記憶の片隅にある天国 (パフさん♪)
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メンバーとの出会い
第1話 自分の居場所


はじめまして

今回初めて小説を書くパフです
今回の話はハロハピをメインに書く予定ですが主人公目線で書くのであまり登場しないかもしれません

今回は主人公の過去話です
※すごくシリアスが濃いです

それでもよければ見てください


自分はいつも一人だ

 

母は自分を産んだ時に病気にかかり、我が子の成長を待たずに1歳の時に亡くなった。

父は小学2年生の頃老人が駅のホームから落ちそうなところを助けた拍子に自分が転落してそのまま轢き殺されてしまった。

 

 

それから先の生活には毎日苦しめられた

親がいないというだけでいじめてくる男子生徒。

 

親がいないから逆になんでもかんでも話しかけて苦しみを無理やり取り除こうとする友達。

 

周りに流されて平気で裏切る友達。

 

いじめられていると知っていても何もしようとしない先生。

 

近所の人のひそひそ話。

 

親戚のおじさんおばさんの溺愛しすぎた愛情。

 

その全てが嫌だった。一日中自分が被害者であることを実感させられ続けて誰にもわかってもらえないこの世の中に小3の頃に知ってしまった。

ただ一つ自分にとっての癒しがあった

 

 

それが『音楽』だ

 

 

初めて音楽が好きなったのは小3の冬、テレビでやっていた歌手の半生を描いたドキュメントドラマだった

そこから流れてくる音楽にすぐに好きになってしまった

 

そうして自分は音楽を聴くことだけが

自己を保つための生活必需品となった

嫌なことがあればすぐに音楽を聴き癒され真似して楽しみを得てきた

 

ただある日おじさんとおばさんの話が聞こえてしまったのだ

 

「あの子いつも楽しそうに音楽番組を見てるけどあの番組の何が面白いんですかね〜?」

「あれは本当ど素人が歌って審査員が渋々太鼓判押しているようにしか見ないよな。どう見てもやらせっぽいし…」

「しかも歌っている人の一部は口パクで歌っていない人さえいるですよね?」

「だから音楽なんてものは嫌いなんだよ!捏造して自分が歌っているように見せて他人騙す道具にしか使えない連中ばっかりなんだよ!ああっかーさんビールをもう1本くれ」

「またですか?もう4本目でーー」

 

そこまで聞いて自分は家を出てしまった小学生の自分にはほとんど理解できない会話だったが

「音楽なんて嫌い」「人を騙す」

この言葉だけわかった

その言葉を聞いて怒りと悲しみを覚え家を出てしまった

 

この日から「音楽」を辞めてしまった

この日から「癒し」を失ってしまった

この日から「親友」がいなくなった

この日から「感情」が何かわからなくなった

この日から「自分」を捨てた

 

中学の頃は全てを捨てまるで機械のように惰性で生活をしていた

 

朝起きて

学校に行き

家に帰り

風呂に入り

寝る

 

これを5日間

 

朝起き

自分の部屋に閉じこもり

寝る

 

これを2日間 この二つを繰り返すだけの生活

じぶんはこれで満足していた

 

受験の時期になって自分の進路を決めることになった時自分はこの場所から離れて一人暮らしを決意した。

それはこのおじさんおばさんの家から早く抜け出したかったからでただ上京して見たとか関係なかった

おじさんおばさんの反対を押し切り東京の高校を受け、合格した

そのことを誰にも伝えずに東京に去っていった

 

 

 

そうしてこの4月から高校生で新しい生活が始まる

それは何も始まらない長い怠惰な旅だった

 




1話から相当なシリアス展開ですけどいかがでしたか?

ハロハピに関しては次の回に出す予定です

感想、評価をもらうと今後の更新ペースが上がりますのでよければ評価してください!


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第2話 あるバンドとの出会い

今回はちゃんとバンドリのキャラクターが出るので安心してください
あとシリアス展開は今回はないはずです(書いてる途中で結構あること気に気づく)
それと今回は結構長いです

それでは第2話始めます



高校の入学式から1週間近く経って、周りでは大体の生徒が仲良くなって教室で何グループかの会話が聞こえてくるようになってきた

だが、自分はどこにも属さなかった

まだ数人ではあるが誰とも話せない人達がいた

 

ある人は「恥ずかしがり屋」な人

ある人は「引っ込み思案」な人

ある人は「勉強オタク」な人

ある人は「読書家で自分の世界にいる」子

 

自分はさらにこのグループにも属さないいわば「除け者」だ

友達を作る勇気がない、友達を作るのを後回しにするでもない

 

 

自分は「何も話したくない」人だ

 

 

過去の話を聞くのは友達との会話ではほぼ必然な行為であり何も悪気がないと思っている

ただその行為はその後の関係を大きく揺るがす機転になってしまう

そして過去と同じになってしまう

 

だから自分は友達をつくらない

 

 

そうしているうちに下校のチャイムが鳴って、誰もいない一人だけの空間が広がる自分のマンションに帰る準備を始めた

帰り道はどこに寄り道をするとかでもなく真っ直ぐに帰る

この帰るまでの道が自分の中では数少ない心落ち着く時間だ

 

自分の部屋の鍵を開け、閑散なリビングに真新しいキッチンに向かって、1つのカップ麺を取り出す、いつものメニューだ

3分後出来あがったカップ麺を啜り食べ始めた、静寂に包まれたこの死んでいた空間に一つの微小な音が木霊している

ただそれは一人でいるという何よりの証拠になっている

 

お風呂を済ませ寝床に行くと

1週間以上干していない敷布団

1週間洗濯していない寝巻き

乱雑に置かれた制服

ただこれだけがある部屋に入り

 

 

自分は重い瞼が降り始めた

そうしてここからが『私の物語』へと続いて行くのである

 

 

 

 

 

目が覚めるともう朝になっていた目を擦りながら怠い気持ちを堪えつつ起き上がると昨晩までの寝室とは大きく違う光景が広がっていた

 

しっかりと干されていて洗濯もされている布団

1週間分の洗濯済みの寝巻きが入った衣装ケース

綺麗にアイロンされていてハンガーにかかっている制服

 

その全てに見覚えのない光景が広がっていた

そうだまだ夢の中だと思って2度しようとした時

 

「朝だよー?朝ごはん食べないと頭が回らないわよー?」

 

と聴きなれない声が聞こえた

その声に驚き目が醒めてしまった

そして今度は

 

「おい!早く起きないと遅刻するぞ⁉︎また今度学校に行って三者面談はごめんだからな⁉︎」

 

といういつしか聴いたことがある声が聞こえた

ただそれは現在(いま)はいないはずの存在

「父さんだ...」

 

着替えをしてリビングに行くとエプロン姿の見知らぬ女性とスーツ姿の父そして朝食が置かれていた

(思い出したぞ...確かあれは母さんだ...

昔アルバムで見たな...)

そう心の中で思ってると

 

「ちゃっちゃと食べる!お父さんもお母さんももうすぐでないといけないから!」

そう母さんから言われた

すぐさまテーブルについて3人揃って

 

「「「いただきます」」」

 

朝食を食べている間ずっと目が右往左往と泳いでいた

それはそうだ昨日まであった一人部屋の空間ではない家族の憩いの団欒の場になっていたからである

 

大きなテレビ

大きなソファー

大きなタンス

大きなカーペット

 

その全てが見たことのない真新しいものだった

そして気がつくともう誰もいなかった父さんと母さんはもう仕事に出て行ってたのだ

 

身支度を済ませ学校へと歩き始めると外の世界は全く変わっていなかった

1週間通っている通学路でそこまで確信してもいいのかという気もしたが...

学校も何も昨日とは変化がなかった

 

学校での昨日との変化はほとんどなかった強いて言うならいつも来ているパン屋が変わっていたくらいだった

他は、同じクラスメイト、同じ先生、同じ時間割、同じ教科書

何も変わっていなかった

何か変化があると思っていた私はずっと神経を尖らせ続けた結果いつも以上に疲れてしまった

そうして下校のチャイムが鳴った

 

 

 

帰り道、そこは落ち着く時間と言っていたが今日は予想外のことが起きたり、学校での過剰なまでの集中で疲れ切っていた私は、少し寄り道してから帰ろうと駅前にあるファストフード店に歩いていた

 

駅に着くとそこではガヤガヤと人だかりが出来ていた

(あそこで人が集まっている時は大体路上ミュージシャンがいる時だよな...

小学生の頃は憧れていてずっと聴いてたけど今もう音楽なんて...)

そう思っていると観客全員が拍手をし始めた

 

「君たちいいぞー!!」

「いい歌を聞かせてもらったよ!」

「君たちは中学生?高校生?」

「あの歌っている女の子すっごく楽しそうだった!」

「あの太鼓叩いてる子って凄く恥ずかしそうだったけど上手だったね!」

「そうだね!」

 

口々と皆自分達の意見を一斉に言い合っていた、それを全て聞き取れたわけではないが聞こえてきた言葉を合わせると

 

中学生か高校生くらいの2人組

ボーカルとドラムの構成

楽しそうに演奏している

こんな感じか、そして観客がある一点を見ているその中心にいるのが2人のバンドだ

 

「みんなーありがとうー!!あたしは花咲川女子学園高等部1年の弦巻こころ!

みんなは楽しめたかしら?そして隣にいるのが花音!」

「う、うっ。うぅ〜……

……なんでこんなことにぃ......」

 

観客は「いいぞーもっとやれー」とか

「楽しんでるよー!」とか盛り上がっている

気になるどんな人か見てみたいそう思っていると

 

「「「キャー!!!!」」」

 

という声に振り向いてしまったそこには倒れた女の子が数名いた

その話の中心にはボーイッシュな声が聞こえた

 

「ああ……!また……私の美しさのせいで……!

かのシェイクスピア曰く、これは運命なのか。神は我々を人間にするために、何らかの欠点を与えるのか……!」

 

なんだろうすごく自意識過剰というかカッコつけてるというか...

ただそちらの方も気になる...

ん...?あそこで男の人に絡まれてる人は...?

もしかしてナンパ!?

面倒くさいけど助けに行かなきゃ

 

「すみません。えっと、その服装……研修希望の奥沢さんですか?」

「あっ、はい、そうです。よろしくおねがします」

 

なんだバイトの研修かただ姿は見えないが名前が「奥沢」ということはわかった

その情報はいるのか?

しかし駅前は賑やかだな...少し鬱陶しくなってきた...

さて、ファストフード店に行こう

 

その時私は足を躓いてしまった

倒れゆくのがわかって咄嗟に受け身をしようとしたが体がいうことを効かない...⁉︎

しかもすごくゆっくり倒れている⁉︎

周りの風景もスローモーションになったかのように皆動きが鈍い

 

最後に聞こえてきたのは弦巻こころというまだ見たことがない女の子の歌声だった

 

 

 

そうして自分は今日2回目の目を覚ました

 

 

 




やっとハロハピのメンバーのうち4人が出てきました
だた主人公がハロハピのメンバーを見ていなくて声と一部の人の名前しか聞いていません

第3話は現在書き始めてますので早くて明日の朝には完成します(再投稿なので一気に投稿します)

(追伸:私はバンドリの中では花音ちゃんが大好きですほんとかわいい...)


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第3話 現実と夢

第2話投稿して第3話も作っています
(キリのいいところまで一気に作ってしまいます)

ハロハピのメンバーが登場して少しづつこの小説の世界観が垣間見せ始めました

では第3話をどうぞ



目が醒めるとそこは散らかった寝室だった

雀が朝から元気に鳴き始め朝の光が窓から差し込んでいる

まだ4月だから朝方はやけに寒い

 

(まだ眠い...もう少しだけ...)

 

そう思ってもう一度布団に入ろうとした時ふと「楽しそうに歌っているひとりの少女」の事が急に思い出した

その瞬間自分は飛び起き周りを見渡す

ただそこには今朝見たはずの光景がない

 

 

「しっかり干していたはずの布団」は「1週間も干されてない布団に」

 

「1週間分の着替えがあった衣装ケース」は「1週間洗濯してない寝巻きに」

 

「アイロンをしていたはずの制服」は「乱雑に置かれた制服」に変わっていた

正確にいうと「元に戻っていた」

 

そして自分の身辺を頭の中で整理し始めた

その結果わかった事があった

 

「そっか夢か...」

 

その声は静かな寝室に響き渡ったが少しの間が空いて雀の鳴き声が耳に入ってきた

 

 

昔何度かこういう経験をした事がある

それはいつだったか、小学生の頃だと週1くらいで見ていた覚えがある

ただその夢はほとんど覚えていない

覚えていることはこの現実(いま)の世界にはいないはずの物があるということ、あとは朝起きると涙が止まらなくなったことくらいだ

何故泣く必要があったのか覚えてないのが少し悔しい

 

そう考えつつも朝食の用意をし終えた自分は全てが元に戻ったリビングでひとり寂しく食べていた

 

何も変わらない日常、そこに現れた夢という幻影、ただその幻影は儚く消えてしまう

その消えゆく中で少しその零れ落ちた断片が夢の記憶に変わっていく

 

そうこうしているうちに学校に行く時間を2、3分遅れていることに気づき自分は大急ぎで部屋を出た

 

通学路は癒しの時間だ

ただ今回は「夢」と「現実」の比較を必死に考えていた

周りから見たら自分の口から少し漏れる「うーん...あの夢は何だったんだろう...」という小声に反応している人一人もいない

自分の独り言よりも周りの沢山の音が騒音のように大きくかき消されているだけだった

ここでも自分が一人だと実感する空間になっていることには気づかなかった

 

教室に着くと自分の席に鞄をおいて教科書を机に入れ始めていた

もうじき朝のHRが始まる

遅刻はしなかったが頭の中は「夢」を拾うことしか考えてなかった

何も手がかりがない...そう思っていると担任が来たらしく

 

「起立」

 

と日直が号令をかけた

クラスメイトの全員はその号令とともに立ち上がったが、自分一人だけがワンテンポ遅れてしまった、それに気がつくとすぐに立ち上がった、周りの女子から「クスクス...」と笑い声が聞こえた

 

「礼」

 

ここでは全員の動きに合わせてお辞儀ができた、礼を終えて顔が正面を向いた時今まで背景でしかなかった物が主役に見えた

その瞬間

 

「あっ!?」

 

とても大きな声が出てしまった

その声にクラスにいる人全員がビックリした仕草をしていた

自分の前の席にいる生徒はうるせぇなという感じで少し怒りも混じった顔で振り向いた

担任は「おいどうした?忘れ物でも思い出したか?」と半分冗談交じりで聞いてきた

 

自分は「いえ...」と短い単語を発し、それを聞いて担任は「そうか」とこちらも短い単語で返した

またクラスがざわつき始める

普段は何もしない大人しそうな生徒がいきなり大声を上げたので何かヒソヒソと話し合っていた

そうして朝のHRが始まった

 

 

自分が何に驚いたかというと黒板の右端にある「日付」と日直が書かれた短冊ほどの情報持たないその小さな情報に一つの悩みが解決された

 

(そうか...「夢」の世界の日付も今日と同じだった...!つまりは「夢」の世界と「現実」の世界ではもしかしたら何かが「共有」されているのかもしれない...?)

 

最後の方は自分の謎な推理だが前半部分はあっていた

どうして「日付」が共有点だと思ったのかそれは夢の記憶のほとんどいらない情報の一部として残っていた「夢」の世界でのHRの時間に一瞬チラッとみた「日付」と同じだった

 

夢の記憶は必要不必要など関係なく無作為に選ばれた物であるため、普段ならまったく気にしない情報が残ってしまう事がある

それが今回なら「日付」だった

もしもここで黒板の右端を見ていなかったらこの閃きには到達しなかったのだ

 

その一瞬の「解けた!」という感覚が忘れられずにいた自分は、今日の授業の内容はほとんど耳に入らず全ての情報が聞き流された

そうして気がつくと放課後の最終下校の時間になってしまった

 

 

担任の「いつまでいるんだー?もうそろそろ帰れよー」という声を聞いて自分は学校を出た

帰り道に学校以外にも「日付」を知る方法はなかったのかと思い返しているとどこにもない事がわかった

 

自分は家にカレンダーも携帯電話も持っていなかったのだ

 

カレンダーは買いに行くのが面倒くさくて買っていないだけ

携帯電話は契約するお金もないしそもそも買ったところで

 

メールする相手も居ない

電話する相手もいない

ゲームを一緒にする相手もいない

そもそも携帯を見る必要がない

 

ただのお金の無駄使いで余分な機械だと認識していたのだ

そう、自分は外部からの情報はほとんど入ってこない

自分の情報は他人の会話を盗み聴くくらいしかないのだ

 

そんなことを考え歩いてるとふと名案を思いついた

(カレンダーを家に飾れば少しは「夢」の世界で変化が見られるかも⁉︎)

そう思って通学路沿いの書店に入って4月になってカレンダーはほぼ売っていなかったが、売れ残っていた安い日めくりカレンダーを買って家に帰った

 

 

家に帰ると早速寝室に向かいカレンダーを飾った

少し寝室に色が加わった、そして何故かやり切った感覚を覚えた

それからはいつもと同じ惰性の行動

カップ麺を食べ

風呂に入り

布団を被る

 

もしかしたらまた「夢」の世界に行けるという期待感を持ちながら床についた

 

 

 

 

 

そうして私は2回目の「夢」の世界へと足を踏み入ることができたのだった

 

 

 

 




いやぁ〜気がつけば今回もハロハピ出てないっすね...
でも安心してください!次回はハロハピの出番あります!しかも結構あります!

今回のイベント(10月下旬)のはぐみちゃんいい子過ぎて泣きましたw
ああいう一生懸命な子ってすごく応援したくなってきます!はぐみちゃんが笑顔になった瞬間の私は感無量でした!(何もやってねーだろ)

それよりも今回のイベント花音ちゃんどこ行ったの!?もしかして迷子に(ry

それでは第4話を楽しみに待っててください


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第4話 夢のような再会

第3話では「夢」から「現実」に戻ってきて共有点を見つけたところまでです

今回はハロハピ出るよ!そろそろメンバー全員が出てくるかも...?

では4話始めます!


目を覚ますとそこは綺麗に整頓された部屋だった、私は眠気まなこで周りを見ていく...制服...寝巻き...あっ...!

 

そこには昨日「現実」で買った日めくりカレンダーがかかっていたそして日にち観ると「現実」で寝た日の次の日になっていた

 

(またこの世界に来られたんだ...‼︎)

 

そう思うとおもむろに身体中から血潮が流れ出すのを感じて突如として起き上がりそのままリビングに行く

 

コーヒーのいい匂いが漂っているリビングでは、父さんが朝刊を読みながら朝食を食べていた

父さんは私を見ると

「おっ!今日は寝坊助じゃないな!どうしたんだ?なんか今日は予定があるのか!?」

とにこやかな顔で質問をしてきた

 

(懐かしい...父さんはよくこの顔をしてたな...)

 

そう思うと私は「いいや?何にもない」と簡潔に答えた

父さんは「そっか」といってまた新聞を読み始めた

私は「母さんは?」と言った、この台詞は今まで言ったことがない、それはまだ喋られない時に母さんは無くなってしまったからだ

父さんは「町内会の集まりで会計のお仕事しに行ったぞ?」と返す

私はまた「そっか」と返した

 

母さんは数学が得意でよく会計のお仕事をしていたという、中学 高校 会社で一度は会計職をこなしており、父さんとは会社の役員会議の時に出会ったってお酒を呑んで上機嫌だった父さんの言葉を思い出した

 

ただ、母さんはしっかりと家事をこなしており 洗濯 掃除 食事 ゴミ出し 全てを終わらせて仕事に行ってるところを見ると、まだ朝早いのに母さんはもっと早朝から起きて全部してくれていると思い、何故か申し訳ない気持ちになってしまった

 

「さてと、父さんも行ってくるよ」

と聴こえて私は父さんを見た

休日なのにスーツを着こなして鞄が横に置かれていた

 

私は「どっか行くの?」と聞くと

父さんは「...出張」と少し溜息を吐きながら応えた

 

父さんは根っからの転勤族で、年間10回ほどの海外出張に15回程度の国内出張と世界を股にかけて会社のために頑張っている

なので、家に居られる時間は1ヶ月でも4日程度と少なくあまり家族のことを見れてないのが父さんの一つの悩みだった、ただ小さかった私はそんなこと知る由もなかった

 

父さんが靴を履き始めた時、私は変な胸騒ぎを覚えた

それは父さんが電車に撥ねられた日その日も出張の行きだった

そこで老人を助けるために犠せ.....

 

(ダメだ...思い出すな...思い出すな...思い出すな思い出すな思い出すなぁ思...)

 

暗い過去があって一人になった時のトラウマが脳裏を駆け巡る

そしていつしかそれは内心だけではなく身体にも現れ始めた

 

息が荒くなり始める

汗が大量に噴出する

足が震え始める

歯がガタガタと揺れ始める

寒気、吐き気がする

 

色々なことに押しつぶされそうになった時、咄嗟に父さんの背中に手を置いた

誰かの体温を感じることが大切だとそういう情報知っている

昔からトラウマが蘇った時、私は布団にくるまりずっと震え続けて居た、近くには熱を感じる物はなくただただその感情を無理矢理無かったことにしようとずっと逃げ続けて居た

だが、今は父さんがいた、だから勝手に手がそうしてしまった

 

「どうした?父さんが居なくなるのが寂しいのか〜?高校生でもやっぱ子供は親に甘えてくるものなんだな〜?」

 

と少しわざとらしく笑っている父さんが振り向いて来た

私はそこで「た...す...た.........け」と声にならない唸り声が出ていた

ただその声はあまりにも小さく誰にも届かない声であった

 

(父さんを出張前に心配させたらダメだ)

 

そう自分に勇気付けて奮い立たせて全ての感覚をなくし

私は少しだけ顔が引きつった作り笑いをした

 

「ププッお前いい笑顔してお見送りとはやっぱ大人になったんだな...」

 

そう父さんが言うと「行ってきます〜」と言って出張に行った

私はドアが閉まるの当時に身体中の力が一気に抜け落ちてスライムのようにヘナヘナと玄関口で蹲ってしまった

 

漸く身体を動かせるようになった時、私はさっき言った父さんの言葉を思い出した

 

「お前いい『笑顔』してるな」

(笑顔か...そういえば何年振りだったか...)

 

作り笑いだったが『笑顔』に変わりはない

普段の私ほぼ無表情で生活をしており

喜怒哀楽はほぼ出さなかった、その中でも「喜び」の感情は全くと言っていいほどだしていなかったのだ

 

「笑顔か...」

思ったことを口に出すとその言葉は何かの魔法にかかったかの様に固く閉ざされていた感情が、今少しだけ開いたと言う感覚に浸っていた

 

(最後に笑ったのは、父さんの出棺の時に大丈夫だよっていうのを伝えたくて笑ったんだっけな...)

 

そう昔話を思い出すと少し血が口に登ってくる感覚に見舞われてそこで考えるのをやめた

 

 

夕方過ぎになって私は商店街の方へ歩いていた、母さんにおつかいを頼まれたからである

 

父さんが行った後、私はソファーの上で昼間までグッタリしており母さんが帰ってきた午後3時過ぎくらいまで何もせずにただ、ボーっとする時間を過ごしていた

 

母さんは買い物から帰宅してきた

母さんが買ったものを冷蔵庫に直している

そこで母さんはあることをやらかしたことに気づいた

 

「あっ!?いくつかの商品買うの忘れた!?今から行ったらご飯作れないし....」

 

ほんとドジである、買い物行って買うもの忘れるのは何しに行ったのかそこを問いただしたくなったが堪えた

あまり母さんを怒らせるようなことをしたく無かったからだ

そして、

 

「ちょっと?お使い頼んでいい?買うものはここのメモに書いといたからよろしくね?」

 

と母さんが言った、断る時間をも与えないように母さんは料理を準備し始めた

 

「はぁっ...」っと少し溜息を吐きながら私はメモとエコバックを持って買い物に出かけた

 

 

で今に至る

ただメモを見るとどう考えてもおかしい買い物リストだった

 

「えっとー....玉ねぎ...にんじん...トイレットペーパー...フォアグラ...キャビア...ん!?」

 

なぜか世界三大珍味が入っていた

こんなものどこに売ってるんだよって内心思いつつスーパーを探す

...あるわけない...そう思ってメモの裏を見ると

「世界三大珍味とか買うんじゃないわよ!?家計が火の車になるから!絶対にだぞ!?」

と注意書きがあった

 

(なんでこんなの仕込んでるんだよ...)

と内心見下すような態度で少しだけ面白いと思った

これを見て怒りという感情はでなかった

それは母さんに買い物を頼まれたのは生まれて初めてだからだ

 

スーパーでのある程度の食材を買って最後に書かれてる項目を見る

 

「...北沢精肉店....?のコロッケ...?」

知らねーよ!と自分の中でツッコミを入れた

商店街にいる人に話をかけるのは苦手な私はどうにか見つける為に歩き回った

そこで聞いたことある声が私の耳に入った

 

 

「すーっごく楽しかったわ!花音、ありがとう!あなたのドラムのおかげだよ!」

「あっ......わたし.......」

 

その声はこの前の駅前で曲を披露してた二人だった

確か...名前は....つ、つる....そう!「弦巻こころ」!

思い出した!

その名前を思い出すとこの前見れなかった容姿をみた

 

金髪でロングヘアーの女の子

声はすごく元気っ子って言う感じだったけど、容姿はお嬢様みたいな人

建前なしで可愛いと思った

ただ私は苦手なタイプだ

経験上、キラキラしている女子は大抵人のことを馬鹿にしてきた奴らだ

私のことをいじめて来てそれを楽しむような悪女...

そう言うイメージだった

 

ただ、こころは違う

隣いる水色の髪のサイドテールの女の子の態度で大体察せた

その子の名前は「花音」さっきこころが言ってたし

 

予め言っておくが、人の顔を見て感情を読み取れる能力は、昔の状況下では仕方のないことだったから好きでこれを取得したわけではない

 

花音の苗字はわからないがこころと話している時、彼女は楽しそうな顔をしている

どちらも同い年に見えるからクラスメイトとかかな?と思うけど花音は敬語使ってるしなぁ...

 

と無駄な考えを回していると思いっきり走ってくる女の子が近づいてくることに気づかなかった

 

「も〜〜? あかりーー!どこに行っちゃったの?」

 

そう聞こえてきたので避けようとしたがもう遅かった

走って来た女の子が急ブレーキしてくれたから助かったけど危うく二人と転びそうになったのだ

 

「って、わっ! ごめん、ぶつかりそうになっちゃったっ」

と言ってきたので

 

「大丈夫...」

と返した

 

そしてその女の子は急にこんなことを言い始めた

「ふーっ。よかったー。 って、そーだ!そこの角の店。北沢精肉店のコロッケ!!テレビにも出る有名店だよ!お土産にいかかがですかっ!」

 

(ん!?この子宣伝してきたぞ!?)

「いや、今買い物中なんで...」

 

と言って断ってこの場を去ろうとした時

 

「あ、そーなの?じゃあ終わったら、食べに来てね! あとこれくらいの小さい、ユニフォーム着た女の子見かけたら教えて!じゃあね!」

 

気がつくとまた走り去ってしまっていた

 

(なんだろう...あの元気印な子は...)

そう思っていると商店街に来ていた近所のおば...お姉さんたちが

 

「はぐみちゃんは相変わらずわよねー?

この商店街の元気印!」

 

ビクッと少し飛び上がったと思うくらい動揺しかけた

心を読まれるのは苦手なのでこのおねえさんは怖い人と一瞬身構えてしまったからだ

ただここで何か言わないと後が怖いので恐る恐る聞いてみた

 

「そこの......精肉店の子......?商店街に来るのは初めてで....」

 

すごく固い言い方になってしまった

それだけ内心ビビっていた

 

「いやぁこういう子が商店街にいるとみんな活気つくからいいわよねー!」

とお姉さんがいってきた

私はすぐにでも逃げたかったので逃げようとした瞬間

おねえさんが「ねっ♪」と威圧の込めた笑顔で私の背中を叩きつつ言った

 

私はその威圧に耐えきれず「...はい!!」と裏声で語尾が上がった言い方で返すしかなかった

 

 

さっきの子の名前は「はぐみ」北沢精肉店の娘さんって言うところか

だからフルネームは「北沢はぐみ」か...

オレンジ髪の短髪でボーイッシュな子だったなぁ...

ユニフォームって言ってたから体育会系の部活やってるのかな...だったら相当パワフルな子なんだなぁ...

 

と頭の中でさっきの会話を整理していくと遠くから

 

「うわっ!?ごめんーー」

 

とはぐみの声が聞こえて来た

(もしかして常習犯なんじゃ...)

そう思いまた歩き始めようとしたら

(待って!?さっきの子北沢精肉店の子だから店はこの角か!)

と思い出したのだ

 

 

そうして無事コロッケを買って商店街を抜けようとした

そこには二度見をしそうな光景があって思わず見直してしまった

 

この商店街の色に合っている(?)のピンク色のクマが立っていたのだ!?

 

なんだこのクマ!?

しかも動くし!?

しかも人間ぽい動きするぞ!?

イミガワカラナイ

 

と混乱していたがもう一度見たら後ろにファスナーがあるのが見えてホッとした

 

(なんだ...キグルミか....)

何故最初からそう思わなかったが馬鹿馬鹿しい...ただあのクマなんだろう?イベント用かな?

と3度見までしていることに気づくと早く帰らなきゃと止めた足を動き出した、ただその足はすぐ止まってしまった

 

「はぁっ......はぁっ......?」

 

その吐息の音にまた見てしまったこれで4度見...ただ止まったのには訳があって

 

「あっこの人ナンパされてたと勘違いした人だ」

 

と小声で言った

何故吐息だけで判断できたかわからないがなんとなくしか言い様がなかった

本当に吐息だけで誰かわかったらそれはストーカーみたいな変人じゃないか!

とツッコミをいれて辺りを見回すとこちらを犯人を見る様な目で見てくる警察の人がいたのですぐさま逃げた

 

 

 

家に着くと母は洗濯物を取り込む作業をしている

なので買って来たものを一個一個冷蔵庫に入れていった

 

最後に苦労したコロッケを入れて、冷蔵庫を閉めると急に睡魔に襲われ始めた

無理もない普段閉じこもりっぱなしの私がこんなにいろんな人に会ったんだから気疲れしてるんだなっと感じた時には少しずつ体に重りがつけられた様に重力に逆らえずにゆっくりとゆっくりと視界がぼやけてくる

 

(ああっ...コロッケ...たべ...た.......い....)

 

 

 

 

そうして自分は「夢」から覚めた

 

 

 

 




長く書きすぎた気がします...

今回ハロハピのメンバーとの再会シーンだけ書くつもりでしたが父親とのシーンを急に入れたくなったので少し長くなりました...

しかもハロハピのメンバーの内薫さんには会えてないし

ちなみにセリフはバンドリアプリのハロハピストーリーを参照しています(ほぼ丸パク(ry....

次回も楽しみに待ってください!


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第5話 夢と現実の狭間

第4話では「夢」でハロハピの大体のメンバーの名前と容姿がわかったところまでです!

今回ハロハピ側に変化があります!

では第5話始めます!


目を醒ました

そこはいつもと変わらない一人部屋で、また今日も「現実」で何も始まらない1日の始まりだった

 

「ふぁぁ....」

 

少し欠伸をしながら腕を伸ばして体を起こした

今日は特に寒い

今日の最高気温が平年より下回り2月下旬までの寒さになっていた

窓には水滴が付いており、外の世界はどれだけ冷たいかが行かなくてもわかってしまうほどだった

 

自分は押入れからセーターを取り出し制服の上から被った

すごく暖かい雰囲気に包まれた、人に包まれる感覚ってこういう感なのかとふと思い始めた

 

朝食を済ませ今日も癒しの時間である通学路で「夢」の断片を思い返した

 

「えっと...弦巻こころ...花音...北沢はぐみ...ピンクグマ...」

 

記憶の断片を一人でぶつぶつと言って歩く様は側から見たら完全に不審者だ

ただ自分にはこの時間が必要で、また今度「夢」の世界に行けた時に唯一使える「情報」である為である

 

そして記憶の断片の整理が終わった頃いつのまにか教室についてた

 

 

そこからの授業は本当につまらなかった

S V O C だの

サイコロ2個の確率だの

v=at だの

時差の計算...

こんなもの将来の何に役立つのかとつくづく思ってしまった

自分は本当に勉強が嫌いだ、ただ成績はいい

それは勉強を遊びだと思っていた時期があったからだ

 

小学校高学年の時は放課後何もすることはなかった

サッカーで遊ぼうと誘う友達

仲良く下校の約束をする幼馴染

塾へ行く為走って帰る受験生

 

そんな理想はなくただ一人、何もすることがなく教科書を読んで放課後を過ごしていた

速く帰ったところでおじさんおばさんは家にいないのでただ暇な時間を家で過ごす意味がないと思っていたからである

 

この習慣が今でも付いている

5分休みの間大体は教科書を読んでいる

その5分の退屈を紛らわせる為だけの行為だ

 

それをし続けた結果が成績につながっている

そんなのは無駄であって本当に大切なのは「大切なものを失った時にどう行動するか」だと自分は思っている

 

 

辺りはもう夜に近づき、太陽が赤く大きく見えて自分の体をオレンジに染めている

担任が「そろそろ最終下校だぞ?戸締りお願いな?」

と言いつつ鍵を教卓の上に置いて去って言った

 

担任も自分がよく最終下校まで残っていることを知っているので自分に戸締りを任せに来ることが多い

担任は部活動の顧問で放課後すぐに教室を出てしまう

なので最後まで残っている自分を見て何かホッとしているのかもしれない

 

自分は今日も戸締りを任せられ、教室の鍵を掛け、職員室に向かう

 

職員室に入ると担任がすごい笑顔で「おおっありがとう!」と言って来た

私は何も言わずに頭を下げた

その顔を見たのはこれで何度目かわからなかったが、今日の担任の笑顔はなぜか小っ恥ずかしく感じた

 

(「夢」の世界の父さんそっくりだ...)

そのことを思い出して少々小走りをしながら学校を出た

 

 

(笑顔って不思議だ)

帰路に付いている自分の顔を笑顔にしようと頬を緩めようとした

...でもできない...「現実」ではやっぱりできない...

笑顔がいかに難しいのか知っている

その笑顔の意味も昔に知ってしまった...

 

 

家に帰ると自分はいつも通りカップ麺を用意して食べ始めた、そして「夢」で買った北沢精肉店のコロッケが冷蔵庫に入ってはいなかったことは気づかなかった

あともう一つ、だんだんと「夢」と「現実」の空間のねじれにまだ気がつかなかった

 

 

 

1日が終わり次の日になるとそこはいつもの「夢」の世界だった...

それは心の何処かで少し期待していたのかもしれない...

 

 

 

私は目覚めた、もう3回目ともなると慣れるものだ

今日は父さんがいない、母さんと二人きりだ

そんな経験はしたことがなかったから新鮮に思える

私は私服に着替えてリビングへ向かった

 

「おはようございます...」

 

私の挨拶は家族間で交わすような軽いものではなく固くなってしまった

母さんは少し不思議そうな顔をして

 

「あらっ?おはよう」

 

と返してくれた、そう言って私を一瞬見てまた止めいていた掃除の続きをし始めた

掃除機の無駄に大きい煩い音が流れ続けている

私は朝ごはんを食べている

 

(平和だ...)

 

何か「夢」の世界と「現実」の世界では居心地に変化があると私は思った

 

母さんがいる家とひとりぼっちの家

父さんがいる家とひとりぼっちの家

笑顔を出せる空間と出せない空間

夕食がある食卓とあまりない食卓

 

ざっくりと考えてみて結構多い、そう考えていると

 

「今日は私服ということはどっか遊びに行くの?友達と遊園地とか?」

 

と母が掃除を終えて聞いて来た

その顔は少し期待を込めて少し安心したような顔だ

私は大抵、家では寝巻きのままだ

用事のある時しか私服を着ない

私服に着替えた理由なんてなかった

ただ母さんの顔を見てしまってこう応えた

 

「うん、友達と遊びに行ってくる...」

 

嘘をついてしまった、生まれて初めて母さんについた嘘だ

それを聴いて、母さんは「うん、行ってらっしゃい!」とウキウキしてスキップしながら私の寝室の布団を外に干しに行った

 

私は少しの罪悪感と共に家を出た

 

 

友達なんていない、それはこちらでも同じなことである

ただ気になる人たちがいる

この世界で初めて聞いた『音楽』を奏でる人達だ

弦巻こころと花音

この二人だ

初めて聞いた時は曲とは言えないほど質素な曲だった

ただ、その曲に私は引き込まれてしまっているのを今に思った

 

(もう一度...会えるかな...)

 

あの二人に今度会ったら少し話しかけてみよう

そう考えて一人行くあてもなく歩いていると、そこには大きな学校があった

 

「花咲川...女子学園...?」

 

私はなぜか聞いたことがある名前にその場で立ち止まってしまった

どこで聞いたのか忘れてしまったが、体が勝手に花咲川女子学園の方へ引っ張られたように動き始める

しかし、その引っ張っている糸を切るかのように一人に男性が大きな声で

 

「君!ここは女子校で生徒と先生と保護者、それと入園提示書がある人しか入れないんだぞ!」

 

そう言ってきた、私はその言葉が殆ど耳に入らなかった

その言葉を聞いて尚も足が止まらない

それどころか動きが早くなってしまう

それを見てさっきの警備員が私を取り押さえてきた

 

「君!?だから関係者以外は立ち入り禁止だと行っただろ!?もしかしてうちの学園の生徒をストーカーしているのか!?」

 

その言葉も私には効果がなかった

そこから先の記憶はない

 

気がつくと私は警備員に羽交い締めにされていた

周りの生徒達は私から逃げるように走って学校の中に入って行く

そしてようやく今の私は大変な間違いをしたことを理解した

 

「すみません...私の旧友がここにいると聞いたものでして...」

 

と嘘の弁解をした

 

「少々信用ならなんな、大体その友達に会うならここで待っていれば会えるだろ、何故この学校に入ってまで捜索しようとした?」

 

最もな正論だ、私はこの正論に対抗する曲論を考えてこういった

 

「すみません...少々ここの学園に用事がありまして、私は〇〇という高校の生徒会をしていまして、今日は合同でイベントをする会議をするために来ました...そこでそのついでと言うのは少し強引かもしれませんが旧友に会いに来たのです

入園提示書は昨日の夕方にここの生徒会長との談話で急遽決まったので持っていなかっただけなのです

すみません勘違いさせるような行為に至ってしまって...」

 

すごく強引な主張だった

こんなにもよく平気で嘘を並べられるなと自虐めいた顔に一瞬なりかけたが堪えた

 

「そうか、今回は見逃すが今後もしこう言うことが起きたら今度はあなたの学校に苦情を入れますからね?

じゃあ行きなさい」

 

そう言って警備員の人は私を解放してくれた

警備員は学校の内情をよく知らないので、今回の手が通用したがもう2度目はないだろうと思い、今度はどうやって侵入するかを考えつつ逃げるように学園に入った

 

 

校門の警備員室から見えない中庭へと逃げ走った

この学園に入ったはいいが何かするわけではない

校舎には入れないし誰かあてがある訳でもない

ただその場所でここに来た理由を考えていた

 

(確か...この学校の名前を聞いたのは...)

 

そう考えているとハイテンションな花咲川女子生徒が

 

「ねぇねぇ!今日合同演劇発表会見に行く!?」

「行く行く〜!こんなビックイベント逃せないって!なんてったてあの......」

「「薫様ぁぁぁ〜〜〜!!!」」

 

とそこまでが聞こえたと思ったら生徒は蹌踉めき始めた

私は助けに行こうか迷ったが、それよりも気になることを思い出した

 

(薫様.........はっ!?)

 

その瞬間、二日目のことを思い出した

駅前の広場でこんな感じの光景を見ているのである

その時も「キャー!!!」という歓声と共に「薫様ぁ...」と数人が言って倒れていた、それは「現実」の世界では記憶として残っていないことだった

 

また違う生徒がやって来た

こちらに全速力で走ってくる二人組だ

金髪の子が水色の髪の子を無理やり引っ張っている...あっ!?

 

私はとっさに隠れてしまった

(弦巻こころと花音!?)

学園に入るまでは話しかけて見たいと言ったが今は動くことができない

そればかりか本当にストーカーと同じ行為になってしまった

ただ今の私はここで生徒に話しかけたりしたら最悪警察に連行される

それだけは阻止したかった

 

「ギターといえば、バンドの華っ!!......って、昨日読んだ本に書いてあったわ。だからあたし、すっごく目立つ人をいれたいの。」

 

こころはそう言っているのが聞こえた

そういえば駅前の時はギターがいなかったなと思っていると

 

「め、目立つ人......ですか?」

 

と花音が言う

引っ込み思案なんだろうすごくおどおどとしている

多分駅の時も強引にこころによって連れられたんだろうなそう感じていた

 

「そう、目立って、すっごい注目されて、有名人で、バンドの顔!になりそうな人、花音は知らない?」

 

相当な無茶振りだな

というか最終的に有名人を連れて来いっていうことだが花音はそんな人と知り合いがいるのだろうか...?

 

「う、うーん」

 

それはそういう反応にもなる

普通はそんな有名人と知り合いだという人なんていない

ましてはまだ高校生だ、そんな人にいるといえば幼馴染か親関連ぐらいしかないはずだろう

 

「演劇発表会、やっと来たね〜!このポスターの瀬田薫、写真で見てもかっこいい〜っ。どこからどう見ても王子様っ、だよね」

 

中庭を歩く他の二人組の会話が聞こえて来た

ほうほう...フルネームは「瀬田薫」というんだな...

 

「彼女のいる羽丘女子学園の体育館でやるんでしょ?薫さまのファンで、入りきらなそうで心配......あたし授業が終わったもう、走って行く!」

 

なんでこんな盛り上がってるんだ?この二人組は?

そんなに薫の演劇がすごいのか?

それは見て見たい......だが今はこころたちの方が先決だ

 

「「瀬田......薫......?」」

 

こころと花音は二人揃ってその名前を呼んだ

花音は知っているようでこう説明をした

 

「演劇発表会......さっき友達が言っていました......今日の放課後にある、すごい......人気のあるイベントだって......」

 

話の所々で妙な間があって聞き辛かったがここの生徒は薫の演劇が好きなようだ

まぁ倒れる人が続出している点でなんとなくは分かるが...

 

「ーーーうん、すっごくいいっ。すっごくいいわ!花音、私決めた。あの瀬田薫を、あたしのバンドのギターにする!」

 

おい...なかなかの無茶振りだ...

しかも薫はギターができるとは一言も言っていない

こころは何か抜けているものがあるのか?

 

「ふぇっ!?で、でも、2人は会ったこと、あるんですか?」

 

まぁ普通の人ならそうなるだろうなぁ...

そもそもそんな有名人が簡単に会ってくれなさそうである花音は常識的な人だと改めて感じた

 

とそこまで聞いていた時に花咲川の先生が私のことを見つけたらしく「おい!君!そこで何やっている!」と怒鳴るような声が聞こえて来た

私服で中庭に隠れている男子高校生なんてどっからどう見ても不審者だ

私はその声に驚きながらも校門の方へ走った

 

幸いなことにこころと花音は気づいていない

ただ最後に聞こえた

 

「演劇発表会っていうのを、見に行くわよ!」

 

という元気なこころの声がすごく印象に残った

 

 

なんとか逃げ切れたがもうここには入ることは出来ないと確信して少し落胆した

せっかくこころと花音に話しかけるチャンスを得ながら逃げてしまった自分が悔しい...

 

 

そう思いながら私は放課後、羽丘女子学園で行われる合同演劇発表会に行くためにどうやって侵入するかを性懲りも無く考えていた

 

 

そして私は変化していったのだ

 

 

 




本当は薫さんに会うまで書きたかったんですがね...
今回もなかなか長々書いてしまったのでここで切ります

因みに大体の方は分かっているとは思いますが、1人称が

「自分」・・・現実
「私」 ・・・夢

です。もしもそれがわからなかったという方はもう一度よく読んでいただければ理解できると思います!

あとこの段階で変化が分かって来た人がいたらコメントで書いてください
その人は私の小説を隅々まで読んでいる方なので何かお礼をしたいです!

では次の話もハロハピ回なので気長に待ってください!


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第6話 ひとりの笑顔

今回は他のメンバーがハロハピに加入するところまで書きたいと思います
(書けるかは未定)

では第6話始めます!



私は今家にいる

まだお昼過ぎなので今から羽丘女子学園に行っても演劇発表会までは時間がある

また学校に侵入をしてしまったらまた変出者呼ばわりされてしまう

私は変出者じゃないし警察沙汰は御免である

 

あともう一つ羽丘女子学園に行けない理由があった

それは場所がわからないからである

 

私は高校までの最短ルートと駅までの道のり、近くのスーパーまでの道順しか知らない

ここに引っ越してから約1ヶ月は経ったが私の脳内地図は殆ど白地図に近い状態だ

しかもこの辺りの地図は持っておらずほぼ八方塞がりな状態だった

 

とそこに母さんが帰ってきた

(ナイスタイミング!)と小さくガッツポーズをしながら母さんに羽丘女子学園の場所について聞いて見た

 

「羽丘女子学園?そういえばここからそう遠くない場所にあったよ?

てか、お主女子学園に何をしに行くつもりだ!?淫らな行為をする気か!?

母さんは許しませんよ!!」

 

何か勘違いをしている

そもそも友達もいないのに彼女なんて以ての外有り得ない

ましてそんな事の為に情報を聞き出してスパイのようなことはしたくない

 

「違うよ!今日羽丘学園で合同演劇発表会があるらしくて、それを見に行きたくて...」

 

少し落ち着かせる為ゆっくりと訳を言った

母さんは落ち着いてくれたみたいで「そうなのね」と返してきた

 

「そういえば今日だったのね、演劇なんて興味あったんだ?」

 

と母さんが尋ねてきた

演劇というよりは薫という女の子に興味があると言ったら絶対に勘違いされるので

「そうだよ」って適当に返した

 

そうして漸く母さんは手書きで羽丘女子学園に行くための地図を描いてくれた

ただ、母さんの地図は一筆書きのように簡潔すぎる地図を書いている

目印すら書かないそんな地図を見て羽丘女子学園につけるのか少々不安に駆られた

 

そろそろ放課後になるという時間帯を見計らって私は家を出た

「行ってらっしゃいと」にこやかな笑顔で言ってきた母さんの姿を見ていると、その言葉の意味が色々なものに聞こえてしまうのだった

 

 

結局母さんの手書きの地図は必要なかった

歩いていると薫のファンであろう女子生徒が雪崩れ込むようにある場所に集まっているのが見えた

そうして迷わずに羽丘女子学園についたのだ

 

普段は花咲川女子学園と同じ入学許可書が必要だが今日は演劇部の練習の為、一般開放されていた

 

私は校門をくぐり羽丘女子学園の警備員に軽く会釈をした

先程あった警備員への少しの恐怖がそうさせていた

今度は人混みの中、誰にも叱られることもなく合同演劇発表会の会場である

ホールに向かっていった

 

 

ホールの座席に座っているのは殆ど女子高生で男性の観客は両手で数えられる数ほどしかいなかった

その中でも男子高校生は私しかいなかった

 

 

そして間もなく合同演劇発表会が始まった

 

「ああ......風よ、吹け、頬を吹き破らんばかりにもっと吹け!吹き荒れるだけ、吹け!」

 

全くわからなかった...これが「リア王」の一文というのは演劇が終わった後、観客の知っている人が話しているのを聞いてからだ

これを聞いて私は「風の又三郎」を思い出した

 

(どっどど どどうど どどうど どどう

青いくるみも吹きとばせ...)

 

どう考えても西洋のお話なので合う訳がない

そして突然に隣にいた女子生徒が「薫さま......!...はあっ...」という艶かしい声共に倒れた

隣の女子生徒以外にも何人かがその甘い言葉に倒れている

倒れている人がいても続けているあたり演劇部のメンバーは慣れているのかどんどんと進めて行く

 

(薫はかっこいいなぁ...)

 

と男である私でもそう思うほどだ

紫色の髪にポニーテールで羽丘女子学園の制服を着ている「瀬田薫」はどこか生き生きと演技をしていた

これが本番の舞台であったら本格的な衣装に身を包んだ瀬田薫を見てみたいとお世辞抜きにそう思った

 

 

演劇会が終わり私はこころ達を探していた

そもそも薫の演劇が見たいが為に来たわけではなく、こころ達に話しかけるのが目的だ

うっかり本筋を外すところだった

 

演劇が始まる前に探せばいいと思っていたが、羽丘女子学園のホールは300人以上入る大きなホールで、その上女子生徒ばっかりの空間の中特定の生徒を探すのは竹藪から光る竹を探すのと同じくらい辛いと感じた

 

私はホールから大勢の人が出て来ているその出入り口に佇んでこころ達の特徴のある髪色を探していた

 

ただ殆どの観客が帰ったはずなのにこころ達が見当たらない

私は見落としていたのだとそう結論づけ会場を後にしようとした

 

そこで探していた人達ともう一人さっきまでの主役がいた

 

 

「かのシェイクスピア曰く、ーー行動は雄弁である......私は今まで、幾多のスカウトを受けてきた。けれど......ふふっ。君のような強引なお姫様は、初めてだ」

 

そこにいたのは瀬田薫だ

薫はこころの前に片膝を地面につき、こころに手を差し伸べていた

側から見たら完全に告白のシーンにしか見えない

薫が王子様、こころはお姫様といった感じか

やはりそう思っているのは私だけではなく、その状況を見ている花音がいた

 

花音は両手を頬に当て、目を見開き恥ずかしがっているように少し頬を赤らめている

この状況は花音でも予想外のことなんだろう驚きの顔にも見えた

 

「そう?バンドって、すっごく楽しいわよ!音楽っていろんな曲にあわせて、色んなことをするのよ。演技と似ていないかしら?」

 

間髪入れずにこころは重ねるように言った

 

「バンドをやれば、きっといろんな役ができると思うの!あなたがこのバンドで、どんな役をするのか、考えてみて!とってもワクワクしないっ?」

 

本当に強引な勧誘活動だ

ただ的を得ている

その言葉を聞いて薫も満更ではなさそうな顔をしている

少々無言な時間が続いた

その間に薫は考えをまとめたようだ

 

「......なるほど、私が必要なのはそういうことか......可憐な君たちを守る王子であり、そして......この世界を彩る役者がほしいということか、ーーわかった、入ろう」

 

普通はこんな強引な勧誘をすぐに受ける人はいないだろう

こんな勧誘だと裏があるんじゃないかと身構えてしまうものだ

薫はその辺に疎いのか大胆なのかただの馬鹿なのかもしれない

そのことが少し口から漏れそうになったので咄嗟に口を押さえた、流石にこのことを聞かれると怒られるかもしれない

 

「ありがとう!!すごく嬉しいわ!」

 

こころは満面の笑顔で言った

私はその姿をみてドキッてしてしまった

何故こうなったのかわからない

恋をしてしまったのかもしれない

曇りなきその笑顔に

何かを包み込むようなその笑顔に

 

そしてただその笑顔は美しく綺麗だった

 

そこから薫とこころのよくわからない話になっていた

花音はその輪の中に入れないのかおどおどしてその様子を眺める事しか出来ないようだ

 

そしてやっとわかる話があったのか花音が口を開いた

 

「バンドにはあと、ベースが必要ですよっ〜」

 

その言葉にキョトンとした様子で

 

「「え?そうなの(か)?」」

とこころと薫が同時にハモった

 

ということは薫はギターだな...

昔はバンドについて良くわからなかったが音楽の教科書を読んでる際一通り読んだのだ

 

この構成を見るに

こころはボーカル

花音はドラム

薫はギターという感じかな?

 

そう思っているうちに遠目から見ていたのはずなのだが少しずつ体が3人の方に近づいていたことに気付かなかった

 

ただ気づかなかったのは私だけで他の3人には気付かれてしまったようだ

 

「おや、君?私に何か用かな?」

「何かようかしら?もしかしてバンドのベースをやってくれるとかかしら?」

「な、何かようですか......?」

 

皆口々に私に尋ねてくる

こころ達から話しかけられるのは嬉しいことだが今はそれどころではなかった

まずはこの状況をどうにかしたい、あと私はベースなんて弾けない

そう本当のことを言うとしたがうまく口が動けず

「あ....あ....の...わ...し...ベー...ス...ひけ...な...」

 

私の中ではしっかりと口を動かしたはずだが全ての言葉に意味がない発音にしか聞こえない

それを見ていた3人は皆違った

 

近寄って手を差し伸べ用とするこころ

なぜか目を瞑って謝りの言葉をいう薫

私以上に慌ててパニックに陥ってる花音

 

全部私のせいなのに...みんなのせいじゃないのに...

そう心中で思っていると私の中に眠るパンドラの箱が開くような感覚に苛まれた

そのパンドラの箱が開くともう戻れなく...

 

そう思った私は急に「うわぁああああああああ!!!!!!」と突如にして叫んでしまった

そして、その場で座り込んでしまった

 

体が震える

急に風が吹いてくる

体温が冷える

息が苦しい

 

いつのまにか過呼吸状態になっている私をどうにか抑えようとするがもう遅い

その場でもう動けなくなってその場に突っ伏してしまった

 

 

そこからの記憶はない、そして気づいた時には、自分がいた

 

 

「夢」の世界で何かを得て、何かを失ってしまった

失ってしまったのはわからない

 

 

 

ただ、あの「笑顔」は私の脳裏を焼き付けて2度取れなくなってしまった

 

 




やっと薫さんが加入のところまでかけました
(本当はこの話までにはぐみちゃんが加入するまで書きたかったのですが...)

そして今度は全員揃うところまで書きます!(何が何でも)


これから先の主人公の変化を予想しながら楽しみに待ってください


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第7話 バンド結成

タイトルの通りメンバーが全員揃うところまで書く予定です

やっとここまでの序章が終わりそうです

では第7話始めます



「うわぁあああ!!!」

 

そう自分は声を上げてしまった

何もない暗闇に支配された部屋で

無が支配していた空間で

自分の悲鳴だけが木霊していた

 

今は何時だろう?少なくなくてもまだ朝ではない、こんな時間に奇声をあげても誰も来るわけがない

来たとしてもそれは家族ではなく隣人が苦情に来るだけで助けに来るわけではない

 

「はぁ...はぁっ...っ...」

過呼吸気味だった呼吸が少しづつ治まって、自分の今の状態が整理できるようになって来た

そうして私が目覚めた第一声が

 

「夢か...」

 

当たり前な事だった、こころ達がいるのは「夢」だけで「現実」には会った事はない

そもそも現実に駅前に行ったり女子校に行くことなんてありえない

私自身から出会いをしていないのだ

 

5分くらいが経ったのかそれとも1時間以上経ったのか自分の頭では考えられないほど気が滅入り、自分の少しづつ整っていく呼吸の音だけをずっと聞いていた

 

呼吸の速さ

身体の熱さ

発汗による嫌な着心地

熱いはずなのに身体の震え

 

何もかもが嫌でただそれらから避けることができない感覚、環境から自分はまた疲れが出て来ている

 

 

今日2度目の睡眠は意識の糸が急に切れたのかのように一瞬で気がつくと

 

 

いつしか「私」になっていた

 

 

 

「..........ょう.......き...」

「だ...じょ....ぶ...きみ」

 

何か聞こえる...何を言っているんだろう...

 

「だいじょうぶかきみ」

 

(だいじょうかきみ....?

何が起こっているんだろう...

ああっ疲れたなぁ...このまま寝ていようかな...)

 

「どうしましょう...もうすぐさいしゅうげこうのじかんだからそろそろほけんしつをしめなきゃいけないのに...」

 

(さいしゅうげこう...?ほけんしつ...?

何が起こったんだっけ...あれ...確か気を失って...そして....、!!)

 

何かを思い出したかのようにバッと起き上がった

それは「こちらの世界」の方なのか、それとも「あちらの世界」の方なのか

どちらの方の記憶なのかは定かではない

ただ、両方とも共通して「倒れた」というので一致したらしい

 

急に起き上がったのを見てひとりの白衣の女性が驚いたかのようにこちらを見ながら目を大きく開けている

 

「ひゃ!?びっくりした...」

 

そしてその女性は驚きから安堵の表情へと変わり、ホッとしたのか少し息を吐きながら

 

「よかったわ、あなたうちの生徒の瀬田さんの前で倒れたらしいのよ?

それで、他の生徒さん達がここまで運んできてもらって私が診ていたというわけなの」

 

と説明をしてくれた

そこで漸く「こちらの世界」の記憶が繋がった

 

(そうか...薫達に話をかけられて倒れたんだ...)

 

その考えには半分当たっていて半分は間違っている

でもこれで充分な答えだった

私が悪いということを除いて

 

「そうね...いろいろ診たけど特に悪いところは見当たらなかったわよ?

立ちくらみが起きたんじゃないかと

あなたは大丈夫かしら?」

 

と心配そうな口調で尋ねてきた

まだ少しは落ち着きを取り戻してはいなかったが

 

「はい、大丈夫です...」

 

と一言口にした

その言葉を聞いてその女性は

 

「うん、じゃあよかったわ。それじゃあ家まで帰られるかしら?もし無理なら親御さんに連絡をした方がいいのかしら?」

 

と帰りを心配してくれた

自分はここの生徒ではないし、この人とも初対面なはずなのに何故ここまで心配してくれるのかと思っていると

そこでやっと自分がどこにいるのかを理解した

 

「ここは...羽丘女子学園の保健室...ですか...?」

 

今更感が出た質問をした

そうだ羽丘女子学園で倒れたことまでは最初に思い出せなかった

 

「そうよ?」

 

とそこにいた羽丘女子学園の保健の先生が少し小首を傾げた

 

「もしもあなたがこのまま私の反応に問いかけがなかったら救急車を呼んで病院で治療しなくちゃいけなかったのよ。ここは24時間営業じゃないしね」

 

と少し怖い顔の笑顔で言ってきた

多分早く帰りたいんだと思う、特に今日は演劇部の発表会で多くの人が来校されてそれだけでも保健室に来る人は多くなるが、そこに瀬田薫という女子高生キラーな存在がいて倒れる人が続出したのでさぞかし大変だったんだろう...

私はその事を察し少し申し訳ない気持ちを出しながら「ハハハ...」としか返せなかった

 

と保健の先生とお話していると、外から数名の黒服に身を包んでサングラスをしている集団が保健室に入って来た

 

私はすごくびっくりして私が寝ていた布団で顔を隠してしまった

保健の先生は驚く様子もなく私のその行動をみて面白そうに笑っていた

 

「すみませんこんな状況下でお邪魔してしまって」

 

と黒服の人が私に尋ねて来た

(えっ...!?私何か悪いことした!?何!?どっかに連れてかれるのかな!?)

と頭が混乱し始めたが何も返すわけにもいかないので

 

「はい!!」

と声が裏返って早口になってしまった

その様子を見ていた先生が声を上げないように口に手を当て笑いを堪えていた

(お願いします!助けてください!)

という心の悲痛は届かない

 

「あっ申し遅れました。私達はこころ様をサポートさせていただいている...謂わば執事のような者です」

 

(いや...明らかにおかしい...一体何が目的で私に話しかけて来たのだろうか...

ん?こころ?こころにはこんな大勢の人が付いているんだな...)

 

その話を聞いていると黒服の人は話を続けた

 

「先程、あなた様はこころ様と話をされていましたよね?その時にこころ様の前であなた様が倒れたことを見つけ、あなた様をここに運んだ訳です。

そして気がつかれた時に何かこころ様が粗相をされたのかどうか尋ねて見たいと思いまして」

 

と言ってきたのである

ただその言葉はこの混乱している状態ではほとんど理解できずにいた

それとその倒れた時に何をしていたかをわすれていたので何も答えられなかった

 

「...覚えてらっしゃいませんか?しかたないですよね...もしこころ様に悪気がないしても、あなた様を傷つけるようなことになっていましたら謝りを入れに来たのですが...どちらにしてもこれをお受け取りください」

 

と他の黒服の人が懐から茶筒の封筒を取り出し私の前に差し出した

私は何も言わずにその封筒を受け取り恐る恐る中身を見た

そこに入っていたのは十数枚の一万円札だった

 

(ええっ!?何考えている!?そもそもここ学校で不適切な行為でしょ!?

というかこんな金渡したからって何も解決しない!!!)

 

そうして少しの戸惑いから謎の怒りが露わになって、その封筒を無言で差し返した

その時の顔は私には見えなかったが多分相当な顔をしているんだろう

黒服の人達の中には私から少し身を引いた

その行為は些細なことだが私には堪え切れないものであることをその人達は知らない

そして一言強い口調で言った

 

「わたしがなにをしたか覚えていません、そもそも私はこころと話をしたことがありません、それにあの時が初対面でした、だからこんなものは要りません!」

 

と言ってしまった

せめて呼び捨てではなくこころさんと言った方がよかったことを言ってから気がついた

そしてその言葉を聞いて黒服の人達は無言でその封筒を直した

 

そして先程まで何も言わなかった保健の先生が終わったタイミングを見計らって「じゃあ保健室締めるわよ?」と少し呑気な口調で言ってきた

それはここで何か起きてしまうのを未然に防いでくれての行動なのか、分からなかったが私はその言葉に感謝している

 

 

今、黒服の人達が私に向かって頭を下げている

彼女らは何かをした訳ではない、そもそもここへ来て私に謝る必要なんてなかったのだから頭を下げられているのが本当に申し訳ない

そう思って私は「何もしなくていいので...」と言った

 

 

保健室を出て漸く一人の時間を得た

やっと重い空気の空間から出れてホッとした

そのホッとしたその時に何故ここに来たかを思い出した

そしてその目的を果たすため先程険悪な雰囲気になってしまったその場所にもう一度戻った

 

「すいません!あのさっきこころ...こころさんのサポートしているって言ってたんですよね?」

 

と尋ねてみた、そこには保健の先生にも謝っていた黒服の人達がいてその言葉に「はい、そうですが」と直ぐに返してくれた

 

「あの!今、こころさんがどこにいるか知っていますか!?こころさん達のバンドに興味があるんです!」

 

と目的を言ってしまった

黒服の方は相当驚いている

 

まず、第一にこころが花音に会ったのは昨日出会ったばかりで何故知っているのか

次に、その話は一般人は知らない筈だ

ましてや初対面な私には絶対に知らない筈の情報だ

 

多分黒服の人達も多少不思議そうに考えていたが先程の失態を犯した手前拒否するのもどうかと思ったのか

 

「...はい、知っています。私達の車で行きますか?」

 

という返答に「はい!」と二つ返事で引き受けた

 

 

 

乗った車はリムジンで乗ってるいる最中ずっと借りてきた猫になっていた

それもそうだ初めて乗ったのだから

そしてすごく乗り心地が良かった

 

そうしているうちにこころがいるという商店街に着いた

 

「着きました。こころ様はここの交差点にいます」

 

車が止まり外からドアを開けてくれた

そしてまたどこから現れたか分からないが数人の黒服の人が私の間に現れた

 

「すみませんが今日はこころ様達に話をかけないでください。あなた様が倒れた際、こころ様達はすごく心配してらっしゃいましたので今会われるとどうなるか少し心配でして...」

 

と黒服の人が言ってきた

ここでこころ達に色々と心配されるのは少し面倒なので仕方ない

その提案を鵜呑みにした

 

そして商店街の路地に黒服の人と一緒に入り聞き耳を立てた

 

「来たれい〜〜っ、ベーシストーっ!!あたしたちと一緒に、楽しいことしよーっ」

「さぁおいで。子猫ちゃん達。万物はすべて、等しく愛おしい......」

 

そこには3人の姿が見えた

こころ、花音、薫だ

3人はポスターを持ってバンドのベーシストを勧誘しているようだ

 

ただあまり効果はなく商店街に来ている親子連れには「見てはいけません」と言われる始末...

いつしかこころ達の周りは閑散とし始めた

 

「........」

「あ、集まらない......ですね......」

 

それはそうだまず見るからに怪しい

そもそもどんなポスターを配っているのか

それを黒服の人に聞くと作ったのは彼女らであると言ってくれて原本を見せてくれた

 

「.......」

そのポスターは薫さんの顔が一面に貼られていて「ベーシスト募集中!」としか書かれていない

よっぽどのことがなければ失敗するだろう

 

「不思議ね。なにがいけないのかしら?」

 

きょとんとした顔でこころは言った

それは全てだ...とツッコミを入れたい...

 

「やはりそうか......すまない......また......!私の近寄りがた過ぎる美しさのせいで......」

 

薫は何か勘違いしてる...自意識過剰にもほどがあるよ...

私は薫のことを勘違いしたままだった

 

「うーん?だったら.............近寄り......」

「......やすい......?」

 

そんなのがいる訳...

 

「ミッシェル!ねぇ、握手して!!」

 

...いたわ...そこにピンクグマが

あとやっと名前わかった、こいつミッシェルっていう名前か!

 

「......」

こころはミッシェルをみてニコッとしている

何か素敵な...悪い閃きをしたんだろうか

そしてそこにいるミッシェルも何かを感じ取ったようだ

 

「ミッシェル!!あなた、このポスター配って!!」

と笑顔のこころはそう言ってミッシェルにポスターを差し出した

 

「え。ちょっと、それはうちの商店街のマスコ....」

 

それを聞いていた隣の黒服集団が瞬時に動いてそのこころにいちゃもんをつけた男性に声をかけていた

バイトの担当者らしき人...南無...

 

「はいっ、これね!たくさん刷っちゃったの!あたし達も頑張るから、よろしくね!」

 

とこころはお手伝いをほぼ無理やりやろせようとしている

ミッシェルも困ったようであたふたと動いている

そのミッシェルに無理矢理ポスターを持たせると商店街の子供達はすぐに群がり初めてキラキラした目でミッシェルをみていた

「ミッシェルー!なにそのポスター?

ちょうだーーい!!」

子供は無邪気なものだと感心しているとバイトの担当者を連れて黒服の人がどうやら戻って来た

 

バイトの担当者は何故かニコニコと満面の笑みを浮かべていた

少し見えた茶筒で大体のことがわかる

行動は口よりも情報を与えてくれるとその時改めて気づかしてくれた

多分そこにはさっき私に渡した茶筒でそれをミッシェルの使用料として担当者に渡したのだろうと

 

まぁ何よりもこんなバイトの担当者よりも儲かっただろう...と意識をこっちに注意を受けていた

その間こころ達にも進展があったようで

 

「クマ!クマ!わーーいっ!!あかり、かわいいねこの子っ。なんていう名前っ?」

 

と昨日私に当たりそうになったはぐみがそこにいた

そしてその隣には見知らぬ女の子がいた、そしてその子もはぐみと同じようにミッシェルに好意を抱いていたのだ

 

「ミッシェルよ。あたしたちと一緒にバンドのメンバーを探しているの!」

 

と当事者の一人であるこころは言った

どうやら相当ポスターを配れて大満足したのか凄く生き生きとしていた

 

「クマがいるバンドなんて珍しいね!」

 

とはぐみが言う

クマが好きなのはわかるがミッシェルはメンバーじゃないはずだ

ほらっ、ミッシェルも初耳だったようで困ってずっと首(?)を横に振っている

 

「あらっ?首をふってる......もしかして、メンバーになりたいの?言ってくれればいいのに!じゃあ、クマ枠で採用!」

 

とキラキラしているこころが言っている

これは隣に黒服の人がいるから言えないがこころは馬鹿だと言わざる負えない

首を振ってると言っても縦ではなく横でその意味がわからないとは本当に高校生なのか...しかも同い年...

という感じで傍観者である私は呆れながら見てるが当事者はそうとも言っておらず

ミッシェルは凄い拒絶感を示していた

ただそれはこころ達にとっては逆効果だ

 

「ふふふ。こんなにはしゃいで。愛らしい。ーーキミを夏の日にたとえようか......」

 

前言撤回、もう一人バカがいる

やはりというか薫もこの首振りの意味を履き違えている

 

凄く不憫なミッシェルを助けようと動こうとしたが隣の集団に止められてしまった

 

「先ほども申し上げましたが、今ここであなた様が出られるとこころ様達が混乱されます。どうかここは堪えてください」

 

と釘を刺されてしまった

それを条件に連れてもらえた事を忘れていた

その言葉を聞いて前に出そうとしていた宙に浮いたままの左足を前に出す事を堪えてまた元に戻した

 

(すまない...ミッシェル)

 

「ありがとうございます」

と小声で言ってくれたのを聞き逃さなかった

ただ、それよりも重要だったこころ達の声を聞き逃してしまった

そして気が付いた時にはもう勧誘が終了していた

 

「ーーじゃあやる!はぐみも、メンバーになりたいっ!!」

 

ともう一人の笑顔が凄く綺麗に見えた

ここにいる4人と1匹のクマのうち2人の笑顔に私はこの場が天国に見えてしまった

そしてその光景をよく見ようとして前へと歩みを進めてしまった

今度は黒服の声が聞こえないくらい一気に進んだ

 

そして私は今日2度目の接触を果たそうと...あれ...走っても追いつかない...

 

走ってもこころ達の姿が大きくならず逆にどんどん小さくなっていく

そして小さくなっていくこころ達の姿に比例したかのようにどんどんと暗闇が世界を包み始めた

 

(ダメ!待って...!!こころ...)

 

 

その願いは伝わることもなく...

目を開けると自分はそこにいた

 

腕を自分の上の方に伸ばした状態で何も掴めずにいた

 

 

そこは天国から地獄に突き落とされたかの様に一瞬にして堕とされたのだった

 

 




やっとハロハピのメンバーに会えました!
長かった...ここまでで序章です
(まさか7話までかかるとは思いませんでした)

そしてついにタイトルを一度回収できました!良かった良かった

そして今度からは主人公がドンドンとハロハピに絡みます。ここから主人公とハロハピとの関係がドンドン変わっていきますのでまた次の話も見てください!


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第1回作戦会議
第8話 少女の要求


前回はやっと5人全員と出会えました

ここからは第2章です
これから主人公はどうハロハピのメンバーと関わるのか?

それでは第8話はじめます



...醒めた...

 

ひとときの幸せな時間が終わり、またいつもの日が始まる

そうして「現実」が始まる

 

(................)

 

長い沈黙が寝室を包み込む

それはこの空間だけが世界から切り離されたように

 

何も聞こえない

見える風景はいつもの散らかった寝室

少しカビ臭くなってきた布団

喉の渇きを感じる

そして冷気に晒された両手

 

五感の全てで地獄を味わった

 

 

 

いつもより長い時間をかけて学校に行く用意を済ませた

 

 

いつもなら通学路での記憶の整理の時間が必要だが今日は要らない

何故なら覚えていることは1つだけだからだ

 

(こころ達がバンドを始める...)

 

それだけだった

それ以外の記憶は残っていない、いや正式にいうと絶対に残らない

それは心の奥底にある穴が大きい網で唯一引っかかった過去の記憶

 

音楽

 

1つ1つの音だけでは作れない集大成の形

それがいつも癒しになり支えだった

おじさんに否定された音楽

めっきり聞かなくなった音楽

 

ただそれでも音楽を聴くことが嫌いにはならなかった

その気持ちをずっと閉まっていて気づかない振りをしていた

ただ気がつきたくなかった

 

 

いつか迎える「最悪な結末」が待っているから

 

 

 

通学路での記憶の整理が必要でなかった為なのか、それとも家を出るのが遅くなったので急いでいたのかわからないが、いつもよりはやく学校に着いた

 

教室にはいつものように何人かのグループが対話している

挨拶するわけでもないただのクラスメイト同士の会話

感情を生み出す無駄な会話

そんなのに自分には必要ないとして自分はいつもの場所に座った

 

 

 

 

辺りはもう真っ暗で自分は帰路についていた

今日一日何をしたかは全然記憶にない

もしかしたら今日も「夢」なのかと思った時もあった

 

そして気がついた

自分は今日何も話していないことを

何も行動していないことを

そして何も考えなかったことも

 

「...はぁ...」

 

今日の第一声は溜息だった

疲れて出た溜息ではない

何か辛いことがあったわけでもない

その溜息はここが「現実」であると再認識した確認の為のものだった

 

 

 

部屋に帰り、ご飯を食べ、風呂に入り、洗濯をして、布団に入る

その一つ一つの動作を卒なく機械的にこなした

記憶はない、ただ寝てしまえば「夢」の記憶ができる

 

そんなことを思いながら

私は夢へと歩き始めた

 

 

 

 

 

 

「.......さい!誰か来てるわよ!?」

 

最初は聞き取れなかったが母さんの声だ

頭が重い...もう少し寝よ...

 

「聞こえなかった?それじゃあ...」

 

....?痛い!?痛い!?痛い!?

その強烈な痛さに目を開けずにはいられなかった

まだ覚醒しきっていない頭だが分かったことがあった

 

母さんが布団叩きを持っている

そしてこの痛み

叩かれたとしか考えられない

 

「...おはようございます...」

 

恐る恐る朝の挨拶をしてみた

その言葉にあまり効果はなかったのか

怖い笑顔で少し荒らげて言われた

 

「今は12:30。そして早く着替えなさい来客が来てますよ?」

 

その言葉に首肯するしかなかった

 

 

 

早速着替えをして玄関へと向かった

来客を待たせるわけにもいかないので空腹ではあったが...

玄関の扉を開けるとそこには昨日見た黒服集団が立っていた

 

「こんな時間にすみません。少々あなた様に折り入ってご相談がありまして伺いました」

 

と言ってきた

私はその言葉を理解する前に混乱してしまった

 

(ん!?なぜこの人達が来たんだ!?てかそもそも何故、家を知ってる!?)

 

その疑念が頭を駆け巡った

だが次の言葉ですぐに我に帰った

 

「あなた様の協力が必要なのです。お願いします、この願いはこころ様が私たちに要求した数少ない出来事なのです」

 

こころ!!その3文字が頭に入った

そこで頭が完全に覚醒した

もう今の状況はどうでもいい

こころにまた会えればなにか退屈な日々が変われるかもしれない

 

「こころがどうしたんですか!?何か私が必要なんですか!?それで何をしたらいいんですか!?あとこころはどこにいますか!?」

 

と畳み掛けるように黒服の人の手を掴んで必死に言った

私は覚醒した頭でこの数日の記憶を呼び覚ましていることに殆どの意識を集中させている、そのせいで今やっている行為が困らせる事だとは感じなかった

 

逆の立場にいた黒服の人は質問に対する答えをいう時間も用意されず、質問が多すぎて少し聞きそびれそうになって、さらに手までも握られてしまったのだ

それは相当困った様子で周りの手を握られなかった黒服の人達も相当アワアワと慌てふためいていた

ただ、その握られた手を跳ね除けたりはしなかった

 

そして手を握っている事に気づかない私は自分の中で作ってしまった勝手な質問の答えを口走ってしまった

 

「こころのために私なら手伝います!」

 

 

 

...この台詞がきっかけで今は昨日乗ったリムジンにいる

 

 

 

「ごめんなさい...急に手を握ってしまって....」

リムジンの中で先程手を握ってしまった黒服の人にお辞儀をしている

それも90度に背中を曲げた本気のお辞儀だ

私は少し恥ずかしいという感情が出ていたがそれよりも謝りたいという感情が優っているのでこういう行動に出ていた

 

「いえいえ...お気になさらずに」

 

と言ってはいたが黒服の人は女性である為、私のような男子高校生でも少しはドキッとしたのであろう

ただ今は仕事の話をしに来たのでそういう感情を押し殺しながらも少しだけ照れながらそう言ったんだと私は思った

 

 

 

リムジンの中でこころの要求について話してくれた

 

「あたしあの人を呼んで欲しいの!今日薫の演劇の時に話しかけた男の子!

あの人にもう一回会いたいわ!」

 

とこころが食事の時にウキウキしてこの事を黒服の人達に言ったらしい

そしてその話を聞いた黒服の人達の情報網によって私の名前、住所、年齢、学校などほとんどの個人情報を数時間でリークされたらしい

 

そして今日の朝に学校に黒服の集団で学校に訪問されたみたいだが、私は登校していなかった

その時、私はまだ家で寝ていて倒れたという羽丘女子学園の保健室からの電話を聞いていた母さんが私の学校に欠席の連絡をしていたらしい

 

で、黒服の集団はその事を先生から聞いて私の家に尋ねて来たという過程だ

殆どは知らない事だったので、らしいとしか言いようがなかったが、ずっと私を探していてすれ違っていたことに無性に申し訳なく感じていた

 

それを悟ったかのように

 

「いえ、大丈夫です。こうしてこころ様の要求を承諾して頂いただけで結構な事なので」

 

と黒服の人が繕ってくれた

 

 

 

リムジンが止まり扉が開けられた時に目に映った光景は「夢」の世界のそのもっと奥にある「桃源郷」のような場所だった

 

「なんだここ...宮殿!?」

 

プールに噴水、テニスコートに大きな庭...昔見たことがある本の西洋の宮殿そのものだった

こんなところにこころは住んでいるという事実に今までこころに対しての感情を全て消し去りたくなっていた

 

「ふふっ...先程ここを宮殿だと仰っていた方がいらっしゃってましたよ」

 

と黒服の人が小声で言っている

誰だろう...?と考えを巡らせていると

 

「先程の答えは奥沢様です」

 

と答えも教えてくれた

ああっ!って誰だ..?と一瞬なったが、確かバイトの研修に来ていた子だったはず...

と直ぐに思い出した

 

そして1番重要なこころの要求について聞くことにした

 

 

 

「あの...まだこころの要求の聞いてないんですが具体的に何をすればいいんですか?」

 

それに対して黒服の人は少し羨ましそうな顔でただ口調は変えずに

 

「今はまだお答えすることはできません。ただ、ヒントを申し上げておきますと今日はあなた様のほかに4名の方が招待されております。

北沢様、瀬田様、奥沢様、松原様です。

そして、今日が出発点になるものです」

 

と少しお茶を濁されてしまった

その上言い方が回りくどすぎて全く伝わってこなかった

しかし、呼ばれたという4人の名前全員この前に私と会っている

しかもその4人ともこころと関わりがある

 

だいたい答えがまとまってきたがいまだに半信半疑のままこれから起きることに少しの不安を感じつつ

 

 

 

弦巻家の大きな宮殿の扉が開かれた

この時から私の人生が大きく変わっていったのだ

 

 




今回は弦巻家に入るところまで書きました
第2章入っての最初の話なのでできればハロハピのメンバーが出るところまで書きたかったのですが長くなりそうだったのでやめました


この1週間、少しのお休み期間で東方の小説を読んでいました
因みにその小説がこの小説の元ネタだったりします

タイトルは「夢現(ゆめうつつ)」「うつつのゆめ」です!

その名の通りですねw


あとバンドリのアプリではガチャで一つ前のイベントの☆4のはぐみが当たりました!はぐみちゃんのひたむきな姿勢にすごく惚れてしまいました...可愛い...

ここからは通常通りの更新スピードにしていくので次の話も楽しみにしてください!


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第9話 世界を笑顔に!

前回は弦巻家の屋敷に入ったところまででした

今回からハロハピのメンバーと全員と絡み始めるので実質ここからがこの小説のスタートです!

では第9話はじめます


私はただただ広い宮殿に入ってしまった

そこは一度でも黒服の意見に背いてしまったら2度と帰れられない迷宮にすら感じる

私は絶対に逸れないように黒い背中を追う

 

 

そして大広間と書かれているプレートの前で黒服の方々は止まった

そしてその人達は一斉に私の方を振り返り、人差し指を唇の前に持っていき軽く息を吐いた

 

部屋の扉の隙間からは向こう側の光が差し込み廊下に一筋の光が映し出された

それはまるでレッドカーペットのように私が入るように誘惑しているようにも見えた

 

「...この部屋にこころ様達がおられます...どうかなるべく騒ぐことがないようにお願いします...」

 

と、小声で黒服の人が注意を入れてきた

私はそれに首肯した

そして周りの行動に合わせるように壁に耳を当てた

 

 

「...それじゃあせーので、みんなで音楽をするわよ!せーーーのっ、はいっ!!!!」

 

もう声だけで分かる

こころだ

ついに5人で音楽を始めるために開いた作戦会議なのだろうか?

 

 

「............」

 

ほかの人たちは皆「うーん...」と言った後無音になった

多分思っていることは皆同じなんだろう

 

 

「......って、何をすればいいのかしら?」

 

と、こころがみんなと私の意見を代弁するかのように言ってくれた

てか本人も分かってるんだったら「せーの!はい」っていらなかったんじゃないか?

とキリがよくなったのか、黒服の人が私の方を向いて手招きをして来た

どうやら今からこの会議に乱入するらしい

 

と少しこの先の何が起きるかを想像していると扉が開いた

 

 

ここから新しい世界が始まる...

 

 

「失礼しm「いや!楽器持ってないじゃん!?まずふつうそこからじゃ...」

 

黒服の発言を遮って、奥沢さんが大きな声を上げてツッコミを入れた

そして他の人達は奥沢さんの声しか聞こえなかったようで私達の方には見向きもしなかった

 

 

「だって!あたしはとにかくバンドで楽しいことがしたいのよっ。楽しいことをしなきゃ始まらないじゃないっ」

 

こころは相変わらず元気な声だ

そして私と黒服の人は先程と同じように聴き佇む事しかできなかった

 

(キリが良かったはずだけど最終的にこうなるんだな...)

 

まぁ仕方ない私は部外者だから

このメンバーには入れないただの来賓客

今はここにいる女子高生5人の作戦会議をゆっくり聴いておこう

 

 

「じゃあその楽しいことを、考えればいいんじゃないですか?」

 

こころに対して奥沢さんはクールだ

というか少し冷めているというのか

あまり乗り気ではなさそうな感じ

まぁ昨日のミッシェルの巻き込みは完全に事故だから消極的になるのは無理もない

 

 

「それが毎日、いつでも考えているから、すぐには出てこないこともあるのよ。楽しいことって、結構大変だから」

 

「はぁ......よくわかんないですけど、結構たいへんなのになんでそんなに考えてるの......?」

 

特にこの二人の台詞が二人の違いがよく分かる

にしてもこころは充実した毎日を送っているのか

私は毎日何もせずに無しかないそんな生かt....よそう...

ここは「現実」じゃなくて「夢」だ

 

普段の私なら奥沢さんの意見に賛成だ

それでも今ばかりはこころの意見に少し肩を入れたい

 

 

「そんなの決まってるじゃない!

『世界を笑顔にしたい』からよ!!

そう......あたし世界中を笑顔にしたいの、このバンドで!!」

 

「世界を......」「笑顔に......?」

「世界をえが....」

 

あっやばい...声に出てしまった...

幸いなことに、また誰にも気づかれてはいないようだ

どっちにしろ今から紹介されるのだから、今ここでバレて紹介されても何も問題ない

ただ唐突な自己紹介はできない

 

そんなことよりも言ってしまった恥ずかしさよりも勝る感情があった

 

こころの満面の笑みだ

私はもしかしたらこころの笑顔に弱いのかもしれない...いつみてもドキってしてしまう...普段ならこんな感情を抱くことなんてない、実際学園祭でこころに見つかった時は吃驚はしたがドキッという気持ちは出なかった

 

(にしても...世界を笑顔にか......)

 

こころ以外の4人は頭の上に?マークが見えるくらいにキョトンとしている様子だった

 

 

「そうよ。あたしは何より、みんなの笑顔が大っっ好きなの!だから世界を笑顔でいーっぱいにして、溢れさせるのよ!」

 

「いや。そんなことできるわけないでしょ。世界には戦争とか貧困とか......この日本だってですね......」

 

 

まぁ普通の人がそれを聞いたらそう言うだろう

私も世界中の人間が笑顔になることが出来るかと聞かれたら出来ないと答える

できない

無理だ

やめとけ

時間の無駄だ

 

不可能だ

 

理由をもし聞かれたらそう言うそれが常識

ただそれがこころに通用するわけがない

私から見た「こころ」も他の人から見た「こころ」も「変人」だからだ

 

 

「なんでできないって思うの?

むしろ、なんでできない?

笑顔になりたくない人がこの世界のどこにいるの?」

 

ここでもし「現実」の私だったらここにいますとか言うんだろうけど...実際この世界で一度笑顔になった、向こうの世界では両親がいなくなってからは笑ったことがない.......ただ、この世界では笑ったことがある、その笑顔は作り笑いだったがそれを見て父さんは笑顔になった、それは捻くれた回答だったのだと私は少し反省した

 

 

「みんな毎日笑って楽しいのが最高でしょ。楽しくなりたくない人なんている筈ないでしょ?

だからこのバンドで世界中を回って笑顔でいーーっぱいにするわ!!」

 

「......は、はぁ」

 

こころの言葉に奥沢さんは圧倒されたのか、それともこれ以上言っても意味がないと悟ったのか呆れるような溜息をついた

その音はこころと数名以外には聴こえていた

 

 

「感動したよこころ......人は......一つの役を演じ続けることなどないと思っていた。でも、君たちの、いや世界の王子様なら喜んで引き受けよう」

 

「すごい......はぐみも......すっごくいいと思う

あのね、はぐみソフトボールやってるから、負けて泣いちゃう人をたくさん、見てきたの。

そうすると、はぐみも泣きたくなっちゃって......

だから、世界を笑顔に、賛成っ!!

音楽頑張る!根性出すよっ!!」

 

こころの意見に薫、はぐみが賛成していた

ただ二人とも根本的なことをわかっているのか、少し不安になるような返しだった

二人とも良く言えば純粋、悪く言えばバカだ

もう一人の水色の子は...

 

 

「花音さん......だっけ。あなたはどうするんですか」

 

私の思考読まれたかのように、奥沢さんが花音に話をかけていた

どうやら奥沢さんとは気が合いそうな感じがする

そしてそれはどこか私に近い何かを持っているじゃないかとそう思えてしまった

 

 

「あっ、か、花音でいいですっ、わ、私.......は......「う〜んっ!それじゃあ行くわよっ!世界をーーーーっ!!!」

 

『笑顔にーーーーっ!!!!』

 

「........」

 

誰か止めて

花音はすごく引っ込み思案で自分の意見を言うのが苦手だと自分でもわかっているのだろう

なので言葉に妙な間がある

そしてその間に入ったこころの掛け声

それに続く薫、はぐみ

そして何も言えない花音、奥沢さん

 

これは会議ではなくただの独り言だ

 

笑顔にしたいという こころ

よくわからない事を言う 薫

乗り気で前向きな はぐみ

消極的で一歩引いてる 奥沢さん

自分の意見を言えてない 花音

 

一人一人の個性がこの短時間の内に知ってしまった

それは悪いとは何も思わない

どちらかと言うと良いと思う、「十人十色」この言葉が今の状況に合致する

 

(もしもこのメンバーでバンドを始めたらきっと楽しいバンドが出来るだろうな)

 

無意識に出てきた何もお世辞を入れていない感想

時には喧嘩するかもしれない、でもその度にすぐに仲直りできそうなそんな雰囲気

私は彼女達の事を殆ど知らない

 

 

唯一「世界を笑顔に」してくれる!と根拠のない自信、希望を持つことができた

 

 

「現実的ではない......ですけど、でも、もし......もし、本当にそんなことが出来たら、.......素敵だなって......思います」

 

花音も私と同じ意見なのか

何か嬉しい

私の想像していたことに賛成された気がした

普段の私ならまず考えたところで誰かが意見を発してくれない

 

「夢」は「現実」では起きない

 

 

「......って、はっ!!あたし、バンドに入るの断りに来たのに、なにこの空気に巻き込まれているんだ!?」

 

「えっ。そ、そうだったんですか......?私たちと一緒にバンドを、やって貰えないんですか?」

 

「うっ」

 

「え......?」

 

 

奥沢さんはそもそも参加を辞退するために来ていると言う事を今知った

それは花音も同じくその言葉を聞いて、捨て犬が拾ってくださいと目で語るようなすごく寂しそうな表情が見えた

流石にこんな表情を見せられてのこのこと出て行くのに気が引ける

それは奥沢さんも同じようでそこで声を漏らした、その声の意味を知らない元凶は不思議そうにしていた

 

 

「ほらほら!そこの2人も!!世界をーーーーっ!!」

 

『え、笑顔.....に?』「...笑顔に」

 

 

こころがまた前振りを入れてきた

そして花音、奥沢さんが続いて合いの手を入れる

本来はそこで切れるはずだった、だが何を血迷ったか私も続いてしまった

 

口が勝手に動いたそう思いたい

でも事実、私は口走った、その音は意味を成さない物ではなく

 

 

「こころ」が1番反応しそうな言葉を

 

 

 

「あらっ?あなたは誰かしら?」

 

先程まで私達のことを全く気づく気配がなかったこころは私を観る

そして他の4人も順々と私に目線が動き始める

 

その光景を私は何回も見てきた

その目線は私にとって深い闇が見えてしまうそういう嫌な記憶

 

 

(今は...違う...!ここは...がんば...る...)

 

震える足

ガチガチと音を鳴らす歯

瞬きが増える目

血が止まった感覚になる身体

 

(ここ...で止まっ...たら...きの...うと...おなじ...)

 

私は今ある一つの闇をも切り裂く光を見失わないように平然を保って...

 

 

 

 

 

「夢」は「現実」を超えようと、私に最初の「試練」を与えたのだった

 




まず最初に、今回すごく時間かかってます(1話作るのに5、6時間)

表現を考えるのにすごく苦戦しました!
後、途中から同じこと書いてる可能性ありますね...(出来るだけ修正します)


話は変わりますがバンドリアプリについに「フレンド機能」追加ですよ!
ということで私のID載せときます!
よければフレンドになってください!

ID:19873507


では次の話を楽しみに待っててください!


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第10話 1歩の勇気

前回は「世界を笑顔に」というテーマを書きました!

さて、ここからスタートです!

では10話始めます


「あらっ?あなたは誰かしら?」

 

確か昨日の文化祭の時に声をかけて来たのは薫だった

今はこころだ

こころは首を傾げながら私の方を見る

 

その顔は何も穢れを知らない澄み切った顔だ

 

 

身体はずっと恐怖を示している

それは今まで経験した過去があったから

そして絶望した

 

 

ただ今は違う、「この世界」でやりたいことがある

 

このバンドについて行きたい

 

私の心は内に秘められた感情、意思、希望、その全てで埋め尽くされている

そこには何も恐怖なんてない

そこに絶望もない

何も恐れることがない

 

私に課せられた「試練」

その試練は「私の素直な気持ちを言う」

 

それは今までして来なかった

そんなことする機会がなかった

しようとも思わなかった

それから逃げていた

そしていつしか忘れてしまった

 

 

ここで一歩前に踏み出さなかったらいつもの私と同じになってしまう

これが最初で最後のチャンスだ

ここで活かすか逃すかは私次第だ

 

(私の今すべきことは一つ!)

 

 

皆が私の方に向く

全員の顔なんて見れる余裕なんてない

今は私自身のことを見るのに必死で、一つの結論を出す事だけで精一杯だった

 

全員が向いてから何秒間経ったのか

私にはわからない

10秒か、はたまた30秒か

私には一瞬の出来事だった

 

 

 

そして身体の震えが止まり、秘めていた心を解放する

 

 

「あの...昨日は...すみませんでした...。それで今日は黒服の方々に...こころ...さんに頼みごとがあったと聞いてここに来ました」

 

ぎこちない返事だった

その上これは返事になっていない

私はまだこころの「あなたはだれ?」の答えを返せてはいない

それでも今は私が今までして来なかったことを言うことしか考えてなかった

 

「で、今さっき聞いたこころさんの『世界を笑顔に!』その言葉が私の心を動かされてしまいました。私もその意見に賛成です!」

 

言えた...口にした言葉はそこまで多くはない

こんな簡単なことが今まで出来なかったのが不思議なくらいだ

そして言った後に来る満足感、達成感に少しの間浸っていた

 

 

その言葉を聞いてようやく周りの人の様子を観れることが出来た

 

昨日に会った人達はほとんど同じ反応だった

驚いているが目を瞑っている 薫

少し慌てている 花音

 

そして昨日会ってないはぐみ、奥沢さんの反応は似ていた

 

驚いた表情で不思議そうに見ている はぐみ

口をぽかーんと開けて見ている 奥沢さん

 

みんなほとんど同じ反応をしている中で一人だけ違った反応を見せた人がいた

その人は私が最近追い求めていた目標の人

 

「ええ!もちろんよ!!なんだってあたしたちは世界中の人を笑顔にしてみんなで楽しくなる最高なことをするわ!!!」

 

そう言ってくれた

そしてそこにいたのはずっと遠目からしか見れなかった

こころの満面の笑み

それは今まで見てきた全員の笑顔とは比べる事が出来ない

 

最高に美しく、そして明るい笑顔だった

 

 

私はこころの表情を見て少し笑顔になった

それは青年になってから「2つの世界」で出したことがない

 

何も偽りも飾りもない表情だった

 

 

「って...あなたは誰ですか...」

そう言われるまで私の顔が緩いんでいたのだったが、奥沢さんの真っ当な質問で慌てて元の顔に戻した

 

 

「私は............です」

 

「はい...?よく聞こえないんですけど?」

 

あれ...?名前を言ってるよね?

なぜ聞こえないんだろう...

私はちゃんと言ったはずだけど

 

 

「すいません...。私の名前は.......です...」

 

「だから聞こえないですよ?」

 

何故だ...名前を言ってるはずなのに...

2回目も奥沢さんには聞こえず他の人に質問していた

 

「花音さん、名前聞こえましたか?」

 

「いや...聞こえなかった...です...」

 

「じゃあ北沢さんは?」

 

「はぐみにも聞こえなかった」

 

おかしい...誰も聞こえてないはずはない...

質問を聞いて「......です!」と何回も言っているのに誰も聞こえない

最終的に私の名前は最後まで伝わらなかった

 

 

「もしかして、名前忘れたとかじゃないかしら?それじゃあ...黒い服着てるからクロにしましょう!よろしくね!クロ!」

 

とこころが勝手に提案してきたのだ

今私の服装が制服で黒のスーツを着用している

そこから「クロ」と言う名前にするのは安直すぎませんかね...

 

「だから...「クロ!!いい名前ね!」」

 

もう訂正できなさそうだ

こころの提案は私が異議を申し立てる前に薫、はぐみによって賛成されてしまった

 

(もう...どうにでもなれ...)

 

はっきし言って今ここを訂正しなかったらやや面倒くさいことになるのは分かっている

ただ、今は一歩進めたその喜びで十分だったからだ

 

 

「はい、名前はクロです。よろしくお願いします」

 

「一緒に頑張りましょう、クロ!」

「よろしく頼むよクロ」

「クロさんよろしくー!」

「クロ...さん...よろしく...おねがいします...」

「はぁ...クロさん変なのに興味あるんですね...とりあえずよろしくお願いします」

 

5人全員からの歓迎の挨拶をしてくれた

そして今までの遠くから見ているだけの傍観者としてではなく、みんなと同じように笑顔を創り出す当事者に変わった

 

 

ここから「クロ」として「私」としての小さくて大きな一歩を踏み出すことが出来たのだ

 

 

「じゃあ、今度はあたし達の紹介をしないとね!あたしは弦巻こころ。こころで良いわ。そして...」

 

「はーい!はぐみ!北沢はぐみだよー!うちの家はコロッケが有名なお肉屋さん!」

 

「こんにちは、名乗らせて貰っても構わないかい?私は薫。瀬田薫だ。」

 

「ふぇぇ...えっと...松原花音と......言います.........私...話すのが苦手で......」

 

「えーと、奥沢美咲です。よろしくお願いしまーすっ」

 

 

各々の自己紹介に私は殆どの人の名前を知っている事は言えなかった

もしも言ってしまったら不審がられる

そして今日やってきたことが無駄になってしまうかもしれない

今はそっとしておくのが1番いい

 

皆私の想像通りの人だった

初めて知ったのは奥沢さんの名前が美咲ということぐらいだった

なんともまぁよく皆私のことを承認できましたね...

 

 

「みなさん、よろしく...お願いします...」

 

そしてもう一度した挨拶いつもと同じように間が多くなってしまっていた

それほど私が出した結論に勇気を使ってそして今切れたことだと気付かされた

みんなには私のことをどう思っているのか

 

他人から見た私の評価を知ろうとしたのは初めてだった

 

 

それができたのはここにいるみんなのおかげ

そして普通の人と初めて対等な関係が出来たこと

「この世界」がくれた最高の記憶

 

その全てに感謝して...

 

 

「クロはあたし達のバンドの6番目のメンバーね!あたし、はぐみ、薫、花音、ミッシェル、キグルミの人...?美咲ね!、そしてあなたのクロね!」

 

「いや、ちょっと待って!私はやるなんて一言も...「それじゃあ、もっと世界中を笑顔にするためにみんなで話し合いましょう!」」

 

「「おー!!」」

 

美咲のツッコミを私は聞き逃さなかった

そこに気づいたのは私と花音だけなのだろう

美咲の話に無意識に話を被せたこころに薫とはぐみが掛け声をあげた

3人ともやる気満々で皆楽しそうだった

その様子がコントのように見えて少し面白く

 

私はクスッと笑ってしまった

 

美咲は私の方を見て目を見開きながら少し頬を赤らめている

年頃の女の子は人に笑われるのはすごく傷つくのだろうか

そのことに申し訳ない気持ちになって

私は美咲に手を前に出し軽く頭を下げた

その様子を後ろから見ていた花音は少し顔が柔らかくなっていることには気づかなかった

 

 

窓からは廊下で見た一筋の光が大広間全体を明るく照らしている

そしてその光をくれた太陽が何か神々しく見え、眩しく1番の明かりをもたらしている

 

 

もう昼を過ぎて1日の半分は過ぎている

しかし、私の今日はまだ始まったばかりだ

 

 

これから起きる今日を大切に、そして楽しく笑顔に過ごしていく

そう私は誓ったのだ




主人公ようやったぞ!
やっとハロハピのメンバーと話せるようになりました!
(ただハロハピという名前は出来てない)

こう1歩を踏み出すのって本当に難しいですよね
その表現を考えているといつの間にか寝てしまって起きたらどう書きたかったか忘れて慌てたりしましたw

前話で宣伝したバンドリIDを乗せたところなんとこの小説を見ている方からのフレンド申請が来てました!
それにびっくりしたのと誰なのかすごく気になっています!よければ感想に「私です!」と名乗り出て来てください!お話ししたいです!


長くなりましたが次も楽しみ待ってください!




p.s 今回のイベント星3花音ちゃんゲットしました可愛すぎて萌え死にそう...


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第11話 ここにいる理由

前回は主人公「クロ」がメンバーと話せるようになったところまで書きました

さて今回は対等な関係になってからはじめての話し合いです!

それでは第11話始めます


「バンドでぜったい、世界を笑顔にする......!」

 

はぐみは「世界を笑顔に」する事を考えている

 

 

「音楽で......世界を、笑顔に......!」

 

薫もまた「世界を笑顔に」する事を考えているのか?

 

 

「ーーう〜ん。......でもどうやって?」

 

そしてこのザマである

はぐみと薫、そしてこころが同時に言う

3人寄っても知恵は増えなかった

行き当たりばったり過ぎませんかね...

 

 

私がみんなに受け入れられてからもう1時間近く経っている

その間私も含めた6人でどうやって「世界を笑顔に」するかずっと考えている

私が何か提案を出せていないので文句は言えないが、流石に目標が漠然としすぎているので答えが見つからない

 

始まったのは答えがわからない問いと、もどかしさだった

 

 

「大丈夫?」

 

と美咲が問いかけてきた

できれば大丈夫と言いたい

だけど言えるような状況ではない

 

 

「でも......難しいです......どうすれば......」

 

花音も相当悩んでいるようである

 

 

「ただ歌えばいいのかしら?

ただ楽器を弾けばいいのかしら?

なんだかちょっと、違う気がするわ」

 

こころも考えている

歌えばいいとか、楽器を弾くだけでは解決しない目標

そして何よりもこころの笑顔が少し曇りかかっているように見えていた

 

(まずい...一回流れを変えないと...)

 

そう私は感じ取った

このまま考え続けていたらずっとこのまま止まり続けて、今日の行動が無駄になってしまうように感じて

そしてなによりも

 

みんなの曇った顔が見たくなくて

 

 

「あの...みんなで歌いながら笑顔で色んなところを回るのはどうですか...?」

 

私が出した苦し紛れの結論

その答えは全く高校生らしくない、これをやっているのは幼稚園児くらいだ

ただ、その行為で笑顔になる人は少なからず1人はいるはずだ

まず私がそうでありたい

 

「うーん......」

 

みんな私の答えに誰も何も返せない

相当考え込んで私の意見が聞こえなかったのか?

それとも、私の意見が幼稚すぎて馬鹿みたいに見られているのか

はたまた、私の意見が採用されてその方向性で答えを見つけ出そうとしてるのか

色々な事柄が想像できる

 

そしてそのほとんどが悪い事しか出なかった

 

「あっ、はぐみわかった!はぐみがギターを弾きながら変な顔とかしたらどう?みんな笑うんじゃないかな!?」

 

はぐみは私の意見を引用して新しい意見を紹介した

それを聞いて少し安堵感と共に胸を撫で下ろした

ただ、私の意見の引用で変えて欲しくなかった部分が変えられてしまった

 

「笑顔」が「変な顔」に

 

文句は言えない

そもそもそんな権利はない

なんせ私が作った偽りの答え

ただ少し入っていた「希望」が消されてしまった

そして誰にも言えずにいた

 

 

「は、はぐみさんの担当楽器は、ギターじゃなくてベースだよっ」

 

花音...ツッコミを入れるところはそこですか....

だが、花音の一言で私の意見に対しての綻びを見つけてしまった

 

楽器を演奏すること

 

私は楽器を演奏する技術はない

なので、すっかり忘れてしまっていた

このメンバーはバンドを始めるために集まっているのだと

そのことはこころの「楽器を弾く」という言葉を思い出したら分かることだ

だが私には気づけなかった

 

私と5人には溝があることに

 

 

「あっ。そうだったっけ?

ていうか「さん」とか要らないよっ」

 

「え、えっと......じゃあ、はぐみ......ちゃん?」

 

はぐみと花音の間でやり取りをしている

そこに私は関係ないのだが、少し心が温かくなった気がした

その感覚は今までない感覚、そして初めて感じた温かさ

 

 

「とてもいい案だけれど、すまない......私には不可能だ。私には何をしても美しくなってしまう運命が......」

 

「そうなの?薫の運命って大変なのね!」

 

「......!?こころ......!君は.......ああ、なんてことだ。君は今、私の運命を理解してくれたのか!!

この世にそんな人がいるとは思わなかった......君は私と......同じ魂をもった運命の相手だ!!」

 

「あら。ありがとう!」

 

一体何をやっているのか

もしここで目隠しをされてこの会話を他の人が聞いたら十中八九恋人と答えるだろう

それは本当に恋の告白みたいに聞こえていた

薫が王子様、こころはお姫様って言ったところか

 

そして1番大事な事を忘れてきている

 

「世界を笑顔に」する答えを出すこと

それから今はどんどん遠ざかっている

私がしたかったのはどんよりとした空気を変えること、それは成功した

ただ、そのせいでみんな目的を忘れてしまっている

結局私のしたことは無駄だったのか...

 

また私の心に暗い影が差し掛かりかけた...その時

 

 

「でもなんの理由もなしに、ここにいる人なんていないわよ。

こうして揃っている時点で、もうあたしたちは何か理由が出来ていると思わない?」

 

私はいつもこころに助けられている

影から見ていた時も、同じ空間にいる時も

そして今日、私の中で1つの小さな目標ができた

 

こころ達を助けたい

 

ここにいる理由

私の決して曲げたくない意志

心の中で「こころ」達を思い続ける

それは簡単だけど難しい

でも、絶対に成し遂げたい気持ち

 

周りのみんなも私と同じだったのかもしれない

1人1人こころについてきた理由がある

それは何だったのか、思い返しているのだろうか?

3人の顔が真剣になり深く考え込んでいる

だけど美咲だけは呆れたような顔をしている

「キグルミの人」としか認知してもらっていない美咲

それはこころによって巻き込まれた被害者

私がもしも同じ立場であったらすぐにここから逃げ出す

 

...美咲は逃げない

もしかしたら彼女なりの決意があるのか?

それともここにいて他の人を笑い者にしたいのか?

はたまたここに興味を持ってしまってこの先を見たいのか?

答えは美咲しかわからない

もしも、美咲が逃げなかったらいつか聞いてみよう

 

私に似ていると感じる少女に

私の本心を

 

 

「私......いつも人に言われるがままだったけど......そんな私でも......ここにいる理由......が?でも私......みんなと一緒に、ちゃんとできるか......」

 

花音はここにいる理由をまだ見つけてないらしい

彼女の性格上、見つけるまで時間がかかりそうだ

それでもいつかは彼女自身の理由が見つかるのかもしれない

 

「花音さん、そんなに真面目に考えなくても大丈夫だよ?疲れるだけだから」

 

「そ、そうなんですか......?」

 

花音の言葉に返したのはやはり美咲だ

そしてその言葉に流されそうになるのも花音っぽい

 

 

「はぐみも......ずっとずっと『戦って』きたから......強いとか、負けないとか以外にも、理由があるものがあるって、今知った......」

 

はぐみもまた、ここにいる理由を話し始めた

彼女は何かスポーツをしているのだろうか?

はぐみはいつも楽しくスポーツをやっているのだろう

ただその答えはすごく哲学的で誰も答えを出せないかもしれない

私も今答えを言えなかった

 

 

「シェイクスピアも言っている。

天の力でなくてはと思うことを、人がやってのけることもある。

そうだ!喜劇を演じるというのは......」

 

続いて薫が理由を話し...訂正よくわからない話をし始めた

私は文学に精通しているわけではない、ましては洋楽の小説なんて読んだことがない

薫の話が続きそうだ

なんとしても阻止しなきゃ

 

 

「ちょ、ちょっと待ってっ。またバンドから離れてます〜っ!」

 

花音のお陰で薫の話は止まった

ありがとう花音

あとそろそろしっかりとバンドで出来ることをもう一度言う必要がありそうだ

私はない頭を振り絞っていると

 

 

「う〜ん?やっぱりとにかく、出会った人にあたし達と一緒に笑顔になろう!って言えばいいんじゃないかしら?」

 

こころが回答を出してくれた

多分今まで出てきた中では1番まともな解決案だった

それなら簡単だし、何よりも私でも参加できる

そしてみんなと一緒にいればそのうち笑顔で入れるようになるかもしれない

 

 

「いやあなた、その作戦、校内でことごとく失敗してたからね?」

 

美咲のツッコミが入る

そして気付かされる

こころは普段からこういう性格であるのは容易に想像がついた

そしてそれをみた一般人からしたら少し距離を取ろうとするのが妥当である

こころはやはり無謀なことばっかしているのだろうか?

 

 

「そうなの?『結構ですあはは』って笑ってくれる人がほとんどだったわよ?」

 

「それ失敗してるんだよ!?自覚なかったんだ!?」

 

本人がこの様子じゃずっと気づかないのも無理はないか...

私が思った通り一般人は苦笑して去っている

もしかしたら本当に答えがないのかもしれない

 

 

「でも、せっかくバンドをつくったんだから、今までと違う事がしたいわ。そうじゃなきゃ、楽しくないものっ。

相手に楽しくなってもらうには、まずあたしたちが楽しくなくっちゃ!!」

 

「うんわかる!!はぐみ、こころちゃんの考えすっごく好きっ!ね。こころんって呼んでもいい?」

 

「いいわよ!......それにしても、なかなか出てこないわね。あたしたちの『楽しいこと』」

 

「うーん。バンドって難しい〜......」

 

こころの意見に私は賛同したい

それははぐみも多分、他のみんなも同じなんだろうと思う

ただ、答えが出ない

そのままもう1時間半以上経っている

みんなの顔から見える疲れが大分と溜まってきている

 

こころ達を助けるという気持ちが空回りして私の思考が長く抜けない負の迷路に迷いこませた

いつもの私ならここで迷い続けて、最後には出口を探すのを諦める

そしてその場で座り込み何も動かない

時が過ぎて消えていく私を見て嘲笑い朽ちる

 

それではダメなことはわかっている

この世界で手に入れた小さな1歩

それによって1度は開かれた無限の可能性

今こそもう一度出さなきゃいけない

私が私を嫌いになる前に....!!!

 

その祈りが届いたのか一人の救世主が動いた

 

 

「いや、ねぇ。だからさ。悩む前にまだ楽器ももってないよね?」

 

「ーー楽器!!それだ、演奏!!!!」

 

救世主は美咲だった

その単純で初歩的なことを忘れていたようだ

美咲の発言を聞くまで忘れていたのだ

もしかしたら花音なら楽器が必要なことに、薄々気づいていたのだろうか?

 

確実に言えることは薫、こころ、はぐみは全く気が付いてなかったことだ

私もどちらかといえば花音側と言いたかった

ただ今嘘をついても無駄で意味がない

素直にいうと3人と同じだった

 

つくづく私は馬鹿だと苦笑した

嘲笑わなかったのは幸いだったのかもしれない

 

 

「やっとわかってくれましたか」

 

美咲はそう言って目を閉じた

美咲はずっとこの事に気付いていたのだろうか?

いや、最初から知っていたのだろう

そして本当に困った時になってから言うと思っていたのだろうと

美咲は被害者だ

だからこそ、口を出してこれ以上巻き込まれたくはない

だけどみんなが困っているのを助けたいと

 

私の中の美咲はこうであると勝手に決めつけている

それは無意識に私の心中が美咲に投影しているのかもしれない

 

 

「そうだわ!じゃあ早速楽器を......」

 

「こころさま。ギター・ベース・ドラム。すべて整えております。こちらの部屋に運ばせましょう。

それとクロ様をお貸ししてもよろしいですか?」

 

ここは本当になんでも有るのか...

普通はバンドセットなんて家に置いてないはず...だけどここはお屋敷でお金持ちなのだろう、なんでも出来そうだ

 

黒服の人は私の名前を呼んだ

本名を知っているはずなのに私のことを「クロ」と呼んだ

黒服の人も私を歓迎しているのだ

 

これからはこころ達を守る使用人の一員として、そしてこころ達をサポートするバンドのメンバーとして

 

「クロ」として私を認めたのだ

 

 

「クロ、いってらっしゃい!」

「王子様、出番だ」

「クロ、頑張ってね!」

「クロさん......なんなら手伝いましょうか......?」

「クロさん、あまり無理はしないようにしてくださいね?」

 

みんなが私を押しているそう思えた

私はみんなの応援に応えて

 

「ああっ、みんなのために運んでくるよ

大丈夫、私だけで運ぶから」

 

始めて他人から期待されている

そう思うとなんだか恥ずかしく、言った後直ぐにみんなに背を向けた

今私の顔は恥ずかしさで顔が火照り始めているのだろう

体温が上がる感覚が込み上げる

まだまだ身体と心が慣れてない証拠

今はそれでもいい

 

いつかはみんなに顔を合わせて言ってみたい

そして、私がみんなを助けたい

皆が笑顔になるその日を見届けたいー!

 

 

1時間半は短い時間だ

でも書き換えると

5400秒と長い時間に変わる

 

逆も同じように

過去の私がいつか未来の私に変わる

その時わたしには何が起きるのか?

 

 

 

 

 

いつか来る目標達成に向けて私は黒服の元へと向かった

みんなとスタートする為に

 




長い割に内容がない!
今回は単調で読んでてつまらないかもしれませんがこの話は今後の展開に大事な部分なので詳しく書きました!

お気に入り登録者が15人突破しました!こんな多くの方々が見ていただいてる事に感謝いたします!

それでは次の話も楽しみ待ってください!


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第12話 楽しい夢の終わり

前回はここにいる理由をみんなで考えました

そしてまだ作戦会議が続きます

では第12話始めます


重い...

 

黒服の人達と一緒に大広間を出て楽器を運んでいる

ギターとベースは持ち運びやすく難なく移動できた

問題はドラムだ

ケースだけでも10個ほどある

そのほとんどが人の手で運ぶには2人で協力して運ばないといけないほど大きい

これを運ぶ黒服の人達は全員女性だ

これを運ぶには相当苦労するだろう

 

私はあまりない良心からか黒服の人達に

「大丈夫ですよ、これは私の仕事ですので。私が運びます」

と無意識に言っていた

 

そして今に至る

黒服の人達は大きな荷物を運ぶのを見守っている

私の仕事、そう言われては手伝うに手伝えない

それでもこの屋敷の召使いであるが故なのか、それとも黒服の方々の良心なのか?

大きな荷物を1つ運び終えて他の荷物を運びに戻ってきた時には、キャリーカートが一つ置かれていた

 

これで作業は劇的に改善された

1つを運ぶにの10分くらいかかっていたのが

3つ運ぶのに3分ぐらいで済むのだ

しかも持ち上げて、歩いて、置く、その3つの力がキャリーカートのお陰で引っ張る力だけになったのだ

無駄なことをしないというのがどれほどありがたいのか

運んでいる途中で陰から見ていた黒服の人達1人1人に軽く会釈をした

 

 

最後の1個を大広間とは別の部屋に運び終わり軽く息を吐いた

ここには誰もいない

それは楽器を運び始めてからずっとそうだった

だだっ広い部屋には机と椅子とマイクしかなかった

今はそれに追加するようにギター、ベース、ドラムを入れた

それでもまだ殺風景な部屋だ

 

しかし、今はそうではなかった

気がついたら一人の少女が私に声をかけてくれた

 

 

「お疲れさま......でした.....。ドラム重かったですよね......」

 

と、そこにいたのは松原花音だった

彼女はドラムができる

故にドラムを運ぶ辛さが分かっている

もしかしたら花音は私が運び終えるのを待っていたのかもしれない

 

 

「ま、松原さん......ど、どうしてこっこにぃ!?」

 

と驚いて少し噛んだ

それを聞いた花音も驚いている

 

 

「あ、あの...!こ、こころちゃん達に

無理言って......く、クロさんに会いに来ました。クロさんドラムをちゃんと運べているのか...少し心配だったので......」

 

と返して来た

私の言葉におどおどしっぱなしの花音だったが、私のことを心配してくれて来たみたいだ

流石に全くドラムのことを知らない素人がこんだけの荷物を運ぶのに相当疲れていた

花音は本当に優しいと改めて感じていた

 

 

「あの、これ......よかったら使ってください。顔中汗だらけですから....」

 

本当だ...汗だくだ

そんなこと気づかなかった

気付くはずがなかった

運ぶのに一生懸命だったからだ

そして全部を成し遂げた時にようやく気付いた

 

今、花音が私にタオルを差し出して来た

彼女と同じ水色のタオル

そして彼女の頬を赤く染めながら震える手

それなのに私の眼をしっかりと捉えている

彼女の眼に私の顔が映る

写っている私の顔は花音と対照的に何か泣きそうな顔だった

私と花音の顔は普段なら逆転しているのかもしれない

でも今は違う

 

花音は私の為にみんなから抜け出し、私にタオルを渡した

普段の花音ならこんな行動が出来る様には見えない

覚悟を決めて私にタオルを渡すその行動が花音の心を動かしたのだ

 

 

「いいんですか...?ありがとうございます。また今度洗濯して返しますね?」

 

その覚悟に私はタオルを受け取った

花音から借りたタオルは凄く柔らかくそして暖かかった

私は汗を拭き花音にもう一度「ありがとう」と言った

 

花音はおどおどしていた時とは別人のように私に微笑みかけた

その笑みは陰から見ていた時には見ていなかった表情

そして何よりも花音の笑みはタオルと同じように柔らかく暖かい

 

(花音は天使だな)

 

そう思い、私も自然と笑顔になれた

そして花音と一緒にドラムのセッティングをし始めたのだった

 

 

「よし、これで完了」

「そうですね。これで終了です」

 

私はほとんど何もしていない

ケースから一つ一つの器材を出しただけだ

ほとんどは花音が設置してくれた

私はただただ見るだけで花音の一生懸命に働いている

...手助けできなかった

 

それでも花音は私に優しく接してくれる

優しくした人は多くいるがそれは偽りの優しさ

しかし花音は偽りなどない純粋な優しさ

今の花音の優しさが昔にあったらどれだけ変わっていたんだろうか?

そして本当の『友達』になれるのか?

 

 

「じゃあ行きましょう?松原さん」

 

「花音でいいよ。あっ...でもなんか恥ずかしいかな...」

 

「じゃあ、花音さんって呼びますね。

花音さん、みんなのところに行きましょう?」

 

「はい!クロさん」

 

花音が私に初めて出した提案

それは呼び方だった

呼び捨てにされるのは女子は嫌だろう

ましてや今日知り合った人になど言語道断である

私は花音のことを尊敬の念を込めて「さん」をつけた

そして、私は花音と一歩近づけた

 

 

大広間に帰ると3人はある程度意見がまとまったのか大分と静かになっていた

言わずもがなその3人はこころ、はぐみ、薫だ

そして少し遠目から腰に手を当てて様子を見ている美咲

この光景を予想できていた

花音が私の方に来た結果、美咲だけでは収集が付かなくなるのは分かっていたからだ

そして花音と帰って来た時にはぐみが私たちにこう言って来た

 

「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」

 

「ふぇ?」「え?」

 

はぐみのよくわからない言葉に花音と私は不思議そうに聞き返した

部屋に入ってから急にそんなこと言われたら誰だってこうなるだろう

そして聞き返す

 

 

「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!って何?」

 

「このバンドの掛け声!

ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!だよ!」

 

「お、おう...」

 

「はぐみ!素晴らしいわ!もう一回やりましょう!

ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」

 

「えっ。ちょっ、こころちゃん、あの......!」

 

「「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」」

 

もうどこから突っ込めばいいんだろう...

まずはぐみはなぜこんな掛け声を出したのか

そしてこれをなぜこころ達が採用したのかよくわからない

さっきまで聞いていた美咲はどういう反応だったのか?

それを全部聴きたかったが殆ど明確な答えは帰ってこないだろう

 

こころが掛け声を出して、続いて薫とはぐみが復唱をする

そして流れる他3人の無言

 

素直にいうとこの掛け声は幼稚ではあるが案外いいかもしれない

『世界を笑顔に』というテーマにも合ってるし、おまけに全員で言えば団結力が高まると思う

そこに美咲が言うかが問題だが...

 

 

「......こころ、今気づいたんだけど

私たちは、どんな音楽を奏でればいいのかな?」

 

「そうだったわ。決めてなかったわね!」

 

「本当に何にも決まってなかったんだね!?」

 

薫の質問にこころは平然と答え、美咲が突っ込む

こころなら仕方ないと思えてしまう

まぁ陰から見てた私はよく知っている

こころは何かを持っている

2日間でメンバーを集めてそしてバンドを作る

こころが言ったことはなんでも叶うそんな感じがしていた

 

 

「ごめんなさい。私も今、言おうとしたんだけど...」

 

「もうダメだ。この三人はバカだ。3バカだ!!花音さん!これ以上振り回されるのはやめて、私と帰ろう!」

 

「え......でも、私......」

 

美咲は堪忍袋の尾が切れたのか少し声を荒げながら花音に言った

美咲が被害者のように花音も被害者だ

そのことを知ったのはもう少し後だったが美咲の言動で察していた

 

花音は美咲に言われたことを考えつつも動かなかった

花音は私と同じ考えなのだと思う

 

こころを見ていたい

 

そのことを美咲は察したのか軽い溜息をついて

 

 

「花音さん?ああもう......あたしも帰るに帰られないじゃん......」

 

と、その時にはぐみが「かーちゃんに呼ばれたから帰るね」と言って急いで帰り支度をしていた

先程はぐみは携帯を確認していた

そしてそのはぐみの元気印の顔が少し悲しい表情をしていたのを見たのは私しかいなかった

 

反対に、美咲の顔が少し緩んだように見えた

ここから解放される、そう思うと仕方ない

 

そしてこころが「じゃあ今日はここで終わりね」と言った

長い作戦会議が終わる

 

各々帰り支度をしている

ただ、私は黒服の人に呼ばれたのだ

 

 

「これからこころ様達のことをよろしくお願いします」

 

と一言呟くと私にお辞儀をしてその場を立ち去った

 

私が大広間に戻った時には全員帰り支度が済んでおり、帰る直前だった

そのタイミングで私は

 

「花音さん!」

 

と大きな声で呼んだ

花音は「ふぇ!?」と驚いて身体が飛び上がっていた

今度は花音のことを呼ぶ時はもう少し注意しよう

花音は恐る恐る私の方を向いてきた

 

「ど、どうしたんですか...?クロさん...」

 

「いや...あの...タオル今度返しますね」

 

「えっ...う、うん。わかりました」

 

と貸してもらったタオルを返すことを約束した

わざわざ復唱したのには私と花音が忘れないように

そして花音達は帰っていった

 

 

みんなが帰った後、軽く後片付けをして私も帰路に着いた

もう太陽が沈み始め世界をオレンジに染める

あっという間に過ぎた時間

時間は止まってくれない

でも、記憶は残り止まってくれる

 

そう思いつつ家に着いた

 

 

家に帰り、すぐに花音から借りたタオルを洗濯機に入れた

ここでやっとかないと忘れていそうな気がして

今日あったことを思い返しながらタオルが洗濯機に入っていくのを見ていた

 

洗濯物を入れてリビングに行くと母さんがニヤニヤしながら私に聞いてきた

 

「ははーん?さては彼女ですかねー?」

 

先程の行動が見られていたのかそんな質問をされた

私は「友達に借りた!」と一言言ってご飯を食べ始めた

この世界で食べたご飯の中で1番美味しく感じた

そして家族三人で食べているこの空間に嬉しく、談笑していたのだ

 

お風呂に入り床に着く

布団の中は冷たくまだまだ寝付けそうにない

その間に今日あったことをもう一度振り返れる時間になっていた

 

黒服の人に弦巻家に連れられ

こころ達の会議を見て

私がこころ達に受け入れられ

楽器を運び

花音にタオルを借り

 

()()()()()()()()()()

 

そして決まった「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ!」

 

まとめるとすごく短く内容がないように見える

ただ私にとっては今日の思い出はこの世界での1番大切な日になり

始まりの日

 

 

私が私になった日

 

 

これからこころ達に振り回されるとしても楽しい日々が過ごせそうと思い

少し顔が緩む

その顔のまま私の意識が遠のいていくのを感じた

 

 

 

夢の「今日」は終わった

だが「現実」の今日は今から始まる

 

「私」が「自分」に変わる時

 

 

 

裏が表に

天国が地獄に

 

自分の長い1日がはじまるのだった




更新遅れてしまってすいません!(5日間)
(なお、再投稿しているので一気投稿になっています)

そして長い長い「夢」partが終わりました...長かったよ!

バンドリアプリでは千本桜楽しいですよね!最近よくやってます
(フルコンできるかな...)←できました!


次の話から現実になります
楽しみに待っててください!


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新たな目標
第13話 未来へ繋ぐ音


前回は作戦会議の終了まででした

さて、今回からやっと現実編です

それでは第13話始めます


長い夢

長いはずの夢が一瞬で消える

 

自分が目を覚ました

自分にとっては2度目の同じ日が始まった

現実の世界では1日だが私にとっては2日目

普段の自分はここで文句の一つでも言うだろう

 

ただ一つ違う

私の中で残った数少ない記憶

『世界を笑顔に』そして、楽器を運んだこと

残っていて欲しかった記憶だったのかもしれない

ただあまり思い出せそうにはなかった

 

いつものように何も変化のない行動

自分は学校に行く準備をしている

黒いスーツに身を包み

家を出た

 

 

いつも夢の世界から還って来た時に限り、記憶を整理する時間がやってきた

学校に行くまでの短い時間で、残った記憶の欠片を繋ぎ合わせる

 

最初に『世界を笑顔に』する

これは記憶を紡ぐ必要はなさそうだ

言葉通りの意味でこころが言った

その言葉に自分は乗っかった

 

そして私は楽器を運んだ

それはみんなが自分を認めてくれたこと

みんなを助けたいという気持ちの表れだった

 

起きて直ぐに出てきた記憶は2つだった

だが、今の時間だけで多くの事を思い出せた

人の記憶というのは面白い

 

 

と、そこまで思い出した頃にはもう教室だった

 

 

相変わらず授業は楽しくない

出来ればこのまま教室を抜け出して、もう一度寝ていたい、そう思った

ただ、今はそれをする事を躊躇った

 

次の授業が音楽だったからだ

普段なら音楽の授業が待ち遠しとは思わない

逆に鬱陶しいと思うくらいに面倒くさい

夢であった5人を助けたい、その気持ちが今の自分をも動かしているのかもしれない

 

 

授業終わりのチャイムが鳴り、号令が掛けられる

 

「ありがとうございました」

 

と、クラスメイトの声が聞こえて

自分はその言葉が終わるかどうかの時にはもう音楽の準備を済ませ、いち早く教室を出た

 

ここから音楽室までは遠くはないが少し早歩きになる

ここでもし走っていたらすれ違う教師達に声を掛けられ止められてしまう

走らず急げる方法として出たのがこれだ

 

授業が始める7分前ほどで音楽室に着いた

もちろん誰も来ていない

音楽の先生もいない

自分は音楽室をキョロキョロし始めた

 

空はいつのまにか晴天から黒い雲が出始め、大雨になっていた

 

 

...見つけた

使い古されたドラム

 

何年間も生徒によって叩き続けられ、ボロボロになりながらまだ現役のドラム

夢で見た花音のドラムはすごく綺麗に手入れされていた

二つのドラムを比べてしまうのは野暮かも知れないが花音のドラムの方が断然いい

 

ただ、このドラムを見ていると自分の様な感じがして

見捨てたくなかった

 

よくよく見るとドラムは太鼓が5つにシンバル(?)の片側が3個に棒が2本で構成されていることがわかる

昨日運んだ花音のドラムと同じ構成だった

もしも構成が違うのであったらドラムとは何かわからなかった

 

と、突然後ろから声を掛けられた

 

 

「君、ドラムに興味あるのか?」

 

その言葉に私は飛び上がってしまった

前屈みの身体が爪先立ちするほどビックリした

その仕草に声の主は笑いながら

 

「はっはっは!!君がそんなに魅入るなんて珍しい」

 

と言われた

その言葉に少しの憤りを感じつつ振り返った

 

その声の主は音楽の先生だった

 

 

「せ、先生!驚かさないでくださいよ...」

 

「ごめんごめん。いやぁ、君から話しかけられるなんて明日は豹が降ってくるかな?」

 

「先生...その『ひょう』ってもしかしなくても動物の方ですよね...」

 

「ははっ、バレたか」

 

音楽の先生はいつも明るい人でよくジョークを挟んで会話してくる

なのでさっきの『ひょう』が『雹』ではなく『豹』という事はある程度察せたのだ

そして先生はどんな時でも生徒のことを『君』という

なんでも名前を覚えるのが苦手だと公言していた

 

 

「ふむふむ...このドラムは私が赴任する前からある、結構年季が入ってる。

確か10年ぐらい使われているらしいよ。昔はよく生徒が休み時間とか練習しに来てたんだけど...今じゃこの有様、誰も演奏してはいない...」

 

先生は少し寂しそうに話してくれた

このドラムは現役とは言ったが、そこら中が痛んでおり、今はどんな音がなるかもわからない

昔、このドラムの音は生徒によって奏でられ、先生の心を笑顔にしていたのだろうか?

 

今はそれができない

つまりは笑顔を失ったのかも知れない

そう思うとどんどんこのドラムをほっとけない気がして

自分の口が勝手に動き始めた

 

 

「先生、自分....このドラムが奏でる音が聞いてみたいです」

 

それは自分が言った中で

はじめての嘘偽りのない気持ち

私の主張

そして「この世界」でのスタート地点

 

 

先生は少し驚きながら自分の言葉を聴いていた

そして数秒の間を置いて

 

 

「ありがとう...。でも...私ではどうにもできない...。私はドラムをやったことがない。だからこれを直せないんだよ...。」

 

先生は私をまっすぐみて応えた

だが、先生の言葉は後半になるにつれ震えが増してきていた

もしかしたら先生の手元が震えているのかも知れない

先生自身の不甲斐なさを自虐しているのかも知れない

 

それはなんだか昔の私をみているようで

辛かった

もしもこれが昔の自分だったら逃げていていたのだろう

 

 

だが、今は違う

先程言った自分の言葉はどこかに引っかかったわけではなくすんなりと言えた自分の言葉

 

 

だから今回も逃げずに出せる言葉

 

 

「先生!自分がこのドラムを直すので、それと少しは叩ける様になるので!先生に昔の音をもう一度聴かせます!」

 

自分はここで大きな過ちをしてしまった

まず一つ目は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

それは先生と同じだからあまり変わらないかも知れない

なんならドラムのことについて調べればいいだけだ

 

それよりも問題なのが2つ目

 

ドラムの弾き方を教えてくれる人がいないこと

 

こっちは本を読んだだけではわからない

本を読んで出来るような感覚に陥るだけで実際にやるのとは全く別物になる

その上、自分には情報源となるものが本しかない

携帯電話やPCを持っていない自分は動画を見ながら練習なんて出来ないのだ

 

 

「本当か!君!で、でもドラムやったことあるのか!?」

 

「いいえ、ありません。ただ、最近ドラムを運ぶ機会がありまして。その時にドラムに興味を持って色々やってみたいのです」

 

先生の無言が続く

無理もない

自分に期待を抱いたすぐ後に未経験者と言われたら少しは戸惑うだろう

しかし、先生は分かっているのだ

 

自分以外に頼れる人がいないことを

 

 

「やってくれるか?頼む、私が過去に聞いた美しい音を聞かせてくれ」

 

と深々と自分にお辞儀をしながら応えた

先生の身体は昔の私みたいに小動物の様に見えた

 

 

「先生、頭上げてください。後、一つだけ訂正させてください。

過去の音ではなく『未来の音』を奏でるんですよ。

自分が奏でる音は昔にも無かったもっと美しい音を奏でてみせます」

 

と言い切ってしまった

と同時に何故ここまで啖呵を切って言ってしまったのか後悔と恥ずかしいさが込み上げてきた

ただもう逃げられない

 

この言葉は自分が逃げない様に言った言葉

こころ達によって変えられた自分の言葉

そして、自分が『世界を笑顔に』する為の言葉

 

この会話の中にこれだけ多くの意味を持たせながら自分は動いた

 

 

先生の顔は見えなかったが軽く頭が上下に動いていた

自分はここで顔が見えなかった方が良かったのだと感じつつ、自分の席に座った

 

これから始まる授業に自分は積極的に受ける姿勢を先生に見せたかった

 

先生は自分のその姿をみて

笑顔になっていた

ジョークを言っている先生の笑顔ではなく

 

心の底から出てきた笑顔

その笑顔はこころの笑顔によく似ていた

 

 

もうすぐで予鈴が鳴る

そしてクラスメイトが音楽室に集まり始めている

もうその時にはいつもの先生に戻っていた

自分に見せた笑顔を知っているのは私だけだと思うと少し優越感に浸っていた

 

授業が始まった

先生がピアノを弾いている

それに生徒が歌声を合わせる

曲は明るい曲なのだがピアノの音は少し悲しそうだった

それは先生の不安なのか自分への不安なのかはわからない

それに気がついたのは自分だけだと思うと先程とは違う感情が出てきていた

 

 

 

花音、美咲、薫、はぐみ、こころ...それと自分

6人で決めた『世界を笑顔に』という目標

 

 

その目標を最初にし始めたのが私だと思うと責任感が出てきていた

 

 

そして、いつかは5人が何かに躓いた時に自分が助けになれる様に

 

 

授業が終わり音楽室を出て行く

そこでみた空は今日1番の透き通る様な青い蒼い空が広がっていた




現実part1でした

新キャラが出ましたけど今後、主人公との関わりが重要となるキャラです!
名前は出す予定はないです

そして主人公に現れる心情の変化に書いてる私が感動しかけてますw(おい作者)

さて、話を変えますけどバンドリで新カバー曲「恋は渾沌の隷也」が配信されましたね!

やっていて本当に楽しい譜面です!
フルコンもできました!
\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!
\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!
\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ!

(やりすぎて腕が痛くなる模様)


では次の話も楽しみに待っててください!


追伸:今日までの1ヶ月分を再投稿させてもらいました
理由は簡単で私の不手際によって誤ってこの小説を消してしまいました...(徹夜後の小説編集が悪かった...)

なのでまた1からの出発となります
お気に入り登録をしていただいた皆様には大変なご迷惑をおかけしてしまったことに謝罪いたします...

そしてまたこの小説をお気に入り登録していただいた方々がおられましたら本当に恐縮です...

これからも頑張りますので応援よろしくお願いします



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第14話 新しい憧れ

現実での目標を立てたところまででした

さて今回はどうやってドラムを学ぶかがテーマです

では第14話始めます


お昼ご飯を食べて昼休み

自分は普段では絶対にしない行動をしていた

 

普段の自分なら昼休みは何をするわけではなく、ただただ机に突っ伏して時間を過ぎるの待ち続ける

周りの雑音に惑わされないように無になって

1人で何もしない時間が学校の中では1番楽しい時間

そう思っていた

 

ただ、今日は違う

昼休みのチャイムを聞いていつものように机に頭を置きに行く

だが、それを妨げられた

 

自分の足に

 

数時間前に見た先生の笑顔

その笑顔を忘れることなんて出来ない

そして、『世界を笑顔に』

自分に引っかかっていた言葉、表情

 

それらが何処にあったのか

今の自分には分からなかった

しかし必ず自分のどこかに残っていた

 

 

自分の足は疼いているように揺れ始める

それは自分に対して戸惑いなのか

それとも意志なのか

 

揺れる足が震えに変わる

その震えを止めようとしても止まらない

側から見ている人達には貧乏ゆすりをしている様に映っているのかもしれない

だが、当の本人にはそれよりも強い

 

 

足が揺れてるのではなく

体全体が揺れている

 

自分に今起きている現象を説明なんて出来なかった

そもそも誰かに相談することすら出来ない

普段の自分ならここで逃げる

 

 

...変わっていた

()()()()()()()()()()()()()()

 

力を込めてその震えを抑えようと踏ん張った

周りがどうこうとか知ったこっちゃない

 

 

動け...!!!!

 

自分の足は地面を強く叩いて身体を起き上がらせた

ただ立ち上がっただけだったのだが思った以上に音が響いたのかクラスにいた数人が振り返っていた

 

バツが悪くなった自分はそそくさと教室を後にした

行きたい場所はもうわかっていた

自分はその場所に行くのは初めてだった

 

先週に校内を案内されていたので迷わずに目的の場所に着いた

今自分が欲してる物が手に入る場所

 

図書室

 

本が並び知らない情報を貰える場所

自分は図書室の前までは何も考えずに歩いていた

 

だが、また止まってしまった

自分の情けない足、意思

立ち止まって時間に解決を委ねようとする臆病な自分

 

教室を出た時よりは力は必要ではなかった

私は未知なる場所に踏み入れた

 

 

並んでいるものは目新しいものばっかりで少し目が泳いでいた

静かな空間は自分が1人でいる時と同じ感覚だった

1人の空間は死んだ空間

 

ここは生きていた

そこには私以外にも

知識を仕入れる為に来ている人

図書委員の人と話に来ている人

勉強をしに来ている人

多くの人が音を出している

 

鉛筆が紙に走る音

ページが捲れる音

本を棚から引く音

小さなヒソヒソ声

 

普段の教室とは全く違う音

その音は自分にとっては新鮮で泳いでいた目がだんだんと輝き始めていた

 

そして探し始める『バンドの本』

音楽の先生と約束したドラムを直し、

そして奏でる『未来の音』

 

その為には教材が必要で、まずは学校にある図書室から調べるのが必要だったのだ

自分は図書室の端から順にバンド関係の本を探し始めた

 

背表紙に書かれている字は難解な言葉が綴られている本が多かった

自分は誰がこんなのを読むのだろうと思いながら一つずつ目を通している

 

...伝記...小説...評論誌...図鑑...写真集...辞書...

 

色々なジャンルの本を見通しているが『バンドの本』は見当たらない

注意深く字を見ていたせいで目が疲れて来ていた

そして漸く...

 

.......音楽の歴史......音楽...!

 

見つかった音楽関連の本

歴史とは書いてあるがこの辺りの棚には音楽の本があることが分かった

そして先程よりももっと注意深く背表紙を見続ける

 

...オーケストラ...ヴァイオリンの弾き方......トランペット...ピアノ...レゲエ...ジャズ...

 

今の自分には全くわからないものばかりが並んでいる

そう思うと自分は音楽の知識がほぼ皆無ということを改めて実感した

音楽の教科書を読んだことが結構あるはずなのに必要となったら出てこない

私にとっては音楽はそれだけの存在だったということを裏付けていた

 

いろんな音楽の本が並んでいるがまだ『バンドの本』が見当たらない...

棚にある本の9割は調べ尽くしてしまった

少しずつ焦りが出始め...

 

 

...バンド....の雑誌....バンド!!

 

数ある音楽本の中でも唯一、その本はあった

正確には本ではなく雑誌

この図書室には雑誌は片手で数える程度しかなかったのだ

それもそのはず、ここは教育の場であって喫茶店ではない

 

心が少し軽くなっていく感覚を覚えつつ、自分はその雑誌を手に取った

 

 

席に座り

少し息を吐いて

雑誌を開く

 

そして開いてから気づいたのだ

この雑誌が相当前の雑誌だったことを

なぜなら、自分が小学生の頃に憧れていたバンドの特集記事があったのだ

 

自分は目を丸くしつつその記事を読んでいた

あまりこのバンドメンバーの顔を覚えてはいなかったが、すごく懐かしい

もしもこの雑誌にMD、CDが付属されていたら真っ先に聞いていたであろう

 

まだ1人に慣れてなかった頃を見返しながら

 

一通り読み終わって再度1から順にパラパラとページをめくる

20ページほどしかない雑誌

全てめくり終わるまで5秒もかからない

その5秒の間に自分の記憶のタイムマシンが起動し、過去を思い出しそうになった

夢の世界でも感じたあの感覚

 

 

パンドラの箱が開きそうになる感覚を

 

自分はその感覚に苛まれ、雑誌をすぐに閉じた

そして元ある場所に戻しにまた席を立った

 

 

 

昼休みが終わるチャイムが学校全体に響かせる

チャイムは生徒を教室に戻るようにと促している

自分も例外なく教室に戻る為に図書室を後にした

 

帰るのは一人でこの時間は自分一人だけである

登下校の道と同じように自分は情報の整理の時間を得た

 

昔の憧れだったバンドの構成は

ギター2つに

ドラム1つ、

マイク1つ

メンバー4人だった

 

それはこころ達のバンドとほとんど同じでメンバーの数だけが違っていた

憧れを抱いていたバンド

そのバンドに救われた少年

自分にとっての精神安定剤

 

 

そして、いつしか失われた役割

過去に起きたことを思い出すのが嫌

そういう人間になってしまった

 

無心で過ごした日々が変化した

こころ達のバンドによって

 

 

今の彼女達は私の新しい『憧れ』

そして強く願う『世界を笑顔に』

 

 

色々と考え込みすぎて休み時間が終わりを告げる予鈴が鳴り響いた

あと5分もしないうちに次の授業が始まる

 

私は廊下を走り、教室に向かった

 

 

 

授業が終わり、帰り支度をする

今日の出来事は自分にとっては大きすぎる日だった

夢の世界でも現実の世界でも起きた変動

自分はその変動に戸惑いつつ、付いていこうと考えた

そうしてもうすぐ日没だ

 

自分は疲れきっていたのか

帰り道の記憶や晩飯の記憶がなく、気がつくと床についていた

 

この世界に疲れて

次は夢の世界でも疲れる

 

近い未来こうなるのかもしれない

ただ、不思議と楽しみにも感じる

 

夢の世界の疲れはその内喜びに変わる時が来るのか?

それとも、夢は夢で消えてしまうのか?

 

天国が地獄に変わるのか?

地獄が天国に変わるのか?

 

夢が現に変わるのか?

現が夢に変わるのか?

 

私が自分に変わるのか?

自分が私に変わるのか?

 

 

そんな事を今考えても無駄だと思いつつ意識してしまう

それらを意識していたらもう一つの意識が遠のいていった

 

瞼が落ちていく

世界が真っ暗に染まっていく中で『私は』ひとつの光を見つけていた

 

 

こころが楽しそうに歌っている

薫がカッコよくギターを弾いている

はぐみが元気よくギターを弾いている

美咲が少し遠目からみんなの演奏を盛り上げる

 

そして、花音が一生懸命ドラムを叩く

 

 

 

今、私に必要な情報が目の前にあったのだ

 




遅くなってすいませんでした...
そして、間違って消してしまったことを改めて深くお詫び致します...

夜中に書き終えて本文を編集しているときに誤って「削除」ボタンを押してしまいました。
私は重度のドジを踏むことがあるんですけどここで踏みたくなかったです...

そして消したことに悲痛な叫びをツイッターで呟いたところ、何人かの方々に優しい言葉をかけていただいたことを本当に感謝しています!
そのおかげもありまして1時間で全部復旧させれました(バックアップは大事)


それから1週間少しモチベが上がらない時期が続いていましたが、なんとこの小説を高評価10をいただいていました!
それをみてもう一度立ち上がる勇気と元気をもらいました!

高評価してくださった「十六夜恋々さん」本当にありがとうございます!



もう一つ、小説を消してしまってからツイッターで「もう一度お気に入り登録をしてください」と呟くと数名の方々に再度登録していただけたこと

また、もう一度投稿するにあたってハーメルンの「BanG Dream!」のタグからもう一度登録していただいた方も数名おられます

そして、新しくこの小説を見てくださった方々の中からお気に入り登録をしてくださった方

お気に入り登録をしていただいた方々
「Ksukeさん」
「フユニャンさん」
「REASONさん」
「ライちゃんさん」
「くらげ先輩さん」
「止まるんじゃねーぞさん」

心からの感謝いたします!



これからも精進していきますので、この小説を最後まで読んでください!



それでは長々とあとがきを書きましたが、
次の話も楽しみに待ってください!!


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第15話 私の要求

前回はバンドの雑誌を手にとって、夢の世界に入ったところまででした

夢の世界にあらわれた一人の救世主とは?(もうわかるかと思いますけど)

そしてどうやってその人を引き出すか?

それでは第15話始めます


「おはよう」

 

その声に私は目を醒ました

 

夢の世界に来てから初めての早朝

まだ時間は5:00過ぎだった

外は薄暗く、街灯がまだ点いていた

 

私の部屋には、いつ入って来たかわからないが母さんがいた

 

「あらっ?早いわね。今日は学校の日直の日なの?それにしても早いわね」

 

と、母さんは私の洗濯済みの服を衣装ケースに入れながらそう質問を述べていた

 

「んー...ただ目が覚めた」

 

と簡潔に返すと

 

「そうなの?それじゃあ二度寝しないように着替えなさい。」

 

母さんは私が普段からよくする行動を防止しようと助言してくれた

...たまにそれで遅刻しそうになる...

 

「あと、それと......はい、これ」

 

母さんは私に畳んでいた衣服の塔の1番上から手に取って、私に差し出して来た

 

「これも洗濯しといたわよ。アンタ、ちゃんと返しなさいよ?」

 

それは昨日借りた花音のタオルだった

私が楽器運びを終えた時に汗拭き用に貸してくれたタオル

別に汚れたものを拭いたわけではないので見た目では昨日と全く同じだ

だが、このタオルは昨日借りた時に仄かに漂っていたいい匂いがしていた

この家で使っている洗剤が、花音の家で使っているのと一緒なのかもしれない

 

「ありがとう」

 

そう言って私はタオルを受け取った

そのタオルを割れ物を扱うかのように丁寧に学校カバンに入れた

その姿を見ていた母さんは少し「ふふっ」と息を漏らしていた

 

「アンタ...彼女ができたからって、そんなにマゴマゴしなくてもいいのにねぇ...」

 

「だから!違うって言ったじゃん!もう...めんどくさいなぁ...」

 

母さんの冗談に私はムキになって答えた

母さんがこう言ってくることはなんとなくわかっていたが、いざ言われると少し恥ずかしく思ってしまった

そして素の私になっていた

 

心の中で燻っていた感情が口から昇り出て言った

面倒くさいと言ったが少し嬉しかった

 

 

パジャマを脱いで制服を着てリビングに向かった

 

「おー。ちゃんと行く準備できた?

じゃあお母さん今からご飯作るから少し待ってて」

 

リビングには母さんがいた

まぁそれは当たり前である、父さんは料理が全くできないことは知っている

まして、父さんは出張中でこの家にいない

私はどうかというとご飯と目玉焼きくらいしか作れない

私がもし朝ごはんを作れるんだったらあんなずさんな食生活を送っていないだろう

なので母さん以外に朝ごはん作りは無理なのである

 

「いいよ。今日は手伝うからさ」

 

と珍しく家事をすることを宣言した

母さんの家事を手伝うことなんて今まで一度もない経験

そしてこれからもできない経験

 

もし、この記憶が消えたとしても今だけ...

 

 

今だけは浸っていたい...

 

「そう?じゃあお味噌汁作るのお願いしてもいい?あとは味噌入れたら完成だからね。味噌は冷蔵庫にあるから」

 

母さんは私の宣言をサラッと受け取り、私に料理を作らせる

味噌を入れるだけの料理

料理というか工程というか

すごく簡単なお手伝い

味噌を溶かすぐらいなら私にだってできる

 

 

「...出来た」

 

私が作ったお味噌汁は少し濃い茶色になっていた

味噌を入れているときは全く気づけなかったけど、入れ終わってから少し入れすぎた気がする

 

母さんの料理も終わって今はお茶碗やお皿に盛り付けてテーブルに置き始める

 

 

「「いただきます」」

 

二人の声が部屋を包み込んだ

献立はご飯、お味噌汁、卵焼き、お浸し、それにアジの開き

なんとも和風な一般的であった

 

私はなるべく自分が作ったお味噌汁を食べないように避けていた

そのお味噌汁は私が作り、見た目から塩辛そうに見えていたから

そうしていると向かい側に座っている母さんが私の考えを察したのか

 

「このお味噌汁アンタが作ったんだよね?いただきます」

 

とわざわざ注意を向かせるように言い、お椀を口につけた

 

「すこし塩辛いけど...初心者にしてはまぁよく出来たほうじゃないかな?」

 

感想を聞いていないのに

母さんは私の作ったお味噌汁を少し苦言を呈しつつ褒めてくれた

すこし嬉しかったがどうせお世辞だろう

そう思って私もお味噌汁を恐る恐る飲んで見た

 

「...おいしい...」

 

すこし塩辛かったけど美味しかった

私が作った美味しい始めて料理

母さんがダシを取っていたのか凄くコクがあるお味噌汁になっていた

母さんが言っていた感想がお世辞ではないことを認識できた

 

母さんとの楽しい時間はいつの間にか終わっていた

 

 

今はまだ7:00

登校時間まで約1時間ほどある

1時間の間少し暇になった私は教科書を読もうと鞄に入れた教科書を取り出す

そして漸くタオルを見た時に

この世界でしたいことを思い出した

 

 

そうだ、花音にドラムを教えてもらわなきゃ

 

 

なぜ今まで気づかなかったのか

多分料理を作ることと母さんとの時間を過ごせたことで精一杯だったからであろう

私はタオルを握って

鞄を放り出して

扉を強く押して

廊下を急いで走る

 

気持ちが先走ってしまっていた

しばらくして気持ちが一気に消えてしまった

 

(あっ...花音の連絡先知らない...)

 

私にとって連絡できるのは家にある固定電話か手紙しかなくて

花音の家の住所や電話番号なんか知るわけがなかった

昨日、この世界でしたことは軽い名前紹介くらいだった

他の情報は一切聞いていない

 

 

...どうしよう...

 

バンドメンバー5人のうち花音の連絡先を知っている人に聞く...それは無理

 

もう一度花咲川女子学園に突撃することも考えたがもうこの方法は通用しないだろう

 

そうなったら弦巻家に行って黒服の人に事情を話して次の日に花音に来てもらう...これも却下、できれば今日中に会いたい

 

色々考えていたがどれもしっくりくる案が一つも思いつかなかった

悩めば悩むほどぬかるみにハマっていく感覚に飲み込まれていく

 

(もう、諦めて明日に来てもらおう...)

 

そう思ってもう一度自分の部屋に戻ろうと踵を返す

その時、視線がある一点に止まった

 

家の固定電話に

 

昨日、私の家に電話がかかって来たことを母さんが言っていた

その相手が弦巻家だ

内容は「今後、息子様をお借りしてもよろしいですか?」

母さんはそれを聞いて二つ返事でOKしたらしい

電話が掛かって来た時間は私が楽器を運んでいる時

 

本来なら私が知らない内容だが昨日の寝る前に母さんが私に伝えていた

今の今まで思い出せなかったがまさか使える情報になるとは思ってもいなかった

 

私は急いで固定電話を操作をし始めた

履歴の最新から電話番号を探す

昨日かかって来た見慣れない電話番号

そして見つけた「弦巻さん」という名前を

あんな適当に了承しつつ、ちゃんと電話番号登録してるあたりしっかりしている

私はディスプレイに映った弦巻の文字を見ながら祈るように受話器を取った

 

 

プルルルルプルルルルプルルルル

 

長いコール音が耳に響き渡る

それと同時に私の上がっていく心拍音も身体に響き渡っていた

 

(頼む......出てくれ...!)

 

ガチャ

 

「はい、弦巻ですが。どちら様でしょうか?」

 

よかった、出てくれた!

しかもこころの声ではなく黒服の方の声であった

こころに言ったらもっとややこしくなって返って面倒になりそうだ

私は少し息を吐き、少し間をおいて要件を話し始めた

 

「あの、クロですが。頼みたいことがあります。お時間よろしいですか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

私が黒服の方々にしてほしい要件を思いついた順にどんどんと言っていった

それを聞いていた黒服の方は何も言わずにずっと大人しく聞いている様子だった

多分私の興奮した言い分をメモしてくれているのだろう

そういうことを確信して私はずっとこうして話し続けて5分後

 

全てを話し切った

 

「...できますか?」

 

「はい、これくらいのことでしたら私達にお任せてください」

 

「ありがとうございます。では失礼します」

 

受話器を置いた

「よしっ」と小さく呟いて鞄のある自分の部屋に向かっていった

 

まだ登校時間30分以上前だったが家で何をする気にもなれなかったのでなるべく早く家を出よう

 

私は鞄を担いで玄関の靴を履く

そして、家を出る前に母さんが私に

 

「さっきはどうしたの?あんなに必死に電話して...やっぱりかのじ」

「違うって言ってるでしょ!」

 

少々食い気味に強く言った

さっきの様子が見られていたのかと思うと少し恥ずかしい

 

「まぁ、頑張って来な」

 

と母さんが後押ししてくれた

母さんの笑顔

私も自然にいつもなら言わない言葉を言って家を去った

 

「いってきまーす!」

 

その声は私が無くしていた過去の声

親がいた頃に言った時と同じように元気な挨拶

 

 

「よし!今日も一日頑張ろう!」

 

 

 

 

私はいつもより早足で学校へ向かった

 




投稿遅くなってしまって申し訳ありません!
最近少々忙しくて小説に手をつけられませんでした

そして今回はドラムのことを聞くための準備の会でした

次の話からとある子の回になります
さて、誰になるのかわかるかな?(うん、まぁ分かるでしょうが)

バンドリでは新イベ始まりましたね
私はガチャで☆3ひまり当てました!
めっちゃ可愛いです!惚れちゃいそうです!(だけど花音ちゃん1番!)

それでは次の話も楽しみに待っててください!


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第16話 逸る気持ち

前回は弦巻家に頼みの電話を入れたところまででした

さて...誰を呼び出したのか!?

では第16話始めます



授業の内容なんてものは今の私にとっては本当にどうでも良いことだった

重要なのは放課後、来てもらえるかはそこまでわからない

開けてからお楽しみの状態で、私は浦島太郎になった気分であった

 

まぁ、弦巻家の黒服の人達だから全く問題はないとは思っている

なんせ、この広い日本全域の中から特定の人を探すわけでないし、私がこの世界で出会った人に限られる

その時点で片手で数えられる程度しかいない

まぁ弦巻家の事だから前者でも探し出しそうだが...

 

 

そして時間が過ぎて行き...昼休み

私はそそくさと教室を後にした

真っ先に行きたかった場所があった

昨日の別の世界とまた違う場所

 

もうこの時代では使える人も少なくなった、存在すら忘れ去られて来ている

 

 

公衆電話

 

学校の来賓玄関口に一箇所だけ設置されている

殆ど誰も使わない取り残された機器

私は携帯電話を持っていないからたまに利用する

前は三者面談の日程表を出せずに先生に怒られておばさんの家にかけたっけ...

 

そんなことを思いながら私は財布の中から銅色のコインを取り出す

受話器を取り、耳に当てる

流れる音はずっと一定で意味のない音

そこに命を吹き込むかのように十円玉を投入する

 

 

.............

 

私の中で数秒の間が流れた

忘れていたことが一つあった

電話番号の控えを取っていなかったのだ

従って、弦巻家の電話番号がわからない

 

 

私はダイヤルを回すことなく受話器を元に戻した

ガチャンと音と共に魂が抜け落ち、返却口へ帰ってきた

吹き込まれた「生」は私の不注意によって「死」へと変わってしまった

 

 

(...仕方ないか...)

 

もう一度受話器を取り、命を授けた

今度は迷うことなくダイヤルを回している

 

クルクル...カチン...クルクル...カチン

 

微小な産声が誰もいない玄関に鳴り響いた

そして、全ての番号を打ち終わると漸く動き出した

 

プルルルル...プルルルル...プルルルル...

 

泣き始めた

子供が親を探し出すために

必死に呼びかけた

そして...

 

「おかけになった電話番号は現在使われていないか、電波が届かない....」

 

帰って来たのは虚しい山彦だった

誰もいないことを示すだけの定型文

私は少し溜息をつきながら受話器を戻した

 

魂は2度抜かれ、もう生き返らなかった

 

 

私は財布にお金を戻し、教室へ戻る

足を進めて前へ前へと前進する

ただ、気持ちはどんどんと後退していくのを感じ取っていた

 

まるで「公衆電話」が「過去の自分」のようで

「公衆電話」が「現実」みたいで

 

そう考えて歩いていると身体までもが反応を見せ始める

足が震えてまっすぐに歩けない

 

私はどうにか窓枠と壁を使って教室戻る

その道中聞いたことある声が聞こえた

 

「大丈夫かい?」

 

その声の主は音楽の先生だった

現実では私のことを待っている先生

ただ、この世界では全く関わりのない人

もし、ここで現実での話をしたら余計に面倒くさくなりそうで

 

そして、今の私は一歩先に進めた私

だからここで足踏みをしたくなかった

私は先生の問いかけに

 

「大丈夫です。問題ないですよ」

 

と虚勢を張りながら、震える足に勇気付けながら空元気で先生の前を通過した

通り過ぎた時に見えた先生の不思議そうな顔が印象に残った

 

 

 

放課後

授業を受けている間にすっかり元に戻った私は、授業終了のチャイムと同時に荷物を持って教室を急いで出た

靴を履き、昇降口を出て、校門を出る

 

そこにはいつからいたのだろう?またまた黒服の人がリムジンのドアを開けて待っていた

いつも通りの弦巻家の対応に少し安心してしまっていた

まだここに来て数日だというのに

もう私の中では日常に化しかけていた

 

 

「クロ様、頼まれていた件ですが、先程到着されたとの連絡を受け取りました。そして、今は昨日クロ様が楽器を運んでいただいた部屋にいてもらえるように手配しました。」

 

「ありがとうございます。すみません、今朝あんなこと頼んでしまって...」

 

「いえいえ、これは昨日こころ様のご要望にクロ様を巻き込ませてしまいましたので、今回はそれの感謝の印として受け取ってもらえれば幸いです」

 

「いえ...あれは私から進んでこころの元に行ったので...でも、ありがとうございます」

 

そのような会話を続けているとすぐに弦巻邸についた

そこにはこころが寒い中待ってくれていた

まだ肌寒い4月下旬の夕方に

こころは私と彼女のことを心配しているのかもしれない

 

 

「来たわね!クロ!さぁ入って入って!」

 

「ありがとう、こころ...で、もう来てるの?」

 

「さっき私と一緒に着いたところよ?

クロは花音に大事な用があるのよね?」

 

「そうだね...ごめんこころ...」

 

「クロがそんな悲しい顔してたら誰も笑顔にできないわよ?クロ!一緒に言いましょ!世界を笑顔に!」

 

「ふふっ...世界を笑顔に...!」

 

寒空の下こころと交わした会話は無意識のうちに行われていた

私は全く気づかなかったがこころは気づいてのだろうか?

私が一言話すとこころの顔がパァッと明るくなったような気がした

 

()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()

 

そして

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

まだちゃんと知り合ってからは1日しか経っていない

ただ、やはりこころの存在が私をどんどん変えて来ているようで

 

その変化は私だけなのだろうか?

もしかしたらハロハピのメンバーにも変化が出ているのか?

ただ今は私自身の変化を見ることもできていない

まずは私自身の変化を見極めてからみんなを見直そう

 

 

そんなことを考え続けていたらこころが「じゃあ、頑張ってね!クロ!」と一言言って私の横から離れていく

さっきまで隣で並んで歩いていたようだ

気づかないくらい考え込んでいた私が少し恥ずかしく感じた

 

ただここからは気持ちを切り替えなきゃいけない

ここから会うのは「こころ」じゃなくて「花音」(先生)だから

そして花音さんに嫌われるかもしれない

でも、私は進むしかないのだから

 

 

夢を現にする為に

幻想を実現させる為に

 

 

私は大きな扉を開けて、新しい空気を取り入れる

その風はすごく優しく温かい風であった

 

 




まずは一言謝罪いたします


本当に遅れてしまって申し訳ありませんでした!!!

1ヶ月くらいの更新できない時期が続いたのは私の精神面での不良、モチベーションが上がらない、体調不良といろんな問題を解決しなくてはいけなかったからです...

特に、モチベーションの低下が痛いです。私の小説は私の過去を一部、基にしています。なので書いてる最中に気分が悪くなったりして全く筆が乗らなかったのです...

今回はリハビリ回ということで
すごく短く、展開もなく、そしてこころしか登場人物が出て来ませんでしたけど
この話はとっても重要な役割を果たします(多分)
なので、結構気合い入ってます!w

次の話では必ず、花音ちゃん書きます!!!

バンドリは1ヶ月の間に結構変わりましたね。

花音イベ
年末年始5曲連続カバー曲追加
新イベによる曲解放、
メインストーリーによる曲解放、
そしてONENESS追加
と曲が一気に増えましたね!
もう堪りません!!!w

特に花音ちゃんイベやばいっす!
ペンギン好きと花音ちゃん好きの私には威力高すぎます...w
ペンギンそこ代われ((
そしてイベント順位も2525位くらいだったので大満足です!(星4花音はあたらないよねぇ...)


さて、次は1週間以内を目標に投稿いたしますので次回も楽しみに待ってください!!!

それではまた次の話も楽しみに待っててください!


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第17話 満たされた温もり

前回は弦巻家に行ったところまででした(みじけぇな!)

やっとあの方に会えます!

では第17話始めます


ガチャ

 

その大きな音と共にだんだんと視界が変わっていく

茶色一色だったものが光によって私の目を惑わさせる

そしてその中心にはラムネのような色で、ふわふわ綿菓子のような優しい色が入ってきた

 

扉を完全に開け切った

水色の髪がなびき始め

私に表を見せ始めた

 

そこにいたのは松原花音

と偶然のように言っているが、私が呼んでいたので必然である筈だ

私はここでようやく胸を撫で下ろすことができたのだ

 

「ふぅ...よかった...」

 

心の内でしか言ってない言葉が勝手に口を動かし、小声で呟いていた

 

「ふぇぇ...ど、どうしたの?クロさん?」

 

私の音はこの広い部屋を流れていくには十分以上に静かだった

その気になればもっと小さい声でも響いて聞こえるのではないかとも思えた

そして、花音は私の音を聞き取って私に疑問を投げかけたのだ

 

「いえ、私の独り言ですのでごめんなさい」

 

私は一言謝りの言葉を呟いた

独り言と言ったがただの安堵の声なのだが

 

「ク、クロさん?あの...どうして私はここにいるんですか...?そして私に...何の用ですか..?...放課後こころちゃんに手を引っ張られて...気がついたらここに連れられて...私...クロさんになにかされるんですか.......?」

 

「ちょっと待ってください...花音さん落ち着いて...」

 

花音さんはすごくおどおどしている性格だっていうことを忘れていた

もしも私が花音の立場になって今日のことを振り返ると

 

学校の放課後

こころが教室に来る

何も言わずにこころに手を引っ張られる

リムジンに乗せられる

弦巻家に一人で待たされる

 

...これは普通の人でも怖いだろうな...

普通に知らない人だったら完全に誘拐事件だ

私が内容を教えなかった私の責任だ

...少し花音に罪悪感を覚えた

それとなんだか可哀想に見えてきた

 

 

花音は未だこの状況を受け止められていないのか周りをキョロキョロして、挙動不審な動きをしていた

花音の額から汗が流れている

私は何もできずにその花音さんを見ていた

すると突如としていい閃きが出て、咄嗟に行動していた

 

「ごめんなさい!」

 

先ほどの謝罪の言葉よりも強く早く言った

そして、私はこの生涯で1番早いであろうお辞儀をしていた

まるで、何かを瞬時に避けるかのように

その上、綺麗な90°で

 

「ふえぇ...!?ク、クロさん!?どうしたんですか...!?」

 

あっ...これは絶対逆効果だ

花音は私の行動を見てついには泣き出しそうな顔になっていた

ここで私が一つ思い出したことがあった

 

それは、今までに困った人を助けることをしていないこと

今回は特に二人っきりだ

ここで私がこころを呼びに行けばすぐに解決し、このまま円滑にことを進めてくれるだろう

ただ、ここは私の我儘で進めた話

ここは何としても私で解決しなくては...

 

「あの、花音さん!」

 

「ふえぇ?」

 

「ドラムを教えてください!」

 

「ふえぇー!?」

 

うん...これはないわ...

急に本題を切り出したところで花音の動揺を鎮られるわけじゃない

それどころか「ふえぇ」しか言わなくなったし...、おまけに花音は目を回し始めて今にも白眼になりそうな雰囲気が漂っていた

 

「...きゅぅ〜...」

 

その小動物みたいな声と共に花音の顔から生気がなくなり後ろに倒れて行く

 

「あぶない!」

 

私のとっさに取れた行動は手を出し、花音のどこかを掴もうとすることだけだった

正直捕まえられるなんてことは思っていなかったが花音の手首を掴んだ

 

花音が床に頭を打ち付ける前に花音の動きが止まった

止まったのはいいが気を失っている人の体重は普段よりも何倍も重く、そして支えている部分が小さく、今にも私諸共落ちそうになる

 

(花音さん...ごめん...)

 

私は勢いをつけて一気に花音の腕を引っ張り上げ花音を床から遠ざけた

すると、花音の体が私の方に近づいて来ている

今の花音の顔を見ている余裕はなく

 

そっと花音を抱きしめた

 

花音の体は私全体で支え、安定している

ふぅ...と息を吐きながら花音の上から覗く

私から見えているのは水色の髪だけ

顔は見えなかった

そして軽く先程の気持ちを言葉で表す

 

 

「...花音さん、ごめんなさい。私が呼んだせいで色々巻き込んで」

 

その言葉は伝えたい本人には届かず、この広い部屋だけが聞き取っていた

それと私の心の中を痛いほど聞き取っていた

 

 

 

 

 

 

「うぅ......うーん.......ん......???」

 

倒れてから30分近く経って

眠り姫...いや、被害者の花音さんが目を覚ました

彼女の素の声を聞いて少しドキッとしたが、頭を振り花音の顔を見た

 

「あっ、花音さん。目覚めましたか?」

 

「......あれ......?わたしの部屋は...?」

 

寝惚けてる?

どう見てもここは花音の部屋ではないとは思うんだけど...

 

「え?ここは弦巻家の楽器部屋だよ...?」

 

「ふえぇ?...じゃあ....なん.......ク、クロサン...!?」

 

漸く今までの事を思い出したのか、私の名を呼びながら飛び上がった

その光景はまさに遅刻ギリギリに起きた学生みたいで

 

「おはようございます。花音さん。それとこれ、この前借りてた花音さんのタオル返しますね。」

 

私は隣に置いてあった花音と同じ色のタオル

昨日、花音が勇気を出して渡してくれたタオル

その勇気のタオルを私は、タイミングを間違えて渡してしまっている

それはある意味、花音のくれた勇気を殺してしまった

ただ、今は先程の失敗をもう一度しない為にもお互い知っている事から話したかった

 

「あっ、ありがとうござ...冷た!?」

 

忘れてた

さっきまで花音の額に乗せていた濡れタオルがずり落ちて来た

その冷たさが顔を伝えながら今は花音の服の上まで動いた

 

「あー!今取ります」

 

幸いなことに花音の服は濡れていなかった

私は濡れタオルを水の入った容器に戻した

 

「これで大丈夫です。身体のどこか痛いところとかありませんか?」

 

「うん。大丈夫だよ?あと、タオルありがとう...わぁー!このタオル...きもちいいっ...」

 

花音はタオルを頬に当てスリスリし始めた

母さんが洗濯していたからその洗剤やら柔軟剤の匂いや肌触りがとてもいいのだろう

ただ、花音

私の前でそれはしないでください!

こっちが恥ずかしくなるから...

私は何も言わずに花音の顔だけを見ていた

花音の顔はすごく柔らかい表情を浮かべている

見ているだけで癒されそうなその様子を真顔でいることなんて出来なくて

私はスッとそっぽを向いてしまった

 

それに花音は気づいたのか

少し顔をうずませていた

 

「あっ...ごめんね...。いつもの癖で...」

 

と言ってきた

その言葉を聞いた私は顔を戻し、首に手を当てながら

 

「ははー...花音さん大丈夫ですよー」

 

と優しい声を掛けたのだった

俯いている花音の顔はよく見えなかったが、少し赤みががっているようにも見えた

 

「花音さんが落ち着いたと思うので、ここに呼んだ理由教えますね」

 

「う、うん。クロさん、私に何かあるの?」

 

「あの、ドラムを直す方法とドラムをできるように教えてくれませんか?」

 

「えっ...無理ですよぉ〜!私が教えるなんてこと....」

 

「花音さんに以外にドラムを教えてくれる人がいないのです!お願いします!」

 

深々とお辞儀をした

花音が引っ込み思案ということは分かっている

 

だけど...けど...

 

私に頼れる人がいなくて

現実世界では教えてくれる人がいなくて

夢で会えたドラムができる人は一人しかいない

 

(おねがいします...おねがいします...)

 

私は心の中で何度も願い続けた

 

 

花音はそれから長い間沈黙を保っていた

目を閉じて何かを考え込んだり、急に頭を振ったりしていた

多分、色々と思考整理をしているのだろう

そして重い口を開いてくれた

 

「......私じゃうまく...教えられないかも...だけど...こころちゃんやみんなに会えて...ドラムが楽しくて.......うん...クロさん、私でも良かったら」

 

「やった!ありがとうございます!」

 

すごく嬉しかった

その言葉だけでは言い表せないほどの歓喜

心を飛び越えて身体にも影響を及ぼしていた

 

ギュッ

 

無意識のうちに花音さんの手を握っていた

 

「ふえぇ!?」

 

裏声になっている声にも気づかないくらいに

いつもの私なら絶対にありえない事をしていた

突然の不意打ちを喰らった花音

それはもう顔中が林檎のように真っ赤でなによりも可愛い

 

ただこの時の私は知らなかった

花音の姿を

 

 

 

ガチャ

 

一段と大きな音がした

と、その音源に二人とも顔を向くと

その音と共に、天真爛漫な笑顔で出迎えてくれたこころがいた

 

「おめでとう!花音、クロ!」

 

突然のことで何が起こったか理解できない私たちは、頭の上にはてなマークがついたかのようにポカンとしていた

 

「二人とも友達になれたのね!あたしも嬉しいわ!」

 

うん...?何言ってるか全くわからない...

花音も同じような反応を見せていた

 

「だって、花音とクロは握手してるでしょ?それってお友達の印じゃないかしら?」

 

「えっ...?握手なんてしてる.....!?」

 

この言葉でようやく気がついた

私が花音の手を握っていた事を

その握手はお互いの意志でしたわけではなく、私が勝手にしでかしたこと

私はすぐさま手を離し、引っ込めた

 

「ごごご、ごめんなさい花音さん!」

 

「...いいよ......だって、友達でしょ...?」

 

「えっ?......あっ、はい!」

 

花音の顔は優しい笑顔だった

 

「二人とも!ずるいわよ!あたしは握手をしてないけど友達よ!」

 

「そうだな」

 

私は少し苦笑しながら答えた

 

「じゃあ、あたしとも握手してくれるかしら?クロ、花音!」

 

「ああっ、こころ」

「うん、こころちゃん」

 

心が伸ばした両手のうち右手を握った

そして一回離してしまった花音の手も握る

 

右手にはこころ

左手には花音

 

二人の手はとても暖かかった

そして気付かされた

私はいかにマイナス思考だったのか?

最初からほとんど疑ってばっかりで、信じていることは少なかった

 

そんなことはもうどうでもいいくらい

この空間には色々なものが詰まっていた

それは今までに味わえなかった感情

感じたことのなかった感触

 

 

いつしか3人の繋がった手の輪には3つの笑顔に満ち溢れていた

 

 

 

 

 

外は大きな太陽が山際に消えてきている

いいオレンジ色の空

その空には一つの雲も見当たらない

昼までは黒い雲がかかっていた空とは大違いだった

 

「じゃあ、花音さん。また明日ここで」

 

「うん、またね。クロさん」

 

花音と私は途中まで同じ道を歩いていた

道中は二人でたわいもない話を続けていた

私がドラムを始めたい理由

花音の友達の話

 

10分くらいしか同じ道を歩けなかったが、ずっと話は続いていた

というか話したいことがありすぎるくらい時間が足りない

だけど、ここでお別れ

また明日会える

 

私は花音が見えなくなるまでずっと分かれ道に立っていた

その余韻に浸りたかった

 

この世界での記憶は、あちらの世界では消えるかもしれないから

 

消えることはこれが無かったことになってしまうから

 

 

 

 

そこからの記憶はあまり覚えていない

どうせ、今日の花音さんとの出来事よりも重要なことはないのだから

 

 

もし、

重要なことがあったとしたら、夢でも忘れているような意味のない事なのだろう

 

そう思っていた

 

 

今はあの時の温もりを忘れないように消させないようにずっと思い出しながら眠ろうと

 

 

 

 

 

 

 

夢の物語の本にセーブをして

自分は夢から覚めた

 

 

現実にはない温もりを探そうとして

自分のやるべき事をし始める

 




すっごい長いのに内容ない!w

簡単に言いますと書いてる間花音ちゃんが想像の中に出て来て、その度に小説書く手が止まって...気がつくと

この始末☆

申し訳ありませんでした!(泣)


バンドリは最近、ガルパーティin東京ありましたね
ハロハピ放送局だけ生放送見れたのですが

彩ちゃんと麻弥ちゃん可愛すぎる

1番は花音ちゃんなんですが!


アプリでは次イベにりんりんとあこちゃん来るみたいなので頑張ります!
目指せ!2000位以内!(無理)



そして最後に、この小説をお気に入り登録してもらった
「朧桜さん」
「Khanさん」

その上、なんと高評価をつけてくださった
「黒音195(kurone)様」

本当にありがとうございます!
これからも精進して頑張りますので応援お願いします!

それでは次の話も楽しみに待ってください!


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第18話 希望の報告

前回は花音にドラムを教えてくれることを了解してもらったところまででした

さて、先生はどんな反応をするのか?

では、第18話始めます


............

誰もいない静かな空間に自分だけが居た

正確には自分の寝室で目覚めただけ

 

「.......」

 

目が覚めてから布団から起き上がることもできず、ただただずっと変わることのない天井の白を眺めていた

 

夢で起きた記憶を早く整理したかった

残っていたのは二つ

 

花音にドラムを教えてもらう事を約束した

 

それともう一つ

他人の温もりを知った

 

二つとも大切な記憶

その記憶がしっかり残っていた

 

だが、妙になにかが抜かれたような感覚があった

それが何なのかわからない

 

 

「ふぅ.......」

 

息を短く吐き捨てて、自分は布団から出た

 

 

 

 

 

 

なにもない日常は今日も始まり、終わらない

現実が楽しいなんて思ったことがない

自分にとっての現実は無駄に呼吸して、無駄に生命維持しているだけのただの有機物にしか過ぎない

ずっとそう思っていた

 

だけど、最近少しづつ変わってきているのを感じ取っていた

原因はこころ、ハロー、ハッピーワールド!の存在

そこに気づかないほど、自分は馬鹿ではない

 

それと、この世界でのドラム

これについてはまだ始まったばかりで何とも言えないが、多分自分を変えてくれる存在になるのだと思っている

 

こころが言っていた「世界を笑顔に」

この言葉をこころが見ていないところで実現できれば、こころはどう思うのだろう?

 

喜んでくれるのか? それとも、

見れなかった事を悲しむのか?

参加できなかった事を悔やむのか?

 

 

自分の中でのこころのイメージがいつの間にか、常時ポジティブシンキングであると勝手に結論づけていた

 

自分とは似つかない人

自分とは正反対の人

自分とは住む次元が違う人

 

そうやってまた自分自身を卑下し、自虐に走る

ここはなにも変わらない

 

変わったのは外面だけ

変わってない内面

 

 

 

そんな事を考えていた惰性の日だった

 

 

 

 

 

 

放課後、自分は音楽室へ向かった

普段ならすぐに教室から出て、学校の敷地から逃れ、ゆっくりとした帰り道を迎える

今日はあの人に報告することがあるから

 

都合のいいことに、音楽室から流れている楽器の音はなかった

いつもなら吹奏楽部の部活の時間で軽やかな音色が流れているが、今日はお休みで部活の人は多分いないだろう

 

自分は音楽室の扉に手をかけ、一言

 

「失礼します」

 

と言って扉を開けた

 

 

 

「おおっ、君かね」

 

先生は自分の方を振り返らずに言った

 

「もうすぐ来ると思っていたよ」

 

そう言われて自分はドキッとした

何故か先読みをされていると思ってしまったのだ

年寄りの勘というものなのか、長年いろんな生徒を見てきたからなのか、時としてそれらが武器になる事を何回か経験をしたことがあったからだ

 

「...はい。あの?何故わかったんですか?」

 

自分に言える言葉はこれ以外わからなかった

そして、少し強張って先生の答えを待っていた

 

「いやいや、今日のお昼休みに来なかったから放課後にここに寄って、今日の作業をするかしないかを伝えに来ると思ってな。昨日の君から逃げるなんて言葉は見えなかったからな」

 

...見透かされていた

元々、逃げる気なんてさらさらないのだが、もしここで逃げていたら自分の事をずっと悔やみ、嫌になるだろう

そして、自分は二度と学校には来なくなるかもしれない

 

もう一つ、今日のお昼休みは私は机に突っ伏していた

それはほんの少しだけだが、音楽室に行こうとする勇気がなかったから

クラスメイトがいる昼休みに誰かに見られてでも行こうとできなかった

 

「ははっ...先生は凄いですね...」

 

少し恥ずかしくなりながらこう答えた

他問他答だったはずの行動が

自問自答になっていた

先生には一生勝てる気がしなかった

 

「はっはっは。まぁ、半分くらいは君とは違う人だったかもしれないとは思ったがね。それはそうと、ドラムは直せそうか?」

 

先生はやっと私の方を向いて質問をして来た

 

「はい。昨日、自分の......親友が、ドラムやってまして、その人がドラムを教えてくれるそうで。これからその人......のドラムを見せてくれると約束しました」

 

下手な誤魔化し方だった

先程、私は読まれていたのに下手な嘘は見破られるに違いない

でも、どう言えばいいんだ?

 

「自分の夢にいる人」と言えば普通は怪しまれるし、

「ハロー、ハッピーワールド!のドラムの人」と言ったら先生はわからないだろうし...

そこで自分は苦肉と策として「親友」と言い換えるしかできなかった

 

自分の考えている間の空白に先生は何を思ったのかわからないが、それを聞いて少し嬉しそうな顔で

 

「おおっ、それはよかった。ありがとう。じゃあ今日はドラムを仕舞って置くぞ。じゃあまた明日な」

 

「はい、また明日来ますね」

 

先生は私を見ながら笑顔で話してくれた

まだまだ作った感のあった笑顔だったが、嬉しかった

昨日見た笑顔とは違うが、受け取り方は同じ

昨日は授業中でそんな事を思っていたのかあまり覚えていないのだが、多分そうだったのだろう

 

 

「では、失礼します」

 

自分は扉に手をかけ、先生の方を振り返り言った

 

「ああっそうだ、君」

 

退室しようとした時に言われ、かけていた手を戻した

 

「はい?」

 

「君の...親y...友達を大切にな」

 

「......失礼します!」

 

ピシャン!

 

自分は気付かないうちに音楽室の扉を強く閉めていた

それは、先生の言葉で思い出した記憶の欠片

そのことを自分を奇行に走らせていた

 

 

「...いいよ......だって、友達でしょ...?」

 

花音の声と花音の姿に自分はそれから先の今日のことを忘れてしまった

 

 

 

 

 

カチカチカチカチカチカチ...

 

何故だろう...朝以上に静かで、壁時計の秒針の進む音が聞こえている

まだ夜が深いわけではない

今は20:30

何もやることがなく気がつくと布団に入っていた

 

(...いいよ......だって、友達でしょ...?)

 

頭の中でずっと同じ言葉が廻っている

自分には縁もゆかりもなかった言葉なだけに、想像以上に効きすぎている

 

「......花音...」

 

自分が今日発した最後の言葉だった

 

 

そして、私が目覚める

自分の気持ちを知った私が

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

まだ辺りは薄暗い

太陽が昇っているかもわからないくらいに、私は目を醒ました

 

「んー....!」

 

私は背伸びをして身体を起こした

まだまだ寒い

4月の早朝なんて霜がまだ降りることもある

私は近くにあった薄めのジャンバーを羽織り、一階のリビングに向かった

 

 

「あらっ?おはよう。早いわね?」

 

リビングに行くと、母さんが朝ごはんの支度をしていた

この前もあったが、やっぱりこんな時間に起きてくるのは不思議なのだろう

 

「あっ、いや、今日は早く学校に行かなきゃ行けなくて」

 

と、嘘をついて

いつも思うのだが私はどうして苦しくなったら真っ先に嘘をつくのだろうか?

 

「といっても、まだ4:30よ?そんな時間から学校って空いてるのかしら?」

 

うっ...そこをついてくるなんて...

どう返そう......そうだ

 

「先生に学校の機材で修理を頼まれて、私なら出来るって言われて。今日日直だしね」

 

間違ってない

うん、間違いじゃないけど間違ってる

嘘と真実を一緒くたに言うと本当のことっぽく聞こえる

 

「まぁそれなら早く呼ばれるよね、ちゃんとやってきなさいよ?」

 

「はーい」

 

そんなたわいのない会話をしている

そして、平和な時間が過ぎ去っていく

 

ご飯を食べ、制服に着替え、支度する

 

そして、今日も現実とは違う一言をいう

 

 

「いってきまーす!」

 

その声は希望に満ち溢れた元気な声で

小さい時の私と同じような

何も怖いものがないと思わせるような

 

私だった

 

 

今日も始まる夢物語

そして今日から始まる特別授業

 

二つとも大事なチェックポイント

二つとも大事な変化点

 

 

 

そしていつか私の口から言いたい

 

 

「...いいよ......だって、友達でしょ...?」

 

この言葉に対しての私の主張

私の本当の気持ち

 

 

「こころ、みさき、はぐみ、花音、薫!ハロー、ハッピーワールド!のみんなとずっと友達でいたい!」

 

本当にこんなことが言えるような関係になりたい

そのためにも今日も明日もずっと、進み続けなければ行けない

 

 

 

進んだ先にゴールがあると思い続けて

私は軽やかに学校へと足を進めた

 

 




あれ...?書きたいところまで書けなかった...orz

ということで超絶中途半端ですけどキリがいいのでここで

だんだんと主人公の気持ちが変わって来ましたね
こころはすごい!

バンドリではプライド革命きましたね!
フルコンできなくて萎えてます...w

そしてチャレンジイベントでは
28レベルの判定、
27レベルのフルコン、
28のフルコンが出来る気がしません!
誰かやって(


そんなことより!
なんと!
この小説のお気に入り登録者様
高評価
推薦と多くの方々に色々と声援をいただきました!

新しくお気に入り登録していただきましていただきました、

「カール・クラフト様」
「ひろぽ様」
「裂空様」
「因幡の黒兎様」
「メタナイト様」

高評価していただいた
「止まるんじゃねーぞ様」

推薦していただいた
「黒音195(kurone)様」

皆様、本当にありがとうございましす!!
これからも精進して小説執筆していきますのでこれからもよろしくおねがいします!

ではまた次の話を楽しみに待ってください!


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第19話 こころの支え

前回は音楽の先生に報告したところまででした

さて、無事にドラムを治せるのでしょうか?

では、第19話始めます



啖呵を切って外に出たはいいものの....

 

「さむい...」

 

当たり前だ、まだ4月の5時だ

制服を着ているといっても妙に肌寒さを感じる

辺りにはジョギングをしているおじさんくらいしか見当たらない

遠くの方では犬の遠吠えも聞こえてきた

 

(どうしよう...)

 

こんな時間に教室が空いてるわけもなく、そもそも学校自体空いてない

なぜあんな嘘をついたのか今では少し反省している

そうしておけばこんな寒空の下で凍えなくても済むのだから

 

「寒い...」

 

何度繰り返したところで暖かくなることはない

無意味な行動

ただ、時として現実逃避に使えるのかもしれない

 

 

(あれ...段々と...意識.....が........)

 

私は無意識のうちに自分の世界に閉じこもってしまっていた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おとおさん。いまからどこいくの?」

 

 

(あれ...ここは....?)

 

 

「ああっ、いまからパパはとおくのところにおしごとしにいくんだよ」

 

 

(......走馬灯...?いや...そんなはずは....)

 

 

「ぼく、おとおさんともっとあそびたい。」

 

 

(昔の私は我儘だな...だけどこの時小2だから普通......⁈)

(あれっ...⁉︎確か...この遠くでお仕事って...⁉︎)

その瞬間、私は必死に声に出そうとしていた

 

(ダメ!!!父さん!!!家から出ないで!!!)

 

そう、この日が私にとって1番最悪だった日だということを

そして私が変わってしまったポインター

 

 

「ハハハ、もうお前も小学生だろ?お友達と一緒に遊んでおいで」

 

 

(父さん...その頃私に友達なんていないよ...)

思い返す、まだ変わっていない私を

 

母さんは病死して、父さんは毎日夜遅くまで働いていた

だから、家に帰っても深夜にならないと誰もいなかった

だから家にいるときはいつも電気も付けずに本を読んでたっけ...

気がつくと本を読みながら寝てしまう、そして私の上に布団がかけられていて...

気がつくと家に父さんの姿を見れずに、夕飯のところにある置き手紙だけ

 

そんな感じで根暗だった私に声をかけてくれる人なんていなくて...

気がつくと先生としか話さない静かな子になっていた

だから放課後はすぐに家に帰って、ずっと読書...

 

今とは違うが同じような繰り返しの日々

惰性で動く日々

何も変わっていなかった

 

 

「うん。おとおさんの言う通り、友達と遊ぶね。」

 

 

そして、いつもこうやって強がりを言ってしまう、私の悪い癖

昔も今も無駄に強がって、周りに平然とい続ける

それが私にとっての最善策だった

 

そこにいる小さな私は後ろで手を組んでいる

ただ、その手は少し震えてとても辛そうに見えた

 

 

「それじゃあ...パパは行ってくるね」

 

 

その言葉は最期に聞いた言葉

その後に父さんの姿は見ていない

電車に撥ねられた父さんは子供の私には見せられない程変わってしまう

 

(言うなら今しかない)

 

私は思いっきり口を大きく開け息を吸う

この家に響くよりも大きな音で

近所迷惑になってもいい声で

私は叫ぼうとした

 

 

「いってらっしゃい」(行かないで!)

 

 

届いた声は小さな声

私の声は響くことすらなく、空気に遮断された

なぜこうなるんだ

必死に叫んだ

叫んだはずだ

 

(なのに...どうして⁉︎どうして....⁉︎どうして....)

 

父さんは聴こえた声しか判断できない

父さんは虚勢を張った小さな私の頭に手を置き、軽く撫でながら

 

 

「行ってきます」

 

 

と、言葉を返していた

そして、玄関を開けて父さんは振り返っていた

 

やっと正気を取り戻した私に映ったのは扉が閉まる瞬間だった

何もできなかった...

そう思いながら呟いた小さい自分よりももっと小さな声で、消え入るような声で

 

 

「ありがとう...バイバイ...」

 

 

唯一出た言葉は静止する言葉ではなく惜別の言葉だった

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「....あ..っ...?クロじゃ....かし.......

おー......ロー!」

 

(...父さん...止められなかった....)

 

「...クロ....へん....ないわね。クロ....聞こ......ー?」

 

(ハハハ...自分ってとことん馬鹿だよなぁ...)

 

「クロ!クロ!!」

バチーン!!!!

 

「ひゃひゅい!?」

 

何!?何が起きた!?

 

「クロー?やっと気が付いたのね!おはよう!」

 

...あれ...?ここは...?

 

「まだ寝てるのかしら?クロはどうしてこんなところで寝てるのかしら?」

 

「んえ...?」

 

「ここは公園よ?もしかして、ここがクロのおうちなのかしら!?すっごく広いわね!」

 

「...公園...はっ...!?」

 

長い夢だったのだろう

いや、それは語弊がある

今も夢の中なのだから

厳密に言うなら「夢の中の夢」

理解しがたいがそう言うしかない

だって、この世界に来てから過去に行ったことはないのだから

 

「....あれ...?...こころ...?」

 

夢の中の悪夢から醒めた私に見えた光景には金色の髪の女の子しかなかった

そこにいたのはこころだった

 

もしかしたらここにいるこころは幻覚なの...「おはよう!クロ!」

前言撤回紛れもなくこころ本人だ

 

だって、満面の笑みで私を照らしてくれていた

そしてその表情とともに両手を広げていた

まるで私を迎えてくれるような...

 

あれっ?...寒い...

だけど...目だけが...熱い...

 

「...うわぁ!!!!!」

 

目が霞む

熱い液体が目から流れてきた

何故だろう...無意識のうちに涙腺が刺激されていたか、

私は大粒の雨を降らせ始めていた

 

それと同時に目の前にある女神に思わず飛びかかっていた

両手を前に出し、こころの横をすり抜け、お互いの身体が当たる

そして手をこころの背中をガッチリと鍵をかけ、離さない

 

顔から出る雨が私の顔を伝い、こころの上着を汚していく

雨跡に濡れた顔をこころの服に塗りつける

私はこの雨を止めることなんて出来なかった

 

 

「ク、クロ!?...............」

 

こころは何も言わずに私の事を受け入れてくれた

もしかしたら何か言っていたのかもしれないが、今の私には届かなかった

 

 

朝の公園に散歩しにくる人の誰もが私達を避けていく

だけど、全く気にならないくらいに大きな声で泣き続けた

 

初めて独りぼっちになった夜の時みたいに

男子高校生と女子高校生の抱擁と共に、長い長い叫びを出し続けた

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!!!!!」

 

今、私は土下座をしている

漸く太陽が昇り始めていた

辺りは薄っすら日向を作り始めている

その公園の土の上で頭を下げている

 

「謝ることはないわ。だってあたし、怒ってないもの」

 

「えっどうして...?」

 

私は頭をあげた

映ったのはやはり女神だった

 

「だって、クロは悲しいから泣いていたのよね?だったら、あたしがクロを笑顔にして、それから世界中のみんなを笑顔でいーーーっぱいにするわ!あたしたちのバンドで!」

 

「....はぁ...?」

 

途中から話が飛躍しているような気がする

だけど、それがこころの信念

こころにとって、誰かが悲しんでる人はほっとけないのだろう

 

「それに、」

 

「それに?」

 

私はいつしかこころの下からではなく同じ高さに目線を合わせていた

そして、彼女の言う突発的な言葉を聞き入れようと身構えた

 

「クロはあたしの友達だから!友達が辛い時に手を差し伸べるから友達って言えるんじゃないかしら?

同じ時を過ごす友達が1番の理解者になるの!そうしたら、この世界中の人達と友達になって、辛いことや悲しことはなくなると思うわ!」

 

意外だった

すごくまともな答え

というか、世界の真理を語っている哲学者のように、自分の考えを主張してきた

何故だろう、まだ出会ってから1ヶ月も経っていないのに私はこころに惹き寄せられるのだろう?

きっと、その答えが分かった時に変わるのだろう

 

自分が私に変わる転換期が

自分が浄化されるのだろう

私が世界を笑顔にさせているのだろう

 

 

私がヒーローになっているのだろう

みんなのヒーローに

もちろん、自分も含めて

 

 

 

こころの考えを聞いた私は少しの間を取ってから口を開いた

 

「なぁ、こころ。人ってさ、全てを受け入れないと生きていけないのかな?辛いことも、悲しいことも、嬉しいことも、楽しいことも」

 

私はおかしくなってしまったのかもしれない

人前で泣いて頭のネジがどっかに飛んで行ったのかもしれない

こころは宗教家でも心理学者でもない

ただのご令嬢で同じ高校1年生

 

答えが欲しかったわけじゃない

欲しいのは選択肢

私が思っている世界に新たなレールが欲しかった

分岐器はないがレールが2本ある世界を

 

「クロ、あたしはクロのこともっと知りたいわ。

あなたが好きなもの、嫌いなもの。嬉しかったこと、悲しかったこと。

そしたら、あたしがクロのこともっと楽しい思い出を作ってあげる!

あなたの笑顔は素敵だわ!

あたしも笑顔にしてくれるわ!

だからクロ?

あたしのことも見て?」

 

「......ううっ...」

 

(あっ...また...やばい......)

少し声に漏れてしまった

私はこころに顔を見られたくなかったので、顔を伏せようとした

さっき見せた顔をもう一度見せたら申し訳なく思ったから

 

だが、目線が地面に行く前に目線を固定されてしまった

頬を両手で掴まれて強制的に正面を向かされた

頬に感じる温もりが妙に熱い

涙のせいではなかった

 

 

熱さの原因は普段なら絶対に見ないはずの彼女の表情だった

いつもの笑顔に流れる一筋の雫

そして、目が泳いでいる

彼女も泣いていたのだ

 

きっと、それほど私のことを心配してくれたのだろう

こころは私の事を友達だと思っているから

そう思うとさっきの問いには一つしか正解がなかった

 

「こころの笑顔をずっと見ていたい!

こころが辛そうにしていたら私が助けるから!

だから、こころ

私とずっと友達になりましょ!」

 

そこにいた私は魂が入れ替わったかのように、ただただこころの目だけを見ていた

私の言葉は強くはなかったが精一杯の勇気と心を込めた魂のボール

彼女に届けと力一杯に投げた

 

彼女の顔がまた変わった

いや、戻ったのだ

雫はいつしか地面へと消え、

不安がなくなったこころの顔は私と同じように

 

天真爛漫な笑顔になっていた

朝日が私達にスポットを当て、この世界で1番輝いていた

 

 

 

 

「ああっ...そう言うことだったのか...」

 

それから今までのことをお互いに話し合った

 

私が母さんに嘘をついて朝早くに家を出たこと

無意識のうちに公園のベンチで寝ていたこと

こころが「楽しいこと探し」の最中に私を見つけたこと

そして、いくら名前を呼んでも返事がなかったから手を私の前で叩いたこと

 

色々とこの数分間を話し合った

だけど、私の走馬灯のような夢のことは語らなかった

いや、いつかはこころに話そうと思う

この楽しい空気を壊してでも話す内容ではない

今はそれがいい

 

 

「ねぇ、クロ?最後に一つお願いしてもいいかしら?」

 

横のベンチに座っているこころが言ってきた

 

「どうした?恋愛相談か?」

 

冗談を交えながら返した

 

「恋なんてしてないわ、それよりも、あたしも花音とクロの会議に入らせて!3人でしたらもっと捗ると思うわ!」

 

「おいおい...まぁ...私はいいけど...花音さんはどう言うか...」

 

「じゃあ、今日花音に会って聞いてくるわ」

 

「こころは見境ないなぁ...」

 

本当、こころは勢いに任せて生きているなと改めて感じた

だけど、こころなら全てできる気がする

多分、花音はOKすると思う

よし、今日は3人で話しながら教えてもらおう

 

そんなことを考えていたら、公園の前にリムジンが止まった

どうやら、黒服の人がこころのことを迎えにきたようだ

 

「あっ、じゃああたし行くね」

 

「おうー、また放課後なー」

 

こころの姿がいなくなった公園はまた静かになっていた

台風一過のような現象

2時間以上滞在していた公園が、今さっき作り変えられたかのように錯覚を起こすほどに

 

だけど、すぐに錯覚が消える

遠くの方で私の通う学校のチャイムの音が聞こえる

開門の合図

私は一時避難場所を後にし、学校へ駆けて行く

 

 

私とこころの仲が深まったことに嬉しくて

こころと友達になれて

 

その喜び浮かれていていたのか、私はこころの言っていた言葉を忘れてしまっていた

 

 

 

こころの気持ちを読み取れていなかった

こころの涙の意味を見過ごしてしまったのだ

 

 




こころちゃん回でした!
クロ!よく言えた!お父さん(作者)嬉しいぞ!

こころってすごく無茶なことを言ってますけど、たまにすっごくいいことを言ってくるので、いつもこころの言葉を思い返して執筆しています
(まぁそのせいでもう一度ハロー、ハッピーワールド!のストーリーを20話分見直してたんですけど)

バンドリのイベントではスノボー回が始まりましたね!
美咲ちゃんほすぃ....(なお、ガチャ)
私も昔はよくスキーしてたんですけど、最近は全然やってませんね...


そして!!
なんと!!
この小説が赤評価をいただくことができました!!
本当にありがとうございます!!
これからも精進いたしますので、よろしくお願いします!!

評価していただいた
「鍵人様」

本当にありがとうございます!!

それに!お気に入り登録していただいた

「貴族主義のルキア様」
「鍵人様」
「ステルス★ちりあん様」
「一 零様」

本当にありがとうございます!!

そして、第1話の誤字報告していただいた「鍵人様」助かりました!

感想等で何かありましたら感想欄に書き込んでもらえると大変助かります!


では次の話も楽しみに待ってください!


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第20話 深まる親愛

前回はこころとのある約束をしたところでした

さて今回はクロとこころと花音の3人での話です

では第20話開始します


キーンコーンカーンコーン

 

今日の終わりのチャイムが学校に響いた

変化のない学校生活は何も楽しくない

楽しく変化のある時間は今から始まるのだ

 

「ありがとうございました」

簡易的な終わりの会の最後の挨拶

そして、クラスの人達の動きが変わる

 

部活

バイト

残ってお喋り

帰宅

寄り道

 

私はどれにも属さない

今日は『授業』である

 

今朝のことはここにいる人には知られてない情報

一部の通行人には見られたが...

...今思い返すと恥ずかしくなってきた

 

公園で泣いた

女子高生に抱きついた

 

この二つを掛け合わせると側から見たら、私が変出者で、こころは被害者

痴漢をしたら逆に女子高生に叩き出されたということか...

もし、あの時こころがもっと大きな声をあげていたら、私は通報されて捕まっていたのだろうと思うとゾッとした

 

......これは...秘密にしておこう...

クラスメイトにも

こころ以外のバンドのメンバーにも...いや...まず、こころに釘を刺さないと不意を突かれて言われそうだ...

 

と、珍しくすぐさま教室から消えずにうわごとのように考えているとクラスメイトの女子に声をかけられた

 

「ねぇ......担任に...呼んで来いって...」

 

「はい」

 

軽く返事をして私は教室から出て行った

何かやらかしただろうか...?

いや、そもそもさっき話しかけてきた人の名前は...?

というか、初めてだ

この世界で話しかけられた学校の生徒

 

私が変化していくと周りも変化しているのかもしれない

もしそうであるならこの世界で私から話しかけるのも悪くない

そしたら友達ができるのかもしれない

 

今日は放課後に頭を使いすぎている

そして周りが見えてない

頭を下げながら歩いているせいか、職員室を通り過ぎて曲がり角の壁にぶつかった

幸い誰もいなかったので見られていない

また新しい秘密ができてしまったことに息を吐きながら、軽く早歩きで職員室に戻り

 

「失礼します」

 

と、ノックをしながら扉を開けた

 

 

「やっと会えたわね!クロ!」

 

へ?

 

そこにいたのは今朝の救世主

金色の髪で私を見ながら笑顔でニコニコしていた

言わずもがな弦巻こころだ

 

「なんでここにいる!?」

 

私の声は驚きに満ち溢れていて、職員室にいる他の人には全く目がいかなかった

そして、声が響いて何人かの目線が私に向いた

 

「すみません、クロ様。こころ様がどうしてもクロ様の学校に行かれたいと伺いましたので」

 

と、の隣にいる付き添いの黒服の人が私に言ってくれた

いや、そこは昨日みたいに外で待っていてください

ここにいるとすっごく目立ちますよ...

スーツを着てる先生はほとんどいない、つまりはほぼ紅一点ならぬ黒一点だ

 

そして、私が来たことで担任の顔から緊張が抜けたのか、肩の力を抜かしていた

 

「まぁ、なんだ。お前が来てくれてよかった。取り敢えず弦巻さんに粗相のないように行動しろよ?あっ、では弦巻さん、これからも仲良くしてください」

 

なんで担任は腰を低くして対応しているのか?

来賓者として扱うと言ったら納得はできるが、少々丁寧すぎる感じはする

ましてや、相手は同じ他校の高校生なのだからもっとフランクに話していいと思う

 

「それじゃあ、行きましょ?クロ」

 

(...明日の学校は少し怖いなぁ...)

 

と、こころの問いかけに声にならない言葉を頭に流した

変な噂が流れないか心配で、それとこころの学校で何か言いふらさないか

その考えは一瞬で消えてしまう

 

ギュッ

 

手に温もりと柔らかさと圧を感じた

咄嗟の行動に私はなんの反応もできずに一瞬固まった

私の感覚は手以外には感じなくて

その感覚は今日で2度目

 

気がつくともう私は引っ張られていて、職員室から走り出ていた

意識が足に移り、私は引きづられない様に必死に足を回す

 

(早すぎる!!)

 

そう感じた時に手が離れそうになる

温もりが離れそうで

今朝あった温もりが消えてしまう様で

そう思うと絶対に離したくなくなった

 

私はその手を両手の指を噛み合わせ、ガッチリと掴み込んだ

握り込んだ両手から感じる相手の心拍数

その間隔が短くなっていることを感じた

相手は私に気づいたのか、それとも私が聞こえてなくても周りの人に認知してもらえる様に言ったのか

 

 

「あたしの手をずっと握っていてね!クロ!私の大切な友達!」

 

 

 

 

 

こころに引っ張られて校門裏

ようやく彼女は止まってくれた

私は彼女が急に止まったことに気づかなくて、足を止められなかった

 

ドンッ

 

「「痛っ!?」」

 

手を繋いでいたせいか勢いを殺すことなく、こころに突っ込んだ

そして私たちはおでこ同士をぶつけた

これがアニメだったら二人とも頭に天使が回っている感じだろうか、ただただ痛い以外の言葉が出なかった

それはこころも同じことで、軽く尻餅ついて女の子座りをしながら頭を摩っていた

 

「ごめん!こころ!」

 

「ううん、平気よ?クロは?」

 

「...少し痛いけど、大丈夫」

 

謝るとこころはすぐに大丈夫っと言った

だけど、私が痛いのだからこころの方も痛いに決まっている

私は無意識のうちにおでこを撫でていた

 

「...⁉︎ク、クロ⁉︎」

 

少しの間があってからこころは驚きの声を出していた

その声を聞いて私は手を引っ込めた

理由は複数ある

 

こころを脅かすつもりはなかったこと

ここがまだ学校前であったこと

私自身が恥ずかしくなったこと

 

私の無意識は後々、私自身に悪いこととして返ってきている

リムジンの前でこんな行為をしているので、帰りの生徒の注目の的になってしまった

複数の人の目線を感じる...

そしてそれよりも強い目の前にいる照れている顔のこころ

 

(ああっ、これはもう逃げられないな)

 

と、悟った

今朝のことを隠そうと言った同じ日に、公共の場所の前で羞恥を晒してしまった

もう、隠せきれない

さっきまでの悩み事は一瞬で悪い方に解決した

 

「と、とにかく車に入ろう!」

 

と少し声を高くしながら早口で言った

そうしたら周りの目は多少マシになるだろう

と、リムジンに入ったと同時に

私の予想は崩され、さっきよりも恥ずかしくなり、顔を赤らめた

 

「ふえぇ...クロさん.......」

 

こころや私よりも真っ赤な顔で、今日の第2の先生が目の前に居た

一部始終を見られて居たのだ

そう思うと3人とも顔も合わせることもできずに、喋る事も出来ずに床しか見れなかった

その時間が着くまで続いていた

 

 

 

 

「...それじゃあ...クロさん。今からドラムのことについて教えますね」

 

「はいよろしくおねがいします」

 

ここは弦巻家の楽器部屋

今日もまたここで放課後を過ごす

昨日と違うことはここにこころがいること

二人でいるときは広すぎたと感じていた部屋も、一人増えただけでなんだか少し狭く感じてしまう

その増えた人がさっきからアクロバティックな技を絶え間なくやっているからではあるが...

 

「ねぇ、こころ...もう少しだけ落ち着けない...?」

 

なんたってここは楽器の部屋

一つでも壊してしまうと多額な損害が出そうと感じてこころに言った

まぁ、無駄なことはわかっている

 

「こうやっていると楽しいわよ!ほらっ!広い部屋でこーんなに動き回れるなんて素晴らしいじゃない!」

 

ほんと、こころの体力は底知れずだ

一体、こころは何者なんだ?

忍者か?

飛脚か?

体操選手か?

それとも宇宙人...?

 

...馬鹿馬鹿しくなってきた

結論、こころはお嬢様ってだけだ

 

「あのね、こころちゃん...今からクロさんがね、ドラムを練習するから...こころちゃんはこの前みたいに、練習手伝ってくれないかな...?」

 

「花音がそう言うならあたしも手伝うわ!この前、一緒に駅前でした演奏をもう一度、みんなで演奏したいわ!」

 

「ありがとう、こころちゃん」

 

「ありがとう...花音さん...」

 

少し悲しくなった

何故、私の意見は聞いてくれなくて、花音の意見なら聞いてくれるんだ...

まぁ、期待は端からしてなかったけど...

なんというか、いつものこころらしい

 

 

 

それから花音にみっちりとドラムのことについて教えてもらった

時間は、5時半過ぎ、もうすぐ日没だ

 

今日、花音に教えてもらったことは私にとってはすごく難しかった

 

スネアとか

バスとか

トムとか

ハイハットとか...

 

聞きなれない単語が並べられた

私の頭の中はだんだんと違う言葉に置き換わって行く

 

スネーク

バス(車)

トムとジェリー

ハイハット(帽子)

 

...うん、まぁ...覚えた?

第一印象は大事だから大丈夫でしょう...

 

もし、これを覚えてないと明日、花音先生に何を言われるかわからない

意地でもしっかり覚えておこう...

 

 

 

「花音さん、一度叩いてくださいな?」

 

と、要望してみた

ずっと話だけなので頭がもうパンクしてしまいそうだった

それに先生の演奏を聴いてみたかった

 

「ふえぇ...上手くできないよ...?それでもいいの...?」

 

「はい、この前のこころとの駅前演奏と同じようにやって欲しいです」

 

「ふえぇ!?あの時、クロさん見てたんですか...!?」

 

私はすぐさま首を縦に振った

それを見て、こころは私の方を見て「クロ、あたし達の演奏どうだった!?」って言ってきた

 

対して、花音は下を向いたまま何かブツブツ言っているが、よく聞き取れない

 

二人とも対照的で反応を見るだけでも楽しい

 

 

それから、こころが「もう一度やりたいわ!」と言い、スタンバイし始めた

花音の顔は少し赤く染まっていたが、それは夕焼けが肌を色付けているのか?

それとも他に理由があるのか?

そうやっているうちに花音の準備も出来たようで、私は二人の前に座った

 

 

 

「じゃあ、行くわよ!」

 

こころの掛け声から二人の演奏会が始まった

 

 

らーららららーーーー♪

 

 

二人の初めての歌

 

こころは全てのリズムを鼻歌のように歌う

歌詞なんて無くて、即興で作った感じしかしない

だけど、これを即興で歌にできるこころはすごいと思う

 

その歌声に合わせて、花音は一生懸命にビートを刻む

その姿は初めて会ったときのか弱い花音でも、ドラムを教えてくれた頼りなさそうな花音でもなくて

そこにいたのは力強く正確に叩いている花音だった

私に見えた花音はある意味別人で、とてもかっこよかった

 

こころも花音も素晴らしい才能があると私は思った

そして、私はこんなバンドに入っているのだと初めて怖く感じた

私には何の才能もないのだから

他の3人も凄く上手なんだろうな...

どうしてだろう...なんか逃げたく...

 

座っていた足を起こし、地面を強く蹴ろうとした

と、足が地面につくかのところで

 

 

「ねぇ、クロ!一緒に歌いましょ!」

 

とこころの声が聞こえてきた

 

「はぁ?」

 

飛び抜けて間抜けな返事をしている

いや、そんなことしたくな...

 

「ほらっ、私に続いて!らーららららーーーー♪」

 

「.......」

 

続けない

私の口が動こうとしなかった

口だけでは無く足も動く気がしない

 

「らーららららーーーー♪クローも一緒にー歌おうー♪」

 

「ああっ、もう!歌うよ!」

 

もうこうなったらやけだ

どうにでもなれ!

 

「らー!ららららーーーー!あああ!!すっごく恥ずかしいなぁああこれ!!」

 

リズム感のない私の歌は本音が漏れたただの叫びとなった

それを聞いた花音は手を止めずに「ふふっ」と笑っていた

これと同じ経験をした花音も同じだったのだろう

これは本当に恥ずかしい

よく耐えれたな、花音

 

「うーん!クロの歌は面白いわねー!じゃあ今度は一緒に歌いましょー!

らーららららーーーー♪」

 

「らーららららーーーー」

 

一度吹っ切れると後はなすがままだった

それから5分くらいこの謎のデュエットが続いた

なんとも阿呆らしい

 

 

「とっても楽しかったわ!クロ!花音!」

 

「ふえぇ...つかれたぁ...」

 

「花音さん、お疲れ様です....」

 

ついに、日は沈んで暗くなっている

それなのにこの部屋はなんとなく明るい

その明るさは誰によって作られたのかは言わなくてもいいだろう

 

さっき、こころが私に歌を歌わせた

確信はないが、もしかしたらこころは私のことを止めてくれたのだろうか?

 

この場から逃げることを

現実から逃げることを

当事者から傍観者に逃げることを

 

本当に私は逃げることばかり考えている

何回逃げの選択肢を作ってしまうのか

その度に私は逃げようとしている

 

だけど、

変えたのはこころで

変わったのは私なのだ

 

傍観者から当事者になったのは私のせい

夢の私を現実の私に変えようとしているのも私

 

そこに必ずこころがいる

こころは本当に私のことを見てくれている

いつか、約束通りこころのことを見てあげたい

その為には今の私をもっといい方に変えていきたい

 

 

 

約束

 

今日出来たばかり

そして今、絶対に達成したいと決意した

 

 

 

花音とこころに別れてからの記憶はあまり残っていない

朝早くから家を出て、疲れていたのだろう

なにせ、泣いたり笑ったり歌ったり、小学生のようないろんな感情を1日で出していたのだから

 

 

私の大切な記憶はしっかりと胸に残っている

もしも、自分に引き継がれなくてもいい

だけど、絶対に忘れない

 

 

この夢を見続ける限り、クロはずっとこころを守る

 

 

そして夢が終わる

 

私は最後に

 

スネア

バス

トム

ハイハット

 

と、今日学んだことを思い返した

意識が遠のくにつれ、言葉よりも印象が強くなっていった

 

スネーク......バス......トムとジェリー......ハイハット.......

 

 

 

そして、また新しい朝がきた




投稿遅くなってすいませんでした!!

弁解させていただくと、平昌オリンピックを毎日見ていたからでして...(自業自得)
日本のメダル数が過去最高と本当に見ていて楽しかったオリンピックでした!


...話を戻しまして、今回は花音ちゃんにようやくドラムを教えてもらいましたね!
花音ちゃんにドラムを教わって見たいです...
そしてこころとデュエットしたいです!

バンドリはPastel* Palettesイベが終わって日菜ちゃん可愛すぎて死ねそうです...
ああっ...儚い...(次イベの薫さんも楽しみです!)

そして、お気に入り登録していただいた

「椿姫様」
「マルク マーク様」
「スカイイグール様」
「山橋黒豆様」
「kurisava様」

評価していただいた

「椿姫様」
「マルク マーク様」

感想をいただいた

「椿姫様」

この小説も遂に20話になりました!
まだまだ話の進み方と投稿ペースが亀のように遅いですけど...
この小説書いてから、多くの方々に読んでもらって感想や評価、お気に入り登録など本当に感謝しきれないほど嬉しいです!
これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!


それでは次の話も楽しみに待っててください!


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夢と現実の少女
第21話 共通の人物


前回はドラムの基本を教えてもらったところまでした

さぁ、今日は登場人物が増えます!

では第21話始めます


今日は少し瞼が重かった

 

昨日...というか、夢の中だから深夜といったほうが正しいのだろう

自分の記憶ではドラムを教えてもらったことを思い出せた

夢で学んだ知識は、今までに経験したことがないくらいにとても新鮮だった

 

それと同じく、楽器の知識など一度も覚える気にはならなかった

何故なら、一人で出来る遊びではなかったからだ

一人で家にいる長い時間の中で、楽器を買うのを頼むわけにもいかず、買ったとしても一人で演奏するのは寂しさを増長させてしまう

 

でも、もうそれは過去の話

今はこうやって花音に教えてもらっている

 

みんなのためになりたいから

こころのためになりたいから

じぶんのためになりたいから

そして、自分を変える為に

 

いろんな理由が自分のやる気を上げ、そして必死に行動に移す

普段の自分はやらないことだからこそ夢の中で学んだことに相当頭を使ったようだ

 

 

外は朝5時、徐々に黒い世界が灰色に変わる頃

もうすぐ5月だというのに中々日の出が早くならない

そして低気圧が原因か、それとも学んだことが原因か

少し頭が痛い

 

起きた時間が早いので後もう一眠りはできそうだ

しかし、自分の頭の中では何かモヤモヤするものに引っかかっていた

 

(.....スネーク......バス......トムとジェリー......ハイハット....?????)

 

記憶の断片が私に睡魔を与えなかった

頭に浮かぶ言葉の意味が全く分からない

それどころか、これが何のことだったのかも全く分からない

 

自分の記憶は特に無駄なところにしか残らないようだ

そのいらない記憶の前後をもう一度夢で確認したいくらいだ

 

瞼を閉じても繰り返される暗号文が邪魔をして

気がつくともう登校時間ギリギリになっていた

 

 

 

 

 

授業の内容は今日も頭に入らない

ここに来て本格的に頭が痛くなって来た

放課後まで2時限分残っている

1秒が20分くらいにも感じる

長く苦しくきつい闘い

それを耐え切れろうと努力はした

 

だけど、努力は水泡に帰し自分は重力に従ったまま机に突っ伏した

 

そこから先の記憶は残っていない

多分、気絶したのだろう

 

 

 

 

 

 

「........大丈夫ですか...?」

 

微かに聞こえた声で自分に意識が戻る感覚がした

 

「うっ....うーん....?」

 

間抜けな声を出しながら、目を開けた

声がした方向に顔を向けようとしたが、その姿が見えない

姿だけではなく橙色以外の色覚を感じない

 

「...うわっ?まぶしぃ....」

 

声の主の方向は窓があり、窓から入る夕焼けの日の光が目を焼き付けるように私を歓迎した

まだ機能しない頭は、目に直接太陽光を浴びることを危険だと判断していないのか、自分の声はさっきと同じように間抜けな声でまだ眠たそうにしていた

 

「あっ...!ごめんね、今カーテン閉めるから」

 

その声の主はそういうとすぐに両脇からカーテンを急いで締めた

急に暗くなったような感覚に陥った自分の目は、次に白い世界で塗り潰されていた

 

 

「...あなたは?.......誰...?」

 

見えないその人に向かって言った

自分の中では目が見えない一大事よりも、目の前で声をかけてくれた数少ないその人物の方が気になっていた

その現れか、いつしか机から頭をあげていた

 

「...相当寝惚けているんだね...私は...」

 

その言葉と同時に、漸く明順応をした瞳がその人の顔の輪郭を捉え、そして顔全体が見えてきていた

その顔は無意識のうちに毎日見ている顔だった

それに、その顔を見た記憶の中で1番新しいのは何故か昨日の夢の中であった

 

 

「私は、君の隣の席に座ってる 喜多見 良子 (きたみ りょうこ)。あれ?自己紹介初めてだったけ?」

 

「......ん...?」

 

彼女の顔を見てから自分の中でいくつかの記憶を巻き戻した

彼女に会ったという記憶を探し出す為に

そしてそのことに意識を向けていたことによって、またしても間抜け声を出していた

 

 

「...そろそろ、起きないと教室閉めるよ?もう最終下校の時間だからね?ずっとそこで寝ていてよく先生に怒られなかったよね...。まぁ、私たちの席は1番後ろだから見えにくいんだろうけど」

 

彼女の声は自分の返答に呆れたのか、はたまた眼中になかったのか、すぐに話を続けていた

自分はその話の内容は理解しようとしていない

そんなことよりもこの声も知っている

確か...昨日...教室で...話し.....!!!

 

 

「じゃあ、先に帰r「ああっ!!!!」

 

さっきまでの自分の倒れっぷりが嘘のように飛び起きた

それはもう椅子が倒れ、すごい音がしたくらいに

それに負けないくらい、自分の大きな声も響き渡った

 

 

「!?び、びっくりさせないで!?どうしたの!?」

 

「あっいや、なんでもない...」

 

思い出した

夢の中で、こころが学校に来た時に私が先生に呼び出された時に、私に言ってきたクラスメイトであることを

 

歯に詰まった肉が取れたようにとても開放的で清々しい気持ちだった

普段の自分ならここでいつものように恥ずかしがるところだが、今はそんなことを思うことはなかった

 

 

「そう、なら良かった。あっ、そういえば。君、最近音楽室に顔出してるよね?」

 

「......!?なんでそのこと知ってるんですか!?」

 

予想外の一言が放たれた

さっきまでの清々しい気持ちが少しの妙な間と共に消え失せ、だんだんと驚きと恥ずかしさが入り混じる

自分の声は誰もが分かるかのような相当の慌てた声を発している

 

 

「だって、私吹奏楽部だし。ごめん、昨日顧問と話している君を見かけたから...顧問から聞いたんだ」

 

「えっ...あの...その...」

 

全然内容が入ってこない

自分の目は四方八方に泳いでいて

私の両手は忙しなく動き続けている

動揺が自分の身体中から滲み出ている

言葉を話そうにも口もうまく動かない

 

 

「君、凄いね!あのドラム一人で直そうとしてるの!?私、君のこと見直したよ!だから、私も手伝うね!」

 

「.......えっ......?」

 

「だって、私も聞いてみたい!君の奏でるドラムを、君の奏でる音を、君の奏でる音楽を!」

 

(あれ...?自分...褒められてる...?)

 

「だから、一緒に頑張ろう!ねっ!」

 

ギュッ...

 

「ひゅふぁっ!?」

 

気がつくと自分は手を彼女に握られてしまっていた

そのことに驚いた私の声は本当に情けない

「ひゅふぁっ!?」とか言う男子高校生って居るんですか?

しかも、女子に手を握られるだけでこんな変な声は出ないだろう...

 

とか、なんとか考えて居ると恥ずかしさよりもだんだんと嬉しさが込み上げてくる

 

そう、彼女は自分の陰の活動を見つけた人

そして、その活動に笑いもせず、罵ることもせず、素直に自分の事を凄いと言って褒めてくれた

 

自分にとって人生経験したことのない

自分を認めてくれた初めての人

 

もしかしたら、私は涙腺が弱いのかもしれない

また泣きそうになる

夢と現実での涙の意味は似ている

 

私の事を見てあげると言ったこころ

自分を認めてくれた彼女

 

そしてもう一つの共通点は

 

こころと彼女はとても温かく包み込んでくれる笑顔を持っている

 

自分は必死に涙を堪えながら潤んだ瞳を彼女の顔から離さない

離したくない

だって、笑顔という宝物をこの目で焼き付けておきたかったから

 

 

「ありがとうございます!喜多見さん、これからよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ、よろしく!」

 

二人の耳には最終下校のチャイムが聞こえず、お互いにしっかりと握手をしていた

そして彼女と同じように私も笑顔になっていった

 

 

 

 

 

今日あったことは今後一生忘れることが出来ないであろう

そんな事を思いながら私は布団を被って寝る前の暇な時間を費やしていた

 

あの後、彼女から一つの本を貸してくれた

『はじめてのドラム 入門編』

今、その本は私の枕元に置いてある

 

帰り道に、本を手に取り軽く読んでいると朝のモヤモヤが解決した

 

「スネア、バス、トム、ハイハット」

 

私の記憶の断片に残る邪魔な存在が重要な知識であることに気づいたのだ

 

そしてもう一つ、彼女にこう言われた

 

 

「あっ、名前で呼んでいいよ?もう一度私の名前言うね。私は喜多見 良子。良子でいいよ」

 

「じゃあ、良子さんでいいですか?自分の名前は....」

 

やっぱり下の名前を呼び捨てにするのは自分にはまだ照れ臭いようだ

唯一呼び捨てにしている「こころ」は特別だ

だけど、良子さんもこころと同じく大切な存在だ

もちろん、花音、美咲、薫、はぐみもだ

 

まだ、こころと花音以外の3人のバンドメンバーとはそこまで絡んではいないが、自分が全員を呼び捨てにする時が来るのであろうか?

 

そう言う関係にするかしないかは全部私と自分の頑張り次第である

 

 

 

今日は体調が悪かったのもあって、まだ21時だと言うのに眠い

自分はドラムの本を閉じることなくそのまま睡魔に襲われた

 

「......良子さん...ありがとう....」

 

今日最後に呟いた言葉は誰にも届かないが自分自身には届いた

 

「世界を笑顔に」するという達成感

「世界を笑顔に」する喜び

今日だけで色々な嬉しさを感じることができた

 

それは自分の頑張りが評価されたから

もしも、私がいろんな人を助けようと、笑顔にしようとしたら、みんな良子さんと同じように評価してくれるのだろうか?

 

いや、絶対に見てくれている

誰からも見られていないと言うことは絶対にない

良いことをしていると自然に仲間ができる

 

今日は小さい時に失くしてしまった大切な事を思い返えした

 

 

 

(さぁて、頑張るか!花音さんにドラムを教えてもらって、そして良子さんと二人で先生を喜ばせるんだ!)

 

私の思いに一つの強い紐で結ぶ

「仲間」という言葉で

私の思いが強くなっていく

 

その気持ちが現れるかのように今日の私はいつも以上に気合を入れて夢に向かう

 

 

 

夢と現実の狭間で思いを結びつけた

 




投稿の間が空いちゃって申し訳ございませんでした!
まぁ軽く言うとサボってました...
(いや!?水曜どうでしょうが面白かったとかそういう理y(ry)

まず最初に今回から出てきた新たな登場人物紹介します


喜多見 良子 (きたみ りょうこ)

クロと同じクラスの高校1年生
吹奏楽部に入部している
クロとは隣の席
クロを音楽室での頑張りを見てから、クロのことを協力する
(喜多見は世田谷区の地名です)

こんな感じです。(全く決まってない)
ちなみに前回の話で軽くは出ています
(主人公クロの名前は作ってないです)


バンドリではもうすぐ1周年ですね!
そして今回のドリフェスガチャは花音ちゃんですよ!
当てたい!(まぁ、10連ガチャ一回目は惨敗しましたけど)
それに!ハレ晴レユカイ追加ですよ!
しかも、vocalがこころ×蘭×彩ですよ!?
もう運営大好き!


そして、今回もお気に入り登録していただきました

「コーヒー豆様」

いつも皆さんありがとうございます!




最後に、なんと!
「山橋黒豆様」の
『アルバイトだらけの生活にも、癒しはあって然るべき。』にて、
「クロ」を出させていただきました!!

モブキャラですが、クロのフルネームを考えていただいて「鹿島 黒斗(かしま くろと)」という素敵な名前をいただきました!
この小説とは違ってとても明るい関西人なので必見ですよ!!(番宣)

改めて、「山橋黒豆様」誠にありがとうございます!


それでは次の話も楽しみに待っててください!


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第22話 違和感のある世界

前回は「喜多見良子」が出てきたところまででした

さて、今回は彼女についてのお話です

では第22話始めます



何かがおかしい

そのように感じるのには、少し訳がある

 

またいつものように夢の世界に入ることができた

ただ、いつもの夢の世界とは少しだけ違っていた

 

今、私が見えているのは青い空だった

普通の人なら空は青くて当然だと思うかもしれない

だけど、私にしかこの違いに気づけない

 

 

そう、起きた時間が明らかに遅いこと

 

 

いつもの夢では、私は早朝から目覚める

見える景色はまだまだ薄暗く、朝日が少し溶け込んだ鈍い浅紫色

 

今日の夢ではもう昼過ぎだ

見える景色は陽の光が眩しいくらいに差し込み、澄みきった青藤色

 

 

時間が明らかに進んでいる

言い換えると、私でいる時間をロスしている

何故こうなったのか?

私には少々、身に覚えがあった

 

現実世界の私は体調が悪くなっていたことだ

もし、原因が寝不足である筈なら、夢の世界に入る時間はもっと早いはずだ

ということは、風邪か何かの病気を患いだ可能性があるという事だ

 

私は、風邪を引くとあまり寝れなくなってしまうことがある

そして、夢を見たかどうかの記憶が出てこなくなる

最後には、起きた後に私は何故か涙を流してしまう

 

涙の意味は私には分からない

同じく、自分にも分からない

 

何回も経験した事であるが、一度も対策が取れない

 

 

(...今は、まだ大丈夫そうだな...)

 

 

色々考えていた私も漸くこの世界に意識を向け直した

今日はまだ平日で、学校がある

遅刻してでも行かなきゃいけない

 

学校にさえ行けばいつものような夢生活ができる

花音さんとこころの二人に会える

二人の笑顔が見れるんだ

 

 

そう思っていると少し気が楽になったのか?

はたまた現実から目を背けただけなのか?

急いで制服に着替え、誰もいない家を出て行った

 

 

 

 

 

「はぁ...はぁっ...間に合った......」

 

家を出てから全速力で走った甲斐があり、午後の授業が始まる15分前に着いた

授業中に教室に入るとなると全員の視線が私に移り、とても気分がいいものではない

遅刻であっても、なるべく先生に話をつけられる時間が欲しかったのだ

 

昇降口にある私の靴箱に下履と上履きを入れ替える

この行為自体は今までに何回もやってきている

 

 

だけど、また妙な違和感を覚えた

 

 

周りをキョロキョロ見渡すと何故か私から目を逸らして、他人事と言わんばかりにしている人がいる

それも一人二人ではなく数十人という規模で

そして、私の視線がそれたと分かってからヒソヒソ話をしているグループもある

 

異常なほどに私を注目している

 

こんなこと今までになかった

この前まで私が居ないかのように目線を合わされたことはない

 

これは「変化」なのだろうか?

それとも「異変」なのだろうか?

 

 

周りの目が気になりつつ、私は廊下を急ぎ足で教室へ向かう

 

第三者からの微小な会話は聞こえない

私からの視覚は何の情報も得られない

理由がわからずモヤモヤする

 

廊下にいた時間は多く見積もっても精々5分

その5分が1時間ほどに感じるほど視線を浴び、身に圧迫感を与えられていた

 

それは教室に入っても同じで、クラスメイトの大半は扉が開いたのと同時に私に視線を向けられた

そして誰も私に声をかける様子もなく、各自日常の昼休みに戻っていく

 

 

気持ち悪い

本当に気持ち悪い

その上この感覚は嫌いだ

 

何か声を出すようなことも出来ず、私は扉の前で立ち尽くす

身体は動かないが

私の中のパンドラの箱の蓋が動き始めた

 

 

込み上げてきた感情

怒り

憎しみ

悲しみ

辛さ

苦しみ

 

何もかもが吹き出しそうになった時、私に近づいてきた人

その人は昨日、私に話しかけてきた

 

喜多見良子は私に小声で話しかけてきた

 

 

「......ねぇ......昨日の......女子生徒は......誰だった......?」

 

 

「......えっ?」

 

良子さんは私の顔を見てない

そもそも私の目の前に良子さんは居ない

私の隣を通り過ぎようとした時に一瞬だけ止まり、そのまま廊下へ去って私に囁いた

聞こえた言葉に反応できず、聞き返すように返事をすることしか出来なかった

振り返ると彼女の姿は見えず、私は彼女の後を追いかける様に教室からそそくさと出て行った

教室からの声が大きなったことには気づかなかった

 

 

 

彼女を追いかけて行くと廊下の端の誰もいない場所で止まっていた

遠くから見える姿は何か物思いに耽っているのか、窓から顔を出し空を見上げている

 

どんな言葉をかけたらいいのか分からない

今までに声をかけた相手は片手で数えられる程度しかない

経験がほぼ皆無な私には、ただただ近づくことしかできなかった

コツコツと聞こえてくる靴音は彼女に近づくにつれてだんだんと遅くなっていく

靴音に合わせる様に私の焦る心拍を落ち着かせていく

 

本当は今すぐにでもこの場を逃げたい

逃げれば緊張しない

逃げれば楽になる

この世界で喜多見良子は赤の他人で、何も気兼ねなく過ごすことができる

 

だけど、そんなことはできない

逃げる気持ちを必死に抑え込む

逃げるという選択肢が浮かんできたが、もう一つ昨日の彼女の笑顔も浮かんできた

彼女は自分に対して逃げなかった

だからこそ、私も逃げたくない

 

 

私は最後に下を向きながら小さく息を吐いた

これまでの気持ちをリセットして、私は顔を上げた

 

 

私は喜多見良子と対峙した

 

 

彼女は私の存在に気が付いたのか、私に視線を合わせた

彼女は私の顔を見つつも、何故か目が泳いでいる

そして何も言わずに左下へと視線を落としていく

彼女は私の顔を見ずに言った

 

 

「........何か用...?」

 

長い沈黙から放たれた言葉は全く気持ちが入っていない

力のない声は廊下に響かず、聞こえるのは私だけ

私は彼女の顔を見直して言った

 

 

「さっきの言葉、もう一度聞きにきた」

 

彼女もこの事であることはわかっているはずだ

言葉に修飾する必要もない

私の聞きたい大元だけでいい

 

 

「......昨日の女子生徒はだれ...?」

 

「昨日?」

 

「...........金髪で他校の女子生徒の...」

 

私はこの時、漸く思い出せた

昨日あったことの全てを

 

昨日、こころがこの学校に来て私を連れ出したこと

その時に呼び出したのが喜多見良子だった

呼び出された後の私はこころに引っ張られるままに校内を走り、そして校門の前で転んだこころに......頭を撫でてしまった...こと....

急な恥ずかしさに私の身体がビクッと反応してしまった

顔が火照り始める

 

(ダメだ、ここで恥ずかしくなったら目の前の質問にまともに返せなくなる)

 

必死になって表情を隠そうとした

冷静を保つために身体を強張らせた

もう、目の前の人には気づかれているかもしれないが質問に関しては関係ないこと

私は答えた

 

 

「弦巻こころ...さんだよ。花咲川女子高の」

 

しっかりと説明した

と言っても名前と所属校だけであったが...

それに、さん付けでの呼び方に詰まってしまった

まだ呼び捨てで呼んでから1週間も経っていないのに

もう、私の中でこころはこころだ

 

 

「.....弦巻......こころ....」

 

間が長い

この間の意味することはどう言うことだろうか?

もし、知らないのであればこんな間は必要ない

というか質問すらいらないだろう

 

 

もしかしたら、喜多見良子は弦巻こころを知っているのか?

 

 

「......そろそろ、授業だから...」

 

彼女が言ったタイミングで予鈴がなった

予鈴の長いチャイムが話途中の彼女の声を掻き消していく

彼女は下を向いたままで、口許から何を言っているかもわからない

チャイムが終わって彼女の声が聞こえた

 

 

先ほどと同じ様に、私の横を通り過ぎ最後に放った音は

 

 

「チッ...」

 

舌打ちだった

それも小さな音で

聞こえた音を追いかけたいが舌打ちの意味もわからず、私はその場から動けずにいた

 

彼女の会話の中で一度も笑顔はなかった

一瞬見えた彼女はとても複雑そうな顔だった

 

彼女は一体...?

喜多見良子は何者...?

 

現実世界の喜多見良子と

夢世界の喜多見良子

 

私が知らない二人の喜多見良子

その二人とも仮の姿なのかもしれない

 

その答えはこころに聞けばわかるのかもしれない

そして、喜多見良子と弦巻こころの関係がわかるのかもしれない

 

 

色々と考察をしていると、私はある音に気が付いたのだ

 

 

家から出る前の澄みきった青空が

今では厚く不気味な紫黒色に変わっていた

そして、降り始めた大粒の雨と共にゴロゴロと雷も聞こえる

 

(今日、雨の予報あったかな?傘持って来てない...)

 

などと呑気に考えていた

 

もう一つ音が鳴った

その音は本鈴のチャイム

午後の授業が始まる合図

 

私は遅刻しないように廊下を走って教室に戻った

 

 

午後の授業はつまらなかったが忙しく、他の事を考えている余裕がなかった

隣の席にいる喜多見良子と話が出来ずにいた

忙しさで昼休みの会話のことがだんだんと薄れていき

 

気がつくと

 

 

もう今日の授業も終了した

 

 

 

そして、今日もまたこころと花音との授業が始まる

昨日と同じく、リムジンが校門前に止まっているのを教室の窓から見えた

 

そのあと、喜多見良子とは会話しなかった

 

 

幻想の幻想が崩れ始めている事に気づくはずも無く、やれやれと思いながら、私は教室を後にした

 




段々と物語が佳境に入っています

ですが、まだまだ最終話まで書くことがあります
(一応、物語の今後の構成、結末まで考えております)

そして、バンドリではAfterglowのイベント始まりましたね!
相変わらず27フルコンできないのでEXトライマスターになれませんけど頑張ります!

限定☆4花音......?アタラナカッタヨチクセウ...

最後に、今回もたくさんの方々にお気に入り登録していただきました!

「虚和様」
「斎藤 一樹様」
「ゼロ1999様」
「薬袋水瀬様」

本当にありがとうございます!

これからも小説投稿頑張っていきます!応援をよろしくお願いします!

それでは、次の話も楽しみに待っててください!


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第23話 二人の関係

前回は喜多見良子の質問に返したところまでまでした

さて、今回はこころが出てきます

では第23話始めます



授業が終わりを告げ、今日も私は帰り支度をし始める

 

今朝、喜多見良子に連れられて話をしてからまだ話をしていない

 

隣の席にいるのにかかわらず、私が目線を彼女に合わせようとすると、彼女は私からの目線を外す

そして、何故か私が視線を外すと、彼女は私に視線を向ける

 

それが何回か繰り返された

 

休み時間になると彼女はすぐに廊下に出て、何処かに行く

追いかけようと廊下に出ると、彼女の姿はもうなくそのまま次の授業の開始まで姿をくらます

 

こんなにも他人に話をしたくなったのは初めてかもしれない

それほど彼女の行動、言葉を気にしているのだろう

私の中に引っかかる部分があるのだろう

 

 

(...何故だ...喜多見良子は何故こころのことを聞いたんだ?)

 

 

考えが纏まらず、うーんと声を漏らした

その音に反応したことで、漸く私が一人ではないことに気がついた

 

 

「さっきからどうしたのかしら?クロ、お腹でも痛いの?大変!お医者さんに診てもらわないと!」

 

「ふえぇ...!?ク、クロさん大丈夫ですか...?」

 

「い、いや!?二人とも落ち着いて!?」

 

そういえば今はこころの家に向かう最中だった

今はリムジンの中に私とこころ、花音がいる

当然もう一人、運転手の黒服がいるのだが...

そんなことよりも、こころにまた誇張されてしまった

そして、それを素直に受け取る花音も大概だ

 

 

「はぁ...、ただ考え事をしていただけだ」

 

と、しっかりと真実を伝える

このままこころのことに否定しないとこれ以上に全く別なことに発展していきそうだったからだ

そして、その勘違いは止まることなく増え続け、止める人がいない

 

また新たな悩み事を抱えた私はもう一度軽く溜息を吐いた

 

 

「そうなのね?クロ、何かあたしが出来ることがあるかしら?なんでも手伝ってあげるわよ?」

 

と、何も知らないこころは無垢な笑顔で尋ねてくる

それに乗っかるように

 

 

「ク、クロさんの...悩み事......わ、私にも手伝わせてください...!」

 

と、花音も言ってくる

 

二人の顔は対照的で笑顔と真顔、悠長と真剣で同じことを聴いているようには感じなかった

だけど、二人とも私の事を思ってくれていることは理解できた

 

 

「いや...まぁ...学校のことで......」

 

と、少し流しめに答えた

理解していても直ぐには悩み事を話せなかった

それは今までに頼られていないことに対しての戸惑いだった

私は、二人の思いに応えることなく逃げようと言葉を濁したのだった

 

しかし、それでこころはまた違うように解釈をしてしまった

 

 

「クロ?もしかして、転校しちゃうから悩んでいたのかしら?どこに引っ越すの?海外なの?」

 

「ふえぇ...!?ク、クロさん!?引っ越すんですか...!?」

 

「ちーがーうー!!」

 

何故、そうなるんだ!?

そんなに深刻な問題ではないし、第一引っ越すとか言った事もない

一人暮らしの私が引っ越すことなんてない、況してやまだ新生活が始まって1ヶ月も経ってない

 

これ以上、話を大事にされるとややこしくなりそうだ

何故なら、運転手の人がこころの予想を聴くたび身体をビクッと反応させているからだ

 

 

「ああっ、もう...私のクラスにいる女子が今日、気になる事を言っていてね」

 

「なるほどね!クロはその人に興味があるのね?」

 

やっとこころも分かってくれたようだ

花音はと言うと少し頬を赤らめ、俯いていた

花音的には、私の趣旨を深めすぎてる可能性がありそうだ

 

 

「その子がね、休み時間中に質問してきたんだよ。こころと花音のこと聴いてきたんだ」

 

「わ...私のこともですか?」

 

「そう、その子は二人に興味があるんだと思う。そういえばこころの名前を言ったら知ってるような反応してたな」

 

そう、こころの名前を言った後、彼女の反応は舌打ちだったがそこまでは言わない

 

 

「それで、その女の子は誰かしら?名前はなんて言うの?」

 

「喜多見良子さんだよ」

 

「喜多見?良子...?」

 

名前を聞いてからのこころの反応を私は知りたかった

わかったことは、こころは全く知らないようだ

その名前に心当たりがあると考えているのか、それとも何も考えてないのか

どちらにしても、こころは喜多見良子という名前にピンとくるものはない感じに捉えた

 

そして、少し待つとこころの顔が笑顔に変わり、高揚させた声で言った

 

 

「あっ、クロ!わかったわ!」

 

「本当か!?こころ!」

 

「こころちゃん...?その人のこと、知ってるの?」

 

「そうね!喜多見良子ね!たしか「クロ様、到着しました」」

 

「えっ...あっ、はい」

 

黒服の人が咄嗟にこころの声を遮った

これは偶然なのだろうか?それとも必然なのか?

私の思い過ごしだといいのだが...

 

弦巻家に到着して、私たちはリムジンから降りる

こころと花音は平然と降りて扉の中に入っていった

私はというと、運転手の黒服の人に止められてしまったのだ

 

 

「クロ様、先程は大変申し訳ございません」

 

「いえ、大丈夫です。私をここに残したということは、こころや花音には言えないような事情があるんですね?」

 

私はそこまで疎くはない

残された意味と黒服の人の言動を見るとあからさまだ

私の質問に黒服の人は、サングラスに隠れている表情を変えずに応えた

 

 

「はい、その通りですクロ様」

 

「それで、こころは喜多見良子を知っているのか?」

 

「こころ様にお仕えしている私達に、こころ様の事について深くは応えられません」

 

やはりか、と思いながら私は引かない

ここで引いてしまうと喜多見良子と明日会う際、今日と同じような事を繰り返してしまうからだ

 

私は強く前のめりになりながら声を出した

 

 

「喜多見良子を知っているか」

 

「.........」

 

相手側も分かっているはずだ

こんな嘘を貫き通すことが出来るわけない

そして、私の要求を断っても直ぐにもう一度聞いてくる事も

全ては黒服の人の掌握された会話である事を

 

 

「......はい」

 

と、間を置いて回答をする

ここまでは私にも想像ができる

だが、ここから先の内容は全くわからない

私は、どんなことがあってもいいようにグッと身構えた

 

 

「喜多見良子様は、こころ様とクラスメイトだったお方です」

 

「......えっ...?」

 

「そして、喜多見良子様は.........こころ様を変えられたお方です」

 

「.........????」

 

 

私の頭の中では全く話が繋がらなかった

それもそのはず、私が考えていた答えの遥か上であったからだ

私の予想では、単純に一目で気になった程度で私と同じような事だと思っていた

それが蓋を開けてみれば、元クラスメイトだというではないか

私は衝撃の言葉を繰り返すことしかできなかった

 

 

「こころと......喜多見良子は......クラスメイトだった......?」

 

「はい、その通りです。」

 

「...じゃあ、なんで止めに入った?そんな事」

 

「はい?と仰いますと?」

 

「私が知ったら何か不利益があるのか?」

 

「....いえ、何も」

 

「...そうか」

 

私の中で一つの核心を得た

それは私に何かを隠している事だ

それが何かは分からないが、おおよそこころと喜多見良子が関係しているのだろう

クラスメイトという関係上に

こころを変えたという存在以上に

 

「さいg「クロー!早くー!花音が待ってるわよー!!」

 

「クロ様、こころ様をよろしくお頼みします」

 

と、こころに話をぶった切られたのでこれ以上のことを聞けなかった

黒服の人は私の前に出て、催促をしてきたので悪足掻きもできない

私は今回もまた、軽く溜息を吐きながら、弦巻家の玄関の扉を開けた

 

 

一層と黒くモヤモヤとした雲が世界を覆い、雨は強さを増した

雷は鳴り続いているが、扉の先は音がしなかった

 

そして、今日も長い授業が始まる

 




まずはじめに投稿遅くなって申し訳ございません


私生活が安定するまでの4月いっぱいにお休みしていました
おかげさまで大分と安定してきましたので今日から投稿開始です!
いつものようの週1、2の日曜日を目標に更新して行きますね!
(本当はGW1日目に投稿したかった...)


それに伴いまして、この小説の続きを待ってくださった読者の皆さん本当にありがとうございます!
しっかりと完結させるまで書きますので、これからも応援をよろしくお願いします!


それと、この1ヶ月の間にもお気に入り登録者様が増えました!

「紅魔王 ゆいゆい様」
「柚子茶。様」
「しらすの素様」

本当にありがとうございます!

そして、「しらすの素様」からは評価もいただきました!こちらも今後の励みになります!

コメントや評価もいつでも待っています!


最後になりますが、これからも「記憶の片隅にある天国」を楽しんでください!


それでは、次の話も楽しみに待っててください!


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第24話 三人の関係

前回は喜多見良子とこころに関係性があるところまででした

さて、今回は三人の整理をする回です
なのでとても短いです

では第22話始めます



(喜多見良子様は、こころ様とクラスメイトだったお方です。そして、喜多見良子様は.........こころ様を変えられたお方です)

 

私の中にはわだかまりが残っていた

私にとってのこの言葉は、私を動かすエンジンにしては大きすぎた

色々な思いが交錯し、私を締め付ける

 

その大元は、私と弦巻こころと喜多見良子の関係性だ

 

 

 

私は、この世界に来てから弦巻こころという存在に変えられてきている

こころの行動や言動に、私の心が奪われた

世界を笑顔にすることや、こころのバンドに入ること

そしてなによりも、私にできた最初の友達

 

そして、こころに動かされた私は現実世界でも行動をし始めた

音楽室にある壊れたドラムを直し、音を奏で、先生を笑顔にする

目標を達成する為に、今も毎日頑張っている

 

 

 

その頑張りを見たのが、喜多見良子

 

喜多見良子は、私の頑張りを褒めてくれた

そして、彼女が私に協力したいと言ってくれた

もしかしたら彼女は、私の頑張りを見て心を動かされたのかもしれない

もし、そうであるのならば、

 

喜多見良子は、によって変わった

と、言える

 

 

 

最後に、今日聞いた話がそこに付け加える

 

弦巻こころは、喜多見良子に変えられた

そこにどういう経緯があったのかは分からない

 

いつ、こころと良子が出会ったのか?

どこで、二人は出会ったのか?

なにが、こころを動かしたのか?

なぜ、良子はこころを変えさせたのか?

 

色々な疑問が浮かんでくる

それでも、事実は変わらない

 

 

 

私は「弦巻こころ」に

喜多見良子は「私」に

弦巻こころは「喜多見良子」に

 

三人とも関係しているのだ

 

1ヶ月前まで、喜多見良子と弦巻こころは全くの赤の他人であるのだから、こんなことになることなんて考えにくい

ましてや、二人と知り合った世界も違うという事もあり得ないことだ

 

夢と現実

異世界と現世界

 

こんな非科学的なことが普通にあるはずがない

だが、起きてしまった

実際には、二つとも全く同じ世界である

二つに共通している事は

 

 

『私が見ている世界』であることだ

 

 

そう、二つの世界はお互いに繋がっている

私の記憶の欠片が、自分の中で生きていることがなによりも証拠だ

と仮定したならば、弦巻こころは現実世界でも会えるのかもしれない

その時、私を見てなんて答えるのだろう?

素通りされてしまうのか?

話しかけてくれるのか?

それとも、夢と現実の区別なく、私を特別扱いしてくれるのか?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(ほんと...こんなことばっかり考えてるなんて馬鹿だな...)

 

長い長い考察に、私は無理矢理区切りをつけた

理由は大体の人なら察しがつくかと思うが、今は弦巻家にて、こころと花音と私の授業中である

そこにこころがいるということは、つまり私が黙って考えていることに気づいて、わざわざ私の前まで顔を近づけて声をかけて来たのだ

 

 

「...やっぱり、クロ元気ないわね?」

 

「......ああっ、大丈夫大丈夫。ちょっとまた考え込んでしまってな...」

 

「さっきの話の続きのことかしら?誰だったかしら...」

 

「あーはいはい、大丈夫だって言ったでしょ?じゃあ今日も頑張ろう」

 

「分かったわ!花音、クロをやる気にさせたわよー!」

 

「は、はーい こころちゃんありがとう」

 

(全く...やれやれ...)

 

1ヶ月前までこんな平和な時間が来ることを誰が予想できたのだろうか?

かく言う私は絶対にありえないと思っていた

高校生活なんて只の人生の階段に於いての小さなステップだと思っていた

それが今はこうして仲間ができ、友達ができ、目標ができた

 

そして何よりも、笑顔を出せたことが何よりも嬉しかった

見える景色に、二つの満開の華が私を照らしている

照らされている私の蕾も、漸く開花し始めて来ているのだと気付かされていた

 

 

この平和が現実世界の自分にも分けてあげたいと、私は強く願った




今回は、説明回という何とも言えない回となりましたが、皆さんに軽い整理をしていただこうと思って書きました

クロとこころと良子が今後どうなるか予想してみるのも楽しいかもしれません


話は変わりまして、最近はバンドリの新ニュースが多いですね

・ぱすてるらいふ 配信開始
・アニメ2期、3期 決定
・ボーイズバンド版 起動

と、なんだか楽しそうなことが盛りだくさんでこれからもバンドリを楽しめそうです!
そしてアニメで花音ちゃんが出てくれることを願ってます!


最後になりますが、今回もこの小説をお気に入り登録していただいた方がいます!

「アリアス 様」

本当にありがとうございます!
これからも頑張りますので応援よろしくお願いします!

そして次の話はもう完成直前までできていますので、早めにあげれるかと思います
ということで、次も楽しみに待っててください!


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第25話 クロと花音

前回は三人の関係を説明したところまででした

さて、今回は前回語られていなかったあの人が出て来ます
そして、今回はとても長いです

では第25話始めます


「花音さん、今日もありがとうございました」

 

時が過ぎるのは早い

特に楽しい時間であれば尚更だ

今日も隣に花音と一緒に帰っている

 

「ク、クロさんもいつも私の...教えるの...苦手なのに........その......ご、ごめんなさい......」

 

「か、花音さん!?大丈夫ですか!?と、言うかなぜ謝ってるんですか!?」

 

私の感謝の気持ちに対して、花音は謝って来た

花音は何か勘違いをしているのではないか?

分からないこっちまでも何故か焦ってしまった

 

 

「だ、だって...クロさん......とても大変そうで......」

 

「えっ?何がですか?」

 

全然思い当たる点が見つからない

大変なことなんて一個もない

私が考えている時間に花音は少し息を吸い、気持ちを落ち着かせたのか、急に私に覗き込んできた

 

 

「クロさん!」

 

「は、はい!?」

 

「た....たまには......わ、わたしの......ことも....みて........ください.......」

 

「........えっ...?」

 

か細く聞こえた言葉に、私は聞き返すことしか出来なかった

私の反応を聞いていた花音は真っ赤になりながら、私から目を背けた

花音にとって、この言葉は相当勇気がいる行動だったのだろう

 

(とか、状況説明している場合じゃないだろ!?

えっ...?花音が私に何を言って来た!?

私を見て欲しいって?

えっ...花音は私をどう見てるんだ!?

てか、そもそも花音、それは告h(ry...

い、いかん....落ち着け...落ち着け...)

 

 

「......で、花音さん....?」

 

「...な、なんですか....?」

 

「そ....その....」

 

話が続かない

どう切り出していいのか分からない

言葉に重みがあるせいで、言葉の取捨選択の全てが捨てる一択になっている気がする

だが、私からこの状態を解決しないと先は進めない

花音は未だに私の方を向いてくれない

それどころか、だんだんと私から距離を置いて来ているようにみえる

 

(もう、自棄だ!いわなきゃ!)

 

私はここで恥ずかしくなってもいいと言う覚悟を持って花音に再度尋ねた

 

 

「ど、どうしてそんなこと聞くんですか?」

 

この禁句を言ってしまったからには、もう後になんか引けない

デリカシーがないとか、女心が分かっていないとか、そんなこと思われても仕方ない

さっきの私が言った覚悟とは「嫌われる」覚悟だった

 

 

「.............」

 

花音の口から言葉は出なかった

私の覚悟は無駄になってしまいそうな空気が漂っていた

 

(お願いだ、花音。早く花音から話を出してくれ)

 

と、諦めずに心の中で願っていた

私からではなく、花音からというのが1番重要なことである

なぜなら、私が聞こえた言葉を復唱するだけならば、花音はこれまでとの私の接し方に変化が生まれる可能性があると考えたからだ

変化はいい方向ではなく、悪い方向になりそうで

花音が私にこれから話しかけてくれないように思えた

 

 

花音の呟きから、無言の時間が5分続く

300秒という時間は数字から見ると、そう長くは感じない

だが、私にとっての5分は1時間程にまで感じる

そして、今日二度目の長い5分を体験している

どちらも二度と忘れることができない切迫した時間を、私は過ごしている

 

 

そして、漸く花音が話し始めてくれた

 

 

「......ごめんなさい......」

 

「...いや、大丈夫」

 

「...さ、さっきの話はね......その......クロさんが......こ、こころちゃんと楽しそうに......見えたから......」

 

「.......そうか」

 

「......それでね.....とても......羨ましいなって...思っちゃって...」

 

「........」

 

花音は.....とても正直者だと私は思った

花音は、気持ちの原因をしっかりと話している

とても勇気がいる行動で、大切なこと

誰の力も借りずに、言える......

 

...そう、私にはできない事

花音は私にはない何かを持っている

そう考えていると...なんだか....

 

心に棘が刺さる

棘は私の正常心を蝕み、死んでいく

そうしているうちにも花音は話を続けている

 

 

「ご、ごめんなさい!クロさんを困らせるつもりはないです!」

 

[ごめん、君の家親いないから遊べないや]

[君は、成績はいいんだけどね....友達は出来ているか?]

[なんだったら、先生のことお父さんって呼んでもいいんだぞ?]

[何か困っていることはないの?いつだって、私は君の味方だよ?]

 

今の状態に似ている、過去の記憶に残っているトラウマが甦る

一つ一つの言葉が一斉に聞こえ、一人一人の顔が頭の中に浮かび上がる

その顔には表情が映らない、彼らの顔には一生消えることのないドス黒い墨が塗られている

 

こいつらは、私を裏切った

こいつらは、最低だ

こいつらは、人間じゃない

こいつらは、悪、癌、屑.......

 

私の中に出てくるトラウマで、そこに本来居るはずの花音の声は聞こえていない

頭の中は膨大な情報によってジャックされ、正常に働いていない

 

そして、遂に私は暴走してしまった

 

 

(やめろ....やめろ....やめろ...やめろ......

やめろ!!!!)

(消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!!)

(死ね!!!死ね!!!!死ね!!!!死ね!!!!!)

 

 

「うわあああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

花音の前で奇声を叫んだ

陰の部分が露わになり、止めることができない

今、出来ることは全て掃き出すことぐらいで他は何もできない

体が尽き果てるか、出し切るまで終わらない闘い

そんな事が人前で滅多には起きないが、今日にあった色々な事があって緊張の糸が途切れた瞬間に魔が差してしまったのだ

 

息ができなくなり、苦しく

全身から汗が吹き出し、寒く

汗が血に変わった様に思うほど、熱く

足が動かなく重力に負け、重く

全ての関節が悲鳴をあげるほど、痛く

 

全霊全身が異常事態を引き起こしている

命が削れ、今にも死んでしまうのではないかと思ってしまうほど辛い

ただ、為すすべがない

 

(ああああああああああああああ!!!!!!!)

 

狂った歯車が正確に動かない様に、私の心臓がおかしく動く

心臓が外に出て、全世界に聞こえて居るかの様な錯覚に陥る

身体が壊れていく.........

 

 

絶望の頂点に立つ寸前に一つの違和感を感じ取る事ができた

もうほとんど感じ取る事ができないはずの脳が通した違和感

その違和感は少しずつ坂を下るきっかけを与えてくれたのだった

 

身体の異常が薄れていく

だんだんと制限が溶けていき、音が変わっていく

過去から現在に置き換わって

 

そして、私が聞いた言葉に少し楽になれた

 

 

「...クロさん!....クロさん!....クロさん!!」

 

必死に私の名前を呼んでくれていた人がいた

これまでに悪魔の箱が開けられた後に聞こえる音はなく、また逆戻りしたこともあるのだが

今は、人の声に落ち着きを持っていく

 

そして、次に感じたのは温もりと水滴

冷たいのと温かいのが混じり合っている

2つが完全に混じり合った時、私は目の前にいる像に焦点が合ってくる

 

 

そこには大粒の涙を流しながら

私を抱きしめながら

必死に揺すっている人がいた

 

そして悟ったのだ

私は今、この人の前で倒れたこと

それと、この人にとって私の存在が不必要ではなかったこと

...私がいる事を証明してくれた

 

 

 

それから先は大変だった

花音は私が動いた事を分かると、より大きく泣いてしまった

その上、何故か力を強めて私をより密着させて来たのだった

私が声を出せるようになると、花音は私から離れ、急に恥ずかしくなったのか鞄で顔を隠していた

 

それから10分くらい経ったのだろうか?

倒れる前と同じような状況に陥っている

このままだとさっきと同じ過去を繰り返しそうだ

 

 

私は

花音に

私自身の

意志を

伝えた

 

 

「ごめんなさい、花音さん!」

 

「......ふぇ?」

 

急に声を掛けられた花音は私に顔を合わせてくれた

花音の眼は真っ赤に腫れ、顔には涙の跡があり、とても悲しそうだった

私は、花音にこんな顔をさせたくなかった

 

 

「これまで、何の為に花音さんを呼んでいたのか忘れかけてました。私は、花音さんにドラムを教えてもらうことが目的です。だけど....練習中はいつもこころに振り回されて......」

 

回りくどい

だけど、私が今できる限界

 

 

「こころは、私と花音さんと練習できることが楽しくて、周りが見えてなくて...って、私が言える立場じゃないんですけど...」

 

今はこころの事を言いたいんじゃない

言え!私!逃げるな!私!

 

 

「...花音さん!!私は、貴方がとても大切です!」

 

「ふぇっ!?」

 

...言ってしまった...なんて思ったが、後悔はない

そんなことよりも、目の前にいる花音の顔が今まで以上に紅くなり、身体が飛び上がったように見えた

 

 

「花音さんをこころの家に呼んだのは私だって聞きましたか?」

 

「...うん.......こ、こころちゃんから...聞いたよ....」

 

「あの時、朝起きて花音さんの連絡先を探してたんだ」

 

「ふぇ?」

 

「でも、知るわけない。だって、まだ会った次の日だったし...だけど、こころの家の連絡先を知っていたから、黒服の人に頼んで、花音さんに連絡してもらいました」

 

「...そ、そうだったですか?」

 

「で、連絡してから......その日の授業中、花音さんに伝わったかな?ってずっと考えてて...途中、昼休みにこころの家に電話してたんです。花音さんに伝わったか聞きたくて」

 

「...うん...」

 

「だけど、電話には誰も出なくて......私...だんだん具合が悪くなって.......」

 

「...!?クロさん、大丈夫ですか?」

 

「結局、放課後になって、校門にリムジンが止まっているのを見るまで続いてたんだ。だけど、これでも終わらない。最後に、花音さんがOKしてくれるか怖かった...」

 

「...わ、わたし?」

 

「花音さんが目の前にいて、断れるのが怖くて、声がでなくて....で、やっと出た言葉は直球すぎて、花音さんを困らせちゃって......」

 

「...その、私こそあの時はびっくりしちゃって...」

 

あの時のように身体中に異変を感じる

まだ何かを恐れ、逃げたい気持ちに駆られる

だが、口元はしっかりと動き、声だけが私を進ませていた

 

 

「でも、花音さんは私にドラムを教えてくれる事を嫌だと言わなかった。私は、一言くらい文句を言われると思っていた。それどころか、私を......と...もだち....って......言って.......」

 

あれっ...?なんで、私は言葉に詰まっているんだ...?なんで、こんなに気持ちがいいんだ...?なんで、私は泣いているんだ?

 

 

「...く、クロさn「うわぁあああーーーーーんん!!!」

 

ダムが決壊したかの様に涙が止まらない

そして、声も抑えられなかった

今までの花音に対しての思いの全てが解放され、恐れがなくなっていく

 

人前で泣いたのはこれで2回目

初めてこころの前で泣いた時、何故こんなにも清々しい気持ちになれるんだろうか?と、考えたことがある

その答えが全て分かったような気がした

 

 

 

泣くことは打ち明ける事だから

泣くことは変わる事だから

泣くことは生まれ変われる事だから

 

泣くことは生きる事だから

 

私は生きている

この時、この場所で

その証明に泣くことができるのだ

生まれて直ぐに出来る事が泣く事

それは、この世界に生まれた事を世界に響かせるための事

 

私の涙は生まれ変わる為の副産物で

涙は大地へと帰る

全て繋がる長い輪

 

 

泣いた

二度泣いた

つまり、二度生まれ変わったのだ

過去の私の一部が、今の私の一部に変わり

新しく生まれた事もある

友達という存在に私は気づいた

 

 

 

泣いている私に、そっと花音さんは寄り添ってくれた

倒れた時に抱きしめるのではなく、軽く私の手の上に、掌を乗せる

私にはそれだけでとても幸せだった

花音と私の体温がお互いに行き来する

その熱い感覚を脳裏に焼き込んでいく

 

花音、ありがとう

 

この言葉と一緒に

 

 

我ながら、本当に恥ずかしい

道端で倒れて、泣いて

もう、辺りは真っ暗だった

先程までの熱は、夜の冷たい風によって冷やされ、平温に戻っていく

思考が戻ってくると今日の事を忘れたくて仕方ない

 

だけど、忘れたくない

私が必死に作った今日が現実にならなくても

夢の中だけでも覚えておきたいのだ

 

 

「クロさん、私達は友達です!」

 

「はい!」

 

私達にとっての友達の証

この前と同じように

 

私達は、お互いの手を握り合った




待たしてしまって申し訳ございませんでした!!!

前回、直ぐ投稿できますと言ってから早2週間程...
最初は、花音と少しだけ恋愛系な感じで執筆していましたが、途中から変わっていき

結果、こうなりました(気がつくと区切りを見失いかけています...)
(まぁ、花音は私の1番好きなキャラなので仕方ない!!)


執筆の件はさておき、
バンドリでは遂に難易度29が登場しちゃいましたね!
「六兆年と一夜物語」はとてもいい曲なのでいっぱいやっています
そして、まだ一度しかクリアーできてないです...(なお、クリアーした時のMISS数33....あの曲難しすぎる...)

「Poppin'Party」に続き、「Roselia」も第2章きたので、早く「ハロー、ハッピーワールド!」にも第2章を首を長くして待ちたいと思います


毎度ながら、この小説をお気に入り登録をしていただいた

「カイリーン 様」
「arisutoria 様」
「夜月乃 様」

本当にありがとうございます!

「夜月乃 様」には、その他
誤字報告、高評価もいただきました。
感謝しきれません!

これからも、精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします!

それでは、次の話も楽しみに待っててください!


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未来の音の発見
第26話 実現への始動


前回は花音と打ち明けた所まででした
今回からは現実世界に戻ります

では第26話始めます


聞こえてくる

長い意識の奥から引き戻されていく

朝の音と共に

 

チュンチュン

鳥のさえずりが自分を動かし、新しい朝の喜びを奏でている

 

いつものように自分は朝の支度をする

ヨレヨレの制服に

生焼けの目玉焼き

薄いコーヒー

黒焦げ寸前の食パン

 

時間がない

もう朝礼の10分前で、走っても間に合うかギリギリのところ

私はいつもの10割り増しで登校路を駆け出した

 

 

 

「だから、この公式はこうとも表せ...」

 

退屈だ

退屈すぎる

今聴いている授業に全く興味がない

どうせ教科書を読むだけで理解できそうな内容

自分はいつものように窓の外を眺め、澄み切った空に想いを馳せる

 

今日あった夢の話を思い返す

 

喜多見良子に言い詰められたこと

弦巻こころに喜多見良子のことを聞いたこと

そして、松原花音に本音を言えたこと

 

(ほんと、長い1日だったなぁ...)

 

自分の中に残っている記憶の欠片

夢の中の自分が覚えている最重要の記憶

いつもなら殆ど伝わらないはずの内容が、こんなにも多く残っているというのは異常なのだ

もしかしたら、夢の記憶を残すことを自分が慣れてきているのかもしれない

そう思えると、夢の中の自分を褒めたいと思う

 

と、しみじみしていたら隣からトントンと音が聞こえた

 

 

「ねぇ、何考えてるの?」

 

と、小声で喜多見良子が聞いてきた

私は振り返る事もなく、ただ同じ大きさの声で

 

 

「何でもないですよ」

 

と返した

その声が聞こえたようで

 

 

「ふーん...」

 

と、先程よりも小さな声で素っ気ない返事だった

そのまま先生に気づかれるまで、ずっと空を見続けていた

 

夢の充実した時間が、今は憂鬱な時間へと変わってしまった

自分は何故か懐かしい気持ちがしていたのだった

 

 

 

「じゃあ、今日の授業は終了。明日はこの続きからするぞ。今日の授業が分からないときつい内容だからな!特にそこのお前!!明日はしっかりと授業を聞けよ?」

 

まったく...

数学の先生の攻撃的な発言には気が滅入りそうだ

先生の言葉を聞き流しながら、自分は長い溜息をついた

 

いつものように机に突っ伏し寝ようとした時、彼女は

 

 

「にしても、君はほんと怖いもの知らずだね」

 

「何がですか?」

 

「あの先生は学校の中でも、怒らせると相当怖いって噂だよ?」

 

「ははは...まぁ、そうなる前にはちゃんとしますよ...」

 

「と言うか君、端から見てるとおじいちゃんみたいだったよ?」

 

「...えっ?」

 

「だって、後ろ姿がまんま縁側でお茶を飲みながら、座布団に正座してほっこりしているおじいちゃんっぽかったよ?」

 

「...あ...うん...」

 

言われた内容がすぐに頭に浮かんでくるほど、適切な例え

そして自分も納得してしまうほど完璧なシチュエーション

正直、恥ずかしい...

 

 

「あれ?君とは同い歳だったよね?」

 

「...からかわないでください、良子さん...」

 

「ごめんごめん」

 

冗談を言われて、恥ずかしさが増したがなんだかほっこりした

理由なんて言わなくてもわかる

喜多見良子の顔は笑っていた

その笑顔に、自分は似たもう一つの笑顔を思い出した

二人とも満開の向日葵の様に生き生きとしていた

 

 

「あっ、そういえば...」

 

「どうかしました?」

 

「いや...この光景、なんか見覚えがあるなって...」

 

「???」

 

急に彼女は硬い顔に変わっていき、空気が変わっていく

その雰囲気に飲まれない様に、自分は声をかけた

 

 

「大丈夫ですか?」

 

「あっ、ごめんね。ちょっと考え込んじゃったね」

 

「まぁ、良子さんにしかわからない世界がありますしね」

 

「...そうだね」

 

と、何かわかったかの様な口調で言ったはいいものを、何もわかっていない

今の表情を見ているとわかった事よりも、もっと疑問が強く残ってしまったからだ

 

彼女の顔は泣きそうだった

だけど、表情は柔らかかった

 

 

 

 

「じゃあ、今日から本格的に始めようか!」

 

「ほー...君が、喜多見さんと知り合いだったとはね」

 

ただいまの時刻、17:30

今日の授業が終わってから約1時間半

そして、吹奏楽部の活動が終了した頃

漸く自分の活動時間が始まった

 

この音楽室にいるのは、自分と喜多見良子と音楽の先生

他の吹奏楽部員は全員帰っている

 

 

「先生、良子さんは最近の自分を見ていたようで、手伝ってくれるそうです」

 

「ほー、なんとまぁ、いい助っ人じゃないか」

 

「先生!私もこのドラムのこと気になってて。いつかは、このドラムを吹奏楽部でも使いたいなって思ってたんですよー!」

 

音楽室の一室にある、ボロボロのドラム

もう誰の目にも留まらなかったガラクタ

それでも、自分が目につけてドラムを修理したいと言ってから、もう一人興味を持ってくれた

 

 

「じゃあ、始めますか」

 

「よろしく頼むよ」

 

「まずは、今日の放課後に図書室から借りた本なんですけど...」

 

と、自分の鞄から一冊の本を取り出す

その本は昨日探していた本だった

昨日には見つからなかったが、今日見つけた絶対必要になる本

 

 

「これは...?」

 

「わっ!これ君が探して来たの?」

 

「はい、結構...たいへんでした...」

 

本のタイトルは『ドラム 入門編』

年季の入った本で、約10年ほど前に初版が出ている

図書館でも、バンド関連の本にはなくて、なぜか大百科関連のところにひっそりと隠れていた

正直、こんな古い本に活路を見出せたとは思わなかったが、本の内容を読んで自分の意見は一転したのだ

 

 

「この本の最後の方に、ドラムの修理の仕方が書いてあります」

 

「うわっ、こんなに詳しく載ってるんだ...」

 

「こんな本、私が赴任して来てから5年近くいたが...見た覚えがないな...」

 

先生も、喜多見良子も驚くのはわかる

何故なら、この本のドラムの修理のページだけで6ページ近くもある

ドラムの入門者には、殆ど必要ないとは思うのだが...はっきし言って、これは楽器を修理する人の入門編みたいな感じだ

 

 

「で、このドラムだと...まず最初にここから始めるそうです...」

 

「こ、これは?」

 

「はい、大体の部品は劣化して見た目が悪くなっているだけで、あとは太鼓の皮つまりドラムヘッドを取り替えるだけですね」

 

この本に書いてあるのを読んでいると、普通は楽器店で修理をしてもらうのが普通であるそうだが、頑張れば出来るらしい...

ちょっと胡散臭いがこれで、自分の手で修理をすることは実現できそうだ

 

 

「で、先生にはこのドラムセットに合いそうな、部品を見つけて頂いてもいいですか?」

 

「私がかい?」

 

「はい、自分は全く音楽知識がないので、どれが良いのか、どれがこのドラムセットと相性が良さそうなのかわからないので」

 

「じゃあ、明日までに行っておくよ」

 

「お願いします」

 

先生には1番の適役だと思うお仕事だ

と、いうかあまり人が多い楽器店に自分は行きたくなかったという理由もあるのだが...

そして、もう一人にはもう一つのお仕事を任命する

 

 

「で、良子さんにはドラムのスティックをお願いします」

 

「ドラムスティック?」

 

「はい、さっきこれの修理が終わったら吹奏楽部で使いたいって言ってましたよね?」

 

「うん、そうだけど?」

 

「なので、1番使いやすそうなスティックを吹奏楽部員の良子さんに探してもらうのがベストだと思うのです」

 

「...そう、かな?」

 

「はい!これから先、何年もこのドラムを吹奏楽部で使って欲しいと思っています。それが私の目標である『未来の音』を奏でる事だとさっきの話を聞いて思ったのです」

 

「『未来の音』かぁ...うん、わかった、じゃあ先生と一緒に行ってくるね!」

 

「お願いします」

 

そう、最初は自分がこのドラムを叩くだけでいいと思っていた

だけど、それだとその一回だけでこのドラムの出番がなくなってしまう

その後、私の他に使う人が現れない可能性が高い

 

それに比べて、吹奏楽部でドラムを使ってくれることになったら、その伝統が今後にも繋がってくれる気がした

それは未来に音を繋げて行ける

このドラムがずっと誰かと一緒に過ごせる

そして、ドラムの入った吹奏楽部の演奏を聴いて、笑顔になってくれるのであればいいと思う

 

そうすれば、先生の笑顔だけではなくて

吹奏楽部員、それからこの学校の人達、それがどんどん広がっていけば、

()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな事を無意識のうちに考えた

自分の中に眠っていた、気持ちが溢れ出て来たのか、それとも私の記憶の一部の影響でこうなったのか

普段の自分ではありえない行動、言動だった

 

 

「じゃあ、気をつけて帰りなよ」

 

「はい、先生」

 

「君も、今日はありがとうな」

 

「いえ、自分が言い始めた事ですから...」

 

作戦会議が終わり、もう最終下校時刻

自分と喜多見良子は帰路についている

良子とは途中まで一緒だったが、その間自分に色々な話をしてきた

 

「自分がそんな積極的な人だとは思わなかった」だとか、

「普段の自分とさっきの自分とは別人だった」とか

「とっても頼もしく見えた」だとか

 

彼女からの話は全く尽きそうになかった

というか、自分のことにこんなにも話をされたのは初めてで、少し戸惑いもあった

それに、この全ての内容に自分自身も首を傾げてしまっていた

なので、曖昧な相槌しか打てなかったのだった

 

 

いつものように一人になって、家に着くまでの短い時間で色々と考えていた

授業中に考えていた3つのことに加えて、今日の自分の変化について考えていた

 

前の自分と今の自分に変化があることは、喜多見良子にわかるくらい変化して来た

その理由は、夢の中でこころ達によって変われるようになったと分かっている

ということは、夢の喜多見良子と現実の喜多見良子が違うという理由も、もしかしたら同じなのかもしれない

つまりは、誰かによって変わったということで、その誰かとは多分こころなのだろう

過去にこころと何かあったと考えるのが自然だ

 

そうなると、一つ矛盾と言うか、辻褄が合わなくなる

自分はまだ、現実世界でこころを見たことがないのだ

現実世界にこころがいないとなるとさっきの仮定は、全て水泡に帰してしまう

しかし、普通はそんなことない筈だ

夢の中にしか居なくて現実世界ではいないなんて、それこそ都合のいいこじつけっぽい

その辺は現実にいる喜多見良子に聞けばいい

 

そんなことを思いつつ、一ついい報告が出来そうだ

夢の世界への一つの吉報

それは、こころ達のおかげでクラスメイトと仲良くなれて、自分も世界を笑顔にする方法を見つけたこと

それが今日一番の発見点であった

 

 

帰宅してからの行動に変わりはなく、そのまま布団に潜り込む

いつも以上に疲れた身体はもうなんの気力も出ず、そのまますぐに眠ってしまった

意識が遠のいていき、今日もいつもと同じように夢の世界への扉を開ける

 

しかし、その扉が開いたと思えばまた同じ扉がループする

夢の世界への侵入は許してくれない

何故か自分をずっと拒否され続け、そのまま次の日の朝を迎えた

 

一度も

私になる時間ができず

自分は目覚めた

 

 

こうして、一つの違和感がまた生まれてしまったのだ




久々の現実世界編でした
やっと、現実世界においての目標達成に向けて動き始めしたね!
正直、私は楽器について全くの素人なので、ネット検索で色々調べながら書いております。なお、現実ではドラムヘッドを張るのは素人には出来なさそうです(小説だから!これ小説だから!その辺は許s(ry

あと、またまた投稿が遅くなってしまってすいませんでした...
最近はサッカーW杯に、地震、大雨となにかと忙しく、執筆する暇がありませんでした...
地震などの災害は私の家には大して問題はありませんでした
ただ、今後も用心しないといけませんね

バンドリではRoselia2章に続き、Pastel* Palettes2章が追加されましたね!
みんな可愛くて、私ももらい泣きしそうでした...千聖ちゃんの支えになってあげたい...
それに、ガルパピコの配信もありましたね!あの破茶滅茶感大好きです!
後、皆さんはバンドリカバーCDは買いましたか?私は発売日に買いました!薫さん×こころの『ロメオ』がかっこよすぎて...(ry

最後になりましたが、今回は長い間待たせてしまいましたことについて改めてすいませんでした
投稿して居なかった間に、この小説を「お気に入り登録」してくださった方がおられるようなのですが、私の管理不足で紹介させて頂けませんでした...
これからは、毎週日曜日までに投稿できますように頑張りますので
これからもよろしくお願い致します!

では次の話も楽しみに待っててください


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第27話 はじめの一歩

前回は音楽室のドラムを直すために主人公、先生、喜多見良子達が話し合ったところまででした

今回も同じようにドラムを直し始めます

では第27話始めます


目覚めは突然でいつもよりも何故か頭がスッキリとしていた

理由はわからない

ただただ、気持ちがいい

 

こんな気分で朝を迎えたのは久々かもしれない

そんなことがあったのはもっと遠い昔

まだ父親が生きている時だったか

新しい朝に、何も知らない無垢な自分は、毎日新しい出来事があると信じていた

 

そんな日常が崩れてからは朝が清々しいと思えるようにはならなかった

全てはあの日

あの日がなければ、自分の人生は急降下することなく平穏無事で過ごしていたのかもしれない

 

 

(...清々しい朝だったはずなのに、起きてからなんてもの考えていたんだろう...)

 

自分はいつも通りになってしまった愚かな心情に、ひどく肩を落とした

 

 

 

今日は土曜日

学校がない日

こんな日は一日中家でダラダラ過ごしていたい

部屋の外に出ても何もすることがない

なによりも、人の目を見ることなく過ごせる日

 

今日の休日について頭の中で色んな思考を巡らせる中で、まだ早朝だった自分の瞼がだんだんと閉じられていった

 

 

そのまま流れるように二度寝をしてしまった

 

 

 

 

 

次に目が覚めた時、外は青空に包まれ太陽はもう南中付近に来ている

5月というのに妙に暑い

もう春の日差しを通り過ぎて初夏の陽気になっている感じがする

 

布団の中にいることに耐えられそうに無くて、自分は布団から這い出た

少し億劫になりながら、汗で湿った寝間着を普段着に着替える

いつもと違う服を着ることに慣れてはきたが、まだまだ種類は少ない

…この服は2週間前も着た気がする

 

暑さのせいか、それとも眠気のせいかまだ頭がぼーっとしている

無意識のうちに自分の体は涼を求めるかのように、冷蔵庫へと歩いていた

冷気が気分を一新させてゆき、自分はある一つのことを思い出した

 

 

ある決意と約束

思い返すとなんだか妙に恥ずかしくなってしまうが、あの時の自分はとても行動的だったと思い返せた

 

(「はい!これから先、何年もこのドラムを吹奏楽部で使って欲しいと思っています。それが私の目標である『未来の音』を奏でる事だとさっきの話を聞いて思ったのです」...かぁ...また大層な事を言ったな...)

 

自分が自分じゃないような感覚

ただ、それが全く嫌なことだとは思わず、むしろなぜか楽しく感じるまでになっていた

変わろうとしている自分に、まだ戸惑いがある

それに慣れるのにはまだまだ時間がかかりそうだ

 

 

(そして、今日は行かないといけない場所があったな...早く支度をするか)

 

もう一つの約束をぶつぶつ唱えつつ、自分は財布を持って家を出た

 

 

 

やっぱり、暑い

二度寝して今更用事思い出した自分にはいい毒なのか、今は14時過ぎだ

地面からの熱気が自分を焦がしていく

こんな中、歩いている人は無邪気な子供くらいなもんだ

そう自分に言い聞かせつつ、自分は近くの楽器店に向かう

 

(やっっっと、着いた)

 

初めて来た場所だ

昨日、先生から聞いた場所

自分には縁がなかった場所

そして、少し憧れだった場所

 

大きな店ではないが、ショーウインドーにはいろんな楽器が置いてある

どれもとても光っていた

この楽器達には今にも弾いて欲しいそうにしていると感じてしまう

まだ魂は篭ってないはずだが

 

そんな事を考えながらショーウインドーの楽器を眺めていたら、楽器の小さな隙間から店の様子が見えていた

その隙間に人が目に入り、くるりと自分に向いてきた

自分は咄嗟にしゃがんでしまった

これが根暗者の反射行動だ

 

外から見ていた自分は、店の中からはどう見えたのか?

例えば、初めて楽器を買いに来た子供の初々しさがあったのか?

それとも、値段をみて、手が出しにくく少し悔しそうな人に見えたのか?

はたまた、楽器を買う予定もないのに冷やかしている通行人に見えるのか?

無駄な思考ばかりが渦巻く

そもそも店員かお客さんかもわかっていない

 

自分は恐る恐る顔を上げてみた

そこにはさっきよりも近い場所に、満点の笑顔で見ている少女がいた

 

「うわっ!?」

その声と共に、自分は仰け反り尻餅をついてしまった

今日は本当に暑い昼で良かったと初めて思ったのだった

 

 

「まさか、君もきてくれるなんてねー。どういう風の吹きまし?」

 

「すみません、良子さん」

 

「ん?なんで謝るの?」

 

「もしかしたら迷惑だっt「迷惑なんじゃないよ!むしろ君がきてくれて嬉しい」

 

笑顔を見せたのは喜多見良子だった

正直な事を言うと、もう彼女はいないと思ってた

もう昼を過ぎ、お昼どきを回っているからその前に買い終えているのだとて勝手に思い込んでいた

そう思うと、お昼を食べてから買い物をし始めたのかとも思える

流石に自分と同じ寝坊ではないとは思うが...

色々と考えているうちに、また話しかけたのは喜多見良子からだった

 

 

「いやね?色々みて回ってるんだけど、どういうのがいいのかなって思って」

 

「どういうとは?」

 

「音楽室のドラム、直し終わったら君が演奏するんだよね?」

 

「はい、そのつもりですけど...」

 

「じゃあ、君が選んでよ!本当は君に連絡してきてもらいたかったんだけど、君の連絡先聞いてないから...」

 

「ええっ、でも私ドラムのスティックの良し悪しわからないですよ!?」

 

「大丈夫大丈夫、私もわからないけどどうにかなるって」

 

にしてもこの人は楽観的だな

というか、私も人任せにしたのはまずかったとは思う

 

仕方なく、私はドラムコーナーにあるドラムスティックを見ることにした

それにしても一番驚いたのは大量のドラムスティックの量だ

材質、形、太さや長さ、色々な違いがあるドラムスティック

素人の自分にはほとんど違いが分からないものもいくつかある

あたふたしながら、まずは目測で一つずつ吟味していく

やっぱり、全然わからない手にとってみればいいのだが、何となくこんな自分が手を出しずらい雰囲気を感じてしまった

 

 

「苦戦しているようだね、私もここに来て初めてびっくりしたから。今まで楽器店に来ても自分の楽器以外はあんまり見ないし」

 

「これは...相当大変な作業なんですね...」

 

「まぁどんな楽器でも一番最初は大変だからね。でも、最初が肝心!ここから君の相棒を決めるのと同じことだからね!」

 

「そ、そういうものなんですかね...」

 

「だから、私とこんな会話するよりもやることがあるんじゃないかな?...例えばほらっ、そこのステックコーナー、あの辺が初心者にも使いやすいドラムスティックみたいだよ?」

 

「あっ、はい!ちょっと行ってきますね」

 

なんというか、彼女にいい風に弄ばれているように感じる

彼女は言いたいことを全て言いつつ、本題は外さない

なんというか、彼女はすごいと思う

自分にはこんな取り柄がないからこそ、こういう性格に憧れているのかもしれない

それが喜多見良子であったり、弦巻こころであったり

 

 

私がドラムスティックを見始めてからかれこれ20分以上経ってしまった

初心者用のドラムスティックを、手にとっては戻し、手にとっては戻しを繰り返しているだけなのに、どうしてこんなにも時が進むのが早いのだろうか?

自分が普段、何かに没頭することがないのが原因なのだろうか?

普段の生活の中で、一つのことを集中してやることなんて本当にあったのだろうか?

全部成り行きで行動している気がする

だからこそ、こういった単純作業に集中してやることがないからこそ新鮮な感覚なのだろう

 

いかんいかん、こんなことを考えている前に、早く自分に合ったドラムスティックを探さないと...

ほとんど一通り手にとったはずなのに、いいものが見つからない

初心者用のスティックの違いが手にとってもほとんどわからない

それでも、だんだんと雰囲気的に伝わるものがあるのかもしれない

そんなこと言っても、誰も信じてはくれないだろうが...

 

そして、ドラムスティック初心者コーナーの最後の棚のスティックを手にとった

何故だろう...触った瞬間になんだか直感的に感じるものがあった

これだ!

この最後にとったドラムスティックで妥協したわけじゃない、これがいいのだ

最後の最後まで選ばれない辺り、なんだか自分に似ている

 

 

「良子さん、決まりました」

 

「おー!ようやく決まったのね。どれどれー。...本当にそれでいいの?」

 

「えっ...といいますと?」

 

「そのスティック、初心者用って書いてあるけど結構使いずらいかも...。普段そんなスティック使っている人って部内でもあんまり見ないし...」

 

「そ、そうですか...じゃあ、戻してきますね...」

 

「いやいや、それでいいと思うよ!君が決めたのなら私は何も言わないし、最後に決めるのは君だからね!」

 

「...!じゃあ、購入してきます」

 

「いってらっしゃーい」

 

本当に、喜多見良子がいてくれてよかったと思う

自分一人では、いつものように逃げ出してしまう可能性もあった

でも、楽器店に入る前に喜多見良子に話しかけられて良かったと思う

こういう時に、誰かに助けてもらうことの大切さを最近大いに感じられるようになった

それも弦巻こころや喜多見良子のお陰だ

 

無事に、今日の目的を果たした

楽器店を出る頃には、一番暑い時間になっていた

やはり今日は暑い、5月というのにはおかしい

今日が7月と言っても誰も文句は言わないだろう

だが、それもいいかなっと思うことがあった

 

自分と喜多見良子が別れる際に見た、彼女の笑顔が今日の暑さと同じくらい似合っていた

彼女からすれば、こんな暑さをなんとも思わないのかもしれない

第三者の私から見れば、それがよくわかる

彼女の笑顔は、嫌なことを全て忘れてしまうような、向日葵みたいな笑顔だった

 

 

自分はそのまま家に帰った

部屋の中も暑い

本当に今日はなんなんだ

そして自分の目の前に広がる光景は、自分の今日の心情を表してるかのようだった

脱ぎっぱなしの寝間着

吹っ飛んでいる掛け布団

コンロの上に置かれっぱなしのフライパン

水に漬けておいただけの食器

 

全てが嫌になった後の惨事

本当に自分のダメなところが凝縮されている部屋と化していた

自分は軽い溜息をつきながら、平穏時に戻し始める

 

 

今日始めた何かに集中したら時間を忘れることを思い出して

そうすれば、今日のこの暑さを忘れることもできるのだろう

 




大変お待ち致して申し訳ございませんでした!!!

約1年半ぶりくらいの更新です...本当に長いです...

小説を投稿してない間に
・バンドリ全曲制覇とかいうわけわからないドM企画
・ゆっくり実況を初ニコニコ投稿
など、いろんなことをしていました

特に、2019年は気がついたら東方関連のことばかり追いかけていたように感じます。
ただ、今までバンドリをしてなかったといえば違います。
ちゃんとずっとやってます!
全部のイベントに参加して☆3報酬取るくらい頑張ってます!

なので、これからもバンドリ小説を書いていきたいと思いますのでこれからもよろしくお願いしますね!

(今回は久々の復帰なので、お気に入り登録者様や評価してくれた方への感謝は次回以降にします)


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第28話 染められていく色

前回はドラムのスティックを購入したところまででした

さて、今回はその2日後の学校での出来事です

では第28話始めます



自分は気がつくといつもの服装になっていた

私の服装は二種類しかない

一つは制服、もう一つは寝間着だ

それ以外の服装は滅多なことがないと使わない

その滅多なことが土曜日だった

 

今思い返しても、本当に忘れられない記憶となっている

自分から進んで行った音楽店

そして、思わぬ伏兵

なんというかこれが自分に起きたなんて、金曜日の自分に言っても信じられないことだろう

 

そして土曜日がプラスだった分、普段の何もしない0の日曜日なんて記憶になかった

昨日のことのはずなのに、一つしか思い出せなかった

その思い出せた物だけが、自分が残した日曜日の分身だ

 

 

この制服を着始めて、早1ヶ月

慣れというものは恐ろしく早く進行している

この制服を着て、通学する

その一連の動作が、もうなんの不自由もなく行われる

それは日曜日と同等レベルの扱いになっていた

 

 

自分の記憶は、学校に着いて人の声を聞いたところから蘇った

 

「おはよう」

 

案の定、隣の席からだ

自分は軽く頭を下げる程度で、声を出さずボーと黒板を眺めていた

喜多見良子ならこういう態度をとっていても、対応がなんとなくわかっていたからだ

 

 

「一昨日買ったドラムスティック、ちゃんと持ってきた?」

 

やっぱり

喜多見良子を自分の視界の中に入れてから、まだ1週間も経ってないはずなのだが、何故か行動がほんのりと読めてしまう

その原因は、多分喜多見良子を二倍の時間見ているからだと思う

現実と夢、お互いに自分に干渉して来る人物がいる

その二つの波が似ているからだ

 

 

自分はまたまた何も言わず、首をさっきより大きく振った

鞄の中に入っているのだが、取り出すのが億劫だ

もういっそのこと、自分の鞄の中から勝手に取ってくれても構わない

まぁ、流石にそんなk...

 

 

「あっ本当だ!ちゃんとスティック入ってる!」

 

前言撤回

まさか鞄を開けずに、鞄の上から触ってスティックがあるのを探すとは思わなかった

その行動は予測できない

それは流石に一般的な行動ではないはずだ

 

その一連の行動に、自分は思わず視線を移さざるを得なかった

視線の先には、摩訶不思議な行動と眩しい笑顔

この人の身体と頭は、本当に同じ生き物でできているのかと、失礼ながらに思ってしまった

このままだといけないと本能的に察し、何か言わないといけない気がして自分の口から音を出した

 

 

「ちょっと、良子さん!一体、なにやったんですか!?」

 

素の自分というか、平然を纏えてない自分はこんなにも語彙力がなくなってしまうのだ

というよりも、そんな時が来ることが今までなかったので、対処法を知らないと言った方が正解か

そんな自分は喜多見良子にどう見えたのかわからないが、自分の顔が今どうなってるか知りたい

その顔がどういう効果をもたらすのかを、記録したい

 

その願いはすぐに叶った

自分の声を聞いた喜多見良子は笑顔からとぼけたような顔でこう言い放った

 

 

「だって、なんも言ってくれなかったら勝手に探してもいいっていう意味でしょ?」

 

本当にこの人は高校生なのか疑うような発言

常識がないというか...遠慮しないというか...

正直、自分の苦手なタイプだ

人の事情にずけずけと入ってきて、勝手に行動を起こされる

他人だという事を頭の中に入れてない、そんな奴が嫌いだ

 

この人も同じだと思うと、虫酸が走るような思いになる...とはいかなかった

何故か、自分はこの人に嫌な思いを沸かせられなかった

最初に話しかけられた時は、関わらないでほしいと思ったはずなのに、どうしてだろう?

...答えはいつか出そうと思う

 

 

「いや...でも...、そんな急に...流石に...ダメですよ...」

 

なんでこんなにも弱々しく話してるんだ

何かに怒られたわけでもないし、恥ずかしい思いをされたわけでもないのに

勝手に鞄から探してもいいと思ったはずなのに

それに近い行動だったはずなのに

どうしてこんなにも言葉に詰まるんだ

 

 

「あーごめんね?私はちょっと確認できれば良かっただけだから。じゃあ、また放課後に音楽室でね!」

 

と喜多見良子は言って、そのまま隣の席に座った

彼女からしたら、これが普通なのか悠々と教科書を机の中にしまっていた

そんな喜多見良子を、自分の眼が自然と捉えていく

こういう時の自分の顔も、想像がつかない

他人をこんなにも自然と見入っていることがまずおかしいのだ

 

 

...このままいろんな事を考えすぎるのは良くないと感じる

ドツボにハマってまた無駄な時間を使いたくない

そう考えた自分は、顔を水平に戻した

その時、自分の眼は別の光景を捉えていた

 

顔も名前も覚えていない、最後列のクラスメイトが自分を不思議そうに見ていたのだ

そんな事を想像だにできなかった自分の今の顔はヤバイ

ヤバイ以外の感情が出ないくらい、心の中ではテンパっていた

 

内心錯乱状態の顔を出さないように、顔の筋肉を強張らせながらもう一度正面を向いた

もし正面の黒板が鏡だったとしたら、机に突っ伏していただろう

それほど、今の自分は自分を見たくないのだ

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

終業のチャイムが鳴った

自分にとっては、ようやく流れた解放の時

自分の学校の時間はここから始まる

 

ガヤガヤしている生徒を尻目に、自分は一人だけは山の如く、黙って座っている

 

人それぞれこれからの用事は異なる

部活に行くため遅れないように急ぐ者

提出物を出す為に職員室に直行する者

何をするのかわからないが速攻で家に帰ろうとする者

 

この中に自分は含まれない

自分は、夢を始める者

それを実行するまでの時間が余っている、その時間をゆっくりしているだけなのだ

 

今日は、吹奏楽部が音楽室を使っているので、すぐに音楽室に入れない

喜多見良子もこれから音楽室に向かうのだが、自分とは同じ道を歩かない

お互いに同じ目標でも、過程は違っていい

最後に、出逢えればいいだけなのだから

 

西日が自分の顔を赤く染めていく

この喧騒が去った後の教室は、より一層の静けさを引き立たせる

この空間が、自分のお気に入りだ

この世界に自分以外の邪魔が入らない

自分を飾る感情を見にくいものに変えてくれる

 

まるでここは白一色だけの何もないキャンパスのように、ただただ透き通った色になれるのだ

 

 

しかし、その考え方が急に変化し始めた

このキャンパスに他の色が書き込まれ始めたのだ

何本かの線は枝分かれしてこのキャンパスを掻き分けていく

色はどれも個性的で、十人十色

ある色には、見るだけで癒され、

他のある色には、尊敬する気持ちが湧き出た

 

こうやって、自分を染める存在が太陽以外にあるなんて、昔の自分は気にしないようにしていた

今朝のやりとりでも、その癖が顕著に出ていた

誰かに気に留めてくれるくらいなら、自分一人がそう感じさせないようにすればいいと

 

 

だが、ある色は私に

 

「××、あたしは××のこともっと知りたいわ。

あなたが好きなもの、嫌いなもの。嬉しかったこと、悲しかったこと。

そしたら、あたしが××のこともっと楽しい思い出を作ってあげる!

あなたの笑顔は素敵だわ!

あたしも笑顔にしてくれるわ!

だから××?

あたしのことも見て?」

 

と言って、

 

また、ある色は

「××さん、私達は友達です!」

 

と、

 

自分に対しても、

 

「だって、私も聞いてみたい!君の奏でるドラムを、君の奏でる音を、君の奏でる音楽を!」

 

 

私をこんな世界ではない、色のある世界へと連れて行ってくれる

自分をこんな世界ではない、色のある世界を作っている

二つとも自分達にとって大切なのだ

 

そんな事を考えながら、自分は鞄の中からドラムスティックを取り出した

まだ何も知らないただの棒に、自分の魂を分け与えて生まれ変わらせたいという願いを込めて、自分は強くドラムスティックを抱え込んだ

 




よし!2月中に投稿できたぞ!(ギリギリ)
本当は放課後シーンまで書きたかったんですけど長くなりそうだったので切りました!

因みに、途中の色の台詞は

「××、あたしは××のこともっと知りたいわ〜」が、第19話のこころの台詞

「××さん、私達は友達です!」が、第25話の花音の台詞

「だって、私も聞いてみたい!君の奏でるドラムを、君の奏でる音を、君の奏でる音楽を!」が、第21話の喜多見良子の台詞です!

その辺りを読み直すといいかも?


だんだんと主人公の気持ちが変化していくのを書くのは難しいですね...
ブランクがあるせいでどこまで書いたかわからないのもありますけど...
でも、書いてる時は楽しいのでこれからもどんどん書いていきます!


バンドリは昨日(2020/2/27)までの花音ちゃんイベ頑張りました!
結果は3023位でした!
目標の5000位以内に行けたので私は満足です!


最後にこの小説をお気に入り登録していただいた
「ひとりのリク 様」
「雪月楓 様」
「アデリーペンギン 様」

そして、評価していただいた
「ひとりのリク 様」

本当にありがとうございます!!
私のモチベがドンドン上がっています!!

この前、ツイキャスで小説執筆しているときにいろんな方から私の小説の感想をいただきました!
めちゃくちゃ褒められて顔を真っ赤にしながら聴いてましたw

感想を書いてくださったらすぐに返信させていただきますので、ドシドシ書いてくださいお願いします!

それでは次の話もお楽しみに待ってください!


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第29話 久々の産声

前回は、ドラムスティックを学校に持っていったところまででした

さて、今回本当にドラムを修理させます

では、第29話始めます


放課後の1時間半は、そんな長さに感じないくらい早く過ぎ去った

その1時間半に行ったことといえば、

ドラムスティックを抱いたり

ドラムスティックを持って、花音さんのことを思い出したり

ドラムスティックを持って、机をドラム代わりにデモンストレーションをしたり...

 

...よくよく考えると、やってることをつらつらと書くと、保育園児がお飯事をやっている感覚に近いと感じる

 

夕暮れの一人の教室

その状況を保育園に置き換えれば

夕方に最後まで迎えが来ていない居残り保育

 

自分の過去から変わらない環境だった

違いは、気持ちの有り様

 

保育園児の時は、他の子には迎えが来て、自分だけが取り残されている孤独感

今は、他の人を待ちながら、自分が主催でそこに入っていく為に待っているという期待感

 

気持ちがいい方向に捉えられているからこそ時間は短く感じるのだ

人生で3年間感じた夕方の時間の進み方に、

人生で一度感じた夕方の時間の進み方のほうが、自分の記憶の中に強く焼き付けていくのだろうと思う

 

 

17:30

日は山にかかるように落ちていき、自分を長く黒く染め上げる

日と同じように、少し心地よい風が自分を撫でていく

もうすぐ春が終わりを告げると考えると、今年の春はいろんなことがあったのだと再認識させてしまう

 

4月の新生活

初めての一人暮らし

初めての高校

初めての行動

初めての目標

 

二つの世界を行ったり来たりしているうちに、自分が変わっていっているのがよくわかるのだ

このまま、自分はどうなるのか想像がつきそうで付かなかった

 

そんなことを考えながら自分は、ようやく席から立ち上がった

 

 

他の教室には誰一人もいない

廊下は少し薄暗い

この空間には一つの音も流れない

 

自分の五感のうち、2つに反応がない

その二つを鑑みると、この校舎には誰もいないのかと錯覚してしまう

一人でいることに慣れたはずなのに、妙な不安感を感じるのだ

このまま音楽室に入っても、誰もいなかったらどうしようなんて無駄な心配を考えてしまう

そんなことはないはずなのに...と頭の中では思っていても、そう考えてしまうのは自分の性だろう

馬鹿馬鹿しいと思いながら、

自分の歩幅を狭くして廊下を進み、

階段を一気に駆け上った

 

 

音楽室の前の廊下まで着いた自分は、そこで久々に人の姿を見た

その人達は大きな黒い箱を抱えていた

その形状からなんらかの楽器が入っていることに、音楽知識ない自分でもなんとなくわかった

自分は軽く半身になりながらその人たちを避けた

もう部活は終わっているのだというのを認識して、自分はゆっくり音楽室の扉を開けた

 

 

「おっと、時間ピッタリだね!」

 

扉を開けて最初に聞こえてきたのは、喜多見良子の声だった

やはり予想通りだったのが、良かった

逆に他の人の生徒の声を聞いた場合、自分は最初に喜多見良子に話しかけられた時のように、テンパりそうだ

その気持ちが言葉にも漏れ出したのか、小声で

 

「よかった...」

 

と発した

 

扉を閉めて、声のする方向から顔を動かしてみると、もう誰も音楽室には残っていないかった

ここにいるのは、自分と喜多見良子だけだった

こうやって二人きりで話すのも、この前の楽器店以来だと考えると、何故か意識してしまう

 

初めて話した時は、寝ぼけていたのもあったり、動転してたこともあってか、喜多見良子の姿を軽く見た程度で終わっていた

土曜日の時は、ドラムスティックを選ぶのに集中していたこともあって、喜多見良子をまじまじとは見ていなかった

今朝も同じように、喜多見良子の顔しか見ていなかった

だからこそ、今がとても気持ちが落ち着かないのだ

 

目の前には、自分の高校の女子制服を着た喜多見良子がいる

その姿を入学以来、真面目に見た覚えがない

その当時は到底、自分には縁を持たす必要のない景色だと思った

 

だが、本当に女性の衣装というのは不思議なもので、意識するととても自分が考えている以上に素敵だと感じてしまうのだ

どんな衣装を着ても、魅力的に感じるのだ

目の前にいるのが、ただ単に女子のクラスメイトから、少し年上の可憐な女性に切り替わってしまうのだ

 

自分には、まだ女性に対しての接し方が全くわからない

ましてや、人生においてこんなにも1対1で面と向き合って話すことさえ、経験がない

夢の中で出会った彼女らはまだ、私と同じ高校生として見えていたので、参考にならない

 

 

となると、自分が取れる行動は一つしかなかった

焦点を人物から離すことくらいしかできない

自分に持ちうる最高の逃げの一手

 

でも、これは一時しのぎにしかならない

相手が自分の行動を読み切られたら、この後どうなるかが、容易に想像できる

喜多見良子が弦巻こころと同じだという自分の結論からすると、喜多見良子は自分に近づいてきて、顔を覗いてくる

この最善手は諸刃の剣なのだから、もう一手先まで考えないといけない

 

(考えろ...!考えろ自分...次の自分できる行動を考えろ...!)

 

...その熟考は最終的に、杞憂に終わった

 

 

「じゃあ、先生呼んでくるねー。ちょっと待っててね」

 

と、言って喜多見良子は音楽準備室に入っていった

自分はまた息を吐きながら、胸を撫で下ろした

本当は、この一人の空間でヘニャヘニャと身体を溶かすように、床に突っ伏したいのだが...

流石に、ここは学校なので近くの机に座って、頭だけを突っ伏すことにした

今、自分を癒してくれるのは机の冷たさ

その冷たさに少し頬を緩ませた

 

 

「ほほう...君のそんな表情初めて見せてくれたねぇ...」

 

(ハッ!?

迂闊だった...つい癒されてる途中に自分の顔を見られてしまった...

しかも、一人ではない、二人だ!

まだ、喜多見良子には授業中に見られたから少しはマシだが、

まさか、先生に見られるなんて...

しかも、なんか恥ずかしいコメントをされた...)

 

言葉を聞き終わると、すぐに顔を引っ込めた

脊髄反射的に顔を机に引きずったせいか、それとも恥ずかしかったせいか、自分の頬は熱くなっていた

もうこのまま溶けてしまいたいと感じてしまうほど、自分の全部行動に小さな怒りと大きな照れを覚えた

 

 

 

「それじゃあ、休日の報告会をしましょう」

 

と、最初に言いだしたのは自分だった

まだ、先程の気持ちを全てを隠しきれているわけではないが、普通の自分を演じるのが得意な自分は、いつもと変わらないように振る舞おうとしていた

その自分を見ている二人には、表情の変化は見られない

 

ということは、自分の術は成功なのだろう

それか大人な対応として、思慮分別がしっかりしているのだろうか?

なんにしても、今からは真面目な話をするのだからこれが一番いいのである

 

 

「まずは、自分からですね。土曜日に楽器店でドラムスティックを買ってきました」

 

と言って、鞄の中からドラムスティックを取り出して置いた

そして、一番最初に反応を見せたのは喜多見良子だった

 

 

「あっ、これこれ!確か、何十分もかけてドラムスティックを選んでいたの、私は見たから!」

 

全部本当のことなのだが、それを先生に言ったら多分、こう帰ってくる

 

(「二人で、楽器店に行ったんだね?それは仲良いねぇ」)っと

 

...完全に一致した

自分は、何も言わずに喜多見良子の返答を待った

喜多見良子が最初に提示したのだから、彼女が応答するのが普通だろう

 

 

「そうだよ?だって、私が暇だったから、楽器店でいろいろ見て回ってる時に、窓から君が覗いていたのを見てたんだもん」

 

(おい、新しい火種を投下するんじゃない

てか、その情報伝える必要ないでしょ!?)

 

やはり、喜多見良子は何を考えてるのかわからない

キョトンとした顔で、ドラムスティックを握っている

彼女からしたら、そんなことは些細なことで、今一番ドラムのことを気にし、楽しみになっているのだろう

その姿は、初めて買ってもらったおもちゃを興味津々な目で触るお子様のようだった

 

 

彼女を見ている先生には、至って変化はなく、自分にこう返した

 

 

「ところで確か、ドラムスティックを買って来るように頼んでいたのは君じゃなかったはずだが...」

 

「それなら、私が君に託したんだ」

 

「...なるほど...」

 

まだ1ヶ月しか出会ってないはずなのに、この二人は流石というか...

先生は、彼女の考えていることがお見通しなのだろう

自分と違って、部活内での顧問と生徒

音楽の授業とここ1週間、少し話しただけの自分以上にわかるものがあるのだろう

 

 

「自分はこれで終了です。では、次に先生」

 

と、自分の報告を話し終えた自分は次に話題転換させた

 

 

「うむ。私は、吹奏楽部の部品をよく買いに行く楽器店に行ってきたよ」

 

「で、部品は買えましたか?」

 

「それが....」

 

先生の様子がだんだんと悪くなっていく...

口を少しつっかえさせて、下を向き始める

それを見ている自分と喜多見良子は対照的な捉え方をした

 

喜多見良子はほとんど聞いていないのか、上機嫌でまだドラムスティックを持っている

 

対して、自分はとても不安な気持ちに陥った

 

(もし、このドラムに合う部品がなかったらどうしよう...

もし、このドラムがもう手遅れで修理ができなかったらどうしよう...

もし、部品の在庫がなかったらどうしよう...)

 

頭の中に、考えうる可能性が湧き上がっていく

ある意味、ここが一番のネックな場所なのだ

先生に託したのも、先生の力なら色々な情報網があるだろうし、資金力もある

 

でも、その頼りの綱が切れてしまったら一つも進展しない

 

このドラムじゃないと意味がない

このドラムを直さないと意味がない

このドラムの音じゃないと意味がない

自分の目標を達成させないと意味がない

 

先生の口から「ダメだった」という言葉を聞きたくない...

お願いだ...やめてくれ...

願いは、届かなかった

 

 

「...それが、私の知り合いがちょうど楽器店で出会ってね。そこで、このドラムのこと聞いたら、快く部品提供してくれるってさ」

 

......ガクッ

自分の体が大きく揺れ動いた

動いた時、机に強く肘を打ってしまった

 

その音は想像以上に大きく、喜多見良子はその音にビクッとして自分の方を振り向いた

先生はというと、待ってましたと言わんばかりに笑い声を上げている

 

...そういえばこの人はそういうことをして来ることをすっかり忘れていた...

 

そういう子供っぽいところを大人になっても持っていると、とてもズル賢い

というか、そんなことする必要ないでしょうに...

 

そして、先生は笑い声を抑えながら自分にこう言い放った

 

 

「でっね、日曜日にこのドラムのスネアを知り合いに持って行って、修理パーツがあるか聞いてみたんだよ。そうしたら、これくらいなら、わしが修理できるって言ってね、直してもらったんだ」

 

「えっ...じゃあ、もうスネアは直ったんですか???」

 

それはそれで困るのだ

出来れば、自分達だけの力で直したいのだ

それが、自分の知らない人が全部直したとなると、それだけが自分の手を施してない物に変わってしまうのだ

自分の目標はあくまで自分たちの音、()()()()を奏でること

全て自分のわがままなのだが、そこだけはしっかりしたいと思っている

出来れば、それを先に先生に伝えるべきだったのだ

それをしてないからこんなことに...

 

 

「いや、スネアの側面部であるシェルや、その辺にある部品...ラグだったかな...、その辺は私の腕じゃどうにもできないって言ってたので、その人に頼んでおいたよ」

 

「じゃあ、全部修理されたんじゃないんですね!?」

 

「そうだよ、君は自分で直したいって言ってたのを思い出したからね。知り合いは、スネアの音はシェルの材質によっておおまかには決まるけど、最後は上面の膜のヘッドと、下面の弦みたいな...スナッピ?だったけな...で、決まるって」

 

「...なんか、聞いたことない名前がいっぱい出ましたけど、それなら自分達で音を出せそうですね」

 

本当に良かった...

まだ、自分の音を奏でられるという希望を聞いた自分は、もう一度冷静になれた

一番重要なところが自分の想像以上にうまくいったことは、とても素晴らしいことだと改めて感じることができた

あとは、そのスネアがここにあれば...

 

 

「おっと、じゃあそろそろ主役を持って来るとするか」

 

「えっ?もしかして...もうここにあるんですか?」

 

「当たり前だよ。君達に一番最初にスネアを叩いて欲しくてね」

 

「本当ですか!じゃあ手伝います!」

 

先生...本当にありがとうございます

自分の口からはその言葉を発しなかったが、心の中はそれでいっぱいになっていた

自分は、そのまま新しく蘇ったスネアを見るために、急いで先生と一緒に音楽準備室へと入った

 

ようやく、大きな大きな第一歩目を踏み出せるという気持ちを受けて、自分はスネアを見た

 

生まれ変わっていた

自分が初めて見た小汚くて、今にもゴミ箱に突っ込まれそうな粗大ゴミではなくて

綺麗に手入れされていて、お化粧をされた花嫁のように輝いていた

全ての部品が新品になっているわけではなく、元々の部品も一部使われていて、昔の音楽室のヒーローだった記憶も一部引き継いでいる

 

自分は、初めて嬉し涙を流しそうになったのだが堪えた

これがまだ最初である事

こんな時に泣いたら、ずっと泣き続けるから

今日はこの場所じゃなくて、違う場所で喜びを表現したかった

 

 

3人を囲む中央の机に大きなスネアドラムを置いた

三人とも、生まれ変わった子を食い入るように見ている

誰もが初めての経験で、少しの達成感に浸っている

よし、それじゃあ初めての音を出させよう

 

 

「じゃあ、良子さん。自分が買ったドラムスティックで叩いてみて下さい」

 

「えっ?いいの?本当は君が叩きたいんじゃないの?」

 

「...ですが、良子さんのその嬉しそうな顔を見たら、良子さんに譲りたくなったんです」

 

「だって、私初めてドラム叩くんだもん!そりゃ楽しみでしょうがないよ!」

 

「じゃあ、良子さん。お願いします!」

 

「うむ。事前に私が調律しておいたから、問題ないと思うよ」

 

「じゃあ、みんないくわよー!」

 

ポンッ...

 

あれ???

スネアってこんな音だったけ?

確か、昔聞いた時の音と全然違うと思うんだが...

それは他の人達にも同じなのか、みんな首を傾げて何も言わなかった

喜多見良子は頭の少し斜め上を見ているし、先生は頭をポリポリと掻いていた

 

 

「あれ...?おかしいなぁ...調律の仕方間違えちゃったかな...なにぶん、初めてのドラムの調整だったからね...」

 

と、先生は詫びを入れた

その言葉に、自分は自信いっぱいにこう言った

 

 

「いや、これが自分達の最初の音なんです。誰がどう言おうと、この音が自分達の原点なのです。笑われたって何の問題もないです。今一番、喜んでいるのはこのスネアだと思うんです。ここに久々に音を奏でかせることができたんです!これから、自分達がどんどん成長していったら、昔以上にいい音を奏でかせることもできると思います!」

 

こんな言葉、自分の心になかった

何も考えずに言った言葉がこれだった

誰の影響だろうか、脳裏に浮かんでいたのは言葉ではなく、誰かのシルエットだった

そのシルエットは、ぼんやりと自分に手を差し伸べていた

 

自分の言葉に他の二人が、自分を大きく目を見開いて見ている

こんなにも凝視されているのに、今は全然恥ずかしく感じない

どちらかというなら、胸を張っていられるくらいいい気持ちだ

 

自分の言葉に先生は、何も言わずに首を大きく縦に振っている

対して喜多見良子は、満天の笑顔で拍手している

二人とも自分の言葉に同意してくれたのだ

 

そして、彼女が大きく手を挙げた

 

 

「はい!じゃあ、今日のことを記録できるように、コルクボード持ってきたんだ!」

 

「コ、コルクボードですか?」

 

「うん!土曜日に楽器店に行った後、折角だったらこれからの思い出を綴れるように、日曜日にコルクボード買ってきたんだ!」

 

「え?本当ですか???」

 

「その方が楽しいでしょ?あと、これもう今じゃ使っている人が少ないけど、ほらっ!ポラロイドカメラ!」

 

「また、君はよくそんなの持ってるねぇ...」

 

「たまたま、お父さんが貸してくれたんだ!デジタルで見るよりも、アナログでその場で現像したら、もっと思い出に残りやすいって、お父さんが言ってたんだ!」

 

「まぁ、その考え方はいいですね」

 

「で、最後にフェルトも用意してきたよ!」

 

「なんでフェルト?」

 

「フェルトで何かつくって、最後にデコレーションしたらとってもいいんじゃないかなって」

 

「君には恐れ入るよ。君が一番いろんなものを買ってきたんだね」

 

「それだけ、私も本気っていうことよ!ということで、今日の分はもう作ってます!」

 

「えっ?早くないですか?」

 

と言って、鞄の中からフェルトで作った二本の棒を取り出した

 

 

「じゃーん!ドラムスティック!あと、スネアは今から作るね!」

 

と言って、彼女はせっせとフェルトを切り始めた

喜多見良子のテンションに巻き込まれたが、彼女の行動力の高さには本当に頭が上がらない

自分が日曜日に何もしてないの対して、彼女は彼女自身の為ではなく、みんなも幸せにしようという計画を立てていたのだ

 

自分は、一生喜多見良子のようになれないと思った

自分勝手なところを直さない限り、他人を幸せにすることなんてできないのだから

 

 

真新しいコルクボード

真新しいフェルト

真新しいドラムスティック

 

少し古めのポラロイドカメラ

古く新しいスネアドラム

 

1つ1つが小さな思い出を作っていく

消えることのない、新たな記憶を

刻み込んでいく、新たな歴史を

 

 

そして、全てをコルクボードに飾って、最後に一枚写真を撮った

 

先生の満面の笑顔に

喜多見良子の弾けるようなスマイル

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

自分が少し私に近づいた日になったのだ

 

そして真新しい写真に一言添えた

 

「初!未来の音 5月××日」

 




いかがでしたか???
今回書いてるうちに、どんどんと書きたいことが出てきて、気がついたら過去最高の文字数となってしまいましたw(7099文字)

スネアドラムについて調べながら書いていたので、間違ってるところがあるかもしれませんけど、その辺のご指摘があればコメントください
今後はしっかりと気をつけさせていただきます。

また、ポラロイドカメラとは、その場で写真現像もしてくれるカメラのことです。
私はあのセピア調になる写真好きなんですよね(無駄な好きなところアピール)


バンドリアプリはもうすぐ3周年ですね!
いろんな情報が公開されてますけど、全部神ですわ...運営様...もう一生ついていきます

そしてなによりも!!!花音ちゃん当てたいです!!!(当てさせてください!)


最後にこの小説をお気に入り登録していただいた
「崇光の天子 様」

本当にありがとうございます!
これからも頑張っていきますので応援よろしくお願いします!

それでは、次の話もお楽しみに待ってください!


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第30話 喜多見良子という少女

前回は、スネアドラムを直したところまででした

今回は、帰り道のお話です

では、第30話始めます



あの日、自分達が目標の一歩を確実に踏んだ日

自分達の感情を映した一枚の記憶を取り付けた日

この映像はまだ終わっていなかった

 

空はもうすっかり暗くなっていて、街灯が自分達を照らし出す

土曜日はあんなに暑かったのに、今日は少し肌寒い

太陽光がなくなった世界では、急激に温度が下がったのだ

今朝、もう早く制服移行期間が来て欲しいと願っていたことを、今すぐに訂正したくなるくらい冷えている

 

これが、1人だったらもっと辛かっただろう

何もすることのない帰り道に

ただただ歩いて

人工の冷たい光に当たり

月が登る頃に、もっと寒い家に着く

こんなことをしていると、先程の行動を忘れてしまうだろう

 

(...なんだかんだで、こういうことが辛いって考えるようになったのは成長なのかな...)

 

と、自分に説いてみた

1ヶ月前には、こんなことを考えている自分がいることを知らなかったのだ

 

『月』と『太陽』のように

『夜』と『昼』と同じく

『裏』と『表』みたいな

『見ない』と『見る』感情

 

どちらをとっても、自分という存在になり得ないのだと、少し気付かされたのだ

自分も人なのだと改めて直視させられてのだ

 

 

その原因を作った片割れが、私の横を一緒に歩いている

彼女の動きは何だか、舞踏館でワルツを踊っている人のように見えた

自分と違うリズムを地面に響かせる

そのリズムは自分と違って、跳ねるようなリズムで楽しそうだった

そのリズムが脚以外にも、全ての部位に届いているかの如く、彼女の感情を表していた

 

 

「ねーねー!君が笑っている顔ってとっても素敵だったわ!」

 

「そりゃあ、どうも」

 

これに似たような言葉を、どこかで聞いたような気がする

 

 

「誰かの笑顔って、なんだか心落ち着かせる効果ない?例えば、普段見たことない人の笑顔なんて抜群の効力があると思うけどなー?」

 

「そんなもんなんですかね?」

 

濁した答えが、その答えを自分は知っている

知らないはずがない

この世界ではない違う世界で、最近知り合った女子高生

2人の笑顔に癒されなかった日なんてない

2人の顔がだんだんと脳裏に鮮明に映し出されていく

だが、彼女は話をやめない

 

 

「私もねー、先生もねー、君のことを誤解してたんだと思う。君って、本当は笑顔を作ってしまうタイプなんじゃないかな?って話してたんだ。」

 

「そ、それは初耳ですね」

(...そんなこと思われていたのか...)

 

と、2人の事よりも自分のことを考えさせる話をされたのだ

でも、側から見たらそう見えるのも無理ない

自分がこの世界で見せた笑顔なんて、今日のことくらいしか思い出せないのだ

そうなれば、自分が笑えない人間だと勘付かれるのは当たり前なこと

とは言っても、何故作り笑いができないとなるんだ?

 

 

「でね先生と一緒にいつか、心の底から笑わせられるように、っていうことを話し合ってたんだ。でもその目標は今日すぐに叶っちゃったけどねー」

 

「あはは、なんかすいませんね」

 

いや、そんなことしようとしてたんですか!お二方!

ある意味それを聞かずに今後、どのような展開が待ち受けているのかと思うと、ゾッとする

この喜多見良子のことだ

絶対に普通じゃない方法で来るに違いない

ましてや、そこに先生までもがいるとなると問題は肥大化する

その気になれば、吹奏楽部を動かすこともできるのだ

そうなる前に、自分は決定打を出せたということに安堵した

 

 

その後、珍しく自分から話を振っていた

会話を続けたい訳ではなかった

それなのに、自分の口が動いていた

 

 

「そういえば、良子さん。今日あんな物を用意しているなんて思ってませんでしたよ。良子さんのお父さんはどんな人なんですか?」

 

何故だ?

自分は何故、喜多見良子の父親のことを聞いたんだ?

あの時、自分は喜多見良子の発言からは、何も示さなかった

なのに今更、あの長い至福の時のほんの5文字(おとうさん)

自分は聞いていた

 

それを聞いた喜多見良子は、自分の方を振り返り、目を大きく見開いて、自分を見つめていた

相手からしても、自分の言葉の意味がわかってないのだろう

喜多見良子の目に、自分の顔が写り込んでいる

自分は、喜多見良子に全てを見られているようだった

 

周りの時間が止まった感覚に陥った

実際、自分達は急に立ち止まっていた

どちらが先に止まったのか、覚えていない

ただ、自分を見つめている喜多見良子の眼から逃れられない気がして、

逃げてしまえば楽なのにという、いつもの作戦が通用できないと感じる

相手のせいと思いつつも、自分自身もこう思ってしまった

 

 

喜多見良子のことを、もう少し踏み込んでみたいと

 

 

 

あれから、何分経っただろう?

自分達は未だに、目を離さないでいた

正直、こんなに見られていると恥ずかしくて堪らないが、ずっと我慢している

質問をしたのは、自分の方なのだ

発起人が先に動いてはいけないと、何かが自分を止めている

 

誰も通らない裏路地の端っこで

電灯がない狭く暗い場所で

東からの月光だけを受ける

 

 

ようやく、彼女が動いた

この鎮静を動かした

 

喜多見良子は、自分の眼から一瞬で目を逸らすと、今の場所から1歩2歩...

3歩と歩いていく

自分の見える世界には彼女はいない

だが、革靴の音だけがコツコツコツと、3拍を奏でている

確かに彼女は動いたはずなのだ

この路地裏は一本道だ

近くに交差点もない

従って、彼女がいるのは...

 

自分はゆっくりと振り返った

視界が、急に明るくなってそこからまた暗くなる

その一瞬に、月を掠め見た

 

BINGO

喜多見良子はまた姿を現した

自分よりも後ろにいたのだ

家に帰る道を、学校側に戻っていた

理由はわからないが、そこにいる

 

そして、彼女の姿がしっかりと見えるようになった

そこに見えたのは、先程自分を凝視している彼女ではなく、月が出ている方向に顔を上げ、ボーっと見ていた

月に照らし出された彼女の姿は、何故か寂しげで、白い百合の花のように美しく見えた

 

自分はその姿が美しく見える反面、痛々しくも感じた

顔全体が見えていないが、あの雰囲気を知っている

父親が死んだ時に、小さい頃の自分を思い出すようで...

 

(ウッ...!)

 

何かが込み上げてくる感覚がする

身体の中から何か熱い物が吹き出しそうになってしまった

少し息が苦し...

 

(まずい...このままでは...)

 

自分の何かが壊れてしまう

誰かがいる前で、こんな姿を見せるわけにはいかない

逃げなきゃ

逃げてこのまま、家で倒れたい

 

そう考えた

こうなってしまった以上、喜多見良子に触れる暇もない

自分は震え始めた脚をなんとか動かそうとした

 

 

「私のお父さんのこと聞かれるとは思わなかったよ」

 

と、喜多見良子には言い出した

その言葉を耳にして、私の身体は動かなくなってしまった

手で口を押さえ、もう一つの手で胸を押さえているのに

少し苦しくなってきてるのに

首にまできた酸い物を感じているのに

 

(ここで倒れてしまうのかな...)

 

なんて弱音を吐きながらも、立ち尽くしている

最悪、喜多見良子に助けてもらえるんだと思うと迷惑だと思いながらも、有難いという思いも湧いて出た

だけど、それも倒れてからの方が数段マシで...

 

こんな馬鹿なこと考える事しか出来ない

自分自身を嘲笑いながら、彼女の方に目をもう一度傾けた

もうこんな姿を見られているか、という勝手な思い込みをしながら

 

...彼女はまだ月を眺めていた

というか、彼女は動いていなかった

 

白く可憐な百合の花は、痛々しさを感じなくなった

 

 

「私のお父さんはね、昨日また違うところに行っちゃったんだ。ここよりももっと遠い所にね」

 

彼女は自分の質問に答え始めた

自分を見ながら話すのではなく、月と夜の空を見ながら

 

 

「だから、私とお父さんが会えるのは1ヶ月に3、4日くらいなの。場合によっては、1年以上会えないこともある。昨日はね、たまたま会える日だったの」

 

自分が入る隙もなく、語り続ける

 

 

「お父さんのお仕事は、医者なんだけど、世界中を旅しててね。世界中の人を救ってるんだ。ある時は紛争地域に行って、怪我している人を治療したり、またある時は飢饉の国に行って栄養治療をしたりもするんだ」

 

自分は、それがどういうお仕事なのか知っている

多分、国境なき医師団という組織だ

 

 

「だからね、お父さんは世界中のいろんな人を助けてるんだ。私はね、そんなお父さんが大好き。でもね、最初はそう思わなかったんだ。小さい頃は、お父さんがいつの間にかいなくなってて、一人で寂しい気持ちで遊んでいたんだ。幼稚園に行ってた頃は、周りの子とも話すのが苦手でね。その理由はつまらないんだけど...その子たちはね、お父さんが迎えにきてくれるの。嫉妬なのかな...?でも、そんな子が羨ましいって思ったんだ」

 

...自分と似たような状態であったことに少し言葉を詰まらせた

吐く息は、先程の苦しいという思いではなく、何を言えばいいのか迷っている息だった

彼女も小さい時は寂しかったんだと思うと、同情する

悪い意味ではない、いい意味でだ

というか、自分の過去を引きずったままの自分が情けない

そう思うと、だんだんとしんどくなくなっていく

少しの間があったが、また喜多見良子が話を続けた

 

 

「そんな悪い子になってから、2年くらい経ったある日だったけな...私は年長さんになりたてで、今までと同じように家に帰ったんだ。そうしたらお父さんが久々に帰ってきてたんだ。私はすっごく嬉しかったんだ。だから、お父さんに抱きつきに行こうとしたらね、お父さんがとても怖い顔でダメだ!って言われちゃったんだ。その声に怒られたって思って泣きそうになったんだけど、そのお父さんは包帯をいろんな所に巻いていたんだ...

そこから、初めてお父さんのお仕事について聞かされたんだ。お父さん、紛争地域で現地の人を助けようとしたら、建物が倒壊してきてね...。助けた人はお父さんのお陰で、難を逃れたんだけど...お父さんは、脚を挟んじゃって、動けなくなっちゃったんだ...。そのまま、数時間助けが来なくて、血もどんどん出てくるから、最悪脚がなくなってるくらいの大怪我だったんだけど、幸いなことにそこまでの大きな怪我じゃなくて、足の骨を折ったり、輸血をしたりしたくらいだったんだ。だから、怪我人をそんな場所に置いておけるわけにいかないから、日本に返されたんだ。」

 

...壮絶な過去だ

自分の父親は、人を助けて、電車に轢かれて死んだ

それに対して彼女の父は、人を助けて、大怪我をしたが生きている

お互いに似ている...そんな風に彼女からは見えなかった...

ではなんで、わたしとこんなに彼女は違うんだと考えていたら、すぐに答えを出してくれた

 

 

「最初はそれを聞いて、怖かった。お父さんが、もしかしたらもう会えなくなっちゃったらって考えると、怖くて怖くて泣きそうだった...。でもねそのあと、初めてお父さんの強さを知ったんだ。電話でお父さんが笑顔になっていたんだ。私は怪我してるのに、なんで笑顔になれるのかな?って思って聞いたんだ。どうして、そんなに嬉しいのって。そうしたら、お父さんが言ったんだ。

 

俺が助けた人が元気になってくれて、新しい居住区で新しい生活が出来てるって聞いたんだ!これ以上の喜びはない!

 

って言ったんだ。お父さんは死にそうになったのに、その助けた人を恨むこともなく、逆に喜んでる。それは私と違って凄いことだって気付いたんだ。だれかを妬ましく思ったり、恨めしく思ったりするのは簡単だよね。だけど、お父さんのように誰かのために頑張って、幸せにするって言うのは難しいんだって思ったんだ。そして、誰かを幸せにしたら、そのあと自分自身も嬉しくなるんだってね。

だから、その日私は決めたんだ。私がいっぱい頑張って、お父さんを嬉しくさせようって」

 

ああっ...ここだ...

ここが違うんだ...

自分は、喜多見良子の話を聞き入っていた

彼女の考え方は、父親が生きてるから生まれた気持ちなのだろう

そして、彼女のはじめての目標がこれなんだろう

 

 

「その電話以降、お父さんは全然楽しそうじゃなかったんだ。あの時の笑顔以来、お父さんの顔はほとんど変わらなかったんだ。私がきても、今のお父さんは何も出来ないからって言われちゃたし。それでも、私はめげなかった。お父さんにいろんなことを、一緒にやろ!って誘いまくったんだ。塗り絵や、パズル、お歌に、あやとり...出来るだけ、脚を使わない遊びを探してきては、お父さんと遊ぶ、そんな生活をし始めたんだ。そうしたら、だんだんとお父さんの顔が解れていって、私との時間は辛そうな顔をしなくなったんだ。そうやって、頑張っているとね、幼稚園でもいろんなことに挑戦し始めようになって、今まで興味がなかったことも、楽しくなるまでやってみ始めたんだ。その様子を、周りの子達も見ていたのか、だんだんと私の周りに集まってきてね。その子達と話して、お友達になって、みんなで楽しく遊べるようになったんだ!」

 

彼女の話は止まらない

というか、止めたくなかった

自分はと言うと、もうすっかり元に戻っていた

酸い物は消え、体の震えも止まり、手も強張っていなかった

自分とは違う神様を見ているつもりで

説法を唱える聖職者の話を聞き入っている

 

 

「でね、ちょうど今頃だったかな...鍵盤ハーモニカを幼稚園で吹いたの。最初は音がうまく出せなかったけど、だんだん音が出せるようになって、私は、これをお父さんに聞かせたいって思って、家に持ち帰ったんだ。それから、お父さんの目の前で鍵盤ハーモニカで、簡単な音楽を弾いてみたの。曲名までは思い出せないけど、今振り返ると、とても上手だと思えないくらいだったけど、一生懸命弾いたんだ。そうしたら、お父さん、あの電話の時以上の笑顔を私に見せてくれて。

 

良子、お前はすごくいい音楽を奏でてくれたね!お父さん、とっても嬉しいよ!

 

って言ってくれたんだ!その時の笑顔は、今でも覚えているよ!お父さんの笑顔を見た私も、釣られて笑顔になっちゃうくらいとても嬉しかったんだ!だからね、今も音楽を続けてるんだ。あの時見せてくれたお父さんの笑顔を、他の人にもしてほしいなって思って」

 

彼女は、はじめての目標を達成させられたんだ

だからこそ、今の彼女ができている...

こんな経験ができれば人が変われるんだと、いい体験例を聞けた

そして、自分もこうなれるんじゃないかと改めて感じた

 

人を笑顔にすることは、自分には重すぎると思い込んでいた

夢の中で出会った二人を笑顔にすることができたのだが、あれはあの二人だったからこそだと勝手に思い込んでいた

だが、そんなの関係ない

わたしが頑張ったからこそ、二人が笑顔になれたのだ

そうだ、あの二人もそんな気持ちで私に接してくれていたのかも知れない

 

そう思えると、自分でも頑張れそうという活力を生んだ

 

自分のことに気を取れていて、彼女の方を見ていなかった

そして先程まで冷たかった肌触りが、暖かい風が私の頬を、優しく触れていく

風が吹いた方角を見ると、喜多見良子が月から私の方に向き直そうとしていた

横顔が正面になろうとしている

その時、小さな雫が月光に反射してキラキラ光った

それはまるで、過去を洗い流した結晶のようであった

 

自分の方に完全に向き直った喜多見良子は、

夜にも関わらず、向日葵のような笑顔で満開に咲いていた

やはり彼女には向日葵のような笑顔が似合う

 

 

「ごめんね、ずっと君の言葉も聞かずに、私の過去話ばっかりして。こんなに話し込んだのは久しぶりかな?」

 

「いえいえ、とんでもないですよ。こちらこそごめんなさい。」

 

「君はずっと私の話を聞いてくれたんだもん。謝る必要はないよ?それとね、君には本当に感謝してるんだよ?」

 

「と、言いますと?」

 

「私が君のことを先生に聞いた時、なんだかとっても懐かしい感じがしてね。君が、壊れた楽器を直して、演奏したいって言う気持ちがとっても素晴らしいことだって分かったから、一緒になって手伝いたいなぁって思ったんだ!」

 

「良子さんの過去と同じ目標持ってたんですね」

 

「うん!だから、君のこともっと近くで見ていたいなって思うんだ!いつもありがとうね!君は最高の友達だよ!!」

 

「ひゃっ!?友達!?」

 

また変な声が出た...

動揺しすぎなんだよ自分

もっと喜べ

 

 

「うん!君は私のことどう思ってる?」

 

ここで、頑張れ勇気を出せ!!

 

 

「と、友達です」

 

声が小さいぞ!

喜多見良子は遠いんだから聞こえないぞ!

 

 

「んー?きこえなーい!」

 

ああっ、だから言わんこっちゃない!

もっと大きな声で!

 

 

「友達です!」

 

よし!よく言えた!

 

 

「おっ!聞こえたよ!嬉しい!」

 

その一言に、自分は安堵した

自分の中で鼓舞してきたことが報われた

そして、大きな声で言ったことに、今更後悔し始めた

頬が熱くなってきた

その熱さは、恥ずかしさなのか照れなのか

その二つの選択肢で迷う前に、自分の顔は左下を見た

 

そうすると、勢いよく喜多見良子が掛け寄って来た

離れる時よりも2倍くらいの速さで全力で来た

走りながら鞄の中から、今日使ったポラロイドカメラを取り出している

ポラロイドカメラを取り出しきった後、自分の目の前に急停止した

 

その勢いと、急に近くなった喜多見良子に、自分はまた正面を見てしまった

目がまた喜多見良子で一杯になる

彼女の笑顔で釘付けにされる

そんな光景のせいで、もっと頬が焼けるように熱くなった

選択肢の答えが決定してしまったのだ

 

そして、彼女は言い始めた

 

 

「このポラロイドカメラはねー。うちの家でもとっても大切にしてる奴なんだ!さっき話した、お父さんに聞かせた鍵盤ハーモニカを聞いてくれた日に、写真を撮った時に使ったポラロイドカメラなんだ!もう10年くらい私の家で使ってるんだけど、こうやって家族以外の人を取ったのは初めてなんだー!お父さんは、お仕事でいろんな国で仕事用のポラロイドカメラを使うんだってー。でね、いつも同じ写真を二枚とるようにしてるんだって、一枚は自分用で、もう一枚は現地に残す用。

そうしたらスマホのカメラで撮った写真じゃ味わえない、オリジナル(原画)の写真が、両方とも手に入るでしょー?それがいいんだって、だからほらっ!」

 

と言った瞬間、彼女はポラロイドカメラを持った手を、空へ向かって伸ばし、自分にくっついて来た

彼女が触れてきたことに対して、びっくりする暇もなく、空に出されたカメラを見上げると、

急に二回の新しい光が発射された

 

思わず、目を閉じてしまった

そして、ジーっという音と共に、この空間を切り取った生まれたての写真達が出てくる

彼女は慣れた手つきで二枚の写真を受け取り、自分に1枚渡した

 

写真を見てどんな感じか認識する前に、大きな声で喜多見良子が笑いながら言った

 

「はははっ!!!君、めっちゃ目閉じてるね!それになんだか変な表情っ!!!」

 

「や、やめてくださいよ」

 

「でも、同い年の二人でのツーショットなんて初めてだったけど、なんかいいね!これ記念に飾るねー!」

 

なんて言ってきた

その言葉を聞いてから見ると、本当にそう思う

目は閉じているし、口は半開きだし、なんか顔も無表情を隠そうとしてるけど、なぜか焦ってる感じがする

それに対して、彼女の顔は最高の笑顔で顔の横にはピースまでされていた

 

こんな雲泥の差を見せられた写真は初めてだ

これが経験の差なのかと、変な感想を考えていたら、近くの家の電気がついた

これは偶然かもしれないが、喜多見良子の大きな笑い声に反応してついたのかもしれない

そうすると、こちらを窓ガラス越しに覗き込まれるかもしれない

 

そんな風に考えていると、彼女も同じことを考えていたのだろう

こんなことを言いながら、走っていく

 

 

「あっ、もうこんな時間!?じゃあね!私、今日夕ご飯の当番だったのー!君も早く帰りなよー!!」

 

と、また大きな声を出して帰っていく

先程来た道を戻って歩いていた道を、次は帰るべき道に進んで走っていった

彼女の奇想天外な行動に、やれやれと少し息を吐いた

下げていた顔を上げると、近くの家から窓ガラスを開けて自分を見ていたのがわかった

自分は軽く会釈をした

そうすると、相手も釣られて会釈をする

そして、私も同じ方向へと歩き出した

 

感じた晩春の夜風の冷たさと、手に残った出来立ての写真の暖かさに、困惑しながら

写真を大切に生徒手帳に挟んで、胸ポケットにしまった




...本当は下校風景を書く予定はなかったんですけどね!
最初の計画では、このまま次の日の学校でのお話を書くつもりが、気がつくと下校シーンを掘り下げてしまってました!!

最近いろんな人に私の小説を読んでもらえる機会がありまして、その方々に感想を聞いてみると

「喜多見良子のことが気になる」

と、言われましたので書いてみました
一体いくら書いたんですかねぇ...(約8000字)
というか、ひさびさにシリアス(?)な内容かけて満足です


バンドリでは3周年に入りましたね!
いっぱいガチャ回しました!結果、星4いっぱい当たりました!!

でも!!ドリフェス花音ちゃんは出ませんでした!!!!!

なんでや!!
というわけで、有償2500個で星4選択チケットで花音ちゃんを書いました(1年ぶり3回目)

そして、カバー曲にまさかの「Bad Apple‼︎feat.nomico」が追加されました!!
東方好きの私からしたら本当に嬉しすぎて堪りませんでした!!
Roseliaカバーも好きになりました
ありがとうバンドリ運営様!

最後にこの小説をお気に入り登録していただいた
「雷鳴滝 様」
「hanajan4 様」
「はるv 様」
「山山山山 様」
「小鴉丸 様」

そして、評価していただいた
「小鴉丸 様」

本当にありがとうございます!!
私個人、第29話はとっても好きなのでいろんな方に読んでもらえて本当に嬉しい限りです!!
そして何よりも、ハーメルンに小説を投稿するキッカケにもなった「小鴉丸様」に読んでいただけたことが何よりも嬉しいです!
ずっと目標にしてる方からの高評価なんて私死んじゃいます((
これを励みにもっと精進いたしますのでこれからもよろしくお願いします

それでは、次の話も楽しみに待ってください!


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第31話 希望からの裏切り

前回は帰り道での喜多見良子と二人での下校風景でした

さて今回は、その日の夜と翌日の朝です

では、第31話始めます



あれから自分は、下校路の冷たい空気を感じることなく家に帰った

家の中は案の定寒く、ここが本当に室内なのかがわからなくなる

ただ、ここはいつもの私物が散乱している自分の第2の活動拠点であることは、火を見るよりも明らかだった

 

日曜日の記憶は飛んでいたが、確かに自分は生きていたのだ

今日が月曜日で、今日もしっかり生きている

つまり、その二日間の寝間着や料理皿、干してから畳んでない衣服などが、無造作に配置されている

 

自分はこの寒い場所を整理しながら、今日の全てを思い返す

思い返そうとすると思い返す

今日何度思い返したんだろうと

思い返しすぎて、数えようと思わないほど思い返した

「思い返す」という単語が何故か無限に湧き上がる

 

(クソッ...疲れが回ってるんだ...)

 

そう言わざるを得ない

頭の中では今日のいろんな描写が次々に映し出される

 

何気ない通学路

何気ない教室

喜多見良子の笑顔

クラスメイトの表情

教室から見た夕焼け

誰もいない薄暗い廊下

吹奏楽部員数人の大きな荷物

喜多見良子の制服姿

自分で買った新しいドラムスティック

先生の残念そうな顔

新しくなったスネアドラム

ポラロイドカメラに

コルクボード

フェルト

月光と街灯に照らし出された喜多見良子

間近に見える喜多見良子の笑顔

走り去っていく喜多見良子

見知らぬ人の姿

 

この全てが1秒感覚にフラッシュされていく

どんどんと変わっては、すぐに消えていく

生まれたものが消える

それもランダムに

 

ただ、自分の移り変わる記憶の中に強く焼きついたものがある

2つの写真だ

 

二人と三人

生徒と先生

友達同士

 

合わせて五人のうち、二人以外は暖かさが伝わるような顔をしている

他二つは正直どうでもいい

この写真二枚の向日葵は忘れないだろう

いや、忘れたくない

 

色々考えているうちに自分の意識は遠のいていった

向日葵の笑顔を焼き付けながら

新しくできた友達を思いながら...

 

そして、夢の中で出会った大切な人のことを投影しながら

自分は、まだ見えない写真を創り出した

 

喜多見良子と私と弦巻こころ

 

この三人が仲良く笑っている姿を

三人が向日葵になることを

三人がみんな生きている写真を

世界を笑顔にして、誰かを嬉しくさせる、そんな人になれるように

自分も変わりたいと強く思う

 

 

生まれ変わった自分で思いっきり言ってやるんだ

 

「今日はみんなで困った人を助けに行こう!」

 

この言葉をこころと良子に

 

 

目も霞んで、頭が重くなり、瞼を閉じ欠けている

全てを回想しきった後、自分の今日の物語はエンドロールを迎えた

切れゆくフィルムに最後の言葉を添えた

 

(...こんな日に...こころに会えればいいな...)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

...

......

眩しい...

 

その眩しさに、自分は目を少しづつ開け始める

横になった世界が寝惚け眼に移り始める

働かない頭を最大限使いながら、手を動かした

 

(おかしい...)

 

普段は寝相が綺麗な方で、布団から頭以外の部位が出ることは滅多にない

だが今日は違った

なにか手に触れているのだ

それが何か?

それがわかるほどの脳がない

こうなれば取れる行動は限られてる

自分はその謎の物体を力強く握りしめた

 

グシャッ

 

虫が潰れたような小さな音が布団の中から咽び泣いた

その音に少しの動揺を感じ、自分の頭は完全に回路が繋がった

目を大きく見開き、布団を思いっきり蹴飛ばす

蹴飛ばした際に作られた風が、全身を震えさせようとしていた

布団が舞い、自分は上半身を起こした

 

(...なんだこれ...どうしてこんなところに...)

 

真っ先に見えたのは布団の端に置かれた生徒手帳だった

今年の春に作ったばかりの新品

校章が金色に光り、鬼灯のような赤を纏った高校生の証が、そこにあった

 

なのに、その生徒手帳は曲がっていた

表面はそこまで大きく湾曲しているわけではなく、中のページが一部膨らんでいた

普通にはありえないことなのだが、何故こうなったのか

その考えが、布団の上に置かれた生徒手帳では分からなかった

まるで、白紙の上に赤鉛筆で一つ丸が作れられたダイイングメッセージを見ているような気分だった

 

こんな自分みたいな探偵がいたら、確実に事件は迷宮入りするだろう

物的証拠を触ろうとせず、ただただ見つめているだけ

これで解決できれば、警察なんていらないのだ

と、そんな無駄なことを考えているうちにもう一つの手掛かりを見て見ることにした

 

 

事件は一瞬で解決した

 

 

先程まで死んでいるように寝ていた人は、グシャグシャになったある物を握り締めていた

手を恐る恐る開かせると、自分の身体から冷たい汗と血の気が抜けるように、このまま本当の死体になってしまうのではないのか、と思うほど動転した

 

自分が手の中に隠した証拠は、昨日の帰り道に撮った1枚のカメラフィルムだった

 

その写真には、自分の希望をいっぱい詰め込んだ宝物といってもいい代物だ

だが、その大切な品がこんな惨めな姿に変えてしまっていたのだ

その犯人は、自分だけ

最初は被害者みたいな見た目をしていた自分が、実は犯人

こいつにはなんらかの実刑を与えてやりたい

 

(やばいやばい、早く広げなくては)

 

数秒間の沈黙の後、自分は焦りながら手の中の写真を布団の上に置いた

布団の上に置いたことで、全ての面が光を浴びた

ちり紙と同じようになってしまった物は、何故か表面に印刷されている面となっている

謎が増えてしまった

だが、そんなことに気が回らないほど、自分は冷静ではなかった

 

冷や汗が顔から流れ、首元が熱い

身体の至る所がいろんな体温に変化していた

それを上回るように、胸から聞こえる心拍数の上昇が、私の脳に刻み込む

口から何か吐きそうだ

 

いや、今はそんなことどうでもいい

自分は全てを考え込まないように、耳に打ち込ませ、布団から勢いよく飛び上がる

 

すぐさま二本足で立ち、早速テープを探しにリビングに駆け込んだ

 

 

 

何分かが経過した

あれからまだ寝室には戻ってない

リビングにテープを探して徘徊している

一人暮らしのリビングだから、物が少ないはずなのに全く見つからない

終いには、見つからないことにイライラし始めて、違うものを地面に投げ捨てている

 

この空間は今はもうリビングではなく、物置小屋か、ゴミ屋敷と化していたいた

当然、そんなことに気づく余地もなくひたすらに目的のブツを探していた

 

狭い物置小屋を全てひっくり返した結果、テープなんて見つからなかった

この際、テープの代わりになる代替品でもいいと考えたのだが、のりもガムテープも接着剤もない

こんなに漁ってもないのだから、絶対におかしい

 

(馬鹿だ

こんな自分はほんと馬鹿だ

こいうことを見越して、必要最低限以外のものを買っておく必要があっただろうに...

なんで、自分は持ってきてないだよ

お前のせいで、こんな大変な思いしないといけないんだぞ

そもそも、お前が写真を握り込んでいなければこんなことにならずに済んだだろ

お前にはいつもうんざりさせられる

こんなことばっかりしてるから何もできずに終わるんだよ)

 

全てを試した結果、何もできなくなった自分自身を嘲笑った

こんな自分が本当に嫌いだ

嘲笑っている自分も

失態を犯す自分も

そして、何もしない自分も

 

こんな大散乱している空間で、自分は膝をついて天井を見上げた

ただただ真っ白な天井

何も書かれていない天井

全てが無の天井

 

こうやって、いつも自分自身を嫌になった時は上を見つめるのだ

そして、自分はこう思い始める

 

(...こんな何もないことが一番いいんだろうな...)

 

と、瞑想(迷走)する

これが自分の癖

お父さんが死んでから、何度もやってきた逃避行動

天井を見て、何も考えず

天井を見て、自分と照らし合わせ

天井を見て、何時間も動かない

 

何もしないという快楽から逃げることができないのだ

 

(ああっ...このまま何もなく終わればいいのに...)

 

...ここまで来ると抜け出すのはほぼほぼ不可能なのだ

あとは時間が解決してくれる

数時間も経てば、元に戻れるだろう

 

だが、今日は違った

 

天井を見ている目に映る

 

 

何もない色が、自分を思い返させた

先程までいた寝室の布団の色と同じであることを

 

そして、授業中に使うノートの色も白だということを

 

 

(...あっ!そうだ...!)

 

自分は、気がついたのだ

気がついた瞬間、自分の膝に全体重をかけて、お尻を下げた

そして、正座の状態から、浮き上がるほど跳躍した

その時、思いっきり膝を擦ったが、そんなことは気にならなかった

不完全な着地とは言えない、着地をして足首も痛いが、しったこっちゃない

 

自分は頭を全力で左右に三回振り、全速力で寝室に戻った

 

 

 

ドタドタドタ

 

うるさい足音が、廊下を響かせる

響かせている音源は寝室の前で止まり、壊れるんじゃないかという勢いで扉が開いた

 

 

ガッチャアアアアンンン!!!

 

 

凄い音が部屋中を叩いた

全ての勢いを壁で吸収して出来た音は、ビルの解体現場のような音を出した

その音のうるささに、近隣住民からの苦情が来てもおかしくないのだが、その時はその時だ

いや、今は何も考えるな

その時はその時だ

いくらでも対処法はあるんだ

 

苦情が来たら、後々謝ればいい

リビングのゴミも、あとで片付ければいい

自分の愚かなミスも、その分以上の良い行いをしていけばいい

宝物も、飾っておけばいい

メソメソするのは後回しだ

 

今は、今しかできないことをやらないといけなんだ!

今やるべきは...

 

宝物を一生無くさないように、直すだけなんだ!

 

(よし!)

 

寝室に入って真っ先に、私の頬を両手で叩いた

 

バッチィィィンン!!!

 

この音も高々と轟かせた

強烈な張り手を自分自身にお見舞いした

意味は、二つあるのだ

気合いを入れるという意味と

罪人に対しての刑

 

二つとも絶大な効果を発揮させられる

頬が真っ赤になって、ヒリヒリする痛みがあるかもしれないが、それを忘れさせれるほど気持ちが変わっていた

 

 

自分は、布団の近くにあった学生鞄を開けた

ファスナーを壊すわけにはいかないので、一気に開けずゆっくりと

開ききった

その中は、教科書とノートと念願のブツがあった

 

(よし!これだ!)

 

鞄の中から、取り出す

自分は、筆箱を取り出した

そして、カバンを同じくファスナーで開けると、ようやく見つけた

 

テープ

ここに入れてあったのだ

しかも、スティックのりも接着剤も入ってある

こういうところに、自分は用意していたんだ

まさに、灯台下暗しだ

 

テープを見つけた瞬間、自分の心は透き通るように楽になった

これのために必死になってやってきたのだ

報われて本当に良かった

 

だけど、これで終わりじゃない

このテープを使うのが本題なのだ

 

 

テープを手に取り、写真を広げる

クシャクシャになった宝物が平たくなっていく

そして、自分は信じられない光景を見たのだ

 

写真の全貌が明らかになった

この裏を向いている写真は、どこにもヒビが入っていなかったのだ

あるのは、握った時に付いたと思われる皺だけ

アレっ?という気持ちを抱きながら、写真を表向けた

 

表面にも、何も傷がなかった

破れてないし、印刷面が滲んでいるわけでもなかった

二人の表情は鮮明に写っていた

 

 

それを見た瞬間、自分の体が右へ傾いた

ガクッとくる落胆の気持ちのせいで、そのまま布団に倒れこんだ

目を閉じて、今の気持ちを心の中で叫んだ

 

(なんなんだよ...もう...今までのがなんだったんだよ...)

 

今まで、頑張って探した努力も虚しく、何も心配はいらなかったのだ

そもそも、その写真がいつから破れていると錯覚してしまったんだろうか

早とちりもいいところである

今度からはしっかりと、確認してから行動しよう

 

杞憂に終わった騒動が一段落ついてから、疲れがドッとこみ上げた

身体が鉄のように重い

今になって、足首も膝も頬も痛い

もうこのまま寝ていたい...

 

 

世の中は不公平だ

このまま、ゆっくり休息を取らせてくれてもいいものなのだが、うまくいかないものなのだ

自分には、もう一つ確認していなかったことがある

 

 

おやすみと、心の中で呟いて寝ようとしたが、やることを忘れていた

さっきの写真を大事に飾っておかないと、またこんな騒動が起きるかもしれないと

もう、こんな想いはこりごりだ

 

自分は目を開いた

目にだんだんと写ってきたのは、倒れた時に目の前にあったもの

必然的に、真っ先に目に入るものが...

 

 

「ち、遅刻だぁああああ!?」

 

そう...目覚まし時計に...

昨日の夜、目覚ましをセットするのを忘れていた

そのせいで、アラームが鳴らなかったのですっかり忘れていた

朝起きた時が、いつもの習慣で同じ時間だったとしたら...

この一連の騒動のせいで確実に数十分遅れているのは必然なのだ

いつもの家を出る時間からもう15分も遅れていた

 

自分は、思わず大きな声で叫んでしまった

 

そこからは怒涛の如く動き回った

皺くちゃの写真を机の上に置き、

写真が飛ばないように上に重しを置き、

寝間着を脱ぎ、

制服を着て、

今日の時間割の教科書類を学生鞄に入れ、

家を飛び出した

 

家を出る前に見た、元リビングの光景は名状しがたい空間であった

その空間に、わざと大きく息を吐き、見ないようにした

 

グゥーとお腹の異常を知らせる音とともに、靴の踵を踏みそうなところを、走りながら踵を靴の中にしまう

 

忙しない状態で、遅刻しそうな状態で、そんな余裕がないはずなのに

思わず、笑みがこぼれた

こんな最悪の一日の始まり方をしたのに、なぜかとても誇らしかったのだ

 

皐月の朝の空の下、一人の男子が全力で走っている

目から顎まで出来た、塩の痕跡を残しながら

口元は綻んでいた

 

 




...予定では3日くらい後まで書くつもりだったんですけどね!!!
そんな気持ちは1週間前に吹き飛びました((

というわけで、前夜と翌朝でした!
サブタイ通り、希望と少しの絶望の両極面を書いてみました!
書けば書くほど、どんどんアイディアが閃いてきたので、いい対比ができたと個人的には思っています
(読者様方はどうなのかはわかりません...)
もし、良かったら感想ください!!!


バンドリでは、今日からMorfonicaイベントですね!
この小説書き終わったらイベントやっていにたいです!
そして、全イベはハロハピ!!
私は野球好きなので、ハロハピ×ソフトボールの組み合わせは本当に嬉しかったです!
特に、あかりちゃんが出てきてくれたのが嬉しかったです!
元気になってくれて良かったよぉおおお!!!
今回のハロハピキャラは本当に好きなので、はぐみも薫さんも美咲も欲しかったです!
(なお、ガチャは爆死)

最後にこの小説をお気に入り登録していただいた
「セレウスローサ 様」

本当にありがとうございます!
小説もだんだんと中盤が終わろうとしていまして
あと数話で、現実パートを終了させようと思っています。
そして、みなさん待望(?)の夢パートに入ろうと思っています!
できるだけ早く書きますので、みなさんも楽しみに待ってくださいね!


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第32話 気付き始めた日常

前回は写真を貰った次の日の朝の描写を書きました

今回は少しづつ時間を早めていこうと思います

では、第32話始めます


...ッヒ...ヒッ...

 

自分から放たれる音は、文字には書けなさそうな擬音語を出している

15分も遅く家を出たせいでこうなってしまったのだ

マイナス分をプラスマイナスゼロにするには、どこかでプラス分得る必要があった

 

普段の2倍以上の速さで走ったのだ

目を見開き、大量の汗を流しつつ、呼吸のリズムを乱しつつ、脚が焼けると思うくらいに全力で走った

 

その結果、なんとか間にあっ...ってなかったのだ

全力すぎて、途中で聞こえたかどうか忘れていたが、自分が校門に着いた時には、もう門が閉まっていた

 

流されていたはずなのだ、チャイムが

始業時間を知らせる最終警告が

朝の会という、担任による抜き打ちチェックが行われる確認の音に

 

(クソッ...間に合わなかったか...)

 

自分の息はまだまだ整うことを知らず、心の中で呟いた

自分の心に呟いた気持ちも、何も伝えられていなかった

自分の心臓は、火を掛けている鍋底のように熱く、沸騰していた

身体全身の体温を全て集められている錯覚に陥るほどの強調力

その全てを、自分のあらゆる感覚が絡み取っている

 

心拍数の上昇により、内部から聞こえる悲鳴の音

口の中に感じる、血の混じったような唾液の味

手から伝わる、痙攣しそうなほど動いてしまう振動

異常を感じる、酸っぱい刺激臭

 

色々なものが、このままだと死んでしまうという、警鐘を鳴らし続けている

それなのに、自分の身体を動かそうとできなかった

ひとつだけ、自分の異常を感じ取れない感覚があった

 

滲んで見える白のコンクリート

 

私の視界だけが、外的要因を感じていた

4つの意見が一致している中、一つの反乱分子

そいつも、過半数以上の主張に無理矢理動かされているが、その状況でもなお、抵抗し始める

身体のしんどさにより、頭が下がっている

その状態でも、自分自身を見ることはできないのだ

見えたとしても、それは自分の外面で、自分の内面は不可能なのだ

 

だからこそ、唯一物事を客観的に見ることができる感覚なのだ

身体から吹き出す汗に目の焦点が狂わせられる

だが、見える色に今日は色々な共通点を見出していた

 

写真の白

布団の白

ノートの白

 

今日が始まって、1時間も経っていないのにこの数

そして、その白達は全て自分を前に進ませてくれたのだ

 

 

だから、この状態でも進もうと思えたのだ

 

 

顔の汗を右腕で拭き、視界を戻す

滲んだSTOPマスが、澄んだSTARTマスに変わる

はっきり見えた出発点を見据えてから、自分は顔を上げた

 

5月の暑さを超える今日の天気に負けないように、校舎の窓が複数空いている

はっきりとは見えないが、黒い輪郭が窓の中央に映っていた

 

そいつらは、自分の方を向かずに、前を見ていた

もう朝の会が始まっていることを確信し、学校への進入路をゆっくり開けた

 

 

 

 

...遅刻なんて人生で初めての経験だった

今までの自分は、朝礼の15分くらい前には着いて、一人物静かに座っているだけだった

クラスメイト達がだんだんと教室に入っていく風景を流して見る

最初の静寂からの喧騒への移り変わり

それすらも感じることなく、自分一人だけの世界を作っていた

この世界には五感なんてものが存在しないに等しい

自分で作った無の空間に、悟りを毎日作っていた

 

だが、今日は違う

遅刻して初めてわかったことがあった

教室の後ろのドアを開けた途端、8割ほどのクラスメイトが、自分の方を振り返る

この異様な光景を流し見ることなんて出来なかった

そして、初めてクラスメイトの顔をしっかり見たような気がする

見えた顔は20程度だったが、その全てが違うのだ

一つ一つに個性があり、様々な(カタチ)がある

その像の一つに、喜多見良子もいた

 

知らない人に混じって入った、既知の像

だけど、そこにいるのは全て他人なのだ

全てが黒の亡霊ではなく、全てが色のある人間に見えるのだ

 

 

そして、人の視線を気にしつつ席に座った

そこから、担任による尋問が始める

 

 

「お前が遅刻なんて珍しいな。なんかあったのか?」

 

担任が朝の会に話していることを、真面目に聞いた

これも初体験なのだ

況してや、自分のことを題材にした言動なんて今までなかった

それも、怒られるわけではなく心配する内容だった

 

...こういう時にどう返そうか、まだ明確な答えを出せない

この前、喜多見良子が私に質問してきた時もこんな感じだった

答えを出せず仕舞いで、そのまま曖昧な返答をする

逃げに徹する行動をしてきた

 

しかし、今は相手が先生なのだ

先生に返す言葉が曖昧だと、どんどん追求され続ける恐れがある

誤魔化せば誤魔化した分だけ、後々後悔する

大人というもの達は融通が効かない

 

そうなった以上、真面目に答えるしかない

そう思って、自分は小さな声で話した

 

 

「あの...学校に持っていくものがどこにあるかわからなくて...家中探していたら...遅刻しちゃいました...」

 

先生がギリギリ聞こえるくらいの声を出した

それはまるで、親に叱られてる時の萎縮した子供のようだ

少し濁した言い方だが、真実を話した

それにもかかわらず、何故か嘘っぽく感じるのは何故だろう

前述のイメージがそうさせているのかもしれない

 

そんなことを考えていると、担任はこんな声を聞き取ってくれたのか

 

 

「そうか。忘れ物をしてしまうのもダメだが、遅刻するのもダメだぞ。まぁ、1回目の遅刻だから、私も軽い注意だけで済ます。では、出席も取り終わったので、あとは好きに......」

 

と、担任も納得してくれたようだ

自分の返答に、担任はなにも不思議には思わなかったようだ

そうして、自分は席に座り直した

気がつくと、先程まで自分のことを見ている人達は、既に全員前を向いており、担任の話を聞いていた

一瞬感じた個人達は、みんな他人に戻っていた

 

席に座った自分は、少しの違和感を感じつつ澄み切った青い空と校門を眺めていた

 

 

 

キンコーカンコーン...キンコーカンコーン

 

 

 

朝の会が終わって、1限目までの休み時間

担任の先生がいなくなって束の間の休息

クラス内は、急にザワザワし始めていく

次の授業の先生が来るまでに皆好きな行動を取る

 

何時もなら何事もなく、机やカバンの中から教科書やノートを出す

そこから、ボーっと黒板を眺めるだけ

 

それが何故か今日は、クラスメイトの個々の動向が気になっていた

第三者の一挙手一等足を軽く見てみたいという気持ちになっていた

鞄に触れることをせず、顔をあらゆる方向へと回す

一人一人を注視するのではなく、流し見程度で済ます

それだけでも、また感じることが今までと違っていた

 

まず、このクラスにはこんなにも人がいることに驚いた

今までは、自分以外を背景としてしか見ていなかった

その為、遠くの方で微かに動いている程度という認識しかなかったのだ

 

それが、興味を持って見ると不思議なことに、自分がいる空間にはこんなにも多くの人がいることを認識し始めたのだ

個々の行動は様々で、全てが同じ行動を示してはいなかった

 

トイレに向かう者

クラスメイト同士で2、3人集まっている者

一人読書をしている者

ドア付近で屯っている男子生徒

休み時間にお茶を飲む人

黒板の文字を消す人

 

この5分という短い時間の中で、皆それぞれの人生を歩んでいるのだ

その人達は、自分とはまた違った生き方をしている

そんな考え方を今まで出来なかった

だけど少し、自分が自分である意味がボヤけながらに見えた気がした

 

 

そんな浮いた不審人物がクラスの端にいる

こんな人に話しかける人は早々いないはずなのだ

だが、常識が通用しない人が隣にいるのだ

 

 

そう...金色に光る髪に、天真爛漫な笑顔で...

 

 

「ねぇ、聞いてるの?」

 

「は、はい!?」

 

聞こえてきた声に少し驚いてしまった

初めて話しかけられた時は背中が飛び上がりそうになるような驚き方だったが、それからはやはり成長しているようだ

 

自分は声がする方に首を回した

声の主やはり喜多見良子だ

自分の方を見て、腕を自分の机の上まで伸ばしていた

表情は真顔で、少し目が鋭かった

この顔から推定するに、何回か呼んでいたようだ

 

いつも自分はしっかりと対応できてない

毎回、喜多見良子から話しかけられているのだ

そして大抵驚かされている

まぁ、急に話しかけてくるのが隣人の個性というところなのだろう

そろそろ驚かないように常に心構えをしていた方が良さそうだ

 

そんなことを推測していると、また向こうから話し始めてしまったのだ

 

 

「ねー、君が遅刻なんてどうしたの?何時もなら私よりも早くついてるのにー?」

 

(いやいや、さっき担任に答えてたでしょ)

 

 

「さっきも言った通り、忘れ物があったから探してただけですよ」

 

「うーん?私はそうだとは思わないなー」

 

(えっ!?どうしてそう思うんだ?)

 

 

「いやいや、自分にだって忘れてしまうこともありますよ...」

 

「でもねー君の顔、なんだかすごい汗だくでー、それからなんだか頬のあたりに白い線がうっすら見えるんだけどなー?」

 

(えっ?頬の白い線?)

 

自分はその言葉に全く身に覚えがなかった

学校に行くまでの間、鏡を見ていない

なので、今どんな顔をしているか自分自身で確認することはできないのだ

ただ、そう言われるっていうことは確実に何かついていると確信する

 

不思議そうに人差し指を頬につけ、中指を顎に乗せたポーズで右上を見ている喜多見良子を尻目に、彼女の隙をついて頬をなぞった

なぞった指の腹を見てみると、確かになにかの白い結晶が付着していた

これが何の結晶かわかるまでにはそんなに時間はかからなかった

 

つまり、これは汗なのだ

厳密にいうと塩化ナトリウム

汗が汗腺から染み出し、頬を伝って流れ、蒸発し、固まった痕跡

ここに行き着くのは、高校生にもなった知識なら余裕に到達する

 

だが、妙なところがある

それなら、遅刻しそうになって全速力で走った時に汗は出ているはずだ

なのに、何故頬に残る汗が一本だけあるのか

 

校門に着いた時には、目が霞むくらいの大量の汗を掻いていた

その汗は今も、自分の制服の上部分を軽く濡らしている

濡れた部分の妙にむず痒い感覚があるということは、完全に汗が乾ききっていることはないだろう

それも朝の澄み切った晴天だとしても、校門からまだ20分も経っていない

教室は窓しか空いていない

クーラーや扇風機はつけていないのだ

ということは、これは汗の結晶ではないと結論付けできる

 

そうなると、これは何の跡なのか

またそこから考えないといけなくなってしまった

頬に残る跡...

白い線...

あっ...!

 

そこまで考えると、自分は咄嗟に右腕を頬に近づけ、そのまま顔を強く拭った

出来るだけ多くの証拠を消せるように

喜多見良子に気づかれないように

この証拠の原因が喜多見良子だと悟られないように

 

頼む...!気づくなよ...!

その一心で、出来るだけ早く隠滅を図った

 

 

「...やっぱり、その跡って...ってあれ?消えちゃった?」

 

「ん?どうしました?」

 

「あれ?さっきまで付いてたと思ったんだけどなぁ...」

 

(よし、気づかれてない...のか...?)

 

証拠は綺麗に消えたようだ

上の空を見ていた喜多見良子が、自分の顔をもう一度見ている

彼女の表情からすると、まだ不思議そうな顔をしている

だが、今と後では少し違うところがあった

 

彼女の顔が少し近づいてきたのだ

ずいっと自分の視界から大きくなる

 

口を軽く結んで、

目を軽く細めて、

頬が少し膨らんで...

あれ...?喜多見良子ってこんな顔だったのか

 

色々な部分が間近に迫っている

こんなに詳細に彼女の顔のパーツを見るの初めてだ

その全てが新鮮で、その全てが独特なものだった

 

 

「ちょっとそのままにしててね」

 

この言葉を最後に冷静ではいられなかった

目の前の子供は興味津々に、もっと自分との距離を詰めてきた

視界から顎、口、耳が消えていく

今見えるのは目だけになった

 

(ちょちょちょ!?!?待って待って!?近い近い!!!)

 

...こんなの自分の計算にはなかった

相手にこんな迫力で近づけられたことなんてない

 

(やめて...すっごく恥ずかしい

何でこんなに近いの!?

いやほんとダメだって!!

目の前に文字通り目だけしか見えないよ!!

Face to Faceだよ!!

いやもういいですか!?

逃げていいですか!?

ちょっと!?目を見開かないで!

目すごく綺麗!すごく透き通ってる!

目の前にいる人って誰だっけ!?

そうだ、良子さんだ!?

ということは...女の子!?

いやいや不味いでしょ!?この状況!!

ひゃっ!?良子さんの匂いがしてきた!?

なんかの花の匂い...?いい匂い...

ひゅぃ!?頬になんか息かかったよ!?ダメだよ!!

もうやめて...!?恥ずかしくて...耳まで熱くなってきたから...!?

死んじゃう!!死んじゃうって!!

早く終わって...)

 

自分の中で逐一、実況をし始める

制御ができない、感じるものを羅列するだけの状態

何も出来ずに、留まり続けるだけなのだ

 

 

「んー...やっぱりなんも付いてなかった...私の勘違いだったかー...」

 

「は...はやく...はなれ...」

「ごめんごめん、ちょっと気になっちゃって」

 

漸く彼女から解放された

彼女の接近から、彼女の離反までの数秒間が数時間に感じてしまうほどの地獄を味わらせられた

この間に、自分の身体は登校時の異常事態を遥かに超える、体温上昇を感じ取っていた

頭に大量の熱が籠り、手から汗が出る

頭が少しボーッとなり、手を無作為に動かし続ける

これが今できる精一杯だった

 

通常意識に戻るまで何秒掛かったかわからないが、戻った頃にもなると、自分の視界には彼女の胸あたりまで映っていた

やっと試練の時間をやり終えたのだ

そして、彼女の表情を捉えることができたのだ

 

 

いつものような笑顔がやはりあった

目を細め、口が少し綻んだ笑顔が

 

彼女の顔から少々の迷惑をかけたことが伝わってきて、なんとなく申し訳なくなってしまった

自分にとっての彼女の存在が大切なことだと、今一度感じた瞬間だったのだ

 

 

「あっ!それでね!君への伝言があるんだ!」

 

そういう彼女の顔は、もういつもの無邪気な笑顔に戻っていた

 

 

「伝言ってなんですか?」

 

「昨日の夜にね、音楽の先生から連絡かかってきたんだ!それをね、君に伝えて欲しいんだって!」

 

「先生から...?一体なんでしょうかね...?」

 

「んーっと...今週の土曜日に3人でスネアドラム直してくれた人の家に行こうって言ってたよー。なんでも、一気にやり切ったほうがいいって先生言ってたからね!」

 

「おー!!じゃあ、一気に目標達成できるんですね!!」

 

「まだ完全に治るかは、ちゃんと見てもらわないとわからないって言ってたけどねー。部品調達とかは向こうの人が出来るだけしておくって」

 

「本当に先生にも、そのお知り合いの方にも感謝ですね!今週の土曜日ですね!」

 

「そうだね!じゃあ後で先生に伝えておくねー!君もちゃんと来るって」

 

「はい!お願いします!」

 

「私もちゃんといくよー!先生が君の連絡先知らな...「おーい!授業始めるぞー!席に着けー!」

 

「あっ、1限目の先生来ましたね、じゃあ後はよろしくお願いします」

 

自分達の会話の最中に、先生が教室に入って来た

気がつくと、もう5分休みは終わっていたようだ

チャイムは気づかぬうちになっていたのだろう

自分から話を切り上げ、黒板の方へと向き直した

先生が教卓の上に教科書を置こうとしてるのを見て、自分の席の上に教科書がないことに気づいた

慌てて、鞄の中から教科書とノート、筆記用具を取り出した

 

 

授業が始まった

いつも通りのつまらない授業

板書の内容をノートに書き写していくだけの単純作業に追われていた

ノートの文字を書いているこの時はいつもと同じはずだったのだが、一つ忘れていることがあった

 

それを思い出させられたのは、書き間違え時に使った消しゴムだった

 

[白]という要素に今日はずっと振り回されている

この[白]は、テープの手掛かりが見つかった物

テープは、写真に使う予定だった物

写真は、喜多見良子が映った物

喜多見良子は、さっき面と向き合っ...

 

...っ!?

急に、その時の彼女の事を思い返してしまった

あの時は、自分の事で一杯一杯だった

だから、気づかなかったのだ

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それに気づいてしまったのだ

急激な焦りに、また汗を掻いてしまった

今度は頭から熱が逃げていくような感覚に陥り、冷たい汗が頬を伝った

 

誰か見ていないか、また辺りを見回した

だが、自分の方を見ている人は誰もいなかった

当然だ、今は授業中で、教室の隅の犯人を見ている人なんているわけがない

現場はその時に確認しないと消えてしまうのだ

 

 

自分は消しゴムを睨みつけて、授業中ずっと焦りと恥ずかしさで、猫のように縮こまって授業を受け続けた

今日だけは、[白]を呪ってやると思いながら

 




お待たせ致しました!!

理由としては、4、5月の精神面がズタボロだったところにあります
私の小説は、自分の精神面を投影している所が多いです
なので、現実パートの主人公(自分)と夢パートの主人公(私)の性格が違う理由となっています

最近の話では、現実パートの主人公はポジティブになって来てます
そいういう話を書くに至って、私(書き手)がとてもネガティブ思考が強い時に書いた小説は、全てがネガティブになってしまう恐れがあるのです
従って、書き手側の精神面が良くなってから書こうと思っていました

結果としては2ヶ月もかかっちゃいました...
本当に申し訳ございませんでした...


ガルパではついに『RAS』登場しましたね!!
RASが増えて7バンドと大所帯となって、私自身とっても嬉しいです!
いきなり星4 チュチュが当たってとっても嬉しかったです!(RASの推しがチュチュ)


次回、現実パートが終わる予定です
ですが、もしかしたら2話分かかるかも知れませんが...(予定は未定)
そして、1、2週間以内に書こうと思います!

それでは、次の話も楽しみに待ってください!


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第33話 目標の手前

前回は、朝の登校後まで書きました

今回は一気に日にちを飛ばしますので、ゆっくりと読んでください

それでは第33話始めます


全てが噛み合わなかった日からもう2、3日が経った

この数日間なにも変化は起きず、もう一人の自分になれる事もなくなっている

というよりは、そんなことを考えてる余裕がなかったという方が正しい

もう直ぐテスト週間が近づいているのが原因だ

多くの授業で先生による、急ピッチでの板書書きが行われている

教師の早口な指導を、自分は必死になってノートに刻み続ける作業に追われている

 

休み時間はというと、窓の外を見上げ、雲の動きを観察していた

流れゆく雲に大きさも速さも全てが違っていた

その記録を自分は無駄に記憶の中に刷り込ませていた

 

放課後になると、自分はゆっくりと自宅へ赴く作業をするだけであった

これが1週間前なら音楽室に行って、喜多見良子と音楽先生による三者会談が始まるはずなのだが、今週はできそうにない

なぜなら、音楽室は最終下校まで貸し切りになっているからだ

吹奏楽部による、地域行事への出演による最終調整を行なっているらしい

その舞台で、新米生徒によるお披露目楽曲をする予定だそうだ

まだ1ヶ月と少々しか経っていない1年生を主役に据えているとなると、そこに自分みたいな部外者が安易に侵入するわけにはいかないのだ

 

学校内では多くの指令が出ており、各々の生徒が対策に追われているのだ

そんな中、自分はというと1ヶ月前の堕落した習慣へと戻ってしまっていたのだった

 

帰宅し

夕飯を食し

風呂に入り

テスト勉強をし

寝る

 

こんな小学生の書いた夏休みの日記通りの生活になっていた

それは、夢と出会う前の自分と瓜二つの理だった

 

 

しかし、自分にとっての1日1日は次第に変化していくのであった

喜多見良子から受け取ったあの日に近づいていた

その日にもしかしたら目標が達成できるという淡い期待を持ちながら

 

そう、土曜日に自分達はドラムを直しに行くのだ

 

 

 

前日の金曜日、自分は妙に気になり続けた

 

授業中には、ノートの端にドラムの絵を描いたり、何故か『世界を笑顔に』と書いてしまった

 

休み時間には、教室のクラスメイトをさりげなくチラチラと見てしまったり、隣の席の机に焦点を当ててしまっていた

その際、喜多見良子は自分の視線にわざと入ってきた

 

机に顔を寝伏せ

頬を机に当てながら

自分にだけにしか見えない笑顔を作っていた

その笑顔に、自分は何も返さず目線の逸らさなかった

むず痒さを感じることなく、小さな隙間の時間を潰していた

 

そんな落ち着きのない1日を過ごした後、今日最後のチャイム

いつもはチャイムと同時に帰り支度を始めるのだが、今日はクラスの喧騒の音を聞きたくなってじっと座っていた

そこに喜多見良子が近づいてきた

直接彼女を見たわけではなく、彼女の気配を右側から感じたのだ

そして頬を弱い風が撫でていき、頬を放射された熱を微かに感じた

 

 

「また明日、8時に校門前でね」

 

そう囁かれた

自分はその約束に小さく

 

 

「おう」

 

と返した

その間、一切横を見なかった

その一言の口の動き以外の動きを殺して、30秒静止する

瞬きすらをせずにいると、目が乾いていく

目の渇きが限界になった時、自分は瞬きと同時に顔を右に曲げた

もうそこには彼女はいなかった

 

 

(何故だ...何故か緊張する)

 

自分は布団の中で天井を見続けていた

目が全くといって閉じてくれない

それどころか、身体が硬くなってしまっている

足が張って、手先まで金属になったかのように動かせられない

まるで金縛りにあったかのような感覚に陥っている

自分は緊張しているなんて何年ぶりだろうか?

考えてみると、幼稚園の時の遠足のことを思い出した

あの時は、隣町までの電車を乗っての遠征ぐらいのもので、高校生になった今では行こうと思えばいつだっていける距離だ

それでも当時の自分には楽しみであったのだ

それは純粋無垢な子供だった証拠だろう

 

そう、明日に希望しかなかったのだ

 

それが数年ぶりに感じてしまった

そのこそばゆい感触に、不純で邪心に満ちた大人に近い存在には毒に近いものなのかもしれない

拒否反応が体外に発信されているのかもしれない

 

自分は唯一動かされる首を左右にブンブン振り、頭がフラフラする感覚を無理矢理作り出し、どうにか寝ようとした

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

チュンチュン

目を開けると、日差しが入ってきた

気がつくともう朝になっていた

少し霞んでる視界の中、目覚まし時計を探した

セットしていないはずなのだが、現在は6:50

この時間に起きて身支度して集合場所に行ったとしても30分ほど前に着いてしまうだろう

でも、この前遅刻した前例があるので今日は早く行こう

自分は久々に布団をベランダに持っていき、竿にかけた

それから、軽いご飯を食べてから出掛けた

 

 

 

「おはよう!」

 

「うおっ!?」

 

30分も早く着いたはずだ

絶対に早く着いたはずだ

咄嗟に腕時計を見ても、まだ7:30だ

なのに何故

何故ここにいるんだ

喜多見良子

 

一番乗りだと思ってゆっくりと校門に近付いたと思っていたら、校門前で何かが揺れているのを目にした

その揺れている物を確認する為に、少し早歩きで向かい始めた

そして見えたのだ

喜多見良子がこちらに向かって笑顔で手を振っていたのだ

その上でまだ20mほど離れているのに、彼女の挨拶の声が聞こえてきた

少しビックリして、小さな声が漏れた

多分こちらの声は聞こえてないと思われるが...

 

 

「お、おはようございます」

 

「おはよう!君が最後だね!」

 

「えっ...?」

 

しっかりと校門前で話し始めた

そんなことよりも、今なんて言いました?

自分が最後だって???

腕時計が壊れたのかな???

不思議そうな自分を見たのか、彼女が理由を返した

 

 

「先生は音楽室のドラムを車に入れる作業があってねー。私はそれのお手伝い!流石に先生一人じゃ、あの大きなドラム部品は運べないしね!」

 

「あっそうなんですか...」

 

それはなんだか申し訳ないことをさせてしまった

自分に伝わってきたのは集合時間と場所だけだった

だから集合時間より前にこんな作業をしていることは初耳だったのだ

もし、このことを聞いていたら率先して参加していただろう

勿論だとも、なぜなら自分がこの企画の提案者なのだから

 

 

「それで...作業の方は終わったんですか?」

 

「粗方ね。あとは君が来るのを待っているだけだったからね。ああっごめんね!?先生に言われたんだ。今まで君が提案したことに乗ってきただけだったから、今回は私達二人で先にやっていかないとねって言われてね。もうすぐ先生の作業も終わるだろうから、ここで待っとこうか?」

 

「...そうだったんですね。それじゃあゆっくり待っときますね」

 

少し煮え切れない気分だった

自分からしたら仲間外れにされたような感覚だったのだが、他者側の考え方としては自分の行動が仲間外れにしていたんだと思い返されてしまった

そう、これは自分自身だけの目標じゃなくてみんなの目標なんだ

自分勝手に行動するべきではないのだ

 

この気持ちを肝に銘じながら、自分達は校門前で待った

じっと校舎をぼんやり眺めてる自分と対照的に、喜多見良子は鼻歌混じりにうろうろしている

二つの明暗がよくわかる構図であった

 

 

それから10分ほどたっただろうか?

大きな車に乗った音楽の先生が校門前に現れた

 

「おーい、二人とも揃ったね」

 

「はい!今さっき来たばかりです!」

 

「そうかそうか、わざわざ休日に来てもらって申し訳ないね」

 

と、先生と喜多見良子の二人による会話が始まった

にしては、少し変だ

喜多見良子は嘘をついている

おかしな話だ、嘘をつく理由なんてないはずなのに

そう思っていると隣から小さな声で囁かれた

 

 

「先生にはね、今言ったことは内緒にしてね...?」

 

自分は小さく縦に首を振った

先生は大人だからこうなるのか

しかし、生徒に気を使われているのはどうなんだろうか?

そんなことはあと数年後嫌でも感じることになるだろうから深くは詮索する必要はなさそうだ

 

 

「これで全員ですかね?」

 

「そうみたいだね。それじゃあ出発しようか」

 

「はーい!」

 

 

そんな軽いやりとりをして、自分達は車に乗り込んだ

車に乗るのも何年ぶりだろうか?

祖父母の家では、どこにも連れて行ってもらった記憶がない

そう考えれば、もう10数年ぶりなのかも知れない

もしそれくらい小さな頃の自分だったら、窓の外に食いついて、流れていく風景に興味津々だろうが、今はそんな恥ずかしいことはできない

それどころか、隣には同級生の女子がいるだ

否が応でもこの状態で冷静に保つことはできない

意識しないように窓の外を見るのも良いかも知れないが、女子は喜多見良子なのだ

あの自分が教室に話しかけてきた強靭な持ち主

下手な噂ゴトのタネなんて作ってしまったらどこまで広がるのか分からない

しかも、彼女の頭には常識が通じないと感づいている

この行為が勘違いされる可能性が高い

 

こんな無茶な考察をしている間に、大事なことを思い出せた

自分は、後ろを見た

そこにはしっかりと封がされているドラム達が並んでいた

その姿を見て少し安堵し、今考えていたことが全て吹っ飛んだ

 

自分が自分勝手だと思っていたことなんてどうでもいいことで

自分達はチームであるということを再認識させられた

皆、一様にこのドラムに期待しているのである

そして最高のゴールを目指している

そこに協力なくしてたどり着くことはできない

 

だから、先生達は自分の為に動いたんだと思えた

自分に負担ばかりかけていることを自負して、先生が出来ることをしてくれたんだ

そう思うと、自分の今までやってきたことがとても誇らしく思えた

 

 

自分達は乗った方舟は、最終地点に向けて再度漕ぎ始められたのだ

今度は3人揃って

オールを息を合わせて漕ぐ

最後の関所を通過させるために

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「着いたよ、ここが友人の工房だ」

 

先生の案内により、自分はドアを開けた

車で約20分、目的の地についたようだ

そこはいかにも工場らしき場所

ただ、住宅地に急に現れた異妙な建築物であった

閑静な住宅地の中にある、喧騒そうに見える工場はまるで

音楽室の中にある、壊れたドラムそっくりだった

 

車から外に出て最初に背伸びをした

ンーという声が漏れた

その背伸びがとても心地いい

今日のような清々しい太陽光に背伸びはこんなにも合うのとは知っていたが、いつも教室の中で外ではなかった

外でする背伸びはとてもいいものだ

 

って、ここは人前だった事に気がついたのは

小さく聞こえたクスクス声だった

 

 

「まぁ...これはこれは、ようこそおいでくださった。それで、あんたが持ってきたドラムっていうやつはどれだ?」

 

そう...今日の探し求めていた重要人...この楽器修理の専門家が目の前にいたのだ

まさかの第三者の登場に、驚きと恥ずかしさが込み上げてきたが、グッと堪えて最初に言うべきことを堂々と言った

 

 

「あの、今日はよろしくお願いします!」

 

と言い切り、頭を深く勢いよく下げた

絶対にしておかないといけない礼儀

自分は依頼人ではなくて、初顔合わせな存在なのだ

そんな人が無礼な態度をとってしまうと、もしかしたら門前払いされてしまうかも知れない

そんなことをしたら自分の戦犯のせいで、皆に迷惑をかけてしまう

それだけは絶対に避けないといけない

その為に、自分は深々とお辞儀をした

 

 

「おう!よろしくな!私の友人の頼みだったらいつでも受ける気だったしな!しかも、そこの生徒さんの依頼とあったら、大歓迎さ!

君のところの学校の吹奏楽はとても聞いていて心地いいからな!」

 

「ほほっ、そりゃ私の教えがいいからさ」

 

「やっぱ、あんたはそう言うよな!流石だぜ!」

 

(やった、初めて第一印象で良い印象を与えられた!)

 

今まで失敗続きだった

 

瀬田薫然り

喜多見良子然り

松原花音然り

 

いつも言葉に詰まっていた

それが、自分の挨拶が上手く行ったのはとても良かった

これが次は女性の前で、急に訪れた時でもできるになりたい

 

少し鈍い足音が遠ざかっていくのが聞こえ、その場から車の後ろに積んであるドラムの所に向かったと確信して、自分は頭を上げた

その時の自分の顔は想像するのは容易い

何故なら、また同じくクスクス声が聞こえたからだ

隣には、喜多見良子がいた

 

多分...少々ニヤけた顔をしていたのだろう...

横に顔を動かさず、もう一度頭を下げてしまった

今度は手を膝につき、

足すらも曲げてしまった

 

 

「それじゃあ、私は友人と工房の中を見てくるよ」

 

「それじゃあ、自分はどうしたらいいんですか?」

 

「君達はスタジオに行っててくれ。君達のやるべきことは彼女に伝えてある」

 

「はーい!私に任せておきなさい!」

 

「よし。じゃあ行ってくる」

 

「気をつけてくださいね」

 

車に積んだドラムセットを運ぶのに10分ほどかかった

自分と喜多見良子、先生と先生の友人

この4人で10分もかかったのだ

成人男性二人に高校生の男女

戦力的に申し分ないのにだ

 

さぞかし、朝の積み込みは大変だっただろう...

帰りはしっかりとケアしよう

 

 

「それで、良子さんは何を頼まれてるの?」

 

「ふふん、君の言った達成課目ってなんだったけ?」

 

「ええっと...ドラムを直すことでしたっけ?」

 

「うーん、半分だけ正解」

 

「あれ...?」

 

これで半分...?何か忘れてた?

ドラムを修理する他に何があったんだろう

確か...ドラムの...音が...

 

「わからない?じゃあ、答えは...「待ってください!」」

 

と、咄嗟に強い口調になってしまった

喉まで答えが出かかっている

なのに、答えがあやふやなのだ

そう...音が...音楽が...奏でて...あっ!!

 

 

「わかりました!未来へ繋ぐ音!」

 

「そう正解!」

 

(よし、思い出せた!)

漸く思い出せた

出かかってて、最後まで出なかったもう一つの目標

そういえば、言い出しっぺは自分だったな...

にしても、恥ずかしいこと言ったな自分...

そして、周りのことを見すぎて自分のことを忘れかけていた

緊張しすぎているのは間違えないようだ

 

 

「だからね、先生から朝に君と私にミッションを課されたんだ。そこのスタジオに大量の楽譜があるんだって」

 

「楽譜ですか?」

 

「んでね、その楽譜っていうのは歌謡曲から童謡、合唱曲、洋楽、管弦楽...いろいろあるみたいなんだ」

 

「ふむふむ...」

 

「その楽譜を二人で見て、演奏できそうなものを探して欲しいんだって」

 

「えっ...?難易度高くないですか...?」

 

「でも、先生は、

「君たち二人なら大丈夫だから!大船に乗った気で頑張れ」

って言ってきたから、なんとかなるでしょ」

 

「ちょっと待ってください!自分は楽譜とか読めないんですよ!?だからどれが簡単とか難しいとかわからないですよ!?」

 

「だから私が付けられたのかな?私は音楽得意だから楽譜読みなんてお手の物よ?だからほら一緒にね?じゃあ、行こう!!」

 

「ちょ、ちょっと...!?」

 

自分の意見は、すぐに彼女に解決させられた

でも、最後に反論くらいしてもいいでしょうに!?

無理矢理切り上げられて、そそくさと行こうとしないで!

 

 

「ほらっ、なんでそんなところで止まってるの?ほらっ行くよ!!」

 

ギュッ

 

「ひゃわぁん!?」

 

変な声が出た

(だって、彼女が急に手を握ってきたから

びっくりした

というか、何故あなたはすぐにそんな行動取れるんですか!

不思議で仕方ないですよ!

でも...なんだか...すこし落ち着く...)

自分の気持ちの中には恥ずかしさも確かにあった

だが、それ以上に確かな温かさがあった

何も怖くない

全てを許してくれそうなそんな温もり

彼女の中にこころの姿を見た気がした

 

そんな気持ちに浸っていると、彼女の足が動き走り始めた

自分はその動きに合わせないといけなくなってしまった

しかし、その動きには無理な動きはなくて、自ら同調していくように感じた

まるで、両足が縛られた競争から、息の合った二人三脚のようだった

 

そして、自分の眼には彼女の後ろ姿がはっきり映っていた

その景色はこの前のことを思い返させた

初めて彼女に触れられたあの日の夜と同じ景色

だけど、二つは似ているようで違っていた

 

前の夜に見た彼女の後ろ姿は、嬉しそうだったが寂しそうだった

今の彼女の後ろ姿は、嬉しそうで生き生きとしていた

 

勘違いかもしれないが、今の彼女からは私を引っ張っていこうという気持ちが伝わった気がした

それなら、前の時の彼女の気持ちはどうだったのだろう?

辛いことだっただろうが、最後は笑っていた

その笑顔は曇りのない笑顔だった

だけど、気がついてないだけで何か隠しているのかもしれない

辛い思いをしているのなら、自分みたいにはなって欲しくない

 

 

彼女が自分と同じ思いになっていたら、今度は私が支えてあげる

私が友達を助けてあげる

そして、彼女がこころの底から幸せで、一番最高な笑顔に変えてあげよう

 

 

この信念を抱いた

自分の表情は、少し柔らかくなったが、すぐに少し強張った

これからやることは、自分の為の事

自分の為に自分に合う楽譜を探さないといけない

膨大な数の音楽の中から、自分が一番伝えたい曲を奏でる

 

そう、これは自分の根本を見直すきっかけになるのだ

これが一番重要になる

 

そう考えると全く悠長にしている暇はない

これからは戦の開戦なのだ

 

 

今日がとても長い1日になることを確信した

 




お待たせいたしました!!!

本当に申し訳ない...気がついたら8月中旬になりました
現実パートは今回で最終回にする予定が、書いてるうちに10000文字超える気がしたので分割させました
ということで、これを投稿したら早速次の話を書かないとですね...w

バンドリでは、3週間前くらいにハロハピイベやってましたね
案の定、花音⭐︎4は当たりませんでした...
だけど、こころの誕生日ガチャで一番最初のイベントの花見こころが当たって発狂しかけましたw
あのこころ可愛いんですよ...マジで

そして、この小説を登録してくださった

「カルボン35 様」

本当にありがとうございます!
こんな激遅投稿者で本当に申し訳ない...
投稿ペースが全く安定してませんが、しっかりと完結させますのでこれからも応援のほどよろしくお願いします!

それでは、次の話も楽しみ待ってください!


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第34話 希望の未来

前回は、楽器店に着くまでをかきました
今回で、現実パート最終回です!

それでは、第34話始めます



喜多見良子に連れられてたどり着いた場所は、スタジオと書かれたプレートがある扉の前だった

その場所は、周りの風景とは全く違っているのを感じとった

工房という無機質な壁の中で、スタジオという温もりのある木の壁

扉についてある小さなガラス窓が、自分達を誘導していく

この隙間から、明るい空気が漏れ出しているように感じた

 

その場所は、小さい頃に憧れていた場所

自分の夢が詰まった場所だった

それが今目の前にある

 

本当は、今の自分の気持ちを抑えることはできない

今の自分は幼少期に戻ってしまいたいと思うくらいに興奮している

 

小さな窓にジャンプして飛びつき、

小さな窓に顔を埋めて、

小さな窓の先の宝箱を覗き込む

 

こうやって最高の時間を永遠と感じていたい

それ程この場所は、聖域に近い天国であった

 

だが、この場所に近づくまでこの気持ちを殺し続けていた

理由は簡単だ

この気持ちを出してしまうと最後、自分は自分ではなくなってしまうのだ

...最悪、自分はここで死にたくなってくるのだ

辛いのは一人で充分なのだ

 

手が震え始め、手から冷たい血が滴るかのような汗が流れ出る

 

こんな気持ちに浸っていると、自分にはこれまで足りなかった大きな刺激を感じ取った

そうだ、今の自分は一人じゃなかった

自分には今、彼女の温もりを直接受け取っているのだ

自分の手にある、友達という温かい希望がある

喜多見良子の包まれるような手

 

その唯一無二のカタチに、自分は自然と怖さを失っていった

 

 

「じゃあ、お邪魔しまーす!」

 

と、平常時に戻った自分の耳に元気な声が入ってきた

自分はそのまま牽引されるが如く、勢いよく開いた扉の中に引き連れられた

 

 

「...思ったよりも狭いですね...」

 

自分は、真っ先に天井を見上げた

この部屋の広さを確認するには、一番手っ取り早い

そして、わかったことは自分の頭を小さく左右に動かすだけで天井の角がすぐに見えたのだ

 

 

「そうだねー、でも私も初めてこういう場所に入ったから分からないね」

 

「あっ、普通はそうですよね」

 

そうだった

いくら吹奏楽部で音楽を嗜んでいたとしても、この場所にたどり着いくことはないだろう

自分の学校は吹奏楽の強豪校ではない

 

そして、自分は部屋の真ん中に目線を合わせた

テレビで見たスタジオの風景とは違っていて、真ん中に机が置かれていた

その上に、多くの白い紙と雑誌が置いてあった

近づいてよく見ると、白い紙は収納棚に入っており、『邦楽』『洋楽』などジャンル分けがされてるラベルが貼られていた

 

 

「わぁ!いっぱい譜面あるね!私が吹いたことのある曲はあるかなー?」

 

と、喜多見良子は真っ先に棚を開けていく

それも一つではなく、全て一気に

勢いよく棚が手前に出された反動で、机の上に置かれていた雑誌が自分の足元へと落ちてきた

そんなことを気付かずに喜多見良子は鼻歌まじりに物色する

 

やれやれと軽く頭を左右に振ってから、床に落ちた雑誌に目を向けた

雑誌の数は積まれている時に比べ多く感じた

なにせ、自分の足元が隠れてしまうほどに積み上がってしまっていた

その多数の群衆の中で、一際注目を浴びたそうに光っている者を見つけた

唯一、開いてしまった雑誌があった

そして、見開きには大きな写真が印刷されている

 

この人達は、自分が子供の頃に好きだったバンドだった

小さい頃に見たバンドメンバーが映っていた

自分の記憶の中の常に付随してくる厄介なトラウマを排除しつつ、バンドメンバーの顔を捻り出す

 

...そんな無駄な行動が出る前に、分かった

この写真の人達の顔は、朧げの中にある顔とは若干変わっていて、少し老けているように見えた

それもそのはず、写真の隣は大きく見出しに

 

『人気バンド 年内に解散!』

 

と悪目立ちしていた

 

(...............)

自分は絶句してしまった

自分が音楽を捨てた日以来、ずっとこの手の情報を見ようとはしていなかった

そう、初めて知った

自分の憧れが消えていたことが

 

この事実に、思わず膝を床に崩してしまった

そしてそのまま上半身が下に向き、手を床についた

雑誌が、先ほどよりも近く見える

ただ、最初の光り輝いていた者は

今では、黒く影に落とした闇の底の者と変わってしまった

自分の頭が雑誌に届く光を全て遮り、見える者はボヤけた人らしき輪郭のみ

目は、自分から焦点を失っていた

 

 

グシャッ...

こんな音が床からしていた

その音が自分には届いていなかった

しかし、自分に気にも触れていなかった人は気づいたようで

彼女は、

 

 

「ん?どうしたの?」

 

と言って、振り返っていた

彼女の視界から自分は消えている

そして、聞こえた音は少し下の領域

地獄に近い場所からしたのだ

そのまま彼女の視界は足元に...

 

 

「どうしたの?大丈夫?」

 

彼女の視界からはどう感じ取れるのか?

想像するに、

床に無造作に散らばった雑誌に

一人の男が四つん這いになって生死している状態になっている

 

この状態を彼女は「大丈夫?」という一言で済ましている

そう、この状況はただの腹痛にも見えるのかもしれない

そう考えられる余裕はやはりなかった

自分はこころがみだれていたのだ

 

 

「...ちょ......大丈...おー......これいる...?」

 

(はっ...!?)

声が僅かに侵入してきた

その声のした方へゆっくり振り返った

動き方は滑らかではなかった

全く動揺を抑えきれない

歯車が噛んだかのように動いた

 

(あっ...ここは天国か...)

 

と思うように、目から見えた光景はこの世の物とは思えなかった

天井からの照明が直接目を焦がす

透き通った真っ新な純白

そこは自分が経験したことのないくらいの天国のような概念を感じた

 

その色の中を黒い影が入っていく

とても邪魔な奴が乱入してきたと少し目を細めた

細めたことで光量が調整されたのか、焦点が黒い影の方へ変わった

 

まだよく見えないが、おそらくこれは顔だ

鼻らしきものに口らしきものが見えた

自分にはこれが悪魔か天使に見えた

その答えはすぐに出た

 

 

「大丈夫...?ハンカチ貸そうか?」

 

「...ぇ......」

 

(ハンカチ...?)

よくわからなかった

だけど、声が明瞭に聞こえた

その声の方に自分は近づきたいが一心に、

首しか動かしてない状態から

上半身を捻って影を中央にもっと大きく見えるように動いた

 

その結果、自分の顔に何かが触れた

柔らかい何か

サラサラしていて

少しこそばゆい何か

その感覚が、顔の一点ではなく複数の箇所で感じ取った

そして、真っ暗だった顔が...

柔らかい物のいろんな箇所の隙間から光が零れてきた

 

顔に光が入り込んでいく

それと同時に、声が色付けていく

 

 

「...やっと気がついた...おはよう??」

 

(か...神が...)

 

 

「まだ倒れてるのかしら...?どうしてこんなところで倒れちゃったの...?」

 

(ああっ...)

 

「こころ...」

 

何かの幻覚を見ていて、自分は小さく呟いた

 

 

...ピトッ

 

「んー...熱はなさそうだね...」

 

「ヒャヒュイ⁉︎」

 

そこで遂に目の焦点がしっかり合った

そこでまた変な声が出た

だって普通は出ると思う

 

喜多見良子が、自分のおでこに手を当てていた

そう...自分の顔に触れていたのは彼女の髪だった

 

思いっきり驚いた瞬間、自分の腕の力と腰の力が抜け、一方向の力に身体が回った

自分の体はそのまま横向きに転がった

 

顔から出るとても暑い熱が大量に生産されていく

瞬きの数が異常に増える

正常値には戻りそうにない

 

そんな状態でも、彼女の顔が見たくなっていた

自分はもう一度同じ回転向きに転がって、仰向きになった

 

真っ先に見えたのは彼女の顔

笑っていた

黒髪に包まれている中で太陽があった

 

こんな状態で、何も言われずに

彼女に顔を拭かれていた

 

 

「すっごい汗かいてるね。私のハンカチで軽く拭いといたけど、まだ使うことあるかもしれないね。お腹でも痛いの?」

 

「いやいや!滅相もありません!大丈夫です!」

 

そう言われて、真っ先に恥ずかしさが勝ってしまった

あの幻影とはまた違う答えが出てきた

でも、このまま彼女の顔に包まれた....い...

 

 

「はい、これ私のハンカチ。あとね、早めにそこから移動したほうがいいよ?雑誌がグチャグチャになっちゃうから...」

 

「雑誌......?あっ、やべっ!」

 

そう言われて、私はすぐに上半身を起こした

それから、手をついて勢いよくジャンプして立ち上がった

立ち上がった途端、床に黒いハンカチが舞い落ちていた

多分、彼女が自分のおでこにハンカチを置いたのであろう

何もそこに置かなくても...と思うのだが、彼女なりの優しさなのかもしれない

 

そのハンカチを私は、ゆっくりと持ち上げた

真っ黒のハンカチ

少し湿ってはいたが、人の温もりがあった

そのハンカチを握りしめて、彼女の言ったことに反応を返した

 

 

「...さて...どうしましょ...」

 

「...でもまぁ、この本は破れてないし。他の本はほとんど開いてなかったから、折れたとかなさそうだね」

 

「ご、ごめんなさい...」

 

「謝る必要はないよ。元々は私がばら撒いたみたいだしね」

 

「でも、これは自分が...」

 

「はい!反省は後!一緒にシワ直しとか、折れた本とかないか確認してもう一回机に戻そう!」

 

「...そうですね」

 

こうして自分達は、スタートラインに戻るところから始める必要性が出てしまった

床に散らばって、自分の体重に押し潰された雑誌を一冊づつ不備がないか確認しつつ、机の上に戻す

 

一冊、一冊と...

 

そして、自分の作業は終わって、最後の一冊

自分がこうなった雑誌を彼女は拾った

その雑誌を彼女は見てその詳細を話してくれた

 

 

「あっ懐かしいなぁ。このバンド私も好きだったなぁ...もう2年くらい前かな...」

 

「良子さん、知ってるんですか?」

 

「うん。私達が中2の時に突然解散しちゃったんだ。結構大きなニュースになって、私はとっても悲しかった覚えがあるよ。でも、中学の合唱曲でこのバンドの曲歌ったからすごくいい思い出を最後に作れたなぁ!」

 

「そうだったんですね。じゃあ、7年くらいバンド活動してたんですか...」

 

「うーん、正確には9年だったかな?でも、なんで7年だと思ったの?私は解散年しか言ってないけど?」

 

「ちょっとした予想ですよ」

 

「あー勘を試したのね!惜しかったねぇ」

 

「はははっ」

 

誤魔化す理由はなかったが、なんとなく隠してしまった

それにしても喜多見良子もこのバンドが好きだったのか

なんだか、彼女の好きなことを初めて聞いた気がする

楽器が好きなった理由も聞いた気がするが、あの時は向こうから話してきたことだった

今回は、偶然かもしれないが自分が開いた雑誌に注目しなければこんな発見はなかっただろう

にしても、解散したのがそんなに最近だとは思わなかった

本当は自分の予想では小5くらいの時には解散していたのかと思っていた

それが、思った2倍くらい活動されていた

その間、一時期の私や喜多見良子みたいに多くの人を虜にしたのだろう

そう思うと、バンドというのはとても素晴らしい物だと思えた

 

 

それからの自分達は対照的だった

 

自分は必死にいろんな楽譜を見て回った

自分にしっくり来て、二人が笑顔になりそうな曲

そして、一番大事な『未来の音』を奏でられそうな曲

その二つの条件が合う曲はなかなか見つからなかった

 

邦楽、洋楽、童謡、協奏曲、合唱曲...

どれもこれも何とも言えないものばかりだった

前者は合致しそうな曲は多かったのだが、後者の条件が厳しかった

自分にとって、『未来の音』というのが抽象的すぎるのだ

自分は、自分に演奏できそうという難易度を蔑ろにして、必死にしっくり来そうな曲を探した

 

途中、例の雑誌も見た

バンド解散の写真が掲載された雑誌

その雑誌には楽譜なんて無いと思ったのだが、そのページの5、6ページ後に初心者にもできるパートごとの譜面がついていた

 

ギター

ベース

キーボード

そして、ドラム

 

曲は、バンドの代表曲

歌詞もついていて、全てが揃っていた

 

だが、これに魅力を感じなかった

いや、正しくいうならこれを演奏できたとしても二番煎じになるだけだから

これでは、自分にとっての『未来の音』となり得ない

今日、この曲は『過去の音』になっていた

 

頭を掻き毟って、どんどん楽譜に目を通す

この作業を6時間ずっと続けていた

その際、一度もこのスタジオを出ることはしなかった

途中、汗を掻いた時は良子から借りたハンカチで拭いた

彼女に返そうかと思って言ったのだが、

 

「またいつ体調悪くなるかもしれないから今日は貸しておくね!」

 

と言われて、ありがたく借りている

必死に、最後のゴールに向けて試行錯誤を繰り返していた

 

 

喜多見良子はというと、自分が何も声を掛けないせいで先生に言われた任務を果たせていなかった

それでも、喜多見良子から自分が見ている楽譜を見て

 

「これは簡単だよ!」とか

「この曲私演奏したことあるよ!」とか

 

声を掛けていた

自分はその声を軽く聞いてまた作業を続ける

そのせいもあってか、段々と彼女の声は無くなっていた

 

たまに、後ろを振り返ったら

喜多見良子は自分に背を向けて、楽譜を読んでいた

小声で「シ、ド、ラ」とか言っていた

 

彼女には明日がとても大事な日なのだ

高校最初に大きな大役が待っている

その日の前日に自分達の方を頑張っている

本当に彼女はたくましい

とても真似できそうにないが、とても羨ましい後ろ姿だった

 

 

 

それから、探し続けて6時間

スタジオに先生が現れた

 

 

「おーい、二人ともドラム直したぞー!」

 

「えっ!?」「はーい!」

 

自分が思ったよりも早かった

今日の帰りは夜21:00とかになるものかと思ったのだが、腕時計を見ると16:00だ

昼食も食べてない

黙々と資料を読み耽っていたのだ

時間を忘れて作業し続けて、一つの答えを見つけ出した

 

 

「じゃあ、とりあえず二人とも私の車の前に来てくれないか?」

 

「はい、すぐ行きます」「わかりましたー!」

 

自分は楽譜を整理し、棚に直してからスタジオの扉を回し出て行った

 

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

「いいって!おかげ様で最高にいいドラムに仕上がったぞ!」

 

「本当ですか!それでは、楽しみにしてますね」

 

「おう!」

 

自分がいない間に作業は終わっていたようだ

もう修理を終えたドラムはカバーに入れられていて、車に詰め込まれていた

自分はまだドラムの状態を見ていないが、先生と友人さんの誇らしい顔を見れば分かる

全て万事解決したのだと

そちらの作業は何も不手際がなかったとしたら、自分の方には大きな不手際があったのだ

 

 

「それと...大変申し訳ないことをしてしまったのですが...」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「机の上に置いてあった雑誌...思いっきり踏んでしまって...本当に申し訳ありませんでした!」

 

と言って、朝のお辞儀よりもスピードを速く、角度を深く下げ切った

完全に私のせいなのだ

 

 

「あーあれかー...いいよいいよ、あれは俺の趣味で集めたやつで、余った昔の本だからな!それよりも、いい曲は見つかったのかい?」

 

まさか、何も怒られずに済むと思っていなかった

そして、主の問いに自分は同じ速度で顔を上げ

 

 

「はい!おかげさまで、演奏したい曲を見つけました!」

 

と高らかに宣言した

 

 

「そうか!そうか!それなら良かったぜ!」

 

 

と、主人の喜んだ顔を見れたのだ

自分の中に残っている

 

『世界を笑顔に』 

 

この目標を、初めて無関係な第三者にできたのだ実感した

 

自分にもできる、小さくて大きな目標

その喜びを自分は忘れないだろう

 

この喜びを、隣で自分と同じようにお辞儀していた彼女にも届けたい

 

そんなことを思った最後の挨拶だった

 

 

車に乗り込み、先生による帰りの送迎が始まった

自分の隣にある窓から、眩しいくらい暑い赤い太陽が私を照らす

日はもうすぐ夜になることを告げていた

その太陽を自分は眩しいと感じることなく、自分は気づかぬうちに眠り込んでしまった

 

こんなにも物事に没頭したことに、今までの自分の身体にとってはオーバーワークだったようだ

 

 

 

誰もいない部屋に、自分は帰ってきた

あれから、自分が起こされるまでの経緯を軽く話すと

 

学校に着いても自分は眠っていた

先生と喜多見良子は、自分を起こすことなくドラム部品を音楽室に戻していた

30分後直し終えた二人が車に戻ってくると、自分はまだ眠っていた

そのまま先生と喜多見良子は車に乗り、喜多見良子の家に向かった

そして喜多見良子の家に着いて、彼女は帰宅した

それでも自分は起きなかった

 

その後、車は自分のアパートに着いた

漸くそこで、自分は起こされたようだ

正直まだ眠い

それから先生に、寝ている間に起きたことを伝えられ

眠い目を擦りながら、自分は車から降りて先生に軽く挨拶をして玄関を開けた

 

靴を脱いで、食卓の椅子に座った

何もしたくない

ボーッと座っていたい

 

そんな間延びした気持ちが消えるかのように、自分は布団を干していたことを思い出した

自分は、重い腰を上げてベランダへと向かった

 

 

布団をいつもの位置へ敷いた

そして、もう夜18:00

日は完全に落ちており、空は暗くなっていた

 

それでも今日一日はずっと太陽が出ていたのか、布団には確かな温もりがあった

その温もりに、自分は負けてしまった

そのまま布団に倒れ込むようにうつ伏せになった

黒のハンカチをポケットから取り出し、枕元に置いた

これが自分が最後にできる気力

 

そして、自分の長い一日が終わった

しかし、これからも長い一日が始まるのだ

 

 

今度は自分ではなくて私が

黒がクロに

 

私の演奏したい曲を、ハロハピの曲で奏でたい

『未来の歌』を私は探し出す旅が始まるのだ

 




現実パート終了です!
これで第4章も終わりました!!

なんだかんだで現実パートが長くなってしまいましたけど、とても楽しく書いてました!
次からは夢パートなので久々にハロハピメンバーの会話シーンとか書けると思うとめちゃくちゃ楽しみなんですよね!


バンドリでは、『ウィーアー』追加されましたね!
とっても好きな楽曲だったので嬉しかったです!


そして、この小説をお気に入り登録してくださった

「柑橘系 様」
「ニキサンズ 様」

本当にありがとうございます!
なんせ、お二人は私のツイキャスから来て登録されていますのでそちらでも感謝です!


それでは、第35話を楽しみにしてください!


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夢の真実
第35話 夢への帰還


前回は、現実での意志が固まったところまででした
今回から待ちに待った夢パートです!

それでは第35話始めます



この1週間、特に変わったことのない朝を毎日迎えていた

高校生となって早2ヶ月半

段々と一人暮らしに慣れてきたのか、それとも一人の時間をそんなに憂いに感じなくなったのか

無意識に作り込んだルーティンを送っていた

 

そして奇妙なことに、1週間のうち寝ている間の夢についての記憶がこれぽっちも残っていなかった

それについて最初の数日間は不思議に思ったこともあったが、最近の忙しさにそこまで気にならなかった

 

それから今日を迎え、一つ心残りを抱いてしまった

どうしてもハロハピのメンバーに会いたかったのだ

最初は自分の傲慢によって繋がった奇跡の人達

そして、その一員になってしまった私

メンバーの私がいなくても、ハロハピのメンバーなら何かをやっていると思う

 

奥沢美咲に、

北沢はぐみ、

瀬田薫、

松原花音、

そして、弦巻こころ

 

...ちょっと心配だ...

でもまぁ、黒服がうまく(あつら)えているだろう

でも、そこに何か私も混ざっていたいと思う

そして、ハロハピで何らかの『未来の歌』へのヒントを見つけ、作っていきたい

 

 

そんな願いが功を奏したのか、微かに聞き覚えの少ない音が入ってくる

 

 

「...ぉぃ...大丈......?......下が...たか?」

 

そう、一人暮らしの私には寝室で他人の声が入る事はまずあり得ない

ということは...?

 

私は、ガバッと布団を強く蹴り上げた

足元から少し涼しい風が流れ込んでくる

新鮮な空気は、私の首元を通り過ぎ、目蓋を掠め取り、頭の先を抜けていく

風によって眠気を和らげ、そのまま上体を起こした

起き上がる間、妙におでこが冷たいのを感じ取った

 

 

やはり、ここは自分の寝室ではない

私の寝室なのだ

その証拠に、きっちりと制服などの服が整頓されてハンガーに掛けられているのが見えている

これは大雑把な私にはできない芸当なのだ

 

その事を瞬時に把握し、首を横に向けてみた

...そこには尻餅をついた母親がいた

 

 

「!!びっくりした!!あんた、元気そうじゃないの?」

 

母親の顔は、私を幽霊と同一人物だと思っているかのように、あり得ないものを見ているかのような反応だった

私はそういう反応になる理由が全くわからなかった

軽く頭を傾けて、尋ねてみた

 

 

「どうしたの?」

 

この一言くらいしか掛けれる言葉がなかった

私は何も悪いことしてないはずだから

そう聞いた目の前の人物は正座をし直して、私の方に不思議そうな顔をしていた

 

 

「あんた、1週間も高熱出してたのよ?学校もずっと休んでたし、お薬飲ませても全く起きる気配がなかったから、急に起き上がったからびっくりしちゃったわ。あんたもう熱はないの?」

 

(へ...?どういうことだ??

私はこの1年間風邪は引いていない筈だが?

しかも、風邪気味というわけでもなかった

なのに...何故高熱を出していたんだ?

今の私はピンピンとしている

それに、1週間ずっと起きていなかったのは何故なのだ?)

 

疑問文を提示し、その疑問文の応答がそれ以上の疑問を産み出されてしまった

 

...ただ...母親が言ったことは真実であったと思い込むしかできない証拠が出てきた

起き上がった際に布団の上に転がっていった証拠品

しっとりと濡れているタオルがあった

タオルから染み出した水が、布団を濡らし、挙げ句の果てに私の上着のヘソの辺りをも冷たい水が侵入してきている

肌に触れた水が、冷たすぎて少し身振りを起こしそうになった

これは、私の体温が高いせいなのか?

それとも、水が冷たすぎるからなのか?

...それを考えても答えは見つからないような気がする

 

そして、他にも裏付けられる物が母親の足元に置かれていた

水が入った小さな洗面器に、縁に半分に折られ掛けられたタオル

二つとも平常時にはなかなか使わないものだろう

使うとしても風呂場などの水回りのところぐらいしか洗面器は使わないのだ

なのに、寝室に水が張った状態のまま置くことはない筈だ

 

最後に、肯定を約束された確実なものがそのもう一つ隣にある

私の名前が書いてある、処方箋が置いてあった

そこには長期の病気を考慮されてか、『七日間』という文字が書き記されている

ただ、7日間にしては処方箋袋は膨らんでいない

そして、その周りに錠剤を出し切った残り物が何個か落ちていた

ということは、7日間の薬を全部使い切ったっということなのでは?

 

 

ダメだ、やはり解決できるはずの事件のはずなのにこのまま肯定したくないという身勝手な感情が生まれていた

やはり最大の欠点は私自身に自覚が全くないのだ

このボトルネックを解決しない限り、この問題を解決する方法はないだろう

しかし、このままずっと布団の上で生活する必要はない

 

何故なら、この世界(夢の中)に私自身から望んできたのだから

今すぐにでも、こころ達と行動したいのだ

 

(それじゃあ、やることは一つだよな)

 

 

「お母さん、体温計出して」

 

そう、まずは私自身が元気なの事を示さないといけない

そうしないと、この場所から出してはくれないだろう

この身体は、私だけのものではないのだ

ここには、本来なら存在しないはずの両親がいるのだ

両親からすれば、私の存在は相当大切なはずなのだから

 

そんなことを噛み締めて考えていると、母親が体温計を手渡ししてきた

私は、妙に先端が冷たい体温計を腋の下に挟んだ

結果は1分くらいで出る

その間に、熱があったらどうしようかと微かに考えてしまう

その小さな焦りが原因で体温を上げるのは本末転倒だ

 

 

結果が出た

36.2℃

全くもって普通の平熱だった

 

心の中で小さくガッツポーズをした

というよりも、心の中でしかガッツポーズをできないからである

身体に出してしまえば、もっと不自然で目をつけられそうだったからだ

ただ、全てを隠しきれなかったのか

気づかないうちに拳を軽く強く握っていた

 

 

「あらっすっかり、熱が下がったじゃないの?これなら大丈夫そうだね。それじゃあ、寝ている間に来ていたお客様を会わせても問題ないかな」

 

「お客さん?」

 

(私みたいな人に訪ねてくる人なんていないと思うのだが...

お見舞い...?だとしたら普通に私の前に通せるだろうし...)

 

やはりこの世界では謎はつきそうにもない

そんなことを考えていたら...

 

ピンポーン!

 

と、寝室まで届くピンポンの音が響いた

 

 

「おっ?噂をすれば、そのお客さんかな?それじゃあ、あんたは普段着に着替えて少し水でも飲んでおきなさい」

 

っと言って、母親は立ち上がり、寝室を出ていった

意外にも早い話の展開に、私は軽く驚きつつ、布団から立ち上がった

 

布団の隣には、いつ私が起きてもいいようにという母親からの優しさだろうか

普段着一式分が畳まれて置いてあった

その服を一つ取ってみると、どの服にもシワひとつもなかった

倒れている私がいる間、アイロンまでかけて待っていてくれたと心の奥底で想起され、私は小さく暖かい水を流した

 

この場所ならではの私の扱いに嬉しくもあり、尊いものだと改めて感じ取った

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おーい、早く玄関口においでー」

 

母親のこの一言で、私は寝室を出た

玄関口に通ずる廊下で母親とすれ違い、母親の含み笑いが見えた気がした

 

母親の姿が近づき、すれ違う

そして母親が消えた後、玄関口には新しい人物が姿を現した

その人物は私に向かって軽くお辞儀していた

この人は私の知っている人だ

 

 

「クロ様、お身体はもう治られましたか?」

 

「はい、だいぶと時間がかかりましたが、もう大丈夫だと思います」

 

真っ黒なスーツを見に纏い、サングラスをしている女性

間違いなく、これは弦巻家の遣いだ

もしこれを知らない人に認定してしまうと、借金取りに見えるだろう

それほどこの建物の中で異彩を放つ存在なのだ

私は、黒服が来た理由を軽く察していた

 

 

「クロ様、今すぐにでもこころ様の元へお連れしてもよろしいですか?こころ様がクロ様を心待ちにされております」

 

(やっぱり)

 

いつものことなのだが、この方々の行動力は唐突すぎるのだ

こころの提案に真っ先に実行する即時的な行動力は群を抜いている

だが、それを知らない一般人からするとただただ不気味なのだ

普通の人なら、この状況を飲み込むまで時間がかかるであろう

実際に初めて保健室であった時は困惑した

だが、二度目となると慣れたのか

私の方も即時に反応した

 

 

「はい、今すぐ行きます!」

 

二つ返事で承諾した

幸いなことに、今からでも自力で向かおうとしていたのだ

渡りに船の展開に、今日は何かいいことがあるのかという謎の自信も湧いてくる

 

 

「では、この真下の道に車を止めております。準備ができましたら車の前までおいで下さい」

 

「もう準備はできていますので、今すぐついていきますね」

 

黒服は私に向かってもう一度お辞儀し、踵を返し玄関のドアを開けた

私は開けて置いてくれた扉を、靴のかかとを踏みつつ急いで駆け出た

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「大変お忙しい中、こころ様にお会いしていただき誠にありがとうございます」

 

「いえ、大丈夫です。もし、黒服の方々が来られなくても、向かう予定でしたから」

 

現在、私は黒服の方々が用意した車に乗ってこころの豪邸に向かっている

...やはり、この空間には慣れない

小市民の私にとって、このリムジンは出来すぎた車なのだ

多分、あと何十回乗ってもなれることはないのだろう

これに乗るんだったら、この前に乗った先生のワゴン車の方がいい

 

私と黒服との間には3人くらいの幅がある

こんな広々とした空間をまだ少し怖くも感じる

そんなことはないだろうが、この空間が無限に伸びてしまうんじゃないかという気持ちがどこかに引っかかっていた

 

 

「クロ様、実のところここ数日間毎日クロ様のお宅にお邪魔させていただきました」

 

「はい?」

 

それは初めての情報だ

というか、この数日間のことは母親からしか聞いてないのだから当たり前か

 

 

「近頃、こころ様がどうしてもクロ様を必要とおっしゃっていました。その言葉に我々は毎日クロ様のご住所にお伺いしました」

 

「そのことは母親から聞きました」

 

「本当でしたら、こころ様をお連れしてお伺いするべきなのですが、我々の見解によりこころ様をクロ様の所に接近なさらないようにと結論づけさせていただきました。誠にご勝手ではございますが、ご了承をお願いします」

 

「は...はい、わかりました...?」

 

今の言葉の半分くらいしか理解できなかった

私に対して何らかの謝罪をしているのだろうが、私は何も悪いことはしていないと思うのだが

と、適当な返事しかできなかった

 

それよりも、こころが私を必要としていることが何よりも嬉しかった

やはりこころは最高の友達なんだと感じる一幕だった

 

 

「それでは、あと3分くらいで到着いたします」

 

「わかりました」

 

リムジンは着実に目的地に近づいている

あと3分で待ちに待った人物と再会できるとなれば自然と浮かれてしまう

前回と違って、リムジンを降りる際の感情は全く正反対になりそうだ

 

私の高揚感とは裏腹に、黒い車のスピードはいつまでも一定であった

 

 




久々の夢パートでした!
いや、夢パートなのだからハロハピメンバーは!?
って感じでしょうけど、次の話ではしっかりと出ます
(そして5人の台詞はハロハピ1章が元になると思います)

そして、2ヶ月間お待ちしていただき誠に申し訳ない...
リアルでF1にどハマりしてしまい、過去30年くらいのベストレースを見尽くしていましたw
しかし執筆しなきゃとずっと考えていたところ、やる気が出てきて一気に書きました
次は1週間を目標に書きたいと思います


バンドリではハロハピのコラボ始まりましたね!!!
『おジャ魔女どれみ!』とのコラボ、ある意味予想外でしたw
でも、みんな衣装が可愛すぎて私は死にました(特に花音ちゃん)

カバー曲には『おジャ魔女カーニバル‼︎』
めっちゃテンション上がって楽しい曲です!
(聞く度にZ会MADの歌詞が流れますが)


それでは、第36話を楽しみにしてください!


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第36話 久々の再会

前回は夢の世界へ入ったところまででした

今回は夢の中であの人と再会します!

では、第36話始めます



私を乗せたリムジンは大きな門を通過した

そう、ここは弦巻家の豪邸である

 

ここに来るのは二度目

前回に来た時は5人の女子高校生と出会ってバンド結成をした

私にとっての神聖な場所と言っても過言ではない場所だ

 

相変わらずとても広々としている

私の住んでいる場所よりも広い庭に、

学校の昇降口よりも広い玄関口

私が知っている場所と比べると普通のものがミニチュアにも思えてしまう

私がもしこの敷地の中で住んだとしたら、とても退屈な日々を送るのだろうとありえない状況を考えていた

 

 

送迎車は止まった

私は勝手に開いたドアからゆっくり降りた

屈み状態から立ち状態に変わると、玄関口のドアも勝手に開かれていた

 

そう...ここからが本番なのだ...

 

 

長い廊下を黒服の人と共に進んでいく...

周りには私達以外誰もいない

コツコツコツ...と軽く響く靴音

大きな窓から差し込む淡い光

床にひかれた赤い絨毯

寂しげな空間を慎ましい程度に色つけしていた

 

そんな場所を私は緊張の面持ちで歩いてた

顔を下に向け、誰にも聞こえない声で独り言を呟いていた

こころに会いたいという気持ちは全面にある...はずなのだが、いざこころに会えるというこの空間になった途端、心の中で迷いを生じさせた

 

私はどんな顔でこころと会えばいいんだろうか?

笑った顔がいいのか、申し訳なさそうな顔がいいのか、はたまた悲しい顔をしたらいいのか

よく分からなくなってしまった

1週間ぶりという長く短くもない期間が邪魔をしてくるのだ

 

再会という行動を経験していない私にはこれが初体験になる

そう、これは私が成長するための一歩になるのだ

 

 

コンコン

 

気持ちの整理をしている最中に、新しい音が木霊した

隣にいた黒服の人が急に立ち止まり、扉をノックした音だ

ただ、立ち止まる際になんらかの声をかけてくれたのかは分からないが、私は聴きそびれてしまったようだ

コンコンという音の前に、ドンッという音と頭に強い痛みを感じていた

 

 

 

「クーーーーローーーー!!!!」

 

「ぶふぇらっ!?」

 

全く理解できていなかった

この状況を

この空気感を

この感触を

 

気がついた時には、手とお尻を床に着いていた

そして、生暖かい感触をお腹に

柔らかい触覚を顔に感じていた

 

まるで、天使に包まれた最期の人になったかのように、ただただすべてを受け入れてしまうかのような感覚だった

 

顔を上げると、目の前を金色の髪が覆っていた

微かに香る、甘い匂いに吸い込まれそうになっていたが、その金色は一気に動き始めた

 

 

そこには、全く変わらないとても素敵な笑顔を私に向けて放っていた

幼い少女の憂いが全く感じない笑顔に、内心で考えていた悩みを一気に吹き飛ばしてくれた

 

 

「や、やぁこころ。元気だった?」

 

と、その笑顔に対しての聞かなくてもわかる質問を返した

そうすると、少し目を開き、細め、眉を少し垂らしながら返してくれた

 

 

「ええ!とっても元気だったわ」

 

と、いつものように返ってきたのだ

ただ、この表情は私にとって見たこともない表情で

先程の幼さがの残る無邪気な顔が

今は大人びいて蕩けた顔に変わっていた

 

普段は見ないこころの表情をこんな間近に見ている私には刺激が強すぎた

私目線には、ゲームでキスをする前の待ち状態のヒロインが思い浮かんだ

とても柔らかな表情を目の前に見て、こころが女性であるという認識をせざるを得ない

 

私の心の中は無性に昂り、身体が熱に帯ていく

手が焼け落ちるかのように

頭が沸騰してしまうかのように

心臓が爆発してしまうかのように

私が全て消えてしまうかのように、勢いよく血が流れていくのを感じた

 

さらに、自然と視界がボヤけ

鼻腔を大きく開け

骨から伝わる異常なまでの心音を聞き続け

口の中の水分が抜けていく

 

私の身体を私では制御できなくなっていった

もう、私の中にある理性が私と同じように溶け落ちていく

あと残るものといえば本能だけだ

本能の赴くままに、私を支配されるだけ

絶対に避けられない運命...

 

私の中から消えた

全ての感情が

全ての思考が

全ての恥が

 

徐に、目を軽く閉じ...

鼻から大量の空気を吸い切り...

口先を軽く前に尖らせ...

歯を閉じ呼吸を止め...

身体を前へ...

頭を前へ....

前へ...

前へ...前へ

前へ

 

 

ゴッチッンンン!!!!

 

(イッタアアアアア!?!?)

 

鈍く長引く痛みを感じ取った

その衝撃が、一点から熱と共に伝わった

その一撃で私の理性が水を得た魚のように瞬時に呼び起こされた

 

(ハッ!?今何をしたんだ!?!?)

 

その疑問が真っ先に私の中から湧き上がり、一気に目を見開いた

正直に言おう

全く笑えない展開が待っていた

 

 

「あわっ!?ク、クロ!?!?」

 

こ、こころが...私の眼前にいて...こころの眼が...真ん前に...そして涙目で...こころ...こころ...私は...

 

今起きたことが全く掴めない

私は私ではない間に何があった

こころが泣いている!?

こころを泣かせたのは誰だ!?

こころに何をした!?

こころにひどいことをしたのは....

 

ここまで瞬時に頭の中で紐付け終わった

そうして一つの結論に行き着いたのだった

 

 

そうだ、こころを傷つけたのは私なのだ

 

 

私が...こころを...

こころを気づけた...

お前が!お前が!!

 

(キミモナカマニイレテアゲル

アナタイツモヒトリダケドツラクナイノ?

アンタ、オレノトモダチヲケガサセタ

オマエナンカココニイナケレバヨカッタンダ)

 

昔のトラウマを自分に重ね合わせていた

私は何かしようとしたら、いい方向に進まなかったことばかりで

周りから厄介者扱いされていた私は

こんな私は...

 

大っ嫌いだ!!!

 

こんな奴!!

こんな奴!!!

 

 

こころが私から少し離れ、おでこを軽くさすっていた

ただ、その映像が見えているわけなかった

 

今見えているのは、小さい頃に無理に周りに合わせようとしていた過去の私だ

同じ年頃で遊んでるグループに私が勇気を出して声を掛けたあの時

あの一瞬、仲間に入れてもらえた嬉しさが私の中にはあった

しかし、それは1日と持たなかった

そう...私が集団に入ったばっかりに、一人を傷つけてしまった

私が声を掛けなければ、彼は怪我なんてしなくて良かったはずだ

そこから私を睨み、遠ざけた人達

 

その幸せからの転落の過去を見せしめに見せられていた

正直逃げたい

逃げたかった

しかしそれ以上、上回る感情があった

 

自分を殺してしまいたいという強い意志

後悔から来る嫌悪

嫌悪から来る殺意

殺意から来る逃げ

 

こうすれば、楽になれる

 

 

こんな思いが強ければ、出てくる行動はひとつだけ

周りに邪魔が入らない、今だから出来ること

目の前にある空間で出来る最善の手を

 

私は手を床から持ち上げ、首元へ近づけていく

躊躇なんてない、本気で力を目一杯入れ...

 

 

ピトッ...

 

「んー...クロはまだ熱があるのかしら...?」

 

(!?!?)

 

首元数センチまで手が近づいたところで、動きが止まった

そこで私の中の負の思考が一時停止させられた

手に入っていた力が自然と抜けていき、力を失った手が腕と共にもう一度地面に戻されていった

まるで、スタートラインを越えた陸上選手がトップスピードになる寸前に鳴らされたフライングの知らす音のように

彼女が、私を掌一つで止めてしまった

 

 

天使は、犯罪者の灼熱の生命線を手に取り図っていた

無意識な女神が、愚者を操ろうとしていた

弦巻こころが、私のおでこに手を置いていた

 

私の体温を測る、こんな些細な行為だけで自分(過去)から私(現在)を見つけ出したのだ

 

 

「うーん...クロ?少し熱っぽいわね?」

 

こころの声が、他の雑音を掻き消して私の中で突出して聴こえてくる

もっと大袈裟に言えば、こころの声しかこの世界に音という概念が存在していない

この世界に確かに存在した救いの手だった

こころが私の体温を手で測ってきたのだ

私の体温よりも熱く

私の気持ちよりも厚く

私の存在よりも暑くて

何より天然だった

 

 

こころの疑問文に私は答えを出せなかった

目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をした

驚くわけでもなく

逃げるわけでもなく

振り払うわけでもなく

受け入れるわけでもなく

ただただ手の感触を感じているだけ

これが曖昧な私の表現方法だった

 

 

受け答えができないぬいぐるみに、一人の少女は大切なものを独り占めにするかの如く、もっと具体的な行動に移行した

 

 

コチン...

 

小さな乾いた音が私のおでこに流れた

優しく、暖かな感覚

名状しがたいこの雰囲気

私は小さく目を開いていく...

 

 

真っ暗闇の中に、二つの目が私を見透かしていた

異常なほどの怖い感覚が、私の目を襲った

私は咄嗟に目を大きく見開いた

先程まで遮られていた光が、今度は大量に目を通していく

そこで、クロ一色の中で金色に光るカーテンが視界の淵を囲んでいた

私の世界を全て取り囲んでくれる地平線

黒の世界は、最後には綺麗な金色に変わる

夜が必ず明けて、太陽が登り朝になるように

 

 

こんなことを考えているうちに、普段の私に戻ってきたようで

まともな思考ができるようになるまで回復していた

金色のカーテンが金髪であることを

次に、この目がこころのであることも

そして.........!?

 

 

「うーん...やっぱり熱があるのね!クロ、もう少し休んだ方がいいと思うわ?」

 

「ひゅぇ...!?」

 

(!!!)

 

こころは、私のおでことこころのおでこを合わせていた

相手の体温を直接計る方法

それは、自分の体温を計る場所と相手の体温を計る場所を直接比較する原始的な方法だった

確かにこれ以上簡単な方法はないだろうが、だからと言ってこれは...

 

刺激が強すぎた...

 

 

「あわわわわわわ!?!?!?」

 

変な言葉と共に、私は矢のような速さで手を持ち上げ、こころの横顔を触った

そして軽く頬を持ち上げさせ、こころの顔を安全地域へと離し、

私の身体を芋虫のように、器用に手足や腰を使い身体を後方へくねらせて下がった

逃げている間、こころの顔を見ないように出来るだけ背景を見るようにしていた

今彼女の顔を見たら、もっと体温が上がりそうで

そうしたらもっと彼女が近づいてきそうで...

 

 

ある程度離れたところで、動きを止め彼女の方に視線をゆっくり動かした

彼女は、私に触れられていた頬を軽くさすっていた

彼女と視線が合うことはなく、こころは斜め下を向いていた

正直、目線が合わなかったことにホッとしていたのも束の間

彼女は私に振り向いて、輝いている金髪が大きくたなびいた

乱反射され、より一層に美しく見えた髪から、少々複雑な表情をしたこころの顔が映った

笑ったという顔でもなく

悲しみという顔でもなく

目がまんまるとしていて、口は自然に閉じており、私に何か訴えかけているかのような表情だった

 

 

「クロー、まだ風邪は治ってなかったのね?」

 

その表情のまま、私に質問をかけてきた

この表情を見ている私は、よくわからない気持ち悪い気持ちが湧き上がり、よくわからないが、こころと同じように斜め下を見て、目線を合わせず、答えを言い出した

 

 

「......よくわからないんだ...自分はもう良くなったと思ってるんだけど...」

 

と、素直な気持ちを返した

質問に対して間違ってない答えを返した

だが、真っ先に出てきた感情と気持ちは押し殺してしまった

 

(あの顔は...)

 

私のどこかにこの顔が引っ掛かったのだ

それが何か、薄々感づく事はあるのだけど今は特定できる事はないだろう

 

私が答えてから少しの間があった

その間、私はずっと顔を伏せたままだった

こういう時は、私から動くのは難しすぎる

できるなら相手から動いて欲しい

 

その願いは天に届いたのか、それとも私から溢れる他人任せなオーラをこころが感じたのか、対面にいる人の方から微かな風を感じた

風を受け、私はゆっくりと正面に戻した

 

こころは私の方に向いてはいなかった

こころは私を背にして、頭がふらふらと動いていた

私のことを置き去りにして、こころは新しい何かを見に行こうとしているように感じた

少し心の底でズキッと痛みが生じた

消えたはずの傷痕がひろがるような嫌な痛み

その痛みが広がってきそうなタイミングで

 

こころは私に向き直ってくれた

今度は笑顔で

もう大丈夫だよって言っているような、そんな素敵な笑顔

 

 

「じゃあ、これあげるわ!クロ!これだけしていればすぐに元気になるわ!ほらっ!」

 

そう言って、こころは手に持っていたものを、私の口元に当てて来た

分厚いガーゼが唇に当たった

多分だと思うが、これはマスクだ

風邪をひいている私に、必要なもの

弱っている時に元気になれるおまじない

こころは、私に元気を振りまいてくれた

 

耳にかけるゴムは宙ぶらりんのままで、マスクの裏側をこころの人差し指と中指が軽く抑える

固定されるはずの場所と、空間がある場所が入れ替わっていた

こころの指は、確実に私を捉えていた

 

 

「あっ、ありがとう」

 

予想の範囲外の行動に、私の返答はとても素直なもので

感謝以外に伝えられる事はなかった

私は、そう言いながら耳にかけるゴムの部分を手に取り、両耳に耳に掛けた

耳に掛け終えたと分かると、こころの指は離れていった

こころの手が自身の定位置に戻り、もう一言

 

 

「これで安心ね」

 

と、少し大人びいた優しい微笑みを返した

私も、自然と釣られてしまうような笑顔だった

顔が緩み掛けたその時、他の場所よりも少し赤く色づいてしまった彼女のおでこが目に映った

私はその跡を見て、私の失態を思い出した

首を締めようとした前に、彼女に頭突きをしたことを

私に痛みはなかったが、彼女にはもしかしたら痛みがあったのかもしれない

そう思うと、口がまた元に戻りそうになってしまった

 

しかし、完全に戻り切る前に止まり笑顔へと切り替わった

そうだ、さっきこころがしたようにすればいいのだと気付かされた

私が誰かを傷つけてしまったのならば、その分私がその人を助ければいいんだ

そうしたら、笑顔は伝わっていくんだと

 

『世界を笑顔に』とは、何も全てが完璧である必要なんてなくて

別に失敗したっていいんだって

失敗したら、それ以上に成功したらいい

失敗した分、その人にそれ以上の恩返しをしたらいいのだ

 

今の私には、こころに対しての傷薬は持っていないが、これからこころの漢方薬になれたら嬉しい

こころが私の天使(ヒーロー)であるならば、私がこころの友達(ハッピー)になろう

 

今度は、ちゃんと絆創膏を持ってこよう

 

 

 

「それじゃあ、クロ!早速いくわよ!みんな待ってるわ!」

 

と言って、私が立つ前に扉を開けて元気よく出ていった

私は、ふふっと誰も聞こえない声で呟いた

ゆっくり立ち上がり、歩き始める

いつかは、こころと同じ歩幅で歩いて行こうと誓って

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

リムジンに乗った二人は、スタジオと向かっている

こころは私の反対側に座っている

座りながら、私に向かっていろんなことを話し続ける

 

最近学校であったこと、

授業のこと、

部活のこと、

休み時間のこと

ずっと話尽きないくらい一方的に離し続けていた

 

一方の私はというと、こころの話に2割程度耳を傾けつつ、窓の外を見ていた

 

雲の流れや、

澄んだ青空、

流れていく街並み、

対向車の車の色

 

いろんな世界が目に入ってくるのを、ただただ眺めていた

その中で、一つ注目したことがあった

 

小さな公園にある小さな人集り

少人数の野外コンサートが開催されていた

15人程度の吹奏楽だった

その中に、私の記憶にある人物が一瞬見えた

必死に楽器を吹いている女生徒

 

その彼女に気に留める余裕もなく、背景と同じく過ぎ去っていった

今見えるものと感じられるものは、

こころが黒服に貼ってもらったであろうおでこの絆創膏と、私の手に残った温かく柔らかな感覚だった

 

 

決意と期待を乗せて、目的地に進んでいく

他の4人に会う時は、もっと自分らしく、もっと出来ることをしよう

 




滅茶苦茶投稿遅くなって申し訳ないです!!!
前回から1ヶ月半...本当にサボりまくってました...
理由はこころの蕩けた表情を書いた辺りが原因ですね
そこからの構想が全く纏まっておらず、ただただこころの恋愛表情を書くのに書き手側がとても恥ずかしくなり、書くのに勇気がいるところでしたorz
その上に、途中に暗い場面を追加したかったので、その部分を考えるのも時間がかかりました
また、この辺の過去のお話もしようとは思いますが、その時はよろしくお願いします


バンドリでは色々なバンドで3章始まりましたね
ハロハピはいつになるんだろうか...
楽しみに待っています!!
年末年始カバーも楽しみに待ってます!

そして、この小説を登録してくださった

「雪の進軍 様」

次の投稿は来年になるでしょうかね?
というわけでメリークリスマス!
良いお年をお過ごし下さい!

それでは、第37話を楽しみにしてください


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第37話 ハロー、ハッピーワールド!

前回はこころと一緒にスタジオに向かっているところまででした

今回から台詞部分の前にキャラ名を書いていこうと思います
(例: こ「○○〜〜」→こころの台詞
  は「○○〜〜」→はぐみの台詞
  美「○○〜〜」→美咲の台詞
  薫「○○〜〜」→薫の台詞
  花「○○〜〜」→花音の台詞
  ミ「○○〜〜」→ミッシェルの台詞
  ク「○○〜〜」→クロの台詞 etc)

さて、今回はハロー、ハッピーワールド! 第1章 第9話を元に進めていきます

では、第37話始めます



LIVEHOUSE CiRCLE(サークル)

都会の真ん中にあり、人通りの多いところに建ってある小さなライブハウスだ

そんな場所に、厳かなリムジンが登場したのだから、必然的に周りからの視線が一点集中に集まるわけなのだ

ライブハウス前のオシャレなカフェテラスの隣に、黒塗りのリムジン

この図だけを見たら、この車の恐ろしさというものは考えることすら拒絶したくなる程だ

 

そんな冷たい視線を車の窓の中で感じながら、私はこの空間から出る頃合いを探っていた

このまますぐに出てしまえば、この気持ち悪い感覚を背負い込むことになるのだ

況してや、私はこんなスタジオに来ることなんて知らなかったのだから、私に責任はないはずなのだ

...って考えていたが、こころと行動を共にしている時点で答えなんて見つかっていた

 

ふんふふふーん♪

 

こころは鼻歌混じりでリムジンから降りていった

周りの視線なんて気にしていないのか、そもそも眼中にないのかはわからないが、こころは平然とこの空気の中を駆け出そうとしていた

そんなこころの姿を見ていると、私の考えていることの小ささに馬鹿馬鹿しくなっていた

 

私は、こころの次にドアを開けてくれた黒服の合図と共に外へ出た

幸いにも、第三者達の視線は私にはほとんど向いておらず、こころの方に向けられていた

それでも、私の中の苦い記憶が少しの恐怖を煮えたぎらせるのを感じ、こころの護衛について歩いている黒服の死角へと逃げ込んでいた

 

10mほどしかない華やかな空間が、私にとってはファッションショーのランウェイのように感じられた

華やかさのベクトルの違いが、私を影へと引き込まれたようだった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こころ「あれからまた1週間ね!それじゃあみんな、自主練の成果を見せてちょうだい!」

 

5人と私が揃うと、こころから話を始めた

何やら、私が夢の世界に来ていない間に色々と変わったことがあったようだ

まず初めに、私との再会時のみんなの反応だ

 

こころは言わずもがなだが、他の4人には多少の差異が見られた

 

花音は、始めて顔を見合わせた時に比べて私に対して柔らかな笑顔で応えてくれた

あんなにおどおどしていた彼女からの笑顔というのが、なんとも心を暖かくさせてくれる

他の4人の中でも、今のところ一番彼女とは親密な関係になっていると言える

 

はぐみは、私のことを覚えているのかどうかわからないが、私に対してとてもいい声で挨拶をしてくれた

初めて会ったのは、商店街でぶつかった時だった

その際、私の事を気にも留めるそぶりも見せなかった

ただ、今は私のことを仲間だとは感じていてくれているようだ

 

薫は、前と殆ど変わっていなかった

私の姿を目にしては、一言

「王子様のご帰還とは...儚い...」

と言い、目を閉じて手を前でクロスさせていた

私にはそのポーズの意味がよくわからないのだが、彼女なりの感情表現なのだろう

だが、私のことを王子様と誇張するのはどうなのかとは思う

私は、ただのこのバンド唯一の男ということだけなのだから

 

最後に、美咲

彼女には私に対して警戒心があるのか、私がスタジオのラウンジに入って来たのを見て、目を大きく見開いていた

そこまでは第1回の会議とは同じだった

違った点はここからだ

私に対し、目を細めていた

先程感じた一般人からの冷たい目ではなく、疑念を抱くような目だった

痛いというわけではない、何か私の心を読もうとしている動きに見えた

もしかしたら、彼女は私のことを嫌っているのかもしれない

私が、美咲と同じように後からの部外者だと感じており、わたしはとうの昔にハロハピから脱退しているのだとでも思われていたのかもしれない

そうなると、私がこころと一緒にスタジオ入りして来たことはとても不思議なことだと感じたのであろう

...彼女とはいつか、私の本心を話してみたいと思った

 

 

それから、5人の少女達は奥の控え室へと入っていった

これからバンド衣装に着替えるようだ

私に、一言

「それじゃあ、クロはゆっくり待っててね」

と、こころが話した

少し置いていかれたような気持ちが、心の奥でひっそりと出現して来たが、その気持ちを表に出さまいとラウンジの中を見回した

 

私が初めてこころの家で運んだ楽器が並べられている

 

黄色にリボンのついたマーチングマイク

白地に金色の金具が付いたギターと、茶色を基調としたギター

黒色に銀色の金具が光るベース

記憶に新しい水色のドラム

 

そして...黒い箱...???

この一つだけ見たことがなかった

それもそのはず、あの時には運んでいなかった楽器だからだ

というか、これ自体が楽器かどうかもよくわからない

だが、ここに置かれている以上、これも楽器なのだろう

そしてこれは残りの一人、美咲が担当する楽器だということまで推測できた

 

一つ一つの楽器がピカピカと光っていた

このスタジオの照明が原因なのか、はたまた私自身がこういう楽器を見るのが嬉しいのか

とても生き生きとしていた

正直言って触りたい

触りたい!...が、今はよしておこう

当人達が来る前に触って壊してしまっては元も子もない

私はショーケースの中に入った目打ち物を見るかのように、少し離れた位置から見るしかなかった

 

 

そうしていると、黒服の人が一人私に声をかけて来た

お互いに軽い会釈を交じらせ、私がいない間の1週間に起きた5人の行動を伝えてくれた

 

私が消えた次の日、私以外の5人はこのスタジオを訪問した

そこで今後の方針を決めたようだ

こころの「ライブがしたい!」という鶴の一声で、薫と共にライブができるスタジオを探していたようだ

知識が殆ど無い彼女らに助言を出したのは美咲であった

美咲の助言は、曲の練習をし、4、5曲演じれるようになる必要があるということだ

 

そこで黒服の人達は、美咲がラウンジから出て来たところで美咲にミッシェルの着ぐるみを渡したそうだ

曰く、ミッシェルは商店街のマスコットの任を解かれ、このバンドの為に買収したようだ...

そして、その中に入っていた人が奥沢美咲だった

 

その他にも、黒服の人達は日本一有名なロックバンドの出演交渉、演奏曲の作詞作曲アレンジ、バンドの宣伝など、根回しの準備をしていた

だが、その全てを美咲は断ったようだ

理由は本人から聞いていないが、黒服の人の考えではラウンジの中から聞こえたこころの言葉

 

「だめよっ。これはあたし達のバンドなのよっ。バンドはライブの演出も、衣装も、全部自分たちでやってからこそよ!」

 

この言葉が彼女の何かに刺さったようだと推測した

そして、彼女はミッシェルを着て、みんなの前に立ったのだ

それから2、3日後、ミッシェル(奥沢美咲)はライブハウスでのイベントに出られるように交渉していた

初心者のバンドが出れるイベントで、このバンドも出れる事になった

ミッシェルの大手柄に対して喜ぶメンバー達だったが、ここでこころがまた素晴らしい提案を話した

ミッシェルの担当楽器をDJにする事を決めたのだ

 

 

ここまでが、私がいない間に起きた出来事だ

黒服の人との立ち話は10分も続くくらいに壮大なお話

私は、その話を聞き漏らさないようにじっくり聞いていた

その時の私の反応はどうだったか、私には見えていない

見えているのは目の前にいる黒服の人だけ

ただ、黒服の人は全く表情が現れない

従って、私がどんな表情をしていたのかを判断することはできなかった

 

しかし、簡単に想像できる

私がいない間に、確実にスタートラインから進んでいたのだ

ライブの日程を決め、全員の楽器担当を決め、ライブ衣装も決めて着替えている

私一人だけが置いていかれている、そんな気持ちが湧き上がった

1週間のブランクが、他の5人との温度差を感じてしまう

 

バンドのライブを見てみたいという嬉しい気と

私が居なくても、大丈夫なバンドを見ている悲しい気が

交錯した

 

モヤモヤと、霧がかかったように心が受け付けにくい

そうして、私は話が終わった後、下を向きながら考えていた

 

その場から私は動いていない

見えているのは綺麗に光っているフローリングの床

楽器と同じく、ピカピカに光っていた

私に見える光沢の差が、私の無力差を物語っているのだと考えてしまったのだ

 

そんな無駄な事を考えていると視界に一つの物体が映り込んできた

黒服の人が、私にある紙を見せてきたのだ

視点が自然とそちらに合っていき、虚像が実像へと変わった

それは、白い紙だった

白い紙には黒い線が引かれていた

その線は曲がったり、点が付いていたり、撥ねていたり、といろんな形をしていた

そこから、もう少し視点を遠ざけてみた

全体像が浮かび上がる

線は文字へと変わった

そうして見える言葉を私は呟いた

 

「...クロ...様の...衣装......案...?」

 

私の為に作られた計画書だった

私用に考えられた...

クロ専用の衣装...

 

本名では無い、このバンドメンバーとしての

ハロー、ハッピーワールド!の一員としての衣装

 

一文を理解しきったタイミングで、私は紙を両手で握っていた

何故か用紙に描かれた文字が揺れていたが、気にしない

私はこの紙を強く握って、目の前に顔を上げた

黒服の人の表情は変わらない

冷たく光るサングラスをかけ、私に一言

 

「クロ様のライブ衣装をご用意させていただこうと思うのですが、どちらの衣装がよろしいでしょうか?」

 

と、私に聞いてきたのだった

思いがけない質問に、私の目が熱くなるのを感じた

しかし今このままそれに負けてしまうと、この紙の内容がよく見えなくなってしまう

私は必死に堪えて、もう一度下へ顔を落とした

 

クリップで止められていた何枚かの紙

その一枚をめくろうとし......

 

 

(だめよっ。これはあたし達のバンドなのよっ。バンドはライブの演出も、衣装も、全部自分たちでやってからこそよ!)

 

 

「.......ごめんなさい、まだ私の衣装については全然考えていませんでした...。こんなにいいものを作ってもらって嬉しい限りなんですが、こころ達のライブ衣装を見てから自分で決めてもいいですか?...一人だけ浮いた衣装を着てしまったら、みんなに迷惑がかかりますし」

 

めくろうとした指を止め、瞬時に向き返し回答した

私の放った言葉からは強い意志が篭っている

 

私がハロハピのメンバーだと自信を持って言えるのであれば、

私が考えた物を作りたいと

自分達でやるからこそ、

わたし達のバンドであると

 

私はこころの言葉を思い返しながら、強く訴えた

強弱に差はあるだろうが、数日前の美咲と同じように

私は自分で決めようと決意したのだ

 

 

黒服の人に紙を返し、私に軽いお辞儀をしてからこの場を去った

再度、私一人の空間へと戻った

シーンとした閑寂な空間

そこには、先程と異なった自分がいた

 

楽器を憧れとして見ていた数分前の私は、

控え室へと繋がるドアを見ている私へと変わった

 

いち早くみんなのバンド衣装が見たくて、

みんなと同じような衣装を考えたくて、

ドアが開くのをジッと待っていた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

こころ「あれからまた1週間ね!それじゃあみんな、自主練の成果を見せてちょうだい!」

 

そして今へと戻る

5人の煌びやかな少女達が自分達の楽器を手にし、演奏の準備をしている

一人一人、とても可愛い

 

赤色のシルクハットのように高く、黒いつばのついた帽子に

白い上着に、赤いチョッキ

金色の肩章とボタン

黒い襟元に、肩帯、腕飾り

白いフリルのついたスカートに

赤いロングブーツ

 

どこから見てもマーチング衣装だった

私の第一印象からすると、いつの間にかテーマパークに来たのかと勘違いしてしまう程賑やかな顔合わせとなった

この衣装を見て、私はどんな衣装を着なければならないのか考えなくてはならない

そこに至るまでに、恥ずかしさの方が先行してしまったのだった

 

 

こ「ミッシェル、音楽を!」

 

こころはやる気満々だった

 

 

ミッシェル「えっと、......こう?」

 

そう言って、ミッシェルはターンテーブルを使って音楽を再生した

音楽が流れ始める

とっても明るく、弾むような曲調

私は目を閉じながら聞いていた

 

 

ミ「えっ。なんだ、結構......」

こ「いえーーいっ♪」

はぐみ「えいっ、そいやっ!」

薫「ことばは宙に舞い、思いは地に残る........儚い...」

花音「...........」

 

音楽が掛かり始めてから、一人一人真剣に演奏に入っていく

真剣に弾いている人もいれば、

自分の世界に入っている人もいる、

意外だと思っている人がいれば、

音楽に合わせて元気いっぱいな人もいる

みんな曲に対して一生懸命だった

 

私は目を閉じながら、一人一人の練習過程を考えていた

経験者もいれば、未経験者もいる中で1週間足らずでこんなにも上手に弾けるようになるまでの努力を感じ取っていた

誰一人として、軽い気持ちでは演奏していなかった

 

演奏が終わった

私は音が止むのを待って、大きく手を叩いた

目を開けて、5人の動きを確認した

 

こころと薫の二人は演奏前と演奏後に違いはないが、はぐみには少しの違いがあった

最初は緊張した面持ちで始めていたが、終わった後はいつもの笑顔に戻っていた

花音も、はぐみと同じように私の拍手に照れながらも軽い笑みを浮かべていた

......ミッシェルは...表情が変わらないのでよくはわからないが、中の人も終始案外上手くいっていることに感心していたのであろう...

 

 

こ「やっほーーーーーーっ♪クロも盛り上がってるっ?るんるんいえーーいっ!」

クロ「うん、とっても良かったよ!」

 

と、私の本心をそのまま伝えた

その言葉に嬉しかったのか、はたまたいつものことなのか、急にバク転を始めた

できれば、バク転した後に楽器とかに当たって壊れないかとか、

スカートの中が見えてしまうことに注意して欲しいとか、

元気すぎてこころを止められる人がいないから少し落ち着いて欲しいとか、

いろいろ言いたいことはあるが、まぁ今はどうでもいい

こころは心の底から音楽を楽しんでいる

それが伝わってくる、楽しそうなバク転だった

 

それから何度か演奏を繰り返して、どんどんと良くなっていった

全体的に演奏ミスが減ってきており、数名の緊張感から少しの余裕を感じられるようになってきた

 

 

こ「すごいわみんな!これでライブ本番も完璧ね!」

は「すごいよ!このバンドって、最強だよ!」

薫「音楽とはなんと美しいのか、素晴らしき新世界......!」

こ「でしょーっ♪クロはどう思ったかしら?」

ク「とてもいいと思うよ」

ミ「って、まだ1曲しかできるようになってないから」

 

鋭いツッコミが入った

そりゃそうだと、納得していたところ

 

 

こ「1曲できたってことは、何曲だってできるっていうことよ!!」

 

流石だ

こんな考え方は私にはできない

 

 

ミ「.......本当、スーパーポジティブ。まぁでも、結構よかったかもね」

 

やはり、ミッシェルも手応えを感じていたようだ

 

 

花「美咲ちゃん、本当っ?わ、私、ちゃんと叩けてた?」

美「花音さんは、もっと自信を持った方がいいよ。みんなの演奏、しっかり支えていたと思う。あたし、プロじゃないし、そんなにわからないけど。.......ドラム辞めなくて、良かったんじゃない」

花「はわ......!?う、うん......!」

 

...美咲はとても感想をいうのが上手だ

花音のドラムを聴き分けて、適切なアドバイスを送っている

そして、最後に一言相手に一番思いやりのある言葉をかける...

こちらも今の私にはたどり着けそうにない

 

 

は「よーしっ!この調子でこのバンドでライブハウスを盛り上げちゃうぞーっ!......ってこのバンド?」

こ「バンドがどうしたの、はぐみ」

は「こころん。このバンドの名前ってなーに?まだ決めてなくない?」

ク「あっ...」

花「そ、そういえば......?」

 

そういえばそうだ、このバンドの名前なんてこころから聞いた覚えがない

その考えは、他の人も同じようであった

 

 

ミ「あ、ようやくお気づきのみなさん。あたしが気を利かせて、バンド名は未定で出演申請してますから、どうぞご心配なく」

 

なんというか、全てを察して対処してくれている美咲が一番すごいのではないだろうか

というか、そうとしか提出できなかったという可能性もあるが...

 

 

こ「バンド名は決まっているわっ」

ク「えっ」

ミ「決まってるなら言おうよ!」

 

ごもっともなツッコミだ

にしてもこころが考えそうなバンド名か...

ハッピーとか...ハローとかつけそうだ...

そう例えば...ハロハ...

 

 

こ「ハロー、ハッピーワールド!

  世界を笑顔に! って意味よ」

は・ミ「ハロー......」

薫・花「ハッピーワールド......」

ク「えっ...!?」

 

(やべっ...少し声が大きかったか)

今までの一音よりも大きな声で驚いていた

そう...私の今考えた候補の言葉が両方とも入っているのだ

「ハロー」と「ハッピー」

何故か、一致してしまった

...というか...よくよく考えてみると......

 

私は、いつからこのバンドのことをハロハピだと呼んでいたのだろうか?

 

(わからない...いつだ...)

考えているうちに会話は続いていた

 

こ「誰かを笑顔にするには、まず自分から笑顔になって、話しかけないとってこと。『ハロー』ってね!」

は・薫「うん、すごく......!」

花「こころちゃんらしいし、私も好き、かな......」

ミ「なんかそのままって感じだけどね。」

 

みんなこころのバンド名に賛成していた

私もこのバンド名には賛成だ

だが、私の中の何かが否定したいと叫んでいた

それが何かがわからない

そんな得体の知れない者が私を縛り付けた

『ハロハピ』という四つの音の意味に

 

頭の中での葛藤が心にも影響したのか、それとも心の中での葛藤が頭にも影響したのか

視界がゆっくりと回り始めた

身体が揺れているように感じ、お腹から変な音と熱を感じ始めた

何故か喉を掻き毟りたくなる衝動を感じ、私はゆっくりと手を上げた

 

それに花音が気付いたのか、私に声をかけてくれた

 

 

花「ク、クロさん...?何か、こころちゃんに言いたいの、かな......?」

こ「そうなの?クロ、このバンド名とってもいいと思うのだけど、どうかしらっ?」

ク「い、いや...そっちは全然問題ないと思うよ......ちょっと、喉乾いたから外に行ってお茶飲んできてもいいかい...?」

こ「いいわよっ!クロはゆっくり休んでてて。」

ク「じゃあ...」

 

 

そうして、みんなの視線を尻目に私はラウンジ入り口のドアの方向へ向き、歩き始めた

フラフラした足取りではなく、真っ直ぐに

歩幅も小さくなく、いつもと同じ感覚で

普通にそのまま出ていった

 

花「クロさん、大丈夫...かな...」

薫「心配ないさ。王子様は必ず...

は「はぐみは少し心配...」

ミ「あっつ。ちょっとあたし、コーヒー飲むから、これ、脱ぐわ」

 

 

スタジオの玄関ホールで私は天井を見上げた

白い天井が私を照らしていた

何故か来た嫌な苦しみと戦いながら、ここまで一人で来れたことに少し安堵した

耳から入ってくる数名の悲鳴には注意を向けることはできなかった

小さくふぅっと息を吐いた

息を吐いて軽く目を閉じる

目を閉じると、先程のみんなの演奏が聞こえてきた

みんなの楽しそうに演奏している風景も目蓋の裏側から視えている

そう、それは

数人が入った真っ暗なステージの中

急にステージライトが5人を照らし出し

演奏を始める

マーチン...

 

 

ここまで考えて、私は頭を大きく左右に振った

もうこれ以上先のことは考えたくなかった

頭を振り切って、目を痛くなるくらいに見開いた

それで、ようやく気持ち悪さが無くなった

目の上下がヒリヒリと痛い

それでも、目の前に見えた現在()を真実として受け入れると決めつけた

 

もう一度、今度は大きく息を吐いてスタジオの外に出た

リムジンから降りたときに見えた、スタジオ側の自販機でお茶を買いに

 

入り口の自動ドアが開き、外の空気が流れ込んでくる

空はこれでもかというほどの青空で

雲なんてこの世にないのかと思うくらいの晴天であった

近くに流れている小川のせせらぎの音を小耳に挟みつつ、これからの予定を考えた

 

このスタジオを練習が終わったら、花音とこころと一緒に、私の練習を始めたいと思う

はじめての三人の練習

それは私の記憶の中に留まり続けてほしい

はじめての挑戦なのだから

 

 




...あけましておめでとうございます(2月中旬)
今年もよろしくお願いします

毎度毎度遅くなってしまって申し訳ないです...
1月中は携帯の充電コードが壊れたり、携帯の調子が悪かったり、PCの調子が悪かったり、給湯器が壊れたり、ガスコンロが壊れたりと中々大変な1ヶ月でした
そんなこんなで執筆している余裕がなかったのが遅くなった理由です
(書くやる気がなかなか湧かなかったのも一理ある)
しかし2月に入り、ハロハピの第3章イベント開催を聞きつけ、私の小説へのモチベーションが上がった結果2日間、計6時間で書き上げました!(最初からやる気を出せと言ってはいけない)


今回の第37話を書くに至り、前書きでも書きましたが、ハロハピ1章9話を引用しております(8話の一部も引用しています)
1章のバンドストーリーを見返すと本当に懐かしい気持ちでいっぱいでした!(1章はどのバンドも好き)
そして、もうハロハピ3章イベは始まっていますが、全ての話を解放していますが現在まだ1話も読んでおりません
話がごっちゃになるといけないと思ったので、この第37話を投稿してから読もうと思っております
(でも、次の第38話も1章を引用する気満々なんで、どうしようかなと思っている次第です)

最後になりますが
この小説をお気に入り登録していただいた

『inubasiri 様』

本当にありがとうございます!
亀のような投稿ペースですが完結までしっかり書くつもりなので、ご愛読のほどをよろしくおねがします!!

それでは、次の話は1週間を目標に書くつもりなので第38話を楽しみにしてください


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第38話 誘惑の品

前回は、バンド名を「ハロー、ハッピーワールド!」と決めたところまででした

今回は、ライブハウスを外に出てから練習終わりまでを書いて行こうと思います

それでは、第38話を始めます


ライブハウスを外に出てから約1時間

私は外のカフェでオレンジジュースを飲んで待っていた

 

外の空気に触れるうち、あの嫌な既視感から遠ざけられ、ゆったりとした気分で座っていた

ホイップが少しついたビニールテープと何も残っていない皿、近くの自動販売機で買ったオレンジジュースの缶がテーブルの上に置かれている

周りの他の席には、小さい子供連れの家族や大学生くらいのカップル、制服を着た女子高生...、いろんな人々が澄んだ青空の下、余暇を過ごしていた

公園のような憩いの場所として、カフェは成り立っている

周りから聞こえて来る小さな会話音が、初夏に近づいて来ると感じる温かく柔らかな風により、吹き通っている

風が、隣に生えている並木達を騒つかせていた

 

ライブハウスを来訪する前の私に向けられた視線はどこ吹く風だったのか、私服姿の私はこの場所の人達の中に紛れ込んでいる

今は完全に一般人なのである

予想するに、こころ達に会わないでいたらこんな普通な日常を迎えていたのかもしれない

もっとも、私が休日に一人でこんなカフェに来るなんて行動を出来るかは別とした場合だが

 

だが、今はこころ達の練習を待っているだけに過ぎない

もうすぐ、こころ達の練習も終わるだろう

そう思うと、風が厄介な者へと変わってしまう

夏のようなギラギラとした暑さではなく、

冬のようなビュッっと吹くからっ風でもなく、

私をこの場所に縛り付ける、少し嫌味ったらしい柔らかな風だからだ

 

ここを動きたくないという気持ちを、なんとかしてこころ達の演奏風景に差し替える

くつろぐ前に聞いた、初めての五人でのセッション

私の中であの音楽は、とても楽しい気分になれた

明るい曲調は、こころにとってもよく似合う

そんな、無邪気な表情が強調されて出てくる

こころの真剣な顔というのは想像できない

真剣な顔をしていた人物は別にいたからだ

 

松原花音

 

彼女らしい演奏時の表情だった

初めて彼女に会った1回しか事前に見てはいなかったが、私は花音の必死さが紐づけられていた

花音の直向きなドラム捌きは、全くリズムを乱すことなくバンドの地盤を支えていた

 

そこに私が入ろうという気持ちは湧かなかった

何も楽器もできない私が、どの楽器を持って演奏すればいいのか

もし入ったとして、私がぶち壊すに決まっている

だから、私は最初のハロハピライブでは演奏は絶対にしないと誓った

...でも、いつか機会があれば、なんらかの楽器で演奏したいと思う...

 

 

そのためにも、この後の予定は重要なのである

花音にタオルを返した時にした約束

『ドラムの演奏の仕方を教えてもらう』

これを遂に実行に移す日が来たのだ

 

あの約束から1週間が過ぎた

その間に、現実世界で壊れたドラムを修理した

もういつでもドラムを叩くことはできる

だが、その技術を私は持ち得てはいないのだ

このままでは、私の目標であった片割れしか達成できない

何しろ目標にあるのは、私が演奏する未来の音を奏でることだから

 

その為には絶対に実行しないといけない

数分後の未来には、二人を誘うという最大の難関が待ち構えている

...もう、羽丘学園での失敗は繰り返すつもりはない

花音とこころの二人の前で、オロオロとした姿は見せたくないのだ

 

 

そう固く決意を固め、残っていたオレンジジュースを一気に飲み干した

残っていたジュースの量は、自分が思っていたよりも多く、一瞬むせ返りそうになったがなんとか堪えた

空の缶と食べ終わっていた皿を持って、ぬくい風に後ろ髪を惹かれつつ、席から立ち上がったのだ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

もう一度、ライブハウスに入ってから約20分

五人の少女が扉から出てきた

 

私はその出てくるまでの間、黒服の人打ち合わせをしていた

私の衣装の件や今日演奏した曲についての話をしていた

最終的に、私のライブ衣装については今後決めると言い、最初のライブでは観客席から見ていたいと結論づけた

黒服の人は私の意見に素直に受け入れてくれて、今回のライブのチケットを取れるように交渉をしますと言ってくれた

その話を聞いていたのか、私と話をしていた黒服の人はまた違う黒服の人が、受付にいるライブハウスの店員らしき人に話しかけに行くのが見えた

その様子を見るに、多分この場所がライブ会場であると予想し、弦巻家の黒服ともなればチケットの1枚や2枚どうってこともないのであろうと、勝手に想像がついていた

 

 

と、なんだかんだ話し合いを進めていたら、ガチャとドアノブが回る音がした

 

先頭に出てきたのはこころだった

その後に、花音

そして次に、はぐみ、薫と続き

最後尾に、美咲が出てきた

 

はぐみと薫はギターケースを背負っている

花音は、多分ドラムステックケースを持っていた

 

先頭の何も持っていないこころが、元気ある澄んだ声で私を呼んだ

 

 

こ「クロー!練習終わったわよー。クロは何をしていたのかしらー?」

 

と、笑顔で真っ先に答えにくい質問をされた

こころが先頭で止まったものだから、後続の四人がこころを中心にして、横一列に並び始めた

そうして、他の四人も私の姿を見ていく

 

美咲、はぐみ、薫はそこまで変わった様子を示してはいなかったが、花音だけはソワソワした様子で私を見ていた

多分、こころと同じく何かを聞こうとはしているのだろうが、大人な対応...もといあまり触れられたくない話があるのかもしれないと考えているのかもしれない

 

そこで私は一言、この疑問に嘘を交えつつ真実を伝えた

 

 

ク「いや、ここに入る前にカフェがあっただろ?そこでちょっとお茶がしたくなってな。みんなの演奏が聴きたかったんだが、喉が乾いて死にそうだったからな」

 

それに対して、花音は少し安心したのか無駄な肩の力が抜けていた

こころは、それを聞いて表情を変えずに

 

 

こ「それなら良かったわ!今度はあたしも一緒にケーキが食べたいわっ!」

 

と、もっと笑顔になっていた

もう、この子の笑顔というものにレベルはつけられそうにない

 

 

そして、黒服の人が私に耳元でこころの元に行くように助言をし、私はこころ達五人の方に歩いた

私が着くと、みんな疲れているのにも関わらず、私に微笑みをプレゼントしてくれた

 

 

こ「これで全員ね。それじゃあ、また明日!」

は「おー!」

 

と、解散の挨拶をこころが言った

わたしは全員という言葉に、くすぐったい気持ちになりながら嬉しかった

 

 

各々、自分の鞄を持って自動ドアへと向かっていく

わたしは花音とこころの二人になるタイミングを狙っていた

だけど、現実というのはうまくいかないものだ

ライブハウスを後にしようとしている先頭は花音だった

花音が先に帰られたら、1番の問題なのだ

何故なら、こころの方はどっちしろ私も同じリムジンに乗ることになろうから問題はない

だが、唯一のドラマーを無くしては私の練習は務まらないのだ

 

私に、花音が「じゃあね、クロさん」と別れの挨拶をして出て行こうとする

私は、その挨拶を聞いて無意識に「またね」と言ってしまっていた

癖というか、無意識というか本題を切り出す勇気が出なかった

 

しかし、言葉よりも身体が先に動いていた

手が花音の後ろ姿を追いかける様に伸ばし....

 

 

?「はいっ!これ!北沢精肉店特製のコロッケだよー!」

 

と、私の真横から聞こえてきたのだ

その言葉に私は目を横に逸らしてしまった

茶色の髪をしたはぐみが私の隣を立っていた

そして、茶色の袋を私の伸ばした手に握り込められていた

 

 

は「練習始める前にねっ、みんなでコロッケ食べたんだよー!でね、まだクロくん食べてないから残しておいたんだー。ちょっと冷めちゃったかもだけど、うちのコロッケは冷めても美味しいから!早く食べて食べて!!」

 

と、私に間の悪い差し入れを渡そうとしてきたのだ

確かに初めて出会った時にはぐみからコロッケを受け取ったことはあったが、まだ食べたことはなかった

もらったコロッケは冷蔵庫に入れっぱなしで、そのまま眠りについてしまった

それがもう2週間以上前であることから、冷蔵庫に残ったコロッケは食べることはできないだろう

一番良い解釈をするならば、母か父が食べていてくれれば問題はないだろう

 

って、こんなことを考えている場合ではない

真っ先に足を動かさないといけな...

 

 

その考えすら卓上の空論へと変わってしまった

隣にいる茶髪の女の子は目をキラキラさせて私の顔を見ていた

上目遣いで、目がとっても潤んでいて、唇を少し開け...

 

こんな顔をさっき見た

こころとの...

 

...私は俄に茶色い袋を身体に近づけ、両手で掴んでしまった

そのまま徐に袋の頂点を持ち、その誘惑の宝箱を開けていく

湿気の多い蒸気が、袋の中から放出され私の顔を少し湿らせた

鼻腔にコロッケのジャガイモと牛肉の匂いが広がる

そして匂いが口の中へと伝わり、舌の上で味覚を感じてしまう錯覚を覚えてしまう...

そこからくるのは、目の前の獲物を欲するだけだった

 

中に入っていた3個のコロッケのうち、一番大きいコロッケに目をつけ、同梱された紙ナプキンを手に取った

それをコロッケに纏わせ、袋から取り出す

粘り気のない更々とした油がナプキン越しに指先へと付着していく

このコロッケを前に引くという行動は出来なかった

 

はぐみの茶色とコロッケの茶色は同じ、食べる(られる)のを待ちわびている様に感じたのだ

そのまま口へと持っていった

 

 

サクッ...

まるで、新鮮な野菜を噛むかの様な音が響いた

そこから広がるのは...大量の肉汁と...ホクホクとしてホロホロのジャガイモ...甘い玉ねぎ...

 

 

美味い

 

 

この3文字しか脳内に残らなかった

一口噛んだ瞬間から全ての思考を停止させられ、噛むことも忘れ二口目、三口目と一気にコロッケを食し始めた

口にコロッケが入る度、味は倍増していく

身も心もコロッケに支配された

 

四口程で大きいコロッケは口の中へと消え、四、五噛みで飲み込んだ

喉を通るコロッケは火傷するほど熱くなく、ちょうど人肌と同じくらいの温度で私の中へと侵入していく

まだ、口の中を絶品の味が漂っている

まだ足りない

 

そのまま二つ目のコロッケを手に取り、口一杯に頬張った

その光景を見ていたはぐみはどんな表情をしていたのか

自分の家で作った十八番を、言葉を発することなく一心不乱に貪欲に食している光景

さぞかし、嬉しい光景であろう

彼女の表情を想像する必要はないだろう

隣から温かな感情が溢れているのを僅かに受け取っているからだ

 

 

3個をものの1分で完食した

そこから3分間余韻に浸っていた

こんなに美味しいものを食べたのはいつぶりだろうか

今までに食べたどんな料理よりも美味しかった

また機会があったら北沢精肉店へ行こうと決心した

 

 

ク「とっても美味しかった...今度は私からコロッケ買いに行くね」

 

と、考えが声に出ていた

 

 

は「うんうん!はぐみの自慢のコロッケだもん!!またいつでも来てねっ!それじゃあ、また明日っ!クロくん!」

 

ク「うん、じゃあね!」

 

そう言ってはぐみに手を振った

はぐみも手を振ってから、小走りで自動ドアへと向かっていった

後ろから見えたはぐみの姿は、はぐみの小さい身長と大きいベースケースとの不釣り合さが際立っていた

 

ガーッ

 

と、自動ドアが開き閉じた

ケースの黒い色に遮られた視界が、ライブハウス内へと広がっていく

そこで私は青ざめた

 

 

この受付口にいたのは、

 

私と

こころだけだった

 

 

こ「クロー!そろそろ帰るわよー?あっ!クロもはぐみのコロッケ食べたのねっ!とーーっても美味しかったでしょっ!」

 

ク「う...うん、そうだね...」

 

近づくこころに、曖昧な返事しか出来なかった

際どい質問ではなく、ただの同意を得るだけの質問の方が答えを出すのが難しいなんて思ってはいなかった

 

 

私は、これからどうするかを空になった紙袋と滑る指先を擦り合わせ茫然と立ち竦んでいた

硝子越しの青空が、私の気持ちと同期したのか、もやが掛かったかの様に薄い雲が流れ込んでいた

陽の光はまだ消え切れてはいないが、光量は確実に減っていた

 

 

雲はこれから厚くなるのか?

それとも薄くなるのか?

それは私の行動次第だ

 

 

...雨は確実に近づいていた...

 

 




1週間以内に投稿できなかった...(1日遅れ)
でも、書き切れて良かったと内心ホッとしています
コロッケの話題だらけでしたが、原因は昨日の夜にコロッケを食べたからです
スーパーのお惣菜のコロッケでしたが、とっても美味しかったです
今回の話のコロッケが後々に...?
(っていうのはまだ考えていませんが...)

ハロハピ3章イベントも終わって一段落着きましたね
...最終的にまだ3章は読んでませんが...
読むのは2週間後くらいになりそうです...
ただあと3、4話投稿できれば読んでも大丈夫になるかと思いますので、3章を読み切ったらまた感想を後書きに書きたいですね

後、星4花音は当たらなかったです...


それでは、また1週間を目標に次の話を投稿しようと努力しますので、次の話も楽しみに待っててください


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第39話 三人との記憶 

前回は初めて6人でサークルの練習に集まったところまででした

さて、今回はとあるキャラがゲストで出てきます

では、第39話始めます


私はゆっくりと開く自動ドアをもどかしく感じながら、開くのを待った

いち早くこの場から出て行きたいという気持ちの表れか、開くまでの間両足を交互に素早く足踏みをしていた

 

硝子扉が私との隔たりを無くした途端、私は駆け出した

 

 

こ「ちょっと、クロー?ど......」

 

後ろからの声など入る余地はなかった

 

 

外に出て真っ先に並木道の先を見た

偶然にも、私達がリムジンから来た方向が目の前に見えているのだ

これはとても好都合だ

なにせ、こころと花音は同じ花咲川女子の生徒である

すなわち、通っている学校が同じであれば、お互いの家が近いというのが普通であるからだ

 

私は、遠くを見ようと目を細め凝らした

 

限界点にある、三叉路の突き当たりまで並木道には

......数人が歩いていた...

 

制服を来た女子学生や

スーツ姿をしたOL

作業服を着た青年に

カジュアルな格好のカップル...

 

かれこれ20人程のシルエットが私の視界に入っていた

...絶望的だった

こんな遠い距離から、特定の一人の人物を見つけるなんて不可能に近い

それに、この中に花音がいるという確証がないのだ

 

私は正解があるかどうかもわからない、モザイクアートを当てさせられていた

 

 

(...ここからあの辺りまで50mもないはずだ。最悪、この位置から見えた最大距離でも200mあるかどうかだろう)

 

私は、こんな目測を頭に思い浮かべながら走った

並木道までの50mの距離をがむしゃらに全力に走った

途中にある物は眼中になかった

ただ、身体の思うままに無意識に障害物を避けていた

 

1秒でも早く...

私が見た5秒前の幻影へ...

全てが消滅する前に...

 

 

息を切らしながら、一番近くの木まで走りついた

正直言ってとてもしんどい

私は普段から運動なんてしていないので、これくらいの距離でも全力で走ればもう限界なのだ

 

だけど、ここで根を上げたらダメだ

ライブハウス内で作った決意は、限界を超えていた

 

足は止めなかった

というよりも、足は止まってはいなかった

もう、私には足を制御しているという神経信号は断ち切れていた

 

 

一番近くにいた、人の背中がどんどんと近づいてくる...

私はその人の服装に、全ての神経を集中させていた

 

(この人の服は黒、黒、黒。違う!)

 

色だけを判別し、当否を判断する

その作業を後ろ姿だけで全てを決めていく

 

 

(青、白、黄緑、赤...)

 

一色一色確認していくが、一向に当たりが出てこない

もう何人通り過ぎて行ったのだろう

数えてはいないが、誰かの背中を注視している際に、背景とした流れた木が多いような気がする

ということは...

 

もう、100m程走っていることを意味している

...決意の断崖絶壁は、もうすぐ手に届いてしまう

ブレーキラインはもう数歩のところまで近づいている

 

 

(頼む!頼む!頼む...!!)

 

 

近づいていく一定リズムの笛の様な音が...

目が不自由な方にもわかるように設置されている歩行者用の信号機の音が...

 

まるで、時限爆弾のタイマーが残り時間を知らせる警告音であった

 

死への宣告は近づいていく...

そして、並木道の反対側へと伸びる白い縞が背景へと入って来た

それと同時に、小さくはあるが、人のシルエットが映ってきた

 

これが最後の道

これが最期の見取り人

 

 

その色は...

 

ベージュ

 

たしかに、ベージュだ

ベージュの服を私は確かに知っている

 

それは花咲川の制服だ

そう、薫のところに勧誘しに行った、こころと花音が来ていた制服

それが、まさしくこれだ!!

 

(花音!!)

 

 

私は、少しスピードを上げて、追い抜かし、勢いよく振り返った

 

 

ク「あの!!」

 

と、苦しい息を無理やり声にして、聞こえるように精一杯出した

そちらに神経が持っていかれたのか、私の視界が急にボヤけていった

目の前に居るはずの、声をかけた人の輪郭は霞んでいた

それでも、声を聞けば花音だと分かるはずだ!

そう思って、帰ってくる言葉を待っていた

 

 

???「どうかされましたか?」

 

あれ...?敬語...?

そ、そうか、私を心配してくれているんだな...

 

 

???「道を聞きたいのかしら?」

 

道...?

なんで道なんて関係あるんだ??

 

 

ク「そうではなく...て......!?」

 

私は言葉を失ってしまった

それは何故か...

このタイミングで見えてしまったのだ

 

花咲川女子学園の制服を着た、

花音より少し身長が小さいと思われる、

こころの髪色に似た、

別の女子高生に

 

 

???「...はい?」

 

相手の女性はとても不思議そうな様子で私を見ていた

それはそうだろう

相手からしたら、全く知らない人が急に声をかけて来て、何も要件を言わずに立ち止まっているのだから...

 

だが、何をこれから話したらいいのかわからない...

ただの人違いだと言えば良いのだろうが、頭の中は真っ白になっていた

 

 

???「あっ、ごめんなさい。急いでいますので...」

 

と、彼女の方から切り出し

私の前から消えていった

私は、少し落とした目線を動かすことが出来なかった

歩道に張っている複数の黄色い丸が、私を支配していた

 

その意味とは「トマレ」

これ以上は行くなという点字

これ以上は危険というサイン

私は、終着点へと着いてしまったのだ

 

空はより一層、黒く暑い雲が青い空を染めていく...

もういつ降り出してもおかしくない...

 

雲が太陽を隠したのが原因か、それとも私の見ている角度が悪いのか

頭の上の方でチカチカ光る緑色の光が、黄色の点字ブロックを黄緑色に着色されている

 

そういえば、あれほどなっていた、警告音はピタリと止んでいた

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

それから、赤の光を感じた

目線は未だに動かせていない

 

横断歩道の前で、下を見つめて止まっている

そんな私に声をかけずに、ヒソヒソ声で話す信号待ちの人達

そうこの人達とは、先程抜いて来た人達

探し人を見つけ出すためにいたモブ達

私にとっての不適合な人達

 

なのに、私を見て何かを噂しているのだ...

こんな光景...いつか...見た気が...

確か...薫の前に取り乱した時に...他の人達に...

 

(「おや、君?私に何か用かな?」

「何かようかしら?もしかしてバンドのベースをやってくれるとかかしら?」

「な、何かようですか......?」)

 

そう...この時、三人から...聞かれて...取り乱したんだ...

ああっ...あの時...私は...

倒れたんだっけ...

 

そんな嫌な記憶が、私を中から支配していく

あの全ての始まりにして、全ての負の連鎖

過去の黒歴史を蒸し返して、一人で苦しんで、また最悪の逃げの手段を使うのだ

 

(ここで倒れてしまえば、楽になれる)

 

その言葉だけが解決策なのだと、決めつけてしまう

今までやって来たことを全て否定し、自分という存在を殺す、一番楽な手段を

 

目を閉じ、重心をつま先へと移動させる...

そうして、身体を前へと倒していけば、自然と横になれる...

 

 

と、頭を少し上げた所に、一筋の光が小さく輝き、一つの言葉を想起し、心の中で再生させた

 

???(...あの!今、こころさんがどこにいるか知っていますか!?こころさん達のバンドに興味があるんです!...)

 

そう、いつしか誰かが言った決意の言葉

その決意が思わぬ方向へと舵を切っていく

誰かの言葉が、何かを変えたのだ

誰かが望んだから、叶えられたのだ

 

???(だって、クロは悲しいから泣いていたのよね?だったら、あたしがクロを笑顔にして、それから世界中のみんなを笑顔でいーーーっぱいにするわ!あたしたちのバンドで!)

 

悲しいから、泣いた

辛いから、相談した

泣いたから、笑顔になれた

笑顔になれたから、笑顔にできた

 

そう、誰かに自分の気持ちを伝えたから、私は笑顔になったし、相手も笑顔にできたのだ

 

 

???(クロさん、私達は友達です!)

 

そうだ

友達だ

友達なら、私の気持ちを伝えれるはずだ

友達だから、私は頑張らなきゃいけない!

 

 

目を大きく見開いた

先程よりも、地面との距離が近くなった気がする

気持ちが負けていた時に、振り動いた重り

だんだんと近づく地面を、私は膝を曲げ、先に着かせた

それから、両手を着き、四つん這いの格好となった

 

なんとかして頭を地面と接着させる事を防いだ

より一層に周りから聞こえるヒソヒソが多くなったのを感じた

それでも、私は気にしなかった

 

何故なら、私は立ち上がる際に見えたのだ

目線を少し先に動かせば、黄色い線が4本並んでいるのだから

 

その意味は「ススメ」

これより前に進んでいいという点字

これから先は前進しろというサイン

私は、始発点に来たのだから

 

 

(よし、まだ諦めるには早い!)

 

と、少し擦りむいた膝を気にすることなく、来た道を戻っていく

 

太陽の光は感じないが、まだ暖かい風を感じていたのだ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

行きと違いあまり走らず、早歩き程度で歩いている

何故だろうか、そこまで大きな焦りはなかった

 

なぜなら、初めて花音と約束を交わしたのはいつだ?

それは、弦巻家の一室だ

 

その時なぜそこに集まれたのか?

それは、弦巻家の黒服の人達に頼んだからだ

 

ということは、今回の方法も決まっている

黒服の方に花音の居場所を聞けばいいのだ

あの人達の手にかかれば造作もないことだろう

なにせ、私の家を見つけ当てた人達だ

 

と、楽観視しながら考えていた

それでも黒服の人達ができないかもしれない

それだったら。また次の日に頼めばいい

 

でも、明日この夢の世界に来られないかもしれない

その時は、また夢の世界に来た時に頼めばいい

 

だが、私が今日の頼み事を忘れるかもしれない

そうなったら、毎日寝る前に今日のことを考えて眠ればいい

 

一つずつ出てくる、マイナスな考え方をプラスへと変化し、消去していく

こうすれば、今はいいのだ

新しい楽な方法を見つけ出したのかもしれない

 

 

並木道を歩き、ライブハウスの前まで来ると、こころと黒服の人達がリムジンの前に待っていた

 

来る時と違って、カフェの席や歩道には人が少なかった

考えるに、段々と下り坂に向かっている天候を危惧して、早めの帰路に着いたのだと思われる

リムジンの方を見ている人も精々10数人程度だろう

 

 

こ「クロー!先に一人で帰っちゃったのかと思ったわ」

 

ク「ごめんごめん、ちょっと花音さんを探していてね」

 

こ「うん?花音?花音ならあそこにいるわよ?」

 

ク「えっ?」

 

こころが指さした場所はカフェのテーブルだった

しかも、私が並木道までダッシュした道のりの途中のテーブルだった

ということはつまり、私は花音とニアミスしていた可能性があるということだ

 

指を刺した場所は、リムジンから約30m先

ここからなら目を凝らさずとも見えるだろう

 

...いた...!

水色の服を着た、水色の髪のサイドテールの女の子!

 

 

ク「ほんとだ...」

 

私は思わず呆気に取られた声を出してしまった

灯台下暗しとはまさにこの事だ

 

 

こ「クロが走っていってからあたしも外に出たのよ。そしたら丁度花音がケーキを持って席に座ろうとしてたわ。花音ったらとっても笑顔だったわ!」

 

ク「そ、そうだったのか...」

 

こ「クロは花音を探していたの?じゃあ、早く話しかけたほうがいいわよ?」

 

ク「ありがとう!こころ」

 

こころの観察眼に助けられた

なんだかんだ言って、こころはすごいと思う

だって、あの四人を見つけ出したのだから

花音に至っては、スネアドラムを持っているところを捕まえてライブしたのだから

こころは、もしかしたらとても他人想いなのかもしれない

 

...まぁ...最初は私の学校に突撃して来たから非常識ではあるのだが...

 

 

???「ん〜〜〜」

 

水色の子の席に近づくと、声が聞こえて来た

間違いなくこの声には聞き覚えがある

今度こそ本物だ

 

 

ク「花音さん!」

 

花「ふええ!?...ク、クロさん!?」

 

花音はびっくりしたのか、肩が持ち上がり、私の方に顔を瞬時に振り向いた

これは私が悪い

花音がいることにしか気が回らなくて、後ろから声をかけるのは流石に怖い思いをさせてしまった

ちゃんと気が回っていたら正面方向へと回ってから声をかけたほうがよかった

 

花音は私に振り返ってから、私は頼み事を話し始めた

 

 

ク「あのですね、花音さん」

 

と、話始めようとすると花音は黙ってもう一度ゆっくり顔を戻していった

なぜだろう、さっきとは違って顔が下がって肩も下がっている

明らかに何か悪い感じがする

 

 

花「...聞い...たん......か」

 

ク「はい?」

 

小さな声で花音は聞いてきたのだ

だが、真後ろにいるのに聞き取れなかった

多分、花音が下を向いて向き直したのが原因だろう

私はその声がなんだったのかを聞き取るためにと、またこの位置のままだと驚かせてしまった時に可哀想だと感じ、花音の近くの席に黙って座った

しっかりと腰掛け、花音の方を向くと何故か私と目を合わせようとしなかった

 

何故だ...私が何かしたのだろうか

私はもう一度訊ねてみた

 

 

ク「どうしたんですか?」

 

花「...き、聞いていたんですか...?」

 

ク「......」

 

今回の花音の声も小さかったが、聞き取れた

正直、何の音なのか見当も付かなかった

私が聞いた音とは花音の小さな声だけだが

っと、ここで聞き返すのは失礼だと思って素直に答えた

 

 

ク「す、少しだけ...」

 

花「!!」

 

私の答えを聞いて、花音はもっと私から顔を遠ざけていった

それによって、花音の頬が真正面に見えている

...少し赤くなっている

 

そこまで見てようやく察することができた

テーブルの上に置かれた、あと一口程残ったチーズケーキ

湯気が立っているティーカップ

ケーキの跡がついたフォーク

 

ここまで見えて声を発するとしたらもう一つくらいしかないのだろう

ただ、それを聞かれたとなると恥ずかしい気持ちになるのは分かる

私は正直な事を言いつつ、私の経験を交えて話した

 

 

ク「...ほんの少しだけ聞こえちゃいました。でも、ここのケーキ美味しいですよね。さっき一人の時にショートケーキ食べましたから」

 

私は花音の気分を害さないように答えた

デザートの種類は違っていたが、お世辞抜きで本当に美味しかった

それを聞いて、どうやら花音は気持ちの整理ができたのか

私の方にゆっくりと顔を戻してくれた

顔の火照りは、夕焼けのように紅かった

 

 

花「ふぇぇ...やっぱり聞こえてたんですね...。でも、良かった...。クロさんも...ここのケーキ美味しいって言ってくれて...。」

 

ク「はい!また今度食べたいです!」

 

花「ふふっ。じゃあ次食べる時は、クロさんもチーズケーキ食べようね。その時は...一緒にお茶したいな...。」

 

ク「はい!よろこん...ええっ!?」

 

花「あっ...!?えっ、えっと...その...!あのね、クラスのお友達とよくカフェに行くから...!その...め、迷惑じゃなかったら...」

 

こ「二人とも何をしているの?」

 

ク「ふゃっ!?」

花「ひゃっ!?」

 

急に後ろからこころが話しかけてきたのだ

にしてもタイミングが悪い

ま、まぁ逆にナイスタイミングではあったのかもしれない

...とてもこの二人だけの空気感に手足は出なかっただろうから...

ただ、私も花音も変な声が漏れてしまった

率直に言うと、こちらの方が聴かれたくない声だ

...私の声の方が大きかったのか、花音の声は聞こえなかった

 

 

ク「びっくりした...。こころ、急に話しかけたら花音さんが喉詰まらせちゃうかもしれないだろ!」

 

こ「あらそうなの?花音、大丈夫かしら?」

 

花「う、うん...!大丈夫だよ、こころちゃん。」

 

こ「なら良かったわ!それよりも、クロはちゃんと花音とお話しできたのかしら?」

 

ク「そ、そういえばそうだった...」

 

花「???」

 

そうだ、まだ本題に入っていなかった

そしてこころが来てくれたから丁度三人揃った

今なら邪魔も入らないだろう

 

 

ク「こころ、花音さん。今日これから時間ありますか?」

 

こ「これから?あたしはどこか楽しいことを探そうとしていたところよ!」

 

花「これから...?私は予定ないよ...?」

 

ク「じゃあ前に約束していたこと、三人でしたいんです。こころと花音さんとで、ドラムの練習をしたいんです」

 

こ「もちろん、わかったわ!」

 

花「うん...!そういえば、まだクロさんにちゃんと演奏方法は教えてなかったね」

 

こ「そうと決まれば、早速いくわよー!クロー、花音ー!」

 

ク「こころ!ちょっとだけ待ってあげて!まだ花音さんケー...」

 

花「ふえぇ...!?待ってこころちゃん!」

 

...私の静止する言葉も聞かず、こころは花音の手首を掴んで花音を引き連れようとした

その勢いにより座っていた花音は立ち上がらざる終えない状況にし、最後の一口を食べる猶予も与えられなかった

 

 

こ「クロー!あなたも早くー!」

 

ク「はいはい」

 

手を繋がれた二人の背中を見ながら、少し息を吐いた

その二人の背中は遠ざかっているのに、大きく見えていた

私はその背中を追いかけようと思いながら、席から立ち上がった

 

 

まだ今日は終わらない

これから今日は始まるのだ

 

 




6月ですね...
前回の投稿が2月だったので、かれこれ4ヶ月も失踪していましたが、リアル事情が忙しかったのもありまして、なかなか手をつけられなかったのがあります
そして、書く気力も全然湧かなかったのがありました...
それでも、最近になってバンドリでハロハピイベがあったり、コラボイベが始まったので、また執筆意欲が湧いてきて、2日で一気に書き上げました
(本当、勢いって重要)


本編中に書きましたが、途中の???とは誰だったんでしょうかね?
まぁ...流石にバンドリやっている方ならある程度わかると思いますが...
ヒントとしては、ハロハピ1章ストーリーで登場した星3の中で、特訓前のイラストの背景として描かれている人です
そしてハロハピ1章ストーリーでも、しっかりと会話を交わすシーンがあります
(このヒントでどれくらいの人がわかるんですかね...)


バンドリは、3ヶ月ほどやっていませんでした...
理由は、急にモチベが下がりきったのが原因でした...(ここ2ヶ月ほどはスマホゲーをそんなにしていないです)
ただ、Switch版の発表や、コラボ情報もあってバンドリを目にすることも増え、極め付けに偶々見たpixivのハロハピメンバーの二次創作漫画を見て、急に過去イベントの『ハロー、マイハッピーワールド』を見たくなって振り返り見をしました
やはりあのストーリーが大好きで、いつも泣いてしまいます(一番好きなイベントストーリー)
1年目のストーリーの人間関係がしっかりと構築されてない中、段々とわだかまりや自分自身の悪いところを直したり、仲良くなれるきっかけを書いてくれているのが多いのが好きなんです
それらがきっかけでこの小説を書き始めました

これからの投稿はこんなに間を開けないように書いていこうと思っています
早くて1週間、遅くても1ヶ月を目処に書いていこうと思いますので、これからもよろしくお願いします
最近、ツイキャスで私の小説が良かったと感想を言ってくれた方もいらっしゃったので、そう言うのがとてもモチベーションになります
読者の皆さんの感想はとても励みになります!
なので、よければ感想を書いていただければと思います!

それでは、次の話も楽しみに待っててください


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