それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~ (とらんらん)
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艦これZERO 艦これZERO1話 遭遇 会議

再投稿です。

2018年12月19日。少し手直ししました。


《何が起こった!?》

《船体下部で爆発です! 浸水発生!》

《浸水を止め……っ何だ!?》

《今度は甲板で爆発! どうなってんだ!》

《おい、あれ!》

《なんだありゃ?》

《火を吹いた? ……いや、発砲炎だ!》

《砲撃だと!?》

《何なんだこれは!》

《俺が知るか!》

《っマズイ! 船長、船が傾き始めている! このままじゃ沈むぞ!》

《クソ! 総員退艦!》

 

 

 

2013年4月

大西洋でアメリカに航行中だった一隻の貨物船が消息を絶った。

 この事に対し、当時のアメリカは遭難事件と判断。最後に連絡があった地点がアメリカ領海の近辺であり、また貨物船がアメリカ船籍であったことから、航空機を中心とした捜索隊が編成、派遣されることとなった。

 当初、捜索を指揮する者たちや民衆は、すぐに貨物船は見つかるだろうと考えていた。遭難したと思われる海域は波が穏やかな場所であり、ここ数日の天候も好天に恵まれていたからだった。

 

 だが事態は思わぬ方向に向かっていく。

 捜索隊、消息を絶つ。

 貨物船を捜索のために出発した捜索隊も、該当海域で定時連絡を最後に、連絡が取れなくなったのだ。この情報が流れると、人々は動揺し始める。インターネット上ではこの事件に、『ある国の陰謀』『エイリアン』『海のモンスター』と様々な憶測が飛び交っていた。

 

 

 

「どうだ」

「駄目ですね、貨物船なんて影も形もありません」

 

 マリンプロテクター型沿岸警備艇の艦橋で艦長が、双眼鏡を手に海を眺めている副長に声を掛ける。

 貨物船が遭難してから3日。即座に捜索隊が編成され遭難が予想される海域に派遣されていた。彼らが乗る警備艇もその一隻だった。

 

「ここまで探しても見つからないなら、沈んでいるってことですかね」

「どうだろうな」

 

 副長の軽口に適当に答えながら彼も海を眺める。外は雲こそ出ているが海は穏やかで、遠くを見渡すことが出来た。相変わらず海以外は何も見えない。しばらく眺めていると、外に出ていた部下が駆け込んできた。

 

「艦長、変です」

「どうした?」

「風が強いのに海が凪いでいます」

「……なんだと?」

 

 改めて海に目を向ける。先ほどと変わらず海は凪いでいる。だが先程は気付かなかったが、耳を澄ませば風切り音が艦橋に響いている。

 

「どういうことだ……」

 

 艦長は思わずつぶやく。ここは大西洋だ。沿岸と比べれば波は高いし、このくらいの風であれば海は荒れてくる。それにも関わらず、波はほとんど無いのだ。

 考え込む艦長に、操舵主から報告が入る

 

「艦長。レーダーの不調です。これでは使い物になりません」

「なに?」

「通信機も駄目です。ノイズしか流れません」

 

 次々に起こる想定外の案件に、艦長はしばらく考え、口を開く。

 

「仕方ない、帰還するぞ」

「了解」

 

 艦長の指示に従い、操舵主が舵を切った瞬間――

 

 轟音と共に、警備艇の真横に巨大な水柱ができ、船を大きく揺らした。

 

「なんだ!?」

 

 艦橋にいる全員が混乱しているところに、海を見ていた副長が声をあげる。

 

「あれだ!」

 

 指さした先に目をやる。そこには黒くて細長い何か――強いて言えば光る緑色の目をしたクジラの様なモノが、口の様なところから筒の様なモノをこちらに向けていた。

 

「ボートか?」

 

 目測だが警備艇よりも遥かに小さく、その身体からは金属の様な光沢が放たれていたため、艦長は直感的に装甲で覆われたボートか何かと判断していた。

 艦長が観察しようとしている所で、筒が光ったと思うと、先程と同じく警備艇の真横に水柱が上がる。

 

「砲撃だと!?」

「艦長、どうします!」

「応戦開始だ!船はジグザグ運動で回避!」

 

 即座に艦長は反撃の指示を出した。

 マリンプロテクター型沿岸警備艇にはブローニングM2が搭載されている。有効射程外ではあるものの、十分弾が届く距離だった。また、敵対しているボートの大きさはかなり小さい。装甲が覆われているとはいえ、重機関銃の弾を弾くほどの装甲を施すことが出来るとは思えない。

 

「撃て!」

 

 銃口が瞬き、大量の12.7mm弾がクジラの様な何かに襲い掛かる。回避運動のため狙いが定めにくいものの、そこは連射で補う。だが――

 

「嘘だろ……」

 

 副長の唖然とした声が耳に入る。

 放たれた銃弾は確かに目標に命中した。相手は精々ボート程度だ。あれが何であろうと12.7mm弾ならハチの巣にできるはずだった。

しかし現実は、相手はまるで堪えた様子もなく、お返しとばかりに砲撃を続けてきていた。

 

「何なんだアイツ!」

「知るか!」

 

 パニック状態になる艦橋内部で、艦長は怒鳴り声をあげる。

 

「いいから撃ち続けろ!機関一杯、機関部が壊れてもいい!全力で逃げるぞ!」

 

 警備艇は至近弾によって船体や船員が傷つきながらも、必死にクジラの様なモノから逃げていき――奇跡的に振り切り、港へと帰還することになる。

 

 

 

 捜索隊交信途絶から2日。捜索隊として出港した一隻の艦船が帰還した。

 情報を得ようとする政府関係者やマスコミは港に向かったが、そこにあったのは想像していたものとはかけ離れていた。

 穴だらけになり、今にも沈没しそうな警備艇。船員は死亡者も出ており、生き残った船員も誰もが大小の怪我を負っていた。

 重傷者はすぐさま救急搬送さられ、マスコミはこのボロボロの船についてセンセーショナルに情報を流した。そのためアメリカ国内だけでなく、全世界にもニュースが駆け巡ることとなった。

 

 

 

「……では、始めてくれ」

 

 アメリカ合衆国ワシントンDC、ホワイトハウスの一室には大統領を初めとした、アメリカを動かしている人物たちが一堂に会していた。議題は当然、警備艇が遭遇した正体不明の敵についてだ。

 

「今回警備艇が遭遇した未確認物体は、無警告で攻撃を受けたことから少なくとも敵対的な存在であると判断できます」

「待ってくれ、未確認物体?私は武装ボートによる襲撃と聞いたが?」

「詳細については今から説明させていただきます。まず、未確認物体の形態ですがお手元の資料をどうぞ」

 

 促される形で参加者全員に事前に配布されていた資料をめくる。警備艇から撮影された写真には小さいながらも、その未確認物体がしっかりと映り込んでいた。

 

「武装ボートにしてはずいぶん小さいな」

「推定ですが縦横9フィート(約2.7m)、全長19フィート(約5.7m)。おおよそM4シャーマンと同じくらいです」

 

 彼はそこで一度区切り、会議室にいる全員を見渡す。

 

「我々がこれを未確認物体と報告した根拠には、まずサイズに対してあり得ない程の武装が施されているためです。まず火器についてですが着弾した際の水柱からの推測ですが、武装は5インチ(12.7cm)相当。それを50発以上砲撃しています。防御力は重機関銃弾を弾く程度にはあります。これは19フィートの船体に施される装甲としては異常です。またこれは憶測になりますがジャミング装置が搭載されている可能性もあります」

「……現実味がない事と分かって言ってみるが、昔の潜水艦みたいな砲撃潜水艦の可能性は?」

「我々もその可能性を考えましたが、各地の造船所に確認しましたが潜水艦が製造された記録はありません。また速度が最低でも30ノットはあったと報告されています。この速度は潜水艦には難しいでしょう」

「……まあ、そうだろうな」

「そして、未確認物体と判断した最大の要因ですが、遭遇当時、波が出る気象条件であったにも関わらず、海面が凪いでいたためです。これは現代の科学技術では不可能です」

「その未確認生物との関連性は?」

「状況証拠のみですが、会敵時は凪いでいましたが、逃げ切った際、波は当時の気象条件に発生するものと一致しています。そのため、原因はその未確認物体によるものだと判断しています」

 

 この報告に会議室がにわかにざわつく。ここにいる全員が戸惑っていたのだ。

 

「……とりあえず、相手の正体については置いておこう。今回の件についての犯行声明はあるか?」

 

 報告を聞くのが先だと、大統領は先を促す。

 

「現在、イスラム過激派から貨物船遭難の件も含めての犯行声明が出ていますが、便乗によるものだと判断しています」

「当然だな。あいつらにそのような技術はない」

「いつもの事だ無視してもいい」

 

 大きな事件があると何かと便乗しようとする過激派には、会議室にいる全員が辟易していた。

 

「国民の反応は?」

「現在、マスメディアでは大規模な海賊による襲撃事件として報道されています。インターネット上では陰謀論が出ていますが、無視しても大丈夫でしょう」

「よろしい、このまま世間に公表しても混乱を招くだけだ。海賊による襲撃と公表しよう」

「しかしロイズが海賊事件が発生したとして、早くも大西洋航路の保険料を上げてきました。また海運関係の株価も下落しています」

「経済への影響は?」

「今のところは影響は小規模です。しかし事態が長引けば合衆国経済全体に悪影響が出る可能性があります」

「早急に解決する必要があるか」

 

 会議室にいるほぼ全員がある人物に注目する。その人物もわかっていたのか頷いて見せる。

 

「海軍長官。作戦立案は出来ているか?」

「水上戦闘群を編成し、これを持って敵の殲滅を図ります」

 

 海軍長官の言葉に、一時会議室がざわつく。

 水上戦闘群はアメリカ海軍のタスクフォースの一種であり、通常はミサイル巡洋艦を中核とした三隻の水上戦闘艦で編成されるものだ。確認されている敵の戦力に対して明らかに過剰な対応だった。

 

「流石に過剰戦力じゃないのか?」

「未確認物体の正確な戦力は確認されておりません。また、現在確認されている敵は一体だけですが、他にも複数体いる可能性があります」

「現在、今回の事件は海賊の襲撃とされている。あまり規模が大きすぎると国民から批判が出るぞ」

「ソマリア海賊の例があります。水上戦闘群の編成も問題ないと思われます」

「水上戦闘群だと、かなりの出費になる」

「大西洋航路の不安による経済損失と比べれば、はるかに小さいものです」

 

 矢継ぎ早に飛んでくる質問に、海軍長官は淀みなく答えていく。その様子を見ていた大統領は口を開いた。

 

「それで解決出来るんだな?」

「確実に」

 

 海軍長官は力強く答える。その様子に大統領は問題ないと判断した。

 

「よろしい。すぐに事件への対処に当たりたまえ」

 

 こうしてアメリカは事件への対応をしていくのだった。

 

 




バックアップ機能があって助かった…


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艦これZERO2話 接敵 海戦

米艦隊VS深海棲艦。


 アメリカ東海岸に近いとある海域。その上空を巡洋艦から発艦した艦載ヘリコプターが飛行していた。機長は水平線を睨みつつ、部下に声を掛ける。

 

「ウィリー、どうだ?」

「相変わらずレーダーにそれらしき反応なしです」

 

 同じくレーダーとにらめっこをしている部下が視線を外さずに返答する。

 

 ホワイトハウスでの会議の後、すぐさま水上戦闘群が編成された。編成はタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦『カーター』、アーレイ・バーグ級ミサイル駆逐艦の『ハースト』『ロング』の3隻編成。小規模ゆえに即応性に優れた編成だった。そんな彼らは海軍上層部からせっつかれるように警備艇が襲撃された海域に派遣されることとなった。

経済や航路の安全もあったが、海軍を含めた軍は未確認物体が持つ戦闘能力の秘密を知りたがっていたためだ。そのため今回の任務の中に未確認物体の残骸の改修も含まれていた。

 

「しかし上層部も変にケチ臭いですよね」

 

 操縦桿を握る副機長のハルがぼやく。機長は彼との付き合いは長いが、相変わらず軽口が多い。何度か注意はしているが本人は治す気はない様だった。

 

「そんなに例の未確認物体が欲しいなら、早期哨戒機を出してくれればいいのに」

「それは同感だがマスコミ対策だとよ」

「水上戦闘群を編成しといて今更でしょ」

 

 今回の任務は、世間にはあくまで『警備艇を襲撃した海賊の殲滅』とされていた。政府としても事実を話して、無駄に国民を混乱させる気はなかった。

 なおマスコミからは今回編成された水上戦闘群に対して、「過剰戦力だ」と批判が出ていた。この事態に対し軍上層部はこれ以上批判を避けるために、当初予定していた早期哨戒機の使用は取りやめとなっていた。そのため現場では艦載ヘリを代用どして使われている。

 

「ところで未確認物体の正体はなんだと思います?」

「さあな。案外どこかの国が作った兵器かもな」

 

 軍では今回の未確認物体の正体について話題が持ち切りだった。特に水上戦闘群に参加したメンバー内では正体について、至る所で掛けが行われる程盛況だった。

 

「おっと、機長は兵器派ですか。じゃあ俺はエイリアンに10ドル」

「掛けか。それなら俺は20ドルだ」

「攻めますね機長。ウィリーはどうだい」

「そうですね。私は海のモンスターに50ドルで」

「大穴狙いとはやるな」

 

 そのような雑談を挟みつつも、彼らはしっかりと仕事をこなしていく。

数時間後、規定通り機長が定時連絡を入れようとしたところだった。レーダーを見ていたウィリーは声を挙げる。

 

「レーダーに反応。かなり小さいです」

「見つけたか。場所は?」

「現在地から北北西に約25海里(約37キロ)です」

「よし、向かうぞ」

「了解」

 

 一気に速度を上げ該当海域に向かう。幸いなことに目標はかなり近く、数分で到着するが、彼らを出迎えたのはとある光景だった。

 

「これは、中々珍しい光景だな」

「珍しいというより、まずあり得ないでしょう……」

「現実にそこにあるんだ。認めろ」

「しかし円の中だけ波が穏やかっていうのはシュールですね」

 

 彼らの視線の先には海が広がっていた。風も強く少々荒れている。その様な海に存在する、半径5キロ程の波の穏やかな円状の海域は異様に目立っていた。そして円の中心には艦隊が探していた未確認物体が鎮座している。

 

「旗艦に目標発見の報告を入れろ」

「了解」

「それでどうします?攻撃しますか?」

 

 ハルはミサイルの発射ボタンに指を掛ける。今回の偵察に置いて対艦ミサイルとして「ヘルファイアⅡ」を4発搭載している。射程は8キロあるため、円の外から攻撃できた。

 

「いや、あの円の中に入るぞ」

「未確認物体は5インチ砲相当を持っています。対空として撃たれる可能性があります」

「上層部の指示で、『出来るだけデータを取ってこい』だそうだ。やるぞ」

「了解。上層部も軽く言ってくれるぜ」

 

 ハルがぼやきつつもヘリコプターを円の上空に向かわせる。慎重に操縦し円の内側に入ったところで、レーダーを見ていたウィリーが声を上げる。

 

「レーダー、通信機器にノイズがかかり始めました。」

「やはりか。――ハルどうした」

 

 今まで順調に飛行していたヘリコプターが若干だがグラつき始めたため、機長はハルに声を掛ける

 

「機長、ヘリの電子機器にも影響があるみたいだ。調子がおかしい」

「電磁パルスに近いか。墜ちそうか?」

「そこまでじゃないが――目標より発砲炎!」

 

 ハルの叫び声と共に、機体の右を砲弾らしきものが高速で通り過ぎていく。いつの間にか未確認物体から伸びた砲塔がヘリコプターに向けられていた。

 

「やはり対空もできるか。すぐにここから離れるぞ!」

「了解!」

 

 撃たれつつ即座に円の外に出るヘリコプター。機体やレーダー、通信機の調子はすぐに元に戻ったが、砲撃は相変わらず続いていた。

 

「反撃だ!全弾打ち込んでやれ!」

「了解、攻撃開始!」

 

 4発のミサイルが未だ砲撃を続ける未確認物体に殺到する。相手も回避しようとジグザグに動いているもののミサイルの速度に対して遅く、3発が命中することとなる。しかし――

 

「目標健在。しかしダメージはある様です」

「だろうな。砲撃の頻度がだいぶ落ちた」

 

 事実、ヘリコプターに飛んでくる砲弾は目に見えて減っていた。しかも狙いもかなりあいまいになっており、こちらが静止でもしない限り命中することはなさそうであった。

 

「しかしどうします?ミサイルは弾切れですよ」

「旗艦に攻撃要請する。俺たちは攻撃範囲外に退避だ」

「了解」

 

 ヘリコプターは機体を反転させ、攻撃範囲外に後退していった。しばらくして、艦隊から発射されたであろう3発ミサイルが目標に殺到、内1発が直撃し大きな火柱が上がった。同時に凪いでいた海域が元の荒い海に戻る。

 火炎が収まったそこには、未確認物体の姿はなく、代わりにその残骸だけが周囲に漂っていた。

 

 

 

「終わったか」

 

 アーレイ・バーグ級ミサイル駆逐艦『ハースト』の艦長が呟いた。

 

「結局、我々の出番はありませんでしたな」

「そうだな」

 

 副官の言葉に艦長は頷いた。今回の出撃において未知の存在が相手であることを考慮して、各種ミサイルを搭載していた。最も艦載ヘリと旗艦によるミサイル攻撃によって敵を撃破できたため、ハーストは周辺警戒のみにとどまっていた。

 

「まあ訓練と考えれば良い経験になっただろう」

「ずいぶんと金のかかった訓練ですがね。財務省が文句を言いそうです」

「いつもの事だ」

 

 軍事行動は金がかなり掛かるものである。もちろん未確認物体を排除しなければアメリカ経済全体にも影響があるので、財務省は軍艦の派遣自体には納得していたものの、出来る限り出費は抑えたがっていた。

 

「ともかく税金泥棒なんて言われないように、しっかりと任務を継続するぞ」

 

 そうして引き続き周辺警戒を続けて5分程経過した頃、通信士が声を上げた。

 

「見張り員より報告。当艦周辺が凪いでいます」

「なに?」

 

 その報告に艦長は艦橋から海面を見る。海には異様なまでに波がない。

 

「電子機器に異常は?」

「異常ありません。対電子パルスは有効な様です」

「よし、総員警戒」

 

 艦長の号令に艦橋がにわかに慌ただしくなる。艦橋要員が各々の仕事に集中する。

緊張感が艦橋に漂う中、突如レーダー手が声を上げた。

 

「南西5キロに反応、数3!」

「見張り員より報告、海中から現れたようです!」

「ソナーはどうした!」

「魚群に紛れて近づいていた様です!」

 

 そのようなやり取りの間にも、敵が放った砲撃がハーストの近くに着弾。衝撃でハーストの船体を大きく揺らしていた。三体の未確認物体は隊列を組む様に一列に並ぶと、攻撃をしながらハーストに接近していく。その様子を見ながら艦長は声を張り上げる。

 

「戦闘用意!先頭に集中攻撃をかける!僚艦には援護を要請しろ!」

 

 ハーストの主砲、ミサイルが敵に狙いを定める。敵に回避行動をとるような動きも見せ始めていた。

 

「撃ち方始め!」

 

 号令と共にハーストから砲撃と対艦ミサイルが放たれる。攻撃は敵に集中するが、命中しないものも多い。

 

「やはりあそこまで小さいと命中率が悪いか」

 

 艦長は指示を出しつつも思うように攻撃が命中しない光景に歯噛みする。

 軍艦が装備する武装、特にミサイルは迎撃がなければ命中率は高い。しかしそれは相手が地上施設や艦艇の様に巨大な目標である場合の話だ。今回のように数メートル程度の大きさの敵に当てることなど想定されていない。ましてや回避行動も行っているため余計に命中しにくくなっていた。

 それでも数でカバーすると言わんばかりにミサイルを連射することで、艦隊は確実に相手にダメージを与えていく。

しかし未確認物体も攻撃されるだけでは終わらない。ハーストとの距離は縮まったことにより砲撃の精度が上がっていき、ついにはハーストに命中弾が発生することになる。轟音と共に船体が大きく揺れた。

 

「ダメージレポート!」

「左舷に3発被弾、戦闘に支障ありません!」

 

 艦長の大声に対し即座に報告が入る。今回の被弾は幸運なことに動力機関やレーダーなど戦闘に必要不可欠な装置への被害はなかった。

この被弾に艦隊はお返しとばかりに攻勢をかけ、二体の未確認物体を撃破することに成功する。

 その様な戦況になったところで、事態は動き出す。

 

「目標、潜航を始めました!」

「なんだと?」

 

 未確認物体は不利を悟ったのか砲撃を続けながらも、徐々に海中にその身を沈めようとしていた。その光景を見た艦長は即座に命令を下す。

 

「主砲の発射速度を最大、CIWS、25mm機関砲も使え!逃がすんじゃないぞ!」

 

 アーレイ・バーグ級駆逐艦に搭載されている主砲、『Mk.45 5インチ砲』の発射速度は最大20発/分だが、通常は発射速度を落として使用される。これは砲身の温度上昇から来る砲身の歪みによる命中精度の低下を防ぐためだ。これを無視した場合、最終的には砲身は破損することになる。

 艦長はそれでも発射速度を上げさせた。未確認物体が逃走すれば、再度船舶への襲撃をされかれない。少しでも撃破できる確率を上げるためだった。

そして――彼は賭けに勝つこととなる。

 

「目標、沈黙しました」

 

 オペレーターの声が艦橋に響く。足の生えた魚の様な腹を見せながら海面に浮かぶ未確認物体の姿が、戦場に残っていた。

 

 

 

「結果が出たか」

 

 未確認物体の戦闘から3日。大統領はホワイトハウスの一室で技術局からの報告を受けていた。会議室には各省庁のトップがそろっている。議題はもちろん撃破した未確認物体についてだ。

 

「結論から言いますと、全くの未知の存在です」

 

 目の下にくまが出来ている技術局局長はそう言い切った。会議室が少しざわつくが、ある程度予測はしていた様子でもあった。

 

「とりあえず、詳細を頼む」

「まず身体の上部を覆っている殻の様なモノは、甲殻類の殻ではなく金属――それも1cmの高張力鋼板でした。また、腹部は深海魚に近い体組織をしています」

 

 その報告に海軍長官が声を上げる。

 

「待ってくれ。1cm程度の高張力鋼板?それでミサイルや5インチ砲を何発も耐えたのか?」

 

 高張力鋼板は現代の駆逐艦の装甲にも用いられている鋼材だが、1cm程度ではミサイルや艦載砲を防ぐような防御力はない。

 

「恐らく生きている時のみ高い防御力を発揮するのでしょう。続けます。血液と思われるものはガソリンと同じ成分、内臓器官は魚類に近いですが見たことのないものでした。口腔内にあった砲の様な器官ですが、砲の内部に実包が装填されていました。また砲の付近に実包を貯蔵する器官もありました」

「すまない実包とは何だ?まさか銃で使うやつか?」

「その実包です。サイズはブローニングM2の使用弾と同等で、解体してみましたが内部は第二次世界大戦中に使われた5インチ砲の榴弾砲と同じ構造でした」

「撃ったのかね?」

「ブローニングM2での発射試験を行いましたが、5インチ砲相当の威力は出ませんでした」

 

 これらの報告に会議室に沈黙が訪れる。あまり期待はしていなかったとはいえ、ここまで不明な点が多いとは思わなかった。

 その空気を感じ取った技術局長は、一つ咳払いをするとやや強めの口調で言った。

 

「確かに現状では不明な点が多いですが、解明できれば我が国に大きな利益をもたらすことは確実です。そのためにも、人員の増員と追加予算を願います」

 

 その言葉を聞いた大統領は、軍事に関わる者たちに視線を向ける。

 

「海軍としては、その意見に賛成です」

「陸軍も同じくです」

 

 国防を担う者たちは大きく頷いた。軍部としても未確認物体が持っている戦闘能力は魅力的だった。

 

「財務省としてはどうだ?」

「満額は難しいでしょうが、追加予算には賛成です」

 

 財務長官も賛成に回る。民生にも活かせれば経済力の向上につながると判断したためだ。

 

「よろしい、人員増員と追加予算を認めよう」

 

 大統領が頷いた――その直後会議室の扉が乱暴に開かれ、一人の男が息を切らして駆け込んできた。彼は大統領の秘書だった。その様子に全員が何事かと顔を向ける。

 

「ドーバー海峡に未確認物体の集団が出現、沿岸部に砲撃を行っております!またカリブ海、東シナ海、ハワイ近海にも出現しました!」

 

 全員があまりの事態に絶句する。

 

「……どうやら事件はまだ終わっていなかったようだな」

 

 苦り切った顔で大統領は呟いた。

 




またダイスのログがない……


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艦これZERO3話 国際会議 奮戦

またダイスが荒ぶりおった……


 世界各国の海に現れた正体不明の存在による攻撃は、各国に大きな混乱をもたらした。付近を航行していた貨物船や漁船の撃沈はもちろんのこと、救援のために駆け付けた救難船にも攻撃がされたため、より被害が拡大していた。

 特に被害が酷かったのはドーバー海峡だった。後に『ドーバーの惨劇』と呼ばれる十八からなる未確認物体の集団から沿岸砲撃は、英仏共に民間人に多数の死傷者が発生させた。この突然の攻撃に、両政府は混乱。効果的な対応が出来ず、最終的に砲撃の主を取り逃がしてしまう失態を見せることとなる。

 これらの事件に各国が混乱する中、アメリカは国連を通じて各国に国際会議を開くことを提案。この提案に各国は賛同し、緊急会議が行われることとなった。

 

「我が国は世界各国に出現した未確認物体の情報を提供する用意がある」

 

 会議が始まり真っ先に口を開いたのはアメリカだった。

この言葉に各国代表は驚愕するが、顔に出すようなことはしない。それに会議を開くことを提案したのはアメリカだ。会議で主導権を握れる情報を持っていることは予測できていた。またアメリカ側も未確認物体についての情報を秘匿したところで、近い内に各国が独自に未確認物体の情報を得られるである状況のため、会議における手札になるならと公開することを決めていた。

 

「ほう。金の亡者にしては随分とサービスが良いじゃないか。」

「二枚舌三枚舌で利益を得る事を得意とする貴国にはかなわないがね」

 

 イギリスの皮肉に対し、しれっと返すアメリカの代表。議場に不穏な空気が漂い始めるがそれを遮る存在があった。

 

「それで、あの害獣の情報を見せてもらおうか」

 

 フランスの代表がただならぬ雰囲気を漂わせつつ声を上げる。フランスでは現在『ドーバーの惨劇』の際の政府の対応の不味さから、現政権に対する批判が激しくなっていた。これ以上の失態を見せてしまえば政権が転覆しかねないため、状況を打破しようと必死だった。

 

「……まあいい。これより資料を配布する」

 

 アメリカ側から未確認物体に対する資料が各国代表に配られる。読み進める彼らの顔には変化はないが、明らかに失望していることは分かった。何せ資料を提供したアメリカ側も碌な情報を持っていないのだ。

 

「つまり正体は何も分からない、ということか。こんな情報を出してよく自信満々でいられるな」

 

 特にフランスの失望は大きく、その声には若干怒りすらにじませていたが、それを無視してアメリカの代表は発言する。

 

「このように我が国でも情報は不足している。そのため未確認物体に関する情報を各国で共有することを提案したい」

 

 アメリカとしても情報が全く足りない状況であり、それを補完するためにこのような提案を行った。各国が自国にとって有利になる情報は秘匿されるだろうが、ある程度の情報が手に入ることを見込んでいた。

 

「いいだろう。イギリスとしてはその提案に賛成する」

 

 イギリスの代表の言葉を皮切りに、各国が賛同の声を上げていく。最終的に全会一致で未確認物体についての情報共有の提案は可決、同時に各国が協力して対応していくことが決定した。

 

「そうそう、襲撃事件の首謀者の呼称はどうする?いつまでも未確認物体では味気ない」

「そんなもの害獣でいいだろう」

「呼称は大事だ。ふむ、海中から現れ艦載砲相当の攻撃を行う存在か。『深海棲艦』などどうかね」

「……いいだろう。今後、未確認物体を『深海棲艦』と呼称する」

 

 

 

 深海棲艦の出現。その情報に各国の民衆は最初は誰もが冗談か何かだととらえていた。しかしドーバーの惨劇を始め各種被害の詳細が明らかになるとパニックに陥ることになった。

 経済に関してはシーレーン断絶の不安による食料品の買い占めが発生したため、連動して物価の上昇が発生。同時に株価も大変動が起き、資産家や投資家が悲鳴を上げることになる。また物の運搬の大部分を担っていた海運が危険になったことから、迂闊に船を動かせなくなってしまっていた。

 沿岸部に住む住民たちの中からは、海から遠い内陸部へと避難する者も現れるようになった。彼らにとってドーバーの惨劇は他人事ではないのだ。急速に発生した多数の人の避難に行政も混乱することとなる。

 民衆が大混乱に陥る中、各国政府関係者は早急に対応に追われることとなる。各種補助金や国家が貯蓄していた物資の開放、中には株価操作を行う国もあった。政治家、官僚の奮戦により、ある程度の落ち着きは見られるようになったものの、深海棲艦への不安は消えることはない。早急に深海棲艦を殲滅する必要があった。

 各国政府の要請を受けた軍は、深海棲艦殲滅のために各地で激戦を繰り広げることとなる。

 

 この頃、各国海軍と深海棲艦との戦闘は各地で行われていたが、その中で有名な戦闘を上げていく。

 

第二次ハワイ沖海戦

 当時アメリカ海軍はハワイ沖にて深海棲艦を血眼になって探していた。以前、漁船からのSOS信号を受けた駆逐艦が現場に急行、駆逐イ級六隻と交戦したことがあった。後に第一次ハワイ沖海戦と呼ばれるこの戦闘は、アメリカ海軍の判定負けと評価されることとなる。漁船は撃沈され、駆逐イ級を三隻撃破するも残りは取り逃がしてしまった。漁船の生存者の救助を優先したため、積極的な攻勢に出れなかったことが原因だった。生存者がそれなりにいたことは、多少の慰めにはなったのだが。

 人命救助を優先したこの海戦だが、駆逐艦艦長の指揮については良いのだが、イ級を三隻取り逃がしたことが問題だった。残った三隻がまた民間船を襲撃する可能性があるためだ。この海戦以降、アメリカ海軍はハワイ周辺海域の哨戒を大幅に強化していた。

 第一次ハワイ沖海戦から一週間。その執念が実を結び、ついに深海棲艦の艦隊を発見する。数は駆逐イ級八隻と未確認の深海棲艦――のちに駆逐ロ級と命名――四隻。しかし駆逐艦が攻撃を仕掛けるにはやや遠い地点であり、該当海域に向かっている間に敵を見失う可能性があった。

 その報告を受けた艦隊司令部は、空母艦載機による攻撃を指示した。即座に空母より対艦兵装を施したスーパーホーネットが発艦。該当海域にて敵艦隊を発見した攻撃隊は、対艦攻撃を繰り出し、深海棲艦を全艦撃沈させることに成功した。

この海戦以降、各国でも深海棲艦に対する航空攻撃が行われるようになる。

 

第一次岩手沖海戦

 アメリカからもたらされた深海棲艦のデータを入手した海上自衛隊は、早期から対潜警戒を強化していた。彼らは深海棲艦が潜航して移動したことに注目したためであった。

 そんなある日、哨戒機が福島沖百キロの地点で海中を進む十二の不審な物体の群れを発見。海上自衛隊はこれを深海棲艦と判断し、大湊より護衛艦隊を派遣した。艦隊の移動中も哨戒機は深海棲艦の位置を逐次報告。深海棲艦は自身を見張っている哨戒機の存在に気付くことなく、北西へ潜航していった。

 海上自衛隊は報告を元に、艦隊を深海棲艦の進路上に展開。哨戒ヘリを出し、対潜ミサイルによる先制攻撃を画策した。

 深海棲艦が岩手沖に差し掛かったところで、護衛艦隊は対潜ミサイルを発射。奇襲を受ける形となった深海棲艦はそれに対処できずに、大半が撃破されることとなる。先制攻撃に驚いたのか、なんとか生き残った三隻のイ級が浮上。今更になって発見した哨戒機に攻撃を仕掛けようとするも、追撃とばかりに護衛艦隊から放たれた対艦ミサイルが襲い掛かり、全滅することとなる。

 

第一次ビスケー湾海戦

 ドーバーの惨劇以降、フランス政府――というよりフランスという国自体が追い詰められていた。

 フランスも他国と同じように、シーレーンの不安定化による物資不足からくる生活不安や経済の混乱が起こっていた。そのためフランス政府も対策に乗り出していたのだが、自由な経済活動が出来なくなることを危惧した一部大企業や投資家が反発。政権交代を狙う野党もこれに便乗し、結果的に経済政策が頓挫しまう。

 経済政策の失敗により国内はさらに混乱を極め、その煽りを受けた中小企業は倒産が相次ぎ失業者が続出。治安の悪化も起こり始め、更には宗教問題や人種問題にも飛び火し大炎上することになる。結果、フランス国内では毎日どこかしらでデモや暴動が起きていた。ドーバーの惨劇時に碌な対応を取れなかったために低くなっていた政権への支持率が、より低下することは当然のことだった。

 その様な中で、ビスケー湾近海に十八隻からなる深海棲艦の艦隊が出現。フランス政府は軍に全力出撃を命じた。

 この時出現した深海棲艦は今まで各地で確認されていた駆逐イ級や駆逐ロ級だけでなく、駆逐系列とは明らかに形状が異なる深海棲艦が三隻存在していた。軍上層部としては新型を警戒して、慎重に動きたかったが、これ以上の支持率低下を防ぎたい政府側が出撃を強要した。また軍内部でもドーバーの惨劇の際にまともに動けなかったことによる民衆から支持を取り戻したいという意見があり、深海棲艦の艦隊がフランス本土に向かって進撃していたことから、空母も含めた艦隊による出撃を行うことになった。

 ビスケー湾近海にて両艦隊は接触、海戦が始まった。新型の深海棲艦――後に軽巡ホ級の砲撃能力は、威力こそ5インチ砲相当ではあるが砲門数が多く、総合的な攻撃力は駆逐級と比べて格段に上がっていた。もちろんフランス海軍の攻撃はミサイルが中心であるため、射程外から攻撃できていたのだが、ホ級は耐久力も向上していることを知らなかったことが大参事に繋がる。

 フランス艦隊から放たれる攻撃により深海棲艦は次々に撃破されていく。その光景に彼らは気が緩んでしまった。そしてその隙を深海棲艦は見逃さなかった。

 ミサイルの雨が降り注ぐ中、一隻の軽巡ホ級がボロボロになりながらもフランス艦隊に肉薄。射程内にあった駆逐艦にその砲撃能力を見せつけた。狙われた駆逐艦は短時間に多数の命中弾を浴び、ダメージコントロールが間に合わず撃沈されることとなる。

 最終的にこの海戦は全深海棲艦撃破によるフランスの勝利となったのだが、フランス側にも無視できない損害が出てしまった。

 

 

 

 深海棲艦との戦いが始まった初期は、人類は多少の損害を受けることはあるものの、深海棲艦に対し圧倒していた。深海棲艦を駆逐していく各国海軍の姿に、民衆は少しずつではあるが落ち着いていく。敵に対して圧倒出来るという事実はある程度の安堵感をもたらしていた。

 また、軍上層部を初めとした軍事に関わる人々も落ち着いていた。深海棲艦の正体は分からないが、自分達の使う火器は有効であり、余裕を持てる相手であったためだ。勿論、深海棲艦の火力は高いため決して油断できるものではないが、致命的な失敗をしない限り完勝出来る。この時期の各国の軍内部での深海棲艦への意識は、害獣駆除と同じ感覚であった。

 対して国の運営を担う者たちにとっては安心感もあったが、同時に不安もあった。確かに深海棲艦に優位ではあるが、石油を筆頭とした各種資源の入手が未だ不安定であったためだ。国家主導による輸送船団を形成したものの、以前と比べれば入手できる資源は減っている。国内の鉱山資源も使えるが、コストが割高であることもある。

 また対深海棲艦で使われる軍事予算は各国の財政に大きくのしかかっていた。まだ深海棲艦との戦いが始まって半年であったため予算の都合はつけられるのではあるが、戦いが長引けば財政に影響が出てしまう。

 ゆえに彼らは深海棲艦を根本的に殲滅出来ないか考え、軍に深海棲艦の拠点の探索を指示していた。

 

 こうして各国が深海棲艦の拠点を必死に探している中、アメリカからとある映像が各国にもたらされた。それは哨戒機から撮影された映像だった。

 きっかけは哨戒機が見つけた深海棲艦の艦隊だった。深海棲艦の艦隊が駆逐級に守られるように航行する新型深海棲艦の姿があり、当時報告を受けた軍は哨戒機に監視を命じた。哨戒機による監視の中、艦隊が近隣の無人島に差し掛かったところで新型が艦隊から離脱した。鉄球と人が合体したような新型深海棲艦は海岸に乗り上げ、そのまま停止する。

 哨戒機の乗組員が不審に思い、機体を無人島に向かわせようとしたところで異変が起きた。

 新型深海棲艦が突如として赤く発光、同時に新型を中心に直系二百メートル程の赤色光の円が発生する。光は徐々に強くなっていき、二十分経過したところで突如視界を覆われるような大きな光が放たれた。

 しばらくして視界が戻った時、哨戒機の乗組員はその光景に目を疑った。赤色光の円に包まれていた場所が綺麗サッパリなくなっており、代わりに海が広がっていたのだ。当の新型だが発光は辞めており、自分の成果に満足したのか、悠々と沖で待機していた駆逐級と合流。海中へと身を沈めていった。

 

 この情報を得た人々は悟ることとなる。人類の置かれた状況を端的に表したある国の指導者の言葉が歴史に残っている。

 

「何が害獣駆除だ。これは奴らとの生存戦争だ」

 

 

 




イギリスドーバー時対処:27 失敗
フランスドーバー時対処:23 失敗
イギリスもフランスとどっこいどっこいじゃないか(;゚Д゚)

イギリス国内統制:52
日本国内統制:91
アメリカ国内統制:50
まあ問題ないな。
フランス国内統制:07 統制失敗
( ゚д゚) ・・・ 国家が崩壊寸前かな?

ハワイ沖判定:55
岩手沖判定:61
ビスケー湾戦闘判定:23
 ……低すぎる。損害判定だな
ビスケー湾損害判定:80 
駆逐艦轟沈しちゃった……

フランスにハード過ぎませんかねぇ……


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艦これZERO4話 現状 発見

作者の英国面が零れ出てしまった……。


 2016年。深海棲艦が現れて3年が経過した頃、戦況は以前と比べて悪化していた。

 各国の物流は深海棲艦による海上封鎖が行われており、護衛船団を編成してはいるが、以前ほどの輸送は難しかった。空路や陸路もあるが、海上輸送の代替になるほどの輸送量は持ちえない。そのため一部の国では物資不足が発生、経済の混乱だけでなく治安の悪化さえ起っていた。

 深海棲艦への対抗手段である軍事力は、損耗が出始めていた。損傷、喪失した軍艦を補充するために、各国のドッグは常にフル稼働状態であった。

 

 

 

 なぜ以前は優位にあった人類が押されてしまったのか。簡単に言ってしまえば、深海棲艦の能力が急激に向上したことと、各国の不和だった。

 人類と深海棲艦の戦闘が始まり3年。当初は駆逐級のみが相手だったが、時間が経つにつれ次々と新型を繰り出していた。

 

 2014年5月。潜水艦級、重巡級遭遇。

 各国の編成した輸送船団を群狼戦術で襲撃する潜水級。その姿をほぼ人型にし砲撃、雷撃能力を強化した重巡級。これらの出現により、人類側は常に圧倒的な勝利を得ることが出来なくなってきた。潜水級も重巡級もその大きさは人間と同じ大きさであり、人類側が放つミサイルや砲弾を直撃させるにはあまりにも小さかった。幸いにも潜水級は防御力は低いおかげでまだ対処は出来た。しかし重巡級は防御力も向上しており、艦隊決戦においては撃ち漏らした重巡級に接近され砲撃されるという事態が多発した。

 重巡級の詳細が分かるにつれて、各国の軍は焦りを募らせた。

 今でこそ自分たちの使う兵器で深海棲艦を倒すことが出来る。しかし、これ以上の攻撃力や防御力を持った深海棲艦が出現したらどうなる?最悪、一方的にやられてしまうかもしれない。そのような不安から、各国は新兵器の開発に乗り出した。だが新兵器が完成する前に軍上層部の不安は的中することとなる。

 

 2015年6月。戦艦級出現。

 初の交戦は南シナ海だった。雷撃能力こそ無いものの、16インチ砲相当の砲撃力と重巡級以上の防御力を持った新型深海棲艦に中国海軍は苦戦した。最終的に敵の殲滅こそできたものの、フリゲート三隻を轟沈させられるという大損害を受けることになる。

 戦艦級の出現は戦場で敵を一方的に攻撃で着ていた人類側に大きな影響を与えることになった。

そして押され始める戦況に動揺する軍上層部に更にダメ押しとなる存在が出現する。

 

 2015年12月。軽空母級、空母級出現。

 使用する艦載機は性能や攻撃力は第二次世界大戦時のものと同等だが、大きさは精々中型の鳥類と同等であり、レーダーに映りにくいものであった。更にその小ささから、人類側の航空機での撃墜は不可能に近かった。

 そして空母級による問題は戦場だけのものではなかった。艦載機の航続性を活かして遠距離から地上施設への攻撃が行われ、工場などの産業基盤へダメージが与えられる事態となる。

 

 その様な事態に各国は何をしていたのかと言うと、上手く連携を取れないでいた。

 領土争いのある海域で深海棲艦が出現した場合、深海棲艦への対処をしつつも相手を警戒するのは当たり前であり、時には誤射という名目の攻撃すらあった。他にも仮想敵国の担当海域への深海棲艦の誘導をしたりと、人類は共通の敵を前にしても力を合わせることは出来ずにいた。

 それでも人類が深海棲艦と戦えていたのは、複数の理由があった。

 一つは攻撃の命中率。深海棲艦との戦いの舞台は敵の性質上、海上となるのだが、人類の操る兵器は人間サイズを攻撃できるようには設計されていない。本来は艦船を攻撃するための兵器なのだから当然だ。それでも三年間戦うことが出来たのは、敵が高いレベルで赤外線を放っていたためだった。そのため赤外線誘導方式を使用したミサイルは予想以上に高い命中率を誇っていた。最も、あくまで「予想より」命中率が高いというだけなので、現状では数で命中率を補う必要があるのだが。

 そして二つ目が、深海棲艦の出現頻度がそこまで高くないことだ。日本を例に挙げた場合、出現頻度に波はあるが平均して二十日に一回。一応だが戦力や武装の補充に掛ける時間があったのだ。

 

 

 

 激戦が続く中、各国はなんとか生き残ろうと足掻いていた。

 地球で最も強力な軍事力を保有する国家であるアメリカ合衆国は、深海棲艦に対し一進一退の攻防を続けていた。各地で起きる海戦では「最低でも対艦ミサイルを20発は命中させなければ撃沈できない」といわれる戦艦級に対しても、「ならそれ以上のミサイルを用意しよう」と言わんばかりに、ミサイルの飽和攻撃を実施。世界にその実力を見せつける。

 そんな彼らを支えるアメリカ本土では、造船所がフル稼働で軍艦や輸送船を建造しており、その国力の高さとポテンシャルが見て取れる。船の乗員についても、愛国心に燃える多くの若者たちが軍の門を叩いていることから、十全とは行かないまでも乗員の補充は行われていた。

 防衛網を抜けた深海棲艦による地上施設への攻撃を受けることはあるが、工場を深海棲艦の砲撃や艦載機の届かない内陸部へ移設することにより、継戦能力を維持していた。

 このように概ね上手く行っているアメリカではあるが、実のところ問題もある。

 一つは防衛地域の広さ。タダでさえ長大な沿岸地域を守る必要があるのに、本土から遠く離れた位置に存在するアメリカの領土も守る必要がある。流石のアメリカも全領土を万全に防衛するには手が足りなかった。

 二つ目は各国からの援軍要請だった。世界各国で深海棲艦と戦っているが、劣勢となっている国家も少なくない。そんな彼らは深海棲艦と互角に戦えるアメリカに救いを求めるのだ。軍としては自国の防衛で手が一杯なのだが、アメリカ政府は各国から提示された利権や彼らの要請を拒否した事による国際社会からの批判の恐れから、ある程度の軍の派遣を行うことになり、軍上層部が悲鳴を上げることになる。

 

 アメリカから大西洋を挟んで反対側、ヨーロッパでは表面上、各国が協力関係を構築していた。

資源・食料輸入は陸路での輸送を中心にしており、完全ではないものの国民が飢える心配はなくなっていた。

 戦力面でいえばヨーロッパ自体、元々ある程度の戦力を持っていたので深海棲艦とある程度戦えていた。軍需物資についてはアメリカと同じように工場を内陸部に移転するなど対策を取っており問題はない。とはいえアメリカほどの国力はないため海外への戦力の派兵は難しく、自国の防衛が手一杯であった。

 そんなヨーロッパだが、主導権争いについては苛烈を極めていた。ヨーロッパにおいて最大の海軍力を持ち、大西洋から来る深海棲艦を食い止めているイギリス。EUのおかげで経済力を得ており、更にイギリスという防壁によって深海棲艦との海戦が比較的少ないためほとんど消耗していないドイツ。地中海において最大の海軍戦力を持つイタリア。その三カ国がヨーロッパの覇権を取り合うプレイヤーだった。またこの三カ国以外にも、侮れない海軍力を持つスペインを中心に、各国が虎視眈々と覇権の座を狙っている。この時のヨーロッパは弾丸こそ飛び交わないものの、戦場の様相を呈していた。

 

「右手で握手をしつつ、左手でナイフを持つ」

 

 古来より行われる外交の常識を実践しながら、今日もヨーロッパは深海棲艦と戦っている。

 

 中国は深海棲艦の出現という非常事態に対して、中国共産党の一党独裁体制特有のフットワークの軽さを活かし、他国と比べて対応を早くとることが出来た。経済統制、軍需物資の増産指示、一部情報の操作などが行われ、国内の統制を強めていった。

 戦闘においても、近年拡大していた海軍が奮闘。空母こそ実戦に耐えられないとして出撃できなかったが、深海棲艦との諸々の海戦で中国海軍の強さを世界に示すことが出来ていた。

 資源についても大陸国家故に陸路での輸送が出来ると言った事情もあり、世界からは国家としての安定性はアメリカに次いで高いように見られていた。中国共産党もアメリカが東アジアに手を出せない今なら、国力と軍事力を活かして東アジアの覇権を手に入れることが出来ると判断しており、日本や東南アジア各国に各種圧力を掛けようとしていた。

 しかしそんな彼らの目論見も、ある事件のせいで絵に描いた餅と化すことになる。

 戦艦ル級二隻を中心とした深海棲艦の艦隊が中国海軍の哨戒網を掻い潜り、都市へ沿岸砲撃をするという事件が起きた。海中を進行していた深海棲艦を哨戒機が見逃してしまったことが原因だったのだが、砲撃された場所が不味かった。

 都市の名前は香港。ロンドン、ニューヨーク、東京などと並ぶ、経済の中心都市である。

 対地攻撃のプラットフォームとして優秀と評される戦艦、それも二隻から来る砲撃にされることになった香港は、瓦礫の山と化すことになった。

 この香港の壊滅に中国国内は混乱。政府は情報封鎖も行ったが上手く行かなかった。更に追い打ちをかけるように、国内の混乱を好機と見たチベットやウイグル等、中国からの独立を目指す組織が動き出し、中国政府は国内に掛かり切りとなってしまった。

 

「国内と戦い、余力で深海棲艦と戦う」

 

 ある中国の政府高官が言った皮肉が、この状況を端的に現わしていた。

 

 東アジアで大きな海軍力を持つ島国、日本。そんな国の舵取りをする人々は、頭を抱えていた。深海棲艦が世界中の海で跋扈するせいで、食料や資源の安定した輸送が出来なくなっているためだ。

 今は護衛船団方式で何とか資源を輸送しているが、深海棲艦の襲撃があればどうしても被害が出てしまう。そのためなんとかして安定した輸送方法を取りたいところだが、大陸国家と違い陸路での輸送は出来ない。空路は深海棲艦の艦載機が高度一万m以上に出現しないため安全なのだが、輸送量は海運と比べれば微々たるもの。結局、今の輸送船団方式が輸送量を稼げるため継続されていた。とは言え深海棲艦出現前と比べて物資の輸送量は目減りしており、発生する物資不足は日本と言う国家にダメージを与えていた。

 勿論、日本政府も食料増産の指示や計画停電の実施による石油資源の節約等、対策は行っているのだが、どうしても対処療法にしかならない。

 軍備については元々海上戦力に力を入れていたこともあり、それなりに深海棲艦とも戦えていた。だが目減りしていく戦略資源を前にして、これからも戦えるとは考えられなかった。

 日本政府は消耗する貨物船の増産を指示しつつ、状況を打破しようと奮闘し、そして迷走し始める。

 最大速度30ノットの高速航行性能を持った貨物船建造計画「特型戦時標準船計画」

 最大積載量300トン。日本版アントノフ225「白鷺計画」

 深海棲艦が航行中の潜水艦に攻撃した事例がない事に注目。「潜水艦で物資を運べば安全ではないか?」という発想により、現代によみがえったモグラ輸送計画。その計画を実行するために提案された「一五式潜航輸送艇計画」

 そんなぶっ飛んだ計画が提案されつつ、今日も政府関係者は頭を悩ませている。

 その様に各国が悲鳴を上げている中、追い打ちを掛けるような事件が発生することとなる。

 

 

 

 アメリカ合衆国DCワシントン、ホワイトハウスの大統領執務室。その部屋の主は受け取った報告書を手に顔をしかめていた。

 

「ここまで必要なのかね?」

 

 大統領の視線の先には同じく顔をしかめた国防長官がいた。

 

「最低でもこれだけの戦力が必要です」

 

 アメリカは深海棲艦の出現以来、敵の本拠地を探していた。航空機、水上艦の使用は勿論の事、偵察衛星も使ってだ。

 そんなある日、南太平洋のイースター島から南西に500㎞の海域に昨日まではなかった陸地が出現しているのが発見された。偵察衛星で確認したところ、陸地はオアフ島程の大きさであり、地上にはいくつかの人工物らしきものが確認されていた。軍は深海棲艦との関連を懸念し偵察を行うこととなった。

 戦略偵察機U-2は空中給油を繰り返し行いながら目標への偵察を慣行し、持ち帰られた情報を精査したところ多数の深海棲艦が確認された。

 これらの情報を根拠にアメリカ軍はこの島を深海棲艦の拠点と判断した。大統領の命令もあり、拠点の占領を前提に作戦立案をすることになった。しかし――

 

「太平洋艦隊の全戦力の投入か。非現実的だな」

 

 大統領はため息を吐きながら、手にしていた報告書を執務机に置く。

 現在太平洋艦隊は太平洋の自国の防衛で手一杯である。ある程度なら戦力を抽出できるものの、軍が希望する戦力量には全く足りない。

 

「敵戦力の殲滅だけなら戦略爆撃やICBMを使えるのですが……」

「出来る限り敵の情報が欲しい。核を含めた殲滅作戦は最終手段だな」

 

 世界各国で深海棲艦の研究が行われているが、未だにロクな結果を出せないでいた。そこへ深海棲艦の拠点の出現である。このことを聞いた研究機関は、拠点の確保を熱望していた。

 

「現状で作戦遂行に準備出来る戦力はどの位だ?」

「第七艦隊なら比較的戦力を出せますが、現状では必要数の三分の一程度です」

「そうか……」

 

 沈黙が室内を包む。大統領としては敵拠点の攻略という成果があれば他国との交渉に有利になると考えていた。しかし諦めてICBMを使って殲滅のはもったいないという思いもあった。

 そんな考えを察したのか、国防長官は口を開く。

 

「大統領。他国からの援軍の要請は出来ないでしょうか」

「なに?」

「不足分の戦力を他国の軍で補います。作戦の中核を我が軍で占めれば、それを盾に指揮権を執れます」

「ふむ」

 

 大統領は頭の中でメリット、デメリットを天秤に掛け、精査する。しばしの熟考の後、彼は決断した。

 

「よろしいそれで行こう」

 

 数日後、急遽開催された国際会議の場で、アメリカは深海棲艦の拠点の占領作戦を提案。各国は様々な思惑を内に秘めつつ賛成した。こうして攻略作戦は決行されることなる。

 




日本:53
アメリカ:66
イギリス:77
ドイツ:42
イタリア:43
中国:23 中国共産党「躍進のチャンスが(´;ω;`)」
連携判定:17 人類はダメそうだな(白目)


 


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艦これZERO5話 オペレーション・ビギニング 前編

 戦争とは外交の一環である。

 また、今回は「仮想」ではなく「火葬」要素がありますので、苦手な方は注意してください。


 2016年。この頃、どの国も深海棲艦の被害を受けており、状況を打破しようと模索していた。そんな所に敵の拠点が現れたのだ。彼の地を攻略する必要があるのは当然であり、上手くいけば敵の情報が手に入るかもしれない。そのような共通の思惑があったからこそ、アメリカが提案した敵拠点の制圧作戦に各国は飛び付いた。

オペレーション・ビギニング。

 人類の反撃の始まりとなることを願い名づけられたその作戦は、多くの国が参加することとなる。戦力は国連軍の名目で各国の軍が派遣され、戦力を出せない国も物資援助や資金提供などを行っている。

 この作戦で編成された国連軍は一般人からは、世界の危機に一致団結して立ち向かう人類の象徴の様に捉えられていた。しかし内情は各々が暗闘を繰り広げる伏魔殿であった。

 

 2016年6月。ニューヨークの国連本部では国連軍に参加する各国の代表者が激論を交わしていた。所属が違う軍同士が上手く連携を取るには、あらかじめ打ち合わせは必要だった。

 作戦の基本方針の確認、投入される戦力の決定、作戦の指揮を行う総司令官の任命等、手早く決定されていく。会議の中心にいるのはアメリカだった。今回の作戦において、アメリカは艦隊戦力だけでなく、敵拠点の制圧のための陸上戦力や、戦略爆撃機の派遣も決定している。そのため難なく主導権を握ることが出来ていた。

 だが、そんなスムーズに行くかと思われていた会議だったが、待ったをかける存在があった。

 

「なぜ我が国の艦を貴国に預けなければならない」

 

 憮然とした態度の中国代表。対するアメリカの代表は顔を引きつらせていた。

 事の始まりは艦隊の指揮権についての議論だった。基本方針、総司令官の決定と思惑通りに事を進めることの出来ていたアメリカは、各国の艦を統合・編成した主力艦隊の指揮権についても手に入れようとしていた。それに異を唱えたのが中国だった。

 

「我が軍の精鋭をアメリカの盾になどされてはかなわん。我が国単独で動かせてもらう」

 

 今回の拠点攻略作戦において、アメリカに次いで戦力を派遣するのは中国であった。陸上戦力はアメリカと同等、海上戦力では虎の子の空母を中心に多数の艦船を派遣されるなど、いかにこの作戦に力を入れているかが良くわかる。

 この大戦力の背景には、中国共産党の焦りがあった。中国の思想傾向的に、面子が権威や国家の威信に深く関わってくる。中国国内では香港の壊滅は面子が潰されたと解釈されていたのだ。また香港壊滅の影響で経済の低迷が始まっており、合わせて抑圧していた国民の不満も噴出し始めていた。このままでは国家運営に支障をきたしかねず、何かしらの大きな戦果を挙げて面子を保つ必要があった。そんな時に出現したのが敵の拠点だ。これを占領出来れば香港壊滅の分の負債がチャラに出来るどころか、以前より国威は上がると判断された。

 だからこそ占領作戦に参加したのだが、実態はアメリカ主導の作戦。このままアメリカの思惑通りにことが進めば、国民の不満が増大しかねないため、何とか艦隊の指揮だけでも欲していた。

 

「本気で言っているのか?貴国が派遣する艦隊だけでは戦力に不安がある」

「敵拠点の有する戦力は未知数です。単独行動したところで、各個撃破されかねないのでは?」

 

 思わぬところで躓き内心苦々しく思っているアメリカ代表と、アメリカに援護する形で自論を出す日本の代表。しかし中国代表の態度は変わることは無い。

 

「そのために空母を派遣するのだ。更に我が国では対深海棲艦用の新型ミサイルを配備している。問題はない」

「貴国がその新型ミサイルを公表したのは一週間前だ。本当に効果はあるのか」

「実地試験は行っている」

「いくらそのミサイルが有効でも、戦力分散は問題なのでは?」

「我が国の分析では今回作戦に参加する艦艇全てを一つの艦隊で運用するのは、効率が悪いと判断している」

 

 中国代表も一歩も引く気はない。だからと言ってアメリカが引くことはあり得ないだろう。そしてこのまま行けば議論は平行線となることは、会議の前から予測していた。だからこそ、中国は事前にある国と協議をしていた。

 

「いい加減落ち着きたまえ」

 

 白熱する議論に静かながらも議場に通る声で冷や水を差す者がいた。その国はロシア。その代表は場が落ち着いたことを確認すると、改めて口を開く。

 

「さてアメリカと日本は中国艦隊が単独行動することによって、各個撃破されることを懸念しているのだな」

「そうです」

 

 その言葉に頷く日本代表。それに満足したのか今度は中国の代表に目を向ける。

 

「そして中国は艦隊を分けた方が効率が良い、と」

「そうだ」

 

 中国代表の返答に頷くロシアの代表に、アメリカ代表は顔には出さないが、訝しんでいた。

 

(何をする気だ?)

 

 彼は何をしようとしているのかその意図を測りかねていた。そうしている間にも、ロシアの独壇場は進み、そして彼は事も無しげに言った。

 

「ロシア艦隊を中国艦隊と合流させよう。これなら戦力的に問題はない」

 

 思わぬ言葉に議場がざわつく。それを気にも留めずに彼は中国代表に向き直った。

 

「よろしいかな」

「それなら構わない」

 

 まるで当然と言わんばかりに頷く中国代表に、アメリカの代表は何があったのかを悟った。

 

(こいつら最初からグルか!)

 

 中国・ロシア艦隊の構成。これが中国が事前にロシアと協議していた仕込みだった。この二カ国からなる艦隊なら、アメリカ主体の艦隊よりも劣るとはいえ、十分な戦力となる。アメリカが表向き用として提示した問題点が解決出来ていた。

 勿論、この仕込みのために中国はロシアに様々な対価を払うことになっていたのだが、中国共産党は主目的を達成できるならと余り気にはしていなかった。

 

「異論はあるかね?」

 

 顔を紅潮させているアメリカ代表を気にも留めず、参加者全員に確認を取るロシア代表。反対意見がない事に軽く頷くと、再度口を開いた。

 

「では、次の議論に移ろうではないか。時間も有限だ」

 

 こうして、アメリカの当初の目的とはズレが生じつつも、人類は着々と作戦のための準備を進めていくこととなる。

 

 

 

 オペレーション・ビギニングに参戦する海上戦力は第一艦隊、第二艦隊の二個艦隊で編成されている。アメリカ海軍の原子力空母二隻に加え、中国海軍の切り札である空母戦力も編入されており、その規模は深海棲艦出現以来、最大規模となっていた。

 編成は第一艦隊がアメリカ海軍を中心にその同盟国の艦船で構成されており、規模の大きいものとなっている。そして急遽編成された第二艦隊の中心は中国海軍であり、それを補助する形でロシア海軍が脇を固めていた。

 また、この二個艦隊の後方には揚陸艦や輸送艦が護衛の艦に守られながら控えている。これらの艦には各国の陸上戦力が控えており、敵の海上戦力を無効化した後、敵拠点を占領するための戦力となっていた。

 

 第二艦隊の司令官である中国海軍の中将は、旗艦である空母「遼寧」のCICで様子を平静を装いながらも、内心は不満を抱いていた。

 

(共産党の馬鹿どもが……)

 

 彼は海軍内で空母の運用に従事している軍人の一人だった。それ故に自分達の実力はよく知っている。それ故に今回の遼寧の出撃は大いに不満だった。

 中国海軍は空母の運用の経験はまだまだ浅い。彼もなんとか実戦に耐えられるようには急ピッチで訓練させたが、まだまだ不安が残る。党上層部の望むような、アメリカ海軍の艦載機隊の様な活躍はまず望めないだろう。

 これだけでも彼が不機嫌になるのに十分な要素であるが、他にも不満はあった。

 空母の護衛となる駆逐艦やフリゲートも数を揃えてはいるが、それにも問題があった。中将は対深海棲艦戦初期から戦い続けていたベテラン達を希望したのだが、共産党は国土防衛を名目にこれを拒否。代わりに彼の元に配属されたのは、新人ばかりの護衛艦隊だった。今はなんとか連携は取れているが、実際に深海棲艦との戦闘になった際、どうなるかは未知数だった。

 また、今回一緒に第二艦隊で行動をしているロシア海軍は、派遣されている艦の数はかなり少ない。ロシアは本土防衛を名目に空母戦力の派遣を拒否し、巡洋艦を旗艦とした少数の艦隊のみが出撃していた。勿論いないよりマシではあるが、ロシア艦隊を当てにするすることは出来ない。

 中将としては、アメリカの当初の予定通り各国の艦隊を一つにまとめて運用してほしかったが、政治がそれを許さなかった。勿論外交的にも国内政治的にもここで何かしら武勲を立てなければならないことは理解しているのだが、実際に命を懸けることになる軍人としてはたまったものではない。

 

(これで戦えるのか?)

 

 とはいえ既に過ぎてしまったことを嘆いていてもどうしようもない。彼は気持ちを切り替え、仕事にとり掛かろうとした所で、CICの戦術情報士が声を上げた。

 

「先行していた早期哨戒機より入電。敵艦6、方位11より接近。戦艦1、重巡1、軽巡1、駆逐3」

「やはり来たか」

「提督、この陣容なら艦載機は出さなくても問題ないでしょう」

 

 参謀長が提言する。彼も艦載機隊の練度には不安がある様だった。

 

「確かに水上艦だけで十分だ。全艦に通達、攻撃準備」

 

 敵は戦艦を中心とした六隻編成。これなら第二艦隊の規模的に空母戦力を温存しても、問題なく対応できる。緊迫した空気の中、第二艦隊と深海棲艦の距離がどんどん縮まっていき、ついにミサイルの射程範囲に入った。

 

「攻撃開始」

 

 中将の号令と共に、艦隊から一斉に対艦ミサイルが発射される。

 打ち出されるのは、中国が先日開発した新型の対深海棲艦用のミサイルだ。旧来の対艦ミサイルよりも破壊力を向上させているそれは、開発者が「駆逐級らな一撃で倒せる」と豪語する兵器だ。しかしテストは済ませてあるものの、実戦での使用は今回が初めてであり、やや不安が残る代物でもあった。

 そんな新型ミサイルだったが、特に問題を起こすようなことは無く高速で飛翔し、センサーに目標を捉える。深海棲艦に殺到したミサイルは少なくない数の外れ弾を出しつつも次々に命中していく。

そしてミサイルの雨が止んだ頃には、深海棲艦の姿は残骸を残して消え去っていた。

 

(何とかなったか)

 

 歓喜に沸くCICの中、中将は一人安堵のため息を吐くと、改めて艦隊に前進の指示を出した。

 

 

 

「中国艦隊も中々やるじゃないか」

 

 第二艦隊の後方、第一艦隊の旗艦であるアメリカ海軍揚陸指揮艦「ブルー・リッジ」のCICで第一艦隊司令官は感嘆の声を上げていた。

 

「彼の国の新型兵器は有効だったようだな」

「しかし命中率は変わっていないようです」

 

 参謀長の手には先程部下から上がってきた報告書がある。内容は第二艦隊が行った戦闘についてと、中国海軍の放った新型ミサイルについてだ。戦闘が終わってから時間はそこまで経っていないため精査も十分ではないものの、ある程度の性能は予測できた。

 

「だが破壊力はかなりある。余程、深海棲艦が嫌いなようだな」

「香港の件が余程堪えたのでしょう」

 

 参謀の予測は当たっていた。中国では深海棲艦が出現した頃から新型ミサイルの開発を行っていたが、香港壊滅を期に開発速度が一気に上がっていた。危機感を募らせた中国共産党上層部が資金と人員をつぎ込んだからだ。最も開発を急ぐあまり不具合も多く、碌にテストもされずに艦隊に配備されたという事情を、第二艦隊の司令官にも知らされていないという事実までは流石に予測できなかったが。

 

「参謀長は我が国の対深海棲艦用ミサイルとどちらが有効だと思う?」

「艦対艦ミサイルと空対艦ミサイルを比較するのはナンセンスかと」

「それもそうだな」

 

 アメリカでも対深海棲艦用のミサイルは開発されており、今回の作戦にも配備されているのだが、中国の物とは違い航空機用のミサイルだった。広大な海域を守る必要のあるアメリカでは、艦船だけでの防衛は困難であると考えられている。そのため迅速に展開できる航空機に期待が寄せられており、兵器開発でも航空兵装の開発に重点が置かれていたのだ。

 中国のミサイルについて考察する彼らに、鋭い声が響く。

 

「方位三時方向より敵機来襲。数は300機程と思われます」

 

 深海棲艦の使う航空機は小さく単機ではレーダーに映りにくいが、ある程度の規模の編隊を組んでいた場合はレーダーに捕らえることが出来る。とはいえ正確な数は分からないので、規模から大まかな数を予測する形で報告されていた。

 

「来たか。全艦対空戦闘用意」

 

 司令官は即座に命令を下す。CICに緊張が走り、各々が仕事に取り掛かる。そんな緊迫した状況で、士官から思わぬ報告が入ってくることとなる。

 

「日本艦隊より通信。新型対空ミサイルの使用許可を求めています」

「新型の対空ミサイルだと?」

「またこの防空戦は日本艦隊に任せて欲しいとのことです」

 

 戸惑いながらも報告する士官の言葉に、司令官は肩をすくめた。

 

「随分な自信じゃないか」

「いかがしますか?」

「日本艦隊に使用許可を出す。日本艦隊以外は、各艦対空警戒を継続」

 

 許可を得たと同時に、日本艦隊の動きがにわかに慌ただしくなるのがCICからでも分かる。また、他の艦も防空のために動き始めていた。

 そして、艦隊の防空戦の準備が整った頃、遥か遠くの空に鳥の群れの様なモノが見え始める。深海棲艦の航空機だ。それが確認されたと同時に日本艦隊から幾筋もの噴煙が伸びていく。

 

「日本艦隊より対空ミサイルが発射されました」

「数が少ないな」

 

 深海棲艦の航空機は、そのサイズから撃墜するのは容易ではない。対空ミサイルは有効ではあるのだが、深海棲艦が航空機を使う場合、大概が何十機もの機数で襲撃してくるため、対空ミサイルの数が足らないということは日常茶飯事だった。今回、日本艦隊が放ったミサイルの数は10。明らかに敵の規模に対して不足していた。

 第一艦隊の誰もが十発のミサイルの行方を見守る中、それらは悠々と航空機の編隊の中に飛び込み――

 

 通常の対空ミサイルではありえない程の大爆発を起こし、敵の編隊を薙ぎ払った。

 

「は?」

 

 参謀長の間の抜けた声が響いている間にも、事態は進んでいく。爆炎の晴れた後には、その数を大きく減らした敵の編隊があった。バラバラだった敵機は編隊を組みなおすと反転、遠ざかっていった。

 

「敵編隊、撤退していきます」

「……全艦に通達。警戒を解除する」

 

 脅威は去ったと確信した司令官は命令を下す。CICから緊張した雰囲気が霧散していく。そのような空気を感じつつも、司令官は参謀長に声をかける。

 

「どう思う?」

「サーモバリック爆薬と思われます。日本も随分と思い切ったことをしますな」

 

 そこには呆れ顔の参謀長の姿があった。サーモバリック爆薬による爆発は、従来の爆弾と違い爆風衝撃波によるものだ。これは人間の様な生物には有効だが、建物などの無機物を破壊するには不向きであった。ましてや相手は未だにどういう原理で飛行しているのかも解らない深海棲艦の航空機。一機も撃墜できないということすらあり得たのだ。だが日本は賭けに勝ち、大戦果を挙げることが出来た。これは政治的にも大きな影響を与えるだろう。

 

「売り込んでくるか」

「恐らくは」

 

 日本は新型対空ミサイルという手札を手にしている。この手札が外交の場で活用されることは、容易に想像がついた。何せ今までと比べて格段に敵を効率よく撃墜できるのだ。多くの国家が新型ミサイルを望むだろう。

 とはいえこれらは、政治の分野になる。一司令官が口を出せる問題ではない。彼はかぶりを振り、現場の集中する。

 

「先に進むぞ」

 

 こうしてそれぞれの思惑が絡み合う中、二つの艦隊は進んでいく。

 




日本のミサイル完成度:75
アメリカのミサイル完成度:86
 
中国のミサイル完成度:45
 初期型特有の不具合だから(震え声)
中国がロシアに払った対価:78
 ロシアは大分吹っ掛けたようです。中国のミサイルのライセンス生産は確実に持っていったな……

 中国、アメリカが開発したミサイルは、従来の物の火力強化型と考えてください。
 そして日本艦隊が使った対空ミサイルのモチーフは、「紺碧の艦隊」に登場する三八弾。小さい上に大量に飛来する深海棲艦の航空機を見た日本政府が太平洋戦争のトラウマを刺激された結果、突貫工事で作らせたものです。


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艦これZERO6話 オペレーション・ビギニング 後編

深海棲艦のターン。戦闘シーンって難しいですね。もしかしたら改訂するかも。

今回から艦これZEROが完結するまで、艦これZEROの執筆に集中させていただきます。(予定では後二話くらいで完結)鎮守府編は、多分艦これZEROが詰まった時にストックしている分を投稿することになると思います。


「全艦所定の位置に着きました」

 

 第一艦隊旗艦、ブルー・リッジのCICに緊張感のある声が響く。これからが作戦の本番であるためかCICはいつも以上に緊張した空気が漂っている。

 

「第二艦隊は?」

「準備完了とのことです」

 

 オペレーション・ビギニングは、大まかに四つの段階に分かれていた。

 第一段階、艦載型巡航ミサイルでの敵地上施設への長距離攻撃。

 第二段階、戦略爆撃機による対地爆撃。

 第三段階、敵艦隊戦力の撃退。

 第四段階、地上戦力投入。

 これが先日行われた会議で決定された大まかな方針だった。最も深海棲艦の正確な戦力は分からない上に、どんな隠し玉があるのか分からない。そのため政治的な思惑はともかく作戦の本質は強硬偵察の色が強く、不測の事態が発生した場合は即座に作戦は中止されることになっていた。

 

「よし、攻撃開始」

 

 号令と共に二つの艦隊から無数の巡航ミサイルが発射され、目標へと飛翔を開始する。その数はイージス艦を多数所有するアメリカ海軍でも完璧には防ぎきれない程だ。

 誰もがミサイルの行方を見守る中、それは突如として起こった。

 

「ミサイル一機の反応がロストしました」

 

 その報告にCICの誰もが困惑した。

 

「故障による墜落か?」

 

 深海棲艦によってミサイルが迎撃された事例は存在しない。参謀長が言うように、故障が原因だと考える方が自然である。しかし悲報は続いていく。

 

「ミサイルが次々とロストしています!」

 

 悲鳴のような声が響いた。彼の目には艦隊が誘導していたミサイル群が、次々に消失していくのが映っていた。

 

「敵の迎撃か!」

 

 ここに至って、司令官はこの現象の正体に気付く。しかし分かったからと言って。この事態をどうすることもできない。彼らは歯を食いしばりながらただ見ている事しかできなかった。

 

(どうなっているんだ。アメリカ海軍ですらこのミサイルの群れは対処しきれないんだぞ!)

 

 彼らは思ってもみないだろう。この迎撃がたった四隻の深海棲艦によって起こされているなどと。

 艦隊の遥か先。人類が目指す小島では火砲による壁が形成されてる。そしてその光景はたったの四隻で作られていた。

彼女たちは白い長髪の少女の様な姿をしており、その背中には生物の様な連装砲が四基備わっている。そして突き出されている砲からは、機関銃と見間違えるほどの連射速度で砲弾が吐き出されている。

 防空棲姫。

 後に人類からそう呼ばれるようになる彼女たちは、島の沖合で飛来するミサイル群を次々と撃墜していった。

 

「全てのミサイルの反応が消失。全弾迎撃されました」

 

 二つの艦隊から放たれたミサイルは、最終的には一発も敵の拠点に命中することなく全て叩き落された。

 誰もが呆然とする中で、司令官は気付いた。敵はあのミサイル群を防ぎきれる程の防空能力を持つ。そんな場所に航空機を突入させればどうなるか。司令官は自然と叫び声を上げていた。

 

「マズイ、作戦本部に連絡!爆撃機隊がやられるぞ!」

 

 

 

「隊長、作戦本部より通信。爆撃中止とのことです」

「何?」

 

 深海棲艦の拠点から北に300㎞地点の空域。B-52戦略爆撃機の編隊の中で、爆撃機隊の指揮官は耳を疑った。ここまで作戦は順調、強硬偵察であるため途中で切り上げられる事は覚悟していたが、まさか爆撃すらせずに作戦が中止になるとは思ってもみなかったのだ。

 

「作戦第一段階の巡航ミサイル攻撃が全て迎撃された模様です」

「全て、か」

 

 敵はミサイルの飽和攻撃を迎撃しきる能力を持っている。今回の爆撃のためにバンカーバスターを初めとした各種爆弾を持ってきていたが、これらを使う前に爆撃機隊がやられかねないと本部が判断したのだった。そして指揮官もこの決定に異論はない。

 

「各機に通達、現空域を離脱する」

 

 指揮官の指示が爆撃機の編隊に通達される。彼の指示に従い、規律正しく離脱しようとしていたその時――

 

 先頭を飛んでいたB-52が爆散した。

 

「なんだ!?」

 

 粉々になりながら海に向かって墜落していくB-52。搭乗員が脱出する様子は見えない。

 

「迎撃機か!?」

「ここは高度一万三千mだぞ!?」

 

 機内に動揺が広がる。僚機も動きこそ平静を保っているが、指揮官には彼らも戸惑っているように見えた。

 これまで深海棲艦の艦載機は高度一万m以上の地点では確認されていない。仮に敵の拠点に爆撃機のいる高度まで上昇出来る航空機がいるのなら、もっと早く迎撃に来るはずである。

 思考を巡らせている間にも、二機目が爆散する。

だがそのおかげで、一瞬だったが指揮官の目はそれを捉えることが出来た。自分たちの遥か下方から飛来した何かが僚機を貫通したのだ。つまり――

 

「対空砲火だ!」

 

 現在、爆撃機隊のいる空域は目標の敵の拠点から300㎞以上離れている。そして爆撃機のいる海域には深海棲艦は確認出来ない。つまりこの超長距離にいる爆撃機に対して、対空用の榴弾も使わずに、砲弾を直撃させて撃墜するなどという、とんでもない迎撃能力を深海棲艦は持っているということになる。

 正直、結論を出した指揮官も納得しきれていないが、現実には僚機が撃ち落とされているのだ。それに彼が出す指示は何も変わらない。

 

「退避だ、急げ!」

 

 次々に砲弾が飛来する中、指揮官は指揮を執るべく集中する。

 

 

 

「総司令官より作戦中止の命令が出ました」

「やはりか」

 

 第二艦隊旗艦、遼寧のCICで中将はため息を吐いていた。

 作戦第一段階の失敗に続いて、爆撃機隊への被害。このまま作戦を続けたところで戦果が挙げられないことは解り切っていた。政治家たちはうるさくなるだろうが、ここで無駄な被害を出す必要はない。

 

「撤退する」

 

 号令と共に艦隊は反転し、元来た道を帰っていく。勿論、警戒は怠らない。

 

「追撃はあると思うか?」

「可能性は十分あるかと」

 

 それが中将の一番の懸念だった。戦場において戦果の大半は追撃戦で発生するものなのだ。そして現海域は深海棲艦の拠点から1000㎞程離れている。これだけの距離があれば、海上戦力は追いつけないと考えていた。そうなれば追撃の手段は限られる。

 

「空襲か」

「はい。しかし多少の空襲は第二艦隊の戦力なら対処可能なはずです」

 

 参謀長の言葉に中将は頷く。第二艦隊は日本艦隊が見せた様な航空機をまとめて撃墜するミサイルは無いが、それなりの対空能力は有している。対処は可能だった。

 

「他に待ち伏せの可能性もありますが、警戒を密にするしかありません」

「結局は出たとこ勝負か」

 

 敵の情報が不足しており、次の一手が読めない。そのため中将は警戒を怠らないように指示を出すしかなかった。そしてこの指示は功を奏することとなる。

 撤退開始から一時間。早期哨戒機が敵を捉え、旗艦に通信が入る。

 

「二時方向より敵艦隊確認!36隻の大艦隊です!」

「多いな。敵編成は?」

「戦艦4、重巡6、軽巡8、駆逐18。既存の深海棲艦ですが、赤いオーラの様なモノを纏っているそうです」

「そうか……」

 

 ここにきて赤いオーラなどという初めて確認される情報が飛び込んできたことに、中将は不安を覚える。この状況での不確定要素は、自分たちの死に直結しかねない。

 

「逃げ切れるか?」

「敵艦隊の速度は推定35ノットと思われます。振り切ることは困難です」

「既存のタイプより速度が出ているか」

 

 旗艦遼寧の最大速度は29ノット。艦隊というものは一番遅い艦に合わせて航行するため、報告した士官の言うように逃げ切れずに交戦することになるだろう。だからこそ中将は、避けられない海戦を前に決断する。

 

「艦載機隊を出す」

「よろしいのですか?」

「敵の数が多すぎる。水上艦だけでは無理だ」

 

 中将の命令は苦渋の決断だった。機体の性能の不足や練度不足は当然のことだが、貴重な空母に離着艦出来るパイロットを喪失する可能性もある。中将は中国海軍の空母艦載機隊のこれからを担うパイロットをここで失いたくなかったのだ。

 

 中将の苦悩とは対照的に、出撃命令を受けた遼寧の艦載機隊のパイロットは士気を上げていた。深海棲艦との戦いが始まって以来、水上艦や空軍は戦果を挙げているにも関わらず、自分たちは訓練のみで歯がゆい思いを続けていた。今回の作戦で空母が必要だと言われ意気揚々と南太平洋まで来たにも関わらず、やっていたのは待機だけ。そんな待遇のため誰もが不満をため込んでいた所に出撃だ。士気が大いに上がるのは当然だった。

 

「俺たちの力を世界に見せつけてやる!」

 

 気炎を上げる艦載機隊のJ15が遼寧から飛び立っていく。装備は対艦攻撃型。本来のJ15には空対艦攻撃の運用能力は持たないが、改良の末に対艦ミサイルを使用できるようになっていた。

 深海棲艦は艦載機を出しておらず、彼らを遮るものはない。空対艦ミサイルの射程距離に入る。

 

「全機、攻撃開始」

 

 隊長の合図と共にミサイルが放たれ、深海棲艦に殺到する。敵はミサイルを迎撃しようと弾幕を張るが一機も撃墜できずに次々と被弾していく。――だが、

 

「クソッ、駆逐級二隻だけか!」

 

 命中したミサイルの数に対して、戦果は芳しくなかった。ミサイルが旧式の物であったし、狙いがばらけてしまったこともあるが、いくら何でも駆逐級を二隻しか撃沈出来ないのはおかしい。

 

「隊長、あいつ等防御力も上がっているかもしれません」

「だろうな」

 

 部下の意見に隊長は頷いた。

 

(速度、防御が上がっているということは、大方攻撃力も上がっているか)

 

 もし第二艦隊が交戦することになれば、苦戦は免れないだろう。なんとしてでも艦載機隊が敵を叩かなければならない。

 

「ミサイルの残段は?」

「全機、残段ゼロです」

「全機帰投だ。補給後に再出撃する」

 

 隊長の命令と共に、艦載機隊は引き返していく。

確かに戦果は思ったより上げることが出来なかったが、まだまだ攻撃するチャンスはある。何度でもミサイルを叩きつけてやればいい。

 誰もがそのように考えていた所に、突如として遼寧の通信士からの通信が飛び込んできた。

 

「現在、第二艦隊は敵の空襲を受けている。遼寧艦載機隊は第一艦隊へ進路を変更し、米空母に着艦せよ」

 

 その通信に誰もが息を呑む。空母は艦載機の離着艦時が一番無防備になる。そのためこの指示は理に適ている。しかし自分たちの拠点に帰ることが出来ないということに、精神的なショックがあった。また現在の地点から第一艦隊までかなりの距離があり、現在の燃料の残量に不安があった。

 

「隊長、我々も第二艦隊の防空に向かいましょう!」

 

 部下からの進言が飛ぶ。だが隊長はその提案を即座に拒否することになる。

 

「ダメだ。我々は対空装備を持っていない。それに機銃では敵に命中させられない……」

「……」

 

 目の前で敵が暴れているにも関わらず、自分たちは何も出来ない。いつも感じていた悔しさが蘇ってくる。

 

「……第一艦隊へ向かうぞ」

 

 指揮を執る隊長の声には、先程まで満ち溢れていた覇気なかった。

 

 

 

「敵航空機、撤退していきます」

 

 第二艦隊はどうにか空襲から艦隊を守り切った。損害こそ出たものの航行不能になった艦はなく、空襲によって弾薬の消耗は激しいが戦闘もある程度なら可能だった。だが空襲によって、第二艦隊は最も欲していた時間を奪われることになった。

 

「敵艦隊との距離はどうだ」

「ミサイルの射程範囲まで、およそ五分」

 

 いつの間にか深海棲艦の大艦隊が目の前まで接近していた。

 

「やられたな」

 

 中将は艦載機隊で繰り返し敵に損害を与えた後、艦隊決戦で敵の殲滅を測ろうとしていた。しかし結果は艦載機隊を第一艦隊に預ける羽目になり、実質的に第二艦隊の艦載機隊は戦力外になった。しかも空襲の対処を行っている間に、敵艦隊に接近されてしまったのだ。現状で艦隊決戦を行えば、第二艦隊が壊滅する可能性すらあった。

 

「第一艦隊に救援を要請する」

 

 だからこそ、中将の行動は早かった。彼の言葉にCICの誰もが息を呑む。

 

「……よろしいのですか?」

 

 参謀長が不安げに声を掛ける。彼の決断はアメリカに救援を求めるということだ。本国の共産党が、彼の事を中国の面子をつぶした愚か者と判断しかねない。中将の今後の進退に関わりかねないのだ。

 

「構わん。そんなことより、各艦の戦闘準備を急がせろ。敵艦隊を迎え撃つ」

 

 だが中将の決意は固い。彼はこの場を生き残ることに集中していたのだ。第二艦隊は彼の指示に従い、いつでも攻撃できるよう準備していく。

 そして、その時がやってきた。

 

「敵艦隊、対艦ミサイルの射程に入りました」

 

 CICに鋭い声が響く。

 

「攻撃開始」

 

 各艦からミサイルが放たれる。後のことなど考えない出し惜しみなしの全力攻撃だった。深海棲艦にミサイルが殺到する。

 

「駆逐級4、軽巡級1撃破」

「撃ち続けろ!」

 

 第二艦隊の攻撃は苛烈を極めた。接近されればその攻撃力によって大打撃を受けることは目に見えており、なんとしてでも攻撃される前に倒し切ろうと必死だった。対して深海棲艦側は現状では攻撃の範囲外だが航行速度は上回っており、第二艦隊の猛攻を凌ぎ切れば深海棲艦の勝ちはほぼ確定だった・

 近づけまいと攻撃を続ける第二艦隊。接近しようと猛追する深海棲艦。大規模艦隊同士による史上初の海戦は、ミサイルの雨を潜り抜けた戦艦ル級によって次の段階に移る。

 

「距離二万、敵の攻撃範囲内です」

 

 第二艦隊のあちこちで特大の水柱が上がる。戦艦級の放つ16インチ砲によるものだった。だが距離が大きく離れているため、命中弾は出ていない。

 

「この距離なら命中弾はない!落ち着いて攻撃を続けろ!」

 

 戦艦級の攻撃範囲内に入ってしまったが、まだまだ距離があり狙いも甘い。そのためそう簡単には被害は出ないだろう。

 そう見立てていた中将だったが、再度立ち上る水柱に顔を歪ませる。

 

「発射速度が上がっているか……」

 

 当たって欲しくなかった予測が当たってしまった。

 これまで確認されていた戦艦級の主砲の発射速度は毎分二発。実際の16インチ砲搭載艦と同じ発射速度だった。だが今回、相対している戦艦級は二十秒で再度砲撃を行っていた。明らかに発射速度が向上されていた。

 そして悪い知らせは続く。

 

「重巡級砲撃開始!」

 

 悲鳴のような声と共にあちこちで水柱が立ち上る。重巡級の砲撃は8インチ砲であるため破壊力は戦艦級程ではないが、装甲などない人類の軍艦には十分致命傷になりうる威力だった。

 

「敵の残存艦は!?」

「戦艦4、重巡4、軽巡3、駆逐8です!」

「第一艦隊はまだか!」

「現在、第一艦隊も襲撃を受けている模様です!」

「あちらもか!」

 

 絶望的な状況の中、第二艦隊は生き残るために足掻き続ける。

 

 

 

 時間は少しだけさかのぼる。遼寧艦載機隊を第一艦隊が収容し終えた頃、第一艦隊旗艦、ブルー・リッジに第二艦隊からの通信が入った。

 

「第二艦隊より救援要請です」

「あらかじめ用意しておいて正解でしたな」

 

 第一艦隊では遼寧の艦載機隊から、第二艦隊が置かれている状況をある程度把握できていた。そのためいつでも救援に向かえるように、あらかじめ艦載機発艦の準備をしていた。現在いつでも出撃は可能であり、後は救援要請を待つのみとなっていた。

 

「第一艦隊は第二艦隊の救援に向かう。艦載機隊を出せ」

 

 予定通りに、司令官は発艦の指示を出した。

 対艦装備のF-18がカタパルトに着き、発艦しようとしたその瞬間――

 

 空母はいくつもの水柱に包まれ、そして大きな爆発を起こした。

 

「どうした!」

「砲撃です!推定16インチ砲!」

「戦艦か!」

 

 慌てて砲撃された空母「ロナルド・レーガン」を確認する。空母は炎上しており、甲板で消火作業を行っている乗員の姿が見える。

 

「早期哨戒機より通信。敵艦隊発見、新型1、戦艦2、駆逐3。距離四万!また、既存の艦も赤いオーラを纏っていす!」

「何!?」

「対潜哨戒はどうした!」

「感知出来なかったようです!」

 

 撤退においても周囲の警戒は続けていた。勿論空中、水上、水中問わずだ。それにも関わらず、敵は警戒網を易々と突破して見せたのだ。

 

「新型か……」

 

 呻くようにつぶやく司令官。原因と考えられるものはそれしかなかった。だがいつまでもこうしている訳にはいかない。司令官は即座に命令を下す。

 

「反撃する!」

 

 第一艦隊から次々とミサイルが放たれる。ここまで近づかれてしまっては空母戦力は当てに出来ないため、水上艦のみによる攻撃だった。第一艦隊の規模は第二艦隊より大きい。第二艦隊の様に新型の艦対艦ミサイルは無いが、十分な攻撃力は持っていた。

 深海棲艦の艦隊に次々と命中していき、爆炎によってその姿を覆い隠す。しかし次の瞬間には、新型が放った砲撃の衝撃で爆炎が吹き飛ばされた。狙いはある一隻の駆逐艦。ミサイルを放ちつつもジグザグに回避運動をしていたが、その動きを予測されていたかのように三発の砲弾が駆逐艦に叩きつけられた。艦の内部で炸裂した砲弾は内部構造物を徹底的に破壊、艦としての機能を失った船体は海底に引きずり込まれていく。

 

「こんごう轟沈!」

「距離四万だぞ!」

 

 信じられないように叫ぶ参謀長。だが現実は変わらない。巨人の様なモノを背に従えた人型の新型深海棲艦が砲撃するたびに、第一艦隊は損害を受けていく。

 

「新型に攻撃を集中しろ!」

 

 新型を止めなければ第一艦隊は壊滅する。誰もがそれを理解していた。だからこそ本来なら放置することが危険な戦艦級を無視してでも、彼らは全火力を新型に集中させる。

 だが彼らの努力など意に介さず、新型は砲撃を続けている。それどころか砲撃の精度は発射するたびに高くなっていた。また戦艦級も砲撃に加わり、艦隊の損害は加速していった。

 

「第一艦隊の三分の一が轟沈。残った艦も損傷を受けているか……」

 

 司令官は第一艦隊の余りの被害を聞き絶句した。

 

(ここまでか……)

 

 そして彼は艦隊の全滅を悟っていた。

 ふと司令官は深海棲艦のいる方角へ目を向けた。CICにいるため各種モニターやそれを必死に操作する士官しか見えない。だがそれにも関わらず新型の深海棲艦の姿が見えた様な気がした。彼女の砲は自分の乗艦している艦に向けられている。

 

「お前は――」

 

 何者だ?そう訊ねようとした直後、六発の砲弾がブルー・リッジに直撃。CICにいた第一艦隊司令官以下全ての人員を全滅させた。そして生き残った船員が脱出する暇もなく、沈んでいった。

 

 

 

 数日後、オペレーション・ビギニングに参加した艦艇はハワイに帰還した。出迎えた軍関係者はその姿に驚愕することとなる。

 先に帰還したのは第二艦隊だった。彼らは損傷艦を殿とし深海棲艦を足止めを行うことにより、何とか逃げ切ることに成功したのだった。追撃は激しくハワイまでたどり着いたのは七割しかいなかった。また生き残った艦も大小の損傷を負っていた。

 更に被害が大きかったのは第一艦隊だった。旗艦であるブルー・リッジは轟沈。そしてアメリカ海軍が誇る原子力空母ロナルド・レーガンは大破。また他の艦艇も大きな損傷を負っていた。最終的には全艦艇の半数が水底に沈むことになるという大損害だった。

 こうして人類初の深海棲艦拠点制圧作戦、オペレーション・ビギニングは失敗した。

 




第一艦隊損耗率判定:60
第二艦隊損耗率判定:40

人類フルボッコだ(白目)



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艦これZERO7話 追い詰められる者 迫るモノ

急いで書き上げたので、後々修正が入るかもしれません。


「……これより会議を始める」

 

 2016年12月。日本の東京。会議室の一室に内閣・官僚・有力議員と言った、国家を動かす主要人物が一堂に会していた。そしてその誰もが疲れ切っていた。日々悪化していく状況に、対応しきれないためだった。

 

「深海棲艦の出現状況は?」

「今月に入って一日に一回のペースに上昇しました。以降も出現頻度の上昇は続くと予測されています。また戦艦や空母と言った主力艦クラスの出現頻度も上昇しています」

 

 オペレーション・ビギニングの失敗以来、深海棲艦の出現頻度は日に日に上昇していた。同時に日本の領海にある無人島を中心に陸地を海に変えられる被害も多発、また住民の住んでいる離島へ攻撃される事態も発生していた。勿論、日本も黙ってみているわけではなく、護衛艦の派遣をするなど対応をしていたが、ここにきて無理が出てきていた。

 

「海上自衛隊の護衛艦ですが、海戦の連続で損失が続いています。現在も新造艦の建造は続いていますが損失のペースに全く追いつけません。また現存している艦の整備も出撃の連続のため、ロクに出来ない状況です」

 

 海上幕僚長の報告が続く。海上自衛隊の戦力は毎日のように続く戦いで、その数を徐々にすり減らされていた。現在持っている戦力では、日本の持つ広い海域を守り切るには無理があった。これにはオペレーション・ビギニングで、「こんごう」を初めとした多数の護衛艦を損失したことも響いていた。また、乗員の疲労も無視できないレベルまで疲弊していた。そしてこの問題は海上自衛隊だけのものではなかった。続いたのは航空幕僚長だった。

 

「航空自衛隊ですが、こちらは深海棲艦と直接戦うわけではないので、目立った損失はありません。しかし海自と同様に出撃頻度の上昇で航空機の稼働率が下がっています」

 

 本土から近海に出現した深海棲艦の対応は、主に航空自衛隊が行っていた。深海棲艦が対空ミサイルの様な高性能な対空兵器を持っていないため、航空機に損失は見られなかった。そのため素早く展開できる戦力として重宝されていたが、海上自衛隊と同じく稼働率の低下が目立つようになってきていた。

 そしてこれらの問題を解決するには各種物資が必要になるのだが――、こちらも芳しくない。

 

「自衛隊の言いたいこともわかりますが、現状では石油・金属類を初めとした各種資源が全く足りません」

 

 そう言ったのは経済産業大臣だった。日本は資源の種類はかなり多いが、質が悪く量も少ないことで有名だ。とはいえその様なことも言っていられない状況のため、国内の鉱物資源の再採掘が行われているのだが、必要な量には全く届いていない。そのため従来通り海外から輸入する必要があるのだが、そのためには深海棲艦が跳躍跋扈する海を越えなくてはならない。

 

「先月届いた分では足りないか」

「足りません。このままでは工業、経済の低迷で二年以内に国民の最低限の生活の保障も出来なくなると予測されています。経済産業省としては第八次大規模輸送船団の派遣を希望します」

「……海上自衛隊の意見を聞きたい」

 

 海上幕僚長の顔は苦り切っていた。

 

「第七次大規模輸送船団は確かに成功しましたが、輸送船や護衛艦の損失が無視できないレベルでした。仮に第八次大規模輸送船団を編成するとなると、護衛にかなりの戦力を割く必要があります。その場合、日本領海の防衛を確約できません」

 

 深海棲艦の出現以来、日本は大規模な護衛船団を編成し、石油を初めとした各種資源の備蓄に努めてきた。資源が殆どない日本には必要な事だった。自衛隊嫌いで有名な日本郵船ですら政府からの説得や優遇措置があったとはいえ、積極的に協力していたのだから、その重大さがよくわかる。

 そうして始まった大規模輸送船団だが、当然のことだが深海棲艦と遭遇、戦闘することが多い。そのため護衛艦や輸送船に喪失艦が出ることもあるのだが、前回の第七次大規模輸送船団では今までとは比べ物にならない程の損失を受けてしまったのだ。海上自衛隊としては人員の休養も兼ねて、戦力の温存を図りたいところだった。

 しかし状況はひっ迫していた。農林水産大臣が発言するために手を上げる。

 

「農林水産省としても第八次大規模輸送船団を希望します。食料事情ですが、以前からの増産の指示により自給率はある程度向上しましたが到底足りません。また石油が途絶えるとこの自給率も下がりかねないです」

 

 現代の日本の農業は機械化されておりエネルギー資源は必須だった。また科学肥料を作るためにも資源は必要であるため、工業力の維持は農業にとっても重要な地位を占めていた。

 

「……在日米軍から援軍を呼べませんか?」

「無理だ。動かせる艦がないらしい」

「……」

 

 海上幕僚長の苦肉の策もあっさりと否定される。第七艦隊を初めとした在日米軍の海上伊戦力はオペレーション・ビギニングでの損耗が激しかった。未だ入渠中の艦も多く、戦力と数えることは出来ない。

 

「海自の戦力が無い間、国防ほどうなりますか?」

「突貫だがF-15Jの改修が進んでいる。それで何とかするしかない」

 

 航空自衛隊からの提案で、F-15Jに対艦攻撃能力を付与する改修が突貫工事で進んでいた。内閣としては、海自がいない間は増強した航空戦力で深海棲艦の侵攻を防ぐつもりでいた。

 

「防衛省は第八次大規模輸送船団の計画を立ててくれ。また、本土防衛の計画書も頼む」

「分かりました」

「なら次に――」

 

 次の議題に移ろうとしたまさにその時、会議室の扉が乱暴に開かれる。報告書を手に息を荒げている外務省の官僚が悲痛な声で叫んだ。

 

「ハワイ沖に約四百からなる深海棲艦の大艦隊が出現しました。現在ハワイに向けて侵攻中です!」

 

 

 

 ハワイ諸島。アメリカの太平洋における要衝として位置付けられているその島は、深海棲艦の出現以降、人口の減少が続いていた。ハワイ州における総収入の四分の一にあたる観光業が深海棲艦の出現によって振るわなくなったこと、絶海の孤島であるが故に海運が絶たれた場合飢餓に陥るリスクがあることが原因だった。一三〇万人いた人口は2016年の時点で、一〇〇万人を切っていた。

 そんな衰退にあるハワイ諸島だが、アメリカ政府は軍事力の強化を行っていた。ここが陥落した場合、アメリカ軍が太平洋で使える大規模な拠点がアメリカ西海岸と日本しかなくなってしまうためだった。陸、海、空軍は以前とは比べ物にならない程強化され、そしてその軍事力に見合う戦果をハワイ諸島近海で挙げていた。

 だが、その戦力をもってしてもこの深海棲艦の大艦隊を撃退することは不可能だった。民間人は大混乱に陥り、ハワイから脱出するために港や空港に押し寄せていた。

 

 オアフ島のアメリカ太平洋軍の司令部は騒然としていた。彼らも深海棲艦の艦隊がハワイに直接侵攻してくることを予測し防衛計画も作ってあった。しかしここまでの大規模艦隊が攻め込んでくることまでは予測していなかった。

 

「敵艦隊はどうだ?」

「現在、ハワイ諸島の南東一五〇〇㎞の海域です。艦隊の進行速度はおよそ12ノット。敵の目標は恐らく……」

「ここか」

 

 司令官は悔し気に呟く。オペレーション・ビギニングの影響で海軍の戦力が激減している現状では敵の撃退は不可能だった。いや、仮に海軍戦力が健全であっても、四百もの深海棲艦が相手ではハワイは守り切れないだろう。

 

「軍の撤退準備はどうだ?」

「やや遅れています」

「急がせろ」

 

 アメリカ政府は当初、増援の派遣によるハワイの防衛を計画していた。しかし派遣できる海軍戦力の不足、敵のハワイ上陸までの時間が余りにも無かったことから、計画は頓挫した。最終的にアメリカ政府はハワイの放棄を決定。即座にアメリカ太平洋軍に通達した。

 司令官もこの決定には異存はない。だが大きな問題があった。

 

「……民間人の避難状況はどうだ?」

「アメリカ本土から旅客機、輸送機を回してもらえましたが、まだまだ民間人が残っています」

「大よそで良い。残り人数は?」

「約八〇万人です」

 

 全盛期よりも人口は減っているとはいえ、この人数を避難させるには時間も手段も何もかもが足りなかった。

 

「ハワイの漁船、貨物船を総動員しても、全民間人の脱出は困難です」

「だがやるしかない。撤退する軍艦にも民間人を出来る限り乗せろ」

 

 司令官は命令を出すが、このままでは民間人のほとんどは避難できずに深海棲艦の犠牲となることは彼も確信していた。しかしだからと言ってここで敵と戦う訳にはいかなかった。海軍が大打撃を受け、その戦力の回復に時間がかかる現状、無為に戦力をすり減らすわけにはいかなかった。

 

「……逃げ帰った私は臆病者と罵られるだろうがな」

 

 民間人に多くの犠牲が出たとなれば、国民からのバッシングが起こるだろう。対象は民間人を見捨てて逃げてきたハワイ軍――その司令官である彼である。彼としては不名誉極まりない今回の任務に不満があったが、これも仕事の内と割り切ろうとしていた。

 だが、誰もが司令官のように割り切れるものではなかった。司令部に連絡士官が飛び込んでくる。

 

「軍全体より、残留希望者が続出しています」

「何?」

 

 ハワイに残ることを希望したのは、国民を守るという職務に忠実な軍人たちだった。多くの民間人が取り残されている現状を見た彼らは、一人でも多くの民間人を脱出させるべく、自発的にハワイに残ることを決めた。

 

「……残留する部隊を編成する」

「司令官?」

「軍が撤退するにしろ、民間人が避難するにしろ、時間稼ぎは必要だ」

 

 これは事実だった。敵艦隊が余りにハワイに近いため、撤退中に襲撃を受ける可能性が参謀から指摘されていたのだ。

 

「では誰が指揮を執るのですか?」

 

 この問いかけに対して、司令官は不敵な笑みを浮かべ宣言した。

 

「私だ」

 

 その言葉に司令部の誰もが唖然とするが、彼は気にも留めない。

 

(死ぬ事はほぼ確定だが、軍は俺の事を英雄として宣伝するはずだ。生き残って永遠に罵倒されるよりはいいかもしれんな。少なくとも家族は守られる)

 

 部隊を使って時間稼ぎをしたところで、ハワイから脱出できる民間人が少し増えるだけだろう。だが、「最後まで民間人を守ろうとした」という事実が大きい。軍上層部は民間人の被害から世間の目を逸らすために、ハワイに残った部隊を英雄として宣伝するだろう。彼が残るのはそのためだった。最もそのような打算はおくびにも出さずに、固まっていた司令部の人員に発破をかける。

 

「時間が無い、準備を始めろ!」

 

 

 

 ハワイ残留部隊と深海棲艦との戦いは熾烈を極めた。

 先鋒は海軍だった。海軍の艦艇の多くはアメリカ本土へ退避する船団の護衛とされていたが、損傷が酷く応急修理だけされていた旧式艦が三隻残っていたのだ。

 出撃した三隻は少しでも敵艦隊がハワイから逸れるようにと、全力で攻撃を行いつつハワイから離れていく。そして深海棲艦の意識が逸れた所で、空軍による攻撃を行ったのだ。

 結果だが戦果はあった。ありったけの火器を満載した三隻は暴れまわり、多くの深海棲艦を撃破した。また空軍による攻撃で撃破数は加速した。

 しかしいくら獅子奮迅の活躍を見せた所で、多勢に無勢だった。深海棲艦は損害を気にも留めず三隻に対して攻撃を行い、最終的に三隻は水底へと沈んでいった。海軍戦力が消滅した後も空軍による攻撃は続いたが、それは深海棲艦による空襲が空軍基地に行われるまでだった。対空防御は行われていたが雲霞の如く現れる敵の艦載機に押され、空軍基地は破壊された。

 海軍、空軍戦力が消滅したハワイ残留部隊で最後に残ったのが陸軍だった。彼らは水際防御は最初から諦め、深海棲艦が上陸したところで打撃を与えるという、太平洋戦争時の硫黄島の戦いを参考にした戦術を取っていた。既に解体されていたオアフ島要塞の残存設備さえ流用し行われた戦術は、確かに効果があった。沿岸砲撃の後ノコノコと上陸してきた深海棲艦に、各所で隠れていたハワイ残留部隊は重火器で集中攻撃を行い大打撃を与えた。とはいえ深海棲艦もやられているばかりではなく反撃の砲火を上げる。第二次世界大戦期の軍艦と同等の火器を持つ敵に大損害を受けつつも、人類は抵抗を続けていた。

 そんな一進一退の戦場だったが、ある存在によって戦況は一気に深海棲艦側に傾いた。

 中枢棲姫。

 ハワイ残留部隊から放たれるに全く堪える様子もなくオアフ島に上陸した彼女は、突如、赤黒い光を放つフィールドを展開。瞬く間にオアフ島全域に及んだ光に恐怖を覚えたハワイ残留部隊司令官は、中枢棲姫に火力を集中するように命令しようとした。

 しかしそれは遅かった。司令官が命令を口にするその瞬間に、フィールドは大きな光を放たれた。そして光が収まった時には――司令官を初めとしたオアフ島の全ての人間の命は消滅していた。

 残されたのは中枢棲姫を中心とした深海棲艦のみ。こうしてハワイ諸島は深海棲艦の手に墜ちたのだった。

 

 ハワイの陥落に国際社会に衝撃を与えた。だが事件はこれで終わらなかった。

 この三日後、世界各地の海域で深海棲艦の大艦隊が出現。南シナ海南沙諸島、インド洋チャゴス諸島、大西洋アゾレス諸島が占領された。拠点化された各地より出現する深海棲艦により、タダでさえ押されていた人類の支配域はより狭まっていった。

 




ハワイからの民間人の生存者:20


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艦これZERO最終話 艦娘

今回はダイス判定はお休みです。

後、以前からヨーロッパの現代の軍事関係について調べていて思った事ですが――

お前らいくら何でも酷過ぎない?(真顔)



2017年4月23日午前9時45分 イギリス本土から北西約千㎞の海域。

 

 45型駆逐艦「ダービー」、23型フリゲート「ボーフォート」「アバコーン」の3隻からなるイギリス艦隊は、イギリス近海に出現した深海棲艦の艦隊の迎撃のため出撃した。敵は戦艦ル級を中心とした12隻の艦隊。赤いオーラを纏った深海棲艦――エリート級が数隻確認されており、3隻のイギリス艦隊では空軍による援護があるとはいえ荷が重かった。本来ならもっと艦隊の規模を大きくして出撃するべきだったが、現在のイギリスではこれが限界だった。

 ボーフォートのCICの艦長席でアルフ・パーネル艦長は、密かにため息を吐いた。

 

(たったこれだけの戦力で戦うことになるとはな)

 

 深海棲艦との戦いが始まり四年。かつてその名を世界に轟かせていたロイヤルネイビーは崩壊していた。主力とされる駆逐艦はダービーのみ。フリゲートは7隻残っているが、今回出撃している艦以外は損傷を受けており、ドックで修理中。本来なら2014年に退役する予定だったヘリ空母イラストリアスは、退役を無期限延長し各海戦に参加していたが、1月に起きた海戦で大破し、修理の目途は立っていない。また本来ならイギリス海軍最大の空母となるはずだったクイーン・エリザベス級は、追加建造されるフリゲートに予算を取られ、建造途中で作業は止まっている。

 

「アバコーンが遅れています!」

 

 その報告にモニターを確認する。そこには艦隊機動についていけていないアバコーンの姿があった。

 

(確かアバコーンは新人ばかりだったな)

 

 船乗りは技術職だ。戦闘に耐えられる一人前の将兵になるには、長い訓練期間が必要になる。そんな貴重なベテランの将兵が長い戦いの中で、その数を減らしていた。現在では即席培養で教育された将兵ばかりであり、艦の力を十全に発揮できるか怪しい状態だった。

 また数少ないベテラン将兵についても、激戦が続きでロクな休息が取れておらず、疲労は限界に達していた。

 その様な、八方ふさがりな状況のイギリスだが、他国に救援を求めることは出来なかった。正確にはどの国も援軍を出せる状況ではなかった。

 世界で最大の海軍戦力を持つアメリカは、太平洋、大西洋の両方から攻勢を受けており、自国の防衛に精一杯。原子力空母を筆頭に高い海軍力を持つフランスは、深海棲艦の出現以来、国内情勢が悪かったが、今年に入ってからは更に悪化。援軍どころの状況ではない。ドイツは陸軍国であるため元々海軍戦力が少なかったにも関わらず、深海棲艦との戦いで更にその数を減らしており、保有戦力はイギリス以下の状況。スペインはイギリスと同じく、大西洋から来る深海棲艦の対処に追われている。イタリアは地中海で激戦を繰り広げている。

 

(栄光あるロイヤルネイビー、いやイギリスも墜ちたものだ……)

 

 アルフは自嘲するが、イギリスの状況は世界的に見れば、国家が残っているだけマシな状況だった。南沙諸島、チャゴス諸島、アゾレス諸島、ハワイ諸島、そして南太平洋の敵拠点から来る深海棲艦の攻勢に、国力の低い国々は耐えることは出来なかった。

 中東は石油の輸出がほぼ不可能になったために崩壊寸前。東南アジア各国は南沙諸島の深海棲艦の攻勢によって壊滅。アフリカに至っては深海棲艦の被害に加えて、食料、物資の不足により、内戦状態にまで発展してしまっていた。

 そしてイギリスも国家が機能しているとはいえ、危険な状況には変わりない。ユーロトンネルにより、食料や石油などの資源は辛うじて輸入出来ているが、各国も深海棲艦の被害が大きいため、輸入量は先細り状態。食料を初めとした生活必需品も配給制に移行している。経済状況も、主要であった金融業が深海棲艦の影響で大きな被害を受けてしまい、悪化の一途を辿っている。国土への深海棲艦の被害は少ないことは、不幸中の幸いといった所だった。はっきり言えば、何かきっかけがあれば簡単に国家が崩壊する状況にあったのだ。

 

午前10時23分

 

「敵艦載機を補足しました」

 

 CICにレーダー手の声が響いた。アルフは気を引き締め直し、艦の指揮に集中する。

 

「対空戦闘用意」

 

 彼の指示に従い、CICの全ての人員は慌ただしく各々の仕事に取り掛かる。ボーフォートの乗員は、深海棲艦との戦いが始まる前から軍務に就いていたベテランだ。その動きに淀みはなかった。

 遥か遠くの空に深海棲艦の艦載機が見え始めた頃、イギリス艦隊は対空戦闘に取り掛かる。

 

「旗艦より対空戦闘開始の命令です」

「対空ミサイル発射」

 

 三隻から同時に対空ミサイルが発射される。使われているのはイギリスがライセンス生産した日本の一六式対空誘導弾。幾本ものミサイルは敵の編隊に飛び込むと大爆発を起こし、空間ごと艦載機を薙ぎ払う。

 以前であれば、これで敵の艦載機は撃退できていた。だが今回は、その数こそ大きく減らしたが、損害を無視してイギリス艦隊へその歩みを止めなかった。

 

「敵編隊、進行を続けています!」

「やはり敵は編隊の密度を薄くしていたか……」

 

 深海棲艦も学習しているのか、一六式対空誘導弾への対抗策として、艦載機の編隊の密度を薄くすることで、被害を軽減するようになっていた。

 敵の編隊がイギリス艦隊に接近する。この事態については事前に予測されていたため、アルフは淀みなく命令を出す。

 

「主砲、機銃起動。対空戦闘始め!」

 

 対空兵装が起動し、イギリス艦隊に攻撃を仕掛けようとする敵編隊に火砲が飛ぶ。またダービー、アバコーンから放たれる対空砲火により、敵の艦載機は次々と撃墜されていく。元々対空ミサイルでその数を大きく減らしていた敵の編隊にとって、その攻撃は致命傷であった。程なくしてに全ての艦載機は空から叩き落されることとなる。

 

「損害は?」

「被害なし。しかし、敵艦隊が接近しています」

 

 本命である深海棲艦の艦隊は、イギリス艦隊が空襲に対処している間に急接近していた。この事態にアルフは顔を歪めた。

 

「空軍はどうしたんだ……」

 

 今回の迎撃において、空軍による対空攻撃が行われる予定だった。本来なら空軍のトーネードがこの空域に到着しても良い時間なのだが、現れる様子はなかった。実はこの時イギリス近海に深海棲艦の艦隊が出現しており、その対処のために空軍戦力が割かれていたのだった。そのことをアルフが知るのは、もっと後になってからだった。

 そうこうしている間に、深海棲艦の艦隊との距離が縮まり、ついには交戦距離に入る。こうしてイギリス艦隊は幾度目かの深海棲艦との艦隊決戦に突入した。

 

午前11時05分

 

「敵艦隊がこちらの射程に入りました」

「撃ち方始め」

 

 先手を取ったのは当然だがイギリス艦隊だった。三隻から放たれる対艦ミサイルは深海棲艦に次々と命中する。イギリスも深海棲艦との戦いの中で各種兵器の改良を行っており、対艦ミサイルの命中率は、4年前と比べて格段に上昇していた。

 着実にダメージを与えていき、駆逐級を中心に敵を撃破していくイギリス艦隊。だが数の差による影響は大きい。十分に相手を削ることが出来ずに、戦艦ル級の砲撃範囲まで接近される。

 

「敵の射程範囲内です!」

「回避運動しつつ攻撃を続けろ!」

 

 アルフの命令が飛ぶと同時に、戦艦ル級の艤装に施されている16インチ砲が火を噴いた。砲弾は数十秒の飛翔の後にジグザグに航行するイギリス艦隊に降り注ぎ、一発がダービーに直撃した。そして長距離での戦艦砲の命中率を考えれば本来なら不運な事故と言って差し支えない命中弾による被害は、これだけで終わらなかった。船体内部で炸裂した砲弾によってミサイルに誘爆するという、イギリス艦隊にとって最悪の事態に発展してしまう。イギリス艦隊旗艦ダービーは大爆発を起こし、船体がくの字に折れて沈んでいく。

 

「ダービー轟沈!」

「我が艦が艦隊指揮を引き継ぐ!」

 

 即座に指揮権がボーフォートに移行され、艦隊の混乱を最小限に食い止める。ミサイルを乱射し奮戦するイギリス艦隊。だが主力である駆逐艦を喪失したイギリス艦隊にとってかなり不利な状況だった。そしてとうとう最悪の事態に発展する。

 

「対艦ミサイル残弾ゼロ!」

「アバコーンもミサイルが切れたようです!」

 

 敵の残りは戦艦1、軽巡1、駆逐2。主要攻撃である対艦ミサイルが使用不能となった今、深海棲艦に対抗可能な兵器は主砲だけであるが、軽巡、駆逐級はともかく、戦艦を撃破出来るほどの能力はない。そのため、アルフは戦闘は困難であると判断した。

 

「ここまでか。撤退する」

 

午前11時44分

 

 撤退を開始するイギリス艦隊。だが深海棲艦がそう簡単に逃がすはずもなく、追いすがってくる。イギリス艦隊は艦砲で牽制する、残っていた対空ミサイルを敵の艦隊の真上で爆発させてひるませるなど、あの手この手で逃走を図った。だがその努力も空しく、深海棲艦の攻撃によってイギリス艦隊は捉えられることとなる。

 ボーフォートの船体が轟音と共に大きく揺れる。被弾したのだ。

 

「ダメージレポート!」

「5インチ砲二発被弾!主砲、ミサイル使用不能!」

「機関出力低下!速度が上がりません!」

 

 ボーフォートにとって最悪の状況だった。機銃は残っているが牽制にすらならない。

 

「アバコーンに援護要請!」

「ダメです!滅多打ちにされています!」

 

 慌ててモニターに目をやると、そこには駆逐級の砲撃にさらされ、ボロボロになっていくアバコーンの姿があった。辛うじて浮いてはいるが、いつ沈んでもおかしくない。

 

「ここまでか……」

 

 この絶体絶命の状況で既に打つ手はない。アルフは悔し気に顔を歪ませ呟いた。

――その時、それは起こった。

 

 

 

2017年4月23日正午。

 

「か、艦長?」

 

 突然身体から白い光を放ち始めたアルフに、CICの誰もが戸惑っていた。最もこの場で一番困惑しているのはアルフ自身だった。

 

「なんだこりゃ……」

 

 彼の異常は身体は光るだけではない。身体自体が変化しているのが彼自身もわかっていた。そしてそれと同時に、彼の頭の中には現代社会での常識や軍事知識と言った様々な知識が刻み込まれていた。現代社会に生きており、そして海軍軍人である彼には馴染みの深いもの。だが、その中には、聞いたこともない知識も混ざっていた。

 

提督、艦娘、妖精。

 

 そのどれもが荒唐無稽だが、なぜかそう言うものだと納得している自分にアルフは戸惑いを隠せないでいた。

 

 十秒が経過した頃、アルフから放たれていた光は収まった。この奇妙な状況に、戦闘中であるにもかかわらず困惑するCICの一同。

だが非常識な現象はこれで終わりではない。今度はアルフの目の前に光球が現れた。

 

「今度はなんだ?」

 

 CICの誰かが呟く。その間にも光球は人のシルエットに形作られていく。輪郭から見て女性だろうか?光球の変化が終わると、それは突如強い光が放たれる。

 

 そして光が収まった時――、そこにはある人物がいた。

 コルセット付きのドレスの様な衣装を身にまとった、ロングストレートのブロンド髪の少女。彼女はアルフに微笑みかけた。

 

「我が名は、Queen Elizabeth class Battleship Warspite! Admiral……、よろしく頼むわね」

 

 アルフを含めた全員は、次々に起こる異常事態についていけなかった。そして彼女――ウォースパイトも誰も何も言ってもらえず戸惑っていた。誰もが沈黙する中、ウォースパイトは戦いの気配を感じたのか、一度、深海棲艦がいる方向をチラリと見た後、アルフに真剣な表情で向き直る。

 

「敵が来ます。Admiral、指示を」

 

 彼女の発した敵という言葉でアルフは冷静になる。現在、危機的状況だ。いつまでも呆けている訳にはいかない。だからこそ彼女の正体を知る彼は、ウォースパイトに命令する。

 

「出撃だ。敵艦隊を撃破せよ」

「Yes,sir」

 

 海軍式の敬礼と共に、CICから飛び出すウォースパイト。それを見送ると、アルフは気を引き締め直し、CICの面々に指示を飛ばす。

 

「我が艦は彼女を援護する!機銃起動、敵を牽制しろ!」

 

 彼の言葉に戸惑いながらも、各々の仕事に取り掛かる部下たち。

 

「艦長。彼女はいったい……?」

 

 部下の一人が戸惑ったように質問する。CICの誰もが知りたいことであり、理解しているのは、この場ではアルフしかいない。アルフは肩をすくめ、答えた。

 

「彼女も言っただろ。……戦艦だ」

 

 

 

 艤装を展開しフリゲートから飛び降りたウォースパイトは、深海棲艦の艦隊と対峙していた。敵は戦艦1、軽巡1、駆逐2。そしてそのどれもが、大小の損傷を負っている。数の差はあるが、これならば十分勝機はあった。照準は敵旗艦の戦艦ル級。敵艦隊で一番脅威となる存在だ。

 

「Enemy ship is in sight. Open fire!」

 

 艤装の38,1cm砲が発射され、砲弾は攻撃を回避しようとする戦艦ル級を撃ち抜いた。倒れ伏しその身を海に沈めていく戦艦ル級の姿に、ウォースパイトは安堵した。

 

(これで後は残党処理ね)

 

 戦艦砲は装填速度が遅いため、次の発射まで時間がかかるが、残った敵は軽巡級と駆逐級。対空兵装兼副砲の連装高角砲で十分だった。回避行動を取りつつ、敵艦隊に高角砲を連射するウォースパイト。彼女の思惑通り、深海棲艦はダメージを受けていく。

 だが、深海棲艦もやられっぱなしではなかった。軽巡級を戦闘に単縦陣になると、ウォースパイトに突撃を開始した。ウォースパイトも不審に思いながらも迎撃するが、その突撃は簡単には止まらない。

軽巡級が沈み、駆逐級の一隻は撃破された。だが、最後の駆逐級はウォースパイトの目の前まで接近出来た。その時にはウォースパイトも敵の狙いを悟った。

 

「No!」

 

 駆逐艦の持つ強力な対艦兵装、魚雷。これが命中すればウォースパイトもタダでは済まない。敵の突撃は必殺兵器を回避不能な距離で発射するための捨て身の特攻だった。高角砲では発射を阻止できない。戦艦砲は装填中。そして回避は困難。ウォースパイトを倒す存在はそこにあった。

 

 だが、この戦場にはもう一つ戦力が存在している。

 

 駆逐級の身体が横に弾かれる。ボーフォートから放たれる30mm機銃からの弾幕だった。深海棲艦にとっては自身を沈めるほどの威力などない対空兵装。だがそれでも隙を作るには十分だった。

 

「Fire!」

 

 ウォースパイトは駆逐級の突撃を回避、高角砲を無防備な身体に叩きこんだ。後には、穴だらけになりその身を海に浮かべる駆逐級だけが残っていた。

 一つ息を着くと、ウォースパイトはボーフォートに向き直った。ゆっくりと近づくボロボロのフリゲートに彼女は笑みを浮かべた。

 

「Thank you very much. Admiral」

 

 これが公式の記録に残る艦娘による最初の戦闘だった。そしてこの日以降、追い詰められていた人類の反撃が始まることとなる。

 




今後の展開としては、新章として提督が主人公で日本が舞台の話を予定中です。ただその前にZEROの番外編を書くかも?


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艦これZERO番外編1 ある日の掲示板あるいは現状確認(掲示板形式注意)

番外編として、世界情勢を掲示板形式で書いてみました


【絶望の】人類がそろそろ絶滅しそうな件 その88【末期戦】

 

334: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 【悲報】海自壊滅【ムリゲー】

 

335: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 日本オワタwwwオワタ……

 

336: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 残っている戦力はどの位?

 

337: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

ミサイル護衛艦は2隻、汎用護衛艦は8隻。ヘリ空母はどうだっけ?

 

338: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ヘリ空母じゃないから。ヘリコプター搭載護衛艦だから(震え声)。

 いずもが残ってるらしい。

 

339: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 イギリス「まだまだ元気じゃないか!」

 

340: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>339

 元の数から数えた場合、壊滅だから!

 

341: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

>>339

軍事サボって空母すら捨てた国は黙ってようね

 

342: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 しかしこの状況、本当に詰んでないか?

 

343: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 政府の発表だと、地対艦ミサイルと地対空ミサイルは大量配備したから、当面大丈夫らしい

 

344: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 大丈夫(大本営発表)

 

345: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

アカン(白目)

 

346: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

オワタ(白目)

 

347: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 在日米軍はどうなん?

 

348: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ボロボロで動けないらしい

 

349: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>347

空母が残ってるよ。大破してるがな!

 

350: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

>>347

 駆逐艦も日本防衛で軒並み沈んで壊滅状態だって

 

351: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 真面目に詰んでるやん……

 

352: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 東南アジアよりマシだから(震え声)

 

353: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>352

 深海棲艦「お前も東南アジアみたいになるんやで」(ニッコリ)

 

354: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>352

 あそこって、もはや無人やん……

 

355: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>354

 生き残りがいる可能性は高いし(震え声)

 

356: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>352

 よりにもよって南沙諸島に敵の拠点が出来ちゃったしな。艦砲と爆撃連打されれば、そりゃ陥落するわ

 

357: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 真面目な話、日本ってあと何年持つと思う?

 

358: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 深海棲艦が出てきて以来、資源とか食料をかなりため込んできたし、2年は生き残れんじゃね?

 後は、護衛船団で資源が入ってくればもう少し持つかも

 

359: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>358

 船団を護衛するための戦力が無いがな!

 

360: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 通商破壊、海上封鎖。あれ?どこかで見たような……

 

361: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 つ 太平洋戦争末期の日本

 

362: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 実際、公園とかが芋畑になっているから笑えない……

 

363: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 日本は終わりみたいですね……

 生き残りそうな国ってどこ?

 

364: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカ(即答)

 

365: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカ

 

366: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカしかない

 

367: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>364

 >>365

 >>366

 即答ワロタw

 

368: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 実際本気を出したアメリカ様は強いからな

 太平洋と大西洋から攻められてるのに、生き残ってる辺りヤバい

 

369: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 流石米帝様や!どっかの島国とは違うんや!

 

370: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカ大統領「俺は死にそうな件について」

 

371: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ハワイで民間人に80万も死者出せば残当

 

372: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 大統領は出荷よー

 

373: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 (´・ω・`)そんなー

 

374: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 中国「俺だって生き残ってるぞ!」

 

375: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 あんたんところ内ゲバ中やん

 

376: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>375

 どういうこと? 説明頼む

 

377: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>376

 色々と落ち目な共産党に見切りをつけて、軍閥が次の中国のトップになるために策謀している。しかもチベットとかの独立勢力もいるからカオスw

 

378: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>376

 要するにいつもの中華ムーブやで

 

379: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 はえー、そんなことになってるんか

 てか、人類共通の敵がいるのに内ゲバするとかアホなん?

 

380: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 人類が一致団結とか無理やろ(断言)

 

381: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

>>380

 それなw

 いや笑えないけどな

 

382: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 中東は中東で、アメリカがいない内にイスラエルを殴ろうとしてるし、アフリカとかリアル北斗○拳だしな

 

383: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 人類オワタw

 

384: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ?「人類は降伏しない。絶対に、絶対に、絶対に!」

 

385: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 おはチャーチル

 

386: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>385

 深海棲艦「降伏って何ですか?」

 




あれ?これ人類詰んでね?


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鎮守府編(番外編) 鎮守府編1話 提督と瑞鶴と陣形

折角なので加筆修正。


 資源

 この名は主に燃料・弾薬・鋼材・ボーキサイトの総称として使われるが、これらは鎮守府運営に深く関わる存在である。艦娘の出撃、修理は当然の事、基地航空隊の運用、演習、艦娘の建造、装備の開発、一部鎮守府では施設自体の建設、運営にも使われている。

 当然の事ではあるが資源の備蓄は鎮守府運営に置いての至上命題である。備蓄がなければ安定した艦隊運用が出来ないし、大規模作戦の遂行も儘ならない。本土から遠く離れた鎮守府においては、鎮守府自体の存続にも関わることもある。過去には備蓄を怠っていた鎮守府が大規模編成の深海棲艦に襲撃され、防衛戦を行うも資源が尽きたために壊滅した事件すらあった。

 

「資源を見れば、提督、司令官の大体の能力がわかる」

 

 あるベテラン提督の言葉であるが、的を射たものである。実際、提督や司令官に対する評価項目には『資源管理』の欄があり、重要な指標の一つとされている。

 資源を大量に消費することは、提督、司令官に取って出来るだけ避けるものであり、もし思わぬ形で大量消費をしてしまった場合、彼らはその消費量に頭を抱えてしまうだろう。

 つまり何が言いたいのかというと、

 

「ヒデェ消費量だ」

 

 彼が先日の演習での資源消費量に頭を抱えるのは当然ということ、ということだ。

 

「輪形陣の艦隊に航空攻撃をしたんだから当然じゃない」

 

 本日の秘書艦である瑞鶴が呆れ顔をしつつ提督にお茶を出す。好みの問題なのか、彼女が秘書艦の時に出される飲み物は緑茶が多い。

 

「ある程度の消費は覚悟していたけど、ここまで効果が出るとは思わなかったんだよ」

 

 ため息を吐きつつ提督は受け取った茶をすすった。程よい苦みが口の中に広がる。

 

「でもなんでこんな演習やったの?」

 

 秘書艦席に戻った瑞鶴が、報告書のコピーを手に尋ねる。報告書の表題には『特殊輪形陣実験演習』と書かれていた。

 

「まあ、戦術的に有効だしな」

 

 特殊輪形陣実験演習

 新型の輪形陣の効力を見るために実施された演習だった。内容は正規空母6隻から来る航空攻撃を、連合艦隊で出撃した正規空母2隻軽空母2隻編成の空母機動部隊が防ぐというもの。そのため防御側が攻撃側艦娘に攻撃をすることは禁止されていた。

 それぞれの編成であるが、攻撃側は赤城を旗艦とし随伴を加賀、蒼龍、飛龍、雲竜、天城で固めるという通常出撃では早々見ることのない編成であるが、防御側からの反撃はないというルールであったため問題はなかった。装備はそれぞれ艦隊攻撃用の流星改に彗星一二型、攻撃隊の護衛のための烈風と、上位兵装で固められていた。

 対する防御側は第一艦隊が旗艦の翔鶴、随伴として瑞鶴、千歳、千代田、金剛、摩耶。第二艦隊が旗艦を利根、随伴艦が五十鈴、浦風、磯風、浜風、谷風。装備は旗艦の翔鶴には14号対空電探が装備されており、空母陣には防空用の烈風が多めであったが、攻撃隊として流星改も編成されていた。また随伴艦は摩耶、五十鈴、利根といった対空能力の高い艦はいるものの、第17駆逐隊は対空に関する能力は平均的なものであった。そして防御側唯一の戦艦である金剛は三式弾は装備しておらず、代わりに14号対空電探を装備していた。

 このまま演習した場合航空均等状態となり、防御側は打撃を受けることになると予測されていた。だが――

 

「攻撃隊がほぼ全滅したため防御側の実質勝利。よく加賀と張り合ってるお前にとっては良かったんじゃないのか?」

「確かに演習が終わって一航戦の二人がへこんでたけど、私としては複雑かなー」

「そうか?お前、勝った側だろ」

「そうだけどさー」

 

 報告書を机に置き、自分用に切り分けた羊羹を竹串でつつく瑞鶴。因みにその羊羹は提督が執務室にいつもストックしている間宮羊羹だ。たまにこの間宮羊羹目的で秘書艦に立候補する艦もいたりする。

 

「私がコテンパンにされた戦術だしねー」

 

 演習で使われた特殊輪形陣はマリアナ沖海戦――つまり軍艦時代の瑞鶴が参加し敗北した際のアメリカ軍側の輪形陣を出来る限り再現したものだった。

 

 マリアナ沖海戦で猛威を振るったのが、戦闘機で空中哨戒をする「CAP」、艦隊の前方に展開しレーダーで索敵を行い艦隊に通報した「ピケット艦」、自艦のレーダー情報だけでなく僚艦からの情報が伝えられ、それを元に戦闘指揮を行う「CIC」である。

 ちなみに「VT信管」も有名であるが、マリアナ沖海戦当時はVT信管の製造が間に合っておらず全高角砲弾の内の20%であったし、有効性もアメリカ側の公刊戦史では千発撃って一機撃破とされており過信するようなものではなかった。

 

「でも提督さんもかなり無茶なことしたよね」

「何がだ?」

「輪形陣の再現のこと」

「まあな……」

 

 アメリカ海軍の輪形陣を再現することにおいて様々な問題があった。

 まずピケット艦についてだが、今回の特例として防御側に連合艦隊とは別に第四駆逐隊にピケット艦役で参加してもらった。対深海棲艦では艦隊航行の関係でまず出来ないことではあるし、当然攻撃側からも文句が出たが、実験ということとピケット艦は対空攻撃をしないということで押し切ることとなる。

 また艦隊の装備についてだが、現装備ではレーダー管制射撃が出来ないため、当時のアメリカ海軍の様な濃密な対空砲火が出来なかったし、電探の性能もお粗末なものだった。これらの問題に対してはアメリカ艦娘の装備がほとんど手に入らないため、仕方ないものと割り切った。

 

 最大の問題となったのはCICだった。CICで戦闘機隊に戦闘指揮を行うことになるのは旗艦である翔鶴の役目となるのだが、

 

「艦隊指揮で手が一杯です」

 

 と言われてしまった。自艦レーダー情報、僚艦からの情報をまとめ上げ、戦闘機隊に迎撃指示を行う、という仕事は、戦闘及び艦隊指揮を行いながらでは無理があった。

 とは言え今回の陣形の要となるシステムであるCICを諦めるわけにはいかない。なんとかならないかと考えた提督は、あくまで実験ということであり得ない命令を出す。

 

「流石にCICを鳳翔さんがするとは思わなかったわ」

「無茶が過ぎることは解ってる」

 

 このことを演習メンバーに発表した時には、全員が驚きの声を上げることとなり、CIC役の鳳翔も苦笑していた。

 

 ともかくかなり強引に再現されたマリアナ海戦時のアメリカ海軍輪形陣だが、演習が始まるとその威力を発揮することとなる。

 

「あれをやられた経験者からすると、複雑な気持ちになるわ」

「翔鶴も同じことを言ってたぞ」

 

 艦隊前方で警戒していたピケット艦役の嵐の持つ電探が、攻撃側から発艦した多数の航空機を探知、嵐から報告を受け翔鶴は防衛用の戦闘機を発艦させた。戦闘機隊は艦隊前方に進出し、上空で待機。

 対する攻撃側も、防御側が電探を多数装備していることから、攻撃機隊は電探補足されないよう低空を飛行していた。しかし艦隊に近づくにつれて電探に見つかることになる。各艦からの情報を得たCIC役の鳳翔は各戦闘機隊に対し、効率よく迎撃を指示した。

 そこからは蹂躙劇だった。

攻撃機隊の直上から烈風の編隊が急降下、攻撃機隊が気付いた時にはすでに手遅れであり、攻撃機隊は護衛戦闘機も含めて次々に撃墜判定を受けていく。そのような光景が空の各所で見られた。

 勿論攻撃側もただ攻撃されるだけではない。護衛戦闘機は必死に迎撃機を防ぎ、攻撃機を守ろうと奮闘する。マリアナ沖海戦の様に戦闘機の性能に違いはない。抵抗は可能だった。攻撃機も分散しなんとか艦隊にたどり着こうと分散する。

 だが迎撃機はCICによる的確な指示の元、攻撃をしてくるのだ。どれもが電探に捕らえられ迎撃機を差し向けられやられていく。

 その様な惨劇の中、辛うじて戦闘機隊の迎撃を掻い潜った攻撃機隊が艦隊に迫る。敗北はほぼ確定していたが一矢報いようと突撃する彼らに待っていたのは、手ぐすねを引いて待っている護衛艦隊だった。

 レーダー管制こそないが金剛指揮の下で一斉に放たれた対空砲火は、本家アメリカ海軍には劣るものの濃厚な弾幕を形成し攻撃機を次々に撃破。最後の一機が何とか千歳に雷撃を成功させるも、回避された挙句に弾幕に絡め取られて撃墜判定となった。

 

「まあ、今回の演習でアメリカ式輪形陣が有効で、再現もできることが分かった。後はどうやって実戦で使えるようにするかだ」

「ふーん。……でもさ」

「ん?」

「防空に関しては自衛隊に任せた方が早いんじゃ?」

「それを言ってしまったお終いだろ……」

 

 人類が作った兵器類は深海棲艦に対して効果は薄い。深海棲艦が元となった艦のスペックをそのまま発揮している事も理由の一つだが、深海棲艦が常時展開しているバリアの様なものが主な要因である。このバリアをある程度無効化して攻撃することが出来るのが艦娘だけであるために、現在では基本的に対深海棲艦において艦船での戦闘は行われていない。

 しかし、現代兵器の役目が終わったわけではなく、現在も戦場で活躍を続けている。

その活躍分野の一つが防空分野である。深海棲艦の放つ艦載機には、本体の様にバリアは使われておらず、現代兵器でもその効果は有効だった。当初こそ、中型の鳥類と同等という小ささで苦戦していたが、対抗兵器が開発され戦場で活躍することとなる。

 自衛隊と艦娘の共同戦闘においては、制空分野をある程度戦闘艦に任せることも多かった。

 

「まあ毎回自衛隊と共同作戦をするわけでもないし、研究しておいて損はないだろ」

「そっか。ところでその輪形陣について赤城さんから意見書が出てるみたい」

「意見書?」

「はいこれ」

 

 書類を受け取り、読み進めていく。しばらくすると提督の顔は苦り切ったものとなっていく。

 

「どうしたの?」

「オブラートに包んでいるが、要するに『もう一回演習をやろう』だとさ」

「で、やるの?」

「やるわけがない」

 

 肩をすくめつつ、意見書を机に放り投げる。あのような演習を何度もするほど鎮守府に余裕があるわけではない。

 

「でも却下したところで、また意見書が出るかも」

 

 瑞鶴の言葉もあり得ることだった。赤城はかなり負けず嫌いである。最悪本人が直接乗り込んで来るかもしれない。

 

「……なんとか説得してくる」

「頑張ってね」

 

 赤城への心を込めた説得(買収含む)の結果、夕食を奢ることで何とか提案は取り下げてもらえた。しかしこのことを聞いた演習での攻撃側メンバーが来襲。結局、全員に奢ることになり、提督の財布に多大なるダメージを与えることとなった。

 




提督の財布へのダメージ判定:71
十万単位で消えたな(確信)

 演習判定のログが消えた……
 仕方ないのでチラリと出てきた深海棲艦の艦載機に対する対抗兵器を紹介。

30式艦対空誘導弾。
 対艦載機兵器である「16式艦対空誘導弾」の後継。16式のコンセプトである「大量にやってくる艦載機を大規模爆発で一気に撃墜する」を受け継ぎ、より高性能化している。16式で使われていたサーモバリック爆薬を強化しており、爆発効果範囲が拡大した。現在、16式と置き換わる形で配備されている。


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鎮守府編2話 提督と叢雲とお昼時

艦娘の個性の話


 ある日の鎮守府執務室。提督は書類仕事に追われていた。ここ数日、この鎮守府の担当区域ギリギリに大規模な深海棲艦の艦隊が出現。隣接鎮守府と連携して対応することとなった。

 問題は隣接した鎮守府の戦力は当鎮守府より貧弱で、こちらが大半の戦力を出す羽目になっていた。そのために出撃に関する各種書類を早急に作成する必要が出たのだ。

 

「ふむ……」

 

 チラリと時計に目を向ける。そろそろ昼食の時間で空腹ではあるのだが、目の前の書類の山を見ると、とてもではないが食堂まで行ってのんびりと昼食を採る時間はなさそうである。食堂で仕事をしながら食べるのもいいが、食堂を取り仕切る間宮があまりいい顔をしないだろう。以前やったら調理をしつつもチラチラとこちらを見ていた。

 ベストなのは今日の秘書艦の龍驤に食堂から昼食を持ってきてもらうことなのだが、生憎と先に休憩に出していてここにはいない。十分前に出たばかりなので当分帰ってこないだろう。

 いっそのこと食べないという選択肢もあるが、それをやると確実に間宮が乗り込んで来る。彼女は食事を抜く等の食にまつわる不健康な行為には厳しい。

 

(出前しかないか)

 

 間宮が提案、構築した食事のデリバリーシステム。この鎮守府では大規模作戦従事時や緊急時によく使用されるシステムで、食堂に連絡を入れることにより、食堂で働いている者、間宮や伊良子、手すきの艦娘や妖精が持ってきてくれる。最もメニューはおにぎりの様な軽食だけだし、食堂が混雑時には届くのに時間がかかることが多い。

 現時刻は食堂が一番忙しい時間帯。出前が届くのはかなり遅くなるだろうが、仕方がない。

 そのようなことを考えつつ執務机に備え付けてある電話に手を伸ばした所で、室内にノックの音が響いた。

 

 

 

「ふむ」

 

 目の前には白米に、味噌汁、ほうれん草のお浸し、たくあんが数切れ、そしてメインのサバの味噌煮。いつもなら食堂で出される間宮謹製のサバの味噌煮定食が目の前に並んでいる。

 

「お茶入れてきたわよ」

 

 出される緑茶。食堂にいつも備え付けているものではなく、提督が執務中に飲む自費で購入した茶葉で入れられたものだ。付き合いの長い彼女が入れたものであるため、見事に提督の好みの濃さになっている。

 

「ああ、ありがとう叢雲」

 

 特型駆逐艦五番艦叢雲。

 提督が初めて出会った艦娘、いわゆる初期艦である。

 

「どういたしまして。お礼代わりにこれもらうわよ」

「それが狙いだったか」

 

 彼女の手にはアイスが一本――間宮や伊良子が作る本格的なアイスではなく、安物のソーダ味の棒アイスが握られていた。執務室には間宮羊羹だけでなく、煎餅やクッキー、アイスと言った保存のきく菓子類がストックされている。提督が自分用に自費購入したものではあるものの、艦娘たちは割と容赦なく持っていっていた。

 

「しかしよくわかったな」

「なにが?」

「俺が食堂に行けないってこと」

「龍驤さんに頼まれたのよ。『忙しいらしい』だって」

「その龍驤は?」

「鳳翔さんのところに行ってるわ。試作品の試食だって」

「そうか」

 

 この鎮守府の龍驤はかなり舌が肥えている。そのためか間宮や伊良子、鳳翔といった料理が得意な艦娘から味見を頼まれることが多かった。

 

「しかし叢雲」

「なによ」

「随分と思い切った髪の切り方をしたな」

 

 サバの味噌煮に箸を付けつつ、提督は叢雲の髪に視線を移す。そこに腰まで届く銀髪はなく、ショートカットにカットされていた。

 

「今日はショートカットの気分だったのよ」

「三日前がボブカットだったっけ」

「そうよ。入渠すれば身体が元に戻るんだから便利だわ」

 

 戦闘により負傷をすることが多い艦娘が常に戦場に出ることが出来る要因が、鎮守府に設置されている入渠施設だ。大概の傷なら入渠施設を使えば、長くても24時間で全快する脅威の施設。元々人間と比べて傷の治りが早い艦娘ではあるが、入渠施設がなければ無限に湧き出してくる深海棲艦との戦闘はできないことは、誰の目にも明らかである。

 入渠による治療だが、艦娘が無意識に思い浮かべる『自分の姿』を元に治療しているようである。そのため叢雲の様に髪を切っても、入渠での治療の際『髪の長い叢雲』を元に治療するため、入渠が完了するとよく見る髪の長い叢雲が出てくる。

 

「しかしお前も随分と変わったな。昔は中々融通が利かないタイプだったのに」

「アンタに呼ばれてもう二十年よ。ある程度性格だって変わるに決まってるじゃない」

「その結果性格が丸くなった、と」

 

 艦娘は建造された際、基本的に体格や性格はその艦によってある程度テンプレが決まっている。そして艦娘が過ごした環境、年月で変化していくのだ。

 叢雲の場合、建造当初は所謂クールな一匹狼なタイプだったが、十八年程前にとある作戦で出会ったお節介好きな女性自衛官と出会ってから大きく変化し始めた。女性自衛官に引きずられる形で性格も柔らかくなり始め、またファッション関連全般に興味を持つようになった。現在の叢雲の趣味が洋服の作成なあたり、入れ込み具合がよく分かる。なお件の女性自衛官とは交流が続いている。

 

「大和用の服も作ってるんだって?」

「武蔵さんの依頼でね。後にペアで着れる様に武蔵さん用のやつも作ってるわ」

「アイツの大和への入れ込み具合も中々だな」

「ああ言うのをシスコンっていうのかしら」

「どちらかと言えば庇護欲に近くないか?」

「あー、ウチの大和さんって他より小さいものね」

 

 艦娘は基本的にどこの鎮守府で建造されようが容姿は変わらないが、ごく稀にだが他と容姿が違う艦娘が建造されることがある。ここの鎮守府では大和がその例に入る。

 身長は駆逐艦――吹雪型程度であり、性格の方は通常の大和のそれだが、体格に引きずられたのかどことなく子供っぽい。そのせいなのか戦艦組よりも駆逐艦たちとの方が、仲が良かったりする。鎮守府内では駆逐艦に混じって遊ぶ大和の姿がよく見かけられる。最も当の大和は自分の体格の事を大分気にしており、身長が伸びるようにと毎朝の牛乳は欠かさないのだが。

 

「でもなんでああいうイレギュラーな艦娘が出るのかしらね」

「さあな。案外妖精さんがいじくったせいかもな」

「それもあるかもね。どうせだったら私も大人の身体が良かったのに」

「あー大人の叢雲は見たことないな。代わりに大人の龍驤なら見たことあるぞ」

「そうなの?」

「ああ、体格は蒼龍に近かった――」

 

 そこまで言ったところで――

執務室の扉が乱暴に開かれ、小さい影が飛び込んできた。それは一直線に提督まで駆け抜けると、彼に飛びついた。

 

「それ本当なんやな!?」

 

 その影の名は龍驤。提督の肩をつかむ彼女には並々ならぬ気迫をまとっていた。

 

「確かに蒼龍の身体のウチがいたんやな!」

「た、確かに見たが……」

「よし、よしよしよしよし!」

 

 提督から離れ、両拳を握りガッツポーズを取る龍驤。叢雲が恐る恐る声を掛けた。

 

「えっと、どうしたのよ……」

「希望が見えたんや」

「えっと?」

「『蒼龍の様な身体の龍驤』がいるということは、ウチも将来そうなる可能性があるということや。もちろん蒼龍みたいになるのは難しいかもしれへんが、それなりに成長する可能性は高い!」

「お、おう」

「キミィ、いつか成長した身体でブイブイいわしちゃるからな。楽しみにしててや!」

 

 それだけ言うと龍驤は執務室から飛び出していった。因みにまだ彼女は休憩時間中なので、出ていくことには問題はない。

 あまりの展開の速さについていけていない執務室の二人。しばらくの沈黙の後、口を開いたのは提督だった。

 

「……あいつ自分の体系については、悩んでなかったんじゃ?龍驤自身がネタにしてたぞ」

「……アンタが希望を見せちゃったから、ああなったんじゃない?」

「つまり俺のせいか……」

「艦娘って成長できるの?」

「……艦娘が出てきてから二十年経っているが、改造以外での成長例は一応ある」

「そうなの?」

「ただ成長したといっても身長が数センチ伸びたというものだ。スリーサイズや体重の変動の例もあるが、そっちは食生活の問題だったらしい」

「つまり?」

「龍驤の言うような大きな変化は見込めない。あったとしても少し成長するぐらいだ」

「……」

 

 その後、仕事に戻ったキラキラオーラ全開な龍驤の仕事スピードは凄まじく、提督が抱えていた仕事が夕方には終わる程であった。なお提督はそんな彼女に艦娘の成長についての事例を言うようなことは出来なかった。

 




龍驤成長可能性判定:98
( ゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシ
 
(;゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚) …!?

( ゚д゚ ) これは蒼龍こえますわ…


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鎮守府編2.5話 提督の龍驤観察日記。

お詫び投稿のため、勢いで書きました。


20○○年○月△日

 提督になって以来書いている日記だが、まさかこんなことを書くことになるとは思わなかった。

 龍驤の身体が成長した。彼女は半年前から自分の身体を成長させる努力をしていた。そして本日、とうとう成果が出た。半年前よりも身長が0.5cmだが伸びたと、彼女が嬉しそうに報告しに来たのだ。

 艦娘の身体の成長自体がレアケースだ。まさか実際に見る事が出来るとは思わなかった。

 これからは、この日記に龍驤の成長記録も書くことになるかもしれない。

 

 

 

20○×年△月□日

 龍驤の成長が始まって一年が経った。まさか身長が3cmも伸びているとは思わなかった。バストも大きくなったと本人は言っていたが、見た目では分からなかった。

 ただ、龍驤の成長が本土の連中に知られたらしく、龍驤の継続的な成長報告を申し込んできた。正直仕事が増えるだけだし、強制ではないので断りたかったが、相手もかなりしつこかった。とりあえず大淀・霧島と組んで条件闘争に持ち込んでみた。結果は仕事は引き受けることになったが、代わりに鎮守府の運用資金の増額を中心に、色々ともぎ取れた。今日は龍驤も呼んで四人で宴会だ。

 

 

 

20○×年◇月○日

 龍驤の成長が始まり一年半が経過。まだ成長は続いていた。正直そろそろ成長が止まるだろうと思っていたから、驚きだ。

 龍驤もテンションが上がっているのか、「このまま蒼龍も超えたるで!」と気炎を上げていた。

 

 

 

20◇○年□月□日

 最近龍驤の身長は伸び悩み始めた。成長の開始から二年。元は135cmだった身長が7cmも伸びたのだから十分凄い。しかし本人は納得いかないようで、龍驤が相談にやってきた。

 今までどういう事をやってきたのか確認してみる。基本的に食事、運動、睡眠をしっかり行う、というものだった。他にも色々と努力をしていた様で、その説明も受けたのだが今一理解できなかった。

 とりあえず、今まではランニングなど軽めの運動を中心に行っていた様だったので、運動のレベルを上げる事を提案してみた。具体的には筋トレだ。早速、鎮守府のトレーニング施設に行き、丁度そこにいた長門と天霧に龍驤のトレーニングメニューの相談をしたのだが、どういうわけか自分も付き合う羽目になった。どうしてこうなった。

 

 

 

20□○年×月×日

 まさか筋トレが大当たりするとは思わなかった。二年目の伸び悩みが嘘のように、龍驤は急成長を果たしていた。身長は150cmを突破。それに合わせて身体も成長しているとのこと。二次性徴か?

 本人に聞いてみたらどうやら食事メニューも関係しているらしい。特別に間宮や鳳翔に用意してもらっていたと言っていた。自分の分も用意してもらえないか訊いてみるか?そんな事を考えていたら、本土の連中の指示で筋トレと食事のメニューを報告することになった。正直めんどくさい。

 後、龍驤が買い物に行きたいと言い出した。急に身長が伸びたせいで、着るものがないらしい。そんなわけで、急遽シフトを作り直す羽目になった。代わりにお土産を確約させておいたが。

 

 

 

20×◇年◇月□日

 身長の伸びは落ち着き始めていた。去年程の伸びは無い。最も去年が異常だった様な気がするが。

 龍驤曰く、代わりに体型の方は成長は続いているらしい。現時点で体格はほぼ蒼龍レベルだそうだ。とりあえず目標である蒼龍クラスの身体を手に入れられてご満悦な彼女だが、今まではランニングなど軽めの運動を中心に行っていた様だったので

成長のための努力は続けるらしい。

 そう言う龍驤の手には真新しい服が入った紙袋があった。叢雲に頼んで今の体型に合う服を作ってもらったらしい。去年買った服について聞いたら、「もう着られへん」とか

言っていた。

 

 

 

20◇□年○月×日

 この半年身長及び体型の成長が見られない。本土の連中が言うには、成長は終わったらしい。彼女の成長は五年目で止まることになった。とはいえ龍驤は結果に満足しているらしく、今後も筋トレは続けるらしいが、それは主に体型を崩さないためのものだそうだ。

 しかし成長の結果、雲龍並になるとは思わなかった。

 

 

 

20◇□年◇月○日

 本土で会議があったので龍驤を秘書艦として連れていくことにした。誰もが龍驤を二度見していた。気持ちはよく分かる。

 会議が終わった後、龍驤を迎えに行ったら他の鎮守府の艦娘に囲まれていた。成長の秘訣について聞かれていたらしい。「モテル女はつらいわー」とか言っていた。

 

 

 

20◇◇年×月×日

 以前と比べて、龍驤の戦果が上がっている。身体が大きくなったからだと思ったが、よく一緒に出撃している鳳翔が言うには、身体のコンプレックスがなくなって自信がついたという、メンタル面から来るものらしい。

 最近、一部の艦娘が龍驤に色々と質問攻めをしているところをよく見る。自分も身体を成長させていらしい。龍驤が異例なだけなのだが……。

 

 

 

20◇◇年○月○日

 他の鎮守府との演習で、ほぼ毎回龍驤が指名される。どうやら向こうの艦娘からの要望らしい。演習が終わると、よく艦娘に囲まれている。龍驤の成長のことは全国に知れ渡っており、一部の艦娘からは神の如くあがめられているらしい。「御神体か!」と笑っていた。龍驤が御神体だとすると、自分は神主か?

 

 

 

20○△年△月○日

 どうやら龍驤の認知度は世界規模らしい。海外の艦娘と演習をする機会があったが、龍驤の事を知っている様子だった。

 演習後、龍驤はやっぱり艦娘に囲まれていたが、今回は自分も囲まれることになった。どうやら凄腕のトレーナーの様に見られているらしい。とりあえず、教えても問題なさそうなことを教えてたら、泣いて喜ばれた。

 

 

 

20○△年×月◇日

 最近講習会を頼まれることが多い。内容は勿論龍驤を初めとした、艦娘の成長についてだ。

 この鎮守府の艦娘は龍驤のアドバイスの結果、身長を伸ばすことに成功した艦娘が多い。龍驤程の大きな成長をした艦娘はいないが、それでも他の鎮守府からすれば異常な光景らしい。

 おかげで鎮守府の仕事が回らない。秘書艦二隻体制で対応することになってしまった。どうしてこうなった。

 

 




これがダイス目98の力だ!( ゚д゚ )


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鎮守府編3話 提督と赤城と航空機

 日本列島からやや離れた位置にあるこの鎮守府には、整備された海水浴場が併設されている。夏には手すき艦娘たちが水着でビーチに繰り出し、海水浴を楽しむのがこの鎮守府の風物詩である。最も今の季節は秋であり、ビーチに顔を出す艦娘はほとんどいない。居たとしても散歩のコースとして立ち寄る程度だろう。

 その様な寂れた砂浜に珍しく来客があった。

 一人はこの鎮守府の責任者の提督。いつもは執務室に籠り書類仕事に明け暮れている人物だ。そんな彼はビーチに設置されている椅子に腰かけ頭を顔を上に向けている。

 もう一人は赤城。鎮守府に所属する艦娘の一人で、機動部隊の中核を担う艦娘の一人。彼女は提督から少し離れた位置で艤装を展開させており、提督と同じく空を眺めている。

 彼らの視線の先には赤城の戦闘機隊があった。烈風の編隊は空戦機動をしており、その動きには乱れはない。

 

「どうやら艦載機隊の練度は戻ったようだな」

「そうですね。なんとか演習時の練度まで戻せました」

 

 以前行われた『特殊輪形陣実験演習』で攻撃側として参加していた赤城の艦載機は、大きな損害を受けた。艦攻、艦爆はほぼ全滅、戦闘機も優位な位置からの攻撃を受けていたため、その数を半数まで減らされていた。そのために赤城の艦載機隊の練度は大きく下がっていた。ここ一週間は赤城は艦載機隊の練兵に勤めており、今日ようやく赤城が満足できるレベルになった。

 

「妖精さんたちも気合が入ってましたよ。打倒アメリカ海軍輪形陣って」

「本当に負けず嫌いだな」

 

 妖精。二頭身にデフォルメされた少女の姿をしており、サイズも小人のそれだ。そんな彼女たちだが鎮守府では、主に艦娘の仕事の手伝いや装備の操作を行っている。そして装備の操作を行う妖精の中で特にその身を危険にさらしているのが、航空機に搭乗する妖精だった。

 

「次は特攻も辞さないそうです」

「リスポンするからってそれはマズいだろ」

 

 妖精は死亡しても、艦娘が補給をすれば復活する。それもちゃんと記憶を持ち越してだ。そのため太平洋戦争時のように、航空機があってもまともに使えるパイロットが足りないという事態にはならない。また妖精も死ぬ事はないと開き直ってか、大胆な行動をとることも多い。最も復活した直後は新しい身体に慣れていないため、ある程度の訓練は必要なのだが。

 

「しかし特攻はともかく、いつ敵が来ても良いように備えないといけません」

「そうだな」

 

 赤城の言葉には先日発見された深海棲艦艦隊への懸念が含まれている。十八隻からなる敵艦隊に対して、近隣鎮守府と共同で攻撃を仕掛けることになっていた。この鎮守府からは金剛型を中心とした打撃艦隊の派遣が決定しており、事前に確認された敵の編成を見ればこれで十分勝利できる。

 だが赤城は発見された艦隊を気にしているのではない。発見された艦隊を囮とした、別働隊による鎮守府への奇襲を警戒しているのだ。実際、過去にそのような事例は報告されているのだ。今回は可能性は低いだろうが、安易に否定することは出来ない。

 

「こればかりは鎮守府周辺の哨戒を密にするしかないな」

「そうですね。その時は私も哨戒機を出します」

 

 赤城はそう頷くと右腕に装備されている飛行甲板を水平にした。いつの間にか上空で訓練していた烈風が高度を下げており、着艦の準備に入っている。

 

「ところで」

 

 ふと思い出したように彼女は声を上げた。同時に一機の烈風が危なげなく飛行甲板に着艦し、格納庫に収納される。

 

「なぜ派遣部隊は打撃部隊なのですか?」

 

 航空機の着艦は航空機に乗る妖精はもちろんのこと、受け止める艦娘側も気を使う作業だ。それを難なくこなしながら彼女は言葉を続ける。

 

「今回発見した艦隊は、あちこち移動していると聞きました」

「ああ」

「なら機動部隊の方が良いのでは?航空機での偵察が容易です」

 

 自分も出撃したいという意図が見え見えだった。とはいえ赤城の提案も理に適っているし、実際提督も当初は機動部隊の派遣を考えていた。――ある情報が入るまでは。

 

「敵の編成に軽巡ツ級が四隻もいる」

「それは……」

 

 提督の言葉に赤城は顔を引きつらせる。

 軽巡ツ級。その一番の特徴は高い対空防御能力だ。装備している5インチ両用莢砲と機銃から放たれる濃密な弾幕は、艦載機を操る艦娘にとっては恐怖の的である。航空攻撃が駄目らな砲雷撃戦で仕留めればいいと考える者もいるが、砲火力、雷撃、対潜でも高い能力を持っており、一筋縄ではいかない存在だった。

 

「しかも旗艦は戦艦ル級改だ。ツ級の対空弾幕で減らされた攻撃隊でこいつを仕留めるには無理がある」

「そうですか……。なら航空隊はどうなりますか?」

「千歳と千代田には戦闘機中心の編成をさせた。攻撃機も積んではいるが、あくまで補助だな」

 

 航空機で敵艦隊の位置を索敵、発見したら速度が30ノット以上の高速艦で統一した打撃艦隊で急行、艦隊決戦にて敵を叩く。それが提督の考えたプランだった。制空権下での艦隊決戦など、まるで条件が良くなったレイテ沖海戦のような戦法であるが、艦娘を使った艦隊運用においてはメジャーな戦術である。

 

「制空が得意なお二人なら問題ないですね」

 

 赤城も納得したのか頷く。そしてちょうど最後の艦載機を収納し終える。一つ伸びをすると、彼女は提督に向き直った。

 

「そういえば、提督はなぜここに?今日は非番だったはずですが」

 

 赤城の言葉は合っており、提督の格好はいつもの軍服ではなくラフな私服だった。

 

「ああ」

 

 提督は肩をすくめつつ立ち上がった。その顔には苦笑を浮かべている。

 

「ただの足止めだ」

「へ?」

 

 あっけにとられる赤城。同時にその肩にポンっと手が置かれる。彼女が慌てて振り向いたその先には――

 

「見つけました」

「か、加賀さん……」

 

 赤城の相方である加賀がいた。いつもなら表情の乏しいその顔には、凄みのある笑みが張り付いている。

 

「赤城さん」

「は、はい」

「部屋の掃除をサボってなにをしていたのですか?」

「艦載機の練度に不安があったので自主訓練を……」

「提督」

 

 確認のために提督に向き直る加賀。赤城も顔を向けており「話を合わせて」と目で訴えている。その光景を見た提督は一つ頷き、

 

「練度は問題ないな」

「提督!?」

 

 あっさりと赤城を売った。そもそもこの場に加賀を呼んだのは提督だ。そして彼が赤城と話していたのも、加賀が来るまでの時間稼ぎだったのだ。

 

「それじゃあ行きましょうか」

「ちょ、提督助けて下さい!」

「いや掃除しろよ。お前の部屋、文字通り足の踏み場がなかったぞ」

「人の部屋を勝手に見たんですか!?」

「提督に赤城さんの部屋を見せたら、快く協力してくれたわ」

「加賀さん!?」

 

 赤城の非難を華麗にスルーし、加賀は提督に頭を下げる。

 

「提督、ご協力感謝いたします」

「ああ、お疲れ」

 

 が、この動きがいけなかった。

 

「チャンス!」

 

 肩を掴む力が緩んだと判断した赤城は、身をよじらせ手を振り解いた。そのまま足に力を入れ、逃走しようとする赤城。だが加賀の判断は早かった。

 

「はっ」

「ぐはっ!?」

 

 加賀の振り抜かれた拳がカウンター気味に赤城の鳩尾にめり込む。うめき声を上げてグッタリする赤城を受け止めた。

 

「失礼しました」

 

 そう言って加賀は赤城を引きずっていった

 

 正規空母赤城。この鎮守府では戦闘だけでなく事務も難なくこなすことのできる艦娘なのだが、その私生活は仕事の時とは真逆で自堕落なものだった。それを見かねた加賀は、なんとか矯正しようと思い立つのだが、中々上手くいかないでいた。

 逃げる赤城と追う加賀。

 それはこの鎮守府でよく見られる日常だった。

 




現在の赤城の部屋の汚部屋度:17
加賀がほとんど掃除していたようです


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鎮守府編4話 提督と間宮と食料事情

何故かこんな話が出来た。今回は短いです。



深海棲艦の出現以来、日本は食料の確保に邁進していた。何せ当時のカロリーベースで見た食料自給率は40%前後。深海棲艦によって海上航路を封鎖されれば、あっという間に国民全体が飢えることになるのは目に見えていた。当時の日本政府は荒廃農地の再利用、花等の非食用農地への食用作物の作付けの推奨などが、かなり早い時期から行われることとなる。その後戦況の悪化によって食料事情が悪化の一途を辿るのだが、早期からの努力が功を奏したのか、艦娘の出現とその活躍による限定ではあるが海上航路の復活までの間、日本では殆ど餓死者を出さずにすんでいた。

現在では食料事情がかなり回復しており、飢えで苦しむ人々の姿を見ることは無いと言っても良い状況だ。だからこそ――

 

「深海棲艦って食べられませんか?」

「お前は何を言っているんだ?」

 

 真剣な顔でそんな事を言いだした間宮に、真顔でツッコミを入れることになるとは相席する提督は思ってもみなかった。

 

「こう、イ級辺りの足なら……」

「本当に落ち着け」

 

 頭を抱える提督。今日の仕事が終わり、風呂にでも入ろうかとしていたところに、やって来たのが間宮だった。

「ご相談したいことがあります」

そう言った彼女の願いを了承し、提督は彼女を執務室に招き入れた。思い詰めた様な表情の彼女の願いを断るようなことはできなかった。間宮がこのように提督に相談することは、かなり珍しい。余程重要な事なのかと、気を引き締めていた所で、これである。

 

「そもそもどういう事情でそんな発想が出てきたんだ?」

 

 頭痛を覚えつつも、提督は質問する。

 

「牛、豚、鶏。つまり肉類が本日、とうとう消滅しました」

「まあ、肉料理は人気だしな」

 

 艦娘の肉体は若く、長い時間を時間を経ても、大きく変化することは無い――要するに成長しない。これは味覚や味の好みにも影響している。脂分を多く含んだ食物を美味いと感じやすいのだ。特に幼い身体を持つ駆逐艦や海防艦に、その傾向が出ている。

 そして鎮守府では、艦隊のワークホースとなる駆逐艦の人数はかなり多い。そんな彼女たちが、食堂で肉料理を頼むとなれば――どうなるかは解りやすい。

 

「米や野菜、魚類は鎮守府に併設している施設や皆さんが捕ってきてくれるのですが、肉類だけはどうしようもありません」

 

 ちなみに、この鎮守府には孤立時の食料の確保という名目で水田や畑が併設されている。更に明石謹製の野菜工場施設もあるため、特定の野菜類は常時食べられていた。また魚介類については、提督の指示で鎮守府近海で艦娘によって漁が行われており、ある程度の量が確保できていた。

 

「ん?いつもは肉類がなくなることは無いよな?なんで今回だけこんなに消費が早いんだ?」

「先週派遣艦隊が帰ってきたということで、祝賀会をしたじゃないですか。その時に大分奮発しまして……」

「ああ、それでか……」

 

 どうやら提督も肉不足の原因の一端を担っていたようだ。

 

「それはともかく、次の補給船が来るまで二週間はあります。そこまで長いと皆さんから不満が出ますので、何か代用できるものがないか探していたんですが、なかなか見つからなかったんです」

「まあ、そう簡単に見つかったら苦労はないな」

「悩んでいた所で、食堂で最上型の皆さんが深海棲艦について話しているのが聞こえたんです」

「ああ」

 

 鎮守府近海に深海棲艦が現れたので、提督は最上型を中心とした艦隊を出撃していた。帰ってきたのは夜八時頃だ。その頃には食堂もピーク時間は過ぎているので、彼女たちの会話が聞こえたのだろう。

 

「主に戦果についてのお話だったのですが、途中で鈴谷さんがこんなことを言っいた

んです。『イ級とかの足ってなんかヌメヌメしてそう』って」

「鈴谷なら言いそうだな」

「その時気付いたんです。イ級の足って生き物みたいですし、食べられるんじゃないかって」

「その発想は要らなかった」

 

 思わずツッコミを入れる提督。そんな提督に気付かず、目が座っている間宮は続ける。

 

「イ級の大きさは昔の戦車と同じくらいです。仮に食べられるのが足だけでも、採れる量はかなりのものです」

「待て」

「それにイ級ならいくらでも出現します。捕れなくなることは無いでしょうし、仮にいなくなっても問題ありません」

「だから待てって」

「また、この鎮守府では魚などの食料確保目的で出撃もありますが、イ級なら戦闘の後に曳航すれば良いだけですので、手間も省けます」

「……」

「ですので、イ級捕獲作戦の許可を頂きたいのです。あ、こちら計画書です」

 

 どこからか取り出した分厚い計画書を受け取り、提督は勢いに押されるように流し読みする。その内容は緻密であり、矛盾もない。これならイ級位なら生け捕り出来るだろう。だからこそ――

 

「いやダメだろ」

「なんでですか!?」

 

 提督は即座に却下した。

 

「こう――あれを食べるのだけはダメだろ」

「食べてみたら美味しいかもしれません!」

「味なら分かってるぞ?」

「え?」

 

 不意を突かれたのか、呆気にとられたような声を出す間宮。それを気にせず、提督は続ける。

 

「深海棲艦が出現して以来、世界各国で深海棲艦の研究をしているのは知っているだろ?」

「はい」

「で、調査の対象にしやすいのがイ級なわけだ」

「いっぱいいますしね。研究しやすかったんですか?」

「その通り。で研究チームには海洋学者も混ざっているんだ」

「はい」

「で、ある時その海洋学者は言ったんだ。『味は?』て」

「あっ、私と同じ発想を持った方がいらっしゃったんですね」

 

 何故か嬉しそうな間宮。同じ考えに至った人物がいたことが嬉しいらしい。

 

「早速食べてみたわけだが、すぐに吐き出したそうだ」

「……毒だったんですか?」

「曰く『やたらと固いくせに味がない。しかもガソリン臭い』だそうで、まず食用には出来ないと結論づけられた」

「……」

 

 この日は、間宮が無言のまま執務室を出ていたため、食肉の話題は終了となった。

後に明石へ魚肉ソーセージの製造のための機械の作製依頼が、提督及び間宮から来るのはあまり関係のない話。

 

 




肉不足のレベル:94
ホントに肉と呼べるものがない……
冗談抜きで士気関わるかも?


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鎮守府編5話 提督と潜水艦達とゲーム事情

イベントに集中していて、結局ストックを出す羽目に……

イベントはE-7まで行きましたが、第一ゲージで盛大に沼っています。誰か助けて、ボスケテ……


 とある冬の日の朝。鎮守府の主たる提督は、自室で机に向かっていた。

本日は非番。緊急時は早急に鎮守府で指揮を執らなければならないが、秋津洲をトップとした航空偵察部隊の報告では、管轄内を含めた周辺海域には異常はないとのこと。このパターンだと、十中八九自分が出なければならない程の事件は起こらない。そのため本音としては惰眠を貪りたいところではあったが、目の前の書類がそれを許さなかった。

 

「大攻勢か」

 

 資料には深海棲艦の太平洋における一大拠点であるハワイで、深海棲艦の活動が活発になっている様子が、詳細に記載されている。これまでの傾向からして、近々深海棲艦による大規模攻勢が行われるであろうと、本土では考えられていた。

 

(やっぱりこの間の艦隊は強硬偵察だったか)

 

 以前、近隣鎮守府との共同作戦で殲滅した深海棲艦の艦隊は、質はかなりのものだったがそこまでの数はいなかった。また、艦隊も高速で航行できる艦種でまとめられていた。対深海棲艦のセオリー的にも、あの艦隊が人類の戦力を測るための強硬偵察だったと考えるのが自然だった。

 現在の状況からすると、次に本土から来る指令は大体予測はつく。大規模攻勢に対する艦隊戦力の派遣だ。そしてこの指令が各鎮守府の提督たちにとって頭を悩ませるものだった。

 この戦力の派遣はただ単に自艦隊の強力な艦娘を出せばいいものではない。艦隊を派遣している間も、通常の鎮守府の業務も行わなければならないし、鎮守府の防衛戦力も残す必要がある。更に艦娘は武勲を望む者も多く、それらの意見もくみ取らなければならない。艦種、艦隊練度、適性、鎮守府に残す人員、予備戦力などバランスを取らなければならないのだ。それはこの鎮守府においても例外ではない。

 

「さてどうしたもんか」

 

 この鎮守府の艦娘の練度は全体的に高いのだが、他の鎮守府と比べてクセが強い。例を上げれば大和型戦艦二番艦『武蔵』は戦意が高く勇猛な言動が多いが、彼女は防衛戦が得意としており、攻勢は苦手だ。このような特性も考慮して艦隊を編成しなければ、彼女たちの力は十全に発揮できないのだ。

 この鎮守府に所属する艦娘の詳細なデータがまとめられたファイルと睨めっこしつつ、ああでもないこうでもないと、唸る提督の耳に部屋にノックの音が響いた。

 

「てーとく、遊びに来たでち」

 

 返事を待たずに、声の主が部屋に乗り込んで来る。巡潜乙型改二の三番艦である伊58、通称ゴーヤだった。後から伊168ことイムヤと、伊19――イクが続く。

 

「いらっしゃいと言いたいところだが、仕事中だぞ」

「今日は非番じゃない」

「……いや、仕事が残っていてな」

「どうせ大規模攻勢対策の編成でしょ?辞令が来てからでも十分間に合うじゃない」

「……」

 

 イムヤの言葉にぐうの音も出ない提督。事実、艦隊派遣の事例は来ておらず、今編成を考える必要はないのだ。暫しの沈黙の後、提督は一つため息をつく。

 

「分かった降参」

「分かればいいのね」

 

 イクがうんうんと頷きつつも、手土産で持ってきた菓子類をサイドテーブルに広げていく。どうやら以前本土で買ったものを持ってきたらしい。

 

「で、なにやんだ?」

「丁度四人だしマ○カーとかどう?」

 

 そう言いつつも、イムヤが手早くゲーム機をテレビにつなげる。この部屋で据え置きタイプのゲームをするのはよくあるので、彼女の動きには淀みがない。

 

「そんなところか」

「じゃあ、早速やるでち」

 

 そういうわけでゲームが始まったのだが――

 

「提督……、相変わらず弱いのね」

 

 イクのこの一言に尽きた。

 何せ十レースやって常に最下位なのだ。こう言われても仕方がない。因みに潜水艦達の勝率は、イムヤが四回、ゴーヤが三回、イクが三回程一位を取るという接戦だったりする。

 

「むしろお前らが強すぎるんだが……」

 

 提督の名誉のために記すが、彼は特別レースゲームが苦手なわけではない。強いて言えば割と得意な分野であった。しかし彼女たちは明らかにこのゲームをやり込んでいる様子だった。

 

「そもそも、なんで潜水艦はゲーマーなんだ?」

 

 現在、鎮守府に所属している潜水艦は全員で十二隻。好きなジャンルこそ違いがあるが、全員がゲーマーと呼ばれる人種だった。

 

「敵が来るまで水中でやることないし、ゲームでもしてなきゃ暇が潰せないでち」

「いや、仕事しろよ」

 

 潜水艦達の思わぬサボりにツッコミを入れる提督。しかし三人とも気にした様子もない。

 

「オリョクルって暇なのね」

「まあ群狼戦術だから、敵が来るまで待つ必要があるけどさ……」

 

 オリョールクルージング。通称オリョクル。

 概要は陸地消滅を狙う深海棲艦(輸送ワ級)の艦隊を潜水艦で特定の海域で待ち伏せし、殲滅するといもの。要するに陸地を囮とした群狼戦術だ。勿論、敵の航行の予測を行う必要もあり事前準備も必要だが、潜水艦だけで行うことの出来る上に、ほぼ確実に戦果を挙げられる有効な戦術として、提督たちの間では有名だった。因みに名前の由来はこの戦術を考案した鎮守府が受け持つ管轄海域を、非公式にオリョール海と呼称していたことに起因する。

 この鎮守府では囮になりそうな無人島が一か所存在し、そこを起点にオリョールクルージングを行っていた。潜水艦達からは守る地点が一か所なので楽だ評判の任務である。

 

「ゲーム機が水中で使えるのか?」

「明石さんに改造してもらったわ」

「ああ、うん……」

 

 相変わらず明石は便利屋扱いである。――本人は好きでやっているようだが。

 

「となると配置的に対戦は出来ないし、一人プレイが出来るゲームが多いのか」

「基本的にはそうだけど、対戦プレイもするわよ?」

「……水中だと電波はほとんど届かないはずだが?」

 

 群狼戦術の性質上、包囲陣を敷くために各艦は数十m以上間隔を開けている。そのため電波は届かないのだ。電波を使用するためには海面に出る必要があるが、待ち伏せの意味をなさないし、敵に電波を受け取られかねない。

 

「その時はこれを使ってるのね」

 

 そう言って渡されたそれを提督は手に取る。それは大きめの巻取り式ケーブルであり、その両端には接続端子がついている。つまり――

 

「通信ケーブル……」

 

 まさかのアナログ式だった。確かにこれなら電波の問題は解決される。昔はこれを使っていた子供は多かったというが、数十mもの通信ケーブルでワイワイとゲームをする姿は実にシュールな気がする。そもそも現在のゲーム機に通信ケーブルは対応していないはずだが、大方明石が改造したのだろう。

 

「ホントに何でもありだなアイツ」

 

 そう言えば明石は鎮守府の業務以外にも、個人で何でも屋の様な事をやって居る。かなり儲かっていると本人が言っていた。

 

「明石さんにはよくお世話になっているわ。オリョクルに持っていくゲーム機も私が大破しても殆ど無傷なくらい頑丈だし」

「任○堂製かな?」

「この場合は明石堂でちね」

 

 湾岸戦争時のエピソードは潜水艦達も知っている位有名らしい。

 

「なんでも艤装用の鋼材を使っているから頑丈なんだって」

「へぇ。……艤装用の鋼材?」

 

 聞き捨てならない言葉に提督は思わず聞き返す。艤装用の鋼材を初めとした各種資源は、その重要性から鎮守府による管理が行われている。使用する場合は提督の許可が必要であるのだが――

 

「俺は明石から何も聞いてないぞ?」

「え?明石さんは提督の許可はもらったって言ってたよ?」

「ん?」

 

 意見が食い違っている。提督はしばし考え込み――そして結論を出す。

 

「……横領?」

『……』

 

 沈黙が部屋を支配した。

 数時間後、明石の工廠に余罪の追及のために編成された特別チーム(全員武闘派)が乗り込むという大騒動はあったが、割りとどうでもいい話である。

 




追記、20分後のラスダン17回目、瑞鳳さんが決めたああああああ!(ノД`)・゜・。


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海を征く者たち 海を征く者たち1話 現れた艦娘

新章突入です。
今回から明確に主人公が設定されており、彼を中心に物語が展開していきます。



2017年4月23日正午 とある村の農地

 

「あんたが司令官ね。ま、せいぜい頑張りなさい!」

 

 突然光と共に現れた少女を前に、先程まで愛用の鍬を手に畑を耕していた少年――秋山岩多は、このよくわからない事態に混乱した頭で状況を把握しようとしていた。

 

(何がどうなった?)

 

 突然自分が光りだしたと思ったら、社会常識やら軍事知識だけでなく、艦娘や妖精といった謎の知識が自分に刷り込まれ、また身体も変化した。そして光が収まると今度は、見慣れない少女が現れ、しかも彼の事を「司令官」と呼ぶ。

 その様な突拍子もない事態に遭遇して冷静にいられる者は、早々いないだろう。

 

「ふむ」

 

 先程まで光っていた身体を見る。昨日までは痩せていた身体には、それまでなかった筋肉による膨らみが見える。恐らく腹筋も割れていそうだ。また視点も高くなっており、身長が伸びたことが分かる。

 

「ふむ」

「なによ」

 

 少女の方を見る。返事をしなかったせいか、やや不機嫌な様子だった。刷り込まれた知識があるので彼女が何者かは理解できる。

 彼女は艦娘だろう。そして自分が呼んだのだ。秋山は知識だけでなく、なんとなくだがそう感じていた。

 

「ふーむ」

 

 今度は周りを見渡す。近くで畑を耕していた父親が唖然としている。第三者から見ても、この事態は異常としか感じないだろう。

 

(よし)

 

 状況は把握できた。それらの情報を整理し、次の行動を考える。たっぷり十秒程かけて熟考し、秋山は口を開いた。

 

「よく来てくれた!さあ、畑を耕すぞ!」

「えっ!?」

 

 少年の錯乱はそう簡単には収まらないようである。

 

 

 

2017年4月23日午後5時 日本国のとある会議室

 

「艦娘は深海棲艦に対するアンチユニットであり、提督――総務大臣に呼ばれたと?」

「はい」

 

 この国のトップである首相は疲れた顔で、対面する少女――大淀に尋ねた。彼女の隣にはどこか満足げな、総務大臣が座っている。

 事の起こりは今日の正午。定例となっていた閣僚会議をしていたところ、総務大臣がいきなり光りだした。突然のことに全員が唖然としていると、今度は「大淀」と名乗る少女が現れたのだ。第三者が聞けば「お前は何を言っているんだ」と真顔で言われそうな事態に全員が混乱することになる。

 騒ぎを聞きつけた警備員が侵入者として少女を取り押さえるべく突入したが、人間離れした怪力で鎮圧されたり、意地になった警備員たちが増援を呼んで突貫したり、それを少女がやはりボコボコにしたり、光に包まれた後薄かった頭の毛がフサフサになっていることに気付いた総務大臣が無言でガッツポーズを取って居たりと、実に混沌としていた事態が収まったのは2時間前。

 色々あったが、とりあえず彼女の話を聞いてみるということになったが、荒唐無稽な内容ばかりであった。

 

「太平洋戦争時代の軍艦が人の姿になって現れた、か。訳が分からんな」

 

 防衛大臣がため息を吐く。ここにいるほぼ全員の総意である。

 

「詳しいことは後程報告書として提出しますが、とりあえず深海棲艦は悪霊。艦娘は軍艦の付喪神であり、深海棲艦を成仏させる能力があると考えていただいて結構です」

 

 フォローを入れる総務大臣。その言葉に、ある程度の人間は理解を示した。――最も納得はしていないが。

 

「とはいえ実際に艦娘は深海棲艦を倒すことが出来ることは確認されている。認めるしかあるまい」

 

 外務大臣が苦笑しながら手元の資料に目をやる。イギリスで深海棲艦との戦闘中に艦娘「ウォースパイト」と自称する少女が出現し、戦艦ル級エリート、軽巡ホ級、駆逐ハ級2隻を撃破したことが記されている。現在、日本政府が確認できている艦娘はウォースパイトと大淀だけだが、他にも出現している可能性はある。

 

「総理、私は提督となった人物の捜索と招集を提案します」

「何?」

「海上自衛隊が壊滅した今、日本防衛には艦娘の力が必要です。幸いなことに提督となった者は、条件はありますが新たに艦娘を召喚できるようです」

「ふむ……」

 

 イギリスでの事例を考えれば、もし戦艦や空母が召喚出来れば、今まで手こずっていた戦艦級も対応が容易になる。それだけでなくこの絶望的な状況を打破できる可能性もあった。日本にとって艦娘を使わないという選択肢は存在しなかった。

 しかし、この提案に待ったを掛ける人物がいた。防衛大臣が口を開く。

 

「しかし素人が戦場に出ても邪魔にしかならないぞ?それだったら艦娘だけを政府が招集した方が良いのではないか?」

 

 彼の懸念も当然だった。タダでさえ人材の育成に時間のかかるのが現代の軍事だ。それも部隊の指揮を執るとなれば、相応の知識や経験が必要となる分野だ。素人にはまず無理であり、仮に即席培養で士官教育をした所で本職と比べれば確実に劣る。それだったら本職の士官が指揮を執った方が良いのではないか、というのが防衛大臣の考えだった。だが――

 

「その方法はお勧めしません。我々艦娘は提督の指揮下にあって初めて、十全な能力を発揮できるようになっています」

 

 大淀ははっきりと否定する。提督の指揮下にあるという事実は、能力だけでなく士気にも直結しており、艦娘にとって提督と言う存在は必要不可欠であった。とはいえ防衛大臣としても納得できるものではないため食い下がろうとするが、そこに外務大臣が大淀の援護に入る。

 

「まあ、先程の演習を見れば問題はないと思うがね」

「……」

 

 その言葉に対して、防衛大臣は沈黙するしかなかった。

 事態の把握の際に、総務大臣は光に包まれた時に、艦娘に関する知識だけでなく軍事に関わる様々な知識も刷り込まれた事を告げており、その証明として海上幕僚長に図面演習を提案した。これまで軍事知識など殆んどないと公言していた総務大臣であったが、図上演習では一進一退の攻防を繰り広げ、最終的に総務大臣の勝利を収めていた。これにより「提督」となる際に、身体の変化だけでなく知識や技能も付与されていることが証明されていた。なお敗北した海上幕僚長は大いに落ち込むことになったが、今はどうでも良いことである。

 

「しかし強制徴兵するとなると、かなり荒れるだろうな」

 

 ため息を吐く首相。食料の配給制を中心に、増税や福祉サービスの激減、選抜徴兵など、現在の日本国民はかなりの無理を強いられている。国民も危機的な状況であることは理解しているのだが、それでも生活に支障が出るとなると不満も大きかった。そこへ強制徴兵となれば、どんな事態になるかは火を見るよりも明らかだった。

 しかしそれをやるだけのメリットは十分にある。それ故に、首相は決断を下した。

 

「仕方ない、やるぞ。警察だけでなく公安も使って提督を探し出せ」

 

 

 

とある山の中の渓流。秋山と叢雲は並んで座り込んでいた。

 

「……」

「……」

 

 二人とも口を開くことなく水面に集中する。辺りを包むのは川の流れる音だけ。二人を邪魔するものはない。

 そんな静かな状況を破ったのは秋山だった。

 

「……おっと」

「また!?」

 

 叢雲の悲鳴のような声を無視して、秋山は釣り竿を引き上げ獲物を手繰り寄せる。暫しの格闘の後釣り上げたのは、20cm程のニジマスだった。

 

「これで6尾目。そろそろ降参でいいんじゃないか?」

「くっ」

 

針を外し、既に5尾のニジマスがいるバケツに放り込む。忌々し気に叢雲が秋山を睨むが、当の本人は涼し気な顔である。

 なぜ二人が渓流で釣りをしているかと言えば、事の始まりは二人の何気ない会話からだった。

 

「叢雲、夕食の確保のために釣りに行かないか?」

「いいわね」

「ところで、釣りは出来るのか?」

「ちゃんと知識はあるわよ。任せなさい」

「本当に?」

「あら、なら勝負でもしてみる?勝った方が夕食のおかずをもらうってことで」

 

 そんなわけで始まった釣り勝負。だが開始から2時間経過した時点で、秋山が大幅にリードしていた。

 エサを付け直し再び釣り糸を垂らすと、秋山はチラリと叢雲の様子を確認する。

 

(これなら大丈夫だな)

 

 釣り勝負で圧倒的に負けているため焦っている様子は見られるが、当初のピリピリした雰囲気はない。

 秋山が提督になり叢雲が召喚されてから一週間が過ぎていた。彼の身体がいきなり大きくなったり、突然叢雲が現れたりと、当初は家族全員が大騒ぎすることになったのだが、最終的に叢雲は秋山家で居候することで落ち着いた。

 とはいえ当初の叢雲は、

 

「こんなことをしている場合じゃない!」

 

 と秋山に訴えていた。艦娘は深海棲艦と戦う存在だ。こんな山奥の村で暮らすなど不満があって当然だった。

しかし秋山家からは反対意見が続出していた。急に現れたかと思えば「長男と一緒に戦場に行く」と言い出せば止めるのは当然だった。そして提督である秋山からは、

 

「いや、駆逐艦1隻で行った所でじゃ囲まれて滅多打ちだぞ?」

 

 という身も蓋もない事を言われてしまい断念。最終的に叢雲は秋山家に留まることとなった。

 とはいえ叢雲としてもこの環境は不本意であるのは変わりない。当初はどこかイライラした雰囲気があったのだが、秋山家の農業の手伝いを始めとした家族との交流のおかげで大分落ち着いてきた。特に農業に関しては艦娘のスペックを大いに活用しており、燃料費の高騰のため農業機械の使用を制限している現状において、大きな助けとなっていた。また家族との関係も良好であり、特に妹は叢雲に懐いている。母曰く

 

「凄い力とか持っているようだけど、年相応の娘と変わらないわね」

 

 との評価である。

 

 そうこうして叢雲を眺めていると、今度は叢雲の竿がピクピクとしなり始める。

 

「キタッ!」

 

 待ってましたと言わんばかりにアワセをし、引き上げる叢雲。そこにあるのは、

 

「……」

「そういえばここってモツゴもいたな」

 

 釣り糸の先にはエサの無い釣り針。エサ取り名人の異名は伊達ではない。

 そうこうしているうちに日が傾き始め、帰宅予定時間が迫っていた。釣果は結局、秋山が6尾、叢雲が坊主という、主に叢雲にとって散々な結果である。

 

「いやまあ、そんな日もあるさ……」

 

 ここまでくると秋山としても哀れみしか感じない。そのため慰めの言葉が思わず漏れてしまったが、どうやら叢雲はそれがお気に召さなかったらしい。

 

「……あーもうっ!」

 

 叢雲は立ち上がると艤装を展開し、川の中にある岩場に飛び移る。

 

「ダイナマイト漁は流石にダメだぞー」

「やらないわよ!見てなさい!」

 

 キョロキョロと渓流を見渡す叢雲。艦娘としての能力を十全に使った索敵は、すぐに目的のモノ――イワナを捉えた。獲物を見つけた彼女はニヤリと笑うと槍を逆手に持ち構える。

 

「そこぉ!」

 

 掛け声と共に放たれた槍は目標に向かって飛翔、見事にイワナの胴体に命中する――が、それで終わらない。普通の人間が槍を使っても絶対に出せないような轟音と共に、大きな水柱が立ち上る。

 

「おいおい……」

 

 艤装を展開した艦娘の身体能力は軍艦時代のそれと同等。ただの槍投げがこの威力になるのも当然である。

 

「命中確定っ!」

 

 ドヤ顔の叢雲。秋山も槍がイワナに突き刺さったのは見えている。しかし彼は迷っていた。この先に訪れているであろう結末を、言うべきかどうかためらっていたのだ。

秋山はたっぷり10秒間悩み――そして口を開く。

 

「叢雲」

「何よ」

「肉片も残ってないと思うぞ」

「……え?」

 

 慌てて槍を引き抜く叢雲。穂先にはイワナのものと思われる欠片が引っかかっているだけだった。

艤装を展開した艦娘の身体能力は軍艦時代のそれと同等。5万馬力で投げられた槍に当たれば、川魚などバラバラになるのも当然である。

 

「……帰るか」

「……そうね」

 

 居たたまれない空気の中、二人は帰路についた。

 




今回登場した秋山君=鎮守府編の提督です。(鎮守府編は未来でのお話ですから)


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海を征く者たち2話 タイムリミット

 この物語では人類が追い詰められていますが、作者は人類に色々とバフを盛っています。(素早い戦時体制への移行、軍艦の攻撃が小さい深海棲艦に当たる、早急に新型の兵器を開発できる等)


 日本国東京。法的には首都は存在しないが、事実上日本の首都と位置づけられている大都市。深海棲艦の出現により、往年の活気こそ見られないが、それでも日本の政治、経済の中心地としてその地位を維持している。

 そんな大都市の中を一台のパトカーが走っている。道路は空いており、たまにすれ違うのはトラックぐらいだった。石油資源は発電所や自衛隊に優先的に回されており、民間に放出される分は雀の涙程度。当然値段は恐ろしく高価であり、そのことから人々の移動はバスや電車などの公共交通機関が中心になっている。そのため、今時大通りを走る車と言えば、自衛隊の車両、政府が民間に委託した輸送トラック、そして警察や消防などの政府機関の自動車であった。

 そんなパトカーに秋山と叢雲は後部座席に並んで座っていた。運転席と助手席には制服姿の男性だ。

 

「ホントにこの二人で合っているのか?」

「本人たちもそう言っているし、大丈夫だろ」

 

 二人は県警に所属する警察官だった。後部座席に聞こえないようにコソコソと話していた。話題は勿論後部座席にいる二人だ。

 4月の後半に日本政府から警察や公安に提督及び艦娘の捜索命令が出された。しかしその内容は捜査する側からすれば、頭を抱えるようなものだった。

 

「曖昧過ぎる……」

 

 名前は不明、何人いるかも不明、もしかしたら身体に変化があるかもしれないという、不確定な条件ばかり。確定している条件は提督の近くに突然国籍不明の女性が現れていること。これで対象を見つけてこいと言われた所で、途方に暮れるのは当たり前だった。

 事実、捜査は難航しており、「急に体格が変わった」「最近若返った」「体格だけでなく性格も変わった」「危篤状態だったが急に元気になった」「なんか美人な彼女が出来た」などの噂話を頼りに、提督や艦娘と思われる人物を探す日々である。

 彼ら二人も県内を苦労して探し回った末に、秋山たちを発見できたのだった。

 

「そもそも100㎏以上ある様な荷物を、平気で片手で持てるような奴が人類なわけないだろ」

「……」

 

 彼らが秋山たちを発見した時、叢雲は農作業の最中だったのだが、一袋100㎏はあるであろう肥料の袋を2袋持って悠々と歩いているのを目撃している。そのため彼女が探している対象であることは確信できたのだった。

 

「もしも……だ」

「ん?」

「もしここで暴れられたら、どうすれば良いと思う?」

 

 政府が出した提督と艦娘への強制徴兵だが、別に逮捕するわけではない。以前、趣旨を勘違いした一部の警察官たちが、暴力団への強制捜査と同じように対処しようとして、艦娘と提督に返り討ちにされるという事件があった。その後、事態を知り顔を真っ青にさせた警察上層部の人間による謝罪でなんとか丸く収まったのだが、捜査関係者は探している者たちがどのようなモノなのかを身をもって理解することとなった。

 

「……諦めるしかないんじゃないか?」

「……」

 

 まるで猛獣でも扱っている気分の警官二人をよそに、後部座席の秋山と叢雲は東京の街を眺めていた。

 

「何度か大空襲があったって聞いたけど、思ったより綺麗ね」

「自衛隊がかなり頑張ったらしいぞ」

「へぇ」

 

 東京は深海棲艦の活動が活発化して以来、何度か艦載機隊による大規模な空襲があったのだが、首都防衛のために配備されていた自衛隊の部隊の奮闘により、被害はかなり抑えられていた。現在も所々に空襲による被害の跡が見られるが、大よそ往年の東京の街並みが残されていた。

 

「でも政府からの招集ね。正直今更って話ね」

「最初は散々出撃したいって言ってたくせに」

「う、うるさい!」

 

 二週間程秋山家で過ごした叢雲は、このままこの家族と一緒に暮らしてもいいかとすら考えるようになっていた。彼女にとってそれだけ心地よい時間だったのだ。

 

「それよりあんたはどうなのよ」

「あー、それなぁ」

 

 対する秋山はどこか煮え切らない態度。その様子に叢雲は訝しむ。

 

「何よ、やっぱり行きたくないわけ?」

 

 秋山は提督となり軍事知識を得たとは言っても、元々ただの高校生だ。彼女は戦場に出る事を嫌ってるかもしれないと危惧していた。だが、秋山はそれをあっさり否定する。

 

「いや、招集されるのは納得してる。待遇も良いみたいだし」

「じゃあなによ」

 

 ますます分からないと言わんばかりの叢雲に、彼はしばし沈黙するとポツリと呟いた。

 

「……高校、一か月しか行ってない」

「そこ!?」

 

 思わぬ答えに叫ぶ叢雲だが、それを無視して秋山はぼやき続ける。

 

「受験勉強とか頑張ったのになぁ。無駄になってしまった」

「いや、知らないわよ!」

「英語とかかなり苦労したんだぞ?今は提督の知識の中に英語もあったから出来るけど」

「それこそ知らないわよ!」

「叢雲が後一年、いや半年早く来てくれれば、受験しなくて済んだのに……」

「私に当たらないでくれる!?」

 

 そんな車内の前と後ろで全く違う空気を醸し出しながらも、パトカーは目的地である防衛省庁舎へ向かっていった。

 

 

 

「それで、提督及び艦娘の招集状況は?」

 

 首相は口を開く。現在確認できている全ての提督が東京に招集出来たことから、今後の彼らの運用についての会議が開かれていた。

 防衛大臣――元総務大臣だった人物が資料を手に口を開く。総務大臣は艦娘の知識や現職自衛官並の軍事知識を手に入れたことから、その知識を活かすために防衛大臣に就任していのだった。

 

「現在、提督が528人確認されています。また、艦娘も同数となっています」

「主力艦クラスは?」

「戦艦が14、正規空母が12。これは同一艦が何組かいるため、この数となっています」

「初期戦力としてはそれなりか……」

 

 日本近海に現れる深海棲艦の艦隊には、最近では当たり前のように戦艦級や空母級が混じっている。それらへの対応を考えた場合、同等の能力を持つ主力艦クラスが重要になってくる。首相の本音としてはもう少し欲しかったが、それは贅沢というものだろう。

 

「しかし、この数が全て戦力となるわけではありません」

「そうだな」

 

 資料を手に首相は苦笑する。

 528人いる提督だが、性別も年齢も立場もバラバラだ。そうなると当然戦場に出すには問題がある人物もいる。

 例えば現在の防衛大臣のように、組織を運営をしてもらった方が有効な場合。大臣クラスになれるほどの政治能力を持つ者を戦場に出すなど非効率この上ない。彼には艦娘という戦力を理解できるからこそ、彼には防衛大臣として働いてもらわなければならなかった。

 また予想以上に多かったのが子供――それも義務教育すら終わっていないような子供たちだ。提督を対深海棲艦の戦力とするために強制徴兵という強硬な手段に出たが、流石に子供を戦場に送り出すような事は出来なかった。

 そして立場的に問題なのが、皇族であり、それも皇位継承権の順位がかなり高い人物が提督となったことだ。

 

「国民が苦しんでいるのに、自分が後方でのうのうとしている訳にもいかない」

 

 との発言もあり、本人もやる気十分である。

 とはいえ、日本の立場からすると、戦場に立つのは勘弁してもらいたいところである。皇族が自ら戦場に出ることは士気の向上になるだろうが、もし戦死でもしてしまった場合の影響が大きすぎるのだ。それなら後方で活躍してもらった方がいい。その様な理由もあり、現在宮内庁が全力で皇族提督を説得中であった。

 

「防衛大臣、今後の予定は?」

「戦力配分を協議のうえで、全国に配備します。実地試験及び近海の防衛をしつつ戦力増強を図る予定です」

 

 海上自衛隊が壊滅している現在、どの駐屯地も戦力を欲しており、提督たちを一人でも多く引き込もうと、各基地同士で暗闘を繰り広げていた。その調整をするのが防衛大臣であり、現在彼の秘書として活動している大淀も苦労していた。

 

「さて、本題に入ろう」

 

 首相の言葉に、全員が気を引き締める。何せ文字通り日本の未来に関わることなのだ。

 

「資源の輸入先の当ては?」

 

 深海棲艦が出現して以来、日本は食料の増産や資源の備蓄に邁進してきた。太平洋戦争時のシーレーン断絶というトラウマもあったことから、特に反対意見は出なかった。これらの努力のおかげで、多くの国が崩壊した今でも、日本は国としての体裁を整えられている。しかし現在、日本の海上戦力が壊滅したことで日本列島に完全に閉じ込められてしまい、貯蓄を削って生き延びているにすぎなかった。

 そんな絶望的な状況であったが、艦娘の出現という思わぬ形ではあるが海上戦力が補充されたため、護衛船団での資源の輸送が可能になった。次の問題はどこから資源を輸入するかである。

 

「事前の予測通り、無政府状態か輸出する余裕がない国ばかりですな」

 

 顔を顰めつつ報告する外務大臣。同盟国アメリカは両洋から侵攻する深海棲艦との戦いで資源を輸出する余裕はない。中国はその国土に資源を抱えているが国家の規模の大きさから資源輸入国であり除外。東南アジア諸国は深海棲艦の攻勢によって壊滅状態。そうなると活路は北だが、

 

「ロシアは?」

「ヨーロッパ向けの輸出で手が一杯だそうです」

 

 深海棲艦による航路の封鎖と中東情勢の不安定化によって、ヨーロッパ各国はロシアからの資源の輸入に切り替えていた。冷戦以来目の敵にしていたものの、近場で多くの資源や食料を生産できるのはロシアだけなのだ。ヨーロッパ各国はロシアに土下座する勢いで資源の輸入を申し込んでおり、ロシアとしては笑いが止まらない状況だった。

 そんなロシアだが、国内の資源採掘量的に自国とヨーロッパに輸出する分を賄うのが精一杯であり、少量ならともかく日本が必要とする量までは、すぐには用意できなかった。

 

「……まさか例の計画も考慮する必要があるか?」

 

 首相の言葉に誰もが苦い顔をした。艦娘が出現した直後に、防衛省から内閣に提出されたプランだ。勿論短時間で計画されたものなので、具体的な作戦内容は決まっていないが、最終目標だけは明示されている。

 

 政府機関の崩壊した東南アジアへの進出による、各種資源の確保。

 

 確かに東南アジアの資源地帯を確保できれば、ある程度は国内に余裕が出来る。

 とはいえ、この計画は飽くまで最終手段と位置づけられており、防衛省としても外交で資源が輸入できるのならそれで良いと考えていた。せっかく手に入れた艦娘という戦力は国土防衛に使いたいのだ。また、仮に計画が実行されるとしても南沙諸島の敵拠点の攻略を行わなければならないので軍事的にリスクが大きい。更に軍事関連以外でも、国内世論による反対だけでなく外交的にも問題となる事が予測されていた。防衛省にとって計画こそ建てたが実行したくないという部類のものだった。

 そのため閣僚級等のごく限られた者にしかこの計画は知らされていなかったのだが、八方ふさがりなこの状況では検討せざるを得なかった。

 

「南進論か。まるで太平洋戦争だ」

 

 経済産業大臣が皮肉気に笑う。日本が交易によって資源を入手できなくなり、自身で資源を賄うために東南アジアに進出する。それも第二次世界大戦期の軍艦の化身である艦娘を使ってだ。皮肉でしかなかった。

 とはいえ、ここにいる誰もが進んで実行したいと考えるような計画ではない。足掻くかのように外務大臣は防衛大臣に問いかける。

 

「防衛大臣。艦娘の戦力で中東までの護衛船団は可能ですか?」

 

 現在、中東は民族問題や宗教問題などで地域の情勢が悪化しているが、現地政府が残っている国も多い。また海上航路が封鎖されていて石油資源が売却出来ず持て余しているという事情があるため、もし日本が中東までの航路が確保できれば優先的に石油を輸入できるはずである。

 だが、外務大臣の願いも空しく、防衛大臣は首を横に振る。

 

「無理でしょう。仮に全艦娘を投入しても東南アジアの突破が限界です」

 

 日本から海で中東に行くには、南沙諸島とチャゴス諸島の敵拠点の近くを通る必要があった。そうなれば攻撃を受けることは確実であり、とても中東まで辿り着けないだろうと結論付けられていた。

 

「今は和戦両様で行こう。外務大臣は引き続き資源が輸入できるように各国と交渉。防衛大臣は艦娘戦力の増強と計画の具体案を纏めるんだ」

 

 首相はそう纏めると、経済産業大臣に顔を向ける。

 

「率直に聴きたい。日本は後何年持つ?」

 

 その言葉に誰もが経済産業大臣を見る。この問は日本という国を動かす者たちが知るべき事であるからだ。

 

「今の消費ペースで考えた場合――」

 

 同時に知りたくない事であるが、受け入れなければならない。誰もが息を呑む。

 

「1年半といった所でしょう」

 




久々のダイスロール。
先ずは米、英、日に何人提督がいるかです。判定は1d6×100+1d100で。
アメリカ:625人 イギリス:563人 日本:528人
これは強い(確信)。特にアメリカはその内U.S.A!やり始めるぞ!

ついでに秋山君が東京に行くので、東京の被害を1d100%で。
東京の空襲被害:08%
自衛隊がスゲー頑張ってる!


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海を征く者たち3話 提督と艦娘の試験

冬イベが近い。来週の分は書けるかな……。


 防衛省庁舎のある会議室。各海上自衛隊基地の責任者と海上幕僚長に防衛大臣、そして艦娘の大淀が一堂に会していた。防衛大臣によって招集され行われている会議だが、会議室に映し出されている映像に誰もが視線を釘づけにされていた。

 それは23型フリゲート「ボーフォート」に現れた艦娘ウォースパイトが直後に行った海戦だった。ボーフォートが撮影した映像を、イギリスは各国政府に提供していたのだ。

 これまで人類が散々苦戦してきた戦艦級を一撃で葬り、その直後にやや危うい場面もあったが軽巡級と駆逐級2隻を撃破する。その光景は、これまで嫌と言う程深海棲艦と戦ってきた自衛官たちにとって、合成映像か何かかと考えてしまう程の衝撃があった。

 映像が終わり、基地責任者たちが驚愕する中、この中で唯一艦娘である大淀が口を開く。

 

「映像からも分かる様に我々艦娘の能力は深海棲艦に対して有効であることが、ご理解頂けたと思います」

「……こんなものを信じろというのか」

「映像を調べて頂いても構いませんよ?最もこれはイギリスから公式に提供されたものであり、日本政府でも映像を分析して本物であると確認されましたが。それとも今から私が出撃してきましょうか?駆逐艦クラスなら直ぐにでも撃破出来ます」

「……」

 

 自衛官たちは唸り声を上げ、反論できないでいた。ここにいるほとんどの人間が艦娘の能力に懐疑的だったのだが、実際に発生した戦闘映像まで見せられては納得するしかない。防衛大臣や海上幕僚長が目論んだ通りに、だ。

 艦娘という謎の存在に頼るなど、自衛官が納得するはずがない。そう考えた防衛大臣は海上幕僚長と共謀し、その有効性をこれ以上にない形で見せつけて、強制的に認めされるという手段に出た。丁度イギリスから各国政府に戦闘映像が提供されており、この企みは十分に効果が出ていた。内心ほくそ笑みながら海上幕僚長は立ち上がる。

 

「艦隊が壊滅している現状、艦娘及び彼女たちを召喚し運用できる提督は国防の要となる。諸君らには彼女たちの能力を十全に発揮できるようにしてもらいたい」

 

 艦娘という誰も運用したことのない戦力だ。運用には試行錯誤が必要であり、その過程で問題も発生するだろう。それらの問題に対処し運用するには、各基地の責任者の能力が問われることになる。仮に発生するであろう問題に対応できなければ、最悪の場合、国が壊滅しかねない。だが逆に言えばこの重大な案件をこなすことが出来れば、大きな功績とされて出世にも繋がる。まさにピンチはチャンスと言えた。その事を理解した自衛官たちは頷いた。

 

 かくして、海上自衛隊で艦娘を運用することが決定されたのだが、直ぐに次の問題が発生することになる。戦力の配分だ。

 なにせ自衛艦隊は壊滅しており、生き残った護衛艦は比較的安全な呉のドックで修理中。つまり各基地にはロクな戦力が無いのだ。日本の領海を守るという使命を果たすためには出来るだけ多くの艦娘と提督が必要であり、戦力を獲得するために暗闘が繰り広げられることとなる。

 それぞれの主張を要約すると、

 

「首都の防衛は重要だ。またハワイからの深海棲艦の攻勢にも備える必要がある」横須賀。

「修理中で動けない護衛艦を守らなければならない」呉。

「戦力が少なければ沖縄が陥落しかねない」佐世保。

「韓国が壊滅している現在、日本海の守りも必要である」舞鶴

「ロシアと貿易をする可能性があるため、北方の守りも必要である」大湊

 

 このように一人でも多くの戦力を手に入れようと必死だった。更に悪いことに会議が続くにしたがって雰囲気が段々と悪くなってきており、最悪殴り合いにまで発展しかねない空気になっていた。

 

――最悪、私が出ないと。

 

 以前不本意ながらも勃発した乱闘を思い出しながら大淀は拳を握る。首相官邸の時は力加減を間違えて骨折など相手に重傷を負わせてしまったが、お蔭でどのくらい手加減すればいいかが分かった。それに今回の相手は自衛官だ。多少加減を失敗しても大丈夫だろう。そんな物騒な事を考えている大淀だったが、幸いなことに拳を振るう機会は失われた。これまで沈黙を保っていた防衛大臣が立ち上がった。

 

「君たちの主張はよく分かりました。それを含めて配属方法を私に一任していただけませんか?」

「防衛大臣。いくらなんでもあなたが独占して配属先を決めるのは――、配属方法?」

「そう。配属方法です」

 

 会議室の全員が防衛大臣に注目する。

 

「まず最善案ですが、現在、提督及び艦娘の能力の試験を行っていますので、この結果を参考に配属先を決める方法です」

 

 幹部候補生学校の卒業生の配属先の決定方法と同じであり、自衛隊では馴染み深い方法だ。自衛官としても納得しやすい。

 

「ならば、それでいいのでは?」

「いえ試験と言ってもどれも簡略化したものです。それだけで実力を測りきれるとは思えません。また、日本に現れた提督の人数は528人。一人一人を吟味して配属先を決める時間はありません」

「では?」

「最善が取れないなら、次善で妥協しましょう。方法は同時に提督の指名を行い、指名が重複した場合は抽選を行っていきます。528人全員を」

 

 その提案に一部の自衛官は気付き、顔色を変える。何しろある業界では毎年行われている指名方法なのだ。ある自衛官は恐る恐る確認する。

 

「防衛大臣。まさかだと思いますが……」

 

 出来ればこの予感が間違いであって欲しいと願う彼だったが、その願いは防衛大臣によって砕かれる。

 

「はい、いわゆるドラフト会議です」

あっさりと放たれるその言葉に、自衛官たちは頭を抱えた。

 

 

 

 秋山は横須賀のとあるホテルのラウンジで、ソファに腰かけつつある資料を眺めていた。資料は自衛隊が行ってきた深海棲艦との交戦記録だ。内容は民間に公表されているものなので、このように公の場で読んでいても問題はない。また彼がいるホテルは政府が提督及び艦娘用に借り受けた場所であり、秋山が行っている行動はこの場においては全く不自然なものではなかった。

 

――予想以上に、マズイ状況だな。

 

 資料にはいかに日本が危機的な状況にあるかが、読み取れた。

 海上自衛隊はこれまでの戦闘により壊滅状態。残った艦の数を考えればまだまだ余裕があるように見えるが、損傷している艦も多く簡単に動かせる状況ではない。艦の補充のため新造艦の建造が急ピッチで行われているが、戦力になるにはまだまだ時間がかかる。そして何より問題なのが、乗員の問題だ。軍艦乗りはその性質上、全員が専門職と言っても過言ではない。そんな軍艦乗りが深海棲艦との戦いでその多くが戦死してしまい、只でさえ人員不足であった海上自衛隊は、深刻な人手不足に陥っていた。仮に新造艦が完成したとしても、艦を操る人員がいなければタダの箱である。ある程度戦えるレベルまで戦力が回復するにはまだまだ時間がかかると予測されていた。

 次に深刻なのは陸上自衛隊だった。現在の日本では深海棲艦による空襲に対する備えとして対空ミサイルを装備した高射特科群の活躍が有名であるが、その性質上敵の航空機からの攻撃を受けることも多く、損耗率も高かった。補充こそ行われているが、敵の空襲の激化と日本が保管している資源の減少の結果、配備数が段々と減少し始めていた。また地対艦ミサイル連隊の被害も増加しており、ジリ貧に陥っていた。

 最後に航空自衛隊だが、こちらにも問題が発生している。深海棲艦の航空機の性能は第二次世界大戦時のそれと同等の性能のため、撃墜されることはまずあり得ないのだが、稀に滑走路を襲撃されることもあり、その影響で徐々にだが機体の損耗が出ていた。また、海上自衛隊が壊滅した影響で出撃回数が激増しており、その影響で機体の稼働率の低下や深刻な乗員の過労が発生していた。機体部品の増産や閉じられていたF-2の生産ラインの再開設、F-15Jの改修プランの立ち上げ、パイロットの育成等、戦力増強が図られているがどこまで効果があるかは未知数だった。

 秋山はこれまで高校生であり、家業の農業や勉強、友人との関係を重視していたため、ここまで情勢が悪化しているとは思いもよらなかった。顔を顰める秋山に、ある人物が近づいてくる。

 

「待たせたわね」

「お帰り」

 

 叢雲は秋山とは向かいのソファに腰かけると軽く息を吐いた。

 

「今日の試験は?」

「海上での航行と砲雷撃試験よ」

「結果は?」

「上々よ。そういうアンタはどうなのよ」

「体力測定に射撃、軍隊格闘の試験。お蔭でかなり疲れたよ」

「ご愁傷さま」

 

 秋山が日本政府により招集され東京に向かってから五日が経ったが、彼らはその間一度も深海棲艦との戦闘は行われていなかった。

 政府は彼らを運用するにあたって、提督や艦娘がどれだけの能力を有しているのかを知る必要があった。防衛大臣から報告はされているが、やはり実際に能力を測る方が効率が良かった。そのため政府は招集した提督たちに対して防衛省庁舎で招集に関する説明を行った後、試験会場のある横須賀の自衛隊基地へ移送。横須賀でデータ収集のための試験が連日行われていた。

 試験内容は、学力だけでなく、軍事に関するものと言ったペーパーテスト。体力測定、軍隊格闘、銃器の扱い、士官クラスの自衛官との図上演習など、多岐に渡るものであり、収集された情報を元に配属先が決められることになっていた。

 

「試験結果はどうなのよ」

「まあ並といった所だな。ペーパーテストや図上演習の時より成績が悪かったし」

「ま、そんなものじゃない?」

 

 提督となった人間は軍事知識を初めとした様々な知識や技術がインストールされるが、向き不向きと言った個性があることが、試験によって判明していた。秋山の場合、射撃や軍隊格闘など身体を動かすような技能は平均レベルではあったが、代わりに戦術、戦略クラスの技能は高い能力を持っていた。

 

「そういう叢雲は身体を動かすタイプは成績いいよな」

「艦娘なんだから当然じゃない」

 

 そして提督と同じく、艦娘の技能においての個性があった。今回の試験で同一艦であっても得意とした技能が異なっていることが判明したのだ。叢雲の場合、戦闘に関する技能は高かった。ただ――

 

「元は艦なのに接近戦が一番得意ってどうなんだ……?」

「う、うるさいわね」

 

 砲撃や雷撃と言った主要な攻撃手段よりも、槍を使った接近戦の方が得意と言う、軍艦の付喪神なのかと疑いたくなるような個性を有していたのだった。彼女自身も若干気にしているようで、いつもより反論の力は弱い。

 

「それより明日はアンタと一緒に模擬戦よね。相手は決まったの?」

 

 翌日は連携試験という名目で、提督と艦娘が一緒に試験を行うことになっていた。試験内容は模擬戦であり、レベルの高い戦闘が見られると政府関係者からは期待されていた。

 

「砲戦が得意な吹雪と、状況判断に秀でた提督だったな」

「砲戦、ね……」

 

 顔を顰める叢雲。接近戦を得意とする叢雲に取って相性が悪い相手だった。彼女は攻撃を回避する技能も高く並の相手なら易々と接近戦に持ち込めるのだが、生憎今回の相手は砲戦の成績は上位に食い込む程の技能の持ち主。回避しながらの接近は困難と見てよかった。また相手の提督も優秀と言って良い成績を収めており、苦戦は必至だった。

 

「それで?私の優秀な司令官様は必勝の作戦を立てているのかしら?」

「いや、お前も考えろよ」

「餅は餅屋って言うじゃない」

「ああ、そう……」

 

 そう言われてしまっては、秋山としては何も言い返せない。

 

「まあ、一応出来てはいるな。ただやるには仕込みが必要だな」

「へえ、聞かせて?」

 

 こうして彼らの模擬戦に向けての作戦会議、そして準備は進んでいった。




今回は秋山と叢雲が試験を受けていたということで、ステータスを決めてみます。ベースはソード・ワールド2.0のキャラクターメイキング。それぞれの項目で2d6を振る形です。
砲撃・雷撃は技、格闘・運動は体、運動・戦術は心の数値をプラスして算出してみました。


叢雲ステータス:SW2.0基準
技8、体11、心4(2d6)
砲撃6、雷撃8、格闘9、運動7、指揮4、戦術8(2d6)
砲14、雷16、格闘20、運動18、指揮8、戦術12 

普通に強キャラが出来てしまった。これ一発振りなんだけど……。


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海を征く者たち4話 模擬戦闘試験

今回かなり独自設定を全面的に出しています。ご注意下さい。

後、投稿ですが来週はストックを使うとして、再来週はまともに投稿できるかが解りません。すべては冬イベの進捗次第です。(現在E-2)

今回のダイス。
すべて内容を表記しないシークレットダイス(1d100)で。変化が確定したら表記されます。
シークレット:55、32、23。
55、32は維持。問題は23の方……。


 横須賀から少し沖合に出たところに位置する海域。沖合を眺めれば微か陸地が見えるような沖合が艦娘同士による模擬戦闘試験の会場だった。防衛省としてはデータ収集のしやすい海岸付近を試験会場にしたかったが、艦娘の使う兵装は実艦と同等であるため最悪の場合流れ弾によって市街地に被害出てしまうため、こうした沖合が選ばれた。周囲は事前に調査されており、深海棲艦がいないことは確認されている。

 そんな海域に一隻の海上自衛隊に所属する艦船が一隻停泊していた。練習艦「かしま」。本来なら練習艦隊旗艦として実習員の訓練が行われる艦だが、今回はいつもと違いヘリコプター甲板にデータ収集用に各種記録機材が設置されていた。そんな甲板に秋山と叢雲はいた。

 

「全く。せわしないわね」

「そこは仕方ないんじゃないか?」

 

 呆れたように呟く叢雲に秋山は苦笑する。制服姿の自衛官だけでなく、明らかに自衛隊の所属ではなさそうな白衣の人々が黙々と記録機材を操作している姿がある。政府は艦娘という未知の存在の能力を把握しておきたいのだ。そのため自衛隊関係者だけでなく、科学者や物理学者といった様々な分野の研究者が集められているのだ。

 

「だからと言ってジロジロ見られるのは勘弁して欲しいわ」

「ご愁傷さまだな」

 

 肩をすくめる叢雲。どうやら以前の試験の際にそれをやられたようである。そんな談笑をしつつ時間を潰していると、今回の試合相手が甲板に顔を出した。

 

「しっかし流石4000トンクラスだな。殆ど揺れがないぞ」

「司令官。漁船の何倍も大きい艦なんですから当然じゃないですか」

 

 一人は日焼けし髪を短く刈り上げた男。身体がガッシリしており、会話を考えれば元は漁師なのだろう。もう一人は黒髪のセミショートにセーラー服姿の少女――艦娘「吹雪」だった。

 

「っと、もう対戦相手が来てるか」

「もう、のんびりし過ぎです」

「へいへい」

 

 吹雪の小言を聞き流しながらも、対戦相手の提督は手を挙げた。

 

「アンタが今回の対戦相手か。漁師の山下だ。よろしく頼むぜ」

「山下司令官の艦娘の吹雪です。よろしくお願いします」

「高校生、いや元高校生かな?秋山です。よろしく」

「叢雲よ」

 

 秋山たちも返答する。相手が友好的なのだから邪険にする必要などない。

 

「しっかし、漁師ね……。今のご時世じゃ随分と危ない職業じゃない」

 

 叢雲の言葉は随分と酷いものであるが、的を射ている。海が深海棲艦の領域となった現在、武装の無い船が海に出ることは自殺行為に等しい。当然のことながら日本の漁業は壊滅し、多くの漁師が廃業した。だがそれに目を付けた者もいる。漁業の壊滅によって魚介類の価値がとんでもなく上がったということは、入手できれば一気に大金を手に入れることが出来るということだ。その事に目を付けた命知らずの者たちは、こぞって海に繰り出した。当然、深海棲艦に襲われる者も多いが、一部の漁を完遂出来た者たちは大金を手に入れた。山下はそんな命をベットに大金を狙うギャンブラーなのだ。

 

「好きでやってるからいいんだよ。それに前の漁の時は吹雪が護衛してくれたからかなり楽だったぜ?」

「……吹雪も苦労してるのね」

「言わないで、叢雲ちゃん……」

 

 どうやら真面目な吹雪は、山下に大分振り回されているらしい。

 

「秋山は……家は農家か?」

「分かるのか?」

「土の匂いがしてな。何作ってんだ?」

「基本は米。後は季節の野菜かな」

「米か。中々儲かるらしいな」

 

 深海棲艦が出現して以来、日本政府により食料の増産が指示されているが、完全に海路が封鎖された現在、日本は食料不足に陥っていた。少しでも食料を得ようと、学校の校庭や公園が芋畑になるという、どこかで見たことのある光景があちこちで見られている。その様な状況の日本だが、食料生産の従事者である農家は儲かっていた。食料が高騰しており、何を作っても高く売れる状況なのだ。以前は米の専業農家は経営が困難と言われていたが、現在では十分以上に採算がとれる状況なのだから、どれだけ食料の価値が上がっており、需要があるのかが分かる。

 

「ただ人手が要るんだよな」

「あー、燃料が高いから農業機械が使えないって聞いたが、その通りだったのか」

「叢雲が来てくれたお蔭で助かったよ」

「叢雲ちゃん……」

「言わないで……」

 

 そのような何気ない雑談がされていると、甲板に置かれたスピーカーによって拡張された試験官の声が響く。

 

『これより秋山、山下の模擬戦闘試験を開始します。両名は所定位置に着いて下さい』

「おっとここまでか。また後でな」

 

 そういうと山下は吹雪を連れて歩いていった。それを見送ると、叢雲は秋山に振り向くと、手を差し出した。

 

「私たちも行くわよ」

「ああ」

 

 秋山はその手を取った。これから試験本番だが二人に気負いはない。

 

『これより艦隊の指揮を執る』

 

 紡がれた言葉と同時に秋山の身体が光に包まれていく。放たれた白い光は彼の視界を塞ぐが、数秒で収まる。広がる秋山の視界。そこには記録機材がひしめいている甲板はなかった。

 羅針盤に操舵装置、テレグラフが備え付けられた一室。だがどれも現代の艦では見られない古いタイプの物。一部の詳しい者が見れば気付くだろう。そこは第二次世界大戦期の駆逐艦の艦橋だった。

 秋山は気付けばその様な場所の艦長席に腰かけていた。彼はそのことに驚くことなく、事前に決めていた確認作業をしていく。

 

「視界確認良好、通信機能良し。電探、水中聴音機正常作動中」

 

 彼のいる位置からは、ある程度は外が見えるが限定てきである。だが秋山の目には外の光景が鮮明に映っていた。更にフライトシミュレーター系のコンピューターゲームの様に速度計やレーダー等の情報が表示されている。

 

「叢雲、調子は?」

「絶好調よ。やれるわ」

 

 どこからか叢雲の声が響く。彼女の声からは上機嫌な様子が見て取れた。

 

 秋山が行ったのは、提督となった者が持つ能力の一つである艦娘への「乗艦」。提督が実際の軍艦に乗り込む様に乗艦し、直接艦娘たちの指揮を執ることが出来るのだ。効果はそれだけではなく、提督が乗艦した艦娘は艦隊を指揮する旗艦としての機能が付与されることになる。艦隊指揮の通信機能の強化。本来なら備わっていないであろう高性能なレーダーやソナーを装備。そして若干ではあるが艦娘自体の能力の強化であった。

 

 対戦相手の山下も吹雪に乗艦したのを確認した後、叢雲と吹雪は甲板から飛び降り、二人はお互い距離を話すように海上を航行する。

 

「それで、作戦は?」

「事前に打ち合わせ通りに行くぞ」

「了解よ」

 

 最後の打ち合わせをしている間にも、開始位置の目印として設置されているブイを発見する。叢雲はブイの脇で静止した。

 

「で、吹雪はやると思う?」

「やるだろ。成績的に」

 

 吹雪は遥か先で、この位置からはそれらしき人物が見える程度だ。海は凪いでいる。深海棲艦と同じく、艦娘にも一定範囲の海域の波を抑える能力があるためである。相手の動きを見逃すまいと叢雲は集中する。

 

 「かしま」から試合開始の合図である汽笛が海に響き渡る。そして同時に吹雪から光が放たれた。

 

「来たぞ!機関全速、取り舵!」

「了解!」

 

 秋山の指揮に従い、即座にその場から全速で離れる叢雲。その直後、ブイの周辺に幾本もの水柱が立ち上る。

対戦相手である吹雪が、砲撃を得意としている事は事前に知ることが出来ていた。並の腕ならそんな事は出来ないだろうが、相手の砲戦能力はかなり高い。そのため秋山は試合開始直後に奇襲として砲撃されることを予測していたのだ。結果は大当たりであり、叢雲は余裕を持って回避できた。

 

「叢雲、ここから砲撃して当てられるか?」

「今の私の腕じゃ無理ね」

「なら予定通り接近するぞ」

「了解よ」

 

 距離を詰めるために全力で突進する叢雲。次々に砲弾が飛来し着水するが、切り返しやフェイント、時にはあえて減速するなど、叢雲の高い運動能力が活かされているお蔭で、一発の直撃もない。

 しかし距離が縮まるに従い、段々と吹雪の砲撃に正確さが増していく。あわや直撃という攻撃がいくつもあり、叢雲の回避能力がなければ早々に轟沈判定を受けていただろう。

 そして叢雲の必死の努力が実を結ぶこととなる。

 

「射程距離入ったわ!」

「砲撃開始!」

 

 かくして駆逐艦艦娘同士による砲撃戦が始まった。叢雲と吹雪、お互い円を描くように航行し、両者の火砲が試験海域に飛び交う。その光景は白熱したものであり、練習艦「かしま」の乗員も熱心に試合を記録している。

 砲撃戦が始まり30秒、お互いに直撃弾はない。しかし、戦況は吹雪が有利だった。

 山下の相棒である吹雪の砲撃能力はトップクラスと言っていい程だ。これまで叢雲に直撃弾がなかったのは、フェイントと高い回避能力のお蔭であった。また吹雪も叢雲には及ばないものの、運動性能は高い。砲撃能力は平均クラスの叢雲の攻撃はそう簡単には当たらなかった。

 叢雲が吹雪に命中弾を出すには、接近するしかないのだ。しかし、

 

「やらせねーよ!吹雪!」

「はい!」

 

 当然、山下も吹雪もそのようなことをさせる気は全くない。砲撃で封殺するつもりでいた。距離を詰めるような動きがあれば、あえて叢雲の足元を狙いその動きを封じていく。

 

「やっぱり近づけないわね!」

 

 叫びつつも砲撃を続ける叢雲。予測はしていたが、こうまで劣勢だと焦りも出てくる。

 

「だろうな。そろそろプランA行くぞ」

「了解。全くアンタも無茶なことさせるわね!」

 

 叢雲は愚痴りつつも秋山の言葉に従い、事前に用意していたものを動かす。彼女の背負っている艤装から、砲撃戦ではまず使わないある物が動き始める。

 Y字の形をしたそれは叢雲の前方に狙いをつけると、砲撃とは違う爆発音と共に先端に装着されていた手のひらサイズのドラム缶の様な物を放り出す。それは砲火が飛び交う海に着水し沈んでいった。だが次の瞬間、

 

 砲撃では起こりえない程の轟音と共に、巨大な水柱が立ち上った。

 

「行け!」

 

 秋山の号令の元、砲撃を中断し突進する叢雲。吹雪からはその姿は見えないため前進を止められない。これまでと比べて大きく接近した叢雲は、頭上から降りかかる海水を浴びながら砲撃を再開する。

 対潜用の爆雷を前方に投射し、立ち昇った水柱を盾に接近する。それが秋山と叢雲が事前に立てた計画だった。隠れる物がないなら、無理矢理作ってしまえという無茶な作戦ではあったが、接近できなければ敗北は確実であるため、実行されることになった。事前準備として九四式爆雷投射機の投射方向を調節したり、水柱を立てやすくするため爆発深度をかなり浅くするなど、工夫を凝らしていた。失敗する可能性も大きかったが、結果は予想以上に効果があった。叢雲と吹雪の距離は縮まっている。

 そして秋山たちはそれだけで終わらせるつもりはない。

 

「まだまだ行くわよ!」

 

 連続で投射される爆雷により、次々と水柱が立ち上る。そして水柱に身を隠しつつドンドンと吹雪との距離を詰める叢雲。山下と吹雪はその動きに対応できなかった。

 

「司令官、電探は!?」

「ダメだな、電探じゃあ見えん」

 

 電探では水柱のために、その後ろに隠れている叢雲の姿を捕らえることは出来なかった。しかしこのまま手を拱いている訳にはいかない。接近戦となれば吹雪は叢雲に手も足も出ないのだ。だが、彼らにも状況を打破する手段は残っている。

 

「雷撃で動きを止めっぞ!」

「はい!」

 

 雷撃による回避ルートの制限。これならば叢雲の動きを捕らえられる可能性は高いと考えての指示だった。そしてこの状況での雷撃は、秋山の方でも狙っていた。

 

「プランBだ。雷撃用意!」

「了解!」

 

 秋山は接近戦に持ち込むための最後の詰めとして、雷撃を選択していた。

 

『撃て!』

 

 奇しくも二人の提督は同時に魚雷発射を命令。吹雪型駆逐艦が搭載する三連装魚雷発射管三基から魚雷が斉射される。相手の足を止めるため、あわよくばダメージを与えるために放たれた魚雷を回避する二人の艦娘。方や攻めるため、方や逃れるために行われた雷撃は、叢雲に偏り始めていた戦闘の流れを変えることは無かった。

 

「来るぞ!」

「そんな!?」

 

 吹雪は接近する叢雲を仕留めることが出来なかった。叢雲の放った雷撃は、砲撃に集中しつつ回避できる程、軟なものではない。吹雪に迫る7本の魚雷は回避出来たが、砲撃自体は出来たが狙いが甘く、叢雲を止めることは出来なかった。

 

「止まった!」

「突貫するわ!」

 

 対する叢雲は自分に傾いてきた流れを手放すつもりはない。その高い回避能力で迫り来る9本の魚雷を最小限の動きで回避し、動けない吹雪に肉薄する。槍が構えられる。しかし目標に異変が現れた。

 

「煙幕!?」

 

 吹雪の艤装から放たれる煙により、叢雲は目標を見失った。それでも構わず彼女は槍を突き出すが、煙幕により狙いが甘くなっているためか、吹雪に躱されてしまう。そして攻撃後に生じる一瞬の隙。そんなチャンスを対戦相手が見逃す筈がなかった。

 幾つもの爆音と風切り音。そして叢雲の身体に走る衝撃。ここにきて初めて大きなダメージ受けた。

 

「くっ!」

「ダメージレポート!艤装に1発被弾、小破!」

 

 怯む叢雲。追撃が無い内に吹雪は後退する。

 

「あ、危なかった……」

「吹雪、直ぐに離れるぞ!」

「はい」

 

 山下の指示に即座に従い、一気に距離を取ろうとする吹雪。その時、山下はある物を目にする。

 

「――!? 吹雪、右舷に魚雷!」

「えっ!?」

 

 山下の警告に吹雪は右に振り向く。そこには確かに魚雷があった。このまま後退すれば、命中しかねないコースである。進路を塞がれたため方向転換を行うが、それにより航行速度が落ちる。そしてそれを待っていた者がいた。

 

「10時方向に5m、足が止まったぞ」

「ありがと」

 

 秋山のナビゲートの元、叢雲が再度突撃する。

 吹雪の足を止めた魚雷は、先程叢雲と吹雪が魚雷を撃ち合った時のものである。叢雲が放った魚雷は9本。吹雪と同じだ。だが叢雲の魚雷の一部には事前に細工がされていた。それは「魚雷の速度を落とす」。ただそれだけだった。細工された魚雷を2本用意し、雷撃の際は相手を狙うのではなく、相手の左右に行くように1本ずつ発射。これによりその後に行う近接戦闘が回避され逃げられても、相手は遅れてきた魚雷により強制的に足を止めさせられることとなる。

 発案は秋山だが、彼にとってこの作戦は万が一の保険だった。接近戦は叢雲が圧倒的な能力を有していたためだ。また、作戦事態も上手く行く可能性は余り高くないため、精々相手を驚かせる程度の物と考えていた。だが、今回はその保険がぴったりと噛み合った。

 

「せいっ!」

「あっ!?」

 

 一気に距離を詰めた叢雲は槍を一閃。吹雪の構える連装砲を弾き飛ばす。

 

「吹雪、少し痛いわよ!」

 

 槍の一撃の衝撃により身体が流され無防備になる吹雪を叢雲は見逃すことはない。振り上げていた槍を返す刀で一撃。更に止めとして遠心力すら使っての横凪ぎが放たれる。

 その攻撃を回避出来ずに直撃し、吹き飛ばされ倒れる吹雪。同時に戦闘終了の汽笛が響く。

 

『試験終了。勝者秋山』

 

 こうして秋山と叢雲の試合が終了した。

 

 

 

 防衛大臣は模擬戦闘試験の視察のため、練習艦「かしま」の艦橋にいた。彼の回りには防衛省関係者が控えている。

 

「やはり、提督が乗艦した方が動きが良いですね」

 

 双眼鏡から目を離し呟く。先日と比べ、今日の艦娘の動きにはキレがあった。駆逐艦艦娘でも提督が乗艦すれば、敵の軽巡級なら余裕で相手を出来るだろう。

 

「しかし大臣。提督を戦場に出すのは……」

 

 部下の言葉に防衛大臣は頷く。彼の言うことは国防の観点から正しい。提督は金の卵(艦娘)を生む鶏だ。そんな貴重な存在を敵に殺される訳にはいかないのだ。

 

「解っています。しかし艦娘が少ない現状、提督の乗艦は必要となります」

「……」

 

 たが現状は、その鶏も戦わなければならない状況である。艦娘がある程度揃うまでは、何かしら対策が必要だった。

 

(空自に協力を要請した方がいいかも知れませんね)

 

 その様にあれこれと考え込む防衛大臣だったが、足早に艦橋にやってきた大淀によって中断される。

 

「提督、不味いことになりました」

「どうしました?」

 

 これ以上の情勢の悪化は勘弁して欲しいが、聞かない訳にもいかない。

 

「フランスにて大規模な暴動が発生。それにより現地は無政府状態に陥りました」

『……』

 

 その場にいる誰もが沈黙し、言葉を詰まらせた。




フランス復活判定:1~25がフランス終了のお知らせ、26~90がやや改善、91~はふしぎなことがおこった。1d100で判定。また国内不安ペナルティでダイスの値に-5で。
判定:23-5=18
フランス、アウトー!


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海を征く者たち5話 欧州の対応

何とか書けましたが、今回はイベントをしながらなので短いです。


 フランスの崩壊。その報は世界に大きな衝撃を与えることとなった。当然の事だが各国政府はこの事件によって被る影響への対応、そして対処の議論が活発に行われている。特に議論が活発なのが欧州で、本来なら年2回開催の欧州理事会を急遽開催されることとなる。議長や各国の元首が一堂に会するこの会議は立法権こそ無いが、欧州の重要な問題を扱う機関である。今回の問題を扱うにはうってつけであった。

 開催地であるブリュッセルに集まる各国元首。その顔色は悪い。

 

「あのカエル食いどもめ、国内政治もロクに出来んとは……」

 

 イギリス首相が顔を顰めつつぼやく。その言葉には暴言も混じっているが、この場の誰もが同意見であるため、咎められることはない。

 

「国際的な立場を考えると彼らの気持ちは解らんでもないがな……」

「だからと言ってあれはマズかろう」

 

 ため息を吐くドイツ首相と肩をすくめるとイタリア首相。彼らの手には崩壊する前のフランス国内の政治情勢が記された資料があった。

 

「飢餓輸出か……」

 

 議長の呟きが、フランスで何があったのかを簡素にまとめられていた。

 

 

 

 フランスは深海棲艦が出現した直後、経済政策の失敗によりフランス自体が崩壊寸前まで陥っていたのだが、政府関係者はフランスの状況に真っ青になりながらも崩壊だけは避けようと、あれこれと手を打っていた。幸いなことにフランスと言う国には国力があるし、「ドーバーの惨劇」や「第一次ビスケー湾海戦」などケチはついてしまったが、欧州でも有数の軍事力を持っている。フランス政府はそれらを活かし、治安の悪化した地域への軍の派遣や以前は邪魔をされた経済への介入を行った。その結果、GDPの順位こそ落としたが何とか国を維持していた。

その様な状況が変わってきたのが、深海棲艦が現れてから少し2年目。敵が次々と新型を繰り出してきた頃だった。この頃欧州ではドンドンと狭まる海上航路に不安を覚えた各国が、食料の増産と同時に今まで以上のフランスに食料の輸出を求めた。

 

「チャンスだ!」

 

 この要求にフランス政府は了承。食料の増産をしつつ、輸出を拡大した。この背景には内乱寸前まで陥ったことで失墜していたフランスの国際的な地位を回復させる意図があった。

 結果的に彼らの狙いは当たった。食料輸出というカードは各国への影響力を増大させることとなった。同時にフランス経済の混乱も落ち着き始め、フランスと言う国自体の復活が始まったのだ。

 だがその裏で、国民はある不満が燻っていた。

 

「なんで自分たちが苦しいのに、他国に構わなければならないんだ?」

 

 世界的な経済の混乱により、国民の購買力は低下していた。特に食料は需要が増大していることから価格が上昇しており、そのことに国民の不満が発生していた。

 フランス政府はこの不満を理解していたが、食料輸出を辞めることは無かった。折角手に入れた国際的地位の向上手段を手放すことは出来なかったのだ。勿論問題を放置するわけではなく、食料の増産を指示する等対応は行った。だが、確実に国民に不満が植え付けられてしまうことになる。

 

 そんな中2016年の秋に、麦を中心に農作物の凶作が発生した。原因は天候不順と深海棲艦の艦載機による対地攻撃の影響など様々な要因が重なった結果だった。そのためフランス国民は飢餓まではいかないが、貧困層を中心に日々の食事に困るレベルに陥ることとなる。深海棲艦出現前ならば経済も健全であり色々と手を打てたのだが、海上航路が壊滅している現状ではそれは困難だった。

 これに伴い食料を求めるデモや暴動が発生。警察や軍は対応に追われることとなる。とはいえこれだけで、フランスが崩壊するレベルの暴動が発生することは無かった。

 そして翌年2017年4月23日。深海棲艦への対抗手段となる艦娘が世界各国で出現した。艦娘は第二次世界大戦時に独立国であった国に出現している。欧州は当然のことながら艦娘が出現した国は多かった。余計な混乱を避けるために、未だどの国も艦娘についての公表は避けられているが、彼女たちの持つ能力は有効であることは既に証明されている。

 そのため各国は艦娘の戦力がある程度整うまでに国家が機能不全に陥らないように、更なる食料・鉱物資源を求めた。欧州各国が資源を得るために暗闘を繰り広げる中、当然フランスも巻き込まれることとなる。

 

 フランスと各国の幾度かの交渉の末、フランスが取った行動は――食料輸出の拡大だった。

 

 フランス政府としては際限なく膨れ上がる軍事費を補てんするつもりであり、また一部の国民から「飢えに苦しむ欧州各国を助けなければならない」という声もあったからこその判断だった。

 

 そして政策を知らされたフランス国民は激怒した。

 ただでさえ食料が足りないのに状況であるのに、それを無視して更に食料を外国に売り払うという暴挙を国民は許す気はなかった。

 当然の如く発生する反政府デモと暴動。フランス政府も鎮圧のために軍を動員するが、それも芳しくなかった。

 

「暴動の原因は政府にある!」

 

 政府の無策を知る兵士たちの士気は低かった。暴動の鎮圧もお座なり、時にはサボタージュすら発生していた。

 暴動の鎮圧に失敗した結果、その規模は雪だるま式に膨れ上がって行く。更にこれまでは何とか抑えていた各種社会不安も再炎上し、混乱は増すばかり。既にフランス政府は国内の統制能力を喪失していた。最後はパリで大規模な暴動が発生し、フランス政府は怒れる国民の波に飲み込まれた。

 

 

 

「フランスの近隣国に難民が押し寄せている。少数ならともかく、大量に来られては最悪の場合、近隣国が荒れるぞ」

「それにフランスは電力の輸出国だ。既に周辺国で電力不足による影響が出始めている」

「それだけじゃない。フランスには原発があるんだぞ。最悪の場合、ヨーロッパが死の大地と化すぞ」

 

 フランスの近隣国にも既に影響が出始めていた。本来ならフランス政府は早急に方針転換して、国内の統治に全力を挙げるべきであるのだが、

 

「現地政府は?」

「不明だ。少なくとも暴徒が政府庁舎に突入したのは確認されている」

 

 誰もがため息を吐く。こうなってしまってはフランス政府自身がこの事態を収めることは不可能だった。

 

「さて、どうするか……」

 

 議長は呟くが、この状況では採れる選択肢は限られている。

 

「各国陸軍によるフランスへの介入しかないでしょうな」

 

 肩をすくめつつ提案するイギリス首相に、各国のトップは躊躇いもなく頷く。早急に終息させるにはこれしかなかった。現地で多少抵抗はあるだろうが、占領自体は問題なく進行するだろう。問題はいつまで占領するかだ。

 

「分割統治でもするか?」

「魅力的な提案だな。深海棲艦が居なければ」

 

 フランスには欧州でも有数の穀倉地帯があるし、先進国故に技術力もある。イタリア首相の言う通り分割統治でもできれば、各国の力になるだろう。最も深海棲艦を始めとした様々な問題があるため、現実的ではない。

 

「深海棲艦への備えを考えると長期間の軍の派遣は避けたい」

 

 イタリア首相の冗談交じりの提案をスルーし、ドイツ首相は口を開く。その言葉はこの場にいる誰もが同意することだった。既に欧州各国の海軍は壊滅状態であり、陸軍には本土防衛の最後の守りだった。そんな陸軍戦力を長期間よそに派遣するのは避けたかった。

 

「ここは順当に、我々がフランス政府を擁立するのが妥当でしょう」

「人員の当てはあるのか?」

「幸いフランスの外務大臣が外遊中でしたので、彼をトップに据えましょう」

「前政権の?大丈夫なのですか?」

「彼は食料の輸出には否定的でした。その点をアピールすれば問題ないでしょう」

「なるほど。ならば妥当なところですな。勿論、新政府は我々の『助言』に従ってもらえるのでしょうな?」

「友好国の力を借りて政権を作るのです。当然『助言』を聞くでしょう」

「ふむ」

 

 納得したのかニヤリと笑い頷くイギリス首相。議長は更に言葉を続ける。

 

「またフランスには各国の邦人だけでなく、『貴重な人材』が取り残されています。彼らを失うのは人類の宝を失うことと同じでしょう」

「だが彼らは何人いるかも、どこにいるかも分かっていないぞ?」

「そこは各国で探していただく他はないでしょう」

「早い者勝ち、と?」

「そうなるでしょう。なにせ一刻も早く『貴重な人材』を保護する必要がありますので」

 

 議長は会議の出席者を見回す。その誰もがどこか凄みのある笑みを浮かべている。その結果に満足したのか、彼はこの提案を決定するための儀式を執り行う。

 

「では決を採ります。フランス介入案に賛成の方は挙手をお願いします」

 

 次々と各国首脳の手が上がっていく。程なくして参加者全員が賛成の意思を示していた。

 

「全員賛成により、フランス介入案は採択されました」

 

 かくして欧州各国は動き出した。

 




皆が助けてくれるぞ!やったねフランス!


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海を征く者たち6話 行き先

攻略も新艦掘りも終わった!次は備蓄やね(燃料20万以上消費)



 とある日の早朝。防衛省庁舎のある会議室は異様な光景が広がっていった。横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊の各地方総監とその部下がグループを作ってそれぞれの席に腰かけている。その誰もが小声だが真剣な顔で話し合っており、会議室の空気を張り詰めたものにしている。また彼らとは離れた所で、防衛省の職員が会議室に備え付けられている巨大なモニターを操作している。彼らは会議室の重い空気に内心ビクビクしているが、黙々と作業を続けている。

 

「モニターの方はどうだ?」

「ばっちりだ。しかし凄い光景だな」

 

 会場のセッティングをしている職員二人は、確認作業をしながらもチラリと今回の会議の参加者たちを見る。参加者全員がどこか疲れた雰囲気を醸し出している。よくよく見れば目に隈が出来ている者も多い。

 

「確か提督と艦娘の試験結果が出たのが2日前だよな」

「多分、あの人たちは提督と艦娘の確認をしていたんだろうな」

「提督の人数は500人以上。艦娘を合わせたら1000人を超えるのか」

「それだけの人数の能力を2日で把握して、誰に来てほしいかも決めなきゃならないからな。ロクに休めてないんじゃないか?」

「……ドラフトをやるにしても、もうちょっと準備期間がいるんじゃないか?」

「防衛大臣曰く、『時間がない』だそうだ」

「ひでぇ」

 

 そんな会話をしつつも手を止めることなく、準備を進めていく。とはいえ作業は殆ど終わっているので、後は最終確認程度であるため、雑談する余裕はあった。

 

「そもそもなんで提督を扱うのが地方隊なんだ?自衛艦隊が欲しがるんじゃ?」

「艦隊の再建に手が一杯らしい。後、自衛艦隊からすると艦娘に不安があるんだと」

「不安?」

「何でも『突然現れたのなら、突然消滅しても不思議ではない』だとさ」

 

 彼らの話は事実ではあるが、表に出ていない事もあった。当初、防衛大臣は提督と艦娘の管轄を自衛艦隊に任せようと考えていた。内閣でもその案は支持されており、自衛艦隊司令官にも話を通していた。当初こそ自衛艦隊司令官は艦娘の力に懐疑的であったが、イギリスから提供されていた映像を見せたり、実際に防衛大臣の初期艦である大淀を出撃されて見せる等をして納得することとなった。それを見てもなお、自衛艦隊司令官は艦娘を自衛艦隊で扱うことを拒否した。

 

 

 

「お断りします」

 

 防衛省の大臣執務室。坂田防衛大臣は北村自衛艦隊司令官のその言葉に目を剥いて驚いた。

 

「……なぜです?」

 

 坂田にとって彼の言葉は予想外だった。北村自衛艦隊司令官は深海棲艦出現時から自衛艦隊を指揮していた歴戦の猛者だ。自衛艦隊こそ壊滅したが、自衛隊内部では彼の実力を疑うものはいない。だからこそ坂田は彼であれば艦娘を上手く扱えると考えていたのだ。

 

「三つ程理由がありますがよろしいですか?」

「……分りました」

 

 思わず顔を歪めそうになる坂田だが、何とか自制して先を促す。

 

「まず一つ目としては艦娘が何の前触れもなく出現したことです」

「どういうことです?」

「確かに艦娘は深海棲艦に対して有効な対抗手段です。映像では戦艦級を一撃で撃破していた。これは現在の我々ではまず不可能でしょう。しかしその艦娘が『出現した』ということが問題です。前触れもなく『出現した』ということは、前触れもなく『消失する』可能性があります」

「……仮に艦娘戦力に頼り切っていた場合、彼女たちが消失すれば抵抗すら出来ずに日本は滅びますね」

 

 この不安を解消するには、艦娘がこれからも『消失』しない事を証明しなければならない。しかしそれは提督となった坂田にも証明することは出来なかった。そして国を守る立場からしても、艦娘という消失するリスクのある存在に国防を頼り切りにすることは避けたい。

 

「二つ目は、日本の防衛範囲の広さです。神出鬼没な深海棲艦に対して、防衛戦力を広範囲に配置する必要があります。自衛艦隊では性質上その戦力が集中してしまいます」

「なるほど」

 

 素直に頷く。提督となったおかげで軍事知識は手に入れたが、防衛省という組織については、北村の方が一日の長があった。

 

「そして三つめは、ほぼ確実に現場で自衛官と提督や艦娘が衝突することです」

「……」

 

 自衛艦隊は壊滅こそしたが、日本を深海棲艦から守ってきた。それを担ってきていた自衛艦隊に所属する自衛官もその自負を持っている。そんな彼らにとって、後からやってきた民間人や艦娘という謎の存在によって、「深海棲艦と戦う」という花形を奪われる事は、大きな不満となることは容易に想像できた。また、艦娘の力が対深海棲艦戦において有効であることも問題となってくる。これまで自衛官たちが苦労して戦ってきた深海棲艦を、艦娘たちは容易に葬ることが出来るのだ。そんな様を見せつけられれば、いくら艦娘に頼ることが最善の選択である理解していても、現場で戦ってきた人間からすれば面白くないだろう。

 

「……嫉妬心ですか」

「誰もが割り切れるものではありません」

 

 二人のため息が執務室に包まれる。この問題の解決には時間が掛かることは容易に想像が出来た。

 

「私としては提督及び艦娘を専門で扱う部署があればいいのですが」

「必要性は認識していますが、部署を新設する時間がありません。……自衛艦隊が駄目となると、地方隊に任せましょうか」

「その方が良いかと。しかし地方隊でも自衛官との衝突は起こるのでは?」

「……地方総監に任せましょう。提督と艦娘を上手く扱えたら出世に繋がることを事前に通告しておきます」

 

 ニヤリと笑う坂田。その光景に若干引きながらも北村は続ける。

 

「それと自衛艦隊の再建もお願いします」

「……艦娘の消失リスクについては否定しようがありません。そこを突いて財務省と掛け合ってみます」

 

 

 

 会議室の扉が開かれ、今回のドラフトの発案者である坂田防衛大臣、その後にすっかり秘書として動くことの多くなった大淀が入室する。二人は予め用意されていた席に腰かける。時間は丁度7時。会議の開始予定時刻であった。

 

「これより特殊戦力配備会議を始めます」

 

 マイクで拡大された司会担当者の声が会議室に響く。如何にも役所的なネーミングの会議名だが、馬鹿正直に提督ドラフト会議とされるよりはマシだと防衛省内部では囁かれている。

 

「では会議の前に確認事項をお伝えします。赴任先の決定方法はプロ野球ドラフト会議と同じですが、事前の告知通り初期艦の艦種毎にドラフトを行います」

 

つまり初期艦が戦艦な提督のドラフト、初期艦が正規空母な提督のドラフトと言った様に、艦種毎に分けてドラフトをすることとなっていた。これは各地方隊の初期の艦娘戦力に極端な偏りが起きないようにするための措置だった。

 

「皆様準備はよろしいでしょうか。それでは戦艦の1巡目を始めます。艦名、提督名をパソコンに記入して下さい。パソコンでの記入が終わりました地方隊は卓上のランプを点灯してください」

 

 こうして始まったドラフト会議。そして誰もが予測していた様に大いに荒れた。

 1巡目の戦艦では大和型をめぐり見事に重複し、各地方総監が殺気すら放ちながら抽選に臨んだ。重複は正規空母の1巡目でも起こり、こちらでは全地方隊が大鳳を指名。戦艦1巡目以上の荒れ具合となる。そのような状況の中、あまりのストレスに会議の運営スタッフは胃を痛めていた。

このまま荒れる展開が続くかと思われたが、以外にも軽空母、重巡、軽巡では重複が発生せず、殺気立っていた会議室の空気も緩和し始めていた。誰もがこのまま平和に終わるかと考えていたが、その予測は裏切られることとなる。

 駆逐艦1巡目で、陽炎を有する提督を全地方隊が指名してしまい、抽選となった。他の艦種と比べて戦闘力の低い駆逐艦からのドラフトということで、各地方隊は艦娘の性能よりも提督の能力を重視していた。そして1位指名の提督の成績は全提督の中でもトップ。重複するのは当然だった。

再び殺気立つ各地方隊。早く終われと願うスタッフ。そしてそんな中でも平気な顔をしている坂田と大淀。傍目から見ればよくわからない光景は、結局ドラフトが終わるまで続くこととなった。

 

 

 

「聞いてはいたけど、本当に人がいないわね」

「だな」

 

 秋山と叢雲、二人の姿は横須賀の海の見える公園にあった。長ベンチに並んで座っている。話題は先程まで二人がいた横須賀の繁華街だった。

 

「せっかくの外出だけどあれじゃあね」

 

 提督と艦娘の試験が終了し、後は配属先が通達されるのを待つのみとなった。配備先の決定まで数日かかるため、防衛省は慰安として提督と艦娘に横須賀市内という制限付きではあるが交代での外出許可を通達した。

秋山たちの休日は最終日。長くホテルに缶詰めにされて辟易していた秋山たちは、早速横須賀の繁華街に繰り出したのだが、そこに広がっていたのは寂れた街並みだった。休日の昼間にも関わらず人通りが少ない。また多くの商店ではシャッターが下ろされており、深海棲艦出現以前の栄えていた頃の面影はなかった。

 

「2月に横須賀は敵の水雷戦隊の対地砲撃をやられたんだ。被害自体は少なかったらしいがそれのせいで急激に人口が減ったらしい」

「ここ数年、深海棲艦の侵攻を恐れて沿岸部から住民が離れ始めているそうね。そして横須賀では実際に起こってしまった。住民が逃げだすのは当然ね」

「残っているのは自衛隊関係者と極少数の自衛隊を相手に商売をする人、後はインフラ関係者ぐらいか……」

 

 街のあちらこちらには去年の襲撃の被害によるものと思われる倒壊した建物も見られていた。撤去作業も行われているが、全て終えるにはまだまだ時間が掛かりそうである。

 

「失敗したわね。繁華街だから当てにしてたのだけど」

「いっそのこと帰るか?」

「このまま散歩でいいじゃない。それにあれをわざわざ作ったし勿体無いわ」

 

 そう言って叢雲は秋山の持つ手さげ袋に視線を移す。

 

「時間も丁度良いし出しちゃいましょ」

「そうだな」

 

 秋山は手さげ袋から目的のモノを取り出す。現れたのはラップに包まれた大きなおにぎりが二つと、味噌汁を入れた魔法瓶。ホテルで無理を言って厨房を借りて作った弁当だった。

 

「ほれ」

「ありがと。――うん、やっぱり美味しいわね」

 

 巨大なおにぎりにかぶりつきながら、頷く叢雲。秋山が家族から持たされていた秋山家が作った米で作った塩むすびだった。秋山家で過ごした時間は短いが、彼女にとってこれが馴染みの味だった。

 

「まあ秋山家全員で作ったからな。ちゃんと味わって食べろよ?」

「そうね。……ねえ」

「ん?」

「前から訊きたいことがあったのだけど、今良いかしら?」

「ああ」

 

 急に緊張した面持ちとなった叢雲に、秋山は戸惑いを感じていた。

 

「なんで深海棲艦と戦おうと思ったの?」

「いや、何を今更。お前も行きたいって言ったじゃなか」

「私はいいのよ。問題はアンタ。最初は私に無理に付き合ってくれてるのかと思ったわ。でも違った。アンタは自分の意思で戦おうとしている」

「まあ、そうだな」

「だから戦う理由を訊きたいの。下手な理由だと私を含めた周りが迷惑するわ」

「因みに答えが気に入らなかったら?」

「艤装で殴ってでも矯正するわ」

「矯正する前にミンチになりそうだ……」

 

 秋山は顔を歪ませる。暫しの間、あー、うーんと頭を捻る。とはいえ早々気の利いた言葉が出るわけではない。

 

(変な言い訳をしたら殴られそうだ)

 

 なので彼は素直に行くことにした。

 

「あー、強いて言えば――生き残りたいのと知り合いに死んでほしくないから、かな?」

「割とシンプルね」

「色々考えたけど、突き詰めればそれだな。死にたくないし、知った顔が死んで嫌な思いをしたくない。幸い提督になったからそれがしやすいしな」

「へえ」

「……判定は?」

 

 かなり欲望に忠実に答えてしまった。内心ドキドキしながら秋山は訊ねる。暫しの沈黙の後、叢雲は笑みを浮かべた。

 

「合格。下手な目的よりはずっと良いわ」

「そりゃどうも。味噌汁いるか?」

「いただくわ」

 

 とりあえず殴られる事はなくなり、安堵する秋山。地元から持ってきた味噌と顆粒出汁、乾燥野菜を入れたシンプルな味噌汁をカップに注ぎ、叢雲に渡す。先ほどの空気は完全に霧散し、彼女からは上機嫌な様子が見て取れた。

 

「そう言えば、今朝配属先の発表があったって聞いたけど、私たちの配属先はどこなの?」

「ん?聞いてないのか?」

「提督に知らされるって話よ」

「そうなのか。まあ、ここだよ」

「ここ?じゃあ――」

「そう。横須賀だ」

 




今後の展開を考えたら、政府関係者の出番がかなり多くなりそうなので、各政府関係者をネームドにしてみました。


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海を征く者たち7話 艦娘への反応

相変わらず、おっさんたちの会議や会話ばかりです。

今回の判定は1d100。判定内容は後書きで。
ドイツ80、日本78、フランス67、アメリカ29、イギリス75、イタリア58、ロシア45
……アメリカさん?




 日本国、首相官邸のとある会議室。そこではある重要な会議が開催されている。だが、その光景は通常の物とは大きく異なっていた。会議室にいるのはメインの参加者である真鍋内閣総理大臣と少数のスタッフのみ。設備は会議室に備え付けられている巨大モニター、そしてテレビカメラだけだった。モニターには各国のトップが映し出されている。面々を見ると所謂先進国の国々が多いが、そこには一つの法則がある。4月23日に国内に艦娘の出現が確認された国々である。

 

「さて、こんな形で少々味気ないが、会議を始めようか」

 

 今回の会議の主催者であるアメリカのクーリッジ大統領は苦笑しつつ、音頭をとる。今回の国際会議の重要性を考えれば、本来なら直接顔を合わせる方が良いのだが、世界中の海が深海棲艦の手に落ちている現在、その様なことは不可能だった。アメリカに駐在している各国の大使を代理として会議を行うという案もあったが、扱う議題が大使では手に余り兼ねないとして反対意見多数。最終的にテレビ会議という形で会議が開催されることとなった。

 

「さて早速本題に入りたいところだが、その前に一つ気になることがある」

「何かね?」

「各国の艦娘の配備だが、一部の国で配備が遅れていると聞いている。その事について確認したい」

 

 ジロリとあるグループを睨むクーリッジ。艦娘の配備の遅れは、当事者だけでなく周辺にも影響が出るためだ。そして日本としても把握しておきたい所であった。例え地理的には遠く離れた場所のことであっても。

 

「EU加盟国の配備状況はどうなのですか?」

 

 真鍋はEUの首脳陣に視線を向けた。その殆どが平静を装ってはいるが、焦りが見えていた。

 

「少くとも我が国は問題ないな。何せ第二次世界大戦前は世界第二位の海軍力を持っていた。お陰で保護した艦娘を当てにしなくてもいい」

 

 EU首脳陣の中でも一番余裕のあるイギリスのマクドネル首相は肩をすくめた。

 フランスの崩壊は、政治、経済など様々な所に影響を及ぼした。今回の艦娘の配備の遅れもそれだ。フランスにいた提督と艦娘を引き入れる事は中、長期的には利益は莫大だが、短期的には提督への懐柔や交渉など様々な手間が掛かってしまう。早急に艦娘を配備する必要のある現状、時間が掛かることは大きな問題となった。

 

「我が国以外では、ドイツ、イタリアは問題ないと聞いている。その二カ国は戦艦艦娘がいるし、なぜか未完成艦の空母艦娘がいるから、戦力にある程度の余裕がある。問題はそれ以外ですな」

 

 フランスへの介入をしている国で提督の保護に熱心なのは、第二次世界大戦前に海軍戦力が少ない国々だった。当然、それらの国々の艦娘の戦力は低い。だからこそフランスにいた艦娘は魅力的だった。彼らはフランスの艦娘を自国の主力に据えようと目論んでいた。

 

「……現在、艦娘の配備については全力を挙げている。もう少し時間が欲しい」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をするオランダのルッツ首相。その言葉はフランスの提督を当てにしている国々の主張を集約していた。彼の国々はフランスで保護した提督の懐柔に手間取っていたのだ。完全に取り込むにはまだまだ時間が掛かることは解り切っていた。

 

「……まあいい」

 

 クーリッジもそのことは察しているため、これ以上の追及は行わなかった。

 

「出来ないことをここで言及したところで、建設的ではない。いい加減本題に入ろうではないか」

 

 マクドネルの言葉に会議の参加者全員が気持ちを切り替える。何せ文字通り世界規模で影響が出る物なのだ。

 

「艦娘の国民への公開ですか。大混乱間違いなしですね」

 

 ため息を吐く真鍋。何せ公開する内容が荒唐無稽すぎるため、どのような反応が出るかが予測しきれない。参加者を見れば誰もが難しい顔をしている。

 

「……軍事機密として非公開の方が良いんじゃないのか?」

「気持ちは解るが難しいだろう。何せアメリカ以外の殆どの海軍は壊滅状態だ。そのような状況では極秘裏には艦娘を使う程余裕はない」

「それにどの国も劣勢です。艦娘という希望を国民に見せる必要があるでしょう」

「……」

 

渋るクーリッジだが、マクドネルと真鍋の反対意見によって沈黙する。他の参加国も公開派であるため、クーリッジをかばう素振りは無い。

 

「……そうだな。では予定通りにいこう」

「はい。国連を通して公開します。発表は5月23日」

 

 

 

 5月23日。国連から各国に出現した艦娘についての発表が行われた。しかし、当初は反応は芳しくなかった。

 

「お前は何を言っているんだ」

 

 「第二次世界大戦時の軍艦が人の姿になって現れた」などと言われた所で、普通は信じるはずもなかった。最も各国はその反応は事前に予測されていたため、政府による発表やマスコミへの艦娘の公表、深海棲艦との戦闘映像の公開など様々な手段で、艦娘が深海棲艦に対して対抗できる存在であることは認識された。

 

 だが同時に、各国の国民の間で艦娘という存在についての議論も活発になった。本来、無機物だったものが、時代を超えて現代に現れたのだから当然だった。

 艦娘という存在自体を直ぐに受け入れられたのは、日本と中国だった。この二カ国には付喪神思想があり、艦娘が受け入れられる下地があったのだ。ただし日本の場合、「第二次世界大戦時の軍艦」の付喪神ということで、所謂極左が発狂し過剰な行動を起こそうとしていたが、これらの事態を予測していた公安及び警察が、抑え込んだ。

 

 日本、中国以外の国では、議論は続いていた。艦娘という未知の存在にパニックになっていたのだ。「提督が艦娘を建造できる」ということも、混乱を拡大化させる一因であった。

 

人(提督)が人(艦娘)を作る。

 

 神に成り代わり、人が人を作りだした。ならば作り出した者によって人類は滅ぼされるのではないか。フランケンシュタイン・コンプレックスと呼ばれる思考が各国の国民に現れていた。特に欧米などのキリスト教圏でこの思考に捕らわれる者が多発した。

 特に酷かったのはアメリカだった。皮肉にも軍事力があり、劣勢ながらも深海棲艦に対抗出来ており、ある種の余裕があったためだ。少なくない数のアメリカ国民が、艦娘を危険視した。彼らは提督及び艦娘の隔離や監視を叫んでいた。

 

 これらの動きに、各国は事の沈静化を図っていた。現状では深海棲艦に対して対応できるのは艦娘だけだ。彼女らと敵対することになれば、文字通り国が滅びかねないのだ。バチカンも動き「艦娘は神が人類にもたらした奇跡」と発表するなど、各国政府、国際機関、宗教権威など影響力の大きい組織はなりふり構わず対策を講じていた。

 余談だが、世界中のマスコミは艦娘容認派であった。これは各国政府の『要請』を受けての物だった。「報道の自由」という言葉はあるが、それは結局国家が容認しているから存在する言葉だ。国家と言う巨大な組織、それも複数の国家が本気を出せば、報道の自由など無意味に等しい。

 大きな混乱を生みつつも、艦娘という存在は世界中で認知されていくことになる。 

 

 

 

 横須賀基地の総監室。横須賀地方総監である佐久間海将は、上げられてきた報告書を手に目を剥いていた。

 

「……どういうことなんだ?」

「さあ……」

 

 同じく資料を読んでいる参謀長の矢口海将補も頭を捻っていた。

 

 現状の横須賀基地の戦力は、往年とは比べ物にならない程激減していた。メインとなる戦力が陸自の地対艦ミサイルと対空ミサイルであり、海上戦力は精々が少数のミサイル艇ぐらいだった。だからこそ佐久間を始めとした横須賀基地の関係者は艦娘が配備されたことに喜んでいた。ここ最近の深海棲艦との戦いは陸自と空自が主役であり、海自は何も出来ないでおり鬱憤がたまっていた。そんな所に艦娘が海自にやってきたのだ。彼女たちによって再び海自が戦いの主役になれるのだ。

 しかし横須賀基地の設備を確認した提督と艦娘は、異口同音でこういった。

 

「この基地の設備では艦娘の運用は難しい」

 

 最初はその言葉に疑問を持ったが、直ぐに納得がいった。横須賀基地は現代の軍艦を扱う基地であり、艦娘という未知の戦力を扱える施設は存在しないのだ。とはいえ増築などそうそう出来るわけではない。

 佐久間はとりあえずダメ元で防衛省に掛け合ってみた所、まるで解っていたかのように許可が降りた。呆気に取られる佐久間だが、そんな彼を余所に防衛省から更なる命令が飛んで来る。

 

「艦娘運営用の基地を建設せよ」

 

 余りの内容に「お前は何を言っているんだ」と、思わずツッコミを入れる佐久間だが、既に建設予定地が指定されており、更に建設用の資材が次々と現地に運び込まれていた。

 ここまで事が進んでしまっては、基地の建設は確定である。頭痛を覚えつつ確認作業を行っていた佐久間だったが、部下からの指摘である問題が浮上する。基地建設の施工業者が決められていないのだ。慌てて防衛省に問い合わせるが、

 

「横須賀基地の人員で建設せよ」

 

 と、見事な無茶振りをされてしまった。

 頭を抱える横須賀基地の上層部の面々。何とかならないかと話し合われるが、そう簡単に妙案が出てくるはずもない。なので仕方なしに提督たちに事情を話した所、彼らは事もなしげにこう言った。

 

「これより基地建設作業に入ります!」

 

 呆気に取られる横須賀の上層部を余所に、周辺海域防衛のための人員以外は、全て基地建設に向かってしまった。翌日、防衛省から提督の能力についての詳細な資料が横須賀基地に届けられた。そして発見される「基地建設」という項目。この情報を知らされたタイミングから明らかに作為的なものを感じつつも、とりあえず納得することにしたのが5日前。そして現在。

 

「いくらなんでも早すぎるぞ!?」

 

 基地完成の旨を記した報告書に、佐久間はツッコミを入れていた。

 

「建物はプレハブではなく、鉄筋コンクリートを使っているみたいですね。建設された施設はどれも大規模。しかも小さいながらも滑走路まであります」

 

 平静に勤めようとはしているが、若干顔が引きつっている矢口。報告書にはどうやったのか航空写真まで添付されており、どれだけ大規模な基地なのかが良く解る。

 

「参謀長は二日前に視察に行ったらしいが、どうだったんだ?」

「……建設作業の中心である明石と彼女の提督である高柳提督の案内を受けましたが、有り得ないほどの速度で作業が進んでいました」

「提督からは?」

「基地の建設作業は妖精が行っており、提督と艦娘は指示を出しているらしいです」

 

 

 基地の建設作業は、全ての提督が呼び出した妖精による人海戦術ならぬ妖海戦術によって急ピッチで行われていた。そのためどこを見ても大量の妖精がいるという、ファンシーな光景が広がっていた。

 

「……妖精?」

「艦娘をサポートする存在らしく、提督と艦娘しか見えないとのことです。ですので私の目には建物が勝手に組み上げられているようにしか見えませんでしたが」

 

 提督や艦娘から見ればファンシーな光景も、普通の人間である矢口には独りでに建物が建っていくという、ある種のホラーにしか見えなかった。

 

「……何でもありだな、あいつら」

「全くです」

 

 総監室に二人のため息が響いた。

 

 




艦娘発表に対する国民制御判定です。1~10は暴発、11~30は過激論が無視できない範囲で発生。31~60は過激論を何とか押さえ込む。61~90はそこまで影響はない。91~100はふしぎなことがおこった
今回、日本は以前の統制判定で高い値を出したため、+5のボーナス。
今回問題があるのは29のアメリカ。地雷が埋設された!


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海を征く者たち8話 資源問題、予算問題

今回はみんながため息を吐くお話。

シークレットダイス:02、21、31
今回は動きは無いですね。


 提督と艦娘が各地方隊に配備され2週間が経過した。各地で艦娘運用用の基地が急ピッチで建設された際は、ドン引きしていた自衛官たちだったが、艦娘の出撃がされるようになるとその認識を改めた。これまで散々苦労してきた深海棲艦を次々と撃破していく姿に多くの者たちは喝采を上げた。艦娘の能力に危機感を覚える者も一部には出たものの、現状の自衛隊では深海棲艦に対抗できない事は分かっているので、目立った動きをすることは無かった。また日本国民も艦娘に対し大方は好意的であるため、日本での艦娘運用を遮る要素は無いと言っても過言ではなかった。

 

 その様に日本中が歓迎ムードに包まれている中、自衛隊の上層部と提督、艦娘は焦りを覚えていた。艦娘の運用に必要とする重要な要素が全く足りないためだ。燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイト。提督たちが資源と呼んでいるそれらが不足していた。そしてそれは首都防衛の要である横須賀基地でも同じだった。

 横須賀基地からすぐ近くに建設された艦娘用の基地である『横須賀鎮守府』。今日の出撃を含む業務が終了し、艦娘と提督は鎮守府で思い思いに過ごしている。

 

「不味いわね」

 

 横須賀鎮守府の食堂で叢雲は呟いた。

 

「メシが?」

「違うわよ」

 

 秋山の言葉に即座に訂正を入れる叢雲。現在は夕食時。提督と艦娘が食事のため食堂にやってきており、かなりの賑わいを見せていた。秋山と叢雲もその中の一人だ。

 

「そもそも食堂の責任者って間宮さんとその提督じゃない。美味しいに決まってるわ」

「まあ、そうだな」

 

 初期艦として呼び出される艦娘は、性格や技能などで呼び出した提督と相性がいい艦娘が呼ばれるとされている。鎮守府建設の中心人物だった提督は一級建築士の資格を持っていたし、鎮守府の食堂の責任者は以前はホテルの料理人だった。

 

「そうじゃなくて、資源よ資源。このままじゃジリ貧よ?」

「それは分かってるけどな……」

 

 艦娘を運用するにおいて戦闘、修理、建造、開発と様々な要素に必要とされる資源だが、既存の物をそのまま使えるわけではない。提督には妖精と共にそれらの資源を艦娘用に加工することが出来るのだが、ある種の手作業であるため量産は難しい。提督総出で資源加工作業をやっても、現在保有する艦娘を運用するだけで精一杯だった。大量生産をするには専用施設がいるのだが、建築するにはある程度の量の艦娘用資源を使用するため、建築がなかなか進まないでいる。現状の想定では6月の後半に完成予定とされていた。

 

「正直どうしようもないだろ」

「諦めないでよ」

 

 提督たちも資源不足は認識しているものの、地道に資源加工施設を建築していく以外どうしようもないと半ば諦めの空気が漂っていた。

 

「節約するとかあるじゃない」

「具体的には?」

「砲撃をやめて接近戦で倒すとか」

「それ被弾が増えて、逆に出費が増すぞ」

「……戦艦や空母を中心に遠距離攻撃するとか」

「被弾は少なくなりそうだけど、弾薬の出費が凄いことになりそうだな」

「……提督たちが不眠不休で加工作業?」

「節約ですらなくなったぞ」

「……」

 

 二人の間に沈黙が漂う。分ってはいたがそう簡単に有効策が思い浮かぶわけではない。

 

「深海棲艦から回収した資源がそのまま使えれば楽なのに……」

「出来ないものはどうしようもないだろ」

 

 深海棲艦出現直後から人類は深海棲艦の研究を続けていた。これまで科学者や生物学者が頭を抱えたくなるような研究結果しか出ていなかったが、艦娘が出現し彼女らの強力により研究が進み始めていた。深海棲艦が使う装甲、弾薬もその研究により明らかになったことの一つだった。深海棲艦が使用している装甲や弾薬等は、艦娘の使用するそれと近い物であることが判明した。

 

「これを艦娘用に使えないか?」

 

 そんな話が研究者たちから出てくるのは当然だった。深海棲艦はそれこそ無数にいる。特に輸送艦クラスからはそれなりに纏まった量が採れることは以前から知られていた。彼らは、現状では既存の資源を加工することでしか作れない艦娘用の資源を、これで代替とすることを目論んだのだ。

 早速明石など、技術力がある艦娘に話を持ち掛ける研究者たち。だが、帰ってきた答えは芳しくなかった。

 

「加工しないと使えませんよ?」

 

 明石曰く、「深海棲艦から採れる資源は深海棲艦用に加工された物であり、艦娘が使うには提督による加工が必要」とのことだった。結局、彼らの目論見は頓挫することとなった。

 

「幸い6月には施設が完成するんだ。気長に待とう」

「……そうね」

 

 今の自分達には何も出来ない。そのことが改めて確認されただけであり、若干気落ちした気分を紛らわすように、二人は食事を再開した。

 

 

 

「駄目ですか」

「ええ、駄目でした」

 

 防衛省、大臣執務室。坂田防衛大臣と前田海上幕僚長は顔を突き合わせていた。

 

「財務省と掛け合ってみましたが、残存艦の修理費用は満額引き出せました。しかし――」

「新艦の建造は却下された、と」

 

 ため息を吐く二人。この問題は軍事に関わる人間にとって、頭の痛いものだった。

 現在の海上自衛隊の戦力は、いずも型1隻、あたご型2隻、汎用護衛艦8隻。他国と比べればまだ戦力は残っていると呼べるが、どれも損耗が激しかった。

 そのため海上自衛隊は艦娘の登場により、ある程度戦力に余裕が出来た事を期に、海上戦力の建て直しを図った。

 第一次艦隊再建計画と名付けられた計画。その内容は以下の通り。

 

○残存艦の修理及びメンテナンス

○あたご型三番艦の起工

○汎用護衛艦3隻の起工

○いずも型二番艦「かが」の建造の再開。

 

 「かが」についてだが、対深海棲艦戦の初期に起工したものの、戦況の悪化により物資が他の兵器に回されてしまい建造が中断されていた。海自としてはヘリコプター搭載護衛艦が1隻しかない現状を打破しようと目論んでいた。

 海上自衛隊から防衛省に提出されたこの計画に、坂田も賛成。海上自衛隊関係者は計画を進めようとしていた。

 そんな彼らに待ったを掛けたのが財務省だった。

 

「戦時下ですら予算不足に泣くはめになるとは……」

「しかし計画に予算を回せない理由が国防に関わることですので、反論できませんでしたよ」

 

 日本の財政状況は増税や戦時国債の発行など様々な手を打ってはいるが、既に破産寸前まで来ていた。その様な状況の中で従来の軍事活動に加え、空自のF-15J改修計画、陸自の地対艦ミサイル及び対空ミサイルの大量配備、更には新兵器の開発と予算が投入されてきたのだ。軍艦の新規建造という金食い虫に、予算を回せる余裕など既に無かった。

 それでも坂田は何とかならないかと交渉を続けていたが、財務省に味方をするものが現れる事となる。

 

「それに経済産業省まで出てこられては、私もお手上げです」

 

 戦略物質を管轄する彼らに取っても、この計画は看過できないものだった。

 

「既に日本の戦略物資は危険域だ。護衛艦を新規に建造する余裕は既にない」

 

 財務省との幾度目かの交渉の後、話を聞いた江口経済産業大臣が坂田にコンタクトを取ってきた際に言われた言葉だった。計画の必要性を説く坂田だったが、更に江口は続ける。

 

「物資が限られる現在、残されたリソースを艦娘に集中させるのが良いのでは?」

「……」

 

 その言葉に坂田は沈黙するしかなかった。現状で深海棲艦に対して有効な戦力は艦娘のみ。残り少ない物資を艦娘に集中させた方が最善であることは明らかだった。

 更に前田が艦娘を推す理由に、必要とする資源の少なさもあった。艦娘の建造や運用には確かに各種資源を使うことになるが、既存の兵器と比べても非常識な程必要な資源は少ないのだ。低コストで高いパフォーマンスを見せる艦娘。そのような存在を推さない者はいなかった。

 財務省と経済産業省。二つの省に押される状況では、既存艦の修理をねじ込むのが精一杯だった。

 

「では第一次艦隊再建計画は中止であると?」

「いえ、中止ではなく中断です」

「中断?」

「はい。財務省と経済産業省から資源の輸入もしくは自活が出来た場合、計画を再開出来ることを確約させました」

 

 色々と反対意見を出していた二つの省だが、坂田の語る「艦娘消失のリスク」については納得しており、自衛艦隊再建には理解を示していた。そうでなければ既存艦の修理すら行われなかったであろう。新規建造が却下されたのはそれを行う余力がなかったためだ。言ってしまえば計画を実行するには時期が悪すぎたのだ。

 

「自衛艦隊には悪いですが、今は艦娘戦力の強化に集中させていただきます」

「分かりました。自衛艦隊司令官には私から」

「よろしくお願いします」

 

 このようなやり取りの末、自衛艦隊の立て直しが始まった。

 

 

 

「マズイ……」

 

 井上財務大臣は財務省の執務室で頭を抱えていた。執務机には大量の資料。どれも日本の財政について記載されているが、そのどれもが冗談で済まないぐらいに危機的な状況を示していた。

 

「このままでは破産する」

 

 それほどまでに日本の財政はひっ迫していた。

 事の起こりは当然のことながら、4年前の深海棲艦の出現。深海棲艦により世界中の海は安全地帯でなくなり海運が不安定になったことと同時に、世界中の経済は大混乱に陥り、その煽りを日本も受けることになる。

 これらの混乱に対して、当初は日本政府は公的資金を投入するなど、経済の安定化を図った。井上としてもこの判断は間違っていないと考えている。この混乱が何年も続かなければ、という但し書きがなければ。

 

「経済の下支えだけでもかなりツライのに、同時に軍事費の急拡大に戦災復興支援なんて無理があるぞ……」

 

 深海棲艦など直ぐに駆逐できると考えていた井上。そんな思いとは裏腹に、深海棲艦は駆逐されるどころかドンドンと攻勢を強めていった。当然それらに対抗するために日本も軍事力を強化するが、同時に負担も大きくなっていった。

 それらの予算を捻出するために、政府は様々な手を取ってきた。増税、社会保障費を始めとした各種予算の削減、赤字国債の発行とインフレ覚悟で行われたのだ。だがそんな努力を嘲笑うかのように必要とされる予算は加速度的に増加していった。これで経済規模も拡大していれば何とかなったのだが、深海棲艦の攻撃によって経済は縮小していた。

 詰んでいるとしか言いようがない状況の日本。そんな所に現れたのが艦娘だった。

 

「彼女たちがこの状況を打破する鍵になるのか。……それにしても軍事力と見られている艦娘に、経済的に期待することになるとは」

 

 戦力が足りていない自衛隊にとって救世主の様な存在であるが、経済においても救世主となりえる可能性があった。

 下落が続いていた経済状況だったが、艦娘の発表の後、若干の落ち着きが見られるようになってきた。財務省では日本の防衛力が艦娘によって向上し、「彼女たちによって深海棲艦の被害がなくなるのかもしれない」と期待されたためと分析していた。

 また艦娘の運用コストの少なさも、財務をつかさどる者にとって歓迎できる要因だった。必要となる資源は既存兵器と比べて少なく済み、更に建造は工場で作るのではなく提督がある種の手作業で行われる。それなのにその能力は折り紙付き。低コスト・ハイパフォーマンスな艦娘は、これまで散々軍事費の拡大に苦しめられてきた財務省にとっても救世主となっていた。

 

「後は貿易でも東南アジアの進出でもいいから資源が確保できれば、経済が上向きになるのは確実。頼むぞ……」

 

 井上は祈るように呟いた。

 

 



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海を征く者たち9話 先へ進むために

シークレット:48、34、91、88

88の方はいいけど、91のダイスはヤバい……。詳細はあとがきで。


 6月25日、午前9時。横須賀鎮守府は歓声に沸いていた。待ち望んでいた資源加工施設がようやく完成し、これまで開店休業状態だった工廠や開発施設の稼働が始まったのだ。出撃している者以外の横須賀鎮守府の全提督が工廠施設に集まっているのだから、彼らがどれだけ待ち望んでいたかが良くわかる。そして当然のことながら、秋山と叢雲の姿も工廠施設にあった。

 

「ようやく新しい艦娘が建造出来たわね」

「工廠が出来るまで二か月か。本当に大変だったな」

「そうね……」

 

 遠い目をする秋山に、同意する叢雲。彼女も全く同じ気持ちだった。

 横須賀に配属されて約2か月。その間工廠が稼働できないでいたため、横須賀地方隊の警備区域を約100隻の艦娘だけで防衛するという無茶な事をやってきたのだ。そんな忙しい日々にようやく終止符が打たれる時が来たのだから、感慨深くもなる。

 

「これで少しは楽になるのかしら」

「少なくとも現状よりは楽になるんじゃないか?」

「……ご飯の最中に出撃が掛からないくらい?」

「そこは知らん」

 

 横須賀地方隊の警備区域は岩手県以南で三重県以東の太平洋。それだけの広範囲を、横須賀鎮守府を根拠地として深海棲艦から守らなければならないのだ。しかも深海棲艦は様々な海域に出現する。それらへの対応のため、移動にはヘリコプターや輸送機が活用し、深海棲艦の出現した海域に高速で展開していたのだ。しかし艦娘が少ないため、睡眠以外で身体を休める暇は殆どない。当然そのような無茶をすれば、実動部隊である艦娘や提督に疲労が蓄積されてしまう。現在、横須賀鎮守府に所属している提督と艦娘は疲労困憊だった。

 

「まあ、今回の全提督一斉建造のお蔭で艦娘の人数が一気に2倍になったんだ。ローテーションに余裕が出ることは確定だな」

「そうね。それに装備開発も許可されたし、私自身も強くなれるわ」

「出来れば10cm連装高角砲が欲しいな」

「そうね。私の今の装備だと対空がツライわ」

 

 艦娘の仕事は各地に出撃して深海棲艦と戦うだけではない。時折やってくる深海棲艦が繰り出す空襲に対応することも仕事だ。深海棲艦は対地攻撃の手段として空母艦載機による空爆も行う。そのため現在の日本では太平洋戦争後期の様に空襲に見舞われていた。空襲の対処として空自や陸自による特殊弾頭型対空ミサイル、空母艦娘の戦闘機による迎撃が主となっているが、それ以外の艦娘も浮き砲台の様に対空戦闘も行われている。

 しかし叢雲が持つ12.7cm連装砲では対空戦闘は困難であり、歯がゆい思いを続けていた。対空装備である10cm連装高角砲があればそれも解消できるだろう。最も開発は妖精の気まぐれによって行われるため、狙った装備が出来ることはそうそうないが。

 

「後は書類仕事だな。手伝ってくれる娘が来れば楽になる」

「あら、私じゃ不足かしら?」

「正直もう一人は欲しいな」

「それは同感ね」

 

 軍隊は何だかんだ言って国家に属する役所の一つ。当然の如く様々な書類が関わってくる。二人とも書類仕事は出来るが、それでも人では多い方が良いのだ。

 そんなこれまでの苦労話を一通り終えると、二人はいい笑顔で目の前の人物に向き直る。

 

「そんなわけでようこそ白雪、歓迎するぞ。いやホントに」

「来てくれてありがとう。いやホントに」

 

 指名された白雪だが、目の前の二人とは対照的に顔を真っ青にしていた。あんな話を聞かされてしまったのだから当然である。

 

(とんでもないところに来ちゃった!?)

 

 そんな感想を抱く白雪だが、

 

「ああ、今言った事は日本中どこでも起きてるぞ。多分、どこに行っても同じだ」

「でもこれから良くなってくるわよ。多分」

「心の声を読まないで下さい!?」

 

 思わず叫び声を上げる白雪。その時、工廠に女性自衛官の放送が響いた。

 

『静岡沖に重巡を旗艦とした敵小規模艦隊が出現。駒場提督、秋山提督、木村提督及び傘下の艦娘は第一ヘリポートに出頭せよ。繰り返す――』

 

 出撃の放送と同時に、幾人かの提督や艦娘が慌ただしく駆け出していく。放送には秋山の名前もあるため、すぐさまヘリポートに向かう必要がある。

 

「白雪、行くぞ!」

「え!?あの、叢雲ちゃんとの連携とかは……」

「俺が白雪に乗艦して指示を出すからそれに従ってくれ。叢雲もそれでいいか?」

「白雪はまだ建造されたばかりだしその方が良いわね。……合理的に考えれば」

「ん?」

「何でもないわよ」

 

 そんなやり取りをしつつ、3人は出撃のために駆け出して行った。

 

 

 

 6月25日、午前11時。首相官邸の会議室にて、今年に入ってから何回目かの閣僚級会議が開かれていた。会議に出席している閣僚たちの顔色は若干だが、以前より良くなっている。艦娘の発表以来、次々と起きている良いニュースが閣僚たちに希望を与えていた。

 

「経済活動が活発になり始めている。やはり何かしら頼れるものがあるという事は良いな」

「今まで深海棲艦に押されていた反動でしょう。今の彼女らは人類の希望です」

「それに深海棲艦の被害も目に見えて少なくなっている。このまま行けば被害ゼロもあり得るか?」

「流石にそれは無理だろうが、かなり被害は抑えられるんじゃないか?」

 

 浮かれた空気が漂う閣僚たちに、真鍋首相は小さくため息を吐いた。

 

(浮かれ過ぎだ。まだ問題は山積みなんだぞ)

 

 彼は一つワザとらしく咳払いをすると、口を開く。

 

「艦娘により日本の状況は上向き始めたが、まだまだ油断は出来ない。各々そのことを肝に銘じて国政に取り組んで欲しい」

『……』

 

 真鍋の言葉により、会議室の空気が引き締まったものとなっていく。深海棲艦出現から現在まで、内閣総理大臣という国のトップにあり続けた人間の言葉を否定する者はこの場にはいなかった。その様子に彼は満足し、話題を変える。

 

「坂田防衛大臣。艦娘の配属によってある程度の本土の防衛は出来たが、今後自衛隊はどういう方針で行くんだ?」

 

 真鍋の質問に、坂田は持ってきていた資料を手にし、説明を始める。

 

「現在の方針では、各提督が艦娘を一定数建造したところで全国各地に提督を分散配属し、防衛網を密にします。その後は本土の防衛を行いつつ艦娘の建造や装備開発、訓練を行い戦力の増強。然るべき時に、東南アジア進出作戦に移行します」

「全国への分散配備だが、直ぐに出来るのか?」

「今朝から全国の地方隊で艦娘の建造が開始されたと報告が入りました。想定されるペースで考えた場合、9月上旬には配属が完了するでしょう。勿論各種資源が十分にこちらに回されることが前提となりますが」

「江口経済産業大臣」

「艦娘出現前より兵器関連での資源の消費量は格段に減っています。これなら十分に艦娘に資源を出せるでしょう」

 

 その言葉に出席者たちは内心歓喜した。たった500人強の艦娘だけでも、敵による被害が格段に抑えられているのだ。艦娘戦力が強化されるならば、更に被害を抑えられる。

 

「東南アジア進出作戦についての作戦は?」

「来年1月中の作戦遂行を目途に、作戦を練っています」

「1月中か。年内の作戦遂行は出来ないのか?」

「戦力増強や練兵を考えますと、これ以上早めることは出来ません」

「そうか……」

 

 江口が提示した日本のタイムリミットは来年の10月。破壊されているであろう東南アジアの資源採掘施設の再建を考えれば、ギリギリといった所だった。

 

「作戦についてですがやはり南沙諸島の敵拠点が肝となっています。一級拠点であるハワイ拠点やイースター島沖拠点と違い、それらより規模の小さい二級拠点ではありますが、敵の戦力は未知数です」

「派遣する戦力は?」

「全ての地方隊に所属する全艦娘戦力と自衛艦隊を予定しています」

『!?』

 

 坂田の言葉に誰もが驚愕した。彼の言っていることは本土防衛を捨てるということと同じなのだ。

 

「本気か!?こう言っては何だが、陸自と空自だけでは深海棲艦に対応しきれないぞ!」

 

 その様なことになれば、折角艦娘に抑えられていた深海棲艦による被害が増加する。江口は反対意見を出すが、坂田は首を振った。

 

「南沙諸島拠点にもイースター島沖拠点の時の様に、未知の深海棲艦がいる可能性が高いです。またどれだけの戦力を保持しているかも未知数。不測の事態への対応を考えれば全戦力を投入する必要があります」

「だから全ての艦娘を出すのか」

「作戦開始までの準備期間を半年設けていますが、正直な所全く足りません。本土防衛も考慮する場合、最低でも1年は準備が必要でしょう。しかしそこまでの時間はありません」

「攻勢と守勢。そのどちらかに全力を出さなければならない、と」

「その通りです。そして日本には守勢を選択することは出来ません」

「……」

 

 沈黙する江口。それを見ていた外務大臣の天野は手を挙げた。

 

「坂田防衛大臣。戦力不足と言うのなら他国に参戦を求めることは出来ないか?」

 

 南沙諸島拠点による被害は様々な国で起きている。南沙諸島拠点の攻略を行うのなら、協力を得られる可能性は高かった。だが、坂田は頭を振った

 

「戦力を考えれば難しいです。それに指揮系統の混乱を考えれば日本単独で行った方がいいでしょう」

 

 日本艦娘以外の東アジア、東南アジアに出現した有力な艦は、タイの海防戦艦「トンブリ」級だが、主砲は20.3cm連装砲二基、速力は最大速度15.5ノット。攻勢において日本の艦娘と連携を取るには難しいスペックだった。

 

「……拠点攻略については分かった。東南アジア各地に派兵する兵力は?」

「陸自から5個師団を予定しています」

「少なくないか?」

「派兵地域は都市部ではなく、主要資源地帯に限定するので、問題はないと試算しています」

「分かった。引き続き計画を練ってくれ。次は――」

 

 こうして会議は続いていく。だがこの時、日本の東で動きがあった事を彼らは知らなかった。

 

 

 

 6月25日正午。アメリカの国防総省庁舎「ペンタゴン」は騒然としていた。

 

 ハワイより深海棲艦の大艦隊が出撃。

 

 この報告を重く見た国防総省は、軍関係者による緊急会議が行われることとなった。

 

「間違いないのか」

 

 国防長官であるマーシャルは改めて確認をする。この場にいる全員が緊張した面持ちで報告を見守っている。

 

「間違いありません。推定される数は500。艦隊の進行速度はおよそ12ノット」

「進路は?」

「予測進路上に西海岸があります。恐らく目標はそこでしょう」

 

 騒然となる参加者の面々。そんな中、ファマス海軍長官は立ち上がる。

 

「長官、迎撃のために太平洋艦隊を出しましょう」

「行けるのか?」

「艦娘戦力は以前より増強出来ています。既存の艦隊と連携を取れば撃退は十分可能です」

 

 アメリカの艦娘戦力の増強は10日前から始まっており、現在は駆逐艦が中心ではあるが、それなりの数がそろっていた。また、これまでの戦闘で既存艦艇と連携して深海棲艦を迎撃していたため、連携は十分に取れていた。彼らの実績を知っている出席者たちは、その言葉に頷いていた。しかし疑念もある。

 

「艦娘の戦力は確かに増強されたが、まだまだ数が少ないと聞いている。確実性に打撃を与えるために、ある程度引き付けて空軍と連携した方が良いのでは?」

 

 そういったのは空軍長官のリードだった。彼は海軍と空軍が分かれて戦うことで、戦力の分散にならないのかを危惧していた。

 

「これだけの規模だ。下手に近づければ本土に被害が及びかねない」

「確かにそうだが、迎撃しきれるのか?」

「そこは後方に配置することになる既存の艦隊で何とかするしかない。それに下手に本土に被害が及んでみろ。艦娘脅威論者が暴れかねん」

「ふむ」

 

 深海棲艦をその身一つで打ち倒せる艦娘を脅威と見る者は世界中にいるのだが、特に多いのはアメリカだった。政府やマスコミによって艦娘を歓迎する方向に世論を動かそうとしているが、それでも彼女らを危険視する声は一定数存在している。仮に本土に被害が及べば「艦娘など不要である」と言い出しかねない。艦娘の地位を確固たるものにするためにも、今回の迎撃戦は艦娘がメインとなる必要があった。ファマスは更に続ける。

 

「確かに我々は深海棲艦と戦えてきたが、それはあくまでも防戦においてだ。反撃するにはどうしても艦娘の力が必要になる。しかし国民が艦娘を拒否してしまえば反撃に支障が出ることは確実。艦娘の地位を確固たるものにするためにも、今回の迎撃戦は艦娘がメインとなり、大きな実績を積ませる必要だ」

 

 それを聞いたマーシャルは、暫し考え込む。そして視線をファマスに向けると口を開いた。

 

「海軍の案を採用しよう。太平洋艦隊は直ちに出撃せよ」

 

 かくしてアメリカ海軍は迎撃に動き出す。

 




???判定:91
ハワイ深海棲艦拠点より大規模艦隊が出撃しました。アメリカが迎撃態勢に入ります。

今回はぼかしましたけど、中華民国の艦娘ってどうしましょう。共産党の方にだすか、台湾に出すか……


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海を征く者たち10話 東太平洋海戦前編

まさかの日間ランキング入り。皆様ありがとうございます。
投稿ペースは上がらないと思いますが、今後ともよろしくお願いします。


 国防長官の指示、そしてアメリカ大統領の許可により出撃したアメリカ太平洋艦隊は、アメリカ本土から西に2000kmの海域を航行していた。ニミッツ級原子力空母3隻を中心にタイコンデロガ級巡洋艦、アーレイ・バーグ級駆逐艦多数とアメリカ西海岸に配備されている艦の多くが、侵攻してくる深海棲艦を迎え撃つために出撃していた。

 アメリカ以外の国家では、揃えることはまず出来ないであろう陣営ではあるが、敵は500隻を超える深海棲艦の大艦隊。今までであればその攻勢を止めることは不可能だろう。

 しかし今の太平洋艦隊には強力な助っ人がいる。太平洋艦隊の前方の海域に展開している、アメリカ太平洋艦隊所属に所属する艦娘たちだ。かつて太平洋で日本海軍と激闘を繰り広げた軍艦は、その姿を変えて再び祖国を守らんと戦場に立っていた。

そんな彼女たちの姿に、太平洋艦隊の将兵たちの士気は高まっている。深海棲艦を打ち倒せる存在が仲間にいるという事実が、将兵たちに安心感と高揚を与えていたのだ。世間がいくら脅威を叫ぼうとも、実際に深海棲艦と対峙する者たちにとっては頼もしい仲間なのだ。彼女らの上空に展開するF/A-18F航空隊のパイロットであるカーニー中佐もその一人だ。

 

(壮観だな)

 

 上空から見える太平洋艦隊の姿に、思わず呟く。彼は深海棲艦出現時から戦ってきたパイロットだったが、これ程の戦力が集結している姿を見るのは初めてだった。規模で言えば、去年行われたオペレーション・ビギニングでの連合艦隊の方が大きいだろうが、対深海棲艦としての戦力では今回の方が高いだろう。

 その様な感慨に浸っていると、不意に後部座席から声が聞こえてきた。兵装システム士官のエイミスだ。

 

「何だか変な気分ですね」

「どうした?」

「いえ、艦娘って第二次世界大戦の艦の生まれ変わりじゃないですか」

「そうだな」

「まさか祖父が乗っていた軍艦と一緒に戦う事になるなんて思いませんでしたよ」

「あー……」

 

 この海域でエイミスの様な気分になっている者は、それなりに多いだろう。

 

「変ですかね?」

「いや、気持ちは解るな」

 

 カーニーはチラリと後方に目をやる。この空域に展開している航空戦力は、彼らだけではない。彼らの後方に空母艦娘が発艦させた何百もの艦載機が控えている。その中には特徴的な逆ガル翼のF4U-1Dの姿もある。カーニーが軍に興味を持つ切欠となった機体だった。

 

(まさかあの機体をこんな所で見ることになるとはな)

 

 幾分もサイズダウンされているが、見た目も性能も本家と同じだ。ジェット戦闘機が空戦の主役になって久しい現在で、特殊ではあるがレシプロ機と共闘するとは思いもしなかった。

 

「っと、来たか」

 

 カーニーはレーダーに目を向ける。モニターには前方に大きな何かがあることが表示されている。大きな雨雲の様にも見えるが、気象予報ではこの海域は雲一つない快晴。そうなれば可能性は一つだけだ。

 

《空中管制機Eagle‐Eyeより航空隊各機、敵艦載機編隊を確認。攻撃を開始せよ》

 

 管制機からの指示が飛ぶ。彼の予測通り深海棲艦の艦載機だった。それもレーダーで雨雲の様に表示される程の大群だ。恐らくこの空域にいる太平洋艦隊の航空機より数は多い。しかしこの空域にはその様な光景を前に怯むような艦載機乗りは居ない。

 

「行くぞ!」

「了解」

 

 カーニーが先陣を切る形で機体を加速させる。同時に彼に合わせる様に、航空隊から一部の機体が突出していく。第一次攻撃を仕掛けるべく一斉に敵艦載機編隊に照準を合わせる。

 

「Knight-01、FOX-3」

《Knight-03、FOX-3!》

《Sword-01、FOX-3、FOX-3!》

 

 凄まじい数の特殊弾頭を搭載した空対空ミサイルが、無線で飛び交う発射符号と共に敵編隊めがけて殺到する。

 轟音と共に青い空にいくつもの火球が膨れ上がった。敵のカブトガニの様な艦載機は爆発に巻き込まれて吹き飛ばされていく。また辛うじて炎から逃れた機体も編隊を維持することは出来ない程の爆風に煽られていた。爆炎が晴れた頃には、深海棲艦の航空隊はその数を減らし、生き残りも編隊を組めずにバラバラとなっていた。

 そして太平洋艦隊はこのような隙を見逃す筈がない。管制機からの指示が飛ぶ。

 

《Eagle‐Eyeより各空母艦娘、敵航空隊への攻撃を許可する。食い破れ》

《行きます! 航空隊、攻撃はじめ!》

《Intrepid航空隊各隊、はじめて!》

 

 待ってましたとばかりに艦娘の攻撃命令と共に、艦娘航空隊が敵の編隊に襲い掛かる。編隊をバラバラにされていた深海棲艦艦載機隊は、碌な抵抗も出来ずに駆逐されていく。

 だが数は敵の方が多い。太平洋艦隊は奇襲に近い形で空戦を仕掛けることによってアドバンテージを取ったが、時間が経つにつれて深海棲艦側が態勢を立て直していく。

 

《Eagle‐Eyeより各空母艦娘、航空隊を戦闘空域から離脱させろ》

 

 その様子を見ていた管制機も空母艦娘に後退の指示を出す。勇猛果敢に敵に攻撃を仕掛けていた艦娘航空隊は、攻撃をやめて整然と空域から離れていく。事前のミーティングの通りだ。そして予定通りに次の手を打たれる。

 

《空中管制機Eagle‐Eyeより航空隊各機、艦娘航空隊の離脱が完了した。第二次航空攻撃を開始せよ》

「Knight-01、Roger。FOX-3!」

《Griffin-01、FOX-3》

 

 敵が編隊を組んだ所を、特殊弾頭ミサイルが空間ごと薙ぎ払う。深海棲艦の航空隊は再び編隊が乱される。

 

「敵航空機多数を撃墜。簡単なものです」

「全くだな」

 

 敵航空機が密集していた時は範囲攻撃の出来る特殊弾頭を搭載したミサイルで焼き払い、再編成或はミサイルを警戒して編隊をばらけさせたのなら艦娘の航空隊で薄くなった敵編隊を食い破る。それがアメリカが編み出した深海棲艦航空隊への対処方法だった。

 次々と撃墜される敵艦載機。対する太平洋艦隊の損害は空母艦娘の戦闘機隊が少数撃墜されただけだ。既にこの空域は太平洋艦隊が航空優勢を取っていた。そして作戦は次の段階に進む。

 

《空中管制機Eagle‐Eyeより航空隊各機、敵航空隊の脅威は去った。対艦攻撃を許可する》

 

 無線が空域に飛ぶと同時に、対艦兵装を施したF/A-18の編隊が躍り出る。目標は海上を航行する深海棲艦の大艦隊。素早く照準が合わせられる。

 

《Yellow-01、FOX-3》

《Tiger-01、FOX-3!》

《Tiger-02、FOX-3、FOX-3!》

 

 対深海棲艦用に改良されたハープーンが深海棲艦に襲い掛かる。敵もそれを察知したのか撃墜するべく対空砲火を上げるものの、基本的に第二次世界大戦時の軍艦程度の性能を持つ深海棲艦ではミサイルの迎撃は困難だ。対空砲火も空しく次々と命中し、爆発が深海棲艦を包む。

 

《Bingo、Bingo!》

 

 管制機から弾着の無線が飛ぶが、それを喜ぶ者は殆どいない。この程度でどうにかなるのなら人類はここまで追い詰められていない。

 

「やはり、効果は薄いですね」

「だろうな」

 

 爆炎が晴れ、敵の姿が露わになる。対艦ミサイルによってダメージを受けた個体は多いが、撃沈に至った敵は少ない。しかし、

 

「だが今回の戦いは俺たちが主役じゃない」

 

 敵艦隊を乱し、その目を逸らすことが出来た。本命が深海棲艦に襲い掛かる。

 

《Attack!》

《追撃戦に移行します!》

 

 TBDやSBDを中心した攻撃隊は、往年の実力を発揮し雷爆同時攻撃を深海棲艦に仕掛ける。敵も慌てて対空砲火を向けるが狙いも甘く殆ど命中することは無い。狙われたモノは次々と魚雷や爆弾が命中していき、その身を海に沈めていく。

 

《敵艦の多数の撃沈を確認》

「流石艦娘。しかし――」

「ああ、撃退まではいかないか」

 

 航空攻撃によって敵艦隊にそれなりのダメージを与えられたものの、進軍を止めるほどではなかった。一方的な攻撃によって深海棲艦が撤退しないかと淡い期待があったが、そう上手く行くものではない。

 

「まあ、問題は無い」

 

 それに今回の航空隊の仕事は敵航空戦力の撃破が主任務だ。対艦攻撃はオマケに近い。そして自分たちの役割は十分果たした。後は、

 

《こちら第5特殊艦隊。敵が射程に入った。これより攻撃を開始する》

《第22特殊艦隊、接敵した。攻撃開始》

《第53特殊艦隊、敵艦隊を補足。突入する!》

 

 水上を行く艦娘と彼女らを指揮する提督が主役となる。

 

 

 

 太平洋艦隊旗艦、ブルー・リッジ級揚陸指揮艦「マウント・ホイットニー」。本来なら第六艦隊の旗艦であったが、ブルー・リッジ喪失に伴い太平洋艦隊の旗艦なっていた。ハワイ奪還を求める国民の声に応える形で配備されたと言う事情があったが、今回の迎撃戦では本来の用途とは違えども、十分に役に立っていた。

 

《こちら第13特殊艦隊、敵の攻勢が激しい。ミサイルによる援護を求める》

「了解した。これより支援攻撃を開始する」

《第21特殊艦隊よりマウント・ホイットニー。残弾が乏しい。後退の許可をもらいたい》

「後退を許可する。第22、25特殊艦隊は、第21特殊艦隊の援護に入れ」

《第22特殊艦隊、了解》

 

 CICでは各士官が前線から次々と届く報告の対処に追われていた。艦娘の艦隊が深海棲艦と相対し、後方で控える通常艦隊が艦娘艦隊の要請に合わせて支援攻撃や指揮を行う。まるで陸上での戦闘の様ではあるが、十分に機能している。

 

「このまま行けるな」

 

 太平洋艦隊司令官ワーグナー大将は、これまでの戦闘の推移を見て小さく呟いた。戦況は太平洋艦隊が終始優位に立っている。このまま何もなければ勝ちは揺るがない。

 

「こちらの損害は?」

「通常艦隊に損害はありません。しかし艦娘に轟沈の報告が少数ですが入っています」

 

 参謀長のヘインズの報告に、彼は眉をひそめた。

 

「艦娘にはバリアの様な物があると聞いたが原因は?」

 

 艦娘の防御力は元となった軍艦と同等の性能を持っているのだが、その身自体がその防御力を持っているわけではない。艤装展開時に纏うバリアの様な物、通称『装甲壁』によって防御が行われる。この装甲壁の特徴だが、明らかにオーバーキルな火力を受けても、一度だけなら殆どの防御機能と引き換えに使用者を守る、と言う科学者たちが頭を抱えるような機能が備わっているのだ。ワーグナーも装甲壁の説明を聞いた時は、あまりの非常識振りに頭を抱えたくなったが、強力な爆発反応装甲の様な物と考えることで心の平穏を保つことにしていた。

 

「装甲壁が機能しない大破時に、後方に下がろうとして追撃を受けての撃沈が主です」

「大破艦の安全な回収が今後の課題だな」

 

 深海棲艦に対抗できる戦力を無為に失う訳にはいかない。艦娘を失わないためにも対策は必要だった。

 

「また轟沈以外にも損傷艦が続出しています。こちらは主に建造して間もない艦が中心です」

「やはり練度の問題か?」

「はい。しかし今回に限っては仕方のない事でしょう」

 

 アメリカが艦娘の建造に着手出来てから、まだ二週間も経っていない。建造したての艦娘も戦うことは出来るものの、新造艦の訓練や戦闘経験は不足していた。本来なら今回の海戦に出すべきではなかったのだろうが、敵の規模が大きかったため出さざるを得なかったという事情があった。

 

「国防総省より通信です」

 

 不意に通信士官の声がCICに響いた。その声には緊張が見て取れる。

 

「どうした」

「イースター島沖拠点より複数の艦隊が出撃。南米の各国に進軍中です」

「南米か……」

 

 南米は艦娘が出現した国は多いが、その戦力は低いとし言わざるを得ない。太平洋側では戦艦の様な有力な戦力を持っている国はチリしかないのだ。チリはともかく、その他の国では深海棲艦の艦隊を撃退することは難しい。そうなると援軍が必要になるのだが、有力な戦力となると選択肢は少ない。

 

「現在相対している敵艦隊を撃退後、援軍に向かえとのことです」

「長官も無茶を言う……」

 

 ワーグナーは顔を顰めた。戦いを優位に進めてはいるが損耗は激しい。南米を敵の手に渡すわけにはいかないことは理解しているが、休む間もなく連戦することになれば思わぬ損害が出かねないのだ。

 

「しかし命令に背くわけにはいきません。敵の撤退に合わせて我が方も後退しましょう」

「それしかないな」

 

 ヘインズの案にワーグナーは頷いた。だがその様な計画は直ぐに無意味な物となる。

 

「航空隊より通信。敵艦隊後方より、新たな艦隊が出現しました。数200」

 

 ここにきての増援。これにより太平洋艦隊に傾いていた戦況は拮抗状態となることを意味していた。

 

「……これは南米に行けないかもしれないな」

 

 苦虫を噛み潰したかのようにワーグナーは呟いた。

 




???判定:91(継続中)
判定詳細:1~79:発動せず
     80~90:侵攻開始。深海棲艦「ハワイだけで十分だ!」
     91~100:侵攻開始。深海棲艦「全力で往くぞ……」

ハワイに続き、イースター島沖拠点から数個艦隊が出撃しました。太平洋側の南米各国が迎撃に出撃します。


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海を征く者たち11話 東太平洋海戦中編

海戦をしているにも関わらず、艦娘が出てこない艦これSS。


 バージニア州ノーフォーク。太平洋で激戦が繰り広げている中、東海岸の防衛を担当するアメリカ艦隊総軍の司令部でもまた鉄火場と化していた。

 

「ボストンより東に1000kmの海域に、軽母ヌ級を中心とした小規模艦隊出現。現在艦載機発艦中です!」

「ボストンに派遣中の艦娘艦隊に出撃命令」

「バミューダ島近海にて空母ヲ級を含む小規模艦隊が確認されました」

「第102、103特殊艦隊を出撃させろ」

「ジャクソンビル近海に敵艦載機群を確認。敵編隊の規模は小規模です」

「ジャクソンビルに派遣中の艦娘艦隊に、陸軍と共同で防空に当たるよう通達しろ」

 

 次々と各地から上げられる報告に司令官であるクリストファー大将は、矢継ぎ早に命令を出していく。その指示を受けた各部署の部下たちが己が仕事をこなすべく駆けだしていく。

 事の起こりはイースター島沖拠点から出撃した深海棲艦の艦隊が、南米の各地で迎撃のために出撃した各国海軍と接触、海戦に移行した直後からだ。

 ニューヨーク近海にて深海棲艦の航空機隊が確認された。規模は数十機程度で深海棲艦による空襲にしては小規模だった。この空襲は規模も小さかったためニューヨークにいた空母艦娘による迎撃のみで十分であり、実際被害もなかったのだが、不自然な点があった。空襲のために艦載機を発艦させた深海棲艦は、ニューヨークから1000kmも離れた海域にいたのだ。

 深海棲艦の使う艦載機はこれまでの研究で、第二次世界大戦の初期にアメリカが使用していた物と同等のスペックであることが確認されている。所謂F4FやSBD、TBDなのだが、当然行動距離も同等だ。それらの機体は航続距離1000km強と言った所なので、帰還のための距離も考えれば攻撃範囲は本来500km程度であり、過去の海戦においてもその事は確認されていた。

 しかし今回は事情が違う。1000kmという帰還を全く考えない攻撃が仕掛けられたのだ。このことに司令部は不審に思い、敵艦隊の撃破と同時に調査を行おうとしたのだが、それは実行されることは無かった。ニューヨークを皮切りに、アメリカ東海岸の各地で深海棲艦の航空隊や艦隊が出現したのだ。アメリカ艦隊総軍はそれらを撃破するため、各地に艦娘や通常艦隊の派遣をしていた。

 

「どう思う?」

 

 報告と報告の間に生じた僅かな時間。いつの間にか額に流れていた汗を手で拭いつつ、クリストファーは脇に控えるレミントン参謀長に問いかける。

 

「南米で海戦が開始されてからのコレです。確実に関連があるでしょう」

「だろうな」

 

 太平洋とは違い小規模な空襲や艦隊ばかりであるので被害は少ないのだが、現在のアメリカ艦隊総軍は東海岸の防衛に掛かり切りとなってしまい、予定されていた南米への援軍の派遣をする余裕はなくなっていた。

 

「先程中南米の大西洋側でも、あちこちで敵の小規模艦隊が出現したとの報告が入りました」

「我が国だけでなかったか。あちらの様子は?」

「保有している艦娘を各地に派遣し対応中とのことです」

 

 南米は艦娘保有国が多いが、艦娘の戦力はアメリカや欧州、日本と比べて少ない。そのため出現した敵艦隊への対応で手が一杯であった。

 

「連中、余程我々を南米に行かせたくないらしい」

 

 現在太平洋側の南米で行われている海戦は、どこも人類側が劣勢だった。唯一戦艦艦娘を持つチリも、空母艦娘によるエアカバーが無いため、深海棲艦の航空攻撃に苦戦している。このまま何も手を打たなければ、南米の艦隊が敗北するのは目に見えていた。

 

「南米にはどの位回せそうだ?」

「そう多くは出せないでしょう。精々、駆逐艦を中心に3、40人といった所です」

「……そうか」

 

 南米の敵艦隊には当然、戦艦や空母と言った主力艦クラスがいる。駆逐艦だけでは荷が重い。とは言え、援軍を出さない訳にはいかない。

 

「取りあえず出せる戦力については、国防総省に伝達しておいてくれ。後、各地の提督にも南米への派兵をする可能性があることを通達する必要がある」

「了解です」

 

 席を立つレミントン。だがこの時、話の中心であった南米で動きがあった事を知るのはしばらくしてからの事であった。

 

 

 

 南米。イースター島沖拠点から出撃した深海棲艦の艦隊を迎撃すべく、太平洋側の各国は艦娘を主力とした艦隊を出撃させたが、各国海軍は苦戦を強いられていた。

深海棲艦の艦隊はアメリカ太平洋艦隊が対峙しているような大規模な艦隊ではなく、精々100隻にも満たない規模ではあったが、戦艦や空母が多数確認されており戦力は十分。

 対する南米各国の艦隊は、主力となりえる戦艦艦娘を保有する国はチリだけであり、航空戦力である空母艦娘は存在しない。主力となりえるのは駆逐艦であるため、敵の軽巡級はともかく重巡以上が相手となると苦戦は免れなかった。

 そのため南米各国はアメリカの様に生き残っていた軍艦も出撃させ、対艦攻撃や制空補助を行うなど艦娘への援護を行ってはいるものの、質的不利を覆すには至らない。

各国とも本土への被害を避けるため、国土からそれなりに離れた海域で深海棲艦を迎え撃っていたのだが、戦況は終始深海棲艦側に傾いていた。唯一戦艦を保有していたチリも例外ではなかった。

 

「このままでは壊滅する」

 

 各国とも海軍戦力のみでの撃退は困難であると判断され、空軍との連携を図るべく後退を開始。南米での一回戦目は深海棲艦に軍配が上がった。深海棲艦は海軍が撤退するのを確認すると、陣形を整え再度侵攻を開始する。

 

 二回戦が始まったのはそれから数時間後だった。各国は空軍戦力を展開しており、先の海戦よりも戦力を増強させていた。艦娘も補給や応急ではあるが修理も行い準備は整っていた。

 ぶつかり合う二つの勢力。二回目の海戦は先程よりも激しい物となった。各国は損傷艦や旧式戦闘機すら出撃させ、文字通り海・空の全戦力を投入していた。陸戦ではこれだけの規模の深海棲艦を撃退するのは困難であると判断されたからだった。

 だが各国の必死の努力はかなわない。確かに戦力は増強されてはいたが、それでも戦況を人類側に傾けるには至らない。時間と共に損害が拡大していく各国。

だが――戦場に立つ誰もが敗北を意識し始めた頃にそれは起こった。

 

「敵が撤退していく?」

 

 最初に気付いたのはチリ空軍のパイロットだった。追撃を防ぐためであろう殿を除き、徐々に深海棲艦が海域から撤退していく。この光景はチリだけでなく、南米各国で発生していた。

 この報告に戦闘の指揮を執っていた各国の司令官は歓喜したものの、同時に共通の疑問を持った。

 

「なぜ優勢にも関わらず撤退するんだ?」

 

 戦況は深海棲艦が優勢であり、本土への攻撃を目的とするならば撤退する理由は無い。また艦娘を含む海軍戦力の殲滅が目的であったとしても、壊滅までは至っていない現状で撤退する必要はない。この撤退には何か意図があることは明らかだった。

 しかし彼らに採れる選択肢は殆どなかった。これまでの海戦で損耗しており、現状では足止めのために残っている敵艦隊を倒すことで精一杯なのだ。敵の意図を探る余裕など南米各国には残っていなかった。

 各国の司令官は不安を胸に秘めつつ、残敵掃討のための指揮を続けることとなる。

 

 

 

 ホワイトハウスのレクチャールームには、アメリカ大統領を初めとした政府高官が一堂に会していた。その誰もが顔を顰め、モニターに映し出されている南北アメリカの地図に目を向けていた。

 

「南米、太平洋側の敵艦隊は一部の足止めを除いてペルー沖にて再集結。その後進路を北東に向け、進撃を開始しました」

 

 モニターの前に立ち、閣僚に状況を説明するマーシャル国防長官。その様子は極めて冷静に見えるが、その声色には怒りや後悔といった様々な感情が僅かににじみ出ている。

 

「規模と速度は?」

「およそ100隻で比較的少数ですが、速度30ノットと高速で航行中です」

「……予想進路は?」

「パナマです」

 

 その答えに、閣僚たちはため息が漏れる。当たって欲しくない予想ばかり起こってしまうのだ。ため息も吐きたくなる。

 

「……最初から奴らはこれが狙いだったか」

「ふん。各方面に疑似的な攻勢を掛けて相手の防衛戦力を分散させ、その隙に本命を抑える。実に良い手じゃないか」

 

 忌々し気に呟くクーリッジ大統領と皮肉気に笑うスチュアート内務長官。

 

「内務長官、国防長官。パナマが深海棲艦に占領された場合我が国が受ける影響は?」

「我が国は国家の運営や軍事に必要な資源が存在するが、全てを賄えるわけではない。その不足分を南米との交易で賄っている。パナマを占領された場合、南米との繋がりは確実に絶たれるな。そうなれば国内で物資不足による国防や経済を始め、格方面で悪影響が出る」

「国防の観点ですが、パナマに敵拠点が出現した場合、南沙諸島拠点の例から長距離爆撃機が配備される事は確実です。迎撃は可能でしょうが、ゲリラ的に爆撃をされれば我が軍は疲弊していきます。また敵の拠点が増えたことにより、深海棲艦の攻撃はより激しいものとなるでしょう」

「南米は?」

「イースター島沖拠点とパナマの二方向から攻撃されることになります。そうなれば碌な抵抗も出来ずに陥落するでしょう」

「……」

 

 ある程度予感はしていたが、予測される被害の大きさにクーリッジは沈黙することになる。そして内心でため息を吐いていた。

 

(大統領1年目でこれか……。だからやりたくなかったんだ)

 

 2017年の1月に行われた大統領選挙で、共和党のクーリッジが当選することとなった。だがその選挙は茶番染みたものだった。

 2016年6月のオペレーション・ビギニングの失敗により低下していた前大統領の支持率は、12月のハワイ陥落により致命的なレベルにまで下落していた。それに連動する形で前大統領の所属政党であった民主党の支持率は急落。民主党からの立候補者が大統領に当選することはまずあり得ない状況となっていた。

 そんな共和党にとって棚からぼた餅な状況であったが、彼らが大統領の席を狙って暗闘が繰り広げられていたのかと問われれば、答えは否だった。

 アメリカは深海棲艦と4年近く全力で戦い続けている。その影響により経済は不安定であるし、各種物資・資源も戦前と比べて不足しているし、社会不安も多々ある。それでも深海棲艦に対して優勢であれば問題は無かったのだが、実情は劣勢に追い込まれており、将来に希望を見出すことが出来ない。そんな状況で進んで大統領の席に着きたい者など居なかったのだ。

 結果として共和党の内部で巻き起こったのが、『大統領の押し付け合い』だった。

 押し付け合いは苛烈を極めた。中には共和党上層部に賄賂を贈り自分を候補者にしないでくれと頼み込んだ者もいた程だ。そしてその押し付け合いに敗れたのがクーリッジであった。

 

(おっと、イカンな)

 

 気付けば視線が彼に集中している。いやいや就任することになったがクーリッジはアメリカと言う国家の最高指導者だ。その責務を果たさなければならない。彼は一つ頭を振ると気を引き締めた。

 

「状況は分かった。深海棲艦のパナマ侵攻を阻止する必要があるな。太平洋艦隊はどうだ?」

「現在敵艦隊と交戦中です。優勢ではありますがもう少し時間が掛かります」

「東海岸の方は?」

「艦娘を3、40人出せるとのことですが、駆逐艦が中心です。情報では敵には姫級がいるため、足止めにもなりません」

 

 深海棲艦は一定以上の艦隊を編成する際は、既存の深海棲艦とは違う新型の深海棲艦が旗艦として編成されることが確認されている。その新型は既存も深海棲艦よりも圧倒的に高い能力を有しており、また人型であることから、戦闘能力に応じて鬼級や姫級と区分されていた。

 

「空軍による対艦攻撃」

「航空攻撃だけで相手をするには敵の規模が大きすぎます。撃退までは難しいでしょう」

「……パナマに陸軍及び海兵隊を派遣。水際防御するのは?」

「防御陣地を作るには時間が足りません。また、仮に陸戦に持ち込んだとしてもハワイの二の舞でしょう」

「……艦娘は出払っており既存の軍事力では相手を止めることは出来ない。詰みか?」

「……いえ、禁じ手ですが一つだけあります」

 

 マーシャルの言葉にクーリッジは一抹の不安を感じたが、この手詰まりの状況である。聞かない訳にはいかない。

 

「内容は?」

「B-1Bによる核攻撃です」

『!?』

 

 その言葉にレクチャールームの誰もが驚愕した。暫しの沈黙の後、最初に口を開いたのはスチュアートだった

 

「本気か?深海棲艦は艦娘と同様に、第二次世界大戦時の軍艦を模している。軍艦に対して核攻撃は効果が薄いのはクロスロード作戦で検証済みのはずだ」

「それは分かっています。しかし現状では直ぐに派遣できる有効な戦力が他にはありません。また核攻撃は2機編隊による集中攻撃を行います。これならば多少のダメージを与えることが出来るでしょう」

「オペレーション・ビギニングの様に爆撃機が狙撃される可能性は?」

「南北アメリカで行われている各海戦では多数の航空機が出撃していますが、長距離からの狙撃により撃墜された機体は確認されていません。爆撃機が撃墜される可能性は低いと思われます」

 

 この後も矢継ぎ早に飛んでくる質問に、よどみなく答えていくマーシャル。暫く後、閣僚からの問いかけが途切れた所で、彼はこの国のトップに向き直る。

 

「大統領。決断を」

「……いいだろう」

 

 クーリッジは立ち上がった。その顔にはどこか悲壮感が漂っている。

 

「パナマへ侵攻する深海棲艦への核攻撃を許可する。直ちに準備にかかれ」

 

 




深海棲艦の目的が判明しました。
パナマ侵攻判定:91(継続中)

南北アメリカ各地で海戦が発生しています。深海棲艦がパナマに向けて侵攻を開始しました。アメリカは核攻撃を決定しました。


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海を征く者たち12話 東太平洋海戦後編・上

人類が勝った場合の理由付け及び「あれ」の投下回。話の配分をミスって「後編」なのに分割する羽目に……


「敵艦隊、撤退を開始しました!」

 

 太平洋艦隊旗艦、ブルー・リッジ級揚陸指揮艦「マウント・ホイットニー」のCICに通信士官の声が響いた。

 

「司令官、追撃しますか?」

「無用だ。こちらも損耗が激しい」

 

 太平洋艦隊司令官ワーグナー大将は首を振った。追撃を掛けられる程の戦力は残っているが、長く続いた戦いのために無視出来ないレベルの損耗が生じていた。ここで無理をすれば、後々に悪影響が出る可能性があった。

 

「敵の撤退に合わせて、こちらも後退する」

 

 即座に命令は太平洋艦隊全体に通達される。同時に艦隊全体に漂っていた張り詰めた空気が徐々に弛緩していく。長く続いた戦闘がようやく終了したのだから、当然の事ではあった。

 

「……ようやく終わりましたね」

「ああ。だがこれからが大変だ」

 

 戦闘こそ終わったが、軍のトップに立つ者たちの仕事はまだまだ残っている。山積みの仕事を思い出し、小さくため息を吐くワーグナー。そんな彼の気持ちを知ってか知らずか、ヘインズ参謀長は口を開いた。

 

「司令官。パナマの件ですが……」

 

 彼の言葉に、ワーグナーは顔を顰めた。南米での動きについては太平洋艦隊にも通達されていた。当然、パナマに向かう敵艦隊に核攻撃が敢行されることも知らされていた。

 

「効果があると思うか?」

「核弾頭を複数で運用そうですので、多少なりとも効果はあると思いますが……」

 

 返答するものの煮え切らないヘインズを見て、ワーグナーも頷いた。彼らはこれまで深海棲艦と散々戦ってきた者たちである。だからこそ、その厄介さをよく知っている。彼らは深海棲艦が核攻撃に対して、何かしらの対抗手段を講じている可能性を捨てきれなかった。

 

「今から全力でパナマに向かった場合、接敵出来るか?」

「無理でしょう。敵艦隊がパナマに近づきすぎています」

「やはりか。……艦娘の状況は?」

「駆逐艦を中心に中、大破艦多数。戦艦も損傷した者が多いです。空母系は基本的に後方に配置されていたため、目立った損耗はありません」

「ふむ……」

 

 目を閉じてワーグナーは深海棲艦の動きや太平洋艦隊の戦力を勘案し高速で思考する。暫しの間の後、彼は命令を下した。

 

「パナマへ援軍を出す」

「よろしいのですか?」

 

 太平洋艦隊は損耗が激しい事はワーグナーもよく分かっている。だが彼はそれを勘案しても援軍が必要になると考えた。

 

「艦船への核攻撃は効果が薄い事は周知の事実だ。パナマに侵攻している艦隊がダメージを受けても、侵攻を続ける可能性がある。核だけに頼るわけにはいかない」

「理由は解りましたが、今からでは間に合わないのでは?」

「いや、かなり艦娘と提督には負担を掛けることになるが、手はある。すぐに取り掛かるぞ」

「了解」

 

 こうして、太平洋艦隊は動き出した。

 

 

 

 中米近海、高高度を高速で飛行する編隊があった。B-1B2機、そして護衛のF-15Eが16機。パナマへの深海棲艦の侵攻を阻止するために急遽出撃した航空編隊だった。

 

「もう夜明けか。不味いな」

 

 風防から飛び込んで来る朝日に編隊の指揮官兼B-1B機長のモーガンは、予定より遅れが出ていることに気付き小さく舌打ちした。核攻撃を決定した以上、投射する海域の放射能汚染は免れないが、余りに陸地に近かった場合放射能の影響が人の住む地域に及んでしまう。そのため出来る限り陸地から離れた海域で核爆弾を投下する必要があった。

 本来の予定では夜明け前に深海棲艦の艦隊と接敵するはずだったのだが、核爆弾の積み込みや護衛戦闘機の編成、メキシコ領空を飛行する際のゴタゴタでかなり時間が掛かってしまった。その遅れは超音速戦略爆撃機であるB-1Bのスペックをフルに発揮しても巻き返せるものではない。

 焦るモーガンだが、そんな彼に追い打ちを掛ける報告が飛び込んで来る。

 

「レーダーに反応、これは――深海棲艦の航空機編隊です!」

「なんだと?」

 

 レーダーを見ていた乗員の言葉に、モーガンは思わず聞き返す。

 

「ここは高度1万m以上の高高度だぞ?」

 

 これまで深海棲艦の航空機が出現するのは、精々6000m程の空域だった。そんな存在が彼らのいる高度に現れるとは予測していなかった。

 

「間違いありません。前方より航空機多数です」

「……そういえばF4Uコルセアは高高度まで上がれたな」

 

 深海棲艦の航空機は実際に存在した機体がモチーフである。当然高高度まで上昇出来る機体があるのも当然の事である。

 彼の知らない事であるが、パナマに向かう深海棲艦の艦隊は夜明けと同時に各方面に哨戒のために航空機を出しており、その内の1機がアメリカ爆撃機編隊を発見していた。偵察からの報告を聞いた深海棲艦は高高度に展開できる機体を慌てて発艦させていたのだ。

 

「迂回しますか?」

 

 副機長のウォーリーが提案するが、モーガンは首を振る。

 

「いや時間が惜しい。そのまま直進する」

「危険では?」

「レーダーを見る限り、航空編隊は小規模だ。これならば護衛機でも対処可能だ」

 

 護衛のF-15Eは対空装備ではあるが、爆撃機の航続距離に付いていくためにフルに増槽を装備しており、従来の物よりミサイルなどの武装は少なかった。

 とは言え敵の艦隊の規模の割には現れた機体数はかなり少ない。そのためモーガンは問題は無いと判断した。

 

「Eagle-1より、護衛隊各機へ。敵航空機編隊への攻撃を許可する」

《Shield-1、了解。全機行くぞ》

 

 護衛隊の隊長機の指示の元、各機が攻撃を行うべく一斉に敵編隊に照準を合わせる。

 

《Shield-1、FOX-3》

《Shield-4、FOX-3!》

《Shield-8、FOX-3、FOX-3》

 

 符号と共にミサイルが次々と放たれる。ミサイル群は1発も逸れること無く深海棲艦航空機編隊に飛び込むと、大爆発を起こし敵を凪ぎ払う。

 爆炎が収まった頃には、爆撃機のレーダーには何も映らないレベルにまで、敵の数は激減していた。その光景にモーガンは素早く次の指示を出す。

 

「このまま直進する。敵航空機との衝突に気を付けろ!」

 

 彼の命令と共にアメリカ爆撃機編隊は一気に速度を上げ、二つの編隊が急接近していく。

 敵編隊の中央突破。それがモーガンの選択だった。かなり強引ではあるが時間が余り無い状況であるため、この方法を取ることにしたのだ。

 

《Shield-2、Gun!》

《Shield-3、Gun》

 

 機銃発射の符号が飛び交う。護衛隊の機銃を先払いにして、深海棲艦の航空機の群れに飛び込む。B-1Bの風防には、相対速度により敵航空機が猛スピードで後方に流れていく。

 

(思ったより残っているな)

 

 深海棲艦の使う航空機は1mにも満たないが、相対速度が音速を越える状況で機体と激突すれば、最悪撃墜もあり得た。

 若干の後悔を覚えるモーガンを余所に、二つの航空機編隊の交差は続く。深海棲艦側も止めようと動き出すが、進路上に立てば護衛隊の機銃に粉砕され、追いすがろうとしても性能差が大きく不可能だった。

 時間にして数十秒。モーガンたちは深海棲艦航空機編隊の突破に成功した。損傷、損失機無しと完璧な成果である。無線を通して歓声が上がる。

 

「所で機長、さっきのあれ見えましたか?」

「ああ」

 

 ウォーリーが重い浮かげている物を直ぐに理解しモーガンは頷いた。今まで出現しなかった高高度に敵が現れたのだから、このことは予感はしていた。だからこそ驚きはしない。

 

「ありゃ新型だな」

「猫の耳が生えた白い球体。相変わらず航空力学に喧嘩売ってますね」

 

 これまでに確認されていない新型艦載機との遭遇。それを見たのが艦娘ならば慌てていただろう。だが軍用機のパイロットの彼らは何も感慨も無い。

 

「まあ性能もそこまでではないし、サーモバリック弾頭で撃破出来るなら問題ないな」

「そうですね」

 

 いくらその航空力学を無視しておりその小ささには非常識な戦闘能力を有しているとはいえ、その性能は飽くまで第二次世界大戦時の物と同等程度。現代で運用されている軍用機にとって小さいだけの的と変わりない。深海棲艦出現当初はその小ささに苦戦したが、サーモバリック弾頭搭載型対空ミサイルが充実すると、唯の障害物でしかなかった。

 

「それよりそろそろ目標の艦隊が近い。準備にかかれ」

「了解」

 

 敵の航空機が出現したという事は、近海に目的の深海棲艦艦隊がいることは確定している。敵に人類の持つ最大火力を叩きこむために、爆撃機の乗員は最終確認を始めた。

 今回の作戦に参加しているB-1Bは第二次戦略兵器削減条約において削減の対象となっており、1994年に核攻撃任務から外され、本来なら核搭載能力は無かった。しかし深海棲艦の攻撃の激化により、アメリカ軍は劣勢に陥っていた。この事態への対応策として軍備強化が行われているのだが、その一環でB-1Bの核搭載能力が復活していた。ただし核搭載型巡航ミサイルの運用は出来ず、自由落下型のみ。今回の作戦では2機のB-1Bに各2発づつの核爆弾を搭載している。

 

「最終確認完了しました」

「よし……」

 

 爆撃機編隊に徐々に緊張感が漂い始める。この作戦の成否が文字通りアメリカの命運を左右するのだから当然の事である。誰もが口を開かず沈黙が編隊を支配する。そして――

 

《目標発見!》

 

 編隊に半ば叫びに近い無線が響く。深海棲艦の小ささと爆撃機体の高度故にその艦隊は豆粒の様にしか見えないが、確かにそこにあった。

 

「投下用意!」

 

 B-1B2機が目標に照準を定める。使用する核爆弾は自由落下型のため深海棲艦艦隊から若干ずれる可能性もあるが、その火力故に問題は無い。兵装システム操作員が核を投下しようとする。だがその時異変は起こった。

 

「目標、赤いフィールドの様な物を展開!」

「何!?」

 

 モーガンが慌てて確認すると、そこには確かに艦隊を覆うように赤く輝く膜の様な物が出現している。爆撃機隊は高高度故に分からなかったが、艦隊は航行を停止しており、艦隊の旗艦である新型の姫級を中心にフィールドは出現している。

 

「どうします!?」

「構わん、投下しろ!」

 

 明らかなイレギュラー。だが彼らに採れる選択肢は存在しなかった。再度照準が定められる。そして――

 

「投下!」

 

 計4発の自由落下型核爆弾は放たれた。それらは風の影響で若干流されるも、目標へ向かって落下して行き、指定された高度で信管が起動。直後、

 

 深海棲艦を人類の持つ最大の炎が覆った。

 




多分次回でパナマ編は終わります。場合によっては「中」が付くかも?


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海を征く者たち13話 東太平洋海戦後編・下

勝敗判定は1d100を3回の数値を合計。深海棲艦側ボーナスで+20します。

アメリカ:53+56+89=198
深海棲艦:28+88+89+20=225

……あっ


 核攻撃の様子はB-1B指揮官機のカメラを通してリアルタイムでホワイトハウスに映像が送られていた。本来ならB-1Bにはその様な機材は搭載されていないのだが、史上初の深海棲艦に対する核攻撃ということで、深海棲艦の研究者を中心に様々な方面から求められてためだ。パイロットからは戦闘に不要な機材であるために不評だったが、貴重な資料が手に入ることから強行されることとなった。

 

「……何とか核の投下は出来たか」

 

 レクチャールームのモニターに映し出される忌々しいキノコ雲から目を逸らさず、アメリカ大統領クーリッジは小さく呟いた。この部屋には彼を初めとして、政府高官が勢揃いして攻撃作戦の行方を見守っていた。

 

「メキシコより爆撃機の領空侵犯についての抗議が来ています」

「何としてでも黙らせろ。手段は任せる」

 

 バーダー国務長官の報告に彼は即座に指示を出す。核は投下できたがそれに至るまでに、かなりの無茶をしてきた。爆撃機編隊がメキシコを飛行する際も、一方的に通告しただけで相手国の許可を正式には取ってはいなかった。当然の事ではあるが飛行の際メキシコと衝突が起こっている。そして問題はメキシコとの外交だけでなく、国内にも生じることが予測されている。

 

「反核団体がうるさくなりそうだな」

「そこはなんとか抑えます。幸い今回の核攻撃は深海棲艦が相手です。国民からの不満は無いでしょう」

「そう祈ろう」

 

 クーリッジは肩を竦める。この核攻撃で外交、国内に問題が発生することとなった。これは核攻撃の必要経費と割り切るしかないだろう。後はそうまでして放った核兵器が深海棲艦を撃破すること願うのみだった。

 

(……頼む)

 

 ふと気づけばクーリッジは祈っていた。教会など随分と行ってはいないが、キリスト教圏の人間らしく自然と神に縋っていた。恐らくこの部屋にいる誰もが神に祈りを捧げているだろう。

やがてキノコ雲が収まり、徐々に海面が見えるようになってくる。そしてB-1Bの望遠レンズはそれを捉えた。

 

 赤い透明な膜の内側で何ら損傷を受けた様子の無い深海棲艦の艦隊の姿を。

 

「ジーザス……」

 

 血の気が引くのを感じつつ、クーリッジはそう呟くしかなかった。他の閣僚も顔が真っ青にして絶句している。アメリカが打てる最後の攻撃が通じなかったのだから当然だ。

 クーリッジはある人物に目を向けた。この場にいる中で軍事について詳しいのは彼だったからだ。その人物はこの事態の中にあって、まるで能面の様に無表情であった。だが彼の固く握られた拳が彼の感情を現わしていた。

 

「……マーシャル国防長官。爆撃機隊はあの艦隊に攻撃することは出来るか?」

「……不可能です。B-1Bに対艦攻撃能力はありません。また護衛のF-15Eも今回は対空兵装のため、対艦攻撃は出来ません」

「東海岸の艦娘の派遣はどうだ。いつでもパナマに送れるようにはしているはずだ」

「無駄です。駆逐艦だけを送り出した所で足止めにもなりません」

「太平洋艦隊は!? 戦闘は終わって戦力を送ると通信があったはずだ!」

「現在、戦艦・空母艦娘を航空機でサンディエゴ基地へ輸送中! 間に合いません!」

「クソが!」

 

 感情に任せて握り拳をテーブルに叩きつける。誰も言葉を発することは無く、静寂だけが漂う。

 

「……他に手はないのか」

「……残念ながらありません。チェックメイトです」

 

 モニターにはフィールドを消し、再度パナマへの侵攻を始める深海棲艦の姿が映し出されていた。

 

 

 

 パナマ共和国。南北アメリカ、太平洋と大西洋の結節点に当たる地理的な重要性から、国際政治的に重要な地域となっている。特に彼の国の代名詞とも言ってもいいパナマ運河は、様々な国が輸送のために利用しており、パナマ共和国に富をもたらしていた。

 とはいえこれは深海棲艦が出現する前の情報である。出現初期はまだ影響も少なかったが、深海棲艦の活動が活発になるにつれてパナマ運河を利用する船舶は激減。同時にパナマの経済に大きな悪影響を及ぼしていた。

 だが運河の利用価値が減少しても、パナマの地理的重要性は変わらない。南北アメリカ各国の交易の要所として機能しており、更にアメリカからのいくらかの援助があったため、ある程度だが情勢は安定していた。

 そのんな南北アメリカの要所を抑えようと、深海棲艦は大軍を持って侵攻していた。本来なら侵攻を阻止するために立ちはだかるあろうアメリカの戦力は、太平洋や大西洋で自国を守るためにてここにはいない。そして人類の最終兵器である核兵器も深海棲艦は防ぎ切った。彼女らの行く手を阻む者は何もない。

 

「直ぐに避難勧告を出せ!」

 

 慌ててパナマ政府は首都のパナマシティ及びパナマ運河周辺住民に避難勧告を出すが、それは遅すぎた。先制攻撃として艦隊からは航空機が発艦しており、パナマ運河への航空攻撃が行われている。対空ミサイル、対空機銃などの防衛兵器が設置されているが、航空機の数は多く防ぎきれず、地上施設や住民に多数の被害が出ていた。

 この攻撃に対してパナマ政府も黙ってはいられない。すぐに彼の国が有する軍事力である国家保安隊に迎撃の命令を出した。

 軍港から海上保安隊の艦艇が出撃する。だがその戦力はアメリカから購入したミサイル艇が3隻。そして航空機による支援もなかった。侵攻してくる敵艦隊に対してこの程度の戦力では蟷螂の斧でしかない。出撃する船員たちもその顔には悲壮な表情を浮かべていた。

 そもそもパナマは軍隊は存在しない国である。国内の治安維持を目的とした警備隊しかないのだ。深海棲艦出現以降、自国防衛のためにある程度の軍事兵器を導入しているが、先進国と比べれば微々たるものだ。地対艦、対空ミサイルはそれなりに導入したが、戦闘機に乗れるパイロットがいないため戦闘機は保有できず、艦艇も精々ミサイル艇が数隻導入出来た程度。更に対深海棲艦戦で有効な戦力である艦娘もパナマには現れていない。パナマの有する戦力では深海棲艦を撃退することは困難だった。

 

「ハープーン発射後、敵艦隊に対して艦砲で攻撃して相手の意識をこちらに向けるぞ」

 

 3隻のミサイル艇もこれだけで眼前の艦隊を撃退出来るとは考えておらず、アメリカがハワイでやったように、敵の気を逸らそうとパナマから離れるように航行しつつ攻撃を敢行した。政府も艦隊が時間を稼いでいる間に、陸上部隊の配置や国民の避難を進めるつもりであった。

 だが彼らの努力は意味をなさなかった。ハワイの時は旧式で損傷していたとは言え駆逐艦が3隻おり、更に航空機からの攻撃も行われていたために、ある程度の数の深海棲艦を撃破できたし、時間も稼げたのだ。駆逐艦より速度が速いとはいえ武装が貧弱なミサイル艇、更に航空支援すらないパナマ艦隊では、アメリカが叩き出した様な戦果を挙げることは出来ずに、深海棲艦の艦載機に集中攻撃を受け、敵の艦隊を目にする前に艦隊は消滅した。

 

 遮る物はなくなった深海棲艦は真っ直ぐにパナマ運河の入り口であるパナマシティへ進んでいく。対するパナマの保安隊はミサイル艇による時間稼ぎも出来ずに、陸上部隊の配備も住民の避難も不完全な状態であった。

 保安隊が採る戦術は上陸する深海棲艦を海岸で叩く水際防御。敵に打撃を与えるなら内陸に誘い込んでから攻撃をした方が良いのだが、ハワイの事例から姫級に上陸された場合には周辺部隊が全滅する恐れが高い。彼らには水際防御しか採れる手はなかった。

 本来の塹壕を始めとした防御陣地を構築する予定であったが、深海棲艦の上陸まで時間が無かった。保安隊は不完全な防御陣地で、配備部隊も不足している状態で深海棲艦を迎え撃つこととなってしまう。陸上部隊は進路から予測されていたパナマ運河周辺に展開、兵士の武装は小銃などの銃器は深海棲艦に効果がないため、ほぼ全員がRPG-7などの携帯対戦車兵器を装備していた。また彼らの最大火力として対艦ミサイル発射母機が数基が配備されていた。

 敵を待ち構えるパナマ保安隊。それに対して深海棲艦は彼らに付き合う気はなかった。彼女たちは対艦ミサイルを排除しようと、航空部隊を発射母機に攻撃を集中させる。

 

「対空防御!」

 

 その動きを察知した陸上部隊の司令官は、対艦ミサイルを守るために命令する。陸上部隊の武装の中で唯一の深海棲艦に有効な兵器を失う訳にはいかなかった。対空ミサイル、対空機銃、果てには歩兵の突撃銃すら使って発射母機を守ろうと弾幕を張る。だが、多勢に無勢だった。無数に飛来する航空部隊の攻撃に大した時間もかからずに対艦ミサイルは破壊される。

 唯一の脅威を排除した深海棲艦は、パナマ運河から約10㎞の海域で停止。その動きに訝しむ国家保安隊。だがその疑問は直ぐに解消されることになる。

 深海棲艦艦隊から一斉に砲火が放たれた。戦艦級は勿論のこと、重巡に軽巡、果てには駆逐艦からも、彼女らが有する火力が待ち構えていた陸上部隊に叩きつけられたのだ。

 100隻以上から来る軍艦の火力。そのようなものを防ぐ手段は保安隊は有しておらず、兵士達は砲火にさらされながら逃げ惑うしかない。一部の部隊は不完全ながらも有していた防御陣地を使ってやり過ごそうとするが、航空機による弾着観測により集中攻撃を受けて陣地ごと部隊が消滅する。少しでも障害となりえるものは徹底的に排除されていった。

 

 パナマを守る最後の戦力が消滅し、深海棲艦艦隊は駆逐艦級を先頭に、次々とパナマ運河を進んでいく。極稀に幸運にも生き残っていた兵士が、一矢報いようと携帯対戦車兵器で攻撃を仕掛けるが、直ぐに対処された。

 艦隊の中心にいるのは艦隊旗艦である運河棲姫。彼女は護衛の戦艦棲姫が有する巨人の様な艤装の肩に腰かけている。その顔には笑みは無く、つまらなそうにボロボロとなったパナマを眺めていた。

 しばらくして艦隊はパナマ運河の中間地点であるガトゥン湖に到着した。深海棲艦は周囲を警戒するように輪形陣を取る。陣形が展開されるのを確認した運河棲姫は、戦艦棲姫の艤装から飛び降りると何かを開けるように両腕を広げた。同時に核攻撃を防いだ赤い膜が形成され、瞬く間にパナマ運河を覆った。その膜の内側には深海棲艦から逃げようとする多くの避難民がいた。避難民たちは突然現れた光景に混乱するが、そんな彼らを余所に事態は進んでいく。直系80kmはあるフィールドは一瞬の間の後、強く発光。暫くして光が収まった時には、パナマ運河周辺で生きている者は深海棲艦以外存在しなかった。

 こうして深海棲艦のアメリカ西海岸侵攻から始まり、南北アメリカ各地で勃発した海戦は、深海棲艦のパナマ占領という形で幕を閉じた。

 

 




と言うわけで、パナマは陥落しました。これから南北アメリカはハードモード確定です。


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海を征く者たち14話 パナマ占領による影響

 もう何度目かのおっさん達の会議シーン回。大海戦があったのに、結局最後まで艦娘が描写されずに終わってしまった……。




 深海棲艦のパナマ占領。このニュースは瞬く間に世界中に駆け巡った。艦娘の出現により戦況が若干好転してきていたため、誰もが最初は誤報ではないかと考えた。だが次々と入ってくる情報によりそれが事実であると分かると、各国政府は対策を迫られることとなる。

 

 

 

 アメリカ、ホワイトハウス。会議室には各省庁のトップが一堂に会し、パナマ占領に伴う問題の洗い出しと対応の会議が行われていた。その誰もが疲れ切った表情を隠しきれていない。何せパナマが深海棲艦に占領されて以来、次々と現れる仕事を前に、碌に休むことが出来ないのだ。

 

「東西両海岸で行われた各海戦では、深海棲艦を多数撃破出来ました。この戦果は艦娘出現以前では考えられない程のものです」

「確かにこれだけの戦果があれば、うるさい奴らを黙らすことは出来るな」

 

 クーリッジ大統領は配布されていた資料に目を向ける。そこには通常兵器で戦ってきた頃とはあり得ない程の戦果が記載されている。特に以前は苦戦していた戦艦級の撃破数は文字通り桁違いとなっている。人類だけではこの戦果を出すことは出来ない。この事実があれば、艦娘脅威論者をある程度静かにさせることが可能であった。

 

「こちらの被害は?」

「艦娘が前衛を務めていたため、通常戦力への被害は殆どありません。艦娘の方ですが練度の低い駆逐艦を中心に轟沈が出ています」

「やはり訓練期間が足りなかったか」

「今回は仕方がありません。建造したての艦娘も出さなければ、押し切られていました」

 

 現場からは建造したばかりの艦娘をいきなり実戦、それも大海戦に投入するのは反対意見が多く、また海軍上層部としても無為に戦力が損失しかねない事はしたくなかったのだが、敵の大規模攻勢の前にはそう言っていられなかった。そのため少なくない数の轟沈者が出ていたが、海軍は沈んだ彼女たちの犠牲を無駄にするつもりはない。轟沈原因の洗い出しをし、轟沈者を少しでもなくすための研究が行われていた。

 

「……しかしこうして数字にして解りやすくされると、我々人類が如何に艦娘に頼らなければならないかが良く解るな」

 

 皮肉気に笑うスチュアート内務長官の言葉に、場が苦笑に包まれる。その中には軍関係者も混じっている。

 

「仕方無いだろう。はっきり言って我々だけでは深海棲艦に勝てんよ」

 

 クーリッジの言葉が彼らの認識の全てを現わしていた。艦娘に頼り切りという状態に思うことが無いわけではないが、現状の人類では深海棲艦に適わない。否が応でも艦娘を当てにするしかないのだ。

 こうして諸々の戦闘で生じた問題について結論を出した後、本題であるパナマ問題に取り掛かった。

 

「分かっていたが問題だらけだな」

 

 顔を顰めつつため息を吐くクーリッジ。良い情報など有るはずもなく気が滅入る。

 

「既に報告しましたが、パナマを敵に取られたため、南米との交易路が寸断されました。不足分の資源を南米から賄っていた我が国だけでなく、南米諸国にとってもこれは大きな問題です」

 

 パナマは南北アメリカをつなぐ要所。そこを深海棲艦に占拠される事は、南北アメリカの連携が分断されてしまうことと同じである。この問題はアメリカだけでなく、南アメリカ諸国にとっても大きな問題となる。

 

「艦娘の護衛による海上輸送による交易はどうだ?」

「出来なくはないでしょうが、敵の拠点が航路の近くにあるため船団への猛攻が予測されます。収支を考えれば赤字になる可能性が高いです」

「……そうか」

 

 頭を抱えたくなるクーリッジ。だが、パナマ問題は交易が封じられた事以外にもある。バーダー国務長官が資料を手に立ち上がった。

 

「パナマから脱出した難民が我が国に向かってきていますが、この集団に異変が生じています」

「異変?」

 

 パナマを占拠されたことにより、現在深海棲艦から逃れようとするパナマ国民が、周辺国に避難してきていた。南米に逃れた難民はラテンアメリカ最大の経済力を持つブラジルへ、そしてパナマの隣国コスタリカに逃れた難民はアメリカを目指して進んでいた。その事はアメリカも把握していたのだが、時間が経つにつれて予想外の事が起こっていた。

 

「我が国に近づくに従い、難民の規模がドンドンと大きくなっています。恐らく、中米諸国の国民がパナマ難民に合流したかと」

 

 パナマと言う近場に深海棲艦の拠点が出来てしまったため、中米諸国の国民は深海棲艦の攻撃を恐れて、アメリカに逃れようとパナマの難民集団に合流する者が多発していた。またこの機に自国よりも豊かなアメリカに移り住もうとする経済難民も含まれている。そのため難民の規模はアメリカに近づくにつれて、雪だるま式に大きくなっていた。

 

「規模は?」

「現在の推定で500万人。アメリカに着くころには更に増加している可能性が高いです」

「……スチュアート内務長官。受け入れは」

「分かっていると思うが、そんな余裕など無い」

 

 現状で国力、軍事的に世界で一番力を持っている国はアメリカではあるが、だからと言って何百万もの難民を受け入れられる余裕など存在しない。

 このような事態を引き起こした原因であるパナマであるが、そちらでも動きがあった。

 

「パナマの敵拠点ですが、既に滑走路らしきものが確認されています。また確認された深海棲艦も侵攻時よりも規模を大きくしています」

 

 パナマが占拠されたものの、アメリカもそのままにするつもりはない。パナマ占拠直後から衛星や航空機による深海棲艦の監視は続いていた。アメリカ軍はこれらの情報を元に国防計画を作成していた。

 

「やはり国防総省の予想通り我が国への爆撃か?」

「間違いないかと」

「防衛の準備は?」

「対空ミサイル及び空母艦娘を各地に配置し、迎撃態勢に入っています。これでひとまずは深海棲艦の爆撃を防げるかと思われます」

「ふむ、何とかなるか」

「しかしそれに伴い両海岸の艦娘の航空戦力が激減しています」

「そこは仕方がない。提督たちには空母艦娘の建造を行うように命じてくれ。航空戦力の減少はマズイ」

 

 この指示は減少した航空戦力を補充するのは当然ではあるが、それ以外にも目的は合った。クーリッジは閣僚を見渡し、語気を強めて言い放つ。

 

「我々はいつまでもパナマを占拠されている訳にはいかない。国防総省はパナマ奪還のための作戦を計画してくれ」

 

 こうしてアメリカは、深海棲艦から人類の領域を取り戻すための計画を立てていった。

 

 

 

 アメリカと太平洋を挟んで位置する島国、日本。この国でもパナマをめぐる一連の戦闘における影響は起きていた。

 防衛省庁舎のある会議室。坂田防衛大臣を初めとして、防衛省上層部が一堂に会していた。彼らの手には日本が入手できる範囲のパナマ占領までの緒戦の情報が記載された書類があった。

 

「流石アメリカと言った所だな」

「太平洋では合計700隻近くの深海棲艦を撃退。しかも艦娘だけでなく通常戦力の活躍も大きかったらしい」

「原子力空母3隻と空母艦娘により航空優勢とし、前線で戦う艦娘の援護として通常艦隊のミサイル攻撃を行う。これは海上自衛隊にも参考に出来るぞ」

「海自単独では難しいでしょうが、本土近海ならば陸自、空自と連携すればこれと同じことが出来そうだ」

 

 議場にアメリカ太平洋艦隊が行っていた戦闘についての意見が飛び交う。暫くその様子を眺めていた坂田だったが、一つワザとらしく咳払いをすると、やや強い口調で言った。

 

「皆さん、そろそろ現実逃避は辞めてください。今日私が皆さんを呼んだ理由は分かっているのでしょう?」

『……』

 

 一瞬にして沈黙が場を支配する。それまで議論していた者たちの顔色はお世辞にも良いとは言えない。彼らもパナマにおける一連の出来事が、自分たちに大きな影響、それも悪い方の影響が出たことは分かっていたのだ。前田海上幕僚長は小さくため息を吐き坂田が言いたかった事を代弁する。

 

「東南アジア進出計画が破綻しましたな」

 

 パナマ侵攻おける一連の戦闘で、ハワイ拠点とイースター島沖拠点がパナマを占領するために連携を取っていた。その事実が日本の戦略を破綻させることとなった。

 何せ現在の東南アジア進出計画は、通常艦隊と艦娘戦力を文字通り東南アジアに送り込むのだ。南沙諸島拠点を攻略するためにガラ空きとなった日本本土を、ハワイ拠点の深海棲艦が見逃すとは思えない。アメリカ太平洋艦隊が交戦した規模と同等の深海棲艦艦隊が攻めて来ると仮定した場合、空自、陸自だけ撃退することはまず不可能であった。

 

「……海自も本土防衛用の戦力を用意する必要が出ましたな」

「しかし自衛艦隊の増強出来ない現状では、採れる手段が限られています」

「分かっています」

 

 現状の日本では、アメリカの様に通常戦力を補充する能力は有していない。精々、陸、空自の若干の増強ぐらいしかできなかった。そうなれば必然的に普通ではない戦力に頼るしかない。

 

「艦娘戦力の増強しかありませんな」

 

 前田の答えが今の日本に採れる選択だった。会議室のメンバーはそれに頷き、そしてこの場で一番艦娘について詳しい人物である坂田に注目が集まる。

 

「艦娘の数自体は建造ペースを上げることである程度対応できますが、問題は練度です。艦娘は建造したてでもある程度は戦えますが、経験を積んだ艦娘と比べれば実力は劣ります」

「戦えるなら問題ないのでは?」

「いえ、経験がないため効率的な動きが出来ないこともあります。最悪、ただの的になりかねません」

 

 坂田の意見に、誰もが唸り声を上げる。

 

「艦娘も万能ではない、か……」

 

 その言葉が会議の出席者の考えていた事を的確に示していた。既存の兵器よりも深海棲艦に対して有効であるため人類から超越した存在の様に思えていたが、内実は練兵や補給等、既存の軍事と通じる部分が多い。今更ながらに艦娘という存在は、あくまでも軍艦が人の形となっただけの存在と言うことを再認識させられることになった。

 

「ともかく東南アジア進出計画の改定をします。時間がありません。どんな些細なことでも意見をお願いします」

 

 こうして、日本が破滅から逃れるための計画を進めていった。

 

 

 

 日本の西、広大な領土を保有する国、中華人民共和国。彼の国もパナマをめぐる一連の戦闘から来る情報によって、緊急会議が行われていた。中国と言う国家を動かす政府機関トップたちが集っているが、その顔色は一人の例外なく悪かった。

 

「核が無効化されるとは……」

 

 中国のトップである朱主席が唸る様に呟いた。それが今回の緊急会議が行われる原因だった。

 中国は南沙諸島拠点からの攻勢を始めとした深海棲艦からの攻撃に対して、劣勢に立たされていた。それらへの対応として地対艦ミサイルの増産や戦闘機の配備、そして軍艦の建造などで対応していたが、中国共産党及び軍部はそれだけでは不十分であると考えていた。そこで手を出したのが核戦力の増強だった。クロスロード作戦の戦訓から「艦艇を模している深海棲艦に効果が薄いのでは?」という声もあったが、だからと言って他に深海棲艦との戦力差を埋める手段がないため、断行されることとなった。

 そうして揃えられた核兵器だったが、パナマで起こったアメリカの核攻撃の失敗により、彼らの努力が無駄となってしまったのだ。

 

「朱主席。核兵器の製造は……」

「即座に中止だ。代わりに通常戦力の増強を急げ」

「はっ」

 

 中国には無駄な兵器を作っている程、余裕があるわけではない。この命令は当然であった。朱は会議室のある人物に目を向ける。

 

「宋海軍司令員、仮に700隻の深海棲艦が侵攻してきた場合、海軍はそれらを防ぐことは出来るか?」

「それは……」

 

 言い淀む宋。しばらくの沈黙の後、彼は意を決して答えた。

 

「まず無理でしょう。仮に陸、空軍と連携しても700隻もの大軍となると押し切られる可能性が高いです」

「……そうか」

 

 朱としてもこの答えは予想できていたが、落胆はあった。その様子を見ていた曽国防部部長がフォローを入れる。

 

「軍では既存兵器の増産と共に、レールガンを始めとした新兵器の研究が進んでいます。これらが完成すれば戦力の増強は確定です」

「その新兵器はいつ完成する? そして完成までの間はどう対処する?」

「……既存兵器で対応する事となります」

 

 その答えに朱は気付かれないように、小さくため息を吐いた。彼が欲しいのは短期間で手に入れられる戦力なのだ。

 

「我が中国の戦力は核攻撃が封じられた事から、実質的に戦力が減少している。何としてでも短期間で戦力を回復させる必要がある。何か案は無いか?」

『……』

 

 場を沈黙が支配する。誰もが頭を悩ませていた。そのような案など、そう簡単には出てくるものではない。そんな若干諦めの空気が漂い始めた頃に、おずおずと挙手する者がいた。宋である。

 

「台湾から脱出した艦娘は使えないでしょうか」

「艦娘か……」

 

 4月23日、世界各国で艦娘が出現したその日。中華人民共和国には艦娘は現れなかった。かつて中華の地に所属していた軍艦の化身が現れたのは、台湾だったのだ。

 そのことを中国が知ったのが5月に入ってからだった。台湾は2017年1月に食料不足や経済破綻により国家が崩壊し、無政府状態となっていたため情報収集が遅れていたのだ。

 現在、中国には少数ではあるが台湾から脱出した艦娘と提督が存在している。彼らは人数も少ない事から軍には組み込まれておらず、中国政府が保護している状態だった。

 

「確かに艦娘は強力だが、現状では数が少ない。戦力として数えられるのか?」

「脱出した艦娘や提督からの情報では、台湾にはまだ艦娘と提督が残っているそうです。それらを取り込めば戦力として数えられる規模になるかと」

「だが問題はどう確保するかだ」

「侵攻しますか? 無政府状態の現在の台湾なら障害はありません」

「確かに侵攻とその後の併合は可能だが、問題はその後だ。台湾住民を養う余裕はないぞ」

「しかしみすみす艦娘戦力を逃すのは得策ではありません。それに台湾が深海棲艦の手に墜ちれば、我々に被害が及びます」

 

 白熱する議論を眺めつつ、朱は静かに考え込んだ。

 確かに艦娘と提督がいる台湾を併合することは軍事的にメリットが大きい。朱が望んでいる短期間での戦力増強が可能であるし、また艦娘保有国として国際的にも発言力が向上できるだろう。問題は艦娘と提督以外の人間だ。これらの住民を養うにはかなりの労力がいるのだ。また、住民の反対運動も起こることは目に見えている。

彼はメリットデメリットを勘案し――決断した。

 

「よろしい」

 

 朱は立ち上がった。活発だった議論が一瞬にして止まり、全員が彼に注目する。朱は会議室全体に響くような声で宣言した。

 

「台湾への侵攻を行う。各部署はそれに伴う計画を早急に立案しろ」

 

 こうして中国も自国が生き残るために動き出した。

 




 とりあえず、パナマをめぐる一連の騒動は一区切り付きました。
次回はちゃんと艦娘が登場する……と思う。


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海を征く者たち15話 ある提督と艦娘のお仕事

久々に舞台は日本へ。久々に秋山君が出てきます。


 パナマ陥落によって各国の政府上層部が頭を抱えることとなったが、現場で働く者たちの仕事は、当事者の南北アメリカ各国を除いて早々変わるものではなかった。これは海が深海棲艦の手にあり、各国が強制的に分断されているため影響が限定的になっているためであった。

 日本においてもそれは変わらず、現場で動く提督や艦娘のやることは変わらない。精々自衛隊上層部から艦娘建造ペースを上げるように通達があった位である。それに伴い仕事量が増えた者の、これまでの仕事の延長線上だった。

 日本の提督及び艦娘の仕事は簡潔に言えば日本の防衛であるが、艦種や得意とする技能によって担う仕事が分かれている。

 一つは迎撃任務。こちらは日本に侵攻してくる深海棲艦に対する迎撃を行うものであり、海自が以前まで通常艦隊で行っていた仕事と変わらない。艦娘は防衛範囲の各地を飛び回り、深海棲艦と戦うこととなる。なお出撃メンバーについてだが、出現する敵の編成によって変更される仕組みとなっている。そのため、人数の多い駆逐艦や軽巡などの補助艦艇と、人数の少ない戦艦や正規空母と言った主力艦とでは、一人当たりに割り当てられる仕事量に差があった。余談ではあるが新規艦娘建造を最も願っているのは、主に主力艦たちである。

 二つ目は防空任務。空母級や敵拠点から飛来する深海棲艦の航空機を撃墜し、本土への被害を防ぐ任務だ。主に戦闘機を使った制空争いを得意とする空母艦娘が担当しており、時には空自や陸自と連携して空襲への対処を行っている。この任務は航空偵察も含まれており、ごく一部の艦娘は専門でこの任務に就いている者もいた。また防空任務は任務の関係上、空自や陸自との交流が多いため、現場においての艦娘への理解の促進に役立っていると言う側面もある。

 そして常設ではないが、必要に迫られた場合のみ編成される特別任務がある。内容も演習での敵役と言った安全な物もあれば、強硬偵察の様に危険なものなど様々である。そのため迎撃任務以上に人事面は柔軟であり、内容に応じて様々な艦娘が就くことになっている。

 そんな特別任務であるが、全提督、艦娘、そして一部官僚にとって喜ばれる仕事が存在した。それは任務の関係上主力艦が組み込まれることは殆どなく、高練度で技能も秀でた艦娘のみに割り当てられる仕事であった。

そんな特別任務が横須賀鎮守府で7月上旬に編成される事となった。確認された敵の編成を考慮し、即座に艦隊が編成される。その中には秋山と彼の艦娘たちの名前があった。

 

 

 

 千葉沖50㎞の海域。戦艦を旗艦とした深海棲艦の小艦隊と、迎撃に出た艦娘たちの海戦が行われていた。戦況は迎撃艦隊が優勢であるが、深海棲艦側も粘りを見せており、油断すれば思わぬ損害を受けることは確実だった。

 そんな激戦を繰り広げている海域――の後方、駆逐艦4隻で編成された特別任務艦隊が目標に向かって航行していた。メンバーは秋山の乗艦する旗艦叢雲、そして僚艦に白雪、朝潮、皐月。朝潮と皐月は秋山が7月に入ってから建造された艦娘で、この特別任務は今回で2回目だった。

 秋山の乗艦により増設された電探が敵を捉える。反応は6。情報と差異はない。

 

「12時方向に電探に感あり。恐らく目標だ」

「どうするの、司令官?」

「このまま単縦陣で突入だ。総員、行くぞ!」

『了解!』

 

 号令と共に艦隊は増速し、敵艦隊に接近していく。距離が縮まるにつれて敵の姿が露わになる。軽巡ホ級1、駆逐イ級3、輸送ワ級2の小艦隊である。本土に侵攻しようとしている艦隊への補給部隊だろう。2隻の輸送ワ級を守る様に輪形陣を取っている。

 

「朝潮。目標駆逐イ級、砲撃開始! 訓練通りに落ち着いていけよ?」

「了解!行きます!」

 

 装備している連装砲を先頭の駆逐イ級に向け、砲撃を開始する朝潮。斉射された彼女の砲撃は、回避行動を取るイ級を囲むように飛来し2発が命中。当たり所が良かったのか爆発と共に駆逐イ級は沈んでいった。艦隊では一番射撃が上手い朝潮だからこそ出来る芸当だった。

 

「撃破確認。流石じゃない」

「でもあの撃沈は偶然だわ。もっと訓練が必要ね」

「朝潮はホントに真面目ね」

 

 どこか悔しそうな朝潮を見て、苦笑する叢雲。練度の面では叢雲が勝っているが、射撃では彼女に勝てそうになかった。

 先制攻撃に成功させた秋山艦隊は、そのまま敵に直進。瞬く間にお互いの交戦距離に入る。

 

「全艦砲撃開始。目標は戦闘艦のみだ!」

 

 秋山の号令と共に、艦隊は深海棲艦に艦砲を向け砲撃戦を仕掛ける。それに負けじと、深海棲艦も応戦を始める。

 飛び交う火砲。同時刻に近場で発生している迎撃艦隊と深海棲艦の海戦と比べれば派手さは無いが、お互いの砲弾が乱れ飛ぶ激しいものだった。戦況は互角ではあったが、主導権は秋山たちにあった。深海棲艦側は輸送ワ級を守りながらの攻撃であり狙いが甘く、更に陣形は砲雷撃戦に向かない輪形陣。そんな敵艦隊の砲撃など、秋山たちにとって回避するのは容易だった。だからこそ均衡が崩れるのは早かった。

 

「撃て!」

「沈んじゃえー!」

 

 朝潮と皐月の集中砲撃により、駆逐イ級が撃沈する。それを見た秋山は即座に艦隊に命令を出した。

 

「叢雲、ホ級を追い込め! 白雪!」

「了解、行くわよ!」

「はい!」

 

 叢雲は突撃しつつ軽巡ホ級に向けて艦砲を連射する。応戦しつつも叢雲の激しい砲撃から逃れようと大きく転舵する軽巡ホ級。それこそ秋山たちの狙い通りだった。

 

「発射します!」

 

 白雪から9発の魚雷が放たれた。発射タイミング、射線は完璧。放射線状に放たれたそれを軽巡ホ級には回避する余裕はなかった。3発が命中し、大爆発と共に軽巡ホ級の身体は水面に沈んでいく。

 その光景を見た深海棲艦は不利と判断したのか、離脱しようと反転する。

 

「司令官、敵が逃げてくよ!?」

「追撃する!叢雲!」

「ええ!」

 

 だが秋山は逃がすつもりなど無い。彼の意図を察した叢雲は敵の進路を塞ぐように立ちはだかった。先頭を行く駆逐イ級が障害物を排除しようと砲を向けようとするが、その先に叢雲はいない。

 

「沈みなさい!」

 

 一気に距離を詰めて振るわれた叢雲の槍が駆逐イ級の身体を切り裂く。急所を引き裂かれた駆逐イ級は、断末魔を上げる時間すら与えられず横転、その機能を停止させた。

 残るは輸送ワ級2隻のみ。そしてここからが今回の特別任務の本番だった。

 

「叢雲、皐月。頼むぞ」

「皐月、行くわよ」

「まっかせてよ!」

 

 叢雲が槍を構え突貫し、その後を皐月が続く。輸送級故に駆逐艦程の速度は出すことが出来ない。また迎撃しようにも通常の輸送ワ級には対艦戦闘の出来る自衛武装が無く、精々が機銃程度。まず敵を逃がすことはなかった。

二人を近づけまいと機銃で弾幕を張る輸送ワ級。だがそれは散発的であり、回避運動を取りつつ急接近する艦娘たちの足止めにすらならない。

叢雲がフェイントを織り交ぜつつ急加速し、一気に相手の懐に踏み込む。彼女の動きに輸送ワ級は対応できない。

 

「そこっ!」

 

 敵の無防備な姿を逃さず、叢雲は相手の首を目掛けて槍を振るう。彼女の攻撃に気付いたのか回避しようとする輸送ワ級だったが、時既に遅し。一撃によって輸送ワ級の頭部が刈り取られる。残った胴体が一、二度の痙攣の後横転し、その動きを止めた。

 

「やるなー、それじゃあボクも!」

「前みたいに被弾しないように気を付けろよ」

「分かってるって、司令官!」

 

 弾幕の中とは思えないような軽口を叩きつつ、狙いが定まらないように回避運動を取りつつ皐月は残った深海棲艦に接近していく。その動きは叢雲よりも若干劣るものの、散発的な機銃で命中させられるようなものではない。瞬く間に輸送ワ級の目の前まで迫ると、右手の単装砲を相手の顎下に突き付け――、

 

「やっ!」

 

 引き金が引かれ、轟音と共に相手の頭だけが吹き飛ばされる。残った胴体は砲撃の反動で若干後ろに動いたが、直ぐに動かなくなった。

 

「本体は無傷か。問題ないな。白雪、頼む」

「はい」

 

 白雪は頷くと、今回の任務用に持ってきていた曳航用のロープを輸送ワ級の残骸に結び付ける。

 

「叢雲と白雪は曳航、朝潮と皐月は周辺を警戒だ。それじゃあ帰還するぞ」

『了解』

 

 こうして特別任務、「鹵獲任務」はほぼ完了し、秋山たちは帰路についた。

 

 

 

 輸送ワ級。対深海棲艦戦争初期に、陸地を海に変える能力が確認され、現在でも優先殲滅目標の一つとされている深海棲艦であるが、身体のタンクの様な部分には、燃料を始めとした各種の資源がため込まれていることが当初から確認されていた。これまではそれらの資源は活用できなかったのだが、現在は資源加工施設が完成したため、艦娘戦力の運用に使えるようになっている。

 そうなるとこんな意見が出てくるのは当然だった。

 

「輸送艦級を鹵獲出来ないか?」

 

 輸送ワ級は碌な武装が無いため艦娘にとって脅威ではなく、それでいてその体内には多くの資源が貯蓄されている。少しでも資源を節約したい日本にとって、輸送ワ級は宝の山に見えたのだ。

 この動きに海上自衛隊上層部は防衛戦力が分散される事を懸念したのだが、艦娘運用で資源不足実感していた地方隊上層部や、現場で働く提督たち、そして少しでも資源を得たい一部の官僚が賛成に回ったため、押し切られる形で許可が下りることとなる。

 こうして特別任務として鹵獲任務が行われることとなったのだが、実際にやってみると様々な問題点が分かってきた。

 一つ目は護衛の排除。輸送艦ということで当然護衛が就くのだが、それらを排除する必要があった。これは練度の高い艦娘を複数投入すれば問題は無いのだが、次からが問題だった。

 輸送ワ級に必要以上にダメージを与えてはいけないのだ。下手に攻撃して沈めてしまえば、狙っていた資源も輸送ワ級と一緒に水底に沈んでしまい苦労が水の泡となるのだ。特に資源が貯蔵されているタンク部分への被弾は避けなければならず、輸送ワ級への攻撃は急所を精密に破壊する技術が必要とされた。

 そして更に問題なのが、資源の収支だ。護衛を排除だけ考えれば戦艦や空母等の強力な打撃力を持った艦を出せばいいのだが、それで消費した資源が鹵獲した資源より多ければ意味がない。出費を抑えるためにも、出来る限り戦闘での消費の少ない艦――駆逐艦が望ましかった。

 つまり鹵獲任務は、「護衛を排除できる練度があり」「目標の急所を正確に破壊出来る技能を持つ」「駆逐艦」という必須条件のハードルが高い任務なのだ。そのため鹵獲任務に就くことは、駆逐艦艦娘や彼女たちを運用する提督にとって、ある種のステータスの様に扱われていた。

 

 

 

 秋山の乗艦により叢雲に増設された対空電探が反応を示した。ふと空を見れば本土側から沖に向かって空母艦娘が出したと思われる航空機編隊が飛行している。

 

「迎撃かしら?」

「だろうな」

 

 同じく叢雲も気付いたのか、空を見上げている。航空機編隊の規模は小さいので、深海棲艦の少数の重爆撃機によるゲリラ爆撃への対処だろう。

 

「最近、多いですね」

 

 そう呟く白雪に秋山は小さく頷いた。7月に入ってから、ほぼ毎日空襲が発生している。それもまるで嫌がらせの様に少数で迎撃範囲に侵入し、こちらが迎撃機を出せば引き返すことを繰り返している。そのため防空任務に就く艦娘はこの連続出撃に疲弊し始めていた。

 この問題に提督たちも頭を悩ませているが、大した権限を持たない彼らの出来るの範囲では、どうすることも出来ないのが現状だった。

 

「……迎撃はあっちに任せて、さっさと帰ろう」

 

 秋山の言葉に艦娘たちは頷くと、再度母港を目指して航行を始めた。

 



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海を征く者たち16話 余裕のある国の悩みと余裕のない国の決断

梅干しが出ねぇ……


 深海棲艦の出現は世界を強制的に分断させた。これはグローバル社会であった世界各国にとって大きなダメージとなったのだが、この危機を逆にチャンスと見た国も存在する。

 その主たるものが、農業や鉱業など第一次産業が強い国だ。例を挙げれば南米各国。アメリカは深海棲艦に海運が分断されて以来、輸入先の代替として南米各国から資源を輸入していた。そのため交易に関しては、パナマ占領前まではそれなりに利益をもたらしていたのだ。

 そしてユーラシア大陸でも、このように利益を上げている国は存在する。

 

「とうとう完成したか」

 

 ロシア連邦。大統領執務室で部下から上げられた報告書を手に、この部屋の主であるノーヴァ大統領は満足げに頷いた。

 

「はい。今回は石油採掘施設だけですが、近い内に他の鉱物資源の採掘施設も完成します。年内で採掘ペースが跳ね上がる事は確実でしょう」

 

エネルギー省の大臣であるハラモフは上機嫌に報告を続ける。

 

「また既存施設の第二次拡張計画も順調に進んでいます。こちらは若干の遅れはありますが、来年の初めには完了します」

「ふむ、それぐらいなら問題はないな」

 

 何かと西側諸国と対立することが多かったロシアだったが、その状況が変わったのは深海棲艦の出現だった。出現当初こそ深海棲艦も弱く、直ぐに駆逐できるであろうと考えていたが、徐々に敵が強化されていく事態に、ロシアは危機感を覚えると同時に商機を見出した。

 現状は各国とも何とか海路を維持しているが、近い内に海上封鎖される可能性が高い。そうなれば各国は形振り構わず石油を初めとした資源を手に入れようとするだろう。その中には当然、資源の一大消費地ヨーロッパが含まれている。そしてヨーロッパ各国が資源の入手先として頼ることになるのは、近場であり、資源大国であり、国土防衛のための軍事力もあるロシアとなるだろう。

 当時の産業貿易省の予測に、ノーヴァは賭けに出た。軍事力の増強の傍ら、石油、鉱物資源の採掘ペースを向上させた。同時に採掘施設の拡張や増設も行い増産体制も整えていった。また農業面でも増産を測り輸出に備えたのだ。

 そしてロシアは賭けに勝った。海上封鎖されたヨーロッパ各国はこぞってロシアに各種資源の輸出を求めた。石油や鉱物資源は飛ぶように売れ、更にヨーロッパの穀倉地帯であるフランスが情勢不安定であったため、食料についても予想以上に売れた。また工業製品についてもロシアの広い国土を活かして工場を内陸部に移設していたお蔭で、安定して供給出来たので、こちらもヨーロッパには好評だった。

 こうしてロシアはユーラシアの生産拠点としての地位を確立した。戦力についても既存の海軍戦力こそこれまでの戦闘で目減りしていたが、艦娘については空母こそ無いが戦艦を始めとした強力な艦娘が出現していた。そのため現在のロシアの国際的な地位は高かった。

 

「増産された資源はやはりヨーロッパへ?」

「私もそう考えていたが……」

「何か問題が?」

 

 ノーヴァは小さく頷くと、執務机から書類の束を取り出し、机の上に置いた。表紙には外務省から提供された物だと分かる。

 

「よろしいのですか?」

「構わん。どうせ近々公表される」

「では、拝見します」

 

 ハラモフは書類を受け取ると、速読を駆使して内容を短時間で確認していく。そして彼は大統領がなぜ言い淀んだのかを理解した。

 

「ヨーロッパ各国で資源採掘量が上昇傾向ですか……」

「原因は深海棲艦のインフラ破壊頻度の減少だそうだ」

 

 これまでヨーロッパでは深海棲艦による工業地帯や資源地帯への攻撃を受けることが多く、その生産能力を十分に発揮できなかった。その状況が変わったのが艦娘の出現だった。彼女たちによる迎撃によりインフラへのダメージが大幅に軽減され、徐々にその生産能力を取り戻し始めていたのだ。

 

「ヨーロッパが自国である程度資源を採れるようになれば、資源の価格を下げざるを得ない可能性が高い」

「それは……」

 

 「自前で資源を用意出来る」という事実は、価格交渉の場面で大きな武器となる。需要を考えればヨーロッパへの輸出は続くだろうが、これまでの様に高値で資源を売ることは難しくなると予測された。

 

「資源は我が国にとって強力な武器だ。出来る限り有効に使いたい」

「しかしこのヨーロッパの流れは、我が国では止められません」

「……そうだな」

 

 他国から見れば贅沢な悩みであるが、国を預かる本人たちにとっては真剣そのものである。余所からは余裕のある国と見られているロシアの悩みは尽きない。

 

 

 

 日本国、首相官邸。定例となった閣僚級会議が開催されているのだが、今回の会議はある問題への対応についていつになく荒れていた。

 

「この作戦を実行したところで、メリットは少ないです!」

「だが放置すれば被害は増すばかりだ! それに防衛省から提出された資料から考えても、戦力なら横須賀地方隊だけでも可能なはずだ!」

 

 坂田防衛大臣と総務大臣の岡本の激論は、かれこれ1時間近く続いている。この議論に各大臣は賛成派、反対派に分かれており議論に参加しており、時折彼らによりそれぞれの派閥の援護が行われ、更にヒートアップしていく。中立は真鍋首相と今回の議題にあまり関わりのない省の大臣だった。

 

「分かっていたが、荒れるな」

「議題が議題です。当然でしょう」

 

 真鍋の呟きに、井上財務大臣は肩を竦めた。今回、財務省は中立を貫くよう真鍋から要請されていたので、この議論に殆ど口を出さずに眺めているだけだった。

 

「そうだな。……しかし以前では考えられない様な議題だ」

「全くです。『硫黄島攻略』とは」

 

 切っ掛けは先日に東京で起きた空襲だった。ここ最近増えていたゲリラ爆撃であり、いつもなら迎撃機が出撃するのだが今回は勝手が違った。深海棲艦側は爆撃機2機という小規模で、更にレーダー網を避けるために低空侵入をされたために発見が遅れてしまったのだ。気付いた時には東京に侵入されており、若干の被害が出ていた。件の爆撃機は慌てて追ってきた迎撃機によって、2機とも撃墜された。

 空襲された事自体は左程問題なかった。艦娘出現以来かなり減ったものの、依然として日本では空襲による被害は続いているため、言わば日常茶飯事なのだ。だが今回の問題は爆撃された場所だった。よりにもよって皇居の目の前で空爆が行われたのだ。皇居は迎撃が間に合い無傷だったのだが、この事態を一部の人々は問題視した。

 

「敵爆撃機基地を破壊すべし!」

 

 今回は防げたものの、もし皇居に爆撃されれば、そしてそこに住む人物に何かがあれば日本に悪影響が出ることは確実。それを未然に防ぐためにも、現在は深海棲艦に占領されており、日本への爆撃機基地となっている硫黄島の攻略を主張した。

 この主張に国民の多くは賛同した。皇居の件もあるが、これがなされれば自分たちの安全に繋がるのだ。以前ならともかく、今は艦娘という強力な戦力を有している。攻略は可能なはずだ。かくして世論での硫黄島攻略の主張は日に日に強くなっていった。

 この世論の動きを日本政府は無視することは出来ず、今回の会議が開催されたのだが、意見は真っ二つに割れる事となり、今に至っていた。

 

「敵の本土爆撃を防ぐためにも硫黄島の攻略は必要なはずだ!」

 

 そう主張するのは賛成派の岡本総務大臣を中心とした、日本の社会活動に関わる者たちだった。彼は攻略賛成派の議員とも関わりが強く、かつ総務省と自身の考えにとっても賛成派の主張は頷けるものがあったため、硫黄島攻略を主張していた。

 確かに艦娘によって依然と比べれば空爆の被害は格段に減ったが、完全になくなったわけではない。日本の空爆被害の中心となっている硫黄島からの爆撃機を抑えれば、交通機関や工場などのインフラ設備の損害をほぼゼロに出来ると考えていた。

 

「硫黄島を攻略した所で、今度はマリアナ諸島から爆撃されるだけです!」

 

 対して、反対意見を出しているのは坂田防衛大臣と江口経済産業大臣である。彼らは賛成派の主張には理解を示しているが、その主張には坂田が言ったように穴があった。また石油や鉱物等の戦略物資の消費により、後に行われるだろう東南アジア進行作戦への悪影響を危惧していた。そしてそれ以外にも問題がある。

 

「確かに硫黄島の戦力は少ないです。総務大臣のおっしゃる通り横須賀だけでも攻略は可能でしょう。また硫黄島攻略は軍事的にもメリットはあります」

「ならば――」

「しかし問題はその後です。現状では硫黄島を維持する余裕など有りません!」

 

 防衛省が硫黄島攻略に反対する一番の理由がこれだった。

 確かに硫黄島を攻略すれば深海棲艦側の戦略爆撃機はマリアナ諸島からでしか出撃できなくなる。そうなれば航続距離の関係上、護衛戦闘機を就けられなくなり、爆撃機の迎撃は以前よりも容易になる。また硫黄島を取り返せればマリアナ諸島からの戦略爆撃機を監視できる早期警戒システムの拠点と出来るだろう。

 だが問題は硫黄島の維持だった。東京から約1000km離れた硫黄島を日本の領土として維持するには、多くの物資や戦力、労力が必要となるのは確実である。後に行われるであろう東南アジア進行作戦の事を考えれば、温存しておきたかった。

 

「だが現状では国民の声が大きすぎる。このまま無視は出来んぞ!?」

「そこは政府からの情報公開で抑えるしかありません」

「不可能だ! ……何とか維持費を抑えられないか? 例えば提督と艦娘だけを駐留させれば」

「通常戦力の配備よりは物資は抑えられるでしょうが、防衛戦力としてかなりの戦力を出す必要があります。後々の作戦行動に影響が出ます」

「艦娘戦力の増強ペースを上げる事で対処出来ないか?」

「これ以上は無理です」

 

 議論は続くがどこまでも平行線だった。どちらも言っていることは理解できるし、どちらも譲ることは出来ない。このままでは無為に時間だけが消費されるだろう。そしてこの場を収めることの出来る人物は限られている。

 そう判断した真鍋は、高速でメリットデメリットを天秤に掛け思案する。そして決断を下した。

 

「分かった」

 

 真鍋の言葉に議論の中心にいた者も含めて、全員が彼に注目する。

 

「硫黄島攻略を行う」

「総理!?」

 

 半ば悲鳴を上げるような坂田を余所に、真鍋は続ける。

 

「日本は民主国家だ。我々は国民の声を無視することは出来ない。……色々と後ろ暗い事はやったがね」

 

 一部の閣僚から苦笑が漏れる。これまで日本という国を維持するために、かなりの無茶をしてきたのだ。当然国民の意に沿わないことも多々やってきたし、表立っては言えない様なこともやってきた。そんな彼らがお題目として「国民の声」を掲げるのだから皮肉でしかない。

 

「それにこれは東南アジア進行作戦の前哨戦だ。拠点攻略の経験が積める。問題点の洗い出しにもなるし、これはかなり大きい」

「それは……」

 

 その点を突かれると防衛省としては痛い。唯でさえ東南アジア進行作戦は成功率が未知数なのだから、少しでも成功率を上げるべく経験を積む必要があることは分かっていたのだ。

 

「資金や物資については、出来る限り自衛隊に融通する。それで何とか頼む」

「……分かりました」

 

 坂田は苦虫を噛み潰したように答えるしか出来なかった。7月15日午後4時。こうして日本は深海棲艦を叩くべく動き始める事となる。

 




米しかねぇ……


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海を征く者たち17話 自衛官たちの憂鬱

色々な準備をするための会議回。


 内閣により硫黄島攻略の命令が正式に下され、自衛隊は攻略のために動き出したのだが、すぐさま出撃出来るわけではない。当然のことだが、作戦の立案や準備が必要になる。

 物資については東南アジア進行作戦のために掻き集められてはいたので、一部を流用出来るものの、選別する必要があった。また詳細な作戦を練るために偵察や情報収集を行い分析する必要があるし、作戦に必要となる船舶を用意しなければならない。そのため準備期間には最低でも2か月は必要だった。そしてその「短期間で準備をする」という事項の代償が軍関係者に降り注ぐ。

 

「デスマーチ確定ですね……」

 

 顔を青くして呟く坂田防衛大臣の言葉が全てを物語っていた。命令が下されたその日から、陸海空自衛隊の各部署の部屋の明かりは消えることは無くなった。誰もが悲鳴を上げながら各々の業務に取り掛かっており、その様子を防衛大臣の秘書として坂田と同じく徹夜して仕事に臨んでいる大淀が、「後方にいるにも関わらず、戦死しかねない」と漏らす程だった。

 その様な状況が防衛省で続くある日、防衛省庁舎のある一室で、陸海空のトップと統合幕僚長、そして防衛省のトップである坂田が集まり、硫黄島攻略――「硫号作戦」についてのもう何度目かの会議が行われていた。

 

「連日空自と海自の空母艦娘で偵察を行った結果、敵の旗艦は当初の予測通り、姫級でした」

 

 倉崎航空幕僚長の言葉に、各員が事前に配られていた資料に目を落とす。偵察の際に撮影された航空写真や、現時点での硫黄島の様子が記載されている。

 

「艦隊規模は?」

「約100隻。以前と規模は変わっていません」

「やはり硫黄島は3級拠点だったか」

 

 深海棲艦に占領され拠点化された土地は世界各地に存在するが、規模や脅威度によって等級が区分されている。硫黄島は姫級がいるものの、独自で深海棲艦の建造が行われていないことが確認されたため、「やや脅威度の高い拠点」である3級拠点と区分されていた。

 

「現状確認されている姫級は、旗艦クラスと思われる仮称「硫黄棲姫」、それの護衛らしき「戦艦棲姫」が2隻。後は通常の戦艦や空母にその護衛です」

 

 詳細が報告され、会議室のほぼ全員が唸る。予測はしていたが、敵の戦力はかなりの規模である。以前であれば、自衛隊の総力を持ってしても勝つことは出来ないだろう。だが今は違う。

 関口統合幕僚長はこの場で一番、彼女たちを知る人物に向き直る。

 

「坂田大臣。この規模ですが本当に艦娘で勝てるのですな?」

「決戦に持ち込めば勝てるでしょう」

 

 坂田は肩を竦める。

 

「これまでも艦娘たちは深海棲艦と戦ってこれましたし、そもそもアメリカが太平洋で今回以上の規模の深海棲艦を決戦で撃退出来ています。問題はありません」

 

 アメリカでのパナマをめぐる戦闘の情報は世界中に渡っており、各国により研究、分析が行われている。幕僚長たちもその事は知っているのだが、やはり専門家と言っても良い坂田のお墨付きが欲しかった。

 とは言え、問題がないわけではない。

 

「問題は通常戦力です。我々にはアメリカの様に強力な通常艦隊がありません。前田さん、自衛艦隊残存艦の修理はどうなっていますか?」

「予想より消耗が激しく、予定より時間が掛かる様です。硫号作戦の開始予定である9月までに作戦行動に出られるのは「あたご」「あきづき」のみです」

「それだけしか出せないのか……」

 

 アメリカ太平洋艦隊と深海棲艦の決戦において、通常兵器の活躍も大きい。当然自衛隊もそれを参考に自衛艦隊を艦娘部隊の掩護として出したかったのだが、壊滅状態にある自衛艦隊には難しかった。更に悪いニュースは続く。

 

「また陸自部隊の輸送は「おおすみ」が行いますが、問題は現在、艦娘母艦として改装中の「しもきた」です。9月の始めに改装は終わりますが、乗員の練度に不安が残るでしょう」

「硫号作戦は急に決まりましたからね。仕方ありません」

 

 艦娘母艦は、艦娘用に補給や整備を洋上で行う目的で実装予定の艦種である。これは元々東南アジア進行作戦において、遠方でも艦娘の運用をするために計画され、輸送艦「しもきた」を改装することになっていた。関口は顔を歪める。

 

「艦娘母艦の投入は見送るべきですな」

 

 その言葉に前田も小さく頷いた。訓練中の艦を当てにすることは出来ない。そのためこの意見が出るのは当然ではあるのだが、そこへ坂田が反対意見を出した。

 

「いえ、補給や整備を遠方で行える艦娘母艦は作戦に必須です。多少練度に不安があっても出すべきです」

「艦娘母艦は新しい艦種。不具合の洗い出しは必要ですぞ」

「分かっています。しかし「おおすみ」では艦娘用の設備がないため、長時間の作戦行動が出来ません」

「……」

 

 坂田と関口の間の空気が段々と険悪なものになっていく。それを感じ取った倉崎は気付かれないようにため息を吐くと、二人の間に割って入る。

 

「坂田大臣、関口統合幕僚長、落ち着きましょう。「おおすみ」はまだ改装中。改修が遅れる可能性もありますし、改修が完了してから投入の有無を決めましょう」

「そうですね……」

「関口統合幕僚長の練度問題も当然の懸念です。ですので地上でも出来る訓練をするなど、事前に準備をするのはどうでしょう。それならば改修後に訓練を始めるよりは習熟は早いはずです」

「……そうだな」

 

 二人とも若干の不満は残っているようだが、とりあえずこの場は何とか収まり、緊迫した雰囲気が霧散する。それを感じつつ倉崎は続ける。

 

「先日の空自による航空偵察ですが、一つ気になることが」

「どうしました?」

「高度一万mにアメリカの核投下作戦時に爆撃機隊が遭遇したという、新型航空機が迎撃として上がってきました」

「こちらにも出現しましたか……」

 

 顔を歪める坂田。彼にとって敵の新型航空機は懸念材料の一つとなっていたのだが、それが硫黄島でも確認されたとなると気になる。

 

「猫の耳が生えた白いボールの様な奴でしたな。確かF4Uコルセアがモデルでしたか?」

「いえそれは飽くまで推測です。現状は情報が少なく詳細が分かっていません。ただしこれまでの機体よりも高性能化している事は間違いないでしょう」

「空母艦娘の使う零戦21型の最高速度は533km。新型を仮にF4Uコルセアとすると、最高速度は671km。日本とアメリカとでは性能を測る際の条件が違いますので差は縮まりますが、それでも性能の差は大きいですね」

 

 倉崎は太平洋戦争時の日米の戦闘機のスペックを思い出しながら顔を歪める。空母艦娘の使う数的主力となっている戦闘機は零戦21型と九六式艦戦である。仮に硫黄島から繰り出される戦闘機が全て新型であった場合、制空権は敵側に取られる可能性が高かった。

 その事を分かっているのか、坂田が倉崎に視線を向けていた。

 

「倉崎さん。空自による航空支援は可能でしょうか」

 

 艦娘で対応できないなら、対応可能な所に任せればいい。事実、アメリカの爆撃機隊は新型航空機群をミサイルで薙ぎ払っていた。問題は無いはずだ。倉崎もその視線に応えるように頷いた。

 

「硫号作戦では第7航空団を当てることになりますので、航続距離的にも防空支援は可能です」

 

 関東地域の防空を担う第7航空団は、以前はF-4EJ改のみで構成されていた。しかし対深海棲艦戦の激化に伴い戦力を大幅に増強されることとなり、対艦攻撃が可能となったF-15J改、そしてF-2Aが配備されていた。だが問題が無いわけではない。

 

「とはいえアメリカ太平洋艦隊の様に、手厚いエアカバーは難しいでしょう」

「やはり他の航空団からの援軍は難しいですか」

「各地の守りを考えると、作戦で使えるのは第7航空団だけになります」

「そうですか……。そうなると艦娘の航空戦力の増強も進めなければなりませんね」

 

 航空自衛隊のトップである倉崎にそういわれては、坂田もどうしようも出来なかった。

 海の戦力は艦娘に偏り、空も万全とは言い切れない。残るは陸だが、こちらは未知数と表現される事となる。

 

「陸としては敵の撃破後も気になる所です」

 

 そう発言したのは陸上幕僚長の黒木だった。

 

「敵の拠点がどうなっているのかが誰も分からない状況では、準備のしようがありません」

 

 これまで人類は、深海棲艦の拠点を攻略するという行為を実行した事が無かった。対深海棲艦戦初期は陸地を拠点化される事は無かったし、世界各地に深海棲艦の拠点が出来始めたのは、イースター島沖拠点が出現して以降。その頃には人類は防戦一方であり、とても敵の拠点を攻略する余裕など無かったのだ。そのため拠点化された地域はどうなっているのか、何がいるのかが、全くと言って良い程に情報が無いのだ。そのため陸上自衛隊では様々な仮説が飛び交っていた。

 

「仮に深海棲艦の歩兵型が存在していて、地下坑道で待ち伏せされている、となった場合、上陸部隊での攻略は困難です」

「現状、そのような敵は確認されていないが……」

 

 反論する関口だったが、その口調は弱い。黒木の仮説には根拠はないが、いないという証明が出来ないのだ。更に彼は続ける。

 

「では確認されている敵のみで想定でよろしいですか?」

「……ああ」

「仮に深海棲艦の砲台型――砲台小鬼が山中に隠れていて、部隊が上陸して内陸に進んだ所で突如として砲撃する。このような事態が想定されます」

 

 深海棲艦のパナマ占領後、敵地を偵察したアメリカ軍の報告から、砲台型深海棲艦の存在が確認されていた。黒木はこの存在によって、かつて硫黄島で起きた戦闘を思い起こさせられたのだ。

 

「硫黄島の戦いと同じ戦法か……」

「砲台小鬼は陸上での自立行動が出来る上に、全長が1mもありません。坑道にでも隠れられた場合、手の出しようがありません」

 

 更に言えばその小ささで隠れられた場合、事前砲撃を行っていたとしても効果は殆どないだろう。隠匿された砲台に事前の砲撃は効果が薄い事は歴史が示している。

 

「また以前より駆逐級や軽巡級の様な既存の深海棲艦が、陸地での行動が可能であることは確認されています。こちらが出てこられた場合でも、上陸部隊での対応は不可能です」

「ハワイでは歩兵部隊による敵の撃破の報告があったらしいが?」

「あれは入念に防御陣地を構築して、更に多数の犠牲を払ったからこそ出来た芸当です。攻勢側では難しいでしょう」

 

 黒木の返答に反論できずに渋い顔で黙り込む関口。それを気にすることなく、黒木の説明は続く。

 

「他にも懸念はあります」

「まだあるのですか……」

「あります。深海棲艦に占領された土地は人間にとって無害であるかが不明です」

「と、言いますと?」

「ハワイやパナマでは、深海棲艦が展開する赤い膜――バリアの様な物ですかね――、それが展開された途端に、バリア内の人間は死亡しているとのことです。原因はバリアであることは分かるのですが、そのバリアがどのように人間を死に至らしめるのかが解りません」

 

 この現象について各国でも研究はされているのだが、全く究明がされていなかった。パナマの際に犠牲者の遺体が入手されたとのことではあるが、死因は不明であった。

 

「窒息、中毒、病死。考えられる原因はさまざまです。問題はそれらの死に至る原因が、深海棲艦がいなくなった後でもその土地に残っているのか、です。仮に残っていた場合、上陸した途端に部隊が全滅するかもしれません」

「……」

 

 誰もが沈黙するしかなかった。坂田としては考え過ぎな様にも思えたが、それらを妄想であると否定する材料が無いのだ。

 

「陸自の予定としては、深海棲艦撃退後、上陸前にドローンによる偵察を行い、敵が発見されない場合、カナリアなどの実験動物を投入。安全が確認された後に対NBC装備の部隊を上陸させる予定です」

「分かりました、万全の準備をお願いします」

「また陸上で深海棲艦と遭遇した場合、艦娘に応援を要請しますがよろしいでしょうか?」

「構いません」

 

 こうして日本の軍事を担う組織の上層部による準備は、様々な不安を孕みながらも進んでいく。

 




艦これ世界の陸戦の情報、無さすぎじゃないですかね……


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海を征く者たち18話 現場のため息

余り考えずに主人公や世界観の設定したせいで書かなければならなくなった回。


 自衛隊の上層部が悲鳴を上げているのなら、現場で動く人々も忙しいのは道理ではある。硫号作戦で艦娘戦力を多く出すこととなる横須賀地方隊でも、突然降ってわいてきた仕事に誰もが悪戦苦闘していた。作戦参加メンバーの選出に加えて、作戦期間中の防衛計画の立案。更に作戦に参加する艦隊が横須賀に集結するためそれらを迎えるための準備など、重要な仕事が大量にあるのだ。更に当然の事だが通常業務もこなさなければならないため、忙しさに拍車を掛ける事となっていた。

 そんな誰もが多忙な日々を過ごしているある日の横須賀基地の総監室。佐久間横須賀地方総監は提出された書類に目を通していた。それには硫号作戦における横須賀地方隊の担う役割の詳細が記載されている。

 

「作戦に参加させる艦娘は計300人か。それも主力艦クラスも多数」

「はい。これだけあれば硫黄島の攻略は出来ると予測されています。また近隣からの援軍があったとしても十分に対応出来るとの事です」

 

 矢口参謀長は頷いた。硫黄島の戦力は大よそ100隻程度。勿論油断は禁物ではあるが、勝率は十分に高い。相手を圧倒的に上回る数で敵を押しつぶすのは、古来から続く戦場での常套手段だ。この人数は作戦の主体となる自衛艦隊から求められた人数だった。

 

「しかしこれだけの数を出すとなると、横須賀の守りが空になりかねないが?」

「硫号作戦の実行は二か月後の9月の半ば。現在の艦娘建造ペースで計算した場合、300人を出しても、防衛戦力に問題はありません」

「ふむ……」

 

 日本で艦娘の建造が可能になって約1か月。日本の長大な海岸線を防衛するために艦娘の建造が急務であったこともあり、日々艦娘は増えている。当初は頭数を揃えるために建造資材が少なくて済む駆逐艦の建造が多かったが、最近ではある程度数が揃ってきたため、主力艦クラスの建造が多くなってきていた。

 

「しかし『戦艦が毎日のように建造される』なんて、大戦期のアメリカを超えているな」

「確か、『隔月刊正規空母、月間軽空母。週間護衛空母に日刊駆逐艦』でしたか。確かにアメリカを超えましたね。……後は、安定して艦娘が供給されればいいのですがね」

「まさか建造結果がランダムだとは思わなかったな……」

 

 艦娘の建造は工廠で働く妖精によって行われるのだが、誰が建造されるのかは妖精の気まぐれという、俄かには信じられない様な問題があった。当初、佐久間たちは笑えない冗談だと考えていたのだが、

 

「そういうモノなのです……」

 

 と、提督たちからもはや達観しきった顔で言われてしまっては引き下がるしかなかった。建造計画も何もあったものではないこの問題だが、佐久間たちの様な非提督にはどうしようもないため、提督たちに一任している。なお、武装の開発においても同様の問題があるようだが、こちらもどうしようもない。

 

「それで提督の方だがメンバーの選出はどうなんだ?」

「作戦の参加には25名を選出しました。これは主にこれまでの戦績を考慮して選出していきます。ただ……」

「どうした?」

「一部に少々気になる提督がおりまして……」

 

 矢口はそう言うと、手にしていた書類を佐久間に差し出す。軍事機密とされている提督のプロフィールや戦績、所属する艦娘等、提督についての詳細が記載されている書類だ。それが3束、執務机に置かれる。

 

「3人か」

「はい、順に説明させていただきます。まず鞍馬提督の資料をご覧ください」

 

 佐久間は促されるままに書類を手に取った。

 

「防空任務専門か。――しかも戦績はトップクラス」

「爆撃機、戦闘機共に高い撃墜率を誇ります」

 

 鞍馬は早くから防空任務に就いており、当初からその頭角を現していた。特に制空戦闘を得意としており、九六式艦戦で格上の航空機をいとも簡単に相手取れるのは彼ぐらいであった。

 

「どこが問題なんだ?」

「……制空戦闘は文句なしなのですが、対艦戦闘に難があります」

「何?……撃破数3?」

「しかも撃破出来たのは最弱とされる駆逐イ級のみです」

 

 防空任務は防衛範囲の制空確保が主な任務ではあるが、低脅威度の敵艦隊への航空攻撃をすることもある。相手は駆逐艦を中心とした小規模艦隊であり、航空兵力もなく対空砲火も疎らであり、一方的に攻撃出来るということで、複数の空母を保有する提督にとって楽に戦果を稼げる仕事とされていた。当然、防空任務の専門家である鞍馬も対艦航空攻撃をする事もあるのだが、彼女も彼女の艦娘も対艦航空攻撃については適性が無かったらしく、碌な戦果を挙げられずにいた。

 

「どうやら対艦攻撃についてはからっきしの様で」

「ここまで尖っているのも中々珍しいな」

 

 苦笑する佐久間。矢口の懸念も最もだ。空母の強みである対艦航空攻撃がここまで振るわないとなると、重要任務に出すべきか迷うのも当然だろう。とは言え今回では問題は無かった。

 

「まあメンバーに入れても良いだろう。対艦攻撃は他の提督に任せられるしな。それに情報では敵に新型航空機が確認されている。それへの対処を彼に任せよう」

 

 今回は複数の提督が合同で行う作戦行動であるため、多少の欠点があっても補える。むしろ、懸念材料だった深海棲艦の新型航空機を抑えられる可能性がある鞍馬を外すのは、デメリットが大きかった。

 

「分かりました、では鞍馬提督は内定とします」

「次は誰だ?」

「橋本提督です。彼の所には潜水艦が多数所属しており、それらを中心とした戦術で戦果を挙げています」

「潜水艦隊か。珍しいな」

 

 提督化する際に出現する艦娘や建造された艦娘は、基本的に水上艦が多い。その中で潜水艦を多数保有する橋本は稀な存在と言えた。

 

「主力艦の撃破こそ少ないが戦績は問題ないな。戦術は……空海同時攻撃?」

「艦隊から発艦した航空機と連携して雷撃するそうです」

 

 橋本の得意とする戦術は潜水艦らしく奇襲攻撃だった。最も彼の場合は雷撃だけでなく、遠方で航空機を発艦させ敵艦隊に攻撃、敵が航空攻撃に気を取られている間に接近し雷撃を敢行するという一種の空海一体攻撃だった。詳細を確認する佐久間だったが、ふと疑問を覚える。

 

「しかし彼の所属艦には潜水空母が無いようだが?」

 

 潜水空母として有名なのは伊400型ではあるが、現在確認されているのは佐世保に配属されている2人のみ。横須賀には潜水空母はいないはずだった。だがその疑問は直ぐに解決することとなる。

 

「何でも一部の潜水艦艦娘は改造すると潜水空母となるらしいです」

「何がどうなってそうなるんだ?」

 

 思わずツッコミを入れる佐久間。

 

「因みに使用する航空機は晴嵐ではなく瑞雲です」

「それは普通の水上機では?」

「……使えるそうです」

「……分かった」

 

 達観した顔をしている矢口を見て、佐久間はそう返すしか出来なかった。艦娘について詳しくない彼らにとってツッコミどころ満載だが、そういう物だと割り切るしかない。佐久間は痛い頭を押さえつつ、話を先に促す。

 

「それで? 何が問題なんだ?」

「彼の戦術は基本的に奇襲。ですので大規模な艦隊行動ではその強みが発揮出来ない可能性があります」

「ふむ……」

 

 硫号作戦は大規模艦隊による艦隊決戦が予測されていた。そのため潜水艦の戦術と噛み合わない可能性が高かった。しかし艦隊の警戒網を敷く際に、潜水艦は有効ではある。実際アメリカの空母打撃群の護衛には潜水艦が組み込まれており、艦隊の前路哨戒や攻撃任務も担っている。

 

「……保留だな。下手すると作戦に関わることになるかもしれん。自衛艦隊の方に回そう。却下された場合に備えて、補欠候補も選出してくれ」

「かしこまりました」

 

 艦娘戦力を出すのは横須賀地方隊だが、作戦自体は自衛艦隊の管轄であるため、両者による齟齬を無くすためにすり合わせが必要となる。この件については彼らだけでは決めかねたのだった。後日話し合う必要があった。

 

「最後は誰だ?」

「秋山提督ですね。駆逐艦を中心とした水雷戦隊ですが、特別任務を多数こなしています」

「補給艦狩りか。そうなれば実力は十分だな」

「また先日に戦艦も建造しており、打撃力も強化されました」

「ふむ。問題は無いようだが?」

 

 ここまでの情報だけなら、むしろ是非とも作戦に参加して欲しい人材である。何があるのかと佐久間は頭を捻る。そんな彼を余所に、矢口は顔を歪め簡素に問題点を口にする。

 

「彼、15歳です」

「駄目だろ」

 

 大きすぎる問題に佐久間は頭を抱えた。艦娘保有国では国家が艦娘や提督を招集しているのだが、その中には当然だが未成年ながらに提督となった者も多い。提督や艦娘に関する各国の事前の取り決めでは戦力不足を勘案して「義務教育を修了していない提督は軍事行動を行ってはならない」とされている。義務教育期間は各国様々ではあるが、各国はこの決定に従い艦娘や提督を軍に取り込んでいた。

 だがこの決議はある視点から見た場合、大きな問題があった。少年兵に関する国際法である。国際法では18歳未満の子供は強制徴兵されないとされており、これに見事に引っかかっているのだ。提督自体は正規の軍人としての地位と待遇を与えられており、第三世界での紛争で起こっているような問題は無いのだが、年齢的には問題しかない。

 この問題に関して各国は「国家存亡の危機」や「対深海棲艦でのみ戦闘に参加」と理由をつけて彼らを軍に取り込んでいるのだが、このことは公表されていない。これが国民に知られた場合、政府に対するバッシングとなることは目に見えていた。そのため提督の家族には報酬を払い徴兵についてを秘密にさせていたし、また彼らの運用においても出来る限り彼らが国民の目に晒さないようにするために軍は努力しているのだ。

 

「絶対に秋山提督は外してくれ。いくら戦績が良くてもこれはマズイ」

「やはりですか」

 

 今回の様な大規模な作戦の場合、作戦前にしろ作戦後にしろ、ある程度の情報開示が求められる可能性が高い。もし秋山が硫号作戦に参加した場合、彼の存在が知られる可能性が出てきてしまうのだ。このような事態を防ぐため各国では「未成年者の提督は国民に広く知られるような戦闘には出さない」と言う暗黙の了解があった。

 

「本当なら自衛隊に彼がいること自体が問題なのですがね」

「……言うな」

 

 矢口の若干諦めの入った言葉に、佐久間はそう返すしかなかった。自衛隊だけでなく各国の軍にとって、未成年者にまで頼らなければならない状況についは思うところがあるのだ。

 政府からの命令もあるが、彼らも取り入れなければ深海棲艦の攻勢を防げない事は良く理解している。生き残っている国はどこも何十、何百万と死者を出しているし、南半球を中心に崩壊した国家も多い。深海棲艦による死者は、直接的、間接的を合わせれば8億人以上出ているとされている。経済損失は天文学的な数字となるだろう。そんな状況の中で子供を含めた全ての提督を軍に編入させない分、各国政府はまだ理性が残っていると言えた。だが感情面では反発はある。

 

(自衛隊も随分と落ちぶれたものだ)

 

 自嘲する佐久間。彼の様な考えを持つ軍事関係者は多数派であった。本来なら防衛対象である民間人、それも子供に本来なら自分達の仕事を押し付けなければならないのだから、当然とも言えた。

若干気分が落ち込んでしまったが、彼は小さく頭を振ると気持ちを切り替える。やらなければならない仕事は山積みなのだ。

 

「取りあえず急いで選出しなおしてくれ。硫号作戦に向けて自衛艦隊との合同訓練がある。そちらの準備を進めなければならんしな」

「了解」

 

 こうして艦娘と関わりの深い者たちも、作戦に向けて各々の仕事を進めていた。

 




この世界ですが、末期な世界の割には比較的優しい世界です。


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海を征く者たち番外編1 とある掲示板より

イベントに時間を取られてしまったために、執筆時間が消失……。なので不意に思い付いたネタを投下してみる。


【絶望の】人類がそろそろ絶滅しそうな件 その155【末期戦】

 

144: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 深海棲艦がアメリカを殺しに来ている件

 

145: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 パナマ取られたのが痛すぎる

 

146: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 太平洋に大西洋、そしてパナマか……。次は北かな?(白目)

 

147: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>146

 カナダ、アラスカ「えっ!?」

 

148: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 しかしパナマを取るとか、確実にアメリカ大陸を殺しに来てるな

 

149: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 パナマから爆撃が始まってるし、かなりキツいだろ

 

150: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 爆撃は防げてるらしいけど?

 

151: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 深海棲艦の飛行機って小さいから、取りこぼす可能性が高い。そうでなくても、防空にリソースをかなり取られる羽目になる

 

152: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 確実に消耗するな……

 

153: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカだけじゃなくて、南米もヤバいだろ。戦力があまり無いのに、イースター島沖とパナマから殴られるんだぞ

 

154: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカより先に逝きそうやね……

 

155: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 そうなると今一番安全な国ってどこだろ?アメリカ?

 

156: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 流石に半包囲されている国はちょっと……

 

157: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカはないだろ。ヨーロッパじゃね?

 

158: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 国だとどこ?

 

159: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 艦娘戦力で言えば、空母持ちのイギリスだな。制空は大事

 

160: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>159

 実はドイツ、イタリアも空母持ってんだぜ

 

161: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 その2国ってWW2だと最もなかった様な……。精々、進水した位だったはず。

 

162: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 何故かいるらしい

 

163: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 艦娘化の基準がガバガバ過ぎませんかねぇ(困惑)

 

164: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 後、イギリスの空母って装甲空母だけど搭載量少ないし、肝心の艦載機がぶっちゃけ弱い

 

165: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 全金属製単翼機がはびこっていた時代に、帆布張り複葉機を使う国はちょっと……

 

166: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ソードフィッシュさんは対潜だと有能だから(震え声)

 

167: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 なんでや! ビスマルク追撃戦だと大活躍だったやろ!

 

168: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 イギリスの艦載機って何で弱いの?

 

169: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 イギリスは一時期艦載機の開発をサボってた

 

170: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 だいたいイギリス空軍のせい

 

171: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>169

 >>170

 それだけじゃ解らねえだろw

 

 >>168

 イギリス艦載機について、ざっくりとした説明をすると

 WW2前にドイツ空軍が強化される→こっちも対抗せな!→航空機の開発は空軍優先や!艦載機?地上機の転用でええやろ。あ、雷撃機はこれまでのを使ってくれ(ニッコリ)

 

172: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 クッソ解りやすい説明でワロタw

 まさかそのツケが21世紀に降りかかるとは……

 

173: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 せ、制空争い出来るだけで価値が有るから(震え声)

 

174: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 まあ戦艦は揃ってるしいけるだろ

 

175: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 つネルソン級

 

176: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 艦娘化して使えるようになったらしい。そしてポンポン砲は故障せずマトモに動き、シーファイアは着艦しても脚が折れないという光景が見られる模様

 

177: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 妖精さんスゲェw

 

178: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 妖精さん脅威の科学力!

 

179: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>176 

 科学……?

 

180: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 >>178

 科学とは一体……

 

181: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 取り敢えず戦力だけで見たらイギリスが一番だな。ただ立地が悪いし、土地が痩せてて農業が弱いのが痛い

 

182: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ロシアとかは?大きな拠点からは遠いし、艦娘もいるし、資源や食糧もある

 

183: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ロシアは戦艦はあるけど航空戦力が無いのがな……

 

184: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ロシアは防衛範囲が広すぎて大変らしい。特に千島列島とかノータッチ

 

185: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 頑張れよロシア……

 

186: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 取り敢えずイギリスとロシアがトップ争いしてるってことでおk? ちなみに日本は?

 

187: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 おk

 

188: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 おk。 日本は艦娘戦力は強力だけど資源がね……

 

189: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 貿易してくれそうな所が無いのが致命傷やね

 

190: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ロシアは?

 

191: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ヨーロッパ向けで限界

 

192: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アカン……

 

193: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 やっぱり日本は終わりですね(白目)

 

194: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 しかしこの世界に安全な所なんてあるのか?

 

195: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アメリカ大陸の内陸部?

 

196: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 きっちり戦略爆撃機の範囲内やで?

 

197: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 でも深海棲艦の攻撃が届かない場所となると、アフリカ大陸やユーラシア大陸の内陸部だよな

 

198: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 アフリカとか文字通り暗黒大陸じゃんw ユーラシア一択

 

199: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 実はユーラシア大陸も内陸部に避難する人が押し寄せているせいで、アフリカ程じゃないけど大荒れらしいぞ

 

200: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 あれ? 実は安全な所ってなくね?

 

201: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 せやで

 

202: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 そもそも日本から出られないから、俺らに関係ないがな!

 

203: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 逆に考えるんだ。日本から出なくても良いと考えるんだ。

 と言うわけで、地下都市を作ろう

 

204: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 某宇宙戦艦の世界かよ!

 

205: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 地震大国日本で地下に逃げるとか……

 

206: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 生き埋め不可避w

 

207: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 やっぱ地下は駄目だな。ここは宇宙に逝こうぜ!

 

208: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 スペースコロニーかよw

 

209: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 ワロタw

 

210: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 難易度たけぇw

 

211: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 とは言え、深海棲艦が来ないところって宇宙ぐらいだよな

 

212: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 仮にやるとしても一世紀位かかりそうだなw

 

213: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 昔、日本が滅びかねないから宇宙開発に邁進するって小説があったな

 

214: 名前:名無しさん@人類速報 投稿日:201X/XX/XX(X)XX:XX:XX

 あったなw そして当然の如く未完

 




なお、今回の話により宇宙ルートのフラグが立ちました。


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海を征く者たち19話 提督の本音 艦娘のホンネ

これで準備回は終わりです。次回から硫黄島編に入れるかと思います。


 8月中旬のある日の昼間。さも当然のように気温が30度を超える日々が続き、誰もがその暑さに辟易している時期であり、その例に漏れず秋山も焼けるような暑さに憂鬱な気分になりながら、横須賀鎮守府の施設内の演習場に備え付けられているベンチに腰掛けていた。空は雲一つない晴天。ベンチには雨よけがあるため夏特有の強い日差しからは逃れられているものの、それだけで暑さからは逃れられない。

 湿気が含まれ粘り付くような暑さにため息を吐きつつ、秋山は演習場に目を向ける。秋山の元で所属している艦娘たちが二組に分かれて模擬戦を行っている。模擬弾が激しく飛び交う派手な試合が繰り広げられているのだが、その様子はどこか殺気立っていた。特に叢雲はイライラした様子を隠す気もなく連装砲を連射している。

 

「おーおー、随分荒れてんな」

「そうだな」

 

 不意に掛けられた言葉に返答しつつ、秋山はその声の主の方に顔を向ける。そこには見慣れた浅黒く日焼けした男がこちらに歩いて来ていた。横須賀に配属される前に行われた模擬戦の相手であった山下である。彼も横須賀に配属されており、模擬戦での縁ということで交流が続いていた。山下はドカリとベンチに座ると、手にしていたラムネ瓶をあおる。

 

「やっぱあれか?硫号作戦か?」

「やっぱり分かる?」

「そりゃな」

 

 肩を竦める山下。秋山としてはため息を吐くしかなかった。

 先日、硫号作戦の参加メンバーが発表された。横須賀の戦績上位陣が軒を連ねる中、その中に秋山の名前は無かった。秋山の戦績は横須賀でも上位に食い込むレベルであり、それだけを見えれば参加は確定だったのだが、結局年齢がネックとなり外されることが通達された。

 この結果に叢雲を筆頭に秋山の艦娘たちは激怒することとなる。自分たちの提督の指揮能力が低いのなら仕方ない。自分たちの実力が不足しているのなら、不承不承ながらも納得しよう。だが秋山の「年齢が足りない」。それだけのことで他の提督より劣るとされた事実に彼女らの不満は爆発した。

 未成年を大きな戦場に出す事についての問題点を説かれるも、

 

「その未成年を今まで散々戦わせといて、今さら何を言っているの!?」

 

 その一言で一刀両断されていた。基本的に秋山の艦娘たちは戦闘意欲が高く、戦績や実力を考えれば作戦メンバーに選出される事は確実であっただけに怒りは強かった。秋山も何とか彼女らをなだめようと手を尽くしているものの、結果は芳しくない。

 

「演習で発散できないかと思ったんだけどな」

「……時期が悪くねーか?」

「今日しか演習場が空いてなかったから仕方ない」

 

 演習を持ってしても彼女たちの不機嫌さは解消される様子はなく、むしろ増していた。実は今日は自衛艦隊と作戦参加メンバーによる合同訓練が行われており、そんな日に個人で演習をすると言う当てつけの様な事をしていれば当然であった。

 

「で、どんくらいやってんだ?」

「そろそろ30分位。もう終盤かな」

「その割には被弾が少ねーな」

 

 演習を行っている艦娘たちはそれなりの時間を演習に費やしているが、その割には演習用模擬弾として使われるペイント弾による汚れが殆ど見られない。それは殆ど被弾が無い事を意味している。

 

「ウチの艦娘の傾向は『運動性』だし」

「あー……」

 

 納得したようなしないような曖昧な返事を返す山下。提督の前に現れる艦娘には、呼び出した提督によって何かしらの傾向があった。その内容は艦種、能力、性格と様々であり、同じ艦娘であっても所属する提督によってかなりの違いがある。秋山の場合は小回りが利き、攻撃を躱す事を得意とする艦娘が建造されていた。

 とはいえ終盤まで殆ど被弾がないというのも中々見られない光景である。それだけ艦娘の練度が高い事の証明であった。

 演習が終盤に入り一部の艦娘が近接戦闘を慣行し始めるも、各艦娘の被弾率は若干上がった程度であり、まだまだ決着まで時間が掛かりそうである。そんな様子を見て、山下はふとある事に思い至る。

 

「もしかして攻撃が当てられないから、余計にイラついてんじゃねーか?」

「……あっ」

 

 山下の指摘は的を射ていた。今回の演習はストレスの発散を目的としているのだが、どんなに撃っても相手に回避されるのだから面白いはずもない。これで如何に相手に攻撃を命中させるか等の何かしらの教訓が得られたのならいいのだが、今の精神状態でそれらを得る事は難しいだろう。前述の合同訓練と演習状況によって、艦娘たちのストレスはこれでもかと言うくらい溜まっていた。

 

「で、どうすんだ?」

「……これが終わったら、全員で間宮。俺の奢りで」

 

 秋山はため息を吐きつつ答える。かなりの金額になるだろうが、艦娘たちのストレスを少しでも軽減させるための必要経費と割り切るしかない。提督は医官の様に特別待遇ではあるが三等海佐相当で海上自衛隊に所属しており、給料面は階級と見合った物であるし様々な手当が付くのでかなりの金額となる。そのため余程高い物ばかり注文されなければ大丈夫なはずである。

 

「そう言えばアンタはどうしてここに来たんだ?」

「あー、それなぁ」

 

 秋山の問に若干バツの悪そうに顔を歪める山下。演習場の予約を見る限り山下の名前は無く、この場に足を運ぶ必要性は無い。

 

「吹雪がうるさくてなぁ」

「ああ、いつものか」

 

 防衛省が9月に予定していた提督を日本各地に分散させて沿岸部に防衛網を敷く計画だが、硫黄島攻略が急遽決まった関係で、10月に延期される事となっていた。とはいえ時間がそこまであるわけではなく、即席培養に近い形で各提督は基地の運営についての教育を受けていた。

 当然山下も研修は受けており、成績については平凡ではあるのだが、それを良しとしない者がいた。名前は吹雪。山下の初期艦である彼女はどうやらかなりやる気があるらしく、空いた時間を見つけては山下との勉強会を試みていた。

 傍目から見れば良い艦娘なのだが、当事者である山下はそこまで根を詰めてやる気はない。そんな訳でここ最近は吹雪主催の勉強会が始まりそうになった場合、何かと理由を付けて逃亡していたのだ。

 

「そういうお前はどうなんだ?」

「研修は出てるけど、アンタと違って横須賀から出ないぞ?」

「どういうことだ?」

「年齢の問題だってさ」

 

 防衛省の掲げる提督分散配備計画だが、ここでも年齢がネックとなっていた。各地に提督を派遣した場合、どうしても地元の住民と関わることが多くなる。なので、未成年の提督を派遣する訳にはいかないのだ。そのため提督の年齢が18歳以上になるまで、各地方隊で身柄を預かる事が決められていた。横須賀地方隊の場合は、他の未成年の提督と共にそのまま横須賀鎮守府に所属することとなっている。

 秋山も他の提督の様に基地運営についての勉強は行っているが、山下の様に大急ぎで勉強する必要は無かった。

 

「そりゃ羨ましいな」

「俺はいいんだけどな……」

 

 茶化すように笑う山下に対し、言い淀む秋山。その様子に山下は疑問に感じ、そして直ぐに察した。

 

「まさか艦娘の方が……」

「確かに楽だろうけど年齢で区別するなんて、だとさ」

「おいおい……」

 

 年齢によって何かと制限が付いてくる秋山だが、提督分散配備計画においてはこのまま横須賀にいる方が有利となってくる。何せ秋山の他にも提督がいるため戦力が大きく、地域の安全性的にも提督や艦娘のこなす仕事量的にも横須賀に留まる事は好ましかった。

 だが秋山の艦娘たちは、それについても若干だが不満はあった。確かに自分たちの負担は減るが、その分自由に動けない事を問題と見ていたのだ。

 

「何というか……、お前の所は随分と好戦意欲が高いな」

「それもあるけど、俺の歳を理由にして色々と制限を掛けて来る上層部を目の敵にしている感じかな」

 

 秋山は今回のことをそう認識していた。

 

「そもそも俺はそこまで文句は無いんだよ」

「おー、艦娘とは逆の意見か」

「そうそう。こう……正義だとか義務だとか色々か言ってる奴もいるけど、俺の場合はそういうのはどうでもいいんだよ。危険な所には行きたくないし、危ない目には遭いたくない」

「ほー。ってことは、今回の年齢制限は――」

「艦娘たちには悪いけど正直助かってる」

 

 深海棲艦の拠点と化した硫黄島の攻略など、激戦となるのは誰が見ても明らかである。「自分は死にたくないし、自分の艦娘が轟沈する所など見たくない」と常々考えている秋山にとっては年齢制限については渡りに船と言った所だった。

 

「でも皆ヤル気満々なんだよな……」

「まあ、頑張れや」

 

 秋山から今日何度目かのため息が漏れた。

 

 

 

 演習を終え、艦娘たちが間宮謹製のデザートに舌鼓を打ったその日の夜。横須賀鎮守府のある一室に二人の艦娘の姿があった。

 

「そっちはどう?」

「うん、大丈夫みたい」

 

 腰まで届く銀髪が特徴的な艦娘とセミロングの髪を後ろで二つに括った艦娘、秋山の下に所属している叢雲と白雪である。彼女らは行っていた作業が一通り終わると、安心したように一つ息を吐いた。

 

「全く、自分の部屋を調べないといけないなんてね」

「仕方ないよ。他の人に知られる訳にはいかないし」

 

 彼女たちはこの部屋に盗聴器や隠しカメラが無いかを探していたのだ。それも彼女たちだけでなく、妖精さんたちも協力しての徹底的な作業である。彼女たちの相部屋であるこの部屋にその様な作業をする事は異常ともとられかねないが、これから行う会話内容は自衛隊の人間や提督に知られる訳にはいかなかった。

 叢雲は手にしている封筒から中から書類を取り出しつつ苦笑する。

 

「これを見られるだけなら問題ないけどね」

 

 そこにあったのは『艦娘通信』とタイトルが着けられた雑誌だ。もっとも雑誌と言っても厚みは無く、新聞に近い物だ。内容は提督や艦娘のちょっとした事件や料理情報と言った女性週刊誌の様な情報を掲載しているのだが、記事内容は突出して面白い訳ではない。これを作っているのは横須賀に所属する青葉を始めとした一部の艦娘であり、そのためか横須賀鎮守府内では購入している艦娘は多かった。また少数ではあるが横須賀以外の艦娘にも郵送されている。

 そんな極々狭い範囲のみに流通する雑誌ではあるが、これは艦娘たちにとって恐ろしく重要な情報源となっている。

 

「……政府の方は変なことをする気はないみたいね。やっぱり防衛大臣が提督だからかしら」

「でも防衛省や自衛隊の一部には、私たちの事を面白く思っていない人も多いみたい」

「それに一部の政治家もね。全く嫌になるわ」

 

 二人は雑誌の読み合わせをしつつ、意見交換をしていく。だが内容は雑誌の内容ではなく、政府中枢についての情報である。

 『艦娘通信』は見た目こそ薄い雑誌ではあるが暗号化されており、艦娘たちだけが知っている暗号解読法を行った場合、違った情報を読み解くことが出来るのだ。そして真の情報は政界や政府機関を始めとした様々な情報が記載されている。中には世間一般には公表されない様な情報すらあった。情報収集は一般人にはその存在を認識することの出来ない妖精さんが行っているため、どんなにセキュリティを強化しようとも情報は筒抜けであった。

 そんな危険度の高い情報を取り扱うのだから、艦娘以外の人間にばれない様にするために警戒するのは当然であった。

 

「……冷静に考えたら、凄く危ないことをしてるね」

「私たちの安全のためにも情報収集は必要よ」

 

 若干不安に駆られる白雪と対照的に、叢雲は全く悪びれる気もない。彼女たちは国家の都合によって使い潰される事を危惧しているのだ。そしてこの考えは、艦娘にとって珍しいものではない。

 そもそもの話であるが、艦娘たちは国家に対する帰属意識は存在しない。今の日本政府は艦娘を正当に扱っているので、彼女たちは日本に留まって深海棲艦と戦っている。しかし仮に方針が変わって虐げるようなら、艦娘たちは躊躇い無く国など捨てるだろう。そのもしもの時に備えて密かに準備をしている艦娘は多かった。

 

「司令官のためにも、でしょ?」

「う、うるさいわね……」

 

 顔を赤くしそっぽを向く叢雲の姿に、白雪はクスクスと笑う。

 

「もう、素直になればいいのに。艦娘が司令官の事を好きなのって普通の事なんだよ?」

「うっ……」

 

 白雪の言葉は艦娘だけが知っている事実であり、そして各国が探し求めている情報が含まれていた。

 世界各国では人間が提督となるための条件を探しているが、未だに発見されていない。提督となった人物なら分かるかとも思われたが、艦娘に対する全ての情報があるわけではなく、捜査は難航していた。

そんな各国が追い求める提督となるための条件であるが、実は恐ろしく単純であり――難しい物である。

 

『艦娘たちが好意を持っている人物』

 

 それが答えである。艦娘たちは提督の前に現れる前からその人物に好意を持っており、そして提督が危機的な状況にあったためにその姿を現わしたのが真相だった。

 つまり艦娘たちは、『人類』ましてや『国家』を守るために現れたのではないく、愛する『提督』を守るために現れたのだ。そしてこの事実を『提督』を含めた人類は知る由は無い。

 

「と、ともかくさっさと終わらせるわよ!」

「そうだね」

 

 こうして彼女たちも、守りたい者のために準備を進めていった。

 




白雪の口調ってこれでいいのかな……


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海を征く者たち20話 硫号作戦前哨戦

今度の改二は白露ですかね?現在69レベル。レベリングの真っ最中です。


 9月15日。硫黄島攻略作戦『硫号作戦』は予定通り発令された。主要戦力は横須賀地方隊から選出された提督25人及び彼ら配下の艦娘を主力とし、防空戦力として、ミサイル護衛艦「あたご」と汎用護衛艦「あきづき」が出撃している。戦闘艦以外では、上陸部隊として作戦に参加する対NBC装備の陸上自衛隊部隊約300人を乗せた輸送艦「おおすみ」、そして突貫工事で何とか改装が間に合った輸送艦改め艦娘母艦「しもきた」がある。これらの艦を第一護衛隊群として編成していた。

 まだまだ残暑の残る横須賀から出撃した第一護衛隊群は、哨戒機による周辺への哨戒、航空自衛隊機によるエアカバー、更には艦娘による護衛と、厳重な警戒の下で目的地である硫黄島へと航行していく。到着までおよそ1日掛かるとされているのだが、確実に深海棲艦と会敵すると予測されていた。作戦を考えれば道中で消耗したくはないのだが、ほぼ深海棲艦の領域と化している外洋で、その様な事は不可能であった。

 

「哨戒機より通信。敵艦6が12時方向より当艦隊に接近中。軽巡2、駆逐4」

「またか……」

 

 「あたご」のCICに響く通信士官の報告に、硫号作戦の指揮官である岩波は小さく呟いた。艦隊が出撃してから6時間経過したのだが、既に4度目の会敵であった。

 

「この規模なら艦娘の航空攻撃で十分でしょう」

「そうだな」

 

 川島参謀長の提案に、岩波は頷く。来るべき硫黄島での戦いのためにも少しでも艦娘の消耗を防ぐ必要があった。そのため空母艦娘による航空攻撃は有効であった。

 岩波による指揮から間もなくして、後方の艦娘母艦「しもきた」から発艦した航空機隊が「あたご」をフライパスしていく。敵に航空機がいないということで対艦攻撃機がその殆どを占めている。主力は九九式艦爆や九七式艦攻であるが、少数であるが彗星や天山と言った次世代機も混ざっている。

 

「空母様様だ」

 

 今回の作戦に伴い第一護衛隊群には300人近い艦娘が編入されているだが、その中には当然多くの空母艦娘がいる。彼女らが一斉に攻撃を行えば、仮に敵側に戦艦が多数いても、6隻程度の小艦隊ならば容易に屠れる程の攻撃力を有している。勿論攻撃の過程で撃墜されることもあるが、練度の面に目をつぶれば、艦娘が補給すれば艦載機も復活するのだ。これを活用しない手はない。

 

「旧日本海軍を作り上げた先達には感謝の極みです」

「41cmだけでなく46cmすら搭載した戦艦に、対艦攻撃に特化した重巡、水雷戦隊旗艦としての能力が高い軽巡と、対艦攻撃手段として優秀な酸素魚雷を持つ駆逐艦。そしてアメリカには及ばないものの強力な空母と艦載機。確かにこれらが無ければ強力な艦娘は現れる事は無かったな」

 

 岩波は艦隊前方で始まった航空隊による対艦攻撃を眺める。対空砲火は上がっているも多数の航空機の前には蟷螂の斧でしかなく、もはや嬲り殺しに近い。このペースなら五分も掛からないだろう。

 

「それに艦の設計思想も対艦戦闘に特化しているお蔭で、対深海棲艦戦では都合がいい」

「当時は時代遅れとなっていた設計思想が、未来で合致するとは誰も思わなかったでしょう」

 

 当時の造船技師がこの場にいたら大喜びだったろうな。岩波はそんな感想が出てきたが口にはしない。

 

「問題は航空戦力か。いつまでもゼロ戦系列じゃな」

「しかし大戦期にそれ以外の艦上戦闘機は……」

「一応52型はF6Fとはある程度なら戦えたらしいが、今後F8Fベースが出たら流石にキツイ。試験段階だった紫電の艦載型や烈風も稀に作れるらしいが、それを使ってもどこまで戦えるか未知数だな」

 

そんな雑談をしている間にも戦闘終了の通信が入り、航空機隊が引き上げて来た。損害らしい損害は無し。パーフェクトゲームであった。

 

「流石に早いな」

「しかしそろそろ日が暮れます」

 

 川島が腕時計を確認しつつ、そう言った。モニターを見れば水平線に日が沈み始めている。

 

「これ以降の艦載機の発艦は出来ないか」

「夜間は駆逐艦による艦娘による哨戒は行いますが、レーダーやソナーの性能を考えた場合、艦娘に任せきりにする事は出来ません」

 

 確かに艦娘は対深海棲艦戦においての攻撃力や防御力は、現代兵器より上だ。だが勝っているのはそれだけなのだ。艦娘の元となった艦船は70年以上前の物。レーダーやソナーを始めとしたソフト面での技術では現代兵器の方が圧倒的に勝っている。視界が制限される夜間はその技術差が顕著に現れる時間帯であった。

 

「艦の方は問題はないな?」

「出発前に再確認しましたが問題ありません。乗員の方も士気は高いです」

 

 提督と艦娘が自衛隊の指揮下に入り深海棲艦との戦いに身を投じていた頃、護衛艦は修理や整備のためにドック入りしていた。約四年間の戦いで船体にはダメージが蓄積されていたし、乗員の方も長く続いた戦いで体力的にも精神的にも疲弊していた。それらを回復させる必要があったのだ。

 そのため今回の硫号作戦は護衛艦の対深海棲艦戦の復帰戦と言えた。艦の機能も復活しており、それを操る乗員たちの士気も高かった。しかし何もかもが万全な訳ではない。

 

「ただ一部の乗員が艦娘を敵視しているとの報告も上がっていますので、そちらへの注意は払うべきでしょう」

「あいつ等か。気持ちは解らんでもないがな……」

 

 岩波は顔を歪めつつ呻いた。既に対深海棲艦戦は艦娘がメインとなっている。自分達海自の人間も出番も多いが、人類の技術のみで深海棲艦を撃破出来るまで主役ではなくなることは確定だった。その事に嫉妬心を覚え、提督や艦娘を敵視する自衛官も少なからず見られていた。

 

「まあ今は良い。全艦に通達。夜間戦闘の準備にかかれ」

 

 若干の不安要素を内包しつつ、硫号作戦前哨戦は続いていく。

 

 

 

 重要な作戦が始まった状況であっても、普段行わなければならない業務がなくなるわけではない。特に立場が防衛省のトップとなると、やらなければならない事は文字通り山ほどある。特に以前から防衛省が進めていた『提督分散配備計画』は最終段階にあり、早急にこなさなければならない事案であった。

 防衛省の大臣執務室で、山積みとなっている書類を前にして坂田防衛大臣はため息を吐きそうになるのを辛うじて飲み込みつつ、一枚づつ地道に仕事を片付けていた。そんな彼の元に、ノックの音と共に執務室の扉が開き、見慣れた人物が入って来る。

 

「提督。佐世保地方隊より上げられた情報をお持ちしました」

 

 坂田の初期艦であり、現在は大臣秘書として行動を共にしている大淀だった。彼女の手には分厚い紙の束がある。

 

「分かりました。そこに置いておいてください」

「了解致しました」

 

 書類の山の一つに紙の束が置かれ、更に山の標高が高くなる。坂田はこの国のトップを目指すべく政治家をやってきていたが、ここまで仕事に追われるとなると、その選択が実は間違いであったのではないかと思えてしまう。

若干後悔に駆られる坂田であったがふと目の前の秘書を見ると、どこか落ち着かないように見える。彼にはその原因に心当たりがあった。

 

「やはり硫号作戦が気になりますか」

「はい……」

 

 硫黄島攻略作戦、『硫号作戦』の立案、精査には、坂田や大淀も関わっていた。攻略部隊の主力が艦娘である以上、政府組織での地位が高く、提督や艦娘の知識を有している二人が作戦に関わってくることは必然だった。事実、二人が関わった事によって、硫号作戦の精度は格段に上がっていた。そして硫号作戦の実行部隊である第一護衛隊群は出港した。彼らの様子が気になるのは当然と言えた。しかし、

 

「私たちの出来ることは全てやりました。後は実行部隊に任せましょう」

「そう……ですね」

 

 彼らの仕事は前線で戦うのではなく、防衛省トップとしての後方での仕事だ。前線が気になるのは当然ではあるが、直接掛かることが出来ないのだから割り切るしかない。その点については、長く政治家をしており以前は総務大臣に就いていた坂田は慣れていた。

 

「ところで在日米軍の動きの方はどうです?」

「あっ、はい。やはり作戦については静観する様です」

 

 深海棲艦との戦いが激しくなり始めた時期、在日米軍の規模は徐々に縮小されていた。アメリカは様々な理由を付けているが、本国が危機的な状況であり戦力を集中させたかった事は、誰の目にも明らかだった。とは言え、アメリカのアジア地域の影響力を完全になくす訳にはいかず、一定の戦力が日本に残っていた。特にアメリカ第七艦隊は相変わらず横須賀に駐留しており、自衛隊と共に深海棲艦と激闘を繰り広げていた。

 その共闘関係がしばらく続いていたが、ある事件を切っ掛けに状況が一変する事となる。

 

「やはりオペレーション・ビギニングの痛手は大きいですね」

 

 昨年行われたイースター島沖拠点攻略作戦、『オペレーション・ビギニング』にて参加した艦隊は大きなダメージを受けることとなる。日本もミサイル護衛艦「こんごう」を始めとした少なくない被害を受けたのだが、一番被害が大きかったのはアメリカだった。揚陸指揮艦「ブルー・リッジ」が多くの高級士官と共に沈み、原子力空母「ロナルド・レーガン」も大破。そして喪失艦も多数だった。これにより日本を拠点としていたアメリカ艦の多くが戦力としての価値を喪失することとなる。

 現在、ロナルド・レーガンは諸事情により日本のドックにはいるものの、遅々として修理は進んでいない。空母の護衛として少数の駆逐艦も日本にいたのだが、後に日本近海で行われた海戦で損傷。そのため現在の在日米軍は戦力と言う意味ではほぼ消滅していた。

 

「そう言えば、上陸部隊の中にアメリカ海兵隊が少数参加すると聞きましたが?」

「どうやらアメリカ本国からの指示があったようです。アメリカはパナマを取られましたからね。後々行われるパナマ奪還のために情報が欲しいのでしょう」

 

 大淀の問いかけに、坂田は肩を竦める。彼の推察は当たっていた。現在アメリカではパナマ奪還作戦が急ピッチで進められていた。そのような時に、日本で姫級に占領された土地を奪還するための作戦が実行されるのだ。対深海棲艦戦の情報は国際的な取り決めにより公開される事となっているが、実際に観戦武官が戦いを見る方が良いのは変わらない。そのためアメリカ海兵隊だけでなく、ミサイル護衛艦「あたご」にも海軍士官が乗艦していた。

 

「北村司令官がやけに偉そうに要請してきたってぼやいていました」

「あの国はそういうものですよ」

 

 彼女の言葉に坂田は苦笑しながら紙の山から書類を取る。彼はその内容を確認し――真剣な表情に変わった。

 

「これは……」

「どうされましたか?」

 

 坂田はしばし思案すると、手にしていた書類を大淀に渡す。彼女はそれを受け取ると、素早く内容を読み取り、目を細める。

 

「第一護衛隊群出撃直後から太平洋方面の深海棲艦が活発化、ですか」

「どう思います?」

 

 坂田の問いに、彼女は即答する。

 

「警戒を厳とするべきです」

「やはりですか。陸自、空自にも通達を出しておきましょう」

 

 こうして日本本土でも迫り来る脅威に対抗するべく、準備が進められていく。




ネタはあるのに、文章化が上手く行かない……


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海を征く者たち21話 募る不安

冬イベで消し飛んだ資源がようやく回復。今日からデイリーまるゆチャレンジです。


 9月16日。深海棲艦による合計10回の小規模襲撃を跳ね除け、第一護衛隊群はついに目標である硫黄島近海まで辿り着いた。既に全艦娘は出撃済みで、艦隊の前方に展開が完了しており、いつでも戦闘は可能だった。そして硫黄島を占拠している深海棲艦も待ち構えていたかのように、艦隊が展開されえている。

護衛隊群にとって深海棲艦が海上で迎撃態勢を取っている事は、好都合だった。精鋭を集めただけあって艦娘は海上での戦闘経験は豊富なのだが、陸戦の経験など無かったためだ。少なくとも軍艦の火力を持つ深海棲艦となへ泥沼の陸戦が回避され、作戦指揮官の岩波は胸を撫で下ろしていた。後は全力を持って深海棲艦を撃退し、硫黄島を奪還するだけである。しかし話はそう簡単な物ではなかった。

 

「哨戒機より通信。目視にて深海棲艦を確認とのこと」

「数は?」

「大よそ100。レーダーに映らないため、正確な数は不明とのことです。また結界内に敵の航空機が多数空中待機しています」

「そうか」

 

 「あたご」のCICにで上げられてきた報告に岩波は忌々し気にモニターに目を向ける。そこには目指すべき島が映し出されているが、異常な物も見られていた。

ハワイ占領、パナマ近海での核攻撃、パナマ占領で確認された赤い透明な膜。その見た目から『赤色結界』と命名されたそれが、硫黄島全体を覆っているのだった。

 

「レーダー波も通さないか……」

「上空のF-15J改が赤色結界への攻撃許可を求めています」

「核も耐えたんだ。無駄だな」

 

 通信士官の岩波は肩を竦めた。深海棲艦の規模は100隻近く。規模としては自分達の方が優位ではあるが、無駄弾を撃つほど余裕がある訳ではない。F-15J改の提案を却下したのは現場の立場としては正しい物であった。事実、F-15J改もその決定にあっさりと従っている。しかし現場の判断が全ての立場にとって正解とは限らない。

 しばらく後、再び通信士官が声を上げる。

 

「防衛省から赤色結界への対艦ミサイルによる攻撃命令が出ました」

「……どういうことだ?」

「赤色結界に対する情報を収集せよ、とのことです」

「……了解したと返信しろ」

 

 世界では赤色結界の観測は度々されているのだが、結界に干渉する事例はパナマ沖での核攻撃のみであった。そして核攻撃の時は、爆発により結界自体の観測が出来ないでいた。そのため防衛省は結界が攻撃を受けた際に、赤色結界がどのような反応を起こすのかの情報を欲していた。

 岩波の指示により攻撃、そして観測の準備が迅速に行われる。全員若干の不満はあるが、だからと言って手は抜かない。

 

「哨戒機、定位置に着きました」

「観測を開始しろ。艦長、頼む」

「了解。90式艦対艦誘導弾改、発射。目標、赤色結界」

 

 艦長の命令と共に、「あたご」からミサイルが1発だけ放たれる。噴煙と共にそれは一直線に硫黄島に向かっていき――そして予測通り結界にぶつかり爆発した。結界には傷一つついていない。

 

「赤色結界への命中を確認」

「……さて、これが藪蛇にならなければいいが」

 

 岩波は自身が抱く懸念に備えて、艦隊に警戒態勢を取らせる。暫しの沈黙。だが深海棲艦に動きは見られない。岩波は顔を歪めた。

 

「あちらからは動く気はない、か」

「いかがしますか?」

「……動かないなら好都合だ。赤色結界の調査の継続と硫黄島を占拠する深海棲艦の偵察をするぞ」

 

 

 

 横須賀から100㎞程の近海。ここでも海戦は行われている。戦艦金剛を旗艦とした6隻編成の艦隊と、戦艦ル級を含む深海棲艦の艦隊の砲撃戦だ。戦力は艦種で見ればほぼ同等。しかし海戦でも互角の戦いが演じられている訳ではない。艦娘たちの砲火は激しく、それに深海棲艦は押されている。どちらが優勢かは明らかだった。

 

「Target in sight!」

 

 金剛が敵に主砲を向ける。照準の先にはエリート級の戦艦ル級。エリート級は通常のものよりも各種性能が向上された深海棲艦であり、戦艦クラスがエリート級ともなれば金剛型の35.6cm砲8門の斉射を全弾命中させても、一撃では撃沈出来ないことも多い。

 だが今回は少々事情が違った。

 

「Fire!」

 

 艤装に備え付けられている主砲『10』門が火を噴く。

放たれた砲弾は距離も近い事もあり、一発も逸れることなく戦艦ル級の身体を捉える。通常なら耐えられる事の多い攻撃。

 だが次の瞬間――戦艦ル級は砲弾にその身を貫かれた。

 

 

「Yey!」

 

 喜びの声を上げる金剛。対照的なのは深海棲艦の方だ。頼みの戦艦が一撃で撃破されたために動揺したのか一気に動きが悪くなる。そしてそんなチャンスを艦娘たちが逃す筈もない。

 

「いくわよ!」

 

 三隻の駆逐艦が一気に畳みかける。叢雲が槍を構えて接近戦を仕掛け、朝潮がその突入を砲撃で援護。敵の陣形が乱れた所を白雪が雷撃で仕留める。この戦法は彼女たちの十八番だった。連携により次々と深海棲艦を沈めていく。

 既に趨勢は決した。深海棲艦は撤退しようと反転する。しかし艦娘たちは逃すつもりはない。ダメ押しの一撃が空から放たれる。

 

《艦載機のみんな!お仕事、お仕事!》

 

 通信から響く明るい声と共に、九九式艦爆を主力とした航空隊が深海棲艦に食らいつく。慌てて対空砲火を上げるも貧弱なそれでは空襲を防ぎきれない。次々に急降下爆撃が敢行され、蹂躙されていく。

 5分と経たずに深海棲艦はその身体を水面に沈める事となった。この海域には艦娘のみが残っていた。

 

『レーダーに敵影なし。龍驤と皐月はこちらに合流してくれ』

《了解や》

《分かった!》

 

 彼女らの提督、金剛に乗艦している秋山は、後方で航空攻撃に専念させるために艦隊から分離させていた龍驤と護衛役の皐月と合流することにする。

 

『皆、お疲れ様』

「ま、あれ位なら大したことないわよ」

「ワタシもまだまだ元気デスヨー!」

 

 澄まし顔の叢雲に笑顔の金剛。白雪と朝潮に目を向ければ、疲れた様子もなく笑っている。今回の海戦では誰も直撃を受けなかったためダメージの面は問題ない。完全勝利だった。

 秋山は一つ息を吐くと、海戦前から気になっていた事を確認すべく金剛に声を掛けた。

 

『金剛。艤装の方はどうだった?』

「テートクのお陰で砲撃は問題ありませんデシタ」

 

 金剛は背負っている艤装に目を向けた。本来は35.6㎝連装砲4基備わっている艤装であるのだが、今の彼女は2番、3番には46㎝3連装砲となっている。

 先程の海戦でもエリート戦艦ル級を一撃で沈められたのも、これのお陰だった。46㎝砲ともなれば攻撃力は格段に向上されるのだ。だが、

 

「でも46㎝はこれが限界デス。これ以上載せたらマトモに当てられませんネ」

『やっぱり難しいか』

 

 46㎝砲ともなれば、反動も格段に大きくなる。以前試験として46㎝砲を4基積んだ際は、余りに反動が大きく至近距離でも目標を外す程だ。今回は金剛に『乗艦』して金剛の能力を向上させてみたが、それでも2基が限界であった。

 

(やっぱり金剛型は35.6cm砲がベストだな)

 

 たまたま46cm砲を開発出来たので、何とか活用したかったのだがそう簡単には行かないものだ。その様な事を考えつつ、秋山はある人物に通信を繋いだ。

 

『五十鈴、そっちはどうだ?』

《提督? こちらも戦闘が終わったわ》

『そっか』

 

通信の相手は五十鈴だ。彼女はここから少し離れた海域で旗艦として艦隊を率いていた。

 

『そっちはどうだった?』

《相手は水雷戦隊だったし余裕よ》

『流石だな』

 

 自然な様子の五十鈴に秋山は安堵した。既に他の提督が行っているので運用に問題は無いのだが、秋山の下は初めての試みが行われているので気が気ではなかったのだ。

これまで日本の提督は防衛省の指示もあり、規模を大きくするために建造を続けてきていた。その甲斐もあってか、9月現在では6隻編成の艦隊を複数個運用できるまでに規模を拡大できている提督は多かった。秋山もその中の一人だ。

そこで先日から開始されたのが、「艦娘のみでの出撃」だった。これは複数の艦隊を同時に運用できるというメリットがあるため防衛省は推奨しており、今後の艦娘運用の基本としようと画策していた。余談だが、これには提督という金の卵が戦死するリスクを抑えたいという意図も多分に含まれている。

秋山は本来なら艦娘のみでの出撃は後日に行うつもりであったのだが、急に深海棲艦が活発化し始めたために手が足りず、急遽五十鈴を旗艦に水雷戦隊を編成する事にしたのだ。

 更に詳細を聴こうとする秋山。そんな彼を女性の声が遮る事となる。

 

《こちら横須賀基地。秋山提督、聞こえますか?》

『こちら秋山です』

 

 聞きなれた横須賀基地のオペレーターだった。返答しながら秋山は嫌な予感を覚えた。オペレーターが通信を入れて来るという事は、大体が何か事件があったということなのだ。

 

《近海に深海棲艦の艦隊が出現しました。直ぐにそちらへ向かってください》

『了解。燃料、弾薬を補給後、迎撃に向かいます。――みんな聞いての通りだ。直ぐに補給に戻るぞ』

 

 秋山の指示に従って航行を始める艦娘たち。だがその顔は何処か浮かない。日本の近海でここまで深海棲艦が頻発するのは殆どなかったのだ。誰しもが不安を覚えていた。

 

「……何も起こらなければいいけどね」

 

 叢雲の呟きがこの場にいる者たちの気持ちを代弁していた。

 

 

 

 第一護衛隊群が硫黄島に到着して既に数時間が経過した。未だに両軍は戦闘態勢に入ったままにらみ合いを続けている。その様な中、「あたご」のCICでは、岩波と川島参謀長は収集された情報を精査していた。

 

「予測はしていたが赤色結界は艦娘の攻撃も防いだか」

「しかし橋本潜水艦艦隊の報告によれば、艦娘による結界の通行は出来たとのことです」

「艦娘の航空機も、な。お蔭で航空偵察が出来た」

「彩雲による強行偵察により敵の詳細が解りました。海上に出ている深海棲艦は哨戒機の報告通りでしたが、島の方に砲台子鬼が多数配備されています。また、元から硫黄島にあった飛行場には敵の航空機が多数配備されているとの事です」

「やはりか。因みに敵の航空機の種類は?」

「既存の物が主だったとの事ですが、一部に例の新型が上がってきているそうです。ただ数はかなりの量です。艦娘の航空隊のみでは押されかねません」

「だからと言って結界がある限り我々が援護する事は出来ない、か。厄介だな」

 

 元々、航空戦は通常兵器で援護をする事が前提で作戦が建てられていた。このまま策もなく空戦が始まれば苦戦は必至だった。そしてそれだけでも問題なのに、更に悪いニュースは続く。

 

「更に問題なのは、戦艦棲姫が1隻確認できない事です」

 

 川島は苦々し気に資料に目を通す。そこには姫級の位置が記載されているのだが、旗艦である硫黄棲姫と戦艦棲姫1隻の分はあるが、事前に確認されたもう1隻の戦艦棲姫の居場所が分からないでいた。

 

「島の内部にいる可能性もあるが、行方不明なのは痛いな」

「戦闘能力の高い戦艦棲姫に奇襲されれば、艦隊が大ダメージを受けかねません」

 

 懸念材料を出し合った所で、二人の間を沈黙が支配する。問題が大きすぎる。これからどう行動するか。二人は頭を悩ませる。

 暫しの間の後、沈黙を破ったのは岩波だった。

 

「参謀長の意見を訊きたい」

「懸念材料が多すぎます。攻撃の延期、もしくは中止を進言します」

「やはりか」

 

 慎重派の川島らしい答えが返ってくる。いつもであれば岩波も賛同しただろう。しかし今回はそうもいかなかった。

 

「……済まないがそれは却下されそうだ」

「と、言いますと?」

 

 川島の問いかけに、岩波は顔を歪めた。

 

「情報収集衛星がマリアナ諸島での深海棲艦の動きが活発化している事を捉えた。防衛省は硫黄島への援軍の準備だと判断している」

「……」

「この機会を逃せば、次は増強された深海棲艦と戦うことになりかねん。それ故に、今回で攻め落とさなければならない」

「分かりました……」

 

 こうして攻撃は決定された。そうなればリスクに対する対策を取らなけければならない。岩波は腕を組み唸る。

 

「戦艦棲姫については周辺への警戒を密にするとして、問題は赤色結界だ。発生装置とかは無いのか?」

「発生装置は確認されていませんが、赤色結界展開以来、硫黄棲姫とその周囲に発光現象が見られています。恐らくそれかと」

「……やはりか。そうなると手段は限られるな」

 

 川島の報告に岩波はため息を吐く。ハワイでも中枢棲姫が結界を展開したとの報告がある。硫黄島でも同様である事は予測できていた。

 結界を消すには敵の旗艦を叩く必要があるが、艦娘だけでそれを行うには展開されている深海棲艦の艦隊を突破しなければならないし、例えたどり着けた当然護衛がいるだろう。航空攻撃に頼りたい所であるが、敵の新型航空機が邪魔をする。こうなると取れる手段は限られる。そして作戦指揮官たる岩波はその手段を用いることを決断した。

 艦娘のみによる深海棲艦艦隊との艦隊決戦。それが現状で第一護衛隊群の取れる戦法だった。

 彼の命令が出てからの第一護衛隊群の動きは早かった。艦娘たちは提督の指揮の下、硫黄島へ乗り込むべく陣形を組み、通常兵器を操る者たちは彼女らのフォローや奇襲への警戒を密にする。そしてその時がやってきた。

 

「攻撃開始」

 

 作戦指揮官岩波の号令と共に、深海棲艦との決戦の火蓋は切られた。

 




そろそろダイスを降るべきか……


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海を征く者たち22話 苦戦

あきつ丸を讃えるための、七日間デイリーあきつ丸チャレンジの結果。
比叡、まるゆ、扶桑、扶桑、榛名、金剛、金剛

わーい、まるゆだー(白目)


 作戦指揮官岩波の号令と共に、待ってましたと言わんばかりに、空母艦娘たちが航空機隊を次々と発艦させる。編成は深海棲艦側の新型機に備えて、戦闘機を多めにしている。

 発艦した航空機は素早く編隊を組むと、赤色結界に向けて飛び立った。

 

「海自や空自のミサイルが無くたって!」

 

 一部の空母艦娘は気炎を上げていた。

 日本、というより世界各国の対深海棲艦戦において、深海棲艦本体を叩く場合は通常兵器よりも艦娘の方が有効とされている。

 しかしことが航空戦となると事情が変わってくる。深海棲艦の繰り出す航空機に対して、条件付きではあるが通常兵器の方が有効であるとされているのだ。これは雲霞の如く飛来する航空機をサーモバリック爆薬搭載型の対空ミサイルを持って一挙に撃破出来た事例から起因している。そのため航空戦では通常兵器が「主」、艦娘の航空機が「副」とされている。

 この事に対して一部の艦娘たちは面白く思っていなかった。深海棲艦との戦いの主役は自分達艦娘だ。航空戦でもそうあるべきだ。その様な嫉妬にも似た思いを抱いていたのだ。彼女たちは今回の海戦でそれを証明しようとしていた。

 

 そんな一部の者の思惑を孕みつつ放たれた航空隊を待ち構えるのは、深海棲艦の航空隊である。編成は既存のカブトガニ型が中心であり、警戒していた猫型は少数であった。だが深海棲艦艦隊の規模にふさわしい規模が揃えられている。

 艦娘たちの航空機隊が赤色結界に飛び込み、直後に二つの航空勢力による航空戦が始まった。合わせて2000以上の航空機が入り乱れる一大決戦だ。戦況は一進一退。両勢力の航空機が激しくぶつかり合う。だからこそ、

 

「突入するぞ!」

 

 空母戦力とその護衛を後方に残し、戦艦を主力として編成された打撃部隊が進撃を開始する。硫黄島の深海棲艦の数はおおよそ100程度。制空が拮抗状態の今なら数の差で優位に立てると判断したのだ。次々と赤色結界を潜り抜ける艦娘たち。

 

「全主砲、薙ぎ払え!」

 

 打撃部隊の先鋒を務める大和の46cm砲の砲撃と共に、砲雷撃戦が始まった。

 両陣営の砲弾が激しく飛び交う戦場。戦況は艦娘たちの優位だった。

 硫号作戦に参加したメンバーは、横須賀地方隊に所属する艦娘の中でも高練度の者ばかりだ。勿論提督も彼女らの実力に見合う能力を有している。また艦隊間の連携も、先月から行われていた合同訓練によって十分に機能している。数で劣る深海棲艦艦隊に後れを取ることは無かった。打撃部隊は旧日本海軍が目指した艦隊決戦思想によって作られた艦の性能を、この硫黄島近海で大いに発揮していたのだ。

 

「行けるぞ!」

 

 段々と押されていく深海棲艦に好機と見た提督、艦娘たちは一気に押し込むべく前へと戦線を伸ばしていく。

 誰もが勝利を確信する。

 そんな時――彼方の空からそれはやってきた。

 打撃艦隊の前方。硫黄島の方向から編隊を組んで飛来する深海棲艦の航空機群。

 

「――敵機多数接近!」

 

 真っ先に見つけた一人の艦娘の声に反応し、打撃艦隊は迎え撃つべく注視し――次の瞬間、その場の誰もが絶句した。

 

「敵第二波航空機は全機新型! 繰り返します、全機新型航空機です!」

 

 悲鳴のような報告に、戦場にいる者たちの顔が青くなる。そうしている間にも、第二波航空攻撃は戦場となっている空域に飛来する。

 

 そこからは一気に情勢が深海棲艦に傾き始めた。

 深海棲艦が硫黄島の飛行場から送り出した第二派航空機隊の数は、精々300機程度であり、第一波と比べれば数は少ない。しかし互角の戦いをしている戦場に纏まった数の高性能機が到着するとなれば、拮抗を崩すには十分過ぎた。

 艦娘たちの送り出した航空機たちが次々と撃墜されていく。敵の新型機のモデルはF4Uコルセア。艦娘側の数的主力である零戦二一型では対抗しきれない。極少数ながら投入された紫電改二や烈風なら対抗は出来るものの、300と言う数を押し返す程の力は無かった。

 

「現在制空劣勢状態です!」

「敵の艦爆、艦攻が来るぞ! 対空戦闘用意!」

 

 敵機を撃ち落とす、もしくは攻撃をさせないために、艦娘たちの対空砲や機銃により弾幕が形成される。必死の迎撃によりある程度は撃墜出来たが、敵の航空攻撃を止めるには至らない。

 艦娘たちに着実にダメージが増えていく。そして深海棲艦はそれを見逃すほど甘くはない。

 

「水上艦の攻勢が激しくなっている!?」

「マズイ、押されるぞ……」

 

 これまで対艦攻撃に集中できていた艦娘たちだったが、ここにきて空への警戒も行わなければならなくなったのだ。十分に対艦攻撃を行えるリソースが無いのだ。押し返されるのは当然と言えた。

 

『反撃するぞ!』

「はい!」

 

 その様な状況ではあるが、反撃を試みる者も当然いる。戦艦大和に乗艦している有賀もその一人であった。彼は特に砲火の激しい戦艦リ級を攻撃するように指示を出す。

 

「照準良し」

 

 全9門の46cm砲が敵に照準を合わせる。敵との距離は近く、全弾命中も不可能ではない。

 

「撃ちま――」

『っ敵雷撃機接近!』

「――!?」

 

 大和の艤装から雷撃機を近付けまいと対空砲火が放たれるが、努力も空しく魚雷が投下される。

 

『取り舵一杯!』

「っ、撃ぇ!」

 

 回避と共に主砲が放たれる。しかし狙いである戦艦リ級からは大きく狙いが逸れ、ただ水柱を上げるだけの結果に終わった。大和は悔し気に顔を歪める。

 

「すいません、提督……」

『あれは仕方ない。こんな状況で大ダメージを受けるわけにはいかない』

「しかしこのままでは……」

『ああ、敵の航空機を何とかしないとどうしようもない』

 

 大和が遭遇した光景は、この戦場の各海域でも見られていた。攻撃をしようとすれば敵の航空機により妨害される。そのため深海棲艦の攻勢に対応できないでいたのだ。

 その様な状況の中、艦載機を繰り出すために後方に控えている空母たちも、何とか打開しよう奮闘している。

 

「烈風部隊の残弾がゼロ。帰投させるわ」

『OK、補給を済ませたら再度出撃させて!』

「零戦二一型部隊の補給が完了しました。再出撃します!」

『前線部隊から支援要請が出ているわ。そっちに向かわせて!」

「敵の新型により一部の航空機隊が全滅したとの報告が!」

『さっき出撃させた零戦五二型部隊を送って!』

 

 比較的少ない女性提督である鞍馬は、乗艦している加賀から艦娘たちに矢継ぎ早に指示を出していく。制空能力に長けた彼女はその能力を買われ、今回の硫号作戦に参加することとなり、先程までは期待に違わず深海棲艦側の航空機を相手に十二分に戦えていた。

 しかし深海棲艦が新型である猫型を繰り出した事により、状況は一変。苦戦を強いられていた。

 

『加賀、烈風部隊を敵の新型に当てれない?』

 

 烈風は零式艦上戦闘機の後継機として開発された戦闘機であり、現状の日本艦娘の艦上戦闘機では最高戦力と言える機体だ。過去の大戦末期で工作精度の落ちた原型機と違い、スペックを完全に発揮できる妖精謹製のそれなら猫型を相手取れる。しかし、

 

「……無理ね」

 

 加賀は頭を振った。

 

「敵の数が多すぎるわ。私が出せる烈風は50弱。勝負にならないわ」

 

 確かにこの硫黄島近海において、加賀の操る烈風の強さは最上位に入るだろう。しかし無敵ではなかった。何倍もの敵に戦いを挑んだ所で、全滅するのは目に見えていた。

 

『そっか……』

「提督、今は耐えるしかないわ」

 

 深海棲艦と対峙する者たちの苦闘は続いていた。

 

 

 

「不味いな」

 

 岩波はこの状況に呻くことしか出来ないでいた。勿論、作戦指揮官である彼も現状を打破しようと様々な策を取ってはみたものの、戦線が崩壊しないように維持することしか出来ないでいた。

 

「参謀長、こちらの損害は?」

「現状では、赤色結界から出れば追撃は無いとの事ですので、轟沈艦は少数に抑えられています」

 

 数か月前のパナマをめぐる一連の海戦の時よりも、艦娘が轟沈する確率は大きく低下していた。高い練度の艦娘を集めた事、大破艦の退避方法の改良などが起因している。

 川島の報告に、岩波は顔には出さずに安堵した。沈んだ艦娘には悪いが、この硫黄島攻略は飽くまで前哨戦でしかない。ここでの戦力の消耗は避けたかった。

 しかし比較的良いニュースはこれだけだった。

 

「はっきりと申し上げますが、戦況は不利です。敵の新型機により制空権を奪取されたため、打撃部隊が押されています。このままでは撤退も視野に入れる必要が出てきます」

「状況を打破するには、赤色結界をどうにかするしかないか……」

 

 深海棲艦の繰り出した猫型航空機は確かに強力であるが、人類の兵器で撃墜できることは既に確認されている。護衛艦や上空で待機しているF-15J改とF-2の対空ミサイルを撃つことが出来れば、逆転は可能なのだ。だがそれをするには赤色結界が邪魔である。結界を展開していると思われる硫黄棲姫をどうにかする必要があった。

 

「硫黄棲姫の現在位置は?」

「敵の布陣の最後方、硫黄島の沿岸部で確認されています」

 

 その答えは予想通りだった。やはり目標は自分たちがたどり着くには困難な位置に陣取っている。岩波はしばし考え込むと、ポツリと呟いた。

 

「……打撃艦隊の戦力を一転集中させて敵艦隊を強行突破。後方の硫黄棲姫を叩くしかないか」

「しかしそれは賭けになります。失敗すれば最悪全滅。成功したとしても大打撃は免れません」

 

 岩波の案はリスクが高い上に、被害も大きくなることは目に見えている。出来る限り戦力の消耗を避けなければならない現状、良い策ではない事は分かっていた。

――ここは引くか?

 彼の脳裏に「撤退」の二文字が浮かび始める。そんな思考の海に埋没している彼を引き戻したのは、通信士官の声だった。

 

「橋本提督より通信です。赤色結界について作戦指揮官に取り次ぎたいとの事です」

「橋本?」

「確か潜水艦隊を率いている提督です」

「彼か……。こちらに繋げ」

 

 通信機器を取る。若い男の声が響いた。

 

《当艦隊に結界内への進撃の許可をお願いします》

「貴艦隊が前線に出た所で、大局には意味をなさないが?」

《赤色結界を消しに行きます。賭けになりますが、私に策があります》

「……訊こう」

 

 橋本から作戦の説明がされる。その作戦内容に誰もが唖然とすることとなる。未確定要素が多い上に、危険も伴うのだ。橋本の説明が終わると、岩波は思わず聞き返した。

 

「……一応確認したい。本気か?」

《本気です。それに仮に失敗しても当艦隊が危険に陥るだけです。艦隊全体には影響はありません》

「貴重な高練度潜水艦が沈むのは痛いのだがな。それに希望的観測の要素が大きい」

《元々赤色結界の研究は進んでおらず、どうしても希望的観測に頼らざるを得ません。それに仮に結界が解除できなくてもデータは取れます》

 

 それには反論出来なかった。彼の言葉も最もなのだ。

 

「参謀長、どう思う?」

「奇策の分類ですが艦隊全体へのリスクは少ないですし、上手く行けば儲けものと考えて実行しても良いかと考えます」

 

 川島は橋本の挙げた作戦に賛成。彼の意見を参考にして、岩波はコスト、リスク、得られる結果を頭の中でまとめ上げる。時間にして10秒も満たないだろう。彼は決断した。

 

「良いだろう。やってくれ」

 

 こうして彼らは起死回生の一手となりうる作戦を開始した。

 

 

 




航空戦ダイス判定……深海棲艦:88、艦娘:39
ダイスの女神様は、人類が嫌いな様です。


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海を征く者たち23話 一手

夕雲を慌ててレぺリング中。現在レベル73。夕雲改二は予想外過ぎた……。


 艦娘と深海棲艦の戦いが激化しているその後方、硫黄島の海岸に一人の女性が佇んでいた。

 多くの者が美人と位置づけるだろう整った顔立ちに黒のロングヘアーが特徴的で、肌が異常に色白い。そして一番の特徴が、その身体には艦娘が使う艤装の様なモノを纏っている事だろう。

 彼女は硫黄棲姫。この島の主であり、硫黄島に駐留している艦隊の指揮官だ。

 そんな彼女は前方に繰り広げられている海戦に、歓喜の笑みを浮かべていた。求めていたモノがようやく手に入ったのだから当然であった。

 

 

 

 彼女は戦う事が好きだった。お互いが持てる能力を全て発揮し相手を打ち倒そうとする。その様な光景が大好きなのだ。

 だからこそ軍用飛行機が駐機しているこの島に乗り込む事になった時は、人類はどのように抵抗するのか彼女は期待したものだ。しかし意気揚々とやってきた硫黄島には攻撃はおろか、人間は誰もいなかった。当時の日本は既に自衛艦隊が壊滅状態であり、硫黄島の維持は不可能と判断され施設を破壊し放棄していたのだ。

 

 肩透かしを食らった硫黄棲姫ではあるが、仕方がないとさっさと気持ちを切り替えると、彼女は硫黄島を深海棲艦の拠点とすべく作業を始めた。

 このような作業は性に合わないが戦うために必要な事なので仕方がない。それに大々的にこの島を拠点化するのだ。人類もそれを阻止すべく攻撃を仕掛けて来るかもしれない。そう考えれば苦手も楽しい物だった。

 

 そして……一か月もしない内に、作業は完了した。一切の妨害もなく、計画通りに順調に拠点は完成した。

 だからだろう。一切攻撃をしてこない人類に、硫黄棲姫がキレるのは当然だった。

 

 硫黄島は小さいため大規模な施設は作れない。そのため深海棲艦の建造は出来ないのだが、代わりとして航空機の生産は出来た。

 彼女は戦略爆撃機を大量生産し、1000㎞先にある島国を灰燼に帰すことを決めた。戦闘意欲の無い敵に用はない。戦いが好きな彼女にとっては当然の事だった。

 

 とりあえず数日で戦略爆撃機を1000機程作れたので、3月のある日に島国に向けて出撃させる硫黄棲姫。人間が密集している地域がいくつかあったので、それらに爆撃をする予定だった。人口密集地を攻撃すれば、その地を収める国にダメージを与えられることを彼女は知っていた。そして彼の国は反撃も出来ないほど弱体化している。この攻撃を防ぐ事は出来ないだろう。

 

 八つ当たり気味に行われる大規模空襲。爆撃機隊が目標を確認したと報告が入っても、既に硫黄棲姫は反応を示さなかった。彼女にとってあの島国は消滅した国と同等だったのだ。

 

 しかし――爆撃は失敗した。

 

 人類の攻撃により、戦略爆撃機隊はその大半を撃墜された。それにも関わらず相手の被害はかなり少ない。この報告を受けて、硫黄棲姫は驚愕し、そしてその顔に自然と笑みが浮かんだ。

 

――なんだ、まだまだ戦えるじゃない。

 

 その日以来、彼女は目の前の島国をただの獲物から、敵と認識を改めた。効率よく爆撃出来るように工夫を凝らすようにした。油断していい相手ではない事は良く分かっていた。

 定期的に攻撃を仕掛ける日々が続く。

 

 そんなある日、世界中で自分達と似たような存在、艦娘が人類側に現れた。航空機や僚艦の報告によりその事を知った時、硫黄棲姫は近い内にこの島に人類たちが攻め込んで来ることを予感した。彼女は心を踊らせながら準備にかかる。

 

 そして9月の中頃、遂にこの島を目指して人類がやってきた。人類の操る軍艦は少ないが、代わりに高い練度を持つ艦娘が多い。水上艦の数の差は大きいが、対応しきれない程ではない。それにこの不利な状況をどう覆すか知恵を絞ることも面白い。護衛以外の艦を迎撃のために出撃させる。

 

 艦娘たちが結界を抜けて来る。戦いが始まった。

 数は圧倒的にあちらが上。そのため作戦が必要だった。ワザと航空機を相手と同じ量にして敵を油断させ、結界の内側に誘い込んだ所で航空機の飽和攻撃で殲滅する。水上艦の数の差を埋めるために、こちらの得意分野で勝負をする事にした。

 

 前線の水上艦には消耗しないようにやり過ごしつつ、徐々に後退するように通達する。敵に勢いがあるためそれなりに被害が出てしまったが、予定通り奥深くまで侵攻して来た。タイミングを見極め次の作戦に移行する。

 

 そしてその時は来た。相手が奥深くまで侵攻してきたタイミングで、飛行場から温存していた猫型戦闘機を発進させる。敵の戦闘機と比べて性能ではやや上だ。戦場に躍り出た戦闘機隊により、次々と敵の航空機が撃墜されていく。瞬く間に、空での戦いは一気にこちら側に優位となる。

 反撃のチャンスを見逃すはずもなく、すぐさま水上艦隊に攻勢を仕掛けるように通達。水上艦隊が航空隊と連携して艦娘に対してダメージを与えていく。制空権を取れれば数の差も覆せる。その証拠に、段々と敵を押し返し始めていた。

 

 今がこの戦いの分岐点だ。次の手でこの戦いを決定づける。

 

 先程発進させたのは、戦闘機「だけ」だ。飛行場には多数の攻撃機と爆撃機が残っている。これらを一気に発艦させ、艦娘たちを殲滅する。これが硫黄棲姫の最後の一手だった。本当なら自分の艤装からも航空機を出したかったが、結界の維持をしなければならないため、それは断念した。

 

――さあ、これでお終い。

 

 失敗した時のための保険は要らなかったかもしれない。そんな事を考えながら、攻撃隊を発艦させようとした時、彼女は気付いた。

 

 レシプロ機のエンジン音がこちらに近づいてくる。

 

 この音は深海棲艦が使う航空機では出ない音だ。つまり敵の航空機がすぐ近くまで迫っている事を意味する。しかしレーダーには反応が無い。慌てて周囲を見回し――それを見つけた。

 

 海面からわずか数十cmという超低空で迫る6機の水上機の編隊の姿がそこにあった。

 

 硫黄棲姫に発見された事に気付いたのか、水上機編隊が弾かれたかのようにホップアップし、目標を定めると一気に急降下を始めた。狙いは当然硫黄棲姫だ。彼女は慌てて護衛に対空砲火を命じるが、予想外の攻撃に対応しきれない。

 そして――6機の水上機から一斉に250㎏爆弾が投下された。

 

 

 

「水上機隊より通信。爆撃成功よ」

『上手く行ったな』

 

 伊168、通称イムヤの報告に、伊58に乗艦している橋本は安堵した。

 艦娘と深海棲艦が激闘を繰り広げている戦場から100㎞程離れた海域。そこに伊168、伊58、伊19、伊8の四隻の潜水艦艦娘が浮上していた。敵も海戦に集中しているのか、周囲には深海棲艦も敵の航空機もいない。

 

『水上機隊を直ぐに帰還させるんだ。収容したらこの海域から離れよう』

「了解でち」

 

 そして彼らこそ、硫黄棲姫に爆撃をした下手人だった。

 彼らが行った事は至極単純だ。潜水艦から瑞雲を発艦させ、相手のレーダーに捕まらないように低空で侵入し、本来ならあり得ない方角から敵に爆撃を浴びせる。ただそれだけだった。内容こそ単純なものの高い練度が必要とされる作戦であったが、彼らにはそれを行えるだけの腕があった。

 

「あれ、突入しないんですか?」

 

 伊8、通称ハチが首を傾げる。前線では激戦が繰り広げられている。水中に注意が向かない今なら、数隻位なら楽に深海棲艦を撃破出来る。しかし橋本は肩を竦めた。

 

『目的は達成したんだ、帰っても問題は無いさ』

「そうでち。それにわざわざあんな所に行くなんていやでち」

「スナイパーが激戦地に突撃する必要なんてないのね」

 

 橋本の言葉に伊58(通称ゴーヤ)と、伊19(通称イク)が同意する。彼女たちの意見も最もなので、ハチも頷いた。

 

「でも成功して良かったー。失敗してたら硫黄棲姫に雷撃することになってたんでしょ?」

 

 橋本が作戦指揮官に作戦を提案した際、爆撃が失敗した時のためのプランとして、潜水艦による雷撃を提案していた。作戦指揮官たちは奇襲爆撃については成功確率は低いと見ていたため、この第二案が本命と考えていた。

 だがこれはかなりの危険が伴うものであり、艦娘たちにとって実行したくないプランだった。

 

『ああ、あれか』

 

 イムヤに言われて、第二案を思い出す橋本。彼は肩を竦める。

 

『やるつもりは無かったさ』

「え?」

 

 彼のセリフに呆気にとられるイムヤ。それを気にせず橋本は続ける。

 

『敵にある程度近づいたら、『接近は困難』という事で帰るつもりだったんだ』

「えぇ……」

 

 彼は第一案のみで方を付けるつもりでいたのだ。思わぬ言葉に、なんとも言えない顔をする潜水艦たち。しかし橋本は気にしない。

 

「それってかなりマズイんじゃ……」

『君たちが黙っていてくれれば大丈夫。それに――』

 

 橋本は硫黄島の方角に目を向けた。丁度6機の瑞雲がこちらに向かってきているのが見える。だが彼の視線はその先にあった。

 

『実際にはやらなかったんだ。問題はないさ』

 

 先程まで硫黄島を覆っていた赤い膜、赤色結界はどこにも見られなかった。

 

 

 

「赤色結界、消失を確認!」

 

 「あたご」艦橋上の観測士の報告に、艦内で「おお!」と歓声が上がる。橋本艦隊はあの難しい任務を見事に成功させたのだ。そしてこの千載一遇のチャンスを、これまでまともに活躍出来なかった通常兵器の使い手たちが逃す筈がない。

 

「対空戦闘用意! 空母艦娘に航空機を現空域から退避させるように通達しろ!」

 

 岩波の命令と共に、海上の「あたご」「あきづき」、そして上空のF-15J改が航空戦が行われている空域に狙いを定めた。同時に艦娘たちの航空機隊が攻撃に巻き込まれないために全速力で離脱していく。その一連の行動は素早い。

 対照的なのは深海棲艦の航空機だ。突然結界が晴れたことに困惑しているのか動きが鈍い。そしてそれは致命的な隙となる。

 

「艦娘航空機、退避完了!」

「攻撃開始!」

 

 岩波の号令と共に、二隻の護衛艦とF-15J改から無数のミサイルが放たれた。その時点で深海棲艦航空機隊も人類の狙いに気付き、慌てて現空域から離脱しようとするも既に遅い。

 

 硫黄島近海上空で幾つもの巨大な火球が立ち上り、空にいる物全てを薙ぎ払った。

 

 爆炎が晴れた後には、その数を大きく減らし、編隊もバラバラになった深海棲艦の航空機たちが残るだけだった。

 この光景に艦娘たちは歓声を上げた。更に一時的に離脱していた艦娘の航空機が再度突入していく。深海棲艦にはそれを防ぐ程の力は残っていない。

 これまでの劣勢をたったの一斉射で一気にひっくり返したのだ。

 だが自衛官たちはそれだけで終わらせるつもりは無かった。

 

《Blade-1、任務を開始する》

 

 無線と共に上空で待機していた対地攻撃装備のF-2A編隊が飛び出した。アフターバーナーを使用し一気に加速。硫黄島に向かって飛翔する。

 突如飛び出してきた青い戦闘機に反応し、深海棲艦は辛うじて生き残っている航空機や水上艦の対空砲火を用いて、硫黄島への侵入を阻止しようとする。しかし太平洋戦争時の機体や艦の性能では、第4.5世代ジェット戦闘機を食い止めることは出来ない。悠々と迎撃網を抜けると、彼らの目に目標としている施設が映る。

 

 硫黄島中央の滑走路、元硫黄島航空基地。

 現在は深海棲艦の戦略爆撃機の基地として機能している滑走路を破壊する。それがF-2Aの任務であった。

 

 F-2A編隊が爆撃コースに入る。爆撃を阻止するべく滑走路付近から次々と対空砲火が上がり、弾幕が形成される。そして、

 

《Blade-1、Bombs away》

《Blade-3、Bombs away!》

 

 弾幕を掻い潜り、F-2Aから爆弾が投下された。次々と滑走路に着弾、爆発を起こし、滑走路を破壊していく。更に爆発に巻き込まれて、駐機されていた攻撃機や爆撃機、そして戦略爆撃機も損傷していった。

 

《爆撃成功! 繰り返す爆撃成功!》

 

 無線が戦場に響く。深海棲艦に傾いていた戦場の流れが、一気に人類側に傾いた事を意味していた。

 




Q.(瑞雲を見つつ)何? この無茶な作戦。
A.大体OVA版紺碧の艦隊を見たせい。


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海を征く者たち24話 彼女の意地

夏イベまで後一か月。去年はまさかのヨーロッパまで遠征し、今年もヨーロッパ行きという情報……。
なんで日本がアメリカポジせなならんねん……。日本に世界の警察とか無理だろうが。


 護衛艦「あたご」CICは、F-2Aからの滑走路破壊の通信に歓声が上がっていた。戦闘が始まって以来、赤色結界のお蔭で何も出来ずにいてフラストレーションが溜まっていた所に、敵航空隊の壊滅と滑走路の破壊という大戦果を挙げたのだ。未だに戦闘が継続しているにも関わらず、歓声が上がるのは当然だろう。最も艦長や作戦指揮官がそれを咎める前に、直ぐに各々の仕事を再開する程度には浮かれてはいないようではあるが。

 

「後衛の機動部隊より、攻撃機及び爆撃機の発艦の許可を求めています」

「許可する。また前衛の打撃部隊は対艦攻撃機隊が到着し次第、攻勢に転じろ」

 

 この千載一遇のチャンスを、作戦指揮官である岩波は逃すつもりはない。敵に体制を立て直す暇を与えないために、一気に攻勢に出る。温存されていた攻撃機や爆撃機が空母艦娘から飛び立っていく。

 

「勝ち、ですかね」

「だろうな」

 

 川島参謀長の呟きに、岩波はモニターに映る硫黄島から目を離さずに小さく頷いた。モニターの映像には、艦娘と深海棲艦が放つ砲火が飛び交う様子が見られている。そして赤色結界が再度展開される様子はない。

 

「硫黄棲姫が損傷を受けたせいなのか、それとも別の要因かは解らないが、今のところ赤色結界が再展開する様子はない。これならば、我々が制空権を取ることが出来る」

 

 当初劣勢だった空での戦いは、敵航空機が一気にその数を減らした事により逆転していた。対空ミサイルから生き残っていた機体も、艦娘が操る戦闘機により追い回されている。また滑走路を破壊しているお蔭か、増援は見られない。一応、硫黄棲姫の艤装から増援が出てくる可能性はあるが、仮に性能の高い猫型航空機が再度出てきた所で、再度対空ミサイルを浴びせてやればいい。現在、空を支配しているのは人類なのだ。そうなれば、

 

「制空権がこちらにある以上、打撃部隊の敗北は無いでしょう」

 

 数で勝る打撃部隊を深海棲艦は止める事は出来ない。彼女らが先程まで行っていた空海同時攻撃の脅威を、深海棲艦はその身をもって味わう事となるのだ。このまま深海棲艦が戦術を変えなければ、近い内に目の前の敵艦隊は撃破出来た。

 

「そうなれば後は予想外の一撃を警戒する必要があるな。もう一隻の戦艦棲姫の探索はどうだ?」

「未だに発見の報告は入っておりません」

「……最悪、島の内部にいるかもしれんな」

「並の戦艦以上の火力と防御力を持つ敵と陸戦ですか……。最悪ですね」

 

 顔を顰める二人。陸上で防備を固め要塞化した戦艦棲姫が相手など、戦艦艦娘がいくらあっても足りないだろう。要塞と軍艦の殴り合いにおいては、要塞側が有利というのは常識だ。航空機で削る事も出来るが、どれ程時間が掛かるのか想像出来なかった。

 そんなため息を吐く二人の下に、通信士官の声が響いた。

 

「橋本艦隊より通信。これより帰投するとの事です」

「英雄の帰還か」

 

 実際に敵に大打撃を与えたのは護衛艦や空自の戦闘機たちだが、それが出来る環境を整えたのは橋本艦隊だ。彼らの行いは誰が見ても「英雄」と称されるものであった。

 

「彼らは作戦の後、どうなるだろうな」

「少なくとも勲章の授与は確定でしょう」

 

 4年間という長期に渡る深海棲艦との戦いで、自衛隊は疲弊していた。護衛艦を始めとした兵器の損失、その兵器を操る熟練した自衛官の戦死と言ったように、目に見えるものだけではない。絶え間なく続く戦いで前線で戦う者たちの疲弊や、士気の低下といった目に見えない物も含めて、自衛隊という組織自体が疲弊しているのだ。

 日本政府はそれらへの対策のために、様々な手を打ってきた。自衛官が挙げた武勲に対する勲章の叙勲もその一環である。これは太平洋戦争以前にあった軍人に授与される勲章、「金鵄勲章」を復活させたものではなく、アメリカ軍の制度をベースとし日本風にアレンジした制度であった。

 

「来月の提督の分散配備の人事に影響もあるでしょうが……、主力が潜水艦です。首都防衛任務に就くかまでは解りません」

「まあ、そこは人事部に任せよう。っと、始まったか」

 

 モニターに目を移せば、雷撃や急降下爆撃を敢行する艦娘の航空機の姿が映されていた。それに合わせて戦艦を始めとした打撃部隊の動きが活発化し始める。しばらくすれば再び戦線が前進していくはずだ。

 再びの優勢。だがそれに気を良くしてしまえば油断に繋がるのだ。岩波は気を引き締める。

 

「周辺の警戒を続けろ。ここで奇襲でもされたら全てが水の泡だ」

 

 眼前の硫黄島を睨みつつ、彼は命令を下した。

 

 

 

 これまで空を支配していた自分達の機体が幾つもの火の球に薙ぎ払われ、更に滑走路にまで攻撃を受けた。

被害を確認するために、硫黄棲姫は即座に滑走路に配備している妖精に通信を繋げる。悲鳴のような声と共に、受けた被害が報告される。

 

――機体は半数近くが損傷。それに滑走路が使用不能、か。

 

 半分に減った航空機も痛いが、一番不味いのは滑走路が使えなくなったことだ。これでは生き残った機体を空に上げられない。この戦いにおいて、滑走路の戦力が消滅した事を意味している。

 次いで火球から何とか生き残った機体から、通信が入って来る。通信先の機体が損傷しているためか、通信の調子が悪い。それでも何とか聞き取り、情報を纏める。

 

――やはり組織的抵抗が出来ないレベルにまで機体数が減少しているか。

 

 顔を歪める硫黄棲姫。彼女は人類の対空ミサイルを警戒して、物理的な攻撃を防ぐことの出来る赤色結界を展開させていたのだ。制空については艦娘の航空機だけなら十分圧倒できる。そして事実圧倒出来ていた。

 それがひっくり返った切っ掛けが、あの水上機による爆撃だった。

 

――やってくれる。

 

 悔し気に、だがどこか嬉しそうに硫黄棲姫は呟く。赤色結界の効果は強力であるが、それ故に展開しておくために、艤装に搭載されている航空機の発艦どころか、対空砲火も上げられない程の労力が必要となる。また展開者が少しでもダメージを受ければ、展開が出来なくなる程デリケートな代物でもある。

 そんな結界を張っている彼女に、あの水上機は奇襲によって結界の弱点を的確に突いてきたのだ。それもこちらが優勢であり気が緩んだタイミングで、だ。

 正直作戦が上手く行っていた事もあり若干敵を侮っていたのだが、その認識は間違いだった。

 

――敵の水上艦が攻勢を仕掛けてきたわ。

――やっぱり。

 

 前線の艦隊の指揮を執っている戦艦棲姫から通信が入る。敵からすれば邪魔だった航空機が排除出来たのだ、艦娘たちが攻勢に出るのは当然だった。

 

 

――さて、どうしようか。

 

 この状況に対応するのが艦隊の司令官である硫黄棲姫の役目だ。集められた情報を精査し、高速で思考を巡らす。

 

 自分の艤装から航空機を発艦させる。制空権の奪取は出来ないが、少なくとも敵の航空攻撃を防げる程度までは持ち込める。

――却下。あの対空ミサイルでまとめて撃墜されるだけだ。

 ならば再度結界を展開させる。少なくともミサイル攻撃は防げる。その間に急いで滑走路を修復させれば反撃できるか?

――却下。結界を展開してミサイルや人類の戦闘機の侵入を防げても、艦娘の航空機は残っている。こちらの航空機が壊滅している現状では、結界を展開している自分や修復中の滑走路を攻撃されるのが目に見えている。

 前線の艦隊を一旦下げて、島の砲台群と連携して攻撃するのはどうだ? これならある程度の数の差を埋められる。

――却下。ある程度の時間は戦えるが、時間稼ぎに過ぎない。ジリ貧で負けるのは目に見えている。

 

 小さくため息を吐く硫黄棲姫。いくら考えても妙案は浮かばない。この状況を現有戦力のみで逆転するのは無理があった。そうなれば採れる選択肢は一つしかない。

 

――撤退する。

 

 彼女は即座に前線に通達した。このまま戦っても敗北は必至。玉砕など趣味ではない。またこの島を人類に取られたとしても、自分達の戦略には大した影響がある訳ではない。ならば戦力が残っている内に撤退し、再戦に備えるのがベストだった。

 

――了解したわ。

 

 前線で艦隊を指揮している戦艦棲姫がいち早く賛同した。この戦況を間近で見ている彼女にとっては、硫黄棲姫の判断は諸手を挙げて賛成出来るものであった。それを皮切りに前線から次々と賛同の通信が入る。

 しかし一人だけ別の意見を持つ者がいた。

 

――やられっぱなしは性に合わないわ。

 

 その様な通信が入ってきた。通信の主はここから離れた海域で潜伏している別働隊の戦艦棲姫だ。硫黄棲姫は顔を歪める。

 

――今、別働隊が作戦通りに突入した所で沈むだけ。

 

 この別働隊は敵が大規模であった事からある作戦を遂行するために編成された部隊であった。当初の予定では、攻め込んできた艦娘たちを赤色結界と航空機で前線に拘束、その後、艦娘の航空機が運用できない夜間に敵の母艦に別働隊を突入させる、と言う作戦を練っていたのだ。

 しかし現実は予想以上に早く自分たちが不利になってしまったため、この作戦は無意味となっていた。現状では別働隊は遊兵となっている。

 

――そうね。だから目標を変更するわ。

――どういうこと?

――ええ。行くのは……あそこ。

 

 戦艦棲姫の指し示すモノを察し、硫黄棲姫は絶句した。明らかに常軌を逸していた。

 

――正気? 仮に成功した所で沈む確率が高い。

――自分で言うのも変な話だけど、半分くらい狂気ね。それに折角の仕込みがあるんだもの。使わないと勿体無いわ。

――あれは飽くまで増援を防ぐ目的でやっただけ。

――あれだけでも、目くらましにはなるわ。

――……他の艦の士気は?

――士気旺盛よ。死にに行くようなモノなのにみんな物好きね。

――……。

 

 硫黄棲姫は思案する。別働隊の提案は確率の低い賭けだ。賭けに失敗した場合は敵に碌なダメージを与える事が出来ずに終わる。だがもしも成功すれば眼前の敵艦隊の殲滅以上の戦果となるだろう。そして別働隊は成功しても失敗しても、ほぼ確実に壊滅するだろう。それならば――

 

――全軍に通達。前線部隊は後退、島の砲台群と連携して防戦に入る。

 

 目の前の敵艦隊を引き付け、別働隊の援護をする。硫黄棲姫は賭けに乗ることにした。

 

――意外ね、あなたはこういう作戦は嫌いなのに。

――死にたがりに付ける薬なんてない。

 

 前線部隊からの通信にそっけなく返しつつ、硫黄棲姫は「仕込み」の部隊にも連絡を入れる。手短に要件を伝えた後、最後に別働隊に通信を繋げた。

 

――仕込みの方には作戦を継続するように通達した。我々はある程度戦闘したら撤退する。これ以上の援護は出来ない。

――十分よ。それじゃあ行くわ。

 

 別働隊との通信が切れる。丁度、彼方から前衛艦隊が後退してくるのが目に入った。硫黄棲姫はどこか悔し気にそれを眺めていた。

 




アメリカ軍の勲章に関して詳しく載ってるサイトってないですかね?探しても見つからない……。


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海を征く者たち25話 襲撃と迎撃と……

夏イベの報酬艦はネルソン級か。ということは決戦はまたイギリス近海?
……二回も姫級が闊歩してるとか、イギリスとかもう滅んでんじゃね?(;・ω・)

それはそうと今回のダイスロール
82、58、16

……詳細はあとがきで



 房総半島近海。そろそろ日が沈みそうな時間帯。その様な時間でも、秋山が乗艦する金剛を旗艦とした艦隊は未だに海上にいた。

 

「まさかウチまで偵察機を出さなならんとわな……」

『疲れているだろうけど、そこは頼むよ』

 

 呆れたようにぼやく龍驤を秋山はなだめていた。彼らは今日は既に4度も深海棲艦と交戦しているのだ。補給や修理で何度か横須賀鎮守府に帰投しているが、そう簡単に疲労が抜けるわけではない。そんな所に、本来鎮守府に控えている空母艦娘の仕事である航空偵察までさせられるとなれば、愚痴の一つも出るのは仕方ない事である。

 

「これで今日5度目の出撃ね。最悪、夜戦も覚悟する必要があるかも」

「そうなったらウチは下がらせてもらうで。夜戦じゃ軽空母なんてタダの的にしかならへん」

「あら、羨ましいわね」

「今こうして仕事してるんやからええやろ?」

 

 叢雲と龍驤は駄弁ってはいるものの、周囲の警戒は怠っていないので秋山は特に注意はしない。今回の出撃は周辺海域の警戒任務ではあるが、緊張感を維持し続けるにも限界がある。適度にリラックスするのも必要な事と考えていた。また仮に注意したとしても、説得力は無かっただろう。

 

「テートク、お仕事の方は終わりそうデスカ?」

『……今、2回目の交戦記録を纏めてる』

 

 秋山は乗艦した金剛の中で、書類仕事に追われていた。何せ含めて5回分の出撃の報告書を提出しなければならないにも関わらず、今朝から書類を書く時間が取れないのだ。更に今回は、金剛が装備している46cm砲についてのレポートも提出しなければならない。必然的に現在の様な、秋山が指揮する必要のない時間帯を書類仕事に回すしかなかった。

 

「あの、任務中に書類を書くなんて上層部に知られたら問題になるんじゃ……」

『白雪、今やっておかないと徹夜確定なんだ……』

「報告書を書く暇がありませんからネ……」

 

 白雪の言う通りバレたら大目玉確定なのだが、それでも秋山は書類を書く手を止める気はない。秋山としてはそんな事よりも、気にしなければならない事がある。

 

『みんな疲れてないか?』

 

 この連戦で艦娘たちの疲労は蓄積している。各員の調子を把握しておかなければ、思わぬ事故に繋がりかねないのだ。

 

「ウチは後方で艦載機を飛ばすだけやからな。問題ないで」

「ボクも!」

 

 海戦では後方に下がり航空戦に集中する龍驤と、2回程彼女を護衛した皐月が真っ先に答える。

 

「朝潮はいつでも行けます!」

「私もです」

 

 朝潮、白雪も問題なし。この二人も1回ずつ後方で龍驤の護衛に就いていたため、ある程度体力の温存が出来ていた。そうなると問題は残った叢雲と金剛だった。

 

「No Problem! と言いたいデスけど、少し疲れたネー」

「私もよ。ここまで連戦だとね」

 

 二人とも前衛での戦闘が続いているために、この連戦で疲労が溜まっていた。本来なら他の艦娘と交代するべきなのだがそれは出来ない相談だ。当の交代要員が現在、他の海域へ出撃しており出払っているのだ。

 

『分かった、次に交戦に入る時は叢雲が龍驤の護衛に入ってくれ。金剛は……、遠距離から朝潮、皐月、白雪のフォローをしてくれ』

「了解よ」

「OKネー」

 

 特に不満は無いらしく頷く2人。問題の誤魔化しに近いが、出来る対応は限られていた。他の4人も異論はない様子である。

 

「所で提督。ここまで連戦やったし、終わったらご褒美とかあってもええんとちゃう?」

 

 龍驤が何か思いついたかのように、ニヤリと笑う。それを見て若干嫌な予感を感じたが、秋山はあえて聞き返した。

 

『……具体的には?』

「間宮とかどうや?」

『……先月にそれをやって、俺の財布が空になったんだが?』

「そこはまあ、致し方ない犠牲や」

『勘弁してくれ……』

「あはは。っと、ゴメン。偵察に出た子からや」

 

 突然入ってきた通信に龍驤は会話を中断し、片手を耳に当てた。

 

「3番機どうしたんや? ……はぁ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げる彼女に、全員の視線が集中する。だが龍驤はそれに気付かず通信に耳を傾けていた。

 

「見間違いとかあらへんの? え、確実……?」

 

 通信を聴く彼女の顔が一気に真っ青になっていく。そのただならぬ様子に、全員の緊張感が増していく。

 

「提督。緊急事態や」

『だろうな。主力艦で固めた艦隊でも攻めてきたか?』

 

 状況的に考えられる最悪の敵編成を想定する秋山。もし予想が正しかった場合、彼の艦隊では対応できないため、鎮守府から航空支援を出してもらう必要がある。

 

「それどころやない」

 

 だが龍驤は頭を振る。そして若干震えながら、飛び込んできた情報をこの場にいる全員に伝えた。

 

「戦艦棲姫を旗艦とした艦隊が本土に向かって航行中や」

 

 

 

 戦艦棲姫

 

 その容姿は長い黒髪の美女と表現され、その背に艤装と思われる巨人を引き連れているのが特徴とされている。

 判明している彼女のスペックだが、主砲は3連装16インチ砲2基と砲の数は少ない物の、発射速度が3発/分と恐ろしく早い上に、4万mもの長距離から動き回る艦船を狙い撃つことの出来るほどの命中性を誇っている。そして防御力に至っては当然のように対16インチであり、また彼女の持つ装甲壁は通常兵器を寄せ付けない程強固。更に速度は時速35ノットが観測されており、深海棲艦の姫にふさわしい能力を有している。

 その存在が最初に確認されたのは2016年に行われたイースター島沖拠点攻略作戦、通称オペレーション・ビギニングが中止され、第一艦隊がハワイに帰還する最中であった。エリート級戦艦2、駆逐艦3という小艦隊を引き連れて、撤退中の第一艦隊に襲撃をしかけた彼女は、第一艦隊の必死の攻撃をものともせずに暴れまわり半数を撃沈するという、人類にとって最悪の損害を与えていた。

 そのため各国海軍関係者にとって戦艦棲姫は一種のトラウマであり、一部では対艦ミサイルの改修スピードが上がったのも彼女のせいであるとも言われている。

 

 戦艦棲姫襲来の報を受けた時、防衛省は最初は誤報を疑った。だが彼女らが、時に海上に発生した低気圧に隠れ、時に小島に上陸して偵察機から身を隠し日本本土を目指して進行していた事を知らされた時、誰もが愕然とした。行方不明になっていた硫黄島の戦艦棲姫が、まさか本拠地を捨てて敵地に向かって侵攻してくるなど予想もしていなかったのだ。彼らは思わぬ襲撃者を撃退すべく、大慌てで動き出していた。

 

「各地に詰めている対艦ミサイル連隊ですが迎撃準備が完了しました!」

「そのまま待機。射程に入り次第攻撃を許可します!」

「百里基地より補給の関係で出撃まで時間が掛かるとの通信です!」

「急がせて下さい! また他の空自基地からも戦闘機を出させて下さい!」

「横須賀基地よりミサイル艇の出撃準備が整いました!」

「出撃を許可します!」

「在日米軍より出撃準備完了との事です!」

「各部署に在日米軍と連携するよう通達して下さい!」

 

 防衛省のトップである坂田は矢継ぎ早に指示を出していた。その指示を受けて各部署に通達するために職員が走り回る。彼らは出せる戦力を全てつぎ込むつもりだった。また最悪の事態を想定しての行動もしていた。

 

「避難状況は!?」

「未だ完了していません! 特に東京、千葉、神奈川では大混乱に陥っているため、避難が進んでいません!」

「避難誘導に陸自も出して下さい!」

 

 突如として防衛省から太平洋に面している関東圏に発令された避難指示に、国民は大混乱であった。避難は進んではいるものの、未だに危険予測地域に残っている国民は多い。

 本来ならいくら戦艦棲姫という大物がいるものの、戦艦3隻を中心とした12隻の小艦隊程度では避難指示など出さなかっただろう。しかし今回は余りにもタイミングが、状況が最悪であったため発令せざるを得なかった。

 

「横須賀の空母艦娘の航空隊が出撃しました!」

「反復攻撃は出来そうですか?」

「既に日が沈みかけており航空攻撃は1回が限界であるため、全力攻撃を掛けるとの事です!」

 

 艦娘の航空機は太平洋戦争時の機体がモデルであるため、夜間での対艦攻撃は困難であった。専用の装備でもあれば別なのだろうが、生憎とその様なモノは日本では未だに確認されていない。それ故に、本来であれば波状攻撃を掛けるところを、大編隊による一斉攻撃を敢行するしかなかった。そして問題はそれだけではない。

 

「横須賀から迎撃に出せる艦娘はどうなっていますか?」

「空母艦娘以外には少数の軽巡、駆逐艦しか残っていません」

「練度は?」

「……建造されたばかりの艦が多いとの事です」

 

 第一護衛隊群が作戦海域に到着した頃から、太平洋側に面した日本近海で深海棲艦の動きが活発化していた。そのため横須賀地方隊を始めとした各地方隊所属の艦娘たちは、その対処のために出払っているのだ。そして現在も各方面からの深海棲艦の侵攻は続いており、各提督はそれへの対処で精一杯。そのため戦艦棲姫の艦隊に対して戦力を集中させて迎撃する事は不可能であった。

 

「戦艦棲姫の予想進路はどうなっていますか?」

「……このまま行けば房総半島の西を通り、東京湾に侵入する事は確実です」

 

 会議室の机に広げられている日本地図を前に、大淀は顔を顰めつつ答えた。地図には台風の予想進路図のように、敵の現在地、射程範囲が記された円、そして予想進路が記載されている。そしてそれは真っ直ぐ東京湾に向かって進んでいた。

 

「もしも東京湾に入られたら、湾に隣接している地域が壊滅しますね」

 

 坂田は若干顔を青くしつつ唸った。戦艦の艦砲射撃の被害例はいくつかあるが、アジアの有名どころでは2015年年末に中国で起こった戦艦ル級2隻による香港襲撃事件だろう。これにより香港の地は短期間で壊滅している。

 今回のケースは香港のそれと似ているが、今回はよりにもよって戦艦棲姫という強力な艦が存在している。少なくとも香港以上の被害は出てしまうだろう。そして襲撃による影響は香港とは比べ物にならない程、大きい物になると予測されていた。何せ攻撃されるのは日本の首都圏なのだ。人的、物的被害以外にも、政治や経済にも混乱がもたらされる事は確実だった。

 

「通常兵器による波状攻撃でどれくらいダメージを与えられると思いますか?」

「そうですね……」

 

 顎に手を当て考え込む大淀。暫し思考を巡らせ情報を纏めると、改めて口を開いた。

 

「百里基地のF-15J改やF-2A、横須賀を始めとした関東各地の対艦ミサイル連隊による一斉攻撃が行われた場合、通常タイプにはそれなりのダメージは与えられるでしょう。いくらエリート級でも通常兵器を無効化までは出来ません」

「オペレーション・ビギニングでは有効打を与えられなかったと聞いていますが?」

「それは当時の艦隊が、改良型対艦ミサイルを殆ど保有していなかったためです。現在ならばその改良型も広く配備されていますので、攻撃は十分に通るでしょう」

「ならば対艦ミサイルは通常タイプに集中させれば良いと?」

「はい。ただそれでも何隻撃沈できるかは未知数です。敵の進軍速度が速くなったり、我々が集められる戦力が少なければ、本土に砲撃をされる可能性は高くなります」

「……」

「そして何より問題は戦艦棲姫です」

「やはり通常兵器では効果がないと思いますか?」

「パナマ占領直前にアメリカ太平洋艦隊と大規模深海棲艦艦隊との海戦がありましたが、戦艦棲姫との交戦記録が各国政府向けに公表されています。援護要請で放たれたミサイルでは損傷は見られなかったそうです」

「やはり一番のネックは戦艦棲姫ですか……」

「一応、撃沈例はありますが……」

 

 そこまで口にして、大淀は言いよどんだ。坂田も無言で頷く。戦艦棲姫撃沈の事例が発生したのは、やはり今年の6月に起きた東太平洋での大海戦なのだが、その時の状況は「戦艦棲姫1隻に対してアイオワ級戦艦4人をぶつける」という、人類側が圧倒的に優位な状況での事例だ。今回の襲撃にはその撃沈例は参考にならない。

 

「現状で迎撃できる艦娘艦隊は?」

「秋山艦隊です。練度は高いですが、戦艦1、軽空母1、駆逐艦4と明らかに攻撃力が足りません。戦艦も金剛型ですので戦艦棲姫を撃破出来る望みは薄いです」

「その艦隊から一番近い艦娘艦隊は? 合流すれば攻撃力不足をカバー出来ます」

「……秋山提督配下の、軽巡1、駆逐艦5の水雷戦隊です」

「……」

 

 その答えに坂田は沈黙するしかなかった。軽巡や駆逐艦には酸素魚雷という強力な対艦攻撃手段はあるが、戦艦棲姫にどこまで効くかは解らない。最悪の事態を想定しなければならないだろう。

 

「……秋山艦隊は敵艦隊を迎撃。秋山提督配下の水雷戦隊は秋山艦隊を援護すべく移動。横須賀に残っている空母以外の艦娘も出撃させます」

「先に秋山艦隊と水雷戦隊を合流させた方が良いのでは?」

「それは分かっているのですが、艦隊同士の距離がかなりあります。このまま行けば合流する前に本土が戦艦棲姫の射程に入りかねません」

「……了解しました」

 

 秋山艦隊にとってこれが無茶な命令である事は良く解っている。はっきり言って全滅する可能性は高い。だが防衛省という国を外敵から守る組織のトップにいる以上、坂田はその役目を果たさなければならなかった。とはいえ自衛隊としても、みすみす彼らを見捨てるつもりはない。通常兵器による援護をする予定であった。

 

「ここが正念場です、各員の奮闘を期待します!」

 

 坂田が激励の言葉を陸、海、空の各部署に贈る。この危機的状況において自衛官たちの士気は高かった。

 だが――そんな彼らに水を差す情報が舞い込んできた。

 

「失礼します!」

 

 会議室に職員が飛び込んで来る。その様子は明らかに狼狽しており、彼は悲鳴のような声を上げた。

 

「アメリカ政府により、在日米軍の出撃が却下されました!」

 

 予想外の報告に、誰もが絶句した。

 




○別働隊突入判定:1~30が早期発見により失敗、31~60が進撃成功、61~90が進撃成功かつ時刻が夕方(航空回数-1)、91~が初手東京湾&夜戦。
判定:82。次の航空攻撃回数に-1

○空母艦娘による航空攻撃判定:1~25が出撃不可能、26~50が1回、51~75が2回、76~が3回。
判定:58。但し航空攻撃回数が-1されるため、攻撃は1回のみ。

○在日米軍による援護:1~20が出撃不可能、21~60が戦力を温存しつつ攻撃、61~90が全力攻撃、91~がU.S.A.!し始める。(思わぬ大戦果)
判定:16。これは……政治方面からのストップか?

鬱憤が溜まってた在日米軍による活躍とか考えてたのに、なんで的確に地雷を踏み抜いて行くんですかねぇ……。


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海を征く者たち26話 アメリカの選択 彼らの意地

正直、今回のアメリカの言い訳は作者としてもかなり無理があると思います。でもダイス目には逆らえないのです……(白目)

今回のダイス判定

自衛隊攻撃判定:83
艦娘航空ダメージ判定:63



『長官! 却下とはどういう事ですか!?』

 

 受話器の向こう側から響く在日米軍司令官ベーカー中将の怒鳴り声に、国防長官マーシャルは顔を顰めていた。

 

「私も出撃させるつもりだったさ」

『それならなぜ!』

「半数以上の閣僚が出撃に反対し、それに大統領も賛同した。これでは私もどうしようもない」

『……それだけの人数が反対したのですか!?』

 

 ベーカーの驚きは当然だろう。今回の出撃の却下は軍事だけでなく外交にも悪影響出る。それをアメリカの政治を担う者たちが解らないはずがない。それにも関わらずこのような決定が下されたのだ。これは以前から政府関係者内にあったある主張が原因だった。

 

『事情を説明して下さい』

「……少し長くなるぞ?」

『構いません』

 

 マーシャルは一つ息を吐くと、口を開いた。

 

「……まず今回の話の前提に、艦娘が出現しその力が証明された頃から、議会や政府内で出始めるようになったある主張がある」

『それは?』

「在外米軍撤退論だ」

『……は?』

 

 日本に半ば隔離されているベーカーが、アメリカ本国の政治事情を知らないのは当然だろう。呆気にとられるベーカーを半ば無視してマーシャルは続ける。

 

「アメリカは世界最大の軍事力を持つ国家ではあるが、深海棲艦には未だに劣勢だ。それ故に世界各国に散らばっているアメリカ軍を帰還させ、戦力の集中を図る。それが彼らの主張だ」

『馬鹿な……。本国に帰還するための海路は深海棲艦に封鎖されています。そんな事は不可能です』

「出来るんだよ。……艦娘を使えば」

 

 去年であればまず実現不可能であった在外米軍撤退論であったが、今年に入るとそれが現実味を帯びることとなった。深海棲艦に対するアンチユニットである艦娘。彼女らの存在は、国外に取り残されているアメリカ軍を帰還させるのに十分な力を持っているように見られていた。軍でもシミュレーションが行われ、犠牲は出るだろうが人員とある程度の兵器を本国まで帰還させることは可能と結論付けられた事により、撤退論の支持は急速に拡大していた。

 

『確かに艦娘の力は強大です。しかしだからこそ彼女らが消耗するのは避けるべきなのでは?』

「ああ、確かに彼女たちは強い。だが全てにおいて通常兵器よりも強力である訳ではない」

 

 対深海棲艦戦において強力な戦力となる艦娘だが、特定の分野では通常兵器の方が勝ることは多い。射程、攻撃精度、レーダーの性能、通信能力、そして対空戦闘。深海棲艦と戦う場合、艦娘と既存の軍隊が協力した方が効率が良いのだ。

 

『本国も軍事力の拡大しているはずです。それでは足りないのですか?』

「確かに兵器類は次々に作られているが、問題は操る人間だ。とにかく人が足りん。特に士官の数が足りなくなってきている」

 

 この4年間の戦いで、戦死者は膨大な数に上っていた。当然アメリカも人員の補充をしているものの、人員不足が目立ち始めていた。特に教育に時間のかかる士官の不足は問題であり、徐々にだがそれによるトラブルが出始めていた。また人員の質は明らかに低下しており、アメリカ軍を悩ませていた。

 

『在外米軍は海路が完全に封鎖される前に派遣された軍人であり、練度は高い。彼らを本国に呼び戻せばすぐに規模を拡大できる、ですか』

「新たに兵器製造しなくてもよく、人員の育成に時間を掛けずに本土の戦力を拡大できる。在外米軍は艦娘を有していないとはいえ、これは軍にとってメリットは大きい」

『主張は解りました。しかしデメリットが大きすぎます。そんな事をすれば確実に外交問題に発展しますし、国家の信用も低下する事になります』

 

 ベーカーの主張も最もであり、撤退反対派の言葉そのものだった。在外米軍は国家間の条約に基づいてその国に駐留している。撤退派の主張はその条約を一方的に破棄する事と同じなのだ。だがアメリカ、そして世界が取り巻く状況がそれを許してしまった。

 

「今のアメリカはハワイ、アゾレス、そしてパナマと三方向から、深海棲艦の侵攻を受けている。艦娘戦力の増強は行っているものの、戦況はかなりマズイ。他国との条約を守った結果、国が滅んでは意味がない」

『……』

「また現在、世界は深海棲艦によって強制的にブロック化されている。南米はともかく、ヨーロッパやアジアの国々と外交問題になったところで、そこから来る悪影響は深海棲艦出現前と比べて限定的だ」

 

 他国と比べても食料生産力、経済力、軍事力があるアメリカではあるが、余裕がある訳ではない。彼の国も深海棲艦との戦いに必死なのだ。他国を犠牲にしてでも国家を存続させるのは国の運営を任される者として間違ってはいない。

 

『ホワイトハウスは撤退派が主流なのですか』

「閣僚だけでなく議会もだ。それにより軍では在外米軍撤退のための計画を立案中だ。少なくとも来年の春までには本国から迎えの艦隊が到着する」

 

 マーシャルはため息を吐いた。彼個人としては反対派ではあるのだが、政府の方針がほぼ在外米軍撤退で固まった以上、政府に従うしかない。

 

『つまり今回の出撃要請の却下は……』

「在日米軍の有する人員と兵器の損耗を恐れたためだ。君たちを日本で失う訳にはいかない」

『……』

 

 アメリカが日本の寿命が後1年である事を把握していたため、今回の様な判断が下された。滅びゆく国からの信頼よりも、残っている戦力の保全が優先されたのだ。

 沈黙するベーカー。そんな彼にマーシャルは命令を下す。

 

「敵の予想攻撃範囲内の戦力の避難を許可する。また以降の自衛以外での戦闘を禁止する」

『……了解』

 

 ベーカーの苦々し気な声が受話器に響いた。

 

 

 

 侵攻を続ける戦艦棲姫艦隊に対し、自衛隊は急ピッチで迎撃態勢を整えていた。

 

 戦艦棲姫の率いる12隻の艦隊の陣容は以下の通り。

 戦艦棲姫1隻

 戦艦ル級フラグシップ2隻

 重巡リ級エリート3隻

 軽巡ツ級2隻

 駆逐ロ級エリート2隻

 駆逐ハ級エリート2隻

 

 これまでの事例として、12隻程度の艦隊であれば空母が編入されるのが一般的であるのだが、戦艦棲姫は元々夜戦を計画していたため、夜間では攻撃の出来ない空母は編入していなかった。とはいえ空の守りを捨てた訳ではなく、対空性能の高い軽巡ツ級を2隻編入しており防空能力はかなり高い。

 

 それらを迎え討つ自衛隊の戦力は、

 房総半島南端と横須賀に配備されている陸自の対艦ミサイル連隊

 百里基地を始めとした関東の航空自衛隊基地が有する戦闘機群

 横須賀基地より出撃したはやぶさ型ミサイル艇2隻

 横須賀鎮守府の空母艦娘の保有する航空機編隊

 戦艦金剛を旗艦とする秋山艦隊

 秋山提督配下の艦娘たちであり、五十鈴を旗艦とした水雷戦隊

 横須賀に残っていた少数の低練度の軽巡、駆逐艦艦娘

 

 このように列挙してみれば自衛隊側の戦力は、規模的には圧倒的に上である。もし早期に発見できていれば反復攻撃が出来るため、多少の損害は出るだろうが敵の艦隊を撃破する事は出来るだろう。

だが敵との距離、そして時間帯がそれを許さなかった。

 既に戦艦棲姫の艦隊は目と鼻の先まで来ているし、頼みの艦娘の航空隊も夜になれば発艦できないため一回限りの全力攻撃しか出来なかった。

 迎撃できる艦娘が秋山配下の艦娘12人しかない以上、彼らが交戦する前に敵戦力をいかに削るかが勝負の分かれ目となる。

 

 房総半島沖。戦艦棲姫艦隊は東京湾を目指して全速で航行していた。既に侵攻が察知された以上、後は時間との勝負なのだ。何せ彼女らの勝利条件は誰か1隻でも東京湾内に侵入し敵地に砲撃を加える事だ。一斉射だけでも十分にダメージを与えることが出来る。

 そんな彼女たちを阻止すべく立ちはだかる存在が最初に現れたのは空からだった。

 

《Guard-1、Engage!》

 

 百里基地所属の対艦攻撃使用の4機のF-2Aだった。百里基地には硫号作戦援護のために臨戦態勢であったために、今回の襲撃においてもいち早く迎撃態勢に入る事が出来たのだ。

 

《Target in sight》

 

 各機がその腹に抱えた空対艦ミサイルの照準を合わせる。狙いは戦艦棲姫ではなく通常タイプ。戦艦棲姫には通常兵器が通用しないのだ。ならば確実にダメージが通る相手を狙う方が良い。

 

《Guard-1、FOX-3》

《Guard-2、FOX-3》

 

 発射符号と共に各機から放たれたミサイルは、目標目掛けて突っ込んでいく。それに反応して2隻の軽巡ツ級が対空砲火を上げるが、姫級ではない彼女らに飛来するミサイルを撃ち落とす能力は無い。軽巡及び駆逐艦にミサイルが次々と命中し、爆発を起こす。

 

《敵艦に損害を確認するも撃沈は見られない》

 

 哨戒機から戦果確認の無線が飛ぶ。高々4機では撃沈までは至らない。とはいえこれは様子見に過ぎない。次の攻撃は直ぐに始まった。

 

「攻撃用意! 大物はあいつ等に任せればいい!」

 

 地対艦ミサイル連隊長の檄が響く中、各車両が目標を設定する。最優先目標は軽巡ツ級、次に駆逐艦。本命のためにこれを倒さなければならない。

 

「攻撃開始!」

 

 横須賀と房総半島。二か所からほぼ同時に放たれたミサイルが、侵攻する艦隊へと襲い掛かる。

 その弾道を目にした戦艦棲姫は、ある考えに思い至った。

 

――しまった!? 戦艦は盾に成りなさい!

 

 空、そして地上から放たれたミサイルが軽巡に集中している。その意図に気付いた戦艦棲姫は2隻の戦艦に軽巡ツ級を守るように命令しつつ、艦隊の盾とならんと前に出た。フラグシップ級の戦艦の装甲なら、多少のダメージはあるだろうがミサイルを十分に防げる。戦艦棲姫は軽巡ツ級が生き残らなければ、次に来る攻撃は下手をすれば致命打となりかねない事を察知したのだ。

 だが、この事に気付いたのは彼女だけだった。

 旗艦の意図が読めずに2隻のル級は困惑する。なぜ軽巡をかばうのか? 理解出来ないながらも命令通りに動くが、出だしが若干遅れてしまう。

 それが致命的な隙となった。

 2方向から飛来したミサイルの大半が軽巡ツ級、そして駆逐艦に雨霰と降り注ぐ。重装甲を持つ戦艦たちが必死にそれを防ごうとするも、その多くは目標に命中していく。いくら通常兵器が効きにくい深海棲艦であっても、装甲の薄い補助艦艇では致命打となる。

 ミサイルの爆発が収まり、上空の哨戒機が戦果を確認する。

 

《軽巡ツ級1、駆逐ロ級2の撃沈を確認。残った軽巡、駆逐も大きな損害が見られる》

 

 空と陸、2回の攻撃により、撃沈出来たのはたったの3隻。補助艦艇にはそれなりに損害を与えているが、重巡以上の主力艦クラスには全くと言って良い程損害はない。

 だがこの戦いに参加する自衛官たちは歓声を上げていた。

 彼らの攻撃は、ボクシングで言えばジャブに当たる。そしてその仕事を全うしたのだ。後は――

 

《艦娘航空機隊は攻撃を開始せよ》

 

 本命を相手に叩きつけるだけだ。

 横須賀鎮守府の空母艦娘たちが発進させた航空機群が戦闘海域に躍り出る。

 その数は恐ろしく大規模だ。これ以降は航空機が使えないため全航空機を投入していた。更に特異なのはその編成だ。護衛のための戦闘機は一機もおらず艦攻、艦爆のみ。普段では見られない対艦攻撃に特化したものだった。

 

「攻撃開始!」

 

 空母艦娘の号令と共に全機が一斉に深海棲艦に襲い掛かる。

 戦艦棲姫は急いで輪形陣を敷き空襲に備えるが、防空の要となる軽巡ツ級は1隻撃沈、もう一隻は大破しており、防空能力は激減していた。

 

――回避!

 

 各艦が対空砲火を上げながら、必死に回避運動を取る。沈むことを悟った大破していた駆逐級が旗艦の盾となり轟沈することすらあった。損傷を受けつつ、しかし確実に艦隊は目標へ向けて前進していく。

 

「何としてでも敵の足を止めなさい!」

 

 必死なのは空母艦娘も同じだった。時間の関係で航空攻撃は1回しか出来ない。ここで敵にダメージを与えられなければ、本土攻撃をされる確率は一気に高まる。損傷を受け帰還困難となった艦爆が、深海棲艦に体当たりする光景すら見られた。

そして――

 艦娘の航空機隊が日が沈むギリギリに引き返していった。戦闘海域には深海棲艦が残っている。

 

 戦艦棲姫

 戦艦ル級フラグシップ1番艦(大破)

 戦艦ル級フラグシップ2番艦(小破)

 重巡リ級エリート2番艦(小破)

 駆逐ハ級エリート2番艦(中破)

 

 出撃時からその数を半数以下にまで減らし、各艦が損害を受けているが戦艦棲姫艦隊は健在だった。

 戦艦棲姫を先頭に艦隊は速度を上げた。日本本土に主砲が届くまで後少しだった。厄介だった艦娘の航空攻撃はもうない。後は人類が放つ通常兵器だが戦艦棲姫には通用しない。勝利が目前である事実が艦隊の士気が上がっていた。

だがそんな彼女たちに水を差すモノがあった。

 戦艦棲姫のレーダーが前方から接近する6隻の水上艦を捉えた。彼女は艦隊に艦隊戦の用意をさせる。

彼女たちに最後に立ちふさがったのは――戦艦を旗艦とした駆逐艦4、軽空母1の艦娘艦隊だった。

 

《こちら秋山艦隊。これより敵艦隊の迎撃を開始する》

 

 艦隊から発信された無線が戦場に響いた。

 

 




今回は詳細なルールが思いつかなかったため、今回はダイス判定に基づき、作者の直感で表現しました。


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海を征く者たち27話 房総半島沖海戦前編

今回の話はかなりご都合主義があります。注意して下さい。そして難産でした……。


 立ちふさがった艦娘艦隊を目にした戦艦棲姫は、敵の戦力が既に底を突いている事を確信した。

 艦隊に夜間での攻撃手段を持たない軽空母がいるのだ。夜間での飛行が可能な航空機でも搭載しているのかとも考えたが、それならば安全な後方から発艦するはず。あの軽空母は数合わせに過ぎないと彼女は判断した。

 ならばこの艦隊を突破すれば目的は達成されたと同然という事になる。通常兵器による攻撃は続く可能性は高いが、旗艦である彼女にはほぼ効果は無いし、主力艦クラスも損害があるとはいえある程度耐えられる。誰か1隻でも東京湾に入ることが出来れば勝ちなのだ。

 戦艦棲姫が教えるまでもなく、戦艦棲姫艦隊の生き残りはこの事に気付いたのか、ボロボロにも関わらず高い士気を維持している。

 戦艦棲姫艦隊は最後の障害を排除すべく、戦闘態勢に入った。

 

 時間は少し遡る。

 東京湾に進行中の戦艦棲姫を旗艦とする深海棲艦艦隊を迎撃する任務を負った秋山艦隊の面々。金剛に乗艦している秋山は艦長席で顔を歪めていた。

 

(これはマズいな……)

 

 秋山艦隊をめぐる状況はかなり悪い。

 まず戦力差だが、確実に秋山の戦力は劣っている。なにせ相手は損害艦しているとはいえ主力艦クラスが3隻いる上に、旗艦はほぼ無傷の戦艦棲姫だ。対する秋山艦隊は戦艦1、駆逐艦4、軽空母1。明らかに格下である。

 本来なら少し離れた海域にいる秋山配下の水雷戦隊と合流して数の暴力で圧殺するつもりであったのだが、敵艦隊の進行が予想以上に早かったためこの6人で相手取らなければならなくなってしまった。現在、水雷戦隊は飛行挺で急行しており、上手く行けば戦闘中に合流できるかもしれないが、当てにするのは禁物だった。

 そうなると援護攻撃に期待したい所ではあるが、姫級にもダメージを与えられるだろう空母艦娘による空襲は、既に日が落ちてしまったため不可能である。そうなると自衛隊による対艦ミサイル攻撃が頼みの綱となるのだが、損傷している通常タイプはともかく、戦艦棲姫相手ではロクなダメージを与えられないだろう。

 状況だけでも問題は山積みなのだが、更に秋山艦隊のコンディションも悪かった。

 なにせ今日は既に4回も深海棲艦と戦っているのだ。小休憩は合間合間に取ってはいるが、艦娘たちは確実に疲弊している。

 これで士気が高ければある程度の疲労は無視出来るのだが、その士気は現状ではかなり低かった。はっきり言ってしまえば、今回の迎撃は特攻に近い。いくら首都圏を守るためとはいえ、その様な命令を下される側からすれば士気が上がるはずが無かった。

 また秋山たちは戦艦棲姫程の強力な深海棲艦との戦いは、これまで経験したことが無かった。そのため誰もが緊張した面持ちで航行している。その動きは明らかに固かった。

 疲労と低い士気、そして極度の緊張。この三つの要素によって秋山艦隊は最悪の状況に陥っていた。

 

(これは何とかしないと)

 

 秋山は思案する。今回の場合、疲労はどうすることも出来ないが、士気と緊張感の問題に対処するのが提督の仕事となる。特に士気の向上あるいは勢いづけることが出来れば一時的ではあるが疲労を無視できる。

 

(演説みたいな事をして盛り上げればいいのか?)

 

 秋山はいつか見た漫画を思い出す。この場合だと首都圏防衛という使命感を前面に押し出すような事を言えばいいのか? そんな事を思い浮かべる。しかし直ぐに小さく頭を振った。

 

(白ける未来しか見えない……)

 

 それなり彼女たちと過ごしてきた経験から、少なくとも使命感などで士気が向上するとは思えなかった。その後も思考を巡らせるものの妙案が浮かばない状況が続く。

 

《接敵まで後5分です》

 

 横須賀のオペレーターの通信が響く。時間が迫っていた。最悪の状況で戦闘になる、と覚悟を決める秋山。そんな時、ふと脳裏にある光景が浮かんだ。

 それは深海棲艦が出現する前の小学生時代。勉強嫌いだった彼に母が言った言葉。それはとても単純な原理に基づくものだった。

 それに思い至った次の瞬間には、秋山は自然と口を開いていた。

 

『金剛、何かやりたい事とか俺にやって欲しい事とかないか?』

「テートク? どうしたんデスカ?」

『叢雲は?』

「急にどうしたのよ」

 

 急にこれからの戦闘とは関係のない話を振られて困惑する二人。

 

「あの、どうしたんですか?」

 

 白雪がおずおずと秋山に訊ねた。それを見た秋山は確かに唐突だったと苦笑しつつ答えた。

 

『みんな頑張ってることだし、これが終ったら好きな事をさせてあげようと思ってな。何かあったら言ってくれ。俺も出来る限りは協力する』

「良いの司令官!?」

 

 真っ先に食いついたのは皐月だった。

 

「じゃあボク、間宮のメニューを全部食べてみたい!」

『いいぞ。まあ1日じゃあ食べきれないだろうし、日にちを分けてな』

 

 即答する秋山。その様子を見た艦隊の面々が一気に活気づく。

 

「あら。それなら私は伊良湖のメニューが良いわね」

『叢雲は伊良湖の全制覇か』

「テートク! デート! デートするネ!」

『あまり遠くに出かけられないかもしれないけど、それで良いなら』

「司令官。私は料理をしてみたいです」

『じゃあ白雪には調理器具を一式プレゼントしよう』

「ウチは烈風が欲しいなーって」

『開発出来たら最優先で龍驤に回そう』

「私は――」

『朝潮。法に触れない範囲で頼む』

「……じゃあ、金剛さんと同じでお願いします」

『OK』

 

 戦場ではあり得ないような和気藹々とした雰囲気が醸し出される。同時に艦隊に漂っていたピリピリとした空気が霧散していく。

 

(出費は痛いけど、まあいいか)

 

 秋山が行った状況改善の方法は、モノで釣るという典型的なモチベーションを上げる方法だった。彼には5分という短時間でモチベーションを上げる方法が思いつかなかったために、若干無意識ではあったが安易な方法をとることにしたのだった。

 だが効果は抜群だった。固さがなくなり、各員の動きが目に見えて良くなっている。作戦行動に支障はない。

 

『よし、そろそろ接敵するぞ』

 

 既に電探には前方から単縦陣で直進して来る艦隊を捉えていた。戦闘に入る前に最終確認を行う。

 

『陣形、作戦の変更はなし。事前のミーティングの通りに行こう。特に金剛は今回の作戦の要はだから、被弾に注意してくれ』

「No Problem! 任せるネ!」

『龍驤。かなり無茶をしてもらうことになるけど――』

「今回は仕方あらへんって」

 

 金剛、龍驤を筆頭に、メンバーからの異論はなかった。秋山は小さく頷くと前方を見据える。視線の先には速度を上げる戦艦棲姫艦隊の姿がある。

 

『作戦開始』

 

 秋山の号令と共に、秋山艦隊は敵艦隊に向けて速度を上げた。

 

 

 

 東京湾に突入せんとする戦艦棲姫艦隊とそれを食い止めようとする秋山艦隊。二つの艦隊は房総半島沖にてぶつかった。戦艦棲姫を先頭に単縦陣で進行する深海棲艦艦隊に対して、秋山艦隊は単横陣で迎え撃つ。

 柔軟性を考えれば秋山は単縦陣を用いたT字戦法を採りたかったのが、敵の第一の目的は東京湾の突入だと考えられる。最悪の場合、反航戦となり敵艦隊の足を止められない可能性があった。そのため確実性を取るために単横陣での迎撃となった。

 秋山の目論見通り二つの艦隊がT字を作る。両艦隊の戦艦主砲の射程圏内となる。

 

「Fire!」

――沈め!

 

 金剛と戦艦棲姫の発砲は同時、そして着弾も同時だった。水柱が上がる。初弾はどちらも相手には命中せずに終わった。二人は次弾を装填する。

 こうして始まった砲撃戦だが形勢は戦艦棲姫側に傾いていた。今回金剛の砲撃速度は46cm砲に合わせてあるため1.5発/分。対する戦艦棲姫の16インチ砲の発射速度は3発/分。発射速度の差は手数差となる。更に艦隊同士が接近するに従い戦艦ル級の砲撃も加わり、投射される火力の差が激増する。

 砲火の先にあるのは金剛だ。深海棲艦は最大戦力である戦艦を無力化すれば突破は容易であると判断していた。

 砲弾の雨の中を必死に回避しつつ反撃する金剛。3隻の戦艦から狙われているにも関わらず、至近弾によるダメージの蓄積はあるが未だに直撃は無い。秋山配下の艦娘の特徴である高い回避性能がここで生きていた。しかしいつまでもそれが続くはずもない。

 

――しつこい!

 

 戦艦棲姫の叫びと共に放たれた砲弾は、今まさに砲撃しようとする金剛への直撃コースとなる。

 

「Shit!」

 

 悪態と共に金剛は砲撃を中断し身体を捻る。砲弾が彼女の身体ギリギリを通り過ぎた。

 躱した。彼女がそう確信した直後、轟音と共に衝撃が走った。

 

“4番砲塔消失! 中破!”

 

 金剛をサポートする妖精の叫び声が上がる。戦艦棲姫の放った1撃は金剛の4つ有する砲塔の一つを抉り取ったのだ。これにより蓄積してきたダメージも合わさり中破判定となる。

 

『金剛!』

「大丈夫、行けるネ!」

 

 吠える金剛。だが秋山は焦っていた。未だに二つの艦隊の距離はまだまだ遠い。今回の作戦の大前提として、至近距離まで接近する必要があった。このままではそれすら出来ずに艦隊が全滅する可能性が高かった。

 だがそんな彼らに救いの手を伸ばす者たちがいた。

 

《こちらミサイル艇「あおたか」。これより貴艦隊の援護攻撃を行う》

 

 無線と共に、秋山艦隊の後方からミサイルが飛来した。追加建造され昨年に横須賀に配備されていた、はやぶさ型ミサイル艇「あおたか」「あさたか」からの攻撃だった。

 ミサイルは戦艦棲姫に命中。目標を爆炎が包み込んだ。ダメージは殆どない。だが炎により視界が遮られる。

 

『一気に距離を詰めるぞ!』

 

 千載一遇のチャンスに回避運動をやめ、秋山艦隊は距離を詰めていく。それに戦艦棲姫艦隊は気付かない。絶え間なく攻撃が続いており、それが彼女たちの目を塞いでいた。

 そして――

 

「戦艦棲姫との交戦距離に入ったわ!」

『叢雲、白雪、朝潮は戦艦棲姫との交戦を許可する』

「了解!」

 

 秋山の号令と共に3人の駆逐艦艦娘が戦艦棲姫に砲撃を開始する。それに気付いた戦艦棲姫は反撃に出るが、その足を止める事は無い。駆逐艦程度なら魚雷さえ気を付ければ問題は無いのだ。時折放たれる魚雷により進行を遮られつつも、突き進む戦艦棲姫。

 

 そして戦艦棲姫は3人の艦娘と交戦しつつも、そのまま秋山艦隊の取る単横陣の中央を突破していった。叢雲、白雪、朝潮は彼女を追って艦隊から離れていく。

 

 秋山艦隊の陣形が崩壊する。それをチャンスと見た後続の戦艦ル級もそれに続こうとした。

 その光景に秋山は「予定通り」に命令を下す。

 

『金剛、皐月、やれ』

「Fire!」

「行っけー!」

 

 戦艦の砲弾と駆逐艦の放った魚雷。この二つの攻撃により戦艦ル級は足を止められた。

 

『龍驤』

「さーお仕事お仕事!」

 

 その隙を見逃さずに龍驤が高角砲を連射しつつ素早く移動し、その身体をもって陣形に空いた穴を塞ぐ。この瞬間、戦艦棲姫とその随伴艦は分断されることとなった。

 戦艦棲姫と随伴艦の分断。それが秋山艦隊の狙いだった。

 元々、秋山艦隊では戦艦棲姫艦隊とまともに戦った所で、勝てる可能性は低い。そこで考え出されたのが、戦艦棲姫と随伴艦の各個撃破だった。

 叢雲、白雪、朝潮の3人はノーマルとは言え戦艦クラスを連携で撃破したことがある。彼女たちで戦艦棲姫を足止めしている間に、金剛、皐月、龍驤そして自衛隊による援護攻撃で随伴艦を撃破。その後、艦隊の全戦力を持って戦艦棲姫を叩く、というものだ。

 秋山が提案した当初、防衛省を始めとした各部署から反対意見を出されていた。余りにも希望的観測が多く、更に成功確率が低いのだ。しかし正面衝突した所で敗北は必至である事には変わりなく、他に妙案が無かったために今回の作戦が決行されるという事情があった。

 

『作戦第一段階完了。これより第二段階に移行する』

 

 秋山の声が艦隊に響いた。強敵に抗う綱渡りの様な作戦は続いていくことを意味していた。

 




今回の艦隊の動きを図で説明。○:艦娘、●:深海棲艦

1、両艦隊接触直前。
○ ○ ○ ○ ○ ○
    ●
    ●
    ●
    ●
    ●

2、叢雲、白雪、朝潮。戦艦棲姫との交戦開始。
    ○
○ ○○●○ ○
    ●
    ●
    ●
    ●

3、戦艦棲姫突破&金剛、皐月攻撃による足止め。
    ○
   ○●○
○ ○   ○
    ●
    ●
    ●
    ●

4、龍驤移動。分断。
    ○
   ○●○
 
  ○ ○ ○
    ●
    ●
    ●
    ●

文章にすると分かりにくいですね。






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海を征く者たち28話 房総半島沖海戦中編

ゲームの方は第2期が始まって、大分勝手が違いますね。任務関係をどうするか……


 秋山は素早く目の前の深海棲艦の様子を観察する。相対する深海棲艦は戦艦ル級フラグシップ2隻、重巡リ級エリート1隻、駆逐ハ級1隻の計4隻。

 この情報だけを見た場合、勝ち目が無いようにも見えるが実情は違う。どれも損傷を受けておりその戦力は額面通りではない。特に戦艦ル級の片方は大破しているのは大きく、中破の駆逐ハ級と共に戦力には数えなくても問題なかった。

 

『龍驤、大破の戦艦と駆逐艦を任せる!』

「了解や!」

 

 秋山は戦力外を龍驤に足止めしてもらい、強制的に2対2に持ち込み早期に敵を撃破する事を選択した。

高角砲で射撃しつつ前に出る龍驤。対空用であるためまともな損害は与えられないが、牽制には十分な威力を有している。分断される深海棲艦艦隊。だが彼女らに動揺は無かった。むしろ龍驤に相対している深海棲艦が彼女の動きを拘束するような様子さえ見られていた。

 深海棲艦たちも目的達成のためには目の前の戦艦が邪魔だと判断しており、それらの撃破を望んでいた。仮に撃破出来なくてもこの場に拘束する事により時間が稼げるため、問題は無かった。

 こうしてお互いの思惑が一致した結果、有力艦による2対2の戦闘が始まった。

 

「行っくよー!」

 

 真っ先に飛び出したのは皐月だった。それを迎え撃たんと小破の戦艦ル級と重巡リ級が砲撃を始めるが、進行方向、速度をランダムに変える事によって回避していく。そんな彼女の突撃に金剛は援護射撃を開始する。

 

「撃ちます! Fire!」

 

 1基減った砲塔から砲撃が放たれる。中破判定を受けている金剛の砲撃。少なくともフラグシップ級の戦艦ル級であれば、ある程度は無視出来るものであるはずの攻撃に対し、深海棲艦たちは慌てて回避行動に移った。金剛が装備する46cm砲は健在なのだ。艤装の破損により命中精度が下がっているとは言え、巨砲の一撃は無視出来るものではなかった。

 水柱が幾つも立ち昇った。深海棲艦への命中は無い。しかしこの砲撃が深海棲艦に大きな隙を生じさせる事となった。そして皐月はその隙を逃すつもりはない。

 重巡リ級が気付いた時には、彼女は既に手の届く距離まで迫っていた。慌てて砲を向ける重巡リ級。しかしそれは手おくれだった。

 

「沈んじゃえ!」

 

 回避も出来ない距離からの魚雷の斉射。それを耐えきる防御力は重巡には備わっていなかった。爆発により重巡リ級の身体が吹き飛ばされた。

 

――!

 

 戦艦ル級はその光景を目にした瞬間、金剛に向けて突撃した。駆逐艦艦娘は今の攻撃で魚雷を使い切った。次発装填装置があったとしても再装填まで時間は掛かる。つまり一時的ではあるが脅威ではなくなったのだ。そして戦艦金剛の防御は対35.6cm。16インチ砲を持つ戦艦ル級なら致命打を与えられる。戦艦ル級は僚艦を沈められた怒りを湛えつつも、ベストを尽くさんと行動したのだ。

 彼女の行動は賭けではあるが、十分に勝算があるものだった。しかし戦艦ル級はこの場にいないある存在を忘れていた。

 

《こちら第7地対艦ミサイル連隊。再装填を完了した。これより援護攻撃を開始する》

 

 戦場に横須賀に詰めている陸上自衛隊の部隊からの無線が響いた。同時に多数のミサイルが飛来しこの海域に存在する深海棲艦に降り注ぐ。

 何発かのミサイルが突撃する戦艦ル級に命中する。戦艦の装甲故にダメージは殆どない。だが怯ませるには十分だった。

 

「Target in sight! Fire!」

 

 間を入れずに金剛が全主砲が放たれ、4発が突撃していた敵に命中した。それは小破した戦艦を撃破するには十分な威力であった。

これで厄介な戦力は撃滅できた。後は残敵の掃討となる。

 

『敵戦艦の撃破を確認した! 急いで龍驤の援護を――』

「あー、終わってるからええよ?」

 

 秋山の言葉は遮られた。見れば龍驤が合流しようと向かってきていた。

 

「ミサイルが上手く当たったみたいや。気付いたら戦艦も駆逐艦も撃沈しとった」

『龍驤、損傷は?』

「無傷だったら良かったんやけど、駆逐艦から少し貰ってもうた」

 

 よく見れば龍驤の身体には砲撃を受けた跡が見えた。とはいえこの程度であれば小破判定未満。戦闘には問題は無かった。それを確認した秋山は小さく頷いた。

 

『これより戦艦棲姫を追うぞ。先頭は――』

「ウチやな。任せとき」

 

 こうして秋山たちは戦艦棲姫に追いつくべく行動を開始した。

 

 

 

「叢雲ちゃん、司令官たちがこっちに来るって!」

「そう。なら何としてでもあれを止めないとね!」

 

 白雪の言葉に答えながら、叢雲は戦艦棲姫に向けて連装砲を撃ち込んだ。数発が命中するが敵は全く堪えた様子はない。

 

「当たれ!」

 

 主砲が駄目なら魚雷と言わんばかりに、朝潮が波状攻撃で魚雷を斉射する。命中を重視して放射状に放たれた魚雷が戦艦棲姫に襲い掛かる。

 

――無駄だ。

 

 そんな呟きと共に、その巨体からは考えられない程の運動性を見せ、戦艦棲姫は次々と魚雷を回避して見せた。

 戦艦棲姫の足止めの役目を負っている叢雲、白雪、朝潮の3人。彼女たちは敵の能力が高いとは言え足止め位なら出来ると考えていたのだが、その見通しはかなり甘かった。戦艦とは思えない程の速度に運動性、それにも関わらず駆逐艦の主砲程度ではダメージを与えられない程の防御力があり、そして耐久力も高い。そんな戦艦棲姫の力に3人は圧倒され、進行速度を緩めるのが精一杯であった。

 

「少しは堪えなさいよ!」

 

 これまで幾度となく攻撃を加えたにも関わらず、全く動きが衰えた様子の無い戦艦棲姫に叢雲は思わず悪態を吐く。苦戦しているとは言え彼女たちもやられっ放しではない。主砲はかなり撃ち込んでいるし、魚雷だって2発命させているのだ。しかし通常タイプとは比べ物にならない程の耐久力の前には、そのような攻撃など些細なものであった。

 

《本土への砲撃可能地点まであと20㎞を切りました!》

 

 横須賀のオペレーターの悲鳴が響く。このままのペースで行けば秋山たちが追いつく前に戦艦棲姫が対地攻撃を始めるのが先にとなるだろう。それは作戦の失敗を意味していた。

 このまま闇雲に攻撃してもどうにもならない。その考えに至り、叢雲は即座に決意した。

 

「白雪、朝潮、援護して! アイツに一泡吹かせるわ!」

「叢雲!? 自棄にならないで!」

「このままじゃ司令官が間に合わないでしょ! ――秋山艦隊叢雲より第8地対艦ミサイル連隊! 戦艦棲姫に対し支援攻撃を要請する!」

 

 朝潮の制止を振り切り、戦艦棲姫に突貫する叢雲。同時に房総半島の方向からミサイルが飛来するのが見える。

 

「ああもう!」

「やろう、朝潮ちゃん!」

 

 白雪、朝潮は動き始めた状況を前に、叢雲の策に乗るのが最善と判断し砲撃を始めた。

 叢雲の突撃に気付いた戦艦棲姫が彼女に砲を向ける。だが次の瞬間、ミサイルが着弾。轟音と共に辺りを炎が包んだ。そこへ白雪と朝潮の砲撃が加わり戦艦棲姫の照準を狂わせる。

 構わず発砲する戦艦棲姫ではあるが、碌に狙いも定めていない砲撃など叢雲にとっては脅威ではなかった。叢雲はそのまま一気に彼女の得意とする距離、近接戦闘が可能な位置まで踏み込んだ。

 

「はぁ!」

 

 全体重を乗せ突き出される槍が金属同士がぶつかり合う音と共に、戦艦棲姫の身体を捉える。しかし穂先は戦艦棲姫の装甲壁を貫けていない。叢雲の渾身の一撃は戦艦棲姫の防御力、耐久力を上回る事が出来なかった。だが、

 

「でしょうね! 食らいなさい!」

 

 それは彼女にとっても想定の範囲内だった。だからこそ本命をこの回避不可能なほどの近距離で撃ち込むのだ。全ての魚雷発射管を前方に向け斉射する。

 大爆発と轟音が辺りに響き渡る。

同時にこれまで歩みを止める事の無かった戦艦棲姫が初めて大きく態勢を崩した。

 その様子を確認し離脱しようとする叢雲。だがそれを戦艦棲姫は許すつもりは無かった。

 

――沈みなさい!

 

 砲撃、ではなく彼女の巨人型の艤装の剛腕が叢雲に振るわれた。叢雲はとっさに槍を盾にするが容易くへし折られ、拳が彼女の身体にめり込んだ。

 悲鳴を上げる暇もなく吹き飛ばされる叢雲。

 

「叢雲ちゃん!」

 

 ミサイルによる援護攻撃が続いているお蔭か、戦艦棲姫による追撃は無い。白雪はその隙に海面に倒れている叢雲を抱え、距離を取る。

 

「ゴメン、やられたわ……」

 

 叢雲の艤装は一応は動くものの大破している上に、彼女自身も負傷している。戦闘は不可能であった。

 

「叢雲ちゃん、撤退して!」

「でも二人だけじゃ――」

「無茶しないで! 行こう朝潮ちゃん!」

「ええ!」

 

 叢雲を下げさせ、白雪と朝潮は飛び出した。今の叢雲の攻撃により戦艦棲姫の速度は目に見えて低下している。ここで上手く追撃できれば更に敵の足回りを完全に破壊できる可能性があった。かく乱するように動き回り敵の狙いを定めさせない。

 

「当たって!」

「行けぇ!」

 

 二人同時に二方向から魚雷を発射する。回避行動を取る戦艦棲姫だが、その動きは先程の様な高い運動性は見られない。2本が命中し水柱が立ち昇る。

 

――邪魔だ!

 

 お返しと言わんばかりに主砲を白雪に、副砲を朝潮に向ける戦艦棲姫。次の瞬間、援護攻撃による目くらましを、慌てて回避行動を取る二人を嘲笑うかのように、砲撃が駆逐艦艦娘二人に襲い掛かった。

 

「くっ! ――っ白雪!?」

 

 12.5インチ弾の至近弾を受け中破する朝潮。だがそれよりも深刻なのは白雪だ。主砲の直撃を受け大破しており、更には気を失っている。この状況では追撃され、轟沈しかねない。

 

《こちら第8地対艦ミサイル連隊。残弾ゼロだ。再装填を開始する》

 

 更に援護攻撃をしていた地対艦ミサイルが途切れた。目くらましがなくなり、戦艦棲姫の視界が開ける。

 

「私が白雪を助けるわ! 援護して!」

「ええ!」

 

 咄嗟に生き残っている連装砲を連射し、敵の気を逸らす。戦艦棲姫の視線が朝潮に向いた。その間に艤装を無理矢理動かした叢雲が、素早く白雪を担ぎ上げ離脱していく。

 ひとまずは白雪の轟沈は遠ざかった。だが今度は囮となっている朝潮は危険な状況に置かれる。戦艦棲姫の主砲、副砲が全て一人の駆逐艦艦娘に向けられようとしていた。艤装が損傷しており思ったようなスピードが出ない状況では、斉射されれば大破は確実だ。

 朝潮に照準が合わさる。そして――

 

 戦艦棲姫の周りを水柱が立ち昇った。

 

 砲撃による水柱。朝潮はそれが横須賀の方角から飛んできた事に気付いた。見れば彼方から複数の艦娘がこちらに向けて航行していた。同時に無線から若い女性の声が飛び込んで来る。

 

『こちら横井艦隊! これより参戦します!』

 

軽巡2、駆逐艦4の水雷戦隊が急接近して来る。それに気付いた戦艦棲姫は注意をそちらに向けた。

 

「良かった……」

 

 朝潮は安堵のため息を吐いた。横井艦隊の出現による影響は、自信の危機が去っただけではない。破城しかかっていた包囲作戦を立て直すことが出来たのだ。

 中破した自分では戦闘の邪魔になりかねないため、後退しようとする朝潮。だがその時、彼女は突撃して来る艦隊に違和感を覚えた。

 

「……陣形が乱れている?」

 

 単縦陣で進む水雷戦隊だが、敵から砲撃を受けていないにも関わらず陣形に乱れが生じているのだ。これはあり得ない光景だった。陣形をとって航行するのは必須事項であるし、陣形の構築はまだ艦娘としての身体に慣れていない者でも少し訓練すれば出来るような事なのだ。そんな基本が出来ないという事はつまり――

 

「建造されたばかりの艦娘なの!?」

 

 朝潮の予測は当たっていた。横井提督が率いる艦隊は戦艦棲姫艦隊の迎撃のために、今日建造されたばかりの艦娘を掻き集めて急遽編成された艦隊だった。練度等無いに等しいし、連携も不十分である。まともにぶつかったところで易々と撃破されるのは目に見えている。

 彼女らを率いる横井もそれは分かっていた。だからこそそんな彼女たちでも出来る事を行おうとしていた。

 

『全艦面舵! 敵に対してT字を取った後、魚雷戦を開始します!』

 

 戦艦棲姫に砲撃され被害を受けつつ、敵に対して壁になる様にポジショニングする横井艦隊。その位置は魚雷の射程ギリギリである。

 遠距離からの一斉雷撃。これが練度の足りない彼女たちが導き出した戦法だった。

 

『撃て!』

 

 横井の号令と共に一斉に雷撃が行われた。戦艦棲姫に向かって魚雷が殺到する。しかし低い練度故に狙いは甘い。これまでの戦闘による損傷で動きが鈍った戦艦棲姫であっても、回避する事は十分可能であった。

 戦艦棲姫は次々と魚雷を躱していく。そして最後の1本を避けようとしたその時――

 

 ミサイルが命中し、爆炎が戦艦棲姫の視界を塞いだ。

 

 思わぬ攻撃に気を逸らされた戦艦棲姫は、一瞬だけであったが迫ってきているモノから注意を逸らしてしてしまう。そしてそれは十分な隙であった。

 戦艦棲姫の足元から水柱が立ち昇る。それは魚雷が命中した証拠だった。

 その光景に歓声を上げる横井艦隊の艦娘たち。横井も同じく歓声を上げていたが同時に疑問があった。

 地対艦ミサイル連隊は現在装填中。ミサイル艇のミサイルは打ち切っており、航空機は海域に向かっている真っ最中。自衛隊では援護攻撃が出来る状況ではなかった。

ではあのミサイルは何処から来たのか? 頭を傾げる彼女に、攻撃の主からの無線が飛んだ。

 

《こちら在日米軍所属駆逐艦「デューイ」。現在、横須賀より退避中に深海棲艦と遭遇。これより当艦は自衛戦闘を開始する》

 

 横須賀にいるアメリカ艦艇の中でも唯一戦力として数えられている駆逐艦「デューイ」が戦場に躍り出た。横須賀から西に離れるように航行しつつも、戦艦棲姫に対艦ミサイルを放ち、艦娘たちの援護を行う。

 

 国防長官の命令の下、戦艦棲姫の攻撃範囲内の戦力を避難させる事となった在日米軍だったのだが、一つの問題が生じていた。横須賀に停泊中の駆逐艦を退避させる場合、どうしても戦艦棲姫の射程圏内を航行する必要があったのだ。

そのため乗員の安全のために艦の放棄が提案されたのだが、それに異を唱えたのが「デューイ」の艦長だった。

 

「戦力保全のためにも、自衛戦闘を行ってでも艦の退避は必要である」

 

 彼の主張には暗に「ここで在日米軍が深海棲艦と戦ったという事実が無ければ、軍全体の士気に関わる」と言う意見が含まれていた。本国の言い分も分かるが、「友軍を見捨てた」という事実は軍人にとっては重い。政府の命令に素直に従った場合、士気に影響が出るのは間違いなかった。

 「デューイ」艦長の意見に、在日米軍司令部では多くの者が賛成に周り、ベーカー在日米軍司令官も「飽くまで最小限の自衛戦闘に留める」と言う制限の下、横須賀からの駆逐艦の退避を許可されていたのだ。

 

そして援軍はそれだけではなかった。戦艦棲姫にミサイルが叩き込まれている中、房総半島の東の空からそれ現れた。

 青い塗装の飛行艇だ。艦娘が出現して以降、艦娘たちの足として利用されるようになったUS-2である。飛行艇から周囲に無線が響き渡る。

 

《こちらPelican-3。これより着水する》

 

日も沈んでおり、しかもいつ戦艦棲姫の砲弾が飛んでくるかもわからない戦場という悪条件。そんな中でもためらった様子もなく高度を下げ、US-2は見事に着水した。

完全に停止すると同時にハッチが開き、艦娘たちが次々と飛び出してくる。その艦娘たちは、この戦場にいる一部の者たちにとって見覚えのある人物だった。

 

「第2艦隊、これより参戦するわ!」

 

 秋山配下の艦娘であり、水雷戦隊旗艦である五十鈴は高らかに宣言した。

 




水雷戦隊合流判定:1d2 1:成功、2:失敗
判定:1 合流に成功しました。これより囲んで棒で叩きます。


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海を征く者たち29話 房総半島沖海戦後編

海域は現在、5-2まで攻略完了。やっぱりゲージが付いてくると攻略スピードが落ちますね。


 戦艦棲姫は目の前に現れた艦娘による水雷戦隊を相手に苦戦していた。

 

――どきなさい!

 

 彼女はイラつきを覚えつつも、派手に攻撃して来る艦娘に向かって砲を向ける。戦艦の主砲だ。駆逐艦など一撃で大破させることが出来る。

 だが次の瞬間には、チャンスと見た他の艦娘が攻撃を仕掛けて来た。多方向から砲撃が飛んでくる。主砲だけならそこまで問題ない。だが彼女は油断せず次に来る攻撃を警戒する。

 海中を走る航跡が見えた。暗闇の為見えにくいが魚雷だ。

 軽巡や駆逐艦の砲ならともかく、魚雷は損傷している戦艦棲姫にとって無視できる存在ではない。

 一瞬迷った末に戦艦棲姫が取った行動は、回避行動を取りつつ砲撃だった。

 魚雷が彼女の脇を通り抜ける。回避は成功。しかし攻撃した先の駆逐艦は、至近弾による若干の損傷程度だった。

 

 この様なやり取りが、飛行艇から水雷戦隊が現れて以来、続いていた。

 主砲、副砲だけでなく対空火器まで使用して艦娘を叩こうとするものの、攻撃の手数は相手の方が圧倒的に上である。

 もしも戦艦棲姫がベストの状態で水雷戦隊と対峙していたのなら、手数の差をものともせずに艦娘たちを撃破出来たのだが、これまでの戦いで中破まで損傷している彼女にとって、練度のある水雷戦隊の相手をする事は難しかった。

 

――このままじゃ沈むわね。

 

 その様な考えが戦艦棲姫の頭によぎる。しかし戦艦棲姫はそれに構わず戦闘を続けていた。

 撤退をしようにもこの海域は敵本拠地の目の前だ。安全圏までは距離があり、追撃によって沈む可能性は高い。どのみち沈むのならばと、戦艦棲姫は少しでも敵にダメージを与えられる選択肢を選んだ。

 既に陸地には砲撃が出来る距離には進むことが出来ていた。とは言え適当な所に撃っても意味はない。また陸地に攻撃できる回数も限られたものとなるだろう。限られたチャンスを有効に使わなければならない。

 

 敵の首都とされる土地。本来の目的地であり最善ではあるが、この位置からでは遠い。砲撃可能な場所に辿り着くまでに沈む可能性がある。

 敵の首都の近くにある艦娘の拠点。この位置でも上手く行けば届くが、確実に撃ち込むにはもう少し近づく必要がある。損害を与えれば十分な打撃となる。本命。

 人間によるミサイル発射位置。本命よりも更に近い上に撃破も容易ではあるが、敵への損害と言う点では弱い。次善。

 

 戦闘に集中しつつも、半ば無意識に目標の選定を行う戦艦棲姫。どこを狙うにしろ、移動は必要であった。損傷により落ちた速度を、機関を限界まで回す事により取り戻そうとした。その時、

 

 後方に幾本もの巨大な水柱が立ち昇った。

 

 水柱の大きさ的に16インチ以上の巨砲によるものだ。彼女はその砲に覚えがあった。

 戦艦棲姫はチラリと後方に目を向ける。そこには随伴艦が相手にしていた艦娘たちが迫って来るのが確認できた。

 

 

 

『命中弾無し』

「思ったより照準がおかしくなってるみたいネ」

 

 砲塔が1基なくなっている艤装に目を向けつつ金剛は顔を歪めた。いつもであれば敵に命中弾を出せる距離で攻撃に失敗した事に、彼女は若干のイラつきを覚えていた。

 

『確実に命中弾を出すにはどの位近づいた方が良い?』

「……少なくとも小口径砲と同じ位ネ」

『あー……、リスクが高いな』

 

 既に戦艦棲姫は中破しているとは言え、主砲も副砲も健在なのだ。下手に飛び込めば火傷では済まなかった。とは言え金剛はともかく、状況は秋山たちに有利だった。

 

『まあ、第二艦隊だけじゃなくて、横須賀に残ってた艦娘もいるんだ。無理をする必要はないな』

 

 戦況は当初、秋山が想定していたよりもずっと好転していた。当初敵の足止めして戦っていた3人は大きな損害を受けてしまい、朝潮を除いて戦闘不能であるが、代わりに第二艦隊が戦闘に間に合ったため、1対6の数の暴力で戦艦棲姫に着実にダメージを与えている。更に練度が低いものの横須賀鎮守府に残っていた艦娘も出てきているのだ。これならば秋山たちは援護射撃に徹するだけで十分だった。

 そう戦況分析し、安全策を採ろうとする秋山。だが、それに待ったを掛ける者があった。

 

《現在の戦闘海域では戦艦棲姫による対地攻撃の危険性があります。速やかに敵を排除して下さい》

 

 横須賀基地のオペレーターの焦った様な声が無線に響いた。最悪の想定であった東京湾への突入は確実に防げるものの、戦艦棲姫は既に陸地への砲撃可能範囲まで侵入しているのだ。仮に対地攻撃をされた場合、住民に死傷者が出る可能性もあるし、仮に死者が出なくとも確実に経済的な損失が発生する。横須賀地方隊としてはそれはどうにか避けたいという事情があった。

 

「テートク……」

『楽は出来ないか……。仕方ない、予定通りやるぞ』

 

 ため息を吐きつつ、当初の予定――金剛を主体とした戦艦棲姫撃破案に作戦を切り替える。最も命中率の関係でかなり接近しなければならないため、ある策を用いる事になるのだが。

 

「ほな行くで」

 

 作戦の要となる龍驤が先頭に立った。

 

『……本当にいいのか?』

「問題あらへんよ。そもそもこれはウチが提案したことやで?」

『……』

 

 その様な事を言われてしまうと、秋山としては何も言えなかった。

 

『……龍驤、金剛、皐月の並びで単縦陣。そのまま戦艦棲姫に突入するぞ』

「了解!」

 

 秋山の号令と共に、戦闘が繰り広げられている海域に3人が突っ込んでいく。

 

――!

 

 初撃以降、目立った攻撃をしてこなかった3人からなる艦娘艦隊が急接近して来ることに気付き、戦艦棲姫は砲を全て後方に向ける。金剛の持つ46cm砲は中破している戦艦棲姫にとって轟沈の可能性の高い代物だ。最優先で撃破する必要があるのだ。

 

――撃て!

 

 水雷戦隊の攻撃を受けつつも、戦艦棲姫は生き残っている火力を全て金剛に向けて放つ。狙いは若干甘いものの、それでも現在の金剛よりはずっと正確だ。

 

『応戦はしなくていい、回避優先だ!』

 

 取り舵に面舵、増速や減速、そして時にフェイントを駆使して金剛は砲撃を回避していき、みるみる内に距離を詰めていく。だがそれは敵の狙いが正確になる事も意味していた。

 戦艦棲姫の副砲が火を噴き、砲弾が金剛の進路を塞いだ。

 

「ッ!」

 

 一瞬だけ進路が固定される。だがそれだけで戦艦棲姫にとっては十分だった。ボクシングで言えば今の副砲は隙を作るためのジャブ。そのわずかな隙にストレートをたる主砲が放たれる。

 

「金剛さん、避けて! 直撃コースだよ!」

 

 皐月が悲鳴のような声を上げる。金剛も砲弾から逃れようとするも間に合わない。そんな彼女の前に、

 

「さー、お仕事お仕事!」

 

 その様な声と共に、龍驤が躍り出た。

 轟音が響き渡る。

 金剛に命中するはずだった砲弾をその身体で受け切り、龍驤の身体は吹き飛ばされた。

 

『龍驤!』

「……あー痛。大丈夫や、生きとる。作戦成功やな」

 

 水面に仰向けに倒れつつも、龍驤は秋山に生存を報告する。

 

 戦艦棲姫艦隊と会敵する前、秋山は龍驤を後方に下がらせようとしていた。接敵が予測される時間は空母が航空機を発艦できない夜間であるし、そもそも砲戦に空母を出すこと自体あり得ないためだ。

 だがそれに龍驤は反対した。唯でさえ劣勢なのだ、少しでも頭数を揃えておいた方が良い。また同時に秋山に対して提案もしていた。

 

「今回の戦闘では金剛が要や。やられそうになったらウチが守ったる」

 

 オーバーキルな大火力であっても1度は艦娘を轟沈せずに守り通せる装甲壁の特性を利用し、自身で金剛を庇う事を進言したのだ。

 この提案に秋山は反対したものの、龍驤の粘り強い説得の末、最終的に了承していた。

 

 龍驤の決死の行動。それにより戦艦棲姫の主砲、副砲が同時に次弾装填のために使用不能となる事を意味している。

 

「チャンスだよ!」

「行くネ!」

 

 その隙を逃すつもりはない。

 

――っ!

 

 戦艦棲姫から放たれる対空火器による弾幕が金剛を襲うが、彼女は回避しない。金剛と皐月は最短ルートで戦艦棲姫との距離を詰めていく。そしてその時は来た。

 

「Target in sight!」

 

 必中の距離まで踏み込んだ金剛が、戦艦棲姫に砲を向ける。しかし金剛が接近までに時間をかなり使っていた。

 

『前回の発射から20秒経過した! 主砲が来るぞ!』

 

 戦艦棲姫も艤装の16インチ砲を金剛に向けていた。一瞬の間。そして、

 

「Fire!」

――沈め!

 

 金剛と戦艦棲姫が同時に主砲を発射した。

 金剛は回避を考えず主砲を発射したため、6発の16インチ砲弾が直撃する。

 

「ああっ!」

『うおっ!』

 

 砲弾の衝撃により金剛の身体が弾き飛ばされ、悲鳴と共に海面を数回転がった所で、ようやく停止する。

 

「戦艦棲姫はどうネ……」

 

 今の攻撃を受けた事により大破状態だった。機関は損傷、砲身も歪んでおり戦闘は不可能である。金剛は痛む身体を推して立ち上がり、渾身の一撃を叩きこんだ相手を確認する。

 そこにはボロボロになった戦艦棲姫の姿があった。身体の至る所が傷つき、艤装の砲塔も1基が抉り取られている。だが――

 

――ああああっ!

 

 大破しており今にも沈むそうな状態にありながらも、戦艦棲姫の戦意は失われていなかった。彼女は生き残っている主砲を金剛に向ける。金剛は大破しており装甲壁の機能は殆ど失われている。直撃すれば金剛は乗艦している秋山と共に水底に沈むことになる。

 

『……皐月』

「させないよ!」

 

 後詰の役割を担っている皐月が、金剛の前に立ちふさがると同時に魚雷を放った。そして攻撃はそれだけではない。

 

「全艦、一斉雷撃用意! 撃て!」

 

 秋山配下の水雷戦隊による統制された雷撃も加わり、結果全方位から戦艦棲姫に魚雷が叩き込まれていく。

 轟音と共に次々と立ち昇る水柱。

 幾度目かの水柱が上がった時、ついに戦艦棲姫が膝をついた。同時にゆっくりとその身体を水面に沈めていくが見える。

 倒した。

そう誰もが確信したその時、それは起こった。

 それまで金剛に向けられていた巨人型艤装に施されている2番砲塔が旋回を始めた。ぎこちない動きではあるものの、ある方角に向けられた砲塔は角度を調節される。そして戦艦棲姫が事切れる直前――

 

 まるで最後の意地を見せるかのように、主砲が発射された。

 




戦艦棲姫ラストシューティング判定:1~50は房総半島の地対艦ミサイル連隊、51~90は横須賀鎮守府。91~はまさかの東京。
判定:54 横須賀鎮守府に被害が発生しました。
被害は次回に判定します。


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海を征く者たち30話 海戦の後始末

後始末回、その1


 戦艦棲姫の襲撃から2日が経過したある日の午後、秋山は自衛隊御用達の病院の個室でベッドの住人と化していた。

 

「しっかし、アンタも頑丈よね」

 

 秋山の見舞いに来ていた叢雲が、持ってきたリンゴを剥きつつ、呆れたように口を開いた。

 

「頑丈だったらこんな所に居ないぞ?」

 

 秋山は肩を竦める。彼の左腕と右足は頑丈なギブスで固定されており、負傷の度合いが見て取れた。

 艦娘に乗艦している提督には、乗艦時は提督を保護する機能がある。そのため艦娘が極端な挙動や被弾時の衝撃や揺れはかなり軽減され、中にいる提督が負傷する恐れは殆どない。

 但しこの機能は飽くまでも「かなり」の範囲に留まる代物であり、「完全」ではない。そのため艦娘にある一定以上の動きがあれば、軽減されなかった分が提督に襲い掛かる。今回の秋山の負傷もそれが原因だった。

 

「あら。吹き飛ばされた金剛さんに乗艦していたにも関わらず、その程度の怪我で済んだのは頑丈とは言わないのかしら?」

「……とりあえず金剛の前でその話題はやめろよ? あいつ本気で凹んでたし」

 

 30ノットで直進していた所、砲撃を受けて真後ろに吹き飛ばされ、更に海面を2回転。いくら保護機能が優秀であっても、この一連の動きを軽減する事は出来なかった。中にいる秋山が死亡してもおかしくない様な衝撃だったのだが、それにも関わらず左腕と右足の骨折のみという奇跡的な軽傷で済んでいた。

 

「退院はいつなの?」

「1週間後だな。因みに完治までは1か月」

「骨折って、治るまで3か月位掛かるんじゃなかったかしら?」

「何でも同世代と比べても治りが異様に早いらしい」

「良かったじゃない――、ってどうしたのよ」

 

 渋い表情をする秋山に、叢雲は思わず訊ねた。

 

「治りが早い事が解ってから、明らかにここの医者じゃない人が頻繁に来るようになって……」

「えっ」

「どう考えても骨折とは関係なさそうな検査だったり、注射だったりをされるんだ」

「……」

 

 現在、人類は艦娘についての研究も行われているのだが、それに関連して提督と化した人間についても研究されていた。今回の秋山の入院で、これ幸いと研究員が大挙して押し寄せていたのだ。

 

「しかも病院を移らないかとか言ってくるし。明らかに地雷だろ」

「……さっさと退院した方が良いわよ」

 

 顔を引きつらせている秋山を前に、叢雲は努めて感情を表に出さずにそう言った。最もその内心は、

 

(実験動物扱いなんて、ふざけた事してくれるわね!)

 

 烈火の如く怒り狂っていた。少なくとも余程提督との仲が悪くなければ、今の叢雲の様な感情を抱くのは、艦娘にとって普通の事である。

 

(……妖精さんの護衛はつけるとして、後は情報共有ね。青葉さんに流しときましょ)

 

 叢雲が対抗策を練っている間にも、会話は続く。

 

「艦隊の方はどうなんだ?」

「高速修復材の使用許可がもらえたから、今はもう全員動けるわ。もっとも今は深海棲艦が殆ど出てこないし、開店休業ね」

「訓練とかは?」

「そもそも鎮守府の資源が吹き飛んだせいで、訓練どころか出撃なんて碌に出来ないわよ」

「そういえばそうだったな」

 

 戦艦棲姫が最後に放った一撃は、まるで彼女の意地を示すかの様に、正確に横須賀鎮守府を捉えた。そして日本の防衛に関わる者にとって最悪な事に、砲弾は寄りにもよって艦娘用燃料の貯蔵タンクに直撃、横須賀鎮守府は大火災に見舞われた。

 火の手は一時弾薬庫まで迫っており、文字通り鎮守府が吹き飛びかねない状況であったが、鎮守府に残っていた自衛隊員や妖精、更には消防隊の協力によりどうにか消火する事が出来たのだ。

 この砲撃により自衛隊員から多数の死傷者が出ただけでなく、鎮守府の再建、燃料不足による出撃制限など、様々な方面に影響を受けていた。

 

「そう言えば硫黄島の深海棲艦は、戦艦棲姫が見つかった時点で撤退を始めたって聞いたけど、本当なのか?」

「正確には龍驤さんの偵察機が戦艦棲姫を見つける直前よ」

 

 硫黄島の硫黄棲姫率いる深海棲艦たちは、戦艦棲姫艦隊の進軍から目を逸らすために沿岸部まで後退し、沿岸砲台と連携し徹底抗戦をしていた。その戦闘は激しく、3倍近くの数の差を相手に互角の戦いをしていたのだ。

 

「今回の戦艦棲姫の突撃は、硫黄島を囮にした計画性のある攻撃であるって意見もあるわ」

「精鋭を硫黄島で抑え込んで、その間に本命が東京湾に突撃? 無理があるんじゃないか?」

「まっ、飽くまでもこれは少数意見よ。硫黄棲姫が苦し紛れに突撃させたって意見が主流ね」

「その苦し紛れで姫級が特攻してくるとか、堪ったもんじゃないな」

 

 今回こそ被害は最小限に抑えられたものの、姫級が轟沈前提に計画的に突撃して来た場合、軍事・民間に問わず何かしら大きな被害が出る事は容易に想像がついた。だからこそ、以前から練られていたある計画が重要になって来る。

 

「今回の戦闘に関係して、『提督分散配備計画』を再審査するらしいわ。特に横須賀地方隊は1から練り直しみたい」

「まあ、危うく東京が火の海になる所だったし、しょうがないだろ」

 

 今回の戦艦棲姫の突撃を受けて、防衛省は事態を重く見ていた。より確実に警戒網の強化、そして早期迎撃を行うために、各地方隊に『提督分散配備計画』の見直しを命じていた。この急な命令に各地方隊は連日会議を繰り返していた。

 

「まあ、俺には関係ないけどな」

「私としては残念だけどね。はい、剥けたわよ」

「ありが――半分しかないんだけど……?」

「結構高かったし、私も食べたいのよ」

 

 その後二人は、リンゴを摘まみつつ面会時間終了まで雑談に興じていた。

 

 

 

 硫黄島での戦いは、深海棲艦が撤退した事によって日本の勝利に終わった。だが戦いが終わったからと言って全ての仕事が終わったわけではない。硫号作戦の本来の目的である硫黄島の占領という大仕事が残っているのだ。

 しかしその上陸作業は、中々進まないでいた。硫黄島はこれまで深海棲艦の拠点と化していた場所だ。敵にされた結果、その地がどのように作り替えられたのか、全く情報が無い。最悪の場合、放射能汚染の様に人間にとって害があるかもしれないのだ。そうでなくても、拠点放棄に伴いブービートラップを仕掛けられている可能性は十分にあった。

 上陸を担当する陸上自衛隊の部隊は、事前の取り決め通りドローンや艦娘の航空機による偵察や実験動物を投入するなど、慎重に調査しつつ検討。最終的にある程度安全が確認され部隊の上陸を決定したのは、戦闘終了から2日経ってからだった。

 

 こうして硫黄島に上陸する事になった自衛隊員たちだったが、上陸するのは彼らだけではなかった。陸戦での戦闘技能を持つ艦娘と随伴する事になっていたのだ。砲台小鬼のように陸上移動するタイプの深海棲艦が確認されている以上、艦娘はどうしても必要であったのだ。

 しかしこの上陸作戦においての数的主役は、陸戦のスペシャリストである陸上自衛隊員でも、深海棲艦を打ち倒す事の出来る艦娘でもない。

 

 大発動艇が硫黄島の上陸予定地点に着岸し、人の形をした何かが海岸に降り立った。旧日本陸軍の兵士の格好をした妖精だ。但し数は一人だけではない。次々と妖精たちが上陸し、内陸に進んでいく。

 その数およそ1500人。1個大隊に相当する数だ。そしてそれだけの妖精を呼び出したのは1人の艦娘だった。

 

「やっと出番であります!」

 

 黒の旧日本陸軍の軍服を模した衣装を身に纏った艦娘、強襲揚陸艦「あきつ丸」が妖精の後に続いて海岸に降り立った。そんな彼女からはやる気が満ち溢れている。

 

『張り切るのは構わんが、変なミスだけはするなよ?』

 

 あきつ丸に乗艦している寺尾提督は若干呆れつつも、油断なくレーダーに集中する。陸戦ではかなりの戦闘能力を持つあきつ丸ではあるが、強襲揚陸艦故に装甲はそこまである訳ではない。油断すればすぐに大破してしまうのだ。不意打ちだけは避けなければならなかった。

 

「大丈夫であります! 今回は陸戦でありますので、この前の様な失敗はあり得ないのであります!」

『まさかイ級に大破させられるとは思わなかった、――っと、先行している妖精から通信だ。砲台小鬼が出現、現在交戦中らしい』

「洞窟にでも隠れていたのでありますか?」

『いや、地面に潜っていたそうだ』

「中々面倒でありますな」

 

 肩を竦めつつもあきつ丸は怯んだ様子もなく、ずんずんと先に進んでいく。時折、妖精と砲台小鬼が交戦している様子が見られたが、事前に予想していたよりも交戦頻度はかなり低かった。

 

「敵は殆ど居ないでありますな」

『足止めにしては数が少ない。恐らく逃げ遅れた奴だ』

「まあ砲台小鬼なんて海を泳げそうにないでありますし、仕方ないでありますな。……おや?」

『どうした?』

「茂みに砲台小鬼がいるであります」

『何? って、うお!?』

 

 寺尾が茂みに目を向けた瞬間、あきつ丸は一気に砲台小鬼に駆け出した。砲台小鬼も自分が狙われている事に気付いたのか、慌てて砲をあきつ丸に向け、ドンっという轟音と共に砲撃する。

 

「狙いが甘いであります!」

 

 しかしあきつ丸は速度を落とさずに、紙一重で回避。そのまま相手の懐に飛び込むと、腰に下げていた軍刀に手を掛け――

 

「はっ!」

 

 砲台小鬼の首を狙い一閃。次の瞬間には敵の頭が宙を舞っていた。

 

「結構脆いであります」

 

 頭を無くし倒れる伏す砲台小鬼に呆れつつ、あきつ丸は軍刀を鞘に納めた。

 

『相変わらず陸戦だと強いな』

「陸軍所属は伊達ではないであります」

 

 戦場の片隅でその様な光景が繰り広げられつつも、硫黄島の占領は続いていった。

 その後も散発的な戦闘こそ生じたものの、敵は殆どお残っておらず、更にあきつ丸の呼び出した妖精が積極的に偵察や戦闘を行っていたため、占領は予想以上にスムーズに進んでいった。最終的にはたった1日で攻略部隊は硫黄島に残存する全ての敵の排除に成功。こうして深海棲艦に占拠されていた硫黄島を人類は取り戻したのだった。

 

 だが事はそれだけでは終わらなかった。

 

「……まあ、ちょっと考えれば分かることでありますな」

 

 硫黄島占領から翌日、硫黄島にある火山、摺鉢山のトンネル内にあきつ丸の姿はあった。彼女は目の前の光景に驚きつつも、どこか納得していた。

 

『深海棲艦も戦闘のためには資源が必要なのは分かっている。これがあるのは当然だな』

 

 昨日と変わらずあきつ丸に乗艦している寺尾は肩を竦めた。

 

「これを残してくれるなら開発設備も残しておいて欲しかったであります」

『まあ確実に重要機密だろうし、壊されるのは仕方ないだろ』

「で、ありますな。それで、これはどうするでありますか?」

『当然、本部に連絡だ』

 

 二人の目の前には、深海棲艦たちが使っていたであろう、資源の山が広がっていた。

 

 




全開の戦艦棲姫の砲撃で、どの位被害が出るかを1d100で判定。
判定:69。
……結構、吹き飛びましたね!

所で書いといて何ですけど、何時でも何処でもWW2装備の兵士1000人を展開出来て、更に兵士はリスポーン出来るとか怖くね?


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海を征く者たち31話 立場のある者たちの苦労

後始末回その2。久々のおっさん達のターン。

イベントが始まったけど何とか投稿ペースを維持するように頑張ります(´・ω・`)


 硫黄島攻略作戦『硫号作戦』の成功の知らせに、日本世論は歓喜に包まれた。これまで防戦一方の戦いが続いていた中で、深海棲艦の戦略爆撃機拠点を排除し、更に硫黄島という日本の領土を奪還したいのだ。これまでの鬱憤を晴らすかのように、日本中大騒ぎとなっていた。

 そしてこの作戦成功の報に喜んだのは日本国民だけではない。艦娘を保有する国の政治、軍事関係者も日本の自衛隊及び艦娘たちに称賛していた。『硫号作戦』は世界初の深海棲艦拠点攻略作戦であり、初の深海棲艦に占領された土地に人類が上陸した事例なのだ。赤色結界、防衛拠点にいた深海棲艦の旗艦、戦術、占拠された土地の状況等、各種データが日本からもたらされたのだ。

 特にこれらの情報に喜んだのはアメリカだ。パナマ奪還作戦を計画しているアメリカに取ってこれらの情報は貴重なモノだった。

 実質的に日米安全保障条約を一方的に破棄したにも同然の事をしたにも関わらず、日本からもたらされた貴重な情報を得た事に、事情を知る一部の人々は鼻白んだが、在日米軍に命令を出した者たちは己の行動に対して悪びれる事はない。

 

「永遠の友も永遠の敵もいない。あるのは永遠の国益だけだ」

 

 アメリカは安全保障や国家に対する信用等の様々な要素を吟味し、結果として外交的信用を投げ捨てて、戦力の確保に動いたのだ。国家を預かる彼らとしては国益を得られる選択肢を取る事は当然の事であった。

 

 

 

 そんな世界中から称賛されている自衛隊だが、その上層部は一連の戦闘の後始末に誰もが奔走していた。

 

「硫黄島の方はどうなっていますか?」

 

 10月のある日、今後の方針を確認するために、防衛省庁舎のある会議室で各部門のトップが集まり会議が開催されていた。

 

「現在、深海棲艦による硫黄島に対する攻撃は1度も行われていません」

「マリアナ諸島の深海棲艦が活発化していると聞いたが?」

「硫黄島占領後も動きはありますが、これは硫黄島奪還の為でなく防備を固めている為の物だそうです」

「攻められていたら危なかったですね」

 

 防衛大臣の坂田は小さくため息を吐いた。現在、硫黄島に駐留している硫号作戦部隊は陣容こそ強力ではあるが、艦娘用の各種資源が残り少ない状態であった。本来のであれば横須賀から補給が出される予定だったのだが、戦艦棲姫の攻撃により艦娘用資源が半ば消し飛んだ状態の横須賀から資源を出す事など出来るはずがない。現在は、他の地方隊から硫黄島に向けて緊急で補給隊を出す事にはなってはいるが、現地に届くまでもう少し時間が掛かる予定だった。

 

「硫黄島に深海棲艦が使っていた資源を鹵獲したんだろ? それは使えないのか?」

「だめだ、艦娘用に加工しなければ使えん」

「使うには本土に輸送しなければならないか……。因みに貯蔵量はどうなんだ?」

「それなりの量があるが、戦艦棲姫に破壊された量には届かん。資源の収支だけ見れば完全に赤字だな」

 

 硫黄島に残されていた資源の量は、硫黄島に駐留していた深海棲艦部隊に十分ではあったが、日本が使うには全く不足していた。会議室のあちらこちらからため息が漏れる。

 

「話題を変えよう。硫黄島部隊の損害は?」

「損害艦は多かったが、轟沈艦は少数。後は提督の戦死者は無しだ。損傷艦の方は全員修理が終わっており、いつでも戦闘は可能だそうだ」

「通常戦力の方はどうなっていますか?」

「元々損害は無かったのでいつでも動けるそうです。また上陸部隊もあきつ丸が展開した陸戦戦力があったため、死傷者はゼロとなっています」

 

 その報告に多くの者が顔を綻ばせる。硫黄島奪還という戦果に対して受けた損害は微々たるものなのだ。轟沈してしまった艦娘には悪いが、喜ばずにはいられないのが、この場にいる人間の共通の思いだった。但しこれには例外もある。

 

「しかし陸戦でも艦娘の力を借りなければならないとは……」

 

 陸上幕僚長の黒木は渋い顔で呟いた。深海棲艦が出現して以来、軍事予算は増えたものの、その予算の多くは海や空につぎ込まれているのだ。本土防衛ということで陸の予算も増えてはいるが、黒木としては全く足りないと感じていた。

 そんな所に降って湧いてきたのが硫黄島の上陸作戦だった。上陸作戦となれば今まで日の目を見なかった陸上自衛隊の出番となる。黒木は上陸作戦で存在意義をアピールし、予算獲得の口実を作るつもりであったのだ。

それを陸上自衛隊に協力的ではあるものの、艦娘によってアピールの場を奪われたのだ。あきつ丸を始めとした艦娘が協力してくれたからこそ、島の調査が予想以上にスムーズに終わったし、自衛隊員に死傷者が出なかったのは理解しているのだが、やはり陸上自衛隊の予算獲得を狙っていた黒木としては複雑な想いであった。

 

「……艦娘も万能ではありません。陸にはそちらの分野をお任せします」

「……解っております」

 

 坂田もフォローは入れつつ、議論を先に進める。

 

「横須賀はどうなっていますか?」

「まず艦娘基地ですが、16インチ砲弾が3発直撃したため、基地内の各施設に損害が見られています。特に砲弾が直撃した燃料タンクは全壊。そのため横須賀の艦娘基地では燃料不足に見舞われています」

「出撃は可能なのか?」

「燃費の良い駆逐艦を中心に出撃させているそうです」

「自衛隊や民間人に死傷者は?」

「死傷者は基地内に詰めていた自衛隊員に多数出ています。民間人に関しては事前に避難が完了していたため、死傷者はありません」

「民間人に被害が無いのは不幸中の幸いですね」

 

 坂田はその報告に胸を撫で下ろした。危うく東京湾に戦艦棲姫が侵入しそうになった事から、自衛隊は世論からバッシング受けている状況にある。硫黄島奪還の功績があるため、それなりに批判は抑えられているが、仮に民間に被害があれば激しい非難にさらされる羽目になっただろう。

 

「艦娘基地の再建はどうなっていますか?」

「横須賀の提督たちが妖精を呼び出して急ピッチで再建中。後数日で完了するそうです」

「横須賀で不足してる資源は?」

「他の地方隊から緊急で回すように手配しました。明日には主力艦クラスも出撃出来るでしょう」

 

 前田海上幕僚長の答えに、坂田は頷いた。現在、太平洋側の深海棲艦の動きは以前よりは鈍いとはいえ、防衛に手を抜いて良い訳ではない。防衛体制の再構築は急務だった。

 

「しかし硫黄島を占領したために、防衛計画を本格的に練り直さなければならなくなりましたな……」

「東南アジア進行計画もな」

「そちらもありましたな……」

 

 ため息を吐く前田に、会議室の誰もが渋い顔で頷いた。今回の硫号作戦の成功により、日本は硫黄島を奪還した。だがそれは日本の防衛範囲が拡大する事を意味するのだ。自衛隊の本音としては、維持に多大な労力を掛けることとなる硫黄島を放棄したい所だ。しかし国民の声、元深海棲艦拠点という貴重な情報源、人類で初めて敵に奪われた島を奪還したというブランド等、様々な要因で何としてでも硫黄島を維持しなければならなくなっていた。

 更に硫号作戦では様々な大規模海戦や上陸戦等、様々な戦訓を得られた。それらを東南アジア進行計画に活かすために、何度目かの改訂を行う必要があった。日本の一大作戦が終わっても、仕事は終わる事は無いのだ。そして彼らの仕事はそれだけではない。

 

「後は叙勲者の候補か」

「一大決戦だ。候補者は多いぞ」

 

 一連の戦闘で著しい戦果を挙げた者たちに対して、それを労うのも防衛省の仕事の一つなのだ。そして硫号作戦とそれに付随する戦闘では勲章を叙勲するに値する働きをした者は多い。

 とはいえ既に候補者は大まか決まっており、後は内閣府賞勲局に推薦するだけだ。しかし今回は大きな問題が発生していた。

 

「問題はその候補者の中に、色々とマズイ人間がいる事だ」

 

 関口統合幕僚長が大きなため息を吐きつつ、叙勲候補者が記載された書類をめくる。書類の最後には件の色々とマズイ人間――秋山の証明写真と詳細なプロフィールが記載されていた。

 

「戦果は文句なしですが、年齢が15歳ですか……」

「問題しかありませんな」

 

 倉崎航空幕僚長と、前田海上幕僚長は同じく書類を確認しつつ顔を顰めていた。

 各国同士の事前の取り決めで未成年者を軍で運用していたが、少年兵に関する国際法に違反している事には変わりない。今までは国家機密として民間にはその事を公表しなかったため問題なかった。

 しかし秋山が勲章を叙勲するとなると、国民に彼の事を公表する必要があるのだ。そうなると当然、自衛隊が未成年者を戦わせていた事が知られてしまう。そうなればこの場にいる人物たちの首が飛ぶだけでは収まらず、日本の現政権が吹き飛ぶのは確実だった。

 

「彼を候補者に選出しない事は出来ないのか?」

「確かに戦艦棲姫の艦隊を撃破出来たのは大きいが、同時に横須賀の艦娘基地が損壊したのはマズイ。これを理由に候補から外す事も出来るが……」

 

 会議室の人々の視線が、自然と提督としての能力を持つ坂田に集まる。

 

「はっきり言いますが、いくら援護があったとはいえ当時の秋山提督の戦力で戦艦棲姫艦隊を撃破出来た事は奇跡に近いです。普通ならば早々に返り討ちにあって、首都圏は火の海になっています」

「そこまでですか……」

「また我が国には未成年の提督はそれなりにいます。仮にこれだけの戦果を挙げたにも関わらず年齢を理由に候補の取り下げを行った場合、士気に悪影響が出るでしょう」

 

 いくら努力し、戦果を挙げた所で年齢を理由に全く評価されないとなれば、未成年の提督の士気は致命的に低下しかねないのだ。自衛隊としてはこれは避けなければならなかった。

 

「特別措置として叙勲だけして、本人の情報を公開しないのはどうです?」

「それはマズいだろ。下手に隠すと暴こうとするやつが出てくるぞ」

「年齢を偽装しては?」

「それもありだが、この顔を18歳以上とするのは難しいです」

「カバーストーリーを付けるのはどうだ?」

「それはどうやっても15歳が戦闘をしたという事実を公表する事になるぞ。世論的にも、国際社会的にも問題が生じかねん」

 

 こうして各々が頭を悩ませつつ、議論は続いていった。

 

 

 

 頭を悩ませているのは防衛省の上層部だけではない。急ピッチで再建している横須賀鎮守府の近く、横須賀基地でも突然降って湧いてきた仕事に四苦八苦している人々がいた。

 

「やはり現状の防衛計画では対応しきれません」

「やはりか」

 

 矢口参謀長の言葉に、佐久間横須賀地方総監は顔を顰めていた。

 硫黄島の奪還は様々な所に影響を与えているが、横須賀地方隊もその一つだった。何せこれまでは日本本土だけを考えておけば良かった所に、突然本土から約1000km離れた小島を維持しなければならなくなったのだ。この防衛範囲の急拡大によってこれまでの防衛計画が全く役に立たなくなってしまう。そしてこの防衛計画は防衛省が進めている「提督分散配備計画」にも直結していた。

 今は硫黄島に硫号作戦の部隊が駐留しているため何とかなっているが、彼の部隊もいつまでも硫黄島にいるわけではない。彼らが帰還するまでに早急に防衛計画と提督の配置を見直さなければならなかった。

 

「硫黄島に送る提督の選定は終わっているか?」

「既に決定しています。しかし場合によっては複数の提督を出す必要があるかもしれません」

「マズいな。そんなことになれば確実に手が足りなくなる」

 

 硫黄島は世界初の深海棲艦から奪還した土地だ。様々な要因のために再度敵に渡すわけにはいかなかった。当然防衛のために下手な戦力は置けない。陸自や空自の戦力が配備される事になっているが、当然海自からも提督と艦娘を配備する必要があった。但しその政治的重要性から最悪複数の提督を配備しなければならない可能性もあった。

 

「いえ、既に足りません」

「どういうことだ?」

「硫黄島までの補給路を維持しなければなりません。その関係で航路上の島々に戦力を配置する必要があります」

「護衛船団方式だけじゃ難しいか?」

「確実に補給物資を届けなければならない場合、護衛船団方式では不十分です」

 

 硫号作戦の結果、日本が確保できた島は硫黄島だけではない。硫黄島までの航路上には深海棲艦によりその数は減ってはいるものの、伊豆諸島や小笠原諸島で様々な島が残っていた。幸いなことに深海棲艦によって拠点化はされていなかったため、日本は大した労力を出さずに確保する事が出来たのだ。

 

「また航路近くの島を確保しておかなければ、深海棲艦により占拠される可能性もあります。そうなれば補給路は分断されます」

「……確かにそれはマズいな。だが提督が足りないぞ」

「場合によっては、未成年の提督も分散配備計画に組み込まなければなりません」

「それはそれで問題が出そうだ」

 

 佐久間にとってその提案は却下したい所ではあるが、状況がそれを許さなかった。既に政治的に問題がある未成年提督を遊ばせておく余裕などない。

 

「儘ならんな」

 

 横須賀地方隊を預かる総監はため息を吐いた。

 




いや、秋山君の報奨とかどうしましょうかね(;・ω・) 最悪、詳細は書かずにぼかす事は出来るけど……。


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海を征く者たち32話 ある北の国の選択

誤字報告、ありがとうございました。確認作業はしているのですが、やはり見落としが出てしまいますね。

現在、E-4まで攻略完了。今回の堀は結構きつそうですね。ゴトランド掘りは、E-5クリア後にネルソンを使っての掘りが有効?

9月25日に改訂しました。具体的にはロシアから戦艦が1隻消えました。


 日本の硫黄島奪還は世界に大きな衝撃を与えた。規模こそ中規模ではあるものの姫級が複数存在する強力な拠点を、艦娘の集中運用によって撃破、占領したのだ。対する日本の損害は少数の艦娘の轟沈。はっきり言って日本の大勝であった。

 日本により敵拠点攻略の際にも艦娘が有効である事が証明された。そして艦娘を保有するどの国も共通の考えを抱くようになる。

 

「我が国でも敵の拠点を攻略する事は出来るのか?」

 

 日本と言う先例が出たのだ。艦娘を有する国々がそう考えるのは当然の事であった。同時多発的に各国で分析される。そしてその多くの国々で、同じ結論が下される事となる。ヨーロッパに向けて資源を輸出し、その国際的地位を上げているロシアでもそれは同じだった。

 

「つまり不可能、と?」

 

 ロシア大統領府の会議室で、ノーヴァ大統領は手にした書類から目を離し、イワノフ国防相に視線を向ける。人によっては委縮しかねない眼光を持つ大統領の視線に国防相は動じる事無く報告を続けた。

 

「理論上は可能であります」

「ロシアの全ての提督と艦娘を投入し、更に空母を始めとした通常戦力も出す必要がある。実質的に不可能だ」

 

 ノーヴァため息を吐きつつ再び資料に目を落とす。攻略の対象として千島列島に居座っている3級拠点を想定して行われたシミュレーションが詳細に記載されている。様々な状況でシミュレーションが行われた様ではあるが、その多くが壊滅的な被害を受けて敗退。唯一の成功例がロシアの全戦力の投入で物だったが、占領したはいいが投入戦力に多大な被害が生じると結論付けられていた。ノーヴァは国を預かる者として、この被害は許容できるはずがなかった。

 

「なぜここまでの被害が出るのか説明してくれ」

「いくつか原因がありますが」

「構わん」

 

 ノーヴァの許可を得て、イワノフは一つ息を吐くと、この会議に出席している者たちに聞こえるよう、通るような声で説明を始めた。

 

「まず根本的な問題として、提督一人当たりが保有できる艦娘の上限がある事です」

「どういうことだ?」

「提督の呼び出せる艦娘は、提督が所属する国が第二次世界大戦中に保有していた軍艦であります。つまり上限が決まっている事と同義であります。この保有数の上限は南米で確認されております」

 

 提督の呼び出せる艦娘は提督が所属する国が第二次世界大戦中に保有していた軍艦。つまり上限が決まっている。そしてその当時のソ連海軍は規模が小さかった。そのため必然的に建造される艦娘も日本と比べて少なくなってしまうのだ。

 しかしその説明には疑問が残る。

 

「硫黄島奪還の際は提督一人当たりが連れていた艦娘は16人だ。それくらいならロシアの提督でも可能なはずだ」

 

 いくらソ連海軍が日本より小規模とはいえ、戦艦を複数保有できる程度の規模はある。数だけ見ればそれなりの規模にはなるはずだった。そんなノーヴァの問いかけに、イワノフは小さく頭を振った。

 

「ここからが本題となりますが、日本艦娘には対深海棲艦戦において重要な役割を果たす艦種があります。そしてそれは我が国の艦娘には存在しておりません」

 

 その言葉にノーヴァは国防相が何を示しているのかを直ぐに察した。

 

「空母か……」

「正確には艦娘用の航空機であります。残念ながら、我が国には未だに出現しておりません」

 

 戦場において制空権の確保が重要である事は常識だ。しかしロシアに現れた艦娘には、深海棲艦と制空権争いをする事の出来る者は誰一人としていなかった。それは余りにも致命傷とも言えた。

 

「通常兵器でフォロー出来ないのか?」

 

 現在のロシアでは深海棲艦の航空攻撃に対しては、主に空軍機による迎撃で対処しており、そしてそれは十分に戦果を挙げていた。この事を考えれば空母艦娘が無くとも、対応は出来るはずだった。

 

「それも可能でしょうが、問題は赤色結界内であります。結界内で海戦をする事となれば、敵の航空兵力に押しつぶされます」

 

 だが敵地への侵攻となれば、硫黄島で確認された赤色結界の特性がロシア空軍の神通力を防ぐ事となる。現状では通常兵器で赤色結界を突破する手段は無い。エアカバーの無い艦娘たちがどうなるかなど、火を見るよりも明らかであった。

 

「対空砲火を増やすのはどうだ?」

「第二次世界大戦時の対空砲は『撃墜』ではなく、『追い払う』ための物です。そこまで有効な物ではありません。また対空を重視し過ぎた場合、主敵である深海棲艦に対する攻撃力が低下しかねません」

「そう簡単に上手くはいかないか……」

 

 ため息を吐くノーヴァ。防衛戦では問題はあったものの代替策で対応して来たものが、攻勢を掛けるとなった時に一気に噴出したのだ。更にその問題は自分達ではどうにも出来ない。ため息の一つは吐きたくなるのは当然だった。

 そんな彼に更なる追い打ちがイワノフから飛んでくる。

 

「また航空兵力の問題と比べれば些細ではありますが、艦娘の武装についても不安が残ります」

「現状では不足かね?」

「敵の戦艦クラスは大概が16インチクラスであります。対する我が方の最大の戦艦砲は、ガングート級の30.5cm砲つまり12インチクラス。攻撃力の差は歴然としております。またその他装備についても海軍国と比べた場合、やはり劣る者があります」

 

 第二次世界大戦期のソ連の主戦場は陸上だ。当然の事ではあるが海軍戦力の拡充は後回しとなっていた。この判断は当時の戦況を考えれば極々当たり前の事である。だが、

 

(せめて形だけでも空母を持っていれば!)

 

 まさか70年以上たった現在でそのツケが回って来るとは誰も予測できるはずもないのは分かっていても、今現在苦しんでいる者にとっては当時の指導者を呪わずにはいられなかった。

 

「つまり我が国単独での拠点攻略は――」

「軍の見解としましては、敵拠点への攻勢は自殺行為であります」

 

 断言するイワノフに、会議室のあちらこちらからため息が漏れた。この場にいる者たちには、ロシアの艦娘に日本と同等の活躍を望む者も多い。それだけに落胆は大きかった。

 

「幸いな事に我が国は攻勢は難しいですが、防衛戦は可能であります。これまでの様に本土防衛ならば行えます」

「しかし太平洋側からの深海棲艦の攻勢で極東ロシアへの被害が続いています。何かしらの対策が必要でしょう」

 

 エネルギー相のハラモフの言葉も事実だった。ロシア本土の太平洋側は、深海棲艦による戦略爆撃だけでなく、空母による航空攻撃や砲艦による艦砲射撃が度々見舞われていた。軍部も迎撃は行っているのだが、その国土の広さから迎撃が間に合わない事もあった。そしてその深海棲艦はロシア領海内にいくつか存在する敵拠点から出撃している事が確認されていた。

 

「深海棲艦の拠点を何とかしなければ、これらの被害が止まる事は無いでしょう。深海棲艦の拠点の排除とは言いませんが、敵の拠点に打撃を与えて攻勢を弱める事は出来ないでしょうか」

「敵拠点への攻撃だけでしたら辛うじて出来なくもないでしょうが、やはりそれなりの損害を覚悟する必要があります。また深海棲艦の拠点修復速度は不明であるため、最悪の場合、『翌日には完全修復されている』というパターンすらあり得ます」

「つまり確実に攻勢を弱めるには深海棲艦の拠点を排除するしかない、と?」

「その通りであります」

「……」

 

 暫しの沈黙が会議室を支配する。もはやロシアでは現状を打破する事は出来ない。採れる選択肢はイワノフの言った通り、攻勢には出ずにひたすらに守りを固めるしかない。場の空気がイワノフ案で固まりかけたその時、それを良しとしない者が沈黙を破った。

 

「エネルギー相。確か資源の増産分の売却先はまだ決まっていないな?」

「はい。おっしゃる通り未定です」

 

 大統領の唐突な質問に疑問を感じつつも答えるハラモフ。その言葉にノーヴァは何かを決意したかのように大きく頷くと、今度はヴィシンスキー外務大臣に向き直った。

 

「外相、大使館に連絡を入れろ」

「どの国の大使館ですか?」

 

 ヴィシンスキーの返事に、ノーヴァは苦笑した。気がはやり過ぎていたため、言動が唐突になってしまったのだ。最も先に確認した資源の事と、これから告げる国の名前で、この場にいる者は大統領が何を考えているか直ぐに察するだろう。

 

「日本だ」

 

 

 

 10月15日。この日、防衛省や各地方隊の上層部が行ってきた様々な苦労が実を結ぶ時が来た。

提督分散配備計画、始動。提督とその配下の艦娘たちが日本各地に赴任され、その地域の防衛任務に就くこととなった。

 この計画は深海棲艦の侵攻に対する効率的な迎撃を主目的としている。デメリットとして戦力の分散となってしまうため一時的に迎撃戦力が低下する事が挙げられるが、来年予定されている『東南アジア進行作戦』の件もあるため、現地での艦娘の建造は許可されており、問題は時間経過と共に解決するとされていた。

 横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊。各地方隊に所属している提督と艦娘は、これまで過ごしてきた鎮守府から離れていく。ある者は新天地に期待に胸を膨らませ、ある者は未知の地に不安を抱いた。様々な想いと共に、各地に散っていく。そんな中、ある提督は――

 

「どうしてこうなった……」

 

 降り立ったとある島の桟橋で頭を抱えていた。

 

「そうねー」

 

 ある提督――秋山の初期艦である叢雲は秋山の座る車椅子を押しつつも、肩を竦めた。桟橋は長期間放置されていたためボコボコに荒れているが、彼女は未だに左腕と右足にギブスを付けている秋山に振動が来ないように上手く操作しつつ進んでいく。

 

「評価はされてるんじゃないの?」

「だからってこんな所に飛ばされるとは思わなかった……」

 

 秋山たちがいるのは、本土ではなく伊豆諸島のとある島であった。この島は元々は有人島だったのだが、深海棲艦が活発化し始めた頃に行われた離島住民の本土への強制移住によって放棄された島である。その様な経緯から島には荒れてはいるものの、未だに利用できる建物が幾つか存在している。

 

「そもそも18歳になるまでは横須賀にいる手筈だったはず……」

「結構苦しい事情があったらしいわよ?」

 

 未だに15歳である秋山は、当初の予定ではそのまま横須賀鎮守府にいる事となっていたが、硫黄島の奪還と彼の挙げた戦果がそれを阻む事となった。横須賀地方隊は硫黄島まで急激に拡大した防衛範囲に、四苦八苦していたのだ。幾ら未成年とは言え実力のある提督を横須賀で遊ばせておく余裕は全くなかった。

 その様な事情から秋山は横須賀以外に赴任する事となったのだが、ここでネックとなったのがやはり年齢だった。下手な所に赴任した場合、現地の住民によって提督の年齢がバレてしまう可能性がある。

その問題を回避する手段として用いられたのが、この離島への赴任なのだ。同時に他の提督よりも自由な裁量を与えており、秋山たちの戦力を十全に使っていこうという思惑もあった。

 

「なんで知っているんだ?」

「ツテがあるのよ」

 

 余談ではあるがこの辺りの事情は『艦娘通信』によって叢雲を始め、多くの艦娘たちの下に届けられていた。

 

「それはともかく、さっさと仮拠点に行くわよ。荷物も多いんだから」

「確か小学校の校舎だっけ? 鎮守府が出来るまでそこで暮らすことになるのか」

「先ずは掃除しないとね」

「まあ鎮守府が完成するまで1週間位だし、最低限で良いだろ。一緒に送られてきた物資は?」

「他の皆が仮拠点に持っていったわよ」

「そっか。……そう言えば食事はどうする? 家にはまだ間宮がいないぞ?」

「あっ」

 

 こうして若干の不安を孕みつつ、秋山の赴任先での初日が始まるのだった。

 




攻略と執筆の同時平行とか、かなり辛い(;・ω・)
最悪、ストックしてある番外編を出すはめになりそう。


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海を征く者たち番外編2 ある日の防衛省での講習会

感想で度々艦娘についての質問が来るので、現時点で人類側が知っている艦娘についての知識を出してみます。(飽くまで人類が知っている限りのため、実際の設定と違う可能性もあります)
後、前回の話で設定的にあり得ない項目があったため訂正しました。

イベントは何とか全ステージ甲クリア! なおドロップ……。新艦が全く出ない…(´;ω;`)


 今回講義させて頂きます、国立特殊敵対生物研究所所長の大場です。今回の講習会では現在自衛隊を始めとした世界各国で運用されている艦娘についての講義となっておりますが、一つ注意点がございます。

 艦娘は研究が始まったばかりの存在であり不明な部分も多く、これから講義する内容は飽くまでも現時点での研究結果となっております。そのため未確定な部分も多く、また後々の研究でこの場で語られる内容が間違っていた、という事もあり得ます。

 皆様にはこの事を十分に留意してい頂きたく思います。

 

○そもそも艦娘とは

 艦娘は第二次世界大戦前から戦中にかけて各国で保有していた艦船が人の身体を持って現れた者です。日本的には付喪神と考えて構いません。

 ええ、その反応は分かります。明らかに胡散臭いですよね。それは私も同意見です。しかし彼女たちの力は本物であるのですから認めざるを得ません。

 彼女たち曰く、艦娘とは深海棲艦に対するアンチユニットであるとの事です。事実、人類の操る兵器にある程度の耐性を持つ深海棲艦に対して、有効な攻撃を与える事が出来る事は艦娘の出現直後にイギリスで確認されています。

 そんな軍艦の化身である彼女たちですが、現れたのは艦隊に配備され、実際に運用された軍艦だけではない様です。

 良い例はドイツのグラーフ・ツェッペリンですね。実艦のグラーフ・ツェッペリンは竣工はされておらず、進水のみ行われています。そして1947年にソ連に渡っております。そんな彼女ですが、艦娘としてドイツで出現しており、そしてソ連には出現しておりません。他にも戦後賠償として他国に渡った艦の艦娘が、賠償先の国では出現していません。この事から艦娘として出現するのは「戦中まで」の軍艦とされています。

 

○出現状況

 経緯についてですが、「ある日突然」と言う言葉が当てはまります。

 2017年4月23日。各国の現地時間の正午に、提督となった者の前に突然現れました。この事に関しては我が国では現防衛大臣である坂田氏の事例が有名ですね。閣議中に艦娘が突如出現、現場は大混乱に陥ったそうです。最も坂田氏が提督となったお蔭で、日本の艦娘運用が他国と比べてスムーズになりましたので、日本にとっては幸運な事なのでしょう。

 

○艦娘の身体能力

 艦娘を観察する際は砲撃や雷撃、航空戦の方に目が行きがちですが、艤装を用いない素での身体能力もかなりの物です。筋力に脚力、スタミナや反射神経はどれも人間以上の数値を叩き出しています。艦種によって身体能力には差がある様で、基本的に大型艦になるほど主に筋力が向上しています。

 ……以前何度か、人間と艤装なしの艦娘の戦闘があったようですが、そのどれもが人間側の敗北に終わっています。駆逐艦であっても100㎏程の重量なら片手でも楽に持ち上げられる程度の身体能力はありますので、人間では素手では艦娘に勝つことは不可能とは言いませんが、かなり困難でしょう。

 また彼女たちの大よそは艤装に頼らない戦闘技能も習得しているようです。共通しているのは小銃や拳銃等、個人用銃器の射撃術や軍隊格闘が挙げられますが、一部の艦娘の中には剣術や槍術を習得している者もおります。

 次に知能の方ですが、知能指数は人間と同等であるとの結果が出ています。また記憶の方ですが、軍艦の付喪神らしく、実艦時代の事も覚えているとの事です。余談ですが、精神年齢は艦娘の見た目と同等であるとの結果も出ています。

 艦娘の性格ですが、建造当初の性格はその艦娘によってほぼ同じの様ですが、建造後の生活によって性格が変化していくようです。例として駆逐艦「朝潮」を上げますが、建造当初はどれも真面目な性格をしていますが、後々に観察するとそのまま真面目のままのケース、めんどくさがりになっているケース、悪戯好きになっているケースが確認されています。

 

○戦闘能力

 彼女たちの目玉である艤装を装備しての戦闘能力ですが、艤装に改装がなされていない場合は基本的に実艦時代の性能をそのまま発揮出来きます。皆様が疑問に思うであろう、あの艤装のサイズで実艦時代の攻撃力を発揮できる要因ですが、研究は続けられていますが未だに手がかりすら見つかっていない状況にあります。そこ、残念そうな顔をしないで下さい。

 艤装に備え付けられている火器ですが、換装が容易に出来る様です。具体例を上げますと、10分程度で吹雪型駆逐艦の主砲を秋月型の主砲である長10cm砲に換装出来ます。

 で、この換装の特徴ですが、実艦で考えた場合まず不可能な換装が行える点が挙げられます。良い例が先月末に起きました戦艦棲姫艦隊襲撃の際に迎撃に出た艦娘の一人に戦艦金剛ですね。彼女は艤装の2、3番砲塔が46cmに換装されており、戦艦棲姫へ有効打を与えていました。このように装備の換装によっては攻撃力が格段に上昇する様です。

 次に防御性能ですが、こちらも実艦と同等の物を持っていますが、彼女たちの身体自身で攻撃を受け止めるわけではありません。「装甲壁」と呼ばれるいわばバリアの様なモノが常時展開されており、それで攻撃を受けている様です。で、この装甲壁には一つ特徴がありまして、「明らかにオーバーキルな火力を受けても、一度だけなら殆どの防御機能と引き換えに使用者を守る」と言う機能を持っています。強引に現代兵器に例えるなら、強力な爆発反応装甲といった所でしょう。……そんね胡散臭そうな目で見ないで下さい。実際にあるのだから仕方ないじゃないですか。

 

○艤装自体の改造

 さて、艦娘の使用する艤装ですが性能を向上させることが出来ます。強化の方法は2種類。一つは「近代化改修」。これは他の艤装から取ってきたパーツを使い性能を上げる方法です。但し、これは飽くまで既存の艤装の強化であるため、どうしても強化には上限があります。

 そしてもう一つが「改造」です。一定の練度に達した艦娘が行える艤装の強化であり、資源を大量に使用するものの艤装事態を作り替える強化方法です。

 多くは改造前の上位互換の性能を有していますが、一部では艦種が変化する艦娘がいます。一例を上げますと、硫号作戦時に逆転の切っ掛けを作った潜水艦達ですね。一部の潜水艦は改造すると、なぜか「潜水空母」に艦種が変更される様です。原因ですか?現在調査中です。

 また、改造によって別の国籍の艦となったケースもあります。日本の駆逐艦「響」の改造後である「ベールヌイ」、ドイツ潜水艦の「U-511」の改造後である「呂500」が良い例ですね。原因?研究中です。

 

○艦娘の建造

 さてそんな強力な戦力を増やす方法ですが、専門の建造施設にて建造可能です。ん?「その施設を解析すれば艦娘について解るのではないか?」ええ、我々も直ぐにその考えに至り建造施設の解析に挑みました。結果は解析不可能。構造自体は乾ドッグに似ているだけの物であり、なぜあれで艦娘が建造できるのか全く理解できませんでした。提督曰く、建造は妖精が行っているとの事です。最もその妖精が見えるのは提督と艦娘のみであり、妖精を研究しようにも見えない、触れないのではどうしようもありませんでした。

 話を戻します。艦娘は建造施設で建造出来ますが、現時点では他国の艦娘を建造出来た事例は報告されていません。つまり建造出来る艦娘には上限があります。また別の国で艦娘の建造を行っても建造できるのは、その提督が元々住んでいた国の艦娘だけの様です。この事は上限の低い南米諸国で確認されています。

 ああ、上限に達しても建造自体は可能な様です。既にいる艦娘が建造される事となった場合は艤装のみが完成するとの事です。これは改造によって別の艦種となった艦娘のケースでも変わりません。

 因みに轟沈した艦娘を再建造する事は可能な様です。但し轟沈艦がそのまま返ってくるわけではないため、見た目は同じ別人となります。

 そうそう。装備の開発もそうですが、建造で出来る艦娘はランダムです。え?「どういうことだ?」。文字通り完成するまで誰が建造されるのかが解らないのです。何でも妖精の気まぐれだそうで……。ええ、提督の方もそういう物だと諦めています。

 

○艦娘への指揮

 艦娘の指揮は提督となった人物が執っていますが、実は提督以外の人間でも指揮する事自体は可能です。但し提督以外の人間での指揮の場合、艦娘の能力や士気が致命的なレベルにまで低下する事となります。妖精の件もありますので艦娘の指揮は提督に任せるのは一番ですね。

 

○提督とは

 艦娘の建造や指揮を採ることが出来る提督ですが、その多くは元々は一般人でした。4月23日の艦娘の出現と共に、その一般人は提督化しています。提督化の特徴ですが、身体の成長に身体能力の強化がありますが、最も重要なのは知識の入手です。提督化した際に艦娘の指揮に関する知識だけでなく、士官クラスの知識も有する事となりました。これのお蔭で、自衛隊に提督と艦娘を組み込む際に生じる混乱が最小限で済んだと言っても過言ではありません。

 また能力の一つとして、まるで実際の実艦に乗るかのように艦娘の中に入る事の出来る「乗艦」があります。この乗艦中は「通信機能の強化」、「レーダーやソナーの装備」「艦娘自体の能力の強化」がされます。

そして当然の事ですが、「提督の数を増やせないか?」と誰もが思うでしょう。提督化するための条件を探るために現在、日本勿論の事、世界各国で最優先事項として研究されています。

 ――ええ、皆さんも知っての通り、研究は難航しています。経歴や環境、血統を始め、様々な項目を調査しましたが、未だに提督化した人間の共通点は見つかっておりません。

 

○提督の死亡時

 増やす手段もなく貴重な人材である提督ですが、戦闘によって戦死するケースもあります。これは激しい戦闘があったアメリカや南米諸国で主に発生しました。

 さて、提督という貴重な人材の死亡は軍にとって大きなダメージとなりますが、話はそれだけでは終わらない事は解りました。

 死亡した提督の指揮下にあった艦娘ですが、3日以内に消滅が確認されました。ええ、消滅です。轟沈ではありません。

 ここまで言えば解るでしょう。提督の死亡は艦隊戦力の消滅と同義語なのです。下手をすれば1人の提督の死が軍事的に大きな穴を開ける可能性すらあります。

 ……この提督の死亡についてですが、国家にとって一つだけ救いがある項目があります。提督の死亡と同時に国内で別の人間が提督化する事が確認されました。言ってしまえばその国の提督の数は変動しないのです。時間はかかりますが、少なくとも戦力の立て直し可能な様です。

 




余談ですが、最後の項目は大概の国にとってデメリットしか無いけど、一国だけメリットになる国があります(火種を作っていくスタイル)


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海を征く者たち33話 ある島国の検討 世界の中心の華の……

イベントはとりあえず何とか堀まで完了しました。後は警戒陣さんが帰る前にEOをこなさなければ……

今回のダイス:84、93。
……あっ


 11月の始め、首相官邸に各省庁のトップが集結していた。会議室に集まった彼らは配布された資料に目を通し、誰もが渋い顔をしつつもどこか困惑していた。

 

「まさかロシアからこのような提案が来るとは……」

 

 真鍋首相は手にしていた資料を置きつつ、ため息を吐いた。事の起こりはロシアからの提案だった。

 

「我々には貴国との平和条約締結の準備がある」

 

 突然の表明に現地の日本大使館を始め外務省は大混乱に陥る事となるのだが、そんな事はお構いなしに、ロシアは平和条約締結のための条件を提示した。これに対し日本はその場での返答は保留。真鍋は緊急の閣僚級会議の開催を決定した。

 

「各種戦略資源の底が見えてきた所ですからこの提案は願ったり叶ったりですが、この提案は……」

 

 江口経済産業大臣は顔を顰めつつ、資料に目を通していく。そこにはロシア側からの平和条約締結のための条件が記載されている。

 

○北太平洋地域の深海棲艦に対する露日による共同防衛条約の締結。

○一部艦娘のロシアへの譲渡。

○日本に所属する提督の派遣。

○日本への石油資源を始めとした各種資源及び食料の格安での販売。

○北方四島は交渉次第により譲渡の用意あり。

 

 はっきり言って吹っ掛けにも程がある内容だった。外交を始め、交渉ごとにおいてこのような事は常套手段ではあるが、それでもこれは日本側に利が少なすぎた。

 

「北方四島の返還は日本の悲願ではあるが……」

「勘弁して下さい。今の日本にあの島を維持する余裕なんてない」

 

 岡本総務大臣の言葉に井上財務大臣は反論した。北方四島に何かしらの鉱物資源が産出するのであれば素直に喜べるのだが、北方四島の主要産業は漁業だ。深海棲艦が跋扈する海で魚などマトモに獲れるはずがない。返還された所で、維持費や防衛のための戦力の捻出で出費が嵩むだけ。実利の面から言えば今の日本に北方四島など不要であった。

 

「そもそもロシアは何を考えているんだ?」

「? ここに書いてある通り、日本の艦娘戦力狙いだろ?」

「それは分かっている。俺が言いたいのはなぜこのタイミングなんだ? ということだ」

 

 会議室の多くの者はロシアの欲している物は直ぐに分かったのだが、相手が何を考えてこの時期にこのような提案を出してきたのかを図りかねていた。そんな彼らの下に、ある男の声が響く。

 

「そこは私が答えよう。最も推測も多分に混じるがね」

 

 多くの視線が声の主に集中した。視線の先には若干白髪交じりのオールバックの壮年の男性の姿がある。日本国の外務大臣を務める天野だ。彼は視線など全く気にする事無く、説明を始める。

 

「まずロシアの状況を説明しよう。彼の国は現在ヨーロッパ向けの資源輸出によって財を成しているのは知っての通りだ。そして輸出拡大のために新規の採掘施設の建造や、既存施設の拡張が行われていた」

 

 一息つくと、天野は肩を竦めた。

 

「問題は新規の採掘施設は極東ロシアに集中している事だ。防衛大臣。北太平洋のロシア領海内に深海棲艦の拠点はあるか?」

「3級が幾つかと多数の4級が点在しています」

「つまりロシアはその拠点からの圧力を警戒している、と?」

 

 真鍋の問いかけに、天野は小さく頷く。

 

「既に敵の攻撃を幾度か受けているようだ。現地メディアで度々報道されている。今回の条約のための要件を考えると、ロシアは日本を利用して極東地域の防衛を企んでいる、と言うのが外務省の見解だ」

「そしてあわよくば、資源を使って日本を配下に加えたいと言った所か」

「切っ掛けはやはり硫黄島の攻略か?」

「だろうな」

 

 会議室のあちらこちらからため息が漏れる。硫黄島の奪還によって日本の持つ艦娘戦力の実力を世界中に知られる事となった。その様な有効な戦力を他国が利用しようとするのは、ある種当然の事である。そして資源と言うカードを切られれば、良いように使われる事は分かっていても無資源国の日本にとって無視する事は出来なかった。

 

「取りあえず落としどころを考えよう。坂田防衛大臣、向こうからの条件には艦娘戦力についての項目があるが、それについてはどう思う?」

「そうですね……」

 

 坂田防衛大臣は改めて資料に目を通す。そしてある項目に目を付け、ため息を吐いた。

 

「まず艦娘の譲渡ですが、これはほぼ不可能です」

「日本の戦力的にか?」

「それもありますが、仮にロシアに艦娘を譲渡した所で戦力として使い物にはならないでしょう」

 

 艦娘は建造元の提督から離れる事を嫌う傾向がある。ここで言う「離れる」とは距離を取ったりや長期間提督の下から離れる事を意味するのではなく、「提督の配下にある」という立場から離脱する事を意味する。今回のロシアの提案の様に譲渡となると、この案件に引っかかってしまうのだ。艦娘の士気の低下は確実であり、譲渡先の提督の指揮に従うかも不明であった。

 

「研究用としての譲渡要求の可能性は?」

「その可能性は否定できません」

「なら余計にこの要求は呑めないぞ。我が国は艦娘を国民として扱っているんだ」

 

 神山法務大臣が口を挟む。日本では既に艦娘を日本国民として受け入れている。勿論戦時であり、彼女たちの持つ能力故に若干の制約もあるが、それでも権利関係は日本に住む人間と変わらない。これは日本は内閣関係者に提督がいたことから、政府内での艦娘への理解度が他国と比べて高い事が要因だった。そのため、人体実験目的でロシアに送るなど論外であった。

 

「提督の派遣は?」

「そちらの場合、人数にもよりますが国防的に問題が生じる可能性があります。人数によっては国防に穴が開きかねません」

「外務省としても提督の派遣は賛成出来ん。派遣先でハニートラップにでも引っかかって艦娘共々亡命しましたでは笑い話にならん」

 

 艦娘の建造が行える提督は各国にとって、垂涎の的なのだ。そんな人物がやってきたのなら、全力を持って取り込みに掛かるのは目に見えていた。

 

「そうなると北太平洋のロシアとの共同防衛か」

「内容にもよりますが可能ではあります。ただ場合によっては日本単独で北太平洋の防衛をしなければならない事も考慮しなければなりません」

「北太平洋のロシア領海内にある深海棲艦の拠点の攻略をしなければならない可能性は?」

「その可能性は十分にあります。とは言え、その拠点から出撃したと思われる深海棲艦が北海道で確認されています。拠点の攻略には日本にも一応ですが利はあるかと」

「ふむ。資源と引き換えに、北太平洋の共同防衛。これを目指してみるか」

 

 真鍋の言葉に多くの者が頷く。しかしそれに待ったを掛ける者もいた。

 

「待て、場合によってはこちらからもカードを切る必要がある。念の為に何か用意をしておきたい」

 

 天野としても首相の言った目標を目指すのに異存はないが、そう簡単に話が進む事は無いだろう。見せ札でも良いので何か交渉に使える物が欲しかった。しかし、

 

「それは解りますが、下手なモノでは相手が食いついてきません」

 

 江口は渋い顔で唸る。経済的に順調なロシアを相手に出せる交渉カードが今の日本には殆どなかった。正確には出せるカードはあるのだが、確実にロシアが興味を示すものが少なすぎるのだ。確実に交渉カードとなるのは艦娘関連ではあるが、これまでの議論で却下されている。

 参加者たちは随所で何か案が無いか小声で話し合うが、妙案が直ぐに浮かぶわけではない。それを感じ取った真鍋は方針の決定自体は完了しているため、一度落ち着かせるべく口を開いた。

 

「ともかく――」

「――艦娘自体は無理ですが、艦娘に関連するモノならば出す事は可能かと思われます」

 

 真鍋の言葉を遮り、ある人物が言葉を紡いだ。これに真鍋を含み、全員がその声の主に視線を集中させる。

 

「それは?」

 真鍋の問い掛けに、坂田は自信を持って答えた。

 

「艦娘用の装備です。コレならばロシアに送っても国防的な問題を最小限に留める事が出来るはずです。特に艦娘用艦載機は確実に食いつくでしょう」

 

 日本とロシアの艦娘の戦力は日本が優位にあるが、それは艦娘が使う装備の面でもそうであった。酸素魚雷に艦載用電探、そして超弩級戦艦の戦艦砲。そのどれもがロシア艦娘の力を向上させるものである。

 特に大きいのはロシアにはない艦娘用艦載機だ。艦載機自体は基地航空隊としても使用できるため、空母艦娘がおらず艦娘による制空権争いが出来ないロシアにとっても、有効なモノであった。

 

「しかし、ロシアの艦娘に日本艦娘の装備を搭載する事は出来るのか?」

「先日ドイツでの実験が行われ、問題は無いとの結果が出たそうです」

 

 ドイツでは艦娘の戦略の幅を持たせるための一環として、ドイツの戦艦艦娘にフランスの戦艦艦娘の主砲の搭載実験が行われていた。結果は仕様の差があるのか、習熟期間は必要にはなるが、他国の装備でも扱うことは可能であると結論付けられていたのだ。

 真鍋はそれに頷くと天野に向き直った。

 

「外務大臣、どうなんだ?」

「十分だ。有効に使わせていただく」

 

 天野がニヤリと笑う。こうして日本はロシアとの対話の準備を進めていったのだが、その裏である国が動き始めていた。

 

 

 

 11月のある日、中華人民共和国による台湾への侵攻が開始された。名目は台湾住民の救助であるが、目的が台湾に出現した提督である事は誰の目にも明らかであった。最もだからと言って無政府状態の台湾に味方する国家は無かったため、諸外国からの中国への干渉は全くと言って良い程なかった。

 中国は乾いた雑巾を絞るかの如く、何とかして戦力を捻出すると、台湾海峡を超えあっという間に台湾を占領していく。

 抵抗も少なく、次々と占領地を拡大していく中国軍であったが、それと同時に兵站は悲鳴を上げていた。輸送路に海が存在するためだ。平時なら問題なかったが、海では深海棲艦の跋扈する現在、亡命してきた台湾の提督を使ってはいるものの、マトモに艦娘戦力を持たない中国にとって、兵站の確保はかなりの労力を必要としていた。そして兵站の維持を含めた台湾侵攻という大作戦は着実に中国にダメージを与えていた。それでも中国政府の上層部はリスクに見合うリターンはあるはずであると、作戦を継続していた。

 

 台湾侵攻の目的だが、まず一つに各国が見抜いたように、台湾の提督の確保がある。台湾の提督が建造できる艦娘は、精々駆逐艦、軽巡程度ではあるが、それでも十分であった。何せ現代の軍事というものは恐ろしく金が掛かる。軍艦や航空機を動かすだけでも金は掛かるし、人件費も相応に掛かる。また攻撃手段である対艦ミサイルも値段は高い。それにも関わらず、相手は毎日のように何隻もやって来る。これでは資金がいくらあっても足りないのだ。そのため既存の軍事力よりも深海棲艦に有効であり、更に維持費が恐ろしく安い艦娘を欲しがるのは当然の事だった。

 また、艦娘戦力の保有による国際的地位の向上も目論んでいた。深海棲艦との戦いが各地で起きている現在、艦娘を運用する事が、そのまま国際的な地位に直結しているのだ。軍部だけでなく、外交に携わる者にとっても艦娘は必要であった。

 そして二つ目は国内事情に関連していた。深海棲艦出現以降、国内の統制を続けていたが、長く続いた戦時体制故に段々と綻びが出始めていた。また政府内でも非主流派が虎視眈々と政権を狙っており、朱主席にとって悩みの種であった。彼は手遅れになる前に、台湾侵攻と言う大規模作戦を成功させ、政府の強さを見せる事により国内を纏め、更にこの功績で権力基盤を確固とした物にしようと画策していのだ。

 

 こうした中国の事情もあり並々ならぬ覚悟を持って決行された台湾侵攻は、順調に進んでいった。現地は無政府状態なので、警戒すべきは深海棲艦だ。まとまった数の深海棲艦が攻撃を仕掛けて来た場合、艦娘が殆ど居ない中国軍は大きな損害を受ける事となる。そのため南沙諸島拠点を始め、深海棲艦の動きに一層の注意を払っていた。

 

 そのせいだろう。彼らは警戒すべきモノへの注意が逸れてしまった。

 

「今がチャンスだ」

 

 チベットやウイグル等、中国からの独立を目指す組織を始め、現政権に不満を持つ一部の民衆、テロリスト、果てには民主化運動家もが中国各地で一斉に蜂起した。この武装蜂起により中華人民共和国は大混乱に陥ることとなる。

 




台湾侵攻作戦1d100:01~40が失敗、41~70が順調に侵攻、71~は予想以上の攻略速度。
結果:84
中国軍「着々、戦果ヲ拡大中ナリ!」

中国国内不安1d100:1~30が平穏無事。31~70は若干不満が噴出するも大きな影響はない。71~90は不満噴出、一部反乱分子も動き始める。90~が一斉蜂起
結果:93
これ何時もの中華ムーブだ……


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海を征く者たち34話 うごめくモノたち

もう50話も書いているけど、全然終わりが見えない……


 12月の中旬。人々が年末に向けて忙しくなっている中、首相官邸に集まった閣僚たちは、隣国の思わぬ急展開に誰もが戸惑っていた。

 

「中国はどうなっている?」

「各地で暴動や反乱が続いている。これに中国政府は対応出来ておらず、もはや無政府状態だ」

 

 外務大臣の天野が淡々と報告すると、あちらこちらでざわめきが起きる。中華人民共和国には戦前より内部不安があった事は誰もが知る所ではあったが、まさかこのような状況になるとは思わなかったのだ。

 

「確かに火種は多かったが、ここまで急速に崩壊するモノなのか……」

「深海棲艦出現後は状況が許さなかったとはいえ、国内の締め付けがかなりの物だったらしい。それが一気に噴出したんだろう」

 

 11月に発生した一斉蜂起は、台湾侵攻作戦に集中していた中国政府にとって完全に奇襲であった。

 勿論、中国政府も台湾侵攻により監視の目が逸れた状況で反乱分子が動き出すことは警戒しており、多くの戦力を台湾に送り出してはいたが、もしもの時のためにある程度の戦力も残しておいていた。例え大規模な暴動が発生したとしても、1、2か所程度であれば何とかなったであろう。

 だが事が全国で、それも同時発生となれば話は別だった。国内に残されていた戦力だけでは、この広範囲に起きた暴動を鎮圧する事は困難だった。一つの暴動を鎮圧出来たと思えば、次の瞬間には2つ暴動が発生する。中国はその様な状況に陥っていたのだ。

 この事態に中国政府も慌てて台湾の部隊を引き上げ、国内を安定させようと画策した。幸い台湾の侵攻は予想以上に順調であり、一部の部隊を引き上げても問題ないレベルであった。

 だが、悪い事には更に悪い事が重なるものである。

 

「台湾の中国軍は?」

「未だに大部分は身動きが取れないらしい」

「確かに台湾海峡の深海棲艦に輸送艦を撃沈されてしまっては……」

 

 準備が整い本土に帰還しようとする中国軍に深海棲艦が襲来した。規模は小規模と呼んで差し支えないモノではあるものの、フラグシップクラスの戦艦や空母を含んだ艦隊は、碌な艦娘戦力を持たない中国軍にとって最悪クラスの敵であった。

 この事態に中国海軍は、作戦に参加していた艦娘や、現地で保護した提督と艦娘、更に通常艦隊を慌てて投入。数に勝る中国艦隊は深海棲艦艦隊を撃退すべく、決戦を挑んだ。

 

――だが、結果は敗北。中国海軍は多数の被害を被り、撤退した。

 

 現地の艦娘を投入してまで数を揃えていた中国海軍側は、確かに規模では敵を上回っていた。しかしその陣容を見れば貧弱そのものであったのだ。

 彼らの保有している艦娘は精々駆逐艦、軽巡クラス。深海棲艦の主力艦クラスを撃退するには力不足であり、数の優位を活かし連携して戦うしかない。だが急遽投入された現地の提督と艦娘にその様な事が出来るはずもないのだ。連携不足により中国艦隊は数の優位を活かせず、艦娘たちは各個撃破されてしまう。

 海戦後に敵を排除した深海棲艦は、台湾に停泊していた輸送艦を次々と撃破し、悠々と帰還。最終的に上陸していた中国軍は台湾に閉じ込められる事となった。

 

「中国軍が台湾から撤退出来る見込みは?」

「輸送船を再度派遣する事が出来れば可能ではありますが、問題は時間です。再編にはかなりの時間が掛かるのは目に見えいますし、護衛戦力のも必要になります。今の中国にはそれを行える時間が有りません」

 

 この敗戦は中国にとって致命的であった。頼みの台湾の軍の帰還が困難になったのだ。

 いつまでも終わらない暴動により治安は更に悪化し続けていき、12月に入った頃には中央政府には頼れないと一部の軍部隊が軍閥化する事態が発生。中国は混迷を深めていた。

 

「まさに悪夢のような状況だな。しかし……」

「そうだ。彼の国に対して我々に採れる選択肢は静観以外ない」

 

 真鍋首相はそう断言した。内乱より発生した難民が周辺地域に流れ込んでいるが、日本は深海棲艦の跋扈する海があるために、中国の難民がやって来ることは無い。日本は混沌と化している中国に手を出す余裕も手段もないし、介入する気もないのだ。そのため中国に対して、日本は経過を見守るだけに留める事が方針として採用される事となっていた。

 

「中国の方は置いておこう。それよりロシアとの交渉はどうなっている?」

「最初はぐずったが、艦娘用装備の輸出を切り出したら食いついてきた。恐らく来月の半ばには交渉が纏まりそうだ」

 

 江口経済産業大臣の質問に天野外務大臣はニヤリと笑った。先月から始まったロシアとの交渉だが、予想通りに当初は交渉が難航した。ロシアは深海棲艦の攻撃からの防衛は勿論の事、頭打ちが見えている艦娘戦力の増強を狙っているのだ。艦娘の譲渡は出来ないのは仕方がないとしても、仮とはいえ戦力の増強が出来る提督の派遣は何とか狙いたい所であった。だが日本にとってこの条件は、提督の亡命の可能性を考えれば飲める条件ではない。

 その様な状況に陥った時に天野が出した提案が、艦娘装備の販売だった。

 

「特に航空機に執着している。連中、よっぽど空襲で痛い目を見たようだ」

 

 日本の切ってきたカードに、ロシアは反応せざるを得なかった。提督の派遣程ではないとは言え、これらの日本艦娘の使う装備はロシアの艦娘戦力の底上げが出来るのだ。特にロシアにはなかった艦娘用航空機を合法的に得られる事は大きい。空襲への防衛や艦娘艦隊へのエアカバーは勿論の事、艦攻や艦爆があれば低脅威度の深海棲艦艦隊に対して艦娘なしでも撃退出来るのだ。

 

「だが少数とは言え46cm砲も売っていいのかね?」

 

 日本は様々な艦娘用装備を販売する予定であるが、目玉は大和型戦艦の持つ46cm三連装砲だ。少数限定とはいえ日本戦艦の持つ最大火力の販売によって、ロシアに揺さぶりをかけていた。

 しかし46cm砲の販売には、防衛省は勿論の事、外務省内でも反対の声がある。貴重な装備であるし、何より海外に販売するには強力過ぎるのだ。だが坂田防衛大臣は涼しい顔で断言した。

 

「大丈夫です。彼の国の戦艦ではまともに運用できないでしょう」

 

 そう。確かに46cm砲は強力である。深海棲艦の戦艦の持つ16インチ防御を軽々と撃ち抜く事が出来るし、戦艦棲姫に大ダメージを与えた実績もある。しかしそのような巨砲の性能を十分に発揮できる戦艦艦娘は限られているのだ。

 35.6cm砲搭載艦の金剛ですら、提督が乗艦しても2基積むのがやっとだ。30.5cm砲搭載艦のガングート級しか戦艦艦娘が居ないロシアが、46cm砲を扱うのは困難を極める事は目に見えていた。

 

「航空機も販売するのは主に九六式艦戦、九七式艦攻、九九式艦爆です。零戦二一型もある程度の販売は許可しますが、これ以上の高性能機は出す気はありませんので、問題は無いでしょう」

「なら問題ないか。外務大臣、最終調整の方は頼むぞ」

「首相、任せておけ」

 

 ロシアとの交渉に集中する日本。だがこの時、南沙諸島拠点から深海棲艦の艦隊が出撃していた。

彼らがその事に気付いたのは、もう少し先の事であった。

 

 

 

 12月20日。インド洋を監視していた衛星から、ある情報が飛び込んできた。12月中旬に南沙諸島拠点から出港した大規模深海棲艦艦隊が、チャゴス諸島拠点に到着したというのだ。この深海棲艦の行動に、各国の軍は近い内に深海棲艦による大規模作戦が実施される可能性を示唆した。

 この情報に真っ先に反応したのは――、インド洋から遠く離れた地、ヨーロッパの国々であった。

EUは緊急で欧州理事会に招集を決定。ベルギー、ブリュッセルにて各国の首脳が集結する事となる。

 

「あの深海魚ども、よっぽど我々が嫌いなようですな」

 

 イギリス首相、マクドネルは憎々し気に呟いた。それにドイツ首相であるフューゲルも同意する。

 

「我々が中東と話を付けた途端にこれだ。やはり深海棲艦にはこちらの情報を精査する能力はあるようだ」

「それは以前から分かっていた事だろう。現地はどうなっている?」

「案の定、援軍の要請が出ています」

 

 マクドネルの問い掛けに答えたのは、イタリア首相のマルローネだった。彼は手にしていた資料を机に置くと、顔を顰めた。彼らにとってこのような事態は予測はしていたのだが、余りにも早すぎたのだ。

 

 艦娘出現、そしてフランスの内乱がある程度落ち着いた頃、EUは中東地域の安定に乗り出していた。

混沌とする中東に手を出す余裕など各国とも無かったのだが、ある目的のために介入、仲介を行っていた。中東に眠る近代国家に欠かせない資源。石油の確保の為だ。

 現在のヨーロッパはロシアからの各種資源に頼っている。しかしこの状況を各国とも良しとしていなかった。なにせ相手はロシアなのだ。最悪の場合、資源を盾にロシアの傀儡になりかねない。そうならないためにも、ヨーロッパは新たな資源の輸入先を求めていたのだ。そして目を付けたのが、艦娘を持たない中東の国々であった。

 深海棲艦出現以降、情勢が戦前より悪化しているものの、インド洋の深海棲艦の活動が比較的穏やかであった事が幸いして、極少数ではあるが未だに国家として存続する国もあった。

 EUはそれらの国々に接触、深海棲艦からの国土防衛を条件に、資源の輸出を迫った。中東の国々も艦娘の存在がイスラム教的に思うところはあるものの、身の安全には代えられないとの事で、EUの提案を了承。

 航路の確保及び中東への艦娘の出撃拠点としてスエズ運河とその周辺地域が選ばれ、ヨーロッパ各国の軍がスエズ運河に派遣される事が決定された。そして12月中旬、第一陣が現地に到着し、現在急ピッチで基地の整備がされていた。

 

「スエズ第一陣の到着の翌日に南沙諸島拠点から深海棲艦の艦隊が出撃した。確実に関連性はある」

「第一陣がスエズ運河した後に、小規模だが戦闘があったとの事です。その際に他の深海棲艦に情報が渡った可能性があります」

「そうなるとやはり敵の狙いは――」

「軍の予想通りスエズでしょうな。チャゴス諸島の推定戦力は?」

「少なくとも900は居るとの事です。第一陣の戦力で撃退は難しいでしょう」

「増援を出す必要があるな」

 

 フューゲルの呟きに、参加者たちは目を細めた。確かにスエズは要所であるし、陥落すればヨーロッパの危機となる事は目に見えている。しかしどの国にとっても貴重な艦娘戦力は温存しておきたいモノであるのだ。何としてでも自国からの増援を最小限にしようと暗闘が始まろうとしていた。

 そんな中、真っ先に口を開いた国があった。

 

「待て、パナマの時の様に奇襲を仕掛けられる可能性もある。少なくとも大西洋側の守りを薄くし過ぎる訳には行かん」

「我が国もその意見に賛成だ」

 

 マクドネルの主張にスペイン首相アンヘルが同意。これをきっかけに、大西洋に面した国々が賛同の意を示し始めた。これにマルローネを始め地中海に面した国々の面々は顔を顰めるが、反論する事は出来なかった。

 深海棲艦は拠点を築く際、人類にとって要所となる土地を選ぶ場合が多い。ハワイやパナマはその最たる例だ。スエズへの攻撃を囮として、大西洋側の要所への侵攻の可能性はゼロではなかった。

 だがだからと言って、簡単に引き下がる事などあり得ない。マルローネも反論する。

 

「確かにその意見には賛同出来るものがあります。しかしマクドネル首相。貴国はヨーロッパにおいて、最大の艦娘保有国です。他の国家と比べれば、戦力に余裕が有る筈です」

「……」

 

 これもまた事実。イギリスは第二次世界大戦時においては世界第2位の海軍戦力を有していたのだ。当然、艦娘も多数出現していた。

 押し付け合いを始める各国首脳を眺めつつ、フューゲルはため息を吐いた。

 

「……その事も勘案し、この場で各国が出す増援の規模を決めるぞ。スエズが陥落する前に」

 

 こうしてヨーロッパ各国は、暗闘を繰り広げつつ迫り来る敵を迎え撃つべく行動を始めた。

 




中国その後判定:1~30は鎮圧、31~70は暴動発生と鎮圧のイタチごっこ、71~はいつもの中華
判定:89
中国が物語から離脱した……


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海を征く者たち35話 アラビア海にて

とりあえず、秋刀魚漁は30匹入手して終了! 6-5を開放していないせいで、少し苦労しました。


 12月25日。チャゴス諸島拠点からの深海棲艦の大規模艦隊が出撃したと言う情報が、ヨーロッパに飛び込んできた。これをスエズ運河への攻撃と見たヨーロッパ各国は、事前の予定通りスエズに集結させていた欧州艦隊の出撃が決定された。

 

 海戦の主役である艦娘は約800人。主力は艦娘戦力の規模の大きさからイギリスが中心で、ドイツ、イタリアを始めとした艦娘保有国各国がその脇を固めている。戦力の要となるのは、イギリス戦艦艦娘のネルソン級とアークロイヤルを始めとしたイギリス空母艦娘であった。欧州艦隊参加国ではイギリスしか有していない16インチ砲搭載艦、そして艦載機に「若干の」不安があるとはいえヨーロッパで唯一の複数の空母艦娘を有する空母機動部隊だ。戦力の中心となるのは当然の事であった。

 また欧州艦隊には通常兵器も編成されている。各国で生き残っていた駆逐艦やフリゲートが多数参加しているが、最も目立つのは艦隊旗艦であるフランス海軍の原子力空母シャルル・ド・ゴールだ。対深海棲艦戦初期から幾度となく参戦しているため船体にダメージが蓄積している上に、フランスの混乱期にはロクな整備が受けられなかったという事情があったため、本来ならこの空母を出す予定は無かった。しかしEU各国からフランス政府への「強い要請」により派遣される事になったと言う背景があった。とは言え現場からすれば空母と言う強力な戦力があると言う事実は、艦隊の人員に安心感を与えており、将兵たちのフランスに対する好感度の向上に役立っていた。また今回の迎撃に際して各国の空軍機も参加しており、不安のある艦娘の航空戦力のフォロー、というより航空優勢を勝ち取る任務を受け持っていた。

 

 欧州艦隊はアラビア海のソコトラ島沖を決戦の地として展開、迫り来る深海棲艦を待ち受けていた。

 12月29日早朝。シャルル・ド・ゴールから発艦したラファールMが、深海棲艦航空機隊が衝突、同時に約300隻からなる威力偵察と思われる深海棲艦艦隊を補足した。これにより、後に「アラビア海海戦」と呼ばれる海戦が始まった。

 

 

 

「圧倒的だな」

 

 今回編成された欧州艦隊の司令官であるフィリップス中将は満足げに頷いた。それにスターク参謀長は肩を竦めた。

 

「戦力差がありすぎます。これでは負ける方が難しいでしょう」

 

 海戦が始まってから数時間経過したが、戦局は欧州艦隊が終始圧倒していた。深海棲艦艦隊から発艦した航空機群は、ラファールMやトーネード、タイフーンといった航空機、そして水上艦隊から発射された対空ミサイルによって早々に壊滅したため、欧州艦隊が航空優勢を獲得。水上でも一部で姫級を始めとした個艦では艦娘を上回る戦力を持つ深海棲艦が含まれていたものの、二倍以上の数を活かし容易に撃破していた。通常兵器により敵航空機を殲滅、その後艦娘の航空機と戦艦艦娘を中心とした水上艦による敵を撃破するという、人類と艦娘の必勝法がこのアラビア海でも繰り広げられていた。

 

《こちらドイツ第11打撃艦隊。敵の戦艦部隊を撃破した。これより前進する》

《イギリス第26水雷戦隊よりシャルル・ド・ゴール。敵を多数撃破するも弾薬が底を着きそうだ。後退の許可を求める》

《イタリア第3打撃艦隊だ! 駆逐棲姫を撃破! 残党の掃討を行う!》

《こちらイギリス第5機動艦隊。残存していた敵の航空機はおおよそ撃墜出来ました。このまま防空任務に入ります》

 

 次々に艦娘艦隊から旗艦に報告が飛び込んで来る。そのどれもが敵の撃破や撃退と言った良いニュースばかりだ。

 しかし一見上手く行っているように見える欧州艦隊だが、問題がない訳ではなかった。

 

「連携の方はどうだ?」

「通常戦力の方は問題ありません。近年は大規模演習を行ってはいませんでしたがNATOとして情報を共有していたため、これと言ったトラブルは発生していません。しかし――」

「問題は艦娘の方か……」

「やはり各国の連携が上手く行っていません。一部では艦娘同士のトラブルも見られているようです」

「やはりか」

 

 複数の国の艦娘が連携して深海棲艦と戦う事は、今回が初めての事であった。本来ならスエズに駐留する間に交流や共同訓練によって連携を深める予定だったのだが、今回の深海棲艦の侵攻によって碌に交流する事が出来ずに戦場に出る事になったのだ。連携不足によるミスやトラブルが生じるのは、当然の事であった。そして問題は艦娘だけではなく、通常兵器にもあった。

 

「一部の通常兵器ですが、若干の動作不良が発生しているとの事です」

「4年以上酷使して来たんだ。仕方のない事なのだろう」

 

 この通常兵器の不調はフィリップスの見立て通り、長期間の戦闘による疲弊が要因ではあるのだが原因は他にもある。長く続いた深海棲艦との戦闘によりヨーロッパだけでなく世界各国の工業力は疲弊しており、兵器に使われる部品を始めとした工業製品の質の低下が見られていた。工業製品の極致とも言える現代の軍事兵器にその様な質が低下した部品を使うこととなるのだから、不具合が生じるのは当然の事であった。

 

「……現状ではどうすることも出来ない事は置いておこう。それより警戒網の方はどうだ?」

「各方面に哨戒機を飛ばしていますが、敵の発見には至っておりません」

「艦娘の航空機の一部を警戒に出しても構わん。警戒を密にしろ」

 

 敵に圧勝しているとはいえ、敵はその小ささ故に発見し辛い深海棲艦だ。奇襲を防ぐためにも周囲の警戒を命じるのはセオリーだ。しかしフィリップスの命じた内容は、いささか行き過ぎであった。幾ら欧州艦隊が優勢とは言え、深海棲艦に対して有効な攻撃手段である艦娘用の航空機すら周辺警戒に回すのは、通常ではあり得なかった。

 このような事態となれば、本来なら参謀長であるスタークが止めに入るはずだった。しかし、

 

「了解しました」

 

 彼は反対するどころか、妥当な判断として従っていた。そして当然の事ではあるが、これには理由があった。

 

「ここまでの道中で、敵の襲撃が無かったなどあり得ん。絶対に何か裏があるはずだ」

 

 海戦前、欧州艦隊はスエズ運河からソコトラ島までの長い道のりを警戒しつつも、大急ぎで航行していた。紅海はアフリカ北東部とアラビア半島に挟まれた湾だ。地形の関係で奇襲は受けづらいものの、日本の艦隊が硫黄島までの道中に幾度となく襲撃を受けた例から、深海棲艦と接触する事は十分考えられた。特に紅海の出口であるバブ・エル・マンデブ海峡は幅が30㎞程度しかなく、深海棲艦による待ち伏せ攻撃を受ける可能性が高かった。

 しかし襲撃は無かった。格好の攻撃のタイミングとなるバブ・エル・マンデブ海峡の通過時ですら、深海棲艦は姿を現わさなかったのだ。フィリップスを始めとした艦隊の上層部が不審に思い、敵の策を疑うのは当然の事であった。

 敵の意図を読もうとする艦隊上層部。そんな彼らの下に、ある情報が飛び込んで来た。

 

「航空隊より通信です。交戦中の敵艦隊後方より、新たな深海棲艦艦隊が接近しています」

 

 通信士官の声が響き、フィリップスは報告に注意を向ける。

 

「数は?」

「大よそ600からなる大規模艦隊との事です」

「事前の推測では敵の数は900でしたので、これで一応数は足りますが……」

 

 スタークのどこか煮え切らない呟きに、フィリップスも頷く。このまま行けば第二波と激突し戦闘となるだろうが、勝算は十二分にある。しかし相手はパナマや硫黄島と策を用いてきた深海棲艦だ。そう簡単に事が上手く運ぶとは考えられなかった。

 とは言え目の前に敵が迫っているのだ。そちらへの対処もしなければならない。

 

「敵第二波への迎撃を行う」

「警戒に出している艦娘の航空機はどうしますか?」

「警戒を中止させ、敵の迎撃に回す」

「了解しました」

 

 こうして欧州艦隊は深海棲艦が次に打って来る手を警戒しつつ、迎撃態勢に入った。

 

 

 

 アラビア海で二つの艦隊が激突している頃、人類がチャゴス諸島拠点と呼ばれている島の格納庫で、この拠点の主であるどこかインドの民族衣装の様な衣装を纏った深海棲艦――印洋水姫は、先日ようやく完成した巨大な物体を前にぼんやりと眺めていた。

 印洋水姫にとってソレに対する印象は、「不思議」の一言に尽きる。彼女たち深海棲艦が使う兵装とは比べ物にならない程大きい。更にデザインも機能性を重視しているものであり武骨な印象が拭えない物だ。この事から他の者たちからは余り好かれていない様だった。

 

――アンタ、またここにいたの?

 

 振り返ると呆れた様な顔をする空母棲姫の姿があった。彼女は印洋水姫の隣に並ぶと、目の前の物に目をやる。

 

――ホントにアンタはこれが好きね。

――……うん。

 

 印洋水姫はこの見慣れないデザインのソレを気に入っていた。なぜかと聞かれれば答えに詰まるだろうが、彼女の好みに合っているのだ。

 

――……戦況は?

――強硬偵察の第一波は壊滅。今は第二波が交戦しているけど苦戦よ。

――……やっぱり。

――いくらこちらが航空隊を出しても、人類の兵器のせいで纏めて墜とされるわ。当然の結果ね。

 

 アラビア海での海戦の情報はこのチャゴス諸島拠点にも届いており、戦場で友軍が如何に苦戦しているのかも理解している。いくら水上艦の数が上回っていても、航空戦力が壊滅している状況では苦戦は免れない。

 現在の人類との戦闘において、如何に航空機を生き残らせるかがカギとなってくる。その問題への解答の一つが硫黄島での戦いだ。あれは赤色結界を利用して人類の使う兵器を無効化していた。最終的に撤退する事にはなったものの、あの戦法が有効である事は大きな収穫だった。

 だが硫黄棲姫の取った方法には弱点がある。赤色結界は短い時間であればともかく、長期間展開する場合は相応の準備と起点となる拠点が必要になってくる。守勢なら問題ないのだが、今回の様な遠隔地への攻勢となればこの方法は使えないのだ。

 人類との戦いが始まって以来、深海棲艦たちは人類の操る兵器への対抗手段を模索し続けた。勿論この拠点でもそうだ。そして一か月前、

 

――コレを出す。

――話が早くて助かるわ。

 

 解答の一つである彼女たちの前に鎮座しているソレが完成した。目の前の物には戦場に一石を投じるには十分な力を有している。早速使う機会が来た事に、印洋水姫の顔に思わず笑みが浮かんだ。

 そんな彼女に若干呆れつつも、空母棲姫は釘を刺す。

 

――気を付けて使ってよ? これを作るのに結構資源を取られたんだから。

――……分かってる。

 

 折角の楽しみに水を差され若干不機嫌になるが、印洋水姫は彼女の忠告に素直に頷く。ようやく完成したソレであるが、一つ作るのに恐ろしいまでの資源を消費しているのだ。当然メンテナンスにも相応の資源が必要になって来る。また深海棲艦の建造の様に簡単には作る事が出来ないという欠点もソレにはあった。

 

――ゲートを開けなさい!

 

 空母棲姫の号令と共に、格納庫の扉がゆっくりと開いていく。本日は雲一つない快晴。ソレを出すには打ってつけの天候だった。

 

――出撃。

 

 静かで抑揚が無いが、どこか楽し気な彼女の声と共にソレは轟音と共に動きだした。

 




人類は進歩する。深海棲艦も進歩する。


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海を征く者たち36話 燃え上がる空

制空能力の高い人類の兵器に対抗するための答えの一つ。今回はかなりオリジナル要素があります。


 イギリス空軍所属パイロットであるベイカー中佐は乗機であるタイフーンを駆り、多数の艦娘と深海棲艦がぶつかり合う戦場の上空を飛行していた。彼の任務は戦場での航空優勢の獲得であるが、既に特殊弾頭搭載型対空ミサイルにより敵の航空機は壊滅しているため、現在は航空優勢の維持のための任務に当たっている。

 

(これじゃあ遊覧飛行だな)

 

 ベイカーは今の状況に思わず苦笑した。敵機の大概は既に撃墜されているため、主に周辺警戒しかやることが無いのだ。増援が来るならばまた出番となるだろうが、事前に予測されていた敵の総数はおよそ900だ。これ以上の増援はなさそうだった。

 ふと戦場と海に目を向ける。艦娘と深海棲艦による激しい海戦が繰り広げられているが、戦局は完全に艦娘側に傾いていた。第二波の到来によって一時期はほぼ同数同士による戦いとなっていたのだが、早々に航空優勢を確保したため欧州艦隊の優位は変わる事は無かった。艦娘による砲雷撃、そして航空攻撃により深海棲艦を次々と撃破している。数が数だけに敵艦隊の撃退にはまだまだ時間が掛かるだろうが、勝利はほぼ確定していた。

 

「艦娘の登場により海戦の主役は艦娘となった。しかし空戦の主役は我々である」

 

 イギリスの航空参謀の言葉だ。深海棲艦が出現して制海権が敵の手に墜ちても、空での優位は常に人類にあった。敵である深海棲艦の操る航空機の性能が、第二次世界大戦期の機体と同等なのだから当然の事である。一時は敵の航空機の小ささから苦戦はしたが、特殊弾頭搭載型の対空ミサイルが登場して以来、それらへの対処も容易になった。

 そして艦娘が出現してからも、空戦の主役が艦娘に取って代わられる事は無かった。費用対効果の面を考えれば艦娘側に軍配が上がるが、殲滅力や性能は人類の操る兵器の方が上だ。そのため艦娘用戦闘機を持つ国での防空任務では、小規模空襲には艦娘、大規模空襲には空軍を使うのが一般的である。今回の様な大規模な海戦でもそうだ。雲霞の如く襲い掛かる敵航空機群をジェット戦闘機たちが悠々と殲滅し、艦娘の操る航空機は空の敵を気にせず深海棲艦を叩く。東太平洋でも硫黄島でも光景だった。

 いわば空と言う領域において、人類は絶対強者なのだ。それを疑う者は艦娘を含め、誰もいなかった。しかしその自信と信頼は――

 

《Night-Eyeより各機》

 

 早期警戒機の捕らえた物によってヒビが入る事となる。

 

《戦場海域に高速で接近中の機体を捕捉した》

「なんだ?」

《援軍か?いや……》

 

 ベイカーを始め、制空任務に当たっているパイロットたちは訝しんだ。順調に事が進んでいる事から追加の増援はない事を先程通達されたばかりなのだ。

 

《Night-Eye、間違いじゃないのか?》

《間違いではない、編隊を組んで音速でこちらに接近している。呼びかけはしているが応答がない》

 

 管制官が呼びかけを続ける。そんな時にそれは起こった。

 不意にコックピット内に耳に触る警告音が響いた。深海棲艦と戦い始めて以来絶対に聴くことのなかったその音に、ベイカーは血の気が引くのを感じた。

 

「ミサイルアラートだと!?」

《っ! 所属不明機、ミサイル発射!》

 

 航空管制官の叫び声を耳にしつつ、ベイカーは反射的に機体に搭載されているチャフとフレアを展開。同時に急旋回を掛ける。

 

《ミサイルアラート! Break!》

《Break、Break!》

 

 ベイカー機と同じく、この空域の戦闘機たちが回避行動を取った。しかし不意を突かれた事、これまで圧倒的優位にいた事による油断から僅かに反応が遅れた機体も多かった。

 そしてそれは生死の分岐点であった。

 超音速で飛来する黒く塗装された幾本ものミサイルが、欧州各国から集められた戦闘機群に襲い掛かった。

 

「Break!」

《I’m going down!》

《Blue-3 Lost!》

 

 反射的に回避行動を取ったおかげでベイカーは辛うじてミサイルをやり過ごした。他にも回避に成功した機体も多くいた。しかし同時に不意の攻撃に幾つもの機体が黒煙を噴き上げながら未だに砲火が飛び交う海へと落ちていった。その多くが反応が遅れた者たちである。その中にはベイカーの部下もいた。

 

「クソ! Purple-2、Purple-3、Lost!」

《Night-Eyeより各機、これより所属不明機を敵機として認識。攻撃を許可する》

「Purple-1、Rogey!」

 

 管制機の指示に返答をしつつベイカーは機体を立て直し、素早く攻撃態勢に入った。不明機は既にこちらのレーダーには映っている。彼は未だに肉眼では視認できない敵機に照準を向けた。しかし一末の不安がある。

 

(現代戦闘機相手にいけるか……!?)

 

 彼の操るタイフーンを始め制空任務に当たっている戦闘機たちは対空ミサイルを装備はしているが、これは飽くまで「対深海棲艦航空機用」なのだ。特殊弾頭搭載型ミサイルは、小型かつ低性能であり、更に一度に大量に運用される深海棲艦の使う航空機を相手取るための兵器だ。敵を空間ごと薙ぎ払うというコンセプトであるため誘導性は余り必要ではなく、ミサイルの誘導性能は従来の物よりもかなり低い。現代戦闘機を攻撃するための兵器としてはかなりの不安があった。

 

「Purple-1、FOX-3!」

《Tail-2、FOX-3、FOX-3》

《Blue-1、FOX-3!》

 

 祈りつつも発射符号と生き残った戦闘機たちから、発射符号と共に一斉にミサイルが放たれる。誰もが自分たちの持つミサイルの誘導性能の低さを理解しているので、その分を数で補うべく抱えている全てのミサイルを一斉掃射していた。

 一直線に敵機に向かっていったミサイル群は、数秒後に遥か彼方の空で肉眼で確認できる程の爆発が連鎖する。

 

「頼むぞ……」

 

 既に自分たちの打てる手はない。祈る様に戦果を確認するためにベイカーはチラリとレーダーに目をやる。そして思わず舌打ちした。

 

「駄目か!」

《Night-Eyeより各機、敵機は健在だ》

《そんな事は分かっている!》

《敵のミサイル発射を確認!》

 

 管制機の悲鳴のような声が無線で響いた瞬間、敵により放たれたミサイルの雨が欧州艦隊航空隊に襲い掛かる。

 

《Blue-1、被弾した! 脱出する!》

《Tail-3、Lost!》

《駄目だ! 逃げ切れ――》

 

 無線から悲鳴と共に、タイフーンが、トーネードが、ラファールMが次々と空から駆逐されていく。第二波をやり過ごした頃には、味方は当初の半分を残っていない。もはや一方的な虐殺であった。そして事態はそれだけでは終わらない。

 

《Night-Eyeが被弾した! 墜ちるぞ!》

 

 悲鳴のような声に、フールニエは反射的にNight-Eyeがいるはずの方角に振り返った。フランス海軍航空隊早期警戒機E-2が翼をもがれ、炎に包まれながら海へと墜ちていく。

 Night-Eyeの担っていたレーダーからのリンクが切れた。これによりこの圧倒的不利な状況で有視界戦を強いられる事となった。

 生き残った航空隊の誰もが顔を青くする。唯でさえ装備の差で不利な戦いを強いられているにも関わらず、レーダーすら封じられたのだ。現状では彼らの勝率は限りなく低かった。

 ベイカーは味方の士気が崩壊しかかっている事を感じ取っていた。このまま行けば無秩序な敗走となって全滅しかねない。だからこそ彼は――

 

「Purple-1、突入する!」

 

 ベイカーの操るタイフーンが編隊から飛び出した。一気に加速し音の壁を突破した機体は敵戦闘機との距離を詰めていく。

 

《Purple-1、無茶をするな!》

「このままじゃ撤退も出来ずに全滅だ! 何とか隙を作る!」

 

 既に勝敗は自分たちの敗北と言う形で決している。ならば引くしかないが、敵は当然だが追撃を掛けて来るだろう。殿が必要だった。

 だからこそベイカーは真っ先に飛び出したのだ。部下が残っているのなら彼らを生きて帰すためにこのような事はしなかったのだろうが、敵の二回の攻撃により彼を除いて全滅していた。殿にならない理由は無かった。

 彼の半ば自棄となって行ったこの行動は、

 

《Tail-2よりPurple-1、援護する!》

《Swallow-1、突貫するぞ! シャルル・ド・ゴール航空隊は撤退しろ!》

 

 崩壊しかかっていた士気を持ち直す事となった。バラバラだった動きが纏まり、統一されていく。飛び出したタイフーンが、トーネードが即席の編隊を組み、敵機に向けて肉薄する。

 

《Blue-Team、撤退する。援護に感謝する》

 

 撤退するのは二度に渡る攻撃で損傷を受け飛ぶのがやっとの機体と、ヨーロッパでは貴重であり替えの利かない空母艦載機隊だ。損傷機を守る様にシャルル・ド・ゴール航空隊のラファールMが戦闘空域から離脱していく。

 

《第三波が――》

 

 無線が響くと同時に殿に向けて敵機によるミサイルが飛来した。数は第一、第二波よりも少ない。またこれまでの攻撃から、敵のミサイルの誘導性能が従来の空対空ミサイルよりも低い事に彼らは気付いていた。弾かれたように散開する戦闘機たち。

 彼らは誰もが何とか生き残ろうと足掻く。しかしいくら誘導性が低いとはいえ、簡単には回避する事は出来ない。次々と黒煙を上げながら海へと墜ちていく戦闘機たち。

 しかし全滅はしていない。辛うじて生き残った者たちは前進し続ける。そして、

 

「見えた! ……なんだありゃ」

 

 ベイカーを始め、4機の戦闘機がとうとう敵機を捕捉した。一見黒いF-15とSu-27の合いの子の様に見える。しかしよく見ればどこか独特な意匠が施されており、テレビゲームに出てくる架空の戦闘機の様だった。

 

「……行くぞ」

 

 先頭の一機に狙いを定めると、ベイカーの駆るタイフーンは最高速で正面から正体不明の機体に向かって突っ込んでいく。

 相手の動きが僅かだが乱れた。彼の仕掛けるヘッドオンショットは相討ちの可能性が非常に高い戦法なのだ。動揺するのも当然だろう。そしてベイカーはその隙を見逃さなかった。

 

「Purple-1、Gun!」

 

 タイフーンの機首から銃火が走り、敵機を貫いた。蜂の巣となった相手の機体がバランスを崩し、炎を上げながら墜落していく。

 

「Enemy down!」

《Tail-2、Enemy down!》

 

 ベイカーたちの執念は圧倒的優位にあった敵に一撃を与え、彼らの意地を見せた。

 しかしそこまでだった。敵は数の優位を活かしてに押していく。

 

《Going down、going down!》

《Swallow-1、Lost! 俺も後ろに着かれた! 援護――》

《Shit……》

 

 僚機が次々と堕ちていき、残るはベイカーのタイフーンだけとなる。彼は必死に機体を操り、再度攻撃に転じようとするも、敵機の照準が自身に向けられるのを感じた。

 

「ああ、クソっ」

 

 絶望的な状況にベイカーは半ば諦めたように悪態を吐く。次の瞬間、幾つもの銃火がタイフーンを捕らえ――彼の意識は永久に消失した。

 

 

 

「一体どうなっている!?」

 

 フィリップス中将は上げられた報告に顔面蒼白となっていた。戦場の上空で制空任務に就いていた航空隊が所属不明機により大きな損害を受け撤退したという事態は、欧州艦隊上層部を混乱させるには十分だった。

 

「航空機隊はどうなっている!」

「半数以上が撃墜されました! 残存機がスエズへ撤退中です!」

「所属不明機は?」

「追撃がありません。撤退した模様です」

 

 現在交戦中の深海棲艦艦隊の航空戦力はあらかじめ殲滅していたため、現状では問題は発生していない。とは言え航空機隊が撤退した事は、艦隊のエアカバーの能力が激減した事を意味していた。

 

「どこかの国が我々に攻撃を仕掛けたのか?」

「それはあり得ないでしょう。我々を攻撃した所でメリットがある国など有りません」

 

 スターク参謀長はそう断言した。近場で戦闘機を出せるのは中東の国々ではあるが、元々深海棲艦艦隊の撃退をヨーロッパに依頼してきていたため、攻撃する理由はない。辛うじて生き残っているインドなら空中給油を駆使すれば、ここまで戦闘機を飛ばすことは可能ではあるが、こちらもヨーロッパと敵対して得られるメリットはないだろう。教義の関係で艦娘を認めないイスラム過激派なら攻撃して来る可能性はあるが、連中に戦闘機を運用する能力など無かった。

 ではどこから? 頭を捻る艦隊上層部。だが答えの出ない思案は通信士官の声により中断された。

 

「前線より通信! 敵の増援が現れたとの事です! 数はおよそ1200!」

「なんだと? 敵の戦力は出し切ったはず――」

「まさか……」

 

 スタークは苦り切った顔で呟いた。

 

「司令。敵は恐らく紅海とアラビア海の深海棲艦を集結させたのでしょう。いえ、この数です。例の南沙諸島の増援とインド洋の深海棲艦も含まれている可能性があります」

「やってくれる……」

 

 フィリップスは思わず悪態を吐いた。第三波には当然敵の航空戦力が出てくるだろう。防空の要となる戦闘機たちが居ない今、苦戦は必至だった。

 

「通常艦隊による対空防御でいけると思うか?」

「可能ではありますが、第二波までの防空能力を発揮する事は困難です」

「やはり相応の被害が出るか。……だがやらないよりマシだ。防空戦闘用意、敵の航空機編隊を撃滅する! またスエズに増援要請を出せ!」

 

 フィリップスの指示の元、通常艦隊が整然と主砲を、対空機銃を、そして対空ミサイルを向けた。

 万全の態勢で待ち構える欧州艦隊の通常兵器艦隊。そこへ通信が飛び込んできた。

 

「哨戒機より通信です! 敵航空機隊を確認!」

「来たか。対空――」

「更に敵航空機編隊と共に所属不明の戦闘機が編隊を組んで飛行中との事です!」

「!?」

 

 この通信に誰もが驚愕した。所属不明機が深海棲艦に攻撃されないという事は共闘関係にあるということなのだ。幾らなんでも人類が深海棲艦と共闘する事など出来ない。

 ならばこの状況が意味している事は一つしかない。

 

「まさかあれは――深海棲艦の新型機か!」

 

 この時を持って、深海棲艦との戦いは新たな局面に突入する事となる。

 




 こんなのを出した言い訳。
 
 いつまでも制空能力が人類兵器一強状態は流石に不味いのでテコ入れを画策。対抗案として当初はアニメ版ゴジラみたいな強力な「電磁パルス案」と、R-TYPEのバイドシステムαの様に「鹵獲兵器案」がありました。
 で、色々と思案した結果、「電磁パルス案」だと通常兵器が完全に要らない子になりかねないためボツ。ある程度戦力に加減が出来て通常兵器の見せ場が作れる「鹵獲兵器案」基本骨子として採用。
 後に鹵獲では数が揃えられない&早々鹵獲など出来なさそうなので、製造タイプに変更しました。
 結果、深海棲艦に高コストではあるものの、高性能な戦闘機が配備されるという形になりました。

提督の「乗艦」といい、赤色結界といい、オリジナル要素を出し過ぎですが、こういう世界線と言うことでお願いします。


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海を征く者たち37話 蹂躙の海

谷風レベル97。レベリングしておいて良かったです。


「これより所属不明機を敵の新型と認識する! 新型の数はどうだ!?」

「数18です!」

「一個飛行隊程度か。各艦に対空ミサイルの用意を通達。新型に対して一斉攻撃を仕掛ける!」

 

 欧州艦隊司令官であるフィリップスは半ば悲鳴を上げるように艦隊に命令を出す。通常艦隊の対空ミサイルも航空隊と同じく全て特殊弾頭型であるため、現代戦闘機と同等のスペックを持つ敵の新型を撃つには向いていないが、攻撃手段がこれ以外になかった。

 

「敵新型が編隊から突出、こちらに向かっています!」

「艦娘への攻撃はあったか?」

「攻撃は確認されておりません」

「司令、どうやら敵の狙いは我々の様です」

「だろうな。対ミサイル防御準備!」

 

 この命令に各艦のクルーは緊張が走った。ここ4年以上はサイズが小さいとは言え時速700㎞を超えない程度の相手しかいなかったため、クルーがそれに慣れ切っていたのだ。また深海棲艦出現前は色々とキナ臭かった時期もあったとはいえ、ヨーロッパでは現代兵器同士がぶつかり合う戦争は起きていない。言ってしまえば彼らは初めてミサイルと言う現代兵器の危険にさらされているのだ。

 艦隊に張り詰めた空気が漂う。そして数分後、その時は来た。

 

「敵新型が射程に入りました!」

「攻撃開始!」

 

 フィリップスの号令と共に、通常艦隊から一斉にミサイルが放たれる。だがそれは敵の同じだった。

 

「敵新型よりミサイルの発射を確認!」

 

 通信士官の悲鳴のような声が響いた。同時に各艦からミサイルを撃ち落とさんと主砲や対空機銃が轟音と共に火を噴く。更に通常艦隊と共に後方にいた空母艦娘やその護衛の艦娘たちも、少しでも弾幕を厚くしようと各々が持つ砲火を上げていた。

 その努力もあって欧州艦隊は何発ものミサイルを防いでいた。ミサイル防御が各艦の主砲と機銃しかない状況を考えれば、予想以上とも言っても良い。だが18機から来るミサイルの一斉攻撃を防ぐことは出来なかった。通常艦隊にミサイルの雨が降り注いだ。

 

「ダメージレポート!」

 

 被弾した艦の艦長たちは慌てて対応していた。予想よりもミサイルの威力が低かったものの、装甲が殆どない現代の戦闘艦にとってこの被弾は艦の持つ戦闘能力を大きく減らす事となる。

 特に悲惨なのは艦隊旗艦である原子力空母「シャルル・ド・ゴール」だ。護衛の奮闘と必死の操艦にも関わらず3発が命中。その内1発が飛行甲板を破壊しており、艦載機の発着艦は不可能となっていた。

 また少なくない数の轟沈艦も発生していた。特に防空の要の一つとして艦隊に参加していたイタリア海軍の「アンドレア・ドーリア」が、集中打を浴び乗員の退艦も出来ずに轟沈するという悲劇が起こっていた。それ以外にも軽武装なフリゲートやコルベットを中心に総員退艦が出た艦があった。沈みゆく艦の周囲では退艦した乗員を助ける艦娘の姿が見られている。

 その様な光景を歯噛みしつつ、フィリップスは叫ぶ。

 

「敵機はどうだ!?」

「3機の撃墜を確認しましたが、残り15機が健在です!」

「やはり無理があったか!」

 

 特殊弾頭搭載型ミサイルでジェット戦闘機を3機撃墜出来たこと自体が奇跡に近いのだが、通常艦隊が壊滅している状況では慰めにもならない。生き残ったどの艦も立て直しに精一杯だった。

 そしてそんな彼らを置いて、事態は進行していく。

 

「敵新型後退! 同時に敵の空母型から発艦した航空機編隊が進出しています!」

 

 通信士官の声が響く。モニターに目を向ければ、仕事は終えたと言わんばかりに悠々と引き返していく新型と入れ替わる形で、彼方からこちらに向かって飛ぶ敵の大編隊が確認できた。フィリップスは顔を歪ませつつ、脇に控えているスターク参謀長に訊ねた。

 

「通常艦隊の状況はどうなっている」

「轟沈多数、生き残った艦も損傷が見られており、壊滅状態です」

「防空戦闘は?」

「自艦防衛ならば轟沈のリスクは大いにありますが可能かと。但し前衛の艦娘艦隊への制空援護は不可能です。また先程スエズに航空機を要請しましたが、時間が掛かる上にスエズに通常の空対空ミサイルはありません。間に合ったとしても敵にスコアを献上する事になります」

 

 トーネードやタイフーンを始めとした戦闘機は先の空戦で撤退。そして欧州艦隊の後衛として控えていた通常艦隊は壊滅している。これにより制空権争いの主力である人類の操る兵器群が使用不能となっていた。

残る手札は欧州艦隊所属の空母艦娘による航空機隊だが、

 

「艦娘だけで航空優勢を維持出来ると思うか?」

「……不可能です」

 

 第三波の規模は約1200と言う欧州艦隊の艦娘を上回る規模であり、当然敵の繰り出す航空機の数も上回っている。更に航空機の性能についても深海棲艦側が上であるため、敵が空の支配権を奪取するのは目に見えていた。

 そして肝心の艦隊戦において、航空優勢があちら側にあり更に数も上回っているとなれば、勝敗など容易に予測できる。

 ならば欧州艦隊の司令として下す命令は一つしかなかった。

 

「撤退するぞ」

 

 敗戦すると分かっていて戦闘を継続する程、彼は血迷ってはいなかった。不幸中の幸いではあるが、本拠地であるスエズはかなり後方にある。再戦する機会はあった。

 

「しかし敵は簡単には逃がしてはくれないでしょう」

 

 撤退する相手に追い打ちを掛けるのは戦争のセオリーだ。そのために戦争において撤退時に多くの被害が発生する事は良く知られている。撤退の指揮を執り行う指揮官は、如何に被害を抑えて後退する事が出来るかがカギとなる。

 敵は第一、第二波の残存艦と無傷の第三波。対する欧州艦隊は戦闘が続き疲弊し始めている艦娘艦隊と損傷艦ばかりの通常艦隊。撤退にはかなりの困難が伴うのは確実だった。

 

「なんとかするしかないな」

 

 フィリップスは一つため息を吐くと、前に向き直った。

 

 

 

 アラビア海での欧州艦隊の敗戦を受け、ヨーロッパ各国の軍部は大混乱に陥っていた。事前に情報を精査し、それを元に戦力を掻き集め万全を期して戦いを挑んだのだ。だが蓋を開けてみれば、予想以上の数と深海棲艦の繰り出した新兵器の前に敗北した。何とか撤退は出来たものの、通常艦隊も艦娘艦隊も壊滅状態に陥っていた。

 この事態にこれからの対応を協議すべく緊急の会議が執り行われる事となり、各国首脳陣がブリュッセルに集結していた。その誰もが顔を青くしている。

 

「まさか深海棲艦が現代戦闘機を繰り出すとはな……」

 

 ドイツ首相フューゲルはため息を吐きつつ、軍から上げられていた資料に目を通していた。

 

「この4年の戦いで我々は戦法を対深海棲艦用に最適化させてきていたのだ。そこへ現代戦闘機など繰り出されれば、大打撃を受けるのは当然でしょうな」

「一部で司令官の更迭の声が出ていますが、どうしますか?」

「不要でしょう。こんな自体を予測する事など不可能だ。それに下手に人事に手を出せば現場が余計に混乱するだけですな」

 

 イギリス首相であるマクドネルの案に、その場にいる全員が頷いた。アラビア海での海戦は全滅してもおかしくなかったのだが、あの欧州艦隊司令官はある程度の戦力を保持したままスエズに撤退出来たのだ。その事を欧州各国の首脳陣は評価していた。

 

「敵は?」

「ソコトラ島を占領して急ピッチで飛行場を建造中との事だ。それに合わせて一時的に侵攻が止まっている」

「スエズへの前哨基地と言った所か。あそこに基地を作れていればな」

「我々の方針はスエズが最優先だったのです。仕方のない事でしょう」

 

 イタリアのマルローネ首相は肩を竦めた。紅海の入り口に位置しており、地政学的にも重要な島であるソコトラ島は、ヨーロッパとしても確保しておきたい拠点であった。しかし何事にも優先順位がある。ヨーロッパから見た場合、地理的にも近く地中海と紅海を結ぶ重要拠点であるスエズ運河を確保、拠点化する事の方が、優先順位としては上であったのだ。

 そんな欧州が優先して確保したスエズ運河だが――現在、危機的な状況にあった。

 

「そのスエズを守る戦力はどうなっている?」

「先の海戦で大打撃を受けたせいで戦力が激減している。艦娘の方は修理が終わっているためある程度は戦えるが、問題は通常兵器の方だ」

 

 各国から集められた海軍艦艇と戦闘機は大打撃を受けたため、余程の軽微な損傷でもない限り修理のために本国へと回されていた。そのため通常兵器については、空軍戦力は半減、海軍戦力に至ってはほぼゼロに近い。

 ソコトラ島の拠点化が終わり次第発生するであろう深海棲艦の大攻勢に対して、艦娘だけでスエズ運河を守り切る事は困難であると見なされていた。

 

「となると援軍が必要か」

「通常兵器だけでなく、艦娘の増援も必要になるだろうな」

 

 スエズ運河を防衛するために、ヨーロッパ各国は援軍を出さざるを得ない。各国首脳の視線が自然とマクドネルに集中していく。先の欧州艦隊編成の際にイギリスは艦娘戦力はそれなりに出したのだが、代わりとして大西洋沿岸の防衛を名目に通常兵器の拠出を殆ど行っていなかったのだ。

 その視線にマクドネルは顔を歪めて答えた。

 

「我が国に期待しているようだが、期待には応えられそうにない」

「どういうことです?」

「資料を」

 

 彼の指示により、書類が各国首脳陣に配布される。そして誰もが目を見開いた。

 

「これは……」

「大西洋のアゾレス諸島拠点で深海棲艦の活発化が見られている。これでは迂闊に援軍を出せん」

 

 苦々し気に呟くマクドネル。イギリスでは既に厳戒態勢に入っており、まとまった数の援軍を出す余裕はなかった。

 

「スエズ突入のための囮では?」

「軍部でも同様の見方がされているが、仮にこれを無視してスエズに援軍を送った場合、大西洋側戦力の減少をチャンスと見てアゾレス諸島拠点が攻勢に出るとの結論も出ている」

 

 この説明に各国の首脳は顔を青ざめる事となる。つまるところヨーロッパで大西洋に面している国が動けなくなる事と同じなのだ。

 

「そうなると地中海に面した国々から援軍を出すしかないが……」

「我が国だけでは難しいでしょう。内陸国からも航空機を出していただきたい」

「当然だ。しかし……」

「ええ。通常戦力は何とかなるとしても、今度は艦娘戦力に不安が残ります」

 

 マルローネはため息を吐いた。イタリアを始めとして地中海の国々から艦娘戦力は派遣されるだろうが、戦力には不安があった。戦艦戦力はともかく、空母戦力はイタリアしかないのだ。これまでであれば制空については通常兵器を当てに出来たのでそこまで問題は無かったのだが、敵が現代戦闘機を繰り出してきた現状では、この空母戦力の低さは問題であった。だが打てる手が限られている以上、どうしようもない。

 

「……スエズが陥落するケースも考える必要があるな」

 

 フューゲルの言葉に、会議室は重苦しい沈黙に包まれた。スエズ運河が敵の手に墜ちる可能性は十分にあるのだ。もしもの時を考えるのは国を預かる者の義務であった。

 あちらこちらからため息が漏れる会議室。そんな状況を破ったのはマクドネルだった。

 

「……スエズ陥落のケースについてだが、それに関連して実は軍部からある計画が提案されている」

「なんだ?」

 

 フューゲルの問い掛けに対して、マクドネルは懐から出した書類をもって返した。そして参加者全員が内容を確認した時、誰もが渋い顔をしていた。

 

「一つ聞きたい。軍は本気なのか?」

「このままではスエズが陥落する可能性が高い。それならば、との事だそうだ」

「そもそもこんな過去の遺物が残っていたのですか?」

「深海棲艦の攻撃が激化し始めた頃に、本土決戦用に極少数だが新規に生産されていた。今や無用の長物だと考えていたが、まさかここで使うことになるとはな」

 

 自嘲気味に笑うマクドネル。

 

「これは飽くまでも保険だ。私としては許可したい所だな」

 

 暫しの沈黙。そして口を開いたのはフューゲルだった。

 

「……スエズを守り切れる可能性は十分ある。しかしもしもの時の備えが必要だ」

「そうですね……」

 

 ドイツ、イタリアの首相の賛成を切っ掛けに流れはイギリスの案への賛同に傾き、最終的に実行される事となる。

 こうしてスエズ運河防衛のための準備が進められていった。

 




撤退戦とか難しすぎて書けん……。


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海を征く者たち38話 紅海海戦

今回のダイスロール

人類:53+15+35=103
深海棲艦:19+71+22=112

……何のダイスかは語るまい。


 2018年1月8日。最低限ではあるもののソコトラ島の拠点化を終えた深海棲艦艦隊は、紅海の北上を開始した。この動きに対し、昨年にスエズ運河に建設されてた軍事基地では、侵攻を食い止めるべく迎撃を決定。艦娘艦隊及び通常兵器群が出撃した。

 

 迎撃の主力である艦娘艦隊の数は約950人。これは先の海戦の生き残りに加えて、海戦後に地中海に面した国々からの増援もあったため、前回よりも数が増していた。しかしトルコやギリシャを中心に増援に来た艦娘たちは性能に劣る艦が多く、実質的な戦闘能力については欧州艦隊の時よりも減少しているのが現状であった。

 そんな彼女らを補助する通常兵器群であるが、海上ではフリゲート3隻が出撃していた。ここまで少数である原因だが、アラビア海での海戦で生き残った艦が修理のために本国へ帰還しており、更に各国が増援の艦を出せるほど余裕が無かった、と言う事情があった。

 空についてはアラビア海海戦の生き残りと各国から派遣されたジェット戦闘機の合計60機出撃していた。これは前回の海戦で深海棲艦が繰り出した現代戦闘機、NATOコードネーム『フリント』を警戒しての物であり、作戦に参加している戦闘機は全て通常の空対空ミサイルを装備した制空任務仕様となっている。とは言えアラビア海海戦で『タイフーン』や『ミラージュ』に多数の損害が出ていたため、陣容は『F-4』や『ミラージュ2000』を始めとした第三世代ジェット戦闘機が数的主力である。そのため第四世代ジェット戦闘機と同等の能力を持つと予測される『フリント』を相手にどこまで戦えるのかは未知数であった。

 また本拠地であるスエズ基地では、艦娘用航空機による基地航空隊が編成されている。機体はイギリス、ドイツ、イタリアと様々な国の物が入り混じっており、空母艦娘の航空隊と協力することで航空優勢の獲得を目論んでいた。

 司令官は、先の海戦で欧州艦隊の指揮を執っていたフィリップス。本人は辞退したかったのだが、各国の政府上層部が撤退戦での指揮を評価していた事、更に敗北する確率の高い今回の迎撃戦の指揮を執りたがらなかったという事情のため、引き続き彼が司令官として任務に当たっていた。

 

 対してスエズを目指して紅海を進む深海棲艦艦隊だが、アラビア海海戦の生き残りを再編成した約2000隻、そして新型航空機である『フリント』が31機と言う陣容であった。

 人類が知る由は無いが、アラビア海海戦で深海棲艦が繰り出した戦力は、紅海、アラビア海、インド洋、そしてチャゴス諸島拠点の大半の戦力をつぎ込んだ物なのだ。ある程度の戦力の補給はともかく、100隻単位の大規模な増援を出す余裕は無かった。

 特に『フリント』は先の海戦で5機が撃墜されたが、機体の製造にコストも時間も掛かる事から補充機が出す事が出来ず、欠員が出たまま戦う事となっていた。

 

 現地時間、午後2時。

 

《Sky-Eyeより各機、レーダーが敵航空機編隊を捉えた。数31、『フリント』だ》

《Knight-1、了解》

 

 両艦隊より先行していた、スエズ航空機隊とフリント編隊が接触。ここにスエズをめぐる戦いである紅海海戦が開始された。

 

《Knight-1、FOX-3》

《Blue-3、FOX-3!》

 

 スエズ航空機隊から多数の空対空ミサイルが目視外のフリント編隊目掛けて放たれる。そしてそれはフリントも同様であった。敵から放たれたミサイルがスエズ航空機隊襲い掛かる。

 

《Break!》

《Bre――Shit!》

 

 ある機は使用したミサイルの関係上祈りつつも前進を続け、またある機はミサイルを躱すべくフレアやチャフを撒きつつ回避機動を取る。当然敵の攻撃に食いつかれ、翼をもがれる機体も多い。だがスエズ航空隊に墜ちていく僚機を気に掛ける時間は無い。

 ミサイルに狙われなかった幸運な機、そして何とかミサイルを躱し切った機が、更に接近しドッグファイトを狙う。

 航空隊がフリント編隊の姿をその目で捉えた。そして同時にある事に気付いた。

 

《Knight-1よりSky-Eye。『フリント』が予想より減っていない》

《こちらでも確認した。各機注意せよ》

 

 第三世代機が中心とはいえ、50機からなるミサイルの飽和攻撃だ。海戦前のブリーティングではそれなりの数を撃墜出来ると考えられていたのだが、現実は異なり20機以上が生き残っていたのだ。

 しかし想定外の事態が発生したからと言って、作戦を中断する訳にはいかない。

 

《Blue-1、Engage!》

《Go、Go、Go、Go!》

 

 フリント編隊にスエズ航空隊が突入していく。それを切っ掛けに両軍入り乱れたドッグファイトが始まった。

 

《Enemy down!》

《Knight-2、FOX-2!》

《I’m going down! going――》

《FOX-2!FOX-2!》

《Break、Break!》

 

 21世紀に入り見る事など無いとされていた大量の現代戦闘機同士による近接戦闘が紅海の空で繰り広げられていた。墜とし、墜とされ、着実にその数を両軍は減らしていく。そしてこのダメージレースで不利なのは――スエズ航空隊だった。

 

《Knight-1、FOX-2!》

 

 Knight-1の操るタイフーンが『フリント』の後ろを取り、短距離空対空ミサイルのサイドワインダーを放つ。特有の独特の軌道で迫るソレを、『フリント』はフレアを射出しつつ回避機動を取る。これはセオリー通りである。だが回避機動に問題があった。

 

《クソ、ふざけた機動を取りやがって!》

 

 目標が急速な旋回を取る。その動きはパイロットが急激なGにより失神しかねないレベルの物だ。だが『フリント』はそれを難なくこなし、最終的にミサイルを回避してのけた。この様な光景がこの戦場では幾度となく繰り広げられていた。このパイロットが搭乗していては取る事の出来ない機動性こそが『フリント』の強みなのだ。

 だがその様な状況にあってもスエズ航空隊は諦めるつもりはなかった。『フリント』を抑えられるかどうかで戦況が左右するのだ。そしてそれを出来るのは自分達しかいないのだ。各機が必死に『フリント』に食らいついていく。

 そして――

 

《駄目か。Knight-1、Eject!》

 

 最後まで空に残っていたタイフーンが被弾し、パイロットが脱出する。パラシュートで降下している最中、彼を撃墜した『フリント』が遠ざかっていくのが見えた。

 数十分の激闘の末、紅海の空に残っていたのは『フリント』だった。スエズ航空隊は壊滅。辛うじて生き残った機体もボロボロになりながらも離脱していった。

 しかし彼らの努力は無駄ではなかった。

 

「離脱したか……」

 

 僅かに残っていたフリント編隊は反転し、スエズから遠ざかっていく。その機体はどれも傷ついており、飛ぶのがやっとの状態であった。

 スエズ航空隊は確かに壊滅した。しかしそれと引き換えにフリント編隊の撃退には成功したのだ。この事は戦局に大きな影響をもたらす事となる。

 

「攻撃隊発艦開始!」

 

 空母艦娘たちが空白となった空を支配するために、艦載機を発艦させる。各々の母艦から発艦した航空機たちは素早く編隊を組み、敵の襲来に備えた。

 そして間もなく、航空管制機からの通信が艦隊全体に響く。

 

《敵航空機隊を確認した》

 

 無線と同時に彼方より幾つもの航空機編隊が姿を見せる。その数は艦娘たちが放った航空機を上回っている。しかし、

 

《Sky-Eyeより通常艦隊。敵編隊に『フリント』は確認されていない》

《了解した。対空戦闘用意》

 

 通常兵器への脅威となる『フリント』が居ないのなら、数の優位を抑える事が出来る。通常艦隊は素早く特殊弾頭搭載型ミサイルの照準を敵の編隊に向ける。

 

「攻撃開始」

 

 3隻のフリゲートから一斉に艦対空ミサイルは一直線に深海棲艦の航空隊に突入、巨大な爆炎を持って敵機を薙ぎ払った。

 深海棲艦航空隊の数が一気に削り取られる。だがそれでも十分な数を有していた。幾らまとめて撃墜できるとは言え、3隻のフリゲートだけでは敵の航空機を壊滅させる程の手数を有していないのだ。

そしてその事は司令部でも予測されていた。だからこそスエズ艦隊は次の手を打っていた。

 

《スエズ基地航空隊、参戦します!》

 

 通信と共に、スエズ艦隊の後方から艦娘の使う航空機の編隊が飛来した。空母艦載機と基地航空隊による航空優勢の獲得。これが通常兵器が限られる現状で取れる次善策だった。

 二つの勢力による航空戦が始まった。味方が撃墜したと思ったら、次の瞬間には墜とされる。時折通常艦隊からの援護により、空に火炎の球が膨れ上がる。

 そんな激しい航空戦の下で、海上でも戦いが始まろうとしていた。スエズ艦隊の先頭を征くのはアラビア海海戦を生き延びたネルソン級戦艦を始めとした戦艦部隊だ。対する深海棲艦側はル級エリートを含む戦艦部隊。共に16インチ砲搭載艦だ。

 瞬く間にお互いの距離が詰まり、砲撃射程圏内に入る。

 

「Shoot!」

――!

 

 同時に砲火が上がった。こうして艦娘と深海棲艦の激闘が始まった。

 

 

 

「戦況はどうなっている?」

 

 スエズ基地の司令部で、作戦司令官であるフィリップスは参謀のスタークに訊ねた。紅海での海戦が始まり既に数時間が経過しており、基地の人員は誰もが慌ただしく動いていた。

 

「現在、海、空共に拮抗状態が続いています」

「海はともかく、航空優勢が取れていないのか?」

 

 艦娘用航空機については空母艦娘と基地航空隊の合計で、深海棲艦側とほぼ同数となっている。それだけでは性能差により押されるだろうが、今回は3隻しかいないもののフリゲートによる対空援護が行われているのだ。戦力的に辛うじて航空優勢を獲得できるはずであった。

 

「使用している航空機の航続距離が短すぎるのです。短期間で補給のために帰還する事になっており、結果的に押し切れない状況が続いています」

 

 欧州機の特性として航続距離が短い事が挙げられており、増槽なしでは1000㎞も飛べない機体も多い。短期間での戦闘であればこの問題が見えにくいのだが、今回の様な長期戦となると、戦場に居られる時間の短さが問題となってきていた。

 

「空がその様な状況で、海上の方は大丈夫なのか?」

「敵が我々の2倍近くですが、良く守り切っています」

「増援の艦娘はどうなんだ? 主要国の艦娘よりも若干性能が低いと聞いたが」

「現在の所問題はありません」

 

 艦娘と深海棲艦の戦闘能力を比較した場合、能力の高い鬼、姫級と言う例外があるものの、基本的に艦娘の方が勝っている。これはフィリップスたちの不安要素であったトルコやギリシャからの艦娘も例外ではない。装備面こそ深海棲艦に対して劣っているが、十分な戦闘能力を有している。そのため数の差が2倍程度であるならば、各艦が連携する事により拮抗状態に持ち込めていた。

 

「しかし報告が入っています」

「と言うと?」

「現在行われている海戦ですが、深海棲艦側の姫級が海戦に参加していません」

「それは行方不明ということか?」

「いえ、敵艦隊の後方で待機しています」

「……」

 

 この報告にフィリップスは不安を感じざるを得なかった。敵が何か企んでいるのは確実だろう。

 

「後方の姫級に攻撃出来ないか?」

「難しいかと。既に有効な戦力が残っていません」

 

 海上での攻撃は姫級が後方にいるため不可能、航空攻撃なら届くかもしれないが当然護衛の戦闘機が残っているため、碌な打撃は与えられないだろう。フリゲートによる対艦攻撃ならば届くだろうが、姫級に対して通常兵器は殆ど効果はない。今の彼らに姫級への干渉をする力は残っていなかった。

 

「……前線部隊には警戒するように通達しろ」

 

 不安を孕むスエズ基地の上層部ではあったが、注意を促すしか打てる手は無かった。

 

 

 

 長期に渡る海戦は、太陽が沈んでも続いていた。紅海上空では夜間戦闘が困難な艦娘、深海棲艦の航空隊は母艦に帰還。海上は時折放たれる照明弾の中でのレーダー及び目視による戦闘が継続されている。

 だが若干だが戦局に動きが出始めていた。スエズ艦隊が押し始めたのだ。これは敵の航空機による攻撃がなくなったことにより、練度に勝る艦娘たちが十全に戦闘能力を発揮できるようになったためであった。

 

「このまま行けば押し返せるか?」

 

 前線部隊の誰もがそう考えるようになった時、深海棲艦も動き出した。

 

「敵航空機襲来!」

 

 切っ掛けは、一度は引いた敵の航空機による夜間攻撃だった。深海棲艦の一部の空母は夜間攻撃の可能な艦載機を使用している事は以前から知られていた。最も攻撃できると言っても命中率はかなり低く、そこまで脅威ではないとされていた。

 問題はそんな航空攻撃が、スエズ艦隊のある一点に集中している事であった。そこはスペックが低い艦娘が若干集中している所であり、同時に深海棲艦による攻撃を受けてしまったため、損害が加速する事となる。

 

「申し訳ありません。戦闘不能です……」

 

 そして程なくして敵の攻撃に耐えきれず艦娘たちは戦線を離脱。スエズ艦隊の取る陣形に小さな穴が開いた。これだけであれば紅海での海戦が始まってからよく見られた光景である。

 だがその小さな穴を深海棲艦たちが確認した瞬間、待っていたとばかりに、これまで戦闘に参加していなかった姫級たちが、陣形の隙間目掛けて突撃を始めた。

 

「不味い! 穴を塞げ、早く!」

 

 その光景に深海棲艦の狙いを察した一部の提督が叫んだ。慌ててフォローに入ろうとする艦娘たち。しかし既に遅かった。

 

――蹂躙しろ!

 

 姫級のみで構成された艦隊が陣形の穴に突入した。艦娘を圧倒する戦闘能力を有する姫級たちは、周囲の艦娘たちを次々と打ち倒しつつ、陣形の奥へと突入していく。それを止めようと慌てて戦艦部隊が立ちはだかるも、多数の姫級を止めるには至らない。

 姫級たちにより陣形が乱された事により、艦娘たちに動揺が走る。そして深海棲艦はその隙を見逃さなかった。

 

「敵の攻勢が強まったぞ!」

「後方は姫級にやられている! 不味いぞ!?」

 

 立て直そうと必死に指揮を執る提督たちと、それに応えようとする艦娘たち。だが敵の攻勢の前に、次々と撃破されていく。そして、

 

「司令部より前線艦隊へ。総員撤退せよ」

 

 これ以上の交戦は被害が無駄に拡大するだけと判断した司令部により撤退命令が出された。後にスエズ艦隊は撤退時に多数の損害を出しつつも、スエズ基地へ後退する事となる。

 こうして紅海海戦はスエズ艦隊の敗北と言う形で幕を閉じた。

 




惜しい。本当に惜しい……


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海を征く者たち39話 人類の狂気 艦娘の狂気

仮ですが、サブタイトルを付けてみました。定着するか、変わるか、消えるかは、今のところ未定です。

なお今回の話ですが、ある有名ゲームのオマージュがあります。ご注意下さい。……最も現実でも似たようなプランはあったようですがね。

追記:11月19日。色々と変更しました。


 2018年1月9日、深夜。スエズ基地は騒然としていた。スエズを守るための最後のチャンスであった紅海での海戦が、スエズ艦隊の敗北と言う形で終わったのだ。これはスエズ運河を守る戦力が消失した事と同じであった。

 呆然とする基地のスタッフ。だがいつまでもそうしている訳には行かない。既に上層部からスエズの放棄が通達されており、撤退のための準備が大急ぎで行われることとなる。撤退のための足である輸送船や輸送機は用意されているため、基地人員総出で基地運営に関する資料や重要物資の積み込み、持ち出す事の出来ないミサイルなどの大型兵器や艦娘用資源の破壊が行われている。

 そんなスエズ基地にボロボロになった艦娘たちが次々と帰還していた。本来なら入渠施設に直行させる所であるが、敵は目の前まで迫っている。中大破した艦娘が大急ぎで輸送艦に乗せられていく。損傷の少ない艦娘たちは補給もそこそこに、撤退のための護衛としての仕事が割り振られる事となる。

 

「基地の撤退準備は進んでいるか?」

 

 今や敗戦の将であるフィリップスは、執務室にあった機密資料が詰まったジュラルミンケースを閉じつつ、参謀長のスタークに尋ねた。

 

「現在順調に進んでいます。機密文書については、事前にある程度の資料は破棄されていたため、重要機密が敵に漏れる心配はありません。ただ大型兵器及び各種機材、燃料等の持ち出しは不可能であるため、我々の撤退直後に爆破処理出来るように準備を進めています」

 

 深海棲艦に高度な知能がある事は良く知られている。基地の物資を敵に利用される事を防ぐために、彼らは撤退後の基地に何も残さないつもりでいた。特に艦娘用の資源関係は深海棲艦も利用できる可能性が高いため、確実に爆破処理する予定である。

 

「人員の収容も進んでおり、撤退準備完了まで後3時間と言った所です」

「そうか。……敵艦隊の進行状況は?」

「相変わらず侵攻が続いています。このままのペースですと、明け方にはスエズに到着します」

「撤退を妨害される可能性はないか……」

「いえ、深海棲艦の一部の空母が夜間でも飛行可能な航空機を有しているため、油断は禁物です。警戒は必要かと」

「そうか。ともかく撤退準備を急がせろ。……『仕込み』の起動準備は?」

 

 あえてぼかしつつフィリップスは尋ねた。それにスタークは顔を歪める。

 

「……最終確認は終わっており、後はタイマーのセットのみです」

「そうか」

「本当によろしいのですか? あれを使うとなれば……」

「抵抗があるのは分かるが、本国から使用の許可――を通り越して命令が出ている。私の一存では最早どうしようもない」

「……」

 

 沈黙するスターク。フィリップスも小さくため息を吐いた。彼としてもこのスエズ運河の『仕込み』は使いたくはない。そもそも深海棲艦に効果があるのかも不明であるし、それ以前に周辺への悪影響は計り知れない代物なのだ。いつになるかは分からないが、後に計画されるであろうスエズ奪還作戦において障害になりかねない。

 もはや止められない状況に二人は黙り込んでいた。そんな時だった。

 

「おいここは――がっ!?」

 

 執務室の外から衛兵の声が響いたと思えば、短い悲鳴と共に静かになった。スタークが素早く扉に向き直ると懐の拳銃に手を掛ける。フィリップスは顔を顰めるが何もしない。このスエズ基地で衛兵を瞬く間に鎮圧出来る者は限られている。そしてそんな相手に自分の持っている拳銃など効かない事を彼は知っていた。

 コンコンとノックが執務室に響く。変に律儀な襲撃者だと肩透かしを食らいつつ、フィリップスは応答した。

 

「……入れ」

「お邪魔するわ」

 

 入ってきたのは長い金髪が特徴の軍帽を被った女性、ドイツの戦艦艦娘であるビスマルクだった。ズカズカと執務室に上がり込む彼女に、スタークが拳銃を構える。

 

「止まれ!」

「ちゃんと部屋の主の許可は取ったわ」

「衛兵を殴り倒しておいて何のつもりだ!」

「ああ、彼? 廊下で寝てたわよ。疲れてたんじゃないの?」

「貴様……」

 

 押し問答、いやスタークが一方的に捲し立てている光景にフィリップスは頭痛を覚えつつ口を開いた。

 

「スターク。落ち着け」

「しかし!」

「いいから。それで? 私に何の用だ?」

「話が早くて助かるわ」

 

 ビスマルクは男なら見惚れる様な笑顔を浮かべると、まるで明日の天気でも言うかのように、サラリと爆弾を落とした。

 

「スエズ運河の『仕掛け』に関連して、私――と言うよりも一部の艦娘たちから提案があるわ」

 

 この発言にフィリップスは思考が停止した。スタークが唸り声を上げる。

 

「貴様……どこでそれを知った」

「ここの壁、薄すぎるわよ。隣の部屋からならよく聞こえるわ」

 

 堂々と答えているが、確実に嘘であった。『仕掛け』については基地の上層部と実行する一部の人間にしか認知されていない重要案件なのだ。軍の高い位にいる彼らにとって、彼女がどうやって知ったのかを聞き出したい所であるが、尋問した所で無駄であろう。

 

「『仕掛け』を止めに来たのか? 生憎とそれは無理だぞ」

「止める? なんで?」

 

 きょとん、と邪気の無い顔で首を傾げるビスマルク。そんな彼女にフィリップスには、どこか薄ら寒い物を感じていた。『仕掛け』の内容を知ってもなお、その様な反応をする事など彼には出来ない。

 

「ねえ、フィリップス司令官。あなたはあの『仕掛け』が深海棲艦に効くのか不安なのでしょう?」

「……そうだ。もし効果が無ければ撤退する我々に追撃隊を送られる可能性が高い。……最も私が『仕掛け』を嫌っているのはそれだけではないがね」

「後半はどうでも良いわ。もし敵の追撃隊を確実に出せないようにする案がある、と言ったらどうするかしら?」

「……何をするつもりだ?」

 

 フィリップスの問い掛けに、ビスマルクは提案を語った。そして全てを語り終えた時――フィリップスとスタークは顔面を蒼白にしていた。

 

「……貴様、いや貴様ら正気か?」

「どうでしょうね」

 

 ビスマルクは自嘲気味に笑うだけだった。

 

「この案に賛同する艦娘のリストは纏めてあるわ。案を実行してくれるならリストを渡す」

「……そのリストに載っている者だが、強制された者や同調圧力によって参加した者が混ざっている可能性は?」

「無いわ。私たちが暗に探りを入れて、意に反していると思う娘はリストから外してあるわ」

「……」

 

 暫くの沈黙、思案するフィリップス。そして彼は顔を強張らせつつも決断した。

 

「……良いだろう。君たちの提案に乗ろう」

 

 こうして元からの『仕込み』に加え、もう一つの計画が進行していく事となる。

 

 

 

 明け方。補給と再編成をそこそこに、侵攻を続けていた深海棲艦艦隊はとうとう目的地であるスエズ運河に到着した。この時、艦隊旗艦である戦艦仏棲姫を始め、各艦は緊張を強めていた。何せスエズ運河は敵の重要拠点だ。幾ら艦娘艦隊を撃破したとは言え、基地にはある程度の戦力残っていると考えられる。最終的には勝てるだろうが、思わぬ損害が出てしまったら目も当てられない。

 だからこそ、攻撃を開始する前に入念に航空偵察を行うことになったのだが、そこには彼女たちにとって予想外の光景が広がっていた。

 

――誰もいない?

 

 偵察機の報告に、首を傾げる戦艦仏棲姫。しかし敵の姿が見えないからと言って警戒は怠ら無い。念の為に航空偵察を繰り返し、その後先遣隊を派遣する事にした。

人類の施設に侵入出来る人型を中心に構成された先遣隊が見たものは、悉く破壊された基地施設であった。念の為に基地に侵入し人間や艦娘が残っていないか確認するが、彼女たちの予想通り、誰も残ってはいなかった。また施設にはトラップの類も見当たらず、先遣隊は基地が放棄されたと判断した。

 この報告を受け、戦艦仏棲姫は艦隊を前進。無人のスエズ基地に到着すると、外部からの攻撃を防ぐためにスエズ運河の殆どを覆う程の赤色結界を展開。こうしてスエズ運河が深海棲艦の版図に加わった。

 ならば次に行われるのは立地調査だ。幸いにも人類が使っていた基地が残っているため、ある程度作業工程が省略でいるとみられていた。

 

――使えそう?

――簡単に見て回ったけど……。

 

 運河の中央で結界の展開を続ける戦艦仏棲姫。彼女の部下である集積地棲姫は肩を竦めた。

 

――あいつら丁寧に重要施設を完全にぶっ壊してたよ。あれじゃあ新造した方が早い。

――資源は?

――そっちも殆ど燃えていた。後方から持ってこないといけないな。

――そう。

 

 艦娘用の施設や資源は、ある程度改装すれば深海棲艦でも使用できる。紅海での激戦で艦隊に損害が出ている現状、戦艦仏棲姫としては出来る事なら基地に残った設備を使って修復をしたかったのだ。最も当てにはしていなかったので、大きな問題にはならないのだが。

 

――後、人間が使っていた兵器類も完全に壊れていた。あれじゃあ持って帰る価値はないな。

――チャゴスのお姫様の探し物は後でいいわ。それより滑走路は使えそう?

――ああ、修復すれば使えそうだ。

――なら最低限でいいから応急処置をお願い。

――お、敵を見つけたのか?

――地中海に出していた偵察機が見つけたわ。今ならギリギリ追いつけそうね。

 

 戦艦仏棲姫にとってこの状況は、ある意味で好都合であった。この撤退の速さを考えれば、艦娘は碌な修理が行われていないはずだ。弱体化している敵艦隊に追撃できれば、艦娘たちを文字通り全滅させられる可能性もある。勿論全滅は難しいだろうが、ダメージを与える事が出来れば、後の戦略に大いに役立つ事は確実だった。

 戦力だが追撃隊を出せる程度には残っている。運河の中央にあるグレートビター湖には、長期間の地上活動が出来ない通常型の軽巡、駆逐艦を始めとした多くの深海棲艦が待機している。彼女たちの速度なら撤退する人間の艦隊に追いつけるだろう。

 彼女が湖の方角に振り向いた。その時――

 

 突如として水底から放たれた圧倒的な光が彼女を包み込んだ。

 

 

 

 イギリス軍上層部が提案し、政治家たちが了承し、現場の軍人たちが仕込んだ『仕掛け』。それはイギリスが保有していた戦術級核兵器だった。

 

 2017年6月末のパナマをめぐる攻防戦の終盤、アメリカ軍はパナマに迫る深海棲艦艦隊に対して核攻撃を実施した。しかし作戦は失敗。運河棲姫の展開した赤色結界により核の炎が完全に防がれる結果となった。

 これ以降、各国の軍部では深海棲艦への核攻撃は無意味と判断される事となった。

 赤色結界はアメリカ軍の放った核すら防ぎ切った上、攻撃によって揺らいだ様子はなかった。そのため複数の核の起爆でも赤色結界を破る事は出来ないとみられている。幸いな事ではあるが、これまでの研究より赤色結界を張るのは姫級だけである事が確認されているため、姫級を含まない小規模艦隊相手であれば核攻撃は有効だろう。しかしその程度の戦力であれば艦娘や通常兵器で十分対応できるため、核の出番はない。このような考察の元、深海棲艦への核攻撃は向かないと考えられていた。

 だが今回の深海棲艦の活発化の際、ある軍人がある疑問を提示した。

 

「結界内部からの攻撃はどうなんだ?」

 

 少なくとも赤色結界内部での交戦は可能なのは日本の交戦例から確認されている。ならば内部での核攻撃が出来る可能性は高い。そしてイギリス軍には少数ではあるが、都合の良い物が作れられていた。

 戦術級核爆弾を用いた地雷及び機雷。

 深海棲艦が活発化して以来、イギリス軍で現代の技術で復活した冷戦時代の遺物が存在していたのだ。タイマー式のそれらを使えば、結界内でも核攻撃を行える可能性があった。周辺地域への放射線汚染の問題があるが、これを使うのはスエズが取られてからだ。自分達の部隊には問題は起こらない。

 そうしてイギリス軍による核攻撃計画は急ピッチで進んでいく。とは言えこの計画には不安要素もあった。そもそも核攻撃が深海棲艦に効くのか不明なのだ。

 人類の兵器類は敵の持つ装甲壁のせいで、いまいち効果が薄い。また深海棲艦は第二次世界大戦中の軍艦がモデルとなっている。アメリカが実施した艦船、機器、各種物資への核攻撃の検証実験「クロスロード作戦」により、艦船に対しての核攻撃は有効ではない事が確認されているため、深海棲艦に有効打が与えられない可能性があった。

 しかし、イギリス軍はこの問題を実に単純な方法、複数の核兵器による同時起爆で解決する事にした。それでも効果が薄い可能性は十分あるが、これだけの核を使うとなれば運河へのダメージは確実に行えるため、深海棲艦によるスエズ運河の拠点化を遅らせる事は確実であった。

 こうして各国政府に提案された核攻撃案は了承された。すぐさま準備が進められ、最終的にスエズ運河には核地雷を2つ、そして海底にカモフラージュされた核機雷3つが設置される事となる。

 余談ではあるがこの核兵器だが、飽くまでも「占領された際の保険」と言う立ち位置であった。誰も好き好んで大地を核汚染させようとは考えていなかった。だが現実はスエズ艦隊は敗北し、深海棲艦によるスエズ占領は不可避となった。この事態にヨーロッパ各国はスエズ放棄と同時に、敵の侵攻を遅らせるために準備されていた核兵器の使用を決定。現地部隊は深海棲艦が到達する予測時間に起爆タイマーをセットし、撤退していった。

 そしてそんな事も知らずにスエズを占領した深海棲艦艦隊は、5つの戦術核の同時起爆に巻き込まれる事となる。

 

 

 

 スエズ運河を占領していた深海棲艦艦隊は混乱の極みにあった。

 

――被害報告をしなさい!

 

 核の熱線と衝撃により自身も損傷を受けつつも、何とか状況を把握しようと奮闘するする戦艦仏棲姫。そんな彼女の下に届く報告は信じられない物ばかりだった。

 

――グレートビター湖で爆発を確認! 直撃を受けた一部の艦が轟沈した!

――こちら基地占領部隊! 爆発により基地が半壊状態です! 部隊も損傷艦が出ています! 指示を求む!

――空中警戒に出していた航空機隊が壊滅しました! 生き残った機体を急ぎ帰投させます!

 

 矢継ぎ早に各地から報告が入って来る。そのどれもが大損害の報告ばかりであった。結界内の様々な地点で起爆した核は、スエズ運河を破壊。それに巻き込まれ、損傷や撃沈する艦も出ていた。

 

――何が起こっているの!?

 

 状況について行けず、彼女は混乱寸前だった。そんな彼女に声を掛ける者がいた。

 

――落ち着けって。

 

 彼女が振り向いた先には、損害を受けているにも関わらず、飄々とした雰囲気を崩さない集積地棲姫の姿があった。

 

――何があったかはまだ分からないけど、どうやら我々は人間の仕掛けたトラップに引っかかったようだ。

――……でしょうね。

 

 戦艦仏棲姫は苦々し気に吐き捨てる。今思えば兆候はあったのだ。その事に深く疑問に思わなかった自分を恥じていた。

 

――艦隊を再編成させるわ。後方から工作艦も呼んで。

――さっきの爆発がもう一回起こるんじゃないのか?

――それは無いと思うわ。

 

 もう一撃があるのなら、この混乱している状況に来るだろう。それがない事を考えると、大爆発によるトラップは打ち止めである。戦艦棲姫はそう判断した。

 彼女の判断はある意味で正しかった。スエズ基地の人員が仕掛けた核は全て起爆済みであり、イギリス軍の計画ではこれ以上の攻撃は入っていない。核によるスエズ運河の破壊が主目的であるのだが、副次目的として撤退する艦隊の援護も含まれているためだ。

 だがその計画は――

 

――こちら基地占領部隊!

――どうしたの?

 

 現地で計画が書き換えられていた。

 

――艦娘艦隊による攻撃を受けています! 至急、援軍を!

 

 

 

「Feuer!」

 

 スエズ運河に再突入した艦娘の一人、フィリップスに直談判していたビスマルクは、スエズ基地跡地にいた重巡リ級をその主砲で打ち倒した。

 

「お見事です、ビスマルク姉さま」

「ありがとう」

 

 駆けよって来た僚艦のプリンツ・オイゲンに答えつつ、周囲を見回した。敵が潜んでいる様子はない。彼女が撃破した重巡が最後であった様だった。

 

「他の子たちは?」

「多少損傷を受けた子もいますが、戦闘は出来るそうです」

「そう。流石ね」

 

 彼女たちの方を見れば、戦闘が一段落したにも関わらず戦闘態勢を解いていない。その姿は獲物を前にした猟犬を思わせた。そんな彼女たちの姿にビスマルクは満足げに頷いた。

 

「即席だけれど、良い艦隊じゃない」

 

 スエズ運河に戻ってきた艦娘たち。だが傍から見ればその艦隊は異常だった。艦隊を構成する艦娘は国籍がバラバラであり、艦種もバラバラだ。規模は40人強。このくらいの艦隊となれば提督の指揮下となるのだが、提督はおらずビスマルクが旗艦として指揮を執っていた。

 チグハグな艦娘艦隊。その様な艦隊に参加する彼女たちにはある共通点があった。

 

「これを見たらAdmiralさん、きっと驚きますね!」

「そうね。きっと驚くわ」

 

 何処か暗い笑みを浮かべるプリンツにつられて、ビスマルクも優しく笑った。

 二人の提督はここにはいない。紅海での戦いでグラーフ・ツェッペリンと共に戦死したのだ。それは他の者たちも同じである。

 スエズ突入艦隊。それは提督を失った艦娘だけで構成された艦隊であった。

 

 紅海海戦直後、提督を失った艦娘たちは悲しみに暮れていた。艦娘は提督のためにその姿を現わした。それにも関わらず提督を守る事が出来なかったのだ。その悲しみは推し量れるものではなかった。

 しかし彼女たちはそれだけでは終わらなかった。時間が経つに連れ、悲しみの感情は別の物に代わっていく。

 

「大切な人を殺した深海棲艦が憎い」

 

 元々艦娘はある程度闘争本能が高い。悲しみの感情が殺意となるのには時間が掛からなかった。提督を失った艦娘はこの世には長くても3日しかいられない。ならばこの怒りを深海棲艦に叩きつける方が有意義だ、と考え始めていた。

 そんな艦娘たちを纏め上げたのが、ビスマルクだった。

 彼女も提督を失ったことにより深海棲艦に殺意を覚えてはいたが、どこか冷静ではあった。怒りに任せて個人または小艦隊で突っ込んでいった所で、返り討ちは目に見えている。

 彼女がまず行ったことは、自分と同じ境遇の者たちを一つのグループとして纏め上げる事だった。これはかなり簡単に終わった。誰もが闇雲に突っ込んだ所で返り討ちに合うことは理解していたのだ。賛同者は直ぐに集まり、数時間である程度の戦闘能力を有した集団が出来上がった。だがそれだけでは足りない。深海棲艦のあの大規模艦隊に打撃を与えるには策が必要だった。

 そんな時に妖精によって知らされたのが、スエズ運河の核攻撃の話である。

 この情報にビスマルクは狂喜した。半ば期待していなかった軍人たちが、このような敵に一矢報いることの出来る計画を進めていたのだ。彼女はこれを利用する事にした。

 フィリップス司令官の下に押しかけてからは簡単だった。司令官は核攻撃については何処か懐疑的でめあったために、それに着け込んで艦隊の出撃許可をもぎ取った。

 こうして人間と艦娘、双方が納得する形でスエズ突入艦隊が編成される事となる。

 

 スエズ突入艦隊は進撃しつつ、戦闘で乱れた陣形を整えていた。先程の戦闘は大したものではなかった。全員が前哨戦である事を理解していた。目標は未だに立ち昇るキノコ雲の下にいる。

 

「さあ、前哨戦は終わりよ」

 

 艦隊にビスマルクの通信が響いた。何処か明るい彼女の声に、誰もがつられて笑みを浮かべていた。曇天につられて暗くなっていた艦隊の雰囲気が明るい物になっていく。

 そして丁度そのタイミングで、先行していた偵察機が深海棲艦艦隊発見の報を通達して来た。ビスマルクは小さく頷くと、通る声で艦隊に命令を下した。

 

「全艦突撃!」

 

 放射性降下物が降りしきる中、彼女たちは砲火を放ちつつ進んで行った。

 

 核攻撃により情報が錯綜している状況での、この艦娘艦隊の突撃は深海棲艦にとって完全な奇襲となった。轟沈する事を厭わない艦娘たちを、深海棲艦たちは簡単には止める事が出来なかった。艦娘たちは短期間に次々と敵を撃沈していった。

 だが数の差は大きい。混乱が収まっていくと同時に戦況は逆転していく。一人、また一人と轟沈していく艦娘たち。しかしそのような状況にあっても士気が低下する事は無い。彼女たちは怒り、殺意、贖罪、罪悪感、無力感、様々な感情を深海棲艦に叩きつけた。

 そして彼女たちのスエズ運河突入から2時間後――最後に残ったビスマルクが戦艦ル級と相打ちの形で轟沈。これによりスエズ突入艦隊は文字通り全滅した。

 

 スエズ突入艦隊は全滅したが、彼女たちの功績は戦略に大きな影響を及ぼす事となった。

 スエズからの撤退していた人間、艦娘の艦隊は、追撃される事無く無事に撤退に成功。当初の予定より多くの戦力を欧州に戻す事に成功している。

 対する深海棲艦だが、こちらは思わぬ被害を受けていた。スエズに突入した艦娘艦隊により100隻以上の艦と、空母棲姫1隻、重巡棲姫1隻が沈められた。この事は戦力が枯渇しかかっているインド洋の深海棲艦にとって手痛い損害であった。

 こうしてスエズ運河をめぐる一連の戦闘は、一先ずの幕を閉じた。

 




皆好きでしょ?ベルカ式国防術。


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海を征く者たち40話 戦いの後

いつもの戦後処理回。

深海棲艦幸運ロール、1d100:72
結構高いな。


 深海棲艦の侵攻阻止の失敗。そしてスエズ撤退。この事実はヨーロッパ各国の民間、政府を問わず大きな影響を与える事となる。

 民間だが当然ながら様々な方面が大混乱に陥っていた。特に経済については、艦娘の登場、近海に出現する深海棲艦の撃退により、経済が落ち着き始めた所にこれである。株価は急激に下落し、市場は混沌としていた。これまである程度安全な海とされていた地中海側の住民は、深海棲艦の侵攻に怯え、内陸部へと避難するケースも続出している。また今回の敗戦から一部では艦娘の能力を疑問視する者も現れ始めていた。

 各国政府関係者だが、国内で生じる混乱を何とかして抑えようと奮闘していた。このような情勢不安が国家崩壊に繋がるケースは、深海棲艦が出現して以降では幾度となく見てきた光景なのだ。彼らは崩壊だけは免れようと必死に働くこととなる。

 だが最も悲惨だったのは国防に関わる者たちだろう。彼らはスエズから何とか帰ってきた自国の戦力を見て、卒倒しそうになっていた。苦しい状況にも関わらず何とか送り出した艦艇を始めとした通常兵器の多くが損失。そして現在の国防の要である艦娘からも轟沈者が多数出ているのだ。国防計画を大幅に見直さなければならない状況に追い込まれる事となる。

 

 このように誰もが悲鳴を上げている中、ヨーロッパを始めとする各国首脳は今後を話し合うべく、ブリュッセルに集結していた。

 

「かなり状況が不味いですな」

 

 経済や軍事を始めとした各種資料を手に取りつつ、イギリス首相のマクドネルはため息を吐いた。これに参加者の誰もが苦い顔で頷く。

 

「今回の敗戦で各国の国民に動揺が広がっています。特に地中海側は顕著で、一部では内陸国へ避難しようとする国民も出始めています」

「お蔭で避難民と現地民との争いが各地で起こっている。これは今後も続くだろうな」

 

 国民が逃げていく国であるイタリア首相マルローネ、避難民がやって来る国であるドイツ首相フューゲルも顔を顰めていた。

 

「経済も今回の一件で悪化の一途だ。今は各方面に手を回して何とか持たせているが、長く続けば悪影響が出るぞ」

「そうならないためにも、原因を取り除く必要がありますが……」

 

 マルローネは言い淀んだ。原因はスエズに居座る深海棲艦なのだが、これを簡単に排除できるのなら、アラビア海、紅海とで敗戦はしていない。

 

「置き土産のお蔭か、今のところスエズの深海棲艦の動きは鈍い。叩くなら今だが――我々にそれが出来るだけの戦力は残っていない」

「艦娘、提督の戦死も痛いが、通常兵器類がかなり失われている。とても攻勢に出る事は出来ん」

 

 スエズをめぐる攻防で通常兵器群は多数の損失を出していた。特に艦艇については、フランスの原子力空母「シャルル・ド・ゴール」を筆頭に、欧州にあった多くの有力な艦艇が喪失している。各国とも艦艇の建造は進められているが、人員の育成も考えれば、大規模な行動を起こせるまでにはかなりの時間が必要となる。また航空機についても同様で、各国が派遣していた戦闘機群にもかなりの損失を出しており、本国での防衛任務で精一杯の状況にある。

 ここまで被害を拡大させた要因である『フリント』だが、当然だが各国とも必死に情報を集めていた。

 

「フリントについての情報は?」

「はっきりしたことは言えんが、現状では大よそ第4世代ジェット戦闘機とほぼ同等の性能であると結論付けられている。対空、対艦の出来るマルチロール機だな」

「紅海での航空戦では第3世代機では苦戦していたとの報告が入っています。その報告は妥当かと」

「通常兵器で撃墜できるのは救いではあるが――厄介な」

 

 人類の操る兵器はこと航空優勢の獲得において、欠かす事の出来ない大きな役割を持っている。特に艦娘の航空戦力が貧弱な欧州にとっては、その傾向が顕著だった。

 そこへ深海棲艦が繰り出してきたのがフリントだ。あの新型機の存在により、人類は現代兵器のリソースを否が応でも振り分ける必要が出てきた。

 

「タイフーンで対応は可能でしょうか?」

「……対深海棲艦戦争が始まってから予算が付いたためある程度改装できてはいるが、タイフーンは第4.5世代機だ。フリントを圧倒できる程ではないな」

「そうなると第5世代機が必要になるぞ。候補ではアメリカのF-22と最近ロールアウトしたと言うF-35。ロシアだと完成間近のSu-57か」

 

 フューゲルの呟きに、参加者の誰もが嫌悪感を示す。彼らの心情的にはどちらも頼りたくなかった。

アメリカは日本の硫黄島攻略の頃から在外戦力の保全に走っており、先のスエズ運河をめぐる戦闘でも参戦しない。この事から各国のアメリカに対する心情はかなり悪かった。

 ロシアの方は資源の取得のために接近しているとは言え、元々欧州にとって長年の宿敵だ。この反応はある種当然だった。またこれ以上の接近をすれば、ロシアに逆らえなくなる可能性を危惧していた。

 

「F-22ですがアメリカは過去の事例から見て売らないでしょう。それにアビオニクスの事も考えれば選択肢から除外されます」

「Su-57は問題ないだろうが、そもそもあれは東側仕様だ。我々旧西側諸国が導入した所で、まともに運用は出来んな。実質F-35一択だ」

「あの国には思うところもあるが……、それしかないか。では各国ともF-35のライセンス生産をする事でいいな」

 

 フューゲルの言葉に、各国首脳は頷いた。こうして各国はF-35生産のための準備を始める事となる。だが問題はフリント以外にも残っている。

 

「将来的なフリント対策はそれで良いとして、問題は今どうするかだ。今回の損害は大きすぎる」

「フリントの方は、各国に残っている戦闘機と地対空ミサイルの連携でどうにかするとして、問題は海の方だ。マクドネル首相。地中海に貴国の提督と艦娘を駐留させる事は出来ないか?」

 

 イギリスは欧州において最大の艦娘保有国だ。戦艦を始めとした主力艦はそろっているし、補助艦の数もかなりの物である。更に航空戦力に不安があるとはいえ、空母機動部隊を単独で編成出来る国なのだ。フューゲルが期待するのも無理は無かった。だがそれにマクドネルはため息を吐きつつ頭を振るう。

 

「アラビア海に紅海。この二回の海戦で我が国の艦娘がかなり沈んでいる。これ以上戦力を他国に派遣する事になる場合、大西洋側の防衛に支障が出る」

「艦娘なら建造が出来るはずでは?」

「貴国は練度の低い艦娘を当てにしろと言うのか? 戦力になるには時間が掛かる」

「しかしイタリアを始めとした地中海の国も戦力に不安がある状況だ。何とかならないか?」

「無い袖は振れんよ」

「……その事についてですが、一つよろしいでしょうか?」

 

 議論を遮るマルローネのその一言により、全員の視線が彼に集まった。その事を確認したマルローネは続ける。

 

「地中海に面した国々の代表として、一つ提案したい事案があります」

「何かね?」

「昨年、艦娘の発表の際に各国合同で提督に関する協定を交わしましたが、今回のスエズ運河陥落を鑑みて、一部訂正を行いたいのです」

「……内容は?」

「現在、艦娘保有国では就学児の提督の運用は禁止されていますが――、我々は欧州においてのこの規制の撤廃を提案します」

 

 この言葉に事前にこの提案を知らされていた者以外の参加者たちは誰もが絶句した。暫しの沈黙の後、大西洋側に面した国の首相であるフューゲルとマクドネルは呻くように口を開いた。

 

「……本気か? 確かに苦しい状況だが、そんなことをすれば国民から確実に反対意見が出るぞ」

「そもそもイタリアはそれなりに戦力が残っているはずでは?」

 

 イタリアは提督の数も多い方であるし、艦娘戦力についても地中海で随一の筈であった。確かに先の海戦により艦娘を多く失ってはいるが、そこまで追い込まれていないはずであった。しかし、二人の意見にマルローネは頭を振った。

 

「我が国は自国防衛だけであれば大丈夫なのでしょうが、問題はそれ以外の国々です。多くの国は先の二回の海戦で艦娘戦力が壊滅状態であり、立て直しには時間が掛かります」

「……それで各国が確保している就学児の提督を使い、急場を凌ごうということか。しかし使い物になるのか?」

「幸い子供であっても提督化した際に士官としての知識を習得しています。そこまで問題は無いかと思います」

「配下の艦娘の練度はどうなんだ?」

「以前より訓練と艦娘単独での出撃を行ってきていますので、練度は大丈夫でしょう」

「欧州が賛同した所で、アメリカや日本が煩くなるぞ?」

「深海棲艦によって強制的に世界が分断されている現状でアメリカや日本に避難された所で、影響は限定的です」

 

 次々に飛んでくる質問に、淡々と答えていくマルローネ。その様子にマクドネルは諦めたように呟いた。

 

「確かに欧州全体で艦娘戦力が激減している以上、深海棲艦の侵攻を食い止めるには彼らを使うしか手は無い、か……」

「その通りです」

「とは言えこの議題はこの場で即座に決める事は出来ん。……1週間後に再度決議を行おう」

 

 この言葉に各国は賛同、首脳会議は一時閉会された。規制撤廃の提案は各国上層部に持ち込まれる事となった。

 そして1週間後。再度集結した欧州各国首脳の議論の結果、賛成多数により欧州及び周辺国での就学児提督の運用禁止規定を撤廃した。

 

 

 

 人類が変化していく戦況に四苦八苦している頃、外からは順調に深海棲艦の方でも苦労はあった。インド洋のチャゴス諸島拠点の格納庫。そこでは普段あまり感情を表に出さない印洋水姫が悲壮な表情を浮かべていた。

 

――折角の機体が……。

 

 彼女の目の前にはフリントが鎮座していた。但し機体は機銃により穴だらけになっており、とても戦闘行動など出来ない程であった。

 

――戦果は空母を始めとした艦艇多数に、航空機も40機以上撃墜。戦果は上々だけど被害も大きかったわね。

 

 上げられてきた戦果報告を思い出しつつ、空母棲姫はため息を吐いた。スエズ運河を巡る戦いで投入されたフリントだが、投入した36機中31機が撃墜され、更に生き残った5機も損害が激しいと言う大きな損害を受けていた。艦娘が出現して以降、人類の操る兵器を殆ど破壊できていなかった現状を考えれば、十分すぎる戦果は挙げている事実は変わらないが、それでもこの損害は大きすぎた。

 

――この機体は私たちみたいに補給すれば航空機が出てくるわけじゃないし、また作らないといけないわね。

 

 印洋水姫が期待を込めて送り出したフリントだが、現代戦闘機並の性能を引き出す事に成功した代わりに、深海棲艦側の既存の兵器と比べてかなり特殊な仕様になっていた。

 まずコストであるが、深海棲艦拠点にとってかなりの負担となる事だ。一機作るのに空母ヲ級フラグシップを10隻は作れる資源を投入しているのだ。幾ら海底から資源を採集できるとは言え、一機のためにこれではコストが掛かりすぎた。

 更に製造には時間もかかる。駆逐イ級が20分程度、姫級ですら最長でも3日程度で完成する深海棲艦だが、フリントの製造には2週間近くかかっていた。人類からすれば驚異的な速度ではあるが、深海棲艦にとってはこれほどの製造時間は長すぎると感じていた。

 そして補給や修復に関しても仕様が異なる。深海棲艦も艦娘と同じ様に補給をすれば使用する航空機も新しく補充されるのだが、フリントに関してはそれが当てはまらない。損傷すれば修理しなければならないし、損失したのなら新たに一から作らなければならないのだ。また無傷で帰ってきたとしても消費する燃料や弾薬はかなりの物であり、拠点の資源事情に負担をもたらすのは確実である。

 このような仕様により、フリントは大きな拠点でしか運用できないと言う事情を抱えていた。

 

――急いで再建造しよう。

――やめなさい。艦隊の再建が先よ。

 

 真顔でその様な事を宣う印洋水姫をバッサリと切り捨てる空母棲姫。二回の海戦とスエズ運河占領時の奇襲により、戦力はかなり減っているのだ。広がった勢力圏を維持するためにも、艦の建造を最優先しなければならなかった。――印洋水姫の命令で、フリントを36機作るのに拠点に貯蓄してあった資源の半分近くを注ぎ込んだ上に、1か月近く拠点の人員の大半が建造に従事する羽目になった、という悪夢を回避したかったのもあるが。

 

――仕方ない。……そういえばスエズは?

――急ピッチで整備中だけど、人類が核を使ったせいで拠点化に手間取っているわ。今は汚染された所を海にしている最中よ。

 

 深海棲艦に放射線に関する各種障害は起こらない。そのため拠点を築くだけであれば、放射線で汚染されているスエズに手を加える必要は無かったのだが、作るのが大型の拠点となると話が変わって来る。大型拠点の場合、深海棲艦の建造施設も併設される事となるのだが、艦の建造はかなりデリケートな作業であるため、放射線の様な異物は厳禁であるのだ。そのためにも該当地域の除染が必要であった。

 現在スエズでは放射線汚染された土地を海に変える形式での除染の真っ最中であり、作業完了までチャゴス諸島拠点による援軍が必要となっていた。なお除染が終った際、スエズ運河があった土地は、海峡と化すことが予想されている。

 

――ん。それじゃあ艦隊の整備の方は任せる。

――まあ、スエズへの攻勢は無いようだしのんびりやるわ。あなたは?

――研究室に行く。今回の空戦でこちらのミサイルの性能が低い事が分かった。改良する必要がある。

 

 この印洋水姫の言葉に空母棲姫は若干呆れてしまった。彼女は確かに新型機に執着していたが、ここまでとは思わなかった。

 

――熱心ね。

――折角現物が手に入ったのだから当然。

 

 無表情で頷いた印洋水姫の視線の先には――、フリントの胴体に突き刺さっている不発のサイドワインダーがあった。

 




深海棲艦「おう人類。核汚染されたスエズを除染して、ついでに拡張もしておいたぞ。」


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海を征く者たち41話 手を結ぶ国々

なんか今回は筆が進まず、難産でした。

追記。12月3日に一部改訂しました。


 深海棲艦により分断されている世界において、ある地域で人類が敗戦し重要拠点を占拠されたとしても、それによる悪影響が遠く離れた地域に及ぶことは少ない。この原則は今回のスエズ陥落も例外ではない。スエズ陥落により欧州が四苦八苦していても、遠く離れた日本やアメリカには直接的な脅威は殆どなかった。精々将来的に欧州が深海棲艦の手に墜ちる可能性が高くなった事に警戒する程度であろう。

 しかしこの原則には一部例外がある。これまで確認されていなかった深海棲艦の新型や新戦術が見つかるケースだ。これは地理的に遠く離れていようとも関係ない。早急に対策を立てなければ自国の滅亡に近づく事となるため、世界各国の軍人は必死に頭を働かせる事になるのだ。

 そしてスエズを巡る一連の戦闘において、この例外が確認された。今回のケースでは、深海棲艦版現代戦闘機、NATOコードネーム『フリント』の出現と、紅海海戦終盤で見せた姫級の集中運用による浸透突破戦術だ。この二つの対策に世界各国の軍は悩まされていた。

 勿論これは日本も例外ではない。2018年1月のある日。防衛省庁舎の会議室では、これらへの対策を考えるために防衛省の上層部が集まっていた。

 

「日本近海でフリントが発見された事はありますか?」

「日本近海での目撃例はゼロ。硫黄島に設置したレーダー施設でも、それらしき機影は確認されておりません」

 

 坂田防衛大臣の質問に答えたのは、前田海上幕僚長だった。

 

「空母及び潜水艦艦娘による偵察、我が国の情報収集衛星からの情報も確認しましたが、フリントは確認されていません」

「今のところは大丈夫、か」

 

 この報告に参加者たちはほっと胸を撫で下ろした。第4世代機と同等の性能を持つフリントは強敵だ。日本も第4世代機であるF-15J、第4.5世代機のF-2を運用しているため対抗は出来るだろうが、まとまった数で襲撃されれば確実に損害が発生するだろう。日本周辺に居ないのならそれに越したことは無い。

 

「倉崎さん。空自の方はどうなっていますか?」

「現在、従来の空対空ミサイルの再配備は完了しました。またパイロットにはフリントを想定した訓練も行っています」

 

 そう答えたのは倉崎航空幕僚長だった。フリントの出現により最も影響を受けたのは航空自衛隊だ。当然空自のトップである彼は、出来る限りの事はやってきていた。とは言え、限界もある。

 

「しかし限界もあります。現在の防衛計画では仮に通常の深海棲艦が使う航空機の様にフリントが大量に襲い掛かってきた場合、敗北は必至でしょう」

「倉崎航空幕僚長の意見に陸自としても同意します。陸、空と連携しても数で押されれば防ぎきれません」

 

 倉崎、そして黒木陸上幕僚長の意見に、誰もが苦い顔をしつつ頷いた。彼ら、と言うよりも全世界の軍人たちが恐れているのが、大量のフリントによる攻撃だ。仮にその様な事をされれば、多くの戦闘機を保有するアメリカでさえ唯では済まない。実際はフリントは深海棲艦にとっても製造や運用にかなり苦労する物であり、軍人たちが想定しているような事はかなり困難なのだが、そんな事情を人類が知るはずもない。

 

「つくづく米軍が動かないのが痛いな。F-22は無いが、航空戦力をかなり保有している」

 

 関口統合幕僚長は思わず愚痴をこぼした。戦艦棲姫艦隊による襲撃以降、在日米軍は完全に日本の防衛から離脱していた。日本は艦娘戦力が整っているため、艦娘を保有していない在日米軍が離脱しても問題にはならなかったのだが、ここへ来て再度その価値を上げていた。

 

「彼らも政府には逆らえないですから、仕方がありません。それよりパイロットのF-35への機種転換の準備は進んでいますか?」

「実物がまだないためシミュレーターですが、一部のパイロットに訓練をさせています。これである程度の機種転換訓練の代用にはなるかと」

「現場には負担を掛ける事となりますが、引き続きお願いします」

 

 日本も欧州と同じくフリント対策としてF-35の運用を画策しており、その準備が急ピッチで行われていた。また調達予定数も予定よりも大幅に増やす予定であるため、日本の航空戦力は大幅に上昇する見込みであった。だが彼らはこれに満足せず、更に新たな計画を立ち上げていた。

 

「しかし『いずも』の空母化ですか。まさか日本が空母を持つことになるとは考えていませんでした」

「全くだ」

 

 前田のしみじみとした呟きに、会議室の全員が大きく頷いた。フリントの出現により東南アジア進行計画に支障が出る事が確実となったのだ。その対抗策として現在整備のためにドック入りしているヘリコプター搭載護衛艦『いずも』の空母への改装が急遽決定される事となったのだ。

 

「ロシアからの資源が入って来ることが確定していたお蔭で、通せた案ですけどね。改装にはどの位の時間が掛かりますか?」

「少なくとも3年以上は掛かるかと。後『いずも』で問題点の洗い出しを行った後、新規に空母の建造を予定しています」

「新型空母建造は当分後になるだろうな。しかしかなり予算を取られる事になるな」

「仕方ありません。こればかりは必要経費なのですから」

 

 F-35の新規製造に大幅な調達予定宇数の増加。『いずも』の改装に、空母建造と必要な軍事費が一気に跳ね上がった状況に、艦娘の運用で軍事費が抑えられると狂喜していた財務を司る人々が絶叫を上げていた。とは言え今は戦時中。防衛省の発言力は増大しており、予算獲得の目途は立っていた。

 こうしてフリント対策が一先ず纏まり、議題が次の物へと進んで行く。

 

「後は紅海で見せた浸透突破戦術か……」

「夜間でも飛行可能な航空機で陣形の一点に集中打を浴びせ、陣形に穴が空いたところに姫級のみで構成した部隊を突入させ相手を混乱させる。どこかで見た光景です」

 

 黒木は肩を竦めた。誰もが第二次世界大戦で見られた光景を、海の上で再現されるとは思ってもいなかった。そして彼は何故この場に呼ばれたかも理解した。

 

「その通りです。だからこそ陸に精通する黒木さんに対抗策を訊きたいのです」

「対抗策はあるにはあるのですが……」

「それは?」

「典型的なのはソ連の様に縦深の深い陣形を作り、それを利用して突入して来た部隊を殲滅する方法です。しかしそれを形成するにはかなりの艦娘が必要となります」

「大臣。どうなのでしょうか?」

 

 全員の視線が提督である坂田に集中する。それに彼は渋い顔で頭を傾げる。

 

「それは難しいかもしれません。スエズの様な深海棲艦による大規模攻勢と対峙する場合、数的劣勢に立たされる可能性が高いです。前衛部隊のみでその様な陣形を取るとなれば、最悪の場合最前線が崩壊しかねません」

「後方の空母部隊の護衛にある程度の戦力がありますが、それを流用出来ませんか?」

「それでは敵の空襲に対応しきれなくなります。また後方の空母部隊が奇襲された場合にも備えなければなりません」

 

 坂田の言葉は事実であった。仮に夜戦で奇襲でもされれば戦えない空母艦娘はなすすべなく壊滅しかねない。そのため護衛のための艦娘は必須であった。

 

「なるほど……」

 

 黒木は小さく頷くと、もう一つの有名な戦術を提示する事にした。

 

「そうなると侵入してきた敵を、機動打撃部隊を用いて抑え込む機動防御でしょうか。これなら数的劣勢でもある程度は対応出来ます」

「なるほど」

「しかし問題は姫級で構成された