東方不死鳥紀 (はまなつ)
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プロローグ

今回はこのような小説を読んでくださりありがとうございます!誤字、脱字、拙い文があると思いますがご了承ください。頑張って書きますので応援してくれると幸いです。


荒野の中に3人の男が立っている。その男達の中心に人型の、しかし人間とは形容しがたい生物が倒れている。

 

男達は傍から見ても満身創痍だとわかるほど傷つき、疲れている。異型の生物は体を一刀両断するかの如き太刀傷に体全体を覆う火傷のあとがある。

 

「ようやく死んだか…」

 

男の中の赤髪の男が言う。

 

ここはとある世界。幻想郷ではなく現代でも無い。ここでは魔法が飛び交う戦乱の世界。男達と異型の生物は先程まで死闘を繰り広げていたと見られる。

 

「長かったな。ここまでたどり着くのに」

 

「ああ、これでようやく平和な世界になるだろ」

 

赤髪以外の男達が言葉を漏らす。あまりの疲れからか知らず知らずのうちに座り込んでいた。赤髪もようやく緊張が解けたのか安堵のため息をだす。その時…

 

「…まさかこの俺を倒すとはな」

 

「! まだ生きていたのか!しぶといヤツだ!」

 

またしても全員に緊張がはしる。

 

「お前達をすこし見くびっていたようだ。認めよう。お前達は強い。3人の力を合わせればこの俺を倒すほどにな」

 

「は!やられたくせに随分と上から目線じゃねーか」

 

赤髪が答える。

 

「今のお前はもう魔力もなく、体も動かない。何も出来ないだろう。大人しくくたばりな!」

 

「確かにこのままだと確実に俺は死にお前達に平和が訪れるだろう。だが…何も出来ないと思ったのは誤算だったな!」

 

異型の生物は倒れながらも右手を挙げる。そして右手には黒い球体状の魔道具が握りていた。

 

「な!」

 

男達は驚愕する。まだ何か奥の手が残っていたのかと。

 

「お前達を殺す魔力は残ってはいない。しかし俺には勝つ手段がある!これはお前達を異世界に飛ばす転移道具!普段は発動が遅く当たらないが今なら確実に当てられる!!」

 

不味い、男達はそう思い逃げようとした。だがやられそうだったのはこちら側も同じ。体が思うように動かず、魔力も残っていない。

 

「お前達さえ居なければ俺は傷を癒しまたこの世界を掌握する!今度こそ!世界を手に出来る!」

 

異型の生物は魔道具の発動条件…球体を割ろうとしていた。球体から出るは黒い光。その光は円状に広がり当たったものを異世界に飛ばす悪魔側の最上道具。

 

全員が確信していた。男達が異世界に飛ばされ人間側の敗北だと。そしてこのままだと確実に当たると……。

 

しかし、一人だけ、全く違う発想の者がいた。不死鳥と呼ばれ人間側の最高戦力と謳われた赤髪の男。

 

彼は魔道具が割られる直前に魔道具を覆うように…光が漏れないように飛びかかった!

 

「貴様!何をしている!」

 

「なに、どうせ飛ばされるのならお前を巻き添えにしようとしたまでさ!」

 

()()!お前何を!」

 

異型の生物…悪魔は魔道具を割るのを辞めようとしたが時すでに遅し。遂に魔道具は割れた……赤髪と悪魔の狭間で…

 

「不死鳥!!!貴様ぁぁぁ!!!」

 

「…じゃあなお前ら。後は任せたぜ」

 

不死鳥は微笑み、消えた。

 

 



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序章
1話 幻想郷へ


第1話です。まさかプロローグで幻想郷に入らないとは思いませんでした(汗)このssは全体構成は出来ているんですが所々はほぼ思いつきで書いているので矛盾があったらすいません。


とある神社の縁側。紅白の巫女服を着た少女がお茶を啜っている。彼女の名は博麗霊夢。この幻想郷を管轄する素敵な巫女だ。

 

彼女は何をする訳でもなくただお茶を飲みボーとしていた。

 

(暇だな)

 

そう、彼女は暇を持て余していた。しかし何かをしに行くほど彼女はアグレッシブではなく日課の掃除も終わっている。いつもなら悪友が遊びに来る頃なのだが今日は来る気配がない。だからといって修行をするなどと言う考えは一切浮かび上がってこない。

 

(こんな暇な日は随分と久しぶりね…)

 

またお茶を啜る。

 

(やることも無いし、お布団でも干そうかしら?)

 

今日は天気がいい。普段はたたむだけの布団。毎日太陽の下に干すということはしない。だが太陽に当てると布団はふかふかになり今日の晩気持ちよく寝れるだろう。

 

(そうね、いい機会だし干しましょう)

 

そんな自問自答をする。そして干すために1度しまった布団をもう1度取り出しに行く時…

 

ドスン!

 

何かが落ちてきたような音が外から聞こえる。しかもなかなかに質量のあるものだろう。音の大きさからして。

 

(何事かしら?また魔理沙が着地でも失敗したのかし…ら?)

 

霊夢が何事かと外を覗いてみるとそこにいたのは着地を失敗した魔理沙の姿ではなく、傷だらけで転がる赤髪の男の姿だった。

 

「ちょっと!どうしたのよあなた!」

 

普段あまり物事に動じない霊夢だが流石に傷だらけの見知らぬ服をした男が急に外で倒れていたら慌てる。

 

(外来人かしら?それならなんでこんな傷だらけで、しかも急に神社の庭に?)

 

混乱する霊夢。情報が少なく分からないことだらけだがとりあえず男を家に運び手当をすることに。非情な所のある霊夢だが傷だらけの人間を見捨てるほど鬼ではない。

 

(とりあえず運びましょう。って結構重いわねこいつ)

 

意外と体重のある男に愚痴りながらも運んでいく。

 

 

 

 

…なんだ?

 

『これで俺は世界を掌握できる!』

 

…夢か?これは?

 

『なに、どうせ飛ばされるのならお前を巻き添えにしようとしたまでさ』

 

これは…さっきの戦いだよな?

 

先ほどの戦いがフラッシュバックのように断片的に再生される

 

『不死鳥!!!貴様ぁぁぁ!!!』

『後は任せたぜ』

 

そこで記憶は途切れた。

 

ガバァ!

 

寝ていた赤髪は唐突に体を起こす。

 

(どこだ?ココ?)

 

すると頭に鈍痛が走る。

 

(っ!)

 

思わず頭を押さえる。そして体も覚醒しだしたのか体中から痛みが襲ってくる。しかしある違和感を覚える。

 

(包帯?手当されてるのか)

 

男は混乱する。手当されてるのであれば自分が見知った治療室のはず。あそこら辺に民家は無かったはずだから騎士団以外の人間が治療したとも考えられない。と、一つ大事なことを思い出す。

 

(そうだ、俺はアイツと一緒に異世界に飛ばされたのか)

 

夢だと思いたかった。信じたくなかった。しかしあの出来事は夢なんかではなく正真正銘自分が体験した事だった。

 

(それならアイツはどこにいるんだ?)

 

まだハッキリしない意識の中色々と考える。がまた頭に痛みが襲ってくる。

 

(だめだ…考えがまとまらない。)

 

そんなふうにしていると足音が聞こえてくる。

 

(誰かくる?)

 

そして障子が開くと自分が今まで見てきた中でもトップクラスに可愛い少女が顔を覗かせた。

 

「あら、起きてたのね」

 

これが不死鳥と博麗の巫女との初めての対面である。



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2話 霊夢との対話

2話です。書いてて思ったけど話を作るって難しいですね。イマイチ盛り上がらない…。霊夢と魔理沙の口調もこれでいいのかと思うし。文才が欲しいこの頃


「あら、起きてたのね」

 

おそらくこの子が自分を手当してくれたのだろう。新しい包帯が手に持たれている。包帯を変えに来てくれたのか。

 

「ああ、ついさっきな。とりあえず君の名前を聞いてもいいかい?」

 

「えぇ、けど名前を聞く時はまず自分からじゃない?」

 

「それもそうだな。俺の名前は火渡信二(ひわたりしんじ)。信二って呼んでくれ。」

 

赤髪は気さくに笑顔で言う。

 

「そう。私は博麗霊夢。この幻想郷の巫女をしているわ。よろしくね」

 

「おう、よろしくな」

 

そういい二人は握手をする。

 

「なんだ、結構な怪我してたから心配したけど、案外元気そうね」

 

「そうでも無いさ。ただの強がりだよ」

 

「そうなの?てか包帯変えるからすこしじっとしててよ」

 

霊夢は包帯を変えてくれるという。初対面の人に対して随分と優しいのだな…と信二は思う。

 

「ところで霊夢。ここはどこだ?」

 

信二は単刀直入に聞く。

 

「あら?ここが自分のいた世界じゃ無いって分かるのね?」

 

「ああ、心当たりがあるからな。それに俺のいた世界では霊夢のような格好をしている女の子は絶対にいない」

 

巫女という単語も聞いたことないし何故脇の布だけ無いのか。

 

「そう?ここは幻想郷。人間だけでなく妖怪や神様なんかが普通に歩いてるような世界よ」

 

「幻想郷?聞いたことないな。てか妖怪ってなんだ?悪魔みたいなやつなのか?」

 

「あなた妖怪を知らないの?外の世界では妖怪を知らない人はいないって聞いているのに?」

 

霊夢の包帯を変える手が止まった。おそらくすこし混乱しているのだろう。自分の知っている情報と違う情報が入ってきたために。

 

「あー、霊夢の知っている外の世界ってのはどんな世界なんだ?」

 

「私の知っている外の世界は幻想郷とは随分と違うとは聞いてるわね。私も実際に見たことはないけど」

 

「その世界に魔法は存在するか?」

 

「いや、たまに来る外来人は魔法を使えたことはないから、おそらく存在していないわね。どうしてそんな事聞くの?」

 

「多分だが俺は霊夢の知っている外の世界から来た人間じゃな「おい霊夢ーー遊びに来たぞー」…い?」

 

外からまた違う少女の声がこだまする。霊夢とは違い随分と活発な少女の声。

 

「入るぞ霊夢」

 

「魔理沙…あなたまた勝手に…」

 

魔理沙と呼ばれた少女が部屋の中に勢いよく入ってくる。

 

「あれ?誰だお前?」

 

 

初対面の人間をいきなりお前呼ばわりするとは随分と肝の座っている性格をしているな…と思う信二。しかし信二はその程度では怒らない。信二もだいぶ器の大きい性格だからだ。

 

「はじめまして。俺の名前は火渡信二。信二って呼んでくれ」

 

「そうか、ワタシの名前は霧雨魔理沙!普通の魔法使いだぜ!」

 

少しも違和感を覚えないのかと若干呆れる信二。図太いにも程がある…。

 

「魔法使い?魔理沙は魔法を使えるのか?」

 

「ああ!と言ってもワタシ以外にも魔法を使えるやつは沢山いるけどな。」

 

「実は俺も魔法使いなんだよ。だから魔理沙の魔法に興味があってな。どんな魔法を使うんだ?魔理沙は?」

 

「おお!信二も魔法使いなのか!外来人なのに珍しいな。今度魔法見せてやるよ。その代わり信二の魔法もな!」

 

「もちろん、何なら今見せてあげるよ」

 

そう言い信二は空いている障子の先の庭を人差し指で指さす。それにつられ霊夢と魔理沙もまた外を見る。すると信二が指さした場所の当たりの地面が赤く円形に光出した。

 

火炎柱(デビルバースト)

 

そう言い信二は指してた人差し指を上にあげる。すると赤く光っていた地面から円の範囲で炎の柱が突如として現れる。柱の大きさは10mほどだろうか。普通の人間がその炎に巻き込まれた、一瞬にして焼き焦げ焼死するほどの威力はあるだろう。

 

「おおー!凄い魔法だな信二!炎の魔法か。信二は炎を操る魔法を使うのか?」

 

「ああ。俺の使う魔法はほぼ全て炎に関わる魔法だな」

 

「ほかの魔法も見せてくれよ!」

 

魔理沙が興奮気味に聞いてくる。自分の見たことない魔法を見れたのだ。探究心が深い魔理沙ならそうなるだろう。

 

「まぁ待てって。俺も今怪我してるし」

 

そんな会話をする魔理沙と信二。とてもあって数分とは思えないほど仲良さげに話している。そんな二人を見てどこか疎外感を感じたのか霊夢が少しムッとして

 

「そうじゃなくて!魔理沙が来たから話の腰が折れた!私が聞きたかったのは信二が何者かって話よ!」

 

「そう言えばそうだったな。すまんな霊夢。丁度良いから魔理沙にも話そうか」

 

「?なんの話だ?」

 

「信二が私たちの知っている外の世界以外から来たって話よ」

 

「そうなのか?外来人とは思っていたけど」

 

「ああ。…俺は戦いの最後にこの幻想郷に飛ばされたんだと思う」

 

少し悲しげな表情をして信二が語り始めた



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3話 信二の過去

3話です。そろそろ戦闘シーンを描きたいところです。多分次回には書けるのかな?まだ分かりませんが。あとおかしな文章とかありませんでしたか?凄い心配です(汗)


戦い…そう聞いたとき霊夢と魔理沙は真面目な雰囲気になる。おそらく、常人が体験し得ないものを経験してきたのだろうと…

 

「俺は元いた世界では騎士をしていた。その国を守る護衛騎士。その騎士団の中でも俺は1番強かったんだよ」

 

自分で言うのもあれだけどね、と信二は続ける。

 

「俺の仕事は国を守ること。だから国に脅威を脅かす魔物や悪人なんかを倒したりする生活をしていた。俺の国では名のある強い騎士は名誉な事だったからとても充実していた。だがある日突然、国…いやその世界に対する最大の脅威が襲ってきた。それが悪魔だ」

 

「強かったのか?その悪魔ってのは?」

 

魔理沙が問う。先程の技を見て信二はかなりの戦闘力があることは霊夢と魔理沙は分かっていた。そんな信二が脅威と言うほどなのだ。問いたくなるのも無理はない。

 

「ああ。下っ端の悪魔でさえうちの騎士20人ほどの強さだったからな。正直最初はこの戦争に敗北すると思っていた。だが、俺の死んだ恩師が死ぬ前に言ったんだ。絶対に諦めるなと。絶対に歩みを止めるなと。その言葉を胸に俺は戦い続けた。平和を求めて」

 

数々の犠牲を払ってね。信二はそう言う。

 

話している信二はどんどんとくらい表情になっていく。無理もない。戦争というのは悲劇しか産まない。信二もまたその被害者の一人なのだろう。多くの親しき人を失ったに違いない。

 

「それで一心不乱に戦っていたらある少女に神からの啓示が来たんだ。悪魔を倒すための魔法、それを記した書物の場所に。そこからは一気に戦況が変わった。防戦一方だった俺達は一転攻めに出た。そんで俺は仲間二人とともに悪魔の親玉、アスモダイって言う悪魔を倒した。だけどアスモダイは最後に生物を異世界に飛ばすという魔道具を持ち出し、俺たちを異世界に飛ばそうとした」

 

霊夢と魔理沙は黙って聞いている。

 

「このままだと悪魔による脅威が無くならず、戦争に負けると思った俺は咄嗟にアスモダイに飛びかかった。魔道具を覆うようにしてな」

 

今朝見た夢がまた脳裏に出てくる。信二にはアスモダイを倒しきれなかったという悔しさの表情が見える。

 

「結果異世界に飛ばされたのは俺とアスモダイだけだった。そして気がついたらこの幻想郷に居て霊夢に看病されてたって訳だ」

 

「…大変だったんだな。信二は」

 

「なに、死んだわけじゃないし、最後の敵と相打って勝ちを呼び込むなんて騎士にとっては誇り高いことだよ」

 

信二は穏やかな笑顔で答える。その笑顔はすこし無理していると霊夢は思った。

 

しかし、霊夢はなんて声をかければいいか分からなかった。今までの異変でも皆何かしら思うところがあり異変を起こしてきた。だが、信二のようなものは見たことがない。正義のために戦い決着のつかなかった者を。霊夢が話かけるのを迷っていると

 

 

「私から一つ質問していいかしら?」

 

突如として新しい声が聞こえた。声のする方を振り返るとそこには金髪の美人がいた。目だらけの穴から体を出すようにして。

 

(なんだあの穴?空間魔法か?にしてもすこし気持ち悪いな)

 

「紫。何しにきたの?」

 

霊夢がその女性に話しかける。その顔はめんどくさい奴が来たと言うような、あからさまに嫌な顔をしていた。

 

「あら?私が来てはダメ?珍しい人間が来たら見たくなるものよ」

 

紫と呼ばれた人は霊夢の問いに答える。どこか余裕そうな態度で

 

「あのー、とりあえず、あなたの名前を聞いてもいいですか?」

 

信二がすこし聞きずらそうに問いかける。

 

「あら、もう少し砕けた言葉でいいのよ?私は八雲紫。この幻想郷の創設者よ」

 

幻想郷の創設者。そう聞いて直感的に凄い人だと信二は思った。

 

「はじめまして。俺は火渡信二。信二と呼んでください。ところで、その目だらけの穴は?」

 

信二は紫に問う。魔理沙にも負けないくらい探究心の深い信二は珍しい魔法だと思って聞いたのだ。

 

「これはスキマと呼ばれるものよ。簡単に言えば空間を割いて好きな場所に行ける私固有のものね。魔法では無いわよ」

 

そんなものも幻想郷にはあるのか、と信二は感心する。

 

「気をつけなさい信二。こいつこんなんでも幻想郷の賢者。多分幻想郷で1番強いわよ」

 

「強い?霊夢達は戦うのか?そんなふうには到底見えないが?」

 

「ああ、そう言えば言ってなかったわね。私たちは…」

 

霊夢が信二の問いに答えようとした時

 

「その前に私の質問に答えてちょうだい。元々の理由はそれなんだから。挨拶しに来ただけじゃないわよ」

 

「そう言えば質問したいって言ってましたね。」

 

「ええ、私が聞きたいのはあなたと一緒に異世界に飛んだという悪魔、アスモダイも幻想郷に来てるのかってことよ」

 

縁の問いに信二の顔が引き締まる。

 

「…これは俺の勘ですがアスモダイもこの幻想郷に来ているでしょう。そしてアイツは大きな傷こそ負っていますが確実に生きてるでしょう」

 

信二は答える。

 

「だから、俺は必ずアスモダイを見つけ出して今度こそ倒す!それが俺に残された使命だからだ!」

 

信二は力強く言う。今にも燃え上がりそうなほどに。

 

「…そう。なら私もそのアスモダイ捜索に協力しましょう」

 

おそらくそいつは幻想郷の敵だから…そう言って紫はスキマの中に消えていった。

 



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4話 信二弾幕ごっこを知る

4話です。戦争シーンは一応書けたけど短い。そして上手くかけてる自信が無い(泣)。あとこのssだとすこし弾幕ごっこのルールが違っているかもしれません。そのへんはご了承ください。次回はもう少し戦闘シーン入れたいな


「ところでさっき聞きそびれた霊夢達が戦うって話、あれは結局どういう意味なんだ?」

 

信二が疑問に思っていたことを聞く。

 

「文字通り私達も戦うのよ。けど信二みたいに命のやり取りはしない。()()()()()と呼ばるもので勝負するのよ」

 

「弾幕ごっこ?なんだそれは?」

 

聞き慣れない単語を聞き思わず聞き返す。それもそのはず弾幕ごっこは幻想郷にしか無いものだから。

 

「簡単に言うと弾幕と呼ばれるものを出しあってそれに当たったら負けって言ういわゆる決闘みたいなものよ」

 

「これが弾幕だぜ」

 

そう言った魔理沙の右手には黄色い光の玉が浮いていた。魔法の塊みたいなものか?と信二は思った。

 

「これを沢山出して相手に当てるんだぜ!幻想郷での揉め事は大体弾幕ごっこで決まるからな。皆日々スペルカードを創作してるんだぜ」

 

「スペルカード?」

 

「それぞれが持つ必殺技の事よ。スペルカードはそれぞれ特有のものを持ち、同じものは二つと無いわ」

 

「まぁ百聞は一見にしかずだ。霊夢、弾幕ごっこやるぞ!」

 

魔理沙が霊夢に対して啖呵を切る。

 

「はぁー、まぁ信二に見せるくらいのやつならいいか」

 

「真剣勝負だからな、霊夢。ちゃんとやれよ?」

 

「真剣にはならないけど魔理沙には負けたくないから程々にやるわ」

 

そう言い二人は部屋の外に出る。魔理沙は手に持っていた箒の上に乗り空を飛ぶ。対する霊夢は何をするわけでもなく空を飛ぶ。

 

(肝心な俺が蚊帳の外だったような気がする…。てか霊夢も魔理沙も空飛べるのか、凄いな)

 

「それじゃあ行くぜ!魔符「スターダストレヴァリエ」」

 

そう言いながら手に持っていたカード…スペルカードを使い出した。すると星型をした光の玉が霊夢に降り注ぐ。まるで流れ星のように綺麗な技。これを霊夢は軽やかにかわしていく。

 

「全く、いつも見てるわよその技。夢符「二重結界」」

 

霊夢も手に持っていたスペルカードを使う。魔理沙のとは違いそこまでの範囲はない様子。しかし、二つの結界が魔理沙を覆い、その中で弾幕が繰り出されていく。

 

「霊夢のもな!代わり映えしないぜ!

 

決して広くない結界の中で器用に交わしていく魔理沙。交わしていく途中に魔理沙も弾幕を放つ。そしてそれを霊夢が交わしていく。

 

(なんか…想像以上に激しいな。俺だったら避けきれなそうだ)

 

そんなことを思いながら見ている信二。と二人が弾幕を放つのをやめ始めた。どうやら今回は決着をつけないらしい。

 

「こんな感じだ信二。分かったか?」

 

「ああ、意外と難しそうってのは分かった。ところでその弾幕は当たったらどうなるんだ?」

 

信二が見てる途中で気になったことを問いかける。

 

「当たると結構痛いわよ。それで気絶とか降参とかしたらそいつの負け。」

 

なるほど、と信二は感心する。確かに騎士の決闘のようなものだ。と、同時に一つの疑問が浮かび上がる。

 

「その弾幕では…死なないのか?」

 

「…基本は当たっても死なないわ。けど、何事にも例外があるように弾幕ごっこにも例外がある。これで死ぬこともあるわ」

 

霊夢が口にする。そうか、と信二が答える。感覚としては魔法とかなり似ている。

 

「まぁそんなの例外中の例外だけどな!」

 

魔理沙が元気よく言う。魔理沙には場を明るくする力でもあるのだろうか。その一言だけですこし沈んでいた空気が元に戻る。

 

「全く、能天気ね魔理沙は。ところで信二。あなたもう歩ける?」

 

霊夢に問われてすこし立ってみる。体はまだ痛いが歩くくらいなら出来そうだった。

 

「ああ、歩けるな、でもどうして?」

 

「あなたを医者にみせにいくのよ。あなた結構重いから私じゃ運べないのよ」

 

「まぁ見た目以上に筋肉があるからな。よく言われる」

 

「てか、医者ってことは…」

 

「そう、永遠亭に行くわよ」

 

「永遠亭?」

 

俺の幻想郷初めての行き先が決まった。

 



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5話 ⑨出現

5話です。そう言えば主人公の容姿がどんなもんか言ってませんでしたね。僕のイメージとしてはD.Gray-manのラビの眼帯を外した感じですね。知らない人は是非調べてみてください。面白いので。


俺は霊夢に案内されるままに歩いている。体の傷は痛むが特に支障はない。霊夢が巻いた包帯がしっかりとまけているのだろう。まぁ信二が普通に歩けるのには()()()()()()()()

 

「信二、傷は大丈夫か?」

 

「ああ。歩く程度なら全然問題は無い。心配してくれてありがとうな、魔理沙」

 

「信二には魔法を見せあう約束があるからな。こんな所でくたばってもらったら困るからな」

 

魔理沙は箒の上に寝転びながら飛んでいた。

 

「てか魔理沙、随分と器用な飛び方するんだな」

 

「毎日乗ってるからな。こんくらいできるようになるぜ」

 

「信二は空を飛べないの?空飛んだ方が早いのだけど…」

 

「残念だが俺は空飛べないんだよ。俺の世界でも空飛べるやつは極小数だったしな」

 

「そうなの?幻想郷だと普通の人間ですら空を飛ぶから信二も空飛べるのかと思ったわ」

 

「マジか…俺も修行すれば空飛べるかなー」

 

「頑張ればいけるんじゃないか?練習なら付き合うぜ!な、霊夢?」

 

「まぁ…暇な日ならね」

 

「何言ってるんだ、お前はいつも暇だろう。どうせ今日も暇してたんだろ?」

 

「そんなこと…無いこともないけど…」

 

すこし口ごもる霊夢。どうやら図星だったようだ。

 

「霊夢は普段どんな生活をしているんだ?」

 

信二が霊夢に聞く。信二がいた世界では暇がある日はほとんど無かった。何せ戦争中だったのだ。安堵する日もあまり無い生活をしていたため、暇な時にしている事を純粋に聞いてみたかったのだろう。

 

「そうねー。掃除をしたり、人里に言って買い物したり、魔理沙みたいに神社に来た妖怪や人間と話したり弾幕ごっこしたり…そんな生活かしら?」

 

「あとはたまに発生する異変を解決するくらいだな」

 

魔理沙が横から会話に入ってくる。

 

「異変?なんだそれ?」

 

「異変は幻想郷の住人が起こす事件のことよ。それぞれ思うところがあり起こすのだけど大体が幻想郷全体を巻き込むものなの。幻想郷は全てを受け入れるけど誰かのものでは無い。つまり異変を放っておくと幻想郷が狂ってしまう可能性があるの」

 

「そこで異変が起きた場合は弾幕ごっこで解決させるんだぜ!私と霊夢は何個も異変を解決してきたんだぜ!」

 

魔理沙がふふんと言わんばかりに胸を張っていう。

 

「なるほどね。さっきの弾幕ごっこで妙に戦いなれている感じがしたが霊夢と魔理沙は何回も弾幕ごっこをしてきたんだな」

 

「ええ。異変を解決して幻想郷の平和を保つ。それが博麗の巫女の仕事だもの。そればっかりはめんどくさくてもやらなくてはいけないから」

 

「ちなみにワタシは面白そうだから霊夢についてってるだけだぜ」

 

「面白そうだからって…。異変を解決するのも大変なんじゃないのか?」

 

「ええ、一応異変を起こす奴らも弾幕ごっこをするけど手加減なしの本気だからね。殺しにくることだってあるわ」

 

「結構危ないじゃないか!よくそんなことやってるな」

 

「「信二に言われたくないわ(ないな)」」

 

「あー。まぁそうだな」

 

そんな話をしていると前から二つの影が見えてくる。

 

「そこの巫女と魔法使いー!アタイと勝負しろ!」

 

「チルノちゃん!いきなり失礼だよ…」

 

「大丈夫だよ大ちゃん。アタイはさいきょーだからね!」

 

「…霊夢。この二人は?」

 

「こいつらは妖精。青い方がチルノ。アホの妖精よ。緑の方が大妖精。妖精の親玉みたいなやつ」

 

「誰がアホの妖精だー!」

 

チルノが食ってかかる。

 

「そうか。えっと、こんにちはチルノと大妖精。俺の名前は火渡信二。信二って呼んでくれ。」

 

「あ、はじめまして信二さん」

 

「宜しくね、しんじ!」

 

「おう、それじゃぁ気をつけて遊べよ」

 

「はーい!………て違う!そうじゃない!」

 

「ち、もう少しでやり過ごせそうだったんだがな」

 

「結構惜しかったけどね」

 

「やっぱりアホの妖精じゃないのか?」

 

魔理沙がものすごく馬鹿にした態度でチルノに言う。

 

「ムキー!もう怒ったよ!これでもくらえ!氷符「アイシクルフォール」」

 

チルノの逆鱗に触れたのかチルノが突拍子も無く弾幕を放ってくる。チルノが突然弾幕を放ってくることは二人にとってはよくあること。二人は当たり前のように回避に出る。しかし一つだけいつもと違う事が。そう、信二である二人は回避したあとに気づき慌てて信二を守るためスペルカードを取り出そうとする。その時

 

「急に危ないじゃないか、チルノ」

 

そう余裕そうにする信二。その信二の周りには炎が渦巻き、チルノのスペルカードを全て相殺していた。元の世界で最も強かった男だ。このくらいくぐり抜けてきた修羅場に比べれば全体生ぬるい。

 

「あんまり荒事起こしたくなかったんだがな…先に謝っとくぞチルノ」

 

「え?」

 

そう言うと信二は右手をチルノに対して振る。するとその先から炎が波のごとくチルノに襲いかかる。

 

「うぎゃーー!」

 

「ち、チルノちゃーーん!」

 

チルノは炎に吹き飛ばされ、大妖精はそのあとを追って行ったとさ。

 

「やっぱりアホの妖精だな」



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6話 幻想郷の不死鳥

6話です。今回は妹紅さんが登場します。思ったんですが妹紅さんと信二は凄い相性いいと思うんですよね。二人とも不死鳥に関係ありますし。なんか仲のいい兄弟みたいです。


チルノを吹き飛ばした信二。その顔は少し申し訳ない事をしたといったような顔だ。

 

「ちょっとやりすぎたかな?」

 

「いや、あの妖精なら大丈夫よ、私達が弾幕ごっこする時はもっと凄い技受けてるもの」

 

「というか信二。さっきのよく咄嗟に魔法出せたな?」

 

「なに、魔理沙達もすぐに避けてたじゃないか。あのくらいすぐに反応出来なきゃ生きてけなかったからな」

 

信二は戦争中、ほぼいつも気を張っていた。悪魔達はいつ来るかわからないから。起きてる時は例え目の前に現れてもすぐに対応できるようにしていた。それが癖ずいているだろう。特に意識していないのに気を張っていた。

 

「ふーん。流石歴戦の騎士だな。見事な魔法だったぜ!」

 

「いや、あれはそんな大した魔法じゃ無いよ。あの程度じゃ悪魔も死なないしね」

 

「そうなの?随分と強いのね、悪魔は」

 

「ああ、嫌になるくらいね」

 

話していると目の前に竹林が見えてきた。

 

「お、見えてきたな。あそこを抜けたら永遠亭だぜ」

 

「まぁ抜けられるか分からないけどね。ここは迷いの竹林と呼ばれているわ」

 

「迷いの竹林?なんかやばそうなところだな」

 

「けど、確か竹林の案内役がいたはずだけど…あ、いた!」

 

魔理沙が指さす方には長い白髪を大きなリボンと小さなリボンでまとめ、赤いもんぺの様なものをはいている少女がいた。

 

「ん?珍しい客だな。白黒の魔法使いと紅白の巫女じゃないか。それに…そっちの赤髪は?見たことないな?」

 

「ああ、さっき別の世界から幻想郷に来たものだ。名前は火渡信二。信二って呼んでくれ。宜しくな」

 

そう言い信二は友好的に握手を求める

 

「宜しく。あたしは藤原妹紅。この竹林の案内をしている」

 

「信二。妹紅もあなたと同じ炎を操るものよ」

 

「そうなのか?奇遇だな。俺も炎を操る魔法使いだ」

 

「へぇー。珍しいこともあるな。外の人間が魔法使えるなんてな」

 

「まぁ妹紅達が知っている世界以外から来たからな。珍しいのも無理はないだろう」

 

「別の世界なんてあるのか?」

 

「まぁその話はまた後でにしてくれ。早く永遠亭に案内してくれよ不死鳥」

 

「不死鳥と呼ぶな魔理沙。確かにそう言う技を使うけど…」

 

「不死鳥?妹紅は不死鳥って呼ばれてるのか?」

 

驚いた顔で聞いてくる信二。

 

「ん?まぁそう呼ばれることもあるな。どうした急に?」

 

「いや、奇遇だと思ってな。俺も前いた世界では不死鳥って呼ばれてたんだよ」

 

 

 

 

 

信二達は妹紅の案内で竹林の中を歩く。その途中は信二の話で華がさいていた。

 

「にしても信二が不死鳥か。何か関係があるのか?」

 

魔理沙が問う。

 

「ああ、もちろんだ。見てな…こい!朱雀!」

 

すると信二の体から炎が湧き出る。その炎が信二の上に集まりやがて、炎で出来た鳥が現れた。

 

「うわ、ちっさ!今はこんなものか…」

 

その火の鳥はハトくらいの大きさで信二の頭に乗っている。

 

「小さいっていつもはこの大きさじゃないのか?」

 

聞くのは魔理沙。探究心より。

 

「ああ。いつもならオオワシ程の大きさなんだけどな。やっぱり縮んでるか」

 

「やっぱり?そんなにコロコロ大きさ変わるの?」

 

今度は霊夢が

 

「こいつは俺のいつも溢れでる魔力や生命力を集めて作ってるんだ。つまりこいつが縮むってことは俺の傷を治したりする時、そして小さくなるにつれて俺が死に近づく事を意味しているんだ」

 

「なるほどね、結構大切な鳥なんだな。熱そうだけど」

 

魔理沙が触りたそうにしているが炎で出来た鳥のため触るのを躊躇っている。

 

「そうか?案外熱くないぞ?」

 

「妹紅…それはあんただからでしょ…」

 

霊夢がジト目で妹紅に言う。妹紅も火を操る。だからか火に対して恐怖心がないのか朱雀の体を撫でている。もっとも、妹紅が躊躇いもなしに触れるのは別の理由もあるが…。

 

「いや、実際に熱くは無いぞ?温かいくらいで。朱雀は生命力と魔法で出来てるからな。炎も出せるけどな」

 

「そ、そうなの?」

 

「それならいけるな!」

 

すこし躊躇う霊夢と一切の迷いなしに触る魔理沙。まさに対極の反応だろう。

 

「お、結構温かいな。冬には湯たんぽになりそうだな!」

 

「ほら、霊夢も。怖くないぞ?」

 

「え、じゃあ…あ、本当ね。温かい」

 

恐る恐る触る霊夢。だが朱雀の温かさに感動したのか今は愛玩動物を触るように触っている。それもそうだろう。先程も信二が言っていたように朱雀は生命力の塊。命あるのもに安らぎを与えるのだ。…もっとも信二が言ったように攻撃することも出来るが…

 

「っと、さぁ着いたぜ信二。ここが永遠亭だ」

 

妹紅が指さす所は急に竹がはれている。ここが幻想郷一の医者が居る場所。そして信二が初めて幻想郷で訪れる場所。永遠亭である。

 



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7話 永遠亭

7話です。ようやく永遠亭にたどり着きました。進行としては遅いんですかね?まぁまったりと進めていくつもりなので進行ペースは変更しませんが。というか出来ませんが。文才的に(涙


「ここが永遠亭か。随分とでかいな」

 

例えるなら古き良き日本家屋の豪邸。信二は見慣れない形の屋敷に対してすこし珍しいものを見るような目で、綺麗なものを見るような目で見ていた。

 

「それじゃあな。しっかり治してもらえよ信二。ここの医者は腕だけは確かだからな」

 

「あれ?妹紅は中に入らないのか?」

 

「ああ。あたしはこの永遠亭の主と色々あってな。入ると騒がしくなるからな」

 

「輝夜とね。その方が賢明ね」

 

「輝夜?それが永遠亭の主か?」

 

「そうだ。帰りは別の案内があると思うから行ってこい」

 

「ああ、道案内ありがとうな妹紅。またいずれ酒でも飲みながら話そうぜ」

 

「はは!いいなそれ。待ってるよ」

 

そう言い妹紅は竹林の中に入っていった。

 

「さてそれじゃあ中に入りましょう」

 

永遠亭の中に入るとそこには薄紫色の長い髪をした少女がいた。…頭にうさ耳をして。

 

「あれ?お客様ですか?」

 

うさ耳の子がこちらに気付き話しかけてくる。

 

「あ、霊夢さんと魔理沙さん。こんにちは。そちらの男性は?」

 

「こんにちは鈴仙。今日はこの人を永琳に見せにきたの。ほら、見てわかる通り怪我してるじゃない?」

 

「なるほど。そういう理由でしたか。あ、はじめまして。私の名前は鈴仙・優曇華院・イナバと言います。鈴仙と呼んでください」

 

「ああ、宜しく。俺の名前は火渡信二。信二で構わないよ。…ところでその頭の耳は?」

 

信二は一目見た時から思っている疑問を鈴仙に聞く。鈴仙は見た目は普通の女子だ。そんな子が頭にうさ耳を付けていたら普通は疑問に思うだろう。

 

「あ、これはつけ耳なんかじゃ無いですからね!ちゃんとした耳です!私は月兎なので」

 

「月兎?そうすると鈴仙は人間じゃないのか?」

 

「はい。見た目は完全に人間なので混乱するでしょうけど。永遠亭で頭に耳が付いている者は基本的に兎ですから。気をつけてくださいね?」

 

「ああ。肝に銘じておく」

 

流石幻想郷といったところか。あそこまで人間のような兎は幻想郷以外には居ないだろう。改めて不思議な世界だと思った信二であった。

 

「それじゃあ中に入ってください。師匠の所に案内します」

 

「よろしく頼むぜ」

 

魔理沙が1番乗りで鈴仙について行く。そしてある部屋で鈴仙が止まる。

 

「師匠。患者さんを連れてきました」

 

「そう、入っていいわよ」

 

中から女性の声がする。この声の主が幻想郷一の医者だろうか?

 

「どうぞ中へ」

 

「お邪魔するわよ永琳」

 

「あら、霊夢じゃない。魔理沙もいるのね?珍しいわね、あなた達が来るなんて。そしてそこのあなたが患者ね?私は八意永琳。この永遠亭で医者をしているわ」

 

そう目の前の女性、八意永琳が言う。やはりこの人が医者だったか。キリッとした表情をしておりどこか大人びている。頼れる感じがヒシヒシ伝わってくる。

 

「はじめまして。俺は火渡信二と言います。信二と呼んでください」

 

特に意識していないが何故か敬語になってしまう。年の功というやつなのか…

 

「それなら信二、こっちに来て。傷見てあげるから」

 

信二は永琳の前にある椅子に座る。そして永琳が信二に巻いてある包帯を取り始めていく。

 

「あら、結構上手に包帯が巻かれているじゃない。霊夢が巻いたのかしら?」

 

「そうよ」

 

「やっぱりね。魔理沙じゃ無理だと思ったもの」

 

「おい永琳。どういう意味だ?」

 

「だってあなたこういう器用なこと出来なさそうじゃない」

 

「まぁ…否定出来ないのが悲しいな」

 

魔理沙がしょぼくれる。どうやら魔理沙は細かい作業があまり得意では無いらしい。

 

「そうね…結構深い傷もあるわね。でも所々治り始めている傷もある。あなた何かした?」

 

「いや、俺は元々傷の治りが早いので」

 

「信二は不死鳥って言われてたらしいからな。そのせいだろう」

 

「不死鳥ね、どこぞのもんぺと似ているわね。…優曇華院、とってきて欲しい薬品があるのだけれど」

 

「はい、どれですか?」

 

鈴仙は先程永琳の事を師匠と呼んでいた。おそらく永琳の助手のような感じだろうか?鈴仙は薬品を取りに部屋を出た。

 

「この傷なら私の薬を使えばすぐに治るでしょうね。まぁ完治まで普通の人間なら1ヶ月はかかるでしょうけど。あなたの体質ならもっと早く治るでしょうね」

 

「結構深そうね、傷」

 

霊夢が少し心配そうに聞いてくる。

 

「普段なら傷は魔法である程度治せるんだけどな。今は魔力も全然無いからなー。まぁ永琳さんもこう言ってるし大丈夫だろう」

 

「そう、ならいいけど」

 

「とりあえずあなたは今日永遠亭に泊まりなさい。その方がこちらとしても都合がいいから」

 

永琳がそう提案する。確かに信二は今日の寝床を何処にするか迷っていたところだ。そんな所にこんな提案を出されたのだ。願ってもない提案だった。

 

「それなら是非。宜しくお願いします」

 

俺の幻想郷の初めての夜は永遠亭で過ごすことになった。

 

「永琳?誰か来ているの?」

 

とそこに新しい女性の声がする。

 

「邪魔してるぜ輝夜」

 

「魔理沙じゃない、それに霊夢も。久しぶりね。それであなたは?初めて見る顔ね」

 

そう言いながらこちらに向かってくるのは長い黒髪をした美人。この永遠亭の主、蓬莱山輝夜である。

 

 



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8話 治療開始

8話です。これ読んでて誰がセリフを言ってるか分かりますかね?なるべくわかりやすいようにはしてるつもりですが。小説を作るのって難しいですね。


「新顔ねあなた。外来人かしら?」

 

そう聞いてくるのは長い黒髪を持つ少女。霊夢や魔理沙とはまた違った雰囲気を醸し出している。そう例えるなら姫のような…

 

「そうだ。俺の名前は火渡信二。信二って呼んでくれ。君は?」

 

「私は蓬莱山輝夜。この永遠亭の主よ」

 

「君が輝夜か。妹紅達から話は聞いてるよ」

 

「あら、あのタケノコ女と話したの?」

 

「(タケノコ女…)ああ、永遠亭に案内をしてもらってる時にね。随分と妹紅と仲良さそうだな輝夜は」

 

「そうでもないわよ、ただ殺し合うくらいだもの」

 

「殺し合う?!とんでもない仲じゃないか!」

 

「いや、こいつらは殺しあっても大丈夫なのよ」

 

「大丈夫って、何でだよ霊夢?」

 

「輝夜と妹紅…あと永琳もね。この3人は蓬莱人って言ってね。絶対に死ねない、不老不死なのよ」

 

「不老不死?!それは本当なのか輝夜!」

 

「ええ、私達は年老いることもないし例え大怪我をしても数日で治るわ。でもそれ以外は人間とあまり変わらないわよ?お腹だって空くし怪我したら痛いし」

 

「それでもとんでもないだろ。不老不死なんて」

 

妹紅が不死鳥と呼ばれていた理由の一つはこれか。どうやら妹紅の方が俺より圧倒的に不死鳥に近いらしい。

 

「師匠ー。頼まれてたお薬持ってきましたよー。あ、姫様。いらしてたんですね」

 

鈴仙が手に箱をもってやってきた。箱の中身は永琳に頼まれていた薬だろう。数種類の瓶がある。

 

「ありがとう優曇華院。まず信二はこの薬を飲んで。そのあいだに私と優曇華院で塗り薬を塗るから」

 

「飲み薬もあるのか。了解です」

 

「それじゃあ私はそろそろお暇しましょうかね」

 

「ワタシも帰るかな」

 

「あら、二人とも帰っちゃうの?夕食でも食べていけばいいのに」

 

「ありがたいお誘いだけど、また今度ね。私はこのあと少しやることがあるから」

 

「ワタシも魔法の研究の途中だしな」

 

「そう。なら仕方ないわね。それじゃあまた今度」

 

「ええ、信二も早く治るといいわね」

 

「お大事にだぜ、信二」

 

「ああ、ありがとうな霊夢、魔理沙。怪我が治ったらまた遊びに行くよ」

 

「ええ、待ってるわ」

 

そう言い残し霊夢と魔理沙は帰って言った。

 

「さて、こんなものかな。優曇華院は塗り終わった?」

 

「私は師匠みたいに早くないですよ〜」

 

「あら、随分と遅いわね。お仕置きかしら」

 

「ええ!勘弁してください!」

 

そう言いながら永琳は塗り薬を塗った箇所に包帯を巻いていく。流石幻想郷一の医者と言うべきだろうか。薬を塗るのも包帯を巻くのも早い。しかも包帯もしっかりと固定されているのに苦しくない。

 

「さて、包帯を巻くのは私がやるから優曇華院は夕食を作ってきなさい。お仕置きはそのあとよ」

 

「お仕置きは確定ですか?!うう…理不尽だ…」

 

そう言い虚ろな目をしている鈴仙は夕食を作りに言った。…あんな目になるなんて、どんなお仕置きをされるんだ。別に変な意味はない。

 

「さて、終わったわ。あとはそうね…夕食まで姫の相手をしてくれる?信二」

 

「えぇ。俺も輝夜と話してみたいと思ってたところですし」

 

「なら信二。こっちに来て。私の部屋で話しましょう」

 

「はいはい。今行きますよ」

 

そこで俺と輝夜は色々な話をした。俺の世界のこと。その世界での俺の生活。俺が幻想郷に飛ばされた理由。輝夜のことも聞いた。なんでも輝夜は元々月のお姫様だとか。そこを追い出されて今は幻想郷にいるらしい。ただそこまで月を追い出された事を悔やんでないらしい。幻想郷の住民は一人一人スケールが違うな。俺はもっと色んな人の話を聞いてみたいと思った。

 

「ヒメさまーご飯が出来ましたよー」

 

そう言いながら障子を開けるのは頭に耳が付いている背の小さい少女。

 

「ありがとうてゐ。さぁ行きましょう信二」

 

「そいつが信二だね。ワタシは因幡てゐ。宜しく」

 

「ああ、宜しく。火渡信二だ」

 

握手を求めるてゐに握手をする。…と

 

「いて!なんだ?!」

 

てゐの手から電流が流れるような痛みが襲ってきた。

 

「あはは!引っかかったね信二。これは外の世界から流れてきた押すと電流が走る道具だよ!」

 

どうやらてゐはイタズラ好きのようだ。引っかかった俺に対し子供のように無邪気な笑いで笑っている。

 

「こら、てゐ。お客さんに失礼でしょ?」

 

「いいよ輝夜。今度俺がやり返せばチャラだ」

 

対する俺は怒ってはいない。しかしやりっぱなしは性に合わないのでやり返すことを誓った。

 

「にひ。ゴメンなさーい」

 

てゐは走り去っていった。

 

「まったく。悪い子じゃないんだけどね。イタズラ癖があるのよあの子」

 

「なに。騒がしくていいじゃないか」

 

そういながら夕食が待つ席へ行く。夕食中も俺の話を聞きたいのかみんなが話しかけてきた。それもそうだろう。俺はただの外来人じゃない。みんなが知らない世界の住人だ。俺が話すことはさぞ物珍しいだろう。その後俺は寝室に案内された。今日は色々な事があり疲れていたのかすぐに寝てしまった。さて、明日は何が起こるのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…紫。いるんでしょ?」

 

ここは場所が代わり博麗神社。霊夢が何も無い空間に話しかける。すると

 

「なに?霊夢。私に会いたくなったの?」

 

紫がスキマから出てきた。

 

「冗談やめて。信二のことよ。あなたはどう思ってるの」

 

「まったくつれないわね。…信二自体は害は無いでしょう。ただし問題は信二の言っていた悪魔。アスモダイは別よ。アスモダイはおそらくこの幻想郷を襲うでしょう。前の世界でそうだったようにね」

 

「そうよね。何か分かったら私に伝えて。信二にも」

 

「あら、随分とやる気ね霊夢。信二に一目惚れでもしたのかしら?」

 

そう言う紫を否定しようと後ろを振り返ったがそこに紫はもう居なかった。

 

「……そういうのじゃないわよ…」



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9話 まさかの?

9話です。本当は今回、戦闘回になる予定だったんですが次回になりました。見切り発車感が凄い…。もう少し予定通りに書きたいこの頃。


「はい、それじゃあ包帯をとるわよ」

 

俺は今昼の検診を受けている。…本当は朝にやるはずだったらしいのだが俺が熟睡していて出来なかったらしい。確かに起きた時には昼手前だったからな。久々に寝たわあんなに。

 

「…昨日あなたが言ってた通りね。()()()()()()()…。もう治ってる所もあるくらいね」

 

「いえ、永琳さんの薬のおかげですよ。それが無ければ回復も遅かったでしょう」

 

「それにしてもよ。やはりあなたは普通の人間ではないようね。」

 

…なんだろう。これは褒められてるのか呆れられてるのか。どっちにしろ永琳さんにいわれたくないが…

 

「とりあえずあなた、今からお風呂に入ってきなさい。そんな血だらけだと衛生的に良くないから」

 

確かに今の俺は傷こそ塞がってきているがそれでも服に血や土埃がついている。丁度風呂に入りたかったところだ。

 

「あ、じゃあお言葉に甘えて」

 

「優曇華院について行けばお風呂場に着くから。宜しくね優曇華院」

 

「はい!それでは信二さん。こちらです」

 

俺は鈴仙について行く。その途中で一つ気になっていたことを鈴仙に聞く。

 

「なぁ鈴仙。昨日永琳さんにどんなお仕置きされたんだ?」

 

「……………………………………」

 

「……………………………………」

 

「……信二さん。世の中には知らない方がいいこともあるんですよ…」

 

「お、おう。そうか。済まなかったな。変なこと聞いて」

 

「いえ、気にしないでください」

 

俺は久しぶりにあそこまで死んだ目をしている人を見た。

 

(まじで何したんだよ永琳さん!)

 

「ここです。信二さん。お洋服はここの籠に入れてください。洗っときますんで」

 

「うん、ありがとう鈴仙。…次からは目を合わせて話してくれよ」

 

「!…はい。善処します」

 

そう言って鈴仙は部屋を出ていく。昨日から鈴仙はこちらを見てくれるが目を合わせてくれてなかった。最初は人見知りをしているからかと思ったが話している感じそういった感じでは無かった。おそらく鈴仙は目を合わせたがらない理由があるのだろう。

 

(後で聞いてみるか…)

 

それはさておき、お湯加減はどうかな?

 

(お、丁度いい感じだな。ありがたい)

 

俺はまずお湯を体にかける。体に付いた血を流すために。

 

「いって!やっぱり染みるな!」

 

覚悟はしていたがやはり染みるものは染みる。まぁ湯治だと思って入るか。俺は意を決して湯船に浸かった。

 

 

 

 

「輝夜ーー!出てこーーい!」

 

永遠亭の外から大声が聞こえる。妹紅の声だろう。

 

「来たわねクソもんぺ!今日こそ殺してあげるわ!」

 

「それはこっちのセリフだ!クソニート!たまには永遠亭から出たらどうだ!」

 

そう言いながら弾幕を放つ妹紅。これから始まるは永遠亭名物。妹紅と輝夜による殺し合いだ。

 

「余計なお世話よ!あなたこそたまにはタケノコ以外の食べ物を食べてみなさい!タケノコもいい加減あなたの顔見飽きてるわよ!」

 

輝夜も大声を出しながら弾幕を放つ。昨日までの姫様オーラは微塵も感じられない。

 

「なわけないだろ!不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」」

 

妹紅がスペルカードを使う。鳥型の弾幕が弾幕を撒き散らしながら輝夜に接近する。

 

「そっちこそ!難題「龍の頸の玉 -五色の弾丸-」」

 

輝夜もスペルカードを使う。5色の玉と5色の棘が妹紅に降り注ぐ。妹紅の出したスペルカードを途中で相殺しながら。

 

「その程度じゃ私に当たらないぞ!不滅「フェニックスの尾」」

 

新たにスペルカードを発動する妹紅。妹紅を中心として前後に弾幕が飛び散る。その数はとてつもなく隙間などないくらいに。

 

「そっちこそ!甘いんじゃないの!神宝「ブリリアントドラゴンバレッタ」」

 

輝夜も負けじとスペルカードを発動。先程のスペルカードより棘が増える。しかも先程は弾幕の行く先がランダムだったが今度は違う。妹紅を射つために弾幕が妹紅を狙ってくる。

 

「まだまだー!」

 

「なんの!」

 

どんどんと激しさを増していく妹紅と輝夜。それに比例して弾幕の量も威力も増していく。殺し合いというのは伊達ではないようだ。

 

「なんだ?さっきっから凄いうるさいけど?」

 

と、そこには風呂上がりの信二。今は永琳が用意した患者用の服を着ている。

 

「あそこにいるのは…妹紅と輝夜?何でまた…」

 

「あ、信二さん、あがったんですね。どうでしたか?お湯加減は?」

 

「あぁ、鈴仙、丁度よかったよ。…ところであそこで妹紅と輝夜は何してるんだ?」

 

「はい、殺し合いです。ほぼ毎日やってますよ?」

 

「あー。そう言えば昨日そんなこと言ってたな。想像以上に殺しあってるな…」

 

「まぁ二人とも楽しんでいますがね」

 

「殺し合いなのにか?」

 

「ええ、二人は蓬莱人…死ぬことがないですからああやってお互い生を実感してるんです。口ではお互いひどいこと言いあってますけど、本当は二人とも仲がいいんですよ」

 

「そうか…いいコンビじゃないか」

 

「ええ、とっても」

 

鈴仙と二人話している間にも妹紅と輝夜の殺し合いは激しさを増していく。

 

「それでも今日は一段と激しいですね…」

 

「喰らえ!蓬莱「凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-」!」

 

「終わりよ!神宝「蓬莱の玉の枝 -夢色の郷-」!」

 

お互い渾身の一撃を放つ。お互いの技を相殺し合いながらせめぎあう。するとお互いの技の一部が弾き合い鈴仙目掛けて飛んでいく。

 

「…え?」

 

鈴仙は突然の事で体が動かない。この弾幕は弾幕ごっこではなく殺し合いの弾幕。危険だと言うことは火を見るより明らかである。

 

「な!しまった!」

 

「避けて鈴仙!」

 

妹紅と輝夜も鈴仙が危険だと気づいた。しかしもう手だし出来ない。気づくのが遅すぎた。そのまま弾幕は鈴仙を貫…

 

「おらよ!」

 

…ぬく前に信二が腕を振るう。するとその軌道と同じ軌道上に炎が突如として現れ駆け抜ける。そのまま弾幕とぶつかり、弾幕を消し飛ばした。

 

「ちょっと熱くなりすぎだぜ二人とも。これは少しお灸を据える必要があるな」

 

そう言いながら信二は妹紅と輝夜の方に歩いていく。少し二人をお仕置きするために。

 



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10話 信二の実力

10話です。とりあえず10話まで来ました。今回は戦闘回です。上手くかけてるか不安ですが。そして次回でおそらく序章が終わります。…中々に長くないか序章?


「鈴仙!無事?」

 

「大丈夫か!鈴仙!」

 

鈴仙に駆けつける妹紅と輝夜。いまだに鈴仙は何が起きたのか分からないといった感じだった。弾幕が来たと思ったら目の前に炎が広がり、弾幕をかき消した。確かに、当事者になってみると何が何だか分からないだろう。

 

(あれ?何が起きたの?姫様達の弾幕が来て炎が目の前に…姫様達の弾幕が…飛んだきた?)

 

ようやく自体を理解しだした鈴仙。そう、彼女達は殺し合いをしていた。その弾幕が飛んできたということは……当たっていたら鈴仙はおそらく死んでいただろう。

 

「あれ…私…今…。姫様…私…」

 

思わず泣き出してしまう鈴仙。

 

「ごめんなさい、鈴仙…。本当に怖い思いをさせてしまって…」

 

「済まなかった鈴仙。少し熱くなりすぎた…」

 

「まったく。もう少し周りに気をつけろよ二人とも」

 

「ええ、ありがとうね信二。鈴仙を守ってくれて」

 

「あぁ。…それじゃあ二人とも。お仕置きだ」

 

「「え?」」

 

「当たり前だろ。周りを見ないで鈴仙を危険な目に遭わせたんだから」

 

「いや、私は気にしてないから大丈夫ですよ。信二さん…」

 

「今も泣いてるじゃないか。鈴仙が良くても俺が良くない。さぁ二人とも、少し熱いくらいだ。別に抵抗してくれても構わないよ。どうせ俺には勝てないから」

 

その信二の言葉にムッとする輝夜と妹紅。鈴仙を危険な目に遭わせことは深く反省している。しかし先程の信二の言葉は自分達を見くびっている感じがした。元々闘争心が強い二人は信二に食ってかかる。

 

「私が勝てないって…随分と余裕そうじゃないか、信二」

 

「まったくね、私達が悪いけど、今の言い方は無いんじゃないの?」

 

「なら試してみるか?怪我も治ってきたし今なら負ける気はしないね」

 

「舐めるなよ!」

 

いつの間にか外に出ていた信二に向かって妹紅が弾幕を放つ。しかし信二の足元から炎が湧き出て弾幕を弾く。

 

「どうした?もっと本気で来いよ」

 

「それなら…手加減しないわよ!」

 

妹紅に続き輝夜も弾幕を放つ。先程とまではいかないものの中々に威力が高い。…がそれも炎の壁に阻まれる。

 

「どうした?さっきみたいに本気で来いよ?」

 

「っ、後悔すんなよ!」

 

「後悔しない事ね!」

 

そしてほぼ同時に妹紅と輝夜がこちらに向かってくる。

 

「時効「月のいはかさの呪い」」

 

「難題「仏の御石の鉢 -砕けぬ意思-」」

 

そしてスペルカードを放ってくる。妹紅のスペルカードは相手に呪いをかけるスペル。通常の弾幕の他に対象者を追いかける弾をだす。輝夜のはいくつもの弾幕が壁のように迫ってくる。どちらも厄介なスペルカードが二つ合わさり避けるのはかなり困難になっている。

 

「そうそう、そんな感じだ!本気でやらないと意味がないからな」

 

信二は炎を操りながら弾幕を避けていく。炎で弾を相殺したり、弾幕同士の僅かな隙間を抜けたり。さらに避けている間に指を妹紅と輝夜に向ける。

 

「2連火炎柱(デビルバースト)!」

 

危機を察知したのか妹紅と輝夜はその場を去る。そのすぐあとに先程いた場所から炎が勢いよく吹き出る。その威力は最初魔理沙達に見せたものより遥かに威力が増している。

 

「そんなことも出来るのか!だが狙いが甘いぞ!藤原「滅罪寺院傷」」

 

「危ないじゃない!難題「燕の子安貝 -永命線-」」

 

新たなスペルカード。妹紅のは四角い弾幕が規則正しく雨のように向かってくる。輝夜のは信二の周りを囲む弾幕を作り、動きを制限してから通常弾幕を放つスペル。輝夜のスペルカードで動きが制限されている中で妹紅の弾幕を避けるのは不可能だろう。凶悪なコンビ技だ。

 

「中々いい連携じゃないか。だがな、こんなんじゃ俺に届かないぜ!」

 

そう言い信二は右手を腰元に構える。その右手には魔法がみるみる溜まっていく。

 

火炎爆裂波(オーバードライヴ)!」

 

魔法を溜めていた右手を妹紅達に突き刺す。すると右手からかなりの範囲の炎が勢いよく、まるで火山の噴火のように妹紅達に向かっていく。それに当たった弾幕は瞬く間に消えていく。無論信二の周りを囲んでいた弾幕も。

 

「な!あぶね!」

 

「ちょっ!妹紅あなた!…て、きゃあーー」

 

妹紅は輝夜を踏み台にして飛んで避ける。妹紅は空を飛べない訳では無いが初速は早くはない。輝夜を踏み台にした方が確実によけれるだろう。対する輝夜は踏み台にされたため、逃げ遅れ、結果炎に飲まれた。

 

「なんて範囲の広い技「ひどい事するな妹紅は」なんだって?!なんでこんなところにいんだよ信二?!」

 

妹紅が飛んだ先には既に信二がいた。信二は妹紅が輝夜を踏み台にしようとした瞬間には既に妹紅が来るであろう位置に飛んでいた。

 

「じゃ、お仕置きだ!」

 

「くっ!」

 

信二は両手で妹紅を突くようにして下に落とす。もちろん突くと同時に炎も吹き出る。妹紅は炎に押されていき、どんどん地面に近づいていく。

 

「ちょっ、信二待っ…」

 

そう叫びながら地面に叩きつけられた妹紅は頭でも打ったのかそのまま気絶した。そしてここに頭に星を出している少女と軽く焦げた少女が出来た…。

 

「安心せい。火加減はしたさ」

 



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11話 前へ

11話です。いやーようやく序章が終わりました。なので次から新章ですね。新章から戦闘シーンも増えてくるので私の文才力でどこまで書けるか…不安だ。


「まったく、酷いわ信二。私を炎で焼くなんて」

 

輝夜が信二に愚痴る。今は永遠亭で夕食をとっている。輝夜は先程のことを嘆いているようだ。

 

「悪かったって。でもちゃんと加減したからそんな熱く無かっただろ?」

 

「全然、凄く熱かったわ。私が蓬莱人だから良かったものを、蓬莱人じゃ無かったらどうしてるのよ…」

 

「それでも大丈夫だよ。俺が本気でやってたら今頃輝夜丸焦げになってたぜ?」

 

「本当かしら…」

 

「姫も気をつけてくださいね。信二が居なかったら今ここに優曇華院がいなかったかもしれないんですから」

 

「えぇ。反省しているわよ。もうあんなことにならないように気をつけながら殺し合うわ」

 

「殺し合うのは辞めないのか。鈴仙もなんか言ってやれ。危ないから辞めろってな」

 

「わ、私はもう気にしてないですから…」

 

「ていうか信二も馬鹿だよね。ヒメサマたちをお仕置きして自分の傷口が開いちゃうんだから」

 

「全くよ。医師としては褒められた行為ではないわ」

 

「まぁまぁ。そこまで深く開いてないから。誤差の範囲だよ」

 

「なんの誤差よ。姫達のお仕置きなら私がやるのに」

 

「「ビクッ」」

 

その言葉に輝夜が反応する。…何故か関係の無い鈴仙まで…。

 

「まぁおそらく信二は明日には退院出来るでしょうね。恐ろしい回復力だわ」

 

「シンジは本当に人間か?」

 

「失礼だなてゐ。れっきとした人間だよ」

 

「私としては結構本気で撃った弾幕が簡単にかき消されたのが納得いかないわ。私別に弱い訳では無いわよ?」

 

「そりゃ毎日命のやり取りをしていたからな。自然と強くなるさ」

 

「随分と重いことをあっさり言うわね…」

 

そんなやり取りをしながら箸を進めていく。やはり他の人と食べるとより美味しく感じる。また明日検診をしてみて退院するかどうかが決まるらしい。…まぁほぼ退院出来ると永琳さんは言ってたが…。自分で言うのもあれだが不死鳥の二つ名は伊達では無いな。

 

「ふぅー…」

 

今俺は一人縁側で空を見ている。今夜は月が良く見えて綺麗だ。

 

「そこにいるのは信二かしら?」

 

「ん?ああ、輝夜か。どうした?こんな夜中に?」

 

「すこし目が冴えてしまってね。信二こそ。一人で何をしているの?」

 

「月を見てたのさ。今夜は月が綺麗だろ?」

 

「…確かにそうね。とても綺麗だわ…」

 

月を見る輝夜の顔はどこか悲しげだった。

 

「…輝夜は月を追い出された事を後悔してないって言ってたよな?」

 

「えぇ、そうよ」

 

「それは本当か?」

 

「……そうね。完全にないと言えば嘘になるわ。だって自分が生まれた故郷ですもの。恋しくなることだってあるわ。でも…幻想郷に来たことも後悔はしてないわ」

 

そう言いながらこちらを笑顔で見てくる輝夜。…正直言って今の輝夜はかなり可愛い。月明かりに照らされた儚い美女だ。

 

「…そうか。まぁ、それならいいんじゃないか?後悔しない道を歩めてるなら。…俺は後悔だらけだったから…」

 

苦笑いしながらいう俺。

 

「…大丈夫よ。例え後悔したって今が楽しければ…。後悔しない道の方が少ないんだもの」

 

「…強いんだな、輝夜は」

 

「そうでもないわよ。ただ長く生きてきてそれが一番いいと思っただけよ」

 

「ふ、そうか」

 

「ええ。…それじゃあ私は寝るわね。お話楽しかったわ」

 

「ああ、おやすみ輝夜」

 

「おやすみなさい、信二」

 

そして輝夜は自分の寝室に戻っていった。

 

「ふぅー、さて俺も寝るか」

 

俺もだいぶ夜遅くなってきたので寝ることにした。明日も寝すぎて朝の検診が出来なかったら永琳さんにお仕置きされそうだしな。

 

(…今が楽しければそれでいい…か)

 

俺は先程輝夜が言った言葉が妙に頭に残っていた。

 

 

 

「うん、ほとんど治ってるわね。これなら退院出来るわ」

 

朝の検診。永琳さんから退院の言葉を言われた。

 

「食後にこの薬と入浴後にこの塗り薬を塗ってね。治りが早くなるから」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「帰りは優曇華院が送ってくから心配しなくていいわ」

 

「いやー、至れり尽くせりで悪いですね」

 

「いいのよ、気にしなくて。姫もあなたのこと気に入ってるし」

 

「そうなんですか?」

 

「あそこまで人間に興味を持つなんて無いもの」

 

「そうですか…なんか、光栄ですね」

 

「ええ、全くよ」

 

「…それじゃあ俺は行きますね。ありがとうございました」

 

「また遊びにいらっしゃい。姫も喜ぶわ」

 

「はい。また今度」

 

そう言い永琳さん、途中で輝夜とてゐに別れを言って俺は永遠亭をあとにする。

 

「では、ここの道をまっすぐ行くと外に出られますので。そこを左に行けば博麗神社です」

 

「ああ、鈴仙もありがとうな」

 

「いえ、こちらこそ。助けて貰って、ありがとうございました」

 

「どういたしまして。…あ、そうだ鈴仙」

 

「はい、なんですか…」

 

俺は鈴仙が振り返ると同時に目を合わせる。

 

「っ!ダメ!信二さ…」

 

「大丈夫だよ鈴仙。俺は狂気にのまれたりなんかはしない」

 

「え?」

 

俺は朝検診を受ける前に永琳さんから鈴仙が目を合わせたがらない理由を聞いていた。

 

「俺が元いた世界では鈴仙の様な能力を持つ敵もいた。だから俺はそれを効かなくなるくらい精神力を鍛えたんだ。だから、俺とは目を合わせても大丈夫だよ」

 

俺は鈴仙の目を見ながら優しく微笑む。

 

「…まったく、信二さんは規格外ですね。それに優しい。ありがとうございます」

 

鈴仙の目には少し涙が見える。人と目を合わせないことは鈴仙にとってもストレスになっていたようだ。

 

「じゃあね鈴仙。また来るよ」

 

「ええ、待ってます」

 

そして鈴仙と別れたあと、俺は博麗神社を目指した。



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幻想廻り〜紅魔館編〜
12話 新たな出会いへ


12話です。今回から新章に入っていきます。新章から戦闘シーン多くなるしキャラも増えていくので頑張っていきたいです。あと関係ないけど前回の鈴仙さんが完全にヒロインに仕上がってましたね。この小説のヒロインは霊夢さん何ですけどね…


「霊夢ー。居るかー?」

 

俺は永遠亭から帰り、博麗神社で霊夢を呼ぶ。何故博麗神社に来たか?答えは簡単。博麗神社と永遠亭以外に場所を知らないからだ。

 

「あら、信二。帰ってきたのね。どう?傷の調子は」

 

「おかげさまでだいぶ良くなったよ。ありがとうな霊夢」

 

「何よ突然。私は何もしてないわよ」

 

「何言ってるんだよ。霊夢が永遠亭に行こうって提案してくれたし、最初に助けてくれたのは霊夢じゃないか。改めて礼を言うよ」

 

「そう…素直に受け取っとくわ」

 

「あぁ。そうしてくれ」

 

「ところで信二。あなたこれからどうするの?」

 

霊夢が質問してくる。その質問ももっともだ。俺は幻想郷に来たばかりで家も財も何も無い。確かにこれから生きていく上で大切なものがほぼないに等しい。

 

「そうだなー。…今は幻想郷をよく見て回りたいんだ。ここにはまだ俺の見たことない場所や、あったことの無い人が沢山いるだろう?」

 

「まぁそうね…沢山いるわ」

 

「そうだろう。だからその場所に行きたい、その人に会ってみたい。そういう気持ちが今は強いな。…それに幻想郷中を旅すればアスモダイを見つけられるかもしれないからな」

 

「家はどうするの?流石に旅するだけじゃ大変でしょ?」

 

「そこは…まぁ…おいおいって感じだな」

 

食料ならまだ動物を狩ったり山菜を採ったりすれば何とかなるだろう。だが確かに家がないと不便なのも事実だ。毎日野宿なんてしたくないしな。

 

「…良かったらうちに住む?」

 

「え?!何言ってるんだ霊夢?」

 

「し、信二の家が出来るまでよ!ずっと野宿させるなんて気が引けるし…。い、嫌ならいいわよ。どうするの!」

 

何故か最後の方はやけ気味になっいく霊夢。言ってて恥ずかしくなってきたのだろうか?

 

「…それじゃあお言葉に甘えて。住まわせてもらうよ、霊夢」

 

「本当?じゃあこれから宜しくね、信二」

 

霊夢が満面の笑みで握手を求めてくる。俺はすこしドキッとしたが何とか平常心を保って霊夢と握手する。

 

「こちらこそ宜しく、霊夢」

 

「それで?信二はどこから行こうとしてたの?幻想郷は意外と広いわよ?」

 

「やっぱりそうかー。あてもなくぶらり旅って感じになりそうだな」

 

「…なんなら私が幻想郷を案内してあげましょうか?」

 

「本当か霊夢?そんなことしてもらっていいのか?」

 

「ええ、どうせ暇だし。それに幻想郷には迷いの竹林以外にも魔法の森や妖怪の山っていう迷いやすい場所もあるわ。そんなことろに信二を放り出したら確実に迷子になるでしょうね」

 

「そうなのか、少し甘く見ていたな…」

 

「だから私が幻想郷各地を案内してあげるわよ」

 

霊夢のこの提案は実際かなり有難い。何も知らないと道に迷い博麗神社に帰ってこられなくなったりするだろう。迷いの竹林の様な場所が他にもあるなら尚更だ。さらに知らない場所の探索は意外と時間がかかる。急いでいる訳では無いがアスモダイが力をつける前に見つけたい。

 

「そうだな、それなら幻想郷の案内、頼むよ霊夢」

 

「ええ、頼まれたわ」

 

「それでどこから案内してくれるんだ?」

 

「そうね……あ、紅魔館なんていいんじゃ無いかしら」

 

「紅魔館?なんでそこなんだ?」

 

「そこには魔法使いがいるからよ」

 

それを聞いた瞬間、俺は紅魔館に行くことを決意した。

 

 

 

 

「紅魔館かー、楽しみだな」

 

俺は紅魔館への道を歩きながら霊夢に言う。どんどん好奇心が高まっていくのが分かる。

 

「そんなに魔法使いに会いたいの?」

 

「そりゃまぁ、色んな魔法を知れるほど面白い事は無いよ」

 

「そうなの?私には分からないわ」

 

「うーん確かに、魔法使い以外には理解しがたいかもな」

 

「そうね。あ、そう言えば紅魔館には魔法に関する本が沢山ある図書館があったわね。まぁ私はほとんど行ったことないけど」

 

「ほーお。それは楽しみだな」

 

傍から見てもひと目でわかるほどうかれている信二。と、そんな二人に

 

「あー!こないだの火のやつ!」

 

「ダメだよチルノちゃん。ちゃんと挨拶しないと…」

 

「んお?ああ、チルノか。大妖精も一緒か。ん?そこにいるのは初めて見るな」

 

「こんにちは信二さん。この子はルーミアって言います」

 

「ルーミアなのだー。よろしくなのだー」

 

「ああ、よろしくなルーミア。俺は火渡信二。信二って呼んでくれな」

 

「そーなのかー。わかったのだー」

 

「ちょっと!ワタシを無視すんなシンジ!今日はこの間の仕返しを」

 

「ほれ」

 

信二はチルノに対して軽く炎を出す

 

「うぎゃー溶けるー」

 

チルノは軽く炎が当たった瞬間尻尾を巻いて逃げた。

 

「チルノちゃん待ってーー!」

 

「追いかけるのだー」

 

「…なんかこの前もこんな感じの見たことあるわよ…」

 

「奇遇だな。俺も同じこと思っていたよ」

 

チルノの学習能力がゼロだと確認した信二は歩みを続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、あそこが紅魔館よ」

 

道を抜けたとこに突如として現れた深紅の館。目に悪いほど赤い洋館は太陽の光を反射しかなり眩しい。大きさは西洋の城並に大きくどこか薄暗い印象を受ける。その館を見た俺の第一声は…

 

趣味悪!



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13話 紅魔館到着

13話です。これを書いてる時からテストが迫ってきてます。やばい…。だけど1日1話は投稿しようとおもってます。赤点なんて回避すればいいのです。


「趣味悪!」

 

俺の声が木霊する。紅魔館の住人からしてみれば失礼この上ない。

 

「同感ね、ここはいつも薄暗くて真っ赤だから目に悪いわ」

 

霊夢も賛同する。やはり傍から見ても紅魔館は常軌を逸しているのだろう。そういうものは当事者以外には賛同されにくいものだ。悲しきかな紅魔館。

 

「とりあえず門番のところに行きましょう」

 

 

「門番なんているのか。なんというかスケールが大きな。俺のいた世界でも、門番なんて大きな城にしか居なかったぞ」

 

「そう?でも確かに、紅魔館以外で門番なんて見たことないわね」

 

「だろう?しかも門番を任せられてるやつなんだ、結構な実力者と見るがどうだ?霊夢」

 

「残念、ここの門番はそれほど強くないわ。まぁ、接近戦になれば結構強いかもしれないけど」

 

「あれ、読みが外れたか」

 

「残念だったわね、…ほら、あそこにいるのが門番よ」

 

「お、どれど…れ?」

 

そこには緑色の服と帽子を被って、立ちながら寝ている女性がいた。

 

「…霊夢さん?まさかあそこで立ちながら寝てる人では断じてないですよね?冗談ですよね?」

 

「彼女が紅魔館の門番、紅美鈴よ」

 

「まじでか…」

 

思わず絶句する信二。それもそうだろう。門番とは客を最初にもてなす、言わば最初の顔と言っていいだろう。また、不審者等を館や屋敷に入れないように常に気を張っているのが仕事だ。それなのにこの門番は堂々と昼寝をしている。

 

「門番の仕事しようよ…」

 

信二は未だ寝ている美鈴に訴えかける。…その言葉は届かないが…。

 

「大体いつも寝てるわよ?この門番」

 

「駄目じゃん門番!」

 

「うぇ?!何ですか?あ、霊夢さん、こんにちは。そちらの方は?」

 

門番が俺の少し大きな声で起きる。…些か起きるのが遅いような気がするが…。そもそも寝ること自体が間違ってると思うが…。

 

「おはよう美鈴。こっちはこないだ幻想郷入りした信二よ」

 

「初めまして。火渡信二だ。信二って呼んでくれ」

 

「初めまして信二さん。紅美鈴です。この紅魔館の門番をやってます」

 

「俺の目からは全然門番の仕事してなかったように見えるんだが?」

 

「そ、そんなことないですよ〜。ちゃんと見張ってましたよ」

 

「爆睡してたじゃない。これじゃあまたお仕置きされるわよ?ねぇ咲夜」

 

「え?」

 

「そうね、美鈴ったら全然反省しないんだもの。今回はキツくいっとこうかしら」

 

「い、いらしてたんですね、咲夜さん…」

 

美鈴が油がまったく差されていない機械のようにゆっくり後ろを振り返る。そこには紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が暗黒微笑をしていた。

 

「霊夢、あの人は?」

 

「紅魔館のメイド長の十六夜咲夜よ。紅魔館の家事全般をほぼ一人でこなしてる奴よ」

 

「一人で?こんな大きな屋敷を?」

 

「ええ、妖精メイド達もいるみたいだけどあまり役に立っていないそうよ」

 

「すごい人だな…掃除だけで1日終わるんじゃないか?」

 

「彼女には時を止める能力があるわ。それを使っているから1日で家事が全部終わるのよ」

 

「時を止めるって…とてつもない能力だな…。もはや彼女が最強なんじゃないか?」

 

「そうでもないわよ。私も勝ったことあるし」

 

「…霊夢も大概あれだな…」

 

「聞かなかったことにするわ」

 

と、そんな話をしているとあちらではお仕置きが終わったのか咲夜がこちらに来る。…美鈴?ナイフが刺さってボロボロになっています。

 

「待たせたわね霊夢。そちらの方は初めてですね。紅魔館のメイド長、十六夜咲夜でございます」

 

「もっと砕けた口調でいいよ。火渡信二だ。よろしく」

 

「では、そのように。信二と霊夢は今日は何をしに?」

 

「信二が幻想郷を旅して回ってるのよ。私はその付き添い。あとパチュリーに会いに。こいつも魔法使いだから」

 

「なるほどね。それなら歓迎するわ。ただしパチュリー様に会う前にお嬢様に挨拶をしていって下さい」

 

「お嬢様っていうと、この館の主かな?」

 

「そうよ、館に入るからには主に挨拶くらいはするものよ」

 

「まぁだよね。それなら早速挨拶に行こうかな。案内してくれるかい?咲夜」

 

「もちろん。こちらへどうぞ」

 

俺達は咲夜の案内のもと紅魔館の中へと入る。

 

「そう言えば霊夢と咲夜は戦ったことがあるんだよな?さっき霊夢が咲夜に勝ったって言ってたから」

 

「そうね…霧の異変の時ね」

 

「霧の異変?なんかあったのか?」

 

「昔この紅魔館が幻想郷の空を赤い霧で覆ってしまった異変よ。その時に咲夜と戦ったの」

 

「異変を起こしてたのか。今はまるくなった感じなのかな?」

 

「そうなるのかしら。あの時は私達も幻想郷に来たばかりだったから。こんな厄介な巫女がいたなんて想像してなかったわ」

 

「褒め言葉として受け取っとくわ」

 

「やっぱり霊夢は異変が発生したら解決しに行くのか?」

 

「ええ、面倒だけど、それが博麗の巫女の仕事だから仕方ないわ」

 

話しながら歩いていると一際大きな扉の部屋についた。どうやらここに紅魔館の主がいるそうだ。

 

「お嬢様、霊夢がお目見えです。新たなお客様もいらっしゃいます」

 

「そう、入ってきていいわ」

 

そう言われたあと咲夜が扉を開ける。

 

(粗相のないようにね)

 

(分かってるよ、これでも国に使えてた騎士だから、心配するな)

 

「こんにちは霊夢。あなたが新しい客ね。ようこそ紅魔館に。私はこの紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」

 

そこで待っていたのは俺が想像していたような人物ではなく、薄い青色をした髪に翼を生やしている、どこから見ても幼い少女だった。



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14話 紅魔館の主

14話です。今回信二さんが敬語を使っているんですけどあってるんですかね?少し不安です。日本人なのに日本語がうまく使えないとか…終わってるな。


「初めまして、お嬢様。私はつい先日幻想郷入りをした火渡信二と申します。どうか信二とお呼びください」

 

「あら、霊夢と一緒にいるのに随分と礼儀正しいわね」

 

「どういう意味よ、あなたも失礼よレミリア」

 

「ちょっとした冗談だったのだけれどね、失礼したわ」

 

「それにしても女性の方だったとは。それに随分お若いですね。てっきりお年を召した男の人かと思っておりました」

 

「見た目に騙されてるわよ信二。あいつ、あの見た目で500年は生きてるわ」

 

「500年?!本当ですか?」

 

「ええ、本当よ。でも若いって言うのはあながち間違いじゃないわ」

 

「お嬢様は吸血鬼ですので。吸血鬼で500年と言うのはまだまだ歳をとっていない年齢です」

 

「なるほど、吸血鬼ですか。それなら納得です」

 

「吸血鬼は知っているのね」

 

「元の世界にもいましたので」

 

(敬語が抜けてない…)

 

「それで?今日は何用で紅魔館に来たのかしら?」

 

「私は先ほど申しましたように幻想郷に来たばかりです。なので今幻想郷を見て回っているのです」

 

「それで私が紅魔館を提案したのよ。信二は魔法使いでここにはパチュリーもいるでしょ?」

 

「なるほどね。それならパチェに会うといいわ。彼女も喜ぶだろうし。咲夜、図書館に案内してあげて」

 

「かしこまりました。では信二様、こちらへ」

 

信二は言われた通り咲夜に付いて行く。

 

「ああそう、霊夢はここに残りなさい。私とお茶しましょう」

 

「なんでよ」

 

「あなた魔法に興味無いでしょ?行っても退屈だと思うけど。それに咲夜に紅茶を入れさせるわ」

 

「……」

 

確かに霊夢は魔法に興味が無い。行ったところでこの前の魔理沙と信二が話していた時のように疎外感を感じることだろう。それならレミリアとお茶をしていた方が有意義なのではないか?咲夜の紅茶も美味しいことだし。

 

「…そうね、そうしようかしら」

 

「ふふ、ありがとう。そしたら咲夜、信二を図書館まで案内したら紅茶をお願いね」

 

「かしこまりました。それでは少々お待ち下さい」

 

そう言いながら信二と咲夜は部屋を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても意外ね。本当にちゃんと出来てたじゃない。そんなふうには見えなかったのに」

 

「俺もそう思う。無理やり叩き込まれたからなー。初めて王に挨拶した時は結構礼儀知らずでな、恩師に『そんなんじゃいつか首が飛ぶぞ』って言われて強制的に習わされたよ」

 

「いい恩師じゃない。作法は大事よ」

 

「今は習って良かったと思ってるけど、当時は思ってなかったな。まぁ大体そんなもんだろう。有り難みなんて後になって分かることだ」

 

「同感ね」

 

「そう言えばパチュリーって人はどんな魔法使いなんだ?」

 

「魔法使いとしては一級品よ。どんな魔法も使えるし魔力も膨大。おまけに知識も相当ある、魔法使いとしてはかなり上位の人だと素人目からでも分かるわ」

 

「すごい人だな。より会ってみたくなった」

 

「けど一つだけ。喘息持ちだからあまり戦闘はこなせないのよ。」

 

「喘息持ちか。それは大変だな」

 

「ええ、付き人の小悪魔も苦労してるわ」

 

「小悪魔?」

 

悪魔と言う単語に対して反応する信二。悪魔に対していい思い出がないので仕方の無いことだが。

 

「そんな大した悪魔じゃないわ。本当に使い魔のような感じだから」

 

「そうか…。世の中にはそんな悪魔もいるんだな」

 

「ええ。驚いた?」

 

「ああ。驚いた。悪魔には嫌な思い出しかないからな」

 

「そうなの?今度聞かせてくれるかしら?」

 

「もちろん。少し重い話になると思うけどな」

 

「そう…。っと着いたわ。ここがパチュリー様のいる図書館よ」

 

「遂に来たか。待ちわびたぜ」

 

そう言い信二は図書館の中に入る。そこにはおびただしい程の本の数。図書館という名に恥じないほど広く、大きい。またいくつかの場所から少量の魔力を感じる。どうやら魔導書も置いてあるみたいだ。

 

「パチュリー様。お客様がお目見えです」

 

「あら、咲夜。私にお客?」

 

本棚の奥から声が聞こえる。そこから歩いてきたのは紫色の髪をした少女。

 

「その人が?会ったことは無いわよね?」

 

「ええ。幻想郷を旅している信二様です。この方も魔法使いとの事で是非パチュリーとお話がしたいそうなのです」

 

「初めて。火渡信二です。よろしく」

 

「ええ、よろしく。あなたも魔法使いなのね?」

 

「はい。なのでパチュリーさんからお話を伺いたくて」

 

「そんなかしこまらないで。いいわ、奥で話しましょう」

 

「そうか?ならお願いするよ」

 

 

「それでは信二様。ごゆっくり」

 

咲夜が部屋を後にする。俺はというとこれからの話に胸をふくらませていた。



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15話 VS魔理沙?

15話です。いやー遅くなってしまいました。1日1話とか言ってたのにこれですよ。まぁそんな焦って投稿するもんでもないですしね。これからはまったりいくかもです。


「ほーう!興味深いな」

 

信二の浮かれた声が図書館に響く。信二は早速図書館の中から自分が気になった本を手に取っていた。

 

「あなた、中々魔法について知ってるじゃない」

 

「俺の世界でも色々な魔法使いがいたからな。それなりに知ってるつもりだ。けど、俺の知らない知識もまだまだあるもんだな」

 

「当たり前よ、知識に終わりは無いもの」

 

「同感、それがまた楽しいところだ」

 

「それで?聞きたいことってなに?」

 

「ああそうだ。俺空を飛べないんだよ。だから空を飛べるような魔法を教えて欲しいんだ」

 

「あら、魔法使いなのに空を飛べないの?」

 

「恥ずかしながらな。そういう文献は見たことなかったもんで」

 

「そうなの。魔法が使えるなら空を飛ぶのは簡単よ。コア、本をとってきて欲しいのだけど」

 

「はい、パチュリー様、どの本ですか?」

 

奥から出てきたのは赤髪と小さい羽が付いている少女。この少女が小悪魔らしい。なるほどどうして、聞いていた通り害は無さそうだ。

 

「ではとってまいります!」

 

「…いい子じゃないか、元気でハキハキしてる」

 

「結構ドジやらかすけどね。仕事はちゃんとやってくれるわ」

 

幻想郷にはこんな悪魔がいるのか。どうしても俺は悪魔と聞くと悪いイメージしかない。…少しずつ払拭していくしかないな。なんてことを思っていると

 

「魔理沙さん!いつの間にいたんですか!」

 

「魔理沙?!また来たのね!」

 

「魔理沙?いるのか?」

 

どうやら魔理沙が図書館にいるらしい。本当にいつの間に来てたのか。だが少し様子がおかしいな。

 

「ちょっとの間本を借りるだけだって」

 

「その前に今まで持っていった本をかえして下さい!」

 

「返すよ、私が死んだら」

 

「ほとんど泥棒じゃないですかー!」

 

「人聞きの悪い事言うなよ。ちゃんと返す気はあるんだからさ」

 

「そういう事じゃないわよ、今日こそ今まで奪っていった本を返してもらうわよ」

 

「おうパチュリー、この本借りてくぜ!」

そういい魔理沙は箒に乗る。

 

「逃がさないわ!コア!」

 

「はい!」

 

小悪魔が魔理沙を捕まえようとするが…

 

「遅いぜコア!そんなんじゃこの魔理沙様は捕まらないぜ」

 

ひょいと軽く躱す魔理沙。

 

「待ちなさ…」

 

「先手必勝!」

 

パチュリーが弾幕を放つより先に魔理沙がパチュリーに弾幕を当てる。予期してなかったのかパチュリーは弾幕を躱せず被弾する。

 

「む、むきゅー…」

 

「パチュリー様?!」

 

「じゃーなパチュリー!」

 

そのまま魔理沙は図書館の出口へまっしぐら…とは行かなかった。何故か?俺が立ち塞がったからだ。

 

「おっと信二、何のつもりだ?」

 

「どうも何も、会話を聞いていると魔理沙が悪いようにしか聞こえないんだが?」

 

「だから死ぬまで借りてくだけだぜ」

 

「それはあまりにも強欲過ぎるぞ魔理沙。1週間くらいで返すならまだしも、死ぬまでなんて理不尽だろ」

 

「何を言われようが考えは改めないぜ。どうしても通さないなら、信二も倒すだけだ!」

 

魔理沙は弾幕を放ってくる。

 

「甘いぜそんなん」

 

俺は炎でかき消す。しかしその間に魔理沙は出口へ一直線に向かう。

 

「させるか!火炎柱(デビルバースト)

 

俺はすかさず出口の手前に火炎柱を放つ。

 

「うお!あぶねーよ信二!当たったら黒焦げじゃないか!」

 

「そんなへましないさ。さー魔理沙。本当に黒焦げになりたくなかったら大人しくするんだな」

 

「まったく、あんまり派手なことはしたくなかったけど仕方ないな」

 

そういう魔理沙はミニ八卦炉を取り出す。

 

「充分派手なことしてるだろ…」

 

「こんなんで派手とか言ってたら幻想郷で生きていけないぜ!くらえ信二!恋符「マスタースパーク」」

 

魔理沙が技を出す。ミニ八卦炉から放出されたのは今まで見てきたような弾幕ではなく、光の光線だった。

 

「ほう。そんな弾幕もあるのか。けど少し手加減しすぎだ。火炎爆裂波(オーバードライヴ)

 

信二も炎の爆炎を出し対抗する。そして二人の技はぶつかる。だが数秒拮抗したあと信二の技が魔理沙のマスタースパークを飲み込む。

 

「なに?!あぶね!」

 

魔理沙は炎に飲まれないように横に避ける。

 

「予想通りだ!炎日砦(えんにちとりで)!」

 

信二は左手で魔法を繰り出す。その魔法は魔理沙を攻撃するための技では無い。魔理沙を拘束するための魔法だ。

 

「あっつ!しかも出られないじゃないか!」

 

その技は魔理沙の周りを囲むようにして燃えさかる。魔理沙も出ようと弾幕をだすが弾幕は全て炎に飲まれて消えてしまう。

 

「無理に出ようとするなよ。その炎は見た目以上に威力が高いよ」

 

「あつい!出してくれ信二!」

 

「逃げようとするなよ?逃げたら本当に炎当てるぞ?」

 

「わかったから!早く!」

 

「…小悪魔、ロープ持ってきて」

 

「…あ、はい!直ちに持ってきます」

 

「はーやーくー!」

 

「はぁー、やれやれ」



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16話 迫る狂気

16話です。今回は遅れましたね。何故か文字にすると今回だけ全然浮かばなくて…今回は自信無いですね。まぁでも次回は戦闘会なので頑張ります。


「まったく酷いぜ信二。乙女を縄で縛るなんて」

 

「縛ったのは小悪魔だけどな。それにあんなことするのは乙女じゃないでしょ」

 

「あんなもんに閉じ込めやがって…本当に熱かったんだぞ!」

 

「そうじゃないとお仕置きにならんでしょ。ほら、パチュリーに謝んな」

 

「絶ッ対にやだね!」

 

「ったく、強情だな」

 

「いいのよ信二。謝ってもらわなくて。今に始まったことじゃないし」

 

「いいのかパチュリー?」

 

「その代わり…本は返してもらうわよ?」

 

…すごいな、パチュリーの後ろから炎が見えるほどの威圧感だ。

 

「お、おい待てよパチュリー…何をするつもりだ?」

 

「何って……あなたが本を返したがるようなことよ」

 

パチュリーが微笑みながら言う。…ハッキリ言っていい笑顔だ。いや、怖い的な意味で…。

 

「ちょ、ちょっと待てよ!おい信二!助けてくれ!」

 

「魔理沙……自業自得だ」

 

「信二のバカーーーああーーー!」

 

魔理沙の俺への罵倒は次第に悲鳴に変わっていった。

 

(…なんか幻想郷に来てからお仕置きみたいなのよく見てるな)

 

俺はそんなことを思いながら一瞬にして気絶した魔理沙を見ていた。

 

「さて信二。ありがとうね、魔理沙を捕まえてくれて」

 

「どういたしまして。流石にあれは見逃せないからな」

 

「お礼と言ってはなんだけど好きな本貸してあげるわ。ただし、ちゃんと返すならね」

 

「魔理沙じゃないんだ。ちゃんと返すよ」

 

「ならいいわ。あとこれ、さっき言ってた本よ」

 

「空を飛ぶ方法が載ってる本か!サンキューパチュリー」

 

「ええ、頑張ればあなただって飛べるわ」

 

「おう!では早速…」

 

俺は本の中を読み始める。これで空を飛べるのかは半信半疑だったが…。

 

〜青年修行中〜

 

「うお!ちょっと浮いた!」

 

「あら、意外と早いわね。二日はかかると思っていたのだけど」

 

「それで…ここから更に魔力を変換させて…」

 

先ほど少しだけ浮いていた信二は徐々に上昇する。

 

「おお!飛んでる!」

 

「飛べたわね信二。そこからもっと早く移動するのは慣れてくれば自然とできるようになるわ」

 

「そうか、ありがとうなパチュリー」

 

「私は何もしてないわ。あなたの頑張りと才能よ。魔法使いとしてもかなり出来上がってるわ、信二は」

 

「そ、そうか?パチュリーの方がすごいと思うけどな」

 

「私とはまた違ったものよ」

 

「そうなのか?あまり俺には分からないな」

 

「そのうち分かるわよ」

 

「ねぇパチュリー。その人は?」

 

「?あぁフラン、来てたのね。」

 

「パチュリー、この子は?」

 

突然目の前に現れたのは金髪に帽子をかぶり背中に宝石を散りばめたような羽?をしている少女。

 

「この子はフランドール・スカーレット。レミィの妹よ」

 

「レミリアさんの?はじめまして、火渡信二です」

 

「はじめまして!フランだよ。信二は何しに紅魔館に来たの?」

 

姉のレミリアさんと比べるとまだ幼さが残る印象だ。

 

「今幻想郷を回ってて、初めに紅魔館に来たんだよ。ここには図書館もあるし」

 

「そうなの。いいなー。私も幻想郷を旅してみたい」

 

「出来ないのか?」

 

「フランとレミィは吸血鬼だから太陽の光に弱いのよ。それにレミィに止められてるのよ。紅魔館を出るのを」

 

「止められてる?なんでだ?」

 

「ああ見えて心配性なのよレミィは。フランを危険な目に合わせたくないのよ」

 

「私なら大丈夫って言ってるのにお姉様は許してくれないの…」

 

「そうか…まぁいつか外を出られるようになるよ」

 

「そうかな…」

 

「いつかフランが1人前になったらな。そうなったら俺が一緒に幻想郷を回ってあげるよ」

 

「本当に!約束だよ信二!」

 

「ああ、約束だ」

 

フランと約束する。後で聞いたがフランは495年も地下にいたそうだ。それなら外に出たい気持ちも分かるな。

 

「じゃあ信二!今遊んでくれる?」

 

「いいぜ。何して遊ぶ?」

 

「わーい!それじゃあ弾幕ごっこね」

 

「弾幕ごっこか…大丈夫かパチュリー。こんなとこでやって」

 

「魔法で壁をはっておくから大丈夫よ」

 

「そうか、ならやろうかフラン」

 

「わーい!それじゃあいくよ!禁忌「フォーオブアカインド」」

 

フランがスペルカードを発動する。いったいどんな弾幕が展開される…

 

「え?フランが4人?!」

 

「いっくよー!」

 

4人のフランが一斉に弾幕を放つ。一人でも結構多いのに4人となるとおびただしい。

 

「反則じゃね?!」

 

叫びながら避ける信二。



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17話 じゃれ合い

17話です。書いてて思いましたけどフランさんってかなり強い部類なんじゃ無いですかね?実際そうなんでしょうけど。それに負けない信二も中々ですね。まぁ今回は二人とも全力じゃ無いですけど。いつになったら信二さんの本気が書けるのか…。


「あははー待て待てー」

 

フランの陽気な声が響く。しかしその声とは裏腹に行動は残虐である。

 

「くそ、油断した!フランがまさかこんなスペル使うなんて」

 

フランは今自身のスペルカードにより4人になっている。それら全てが弾幕を放つ。量的に言えば輝夜、妹紅と戦った時よりも多い。信二はそれらの弾幕を炎を展開することにより防いでいる。そして何より1番きついのはフランは手加減が下手ということ。そのため明らかに『遊び』の範疇を超えている。

 

「閉じこもってちゃ勝てないよ!」

 

「言われるまでもない!4連火炎柱(デビルバースト)!」

 

信二は4人のフランそれぞれに技を放つ。柱は4人全てに命中…とはいかず本体であるフランのみは柱を避けていた。

 

「すごーい!そんなこと出来るんだ」

 

「何とも思ってないって感じだな。本当に遊んでるのか…」

 

「次行くよー。禁忌「クランベリートラップ」」

 

「!なんだ?」

 

フランがスペルカードを発動すると同時に信二の周りに青い弾幕が、信二を囲むようにして固定される。まるで信二を閉じこめるかのように。

 

「頑張って躱してね?」

 

そういいフランは弾幕を放つ。ただえさえ周りが弾幕で動きにくいのにフランが打ってくる弾幕は1発1発が大きい。

 

「くそ!避けられるかこんなもん!強行突破だ!」

 

最初は避けていた信二だが痺れを切らしたのか自身を囲っている弾幕を壊す方向に出る。

 

「オラっ!…ってやけに硬いなこいつ!」

 

炎で弾幕を消しにかかるが周りの弾幕は硬くただの炎では消すことが出来ない。そんなことをしている間にも弾幕が襲ってくる。このままではいつか被弾するだろう。

 

「こうなったら…ふっ!」

 

信二は弾幕の目の前で腕を振りかざす。いや、ただ振りかざし炎を当てた訳では無い。その手にはどこから出したのか黒色をした剣が握られていた。その剣で弾幕を切る。剣が作る太刀筋に炎が鋭くはしり、弾幕を一刀両断に切り裂く。

 

「あ、壊されちゃったか。そんな剣も持ってたんだね信二」

 

「ああ、自慢の逸品だ。」

 

「強いね信二。全部避けられてるや」

 

「結構当たりそうだったけどな。フラン、そろそろ弾幕ごっこ以外の遊びをしないか?」

 

「えー!こんなに楽しいのに…」

 

「俺が危ないからな。当たったら痛いし」

 

「…じゃあ次で最後にする。ちゃんと避けてね?」

 

「どんとこい」

 

「禁忌「カゴメカゴメ」」

 

緑色の弾幕が交差するように広がっていく。

 

「よっと…こんなものか?」

 

「ぜーんぜん!」

 

交差していた弾幕は信二に向かって拡散する。それだけではない。先ほどとは違う位置から弾幕が並び、交差する。

 

「やっぱり一筋縄じゃいかないか!」

 

拡散した弾幕は炎や剣でいなしていく。並んだ弾幕は1列ずつに並んでいくのでその列に入らないように避けていく。前の二つのスペルカードに比べると些か躱しやすい。

 

(これならいけるな)

 

が、避けている途中にフランが別の弾幕を放ってきた。予期せぬ攻撃に信二はすこし面を食らう。更に足元から並ぶ弾幕が展開される。

 

「くっ!」

 

信二は被弾しないように咄嗟に跳躍する。しかし、並んだ弾幕はそのままだと拡散し、信二は重力に従って落下する。被弾確定だ。信二、万事休すか!

 

「って、俺もう空飛べんじゃん」

 

信二は自分が先ほどまで空を飛ぶ練習をしていることに気づいた。実戦では空を飛びながら戦ったことのない信二。空を飛ぶことを忘れていても致し方ない。

 

「でもこれなら避けられる!」

 

空への逃げ道を確保できた信二。逃げれる範囲は2倍以上だ。弾幕を避けながらフランに向かって行く信二。

 

「今までのお返しだ!」

 

信二は炎をフランに繰り出す。フランを覆うほどの炎を。しかし、フランは何事も無かったかのように腕を振り炎をかき消す。

 

「えー、嘘だろ?」

 

「思ったより強かったよ、信二!」

 

「そいつはどーも。フランもかなり強いね」

 

「へへーん!そうでしょ!でも魔理沙には負けちゃったけど」

 

「魔理沙はフランに勝ったのか?意外と強いのか魔理沙…。さっきのは手加減してたのか」

 

「さっき?魔理沙がいたの?」

 

「そこにいるだろ…あれ?魔理沙どこに行ったパチュリー?」

 

「魔理沙なら家にある本を取りに帰ってるわ。コアも一緒にいるし箒も取り上げたから途中で逃げないとは思うけど…やっぱり心配だわ」

 

「箒取り上げたってことは徒歩で行ってるのか。結構遠いんじゃないのか?」

 

紅魔館の周りに家は無かったし周辺にも特にこれと言った場所は無かった。つまり割と辺境の地に建っている紅魔館。魔理沙の家がどの辺にあるか分からないが本を持ちながら徒歩で来るとなると中々の労働になるだろう。

 

「ええ、最低でも3日はかかるでしょうね」

 

「…どんだけ本盗んでたんだよ魔理沙は…」

 

「教えてあげましょうか?」

 

「いや、辞めておこう。長くなりそうだし…」

 

「そんなことより遊ぼうよ、信二!」

 

「はいはい、次は何して遊ぶんだ?」

 

「結構面倒見いいわね、信二」

 

その後俺はフランと遊んであげた。弾幕ごっこみたいな危ない遊びじゃ無いですよ?フランは普通にいい子でした。



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18話 レミリア?

18話です。今回はあまり盛り上がらないですね。ただ次回からようやく盛り上がりそうです。起承転結全てを面白くするのって難しいですね。


「パチュリー様、妹様、ご夕食の準備が整いました」

 

「あら、もうそんな時間なのね」

 

「信二様もご一緒にどうですか?お嬢様も会食したいと申しております」

 

「お、頂いちゃってもいいんですかい?」

 

「ええ、霊夢も同席すると言っております」

 

「それならお言葉に甘えましょう。ご馳走になります」

 

「それではこちらへどうぞ。」

 

咲夜について行き先ほどお嬢様と対談した部屋に行く。ドアを開けると、そこには所狭しと並ぶ豪華な料理があった。いくらお客が来たとはいえ豪華過ぎないか?

 

「随分と豪華だな。食べきれるのか?」

 

「ここでは毎日こんな感じよ。まぁ今日は1段と豪華だけど」

 

「…すごいな、紅魔館」

 

パチュリー達は毎日こんな豪華な食事をしているのか。普通に羨ましいな。

 

「こちらに座りなさい信二。あなたとは色々と話したいことがあるの」

 

「よろこんで。お嬢様、会食にお誘いいただきありがとうございます」

 

「レミリアにそんなかしこまらなくていいわよ、信二。食事を頂くのは素直にお礼を言うけどね」

 

「あら、霊夢がお礼を言うなんて、明日は雪かしら?」

 

「失礼ね、礼くらい私だって言うわよ」

 

「冗談よ。さぁ、食べましょう。咲夜が作った料理が冷めてしまうわ」

 

「咲夜がこれらの料理を作ったのですか?」

 

「ええ、全部咲夜が作ったわ」

 

「それは凄いですね。この量を一人で…」

 

「どうぞ、信二様」

 

「では、いただきます。…!美味しいですね」

 

「自慢のメイドだもの。当然よ」

 

「ありがとうございます、信二様、お嬢様」

 

霊夢も咲夜の作った料理に舌鼓を打っている。実際俺もここまで美味しい料理は中々食べたことがない。やはり、めちゃくちゃレベルの高いメイドだったんだな、咲夜は。

 

「ところで信二、あなたの元いた世界はどんな生活を送っていたの?」

 

お嬢様が尋ねてくる。永遠亭の時もそうだったが、やはり幻想郷の外から来た人間の中でも俺はかなり特殊だから皆気になるんだろう。

 

「元いた世界では騎士として国に仕えていました。」

 

俺は自分の話をお嬢様に話す。永遠亭の時と同じ様に。お嬢様も多分満足されただろう。話をしているとすぐに時間が経つ。結構喋っていたらしく、料理がもうほとんどない。

 

「あら、もうこんな時間、ありがとうね信二。とても楽しかったわ」

 

「楽しんでいただけたなら光栄です。俺もお嬢様との会食、楽しかったです。」

 

「そう。咲夜、信二と霊夢を寝室に案内してあげて」

 

「かしこまりました、信二様、霊夢こちらへどうぞ」

 

(私には様をつけないのね)

 

俺達は部屋をあとにする。

 

「ところで霊夢、俺が図書館に言ってる間お嬢様と何話してたんだ?」

 

「ただの世間話よ。あと、あなたについてとか」

 

「俺について?」

 

「そう。信二が幻想郷に来た日の話とかね」

 

「ふーん。結構有意義だったな」

 

「…そうね。けど今日のレミリアはいつもよりちょっと生意気だったような気がするわ」

 

「生意気?気のせいじゃないのか?」

 

「そうかしら。咲夜、あなたはどう思う?」

 

「私が聞いてる限りではいつも通りのお嬢様だったわ」

 

「そう…ならいいけど」

 

「思い過ごしよ。あと、着いたわよ。右の部屋が霊夢で左が信二ね。お風呂とかは中にあるからそれを使ってちょうだい」

 

「風呂もあるのか…本当にでかいな、紅魔館は」

 

「同感ね、少しはその財力を分けて欲しいわ」

 

「切実だな、霊夢」

 

「死活問題なのよ」

 

「それじゃあ何かあったら呼んでちょうだい」

 

「ああ、ありがとう咲夜。おやすみ」

 

「おやすみ咲夜」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

その後は普通に風呂に入って歯を磨いて寝た。余談だが布団もものすごいふかふかですぐに寝た。…もうここに住んでもいいかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、傷もほぼ完全に塞がったな」

 

朝、俺は鏡の前で傷の確認をする。永琳さんの薬がきいていているのだろう。治りがかなり早かった。まぁ俺の体質もあるのだが。

 

「朱雀、おいで」

 

朱雀を呼び出す。俺の頭に乗っている朱雀は、この前とは打って変わって大きさがオオワシくらいになっている。

 

「うん、朱雀もかなり回復したな」

 

これなら不意の事態に陥っても対処できるだろう。自信の回復を確認したあと廊下に出る。すると霊夢がほぼ同時に部屋を出てきた。

 

「おはよう信二、よく眠れたかしら?」

 

「おはよう霊夢。ぐっすり眠れたよ。ベッドがよかったからな」

 

「あら、家の布団じゃ安眠できないって言ってるのかしら?」

 

「そんなこと言ってないよ」

 

「まぁ憎たらしいほどここのベッドは気持ちいいものね」

 

「確かにな」

 

そんな話を霊夢としながら大広間に向かう。朝食を用意してくれているらしい。いたせりつくせりだな。

 

「おはようございます」

 

挨拶をしながら部屋に入る。そこにはパチュリーと小悪魔と美鈴だけでお嬢様とフランの姿は無かった。

 

「あれ?お嬢様とフランは?」

 

「あの二人ならまだ寝てるわ。吸血鬼だから朝には弱いのよ」

 

「なるほどね」

 

「信二、このあとも図書館に来るのでしょ?」

 

「ああ、まだまだ読みたい本が沢山あるからな。また世話になるよ」

 

「いいわよ。ゆっくりしていきなさい」

 

「霊夢はまたレミィとお茶会でもするのかしら?」

 

「そうね。今日はフランも来るそうだし。信二も来たらどうって昨日レミリアが言ってたけど、どうする?」

 

「うーん…図書館言ったあとに来ようかな」

 

「そう、言っておくわね」

 

…このあと俺は先に図書館に行ったことを後悔することになる。もうすぐ起こる紅魔館での異変に巻き込まれるから…。



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19話 動き出す異変

19話です。今回は長くなりましたね。まぁこの章の一番の見せ所に入っていくので仕方の無いことなのですが。


「…暇ね」

 

信二はパチュリーと一緒に図書館に行ってしまったし咲夜はレミリアとフランが起きたらしく、今は二人の世話をしにいっている。そんな中一人残された私は時間を持て余していた。

 

「私も図書館に行けば良かったかしら…」

 

でも図書館に行ってもそこにある本は魔術に関するものばかり。それ以外の本も多少あるのだろうけど、そもそも私自身読者をすることに向いていない。

 

「…でも、信二が来る前もこんな感じだったか」

 

思い返せば信二が幻想郷に来た日も暇を持て余していた。それ以前も、異変解決や宴会などを除けばこれといって何かをした記憶が無い。

 

「そう考えると魔理沙ってかなりアグレッシブね」

 

魔理沙はいつも何かをしている。魔法の研究だったり、人里や家に来たり、妖精(チビ)達と遊んでいたりetc…何かをしてない方が珍しいくらいだ。

 

「私も何か趣味でも始めようかな…」

 

ただ趣味と言っても何をしたらいいのか…この時も博麗の巫女としての修行をするということが一切浮かばないあたり霊夢である。

 

「すこし散歩でもしましょう」

 

そういい部屋をあとにする霊夢。紅魔館の外には美鈴が世話をしている花があると咲夜から聞いたことがある。それを見に行こう。ついでに美鈴と話でもしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら霊夢、どこに行ってたのかしら?」

 

散歩を終えて広間に戻るとレミリアとフランがお茶を飲んでいた。フランは目をこすっておりまだ眠そうだ。

 

「散歩に行ってたのよ。あなたこそようやく起きたのね」

 

「あまり人間にうろちょろされたくないのだけど…まぁいいわ」

 

レミリアの物言いにムッとする霊夢。

 

「その言い方はないんじゃない、あなたが起きるのが遅かったから散歩に行ったのよ」

 

「気を悪くさせたなら謝るわ。でも、あなたが人間だから悪いのよ」

 

レミリアのその発言により、霊夢は完全にキレる。同じく聞いていたフランと咲夜も、普段のレミリアとは違う様子に気づき、動揺していた。

 

「さっきからまるで私を…いえ、人間を馬鹿にしたような口ぶりね」

 

「だってそうじゃない?私達吸血鬼からしてみれば人間なんてとても脆弱な存在だもの」

 

「その人間にあなたは敗れて、野望を阻止されたのを忘れたの?」

 

「あの頃は私も未熟だったから。今となっては人間なんて、取るに足らないわ」

 

「なら試してみましょうか?どちらが上か」

 

霊夢が椅子から立ち上がり、手にはお祓い棒を持っている。

 

「いいの?後悔するわよ」

 

「お、お姉様?どうしちゃったの?」

 

「私はどうもしてないわよフラン。それよりあなたこそ、随分人間に骨抜きにされてしまったわね」

 

「どうもしてないわけない!お嬢様はもっと優しくて…」

 

「フラン。自分がどれだけ腑抜けになったのか分かってないのね。いいわ、あの頃に戻してあげる」

 

レミリアはフランの頭に手をかざす。

 

「何を……うぅ、あああああああぁ!」

 

突然フランが叫びだし、体が宙に浮く。とても苦しそうに頭を抑えている。

 

「フラン?!レミリア、フランになにをしたの!」

 

「何って…戻してあげるのよ。あの頃(狂っていた頃)にね」

 

「冗談が過ぎるわよ!」

 

霊夢はレミリアに対して弾幕を放つ。レミリアはそれを浮いてかわす。

 

「急に打ってくるなんて、危ないじゃない」

 

「うるさい!また懲らしめるわ!」

 

また弾幕を放つ霊夢。

 

「あらあら、無謀ね。天罰「スターオブダビデ」」

 

スペルカードを発動するレミリア。通常に打たれる弾幕と定期的に放たれるビーム状の弾幕が霊夢を襲う。

 

「あなたこそ!霊符「夢想封印 散」」

 

霊夢も負けじとスペルカードを発動する。御札状の弾幕が散らばりながらレミリアに向かう。途中でレミリアのスペルカードと相殺し合いながら。

 

「スペルカードじゃ互角かしら?ならこれよ!」

 

レミリアは弾幕のあいだを通り抜け霊夢に接近する。弾幕ごっこは何もスペルカードだけではない。接近戦もその中に含まれる。…だが、この勝負はもはや()()()などとは呼べなくなっていく。

 

「望むところよ!」

 

霊夢もレミリアに近づいていき接近戦を仕掛ける。その最中でも弾幕を出すことを忘れずに。

 

「はぁ!」

 

霊夢がお祓い棒をレミリアに振るう。レミリアはそれをいとも容易く、片手で受け止める。

 

「うそ!」

 

「言ったでしょ…無謀だって!」

 

レミリアはお返しにと蹴りを繰り出す。霊夢はそれを左腕で受け止めるが、受けきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

(何この力…この間戦った時よりも全然強い…)

 

「! 霊夢後ろよ!」

 

今まで状況の変化に取り残されていた咲夜が霊夢に襲いかかるフランを見つける。

 

「な!っく!」

 

咲夜の声によりなんとか反応する霊夢。しかしその力は到底人間が太刀打ち出来るものではなく、地面に叩きつけられる。

 

「いっつ…」

 

地面に落とされた霊夢は頭から血を流す。だが、間髪入れずに、レミリアが追撃にかかる。

 

「終わり……」

 

「よ!」

 

が、レミリアが腕を振るった場所には霊夢の姿はなく、空振りになる。

 

「…咲夜。どういう事かしら」

 

「レミリアお嬢様。申し訳ございません。しかし、今のあなたは私の知るお嬢様ではありません!」

 

「そう、残念ね。あなたは優秀だったのに」

 

「お姉様、あの二人…壊しちゃっていいよね?」

 

「ええ、フラン。殺っていいわよ」

 

「あははは!それじゃあ…禁忌「フォーオブアカインド」」

 

フランが4人に増える。そして弾幕を打つ。しかし、その弾幕の量は信二と戦った時よりも圧倒的に多く、もはや逃げ場などない。

 

「紅符「スカーレットシュート」」

 

更にレミリアもスペルカードを発動する。二人の赤い弾幕は霊夢と咲夜を覆い尽くす。

 

「いける?霊夢」

 

「あなたこそ!」

 

霊夢と咲夜はそれらをいなしていく。お祓い棒とナイフで弾幕を受け流し、弾幕同士で相殺させ合い、避けていく。咲夜は時を止めレミリアにスペルカードを発動する。

 

「幻符「殺人ドー……」

 

「甘いわよ咲夜」

 

しかしレミリアは予知していたかのように咲夜の弾幕を撃ち落とす。

 

「なっ?!」

 

「避けなさい咲夜!」

 

霊夢の声によりレミリアから距離をとる。しかしレミリアの放った弾幕の質量は容赦のないものだった。

 

(く…多い!)

 

あまりの物量により段々と押され始める咲夜。ナイフと弾幕で捌ききれなくなる。

 

「夢符「二重結界」」

 

霊夢が結界をはり、弾幕を防ぐ。

 

「その傷で持ちこたえられるかしら!」

 

そこにレミリアとフランが更に弾幕を増やす。防ぐ霊夢はレミリアの言う通り頭の傷が原因で上手く集中ができない。

 

(目元が霞む…ダメ…このままじゃ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

「2連火炎柱(デビルバースト)!」

 

霊夢が諦めかけていた時、突如としてレミリアとフランに炎が襲う。今までの比ではない量の炎が。しかし、レミリアはかわし、フランも本体はかわす。

 

「…信二?」

 

「まったく、上が騒がしいと思ったら…」

 

信二がレミリアとフランを睨む。

 

「穏やかじゃねーな」

 

その顔は、信二が幻想郷で初めて見せる、敵を本気で討つ時の顔だった。



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20話 信二の真の実力

20話です。今回は結構長いですね。まぁ今回一番の盛り上がる場所なのでしょうがないのですが…。あとクリスマスまでには投稿したかったのですが…。もっと早くしたい今日この頃。


「信二、いつの間にいたのね。気づかなかったわ」

 

「…お嬢様。これはどういう事ですか?」

 

信二が静かに、だがハッキリと聞こえる声でレミリアに問う。

 

「どうって…そこの人間が吸血鬼()に歯向かったのが悪いのよ」

 

「そうですか…。霊夢…大丈夫か?」

 

「一応ね」

 

頭を抑えて答える霊夢。顔色も明らかに悪い。今まで無理して戦っていたのだろう。

 

「…咲夜、霊夢を頼む。あの二人は…俺が止める」

 

「頼むって、あなた一人で止められるわけ…」

 

「任せとけって。これでも百戦錬磨なんだ」

 

「…任せて大丈夫なのね?信二」

 

「もちろんだ」

 

信二は力強く頷く。

 

「そう。任せたわ」

 

「あなたも吸血鬼()に歯向かうのかしら。」

 

「そうなりますね」

 

「無謀よ。あなた達人間じゃ吸血鬼(私達)には絶対勝てないわ」

 

「そうでもないですよ。これでも負けるつもりは…毛頭ない!」

 

信二が二人に炎を繰り出す。その炎は今までよりも練度とでも言おうか、密度とでも言おうか、何にせよ明らかに今までとは違う炎だった。

 

「その程度じゃ当たらないわよ」

 

「これでもくらえー!」

 

二人は炎をかわしフランは弾幕を放ってくる。信二はそれを炎で防ぐ。

 

「これじゃだめか…じゃあこれ!禁弾「スターボウブレイク」」

 

フランがスペルカードを発動する。虹色の弾幕が雨のごとくゆっくりと信二に降りかかる。

 

「オーバードライヴ!」

 

そのスペルカードを信二は技を繰り出し、全てを炎で飲み込む。その範囲、威力ともにこれまでのものとは比べ物にならないほど。そしてフランにも襲いかかる。

 

「フラン!」

 

「禁忌「レーヴァテイン」」

 

新たなスペルカード。それは炎で出来た剣。ひと振りで幾百もの弾幕を発生させる恐るべき剣。フランはその剣でオーバードライヴを切り裂く。が全てが切れた訳ではなく、すこし被弾する。

 

「フランによくも…覚悟しなさい!神槍「スピア・ザ・グングニル」」

 

レミリアも巨大な槍を作り信二に特攻していく。フランもあとに続く。信二も剣をだし、接近戦を仕掛ける。

 

「えい!」

 

まずフランが特攻する。信二はその斬撃に合わせて鍔迫り合いの体制になる。レーヴァテインは振るうだけで弾幕を発生させる。そのため被弾しないために炎を体に纏う。そこにレミリアの槍が信二に強襲。フランのレーヴァテインを弾き、蹴りを入れることでフランを吹っ飛ばす。レミリアの槍は大きいため剣では受け止めきれない。そのため槍を受け流すように剣を振り、炎で追撃する。レミリアはバックステップで炎をかわす。

 

「まだまだ!」

 

吹っ飛ばされたフランが勢いをつけて信二にレーヴァテインを振る。先ほどよりも断然威力が高いであろう攻撃を信二は無理に受け止めようとせず、剣が交わった時の反動を利用し後ろに距離をとる。レミリアは接近せず槍を投げる構えをとっている。

 

「デビルバースト!」

 

それを信二は牽制する。レミリアはそれをかわすが槍を投げることが出来なかった。

 

「やるわね信二。吸血鬼(私達)相手にこんなに善戦するなんて」

 

「全然壊れないのね信二。楽しいわ!」

 

「何、これくらい日常茶飯事だ。もっと上げてくぞ」

 

「賛成!禁忌「恋の迷路」」

 

フランが新たなスペルカードを発動する。ぐるぐると回りながら信二に襲いかかる弾幕。定期的に空いている間を素早く抜けないと被弾は必至のスペルカード。信二はまだ空を飛ぶことが上手く出来ないため走ってかわせない時は剣で弾幕をたたき落とす。

 

「獄符「千本の針の山」」

 

そこにレミリアもスペルカードを重ねる。針状の弾幕が四方八方から信二に襲いかかる。

 

「く、さすがにきついな」

 

地上だけではかわしきれないと判断した信二は空にも逃げながらかわしていく。だが、反撃の余地を与えないフランとレミリアの猛攻に防戦一方の信二。その中で確実な一撃を入れるためにチャンスを伺う二人。そこに信二が大きく飛ぶ。

 

((いまだ!))

 

フランとレミリアは同時に信二に接近する。まだ空での戦いに慣れていない信二。空中なら二人の同時攻撃を受けきれないと判断した二人。信二の前と後ろに陣取り剣と槍を振るう。

 

「終わりだよ!」

 

「終わりよ!」

 

決まった。そう思う二人。…だが、信二は不敵に笑っている。

 

王の御前(キングバーン)!」

 

信二の新たな技。それは自身を中心に半径3mほどに爆炎を発生させる技。その爆炎の威力は高く勢いをつけて突撃してきた二人を吹き飛ばすほど。

 

「きゃあ!」

 

「フラン!」

 

「朱雀!」

 

信二は朱雀をだしレミリアに突撃させる。

 

「く、何よこの鳥!邪魔よ!」

 

「炎日砦!」

 

信二が朱雀を出した理由はレミリアの足止め。その隙にレミリアを閉じ込める。

 

「こんな檻!」

 

そう。巨大な槍をもち、人間をはるかに超える力を持つレミリアならすぐに檻を壊すだろう。だが、一瞬止めればいい。これならレミリアはフランを援護できない!

 

狂った炎の行方(マッドネスクリムゾン)!」

 

また新たな技をだす信二。右手の指先から放たれたそれは切り裂いたような炎を五つだし、フランに向かっていく。

 

「そのくらい私のレーヴァテインで消してあげる!」

 

フランは怯むことなくその技を消すために特攻する。が、異変が発生した。五つの炎が、それぞれめちゃくちゃの軌道を描き出したのだ。

 

「な!」

 

「悪いなフラン。その炎は俺もどう動くかわからねぇ」

 

フランは炎を消すためにレーヴァテインを振るう。だが、直前で2つの炎が失速し、タイミングがずれる。そのためレーヴァテインで消せた炎は三つ。残りの二つに被弾してしまう。

 

「きゃあぁぁ!」

 

「フラン!」

 

その炎はかなり威力が高く、フランは被弾後、立てなくなる。

 

「よくもフランを!」

 

檻を壊したレミリアが怒りに任せて信二に突進してくる。

 

(予定通り……)

 

信二が先にフランを狙った理由の一つがこれ。フランが先に倒れればレミリアは激昂し、攻撃が単調になると予測していた信二。その予測は的中する。

 

「くらいなさい!」

 

レミリアが槍をついてくる。それに合わせて刀を振るう信二。

 

(ほむら)一文字!」

 

二人の剣と槍は交差し、通り抜ける。

 

「その程度…!」

 

通り抜けた信二の剣の軌道上に炎が一つ走る。…レミリアを貫きながら。

 

「な…ん…」

 

炎に貫かれたレミリアはそのまま倒れる。

 

「すごい…本当にお嬢様と妹様を…」

 

「やるじゃない、信二」

 

「ふぅー。とりあえずこんなもんか」



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21話 終わりよければ

21話です。何とか年内にあげられました。しかも今回で紅魔館編は終わりです。ものすごくキリがいいですね。狙った訳では無いですけど。それで次回からは白玉楼編に突入します。次回投稿は未定ですが…。まったり待っていてください。それでは皆さん良いお年を。


「お嬢様!大丈夫ですか?!」

 

咲夜がレミリアに寄っていく。信二は暴走したレミリアとフランを見事に止めてみせた。

 

「怪我はしてるけど多分大丈夫だよ。致命傷にはなっていないはず」

 

「すごいわね信二。本当にあの二人を倒すなんて」

 

「結構強かったよ。それより怪我、大丈夫か霊夢?」

 

「何とかね」

 

「全然そんなふうには見えないけどな。顔、青いぞ」

 

「血が足りてないのかしら。咲夜、タオルとかある?止血したいのだ…

 

けどぉ?!…渡し方ってもんがあるでしょ!」

 

霊夢の顔に突如タオルが現れる。おそらく投げつけたのだろう、霊夢が激昂している。

 

「それどころじゃないの!察しなさい!」

 

「ほんっとにレミリアのことになると過保護よね」

 

「良くあることなのか?」

 

お嬢様が今回みたいにピンチになることなんて想像つかないが。

 

「ええ、ほぼ毎日。逆に今回みたいなカリスマに溢れたレミリアなんて今後見られないかもね」

 

「…嘘でしょ?」

 

「本当よ」

 

「マジか…」

 

俺の中のお嬢様が崩れていく。…いや、霊夢がこう言ってるが実際は違うかもしれない!今回よりちょっとカリスマが落ちるくらいで毎日咲夜に心配をかけさせることなんて…

 

「う、うーん。お腹痛い…」

 

「お嬢様!気が付かれたのですね!」

 

「咲夜?どうしたのそんなに慌てて…それにこの傷は?」

 

「お嬢様が暴走して霊夢に怪我させたあと信二が止めてくれたのです」

 

「…え?暴走?そんな覚えないけ…ど…」

 

レミリアがあたりを見渡す。そこには頭から血を流す霊夢と怪我をして倒れているフランの姿があった。

 

「…嘘…これ私がやったの…咲夜」

 

「…はい」

 

「怪我させた詫びにご馳走でもてなししてもらうから」

 

「…う…」

 

「お嬢様?」

 

「うわーーー!ごめんなさーーい!」

 

…そこには泣き崩れひたすら謝るお嬢様の姿があった。

 

「…霊夢さん。あれがお嬢様の日常ですか」

 

「そうよ、あれがお嬢様(笑)よ」

 

「えーーー」

 

俺の中のお嬢様が完全に崩れ去った。今の姿は見た目相応の女の子だ。

 

「はあー、カリスマブレイクしたお嬢様かわいい…」

 

咲夜も若干壊れている気がする。しかし、疲れていた俺はそのうち考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にごめんなさい信二。止めてくれてありがとう…」

 

あのあとレミリアが泣き止むまで時間がかかり、フランが目を覚ました時フランを暴走させたのがレミリアと知った瞬間、また泣いて謝るレミリアが出来上がるという若干めんどくさい状況になっていた。

 

「いいんですよ。お嬢様(笑)のためですから」

 

「わ、笑うなー!」

 

その後霊夢が言った通りもう1晩泊まらせてもらった。―ものすごいご馳走が出たことをここに記す―そして翌朝。霊夢も普通に歩けるまで回復したので紅魔館を去ろうとしている。

 

「すっかりお嬢様に対して敬意が無くなったわね信二」

 

「仕方ないだろ。あんなの見ちゃったらな」

 

「う、うるさい!」

 

そして俺のお嬢様に対する態度は180°変わっていた。もう完全に小さい女の子と接し方が一緒になっていた。例?チルノです。

 

「お姉様ったら、はしたないよ。自分の非は認めなくちゃ」

 

「うっ」

 

「私に怪我させたこと、まだ許してないからね」

 

「ううっ」

 

「レミィたら毎度なにかやらかすんだから…」

 

「うううっ」

 

「お嬢様(笑)泣いてどうぞ」

 

「うわーーーー!咲夜ー!みんながいぢめるーー!!!」

 

「はいはい。お嬢様はいつでも完璧ですよ」

 

「だめだなこれ」

 

「信二」

 

「ん?どうしたフラン…っと」

 

フランが急に抱きついてくる。

 

「ありがとう。狂気に囚われた私を救ってくれて」

 

「いいってことよ。また困ったことがあれば何でも言ってくれ」

 

「うん!」

 

「魔理沙みたいに本、奪わないでね」

 

「そんなことしないよ。今度返しに行くよ」

 

「ならいいわ」

 

「ほら、お嬢様も別れの挨拶を」

 

「うん、あ、ありがとうね信二。またいつでも来なさい。歓迎するから」

 

「ああ、また今度な。」

 

「いつでもいらしてください。信二さん」

 

「美鈴はもうちょい仕事しような」

 

「よ、余計なお世話です!」

 

「はは。じゃあなみんな」

 

「ええ。また今度」

 

皆が手を振る中紅魔館をあとにする。俺の幻想郷初の観光?地は濃い時間を過ごせた。

 

「いろいろあったわね」

 

「ああ。本当にいろいろあった」

 

だが、一つ気がかりなことがある。レミリアが自分がしたことを覚えていないことだ。さらに俺のことも知らない素振りを見せていた。まるで赤の他人に体を乗っ取られたように…

 

「思い過ごしだといいんだが…」

 

「?何か言った?」

 

「いや、何でもねぇ」



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幻想廻り〜白玉楼編〜
22話 新天地へ


22話です。思ってたより遅くなってしまいました。けど自分新年早々高熱を出してしまいまして書けない日がありまして…本当についてないですね。それに今回はちょっと短いです。まぁ白玉楼に行くプロローグなので構いませんが。これから新章頑張って行きます!


紅魔館での騒動から数週間。俺は博麗神社でのんびりしていた。本当は幻想郷を見て回りたかったのだが、霊夢が紅魔館で怪我したので安静にするために回れなかった。まぁ急いでいるわけでもないし、怪我人を連れ回すほど俺は鬼ではない。それに完全に回れなかったわけでもない。

 

霊夢に道を教えてもらって人里に行った。前から思っていたが、幻想郷の人達の生活は俺の世界とは随分と違う。ここはなんというか…質素と言うか…。だが、自然と共存している感じがする。とてもいい場所だ。

 

あと、人里で妹紅に会ったのが意外だったな。妹紅の家は迷いの竹林にあるって言ってたし、人里にあまり用がないと思ってたんだが…。まぁ付き添いで来たって言ってたしな。そうそう、そこで慧音さんに会ったんだよな。上白沢慧音さん。綺麗な人だったな。とにかくこの数週間でも色んなことがあったってことだ。

 

「霊夢、調子はどうだ?」

 

「もうバッチリよ。心配かけたわね」

 

そして霊夢の傷は完治していた。紅魔館から帰ったあともまだ顔色が悪そうだったからな。結構深い傷だったんだろう。それも完治したから一安心だ。

 

「看病してくれてありがとうね信二。おかげで助かったわ」

 

「なに、初めに霊夢に看病してもらったんだ。これでおあいこだ」

 

「ふふ、そうね」

 

霊夢が微笑む。いや本当に元気になって良かった。

 

「それじゃあ次の場所に行きましょうか」

 

「お、いいね〜。次はどんな場所に連れて行ってくれるんだ?」

 

「そうね。信二も飛べるようになった事だしあそこがいいかしら…」

 

「あそこ?」

 

「名前は白玉楼。場所は冥界よ」

 

「え?冥界?それって死後の世界じゃないのか?そんなところに行って大丈夫なのか?」

 

「ええ、大丈夫よ。何回も行ってるもの私」

 

「マジか…」

 

確かに幻想郷には変わったことがいくつもあった。しかし、冥界に当たり前のように行けるなんて…常識外れにも程があるだろ。

 

「それに今の時期なら白玉楼で綺麗な桜が見えるわよ」

 

「桜?聞いたことないな」

 

「あら?知らないの?ピンク色の花を咲かせる木よ。とても綺麗なの」

 

「へぇー。そんな木もあるのか…。俄然興味が湧いてきた!」

 

「それなら白玉楼で決まりね」

 

「ああ!」

 

「それなら花見ようにお酒を買いに行きましょう」

 

「花見?」

 

「綺麗な花を見ながらお酒を飲んだり食事をとったりすることよ。結構乙なものよ」

 

「ふーん、いろいろあるもんだな」

 

そう言いながら人里に酒を買いに行く。

 

 

 

「よし。このくらいでいいわね」

 

「結構買ったな。酒以外も」

 

「白玉楼の主人は大食漢だから、これでも足りないくらいよ」

 

「ほー中々の大食らいだな…。ん?あそこにいるの魔理沙じゃないか?」

 

「確かに、何してるのかしら」

 

「おーい魔理沙ー」

 

魔理沙を呼ぶとすぐにこちらに気づき寄ってくる。

 

「よぉ、信二に霊夢」

 

「おっす魔理沙。何してたんだ?」

 

「ちょっと捜し物をな。信二達こそ何してるんだ?結構な荷物だが」

 

「これから白玉楼に行ってお花見でもしようと思ってたのよ」

 

「花見か!いいなそれ、私も行くよ」

 

「おう、人数は多い方が楽しいからな」

 

「ちゃんと手土産持ってきなさいよ」

 

「分かってるって。それじゃあ後で向かうぜ」

 

「ああ、また後で」

 

そう言って魔理沙と分かれた後、白玉楼に向けて出発した。

 



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23話 桜

23話です。遅くなりました。すいません、今回はモチベーションが中々上がらず…できもそんな良くないと思います…。次回はもう少しモチベーションが上がればいいなー


「この中が冥界か?」

 

冥界の中に入った信二と霊夢。

 

「そうよ。この先に行くと白玉楼があるわ」

 

「そうか…」

 

「テンション低いわね」

 

「そりゃ…これで俺実質死んだみたいなもんだろ?」

 

ここは冥界。死者が集う場所である。そんなところにいるのだ、信二の言い分も間違いではない。そしてそんな考えをしている信二は若干テンションが低い。今までどんな死地を駆け回っても死なずにいた信二。その事があり、不死鳥と讃えられていたのに、こんなあっさりと死んだことになるとは…。

 

「そんなに深く考えなくていいわよ。実際は死んでいないし、戻ろうと思えばすぐ戻れるわ。そうね…友達の家にいく感覚よ」

 

「普通はそんなに軽い感じで冥界に行かないけどな…」

 

「幻想郷だもの。とあるバカはこう言ってたわ。『幻想郷では常識に囚われてはいけない』ってね」

 

「なるほどね、幻想郷ではそうやって生きていくのか」

 

「信二は随分と幻想郷に慣れ始めたと思うけど…」

 

「全然だよ。幻想郷に来てから驚きの連続だ」

 

不死身の人間にあったり、女の子がみんなすごい強かったり、時を止める女の子がいたりと…俺のいた世界でも考えられないことが多かった。それにまだ俺は幻想郷を全て回れていない。まだまだ俺の知らないことだらけだ。

 

「そう、意外ね。そんなにびっくりしてる素振り見せないから」

 

「何事にも動じないようにしてるからな。でも、楽しいよ。幻想郷での生活は」

 

「そう…良かったわ」

 

「あぁ」

 

なんて話をしていると目の前に大きな階段が見えた。

 

「この階段を上がれば白玉楼にたどり着けるわ」

 

「おっきいな〜。大変そうだ」

 

「もう空飛べるでしょ」

 

「あ、そうか。すっかり忘れてた」

 

「まだ慣れてないのね」

 

「飛べるようになってからそんなに日が経ってないからな。忘れることもよくある」

 

「早く慣れなさいよ。楽なんだから」

 

「歩くってのも結構好きだけどな俺」

 

「そうなの?」

 

「ゆっくりと風景が見れるからな。それに幻想郷は自然が多くて見てて飽きないしな」

 

「そうなの。なんか意外」

 

「そうか?」

 

「そうよ。ほら、着いたわよ」

 

「おお!ここが白玉楼か…」

 

階段を登った先にある建物。そこにはとても大きな屋敷があった。雰囲気としては永遠亭に似ている。そしてなにより1面に広がる桃色の木々達。

 

「ほー!綺麗だな。これが桜か霊夢?」

 

「そうよ。あの桃色の花を咲かせてるのが桜よ。綺麗でしょ」

 

「想像以上にな。こんな綺麗な花もあるのか」

 

「あれ?霊夢さんですか?」

 

桜吹雪の向こうから白髪の腰に剣を二振り携えた少女が箒手にこちらに駆け寄ってきた。

 

「こんにちは妖夢。今日はお花見をしに来たわ」

 

「また連絡もなしに……。そちらの方は?」

 

「はじめまして。火渡信二です」

 

「はい、初めまして。魂魄妖夢と申します。この白玉楼の庭師をしています。」

 

「へぇー。それじゃあこの桜も妖夢が手入れしたのか?」

 

「そうですね。全てでは無いですけど」

 

「すごいじゃないか。とても綺麗だよ」

 

「そ、そうですか///ありがとうございます」

 

「はいこれお土産。おつまみお願いね」

 

「また急に…」

 

「いいじゃない妖夢。楽しそうだわ」

 

「幽々子様、いらしてたんですね」

 

屋敷の奥から出てきたのは薄い青色のゆったりとした服を来ている女性。

 

「はじめまして。俺は…」

 

「聞いてたわ。信二でしょ?」

 

「聞いてましたか。それであなたは?」

 

「私は西行寺幽々子。白玉楼の主よ。宜しくね」

 

「よろしくお願いします」

 

「お花見させて貰うわよ幽々子」

 

「いいわよ〜。私もちょうどお腹が減っていたところだし」

 

幽々子がお腹を擦りながら言う。深い笑みを浮かべて…。



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24話 剣士の対決

24話です。今回は剣技について自分の意見が入ってます。実際はそんなんじゃねーだろみたいなこと言ってたらすいません。まぁ二次創作なんで大目にお願いします。


「そういえば妖夢は剣を持ってるけど、剣士なのか?」

 

「はい。といっても、まだまだ半人前ですけど…」

 

「剣の師匠はいないのか?」

 

「いました。…けど、今は…どこかに行ってしまって…」

 

「…そうか」

 

あまり聞いちゃいけないことだったかな。明らかに妖夢ちゃんが暗くなってる。…よし!

 

「良かったら俺と手合わせしないか?」

 

「え?信二さんと?」

 

「ああ、こう見えても剣技の心得があってな。何か得られるものくらいあると思うよ」

 

「いいじゃない妖夢。1度やってみたら」

 

「幽々子様…。わかりました。手合わせ願います、信二さん」

 

「よし、決まりだな。場所は…そこでいいか」

 

縁側の前のスペースに立ち剣を構える信二。信二の前に立ち二振りの刀…楼観剣と白楼剣を握る妖夢。二刀と一刀の一騎打ち。さしずめ宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島の決闘を彷彿とさせる。

 

「霊夢、合図よろしく」

 

「はいはい、じゃあ…始め!」

 

霊夢の合図を皮切りに妖夢が信二に向かって走り出す。そして右手の剣を振るう。信二はそれを受け止める。妖夢は空いた左側に剣を振るうが信二は受け止めた剣を弾き、そのまま左の剣も弾く。

 

「くっ」

 

「おら!」

 

すこし体勢を崩した妖夢に、信二は一文字に切り捨てる。が、妖夢は咄嗟に右で防ぐ。勢いの付いた信二の一太刀を受け止めることはできず、そのまま後に飛ばされる。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

「負けません!」

 

二刀と一刀では二刀の方が有利だと思われがちだが、実際は違う。剣道にも二刀流があるが、ほとんど…いや、全く使われない。その理由のひとつに『難しすぎて後世に伝わらなかった』と言うのがあるくらい二刀流は難しい。素人目の霊夢には妖夢の凄さはまるで分からないが、二刀を扱えなかった信二には分かる。

 

(この剣の太刀筋…相当練習したんだろうな…)

 

妖夢の剣を受けながらそんなことを考える信二。だが、同時に少しの違和感を覚える。

 

(この感じ…もしかして妖夢は…)

 

(っ!そこ!)

 

信二に突きを繰り出す妖夢。決まるか…そう思われたが、信二はまるで予測してたように紙一重で躱す。

 

「なっ?!」

 

近づいてきた信二に対して刀を振るおうとするが、先に手首を手刀で抑えられる。力を逃がされ、焦る妖夢。残った方で振ろうとするが、信二は妖夢に体当たりをして体勢を崩す。

 

「終わりだ!」

 

構えをボロボロにされ、無防備な所を一閃。妖夢は直感的に負けを確信した。

 

「…信二の勝ちね」

 

信二は剣を寸止めした。どちらが勝ったかは明白だろう。

 

「…負けました。強いんですね信二さん」

 

「いやいや、妖夢こそそこまで二刀を扱えるなんてすごいじゃないか。俺にはできなかった事だ」

 

「そ、そうですか///」

 

「けど、おそらく妖夢は実践はあんまりやったこと無いんじゃないか?」

 

「! なんでそれを…」

 

「何となくそんな感じがしたんだ。太刀筋が綺麗過ぎると思ってね」

 

「綺麗過ぎる…」

 

「何も戦う時は剣だけで戦うわけじゃない。さっきみたいな相手が近い時は剣を振るいずらいだろう?そういう時は体を入れたり、妖夢みたいな二刀流だったら逆手に持って防御に専念したりするとかね」

 

「な、なるほど」

 

「まぁもう少し砕けた感じの方がいいと思うよ。今の妖夢は型にはまりすぎてる。何も型どおりにやることは悪い事じゃない…けど俺みたいな型破りな奴と戦う時に苦戦するからな」

 

「型を…破るですか…」

 

「無理にとは言わないけどな。あとはもう少し相手を疑った方がいい。隙が出来たらすぐに飛びつくのはやめとけよ」

 

「!もしかしてあの時の隙は…」

 

「わざと作った。素直だな妖夢は」

 

「す、素直…」

 

「完敗ね〜妖夢」

 

「幽々子様…はい…強かったです信二さん。私にはない強さでした」

 

「そう。…良かったわね妖夢」

 

「はい。勉強になります」

 

妖夢の視線の先には霊夢と談笑する信二が映っている。

 

(いつか…いつかあの人を倒せるだろうか…)

 

妖夢に気づいた信二が近づいてくる。

 

「信二さん。…いつかあなたを倒して見せます」

 

「そうか…楽しみにしてるぜ」

 

「大きくでたわね妖夢」

 

確かに。完敗した直後にこんなことを言うなんて自分らしくない。けど微かに、しかし確かに思ったのだ。信二さんを超えたいと。



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25話 幽々子?

25話です。実は最近新しい小説を投稿したいと思ってまして。まぁまだまだ決まってないことが多いので先になりそうですが。内容は遊戯王です。詳しくはまたいずれ。


「妖夢のその刀は結構な業物なのか?」

 

妖夢との手合わせを終え今は台所を借りて花見用の食事を作っている。ちなみに霊夢さんは幽々子さんとお話中…お話好きだな、霊夢。

 

「そうですね…まず長い方の刀。これは楼観剣と言います」

 

「楼観剣…」

 

「妖怪が鍛えたと言われている刀です。この剣に切れぬものはほとんどない…と思います」

 

「なんか曖昧だな」

 

「私の腕だと限界があるのでまだこの剣の上限が分からないんです」

 

「まだ実力が未知数か…これからが楽しみだな」

 

「もうひとつの短刀。これは白楼剣といい人の迷いを断ち切ると言われています。魂魄家の家宝ですね」

 

「迷いを断ち切る?それはまた珍しい能力だな」

 

「はい。と言ってもその能力はあまり使ったことはありませんけど」

 

「そんな機会早々なさそうだもんな」

 

「それに私自身あまりこの能力を使いたくないんです」

 

「使いたくない?なんでまた」

 

「人の迷いを断ち切る…それがどこか自分勝手な感じがして。なんて言うんでしょうか…人を変えてしまうような気がして」

 

「それは違うと思うぞ」

 

「え?」

 

「人は何かに迷ってる時、他人に助けを求めるものだ。自分じゃどうしようもないから迷ってるんだと思うしな」

 

「…」

 

「それに人の迷いを断ち切るなんてまるで聖人みたいじゃないか」

 

「か、からかわないでください!」

 

「はは、悪い悪い。でも俺はそう思うけどな」

 

「…そういう考え方もあるんですね」

 

「ああ。…ところで妖夢、料理の手際いいね」

 

「幽々子様のために毎日作ってますから」

 

「……こんなに?」

 

既に作られた料理の量は明らかに四人(まぁあとから魔理沙が来るのだが)が食べる量としては多い。しかも妖夢は未だ料理を作る手を止めない。

 

「幽々子様はいっぱい食べますから」

 

「…いっぱいの量が凄くない?」

 

「…幽々子様ですから」

 

「何その理由…」

 

「…でも最近は特に沢山食べてますね」

 

「…これ以上?」

 

「いえ、前はこれより少なかったんですけどつい数週間前から食欲がまして」

 

「大変じゃない?」

 

「…正直大変です」

 

「だよね」

 

妖夢からなんともいえない哀愁が漂う。料理を作る手は止まらないが。

 

(まだ作るのか…)

 

俺は驚きを通り越してもはや呆れていた。

 

 

 

 

 

時は少し遡り、妖夢と信二が調理に入った頃。幽々子と霊夢は縁側で話をしていた。

 

「いや〜強いわねあの子。妖夢が手も足も出てなかったわ」

 

「信二のこと?確かに強いわねあいつ。この間もフランとレミリアの二人を相手して勝ってたしね」

 

「知ってるわ。天狗がばらまいてた新聞に書いてあったもの」

 

「何してんのよ文は…」

 

実は信二は人里にいる時どこから聞いたのか烏天狗の射命丸文に紅魔館でのことをインタビューされていた。その時の話はまたいずれ…。

 

「あそこまで強いなんて、一体何をしてたらああなるのかしら」

 

「…色々あったのよ。詳しくは本人に聞きなさい」

 

「…そう。にしてもあなたが他人に対して興味を持つなんて珍しいこともあるのね」

 

「…何言ってんのよあんたは」

 

「あら、自覚ないの?まぁあなたは博麗の巫女だもの。どこまでいっても第1は幻想郷なのよね」

 

「当たり前よ。変なこと言わないでよ」

 

「ふふふ。悪かったわね」

 

『おーい、そろそろ出来るぞー』

 

「意外と早いのね、行くわよ幽々子」

 

「ええ。…今日はお腹一杯になれるかしら…」

 

「?何か言った?」

 

「いいえ、早く行きましょ」



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26話 現れた異変

26話です。今回は少し遅れましたね。大体モンハンワールドのせいだ!


「改めて見ても綺麗なもんだな」

 

「本当ね。春のここはいつ来ても綺麗だわ」

 

あたり一面桜花爛漫。堂々と咲き乱れる桜ももちろん綺麗だが、風が

吹くと桜吹雪が駆け巡る。桜は咲いている姿も美しいが散りゆく様もまた美しい。

 

「こんな花があるなんてな、もっと早く知りたかったぜ」

 

「あら?桜を見るのは初めてかしら?」

 

「ああ。元の世界じゃこんな美しい花は無かったな」

 

「それは残念ね〜。でも今年はよく咲いているわ。これなら西行妖が咲くんじゃないかしら」

 

「ちょっと、冗談でもやめなさい。また異変を起こしたら容赦しないわよ」

 

「幽々子さんも異変を起こしたことがあるのか?」

 

「あるわよ。幻想郷中の春を奪ったの♪」

 

「奪ったの♪って…」

 

「そのせいで春が来なかったのよ。5月だってのに雪が降って大変だったわ」

 

「その時妖夢は?」

 

「私は幽々子様の手伝いをしてました」

 

「魔理沙に吹き飛ばされてたけどね」

 

「あ、あの時は未熟でしたから」

 

「今も未熟よ」

 

あ、妖夢落ちこんでる。幽々子さんも容赦ないな

 

「それで春を集めて何をしようとしてたんだ?」

 

「あれを咲かそうと思ったの」

 

幽々子さんの指さす方には大きな木がたっていた。ほかのどの木よりも大きく、1つだけ花を咲かせていない木。

 

「確かにあれだけ花が咲いてないな。なんでだ?」

 

「あれは西行妖と言います。数々の人達の精気を吸った妖怪桜なんです」

 

「こわ」

 

「今は封印されてるから安全です。花が咲かないのも封印のせいらしいです」

 

「なるほどね。幽々子さんはなんでそんな危ない桜を咲かせようとしたんだ?」

 

「そうね…あの桜の封印に私の体が使われてるの。だから封印が解かれれば…桜が咲けば私も生き返れると思ったんだけど、そこの巫女さんに止められちゃったの」

 

「え?幽々子さんの体?もしかして幽々子さんってもう死んでる?」

 

「ええ。とっくの昔に。知らなかったのね」

 

「じゃあ亡霊ってことですか…幻想郷すげーな」

 

「まぁ冥界の主人ですから、亡霊でも不思議はないでしょう」

 

「そうですけど…」

 

「ちなみにそこの妖夢も半分死んでるのよ」

 

「え?半分死んでる?」

 

「死んでるわけじゃないです!半人半霊なだけです!」

 

「死んでるようなもんでしょ。細かいこと気しない」

 

「細かくない!」

 

「不思議な人達がいっぱいるな〜幻想郷は」

 

「ところで、この料理信二が作ったんでしょ?美味しいわ」

 

「それは良かった。まぁ半分以上は妖夢が作っ…た…」

 

あれだけ作った山のような料理がもう既に半分以下になっている。俺はあんまり食べてないし霊夢と妖夢も言い争いしてるし…

 

「…幽々子さんよく食べるね」

 

「そうかしら?まだまだ足りないわよ」

 

「さいですか…」

 

未だ箸を休めることなく食べ続ける幽々子さん。妖夢が言ってた通りだった。けど認識が甘かったわ。幽々子さんは半端ないってことが分かった。

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったわ〜」

 

「本当に1人でほとんど食べちゃったな」

 

「幽々子様ですから」

 

「ちょっと幽々子、私が食べる分がないじゃない」

 

「ごめんなさいね〜でも最近どれだけ食べてもお腹が空くの」

 

?幽々子さんの様子が…。嫌な予感がする…。

 

「だから霊夢…あなたも食べていい?」

 

「何馬鹿なこと言ってんのよ、酔っ払ってるの?」

 

「冗談なんかじゃないわよ。ねぇ霊夢…」

 

!馬鹿な!幽々子さんから感じられるこの感じ…紛れもない、『悪魔』の気配だ!

 

「あなたは美味しいかしら?」

 

そう言った直後幽々子さんから妖夢の半霊のような真っ白く、大きな口が付いている化け物のようなものが霊夢に向かって飛び出した。

 

「な!」

 

「霊夢!」



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27話 白き化け物

27話です。遅くなりました。本当はもっと早く投稿したかったんですが。モンハンワールドが(ry


「霊夢!」

 

霊夢に向かって飛び出してきた白い化け物。悪魔の気配を感じ先に臨戦態勢に入っていた俺は化け物に飲まれそうになっていた霊夢を後に寄せる。

 

『バクン!』

 

そんな音が聞こえるほど勢いよく噛みついてきた化け物。俺が霊夢を退かしていなかったら確実に噛みちぎられていただろう。

 

「無事か霊夢!」

 

「うぅ…」

 

「霊夢?」

 

化け物の噛みつきは霊夢には当たっていない。それなのにぐったりとしている霊夢。顔色もどこか悪くなっている。

 

「…幽々子さん。これはどういうことですか……」

 

「どうも何も、さっき言った通りよ。()()()()()()()()。ただ食べようとしたものは違うわ。霊夢自体を食べたわけじゃなくて霊夢の()()()を食べたのよ。ある意味霊夢を食べたと言ってもいいかしらね」

 

生命力を食べる?幽々子さんはもう死んでいるのに?それにあの化け物…。あんなものを幽々子さんが出せるなんて聞いていないし、妖夢も呆気にとられているところを見ると妖夢も知らなかったのだろう。……やはり悪魔が関係しているのか…。しかし、俺が今1番聞きたいことはそんな事じゃない。

 

「何故急に霊夢を食べようとしたんですか」

 

俺は幽々子さんに聞く。いつ先程の化け物が襲ってきてもいいように臨戦態勢を解かないまま。

 

「簡単なことよ。お腹が空いたから。何かを食べる理由なんてそれしかないわ」

 

「そう…ですか。…そっちの白い化け物は?」

 

「ふふ、やっぱり気になるわよね〜。すごいのよこの子。何でも食べちゃうんですもの。でも詳しくは教えない。信二、あなたを味見していいなら教えてあげるけど」

 

「お断りしますよそんなの」

 

「そういうと思ったわ。それじゃあ仕方ない。力ずくで食べてあげる」

 

満面の笑みを浮かべる幽々子さん。それと同時に化け物が襲ってくる。

 

「誰がそう簡単にやられるかよ!『オーバードライブ』!」

 

襲ってくる化け物に対して技を繰り出す。比較的単調な動きをする化け物に攻撃を当てるのは簡単だった。…倒せるかは別として。

 

「あら、すごい炎ね。でもちょっと火力不足よ」

 

信二の技を正面から受けた化け物。普通ならここで相殺、もしくはどちらかが押勝ところだ。しかし、この化け物は違う。幽々子が言った通りこいつは()()()()()()。それは比喩などではなく、文字通り森羅万象を食らう化け物。

 

「なんだと?!」

 

信二の炎を食らう化け物。その勢いは止まらず信二に向かっていく。

 

「くそ、なんだあいつは!」

 

「逃げちゃダメよ華霊「ゴーストバタフライ」」

 

弾幕を張ってきた幽々子。その弾幕は対象者をいくらでも追いかけ、近づいた瞬間拡散するもの。逃げる相手には持ってこいの弾幕。

 

「ちっ!『デビルバースト』」

 

弾幕が近づく前に処理しようとする信二。が技は化け物によって食われる。化け物と弾幕の二重の構え。1人ならさばき切れるが、今は手負いの霊夢を抱えている。この状態ではいくら信二でもさばき切れない。

 

「くそ!…妖夢!」

 

「は、はい!」

 

信二は今まで状況を飲み込めないでいた妖夢を呼ぶ。

 

「手を貸してくれ!このままじゃ二人ともやられる!」

 

「え、で、でも…私は…幽々子様の従者で…。従者が主人に歯向かうなんてできません…」

 

「ばかやろう!ただ主人に従うだけが従者の役目じゃない。主人が間違った時に正してやるのも従者の役目だ!今の幽々子さんは正気じゃない。それは妖夢、お前が1番分かってるはずだ!」

 

「っ!」

 

「幽々子さんをこのままにしておいていいのか!妖夢!」

 

「…」

 

そのやり取りの中でも化け物と弾幕は止まらない。

 

「ちっ!」

 

信二が化け物を対処している時に後から弾幕が。挟み撃ちにされた信二。その背中に弾幕が当た…

 

「ごめんなさい、幽々子様!」

 

…る前に妖夢が切り伏せる。

 

「あらあら、妖夢まで。でもこれなら妖夢を堂々と食べれるわね。ずっと食べてみたかったのよ、妖夢」

 

「あなたは私が元に戻します!」



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28話 主人と従者

28話です。最近投稿ペースが著しく落ちてる。ただモンハンワールドもとりあえずひと段落したのでこれからペースを上げてこうと思います。…ただし出来るとは言ってない


「うれしいわ妖夢。ずっとあなたを食べてみたかったのよ。あぁ、私のかわいい妖夢。あなたはどんな味がするのかしら」

 

「…幽々子様、どうしてしまったのですか…。以前の優しいあなたはどこに」

 

「私はどうもしてないわ。ただちょっと我儘になっただけ。どんなに食べても満たされないこの食欲を抑えるためにね」

 

「……私があなたを元に戻します。他の誰でもない、この従者()が。…お許しください、幽々子様!」

 

その言葉を皮切りに幽々子に向かう妖夢。

 

「いいのよ妖夢。従者(あなた)が私のために戦うのなら主人()もまたあなたを得るために戦うだけよ。「亡郷「亡我郷 -道無き道-」」

 

幽々子の弾幕。それは独特な軌道を描く無差別攻撃。その最中敵を追いかける弾幕を繰り広げる。

その狙いは妖夢を一直線に進ませるため。本来なら接近戦だけで言えば妖夢の方が上手だろう。しかし、今の幽々子には白い化け物がいる。全てを喰らうこれはいとも容易く妖夢を飲み込むだろう。

 

「突っ込むな妖夢!喰われるぞ!」

 

信二がいなければ妖夢は喰われていたかもしれない。信二のその声により化け物が潜んでいることに気づいた妖夢は一時撤退をする。

 

「気持ちは分かるが落ち着け。猛進するだけじゃ幽々子さんには勝てないだろ」

 

「…そうですね。焦りすぎました」

 

「だが作戦には使えるぞ。俺が援護する。妖夢…幽々子さんを救うのはお前だ!」

 

「はい!」

 

「活きがいいわね。でもその方が美味しいものね。「華霊「バタフライディルージョン」」

 

幽々子の弾幕は基本的には先程と変わらない。ただ質量が比べるまでもなく違う。これには妖夢を討つ他に信二の視界を塞ぐ思惑もある。

 

「慎重にいけよ妖夢!お前がやられたら俺たちに勝ち目はない!」

 

「はい!必ずや期待に応えます!」

 

本当なら信二も参戦したいところだが今は手負いの霊夢を抱えている。その状態では信二も弾幕を避けることと、妖夢のサポートくらいしかできない。

 

「狙い撃ちます!「修羅剣「現世妄執」」

 

突きを伸ばしたような弾幕。しかし…

 

「浅はかね妖夢。あなたの弾幕が私に当たると?」

 

「当たらせるんだよ!『3連デビルバースト』!」

 

「っ!」

 

炎の柱を壁のようにする信二。

 

「は!」

 

そこに妖夢の突き。即興にしては息の合っている二人。

 

「…厄介ね。あなた」

 

化け物に妖夢の弾幕を喰わせる幽々子。

 

「そうするよな!『焔一文字』!」

 

化け物が信二の方向を向いていない時にすかさず追撃をする。サポートだけに留まらず隙あらば突く。そこに信二の技量が見える。

 

「浅はかだと言ったわ。「死符「ギャストリドリーム」」

 

大量の蝶が幽々子の周りを飛び出す。その物量によりデビルバーストを打ち消す。

 

「そっちこそな」

 

幽々子の弾幕は焔一文字を完全には打ち消すことが出来なかった。

 

「なっ!」

 

予定外の威力に被弾する幽々子。が、傷は浅い。

 

「妖夢!」

 

「人神剣「俗諦常住」!」

 

三方向を狙う弾幕。幽々子の逃げ場を少なくさせることが出来るだろう。

 

「…「幽曲「リポジトリ・オブ・ヒロカワ -神霊-」」

 

様々な花型の弾幕。それらが四散する。

幽々子の弾幕は威力が高い。そんな弾幕が数の暴力で襲ってくる。

 

「っ!なんの!」

 

弾幕を化け物に喰われても怯むことなく立ち向かう妖夢。

妖夢は弾幕の威力がそこまで高くない。そのため、1点に力を込めて撃たなければならない。しかし、それでは化け物に弾幕を喰われてしまう。

 

「『オーバードラ…』」

 

「あなたの相手はこの子よ」

 

「っぶねぇ!」

 

幽々子の弾幕のせいで視界が悪くあわや化け物に喰われそうになる信二。

 

「くそ、これじゃあ妖夢の援護が…」

 

襲ってきた化け物をいなす。が弾幕に、何でも喰らう化け物。さらに、霊夢を抱きながらこれらを躱すのは至難の業。援護の隙すら与えない幽々子。

 

「はぁぁぁ!」

 

「妖夢。あなたは私が直接倒してあげるわ」

 

幽々子と妖夢の弾幕対決。だが、明らかに妖夢が押されている。化け物抜きでも妖夢にとっては手に余る。

 

(くそ、あと一手足りない。この化け物相手じゃ『あれも』相性が悪い…。どうすれば…)

 

「くっ…」

 

「詰みね。妖夢」

 

「妖夢!…っ!」

 

幽々子の弾幕が妖夢に覆いかぶさる。妖夢は自然と負けたと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恋符「マスタースパーク」!」

 

…突如黄色い閃光が幽々子の弾幕を吹き飛ばす。

 

「…どうしてここにいるのかしら?……魔理沙」

 

「…花見にしては随分と荒れてるな、幽々子」



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29話 妖夢の覚悟

29話です。白玉楼編もいよいよ終わりが近づいて来ました。多分次回で終わるかと。…にしても前回の魔理沙さんは完全に主人公でしたね。


「魔理沙!」

 

「どういうことだ信二。花見って聞いてきたら幽々子と妖夢が戦ってるし、信二はよく分からないものと戦ってるし、おまけに霊夢はもうやられてるし!」

 

「詳しくは後でだ!掻い摘んで話すと幽々子さんが暴走した。以上!」

 

「よし分かった。加勢するぜ!」

 

「…また邪魔が入ったわね」

 

「…ありがとうございます、魔理沙。あのままだったら私…」

 

「気にするなって。それより今は幽々子だろ。まぁ私が来たからにはこんな異変すぐ解決だぜ」

 

「…いや、今回幽々子を救えるのは妖夢だけだ」

 

「え?…でも私は今幽々子様に負け…」

 

「幽々子さんが妖夢にとどめを刺そうとした時、一瞬だけ動きが止まった」

 

「…そんなことないわ、デタラメよ」

 

「どうだろうな。少なくとも俺には躊躇ったように見えたぜ」

 

「……」

 

「恐らく幽々子さんは今も迷ってるんだよ。俺達を…妖夢を喰らうことに」

 

「いい加減黙りなさい!」

 

止まっていた化け物が信二に向かっていく。

 

「『王の御前(キングバーン)』!」

 

信二の出した爆炎で吹き飛ばされる化け物。しかし、外傷はない。

 

「……だから妖夢、お前のその()で幽々子さんを救え!」

 

「………!」

 

妖夢の心は先程の戦いでほとんど折れていた。主人を自分の手で救えなかったと言う想いでいっぱいになっていた。

 

「…私は……」

 

しかし、信二にまだ自分にはやるべき事があると言われた。

 

「私が……」

 

自分にはまだ主人を助けられると言われた。

 

「私が!幽々子様を!」

 

自分にしか主人が助けられないと言われた。ならば今一度立ち上がろう。この()に誓いを立てて!

 

「助け出します!」

 

妖夢のその目はもう絶望の色なんかでは無かった。次こそ、必ず主人を助け出すと言う闘志と希望の目。

 

「…妖…夢……。っっ!それは無理なのよ妖夢!だって私は、お腹がすいてるから!どうしようもなく、あなたを喰らいたいから!」

 

「援護は私に任せろ。信二は霊夢を頼むぜ!」

 

「あぁ、霊夢には傷一つ付けさせやしない!」

 

「行きます、幽々子様!」

 

「ええ、来なさい!その希望を打ち砕いて私はあなたを手に入れる!」

 

「私も忘れるなよ幽々子!「魔符「ミルキーウェイ」!」

 

「厄介なあなたを忘れるけないわ。行きなさい!」

 

弾幕を喰らいながら魔理沙に突進していく化け物。

 

「再三言うがその化け物には気をつけろよ魔理沙!霊夢はそいつに生命力を喰われて戦闘不能になったからな!出来るだけ近づかせるな!」

 

「要はあいつを避けながら弾幕を出せばいいだけだな。いつもやってるような事だぜ!」

 

箒に乗って飛びまわる魔理沙。その速さは幻想郷でもトップクラスだ。簡単に捕まるはずがない。

 

「反魂蝶 -八分咲-」

 

「いきなり本気か幽々子。被弾するなよ妖夢!」

 

「はい!私はもう負けません!」

 

「俺が道を作る。『オーバードライブ』!」

 

信二の出した炎は弾幕を飲み込み幽々子に迫っていく。だが幽々子に焦る様子はなく、これまで通り化け物で対処する。

 

「恋符「ノンディレクショナルレーザー」!」

 

…ただこれまで通りでは無いのは魔理沙の参戦である。魔理沙の実力は幻想郷でも折紙付である。

 

「天神剣「三魂七魄」!」

 

妖夢も弾幕で攻める。一瞬だけ動きがゆっくりになるこの弾幕は相手を追い詰める時に活躍する。魔理沙という強力な助太刀を得たことにより、より確実にこの技が刺さる。

 

「くっ!」

 

ゆっくりと、しかし確実に追い詰められていく幽々子。その顔に焦りが見え始める。

 

「こんなもの!一気に消し去ってあげる!」

 

化け物があたり一面を喰い散らかす。前に現れたものから手当たり次第に。

 

「!今だ妖夢!突っ込め!」

 

「はい!」

 

信二の号令の元幽々子に猛進する妖夢。

 

「させない!」

 

幽々子が弾幕を張り進行を食い止めようとする。

 

「私を忘れるなっての!」

 

その弾幕を魔理沙が綺麗に相殺していく!

 

「こうなったら…」

 

「『炎日砦』!」

 

相手を拘束させる技、炎日砦。今回幽閉されたのは幽々子ではなく、白い化け物だった。炎が渦巻く牢屋には流石の化け物もその勢いを止める。

 

「閉じ込めたところでそれを喰らって…」

 

「出てくるだろうな。けど今は一瞬止められればいい。その一瞬でケリがつくからな」

 

幽々子が振り返るとそこにはもう数メートルという場所まで迫った妖夢がいた。

 

「ああぁぁぁ!!」

 

がむしゃらに弾幕を展開する幽々子。

 

「っっ!」

 

その弾幕のいくつかが妖夢の右手に被弾する。

 

「…幽々子様!」

 

…いや、被弾するものを右手を捨てて防いだのだ。もうこの戦いで妖夢の右手は使い物にならないだろう。しかし、妖夢の狙いは、最初からその左手ーー迷いを断ち切る白楼剣のみであった。

 

「切り捨て御免!」

 

……妖夢の魂のひと振りが幽々子を一閃した。

 



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30話 ホワイトアウト

30話です。今回で白玉楼編が終わりました。長かった。モンハンとかのせいで。なので次回から新章ですね。気長にお待ち下さい。


妖夢の魂のひと振りが幽々子に一閃する。幽々子はそのまま倒れる。妖夢も力を使い切ったのかその場に倒れる。

 

「…どうなったんだ?」

 

「さぁな。けど油断するな。あの白い化け物、動いてこそいないが消えていない。また襲ってくるかもな」

 

「……うぅ…私はなんてことを…」

 

先に幽々子が起き上がる。緊張の糸を今だ切らない二人は警戒する。

 

「…妖夢!しっかりして!」

 

あたりを見回したあと真っ先に妖夢の元へと駆けつける幽々子。その足取りはふらついている。

 

「大丈夫?…お願い、目を開けて」

 

「……うっ…ゆゆ…こ様…」

 

「妖夢!良かった、本当に…」

 

「元に……戻ったんですね、幽々子様。……良かった…です」

 

「ええ。本当にごめんなさい。ありがとうね、妖夢」

 

「いえ…従者として当然の事をしただけです」

 

力ないながらも精一杯に笑顔を見せる妖夢。その顔を見て安堵する幽々子。

 

「…どうやら幽々子は大丈夫みたいだな」

 

「そうっぽいな。妖夢もとりあえず無事みたいだし……魔理沙!」

 

「分かってるぜ!」

 

魔理沙がその場を離れた理由。それはこの異変の核心、白い化け物が襲ってきたからだ。

 

「幽々子さんを正気に戻してもこいつは消えないのかよ!」

 

「一体どうすれば消えるんだ…」

 

「…満たすのよ」

 

「幽々子さん?」

 

「あれはエネルギーを求めて喰い荒らしているのよ。エネルギーはなんでもいい…だからあれが満たされるほどのエネルギーを撃てば消えるはずよ」

 

「そんなエネルギーどっから持ってくるんだよ!」

 

「俺がやる」

 

「信二!そんな無茶な…」

 

「要はあれをパンクさせるくらいの威力がありゃいいんだろ。少し時間を稼いでくれ魔理沙」

 

「……ったく、早くしろよ!」

 

そういい魔理沙は化け物の注意を引くために弾幕を放つ。化け物は素直に魔理沙に向かって飛んでいく。

 

「ふぅぅぅー」

 

信二は両手を広げ手のひらに魔力を溜めていく。

 

「…出来るのね、信二」

 

「任せてくださいって。一瞬で消し炭にしてやる」

 

「……頑張って…ください、信二さん」

 

「…任せろ妖夢。お前の努力をここで無駄にはさせない」

 

ここで化け物を満たすことが出来なければ全滅だろう。だが、そんなことはこの男がさせない。燃え上がる闘士と共に魔力も高まっていく。

 

「魔理沙!そいつを上空に持ってきてくれ!」

 

「了解!そら、こっち来い!」

 

箒にまたがりどんどんと上昇していく魔理沙。

信二が化け物を上空に持っていかせたのは至極簡単、他の者を()()()()()()()()。それ即ち、それほどまでの威力と範囲があるという事。

 

「これでも食ってろ!「恋符「マスタースパーク」」

 

マスタースパークを放った魔理沙。化け物はそれを喰らっている。だが、それでいい。魔理沙が逃げれるだけの隙ができれば。

 

「おい化け物、そんなに腹が減ってるなら…」

 

信二の莫大な魔力に気づき、信二に向かってくる化け物。

 

「これでも食らってな!『炎王強襲激』!」

 

魔力を溜めていた両手を勢いよく合掌させる。すると信二の後から大きな獅子が…炎で出来た獅子が現れた。

 

「………なんつー密度だよ…」

 

同じ魔法使いの魔理沙にしか分からない。その魔法はとてつもない密度で出来ていると。オーバードライヴの比ではなく、今の魔理沙では出せないくらいの魔法であると。

 

炎の獅子は白い化け物に向かって牙をたてている。そして、勢いよく両者が喰らいつく。化け物は獅子に飲み込まれる。いや、あえて飲み込まれたのかもしれない。しかし、それは1番してはいけないこと。

 

「…燃え尽きな…」

 

先程も言った通りこの獅子の魔力密度はとてつもない。その獅子に喰われるとどうなるか。四方八方から獄炎が襲ってくるのだ。

 

「……終わりだな」

 

燃え盛る獅子が消える頃には白い化け物も姿を消していた。

これにて白玉楼での異変は幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう信二。私を救ってくれて。そしてあの化け物を消してくれて」

 

「いいってことよ。ただ今はゆっくりとしてられないな」

 

「そうね、私のせいで霊夢が……」

 

幽々子の生命力を喰われた霊夢は今だ目を覚まさない。顔色も悪くなる一方だ。

 

「俺はこのまま永遠亭に向かうよ。魔理沙には一足先に行ってもらってるし」

 

魔理沙には霊夢の状態を先に永琳に伝えてもらうため先に永遠亭に向かって行ったのだ。

 

「道には迷いませんか?」

 

今も尚足元がふらついている妖夢。治療は白玉楼で行うらしい。

 

「魔理沙が先に妹紅を見つけるだろうから大丈夫だよ」

 

「そうですか。…改めてありがとうございました、信二さん」

 

「おう、じゃあ俺は行くわ」

 

「ええ。霊夢を宜しくね」

 

「ああ」

 

「…信二さん、またいつか稽古をつけてくださいね」

 

「おう、また今度な」

 

そう言い残し足早に白玉楼を後にする信二。次なる目的は永遠亭。そこには何が待ち受けているのか…



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幻想廻り〜永遠亭編〜
31話 またも永遠亭へ


31話です。今回は短めです。章の初めはどうしても地味になってしまいますね。まぁだんだん盛り上がっていけばいいなー。


「大丈夫か霊夢?」

 

白玉楼を出て一目散に永遠亭へと向かう信二。走りながら霊夢に呼びかけるが反応はない。

 

「くそ、やっぱりだめか!……急がないとな!」

 

霊夢の今の状況は信二や魔理沙にかなりの不安を与えている。怪我などと違って見た目で今どれくらい危機に瀕しているか分からないからだ。

 

「朱雀!お前も先に妹紅を探してこい!」

 

現状まだ空を飛ぶより走った方が早い信二は空から妹紅を探すために朱雀を出す。だがまだ白玉楼を出たばかり…先は長い。

 

「耐えてくれよ霊夢…」

 

 

 

 

 

「信二!こっちだ!」

 

迷いの竹林辺りに来た信二を妹紅が呼ぶ。

 

「妹紅、話は魔理沙から聞いてるな」

 

「聞いてるよ、こっちだ!」

 

止まることなく竹林に向かって走り出す2人。

 

「霊夢は今どんな感じだ」

 

「詳しくは分からない。だけどやばい状態ってのは分かる」

 

「怖いな…飛ばすぞ信二!」

 

「ああ!」

 

 

 

 

 

「来たぞ永琳さん、どこだ!」

 

「こっちです信二さん!」

 

「鈴仙、準備は」

 

「出来てます!さぁこっちに」

 

鈴仙に案内された部屋を開けるとそこには永琳に魔理沙がいた。何やら医療道具のようなものが沢山ある部屋だ。

 

「信二、霊夢をこのベットに」

 

「ああ」

 

背負っていた霊夢をゆっくりとベットに寝かせる。すぐさま永琳が霊夢の状況を確認する。

 

「……話に聞いていた通りね。外傷もなく病気でも無いのに、何故か生命力だけが著しく落ちている」

 

「どうするんだ永琳」

 

「生命力を上げる薬ならあるわ。けど少し材料が足りないの」

 

「なら材料の場所を教えてくれ。俺が採ってくる」

 

「信二はダメよ」

 

「どうして!」

 

「隠してるけど、あなたもかなり疲弊してるからよ」

 

永琳に自身の疲れを見抜かれた信二。信二が先程放った炎王強襲激は信二の魔法の中でもトップクラスに魔力を消費する。加えて白い化け物との対決中にも少しずつ、生命力や魔力を喰われていたのだ。

 

「っ!…そんなことは…」

 

「強がらない。材料の確保は魔理沙と妹紅に行ってもらうわ。場所は優曇華院が教えるわ」

 

「任せろ。鈴仙、案内頼む」

 

「はい、2人ともこちらに」

 

「あたしらに任せな信二。お前は霊夢のそばにいてやれ」

 

「…分かった。頼んだぜ妹紅」

 

「ああ、速攻でとってくるよ」

 

迅速に材料を取りに行った3人。魔理沙もいることだし、すぐに集まるだろう。

 

「…それで?一体白玉楼で何があったの?」

 

霊夢の処置をしならが聞いてくる永琳。

 

「…そうだな、初めから話そう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まぁざっとこんなもんだ」

 

「そう……あの幽々子が別人のようにね…」

 

「ああ。何かに取り憑かれたようにな。紅魔館のときもそうだったが、明らかに人が変わってる」

 

「……」

 

「永琳さんの周りにもそういうのはいないか?人が変わったようになった奴が」

 

「…いえ、見てないわね…」

 

「そうか、ならいいんだが…」

 

「あら、その声…信二かしら?」

 

戸を開けて入ってきたのはこの永遠亭の主にして、禁忌の薬を飲み月を追い出された大罪人。

 

「ああ、久しぶりだな輝夜」

 

「久しぶりね信二」

 

蓬莱山輝夜である。



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32話 輝夜?

32話です。ここ最近遊戯王とバカテスのクロスオーバーのssを書きたいと思ってるんですけど、自分最近の遊戯王分からないのでぜアルまでのルールになるんですよね。それって需要ありますかね?


「何か永遠亭が騒がしいから出てきたけど、あなただったのね」

 

「その言い方だと俺がやらかしたみたいに聞こえるだろ」

 

「ふふ、ごめんなさい。でも実際相当のことが起こったのね。…霊夢もこんなんだし」

 

輝夜はベットに寝ている霊夢を見て言う。その顔は少し驚いた様子が伺える。無理もない。霊夢は幻想郷でも屈指の実力者であり、これまで数々の異変を解決してきた。その霊夢が瀕死の状態にいること自体が、幻想郷にとって異例の事態といえる。

 

「結構危ない様子なの?永琳」

 

「そうね…少し危険かもしれないわ。でも私にもよく分からないのよ、今の霊夢の状態は」

 

「あら、永琳にも分からないことがあるのね」

 

「私にもありますよ。今の霊夢は怪我もなく病気にかかった訳でもない。なのに生命力が低下している。流石の私も元気で死にかけてる人なんて見たことないわ」

 

「本当に治るのか?霊夢は」

 

「これから作る薬は細胞活性剤を中心としたものよ。これが効くことを祈る事ね」

 

「そうか…早く来てくれよ、妹紅」

 

 

 

 

 

 

程なくして材料を持ってきた妹紅達。その材料を使い永琳と鈴仙が今薬を作っている。気が散ると行けないと思い、信二達は部屋の外に出る。

 

「治るかな、霊夢の奴」

 

「あの霊夢だ、心配しすぎるなよ」

 

「そうは言っても…心配なものは心配なんだぜ」

 

「…そうだな」

 

「あーあたしの生命力でも分けられればな」

 

「それはいいわね妹紅。いっそ干からびるまで分けてあげるといいわ」

 

「そういう輝夜こそ、霊夢に生命力をあげれば元気が無くなってお淑やかになるんじゃないか」

 

「あなたよりはお淑やかよ」

 

「笑わせるなよ」

 

「やめろよ2人とも。ここで喧嘩するなよ」

 

「分かってるよ」

 

「流石にしないわよ。…そうだ信二、朱雀を出して欲しいの」

 

「朱雀を?なんでまた」

 

「久々に見てみたくなったのよ。朱雀の羽はとても綺麗だから」

 

「それは同感だな。それに魔法で出来てるなら私にも似たようなのが作れるかもしれないしな」

 

「作るのか…」

 

「あたしはさっき見たけどな」

 

「なんで妹紅が見てるのよ」

 

「信二があたしを探す時に使ったんだろ」

 

「あぁ、そう言えばそうだったな」

 

「妹紅だけ見てるなんて不公平よ、見せなさい信二」

 

「あーはいはい。…出ておいで、朱雀」

 

信二の呼びかけで姿を現す朱雀。

 

「…やっぱり綺麗ね、この羽」

 

「前から思ってたんだけど朱雀って生きてるのか?」

 

「生きてるよ。ちゃんと自我もあるし」

 

「じゃあなんで信二から出てくるんだ?」

 

「朱雀は元々魔力を持っていた鳥でな。卵から孵化した時に偶然俺が目の前にいて懐かれたんだ」

 

「じゃあ偶然出会ったのね」

 

「ああ、と言っても今はほぼ俺の魔力で体が出来てるけどな。普段は霊体化して俺の中にいるんだよ」

 

「ふーん。そうなると作るのは無理そうだな」

 

「残念だったな魔理沙」

 

「まぁいいさ」

 

「…本当に綺麗な羽だわ」

 

「どうした輝夜。ずっと朱雀を見つめて」

 

妹紅が呼びかけるが反応のない輝夜。

 

「…輝夜おま…」

 

妹紅が再度呼びかけようとした時部屋から永琳が出てきた。

 

「永琳霊夢は?」

 

「薬を飲ませてから良くなってるわ。もう2、3日たてばだいぶ回復すると思うわ」

 

「ふぅー、良かったぜ」

 

「なんやかんやで1番心配してるな魔理沙」

 

「べ、別にそんなんじゃないぜ」

 

「照れんなって」

 

「うるさい!」

 

霊夢が無事なことを知り安堵する2人。だが、その傍らでどこか顔つきが悪いものが1人。

 

「どうした?妹紅。怖い顔して」

 

「いや…なんでもないよ」

 

「そうか。ならいいんだが」

 

何かに煮え切らない様子を残しつつ妹紅は自宅に帰った。魔理沙も霊夢の顔を一目見て家に帰っていった。信二は霊夢が元気になるまで永遠亭に厄介になることにした。

 

そしてその夜…。

 

「どうした輝夜、夜中に俺を呼び出して」

 

信二は夕食中輝夜に、自室に夜中来るように伝えられていた。

 

「ありがとう信二。来てくれて」

 

「それはいいんだが、何か用か?」

 

「…最近私ね、欲しいものが沢山あるのよ。それはもう数え切れないほどに…」

 

語りながら信二に近づいていく輝夜。

 

「輝夜…?」

 

「でも永遠の命を持つ私はどんなに物を集めてもいすれ形あるものは崩れてしまう…」

 

信二の手を握りながら喋り続ける輝夜。

 

「輝夜、お前まさか…!」

 

「けれど最近新しい能力を手に入れたの。万のもの永遠に保存出来る能力よ」

 

「…!」

 

新しい能力を手に入れた…その言葉を聞いて輝夜に異変が起きていると確信した信二は、輝夜から距離を取ろうとしたが急に視界が暗くなって動けなくなる。

 

「信二、私はあなたが欲しいわ」

 

「くそ……かぐ…や……」

 

「だから……永遠に私のものになって、信二」

 

信二の意識はそこで途切れた。



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33話 嵐の前の静けさ

33話です。新生活が始まりました。そのおかげで投稿が遅くなるかと。まぁ気長にお待ちを。


「ふふ、信二…これであなたは私のもの…」

 

(くそ、なんだこれは…!体がいうことを聞かない……)

 

「これからはずっと一緒よ、信二」

 

(輝夜……)

 

 

 

 

 

 

「ふぅーー」

 

朝から1人で大きなため息をついているのは永琳の弟子―鈴仙である。

 

「疲れたな昨日は。霊夢さんも結構危なかったし、信二さん達も慌ててたし…」

 

最初魔理沙が急いで報告してきた時はかなりの衝撃を受けた。冗談とも思ったがあまりの真剣さに本当のことだとすぐに知らされた。

 

(まぁ今は霊夢さんも大丈夫そうだし。……信二さんとお話できるかな…)

 

鈴仙の信二に対するこの態度。そう、鈴仙は信二のことを憎からず思っているのだ。

 

(どこにいるかな〜信二さん……あっ)

 

「おはようございます、信二さん♪」

 

信二を見つけ明らかに上機嫌になる鈴仙。

 

「……」

 

が鈴仙の挨拶に反応のない信二。

 

「信二さん?」

 

「…あぁ、おはよう鈴仙」

 

ようやく鈴仙に気づいたのか遅れて挨拶する信二。

 

「はい。信二さんは今何をするとこだったんですか?」

 

「霊夢の様子を見に行くところだったんだ。鈴仙も行くか?」

 

「はい、一緒に行きましょう」

 

(信二さんと会えた♪……けど信二さんが反応遅れるなんて珍しいな…)

 

少しの疑問を持ちつつ霊夢が寝ている部屋に向かう2人。鈴仙の方はどこか軽い足取りだ。

 

「霊夢、入るぞ」

 

「……」

 

「まだ寝ているみたいだな、あとどれくらいで目を覚ましそうなんだ?鈴仙」

 

「今日中は覚まさなそうですね。早くて明日ってところです」

 

「そうか……」

 

「心配ですか?」

 

「まぁ目を覚まさない限り安心は出来ないな。けど、永琳さんもいるし大丈夫だとは思ってるよ」

 

「師匠の薬はよく効きますから」

 

「あぁ、俺も使ったことがあるんだ。効力はよく知ってる」

 

「そうでしたね。…信二さん、この後お茶しませんか?私白玉楼でのことをまだ詳しく聞いてないですし」

 

「確かに鈴仙はすぐに材料取りに行ってたな。よし、話してあげるよ」

 

「では今に行きましょう」

 

ごく自然な流れで信二と話す機会を作った鈴仙は内心かなり喜んでいた。

 

……その後で2人を見て微笑むものが1人。

 

「どうしました姫」

 

「おはよう永琳。あの二人、仲がいいのね」

 

「鈴仙の態度があからさまですから」

 

「そうね」

 

「………姫、やはり…」

 

「じゃあ私は散歩に行ってくるわ、何か美しいものがあるかもしれないし」

 

「…そうですか。では私も…」

 

「1人で大丈夫よ」

 

「…ではお気をつけて」

 

「えぇ」

 

1人で竹林を抜けていく輝夜。その後を見つめる永琳の目はどこか人を疑うような目をしていた。

 

「…姫様…あなたは()()()()()()()()()…」

 

輝夜のいつもと違う様子を感じつつある永琳。しかし、永琳は輝夜の意見を尊重する。…自分のせいで輝夜はこんなところにいるのだから……。

 

そしてもう1人、輝夜の異変を感じ取ったものがいる。

 

「輝夜……。どうしたってんだ」

 

藤原妹紅である。

 

「…明日ぶっ飛ばしに行くか」

 

随分と野蛮な事を口にした妹紅。しかし、それは妹紅の愛ゆえの言動である。

 

ざわめく動物たち。彼らは感じたのだろう。明日何が起こるのかを。幻想郷の不死鳥の闘気を…。

 

 

 

 

 

 

 

「何やら騒がしいわね」

 

そして輝夜自身も妹紅の怒りを感じていた。



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34話 信二?

34話です。最近バカテスの方もやっと始められました。なのでこっちしか見てないという人は是非見てみてください。


「…動物達が騒がしいわね」

 

夜、永遠亭の縁側で外を眺めながら言う輝夜。

 

「あなたはどう思う?信二」

 

「さぁな。お前のせいなんじゃないか輝夜」

 

「あるいはそうかもしれないわね」

 

「ったく、本当は分かってるんじゃないか?」

 

「何のことかしら」

 

「白々しいな。今のお前は明らかに異常だ。……いつの間にこんなにものを集めてたんだ」

 

信二の見つめる先には沢山の物が置かれていた。美しい装飾品から、綺麗な和服、なかには凛と咲く花までその種類は多岐にわたる。

 

「言ったでしょう。私は永遠に生きる。だから美しいものは朽ちる前に集めておきたいの」

 

「これらにも俺と同じく呪いがかかってるのか?」

 

「呪いなんて失礼ね。この能力は私の愛よ。皆朽ちるのは嫌でしょう。だから私の力でその形を保ってあげてるのよ」

 

「俺みたいに人間に使うと絶対服従になるのか」

 

「まだ分からないわ。人間に使ったのなんてあなたが初めてだもの。でも私に逆らえないのなら好都合。永遠の命になるのかは分からないけど」

 

「くそ、おかげでお前の異変を誰かに伝えることも出来ない」

 

「異変じゃ無いわ、愛よ。…だからあなたも私を愛して信二」

 

信二は輝夜にもう逆らえない。姫に従う従順な騎士であり、奴隷になったのだ…。

 

 

 

 

 

朝信二はまた霊夢の様子を見に来ていた。

 

「……まだ目を覚まさないか」

 

ぐっすりと眠っている霊夢。日に日に顔色は良くなっているが目を覚ます様子はない。

 

「…早く目を覚ましてくれ霊夢。お前ならこの……」

 

異変を解決出来るかもしれない。しかしこの言葉が発せられることは無い。輝夜がそれを望んでいないのだから…。

 

「………!」

 

霊夢の前にいた時不意に気配を感じた。それは殺気か、あるいは存在感か、いや闘気か。とにかく強大な存在が近づいてくるのを肌で感じた信二は咄嗟に外に出た。

 

「……妹紅…か?」

 

信二が感じた存在感の正体は妹紅だった。その顔はいつになく真剣…と言うよりものすごく切れている様子だった。

 

「どうしたんだ妹紅。随分とご機嫌がよろしくないな」

 

「ほっとけ。それより輝夜を呼べ信二」

 

「理由を聞かせてもらおうか」

 

「いつも通りぶん殴りに来たんだよ」

 

「それにしてはこないだとは比べ物にならない殺気を感じるぞ」

 

「………お前は気づかなかったか。輝夜の異変を」

 

「…何のことだ?」

 

「知らないのならいい。早く輝夜を呼んでくれ」

 

「…とりあえず呼んでくるよ……」

 

そう言いながら踵を返した信二が急に立ち止まる。

 

「…………信二?」

 

「……先に謝っとくぞ…妹紅」

 

「何を言って……!」

 

炎を纏いながら妹紅に突撃する信二。妹紅も驚きながらも炎を出して対抗する。

 

「何すんだ信二!」

 

「…輝夜にでも聞くんだな」

 

「輝夜?!やっぱりあいつか!」

 

お互いの炎が次第に強くなっていく。

 

「そこをどけ信二!邪魔するなら容赦はしないぞ!」

 

「どけるもんならそうしてるさ。出来ない理由があるんだよ!」

 

お互い距離をとり妹紅は信二に向かって炎を突き出す。信二はそれを炎で打ち消す。

 

「邪魔だ!不死「火の鳥 -鳳翼天翔-」」

 

鳥型の弾幕が信二に襲いかかる。

 

「『キングバーン』!」

 

周囲を爆発させる魔法で弾幕を弾く。妹紅の攻撃が信二に届かない。信二もまた攻撃を防ぐものの妹紅を襲う様子はない。

 

「……クスッ」

 

その戦いを見物している者がいた。

 

「!輝夜ァ!」

 

「今日はまるで獣のようね…妹紅」

 

「一体信二に何をした!」

 

1度攻撃の手を止めて輝夜に問いかける妹紅。体から炎がにじみ出るほど感情が昂っているようだ。

 

「それが知りたいのならここまで来てみなさい」

 

「上等!」

 

輝夜の元へ向かおうとする妹紅の前に立ちふさがる信二。

 

「くっ!」

 

「流石信二。もう私の立派な騎士ね」

 

「……」

 

「本人が肯定してないようだが!」

 

「否定もして無いわよ。それだけで充分。さて、いつになったらここに来れるかしら」

 

「なめんなよ!」

 

どんどん炎の出力が上がっていく妹紅。しかし届かない。完璧に攻撃を相殺していく信二はまさに鉄壁の壁だ。

 

「1人じゃどうしようも無いのではないの妹紅。加勢でも呼んできたら?けどそんな人あなたにはいないわよね」

 

「それぐらい居るわ!」

 

輝夜に反抗するが段々と体力が落ちてきている妹紅。不死とは言え、体力も無尽蔵にあるわけではない。しかしそれは信二も一緒。このまま平行線だとどちらかが倒れるまで続くだろう

 

「……!」

 

「何ですかこれ?!」

 

信二が一足早く人が竹林から出てくるのに気づいた。薬を人里に配りに行っていた鈴仙が帰ってきたのだ。

 

「ここは危ないからどこかに行きなさい鈴仙」

 

「どうして妹紅さんと信二さんが戦っているのですか!」

 

「私は妹紅と戦いたくないのよ。だから信二が代わりに戦ってくれているのよ」

 

「そんな……本当ですか信二さん!」

 

「………」

 

何も言わない信二。

 

「だから早くどこかに…」

 

「…っ!」

 

輝夜に向かっていった拳銃の弾幕を刀で弾く信二。

 

「…何をしているの…鈴仙」

 

その発言にはどこか怒気が含まれていた。

 

「…信二さんが本当に妹紅さんと戦いたいとは思えません

 

鈴仙には信二が自分からやっているようにはとてもみえなかった。

 

「それに今の姫様からは優しさが感じられません。…私の知っている姫様には見えないんです!」

 

愛する者達のために奮い立つ鈴仙。

 

「私は戦います!信二さんと姫様のために!」



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35話 鈴仙の覚悟

35話です。だんだん投稿頻度が、落ちていくー。上げて行きたいんですけど文字に起こすと難しいですね。全然文が思いつかなかったり。まぁ頑張ります。


本当の事を言うとものすごく怖い。姫様と信二さんは私が本気でやっても絶対に勝てない格上の相手。私が戦っても何の意味もなさないかもしれない。けど、ただ見てるのだけは嫌だった。苦しんでいる2人を眺めてるくらいなら私は戦う!

 

「一緒に戦いましょう、妹紅さん。お二人を助けるために」

 

「鈴仙………頼りにしてるぜ」

 

妹紅は何も語らない。鈴仙がどれだけの勇気を振り絞って2人と対立したのかが分かったから。今も尚震えている鈴仙に多くを語るのは無礼だと知っていたから。

 

「いくぞ鈴仙!」

 

輝夜は何も言わずただ呆然としている。いや、何も言えないのか…。鈴仙が、自分を敬いしたっていた従者が離反するなど今の輝夜には理解できないことだからだろう。

 

そんな輝夜を狙い妹紅が猛進する。当然の如く信二が立ちふさがる。炎と炎のぶつかり合いはやがて爆炎となり、辺り一帯を紅く染め上げる。

 

「っ…!鈴仙…」

 

そんな爆炎に身を隠し信二を狙い撃つ鈴仙。鈴仙の弾幕は拳銃のようなもの。速く、そして的確に狙った所を撃ち抜ける。信二を撃ち抜くことはできなかったが、傷を負わせることができた。

 

「まさかあれを避けるなんて…」

 

「気にするな!相手は信二だ、一筋縄じゃいかない。それより次だ!」

 

「はい!」

 

信二との接近戦は妹紅が、信二の死角となる場所からスナイパーのように狙い撃つ鈴仙。妹紅は鈴仙に炎が届かない様に立ち回り、鈴仙は妹紅の邪魔にならないように、しかし確実に信二を狙える位置に移動しながら戦っている。

 

「…やりずれぇ…」

 

鈴仙は自分の評価が低い。しかしその腕前は決して低くなく、現に鈴仙の加入により着々と信二を追い詰めている。

 

「……………もういい」

 

「「!」」

 

輝夜の声が響く。その声は大きくは無いがしっかりと聞こえた。その声音は怒気を含んでいるのか、それとも悲しんでいるのか、あるいは失望しているのか。ともかく感情の読めない輝夜がゆっくりと妹紅達へ振り向く。

 

「もういいわ。あなた達2人は……」

 

()()()()()()

 

その言葉をきっかけに信二が焔を繰り出す。その質量は今までの比ではない。

 

「鈴仙!」

 

 

 

 

 

 

「………うぅ」

 

「無事か……鈴仙……」

 

「妹紅さん!私を庇って…」

 

「気にするな…。それより気を引き締めろよ。こっからが本番だぞ」

 

鈴仙を庇ったことにより満身創痍な妹紅。不死とはいえ痛覚もしっかりある。それに精神力も無限では無い。徐々に疲弊していく妹紅。しかし立ち向かうことを辞めない。まだその闘志は燃え続けている。

 

「立ち向かうだけ無駄よ。難題「蓬莱の弾の枝 -虹色の弾幕-」」

 

信二だけでも辛いのに輝夜までもがスペルカードを発動する。その弾幕は幻想郷では禁止とされている命を奪う弾幕である…。

 

『デビルバースト』

 

信二も先程と違い技を多様してくる。容赦なしに殺しにかかってきているのだろう。

 

「滅罪「正直者の死」!」

 

「散符「真実の月(インビジブルフルムーン)」!」

 

「鈴仙!2人を止めようなんて甘い考え捨てろよ…。殺す気でいかないと……こっちが殺されるぞ…」

 

「……っ…はい!」

 

一瞬血の気が引いた鈴仙。しかし、もう戻れない。今更泣き言を言ったところでどうにもならない。

 

『紅焔の勾玉』

 

信二が新たな技を使用する。淡い紅色をした玉が信二を中心として散布される。その玉は数秒後に爆発し炎を撒き散らす。

 

「なんだよそれ…そんな技見たことないぞ信二!」

 

それもそのはず。この技は信二が弾幕を参考にして作ったのだから。

 

「でも、これなら…」

 

「甘いわよ鈴仙」

 

「なっ!」

 

妹紅と戦っていた輝夜が鈴仙の背後に向かって弾幕を放っていた。ギリギリで被弾する寸前に同じく弾幕を放ち相殺した。だが相殺した時の衝撃で吹き飛ばされる。

 

「…!避けろ鈴仙!」

 

吹き飛ばされた先に信二が剣を構えて待ち構えていた。このまま行くと鈴仙は……。

 

「蓬莱「凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-」!」

 

信二に向かって最大のスペルカードを放つ。さすがの信二も全力で対処しなければやられる程の超火力。

 

「余裕じゃない、私をほっとくなんて!」

 

しかしそれを信二に向かって撃った。それは輝夜をフリーにする事と同じ。今妹紅が輝夜の手に…

 

「ばーか、お前も道ずれだ!「焔符「自滅火焔大旋風」!」

 

「なっ!」

 

妹紅渾身の自爆。輝夜を巻き込み燃え盛る。

 

「妹紅さん!姫様!」

 

 

 

 

 

 

「ゆる…さない…!」

 

「…くっ、これでもダメか…。タフな奴だ」

 

妹紅最後の技でも輝夜を戦闘不能にすることは叶わなかった。妹紅は全ての力を使い果たしもう動く事が出来なかった。

 

「でもいいわ、あなたはもう動けないから後よ。だから次は……」

 

鈴仙を見て睨む輝夜。次はお前だぞ……と言っているように。

 

(姫様もボロボロだけどまだ戦える。それに信二さんもいる…。このままじゃ…)

 

折れかける心。だが仕方ない、どうしようも無い実力差が確かにあった…。

 

(やっぱり私じゃ…勝てない)

 

自分の無力さに打ちひしがれる鈴仙。そこに輝夜がゆっくりと近づいてくる。

 

「逃げろ鈴仙!」

 

「………さぁ、あなたもこれで………………終わりよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドンドンうるさいわね」

 

「「「「!!」」」」

 

「静かに寝られないじゃない」

 

「……霊夢…」

 

眠れる巫女覚醒。



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36話 主人公の実力

36話です。この章も終盤に差し掛かって来ました。次は風神録か地霊殿か…悩みますね


「何してるのかしら輝夜。どんどんうるさいのよ」

 

「私だけ責めるのは筋違い何じゃなくて」

 

「どう考えてもあなたが元凶でしょ。妹紅はともかく普段のあなたは絶対に鈴仙と対立なんてしないのよ」

 

ゆっくりと縁側を降りる。起きたばかり、病み上がりという状態にも関わらず既に臨戦態勢をとっている霊夢。霊夢は既に気づいている。輝夜の異常を。

 

「それに…何してんのよ信二」

 

霊夢の信二に対する態度は咎めるような、怒ているような。お前だけはそちら側に行っては行けないと。

 

「今幻想郷で起きている異変……それはあなたが関与しているのは明白よ」

 

少しずつ信二に歩み寄る。

 

「あなたが解決しなくては行けない事よ。なのに……なんであなたが異変(そっち側)にいるのよ!」

 

「……すまん、霊夢。俺が情けなかった。けど今は俺の力じゃどうしようもないんだ。だから……俺をぶっ倒してくれ」

 

その想いは信二の心からの願い。

 

「もちろんよ。あなたは絶対に倒す。…あなたを救うために」

 

「信二を救う…ですって…」

 

妹紅の事を忘れて霊夢に怒りを向ける。

 

「その言い方だと私が悪役みたいじゃない」

 

「あら、違うの?」

 

「違うわよ。私はただ欲しいのよ。人も物も、万物すべてが!」

 

「それが悪だと言うのよ。出すぎた欲は裁かれなければいけない」

 

「そうなるとあなたは正義の味方かしら。笑わせないで!」

 

「正義の味方なんかじゃないわ。少なくともあなたよりは正しいってだけ」

 

「あなたには分からないでしょ!何をしても何を手に入れても満たされることが無いものの心が!」

 

「分かるわけが無いわ。…いや、分かろうとしてはいけないのよ、博麗の巫女はどんなものにも平等に接しなければならない。幻想郷の理に今のあなたは反している。あなたを倒す理由はそれだけよ」

 

「……そう、どうやら分かり合うのは無理そうね」

 

「ええ」

 

「だったら霊夢も手に入れるまで!」

 

輝夜の叫びと共に信二の炎が霊夢を飲み込む。

 

「いきなりは卑怯と言うものよ」

 

結界を即座に張った霊夢には届かないが。

 

「信二!殺してもいい!霊夢を倒しなさい!」

 

輝夜の命令により苛烈さが増していく信二の攻撃。その攻撃は逃げ場が無いもの、死角をついてくるものなどもはや弾幕ごっこのレベルを越え本気で敵を倒すようなものばかり。

 

「……なんで、なんでひとつも当たらないのよ!」

 

しかし、その攻撃は何一つ霊夢に当たらない。それもそのはず。霊夢はこの幻想郷において最強の座に最も近い者の一人。数々の修羅場をくぐり抜けてきたのだ。そう簡単に被弾する訳がない。

 

「今までと同じと思わないことね信二」

 

今回の戦いはレミリアの時、幽々子の時とは違う。先の戦いは不意打ちの要素が強かった。だが今回の霊夢は万全の状態で臨んでいる。

 

「…やっぱり強いんだな霊夢」

 

「当たり前よ」

 

「何もたついてるのよ!」

 

痺れを切らした輝夜も弾幕を張る。

 

「霊符「夢想封印」」

 

それは霊夢の代名詞とも言えるスペルカード。原点にして強力なスペルカードである。

 

「…くっ!」

 

「邪魔よ!」

 

対処に手を焼かされる2人。すると突如辺りが暗くなる。その事に気がついた2人は空を見上げる。

 

「まとめて潰してあげる。宝具「陰陽鬼神玉」」

 

巨大な玉。それをぶつけるだけ。それだが強力なのだ。

 

「そんなもの!信二!」

 

『オーバードライブ=デュアル』

 

両手から勢いよく出る炎が玉とぶつかる。質量が質量だけにすぐには相殺は出来ないが押しとどめてはいる。

 

「隙だらけよ」

 

動けない信二に霊夢が特攻する。

 

「…隙はねぇ。『王の御前(キングバーン)』」

 

信二を中心として起こる爆発。予備動作がほとんどないため見分けるのが難しい技。

 

「……なぜ…!」

 

それを霊夢は予知していたかのように結界を張っていた。

 

「博麗の巫女はね」

 

無防備な所をお祓い棒で一閃する!

 

「がっ!」

 

「勘が鋭いのよ」

 

さらに御札を信二にばらまく。それらは信二に当たると爆発し、終いには信二をがっちり拘束する。

 

「くっ……!」

 

「さて、厄介なのが居なくなったわね」

 

「なんで信二が…やられるの!」

 

激昂する輝夜。その姿は思い通りにいかなくて怒る子供のようだった。

 

「……分からないの?」

 

「何がよ!」

 

「信二は全力を出していなかった。いや、力を出さないようにしていたのよ」

 

「は…?そんなはずは…」

 

「恐らくあなたの力に抗っていたのでしょうね。信二が本気を出していたらもっと時間がかかっていたもの」

 

「なんで…なんで信二はそんなことを」

 

「そんなの決まっているわ。今の輝夜に従うものは誰もいないってことよ」

 

「………」

 

辺りを見渡す輝夜。そこにはボロボロの妹紅、鈴仙に信二がいる。そこに輝夜を肯定したものはいない。

 

「さぁいい加減諦め「…ない」ん?」

 

「…りえない」

 

「何?何か言った?」

 

「ありえない!!そんなこと!認めない!!」

 

輝夜の体から黑い鎖が溢れ出てくる。

 

「!なによそれ」

 

「私は全てを手に入れるのよ!!」

 

黑い鎖が霊夢に襲いかかる!

 

「そんな能力あなたには無かったでしょ!」

 

霊夢は鎖を避ける。その鎖は標的を失い地面に激突する。鎖が当たった地面は深くえぐれている。

 

「これは…当たったらやばそうね…」

 

「霊夢がいなければ!お前が来なければ!」

 

輝夜の感情に呼応するように鎖は激しさを、質量を増やしていく。

 

「ちょっと早すぎないかし…ら!」

 

結界を破ってきた鎖をお祓い棒で弾く。その反動はものすごく、霊夢の体制が1回受けるだけで崩れるほど。

 

「消えなさい!」

 

霊夢の直感に実力を持ってしても避けきれない鎖。霊夢を飲み込み叩きつける。

土埃が舞う。

 

「霊夢さん!」

 

(霊夢……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢想天生」

 

戦況は終幕へと向かっていく。



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37話 寄り添うもの

37話です。今回で永遠亭編は終わりです。次回は多分風神録、妖怪の山ですね。待ってくれてる人は気長にお待ち下さい。


夢想転生。それは霊夢の最大のスペルカード。それが無制限で発動出来るとなると()()()()()()()()。だから魔理沙が名前をつけて時間制限があるスペルにしたのだ。それでも発動中の霊夢は…

 

「ここからは本気でいくわ」

 

無敵である…。

 

輝夜が先ほどと同じようにおびただしい数の鎖で霊夢を攻撃する。

 

「知ってるでしょう、効かないわ」

 

黑い鎖は霊夢をすり抜けていく。夢想転生を発動中の霊夢はこの世の理全てから浮く。それは何を意味するか…霊夢に触れられるものは無くなると言うことだ。つまり今の霊夢に攻撃を加えることは不可能なのだ。

 

「……知ってるわよ、実際私が食らってるんだし…」

 

輝夜に向かって自動的に放たれ続ける弾幕。鎖とぶつかり合いお互いに相殺していくが徐々に鎖が追いつかなくなっていく。

 

「でもそれには時間制限がある。なら発動が解けるまで待てばいいじゃない」

 

輝夜は寸前まできた弾幕を避けようとせずに…直撃する。

 

「…輝夜のやつ、まさか時間まで攻撃を受け続けるのか?」

 

「そういうつもりならやめておきなさい。何発も食らって平気な弾幕なんて出してないから」

 

確かに蓬莱人は死ぬ事は無い。だが体力、精神力共に限界はあるし痛覚だってちゃんとある。弾幕を…しかも本気の霊夢のものを何発も受けることは想像を絶する苦痛を伴うだろう。

 

「…本当に受け続けるつもりなのね。いいわ、泣き言言っても聞かないから」

 

弾幕を緩めること無く攻め続ける霊夢。

 

 

なんでかしら

 

弾幕を受けどんどんボロボロになる輝夜。

 

なんで皆は私が異常だと言うの

 

激しさが増していく弾幕により輝夜の体が土埃で見えなくなっていく。

 

誰だって欲しいものくらいあるはずよ

 

何分経ったのだろう。いや、弾幕を受けていた輝夜は経過した時間以上に感じているだろう。

 

それなのに私だけが強欲だと口を揃えてみんなが言う

 

今弾幕が止まり…霊夢が開眼する。

 

確かに人よりは欲が強いかもしれない。けどそれだけで否定されるのはおかしいわ

 

輝夜の様子を伺う霊夢。しかし未だ土埃は晴れず。

 

元々私は死ぬことがない。なら人より欲があってもいいはずよ。私が異常なんじゃない、おかしいのはみんなよ……皆が………皆が!

 

「異常なのよ!!」

 

土埃の紛れて霊夢の後ろから現れた輝夜。その呪い(両手)を霊夢にかざす。

 

「しまっ!」

 

(私が欲しいものを手に入れるには霊夢…あなたは邪魔なのよ)

 

背後を取られていたため若干反応が遅れた霊夢。お祓い棒を振るうがこのままいくとタッチの差で間に合わない。

 

(貴方さえ手に入れればもう私を邪魔する者はいなくなる!)

 

博麗の巫女は幻想郷の理そのものと言っても過言ではない。その最後の抑止力さえ手に入れれば輝夜を邪魔する者はいないと言ってもいいだろう。

 

(霊夢……これであなたも……)

 

 

私 の モ ノ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

輝夜のその手が霊夢に触れられることは無かった。何故か?

 

「矢が……」

 

輝夜の両手が矢に貫かれたから。ではそれは誰が放ったのか?

 

「………永…琳……?」

 

輝夜の視線の先には弓を持った永琳の姿がいた。

 

「ごめんなさい輝夜…」

 

「そん……な…」

 

輝夜は心のどこかで永琳なら絶対に自分を裏切らないと思っていた。ほかの誰に否定されようとも永琳さえいればいいと思っていた。だが今はその永琳も敵に回っている。最後の砦を失った輝夜は完全に戦意を喪失していた。

 

 

「夢想封印」

 

……霊夢の一撃が輝夜を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………姫」

 

「お……きて……姫」

 

 

「……おきてください姫」

 

「………永琳…?」

 

輝夜はゆっくりと目を開ける。輝夜は今永遠亭のベッドで寝ていた。

 

「良かった、無事で。……ごめんなさい姫。私はあなたを……「いいのよ」」

 

「いいのよ永琳。私はあなたを責めるつもりもないし、許さないなんて事もないから」

 

「……ありがとう輝夜」

 

「私の方こそ取り返しがつかなくなる前に止めてくれてありがとう」

 

「私なんて……鈴仙の方がもっと早く動いていた…。師匠失格よ」

 

「そんなこと言わないで。悪いのは私なんだから………。そう言えば他のみんなは?」

 

「妹紅は力の使いすぎで今は寝ているわ、鈴仙はその看病に。信二と霊夢は……」

 

「…大丈夫だって霊夢。1人で歩ける」

 

「だめよ。顔色が悪いもの。無理しない」

 

「……聞こえたとおりよ」

 

「ふふっ。元気なのね」

 

「輝夜ー、起きた?」

 

「えぇ。起きてるわよ」

 

「入るわね。…永琳も一緒だったのね」

 

「何か用かしら?」

 

「分かってるんでしょ。アンタの異変についてよ」

 

「何でそうなったか心当たりはあるか?」

 

「………特にないわ。本当に気がついたらものを集め始めていた。どんどん自分が居なくなっていくような感覚に陥って……あの有様よ」

 

「……そうか。他の時と同じ感じだな」

 

「そうね。これで3つ目か…」

 

「輝夜も災難だったな。輝夜も異変の被害者みたいなもんだし」

 

「そんなことは無いわ。あれは多分私が元々持っていた欲が暴走したもの。半分は自分のせいよ」

 

「そうは言ってもな…」

 

「いいのよ、私のせいってことにしとけば。……まぁ永琳に攻撃された時は流石にこたえたわ」

 

「…すみません」

 

「冗談よ、笑って」

 

(輝夜はもう大丈夫そうだな)

 

「…じゃあ俺らはそろそろ行くな」

 

「もっといてもいいのよ?」

 

「怪我もしてないし何日もいても悪いからな」

 

「それに神社も開けっ放しだし、1度帰りたいのよ」

 

「そう。それじゃあ改めてありがとう信二、霊夢」

 

「私からも礼を。姫を止めてくれてありがとう」

 

「おう、またなんかあったらすぐ呼んでくれよ。駆けつけるから」

 

「頼りにしてるわ」

 

部屋を出ようとすると廊下から急いでいるであろう足音が聞こえてきた。

 

「信二さん!まだ居ますか!」

 

「あぁ鈴仙。これから帰るところだ」

 

「ちょうど良かった、私からもお礼を言いたかったので。ありがとうございました。私一人じゃ今頃どうなっていたか分からなかったですし…本当に心強かったです」

 

「なに、鈴仙が勇気を出したから今があるんだ。鈴仙こそ良くやったな」

 

「そ、そんなこと…」

 

信二に褒められて鈴仙は頬を染める。

 

「信二だけかしら」

 

信二の後ろでジト目で鈴仙を見つめる霊夢。

 

「い、いや!霊夢もありがとうございました!」

 

「…まぁいいわ。元気でね鈴仙」

 

「じゃあな鈴仙。輝夜と永琳さんも」

 

「はい!またいずれ」

 

永遠亭を後にする2人。今回の異変もまた無事に解決をした。…しかし……

 

 

「信二、この異変に限らず紅魔館と白玉楼での異変も」

 

「…あぁ恐らくな」

 

 

 

 

 

 

 

「この幻想郷での異変は俺が来たことで起きてるんだろう。………いや、正確には()()()()()()()()()が起こしてるんだ」

 

信二と共に幻想郷に来たもの。それは信二の因縁の相手であり、信二が倒すべき者。

 

「……どこにいやがる…()()()()()



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幻想廻り〜妖怪の山編〜
38話 一段落したと思ったら


38話です。今回から新章妖怪の山編です。まったりと投稿していくつもりなのでまったりとお待ちを。


「ふぅ…」

 

博麗神社の縁側でゆっくりとした時間を過ごしている信二。永遠亭での異変から2日たちようやく一息つける時間が出来た。

 

「随分とくつろいでるわね」

 

そこに霊夢が茶菓子を持ってきた。

 

「最近忙しかったからな。ゆっくりするのも大事なことだ」

 

「…この間アスモダイをぶっ飛ばしたいみたいなこと言ってなかった?」

 

「それはいつも思ってるさ。けど何処にいるかが分からないし、そもそも俺はまだ幻想郷の地形に疎いからな。無理に探しに行って迷子にでもなったら目も当てられん」

 

ただえさえ幻想郷は色んな場所がある。それに加え迷いの竹林や迷いの森など素人が絶対に迷子になるであろう場所もいくつか存在している。そんなところにまだそこまで幻想郷に慣れていない者が探索に行くとどうなるか……最悪野垂れ死にだ。

 

「そう…。なら次にどこへ行くか決めないと」

 

「どこかいい場所はあるか?」

 

「…なんかそれ観光地を聞かれてるみたいだわ」

 

「そんなつもりは無かったんだけどな」

 

2人で次の目的地を決めようとしていると空から騒がしい声が。

 

「霊夢さーん!」

 

「この声は…」

 

「どうしたの文。騒がしいわ」

 

「騒がずにいられませんよ!今妖怪の山が大変なんです!」

 

「大変…文その話詳しく教えてくれ」

 

「文と知り合いだったの信二?」

 

「はい、この前人里で取材を…ってそんな話は置いといて」

 

一呼吸おく文。

 

「ことの始まりは守矢神社が関係してます」

 

「守矢神社?」

 

ここにきて聞き慣れない単語。そもそも博麗神社以外に神社がある事に驚く信二。

 

「早苗のところが?今度は何をやらかしたのよ」

 

同じ神社だから仲がいいのかと思ったら霊夢の言い方的にそんな事は無いと悟った信二。

 

「実は今あそこの神社は…「霊夢さぁぁーーん!!!」」

 

文が来た時よりも甲高い声で霊夢の名を叫ぶものが1人。

 

「…今日はよく呼ばれるな」

 

「もう!次から次へとなんなのよ!」

 

声の主は博麗神社に着くなり速攻で霊夢に抱きつきならが泣きわめいた。

 

「助けて下さい霊夢さん!!」

 

「あーもう!鬱陶しいから離れなさい早苗!」

 

早苗と呼ばれた緑髪で霊夢と同じ巫女服を着た少女は強引に引き離された。

 

「か、神奈子様と諏訪子様が!」

 

「神奈子と諏訪子がどうしたの!」

 

「変なんですぅー!!」

 

急に来て霊夢に泣きつくお前も大概だぞ…と若干引き気味で傍観(というか話に入れない)信二と完全に存在を忘れられた文であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、取り乱しました…」

 

ようやく落ち着きを取り戻した早苗。

 

「じゃあまず君の名前を聞こう。俺は火渡信二だ」

 

「あ、わたしは東風谷早苗です。守矢神社の巫女をしています」

 

「それで?神奈子と諏訪子に何があったの?」

 

「はい……つい1週間ほど前からですね…」

 

早苗は語る。なんでも守矢神社を司る祭神ー八坂神奈子と洩矢諏訪子の二神が急に信仰を集めることに執着しなくなったのだと言う。神は人の信仰無くしては存在出来ない。自らの生命線と言っても過言ではないだろう。それをしなくなったのだから明らかに異変だと言える。

 

「最初はいつもと比べて熱心じゃ無いなと思ってたんですが…ついさっき…」

 

『早苗…もう信仰を集めなくてもいいよ。早苗も大変だろうから』

 

「って言ってきて…わたし…」

 

また涙ぐむ早苗。

 

「そう……。文のほうは?」

 

「天狗がですね…」

 

文の方はこうだ。元々天狗の中には守矢神社をよく思っていない者達がいるという。天狗はテリトリーに厳しい。急に幻想郷に来た守矢神社を表面的には和解しているが、それでも認めていない者がいる。そこに信仰を集めなくなったことにより力が弱まってきた神奈子と諏訪子。これを機に守矢神社を潰そうとする勢力が現れ始めたのだと。その勢力はどんどん力をつけていき、近いうちには守矢神社に総攻撃を仕掛けるとのこと。

 

「その勢力の中には結構上のお偉いさんもいてですね。私達部下を無理やり勢力に加えようとしてるんです」

 

天狗の世界は絶対的な縦社会。上の命令とあれば基本的には従う他ないのだ。

 

「最近の妖怪の山もなんだか嫌な雰囲気でして、それが拍車をかけている様な気がします」

 

「ふむ…」

 

(信二、これってやっぱり…)

 

(ほぼ間違いなくアスモダイだろうな。そうなれば俺らの出番だ)

 

(…はぁー。付き合うわ)

 

(サンキュー霊夢)

 

2人でコソコソ話している姿を見せつけられる2人。

 

(仲いいなー。付き合ってるのかな)

 

(これは…ネタの予感ですね)

 

「よし、とりあえずその守矢神社に行ってみるか」

 

「え?それって…」

 

「ええ。異変を解決しに行くわ」

 

「……あ」

 

「あ?」

 

「ありがとうございますぅぅーー!!」

 

またも泣きながら霊夢に抱きつく早苗。抱きつきぐせでもあるのだろうか。

 

「あぁー鬱陶しい!」

 

「…仲のいいことで」

 

「どこがよ!」

 



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39話 堕落の神

39話です。もうひとつのssの関係でこっちも遅くなってしまいますね。すいません、なるべく2週間以内には投稿しようとは思うので読んでいてくれている人は応援していただけるなら嬉しいです。


「さっき文が森が嫌な感じがするって言ってたな、具体的にどんな状態なんだ?」

 

守矢神社に向かっている途中で信二が聞く。確かに嫌な感じ…と抽象的に言われては気になるもの。

 

「そうですねぇー。なんというか…ゾワゾワすると言うか…。私も上手く言えないんですが明らかにいつもとは違う様子なんです」

 

「ふーむ、原因はわかってないのか?」

 

「分かってないですね。ただ守矢神社の2神の異変とほぼ同時期に起きたみたいですね」

 

「早苗の方は1週間前だっけ?」

 

「はい…」

 

「輝夜の方とも重なるな」

 

「輝夜さん?永遠亭で何かあったんですか?」

 

「今回の異変と似たような異変が起きてな」

 

「私と信二で解決したのよ」

 

「ほとんど霊夢が解決したんだけどな」

 

「ほーう…これは取材の予感ですね」

 

いつでもいい記事を書こうとする文は根っからの新聞記事なのだろう。もはや職業病を通り越してると言っても過言ではない。

 

「後でにしなさい。そんなことやってる場合じゃないでしょ」

 

「それもそうですよね。……あっ、私はここら辺で失礼します」

 

「守矢神社には行かないんですか?」

 

「これから殴り込みに行くところに入れないですよ。万が一上司にでも見つかったら面倒ですし」

 

「それもそうですね…。射命丸さんの方も頑張って下さい」

 

「私が頑張っても上は納得しませんよ。精々いつ攻撃を仕掛けるかを伝えられるくらいです」

 

「それでも十分だろ。詳しいことが分かったら連絡してくれ」

 

「はい。それでは」

 

文と妖怪の山に入る手前で一旦分かれる。文のことだ、何かあったらすぐに報告が来るだろう。

 

「さて、じゃあ入りましょう」

 

妖怪の山に足を踏み入れる。

 

「どうだ霊夢。何か変わったことあるか?」

 

「うーんそうね。…私はそこまで感じないわね、元々頻繁に来る場所でもないし」

 

「そうか、やっぱり住人しか感じない程度か」

 

けどその微々たる変化が災害を呼ぶことだってある。信二は改めて気を引き締めた。

 

「途中で天狗と合わなければいいんですけどね…」

 

こんな所で天狗とあってしまえば一触即発なんてことになりかねない…と心配する早苗。

 

「そこは大丈夫よ。文が上手くやるだろうし、それに…」

 

 

「この私の前で騒ぎを起こそうとする奴なんてそうそういないわよ」

 

「そ、そうですよね。霊夢さん怖いですもんね」

 

「誰が怖いって?」

 

「既に顔が怖いぞ霊夢」

 

妖怪の山をどんどんと進んでいく。

 

「…なんか静かじゃないか?」

 

信二が違和感を覚えた。聞いていた話によると妖怪の山には数多くの妖怪が住んでいるという。天狗の他には河童が社会を形成してるとか。なのに今はとても静かだ。まるで自分達しか居ないと錯覚する程に。

 

「確かにそうね。河童達も全然見ないし」

 

「昨日までは普通にいましたけど…」

 

「そうなると…天狗と交渉でもしてるのかしらね」

 

「交渉?何のだ」

 

「天狗と河童は共存…と言うより不可侵条約ね、そんな関係にあるのよ。守矢神社を攻撃して山に被害がでたら河童も黙っていないの。河童と争うなんて天狗としても不本意だろうし。だからあらかじめその事を伝えているんじゃないかしら」

 

「その言い方だともうすぐ攻撃しに行くみたいじゃないですか!」

 

「そう言ってるのよ。守矢神社が責められるなんて時間の問題よ」

 

「霊夢は後どれくらいだと予想する?攻められるまでに」

 

「そうねぇ……早くて明後日かしら」

 

「明後日か…だいぶ早いな」

 

「そ、それなら早く神奈子様と諏訪子様に伝えなきゃ!」

 

「ちょっ、待ちなさい早苗…」

 

「行っちまったな」

 

「まったく、急いでも事態は変わらないってのに」

 

「…霊夢も感じてるか?」

 

「えぇ。今回は()()()()()()()でしょうね」

 

これまでの異変の傾向は半暴走状態で暴れている所を抑える…そんな感じだった。しかし今回は違う。ただ対峙するだけでは解決しない。争うだけでは解決しない。そんな予感を信二も霊夢も感じでいた。

 

「…一応急ぐか」

 

「そうね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんで分かってくれないんですか!』

 

守矢神社に到着するなり早苗の怒鳴り声が聞こえた。上手くいっていないのは明白だろう。

 

「やっぱり上手くいってないようだな」

 

「今までと一緒よ。一筋縄ではいかないわ」

 

2人は神社の中に入る。そこには件の3人が言い争っていた。

 

「神奈子様、諏訪子様!このままだと守矢神社は天狗に攻め込まれるのですよ!そうなったら今のお2人は…」

 

「…知っているよ、山のざわめきを聞けばそれくらいは」

 

「なら…!」

 

「でもいいんだよ早苗。もう…」

 

「なっ…!どうして!」

 

「簡単さ。どうでも良くなったんだ」

 

「どうでも……良くなった…?」

 

「そう、どうでもね」

 

「だから早苗ももう好きに生きるといい」

 

「…すべて…ですか。……じゃあ信仰を集めることも?」

 

「あぁ」

 

「…幻想郷での生活も?」

 

「うん」

 

「…私との約束も?」

 

「「………………」」

 

「……そう…ですか」

 

そう言って早苗は力なく逃げ出すように神社の外に出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か?」

 

「…信二さん…」

 

妖怪の山から少し離れたところで早苗を見つけた信二。

 

「大丈夫ですよ…」

 

(…明らかに大丈夫じゃないだろうに)

 

2人の間に沈黙が流れる。

 

「…霊夢さんは…」

 

「文と会ってるよ。天狗の動向についてね」

 

「そうですか……」

 

「……………」

 

「……………約束」

 

「うん?」

 

「約束したんです。幻想郷に来る前に。私を立派な神にしてくれるって。何があっても見捨てないって…。なのに………なのに…」

 

喋りながら涙を流す早苗。先程の事がまだ信じられないのだろう。信頼していた2人に裏切られたことを…。

 

「………見捨ててなんかいないさ」

 

「……信二さん?」

 

「心に刻んだ誓いだけは何があっても忘れない。…2人がどうでも良くなったなんて本当に信じられるか?」

 

「……信じられません…!」

 

その声は小さく、しかし力強かった。

 

「そうだろう。だから目を覚まさせてやるんだ。他の誰でもなく、早苗自身の力で」

 

「私自身の…力で…」

 

「あぁ。信じるんだ。2人を、そして自分自身を!」

 

「…っ……!」

 

「だから立ち上がれ早苗の大切な者のために!」

 

「…はい!私が2人を助け出します!」

 

幻想郷のもう1人の巫女は奮い立つ。自分の大切な者を、日常を取り戻すために。



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40話 予想外の敵

40話です。今回は特に話すこともないので本編をどうぞ。


自らを信じ、愛する者達を信じて奮い立った早苗。その目には先程とは打って変わって希望に満ち溢れている。

 

「よし、そうなったら急ぐぞ。間に合わなくなる前に」

 

「間に合わなくなる?どういう事ですか?」

 

「さっきの早苗の最後の問いかけ…。それにだけ神奈子と諏訪子は返事をしなかった。つまりまだ前の心があるはずなんだ」

 

「…じゃあもし時間が経てば……」

 

「恐らく…もう取り返しのつかないことになる」

 

「……なら、そうなる前に元に戻します!」

 

「…そうだな!」

 

信二は思う。この短時間で早苗は強くなったと。もうへこたれる姿は見せないのだろうと。

 

「よし、それなら今すぐ守矢神社に………」

 

「信二さん?どうしたんですか?」

 

信二は小さな声で早苗に伝える―誰かがいると。

 

「…誰だ!コソコソしてないで出てこいよ!」

 

影から出てきたのは緑色の髪に帽子をかぶり大きなリュックを背負った少女……いや、河童の河城にとりだ。

 

「にとりさん!」

 

「わざわざ隠れてこっちを観察して…なんか用か?」

 

「……私は人間(お前達)を守りたいんだ」

 

「守りたい?一体何の話だ?」

 

「知ってるだろう、天狗のことを」

 

「…あぁ、それがどうした」

 

「天狗があんなに揃って攻めにやって来るんだ。お前達だけじゃひとたまりもない」

 

どうやらにとりはこれから信二と早苗がやろうとしていることが分かっているようだ。

 

「お前の言いたいことは大体分かったがひとつ解せない。何故人間(俺たち)を守ろうとする」

 

「私は人間は盟友だと思ってる」

 

「…初対面でもか?」

 

「初対面でもだ。だから行って欲しくないんだ、守矢神社に」

 

「にとりさん、それは神奈子様と諏訪子様を見捨てろと言ってるんですか!」

 

「……そうだ。仕方ないだろう、このまま天狗と戦うことになったら絶対に酷い目に会うぞ。それに元々あの2人が信仰を集めなくなったからこんな事態になったんだ、自業自得だろ?」

 

「そんなことありません!絶対に何かあるんです!じゃなければお2人があんな事になるはずがありません!」

 

「………心配してくれてありがとう。だが俺たちは行かなきゃ行けないんだ、止めてくれるな」

 

「……そうか。いや、そんな気はしていたんだけどな」

 

「ではにとりさん、私達は行きます」

 

「………あんまり手荒な真似はしたくなかったんだけどなー」

 

「っ?!早苗!」

 

信二は早苗を囲むようにして炎を出す。

 

「信二さん?!何を…」

 

「あっちち!そんなこと出来るのか」

 

「え?にとりさん…?」

 

未だに状況の飲み込めない早苗。今何が起こったのか?にとりが早苗に向かって弾幕を放とうとした。それを信二が防いだのだ。

 

「大丈夫か早苗」

 

「どうしてにとりさんが……」

 

「大方天狗と契約したんだろ。どんな内容かは知らんがな」

 

「……ばれたか。まぁいいや。…大人しく捕まってくれよ。さっきも言ったけど手荒な真似はしたくないんだ」

 

「ならそっちが邪魔するのを辞めたらどうだ?」

 

「駄目か。仕方ない……多少傷つけたらごめんな」

 

「な?!」

 

「……どうなってんだそれ」

 

突然何も無い空間から河童達が次々に現れる。これは河童が作り出した光学迷彩。今まで姿を隠していたようだ。

 

「…上等だ!行くぞ早苗、ここを突破しなけりゃ守矢神社は壊滅だ!」

 

「はい!絶対に押し通ります!」

 

信二は炎を展開する。早苗はスペルカードを出す。河童達を蹴散らしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……本当にこの数を前にして諦めないんだね」

 

戦い続けている信二に早苗。しかし河童の数は多く、一向に前に進まない。

 

「にとりさん!さっき言っていた私達を心配していたのは嘘だったんですか!」

 

早苗はにとりに問いかける。確かめずにはいられなかった。……また信じていたものに裏切られたのかと言う不安があったから。

 

「嘘じゃないよ、本当に天狗を相手にして欲しくないし、手荒な真似はしたくない」

 

「………でも通してはくれないんですか」

 

「そこは天狗との契約だから」

 

(いや、あれはどちらかと言うと脅迫に近かったけどね)

 

だんだんと数に押され始める早苗。

 

「くっ…!多勢に無勢ですね……」

 

「朱雀!諦めんなよ早苗!」

 

信二は朱雀を早苗への加勢に出す。朱雀自身も炎を出したりとそれなりに戦闘能力はある。

 

「諦めませんよ!」

 

持ち直す早苗。弾幕を出す手を緩めずに攻め続ける。前だけを目指して。

 

『くそ、諦めが悪いな!』

 

『………にとり、もうあれを出すしかないぞ!じゃないと本当に突破される!』

 

「…そうだね、使うしかないか………」

 

どんどん数が減っていく河童。絶望的かと思われたこの戦況も終わりに近づいてきた。このまま行けば突破することができ………

 

バァン!

 

「っ??!!」

 

戦場に鳴り響いた甲高い音。その音と共に信二の右腕が貫かれる。

 

「信二さん?!」

 

「…これは拳銃って言ってね、外の世界での兵器なんだ」

 

「……なんでそんなもん持ってるんだよ」

 

…1体1の戦いであったら拳銃くらい避けられただろう。しかし、乱戦が呼んだ混沌が信二の判断を一瞬遅らせた。その一瞬があれば十分。拳銃とはそういう武器だ。

 

「外の世界から流れてきた物を改造したんだ」

 

「改造……道理で威力が高いはずだ…」

 

信二は戦う時に魔力を体全体に纏いながら戦っている。そのため普通の拳銃だったら傷はつくが貫通はしない。その魔力の膜を軽々と貫いたにとりの拳銃はかなりの威力を持っている。

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

そう言いながらもう一度引き金を引くにとり。今度は信二の左足に貫通する。

 

「ぐぁぁ!!」

 

「や、辞めてくださいにとりさん!信二さんが苦しんでいます!」

 

信二の前に庇うようにして訴えかける早苗。

 

「じゃあ大人しくしてくれ」

 

「っあ?!」

 

早苗の後ろから弾幕が直撃する。他の河童が打った弾幕をもろに受けた早苗はだんだんと意識が薄れていく。

 

(…神奈子…様……諏訪子………さ…ま)

 

意識を失いその場に倒れる早苗。

 

「悪く思わないでくれ。恨むなら天狗を恨むんだな」

 

信二にも弾幕が出される。…そして無慈悲にもその弾幕は信二の意識を奪う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(頼んだぜ………()()………)



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41話 もう一人の主人公

41話です。最近リアルが忙しくてあまり進められません。ゆっくり投稿になると思いますがご了承を。、


「にとり、どうするこの2人」

 

河童が目の前に横たわる2人__信二と早苗を指さして言った。

 

「とりあえず縄で縛っておこう。明日までは目覚めないと思うけど念の為ね」

 

それと見張りも何人か付けといて。そう言い残しにとりはその場をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし恐ろしいやつだったな」

 

見張りの1人がもう1人に語りかける。

 

「本当だよ。怪我人も多かったし。1人であそこまでやるとは…」

 

「私も火傷しちゃったよ」

 

「災難だったね、いくら天狗との契約とはいえ骨の折れる仕事だったわ」

 

2人の監視も程々に雑談を始める。だかそれも仕方ない。まず至近距離からの弾幕。死にこそしないがほぼ手加減なしの一撃、それを頭に打ったのだ。少なくとも今日中に目覚めるとは考えずらい。もう1つ、猛威を振るっていた信二は腕と足それぞれに大怪我を負っている。河童達が軽い治療をしているがとても戦線復帰出来るとは言えないだろう。

 

「ふぅー、しっかし暇だな」

 

2人が倒れてから既に数時間経っている。

 

「確かにそうだな。誰か見張り変わってくれないかな」

 

「それならワタシが変わってやろうか?」

 

「本当か?助かるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「え?」」

 

見張りの河童が気を失いその場に倒れる。何故か?

 

「全く、また異変に巻き込まれたのか信二」

 

………魔理沙(救世主)が現れたからだ。

 

「って言っても聞こえてないか。おい信二、起きろ」

 

信二の顔をペちペち叩いて起こそうとする。

 

「……うっ……魔理沙か、来てくれたか」

 

「朱雀が追いかけ回してきたからな、文句のひとつでも言おうと思ってたんだ」

 

そう、魔理沙がこの場に訪れたのは偶然などでは無い。にとりの銃により腕を貫かれた時に信二は既に突破できないと確信していた。そのため朱雀を飛ばし救援を呼んでいた。状況を瞬時に把握でき、実力もありなおかつ動きの速い者…それを満たすのが魔理沙であった。

 

だが1つ問題もあった。それは魔理沙が幻想郷の特定の場所にいないこと。朱雀が家に訪れてもおらず紅魔館に訪れてもおらず人里にもおらず……どこに行こうか悩んでいた矢先偶然空を飛んでいる魔理沙を発見。今に至るのだ。

 

「にしても酷くやられたな」

 

「あぁ、けどここで立ち止まっているわけには…っつ!!」

 

立ち上がろうとして足に力を入れると体全体に広がる痛みに思わず顔をしかめる。見た目以上に内部の損傷がひどい。止血は河童達により行われているがとても動けるような状態ではない。

 

「おいおい、無理すんなよ。素人目から見ても重傷だぞ」

 

「それは分かってるが…」

 

痛みをこらえてなんとか立ち上がる。立ち上がるだけでこれ程の痛みを伴うのだ、戦闘はほぼ不可能に近い。さらに動くことによって傷が開き悪化する恐れがある。

 

「はぁー、信二今から永遠亭に行ってこい」

 

「それが1番の得策だろうけど今行くわけには行かないんだよ」

 

信二は魔理沙に話した。今回の異変の内容と天狗について。これから守矢神社を守らなければならないのに自分がいなくては勝率が下がると。

 

「…信二の言い分も分かった。()()()()()()()()()()

 

「だからこそ?」

 

「そんな深手負ったやつが戦闘に出ても足でまといになるだけだ。だからすぐに行ってすぐ治して戻ってこい。それまではワタシが守矢神社を守ってやる」

 

「…そうか、そうだな。魔理沙が居れば百人力だな」

 

「当然だぜ!」

 

信二は託す。そして決意する。絶対に戻ってくると。

 

「じゃあ俺はすぐに永遠亭に行ってくる。これからの予定は早苗と話し合ってくれ。それとどこかに霊夢もいるはずだ」

 

「あぁ、分かった。それじゃあ行ってこい」

 

「行ってくる」

 

信二は空を飛び永遠亭を目指す。残された魔理沙がやる事は

 

「……とりあえず早苗を起こすか」

 

またも顔をぺちぺち叩いて起こそうとする。

 

「起きろー早苗ー」

 

「………うぅん、……魔理沙さん?」

 

目を覚ました早苗はまだ状況が読めないのかボーとしている。

 

「大丈夫か?」

 

「………!」

 

と、急に飛び起きる。そして魔理沙にずずっと近寄る。

 

「うぉ?!」

 

「魔理沙さん、なんでここにいるんですか!他の河童達は!信二さんは!」

 

「お、落ち着け。1つずつ話すから、とりあえず離れてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうですか、信二さんは永遠亭に」

 

「必ず戻るって約束したんだ。心配しなくても大丈夫だ」

 

「…ですね」

 

「よし、まずは霊夢と合流しよう。話はそれからだ」

 

「はい、と言っても何処にいるんでしょう?」

 

早苗は守矢神社から飛び出す形でここに来たのだ。当然霊夢が何処にいるかなど知っているはずもない。

 

「とりあえず守矢神社でいいんじゃないか?」

 

「そうですね、他に行くところも無さそうですし」

 

2人は守矢神社を目指して歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら。戻ったのね早苗。遅かったじゃない。…魔理沙はいつの間に来てたのよ」

 

守矢神社に着くとそこには手に沢山の御札を持った霊夢がいた。

 

「あれ?信二は?」

 

早苗は今まで起こったことを霊夢に報告する。

 

「…そう、大変だったわね」

 

「霊夢こそ何してたんだ?」

 

「文から情報を聞いていたのよ。それで決まったみたいよ、攻めてくる時間が」

 

「そ、それは何時ですか?」

 

早苗が恐る恐る聞く。

 

「明日の正午……それが攻めてくる時間よ」

 

「正午……はやいですね」

 

「元々準備がなされていたらしいから、早くても不思議じゃないわ」

 

重くなる空気。その空気に耐えかねて魔理沙が質問する。

 

「……さっきっから何してんだ霊夢?」

 

霊夢は御札を使って何やら作業をしている。

 

「結界を張ってるのよ。攻めてくる数が多いから守りきれる自信が無いのよ。だからあらかじめ多少強力な結界を張ってるの」

 

なるほど…と頷く魔理沙。

 

「早苗、あんたも手伝いなさいよ。わざわざ追加の御札を博麗神社から取ってきたんだから、後で請求するわね」

 

「は、はい。守矢神社が守れた時はお礼をさせてもらいます」

 

早苗も霊夢に促される形で結界を張る準備をする。これは同じ巫女だからこそ出来ることであるため魔理沙に出来るとはない。そのため魔理沙は暇を持て余していた。

 

「……なぁ霊夢、なんか手伝えること…」

 

「ないわ、黙って見てなさい」

 

「…………」

 

「…………」

 

「あー!こっちは暇なんだよなんか構えよ!」

 

「うるさいわね!どんなわがままよ!」

 

睨み合う2人。まさに一触即発。

 

「あ、あのーお二人共喧嘩は…」

 

早苗の言葉によりお互いに引く。

 

「はぁー、ここに居ても仕方ないか。ワタシは一旦帰るぞ。日も落ちてきたし」

 

魔理沙の言う通り既に日が暮れかけていた。

 

「そうね、その方がいいかもね。明日寝坊するんじゃなわよ」

 

「誰がするか!」

 

そう言いながら飛び立ち去っていく。

 

魔理沙が帰った後も作業を続ける2人。

 

「…霊夢さん」

 

「何?」

 

「どうしてそこまで守矢神社にしてくれるんですか?」

 

早苗には不思議だった。あの面倒臭がりの霊夢が自ら進んでここまで準備するのが。それに守矢神社は博麗神社にとって同業者、つまりライバルだ。そこまでよく思ってないのも事実。なのに霊夢がこれ程までに働くのが、何がそこまで突き動かしているのかが分からなかった。

 

「何よ、藪から棒に。異変が起こったら解決するのが巫女の役目でしょ」

 

(昔最後の最後まで動かなかったことがあったような…)

 

「それに」

 

「それに?」

 

「こんな神社でも無くなったら信二が悲しむもの」

 

表情1つ変えずにそんなことを言う。そんな発言で早苗は気づいた。

 

(あぁ、なるほど。霊夢さん信二さんに惚れてるのか)

 

そこに自覚があるかは知らないがそれだけは自信を持って言えるだろう。

 

「…なにニヤけてるのよ」

 

「いえ、なんでも無いですよ」

 

今後霊夢をからかうネタが出来た早苗の表情が緩む。

 

「ムカつくわねその顔。1回ぶっ飛ばすわ」

 

「そんな理不尽な!」



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42話 開戦

42話です。前書きで話すことは特に無いです。強いて言うならバカテスの方も見てくれたら嬉しいです。


早朝。まだ小鳥がさえずってる爽やかな時間。いつもはそんな時間に起きない魔理沙が珍しく起きて守屋神社を目指していた。

 

「ふぅー、いい朝だな。異変さえ無ければもっと最高だったんだけどな」

 

箒に跨り1人愚痴をこぼす。

 

「お前もそう思うだろ、()()()

 

いや、1人では無かった。魔理沙の後にもう1人空を飛んでいる者がいた。魔理沙と同じ金髪をしていて、魔理沙やパチュリーと同じく魔法使いの少女。

 

「そうね、魔理沙が突然家に来なければもっと良かったわ」

 

名をアリス・マーガトロイド。七色の人形遣いだ。

 

「そう言うなって。ワタシが来て嬉しいくせに」

 

「冗談言わないで。まったく、いつも人を振り回すんだから」

 

「それはそれで楽しいくせに」

 

「楽しくない!」

 

何故魔理沙がアリスと一緒にいるのか。それは昨日の晩魔理沙がアリスの家に押しかけたのが始まりだった。

 

 

 

 

『おーすアリス。邪魔するぜ』

 

『…突然なんの用魔理沙』

 

『晩飯を貰いに来た。後寝るためだな。家よりこっちの方が綺麗だし』

 

『人の家を宿みたいに言わないでよね』

 

『そんな訳で中に入らせて貰うぜ』

 

『ちょっ!』

 

アリスの話をまるで聞かない魔理沙。それでも晩御飯出し、布団を使わせてくれるアリスも大分甘いのだが。

 

次の日

 

『よしアリス、異変解決に行くぜ!』

 

『はぁ?!異変なんて聞いてないわよ』

 

『森にこもってるからだ。ほら支度しろ』

 

『待って、もしかして今から?!』

 

『そうだ、モタモタしてると置いてくぜ』

 

『あっちょ!待ちなさい!』

 

 

現在に至る。

 

「はぁー…」

 

「どうしたため息なんてついて。可愛い顔が台無しだぜ」

 

「誰のせいよ……」

 

「さぁ、心当たりがないな」

 

(こいつ…!)

 

魔理沙に若干の怒りを覚えながらも守矢神社を目指す。魔理沙がアリスに会ったのはきちんとした理由がある。端的に言えば助っ人である。腕利きが4人居るが内2人が負傷している。多勢に無勢と言う言葉があるように魔理沙も戦力差的に無理だと思ったのだろう。そのため実力があり異変にも手を貸してくれそうな者を考えた。結果がアリスであった。

 

「ほら、もうすぐ着くぞ」

 

「着くって…妖怪の山?てかどんな異変かまだ聞いてないんだけど」

 

「それは後でだ。まずは守矢神社に行くぞ」

 

守矢神社に降り立った2人。そこには既に霊夢と早苗の姿があった。

 

「おーす、2人とももう居たんだな」

 

「おはよう。私も今来たところよ」

 

魔理沙と挨拶を交わしていた霊夢が後ろにいるアリスに気が付いた。

 

「アリス?どうしてここに?」

 

「魔理沙に事情も聞かされずに連れられたのよ」

 

「…説明ぐらいしてあげなさいよ魔理沙」

 

「これからする予定だったんだよ」

 

魔理沙をジト目で見つめる2人。しかし魔理沙は気にも留めない。

 

「それで守矢神社がどうしたの?」

 

〜少女説明中〜

 

「そう、そんな事が。それで早苗は落ち込んでるのね」

 

後ろ姿に哀愁漂う早苗を見てアリスが言う。

 

「いや、それもあるんだけどね…」

 

「他になんかあるのか?」

 

「…昨日結界を張り終わって神社の中に入ろうとしたんだけど()()()()()()()()

 

「入れない?どういう事だ?」

 

「私も訳が分からないわよ、結界がされているような感じで弾かれるのよ」

 

「弾かれる?どうやっても?」

 

「えぇ。弾幕を打っても物理で殴っても入れる様子が無かったわ。まるで私達を拒絶してるみたい」

 

「なんだそれ」

 

「不思議なこともあるのね」

 

「それで早苗は昨日からずっとあれよ」

 

早苗は神社の中の神奈子と諏訪子を見つめている。

 

「…とりあえずそっちは原因不明だからまずは天狗達だな」

 

「そうね。そっちも一筋縄では行かなそうだし」

 

霊夢、魔理沙、アリスの3人は戦闘の準備をする。白狼天狗達だけならそこまで苦戦はしないだろうが他の天狗も大勢くると言う。そのため今からスペルカードを作っておくのだ。

 

「ほら早苗。そうしてても解決しないんだからあんたも準備しなさい」

 

「…………」

 

「だめねこれ」

 

「けど早苗が居ないとかなりきつくなっちゃうぜ」

 

「3人で大勢の天狗は無理ね」

 

「ほら、早く支度しなさい〜」

 

霊夢に引きずられて渋々準備を始めた。

 

「……はぁー。早苗あんた神奈子と諏訪子を戻す気無いの?」

 

「え?そんな訳……」

 

「じゃあもっとシャキッとしなさい。天狗に押し通られたら負けなのよ。分かってる?」

 

「わ、分かってますよ」

 

「なら今出来ることを全力でやりなさい!そんな状態の早苗なんかはっきり言って邪魔なの」

 

「…………」

 

「それともあんたはあの2人が居ないと何も出来ないなんちゃって神様なのかしら?」

 

「…(イラ)そんなこと無いですよ」

 

「そうかしら。傍から見たら親に会えなくてぐずってる子供そのものよ。いつまで早苗さんはお子様なんですか?」

 

嫌味たっぷりの顔で早苗を煽った霊夢。すると早苗の体が震えだし…

 

「あぁー!!分かりましたよ!やりますよ、やってやりますよ!天狗がなんですか、そんなもの全員蹴散らしてやりますよ!!」

 

霊夢への怒りを原動力に。先程とは打って変わって勢いに任せて支度を始める。

 

「まったく」

 

「他にやり方は無かったのか?」

 

「ある訳ないでしょ。少なくとも私にはあれしか思いつかなかったわ」

 

「けどやる気が出たんだから結果的にはいい作戦だったんじゃない」

 

「……それもそうだ」

 

支度をしている早苗の表情には怒りの反面、どこか笑みを浮かべている様な表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…さて、そろそろね」

 

時刻は正午一歩手前。天狗達が攻めてくるまで残すところあと僅かというところ。

 

「久しぶりに暴れるぜ!」

 

「暴れるのはいいけど私達にも被害を出さないでよ」

 

「そんなヘマこのワタシがした事あるか?」

 

「何度か」

 

「……善処するぜ」

 

人数が少ないため作戦という作戦はないが、一応高火力.広範囲の攻撃が出来る霊夢と魔理沙を前に。その後をアリスと早苗が守るといった布陣で立っている。

 

「……どうやら来たみたいね」

 

霊夢が何かを感じ取った。そしてそのすぐあとに天狗達の姿が見え始めた。

 

「………本当に居たんですね」

 

霊夢に話しかけたのは白狼天狗の犬走椛。霊夢達が待ち構えているのを知っていた様だ。

 

「あんた達私の許可なく面倒なこと起こしてんじゃ無いわよ」

 

「それは私達の上司に言ってください」

 

睨み合いをしながら話し合う2人。後ろの天狗達はすでに臨戦態勢だ。

 

「……それで、これからどうなるか分かってるの?」

 

「一応」

 

「そう。なら……」

 

スペルカードを構える霊夢。

 

「あんた達全員退治してやるわ!」

 

その言葉を皮切りに、今守矢神社を懸けた戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてここにも戦士が1人。

 

「もう、まだ完治してないんですから無茶しないで下さい!」

 

「分かってるって」

 

炎の様な闘志を燃やしている男が1人。

 

「………今行くぞ皆」



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43話 篭城戦

43話です。気がついたらもう8月も後半。早い。夏休みが終わってしまう…。普通に嫌ですね。


「まったく霊夢は!もうちょっと話し合おうとは思わなかったの?」

 

アリスの不満が霊夢に投げかけられる。

 

「ちゃんと話し合ってたじゃない!向こうがそうそうに却下したの見てなかったの!」

 

天狗達の攻撃を躱し、相殺し、反撃しながら答える霊夢。なんとも器用と言うか余裕があるというか…。

 

「そんな風には見えなかったけど……ね!」

 

アリスもまた天狗達と戦いながら律儀にも霊夢に文句を言っていた。

人形を何体もだして攻撃範囲を広くして応戦している。確実に一人を倒すと言うよりは一人でも多く足止めをする…そんな戦い方だ。

 

「お前ら真面目に戦え!早苗は喋らず真面目に戦ってるってのに」

 

「私は……余裕が無いだけです!」

 

早苗はまさに手一杯といった感じである。だが普通ならそれが当たり前であり、話す余裕がある3人の実力が飛び抜けているだけである。

 

天狗達もまた攻めあぐねてる。相手が実力者というのも1枚かんでいるが理由は他にもある。敵に対して自軍の量が多いこと。敵がよく味方の影に隠れて迂闊に攻撃出来ない状況なのだ。

 

しかし、それでも圧倒的な兵力の差はそう簡単に覆せるものではない。

 

「くそ、量が多過ぎる!どいてろ霊夢、ワタシが一気に吹き飛ばして…」

 

魔理沙がお馴染みマスタースパークを放とうとすると白狼天狗が盾を持ち数人で捨て身の突進をしてくる。

 

「くっ…!邪魔だ!」

 

至近距離まで迫ってきては爆発に巻き込まれると判断した魔理沙は即座に別の弾幕に切り替える。

 

「霊符「夢想封印」」

 

霊夢も1番得意な弾幕を発動する。

 

『全員でかかれ!』

 

『『『はぁぁぁ!』』』

 

「……そこまで効果なさそうね」

 

その弾幕に対して何十人もの天狗が弾幕をぶつける。10数人の被害は出ているもののその程度である。霊夢の力を持ってしても天狗達を一掃することが出来ない。

 

「もぉー!こんな大変だなんて聞いてないわよ魔理沙!」

 

「ワタシだってもっと楽だと思ってたよ!」

 

もし今戦っているのが有象無象の連中ならすぐに終わったかもしれない。しかし今戦っているのは天狗。一人一人の力もそれなりに強いが、何よりも連携に優れている。そうなると1人を倒すのにも時間がかかる。

 

「アリス、あんたもっと人形出しなさいよ」

 

「これが限界だって!……っ、糸が!」

 

アリスが人形を操るために張っていた糸が突如として切れる。

 

「……あーやー」

 

アリスの糸は決して柔なものではない。それを一瞬にして切り裂くような芸当ができるのは天狗の中でも限られてくる。

 

「あややや、勘弁して下さい霊夢さん。こっちにも立場ってもんがありまして」

 

文は守矢神社を攻撃するのには反対派だった。しかし立場上天狗達の目の前で裏切るような行為はできない。なので仕方ないと言えば仕方の無いこと。

 

「問答無用よ、裏切り天狗め」

 

「流石霊夢さん、理不尽ですね!」

 

……まぁ霊夢には関係ないことだった。だが文も幻想郷の中ではかなりの実力者。霊夢の攻撃に無差別に巻き込まれる者はいるだろうが基本的に一体一の状況にもってかれた。これは早苗側にとっては相当な痛手である。

 

「アリス、早く糸貼り直せ!」

 

また糸が切れて無防備となったアリスのカバーには魔理沙が行っていた。瞬時にアリスを箒の上に乗せて飛び回った。

 

「あともうちょっと踏ん張って魔理沙!………よし、再出撃よ!」

 

「よし、この状況だとお前が重要だからな!もう糸切らすなよ」

 

「急に連れ出しといて変なプレッシャーかけないでよね!」

 

「そんなもん感じないくせに、とっとと行ってこい!」

 

「ちょっ!そんな急に落とさないで……!」

 

まだ完璧に体制が整ってなかったのにも関わらず箒から蹴落とす魔理沙。アリスは叫びながら戦場へと戻された。

 

(さて、さっきから音信不通な早苗でも手伝っ『後で覚えておきなさい魔理沙!』てやるか)

 

魔理沙の図太さも中々のものである。叫ぶアリスを無視して早苗を探す。するとそこには魔理沙の予想通り若干ボロボロの早苗が天狗達相手に苦戦していた。

 

「今助けてやるぜ早苗!魔符「スターダストレヴァリエ」」

 

「え?魔理沙さ……」

 

早苗が振り返ると無数の星の弾幕が天狗達に降り注いだ。

 

「ってうわぁぁー!」

 

………例に漏れず早苗にも。

 

「ちょっと魔理沙さん、危ないじゃないですか!私を倒したいんですか?!」

 

「おいおい、そんな興奮すんなって。お礼は後でいいから」

 

「あげませんよ!怒ってるんですよ?!」

 

「まぁまぁ、それはそうと……敵から目を逸らすな!」

 

「えっ、あ、はい!」

 

白狼天狗の攻撃を魔理沙が早苗を押す形で躱させる。

 

「いや、目を逸らしたのも魔理沙さんのせいですよね?!」

 

「人のせいにするなよ。ちゃんと助けてやったろ」

 

「他に方法はなかったんですか!」

 

言い合いをしながらも戦い続ける。

 

これだけ激しい戦いなのに守矢神社には傷一つついていない。それは霊夢の結界のおかげだ。しかしこの強固な結界にも弱点がある。

 

『いい?この結界は四つの核となる御札によって作られてるの』

 

『守矢神社の四隅にあるあれか』

 

『そう。あれがあるから強い結界になるの。でもその御札が1枚でも剥がれたら途端に強度が弱まるわ。だから御札の傍で戦わないように注意して』

 

『りょーかい』

 

『でも天狗に見つかったらすぐに剥がされちゃうんじゃない?』

 

『一応見つけづらくはしてるけど……そこは結局のところ運ね。勘のいいヤツがいないことを祈るしかない』

 

結界は強固だが破る方法は簡単なのだ。結界が破られてしまったら流石に守りきることは不可能だろう。

 

しかし、天狗達も結界を破る方法を模索している。解除のされるのももはや時間の問題なのかもしれない。

 

「秘術「忘却の祭儀」!」

 

「魔符「ミルキーウェイ」!」

 

弾幕をばら撒きなるべく1箇所に留まらないように攻撃していく。その場で止まっていれば囲まれてしまうため。さらに天狗の注意を引くためでもある。

 

(……ん?あいつどこ見てるんだ?)

 

魔理沙がふと目にした天狗がいた。その天狗は倒すべき標的である魔理沙達には目もくれず何かを探すように地面を這っていた。

 

(まさか……!御札をさがしているのか!)

 

魔理沙は急いでその天狗に向かう。しかし他の天狗達が露骨に道を塞ぐ。まるで守るように。

 

「くそ、早苗!あそこの天狗が見えるか」

 

「見えます…けど」

 

「あいつを倒しに行くぞ、放っておいたらまずい気がする!」

 

「そう、したいのは、山々なんですが…」

 

早苗は今は動けるような状態ではない。今少しでも他のことに気を取られたらやられる。そんな状況なのだ。

 

(早苗は無理、アリスも近くにはいない…)

 

「おい霊夢、いつまで戦ってるんだ!」

 

「うっさいわね、意外と本気なのよこいつが!」

 

「じゃないと怒られますから」

 

誰も加勢には来れない。魔理沙は必死に向かおうとするが中々前に進めない。

 

「どけお前ら!」

 

半ば捨て身で、やけくそに突破しようとするが、遠く及ばず。そしてついに…。

 

『っ!あったぞ、これだ!』

 

……隠していた御札が見つかった。



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44話 希望の炎

44話です。本当は八月中に出したかったんですが無理でした。テストさえなければ…。


『あったぞ、これだ!』

 

ついに見つかってしまった。守りの要の結界。それらを強固なものにしている御札が。

 

天狗の声を聞いた四人は戦慄する。これまでの戦いで確実に天狗は減っている。残すところ後数百といったところか。しかしそれは守矢神社の欠損を気にしなくて良かったための戦績であって、もしここで御札が剥がされるーーつまりは結界が破られたら一気に形勢が逆転する。

 

そのため絶対に剥がされてはならない。ここまで来て全てが水の泡になったなぞ受け入れられる筈がない。……特に早苗には。

 

『これを剥がせばいいのね』

 

天狗が御札に手を伸ばし剥がそうとする。

 

『っ?!剥がれない!』

 

しかし御札が簡単に剥がれない。これはもしもの時の為に霊夢がとっていた策。霊夢以外の者が御札を剥がそうとすると急激に固くなる。自信家でずぶとい霊夢も流石に御札に何も細工をしないのは危険と判断した。

 

だがそれも緊急の時のための措置。あくまで予想外の状況になった時に一時的に凌ぐ手段でしかない。つまりは長くは持たない。

 

けどその稼いだ数秒。されども数秒、ギリギリのところで天狗の前に人形が現れる。

 

「そこをどきなさい!」

 

アリスの人形の攻撃が刺さる。ギリギリのところで耐え忍んだ。

 

「ナイスだアリス!」

 

なんとか最悪の事態は避けられた。だが御札の場所がバレたためこれから天狗総出でかかってくるだろう。

 

「ここは私に任せて。2人は少しでも多く倒してちょうだい」

 

アリスが御札の前に立ち守護をする。アリスの人形なら多方面からの攻撃でも対処しやすいだろう。魔理沙と早苗は撹乱するように移動しながら攻撃を続ける。また他の御札に気づいている天狗がいないかも確認しながら移動する。あのようなことがあったのだ、嫌でも注意する。

 

一部危ういところもあったがそれも上手く対応できている。敵の数も減っており、霊夢達もまだ余力がある。根本的な異変解決はともかく、このまま行けば戦闘は霊夢達の勝利だろう。

 

 

…………このまま行けばの話だが。

 

(なんでかしら、無性に嫌な予感がする…)

 

霊夢が1人言いようのない不安を抱えながら戦っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな時である。

 

「っ、なんだ?!」

 

突如として結界が乱れた。基本攻撃を受けた時にしか目に見えなかった結界が今波を打つように揺れている。

 

「まさか御札が!」

 

「剥がされたんですか?!」

 

そんな馬鹿な…。3人とも注意深く観察していたしそのような素振りを見せた天狗もいなかった。()()()()()()()()()()()()。全員が困惑する。一体誰がやったのだと。

 

「………そこ」

 

文と戦っている最中に霊夢がある一点を攻撃する。そこには何も無く、誰もいない。

 

しかし、土煙が晴れると同時に皆は目を丸くした。

 

「…やれやれ、荒っぽいじゃないか霊夢」

 

「お前、にとりか!」

 

叫ぶ魔理沙。そう、御札を剥がし結界を弱めたのは河童のにとり。光学迷彩を羽織り音も立てずに御札を剥がしていた。何故誰も気づかなかったのにも説明がつく。

 

「なんでお前がここに居る!」

 

にとりに攻撃しながら接近する魔理沙。それをひらりと躱し距離を置く。

 

「残念だけど、この戦いには河童も参戦する。悪く思わないでくれよ」

 

「なんで河童が天狗達の助太刀をするのよ!」

 

「簡単に言えば契約さ。それだけ言えばわかるだろう」

 

にとりのその言葉をきっかけに次々と河童が現れる。全員が迷彩で隠れていたのだろう。数は天狗に比べかなり劣るがそれでも百人ほどは居るだろう。

 

流石にこの展開は読んでいなかった。魔理沙達は苦虫を噛み潰したよう表情になる。無理もない。既に満身創痍なのだ、この期に及んで援軍なぞたまったものではない。

 

「文、ちょっと歯ァ食いしばりなさい」

 

「……仕方ないですね」

 

結界が弱まったことで一気に窮地に追い込まれたため、文が霊夢にわざとやられる。文が足止めなぞしている余裕はないのだ。

 

「夢想天生」

 

霊夢はすかさず自身最大のスペルを発動する。一息に蹴散らすつもりだろう。

 

「おい霊夢、間違っても結界に当てんなよ!」

 

「そんなヘマするわけないでしょ!」

 

今力が弱まった結界に霊夢の本気の一撃が飛んできたら耐えられなだろう。もし仮に耐えたとしても、最早結界としての能力が機能しない。そのため霊夢は結界に弾幕を当てない立ち回りが必要になってくる。

 

だがそれはかなりの精神力を使う。夢想天生はただえさえ攻撃範囲の広い技。それを結界には当てずに敵にだけピンポイントで当てるのは霊夢でも骨が折れる。

 

結界が弱まり、河童達の予期せぬ援軍が来ようとも霊夢らは奮闘する。誰一人として諦めた者はいない。

 

 

 

……けど、それでも。

 

「っ…、また結界が…!」

 

現実は残酷なもの。さらに結界の力が弱まる。また誰かが御札を剥がしたのか。いや、それだけではない。これまでの天狗の攻撃、援軍の河童の攻撃、自分達の流れ弾。それらを受け止め続けたのだ、自然と力が弱るなるのも道理と言える。

 

「いい加減……どいて下さい!」

 

早苗はとっくに限界を迎えていた。肉体的にも精神的にも。けれども立ち止まらない、いや、立ち止まれない。今もなおボロボロになりながら戦っている。その目には自身が気づかないうちに涙を流していた。その涙は痛いから流したのか、苦しいから流したのか。……そうではない。それは自らの無力さを嘆くもの。何故自分はこんなにも弱いのだと叫ぶ涙。大切なものも守れないのかと自分を責める悲しい涙。

 

そんな早苗の想いをさらに踏み潰す現実。ついに結界にヒビが入ってきた。こうなると破壊されるのは時間の問題だろう。

 

 

 

 

 

 

 

多勢に無勢、そんなものは分かっていた、覚悟していた。けどそれは実際にはとても大きくのしかかってきた。最初は勝てる気しかなかった。いや、何がなんでも勝たなきゃいけなかった。そのためならどんな痛みもどんな苦しみも乗り越えられると信じていた。

 

でも今は違う。どんなに抗っても、どれだけ手を伸ばそうとも、どれだけ痛みを重ねようとも届かない、守れない。

 

何故、何故自分はこんなにも弱いのだ、無力なのだ!けど、いくら自分を叱責しても何も変わらない。もう変わらない。手遅れなんだ。

 

 

結界の亀裂が全体に行き渡りそして……砕け散った。

 

 

早苗の目は……ついに光を失ってしまった。

 

守れなかった、救えなかった。

 

あぁ、やっぱり私は……

 

「ダメだなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメなんかじゃない!」

 

早苗の暗き瞳に炎が煌めいた。諦めた心に火をつける紅蓮の炎が。

 

「し、信二さん!」

 

早苗はすがるように信二の名前を呼ぶ。目からは溢れんばかりの涙を流して。そんな早苗を見た信二は優しく微笑んでから…

 

「悪いな、遅くなって。でもこっからは……」

 

全てをなぎ倒し、燃やし尽くすようなそんな強くも恐ろしい形相になった。

 

「俺が全部蹴散らしてやる!」

 

そう言ったあと信二は炎の壁を守矢神社に作る。誰も通さないように。

 

「ったく、おせいぜ信二!」

 

「すまない、けどそのお陰で万全の状態だ!」

 

信二の炎が燃え上がる。剣を一振する度に炎の海が波よせてくる。

 

『くそ、あいつは無力化したんじゃないのか?!』

 

天狗の一人がにとりに詰め寄る。

 

「……1度はしたさ。ただあいつがまた立ち上がったってだけだよ」

 

『適当な仕事しやがって!』

 

「…………」

 

(止められるわけないだろう。だってあいつは)

 

「おら、怪我したくないやつは今すぐ失せな。それでも失せる気がないってなら……全力でかかってこい!」

 

「不死鳥なんだから」



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45話 早苗の覚悟

45話です。今回で妖怪の山は終わりです。次は地霊殿……の前に短編が入ると思います。内容は幽香さんとの出会い。争いの匂いしかしないですね。


『オーバードライブ!』

 

信二の技が炸裂する。その火力は一瞬で天狗や河童を無力化させている。その鬼気迫る戦い方、迫力にどうしても一歩後ずさりしていまう。当然と言えば当然だ。今の信二に近づくものは皆等しく燃やし尽くされる。それほどの殺気が感じ取れる。

 

『くそっ、一人相手にどれだけ苦戦しているんだ!』

 

劣勢にしびれを切らした天狗が叫ぶ。先程から攻撃もそこそこに指示を出していた者だ。今回の指揮官の様な存在なのだろう。

 

「黙りな。『焔一文字(ほむらいちもんじ)』」

 

『ぐぁっ!』

 

炎で出来た斬撃が避けられず指揮官に直撃する。そのまま地面に落下する。

 

ついに指揮官も下した。司令塔を失った兵士は統率が取れずに慌てる。現に天狗達の動きは先程よりも連携が取れておらず疎らになっていく。

 

『司令塔まで!』

 

『どうするんだ、ここまで来てこんなの聞いてないぞ!』

 

慌て始める敵。ついに追い詰められ始めた。今の信二はまさに救世主そのものだ。そして信二が天狗達……いや、幻想郷の者達に強いのにはしっかりとした理由がある。

 

信二に苦戦する理由は攻撃の性質による。普通弾幕を撃つ時は必ず避けるためのスペースが作られている。これは癖よりももっと根強く結びついており、深層心理でやってしまう。いや、やるものだと思っていると言った方が正しい。そのため霊夢達の攻撃は躱されることも必然になる。

 

しかし信二の場合は違う。元々幻想郷の外ーー別世界の人間だ。弾幕ごっこのルールがまだ定着していない。そのため攻撃に隙がない。その攻撃は敵をなぎ倒すために使われる。だから避けづらい。

 

「…っ!」

 

響く銃声。これは1度信二がやられたにとりの拳銃の音。またもや光学迷彩で隠れて打ってきた。

 

「……残念だな。それはもう当たらないぜ」

 

しかしその弾が信二に当たることはなく、剣で弾かれた。

 

「やっぱり無理か。まぁ警戒されてるよね」

 

信二はこの戦場に来てから最も警戒していたのが今の銃である。そのため魔力を、神経を研ぎ澄ましにとりが打ってくるのを待っていた。

 

「それで1回負けてるんだ、嫌でも警戒するさ」

 

(信二さん……すごい。1人で戦況を返した)

 

信二の戦いぶりを見て早苗は戦慄を覚える。

 

(それに比べて……)

 

それと同時に自分と比べて自身を卑下していた。その力の差を……。

 

「早苗!」

 

「は、はい!」

 

突然名前を呼ばれ驚く早苗。そんな早苗に信二は戦いながら言う。

 

「お前は早く二人を救ってこい!」

 

「……え?」

 

「俺と約束しただろ、早苗の力で二人の目を覚ますと」

 

「……確かに約束しました。けど私じゃダメです。こんなに無力な私じゃ…」

 

言いながら涙を流す。またも自身の未熟さに嘆いているのか。

 

「何を言ってんだ」

 

そんな早苗を笑い飛ばす。

 

「弱い強いは関係ない。これは早苗にしか出来ない事なんだよ」

 

「……私にしか……」

 

「自分が弱いって言ったな。はっきり言うぞ、早苗は弱くない」

 

「……そんなこと」

 

「確かに戦闘面じゃ俺や霊夢に劣るかもしれない。けど早苗には俺らにはない強さを持ってる」

 

「……信二さん達が持っていない強さ……?」

 

「そうだ。そしてその強さが使われるのは今だ。俺らじゃ神奈子達は救えない。二人を救えるのは早苗だけなんだよ」

 

「………」

 

俯き、ただ聞いている早苗。未だに自分が信じられないのだ。

 

「だからもっと自身出せよ!それに早苗は自分を信じてないかもしれないけど、少なくとも俺は信じてるぜ」

 

その言葉に反応し顔を上げる。

 

「……信二さん」

 

「信じてなかったら今ここで戦ってないさ。それは俺だけじゃなくて霊夢達も。だから見せてくれ、早苗の強さを俺達に!」

 

「……また失敗するかもしれません」

 

「その時はまた助けてやるよ」

 

「……っ……」

 

「お、おい、なんでそこで泣くんだよ」

 

また泣きだした早苗に狼狽える信二。けどその涙は今までのものとは違う。自分の弱さに嘆いた涙ではなく、信二によって救われた涙。自分は弱くないと、ひとりじゃないと言われたのがどうしようもなく嬉しくて流したもの。

 

「……ったく、いつまで泣いてんのよ!」

 

「いたっ!……霊夢さん?」

 

「うだうだしてないでとっとと行きなさい!」

 

ぶっきらぼうに。それでもそれが霊夢の激励の仕方。

 

「……はい!」

 

「……素直に励ませないのかしら?」

 

「うるさいわね。早く帰りたいだけよ」

 

「……ツンデレってやつね」

 

「何よそれ」

 

アリスは霊夢をからかう様に笑う。霊夢は隠しているつもりだろうが何ともわかりやすい。

 

「おらよ」

 

信二が指を鳴らす。すると炎の壁に人が一人入れるだけの穴があく。

 

「任せたぜ早苗」

 

「はい、行ってきます!」

 

(……妖夢の時もそうだけど)

 

また魔理沙は一人思う。

 

(つくづく人を立ち上がらせるのが上手いやつだ)

 

魔理沙は今回で二度心が折れた者が立ち上がる姿を見た。本来は時間がかかるものを信二はいともたやすくやり遂げてしまう。

 

「……やっぱりすげーやつだな」

 

「何か言った?」

 

「なんでもないぜ」

 

猛る炎を見ながら魔理沙は改めて信二の強さを確かめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神奈子様、諏訪子様!」

 

神社の中にいる二人の名前を呼ぶ。けどその声は届かない。全てを遮断するような壁が二人の周りを覆っているから。

 

けど、それが無くても声が届かないような気がした。今の二人は全てを拒絶している。

 

「……何故そうなってしまったんですか」

 

手を伸ばしても壁に弾かれる。声をかけることも、手を伸ばして歩み寄ることも出来ない。

 

「……認めませんよ」

 

それでも早苗は諦めない。壁に弾かれようとも手を伸ばし続ける。

 

「お二人はそんなに弱い神様じゃ無いはずです。私の知っているお二人は誰よりも強くて誰よりも優しい人です」

 

弾かれないように抵抗しているその手には次第に火傷のような傷がつき始める。

 

「私は悔しいです。弱い自分が、みんなに助けられてばかりの自分が」

 

傷はどんどん広がっていく。けれども少しづつ両手が壁をすり抜けていく。

 

「でもそんなみんなが私を信じてくれてます。泣いてばかりの私を。だから私はもう泣かないと決めました。辛くても、苦しくても」

 

早苗の声が届いているのか二人の目に涙が流れる。

 

「私よりも強いお二人ならすぐに帰ってきてくれると信じてます」

 

歯を食いしばり痛みを堪えて、今にも泣きそうなほどになっても早苗は手を伸ばすのを辞めない。それは信じているから。神奈子を諏訪子を、助けてくれたみんなを。

 

「お二人を信じてます、だから……だから!」

 

信じてくれたみんなのために、二人のために今声をあげる。

 

「目を覚ましてください!神奈子様、諏訪子様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「早苗!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。そろそろ降参したらどうだ?」

 

あらかたの敵を倒した信二は残った者達に問う。

 

『それは出来ないな』

 

「……そうか」

 

これ以上は無益な争い。そんなことはお互いに分かっている。でも引けない。根本が解決しない限りこの救われない戦いは永遠に続く。

 

最後の敵が迫ってくる。その時に神社を覆っていた炎が全て消え去る。

 

「な、なんだ?!」

 

「随分と世話をかけたようだな」

 

「これじゃあ神様の名折れだね」

 

その声はハッキリと力強く。堂々と凛として。

 

「……ったく、おっそいのよ。神奈子、諏訪子!」

 

「……使命を果たせたんだな。早苗」

 

「悪かったな霊夢。後始末くらいは自分でするさ」

 

「後のことは任せて」

 

『目が覚めたのか』

 

「そうだ。お前らの上司に伝えておけ」

 

「これ以上戦いを辞めないなら今度は私達が相手するってね」

 

その姿は神というのに相応しい迫力を見せつけていた。

 

『ああ、言っておくよ。私達ももうコリゴリだ』

 

そう言い残し天狗達は立ち去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやったぜ早苗!」

 

戦いが終わり魔理沙は早苗に飛びついていた。

 

「ま、魔理沙さん達のおかげですよ」

 

「ん、どうしたその手?」

 

早苗の腕の傷に気が付き心配する。

 

「大したことないですよ。ただの火傷みたいなものですから」

 

「見てて痛々しいぞ。後でちゃんと治療しろよ?」

 

「はい。信二さんも」

 

信二の銃でついた傷口から少し血が流れていた。戦いの中で開いたのだろう。

 

「これくらいどうってことないよ」

 

「私には治療しろっていったのに自分はしないんですか?」

 

「……わかったよ。ちゃんとするよ」

 

「そうしてください!」

 

「改めて礼を言う。神社を守ってくれてありがとう」

 

「みんなが助けてくれなかったら今頃無くなってたからね」

 

「ほんとよ、貸ひとつだから」

 

「分かっている」

 

「それにしても霊夢がウチを助けるなんてね」

 

「何よ、なんか文句あるの?」

 

「いやー。珍しいなって思っただけだよ」

 

「……なんかむかつくわね」

 

「思った以上に大変だったな」

 

「ええそうね」

 

「……アリス?どうしt」

 

「こんなに大変だなんて聞いてないわよ!」

 

魔理沙の肩を掴みブンブンと揺らすアリス。相当怒っているのかそれはもう一心不乱に。

 

「あわわわ、落ち着けー!」

 

「あはは、皆さん騒がしいですね。あんな戦いがあったのに」

 

「あんな戦いがあったこそだよ」

 

「あったからこそ?」

 

「辛いことがあった時は笑うのが一番だ。そうだろ?」

 

当たりを見渡す。そこには笑っているみんながいた。早苗が努力の末に勝ち取った光景がそこにはあった。

 

「……ええ、そうですね!」

 

早苗の顔には笑顔の花が咲いていた。



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番外編 美しい花には刺がある

番外編です。幽香さんとの出会いは何を産むのか。皆さんの予想通りだと思いますけどね。


「さて、今日はどうしよっかな」

 

朝起きて霊夢から任されていた日課の掃除も終え昼食を作りなが一人ボヤく。

 

妖怪の山の異変から数日。信二の傷もすっかり癒え暇を持て余していた。昨日まで動いてはいけないと永琳に言われていたため今日は久しぶりに体を動かしたいのだ。

 

しかし未だ幻想郷をよく知らない信二は何処に行こうかを悩んでいた。今まで異変を解決してきた場所には何度か行っているため新しい場所に赴きたいという欲が出ている。

 

ちなみに霊夢は守矢神社に行っている。あの異変の事後処理的なことをしている。それと今日は紫と対談するとも言っていた。信二もついていこうとしたら拒否られたので若干凹みながら今日の予定を考えている。

 

「悩んでても仕方ないか。とりあえず周辺をうろついてみるか」

 

♢

 

何やかんや散歩をしていたら人里の近くに来ていた。確かに人里に行けば新たな出会いがあるかもしれない。人里には人間だけでなく普通に妖怪なんかも歩いているからな。無意識のうちに中々良い選択をしたんじゃないか?

 

「……おっ、あれは」

 

早速見知った姿を目撃した。あの青髪リボンと緑髪の後ろ姿は仲良し二人組だな。

 

「ようチルノに大妖精。何してるんだ?」

 

「あ、しんじ!」

 

「信二さん、お久しぶりですね」

 

「あぁ、久しぶりだな」

 

相変わらず大妖精は礼儀がいい。同じ妖精でも何故こんなに差がついてしまったのか。

 

「しんじ!今アタイに失礼なこと考えただろ!」

 

おっと、まさかチルノに考えが読まれるとは。案外鋭いのかもしれない。

 

「で、二人はなんで人里に居るんだ?いつもは森によく居るけど」

 

「これからある場所に行こうとしてたんです」

 

「ある場所?」

 

「太陽の畑です。知りませんか?」

 

「太陽の畑?聞いたことないな。そこに何かあるのか?」

 

「そこに最強の妖怪がいるって霊夢が言ってた!さいきょーはアタイなのに!」

 

「……つまりチルノはその最強の妖怪に喧嘩を売りに行くつもりか」

 

「そう!」

 

「や、やっぱりやめようよチルノちゃん。前にあった時にチルノちゃん震えてたよ」

 

「そんな昔のことは忘れたわ!」

 

「えぇ!?」

 

「なんか面白そうだな。俺も一緒に行くよ」

 

「しんじも着いてくるの?いいわ、アタイがさいきょーになる瞬間を見るといいわ!」

 

「はいはい、お供しますよ」

 

面白そうだったからチルノ達について行くことに。理由はそれだけじゃないけどな。

 

霊夢が幻想郷最強という程の人物だ。嫌でも気になってしまう。てっきり幻想郷最強は霊夢か紫さんだと思ってたが、その他にも候補がいたとは。それに霊夢は基本本気を出さないし、紫さんに至っては戦っているところを見たことがない。だから知りたかったのだ、幻想郷のトップクラスの実力者を。

 

ーーあわよくば手合わせしてみたいものだ。

 

♢

 

人里から妖怪の山の反対方面へ歩いていく。……いや、もう既に結構な距離を歩いていると思うんだがまだ着かない様子だ。

 

「なあ大妖精、まだ着かないのか?」

 

「はい、太陽の畑の主は人間が嫌いですから人里から離れているんです」

 

「こんなに離れてるとか、そんなに嫌ってるのか」

 

「幻想郷でも一番人を嫌ってると思います」

 

「一番ときたか。俺実は危険な事をしてるんじゃないか?」

 

一応俺も人間だ。変に怒りを買わないようにしなければ。

 

「どうしたのしんじ?もしかしてもう疲れたの?」

 

「俺はチルノさんと違って強くないから。もう疲れちゃったよ」

 

「情けないなぁ。アタイはまだまだ元気だよ!ほら!」

 

そう言い颯爽と飛んでいく。

 

「あ、待ってよチルノちゃーん!」

 

いきなり飛んでいってしまったチルノを大妖精も急いで追っていく。

 

「……本当に元気だなチルノは。大妖精も大変だろうな」

 

そんなことを考えていると置いていかれた。あの様子だと後は真っ直ぐ行けば着くだろうから多分着くと思う。ふよふよと浮いてゆっくり行くことにしよう。

 

チルノを追ってほどなくして黄色い花畑が見えてきた。

 

「あれか!」

 

森を抜けるとそこには見渡す限りに花が咲き誇る畑があった。見る者の心奪う美しい花畑が所狭しと並んでいるなんとも壮観な風景だ。

 

「おぉー、幻想郷にはこんなところもあるんだな。」

 

いつか見た白玉楼の桜も十二分に綺麗だったが、こちらも負けず劣らず美しい。こんな場所を散歩出来たらどれだけ気持ちがいいことか。

 

「てかチルノ何処に行った?」

 

花々に見とれて忘れていたが先にいったチルノ達を探さなくては。こうも花が多いと背が低い二人は見つけずらいだろう。特に急いでいる訳じゃないからゆっくりと探すとするか。

 

「ぎぃゃぁああ!」

 

「チルノちゃん!?」

 

……どうやらゆっくりしている暇はない様子だ。

 

「声のする方はあっちか!」

 

チルノの叫び声がする方へ走っ…てると時間がかかる。空を飛んでそっちを見た方が速いか。

 

「くそ、こうなると花が邪魔をするな」

 

空から見ても中々に見ずらい。せめてもう少し花の背が低ければ。

 

「……いた!」

 

黄色い花達の隙間から青と緑の髪がチラッと見えた。急いでその方向へ向かう。

 

「どうしたのあなた達。今日はどんな用で来たのかしら?」

 

「ち、チルノちゃん……」

 

「だ、だだ大ちゃんはアタイが守る」

 

「まだ何もしてないわよ」

 

「おい、チルノ、大妖精大丈夫か?!」

 

チルノ達はお互いの手を繋いで震えて座り込んでいた。二人が見ている方には緑髪で日傘をさしている女性がいた。

 

「……どういう状況だ?」

 

見たところ何か危害が加わった様子は無いんだけど。

 

「あら、今日は来客が多いわね。あなたは?見ない顔ね」

 

「あ、あぁ。俺は火渡信二。1ヶ月程前から幻想郷に来た人間だ」

 

「信二……確か文の新聞に載ってたわね」

 

「本当に載せたのか文のやつ。まぁそれで合ってるよ。それであなたは?」

 

「私は風見幽香。ここの主よ」

 

太陽の畑の主ってことはこの人が幻想郷最強の?全然そんな風には見えないけどな。()()()()

 

「ところでその二人はどうしたか知ってるか?」

 

「さぁ、ただ話しかけただけよ」

 

「話しかけただけでこんなになるのか?」

 

「知らないわよ。そこの二人に聞きなさい」

 

だよな。幽香も悪気があるわけじゃないし。

 

「とりあえず二人はもう帰りな。いつまでもそこでそうするのも嫌だろ」

 

「う、うん」

 

「い、行こうチルノちゃん」

 

力なく立ち上がり逃げるように去っていった。いつもはあんなに強気のチルノがあそこまで弱々しくなるなんてな。滅多に見れない光景だったかもな。

 

それはそれとして

 

「ふっ!」

 

「あら、防ぐのね」

 

突如幽香が手に持っていた傘を俺に向かって殴りかかってきたから、こっちは剣を出して対抗する。

 

「あれだけ殺気を出しておいて警戒しないわけないだろ」

 

俺が幽香の前に現れてからというもの痛いくらいに殺気を放っていた。理由は知らないがな。

 

「てかいきなり襲ってくるのはないんじゃないか?」

 

「対象出来なかったらそこまでの人間ってことでしょ」

 

「言うじゃん。ーーおらぁ!」

 

拮抗状態から脱し幽香から距離をとる。今のだけでも幽香が実力者なのが知れた。それだけ強いんだろう。

 

「襲ってきた理由はなんだ?俺が人間だからか?」

 

「ただ単に戦ってみたかっただけよ。なんでそう思うのかしら?」

 

「聞いた話だと人間嫌いなそうだな。だからだ」

 

「それは誤解があるわ。人間が嫌いなんじゃなくて弱い奴が嫌いなのよ」

 

「それなら俺を嫌う理由がないな。なんたって強いからな俺は」

 

「……言うじゃない。口先だけじゃ無いことを祈るわ!」

 

踏み込んで来る幽香。あくまで接近戦を仕掛けてくるようだ。ここは相手の能力が分からない以上変に回避するよりも素直に受けにいった方がいいだろう。

 

幽香の太刀筋はわかりやすい。妙なフェイントが入っていない。純粋な力で押してくるタイプだ。ただそれが強い。フェイントを入れないことで逆に一発に集中出来るからだろうが受ける攻撃全てが重い。

 

「その細腕の何処にそんな力があるんだよ!」

 

魔力で多少筋力を強化している俺よりも強く打ち込んでくる。正直このままだとジリ貧だ。そうならないためにも……

 

王の御前(キングバーン)!』

 

俺を中心として爆炎を起こす技。予備動作もなく技を見切るのは困難な技だ。威力もそれなりに高い。

 

それを幽香は傘を広げて防いだ。予期しずらい初見の技をだ。

 

「なに?!」

 

「危ないじゃない」

 

「しまっーー」

 

一瞬動きが止まった俺に容赦なく幽香が攻撃してくる。直撃だけは避ける!攻撃を受ける寸前に合わせて体を捻って攻撃を流す。また当たるところは魔力で防御を上げる。

 

「……上手く躱すじゃない」

 

「それでも痛てーよ」

 

なんとは直撃は免れた。本当に一瞬も気が抜けないな。

 

「それで信二は炎を出す能力かしら?急に出たからびっくりしたじゃない」

 

「嘘つけ。初見であれを防いだやつはそういねーよ。それで聞くが幽香はなんの能力を持ってるんだ?」

 

幻想郷の住人は何かしら能力を持っていると霊夢が言っていた。例に漏れず幽香も能力を持っているだろう。

 

「私の能力は『花を操る程度の能力』よ」

 

「花を操る?そんなに強そうじゃないな」

 

「そうね。そこまで戦闘向きの能力じゃないわ。枯れた花を元に戻したり出来るだけよ」

 

「ふーん。なら俺がここの花を燃やし尽くしても治せるか?」

 

挑発のように発言する。俺は幽香の全力が見たいからな。

 

「……流石に無理よ、燃えてしまったら。でもそんなことをしたら最後。あなたをどこまでも追いかけ回して絶対に花の肥料にしてあげるわ」

 

今の幽香からは実際にそれが出来ても不思議ではないほどの威圧感がある。

 

「お〜。怖い怖い。それだけは避けようか!」

 

今度はこちらから仕掛ける。炎を纏いながらだ。少しはやりづらいだろう。

 

「暑苦しいわね。花符「幻想郷の開花」」

 

そこらかしこに花が咲き、それが弾幕となって襲ってくる。

 

「そっちがその気なら。『紅焔の勾玉』」

 

当たると炸裂する炎の玉を出す技。これで向こうの弾幕を相殺する。元々幽香は弾幕を打つことが少なかった。その代わり戦闘能力が高い。どちらかと言うと騎士と戦っているような気分だ。

 

「これならどうだ!『狂った炎の行方(マッドネスクリムゾン)』!」

 

使用者本人もどこへいくのか分からない五つの炎。俺の中でも高威力の技だ。

 

「奇妙な軌道ね」

 

先に飛んでいった三つを華麗に躱す。だがその後ろには二つが迫っている。

 

「けど意味無いわ」

 

幽香はそれを傘で叩き潰す。当たり前のように。

 

「おいおい、フランでも壊しきれなかった攻撃だぞ」

 

流石に呆れるほどのパワー。ここまで強いとは。

 

「これだけかしら?」

 

そう言い傘の先から魔理沙のマスタースパークに似た弾幕を繰り出してくる。

 

「そんなことを出来るのかよ!『オーバードライブ』!」

 

こちらも極太の熱線を繰り出す。威力は同等らしく、お互いが相殺し合い爆発する。

 

「……花?」

 

爆煙に混じり大量の花が俺の視界を覆う。花ってことはーー

 

「そういう事だよな!朱雀!」

 

視界が悪いところを朱雀の羽ばたきでクリアにする。そこに幽香の姿はない。となると

 

「後ろか!」

 

振り向きながら剣をふるう。そこには読み通り幽香が攻撃を仕掛けに来ていた。

 

「よく分かったわね」

 

「生憎と状況判断は早くてな!」

 

「でも勢いはこっちの方が上よ」

 

確かにこっちは先っきまで止まっていた。対する幽香は勢いに乗って傘で攻撃してくる。

 

「舐めんなよ?『焔一文字』!」

 

焔による剣戟。勢いなど関係なく純粋に火力が上がる。連発は出来ないもののその威力は幽香を吹き飛ばすほど。

 

「意外と力あるじゃない」

 

チャンス!幽香が体制を立て直す前に決める!

 

『フレアジェット!』

 

爆炎で自身を加速させる。一気に幽香の目の前までいきその喉に剣をふりーー

 

「……殺った()

 

切ることは無く寸止めで留める。決着としてはこれで十分だろう。

 

「どうかしら?」

 

「なに?……!」

 

幽香の方も俺の心臓に傘を立てていた。こちらが幽香の首を落とそうともう一歩踏み込んでいたらこちらの心臓も貫かれていただろう。

 

「なんだよ。引き分けか」

 

「そうみたいね。勝つつもりだったんだけど」

 

「そんなのは俺もさ」

 

お互い武器を下ろし花畑に降りる。ここまでやれば相手の実力はよく分かった。だからここで辞めておく。出ないとどちらかが死ぬことになるからな。

 

「それでどうだった?俺の強さは」

 

「そうね。とりあえず嫌いにはならなそうよ」

 

「ははっ。そいつはよかった」

 

二人で笑い合う。

 

「どう信二。この後お茶でも」

 

「いいねぇ。頂くよ」

 

どうやら幽香のお眼鏡にかなったようだ。けど本当にトゲのある花だったわ。幻想郷最強ってのもあながち間違いじゃないかもな。

 

その後幽香とお茶をした。お互いのことを聞きあっていたらすっかり遅くなってしまった。辺りはもう真っ暗だ。

 

「いやー。今日はありがとうな幽香。楽しかったよ」

 

「こっちも中々楽しめたわ。また暇があればいらっしゃい」

 

「おう。じゃあまたな」

 

今日はいい日だった。気分よく博麗神社に戻る。

 

……博麗神社?

 

「あ、今日の晩御飯当番俺だった」

 

ヤバい。控えめに言ってヤバい。霊夢多分疲れて帰ってくるだろうからそこに晩御飯がないって知ったら………。

 

どうやら俺は今日二人目の幻想郷最強を相手にすることになりそうだ。



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幻想廻り〜地霊殿編〜
46話 いざ地底へ


46話です。今回から地霊殿ですね。物語も後半戦に突入しました。少しでも応援して頂けると嬉しいです。


「はぁー。やっと終わったわ」

 

霊夢がテーブルに突っ伏す。妖怪の山での異変の後処理を何日かやっていた霊夢は現在かなり疲れている様子だ。

 

「後処理って何やってたんだ?今まではそんなことをしてなかったのに」

 

「天狗や河童に文句を言ってやる仕事よ」

 

「なんだその仕事は」

 

「だいたい合ってるわよ。特に天狗が頑固だから面倒だったわ」

 

「もう守矢神社は大丈夫なのか?」

 

「ええ。あの二人も以前の力に戻ったわ。早苗の腕はまだ治療中だけど」

 

「それならもう襲われる事は無いな」

 

「それでも天狗がまたやらないとも限らないから注意してきたのよ」

 

「文の話だと命令を出した天狗達も様子がおかしかったらしいけどな。とにかくお疲れ様」

 

今回の異変は様子がおかしくなったのが神奈子と諏訪子の二人だけに留まらず、天狗の一部もおかしくなった。どんどん規模が大きくなっていってる気がする。これもアスモダイの影響なのか……。

 

「最近多いわね異変」

 

「……だな。幻想郷のことはまだよく知らないけど、本来はこんなに起きるもんじゃないだろ?」

 

「当たり前よ。普通ではありえない事が起こったから異変なのよ。そんな何回も起こされたらたまったもんじゃないわよ」

 

「解決するのは霊夢だもんな」

 

「私以外も解決しようとするやつはいるけどね。異変が起きたら博麗の巫女が出向かない訳にはいかないのよ」

 

「魔理沙とかはよく解決に貢献してるんだろ?」

 

「あいつは目立ちたいだけよ」

 

「はは、魔理沙らしいよ」

 

「………」

 

霊夢がこちらをじっと見つめてくる。

 

「……なによ、気にしてるの?」

 

「……鋭いなぁ霊夢は。隠し事が出来そうにないわ」

 

「信二が気にすることないわよ。異変に直結してるのは幻想郷に来たもう一人の方なんでしょ?」

 

「そうとも言えねーな。俺が殺しきれてたらこんな状態になってないんだし。幻想郷のみんなにも迷惑かけてふ……」

 

急に霊夢が俺の両頬を抓る。

 

「何してるんですか霊夢さん」

 

「アホなこと言ってる信二にお仕置きよ」

 

「アホなことって……」

 

「誰も信二が来たことを迷惑に思ってる奴なんて居ないわよ。自分を卑下するのも程々にしときなさいよ」

 

「……分かったよ。ありがとうな霊夢」

 

「分かればいいわ」

 

本当に霊夢には敵わないな。言ったら絶対否定されるだろうけど、霊夢は優しい人だ。

 

「さて、気分転換にどこか行こうか」

 

「私疲れてるんだけど……」

 

「幻想郷には無いのか、こう疲れを癒す娯楽的な場所は」

 

「そうねぇ。……あ、ひとつあるわ」

 

「お、どこだそれ?」

 

「地底にある温泉よ」

 

「おん……せん?」

 

聞き慣れない単語に密かに心が踊った。

 

♢

 

「それで、その温泉ってなんだ?」

 

早速地底にある温泉を目指して博麗神社を出た訳だが、そもそも温泉が分からない。俺のいた国ではそんなものは無かった。

 

「お風呂のことよ。でもただのお風呂じゃないわ。すごく大きくて疲れによく効くお湯で入るの」

 

「へぇー。それで疲れが取れるのか?」

 

「ええ、不思議なことにね。温泉にゆっくり入って、その後お酒を飲むと疲れなんて吹き飛ぶわ」

 

「そういうものなのか。楽しみだな。その地底にも初めて行くところだし。……そういえばなんで地底に温泉があるんだ?」

 

「昔起こった異変の名残よ」

 

「地底でも異変が起こったのか。起きてないところの方が少ないんじゃないか?」

 

「そうかもしれないわね。幻想郷に居るヤツらの大半が異変を起こしてるから」

 

なるほど。意外と幻想郷も危険なところなのかもしれない。普通に過ごしているとそんな感じは微塵もないが。

 

「……おーーい、霊夢ーー!」

 

「あれ?魔理沙じゃないか。どうしたんだ?」

 

「こっちのセリフだぜ。博麗神社に行っても誰もいなくて探すのに苦労したぜ」

 

「なんか用でもあったの?」

 

「ない。暇だったから遊びに来たんだ。それで二人はこれからどこに行こうとしたんだ?」

 

「地底の温泉だよ。霊夢の疲れを癒しにな」

 

「霊夢が疲れてる?お笑いか?いつも神社でぐーたらしてるくせに疲れるわけないだろ」

 

「ぶっ飛ばすわよ」

 

「望むところだ」

 

「やめろって二人とも。疲れを癒しに行くのに、わざわざ疲れるようなことするなよ」

 

「ふん、信二に免じて今日のところは勘弁してやる」

 

「あんた絶対に目に物見せてあげるわ」

 

恐ろしい殺気だ。

 

「それで魔理沙はどうするんだ?着いてくるか?」

 

「そうだなー。たまには温泉に入ってもいいか」

 

「そういえば魔理沙はあんまり地霊殿に行かないわよね」

 

「長風呂するとすぐのぼせるから。長く楽しめないんだよ」

 

「確かに。魔理沙に長風呂のイメージはないわな。……おっ、あの穴か?」

 

「そうよ。そこから下がると地霊殿に行けるわ」

 

「早速行くぜ!」

 

「そうやってすぐ先に行くんだから」

 

「よっと。空飛べるように良かったわ」

 

〜〜〜〜〜

 

(ひょこ)

 

「ん?今なんか無かったか?桶に入った女の子が見えたんだけど」

 

「気のせいよ」

 

「そうか。おかしいな」

 

〜〜〜〜〜

 

(ひょこ)

 

「……なあ、今度は茶色いリボンをした女の子が見えたんだけど」

 

「気のせいだぜ。信二も疲れてるんだろ」

 

「本当か?見間違えか?」

 

〜〜〜〜〜

 

(ぴとっ)

 

「いやいるって。触られた、今触られました」

 

「「気のせいよ(だぜ)」」

 

「嘘つけ!絶対いるわ。ったく、二人して俺を騙そうとして」

 

「そんなことしてないわよ」

 

「本当に見てないぞ?」

 

「やめて、そういうの怖いからやめて!」

 

後で確認しておこう。念の為な。マジで俺しか見えなかったら怖いじゃん。今までゴーストとか相手にした事あるけど怖いじゃん。

 

「そんなことしてないで。そろそろ一番下よ」

 

「そんなことで済まされない気がするけど。てか地底には何があるんだ?」

 

「まず地底の主がいる地霊殿ってところがあるの。温泉もそこにあるわ」

 

「その前には旧都っていう地底で栄えてる場所があるぜ」

 

「地底も中々栄えてるのか。全然知らなかったわ」

 

そもそも地底なんて場所がある事を聞かなかった。今まで行ったところは少しばかりは人里で話を聞いたが地底だけは一切無かった。

 

「それは仕方ないわね。地底と地上の世界はまるで違うから」

 

「今でこそ温泉が出来たから妖怪なんかは出入りするけど、人里には今も知らされてないな」

 

「ほー。色々あるんだな」

 

「それともう1つ。旧都に行く前に通るところがあるわ」

 

「どれだ?」

 

「あれだよ。橋が見えるだろ」

 

「確かに見えるな。……うん?誰かいるのか?」

 

「あれも妖怪よ」

 

「橋姫って妖怪だな」

 

橋姫か。多分文字通り橋に関する妖怪なんだろう。具体的にはどんなものか分からないけど、守護霊的なものなのか。

 

そこに居たのは金髪の髪をショートボブくらいの長さにした緑目の女の子。まず目を引くのはその耳だろう。普通の人とは違い先が尖っている。

 

「あらあら。人間の皆様がぞろぞろと妬ましい。何をしに来たのかしら」

 

「初対面で嫌味を言われたのは初めてだよ」

 

思っていた性格と違った。まだ全然彼女のことを知らないけど卑屈な性格だろうな。

 

「ん?あなたは初見ね」

 

「初めましてだな。日渡信二だ。よろしく」

 

「信二……。そう、あなたが。妬ましいわ」

 

一体何がだ。

 

「__水橋パルスィよ。そんなに合わないだろうけど」

 

「パルスィだな。よろしく」

 

手を差し伸べられたので素直に手を出して握手をする。その時にじっと顔を見られた。

 

「ど、どうかしたか?」

 

「……眩しいわ。妬ましいほど眩しいわね信二」

 

「眩しい?何がだ?」

 

「__霊夢に聞いてみなさい」

 

「霊夢に?まぁ後で聞いてみるわ」

 

「霊夢も教えてくれないと思うけど(ボソッ)」

 

「なんか言った?」

 

「なんでも。それでわざわざ地底まで何しに来たのかしら?」

 

「温泉に入りに来たんだよパルスィ。ここ通るぜ」

 

「ええ。構わないわ。私はただ橋を守ってるだけだもの」

 

「それじゃあ失礼するわよ。……うん?」

 

霊夢が何かに目を奪われる。俺達もつられてそっちを見る。

 

「……っ?!」

 

「なんだあれ。真っ黒い変なやつがいるな」

 

「あぁあれ?最近地底でよく出るのよ__」

 

パルスィの言葉を遮るように信二が黒いものを蹴り潰す。余程力を込めたのか地底が少し揺れる程の衝撃がはしった。

 

「……なんでこいつが」

 

「し、信二?いきなりどうしたんだ?」

 

あまりに急な出来事だった為魔理沙も狼狽える。

 

「__いや、なんでもない。早く行こうぜ」

 

「お、おう」

 

振り返った信二はいつも通りの笑顔をしていた。しかし霊夢は見逃さなかった。その瞳に怒りと殺気が含まれているのを。

 

(……信二のあの目にあの様子。多分さっきのは……)

 

 

 

 

 

 

 

 

悪魔なのね。その言葉が紡がれることはなかった。




ヤマメとキスメが姿を表さなかったのは霊夢と魔理沙を怖がったからですね。原作だと二人とも退治されてましたしね。けど信二は気になる…でも二人が怖い。そんな感じですね。
パルスィが眩しいって言ったのは簡単に言うとイケメンって意味ですね。


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47話 地底の主

47話です。最近中々話が思いつかなくて更新が遅くなっています。書きたいのに書けない……そんなジレンマが今の悩みです


「それじゃあ行くわ、パルスィ」

 

あんな事があったのにも関わらず、何も無かったかのように振る舞う信二。

 

「ええ、こんな所長居する場所じゃないもの」

 

何かを察したのかパルスィも先程のことについては深くは聞く様子はない。

 

「じゃあなパルスィ!」

 

「じゃあ」

 

それぞれが別れの挨拶を交わす。

 

「__あっ」

 

そんな時パルスィが何かを言いたげに声を出す。

 

「ん?どうかしたか?」

 

「……いえ、なんでもない」

 

「そうか?それならいいけど…」

 

少し疑問が残っている様子だったが歩き始める。それを見守るパルスィ。

 

(言わない方がいいわよね)

 

不安を煽るようなことは__

 

その真意を知っているのはパルスィだけだった。

 

♢

 

パルスィと別れたあと数分歩いていくと何やら騒がしくなってきた。そこらかしこが明かりに照らされていてどことなく笑い声が聞こえてくる。

 

「なんか楽しそうな雰囲気だな。もしかしてあれが旧都か?」

 

「そうよ」

 

「へぇー。人里とあんまり変わらなそうだな」

 

「っと思うじゃん?」

 

「え、何?違うのか?」

 

「あそこに人間はいないの」

 

「基本的にいるのは鬼や地霊だな」

 

「なんでそんなもんが多いんだ?人間だって居てもおかしく無さそうだが」

 

「そもそも旧都なんて名前してるけど、ここは元地獄なのよ」

 

「元地獄だから怨念とかがひしめいてるんだ。それを抑える役割として鬼が住んでるんだとさ」

 

へぇーと関心する。地底は地上とは違うと言っていたが、確かに明確に違う点がいくつかあるようだ。

 

「そんなおっかないものを抑えられるくらいなんだから鬼ってのは相当強いんだよな?」

 

「まぁそうね。幻想郷でもかなり上位にくるのは確かね」

 

「元々天狗の上司みたいな感じだったしな」

 

「そうなのか!それは強いなー」

 

あの厳しい縦社会を形成する天狗たちの主ともなるとそれが強いのは容易に想像出来る。

 

「どんなやつなんだろうな__」

 

鬼がどんな姿を思い浮かべていた時、フッと何かを感じた。

 

「何かく………」

 

その瞬間、信二達がいた場所に土煙が上がる。

 

「__ほぉ、素直に止めるかい」

 

「いきなり攻撃ってのは無礼が過ぎるんじゃないか?」

 

突然攻撃してきた者の拳を受け止めながら信二が睨みつける。

 

その者は金髪の長い髪に大きな杯をもち、額に角を生やした女性だった。

 

「いやぁ、そいつは悪かったね。別に攻撃した訳じゃなかったんだが」

 

「結構な威力だったけど……」

 

そうは言っても不思議と納得してしまった。本当に攻撃してきた様には感じられず、例えるなら友達の肩を叩きたがら挨拶するような__そんな感じがした。

 

……威力は別問題として。

 

「相変わらずねアンタ」

 

「知り合いか?」

 

「ええ。星熊勇儀、さっき言ってた鬼よ」

 

信二は少し驚く。まさか聞いていた鬼が女性だったとは。しかも先程の拳は魔法などの小細工がない純粋な力だった。その細腕からは想像出来ない力を出していた。これが鬼か……と。

 

「ほぉー、あんたがそうか。聞いてた通りの力だな」

 

「なんだい、アタシの話をしてたのかい?なら話は早いね、星熊勇儀だ」

 

「火渡信二だ。よろしくな」

 

「あぁ、あんたが……。どうだいあんたも、さっきの詫びだ」

 

そういい勇儀がその手に持っている酒を進めてくる。信二もこう見えて中々の酒豪。酒については目がない。

 

「いいのか?それじゃあお言葉に甘え__」

 

「辞めときなさい」

 

「辞めた方がいいぜ」

 

二人に全力で止められる。様子は落ち着いているがその目はかなり本気で語っていた。

 

「二人して止めるなんて、なんかあるのか?」

 

「ナイナイ。普通の酒さ」

 

「中身はそうね」

 

「ただの酒じゃないだけでな」

 

「ただの酒じゃ…ない?」

 

謎のパワーワードを聞いて思わず聞き返してしまう。

 

「いい信二。鬼が呑んでいる酒は普通のソレとは訳が違うの。一言で言えば()()()()()()()()()なの」

 

「ありえない程強い酒…」

 

またしても謎のパワーワードにより聞き返してしまった。

 

「鬼はびっくりするくらい酒に強いから普通の酒だと酔えないんだ」

 

「だから普通の人間じゃ耐えられないような酒を呑んでるの」

 

「そんなことないさ。ただ普通よりちょーっと強いだけじゃないか」

 

「アホ言いなさい」

 

「お前の酒を飲んで今まで何人のヤツが倒れたと思ってるんだ」

 

「そ、そんなにか」

 

その話を聞いて流石に戦慄する。そこまで強い酒があるのかと。

 

「そうかい?残念だねぇ。味は保証するんだがね」

 

「ははっ、まぁまた今度一緒に飲もう」

 

もう乾いた笑いしか出てこなかった。

 

「あぁ、楽しみにしてるよ!」

 

手に持っている杯の酒を飲みながら歩き出す。まさに嵐のような人物だった。

 

「……何だったんだろうな」

 

「気にしたら負けよ」

 

「鬼は自由奔放だからな」

 

「さいですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー。危ない危ない。最近血の気が多くて困るねぇ」

 

屋根の上で一人いまだ高ぶった感情を抑えられずにいた。

 

「あの人間二人は流石だねぇ」

 

勇儀が突っ込んで行った時、霊夢と魔理沙はその事に気づいていたしそれを止めようともしていた。その中で一番早く前に出たのが信二だった。

 

「火渡信二……あれは相当強いね」

 

その体に自然と力が入る。冷めぬ闘志が心を燃やしていた。普段とは違う、身を焦がすような闘争心が心を支配していた。

 

「いいねぇ。……やり合ってみたいもんだ」

 

♢

 

「結構歩いてきたけどそろそろ着くのか?」

 

「もうちょっとよ」

 

「あの建物だな」

 

魔理沙が指さす方には今までの地底にはなかった大きな屋敷。

 

「あれか。どことなく紅魔館を思い出すな」

 

「じゃあ入るわよ。一応ここの主に挨拶くらいはしとかないとね」

 

「だな。お邪魔しまーす」

 

扉を開けるとそこには犬や猫を初めとする動物達がひしめき合っていた。

 

「おおう、まさかの動物まみれときたか。他の人間とか妖怪は居ないのか?」

 

「居ないな。基本的に動物だけだ」

 

「主に問題があるからね」

 

「問題?」

 

「そこは会った方が早いわよ」

 

霊夢が歩みを止める。この地霊殿の主の部屋に着いたようだ。

 

「それじゃあ入るわ。失礼するわよ」

 

ドアをノックしてから扉を開ける。その奥にはピンク色の髪のゆったりとした服を着た少女がいた。そこで一番目を引くのは胸にある目。

 

(なんだあれ?明らかに目だよな。オシャレ?)

 

「オシャレではありませんよ」

 

「え?口に出てたか?」

 

「いや、心を読んだんだ」

 

「心を?じゃあ俺が思っていることは__」

 

「あの子に筒抜けってこと。あれが地霊殿の主、古明地さとりよ」

 

「初めまして。さとり妖怪の古明地さとりです」

 

「ああ。火渡信二だ。よろしくな」

 

笑顔で返すもどことなく悲しそうな顔をしている。あの感じだと何もしていなくても人の心を読んでしまうのだろう。それのせいでまわりから疎まれる。その想像をするのに時間はかからなかった。なぜなら、信二は心を読んでしまう苦痛を分かっているから。

 

(心を読むねぇ〜。それじゃあ……)

 

「それで、今日はどのような要け………ん……」

 

急にさとりが驚いたような表情を見せる。その様子を見て霊夢と魔理沙は首を傾げた。それもそうだろう、何もしていないのに相手が驚いているのだから。

 

「どうかしたかさとり?」

 

「………読めない」

 

「何が?」

 

「読めないんです!信二さんの心が!」

 

珍しく声を張るさとり。けどさとりにしてみればそれは一大事と言っても過言ではない。今まで動物を除いた生物の心を読んでいた。読んでしまっていた。それなのに目の前の男の心が読めなくなった。それだけでも高揚してしまうのは仕方の無いことだろう。

 

「ふふっ、驚いたか?」

 

「も、もちろんです。あの、なぜ急に心が読めなくなったんですか?」

 

「簡単だ。俺の心を魔法で隠したんだよ。さとりに見えないようにな」

 

「そんなことが出来るんですか!?」

 

「前居た世界にも心を読む奴がいてな。そいつと対等に話すために練習したんだよ」

 

(練習して身につくものなのか、そんな魔法?)

 

同じ魔法使いとして魔理沙も驚いていた。心を隠すなど、そんな魔法聞いたことも無い。またひとつ魔理沙の信二への好奇心が増えた瞬間だった。

 

「そ、それで前の世界のその人はどんな人でしたか?!」

 

さとりに至っては興奮して信二を質問攻めしていた。さとりにしてみれば初めて心が読まなくて話が出来る存在。そんなもの興奮するに決まっている。

 

「ちょ、ちょっと落ち着こうか」

 

信二もそこまで興奮されるとは思っていなかったため若干戸惑っている。

 

そして………

 

「……何この置いてけぼり感」

 

またも霊夢だけ流れに置いていかれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………(ギリッ)』



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48話 渦巻く感情

48話です。もう少しで2018年も終わりますね。もうこのssを書いて一年経つと思うと案外早いものですね。


「そうですか。今日は温泉が目当てで来たんですね」

 

かなりテンションが上がっていたさとりも今は落ち着きようやく話を進めることが出来た。

 

「そうそう。ここの名物なんだろ?」

 

「本来地底で名物と言うのもおかしな話ですが、その通りです」

 

人を遠ざけるのが当たり前な場所で人が寄ってきそうなものかあること自体変な話という事だ。まぁ普通の人間はまず地霊殿までたどり着けないだろうけど。

 

「それでは案内します。お燐」

 

「はーい」

 

さとりが誰かを呼ぶと他に人は居ないのに返事が聞こえてくる。

 

「よっと」

 

「うわ、びっくりした!」

 

突然机の上で寝ていた猫が降りたと思ったら人間になった。何を言っているか分からねーと思うが以下略。

 

「火焔猫燐です!それではこちらにどうぞー」

 

凄い急展開な気がする。サラっと自己紹介もしてるし。

 

「ひ、火渡信二だ。__その、もしかして妖怪か?」

 

「そうだよ。猫の妖怪だったり」

 

「いや、間違えでもないけど」

 

「死体を運ぶ妖怪でしょあんたは」

 

「これまた物騒な妖怪だな……」

 

元地獄なんだからそういうのがいてもおかしくはないと思うけど。

 

「やだなー。あたいはそんなに怖い妖怪じゃないよ。死体にしか興味はないから」

 

「それはそれで怖いわ」

 

「にゃんだって?」

 

「な、なんでもない」

 

話がこじれそうだったため強引に話を終わらせお燐?の後について行く。

 

「あ、あの」

 

部屋を出ようとした時にさとりが呼び止めてきた。

 

「どうかしたか?」

 

「そのですね………温泉に入った後で良いので……お話してもらっても、いいですか?」

 

不安そうな顔でそんなことを聞いてきた。

 

「もちろんいいぜ」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「断る理由なんてないからな。楽しみにしてるよ」

 

「はい!」

 

今まで誰かと話す必要が無かった……と言うよりは話せなかったさとりが人と話す楽しさを知ったようだな。俺としてはいい事だと思う。人と離さないで過ごすってのは案外キツイもんだからな。

 

「……随分とさとり様に好かれたね」

 

「だな。でも君こそ好かれてるだろ」

 

「お燐でいいよ」

 

「じゃあお燐。長い付き合いなんだろ?」

 

地霊殿の中には動物が沢山いる。その中でも話が出来る妖怪なんてのはさとりにとっても大事な人のはずだ。

 

「そうだけど。ちょっと嫉妬しちゃう」

 

「嫉妬?なんで?」

 

「あんなにテンションの高いさとり様なんてそうそう見れるものじゃないからねぇ。あんなこと出来るのなんて信二くらいだろうし」

 

「そうか?」

 

「うん、本当。___」

 

「………うん?なんか言った?」

 

最後に何かを呟いたような。

 

「いや?何も言ってないよ」

 

「そうか…。気のせいか?」

 

確かに何か聞こえた気がするんだけどな。

 

 

♢

 

「うおわー、これが温泉か……」

 

温泉に案内され脱衣所を出た先には霊夢が言っていた通りかなり広いお風呂があった。なるほどこれが温泉か。普通のお湯とは違って色々体にいい効果があるとか。

 

「えっと、まずは体を洗ってからだな」

 

温泉にはいきなり入ることはマナー違反との事なので体を洗うことに。温泉から取ったお湯を体にかけるとなんとも心地の良い温度だった。確かにこれは疲労回復に効果がありそうだ。

 

「霊夢にもいいリフレッシュ効果があるといいけど」

 

一通り体を洗い終わったのでいざ入ってみる。

 

「___あぁぁー……」

 

自然と声が出てしまった。それほど気持ちがよかったのだ。いいねこれ。

 

「___うん?」

 

今までは煙で見えなかったが温泉に入ってみると先客が居たようだ。てっきり1人かと思ったからなんか恥ずかしい。変な声も出てたし。

 

「あのー、こんにちは」

 

「___あぁ、こんにちは」

 

その人は白い髪をした俺よりも歳が上っぽい人。顔をタオルで覆っているため顔は確認できないけど。

 

「温泉は初めてですか?」

 

「えぇ。友人に言われて来てみたけど、いいものですね。体だけじゃなくて心も洗われるようで」

 

「そうですね。私も初めて入りましたがいいものです」

 

「初めてなんですか?」

 

「えぇ。今は旅をしていて、丁度ここの温泉の話を聞いてやってきたんです」

 

「へぇ〜」

 

幻想郷内を旅するとはやっぱり妖怪とかなのか。恐らくだけど普通の人間じゃないな。そんな奴が旅なんて出来るはずないし。

 

「………それでは私は先に出るとします」

 

妖怪かどうか聞こうとしたらタイミングが被ってしまった。わざわざ引き止めるのも悪いから止めはしないけど。

 

「そうですか。では」

 

「えぇ。では_____」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会おう()()()よ」

 

「……っ?!!」

 

声音と雰囲気が変わった男は信二の事を不死鳥と確かに言った。自身のことを不死鳥と呼ぶものは今のところ幻想郷にはいない。ある男を除いて。反射的に振り返り臨戦態勢をとる。だがそこにはもう男の姿はない。

 

「朱雀!」

 

居ないと分かった瞬間朱雀を出して先程の男を探させる。

 

(嘘だろ……!そんなはずはない!)

 

確かに声も見た目も変わっていた。けどその雰囲気は___悪魔の雰囲気だけは消えないはずなのに!特にアイツ程のものなら尚更!

 

「どういうことだ、アスモダイ!」

 

それは信二の宿敵の名前。信二と共に幻想郷に降り立った悪魔の名前。それが先程まで自分の目の前にいた。

 

それは本来ありえないこと。普通なら二人が会った瞬間どちらかが死ぬまで戦闘をする。そのような関係。なのに今アスモダイは襲ってこなかった。

 

謎が信二の頭を駆け巡る。何故襲わなかったのか、何故ここにいたのか、何故悪魔の気配を微塵も感じなかったのか。

 

「………くそっ、考えても埒が明かねぇ!」

 

信二自身も温泉から急いで上がりアスモダイを探しに行く。ここで逃がす訳にはいかない。

 

(………待ってろよ!)

 

隠しきれぬ殺意を纏いながら。

 

 

 

♢

 

「……あぁーー」

 

「ちょっと、おじさんみたいよ魔理沙」

 

信二が温泉に入ったのと同時刻。霊夢と魔理沙も同様に温泉に入っていた。

 

「相変わらずここはいいわね」

 

「そうだなー。ワタシは長風呂出来ないからそこまで楽しめないけど」

 

「子供じゃないんだから湯船に長く浸かるくらい出来るでしょ」

 

「霊夢だって婆さんみたいになってるぜ」

 

壮絶な睨み合い。

 

「まぁいいわ。こんな所で喧嘩するなんて野暮だもの」

 

「それもそうだな」

 

「………………」

 

「……………なぁ霊夢」

 

「何ー?」

 

「お前ってさ……信二のこと好きなの?」

 

思考停止。

 

「……………はぁ?」

 

「いや、いつも一緒に居るし」

 

「それは信二が住む場所がないから__」

 

「信二が怪我すると異様に心配するし」

 

「同居人が怪我したら心配する___」

 

「よく信二のこと見てるし」

 

「そ、そんなことないわよ!」

 

「どーだかな」

 

「まったく。さっきから何言ってるの」

 

「(頑なに認めないな…)信二は人気だから気をつけろよ?」

 

「何のはなs__」

 

「鈴仙は確定だろ。後は早苗とかフラン。幽香も気に入ってたな。妖夢のはちょっと違うか。それにさっきの感じだとさとりも……」

 

「それがどうしたのよ」

 

「……呆れたぜ。この魔理沙様が状況を教えてやってるのに」

 

「その情報を教えて私にどうしろと?」

 

「それくらい自分で考えろ。のぼせたからワタシは先に上がるぜ」

 

終始謎のことを話していた魔理沙が上がる。まだ湯に使っている霊夢は先程の話が頭で反芻していた。

 

「結局何が言いたかったのアイツ」

 

温泉の熱で頭がボーッとしてくる。それでも今頭に残っている言葉。

 

『お前ってさ……信二のこと好きなの?』

 

そんなことは無い。自分は普通に信二に接している。特別な存在じゃなくて周りと同じように。そうしていたと思っていたのに。

 

(そんなの……よくわかんない)

 

この胸のモヤモヤも温泉で流せたら___

 

 

♢

 

(くそっ、どこにいやがる!)

 

まず地霊殿の中を探し回ったが、それらしい者はいなかった。その周辺も朱雀が探しているが、依然として見つからない。その事が信二に焦りと苛立ちを生み出していた。

 

「……あっ信二さん。上がったんですね」

 

地霊殿を出ようとしたところでさとりと会う。

 

「さとり、白髪の男を見なかったか!?」

 

「い、いえ。見てません…」

 

「そうか……くそ!」

 

「あの、信二さ__」

 

「悪いさとり、話すのはまた後にしてくれ!」

 

「えっ?は、はい……」

 

信二が会話を後回しにするほど何かに焦っている。それは一目見ればすぐに分かること。何にそこまで急いでいるのかを読み取ろうと信二の心を読もうとするが、先程の魔法をまだ使用しているからなのか、読み取れない。

 

その時にさとりは初めて知った。人の心が分からないというのは、とても不安になるということを。

 

「そう、ですか………」

 

信二がさとりの横を通り過ぎる。

 

「__っ!?」

 

「な、きゃあ?!」

 

その瞬間信二に向けられて弾幕が降り注いだ。さとりに当たらないギリギリのところで。

 

「な、なにが。……はっ、信二さん!」

 

さとりも何が起こったのか理解できなかった。それにさっきまで目の前にいた信二の姿が見えない。

 

「……なんだぁ今の?!」

 

「信二さん!」

 

流石と言うべきか信二は弾幕を避けていた。そしてその視線は弾幕が打たれた所に向けられていた。

 

「誰だ!」

 

「……………」

 

弾幕を打った張本人は長い髪を緑色の大きなリボンで結っている少女。その右手は大砲の様なもので覆われている。

 

「お空?!何をしているの!」

 

お空と呼ばれた少女。お燐と同じく動物でありながらも妖怪として知性を持つ者。現状その顔はかなり険しい。

 

「さとり様は黙ってて!」

 

普段は大声を出さず柔らかい雰囲気のお空がさとりに向かって怒鳴る。そんなことを予想していなかったさとりは少し萎縮する。

 

「………信二」

 

お空の後ろからお燐が姿を見せる。

 

「お燐!あの子はなにを__」

 

ドンッ!

 

「___どういうことだ?」

 

お燐も信二に向かって弾幕を放ってきた。信二も異変を感じ取った。今地霊殿で起ころうとしている異変を。

 

「酷いじゃない信二。さとり様を悲しませるなんて」

 

「……それは悪いと__」

 

「さとり様をあんなに笑顔に出来るのなんて信二くらいなのに。それなのにお前が悲しませてどうする!」

 

「酷いよ!私達はそんなこと出来ないのに!」

 

お燐とお空は怒っている。信二に対して。さとりを悲しませたと。……いや、本当は()()()()が渦巻いているのかもしれない。

 

「……お前達は何を言って__」

 

二人が信二に殺意をむける。

 

「さとり様を悲しませるやつは……」

 

死んで詫びろ

 

 



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49話 燃える感情

49話です。遅くなってしまいましたね。今年はなるべく頻度を上げたいものです。


「お燐、お空!やめなさい!」

 

急に信二に攻撃してきた二人。何故そんなことをしたのかさとりにも訳が分からなかった。普段はそんな事を絶対にしない二人。優しくて自分とも話してくれる……そんな二人が今憎しみを帯びた表情を浮かべ信二に敵対している。

 

「さとり様は黙ってて下さい!」

 

「っ?!」

 

お燐の声が響く。その声音は怒気を含んでおり、日々のお燐からは想像が出来ないその豹変ぶりにさとりはひるんでしまった。

 

「なんでお前達が俺を恨んでいるか分からないだか!」

 

信二も弾幕を避けつつ、反撃せずに問いかける。信二としてはこの戦いは意味をなさない。それに今はこんな事をしている暇はない。()()()がまだ近くにいるかもしれない。そう考えると立ち止まっては居られないのだ。

 

「言ったはずだ。さとり様を悲しませたからだ!」

 

「私達の方が愛されてるのに……お前なんかに!」

 

二人の攻撃ははげしさを増す一方。話し合いでの解決など出来る状態では既に無い。

 

(くっ…!、どういうことだ)

 

さとりを悲しませたから。それだけでこの二人が激昂するとも思えない。それはさとりの様子からして断言できる。明らかにこの二人に対して不審感を抱き、畏怖している。そうなると別に理由があるはずだ。

 

「や、やめないと言うのなら私が……?!」

 

「!? どうしたさとり、何があった!」

 

さとりが参戦しようとした瞬間、その場で気絶した。特に他の者の気配は感じられなかった。だが、明らかに何者かに手を出された気絶の仕方だった。

 

(目にも見えず気配も感じられない……厄介だな)

 

この瞬間信二は詳細不明な敵がいるということを頭に入れておかなければならなくなった。こうなると余計に神経を研ぎ澄まさなければならない。いきなり攻撃されたとしても即座に対応できるように。

 

この前のにとりにやられたように不意打ちで戦闘不能になる。そのようには二度とならないと心に決めたのだ。あの日の情けない自分をまた誰かに見られるのは信二にとっても耐え難い。

 

「ちょこまかと鬱陶しい!」

 

「お前なんかより……お前なんかより!!」

 

(くそっ、考えろ!何が原因だ!)

 

今までの異変と同じように今回もアスモダイが関係している異変だろう。しかし、今回はあの二人の戦う動機が分からない。

 

(想いだぜ、今日何があったのか!)

 

それに先程からお空の言っていることが理解できない。同じことをずっと言っている。

 

(俺なんかより?どういう意味だ……)

 

俺と比べられる所なんてあったか……?__ダメだ、何も浮かばない。何故なら二人は初対面だから。今初めてお互いの顔を見たのだ。比べ合う関係でなければ恨まれるような事をした覚えもない。

 

(……いや、待て__)

 

信二の脳から湧き出てきた記憶。

 

『あんなこと出来るの信二くらいだろうし……』

 

それはお燐が信二に言った言葉。さとりと楽しげに話をしていた事について言われた。

 

(()()()()()()()()……)

 

さとりが初めてあのように楽しげにしていた。それは俺と話したから。それは心を読まれない俺にしか出来ない。だから俺はさとりに好かれて__

 

 

 

 

 

 

『ちょっと嫉妬しちゃうな』

 

またも一つ思い出した記憶。確かにお燐はあの時そう言った。

 

「__そうか、嫉妬か!」

 

なるほど。これなら初対面の相手でも憎しみが生まれる。恐らく二人は俺に対して相当の嫉妬をしていた。そこにさとりを悲しませた事が重なり二人は激昂しているのだ。

 

「呪精「怨霊憑依妖精」!」

 

お燐がスペルカードを使う。すると白い妖精の様なものが信二を囲い襲いかかる。

 

「なんだコイツら?!」

 

信二も剣をだし白い妖精達を切り伏せていく。

 

「無駄だよ」

 

お燐のその言葉通りいくら切り、魔法で焼いたとしても何事も無かったかのように元の形に戻り再び攻撃してくる。

 

「ちっ!鬱陶しいのはどっちだ!」

 

今更苦戦するような敵ではないがいちいち対処するのも体力を使う。しかし、このスペルカードの効果時間が切れるまでは耐えなくてはならない。

 

「喰らえ!爆符「ギガフレア」!」

 

信二が白い妖精とお燐の弾幕を躱している間にお空が大技を放ってくる。魔理沙のマスタースパークに似た極太のレーザーの様な弾幕。しかし、怒りのせいなのかマスタースパークよりも威力が高くなっている。

 

(これは……流石に話し合いで解決出来そうにないな)

 

嫉妬の対象である自分が語りかけるなど火に油を注ぐことに等しい。

 

「そっちがその気ならこっちも本気で行くぞ!『王の御前(キングバーン)』!」

 

自身の周囲に爆炎を広げる。白い妖精はもちろんお空のギガフレアも押し留めている。

 

「『焔一文字(ほむらいちもんじ)』!」

 

そのままギガフレアを剣技で切り崩し、相殺させる。お燐のスペルカードも時間が切れ、振り出しに戻った。

 

「先に言っとくぜ……」

 

しかし先程と違う点は__

 

「怪我しても知らねぇからな」

 

信二がやる気になった所である。相手の戦う理由が分かったのなら全力で応える。こうなると簡単に決着がつかない事が予想される。

 

「……おいおい、騒がしいと思ったらこれまたどういうことだ!」

 

そこに急いできたのか息を切らして魔理沙が姿を見せる。あれだけの戦闘が行われていたのだから騒音も相当なものになっていただろう。そのため魔理沙も駆けつけることが出来た。

 

「魔理沙!説明は後でするからとりあえずさとりを安全なところに!」

 

信二はまず意識のないさとりをここから退避させるように魔理沙に頼む。

 

「っ?!さとりには触れさせな__」

 

「お前の相手は俺だろう!」

 

お燐が邪魔をしようとした所を信二に止められる。

 

「よく分からんが引き受けた!」

 

厄介事には慣れっこの魔理沙。下手に質問をせず、信二に言われた事に速攻で取り組む。さとりを抱えて地霊殿に__

 

「……邪魔だよ」

 

「うわっ?!なんだ!」

 

行こうとした時魔理沙が吹き飛ぶ。またも姿が見えぬ者に妨害される。

 

「……まさかこいしか?」

 

「こいし?心当たりがあるのか魔理沙!」

 

信二の質問に頷く魔理沙。

 

「さとりの妹で無意識__」

 

「__隙だらけだね」

 

「っ?!!」

 

魔理沙が説明を終わる前に信二の後ろから現れ、そのまま弾幕で信二を突き飛ばしたこいし__古明地こいし。さとりの妹でサードアイを閉じた無意識を操る程度の能力を持つ。

 

「許さないよ。君だけは……」

 

「「はぁぁぁーー!!」」

 

叩き落とした信二に向かってお燐とお空も弾幕を放つ。ここで仕留める気なのかその威力、量は凄まじいものになっている。

 

こいしもまた信二に大して嫉妬をしている。それはお燐、お空の比ではない。何故ならこいしもまたさとりから心を読まれない。つまり信二と同じなのだ。それなのに自分と話している時よりも信二と話している時の方が楽しそうにしているさとりを見てしまった。自分よりも信二の方が___そう思ってしまったのだ。

 

「信二ぃーー!!」

 

普通あれだけの弾幕を浴びればタダでは済まない。流石の信二もここまで___

 

「心配すんな」

 

__とはいかない。土埃の中から聞こえる声は心強い意志がこもっていた。

 

「………ふーん。生きてたんだ」

 

「当たり前さ、心に決めたからな。……俺はもう__」

 

土埃が晴れる。その時信二の周りには()()()()が漂っていた。

 

「負けないってな!」



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50話 七つの炎

50話です。関係無いですがキングダムハーツ発売されましたね。ようやく。いつかキングダムハーツのssも書きたいなーとか思ってます。


「し、信二。大丈夫か……?」

 

「ああ、問題ない」

 

あれだけの攻撃を受けたのに今の信二は傷一つ付いていない。その理由はやはり周りにある七つの剣のおかげか……。

 

「なーんでやられてないの?お燐もお空もそんなにヤワな攻撃してないよ」

 

こいしも疑問に思う。あれだけの攻撃だ、無事な方がおかしい。しかし目の前の男は不敵な笑みを浮かべている。

 

「……『七皇の宝剣(エクスピア·サンライズ)』ようやく使う機会が出来たな」

 

その魔法は今までの戦いでも使おうとしていた。しかしこれまではその時の敵、状況と相性が悪かった。その魔法は信二の刀を魔法で複製し、七つに増やしたもの。もちろんオリジナルに比べれば耐久力は下がる。しかし切れ味は問題なく再現出来ている。そしてこの魔法の最大の強さは何よりも信二自身が持って振るわなくても信二の意思で自在に動かせるところ。それは刀のリーチが目に見える範囲全てになった事と同義なのだ。

 

もしこれを妖夢が見たら嫉妬するかもしれない。自分は二刀しか扱えないのに信二は七つも操っていると。でもこれは普通の刀の扱い方が通用しない。剣を使うと言ってもあくまで魔法。扱い方としては魔法として使うのが正しい。そのため信二が昔言っていた通り、二刀流としての腕は妖夢の方が上なのだ。

 

……そしてこの魔法の本質はさらに別なところにある。

 

「魔理沙、早くさとりを移動させてくれ」

 

今までの展開で唖然としていた魔理沙も我に返る。信二が無事と分かれば自分は任された仕事をするのみ。

 

「任せろ!ワタシが戻るまでくたばるなよ!」

 

「いや、魔理沙には人を連れてきて欲しい」

 

自分に加勢するのではなく、何故かある人を探して欲しいと頼む。

 

「人ー?一体誰を?」

 

()()()()()()()を持つやつだ。幻想郷に一人くらいいるだろ」

 

信二の考えとしてはその嫉妬を操る者がいれば直ぐに解決するというもの。というのも今回だけは信二がこいし達を倒すだけじゃ意味が無い。嫉妬の対象となるものに倒されたとなるとさらなる憎悪を産むだけだからだ。だからその心から嫉妬心を綺麗に取り除かなければならない。

 

「嫉妬を操るヤツ?なんでそいつが必要なのかわかんないけど丁度いるぜ、地底に!」

 

「そうか。それなら好都合。なるべく早く頼むぞ!」

 

「任せとけ!」

 

話が終わると信二は改めて構えを取る。魔理沙もさとりを抱えて地霊殿の中へ。

 

「そんなものが増えたからって関係ない!」

 

痺れを切らしてお燐とお空がまたも信二に突っ込む。

 

「そうとも限らないぞ」

 

突っ込んでくる二人に対して信二は剣を突貫させる。

 

「くっ!」

 

「邪魔くさい!」

 

操っている剣は人の首なぞ簡単に落とす威力はある。それは向かってくる剣の迫力で分かる。そんなものが近づいてきたら怒りで我を失っている者でも危機を感じる。現に二人は襲ってくる剣に手を焼いてる。

 

「こんなもの!」

 

弾幕で向かってくる剣を弾き飛ばそうとする。

 

「無駄だ!」

 

信二はそれぞれの剣に更なる魔力を込める。そうするとそれぞれが輝くように炎をあげる。それは素人目でも分かる。()()()()()()()()

 

「なぁ?!」

 

「うゎ!」

 

 

お燐、お空の弾幕を切り裂き、そのまま切りかかる。ただの剣と侮るなかれ。その威力は計り知れない。

 

「__っと!?」

 

「うそ?!」

 

信二が急に自身の後ろに向かって回し蹴りを放つ。本来ならそこに誰も居ないはず。しかし、そこには確かにこいしがいた。無意識を操り、人の意識の外から攻撃出来るこいしが。

 

「さっきからなんで私の攻撃が読めるの!」

 

「いや、読めてはいないさ。ただ何かが当たった瞬間反射で避けてるだけだ」

 

軽々しく信二は言ってるがそんなもの常人には出来やしない。例え武術を極めたものでも。信二は今までの経験に加え魔法での感知を最大限に利用して躱しているのだ。さらにこいしが居ると既に分かっている。それなら不意をつかれたとしてもまだ対処ができる。

 

こいしはあの時に一撃で信二を堕とすのが最善手だった。しかしその時は出来なかった。いや、しなかった。信二をもっと痛めつけようとしたから。だが信二の力は想像の遥か上をいっていた、侮っていたのだ。それは嫉妬による心の油断から産まれたものなのか……。

 

「さあ、どんどん行くぞ!」

 

信二は止まらない。三人を止めるまで。その心はどこまでも猛り燃え盛る。

 

♢

 

「……よしっ、とりあえず大丈夫だろ」

 

魔理沙は信二に言われた通りさとりを地霊殿の中へと避難させた。ここなら相当な事が起こらなければ安全だろう。

 

「次は嫉妬を操るやつを連れてこいとか言ってたな」

 

何故必要なのかは魔理沙自身よく分かっていないが信二が連れてきて欲しいと願ったのだ。何かしら理由があるはず。

 

「早く()()()()のとこに行かないと」

 

そう。幻想郷で嫉妬を操る者と言えばここ地底で初めて出会った少女__水橋パルスィの事だ。

 

今思えばパルスィは今回の異変の事を予知していたのかもしれない。嫉妬の心が動いていると感じ取ったから。けどあそこまでの大事になるとは予想してはいなかった。あの時パルスィは信二なら大丈夫だと思ったからだ。あそこまで眩しくて誰にでも優しい男なら誰にだって好かれると思ったから。だから忠告をせずに黙っていた。

 

しかし、それが裏目に出た。さとりに好かれたために嫉妬の対象となってしまった。けれでもそれを誰が止められようか。人の心のままの行動を変えることなんて出来ない。そして例えパルスィに忠告を受けたとしても信二の行動は変わらなかっただろう。自分の心が示す方へと行く。それが火渡信二と言う男だから。

 

(てか霊夢はこの騒動の中でも風呂はいってるのか?)

 

ふと未だに姿を見せない霊夢の事が気になった魔理沙。確かにあれだけの騒ぎが起きていた。そんな中で知らんぷりしながら風呂にでも入っているのかと。いくらなんでもそこまで図太くは無いと思っていたが、まさか………。

 

「__おっ、あれは」

 

そのような事を考えながらいると旧都の中で探している者を見つけた。

 

「おーい、パルスィ!」

 

「魔理沙!どうしたの?」

 

「お前を探してたんだ。信二がお前の力が必要なんだと」

 

その事を聞き顎に手を当て何かを呟き始めた。

 

「……やっぱりこの感じ。とてつもなく大きな嫉妬が……」

 

「おいおい、考え事はいいがなるべく早くしてくれ。信二がこいし達と戦ってんだ」

 

「こいし達と?__そう、根源は地霊殿か」

 

「さっきから何言ってるんだ?もしかして心当たりがあるのか?」

 

「……そうね。あると言えばあるわ。でも確証が持てなかった。だから魔理沙達に言うのを躊躇ったの」

 

嫉妬を操るパルスィでも誰が誰に嫉妬心を持つかは分からない。だから言いたくても言えなかった。

 

「とりあえず詳しい話は後。今は急いで地霊殿に行くぞ」

 

「ええ、乗らせてもらうわ魔理沙」

 

「そっちの方が早いからな」

 

二つ返事で承諾したパルスィ。ここまで素直になるのは大変珍しい。話している相手が魔理沙というのもあるだろうが、やはり信二が背景にいるからだろうか。異性として好きな訳では無い。ただ『人』として気になってしまうのだ。あれだけ明るい心に塗りつぶされた黒い感情がある人間の事が。

 

「しっかり捕まってろよ!」

 

パルスィが乗ったことを確認して箒に魔力を込める。これなら数分で地霊殿へと到着するだろう。()()()()()()()

 

「__っまりs……!」

 

今までの異変でもそうだった。いつも予想と違うことが起こる。イレギュラーな事態がやってくる。今回も例外では無かった。魔理沙達の頭上から何かが物凄い勢いで降ってきた。その威力は壮絶で地面にクレーターを作ったほど。

 

「___ったく、今日は随分な挨拶が多くないか、勇儀!」

 

魔理沙は流石というか当たり前のように躱していた。そして攻撃してきたのは今日地底に来た時も同じような事をした星熊勇儀であった。

 

「ゆ、勇儀?!どうしてこんなこと……」

 

「いや悪いね。パルスィを巻き込むつもりはなかったんだけどどうしようもなく疼いてね」

 

(ワタシはどうでもいいのか……)

 

「何かが私を興奮させてるんだ。けどたまには乗ってやるのも悪くない。結局の所私達鬼は戦うことに快楽を生み出すのさ!」

 

「だからってワタシ達を巻き込むなよ!」

 

戦う気のない魔理沙は箒で逃げようとする。しかし勇儀はそんな魔理沙を逃がすまいと追ってくる。

 

「鬼は人の話を聞かないもんさぁ!」

 

「くそっ、めんどくさい!」

 

相手がそれほど強くない者だったら直ぐに逃げ切れるところだが、相手は鬼。そう易々と逃がしてくれるほど甘くない。

 

「仕方ない、パルスィお前も協力しろよ!」

 

「………うん、勇儀には悪いけどここで止まってられないもの!」




エクスピアサンライズを使おうとした場面は白玉楼、妖怪の山の時ですね。前者は魔法で複製された物なので白い化け物に食べられるから。後者は神社にも被害が及ぶかもしれなかったかから使いませんでした


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51話 それぞれの本気

51話です。本当は先週の日曜日までに投稿したかったんですけどテストが〜。はい、言い訳です。


「恋符「ノンディレクショナルレーザー」!」

 

箒に乗り後ろにパルスィを乗せながらもスペルカードを発動する。本当なら全速力で駆け抜けたいところ。しかし勇儀はそうさせてくれない。

 

「まぁまぁ、そう急がずにゆっくりしていきなぁ!」

 

全方向へと発射されるレーザーを軽々と避けてそのまま魔理沙達へと殴りかかる。興奮状態で痛みを感じていないのか多少の被弾はお構い無しに。

 

「くそっ!捕まってろパルスィ!」

 

そして魔理沙が一番苦戦しているところは勇儀が接近戦を仕掛けてくることだ。純粋な弾幕対決なら魔理沙は間違いなくトップクラスの実力を持つ。しかし近接戦闘となると話は別。こなせないことも無いが『強い』と呼べるほどでもない。ましてや相手が鬼となると相手にならない。そもそも鬼と格闘で互角に渡り合えるものが極わずかな者しかいない。

 

「ワタシは霊夢みたいに脳筋じゃないんだよ!魔符「ミルキーウェイ」!」

 

「私も!妬符「グリーンアイドモンスター」!」

 

魔理沙の無差別の広範囲弾幕にパルスィの追尾してくるスペル。縦横無尽に逃げれば逃げるほど間隔は狭くなり避けづらくなる。

 

「怪輪「地獄の苦輪」」

 

そこで勇儀もスペルカードを発動する。このスペルはリング状の弾幕が四散する。無論それだけではない。相手の弾幕と相殺し合い消える瞬間大きな弾幕へと姿を変える。その性質のおかげで二人の弾幕を防ぎ、隙を作るのにはもってこいの代物。

 

「ほらぁ!ちゃんと避けなきゃ痛い目見るよ!」

 

「そっちがな!恋符「マスタースパーク」!」

 

またも接近してきた勇儀に対し魔理沙は拳が当たる寸前かつ絶対に避けられないタイミングでマスタースパークを放った。その結果勇儀は正面から直撃することになった。

 

「………甘いねぇ!」

 

「なにぃ?!」

 

いや、()()()()()()()()()。理由は至極簡単、避ける必要がなかった。力を込めたその拳でかき消す事が出来ると確信していたから。さすがにこれは予想だにしていなかった。今度は先程とは逆で魔理沙が絶対に避けられない間合いまで勇儀の接近を許してしまった。

 

(直撃だけは……!)

 

魔理沙は何とか直撃を避けようと箒を盾にする。箒ならまだ魔法で強度を強化できる。一撃くらいなら勇儀の攻撃も耐えられると考えた。事実魔理沙の予想通り勇儀の一撃には耐えた。しかし衝撃はもろに喰らい吹き飛ばされてしまう。

 

「きゃぁぁ!」

 

「パルスィ!」

 

その時の反動でパルスィが箒から投げ出される。勇儀の攻撃は凄まじくパルスィは体勢を立て直せない。このままだと地面へと墜落する。ここでパルスィに一大事があれば信二との約束を果たせなくなる。それだけは避けようと一心不乱にパルスィの元へ駆けつけ左手を伸ばす。

 

「___間一髪だな」

 

何とか地表に当たる手前で手が届いた。

 

「あ、ありがとう魔理沙」

 

「いいって、気にするな」

 

今の攻防で魔理沙は確信した。この本気の勇儀を振り切ることは不可能だと。

 

思い返してみれば初めて地底に来た時に戦った時は手加減していた。しかも自身で力を抑えるように枷をしていた。手に持っている酒を落とさないようにと。しかし今は違う。今彼女を縛るものは無い。しかも手加減無しの臨戦態勢。純粋な鬼の力を剥き出しにしている。

 

「………パルスィ、悪いけど先に行ってくれ」

 

「任せて大丈夫なの?」

 

恐らくパルスィも同じことを思っていた。力の差を感じていた。だからこそ魔理沙を心配する。一人であの勇儀と対等にやり合えるのかと。

 

「ふん、余裕だぜ!」

 

満面の笑みを浮かべ言い放つ。パルスィに不安を与えないように。自分に言い聞かせるように。

 

「……任せたわ!」

 

パルスィもあえて何も言わずに走り出す。それが魔理沙に対する一番の礼儀だと知ってたから。

 

「……案外すんなりと通すな。血相変えて追うもんだと思ってたよ」

 

「私は闘いたいだけだからねぇ。それに個人的にパルスィを傷つけたくもないし」

 

普段勇儀はよくパルスィのことを気にかけていた。だからこそ襲ってきた時に驚き動揺した。

 

「パルスィがいいならワタシも良くないか?」

 

「駄目だ。恨みも理由も無いがあんたは私と闘ってもらうよ」

 

なんとも理不尽な話である。しかし理不尽を力ずくで通すのが鬼というもの。

 

「それ今じゃないと駄目なのか?」

 

「そうだよ。今じゃないと駄目なんだ」

 

「ったく、異変が起きてる時に…」

 

「異変?__なるほどね。ずっとあるこの嫌な感じは異変のせいなのかねぇ」

 

「嫌な感じ?そんなもんしてるか?」

 

「人間には分からないだろうね。私ら()くらいだよ、感じ取れるのは」

 

「ふーん。興味無いな」

 

嫌な感じと言われても感じないものに興味は惹かれない。魔理沙自身明るい性格のためそういうものに縁がないのも一枚かんでいる。

 

「あんたはそうだろ。何も気にしないってタチだろ」

 

「お前に言われたくないっての」

 

「ははっ、それもそうだ。……さて、そろそろやろうじゃないか」

 

拳を握り構えを取る。もう待ちきれないと言わんばかりに。

 

「ワタシとしては遠慮したいんだけど」

 

魔理沙は本来なら信二の所へ向かいたい。こんな所で油を売っている暇はないのだ。

 

「いい加減諦めな。それにすぐ遠慮なんかしてられなくなるさぁ!」

 

そんな話など知ったこっちゃないと再び魔理沙へと襲いかかる。

 

「やれやれ、血の気の多いやつだな!」

 

魔理沙も久々に本気でいく。すぐ勇儀に勝ち信二の元へ行くために。

 

♢

 

「どうした?さっきまでの威勢は?」

 

三対一という状況の中にも関わらず戦況は信二が有利だった。その理由はもちろん信二の魔法__七皇の宝剣(エクスピア·サンライズ)のおかげだろう。

 

「くそっ!くそっ!」

 

「生意気な!恨霊「スプリーン__」

 

「させねぇっての!」

 

「__っ邪魔!」

 

先程からお燐達がスペルカードを発動する寸前で妨害をし大技を出させなくしている。信二が持っている剣を除く六つの剣はそれぞれお燐、お空、こいしにまとわりついて追いかけ回すように攻撃してくる。

 

信二が自分達を殺すことは無いと分かってはいる。しかし攻撃一つ一つに殺気がしっかりと感じ取れる。何よりも刃物が自分に向かって飛んでくる状況だ。そんなもの避けない人の方がおかしい。

 

「いい加減にして!」

 

「悪いが諦めな」

 

こいしには無意識に行動させないように信二が常に追い詰めている。このように相手に何もさせないようにして立ち回っている。

 

「_____信二ぃ!」

 

「うん、パルスィ?どうしてここに」

 

そこへ息を切らしながら現れたパルスィ。何故今ここでパルスィが来たのか疑問に思う。加えて魔理沙が居ないことにも。

 

「どうしてって、私の力が必要なんでしょ!」

 

「力?もしかして嫉妬を操る能力を持つやつってパルスィ?」

 

「そうよ!」

 

なるほど。それなら魔理沙はしっかりと仕事をこなしてくれたらしい。居ないのは何かしらのトラブルに巻き込まれたか__

 

「………さっきから何余所見してるのよ!」

 

「おっと危ない」

 

自分と戦ってるのにも関わらずパルスィと話す信二を見てさらに激昂するこいし。もはや手がつけられないと誰が見ても分かるほど怒り狂っている。

 

「説明は省くが見ての通りだ。こいつらの俺への嫉妬を取り除いて欲しい!」

 

「……私が言うのもなんだけど何をしたらそんなに怒りを買うのよ……」

 

「さぁな、本人達に聞いてくれ!」

 

少し戸惑いながらもこいし達の心を視る。そして自身の能力で嫉妬心を排除しようと試みる。

 

「__っ?!何故……!出来ない!」

 

「なにぃ?!」

 

予想だにしていない言葉がパルスィから聞こえてきた。これがダメだとなるともうお手上げか……。

 

「なんか……上手く言えないけど何かが邪魔をしてる感じがする」

 

「邪魔?どういうことだ?」

 

「分からないけど……。純粋な嫉妬心だけじゃない、こいし達の心を乱す邪悪なものが心に住み着いているイメージよ」

 

「邪悪なものって、そんな曖昧な……」

 

けど信二には心当たりがある。もしかしなくても悪魔の力だと確信している。これまでの異変もそれのせいだと先程アスモダイと会った時に確信した。

 

「どうすればいい?」

 

「多分意識を奪ってしまえばいける!」

 

「……結局力技になるのか」

 

どうにかこいし達を傷つけずに解決させたかったのだが最終的にこうなってしまう。心のどこかでそうしないといけないと思ってはいたが。

 

「しょうがない。ならすぐに終わらせるか!」

 

「はぁ?!何を言って__」

 

「はっ!」

 

「うっっ!……馬鹿!」

 

今まで距離を詰めていたこいしを蹴り飛ばしてあえて距離をとる。飛ばされた瞬間こいしも無意識の中へ。姿が見えなくなる。さらにお燐、お空に向けていた剣を全て自分の周りへと戻す。

 

「何を……?!」

 

「関係ない!核熱「ニュークリアエクスカーション」!」

 

「そうね!贖罪「旧地獄の針山」!」

 

お燐は信二の行動に一瞬戸惑ったがすぐにお空がスペルカードを発動したため自分も即座に発動する。この機を逃さまいと。

 

「____気づいてないか?辺りに赤い粉塵が見えるのが」

 

そう言った瞬間信二を含む辺り一面が突如爆発する。前触れもなくいきなりにだ。

 

「きゃあ?!」

 

「何が?!」

 

スペルカードを飲み込み二人も巻き込む程の爆発。当然二人には何が起きたのか見当もつかない。そして勝利を確信したような笑みを浮かべる信二。

 

「ここからだぜ、俺の魔法は!」

 

剣が荒ぶり空を駆ける。ここからが信二の魔法の真骨頂。



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52話 心の行方

52話です。最近リアルが忙しく投稿が遅くなってます。前のように一週間ずつ投稿出来るようにしていきたいですね。


「なんだったのあの爆発は?!」

 

自分達のスペルカードすらも消し去る爆発がなんの前触れもなく起こったのだ。パニックになるのも仕方がない。しかし、そんな爆発にも関わらずお燐、お空は大きな傷を負っていない。

 

「なんだ、意外と元気そうだな。スペルカードのおかげか?これはまた()()()()かな」

 

「何を訳の分からないことを!」

 

けれどもいつまでもパニックになっている訳では無い。今の二人は全ての感情が信二への嫉妬で埋め尽くされている状況だ。何かあってもすぐそちらに感情が戻ってしまうのだ。

 

「おいおい、せっかく俺が爆発のヒントを教えてるのに___」

 

「知ったことか!」

 

もう信二が何を言おうと聞く耳を持たない、聞く気がない、聞きたくない。火渡信二という人間が気に入らない。

 

(貯める?一体何を……)

 

一人正常なパルスィが信二の言葉を復唱する。敵対はしていないが信二の技が気になってしまう。普段は見れないスペルカードとは違う純粋に相手を倒すための攻撃を。

 

(それに赤い粉塵?……確かに少し景色が赤かったような)

 

爆発が起こる前は言われれば風景が赤みがかっていたような気もする。しかし今はそんなことも無い。信二の呟いた赤い粉塵なるものは見えない。やはりブラフなのか。

 

「逃げてるばっかりじゃ勝てねーぞ!」

 

「うるさい!焔星「フィクストスター」!」

 

巨大な弾幕が信二を囲むように回り始める。さらに小型の弾幕をばら撒き逃げる隙を与えない。

 

「甘いな!」

 

信二は大型の弾幕のみを避け残りは7つの剣で斬り伏せていく。その動きはだんだんと激しくなっていってるように感じられる。

 

(……やっぱりそんなもの__)

 

無い。そう思っていた。いや、実際に先程までは無かった。しかし今戦場をよく見てみるとちらほら赤い粉塵が確かに確認できる。ついさっきまでは無かったのにだ。

 

(どういうこと?さっきまでそんなもの無かった!)

 

しかも心なしかどんどん増えていっているようにも感じられる。空間が紅く染まっていくように。

 

「反応「妖怪ポリグラフ」!」

 

「出てきたかこいし!」

 

信二の意識が完全に二人に向いている時に死角から姿を現しスペルカードを発動する。信二を捕捉するように8つの弾幕が襲ってくる。

 

「なんだこれ、俺の動きに合わせてる?」

 

それは信二が動けばそのように動き動かなければジリジリと迫ってくるスペルカード。 さらに先程のお空のスペルカードはまだ残っている。

 

(全部を切ることも出来るけど、厄介だな)

 

いちいち7つの剣で切っていくのもちまちまとしている。そうでなくても難しいのだ、純粋に。剣を7つも同時に扱うのは。例えるなら七人と同時に話し合っているようなもの。当たり前だがそんな状況になれば脳の処理が追いつかない。それを今信二は行なっている。そのため余裕そうに見えて脳への負担は半端なものでは無い。

 

「だったらここしかないな!『王の御前(キングバーン)』!」

 

周囲を爆炎で包む。この技は範囲が狭い代わりに威力がかなり高い。お空、こいしのスペルカードを相殺している。

 

「今!本能__」

 

「爆符___」

 

「屍霊__」

 

その状態を見て三人は畳み掛けるようにスペルカードを発動しようとした。今の動けない状況なら量で押し切れると思ったからだ。さらにさすがに炎の中にいるならこちらの姿も見えない。つまり剣が的確に飛んでくることも無い。

 

……だが三人は知らない。炎の中で信二が笑っているのを。

 

「爆ぜな!」

 

「今のは?!」

 

パルスィは確かに見た。信二の一言の後に宙に浮いている六つの剣が淡く紅く光るところを。そして次の瞬間にはまたあの爆発が起こった。

 

「また!?」

 

油断をしていた訳では無いし爆発にも警戒していた。しかしここ一番の攻撃。ここで決める。そんな思いが強まり爆発に対して対応が遅れた。その一瞬の隙が命取りとなる。

 

狂った炎の行方(マッドネスクリムゾン)!」

 

指先から出る5つの炎。それぞれが不規則に動きながら空間を切り裂いていく。

 

「くっ!」

 

「危ない!」

 

「これくらいで__」

 

三人はギリギリ避ける。ランダムに動くものを瞬時に見切って避けたのは流石と言ったところだろう。けど信二は今の攻撃だけで決着を決めようなどとは微塵も考えてはいない。

 

「『フレアジェット』!」

 

「うっ……!」

 

「っ……!」

 

魔力を爆発させることで推進力を大幅に上げる技。そのスピードは文字通り目にも留まらぬ速さ。一瞬でお燐とお空の背後に周りそのまま首に手刀を繰り出す。魔力を込めて打ったその打撃は一息に二人の意識を奪った。

 

「よくも二人を……!」

 

「逃がさねーよ」

 

二人から離れたところにいたこいしがまたも無意識へ入ろうとしたところを六つの剣で囲み逃げれないようにする。剣はこいしを攻撃することは無い。だがこいしを中心としてそれぞれが高速で円を描くように回転している。

 

「何を__」

 

そこでこいしも気がついた。赤い粉塵が自身の周りに漂っていることを。それぞれの剣の軌跡から後を追うようにして。そして動けば動くほど粉塵の出る量は増えていく。

 

「まさか……!」

 

「そのまさかだ」

 

先程からの爆発は7つの剣から出る魔力の残滓が起爆剤となっている。そしてそれは魔力を流すと小さな爆発を起こす。その量が少なければ爆発も大したことはない。だがそれが貯まればそれだけ爆発の規模も大きいものとなる。文字通り塵も積もれば山となるという事だ。

 

「これで終わりだ!」

 

剣が紅く光る時、周りの塵に魔力が流れ連鎖的に爆発が起こる。こいしの周りにのみ漂っていた粉塵はこいしを包み込むようにして爆発する。

 

「これでどうだパルスィ!」

 

「完璧よ、後は任せて!」

 

三人の意識が無くなり力が弱まった今、ようやくパルスィの力で嫉妬の心を取り除くことが出来る。

 

……嫉妬は生きていればしてしまう醜い感情。相手よりも良くなりたい、相手よりも上に立ちたい。そんな想いが積もり積もって出来る感情だ。

 

(でも私はそれを美しいと思うの)

 

そんな醜さが人を強くさせる。自分の方が劣っていると自覚し自分をより良くしようとする。傍から見れば美しくはないかもしれないけれど。そのひたむきとも取れる姿に目を引かれる。……そのせいで周りから疎まれるのかもしれないけど。

 

(だから私は妬み続けるのよ。自分の強さを忘れないために)

 

しかし嫉妬はいきすぎると恨みへと姿を変える。そうなってしまったら成長の余地はない。

 

「だから認めないわ。あなた達の心を」

 

パルスィは心を解放させる。元々は美しかった(嫉妬)心を。

 

 

 

 

 

 

 

「……おっ?この感じは」

 

魔理沙と一騎打ちをしている勇儀が何かを感じとった。それはこいし達の心が正常に戻ったからだろう。

 

「どうした?もう勘弁してくれるのか?」

 

「そうだね。もう終わりでいいか」

 

先程まで凄まじい殺気と闘気を放っていたのにコロッとそれが止んだ。

 

「久々に楽しかったよ」

 

「これだけ暴れればそうだろうな」

 

元々何も無かったところで戦っていたが今辺りを見渡せば地面がボコボコになっている。

 

「この決着はまた改めて___」

 

「二度とつけないぜ」

 

魔理沙も本気で戦った。でも全然勝負がつかなかった。接戦に次ぐ接戦。実際のところかなり疲弊している。途中で辞めてこれだ。決着なんてつけた日にはどちらかが死んでもおかしくない。

 

「なんだい、それは残念だねぇ。まぁいい。巻き込んで悪かったね、楽しかったよ」

 

そう言い残し旧都の方へ歩いて行く。友達と遊んだ帰り道のように。

 

「……気まぐれすぎるぜ……」

 

嵐のように暴れては過ぎ去っていった。鬼というものの危険さを改めて認識した魔理沙だった。

 

「……信二のとこに行くか」

 

勇儀が戦いを辞めたと言うことはあちらもことが片付いたのだろう。ゆっくりとそちらへ向かう。

 

「あれ?なんであいつがここに?」

 

♢

 

「___いし。こいし……」

 

「………うーん」

 

「こいし!気がついたのね!」

 

「………お姉ちゃん?」

 

戦いは終わり三人は地霊殿の中へ運ばれた。お燐とお空はすぐに意識が回復したが至近距離で爆発を食らったこいしは目覚めるのに時間がかかっていた。

 

「大丈夫?痛いところはない?」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

さとりを安心させようと笑顔で答える。実際は少し体が痛い。

 

「いや悪いな。一応手加減はしたんだが」

 

「……分かってるよ。ずっと戦わなくていい方法をしようとしてたのも知ってるから」

 

「気づいていたのか?」

 

「うん。本当を言うと私も戦いたくはなかったの。でも心の中に別の自分が居るようだった。止めようと思っても止まれなかった。それで……」

 

「いいのよ。嫉妬なんてそんなもの。ただ今回はそれが行き過ぎただけよ」

 

パルスィがこいしを励ますようにそんな台詞を言った。

 

「良くはないけどな。安心しろ。なんでそうなったかもだいたい分かってるし俺も気にしてないから」

 

 

「………ありがとう二人とも」

 

「私はまだ怒ってるよ。あんなに無茶して信二さんにも迷惑かけて」

 

「………お姉ちゃ__」

 

「それに、あなたが一番大事に決まってるでしょ。たった一人の妹なんだから」

 

「お姉ちゃん……!ごめんなさい……、ごめんなさい……!」

 

今までの色々な感情が全て出てきたのか泣き出してしまった。そんなこいしを優しくさとりは受け止める。

 

「あなた達もよ。血は繋がってないけど家族なんだから」

 

「「さ、さとり様〜〜!」」

 

遠くで見ていたお燐とお空のこともお見通しだった。四人は仲良く抱き合い泣きあった。

 

「……帰るか」

 

「そうね。ここにいても邪魔そうだし」

 

もうここにいる意味は無い。あの三人ももう大丈夫だろう。それにここにいては後で変な気を使わせるだろう。四人には気づかれないように部屋を後にする。

 

「にしても巻き込んで悪かったな。おかげで助かったよ」

 

「いいのよ。住んでる場所であんなことされたらうるさくて仕方ないもの」

 

「……迷惑かけたな」

 

「もう、だからいいって___」

 

「この異変は俺が幻想郷に来たせいなんだ」

 

「え?」

 

「俺が来なければこんなことには……」

 

「……妬ましいわね」

 

「な、なんで?」

 

自分が思っていた返答と異なり慌てる信二。

 

「そんなに人のことを考えるなんてお人好しすぎるわ。それに異変が起きるくらいが丁度いいわ。暇にならなくて」

 

「……ふふっ」

 

「笑うところ?」

 

「いや悪い。パルスィの方がよっぽど優しいなって思っただけだ」

 

「ば、ばかな事言わないの」

 

「はいはい」

 

「……もう!」

 

そんな事を言いながらも笑顔になっていた。久々に笑顔になったかもしれないとパルスィは後になって気がついた。これが信二の力なのだと思った。人を照らす存在なんだと。

 

「そういえば霊夢はどこに行った__」

 

「信二ぃーー!」

 

「……魔理沙?」

 

遠くから魔理沙の張り上げるような声が届いた。よく見てみると魔理沙が誰かを連れてこちらへ向かってきている。

 

「藍じゃないあれ?なんで魔理沙といるのよ」

 

「藍?確か紫さんの式神だったよな」

 

なんでそんな人が魔理沙と、しかも先程まで勇儀と戦っていた人間といるのか。

 

「ここにいたか信二!とりあえず落ち着いて聞けよ!」

 

「まずは魔理沙が落ち着___」

 

「日渡……紫様が襲われた。アスモダイと名乗る者に」

 

「……なんだと?!」

 

……異変は終わってなどいなかった。



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53話 深淵

53話です。最近バイトなどで忙しくてなかなか進みません。しかも書くのも難しくて。また遅くなるかと思いますが応援してくれるとありがたいです。


「……なんだと?!」

 

アスモダイが紫さんを襲っただと?紫さんが普段住んでいる場所は知る人しか知らない秘境にあると霊夢が言っていた。何故そんな場所がバレた?いや、そんなことより

 

「紫さんは?」

 

「それが……今は意識不明の状態だ」

 

「ばかな!」

 

手合わせをした訳では無いが会っただけでも紫さんが強いのは十分に分かっていた。そんな人がやられる?しかも俺とアスモダイが温泉で合間見えた時にあいつからは強さを一切感じなかった。完全に一般人のそれと同じだ。それなのに紫さんを重症にした?!

 

「とりあえず案内してくれ!」

 

「元からそのつもりだ、ついてきてくれ!」

 

数々の疑問は残るもののまずは紫さんの容態を見るのが先だ。移動中でも状況を話す事もできる。

 

「今は霊夢が紫のそばにいる。急ぐぞ信二!」

 

「霊夢が……ああ!」

 

霊夢がここにいない理由はそれか。あれだけの騒ぎがあったにも関わらず霊夢が出てこなかったのにもちゃんと理由があったんだな。

 

 

「藍さん。何があったか詳しく話してください。俺には知る権利があるはずだ」

 

「……そうだな。これはお前が解決する問題だからな」

 

そう言って藍さんは何があったかを話してくれた。俺が戦っている裏で何があったのかを。

 

 

♢

 

「……いい加減逆上せてきたわね」

 

魔理沙が先に上がってからもずっと温泉に入っていた霊夢。特に何かを考えていた訳では無い。いや、あるひとつの事だけを考えていた。そして気がついた時には随分と体も火照っていた。

 

「魔理沙が変な事を言うから……」

 

霊夢は魔理沙の言ったことが忘れられずにいた。自分が信二を好いている。………いや、ない。そんなことはない。そりゃ嫌いではもちろん無い。けど恋仲になるほど好きな訳でもない……はず。そんな自問自答を繰り返していた。

 

「ないわ。それはない」

 

そしてまだ自分に言い聞かせている。暗示でもするかのように。そんな独り言を呟きながら脱衣所でいつもの巫女服に着替える。

 

「……心做しか外が騒がしいような」

 

そこで何故か外がうるさいことに気がつく。祭りが始まったなどの喧騒では無く、どちらかと言うと誰かがやり合っているような騒がしさである。

 

「嫌な予感がするわね……」

 

実は霊夢も感じていたのだ。地霊殿で起こっている異変に。だからすぐに着替えて向かおうとしていた。信二の力になるために。

 

「………えっ?」

 

しかしいつの間にか床に立っている感覚がない。詳しく言うと違う空間へと強制的に移動させられていた。

 

「これは紫の?」

 

その空間は大きな目が多数あるもの。これは紫の能力。つまり今霊夢は紫によってどこかへと連れていかれている状態と言える。

 

「まったく、一体どこに___」

 

___スキマから出た霊夢は目を疑った。そこには藍が知らない男の攻撃を結界を張って耐えていた。さらにその後ろには紫が血を流しながら倒れている。一目見ればわかる。襲撃にあったのだと。

 

「紫!藍!」

 

一瞬呆けていた霊夢だったがすぐに事の重さに気付き姿見えぬ男に向かっていく。その男は黒いモヤがかかっているように顔が見えなかった。

 

「霊夢!?」

 

「……博麗の巫女か。思わぬ来客だな」

 

霊夢の攻撃をいとも簡単に避ける。その後霊夢を見て何かを呟いたあと不利だと悟ったのか男は振り返る。その後ろには紫のスキマのようなものが発現した。

 

「逃げる気!」

 

「今は貴様に用はない。それに当初の目的も果たせた。ここに長居する気はない」

 

今度は先ほどとは逆で霊夢の攻撃を男が防いでいる。霊夢も近くに紫達がいるため全力で攻められない。今ここでこいつを倒すことは不可能だ。だから一つだけ、聞かなければならない事を問う。

 

「……あんたはアスモダイなの?」

 

「…………そうだ。()()()

 

そう言い残しアスモダイは姿を消した。

 

「何よそれ……」

 

さっきの含みのある言い方に霊夢は疑問を抱く。だが今それを考えたところで意味は分からない。それにそんなことを考えている場合ではない。

 

「助かったぞ霊夢……」

 

「何があったの藍!」

 

余程消耗していたのか息を荒らげて膝をつく。その額には汗が流れている。

 

「私より先に紫様を……」

 

「……わかったわ」

 

霊夢は紫の傷を見る。その間に何があったかを藍は語り始める。

 

「私も実はよく分かっていないんだ。突然紫様が居る部屋から大きな音がして、急いで向かった時にはもう……」

 

「不意打ちってことね。卑怯なやつ!」

 

紫を狙った理由は簡単だろう。幻想郷の主を先に無力化しておきたかったのだろう。不意打ちなぞ一度やったと分かればその後警戒される。だからその一回を紫に当てたのだ。

 

「霊夢がここに呼ばれたのは紫様の最後の力だろう」

 

「そうでしょうね。急にスキマを使うなんてよっぽどの事だろうもの」

 

いつもは紫から出向いて霊夢に要件を伝える。そうしなかった時点で何か起きていたと考えるべきだったと後悔する。あの一瞬の硬直が無ければ……と思ってしまう。

 

「とりあえず信二を呼んできて藍。これの担当はあいつだから」

 

「あぁ。すぐに呼んでくる」

 

 

♢

 

「霊夢!」

 

藍の話を聞いて気が昂っていた。いや、無念さで胸が埋まっていた。自分があの時気がついていたら……そんな考えがまとわりついて離れない。けど落ち込んでいる暇はない。

 

「話は聞いてるわね信二」

 

「ああ、それで紫さんは!」

 

「思ったより傷は浅いわ。でも……目を覚まさないの」

 

「なんだと?」

 

「揺すっても声をかけても叩いても、うんともすんとも言わないわ」

 

「……少し見させてくれ」

 

何か思うところがあるのか信二が紫のそばに行き手をかざす。

 

「……やっぱりそうか」

 

「何か分かるの?」

 

「これは悪魔の魔法の特徴だ。今紫さんの心には闇が巣食ってる」

 

「闇?」

 

「そうだ。今紫さんは心の中で闇と戦っている状態だ。その闇を払わない限り目を覚ます事はないだろう」

 

かつて何度も見た魔法__悪魔が自分の力を相手に寄生させる魔法。

 

「何か解決策はないのか?」

 

「……あるにはある」

 

解決策があるにも関わらず信二は浮かない表情をしていた。

 

「まず一つ目に紫さんが心の闇に打ち勝つこと。けど攻撃してきたのは悪魔の中でも最上位のアスモダイだ。そう簡単には勝てない」

 

「他は?」

 

「他には魔法で回復させるのがある」

 

「ならそれで……!」

 

「いや、無理なんだ」

 

「どうして?信二は使えないの?」

 

悔しそうに頷く信二。

 

「悪魔の力に対抗出来る魔法を聖魔法って言うんだ。もちろん俺もそれは使える」

 

「それなら回復させられるんじゃないの?」

 

「性質が違うんだ。今必要なのは悪魔の魔法を浄化させるための回復魔法。俺が使えるのは悪魔を祓うための攻撃魔法、これだと紫さんを回復させられない」

 

「……そうか」

 

「すまない藍さん。力になれなくて……」

 

「お前のせいではない。しかしそうなると紫様は当分目を覚まさないのか」

 

「……いや、あと一つだけ。すぐに目を覚まさせる方法がある」

 

「それは!」

 

「魔法の主を倒す……アスモダイを倒すことだ!」

 

「………ならすぐに見つけないとね」

 

霊夢は信二の悔しそうな顔に気付いていた。だから自分も力になりたいと思った。

 

「とりあえず紫さんを安全な場所に移動させよう。もう襲ってこないとも限らない」

 

「そうだな。また何かあったらすぐに連絡しよう」

 

これで確実にアスモダイが生きていることがわかった。そう分かった以上信二の心は燃え始めた。今度こそ自分の手でこの戦いを終わらせると誓ったから。

 

「あんまり張り切り過ぎないでね……」

 

「うん?何か言ったか霊夢?」

 

「なんでもないわよ」

 

その信二の姿に少し霊夢は危うさを覚えた。今の信二は自分の身を案じていない。アスモダイを倒せれば自分は死んでもいいとすら思っているだろう。

 

だからこそ自分が支えようと思った。信二を死なせたくはない。その想いの真実は霊夢自身も気がついてはいないけど。

 

「にしてもなんであの時は何も感じなかったんだ……」

 

信二はそれだけが不思議だった。不意打ちとはいえ紫を一撃で倒す力は持っているのにも関わらず温泉で出会った時は何も力を感じなかった。力を隠していたとしても悪魔の力を完全に隠すことは出来ない。だから本来なら気づくはずなのに。

 

「どうなってんだ……」

 

「霊夢!!信二!!」

 

そんなことを考えていたら外で見張りをしていた魔理沙が声を荒らげて飛んでやってきた。尋常では無い慌てようで。

 

「魔理沙、何があった?!」

 

「異変?」

 

「異変も異変、空を見ればすぐに分かる!」

 

「「空?」」

 

外に出て魔理沙の指さす方を見上げる二人。

 

「なんだ……あれは……?!」

 

そこには本来あるはずのないものが___巨大な船が空を進行していた。



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幻想廻り〜星蓮船編〜
54話 空飛ぶ船は何を運ぶ


54話です。年号が変わりましたね。令和ですよ令和。特に何も変わらないですけどね。


「あれは……船だよな」

 

多分だがここからかなり距離が離れたところにあるな。でも見えるくらいだからかなり大きな船なのだろう。いや、考えるとこはそこではない。本来船というのは海を渡るためのもの。決して空を飛ぶ乗り物ではない。

 

「なんでそんなものが空を飛んでるんだよ」

 

いつか早苗が言っていた。幻想郷は常識にとらわれてはいけないと。それにしたってこれは無理があるだろ。

 

「魔理沙……なーんか見たことないあの船?」

 

「霊夢も気づいたか。やっぱりあれは()()()だよな」

 

「聖輦船?知ってるのか二人とも?」

 

どうやら霊夢と魔理沙はあの船について知ってるようだ。

 

「ええ。あれは前に異変を起こしたやつが使ってた船なのよ」

 

「でもその時に船としての機能は無くなったんじゃなかったか?」

 

「それ以前にあそこまで大きくなかったわ。何か前回とは違う事情があるのね」

 

話から察するにあの船にも異変が起きてそうだ。そうなると……

 

「あれも異変ってことになるのか……?」

 

「その可能性は高いでしょうね。とにかく行ってみましょう」

 

「だな、ここで考えてたって解決することは無いからな!」

 

「………」

 

恐らくだけどあれもアスモダイが影響しているのだろう。これで何回目だ。幻想郷での異変を起こすのは!何回罪を重ねればいいんだよ!

 

「信二が思い悩むことじゃないわ」

 

「ど、どうしたんだ霊夢?」

 

そんな想いを察してか、なんの脈絡もなく霊夢がそんな事を言ってきた。

 

「別に。そう言って欲しそうだったから」

 

「……ふはは!」

 

「何笑ってるのよ」

 

「いやなに、やっぱり霊夢は優しいなと思ってな」

 

「なによそれ。なんかムカつくわ」

 

「まぁまぁ。ほら、そんな事より早く行こうぜ。異変はすぐに解決するもんだろ」

 

霊夢に何か言われる前にその場から逃げるように船の方へと向かう。

 

「あっ、待ちなさい!」

 

その後をすぐに追いかけてくる霊夢。……ありがとうな。霊夢のおかげでずっと気持ちが楽になった。こんな異変早く終わらせてアスモダイをぶっ潰す!それがこんな俺を受け入れてくれた幻想郷への最低限の礼儀だ!

 

 

♢

 

「……近くで見るとかなりデカいな」

 

「何人乗り込めるかしら」

 

船の近くへと行ってみてまず最初に思ったのがその大きさだ。遠目で見ても大きな船と言うことは分かっていたがこんなにでかいとは。俺の世界でも船はあったがこんな巨大なものはなかった。一体家何軒分のデカさだよ。その分その速度もかなりゆっくりなものになっている。動かすだけで精一杯と言ったところか。

 

「とりあえずこれを動かしているやつの面を拝みに行くか!」

 

そんな未知の物にも億さずに突撃をする魔理沙。けど勇敢過ぎるのも考えものだ。

 

「おい魔理沙!せめてもう少し周りを見てから___」

 

「大丈夫だって。ただ船に乗り込むだけで何も___」

 

「魔理沙!」

 

魔理沙が船に降りた瞬間どこからともなく弾幕が魔理沙を襲った。周りに俺たち以外の人の気配が無いのにだ。

 

「っぶな!」

 

何とか回避をしていたようだ。しかし弾幕が止むことは無く次々と襲い掛かってくる。

 

「だから言ったろ、確認しろって!」

 

今度は俺も船に降り弾幕をかき消す。ボーッと眺めているほど間抜けではない。

 

「誰がうってるのよこれ!」

 

霊夢も降りてきて弾幕を処理していく。

 

「恐らく船の防御装置とかそんなところだろ!」

 

これだけでかい船なんだ。そのような機能がついていたとしても不思議ではない。

 

「前はそんな機能ついてなかったけどな!」

 

「誰がこんな改造したのかし__魔理沙!」

 

弾幕に紛れて魔理沙の死角から何者かが攻撃を仕掛けてきた。突然の事だっただけに魔理沙も反応が遅れる。

 

「なぁ?!こいつは!」

 

「魔理沙を離せ……ってなんだコイツ!?」

 

魔理沙を掴んでいた者に切りかかる。しかし手応えは感じられたかった。そいつは通常の人間ではなかった。いや、人間ですらないだろう。なんせ見た目が完全に雲そのものだからだ。

 

「……出て行け」

 

「しかも喋んのかよ!」

 

「信二、そいつは雲山っていう入道雲の妖怪よ!」

 

「よくわかんねーけどそろそろ離せっての!」

 

雲という事は物理攻撃は基本的に効かないだろう。そのため魔法での攻撃を試みる。その予想は的中し炎で薙ぎ払ったところから雲が晴れていった。

 

「サンキュー信二!」

 

「雲山は単体では行動が出来ないの。近くにもう一人いるはずよ!」

 

「全然気配が無いけどな!」

 

今までの弾幕に加えて雲山が介入したことにより一層凌ぐのが難しくなってきた。特に雲山が厄介だ。向こうは物理攻撃をしてくるのにこっちからは意味がないところもそうだが、雲山が視界に入ると後方から弾幕がどれだけ来ているのかが分からないところだ。そのデカさと謎の桃色の体色によって邪魔くささが増している。

 

「あーめんどくせぇ!魔理沙、霊夢、下がっててくれ!」

 

「何をする気だ?」

 

「雲山ごとぶっ飛ばしてやる!『王の御前(キングバーン)』!」

 

雲山と近くにあった弾幕を全て爆炎で包み吹き飛ばす。その余波で足場も燃えていった。

 

「足場は燃やすなよ!」

 

「仕方ないだろ!周囲を燃やす技なんだから!」

 

キングバーンは俺を中心として数メートルを全て炎で燃やす技。当然足元もその対象になる。

 

「空飛べばいいじゃない」

 

「「……それもそうだな」」

 

確かに足場がなくなったところで今の俺達には関係無いことだ。

 

「ちょっと、大切な船を壊さないでくれる!」

 

「うん?なんか下から声が……」

 

壊した足場から声が聞こえたため覗いてみる。すぐ下に人がいたのか?

 

「雲山!」

 

「おぉっと、消えてなかったのか」

 

誰かの呼びかけに応えるように雲山が殴りかかってきた。どうやら下にいるやつが雲山を操っている者で間違いないだろう。

 

「早く出てこいよ、一輪!」

 

「……何しに来たの?」

 

やはり下から人が出てきた。魔理沙に一輪と呼ばれた女性は出てくるなりそんな事を言ってきた。

 

「俺達はただこの船がなんなのか調べに来ただけだ」

 

「そんなこと言ったらあんたらこそこんな船を取り出してきて何考えてるの」

 

「さぁ。何でしょうね」

 

「答える気は無いようね。それならこれを異変として処理するけどいいわよね」

 

「それでもいいわ。解決出来るといいですね」

 

「随分強気だな。異変ってなったら俺達も本気を出すぜ?」

 

「いいのよ。私達も本気を出すもの。ねぇ()()()

 

「……あらあら。こんなにも人間(ゴミ)が私たちの船に……」

 

「やっぱりあんたが主犯なのね……聖」

 

何処から現れたのか気がついたらそこにいたのは金髪に紫色のウェーブが入った女性。雰囲気で言えば紫さんや永琳さんと似たものを感じる。

 

「霊夢あの人は」

 

「聖白蓮。命蓮寺って寺の主よ」

 

「それにしてもワタシたちをゴミなんて随分と口が悪くなったな」

 

「本当の事を言っただけよ」

 

「おかしいわね。あんたは妖怪も人間も全てが等しいとか言ってなかった?」

 

「確かに前までの私だったらそのような事を言っていました。けど気付いたの。人間の愚かさに。存在価値の無さに」

 

「完全にイカれてるわね」

 

「普段はあんなこと言うやつじゃないぜ」

 

俺は聖を知らない。けどこの二人がこう言っているんだ。あの人も異変に……アスモダイの毒牙に侵されているんだろう。

 

「待ってなさい。今正気に戻してあげるから」

 

「過ぎたことを言うのね。人間(ゴミ)には無理なことよ」

 

「まずはその口をきけなくしてあげる!」

 

聖の言い方に怒りを感じ霊夢がお祓い棒で殴り掛かりに行く。

 

「無理だと言っているのに」

 

しかしその攻撃は聖の前で停止する。まるで壁にぶつかったように。聖は一歩も動いてないのにだ。

 

「忘れたか霊夢。聖も魔法使いだ!」

 

「前はこんな魔法使って無かったけどね!」

 

間髪入れずにその手に御札を持つ。お祓い棒での攻撃から弾幕へと切り替えるようだ。

 

「目障りな……」

 

「嘘っ?!」

 

弾幕を霊夢が放つ前に聖が霊夢を片腕で押し出すような動作をとる。すると霊夢は強風にあおられたように船の外へ吹き飛ばされた。

 

(何この力……!ただ強いんじゃない。なんというか、理不尽だわ……)

 

「霊夢!」

 

「よそ見とはいい度胸ね」

 

「不意打ちなんて卑怯だな!」

 

またも魔理沙の死角から雲山で攻撃する。しかし魔理沙も警戒は怠っていない。その攻撃は見えていたかのように綺麗に躱す。

 

「霊夢に何した!」

 

今度は信二が聖に攻撃を仕掛ける。先程の霊夢を見て近接では危険と判断し炎を使って攻める。

 

「無駄だって言ってるでしょ」

 

その攻撃も霊夢の時と同じように壁で阻まれたみたいに届かない。

 

「早く死んでくれないかしら」

 

そう言い手に魔力を溜める。

 

「妙な事をする前に__」

 

斬る。そう思ったがその前に船に降りた時のように船から弾幕が放たれた。けどその量は比べるのも馬鹿らしいほど違う。完全に弾幕ごっこのルールを超えた量。ただ信二達を飲み込み倒すだけを考えたものだった。

 

「くそっ!デタラメだな!」

 

弾幕の処理に手間をかけさせられ聖の元に近付けない。それだけの量。今まで戦ってきた者のどれよりも多かったのだ。

 

「ちょこまかとハエみたいに。やっと捕まえたわ」

 

「なんだってんだ。急に動きが早くなりやがって!」

 

一輪と戦っていた魔理沙も雲山に捕まっていた。二人の動きもさっきとは段違いに早くなったのだ。魔理沙の動きを超える程に。

 

「魔理沙!『フレアジェット』!」

 

魔法で一気に近づき雲山を炎で燃やす。そうすることで魔理沙は助けられる。しかしそれは聖に対して背を向ける事になる。すなわち隙だらけなのだ。

 

「それを助けたところで二人とも死ぬだけよ」

 

その隙を逃すほど今の聖は甘くない。背を向けた信二に向かって容赦なく弾幕を放つ。

 

「………ジャストタイミングだ」

 

「霊符「夢想封印」!」

 

その攻撃を戻ってきた霊夢が打ち消す。信二は信じていた。霊夢が戻ってくることを。

 

「霊夢、魔理沙、一旦引くぞ!このままだと分が悪い!」

 

「同じこと考えてたぜ!魔符「ミルキーウェイ」」

 

魔理沙の弾幕を殿にその場を撤退する3人。聖達は追うようなことはしなかった。まるでこの3人に何も警戒していないように。

 

「とんだ邪魔が入りましたね」

 

「虫が迷い込んだようなものよ。支障はないわ」

 

聖の魔法で信二が燃やした床も元通りになる。本当に信二達が来る前の状況に……なんの支障もなかった。

 

「……私の怒りを知りなさい人間(ゴミ)

 

船は止まることは無く進み続ける。収まらぬ怒りを乗せて。



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55話 作戦会議

55話です。最近前書きで書くことがなくて困ってる作者です。もう特別な事が無ければ書かなくていいのか……?


「さてと。作戦会議だな」

 

「なんでそんなに冷静なのよ」

 

霊夢が俺の方をじーっと見てくる。確かに落ち込むのも分かるけど。

 

「俺達はたった今敗走した。けどだからといって取り乱してもいい事なんて無いからな」

 

「そうとも言えるけど……」

 

「本当にこれで国の英雄だったのか?」

 

ほっとけ。

 

「で、二人からしてどう感じた?」

 

「どう、ねぇ〜」

 

二人ともどこか腑に落ちない様子だ。何か思うところがあるのだろう。

 

「うーん………なんて言うか、違和感だらけだったわね」

 

「それはワタシも思ったぜ」

 

そんな返答が帰ってきた。やっぱり二人も感じてたか。あの妙な違和感、強さに。

 

「まずこのワタシが一輪に捕まるって事がそのまんま異変だ」

 

「随分高飛車な発言ね」

 

「でも実際そうだろ」

 

確かに魔理沙は幻想郷でもトップクラスに強いし何よりも速い。比喩でもなんでもなく純粋に移動速度が。さらに小回りも効くため魔理沙を捕まえるどころか弾幕を当てることも至難の業なのだ。

 

「その魔理沙が捕まったってのは確かに何かあるのかもな」

 

「他には……やっぱり聖よね」

 

「普段はあんな事言わないしな」

 

「普段はどんな人なんだ?」

 

俺は普段の聖……というかあの船に乗っている人のことを何も知らない。出来るだけ情報は集めておきたいところだ。

 

「いつもはとても物腰の柔らかいやつよ。それこそ誰にでも優しい天女みたいな感じね」

 

「でもさっきあった時はだいぶ口が悪かったな」

 

「出会っていきなり罵倒だったからな。性格がキツイ人なのかと思ったけど、実際は違うみたいだな」

 

ここまで性格が変わるのは今までの異変でも類を見ない。しかもここまで強力な力を持ったのも今回が初めてだ。今までも異変の首謀者は新たに力を付けた者もいた。しかし聖達はその比ではない。

 

「妙に俺ら……って言うか人間を罵倒してたな。なんでか分かるか?」

 

「心当たりはあるわ」

 

「どんな?」

 

「かなーり昔に人間に封印されてるのよ、アイツ」

 

「封印?!何やらかしたんだ?」

 

封印なんて当たり前だがそうそうされるもんじゃない。消し去りたいけど殺すことが出来ない、そんな相手に使うものだ。つまり基本的には相当な理由があるはず。

 

「昔っから妖怪に気を使ってたの聖は。どうにかして人間と一緒に過ごせないかってね」

 

「でもそれが仇となった。その考えが人間にバレた途端今まで親しくしてた奴らから悪魔扱いだ」

 

「そして封印されたのよ。人間にね」

 

「……じゃあ今も人間を恨んでんのか?」

 

「恨んでたらあんな優しい性格になってないだろ」

 

「ってみんな思ってたんだけどね。実際は違ったみたい」

 

「うーん。恨む理由は十分ってところだな」

 

ぶつかり合うのに戦う理由を知らないってのは個人的に良くないと思ってる。相手のことを知らないのに戦うなんてそんなものはただの喧嘩だ。本当に分かり合うことは出来ないだろう。

 

「動機は何となく分かった」

 

「じゃあ次はどうやって止めるかだな」

 

「根拠はないけど正面からやり合って勝てる気がしないわ」

 

霊夢の勘は驚くほど当たる。その霊夢が一度やり合った後に無理と言ってるのだ。恐らく正当法は通じない。

 

「なんて言うんだろうな。上手く言えないけど俺達を前にした瞬間力が増したような感じだった」

 

「しかもまだ力を出し切ってないぜあれ。いくらなんでも強化され過ぎだ」

 

「絶対に何かあるよな」

 

「…………もしかしてだけど」

 

何やら霊夢が思いついたようだ。

 

()()()()()力を増してるんじゃない?」

 

「人間だけに?」

 

「………その通りだよ」

 

突然森の奥から知らない声が話に入ってきた。そんな得体の知れないものを警戒しない訳が無い。

 

「誰だっ!」

 

「そう声を荒らげるな。お前達にとっても私は有益なはずだ」

 

言いながら姿を表したその少女は誰かと戦った後なのか既にボロボロだった。

 

「ナズーリン?どうしてお前が?」

 

「それよりもその傷、何してたのよ」

 

「……これは聖達を止めるためについたものだ」

 

「戦ったのか?!」

 

「……それよりもまず自己紹介をしてくれ。じゃないと俺が話に入れない」

 

霊夢と魔理沙はこの少女のことを知っているようだ。それに話から察すると聖とも面識があるみたいだ。

 

「そういえば初対面だったね。ナズーリンだ、よろしく」

 

「火渡信二だ」

 

ナズーリンと握手を交わす。どうやらこちらに敵意は一切ない様子。

 

「それで、ナズーリンはなんで聖達と戦ったの?仲間でしょ?」

 

「仲間だからだよ。霊夢だってそこの魔理沙が異変を起こしたら止めるだろ?」

 

「そりゃ、そうだけど」

 

「そうじゃなくてなんで聖と一緒に行動してないのかってところだ」

 

「そうよ、それが言いたかったの」

 

「どういうこと?」

 

「ナズーリンは変わらなかったのか?聖達は人が変わってあの異変を起こしたんだ。一緒に過ごしてたナズーリンもああなる可能性はあるだろ?」

 

一緒に過ごしていたのにナズーリンだけ何もわからず異変にも加担しなかった。何も無ければそんなこと起きるはずがない。

 

「それは……自分でも分からない。ただいつの間にかご主人達は変わった。人に怒りを持つようになったんだ」

 

理由は分からないか。

 

「けどそれも不思議じゃないか。これまでの異変でもそうだったろ」

 

まず首謀者がいてそれを止める存在が身近な人で必ずいた。その存在……抑止力とも言える者と俺達は協力し合ってここまで解決してきたんだから。

 

「何故ナズーリンが変わってないのかはこの際ハッキリさせなくてもいい。それよりも仲間が1人増えたことの方が重要だ」

 

「……それもそうね」

 

「それで話を戻すがナズーリン、聖達が人間にだけ強さを増してるってのは本当か?」

 

「それは本当だよ。具体的にどれほど力を付けるかは分からないけど」

 

「なんでそんな事分かるんだ?」

 

「私と戦った時には強さは変わってなかったから。それともう一つ。聖の最終目的も関係してると思う」

 

「最終目的?」

 

「聖はあの船を使って人里にいる人間を全員殺そうとしてる」

 

「なんですって?!」

 

ナズーリンか語った聖の目的を聞いた瞬間霊夢が驚愕の表情を浮かべた。

 

「そ、そんなに驚く事なのか?」

 

いつもの霊夢に比べ明らかに動揺している霊夢を見て正直そこまで驚くことなのかと思う。人里の人間を全て殺す__そんなもの良くないに決まっている。しかしそこに血縁者もいない霊夢が冷や汗を流すのはなんというか意外だった。

 

「当たり前よ!いい、幻想郷に存在している妖怪は『人間に恐れられる存在』という前提で存在が証明されてるの。そこに例外は無く妖怪なら全てよ」

 

「それが人里の人間を滅ぼすのと何が関係するんだ?」

 

「人里の人間……つまり幻想郷で人間が全ていなくなってしまった時、妖怪を恐れる存在がいなくなる。そうなると妖怪の存在を証明する者がいなくなる。それは幻想郷の妖怪が消え去るということなの」

 

「なんだと?!」

 

人間が消えれば妖怪もいなくなる?そんなことになってしまえばそれこそ幻想郷の崩壊だ。

 

「だから今すぐ止めないと__!」

 

「待てって!」

 

今にも飛び出しそうな霊夢の腕をつかみその場に留まらせる。

 

「なんで止めるのよ!一大事だって___」

 

「だからこそだろ。無策のまま向かってもさっきみたいに返り討ちにされるだけだ!絶対に止めないといけないからこそよく考えるんだ!」

 

「………分かったわ」

 

よかった、納得してくれたか。ここで仲間割れなぞしても時間の無駄だからな。

 

「でも作戦を考えるって言っても具体的にどうするんだ?助っ人でも呼んでくるか?」

 

「………その作戦自体は悪くないと思う。数は多いに越したことはない。けど問題は人選だ?」

 

「人選って、強いやつを呼べばいいんじゃないか?」

 

いや、それだけじゃダメだ。

 

「これは俺の勘でしかないけど、今回の異変は()()()()()()()解決しないと意味がないと思う」

 

「人間だけ?妖怪とかのの手を借りないってこと?」

 

「そうだ。聖は人間への怒りでああなってるんだろ?」

 

ナズーリンの方を向いて問いかける。

 

「そう。そこだけは確実だよ」

 

「それなら聖は今人間に存在意義を見いだせないってことだ。そこに自分が起こした異変を人間以外が止めてもやっぱり同じだ。聖は納得しない。怒りを抱いたまんまだ」

 

「じゃあ人間(私達)の力だけで止めることが出来たら……」

 

「許しはしないかもしれないが、少なくとも認めるはずだ」

 

「そうなるとこの異変はワタシ達だけで解決するのか?」

 

「思い出せ。幻想郷には俺達以外にも人間はいるだろ?」

 

「………あっ、そうか!」

 

「そいつらに手伝ってもらうさ。きっと手を貸してくれるだろ」

 

「残りの人間達を連れてくるのは私がやるよ。こんな状態で戦っても足でまといだし、何より私は人間じゃないからね」

 

今この場にいない人間をナズーリンが連れてきてくれるという。探す手間が省けるのだ、断る理由がない。

 

「それともう一つ教えておく。あの船について」

 

「船?あれは聖輦船じゃないのか?」

 

「そうだけどちょっと違う。あれは聖の怒りの結晶だ」

 

「怒りの結晶?」

 

「聖の怒りがあの船を作ったんだ。だから船を壊せば聖も諦めると思うんだ」

 

怒りであれを作った。それはその行動力となったのか、魔法的な意味なのかは分からないが、どちらにせよその想いは半端なものでは無いことが分かる。

 

「それに……あの船は何で動いてると思う?」

 

「動力源の話か?」

 

「普通の船だったら、風とか物を燃やしたりだけど、魔法で動かしてることもあるな」

 

どれも首を横に振るナズーリン。その顔はどこか悔しそうにしいる。

 

「あれはご主人………寅丸星の力を動力源としてるんだ」

 

「寅丸星?誰だ?」

 

「聖の仲間でナズーリンの主人。毘沙門天の代わりとなる存在よ」

 

「それが動力源ってことは……!」

 

「うん。あれはご主人の毘沙門天としての力を吸い取って動いてるんだ。このままだとご主人はただの妖怪に……それだけじゃない、命まで吸い取ってたとしたらご主人は……!」

 

「………絶対に止めるぞ」

 

「言われなくても!」

 

「異変は止めなきゃな!」

 

「……ありがとうみんな」

 

必ず止めなくてはならない。改めて気合を入れる理由が出来たな。

 

「やる事は決まったわね」

 

「でもあの巨大な船をどう止めるかだな」

 

「………あっ、あれは信二?幽々子の時に放ってたやつ」

 

「幽々子の時?炎王強襲激の事か?」

 

「そうそう。あれだけのパワーがあれば全部燃やせるんじゃないか?」

 

魔理沙がそんな提案をする。

 

「なんの事よ」

 

そう言えばあの時霊夢は気を失ってたな。知らないのも当然か。

 

「白玉楼での異変の時に信二が使った技の事だ。あれはとてつもない魔法だぜ」

 

「………期待を裏切るようで悪いがそれは無理だ」

 

「なんで?!」

 

「純粋に魔力が足りないからだ」

 

実は地霊殿で起きた異変から休み無しで今まで来ている。多少魔力が回復したとしても雀の涙ほど。全開とはほど遠い。さらにあの技はかなり魔力を消費する。今放ったとしても燃やし尽くすのに時間がかかるだろう。

 

「それにあの船はたとえ破損したとしても聖の魔法で大抵は直せる。それはさっき確認した」

 

敗走する直前、俺が燃やした床の範囲が小さくなっていた。恐らく修繕出来るんだろう。

 

「炎王強襲激で燃やしていっても聖が直す。それのいたちごっこになるな」

 

ちまちまとやっていてもあの船は壊せない。直感とかではなく、確信している。

 

「じゃあどーするんだよ!」

 

「………一撃で決めればいい」

 

「一撃?」

 

「一撃であの船をぶっ壊す。それしかない」

 

少しずつ壊していくのではなく、一撃……一発で壊すことが出来たら直す暇も無いだろう。

 

「そんなこと出来るの?」

 

霊夢が不安そうに俺を見てくる。

 

「出来るさ。霊夢と魔理沙が手伝ってくれれば」

 

これは俺一人じゃ邪魔される。だから二人の助けが必要なんだ。

 

「二人で船の中の人の注意を引き付けてくれ。そうすれば俺が必ず……船をたたっ斬る!」



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56話 分析

56話です。ちょっと失踪しかけました。全然書くことが思いつかなかったんですよね。ストーリーは考えているんですが書くってなると難しいですね。


「俺が必ず………船をたたっ斬る!」

 

その信二の言葉には決意がこもっていた。絶対に成し遂げる……そんな強い意志が。

 

「船を斬るったってあんなデカいのにか?」

 

まず船を斬るということが非現実的な話。それに加え今信二が斬ろうとしている物は想像を絶するほどの大きさ。物理的な話でいえばまず不可能。

 

「信じてくれ。必ずやってみせる!」

 

「………そこまで言って出来なかったら承知しないわよ」

 

「ははっ!霊夢にそんなこと言われて出来なかったら死んでも死にきれねぇな」

 

「……わかったぜ。船のことは頼んだぞ信二!」

 

「あぁ、任せてくれ!」

 

何やかんやで魔理沙もかなり信二を信頼している。未だにあの船を一人で壊せるとは思えない。しかしそれと同時に信二ならやってくれるという信頼も存在している。

 

「話は済んだか?とりあえず私は他の人間達を探してくるよ」

 

「頼むぜナズーリン。ワタシ達だけだとキツイかもしれないからな」

 

「なるべく早く見つけなさいよ」

 

先程の戦闘を踏まえてその戦力差……いや、自分たちとの相性の悪さをその身に感じた。人手はいくらでも欲しいところ。

 

「心配しなくてもすぐ見つかると思うよ。あの船は言うなれば対人間兵器。嫌でも力を持つ人間を引き寄せるだろうね」

 

そういい残しナズーリンは残る人間を探しに行く。ああ言ってたのだ、加勢に関しては期待していいだろう。

 

「それでワタシ達はどうするんだ?ここで待ってるか?」

 

「いや、もちろん戦うぜ。たださっきみたいにがむしゃらにやり合う訳じゃないけど」

 

「具体的にはどうするのよ」

 

「俺が二人……というか援軍に来たやつもそうだけど。して欲しいことはまず聖の気を俺から逸らすこと。直前で邪魔されたらたまったもんじゃないからな」

 

「そこは任せて。私にも意地ってもんがあるから。負けたままじゃ終われないわ!」

 

随分やる気を見せる霊夢。普段は冷静だが意外と負けず嫌いな一面がある。今回はそれがいい感じに働くだろう。

 

「あとは船の中に誰も居ないようにして欲しい」

 

「船の中ってなると今いるのは星と村紗か?」

 

「村紗って誰だ?」

 

「聖輦船の船長をしてたやつよ。多分今もそいつが舵を切ってるわ」

 

「ならその二人を船の外に出して欲しい」

 

「なんでそんなことを?」

 

「寅丸についてはシンプルに救出の意味もあるけど。俺が斬る時にもし軌道上にいたらまず殺しちゃうからな。外に居てくれれば狙いを定められる」

 

流石に船の中を透視するとこは出来ない。出来れば全員が外から見える位置にいて欲しい。

 

「あの聖や一輪を相手にそこまで出来るかしら」

 

あの力を増した二人の攻撃を躱し、船の中に入り、寅丸を助ける。まさに無謀と言えるだろう。この三人だけでは明らかに人手が足りない。

 

「だから今回は俺達だけじゃ無理だ。救援が来るまではな。だから今俺達がとる作戦は一つ。出来るだけ情報を集めることだ」

 

 

♢

 

「………懲りずにまた来たのね」

 

「あんたが今すぐこの船を引き返すってのなら潔く消えてあげるわ」

 

「それこそ戯言ね。私が人間(あなた)の言うことを受けるとでも?」

 

「聞くわけないでしょ。今のあんたは」

 

「だからこうしてワタシ達が前に立ち塞がるんだぜ」

 

「全く……本当に鬱陶しい生き物ですね」

 

そういいなんの前触れもなく弾幕を放ってきた。その質量は先程と変わらず桁外れの量で。

 

「いきなりか!」

 

「当たり前だが容赦無しだな!」

 

だが話が通じないなんて予想通り。三人もすぐに戦闘態勢をとる。この船に戻った時から警戒は怠っていない。

 

「また戻ってきたのね!私達の邪魔ばっかりして!」

 

「一輪か、魔理沙!」

 

「任せとけ!二度同じ失敗はしない!」

 

一輪の相手はまたも魔理沙に任せる。どちらにせよ誰か一人は相手にしなくてはならないし、何より魔理沙も負けず嫌いだ。やられっぱなしは性にあわない。

 

「ほら、ワタシが相手だ!」

 

一輪の前に立ち、気を引くために弾幕を向ける。一輪としてはなるべく聖の傍にいたい。そのためこうでもしないと魔理沙に着いてこない。

 

「ちょっと……!邪魔くさいわね!」

 

「だったらワタシを倒すことだな!」

 

「待ちなさい!」

 

魔理沙の挑発が効きその後を追いかける一輪。信二の頼み通り船から離す。

 

(魔理沙は上手くやってくれたな)

 

後は魔理沙が負けないことを祈るだけ。

 

(そんなもん杞憂に終わるだろうけどな!)

 

先程の初見殺しのようなものは仕方ないと言える。そして今魔理沙は一度負けたことでもう油断も手加減もしない。本気も本気の状態。そんな魔理沙の負ける姿なぞ想像がつかない。

 

「俺達も気張るぞ霊夢!」

 

「言われなくても!」

 

信二と霊夢はひたすら弾幕を処理していく。下手に反撃しようとしてもその弾幕の物量に押し負ける。そのため一瞬の隙を逃さないため今は耐えている。

 

「そんなんじゃ勝てませんよ」

 

聖が信二に向かって腕を押し出すように向ける。

 

「うおぉっ?!」

 

そうすると信二は何かにぶつかったように押し出される。

 

(これが霊夢が言っていたやつか!)

 

霊夢が吹っ飛ばされたといっていたものが今聖が使っている魔法と信二は予想した。確かに見えない壁に押されているような感覚だ。このままだと船の外に放り出されるだけでなく、大量の弾幕の前で無防備に突っ込むことになる。

 

「でもこれは対象外だろ、朱雀!」

 

「っ、小賢しい!」

 

信二は飛ばされながらも朱雀を出し、そのまま聖の方へと飛ばす。朱雀に邪魔された聖は信二から気を逸らす。すると信二を押していた魔法が解けた。

 

「予想通りだな」

 

相手は人間に対してだけ強くなっていた。そのため今の魔法も人間は通さないがそれ以外には何の効力もないと信二は考えた。だから今朱雀を使い試したのだ。結果予想は的中した。朱雀は信二の魔力、生命力を受けて生きている。しかしその本質は獣。人間ではない。

 

「こっちはどうだ!」

 

今度は魔法で炎を繰り出す。この魔法は攻撃用では無い。そのため規模も小さい。何故放ったのか?それはまたも検証のために放った。

 

「無駄よ」

 

しかしすぐに体制を立て直した聖は先程同様壁を作り炎を防ぐ。けどこれでまた一つ得た情報がある。あの壁は人間だけでなく、人間が放った魔法……恐らく弾幕も弾いてしまう。

 

(厄介だな。問題はあれの耐久力だな)

 

魔法にも絶対はない。どんな強力な魔法も魔力が尽きれば消えてしまうし、強靭な攻撃を受ければ弾けて消滅する。あの魔法も例外では無いだろう。こちらからあれを上回る攻撃をすれば破れるだろう。

 

しかし何かに突出した魔法というのは力を増す。それは魔法だけに留まらない。何か一つのことに集中したものを破るのは至難の業である。

 

「見てたか霊夢!恐らくあの壁は弾幕も防ぐぞ!」

 

「見てたわよ!その発動条件もね!」

 

霊夢が言った発動条件。それは聖が壁を使う時に必ずやっていた行為の事だ。その行為とは腕を前に突き出すこと。そしてその腕が示す方に壁は作り出され、動き出す。要はその腕の動きさえ見ていれば壁が何処にあるのかをある程度予測出来る。しかし大きさ、迫ってくる速さなどは見えないため厄介なことに変わりはない。

 

「それが分かったところで貴方達に勝機はない!」

 

見破られたことが癪に障ったのか攻撃が激しさをます。船からの攻撃は聖によって調整されていると見て間違いないだろう。

 

「くそ、戦力差は絶望だな!」

 

信二としては本当はなるべく戦いたくはない。魔力を消費したくないからだ。でも戦わなくては攻略のヒントは見つからない。それは船上で戦ってくれるみんなの負担がでかくなる。信二はそれも避けたいのだ。

 

「だったらこうすればいいのよ!」

 

霊夢が御札を数枚持ち、それを船へと向けて投げつける。御札はそれぞれ等間隔に船の上へと走っていく。

 

「邪魔なものには蓋をしましょう!」

 

霊夢が指を鳴らすと御札が光り、そこから結界が広がっていく。船を覆うようにして。

 

「何を………!」

 

船からは変わらず弾幕が出される。しかし出された直後霊夢の結界によって防がれる。行き場を無くした弾幕はそのまま消滅していく。完全に船からの攻撃を防いだ。

 

「私も得意なのよね。結界()を作るのは」

 

霊夢はずっと御札に力を込めていた。乗り込む前からだ。そこまで力を込めた御札数枚によって作られた結界だ。そうそう壊れやしない。

 

「……生意気な」

 

「流石だな霊夢!」

 

少しずつ、少しずつだが対抗できている。追い風が吹いてきた。そして一度乗った波は止められない!船の下から突然人が現れた。幻想郷のもう一人の巫女が。

 

「大丈夫ですか霊夢さん!私が助けに来ましたよ!」

 

「………よりによって早苗が最初なのね」

 

「事情は聞きましたよ!こんな船早く壊してしまいましょう!」

 

念願の救援者の登場だと言うのに霊夢は何故かガッカリした。

 



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57話 戦慄の攻防

57話です。だいぶ遅れました。皆様覚えていますか?リアルが忙しくまたモチベも全然上がらなかった為こんな事に。これから頑張ります。


「ビックリしましたよ。まさかあの霊夢さんが私に助けを求めるなんて!」

 

「来てそうそう騒がしいわね!」

 

基本的に霊夢に頼られない早苗。むしろ同じ巫女として霊夢との絶対的な差をよく比較される。そんな霊夢が自分の力を貸してほしいと言われたのだ。テンションも上がるというもの。……まぁそこに言葉の綾はあるかもしれないが。

 

「照れないでください。素直に私に助けt___」

 

「目障りよ……」

 

痺れを切らした聖が早苗が喋っている途中にも関わらず弾幕を放った。今の聖が早苗達のやり取りを優しく待ってくれるはずもない。それどころかさらに人間が増えて機嫌が悪くなっている。

 

「うわっ?!……話には聞いていましたが本当に優しさが無くなりましたね、聖さん」

 

「そんなものを人間(あなた達)に与えるなんて無駄な真似しないわ」

 

「随分ないいようですね」

 

早苗とて賢くはないがバカでは無い。今ので話し合いは通じないということが分かっただろう。

 

「よく来てくれた早苗!後は頼んだぞ!」

 

「なんの!信二さんには恩がありますか……後は?」

 

そう言い残し信二は船から姿を消す。朱雀をその場に残して。

 

(俺の代わりに頼んだぞ、朱雀!)

 

「えぇぇーー!?信二さんは一緒に戦ってくれないんですか!?」

 

「色々とあんのよ。ほら、いつまで突っ立ってるつもり!」

 

聖は既に攻撃を始めている。早苗に説明している暇はない。なぜならここはもう治外法権とでも言おうか。弾幕ごっこの掟を全て無視した潰し合いとなっている。戦わなければ生き残れない!

 

「ちょ、ちょっと多くないですか?!」

 

「絶対に当たるんじゃないわよ!当たったら痛いで済まないから!」

 

「これまでの異変ともだいぶ違うんですね!」

 

信二が来る前に起きた異変。それはどのような事件でも必ず幻想郷内でのルールに従っていた。ただ信二が来てからの___アスモダイが関わっている異変はルールを破って起こしているものも多かった。それだけ異常なことが起きていると実感出来る。

 

「容赦はしませんよ聖さん!」

 

早苗も弾幕を撃つ。それがきっかけとなり三人は一斉に動き出す。それだけじゃない。信二が残していった朱雀も霊夢と共に動いている。

 

「手を貸してくれるのね。頼りにしてるわ」

 

霊夢のおかげで船からの攻撃は無くなった。しかし聖の弾幕が生ぬるいわけはない。的確に隙間を埋めて迫ってくる。躱す隙さえ与えてはくれない。

 

「でも負けられません!秘術「忘却の祭儀」」

 

「無駄よ。魔法「魔界蝶の妖香」」

 

スペルカードの撃ち合い。本来だったら二人の実力差に大きく差はない。しかし今の聖は()()()()()強い。撃ち合って勝てる相手じゃない。早苗のスペルカードとぶつかっては一方的に勝っていく。いくらか打ち勝ってはいるがこのままだと絶対に負ける。

 

「いつもより強いですね!」

 

「逃がさないわ」

 

撃ち合いでの勝機が薄いと感じた早苗は弾幕から逃げようとする。しかし早苗を壁で包みその場に留まらせる。早苗は先程の戦いを見ていない。故に虚を突かれた。見えない壁に当たりパニックに陥る。

 

「なっ?!何が当たって__」

 

迫り来る弾幕。避けることは当然出来ない。こちらも弾幕を放って相殺するのも1歩遅い。その前に自分を飲み込むだろう。一瞬の遅れが早苗を死へと導く。

 

「霊符「夢想封印」」

 

けど今は一人じゃない。助けてくれる仲間がいる。早苗の前に立ちはだかり自身のスペルカードで聖のスペルカードを相殺していく。それだけにとどまらず弾幕はそのまま聖の方へ。

 

「……やっぱり強いわね」

 

しかしそのまま弾幕を受けるはずもなく、壁によって阻まれる。やはりあの壁をどうにかしなければ二人に勝機はないだろう。

 

「気をつけなさい早苗。あいつ強固な見えない壁を作ってくるから。手をかざしてきたら注意して」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「ほら、すぐ次が来るわよ」

 

「……はい」

 

落ち込んでいる様子の早苗。今のスペルカードの撃ち合いで自分は完全に負けていたのに霊夢は勝っていた。あの時も焦らなければ対処出来たかもしれない。けど自分の実力が足りず危機に陥ってしまった。どうしても脳裏にチラついてしまう。自分は足でまと「言っとくけど」……

 

後ろは向かず前を見たままの霊夢が語りかける。

 

「足でまといなんかじゃないわ。今のだってあんたが削ったから私のスペルカードが勝っただけだし」

 

「……霊夢さん」

 

どうやら全てお見通しだったみたいだ。霊夢なりに励ましてくれた。不器用ながらもその想いを隠すことなく。そこに情けや同情の感情はなしに。

 

霊夢がこう言ってくれた。それだけで力が出る。……いや、出さなくちゃいけない。霊夢の為にも、そして任せると言ってくれた信二の為にも。

 

「それに私一人じゃキツイから……。頼りにしてるわ」

 

「分かりました!私の全力をもって勝利を手にします!」

 

「あなたじゃ力不足よ」

 

「なんと言われようと気にしません。だってそんなこと分かってますから!」

 

もう自分の弱さに嘆くのは辞めたのだ。不格好でも全力で。それが早苗が気付いていない強さだ。

 

「いきます!」

 

「無駄だと分からないの!」

 

またもお互いがぶつかり合う。ただ早苗は吹っ切れて先ほどよりもいい動きをしている。危なっかしい部分もあるが見違えるような動きで。

 

「邪魔なのよ!」

 

次第にイラつき始める聖。ついさっきまで暗然としていたくせに。当たり前のように気持ちを切り替える。それが気に食わない。手のひらを返したようなその態度が!

 

昂る感情を発散するかのように辺り一面に弾幕をばら撒き始める。手当たり次第に全てを破壊するように。しかしそこに先程のような戦略性はなく、そのせいか弾幕に少し隙間が出来ている。

 

「イラつてるの?雑になってきてるわよ!」

 

その隙を霊夢は見逃さない。ギリギリ入れるような間を瞬時に見極め距離を詰めていく。

 

「私だって!」

 

早苗もそこに食らいつく。それはもう必死に。それが癇に障るのかより険しい表情を浮かべる聖。人間の成長が、感情の移り変わりが、信じ合うという軽い言葉が!全てが自分を怒りの炎に突き落とす!

 

「それ以上近づくな!」

 

二人に向かって腕を向ける。近づかれる前に壁で押し出そうという考えだろう。しかしそれは判断ミス。軽率な行動と言える。

 

「お願い朱雀!」

 

「…っ!小癪な!」

 

発動と同時に朱雀を聖にぶつける。そうすることによって聖の妨害をしなおかつ動揺を誘える。人間が出した技でもない朱雀だから出来ることだ。現に聖の魔法の発動そのものをさせない事に成功した。そして一瞬朱雀によって聖が気をそらす。その瞬間を狙い霊夢は聖に殴りかかる。

 

今この場では朱雀の力が必要になる、そうなることは信二も考えていた。聖は壁の魔法に頼っている。自分に危機が迫ったら必ず使うと。だから朱雀を残したのだ。

 

「ようやくその面を拝めるわね!」

 

「人間が過ぎた真似を!」

 

「私も忘れないで下さいね!」

 

そこに早苗も加わる。弾幕を用いない近接格闘。人間相手に反則のように強くなってはいる。だが聖はそれを得意としていない。さらに相手は二人。逃げようとしても距離を離せない。誰が見てもどちらに分があるかは分かるだろう。徐々に聖を追い詰めていく。

 

(このまま押し切ってやる!)

 

……しかし主の危局に駆けつけぬ従者など存在しない。時に自らを危険に晒そうと主の為に力を貸す。

 

「フンっ!」

 

「なぁ?!」

 

「雲山?!」

 

三人の横槍を入れてきたのは魔理沙と戦っているはずの雲山だった。主の危機に駆けつけたのだろう。

 

「悪い霊夢!ヘマした!」

 

「ご無事ですか姉さん!」

 

その上空では一輪と魔理沙の姿が。そこに戦っている様子はなくにここまで飛んできた一輪を魔理沙が追いかけている。戦闘を無理やり中断して雲山で聖の手助けをしに来たのだ。

 

「ちゃんと止めてなさいよ!」

 

「もう二度としないよ!それにすぐ終わらせて手伝ってやる!」

 

一輪は雲山を戻そうとする。が魔理沙の腕も甘くはない。そんなことをしているうちに一輪を追い詰めるだろう。一輪と雲山、さらに人間特効といえる力が合わさり魔理沙以上の力を持っている。そのどれかが欠けていれば一気に形成は逆転する。この二人の勝負はもうすぐ決するだろう。

 

だがこの介入はあまりにも大きな戦局を動かした。霊夢と早苗が掴み取った数少ないチャンス。それが今手のひらから零れ落ちた。この刹那、聖は二人から距離をとりスペルカードの発動寸前まで至っていた。

 

感情の異常な昂りで招いた敗北への道。聖はこれを体験してしまった。そうなれば自身の感情をコントロールする。もうこの好機は訪れない。それどころかより徹底的にこちらを潰そうとするだろう。より隙のない相手になったのだ。

 

「死になさい!魔法「マジック____

 

優勢からの劣勢。この距離ではすぐに逃げなければ直撃は免れない。頭では動かなくてはならないと思っている。だがその事実が動きの鈍さを生み出す。

 

(やばっ、間に合わない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__バタフライ……!」

 

時の流れの最中、思考が鈍るなら()()()()()()()()()()()。そのような暴論を行える人物が人間側には居る。

 

「貸し一つよ二人とも」

 

「……ビビるから辞めなさいよそれ」

 

「さ、咲夜さん!」

 

「はぁー…。お礼くらい言えないの?」

 

十六夜咲夜。時を止めることの出来る人間の少女。幻想郷にいるこの船を止められる数少ない戦力!

 

「それで?私の仕事は何かしら?」

 

頼まれた仕事は完璧にこなす。それが彼女の信念、生き様だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……頼むぞ皆」

 

船の下ではずっと剣を携える男がが一人。ゆらめく炎のようにただ静かに戦局を見守る。最大の一撃を決めるために。



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58話 動く戦況

58話です。……はい、完全に失踪してました。待っていてくれた方々、本当にすいませんでした!今もう待っている人がいるかは分かりませんが何とか完結には持っていこうと思います。


「ザグヤさー〜ん!!」

 

「ちょっと、泣きながら抱きついてこないで」

 

間一髪のところで二人を助けたのは紅魔館の時を操る専属メイド、十六夜咲夜だった。

 

「ナズーリンから大体の話は聞いたわ。私の力が必要なんだって?」

 

そう言った時の顔がどことなく得意げだったのを見て若干霊夢はイラッとしたが助けられた手前強い態度も取れないため微妙な表情をするしか出来なかった。

 

「そりゃもう、咲夜さんがいれば百人力ですよ!」

 

こういう時に素直に物事が言えるものがいると話がスムーズに進む。霊夢に言わせれば何も考えていないということになるが。

 

「……来たからにはきっちり働いてもらうわよ」

 

「はいはい。それで、私は何をすればいいのかし……ら!」

 

話してる途中に弾幕が飛んでくる。三人の会話が終わるのを待つほど今の聖は優しくない。むしろ新たな邪魔が入った事により先程よりも怒りが増している。噛み締めた唇から血が出るほどに。

 

「貴方達は……どれほど私を苛立たせたら気が済むの!」

 

その怒りに呼応するかのように弾幕の量が増える。一刻前の戦闘に比べより隙を無くして。そんな弾幕が霊夢たちを襲っている。その勢いはもう付け入る隙を与えないと言っているようだった。

 

「気をつけて下さい咲夜さん!避ける場所は自分で作らないと当たります!」

 

「見れば分かるわそんなもの!」

 

今まで経験した事の無いその質量に戸惑いつつも上手く交わしていく。伊達に異変に身を投じていた訳では無い。

 

「咲夜!アンタは船の中にいる寅丸を助けなさい!」

 

「それはいいけどまず中に入れないんだけど!」

 

「今からその道を作んのよ!早苗!」

 

「は、はい!秘術「忘却の祭儀」」

 

「霊符「夢想封印」

 

霊夢と早苗がスペルカードを使う。それによりどんどんと弾幕は相殺されていく。だが、船の中に行くには少し足りない。船に近づけはすれど中に入るまでに被弾してしまう。

 

「これならどうだ?恋符「マスタースパーク」」

 

そこに一輪との戦闘を終えた魔理沙が強引に割ってはいる。全てを飲み込むようなスペルカードを放ったことで船の一部の弾幕の数が極端に減った。咲夜はその一瞬を逃さない。一気に船へと近づき甲板を破壊しようとする。霊夢も咲夜に合わせて船に施していた結界を解く。結果人一人が入れるほどの穴が空き、咲夜が侵入しようとする。

 

「何をしている!」

 

当然聖がそんなことを許すはずが無い。咲夜に手をかざし人間のみを拒絶する壁で押し出そうとする。

 

「どこ見てるの?」

 

それを霊夢が阻止する。いつの間にか聖のそばに行き、お得意の近接攻撃を繰り出した。その攻撃が当たることは無かったが妨害には成功し壁が咲夜に突撃することは無かった。

 

「……何故」

 

聖は小さく呟いた。霊夢達は知らないが聖は今自分の周りを囲うように壁を設置していた。先程の戦闘で近接格闘になれば自分に勝ち目がないと知ったから。もう近づかれないために、近づかれても平気なように。しかし霊夢の攻撃はこの壁をすり抜けた。人間を拒む壁をだ。

 

「……あぁ、そういう事ね」

 

しかしその謎はすぐに解けた。霊夢に力を貸すように朱雀が霊夢の近くを飛んでおり、霊夢の腕が、体が炎で包まれていた。それを見れば聖の壁をすり抜けたのは霊夢では無く、朱雀の炎だということが分かる。確かに霊夢の拳は壁に拒まれた。しかし獣である朱雀の炎は壁をすり抜けられる。

 

「これならアンタに泣きっ面かかせられそうね」

 

「でも船の結界を解いたのは悪手だったんじゃない」

 

今まで船を結界で覆っていたのは船からの攻撃が半端では無かったからだ。そのため攻撃が飛んでこないようにするために蓋のようにして覆っていた。

 

「だったらこうすればいいじゃない」

 

そう言うと霊夢は聖や自分達を囲う結界を張った。今までの弾幕を出させないための結界では無く、弾幕から身を守るため、そして聖を逃がさないための結界だ。

 

「……最初からそうすれば良かったんじゃないか?」

 

「聖の近くにいて弾幕が止んでる時が無かったから無理よ」

 

弾幕が張られている状態で結界を張っても自分の逃げ場を無くすだけと。スペルカードを発動しても同じだ。確かに発動している間は弾幕を消せるが効果が切れた瞬間また襲ってくるだろう。

 

「それに今なら厄介な弾幕をアンタ達が処理してくれるでしょ」

 

霊夢が今のように結界を張らなかった理由の1つ。たとえ無理やり弾幕を消し近接格闘に持ち込んだとしても弾幕の対処で追われると考えていた。しかしここには魔理沙と早苗がいる。霊夢を援護してくれる者達が。紆余曲折はあれど実は今が一番聖とマトモにやり合える状況と言える。

 

「弾幕は任せるわよ魔理沙、早苗!」

 

「任せろ!」

 

「霊夢さんは聖さんに集中して下さい!私達で抑えてみせます!」

 

「……思い上がるな!人間!」

 

四人で戦うにはあまりにも狭い空間で最終決戦が始まった。

 

♢

 

「……ふぅ、案外警備がしっかりしてるのね」

 

船の中に入った咲夜は自分が思っていたよりも前に進めないでいた。外だけにあると思ってた弾幕を吐き出す装置が中にも設置されてたからだ。しかも一つ二つの話ではなく、壊しても壊しても次々に現れるそれに嫌でも神経を向けなければならない。

 

「こんな船に備わっているものでも無いだろうに……」

 

外観は古来の作り。こんな厄介な装置が付いているなんて一目見ただけで想像する者はいないだろう。けどそこは咲夜。被弾などはすること無く、確実に対処出来ている。

 

「で、寅丸は何処にいるのか……」

 

ただえさえデカい船なんだ。一体どこを目指せばいいのか。……だが咲夜は大体の検討がついていた。

 

(こういうのは一番奥にいるのが鉄則よね)

 

大事な物はなるべく目のつかないところ……ここでいえば入ってから一番遠いところにあると睨んだ。それを踏まえて迷うことなくどんどんと前に進んでいるのだ。

 

「……これは当たりね」

 

船を侵略した先に現れたのは他の物よりも一層強固な見た目の扉。そして扉の向こうから肌で感じとれる嫌な気配。咲夜は間違いない、ここだと確信した。

 

「とっとと終わらせましょう。奇術「幻惑ミスディレクション」」

 

スペルカードを発動して一気に扉を突破する。普通に入った場合罠があった時に対処しにくいと考えたからだ。

 

「おいおい、だいぶ手荒だな」

 

扉の向こうにいたのは聖輦船を操縦する船長__村紗 水蜜。そしてその後ろに機械のようなものに繋がれているのが毘沙門天の代理人__寅丸星だ。

 

(何あれ?寅丸を助けろって言ってたけどあれから取り出せばいいのかしら?)

 

「船もあちこち壊して、どう責任とるんだい?」

 

「責任?そっちこそ、幻想郷を破壊しようとしてるくせに」

 

「違うよ。私達は人間に復讐しようとしてるだけだ。結果として幻想郷が無くなるってだけで」

 

悪びれる様子もなく当たり前のように語る。そこには人間……ましてや幻想郷の事など微塵も思ってはいない。

 

「同じことよ。分かっててやってるならね」

 

咲夜は臨戦態勢をとる。ただ黙って寅丸を取り返させてはくれない。今まで同様戦闘になるだろう。

 

「分かってないのはそっちだ。今こうなってるのも全部人間が生み出したエゴのせいなんだからさ!」

 

高まった感情と共に攻撃が咲夜を襲う。怒りを発散するように、自らの心を埋めるように。

 

「見てて苦しいわ。安心しなさい、すぐに終わらせるから!」



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