

 

「や、やった……やったあああああ!」

 

「やったよ!えみやん!私達勝ったんだよ!!」

 

「うん、私達が……勝ったんだ!」

 

嬉しそうにはしゃいで……

三人がオレに抱き着いてくる……って!?

 

「ぐおぉっ!?首、首絞まっ……!?

嬉しい……のは、分かる、けど……首が絞まって……!?」

 

「ああ!?悪い、士郎!大丈夫か!?」

 

「あわわ!?ごめんなさいえみやん!!」

 

「ごめんなさい衛宮くん!大丈夫だった!?」

 

「はぁはぁ……勝ったのに死ぬかと思った……」

 

走馬灯が見えたような気がした。

なんだか、麻婆を愛してやまない

目が死んでる神父が見えたような……

 

「「「ごめんなさい……」」」

 

「まあ……何はともあれ……」

 

「「「?」」」

 

「無事に終わって何よりだ────」

 

「「「うん!」」」

 

オレがニッと笑うと三人も笑顔で返してきたのだった。

あぁ、今回は……間違いなく……オレ達の勝ちだ────




グラジオラス 花言葉

「勝利」 「忘■」


こっちも不穏にしていくスタイル。

ちなみに士郎の格好は美遊兄とアーチャースタイルと一緒。


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第3話 ニガヨモギ

お 待 た せ

日常編がなんかガバガバだけど許して!


あっそうだ、お気に入り70超えありがとうございます!


正義とは、具体的に何を指すのだろうか。

そんな疑問を持つのはおかしな事ではない筈だ。

 

西暦時代の中でも、

「昭和」と言われる時代に

流行ったヒーローもので

よく見る勧善懲悪としての正義もあれば、

 

「平成」以降になってから出てきた、

各々の正義のぶつかり合い。

自分にとっては悪でも、

他人から見たら正義。という事例もある。

 

こうして見るとやはり正義とは難しいものだ。

……だからこそ、改めて思う。

万人の正義の味方になるのは不可能だと。

 

なのに何故だろうか、■はソレに憧れてしまっていた。

 

不可能な筈のソレに

 

今となっては理由も、意味も、何も■い■せない。

 

だって、今のオレは……

理■も■想も■け■きた、ただの■■■なのだから────

 

■■御記 ■■■■■■■■

 

────────

 

「それで、勇者である乃木さん、鷲尾さん、三ノ輪さんと

協力してバーテックスと戦ったのね?」

 

「はい、まぁ……そんな感じです……はい」

 

今、オレは……学校の多目的室で正座させられている。

理由は単純。自分が今日仕出かした事だ。

勇者システム?というモノを持ってない人間であるオレが

バーテックス(先の戦いの巨大な敵達の通称らしい)と

戦った事によるお叱りである。

 

「自分がどれだけ危ない事をしたか分かってる?」

 

「それに関してはもうしっかりと……ごめん、安芸ねえ」

 

頭を抱えて、安芸ねえが辛そうな表情でこちらを見てくる。

 

「貴方が死んだら……

二人にどんな顔をして会えば良いと思ってるのよ……」

 

「ごめんなさい……」

 

涙声になっていた安芸ねえに

オレは素直に謝罪するほかなかった。

 

「とにかく、お説教はここまでにしておくわ

……戦うな。って言っても、

樹海化に巻き込まれてしまう以上、私達ではどうしようもないし……

男の勇者っていうのも前例がないから……

大赦側も貴方の扱いにはかなり困っているみたいよ」

 

「そうなのか……」

 

「そうなのかって……

士郎、貴方がした事は本来、有り得ない事なのよ?

バーテックスは勇者でしか倒せない。

それは歴史上でもわかっている事。

なのに、貴方はその歴史を簡単に覆してしまった。

簡潔に言えばイレギュラーなの。

今、貴方は瀬戸際に立たされてるわ

……このまま、彼女達と戦うか。

それとも……何事もなかった事にして日常で過ごすか」

 

安芸ねえの言葉に息を呑む。

そこまで重大なのか……

 

でも、オレの選択肢は決まってる────

 

「安芸ねえ、オレは────」

 

「分かってるわよ。

……どうせ、三人を助けたい。ってところでしょ?」

 

「……さすが、安芸ねえ。よく分かったな」

 

「当然よ、何年貴方と一緒に居ると思ってるの?

お見通しよ、士郎が考えてる事ぐらい

良いわ、好きにしなさい。

きっとあの二人も止めたりはしないだろうし」

 

「そうだよな、やっぱり駄目って言うよn……

……え?今、なんて?」

 

「聞こえなかったの?

好きにしなさい。って言ったのよ

貴方の性格を知ってる身としては……止めても無駄って分かってるもの」

 

どうやら、完全にバレてたらしい

ほんと、流石安芸ねえだよなぁ……

 

「ありがとう、安芸ねえ」

 

「ただし、無茶はしないこと。

後、鷲尾さん、乃木さん、三ノ輪さんの事もお願いね」

 

「分かってる、無茶はする気ないし……三人の事も任せとけって」

 

それに、この戦いの中で……

いつかオレのこの力。

そして、アイツの事が分かるかもしれないからな。

 

それはそうと────

 

「あの、安芸ねえ……」

 

「なに?」

 

「正座解いて良いですか?」

 

「フフフ、駄目♪」

 

「ですよねぇ……」

 

どうやら、安芸ねえは

ムカ着火ファイヤーまでは到達してたらしい。

 

……笑顔が凄く、怖いです。

 

────

 

「ふぃー!検査終わったー!

……うぉ!?士郎が真っ白に!?いったい何事!?」

 

「」

 

「えみやん、安芸先生にこってり絞られてたんよ」

 

「……私達の検査中もずっと説教されてたらしいわ」

 

「うわぁ……そりゃ御愁傷様な事で……」

 

「うるへー……オレはただ巻き込まれただけなのに

こうなってるんだからとばっちりも良いとこだっての……」

 

ほんと、鷲尾と園子の検査が終わっても

説教され続けたこっちの身にもなれ。マジで。

恥ずかしくて死にそう。

 

その時、鷲尾がふと発言した。

 

「……ねえ、衛宮くん、乃木さん、三ノ輪さん」

 

「ん?」

 

「ほぇ?」

 

「んあ?」

 

鷲尾の意を決したような様子を見て首を傾げる。

何か重大発表でもあるのか……?

 

「その……良かったら……

これから祝勝会でもどうかしら……!」

 

「「「────」」」

 

意外……だった。

あの生真面目の塊である

鷲尾から誘われるのは予想できなかった。

 

全員が絶句して、

その反応がまずかったのか

鷲尾が少し落ち込みそうになって────

 

「オレは良いと思うよ、祝勝会

銀と園子はどうだ?」

 

「良いに決まってるじゃん。

私も祝勝会挙げたかったんだよね!」

 

「やったー!祝勝会だー!!」

 

「……!!」

 

オレの言葉に続く形で銀と園子が賛成する。

その様子を見て、鷲尾は顔を輝かせた。

 

「あ、私から提案!

祝勝会にはさ……皆でイネスのフードコートに行こうよ!!」

 

「フードコートか……良いな、オレは賛成だ」

 

「フードコートね……」

 

「やったあ!じゃあイネスのフードコートで祝勝会だ〜!

で〜、イネスのフードコートって何処〜?」

 

「「だぁっ!?」」

 

園子の平常運転の天然発言に思わず、銀とオレはズッコケる。

 

その様子を見てクスクスと笑う鷲尾と

オレ達がズッコケた姿を見て

?が浮かび続ける園子が居たのは余談だ。

 

────

 

「そんな訳で、フードコートにやってきましたってな」

 

「えみやん〜、誰と話してるの〜?」

 

ここには居ない何処かの誰か(読者様)とだよ」

 

「ほえ〜?」

 

「ハハハ、分からない方が良い事だよ」

 

オレの言葉を理解できない様子で???を浮かべる園子に

苦笑いするのだった。

 

「お待たせ!」

 

「遅くなってごめんなさい」

 

銀と鷲尾がオレと園子が取っていた

四人分の席の空いている場所に座る。

 

「いや、気にするな……ここ結構混むしなぁ……」

 

昔からあまり変わっていないフードコートに安心した。

前に来たのって何年前だっけ……

親父と母さんが仕事忙しくなかった頃だから……

もう六年以上前か。

随分と時が経つのは早いなぁ……。

 

「ん?士郎、どした?遠い目してるけど」

 

「別に、時の流れは早いなぁ……って思っただけさ」

 

「なんだそれ?おじいちゃんみたいな事、言うんだな」

 

「む、悪かったな、年寄り臭くて……

どうせ、オレは縁側で煎餅齧りながら、

お茶を啜るのが趣味ですよーだ」

 

「いや、別にそういうわけで言ったんじゃ……

悪かったって、拗ねんなよ〜」

 

少し、ムスッと拗ねる。

オレだって好きでこんな感じになった訳じゃない。

知らず知らずのうちにそうなっただけだ。

 

多分、親父がそういうのタイプだったからだと思うが。

まだ三十代前半なのに既に縁側でお茶啜りだしな……親父……

たまにどこからともなく饅頭取り出してるし。

既に本格的なおじいさん思考じゃないか……。

 

「意外ね……」

 

「ん?そうか?」

 

鷲尾が驚いたようにこちらを見る。

 

「えぇ、衛宮くんはそういうものに縁がないとばかり……」

 

「あー分かる。私も最初はそう思ってたもん。

でも、蓋を開ければ……大きなお屋敷に住んでて

縁側でお茶啜ってたりするもんなぁ……ビックリしたよ」

 

「へーへー、悪うござんした。

どーせ、今時の小学生っぽくないですよ。オレは」

 

「いえ、貶している訳じゃないわよ。衛宮くん。

 

────そういうの凄く素敵よ!!」

 

「なんだろう、オレなんとなく鷲尾の事分かってきた気がする」

 

目を輝かせて、こちらを見てくる鷲尾に

少し引きながら苦笑してしまった。

 

たまに居るよね、こういう洋風とかが嫌いで和風大好きな人。

今じゃ殆ど見かけないけど。

 

「じゃあ改めて、取り仕切らせてもらうわ」

 

鷲尾はそう言い、1枚の紙を取り出す。

……台本用意とかちゃっかりしていらっしゃる。

 

「え、えーっと……今日という日を無事に迎えられた事を

大変嬉しく思います。えっと……本日は大変お日柄も良く

神世紀298年度、勇者初陣の祝勝会ということで

お集まりの皆様には今後益々の繁栄と健康を

そして明るい未来を────」

 

「鷲尾、ごめん、ちょっと堅苦しいぞ……」

 

なんというか、祝勝会というより

会社の忘年会とかを連想させる内容だった。

 

「そうそう、堅苦しいのは無しだって!乾杯!」

 

銀がオレの言葉に同意してから、

先程買ったドリンクを飲む

 

うん、お前はお前でお気楽過ぎじゃあありませんかね……

 

「ありがとうね。シオスミ!

私もシオスミを誘うぞ誘うぞって思ってたんだけど

中々言い出せなかったら……凄く嬉しいんだよ〜!」

 

「ああ、鷲尾さんから誘って来るなんて初めてじゃない!?」

 

「実はそうなんだよ〜!」

 

「いや、そりゃそうだろ。合同練習もなかったんだろ?

まぁ、行く機会はその気になればあっただろうけど……

この一件が始まるまでは殆ど接点なんてないようなもんだっただろうし」

 

「あー、そうだよなぁ……」

 

「そうなのよね……

目下のところは其処が問題になりそうね」

 

オレの言葉に、銀が苦笑し

鷲尾が真面目に返答する。

 

バーテックスがこちらに来るのは周期があるらしい。

なので、現状はおそらく……

次のバーテックスが来るまでに連携が出来るようになることだろうか。

 

オレの分も何処かのタイミングで勇者システムが作られるらしい。

急造になる為、三人より性能が劣化する事を想定しておけとの事だった。

幸い、この投影魔術のおかげでシステム面で性能が落ちていても

なんとか補えるだろう。

 

「それはそうと……乃木さん」

 

「ん?なーに、シオスミ?」

 

「その……シオスミって呼び方はやめて欲しいわ……」

 

「えっ、じゃあねぇ……

うーん……ワッシーナとか……アイドルっぽくない?」

 

ワッシーナって……

平成のアイドルにそういうのが居たって記録があったような……

 

「それもやめて……乃木さんも、ソノコリンとか、嫌でしょう?」

 

「わー!素敵!!」

 

「ごめんなさい忘れて」

 

「アハハ……」

 

「相変わらず独特な感性持ちだな……園子は……」

 

冗談で鷲尾が言ったあだ名に目を輝かせる園子に

オレと銀と鷲尾は苦笑いする。

うん、相変わらずだな。

 

「ほぇ〜?どういう事〜?」

 

「今のままのお前で良いって事だよ」

 

オレはクスりと笑って、園子の頭を撫でる。

 

「ん〜……♪」

 

撫でられて、頬がだらしなく緩む園子。

 

「まるで面倒見の良い兄と甘えん坊の妹ね」

 

「そうだなぁ……羨ましい……

 

オレと園子のやり取りを見て鷲尾がそんな事を呟いてくる。

たしかにオレ……園子の事を妹みたいに思ってる節があるなぁ。

と、その時、何かを閃いたのか目を見開く園子。

 

「あっ、そうだ〜。閃いた!わっしーでどう?」

 

「うーん。まぁ変なのになるよりか……」

 

「よーし、じゃあこれから宜しくね、わっしー!」

 

……うーん、近くに居るのにこの除け者感。

 

「なあ、士郎……私ら除け者にされてないか?」

 

「言うなって……ちょっと寂しいんだから。

ていうか……なんで頭こっちに寄せてるんだよ、銀」

 

「そりゃあ……撫でられたいなぁって……」

 

「えぇ……まあ良いけども……」

 

「やった♪」

 

そのまま流されて、オレは銀の頭を撫でるのだった。

ちなみにその後……園子に、気付かれて

もう一回撫でてとか言われたのは余談だ。

 

────

 

「で、どう、どう?ここのジェラート、めっさ美味しいでしょ?

イネスマニアの私、イチオシだからね」

 

「最高だよ、最高だよミノさん、クレープもいいけど、

ジェラートも、こんなにいいモノだったんだね〜」

 

銀の言葉に、園子は目に涙を浮かべていた。

まあ、たしかに此処のジェラート美味しいよな。

六年前に食べた以来全然食べてないけど。

久しぶりに食べれて良かった。

 

ちなみにオレは、抹茶チョコだ。

この味だけは譲れない。

はいそこ、渋いとか言わない。美味しいんだから。

 

「あはは、てかなーんで少し泣いちゃってるのさ。

乃木さんってば」

 

「私ね、お母さんとデパート行った時にね、

食べたクレープが美味しかったから……

それ以上に美味しいおやつはないって思ってたんよ〜

だから、新発見なんだよね〜。嬉し泣きだよ〜」

 

「へー、友達とかと来た時に、食べたりしなかったの?」

 

「あー……園子はザ・お嬢様だからな……

中々そういう機会はないらしいんだよ。

お金持ち故の悩みってところかね」

 

「そうなんよ〜、私、あまり友達いないから〜……。

あっ、でもこの前、えみやんと一緒に来たよ!

ね〜、えみやん」

 

「そうだな。……それで鷲尾はなんでずっと難しい顔をして、

ジェラートにガンつけて固まってるんだ?」

 

ジェラートと睨めっこしている鷲尾を見る。

はて、何故だろうか。

 

「わっしーにはジェラート合わなかった〜?」

 

「合わないどころか……

宇治金時味のジェラートが……とても美味しくて……」

 

神妙な面持ちで鷲尾は答える。

 

「イェーイ。気に入ってくれたなら嬉しいね」

 

「それなのに、なんで難しい顔してるの〜?」

 

「私は、おやつは和菓子か、

せいぜい、ところてん派だったから。

それがこの味……僅かに揺らいだ私の信念が、情けなくて……」

 

……やっぱり、鷲尾は横文字苦手なタイプか。

別に揺らいでも良いと思うけどなぁ。

 

「なんだかわっしーが難しい事を言ってる」

 

「美味かったなら、それでいーじゃん。ね?」

 

「だな、美味しければそれで良しだ」

 

「そうだよ〜。はふぅ、幸せ……メロン味大正解〜」

 

本当に幸せそうだなって……口についてる。

 

「ほら、園子。こっちに顔向けろ。

口にジェラートついてるから」

 

「わぁ〜、ありがとう〜えみやん」

 

オレが園子の口についていたジェラートを

ハンカチで拭き取るとボソリと銀がボヤく

 

「……オカン」

 

銀、シャラップ。

それ最近、他の友人にも言われるようになって

気にしてるんだって……

 

「……そうね。確かに考え方の固さは実戦において、

命取りになるかもしれない……。素直に美味しく食べるわ」

 

オレ達に言われ、鷲尾はジェラートを大人しく頬張る。

あ、頬緩んだ。……幸せそうですね。

 

「この、ほろ苦抹茶と餡子の甘さが織り成す、

調和が絶妙だわ……うん、うん……」

 

年相応の笑顔を浮かべ、鷲尾は口を動かし続ける。

良い笑顔だ。うんうん、若者は笑顔が一番。

……あれ?今のなんか年寄り臭かったような。

 

「はは、なんだか、鷲尾さんって面白いな!」

 

「ね〜、もうちょっと怖い人かと思ってた〜」

 

「……怖いって言うよりかは

真面目過ぎるって感じだぞ、鷲尾は」

 

ム、と少し怒ったような様子で軽く頬を膨らませる鷲尾。

……これ失敗したか、オレ。

って、すぐにジェラートの方に集中していらっしゃる。

よっぽど美味しかったのな……それ。

 

「なんだか、わっしーの食べっぷりを見たら

宇治金時味も美味しそう…」

 

物欲しそうな目を鷲尾に向ける園子。

あ……これは……

 

「じゃあさ、一口貰えば良いじゃん。

鷲尾さん、恵んであげなよ♪」

 

銀が、けろっとそんな事を言った……って、躊躇なしか!?

 

「え、えぇと〜……

こういうの、初めてで、緊張する所でもあるけど、

憧れでもあるので、ここはひとつお言葉に甘えて……

頂きます〜っ」

 

園子はそう一方的に言って口を開けた。

 

「………!?

ッ────!?!?!?」

 

あっ、鷲尾がフリーズした。

まぁ……そりゃそうか。

アイツ、昼食の食べ方とか凄い綺麗だし……

礼儀作法とかそういうのには厳しそうな感じなんだろう。

 

「………」

 

……視線をこっちに向けて助けを求めてきた。

ここは敢えて肩を竦めて苦笑い。

 

銀は銀で、ニシシと笑っており

オレと銀の様子で無理と諦めたのか、

鷲尾はスプーンでジェラートを掬いとって、

それを恐る恐る園子の口に運んだ。

 

「……もむ……んむ……、うん、美味しい〜!」

 

良い笑顔が咲き誇った。

SEがつくなら〈ぱぁっ〉といった感じだろうか

 

「じゃあじゃあ私のも食べてみて、わっしー」

 

園子はそう言って、

メロン味のジェラートがのったスプーンを、

鷲尾の前に差し出す。

 

「わっしー、あーんだよ、あーん〜」

 

「!?!?」

 

あっ、またフリーズした。

 

……大丈夫、はしたなくはないと思うよ!

最近の人って普通にするらしいし!

 

「………」

 

……だからこっちに視線をやるなって。

諦めろ、鷲尾。メロン味を受け入れなさい。

 

目が微妙に輝いてるのオレは気付いてるから。

目は口ほど物を言ってるから。

 

美味しいもんね、メロン味。仕方ないよネ。

 

「あ、あーん……」

 

覚悟を決めた鷲尾は……こうして、公衆の面前で餌付けされたのだった(まる)

 

「わぁ〜、初めての共同作業だね〜!わっしー!」

 

「はじっ!?きょうっ!?□%#〇※!?」

 

何処の言語か分からなくなってますよ鷲尾さん。

 

「初々しいな!恋人かよ!!」

 

「ヒュー……♪」

 

銀とオレは笑いながら冷やかすのだった。

揶揄いたくなるよな。こういうの見ちゃうと。

 

「メロン味も……美味しいわね」

 

「だよねだよね〜」

 

「ふふん、確かに宇治金時味もメロン味も

超素敵な味だよ。それは認めよう!」

 

「急に上から目線ね……」

 

「おー、ミノさん偉そう〜♪」

 

「いや、偉そうって……コホン!

でもね、お二人さん!このフードコートで最強は、

アタシが食べてる────」

 

「醤油味のジェラート。って言いたいんだろ、銀?」

 

知ってる。オレがイネスに買い物に来てる時

たまにお前を見掛けてたけど、

見掛ける時、基本醤油味のジェラート食べてるよな。お前。

 

「だぁっ!?……私の台詞取るなよ〜……しろう〜

……まあ、良いから食べてみなさんなって!」

 

銀は少し、いじけてから

園子と鷲尾の口に、その醤油味ジェラートをねじ込んだ。

 

「どうどう?ピッカーンときた、乃木さん?」

 

「……うぅーん〜……なんだか難しい味だね〜」

 

「いい味だけど大人向けかもしれないわね」

 

「あんれぇ?鷲尾さんまで、それ言う?」

 

高評価は貰えなかった銀だった。

 

でしょうね。

ちょっと醤油の独特の味全面アピールでなんかね……

雪見な大福さんの中に入れるのをバニラじゃなくて

醤油味ジェラートにすると案外行けるかもしれないけど。

おじいちゃんおばあちゃんには喜ばれそうだよね。

 

「まあ、そりゃそうだろ。

ちょっと醤油味は独特過ぎるっていうか……

辛い物好きじゃないと食べなさそうだし」

 

辛い物と言えば……

昔あった、レッド麻婆味ジェラートっていうのは

思わず口元が引き攣った記憶がある。

誰だよ、あんな地獄のジェラートの作ったヤツ。

顔知りたい……いや、知らなくても良い気がしてきた。

なぁんか、ラスボス臭がしてきたぞぅ!

 

「士郎まで言うか!っていうか士郎は何味なんだよ!!」

 

「何味って……抹茶チョコだけど」

 

そう、抹茶チョコ。美味しいよね。

最初は食わず嫌いしてたけど、

親父に食べさせて貰ってから好きになった。

 

「抹茶チョコ味ィ?……また珍妙な」

 

「銀、珍妙とか言うけどな……

一応、抹茶チョコはお菓子になって商品化されてるんだぞ?」

 

「……まじで?」

 

「……まじだよ。キットなカットさんとして売られてるぞ?」

 

「マジかぁ……知らなかった」

 

どうやらお菓子方面はオレの方が詳しかったらしい。

親父がたまに食べてたからだろうけど。

 

む、そういえばそろそろ時間だな。

 

「さてと……」

 

「お、なんだもう帰るのか?」

 

銀がそんな風に聞いてくる。

帰る訳では無い。だが……

 

「あー、今日特売でさ……」

 

「なるほどな、流石オカンだな」

 

そう、イネスの特売日が今日なのだ。

買わなきゃ行けないのだ……というか。

 

「誰がオカンか。誰が」

 

「衛宮くんが買い物をしてるの?」

 

「あー……まあな、

うちは両親が共働きで中々家に帰ってこないから

基本、オレが買い物して、家事もしてるんだよ」

 

「そうだったの……」

 

意外そうにこちらを鷲尾は見る。

まあ、そうだよなぁ……男が家事してるって珍しい印象があるし。

 

「よし……じゃあな、三人とも……また明日な」

 

「ああ、また明日な、士郎!」

 

「ええ、また明日」

 

「またね〜えみやん」

 

三人と別れを告げ、買い物に行くのだった。

さて……今日の献立はどうするかな。

 

────未だ、壊れる音は聞こえていた。




ニガヨモギ

「平和」「苦しみ」「悲しみ」


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第4話 赤原猟犬

お待たせ。
こんな駄文でしかないけどいいかな?

お気に入り登録80突破ありがとうございます!
お礼に精霊と勇者システムを皆にプレゼントしますね(ド畜生)


最初にアイツと出会ったとき、

私はライバル視して……何かと競い合っていた。

 

今では考えられないが……

あの頃の私はちょっと尖ってたというか……

敵視しまくってた気もするのだ。

 

そりゃ……家事も出来て、運動神経抜群、

勉強も普通に出来て……性格も良いとなれば人気者だ

だからこそ、ライバル視してたんだ。

 

でも、何度もやり合っていく事に……打ち解けて、

アイツの優しさとかを知っていく内に……

恥ずかしい話、惚れていっていたんだと思う。

 

時々、ふとアイツのお嫁さんだったら幸せだろうなぁ……って

妄想もした事があった。……あの時は布団の中で悶絶した。

 

アイツの優しさを……理解していた。

……だから、いつかこうなってしまうんじゃないか。って

予感してたんだと思う。

 

────もう、■■は居ない。

もし、■きていたとしても……私を■えているとは思えない。

……■■の力は……■■を■■として消費する物だと知ったのは

あの日の……少し前だった。

────もっと早く気付ければ、

こんな事にはならなかったのだろうか。

 

■■からその答えが返ってくる事は無い。

自分が憎い……気付けなかった自分が憎くて仕方ない……

■にたい────でも、私は■ねない────

■ぬ事が許されないのだ。

 

あぁ、それはなんて……残酷なんだろう────

 

■■、ごめん。

今更許されないだろうし……顔向け出来るわけでもないけど。

私は……■■が■■■だった。

 

勇者御記 298.■■.■■

 

────────

 

 

「チッ、いきなりの……

お出まし、とは……穏や、かじゃない……な……!」

 

バーテックスに睨みつけながら、オレは舌を打つ。

 

「仕方ない……だろ……

前が神託通りじゃ………無かったんだ……こういう事も…あるって……

クソッ……身動きが取れねぇ……!!」

 

銀の言葉の通り、オレ達は身動きが取れない状態だった。

それもその筈、天秤の形を模したバーテックスの

起こす強風に飛ばされないように、耐えるので精一杯だからだ。

下手に動けば、天秤の皿の部分についている

錘に叩き潰される事は目に見えている。

 

「あの……グルグル……

上から攻撃すると……弱そうだけど……!!」

 

「どうしようもない……ハメはずるいよなぁっ……!」

 

「風を……どうにかしないと……

これは……無理そう……だな……

チッ……強風で呼吸も辛い……っ!!」

 

 

バーテックスの足下にある樹の根が

徐々に色を失い、白くなっていく。

 

あれが、侵食……侵食が多くなればなるほど、

現実への被害が大きくなる……!

どうにかしないと……ッ

 

その時、園子を支えていた、腕が1人分だけなくなる。

手を離したのは……鷲尾かっ!?

 

「鷲尾、何を……!?」

 

鷲尾は弓を構え、バーテックスの中心を狙っていた。

────無理だ、この強風じゃ普通の矢は……!

 

「────南無八幡大菩薩ッ!」

 

鷲尾の言葉と共に、矢が放たれるが……

バーテックスの起こす強風で速度が落ち、

矢が地上に落下していく。

 

「そんなっ……!?

きゃああああああ!?」

 

「鷲尾!……ッ!?園子!左だ!!」

 

「ッ!?危ない!?」

 

オレの合図で

園子が、槍の向きを変え、槍の傘を展開して天秤の錘を防ぐ。

園子の腕から、血が出る────やっぱり、重い一撃は……

どうすれば……

 

「ッ────!?」

 

……紅い外套が再び、視界を過ぎった。

今度は黒い洋弓を構え、剣を放っていた。

 

……剣を?

 

────そうだ。コイツの本領は剣だけじゃない、コイツの本領は

 

「士郎……!?」

 

オレも手を離し、風に飛ばされる。

 

「投影、開始────!」

 

あの男の使っていた、黒い洋弓を取り出す。

ただの矢じゃダメだ……アイツを射抜けるモノを────

 

────追従する、剣が見えた。

 

これだ────

 

「投影、開始────」

 

黒い歪な形をした剣を想像する。

巨人と火の竜を屠った、王たる英雄の剣を────!

 

「臭いは覚えた……ならば、赤原を行け、緋の猟犬……!」

 

剣を洋弓に備え、弦を引き絞る。

狙いは一箇所……ヤツの頭上────!

 

赤原猟犬(フルンティング)────!!」

 

弦から手を離し、剣を放つ。

 

だが、バーテックスの起こす強風で、

速度が落ち地面に落下する。

 

「士郎のでもダメか……!?」

 

銀が悔しそうに睨みつける。

 

違うぞ、銀。この剣の本領はここからだ────

 

「え!?落ちた筈の矢がまた、動き出した〜!?」

 

園子が驚くように赤原猟犬を見る。

 

そうだ、この剣の真価はこれだ────

 

オレが存在し、ヤツを狙い続ける限り、

直撃するまで永久に追従し続ける。

 

────これこそが、赤原猟犬の力。

 

「そら……追加だ、持っていけ────!」

 

赤原猟犬を投影し、指と指の間に三本挟み、

再び、洋弓に添え、弦を引き絞る。

 

パリンと……割れるような音が聞こえた気がした

……ッ、気にしてる場合じゃない

 

引き絞った弦を離し、剣を放つ────

 

合計で四本となった赤原猟犬は、

予測できない動きでバーテックスの頭上に上がり、

 

剣先を下に向け、バーテックス目掛けて高速で落下する。

そして、四本の赤原猟犬がバーテックスに突き刺さるが……

 

「効いてない!?」

 

「いや、これでいい……

爆ぜろ、────壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

その言葉と共に、突き刺さった赤原猟犬が順番に爆発した。

 

「銀……今だッ────!」

 

「!そうか……!

オッケー……任せろ!!」

 

合図で、銀は風が爆発で弱まった隙に

バーテックスの頭上に跳び上がる。

 

「ミノさん!」

 

「三ノ輪さん!!」

 

「銀……頼むぞッ────」

 

 

「うぉおおおおおおおお────!!!!!」

 

銀は、バーテックスに向かって斧を振るい────

 

 

────────

 

 

「ゴリ押しにも程があるでしょ!?」

 

「「「「はい…………」」」」

 

「これじゃあ……貴方達の命が幾つあっても足りないわ……」

 

勇者システムに記録されていた、

天秤型のバーテックス(星座に因んでリブラという名らしい)との戦闘映像を見ながら、安芸ねえは頭を抱える。

 

そう、リブラとの戦いは上手く行ったのだ。

 

銀が頭上から、斧で連続して斬り込む事で

リブラの起こす風を止ませ、その隙に全員で総攻撃。

 

その結果、リブラは撤退。

 

勇者側の勝利。となったのだが……

まぁ、如何せんやり方が悪かった。

 

なので今、怒られているのだ。

 

「お役目は成功して、現実への被害も軽微なもので済んだのは

良くやってくれたけれども……」

 

「それは、三ノ輪さんと乃木さんと衛宮くんのおかげです」

 

鷲尾がオレを含めた三人を見ながらそんな風に言う、

なんだか少々照れくさかった。

 

「はぁ……貴方達の弱点は連携の演習不足ね。

まずは、四人の中で指揮を執る隊長と、副隊長を決めましょうか」

 

「「「「!」」」」

 

隊長と副隊長か……自分には向いてないだろう。

無茶ばかりするし、

肝心な時に役に立たないだろうとオレは思った。

 

「そうね……乃木さん。隊長を頼めるかしら」

 

「うぇ!?……わ、私ですか?」

 

園子は自分が呼ばれるとは思っていなかったのか

驚いて、オレ達三人を見渡す。

 

たしかに……普段のほほんとしているが、園子はしっかり者だ。

隊長としては悪くないな。

 

「私はそういうの柄じゃないし、私じゃなければどっちでも」

 

「オレは賛成だよ。

────それに、オレはあまり向いてないと思うしな」

 

「私も、乃木さんが隊長で賛成よ」

 

オレと銀は全面的に賛成だったが

鷲尾は……なんだか、少し不服そうだった。

そうか、普段の園子しか見てないと……そうなるよな。

 

「わっしーにミノさん……それにえみやんも……」

 

「隊長は決定ね、

それじゃあ副隊長は……士郎。貴方に任せるわ」

 

ほう、士郎か……たしかにって……

 

「アイエエエ!?オレ!?ナンデ!?オレナンデ!?」

 

「結果からよ、戦闘記録から見ればよく分かる事だわ。

士郎、貴方は三人のカバーを上手くしていた。

多少のミスは貴方が補っていたし……

ある程度、三人を纏まっていたのも、貴方の指揮があってこそだったわ」

 

「でも、オレ……特攻したりするけど?」

 

「だから、副隊長なのよ。

本来なら隊長としても充分だけど……そこがマイナス点ね」

 

なるほど……そう言われると納得するしかない。

だけど、本当にオレで良いのだろうか。

 

「私は賛成だよ〜えみやん」

 

「私も、士郎は意外としっくりくる」

 

「そうね……たしかに衛宮くんのおかげで

二回ともあまり苦戦せずに勝てたわけだし」

 

三人とも……なんだか照れくさいな……。

 

「分かった、安芸ねえ。副隊長の件、承諾させていただきます」

 

「これで決まりね、

神託によると、次の襲来までの期間は割とあるみたいだから……

連携を深める為に、合宿を行おうと思います」

 

「「「「合宿?」」」」

 

「ええ、合宿よ。

それと、士郎。貴方にこれを」

 

安芸ねえはスマホをオレに渡す。

このスマホって……

 

「士郎、貴方の勇者システムよ」

 

へー……オレの勇者システムかぁ……って

 

「勇者システム!?オレに!?いつの間に!?」

 

「大赦の方で、急造で作っていたの。

バーテックスと戦える人材はやっぱり、

大赦でも喉から手が出るほど欲しいみたいよ。

他の三人と比べると、急造だからスペックは劣るけど

貴方の使えるその……投影魔術(トレース)だったかしら?

ソレと合わせると充分なモノになると思うわ」

 

「これが……オレの……勇者システム……」

 

スマホを手に取り、じっと見つめる。

神の力を降ろすシステム……か……

 

「あっじゃあさ、序に連絡先交換しようよ!」

 

「わぁ〜!ミノさん、ナイスアイデア!賛成だよ〜♪」

 

「二人の言う通りね、連絡は取り合える方が良いと思うわ」

 

そんな訳で、三人と連絡先を交換するのだった。

 

……チャットの三人のプロフィール絵がツッコミどころしかないぞこれ。

 

日の丸に、弟に……サンチョ……って……

 

まぁでも……貴重な女子との連絡先、

大事にさせていただきます!

 

「…………!」

 

「なんで、ガッツポーズしてんだ?」

 

「複雑な事情があるのよ、三ノ輪さん。

士郎、そこら辺でやめておきなさい」

 

「うぃっす」

 

安芸ねえの口撃にちょっと傷ついたのは内緒である。

別に寂しくなんてないんだからなっ!?

 

恥ずかしいし、ちょっと虚しいな今の……

 

 

────────

 

次の日。

 

「スピー……スピー……」

 

「むー………遅い……」

 

「あはは……」

 

貸し切りのバスの中で、

園子がオレの肩に頭を置きすやすやと寝ており

鷲尾が眉をピクピクさせながら集合予定より

十分程遅刻している銀にイラついていた。

 

(ちなみに余談だが、バスの行先が

神樹館貸し切りと書かれていて思わず

口元が引き攣ったのは内緒だ。……大赦すげぇ)

 

「三ノ輪さん、遅い!」

 

「ははは……」

 

また、何かしらのトラブルに巻き込まれてるか……

それとも弟くんが泣いていたのか……その辺だろうな……。

だから、オレも一緒に行こうかって昨日言ったのに……

 

「はぁ……はぁ……悪い悪い!遅くなっちゃって……」

 

「遅い!あれだけ張り切ってたのに、十分遅刻よ!どういう事かしら!?」

 

「色々あって……いや、悪いのは自分なんだけど……とにかくごめんよ、須美」

 

「この際だから注意させてもらうけど……

三ノ輪さんは普段の性格がだらしないと思うわ!

勇者として選ばれた自覚を……」

 

うん、すげぇ怒ってるよ鷲尾……

 

「まぁまぁ、鷲尾……銀も悪気があったわけじゃないんだし、その辺で……」

 

「衛宮くんも衛宮くんよ!

ちょっと三ノ輪さん達に甘過ぎじゃないかしら!?」

 

「うぇ!?こっちにも飛び火!?ごめんなさい!!」

 

うひゃー……怖い……

 

「ふぇ?……あれ?……お母さんここ何処?」

 

「…………」

 

「うん、園子。ここはバスの中で

今さっきまでオレの肩を枕にして熟睡してたところだぞー?

後、オレはお母さんじゃないぞー?」

 

……また、言われるハメになるとは思わなかった。

そんなに母親というかオカン体質なのだろうか……オレって……

 

ちょっと傷心気味になってしまうのだった……

 

────壊れる音は鳴り止まない。




まだまだ不穏な空気は拭わない

そんな訳で、衛宮にも勇者システムが追加されたゾ。
他の三人より勇者システムのスペックは劣るけど、
(身体強化の魔術等で三人よりもスペックは上がるので基本問題は)ないです。



鷲尾須美達の勇者システム>衛宮士郎の勇者システム≧身体強化の魔術

衛宮勇者システム+身体強化魔術≧鷲尾須美勇者システム

こんな感じの式になりますねぇ!


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第5話 ヤマツツジ

評価バーに色ついてからは)初投稿です。

今回はダイジェスト感覚で見て、どうぞ。


お気に入り登録100超えありがとうウサギ!(古い)
評価もありがとウナギ!(アレンジ)毎回励みにしてます!


1+1+1+1を4ではなく10にする。

彼女達を見ていれば可能だと思った。

それぞれ、全く違う性格をしているが……

不思議と仲良くなれるだろうな。と思っていた。

 

敵はバーテックス……世界を蝕んだウイルスの中の忌むべきモノ。

 

……不思議だったのは、バーテックスという名だった。

何故、ウイルスに■■という意味の名を与えたのだろうか。

そして、何故……ヤツらは■■星座の名を持っているのだろうか。

 

────知らなければならない。と思った。

 

その結果……あの■■を目の当たりにするなんて思いもしなかった。

 

守るべき■■は……

もうとっくの昔に……■■の■■に■んでいたのだ。

 

ヤツらを生み出した■の■によって。

そして、今あるこの■■は■■達を■とする■■■と

■■の■■によって守られているとは知りもしなかった────

 

■■御記 ■■■■

 

────────────

 

讃州サンビーチ。所謂海水浴場にオレ達はやってきた。

言わずもがな、合宿の為だ。

 

「お役目が本格的に始まった事により、

大赦は全面的に貴方達勇者をバックアップします。

家庭の事や学校の事は心配せず頑張って!」

 

「「「「はい!」」」」

 

今、安芸ねえが言った通り

大赦が全面的にバックアップするらしい。

 

そういえば……昨日急に母さんと親父が帰って来たかと思ったら

明日からしばらくは大赦の人が掃除はしてくれるから

気にせず、合宿に行ってこい。

なんて言われて何事かと思ったら……こういう理由だったようだ。

 

安芸ねえ、態とオレに伝えなかったのだろうか。

 

「そういや、士郎……勇者システム使ってもその格好なんだな」

 

銀に言われたが、今のオレは勇者システムを使った状態だ。

この勇者システムのおかげで投影魔術で作るべき、

洋弓と矢、そして干将・莫耶はシステムの方で作れるのでありがたい。

さすがに洋弓から放つ剣、赤原猟犬などはこっちで投影しなきゃいけないが……

 

ちなみに、言われた通り

格好は今まで通りの紅い外套だ。+αで紅いバンダナつき。

 

「まあな……というかこれ以外だとしっくりこない。

ま、耐久面とかは前より上がってるだろうし……

何より……この前より身体が軽い。

今なら光の巨人の身長分までは跳躍できる自信はあるな」

 

「おぉ〜えみやん、頼もしい!」

 

「そこ、騒がない」

 

「「ごめんなさい……」」

 

────────

 

「準備はいい?この訓練のルールはシンプル!

あのバスに三ノ輪さんを無事到着させる事!

お互いの役割を忘れないで!!」

 

なるほど……連携という名目上なら

たしかにこういう訓練の方が良いだろう。

 

「行くよ〜!」

 

「上手く守ってくれよ?」

 

「援護は任せろよー!銀、園子!」

 

ちなみにオレと鷲尾は

二人で後ろから狙撃による援護が役割らしい。

干将・莫耶を投げるのも良いと言われた。

ブーメランにもなるし、上手く使わないとな。

 

「私はここから動いちゃダメなんですかー!?」

 

「ダメよー!」

 

「仕方ないだろ、鷲尾。

オレ達は今回はあくまで遠距離からの援護だ

上手く守る事を考えよう」

 

「……そうね、よろしくね。衛宮くん」

 

「任せろ、鷲尾」

 

オレと鷲尾は互いに弓を構える。

 

「はーい!スタート!!」

 

「行っくよ〜!!」

 

園子が槍に備えられた盾を展開し、

飛んでくるボールから銀を守りながら進んでいく。

 

「鷲尾、行けるな?」

 

「もちろんよ」

 

オレと鷲尾は遠くから飛んでくる、

園子の防ぎにくいボールを射抜いていく。

 

「ここからジャンプしちゃダメなのか?」

 

「ズルはダメだよ〜」

 

「……アイツらなぁ」

 

銀と園子の会話を聞いて、思わず頭を抱えたくなった。

……おっと、集中集中。

 

「ふっ!」

 

「っ!」

 

確実に1個ずつ射抜いていく。

だが────

 

「これなら楽勝楽sy……あ痛ッ!?」

 

「アウトー!!」

 

「あ……ごめんなさい!三ノ輪さん!!」

 

「悪い、鷲尾。リカバリー上手く行かなかった。

大丈夫か?銀!」

 

鷲尾の放った矢が上手くボールに当たらず、

そのボールが銀の頭に直撃するのだった。

 

「大丈夫!大丈夫!!」

 

「どんまいだよー!わっしー!!」

 

「呼び方も堅いんだよ、銀でいいぞ、銀で」

 

「私の事はそのっちで!はい、呼んでみて〜!」

 

「ええっと……」

 

鷲尾が二人の言葉に困った様子で目を逸らす。

うーんこの……

 

「ははは……平常運転だなぁアイツら……」

 

「はい!もう一回!!ゴール出来るまで毎日やるわよー!!」

 

「マジか、安芸ねえ。マジでか……」

 

その言葉に思わず、全員口元が引き攣ったのだった。

 

────────

 

『この合宿中は基本、四人一緒に行動する事

1+1+1+1を4ではなく10にするのよ』

 

と、安芸ねえから今日の訓練終了後に言われた。

基本。つまりは……まぁ、お風呂とか以外はという事だろう。

さすがに、そこまではマズイからな。うん。

 

「わっしー荷物あれだけ?少なくない?」

 

「そうかな?」

 

意外でもなく、普通の量の荷物だった。

多分、園子自身の荷物と、

銀がお土産買ってるのと比べてるからだと思うんだが。

ていうかいつの間に、買ってたんだアイツ……

 

「ミノさん、お土産買うの早すぎ〜」

 

「そういう園子の荷物はなんだ……?」

 

「何処からツッコミを入れたら良いのか分からないわね……」

 

うどん作り用の臼と家庭用プラネタリウムらしきものetc.....

要らないよね、この合宿に……

 

「臼でおうどん作るんよ!」

 

「……何故に、そして何故臼持ってきたんだ」

 

「士郎は……普通だな」

 

「まあな……あ、でも、念のための救急箱と、

震災用アイテムと非常食は持ってきたぞ」

 

「用意周到ね」

 

「オカンだなぁ……士郎」

 

「オカン〜♪」

 

「何故だ!?」

 

何故ちゃんと用意しただけで

オカンって言われないといけないんだ!?

 

────────

 

「だああああああああ────ぐふぅ!?」

 

「アウト!もう一回!!」

 

銀の背中にボールが直撃する。

予想してた場所とは違う場所からの攻撃か……

有り得ない話じゃないし次からは気を付けるか。

 

「悪い、銀!!」

 

「大丈夫?ミノさん?」

 

「……だ、大丈夫」

 

次の日はダメだった────

 

────────

 

「こうして、神樹様はウイルスから人類を守る為に────」

 

くぅ……合宿なら勉強しないで済むと思ったのにぃ……!

 

残念ながら、合宿中も勉強はあるもんですよ。銀さんや。

……相変わらず園子は寝てるけどな。

 

「スピー……スピー……」

 

「────何が起こったのか乃木さんは答えられるかしら?」

 

「ふぁ……はぃ〜、バーテックスが生まれて

私達の住む四国に攻めてきたんですぅ〜……」

 

「正解ね」

 

「「あれで聞いてたんだ……」」

 

「あはは……さすが天才少女……」

 

ほんと、お前の脳と耳どうなってるのか知りたいよ、オレ……

 

────────

 

「おっしゃあ!これでどうだ────!」

 

「三ノ輪さん!危ない!!」

 

「間に合うか……!?」

 

「ぐぁ!?」

 

「アウト!」

 

すぐに撃っても間に合わなかった……

となると……銀が当たる事前提で……

いや、それは信頼してない証拠だ。

やるつもりはない。

 

「銀!悪い!!大丈夫か!?」

 

「だ、大……丈夫……!」

 

その次の日もダメだった────

 

────────

 

「スピー……スピー……」

 

座禅。精神統一も必要だ。

 

「ぐににに……!ぐふ……」

 

「………」

 

銀は耐えれなかったようだ。

 

「ふぁあ……ハッ!?」

 

園子の気持ち良さそうな寝顔に釣られて眠くなってしまった。

 

────────

 

「今度は外さない────!」

 

「フッ!ハァッ!!おりゃあああああああ────!」

 

「ミノさん後ろ!!」

 

「しまっ!?」

 

「させるかッ────!」

 

バスン。とオレの放った矢が

銀に近付いていたボールを射抜いた。

 

「サンキュ、士郎!これでえええ………

ゴォオオオオオオル!!」

 

銀の斧の一撃が、バスを粉砕した。

 

「やった……」

 

「「やったああああ!!」」

 

「……ふぅ、終わったか……疲れた」

 

ヘタリと座り込む。

皆嬉しそうでなにより……って竜巻起こってる!?

 

……救急箱を念の為に取ってくるか。

 

────────

 

「「「はあ〜……♪」」」

 

三ノ輪銀、乃木園子、鷲尾須美の三人はゆったりと温泉に浸かる。

ちなみに士郎は男湯側にちゃんと入っている。

園子が入れようとして、須美に止められていたが。

 

「毎日毎日、バランスの取れた食事。

激しい鍛錬。そしてしっかりとした睡眠。

勇者というか……運動部の合宿だよねぇこれ……

なんかこう……士郎みたいな超必殺技を授かるイベントはないのかねえ!須美!!」

 

銀は、士郎の魅せた赤原猟犬や、

干将・莫耶の爆発を連想しながら、そんなふうにボヤく。

 

「今回は連携の特訓だから仕方ないわねぇ……」

 

「なんだか私、更に筋肉ついてきたかもぉ〜」

 

ふにっと園子は自分の二の腕を触る。

 

「強くなるのは良いけど、

これから成長する女の子がこなすには

いろんな意味で厳しいメニューだよなぁ……」

 

「ミノさん、竜巻に巻き込まれた傷痛まない?」

 

「平気平気!士郎にある程度手当てしてもらったし!園子は?」

 

バスを粉砕した後に起こった竜巻に銀は巻き込まれたのだ。

中心に居たから仕方ないといえば、仕方なかったが。

そして、その後ちゃっかり士郎は持ってきていた救急箱から消毒液などを取り出して手当てしていたのだった。

 

「どっちかって言うと、こっちが染みるかなぁ……」

 

そう言いながら、園子は手にある豆を見せる。

槍を握っている人特有の豆の出来方だった。

 

「あー……あれ握ってるとそうなるよなぁ……

……鷲尾さん家の須美さんも身体を見せなさい♪」

 

「な、なんで?」

 

「クラス1の大きいお胸を拝んでおこうかなぁっと……

まるで果物屋だ!親父!その桃をくれええ!!」

 

ワシワシと手を動かしながら、銀は須美に襲い掛かる。

 

「ちょ、ちょっと!ダメええ!」

 

須美もさせまいと銀を阻止する。

 

「いーじゃん!事実を言ったまでだね!

寧ろ、大きいくせして照れてるとか贅沢言うな!」

 

「サンチョもえみやん入れてあげたいなぁ」

 

二人のやり取りを横目に、そんな事を呟く園子。

サンチョも士郎も大きな迷惑である。

 

ちなみにサンチョは、枕の事だ。

────そもそも温泉に入れるものじゃない。

 

「およ?」

 

その時、ガラガラと温泉に誰かが入ってくる。

 

「「ん?……うわあ!?」」

 

「三ノ輪さん、鷲尾さん。温泉で騒ぎ過ぎです」

 

入ってきたのは、言わずと知れた担任教師。

安芸先生だった。

 

「ほわあ……いやー……大人の身体って凄いな……

服着てるとあまりそういうの分からないんだけど……」

 

「そうね……例えるなら戦艦長門級……」

 

「ナニソレ?」

 

「ふふ!旧世紀の我が国が誇る戦艦よ!!詳しく話してあげる!!」

 

「お……おう……」

 

鼻息を荒く、そして目を輝かせながら近付く須美に

銀は少し引いてしまった。

 

──── 一方その頃 ────

 

カコ-ン……

 

「はふぅ……一人は寂しいけど……寛げるなあ……」

 

男湯でしっかりと肩に浸かり寛いでいた。

 

「にしても、園子がこっちに誘ってきたのはビックリしたな……」

 

普通に驚いた。

そろそろそういうのを気にし出す歳なんだが……

まあ、鷲尾が全力で止めてくれて助かったが。

……オレってもしかして、異性として見られてない?

それはそれで悲しいような────

 

「…………それにしても身体、どうしたんだろうな。オレ」

 

少しだけ、気になる箇所が身体に出来ていた。

 

「……ここだけ浅黒い……反動なのか……投影魔術の?」

 

右腕を見る、

二の腕から肩にかけて

浅黒い肌がまるで侵食してきているように存在していた。

 

元々、少し白めの肌だからこそ、

その浅黒い肌が異質に見えた。

 

「それに……」

 

さっき、鏡で見た髪が……少しだけ脱色しているようだった。

朱色の髪に少しだけ白髪が混じっていたのだ。

 

こっちも、右側だけだった。

まだ隠せる範囲だ、だが……もしこれを使い続けたらオレは……

 

……いや、考えるのはよそう。

今は……バーテックスを倒す事に専念しないとな。

 

「そろそろ上がるかな……」

 

まだ、大丈夫……オレはまだ衛宮士郎(オレ)で居られる。

 

────壊れる音は止まない。

 

────────

 

「えみやん!やっほー!!」

 

「おいーっす……っておお……浴衣だ」

 

「ん、まあ……普段からこれで寝てるからな、似合ってないか?」

 

「いやぁ……様になってるというか……」

 

「ええ……見事な日本男児ね……」

 

鷲尾と銀は少し頬を赤くして目を逸らす。

……何故、目を逸らす?

 

「んじゃあ、士郎も来たし……

さて、合宿最終日の夜なわけだけど……簡単に寝られると思ってる?」

 

「自分の枕持ってきてるし、簡単に寝られるよ〜」

 

「それ、名前タコスだっけ?」

 

「サンチョだよ〜よしよし〜」

 

うん、タコスだと料理の名前になるぞ……

 

「……で、園子さんその服は?」

 

あ、やっぱり気になったか……園子の見事までの鶏パジャマ。

 

「鳥さーん!!私、焼き鳥好きなんよ〜!!」

 

「うん……美味いよねぇ……」

 

袖の、羽の部分に当たる場所を

バサバサとさせる園子に苦笑いで答える銀。

 

「とにかく、ダメよ!夜更かしなんて!」

 

「マイペースだなぁ……須美」

 

「言う事を聞かない子は…………夜中迎えにくるよ……」

 

「む……迎えに来るぅ!?」

 

「んー……なんだろうか、

鷲尾と園子の間になんか食い違いが発生しているような……」

 

それもその筈。須美は妖怪を、園子はゾンビを連想していた。

 

「あー、そんなホラーはやめて……好きな人の言いあいっこしようよ!」

 

「す、好きな人って……三ノ輪さんはどうなの……?」

 

恥ずかしそうに銀に効く鷲尾。

うん、これ……オレ聞いちゃダメなヤツでは……。

 

「えぇ!?……え、ええっと……そ、そうだなー……

あ、敢えて言うなら……お、弟とか……!!」

 

「家族はズルいよ〜」

 

「わ、私も……居ない……から……おあいこ、ね」

 

居ないのか、ちょっと気になったけど……

それにしては少しだけ恥ずかしそうなのは何故だろうか。

 

「フッフッフッ……私は居るよ〜」

 

「え!?」

 

「何!?」

 

「おー!?恋バナきたんじゃない!?」

 

「だ、誰!?クラスの人!?」

 

「そうだ!いったい誰が誑かした!!うちの園子はやらんぞ!!」

 

「いや……娘貰いに来た

彼氏さんを追い返そうとする頑固親父かよ……」

 

銀のツッコミは言い当て妙だった。

もはや、兄とかの領域を超え、父親の域に達していた。

 

「うんっ!わっしーとミノさんとえみやん!」

 

「だと思ったよ……」

 

「なんだ……オレらか……」

 

「なんで安心してるんだよ……自分も含まれてるんだぞ、士郎?

ちょっとは戸惑えよ」

 

戸惑うも何もなぁ……

 

「いやだって……オレの認識って兄とかその辺だろ。

そういう意味では家族的な親愛だろ」

 

「意外と有り得そうな……

でもどっちかって言うとオk───「誰がオカンか!誰が!!」」

 

「はえーよ、まだ言ってねえよ……はぁ……これでいいのかね……」

 

「良いのよ!私達には神聖な御役目があるのだから!!」

 

そう言いながら少しがっかりしてたのは誰ですかね、鷲尾さん。

 

「明日も励もう!家に帰るまでが合宿よ!!」

 

「へーい……」

 

「消灯!!」

 

鷲尾がそう言い、電気を消す。

すると……

 

「へ?」

 

「なんだこれ!?」

 

なんという事でしょう、天井には輝く星々が……って……

 

「プラネタリウム〜♪」

 

「何故……此処に……」

 

「綺麗だから持ってきたの〜♪」

 

「やっぱりあれ家庭用プラネタリウムかよ……!!」

 

思わず頭を抱えてしまった。

……あの時没収しておくべきだったか?

 

「消しなさい!」

 

「家に帰るまで没収な」

 

「しょぼーん(´・ω・`)」

 

さて、寝るか……

 

「今はまだ、親愛でいいよ。えみやん♪」

 

「……!……乃木さん」

 

「んー?なーにー?わっしー」

 

「負けないわよ」

 

「フフーン、望むところだよ〜」

 

「うぅぅ……園子!須美!私も負ける気ないからな!」

 

………。

 

「うるさい、寝ろ」

 

「「「ごめんなさい……」」」

 

────────

 

合宿終わって次の日。

 

「むむむ………」

 

「スピー……スピー……」

 

「遅い……!」

 

「んー……既知感(デジャブ)……」

 

眉をピクピクさせ銀が来ない事にイラついている鷲尾、

オレの肩に頭を乗せてスヤスヤと寝る園子。

この光景、合宿初日に見たぞ……

 

「ごめんごめん……野暮用で……」

 

「野暮?……なんか怪しい

 

「ほぇ?……お母さん?」

 

「うん、ここまで別に

初日再現しなくていいんだぞー園子ー?

オレお母さんじゃないからなー?

……変だな……なんか目から塩水が」

 

「衛宮くん……」

 

やめろ……鷲尾……

その同情的な目でオレを見るな……見ないでくれ……

本気で泣きたくなるから……!

 

────少しだけ、壊れる音が小さくなった気がした。




ヤマツツジ 花言葉

「訓練」「努力」「燃える思い」


ゆゆゆいで無償石十連で
SSR中学生そのっちが当たったのでこの嬉しさを番外編執筆に向けてる


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第6話 牡丹

銀ちゃん回。
初めての士郎以外の視点。
というかわっしー視点があります。
拙い文章なのでわっしーの感じが出来てるか不安……

ランキングに昨日26位まで行っててUAとお気に入り登録の増え方半端なくてビビってます。
プレッシャーで胃が壊れちゃーう!

とりあえず言えるのは万人受けできるモノは書けないし、
自分の思う感じにしか書けないので

それが無理と判断したら、即座に読むのをやめる事をオススメします。
じゃないと変に期待しちゃう人が増えて私が耐えられないので!!(必死)


あの時、無理にでも止めていれば、

彼は戦うのをやめてくれただろうか。

 

今となっては分からない。

……私は思う。

自分達がもっと強ければ彼が戦わずに済んだのでは。と

分かっている。言い訳だと

 

どんな言い訳をしようと

■■くんの■■は返ってこない。

 

私達が、彼から■■を、■い■を奪ったのだから────

 

勇者御記 298.■■■■

 

────────

 

 

「ギリギリセーフ!」

 

「セーフじゃありません」

 

「あぅ……すいません」

 

走って教室まで入ってきたところを

安芸ねえにポカっと出席簿で軽く叩かれる銀。

周りはその様子を見て笑う。

 

うん、いつもの感じだなぁこれ

 

「ふー……うわぁ!?こら!?出ちゃ駄目だって……!?

 

猫!?ランドセルから猫!?

迷い猫、ゲット!?

 

横の鷲尾が怪しそうに、

銀を見つめているのは無視する事にした。

 

まあ、ここら辺りで知られておくべきだろうしな、銀も。

 

だから、猫がランドセルから出ないように

悪戦苦闘してる銀は見なかった事にしよう。うん、そうしよう。

これ以上気にしてるとオレの胃と頭に痛みが走りそうだ……

 

────────

 

「三ノ輪さんがどうして遅刻するのか……

これは、調査して原因があるなら元から絶たないと意味が無いわね。

……よく考えれば三ノ輪さんは、勇者になる前から、

授業にたいしても割と遅刻が多かったもの。

やはり何か理由があるのよ。

それを言ってくれないなら、こちらから探りにいくまで!

乃木さんも協力してくれる?」

 

「Zzz……すやぁ〜」

 

乃木さんはうつらうつらと寝ていた。

 

「そう、ありがとう乃木さん」

 

コクリコクリと頷く動作を強制的に了承したと解釈する事にした。

なんとなくだけど、乃木さんの扱い方を心得てきた気がする。

そういえば……衛宮君は何処なのかしら。

今日は用事があるから。と来れてないのだけど。

 

────────

 

「そろそろね。三ノ輪さんの家に到着するわ。

乃木さん……ってあれ!?居ない!?」

 

周囲を見渡すと、雑草の生えた辺りで何かを乃木さんは眺めていた。

 

一体何を……

 

「アリさんだ〜♪ヘイヘイ、元気〜♪」

 

蟻を見ていた。

蟻を見ていた。

 

「ふらふらしないの!!」

 

「うぇ〜……しょぼーん……」

 

服の襟を掴んでズルズルと引っ張り連れていく事にした。

衛宮くんの苦労が分かった気がする。

 

────

 

「此処が三ノ輪さんの家ね。

早速様子を────」

 

「ピンポンダッシュ〜?」

 

「そんな恐ろしい事は駄目よ!?

……こっちにしましょう。こんな事もあろうかと持ってきたの」

 

「わー……本格的〜」

 

そんなに本格的だろうか。

家に置いていたから持ってきたのだけど……

 

「あ、わっしー!あれ」

 

乃木さんが指す方向には三ノ輪さんが居た。

 

「おい、泣くな。お前はこの銀様の弟だろう?」

 

「ふぇ……」

 

「ほら、泣くなって。

泣いていいのは母ちゃんに預けたお年玉が帰ってこないと悟った時だけだぞ?」

 

「何を弟に教えてるんだお前は……」

 

衛宮くんも三ノ輪さんの家に居た

……用事って三ノ輪さんのところに行くことだったのね

たしかに、三ノ輪さんの家庭事情を知ってそうな雰囲気だったし

不思議ではないわね。

 

……でも何故猫が頭に乗っかってるのかしら?

そういえばあの猫、昨日三ノ輪さんが……

 

「おお、悪いな、士郎。手伝って貰っちゃってさ。

……つうかなんで頭に乗ってるんだ?」

 

「知らん、特等席らしい……

降ろしても、また乗ってくるから諦めた」

 

「あー……ドンマイ」

 

「にゃあ」

 

猫が肯定するように衛宮くんの頭の上で鳴いた。

動物にも苦労させられる衛宮くんって……天性の苦労人なのかしら

 

「うるせぇ余計なお世話だ」

 

!?!?!?

 

「どした?いきなり?」

 

「あ……いや、誰かが凄く不名誉な事を言ってた気がしてな」

 

……バレたかと思ったわ。

いえ、声を出してないからバレる可能性は低い筈なのだけど。

 

「うぅ……あうううう……」

 

「あー……愚図り泣きが始まってしまったぁ……

ミルクやおしめじゃないだろうし……」

 

「銀、ほれ」

 

衛宮くんが、三ノ輪さんにガラガラを渡す。

 

「お、サンキュ、士郎。ほーらほらほらー」

 

「あ、あぅあぅ♪」

 

「おー泣きやんだ!偉いぞ、マイブラザ♪

全く、甘えん坊な弟だよなぁ……

大きくなったら舎弟にしてこき使おっ♪」

 

「金太郎、将来銀の舎弟とは……苦労しそうだな」

 

「あぅ?」

 

「む、それどういう事だよー士郎ー」

 

金太郎……あの弟さん。素敵な名前ね。

 

「姉ちゃーん!士郎兄ー!買い物は〜?」

 

「はーい!ちょっと待ってね!」

 

「今回はなるべくトラブルに巻き込まれんなよ……」

 

「善処します」

 

「うん、それ出来ない人の反応」

 

二人の様子を見ていると、乃木さんが小声で呟く

 

「わ〜、ミノさんもえみやんもワンダフル♪

子守りとかお手伝いしてるよ〜♪」

 

「あんな小さな弟達が居たのね。

世話が大変という事なのかしら……?」

 

それでも、衛宮くんが手伝いに来る時があるみたいだし……

それを考えるとそんなに遅刻するような事はないはずだけど……

 

おっと、いけない……

二人が買い物に行くならバレないように追跡しないと。

 

────────

 

二人を尾行して着いたのはイネス手前。

 

「あ、わっしー見て見て」

 

乃木さんが指す方向には

衛宮くんと三ノ輪さんがお爺さんを誘導している姿があった。

 

「道を尋ねられたのかしら?」

 

衛宮くんが携帯で地図を確認して

三ノ輪さんに教えながら、お爺さんを連れている。

 

────

 

「まただわ」

 

次は少し歳上の女性に場所を教えていた。

 

「えーっと……士郎、そっから先は……」

 

「ちょっと待て……ここの交差点を右……

その次のT字路を左に曲がれば着きますね」

 

「ありがとう、二人共。いい子達ね〜」

 

「いえいえ、当然の事ですし!」

 

お礼を言われ、二人共恥ずかしそうにしている。

優しいわね……

 

「ミノさん優しい〜♪」

 

────

 

「わ〜、自転車起こしてるよ〜」

 

乃木さんの言う通り、衛宮くんと三ノ輪さんは

駐輪場で倒れている自転車を起こしていた。

 

「ぐぬぬぬ……!ふぃ〜」

 

「無茶し過ぎだろ士郎!?」

 

ついでと言わんばかりに

倒れていた大型の二輪車を衛宮くんが起こしていた。

 

その怪力はいったい何処から……?

 

────

 

「っととと!」

 

「阻止!」

 

次は他所の人の飼い犬をなんとか止めていた。

 

「次から次だよ〜……

ミノさんって事件に巻き込まれやすい体質なんだね」

 

乃木さんの言葉で

何処かの見た目は子供頭脳は大人の探偵を

思い浮かべてしまった私は悪くない筈だ。

 

「これも、勇者だからかしら?」

 

イネスに何事もなかったように入っていく、

三ノ輪さん達の様子を伺いつつ追跡する。

 

────

 

「次は迷子だよ?」

 

衛宮くんが迷子になっていた女の子の名前と一緒に迷子になっていると叫んで、

三ノ輪さんが、何処ではぐれたかのか聞いていた。

 

────

 

「喧嘩の仲裁?」

 

泣きながら揉めている、

男の子を衛宮くんが女の子を三ノ輪さんが止めていた。

 

────

 

そして極めつけには他のお客様の

レジ袋から落ちた蜜柑と林檎を拾い集めるのを手伝っていた

 

「巻き込まれているというより……放っておけないのね

……もう見てられないわ、三ノ輪さん!衛宮くん!!」

 

「ん?……おわ!?須美!?」

 

「園子も居るんだぜ〜♪」

 

「手伝うわ!」

 

「え!?え!?なんでお前ら……」

 

────

 

銀がメガ・チキン、園子と鷲尾がうどん。

(鷲尾は+で大根の味噌田楽)

オレがたこ焼きを頼み、席に座る。

ここのたこ焼きは美味しいのでオススメだ。

三百年前は本場である大阪でも有名なたこ焼き屋だったらしい。

 

「え!?じゃあ二人共、家の前から見てたっての!?」

 

「そうだぞ?」

 

「士郎気付いてたのかよ!?いつから!?」

 

「最初から。なーんか見られてるなーって思ってて

買い物行く時にふと、後ろ見たら特徴的な髪型と髪色が電柱から見えて……

『あっ……』って察したよ。

敢えて気付かない振りしてスルーしたけど」

 

そう、結構バレバレであった。

思わず笑いそうになったの内緒だ。

 

「うぅ……なんか恥ずかしいな……これ……」

 

「プライベート筒抜けだもんなぁ……

[衝撃!勇者の実態!!]みたいな感じで記事になりそうだな」

 

「えみやん、それ面白そう〜♪」

 

「やめろよ、小説のネタにするの」

 

「ええ……しょぼーん……」

 

一気に落ち込んだぞコイツ……

書く気だったのかよ……

 

「まあ、恥ずかしがる事じゃないだろ。銀」

 

「そうね、いつも遅れる理由はこれだったのね」

 

「言ってくれれば良いのに〜」

 

「それは……なんか他の人のせいにしてるみたいで……

何があろうと、遅れたのは自分の責任なわけだしさ……」

 

「昔からそういう体質なの?」

 

「そうだぞ。それを知って

オレは一時期、銀の手伝いを毎日してたんだ

ほら、一時期オレと銀一緒に登校してただろ?あの時だよ」

 

オレの言ったことに心当たりがあるのか鷲尾は頷く

 

「なるほど、そういえばあの頃は三ノ輪さん遅刻はしてなかったわね……

衛宮くんと一緒に授業中に居眠りはしてたけど」

 

「うっ……それ言われると痛いな……

まあ、そんな事になってから銀が見兼ねて、

迷惑を掛けるのはあれだしもう手伝いに来なくていい。って言い出してさ。

オレは好きでやってるんだー。って喧嘩したよなぁ……」

 

「ちょっ!?士郎、その話は内緒だろー!?

うぅ……恥ずかしい……」

 

「そんな事が……」

 

「ほぇ〜……ミノさんもえみやんも昔から仲が良かったから

そんな事はないと思ってたよ〜」

 

意外そうにこちらを見る、鷲尾と園子。

まあ、たしかに何かとつるんでたからな。オレら。

 

「ま、喧嘩して、仲直りする時に妥協案として

オレが暇な時とか休日に手伝いに行く。って事にしたんだよ」

 

「それが……」

 

「そ、それが今日の手伝い日」

 

「私は渋々だったんだけどなぁ……」

 

「結局、あの後ももう大丈夫って言っておきながら

教科書忘れたり、猫連れてきたりしてるじゃないか……」

 

オレが呆れたようにジト目で見ると

銀は気まずそうに目を逸らす

 

「うっ……反省してます……」

 

「それにしても……銀はツイてない事が多いよな……」

 

「そうなんだよなぁ……ビンゴとか当たった事ないし……」

 

……それは別段おかしくはないよな。

 

「それ割と普通じゃないか?」

 

「そうね……私もそういうの当てた事はないし……」

 

「え〜、私は当たったよ〜?」

 

「「「なん……だと……!?」」」

 

……やっぱり園子は格が違った。

天才+豪運とか人生の勝者じゃないですかーやだー……

 

「ッ!?」

 

その時、違和感を感じた。

周りの音が聞こえなくなった。

周囲を見渡すと、オレ達以外は皆止まっていた。

 

鈴の音が遠くから聞こえた。

 

「はぁ……ほらな……日曜日が台無し」

 

「やれやれ……休日もまともに休ませてくれないとは

……勇者は社畜じゃないんだぞ」

 

オレと銀は溜め息を吐きながらスマホを取り出す。

 

────樹海化が始まった。




牡丹
「思いやり」「恥じらい」「風格」などなど
牡丹は銀ちゃんのイメージ花なのでタイトルは今回牡丹に。


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第7話 偽・螺旋剣

勇者の章、三話で更に心を叩き折られた……

やっぱり、神様って禄でもないんやなって……
勇者部メンバーは皆幸せになるべきなんだよなー頼むよー……


■■は身体からだけだと思っていた。

けれど……本質は違った。

■ったのは……身体ではなく■■……精神性のモノだった。

 

この先、……今まで通りの自分で居られるのだろうか。

────それだけが、どうしようもなく不安だった。

 

■■御記 ■■■■

 

────────────

 

 

「来たわ……」

 

「なんかビジュアル系なルックスしてんなぁ……」

 

「蛸の脚みたいだね〜」

 

三人がそれぞれ、やってきたバーテックスの姿を見る。

……どうしよう、園子が蛸って言ってから本当に蛸にしか見えない。

しかもオレ、さっきたこ焼き食べたばかりなんだけど……

 

「士郎、大丈夫か?

そういえばさっきたこ焼き食ってたけど……」

 

「無理。アレが入ってたみたいな想像してちょっと吐きそう……オェ……」

 

「ほんとに大丈夫か!?」

 

大丈夫じゃない……いや、ほんとアレがたこ焼きの中にある蛸みたいな想像して……

水瓶のヤツのサイダーからウーロン茶とかいうゲテモノの例があるから余計に……

 

「おぇ……ダメだ……

これからしばらくたこ焼き食べれる気がしない……」

 

「じゃあ、えみやんのたこ焼き、私が後で食べるね〜」

 

「それはそれでなんか複雑だぞ……」

 

「三人共!茶番をしてる暇はないわよ!

まずは私が様子を見る────!」

 

鷲尾がそう言い、弓を構えバーテックスに狙いを定める。

その時、バーテックスが地面に着地し────

 

「きゃっ!?」

 

「わわわわっ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「地震……いや……

あの敵が地面を振動させて起こしてるのか……!?」

 

マズイな……これをされると……下手に動けない────

 

「今度こそ……当てないと……!!」

 

「落ち着けって、須美」

 

「!……三ノ輪……さん」

 

「私達と、一緒に倒そう?」

 

「乃木さん……」

 

二人共……全く……。

 

「そうだな、一人じゃない。全員で倒すんだ。一人で抱え込むな」

 

「衛宮くん……」

 

「そうそう、合宿の成果をここで出す。そうだろ?」

 

「皆……ええ……ありがとう」

 

良し、なんとか鷲尾も落ち着いたみたいだし……

振動が止まった……?

 

「ッ!……はぁっ!!」

 

園子が真っ先に気付きバーテックスの脚の攻撃を防ぐ

 

「うん……とこしょ!!

……よーし、敵に近付くよ!!」

 

「「「了解!」」」

 

園子の命令に合わせ、全員でバーテックスに接近するが

バーテックスはオレ達に合わせるように空中に上がり

上空から脚で攻撃してくる。

 

「ッ!」

 

鷲尾が矢を放つが、届かない────

 

「制空権を取られたか────!?」

 

「くっそぉ……降りてこいコラアア!!」

 

銀の叫びに反応するように

バーテックスが四本の脚を一つに束ね回転させてくる

回転……まさか……!?

 

「……何か……仕掛けてくる?」

 

「────ッ、投影、開始!

────工程完了(ロールアウト)全投影(バレット)待機(クリア)!!」

 

「士郎!?」

 

足下と、空中に無数の剣を投影する。

壊れる音が頭に響く────

 

アレの一撃に勝てる武器は今のオレでは一瞬では作れない……

なら、有象無象の数でアレを防ぐしかないッ!

 

「ッ───停止解凍(フリーズアウト)全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)………!!!」

 

投影した剣を連続して撃ち出す────!

止まぬように、切れぬように、

無銘の剣を投影し、即座に撃ち出し、

着弾すると当時に起爆させる。

集中を切らすな────

切れた瞬間が己の死と思え────!!

 

「グ……ァ……ぉおおお────!」

 

「士郎!?」

 

「今の……うち……に……!アイツを……!!」

 

「────分かった!わっしー!

足場を作るからお願い!!

ミノさんは念のためにえみやんの横に居て!

斧でもしもを想定して防げるように!!」

 

「────りょ、了解!!」

 

「分かった!!」

 

園子の合図で銀がこちらに、

鷲尾が、園子が作った足場を使い、

ギリギリまでバーテックスに接近し、矢を放つ────

 

「届けっ────!!」

 

矢はバーテックスに着弾し……爆発し

バーテックスは体勢を崩すが、攻撃は止まない────

 

「向きがっ!?」

 

「銀……1分、アイツに……耐えれるか……!?」

 

「耐えれるかどうかじゃなくて……

耐えなきゃダメだろ────

ぉおおおおおお────!!」

 

銀がオレの前に入り込むようにして、斧を構え

バーテックスの攻撃を防ぐ────

 

「園子、足場をッ────!」

 

オレは銀を信じ、後ろに下がり洋弓を取り出してから

園子に足場を作るように合図する

 

「うん────!」

 

オレも、鷲尾と同じように足場を使い、飛び上がる。

狙うはヤツの中心、架空の柄を握り、弦を引き絞る────

 

アレの攻撃を停止させるには赤原猟犬ではダメだ────

────ならば、作り出す剣は一つのみ。

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻じれ狂う)────ッ」

 

作り出すは螺旋の剣────

ケルト・アルスター時代に活躍した『赤枝騎士団』の一員の武器にして

数多くの魔剣、聖剣の原型となった剣から投影した剣、その真名()は────

 

「ぁ────」

 

視界が壊れた気がした────

今は気にするな────

バーテックスの攻撃を止める事だけを考えろ────!

 

偽・螺旋剣(カラドボルグII)────ッ!!

 

形が変質し、細い螺子のような形状になった偽・螺旋剣を放つ。

放たれた偽・螺旋剣は一直線にバーテックスに向かっていき……

 

「────弾けろ、

……壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)ッ!!」

 

バーテックスを貫くと同時に規格外の爆発が起きる────

発生した爆風にオレは吹き飛ばされる

 

「っ────銀!」

 

「ミノさん────!!」

 

「お願い────!!!」

 

「任せろ!三倍返しだ!

此処から────出ていけえええええええ!!」

 

斧に炎が宿り、銀はその斧で

バーテックスを連続で斬りつけ、細切れにしていく────

 

「うぉおおおおおおおおおお────!!」

 

あの斬り方……バスにやった時と同じ……

そして、銀の思いに答えるように空に花弁が舞う。

 

「鎮花の儀……」

 

「終わった……」

 

────────

 

「あー……痛たた……」

 

「ミノさん……大丈夫?」

 

「疲れたよ……腰に来た……」

 

「アレを直に受け止めたらそうなるよなぁ……」

 

四人で小さな草原に倒れ込んでいた。

あぁ、ほんと疲れた……。

 

「二人が防いでくれたおかげでなんとかなったよ……

ありがとうね、ミノさん、えみやん」

 

「そっちこそ……凄かったじゃん……」

 

「だって、信じてたから。

えみやんとミノさんなら、凌いでくれるって。

だから、なんとかなると思って。長引かせると大変だもんね」

 

「そうだな……正直に言うと死ぬの覚悟してた」

 

「おいおい、フラグ建てんなよー?」

 

「誰が建てるか、誰が」

 

ボーッと青空を見ながら、ボヤく。

 

「あー……お腹空いたなぁ……」

 

「うどん、食べてる途中だったもんねぇ〜」

 

「……オレ、残ってるたこ焼き食えそうにないんだけど」

 

「じゃあ、私がちゃんと食べるね〜」

 

「あっうん……どうぞ……」

 

気ままな会話をしていると、横から啜り泣く声が聞こえる。

 

「……うぅ……ぐすっ……うぅ」

 

「えぇええええ!?」

 

「!?」

 

「うわわ!?どうした須美!?何処か痛むのか!?」

 

「違うの……ごめんなさい……次からは……始めから……

息を合わせる、頑張る……!」

 

……鷲尾。……良かった、気付けたんだ。

あぁ……それでいい。

 

「ああ!頑張ろうな!」

 

「はい、わっしー」

 

園子が、鷲尾にハンカチを渡す

 

「……ありがとう……そのっち」

 

「「!!」」

 

鷲尾が、園子の事をあだ名で呼んでいた。

……うん、良かった。

 

「もう一回言って!わっしー!!」

 

「そ……そのっち……」

 

「ふぉおおお……!」

 

鷲尾の呼んだあだ名に

園子が嬉しそうに声を震わす。

 

「須美!私は!?私は!?」

 

「銀……」

 

「!!……嬉しいな、なんだかようやく

須美と友達になれた気がする!」

 

銀は少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうに笑う。

 

「じゃあ……えみやんは?」

 

そこでオレに行くか園子!?

 

「ええ!?オレは別に今まで通りで良いって!?」

 

「士郎……くん……」

 

「お、おう……」

 

鷲尾に……須美にそう呼ばれるのは新鮮で……

なんだか恥ずかしかった。

 

「お、照れてる照れてる〜」

 

「茶化すなよ、銀!」

 

「へっへーんだ!さっきの仕返しだ♪」

 

「なっ!?…………ぐぬぬ」

 

悔しそうにオレが、銀を睨んでいると

園子が首を傾げてこちらを見る

 

「あれれ〜?」

 

「どうしたの?そのっち」

 

「うーん……えみやんって……右眼、灰色じゃなかったよね?

 

「────え?」

 

園子のその言葉で……思考が冷静(クリア)になっていく────

嫌な汗が噴き出る────

 

「士郎……?」

 

「ハハッ……冗談、だろ────?」

 

今回の戦いはどうやら、無事では終わらなかったらしい────




明日から三日程、MHWβやるので小説書け)ないです。
投稿も少し遅くなるけど読者さま許して!

勇者の章で折られたメンタル回復にプレイします……はい……


あっそうだ、鷲尾須美の章はこれで第1部完結ゾ。
「ともだち」編終了で次回から、お待ちかねの「たましい」編に突入するゾ!
個人的に一番の見所さんを用意しておくので見とけよ見とけよ〜。


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第8話 キンシバイ

おまたせ。勇者の章でメンタルブレイクしながら
日常回を書くというハード執筆してました。

(#0M0)俺のメンタルはボドボドだぁ!!

12/14日にランキング3位ありがとナス!
本気でやべぇよ……やべぇよ……になってた
プレッシャーで胃が壊れるぅ^~

※台本形式っぽい文は
チャットを文で表現してるので
顔文字とかあるのをご了承の上で閲覧してくれるとありがたいゾ


「で、その応急処置なわけか」

 

「……そうらしい」

 

銀の言葉に

右眼に医療用の白い眼帯をしたままオレは答える。

 

「えみやんの眼がそうなったのって原因不明なんだよね」

 

「そうらしい……大赦の方の医者にも見てもらったけど……前例が無いんだとさ」

 

「という事は、勇者システムの弊害じゃないって事ね……」

 

「どうもそうらしい……そこはどうしようもないことさ……

視界は良好だし、はっきり見えるんだがね……」

 

眼帯をいったん外し、嘆く。

先程まで眼帯で遮られていた視界が広がる。

うん、特に異常なし。

 

「いーじゃん、オッドアイ。かっこいいぜ?」

 

「いやそういう問題じゃ……まあ構わないか」

 

今のオレは右眼が灰色、

左眼が黄金色のオッドアイになっているのだ。

いや、たしかに個人的にはこう……

厨二心を擽られて有りというかなんというか……

まぁ恥ずかしさはある。

 

「じゃあ、結局……士郎くんはしばらく、そのままになるのね」

 

「んー……まあそうなるな……とは言え……戻るかも分からないんだけどな」

 

眼帯を着け直し、肩を竦めて苦笑いする。

……気付かれてないのが幸いか。

そうだ……眼が変色して、ようやく気付いた。

オレに背負わされた、代償を。

 

────無いのだ。記憶が。

少しだけ、覚えていたハズの記憶が抜け落ちていた。

 

誕生日を、誕生月を……覚えていなかった────

 

「士郎?どうかしたのか?」

 

「あ、……ああいや……なんでもない。

ちょっと、考え事を……な」

 

気付かれるわけにはいかない……

気付けば、彼女達はきっと自分を責める。

 

ならば、隠そう。秘密にしよう。オレが果てるその時まで。

 

彼女達を守る為にも────

 

────────

 

安芸ねえに

休息を取り、しっかり身体を休ませるように。

と言われた次の日の鷲尾家の家前にて。

 

「Hey!ワッシー?Let's enjoy!香川Life!!」

 

「……なんでさ」

 

園子の不安になるほどの休日ハイテンションに

頭を抱えたくなった。

須美がなんとも言えない感じで固まってるって……

後、なんでオレ……乃木家のリムジンに連行されてんの?

 

「……えっと……は、ハイカラね……格好も……車も」

 

「わぁ〜♪ありがとう〜♪

ねぇ、これからナイスな休日の為にお出掛けしよう?」

 

「い、いいけど……」

 

「やった〜!!」

 

「……不安になるほどの休日テンションね

 

「わわわわ!?」

 

「だから、あまり車から身を乗り出すなってあれほど……!

……頭痛い」

 

落ちそうになる園子をなんとか引き戻しながら頭を抱える

 

「士郎くん……」

 

やめろ、須美……その目で見ないで。

泣きたくなる……。

 

────────

 

「ヘイヘイヘーイ!オウイェス!

オウ!ナイスナイスイェーイ!

Everybody!Everybody say!Yes!!香川!!」

 

園子がハイテンションで音楽を聞いてる中、

オレと須美は、チャットを起動し須美が銀に連絡を入れる。

 

ちなみにグループ名は『仲良し四人組』だ。

なんだかいつか崩れ去りそうなグループ名な気もするが気にしてはいけない。

 

鷲尾 須美『今、そのっちと向かってるわ』

 

三ノ輪 銀 『朝はやっ!』

 

三ノ輪 銀 『ひょーーーーー!!』

 

三ノ輪 銀『あたい…超待ってるわん!』

 

『なぁ、園子も銀もテンション高くないか?』衛宮 士郎

 

『俺、二人に着いてけないんだけど』衛宮 士郎

 

鷲尾 須美『慣れるしかないわね』

 

『そんなー(´・ω・`)』衛宮 士郎

 

こんなチャットの内容だった。

ちなみにオレのプロフィール画像は

今までで一番出来の良かった料理の画像にしている。

お陰で最初の頃は毎日飯テロ。とか言われた。……解せぬ。

 

「銀も元気ねぇ……

士郎くん……いつか良い事あるわよ

 

「近くに居るのに小声で呟くのやめてくれないか!?」

 

割と傷付くんだけども!!

自慢じゃないけど心は硝子だぞ!オレ!?

 

「わっしーも、盛り上がっていこうよ♪」

 

「……そんな音楽一つで、ノれないわよ」

 

園子はイヤホンの片方を須美に渡し、

それを受け取った須美は、少し溜め息を吐きイアホンを耳につける。

 

────────

 

「やったかたー!やったかたったー!やったかたー!」

 

「即堕ち二コマでお前もかブルータスゥウウウ!?」

 

聞いて割とすぐに須美はノリノリになりだした。

ちなみに少し耳に入った音から考えると、演歌だろう。

────なるほど、そりゃ須美がノれるわけで。

さすが、園子。選曲もしっかりしてる。

 

「エンジョイ?」

 

「万歳!!」

 

「さぁ!楽しいお休みの始まりだよ〜!!エンジョイ?」

 

「万歳!!」

 

「なんでさ……なんでさ……ななななんでさ……」

 

少しラップ口調で言ったのは気の所為である。

気の所為である。

 

────────

 

その後、乃木家にて、

銀の着せ替えが行われていた。

 

「こ……この服は……うぅ……やっぱりアタシには似合わないんじゃないか……?」

 

今の銀は赤い薔薇の花の首飾りに

黒と白で彩られた、

胸元には大きな白いリボンがあるドレスを着させられていた。

 

正直言って、とても似合っております。

天使はここに居たよ────

 

「そんな事ないよ〜。ねぇわっしー?」

 

「ムハアアアアアアア!!」

 

「わー、そんな出し方する人初めて見た〜」

 

まさかの興奮するあまりに鼻血の出血大サービスデスノーゥ!?

しかも、器用にスマホで激写していらっしゃるぅ!?

 

「はぁはぁ……と、とても似合ってるわ……銀……!」

 

「……その一眼レフはいったい何処から?」

 

レフ……?

節穴……フラウロス……採集決戦……ウッアタマガ……

 

「で、でも……この込み上げてくる気持ちは何かしら!?」

 

興奮して、荒い息遣いになりながら

一眼レフで銀を激写しまくる須美。

 

「なんだか今のわっしーって……プロみたいで素敵!」

 

「はぁはぁ……写真は愛よ!あぁ、銀!

今日はとことんいろんな服に挑戦よ!!」

 

何故にそこで愛っ!?

 

「えぇええ!?最初は須美を着せ替え人形にする予定だったのにどうしてこうなったあ!?」

 

そりゃもう……そういう悪巧みした結果裏目に回ったとしか……

 

────────

 

「凄いわ、銀!もうこれは金よ!!」

 

「訳わかんないぞ!?」

 

ランクは上がったね。銀から金に。

 

────────

 

「打点高いよ〜!」

 

「あぅぅ……」

 

最高に可愛いです。

 

「士郎も遠くからいい笑顔でサムズアップすんなあああ!?」

 

────────

 

「わぁ〜♪」

 

「こ、これはこれで……」

 

「「いや無しだろ!?」」

 

赤いカツラを被せられ、

なんというかロックバンドを

やっている女性のような格好になっている銀だった。

 

もはや銀の原型なくないかこれ!?

 

「ありありありありあり!!」

 

アリーヴェデルチ!……ハッ!?オレは一体何を!?

なんだか言わなきゃいけない気がしたんだけど……!

 

────────

 

「むー……」

 

最初に着替えさせられた服が一番似合っていたようで、

銀はそれを着させられたままムスッと不機嫌そうに頬を膨らませる。

 

「はぁ……良かったわ……」

 

須美は撮影に満足して、賢者タイムに入っていた。

満足してんなぁ……

 

「何がだよ!?」

 

「じゃ、次は……わっしーの番ね」

 

「……………え!?」

 

「このお洋服とは似合うと思うよぉ♪」

 

「だ、ダメよ!!そんな非国民の格好!?」

 

園子は自分の持っているドレスを須美に見せていた

非国民ってオイ……

 

「いやー!似合うと思うなあ!!」

 

「えええ!?そんなああ!?」

 

「そぉれ、着せちゃええええ!!」

 

「きゃああああ!?」

 

賑やかだなぁ……。

オレはそんな事を考えつつ、須美がドレスに着替えさせられている中

そっと席を外した。さすがに生着替え見るわけにはいかないしネ!

 

────────

 

「おお、いーじゃん。須美こそ似合ってるじゃん!

アイドルだってなれるぞ!」

 

「私、ファン一号になるよ〜!」

 

「そ、そんな……ダメよ……こんな……非国民な洋服……」

 

「非国民ってなぁ……」

 

その後、結局二、三着追加でドレスを着替えさせられた須美だった。

 

オレに被害来なくて良かった。────うん、ほんと。

須美と銀には悪いけど。

 

────────

 

「────っていう夢を見たんよ」

 

「お客さん入ってた?」

 

「そこ気にするとはロックだな!」

 

「それ……既にオレがP的立場なんだけど。なんで?」

 

次の日、イネスで園子が自分の夢の中で

自分達三人娘がアイドルになっていた夢を語る。

そして何故か、オレはプロデューサーだった。

 

なんか複雑な心境になった。

 

────なんでさ。




キンシバイ
「秘密」「悲しみを止める」etc……

>節穴……フラウロス……採集決戦……ウッアタマガ
いやー、クリスマスは酷かったですね……
殺したかっただけで死んで(ry

>アリーヴェデルチ
中の人ネタ


アニメ寄りの内容にしてるんだけど
三人が夢を語るところの展開をド忘れしちゃって書けてないゾ……
待たせるのもアレなんでそこ後回しのぶつ切りで今回投稿しました。
すいません許してください!なんでも(ry

今必死に思い出そうとしてるけど……
わすゆ録画してたデータ吹っ飛んだんだよなぁ……
この為にブルーレイ買うのは出費が大変だしで迷ってます……

最悪小説版っぽくなるorわすゆ一挙生放送まで
書けない可能性ある事をご了承してくれるとありがたいです。


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第9話 ベゴニア

お待たせ。
生放送の3話部分スマホで上手く録画できてなかった(半ギレ)

なので結局、思い出しながら書いてたので微妙に展開違うと思います……
お兄さん許して!

クリスマス番外編でサンタムとかやりたかったけどネタが出なかったので没になった……。
悲しいなぁ……

あ、これが今年最後の投稿です。


学校での休み時間、

四人でそれぞれ絵を黒板に描く。

 

「お?須美のそれなんだ?」

 

「翔鶴型航空母艦の二番艦、瑞鶴よ!!」

 

「スゲーリアル!?」

 

ご丁寧に、戦闘機も飛んでいた。

須美はほんとこういうの凄いな。

実物の写真と大差ないし……。

 

「でしょう……?

旧世紀、昭和の時代に数々の戦いで

主戦力として活躍した我が国の空母よ!

囮になって、最後の最期まで頑張ったのよ!!」

 

少し涙目になりながら、

自分の描いた瑞鶴に敬礼する須美だった。

 

「す、須美って……やたら、そういうの詳しいよな……」

 

「だな、オレはせいぜい古い剣や刀とかに関する伝承ぐらいだよ」

 

「いやそれはそれで充分凄いぞ?」

 

「……そうか?須美程じゃないと思うぞ?」

 

オレのその類いの知識は

須美のように勉強して覚えたわけではなく、

アイツから得た知識なのだ。

だからこそ須美と比較するのは失礼だろう。

 

「私の夢は歴史学者さんだから!

こういうのも覚えないといけないと思ったのよ」

 

「なるほど……やっぱり真面目さんだな」

 

「わっしーっぽい夢だよね!」

 

「そのっちは何か夢があるの?」

 

「私は……小説家とか良いなって思って、

時々サイトに投稿したりしてるんだよ」

 

「はぁー……なんか納得」

 

「……独特の感性だものね」

 

そう言いながら、須美は園子の描いた絵を見る。

園子の絵は、愛用枕サンチョの擬人化親子などだった。

うん、凄く独特。

 

「でもまぁ……事実、園子の小説は凄いしな……

書いたら、だいたいランキング上位。しかも殆ど1位」

 

「それは凄いな……」

 

オレの感想に銀と須美は驚いた様子だった。

まあ、実際に園子の独特な感性が小説に味を出してるんだよな。

きのこ節に劣らない。……待って、きのこってどういう事だ?

……緑色の笠に光っているような目のきのこ。

ふむ……さっぱり分からん。

 

「二人も小説の中に登場人物として出演して欲しいなぁ〜

優しく頼れるミノさんに、真面目で時々面白いわっしー」

 

「と……時々……面白い……?」

 

「つまらないよりいーじゃん」

 

「それはそうなのだけど……

私も頼って欲しいわ……」

 

「私、そうやって軽くいじける須美の顔。好きだな♪」

 

「ええ!?そんな風に褒められても……」

 

……百合が咲いてきてる。

 

「おおお!なんか良いよ!今の二人の空気!!とっても良いよ!!良いですよぉ〜♪」

 

「ニヒヒ……あ、そういや士郎は出てるのか?

園子の小説に」

 

ほらきた。

その話題振られるだろうなとは思ったけど……

 

「……出てるよ」

 

「お、良かったじゃん。

……なんで不機嫌そうな顔してんだよ?」

 

「……主人公のお母さんがオレをモデルにしたものだ。

って園子に聞かされた時のオレの気持ち考えてみるか?」

 

オレの震える声を聞いて、

須美と銀は気まずそうに目を逸らす。

オイ、こっち見ろよ。

 

「………正直悪かった」

 

「士郎くん……良い事あるわよ……きっと……」

 

「その慰めが今は辛いッ……!!」

 

「??」

 

顔を手で覆い隠して泣きたくなった。

やめてほんと、辛いから……オレの心は嘘偽りなく硝子だから……

普段がのほほんとしているからこそ時々天然で辛辣になる園子が辛い。

 

「そ、そういえば!銀の夢はなんなのかしら!?」

 

「あ、ああ!!私の夢か!!

私の夢……か……幼稚園の頃は

皆や家族を守る美少女戦士になりたかったなあ!」

 

「分かる!御国を守る正義の味方!それは少女の憧れよ!!」

 

正義の味方か……

 

「いや、それは少年の憧れでは……」

 

須美の発言で

昔見ていた、三分間巨大化して戦うヒーローや

バイクに乗るヒーロー。

たくさんの色の戦士が集まるヒーローを思い浮かべた。

 

「じゃあ、今のミノさんの夢は?」

 

「今?……んー……えへへ」

 

園子に聞かれ、少し恥ずかしそうに銀は口篭る。

 

「なんで照れたのかな?」

 

「いや……家族に結構憧れてて、普通に家庭を持つのも有りかなって。

そうなると将来の夢は……お、お嫁さん……とか……?」

 

「────!」

 

「「わぁ……!」」

 

────驚いた。

だけど、それはとても素敵な夢で。

……馬鹿になんて出来るわけがない。

 

「素敵だと思うわ!銀!!」

 

「小説のネタにするね!ミノさん!!」

 

「それはやめろって!?

……って、士郎は何で目を丸くして見てるんだよ。

そんなに変か、私の夢」

 

ムスッと頬を膨らませてこちらを睨んでくる銀。

そういうわけじゃないが……

 

「たしかに驚きはしたが……

うん、良いじゃないか。ソレ。

きっと素敵なお嫁さんになれるぞ。銀なら」

 

「────ッ!!」

 

「痛い痛い。なんで顔真っ赤にしてポカポカ叩いてくるんだよ。

軽めでも地味に痛いからやめろって。いやほんと痛い痛い痛い!?」

 

滅茶苦茶叩かれた。何故……。

 

「おおー……良い雰囲気だよ、二人共。

小説のネタにしようかなぁ」

 

「「やめろ!?」」

 

「ふひゃー、ひはひほひほはん(いたいよミノさん)へひひゃん(えみやん)

 

銀と俺は園子の頬を抓る。

それはそれで読む時黒歴史になりそうだからほんとやめろ!

 

「そういえば……士郎くんは……どんな夢があるのかしら?」

 

「んぇ?」

 

「あぁ、そういえば知らないな。士郎の夢」

 

聞かれるとは思っていた。

オレの夢、一つだけあった。

だけど、オレにはその願い()を受け継ぐ資格はない。

オレはあの男にはなれない。そう思っているからだ。

 

「ねえねえ、えみやん。えみやんの夢ってなに?」

 

「それは────」

 

園子だけでなく、須美や銀もこちらの言葉を待っていた。

……少しだけ、自分が黒板に描いた絵を見る。

 

剣が突き刺さった絵だ。

────この光景は何度も見た。

呆れる程、見続けた世界だった。

 

「正義の……」

 

そこまで言って躊躇ってしまう。

それで良いのか、分かっている。その願いは破綻している。

そんな風に自問自答してしまう。

 

オレは……オレがなりたいのは────

 

「特撮みたいな正義の味方かなぁ!!」

 

「あー、お前好きだもんなぁ……

鉄男もお前としょっちゅうそんなこと話してるし」

 

「なるほど……光の巨人やバイクに乗る戦士……まさに男の子ね」

 

「おー……かっこいいね!えみやんの夢!」

 

「あ、ああ……そうだろ?」

 

────結局、誤魔化してしまった。

本当は、彼女達にそれがどうなのか聞くべきなのだろう。

だが……否定された時、オレはオレのままでいれる自信がなかった。

……逃げてしまったんだ。否定されるのが怖くて仕方なかった。

オレは次聞かれた時も誤魔化してしまうのだろうか。

……いや、きっとしてしまうのだろう。

否定されたくない。ただそれだけの理由で。

 

────

 

「オリエンテーションか……」

 

「私らの時もあったよなぁ……これ」

 

安芸ねえに言われ、準備に取り掛かるクラス一同。

そう、もうすぐ新入生である現在の一年生達に六年生が

色々とプレゼンのような事をする時期なのだ。

簡単に言えば一年生との交流を深める会だろうか。

 

「相手は真っ白な一年生……」

 

「ん?」

 

「私達勇者の御役目はこの国を護ること!

つまり、将来を見越して愛国心の強い子供達を育成するのも

任務の一環と言えるわ!!」

 

「言えるのかそれ?」

 

「や、言えないだろ……

というかそれ普通に洗脳という名の犯罪では……」

 

須美の言葉にオレと銀は苦笑する。

うん、絶対言えない。というか犯罪だよそれ。

森とm……ゲフンゲフン。失礼、なんでもない。

 

「じゃあさ、計画を立てようよ……あれあれ〜?」

 

不思議そうに机の中から桃色の封筒を取り出す。

 

「中にお手紙が入ってたよ〜?」

 

なん……だと……!?

桃色の封筒……もしやこれは……!?

 

「果たし状か!?」

 

「気を付けて!!不幸の手紙かもしれないわ!?」

 

「なんでさ!?」

 

発想豊かだな二人共……オレは普通にラブレターかと……

園子は封筒の中に入っていた、手紙を取り出し読み始める。

────うん、それ公開処刑。

オレらの近くでしてるからまだ良いけど。

……やっぱり園子は天然故に時々辛辣とかいうか……怖い。

 

「えーっとね……

『最近、気が付けば貴女を見ています』」

 

「やっぱり決闘か!?場所は何処だ!?」

 

「呪いよ!!清めが必要かも……」

 

「そのお祓い棒は何処から……?」

 

……一体何処から取り出したんですか、鷲尾さんや。

須美が両手に持っている二本のお祓い棒を見ながら疑問に思った。

 

「『私は貴女と仲良くなりたいと思います』」

 

「へ?」

 

「ただ呪うより恐ろしい文章ね……!?」

 

「御札……それ何処に持ってたんだ……?」

 

〔危除祈願守護〕と書かれた札を須美は持っていた。

それ厄除けのヤツでは……。

 

というかやっぱりこの文章は……

 

「『御役目で大変だとは思いますが……

だからこそ支えになりたいと思います』だって〜♪」

 

「も、ももも……もしやこれってアレじゃないか……?

須美、最初にラがつく……」

 

どうやら、銀も気付けたらしい。

だよな、やっぱりこれって……

 

羅漢像(らかんぞう)!?」

 

「違う!ラブレターだ!!」

 

というか何故そこで羅漢像ッ!?

 

「あー……そう……ラブレター……」

 

そう、ラブレターだ。

園子が貰ったのはラブレターだ。

 

「「「「……………」」」」

 

数秒だけ時間が止まったように全員が沈黙する。

 

「ラッ!ラッ!?loveラブらぶLOVE!?」

 

時折、やたら発音良いな須美……

 

「わぁ……私、ラブレター貰ったんだぁ〜。嬉しいなぁ〜♪」

 

「何でそんなに冷静なの!?こ、恋文を貰ったのよ!?」

 

「そ、そうだぞ園子!!

それに士郎もなんでそんなに冷静なんだ!?」

 

いや……そりゃ……園子だし。

 

「字とか封筒とかよく見れば分かるよ?

出した人、女の子だよ〜」

 

そう、桃色の封筒といい、綺麗な字といい。

女の子が書いた手紙であるのは一目瞭然だった。

 

「ふぇ?」

 

「なんだ、女の子かぁ……」

 

「……これは言わない方が吉か

 

間抜けな声を出す須美と

ホッと安心したように溜め息を吐く銀。

 

……うん、これは言わない方が良いな。

世の中にはキマシタワーだったりあら^〜だったり

女性同士のそういうのがあるという事は。

 

オレがこういう事を知ってるのはアイツが原因でもあるのだが。

畜生、小学生ぐらい純粋なままで居たかった……。

 

────────

 

「ノウマク サンマンダ バサラダン センダンマカロシャダヤ

ソハタヤ ウンタラタ カンマン────!」

 

「で……なにあれ?」

 

庭で不動明王の真言を唱えている須美をオレは指差す。

 

「ラブレター貰ったと思ったら、

注意というか学校での態度への不満のお手紙だったんだとさ」

 

「うん、それは良いんだ。

……なんでオレの家の庭で護摩行やってんの?」

 

「知らね、広いからじゃない?」

 

「あ、えみやん。煎餅貰うね〜」

 

「あ、うんどうぞ。……で、なんでお前らも居座ってんの?

此処、オレの家だよね?」

 

……当たり前のように和室で寛ぐ銀と園子を見る。

いや、ほんとなんで居るの?

 

「いーじゃん。細かい事は気にすんなって!」

 

「それワカチコワカチコ〜♪」

 

「……ネタが古い」

 

「────紙切れ一つに色めき立つとは……なんたる不覚ッ!!」

 

 

いや……ほんと……なんでさ……?

 

 

────「「「「わすゆっ!」」」」────

 

園子の夢 その1────

 

「ねえわっしー、こっち向いて〜♪」

 

「いいえ、そのっち……私はわっしーではないわ」

 

「ほぇ?」

 

「ウェ!?ダリナンダアンタイッタイ!?」

 

「その名も……憂国の戦士、国防仮面!全員気をつけぇえい!!」

 

「ん〜……かっこいい〜♪」

 

「ロォオオオオオオック!!」

 

 

「────って言う夢を見たんよ。

わっしーがこんな服着てたの〜」

 

園子は夢の内容を語りながら夢で

須美が着ていた服を描いたノートのページを見せてくる。

……軍服?……国防仮面って何さ。

 

「あら、素敵な衣装ね」

 

「ロックだなー!」

 

「えぇ……?」

 

────「わすゆ。らしい」────

 

「ヒャッホーイ!そーれ行くぞおお!」

 

「ミノさんはしゃぎすぎ〜♪」

 

銀と園子がプールではしゃいでるのを遠目に見ながら

ボーッと空を眺める。

 

そう、オレ達は今、貸し切りプールに休暇で来ているのである。

 

銀と園子はオシャレな可愛い系の水着だが、

須美は何故かスクール水着と帽子だった。

……センスはないけどなんでしょうかね。

その……胸の部分の平仮名で書かれた[わしお]の名字が

凄くいやらしい雰囲気を醸し出していると思うのは

オレの気の所為でしょうか?

 

え?オレ?

赤いボクサーパンツ型の水着に、白黒の長袖のジャージを上に着ている。

 

長袖なのは……早い話、腕の浅黒い肌に気付かれて欲しくないからだ。

これが最善だと思ったのである。

 

「おーい、須美。準備運動なんてしてないでこっちに来いよ!」

 

「嫌よ、準備運動はしっかりしないと。水の事故が危険なんだから!」

 

「須美は真面目だなぁ……士郎は入らないのかー?」

 

「オレは気にしなくて良いよ。

この後の事も考えたら浸かるぐらいで丁度良い」

 

そう、この後交流会の出し物についての準備があるのだ。

その事も考えると此処で体力を使うのは得策ではない。

それに、あまり今の自分の体を見られたくないってのもある。

 

「よいしょっと……冷たくて気持ち良いわね……」

 

「ふと、思ったんだけど……

もし今、敵が来たら私達、水着で出撃しないといけないのか?」

 

「そうなるんじゃないのかな〜?」

 

「それはそれでなんだか嫌ね……」

 

「だな……」

 

……ふむ、何故だろう。

こちらを銀と須美が見つめている気がする。

 

何かオレがしただろうか?

 

「アレ見た感じ、万が一は多分ないんだろうけど……

それはそれで意識されてない感じがしてやだよなぁ」

 

「分かるわ。銀」

 

「だよね〜、ミノさん、わっしー」

 

へっくし……。

風邪を引いたのだろうか、何故かくしゃみが……。

 

「よし、こうなったら憂さ晴らしの競争だ、須美!」

 

「言ったわね、銀。負けないわよ!」

 

「二人共、オリエンテーションが

この後あるから程々n……わわわ!?」

 

「うおおおおおおおお────!!」

 

「あー……あれは聞こえてない感じかな〜……」

 

……元気が良さそうで何よりである。

しかし、銀のヤツ……あんなに勢いよく泳いでいて

出し物の準備とかの時大丈夫なのだろうか。

 

────「わすゆ だゾッ♪」────

 

「だふー……」

 

「完全に疲れ切ってるじゃないか……」

 

銀が机に顎を乗せ、クレヨンで白紙の型紙に色を塗っていく。

紙芝居を少し利用したモノがオレ達が新入生に見せる出し物だ。

オレと須美と園子が衣装を裁縫で作り、銀が紙芝居を製作している。

 

「ミノさん、プールではしゃぎすぎるから〜」

 

「何のこれしき!まだまだ……だふー……」

 

「やっぱり脱力してるじゃないか……」

 

ちなみに衣装は軍服で行くらしい。

軍服と帽子などは須美が既に調達している。

今縫っているのは残ったマントだ。

……しかし、須美はいったい軍服を

何処から調達したのだろうか。謎である。

 

須美が着る服が海軍式、園子が着るのが陸軍式。

そして何故かオレだけ

よく歴史の教科書で見る

肩や袖に金の装飾が施されている派手めの黒い将校の服。

 

……なぜオレだけ将校の服なのだろうか?

 

「ありがとう……」

 

「「「ん?」」」

 

「三人のおかげで……素敵な出し物が出来そうだから……」

 

少し恥ずかしそうに頬を赤らめる須美。

……感謝されたからには、やりきるしかないか。

 

「頑張らないとな。園子、銀、須美」

 

「うん!」「ああ!」「ええ!」

 

────「わすゆだよ〜♪」────

 

ワイワイガヤガヤと盛り上がる中、

外で待機するオレと園子と須美。

……これ着る意味あるのだろうか。

 

「もうすぐね……準備は良い?」

 

「台詞も覚えたしバッチリだよ〜♪」

 

「………問題ない」

 

やっぱりオレ、着なくて良いと思うんだ。

そんなやり取りをしていると

一年生達が叫ぶ。

 

「「「「「国防仮面ー!!」」」」」

 

「行くわよ……二人共!」

 

「おー!」

 

「はぁ……」

 

須美が勢いよく、扉を開ける。

そして……

 

「国を護れと人が呼ぶ!」

 

「愛を守れと叫んでる!」

 

「全員気をつけ……!!」

 

「「「我ら、憂国の戦士!!国防仮面見参!!!」」」

 

「「「「わあああああああああ!」」」」

 

オレ、園子、須美で敬礼する。

うん、黒板に富国強兵と書かれてたりするのはノーコメントで。

一年生が盛り上がってるのは特撮をリアルで見てる感覚だからだろう。

 

「さぁ、今日は皆で楽しく体操しながら

国防の仕方を学んでいきましょう!」

 

「さぁ、立って立って!」

 

二人の台詞の後に、銀がスマホで予め作っていた曲を流す。

……ちなみに後ろの楽器関連の編集はオレがしました。

歌うのは言わずもがな、鷲尾 須美。

タイトルはそう、……国防体操。

 

国防体操

うた:わしお すみ

 

『本日ハ晴天ナリ。之ヨリ、国防ヲ開始シマス』

 

「お友達とぶつからないように気を付けてね〜、行くよ〜?」

 

園子と須美がマントを投げ捨てると同時に、

オレは銀の居る方へ移動する。

 

そして、軽快な軍歌に使う楽器で音が流れ出し、

二人が体操に入る。それを銀と共に眺める。

 

ちなみにだが、軍刀の刃の部分を下にし、

柄の端を手で抑えながらオレは立っている。

なんというか偉そうな感じで立てと言われたので

オレの知る青い騎士の立ち姿を真似てみたのである。

 

「士郎は踊らないんだな」

 

銀が気になったのかこちらを見てきて、問い掛けてくる。

 

「服が将校……つまり偉い人だから

踊らずに見ろと須美から言われたんだよ……」

 

「……頑張れ」

 

「オレ、その励まし要らないと思うんだ」

 

そんな会話をしていると、曲が終わる。

そして一年生達が

 

「「「「「富国強兵!!」」」」」

 

「………頭痛い」

 

富国強兵と叫び出して、思わず頭を抱える。

……いや、ほんと……須美の馬鹿。

 

 

 

「やり過ぎ!」

 

「「「すいません……」」」

 

「ほんとごめん……安芸ねえ……

阻止すべきだった……ごめんなさい……」

 

終わった後に、安芸ねえに

お叱りを受けたのは当然の結果である。

……阻止すべきだったよ、ほんと。

 

ちなみに、軍服と軍帽、軍刀は

全部安芸ねえに没収されましたとさ。

当然だな。うん。

 

────「わすゆ!です!」────

 

園子の夢 その2────

 

「フハハハハ……貴方達は下級生を洗脳した責任として

一週間、うどんを食べる事を禁止します!」

 

「そんな……ロックな……!?」

 

「冗談……ですよね……!?」

 

「ウェ!?ウソダドンドコド-ン!?」

 

「あ……あ……あああああああああ!?」

 

 

「わあああああああああん!?

うどんが食べられなくなっちゃったよぉおおお!?」

 

「大変!すぐに病院に行かないと!!」

 

「お前ら落ち着け……」

 

「……やれやれ」

 

園子と須美のやり取りに困惑するしかないオレと銀だった。

……またとんでもない夢を見てるのかコイツ。

 

 

あ、後日無事にうどんは食べれました。

それと安芸ねえからしっかり軍服などは返してもらえました。

 

……オレは預かって貰ったままにしてるけどネ。

 

────────

 

色々あって休日。

暇しているが、須美達いつものメンツと

時間があったら遊ぶ約束をしており

今はイネスに来ている。

 

三ノ輪 銀『今、家族と買い物中!』

 

乃木 園子『私は近くをうろうろしてるよ〜』

 

『オレはフードコート辺りに居るぞ』衛宮 士郎

 

鷲尾 須美『そのっちは迷子になったらすぐに名前を連呼するのよ?』

鷲尾 須美『銀はお疲れ様』

 

乃木 園子『乃木園子です』

 

乃木 園子『乃木園子です』

 

乃木 園子『乃木園子です』

 

鷲尾 須美『既に迷子!?』

 

……チャット内ですでに迷子だった。

えっと、園子が居るとするならあそこか。

 

 

乃木 園子『あ、えみやんだ。走ってきてる』

 

『乃木園子を確保、これより誘導に入る』衛宮 士郎

 

三ノ輪 銀『士郎の行動が早い……』

 

鷲尾 須美 『さすがね……』

 

『オカンとか言うなよ。泣くぞ?』衛宮 士郎

 

三ノ輪 銀『泣くのか!?』

 

結局、オレは園子と一緒にイネスの外まで出て

銀の家族との買い物が終わるまで待機する事にした。

園子を放っておいたら何が起こるか分からないしなぁ……

 

「えみやん、どうして頭を抱えてるの?」

 

「なんでもない……」

 

「ほぇ〜?」

 

「……はぁ」

 

ダメだなこれ……泣きたい。

 

────────

 

「結局集まっちゃったね〜」

 

「だなー」

 

「士郎くんがそのっちを見つけてくれて

誘導してくれたから良かったけど……どうなるかと思ったわ」

 

「ほんとだよ……イネス内に居てくれて良かった……」

 

「お疲れ様……」

 

……いや、なんだろう。無駄に疲れた。

 

「銀のご両親に御挨拶はしなくても良いのかしら……」

 

「良いよそういうの……なんか小っ恥ずかしいし……

あー……でもちょっと待ってて」

 

次男の金太郎が泣き出してしまったようで、銀はそっちに行く。

 

「素敵な家族だよね〜」

 

「そうね……」

 

「……あぁ、そうだな」

 

凄く幸せそうに笑っている銀を見る。

……良い笑顔だ。本当に。

 

「えみやん、なんだか幸せそうだね」

 

「銀の何を見て笑ったのかしら?」

 

「いやそういうんじゃないって……ただ……」

 

「「ただ?」」

 

「……いや、なんでもない」

 

……戦う意味を再確認しただけだ。

なんて事ない……普通の日常を守る。

それが戦う意味。だといいな……

 

×

 

「カーッ!遊んだ遊んだ!」

 

「えみやんとミノさん凄くカラオケで熱唱してたね〜」

 

「久しぶりに歌い尽くしたな……」

 

「むぅ……何故点数が低かったのかしら。

我ながら会心の出来だと思ったのだけど……」

 

「いや……さすがにあずさ2号を歌うとは思ってなかったぞ……」

 

「須美って選曲古いよなぁ……」

 

そう、須美は演歌を熱唱していた。

オレが『黄金の輝き』銀が『たましい』などを歌う中、

須美だけ演歌だった。

 

「む、演歌は日本の文化よ。

絶やしてはいけないと思うわ!」

 

「あーはいはい……分かったよ須美……」

 

熱弁しようとする須美の言葉を銀は遮った。

いつも見る交差点に着く。

なんとなくだが、この交差点は苦手だ。

車が良く通るからとかの理由ではない。

……ここに着くと、

三人と離れ離れになりそうな気がしてしまうのだ。

 

まるで、それぞれが別々の道を辿るようで────

 

「……っと、士郎は此処でお別れだな」

 

「……家の方向が違うから仕方ないとは思うけどな。

というか……オレだけ三人より遥かに遠いの酷くないか?」

 

「それは家のせいとしか言えないわね……」

 

「おのれ我が先祖……

何故乃木家とか鷲尾家とか三ノ輪家より遠くしたんだ……!」

 

少し顔を顰めてしまう。

一番最初に別れるのはやはり寂しいのだ。

オレもそういうのは気にする。

 

即座に遊びに行けないのは辛い。

讃州の方だしな……オレ。

 

またな(・・・)

 

「ッ────」

 

「……須美?」

 

別れようとすると、須美がオレの手を掴んでくる。

 

「……ぁ……ごめんなさい!?」

 

「おやおやー?須美さんや……

もしかして士郎くんが恋しいのかい?」

 

「そうなのか?」

 

「そ、そういうのじゃ……!?」

 

頬を赤くして目を逸らされた。

なんかそれはそれで傷付くな……。

 

「ただ……その……怖くて」

 

「怖い?」

 

「えぇ……士郎くんが何処かに行ってしまいそうで……」

 

「────ッ」

 

少し、須美を侮っていたかもしれない。……参ったなぁ

────いつか、俺がオレじゃなくなるかもしれない。

そうはなりたくない。だけど、運命とはいつも残酷なんだ────

 

「……全く、須美は心配性だな。

安心しろって、友達を置いて行くほどオレは薄情じゃない」

 

苦笑しながら、

オレは須美の頭に掴まれていない方の手を置いて撫でる。

 

「……本当に?」

 

上目遣いで須美は見てくる……

全く、そんな顔は卑怯だろ────

 

「あぁ、約束だ。な?」

 

「……約束……そうね……心配し過ぎたかもしれないわ」

 

「うーん……そうだ!じゃあえみやんの家でお泊まり会しようよ!」

 

唐突に園子がそんな意見を出してくる。

 

「いきなり!?しかもオレの家でか!?

いや、広いし別に良いけどさ!?」

 

「あ、良いんだ……」

 

「よーし、じゃあ今日はえみやんの家でお泊まり会だ〜!」

 

「「おーっ!」」

 

「って、全員で来るのかよッ!?」

 

────どうやら今日は少しだけ賑やかな夜になりそうだ。




ベゴニア
『幸福な日々』『親切』etc..

国防仮面出しちゃったけど良かったのか……
曲は歌詞ではなくタイトルはOKとの事なので国防体操ってタイトルだけ書いときました。
……不動明王の真言とかは……知ら)ないです。

ではでは、良いお年を。


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第10話 幸運E

あけおめ&ことよろでございます。(激遅新年挨拶)

今年)初投稿です。

勇者の章の終了までにわすゆ編は終わらせようと思ってたのにこれだよ。
これも全部MHWとEDFとかその他諸々が悪いんだ……(責任転嫁)

勇者の章は最高でした……
おかげでプロットと設定も纏まりましたぞ。

のわゆ買ったし……前日譚も書かなきゃ(使命感)


1/18日、文章を追加しました。


……目が覚めてしまった。

あの後、結局士郎くんの家でお泊まりする事になり

夕食後、どんちゃん騒ぎして疲れてぐっすり寝てしまったのだが……

 

深夜に目は冴えてしまった。

 

「あれ……士郎くん……?」

 

そして、よく見ると……布団から士郎くんが居なくなっていた。

────何処に行ったのだろうか。

襖を開けて、士郎くんを探しに行こうとすると

寝ている二人の寝言が耳に入ってきた。

 

「Zzz……ガオー……偉いぞマイブラザ……うへへ……」

 

「わぁ……サンチョが……骸骨のお面着けてるぅ……スピー……」

 

「銀はともかく……そのっちは

いったいどんな夢を見ているのかしら……」

 

相変わらず読めない娘だと思った。

枕が髑髏の仮面を着けてる絵面は……なんだかシュールね……。

 

「……って、そうじゃなくて……士郎くんを探さなきゃ」

 

そっと襖を閉めて部屋を出た。

そして、直ぐに士郎くんは見つかった。

 

……いつもの縁側にぼーっと空を見上げて座っていた。

何をしているのだろうか……。

私は少し気になって、士郎くんに話し掛けた。

 

「士郎くん、こんな所で座ってると風邪を引くわよ?」

 

────────

 

ぼーっと縁側で月を見上げる。

……綺麗な月だ。

そういえば……あの時もこんな月だったな

 

「士郎くん、こんな所で座ってると風邪を引くわよ?」

 

ふと、後ろから聞き覚えのある声が耳に入った。

────そういえば、オレの家に宿泊してたんだったな。

 

「……起こしちゃったか、須美?」

 

「いいえ、たまたま目が覚めちゃったのよ。

そしたら士郎くんが布団に居なかったから

何処に行ったのか気になっちゃって……」

 

「あー……悪いな、居なくなってて……

……銀と園子は?」

 

少し、申し訳なく思って謝罪した。

 

そして、他の二人はどうなのか気になって、須美に聞いてみる。

 

「ぐっすりよ。……そのっちは相変わらず変な夢を見てるみたいだけど」

 

「またか……というか、変な夢って認識はあったんだな……」

 

「興が乗って国防仮面ってやったけど……

アレは元々そのっちの夢だったし……」

 

「そういやそうだな……」

 

互いに顔を見合わせて、クスッと笑ってしまった。

相変わらず園子には色々と振り回され、苦労させられてしまうな……

 

「それはそうと、士郎くん。

布団に戻らないと!夏の夜は冷え込むのよ?」

 

「分かってるよ……なんだか此処が懐かしくてな……

つい感傷に浸っちゃったんだよ」

 

「懐かしい……?」

 

「あぁ……なんだか懐かしいんだ。

昔、此処に座って誰かの夢を聞いた気がする」

 

「夢?」

 

「あぁ、夢だ。将来の……な」

 

須美は、不思議そうにこちらを見つめる。

そうだ、此処で夢を聞いたんだ────

 

「『僕はね……正義の味方になりたかったんだ』……か」

 

「……それが士郎くんの聞いた夢?」

 

「あぁ……オレの聞いた『夢』だ」

 

「正義の味方……御国を守る人かしら?」

 

……そんな生易しいモノじゃない。

彼が目指したのは……誰にも到達できないモノだ。

 

「……万人の正義の味方……らしい」

 

「……それは不可能よ、士郎くん。

正義と悪は表裏一体よ。自分が正義だと思っても……

他人からすれば悪である事は良くある事だわ」

 

「────ッ……ああ、分かってる。

分かってるよ……それぐらい……

それにヒーローは期間限定で……時期が過ぎれば名乗るのが難しくなる……

そんな事……もっと早くに……ってずっと思ってた。教えてくれたのになぁ……」

 

理解していた。心の奥底ではずっと理解していたのだろう。

そんなこと当たり前だと。

 

「士郎くん……?」

 

「後悔してたのかもな……

ずっと正義の味方になろうとして……

小を切り捨て大を救い続けていたからこそ……」

 

「…………正しい選択かもしれないけど。

それはきっと……いつか後悔すると思うわ。

……昔の日本を知れば理解出来る事だけど────」

 

須美は何処か重々しく、語った。

歴史に詳しくなると……

そういう事も理解出来るようになるものか。

 

「……だな」

 

「そういえば……士郎くん。『錬鉄の英雄』って知ってるかしら?」

 

「あぁ、アレか。よく知ってるよ

オレ達には知らされたが……西暦の勇者と共に戦った英雄だったそうだな。

それがどうかしたのか?」

 

「士郎くんの話を聞いていたら、それを思い出しちゃって……」

 

「────そういう事か」

 

『錬鉄の英雄』

それは、歴史のワンページに刻まれた無銘の英雄の物語。

人を選ぶ作品だが、それでも根強い人気があるのは彼の目指した夢が理由だろう。

 

その英雄がどんな力を使っていたのかは不明だが

西暦時代の英雄らしい。

紅い外套、白髪の髪に褐色の肌。

そのどれもが……あの男と共通していた。

そして何よりもその英雄が目指していたものが、あの男を連想させた。

 

錬鉄の英雄は、正義の味方を目指していた。

 

きっと……いや、ほぼ確信している。

錬鉄の英雄とはあの男なのだろう。

物好きも居るものだ。無銘の英雄の物語を書物として書くのだから。

 

「「……………」」

 

会話が途切れた。

……凄く気まずい。

 

「そ、そういえば……士郎くんって大赦だと

そのっちと近い家柄になるのよね?」

 

「……あ、ああ。

……西暦の終わりに戸籍の襲名で出来た家柄らしいけどな」

 

そう、そこが特殊なのがオレの家柄だ。

戸籍を丸ごと変えるなんて無茶、普通は通じない。

 

「戸籍……どうして戸籍を襲名したのかしら?」

 

「……詳しくは知らないが、

『衛宮』という姓には神聖な意味があるらしい」

 

「そうなの……?」

 

「ああ、それで『士郎』って名前にも神聖な意味があるってさ。

こっちは乃木家で言う『若葉』、上里家で言う『ひなた』に近い意味らしい」

 

「西暦の勇者様の名前……それに近い意味……

士郎くんは神樹様に選ばれたのかしら……だから樹海に……」

 

「さぁな……そこまではオレも分からん」

 

そう、神聖な意味がある。とは聞いていたが

オレがどうしてあの男の力を使えるのか、

勇者でもなかったのに樹海化に巻き込まれたのか。

それは不明なままである。

大赦の人もその原因を調べているそうだ。

 

「まぁ……今は考えても仕方ないだろ。

……そろそろ戻るか。いい加減寒くなってきたし」

 

「そういえばそうね……なんだか肌寒いわ……」

 

須美とオレは少し冷えた身体を温めるように、

少しだけくっついて、寝室にしている和室に戻った。

 

ちょっと恥ずかしかったのは内緒である。

そして、須美が少し顔を赤くしていたのは

きっと寒かったからだと思いたい。

 

────────

 

ある日の放課後

 

「ありがとね、黒板係のお仕事手伝ってもらって」

 

「いいっていいって。保健係は普段楽してるし。

須美の並ばせ係はビシバシだけド……」

 

オレ達の脳内でいつもの須美とついでにラッパの音楽が流れた。

 

『朝礼に向かいます。私語をした者にはお灸を据えます!!』

 

………こわい。

 

「お灸ってワード滅多に聞かないよなぁ……」

 

「うちの学校は軍校かよ……」

 

思わず頭を抱えてしまう。

 

「御役目には常に全力投球よ」

 

「全力過ぎるのはどうなんだよおい……」

 

「とくに!士郎くんは学級委員なのだし、

もっとしっかりすべきだと思うわ!」

 

「うげ、余計な事言って飛び火した!?

というか、好きでやったわけじゃないし……

なんかクラスの大半から推薦された結果こうなってるだけだからな!?」

 

「────流石は神樹館のオカンね」

 

「またの名を歩く親切マシーン」

 

「うるせー」

 

余計なお世話である。

というか、オレの視界に困ってる人が入ってくるのが悪い。

よって、オレは悪くねぇ!

 

「とか言いつつ、ちゃんと助ける辺り捻くれてるよなぁ」

 

……だって、放っておけないし。

 

「えみやんってそういうの見ちゃうと無視できない人だもんね〜♪」

 

……くそぅ、否定できん。

 

「そういえば、御役目と言ったら

四体目のバーテックスが来ないね?」

 

「もうすぐ遠足なんだよなぁ……その時は来ないで欲しいね」

 

「銀。人それをフラグと言うんだぞ」

 

「あ……って、物騒なこと言うのやめろって士郎!?」

 

いやだって、こういうのって願えば願う程……そうなるし。

フリってヤツ。

かつてのトリオ芸人の押すなよ!絶対押すなよ!!みたいなヤツでしょ。

 

「その遠足なのだけど……街を離れて大丈夫なのかしら?」

 

「勇者になれば大橋まであっという間だし大丈夫だよ♪

……来て欲しくはないけどね」

 

あ、二本目が建った。

 

「えー、二本目のフラグが建ちましたが、

いかがお過ごしでしょうか。オレは幸先不安です」

 

「だから士郎、物騒な事言うなって……

それに、考え過ぎてちゃ何も出来なくなるぞ?」

 

「一理あるわ……」

 

「前回のな……」

 

オレがボソリと呟くと須美はうっ……と苦い表情をする。

園子の臨機応変の策のおかげでなんとかなって一安心ではあったが。

 

「まあ、何かあってもこの勇者様がなんとかするから!」

 

「わぁ、ミノさんかっこいい!!」

 

「人それをフr「そりゃもう良いって!?」……チッ」

 

「舌打ち!?揶揄ってただろ!?」

 

「ハッハッハッハッハ」

 

「目を逸らして笑うな!絶対、揶揄ってただけだろおお!?」

 

銀がオレの身体をポカポカと叩いてくる。

はっはっは、そんな攻撃痛くも痒くm……ちょっと痛い。

 

「アイタタ……ちょっ!?銀、お前軽く本気で叩いてきてるだろ!?

痛ッ!?痛いって!?アダダダダ!?」

 

「………フフッ。そうね。私達四人なら大丈夫よね。

分かった、ありがとう!」

 

……そうだ。きっと。大丈夫。

 

何があっても、オレが守る。

例え、この身を犠牲にしようと────。

 

────

 

「はぅ〜……手の豆がチクチク痛いぃ〜……今日の鍛錬大変だなぁ……」

 

園子の手には見ただけでも痛そうな豆があった。

────オレはそもそも剣の為なってはいない。

というより、慣れた持ち方をしてるからだろう。

 

「槍の握り方を変えてみるとか?」

 

「先生が変えてもどうにもならないって……」

 

「握り方じゃなくて、持ち方……

槍の構え方を変えてみるってのも良いかもしれないぞ?」

 

「「構え方?」」

 

「あーっとだな……」

 

架空の槍を握って、オレは構える。

見慣れた相手の槍の握り方だ。

 

「私の構え方と少し違うね〜」

 

「ああ、ちなみにこれだと……勢いよく突けるし……

投擲なんかもしやすいな。後振るのも楽だ」

 

スッと、架空の槍をイメージしながら

あの相手の使い方を真似て、振るう

 

「おー……今度参考にしてみるよ〜」

 

「ま、オレの知る中じゃ槍の達人の使い方だし……無理しないようにな」

 

「えへへ〜……♪」

 

オレは苦笑しながら、園子の頭を撫でる。

……流石にこれを参考にすると大変な事になる気もするのである。

 

なにせ因縁の相手で

神話的には主役級の英雄の槍の使い方だしなぁ……

 

と、そこに園子の机に三冊の辞書らしきものが置かれた。

 

え────なにこれ────?

 

「三人にはこれを渡しておくわ!」

 

「す、須美サン!?なんスカ……コレは!?」

 

「見ての通り、遠足の栞よ!」

 

……栞らしい。ウッソだろお前!?

なんだこの分厚さ!?辞書が可愛く見えるレベルだぞおい!?

 

「や……栞っていうか……六法全書?」

 

「データ版は三人の端末に送っておいたわ!」

 

「やだ、奥さん用意周到……」

 

「こ、これ……わざわざ作ったンスカ!?」

 

重そうに銀は栞(?)を抱える。

いやまぁ……六法全書の分厚さ超えてるぞコイツぅ……

 

「張り切って、夜更かししてしまって……

予定より随分量が増えたわ!」

 

「自慢して言う事ではないからなそれ!?」

 

「わっしーは凝り性さんと言うか、のめり込むタイプだよね♪」

 

「将来、須美の旦那のなる人は幸せだけど色々大変そうだな!」

 

「未来の名も知らぬ須美の旦那に黙祷しておこう……」

 

「なんでそういう話になるのよ?」

 

少し、ムスッとした顔で須美は見つめてくる。

 

「この三ノ輪 銀のような男が居ればなあ……」

 

「!?」

 

「わぁ……お似合いの二人だね〜♪」

 

……お似合いなのだろうか?

 

「それとも〜?……須美さんは士郎みたいな殿方の方が好みかなぁ?」

 

「なななな、にゃにを!?」

 

「待て、なんでそう言う話になる。

……そもそも、須美とオレじゃ不釣り合いにも程があるだろう。

オレより良いヤツなんて探せば普通に居るだろうし」

 

「「「………」」」

 

「おい、なんだそのジト目は。

オレが何か悪いこと言ったみたいなジト目やめろよ!?」

 

……なんか悪いことオレ言いましたか!?

 

「前途多難だなぁ……」

 

「だねぇ……」

 

「………。と、ともかく!

この栞を活用して、遠足の済ませておきましょう!

……遅れるとお灸よ?」

 

ヒエッ。というかこの前のお祓い棒といい

そういうの何処から取り出してるんだよお前!?

 

「そういうの何処で売ってるの?」

 

「イネス」

 

イネス って すげー !(GB並感)

 

「ナーイスイネース!イェーイ!」

 

「い、いぇーい……?」

 

「yeah!!」

 

須美と銀はハイタッチをする。

 

さて、問題は……

 

「これどうやって持って帰ろうか?」

 

「「「…………」」」

 

……案なしかよ。

というか須美さんや。考えてなかったのかよ。

 

「……私の車で、ミノさんの家と、えみやんの家まで運ぶ〜?」

 

「「ウッス!お世話になります園子様!!」」

 

銀とオレは、園子に深々と頭を下げるのだった。

流石お嬢様……ありがとう……園子……!

 

────────

 

「シートよし、栞は置いといて……うん、こんなもんかね」

 

準備は一通り終わらせた。

よし、これなら問題ないかな。

 

ピロリとスマホに着信が入る。

チャットの方か。スマホのチャットを見る。

 

三ノ輪 銀『遠足の用意がおわりましたわ』

 

乃木 園子『まぁ奥様、私もですわ\(・ω・ )』

 

鷲尾 須美『ビニール袋も要りましてよ』

 

『こちらも終わりましたぞ。奥様方』衛宮 士郎

 

三ノ輪 銀『お疲れ様ですわ』

 

乃木 園子『お疲れ様ですわ、セバスチャン』

 

『え?』衛宮 士郎

 

鷲尾 須美『え』

 

三ノ輪 銀『ふぁ!?』

 

乃木 園子『?』

 

乃木 園子『えー違うのー?』

 

『違うわ!?』衛宮 士郎

 

乃木 園子『ふふーん。じゃあ、無理矢理セバスチャンにしてやるぜ〜』

 

『うわ!?何をするやめ』衛宮 士郎

 

『くぁwせdrftgyふじこlp』衛宮 士郎

 

三ノ輪 銀『あ、やられた』

 

鷲尾 須美『やられたわね』

 

『園子お嬢様には勝てなかったよ……』衛宮 士郎

 

三ノ輪 銀『即オチ2コマ』

 

……相変わらず、皆ノリが良いなぁ。

オレもノリノリでやった身ではあるけど。

 

さてと、そろそろ明日に備えて寝るかぁ……

安芸ねえもぐっすり寝てるし。

 

『そろそろ寝る。おやすみー』衛宮 士郎

 

乃木 園子『おやす〜♪』

 

三ノ輪 銀『すみー』

 

鷲尾 須美『呼んだかしら?』

 

三ノ輪 銀『呼んでねぇよ』

 

『呼んでねぇよ』衛宮 士郎

 

鷲尾 須美『二人揃って言わなくても良いじゃない……』

 

乃木 園子『わっしー……ヨシヨシ(。´・ω・)ノ゙』

 

鷲尾 須美『うう……そのっちの優しさが心に染みるわ……』

 

三ノ輪 銀『そこまでか!?』

 

乃木 園子『わっしーは時々面白いけど滑っちゃうと台無しだよね〜♪』

 

鷲尾 須美『まさかの追い討ち!?……ごふっ』

 

三ノ輪 銀『あ、須美が死んだ』

 

『この人でなし!』衛宮 士郎

 

尚、しばらくチャットは終わらなかったのである。

あるあるだよね。

 

 

 

────────

 

 

 

 

 

「ゴホッ……ゴホッ……」

 

「37.6℃……夏風邪ね。今日は休みなさい。士郎」

 

「……ち、ちくしょう……よりによって……

ゴホッ……遠足当日に……ゴホッ……ゲホッ……」

 

……夏風邪である。

笑えない……前日まで普通だったのになんで……当日で……

 

「私の方から連絡は入れておくから……残念だけど、体調優先よ」

 

「くそぅ……六年生最後の遠足が……ゲッホ……

なんでさ……ゲホッ」

 

「気持ちは分かるけど、ゆっくり休む事。良いわね?」

 

「わかってる……安芸ねえこそ……ぴーまん……

焼きそばでちゃんとたべろよ……」

 

「うっ……善処します……」

 

「それ……出来ない人の……げほっ……げほっ……」

 

……どうやら、神様。というか

神樹様はオレに遠足に行くなと言っているらしい。

 

ちくしょう……なんでさ……

 

 

────────

 

 

士郎が夏風邪で布団で寝込んで数時間程後────

 

昼食で焼きそばを作った

須美、園子、銀の三人は木の椅子に座って焼きそばを口に運ぶ。

 

「くぅ……!美味い!最高!!カブト味だな!!」

 

「んぐ!?焼いてないから!!?」

 

先ほどの園子の状態を思い出し、須美は慌てた様子で否定する。

それもそのはず、焼きそばの調理中に

園子はカブトムシを身体中に纏っていたのだ。

それも大量に。黒光りするGにしか見えない程に。

それを見た後ではそんな事を言われると、

慌ててしまうものである。

 

「ん〜、美味しいよ〜♪」

 

「園子はもっと良い肉を食べてるんじゃないのか?」

 

「このお肉の方が美味しいよ〜?」

 

園子は銀の言葉に不思議そうに首を傾げながら、

焼きそばの入った皿を見つめる。

 

「皆で食べてるからじゃない?」

 

「おぉ〜!」

 

須美の返しに、それだ。と言わんばかりに目を輝かせる園子。

その時、銀が気付いてハンカチを取り出し園子の口についていたソースを拭き取る。

 

「園子、口についてるぞー」

 

「ありがとう、ミノさん♪」

 

園子は嬉しそうにお礼を言う。

 

「はぁ……」

 

「い、忙しいテンションだな……」

 

「わっしーも、ミノさんも、えみやんもお料理出来るのに……

私は出来ないから……ふと恥ずかしくなったんだよ〜……」

 

落ち込んだ様子で理由を述べる園子。

 

「焼きそばぐらい園子も作れるさ!」

 

「意外なのは士郎くんよね……」

 

「それは否定できないな……

しかも挙句の果てに掃除洗濯も得意だし」

 

士郎がエプロンとバンダナを着用し、

箒を構えたり、フライパンを手に持っている姿を三人は安易に想像できた。

 

「改めて考えると士郎の家事スキルとんでもないよなぁ……」

 

「そうね……この前の宿泊で発揮してくれたし……」

 

そう、三人が士郎の家に泊まった時、士郎が三人の分も料理を作ったのだ。

親戚である安芸先生でなければ士郎の両親が作ったわけでもなく。

士郎自身が作ったのだ。

……あの男、やはりオカンである。

 

「じゃあさ!今度の日曜日に皆で教えて!」

 

「「良いけど?」……お、ハモった♪」

 

園子の提案に銀と須美は揃って了承した。

 

「士郎も誘うべきだよなぁ……」

 

「料理に関しては厳しそうだけど大丈夫かしら?」

 

「有り得そうだな……」

 

『ふっ、オレを満足させたければ(ry』

 

須美の言葉で

銀の脳裏に料理人の鬼と化した士郎が浮かんだのであった。

 

その姿を須美と園子も思い浮かべたのか

クスクスと笑う。

 

「ところで……先生!ピーマン残してない?」

 

「ギクゥ!?

ちゃ、ちゃんと食べるわよ!?苦手だけど……」

 

慌てながら、声と肩を震わせながら言ってくる安芸先生。

その様子に思わず、奇妙な目で見てしまう三人だった。

 

「前世でピーマンに何かされたのかな?」

 

「そうね……というより……銀、よく知ってたわね?」

 

「あー……士郎が体調崩したって連絡グループに入れた後に、個人チャの方で

『安芸ねえが焼きそばにある

ピーマンを残すかもしれないから、ちゃんと見といてくれ』って……」

 

そう言いながら、銀はスマホを取り出し

士郎との個人チャットの内容を見せる。

 

「ほんとね……」

 

「そういう時は、食べるとピーマンの精霊が

夜中に会いに来てくれると思うと楽しいですよ〜♪」

 

「そ、それはユニークな考えね……あ、ありがとう……

ス、スムーズに……食べられるわ……」

 

笑みを引き攣らせ安芸先生はお礼を言う。

園子は可愛らしいイメージの精霊を思い浮かべていたのだが……

安芸先生は怖いイメージの精霊を思い浮かべていた。

食べないと殺す!と言わんばかりのイメージの精霊を。

 

「先生に褒められたわね。そのっち♪」

 

「ご褒美にアスレチック制覇のベルは園子が鳴らしなよ!」

 

「ベル〜?」

 

 

「アスレチック!全面クリア〜♪」

 

「成し遂げたわね!」

 

カンカンカン。とベルの音が鳴り響いた。

 

────

 

「なぁ、須美!私達の街ってあっちか?」

 

「ええ、合ってるわ」

 

公園の端から景色を眺めつつ、

銀はイネスと大橋を探す。

 

「大橋やイネスは流石に見えないなぁ……」

 

「ミノさんは本当にイネスが好きだね〜♪」

 

「イネスは良いよー!なんたって────」

 

「中に公民館まであるんだから。でしょ?」

 

銀の言葉に続く形で須美が答える。

何度の聞いたからか、即座に答えれたようだ。

 

「へへ、当ったり〜♪」

 

「私も分かったよ〜♪」

 

「もうパターン読まれてきたかー……」

 

少し嬉しそうに銀は笑う。

 

「わぁ……私も読まれてる?」

 

園子がそう聞くと、須美と銀は

明後日の方向を遠い目で見ながら答える。

 

「そのっちは……読めない」

 

「ほえ?」

 

「きっと……いつまでも読めない」

 

「はぅ!?

……それはそれで寂しいよ〜!?」

 

落ち込む園子。

 

「大丈夫。流石に今の反応ぐらいまでなら分かるから!」

 

「ほんと!?やったぜ!Fooooooooooo!!」

 

「そっからの跳ね具合が予測不可能だ……」

 

「流石そのっちね……士郎くんの苦労が分かる気がするわ」

 

ハイテンションでそこらを跳びまくる園子に

思わず顔を引き攣らせる須美と銀だった。

後、このテンションに付き合っていた

士郎の苦労具合もある程度理解出来たらしい。

 

「ちなみに、須美については取扱説明書が

書けるぐらいに詳しくなったぞ?」

 

「あら、最初のページにはなんて書いてあるのかしら?」

 

「『結構大変な品物ですのでくれぐれもご注意ください』」

 

「め……面倒くさい人みたいな言われ方ね……

でも納得してしまう自分が居るわ……」

 

はぁ……と溜め息を吐きながらも納得してしまった須美だった。

 

「いーじゃん。奥行きがあって。

私のなんて新聞のチラシ並にペラいぞー?」

 

「そんな事ないわよ。分かりやすくはあるけど書く事はいっぱいあるわ」

 

「そ、そうか……?」

 

須美の言葉に

恥ずかしそうに頬を赤らめて座り込む

 

「これからも色々な一面を暴いて行こうと思うの♪」

 

「うへぇ……お手柔らかに頼むよ……」

 

更に恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「実は私ね。初めはミノさんが苦手だったんだ〜」

 

「いきなりなんだよー!?」

 

「私も同じよ」

 

「おぉおい!?」

 

園子と須美の意外な告白に慌てる銀。

今まで接してきて、苦手だったと言われてしまえば

誰であれ慌てるだろう

 

「ほら、スポーツ出来て、明るくて……

なんだか種族が違う気がして……

でも、話してみるとこんなに良い人なんだもん

わっしーも良いキャラだし♪」

 

「私はキャラ!?」

 

「あははは!なるほどねー。

たしかに話してみないと分からないよなぁ……こういうのは。

私と士郎なんて特にそれだったし」

 

「あら、そうなの?意外ね。

士郎くんとは元から仲が良いと思ってたわ」

 

銀と士郎の意外な関係に驚く須美。

 

「はは、まさか!それこそ最初は嫉妬から始まったしなー」

 

「嫉妬から〜?」

 

「ああ、ほら……私と士郎って意外とキャラ被ってるじゃん?」

 

「まあたしかにそうね……」

 

普段のやり取りから見ても明らかではあるが

波長が似たり寄ったりなのだ。

だからこそ意気投合する事が多く、二人は仲が良い。

そんなふうに須美と園子からは見えていた。

 

「それで……まあ、士郎も士郎でクラスの人気者だったんだよ。昔からさ。

人柄も良いし、料理もできるし……運動神経抜群だし、勉強もそこそこ出来るし。

……あの頃はほんと士郎に嫉妬して……ライバル視してよく突っかかってたなぁ

士郎からしたら絶対迷惑だった筈なのに……

突っかかる度にそれに付き合ってくれてたんだよ……

今思い出すと凄い苦労してたんだろうな……士郎」

 

申し訳なさそうな表情をして銀はボヤく。

知らなかった事実を知り、須美と園子は顔を見合わせて驚いた。

 

「じゃあ、ミノさんとえみやんが仲良くなった切っ掛けってなんだったの〜?」

 

「んー……切っ掛けかぁ……些細な事だったなぁ……

私が挑んだ勝負が結構無茶な事で……大怪我しそうになったんだよ。

それを士郎が身体張って助けてくれて……そっからかなぁ……

まぁ……恥ずかしい話……

それで惹かれたっていうより……惚れたんだと思う

『こんな迷惑かけてた私でも助けてくれるんだ』……って

王子様みたいな感覚だったのかも……」

 

照れくさそうに頬を掻いて銀は笑う。

 

「なんだか素敵ね。士郎くんと銀の仲良くなった切っ掛け。

……ちょっと妬けちゃうわ」

 

「だね〜……羨ましいな〜」

 

「恥ずかしい……忘れてくれぇ……」

 

顔を真っ赤にして蹲る銀だった。

 

「うぅ……と、とにかく!

これからも……ダチ公として、よろしく!」

 

「こちらこそ〜♪」

 

「ええ!」

 

三人はしっかりと手を取り合うのだった。

 

「しっかし……士郎にも見せたかったな……この景色」

 

「しょうがないわよ……夏風邪だもの……」

 

「昨日は平気そうだったから、驚いたよね〜」

 

「……そこが風邪の怖いところだよな

……前日まで元気だったのにいきなり体調を崩すって」

 

改めて、風邪の恐ろしさを再確認する三人であった。

ちなみにこの時、

『余計なお世話だ』と寝言で士郎が呟いていたとかなんとか……。

 

「そうね…………

ん?もしかして……この前の夜に……?」

 

須美は士郎が体調を崩す原因らしきものに心当たりがあるのか

顔を顰めるのだった。

 

────そして、言わずもがな。

須美の予想通り……先日の夏の夜に

外に出ていたのが士郎が夏風邪になった原因であったのは全くの余談である。




次回予告────

「銀を……お願い……」


「大丈夫だよ。後はオレが頑張るさ────」

「どうして……」


「生憎、まだ吐き気も頭痛も目眩も酷いもんさ」

「士郎!!」


「とんでもない貧乏くじをオレも引かされたものだな」

I am the bone of my sword────


「任せろって、爺さんの夢は────」

So as I pray────


第11話

■■の剣■(Unlimited■■■■■Works)


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第11話 ■■の剣■(Unlimited■■■■■Works)

秋原雪花ちゃん誕生日おめでとう!!(ギリギリ)

間に合って良かったゾ……


※ほんへは結構ヤバイかもしれないので心して見てくれるとありがたいゾ

あっそうだ。前回のお話に+で少しだけ追加したので見とけよ見とけよー


「私……お料理……教えて貰ってないよ……」

 

「そうよ……今度の……日曜日に……三人(・・)でって……」

 

……須美と園子が泣いていた。

そして、彼女達の目の前に居たのは……

 

右腕がない状態で、立ち尽くしていた

 

 

銀の姿だった────

 

 

 

────────

 

 

「ッ!?」

 

目が覚め、布団から飛び起きる。

 

「……夢、か。

にしてはやたらとリアリティーのある……」

 

頭を抑えて、溜め息を吐く。

……心臓に悪いな。あの夢は。

 

冗談でも見たくない類だ……

 

「……あー……まだ頭痛がする……。

やっぱりそんな簡単に症状が良くなる筈はないか……」

 

それでも、朝に比べればマシだ。

 

ふと、外を見ると空は既に橙色に染まっていた。

 

もう夕方か。

……結局、行けなかったな……遠足。

六年生最後の遠足……。

 

「………止まった?」

 

感覚的なものではあったが……

全てが止まった気がした。

 

遠くで鈴の音が鳴り響く────

 

「はぁ……マジかよ……

体調不良の時に襲来してくるか……」

 

四度目になるその鈴の音を聞きながら大きく溜め息を吐き

スマホの勇者システムを起動した────

 

 

────────

 

「だんだんこの景色も見慣れてきたなー」

 

「気を付けて、銀。そういう時が────」

 

「一番危ない。でしょ?大丈夫!

私の服は接近戦用で丈夫に作られてるから!」

 

「だからって、油断はダメよ!

アスレチックで怪我しそうになったのは忘れないわよ!

それに、今回は士郎くんの援護はない事が前提だもの!」

 

「あー……そうだった……いつもの感じじゃダメだな……」

 

改めて、士郎がどれほど頼りになっていたのか自覚させられる。

あの追尾型の剣といい……

士郎のおかげでなんとかなった戦いが多い。

 

……気を付けないと。士郎が怒ってきそうだ。

 

「ミノさん、最近わっしーや

えみやんに注意されるような事態と言ってるみたいだよ〜?」

 

「あはは、なんだか癖になってさ。二人に怒られるの」

 

「勘弁して欲しいわ……

オカンみたい。とか思ってたら士郎くんに怒られるわよ?」

 

おっと、そうだったいけないいけない……。

結構気にしてるもんなぁ……士郎。

 

「っ!来たよ!!」

 

「「!!」」

 

園子の言葉で私と須美は大橋の奥を見て武器を構える。

 

「うぇ!?二体!?」

 

「……そう来たか」

 

思わず、顔を顰める。

黄色のバーテックスと赤いバーテックス……

一緒に来るなんて厄介だな

 

「力を合わせれば、二体だろうと大丈夫よ!」

 

「ああ、そうだな!!」

 

須美の頼りがいのある言葉に私は同意する。

……そうだ、皆で戦えば大丈夫!

 

「私とミノさんがそれぞれ一体相手をするから、

わっしーは遊撃で、援護してね!!」

 

「任せて、そのっち!」

 

「了解!うっし、行くぞ!!」

 

黄色のバーテックスが尻尾らしきもので突き刺そうとしてくる。

それを園子が盾で防ぐ

 

……よし、じゃあ。

 

「私は気持ち悪い方と戦う!!」

 

「どっちも気持ち悪いと思うんよ……」

 

私の言葉に園子がそんなツッコミを入れる。

いやまあたしかに、どっちも常軌を逸した姿で気持ち悪いな……!

 

「それッ────!」

 

尾に鋏のようなものがついている赤いバーテックスと戦う。

うん、分かりやすい……

 

「こいつは私向きだ!!」

 

斧を赤い盾ような部分に叩きつけて確信した。

間違いなく、私と相性が良いな!

 

「ナイス、須美!!」

 

その時、顔面らしき部分に須美の矢が直撃し、

赤いバーテックスが体制を崩す。

タイミングは今────!

 

「はぁ────!」

 

二本の斧で鋏のある部分を叩き斬る。

よし、行ける────

 

「っ────!?」

 

その時、天から土砂降りの雨のように

橙色の光の針が無数に降ってくる。

ヤバイヤバイヤバイ────!?

 

「皆!こっち!!」

 

園子が槍の盾を傘にして、

そこに私と須美も入る。

 

「なんだよこれ……」

 

思わず、そう零す。

……無茶苦茶だ。二体のバーテックスにまで直撃してる。

 

「なっ!?」

 

この針なら、バーテックスも動けないだろうし大丈夫。

そう思っていた。……それが間違いだった。

 

黄色のバーテックスが尻尾をこちらに振るう────

 

「「きゃあああああああ!?」」

 

「ぐぅうっ!?」

 

なんとか斧で衝撃を防いだ……。

須美と園子は!?

 

二人が飛ばされた方向に視線を向けると

更に追い討ちで二人にバーテックスが尻尾を叩きつけていた。

まずい────

 

「須美!園子!!」

 

即座に駆け寄る。

……っ。

見るだけでも痛々しい程、青アザと血だらけになっていた。

 

「大丈夫か!?須美!園子!!」

 

「あ、あいつが……矢を……」

 

須美の視線の先には新たに現れた三体目、

青いバーテックスが居た。

 

……なにか仕掛けてくる!?

 

「くぅううう!!」

 

巨大な矢をなんとか防ぐ────

まずいこのままじゃ……

 

視界が煙で遮られている間に須美と園子を抱えて、

なるべくバーテックスから離れる。

 

安全そうな場所に、須美と園子を寝かす

 

「ぎ、ん……?」

 

「動けるのは……私一人、ここは怖くても頑張り所だろ。

私に任せて、須美と園子は休んどいてよ」

 

「ミノ……さん……?」

 

「────またね」

 

……私は震える身体を奮い立たせて、

バーテックス達の方へ飛ぶ。

 

「……あいつら!」

 

動きが多少遅いのが幸いだった。

三体のバーテックスは少しずつではあったが、

確実に神樹様の方へ進行していた。

 

私は三体のバーテックスの前に立ち塞がり、

斧を構える

 

「随分、前に進んでくれたけどな……」

 

ガリガリ。と斧で木の根に線を引く。

 

「此処から先は……通さない────!!」

 

三体のバーテックスに立ち向かう。

分かってる、勝ち目なんてほとんどない。

勝てたとしても……多分、私は……

 

それでも、それでも守りたいんだ……

勇者だから。とかじゃなくて

 

アイツらの友達として────

 

 

────────

 

「……はぁ……はぁ……頼む……!

間に合ってくれよ────!!」

 

オレは全速力で大橋の方へ走る。

魔術で身体能力も向上させて。

 

嫌な予感がした。

いや、今もしている────

 

それだけはあってほしくない。

あのやたらと現実味のある夢を……

現実にはさせてなるものか────

 

大橋の鉄骨の上に跳び、渡っていく。

すると倒れ伏している人影が見えた。

あれは……須美と園子か……!?

 

「須美!園子!」

 

オレは即座に駆け寄る。

酷い傷……バーテックスの攻撃か……

 

「……しろ、う……くん」

 

「喋るな!傷が広がる!」

 

「ぎん……が……」

 

「ッ!?そうだ、銀は!?」

 

須美の言葉で嫌な汗が吹き出る。

 

「まだ……たたかって……」

 

「────!?」

 

園子の言葉を聞き、

大橋の奥の方を見て嫌な予感がした。

 

「……戦ってるのか?」

 

「………」

 

須美はその言葉に無言で頷く。

嫌な予感が的中した。

 

「銀を……お願い……」

 

「ああ、分かってる────」

 

二人の頭を安心させるように撫でる。

 

「大丈夫だよ、後は……オレが頑張るさ。

だから、ちょっと行って来る────」

 

微笑んで、オレは背を向けて

バーテックス達が居るであろう方向に走った。

 

────────

 

「その攻撃は覚えた────!!」

 

赤いバーテックスの攻撃を躱し、そのまま斧で叩きつける。

 

「それで襲ってくるのも……見たよさっき────!!」

 

黄色のバーテックスの尻尾による突き刺しを躱して、

足の部分を斬る。

 

「ふっ────!!」

 

青いバーテックスの針を、

斧を一つ投げて防ぎ、その斧が突き刺さる。

 

「何、上から見てんだァ────!!」

 

もう片方の斧で、青いバーテックスを叩きつける。

そして、両方の斧を引き抜く。

 

「ッ!」

 

赤いバーテックスの盾の叩きつけを躱して、着地する。

 

「くっ!」

 

そこに黄色のバーテックスが尻尾で叩きつけてくる。

 

「ぐぅうううう……ッ!!」

 

腕がバーテックスの攻撃に耐えきれなかったのか

筋を切ったらしく、血が出てくる。

……痛いけど……まだ行ける!

 

「や、やったな……!!」

 

青いバーテックスが光の雨を降らしてくる

私はそれに合わせて、赤いバーテックスの方へ駆ける。

 

「痛かったんだぞ……!自分達で、受けてみろォ!!」

 

黄色のバーテックスの尻尾の叩きつけを振り払う。

そして、その尾の先の針が赤いバーテックスに突き刺さる。

……よし、行ける!!

 

「お前達は此処から……

 

出ていけええええええ!!

 

斧に炎を纏って赤いバーテックスを斬りつける。

 

「ぁ────」

 

油断した。失敗した。

光の針が私の脇腹を貫通する────

 

「がふっ!?」

 

力が抜け、落下していく中、その隙を逃すまいと

黄色のバーテックスが尻尾を叩きつけてくる。

 

「かふっ────」

 

衝撃が身体に響いて、血と一緒に胃液も口から出してしまう。

……まだ、だ

 

「コイツら……が……神樹様を……殺せば……皆が……」

 

再生するバーテックスを睨みつける。

そうだ……まだ倒れたらダメだ……まだ────

 

「あ────」

 

トドメを刺そうと、黄色のバーテックスが尻尾を叩きつけようとして────

 

……もうダメ、なのか……ゴメン。皆。

私……ここまで────

 

「────壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)!!

 

「え────?」

 

無数の剣が、バーテックスに突き刺さって爆発した。

そして、煙が巻き起こり視界が遮られた中……

私の視界に、紅い外套が映った────

 

 

────────

 

「……間一髪だったな」

 

なんとか間に合った。

銀を抱えて、オレは少しだけバーテックスから離れる。

 

「どう……して……?」

 

「病人でも、神樹様には関係ないらしい。

────樹海化に普通に巻き込まれたからな」

 

「はは……なん……だよ、それ……

……体調、だいじょう、ぶ……なの……か……?」

 

心配そうに、ボロボロの状態で聞いてくる銀。

 

「戯け。他人より、今は自分の心配をしておけ

……生憎、まだ吐き気も頭痛も目眩も酷いもんさ」

 

事実、今もかなり無理をしている状況だ。

今すぐにでも倒れたいぐらいに。

 

「じゃあ……士郎、に……任せたら……ダメだろ……」

 

「……今の自分の状態を確認してからそういう事は言えよ

満身創痍の癖に……戦って勝てると思ってるのか?」

 

「そ、れ……は……」

 

オレの言葉に銀は言い淀む。

そんなボロボロの状態で任せられるほど、オレは非情じゃない。

 

「……でも、士郎……だって」

 

「オレには戦えるだけの力はある……お前も理解してるだろ」

 

「…………」

 

銀は少し悔しそうに歯を食いしばる。

おそらく偽・螺旋剣を思い出しているのだろう。

だが、偽・螺旋剣だけがオレの切り札じゃない……

オレにはまだ、カードが残ってる。

 

「……もっと、強かった、ら……一緒に────」

 

「さてな。どうであれ……オレはこうしたと思うぞ」

 

銀をなるべく、バーテックスの進路上から離れた場所に寝かす。

 

「……すぐ終わらせてくる」

 

「士郎……!」

 

……そうだ。

忘れるところだった。

 

「銀、これを持っててくれるか?」

 

オレは紅い宝石をズボンのポケットから取り出し、銀に渡す

 

「なんだよ……これ……?」

 

「……御守りみたいなものかな。

それ、後でちゃんと返してくれよ?」

 

オレは笑って、そう告げる。

 

「じゃあ、行ってくる────」

 

背を向けて、オレはバーテックス達の方へ向かう。

恐怖はある。だけど……それ以上に今は戦う理由があるんだ。

 

────────

 

大橋の鉄骨の上に跳び移り、

洋弓を構える。

 

「さて……随分と好き勝手してくれたみたいだが……」

 

スッと目を細め、三体のバーテックスの中心部分に狙いを定める。

 

「多少なりと、オレは怒っていてね……

ただでは返さんのは無論だが……

塵も残さず切り刻んで消し炭にしてやるとしようか

 

────投影(トレース)開始(オン)

 

偽・螺旋剣を投影し、洋弓に添える。

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)────」

 

……紅の稲妻が剣に蒼の稲妻が身体に迸る。

狙うは……三体のバーテックスの中心。

 

そこに通して……爆発させる────

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)……ハァッ────!!」

 

引き絞った弦を離した瞬間、偽・螺旋剣が撃ち出される。

偽・螺旋剣は一直線にバーテックス達の元へ飛んでいき────

 

「……爆ぜろ。壊れた幻想」

 

何度も見た、とてつもない規模の爆発が起きる。

だが……バーテックスは健在だった。

 

「チッ……今ので一網打尽に出来れば万々歳だったんだが……決定打になり得なかったか」

 

直撃はした……が倒せるだけの一撃にはなり得なかったらしい。

急速に再生しているバーテックスを見て思わず舌打ちする。

 

こうなると……オレが使えるモノで確実にヤツらを屠れるモノは……

 

────二つだけ。

 

「二つか……」

 

しかも、片方の宝具は間違いなく

今のオレが放てば破滅するモノだ。

 

精霊が創りし、神造兵器……

例え、神の一部を宿している今の状態でも……危ういだろう。

もう少し……宿せる神の力が強ければ問題ないだろうが……

 

……となると……やっぱり、あれしかないか。

 

 

選択肢は二つに一つ。

確実な死か、それとも……『衛宮士郎(オレ)』を捨てるか。

明白だ。オレが選ぶのは────

 

すぐに思考を切り替え、大橋の鉄骨から飛び降り、

バーテックス達の進行ルートの前に立ち塞がる。

 

目の前に翳した手が、震えていた。

 

……当然か、死にはしないだろうが……どうなるかぐらいは予想が出来る。

理性や思考は冷静そのものだ。

だが……おそらく、本能的な部分が危険を訴えているのだろう。

それでも、やらなければならない────

 

オレは呪文(結末)を口にする

 

「────I am the bone of my sword(体は剣で出来ている)

 

 

────ドクン、と心臓が鳴った。

警告される、それは危険だと。

間違いなくオレはオレで居れなくなると────

 

……分かっているさ。

怖い……怖い……自分が自分でなくなると分かっているから。

だけど────

 

……少女の笑顔が過ぎった。

 

そうだ、守るんだ────

その為なら────

 

青いバーテックス、サジタリウスがこちらに気付き、

無数の光の針を山のように撃ってくる。

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

七つの花弁がオレの目の前に展開される。

これが保つ間に────

 

続く形で言葉を口に出す。

 

────Steel is my body,(血潮は鉄で、) and fire is my blood.(心は硝子)

 

一枚目が砕ける。

何かが割れる音が音が聞こえた────

まだだ────

 

────I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

二枚目が砕ける。

何かが砕ける音が聞こえた────

まだだ────

 

────Unknown to Death.(ただの1度も敗走もなく)

────Nor known to Life.(ただの1度も理解されない)

 

三枚目が砕ける。

何かが壊れる音が聞こえた────

まだ────

 

────Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う)

 

四枚目が砕ける。

頬を光の針が横切り、血が流れる。

だけど、まだだ────

 

────Yet, those hands will never hold anything.(故に、その生涯に意味はなく)

 

五枚目が砕けた、そして……

 

────So as I pray,(その身体は)

 

幻覚(まぼろし)を見た。

 

 

 

地獄を見た────

 

現実(じごく)を見た────

 

あの男が辿った理想の果て(じごく)を見た────

 

最初の始まり(じごく)を見た────

 

……呪いの言葉を聞いた。

 

そして……約束(誓い)を見た────

 

「■■、僕はね……正義の味方になりたかったんだ」

 

「なんだよ。なりたかったって、諦めたのかよ」

 

「うん。残念ながらね……

ヒーローは期間限定で、

大人になると名乗るのが難しくなるんだ。

……そんな事、もっと早くに気付けば良かった」

 

「そっか、それじゃあしょうがないな……」

 

「そうだね……本当に、しょうがない……」

 

男は……顔を上げて、月を見る。

 

「あぁ……本当に、良い月だ────」

 

アイツは、何かを考えるようにして……

────やめろ、その先は言うな。

────その先は地獄だ。

誰かが必死に警告した────

 

「うん、しょうがないから……俺が代わりになってやるよ」

 

「え?」

 

「爺さんは大人だからもう無理だけど……俺なら大丈夫だろ

任せろって、爺さんの夢は────」

 

────俺が形にしてやる?

馬鹿馬鹿しい。

 

────その時、目の前の風景に亀裂が入った。

 

 

……巫山戯るな。

 

 

そんな妄言を、オレに押し付けるな────

 

────亀裂が広がっていく。

 

オレは、……

 

「────オレは、正義の味方(お前)じゃない。

衛宮 切嗣(お前の憧れた存在)じゃない。

オレは……アイツらを……守れたらそれで良い────

そのために、お前の力は必要だ。

だから……お前の(武器)……使わせてもらう────」

 

否定した。

紅い外套も、剣も、理想も────

何もかもを全てが砕かれた────

 

────Unlimited Blade Works.(きっと剣で出来ていた)

 

その時、世界が塗り変わる。

神の樹により塗り替えられた世界を更に書き換える。

地は先程までとは真逆と言っていい

草木が生えない、荒れ果てた荒野が。

 

そして、空は黄昏の色、その空に錆びた歯車が回り続け……

 

荒れ果てたその荒野には百、千、万、億……

数え切れぬ程の数の剣が突き刺さっていた────

 

「ハハッ……まるで墓標だな────」

 

無数に突き刺さっている剣を見て、

オレは自嘲するように笑う。

 

これが答えか……アイツが至った答えか────

 

「馬鹿馬鹿しいにも程があるな────」

 

ああ、そうだ……はこうはなるか。

いや、なってなるものか。

 

「さてと、……あぁ、確か貴様らバーテックスという名は

頂点を意味する言葉だったな。

 

────ならば、受けてみるか?バーテックス。

 

ご覧の通り、貴様らが挑むのは無限の剣。

剣戟の極地にして、剣戟の頂点の一つ。

つまり、頂点には頂点という事だ……バーテックス。

さぁ、恐れずしてかかってこい────!」

 

その挑発に乗るように攻撃してくる

赤いバーテックス、キャンサーの赤い板による叩き潰しを躱す。

 

「遅い────

その攻撃は私には通じないッ────」

 

近くにあった剣を二本抜き取り、キャンサーの下を斬り裂く

その隙を待っていたように、

サジタリウスが光の針を降らしてくる。

 

だが、理解していた────

 

「その攻撃は一度に出せる数に

制限があるみたいだな────!」

 

故に、こちらはその数を上回れば良いだけの事

 

空に手を翳す。

その手の動きに合わせるように、

後ろに突き刺さっている無数の剣が引き抜かれ、空に浮かぶ。

 

そして、手を前にやると

引き抜かれた剣が動きに合わせ、撃ち出された。

 

 

向こうが、限りのある質の高い攻撃で攻めてくるならば……

こちらは、限りのない質の落ちた数の攻撃で凌駕すれば良いだけ────!

 

光の針の数を上回り、

撃ち落とした光の針の十倍にも及ぶ数の剣が

三体のバーテックスに突き刺さる。

 

今だ────

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)ッ!」

 

その言葉に合わせ、

バーテックスに突き刺さっていた剣が全て爆発する。

 

だが、それでもなお……バーテックスが倒れる事は無い。

 

「チッ────」

 

黄色のバーテックス、スコーピオが

こちらに向けて尾を薙ぎ払ってくる

 

「投影、開始……オーバーエッジ────」

 

干将・莫耶が言葉に合わせ変貌する。

より大きく、鋭い白と黒の双剣へと────

 

「届かないぞ……貴様の攻撃は……ッ!」

 

干将・莫耶のオーバーエッジでスコーピオの尻尾を斬り落とす。

 

「ハァッ────!」

 

手に握っていた干将・莫耶をスコーピオに投げつける。

 

「壊れた幻想────」

 

爆発させるが、それでも倒れない。

 

ならば、どうする?

 

──── 一撃で屠れる剣を

 

答えは既に出ている。

ならば……それに至るまでの(解法)を用意すれば良い────!

 

切り捨てろ、余分な情報は切り捨てろ────

 

絶対に折れぬ剣は必要ない。龍を殺す剣は必要ない。

螺旋の剣は必要ない。星の息吹を束ねる聖剣は必要ない。

 

────そして、見つけた。

 

これだ、山を斬り裂ける程の巨大な剣。

戦の神が用いた巨剣────

 

その時、サジタリウスの光の針が飛んできた────

 

「熾天覆う七つの円環────!」

 

その針を残り二枚の花弁で受け止め、

キャンサー、サジタリウスの頭上に跳び上がる。

 

キャンサーが攻撃をしようと板を向けるが……もう遅い。

既に、構成解析は終わっている────

神造兵器は今のオレには投影できない。

……だが、形だけならば投影できる。

 

「投影、開始────!」

 

故に、この剣の名は────

 

 

 

 

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)ァアアア────!!」

 

 

 

 

バーテックスをも凌駕する巨大な剣。

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)

キャンサーとサジタリウスは貫かれ、

体を上下真っ二つに斬り裂かれた────

 

「後、一体……ガッ────!?」

 

壊れる音がした。

 

「まだ、だ────ッ」

 

体が悲鳴をあげる。これ以上は危険だと。

 

────知った事か。

 

 

スコーピオが再生させた尾を叩きつけてくる。

足場にしていた虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)から跳び上がり、叩きつけを躱す。

 

「ッ────」

 

虚・千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)が砕ける、

その隙を逃すまいと、

スコーピオの尻尾がこちらに向かってくる────

 

こちらにスコーピオの攻撃が来るまで、凡そ三秒。

 

────ならばどうする?

 

あの音速ならば、神速を以て凌駕できる。

 

────ならばどうする?

 

あの巨剣だ────

彼のギリシャ神話の大英雄の九つの首の大蛇を屠った技が

狂戦士になった事で剣へと変貌したあの岩の巨剣────

 

あの、巨大な剣を投影するには……オレの体は貧弱過ぎる。

 

────ならばどうする?

 

決まっている。

 

あの巨剣を思い浮かべる。あの巨体の英雄の姿と共に────

 

左手を広げ、まだ架空の柄を握り締める。

 

桁外れの巨重。

 

本来のオレであれば持ち上げる事すら不可能で、扱えない。

 

けど──あの男の記憶が情報が戦闘経験が、あの男の全て見れる今なら────

 

オレはこの巨剣をあの英雄の怪力ごと確実に複製できる────!!

 

「────────ぁ」

 

ナニカが壊れた音がした

 

だが、思考は冷静そのものだ。

 

「────────行くぞ」

 

心配など必要ない

 

壊れたならこの腕で補うまで。

 

 

────、一秒。

 

あの速さ、鋭さ、重さ

 

ただの投影魔術(トレース)では

こちらの剣が壊される。

今、自分が出せる限界を超えた

投影でなければ奴の連撃には敵わない

 

ならば───

 

「────────投影(トリガー)装填(オフ)

 

脳裏にある回路を

 

体内に眠る全ての魔術回路をフルに使う。

 

そしてこの連撃で奴を叩き伏せる────

 

 

────、二秒。

 

 

目の前にスコーピオの尾が迫る。

 

この尾を喰らえば、間違いなくオレは死ぬ。

 

ならば、迎え撃つだけ、九撃で終わらせる────

 

全工程投影完了(セット)────是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)

 

迫り来る音速を、神速を以って凌駕する────!

 

「は―――あ────……!!!」

 

踏み込む。

左手にはその巨剣

 

こちらが速い────!

 

一撃目で尾を斬り落とす。

 

「ぜぇ────ぁあ────……!!」

 

二撃、三撃、四撃、五撃────

 

九撃全てでスコーピオを斬る────

 

だが、足りない。

 

最後の一撃が足りなかった────

 

巨剣が砕ける────

 

 

「────まだ……だ」

 

まだ、終わっていない……オレの攻撃はまだ終わりじゃない────!

 

砕けた巨剣の柄を握り、

スコーピオに、襲い掛かる。

 

────無理だ、もう刃がないんだぞ

 

だったら、もう一度作れば良い────

 

────そしたら今度こそ、お前は

 

知った事か、守りたいモノの為に命を懸けて何が悪い────

 

だからこそ……

 

「オーバーエッジ────!」

 

亀裂が入る。

壊れた音が聞こえる。

 

「────ぁ」

 

痛みで、気を失いそうになる。

だが、その時────

 

幸せそうに笑う三人の顔が脳裏に現れる。

 

倒れそうなった体を足で支え、踏ん張る。

 

そうだ、まだ倒れるわけにはいかない────

アイツらの笑顔を守る為にも────

 

「ぉ────ぉおおおおおおおお!」

 

オレの雄叫びと共に巨剣が再構築される。

より鋭利に。より大きく変貌する。

そして、その投影の反動で左腕から食い破るように剣が突き出てくる────

 

激痛が走る。

痛い、いたい、イタイ、痛イ────

だけど、気を失うわけにはいかない────!

 

「ガッ────ぐぅッ────

まだ、だ……まだ倒れるわけにはいかない……!」

 

尻尾だけを再生させ、スコーピオは針をこちらに向け放ってくる。

悪いが……

 

「やられる、わけには……いかない………!」

 

固有結界内にある剣をありったけ抜き、

スコーピオの尻尾に突き刺して防ぐ。

 

「はぁぁああああああああああああああああああ………!!」

 

オレは巨剣を握りしめ、気力を振り絞ってスコーピオに向かって行った────

 

────────

 

 

「……これ、なんだろう」

 

「分からないわ……荒野に空に歯車が浮いてるなんて……」

 

「樹海化……どうなっちゃったのかな………」

 

そのっちの言葉を聞いて、なんとも言えなくなる。

樹海化が解けたのであれば……それはバーテックスを撃退したことになる。

 

だけど……目を覚ますと……辺り一面は樹海化した世界でも、よく見る街中でもなかった。

 

草木のまったくない荒野……

そして、その荒野には辺り一面。剣が突き刺さっていた。

 

「……ミノさん!」

 

「……!!須美!園子!」

 

銀を見つける。

良かった無事だった……。

 

「……もう、ミノさん!心配したんだよ!」

 

「悪かった……ごめん……」

 

「ほんとよ……心配したんだから……

……士郎くんは?」

 

「一緒じゃないの?」

 

「……ああ、士郎のやつ……一人でバーテックスに」

 

銀は視線を遠くにやる。

……その視線の先だけが奇妙な事に、

剣がなくなって道が出来ていた。

 

「……あの先、かしら」

 

「多分……そうだと思う……」

 

「行こう……ミノさん、わっしー……」

 

そのっちの言葉に、私と銀は頷く。

……大丈夫……士郎くんはきっと無事よ。

だから……冷静になりなさい……鷲尾須美……!

 

 

しばらく、歩いていると異変が起きた。

 

「わっしー、ミノさん……見て、歯車が……」

 

「消えていってる……?」

 

空に浮かんでいた歯車が消えていっていた。

 

「それだけじゃない……突き刺さってる剣も消えてるぞ……」

 

「荒野が……きゃ!?」

 

荒野も消えていった時、突風が起こる

 

「わわわ!?」

 

「砂風!?前が見えないぞこれ!?」

 

閉じてしまった目を開けると……

 

「……樹海になってるね」

 

「……三人揃って、幻覚を見てたってオチじゃないよな?」

 

「それは有り得ないと思うわ……」

 

樹海が広がっていた。

先ほどまでの景色がまるで嘘のように。

そして、空から花びらが舞ってくる。

 

「あ……花びらが……」

 

「鎮花の儀……ってことは……」

 

「士郎くん……勝ったんだ……!」

 

私達は思わず、緊張が解けて……顔が綻ぶ。

 

「……早く、迎えに行こう!ミノさん!わっしー!」

 

「あぁ!……帰って祝勝会しないとな!」

 

「そうね……!」

 

その後、すぐに士郎くんの姿は見つかった────

 

 

 

 

そして……私達は……

知りたくなかった真実を知ってしまった────




まだ終わらないよ?
士郎くんも死なないよ?

…… 此 処 か ら が 本 当 の 地 獄 だ 。


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第12話 ウシノシタグサ

やってきたぜ(白目)

地獄は始まったばかりなんやなって……

今回はメインは士郎くんとそのっちだゾ。
次回わっしーとミノさんやるから待ってて♡

1/19に日間ランキング16位ありがとナス
またプレッシャーで胃が壊れちゃーう!


黒と白と灰色だけしかない空間。

 

……ここは何処だ。

何もない空間だった。

 

「……死んだのか?」

 

辺り一面を見回しても、何もない。

何も存在しない。

 

ただ一つ……上に……

何かの目のようなモノが存在しているのを除けば。

 

「■■■の……奴の目か……」

 

ふと、ノイズが走った言葉を口にした。

まるで……アレを知っているように。

 

その時、紅い外套が見えた。

 

「あれは……『衛宮 士郎(オレ)』なのか……?」

 

白髪に褐色の肌。

そして、見慣れた紅い外套を着込んだ青年。

 

「違う……アレは……────『■■■■■■()』だ」

 

なんとなくだが、そんな風に感じた。

 

『それで、先の未来で救えるのなら────』

 

……なんだ?いったい、何と会話している?

向こう側に近付こうとした時、一羽の青い鳥が飛んでくる

 

「……鴉……■■?」

 

また、ノイズの走った言葉を口に出す。

肩にとまった青い鴉がこちらを見つめた後、鳴く。

 

「着いてこい……?」

 

青い鴉に導かれるように、何もない空間を進んでいく。

そして────

 

────────

 

 

「……此処は」

 

目を覚ます。

知らない天井が視界に入った。

 

口元を見ると、マスク型の呼吸機が付けられていた。

 

あぁ、そうか……此処は……病院か────

 

 

──第12話──

ウシノシタグサ

 

 

極めて冷静な思考で、何があったのか。

そして、何故今此処に居るのかを思い出す。

 

そうだ、バーテックスを倒して……それから────

 

 

声が聞こえた────

虚ろなままのオレの耳に……少女の声が入ってくる────

 

この声は……

 

「────ろう……士郎!」

 

「ぁ……ぎん……か?」

 

「……!ああ!大丈夫か!?士郎!!」

 

「……ああ……すみと……そのこは?」

 

「此処に居るよ!えみやん!!」

 

「士郎くん……もうすぐ樹海化が解けるわ、そしたら病院に────」

 

涙目でこちらを見る三人が居た。

寝転がってるのか……そういえば……あの後……どうなったんだか。

 

────そうだ、バーテックスを倒して気を失ったんだ。

 

「そう、だな……どうやら……

まだ、倒れるわけには……いかないらしい……」

 

苦笑いをする。

だけど……まずったな……疲れた……今すぐにでも眠りたい────

 

「ちょっと……寝ても……いいか……?

さすがに……つかれた……」

 

「ああ……!……だから、絶対死ぬなよ!?」

 

「このままでは……さすがに……死にきれんさ……」

 

あぁ……本当に……疲れたなぁ────

 

────────

 

「そうか……あの後……気を失って……病院に運ばれたのか」

 

理解出来た。

自分がどうなったのかも。

 

左腕の感覚がないのは………麻酔か。

それも当然か。

あの時、左腕から剣が食い破るように出てきた。

少なくとも傷だらけではあるだろう。

 

そんなふうに考え事をしていると、病室の扉が開かれる。

そして、安芸ねえが入って来た。

 

「……!目が覚めたのね?」

 

驚いたらしく、目を丸くした後……

心配そうにこちらを見つめてくる。

こちらも身体を起こして、呼吸機を取り外す。

 

「……まあ、なんとか」

 

「そう……良かった……」

 

胸を撫で下ろして、安心した様子で椅子に座る。

……聞いておいた方が良いか。

 

「……何日位経った?」

 

「……10日は経過してるわ」

 

「そうか……」

 

会話が止まる。

……10日も寝ていたのか……()は。

 

「……士郎、聞いておきたい事があるわ」

 

「なんだ……?」

 

安芸ねえはこちらをジッと見つめ、

少し経ってから覚悟を決めた様子で口を開ける。

 

「……貴方は『衛宮 士郎』で良いのね?」

 

「……は?」

 

思わず聞き返した。

それはどういう────

 

答えはすぐに帰ってきた。

 

「言い方が悪かったわね。

……今の貴方は何処までが貴方自身?

何処までが……錬鉄の英雄なの?」

 

「────」

 

────思考が停止した。

何故?どうして?

そんな言葉が脳内を駆け巡る。

 

「驚いた顔をしてるわね……」

 

「……なんで、気付いて」

 

「何年、貴方と居たと思ってるの?

……貴方の目が灰色になった時から……なんとなく察していたわ」

 

────なるほど、それもそうだ。

納得してしまった。

あの辺りから……やはり私も多少は動揺していたらしい。

 

「────参ったな。どうやら安芸ねえには勝てないらしい」

 

「それに……口調。いきなり変わったのよ、貴方」

 

え。っと思わず唇を触る。

────無意識だった、全然気付けなかった。

……凄いな、やっぱり。

 

「……本当に敵わないな……分かった。白状する。

おそらくだが二年前ぐらいまでの分の記憶が私はなくなっている。

いや……正確に言うのであれば塗り替えられたと言うべきか。

衛宮 士郎()』から『(他の誰か)』に」

 

「……そう」

 

事実を述べると、安芸ねえは俯く。

……予想はしていたけど、そこまでとは思っていなかった。といったところか。

 

「……知らない間に貴方には重い代償を背負わせていたのね」

 

「……別段、気にしてはないさ。どうであれ……こうなったんだろう。

私が戦えなかったら……今度は三人の中から誰かが犠牲になっていたかもしれない」

 

「それは……」

 

「────事実、切り札を使わなければ勝てなかった」

 

「鷲尾さん達から聞いたわ。……荒野があったと。

それは、貴方の仕業なのね?」

 

「ああ……固有結界。

自らの心象風景を具現化する大魔術。って言われてるよ」

 

「心象風景……」

 

そう……心象風景の具現化。固有結界。

無限の剣製……Unlimited Blade Works

アレを使用しなければ……間違いなく負けていた。

 

「……まだ、戦うつもり?」

 

「……ああ」

 

「────そうしたら貴方は!」

 

「────それでも、それでも()はやるよ。

守る事に理由なんて要らないだろ?」

 

「────」

 

そうだ、理由なんて必要ない。

だって……オレは────

 

「今の話……本当なんですか?」

 

「乃木さん……?」

 

「────」

 

園子が、こちらを見つめ立っていた。

あぁ……どうしてこう……私はタイミングが悪いんだろうか────

 

────────

 

「そろそろ夏休みだなー……」

 

「そうね……」

 

何気ない会話をしながら、

私、ミノさん、わっしーの三人でえみやんの病室に向かう。

もう十回目になる光景だ。

 

「それまでに、えみやん目を覚ますと良いね」

 

「大丈夫でしょ、士郎って意外と丈夫だし」

 

「意外は余計だと思うわよ?」

 

ミノさんの言葉に呆れるようにわっしーは言う。

そんなやり取りを見て、思わず私はクスリと笑ってしまった。

 

病室の前まで来ると会話が聞こえる。

片方は安芸先生。そしてもう片方は……

 

「士郎くんの声……!」

 

「士郎……目を覚ましたんだ……!!」

 

思わず顔が綻ぶ程嬉しくなる。

良かった……えみやん……無事だったんだ。

 

安心して、扉に手を掛ける。

その時、信じたくない内容の言葉が耳に入った。

 

『おそらくだが二年前ぐらいまでの分の記憶が私はなくなっている。

いや……正確に言うのであれば塗り替えられたと言うべきか。

『私』から『他の誰か』に』

 

「ぇ────?」

 

思考が停止する。

どういう事?記憶がないって……?

 

『……知らない間に貴方には重い代償を背負わせていたのね』

 

『……別段、気にしてはないさ。どうであれ……こうなったんだろう。

私が戦えなかったら……今度は三人の中から誰かが犠牲になっていたかもしれない』

 

『それは……』

 

『────事実、切り札を使わなければ勝てなかった』

 

切り札……?

 

『鷲尾さん達から聞いたわ。……荒野があったと。

それは、貴方の仕業なのね?』

 

『ああ……固有結界。

自らの心象風景を具現化する大魔術。って言われてるよ』

 

『心象風景……』

 

心象風景?

……あの荒野が……歯車が……えみやんの?

なんだか、息苦しくなる。

……あの世界が……えみやんのモノだなんて……考えたくない。

 

「……嘘だ」

 

私達は無言で息を呑むしかなかった。

……全てを知った、いや知ってしまった。

えみやんに起きた事……

ううん、私達がえみやんに起こしてしまった事。

 

「なぁ……須美……園子……私は夢を見てるんだよな?

士郎の記憶がないって……冗談だよな……?」

 

ミノさんが震える声で確認してくる。

……私だって、信じたくない。だけど────

 

『……まだ、戦うつもり?』

 

『……ああ』

 

「どうして……?

士郎くん……どうしてそこまで出来るの?」

 

わっしーの言葉に同意してしまう。

だって……それはえみやんが苦しむだけだ。

そんなの……あまりにもひどすぎる。

 

『────それでも、それでも俺はやるよ。

守る事に理由なんて要らないだろ?』

 

「ッ!!」

 

「銀!!」

 

ミノさんはそれを聞いて、走って病室から離れていく。

わっしーはミノさんを追っていく。

 

……聞かなきゃ、えみやんに

本当の事を……全部聞かなきゃ……

 

私は勇気を出して、震える身体に鞭を打って

安芸先生とえみやんのもとに────

 

「今の話……本当なんですか……?」

 

「乃木さん……」

 

そう口にした時、

安芸先生はしまった。といった様子でこちらを見て顔を歪め

えみやんは驚いたようにこちらを見つめ……

諦めたように、観念したように溜め息を吐いた────

 

────────

 

私は園子に話した。

代償の事、記憶の事。

そして……自らの身に何が起こっているのかを

 

「……えみやんは……それでいいの?」

 

「構わんさ。そうであれと私は望まれている(・・・・・・)

 

「望まれているって……

それじゃあ、えみやんが辛いだけだよ……!」

 

震える声で、そう告げてくる園子。

……そんなの、戦い始めた頃から理解している。

 

最初から覚悟していたことだ。

それに────

 

「それは、君達も一緒だろう?

戦いの中で落とすのが記憶か命か。それだけの差だ」

 

「それはッ……!

そうかもしれない……けど……けど……!

納得できないよ……私はえみやんみたいに強くない……!!」

 

そんな事知っている。私が異常なだけだ。

普通はこんな事を知れば納得できるものではない。

私が異様なまでに達観しているだけだ。

 

「……強くないのなら、戦わなければ良いだけだ」

 

「ッ!!」

 

「士郎!!」

 

黙ってろ安芸ねえ!!

これはオレ達、勇者の問題だ!!!

 

「ッ────」

 

……初めてだったかもしれない。

ここまで声を荒らげたのは。

 

「……別に、お前達が戦わなくても良い。

その時は……私が終わらせるだけの────」

 

パチイイイイン!!

 

私の言葉を遮る形で大きな音が鳴り響いた。

その音の正体はすぐ目の前だった。

 

そう、園子が私の頬を叩いたのだ。

園子は目に涙を浮かべていた────

 

「────園子」

 

ばか……えみやんのバカ!!

 

病室から出ていく園子。

それを見送った後に、安芸ねえは立ち上がり、

病室を出る時にこちらに声を掛ける。

 

「……士郎、少し頭を冷やしなさい。

乃木さんにもそう言ってくるわ」

 

「……ああ……ごめん。安芸ねえ」

 

「気にしないで良いわ……

子供のいざこざを解決するのは……私達大人の役目だもの」

 

「……ほんと、安芸ねえには敵わないなぁ」

 

安芸ねえも病室から出ていく。

一人になった病室で外を見つめる。

今の私の心を表しているように……空は雲で覆われた灰色の空だった────

 

ああ────オレって……最低だ────




ウシノシタグサ
『真実』『貴方を信じられない』『偽り』
『淡い記憶』『大事な思い出』etc……

さぁて、修羅場ってきたぞぅ(白目)

頑張らなきゃ(使命感)


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第13話 シロツメクサ(上)

思ったより短かった。
戦闘編と日常編(?)は分けたかったので
前編後編みたいに分ける事にしたゾ。

後々+で文章を少し追加するかもしれない。


総合評価1100超えありがとうございます!


体は■で出来ている

 

■■は■で、心は■■。

 

幾度の■■を越えて不敗。

 

ただの■■も■■はなく、ただの一度も■■されない。

 

彼の者は■に■り ■の丘で勝利に■う

 

故に、その■■に意味はなく。

 

その身体は きっと■で出来ていた────。

 

 

そんな夢を見た。

それはあまりにも救われない夢だった。

 

────これが彼の■■だったのかと思うと、やるせない気持ちになった。

 

もし、誰かがこれを読む事があるのであれば……

 

彼を……■■■を、頼む────

 

■■御記 乃■ ■葉

 

────────

 

病院から出てきてしまった。

 

「…………」

 

空は灰色で一面雲だらけ

あの空みたいにもやもやする。

 

「……なんでだよ、なんでそこまで出来るんだよ」

 

分からなくなった。士郎の事が。

理解しているつもりで、私は全然理解出来ていなかったんだ。

 

「記憶を失ってまで……何をしたいんだよ、士郎……!」

 

苦しい。胸が痛い。

何故。どうして。

……そんな言葉だけが私の頭の中でぐるぐる回り続ける。

 

「守るってなんだよ……何を守るんだよ……?」

 

分からなくて……分かろうと考えても理解できなくて。

もやもやする。

 

「銀!」

 

……聞き覚えのある声が、耳に入る。

 

「須美……」

 

「外にまで出てきて……雨も降りそうなのよ?

せめて、病室の中に居ましょ?」

 

心配するように声を掛けてくれる須美。

……何事もなかったように接してくる須美に思わず聞いてしまった。

 

「なんで……須美は平気なんだ……?」

 

「────」

 

一瞬、理解出来なかったように目をぱちくりさせて

辛そうに顔を歪める。

あぁ、そうか……平気なんじゃない。

辛いけど……平気を装おうとしてるだけなんだ。

 

しまった。と私は聞いた事を後悔する。

須美はゆっくりと口を開ける

 

「平気じゃないわよ……

信じたくないわ……だけど、あんな事を聞かされたら……

納得するしかないのよ……」

 

「あんな事……?」

 

「……銀は知らないのね。士郎くんの……本当の夢」

 

「え……?」

 

なんだよそれ……本当の夢って……?

 

「……銀。よく聞いて。これは冗談とかじゃないわ。

……きっと、士郎くんが本当に望んでいる事よ」

 

須美はそう言って、辛そうに語り始める。

士郎の本当の夢。

万人の正義の味方という狂気じみた理想。

……そんなの出来るわけがない。

須美や園子のように頭が良いわけじゃない私でもそれは理解出来た。

 

それは……いつか悪人になるかもしれない人の味方にもなるという事に等しいからだ。

 

「……万人の正義……そんなの」

 

「えぇ……出来るモノじゃないわ。

そんなこと、過去の偉人でも────」

 

須美はそこまで言って、固まる。

……そして、誰が見ても分かる程動揺する。

 

「嘘……じゃあ……士郎くんは……?

いいえ……それは……だって、もう存在しない……

血筋だって居ない筈なのに……

そんな事が……有り得て……!?」

 

「須美……?」

 

須美は、真剣な表情で私を見る

 

「士郎くんの力の正体が分かったかもしれない……」

 

「え────!?」

 

須美の言葉に驚愕する。

……力の正体さえ分かれば、

なんとか出来る可能性もあるかもしれない……!

 

「でも、その仮説は本来有り得ない事なのよ。

それこそ神様にでも奇跡を起こして貰わな……

……ぁ」

 

須美は、顔を青くさせて固まった。

……士郎に何があるんだよ、須美!?

 

────────

 

信じたくなかった。

だって、それは……神樹様が

士郎くんの今の状態を作った存在になってしまうからだ。

 

……だけど、そう仮定してしまえば

全て辻褄が合う。合ってしまう。

 

「嘘よ……そんなの……」

 

それが真実なら……私達が守ろうとしているモノが

一番士郎くんを苦しめている事になってしまう。

 

私達、勇者の御役目はいったいなんなの……?

友達を苦しめてまで……守るものって……そんなの……!

 

「須美……須美!!」

 

「ぁ……ぎ、ん……」

 

「どうしたんだよいきなり……?」

 

言わなきゃ。言わないと……士郎くんがずっと苦しんで……

 

 

「あのね、銀────

 

『正義の味方になりたかったんだ』

『守る事に理由なんて要らないだろ?』

 

 

────なんでもない、多分……私の考え過ぎだったと思うわ」

 

 

言えなかった。無理だった。

 

……あんなに、嬉々として語る士郎くんは見た事がなかった。

 

夢を語ってくれた時の幸せそうな顔を、

私がその夢を否定した時の辛そうな顔を……

その顔を知っていた私には伝える事が出来なかった────

 

「……そうなのか?」

 

訝しむように、銀がこちらを見てくる。

当然の反応だ。

ここまで言って、考え過ぎなんて言って納得出来るはずが無い。

 

「ええ、なんでもないわ……なんでも……」

 

私はどうするべきだったんだろう

どれが正解なのかなんて……私には分からなかった。

 

鈴の音が鳴り響いた。

 

「こんな時に……!」

 

「……ッ」

 

時が止まったのを感じた。

……もう考えたくない。何も考えたくなくて。

 

「須美……?」

 

「ぅぁぁあああああああああああ!!!」

 

無我夢中に……私は勇者になった────

 

 

────────

 

「……やっちゃったなぁ、私」

 

カッとなってしまったとはいえ……

えみやんを……仮にも怪我人を叩いてしまった。

 

自己嫌悪してしまう。

……本当はどうするべきだったんだろう。

意地でも辞めるように言い続けるべきだったんだろうか。

分からなかった。理解出来なかった。

 

どうして、そこまで出来るのか……私には分からなかった。

 

「分からないよ……どうしてそこまで出来るの……?」

 

病院の階段で蹲ってしまう。

私はただ……えみやんに辛い思いをしてほしくないだけなのに。

 

……その時、鈴の音が聞こえた。

 

「ぁ……」

 

周りの音が消えた。

……どうして、こんな時まで来るんだろう。

 

むしゃくしゃする。……何が何なのか分からなくなる。

 

「ぁああ……ああああああああ────!!」

 

私はただひたすらに叫んで、勇者システムを起動させた────

 

 

────────

 

時が止まった。

機械音が全て聞こえなくなる。

鈴の音だけが耳に入ってくる。

 

「……勇者システムは今はない」

 

無茶な使用で壊れたらしく

新しいバージョンのものを作るために回収されたのだ。

 

だけど────

 

「私は戦える────」

 

『えみやんのバカ!!』

 

次戦えば……なんて言うだろうか。

幻滅するか……失望するか。

 

「……それでも、私は」

 

────戦うだろう。

……私の戦う理由は最初から変わっていない。

 

そうだ、最初から……変わってなどいない。

 

なのに、何故だろう。

……その理由を思い出せない。

 

「ッ────」

 

怖くない。

怖いはずなどない。

 

なのに……身体の震えが止まらない。

 

しっかりしろ、衛宮士郎……!

 

身体に取り付けられている、機械を全て取り外す。

 

「投影……開始……」

 

赤原礼装を投影し、着込む。

 

「体は剣、血潮は鉄、心は硝子……

心も……鉄に出来れば、楽だったんだろうな────」

 

それは皮肉だったのか。本心だったのか。

自分では分からなかった。

 

分からなかったんだ────




花言葉に関しては後編で書く予定です。

うちの感想欄にもbadニキ湧いてて大草原。
著名作者さんの小説にしか湧かないもんだと思ってたゾ……

後、同じ人なのに
別人みたいにして感想書くのはやめてクレメンス……
IDですぐに理解できる分感想に反応しづらい……


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第14話 シロツメクサ(下)

おまたせ

ペース上げて行きますよ〜……行く行く。

後少しでわすゆ編も完結するところまで来ました。


……最初は今回もっと鬱にしようかと思ったけど
書いてる自分がドン引きするレベルで……
しかも、これ関係修復不可能じゃね?になりかけたので没にして書き直したゾ

途中まで書いてるのは残してるから要望あったら……
活動報告かにちょっとだけ書き記しておきますおきます。


「こぉんのおおおおおおおおおッ!!」

 

「あああああああああああ────!!」

 

やってきた桃色のバーテックス……乙女座を相手に鬼の形相で戦う私達。

愚策だ。こんなの。……分かっている。

 

八つ当たりでしかない。

……でも、此処で私達が倒さないと。

私達だけで倒せないと……士郎くんは絶対にまた……!!

 

「それだけは……私がさせない……!!」

 

矢を三本放ち、それぞれ別の場所に当てる。

 

一本を私が押し込み、爆発させ

残り二本をそのっちと銀が押し込む

 

「さっさと……くたばれええええええ!!」

 

「いけえええええええええ!!」

 

銀が斧で連続して叩き込み

それに続くようにそのっちが槍を鋭利に変形させ乙女座を貫く。

 

「これなら!」

 

行ける。私は確信して、矢を放つ。

だけど……

 

「なっ!?ぐああああああああ!?」

 

「ミノさん!?……きゃああああああ!?」

 

「そのっち!銀!!」

 

二人が、乙女座の爆弾に直撃し爆風で吹き飛ばされる。

 

私は弓を構え、狙いを定める。

でも、それより先に乙女座の爆弾がこちらに飛んできて────

 

「ぇ────?」

 

私の上を何かが高速で二本飛来する。

一本は爆弾を貫き、残り一本は乙女座に突き刺さり

とてつもない爆発が起きた────

 

「この……爆発は……」

 

あぁ……そうだ。この威力の攻撃を放てる人。

私は一人しか知らない。

 

私は、矢が……剣が飛来してきた方向を見る。

そこには……

 

「士郎……くん……」

 

いつもの紅い外套。黒い洋弓を構え……

髪の一部分が白く脱色し

そして、焼け焦げたような黒い褐色の肌が

首筋から頬にかけて亀裂のように入っている士郎くんが

大橋の鉄骨の上で立っていた────

 

────────

 

「愚策だな……特攻とは」

 

大橋の鉄骨の部分から三人の戦いを見つめ、そう思う。

 

あれでは……それぞれの長所が生かせていない。

短所も補えない。

 

「まあ、ある意味……私のせいでもあるか……」

 

失笑してしまう。

……彼女らがそれを望むのであれば……手を出さない事も考えた。

 

だが……今の彼女達を見れば、そんな気は到底起きない。

 

投影(トレース)開始(オン)

 

二本の剣を投影する為に、

麻酔で動かない左腕を魔術回路を起動させ無理矢理動かす。

 

赤原猟犬と偽・螺旋剣の二本。

 

同時にそれを洋弓に添え、狙いを定める。

 

「……」

 

視界に、銀と園子が吹き飛ばされる姿が映る。

だが……今の私には、心配よりも……失望があった。

いつもの彼女達ならば、

あの程度であればあっさりと倒せた筈だからだ。

 

「狙いは外さん。確実に……射抜く……!」

 

魔術回路をフル回転させ、

桃色のバーテックスの中心に向けて弦を引き絞る。

 

バーテックスが爆弾を下から放つ。

タイミングは今────!

 

「ハァッ────!!」

 

弦を離し、赤原猟犬と偽・螺旋剣を放つ。

 

赤原猟犬は放たれた爆弾を追尾し、

偽・螺旋剣は一直線に乙女座に向かって飛んでいく。

 

どちらもが弾着したのを確認したと同時が起爆させる。

 

「壊れた幻想────」

 

その言葉と同時に、乙女座を中心にとてつもない爆発が起こる。

爆風がこちらに飛んでくる程だ。

 

「鎮花の儀か……」

 

花弁が空を舞うなか、

須美がこちらを見つめ顔を辛そうに歪めていた────

 

────────

 

雨が降っている。

あの雲はどうやら雨雲だったらしい。

 

「なんで来たんだよ……」

 

倒れていた、銀が私に言う。

私は溜め息を吐き、ボヤく。

 

「……正直に言えば、見ていられるものではなかったからだ。

なんだ、あのザマは?

……些細な事で取り乱してあんな愚策を行うなどとは思わなかった」

 

「些細な事なんかじゃないよ……えみやん……」

 

「…………どういう意味だ」

 

園子の言葉に耳を疑った。

……世界を守る事に比べれば、私の記憶など些細な事だろうに。

 

「……私も……そのっちも、銀も……士郎くんが大切なのよ」

 

「…………それは……世界を守る事よりもか?」

 

須美の言葉に驚きつつも

私がそう聞くと、三人は頷く。

あぁ……そうか……

 

「フフッ……ハハハハハハハハハハッ!!」

 

思わず笑ってしまう。

なんだ……単純な事だったんじゃないか。

 

「……士郎?」

 

「ハハハハ……そうか……そうだったか……」

 

笑っていると、園子がこちらを見つめなが聞いてくる。

 

「えみやん……やっぱり戦うの?」

 

「あぁ……きっと戦うな」

 

「それは……どうしても?」

 

「どうしてもだ」

 

「そっか……じゃあ、仕方ないかな」

 

悲しそうに顔を歪めながら、

園子は諦めたように納得する。

 

「そのっち!?」

 

「園子、何言って……」

 

「でもね……士郎くん(・・・・)

私達は……貴方に戦って欲しくない」

 

「知ってる。理解もしている」

 

「……だったら、どうして?」

 

それは……

 

「分からない」

 

「…………」

 

そうだ。分からない。分からないんだ。

だから私は……

 

「探す為に戦ってる。

自分なりの正義の在り方を……探す為に────」

 

「探す為……」

 

「ああ、だけど……意外とすぐに見つかったな……()の答えは……」

 

「え?」

 

「秘密だけどな」

 

驚いたようにこちらを見つめる園子に苦笑いをして肩を竦める。

 

「教えてはくれないんだ」

 

「ああ、だから……その代わりに約束する」

 

「約束?」

 

「そう、約束だ。『なるべく、無茶はしない』

……その、なんだ……苦しんで欲しくないから、な」

 

少しだけ恥ずかしくなって目を逸らす。

三人は驚いた様子でこちらを見てから、溜め息を吐いて

 

「うん、約束だね!」

 

「……それで許してあげるわ」

 

「仕方ないな……破ったら承知しないぞ?」

 

「勘弁してくれ……」

 

びしょ濡れになりながらも、彼女達は笑った。

……きっと、この笑顔を守る事が────

 

「あ、雨が……」

 

「……止んでいくわね」

 

雨が止んでいき、雲から太陽の光が漏れ出す。

少しだけ、青空が見える。

まるで、今の気持ちを表すように、雲が薄くなっていく

 

「……虹だ」

 

「綺麗……」

 

太陽の光を浴びて、虹が空に浮かび上がる。

……幻想的で美しかった。

 

「ここに居たのね、皆」

 

そこに安芸ねえがやってくる。

 

「安芸先生……」

 

「安芸ねえ……」

 

安芸ねえは私達を見つめ、微笑む。

 

「あの……顔になにか?」

 

須美が聞くと首を横に振る

 

「いいえ、違うわ……

皆、良い顔をしてると思ってね」

 

「「「「え?」」」」

 

皆でキョトンとして顔を見合わせる。

その様子がおかしかったのか、安芸ねえはクスリと微笑んで……

 

「良かった。その様子だと、私が居なくても解決したみたいね」

 

本当に安心したように、そう告げた。

 

「……ああ、お陰様で」

 

私達も釣られて、笑ってしまった。

 

 

 

 

……だが、私は忘れてはいけない事を忘れていた。

 

魔術とは、等価交換で成り立つモノ。

 

それが、どんな残酷な結末になるのか……

この時の()は気付きもしなかった。

 

壊れる音は鳴り止まる。

だが……歯車が動く音は未だ、鳴り止まなかった────




シロツメクサ
『約束』『私を思って』

四つ葉のクローバー
『幸運』『私のものになって』


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第15話 掛け替えのない日々

多分、日常回はこれとあと1回だけ。

……あと3話ぐらいでわすゆ編は完結すると思います。

でも、MHWやるから遅くなります((


「なぁなぁ、士郎!それってイメチェン!?」

 

「いや……そういうわけでもないんだが……」

 

「でもかっこいいじゃん、オッドアイといい髪色といい」

 

「やめろバカ、黒歴史を増やす気か」

 

何気ない会話を同級の男子としている士郎くんを見つめる。

……幸いなのは、彼の容姿が変わっても、

同級の皆がすぐに馴染んでくれたことだろう。

 

「ねえ、鷲尾さん。聞いた?

錬鉄の英雄が教科書に載るんだって」

 

「錬鉄の英雄が……?」

 

「そうなの!彼の生き様を多くの人に学んで欲しいからってだって────」

 

錬鉄の英雄。今は聞きたくない言葉だ……。

昔の私なら、喜んでいただろう。

だけど……その錬鉄の英雄が理由で

士郎くんが苦しんでいると知ってしまった

私は……快く思えなかった。

 

ふと、士郎くんの方を見ると……銀が士郎くんのもとに居た。

……なにかあるのかしら?

少し、聞き耳を立てる。

 

「お、三ノ輪……士郎になんか用があるのか?」

 

「えっと……ちょっとな……」

 

「……どうした、銀?」

 

銀は少し、悩んでから覚悟を決めたような表情をして……

 

「士郎、付き合ってくれるか」

 

「え」

 

……え?

 

「「「「…………え」」」」

 

空気が凍る。

……時間が止まる。

 

「「「「えええええええ!?」」」」

 

「はぅ!?」

 

「ぎ、銀、な、ななな何を!?」

 

「え……あ!?

……い、いやそういう訳じゃなくて────!?」

 

銀は、自分が何を言ったのか気付いたらしく

顔を真っ赤にして慌てていた。

……そのっちは私達の叫び声で目を覚ましたみたいだ。

……触れないでおくべきだと思った。

 

────────

 

「はぁああああ────!」

 

斧を躱し、銀の腕を掴んで組み伏せる。

 

「踏み込み方がまだまだ甘い」

 

「うぐぁ!?」

 

「そこっ!」

 

「隙を狙うのは良い判断だが……

もっと先を予測しないとこうなるぞ?」

 

飛んできた矢を手で掴み取る。

 

「嘘……きゃっ!?」

 

信じられないと言った様子の隙をついて、組み伏せる。

 

「二人目」

 

「えぇえええい!」

 

「良い筋だ。だが、遅い。

的確に狙えてはいるが……相手が自分より早い場合

それでは対処されてしまう。こんな風にな」

 

槍の柄を握って、投げ飛ばす。

 

「わわわっ!?」

 

「それをもっと早く振れるようになった方が良いかもしれんな」

 

何をしているかと言われれば単純だ。

須美、銀、園子の三人の特訓に付き合っている。

 

「うへぇ……やっぱり強すぎるだろ……士郎……」

 

「文字通り手も足も出なかったわね……」

 

「……う〜ん……自信はあったんだけどなぁ」

 

倒れ伏している三人を見て苦笑する。

 

「私は強くないさ。

その筋の達人と戦えば間違いなく敗北する。

此処は、経験の差に近いな。まぁ……私のは真似事に過ぎんがね。

それに、まだまだ伸び代はある。これからだな。君達が化けるのは」

 

「皮肉かよ……」

 

「本心からの賞賛だが?」

 

そう、此処はやはり……彼の経験が私の中にある分

私と彼女達では大きな差がつくのだ。

 

「でも……銀がいきなりあんな事を言うのは驚いたわ……」

 

「いや……あれは悪かったって……言葉足らずでごめん」

 

「なにかあったの〜?」

 

「「ナ、ナンデモナイデス……」」

 

……うん、園子が知ったらそれはそれで厄介そうなので

知らないでおいてもらいたい。

 

この特訓はそう、言わずもがな。

銀が頼んできたのだ。……言葉足らずで勘違いしかけたが。

 

「さて、特訓も終わりだ。

……そういえば、今日は祭りがあったな」

 

視線を向けると

安芸ねえは意図を察したのかコクリと頷いた。

 

よし、許可は貰ったな。

 

────────

 

「いやーでも、安芸先生が

許可出してくれるなんてビックリだなぁ」

 

「そうだねえ」

 

正直に言えば意外だった。

普段厳しいあの先生が許可を出してくれるとは思わなくて……

 

「今日は御役目の事を忘れてリラックスしましょ」

 

「わっしーも気合い充分だしね〜♪」

 

スマホを須美に向けて園子は言う。

 

「こ、これは親に着せられたのよ……!」

 

「大和撫子だよなぁ、須美って」

 

様になってる浴衣を見ながら私はそんな感想を述べる。

ちなみに言っておくと、私も園子や須美と一緒で浴衣だ。

白い生地に紅い牡丹の花が彩られた浴衣だ。

 

「うんうん、似合うよわっしー♪

お人形さんみたいだよ♪クルクル回ってみて♪」

 

うんうん……本当に似合ってるよなぁ……須美。

 

「恥ずかしいわ……」

 

「良いから良いから〜♪」

 

「こ、こうかしら……?」

 

須美は一回転する。ほんと様になってるなぁ。

 

「おーノリノリじゃん!」

 

「シャッターチーャンス!!」

 

私と園子はパシャリと須美の写真を撮る

 

「もう、撮影は禁止よ!!」

 

「えー……待ち受けにしようと思ったのになぁ♪」

 

「恥ずかしいからやめて……!」

 

「今もわっしーが待ち受けだよ?」

 

「へ?」

 

こちらにスマホを見せる

そこには須美がうどんを食べてる写真があって……

 

「ちょっと……恥ずかしいから消して……!」

 

「えー、私の携帯だもん私の自由だよ〜♪」

 

「もう!じゃあ私もそのっちを待ち受けにするわよ!」

 

仕返しとばかりに須美は言うが

嬉しそうに顔を輝かせる園子。

 

「わぁ♪私で良いの〜?」

 

「そこは恥ずかしがらないのね……」

 

「園子だしなぁ……」

 

私は苦笑いする。

うん、園子だし……で納得できるのも大概ではあると思うけど。

 

「そういえば……ミノさんの待ち受けはなんなの?」

 

「え!?……えーっと……お、弟」

 

「ミノさんらしいね〜」

 

「そうね、銀らしいわ」

 

「だ、だろ〜。あははは……」

 

言えるわけがない……

士郎の寝顔を待ち受けにしてるなんて言えるわけない……

……これも士郎の寝顔が可愛かったのが悪いんだ。うん。

 

────────

 

「お、来たか」

 

須美、園子、銀の三人を見つけ、手を振る。

こちらに気付いたようで、駆け寄ってくる。

 

「やっほー、えみやん」

 

「待たせてごめんなさい」

 

「いや、そんなに待ってないし問題はないぞ?」

 

……銀から視線を感じる。

いったいなんだというんだ……

 

「私の顔に何かついているか?」

 

「あ……いや……須美と一緒で様になってるなぁ……って」

 

「む、そうか?

適当に引っ張ってきた浴衣だし……

髪色とこの肌のせいで……似合ってるとは思わんのだが」

 

適度に髪を弄ってそう告げる。

事実、待っている間にやたらと視線を集めていたしな。

おそらく……肌と髪のせいだろうが。

 

「うーん……なんて言うんだろ……

その異質さが異様に映える理由っていう感じだろうか」

 

「そうね……西暦で例えるなら……

海外の人が着物を着た時に様になってる感じかしら」

 

「……そういうものか?」

 

首を傾げる。

確かに……昔の人の中には

異質さがむしろ映えさせていたというのはあったらしいが……。

 

「そういうものだよ〜えみやん。ねね、写真良いかな?」

 

「……唐突だな。まぁ構わんが」

 

「やったっ♪じゃあ皆で撮るよ〜」

 

園子はスマホを上にやり空いた片手でピースサインを作る。

 

「ちょ、いきなりかよ!?」

 

「全く……そのっちは……仕方ないわね」

 

「やれやれ……」

 

銀は慌てつつ、

私と須美は溜め息を吐きつつ園子の横に並ぶ。

 

「行くよ〜?ハイ、チーズ♪」

 

パシャリ。と撮った音が鳴った。

 

「おぉーバッチリだよ〜♪

これを待ち受けにしておこーっと」

 

「……唐突ね」

 

「まぁ……個人の写真より……

みんなで撮ったヤツの方が良いでしょ。

あ、園子。私にも送ってくれ」

 

「うん、後で送るね〜」

 

「サンキュ!」

 

ワイワイキャッキャと盛り上がる三人を見て

少し頬が緩む。

 

「……さて、そろそろ……屋台を巡るか?」

 

「だなっ♪」

 

「そうね。花火の前にはこれをしないとっ」

 

「やった!屋台巡りだ〜!」

 

こうして、私達は屋台を巡る旅に出る事にした。

 

────────

 

屋台巡りは結構波瀾万丈だった。

園子がたくさん食べ物を買ったり

園子が店ごと買いたいと牛串の店主に言って

須美と銀が無理矢理引き離して私が謝罪したり

 

……園子しか問題起こしてないな。

 

そして今は……

 

「むむ……ちょこざいな……」

 

園子が射的で一番大きな品である、巨大な鶏置物を狙っていた。

 

……こういうのは、

たしか当たっても倒れないようなモノだった気がするのだが

私のうろ覚えだろうか。

 

「あ、おい園子……それは……」

 

財布の紐を緩め、園子は親に渡されたであろう

野口英世の束を店主に渡す。

……福沢諭吉一枚分とはいかんが樋口一葉一枚分はあるよな。それ。

 

店主も苦笑いしながら、その札束を受け取る。

 

射的用の銃の音が何十発と鳴り響く。

 

「なんてこったい……」

 

物の見事に、当たっても倒れず

ラスト一発となってしまった。

 

「だからやめておけと……」

 

「あはは……」

 

「お小遣いが溶けたわね……」

 

私は溜め息を吐き、須美と銀は苦笑いする。

 

「園子、アレが欲しいのか?」

 

「うん……1等の鳥さん」

 

「なるほど……なら、園子。少し構えてみろ」

 

「う、うん……どうするのえみやん?」

 

私は園子の横に体を寄せて、

園子と一緒に銃を持つ。

 

「……須美」

 

「!……分かったわ」

 

言葉の意図を理解してくれたらしく、須美も園子の横に立つ

 

「そのっち、まずは落ち着いて、狙いを鶏に定めて」

 

「……うん」

 

「あの大きいのを取るなら……

当たった時に大きく品が動くようにするべきだ」

 

冷静に判断しながら、狙う場所を探す。

……上手く倒すなら……やはり頭か。

 

「狙うのは頭だ。……大丈夫。的は動かないから力を抜け。

射的の距離からして……減速や山なりにコルクが飛ぶ事はない」

 

肩を叩いて、リラックスさせる。

 

「……うん」

 

「そのっち。深呼吸……調整は私がするから」

 

「吸って……吐いて……吸って……吐いて……」

 

「タイミングは私が教える……信じて撃て」

 

「分かったよ……えみやん……!」

 

園子はゆっくりと銃口を鶏の置物の頭に向け、深呼吸する。

 

「……空気が士郎達のところだけ違うな」

 

銀が何か呟いたが……置いておく。

……呼吸のタイミングを園子に合わせる。

 

……まだ。

まだだ。

 

……銃口が少しだけ揺らめく。

…まだ撃つな。

 

そして、置物の頭と銃口が重なる。

 

「今────」

 

「ッ!」

 

パン!とコルクが撃ち出され、

置物の頭に直撃しその衝撃で置物が揺れる。

 

「後は気合いで……!」

 

「気合い〜!」

 

「き、気合い……?」

 

「なんだあの手の動き……」

 

よく分からない手の動きを須美と園子がする。

……自分だけしないのもアレなのでとりあえず真似てやってみる。

 

すると……置物は、倒れて……下に落ちた。

 

「……わぁい!やったああああ!」

 

「なんてこった……こんなのコルク玉で倒せる訳ないのに……!」

 

店主もさすがに驚愕していた。

……だろうな。それはさすがに想定していなかったか。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「え!?あぁ、いや……

……はいよ、持っていきな。お嬢ちゃん」

 

「わぁ……わっしー、えみやん。ありがとう♪」

 

「狙撃は得意分野だから♪

でも、引き金を引いたのはそのっちだから……

それはそのっちの物ね」

 

「だな。……あくまでサポートしただけだからな。私達は」

 

「うっひょー♪やったぜ!Fooooooo!」

 

園子は嬉しそうに置物を抱えるが……

 

店主に見せて……

 

「これを、そこにあるヤツと交換してください♪」

 

小さな猫のアクセサリー四つと交換するように頼んだのだった。

 

────────

 

時間は過ぎ、そろそろ花火が始まる頃だった。

 

「此処からならよく見れるわ。穴場よ!」

 

「下調べはバッチリだねぇ〜」

 

「過去のブログから特定したのよ」

 

「抜け目ないな……さすが須美……」

 

えっへん。と胸を張る須美に私と園子と銀は苦笑いしてしまう。

さすがと言うべきだな……

六法全書を軽く超える分厚さの栞を作るだけはあるか。

 

「あ……」

 

花火は打ち上がり、周りからは歓声が上がる。

 

「綺麗だなぁ……」

 

「……そうだな」

 

花火に見蕩れてしまう。

久しぶりに見たけど……打ち上げ花火は良いものだ。

 

前はいつ見たんだっけ。

そうだ、爺さんと────

 

っ……違う。それは()の記憶じゃない

 

少し溜め息を吐いてしまう。

その横で、須美が喋り出す。

 

「ありがとう、そのっち。これ」

 

「うん、皆でお揃いなんよ〜」

 

「なるほど、それでか」

 

そう、猫のアクセサリーはお揃いのものだった。

マフラーのようなものをした白黒の虎猫だ。

 

マフラーの色は赤、青、紫の三色だ

 

「……まぁそれは構わんのだが……何故私の猫だけ不貞腐れたような顔」

 

そして、私の猫だけが何故か不貞腐れたような顔の猫だった。

……なんでも、一番歳上という設定らしい。

 

「いーじゃん。士郎っぽいぞ?」

 

「そうね。士郎くんらしいと思うわ」

 

「……納得がいかん」

 

銀と須美の言葉に顔を顰める。

……この不貞腐れた顔の何処が私と似ているのだろうか。

小一時間程、園子達に問い詰めたかった。

 

しばらく、打ち上がる花火を四人で見つめる。

……言うべきか。少しだけ、緊張する。

 

「………………あり、がと……う」

 

「「え?」」「へ?」

 

「……きっと……私は須美や園子、銀が居てくれないと戦えなかった

……ずっと、怖かったんだ。失う事が。……守れない事が」

 

「士郎くん……」

 

「それが嫌で……必死に足掻いて、足掻いて……

その結果、こんな有様なわけだが……」

 

すっかり変わってしまった自分の身体を思い出し苦笑する。

 

「オレはきっと……一人でも居なかったら戦えなかった

だから……ありがとう。……私を、見つけてくれて。

オレを知ってくれて……俺と友達になってくれてありがとう」

 

「お礼なんて、こっちが言いたいぐらいだよ」

 

「うんうん、えみやんがいつも支えてくれて……

信じてくれたから、私はリーダーとしてがんばれたんよ〜?」

 

「そうね……士郎くんが居なかったら……

もっと大変な事になっていたかもしれないもの。

……特に、この前の銀」

 

「あぅ……ごめんって……もうあんな無茶はしないから……」

 

「……ハハ」

 

少し、顔が綻んで笑みが零れる。

そうか……意外と……私も慕われていたんだな。

 

「士郎くんもよ?

もうあんな無茶はしないで……」

 

「うぐっ……気を付ける……」

 

目を逸らすと、ギュッと須美が抱き着いてくる。

 

「おい……須美……?」

 

「もう一度約束して……士郎くん……無茶はしないって……」

 

……その身体は、手は、声は震えていた。

 

「……須美。……ああ、分かってる。

約束だ。……無茶はしない」

 

割れ物を扱うようにそっと、抱き締める。

 

「……士郎くんって温かいのね」

 

「それは当然だろう。私だって生きているんだぞ?」

 

「フフッ……そうね」

 

クスリと互いに微笑む。

 

「むぅ……えい」

 

「あ、ミノさん狡い〜。私も〜!」

 

「うぉ!?銀、園子もなにを……!?」

 

それを快く思わなかったのか、銀と園子も抱き着いてくる。

……そんなに気に障るようなことをしたか!?

 

「……須美だけずりーぞ。私だって士郎に抱き着きたいのに」

 

「私も〜。わっしー、独り占めはダメだよ〜?」

 

「そ、そのっち……銀も……」

 

「仕方ないな……と言いたいが……」

 

さすがに真夏にこれは辛い……

くっ……女性特有の柔らかい包み込んでくれるような良い香りと

三人の体温が重なって……

軽めの拷問だぞこれは……!

 

「……これ、いつまで続ける気か聞いて良いか?」

 

「んー……私達が満足するまでかな〜」

 

「異議なーし」

 

「そのっちの意見に賛成ね」

 

「────なんでさ」

 

しばらくこの拷問は続くようだ。

……というより、花火見ないで良いのか?

 

────────

 

「はい、データ受け取りました。確認中です。

……彼女達ですか?

……ええ、私の判断で休暇を与えています。

先の戦いでのメンタルダメージがかなり大きかった様子でしたので……

……はい。それでは……失礼します」

 

携帯の電源を切り、PCに送られてきたデータを確認する。

 

「これ以上……勇者に損失を出さない為の新システム……

……っ!?なに、これ……こんな物が実装されたら……!」

 

息を呑んでしまう。

……こんな、おぞましいモノを実装するというのか。

 

……武器や技の強化は幾らでも出来る。

だけど、心の強さには限界がある……あの子達を……もうこれ以上……

 

────────

 

最後の戦いは……刻一刻と近付いていた────




────最後の時は、あっという間にやってくる。


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第16話 鬼灯

新大陸での狩りが一息ついたので)初投稿です。

今回新しい勇者システムに対しての独自解釈の意見があるゾ。
ガバガバ理論なので矛盾点あるかもしれないけど許して!

あ、それと前日譚書く為の伏線を今回書いときました。

ちなみに今更ですが士郎くんのイメージ花は
ルドベキア・チェリーブランデーです
花言葉と花の色がイメージピッタリだったゾ。

あっそうだ。今回のタイトルは士郎くんの心情からだゾ


滝にうたれている。

……須美、園子、銀、私の四人でだ。

 

……こうなった経緯は単純。

勇者システムのアップデートだ。

 

前々回の戦いのような事にならない為に

新しくパワーアップするらしい。

 

その為に、旧システムだった頃の

身体を清めるという意味も兼ねて滝にうたれているのだ。

 

 

……奴らの数はあと少し。

だけど……残った奴らは間違いなく強力だ。

戦いはもっと激化する。

 

「……もっと、強くならないと」

 

彼女達が傷付かないでも良いぐらいに────

 

色々な事を思考しながら……ふと、浮かんでいた疑問を思い出す。

 

 

……勇者システムの端末を渡してくれと、安芸ねえは言った。

理由はアップデートがあるからだ。と

そのアップデートで強力な装備やシステムが追加される。と

 

……本来なら、喜ぶべきはずのものだ。

なのに……何故か安芸ねえの顔が忘れられない。

無表情であったが、何処か辛そうにしていて────

 

「気の所為だと良いけどな……」

 

滝にうたれながら、嫌な予感を洗い流す。

……出来るのであれば、この予感は外れて欲しいものだ。

 

────────

 

神樹は外敵と戦う為に力を与える。

だが、それを受け取れるのは極小数の人間。

神樹と極めて高いレベルで共鳴が出来る人間のみ。

それは嘗て、説明を受けていた。

 

今なら少しだけ、何故自分が樹海に居れたのかも分かる。

……近いのだ。自分と神樹が。

距離的な意味ではなく、存在的な意味で。

 

何故近いのかは、自分でも分からない。

 

……何時か、分かる時が来るのだろうか。

 

 

────装束に着替えさせられた私達の前に

新しくなった勇者システムが渡される。

 

それを手に取った瞬間、

スマホが光り輝き

それぞれ青、赤、紫、()の花弁と共に

合計で五体(・・)の小さな妖怪のような生き物が現れる。

 

「これが新装備?」

 

須美が空に浮かんでいる卵のような生き物を見ながら言う。

 

「ええ、勇者の装備を何倍にも強化する精霊(・・)よ」

 

大赦の装束を着込んだ安芸ねえがその質問に答える。

 

「精霊……」

 

何故だろうか、精霊という言葉に聞き覚えがあった

 

「なんか可愛いな……」

 

「精霊を見て第一声がそれか……銀……

まぁ、たしかに……妙な愛くるしさはあるな」

 

それぞれが精霊を抱える。

須美は卵型の精霊『青坊主』

園子は鴉の姿をした精霊『烏天狗』

銀は鬼の姿をした『鈴鹿御前』

私には瓢箪酒を持った鬼『酒呑童子』

そして、烏天狗と似た姿だが

少し大きめで鼻が長い『大天狗』が追加された。

 

「何故二体もの精霊が私に?」

 

「貴方の勇者システムは、

西暦の時代の僅かな情報から作られた初代勇者システムの再現の試作型だったの。

それをアップデートさせたから二体居るというのもあるけど……

一体は投影を安定、そして反動の抑制。

そしてもう一体は固有結界の安定の役目があるらしいわ」

 

「なるほど……」

 

なんとなく納得はしたが……

この二体、見覚えのあるような気がした。

たしか……昔に見た気がする。

……いつだったかは定かではないが。

 

「よろしくね〜♪」

 

「これが間に合っていればあの時……」

 

「「っ……」」

 

園子と銀が、須美の呟いた言葉で息を呑んだのが分かった。

……やはり負い目は感じるものか。

 

「あ……ごめんなさい。なんでもないわ。頼もしいわね」

 

「……そうだね」

 

「……過ぎた事を気にし続ければ苦しいだけだ。

今は、これが実装されて……

次の世代はもっと安全に戦えるという事を喜んだ方が良い」

 

「士郎くん……」

 

三人が私の言葉に反応して、こちらを見る。

 

「って、この空気になる切っ掛け作ったお前が言うか!?」

 

「……上手く誤魔化して言ったつもりだったんだが」

 

「誤魔化せてねぇよ!?バレてるわ!!」

 

銀のツッコミを見て、園子と須美はクスクスと笑い出し……

釣られる形で銀も笑い出す。

 

「…………」

 

ただ、それでも……安芸ねえの顔が晴れないのが

私の嫌な予感を増長させていた。

 

────────

 

「え?士郎、帰らないのか?」

 

「ああ、少しだけ安芸ねえに用があってな」

 

「……だいたいの説明はもうして貰ったわよね?」

 

「ああ……それ以外でだ」

 

それを聞いた園子は少しだけ考える素振りを見せてから頷く。

 

「そっか。うん。えみやんも家族と

一緒にいたいって時はあるもんね」

 

「ああ、察してくれたなら助かるよ。園子」

 

「なんだ、そういう事なら普通に言ってくれれば良いじゃん」

 

「……生憎、不器用なものでね」

 

「不器用にも程があると思うわよ?

……でも、そういう事なら分かったわ。じゃあ、私達は先に帰っておくわね」

 

「ああ、悪いな、皆」

 

少しだけ申し訳なく思う。

……でも、彼女達にこの疑問の答えを聞かせる訳にはいかなかった。

 

「じゃあね〜えみやん♪」

 

「また明日」

 

「ああ……また、明日な」

 

三人の背中が見えなくなるまで見届ける。

 

「……さて、これで話しやすくなったか?」

 

「……そうね」

 

隠れていた安芸ねえがこちらに姿を見せる。

 

「……聞きたいことは何かしら、士郎」

 

「少しだけ……気になったことがあってな」

 

「気になったこと……?」

 

「ああ……新しい勇者システムに関して不可解な事が幾つかな」

 

「っ……」

 

安芸ねえが息を呑んだのが分かった。

……当たりか。新しい勇者システムには幾つか隠されている事がある。

 

「気になるのは二つ、

精霊……そして『満開』というシステムについて」

 

そう、この二つに関しての疑問が出てしまった。

 

一つは精霊の力についてだ。

ダメージを防ぐ。それが精霊の役目の一つ。

これだけなら、防御力を上げるものとして納得がいく。

だが……致死量に当たるダメージですらも防ぐ。というのに疑問があった。

 

それはある意味、老化以外では死なない不死になるということ。間違いなく魔法の領域だ。

……それ程の奇跡に代償がない。という事が

まず有り得ないと思った。

いや、もし精霊そのものに代償がないとしても……

その代償を別の力の代償として補う可能性は高い。

 

そこで気になったのが、『満開』というシステムだった。

満開の簡単なシステム説明は こうだ。

 

[溜め込んだ力を解放する勇者の切り札]

 

この説明だけなら、何の疑問もないだろう。

だが、溜め込む力に問題がある。

 

 

勇者が溜め込む力はなんだ?

 

……そう、それは神樹の力……つまるところ神の力の末端だ。

 

神の力を解放する。

それが問題だ。

 

……幾ら、神樹のサポートがあって

無茶が出来る勇者になったとしても

人の身で神の力を解放するというのは無理な話だ。

 

それこそ……今、存在しているかこそ分からないが

アレ(・・)が動くだろう。

 

早い話、代償なしで神の力を解放するというのは不可能だ。

……つまり、満開というシステムには代償があると仮定した方が納得がいく。

そして、精霊の代償も満開システムと直結している。

そう仮定すれば全てに納得が言ったのだ。

 

……そう。納得がいってしまった。

それに満開という言葉も気になった。

満開、つまりは花が咲き誇るということ。

では咲き誇った後は?

 

簡単だ。

 

────散るだけだ。

 

 

つまり、満開を使う=散る。

 

花が散る。つまりは散華。

だが、散華には死という意味がある。

 

散華をそのままの意味で捉えると、精霊に矛盾が出てくる。

死を防ぐ精霊が満開を使わせるだろうか?

否だ。それは有り得ないだろう。

 

だからこそ、散華……つまりは死の見方を変えてみた。

 

死=失う

 

こう仮定すれば?

 

満開の代償として、何かしらを失うということ。

それが身体の機能か、記憶かは定かではない。

だが……そう仮定するだけで全てに辻褄が合う。

 

合ってしまうのだ。

 

だからこそ、大赦側から

この予想が正しいか聞いておきたかった。

 

「……上からの許可がない限りは言えないわ」

 

「……こういう時はしっかり者だな。安芸ねえ」

 

思わず苦笑してしまう。

……そうだ、肝心な時はしっかりする人だった。

 

だからこそ、狡いかもしれないがあの手段を使うしかない。

 

「……ああ、そうだ……質問の仕方を変えよう。

これは────」

 

「────────っ」

 

私が口にした言葉を聞いて、目を見開いてから

安芸ねえは俯く。

 

「……分かりました。彼の英雄からの命令であるならば

大赦の人間として答えねばなりません」

 

「賢明な判断だな、安芸ねえ。

……少しだけずるかったか?」

 

「ええ、本当に狡いわ……士郎。その真名()を使うのは」

 

「前々回の戦いで……知り過ぎたんだよ、私は」

 

少しだけ、遠い目をしてしまう。

自分がどういう存在なのか。

そして……あの男が、初代勇者によって(・・・・・・・・)三百年程前にも(・・・・・・・)召喚されていた(・・・・・・・)事が分かってしまったのだ。

 

「そう……知ってしまったのね……それでも、貴方は……」

 

「ああ、それが()の役目なら仕方ないさ。

それに、かつてのマスター(・・・・・・・・)の、私への最初で最後の命令だったからな。

未来を繋ぎ、いつの日か世界を取り戻す。

それが……彼女の命じた事だった。

今回が無理なら……また神樹が私に関してはどうにかするだろう」

 

「辛くはないの……?」

 

「辛くない。と言えば嘘にはなるが……

信じているからな。いつかの時代に彼女達が諦めなかったように。

……今、誰も諦めていないのはよく分かっているさ。

大多数という名の未来を救う為に、少数という今を犠牲にする。

それが正しいか。と言えば判断しかねるが……

間違えてはいないと思う。……かつての彼がそうだったようにな」

 

そうだ。最初から選択肢などなかったのだろう。

絶対的な力を持つ相手……それに取れる手段など限られている。

 

「そう……分かったわ。

士郎、よく聞いて。満開には────」

 

 

そして、私は新しい勇者システムの真実を全て知った。

 

……どうして。だったか。やはり。だったか。

仕方ない。だったか……あの時の心情は今になっては分からない。

 

ただそれでも、

彼女達が犠牲になるぐらいなら……

約束を破ってでも、自分が傷付き戦えば良い。

そう思ったのだ。

 

歯車は止まらない────




鬼灯
『偽り』『誤魔化し』


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第17話 おわるにちじょう

タイトル通り多分最後の日常回です。

長くて残り二話ぐらいでわすゆ編は完結すると思います。

……他の作者様のゆゆゆ作品が凄くて霞んで見えちゃうこの小説。
これ読むよりは多分、他のゆゆゆ小説読んでた方が楽しめると思う……思うんだけどなあ……


推奨BGMは前書きとかに書いておくと良いとは思うけど
演出面を意識して、あえて文章の中に書いておくことにしました。


地獄を見た────

 

地獄を、見た────

 

 

灼熱の世界(地獄)を見た────

 

これが世界の真実……か……

 

そうか……最初から守る世界は……

 

 

────終わっていたんだ────

 

 

「街もすっかりハロウィンだなぁ……」

 

イネス近くの街路樹を歩きながら銀はそんなことをぼやく。

そう、もう十月の末だ。

 

行く先々にカボチャのランタンがあったり、仮装をした人が居る。

 

「我が国の懐の広さの賜物ね」

 

「……たしかに、やたらと行事多いもんな」

 

西暦の時代から受け継がれてきたものではあるが

行事がたくさんあるのである。

 

「ハロウィンと言えばだが……

最初、ハロウィンはカブなどの収穫祭だったってのは知ってるか?」

 

「そうなの?」

 

私のどうでも良い豆知識を聞いて園子が首を傾げる。

 

「ああ、西暦の時代にあった、とある国での

作物の収穫を祝う祭りだったんだが……紆余曲折あった結果

今のような、トリックオアトリート。

お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ。が周知の事実になったらしい」

 

「……その紆余曲折が凄く気になるわね」

 

「そこは、それぞれ自分で調べてみろという事さ」

 

そこまで説明するとやたらと時間を食いそうだしな。

 

「さて、じゃあ士郎の誰得豆知識も終わったことだし

イネス行こうぜ!」

 

「おい」

 

たしかに誰得ではあるが、わざわざ口に出すことはないだろうに

 

「本当に銀はイネスが好きねぇ……」

 

「当たり前じゃん!イネスはなんたって────」

 

「公民館もある。……何度目だよそれ。飽きたぞ」

 

「ありゃ、やっぱり新しいパターン用意しておくべきだった?」

 

「そもそも用意するなよ……」

 

銀の言葉に思わず呆れてしまう。

 

「というか、そんなパターン用意出来ないだろう?」

 

「ふふーん、甘く見てもらっちゃ困りますよ?

私のイネス情報は……五十三万です!」

 

「ミノさんすげー!」

 

「そんなにないでしょ……そのっちも真に受けないの」

 

「うん、たしかにそんなにはないけど……

百八式までは用意できるぞ?」

 

「「できるのか(できるんだ)……」」

 

私と須美は声を揃えて困惑してしまった。

……というより、どれだけイネス情報あるんだ。銀のやつ。

 

────────

 

「士郎のジェラートいただきっ♪」

 

「あっ……おい」

 

私の食べていたジェラートを掬って、食べた銀を睨む。

 

「へへーん、ぼーっとしてた士郎が悪いんだぜ?」

 

「くっ……その通りだからなんとも言えん……!」

 

たしかに今考えるべきではなかったか……

 

「……士郎くん、大丈夫なの?

ここのところよくぼーっとしてるわよ?」

 

「……そんなにしていたか?」

 

「ええ、上の空な時がかなり多いわよ?」

 

須美に言われて、漸く自覚した。

……ダメだな。

アレを聞いて以来、嫌な考えばかりが頭に過ぎる。

 

「……そうか、悪い。気を付ける。色々考えていてな」

 

「考え事……えみやん。何考えてるの?」

 

「んー……ま、思春期に入る男子には色々あると考えておけ」

 

園子は勘が鋭い。上手くはぐらかす必要がある。

故に、私はあまり詮索できないような事で答えた。

 

……思春期か

 

「うん?なんか言ったか、銀?」

 

「い、いや別に!?やましい事は考えてないぞ!?」

 

「…………」

 

少しだけ、冷ややかな目で見てしまった。

俺はアイツと違って女たらしではないはずだ。

 

……多分。

 

いや、勘違いでなければ……

今の三人からはその類の感じが見え隠れしてはいるのだが。

 

────だけど、勘違いでなくても

それでも、きっと答える事は出来ないだろう。

 

それに答えて、受け容れてしまえば……

俺はきっと壊れてしまうから────

 

 

「そういえば、須美って巫女の適正もあるんだよな?」

 

「いきなりね……安芸先生が言うにはそうらしいわ」

 

「巫女さんってどんな事する人なのかな〜?」

 

「主な役目は勇者のサポート。

そして、敵の襲撃を神樹からの予言として聞くことができたり……

後は、御記を閲覧する人だな」

 

「結構色々やってんだなぁ……」

 

「忙しそうだね〜」

 

私の説明にほえーと関心する銀と園子。

私達はかなり世話になっている筈なんだが……感想はそれだけか……

 

「……私って、珍しいのかしら」

 

「間違いなくな。勇者と巫女。

二つの適正を持つ存在なんて中々現れるものではないと思うぞ」

 

「つまり主人公的な感じか!」

 

「凄い曲解をしたわね……銀」

 

「あながち間違いでもないがな……

物語の主人公らしさはあると思うぞ。

まぁ、須美に限った話ではなく……銀や園子もだが」

 

そうだ。勇者という称号は間違いなく主人公だろう。

むしろ勇者なのに主人公じゃないなんて一握りぐらいではないだろうか。

 

「あれ?えみやんは?」

 

「私は良くて道中の仲間。

普通に見れば、悪役でもおかしくはないと思うが?」

 

「そうかしら?……士郎くんは……その……かっこいいし、

主役には抜擢されると私は思うわよ?」

 

「うんうん。私なら、間違いなく主人公に選ぶね」

 

「……そうか?」

 

少し恥ずかしくなって、頬をかく。

 

「お、照れてるのかコイツめー!」

 

「余計なお世話だ……!

それよりだ……それ、結局買ったのか」

 

……やっぱり気になったのでツッコミを入れておく。

園子は魔女、須美は狐、銀は狼のようなコスプレをしたままだったのだ。

 

……気に入ったのか買っていたらしい。

 

「いやぁ……まぁ……ノリで?」

 

「可愛かったから〜♪」

 

「そのっちと銀に勧められたから……」

 

それぞれの答えが返ってきた。

さいですか……。

 

「わー!?セバスチャン、出てきちゃダメだよ〜!?」

 

魔女の帽子から烏天狗(園子命名セバスチャン)が出てくる。

そして、ついでと言わんばかりに

ランタンのカボチャを被ってパタパタと浮かんでいた

 

「神樹様が遣わした精霊……これがねぇ……?」

 

須美は信じられなさそうに、園子の烏天狗を見た。

……まあ、信じられないのは私や銀も同じだろう。

なんというか……お茶目過ぎるというか……

これが神樹の性格がそのまま出た存在だとか

言われてしまったら多分呆然となる自信はある。

 

「ママー!カボチャが空を飛んでるー!」

 

「まぁ、ほんとね!」

 

「げっ!?」

 

全く事情を知らない親子に見られてしまった。

 

「こ、これはα波で浮いてます!!」

 

「須美サン、それは無理があると思うけど!?」

 

「すげー!」

 

「おー、わっしーすげー!!」

 

「そのっちは早く精霊をしまいなさい……!」

 

……こんな調子で大丈夫なのだろうか。

少しだけ不安になった。

 

────────

 

「わぁ〜、夕日が綺麗だね〜♪」

 

「もうそんな時間か……だいぶイネスに居たんだな」

 

日が沈みかけているのを見て思う。

随分と長い時間、イネスに居座っていたようだ。

 

「そういえば、今日はバーテックスは来ないのかな?」

 

「分からないよ〜。お風呂に入ってる時に来たりするかも」

 

「それは普通にいやだな……」

 

「冬に差し掛かるこの時期にそれはきついぞ……」

 

「というよりそのっちのその発想に脱帽だわ……」

 

……それぞれ、園子の言葉に三者三様の答えを出す。

 

「勇者の装束は着込むタイプだから問題はないが……

戦い終わったあと、装束で帰らなきゃ行けなくなるのがまずいな」

 

「……そう考えるといろんな意味で厄介ね」

 

「流石にそんな害悪バーテックスは居ないで欲しいもんだよ……」

 

コスプレと間違われて、痛い人扱いされる事も有り得れば

何も知らない一般人に

お役目に関して知られてしまう可能性もあるわけで……

 

とんでもないほど厄介だな……

 

「まぁ、色々貰っちゃったわけだし……頑張り所だな」

 

「違いないな」

 

「横断幕まで貰っちゃったもんね〜」

 

そう、同じクラスの生徒達が今日の朝、

『わたしたちの勇者がんばれ』と書かれた横断幕をもらったのだ。

少し前からゴソゴソしていたのは知っていたが

こういう事だとは思わなくて、少し涙ぐんだのは内緒だ。

 

「皆が応援してくれてる、御役目がある私達は幸せ者ね」

 

「そう……だな……」

 

ただ、それでもやはり……あの時、安芸ねえから聞いた言葉が

私の頭の中でぐるぐると回り続ける。

 

……勇者という名が、良いものとは……もう思えなかった。

 

勇者。なんて、体良く取り繕っているが……

その実は……ただの……人柱でしかない。

 

今の世界を見て、彼は、彼女はどう思うだろうか。

 

失望するだろうか。絶望するだろうか。

……それでも尚、信じ続けるだろうか。

 

……死者の声は聞けない。故に誰も分からない。

ただ、それでも……俺が彼や彼女と同じ立場ならばきっと……

 

失望していただろう。

 

「っ!?」

 

その時、スマホから警報のようなアラートが鳴り響く。

 

スマホを取り出すと、画面には

 

樹海化警報

 

と、たしかに書かれていた。

 

「来る……」

 

その言葉に合わせるように、世界が停止する。

 

「……鳴るのは良いけど、止まる前に鳴るのは厄介だな」

 

「今ここで言うか……?

いや、まあたしかに映画館とかで鳴ったら

迷惑も良いところではあるが……」

 

「たしかにそうだね〜……」

 

「もう、緊張感が台無しよ!」

 

「いーじゃん、私達らしくてさ」

 

「それは……まあそうかもしれないけど……」

 

苦笑してしまう。

けど、少しだけリラックスできた。

 

「あっ、そうだ。これ、わっしーが持ってて!」

 

園子は、自分が髪に着けていたリボンを解いて須美に渡す。

 

「ええ、ありがとう。そのっち」

 

「髪に着けてくれても良いんだよ?」

 

「戦いが終わったら着けてみるわ。似合ってたら褒めてね?」

 

「うん!」

 

「園子ー、私にはないのかー?」

 

二人のやり取りを見ていた銀が不服そうに聞く

 

「えーっとね……じゃあミノさんにはサンチョ────」

 

「戦いの邪魔になりそうなので却下!」

 

「えぇー!?どうしよう……他だと渡すものがないよ〜!?」

 

「……全く、しょうがないな……園子は。

じゃあ……私の髪飾り。持っててよ」

 

「良いの?ミノさんこれ大事な物なんじゃ……」

 

「大事だからこそ、持ってて欲しいんだって!」

 

「うーん……分かった。大事に持っておくね!」

 

「サンキュ。園子!」

 

ニシシと銀は笑う。

 

「あ……そういや、士郎には……」

 

ふと、思い出したように銀はこちらを見る。

 

「良いよ、オレは。……もう、渡してあるしな」

 

「……もしかしてこれの事か?

結局返すタイミングなかったんだけど……良いのか?」

 

銀は心当たりがあったらしく、紅い宝石を取り出す。

 

「……ああ、オレが持ってるよりは……君が持っていてくれる方が安心できる」

 

「そ、そうか……うん……分かった……持っとく……」

 

恥ずかしそうに頬を赤らめて、銀は答える。

 

「むむ……士郎くん、私達にはないのかしら?」

 

「そうだそうだ〜。ミノさんだけは不公平だよ〜?」

 

「え……今言われてもだな……持ち合わせが……」

 

「じゃあ戦いが終わったらくれる?」

 

「分かった!分かった!あげるからグイグイ近付いて来るな!?」

 

胸とか色々と当たってるんです!!

 

「……やっぱり、士郎にだけ何も無いのはなんか悪い気がする」

 

「そうね……何か欲しいのはないかしら?」

 

「いや……いきなり言われても……そうだな……」

 

……欲しいものか。まずいな。何も無い。

 

あ……いや、一つだけ。

今欲しいものがあった。

 

「……須美のぼた餅かな」

 

「お、良いね〜♪」

 

「あー……須美のぼた餅は美味しいもんなぁ……」

 

「分かったわ。戦いが終わったら作ってあげる」

 

「やった〜!今日はぼた餅パーティーだ〜!!」

 

「そのっちに作るとは言ってないわよ?」

 

「えっ!?……しょぼーん」

 

露骨に落ち込む園子。

そんなに楽しみだったのか……

 

「冗談よ。そのっちと銀の分も作るわ。皆で食べた方が美味しいもの。ね?」

 

「ああ、オレも戦い終わった後の一服は皆で味わいたいからな」

 

「よぉし!じゃあぼた餅の為に頑張りますか!」

 

「銀、食欲が前に出てどうするの?御役目よ?」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

銀は恥ずかしそうに謝る。

 

「……そうだ、士郎くん。終わったら話したい事があるんだけど……付き合って貰って良いかしら?」

 

「え?……まあ構わないが」

 

「あ!?須美、抜け駆けはずりーぞ!?

士郎、私も話がある!」

 

「え」

 

「二人ともずるいよ〜。

えみやん、私もあるからね〜」

 

「あ……えっと……お手柔らかにお願いします……はい……」

 

なんとなく嫌な予感がしたが……

こうとしか言えなかった。

 

下手な事言って機嫌を損ねさせるのはまずいしな……

彼の記憶が役に立ったよ……

 

「……さて、気を取り直して。

────行くか」

 

私の言葉にコクリと三人は頷く。

 

視界が光に包まれ、目を閉じる。

 

目を開けると……そこは見慣れた樹海の景色だった。

 

そして、目の前には……

 

「三体……!?」

 

「太陽が三つ……アレはそういう事だったのね……」

 

「三体……あの時の悪夢が蘇るなぁ……」

 

三体のバーテックスが居た。

 

「三体だとしても、大丈夫だ。

今回は不意打ちで出る事もなさそうだし……それに全員揃ってるからな」

 

あの時は、私がすぐに戦線に参加できなかったこと。

そして、射手座が不意打ちで奇襲してきたこと。

それが重なったが故の辛勝だったのだ。

 

だからこそ……今回は大丈夫だ。

 

「そうね。今回は大丈夫……!」

 

須美は自分に言い聞かせるようにそう告げた。

 

「よーし!皆、行くよ!!」

 

「ああ!」

 

「よし!」

 

「了解!」

 

「おぉー!みんなイカスー!」

 

それぞれが自分の勇者システムを起動させる────

 

 

 

 

 

──『威風堂々』──

 

 

 

 

須美、園子、銀の三人は白を主体とした

それぞれのイメージカラーである、青、紫、赤の装束を着込み

園子と銀は新しくなった、槍と斧を手に、

須美は新たに実装された狙撃銃を手に構える。

 

私は、いつものボディースーツとズボンの上に

紅ではなく黒い生地に金色の刺繍が入った外套を羽織り、

外套の右肩の部分に竜胆の花模様が

左肩部分にルドベキアの花模様が刻まれる。

 

そして、右手には白い銃剣を。

左手には黒い銃剣を構えた────

 

「よろしくね。貴方の名前は(シロガネ)よ」

 

「おお、良いね〜♪」

 

「ほほぅ、須美さんや……私の名前を使うとは……」

 

「もう!銀、からかうのはよして!」

 

「ははは、冗談だって。

ん?そういや士郎。紅じゃなくて黒い外套になったんだな」

 

銀が真っ先に気付いて、こちらを見る。

 

「ああ、銀と色が被ってたしな」

 

「私は紅の方が似合ってた気もするけど……ま、そこは本人の自由か」

 

「そう考えてくれるならありがたいよ」

 

「えみやん、武器も変わってる?」

 

「銃剣にしたんだ。

剣じゃ中々倒せない輩も居たし……

弓と剣を毎回持ち替えるタイムラグを考えれば

近距離も遠距離もこなせる銃剣の方が良いと思ってね」

 

「白と黒の二丁拳銃……干将・莫耶かしら?」

 

「ああ、あの双剣を改造したものさ。

精霊の力があってこそできる改造だがな」

 

最も、理由はそれだけじゃない。

固有結界を使う上でのちょっとした裏技をする為でもある。

 

「よし、じゃあ皆!行くよ〜!」

 

「バックアップは任せて!」

 

「前衛は私が維持をする!」

 

「フォワードは私だね〜!」

 

「なら、オレは遊撃だ。的確にやらせてもらうぞ!」

 

全員が散開し、それぞれがバーテックスに向かい合う。

 

 

────神世紀298年。最後の戦いの火蓋が切られる。

この戦いは後に『瀬戸大橋跡地の合戦』として語り継がれる。

 

そして……この戦いにおいて、

一人の英雄が居たことを忘れてはならない。

 

その身を呈し、戦った英雄の事を。

 

 

 

その英雄の名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──『衛宮 士郎』──




銀ちゃんの新衣装は
そのっちに近いけど、少しだけにぼっしーの装束っぽさがあるって感じの
曖昧なイメージで問題ないゾ(ぶっちゃけそこまで深くは考えてない)

衛宮の新衣装は
FGOでのエミヤの第二再臨の黒いボディースーツの上に
エミヤ・オルタの第二再臨の外套を羽織ったイメージで良いゾ。

銃剣の銃弾はわっしー、東郷さんと同じで神樹の力で出来た銃弾になってるので
バーテックスにもちゃんと効くゾ。安心して、どうぞ。


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第18話 やくそく

多くは語りません。

次で、わすゆ編は完結します。


「こちらも強化されたとはいえ……やはり楽には勝てないか……!」

 

銃弾を青のバーテックス、魚座に撃ち込みながら舌打ちする。

とはいえ、バージョンアップで

今までと違いレーダーで敵味方の位置が分かるようになったのはありがたい。

 

場所が分かる分、相手との距離を上手く調整できるしな……!

 

「アイツ……動かないな……」

 

銀の言葉を聞き、視線を壁の方向にやる。

そこにはとてつもない威圧感を放っている獅子座のバーテックスが居た。

……アレが危険なのはすぐに理解できた。

が、攻めて来ないのであれば好都合だ。

 

「……鬼の居ぬ間になんとやらだ。まずは牡羊座と魚座を潰すぞ!」

 

「OKだよ、えみやん!」

 

「ああ、そうだな!!」

 

私が中距離から射撃しつつ、

銀と園子が牡羊座を的確に攻撃していく。

 

更に後ろから須美の援護射撃が来る。

 

「銃弾一発で怯むとは……武器はかなり強化されているわけか」

 

須美の放った弾丸が直撃してすぐに魚座が怯む。

見てわかるほど、武器が強力になっていた。

 

「おぉっ!?あっさり斬れたぞ!?」

 

「凄い斬れ味だね〜……」

 

それは園子、銀も同じだった。

武器のスペックが格段に向上している。

 

今までは何度も斬り込まねばバラバラにならなかったバーテックスが

1回斬るだけで豆腐のように斬り刻まれていく。

 

だが、刻まれた牡羊座がブルブルと怪しく蠢く。

 

「様子がおかしい……?

再生……?いや、違う……!?」

 

切り刻まれた部分から体が生えてきていたのだ。

今までのバーテックスにも特異な能力があった。

そう、牡羊座の能力は増殖だったのだ。

 

「増えた〜!?」

 

「なんだこれ!?理科で習ったプラナリアかよ!?」

 

「全く、プラナリアネタはオレの持ちネタだぞ!」

 

「士郎は何言ってんだよ……?」

 

「いやなんとなく言わなきゃならない気がしてな……」

 

嘘ではない。

なんとなく言わねばならない気がしたのだ。

同一存在ではあるが、同一人物ではないアイツの持ちネタ。

つまりは私のネタ。

……うん、自分でも何を言っているのかわからんな。

 

園子と銀に切り刻まれた体は本体と合わせて合計で六つ。

つまりは、六体の牡羊座がここに存在することになった。

 

「治るわ増えるわでずっこいぞコイツ!」

 

「全くだな……塵一つ残さず倒さないと無限に増え続けそうだな……」

 

「ブゥかよ」

 

「古いが言い当て妙だな。あの魔神と能力としては大差がない」

 

その時、私のスマホに通話が入る。

……今通話できるメンツはこの樹海に居る人間のみ。

となると、須美か。

 

「須美、どうかしたか?」

 

『繋がったみたいね。……レーダーをよく見たのだけど

牡羊座の反応は一つしかないわ』

 

「……なるほど、つまり本体は一つだけか」

 

『ええ、つまり……』

 

「つまり……」

 

『「あの中心の牡羊座が本物────!!」』

 

私の撃った銃弾と須美の撃った銃弾が

本体のバーテックスに直撃する。

 

正四角錐の物体を牡羊座が吐き出し、

その正四角錐が獅子座の方向へ向かう。

 

「わっしー、えみやん!ナイスだよ〜!」

 

「ああ……あれは……」

 

『正三角錐の物体が牡羊座から出たわね……』

 

「レーダーでの反応は?」

 

『……!あの三角錐から牡羊座の反応が出てる!?』

 

須美の言葉で気付いて、あの物体を追い掛ける。

 

「チッ!そういうことか!!」

 

『士郎くん……もしかして……!』

 

「おそらくその予想通りだ。あれがバーテックスの心臓────!」

 

『だったら狙い撃てば────』

 

須美はギリギリ射程内の牡羊座のコアを狙い撃つが────

 

『嘘っ!?遮られた!?』

 

魚座に銃弾を遮られたのだ。

 

「奴らもアレだけは狙われて欲しくないらしいな!

だったら……!」

 

白い銃剣である莫耶を捨て、

黒い銃剣、干将だけを手に持つ。

 

「I am the bone of my sword────」

 

その呪文と共に、大天狗が現れ

左肩にあるルドベキアの花のゲージを二つ消費して

一つの銃弾を投影する。

 

「So as I pray……」

 

投影した銃弾を干将に詰め込み、

牡羊座のバーテックスに銃口を向ける。

 

「Unlimited blade works────」

 

銃剣から撃ち出した銃弾は

牡羊座のコアにめり込み……

コアの内側から無数の剣が喰い破るように突き出て

 

コアは完全に消滅した────

 

「ぐっ……!?」

 

腕に痛みが走る。

……痛みだけで済んだのはゲージ消費のおかげか。

 

普通に撃ち込めば……どうなってたか分からないな……

 

「えげつないな……今の……」

 

「痛そうだね〜……」

 

『士郎くん……今の、大丈夫なの?』

 

「ああ、多少腕が痛むが……それだけだ。

システムのアップデートのおかげだよ。

……それにしても、あの散り方……やはり妙だな」

 

不安そうに聞いてくる須美を安心させる為に答える。

こればかりはアップデートに感謝するしかない。

 

固有結界を敵の内部に創り出すというのは

アップデートで固有結界を安定させる事が出来るようになったおかげだ。

 

「大天狗。助かった」

 

大天狗はコクリと頷いて、左肩に停まった。

そして、安心したのも束の間。

魚座が黒い煙を発生させる。

それを精霊がバリアで防ぐものの、視界は完全に遮られた。

 

「うわっ!?なんだこれ!?」

 

「前が見えないよ〜!?」

 

「くっ……まずいな視界を奪われるのは……

これは、火薬の臭い……?」

 

視界を遮られ、焦り出した時

鼻に、火薬特有の臭いが入ってくる。

 

『火薬……まさか、ガス?』

 

「ガス……まさか!?」

 

危険を承知で跳び上がり、空中から状況を把握する。

すると……上空には先ほど倒したはずのバーテックスが存在していた。

いや、正確に言うのであれば……残っていた。

そしてそのバーテックスは、体に電気を貯めていた。

 

「分裂していた牡羊座か!?

電撃……?……ッ、まずい!?」

 

火薬やガスは何で爆発する?

早い話が火だ。

だが、火以外でも可能である。

 

それは雷、電気と言われるモノだ。

人とほかのモノで発生する

静電気レベルの電圧さえあれば、油に火はつく。

それはつまり、火薬やガスにも通じるということ。

 

……あの巨体から出せる電撃は致死量を充分に超えるだろう。

そう、つまりは────

 

「爆発させる気か……!?」

 

あの電撃が放たれれば爆発からは逃れられない。

なら、あれが放たれる前に倒す────

 

「ゲージが……っ!?」

 

だが、先ほどの銃弾を作るには一つ。ゲージが足りなかった。

 

「まずい────

須美!園子!銀!爆発するぞ────!」

 

「爆発!?」

 

銀は即座に跳躍し、ガスから跳び上がったが

須美、園子は体制が体制だった為に出遅れる。

 

そして────

 

「「きゃああああああああああ!?」」

 

「須美!?園子!?」

 

無情にも電撃が放たれ

ガスが爆発し、出遅れた二人は巻き込まれる────

 

「貯まった……!────そのっち!」

 

「うん!」

 

「「満開!!」」

 

爆発が収まると同時に、

巨大な紫の睡蓮(すいれん)と青い(あさがお)が空に咲き誇った。

 

「……あれが、満開」

 

「────」

 

……しまった。やってしまった。

銀が驚く横で……顔を覆った。

 

……迂闊だった。

そうだ……彼女達にとっての満開は使えば強くなる。という認識でしかなかった。

 

……自分のように、代償があるとは知らなかった。

そこは伏せるにしても、

切り札はギリギリまで温存しろとは言えたじゃないか……

なるべく使わせないように言えたはずなのに……!

 

空を見上げる。

そこには……戦艦と巨大な船が浮かんでいた。

 

「お前達の攻撃は……もう届かない────!」

 

須美は分裂体の牡羊座の電撃をバリアで容易く防ぎ切った後

八つの砲身から巨大な青いビームを射出する。

 

ビームは一直線に、分裂体の牡羊座に向かっていき

 

牡羊座を塵も残さず消し飛ばした────

 

「おぉ〜、潰しに来た〜!」

 

そして園子は余裕そうに、船のオールになっていた八つの刃を使い

接近してきた魚座を乱れ突く。

 

そして、バリアで弾き飛ばした後、

 

「フフン♪」

 

パチン。と指を鳴らして八つの刃を烏天狗に操作させ、

魚座を囲むように刃を設置する。

 

「そ〜れっ!」

 

両手を合わせると同時に刃を魚座に向けて放ち

串刺しにする事で消滅させた。

 

「あの散り方……やはり妙だな」

 

消滅するのはわかったが……

何故、天に登るように消えていくのか……

 

……そういえば、無限の剣製を展開していたあの時も

奴らの消え方が……あんな感じだったような気がする。

 

「それにしても凄いな……」

 

「…………ああ」

 

だが一撃で確実に葬りされる。という事が

私には恐ろしかった。

……それほどまでに強大な力……代償は安くないのだろう。

 

「これで後……一体……」

 

「わっしー……!?」

 

「……須美!?園子!?」

 

力が抜けるように、須美と園子は満開を解除させられ落下する

 

「私が園子の方に行く!士郎は須美の方に!」

 

「……わかった」

 

ただただ、あの言葉が嘘であって欲しいと願い……

須美のもとに辿り着く。

 

「須美、無事か?」

 

「士郎くん……ごめんなさい……足が動かなくて────」

 

「ぇ────」

 

冷水をかけられたような、頭を鈍器で殴られたような感覚があった。

 

そして、嫌でも理解させられた。

あの時の安芸ねえの言葉が嘘偽りが全くないという事を────

 

『士郎、よく聞いて。満開には……散華という隠された機能があるわ』

 

『散華……花が散る……』

 

『えぇ……満開の代償として……体の機能を失う。それが散華』

 

『……何処の機能が失われるというのはわかるのか?』

 

『分からないわ……記憶が失われるか、目が見えなくなるか

耳が聞こえなくなるか……それは誰にも分からない』

 

『つまりは、ランダム性……か……運が悪ければ、内蔵や記憶

良くても……手が動かなくなったりか────』

 

嫌な汗が噴き出すのがわかった。

体が震えているのも即座に理解出来た。

 

「士郎くん……大丈夫?……顔色悪いわよ?」

 

「いや……大丈夫だ……それより自分の心配をしておけ。

足が動かなくなった原因は分からないが……機動力がなくなるのは厄介だ」

 

「そうね……今は残りのバーテックスを倒さないと……」

 

そして、何より……

平然と嘘をつける自分に恐怖を感じてしまった。

 

「士郎くん……あれ……!」

 

「……本丸が動き出したか」

 

須美の見ている方向から、

ゆっくりと獅子座が接近しているがわかった。

 

「何か……来る……!?」

 

獅子座は後ろの部位を左右に開き、

赤い門を作り出す。

 

────まて、何故門と分かった?

 

そんな疑問が頭を過ぎったがそれを考える暇もなく

即座に獅子座の開いた門から赤い炎を纏った怪物が無数に現れる。

 

「……門から……敵が!?」

 

「門から無数の……なんて一人だけで充分だ────!」

 

須美と私、銀と園子は互いをカバーしつつ、

門から現れた小型のバーテックスを処理する。

だが、奴らの数が多すぎた。

 

「数が多すぎるぞこれ!?ぐあああ!?」

 

「駄目っ……処理が追い付かない!?きゃあああああ!?」

 

「須美!?……くそッ!……剣を投影しても間に合わないかッ!?」

 

あの門が閉じない限り、

小型のバーテックスは永遠に現れ続けるというのは理解させられた。

 

無限の剣製は……ゲージが貯まってない今だと詠唱に時間が掛かりすぎる……!

 

「満開ッ────!」

 

少し離れた場所で、その言葉が聞こえた。

空に赤い牡丹が咲いた。

 

すぐ、誰が満開したのか分かった。

 

その牡丹の側で大きな腕が無数にある

まるで千手観音を連想させるような装備の銀が浮いていた。

 

「こんのぉおおおおおおお────ッ!」

 

銀は八本ある腕を巧みに使い、

小型バーテックスを倒しながら、獅子座に接近する。

 

しかし、迂闊だったのは

獅子座自身が攻撃しないと思い込んでいた事だった。

 

獅子座はエネルギーを発生させ

小型の太陽に見える大きな燃える球体を作り出す。

 

「させるかっ!」

 

銀は獅子座の前に立ち塞がり、撃ち出された火球を遮る。

 

「ぐぅううううっ!

根性おおおおおおおお!!」

 

球体を防ぎ切るが、それで満開のエネルギーを費やしたのか

満開を解除させられ、落下する。

 

「「銀!!」」

 

「ミノさん!?」

 

全員が銀のもとに行く。

 

「大丈夫、ミノさん?」

 

「かーっ……死ぬかと思ったよ……熱かった……」

 

「見た目からして、熱いのは分かったわ……」

 

「だよなぁ……それに大橋も……さっきのでぶっ壊れちゃったし……」

 

そう、先程の獅子座の火球の余波で大橋が崩れ去ったのだ。

それほどまでに絶大な威力を誇る一撃だったというのが目に見えて分かった。

 

「でもまぁ、この通り五体満ぞ……ッ……!?」

 

銀は何かをしようとして固まる。

 

「ミノさん……?」

 

「あれ……右腕が……動かない……?」

 

「────」

 

……その言葉で、完全に思考が固まった。

園子は見た直後に分かった。片目の焦点があっていない。

つまりは、見えていないということ。

そして須美は足。銀は右腕。

 

……満開の代償として、その部分を持っていかれたということを理解させられた。

 

あぁ……こうなるのであれば……言うべきだった。

言っておくべきだった────

 

「……ろう……士郎!」

 

「ッ────!?」

 

「ボーッとすんな!今は須美がもう一回満開して

抑えてくれてるけどいつまで持つかわかんないんだぞ!」

 

「ぁ………」

 

いつの間に。と思ってしまった。

……これ以上使わせたくなかったのに。

 

「ねぇ……ミノさん……えみやん……こんな戦い方で良いのかな?」

 

「私にも分からない……けど、やらなきゃ神樹様が死んで……世界が終わる。

だったらやるべき事は一つしかないだろ!」

 

「……ああ、そうだな」

 

それでも、真実を教える事ができない自分が嫌になる。

……そして、理解する。

俺は随分と……彼に染まってしまったらしい。

多少の犠牲はやむを得ない。

そう思ってしまっている自分が居て……本当に嫌になる。

 

須美の戦艦の上に私達は乗り、

須美が処理できなかったバーテックスを処理していく。

 

「数が一向に減らない……このままじゃジリ貧ね……!」

 

「奴を倒さない限り、コイツらは出続けるか……!」

 

「ッ!えみやん、わっしー、ミノさん、あれ……」

 

園子が見た方向では、獅子座が再び火球を作り出していた。

 

「また撃つ気かよ!?」

 

「やらせない……ッ!」

 

須美は砲身を獅子座に集中させ、エネルギーを全て使い

火球と同等の青い光弾を作り出す。

 

「もう……誰も……!」

 

光弾と火球は同時に放たれ、

相殺される。その巨大なエネルギーが爆発を起こす。

 

「わっしー!?」

 

「……そのっち、銀……士郎くん……後は……お願い」

 

満開のエネルギーが尽きた須美がそう告げ、気を失う。

 

「……オレが、須美を安全なところまで連れて行く。

……すまない、任せた……ッ!」

 

顔をなるべく見せないようにして、私はそう言った。

……でないと、この顔を見られてしまいそうだから。

肝心な時に、役に立てない事が憎たらしい程悔しくて、

血が出るほど、唇を噛み締めた自分の顔を見られたくなかった。

 

「任せろって、士郎!

全部終わらせて、美味しいうどんと須美のぼた餅……な?」

 

「────ああ。分かってる

………すまない

 

「よし、じゃあ……行くぞ!園子!!」

 

「OK!ミノさん!」

 

私は須美を抱えて、安全圏まで離れる。

 

「「満開!!」」

 

……二人のその言葉を聞こえなかった風に装って。

 

「ここから―────」

 

「「出て行けえええええええええええええ!!!」」

 

赤い光と紫の光を纏って、獅子座に体当たりをして

壁の方向まで押していく。

 

それを尻目に、バンダナを投影して枕にし、

須美を地面に寝かす

 

「……須美、ごめん」

 

聞こえていないと分かっていても……謝らなければならなかった。

今更許されないのは理解している。

 

眠る彼女の頭をそっと撫でた後、壁の方向を見る。

 

「…………」

 

ただ、無言で園子と銀のもとへ向かった。

……おそらく、もう園子は気付いているのだろう。

満開に隠された真実を────

 

────────

 

「痛たた……園子……大丈夫か?」

 

「うん……なんとか……」

 

目を開けて、上を見ると正四角錐の物体が浮いていた。

 

「あれ……牡羊座にもあった……」

 

「園子!アイツ逃げる気だぞ!」

 

「追いかけな……っ!?」

 

「園子ッ……ぐっ!?」

 

追いかけようとした時、胸が苦しくなる。

まるで心臓を鷲掴みにされたように

……同時に満開も解けてしまう。

 

「かっふ……はぁはぁ……はひゅ……!

一瞬……心臓が止まったかと思った……!

ミノさん、大丈夫……?」

 

「げほっ……げほっ……なんとか……

呼吸止まりかけたけど……大丈夫。

それより……!」

 

「うん……逃がさない……!」

 

私とミノさんはえみやんとわっしーが言っていた

バーテックスのコアだと思う存在を追いかける。

 

そして、壁のある一定の場所まで行くと

 

何故か、外に出た。という感覚があった

 

外のはずなのにおかしいな。と思うと……

熱風が、私の頬に当たった。

 

……目を開けるとそこは。

 

「え────?」

 

「なんだよ……これ……!?」

 

辺り一面が……地獄だった。

太陽を思わせる景色……そして真上には大きな光る大樹。

 

そして……見覚えのある赤い形。

あれって……皆で撃退したバーテックスと同じ形をしてる……?

 

「園子……あれ……!」

 

ミノさんが震える声で、指を刺す。

そこには、獅子座のコアに纏わりつく小型のバーテックスが居て────

 

「なに……これ……?」

 

不安になって、胸に手を置く。

その時、違和感を覚えた。

 

「あれ────?」

 

心臓の鼓動が分からなかった。

……ううん、違う。

 

「心臓……動いてない……?」

 

そっか、新しい勇者システムは……世界は……

 

「あぁ……私、分かっちゃった……」

 

「園子……」

 

ミノさんも何かに気付いたのか、こちらを見てくる。

 

「っ!ミノさん!」

 

「────やばっ!?」

 

避けれない。そう思った時。

 

銃声が鳴り響いた。

 

「……えみやん」

 

悲しそうで、悔しそうで、……いろんな感情が顔に出ている

えみやんが銃剣を持って立っていた。

 

────────

 

「……そうか、これが世界の真実か」

 

……地獄を見て、そう声に出る。

不思議と恐怖や絶望は浮かばなかった。

 

いや……多分、分かっていたのだ。

 

もう……見てしまっていたから。

 

彼の夢の果てに……荒野ではない、この地獄を見たのだ。

 

それはきっと、彼が見た……最後の景色だ。

 

「「…………」」

 

園子も、銀も……何も言わず、無言で立ち尽くしていた。

無理もない。

……こんな現実、知ってしまえば……呆然と立ち尽くすしかない。

 

世界が最初から詰んでいた。終わっていた。だなんて、誰も……知りたくはない。

 

それは……真相を知る大赦の人間であっても。

それを知った時は、遂におかしくなったのかと疑っただろう。

 

「わっしーに……知らせないと……」

 

園子は重い足取りで、須美のもとへ行く。

銀もまた、園子に着いていく。

 

私はそれを尻目に地獄を見渡す。

 

「随分と変わってしまったな……」

 

あの日見た日本はもう存在しないのだ。と理解させられる。

 

「君は……これを受け容れたのか?

いや、受け容れはしないだろうな……

人一倍正義感の強い君は絶対にこれを納得はしない。

まったく……嘗ての勇者を気遣う『大社』は影も形もないな。

そうは思わないか?■■」

 

私は懐かしい名を、口にした気がした────

 

────────

 

此処は……何処……?

街は……大橋は……何処にあるんだろう……?

 

「わっしー!大変!」

 

「須美!!」

 

知らない人達が……知らない人を呼ぶ声が聞こえた

 

「大変!大変なんだよ!壁の外が────」

 

二人の女の子が……私に向かって喋りかけてくる。

わっしー?須美?違う……私は……私は……?

 

「誰……ですか……?」

 

「え────?」

 

「須美……?

なぁ……冗談だよな?……いつもの冗談だろ?」

 

紫の女の子は驚いた様子で固まって

赤い女の子は声を震わせて、こちらに寄ってくる。

 

それでも、分からなくて……分からなくて────

 

「誰なんですか……?」

 

「わっ……しー……」

 

「園子!銀!須美!!奴らが────」

 

そこに、黒い服装の男の子がやってくる

見覚えがある筈なのに……筈なのに……名前が分からなくて……

 

「誰……?」

 

「────────。

 

……ハハッ。そうだよな。

身体の機能って言ってたもんな……

そりゃ……記憶を司る、脳にきても……おかしくはないよな……」

 

男の子は顔を手で覆い、声を震わせて笑いながら何かを言う。

記憶……私は……私は────

 

「あっ…………」

 

赤い火のような異形の怪物が……遠くに見えて竦んでしまう。

 

……そうだ。

あれには見覚えがある……私にはするべき事があったはずで……

何をするんだっけ?

 

「アイツら全員で……!?」

 

「こうなったら……もう一度満開……」

 

「よせ園子!……次は何を持っていかれるか分からないんだぞ!?」

 

「分かってるよ!!けど……!」

 

女の子が揉めている……紫の子は園子。赤い子が……銀?

 

あれ……どうしてだろう……知らない筈なのに……

 

「……そうだよな。結局はそうなるよな。

分かってた筈なのになぁ……」

 

男の子は悲しそうに笑って……

園子さんと銀さんの首に手刀を入れる。

 

「しろ、う……な、に……を」

 

「えみ……や……ん……?」

 

ドサリと二人が倒れ込んだ。

倒れた二人を私の傍に運ぶ。

 

「……何を?」

 

「……鷲尾さん。この二人を頼む。危なっかしくてさ。結構困ってるんだ。

……鷲尾さんみたいな真面目な子が居ると、コイツらは抑えれるから。

お願いできるか?」

 

「貴方は……どうするつもりなんですか……?」

 

自然とそれが口に出ていた……

彼に行っちゃダメだって……言わなきゃいけない気がして……

 

「……そうだなぁ……アイツらを倒してから考えるよ」

 

苦笑して、彼は答える。

 

「ぁ……」

 

彼は私の右手を取って、右手につけていたリボンを

髪につけて、結んでくれる。

 

「オレの名前は衛宮 士郎。

衛星の衛に宮殿の宮で衛宮。戦士の士に太郎の郎で士郎。

紫の女の子は乃木 園子。

乃ちの乃に樹木の木で乃木。公園の園に子供の子で園子。

赤の女の子は三ノ輪 銀。

漢数字の三にカタカタのノに車輪の輪で三ノ輪。銀色の銀で銀。

そして、君は鷲尾 須美。

鳥の鷲に尻尾の尾で鷲尾。須いるの須に美術の美で須美。

オレ達は友達だ。

ずっと……きっとこの先、記憶が無くなっても。

 

大丈夫。オレは死なない。……またいつか会える。

……だから、行って来るな?」

 

彼は、少し悲しそうにして告げる。

 

「うん……やっぱり、思った通り似合ってた。

……可愛いな。それに、綺麗だ」

 

少し恥ずかしそうに彼は笑う。

 

駄目だ止めないと……分からない。

理由は分からないけど……止めなきゃ駄目だって……

そう必死に何かが語り掛けてきて────

 

「大丈夫だよ。須美。……ここから、オレが頑張るから────」

 

ニッコリと微笑んで……彼は背中を向けた。

駄目だ……止めないと……止めないと────

 

「駄目!士郎くん────!」

 

手を伸ばして、伸ばして、伸ばして……

 

でも、その手を……掴む事ができなくて……私は涙を流した事に気付いて。

駄目だったんだと分かって────

 

────────

 

パタリと、須美が倒れた音が後ろから聞こえた。

 

「……さて、と。かっこつけたからにはなんとかしないとなぁ」

 

無限の剣製を使う?

いや……あれでは十二体全てを確実には倒せない。

それに……須美達を結界内に巻き込んでしまう。

 

なら……

 

「まぁ……一つしかないよなぁ……」

 

溜め息を吐く。

方法は一つ。

 

そう……あの神造兵器なら或いは────

 

彼が一度も忘れた事がなかった……青い騎士の星を束ねる聖剣ならば────

 

「……大天狗、酒呑童子。力を借りるぞ」

 

二体の精霊は目の前に現れ、コクリと頷いた。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

その言葉と同時に、深く深く深く記憶を探る。

思い出せ、あの男が見た聖剣を。

彼女が握っていた聖剣を……生前の彼女を夢で見たはずだ。

 

「がっ!?」

 

砕けた音が聞こえた。

精霊が居なければこの時点で確実にオレは死んでいる。

そもそも神造兵器は投影できる代物ではない。

 

だが……精霊という死を防ぐ存在が居る。

そして、勇者という神の力を宿す状態である今ならば、代償有りだが可能ではある────

 

創造の理念を鑑定し、基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、製作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし────

ここに、幻想を結び剣と成す────!

 

そして、手元には黄金の輝く剣が握られていた。

 

そうだ、これで……

 

「……何をする?

……いや、わかってる……目の前の怪物を倒す」

 

そうだ……この剣で……奴らを倒す。

 

何の為だったか……もう分からない。

 

「……ああ、だけど『やくそく』したもんなぁ」

 

誰と、何を、約束したか分からない。

だけど……生きなきゃ駄目だと分かっていて。

 

怪物の前に立ちはだかる。

 

全てを葬るには普通の使い方ではダメだ。

 

……なら、簡単だ。威力を上げる。

その為には────

 

黒い洋弓を投影する。

 

黄金の剣を洋弓に添え、弦を引き絞る。

 

「────ッ」

 

何かが砕け散った音が聞こえた────

 

ふと、意識を失いそうになる

 

「ぁ────」

 

でも、その時……誰かの笑顔が過ぎった。

笑っている……知らない……いや、知っている三人の笑顔が過ぎったのだ。

 

「そうだ、生きて……帰らないとな……

勇者は大事な御役目で……勇者は根性だったな……」

 

まったく……いつも、オレは気付くのが遅すぎる。

 

……そうだ、答えはすぐ近くにあったのだ。

 

オレが守りたかったもの……それは……こんなすぐ近くに……

 

「フッ────」

 

思わず自嘲気味の笑みを浮かべて、

狙いを定める。

 

「あぁ……きっとオレは……

この結末を望んでいたのかもしれない────」

 

なんとなく、そんな気がして……

 

「I am the bone of my sword……」

 

ギリリと弦を限界まで引き絞って────

 

「────────」

 

黄金の剣の真名を口にして、その剣を放つ。

 

その黄金の剣は中心に居た

巨大な怪物に直撃すると同時に黄金の光が辺りを包んで────

 

────────

 

「あれ……此処は……?」

 

私は目を覚ます。

病室?……違う、なんだか祀られているような場所で────

 

「お目覚めになられましたか」

 

目の前からよく聞いたことのある声が聞こえて……

仮面を被っていたけど、なんとなく誰かは分かって。

 

「大赦の人?……此処は?」

 

「此処は……乃木園子様を祀る場所です」

 

「私を?」

 

「はい、乃木 園子様。三ノ輪 銀様。鷲尾 須美様。

そして……衛宮 士郎様。

……貴方達が世界を救ったのです」

 

そうだ……皆に会わなきゃ……

 

「他の皆は?」

 

「園子様、落ち着いてお聞きください────」

 

大赦の人から、聞かされる。

あの後起きた事を……そして、全てを。

 

「────え?」

 

満開については……もう、知っていた。

ミノさんも、内臓の一部の機能を失った事。

わっしー……ううん、東郷さんが記憶を失った事も薄々気付いていた。

 

 

その中でも……一番知りたくなかった真実があった。

 

 

それは……

 

 

 

えみやんが……士郎くんが……

あの戦いの後消息不明となった事だ────

 

 

「……嘘、だよね?」

 

震える声で、聞く

 

「……事実です」

 

「……そっか。

…………士郎くんの嘘吐き」

 

視界がぼやける……あれ、どうしちゃったのかな……。

 

「……今は、私しか居ないわ。……泣いて良いのよ。乃木さん」

 

「安芸、先生……ぅああああああああああああ────」

 

私は傍に来てくれた、安芸先生の胸を借りて泣くことしか出来なかった。

 

「ごめんなさい……ごめんね……!」

 

傍で安芸先生はずっと……謝ってくれて

 

それでも私は……ただただ、泣くことしかできなかったんだ────

 

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……

 

 

 

 

ごめんなさい……士郎くん────




やくそく

映画orアニメ版 鷲尾須美は勇者である 最終回タイトル並びにEDタイトルより

また、あの宝具からも今回は取っています。


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第19話 またあの場所で

最後の最後で短いけど許して!

……では、どうぞ。


「大きい……うちって、ここまでお金持ちだったっけ?」

 

前の記憶とは見違える程大きくなった家に少し驚く。

 

私は少し前に事故にあったらしい。

その時に足が治らなくなって、事故のショックで数年程の記憶が無くなってしまったらしい。

 

「そういえば……このリボン……誰かから貰って、着けて貰ったんだったわね」

 

髪に着けているリボンをそっと触る

……渡してくれた人には申し訳ないと思う

 

でも、きっと……

 

「また会えるわよね……その子とも」

 

庭に入って景色を見渡す。

やっぱり広い……前より圧倒的に。

 

お母さんが言うには、なんでも大赦から援助金が入ったらしい。

 

「新しい生活が……此処で始まるのね……」

 

少し不安があった。車椅子での生活。

そして、記憶の喪失はやはり……怖かった。

 

「こんにちはー!」

 

「!」

 

元気な女の子の声が聞こえて、声のした方向を見る。

そこには赤茶色の髪の女の子が立っていて。

 

「もしかして、貴女が此処の家に住むの?」

 

「え、ええ……」

 

「わぁ!じゃあ新しいお隣さんだ!!」

 

女の子は嬉しそうにこちらに駆け寄ってきて……

 

「あ、自己紹介してなかったね。

私は結城(ゆうき) 友奈(ゆうな)!よろしくね!!」

 

差し伸べられた手を、握り返して

 

「私は……東郷(とうごう) 美森(みもり)……」

 

自己紹介をした。

 

 

────────

 

「そーれー!」

 

「鉄男!あんまり暴れんなよー!」

 

「分かってるよー!姉ちゃん!」

 

「やれやれ……立派な男になるのはまだまだ先だろうなぁ……」

 

あれから、私は家に帰ることを許された。

私は須美みたいに記憶を失ったわけでもない。

園子のように心臓が止まったという異常でもないから。だそうだ。

 

片方の肺と右腕が代償で動かなくなった。

それを知った父さんと母さんは泣きながら私を抱き締めていた。

 

ごめんね。って謝り続けて……

 

でも、あの時の私は……多分、呆然としていた。

士郎が行方不明になったことで頭がいっぱいだったんだ。

 

……今でもそのうちひょっこり顔を出してくれるんじゃないか。って思って

……縁側で待つ事が多くなった。

 

「姉ちゃん」

 

「ん?どした、鉄男」

 

「士郎兄。まだ帰って来ないのかなー?」

 

「────」

 

……分からなかった。すぐに答えれなかった。

 

でも……

 

「そうだなぁ……分かんないな」

 

「え!?姉ちゃん分からないの!?」

 

「うん、全然分からない。……けどさ、私は信じてる。

士郎が帰って来てくれること」

 

「姉ちゃん────」

 

……そうだ。きっといつか帰って来る。

だって、アイツは私達の最高にかっこいい正義の味方(ヒーロー)だから。

 

「だからさ、鉄男。お前も信じてやってくれないか?

士郎が帰って来てくれるって」

 

「……うん。分かってる!

それに、俺……士郎兄と約束したもん!」

 

「約束ゥ?なにしたんだよ?」

 

「ふふん、驚くなよ?

士郎兄が居ない時に姉ちゃん達を守れるぐらい強くなるって約束したんだ!」

 

「────」

 

驚いた。けど……士郎と鉄男らしい約束で────

 

「ハハハハ!生意気な弟め!

まだまだ守られるほど私は弱くないわー!!」

 

「ぎゃー!魔王姉ちゃんの攻撃だー!!」

 

左手でわしわしと鉄男の髪をもみくちゃにする。

 

「……ありがとな。鉄男」

 

「んー?……どういたしまして?」

 

なんで私がありがとうって言ったのか分からない様子で

鉄男は返事をする。

 

……士郎。帰って来いよ。

そんでさ……園子と須美と……一緒にぼた餅食べようぜ────

 

 

────────

 

灼熱の地獄の中、一人の少年が佇んでいる

 

虚ろな目をして、佇んでいる。

 

「…………」

 

ふと、少年が握り締めていた右手を開くと……

青と赤と紫の花弁が手の中にあった。

 

それを見た、少年の目に光が戻る。

 

「……まだ、倒れる訳にはいかないな」

 

ゆっくりと、立ち上がって

突き刺していた白と黒の双剣を抜き、握り締める。

 

白い怪物が少年に襲い掛かる。

 

だが、少年は双剣を巧みに扱い怪物を斬り裂くが、

同時にボロボロだった双剣も砕け散る。

 

そして、彼の目の前には

先程の白い怪物とは比べ物にならない大きさの怪物が現れる。

 

「………フッ」

 

少年は、少し皮肉げな笑みを浮かべる。

 

少年は手を翳してある言葉を口にする

 

体は、剣で出来ている────

 

その言葉と共に、再び双剣が創り出され

その双剣を少年は握り、巨大な怪物に挑む。

 

 

 

鉄を打つ音が鳴り響く。

 

剣を打つ音が響き渡る。

 

 

 

いつかの約束を果たすまで、少年は止まらない。

 

剣を、鉄を、打ち続け。

 

その願いが果たされる時まで、倒れない。

 

 

彼が倒れる時は、願いが叶う時だ。

 

そして、それが来る時は近い。

 

 

彼が歩む道は、正義か悪か。

 

それを決めるのは彼自身ではない。

 

それを決めるのは、少年と無関係な多数の何も知らない赤の他人だ。

 

 

それでも彼は……己の信じた 正義の味方を張り続ける。

 

 

それが

 

 

それこそが……

 

 

 

────英霊 エミヤ シロウ の魂を持つ、衛宮 士郎の道なのだ────

 

 

──鷲尾須美の章──《完》




物語は『結城友奈の章』へと続く────


十九話タイトル

ED 『やくそく』の最後の歌詞より





──ここからは雑談──


そんなわけで、わすゆ編完走です。
いやはや、11月から始めたこの小説ですが気付けば二月ですよ。
時間が経つのって早いですね。

何人か誕生日イベント出来てないのは許して……
西暦組の誕生日イベントをするにはゆゆゆいをせねばならないですし
あまりネタバレになるのをバンバン書いてもあれなので……


わすゆ編は勇者の章終了までに終わらせたいな。って目標があったのに
気付けば、勇者の章終わって1ヶ月……おい、大遅刻じゃねえか。

とまあ、色々あったのですが……
今問題なのは……作者が結城友奈は勇者である第1期の内容がうろ覚えでしかないことですね。

は?ってなる方も多いでしょうがこれマジです。
なのでアマゾンプライム入って見直そうかな。と思ってたりします。
円盤買いたいけどそんな金ないしネ!

くめゆもなんとか購入出来ました。
この辺も後々ストーリーと絡ませたいんですよね……

実は少し前に報告した通り……のわゆ編をこの小説の前日譚として書こうとしているんですが
これまた問題が。

……のわゆ下巻が何処にも売ってないんですよ。
出版社の方の在庫が無いかららしいですが……
紙で読みたい派の自分としては、通販の2000円はキツイものがあるなと思い……
今、電子版にするか悩んでたりします。

まぁ、次章以降が前途多難な状態ですが……それでもめげずに頑張ろうと思います。
ぶっちゃけ、この小説だけは意地でも完結させたいので!


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番外編 勇者部らじおっ♪

今回は本編とは全く関係ないメタネタです。

補完回でもあります。

本編のシリアスを大事にしたい方は見ないでも問題ありません。


「そんなわけで〜。第一回勇者部らじおっ♪

始まるよ〜拍手〜!」

 

「え、なんだ……この本編のシリアスをぶち壊す形容しがたいコーナーは……」

 

「今回から、衛宮士郎さんをお呼びしてお送りしま〜す。

司会、進行は〜私、乃木園子と〜」

 

「鷲尾須美でお送りするわ」

 

「え」

 

裏方は私、三ノ輪銀でお送りするゾ!

 

「……結局、全員居るのか」

 

「それでそのっち。この形容しがたいコーナーは何かしら?」

 

「えっと、このコーナーはね〜。

本編での疑問点や、補完。

そして読者さんの質問にある程度の範囲で答えるモノになってるよ〜」

 

「なるほど……つまりは、ここまででの疑問点をある程度解消するコーナーなのね」

 

「そういう事〜。わすゆ編も完結したから丁度キリも良いしね〜

あ、それと〜私達は本編とは

全く関係ないメタ時空のキャラ扱いだからそこは忘れないでね〜」

 

園子さん、須美さん。あまり雑談に時間は取れないので

本題に行ってくれー。

 

「はいは〜い。

まずは……皆疑問に思ってるであろう事から〜」

 

「質問1 どうして衛宮士郎を主役にしたんですか?」

 

「……いきなりぶっちゃけた質問だな」

 

「これは作者代理として私が答えるね〜」

 

園子さん、お願いします!

 

「は〜い。

これは色々と悩んだ結果なんだよね〜

最初は、仮面ライダーの中でも

圧倒的に強いBLACK BLACKRXで

鬱クラッシャーをしようとしてたんだけど

……そんな中で勇者の章のPVが出たんよ。

私達がわっしーを助けに行く事になるあのPVが」

 

「なるほど……あの不穏なテイスト見せられて……鬱クラッシャー出来るか不安になって……

結局ゆゆゆ原作同様鬱路線で行く事にしたのか」

 

「それもあるし……やっぱり決め手は

ニコニコ大百科で見つけた『エミヤ系女子』のワードだったかなぁ……」

 

「………なるほど、ピンと来たわけか」

 

「そうそう、ピッカーンと来たんよ。

ゆーゆの在り方が凄くえみやんに似てたなぁ……って思って」

 

「なるほど、少し納得はした。

まぁ……衛宮士郎ほど歪ではないだろうがな。

少なくとも、彼女は死にたくない。という思いを抱えながらだった。

まだ彼女は、人間だよ。

衛宮士郎のような人間のフリをした機械ではないさ」

 

「そこをこれからの展開で比較して行こうかな〜って思ってるらしいよ〜」

 

「作者の技量で出来ると良いわね……」

 

その辺りは努力次第だな。

 

「さて、では次の質問と行きましょうか」

 

「Q2、なんでえみやんは樹海化に巻き込まれたの?」

 

「これはオレ自身が答えるべきだな。

 

理由は二つ、一つは赤原礼装だ

所謂、英霊エミヤが着込んでいる紅い外套の事を指す。

とある聖人の聖骸布らしいが……

そこの掘り下げは原作でもまだ語られていないな。

細かい説明は省くが、この礼装は

外界から己を守る効果。つまりは世界からの干渉を弾く力がある。

この力で、樹海化が発生する時にオレの時間が止まらなかったわけだ

本来はエミヤシロウが

無限の剣製を安定して使う為に使用しているだけなんだが……。

思わぬ所で役に立ったわけだ」

 

「でも、来る時は士郎くん……制服だったわよね?」

 

「そこは、無限の剣製があったから。だな。

無限の剣製は剣を無限に内包した世界であるが

それと同時に、

エミヤシロウが見て投影したモノの情報を保管する場所でもある」

 

「なるほど……つまりは無限の剣製の中にあった赤原礼装の

外界から己を守るという情報が体に働いたのね」

 

「そういう事だ。

そして、もう一つは英霊エミヤの魂がオレにあるという事。

嘗て、エミヤは西暦の時代に樹海化を経験している。

まぁ、その時に耐性を持った。という認識が手っ取り早いだろう。

つまり、同じ魂を持つオレ自身にも────」

 

「樹海化に対する耐性が出来ていた。ということね」

 

「そういう事。

まぁ主な理由はこの二つだ。

どっちが良いのかはそれぞれ好みで考えてくれるとありがたいな」

 

それじゃ、次の題を頼むぞー。

 

「了解した。

質問3、十九話後の須美以外の園子、銀の扱いはどうなっている?」

 

これは私が答えた方が良いかな。

 

「だな……扱いは当人らに説明して貰うべきだ」

 

うん、じゃあまずは私。

三ノ輪銀についてだな。

 

私は園子のように代償が深刻ではなかった。ってのもあって

家に帰されたな。

いや、……片方の肺が機能してないから深刻じゃないってのは嘘になるけど

 

学校関連だが、私や園子は登校できないって感じだな。

 

「まぁ……片手を全く使えない以上……

どうしようもないことではあるな」

 

そうそう、まあ早い話……

常に片腕骨折してて動かせないって感じに近いから……

ノートを取るのも一苦労だし、食事をするのも大変だからな

 

それで今は大赦から家庭教師担当の人が自宅に来てくれて

勉強を教えてくれてるって感じだな

 

「その辺りは似てるね〜。

私は心臓が止まってるから……もし何かあった時大変だって事で

大赦の方に預けられてる状態だけど。

勉強は一応教えてくれてる人が居るよ〜。

少し敬意が強過ぎるのが不満な点だけどね〜」

 

「それに、心臓が動いていない=脈もない。

つまりは学校ではよくある健康診断関連を

常に誤魔化すのは無理がある。

だから、こういう形になったというのもあるな」

 

色々あるけど……こんな形になる。

これでも違和感はあるかもしれないけどその辺りは

まぁ……妥協してくれると嬉しいな。

 

「ではでは、最後の疑問点補完行ってみよ〜」

 

「質問4、士郎くんはわすゆ編からゆゆゆ編の間の空白の二年間はどうしているの?」

 

「これに関しては簡潔に言うのであれば、

二年間の間、ずっとバーテックスと戦って進行を食い止めていたことになるな」

 

食事とかってどうしてたんだ?

 

「バーテックスを────」

 

「え!?」

 

「冗談だ。この辺りは、原作の園子に近いかもしれん。

彼女も食事や水分補給が出来ない状態である筈だが……

見た目はともかく、声音から考えると健康そのものだろう?」

 

たしかに。

 

「まあ、ここは語られていないから憶測でしかないが……

神樹の力で勇者の不死は完成している。

つまり、神樹が人間が生きていく上で

必要なエネルギーを補ってくれているんじゃないか。と思っている。

一人や二人なら負担にならないだろうしな」

 

「なるほど……つまり士郎くんはそれで生きているって事ね」

 

「そうでもしないと、餓死しているだろうしな。

まぁ、結界内に戻って食事を取ることも不可能ではないのだろうが……

それだと色々と台無しだろう?」

 

お涙頂戴みたいな展開にしたのに、

あっさり帰ってきてて食事してるとかだったら

えぇ……?ってなるしな。

 

「感動が台無しという事ね」

 

「そうだな。色々と台無しになって終わるのもアレだろう?

さて、今回はこの辺りで終わりかな。

錬鉄の英雄とかも語りたいところではあるが……

そこはのわゆ編を書く時に追々だな」

 

「ではでは、今回はこの辺りで〜♪

後書きに、わすゆ編での士郎くんのプロフィールを公開して終わりかな〜?

あ、活動報告の方で質問箱みたいなのを置いておくから

疑問に思ったことがあったらドシドシ送ってね〜♪」

 

「今後の展開のネタバレにならない範囲なら答える。

まぁ、ネタバレになりそうな質問は答えれないので

その辺りは了承してくれるとありがたい」

 

ではでは。

 

「「「「また次回!」」」」




名前:衛宮 士郎
年齢:11歳
性別:男

CV:杉山紀彰

誕生日:神世紀287年1月30日(※1)

身長:158cm
体重:48.3kg
血液型:A型(※2)

出身地:香川県(※3)

趣味:機械弄り 水周りの整備 家事

好きな食べ物:とくになし

大切なもの:普段の日常

イメージ花:ルドベキア・チェリーブランデー(※4)

概要:「絶対に俺が守る────!」

わすゆメンバーでは一番産まれが遅いが
一番のしっかり者で、三人を纏めるオカンポジ。
クラスの委員長でもあり、生徒や教師からも頼りにされている。

神樹館のオカンという渾名が広まっており、
結構気にしている。一年生にそれを言われ精神的にダメージを負ったらしい。
本人曰く 心は硝子なのでやめてほしい。とのこと。

銀とは一年生からの付き合いで
園子は二年生、須美は五年生からの付き合い。

園子と同じで名家の生まれではあるのだが
園子との決定的な違いは、
親が共働きなのもあり人付き合いが得意だという事。

勇者として使う武器は
白と黒の双剣 干将・莫耶と黒い洋弓。

近接時は双剣、遠距離は洋弓を使い分けて戦う。


※1 原作、Fate/stay nightの衛宮士郎の誕生日は不明。
この小説での誕生日はFate/stay nightの発売日を誕生日としている。

※2 衛宮士郎の性格からの血液型は推定。
こちらも誕生日同様公式では不明

※3原作では県名は明らかになっていない冬木市の出身。

※4花言葉は『正義』『公平』『あなたを見つめる』


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結城友奈の章
第二十話 邂逅する勇者達


結城友奈の章。開幕。

毎度の事ですが
評価 お気に入り 感想 ありがとうございます。


【挿絵表示】



「チッ……やはり大型は優先的に屠っておくべきだったか……!」

 

灼熱の世界で、一人の少年が舌を打つ。

 

桃色の巨大な怪物の侵入を彼は許してしまったのだ。

 

二年間(・・・)ずっと怪物の侵攻を防いでいたが……

遂に彼が張っていた防衛線を突破されてしまったのだ。

 

「……やはり、槍を使うべきだったな」

 

少年は悔やむ様子でそう呟く。

 

「追いかけるしかないか……」

 

少年は桃色の巨大な怪物が侵入した場所と同じ場所から

大きな樹の中に入っていく。

 

彼が侵攻を防ぎきれなかった。

それはつまり、中の世界に居る

新たな勇者(少女)達の初陣になるという事である。

 

そう……この日、少女/少年は運命に出会うのだ────

 

────────

 

「……改めて思うが異質だな……樹海化というのは」

 

私は壁の上で思ったことをふと口にしていた。

 

桃色の怪物を目視で確認した。

爆発が起きている事も理解出来た。

 

「なるほど。既に戦っているのか……

……まさか、またこの場所で戦う事になるとはね」

 

その時、桃色の怪物の体の半分程が

桃色の光が降り注ぐと同時に、弾け飛んだ

 

「あれは……!

────なるほど、今代の勇者は当たりを引いたという事か」

 

何処かで見覚えのある顔の少女が

あの怪物を殴っただけで、体の半分を消し飛ばしたのを目視で確認した。

 

「友奈……か……」

 

自然と誰かの名前が口に出た。

……何故、その名前を口にしたのかは分からなかった。

だが……少しだけ、その名を懐かしいと感じていた。

 

「……とはいえ、此処で待つというのはあれか。

仕方ない。少しばかり、手を貸すとしよう────」

 

壁から飛び降りて、戦闘が起きている場所まで向かう。

必要な事だと、何かが理解していた。

やらねばならない。と何かが訴えていた。

 

────────

 

弾け飛んだ体を再生していく怪物を見て、

私は驚愕してしまう。

 

「そんな……治ってる……!?

どうやってこの怪物を倒せば良いんですか!(ふう)先輩!」

 

「バーテックスはダメージを与えても回復するの

封印の儀式っていう特別な手順を踏まないと絶対に倒せない!」

 

「お姉ちゃん、て、手順ってなに!?」

 

風先輩から方法を聞こうと思うと、

怪物がまた爆弾をこちらに飛ばしてくるのが見えた。

 

「攻撃を避けながら説明するから、

避けながら聞いてね!来るわよ!!」

 

「ま、またそれー!?ハードだよお姉ちゃん!?」

 

爆発を避ける。避ける。避ける。

その繰り返しで────

 

「友奈!樹!今!!」

 

「分かりました!」

 

「うん!」

 

風先輩の合図で(いつき)ちゃんと

私は所定の位置まで移動する。

 

その時、怪物に異変が起きる

 

「お姉ちゃん、様子が変だよ……?」

 

「……あの方角……まずい!?」

 

怪物が見ている方角。そこは────

 

「東郷さん────!?」

 

怪物は、東郷さんの方に向けて爆弾を飛ばした────

 

「東郷!逃げて────!!」

 

私は、すぐに東郷さんの方に走ろうとする。

その時だった────

 

爆弾と同じ数の剣が、爆弾に突き刺さって────

 

「お姉ちゃん?」

 

「────違う。私じゃない……誰が?」

 

困惑する私達の事なんて知った事かと言ってるみたいに、

怪物は新たに爆弾を飛ばす。

 

「しまった!?」

 

間に合わない。そう諦めかけた瞬間、

私の視界を紅い外套が横切って────

 

「え?」

 

「────熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

爆発が起きる────

 

「ぁ……」

 

「そんな……!?」

 

ダメだった。間に合わなかった────

諦めかけて。

 

「……友奈、あれ」

 

「え────」

 

風先輩が指を刺したそこには、

東郷さんを守るように、七枚の桃色の花弁が存在していた。

 

そして、花弁が消えると東郷さんの前には

紅い外套を着込んだ、白い髪に褐色の肌の男の子が立っていた────

 

────────

 

「貴方……は……」

 

後ろで、震えた声のまま少女がそう聞いてくる。

……私はそれには答えることなく

 

「死にたくなければ、そこでじっとしておけ」

 

ただ、そう告げて

干将・莫耶を投影する。

 

「ハァッ────!」

 

そして即座に、怪物のもとまで接近し

爆弾を放出する部位を斬り裂く────

 

「……凄い」

 

だが、斬り裂いた部分が再生していくのを見て舌を打つ

────やはり、コアを一撃で壊すしかないか。

 

「ボーッとしてるんじゃないわよっ!!」

 

ふと、声が聞こえた。

振り向くと、爆弾を大剣で斬り裂く黄色い少女が居た。

 

「……すまない」

 

「お礼は良いわよ。……それで、アンタは何者なのかしら?」

 

「それを聞きたいのはこちらもだが……

まずは、アレを片付けるのが先ではないか?」

 

「……違いないわね。まずは、アイツを倒すわよ。

その後、きっちり聞かせてもらうからね!」

 

「命令されずとも、そのつもりだ!」

 

黄色の少女と二人で爆弾を斬る────

 

「風先輩!位置に着きました!」

 

「こっちも着いたよ、お姉ちゃん!!」

 

別の少女の声が聞こえる

 

「よし、封印の儀行くわよ!!

教えた通りに!」

 

「「了解!」」

 

手を空に翳す緑と桃色の少女を見て、首を傾げる。

……封印の儀。名前から察するに、この怪物を抑え込むものか?

 

「アンタも封印の儀できる?」

 

風。と呼ばれていた黄色の少女からそう聞かれるが……

 

「……いや、そもそもそんな物が存在する事すら知らなかった」

 

「はぁ!?じゃあどうやってコイツらと戦う気だったのよ!?」

 

「……そう言われてもな」

 

知らないモノは知らないのだから仕方ない。

 

「はぁ……だったら、見てなさい。どうするのか!

友奈、樹!今のうちに!」

 

大剣で、怪物が向けてきた布のようなモノを振り払い合図する。

 

「は、はい!

……えっと、手順その二。

敵を抑え込む為の祝詞(のりと)を唱えるんだよね……

ええっ!?これ全部唱えるのぉ!?」

 

スマホを見ていた桃色の少女が驚いた様子をみせる

 

「え……えっと

幽世大神(かくりよのおおかみ)憐給(あわれみたまい)────』」

 

「『恵給(めぐみたまい)幸魂(さきみたま)奇魂(くしみたま)────』」

 

祝詞を唱える、二人の少女の横に精霊が現れるが────

 

「大人しくしろぉっ!」

 

「「ええっ!?それで良いのぉ!?」」

 

たった一言で封印の儀を成立させた彼女に

困惑する二人というシュールな様子がそこにはあった。

 

「要は、魂を込めれば言葉は問わないのよ!」

 

「それは早く言ってよぉ〜!?」

 

「…………」

 

思わず頭を抱えたくなった

なんだ……そのスパルタ脳に近いなにかは────

 

その時、怪物に異変が起きた。

頭部と思わしき場所から、正四角錐の物体が出現する。

……なるほど、コアを出現させる儀式だったわけか。

上手く考えたものだ。

 

「うわ!?なんかベロンと出たー!?」

 

「封印すれば、御霊(みたま)が剥き出しになる!

あれは言わば心臓!破壊すればこっちの勝ち!!」

 

……となれば、答えは単純だ。

アレを使えば即座に終わらせられる。

 

「それなら、私が行きます!

喰らええええええっ!」

 

桃色の少女が跳び、真上から拳を御霊にぶつけるが……

 

「硬ぁあい!?

これ硬過ぎるよぉおおお!?」

 

罅すら入らず、自分の手を痛めるだけだった。

……拳一発で壊れるほど、柔らかい筈はない。

 

「ねえ、お姉ちゃん……

なんか、数字減ってるんだけど……これなに!?」

 

怪物の下に刻まれた漢数字が徐々に減っていく。

 

「ああ、それ私達のパワー残量。

零になると、コイツを抑えつけられなくなって倒す事が出来なくなるの!」

 

「うぇええ!?と言うことは……?」

 

「コイツが神樹様に辿り着き、全てが終わる!」

 

「ある意味、捨て身のシステムか────」

 

……少し、顔を顰めてしまう。

 

「友奈代わって!!」

 

「痛たた……あ、はい!」

 

友奈。と呼ばれた桃色の少女が御霊から飛び降り、

交代する形で風が大剣を御霊に振るう

 

「ふっ────!はぁっ────!!

……手応えがない、いきなりまずいか?

────ならば、私の女子力を込めた渾身の一撃でぇ!!」

 

その一撃で、御霊に罅が入るのを確認した。

女子力とはそんな万能だったか少し疑問が浮かんだが

置いておくことにした。

 

「風先輩!……え?」

 

「か、枯れてる?」

 

「まずい、始まった……急がないと!

長い時間封印していると樹海が枯れて、現実世界に悪い影響が出るの!」

 

「時間がない……だったら────」

 

「なら、私が行こう」

 

「────へ?」

 

私が名乗り出た事に驚いて、こちらを見る。

 

「は?できるの!?」

 

「勝算が無ければ、言わないと思うが?」

 

「うっ……まあたしかに……」

 

風の驚いた様子に呆れて、返答する。

 

「だが……まあ、体勢は整えておくと良い。

爆発の余波で吹き飛ばされても、謝罪はせんぞ?」

 

「はぁ!?ちょ!?待ちなさいって!?」

 

聞く耳を持たず、私は上空に跳び上がり一本の槍をイメージする。

それは、ケルト神話における大英雄、

光の御子と謳われた私にとって因縁の相手である男が持つ

一撃必殺の因果逆転の朱い魔槍。

 

〔心臓に槍が命中した〕という結果を作ってから

〔槍を放つ〕という原因を作る。

 

故に一撃必殺。

 

だが、この槍にはもう一つの使い方がある。

対軍宝具としての一面だ。

 

こちらに因果逆転の効果はない。

……しかし、狙った相手を狙い続ける効果は健在だ。

 

そして、こちらは圧倒的なまでの威力を誇る。

 

偽・螺旋剣は推定でA+とはいえ

壊れた幻想込みでの威力だ。

 

だが、この魔槍は

対軍として使えば壊れた幻想なしでB+。

……数値的にはAにも至るだろう。

 

確実に相手を狙い。

葬るのであれば偽・螺旋剣よりもこちらの方が有効だ。

 

槍は剣に近い構造をしている。

……それは、剣の投影がずば抜けている私にとっては非常にありがたいものであった。

この槍はただ作り、放つ為にはとてつもない魔力を使用する。

だが……剣の投影の魔力消費を抑えることが可能な私にとっては、

この槍の投影もかなり安く済む。

 

故に、真似事ではあるが、コレを使うのが一番手っ取り早い。

 

「投影、開始────」

 

右手にイメージした、朱槍を構える。

その朱槍は禍々しく光り輝き────

 

「やばっ!?二人共!体勢を整えて!!」

 

「は、はい!」

 

「う、うん!」

 

彼女達が防御体勢に入ったのを確認して、

その朱槍の真名()を口にする。

 

突き穿つ(ゲイ)────

 

全力を込めて、その朱槍を御霊に向けて投げつける────

 

死翔の槍(ボルク)────!

 

朱槍は御霊に飛んでいき、直撃する

同時に、巨大な爆発が発生する。

 

「「きゃあああああああ!?」」

 

「なんて馬鹿火力……!?」

 

「……さすがはクー・フーリンを代表する槍……か」

 

爆発が収まり、視界が戻る────

 

「砂になってる……?」

 

御霊が消滅し、怪物が砂になって消えていく。

朱槍が空中に浮いており、奇妙な機動をしながら

手元に戻ってくる……が。

 

「………やはり、投影したモノは耐久が脆いか」

 

手元に戻ってくると同時に、朱槍は粉々に砕け散ったのだ。

 

────────

 

「凄かったな……」

 

私は、彼を見てそう思う。

風先輩が罅を入れたとはいえ

たった、一撃であの硬い御霊を壊してしまったんだ。

 

「樹!友奈!大丈夫!?」

 

「お姉ちゃん!」

 

「風先輩!はい、こっちは大丈夫です!」

 

「樹も友奈も……初戦なのによく頑張ってくれたわ」

 

そう言って、風先輩は私の手を握ってくる

 

って────

 

「痛たたたたた!?」

 

「ああ!?ごめん友奈!?」

 

先程、硬い御霊にぶつけた方の手だったので痛みが走る。

 

「あ……そういえば、お姉ちゃん。さっきの人────」

 

「……そうだったわね。アイツは?」

 

「風先輩、あそこに────」

 

私の視界には、あの男の子が立っている姿がずっと見えていた。

 

「……驚いた。てっきり、居なくなってるものかと」

 

「お姉ちゃん……手伝ってくれた人に

それはいくらなんでも失礼だと思うよ?」

 

「いや、この年頃の男ってかっこつけたくなるヤツが多いでしょ?

だから、アイツもそうなんじゃないかなって────」

 

「それあの人に凄い失礼だよ!?」

 

私が見ている事に気付いたのか、

男の子はフッ。と笑っていた。

 

「あ…………」

 

笑った彼を見て、

じっと見つめていた自分が少しだけ恥ずかしくなった。

 

その時、樹海が揺れると同時に花びらが空を舞って────

 

閉じてしまった目を開けると────

 

「あれ?此処は……学校の屋上?」

 

見覚えのある景色に戻っていた。

 

「神樹様が戻してくださったのよ」

 

キョロキョロと辺りを見回す。

そして東郷さんを見つけて────

 

「あ!東郷さん!

大丈夫だった!?怪我とかない!?」

 

すぐに駆け寄って、声をかける。

 

「ええ、私は大丈夫……友奈ちゃんは大丈夫だった?」

 

「うん!もう安全!……ですよね?」

 

「そうね。ほら見て」

 

風先輩の言葉で私達は、屋上から街を見渡す。

何事もなかった様子で普段通りに車が走っていたり、人が歩いていた。

 

「皆、今回の出来事に気付いてないんだね……」

 

「そ、他の人からすれば今日は普通の木曜日。私達で守ったんだよ。皆の日常を────」

 

その言葉を聞いて、少しだけ安心した。

 

「良かった……」

 

「あ、ちなみに世界の時間は止まったままだったから

今は普通に授業中だと思う」

 

「え?」

 

「「ええっ!?」」

 

訂正、少しも安心できなかったよ!?

 

「まあ、そこは後で大赦からフォロー入れて貰うわ

……怪我はないわね、樹」

 

「うん、お姉ちゃんはなんともない?」

 

「へーきへーき!」

 

「うぅ……怖かったよぉ……お姉ちゃん……

もうわけわかんないよぉ……!」

 

「……よしよし、よく頑張ったわね

冷蔵庫のプリン。半分食べて良いから」

 

「あれ、元々私のだよ〜!?」

 

……樹ちゃんと風先輩のやり取りを見て、少しほっこりした。

 

「……友奈ちゃん……私を助けてくれた男の子は?

……お礼を言っておきたいのだけど」

 

「あ……そうだ……あの人は何処に?」

 

「そういえば、アイツは────」

 

周囲を探す。

 

「……お探しの相手は私かな?」

 

声が聞こえた方向を見る。

そこには、あの紅い外套を着込んだ男の子が

貯水タンクにもたれかかっていた。

 

男の子はひょいっ。と上から飛び降りて、こちらに来る。

 

遠目で見ていたから分からなかったけど

凄く大人びている人だった。

 

身長から見たら……風先輩ぐらいの年齢だろうか?

けど、しっかりしてる人みたいだし……高校生かな?

 

「さっきは、東郷さんを助けてくれたり

手伝ってくれてありがとうございました!」

 

「私からも、お礼を言わせてください。

……先程は助けていただいて、ありがとうございました」

 

「礼をされるような事をした覚えはない。

……それに、こちらはむしろ君達に謝罪せねばならん」

 

「へ?謝罪……ですか?」

 

キョトンとしてしまう。

謝るような事を私達はされた覚えがなかった。

 

「ああ……今回の事は、

ヤツの侵入を許してしまった私に責任がある。

……君達を戦いに巻き込んで、危険な目に合わせてしまったこと

……本当にすまなかった」

 

「わわ!?頭を上げてください!

あの怪物を倒せたのは、貴方が助けてくれたおかげですし……それに────」

 

深々と頭を下げる男の人に私は慌ててしまう。

 

「そうね……色々聞きたい事はあるけど……

アンタが居てくれなかったら、東郷が危なかったのは事実だわ

……助けてくれてありがとう」

 

「……そう言ってくれると助かる

何はともあれ……無事で何よりだ」

 

男の人は、顔を上げて安心したように笑う。

その笑顔がかっこよくて、顔が赤くなってしまう。

 

「本当なら、今すぐ色々アンタから聞きたいところだけど……」

 

……そう、私達はまだ授業中の時間だ。

今から色々というのはまずいわけで……

 

「その点は理解している。次の日の放課後、ここに迎えに来るといい。

……その時にはここに居よう」

 

「その言葉、今回は助けてくれた事に免じて信じてあげるわ」

 

「おや、信用がないな」

 

「……助けてくれたのはありがたいけど、

謎めいてる不審者なのよ?今の貴方」

 

「……ふむ、違いない。

だが……自分で言った事ぐらいは守るさ」

 

彼はそう言って肩を竦めた。

 

「えっと……じゃあ、また明日!」

 

「……ああ、また明日な」

 

あの人はそう言って、学校の屋上から、

ビルの屋上、家の屋根、電柱を伝って、何処かへ行く。

 

「……どういう身体能力してんのよ、アイツ」

 

遠くへ消えていく、彼を見ながら

風先輩の言葉に苦笑してしまう。

……たしかに、少しビックリしてしまう。

 

うん、明日会えるよね。

 

 

 

きっと、この出会いは運命なんだと思う。

彼と出会ったのは偶然なんかじゃなくて────

 

必然だったんじゃないかな。って私はそう思った。

 

──結城友奈の章 《開幕》──




次回、現在の士郎くんの状態に関して
書かせていただきます。

今回でうん?となった人はきっと勘が鋭い人。


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第二十一話 正体は────

今回は説明回も兼ねております。

少しだけ、彼の状態も分かる……かも……?


「その子、懐いてるんですねー」

 

「えへへ、名前は牛鬼って言うんだよ」

 

私の頭の上に乗っかっている精霊、牛鬼を樹ちゃんは見る。

 

「可愛いですねぇ……」

 

「ビーフジャーキーが好きなんだよね!」

 

「牛なのに!?」

 

最初は驚くよね。私もビーフジャーキーを食べた時は

え!?ってなったもん。

 

「さてと……皆、元気そうで良かった。

昨日の事について、説明して……いく前に────」

 

風先輩はチラリと窓側にもたれかかっているあの人に目を向ける。

 

「……なるほど、たしかに私から言った方が良いか」

 

「えっと……わざわざ来てくれてありがとうございます!」

 

「なに、自分で言った事だ。来るのは当たり前だろう?」

 

「いやー、まさか屋上に行ったら本当に居るとは思わなかったわ……」

 

「……疑っていたのか、君は」

 

ジト目で風先輩を見つめていた。

 

「うっ……だって、普通はみんな、絶対居ないって思うじゃない!

よって、私は悪くなーい!」

 

「ごめんなさい……お姉ちゃんが……」

 

「いや、気にしてはいないよ。

そう思ってしまうのも無理はないと思うからね」

 

彼は、肩を竦めて苦笑いをしていた。

 

「……ゴホン!で、まずはなんだけど。

アンタは何故戦えるのか聞いて良い?」

 

「……それに関しては君らと変わらんと思うがな」

 

「は?どういう事よ、それ」

 

私達と変わらない?

それって……勇者ってことなのかな……

 

「こういう事だ」

 

彼は、ズボンのポケットから画面が真っ暗なスマホを取り出す。

そのスマホの裏には大赦のマークがあって……

 

「ええっ!?それ私達と同じ大赦製のスマホじゃない!?

アンタ何処で手に入れたのよ!?」

 

風先輩は驚いた様子で彼が手にしたスマホを見る。

……私達と同じスマホ。じゃあやっぱり勇者なんだ。

 

「さて、どうだったか。生憎、覚えていないのでね(・・・・・・・・・)

 

?どうしてだろう。今の言葉に違和感があった。

 

「はぁ?覚えてないって……まあ良いわ

それで、何処まで知ってるの?」

 

「知らない事は知らないし、知っている事は知っている」

 

「アンタねぇ……」

 

「フッ、冗談だ。君よりは知っていると思うよ。犬吠埼(いぬぼうさき) (ふう)

まぁ……奴らの名前は覚えていないんだが(・・・・・・・・・)

 

まただ、また少しだけ違和感があった。

 

「アンタ、いつの間に私の名前を!?

……さては、私のストーカー!?」

 

「……はぁ」

 

「ちょ!?なんでそこで溜め息吐くのよ!?」

 

「お姉ちゃん……黒板……」

 

「黒板?……あ」

 

風先輩は、しまった。という顔をした。

私達の名前はそこで確認できる。

部員の名前を、黒板に書いているからだ。

 

「と、当然分かってたわよ!?あえて試しただけだから!」

 

「……やれやれ、声が震えているぞ。犬吠埼姉」

 

「うぅ……なんかコイツに勝てる気がしないわ……」

 

「さて、それで?次は何を答えれば良い?」

 

「んん!そうね……じゃあ、名前と年齢ぐらいは良いでしょ?」

 

「そうだな……まあ、出来る範囲で答えるとしようか」

 

風先輩の言葉に頷き、彼は答える。

 

「……エミヤ。

年齢は……さて、13なのか14なのかか……はたまた15か」

 

「ふざけてるの?」

 

「いや、心底真剣だが?」

 

「いやどうみても巫山戯てるでしょうが!

何処の世界に名字と曖昧な年齢を答える男が居るのよ!?

男なんて、年齢鯖読みしなくて良いでしょうが!?」

 

「……私は望まれたままに答えただけなんだがな」

 

先程の違和感の正体が、分かった気がする。

……もしかして……この人は。

 

「あの!風先輩……!」

 

「ん?どったの友奈?」

 

「その……もしかしてなんですけど……

……記憶がない(・・・・・)んじゃないですか?」

 

「……え?」

 

風先輩はキョトンとするけど、

男の人……エミヤさんは目を丸くしてこちらを見つめてきて……

 

「……驚いた。ぼやかしていたとはいえ、

こうもあっさり気付かれるとはね……君は確か……」

 

「あ、はい!讃州中学二年!結城(ゆうき) 友奈(ゆうな)です!」

 

「友奈……か。

……あぁ、良い名だな。君に似合っている」

 

「え!?そ、そうですかね?」

 

懐かしそうにしながらも、

そんなふうに言ってくれるエミヤさんに照れてしまう。

 

「えっと……ほんとに記憶ないの?」

 

「ああ、悲しい事にね。

二年前より……つまりは、298年以前の記憶は殆ど無いに等しい。

覚えているのは、このエミヤという名前ぐらいだ。

年齢に至っては自分でもハッキリしていない」

 

淡々と、他人事のようにエミヤさんは告げる。

まるで全然気にしていないように。

二年前……たしか東郷さんも……

それより以前の記憶が抜け落ちてるって……

 

「マジで記憶がないってわけね……」

 

「ああ、とはいえ……一般常識はある程度覚えていると思うぞ。

……何処までの範囲かは分からんがね」

 

「バーテックス……ああ、あの怪物達の事なんだけど

アイツらになにかされたのかしら?」

 

「さてな、そこも分からん。

覚えているのはヤツら……バーテックスだったか。

それを倒さねばならん事と……

そうだな、花が咲くのを防ぐ……ことだったか」

 

「花が咲く?どういう事よ」

 

「さて、私にもさっぱりだ。

青と赤と紫の花だというのは分かっているんだがね……

それに戦っていた理由は

最早、本能的な強迫観念からくるものだった」

 

エミヤさんはそう告げて、肩を竦める。

その時、横で東郷さんが手を挙げる。

 

「あの……エミヤさん……」

 

「……君は……ああ、私があの時」

 

「はい、東郷(とうごう) 美森(みもり)と言います。

あの時はありがとうございます。

それで……その……」

 

……東郷さんが何を言いたいのか分かった。

 

「エミヤさん、東郷さんも……少し前の記憶がないんです。

それで……見覚えとかはないですか?」

 

「そういうことか…………ふむ……」

 

少し、エミヤさんは考え込むが……

しばらくして首を横に振る

 

「いや、すまない。君とは会った覚えがない

……君のような綺麗な女性なら、覚えているはずなんだが。

力になれなくてすまないな」

 

「いえ、私の方こそ、不躾な質問をしてすいません……」

 

「気にするな。

とはいえ……会った。という可能性は充分にある。

君と私の存在しない記憶の中の何処かで。の話になるかもしれんが。

もし、それが分かれば君も私も少しだけ思い出せる可能性があるのは事実だからね」

 

エミヤさんはそう東郷さんを安心させるように笑った。

 

「んー……思ったんだけどサ。

エミヤ。アンタのスマホ。どうなってるの?」

 

「……生憎、バッテリー切れでね。何も出来ないのさ」

 

「あー、もしかしてその外套のままなのってそれが原因?」

 

「ああ。解除も出来ないようだったからね。ずっとこの服さ」

 

「……じゃあさ、大赦で直してもらうのはどうかしら?」

 

あ……そっか。

壊れているなら、直せば良いし……それに直ったら。

 

「なるほど……直せれば

私の個人情報が見つかるかもしれんな」

 

「でしょ?」

 

「だが、これが私の持っていた私物でない可能性もあるぞ?」

 

「だから、そこを詳しく調べてもらうってことよ。

直すついでにね。後で良いからそれ、私に渡しなさい。

大赦の方に手続きしてあげるワ」

 

「……素直に礼は言わせてもらおう。犬吠埼姉」

 

「風で良いわよ。

犬吠埼だと樹と被っちゃうし……わざわざ姉をつけるのも面倒でしょ?」

 

「ふむ、たしかに……ではフウと。

……ああ。なるほど、良い名だな」

 

「お、私の名前のセンスが分かるなんて……中々やるじゃない!」

 

「君の活発さに(かぜ)という文字はよく似合う。

だが、そよ風。という人にとって心地よい風が存在する事も考えると……

なるほど、他者を気遣う優しさを持っているからこそ

フウという名前なのかもしれないな。

私は素敵な名前だと思うよ」

 

「そ、そうかしら……?」

 

風先輩の顔が赤くなっていくのがこちらからだと凄く分かる。

 

「ああ、君に合っている」

 

「うぅ……恥ずかしいわね……」

 

「凄い……お姉ちゃんの顔が赤くなってる……」

 

「えっと、樹ちゃん……やっぱり珍しいの?」

 

「はい、普段は褒められても平然としてる事が多いんですけど……

ここまで赤くなるのって珍しいかもしれません」

 

「ほぇー……」

 

風先輩の意外な一面を見れた私達だった。

 

「ああもう!アンタの事はだいたい分かったから

今度はこっちの説明するわよ!ちゃんと聞きなさい!良いわね!?」

 

「「は、はいっ!」」

 

風先輩が大声で、そう告げてきて私達はぎゅっと畏まる。

 

「アンタもよ、エミヤ!!」

 

「私もか?」

 

「戦う上でアイツらの事知っておいて損は無いでしょ!」

 

「ふむ、それもそうか……」

 

エミヤさんも、風先輩の説明を私達と聞くことになった。

 

「えっと……戦い方はアプリに説明テキストがあるから……

今は、何故戦うのかって話をしていくわね」

 

風先輩はそう言って、黒板のよくわからない絵を指刺す。

 

「コイツはさっきも言ったけど、バーテックス

人類の敵が、あっち側から壁を越えて十二体攻めて来ることが

神樹様のお告げで分かったわけで……」

 

「あ、それこの前の敵だったんだ……」

 

「き、奇抜なデザインをよく表した絵だよね!?」

 

上手くフォローを入れることが出来たか不安だったけど

風先輩の説明に耳を傾ける。

 

「目的は神樹様の破壊。以前にも襲ってきたらしいんだけど

その時は頑張って追い返すのが精一杯だったみたい」

 

「追い返す……か」

 

あれ?じゃあエミヤさんは……何処で戦っていたんだろう?

侵入を許してしまった。って言ってたけど……

 

「そこで大赦が作ったのは、

神樹様の力を借りて勇者と呼ばれる姿に変身するシステム

人智を超えた力に対抗するにはこちらも人智を超えた力ってわけね」

 

「眼には眼を歯には歯を。の理論か」

 

「そういうことよ」

 

「その絵、私達だったんだ……」

 

大赦の文字の下にある、赤丸で囲まれた人らしき絵が

四人分書かれていたことから

多分樹ちゃんの言う通りなんだろう。

 

「げ、現代アートってやつだよ!」

 

「ん"ん"っ!……注意事項として、樹海が何かしらの形でダメージを受けると

その分、日常に戻った時に何かの災いとなって現れると言われてるわ」

 

「あ……」

 

心当たりがあった。

同級生の子が言っていた事。

 

隣町で交通事故があったという内容だ────

 

「派手に破壊されて大惨事。なんてならないように

私達勇者部が頑張らないと……」

 

「その勇者部も、

先輩が意図的に集めた人達だった。というわけですよね?」

 

「……うん、そうだよ適正値が高い人は分かってたから」

 

風先輩は申し訳なさそうに、東郷さんの質問に答える。

 

「私は……神樹様を御祀りしている大赦から使命を受けてるの。

この地域の担当として……」

 

「知らなかった……」

 

「黙っててごめんね……」

 

樹ちゃんの言葉に風先輩は謝罪する。

 

「……次は敵……いつ来るんですか?」

 

私は不安になって風先輩に聞いてみた。

 

「明日かもしれないし……一週間後かもしれない。

そう遠くはない筈よ……」

 

……いつ襲撃が来るかわからないって事なんだと理解させられた。

 

「なんでもっと早く……

勇者部の本当の意味を教えてくれなかったんですか?

友奈ちゃんも樹ちゃんも……死ぬかもしれなかったんですよ?」

 

「………っ、ごめん。

でも……勇者の適正が高くても、

どのチームが神樹様に選ばれるは……敵が来るまで分からないのよ。

むしろ……変身しないで済む確率の方がよっぽど高くて」

 

「何十分の一か……はたまた何分の一か。

だが……たしかに、確率だけで見ると選ばれる確率は低いだろうな。

もっとも……、仕組まれていなければの話だが

 

「そっか、各地で同じような勇者候補生が……居るんですね」

 

私は不安そうな表情をしている

東郷さんを気にかけながら、そう答える。

 

「うん……人類存亡の一大事だからね……」

 

「こんな大事なこと……ずっと黙っていたんですか……」

 

「……東郷」

 

東郷さんが勇者部の部室から出ていってしまって……

 

「行くといい。友奈。君が行くのが一番良いだろう」

 

「はい!……私、行ってきます!」

 

どうすれば良いか迷っていたら、

エミヤさんが背中を押してくれて……私はすぐに東郷さんを追いかけた。

 

────────

 

吹奏楽部が練習しているらしく、楽器の音が聞こえる。

 

「はぁ……」

 

その音を聞きながら、私は溜め息を吐いてしまう。

 

そっと、紙パックのお茶が渡される。

それを渡してきたのは他でもない……

 

「友奈ちゃん?」

 

「はい、東郷さん。私の奢り!」

 

いきなり言われて少し困惑してしまう。

 

「え、でも……そんな理由なんて────」

 

「あるよ?だって、さっき東郷さん。

私の為に怒ってくれたから……」

 

ないと言おうとすると、

友奈ちゃんが遮ってそんなふうに言ってくれる。

 

「だから、ありがとね。東郷さん♪」

 

笑ってお礼を言ってくる友奈ちゃんが

少し私には羨ましくも思えて────

 

「あぁ……なんだか友奈ちゃんが眩しい」

 

「え?どうして?」

 

不思議そうに友奈ちゃんが聞いてくる。

……そして、自然と理由が口から出ていた。

 

「えっとね……私、昨日ずっともやもやしてたんだ……

このまま変身出来なかったら、

私は勇者部の足で纏いになるんじゃないかって」

 

今もずっとそう思っている。

事実、あの時エミヤさんが居なかったら……そう思うとぞっとした。

 

自分が死んでいたかもしれない。

それで友奈ちゃんや皆が……苦しんだかもしれない。

 

そう思うと怖くて仕方なかった。

 

「そんな事ないよ、東郷さん!」

 

「だからさっき怒ったのも、

そのもやもやを先輩にぶつけてたところもあって……」

 

ただの八つ当たりだったのかもしれない。

風先輩は優しい人だ。

だから、黙っている事が一番辛かったのはきっと風先輩で……。

 

「私、悪い事言っちゃったな……」

 

「東郷さん……」

 

……でも、私が一番気にしているのは

 

「友奈ちゃんは皆の危機に変身したのに……」

 

「ん?」

 

「御国が大変な時なのに……」

 

「と、東郷さん?」

 

「私は……私は勇者どころか……敵 前 逃 亡 ……」

 

それが一番、大和魂を持つものとして恥ずべきことだった。

 

「おーい、東郷さーん……?」

 

「風先輩の仲間集めだって、国や大赦の命令でやっていた事だろうに……

はぁ……私はなんて────」

 

「わあああ!わあああ!?

そうやって暗くなってたら駄目だよおお!?

じゃ、じゃあ私のお気に入りを見せてあげるね!

これ見たら凄く楽しくなるよ!」

 

友奈ちゃんはそう言って、赤いメモ帳を取り出す。

……あれはたしか、押し花を集めているメモ帳

 

「じゃじゃーん!きのこの押し花!

えへへ、凄いでしょ!とうもろこしのもあるよ?」

 

励ましてくれているというのは分かっている。

けど……それが少し私には辛くて……

 

「……うん、綺麗だね」

 

「気を遣わせてしまった……!?」

 

友奈ちゃん。心の声が漏れてるよ……。

そう言いたくなった。

 

「え、ええっと……一番、結城友奈!一発ギャグ行きます!!

牛鬼ごめんね……!

 

友奈ちゃんは精霊の牛鬼を服に押し込んで……

 

「ねぇ見て、私のバストまるでホルスタイン────」

 

……牛鬼を胸の部分に持っていってそんなネタをする友奈ちゃん。

 

「私の為に、こんなネタを……」

 

「わぁあああ!?逆効果ああああ!?」

 

服の中にいる、牛鬼をどうにかしようとする友奈ちゃんを見て

疑問に思った事を口にしてしまう。

 

「ねえ、友奈ちゃんは……大事な事を隠されて怒ってないの?」

 

「ぉおおおお……お?

……うーん、そりゃ驚きはしたけど……でも嬉しいよ?

だって、適正のおかげで風先輩や樹ちゃんと会えたんだから!」

 

「────この適正のおかげ?」

 

「うん!」

 

友奈ちゃんのその言葉で少し、もやもやが晴れた気がした。

 

「友奈ちゃんも知ってると思うけど……

私は中学に入る前に事故で足が全く動かなくなって……

記憶も少し飛んじゃって……学校生活を送るのが怖かったけど……

それでも、友奈ちゃんが居たから不安が消えて

勇者部に誘われてから……学校がもっと楽しくなって……

そう考えると、適正に感謝だね」

 

「これからも楽しいよ!

ちょっと大変なミッションが増えただけで!」

 

友奈ちゃんは私の手を握って、そう告げる。

あぁ……なんだ、こんな簡単な事だったんだ。

 

「うん……そっか……そうだね!」

 

「あ……えへへ!」

 

私が笑ったのを見て、友奈ちゃんも笑っていた。

 

────────

 

部室にて樹くんと風が悩ましい表情でいる

 

樹くんはタロットカードで占いを始め、

風は東郷への、謝罪をどうするか考えていた。

 

「如何にしてお姉ちゃんと東郷先輩が仲直りするか……」

 

「えっとぉ……説明足りなくてごめんねっ☆

……軽すぎて、もっと怒っちゃうかな?

本当に、ごめんなさい!!

……これもダメよね……困った!……どうやって仲直りしよう」

 

「普段通りの謝り方で良いんじゃないか?」

 

「え?」

 

「誠意を見せようとするのは良いが、彼女のような質には

気を遣わせてしまうだけだ。

……となれば、いつものように謝れば良いだけだと思うが?」

 

私の言葉が意外だったのか、風は目を丸くしてこちらを見る。

 

「……そっか、ごめんなさいね。

アンタにまで気を遣わせちゃって」

 

「気にするな。

これでも……困っている他人(ひと)を放っておけない質の人間でね」

 

申し訳なさそうにする風に、こちらは肩を竦め苦笑するのだった。

 

「樹の占いはどうなったの?」

 

「今結果が出るよー……えい!」

 

樹くんが最初に捲ったカードは

『THE LOVERS.』つまりは『恋人』のカードの正位置だった。

 

意味は確か……楽しい、無邪気、甘いムード。

幸運がやってくる。

 

だったか……

 

「お、なんかモテそうな絵じゃない!

他のは?」

 

「えっとね……あれ?」

 

樹くんが捲った『吊るされた男』のカードを

机に置こうとした時、異変が起きた。

 

置いたはずのカードが、途中で制止していたのだ。

 

それはつまり────

 

風達のスマホから警報が流れる。

 

風の精霊、(おそらくは)犬神が風のスマホを持ってくる。

スマホには『樹海化警報』と書かれていて────

 

「まさかの連日……!?」

 

「やれやれ……運がないな。私も」

 

干将・莫耶を投影しながら、私は溜め息を吐く。

 

────世界が塗り変わっていく感覚が私の体を支配した────




今回は敢えて、東郷さんの心象で彼の事はあまり触れませんでした。
これを伏線と捉えるかどうかは……皆様のご自由に────


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第二十二話 ろうたける思い。或いは固い絆

のわゆの上巻読んでから、下巻を少しだけ試し読みしたんですけど、
少し複雑な心境で読むハメになりました。

あの暴動が起きた場所が地元というか……
今住んでる場所なので、なんとも言えませんでしたね。

誰かの日記で妹を殺されたとか書いてあったのが
いつも通っているあの地下街で起きた事だと想像すると少しだけぞっとします。

何処とは言いませんが、のわゆを買った人ならわかるはず……。

ちなみに私の実家は香川です(どうでも良い)


「三体同時に来たか……モテ過ぎでしょ」

 

目の前に存在する、三体のバーテックスを見て風は顔を顰める。

だが、私には……何故か妙な既視感があって────

 

「あの三体……」

 

「ん?見覚えあるの?」

 

「ああ……とはいえ曖昧なものだがな。

……今回の輩が厄介だという事だけは頭に入れておくといい」

 

「ははぁ……オーケー、注意しとくわ」

 

風はそう言って大剣を構えた。

 

「彼女も巻き込まれるのか……」

 

「……そうみたいね。

こっちの事、少しは考えてくれても良いとは思うんだけどねぇ

神樹様もさ」

 

東郷美森が、樹海化に巻き込まれているのを見て

少し、複雑な顔をしてしまう。

戦いを望まない少女を此処に居させるのは好ましいとは思えない。

 

だが……

 

「そこは、人と神の価値観の違いもあるだろうな。

規模や年齢なども月とスッポンレベルでの差がある分……仕方ないのかもしれん」

 

「……まあそこは、追々大赦の方で聞いてみるわ」

 

「それが賢明な判断だな」

 

今後の事を話していると、友奈が駆け寄ってくる

 

「お待たせしました!結城友奈、到着です!」

 

「よし、揃ったわね。

とりあえず……あの遠くにいる青いヤツは放っておいて

先に近い二体を倒すわよ!」

 

「あっ!?」

 

その時、青いバーテックス。射手座(サジタリウス)

二つある口のうち、上の口から巨大な一本の針を飛ばしてくる。

 

まずい────

 

「やっば────!?」

 

「熾天覆う七つの円環!」

 

直撃コースだった、風を庇う形でアイアスを展開し

針を防ぐ。

 

「大丈夫か、風!」

 

「サンキュー……助かったわ、エミヤ」

 

「気にするな。とはいえ……四枚持っていかれるとはな……

……ッ、まだ来るぞ!」

 

下の顔がある口から、無数の光の針を飛ばしてくる。

 

「いっぱい来たああああ!?」

 

「全員散開して!!」

 

光の針を避けながら各自がバラバラの方向に散って行く。

 

「撃ってくる奴をなんとかしないと────!」

 

友奈はそう言い、射手座を狙いに走るが……

 

「まずい────!?」

 

「友奈さん、後ろです!!」

 

赤色のバーテックス。蟹座(キャンサー)

盾のようなものを展開して、光の針を反射させ跳ね返してくる────

 

「うぇ!?あわわわわわわ!?」

 

「あの状況下で捌けるとは……」

 

だが、友奈も迫ってきた光の針を

拳で自分に当たるであろう針だけを綺麗に捌いたのだ。

 

「ほっ……っ!?」

 

しかし、安心したのも束の間……

黄色のバーテックス。蠍座(スコーピオン)が尾の尖端にある針で友奈を刺す。

 

「友奈さん!?」

 

彼女の精霊である牛鬼が友奈をバリアで守るものの、

その後、落下していく友奈を更に尾で薙ぎ払う

 

「きゃあああ!?」

 

「くそっ────!!」

 

私は、友奈の方へと走るが……

 

「……ッ!やはり遠距離が居るのは厄介極まりないな!!」

 

射手座の針を蟹座が上手く反射させて、

こちらと風達にも飛ばしてきたのだ。

 

「こうなったら、弓で────!」

 

黒い洋弓を投影しようとするが……

 

「まずい────エミヤ!避けなさい!」

 

「しまっ────ぐああああ!?」

 

射手座が巨大な針を再び撃ち出し、

それに気付けなかった私は直撃し、勢いよく吹き飛ばされる。

 

「かはっ!?」

 

そして吹き飛ばされ、

樹海の根に勢いよく叩き付けられ

空気を一気に口から吐き出してしまう

 

「……ぐ……まずっ……たな。

……どうせなら……衝撃も、抑えて欲しいもの……だが」

 

酒呑童子が貼ったバリアのおかげで致命傷は防げるが

衝撃までは抑えることができないのだ。

 

贅沢は言えないが……もう少し、どうにか出来ないのだろうか……

 

「まずい……友奈……!」

 

蠍座に何度もバリアを突き刺され、

身動きが取れない状態になっている友奈を見て焦る。

どうすれば良い……どうすれば挽回できる……!?

 

「やめろ……友奈ちゃんを……友奈ちゃんを────」

 

「いじめるなああああああああ!!」

 

その時大声で叫ぶ、東郷の声が聞こえた────

 

「まずい……東郷に気付いて────!?」

 

蠍座は、その声に気付いたのか

東郷に向けて尻尾を突き刺そうとするが……

 

それを、卵のような精霊がバリアを展開して防ぐ。

 

「私……いつも、友奈ちゃんに守ってもらってた……」

 

「東郷さん……?」

 

「だから……だから次は私が勇者になって────

友奈ちゃんを守る!!

 

勇者システムは東郷のその思いに答えるように起動して……

 

「……綺麗」

 

(あさがお)……」

 

青い蕣を思わせる勇者の装束を着込んだ東郷が立っていた。

 

「ッ────!?」

 

その時、自分の頭にノイズがかかる。

青く、空に咲く蕣。そして……その前には────

 

「……今のは?」

 

見覚えがないはずなのに、

少しだけ懐かしいような悲しい感覚に襲われた。

 

東郷は片手銃を取り出す。

そして先程バリアを貼った精霊とは違う、

狸の精霊が横に浮いていた

 

「もう友奈ちゃんには手出しさせない────!」

 

もう一度突き刺そうとしてきた蠍座の尾の針を

東郷は的確に撃ち抜いた。

 

東郷は再び武器を持ち替え、二丁拳銃を手に持つ

同時に狸の精霊が消え、鬼火のような精霊が現れる。

 

「凄い東郷さん……これなら……!」

 

銃弾を連続して撃ち込み、確実に蠍座の動きを封じる。

 

「友奈!」

 

「エミヤさん?」

 

「アイツを、赤色のバーテックスまで飛ばせるか?」

 

「────分かりました、やってみます!」

 

友奈は私の言葉に頷いて────

 

────────

 

「ああ、もう!執拗い男は嫌いなのよ!」

 

「モテる人っぽいこと言ってないで

なんとかしようよお姉ちゃん!」

 

たしかに、この状況はまずい……

とはいえ、あれだけ撃たれるとどうすれば良いか……

 

そう考え込んでいると、

バーテックスがバーテックスの上に降ってきた。

降ってきた────

 

「うそ!?」

 

「ええ!?」

 

困惑しながらも、今がチャンスと見て

私と樹は上まで跳ぶ。

 

「よっと、海老運んできましたー!」

 

「いや、蠍でしょ」

 

「「どっちでも良いから(どっちでも良いだろ)……」」

 

友奈の言葉に返した私に向かって、

エミヤと樹が呆れた様子で苦笑いする。

名前は星座から取られてるらしいから

蠍だという事は言っておくべきじゃないだろうか。

 

「あ……」

 

友奈とエミヤに続くように、見覚えのある顔がやって来る────

 

「東郷先輩!!」

 

「遠くの敵は、私が狙撃します!」

 

「東郷……戦ってくれるの?」

 

「………!」

 

私の問いに、東郷は頷いて……

それが少し私には嬉しかった。

 

「援護は任せてください!」

 

「……分かった!手前の奴らをさっさと片付けるわよ!!

全員、散開!」

 

「「OK!」」「承知した」

 

「不意の攻撃には充分気を付けて!」

 

「「はい!」」

 

東郷の言葉に樹と友奈ははっきりと返事をして……

 

「私の時より……返事が良い……」

 

「…………」

 

少し落ち込んだ私の肩をポンと叩いてから

エミヤは二人の後を追った。

 

「って、女の子が落ち込んでいるんだから

励ますぐらいしなさいよ!!?」

 

遅れをとってはいけないと、私も三人の後を追うのだった。

 

────────

 

「一気に封印したいどころだけど……」

 

一気に二体封印するということは、

それだけ多くパワー残量を減らすという事だ。

三体居る中で、一気に減るのはまずい。

 

なら────

 

「風、黄色の方は任せてくれないか?」

 

「え?でも、アンタ封印の儀────」

 

「真似事なら出来る。なに、私にはちょっとした裏技もある。

それに……あれには少々借りがあってね(・・・・・・・)

 

そう、干将・莫耶を利用すればおそらく封印は出来るだろう。

そして……アイツには少々借りがあるのも事実だ。

 

「……分かった。その言葉信じるわよ。

友奈!樹!赤い方封印するわよ!黄色はエミヤに任せる!」

 

「「はい(うん)!」」

 

「礼を言う、風」

 

素直に感謝するほかなかった。

 

「別に良いわよ。けど……失敗しないでよ!」

 

「当然だ。……もう少し早く君みたいな子に会えていたら

私も惚れていただろうな」

 

「んなっ!?ちょ、ちょっと!?」

 

顔を赤くした風。

少しだけ意地の悪い笑みを私は浮かべて

私は蠍座の方へ向かって行った。

 

干将・莫耶のオリジナルは『怪異に対し絶大な威力を発揮する対魔の剣』だ。

アレらが神に産み出されたものであれ、

人にとって邪悪なモノであるならば多少なりとも効果はある。

 

現にそれは、投影品である

こちらの干将・莫耶でダメージを与えれた事で証明できている

 

そして、これはかつての私の手で

魔除けの文句が刻まれている。

それにより巫術器具として使うこともできるという代物だ。

 

ならばこそ、封印の儀に近い事は可能だろう。

質は劣る、故に二本だけでは不可能。

 

では?

 

単純だ。

数を増やせば良い。

 

ならば、やり方は一つ────

 

「ハァッ────!」

 

手に持っていた干将・莫耶に魔力を込めて蠍座に向けて投げる。

 

鶴翼(しんぎ)欠落ヲ不ラズ(むけつにしてばんじゃく)

心技(ちから) 泰山ニ至リ(やまをぬき)

 

投げた二本が蠍座の背後に回ったのを確認して、

新たに二本、干将・莫耶を投影しそれを再び投げる。

 

心技(つるぎ) 黄河ヲ渡ル(みずをわかつ)

唯名(せいめい) 別天ニ納メ(りきゅうにとどき)

 

四本の干将・莫耶が蠍座に突き刺さった事を確認して、

最後に魔術で強化し

鋭利で巨大になった干将・莫耶のオーバーエッジを投影する。

 

そして、その投影した二本を手に持ち、跳び上がった後

 

両雄(われら) 共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)

 

鶴翼三連・封印ノ型(かくよくさんれん)────!

 

全力を以て蠍座に向かって叩き付ける────

 

これは、言わばアレンジした型だ。

本来は斬り込む技だが、ヤツらの巨体にそれは通じない。

言わば、封印の為に生み出した……オレ(・・)のみが使える技────

 

オーバーエッジの干将・莫耶が突き刺さると同時に、

蠍座の足が抱えていた丸い器のようなものから御霊が出現する。

 

「ほんとに出た!?どうやったのよ!?」

 

「単純だ!言ってしまえば

コイツは質は劣るが対魔の剣!

質が劣化しているなら、

それを数で押せば良い、それだけの事さ!!」

 

「滅茶苦茶だけど理にかなってるわね!!」

 

「お姉ちゃん!こっちも出たよ!」

 

そして、同じタイミングで蟹座からも御霊が出現した。

 

「私、行きます!」

 

友奈が蟹座の御霊を壊しに行くが────

 

「あれっ?

フッ────……あれぇ!?

このっ!……この御霊、絶妙に避けてくるよ!?」

 

ひらりひらりと、絶妙なタイミングで攻撃を躱す。

 

「だったら……交代して友奈!」

 

友奈と入れ替わり、風が大剣で斬り込む。

だが、それすらも躱す。しかし、風は余裕そうに笑って────

 

「点の攻撃をひらりと躱すなら……!」

 

精霊によって、大剣を更に巨大に変貌させ……

 

「面の攻撃でぇええ……!

 

押し潰うううううすっ!!

 

大剣をバットように使い、御霊を上に飛ばし、

その上から巨大になった大剣の平らな面で叩き潰した────

 

「ふふん、ひとぉつっ!」

 

その時、彼女の服の足にある花の模様が光った気がした────

 

「よし、次はこいつ────」

 

蠍座の御霊に視線を向ける。

その時、御霊に異変が起こり……

 

「な、なんか増えたああ!?」

 

「向こうも数か……!?」

 

舌を打つ、御霊を壊すためには

一点に集中した時を狙わないと壊せない────

 

「数が多いなら……!」

 

樹くんが蔦に巻かれているような腕輪を右腕に出現させ

ワイヤーを射出する。

 

ワイヤーは、増えた御霊を雁字搦めにして────

 

纏めて、えええええええい!!

────えいっ!」

 

キツく縛られた御霊は一つ一つワイヤーで切り裂かれていき、

最後の一つも粉々に切り裂かれた。

 

その時、樹くんのうなじにある花の模様が風同様光った────

 

あれは……何処かで……?

 

「ふぅ……」

 

「ナイス樹!あと一つ!!」

 

……射手座を睨みつける。

今は東郷が狙撃で抑えてくれているが……

 

『風先輩、部室では言い過ぎました。……ごめんなさい』

 

「東郷……」

 

『精一杯援護します!』

 

「心強いわ、東郷!私の方こそ────」

 

風が謝罪しようとした時、射手座の中心部分に

東郷が撃った弾丸が正確に直撃し爆発が起こる。

 

「ほぇ〜……」「ひぇぇ〜……」

 

「えっと……ほんとごめんなさい……はい……」

 

友奈と樹は驚いた様子で射手座を見つめ、

風は電話越しに頭をペコペコと何度も下げて謝罪していた。

 

ただ、少し私には違和感があった。

 

「あれだけ大きければ当たる可能性は高い……

だが、ここまで精密に、バラツキがなく撃てるものか……?」

 

まるで、東郷が戦いを経験していたかのように、

銃を握った事があるように思えた。

 

それが、違和感を増長させたと同時に。

何故か懐かしさを感じさせた────

 

「よし、封印開始!!」

 

撃ち抜かれ、射手座が怯んだ隙を狙い

封印の儀を始めるが……

 

射手座の口から出た御霊は高速で射手座の周囲を廻り始める。

 

「この御霊……」

 

「早いッ!?」

 

「……枯れ始めてる……まずいか?」

 

動きが掴めない……だったら。

 

「風!スマホを貸せ!」

 

「え!?良いけど、何する気よ!?」

 

「四の五のは後だ!」

 

「ああ、もう!分かったわよ!変な所弄らないでよ!?」

 

風はスマホをこちらに渡す。

私は借りたスマホで東郷と連絡を取る。

 

「東郷、聞こえるか」

 

『エミヤさん?』

 

「ああ、今は風のスマホを借りている

……アイツの御霊を狙い撃てるか?」

 

『……動きが早いので正確に狙えるかは』

 

「可能では、あるんだな?」

 

『はい────』

 

彼女は、はっきりと断言した。

それを聞いて、即座に勝った。と確信してニヤリと笑う。

 

「フッ……なら、アレの動きを一瞬だけ止めたら良いんだな?」

 

『できるなら……でも……』

 

「なら、それは私がやろう」

 

『────!』

 

電話越しでも驚いた事が分かる。

 

「……安心しろ、狙った獲物は外さん主義でね。

君は、止まった隙を狙い撃て」

 

『……分かりました。お願いします』

 

「……ああ」

 

『不思議です。エミヤさんと話すと、少しだけ懐かしさを感じます』

 

「……私もだ。

案外、失った記憶の何処かで会っていたのかもしれないな」

 

『フフッ、そうかもしれませんね。

……ご武運を。信じています』

 

「任せたまえ」

 

通話を切り、風にスマホを投げ返す

 

「わっ!?ちょっと、私のスマホなんだから大切に扱いなさいよ!?」

 

「スマホは自分の物なら仕舞えるだろうに」

 

「あ……」

 

忘れていたのか、少しだけ拍子抜けした声を風は漏らす。

 

「やれやれ……」

 

溜め息を吐いて、即座に黒い洋弓を投影しながら

ある程度の距離を置く。

 

……狙う必要はない。撃ち抜く必要もない。

ならば、螺旋の剣も呪いの朱槍も不要。

 

故に、投影すべき剣は一つのみ。

 

「投影、開始────」

 

歪な黒い剣を投影する。

そして、その剣を洋弓に添え弦を引き絞る。

 

「狙う必要はない……特徴は覚えたな?

────赤原を行け、の猟犬」

 

弦を手から離し、剣を撃ち出すと同時に

その剣の真名()を口にする。

 

赤原猟犬(フルンティング)

 

猟犬は素早く動く御霊を追いかけ、直撃する。

 

「当たった!」

 

だが、これでは壊れない。

────ああ、そうだ。私は本命じゃない。

 

本命は、彼女だ────

 

「まさか、東郷先輩!?」

 

「撃ち抜いた!?あの一瞬の隙で!?」

 

銃弾が、一瞬だけ動きが鈍った御霊を貫く。

 

御霊は徐々に、動きが遅くなり……消滅した。

 

「……片付いたな」

 

それぞれが己の獲物を仕舞う。

 

「アンタ、弓も出来たのね」

 

「どちらかといえば、こちらの方が本職だよ。

剣は近距離相手の対処に使っているだけさ」

 

「アレを見せられた後じゃ信じられないわよ、それ」

 

風は苦笑いをして、そう告げてくる。

だが自分にとっては事実でしかないので肩を竦めるしかなかった。

 

────────

 

「東郷さんかっこよかったなぁ!ドキッとしちゃった!」

 

「でも、本当に助かったわ。東郷。

えっと……それで……」

 

「覚悟はできました。私も……勇者として頑張ります!」

 

「東郷!ありがとう!一緒に国防に励もう!」

 

「国防……!はい!!」

 

仲直りした二人を見て、クスリと微笑んだ。

 

「良かったですね。仲直りできたみたいで」

 

「そうだな、樹くん」

 

「樹で良いですよ、エミヤさん」

 

「良いのか?」

 

「はい!また助けてもらっちゃったのに、

他人行儀なのもなんだか嫌ですから……」

 

少し恥ずかしそうに、樹くん。いや……樹はそう告げる。

 

「おお!樹が自ら!?これは撮っておかないと────」

 

「お姉ちゃん!?撮らないでよ!?」

 

樹と風のやり取りを見て、東郷と友奈と私は笑う。

 

「そういえば、友奈ちゃん。課題は?」

 

「あっ!?課題明日までだった!?

アプリの説明テキストばっかり読んでて……」

 

「そこは守らないから、頑張ってね?」

 

「そんなぁ〜!?」

 

「……うぅ……はい

勇者部五箇条!一つ!なるべく諦めない!」

 

そんな友奈の言葉に

やれやれ、と肩を竦めるのだった。

 

────────

 

「へ?」

 

「嘘……!?」

 

私と東郷さんは目を疑う。

だって、此処に居るはずのない人が……黒板の前に立っていて────

 

「今日から、転入する事になった衛宮 士郎だ。

迷惑をかけるかもしれないが、よろしく頼む」

 

「衛宮くんは、少し前に大きな事故にあったショックで

過去の記憶が幾つか無くなっているらしいので、

あまり過去の事は聞かないようにしてあげてくださいね。

席は……そうね、東郷さん。車椅子の子の横で良いかしら?」

 

「構いません」

 

「じゃあ、席について。

朝のホームルームを始めますよー!」

 

エミヤさん……じゃなくて、

衛宮くんが東郷さんの横に用意された席にまで歩いて……

 

「まぁ、色々聞きたい事があるだろうが……後でな?」

 

苦笑して、私や東郷さんに小声でそう告げた。

 

今日は私達にとって忘れられない日になった────




ろうたける思い。

菊の花言葉。

固い絆。

蕣の花言葉。


誰のことを指しているかは分かりますよね?


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第二十三話 説明と居候

今回ふと閃いた設定を入れ込んだので難産になりかけました。

衛宮士郎という存在が居ることで、勇者部が知る情報が少し増えたりします。
原作と違う点もこれから更に出てくるのでそこも楽しみしていただけるとありがたいなぁ。と思います。

そういえば、のわゆ下巻増刷されたみたいです。
早速予約しておきました。来るのは三月上旬らしいですが……。

最後に、お気に入り登録1000件突破ありがとうございます!


「改めての挨拶になるが、衛宮 士郎だ」

 

「え、ええええええ!?ど、どうしてエミヤさんが!?」

 

勇者部部室での私の挨拶に

樹は驚いた様子でこちらを見つめてくる

 

「……ほんと、何から説明すれば良いか困るわねこれ」

 

「ビックリしました……エミヤさん、じゃなくて。

衛宮くんが私や東郷さんと同じ歳だったなんて……」

 

頭を抱える風と、

平然と立っている制服を着込んだ私を交互に見て、友奈はそう告げる

 

「士郎で構わないよ。……まあその件は私も驚いている。

まさか、年齢的にほぼ変わらないとはね……」

 

「いや、ほんとよ……私も

アンタは一つか二つ歳上かなぁ。ぐらいの認識はあったけど

まさかの歳下なんて予想外にも程があるわよ?」

 

「それに関しては、なんとも言えんな。

……む、歳上ということはやはり先輩を付けた方が良いか?」

 

「風のままで良いわよ。

アンタの声で先輩って言われると変に鳥肌立つわ。違和感しかないし……

なんというか魔法使えそうな世界だと二つ歳上って言われても納得しそうだし」

 

「何処の世界の話だ」

 

「分かんないわよ。私もてきとーに言っただけだし」

 

「おい」

 

ジト目で、風を見る。

例が具体的だと思ったがまさかの適当だったとは……

 

「でも、衛宮さん……くん?のことよく分かりましたね」

 

「あー……まあ色々あったんだけど……

この前の戦いの後に、エミヤの事を

大赦に知らないか連絡を入れてみたのよ

そしたら、その男を連れて、本庁の方に来なさい。

なんて命令が返ってきてビックリしたわよ」

 

「あ、もしかして昨日の

『ちょっと寄るところがあるから先に帰っておいて』って……」

 

樹は心当たりがあるのか思い返す。

風はそれを聞いて頷く。

 

「そ、本庁の方にコイツを連れて行ったのよ。

そしたら、何処で彼の事を知った。やら、

やれ、彼は今何処にいる。とかね……

仮面で顔は隠れてるけど慌ててるってのは分かったわ。

で、本人連れて来てるし、呼ぶ。ってなって……」

 

「それで私が顔を見せたら、

大赦の人間が一斉に跪くものだから驚いたものだよ」

 

「私もビビったわよ。いきなりだったし……」

 

あれは、なんというか奇妙な感覚だった。

 

「まあ、驚きはしたが……その後、

記憶がない。という事を伝えると────」

 

「一から説明してくれたわ。衛宮と、私にも」

 

「説明……ですか?」

 

「ええ、衛宮の名前と、年齢。

あとは……先代の勇者だったってことね」

 

「先代の……!?」

 

「「勇者!?」」

 

風から聞かされた言葉に

友奈、東郷、樹の三人は目を丸くする。

 

「私も驚いたわよ……

まさか二年前に既にバーテックスが進行していて、

四人の勇者がバーテックスを撃退していたなんて聞かされてなかったし」

 

「四人……ですか?」

 

「ええ、その中の一人に衛宮も居たらしいわ」

 

「生憎、残りの三人の名前を聞かされても

パッとしなかったんだがな」

 

事実だ。乃木 園子、鷲尾 須美、三ノ輪 銀。

共に戦った勇者の名前を聞かされたが……覚えがなかった。

 

「でも、どうして大赦側は風先輩にも

その情報を開示してくれなかったんでしょうか?」

 

「あーそれね……大橋の崩落があったでしょ?」

 

「はい、二年前に……」

 

「彼処が二年前の防衛ラインだったんだって」

 

そこまで説明されればわかるはずだ。

何故、大橋が崩れたのか。

 

「……ということは先の戦いで?」

 

「そういう事らしい。

相手には、それを可能にする力を持った敵が居る。

それを知らされれば、勇者候補生達の士気に関わるということだろう」

 

「まぁ、早い話がとんでもないバカ火力持ちの敵が存在してるって事を教えて

余計に混乱させるわけにもいかなかったんだと思うわ」

 

「……なるほど。

ですが……少しだけ疑問が、先代勇者は今回の戦いに参加することは……?」

 

「まだ、二年前の傷が癒えてないみたいよ。

それほどまでに大きな戦いだったらしいわ」

 

「まだ療養中という事になるそうだ。

バーテックスに受けた傷はかなり響くらしいな……

私の記憶もバーテックスによるものという可能性があるとのことらしい」

 

「そうなんですか……ありがとうございます」

 

私と風の説明に東郷は多少なり納得がいったらしい。

 

「そういえば……士郎くんはこれからってどうなるんですか?」

 

「形式上は、君達と同じ中学生にはなるらしいな。

────さすがに今まで行方不明だった事もあるしで

簡単には自宅に帰ることは出来ないそうだ。

そもそも、家が何処にあるのか覚えていない問題もあるがな」

 

まずは問題がそこだった。

見覚えのない場所にある家に帰れと言われて

まっすぐ帰れる自信はない。

正直、自宅も無理なのに……となった時に

大赦から出された意見がある。それは────

 

「それでなんだけど……樹」

 

「なに、お姉ちゃん?」

 

「しばらく、衛宮の事うちで面倒を見る事になったから」

 

「へぇ………へ?

────ええええええええええ!?」

 

樹は一瞬固まった後、こちらと風を交互に見る。

 

「な、なんで!?」

 

「いや、ほら。今記憶もないし、色々混乱する事もあるだろう。って事で

傍に人が居る方が良いだろーってなってね。

まあ、友奈や東郷に迷惑を掛けるのもあれだし……

うちなら……その、ね?部屋……余ってるからさ……」

 

彼女が言い淀んだのを見て、少しだが何かあった事を理解した。

 

「あ……うん」

 

「最初はこちらも構うなとは言ったんだが……

風も助けてもらった礼があると聞かなくてね。

嫌なら断ってくれて良いんだぞ?

君の頼みならば、風もやめるだろうし……

その時はその時で大赦側も対処してくれるだろう」

 

「あ、いえ!気にしないでください!衛宮先輩!

その……よろしくお願いします!」

 

「……君が良いなら、私は何も言わないさ。

まあ、居候になるからにはすべき事はしっかりするつもりだよ。

洗濯、掃除、料理。なんでも良いぞ?」

 

「オカンか!?」

 

私の言葉に驚いた様子で風はこちらにツッコミを入れる。

 

「誰がオカンか。誰が。

まぁ……困ったら頼れということさ」

 

風は少しポカンとするが、すぐに微笑む

 

「そっか……うん、ありがとう」

 

「気にするな。

……それに、君はそうやって笑っている方が魅力的だからね」

 

「はぇっ!?」

 

「「「おー……」」」

 

私の言葉に顔を赤くする風と

感心した様子でこちらを見つめてくる友奈、東郷、樹の三人。

 

……なにか、間違えたか?

 

────────

 

「買い物まで手伝って貰って悪いわね」

 

「問題はない。言っただろう?困った事があれば手伝うと」

 

「衛宮先輩って力持ちなんですね〜……」

 

買い物をして帰宅中、そんなやり取りをする私達。

衛宮先輩は見た目以上に力持ちだったみたいで……

大半の荷物を持ってくれている。

 

なんというか新鮮な気分だった。

いつもはお姉ちゃんと二人の帰り道だったけど

もう一人増えただけで……何処か楽しい気分になった。

 

「しかし、マンションか。……心霊が出たりはしないよな?」

 

「ちょ!?不吉なこと言わないでよ!?

私、そういうの苦手なの!!」

 

「わ、私もあまり得意じゃ……」

 

「それは……すまなかったな」

 

慌てる私達に、苦笑いをして衛宮先輩は謝罪する。

 

「だが、まあ女の子らしくて可愛らしいとは思うぞ?」

 

「あー!だからそういう事を軽々しく言わないでってば!?」

 

「か、可愛い……」

 

思わず顔が赤くなってしまう。

……初めて可愛いなんて言われてしまった。

お姉ちゃんはたしかに綺麗だけど、私は……

 

「事実を言ったまでだが……君達は充分可愛いと思うぞ?」

 

「はわわわ!?」

 

「アンタいつか刺されるわよ?」

 

「……なんでさ」

 

追い討ちをかけられて、私も顔は顔を真っ赤にしてしまう。

お姉ちゃんは顔が赤いまま、ジト目で衛宮先輩を睨む。

 

「ま、まあ良いわ……着いたわよ。此処が私達の家になるわ」

 

「ほう、端か。良い場所を君達の両親は選んだんだな」

 

「うん……そうね……」

 

お姉ちゃんは言い淀んで、私も少し暗くなってしまう。

衛宮先輩は知らないから仕方ないといえば仕方ないけど……やっぱり辛くて。

察したのか衛宮先輩は険しい表情になって────

 

「……風、樹。まさか君達は」

 

「あー、暗い話はやめ!

せっかく、来るんだし。今日はパーっと盛り上がるわよ!」

 

「……そうだな。すまない」

 

「別に良いわよ。知らなかったんだもの」

 

「……ああ」

 

お姉ちゃん、私、衛宮先輩の順で家に入る。

そこで、お姉ちゃんが何かに気付いたのか衛宮先輩の方を見る。

 

「あっそうだ。衛宮」

 

「ん?まだなにかあるのか、風?」

 

不思議そうに首を傾げる衛宮先輩。

あ……そうだ。言ってない事があるんだ────

 

「「せーのっ、おかえりなさい!」」

 

「────。

ああ、ただいま。

それと……これからしばらく世話になる」

 

私と、お姉ちゃんと、衛宮先輩の三人で

顔を見合わせて笑うのだった────




二年前に勇者が居た事を知った勇者部ですが……
今後どうなるかは作者の力量にかかっています(白目)

ちなみに士郎くんにも全ての事実が伝わっているわけじゃありません。
真実を混ぜた嘘。一番騙されやすい嘘を伝えられています。
これがどう響いてくるかも作者の力量に((ry


……そして、最近ダクソ×ゆゆゆとかいう
かなりえげつない小説を思い付いたりしましたけど
この小説がある程度終えるまでは書いたりはしないと思います。


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第二十四話 赤き勇者襲来

本来は日常回を一つ挟んでから……と思ったのですが

樹海の記憶編として、ストーリーの部分だけやろうと考えているので
あまり尺も取れないな。とそのまま今回の話になりました。

タイトル通り、彼女が出ます。
煮干好きなあの娘が。


居候の身になってから、一ヶ月と少しほど経ったある日。

 

「士郎くん、学校には慣れた?」

 

「ん、友奈か。ああ、おかげさまでね。

皆良い人ばかりでありがたい限りだよ」

 

勇者部の部室に向かっていると、

友奈が話し掛けてくる。

それに私はクスリと笑って答える。

事実、何度も助かっている。

 

「そっか、良かったぁ……

慣れてなかったらどうしようかと思ったよぉ」

 

「友奈ちゃん、一ヶ月じゃ中々慣れるものじゃないのよ?

でももしかすると……

これも、衛宮くんの人柄が良いからかもしれないわね」

 

「何を言うかと思えば……

私のしている事なんて偽善も良い所だろう?」

 

「偽善でも助かってる人が居るのは事実だもの。

衛宮くんに御礼を言いたいって人が

勇者部のホームページに結構来るのよ?」

 

「……やれやれ、そこまでされる程の事はしていないと思うがな」

 

肩を竦めて苦笑いしてしまう。

その時、スマホから警報の音が鳴り響く。

 

「うわわっ!?」

 

「来たか……」

 

「!」

 

それぞれの顔が強ばる。

人気のないところで鳴ったのが幸いか。

 

「……よーし、久しぶりだけど頑張ろうね!東郷さん!士郎くん!!」

 

パチンと頬を両手で叩いて、友奈はそう告げる。

 

「ああ!」

 

「ええ!」

 

残るバーテックスは八体────

 

────────

 

「────見えた」

 

黒い外套(・・・・)を羽織っている

私はやってきたバーテックスを睨みつける。

私はスマホを取り出し、風に連絡を入れる。

 

「風、聞こえるか?」

 

『ええ、それでお相手さんはどう?』

 

「ゆっくりとだが、接近している────

数分もあればそちらでも確認できるはずだ」

 

『サンキュ、悪いわね。偵察頼んで』

 

「気にするな、適材適所というやつだ」

 

『……そう言ってもらえると助かるわ。

そういえば……黒い外套になってるのはなんで?』

 

「本来の外套はこちららしくてね。

旧型の頃のも纏えるから、前回まではそちらになっていたそうだ」

 

『ふーん……私は紅い方が似合ってたと思うんだけど』

 

「そう言うな。

……そもそも、オレにアレを着る資格はない」

 

そう、私には……アレを着る資格はない。

────理想など、もはや存在していない今のオレにとっては重荷でしかないのだ。

 

『ん?なんか言った?』

 

「こっちの話だ。気にするな」

 

通話を切り、再びバーテックスを睨みつける。

────アレはたしか山羊座(カプリコーン)か。

 

地震を発生させる力があると知った。

なら、なるべく早めに方を付けるか。

 

そう思い、少しだけ引いた後、弓を構えて狙いを定めようとした時

三本の赤い刀が山羊座の頭上から降り注ぎ爆発する────

 

「何ッ!?」

 

「衛宮先輩!?」

 

刀と爆発で、当てはまる人物といえば私しか居ない。

故に、こちらを樹が見てくるが

私は何もしていない。

 

「いや……違う……」

 

「じゃあ、東郷さん?」

 

「私も撃ってないわ……」

 

友奈がでは、東郷かと聞くが

彼女も撃っていない。とすれば

 

「────上か」

 

刀が降り注いだ上空から左右非対称の赤い装束を着込んだ少女が

飛び降りて来るのが確認できた。

 

「ちょろい────!」

 

少女は持っていた二本の剣を投げつけ、爆発させ

山羊座の動きを封じる。

 

「……的確に脚の関節を狙うか」

 

「封印開始ッ────!」

 

少女は、精霊を出現させ刀を地面に突き刺す。

 

「思い知れ……私の力ッ!!」

 

「あの娘、一人でやる気!?」

 

封印の儀で、山羊座の口から御霊が出現する。

そして御霊は自衛の為に視界を奪える程の紫の霧を発生させる

 

「ガス!?」

 

東郷はそう言うが……この臭いには覚えがある。

これは……

 

「違う……これは……毒霧か────!?」

 

「わっ!?なにこれ、前が見えないよ!?」

 

腕で口を覆う。

精霊のバリアで防げるとはいえ、毒だ。

無事でいられる確証はない。

それに、視界を奪われたこちらは狙撃することが出来ない。

 

「チッ……視界を奪うか……!」

 

私は即座に弓を捨て、白黒の銃剣を構えるが……

 

「そんな攻撃……!」

 

赤い少女が飛び上がり────

 

「気配で見えてんのよッ!!」

 

真っ二つに御霊を斬り裂いた。

 

「殲……滅……!」

 

『諸行無常』

 

その言葉に合わせるように、山羊座は消滅した。

 

「ふぅ……」

 

「え、えーっと……誰?」

 

「……揃いも揃ってボーッとした顔をしてんのね。

こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって?笑わせるわね!」

 

赤い少女はそう嘲笑うように、言ってくる。

離れていた私と東郷はその間に友奈達のもとに合流する。

 

「あ、あのー?」

 

「なによ、チンチクリン!」

 

「チンチクリン!?」

 

「私は三好(みよし) 夏凜(かりん)

大赦から派遣された、正真正銘正式な勇者!

つまり、貴方達は用済み。ほい、お疲れ様でしたー!」

 

「────え?」

 

「「「「ええええええええええっ!?」」」」

 

「なるほど、そう来たか」

 

四人が驚いた様子の中、私は納得がいき頷いた。

たしかに……風のように少しだけ訓練されているだけの素人達だけでは心許ないのは事実。

 

────彼女、三好夏凜のように大赦側から戦闘訓練を行った勇者が派遣される。という可能性は有り得た事だ。

 

では、彼女がここに居るのは必然なのだと私は理解した。

 

その時、三好がこちらをまじまじと観察するように見つめてくる。

 

「ふーん……アンタが先代勇者ね……」

 

「……なんだ?」

 

「私には、そこの素人と変わらないように見えるけど……」

 

「────それは、挑発と受け取れば良いのか?」

 

「好きに捉えれば良いわ」

 

「……はぁ、やれやれ」

 

……随分とイイ性格をした奴が来たものだ。と

思わず肩を竦め溜め息を吐く事しか、私はできなかった。

 

まあ、私のコレが勘違いだと分かるのは……

すぐ後のことだったりする────




ゆゆゆ二次小説を最近日間ランキングでよく見かけるようになって嬉しい……
当初の目標であるゆゆゆの布教は達成されそう。

目標達成したしもう書かなくても……

冗談です。ゆゆゆ編は完結させます。

……その後が二作同時連載になりそうで不安ではありますが。


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第二十五話 赤色の転入生

次々回辺りで樹海の記憶編ですかね。
樹海の記憶の時間軸はレオ・スタークラスター。
つまりはあの合体バーテックスが出る前で
満開でパワーアップする事は勇者部も知ってる状態だったので……
おそらく次々回になると思います。


三好 夏凜 と白いチョークで書かれた黒板を見る。

その前には、件の少女。三好夏凜が立っていた。

 

「はい、良いですか?

今日から皆さんとクラスメイトになる 三好 夏凜さんです」

 

「ほぇ〜……」

 

「私の時と一緒か……」

 

友奈はポカンと口を開け、東郷は口にこそ出ていないが

目を丸くしていた。

 

まあ、手っ取り早いといえばこれが手っ取り早いやり方か。

 

「三好さんは、ご両親の都合でこちらに引っ越してきたのよね?」

 

「はい」

 

「編入試験もほぼ満点だったんですよ!」

 

「……いえ」

 

編入試験、私も受けたな。そういえば。

満点という通知が来たのは覚えている。

……まあ伏せておいてくれと頼んだが。

 

周囲がほぼ満点。ということに凄いという趣旨でざわつく。

 

「さ、三好さんから皆に挨拶を」

 

「三好 夏凜です。よろしくお願いします」

 

「ほわぁ〜……」

 

「なるほど……」

 

……友奈のヤツさっきから同じような事しか

言ってないが大丈夫だろうか。

 

────────

 

「────で、そう来たわけね」

 

「ほぼ私の時と変わらないな。この辺りは」

 

「そうねー……」

 

「転入生のフリなんて面倒臭い。

でもまぁ、私が来たからにはもう安心ね。完全勝利よ!!」

 

勇者部部室の黒板の前に立っている三好。

そして、向かい合う形で座る私達だった。

 

「何故今このタイミングで?

どうして、最初から来てくれなかったんですか?」

 

東郷は最もな疑問を問う。

 

「私だってすぐに出撃したかったわよ!

でも大赦は、二重三重に万全を期しているの。

最強の勇者を完成させる為にね!」

 

「最強の勇者?」

 

「ほぅ、最強と来たか……」

 

東郷と友奈は首を傾げ、

私は少しだけ影のある笑みを浮かべた。

 

「そ、貴方達先遣隊の戦闘データを得て、

完璧に調整された完成型勇者。それが私!

私の勇者システムは先代勇者の一人のシステムを基礎として

対バーテックス用に最新の改良を施されているわ!

その上……貴方達トーシローとは違って────」

 

彼女はそこまで言うと、傍にあった箒を手にし……

 

「戦闘の為の訓練を長年受けてきているの!」

 

ドン、と箒を構えると同時に箒の先端部分が黒板に当たる。

 

「黒板に当たってますよ……?」

 

「躾甲斐のありそうな子ねぇ……」

 

「なんですってぇ!?」

 

「あわわわ!?喧嘩しないで!!?」

 

風と東郷がそれぞれ別の反応を見せ、

風の言葉を挑発と受け取ったのか三好は突っかかり

樹は二人の様子を見て慌て出す。

 

「ふん、まあ良いわ!

とにかく、大船に乗ったつもりでいなさい!」

 

「そっか……うん、よろしくね!夏凜ちゃん!!」

 

友奈は立ち上がり、夏凜のもとまで近付く。

 

「い、いきなり下の名前!?」

 

「え?嫌だった?」

 

「ふ、ふん……どうでも良い。

名前なんて好きに呼べば良いわ!」

 

「ようこそ!勇者部へ!!」

 

「………は?……誰が?」

 

友奈の言葉に三好は固まる。

 

「へ?夏凜ちゃんだけど」

 

「部員になるなんて話、一言もしてないわよ!!」

 

「え、違うの?」

 

三好の言葉にきょとんとする友奈。

 

「違うわ!私は貴方達を監視する為に此処に来ただけよ!」

 

「え、じゃあもう来ないの?」

 

「む……また来るわよ……御役目だからね」

 

寂しそうに聞く友奈とそれに戸惑う自称完成型勇者。

 

「うん、じゃあ部員になっちゃった方が早いよね!」

 

「たしかに!」

 

「むむ……まあ良いわ……そういう事にしておきましょうか。

────その方が貴方達の事を監視しやすいだろうしね!」

 

何処か、挑発するように告げる三好。

意図的に言っているのは間違いないが……どういう意味で伝えているのか。

 

「監視監視ってアンタね……

見張ってないと私達がサボるみたいな言い方するの、やめてくれない?」

 

「ふん、偶然適当に選ばれただけのトーシロが大きな顔をするんじゃないわよ!」

 

「私はそれに含まれるのか?」

 

記憶がないとはいえ、私は先代勇者の括りになる。

先代は格式が高い家柄でなければ勇者になれなかったらしいし

私はその類いのはずなのだが……

 

「アンタには言ってないわよ!」

 

「お、おう……」

 

「良いぞ良いぞー、士郎。言ってやれー」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「そ、れ、に!

監視はアンタも含まれているんだから!分かってるの!?」

 

「……ほう?理由を聞かせてもらえるか?」

 

少しだけ目を細めて、三好を睨む。

 

「……っ、アンタが先代勇者だというは知ってるわ。

記憶がないこともね。だけど、記憶がないからこそ監視するのよ」

 

「なるほど、思い出した時に

錯乱したり歯向かう可能性があるから。か」

 

「ちょっと待ちなさいよ!

一ヶ月ほどしかまだ居ないけど、コイツはそういう事をするヤツじゃないわよ!」

 

風はそう反論するが……三好は一蹴りする。

 

「ふん、どうだか。

それに、西暦の時代、神樹様が壁を作るまでは

バーテックスを見た人間が発狂や錯乱をするという事例があったらしいわ。

もし、こいつの記憶喪失が────」

 

「恐怖やトラウマからの自衛の為に

無意識に記憶を封じたものだとするなら

錯乱する可能性も有り得る。ということだな?」

 

「そういう事よ。なんだ、アンタは自分の立ち位置をよく理解しているんじゃない」

 

「あぁ、よく理解したよ。

……やれやれ、大赦にまで信用がないとはね」

 

思わず、肩を竦めて溜め息を吐く。

 

「わ、私は信頼してるよ!士郎くん!

凄く良い人だって、知ってるから!!」

 

「わ、私も信頼してます!」

 

「その励まし方は場合によっては

信頼していないとも取れるぞ?」

 

「「はぅ!?ごめんなさい!?」」

 

私の自虐的な笑みを見て、頭を下げる友奈と樹だった。

冗談のつもりだったが、少し良心が痛かった。

 

「ふん、まあ良いわ。大赦の御役目はね……

おままごとじゃなあああああああああ!?」

 

三好の目線の先には、彼女の精霊が

友奈の精霊、牛鬼に頭を齧られている姿があった。

 

「なななななな何してんのよこの腐れ畜生!!?」

 

『外道め!』

 

……また齧られたのか。

 

「外道じゃないよ、牛鬼だよ!

ちょっと食いしん坊くんなんだよね」

 

友奈はそう言いながら、

ビーフジャーキーの中でも

安くて美味しい事に定評のある『ビーフビーフ』を一つ、牛鬼に与える。

 

「じ、自分の精霊の躾も出来ないようじゃ

やっぱりトーシロね!?」

 

「牛鬼に齧られてしまうから、皆精霊を出しておけないの」

 

「大天狗の翼を齧られた時は焦ったな……」

 

転校してすぐの頃にそれは起きた。

手羽先と勘違いしたのか、牛鬼が私の精霊である

大天狗の翼を齧ったのだ。

 

あの時は全員で慌てたものだ。

 

ちなみにだが、何故か酒呑童子だけは齧らなかった。

不思議なことに。

 

「じゃあそいつを引っ込めなさいよ!!」

 

「この子勝手に出てきちゃうんだー」

 

「はぁ!?アンタのシステム壊れてんじゃないの!?」

 

『外道め!』

 

「そういえば……この子喋るんだね!」

 

よしよし、と武者甲冑の精霊を撫でる。

 

「ええ、私の能力に相応しい強力な精霊よ!」

 

「あ、でも士郎くんは二匹、東郷さんは三匹居るよ?」

 

「……えっと……出ました!」

 

友奈がそう言うので、私と東郷はスマホを弄り

それぞれ精霊を出現させる。

 

「わ、私の精霊は一体で最強なのよ!!

言ってやりなさい、義輝!!」

 

『諸行無常』

 

「ぐぬっ!?」

 

「達観してますねー……」

 

「そ、そこが良いのよ!!」

 

「声震えてるぞ。っておい、酒呑童子。頭の上で酒を飲むな」

 

定位置になったのか、酒呑童子がまた頭の上で酒を飲み始める。

 

「そこがお気に入りなのかな?」

 

「友奈、君が言えたことではないぞ?」

 

「ほぇ?」

 

友奈の頭の上でノボーっとしている牛鬼を見て溜め息を吐く。

 

「あ……どうしよう、夏凜さん!」

 

「こ、今度は何よ!?」

 

樹の言葉で顔をそちらに向ける三好。

 

「夏凜さん……『死神』の正位置……」

 

「勝手に占って不吉なレッテル貼らないでくれる!?」

 

「不吉ね」

 

「不吉ですね」

 

「不吉じゃない!!」

 

「たしか……死、別れ、終末、完全な終わりとかだったか」

 

また、良い意味合いとして捉える場合は、

仕切り直し、新たな始まりなどとして捉える事ができるらしい。

 

「意味まで言わないでくれるっ!?

ともかく!これからのバーテックス討伐は私の監視の下励むのよ!!」

 

「部長が居るのに?」

 

「ぶ、部長よりも偉いのよ!!」

 

「ややこしいな……」

 

「ややこしくないわよ!!」

 

「友奈、問題だ。

部活の部員を教師に置き換えてみろ。

普通の教師が部員。教頭先生が部長。では部長より偉い人は?」

 

「校長先生!あっ、そういうことか!」

 

友奈は、私の問題の答えで合点がいったらしい。

 

「まあ、事情は分かったけど……

学校に居る限りは上級生の言葉を聞くものよ。

事情を隠すのも、任務の中にあるでしょ?」

 

「……ふん、まあ良いわ。

残りのバーテックスを殲滅したら御役目は終わりなんだし……それまでの我慢ね!」

 

「うん!一緒に頑張ろうね!」

 

「が、頑張るのは当然よ!

私の足を引っ張るんじゃないわよ!?」

 

頬を赤く染めて、顔を逸らす三好。

なるほど、なんとなくだが彼女の性格が分かった。

彼女は素直になれないタイプか。

 

赤色がメインといい、素直になれない性格といい……

何処かで見覚えが……ウッアタマガ……

 

「ねえ、一緒にうどん屋さん行かない?」

 

「……必要ない、行かないわよ」

 

そう言って、部室から出る三好だったが……

何故かすぐに部室に戻ってくる。

 

全員が首を傾げると……

 

鞄忘れた……

 

小声で三好は言う。

 

「ああ、うっかりか」

 

「うっかりね」

 

「うっかりですね」

 

「よ、よくある事だよ!夏凜ちゃん!!」

 

「で、ですね!」

 

「うっさいわよ!!」

 

鞄を取って、顔を赤くしながらすぐに出る三好だった。

 

うっかりか……

うっかりするタイプは周りに迷惑を掛けやすいが……

私の知る中ではうっかりする人間は根が良い人だった。

 

彼女もきっと、その質なのだろう。

 

────────

 

所変わって、此処は風達勇者部の行きつけのうどん屋『かめや』

 

此処のうどんは間違いなく美味しい。

うどん自体にもコシがあるし、

出汁なんかもしっかり作られているオススメのお店だ。

しかもこれで学生も手をつけられる

お手頃価格なのだから非の打ち所がない。

 

正直に言うと、弟子入りして

コシのあるうどんの作り方を含めて色々教えて欲しいぐらいだ。

 

「美味しいのになぁ……」

 

「頑なな感じの人でしたね」

 

友奈が天ぷらうどん。

東郷がきつねうどんを食べながら言う。

 

ちなみに私は釜揚げうどんで、

風は肉うどん、樹は月見うどんである。

 

余談だが蕎麦がメニューに存在しなかったのが少し驚いた。

聞けば、蕎麦を扱ううどん屋は数える程しかないとか。

年越し蕎麦はどうなるのか疑問に思ったが、

四国では年越しうどんがあった事を思い出して少しだけ安心した。

まあ、少し寂しくはあるが。仕方ない事なのかもしれない。

 

「フッフッフッ……ああいうお硬いタイプは張り合い甲斐があるわね」

 

「は、張り合うの?」

 

「いや、仮にも仲間になる相手に張り合うなよ……」

 

風の言葉に樹は困惑した様子を見せ、私はツッコミを入れる。

 

「うーん……」

 

「友奈ちゃん?」

 

「あ、ごめんね。東郷さん。

夏凜ちゃんとどうすれば仲良くなれるかなぁって考えてて……」

 

友奈は難しい表情で考え込む。

 

「別に、考える必要はないんじゃないか?」

 

「え?」

 

「彼女のような素直になれないタイプは少なくはない。

────ただ、時間が要るだけだよ。

だから、普通に接して……心を開いてくれる日を待っていれば良いさ」

 

そう、ああいうタイプはあまり無理に接するとダメだ。

素直になれない分、根は優しい。というタイプであれば尚更だろう。

 

「……そっか、ありがとう士郎くん」

 

「気にするな。ああいうタイプはそれが一番良いからね」

 

「ほぁー……」

 

「風、なんだ?」

 

「いやー……士郎って

もしかして女性相手にするの手馴れてる?」

 

「────は?」

 

「はぇ!?」

 

私は少しだけ思考停止し、

風の言っていた事の意味が理解出来たのか友奈達は顔を赤く染める

 

「や、だって今の完全に経験がある人の言葉じゃない。

絶対、女たらしなタイプでしょ。

今まで何人の女性を誑かしてきたんだか」

 

「待て待て、何故そうなる!?」

 

「ゆ、友奈ちゃんは渡しませんよ!?」

 

「ふぇ!?」

 

「あー!東郷も火に油を注ぐな!?」

 

「え、えっと……士郎くん……私は……その」

 

「友奈も真に受けるな!?」

 

「え、衛宮先輩は

そういう事する人じゃないって信じてます!!」

 

「樹、その言い方だと信頼ない感じがあって辛い……!」

 

「ご、ごめんなさい!?」

 

ワーワーと賑やかになる私達だったが……

此処は公共の場であるうどん屋さんなわけで────

 

「店内ではお静かに!」

 

「「「「「……すいません」」」」」

 

当然、怒られるのであった────

 

────────

 

くだらない。くだらない。くだらない────

 

学校に別に期待していたわけじゃなかった。

 

楽しみだったわけじゃなかった。

 

だけど、想像以下で少し失望した。

 

 

私は、大赦にメールを通して連絡を入れる。

 

『現勇者達は危機感が足りない印象』

『危惧される』そんな内容も含めて。

 

「────馬鹿な連中」

 

そうだ、私は彼女達とは違う。

私は選ばれたんだ、あの中から────

選ばれなかった人が居る。分かっている。

 

私がやらなければ、選ばれなかった彼女達はきっと……

 

「そうよ、私は完成型勇者。最強の勇者なんだから」

 

私の勇者システムは先代勇者である

衛宮 士郎の勇者システムの情報を基盤として、

三ノ輪 銀の旧勇者システムを使用し

製造されたものだと聞かされた。

 

────記憶がないことは同情する。

他の先代勇者にとってそれは悲報だろう。

だけど、それだけだ。

世界を救う為に記憶を失ったのであればあの男も本望だろう。

 

だからこそ、兄貴が言っていた言葉が分からない。

 

「なによ……

『決して、彼に憧れてはダメだ。

彼のようになってはダメだ。アレは破綻している』って

……意味がわかんない」

 

世界を救う為。それに命を賭けることができる。

兄貴と違って、何もなかった私にとっては

凄い事で、憧れた。けどそれはダメだと言われて……

じゃあ私はいったい、何を目指せば良かったのか。

 

「本人に聞けば、分かるのかしら」

 

気に入らない男の顔が浮かぶ。

気に入らないのは、

私を含めて勇者の事を庇護する対象としてか見ていないあの目だ。

戦える。戦えるのに、

それを舐めているようなアイツに腹が立つ。

他の勇者はましてや本人すらそれに気付いていない。

私だけがあの目に気付いた。

 

「なんだってのよ……」

 

このモヤモヤはしばらく、晴れそうになかった────




にぼっしーってこんな感じのキャラで良かったっけか……少し不安。


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第二十六話 勇者システム

次回樹海の記憶とか言ってたけど……あと一回、日常回挟んでからやります。
すまぬぇ……

あ、樹海の記憶のPSstoreでの配信が
二月末で終わってしまうらしいので早めに買っておくと良いですぞ!


「フッ!」

 

「抜けた!?」

 

「ゴール!」

 

「あちゃー……またゴールか……流石はエース候補!

ほんと、サッカー部に欲しいぐらいだ!」

 

体育の授業で、サッカーをやっている男子。女子は水泳だ。

 

「よせ、私はそこまで出来る人間じゃない」

 

「いやいや、謙遜すんなって……お前のレベルで出来ないとか

他のサッカー部メンバー全員戦力外通告だっての!」

 

「どうだか、君達なら覚えてしまえば即座に化けると思うがな」

 

「くーっ、嫌味か!コイツめ!!」

 

肩を組んで、サッカー部所属の同級生が笑ってくる。

その時、横からふと別の男子が語る。

 

「しっかし、羨ましいな。衛宮は」

 

「いきなりなんだ?」

 

「だって、あの勇者部の部員だろ?」

 

「「あー……」」

 

「どういうことだ?」

 

「いや、だって考えてみろよ。

この思春期の頃に誰とでも分け隔てなく接する

我らがエンジェル結城友奈。

厳しいが、そのバストは豊満であった。な大和撫子の東郷美森。

そして噂の天才編入生、三好夏凜。

更には守ってあげたくなる系妹な犬吠埼樹。

そして、部長はあの面倒見の良さで知られる犬吠埼風先輩。

我が校のアイドル達が全員揃ってる勇者部の部員とか

男の夢じゃねえか!羨ま死ね!!」

 

熱く語る同級生に呆れてしまう。

 

「……いや、別にそういうつもりはないんだが」

 

「なに!?あれだけ居るのにお前は気にもしないのか!?

もしやお前────」

 

「ちゃんと異性が恋愛の対象だ戯け。

ただ、私からすれば……彼女達は……なんというか……

手間のかかる家族?のような感覚がな……」

 

「ふむ、そういえば聞くところによれば、

お主は犬吠埼姉妹と同棲してるらしいが……真か?」

 

「嘘ではないな。まぁ、事情が事情で居候しているだけなのだが」

 

それを聞いた同級生がポカンとして────

 

「「なにいいいいい!?」」

 

「き、貴様!やはり顔か!顔なのか!?」

 

「いや、コイツの場合は性格もあるぞ!」

 

「畜生!マジで代われよ!!俺も犬吠埼先輩に養ってもらいてー!!」

 

「拙者は樹殿に兄と慕われたい!!」

 

「なんなんだよ、お前ら……」

 

やたらと一人称とか濃いヤツも居るし面倒ではあるのだが……

まあ悪くない奴らではあるので付き合いはするのだ。

 

ただ、異性の事になると煩いのが玉に瑕だ。

 

「なにしてんの、アイツ」

 

「た、楽しそうだよねー!」

 

尚、それを友奈達に見られていたのは本人の預かり知らぬ事である。

 

 

────────

 

「仕方ないから、情報交換と共有よ!

分かってる?アンタ達があんまりにも呑気だから今日も来てあげたのよ!?」

 

そう、三好は煮干を食べながら告げる。

 

「煮干?」

 

「なによ!ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、

EPA、DHA!煮干は完全食よ!!」

 

「いや……まあ……良いんだけど……」

 

「煮干って完全食か……?」

 

思わず首を傾げてしまった。

カロリーとか諸々足りてない気がするんだが……。

 

「あげないわよ?」

 

「要らないわよ……」

 

「じゃあ、私のぼた餅と交換しましょう?」

 

「なにそれ?」

 

「さっき、家庭科の授業で衛宮くんと

沢山作ってしまったのが余ってしまって……」

 

「いやまさか、自分でもあそこまで熱が入るとは

思っていなくて、ついな……」

 

家庭科の授業中に東郷と二人で

ぼた餅を沢山作り上げてしまったのだ。

 

「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ!」

 

「いかがですか?」

 

「い、要らないわよ!」

 

「あ、じゃあ私が食べる」

 

「お、お姉ちゃん!」

 

「心配せずとも、全員分あるから気にするな」

 

「さっすが、士郎!気が利くわねー!」

 

……そんなわけで。

 

「良い?

バーテックスの出現は周期的なモノと考えられていたけど

相当に乱れてる。これは異常事態よ。

帳尻を合わせる為に、今後は相当な混戦が予想されるわ」

 

三好の説明を受けながらぼた餅を食べる他の勇者部メンバー。

 

「たしかに、一ヶ月前も複数体同時に出現しましたし……」

 

「情報によれば二年前にも二度、複数体同時に襲撃してきた事が明らかになっている。

つまりは、二年前からこの異常事態は起こり出しているという事さ

相手が本格的にコチラを殺しに来たと捉えるべきか……」

 

「ま、私ならどんな事態でも対処できるけど……

貴方達は気を付けなさい、命を落とすわよ!」

 

「い、命……」

 

樹は怯えるように呟く。

 

「……そうならない為の精霊だ。

……まあ、もしもの時はなんとかする。安心しておけ」

 

「あ、ありがとうございます……衛宮先輩……!」

 

「……フン、まあ良いわ。

他には戦闘経験値を貯める事でレベルが上がり

より強くなる。それを『満開』と読んでいるわ!」

 

「そうなんだ!」

 

「アプリの説明にも書いてあるわよ、友奈ちゃん?」

 

「そうなんだ!?」

 

「アンタねぇ……」

 

……満開。

何故か、嫌な予感がした。

使ってはならないようなモノの気がした。

 

……気の所為だといいが。

 

「満開を繰り返す事でより強力になる。

これが大赦の勇者システム!」

 

「へぇ、すごーい!」

 

「三好さんは、満開経験済みなんですか?」

 

友奈はメモを取り、東郷は疑問を口にする

 

「……まだよ」

 

「なーんだ。アンタもレベル1なら私達と変わりないじゃない!」

 

「き、基礎戦闘力が桁違いに違うわよ!一緒にしないでもらえる!?」

 

「まあ、そこは私達も努力次第ってところね。

そういえば、士郎。アンタのはどうなるの?

修復はしたけど、バージョンアップはされなかったのよね?」

 

「ああ、私のは少々特殊でね。

君達の勇者システムが2世代。先代勇者のシステムが1世代だとするなら

私の使っている勇者システムは1.5世代だ」

 

「1.5?」

 

「ああ、1.5世代にも精霊や満開システムは実装されていたらしいが……

私のは正確に言うならば1.5世代αと言うべきかな」

 

「アルファですか?」

 

「そうだ。私のシステムには満開が存在しない。

だが、満開の代わりに私が使える切り札を安定させる為に

満開と同じゲージが用意されている。

より、安定させる為に私の場合は両肩に二つずつ。

合計十個分のゲージがな」

 

一通り、自分の勇者システムに関して説明する。

 

「なるほどねぇ……」

 

「あっ、じゃあこれからは

身体を鍛える為に朝練しましょうか!運動部みたいに!」

 

「良いですね!」

 

「樹……貴女は朝起きれないタイプでしょう……」

 

「あぅ……」

 

「あははは」

 

「友奈ちゃんもでしょ?」

 

「はぅっ!?」

 

「既に二名撃沈してるが大丈夫なのかこれは……」

 

樹は知っていたが、友奈もだとは……

先が不安である。

 

「…………なんでこんな連中が神樹様の勇者に選ばれたのかしら」

 

「なせば大抵なんとかなる!」

 

「……なにそれ?」

 

「勇者部五箇条!

大丈夫だよ!皆で力を合わせれば大抵なんとかなるよ!!」

 

友奈はそう言いながら黒板の上に貼られている

勇者部五箇条を指刺す。

 

「……なるべく。とか、なんとか。とか

アンタ達らしい見通しの甘いふわっとしたスローガンね。

全くもう……私の中で諦めがついたわ」

 

三好は大きく溜め息を吐く。

……まあ、たしかに……根性論でなんとも言えないのは分かるがな。

 

「私らは……そのー……あれだ!現場主義なのよ!!」

 

「それ、今思い付いたでしょ」

 

「はいはい、考え過ぎると禿げる禿げる」

 

「禿げるわけないでしょ!?」

 

三好は風の言葉に突っかかる。

 

「はい、それじゃあ次の議題ね。樹」

 

「はい!」

 

樹は机に置いてあったプリントを取ってきて────

 

「────というわけで、今週末は……

子ども会のレクリエーションをお手伝いをします!」

 

「具体的には?」

 

「えーっと……折り紙の折り方を教えてあげたり……

一緒に絵を描いたり、やる事は沢山あります!」

 

「わぁ、楽しそう!」

 

「苦労しそうではあるがな……」

 

「夏凜には……そうねぇ……

暴れ足りない子のドッジボールの的になってもらおうかしら?」

 

「はぁ!?っていうかちょっと待って!?私もなの!?」

 

抗議しようとする三好に風は昨日三好が書いた、入部届を見せる。

 

「昨日、入部したでしょ?」

 

「け、形式上は……」

 

「此処に居る以上、部の方針に従ってもらいますからねー」

 

風は勝ち誇った笑みを浮かべてそう告げる。

 

「それも形式上でしょ!?

それに、私のスケジュールを勝手に決めないで!!」

 

「夏凜ちゃんは日曜日に用事があるの?」

 

「いや、別にないけど……」

 

「じゃあ、親睦会を兼ねてやった方が良いよ!楽しいよ?」

 

「なんで私が子供の相手なんかを────!」

 

「いや……?」

 

「そ、それは……」

 

友奈の悲しそうな顔を見て言い淀む三好。

……やっぱり根は良いタイプか。

 

「あーもう!分かったわよ!

日曜日ね!……丁度、その日は空いてるわ」

 

「良かったー!」

 

「よし、これで全員揃ってやれるわね!」

 

盛り上がる勇者部のメンバーに溜め息を吐く三好。

 

緊張感のない奴ら……

 

「……それで良いんだよ。

気を詰め過ぎると余計に戦い辛くなるだけさ」

 

「アンタ……気付いてないの?」

 

「何をだ?」

 

「……別に、なんでもないわよ」

 

「そうか……なら良いが……」

 

彼女が辛そうにコチラを見たのが少しだけ気になった────



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第二十七話 ■格あ■■る舞■

日常回とかほざいておいてシリアス入れてすまない……すまない……。

此処で一個伏線張っとかないと後で違和感出そうだったんだ……。

2/24にランキング7位ありがとうございます。
なんかやけにUAの伸びが良いなと思ったらランキングに載ってたようで……
本当にありがとうございます!


注意:今日は夏凜ちゃんの誕生日じゃないのでそこはお忘れなく。


「あれ?……アンタ一人なの?」

 

勇者部部室に十五分前に着くと、衛宮士郎。

アイツだけが部室に居た。

 

「いや、全員現地に既に集合しているよ。

もし間違えていたら、を想定して私はここに居ただけだ。

……最も、本当にこっちに来るとは思わなかったが」

 

「嘘……現地!?」

 

慌てて、紙を確認するとそこには

たしかに10:00に現地集合と書かれていて────

 

「……やらかした」

 

「まさか本当に確認していなかったのか……

後、五分遅ければ既に此処を出ていたところだぞ?」

 

呆れた様子で苦笑する衛宮を見て、私は顔を赤くする。

 

「うっさいわね!!

……というか、なんでこうなるって予想できたのよ!?」

 

「……ああ、それか。

なに、単純だよ。君とよく似た性格の人物を知っていてね。

彼女なら、やらかすだろう。と想定した上で動いたからさ」

 

何処か、懐かしげに語る衛宮。

 

「どんなやつなのよ……ソイツ……」

 

自分で言うのも癪だが、私は相当嫌な性格をしている。

だからこそ、コイツの語る相手がどんな奴なのか気になった。

 

「君の性格に、がめつさと猫被りを追加した感じといったところか?」

 

「……私が言うのもアレだけど。相当面倒臭いわね。ソイツ」

 

「違いない。手間をかけさせれるタイプだったよ」

 

肩を竦めて、衛宮はまた苦笑いをする。

 

「……さて、時間も時間だ。そろそろ、児童館の方に向かうぞ」

 

衛宮はそう言って、部室のドアを開ける。

 

「ぁ……ありがとう……」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「べ、別になんでもないわよ!!」

 

「そうか…………────どういたしまして」

 

「ちょっと!?聞こえてるなら最初からそう言いなさいよ!?」

 

「ハハハッ」

 

腹が立つ。なんというか手玉に取られているのが凄く腹が立つ。

 

「ほんっと、腹立つわね!アンタ!!さっさと行くわよ!!」

 

「……三好」

 

「今度は何よ!」

 

語り掛けてくる衛宮の方を振り返る。

なんだというのだ────

 

「場所、分かるのか?」

 

「…………道、教えて」

 

「やれやれ……」

 

私は恥ずかしくなって、顔を赤く染め俯いた。

 

────────

 

「あ、夏凜ちゃーん!士郎くーん!こっちこっち!!」

 

友奈が手を振っているのが見え、私と三好は駆け寄る。

 

「いや、まさか本当に士郎の言ってた通りに居たのネ。

ちょっとビックリしたわ」

 

「うっさいわよ!……ちょっと、間違えただけなんだから!」

 

「……間違えたんですね」

 

「………」

 

東郷のなんとも言えない表情を見て、黙ってしまう三好だった。

 

「はいはい、でもまあ時間通り揃ったわけだし。

行くわよー、勇者部ファイトー!」

 

「「「「おー!」」」」

 

「お、おー……?」

 

 

集合までに、問題があったものの子ども会は順調に事を運んでいく。のだが。

 

それは、自由時間に起きた────

 

 

「え!?……どうしよう……風先輩!」

 

「どうしたの、友奈?」

 

「風先輩……予約してたケーキなんですけど……

忙しくて届けれないって……

ケーキ自体は出来てるらしいので取りにはいけば問題ないらしいですけど……」

 

「あー、そりゃ参ったわねぇ……

今から取りに行ったら子ども会中に出来るとは思えないし……」

 

困った様子で唸っている二人に私は気付く。

 

「……ちょっと、待っててくれるか?」

 

「えー、兄ちゃん遊んでくれねぇの?」

 

「後でな。ちょっと、あっちのお姉さんと話をするから……」

 

不満そうにする少年の頭を撫でてから風達のもとに行く。

 

「どうした、二人共」

 

「あ、士郎くん。

……あのね、誕生日のケーキなんだけど届けれないって話になって」

 

「……そういう事か」

 

友奈から事情を聞き、顔を顰める。

子ども会でのサプライは不可能か。となれば……

 

「……だったら、プランBでいくか」

 

「プランB?」

 

「そんなの用意してたの!?」

 

「いや、今思い付いた」

 

「オイ」

 

風が私の言葉を聞いてジト目で見る。

……いや、本当に今思い付いたし。

 

「……まあ、とにかくだ

……此処で不可能なら、彼女の家に行って祝うしかないだろう?」

 

「あー……やっぱりそうなるわよね

……よし、だったら私がなんとか言いくるめてみるわ」

 

「お願いします、風先輩!」

 

「……私達は子ども会が終わったらケーキを貰いに行くか」

 

「うん、ごめんね……士郎くん」

 

「私ではなく、彼女に謝るべきだ。

それに、こちらもそれを想定していなかったという落ち度があるからお相子だよ」

 

……ケーキ屋で注文し宅配してくれるサービスはあるが、

宅配業者も人材不足なこの御時世では

忙しい場合、届けれない事が稀にあるのだ。

 

「とりあえず、今はこっちに集中しよう。考え込んでも仕方ない」

 

「そうね」

 

「うん……」

 

ふと、その時、

男の子が何か愚図っており、東郷が困っている様子が見えた。

 

「……悪い、友奈。私の居た場所に代理で入ってくれないか?」

 

「え?良いけど、どうしたの?」

 

「ちょっと、東郷が困っているみたいでな」

 

「あ……ほんとだ。私が行った方が────」

 

「いや、相手が男子なら私が行ったほうが良いだろう」

 

「うーん……そっか。じゃあお願い」

 

「ああ」

 

友奈に頼まれ、東郷の方に向かう。

 

「絶対、須美ねーちゃんだ!」

 

「鉄男くん、私は須美って名前じゃないのよ?」

 

「絶対須美ねーちゃんだもん!」

 

「困ったわ……」

 

須美という名前を言い続ける少年と

それを聞いて困った様子の東郷。

 

「……どうした、東郷?」

 

「あ、衛宮くん……

この男の子……三ノ輪 鉄男くんって言うのだけど

私の事を誰かと勘違いしてるみたいで」

 

「須美って言っていたな……」

 

須美……先代勇者の鷲尾須美か?

……だとすると年齢が一緒ぐらいだというのは分かるが。

 

「────士郎兄?」

 

「…………え?」

 

愚図っていたであろう少年が

驚いた様子でこちらを見つめる。

 

「やっぱ、士郎兄だ!こんな所でなにやってんだよ?

須美ねーちゃんと一緒に姉ちゃんのとこに行ってあげなよ!」

 

「……何を言ってる?」

 

「士郎兄、寝惚けてんの?

銀姉ちゃんの事、よく知ってるだろ!?」

 

「銀?……誰の事を言っている?私は知らな────」

 

その時、視界にノイズが、頭に亀裂が走った。

 

「ぁ────」

 

『士郎くん!』

 

『えみやん!』

 

『士郎!』

 

……なんだこれ、誰だ。

……誰なんだよ……私は……オレは本当に────?

 

「衛宮くん!?」

 

「っ!?……はぁ……はぁ……」

 

「ちょ、士郎!?どうしたのよ、東郷!?」

 

「分からないんです……衛宮くん!」

 

「しっかりしなさいよ、士郎!!」

 

「……ぎ……ん」

 

……意識が朦朧としていき、

誰かが語り掛けたのだけは分かって……気を失った。

 

────────

 

そこは、剣の刺さった荒野だった。

視界の先には座り込む、男が居た。

 

「此処はお前の来るべき場所じゃないぞ。衛宮 士郎」

 

男がオレに語り掛けてくる。

 

「……お前は」

 

「去れ。オレのようになりたくないのなら」

 

そう言って、男はオレをこの荒野から突き飛ばした────

 

 

「此処は……」

 

目を覚ますと見覚えのない天井で。

 

「保健室よ。……起きたのね」

 

「────三好?」

 

私の言葉を聞いて、三好は少し不機嫌そうな表情をする。

 

「む、悪かったわね。アイツらじゃなくて」

 

「……いや、わざわざ此処に居てくれたのか?」

 

「そうよ。アイツらも残るって言ってたけど子ども会があるし

……それに、今日はアンタに借りがあったから」

 

少し恥ずかしそう恥ずかしそうに三好は告げる。

 

「……そうか、わざわざすまない」

 

「それにしてもいきなり倒れるなんて、何があったのよ?」

 

「……よく覚えてないんだ。

何か大事な事を告げられた気がするんだが……」

 

「……そう……まあ良いわ。

別に私に関係する事じゃなさそうだし」

 

「違いないな」

 

会話が途切れる。

────三好は、少しだけ悩ましい表情を見せるが、すぐに口を開く

 

「……今のままじゃアンタ、いつか全部背負い込んで壊れるわよ」

 

「────そうだな」

 

それは的確な言葉だった。

彼女の言葉が嫌に胸に響いた。

 

「そうだなって……アンタね……!

……はぁ、どうせ言っても無駄ね。

そうやって、アンタは二年前も背負い込んだらしいし。

覚えはないんでしょうけどね」

 

「二年前……?」

 

……二年前。

────何かあっただろうか?

 

「何、首傾げてんのよ。説明されてたでしょ。

アンタは二年前勇者として戦ったって」

 

「────っ、ああ……そうだったな」

 

……そうだ。オレは二年前に勇者として戦ったんだ。

それで────それで?

 

……あれ、オレはどうしたんだ?

 

「……どうかした?」

 

「あ、ああ……いや……なんでもない。

……そうだ。今は何時だ?」

 

「後少しで勇者と魔王の人形劇も終わるわよ。

────アンタに魔王の吹き替えしてほしかったって

何処かの誰かがボヤいてたけどね」

 

「何処の誰か目に浮かぶな……」

 

勇者部の部長の姿がすぐに浮かんだ。

────あの話は断った筈なんだがな。

 

「体調は大丈夫なのよね?」

 

「ああ。多少頭は痛むが……この程度なら問題ない」

 

「そ、良かったわ……か、勘違いはしないでよ!

私は、借りを返しに来ただけだから!!」

 

「わかってるさ」

 

「フ、フン。なら良いわ!」

 

頬を赤く染めて、そっぽを向く三好。

……全く、何処まで彼女と似ているんだか。

 

────────

 

「で……なんでウチでやるわけ!?」

 

激昂する三好。

子ども会は無事に終了。

その後、お疲れ様でしたの会。と称して三好の家にお邪魔するという暴挙に風が出た。

 

いや、なんとか言いくるめるとは聞いたが

こういう風にするとは思わんかったぞ……

 

「お待たせしました!結城友奈、到着です!!」

 

友奈が、夏凜の家にケーキの箱を持ってやってくる。

 

「お、ようやく来たわね」

 

「話聞きなさいよ!?」

 

「まあまあ、良いから良いから」

 

「良くないわよ!?ていうか何よそれ!!」

 

三好は、友奈の持ってきた箱を指刺す。

 

「これ?これはね……はい。ハッピーバースデー!夏凜ちゃん!」

 

友奈はケーキの箱を開ける。

そこにはチョコソースで『お誕生日おめでとう』と書かれているホワイトチョコを乗せたショートケーキがあって────

 

「え?」

 

「改めて、夏凜ちゃん。お誕生日おめでとう!」

 

「「おめでとうございます!」」

 

「どうして……」

 

「アンタ、今日誕生日でしょ。ちゃんと此処に書いてるじゃない」

 

困惑する三好に風は三好が書いた部活の入部届を見せる。

そこには生年月日の記入欄にしっかりと6/12日と書かれていて────

 

「友奈ちゃんが見つけたんだよね?」

 

「えへへ、あっ!って気付いてね。だったら誕生日会しないとって」

 

「歓迎会も一緒にできますしね!」

 

「本当は子ども会の方でやろうと思ってたの」

 

「当日に驚かそうと思ったんだけどね……」

 

「ケーキ屋さんの方でトラブルがあるわ。

こっちでも部員一人倒れるわでね……」

 

「いやほんとすまん……」

 

風の言葉が胸に突き刺さった────

企画しておいてあれだが、私のせいだなこれ!間違いなく!

 

私が倒れなかったらいけたんじゃなかろうか。

 

「…………」

 

「ん?どうしたの?」

 

「夏凜ちゃん?」

 

「あれー?ひょっとして、自分の誕生日も忘れてたぁ?」

 

……アホ……バカ

 

「夏凜ちゃん?」

 

ボケ……おたんこなす……!

 

「ちょ、なによそれ!?」

 

「誕生会なんて、やったことないから!

……な、なんて言ったら良いのかわかんないのよ」

 

頬を真っ赤に染めて、視線を逸らす三好。

 

それを見てオレ達は顔を見合わせてクスリと笑い……

 

 

「「「「お誕生日おめでとう。夏凜(三好)(ちゃん(さん))!」」」」

 

三好に向けて、そう告げた。

 

「……そういえば、三好。

冷蔵庫に水しかなかったが……何を食べてるんだ?」

 

「え、コンビニ弁当だけど?」

 

コンビニ弁当……だと……?

 

「……三好、今……コンビニ弁当と言ったか?」

 

「い、言ったわよ……それが何か問題?」

 

「……ほう…………そこに正座」

 

「は?」

 

「正座!!」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

怯えた様子で正座する三好。

私はそんなに怖い顔をしているか?

 

「良いか、そもそもだな────」

 

「お、お姉ちゃん……これ……」

 

「入ったわねー……士郎の主夫モード……」

 

「しゅ、主夫モードですか?」

 

「ええ、樹の部屋見た時にもこんな感じになってねー

……即座に掃除始めたし。

まあそろそろ掃除しなきゃってのは思ってたし丁度よかったけどさ

……あの時は後ろに修羅が見えたわネ」

 

「うぅ……忘れようよ、お姉ちゃん!」

 

 

 

「────なにより、成長期の娘がコンビニ弁当で生活しているなど言語道断!!」

 

はい……

 

「風!!」

 

「は、はい!なんですか士郎さん!?」

 

そんなに怯えなくても良いだろう?

今それほど怖い顔をしているとは思っていないんだが。

 

「これからは、三好の家に朝食と夕飯を作りに行く。

手伝えなくなるかもしれんが、良いな?」

 

「あっうん……別にそれぐらいなら良いけど……」

 

「ちょ!?何勝手に決めてんのよ!?

私は良いとは一言も────」

 

「 良 い な ? 」

 

「……………………はい」

 

「東郷さん。士郎くんの前では健康とか色々気を付けようね……」

 

「……そうね」

 

 

全くの余談だが、

これ以降勇者部のメンバーの食事が

基本的に栄養バランスの整った物になったらしい。

 

そこまで、言ったつもりはないんだが────




ちなみに今回の伏線は鉄男くんが出たこと。

────まあ、だいたい予想はつきますよね。


……士郎に関する事で疑問が出たら……それはきっと勘が鋭い人。


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第二十八話 樹海の記憶 E.S√ EP.1

樹海の記憶編はーじまーるよー。

E.Sは衛宮士郎と読んでください。

とはいいつつ、樹海の記憶での日常編はやりません。
ストーリー本編だけです。

樹海の記憶にのみ存在する敵とかもあるので
その辺を違和感なく組み込めるかが不安。


UA十万突破ありがとうございます!
ちなみに先日は月光仮面が六十周年だったそうです。
月光仮面は正義の味方という言葉を産んだ作品なので
衛宮士郎という存在とは結構密接に絡んでますよね

……あと今日は、乃木園子演じる花澤香菜さんの誕生日です。おめでとうございます!


少女が立っていた。

 

懐かしい声で何かを告げていた。

 

『■■■■、■■しないでね。

■■■■も■■■■も……他の■■の皆も、きっと■■■から────』

 

「君は……誰だ……」

 

『────ッ。

覚めないで、覚めたらきっと……その先は地獄(・・)だから────』

 

「ぁ……」

 

少女は告げて、消えていく。

 

オレは彼女を掴もうとして────

 

────────

 

「…………夢か」

 

天井に向かって、手を伸ばしていた

……良い夢だったのか分からない。

だが……少し悲しい夢だというのは覚えていた。

 

「もう、良い時間か……」

 

時計を見ると、既に6:30になっていた。

 

「……行くか」

 

制服に着替えて、

昨日買っておいた野菜などを持っていくことにした。

 

 

「で、本当に作りに行ったのねぇ……」

 

「……いきなり来たからビックリしたわよ」

 

「これでも、有言実行主義でね」

 

勇者部の部室で苦笑いの風と

複雑そうな表情の三好と私は会話する。

 

「あはは……士郎くんらしい……のかな?」

 

「……私はなんとも言えないわ」

 

「え、えっと……気遣いが出来る衛宮先輩らしいと思いますよ……?」

 

「樹……その優しさが胸に染みるなぁ……」

 

樹の励まし?慰め?の言葉が染みる。

────この中じゃフォローしてくれるのは

彼女と友奈ぐらいだというのもあるだろうが。

 

「はい、じゃあ雑談はここまで。議題に入るわよ。

樹、皆にプリント配ってあげて」

 

「はい!」

 

樹は私達にプリントを配る。

 

「このプリントに書いてある通りですが……

今週末は子ども会のレクリエーションをお手伝いします」

 

……子ども会のレクリエーション?

何故だか、覚えがあった気がした。

やっていないはずなのに、やったことがあるような……

 

「遊びたくてウズウズしてる、元気いっぱいの子供達が相手よ!

皆心してお手伝いに臨むように!」

 

「具体的には何をするんですか?」

 

「えーっと……折り紙の折り方を教えてあげたり……

一緒に絵を描いたり、やる事は沢山あります!」

 

「わぁ、楽しそう!」

 

「夏凜には……そうねぇ……

暴れ足りない子のドッジボールの的になってもらおうかしら?」

 

「……ちょっと待って。

やられっぱなしになんかならないわよ!」

 

「何言ってんのよ、小さい子相手に大人げない」

 

「うぐっ……ぐぬぬ……」

 

風に正論を告げられ、押し黙る三好だった。

 

「まあまあ。私達も中学生ですし!」

 

友奈が仲介しているのを尻目に考え込む。

……ところどころに妙な既視感がある。

一度、経験した事があるような……

 

「……衛宮くん?」

 

「ん?……あ、ああ東郷か。どうかしたのか?」

 

「ちょっと考え込んでたみたいだから何かあったのかなって……

悩んだら相談よ。衛宮くん」

 

「すまない……なら────」

 

今のこの既視感を、東郷に伝えようとすると────

 

全員のスマホから警報音が流れ、世界が止まる。

 

「「「「「「ッ!」」」」」」

 

「じゅ、樹海化警報です!」

 

「やれやれ……忙しいわね」

 

「タイミングの悪い……さっきの話は後でだな。東郷」

 

「そうね。今は御役目に集中しましょう……!」

 

「文句は後で!行くわよ皆!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

世界が塗り替えられていく。

現実の世界から、非現実な様々な色の木の根が蔓延る樹海の世界へと────

 

────────

 

「来た……バーテックス……!」

 

空中から接近する

巨大な桃色の異形。乙女座のバーテックスを全員が睨みつける。

 

「アイツ、何処かで……」

 

ただ、その姿に見覚えがあった。

いや……正確に言うなら、倒していた気がした。

そんなはずはないのに────

 

「アンタ達!遅れを取るんじゃないわよ!」

 

「こらこら、仕切るんじゃない!上級生の言う事に従うように!」

 

「こっからは実戦!部活動は関係ないでしょ!?」

 

風の注意喚起に、三好はそう反論する。

 

「……皇国の興廃は、この一戦にあります」

 

「い、行こう!お姉ちゃん!皆さん!」

 

「まあ、なんにせよ……

アイツを倒さない限りは樹海化も解けないし、

私達が日常に戻る事も出来ないのは事実だ。

……さて、部長さん。指示の御手並み拝見だ」

 

私は白と黒の二丁の銃剣を握り締めて笑う。

 

「随分、偉そうな部員が居るけど……」

 

「事実、君達よりは先人になるらしいからね。詳しくは知らんが」

 

「あ、ちょっとその上から目線ムカつく……まあいいわ。

────勇者部、突撃!バーテックスを殲滅するわよ!!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

それぞれが個人の判断でバーテックスに接近する。

────が、そこで異変に気付く。

 

「バーテックス確認!

……って、何か変なのがいっぱい出てきた!?」

 

「な、何あれ!?あれもバーテックスなの?」

 

「……小型か。厄介そうだな」

 

青や赤のクリオネのような形の怪物、

三角錐の物体の周囲を蛇にような存在が蠢くモノ、

四脚の機械のような異形など、様々な小型の怪物が居た。

 

「正体不明の取り巻きがいるけど……

バーテックスと一緒に居る以上、敵よ!

各自、アイツらを蹴散らしながらバーテックスにも攻撃して!行くわよ、皆!」

 

「はい!」「うん!」「しょうがないわね!」

「了解!」「ああ!」

 

それぞれが風の指示に従う形で散開して小型達を蹴散らしていく。

 

「よしっ!これなら……って、なんかいっぱい増えたあ!?」

 

友奈の周囲に赤い結晶と小型の怪物が無数に現れる。

 

「さっきまであそこに居なかったわよ!?」

 

「友奈、じっとしてなさい!薙ぎ払うから!!」

 

「は、はい!」

 

風が即座に友奈のところに向かい、大剣で小型を薙ぎ払うが……

 

「ええ!?また増えて!?」

 

「ちょ!?無限湧きとか洒落になんないわよ!?」

 

薙ぎ払われ、小型が消滅すると同時に再び小型が出現する。

……その時、空中に浮いていた赤い結晶が光るのに気付いた。

 

「……あの赤い結晶……まさか」

 

「こんのぉっ!」

 

「お姉ちゃん!友奈さん!えええいっ!!」

 

三好と樹も援護に向かうが、倒しても倒しても小型が増え続ける。

 

そして、増える度に赤い結晶が光る。

 

……そうか。やはりあれか。

即座に東郷に連絡をいれる。

 

「東郷、あの赤い結晶を狙えるか」

 

『……衛宮くんも気付いたのね?』

 

「ああ……光る度に小型が出現している。

あれが増やしてると見て間違いないだろう」

 

『やっぱり……分かった、狙ってみるわ』

 

「……頼む。私はなるべくあの結晶に接近してみる」

 

赤い結晶に近付いていく。

……まだ行くな。まだ耐えろ。

 

銃声が鳴り響く、だが銃弾は赤い結晶には直撃せず────

 

「外した……!」

 

「ッ────!」

 

そのタイミングで、赤い結晶に急接近する。

そして、銃剣を剣に戻し────

 

「ハァッ!!」

 

赤い結晶を斬り裂いた。

 

「うぉおおおおお!……ってあれ?消えちゃった?」

 

斬り裂かれ、消滅する赤い結晶。

それに合わせて小型達も消滅していった。

 

「大丈夫か?」

 

「あ、士郎くん!いきなり小型が消えちゃって……」

 

「ああ、それなら……

アイツらを出現させていたヤツを壊してきたからだろうな」

 

「は!?そんなのあったわけ!?

……っていうかあるなら教えなさいって士郎!」

 

「それはすまん。だが下手に動いて、

気付かれたら何をするかわからなかったからね」

 

「……まあそうなんだけどさ」

 

「そこ、ぼさっとすんな!今のうちに封印の儀始めるわよ!!」

 

「ごめんなさい夏凜ちゃん!」

 

「あーもう!だから仕切らないでってば!部長の立場ないじゃないの!」

 

樹、三好に続いて、封印の儀を始める友奈と風。

 

「────」

 

「……今、誰か……気の所為か?」

 

友奈達のもとに合流しようとしたその時、人影を見た気がした。

 

「覚めないで────」

 

「ッ────!?」

 

再び人影が見え、覚えのある声が聞こえた。

そうだ、この声は……夢で聞いた────

 

「待てッ!……消えた」

 

人影を追うが、すぐにその姿を消す。

────いったい、君は誰なんだ?

 

謎の小型のバーテックス。そして……見覚えのある大型。

 

そして……勇者システムを纏っていないはずの少女が樹海に居る。

 

違和感は拭えず……

むしろ、その違和感は増していくばかりだった────




謎の少女 いったい何者なんだ(棒)


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第二十九話 樹海の記憶 E.S√ EP.2

リアル忙しくなってきて投稿遅くなるかもしれないけど許して!

多分これ以降は東郷さん√よりのオリジナル。
メインが東郷さんと士郎くんの二人になると思います。
樹海の記憶のストーリー的にもキャラ的にもネ


乙女座を倒した後日、勇者部の部室に集まる。

 

「────全員、集まったわね」

 

「どうしたんですか風先輩?怖い顔して……」

 

「……単刀直入に言うわ。大赦から報告があった。

『壁』が枯れ始めたって……

 

「ええっ!?」

 

「うそでしょ!?」

 

「お姉ちゃん……」

 

「………!」

 

それは、本来なら有り得ない事だ。

神樹の力を最も宿しているのは壁。

それの崩壊は即ち、世界の崩壊を意味するのだ。

だからこそ、それはおかしいことで────

 

「ちょっと待て、それはおかしくないか?

壁は神樹の力の大半が宿る場所だ。

そこが枯れるという事は神樹自体になにかしらの異常が発生している事になる。

そうなれば、現実世界にも影響を及ぼす筈だ」

 

「ええ……そこなのよ。これは想定外の事態。

でも、私達と大赦以外の無関係の人達はその事に気付いていないの

 

「なんで……壁が枯れるなんて一大事なのに!!」

 

「そうね。少し変だわ。

……壁の事については、大赦が調査中だって」

 

認識阻害の力が働いている……?

いや、それこそ有り得ない。ソレはこの時代では既に衰退したものだ。

……それに、その類を使えるのは私だけだ。

他の誰にも使えない。

 

だとするなら……候補に上がるのは、神樹の力を宿す精霊。

その中でも化かす力がある精霊だろう。

 

……私の知る中でその類の精霊を持つのはただ一人。東郷の刑部狸だけだ。

……だが、東郷もこの事実は知らなかった。となればこの可能性は有り得ない。

 

「……やはり妙だな。

なにか裏で動いているとしか考えられない」

 

「……異常事態なのは間違いないわ……これも調査中なんだって」

 

「そうか……」

 

「先輩、確認なのですが……

大赦は、あの時バーテックスと共に現れた

未確認物体について何か言っていましたか?」

 

「ええ……あれは『星屑』と呼ばれるものよ。

やっつけた後でなんだけど、あれも敵。

バーテックスの亜種……みたいなものかしら」

 

「星屑……名前は綺麗なのに……」

 

「常軌を逸した存在が殆どだったな……

星屑と呼ばれるのは皮肉なのか……或いは……」

 

ただ、奴らに少しだけ違和感があった。

……私の知る星屑は、あの形ではなかった。

そう。もっとおぞましく……気味の悪い……真っ白な────

 

「あれが現れたのも、壁が枯れ始めたのが原因らしいわ。

今後も、バーテックスと一緒に現れるでしょうね……」

 

「どうでもいいわ、あんな雑魚。

バーテックス諸共、ぶっ飛ばすまでよ!」

 

「数で攻めてくるのが厄介なところだが……

あの結晶体を壊せば、幸いにも数が増えるのを防ぐ事は出来るしな」

 

「ほんと、無限湧きは洒落にならないわよね……」

 

「ゲームなら稼ぎと言えるのだろうが……

生憎、現実だと無限湧き程厄介なものは存在しないな……」

 

ジリ貧である。

先にこちらが倒れ伏してしまうのが目に見えてしまうのだ。

 

「お姉ちゃん、私の聞きたい事があるの……

あの時、女の子が樹海に居たよね……?」

 

「あ! 私も見ました!」

 

「む、そういえば……」

 

「私も目視で確認しました」

 

「……全員見ているという事は、幻覚ではないか。

風、大赦からなにか彼女に関する報告はあったか?

私のもとには来なかったが……」

 

「それが……大赦にも確認はしたんだけど

私達以外には、勇者は存在しない(・・・・・・・・)っていう返答があっただけ……」

 

「────ッ」

 

ノイズが走った。これは、違和感……?

そうだ、私達以外にも────

 

「士郎くん、頭を抑えてたけど大丈夫?」

 

「────ぁ……あ、ああ。気にするな」

 

心配そうに、友奈がこちらの様子を伺ってきた。

……あれ、何をオレは考えてたんだっけ。

今は、気にしない方が良いか────

 

「勇者じゃないの?じゃあ、何であそこに────」

 

樹が喋っている途中で、樹海化警報が鳴り響く。

 

「ひゃうっ!?」

 

「わわっ!?警報!?」

 

「……ったく、せっかちな奴らね」

 

「先輩……!」

 

「分かってるわ。女の子の事については後で考えましょう。

まずはバーテックスを倒してからよ!!」

 

「そうだな、今は考えても仕方ない」

 

世界がまた、塗り替えられていく────

 

────────

 

赤いバーテックスを確認する。

蟹座のバーテックスだ。……この前の乙女座と同じく既視感を感じた。

 

「おいでなすったわね。行くわよ、皆!」

 

「お姉ちゃん!星屑がまた……!」

 

私達の目の前には、前回の戦いで見た小型の怪物達。

星屑が無数に存在していた。

 

「……今回も居るみたいね」

 

「この前の女の子、まだ居るのかな?

バーテックスは人を先に襲うっていうから……早く倒しちゃおう!」

 

「………やっぱり妙だな」

 

既視感が拭えない。

アイツは倒した筈で────

 

「衛宮くん……?」

 

「……なんでもないさ、東郷」

 

「皆、いい?

バーテックスと星屑を倒す!一匹も逃すんじゃないわよ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

────────

 

「コイツで星屑は終わりか……」

 

「後はアイツだけね……!封印開始!!」

 

「「「「了解!」」」」

 

「トドメは任せたわよ、士郎!」

 

「了解した」

 

洋弓と螺旋状の剣、偽・螺旋剣(カラドボルクII)を投影して構える。

 

「────出ました!」

 

御霊が出現する。

 

「士郎!今!!」

 

「───ッ」

 

弦を引き絞り、御霊に向けて撃とうとしたとき────

 

「本当にそれで良いの────?」

 

「────」

 

声が聞こえた。あの声だ。

 

「………どういう意味だ」

 

「この先で、きっと辛い思いをいっぱいする……それでも?」

 

……辛い思いか。

 

「生憎、地獄は既に味わった身だ」

 

「…………それは、貴方に限った話じゃないんだよ?」

 

……分かりきっている。

きっと、彼女達の事も指すのだろう。

 

「なら、彼女達の分まで私が背負うだけだ

 

「そっか……やっぱり、それを選んじゃうんだね……」

 

「君は……」

 

何を知っている────?

そう言いかけて……

 

「士郎!!」

 

「ッ!」

 

風の言葉で意識が戻る。既に少女の気配はなく────

 

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)……

偽・螺旋剣────!!」

 

弦を手から離し、直後に偽・螺旋剣が御霊を貫いた。

 

 

「敵バーテックス、及び星屑を撃滅しました」

 

「よっし!皆、お疲れ様!」

 

「さっきの言葉の意味……やはり何かを彼女は知っているのか……」

 

バーテックスを倒し終わるも、私は心が晴れることはなかった。

むしろ、違和感や不信感は増していくばかりで……

 

「士郎。さっきはどうしたのよ。急に固まって」

 

「……すまない。あの一瞬だけ意識が飛んでいたみたいだ」

 

「飛んでたって……無茶はしてないのよね?」

 

「健康そのものだよ。今の私は」

 

咄嗟に嘘をついた。彼女から告げられた事。

……それを風達に伝えるのをなぜか躊躇ってしまった。

 

「……………」

 

「あ!お姉ちゃん!この前の女の子!」

 

「わっ!あんなところに!?大丈夫だったのかな……?

あれ……もう一人居る……?」

 

そこには、この前居た少女だけではなく……あと一人居て────。

 

「待って……!」

 

静止の声を聞かず、二人の少女は去っていく。

だが、その時一瞬だけ……私と東郷を見て、

悲しそうな表情をしたのが何故か不思議だった。

不思議な筈なのに……妙な懐かしさもあって────

 

「………行ってしまったわね。

もうすぐ樹海化も解けてしまう」

 

「ちっ!捕まえて色々問いただしたかったのにすばしっこい奴!」

 

「あの子達が助かって良かったけど……

なんでバーテックスはあの子達を攻撃しなかったのかな……?」

 

……あの二人は、何かを知っている。

それは今の事態を。そして……おそらく、それ以上の何かを。

 

「二人を探しに行きたいのはやまやまだけど……

東郷の言う通り、じき樹海化も収まるわ。

ここまで来て悔しいけど……いったん戻ろう」

 

「うん……」

 

「致し方ないですね……」

 

「戻ってから探すのは、

針山の中から針を探すようなもんだしね」

 

「そうだね……でも……心配だな……」

 

「……あの二人」

 

見覚えがある。それだけではなくて────

 

「乃■ ■■……三■輪 ■────」

 

ふと、私は誰かの名前を口にした────

わからない筈なのに、懐かしく思って……

 

「それを選ぶんだ。か……」

 

その言葉だけが、やけに頭に残っていた────




二人目の少女……いったい誰なんだ(棒)


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第三十話 樹海の記憶 E.S√ EP.3

樹海の記憶は戦闘描写が手抜きに……
同じバーテックスでゲームになるとやっぱり描写が難しいですね……

だいたい簡潔になるけどすまない……


「………くっはぁ!

この一杯の為に生きているようなもんよねー!」

 

「お姉ちゃん……お酒じゃないんだから……」

 

「中年のサラリーマンか、君は……」

 

肉ぶっかけうどんを美味しそうに食べる風に呆れてしまう。

 

「それはそうと、今後の対策を考える必要がありますね」

 

「壁って、今も枯れ続けてるんだよね?」

 

「アンタ達、こんな所でそんな事話したら────!」

 

「大丈夫だよ。みんな、うどん食べるのに夢中だもん」

 

友奈の言葉で三好は周囲を見渡す。

事実、客は何事もない様子でうどんを啜っていた。

────何処か、それが異質だった。

 

「……………はぁ」

 

ちなみに夢中なメンバーには、

我らが部長もカウントされている。君はこれでいいのか。風。

 

「このまま壁が全部枯れちゃったらバーテックスが

一気に攻めてきたりするのかな……」

 

「おそらくだがな……総攻撃をされる事になるだろう。

そうなれば……勝ち目はないかもしれん。

一体一体はなんとかなるレベルも多いが

星屑も含め、全体で攻めて来たら……私達では勝ち目はないだろうな」

 

消耗戦。……持久戦において、勇者は圧倒的に不利だ。

神樹の加護も樹海で倍増してはいるが、

持久戦になると樹海への侵食が大きくなり過ぎる。

そうなれば、現実で多大なる影響が及ぶ。

……仮に持ち堪えたとしても、その時点で詰みということだ。

 

「でも、今はまだ耐えてる……」

 

「壁が崩れ始めた原因は分かったんですか?」

 

「………うまっ!うまし糧!」

 

うまし糧て……

 

「…………。

それは大赦にも分からないって。現在調査中の一点張りよ」

 

「それに、あの子達……早く助けてあげないと!」

 

そう、まだあの二人の少女の事もある。

 

「ずるずる……はふはふ……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「おいコラ、犬先輩」

 

「むぐっ!?ゲホッ!?ゴホッ!

へ、変な略し方するんじゃない!」

 

呆れた三好が変な略称で風の事を呼ぶ。

 

「大事な話なのに、

ひとりでひたすらうどん食べてるからでしょ!」

 

「うどん食べながらの方が考えが纏まりやすいのよ!

ゲホゴホ!……少し肺に入った」

 

「ん、水」

 

「ゲホッ……サンキュ、士郎」

 

噎せている風に、水を渡す。

 

「……それで、考えは纏まりましたか?」

 

「……東郷はキッツイなぁ」

 

纏まっていなかったようである。

呆れて、ジト目で見つめる東郷と三好と私だった。

…………これで良いのか勇者部部長。

 

「ご、ごめんなさい東郷先輩!

お姉ちゃんはきっと、うどんを食べ続けて場の空気を和まそうと……」

 

「……ん、ゴホン。

現状は謎だらけだけど、女の子をこのまま放っておくわけにはいかない。

今後の戦闘で、また現れたら保護しましょう。

何か知っているかもしれないし」

 

「ですね!」

 

「もしかして────彼女達も勇者なのかしら……」

 

「わ、私は聞いてないわよ!

大赦からは、アンタ達の情報しか(・・・・・・・・・)……」

 

……また、違和感があった。何かを忘れている気がする。

勇者……懐かしさがある少女……妙に引っかかる。

 

「士郎くーん。おーい士郎くーん!」

 

「ん?……なんだ、友奈」

 

「うどん伸びちゃってるよ?」

 

「あ……」

 

友奈に言われて気付いた。

机に置いていた私のうどんはすっかり伸びきっていた。

 

「……珍しいわね。結構そういうところ気を付けるのに」

 

「ああ、少しな……」

 

「もしかして、体調が悪いの?」

 

「……いや、そういうわけじゃない。

今の状況に関して色々考えているんだが……

毎回喉に小骨が刺さったような、喉元まで出かかっているような

もどかしい感覚になるんだよ。それが気になってしまってな……」

 

そう、何度考えても行き詰まる。

……何か大事な部分が抜け落ちたような感覚だ。

 

「あー……そりゃ気になるわね……」

 

「……何処が気になったのよ」

 

「そりゃ、壁が何故枯れ始めたのかとか星屑に関してだが。

一番気になったのは……あの二人が私と東郷の方を見た事か。

偶然と言われればそれまでなんだが……なにか引っかかる……」

 

そう。あの時何処か悲しそうな表情で東郷と私を見たのがやけに気になった

 

「衛宮くんも?」

 

「……その様子だと、東郷もか」

 

「ええ……あの二人を見てると……何故か懐かしさがこみ上げてきて……」

 

「……概ね、君と同じだな」

 

「え?私はそんなことなかったけど……樹は?」

 

「私もなかったよ。友奈さんは?」

 

「なかったかな……夏凜ちゃんは?」

 

「……ないわよ」

 

「私と東郷だけか……」

 

……私と東郷の共通点。

勇者。は全員当て嵌る。

料理が得意。……いや、これは風も当て嵌るか。

年齢でいえば……友奈と三好もだ。

 

他の共通点といえば記憶……

 

「二年前までの記憶……」

 

「「────!」」

 

そうだ。共通点で一番外せないものがあった。

────喪失した、二年前までの記憶。

 

「衛宮くん……もしかして……!」

 

「その可能性はあり得るな。……となれば、二年前に私と君は」

 

「……かもしれない」

 

「ん?なになに?なんか思い付いたの?」

 

「ああ、私と東郷だけが感じた事。

だから私と東郷の共通点を探ったんだ。

そしたら、丁度私達にしかない共通点が一つ存在していた」

 

「えっと……どれ?」

 

「記憶です。二年前までの……298年の頃の記憶」

 

「あ……!」

 

友奈は気付いたらしく声を上げる。

 

「そういえばそうね……」

 

「ああ、だから仮説を立てた。

記憶を失う前。つまりは298年の頃の私と東郷は彼女達と会っている。

……この仮説だと、色々と納得がいくんだ」

 

「つまり……二年前にあの二人と会ってたって事?」

 

「おそらくはそうなります。あくまで仮説ですが」

 

「歳の差も身長から考えると殆ど差はないだろうしな」

 

「……どのみち保護した方が良さそうね。

二人の記憶に関する事も知っている可能性が出たなら……尚更ね」

 

「……そうなるな」

 

結局の所、保護。という形で収まった。

 

「……ふっ、任せておきなさい!

私の尋問で吐かなかった奴はいないわ!」

 

「いやそりゃ、尋問したことがないからでしょ……」

 

自分が何やったかわかっとんのか……カツ丼食えよ……

────余計な電波を受信した気がする。

 

「そんな怖そうなのじゃなくて、

ここで美味しいうどんを食べながらで良いと思うよ?」

 

「そうね。そうと決まればもう一杯────」

 

と、そこでタイミングよく樹海化警報が流れる。

 

「ありゃ……」

 

「早速おいでなすったわね……」

 

「お姉ちゃん!うどんは後だよ!!」

 

「わ、分かってるわよ!それじゃ、勇者部出撃!!」

 

いつものように樹海に世界が塗り替えられていく

余談だが、この時名残惜しそうにうどんの皿を

何処かの誰かが見つめていた。誰とは言わないが。

 

────────

 

「……アイツは」

 

黄色のバーテックス。蠍座。

────因縁の相手だ。だが、あれはオレが封印を……

 

「……あっ!皆、あそこ!」

 

友奈の視線の先には、あの少女達が居て……

 

「……いけない!」

 

「た、大変!お姉ちゃん!!」

 

「マズイわね……あの子達が狙われちゃうわ」

 

「守りながらの戦闘……?キツイけど、やるっきゃないわね!」

 

「「────」」

 

二人の少女は再び姿を消す。

その時、やはり……こちらを見て────

 

「また消えちゃった!?

バーテックス達も、あの子達に見向きもしなかった……」

 

「…………また、こっちを見たな」

 

……懐かしさがある。だがそれ以上に悲しくもあって。

 

「……とりあえず、目先の事から片付けよう!

今のうちにバーテックスと星屑を倒す!」

 

「そうですね!

じゃないと、また女の子が出てきた時に危ないですし!」

 

「そういうこと!行くわよ、皆!!」

 

全員がそれぞれ武装をして、

星屑を倒しながら蠍座に接近していく。

 

「ッ!」

 

「危ないわねッ────!!」

 

蠍座の叩きつけを私は上空に風は後ろに下がって回避する。

その時、赤い装束の少女が見えて────

 

「ッ投影、開始────!」

 

巨大な二本の斧を投影して、蠍座の尻尾を叩き斬った────

 

「……どうやって、オレは今この斧を」

 

「ナイス、士郎!

そういう武器があるなら最初から使いなさいって!皆、封印行くわよ!!」

 

風の合図で封印の儀を行い、蠍座から御霊が出現する。

 

「わわ、増えた!?」

 

「……だったらコイツだ。工程完了。 全投影、待機」

 

その言葉と共に、私の周囲に投影した無数の剣が出現する。

 

「数には数だ……

停止解凍 全投影連続層写────!」

 

その無数の剣を御霊に向けて射出する。

 

「……壊れた幻想」

 

着弾すると同時に剣を起爆させて、御霊を全て破壊した────

 

「……これで、殲滅完了ね」

 

「お疲れ、皆!

……でも、結局あの子達は消えたっきり出て来なかったわね」

 

「バーテックスに襲われなかったのはよかったんだけど……不思議だね」

 

「………うーん?」

 

「友奈ちゃん、どうかしたの?」

 

「うん……気の所為だと思うんだけど。

さっき倒したバーテックス……前にも見た気がするんだ……

それだけじゃなくて……今まで倒してきたバーテックス達とも

同じように戦ったことがあるような……」

 

「……友奈ちゃんもなのね。私も、既視感があったの。

断定はできないけど、

以前倒した敵と似ていたからそう感じただけなのかも……」

 

「あ!な、なるほどぉ〜!そうかも!きっとそうだよ!!」

 

……今の二人の会話でこの既視感が偽りじゃない事が分かった。

そしてそれは似ていたのではない。

きっと前にも倒していたバーテックスで────

 

「ふむ……とりあえず戻ろう。

ここで考えてたって仕方ないわ。うどんでも食べれば考えも纏まるわよ」

 

「あ!賛成です!いっぱい戦ったらお腹が空いちゃいました!」

 

「ふふ……友奈ちゃんったら」

 

……そんな彼女達のやり取りを尻目に

先ほどの投影に関して疑問が浮かぶ。

どうやって、知らないはずのあの斧を投影した?

 

……いったい、どこでアレを見た。

 

あの赤い装束の少女は……勇者なのか……?

 

謎は解けることなく、深まっていくばかりだった────




三人目の友奈ちゃんが個人的にドストライクだった。
エミヤと友奈を足して二で割ったらあんな感じなんだろうか……


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第三十一話 樹海の記憶 E.S√ EP.4

おまたせ。

ようやく、樹海の記憶が後半戦突入します。
……長くなーい?


それは夢だった/それは夢でした

 

誰かとの記憶だった/誰かとの思い出でした

 

その中で

 

少女が語り掛けてくる/悲しそうに告げてくる

 

『覚めてはダメだ』と/『そのまま……そこにいていいから』

 

そして最後に……

アイツは/あの子は

悲しそうに微笑むのだ。

 

────────

 

「ふぁ……ふぅ。まだ眠い……」

 

「私もです……」

 

昼休み、部室に揃ういつものメンツ。

ただ、数人程疲れた様子を見せていて────

 

「相変わらずね、二人共。

午後の授業がまだあるわよ?」

 

「……うぅ……言わないでください〜」

 

「放課後までが果てしないよ……

お昼休みが永遠に続けばいいのに……」

 

「樹ちゃんの意見に大賛成だよ……」

 

「この子達は……」

 

ため息を吐く風。

 

「なに?夜更かしでもしたの?

だったら、いいサプリがあるわ。私が独自に調合したやつなんだけど……」

 

「いや、ただの低血圧だと思うけど……

朝にめっぽう弱いのよ、樹の方は特に」

 

「なんだ、だったらもっと簡単だわ。

この、一粒で一日分の鉄分が補える────」

 

「いや、それはいいだろ……くぁ……」

 

思わず大きく欠伸をしてしまう。

 

「って、士郎。あんたもかい」

 

それを見て、呆れた様子の風。

 

「いや……ここのところ奇妙な夢を見てね……中々寝付けないんだ。

懐かしいんだが……妙に悲しい夢だ」

 

そう、それが原因で中々寝付けないのである。

 

「衛宮くんもなの?

……私も最近変な夢を見て、中々寝付けないのよ。

ここ最近、何度か夜更かししてしまって……」

 

「……説明してる最中だったんだけど。

でも、ふーん、東郷が夜更かしとはね。だったら、この特別調合の────」

 

「それってどんな夢?」

 

「ちょっ……!?」

 

「……夢の内容ですか?……見覚えのない女の子が出てきて、

それで『そのまま……そこにいていいから』────って

私に告げて、消えていくんです」

 

「「「「「…………!」」」」」

 

東郷が語る夢の内容は、私と同じだった。

ただ、少しだけ違うところがあるが……ほとんど変わらなくて────

 

「え?……それって、私も同じような夢を見ました。

……お姉ちゃんも見たって」

 

「うそ……アンタ達も見たの!?」

 

「その夢……私も見た事あるかも……」

 

「全員揃って、同じ夢とは……穏やかではないな」

 

「…………」

 

そう、同じ夢を見るという確率はほとんどない。

しかも接点がある人同士であれば尚更だ。

 

ここに居る全員が見た事があるというのは……異常だった。

 

全員が難しい表情になる。

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「東郷、もしかしてその夢に出てきた女の子って────」

 

風がそこまで言うと、遮るように樹海化警報が鳴り響く。

 

「っ!樹海化警報!?」

 

「わぁ!?目が覚めた!!」

 

「わ、私もです……!」

 

「どうであれ、さすがは警報。

目を覚ましやすいように設定されているな」

 

眠気が吹き飛んだ事に関心してしまう。

 

「いや、それ今言う……?

にしても、タイミングが悪いわね!言いたい事ぐらい言わせて欲しいわ!

……この話の続きはバーテックスを倒してからにしましょうか」

 

「……はい」

 

「ほらほら低血圧達!

目が覚めたんならさっさと行くわよ!!」

 

「夏凜さん、なんだかカリカリしてます……」

 

「サプリの話ができなかったからだよ。きっと」

 

まあたしかに、連続で遮ってきたしなぁ。

 

「べ、別にそんなんじゃないわよ!?」

 

「まあ、最近モヤッとしたことばっかりで

夏凜がカリカリする気持ちも分かるわ」

 

「アンタはバカにしてるでしょ!?」

 

「さあ!勇者部出撃!

問題山積みなんだから、さっさとバーテックスを倒して戻ったら作戦会議よ!」

 

「話逸らしわたね!?

 

犬先輩め、後で覚えておきなさいよ……!」

 

────────

 

「よーし!行こう、樹ちゃん!」

 

「はい!友奈さん!」

 

「すっかり目が覚めたみたいね」

 

気合い充分な友奈と樹を見て、三好は満足そうに笑う。

 

「樹の目覚まし時計の音、

今度から樹海化警報する音にしておこうかしら……」

 

「や、やめてよ〜!?

寝起きにあんな音聞いたらまた夢の中に戻っちゃうよ!?」

 

「それはただの二度寝じゃ……」

 

「……というか、心臓に悪いから絶対にするなよ?」

 

「……それもそうね」

 

警報が朝に毎回鳴り響くのはさすがに心臓に悪すぎる。

 

「そういえば、さっきの夢の話……

夢に出てきた女の子って、なんだかここで会った子に似てる気が……」

 

「……いかんいかん!

あれこれ悩むのは敵を倒してからよ!手早く済ますわよ、皆!」

 

バーテックスの方に視線をやる。

……青いバーテックス。射手座。

 

……間違いない、あれは私と東郷で倒したバーテックスだ。

 

「この既視感は気の所為じゃなかったか」

 

でも、何故倒した奴らが……

復活するにしても、時間はかなり掛かる筈。

どうやって……

 

「考えるのは後か……

蟹座がいない……つまりはアイツの矢は予想できる。

これだけでも随分と楽になるな」

 

そう、射手座の攻撃は数だ。

だが、奴の矢は避けれない速度で接近はしてこない。

 

だからこそ、蟹座のアシストがないだけで簡単に立ち回れる。

 

「数だけは多いわね!

……まあ、変な起動しない分避けるのは楽だけど!!」

 

三好の言葉に同意する。

蟹座と射手座のコンビが厄介だというのがはっきりわかるな……

 

「……今」

 

東郷がこちらにヘイトが集中しているその隙を狙って、射手座を撃ち抜く。

 

「よし、今!樹、友奈、夏凜!封印の儀。行くわよ!」

 

「うん!」「はい!」「分かってるっての!」

 

射手座から御霊が現れる。

────御霊は再び、高速で移動しだす。

 

「早い!」

 

「東郷、抑えてくれ!オレが行く────!」

 

「了解!」

 

東郷が狙い撃ち、御霊の動きが止まる。

 

「距離があるなら────」

 

槍を持つ、紫の装束の少女が見えた。

 

「────投影、開始」

 

紫の槍を投影し、御霊に向ける。

すると、紫の槍が伸び……御霊を貫いた────

 

「────この前と同じ」

 

……知らないはずの武器。それを私は投影した。

睡蓮の花の装飾がつけられた紫色の槍……

覚えがないはずなのに、何故か懐かしくて。

 

「よし、全部やっつけたわね。

さっさと帰って作戦会議……と言いたいところだけど……」

 

「……風、アンタも感じた?

あのバーテックスって────」

 

「ええ……アレは私達が前に戦ったバーテックスだったわ……」

 

「や、やっぱり……」

 

「……なんで今まで気付けなかったのかしら」

 

現状を知り、全員が黙り込んでしまう。

仕方ないといえば、仕方ない。

そうなるように仕向けられていたのだろう。

 

「お、おかしいよねこれって……?

一度倒したバーテックスが、また出てくるなんて……

ど、どうしましょう、風先輩……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「ん〜……うどん分が足りないわ……

友奈もそう思わない?」

 

「………え?あ、ハイ!足りてないと思います!」

 

「はい!?」

 

「わ、私もそう思います!」

 

「ちょっと、樹まで……」

 

「……はぁ」

 

「東郷、アンタは私と同じ意見みたいね。

こいつら緊張感が足りないにも程が────」

 

「私もうどん分が足りてないと思います」

 

「アンタも!?」

 

……三好と私以外が風の意見に賛同する状況だった。

 

「よし!じゃあみんなでうどんだ!

うどんを食べれば何か閃くかもしれないわ!」

 

「おー!」

 

「なるほど……気張りすぎるなって事か。

流石は勇者部部長ってところね」

 

「いや、コイツはただうどんを食べたいだけだと思うぞ」

 

「私も衛宮先輩と同意見です……」

 

「……そこは否定してあげなさいよ。友人と妹として」

 

悲しい事に、彼女に関しては

否定できない材料が揃い過ぎているのである。

 

是非もないネ。




赤奈ちゃんの掘り下げ来たら、番外編で書くかもしれない(未定)


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第三十二話 樹海の記憶 E.S√ EP.5

満開祭り行きたかったけど行けなかった……。

勇者の章の補完をアフレコでやるとか聞いてない……(´・ω・`)
大人しくブルーレイ買って、特典verの満開祭り3の動画を見ます。

※運営様からアンケートみたいな形になっていたとの
ご報告があったので少し加筆修正しました。
感想をくださった方々も引っ掛かったようで……申し訳ございません!



「さ、本日の勇者部活動は終了!

みんなでうどん屋さんへ行こう!!」

 

「ちょっと待った!問題は何も解決してないわよ!?

自分から作戦会議とか言っといて────」

 

「ふっ、行き詰まった時はうどんを食べるべし!

勇者部五箇条にもそう書いてあるでしょ?」

 

一つ、挨拶はきちんと。

一つ、なるべく諦めない。

一つ、よく寝て、よく食べる

一つ、悩んだら相談!

一つ、なせば大抵なんとかなる。

 

「書いてないぞ。そんなの」

 

「……樹、追記しといて」

 

「ええ!?……六箇条になっちゃうよ!?」

 

凄いくだらない理由で箇条増やす気かこの部長……

呆れた目で風を見る。

 

「風先輩、お巫山戯はそのぐらいで。

うどんを食べに行くのは賛成ですが」

 

「そこは賛成なんだ……」

 

東郷の発言にツッコミを入れる友奈だった。

 

「む……そうね。

とはいえ、分からない事だらけなのよね。大赦は何も言って来ないし……」

 

「壁が枯れ続けている事に関しては差し迫った脅威のはずです。

それについても、何も?」

 

「ええ、何も……」

 

「問題はそれだけじゃない。

枯れ続けているのに……誰もそれに気付いていない現状もだ。

幾らなんでも異常すぎる」

 

そう、誰も枯れ続けているの壁を気にしていない。

……それだけなら良かった。だが、最近気付いたのだ。

顔が分からない。

……覚えていないというわけではなく、

クラスメイトの顔すら見えない状態なのだ。

 

異常すぎるのだ。この現状は。

 

「そこに関しても、いっさい情報が来ないのよね……」

 

「このまま枯れ続けたら……

いったい、どうなっちゃうんでしょう……」

 

……全員が黙り込む。

想像などできるものじゃない。ただ、分かるのであれば……

あの壁が無くなった時、人類は終わるということだ。

 

「あの、だったら、私達で調べてみませんか?

壁の近くまで行ってみれば、何か分かるかも……」

 

「一理あるな……

彼らが何も言わない以上……こちらで調べるしかないだろうしね」

 

「じゃあ決まりです!早速行ってみましょう!!」

 

────────

 

そんなわけで、讃州ビーチまでやってきたわけだが────

 

「────とは言ったものの」

 

「ここからどうやって壁まで行くのよ?」

 

「ボート……とか?」

 

「絶対途中でバテるわね……」

 

「あと、腕と肩が死ぬな」

 

海岸から壁までのこの距離をボートは確実に辛い。

 

「勇者になれば壁まで飛んで行けるのでは?」

 

「その手があったわね……」

 

「幸い、今は人が居ないから気にせず変身できるな」

 

「……まあ、知られたら大赦の人おかんむりでしょうけどね。

じゃあ早速────」

 

全員が勇者システムを起動しようとしたその時────

 

「やめたほうが良いよ」

 

「わっ!?ビックリした!?」

 

「いつの間に……?」

 

後ろから、少女が語り掛けてくる。

────この声は、聞き覚えがある。

そうだ、樹海で……聞いた、あの声だ。

後ろを振り向くと、そこには見覚えのある二人の少女の姿があって────

 

「……君たちは、樹海に居た」

 

「……!」

 

「……やっと会えたわね。

貴女達、樹海に居た子よね?いったい何者なの?」

 

「……あなた達は今、幸せ?」

 

風の問いを無視して、そう少女は聞いてくる。

 

「……何を?」

 

「答えて」

 

「……おれ、は」

 

彼女の言葉に即座に答えることはできなかった。

……この先で、自分が歩む道は地獄だと知っている。

だからこそ、その問いにしっかりと答えることはできなくて……

 

「────幸せだよ!」

 

「っ……友奈?」

 

「勇者部として、みんなと一緒に居られて!

勇者として、みんなと一緒に戦えて!

とっても……とっても幸せだよ!!」

 

友奈は少女の問いにハッキリと答える。

……しかし、そう正直に言われると恥ずかしいものがある。

友奈以外の全員の顔が赤くなっていた。

 

「……だったら、この時間を大切にして。

ずっと、このまま、この時間を────」

 

「え……どういう……?」

 

友奈が彼女に質問をしようとすると

それを遮るように樹海化警報が鳴り響く。

 

「樹海化警報!?」

 

「ねえ、今のって……あれ!?居ない……?」

 

視界から彼女達を外した隙に、彼女達は姿を消していた。

 

「……先に行っているという事か。

向こうに、居るだろうな……」

 

「そうですね……そんな気がします」

 

「いい加減、ケリをつけましょう」

 

「よし、行くわよ……みんな────!」

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

もうすぐ、終わる。

それだけはなんとなく、わかっていた────

 

 

 

 

「さっきの女の子は!?」

 

樹海の中で周囲を見渡す友奈。

だが、少女達の姿は見えず────

 

「姿は見えない……だけど……」

 

「きっと、居るはずです!」

 

「……あの子達、とっても悲しそうだった

ずっと……だったのかな……?

……うん、このままじゃダメだよね!」

 

「みんな、考えてる事は同じみたいね。

でも、まずはバーテックスを倒すのが先!」

 

「……今回は、アイツみたいね」

 

三好の視線の先には山羊座のバーテックスが居た。

……既視感がある。三好が倒したのを見ているから?

違う……もっと、別の……

 

『……■■■■』

 

『ふぉおおお……!』

 

『■……』

 

『嬉しいな、なんだかようやく■■と友達になれた気がする!』

 

『■■くん』

 

「ぁ……」

 

ノイズ混じりの何かが見えた。

……ああ、そうか。道理で見覚えがあるはずで。

 

オレ達が「────」になった日。

 

「全く、名前も顔も覚えてないのに……

どうしてか、そういうものは思い出せる……」

 

懐かしくて、だからこそ……話をしないとな。

あの二人と。それが……きっと、オレがこの世界ですべき事なのだろう。

 

────────

 

刺し穿つ(ゲイ)────」

 

山羊座の御霊が放った毒ガスを潜り抜け、

その朱槍を御霊に向けて穿つ────

 

死棘の槍(ボルク)────!」

 

朱槍が突き刺さった御霊はそのまま消滅した。

 

「……これで山羊座は終わりだ」

 

「やっぱり、前に戦ったバーテックスと同じ……」

 

「そうね、私が倒したヤツで間違いないわ……」

 

友奈の言葉に頷く三好。

そう、山羊座は三好が一人で封印、そして殲滅した相手だ。

 

「お姉ちゃん、あの子達は……?」

 

「……向こうから来てくれたみたいね」

 

二人の少女が、その姿を現した。

 

「あっ!さっきの……!

……あれ?樹海が消えないよ……?な、なんで!?」

 

友奈のその言葉でハッキリした。

そうか……この樹海は……

 

「君が、作り出しているんだな……」

 

おそらく、いや確信だ。

彼女達が生み出した場所なのだろう。

そして……だからこそ、樹海を意のままに発生させる事ができる。

……そう考えれば、私達が確信に近付き始めたり、気付きかけた時に

樹海化が発生したこと……解除された事に納得がいった。

 

「あなたは、いったい……?」

 

「……私の名前は、乃木 園子」

 

「私は、三ノ輪 銀」

 

「私達は、あなた達と同じ勇者だよ〜」

 

「やはり……か……」

 

その予想はついていた。

彼女らは間違いなく勇者だ。

……いや、思い出した。友奈達よりも前。二年前に勇者が居たことを。

 

鷲尾 須美、三ノ輪 銀、乃木 園子。

 

 

そして……衛宮 士郎。

 

 

彼女が私の事を知っているような素振りを見せたのはそれが理由。

記憶を失う前の衛宮 士郎()を知っているからだったんだろう。

 

「だから、樹海化しても平気だった……

事情を、説明してくれるのよね?」

 

「……久しぶりだね、えみやん、わっしー」

 

「変わってないみたいだな……」

 

「……え?」

 

……二人の少女の言葉に東郷は戸惑う。

私の事を彼女達が知っているのはわかる。

だが、東郷は────

 

「……やっぱり、忘れちゃったんだね」

 

「………?」

 

そうか。東郷は……

全てのパズルのピースが埋まった気がした────

 

「ここは、あなた達が見ている夢の中なの。

夢世界を作ること。私の持つ精霊達の中で、

そういう能力を持った子がいるんだ〜

つまり、私があなた達に夢を見せ続けているの〜」

 

彼女の言葉をすぐに理解できた。

彼女が作り出した世界。

であれば、作り出した本人が自在に移動できるのはおかしなことではないか。

 

「壁が枯れ始めたこと、同じバーテックスが現れたこと。

全て、君が見せた夢。……そしてそっちの子は、君が巻き込んだ形か」

 

「そういう事だね〜、やっぱりえみやんは鋭いなぁ〜」

 

「……君は、いや……君達は、私を知っているんだな」

 

「そう……なるな」

 

三ノ輪 銀と名乗った少女が苦笑いをしながら私の問いに答えた。

 

「……どうして、こんな事を?」

 

「それは、私達と同じ目に遭って欲しくないからかな〜

この夢から醒めれば、死よりも辛い目に遭う。

それでも、夢から醒めたいの────?」

 

「死よりも辛い……?」

 

「ホントの世界で、大変な事になるって意味?

どうして、そんなこと……」

 

「同じ目に遭って欲しくないって……お、お姉ちゃん……!」

 

「……あの子は既に体験済みって事かしらね」

 

「なんだってのよ!いったい……!」

 

「それでも、元の世界に戻りたい────?」

 

「オレは……」

 

少女の問いにオレは……

 

[地獄だと理解して。それでも尚、覚悟を決めて、戻ると答える]

 

[その地獄を彼女達に見せるぐらいなら。と戻らないと答える]

 

[何も言わず沈黙を貫く]

 

オレが選ぶのは……きっと最初から変わらない。オレは────




テストみたいな形でFateっぽく選択肢を書いてみる。


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第三十三話 樹海の記憶 E.S√ EP.6

今日友奈ちゃんの中の人。照井春佳さんの誕生日じゃん!と思い出し慌てて書きました。

今回、本編登場のバーテックスを先行登場させましたが……
本格的に戦うのは本編なのでかなり簡潔にしています


「それでも、元の世界に戻りたい────?」

 

「オレは……戻る。戻らないとダメだ。

此処で、立ち止まるわけにはいかない」

 

そうだ、此処で立ち止まったらダメだ。

……それこそ、今までの多くの犠牲を無駄死にとする行為だ。

それだけはできない。

……私がエミヤ()である限り、今までの犠牲を無駄にはさせない。

 

そして、もし……

 

「この先が地獄だと言うなら……オレが全部背負うだけだ」

 

それは、最初から変わらない。

地獄を歩むのは、私だけで充分だ。

 

「それは違うよ、士郎くん!」

 

「友奈?」

 

友奈が私の言葉を否定する。

 

「私達は、みんなで勇者なんだよ。

だから、士郎くんが抱え込むのは絶対違う!

もし、この先が地獄だとしても……みんなで頑張ればきっと乗り越えられる!

赤信号、みんなで渡れば怖くない!だよ!」

 

「────」

 

ガツンと殴られたような衝撃があった。

……ああ、まったく……何処まで、君は似ているのか(・・・・・・)

 

呆れてしまう。だけど、それ以上に言いたいことがあった。

 

「……友奈、赤信号うんぬんかんぬんは違うと思う」

 

「あれ!?」

 

「……たしかに、違うと思うわ。友奈ちゃん」

 

「……そうね」

 

「あれれ!?」

 

「………はぁ」

 

「あはは……」

 

「あれぇっ!?」

 

全員がそれに関しては同意見だったらしい。

交通ルールは正しくしっかり守ろうな。うん。

 

「うぅ……しっかり決めたはずなのに……」

 

「でもまあ、友奈の言う事も確かね。

士郎1人に抱え込ませるわけには行かないわ。

私は勇者部部長で、アンタの先輩なんだから

ちょっとは頼りなさいってこと」

 

「風……」

 

「ふん……まあ、アンタは1人で突っ走りそうよね。

大赦の勇者として、単独行動は絶対阻止してやるわ

あ、あくまで監視とかの為だからね!」

 

「わ、私も同じです!

衛宮先輩1人で抱え込むのは違うと思います。

みんなで、勇者部なんですから!」

 

「衛宮くん」

 

東郷がこちらを見つめる。

……言葉にしなくとも、彼女が言いたい事はわかる。

 

「全く、何処までお人好しなのか……

どうやら、これが彼女達の答えらしいぞ?」

 

「そうみたいだね……みんな凄いなぁ〜……

……うん、分かった。じゃあ────」

 

「だったら────」

 

「「────その覚悟を見せて」」

 

二人の少女の言葉と共に、樹海が激しく揺れる

 

「………!」

 

そして、揺れが収まった後。私達の目の前に居たのは……

 

「なに……あれ……?」

 

「……こんなのアリ?」

 

それは、獅子座、或いは水瓶座、或いは天秤座、或いは牡牛座。

何処までもおぞましく、禍々しく

その存在を見せつけるバーテックスが君臨していた。

 

ソレは星が集った姿。星の集団の悪夢(スタークラスター・ナイトメア)

 

「今までのバーテックスとは全然違う……!」

 

「違うどころの騒ぎじゃないわよ、あれ……」

 

「あ……ああ……」

 

誰もが息を呑む。

勝てるのか。そんな疑問が湧いてしまう。

 

……ただ、それでも。

体が恐怖で震えても。動かなくても。

 

「……諦めるわけにはいかない」

 

そうだ、諦めるわけにはいかない。

彼女(園子)の言葉が事実ならば、ここで屈してはいけない。

 

屈してしまえば、そこで終わる。

────舐めるなよ。この程度の地獄。もう味わった。

 

故に屈しはせず。ただ、ヤツに立ち向かう────

 

「よーし、みんな!勇者部五箇条だ!

ひとつ!挨拶はきちんと!

 

オキザリスの少女が叫ぶ。

 

「え!?あ、はい!

ひとぉーつ!なるべく、諦めない!

 

山桜の少女が答える。

 

「ひとつ。よく寝て、よく食べる。

これ、風先輩が言うべきでは……?

 

蕣の少女が言う。

 

「ひ、ひとーつ!悩んだら相談!

 

鳴子百合の少女が勇気を振り絞って叫ぶ。

 

「ふん……これ、最初は嫌いだったけど……

ひとつ!なせば大抵なんとかなる!

 

皐の少女が、

仕方なさそうに、何処か嬉しそうに答える。

 

「よーしみんな!よく言った!

それでこそ、讃州中学勇者部だ!」

 

「五箇条だと私の分がないな……」

 

六人だと必然と言えないわけである。

少し寂しい。

 

「え?じゃあ、行き詰まったらうどん……言う?」

 

「いや、なんでさ」

 

というか、それ追加する気か……

 

「まあ、そこは後々検討するとして……

みんな、覚悟は良いわね?」

 

「もちろんです!」

 

「……勇者部の興廃は、この一戦にあります!」

 

「行こう、お姉ちゃん!」

 

「ほら、さっさと号令出しなさいよっ」

 

「当然、もとより覚悟は出来ている」

 

「……よし、それじゃあ……勇者部、出現!

バーテックスを倒して、必ず元の世界に戻るわよ!!」

 

「「「「「了解ッ!!」」」」」

 

この世界での、最後の戦いの幕が上がる────

 

────────

 

スタークラスターが火の玉を撃ち出してくる────

 

「火の玉って……配管工じゃないんだから!!」

 

「配管工よりも凄いと思うよ、お姉ちゃん!?」

 

風の言葉に樹は避けながら、ツッコミを入れる。

 

「獅子座か……」

 

そう、この攻撃は知っている。獅子座のバーテックスの攻撃だ。

最強であり、最もアレに近い存在。

 

バーテックス達の司令塔とも言える存在の力だ。

 

「なら、遠距離から……!」

 

東郷はそう言い、狙い撃とうとするが

 

「わわっ、風!?」

 

「ッ……まともに体制を整えられない……!」

 

スタークラスターが強風を起こし、こちらの動きを封じてくる。

東郷の持つ、狙撃銃は反動がある。

故に、しっかりと体制を整えなければ撃つ自分が危険なのだ。

 

「チッ……こうなれば……!」

 

洋弓と赤原猟犬を構える。

狙うのは……ヤツの……!

 

「────赤原猟犬ッ」

 

赤原猟犬をスタークラスターに向けて放つ。

 

「壊れた幻想────!」

 

スタークラスターに赤原猟犬が直撃すると

同時に起爆させて、怯ませる。

強風が止んだ今────

 

夏凜(・・)!風!!」

 

「言われなくても────」

 

「分かってるわよッ!!」

 

二人は左右の角に斬り込む。……だが、

 

「コイツ……!」

 

「なんちゅう硬さしてんのよ……ッ!?」

 

罅すら、入れることが出来なかった。

否、罅は入った。

……ヤツの角にではなく、夏凜の刀と風の大剣にだが。

 

「マズイッ……!」

 

スタークラスターが何かを放とうとしているが分かった。

その何かは分からない。だが、危険だと本能で理解して────

 

「衛宮先輩!?」

 

「わわっ、士郎くん!?」

 

「衛宮くん、なにを────!?」

 

三人を抱えるという荒業で、スタークラスターから距離を置く。

その瞬間、先程まで私達が居た場所に見て分かるほど、高圧の水を撃つスタークラスター。

 

「樹海が……!?」

 

「木の根っこが……切れちゃった……!?」

 

「高圧洗浄機よりも、水圧は高いか……!」

 

水で切れるということは、それほど水圧が高いということ。

────タイミングが後少し遅ければ、

あの樹海の根と同じ事になっていたかもしれないのか……

 

「っ!士郎くん、あれ!!」

 

「なっ────!?」

 

油断した、そうだ。ヤツは獅子座の力を持つ。

────小型の太陽をヤツが作れないはずが無い。

 

「クッ……!」

 

「士郎くん……!?」

 

友奈達を、遠くへ投げ飛ばす。

ヤツの火球を喰らわせない為に。

 

「熾天覆う七つの円環────!!」

 

七枚の花弁を展開して、火球を抑え込む。

最初から、防げるとは思っていない。

だが、防がねば……全員共倒れだ────

 

それだけはさせられない────!

 

「うぉおおおおおおおおおお────!!」

 

割れる、砕ける。

一気に六枚の花弁が砕け散る。

最後の一枚は最も頑丈だ。だが、それでもヤツの攻撃には……

 

知ったことか、

 

防げ、防げ、防ぎ切れ、防ぎ切れ、防ぎ切れ────

 

七枚目に罅が入る。

トロイア戦争における、最強の盾でもダメなのか……!?

 

そうやって、諦めかけた時────

 

「ぉおおおおおおお────ッ!!」

 

大きな山桜が横で咲き誇った────

 

「友奈……!?」

 

白い装束、巨大な二本の手腕。

────それは、何処か神々しさがあって

 

「満開……」

 

「あれが……?」

 

「綺麗……」

 

桜の花びらが空を舞う。

それを、少女達は見上げていて────

 

「士郎くんが頑張ってくれたんだ……!私も、頑張る────!!」

 

友奈は二本の巨大な手腕で火球を受け止める。

 

「うぉおおおりゃああああああ────ッ!!」

 

「火球を投げ飛ばした……!?」

 

そう、友奈は巨大な手腕を使って火球を空に向かって投げ飛ばしたのだ。

……出鱈目にも程がある。いや……神の力だからこそできるのか。

 

「……全く、部長を差し置いてパワーアップしてるんじゃないっての!」

 

「……負けられないッ!」

 

大きなオキザリスと皐の花が咲き誇る。

 

「……行くわよッ!」

 

「一花、咲かせてあげるわッ!!」

 

それは、犬吠埼風の満開。三好夏凜の満開。

風は白い装束、そして……通常時より鋭利に、

そしてより巨大になった大剣を持つ。

夏凜は白い装束。そして四本の赤い手腕に、

それぞれ刀を持った。阿修羅を連想させる満開だった。

 

風と夏凜は、もう一度スタークラスターに斬り込む。

 

「「喰らいなさい────ッ!!」」

 

今度は確実に角を斬り落とした────

だが、それでスタークラスターは怯むことはなく────

 

「……もう、やらせませんッ!」

 

鳴子百合が咲き誇る。

────樹は、背に浮かぶ鳴子百合の花から

緑色のワイヤーを飛ばし、

スタークラスターの風を起こす天秤部分を縛り付けた。

 

「樹……!」

 

「東郷先輩!衛宮先輩!」

 

樹の叫びで我に返る。

────そうだ、ボーッとはしていられない。

 

「私が活路を開くわ、衛宮くんは────!」

 

蕣が咲き誇り、

八つの砲塔が存在する戦艦に乗る東郷。

 

「アイツにトドメを!撃ちぃ方始めぇ!」

 

東郷は八つの砲身から、光弾を射出する。

その全てがスタークラスターに直撃する。

 

「……全員、封印開始!!」

 

「「「「了解!」」」」

 

風の合図で封印の儀を行う。

そうして、スタークラスターから紫色の御霊が出現する。

 

好機は今。

御霊を一撃で葬る剣を投影する……!

 

────該当する剣は無数にある。

ならば、オレはこの剣を選ぶ……!

 

それは、黄金の剣。

星を束ねる聖剣。いや……それを格落ちさせたモノ。

 

「この光は、永久に届かぬ王の剣────」

 

「士郎くん、いっけええええええ!」

 

手にその剣を持つ。

────禁じ手の中の禁じ手。

神造兵器。それを投影できるレベルにまで

格落ちさせたこの剣の真名()は────

 

永久に遥か黄金の剣(エクスカリバー・イマージュ)

 

それを御霊に振るおうとした時、声が聞こえた────

 

『……そう。みんな。本当に勇者なんだね〜』

 

少女の声が聞こえた。

 

『今戦ったバーテックスは、あなた達の記憶にはなかったはず。

アレは、私達の記憶から、みんなの夢に送り込んだ幻影。

ちょっとだけ、アレンジしちゃったけどね〜』

 

アレンジというのは恐らく、合体させた事だろう。

……彼女ならば、そんなアレンジができる。というのはなんとなくだが理解していた。

 

『怖かったでしょ?』

 

────勿論、怖かったさ。

 

『強かったでしょ?』

 

────ああ、強かったさ。

 

『でも、それさえもみんなは乗り越えちゃうんだね……』

 

少し、悲しそうに彼女は言う。

 

『その御霊を壊せば、この夢は終わる』

 

『でも、元の世界は私達見せた幻影なんかより、

もっともっと怖くて辛い』

 

……知っている。

それでも、彼女達は、オレはその道を行くと決めた。

 

『それでも戻るなら、私達から止める言葉はないかな。

……強いんだね、みんな』

 

強くはないさ。きっと、みんな。

……勇気の出し方なんだと思ってる。

 

怖くても、踏み出す勇気が大切なんだと。

 

『そうか……うん、私も……園子も。

みんなが辛い目に遭わないよう、祈ってる』

 

彼女()は少し悲しそうに笑った。

 

「……ありがとう」

 

御霊を斬る。

その時に、彼女達に感謝の言葉を告げる。

 

……乃木 園子も三ノ輪 銀も。

誰かの為を思える優しい勇者なのだ。

 

覚えてなくとも、それは理解できる。

だからこそ……いつの日か、きっと────




一応、補足。園子が見せている夢の中での出来事になるので
満開の代償はないです。

次回、樹海の記憶編は最終回かな。


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第三十四話 樹海の記憶 衛宮 士郎√ Episode:Final

お待たせしました。

今回は割と難産でした。

樹海の記憶編の締めなのに、こんな有様ですまない……


次回から本編に戻ります。


「………やったわね」

 

「倒したんだ、私達……!」

 

私が、黄金の剣で御霊を斬る。

────それが、この世界の終わりだ。

 

「あっ!皆さん、あれ……!」

 

樹が指差す方向。

そこには乃木 園子と名乗った少女と

三ノ輪 銀と名乗った少女が立っていた。

 

「多分無理だと思ったんだけど……

勇者部って、凄いんだね〜……」

 

「……これが勇者部の力ってやつらしい」

 

「……でも、なんか安心したな。

私達じゃ無理だったけど……

きっと、須美達になら……士郎の事も……」

 

「そうだね〜……わっしーも、えみやんも……きっと……」

 

「え……?」

 

……その言葉の意味はわからなかった。

だが、何故か胸の奥が締め付けられるような感覚があって……

 

「……そのリボンは?」

 

園子が、東郷の着けているリボンを見る。

 

「これは……とても大切なものなの。

そう、とても……」

 

「とても……大事……

うん、そっか……うん。ありがとね、わっしー……」

 

そうか、東郷のソレは────

 

「このリボンの事……知っているの……?」

 

東郷は尋ねようとする

だが、それを拒むように世界が白く染まっていく。

 

「わわっ!?なに!?」

 

「これ……世界が消えてるの……!?」

 

「……大丈夫だよ。みんな、元の世界に帰るだけだから」

 

世界が消えていく。

元の世界に戻る……それは、彼女達とは会えなくなるということで────

 

「園子、銀────!!」

 

伝えなければいけないことがある。

そうオレの中の何かが告げていて────

 

「え?」

 

「今は会えなくても……絶対に会いに行く!」

 

「……士郎」

 

「その時は────」

 

「うん……待ってるよ。えみやん。ずっと────」

 

二人の少女が涙を浮かべて、笑った。

────それは、ここに来て、初めて彼女達が見せた笑みで。

 

「ああ……約束だ……!」

 

それ以上にとても、懐かしい笑顔だった────

 

 

────────

 

「こんにちはー!」

 

「こんにちは」

 

「……遅くなったな」

 

友奈が部室のドアを開けて、東郷と入る。

それに続く形で私も入っていく。

 

「おう!お疲れ〜!」

 

「こんにちは」

 

「遅いわよ、三人とも」

 

「おー、夏凜ちゃん、すっかり勇者部の一員って感じだねー!」

 

「べ、別にそんなんじゃないわよ!?」

 

夏凜は友奈の言葉に恥ずかしそうに頬を赤く染める。

 

「ふふん、夏凜さんはね。

私と樹よりも先に部室に来てたのよ。

つまり一番乗りよ。新入部員として、いい心がけだわ」

 

「なっ………バッ……!?

あ、あんた達が来るの遅いだけでしょ!?」

 

「ほー……」

 

「衛宮、何よその生暖かい目は!?」

 

「いや、べつに?」

 

そう、なんでもない。

微笑ましく思ったりはしていない。決して。

 

「それはそうと、今日は何します?」

 

「公園清掃のお手伝いですよね?

掃除道具の準備はできてますよ!」

 

「さっすが我が妹!」

 

そうか、今日は公園清掃か。

 

「ふむ……」

 

「あ、士郎は本気出さないでよ」

 

「何故だ!」

 

「あんたがやると私達の出番ないでしょ」

 

「…………」

 

ぐうの音も出ない正論だった。

つい、掃除には本気になり過ぎてしまうというか……

厄介なものだ。

 

「まあ、それはそれとして。

文化祭の事もぼちぼち考えていかないとね〜」

 

「演劇ですよね!楽しみだなぁ〜!」

 

そう、演劇。

夏凜の誕生日を祝った時に友奈が考えていた事を

風が急遽採用した形でそれをすることになったのだ。

 

「…………」

 

「……どうしたの、東郷さん?」

 

東郷の難しい表情に友奈は気付く。

 

「あ………ううん、なんでもないの。

ただ……昨日ね、変な夢を見て────」

 

「変な夢?」

 

「いつも通り、皆で勇者として戦う夢。

思いやりと、勇気に溢れていて……

でもどこか、寂しくて悲しい……そんな夢」

 

「それって……」

 

「ちょうど今朝、私と樹と士郎も、

そんな感じの夢を見たって話をしたのよね……」

 

ただ、少しだけ私には懐かしい夢だった。

 

「私も、見たわ……

何であんた達と同じ夢を見なきゃいけないんだか……」

 

「東郷さんも、皆も見たんだ……

いつもみたいにとっても楽しくて……でも、とっても悲しい夢……」

 

悲しいけれど、懐かしい夢。

────ああ、覚えている。彼女達の事も。

 

「みんなで同じ夢を見るなんて不思議な事もあるもんね」

 

「……きっと、それだけ勇者部の結束が固いってことですよ!

ねっ!東郷さん!」

 

「ふふ……友奈ちゃんらしいわね。でも、きっとそう」

 

「そうですよ、絶対!」

 

「くぅぅ〜!さすが勇者部!

新入部員の勇者部にかける気持ちもよく分かったわ!」

 

「……ちょっと待って。私は何も言ってないわよ」

 

「私達と同じ夢を見たって時点で貴女は正真正銘、勇者部の仲間よ!

部長、感動した!」

 

「………………!!」

 

恥ずかしそうに頬を赤く染める夏凜。

 

「あっ!夏凜ちゃんがまた真っ赤に!!」

 

「な、ななな、なってないわよ!?」

 

恥ずかしがっている夏凜を見て、クスリと笑う。

 

「ちょっと!何笑ってんのよ!?」

 

「「「「あはははは!」」」」

 

「あんた達までええ!!」

 

 

あぁ……そうだ。例え、この先が地獄だとしても。

きっと彼女達なら乗り越えられる。そうオレは信じてる。

 

「………!」

 

ふと、ズボンのポケットに手を入れると

そこに何かが入っていて、それを取り出す。

 

「……これは」

 

握った手の中には紫の花びら赤い花びらがあった。

 

「ん?士郎、どうかしたの、それ?」

 

「それって、睡蓮の花びらと牡丹の花びらだよね?」

 

風と友奈が私の手を覗き込む。

 

────ああ、そうだ。ずっとここにある。

忘れてしまっても、心に残ったものはある。

 

「……ハハッ、どうも、大切なものを貰ってしまったらしい」

 

「大切なもの?」

 

「ああ……大切なものだ」

 

ああ、分かってる。

 

『■■■■』

 

『■■』

 

いつか絶対に、会いに行く。約束だ。

 

 

だから、少しだけ……待っててくれ────

 

────────

 

少女が寝ている。何処かわからぬ場所で祀られている。

 

「うん、いつまでも待ってるよ」

 

笑って、彼女はそう口にした────

 

 

 

樹海の記憶編

 

~完~




また少し投稿が遅れるかもしれませんがご了承ください……


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