スーパーロボット大戦//サイコドライバーズ (かぜのこ)
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プロローグ「ロストチルドレン」

 

 

 

『■一……浩■……』

 

 

 ――声が、聞こえる。

 

 

『……目■■る■で■、■■――否、■ビ■二■よ』

 

 

 ――ぼく/オレを呼ぶ声が。

 

 

『■■ル■世よ……■界を救■■です』

 

 

 ――請うように、誘うように。

 

 

『無■力を超■し、ア■■リ■プ■■を防■■■す』

 

 

 ――どこか遠く、銀河の果てへと導く誰かの声が。

 

 

 

 

 

 

 薄暗い室内。

 オレはまどろみから目覚めた。

 どこかぼやけた視界、前進を包み込むひんやりとした感触。

 

「――――ッ!?!?」

 

 叫ぶ。

 が、口が呼吸機らしいものに覆われていて声が出ない。

 それどころか、オレの全身は何か得体の知れない液体に浸かっていた。

 

「――――ッッ!!」

 

 もがき、のたうつ。

 しばらくそうしていたおかげか、だいぶ冷静になれた気がする。……気がするだけだが。

 やけに力の入らず、違和感だらけの身体は半袖七分のウェットスーツ的なものを着ていた。

 鈍い身体に苛つきながら腕を伸ばすと、すぐ何かに阻まれる。堅い感触、これはガラスか?

 周りに満たされた気色の悪い色をした溶液。どうやらオレは、ホルマリン漬けのようにされているらしい。

 容器のガラスは分厚く、力の入らない腕でたたいてみてもびくともしなかった。

 クソッ、訳も分からず標本のようにされてろってのか……!

 理不尽に対する怒りと恐怖で、目の前が真っ赤になる。

 

「――ッ!?」

 

 そのとき、ズキリと頭に――いや、脳に痛みが走る。

 そして、唐突に視界に――ガラスに大きな亀裂が走り、仕舞いには派手に砕け散った。

 バシャン!と音を立て、オレは容器の外に勢いよく放り出さる。

 

「がはっ! ゲホッ、ゴホッ……な、ん、だった、んだ……?」

 

 地面に投げ出された拍子に呼吸器が外れ、呑んでしまった溶液を吐き出す。

 立ち上がろうと両足を踏ん張るがうまくいかない。両手両足は鉛のように重く、まるで生まれたての子鹿だ。

 

「気持ち悪い……」

 

 酷く怠い身体を持て余し、しばらくその場でうずくまることにした。

 ついでに、周りの様子を観察する。

 

「……ここは、何かの研究施設なのか?」

 

 何を研究してるかは知らないが、碌なモノじゃないだろう。

 

「“No.22nd typeーIng”……イングと読むのか、これ? まるで工業製品だな」

 

 ネームプレートらしきものに眉をひそめる。二二と記されているわりには、オレの目覚めた水槽以外、部屋には見当たらないが。

 未だ重たい身体を引きずるようにして、手近なデスクの端末に取り付く。先ずは何かしらの情報を手に入れるべきだ。

 どうもオレの知っているPCとは段違いに進んだ技術を用いているらしく、動かせるか不安はあったが、身体が覚えていると言うべきなのだろうか、指先は淀みなく踊った。

 自分の身体が自分のものではない不快感に苛まれながら、データを閲覧していく。

 どうやらこの端末の持ち主は大層な自信家なようで、複雑なセキュリティーはかけられていなかった。

 そして、オレはこの場所の名称を知る。

 

「……“アースクレイドル”!?」

 

 施設の名前に驚愕する。

 何故ならそれは、オレの知っているテレビゲームに搭乗する単語であったから。

 そんなバカな! そう叫びたくなる衝動を、グッと抑えた。

 冷静になって思う。だいたい、“オレ”とはいったい何者だ? テレビゲームとロボットアニメが好きな、どこにでもいるような普通の高校生だったことは認識できる。――だが、家族が、友人が、そして何より自分の名前が思い出せない。

 さらに、この世界――正確を期すならオリジナルキャラクター等の設定――に関する記憶の大半が抜け落ちている。

 虫食いの記憶に頭をかきむしる。

 思い出そうとして思い出せないのだから、記憶喪失と言って語弊はないだろう。なんらかのキーワード――この場合は“アースクレイドル”――に刺激されて、関連するわずかな情報が開示されたと仮定すべきだろうな。何か、外部の何者から記憶にロックがかけられているような、そんな感じがする。

 ふと、壁に掛けられていた姿見に目を向けた。

 

「“マシンナリー・チルドレン”、か」

 

 鏡に映っていたのは前髪に青いメッシュが入った灰白の頭髪に、紅い瞳。幼さの残る顔立ちはまるで作り物のように端正だ。

 記憶の蓋がまた開いたのだろう、この身が“オレ”のものではなく、またヒトならざるものであると認識することができた。

 ……考えていても仕方がない。ここが本当にオレの知っているアースクレイドルなら、長く留まるのは得策じゃないことだけは明白だ。

 ようやく身体がもろもろに慣れオレは身を翻し、部屋を後にする。

 

 端末の画面には、『新西暦一八七年』と記されていた。

 

 

   †  †  †

 

 

 オレはどこか真新しい印象の、人気のない閑散とした通路を息を潜めて進んでいた。ちなみに、ウエットスーツじみたインナーだけってのはいただけないと、研究室にあったオサレなデザインの黒いゆったりとしたコートをパチッて着ている。

 目的地は格納庫、予め記憶しておいたマップによって難なくたどり着くことができた。……いや、マシンナリーチルドレンの頭脳はチートだわ。

 というか難なく、というには語弊がある。なんというか、人の気配のする方を避けてきたからこそ何のアクシデントもなく到着できたのだ。……この力、まさか“念動力”とか、そんなんじゃないだろうな。

 

 格納庫は、広大だがこれまた閑散としていた。まるで空っぽと言っていい。

 メンテナンスベッドには、巨大な機械の人型がまばらに納められている。だが、それらはパーソナルトルーパーには見えないやや古臭いデザインで、だがどこか見覚えがあった。……《ジム》? まさかな。

 疑問符を浮かべつつキャットウォークを素早く駆け抜け、オレは一機の機動兵器の前に辿り着いた。

 

「……紅いヒュッケバイン?」

 

 オレの記憶にはない機体だ。

 全体のデザインはパーソナルトルーパー、“バニシングトルーパー”こと《ヒュッケバイン》の後継機、《ヒュッケバインMkーII》にそっくりだ。

 とりあえず、コイツを脱出の足として拝借していくことにするか。ヒュッケバイン好きだし。

 コックピットハッチを――おそらく、刷り込み的な知識により――難なく開き、乗り込む。

 これまた刷り込まれたであろう知識に任せてコンソールをいじり、動力に火を入れてアイドリング状態に移行させた。ついでに、この見知らぬ機体の情報に目を通しておこう。

 

「形式番号RTX-009C、スペックは……ンッ、ミノフスキー型核融合エンジン?」

 

 ミノフスキー型核融合炉といえば、リアルロボットの代名詞《ガンダム》、それもU.C.(ユニバース・センチュリー)系のモビルスーツに用いられている動力機関だ。

 《ヒュッケバインMkーⅡ》とU.C.系モビルスーツが同居する世界観といえば――

 

「よりによって、αかよ……」

 

 コクピットのシートにうなだれる。

 何故なら、生前――こういう言い方はかなり不本意だが――のオレはこのシリーズをプレイしことがない。参戦している作品や、いわゆるオリジナルキャラクターの概要を伝聞で知るのみだ。あとは、過去作のトリビアをちまちまと摘み食いしているくらいだが……。

 

「携帯機派だったからなぁ、オレ」

 

 とはいえ、プレイしたことのあるはずのOG、オリジナルジェネレーションのストーリーすら思い出せないのだからあまり意味がないだろう。

 

「ストーリーの知識も無しに、この状況を生き抜けっていうのか……?」

 

 スーパーなロボットが古今入り乱れる大戦の最中を、である。

 原作知識は《ジム》や核融合エンジンの件でもわかるように、多少は役に立ちそうだが。それにしたって全て参戦作品の全ての設定を網羅していたわけでもなし、使えればめっけもの程度に考えていた方が良さそうだ。

 とそのとき、外部スピーカーがけたたましい警告音を捉えた。

 

「――感づかれたか!?」

 

 《ヒュッケバイン》のエンジンに火が入っていることを知られたか、あるいはオレが目覚めた部屋の持ち主、おそらくイーグレット・フィフが警告を発したか。

 

「何れにせよ、ここから脱出する、それが先決だ」

 

 レバーを握り、ペダルを踏み込んで《ヒュッケバイン》を発進させる。

 機体をつなぎ止めていた器材なんかが引きちぎれたが、お構いなしだ。

 閉じられたシャッターをこじ開けて、脱出をもくろむ。こちとら機動性が売りのリアルロボットなのだ、こんな狭いところで戦ってなどいられない!

 

「南無三!」

 

 手腕にサイドアーマーからプラズマソード《ロシュセイバー》を引き抜かせ、ブースト。ぶちかますようにしてシャッターに突っ込む。

 少なくないGにも、このマシンナリー・チルドレンの身体は難なく耐え抜いてくれた。

 シャッターに接触する一歩前、オレの入力によりOSに登録された剣戟モーションが発動、《ヒュッケバイン》はそれを忠実に再現し、袈裟懸けに剣を振るう。

 超高熱の光線剣が、分厚いシャッターを切り裂いた。

 

 

   †  †  †

 

 

「てっきり荒野かと思ったが、案外鬱蒼としてるな」

 

 目の前、メインモニターには雄大な大森林が広がっている。

 背部カメラの映像には、無惨にも切り裂かれたシャッターと半球体とはとても言えない中途半端な形をした白い巨大な建築物。どうやらこのアースクレイドルは未だ建造中だったようだ。

 と、もしもすでに地下に潜っていたらと思いつき、背筋が凍りついた。……機動兵器を奪って脱出なんて、今思えば考えなしだったな。

 

「っ」

 

 レーダーに感。アースクレイドルから機動兵器が発進したらしい。

 格納庫でも見たロボットが四機、急速接近してくる。

 コンピュータが敵の機種を判別する。赤い正規軍カラーの《ジムII》……“一年戦争”後、“グリプス戦役”相当の時代ってことか?

 

『そこのパーソナルトルーパーのパイロット、武装を解除して速やかに投降しろ』

「警備部隊のモビルスーツ……!」

『こちらは貴様の身柄の拘束を命令されている』

「……っ!?」

『返答がないのではあればやむを得ん。機体を破壊して拘束する!』

 

 答えに窮していると、四機の《ジムII》が《ビームライフル》らしき火器を一斉に構えた。

 

「って、問答無用かよ!?」

 

 飛来する粒子ビームの砲撃が、自動で展開した重力障壁《グラビティ・ウォール》に接触して弾ける。慌てて《ヒュッケバイン》に回避運動を取らせながら、ほぞをかむ。

 生身のヒトの姿が見えないから戦える――なんて、馬鹿げたことを言うつもりはない。これが命がけの戦争だってことくらい、機体越しに感じるリアリティで理解している。そして、あの《ジムII》の中に、血の通った人間がいることも。

 だが――!

 

「訳も分からず、殺されてたまるか!」

 

 理不尽な状況に対する怒りを、迫る死の恐怖を叫びに変えて。

 

「死んでも恨むなよ! うおおおっ!」

 

 ブースト全開。牽制に頭部バルカンを放ち、凄まじい速度で敵モビルスーツに接近する。

 メインモニターに移る巨人の姿に恐怖は増大するが、押し殺しトリガーを握り込む。

 

「ひとつ!」

 

 バルカン砲に怯んだ先頭の機体を、肩口から引き裂く。

 

「ふたああつ!」

 

 続いて、その横の機体を駆け抜けざまに一閃。

 

「みっつ!!」

 

 最後の機体を、構えたシールドの上から叩き斬った。

 最後列、隊長機らしき四機目の《ジムII》がようやく反応し、ライフルを構える。

 だが、遅い!

 

「お前で最後だ! スラッシャー、アクティブッ!!」

 

 コマンドを認識したFCSが、左前腕に内蔵された《リープスラッシャー》を起動させた。

 突き出した左腕から円盤状の物体が発射、刃を展開したチャクラムがワイヤーを引いて飛翔し、《ジムII》をズタズタに斬り裂いた。

 

「はぁ、はぁ……ちくしょう……」

 

 《ジムII》が次々に爆発していく。

 こみ上げてくる不快感と吐き気を必死に押し込んだ。

 腹の中に何も入ってなくて、助かった。

 

 ようやくえずきがおさまった。追っ手は片付けたし、これで後顧の憂いなく逃げ出せる。――と思ったが、そう簡単にはいかないらしい。

 オレがこじ開けたモビルスーツサイズのゲートとは違う、もっと大きなゲートがもったいぶったように開く。

 そこから現れたのは――

 

『侵入者と聞き駆け付ければ、警備隊は全滅か』

「……ぐ、グルンガスト零式……!?」

 

 オレの前に現れたのは、超闘士こと《グルンガスト》シリーズのプロトタイプとされる黒い特機(スーパーロボット)。知的生命体に対する心的重圧を目的にデザインされたという厳つい風貌からは、確かに強烈なプレッシャーを感じた。

 この機体、まさか――

 

「元戦技教導隊、ゼンガー・ゾンボルト少佐!?」

『ほう、この零式と俺を知るか。やはり、ただのテロリストではないようだな』

「……オレは、テロリストじゃない」

『ならば貴様は何者だ? 未だ建造中とはいえ、このアースクレイドルは人類の要衝の一つ。そう易々と進入されるほど、甘い警備を敷いていないつもりだが』

「……。ある意味、オレは内部の人間と言うべきかもな」

『何?』

 

 誰何に対する予想外であろう切り口に、ゼンガーが訝しんだ声を上げる。

 彼相手に下手に作り話で取り繕っても、すぐにバレてあのバカでかい出刃包丁で両断されるのがオチだろう。ならば、可能な限り真実を話すべきだ。

 たとえどういう結果になろうと、上辺だけの嘘で生き様を偽りたくない。あるいは、この身体が一番の“偽り”だからこそそう思うのかもしれない。

 

「どこぞの誰かがこそこそやってた怪しげな研究の実験台、ってところだ。あなたにも、そんなことをやらかしそうな人物の心当たりがあるんじゃないのか」

『む……』

 

 通信機越しに、うめきが漏れる。

 今、彼の脳裏にはイーグレット・フィフの姿が過ぎったはずだ。怪しすぎるくらい怪しいもんな、あのおっさん。

 

「こんな辛気臭いところでモルモットをやるのは御免でね、とんずらさせてもらおうってわけさ。このヒュッケバインは、その駄賃に戴いていく」

 

 挑戦的に言い放ち、余裕を見せてみる。内心は、極度のプレッシャーでガタブルだが。

 

『……貴様の言葉が仮に真実であろうとも、逃走を許す理由にはならん』

「っ!」

『このアースクレイドルの存在が外部に露見すれば、人類の命運は潰える事になるだろう。故に、ヒュッケバインを破壊して貴様を拘束する。真偽はその後に確かめればいい』

「やっぱ、そうなるか……!」

 

 黒い機械の巨人は、斬艦刀を構えて戦闘態勢を取った。

 どの道そんな気はしてたんだ。相手はあの“親分”、真面目実直で頭が固い漢の中の漢である。

 

『我が名はゼンガー・ゾンボルト、悪を絶つ剣なり!』

「こうなりゃヤケだ! やるだけやってやる!」

 

 ゼンガー・ゾンボルトの代名詞とも言える口上に気圧されながら、オレはコントロールレバーを強く握りなおした。

 

 

『斬艦刀、疾風怒濤ッ!!』

「ぐぅうう!」

 

 噴射材を吹き上げて振り下ろされたブロードソードの腹に《ロシュセイバー》を叩きつけて無理矢理いなし、辛うじて致命傷を避ける。すでに、《ヒュッケバイン》の左腕は斬り飛ばされていた。

 圧倒的な質量による剣撃が強烈な風圧を巻き起こす。重力の壁を易々と貫く衝撃で、機体がギシギシと軋んで悲鳴を上げる。

 

「く、パワーが違いすぎる!」

 

 設定通りなら、あの《グルンガスト》には艦艇用のエンジンが積まれているはずだ。その巨体に似合った馬力、推して知るべしである。

 改修機らしいがあくまでもパーソナルトルーパーであり、それ以上にはなりようのないこの《ヒュッケバイン》では当たり負けするのは必然だった。

 

「せめて、フォトン・ライフルでもあれば……!」

 

 放たれた鉄拳、《ブーストナックル》が機体のすぐ脇を通過していく。システマチックなゲームとは違うのだ、当たれば華奢なパーソナルトルーパーなど木っ端微塵だろう。

 逃げるに逃げられず、かと言って飛び道具がバルカンしかないのではまともに戦えやしない。相手が捕獲を目的としていなければ、今頃オレはミンチになっていたに違いない。

 さらに拙いのが、《グルンガスト零式》は巨大な見た目によらず以外に身のこなしが軽く、素早いこと。機動性こそこちらが優位だが、これは逃走戦であり、最大速度は出力の差で《グルンガスト零式》の方が圧倒的に有利。故にオレは、勝ち目のない近接戦闘を強いられていた。

 

「何か、何か打つ手は……」

 

 必死に操縦桿を操り、片手でコンソールを叩いてスペックの細部を調べ、打開策を模索する。優れているであろう人工的に産み出された頭脳は、恐ろしいスピードで思考を展開した。

 そしてオレは、《ヒュッケバイン》のスペックに記されたとあるデータに一抹の勝機を見い出した。

 

「これは……! これなら、行けるか?」

 

 不安が過ぎるが、それを無理矢理振り払う。

 即興で制御プログラムを組み上げるべく、備えつけのキーボードを操る。ここでもやはりマシンナリーチルドレンの身体は大いに役に立ってくれた。

 

『ム……』

「感づいた? だけど、やるしか……!」

 

 さすがと言うべきか、ゼンガー・ゾンボルトは変化したオレの気配を機体越しに感じ取ったらしい。やることなすことがいちいち武人だ。

 しかし、こちらのやることは一つ。柄じゃないが、“分の悪い賭”と言う奴だ。

 

「時限プログラムによるバイパス解放、主機のパワーを右手腕に集中……!」

 

 極度の緊張と死の恐怖で乾いた唇、もはや舌なめずりする余裕もない。

 

「真っ向勝負だ、ゼンガー・ゾンボルト!」

『その意気や良し! 受けて立つ!』

 

 雄叫び、フットペダルを思いっきり踏み込んだ。

 グラビコン・システムでも相殺できないほどの凄まじいGを発生させながら、《ヒュッケバイン》が斬艦刀を振り上げる《グルンガスト》に吶喊した。

 

「おおおお――ッ!!」

『チェエストォォォオオッッ!!』

 

 精神を極限まで研ぎ澄ませ、真一文字に振り下ろされた斬艦刀を跳躍しつつかいくぐる。が、避けきれずに左半身をえぐり取られる。

 そんなもの関係ない、この渾身の一撃が決まれば!

 

「ここだ!」

 

 右手腕に充填されていたエネルギーを、《ロシュセイバー》に全てぶち込む!

 

「砕け散れぇぇぇッッ!!」

 

 裂帛の気合いが自然と口を吐く。

 込められた過剰なエネルギーにより刀身が急激に伸びていく。《ロシュセイバー》のスペックを眺めていて気付いたこの特性により、鋒が向かうのは《零式》の頭部だ。

 《グルンガスト》のメインコクピットは頭部に位置している。この《零式》とて同じだろう。

 そこを直接潰せば……!

 

『ヌゥ……!?』

 

 驚愕の呻き。

 取った! オレはこのときこの瞬間、そう確信した。

 しかし――

 

「そんな……!」

『良い太刀筋だったが、今一歩踏み込みが甘かったな』

 

 ゼンガーの、目の前の光景に言葉を失う。

 渾身の斬撃は、《グルンガスト》の左のメインカメラを奪うに止まっていた。目測を誤った訳じゃない、奴の反応がオレの一歩先を行っていただけのこと。あるいはPTの剣撃モーションを見切られたか。

 明確な技量と経験の差――、それが勝敗を分けたとでも言うのか。

 とそのとき、ドンッと背後から少なくない衝撃が襲い来る。無茶が祟って《ヒュッケバイン》の背部ウィングが爆発したらしい。

 散々に警告していたコンソールが無情にも機体の限界を告げていた。

 

「オーバーヒート……!? うわっ!」

 

 突如、正面のコンソールがスパークを上げて小爆発を起こす。

 満身創痍の“凶鳥”はその場に崩れ落ち、オレも腹部に深い傷を負った。

 受けたこともない激痛に、意識が朦朧とする。

 

「ク、ソ……ッ! ――わけもわからず、なにもできずに、死ぬ、ってのか……?」

 

 悠然と歩み寄る黒い巨人。状況は、絶体絶命としか言いようがない。

 急速に薄れゆく意識の中、最後に見た光景はコックピットを照らす翠緑の不可思議な輝きだった。

 

 

    †  †  †

 

 

 極東、日本近海。

 《Gホーク》形態に変形した青いスーパーロボット、《グルンガスト弐式》が黒いパーソナルトルーパー、《ヒュッケバインMkーII》を背に乗せて海上を飛行している。

 周囲には、丸みを帯びた赤い飛行機、赤・白・黄色の三機の戦闘機、かモビルスーツが飛行している。それぞれ《マジンガーZ》のコックピット《ホバーパイルダー》と《ゲッターロボ》が分離した三機の《ゲットマシン》、それにサブフライトシステム(SFS)《フライングアーマー》に機上した《ガンダムMkーII》だ。

 

『それで、“強い念”って奴がこの近くに()()()ってんだよな、クスハ』

「うん。そうだと思うよ、甲児くん」

 

 《ホバーパイルダー》を操縦する青年、兜甲児がわずかに訝しげに問う。応じるのは青いショートヘアの美少女、クスハ・ミズハである。

 

『俺とリョウトも、クスハと同じ強い“念”を感じた。あれは異常だ、この世にあっちゃいけない――とは思えないのが不思議なんだ』

『うん。まるで太陽みたいな、そんな暖かで、けれど苛烈な印象を受けたよ。あと、助けを求めてるような、そんな感じもしたな』

 

 《ガンダムMkー2》のパイロット、カミーユ・ビダンがクスハの意見に同意を示し、《ヒュッケバインMkーII》を操るリョウト・ヒカワが補足を加えた。

 どちらも抽象的な意見であるが、それは彼らが種類は違えど特別な“能力者”であるからだ。

 

『“強い念”、ねぇ……おれたちにはなんも感じられねぇけどな』

『ともかく、現場に向かってみよう。もしもその“強い念”の持ち主が、地下勢力やティターンズなどに捕まりでもしたら大変だ。急ごう』

 

 ゲッターチームの巴武蔵と流竜馬が口々に言う。最後の一人、神隼人がニヒルな笑みを口元に浮かべた。

 

『フッ、リョウがまたリーダー風を吹かしてやがるぜ』

「もう、隼人くんたら」

 

 皮肉屋な僚友のコメントに、クスハが苦笑を漏らした。

 

 クスハたちが協力している地球連邦軍極東支部と、リョウトたちが所属する反連邦組織“エゥーゴ”は連邦軍の過激派“ティターンズ”や地球制服を企む数々の地下勢力に対抗するため、協力関係を結んでいた。

 そこに至るまでには複雑な事情と経緯があったのだが、それはさておき。

 現在、彼らがこうして海上を飛行している理由はこうだ。

 あるとき、クスハ、リョウト、カミーユの三人が同一のタイミングで頭痛を訴え、近くに強力な“念”の持ち主が突如として現れたことを感じ取った。そして、“それ”が自分たちを呼んでいると口を揃える。

 それを聞きつけたエゥーゴの機動戦艦《アーガマ》の艦長、ブライト・ノアとエゥーゴ実働部隊の実質的リーダー、クワトロ・バジーナの両名は彼らの感性を信じて原因の究明を決定、護衛付きで送り出した、というわけだ。

 

『あっ!』

「どうしたの、リョウトくん?」

『見つけたっ、五時の方向』

 

 おそらくこの中で一番探知能力に優れているであろう《ヒュッケバインMkーII》を駆るリョウトが、異変を察知した。

 一足遅れて《グルンガスト弐式》のレーダーマップが金属反応を捉える。

 

『行ってみよう。クスハ、お願い』

「うん」

 

 リョウトの要請を受け、クスハは《Gホーク》を反応のする場所に向けた。

 

 

 岩礁らしき浅瀬に、座礁したように一機の機動兵器が擱坐(かくざ)していた。

 乗降用ラダーを駆使してそのコックピット付近に降り立つクスハ、リョウト、カミーユの三人。

 

「真っ赤なヒュッケバイン……」

「MkーIIに似ているな」

「うん。というか、見る限り瓜二つだね」

 

 クスハのつぶやきにカミーユが感想を述べ、リョウトが補足する。

 甲児とゲッターチームの三名は、機体に乗ったまま周囲の警戒を続けていた。

 

「動力は……どうやら生きているみたいだ。どうする? 人の気配はするが……」

「僕が開けるよ。これでも、PT乗りだからね」

「ああ、任せた」

「リョウトくん、気をつけてね」

「わかってる。――同じヒュッケバインなら、たぶんこうして……」

 

 パーソナルトルーパーのパイロットであり、なおかつ多少なりとも機械工学についての知識を持つリョウトが代表してコックピットハッチに取り付いた。

 幸い非常レバーは生きており、ハッチの開放に問題はないようだ。

 大破に近いダメージを受けているにも関わらず、紅い《ヒュッケバイン》のコックピットはひしゃげることなくも原形をほぼ留めていた。

 

「開けるよ?」

 

 無言で頷く二人。

 リョウトが緊張した面もちで、レバーを引いた。

 

「うっ!?」

「これは……!」

「ひどい……」

 

 光景に彼らは息を飲み、絶句する。

 彼らの目の前には、腹部に深い傷を負い、血塗れになった少年がパイロットシートに力なく身体を預ける姿だった。

 



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αIー1「凶鳥の眷属」

 

 

 新西暦一八七年 ×月■日

 地球連邦軍極東支部 《アーガマ》の医務室

 

 突然だが、オレこと「イング」は今日から日記をつけることにした。

 なんの因果か、マシンナリー・チルドレンなんて厄介なものに憑依してしまったオレは、戦乱渦巻くこの世界の渦中から逃げることは出来ないだろう。少なくとも、今すぐは無理だ。

 だから起きたこと、知ったこと、経験したことを文章にして残し、読み返すことで直面した状況から目を逸らさずに少しでも前向きでありたい。あと自分の記憶が信用ならないという面もあるかな。

 まあ、メタな話をするならこの方が楽ってのもあるんだけど。

 

 ゼンガーからどうやって逃れたのか皆目見当もつかないが、ともかく運良く、あるいは必然的に主人公たちに保護されたオレは、3日間ほど生死の境をさまよっていたらしい。

 驚いたことに、この“世界”にはスーパー系主人公とリアル系主人公が同居していた。

 目覚めてからしばらく、オレを救助してくれたという人物たちが現れたときは、びっくり仰天した。

 リョウト・ヒカワ、クスハ・ミズハの両名が連れ立って現れたんだから。あれ?ここ、αじゃないの?と疑問符を浮かべてしまった。

 リョウトは穏やかなようで主人公のオーラがあったし、生で見たクスハはめちゃくちゃかわいかった。

 正直、あの“揺れる”おっぱいをガン見しないでいるのは相当しんどいかったな。

 ……むっつりじゃないぞ、オレは。どちらかというとオープンなスケベだ。

 

 あと、どうやら本来の主人公はクスハのようだ。

 その理由は、リョウトのパートナー、リオ・メイロンが《ヒュッケバインMkーII》の選任オペレーターとして《アーガマ》に同乗していて、なおかつクスハの恋人、ブルックリン・ラックフィールドの姿が見あたらなかったから。

 中途半端であまり役に立たない原作知識によると、ヒロインは一時行方不明になるらしい。さすがに事情を知らない立場のオレが迂闊に問うことは出来ないが、まあ、そういうことなんだろう。

 彼女は全三作で主人公の一角を務めていたそうだから宜なるかな、といったところだ。

 

 この身体の名前らしい「イング」を名乗ったオレは、詳しい事情をそれとなく聞いてくるリョウトたちに「責任者の人に説明したい」と意志を伝えた。

 二人はやや困惑していたが、伝言を受諾してくれた。さすが主人公ズ、話が分かる。

 ちなみにオレの《ヒュッケバイン》は開始一戦目で早くも大破判定を頂戴し、極東支部から南アタリア島にあるディバインクルセイダース(DC)本社に移送されてしまったそうだ。

 まったく、“バニシングトルーパー”の面目躍如である。……はぁ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月○日

 日本近海 《アーガマ》の医務室

 

 今日はここの責任者たち、ブライト・ノア大佐とクワトロ・バジーナ大尉の後両名と面会した。

 実はオレ、内心わくわくしてた。

 だってさ、あのブライト艦長と“赤い彗星”シャアだぞ? 興奮するなってのが無理な話しだ。とりあえず、原作にならってブライト艦長にはサインを強請っておいた。

 

 会話の内容は、面会というか事情聴取のようなものだった。

 とりあえず、質問には可能な限り答えたし、オレが《ヒュッケバイン》に乗っていた経緯も説明した。

 この身体がマシンナリー・チルドレンという人工物であり、本来の身体とは違うらしいとか、気がついた場所はアースクレイドルでそこから逃げてきたのだとか。まあ要約すると包み隠さずぶっちゃけまくった。

 ただ、話せないこともあるからそれなりに誤魔化したし、そのせいで二人には実際かなり怪しまれてた。

 だけどさ、自分はこの世界の人間じゃありません、この世界はビデオゲームの世界なんです、なんて荒唐無稽な話、信じられるか?

 とりあえず、行くところもないし、マシンナリー・チルドレンの身体は厄介すぎるんで、ここに置いてもらえることになった。

 一応、パーソナルトルーパーやモビルスーツを扱えるから、傷が癒えたら協力してくれないかと打診されたけど、そこは保留しておいた。……まだ、戦うことに踏ん切りというか、割り切れないからな。

 ちなみに、ブライト艦長たちに対して敬語で接していたら妙に感心された。やっぱ民間人が多いから、規律がフリーダムなんだろうな。

 

 ああ、《マジンガーZ》や《ゲッターロボ》が現実に見られるなんて……楽しみだ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月▲日

 極東地区日本 《アーガマ》の私室

 

 さすがマシンナリー・チルドレンの身体というべきか、ものの二日で完治してしまった。

 で、今日は退院祝いを兼ねてリョウトとクスハ、リオの三人に艦内を案内してもらった。まあ、平たくいえば挨拶まわりだな。

 なお、リョウトとリオは「イング」、クスハからは「イングくん」と呼ばれている。

 

 リオの勤務場所という艦橋でブリッジクルーのみなさんに挨拶したり、食堂に居たパイロットの面々と顔合わせしたりした。

 挨拶したのは、兜甲児とその仲間たち、流竜馬以下ゲッターチームの面々、最近加入した葵豹馬とコンバトラーチーム。カミーユ・ビダンとエゥーゴの兵士たちに、あとデュオ・マクスウェル。すでに錚々たる面々だ。

 スーパー系な皆さんからは温かく歓迎されたが、リアル系な皆さんからはいささか胡散臭い目を向けられた。ま、自分でも胡散臭いなって思うから気にしてないけどさ。

 そして、お待ちかねの格納庫。《マジンガーZ》や《ゲットマシン》三機に興奮したり、《ガンダムMkーII》を。

 我を忘れてはしゃぎすぎ、リョウトたちに暖かい目線で見守られてしまった。……見た目的に年下だからしょうがないけど、中の人的には同世代のつもりなんだがなぁ。

 なお、整備班長アストナージ・ドメッソ氏には丁重にご挨拶しておいた。整備のカミサマを無碍には扱えないって。

 

 道すがら、雑談にかこつけて三人が《アーガマ》に居る経緯を聞いてみた。

 リョウトとリオは元マオ・インダストリー社の輸送船パイロットで、《ヒュッケバインMkーII》を狙うティターンズに襲撃を受けたところを《アーガマ》に助けられ、合流したらしい。

 どうやって二人で切り抜けたのかと聞いたら、「オートパイロットの輸送船を囮にして、MkーIIに二人乗りして脱出したんだ」とリョウトが答えてくれた。

 なにやらリオが顔を赤くして照れていたから、クスハと一緒に生暖かい視線を向けてやった。まあ、そういうことなんだろうな。

 

 一方クスハの事情は、結構シリアスだった。

 日本地区の、ごく普通の高校生――甲児とはクラスメートだったそうだ――だった彼女たちの高校に、一機の輸送機が墜落した。ドクター・ヘルの“機械獣”によるものだという。

 その影響で恋人は行方不明、彼女自身は輸送機に積まれていた《グルンガスト弐式》に偶然乗り込み、甲児とともに戦ったそうだ。

 

 どう返したらいいかわからず、押し黙るオレ。リョウトたちも詳しい経緯は知らなかったらしく、言葉を失っている。

 そんなオレたちに、クスハは「わたしは大丈夫だよ」と笑いかける。それが何とも痛ましく、胸を突くのだった。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月◇日

 極東地区日本 《アーガマ》の自室

 

 今日は酷い目にあった。ほんとーに酷い目だった。

 これを書いているのも正直ダルいが、わりと重要な出来事もあったからがんばって書き留めることにする。

 

 ことの発端はいわゆる半舷休息で《アーガマ》の、特にパイロット連中は一時の休息。

 それで街に降りるリョウトたちに、オレもついていくことにしたわけだ。

 新西暦の都市がどうなってるのか興味があったし、一人置いてかれるのは嫌だったからな。まあ、それがいけなかったんだが。

 

 最初はよかった。

 緊急時に対応できるように、年少の部類に入る面子でまとまって買い物なんかをやっていた。オレやリョウト、甲児、ボス、豹馬なんかは荷物持ち状態だったけど、それなりに楽しかったんだ。

 そんなときだ、何やら雲行きがきな臭くなってきたのは。

 

 至る所にプロペラ機のようなローターをつけた緑色のロボットと対峙するマッシヴな鋼色の巨大ロボット。名前は知らないが、後者は明らかに主役級の存在感を持った立派なロボだった。

 急ぎ《アーガマ》に戻ることになったみんなに紛れ、そそくさと安全地帯に逃れようとしたときだ。

 突然、強い衝撃が辺りを席巻した。

 

 はぐれたというか、分断されたオレの前に現れたのは、眼帯のダンディーな、だが怪しさ爆発な紳士だった。

 姿に一抹のデジャヴを感じていたオレに、オッサンはこう言った。

 

 ――「このような小僧をいたぶるのは不本意だが――しかし、ビッグファイアの御意志とあらば仕方あるまい」

 

 その瞬間、ゼンガーと相対したときと同レベルの寒気を感じた。死の予感って言えばいいだろうか、ともかくコイツはヤバい。

 直感に従ってその場から飛び退いたオレのすぐ側を通り過ぎていく突風、衝撃波。で、ここで気がついた。

 

 ――あれ? この人“衝撃のアルベルト”じゃね?

 

 ってことはさっきのロボット、《ジャイアントロボ》か! とようやく思い出した。いや、原作は詳しく知らないけど、“使徒”と生身でやり合うトンでも超人ってネタだけは知ってたんだよ。

 あとはまあ、恥も外聞もなく逃げ回ったわけだ。

 だがしかし、相手はBF団が誇る超人“十傑集”。あっという間に追いつかれ、衝撃波が殺す気で飛んでくる。

 いつしか追い詰められたオレは、迫り来る。そのときは、ミンチになる自分をありありと想像した。

 迫り来る死を拒絶するように、無意識のうちに伸ばした手。目の前には、念動フィールドらしき翠緑の光の膜がぼんやりと揺らめいた。

 アルベルトは、衝撃波と相殺して消えたオレの力を見てどこか納得したように、あるいは満足したようにニヒルな笑みを浮かべ、身を翻した。

 残されたオレはカミーユの《MkーII》が救助に来てくれるまで、その場で呆然としていたのだった。

 

 この不本意極まる邂逅で得たものは、オレが“強念者”であることのへ確信と、オレがこの「イング」に憑依した原因に“BF団”が関わっているのではないかという疑惑。

 謎は深まるばかりだが、オレという存在を解明する糸口を掴んだ気がしてる。……戦う運命からは、逃れられないのかな。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月□日

 極東地区日本近海 《アーガマ》の自室

 

 いろいろ悩みが尽きない今日この頃。

 無駄飯喰らいの穀潰しは御免だと、ここ一週間は《アーガマ》のいろいろな部署で仕事を自主的に手伝っていた。

 まず、ありがちなところでは格納庫で整備兵の手伝いだろう。

 優秀なマシンナリー・チルドレンの頭脳はここでも力を発揮して、刷り込まれていた機械知識を頼りにやってるうちに、すいすい身に付いていった。メカニックのみなさんからはそこそこ評価されたと思う。

 次に、食堂の手伝い。

 ここはまあ、成功したかどうかは微妙な線だ。オレとしてはそれなりに料理が出来るつもりだったんだが、いざ作った料理を試食した甲児とボスとデュオが「ぶふぁ!?」と盛大に噴き出してギャグった。

 曰く、死ぬほど滅茶苦茶甘かったらしい。……自分の好みでアレンジしたのがまずかったのか?

 とはいえ、レシピ通りに作れば何ら問題ないし、ジャガイモの皮むきなんてベタな仕事もあるわけだからこちらも問題ないだろう。

 試食した三人からは、「もう飯作んな」と強く止められてしまったが。

 

 そんな感じで、日々あくせく働いている。

 《アーガマ》のみんなに受け入れてもらうために、オレはこれでも必死なのだ。

 この世界において寄る辺も由縁もないオレだから、今ここにある縁を大事に育てたい。だからって、卑屈になるつもりはないけどな。

 

 それと、この期間に新たな仲間が《アーガマ》に加わった。

 《Vガンダム》のウッソ・エヴィンとカサレリアの仲間たちと、そのお目付役のマーベット・フォンガーハット。そしてなんと、“連邦の白い悪魔”ことアムロ・レイ大尉が初代《ガンダム》と共に加入したのだ! 

 ……うん、興奮しすぎだな。自重、自重。あとアムロ大尉と一緒に《ガンダムNTー1》のクリステーナ・マッケンジー中尉、オーストラリアはトリトン基地から奪われた《ガンダム試作二号機》を奪還するため、《ガンダム試作一号機》とコウ・ウラキ少尉とその仲間たちが参入した。

 ……どうして軍人さんには階級をつけて呼ぶのかって? オレはこう見えて真面目なんだ。

 ちなみに、大尉には握手とサインをねだりましたが何か?

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月※日

 地球連邦軍極東支部 《アーガマ》の自室

 

 今日は最近加入した“不死身の第四小隊”隊長、サウス・バニング大尉の指導する訓練に混じって汗を流した。

 このマシンナリー・チルドレンの身体がどれほどのものなのか、興味があったので参加してみた。

 《アーガマ》の甲板をグラウンド替わりに、耐久マラソン。精神的にはかなりしんどかったけど、有り余る身体能力をコントロールするコツがわかったような気がする。

 とりあえず疲れたし、もう寝る。

 

 

 新西暦一八七年 ○月◆日

 地球連邦軍極東支部 《アーガマ》の自室

 

 部隊名が“ロンド・ベル”に決定した!

 正式名称は「地球連邦軍極東支部第一三独立外部部隊ロンド・ベル」。名付け親は極東支部の岡長官。ボルテスチームの一員、めぐみの親父さんだ。

 エゥーゴだのリガ・ミリティアだの獣戦機隊だのコープランダー隊だの、いい加減ややこしかったからな。あ、後者二つは最近加入した仲間たちだ。

 なお、決定の際にアムロ大尉が「マーチウィンド」、ウッソが「ブルー・スウェア」を。オレも「ラウンドナイツ」を提案しておいたが、順当に却下された。ま、お約束だな。

 

 

 新西暦一八七年 ○月#日

 地球、太平洋上 《アーガマ》の自室

 

 突然だが、オレは一応非戦闘員であり、戦闘中はだいたい格納庫で整備班に混じって作業している。

 たまに《アーガマ》に被弾すると、艦内が大変揺れてとても怖い。外の様子が分からないというのは、心臓に悪すぎる。

 

 ということで、パイロットとして戦うことを前向きに検討してみることにしてみた。比較的安全な艦内にいるより、銃弾飛び交う戦場の方がマシだと思うオレも大概だな。

 とりあえず、シミュレーターから始めてみようと思い立ち、リョウトに相談した。

 快く協力を申し入れてくれた彼に案内されて訪れたのは格納庫の一角。そこに置かれた筐体を見て「なんか、アーケードゲームみたいだな」と漏らしたら、リョウトに苦笑された。

 どうやらマジでゲーム機らしく。リョウトはこのゲーム「バーニングPT」の日本地区ランカーであり、その実績がマオ社に認められてスカウトされたのだとか。そういえば、OGにそんな設定があったな。

 それはともかく。

 この筐体は特別仕様で、《ヒュッケバインMkーII》と《グルンガスト弐式》のデータが入力されている。《弐式》が使えるのはパーソナルトルーパー扱いの機体で、操作系もほぼ同等だからだそうだ。

 なお、他のラインナップはというと、

 《ゲシュペンスト》、《ゲシュペンストMkーIIタイプR》、《ゲシュペンストMkーIIタイプS》、《量産型ゲシュペンストMkーII》、《ビルトシュバイン》、《シュツバルト》、《ビルトラプター》、《ヒュッケバイン009》。

 ……一部、「それでいいのかマオ社」って機体も混じっていたが、問題ないらしい。ちなみに《ヒュッケバイン009》とは、オレの《ヒュッケバインEX》の元となった機体である。

 で、一通り使ってみたが、やはり《ヒュッケバイン》系列の機体がよく馴染む。《ゲシュペンスト》の頑丈さと汎用性も嫌いじゃないが、やや操作感が重いというか反応が鈍くていささか物足りない。その点、《ヒュッケバイン》は華奢だが軽妙で振り回しやすく、扱いやすかった。

 次点の《ビルトシュバイン》も悪くないが、ここは《ヒュッケバイン》にこだわりたい。

 

 操作をあらかた確認し、プラクティスメニューを消化したオレはリョウトと模擬戦をすることにした。

 使用機体はどちらも《ヒュッケバインMkーII》。

 レギュレーションで合わせたというよりは、オレもリョウトも《MkーII 》が使いたかっただけだな。

 

 何回か対戦していたら、なんとなく付き添いで、クスハと観戦?していたリオが自分もやりたいと言い出した。

 実はリオ、このシミュレーターで密かに訓練していたらしい。

 というわけで、リオとついでにクスハも巻き込んで、四人で対戦してみた。ちなみにリオの乗機は《弐式》な。

 

 オールマイティーなリョウトとバリバリ前衛型なリオ、どちらかというとサポートが得意なクスハにオールマイティーだがより近接に寄っているオレ。傾向はこんな感じだ。

 

 鉄板のリョウト×リオvsオレ×クスハを基本に、組み合わせを変えていろいろ試してみたり。

 最終的にはほとんど遊んでいるようになってしまい、通りがかったアムロ大尉とクリス中尉に呆れられてしまった。「これで、クスハも少しは気分が晴れればいいんですけど」とか言ったら、今度は妙に感心されたけど。

 曰く「俺のときはみんながみんな自分のことに必死で、そういう気遣いを出来る人間は少なかったんだ。その感性を大切にするといい」。さすが、伝説を作った人の言葉は重さが違うな。

 最後に、オレの操作ログその他はDC社に送られるらしい。まあ、碌なことには使われないんだろうけど、せめてカッコいい機体を融通してくれればなぁ、と思う次第だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ○月▼日

 極東地区日本、第三新東京市 《アーガマ》の自室

 

 ……まじでヒトってシトと生身で戦えるんだ。知ってたけど。

 

 

 

 新西暦一八七年 ○月◎日

 極東地区日本、第三新東京市 《アーガマ》の自室

 

 昨日はショックで妙な日記になってしまった。反省。

 

 そんな昨日は、第三使徒《サキエル》との戦闘があった。

 地下勢力であり《ライディーン》宿敵の妖魔帝国が絡んできたり、“エアロゲイター”ことゼ・バルマリィ帝国の偵察機《メギロート》の姿も現れて、事態は一気にきな臭くてはなってきた感がある。

 お約束通り、《エヴァンゲリオン初号機》の暴走による殲滅――と思いきや、ゲッターロボやコンバトラーVによるごり押しで“ATフィールド”を破ってしまった。さすが《アーガマ》隊である。

 まあ、碇シンジや綾波レイとは直接の接触はなかったんだけどな。

 ちょっぴり、残念だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月※日

 南アタリア島 《リーンホースJr.》の自室

 

 オレたちロンド・ベル隊はかねてよりの目的地、南アタリア島に到着した。ようやくと言っていいだろう。

 地球にあるというアンダーワールドの一つ、バイストン・ウェルに呼び寄せられたりして大変だった。

 ちなみにオレは《アーガマ》でバストン・ウェルを経由し、リョウトとリオはリガ・ミリティアの《リーンホースJr.》で宇宙へ、クスハは極東支部に残り《エヴァンゲリオン弐号機》輸送艦隊と行動を共にした。

 

 バイストン・ウェルでは、オレたちよりも早く地上から召喚された聖戦士ことショウ・ザマとその仲間たちに協力し、ドレイク・ルフト率いるアの国の軍勢と戦った。

 オレも予備機として残されていたクワトロ大尉の赤い《リック・ディアス》で出撃し、戦う羽目になってしまった。はしっこいが相応に脆いオーラバトラー相手に《クレイバズーカ》無双だったな。

 これで、オレもめでたくロンド・ベルのパイロットというわけだ。まあ、それは今更か。

 

 しかしまぁ、ウチも短い間に大所帯になったもんだ。

 極東支部によって秘密裏に建造されていた科学要塞研究所からは戦闘のプロこと剣鉄也と《グレートマジンガー》、《ジャイアントロボ》を要する国際警察機構の草間大介少年と銀鈴さん、《ボルテスV》のボルテスチームに《ダンクーガ》の獣戦機隊、《ライディーン》のコープランダー隊、《ガンダムZZ》のジュドー・アーシタとシャングリラ・チルドレンたち、《ガンダムF91》のシーブック・アノー、《エヴァンゲリオン》を運用する特務機関ネルフ、SRXチームの面々。そして、バストン・ウェルからは聖戦士ことショウ・ザマとその仲間たちが加わった。

 《マジンガーZ》は《ジェットスクランダー》でパワーアップしたし、ゲッターチームも武蔵がリタイアしてしまったが、新たなメンバー、車弁慶を迎え、《ゲッタードラゴン》に乗り換えた。カミーユとウッソにもそれぞれ《Zガンダム》と《V2ガンダム》が与えられ、戦力はますます充実している。

 艦船も、旗艦と言っていい《リーンホースJr.》に《グラン・ガラン》と《ゴラオン》がある。すでに艦隊と言っていい規模だ。

 

 そんな中で、オレと関係のある人々について紹介しようか。

 まずは、宇宙でのアクシデントで加入したシャングリラ・チルドレンについて。

 シャングリラ・チルドレンとは、偶然から《ガンダムZZ》に乗り込んだスペースノイドの少年、ジュドー・アーシタをリーダー格とした少年少女のグループであり、全員が大なり小なりニュータイプとしての素養を持っている。特に、ジュドーはさすがニュータイプ御三家の一人と言うべきか、すでにその才能の片鱗を見せ始めているようだな。

 シャングリラ・チルドレンたちはいわゆる悪ガキどもだが、どこか愛嬌があり憎めない。同じモビルスーツ乗りで年齢が近いためか、ウッソらリガ・ミリティアの少年少女とよく連んでるみたいだ。お目付役のルー・ルカの血圧が上がりきらないことを祈るばかりだが。

 地球の片隅に生きる少年たちと、宇宙に浮かぶコロニーで生まれた少年たちが出会い、友好を結ぶ――そう思うと、戦場での出来事とはいえなかなか感慨深いものがあるな。 

 

 《ジャイアント・ロボ》を操る大介は、小さいくせになかなか芯の通った好ましい少年だ。保護者とも言えるチャイナドレスの美女、銀鈴さんとよく一緒にいる姿を見かける。

 彼らが所属する国際警察機構はBF団と因縁深い組織、動向には特に注視する必要があるだろう。

 

 念動力者的には古代ムー帝国の遺産、勇者《ライディーン》とその操者、ひびき洸は外せない。

 彼とは同じ念動力者として、ちょくちょく接触して交友を深めている。やっぱ年下扱いされてるけどなっ!

 他に交友があるのは、洸の仲間であるコープランダー隊の一員、超能力者の明日香麗か。どうやらオレには霊感霊視的な能力もあるらしく、たまにアドバイスを受けてたり。……美人な女の子に指導してもらえるのはうれしいけど、怨霊とか視えたらヤだなぁ……。

 ああ、それから。なんとなく、《ライディーン》から警戒されているような気がしなくもない。なんなんだ、いったい。

 

 ネルフのチルドレンたちとは、そこそこ良好な関係を築けていると思う。

 シンジには「戦いたくないなら無理することはない。世界の平和はオレたちに任せとけ」と言っておいてある。ぶっちゃけ、《エヴァ》無しでも大抵の使徒に勝てるだろうしなぁ、ロンド・ベルって。ヤシマ作戦だって《エヴァ》が撃たなくてもよくね?と思ったのは秘密だ。

 レイに関しては、ちょっと扱いが難しい。「キミも……オレと同じか」みたいな厨二的なことを言ってみたいんだが、まだ早すぎるかな。いろいろと。

 アスカは……甲児と一緒にバカ扱いされている。こっちが見た目同年代だからって、舐められているらしい。まあ、バカにされていちいち怒ってたらラチが飽かないし、ガキっぽいので「ハイハイ」とあしらってる。それが気に入らないらしくて、さらに絡んでくるんだけどな。

 何度も言うが、オレ自身は高校生くらいのつもりなのだ。

 あと、お目付役の葛城ミサト三佐と赤木リツコ博士とはわずかに挨拶を交わしただけだ。大人だから、オレたちよりもアムロ大尉やブライト艦長らと難しい話をしているのをよく目にする。

 あと、ときおり赤木博士が後述するマサキの使い魔(ファミリア)、シロとクロ相手に戯れている姿を見かけたり。

 

 SRXチームのリュウセイ・ダテとは、同好の志ということですぐに仲良くなれた。

 コンシューマー版のバーニングPTで対戦したり、持ち込んだメディアディスクを観賞したり、コレクションを見せてもらったり。彼の相方、ライディース・F・ブランシュタイン少尉には「リュウセイが増えた」と大変呆れられている。

 オレも少なくない給料貰ってるんだし、今度街に出たら買いあさってこようかと画策している。

 波長が合うらしく、だいぶ前に仲間になった魔装機神《サイバスター》の操者、マサキ・アンドーと甲児を交えてよく連んでいる。《Rー1》と《サイバスター》で、《アカシックブレイカー》なる合体攻撃を見せてくれたりな。

 ただ、彼らの上司、イングラム・プリスケン少佐ははっきり言って胡散臭い。どこが、とはうまく表現できないが、あのオレを見るどこか実験動物を観察するような目。信用ならないので、極力近付かないようにしよう。

 ……こんなとき、自分の役に立たない知識が恨めしいな。

 

 最後は、紆余曲折あり、バイストン・ウェルから追い出されてしまったショウ・ザマとその仲間について。

 唯一の可変型オーラ・バトラー《ビルバイン》を操るショウさんは、すでにロンド・ベルのエースのひとりに数えていいくらい大活躍している。さすが聖戦士。

 地上について疎く、勝手が分からないだろう《グラン・ガラン》の艦長にしてナの国の女王シーラ・ラパーナと、《ゴラオン》の艦長、ミの国の王女エレ・ハンム(敬称略)にそれとなく親切にしてみたり。

 まあ、向こうさんは艦長で自分の艦からほとんど出て来ないし、地上人のショウさんやマーベルさんがいるから、わざわざオレがフォローする必要もないんだけどさ。

 そんな様子を見たリオやさやかを筆頭とした若手の女性陣からは、「イングって結構ナンパなんだ」などとたいへん失礼な評価をいただいた。

 まったく、リアルお姫様に会ったらドキドキするのが普通の反応だろうに。特に、おしとやかでお美しいシーラ様とは是非ともお近づきになりたいものである。

 

 他にも剣鉄也さんと炎ジュンさんとか、ボルテスチームのみんなとか、獣戦機隊の四人とか、紹介していない仲間がいるんだが割愛する。だって、自己紹介したくらいしか交遊ないし。

 いくらオレが社交的だとしても、物理的な限界があるのだ。

 

 さておき、大事なお知らせがある。

 リョウトの《MkーII》、クスハの《弐式》に新たな武装が追加され、さらに、さらに!さらにっ!オレにも専用のパーソナルトルーパーが届くことになったのだーーっ!

 詳しい話は聞いていないが、正直《リック・ディアス》には不満だらけだったから楽しみだ。

 

 

   †  †  †

 

 

 ディバイン・クルセイダース社本社のたる南アタリア島より数キロ、小規模な無人島。鋼鉄の巨人たちが激しい火花を散らしていた。

 

『ファイナルビームッ!!』

 

 イルムガルド・カザハラ――イルムのドスの利いた叫びと共に、“ブラック”こと《グルンガスト改》の星を模した胸部パーツから、強力なエネルギービームが放たれた。

 

『うわっち! あっぶねー!』

「オレたちのPTじゃ、直撃どころか掠っただけでスクラップ間違い無しだな」

 

 最前線を張る《Rー1》のパイロット、リュウセイが冷や汗を流す。

 一方、背部フライトユニットの機動力を生かしてひらりと交わした《エクスバイン》。そのコクピット、専用に誂えた紺と紫のパイロットスーツ――デザインはリョウトたちのものと共通だ――に身を包んだイングは、メインモニターに映る《グルンガスト》に照準を合わせると冷静に操縦桿のトリガーを引く。

 射程を犠牲に、取り回し易さと速射性を発展させた《フォトン・ライフルS》が重力の弾丸を吐き出した。

 イングの操作によってまるで機関砲のように放たれた弾丸はしかし、《グルンガスト改》の前方に広がった空間の歪みによりあえなく弾かれ霧散した。

 

「グラビティ・ウォール……、いやグラビティ・テリトリーか!」

『御明察! コイツは正解のご褒美だ、ブーストナックル!』

 

 前腕部を切り離し、砲弾のように発射した。

 

「その手の攻撃は、見切ってんだよ!」

 

 《エクスバイン》が腰部サイドアーマーから《ロシュセイバー》を引き抜き、飛来する噴射拳にタイミングを合わせて振り抜く。

 

『なにっ!?』

「踏み込みが甘いッ、ってね」

 

 《ブーストナックル》を切り払う《エクスバイン》。

 さすがに武器として使用するだけあって、前腕に損傷を与えることは叶わなかったが、《ブーストナックル》を無理矢理に弾き返されたことで《グルンガスト改》の体勢が僅かに崩れた。

 

『フッ、全機、一斉攻撃を仕掛ける。ライフル、ダブルファイア』

『わかったぜ、少佐!』

『了解! ハイゾルランチャー、シュートッ!』

「集中砲火だっての!」

 

 今が好機と見たイングラムの号令により、四機のパーソナルトルーパーが火器を構える。

 《ツイン・マグナライフル》、《ブーステッド・ライフル》、《ハイゾルランチャー》、そして《フォトン・ライフルS》。

 四種の砲火が一斉に放たれた。

 

『うおおお!?』

 

 さしもの超闘士もこの一斉射撃にはたまらず、重力障壁を突破されて巨大な機体が揺らぐ。 

 

『……おい、イング。その妙な語尾やめてくんねぇ? なんか背筋に寒気が走るんだよ』

「ホ! そりゃ無理な話だっての」

『だーかーらー、やめろよその喋り方!』

『お前たち、真面目に戦え!』

 

『「ごめんなさい』」

 

 ライに叱られて、素直に謝る二人。緊張感が足りないのは彼らのキャラクター故だろうか。

 少なくないダメージを負った《グルンガスト改》が、距離を取った。

 

『オイオイ、随分と余裕かましてくれるじゃないの。俺は眼中にないって?』

「さぁてね」

 

 苛立ちの含まれた軽口を不敵に返したイングは、器用にも《エクスバイン》の頭部を明後日の方に動かした。

 

「ま、興味があると言ったら美少女な友人の恋の行く末かな?」

 

 その先には、《グルンガスト弐式》と二機の《ヒュッケバインMkーII》。

 リョウトのサポートを受け、恋人であったはずのブルックリン――ブリットへ必死に呼び掛けている。

 

「そこんとこどう思うよ、色男さん?」

『……ッ』

「オレはクスハを信じるよ。アンタも信じるなら、ムサい男よりかわいい女の子の方だろう?」

 

 多分に意味を含め、イングはふてぶてしく言い切った。

 ブルックリンが彼の言うようにSRX計画の――イングラムの犠牲者であるというなら、クスハもまた犠牲者である。

 そして、イルムガルドはそんな犠牲者同士に戦いを強いている立場と言えるだろう。それも、一方はまだ幼いと言ってもいい少女だ。

 例えその行為に義があろうとも、マトモな感性を持っていれば悪と感じることは間違いない。

 

『ッチ、嫌みな言い草だが、確かにな。お前さんとは気が合いそうだ』

「そりゃどーも。気が合うついでに、お引き取り願えないかオッサン」

『オッサンじゃない! そいつはできない相談だ。SRX計画の機体は破壊しなければならないが――、今はお前さんが一番厄介そうだ、なッ!』

 

 巨体にものを言わせ、拳を繰り出す《グルンガスト改》と熾烈な空中戦を繰り広げる《エクスバイン》。右手には《ロシュセイバー》を、左手に《フォトン・ライフルS》を構えて激突した。

 援護射撃が飛来するが、イルムは《グルンガスト改》の厚い装甲を笠に着て強引に押し込んでくる。

 

「くっ!」

『そらそらッ! さっきの余裕はどうした!?』

 

 実際、イングには口ほど余裕はない。《グルンガスト改》相手に、《エクスバイン》がパワー負けしているのは明白だ。

 先ほど《ブーストナックル》を切り払った際に受けた物理的な衝撃は強烈で、《エクスバイン》の右腕には少なくないダメージが残っている。戦闘には支障ないレベルだが、そう何度も同じことは出来まい。

 動力源の差、機体サイズの差。様々な要因がイングを苦しめる。

 

(っち……、やっぱただのパーソナルトルーパーで特機相手にガチンコはシンドいか……!)

 

 内心で歯噛みする。同じ特機に瀕死の重傷を負わされた経験が、そして。

 深層心理に根付く「自身の存在の意味を知りたい」という複雑な感情と、「生きたい、死にたくない」という単純な欲求が彼を戦いに突き動かす。

 

「だが、やるしかない。戦わなければ生き残れないのなら――、TーLINK、フルコンタクト!」

 

 覚悟を決めたイングの放つ強力な念、テレキネシスαパルスを感知して、TーLINKシステムが活性化する。

 《エクスバイン》の特徴的なゴーグルアイの奥、一対のカメラ・アイがライトグリーンに輝いた。

 

「スラッシャー、アクティブッ!」

 

 音声認識と念動力により制御された《エクスバイン》は、左腕に固定された“最強武器”を右手で掴む。

 歪んだS字の固定状態から、十字手裏剣型の攻撃形態へと変形した《ファング・スラッシャー》が大きく振りかぶられた。

 

「ヤツを斬り裂け、ファング・スラッシャー!!」

 

 投擲された《ファング・スラッシャー》が、その名の通りの重力の牙を展開し、イングの念に導かれて空を斬り裂く。

 異端の凶鳥が黒い超闘士に鋭い牙を剥いた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 ■月※日

 南アタリア島 《リーンホースJr.》の自室

 

 今日はいつになく大変な一日だった。

 特に、クスハには気の毒なことになったな。

 

 まず、オレに与えられたパーソナルトルーパーについて記そう。

 名称を《エクスバイン》。大破した《ヒュッケバインEX》を修理・改修した機体で、《MkーII》とその後継機のパーツや武装の一部を試験的に使用した実験機だ。

 カラーリングは《EX》の赤から《ヒュッケバイン》カラーの紺と紫に変更。主な武装は《頭部バルカン》に《ロシュセイバー》、オレにとっては待望のマトモな飛び道具《フォトン・ライフルショートタイプ(S)》。そして最強武器として十字手裏剣型のブーメラン、《ファング・スラッシャー》。《MkーII》と同じ《チャクラム・シューター》も換装すれば使用可能だ。

 また、テスラ・ドライブを使用したフライトユニットを背部に搭載しており、単独で飛行が可能。防御機構は《グラビティ・テリトリー》、マン・マシン・インターフェースにはイングラム少佐の意向でTーLINKシステムを採用した欲張りな機体である。

 改修を担当したのは、SRX計画のカーク・ハミルととロバート・H・オオミヤ。

 ロブ――ロバート氏の愛称である――曰く「近接格闘が得意なイングにあわせてセッティングしてるんだ」とのことで、確かに《リック・ディアス》は元より基礎になった《ヒュッケバインEX》よりもしっくりときた。TーLINKシステムの感触も悪くない。

 難を言えば、やはりあくまでもパーソナルトルーパーの範疇に収まった機体であり、特機やそれに相当する相手には当たり負けする可能性が高いことか。

 実際受領してすぐ、それを実感したしな。

 

 で、本題。

 新しい機体のならしに、SRXチームの三名――イングラム少佐、リュウセイ、ライディース少尉――にリョウト、クスハを交えて近くの無人島に演習に向かった。

 と、オレたちの前に突如として二機の黒い機動兵器が姿を現した 《グルンガスト改》と《ヒュッケバインMkーII》である。

 ゴタゴタしていて事情がややこしいが、要約すると「イングラム少佐のかつての部下が彼を怪しみ、クスハの行方不明だった恋人が記憶喪失で現れた」とまあ、こんな感じか。

 《ヒュッケバインMkーII》にはブルックリン・ラックフィールドを説得しようと試みるクスハと、そのフォローにリョウトが当たり。オレはリュウセイ、ライディース少尉、イングラム少佐と協力して、イルムガルド・カザハラ操る黒い超闘士――《グルンガスト改》と激闘を繰り広げた。

 激しい激戦の末、《エクスバイン》の《ファング・スラッシャー》が《グルンガスト改》のボディを斬り裂き、浅くない傷を刻んだ。

 手傷を負った《グルンガスト改》と《MkーII》は、捨て台詞とともに戦域を離脱した。悲痛な声を上げるクスハを残して。

 

 ……しっかし、初戦から《零式》、続いてあの黒い奴とオレは《グルンガスト》に呪われてるのか? ジャイアント・キルにもほどがあるだろうに。

 

 なお、その日の夕食時に「……ブリットくんはさしずめさらわれたお姫様役だな」と素直な感想をこぼしたら、一緒に食っていた甲児とリュウセイが吹き出して、マサキが被害を受けていた。

 当然、マサキはキレてオレも含めて怒られたわけだが。

 そんな様子を見ていたクスハが、くすりと微笑んでくれたのがよかった。ま、落ち込んでるなら元気になるように気遣うのが友だちってもんだしな。そのためなら道化にもなるさ。

 きっとブルックリンくんはこのネタで長くイジられるのだろう。オレはそんな予感を覚えるのだった。

 

 ああそれと、ロブに接触したときにとある道具を制作できないかと相談してみたんだ。

 ロブもさすがアメリカ地区出身者らしく、あの“作品”にもロマンを感じるようでなんとかしてみせると快諾してくれた。()()がうまく実現できれば、きっとBF団のエキスパートと渡り合える……といいなぁ。

 



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αIー2「凶鳥は灰から蘇る」

 

 

 新西暦一八七年 ■月※日

 南アタリア島 《リーンホースJr.》の自室

 

 スーパーロボットの必殺技ならいざ知らず、よりによって《リーンホースJr.》の《ビームラム》で殲滅されるとか、《イスラフェル》いと哀れ。

 ブライト艦長もびっくりだったが、オレたちだってびっくりだ。

 

 ちなみに再生復活し、さらに分身して見せて葛城一佐にインチキ呼ばわりされていた《イスラフェル》は、原作通りユニゾンキックで完全に撃破された。

 

 

 新西暦一八七年 ■月☆日

 太陽系外苑部、冥王星近海 《マクロス》の自室

 

 大変なことになった。

 現在オレたちロンド・ベルは、SDF艦隊に所属する巨大戦艦《マクロス》とともに太陽系の端、冥王星付近にいる。

 

 きっかけは、南アタリア島上空に突如来襲した巨人型宇宙人――ゼントラーディだ。

 何の因果か、あるいは必然か。突如地球に来襲したゼントラーディを迎え撃つオレたちロンド・ベルとSDF。だが、そこでアクシデントが起きた。

 彼らゼントラーディと敵対する別の異星人――おそらくエアロゲイターが、地球人類を星間戦争に巻き込むために送り込んだブービートラップだった《マクロス》はコントロールを離れ、。

 さらに暴走による“フォールド”に巻き込まれ、オレたちは冥王星付近まで強制転移させられてしまったのだ。

 

 1G環境から急に無重力に放り出され、展開していたロンド・ベルの機動部隊は大混乱に陥った。

 というか、オレ的には初宇宙である。かつては創作の中でしかありえないような、地球から遙か彼方である。

 《マクロス》のフォールドに巻き込まれてすぐ、宇宙に対応していない機体を救助する傍ら、無重力、三六〇度自由な世界を存分に楽しんだ。

 ちなみに、シーラ様、エレ様が心配でいの一番に《グラン・ガラン》と《ゴラオン》に向かったのだが、「私たちのことは構わず、他の方を」とやんわり諭されてしまった。

 どうやら、オーラ・バトラーやオーラ・バトル・シップに備わる“オーラバリア”は真空にも適応しているらしい。オーラバリア万能説。

 そんなこんなで我を忘れて興奮しすぎて、まぁたリョウトたちに微笑ましがられてしまった。ますますオレの立場が「弟キャラ」に固定されるじゃないか。

 まったく、不本意だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月◎日

 太陽系外苑部、冥王星近海 《マクロス》の自室

 

 広い! 《マクロス》についての感想だ。

 さすが、都市一つを内部に納めたってだけのことはある。《マクロス》ってロボットに変形するんだけど、そのときここどうなってるんだろ……?

 

 街には南アタリア島に住んでいた一般市民がまるまる避難しているため、結構な活気があった。

 だがみんな不安そうにしている辺り、日本地区のパンピーとは違うらしい。あそこ、スーパーロボット関連の研究所を多数抱えてるのに経済が普通に回ってるし、毎日のように地下勢力が暴れ回ってるってのに次の日には街並みが元に戻ってる不思議地帯だからな。

 ちなみに、マサキはたびたび迷うのですでに街中の一人歩きを禁止されてる。

 

 さておき、新しい仲間を紹介しようか。

 《マクロス》の艦載機にしてSDFの主力兵器《VFー1バルキリー》を駆るスカル小隊が、協同してくれることになった。というか、ロンド・ベルがSDFに協力する形になるのか。

 スカル小隊のリーダー、ロイ・フォッカー少佐は歴戦のパイロット。彼がアムロ大尉、クワトロ大尉と仕事をしている姿は猛烈にかっこいい。

 スカル小隊には他にも、天才マクシミリアン・ジーナス、歩く死亡フラグ柿崎速雄、初代トライアングラー一条輝(階級略)となかなか個性的なメンバーが揃っている。

 他にも、ブリッジ・クルーを始めたくさんの人物が増えたが割愛する。一介のパイロットであるオレが、《マクロス》の艦橋に上がることなんてまずないだろうしな。

 ますます大所帯になって、人を覚えるのも一苦労だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月×日

 太陽系外苑部 《マクロス》の自室

 

 《マクロス》は本日も元気に地球へ向けて進んでいる。

 今日はSRXチームに混じって念動力に関する訓練を受けた。リョウトやクスハ、リオも一緒だ。

 訓練は、まんまESPテストみたいなものだった。裏にしたカードの絵柄を読み取る、とかな。

 

 で、イングラム少佐曰わく、念動力の素質的な意味での強度は、

 一位、リュウセイ

 二位、オレ

 三位、クスハ

 四位、リョウト

 五位、洸

 ――越えられない壁――

 六位、アヤ大尉

 七位、リオ

 と、こんな感じらしい。オレとリュウセイは僅差だそうだ。

 まあ、リュウセイは生身で念動フィールド張ったり出来ないから、その点を踏まえるとオレの方が上かもしれないが。

 

 なごやかというか、賑やかに訓練は終わった。

 だが、オレのイングラム少佐に対する疑念は深まるばかり。ときおり感じる無機質な視線もそうだし、オレの念動力が高まってきたからなのか、彼の邪念というべき念を微かにだが関知しつつあるのだ。

 ……やはり、怪しいな。警戒を強める必要があるかもしれない。

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月◇日

 太陽系外苑部 《マクロス》の自室

 

 地球圏への帰還の最中、オレたちは人類、いやこの銀河に生きる知的生命体すべての天敵、STMC(Space Terrible Monster Crowd)=宇宙怪獣と遭遇した。

 探査任務を帯びていたSDF艦隊零番艦、《ヱクセリヲン》と共同して撃退したが、それらはほんの一握りにすぎないらしい。正直デカすぎてPTじゃ歯が立たないかと思ったが、意外と何とかなるもんだ。

 

 再び深宇宙へと探査任務に赴く《ヱクセリヲン》からマシーン兵器のパイロット、タカヤノリコ、アマノカズミ、ユング・フロイトの三名が乗機《RX》シリーズとともに参戦した。

 その中でも、ノリコはご同輩らしく、格納庫でオレやリュウセイよろしく大興奮していた。てか、アンタ長いこと宇宙にいたのに何でそんなにロボに詳しいのさ。

 とりあえず、お近づきの印に《ヒュッケバインMkーII》の1/100フルスクラッチモデルと積んでたストックのプラモをいくつかプレゼントしておいた。すごく喜ばれた。どうやら彼女、雑食らしい。

 で、ノリコの“お姉様”、カズミ女史には「ノリコが増えたわ……」と呆れられた。テンドンだから、それ。

 

 ちなみにオレは最強厨、後継機厨にして初代厨、さらに特撮全般もイケる口。リュウセイはバリバリのスーパーロボット派だが、リアルロボットにも造詣が深い。ノリコの知識はかなりディープで筋金入りだ。

 正直、知識面では二人に負けている。お前ら、何歳だよっ!

 

 

 

 新西暦一八七年 ■月◎日

 太陽系外苑部 《マクロス》の自室

 

 イングラム少佐が裏切った。

 案の定というべきか、言葉がない。

 

 ことの発端は、Rシリーズ三機による合体にして真の姿、《SRX》を完成させるための訓練だった。

 まだ足に当たる《Rー3》のプラスパーツがないってのにイングラムは合体を強行、結果失敗したSRXチームを「期待外れだ」と断じ、真意を露わにしたわけだ。

 手始めに、アヤ大尉に見切りをつけたと《R-3》を銃撃し、ご丁寧にも自分が暗躍したことを報告してくれやがった。

 ブリットの件の真相をヤツに告げられ、ショックを受けて茫然自失に陥ったクスハと《Rー3》を大破に追い込まれたアヤ大尉、そして逆上して返り討ちにあったリュウセイを守るため、オレとリョウトはライディース少尉と協力して《RーGUNパワード》と戦った。

 「オレは前からアンタを怪しんでいたよ、イングラム少佐! リュウセイたちにはうまく繕っていたようだが、歪んだ邪念が見え隠れしていたぜ!」と本音を投げつけてやった。

 対するイングラム少佐の返答は「イング、お前の存在は俺の計画に含まれていない異分子、いわばイレギュラー。これ以上の邪魔は許されない」という殺意の言葉と、《ツイン・マグナライフル》の弾丸。

 まあ敵には容赦しない主義のオレだ、激しい戦いの末に《ロシュセイバー》からの《ファング・スラッシャー》で、きっちりばっちり遠慮なく撃墜してやった。“エアロゲイター”の青い人型機動兵器に邪魔されて、肝心の少佐には逃げられてしまったけどな。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月▲日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 月が変わり、《マクロス》はようやく人類の生存圏に辿り着いた。

 ところで、木星は“ジュピトリアン”の勢力圏、まさしく敵地と言っていい。予想通り、道中にはいろいろとハプニングがあったが割愛する。だって、オレ個人に関わるようなイベントは特になかったしなぁ。エアロゲイターの白い機動兵器、“ホワイト・デス・クロス”こと《ジュデッカ》が現れて、リュウセイに突っかかってたことくらいか。

 ともかく、ロンド・ベルの一員として、平和を脅かすあらゆる悪と戦うのみだ。……そういえば、ジュピトリアンの機動兵器の中に黄色くて虫っぽい無人機が混じってたんだが……まさかな。

 

 さておき、特筆するようなことと言えば、DC社創始者ビアン・ゾルダーク博士の愛娘、リューネ・ゾルダーク嬢が《ヴァルシオーネR》とともに加入したことだろう。

 ビアン博士といえば、「人類に逃げ場無し」という提言を残していることで有名な天才科学者だ。

 彼はリューネと何らかの調査のために木星に赴いたあと、消息を絶っている。リューネもどこにいるのか知らないらしい。

 で、そのリューネは立場的にはお嬢様と言ってもいいんだろうが、機動兵器を駆ってお転婆さんである。そんな彼女の乗機、《ヴァルシオーネR》は趣味的というかロボットらしくない。有り体に言うと、そう、美人だ。

 さらさらとしたマゼンタのロングヘアに、愛らしい容姿。プロポーションは搭乗者と違い、スレンダーと言っていいだろう。

 すばらしいな。落ち込んでいたリュウセイが思わず「惚れた!」と奇声を上げるくらいである。

 

 最近は、若干立ち直ったリュウセイとノリコの三人で、格納庫に入り浸っては《ヴァルシオーネR》を眺めている。

 転移の前に買い込んだパテやらプラ板やら何やらで、()()の自作フィギュアを作ってみた。

 むふふ。やはり、ふつくしい……。

 

 

 新西暦一八七年 ×月$日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 今日は一人、《マクロス》艦内の訓練施設で秘密特訓を行った。

 イングラムの言うところでは、オレはどうやら“サイコドライバー”、汎超能力者というものらしい。

 ()超能力者というくらいだから、念動力、つまりテレキネシス以外にもかかわらず使えるんではなかろうか、という思いつきから始めたこの訓練。当初は麗とエレ様から霊力的なものを学んで修得してみたが、視たくないものが見えそうで若干後悔している。

 で、今日は思いつく限りの超能力を試してみた。

 発火能力(パイロキネシス)瞬間移動(テレポート)発電能力(エレクトロマスター)千里眼(クレヤボヤンス)etc.etc.……なんとなくのイメージで再現してしまったのだが、ぶっちゃけどれもこれも「どこのレベル5だ」という威力である。超電磁砲(レールガン)も真似れたしな。

 いつか、ベクトル操作が出来たりするようになるのか? あ、メルヘンは要りませーん。

 

 いろいろ試していたら、シロクロを連れたマサキとリューネが現れた。デートか、妬ましい。

 なんでも「魔法らしき力を感じた」ので様子を見に来たのだとか。シロクロによると「イングには魔力があるみたいニャ」とかなんとか。

 おい、「イング」は魔力も持ってるのか。改めて言うが、どんなチートだ。

 しかし、魔法か、興味深いな。……ラ・ギアスには一度行ってみたいもんだな。

 

 ともかく、まずは基本に立ち返り、テレキネシスを極めてみるつもりだ。

 あまりの調子に乗って力を使いすぎるといろいろやばそうだと「霊感がささやく」のだ。

 それにテレキネシスなら、大勢の敵を吹き飛ばしたり、相手の首を絞めたり、指先から青白い電撃を出したり、いろいろ応用出来そうだしな。あ、最後のは違うか。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月♪日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 なんだか最近、《マクロス》の艦内が騒がしい。特に都市部が浮ついている感じがする。

 なんでも“ミス・マクロス”なる催しが開催されるらしい――と、街中でクスハたちとスイーツを食べていたときにそんな話を耳にした。

 これは、イベントの予感か?

 

 まあ、正直アイドルとかにはあんま興味ないんだけどな。そう言ったら、クスハやリオが意外そうな顔をされた。

 オレをなんだと思ってるんだ、アイツらは。オレが好きな音楽は、ポップでロックな熱い曲なんだよ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ×月◇日

 太陽系、木星と火星の中間 《マクロス》の自室

 

 案の定イベントだったよ……。

 経緯を省いて単刀直入に言うと、フォッカー少佐と一条少尉、マックス、それに《マクロス》ブリッジオペレーターの早瀬未沙中尉。それから民間人(例のミス・マクロス、リン・ミンメイとそのマネージャー兼兄)、、それからクスハがゼントラーディの戦艦に浚われてしまったのだ。

 まあ、いろいろあって帰ってきたけどな。

 ゼントラーディとの文化的接触とか、一条少尉のトライアングラーだとか。そういうことはどうでもいいのだ。……妬ましい。

 

 ああ、そうそう。コロニーから送り込まれた五人のテロリ――もとい、ガンダムパイロットたちが参入した。どうやらみんなして《マクロス》に紛れ込んでいたらしい。

 いつのまにか姿を消していたデュオの《ガンダムデスサイズ・ヘル》(どこにそんな強化が出来る部品があったんだ)、《ガンダムサンドロック改》のカトル・ラーバ・ウィナー、トロワ・バートンと《ガンダムヘビーアームズ改》、張五飛の愛機《アルトロンガンダム》。そして主人公、ヒイロ・ユイの《ウィングガンダム》。

 参加のタイミングはまちまちだったが、協力関係は地球圏に帰還するまでとのことでいささか残念だ。宇宙怪獣や異星人の脅威を目の当たりにして、地球人同士の諍いが無意味だと気づいてくれればいいんだが……。

 

 

 新西暦一八七年 ×月◎日

 太陽系、火星付近 《マクロス》の自室

 

 物資補給のため、火星(テラフォーミング済み)に立ち寄った《マクロス》。破棄された基地から救難信号が関知されたとかで一悶着あった。

 まあ、ゼントラーディの罠だったわけだが。

 

 調査のため、基地内に潜入した早瀬中尉の危機を救ったのは、快男児こと破嵐万丈。愛機《ダイターン3》とともに宿敵メガノイドを打倒したベテランの特機乗りにして、持て余した暇で“破嵐財閥”なる一大企業群を経営する大富豪である。

 それはいい。万丈さんはまさに“オトナ”って感じの頼りになる人だし、《ダイターン3》は強力なスーパーロボットだ。SDFとロンド・ベルの陣容が一層、厚くなったと言えるだろう。

 ただ、かつてのメガノイドの反乱で被害に遭った入植地の名前が問題なんだ。

 「ユートピアコロニー」っておい、作品違うだろ。フラグか? 未来の参戦フラグなのかっ!? なんか、某社の試作宇宙戦艦が跡地の調査に向かったらしいとか万丈さんも言ってたしさぁ。

 もしもそうなら、近いうちに悲惨な目に遭うであろう()()()……オレに救えるか?

 いや、まずはこの戦争を乗り越えることが先決だ。後のことは、そのとき考えるっ!

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月●日

 地球圏、衛星軌道上 《グラン・ガラン》の一室

 

 オレたちが地球圏を離れている間、ジオンやティターンズの連中はもとより、異星人や地下勢力が好き勝手やってくれているらしい。

 と言うわけで、オレたちSDF艦隊及びロンド・ベルは、三艦に分かれて敵対勢力に対抗するため地球圏各地に進撃することになった。

 オレは《グラン・ガラン》に同乗して、月方面に向かうことになっている。

 月はマオ・インダストリーやアナハイム・エレクトロニクスなど、ロンド・ベルを後援する組織が存在する場所だ。同時に、宇宙という敵対勢力に狙われやすい立地にあるわけで。

 苦境にさらされていることは想像に難くない。一刻も早く、救援に向かわなきゃな。

 

 さあて、地球の大掃除としゃれ込みますか。

 

 

 新西暦一八七年 ♪月△日

 地球圏、宙域 《グラン・ガラン》の自室

 

 新しい仲間が加わった。

 シーブックのガールフレンド、ベラ・ロナことセシリー・フェアチャイルド。《F91》のプロトタイプと言える《F90V》を駆って、ロンド・ベルに協力するそうだ。

 まあ、地球圏に戦乱をもたらしている一端を実の肉親が担っているとなれば、思うところもあるのだろう。

 ……シーブックめ、彼女連れとは妬ましい。

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月♯日

 地球圏、宙域 《グラン・ガラン》の自室

 

 普段温厚なヤツは、怒らすとヤバい。今回の感想だ。

 地球圏外に出ている間、カトルは守ろうとしたコロニーのものたちに、家族を皆殺しにされた。原因はOZの離間工作だ。

 そしてカトルはコロニー製ガンダムのプロトタイプ《ウイングガンダムゼロ》を持ち出し、復讐に走った。憎悪と《ゼロ》に搭載された“ゼロシステム”に精神を蝕まれた結果、(くだん)のコロニーを破壊してしまった。

 気持ちは痛いほど解るが、やりすぎだ。

 トロワと協力し、《ゼロ》を《エクスバイン》でぶん殴ってコクピットから引きずり出した。説教をかますのはガラじゃないから、後はトロワに任せといたけどな。

 総括すると、群集心理とオレたちの操る機動兵器の恐ろしさを改めて実感した一日だった。

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月○日

 極東地区近海 輸送艦《アウドムラ》艦内

 

 地球に戻ってきたオレは現在、SDF艦隊本隊を離れてエゥーゴの支援組織、カラバの所有する輸送艦《アウドムラ》で極東は上海にある国際警察機構の拠点、梁山泊に向かっている。

 クスハとリョウト、リオの何時ものメンバーと大作少年、銀鈴さんが同行している。

 目的は、現地で秘密裏に調整中している《MkーII》と《弐式》の後継機の受領だ。ついでに、オレにも新しい機体が与えられるらしい。

 《グルンガスト参式》と《ヒュッケバインMkーIII》――それが、リョウトたちの新しい機体だ。

 オレに与えられるのは、一部

リョウト機の予備パーツを用いて組み立てられた専用の《ヒュッケバインMkーIII》。動力炉のブラックホール・エンジンは、二人の機体に搭載される予定のトロニウム・エンジンにやや出力が劣るものの、機体自体がオレの適正に合わせて近接戦闘向けに設計されているらしく、総合的には負けず劣らずと言っていいだろう。 

 確かに《エクスバイン》もいい機体だが、正直力不足になってきている感が否めない。かつてのアムロ大尉じゃないが、オレの反応に……いや、念に機体が追従できていないのだ。

 あるいは、いつかTーLINKシステム自体にも限界が訪れるのかも知れないが。

 

 現地に着くまで、もう一眠りするかな。

 

 

 

 新西暦一八七年 ♪月◎日

 極東地区、上海 病院の一室

 

 今オレは、国際警察機構の傘下にあるとある病院の一室でこの日記を記している。

 

 国際警察機構の本拠地、梁山泊。

 そこで調整を受けていたオレのブラックホールエンジン搭載型《ヒュッケバインMkーIII》は、突如襲撃してきたBF団の十傑集“素晴らしき”ヒッツカラルドによって、《グルンガスト参式》とともにずんばらりと真っ二つにされてしまった。

 正直またかBF団!と言った感じだ。

 オレもロブに作ってもらった携帯型念動光子剣“ライトセイバー”で立ち向かったが、十傑集相手にはほとんど歯が立たなかったのは歯痒いばかりだ。

 

 その混乱の最中、Dr.ヘルの手勢である機械獣とともに強襲してきた中華ロボ、《龍王機》《虎王機》を迎撃するため、やむなく既存の機体で出撃した。

 そこに乱入するイルムのおっさんとブリットくん。心を入れ替えたのか、なにやら協力してくれるらしく。

 オレが《龍王機》を、ブリットが《虎王機》をそれぞれクスハ、リョウトを相方に対峙した。

 が、中華ロボは思いのほか手強く、《虎王機》の牙がブリットの《MkーII》を砕き、《エクスバイン》もまた《龍王機》により大破に追い込まれ、深手を負ったオレは意識を失った。

 

 人伝だが、オレとブリットがやられた後、――有り体に言えばブチギレた――リョウトがTーLINKシステムに隠されたもう一つの機能、“ウラヌス・システム”を発動させ、外部から《MkーIII》を起動。不安定だったトロニウム・エンジンを完全制御し、《MkーII》のコクピット部であるパーソナル・ファイターでのドッキングを敢行した。

 さらに、同じくウラヌス・システムを発動させたクスハの強念により、操られていた《龍王機》と《虎王機》の自我を蘇らせ、両機とコンタクトに成功。なんとか無事だったブリットと力を合わせ、二機が合身した超機人(スーパーロボット)《龍虎王》があしゅら男爵らを撃退した――らしい。

 おい、オレはブリット(ヒロイン)と同じ扱いか。まあ、リョウトがオレのためにキレてくれたことは素直にうれしいけどな。

 

 さておき。

 幸いオレの《MkーIII》の心臓部は無事だった――というか、無事でないと上海がバニシングなのだが――ため、機体はなんとか再生できた。実際に頑張ったのは、ロブやカークさんらスタッフのみんなだけどな。

 

 形式番号PTXーEXH《エクスバイン・アッシュ》、それがオレの新しい機体の名前だ。

 無事だった《MkーIII》の心臓部と予備パーツ、残されたリョウトの《MkーII》のボディを大破した《エクスバイン》に組み込み修復した機体で、《エクスバイン》のフォルムをベースとしつつ、各部に赤と橙色の“パッチ・アーマー”が装着された左右非対称のデザインをしている。

 この追加パーツには伸縮性・耐久性に優れた“ADテープ”で封印が施されており、さらに《ガンダムF91》の開発元、サナリィから供与された試作型のアンチ・ビーム・コーティングマント“コーティング・クローク”を装備し、外観が大きく変化した。

 総じて、とても厨二マインドを刺激される見た目である。

 

 最大の特徴とも言える大型の念動感応剣《T-LINKセイバー》とそれを納める鞘を兼ねる盾《ストライク・シールド》は、もともとオレの《MkーIII》に搭載される予定だった武装で、幸いにも取り付け前だったことから損傷を免れた。

 また射撃武器として《エクスバイン》と同じ《フォトン・ライフルS》、《MkーIII》と共通の武装《グラビトン・ライフル》を持ち、射程に隙はない。

 防御システムは念動フィールドで、発生装置が《Rー1》と同じく両肘にあるため《TーLINKナックル》も使用可能。テスラ・ドライブにより空中戦にも対応済みだ。

 機体名は英語の「灰」とフランス語の「H」を意味し、破壊された凶鳥(ヒュッケバイン)が不死鳥のように 灰の中から蘇ることを示すのだそうだ。

 継ぎ接ぎだらけの急造機とはいえ、元が優秀な機体ばかりなため、完成度は高いと言えるだろう。

 

 トロニウム・エンジンの調整と、《MkーII》のコクピットとのマッチング作業に手間取る《MkーIII》。《参式》の残骸から回収されたTーLINKシステムや、現代の部品の取り付け作業で身動きのとれない《龍王機》《虎王機》に先んじて、オレと《アッシュ》はSDF艦隊本隊に合流する。

 ほとんど一から組み上げた《アッシュ》がいち早く完成したのは、リョウトたちがオレの機体を優先してくれと頼んでくれたかららしい。すばらしきは友情かな、だな。

 

 ……さて、さっさとベッドから抜け出して、みんなのところに向かおうか。相変わらず頑丈なこの身体には、感謝してもし切れない。

 この身はマシンナリー・チルドレン、紛い物の命だ。――だけど、平和を守りたいって気持ちに偽りはないはずだから。

 

 

    †  †  †

 

 

 地球連邦軍極東支部。

 いくつもの特殊な研究を抱えた日本地区を守る、地球防衛の要とも言える特別な場所である。

 そんな日本を、ひいては地上すべてを支配せんと企むドレイク・ルフトの軍勢の襲来に乗じて現れたのは、イングラム・プリスケン操る漆黒の堕天使――《アストラナガン》。

 スパイ活動を通じて収集された地球、バイストン・ウェル、ラ・ギアスの技術と、“エアロゲイター”――ゼ・バルマリィ帝国の技術を以てして建造された恐るべき機動兵器である。

 《アストラナガン》の圧倒的な力の前に窮地に陥ったSRXチームとSDF艦隊。

 

『フッ、ここまでのようだな』

『くっ、イングラム!』

『せめてもの手向けだ。虚空へと消え去れ、リュウセイ。廻れ、インフィニティー・シリンダー……』

 

 膝を突く《Rー1》を見下ろす漆黒の堕天使が、その力を示さんとしたその時だ。

 

『……!』

 

『っきゃ、この念は!』

『うあ! ……相変わらず、すげー念してるぜ』

 

『洸っ』

『っ、来るのか、彼が……!』

 

『カミーユさん、これってやっぱり?』

『間違いない。この気配、アイツのものだ』

『アムロ、また力を増したようだな、彼の念は』

『ああ。それに、以前カミーユたちの言っていた通り、確かに太陽のようなイメージを受ける』

 

 強念者やニュータイプなど、特殊な感応能力を持つものたちが強烈極まる念を関知して反応する。

 それは《アストラナガン》を操るイングラムも同様だった。

 

『ム……!』

 

 一筋の閃光が戦場を駆け抜ける。

 攻撃を停止し、唐突に展開された《アストラナガン》の念動フィールドが瞬く間に切り裂かれ、掲げられた《Z・O・ソード》に火花が走った。

 黒き機械天使を襲った閃光は、一息に基地の建物の上に降り立った。

 翻る朱い外套――

 乱入者は、眼前に発生させた黒い重力の渦から長大なライフル――《グラビトン・ライフル》を取り出し、超重力の砲撃を照射する。

 

『お前は――』

 

 再びの念動フィールドでそれを防ぐ《アストラナガン》。イングラムは僅かに警戒を滲ませて、襲撃者に意識を向けた。

 そして、SDFの仲間たちが彼の名を呼ぶ。

 

『イング!』

 

「遅れてすまない、みんな。また会ったな、イングラム・プリスケン」

 

 無骨な(フェイスマスク)で表を隠し、朱色の外套を靡かせる騎士然とした機動兵器(パーソナルトルーパー)――《エクスバイン・アッシュ》を駆る銀髪の少年、SDF艦隊が誇る“エースアタッカー”、イングが快活に言う。

 

『イング! そいつが新しいヒュッケバインか? カッコいいじゃねーか!』

「ありがとな、甲児!」

『遅せーぞ、イング! 道にでも迷ったか?』

『そんニャ、マサキじゃニャいんだから』

『そうそう』

『シロ、クロ! 一言多いんだよっ』

『そのPTで大丈夫なのか、イング。継ぎ接ぎのように見えるが……』

「心配すんな、カミーユ。コイツは、アッシュは見た目通りの張りぼてじゃないんだぜ。あとマサキ、シロクロの言うとおりお前と一緒にすんな」

 

 甲児、マサキ、カミーユ――イングにとって気の置けない友人と呼べるものたちが、次々に歓迎の声を上げた。

 

『遅いわよ、バカイングっ! 来るなら来るで、もっと早くから来なさいよ!』

『あ、アスカ、そんないい方ってないよ』

『イングさん、助かりました』『ハロッ、ハロッ』

「おうおうちびっ子ども、よく頑張ったな。後はお兄さんに任せなさい」

『派手な登場の仕方だねぇ、お兄さん。オレたちは前座ってワケ?』

「はは、ま、ヒーローは遅れてやってくるってことさ」

『……お兄さんって、アンタあたしたちと見た目変わらないじゃない』

『まあまあ』

 

 アスカが文句を垂れ、シンジが宥める。真面目なウッソと、おちゃらけたジュドーのコメントにイングは軽妙に応じる。

 その傍らで、再び管を巻く赤毛の少女を気弱な相方がなだめるのはいつものことだった。

 

『それにしてもイング、どうやってここに?』

「テレポートですよ、アムロ大尉。オレはサイコドライバー、“汎超能力者”らしいのですから。その力をTーLINKシステムで増幅して、アッシュごと上海から転移してきました」

『んな無茶な』

「疲れるから日に何度も出来ないし、パーソナルトルーパー一機跳ばすので精一杯だから、戦術的には役立たずだけどな」

 

 アムロの呈した疑問にさらりと答える。横で聞いていたリュウセイが、思わず至極真っ当なツッコミを入れた。

 彼がそれなりに無茶をして駆けつけたのにはわけがある。

 この“世界”と縁もゆかりもない自身を受け入れてくれた“仲間”、それが今のイングの「護りたいもの」。そのためなら、彼は地球の裏側へだって駆けつける。

 幾多の戦いと出会いを経て、少年は戦士と呼べるまでに成長した。もともと持っていたのだろう、心に正義の炎を灯し、邪悪に怒り、絶望と理不尽に立ち向かう戦士としての資質を。

 

「さぁてリュウセイ、オレがちょっとばかり時間を稼いでやる! その間に体勢立て直して、ばっちり合体決めてくれよなっ!」

『あ、ああ! 任せるぜ、イング!』

 

 仇敵から意識を逸らさず、友に後を託す。自分はあくまで露払いなのだと割り切る態度は、仲間を大切にする彼らしいものだった。

 仲間との語らいを切り上げたイングは表情を改めて、律儀にも待っていたらしい黒い機動兵器へと意識を向ける。

 

「という訳だ。アンタの相手はオレがする」

『フッ……愚かだな、イング。そんな継ぎ接ぎだらけの機体で、俺のアストラナガンと戦うつもりか? かつてのヒュッケバインのように、跡形もなく消滅(バニシング)させてやろう』

「言ってろ。凶鳥は灰から蘇る……このアッシュをただのパーソナルトルーパー、ただの急造機と思うなよ。消滅(バニシング)するのはイングラム、貴様の方だ」

 

 安い挑発に毅然と言い返し、イングは操縦桿を握り直す。

 欠陥を修正されたブラックホール・エンジンを搭載した《アッシュ》は、正しく初代《ヒュッケバイン》の血を引いた凶鳥の眷属である。

 さらに《EX》、《MkーII》、《MkーIII》――歴代の《ヒュッケバイン》の力を受け継いだその姿は手負いなれど、凶鳥の名に偽りはない。

 

「視えるぞ……イングラム・プリスケン。貴様の苦悩が」

『苦悩だと? 俺にそんなものはない』

「そうかよ、あくまでシラを切るつもりなら――」

 

 《アッシュ 》の頭部を覆った防護用のフェイスマスクの裏側、ゴーグルに覆われたツイン・アイが光る。

 

「貴様を縛る邪念の鎖ッ、このオレが断ち斬る! シーケンス、TLS!!」

 

 イングの有する強烈な念がTーLINKシステムにより増幅され、スペック上の性能を超えた力を《アッシュ》に与える。

 背中の外套で姿を隠し、翻した次の瞬間には左手に《フォトン・ライフルS》を携えていた。

 建物の上から大きく飛び上がった《アッシュ》は、左手に構えたライフルを乱射する。激しい集中砲火を受け、《アストラナガン》の念動フィールドがついに破れた。

 重力に従い《アストラナガン》目掛けて自由落下する中、《アッシュ》はライフルを腰にマウントして《ストライク・シールド》から延びる柄を掴む。

 

「セイバー、アクティブ! はあッ!」

『……!』

 

 激突する《TーLINKセイバー》と《Z・Oソード》が激しい火花を散らす。

 両機の体格差により激しい衝撃がコクピットを揺るがすが、イングは構わず機動を続けた。

 

「はあああッ!」

 

 テスラ・ドライブの限定的慣性制御により《アッシュ》は縦横無尽の機動を見せ、凄まじい速さで斬撃を繰り出す。

 対する《アストラナガン》は剣を手に翠緑色の光の翼、《TーLINKフェザー》を展開して同じく高速で機動する。

 特機と呼んで差し支えない《アストラナガン》相手に、《アッシュ》は互角の剣戟戦を繰り広げている。

 これはブラックホール・エンジンの強大なパワーと、格闘戦を意識して特別に建造されたHフレームによる恩恵だ。どちらも、本来の《MkーIII》から受け継がれたものだった。

 

「オオオオッ!」

 

 一瞬の隙を貫く神速の突きとともに、《アッシュ》が《アストラナガン》の背後に切り抜ける。

 緑の軌跡を残すテスラ・ドライブにより、空高く舞い上がった《アッシュ》。イングの強念によって、機体全体が紅黒い発光現象を引き起こした。 

 

「TーLINKフルコンタクト! 覚悟しろ、イングラム・プリスケン!!」

 

 イングの念が最高潮を迎え、眼前に構えた《TーLINKセイバー》の刀身を翠緑の光が覆っていく。

 弓のように大きく後ろへ引き絞った剣が、ついに放たれる。

 

「砕け散れぇぇぇぇッ!!!」

 

 空間を絶つほどの斬撃。

 刀身に込められた莫大な念が解放され、大爆発となって炸裂した。

 神速で斬り抜けた《アッシュ》はそのままの速度で着地、地面を滑りながら《ストライク・シールド》の鞘に剣を納める。爆風に煽られて、コーティング・クロークが大きくはためいた。

 

『ほう……寄せ集めの機体にしては、そこそこのパワーはあるようだな』

 

 晴れていく念動爆発の噴煙から、胴体に深い傷痕が刻まれた黒い堕天使が現れる。

 しかし、致命傷に思われた傷は見る見るうちに塞がっていく。《アストラナガン》の装甲に用いられたズフィルード・クリスタルの力だ。

 

『それにその念、あれからますます高まっているようだ。やはり危険だな、お前は』

「ハッ、そんな余裕でいいのかよイングラム。今日のオレは、狂言回しで露払いが仕事だぜ?」

『何? ――これは……!』

 

 イングラムの声に、彼らしくない驚愕と動揺が滲む。

 にやりと不敵な笑みを口元に浮かべたイングは勝利を確信し、高らかに宣言する。

 

「さあ見せてやれ、リュウセイ! 天下無敵のスーパーロボットをッ、お前の鋼の魂を!!」

『応! 行くぜッ、ライッ、アヤッ! ヴァリアブル・フォーメーションだ!!』

 

 生命の危機により働く生存本能ではなく、自らの意志の力で“ウラヌス・システム”を発動させたリュウセイが今、Rシリーズの真の姿を顕現させようとしていた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 ♪月●日

 地球、サンククングダム周辺海域 《グラン・ガラン》の一室

 

 極東基地での一戦は、《SRX》の完成を持って幕を下ろした。もちろん、オレたちの勝利でな。

 しかし、あれは我ながら最高の登場の仕方だった。

 前々から暖めていた決めゼリフも言えたし、感無量だな。

 

 さておき、SDF艦隊は再び三隊に分けられ、地球各地に赴くことになった。

 経緯は省くが、オレは前回と同じく《グラン・ガラン》隊に所属して、完全平和主義を唱う国、サンクキングダムへ。リョウトとリオは、《ラー・カイラム》でジオンやティターンズの連中とやり合いに宇宙(ソラ)へ上がり、クスハとブリットは大作少年らと《ゴラオン》に合流して極東地区で暴れる地下勢力に対応する予定だ。

 

 そういえば、アムロ大尉が《νガンダム》に、ゲッターチームが《真ゲッターロボ》に乗り換えてたっけ。

 次に合流したら、自作モデルの資料写真を撮らなきゃな。

 



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αIー3「この星の明日のために」

 

 新西暦一八七年 ◎月*日

 地球、サンククングダム周辺海域 《グラン・ガラン》の一室

 

 完全平和主義、ねぇ……。

 サンクキングダムを治めるリリーナ・ピースクラフトの掲げる理想について、オレはどちらかというと否定的だ。

 正直、この状況下じゃ空気読めてないとしかいいようがない。何せ、地球人類同士で戦争してるだけじゃなく、異星人やらからからな。もちろんわかりあえればいいけれど、吐き気を催す邪悪を相手に戦いを放棄するなんて出来るわけがないだろう。

 ……さすがに侵略者相手にも主義を貫く訳じゃない、よな?

 ちなみに、リリーナ嬢との直接的な接触はない。だってオレ、一介のパイロットだし。

 

 まあ、結局サンクキングダムはOZとその黒幕であるロームフェラ財団の策略によって崩壊してしまったのだが。

 しかしまぁ、ヒイロとゼクスは機体取り替えっこしたり陣営変えたり、落ち着かないヤツらだわな。

 

 

 

 新西暦一八七年 ◎月□日

 地球、某無人島 《グラン・ガラン》の一室

 

 オレは今日、ドレイクの軍勢との決戦を勝ち抜き、この日記を書いている。

 いい加減、空気も時勢も読めていない皆さんにはきっちり地底世界にお帰りいただいた。だいぶ激戦だったが、連中についてはこの程度の扱いでいいだろう。

 性懲りもなく現れたイングラムももちろん撃墜してやった。……すぐさま修復されたが。

 

 で、宿敵との戦いを終えたショウさんやシーラ様たちだが、しばらくこちらでオレたちに協力してくれるそうだ。

 まあ《ゴラオン》が別行動してるわけで、置いて帰るわけにもいかないしね。それに、地球が滅べば、そのアンダーワールドであるバイストン・ウェルだってどうなるかわかったもんじゃない。

 

 ともかく、これで物語に一つカタが付いたわけだ。

 オレたちの戦いも、いよいよクライマックスに近づいている感じだな。

 ……しかし、色を塗り替えただけで性能の上がる《ビルバイン》ってなにさ。

 

 

 

 新西暦一八七年 ◎月×日

 地球圏、衛星軌道上 《グラン・ガラン》の一室

 

 《ヱクセリヲン》、やっぱデカいな!

 外宇宙での調査任務から急遽帰還した手負いの《ヱクセリヲン》を襲うキャンベル軍、そしてジュピトリアンから防衛した。

 

 キャンベル軍、ジュピトリアンとの戦闘については特に語ることもない。ヤザン・ゲープルの《ハンブラビ》に絡まれて若干ウザかったがまあ、その程度だ。所詮、オレと《アッシュ》の敵じゃない。

 ああ、そうだ。マサキのヤツが、《乱舞の太刀》なる新必殺技を披露してたんだ。

 オイオイ、めっちゃカッコいいじゃないか。……オレもああいう必殺技を考えてみようかな?

 

 あと、トップ部隊の代わりに《ヱクセリヲン》の護衛をしていた《YFー19》のイサム・ダイソン中尉と《YFー21》のガルド・ゴア・ボーマン氏が加わった。

 さすが最新鋭のバルキリー、半端じゃない機動だったな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◎日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 三隊に分かれていたSDF艦隊は迫る決戦に向け、再び合流した。

 ソロモン攻略戦で初めての戦死者が出て自分でも解るくらい消沈していたが、なんとか気分を持ちなおした。

 

 で、はたと気がついた。

 最強のマジンガー、《マジンカイザー》がいつの間にか加わってるじゃないか。くそっ、登場を見逃した《真ゲッターロボ》の件といい《ゴラオン》隊に入っときゃよかった……!

 と《マクロス》の格納庫でorzとしてたら、偶然通りがかったアスカに「アンタバカァ?」とお決まりの悪態を吐かれてしまった。

 くっ、今回ばかりは反論できん……!

 オレと同じく悔しがるリュウセイに、ノリコが得意そうに“魔神皇帝”のエピソードを語るわけだ。

 正直、友情にヒビが入りかけた。ま、そのあとメディアの鑑賞会して仲直りしたけどな。

 ちなみにそのノリコだが、こちらもしばらく見ないうちに《ガンバスター》に乗り換えていた。……き、気づいてなかったわけじゃないんだからなっ!?

 

 

 

 新西暦一八七年 △月♪日

 地球圏、サイド3 《ラー・カイラム》の自室

 

 ついに、オレたちSDF艦隊はジオン公国との戦いに勝利した。

 アムロ大尉やクワトロ大尉、ブライト艦長にとっては七年越しの決着になるだろう。この世界での“一年戦争”は、《マクロス》の落下で休戦状態になっていたらしいからな。

 

 しかし、不謹慎だが今回はかなり燃えた。

 ジオン公国軍を率いるギレン・ザビとの地球圏の命運を左右する決戦であり、Dr.ヘルが持ち出した《量産型グレートマジンガー》《量産型ゲッタードラゴン》の大軍との激闘でもあった。

 悪の手先になったマジンガーとゲッターを、圧倒的なパワーで駆逐する《マジンカイザー》と《真ゲッターロボ》、そしてスーパーロボットたち。そして、数々の敵モビルスーツを蹴散らして巨大空母《ドロス》に肉薄する《νガンダムHWS装備型》と《サザビー》率いるガンダム軍団。某悪夢の人じゃないが、鎧袖一触とはこのことか。

 このシチュエーションに燃えずして、何に燃えろと言うのだろう。

 まあ、途中で紫ババ、もといキシリア・ザビからの停戦協定の提案があって中途半端な形に終わったのが残念だが。

 

 そんな激戦の最中を、オレはクスハ、ブリットの《龍虎王》、リオがパイロットを務める《AMガンナー》と合体したリョウトの《ヒュッケバインMkーIII・ガンナー》で小隊を組んで戦い抜いた。

 ……カップルに囲まれて、若干肩身が狭かったのは秘密だ。

 どうしてこんなに頑張ってるのに、オレにはヒロインがいないんだ……!

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◇日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 いやはや、酷い目にあった。

 ジュピトリアンの巨大サイコミュ兵器“エンジェルハイロウ”による、サイコウェーブの被害だ。

 カミーユやアムロ大尉たち、感受性の強い面々は特に苦しんでいた。いや、苦しむというよりは強制的な安らぎの念に飲まれかけていたんだろうな。

 オレ?オレの念も自我もそんな柔じゃないから、むしろ対抗してやったが何か? 向こうが開けっ広げだったから、軽く交信(テレパシー)出来たし。

 まあ、そのせいでサイキッカーたちの末路を感じ取ってしまったわけだが。

 

 実際の戦闘はわりと力尽くだった。

 マサキの宿敵、DCのシュウ・シラカワ博士が持ってきた作戦、「念動力者複数名の念を増幅してサイコウェーブに対向する」を拒否して戦った。

 なぜかオレが代表して、協力するか否かを決定することになってしまった。クスハもリョウトも強く主張するタイプじゃないのはわかるが、いいのかな。

 とりあえず、クスハやリオ、アヤ大尉の身体を気遣って拒否したわけだが。

 

 戦場では、()を浚われたヒイロの《ウイングガンダムゼロカスタム》とウッソの《V2ガンダムアサルトバスター》が暴れまわり、大活躍した。

 で、戦いにより崩壊して地球に落ちた《エンジェルハイロウ》を追撃するチームと、ジオン残党とジュピトリアンを叩くためアクシズに赴くチームの二つに分かれて進撃するロンド・ベル。

 オレは地上へ、クスハとリョウトはそのまま宇宙に残留する。

 ……何か邪悪ものと接触するような、そんな予感がする。気合い、入れないとな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球、某無人島近くの海上 《グラン・ガラン》の一室

 

 相変わらず、《グラン・ガラン》に間借りしているオレだ。

 それはともかく。重力に引かれて落下したエンジェルハイロウを舞台に、長らく戦ってきたジュピトリアンのベスパ軍、そしてトレーズ・クリシュナーダ率いるOZとの戦いが終わりを告げた。

 《ゴドラタン》のカテジナ・ルースにはウッソが、《トールギスIII》のミリアルドにはヒイロがそれぞれ相対し、長い因縁に終止符を打った。

 しかし、(いたずら)に世界を混乱させて、トレーズ・クリシュナーダはいったい何を考えていたんだろうな。あるいは、彼なりに世界のことを考えていたのかも知れないが。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月◇日

 地球、第三新東京市 《グラン・ガラン》の一室

 

 突如、単騎でネルフに強襲したゼ・バルマリィ帝国の特機級機動兵器《アンティノラ》と、それを操るユーゼス・ゴッツォにより精神汚染を受けたアスカを守って戦った。仲間を、友人を救うため、決死の覚悟で自爆特攻したレイの行為も《アンティノラ》を揺るがすには至らなかった。

 ユーゼス・ゴッツォ……邪悪な念を持った危険なヤツだ。アレは、オレが倒さなきゃならない存在だろう。一目見た瞬間に理解した。そして、ヤツがイングラムを縛る邪念の鎖の根元であると直感した。

 ヤツと交わした会話はこんな感じ。

 

「貴様か! イングラムを縛る邪念の出所は!」

「ほう……アウレフの集めたサンプルの内のイレギュラーか。その強念、さながら愚帝ようだな。お前を取り込むのはいささか危険なようだ。私自ら処分しよう」

「こっちだって願い下げだ! ユーゼス・ゴッツォ、貴様はオレとアッシュが断ち斬る!!」

 

 アスカを傷つけられ、レイが犠牲になって完全にキレていたオレは、サイコドライバーの力を全開にしてヤツを刻んでやった。メタ的に言うなら「気合×3、ド根性、加速、努力、幸運、ひらめき、必中、魂」の精神コマンドコンボをかけてフルボッコにしたってとこか。

 とはいえ致命傷を与えたものの、お約束的に修復されたけどな。……ちくしょう。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月☆日

 地球、第三新東京市 《グラン・ガラン》の自室

 

 しんみりとした気分で今日の日記を綴っている。

 ネルフの地下深くにあるセントラル・ドグマで、渚カヲルこと最後の使徒、第一三使徒《タブリス》と戦った。正確には彼に操られた《弐号機》とだが。

 本性を現した彼に対して、ゲッター線の申し子《真ゲッターロボ》と意志ある魔神《マジンカイザー》が過剰反応していた。向こうも、何やら両機に感じるところがあったらしい。

 短い間とはいえ、カヲルと友好を深めていたシンジにトドメを刺させるのは忍びなく、最終的にはオレがケリをつけた。

 

 彼はオレのことを「いつか太極に至る者」と呼び、「古き強念の持ち主たちが今もキミを見守っているよ」と言った。

 古き強念の持ち主、サイコドライバーのことか? たち、ってことは複数いるわけだな。そいつらが、オレをこの世界に呼び寄せたのだろうか。

 そして、太極……どこかで聞いたことのある単語だが、思い出せない。ったく、相変わらず肝心なところで役に立たない記憶だ。

 言葉の真意を確認する術はもうなく、カヲル自身、詳しく語るつもりはなかったのだろう。オレがこの世界にいる意味がわかったかもしれないのに……残念だ。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 再び部隊が合流したのだが、どうやら向こうもいろいろヤバかったらしい。

 バルマーの連中に、アヤ大尉、リオ、リューネ、獣戦機隊の沙羅が拉致され、洗脳されて戦うことになってしまったのだとか。ユーゼス・ゴッツォめ、最悪に迷惑なヤツだな。

 全員無事に救い出せたわけだが危なかった、いろいろと。主に本が薄くなる、そういうことだ。

 ちなみに、ブリットくんに「さらわれなくてよかったな」と冗談混じりに言ったら顔をしかめられた。さもありなん。

 あと、なぜか《ザク改》が格納庫に置いてあったんだが……あれ、何なんだろうな?

 

 さておき、女性型巨人族メルトランディとの戦いである。

 その中で、赤いパーソナルカラーの機体と戦い、マックスが相打ち気味にMIAになった。まあ、ヤツは天才だからな、ほっといても大丈夫だろう。

 

 それと、いろいろあって《ジュデッカ》から()()されたレビ・トーラーと、SRX計画から派遣されたイングラムの後任者ヴィレッタ・バティム大尉が修復された《RーGUNパワード》ともにやってきた。どうやらレビの方が《RーGUNパワード》に乗るらしい。

 つーかリュウセイよ、お前さんいつの間に敵の幹部をナンパしてきたのさ。と言ったら盛大に否定していたが、実際そんなもんだろ? フォウやプル姉妹、クェスとは事情がまるで違うんだからさ。

 まあ確かに、レビ自身からは邪悪な念は感じなかったし、どちらかと言えば《ジュデッカ》に操られている感じはしてたけどさ。

 

 ところでヴィレッタ大尉、アンタ、バルマーの人でしょう。

 わかるぞ、交戦中に関知した念は忘れない質でね。つーか、あっちも隠す気なくね?

 一応、ライ少尉と一緒にヴィレッタ大尉の意思は確認してコンセンサスは取れたので、特に事を荒立てる気はない。

 これで、イングラムのこれまでの行為が本意でない可能性に真実味が出てきたな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 もうすぐ、女巨人族メルトランディの旗艦、《ラプラミズ旗艦》との決戦が始まる。

 いつものようにチームを組むクスハだが、過去最大規模の戦いを前にどうやら緊張した様子だった。まあ、ブリットがフォローするだろう。オレの出番じゃない。

 

 リン・ミンメイの歌に心打たれて“文化”に目覚めたブリタイの計らいで、彼らの旗艦にして司令であるボドルザーが協力してくれるという。若干嫌な予感がするが、まあ、大丈夫だろう。

 ひさびさに「霊感がささやく」ってヤツだな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月●日

 地球圏、衛星軌道上 《マクロス》の自室

 

 メルトランディ及びゼントラーディとの戦いにケリがついた。

 葛城さん命名、「ミンメイ・アタック」によりメルトランディが戦意を失ったところ案の定ボドルザーが裏切り、ラプラミズらを砲撃。撃破した後、SDFに対して攻撃を開始した。

 曰く「文化は危険」なんだと。知らんがな。

 

 「愛・おぼえていますか」をバックに、宇宙を突き進む《マクロス》とスカル小隊。予想通り生きていたマックスがメルトランディの技術で巨人化、“エース”のミリアを引き連れて参戦する。

 オレたちロンド・ベルもミンメイの歌声に触発され、気力万端。ゼントラーディ軍を蹴散らして、目指すは超々弩級の艦隊旗艦《ボドル旗艦》。

 オレはリオの《AMガンナー》と《アッシュ》を合体させ、さらに《ヒュッケバインMkーIII・ボクサー》に換装したリョウト機との合体攻撃を敢行した。

 ブラックホール・エンジンとトロニウム・エンジンが生み出す莫大なパワーを一つに合わせ、4つの《Gインパクトキャノン》から放たれた空前絶後の重力波がゼントラーディの巨大戦艦を次々に薙ぎ払った。

 名付けて《オーバー・フルインパクトキャノン》。即興技と思われそうだが、《アッシュ》の前身、《MkーIII》の時点から想定されていた設計通りの運用法である。

 ……え? リョウトのポジションを奪っていいのかって? 《アッシュ》も一応《AMボクサー》と合体できるけど、趣味じゃないんだよなぁ。高機動による剣戟戦闘がオレの真骨頂なんだし。

 

 そんなこんなでオレたちの活躍もあり、ボドルザーは倒れ、ゼントラーディや生き残ったメルトランディは戦意を完全に喪失、あるいはミンメイの歌に感銘を受けて投降した。

 彼らはSDF主導のもと、地球人類と友好な異星人の第一号となるだろう。

 その先駆けとしてマックスとミリアは結婚するんだと。……ケッ、いちゃつきやがってからに。

 ――でもま、解り合うって、素晴らしいんだな。

 

 

 

 新西暦一八七年 △月※日

 地球、第三新東京市 《ラー・カイラム》の自室

 

 宇宙から一転、急遽地球に降りたのにはわけがある。

 人類保完計画の発動を目論むゼーレは、ティターンズを利用してネルフを襲撃する。オレたちが宇宙にいると知って、行動を開始したのだろう。姑息なことだ。

 だが、ロンド・ベルを甘くみたようだな。《真ゲッターロボ》、《マジンカイザー》、《エヴァンゲリオン初号機》、《龍虎王》、《ヒュッケバインMkーIII・ガンナー》、そして《アッシュ》が大気圏に突入し、《エヴァンゲリオン量産機》相手に孤軍奮闘していたアスカを救出した。

 直に《ラー・カイラム》も到着し、ロンド・ベル全軍により《EVA量産機》は瞬く間に駆逐された。

 オレたちロンド・ベルがいる限り、原作のように鳥葬なんて惨いことはさせねー!

 

 オレや甲児、リョウ、クスハたちも張り切ってたが、今回一番気合いが入ってたのはシンジだろう。鬼気迫る勢いで《マゴログ・E・ソード》を振りかざし、白ウナギどもを切り刻んでいた。

 レイやカヲルの犠牲に、アイツなりに思うところがあったのだろう。シンジは、初めて会ったときよりずっと頼もしく、男らしくなったように思う。

 これで悲惨な未来を一つ、回避できたはずだ。

 

 

 

 新西暦一八七年 *月#日

 地球圏、月面 《ラー・カイラム》の自室

 

 バルマー帝国に組み込まれたキャンベル軍及びボアザン軍との戦い。正式名称を、帝国監察軍第七艦隊というらしいゼ・バルマリィ帝国との前哨戦と言っていいだろう。

 戦い自体については、豹馬が宿敵ガルーダと決着をつけたり、健一が敵将で腹違いの兄らしいハイネルを説得したり、イルムのオッサンが援軍にやってきた。あれか、元カノにいいとこ見せたかったのか。

 

 後顧の憂いも断った。

 あとは、ユーゼス――バルマーの連中を打倒し、雷王星に巣くった宇宙怪獣を駆逐するだけだ。

 ――エンドマークは、近い。

 

 

   †  †  †

 

 

 SDF艦隊ロンド・ベル《ラー・カイラム》、格納庫。多種多様、様々な機動兵器を抱えたロンド・ベルらしく、雑多で統一感のかけらもない。

 

 最終決戦を明日に控え、整備班長アストナージ率いる整備士たちは各機の最終チェックに余念がない。

 その片隅、銀髪紅眼の少年――イングは、キャットウォークの欄干に身体を預けてぼんやりと愛機《アッシュ》を眺めていた。

 甲高い足音とともに人の気配を感じ、振り向く。

 

「ん、クスハか」

「こんばんは、イングくん」

「おう、こんばんは」

 

 気配の正体、クスハが穏やかに挨拶する。

 

「なんだクスハ、休まなくていいのか?」

「うん……なんだか落ち着かなくて、龍王機の様子を見てみようかなって思ったの。イングくんも?」

「まあ、な。柄にもなく、緊張しちまってるらしい」

「そうなんだ」

 

 くすくすと小さく笑みをこぼすクスハ。年下に見える少年のキザな物言いは、彼女には背伸びしたように聞こえるらしい。

 やや憮然とするイングは、クスハのパートナーであるブリットが一緒にいないことに気づいたが、あえて指摘はしなかった。女心は時に複雑なのだと承知している程度には、彼は大人だった。

 

「あれ? 二人とも、どうしてここに?」

「なんだ、リョウトも来たのか」

「こんばんは、リョウトくん」

 

 驚いた様子のリョウトに、二人はのんびりと挨拶した。

 

「そっか、二人とも僕と同じか」

「うん」

「奇遇だったな」

 

 三人は会話を交わしながら、ゆったりと格納庫内を散策する。もちろん作業員の邪魔にならないよう、こっそりと。

 薄暗い格納庫には、三人と共に激戦を戦い抜いた鋼鉄の巨人たちが鎮座し、決戦の時を静かに待っている。

 そうして三人は、《龍王機》及び《虎王機》が駐機している場所までやってきた。

 イングたちの姿に気がつき、うつ伏せて休んでいた彼らは瞑っていた瞳を開く。その瞳はわりとつぶらである。

 

「龍王機、明日もよろしくね」

 

 穏やかに《龍王機》を撫でるクスハを背後からリョウトが見守っている。

 リョウトも念動力者である、クスハほどではないが超機人の意志を感じ取ることが出来る。《龍王機》からは、クスハを気遣う念と決戦を戦い抜く気概が感じられた。

 だが、イングはなぜか隣のスペースに留めてあった《Rー1》の足元で隠れるようにして、その様子を遠巻きに眺めている。

 

「イング、そんなところにいないで、近くに来たら?」

「イヤだね。威嚇されんだよ、近づくと」

「もう龍王機ったら、意地悪しちゃダメよ?」

 

 リョウトの勧めに顔をしかめるイング。ロボット好きな彼にしては珍しく、本気で嫌がっている。

 当初《ライディーン》から警戒されていたイングだったが、最近は超機人だけでなく《マジンカイザー》からも警戒されていたりする。逆に、《真ゲッターロボ》からは僅かながら興味を持たれているようだが。

 

 超機人の元を離れ、ぶらりと格納庫内を行く三人。

 先頭を歩いていたイングがふと振り返り、思いついたように言葉を発した。

 

「そういえば、お前ら次の戦いが終わったらどうするんだ?」

「終わったら……? そっか……もうすぐ最後なんだね、この戦争も」

「考えたこともなかったかな」

 

 イングの問いに、二人は。本当に意識していなかったのだろう。

 最初に声を上げたのはクスハだった。

 

「私は……、看護師さんの勉強をしたいな」

「看護師?」

「うん。子どものころからの夢だったの」

「へぇ、クスハらしいな。で、リョウトは?」

「僕はたぶん、マオ社に戻るかな」

「ほぉ、マオ社に務めてるって話のリオの親父さんに挨拶しに行くわけだな」

「ち、違うよっ! そうじゃなくて、実はカークさんに誘われてるんだ。「PTデザイナーにならないか」って」

 

 からかいに顔を赤らめつつ、リョウトは事情を証す。堅物なカークのことであるから、単純に彼の才能を評価したということだろう。

 表情から満更ではないことを察し、イングとクスハは微笑んだ。

 

「そういうイングくんは、どうするの?」

「オレか? オレはロンド・ベルに残るよ。いろいろと、ややこしい身の上だしな」

 

 マシンナリー・チルドレン、人造人間であることを差し、苦笑するイング。その生まれのせいで当初は万丈から疑われたり――もっとも今は後輩としてかわいがられているが――もしたが、結局彼が生まれた理由は不明なままだった。

 気遣わしげな視線を年下(?)の友人に向ける二人。しかし当のイングは言葉こそ自嘲気味だったが、声の調子はいつも通り明るくおちゃらけたもので。

 

「そんでもって、戦いから離れたお前らの未来を護ってやるよ。だから安心して、夢を叶えてくれよなっ」

 

 ニッ、と快活な笑み。どこか悪童的なイングがよく浮かべる表情だ。

 クスハとリョウトは、冗談めかした態度の裏にある彼の不器用な想いと決意を感じ取った。それは友情と言っていい純粋な思いだった。

 

「イングくん……」

「ありがとう、イング」

「よせやい。友達だろ、俺たちはさ」

 湿っぽくなった空気をからりと笑い飛ばし、イングは言う。

 友達ならば当然だと、自らが傷つくことを恐れもせず、臆面なく言えてしまう彼の強さはまるで太陽のようだと、クスハとリョウトはこのとき思った。

 

「さて、もう休もうぜ。オレたちパイロットは休息も大事な仕事だ」

「うん」

「そうだね」

 

 ――決戦前夜の穏やかな時間は、こうして過ぎていった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八七年 $月×日

 極東地区日本 《ラー・カイラム》の自室

 

 長い戦争が終わり、オレたちは地球へと帰還した。

 

 雷王星宙域での決戦、《ヱクセリヲン》そのものをブラックホール爆弾とすることによる宇宙怪獣の殲滅、ゼ・バルマリィ帝国監察軍第七艦隊の壊滅により、地球圏での戦争は一応の終結を見たと言っていいだろう。

 だが、依然として多くの勢力が健在のままであり、特に宇宙怪獣とゼ・バルマ リィ帝国は勢力のほんの一部分でしかない。それに、雷王星でのブラックホール爆弾使用の余波で、地球圏には重力崩壊衝撃波の脅威が迫っている。

 ビアン博士の言うように、『人類に逃げ場なし』の状況はさらに続いていくのだろうな。

 

 決戦の推移を箇条書きしよう。

 バルマーに組するパプテマス・シロッコ、シャピロ・キーツとの戦いにはハマーンやガトー、ハイネルらが助太刀に来てくれた。

 タシロ提督らの犠牲をもって宇宙怪獣を撃滅した後、閉鎖空間に囚われたオレたちの前にバルマー帝国軍が現れた。

 敵旗艦《ヘルモーズ》、そしてこちらの機動兵器に対抗したという決戦兵器《ズフィルード》を撃破、するとユーゼス・ゴッツォは切り札である黒い《ジュデッカ》で決戦を仕掛けた。

 その最中、イングラムはリュウセイの決死の説得により邪念の呪縛を破り、再び味方に転じてユーゼスを追い詰める。スーパーロボット軍団の必殺技が炸裂し、《アッシュ》の《TーLINKセイバー》がヤツの邪念を斬り裂く。

 そして《SRX》の《天上天下一撃必殺砲》を受けて《ジュデッカ》は消滅し、長い戦いに決着がついた。

 

 しかし、ユーゼスの「それも私だ」の連打はシュールだったが、「じゃあ、オレがこの世界にいるのもお前のせいか?」という問いに黙ったのは最高だったな。まあ、ヤツの仕業じゃないのは目に見えてたから、あえて言ってやったんだが。

 「クロスゲート・パラダイム・システム」だったか? その完成のために地球圏に干渉し、最終的に神とやらに成り代わることが目論見だったらしいが、下らない。

 運命だかアカシックレコードだか知らないが、そんなあやふやなものに未来を決められてたまるか。運命なんぞ、オレの斬り拓いた後からついてこいってこたな。

 

 ……戦いは終わり、みんなそれぞれの道を進んでいく。別れの時だ。

 オレはロンド・ベルに残り、《エクスバイン・アッシュ》とともに戦い続けるつもりだ。

 この世界にいる意味、それを知るために。そして仲間を、平和を、地球の未来を護るためにも。

 あるいはそれすらも黒幕の思惑通りなのかもしれないが――知ったことか。オレはオレだ。

 

 ……さて、筆を置いて、それぞれの場所へと旅立つみんなの見送りに行くとしようか。

 



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α外伝ー1「黒焔の狩人」

 

 

 新西暦一八七年一二月――

 地球へと、バルマー戦役最終決戦の際に生じた超重力崩壊の脅威が目前に迫っていた。

 それを防ぐため、各スーパーロボット研究所の協力と破嵐財閥、マオ・ インダストリーのもと、地球を丸ごとバリアで覆う“イージス計画”が着々と進められていた。

 しかし、SDFが宇宙で外敵と戦っていた間、詐術により地球の指導権を奪ったティターンズは、超重力崩壊という災害を利用してスペースノイドを粛正しようと企んでいたのだ。

 

 SDF艦隊、そしてロンド・ベルは解体の憂き目に合い、メンバーは散り散りとなる。あるものは戦いから身を引いて姿を消し、あるものはティターンズに捕らわれた。

 そんな中、拘束を逃れたイングは、囚われた友を救うべく、愛機《アッシュ》を駆って戦っていた。

 

「協力してくれるかい、イング」

「勿論です、万丈さん。地球を護るためにも、ティターンズの横暴を許しちゃおけない」

「よろしい。頼りにしているよ、“最強の念動者”」

「なんです? それ」

「キミの通り名らしいよ」

「安直ですね。事実ですけど」

「そこで素直に認めるところ、」

 

 独善的な思想を暴走させるティターンズや、トレーズの後継者と称して地球の覇権を狙うマリーメイア軍に対抗するため、そして迫り来る超重力崩壊から地球圏を守るため、破嵐万丈主導の下、SDF、ロンド・ベル、カラバなどの残存人員で結成された“プリベンター”。

 その一員としてティターンズなどに抵抗するイングの前に現れたのは、もう一機の《EX》――

 

「紅いヒュッケバイン……、タイプEXだと!?」 

「イング、エクスバイン・アッシュ……貴様を倒し、私が出来損ないではないということを証明する!」

 

 真紅の《ヒュッケバイン》を駆るティターンズからの刺客、“念動者”アーマラ・バートン。アムロやブライトを人質に取られ、やむなくティターンズに従うクワトロやエマとともに現れた彼女は、執拗にイングを追う。

 この機体は、事故を起こした《ヒュッケバイン》の片割れ、《008L》がSRX計画により強化された機体であり、極東支部に保管されていたものをティターンズが強引に接収したものだ。

 《009》を元とする《アッシュ》とはまさしく兄弟機。同じ凶鳥の血族同士が念動力者に操られて対決する。

 

「っ、女か!?」

「女で悪いか!」

「かわいい声してんなって思っただけだよ!」

「かわっ!? っ、世迷い言を!」

 

 クワトロらを退けたプリベンター。

 万丈が密かに雇い入れていた銀河の始末屋「J9」により囚われていたブライトらが救い出され、鎖は砕かれた。

 かつての仲間たちが集結していく。

 

 カエス基地においてマリーメイア軍との決戦。

 かつての戦友、五飛がマリーメイア軍の尖兵として立ちはだかる。

 

「イング、貴様らは正義なのか!」

「その言葉、そっくりそのまま返してやるぞ、五飛! 侵略者が健在な今、地球人類同士で争うことが正しいと言えるのか!?」

「ッ、だが、連邦政府は未だ強権を翳し、スペースノイドを不当に弾圧している! これは正義ではない!」

「だからオレたちプリベンターが、元凶のティターンズを叩いてるんじゃないか! マリーメイアは世に混乱を招いているに過ぎない!」

 

 ラ・ギアスからやってきたマサキの仲間たち、魔装機神の操者とラ・ギアス人たちを新たなメンバーに迎え、戦いは続く。

 

「さすが地上の軍隊、ガンダムがいっぱいね!」

「王女さん、ヒュッケバインはどう?」

「ガンダムに似てるわよね、主に顔が」

「それは言わないでよ、大人の事情で消されるじゃない。いや、もう消されたのか」

「私の造る魔装機のモデルを、ガンダムじゃなくてヒュッケバインにしてあげるから落ち込まないの」

「さすがお姫様、話が分かる! 結婚して!」

「お断りです」

 

 「ヌビア・コネクション」のカーメン=カーメンを撃退し、。

 ダカール「マクロスシティ」。偽りの式典を強襲したプリベンターは、ティターンズとの戦いに終止符を打つべく奮闘する。

 《YFー19》による奇襲に合わせ、テレポートによる突入を試みたイングは真紅の《ヒュッケバイン》と再び対峙する。

 念動力者、そして凶鳥同士の戦いは激化していく。

 

「お前はなぜ戦う、アーマラ・バートン!」

「私の価値を示すためだ! 特能研で、ティターンズで、私を“出来損ないの念動者”と蔑んだヤツらを見返す――、最強の念動者である貴様を超えれば、それが証明できる!」

「自分の価値なんざ、自分で決めろ! それにお前はこうして、オレと互角に渡り合えてるじゃないか! それのどこが出来損ないの念動者だ!?」

「ッ! うるさいッ、黙れーッ!!」

 

 機体性能の差、そして念動者としての資質の差。それらが噛み合い――あるいは噛み合わず――、戦いは終始イング優勢に運んだ。

 そして、決着。《TーLINKセイバー》が《ヒュッケバインEX》の両腕を斬り飛ばし、無力化した。

 

「っ、きゃあ!」

「これで終わりだ。投降しろ、アーマラ」

「く……殺せっ」

「断る。お前の念は歪んじゃいるが、邪悪じゃない。オレはもう邪悪なヤツ以外は殺さないって、決めたんだ」

「何……!?」

「お前だって、地球を護るためにバルマー戦役を戦い抜いた戦士だろう? それに、かわいいコを好き好んで手にかけるような倒錯した趣味はないよ」

「っ!?」

 

 アーマラを下し、ティターンズの精鋭部隊と雌雄を決さんとするプリベンターの前に現れたのは《グランゾン》、その真の姿《ネオ・グランゾン》だった。

 蒼き魔神を操るシュウ・シラカワの、まるでティターンズに協力するかのような行動に困惑するプリベンターへ、問答無用の攻撃を開始した。

 

「この期に及んでノコノコ現れて、なんのつもりだ! シュウ・シラカワ!」

「フフ、さて、どうでしょう? 私を倒せば、目的がわかるかも知れませんよ」

「ちっ、相も変わらず胡散臭い! ……その機体に纏わりついたドブ臭い邪念、アンタのものじゃないな?」

「ほう……流石ですね、()()を感じ取るとは。最強の念動者、サイコドライバーは伊達ではないという訳ですか。やはりあなたは私の計画の邪魔になりそうだ、ここで消えてもらいましょう」

「やってみろ! シュウ・シラカワ!」

 

 煙に巻くような物言いで真意を隠すシュウに、イングとプリベンターの仲間たちが立ち向かう。

 マサキを始めとした魔装機神の操者たちの協力もあり、苦戦の末《ネオ・グランゾン》を撃破したプリベンターを謎の力が襲った。

 

「アーマラ!!」

 

 不可思議な現象が辺りを、イングは咄嗟に《アッシュ》の手をすぐ側で擱坐していた《EX》に伸ばす。

 しかしその手は届かず、イングの視界は真っ白に漂白されていった。

 

 

   †  †  †

 

 

 《ネオ・グランゾン》の開いたワームホールにより辿り着いた「惑星ゾラ」。プリベンターの面々は、散り散りになって各地をさまよっていた。

 それはもちろんイングも同様で、彼は一人、北アメリア大陸のウルグスクという“ドームポリス”に流れ着いた。

 成り行きで「ヤーパンの天井」の“エクソダス”に協力したイングは、ゲイナー・サンガやゲイン・ビジョウらとともに「シベリア鉄道警備隊」の追っ手と戦いながら、この星のどこかにいるであろう仲間たちを探して旅を続ける。

 

「ゲイナー、お前って、ゲームチャンプなんだって?」

「そうだけど、それがなにか?」

「いやさ、オレもそこそこ腕に自信があってね。ちょっと対戦してみない? あるんだろ、本体」

「本体って……まあ、いいよ。なんだか久しぶりにオーバーマン・ファイト、やりたくなってきたから」

 

 イングは《キングゲイナー》のパイロットであるゲイナーを始め、ヤーパンの天井の人々と交流を深めた。

 前世とも言うべき記憶によって、彼はこの惑星ゾラが地球のはるか未来の姿であると確信していた。

 眼前に広がる荒野、イージス計画の失敗により滅びた文明――

 自身の敗北による結果をまざまざと見せつけられ、複雑な思いに駆られるイング。一刻も早く仲間に合流し、なんとしてでも元の時代に戻る――楽天的でおちゃらけた彼らしくない焦燥感を抱え、焦っていた。

 そして、仲間たちと同じようにこの時代に流れ着いているかも知れないアーマラの身を心配していた。

 

 旅の最中、「中央大陸」を支配する「塔州連合」に対して反逆する「ゲッコーステイト」の空中戦艦《月光号》と遭遇し、済し崩し的に共闘して手を結ぶ。

 同じ中央大陸の政府組織に反発するもの同士、両者の協力はスムーズにすんなり行われた。

 そんな中イングは、ゲッコーステイトの見習い?である少年、レントン・サーストンと出会う。

 

「よお少年、お目当ての美少女とは仲良くなれたかよ?」

「あ、イング。それがぜんぜんなんだよ。ていうか、何話せばいいかわかんないし……」

「そんなの、当たって砕ければいいだろ」

「だよねー……って、いやいやいや、そこは砕けちゃダメでしょ!?」

「あはは。冗談だよ、ジョーダン。おもしろいヤツだよなー、レントンって。ホランドさんがかわいがるのも無理ないな」

「……あれ、かわいがられてるのかなぁ。邪険にされてるだけじゃ?」

「ま、大の大人のツンデレってのもみっともないけどな。あの人なりに、お前のことを心配してるのは間違いない。オレが保証する」

 

 自分なりのアドバイスや人間関係のフォローをするイングは、《ニルヴァーシュ type zero》を操る少女エウレカの正体やレントンたちに待ち受ける過酷な運命に気づきながらも、静かに見守ることにした。

 そうするのは、覚束ない知識としてではなく、直に触れあった実感として彼らなら試練を乗り越えられるはずだと感じたからである。

 

 物資の補給のために立ち寄ったとある集落。

 ガンダムタイプのモビルスーツを保有する“バルチャー”、ニュータイプを保護するために旅をする《フリーデン》一行と遭遇した。

 町を散策していたイングは彼らと偶然親しくなり、寡黙なニュータイプの少女、ティファ・アディールと交流を持つ。

 

「……あなたも、特別な力を持っているんですね」

「おう、何を隠そう念動力者だ。読心や未来予知だって出来るぞ」

「……イヤじゃ、ないんですか……?」

「別に。いろいろ便利だしな、念動力。そういうティファはその力、疎んでるんだろ?」

「……はい」

「知り合いのニュータイプが聞いたら怒られそうだけど、ニュータイプなんて大したもんじゃない。世界を変えられるわけでもないし、ましてやオレみたいに化け物じみた力があるわけじゃないんだ」

「……」

「そんなのを恐れたり、追い求めたりするヤツらの気が知れないよ。あ、これ、ジャミルさんの悪口じゃないぞ?」

「……あなたは、化け物じゃないわ」

「ふっ、そっか。ありがとな」

 

 いつか近い将来、少女が巡り会うであろう“道”に思いを馳せ、《フリーデン》一行と分かれた。

 

 旅は続く。

 大陸を南下した南アメリアの地にて、月からの帰還者「ムーンレイス」との抗争の渦中にある「ミリシャ」に保護されていた一部メンバーと、ようやくの合流を果たした。

 ミリシャの唯一とも言っていい戦力、旧世界の遺産、白い機械人形(モビルスーツ)《∀ガンダム》を見上げるイングにそのパイロット、ロラン・セアックが話し掛ける。

 

「ホワイトドール、ねぇ……」

「あの、何か?」

「いや、確かに神様みたいな機体だよなぁ、って感心してただけだよ」

「知ってるんですか、この機械人形のことを」

「知ってるっちゃ知ってるし、知らないと言えば知らないかな。別段重要なことでもないし、ロランにとっては関係ないんじゃないか」

「は、はあ」

「ようは使い方を間違わなければいいのさ。どんなに恐ろしい兵器だって、結局のところは使い手の心次第なんだから」

「そうですね……」

 

 ロランだけでなく、地元の令嬢ソシエ・ハイムと低レベルな口喧嘩をしたり、その姉キエル・ハイムにコナをかけてあしらわれたりと、イングは普段通りに新しい仲間たちと友好を深める。

 また、時を前後して同じく、ティファの能力により導かれた《フリーデン》とジュドーやウッソら、そして最新型のウォーカー・マシン《ザブングル》を擁すカーゴ一家の《アイアン・ギアー》と行動を共にしていた鉄也を始めとしたメンバーも加わり、一行は一気に大所帯となった。

 

 そんな中、イングは紆余曲折あって《ガンダムX》のパイロットに納まったガロード・ランに絡まれた。

 

「アンタ、イングってんだって? ティファから聞いたぜ」

「なんだ少年、ヤキモチか?」

「や、ヤキモチって……そんなんじゃ……!」

「お前もたいがいあからさまだっつーの。……ま、そんな警戒することはないさ。何せオレは、通りすがりの念動力者だからね」

「なんだい、そりゃ?」

「お前がティファを死んでも護れってことだよ、ガロード」

「お、おう!」

 

 捻くれているようで根は素直な自称「炎のモビルスーツ乗り」を上手くノセたイング。ガロードとティファの行く末を見守り、手助けしようと心に決めた。

 新西暦の頃のように面倒見の良さを発揮して、意気投合したガロード、ゲイナー、レントンの三人から年の近い兄貴分として慕われることになる。

 

 義理と恩を返すため、イングは「ヤーパンの天井」の旅を助けることを決め、ニュータイプがいるというフォートセバーン市へ向かう《フリーデン》に同行するメンバーや、あるいはそのまま「ビシニティ」に残るメンバーとは道を違えることとなる。

 再びの再会を誓い、イングは仲間たちと別れた。

 

 その後、《アッシュ》の《TーLINKセイバー》が盗まれたり、レントンが《月光号》から家出したり。誤解やすれ違い、苦難を乗り越えて一行は進む。

 道中、SRXチームのリュウセイとヴィレッタと合流することができ、イングは親友との再会を喜ぶ。

 

 ビシニティに残ったメンバーが見つけ出した《アーガマ》、フォートセバーン市にむかった《フリーデン》、そして《アイアン・ギアー》と再び合流した一行。

 彼らは、大気の異常が見受けられた地域へ調査に向かっていた。そこでプリベンターは、かつてゲッターチームに敗れ、滅びたはずの「恐竜帝国」の尖兵と遭遇した。

 地上を我が手に――、遙か未来においても彼らは地球支配を諦めてはいなかったのだ。

 

 恐竜帝国を辛くも退けたプリベンターの激戦は続く。

 「シベ鉄」の刺客、心の声を暴くサイコ・オーバーマン《プラネッタ》の能力による仲間割れとそれに伴う「告白合戦」による混乱、エウレカの変調など乗り越えて――

 塔州連合「アゲハ部隊」からの刺客、強敵《ニルヴァーシュ type the END》及び《ドミネーター》に苦戦するプリベンターの前に、()()は現れた。

 突如戦場に乱入した漆黒の機動兵器は両機に攻撃を加えあっという間に退けると、今度は《アッシュ》に斬りかかりフェイスガードに傷跡を刻む。

 

「フフフ……見つけたぞ、イング」

「グ……ッ! その声、アーマラか? だがその機体は……」

 

 謎の機動兵器のパイロットが新西暦での因縁の相手だと知り、イングは驚きと安堵を覚える。

 三度プリベンターの前に現れたアーマラ・バートン。彼女の駆る機体、《ヒュッケバイン》の面影を残したその姿は、かつて激闘を繰り広げた同じ色の堕天使に類似していた。

 

「このガリルナガンで、貴様を刈り取る! そして今度こそ、私の価値を証明してみせるの!」

「こんな状況で、まだそんなことを……!」

「黙れ! 貴様にはわかるまい、どれだけ血反吐を吐いて努力しても認められない者の惨めな気持ちが!」

 

 何者かの手により変貌した《ヒュッケバインEX》――《ガリルナガン》は、圧倒的なパワーで《アッシュ》に襲い掛かる。

 未知の技術――否、バルマー帝国を由来すると思われる超技術により強化された《ガリルナガン》と、有り合わせの資材で急造された《アッシュ》のスペックの差は歴然。さしものイングも苦戦を強いられた。

 

「やめろ、アーマラ! オレたちがこんなところで戦う必要なんてない! 今は協力して、一刻も早くオレたちの時代に戻ることが先決だろうが!」

「そんなもの、どうだっていい! 貴様を討てれば、それで!!」

「馬鹿が! そうやってエゴを丸出しにするから、お前の念は不完全なんだ!」

 

 言葉とともに強念が迸り、《TーLINKセイバー》と《バスタックス・ガン》が激突して火花を散らす。

 焔を巻くかのような《ガリルナガン》の猛攻に圧倒される《アッシュ》。マクロスシティでの決戦とは全く逆の展開が繰り広げられる。

 だが、イングは一人で戦っているわけではない。

 ガロードの《ガンダムX》、ゲイナーの《キングゲイナー》、レントンとエウレカの《ニルヴァーシュ》。そしてロランの《∀ガンダム》やジロンの《ザブングル》、プリベンターの仲間たちが加勢に入り、形勢は逆転した。

 

「ちぃ、邪魔が入ったか」

「アーマラ!」

「決着は預けるぞ、イング。貴様を倒すのはこの私だ、それを忘れるな」

 

 捨て台詞を残し、急速に離脱していく黒き狩人。その常軌を逸した速度に追いつける機体は皆無だった。

 

「っ、馬鹿野郎……!」

 

 見えなくなったライバルの機体を視線で追いかけて、イングは苛立ちを吐き捨てた。

 



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α外伝ー2「神々の黄昏」

 

 

 《ダイターン3》で《アイアン・ギアー》と大立ち回りを演じた万丈、獣戦機隊と合流した一行。

 イングは、リュウセイ、ヴィレッタとアーマラ及び《ガリルナガン》について話し合っていた。

 

「アーマラ・バートン……あの娘は、もしや……」

「やっぱヴィレッタ隊長も、あのガリルナガンって機体が気になるのか?」

「え、ええ、そうね。確かにあれはヒュッケバインEXを母体に、バルマー帝国の、そしてアストラナガンに共通した技術が用いられているようだ」

「まさしくヒュッケバインキラーって訳だな」

「リュウセイ、そういう不吉なネタは止めろよな。アッシュが張り付けにされるだろ」

「あはは、わりぃわりぃ」

「ったく……それで大尉、イングラム少佐が裏で糸を引いている可能性は?」

「ごめんなさい、わからないわ。彼はあの決戦の後、姿を眩ましてしまったから。……それに、イングラムなら彼女を選んだりはしないはず」

「? それってどういう……?」

「いえ、何でもないわ。今の言葉は忘れなさい」

 

 

 ローレライの海。

 そこに、もう一機の《ガンダムX》――かつてのジャミルの愛機が存在するとの情報を得て、一行を待ち受けていたのはティファの身柄を狙うフロスト兄弟の罠であった。

 

「念動力者……厄介だな。早々に舞台から退場して頂こう、オルバよ」「そうだね、兄さん」

「ゴタゴタうるせえぞ、ゲテモノ兄弟ッ! テメェらの事情なんざ知ったことか! 謂われのない迫害には同情してやるが、それを世界に八つ当たりするのは筋が通らねぇ!」

「ッ! 貴様、私たちの思考を読んだか!?」

「邪念にまみれたエゴが丸出しなんだよ、三下ァ!」

 

 フロスト兄弟との戦い。ガロードが奪った新たなる“ガンダム”、《ガンダムDX》と一時的にニュータイプの力を取り戻したジャミルの操る《Gビット》が罠を打ち破り、彼らは退けられた。

 そして、「ミケーネ帝国」の戦闘獣が地上に姿を現したとき、イングは因縁の相手と再会する。

 

「ドリルに、斬艦刀……グルンガスト参式! ならば、あの特機のパイロットは――」

「IFFに識別反応? ……ヒュッケバインEXだと?」

「何万年ぶりになるかは知らないが、奇遇だな、ゼンガー・ゾンボルトッ!」

「貴様、何者だ」

「へぇ、脳みそを洗われたか? まあいいさ、月並みなセリフで恐縮だが、ここで会ったが百年目ってね!」

 

 大地の守護神《スレードゲルミル》。かつての敗北の借りを返すとばかりにイングは猛攻をかける。

 だがその戦いは、ゼンガーの仲間である「アンセスター」のウルズの介入により、中断を余儀なくされる。

 

 プリベンターとアンセスターの会合の最中、イングはウルズから接触を受けていた。

 

「イングと言ったね。どうかな、アンセスターの仲間にならないかい? キミのような特別な存在は、僕らアンセスターと共にあるべきだ」

「だが断る」

「……キミが僕らと同じ人造人間、マシンナリー・チルドレンだとしても?」

「ハッ、そんなもんとっくの昔に知ってら。だけどな、お前らと一緒にすんなよ。オレはオレだ」

「……いいだろう。その選択を後悔するといい、イーグレット・イング」

「それはこっちのセリフだ、イーグレット・ウルズ」

 

 イングはウルズの誘いを一考だにしなかった。

 それは知識によるものだけではなく、直接相対して微かに感じた邪悪な思念を根拠とした拒絶だった。

 

 浚われたティファとエルチを救い出すため、イングの旅は新たな局面を迎える。

 ささいな、あるいは根深いすれ違いが原因で、プリベンターの仲間たちは仲違いを起こす。 

 キエルが月の女王ディアナ・ソエルと入れ替わっていた事実を、竜馬が知っていて故意に隠していたことを発端としたゲッターチームの内部分裂。イングは両者の念の違いから入れ替わりを見抜いていたが、ディアナの心情を思いやってあえて放置していたことを悔いた。

 さらに、ミケーネ帝国の残党の卑劣な策略により操られた鉄也と《グレートマジンガー》が甲児の《マジンガーZ》に襲い掛かる。

 だが、彼らは悪辣な策略をはねのけ、友情を深めた。

 

 洗脳されたエルチがイノセント強硬派の私兵として一行の前に敵立ちふさがり、《アイアン・ギアー》隊内に少なくない混乱が広がる。

 

 恐竜帝国の地球環境の改造に合わせるかのように出現した謎の生命体群――“抗体コーラリアン”。

 遙か昔、イノセントとムーンレィスの祖先が傷ついた地球を癒すために撒布し、大地を覆い尽くした生命体「コーラリアン」の一種であり、生物を無差別に殺戮する凶悪な存在。ゲッコーステイトの真の目的は彼らコーラリアンとの対話と、彼らの完全な覚醒により訪れる「クダンの崩壊」と呼ばれる致命的な破綻を回避することだった。

 さらに、エウレカが人間ではなくコーラリアンであることが発覚し、プリベンター内には少なからぬ動揺が広がっていた。

 

「エウレカが、人間じゃなかったなんて……」

「……それ、そんなに気にするようなことか?」

「だ、だって……、人間じゃないんだよ!? 俺たちとは違う、コーラリアンってわけわかんないので――」

「そうはいうがな、レントン。お前、オレが人造人間だって知ってるだろ? プルは同じようにクローンで身体機能イジられてるし、剛さんちの三兄弟なんか異星人を父親に持つハーフだ」

「あ……」

「もう一度言うぞ。お前の気持ちは、()()()()()で変わるような、安っぽいものだったのか?」

「ごめん……俺がバカだった。そうだよね、エウレカがなんだって関係ないよな。ありがとう、イング!」

「おう。現実なんかに負けんなよ、レントン!」

 

 辛い真実を乗り越えたレントンとエウレカの成長に合わせ、進化を果たした《ニルヴァーシュ type ZERO spec2》が大空を駆け、黒い《ニルヴァーシュ》を退けた。

 「シベリア鉄道公社」総裁キッズ・ムントの思惑により永き眠りから復活した最凶最悪のオーバーマン、《オーバーデビル》。心すらも凍結させる恐るべき力「オーバーフリーズ」によってサラが、そしてゲイナーが取り込まれてしまうものの、ゲインやガロードたちとの熱い友情と自身の強い心によって復活。《キングゲイナー》の真の姿――《XAN-斬-》が、《オーバーデビル》を再び眠りにつかせる。

 旅路の障害をすべて取り除いたヤーパンの天井は目的地、ヤーパン――かつては日本と呼ばれた地域へと旅立っていく。

 

「本当によかったのか、一緒に行かなくて」

「いいんだ。僕は僕のエクソダスを探したい……だからまず、この星を平和にすることから始めようと思う。プリベンターのみんなに協力してね」

「へぇ、元ヒッキーのゲイナー君からそんな勇ましい言葉が聞けるとはね。お兄さんビックリだ」

「……イング、バカにしてるの?」

「してないよ。ま、そういうことなら歓迎するよ。改めて、よろしくな」

 

 ゲイナーやゲイン、サラなどの一部のメンバー、そして《ドミネーター》のパイロットとして幾度となく交戦したシンシア・レーンがプリベンターに残り、地球の平和を取り戻すために尽力することを約束した。

 

「で、アナ姫はご自宅にお帰りにならなくてよろしいので?」

「わたくしも、この星に住まう民の一人としてプリベンターの皆様に協力いたします。月のディアナ様だっていらっしゃるんですもの。……それに、もしものときはイングが護ってくださるのでしょう?」

「もちろん御守りいたしますよ、姫様」

 

 

 月と地上の争い、そして塔州連合からの妨害が激しくなる中、ヨップポイントに幽閉されたイノセントの指導者アーサー=ランクを救出に乗り出す一行。

 陥落させたヨップポイントに月勢力のモビルスーツ部隊が降下する。ティファを連れて月に帰還することをもくろむフロスト兄弟。彼らが用いた最悪の兵器、核が天地を灼く。

 

 激化する人々の争いを止めるべく、プリベンターは地球と月に別れて悪意の根本を叩く。

 イノセントの拠点「Xポイント」に向かう《アイアン・ギアー》。精神操作されたエルチを解放する。

 ムーンレィスから奪還された《ラー・カイラム》が宇宙へ翔ぶ。月のムーンクレイドル、“D.O.M.E”との接触し、封印された“黒歴史”を垣間見る。

 そして降臨する月の“戦闘神”。ギム・ギンガナムの《ターンX》とロランの《∀ガンダム》が激突し、《月光蝶》の輝きが空を覆う。

 

 別れたヤーパンの天井からの情報で、エイジア大陸近くにある「ロストマウンテン」に調査に向かうプリベンター。

 かつての日本、今はヤーパンと呼ばれた地で、恐竜帝国に奪われた《真・ゲッターロボ》が牙を剥く。

 バット将軍の決死の覚悟により、人類の守護者は最悪の悪魔となり果てた。 

 

「くそっ、サイバスターでも追いつけねぇ! わかっちゃいたが、無茶苦茶だぜ真・ゲッター!」

「このままじゃ甲児がやべぇぞ、イング!」

「わかってる、だが――ッ!? この思念、まさか……!」

「ああ! 絶体絶命の大ピンチに後継機っ、アニメみたいな燃える展開だぜ!」

「――来るのか、魔神皇帝が!」

 

 《真・ゲッターロボ》の前に絶体絶命の危機に陥るプリベンター。捕らえられた甲児のピンチに、遥か数千年を時を超えて最強の魔神“魔神皇帝”が蘇る。

 対決する《マジンカイザー》と《真・ゲッターロボ》。天地を揺るがす鋼の巨神同士の戦いは、仲間と、そしてマジンガーとの友情によりプリベンターの勝利に終わった。

 《マジンカイザー》と《真・ゲッターロボ》――心強い戦友にして最強のスーパーロボットたちを仲間に加え、プリベンターの戦力はかつてのロンド・ベルと比べても遜色のないものとなった。

 

 そして――

 

 

    †  †  †

 

 

「アーマラ! なぜアンセスターに力を貸す! ヤツらはお前を利用するだけして、最後は殺すつもりだぞ!」

「言ったはずだぞ、イング! 私は貴様を倒せればそれでいいのだと!」

「手段と目的をはき違えるな!」

「うるさい、黙れ!」

「このッ、分からず屋が!!」

 

 荒れ果てた大地の上空で、《アッシュ》と《ガリルナガン》が激突する。

 

 この未来世界においても姿を現したカーメン・カーメン、ヌビアコネクションを打倒したプリベンター一行の前に、ゼンガー・ゾンボルトの《スレードゲルミル》とアーマラ・バートンの《ガリルナガン》が現れた。

 仲間の協力で《スレードゲルミル》を退けたイングは、助太刀を辞してアーマラとの決着に挑む。己の力だけで彼女に勝利し、その歪んだ――歪められた妄執を断ち斬らんと。

 

「奴を逃すな、ガリルナガン!」

「迎え撃つぞ、アッシュ!」

 

 魂魄から肉体を通じて発現する力――強念が両者の鋼鉄の巨神を機動させ、天地を揺るがす。

 重力の砲撃が、遠隔誘導兵器が、剣と斧が閃いた。

 

「ぐあ……っ!? ッ、あんな継ぎ接ぎの機体に、ガリルナガンが押されているだと!?」

「阿呆が! 機体のスペック頼りで、中身が劣化してるんだよ!」

 

 イングはロンド・ベルの一員として、バルマー戦役の最前線を生き抜いた歴戦の戦士である。アーマラとて同じだろうが、その密度や質は段違いと言っていいだろう。

 何者かから与えられた基礎能力に経験に裏打ちされた高い技量、そしてこの未来世界においてなお高まり続ける彼の念が合わさり、ついには絶対的な機体性能の差を覆したのだ。

 

「おのれイングッ、イーグレット・イング!! 虚空の彼方に消え去れ!!」

 

 激昂するアーマラは機体のリミットを解除し、放つ一撃に必殺の意志を掛ける。

 

「TーLINK、フルコンタクト! 唸れ、トロニウム・レヴ!!」

 

 《ガリルナガン》の漆黒の外装に施された真紅の意匠が輝き、放出されたアキシオンが幾何学的な文様を虚空に描き出す。

 陣の中央に設置された《バスタックス・ガン》、それから放たれた幾条もの紅黒い光によって生み出された法陣が《アッシュ》を捕らえ、無数の黒い弾丸が打ち据える。

 そして、球体状の結界が形成された。

 

「デッドエンド・スラァァァァッシュ!!!」

 

 アーマラの叫びと共に振り抜かれた《バスタックス・ガン》。結界が切り裂かれ、大爆発を引き起こした。

 

「やったぞ! これで私が最強の――」

「――誰が誰をやったって?」

 

 《ガリルナガン》の最強兵器、《アキシオン・アッシャー》により勝利を確信したアーマラに冷や水をかける声。

 爆煙が晴れ、手負いの騎士が姿を現す。

 

「ば、馬鹿なっ、アキシオン・アッシャーを耐え抜いただと!?」

「勝利を前に勝ち誇るのは、三流の証拠だぜ?」

 

 イングが不敵な言葉を言い放つ。

 パッチアーマーの大部分とコーティング・クロークを失ってはいたが、確かに《アッシュ》は健在だった。

 イングの強力な念動フィールドに護られ、致命傷を免れたのだ。

 

「アーマラ、お前の歪んだ願いを解放してやる。――TーLINK、フルコンタクト! オォォバァァァッドライブ!!」

 

 イングの人知を超えた強念がTーLINKシステムのブレーカーを落とし、強制的にウラヌス・システムを発動させた。

 しかし、搭乗者の念を際限なく吸い取るウラヌス・システムですら彼の莫大な念には耐えきれず、サーキットは悲鳴を上げる。

 

「限界を超えろ、アッシュ! ヤツの魂を縛る邪念、それを今断ち斬る!!」

「き、機体が……! ガリルナガンのTーLINKシステムに、外部から干渉しているとでも言うのか……!?」

 

 天地を揺るがす強念によりゆっくりと浮かび上がる《アッシュ》から、鮮烈な蒼白い光を放出される。

 物理現象を伴った念動波が、機能不全を起こして身動きの取れない《ガリルナガン》を襲う。

 

「オオオオ――ッ!!!」

 

 内外からの干渉で、完全に動きを封じられた《ガリルナガン》を眼下にする《アッシュ》。肩に担いだ《TーLINKセイバー》の刀身を、目に見える念動波が包み込む。

 迸る蒼白の輝きは、さながら《スレードゲルミル》の《斬艦刀》のように長く、そして雄々しく延びていく。

 

「行くぜ、アーマラ! 念動解放! 極大ィィイイッ、念、動、破、斬……けぇぇぇぇん!!!」

 

 振り下ろされる光の剣。煌めく極光を伴った大斬撃が、《ガリルナガン》に降り注ぐ。

 切っ先が大地を貫き、巨大な亀裂を走らせる。

 漆黒の狩人は、溢れる光の濁流に飲まれていった。

 

 

 《極大念動破斬剣》の直撃を受けて墜落した《ガリルナガン》は白煙をあげ、山肌にもたれ掛かるようにして停止していた。

 狭く、薄暗いコクピットで膝を抱えた()()の髪をした少女は、頭上から射し込んだ光にゆっくりと顔を上げる。

 真赤な夕日に染まる銀色の髪――

 

「――なんだ、やっぱかわいい顔してんじゃん」

 

 銀髪の少年――イングが快活な笑みを浮かべて言う。

 ルビーのように紅い瞳は、どこか面白がるような色が浮かんでいた。

 

「……なぜ、トドメを刺さない」

「何度も言うが、オレは邪悪なヤツ以外は斬らないんだよ」

「……私に生き恥をさらせと言うのか」

「ちげーよ。どうしてお前って、いちいち物騒な考えた方しかできないの?」

 

 今なお頑ななアーマラの態度に呆れ顔をしたイングは表情を改め、朗々と語り始めた。

 

「オレは、マシンナリー・チルドレン――、父も母もいない作り物だ。きっとこの“世界”にとっては()()なんだろうな……だけど、そんなオレにも仲間ができて、世界を、地球の平和を護れてる。お前のいう“価値”を手に入れることができたんだ。これって、すごいことだと思わないか?」

「私は……」

「帰ろうぜ、アーマラ。オレたちの時代にさ。後のことは、それから考えればいい。なんだったら、また挑戦してこいよ。殺し合いは御免だけどな」

「……本当に、帰れるのか……?」

「根拠なんてねぇ。でも、そうなるし、そうするべきだって思ってる」

 

 イングはなんの迷いもなく断言した。

 不敵で不遜な、けれどどこか頼もしい物言いに、思わずアーマラから笑みが零れた。

 

「さあ、そんな狭いところで丸まってないで、出てこいよ」

「…………」

 

 再び明るい笑みを浮かべ、少年は手を差し出す。

 少女はわずかに逡巡し、そして躊躇いがちに手を取った。

 

 

   †  †  †

 

 

 アーマラと和解し、彼女を仲間に加えたイングとプリベンターは、未来世界の争いにピリオドを打つべく決戦に赴く。

 

 旗艦《ラー・カイラム》の格納庫。

 予備のパッチ・アーマーとコーティング・クロークを取り付けられた《アッシュ》の前で、イングはリュウセイ、ヴィレッタとともにアーマラから話を聞きだしていた。

 

「アーマラ、アンセスターについて、何か知っていることがあれば教えてくれないか」

「……おそらく私の知識は、お前たちが知っていることと大差ないだろう。この時代に来た私を保護したのが彼らだったが、イングの言うとおり利用されていたのだろうな、重要な施設などには近付けなかった」

「じゃあ、ガリルナガンは? あれはどんな機体なんだ?」

「ヤツらは、ブラックボックスがどうのと言っていたな」

「ブラックボックス……?」

「ああ。それを解析して得ることのできた技術の極一部を、試験的にEXに組み込んだのがガリルナガンなのだそうだ」

「なるほど、ね。……そのブラックボックスとやら、オレたちの時代に帰る鍵になりそうだな」

「? どういうことだよ?」

「もしもそのブラックボックスとやらが少佐の“あれ”なら、それくらいできそうだろ?」

「そりゃ言えてるな」

「……(相変わらず、妙なところで核心を突く子ね)」

 

 

 ギンガナム艦隊との決戦。

 

「この世界を、黒歴史にさせてたまるかぁーっ!」

 

 自らのエゴを肥大化させ、戦争のための世界征服をもくろんだギンガナムは、激闘の末《∀ガンダム》の《月光蝶》により消滅。

 Xポイント。封印を解かれた核兵器が乱れ飛ぶ中、ジロンは《ウォーカーギャリア》で因縁の相手ティンプ、そしてイノセントの黒幕カシム=キングと決着をつける。

 

「過ちは、繰り返させない!」

「……あなたに、力を……」

 

 ガロードとティファの絆が《ガンダムDX》に力を与え、時代を拓くために戦争という手段しか取れないフロスト兄弟と、黒歴史に魅了されて離反したグエンに引導を渡す。

 こうして強敵たちを退け、プリベンターは黒歴史の再現を防いだのだった。

 

 塔州連合の地殻破壊爆弾「オレンジ」によるコーラリアン殲滅作戦――

 《spec3》に最終進化した《ニルヴァーシュ type ZERO》とレントンが《抗体コーラリアン》の群を突破して、「指令クラスター」とされたエウレカを救うべく大空を行く。

 プリベンターとゲッコーステイトのメンバー、ガロードやゲイナーの活躍で見事エウレカは救い出され、コーラリアンは人類と和解し宇宙へ旅立つ。

 

 コーラリアンの一部が新天地を求めて地上を離れ、静まったのを待ちかねていたようにミケーネ帝国と恐竜帝国が地上を手中に収めるべく、本拠地「マシーンランド」を露わにして最終決戦に打って出た。

 激戦に次ぐ激戦。

 敵の大軍勢を前に窮地に陥ったプリベンターを助けるため、銀色に染まった《ニルヴァーシュ type the END》とアネモネが、塔州連合やディアナカウンターの心ある者たちとともに参戦。ミケーネ帝国の暗黒大将軍は倒され、恐竜帝国の帝王ゴールは轟沈する《無敵戦艦ダイ》と運命をともにした。

 

 地上に残る戦乱の元はアースクレイドル、アンセスターのみ。

 アースクレイドルの直上で、プリベンターとアンセスター、この時代の未来を掛けた最終決戦の火蓋が切って落とされた。

 新西暦からの因縁を断つべく、イングは大地の守護神《スレードゲルミル》に立ち向かう。

 

「決着をつけるぞ、ゼンガー・ゾンボルト!」

「我が剣に賭けて、メイガスの許には行かせん!」

「無駄だ! 悪を斬らぬ貴様の曇った剣など、オレには届かん!!」

 

 《星薙の太刀》を潜り抜けて放たれた《アッシュ》の渾身の剣を受け、倒れた《スレードゲルミル》。それにより正気を取り戻したゼンガーを仲間に迎え、プリベンターはアースクレイドルを目指す。

 ――“マシンセル”の散布による人類抹殺を目指すアンセスター、メイガスの暴走を食い止めるために。

 

「まさか、アンタと(くつわ)を並べて戦うことになるとはな」

「お前の一太刀、確かに俺の魂に届いた。見事な剣だった……礼を言う」

「へへ……ま、達人のアンタからそう言われるのは悪い気しないな」

 

 

 アースクレイドル内部。

 突入したプリベンターを、《量産型ヒュッケバインMkーII》がマシン・セルにより変異した大量の《ベルゲルミル》が迎え撃つ。

 

「ウルズ! お前たちの相手をしている暇はない、そこを退け!」

「くっ! そんな旧式のパーソナルトルーパーで、僕とベルゲルミルと互角に渡り合うなんて!」

「パイロットの差だな、イーグレット・ウルズ!」

「これだけの力を持ちながら、どうして愚劣な人間の味方などをする! イーグレット・イング!」

「オレは、お前たちのようにヒトに期待してないからな。過度に期待していないから、どんなことだってありのままに受け止められる。それだけだよ!」

「期待!? 馬鹿なっ、僕らは新人類、この地球の正当なる後継者だ。愚かな人間などに期待を掛ける道理がない!」

「なら何故、何万年もたった今になって行動を起こした? 新人類だ何だ、核ミサイルだ何だと言ってるが、お前らは結局のところ人間に期待していたんだろう? それを裏切られて逆上している。違うか!?」

「っ、黙れッ、黙れェェェエエ!!」

 

 イングと《アッシュ》は自身の兄弟、あるいは分身とも言える三人のマシンナリー・チルドレンと《ベルゲルミル》を撃破する。

 

「我が名はメイガス、アンセスター、そして地球の管理者……。人間共よ、お前達は地球という巨大なシステムには不要な存在……お前達が長きに年月に渡って愚かな戦いを繰り広げ、地球を汚染し続けて来た罪は、このアウルゲルミルによって裁かれなければならない……!」

 

 そしてアンセスターの首魁、メイガス――アースクレイドルのメインコンピュータとマシンセルによって操られたソフィア・ネート博士との決戦を迎えた。

 

「認めよう、イーグレット・イング。我々は人間に期待していた。それ故に、長い時を雌伏し、世を見守り続けていたのだ」

「潔いじゃないか、メイガス! なら改心して思い直すか?」

「だが、それだけに理解できない。どれだけの時を経ても変わらない人間の醜悪さを目の当たりにしたお前が、どうしてその人間のために戦えるのです?」

「ただ、信じているからだ」

「信じる? 何を?」

「ヒトの心の光ってヤツをさ!」

 

 アースクレイドルの根幹コンピュータがマシン・セルによって変貌したモノ、メイガスそのものとも言える機動兵器《アウルゲルミル》。薔薇の花弁と(イバラ)をイメージさせる機械の女神が、人類に裁きを下そうとプリベンター連合軍と対峙する。

 《アウルゲルミル》はバルマー戦役、そしてこの未来世界での戦いを勝ち抜いたプリベンターをして圧倒するほどの力を有していた。

 

「コンビネーションアタックでいくぜ、イング!」

「応ッ、TーLINKダブルコンタクト! シーケンスTDK!」

「天上!」

「天下!」

「「念動連撃拳ッ!!」」

 

 《アッシュ》と《Rー1改》の拳が《アウルゲルミル》を打ち据える。

 《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《Hiーνガンダム》、《ダイターン3》、《ブライガー》、《Zガンダム》、《YFー19》――新西暦からの仲間たちが。

 《∀ガンダム》、《ウォーカーギャリア》、《ガンダムDX》《XAN-斬-》、《ニルヴァーシュ type ZERO spec3》――未来世界で出会った仲間たちが。

 プリベンターの総力戦。怒涛の攻撃により、《アウルゲルミル》はマシンセル大ダメージを負った。

 

「おい、イング! あのメカは――」

「ああ。あれが例のブラックボックスってヤツか……予想通りだよ、畜生め!」

 

 追い詰められたメイガスは、《アウルゲルミル》によって支配したブラックボックス――見るも無惨な姿となった《アストラナガン》の“ティプラー・シリンダー”を用い、過去の改竄を目論む。

 開かれたタイム・ゲートを潜り抜けた先に広がっていたのは、新西暦一八八年、月面はムーンクレイドル。

 未来世界の戦いにおいて重要な部分を担った場所であり、今まさにイージス計画が発動するそのときだった。

 

 ムーンクレイドルを破壊し、未来を確定させようとするメイガス。新西暦に残っていたSRXチームを仲間に迎えたプリベンターは、それを阻止しようと決死の抵抗を続ける。

 

「ヒトが同じ愚行しか繰り返さないのは、黒歴史が証明している……私はそのメビウスの輪を断ち切るのだ」

「言ってやるぜ、メイガス! 貴様は間違っている! 貴様が抹殺しようとする人類もまた、天然自然の中から生まれたもの、いわば地球の一部! それを忘れて何が自然の、地球の再生だ! 共に生き続ける人類を抹殺しての理想郷など、愚の骨頂ッ、ってな!」

「ッ、世迷い言を……!」

「メイガス! 貴様の邪念、この俺が断ち斬る!」

 

 イングは自らのルーツ、その因縁を断つべく剣を振るう。

 激闘の末、メイガスを撃破したプリベンター。ほっとしたのも束の間、マクロス・シティで倒したはずのシュウ・シラカワが《グランゾン》とともに再びプリベンターの前に立ちはだかった。

 

「もう一度聞くぞ、シュウ・シラカワ! 貴様の目的は何だ!?」

「この世界を正しい姿に戻すためですよ。全てを破壊し再生することによって、世界は救われるのです」

「何にとっての正しい姿、誰にとって救いだ!」

「フッ……何であれ、元凶は根源から断たねばならない……いずれ、 それをわかるときが来ることでしょう。最強の念動者……最も()()に近いサイコドライバー、イーグレット・イング、あなたは特にね」

「何……!?」

 

 強敵《メカギルギルガン》と《ゴーストXー9》を引き連れて現れた彼は、もはや問答無用とばかりに《ネオ・グランゾン》で攻撃を仕掛ける。

 《縮退砲》の恐るべき威力に壊滅的な打撃を受けるプリベンター。だが、彼らは諦めない。連戦により満身創痍になりながらも、果敢に立ち向かう。

 そして死闘の末、マサキの精神の高ぶりに呼応して精霊憑依(ポゼッション)した《サイバスター》の《コスモノヴァ》が、《ネオ・グランゾン》にトドメを刺した。

 

「み、見事です、マサキ……このネオ・グランゾンを倒すとは……」

「シュウ!」

「これで、私も悔いはありません……戦えるだけ戦いました……。全てのものは……いつかは滅ぶ……今度は私の番であった、それだけのことです……。これで私も、全ての鎖から解き放たれることが……出来、まし、た……」

 

 爆発する《ネオ・グランゾン》と運命を共にするシュウ。

 

「シュウ……、バカな……ヤツだったぜ……くそっ!」

 

 

 結集したプリベンターのスーパーロボットたちの超エネルギーによりイージス計画は発動し、超重力崩壊による危機は回避された。

 ここに未来は分岐し、新たなる時を刻み始める。

 ソフィア・ネートとしての自我を取り戻したメイガスは、自身の行いを悔い、未来世界の人々をあるべき場所へと還すために最後の力を振り絞る。

 

「アンタも帰るんだな、ゼンガー」

「……ああ。メイガスを、ソフィアの魂を未来に送り届けてやらねば。俺たちが在るべき場所は、あの未来だ。この時代ではない」

「そっか」

「……イング。もし、この時代の俺に出会ったときには――」

「そのときには、改めてケリをつけてやるよ。遠慮なんてしねーから安心しろ」

「フッ……災難だな、この時代の俺も」

 

「イング、プリベンターのみんな、僕らの世界を護ってくれてありがとう。みんなのおかげで、僕らは前に進めた気がする」

「イングのアドバイスがなかったら、俺、エウレカとわかりあえなかったかもしれない。ほんとにありがとう!」

「じゃあなみんなっ、元気でな!」

 

「ああ、お前らもな! あと、サラとエウレカとティファと仲良くしろよ。羨ましいぞチクショウ、爆発しろ!」

 

「さ、最後の最後でそれかよぉ」

「あははは……まあ、イングだしね」

「変わらないよな、アイツは」

 

 仲間と、友との別れを告げるイング。

 彼らは《アウルゲルミル》の導きにより、新西暦から未来世界へと帰っていった。

 

 プリベンターの帰還とイージス計画完遂を見て、ムーンクレイドルに接近する連邦軍の艦隊を眺め、アーマラがつぶやく。

 

「終わった、か……。ティターンズの私は、これから……」

「気にすんな。これからのことは、これから考えればいいさ。……なんたって、俺たちには時間がたっぷりあるんだから」

「……ふふ、そうかもな」

「あ、笑った。やっぱかわいいな、お前」

「! ば、バカっ!」

 

 ――こうして、バルマー戦役から端を発したイージス計画にまつわる戦いの幕は下り、地球圏にはつかの間の平穏がもたらされたのだった。

 



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番外編「アーマラ日記」

 

 新西暦188年 1月9日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 イングが似合わぬことに日記などを書いているらしいで、私も始めてみることにした。

 

 “イージス事件”から幾ばくかの時間がたった。

 未来世界の者たちは、メイガス――ソフィア・ネートが最後の力を振り絞り、送還された。無論、ゼンガー・ゾンボルトもである。

 プリベンターは目的を果たし、解散。詳細は知らないが、それぞれあるべき場所へと帰ったのだろう。

 そして、ティターンズが崩壊して拠り所をなくした私は、現在月のマオ・インダストリー社で世話になっている。

 主にパーソナルトルーパーのテストパイロット紛いのことをして、日々を過ごしている。

 

 正直戦犯としてを裁かれることを覚悟していたのだが、いささか拍子抜けした。

 フォウ・ムラサメやエルピー・プル、プルツーなどの前例があるとはいえ、プリベンター――ロンド・ベルとはなんとも甘い組織だ。

 ……私としては不本意なことに、イングが同行している。肩書きと名目は「国際警察機構からの監視員」らしい。なんでだ。

 まあ確かに、そうでもなければ私は戦犯として連邦軍に拘束されてしまうのは間違いないだろうが……イングはいつ国際警察機構に渡りを付けたのだろう。あるいは、バルマー戦役の時点でコネクションを確保していたのかもしれない。

 

 現在、私たちがこのマオ・インダストリー社に留まっている理由は《エクスバイン・アッシュ》のオーバーホールと、これからの乗機を受領するためだ。

 未来世界から持ち込んだ《ガリルナガン》は調査の後、解体され、厳重に封印されることが決定している。これはSRX計画が凍結されたRシリーズにも同じことが言える。なぜか《アッシュ》はそのまま運用されるらしいがな。

 

 それで、「とりあえず乗っとけ」とばかりに《量産型ゲシュペンストMkーII》を与えられた。

 《ガリルナガン》は元より《ヒュッケバインEX》にも劣る機体だが、バルマー戦役以前から扱っていたので違和感はそれほどでもない。難点を言えば、SRX計画凍結のあおりを受けてTーLINKシステムが搭載されていないことか。

 ……《アッシュ》がオーバーホール中なことを幸いに、奴と同じ機体で模擬戦を挑んだが、あっさり返り討ちにされた。わかってはいたが、奴の技量は本物だ。

 

 あと、イングが「イング・ウィンチェスター」と改名した。自称だが。

 なんでも「いつまでもイーグレット呼ばわりされるのは我慢ならん」のだとか。

 しかし、未来世界から帰還し、戦場ではなく日常の中で接してわかったことだが、戦士としてのイングは真面目で勇ましく頼もしい限りなのだが、プライベートのイングは一言で言って……アホだ。ミーハーで、軽薄で、言動が一般人となんら変わりない。マシンナリー・チルドレン、人造人間という重い宿命を背負った人間だとはとても思えない男だ。

 先日もマオ社の女社長、リン・マオをナンパしてあっさりあしらわれていたし。

 あんな奴に対抗心を燃やし、あげく敗北した自分が情けない。なんというか、完全に毒気が抜かれた気分だな。

 

 

 

 新西暦188年 1月12日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 トレーニングルームで流した汗をシャワーで流し、食堂へ赴いた際「バルマー戦役のとき、お前は何してたんだ?」とイングに問われた。私の経歴を調べていて興味を覚えたようだ。

 この時代に帰還して後、国際警察機構の事情聴取で粗方のことは話したが、彼はもう少し込み入った経緯が知りたいらしく、あんまりしつこいのでしぶしぶ語ってやることにした。

 

 8年前の「一年戦争」で両親を失って孤児になった私は、念動力の素養に目をつけた特殊脳医学研究所に引き取られた。そのため、ケンゾウ・コバヤシ博士はもちろん、その娘でSRXチームのアヤ・コバヤシ大尉とも面識がある。イングラム・プリスケンとは直接の面識はないが、存在は知っていた。

 特脳研での日々は過酷で思い出したくもないものだが、さておき。彼らの最終目的である汎超能力者(サイコドライバー)たり得ないと判断された私は、連邦軍に半ば入隊させられることになる。およそ3年前、私が14歳の頃だ。

 それからは《量産型ゲシュペンストMkーII》を駆り、連邦軍の兵士として生きてきた。特脳研では連邦軍のパイロット養成機関「スクール」と同程度の訓練を受けていたし、失敗作扱いするものたちを見返すためにあらゆる努力は惜しまなかった。

 まあ、あの頃の私は相当荒れていたから上司にはだいぶ迷惑をかけたと今では思う。キタムラ少佐は、今も元気にしてらっしゃるだろうか。

 

 バルマー戦役当時、私が乗っていたネルガル重工の試作型戦艦《ナデシコ》は、ジュピトリアンの一派「木連派」と呼ばれる連中と主に戦っていた。

 ネルガル重工が独自に推進していた火星探査計画「スキャバレリプロジェクト」に、連邦軍からの監視役の一人として参加した私は紆余曲折あり、最終的にはメガノイドの反乱以来破棄されていた火星の極冠に隠されていたプロトカルチャー、先史文明の遺産を巡って雌雄を決した。時期的にはちょうど、ロンド・ベルが雷王星でSTMC駆逐作戦を敢行していたあたりだろうか。

 彼らは新西暦が始まって間もない頃、当時の連邦政府の不当な棄民政策により木星へと追われた者たちであり、後にやってきた木星の者たち、ジュピトリアンと結託して地球圏に侵攻してきた。

 木星の衛星に残されていた先史文明の遺産(これは《ナデシコ》の相転移エンジン等にも言えることだが)を解析して生み出した無人兵器(戦役当初はエアロゲイターと誤認されていた)や特機タイプの有人人型機動兵器、そして“ボソンジャンプ”と呼ばれる時空間転移の一種が彼らの武器だった。おそらく、エアロゲイター系のEOTも組み込まれていると思われる。

 戦争に敗北した現在は、一部が改心して連邦政府に組み込まれているものの、大多数は未だ姿を眩ましたままだ。新たな戦乱の芽になることは明白だろう。

 連邦政府はボソンジャンプについてあまり重要視していないらしく(フォールド技術の方が遙かに安全性、汎用性の高い技術だからだろう)、《ナデシコ》の連中が「演算ユニット」――ボソンジャンプの根幹を司る先史文明の遺産だ――を外宇宙に破棄したことについて罪に問うていない。これは、こちらに帰還してから私自身が調べてわかったことだ。

 

 イングは特に《ナデシコ》艦長のミスマル・ユリカと、コックから《エステバリス》パイロットに転身した変な奴、テンカワ・アキトの動向について聞きたがっていた。私は二人が軍を抜けたことしか知らなかったが、彼はどこか納得して様子だった。

 そういえば、バルマー戦役終戦までともに戦い抜いた《エステバリス》パイロット、ヤマダについて話したときに驚かれたっけ。フラグがどうのとしきりに感心されたが、あれはいったい何だったんだ……?

 

 

 

 新西暦188年 1月17日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 ここ数日、イングの姿を見かけていない。

 なんというか、訓練に張り合いがない。余りに気が抜けすぎて、《ゲシュペンスト》を使った実機試験のスコアを落としてしまった。

 ……我ながら、不甲斐ない。

 

 

 

 新西暦188年 1月22日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 イングが帰ってきた。

 彼は、元SRXチーム隊長ヴィレッタ・バディム大尉と見知らぬ男女四人を連れて、ふらりと現れた。

 私が事情を尋ねると、イングは笑って彼らを紹介した。

 クスハ・ミズハ――、汎超能力者サイコドライバーと目される少女。《龍王機》の操者。

 ブルックリン・ラックフィールド――、クスハ・ミズハの恋人であり、イングラム・プリスケンに見出された被検体の一人。《虎王機》の操者。

 リョウト・ヒカワ――、クスハ・ミズハと同等の強念を持つサイコドライバー候補。《ヒュッケバインMkーIII》のパイロット。

 リオ・メイロン――、リョウト・ヒカワのパートナーであり、実践レベルの念動力を持つ能力者。《AMガンナー》のパイロット。

 

 彼らは旧SDF艦隊ロンド・ベル隊の主要メンバーであり、イングの戦友たちだった。

 どうやらイングはヴィレッタ大尉に協力して、拘留されていた彼らを秘密裏に救い出していたらしい。曰わく「国際警察機構のエキスパートになるなら、これくらいできなきゃな」とのこと。

 

 4人の今後についてだが、リョウト・ヒカワ、リオ・メイロンがここマオ社で、クスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールドが日本地区で隠遁する予定だ。

 とはいえ、彼らの解放は軍上層部の穏健派、あるいは良識派と呼べる勢力の意向が絡んでおり、連邦政府からの本格的な追っ手というのはないものと思われる。

 あと、イングからは「クスハやリョウトを紹介したら問答無用で勝負を挑むと思って警戒してたんだが、お前案外冷静なのな」などと感心された。

 奴め、私をなんだと思っている。私が勝ちたかったのは“最強の念動力者”であり、他の者などどうでもいいのだ。

 

 

 

 新西暦188年 1月24日

 地球圏、月 コペルニクス

 

 休日というわけではないが、外出が許可された私たちは自由都市コペルニクスに訪れた。

 短い間とはいえ軟禁されていたクスハらも、羽を伸ばしていたようだった。だがイング、「トリプルデートだな」じゃないぞ。

 

 私の銀行口座は凍結されてしまっていたため、マオ社の方から与えられたお金(テストパイロットの給金らしい)で私服や細々とした小物類、生活必需品を買い求めた。

 イングは月限定カラーの《ヒュッケバインEX》のプラスチックモデルを買い、ことさら喜んでいた。

 期限のすこぶるいい奴からお裾分けだと同じものを渡されたのだが、これどうしよう? ……捨てるのももったいないし、作ってみるかな。

 

 

 

 新西暦188年 1月27日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 今日は一日医務室の世話になった。クスハが持ってきた自作の健康ドリンク(とは言いたくないが)が原因だ。

 「案外悪くない」というイングの言葉を信じた私が馬鹿だった。

 奴の味覚、特に甘味に対する感覚はどこかおかしいからな。いや、私もスイーツは好きだぞ?

 

 

 

 新西暦188年 1月31日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 今日、クスハとブルックリンが日本に旅立つ。

 リョウトとリオ、イングは別れを惜しんでいた。……もちろん、私も。

 戦いは私たちに任せ、平和に暮らしてほしいと思う。

 少ししんみりとしてしまったな。我ながら似合わない。

 

 

 

 新西暦188年 3月5日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 この日記を書くのもずいぶん久しぶりだ。サボっていたわけではない、日記帳が手元になかっただけだ。

 

 試作兵器の試験のために降りた地上にて、《量産型ゲシュペンストMkーII》と《量産型ヒュッケバインMkーII》で模擬戦をしていたときのことだ。

 不可思議な光に包まれた次の瞬間、広がっていたのは見知らぬ光景……。

 地底世界ラ・ギアスに召喚された私とイングは、運良く遭遇することができたマサキ・アンドーら現地の人間と協力して、ラングランシュテドニアス間の動乱――“春秋戦争”を鎮めるために尽力した。

 私たち以外にも、現ロンド・ベル隊のメンバーや兜甲児ら極東地区の特機乗り、さらにはラ・ギアスと同じ地球のインナーワールドであるバイストン・ウェルからショウ・ザマらが呼び寄せられている。

 また、同じくラングランの一員として別の場所で戦っていたリューネ・ゾルダークや、経緯は省略するが蘇ったシュウ・シラカワにも地上人が協力していたようだ。

 

 余談だが、イングはイージス事件の時点でセニア・グラニア・ビルセイアに、ガンダムもといヒュッケバイン顔の超魔装機《デュラクシール》開発の協力を約束しており、代償に「ラプラスデモンタイプコンピュータ」を《アッシュ》に搭載することを求めていたらしいが、肝心の《アッシュ》を持ってきていないために泣く泣く諦めている。いい気味だ。

 代わりにマサキからエーテル通信機なるものを預けられている。「妙なことで呼び出すなよ」と釘を差されてもいた。

 しかし、私にはこれが厄介事の種にしか思えないんだが。

 

 

 

 新西暦188年 3月10日

 極東地区、上海 梁山泊

 

《アッシュ》のオーバーホールが終了したことを受け、私たちは再び地上に降りた。

 テストパイロットをした礼だろうか、私はマオ社から「ゲシュペンスト強化改造計画ハロウィン・プラン」により先行量産された《量産型ゲシュペンストMkーII改》を与えられた。カラーリングは《EX》と同じにしてもらった。

 現場からの意見で強化された機体とあって悪くない性能だ。もっとも、ハードポイントによる換装機能はタイプN以外使わないだろうがな

 

 無茶が祟ったからだろう、《アッシュ》のオーバーホールは予定の期間を大幅に越えてしまった。制作を担当したマーク・ハミルとロバート・H・オオミヤの両氏によれば、現状のままの《アッシュ》では早晩追随性の性能限界に達するそうだ。

 すでにイングの念は通常のTーLINKシステムでは受け止めきれず、イージス事件後半での《アッシュ》は常時リミッターのないウラヌス・システムで機動していた有様だ。

 だが、念動力の権威であり、特脳研出身の私とも浅からぬ縁のあるケンゾウ・コバヤシ博士は現在、SRX計画凍結とイングラム・プリスケンのスパイ活動の影響で連邦軍に危険視され、軟禁されてしまっている。故に、TーLINKシステムの根本的な改良は難しい。

 暴走の危険性のあるウラヌス・システムに頼らざるを得ないイングはしかし、「とりあえず、だましだましやるさ」とあっけらかんと言い放った。恐れというものを知らないのか。

 

 さておき、今後私はイングとともに国際警察機構のエキスパートとして、平和維持活動に従事することになっている。

 侵攻が下火になったとは言え、地下勢力の大多数は健在であり、さらにはジオンの残党やBF団を始めとした人類勢力も蠢動している。ビアン・ゾルダーク博士が残した言葉、「人類に逃げ場無し」という状況は未だ続いているわけだ。

 私とて、この星の平和のためにバルマー戦役を戦い抜いた連邦軍の兵士だ。地球人として、命をかけるのもやぶさかではない。イングとコンビを組まなければならないというのは不本意だが、な。

 

 

 

 新西暦188年 3月13日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 エキスパートになるための試験を受けた。

 諜報活動についての基本的な訓練は受けていたから、知識実技ともに問題ない。純粋な戦闘能力にしても、シングルアクションの大型拳銃、いわゆるデザートイーグルを二挺を使った生身でのCQCを披露して認めさせた。

 「デザートイーグルでガン=カタとか、ハリウッド映画みたいだな」とイングが感想をこぼしていた。まったく失礼な言いぐさだ。念で銃弾の軌道を曲げられるアニメーションのようなお前にだけは言われたくない。

 ともなく、これで晴れて私もエキスパートというわけだ。

 

 

 

 新西暦188年 3月17日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 同僚となる草間大作と銀鈴と挨拶した。

 確かに銀鈴は同性の私から見ても美人だが……鼻の下を伸ばすな、馬鹿者。

 

 

 

 新西暦188年 3月20日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 風の噂で耳にはしていたが、国際警察機構の特A級エキスパート、九大天王の身体能力は異常だ。そのライバルたる十傑集が、生身でMSやPTを破壊するというのもあながちホラというわけでもなさそうだ。

 だが、その特A級エキスパートと同等に動けるイングはさらにおかしい。「オレって、マシンナリー・チルドレンだから」じゃないぞ。

 訓練施設で、廃棄寸前の《ジムII》をビームサーベルらしきものでバラバラにしていて絶句した。どうなってるんだ、アイツは……。

 

 

 

 新西暦188年 4月20日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 全ての訓練課程を終えた私とイングは、明日国際警察機構のエキスパートとして初の任務に出る。

 すでにA級エキスパートとされたイングに与えられた識別コードは「101(ワンゼロワン)」。国際警察機構の長官、黄帝・ライセが決めたのだという。

 特別扱いに思うところがないではないが、奴の超能力は反則的であることは間違いない事実だ。ただし、デスクワークや本格的な諜報活動は得意ではないようだから、私がフォローしてやらねばならないだろう。

 まったく、手の掛かる奴だ。

 

 

 

 新西暦188年 5月16日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 久々に梁山泊に帰ってきた。かれこれ約1ヶ月ぶりか。

 私とイングに課せられた最初の任務は、「旧SDF艦隊ロンド・ベル隊メンバーの追跡調査」である。

 ロンド・ベル自体はブライト・ノア中佐とアムロ・レイ大尉を中心に再編されたが、軍を抜けた者たちも少なからずいる。解散したリガ・ミリティアのメンバーなどが代表例だな。

 今回我々が動向を調査・特定した中でも特筆すべきなのは《ガンダムF91》のパイロット、シーブック・アノーとそのガールフレンド、ベラ・ロナことセシリー・フォアチャイルドだ。

 二人はなんと、壊滅したクロスボーン・バンガードの残党と結託して「宇宙海賊クロスボーン・バンガード」なる組織の首魁に納まっていた。なんでもジュピトリアンの背後にあった存在、「木星帝国」について独自に調査、抵抗しているのだという。

 木星帝国――、ジュピトリアンの残党というだけではなさそうだな。あるいは木連派の連中を取り込んでいるやもしれん。

 世間がようやく落ち着いたと思ったらこれか。まさに「人類に逃げ場なし」、だな。

 

 

 

 新西暦188年 5月20日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 月のマオ社からロブ(本人からそう呼べと言われた)がやってきた。

 《アッシュ》の改良の目処が立ったという。内容は秘密だと勿体ぶってはぐらかされたが、アナハイム・インダストリーの協力が必要だとももらしていた。

 改良にはイングの意見も取り入れたいとのことで、いろいろと話し合っていた。

 国際警察機構の科学部門主任、ヤン・ロンリーに《アッシュ》の資料などを渡し、ロブは去っていった。今度は北米のテスラ研に寄るのだという。慌ただしいことだ。

 

 

 

 新西暦188年 6月3日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 SRXチームのヴィレッタ大尉と面会した。

 彼女、というか拘留されていたSRXチームはすでに保釈され、独自に任務に就いているらしい。詳細は機密に抵触するためだろう、教えてくれなかった。

 先日ロブの言った「《アッシュ》改良の目処」というのは、あるいは解放されたであろうコバヤシ博士の協力に寄るものかもしれないな。

 

 しかし、未来世界でプリベンターに合流してから感じていたことだが、どうもヴィレッタ大尉は私に気を使ってくれているようだ。

 「ここで仕事には慣れた?」とか、「困ったことがあったら相談しなさい。力になるわ」とか。……悪い気はしないが、理由がわからないのはちょっと不安だな。

 

 

   †  †  †

 

 

 地球。とある地区、とある都市。

 ありふれた繁華街。ビルとビルの合間に広がる深い社会の闇に、邪悪な意志が蠢く。

 ――それを打ち砕くことができるのは、同じく闇に住まう正義の使者たちだけである。

 

 

 奇妙な覆面を被った黒服の男たちが、二人の男女を包囲している。どちらも端正な目鼻立ちだが、未だ幼いと言って差し支えない年齢の少年少女だ。

 ゆったりとした黒いクロークを身につけた銀色の髪の少年は、不敵な笑みを浮かべて右手に不可思議な翠緑の刀身の剣を持つ。

 肢体のラインが浮き出た黒いスーツを身に着けた桃色の髪の少女は、両手に可憐な容姿に不釣り合いなほど無骨な拳銃を携えている。

 閃く剣光、響く銃声。

 少年と少女は、怪人たちを軽々と叩きのめしてしまう。

 

「ったく、雑魚が群がってウザったいな」

「真面目に戦え、イング」

「わかってるって、アーマラ」

 

 両手の大型拳銃を交互に繰り出し、淡々と怪人たちを無力化する少女に窘められて、光子剣で弾丸を切り落としていた少年は肩をすくめる。

 そして、唐突な衝撃波が辺りに巻き起きた。

 

「行け疾風(かぜ)の如く、宿命(さだめ)の戦士よー、ってね」

 

 少年はおどけた言葉を残し、恐るべき素早さで駆け抜けて怪人でバッタバッタとなぎ倒していく。

 総勢数十人いた黒服の男たちは、瞬く間にその数を減らしていた。

 

「さっさと帰って、積んでるプラモの山を崩したいぜ」

「だから真面目にやれと……まあ、同意だがな」

 

 リーダー格らしき男が青ざめた顔で呻く。

 

「クソッ、おのれワンゼロワン! またしても我らBF団の野望を邪魔するか!」

「そんなありきたりなセリフしか吐けねーから、お前らはいつまでたっても三流なんだよ」

「私を軽視するその態度、気に入らないな」

「くっ、こうなれば!」

 

 二人に言い返されたリーダー格の男が懐から取り出したスイッチを入れると、蛇型のロボットが轟音とともに都市部に現れる。

 

「おお? 怪ロボか? お約束のパターンだな」

「イング、コイツらは私が片付けておく。あれはお前が処理しろ」

「合点!」

 

 少女の提案を受け入れ、少年は一歩前に進み出る。

 

「コール・ヒュッケバイン!」

 

 腕時計型通信端末が彼の音声と念を関知し、指令を発する。少年の強大な念に感応して、騎士の姿をしたパーソナルトルーパー――《エクスバイン・アッシュ》が国際警察機構の格納庫から念動転移した。

 着地により巻き上がる土煙。少なくない振動が大地を揺るがす。

 テレポーテーションにより《アッシュ》のコクピットに収まった少年は、対峙する怪ロボとBF団のエージェントたちに向けて高らかに名乗りを上げる。

 

『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せとオレを呼ぶ! 悪党ども、聞くがいい! オレは正義の戦士、エクスバイン・アッシュ!!』

「はぁ……言ったそばからこれだ。仕方のない奴だな――ん?」

 

 残った数名の怪人が包囲を狭めていることに気づき、少女は怪訝な顔をする。

 いやらしい視線と不快な思念を感じ、わずかに眉をしかめられる。

 

「なんだ、貴様ら。まだ抵抗する気か?」

「馬鹿め、ワンゼロワンが居なければこっちのものだ。お前を捕らえて、奴諸共一網打尽にしてくれる」

「フゥ……馬鹿はどっちだ、戯け」

 

 鋭い銃声が夜闇を切り裂き、四人の怪人が一瞬のうちに倒れた。

 恐るべき早撃ちであり、また正確無比な射撃だった。

 

「嘗めるなよ。私とて国際警察機構のA級エキスパート、貴様らB級C級の雑魚どもなどものの数ではない」

 

 シニカルな冷笑を浮かべ、少女は冷徹に言い放つ。

 

「さあ、私に出会った不幸を呪え!」

 

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 8月25日

 極東地区、上海 梁山泊

 

 イージス事件から、半年以上の時間が経過した。

 思い返せばいろいろあったけれど、私の国際警察機構のエキスパートとしての活動は順調だと言えるだろう。

 

 因縁のBF団とはもちろん、ティターンズ及びジオンの残党やテロリスト、未だ全容の見えない「ゼーレ」、世界経済を影から牛耳る「ドクーガ」、最新兵器を紛争地域にばらまく国際犯罪組織「バイオネット」、暗躍するジュピトリアン木連派の残党「北辰集」と「火星の後継者」など、数々の秘密結社や犯罪組織との暗闘を繰り広げてきた。

 そういえば、イングが過剰に反応していた敵対組織があったな。たしか、「鉄甲龍(ハウ・ドラゴン)」という名前だったか。

 

 その鉄甲龍の下っ端と交戦した後、イングは頭を抱えて唸っていた。

 さらに熱心に調べ物をしていたようなので、こっそりイングの部屋の端末を調べてみた。「西園寺実」「宇宙科学研究所」「クライン・サンドマン」「フィッツジェラルド」「コスモクラッシャー隊」「ムルタ・アズラエル」「陣代高校」「竹尾ゼネラルカンパニー」などの検索履歴が残っていた。

 政財界の大物だったり、日本お馴染みの研究施設だったり、連邦軍の一部隊であったり、しまいにはハイスクールに零細企業まで。脈絡がないとはこのことか。

 また、国際警察機構のIDで連邦政府の戸籍を調べた形跡もあった。「神勝平」「相羽タカヤ」「真道トモル」「早瀬孝一」「飛鷹葵」「ツワブキダイヤ」ほか多数。こちらもやけに具体的である。

 ヒットしたものもあれば、そうでないものもあったが、この意味不明なラインナップに何の意味があるのだろう。

 

 

 約半年間の活動で起きたいくつかの事項を、まとめる意味も込めて特筆する。

 テンカワ・アキトとミスマル・ユリカを保護した。 

 自在にボソンジャンプを可能とする「A級ジャンパー」の二人は、木星帝国の一派と思われる「火星の後継者」にシャトル事故に偽装して誘拐され、惨い人体実験を受けていたようだ。

 イングは以前から二人の動向に注視していたようだが、一足違いで攫われてしまったことを酷く後悔していた。私も少なからず世話になったものたちだ、

 

 大量のナノマシンを全身に注入されたテンカワ・アキトは、互換の大半を失った。回復の目処は今のところ立っておらず、機械で身体機能を補っている。

 また、ミスマル・ユリカは密かに回収されていた演算ユニットの人間翻訳機として組み込まれかけるも、敵拠点にイングのテレポーテーションによる奇襲をかけて奪還されている。もっとも、演算ユニット自体は回収も破壊もできなかったがな。

 現在二人は友人らにも連絡を絶ち、国際警察機構に所属してネルガル重工の協力の下で火星の後継者を追っている。リハビリもそこそこにこの処置を希望したテンカワは、危うい様子で「夢を奪われた復讐だ」と漏らしていたが、ミスマル艦長が側にいるのだから無茶はしないだろう。

 ちなみに二人、まだ籍は入れていなかったようだ。

 

 

 イングが一時、行方不明になった。

 オリハルコンとラプラスコンピュータを譲り受けるためにラ・ギアスに向かった後、1ヶ月ほど行方知れずとなった。

 

 ラ・ギアスには連絡もできず、短いが濃いつき合いで奴がそう簡単に死ぬことはないとわかっていても、だいぶ気を揉んだ。認めたくないが、私はイングの安否がとても心配だったのだ。

 だから、何事もなかったかのようにひょっこり戻ってきて「ようアーマラ、今帰ったぜ」といつもの調子で挨拶されたとき、思わず全力で殴ってしまってもバチは当たらないだろう。むしろ正当な権利だ。

 行方不明の間のことを本人に聞いても「ちょっとテレポートミスって無限の楽園に」と要領を得ない返答しか帰ってこない。さんざん心配したこちらの身にもなってほしいものである。

 

 

 国際警察機構とBF団との決戦が勃発した。

 詳しい経緯は割愛するが、それによりパリは甚大は被害を受け(その際、現地の対特殊犯罪対策組織「シャッセール」と共同した)、さらには国際警察機構、BF団双方ともに人員の大半に命を失った。九大天王及び十傑集にも少なくない犠牲者を出している。

 向こうはともかく、こちらはお陰で人手不足に拍車がかかり、他の犯罪組織への対応には苦慮している。私たちは、お前たちだけの相手をしてやるほど暇なわけではないのだぞ。グチりたくもなる。

 

 幸い、草間大作と銀鈴は無事であり、今も地球のどこかで平和維持活動に従事しているだろう。

 

 

 さておき、私たちは新たに建造された実験艦《ナデシコB》に同乗して久々にソラへ上がり、月のマオ社に向かう。

 目的はようやく形になった《アッシュ》の改修と、それに併せて与えられる私の新しい機体の受領だ。さらには、不穏な動きをする月の過激派将校たちに対する牽制の意味もある。

 《ゲシュペンストMkーII改》も悪い機体ではないが、やはりいろいろ物足りなさは感じていたので楽しみだったりする。

 

 宇宙では、イージス事件以来姿を眩ましていたクワトロ・バジーナ……いや、シャア・アズナブルが「ネオジオン」の総帥として決起したという。

 地上も、地底勢力の侵攻が激しくなってきた。海底遺跡「オルファン」を根城とする「リクレイマー」もオーガニック・マシン、アンチボディで地上に混乱を起こしている。

 また地球圏が騒がしくなってきた……遠からず、大規模な戦争が勃発するだろう。今度のそれは、バルマー戦役と同じかそれ以上に激しいものになる……そんな予感がする。私の微弱な念動力でも予知できるほどの混乱だ。

 だが、何者が相手だろうと私のやるべきことは大して変わらない。

 未来世界でイングに救われ、朽ちることなく生きながらえたこの命を、地球の、私たちの故郷のために使おう。

 イング流に言うなら、邪念を撃ち抜く一発の銃弾として――



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αIIー1「紅の隼」

 

 

 マオ・インダストリー社。

 白き宇宙戦艦――《ナデシコB》がマオ社専用のドッキングベイに接続した。

 対岸へと延びたタラップを通り、数名の男女が歩いてくる。

 

「なんか久し振りな気がするなぁ、マオ社に来るの」

 

 特徴的なクロークを着る蒼いメッシュの入った銀髪の少年が先頭を行く。

 イング・ウィンチェスター。知る人ぞ知る旧SDF艦隊が誇るエースパイロット。そして裏社会にその名を轟かす国際警察機構のA級エキスパート、汎超能力者“ワンゼロワン”とは彼のことだ。

 

「そうだな。時間にすれば半年足らずだが、その間にいろいろあったものな」

 

 傍らで感慨深げに応じるのは桃色の髪の少女。身体の線な大胆に露わになった黒いスーツを着用している。

 アーマラ・バートン。ワンゼロワンのパートナーにして国際警察機構のエキスパートであり、潜入・工作任務をこなす優秀な兵士。大型拳銃を好んで扱うことから、一部では“レディ・マグナム”なる異名で呼ばれていたりもする。

 

「では、私たちは任務に戻ります」

「ありがとう、ホシノ艦長」

「どういたしまして」

 

 連邦宇宙軍の白い制服を着た少女、ホシノ・ルリ。かつては《ナデシコ》のメインオペレーターを務め、連邦軍上層部の意向で少佐という。

 なお、バルマー戦役当時の彼女を知るアーマラの「成長しすぎでは?」という素朴な疑問には、「成長期ですから」の一言でうやむやにされている。

 

「少佐、道中気をつけて。例の基地、どうにもきな臭い」

「それは汎超能力者(サイコドライバー)としてのインスピレーションですか?」

「ええ」

「……わかりました、警戒を厳にして向かうことにしましょう」

 

 イングの忠告を受けて、ルリはわずかに表情を改めた。

 現在《ナデシコB》に与えられた任務は、月のとある連邦軍基地で開発されたという人型機動兵器“メタルアーマー”の調査である。

 シャア・アズナブルの反乱が顕在化した今、地球連邦政府は内外の動乱にかなり過敏になっていると言わざるを得ない。

 

「それにしても、以前のようにルリって呼んでくれてもいいんですよ、アーマラさん」

「いや、それは……」

「ホシノ少佐。オレたちは一応、任務中ですので。公私のケジメはつけませんと」

「そうですか、残念です」

「君、意外にマジメだねぇ。元ロンド・ベル隊だっていうから、もっと砕けてんのかと思ったけどな」

「イングの場合は、任務中だけだがな」

 

 副官にして護衛のタカスギ・サブロウタが、ルリの後ろで感心したように述べている。

 

 《ナデシコB》の面々と別れた二人は、雑然とした格納庫内を進む。

 ビアン・ゾルダーク及びシュウ・シラカワ不在によりDCが解体された現在、地球圏で稼働しているパーソナルトルーパーの部品製造、メンテナンス等を一手に引き受けることとなったマオ・インダストリー社はそれなりに繁盛していた。

 

「アッシュはそのまま、第13番格納庫に移送してください!」

 

 作業員を着たの青年が指示を飛ばしている。また、傍らには中華風の蒼い平服を着た女性がいた。

 イングとアーマラがその二人に近付いていく。

 それに気づき、青年が振り向いた。

 

「リョウト! リオ!」

「イング! 久しぶりだね」

「ふふ、アーマラも、イングと仲良くできてるみたいね」

「そうでもないぞ、リオ」

「照れるなよ」

「照れてない!」

 

 面差し穏やかな作業着姿の青年、リョウト・ヒカワ。青い中華風の平服を着た凛々しい女性、リオ・メイロン。

 二人はイングにとって命の恩人であり、バルマー戦役をともに戦い抜いた戦友だ。

 

「マオ社での仕事、上手くやれてるみたいだな、リョウト」

「まあね」

「聞いてよイング、リョウト君ったらカークさんに新作PTのデザインを任されたのよ! すごいでしょ?」

「マジで!? うん、スゴいじゃん」

「い、いや、デザインって言ってもカークさんにだいぶ手直しされたから……」

「それでも十分だろ」

 

 旧交を深める三人、アーマラはクールに佇んでいる。

 雰囲気こそどこかつまらなさげだが、親しいものがその表情を見れば彼女の気分が弾んでいることに気づくだろう。

 とはいえ、今回の目的も忘れてはいない。

 

「リョウト、それで私の新しい機体は?」

「うん、そうだね。案内するよ」

 

 リョウトの案内で格納庫内を進む。

 イングとアーマラの前に、見たこともないパートナートルーパーが現れた。

 赤と白に塗り分けられた丸みを帯びた細身のデザイン。シルエットから、《ヒュッケバイン》系のHフレームを用いていることがわかる。背中に取り付けられた一対の翼(フライトユニット)は、テスラ・ドライブであろう。

 機体の前でスタッフに指示出ししていたカーク・ハミルが、イングらに気がつく。彼は挨拶もそこそこに、いつもの事務的な口調で機体の解説を始めた。

 

「PTX-016Lビルトファルケン・タイプL。ゲシュペンストMkーII改“ヴァイスリッター”のコンセプトを引き継いだ、試作型パーソナルトルーパーだ」

「ビルトファルケン……」

「兄弟機とのコンビネーションを想定した機体だが、そちらはまだ未完成でな。代わりにアッシュと釣り合うように、単体での戦闘力を引き延ばす方向でセッティングしてある」

「ん、あの火器は……?」

 

 新しい愛機をしげしげと眺めていたアーマラが何かに注目する。《ビルトファルケン》の左手に保持された特徴的な銃器に、彼女は見覚えがあった。

 その既視感をカークが肯定する。

 

「そうだ。バスタックス・ガン、解体されたガリルナガンの携帯武装をダウンサイジングしたレプリカだ。ファルケン本来の主武装とは違うが、お前ならば使いこなせるだろう」

「念動力者であるアーマラが搭乗することを想定して、最新式のTーLINKシステムと念動フィールド、それからゲシュペンストMkーIIのスラッシュ・リッパーを念動兵器化したTーLINK・リッパーを新たに搭載してあるよ」

「確かに、私にはお誂え向きの機体だ。ありがとうございます」

 

 カークの挑戦的な物言いに、リョウトが補足する。アーマラは珍しく興奮しているのだろう、やや紅潮したした面もちで二人に礼を言った。

「ほーぅ……」まさしく専用機と言っていい仕上がりに、イングは感嘆をもらした。

 

「まさにいたせりつくせりじゃねーの。よかったな、アーマラ」

「私の実力を鑑みれば、当然の処置だな」

 

 大袈裟におどけて見せ、自信満々に胸を張る相方にイングが小さく笑みをこぼした。

 アーマラはその小さな表情の変化を目ざとく見咎める。

 

「……何だ、何がおかしい」

「いや。お前も変われば変わるもんだなって思ってさ」

「……変わって悪いか」

「いや、悪かないさ。むしろ、今のお前の方が断然魅力的でオレは好きだぜ?」

「ばっ、馬鹿なことを言うな!」

 

 アーマラが先ほどとは違った意味で顔を赤らめた。

 人生経験が偏っているウブな彼女は、イングの恥ずかしい発言に取り乱すことが多い。

 

「はいはい。イチャイチャしないの」

「イチャイチャなどしていない!」

「オレは別にしたってかまわないぞ」

「私がかまうっ!」

「まあまあ」

 

 リオとイングに混ぜっ返されて、があああっとまくし立てるアーマラをリョウトがなだめる。

 未だ混乱している様子の相方を放置して、イングは内心気になっていた懸念をカークにぶつけることにした。

 

「それでカークさん、オレのアッシュはどうなるんです?」

「ああ。TーLINKシステム周りを最新式に換装して例の()()()をコクピットに組み込む予定だ。リョウト」

「TーLINKフレーム、アナハイムと共同で開発した新しいTーLINKシステムですね」

「確か、リョウトの発案なんだよな。やっぱお前、才能あるよ」

「そ、そんな。サイコフレームの理論を応用しただけだし……、僕なんてまだまだだよ」

 

 褒められ慣れていないらしいリョウトは、恥ずかしげに謙遜する。

 ニヤニヤと生暖かい視線に気づき、仕切り直すようにリョウトは苦笑した。

 

「じゃあアーマラ、ファルケンの調整を――」

 

 リョウトの言葉を遮るように、けたたましい警告音が響き渡る。

 庫内がにわかに騒然とした。

 

「警報……敵襲か!?」

「リョウト君、みんな、これを見て!」

 

 リオの声に、手近なモニターに取り付く一同。

 外部カメラが捉えた月面の映像が映し出される。

 

「どうやらナデシコBと、それにあの戦闘機……コスモクラッシャー隊が迎撃に出ているようだな」

「相手はボアザン星人のスカールークと円盤兵器か。だけど、見たことのない機動兵器もいるね」

「あの頭でっかちな大型機はともかく、PTやMSよりも小さい機体……機動が単純だし、無人機かしら?」

「デザインや設計思想からみて、同一の文明によるものとは考えづらい。最低でもボアザン星を含めて三つの文明が関わっているとみて間違いないだろう」

 

 アーマラ、リョウト、リオ、カークがそれぞれ意見を述べる。

 

「さしずめ異星文明同士による連合軍ってとこか……やっぱバルマーか?」

「わからないが、奴らが敵であることに違いないだろう」

 

 難しそうに眉間にしわを寄せるイングの疑問に、アーマラがごくシンプルに答えた。

 そりゃそうだ、と苦笑するイングは気を取り直し、カークに問う。

 

「カークさん、アッシュは?」

「無理だ。改装作業のために解体を始めてしまっている。今から組み直しても、戦闘には耐えられない」

「っち、よりにもよって!」

 

 舌打ちするイング。この月面都市に配備されているであろう、それなりに乗り慣れた《量産型ヒュッケバインMkーII》を借り受けようかと考える。

 そんなパートナーの思案を読み切って、アーマラが言う。

 

「イング、迎撃には私が出る。ファルケンの慣らしにはちょうどいい相手だろう」

「! ぶっつけで行けるのか、アーマラ」

「無論だ。私を誰だと思っている」

 

 心配するパートナーを余所に、アーマラは自信たっぷりに笑みを浮かべて見せた。

 彼女の意志が固いことを見て、イングが折れた。

 

「カークさん、お願いします」

「いいだろう。アーマラはファルケンのコクピットに。TーLINKシステムのセットアップを始めよう。すでにパーソナルデータは入力済みだから直ぐに終わる」

「了解っ」

「リョウト、TーLINKシステムのオペレートを頼む」

「はい!」

 

 言われるや否や、アーマラは軽やかな身のこなしでタラップを駆け上り、瞬く間に《ビルトファルケン》のコクピットに収まった。

 見慣れた配置のコクピット。操縦席はPT共通だ。

 事態は緊急を要する、パイロットスーツに着替える余裕はない。もともと、今身につけているバトルスーツ自体にも多少の対G機能は備わっているから問題はないだろう。ベルトでシートに体を固定する。

 TーLINKシステムとのリンクに伴う軽い頭痛に懐かしさを感じつつ、アーマラはシート脇のキーボードを引き出しOSの調節を始める。PTパイロットとして、こればかりは他人に任せるわけにはいかない。

 

『よしっ! TーLINKシステム、コンディションオールクリア!』

「TCーOS設定終了、いつでも行けます」

『わかった。カタパルトに機体を回すぞ』

「はい」

『死ぬなよ、アーマラ』

「ああ。イング、お前とアッシュは私とこのファルケンが守ってやる。だから心配などせず、私たちの戦いを観戦していろ。大船に乗ったつもりでな」

『ははっ、わかったよ』

『アーマラ、気をつけてね』

「大丈夫だ。お前たちの造ったパーソナルトルーパーを信じろ」

 

 イングらの言葉に受け答えをし、アーマラは通信を切る。メンテナンスベッドから、《ビルトファルケン》が発進用カタパルトに移動する。

 正体不明の敵が相手だが、アーマラの胸中には恐怖も不安もなかった。自身のパートナーであり、かつては八つ当たりの対象にもしたイングの見ているところで無様な姿をさらすつもりはない。

 

「ファルケン……お前の性能、確かめさせてもらうぞ。――アーマラ・バートン、ビルトファルケン、発進する!」

 

 カタパルトから打ち出された(くれない)の隼が、宇宙の闇に羽撃(はばた)いた

 

 

    †  †  †

 

 

 新西暦188年 □月○日

 地球圏、月 マオ・インダストリー社

 

 新型機《ビルトファルケン》の受領、とんだことになったな。

 ボアザン星の《スカールーク》に率いられたアンノウンの一団が、マオ社のある月面都市に突如襲来した。無論、すべて返り討ちしてやったが。

 月まで同乗した《ナデシコB》は異星人勢力の再来を受けて一事任務を中断し、ロンド・ベル隊の本拠地、コロニー「ロンデニオン」に向かうこととなった。

 私は、共闘した「コスモクラッシャー隊」の長官にして国際警察機構の九大天王、大塚長官の依頼で《コスモクラッシャー》隊と一緒に《ナデシコB》に同行する。

 なお、イングは《アッシュ》の改装作業を待つため、マオ社に留まるという。鉄砲玉みたいな奴だが、実力は折り紙付きだ。心配はいらないだろう。

 

 しかし、《コスモクラッシャー》隊の明神タケル……あの男の念はなんだ? イングに匹敵するかそれ以上だろう。イング自身もかなり気にしていたし。

 念動力者ではないとの話だが……警戒する必要があるな。

 

 

 

 新西暦188年 ×月■日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 コロニー・ロンデニオンに到着した。

 ロンデニオンには任務を終えたペガサス級の新造艦《アルビオン》が帰港しており、私は再会したロンド・ベル隊のメンバーに《ナデシコB》のメンバーを引き合わせた。

 ブライト艦長は、ホシノ少佐のあまりの若さにやや微妙な面もちをしていたのが印象的だったな。

 

 それから、元ティターンズ残党の新兵、アラド・バランガを紹介された。

 敵対組織のロンド・ベルにいる理由は、仲間をかばって撃墜され、潜入任務中のヒイロ・ユイに回収されたと聞いたが、なかなかマヌケな話だ。

 どうやら脱走を諦めていないようだが、一度ロンド・ベル隊に関わったら簡単には逃げ出せないぞ? 私のように、な。

 

 

 

 新西暦188年 ×月●日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 クロスボーン・バンガードの残党がロンデニオンを強襲した。

 殺戮兵器《バグ》を用い、ロンデニオンの住人を虐殺しようとする奴らに対して義憤に駆られたのか、アラド・バランガが《ヒュッケバインMkーIII・タイプR》で勝手に出撃。さらに、もう一つのクロスボーン・バンガード、宇宙海賊の《マザーバンガード》が現れて連中の撃退に成功した。もちろん、ロンデニオンに被害は出ていない。完勝だ。

 

 宇宙海賊の中に国際警察機構の掴んでいた情報にはない機体、白いアーマードモジュールの姿があった。

 ずいぶんと危なっかしい操縦だったが……、パイロットは素人か?

 

 宇宙海賊についてだが、自ら正体を明かすまでこちらから説明する必要はないだろう。一応、味方であることはそれとなくブライト艦長らに話しておいたが、私には知ったことではないしな。そこまで面倒は見きれん。

 

 

 

 新西暦188年 ×月♯日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 地球から《大空魔竜》が火星に到着した新たな異星人、パーム星人との会談のために寄港した。

 お馴染み兜甲児ら日本地区の特機乗り(今回、ゲッターチームは珍しく流竜馬のみだった)の他に、何名か新顔が同行していた。

 《鋼鉄ジーグ》こと司馬宙。《大空魔竜》の特機《ガイキング》のパイロット、ツワブキサンシロー。元リクレイマーの伊佐未勇ら「ブレンパワード」を要するノヴィス・ノアのメンバー。火星で代表役を任された竜崎博士の息子、《ダイモス》の竜崎一矢らだ。

 ドクーガにつけ狙われている《ゴーショーグン》の「グッドサンダーチーム」と真田ケン太なんてのもいるな。「ビムラー」という超エネルギーを狙ってのことだそうだ。ありがちだな。

 

 さらに、《大空魔竜》には私的に見逃せない人物が二人乗っていた。

 クスハ・ミズハとゼンガー・ゾンボルトである。

 

 クスハ・ミズハ、SDF艦隊ロンド・ベルの一員としてバルマー戦役を戦い抜いた強念者。日本地区で静かに暮らしていたが、傷だらけの《龍王機》と黒く染まった《虎王機》が現れ、再び戦場に舞い戻った。

 搭乗機は所用(新型パーソナルトルーパー建造のためらしい)で秘密防衛組織「GGG」に滞在していたロブの手で蘇った《龍人機》。損傷を《グルンガスト》系のパーツで補ったらしいな。

 ゼンガー・ゾンボルト、未来世界でアンセスターとしてプリベンターと激闘を繰り広げた男。その過去の姿。

 アースクレイドルが地底勢力「邪魔大王国」により破壊されたことで目覚め、敵討ちを胸に《グルンガスト参式》を駆って《大空魔竜》に合流した。

 未来世界でのことを知るメンバーは、彼にそのことを伝えないように口裏を合わせている。変わった未来を、知らなくてもいい情報をわざわざ教える必要はない。

 

 なお、《ナデシコB》は連邦軍からの出頭命令を受け、地上に降りることになっている。

 私も引き続き同行するから、彼らとはここでお別れだ。まあ、また合流するような予感がしているがな。

 

 

 

 新西暦188年 ×月■日

 地球、極東地区日本 ビッグファルコン

 

 連邦軍極東基地、ビッグファルコンに到着した。

 そこで、凍結の一部解除により再開されたSRX計画による特機第三弾、《ダンクーガ》の後継機《ダンクーガノヴァ》とチームDが《ナデシコB》に配備された。葉月博士による開発であることは言うまでもない……のだが、やや違和感があるな。上手く説明はできないが。

 

 しかし……なんだってあんな民間人たちをパイロットにしているんだか。軍人等、何名かを経てのことだそうだが、いくら何でも連中は冷めすぎドライすぎだ。私の言えたことではないが。

 特にあの、飛鷹葵とかいう女とは馬が合わん。認めたくはないが、同族嫌悪だな。

 そう言えば、イングがあの女の名前を調べていたな……《ノヴァ》のことを掴んでいたのか?

 

 ……三輪?そんな時代錯誤の原始人は知らんな。

 

 

 

 新西暦188年 △月■日

 地球、極東地区日本 

 

 突如日本地区に現れ、破壊活動を開始した謎の集団。迎撃に出た《ナデシコB》がその現場、星見町にたどり着いたときにはすでに戦闘が開始していた。

 戦闘を繰り広げていたのは、四肢にタービンを装着した青い特機《電童》と、特機としては標準的な60メートル級のロボット《トライダーG7》。

 《電童》は「GEAR(Guard Earth and Advanced Reconnaissance、地球防衛および高度偵察の略称)」が有する異星の機動兵器である。

 同じく地球防衛組織「GGG」とは密接な関係にあり、実質的には同一の組織と言っていいだろう。同じ、異星文明由来の機体を管理しているのだし。

 「ガルファ帝国」というらしい新たな侵略者を撃退した《電童》だが、パイロットになってしまった二名は日本地区の小学生とのことで、さすがに親元から離すわけもいかず《ナデシコB》には配備されていない。

 しかし、GEARの副指令、ベガとか言ったか? 武装バイクに乗っていたとはいえ、生身で機動兵器と立ち向かうとは……十傑集か九大天王かという話しだな。

 

 もう一方の《トライダーG7》だが、こちらも個人、というか企業所有のため、《ナデシコB》には参加しない。今回の出撃も極東支部との契約を履行したにすぎないわけだしな。

 どこぞの無能な長官がなんだかんだと騒いでいたが、前長官との契約を盾にされて黙っていた。ざまぁないな。

 

 

 

 新西暦188年 △月×日

 地球、極東地区日本

 

 異星人襲来、そしてミケーネ帝国、恐竜帝国など地底勢力の本格的な再侵攻により、地球圏はバルマー戦役に匹敵するほどの大混乱に陥っている。

 我々《ナデシコB》は混乱を鎮める東奔西走、地球を駆けずり回った。

 

 まず、マオ・インダストリー社を襲撃した敵の実体が判明した。

 「ギシン星間連合」……それが奴らの名だ。かつてバルマーに組み込まれていたボアザン星人、キャンベル星人、さらには「暗黒ホラー軍団」ことダリウス星人など、未だ私たちの預かり知らぬ複数の文明を吸収した銀河帝国であるという。

 どうやら、外宇宙ではバルマー帝国、および巨人族たちと戦争をしているらしい。

 

 《コスモクラッシャー》隊の明神タケルを襲った敵の超能力者――ガッチとか言ったか? ともかく、それにより危機に陥った明神を守るように出現した赤いロボット、《ガイヤー》。そしてどこからともなく現れた五体のロボットと合体した姿、《ゴッドマーズ》……強力極まりない念動兵器だ。

 そして同時に、明神タケルがギシン星間連合から送り込まれた破壊工作員、マーズであることも同時に判明した。さらには《ガイヤー》には「反陽子爆弾」が内蔵されており、明神の死により地球諸共爆発するのだという。

 この事実に、《ナデシコB》のメンバーは動揺を隠せない様子だ。有り体に言えば拒絶反応を示していた。一時、明神を営巣にぶち込んでいたくらいだからな。

 元ティターンズの私にしてみれば、本人の意志が地球を護ることにあるなら受け入れるべきだと思うが。

 生まれが異星だなどと、些末でつまらないことを気にする連中だ。敵ならば討つ、味方ならば助ける。シンプルでいいだろうに。

 とりあえず、三輪には内密にしておくべきだろうな。

 

 まだまだあるぞ。

 物資補給のために立ち寄った極東、佐世保基地。そこに突如来襲した奇妙な形状の巨大戦艦が市街地に無差別攻撃を始めると、正体不明の三機の機動兵器が現れた。声から察するに、幼い子供たちがパイロットだろう。

 その三機が合体した特機《ザンボット3》は敵巨大戦艦を撃退した後、白い戦艦とともにふらりと姿を消してしまった。

 巨大戦艦及び特機、どちらの詳細は不明だ。まあ、パターンから言って直にこちらに合流するだろう。

 

 さらに、富士樹海。

 GEARを通して、「ラスト・ガーディアン」と呼ばれる秘密組織から《ナデシコB》に救援要請が入った。

 急行した我々は、ミケーネ帝国と邪魔大王国の軍団を撃退する。……ククルとかいういけ好かない女を取り逃したのは悔しいが。

 ついで襲来したのは鉄甲龍の八卦集、《風のランスター》。

 こちらが迎撃しようとしたそのとき、まるでそれに呼応するかのように白亜の特機が現れ、不可解なほどの圧倒的な力で《風のランスター》を一蹴した。

 この白い特機はラスト・ガーディアンの関係する機体のようだが、詳細は不明である。

 

 と、このように、この僅かな期間にこれだけのことが起きている。

 バルマー戦役やイージス事件での混乱もそうだが、いったい地球はどうなっているんだ。

 

 

 

 新西暦188年 △月■日

 地球、極東地区日本

 

 ここにきて、最悪と言っていいニュースが飛び込んできた。

 復興中の火星で行われたパーム星人との会談が、失敗に終わったとの情報が届いた。パーム星の指導者リオン大元帥が毒殺、こちら側の代表竜崎博士が殺害された、らしい。

 パーム星人たちは地球に対して宣戦布告、ギシン星間連合と手を組んだらしい。

 さらに、それを受けた形で連邦軍の月基地を母体とするギガノス帝国が独立を宣言、連邦政府に宣戦布告し、噂のメタルアーマーを用いて他の月基地を電撃的に制圧した。

 幸い、マオ社やアナハイム社は制圧を逃れて抵抗を続けているようだ。おそらく、イングの奴もその渦中にいるのだろう。

 

 ところであの火星再開発計画、実のところ木連残党「火星の後継者」と木星帝国の息がかかっている疑いがある。連中に鼻薬を嗅がされた無能な政治家どもの仕業とはいえ、あくまで連邦政府主導の計画であるから迂闊に妨害できないのが口惜しいが……。

 過去に「闇王子」ことテンカワが「フルール・ド・リス」ミスマル艦長を伴って何度か襲撃を仕掛けてはいるが、木連残党をいぶり出すには至っていない。

 今回の会談失敗、あるいは木星帝国が裏で糸を引いているやもしれんな。ジュピトリアンは異星人と結託していた前科があるのだし。

 

 《大空魔竜》と《アルビオン》が地球圏に戻るには、それなりに時間がかかる。彼らが帰還するまで、私たちが地球を守らねば。

 

 

 

 新西暦188年 △月□日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ギガノス帝国のメタルアーマーを迎え撃つため急遽宇宙に上がった《ナデシコB》は、奴らに追われていた《サラミス改級》を救援した。そこに乗り合わせたメタルアーマーの開発者、ラング・プラート博士と連邦軍の諜報員、ダイアン・ランス少尉を保護した。

 ギガノスを裏切った博士だが、亡命というよりはギガノス指導部との意見の相違が原因だろう。彼自身は、メタルアーマーは地球の脅威に対する剣の一つだと考えていたらしい。

 かつてはDCにも所属し、ビアン博士の友人であったそうだからその思想に共鳴しているのだろうな。

 自身の開発した新型メタルアーマー「D兵器」とともに地球連邦軍に身を投じ、ギガノスの暴走を止めるつもりだという。戦火の種を徒に作ったのだと思っていたのだが、なかなか好人物のようだな。

 ……だが博士、スリーサイズがどうのとか、セクハラだぞ。

 

 「D兵器」の最終調整のため、彼とはスペースコロニー「アルカード」の連邦軍に引き渡すことで分かれた。

 彼の造るメタルアーマーが地球圏の混乱を治める力になればいいが。

 

 

 

 新西暦188年 △月◎日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ギガノスの機動部隊と交戦した。

 “ギガノスの蒼き鷹”マイヨ・プラート……強敵だ。この私と引き分けるとは、大袈裟な二つ名は伊達ではないらしい。

 私もファルケン()を駆る者として、負けていられないな。

 

 さておき、ギガノスの機動部隊を退けた《ナデシコB》に北辰集――、旧ジュピトリアン木連派の暗殺者、北辰率いる汚れ役共が木連系の機動兵器を連れて強襲してきたのだ。

 言いたくはないが、イングとコンビでなければ戦いたくない嫌な相手である

 《夜天光》というらしい北辰の機体の運動性に、打って変わって苦戦する私たち。そのとき、テンカワの《ブラックサレナ》とミスマル艦長の《ユーチャリス》がボソンジャンプで現れた。

 

「国際警察機構のエキスパートです、ぶいっ!」

「……いろいろ台無しだぞ、ユリカ」

 

 まったくだ。

 北辰集を退けた後、再びボソンジャンプで消えた彼らだったがその後が大変だった。

 私が国際警察機構の関係者であることを知るホシノ艦長に、問いつめられたのだ。とりあえず、二人の気持ちを考えてやれなどと意味深に言って、煙に巻いた。……なんだかイングがやりそうなことだと気づいて、少しヘコんだのは秘密だ。

 

 

 

 新西暦188年 △月♪日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 《大空魔竜》、《アルビオン》が地球圏に帰還した。

 さらに、火星からの帰路で宇宙海賊と合流したらしく、《マザーバンガード》を伴っていた。

 

 またぞろ新顔が増えた。

 プラート博士の開発したD兵器、《ドラグナー》シリーズに偶然乗ってしまった民間人、ケーン・ワカバら「アストロノーツ・アカデミー」の三人だ。

 あと、アルカードからの避難民の女子二人が同行している。

 というか、リンダ・プラートってプラート博士の娘だろう? ダイアン少尉が一緒にいたことから、博士に対する人質の意味もあるのかもな。

 

 固定された《ドラグナー》の生体認証を解除するにはそれ相応の規模の施設が必要とのことで、ケーンたちはそれまでパイロットをするしかないわけだ。

 悪ガキ共はさっそくバニング大尉にシゴかれていた。

 とりあえず、早々にナンパしてきたライト・ニューマンは伸しておいたが。……イングと気が合いそうだな、コイツら。

 

 アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ、火星で合流した異星人だ。

 かつてはバルマーの影響圏にあり、現在はギシン星間連合に支配されたグラドス星出身の地球人、バルマー人のハーフである。

 ギシン星間連合が地球を狙っていることを伝えるため、最新型SPT《レイズナー》を奪い、やって来たらしいが……一足遅かったと言う他ないな。

 他にも、折り悪く火星クリュス基地を訪れていた「コズミック・カルチャー・クラブ」とかいう民間人の子供たちとその引率の女性を保護している。いや、彼らは私と大差ない年齢ではあるのだが。

 

 宇宙海賊クロスボーン・バンガード。

 ベラ・ロナとキンケドゥ・ナウ(あえてこう記しておく)が率いるレジスタンスである。主力兵器は《クロスボーン・ガンダム》シリーズ。

 また、木星に赴く際に出会ったというトビア・アロナクスという火星入植者の少年を仲間に引き入れている。トビアの乗機は《クロスボーン・ガンダムX2》。

 あの白いAM、名を《アルテリオン》と言い、かつてDCで開発された外宇宙探査用の航宙機だそうだ。

 パイロットはアイビス・ダグラス。民間の運び屋で、陰気な女である。パートナーのツグミ・タカクラに尻を叩かれていやいや戦っているように見えるな。覚悟がない奴は戦場に出ないでほしいものだが。

 

 そして、私とホシノ少佐には懐かしい顔もいた。《エステバリス・カスタム》のパイロット、ヤマダ・ジロウとスバル・リョーコだ。

 《ナデシコ》隊が解散した後、二人は連邦軍に組み込まれ、クリュス基地で勤務しており、同基地がパーム星人及びギシン星間連合により壊滅したのを受けて《大空魔竜》とともに脱出してきたのだという。悪運の強い奴らだ。

 どうやらテンカワとは何度か交戦していたらしく、ホシノ艦長から例の二人のことを聞いてまたぞろ詰められた。

 ……まったく、なんで私が。こういうのはイングの役目だろうに。

 

 かつてのSDF艦隊以上に混沌とする部隊。構成する組織、チームも数えるのも億劫なほどだ。

 戦艦だけでも《ラー・カイラム》、《アルビオン》、《ナデシコB》、《大空魔竜》、《マザーバンガード》の五隻だしな。

 そこで、新たに部隊の統一名称を策定することになった。

 喧々囂々の末、決まった名称は「αナンバーズ」。キンケドゥの発案だ。

 まあ、悪くないんじゃないか?

 

 

    †  †  †

 

 

 シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン艦隊のコロニー「スウィート・ウォーター」入りを阻止するため、現宙域に急行した「αナンバーズ」。

 ネオ・ジオンに加え、協力関係にある木星帝国、ギガノス帝国の大軍が迎え撃つ。

 

 真紅の鷹、《ビルトファルケン・タイプL》が《ギラ・ドーガ》や《ゲバイ・マッフ》、《積尸気》、《バタラ》などを蹴散らして戦場を切り裂く。

 《ダイテツジン》などの大型機を《マジンガーZ》ら特機に任せ、狙いは敵の総大将、シャア・アズナブルの《サザビー》だ。

 

「クワトロ・バジーナ! あなたには世話になったが、手加減する理由にはならんな!」

『アーマラか。“彼”ならまだしも、君では私の相手にはいささか不足だよ』

「言ってくれるな……! 不足かどうか、試してみるか!」

 

 《サザビー》に《ビルトファルケン》が立ち向かう。

 《バスタックス・ガン》と《ビームトマホーク》が激突した。

 《ビルトファルケン》のテスラ・ドライブによる慣性を無視した機動を、シャアは難なく捉え、決定打を許さない。

 逆にアーマラは、重モビルスーツ《サザビー》の見た目に似合わぬ高機動と強力な火器、そしてサイコミュ誘導兵器《ファンネル》のコンビネーションに手を焼いていた。

 アーマラに一足遅れ、敵陣を抜けたクスハがシャアに呼び掛ける。

 

『クワトロ大尉、どうして戦争なんて始めたんですか!』

『クスハ、すでに地球は愚かな人類によって限界に来ている。だから私が粛清すると宣言した!』

『そんな……そんなこと、させません!』

『ならば君を倒して実現させるとしよう。行け、ファンネル!』

 

 シャアの思念を受けた《ファンネル》が放射状に射出された。

 殺意が宇宙を走る。

 

『きゃあ!』

 

 クスハの悲鳴。特機サイズの《龍人機》には、小さく素早い《ファンネル》は極めて捉えづらかった。ましてや、それを操るのが地球圏でも最強クラスのニュータイプであれば尚更だ。

 《ファンネル》の一撃が念動フィールドを貫いて、《龍人機》に少なくないダメージを与える。

 

「クスハ! ――くっ、マイヨ・プラート!」

『シャア総帥の邪魔はさせん!』

 

 プルシアンブルーのMA《ファルゲン・マッフ》とプラクティーズが追い付き、《ビルトファルケン》の進路を阻む。

 アーマラはマイヨらを引き剥がすことが出来ず、救援に向かえない。他の仲間たちは後方で立ち往生している。

 そしてついに、《ビーム・ショットライフル》のメガ粒子が《龍人機》を撃つその瞬間――

 翠緑の輝きが宇宙に瞬いた。

 

「――この念は!」

『よお、クスハ。久しぶりだな、元気してたか?』

『イングくんっ!』

 

 銀髪の少年、イングの緊張感のない挨拶。心強い援軍の登場に、クスハが破顔する。

 メガ粒子を弾くコーティング・クロークを翻した手負いの騎士、凶鳥の眷属――マオ・インダストリーによって強化された《アッシュ改》、その姿は歴戦の勇士の風格を伴っていた。

 

「遅いぞ、イング」

『悪ィ、ちと月の掃除に手間取ってな。頑張ってたみたいだな、アーマラ』

「……ふん」

 

 非難めいた言葉に殊勝に返し、奮闘を称えるイング。ことさらに鼻を鳴らすアーマラだったが、その表情はパートナーの登場に喜びを隠せていない。

 会話を交わしながら、イングは《フォトン・ライフルS》による射撃でギガノスのメタルアーマーを散らしていた。

 

『さて、と。またぞろ仮面を被ったアンタに敬語は要らないよな、シャア・アズナブル!』

『イング……! お前は、月面でギガノスの部隊を相手にしていたはずだ!』

『オレが神出鬼没なことは、アンタもご存知だろう?』

 

 かつては敬意を示していた戦友へと不敵に言い放ち、最強の汎超能力者がその強念を解き放つ。

 

『言いたいことは山ほどあるが……まずは、クスハを散々いたぶってくれた礼からだ! TーLINKコンタクト!』

『! ちぃっ、以前よりプレッシャーが増しているだと!? おのれ、ファンネルッ!』

『無駄無駄ァ! 邪念が見え見えなんだよ!』

 

 シャアがけしかけた数機の《ファンネル》に伴う思念を読み取ったイング。《アッシュ改》のサイドアーマーに三本づつ取り付けられた《ロシュ・ダガー》を引き抜いて軌道上に投げつけ、次々に撃墜した。

 シャアが驚愕に呻く。

 

『何だと!? 私の思念を読んだとでも言うのか!?』

「……無茶苦茶だな、イング」

『覚悟しろ、シャア・アズナブル! シーケンス、TLS! コード入力、光刃閃ッ!!』

 

 さらに、新たに「TーLINKフレーム」が組み込まれたコクピット周辺から、翠緑の燐光が吹き出す。広がる燐光が強力な念動フィールドとなって機体を包み込み、超常的なパワーを与える。

 

『セイバー、アクティブ!』

 

 お馴染みのセリフとともに、《ストライク・シールド》から《TーLINKセイバー》を引き抜かれた。

 

『光を超えろ、アッシュ! 見切れるか、喰らえ! 奥義、光刃閃ッッ!!!』

 

 念動フィールドによって限界以上の機動を得た《アッシュ改》が《サザビー》に迫る。総帥を守ろうとする《ギラ・ドーガ》の部隊は、手も足も出ず両断されていく。

 

『せい! はぁっ! たあああっ! オオオオッッ!!』

 

 影をも踏ませぬ高速機動、文字通り光のような斬撃の乱舞。《サザビー》の重装甲を《TーLINKセイバー》が幾たびも斬り裂く。

 赤い装甲の破片が飛び散り、スパークする。

 一気に《サザビー》の背後へと切り抜けた《アッシュ改》は、《TーLINKセイバー》を両手で握り直した。

 その刀身を念動フィールドが覆い尽くしていく。

 

『これで、終わりだッ!!!』

 

 激しい閃光を伴うドドメの一振りが《サザビー》を捉え、致命傷を与えた。

 

『……貴様に見切れる筋もない』

『馬鹿なっ、パワーダウンだと!? ええい、だが目的は果たした。撤退する!』

 

 小爆発を繰り返しながら信号弾を上げる《サザビー》を、《ファルゲン・マッフ》とその僚機が回収する。

 それに従い、ネオ・ジオン艦隊が撤収していく。

 

「逃げるぞ、いいのか」

『こっちにも追撃する余力はねーだろ。ま、痛み分けってとこだな』

 

 《アッシュ改》の傍らに《ビルトファルケン》を寄せたアーマラが問う。

 イングはどこか気の抜けた様子で嘆息する。そして一転、笑顔を浮かべてこう言った。

 

『とりあえず、ただいま』

「……おかえり」 

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 △月※日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 ロンデニオンに運び込まれていた《ビルトファルケン・タイプR》と《ガンダム試作二号機》をティターンズの残党、いやネオ・ジオンに奪取された。不覚だ。

 ことの発端は、アラド、トビア、ケーンらドラグナーチームの訓練。私も新兵どもの相手をしていたのだが、集結する連邦軍艦隊にヤザン・ゲープル一派が紛れ込んでいたのだ。

 ……アラドめ、奴が余計な邪魔をしなければあの程度の相手、私の敵ではなかったというのに。

 

 さらにこの出来事を陽動に、シャア・アズナブル率いるネオ・ジオンが、コロニー「スウィート・ウォーター」に入ろうと艦隊を進撃させていた。

 

 それを阻止するために向かった私たちαナンバーズの前に、マイヨ・プラートらギガノス帝国のメタルアーマー部隊、「死の旋風隊」と木星帝国の機動兵器部隊が立ちはだかる。

 こちらの戦力が圧倒的に揃っているとはいえ、相手の物量は絶大だった。

 

 シャアを討つことで戦闘の終息を狙う私とクスハだったが、逆に窮地に追い込まれた。

 とそのとき、翠緑の念動光とともにイングが――《エクスバイン・アッシュ改》が現れた。

 まるでクスハの危機に狙い澄ましたかのようなタイミングだった。……気に食わん。

 

 お得意のテレポーテーションで戦場に現れたイングの《アッシュ改》は、シャアの《サザビー》が操る《ファンネル》を新装備《ロシュダガー》の投擲で次々と撃墜し、しまいには致命傷まで与えて追い返してしまった。相変わらず、理不尽なまでの戦闘能力だな。

 「ファンネルはサイコミュ兵器、操作する思念を察知してしてしまえば対処は簡単」と戦闘後に本人の口から解説されたのだが……、そんなマネができるのはお前だけだ。

 

 ともかく、ようやくイングがαナンバーズに合流した。これ以上、この地球を侵略者どもの好き勝手にはさせん。

 



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αIIー2「ダブル・スラッシュ」

 

 

 新西暦188年 △月◇日

 地球圏、衛星軌道上 《ナデシコB》

 

 宇宙での戦いが一段落し、αナンバーズは混乱の続く地上へと向かうことが決定した。

 

 合流したイングは、甲児やカミーユらから手厚い歓迎を受けていた。やはり、旧SDF艦隊及びプリペンターのメンバーからの信頼は篤いらしい。

 ブルックリンが見あたらないことに目敏く気がつき、「またさらわれたのか、アイツ」と見も蓋もないことを言い放ち、クスハを困らせていた。相変わらず場をひっかき回しているな。

 

 その後、イージス事件での宣言通り、イングはゼンガー少佐に雪辱戦を挑んだ。生身でな。

 結果はさすがゼンガー少佐と言ったところだったが、本人満足そうだった。

私と違って社交的なイングだから、新入りともすぐに打ち解けている。やはり、ドラグナーチームの三人とはさっそく意気投合していた。

 だがイング、私の目の前で飛鷹葵や館華くららにコナをかけるとはいい度胸じゃないか。何が「麗しいお姉さま方」だ。

 

 落ち着いたところで、私たちはお互いの近況を報告し合った。

 私が語る様々な組織との接触の記憶に、「やっぱりかぁ……」などとなにやら複雑そうな表情をしていたイング。やはり、何か独自に掴んでいたらしい。

 一方、イルムガルド・カザハラ中尉、リョウトやリオとともに戦っていた奴の話だと、月は酷いことになっているようだ。

 身も蓋もない言い方をすれば、ギガノス帝国、ギシン星間連合先見隊、ガルファ帝国の前線基地「螺旋城」の三つ巴だ。確かに酷い。

 ギガノスが本格的に地球を制圧しにかからない理由はこれか。異星人勢力との攻防にリソースを削がれているのだな。

 バーム星人との交渉失敗を理由に、「腐敗した連邦政府に地球を任せてはおけない」として決起したギガノスには皮肉な結果だ。

 結果的にはこちらに有利に働いているとは言え、連邦軍基地や月面都市が攻撃されているのも事実。なるだけ早く、連中を地球圏から叩き出してやらねば。

 

 強化改造された《エクスバイン・アッシュ》。ただ、TーLINKフレームを以てしてもイングの念に追従するのが精一杯のようだ。

 なお、見た目上はわからないが、ゾル・オリハリコニウム製の装甲を皮きりに各部を新設計のもの――というか、リョウトが基本コンセプトを打ち出し、建造途中だった新型《ヒュッケバイン》、“MkーX”のものに換装されているらしい。

 もともとリョウトはイングが扱うことを前提に、《アッシュ》のアッパーバージョンとして設計していたため、互換性があったのだとか。もっとも、未だ完成していないパーツが大半で、無理を押しての実戦投入らしいがな。

 こんな無茶な処置に至ったのはひとえに、イングの《アッシュ》に対する愛着故だろう。梁山泊の自室には、《アッシュ》の自作プラモデルが大量に飾ってあるくらいだし。

 

 なお、今回の戦乱を受け、イングはエーテル通信機でラ・ギアスにいるマサキに来援を要請したようだ。

 確かに《サイバスター》は心強い援軍になるだろうが……、大丈夫なのか?

 

 

 

 新西暦188年 △月■日

 地球、極東地区近海

 

 現在、地球に降りたαナンバーズは移動中だ。

 《ダイモス》の基地、ダイモビックで物資の補給を受ける予定である。また、諸事情で地上に残っていた《ゲッタードラゴン》と残りのゲッターチームも合流することになっている。

 

 で、主にアラドのために、今日は小隊戦闘をメインとした訓練を行った。

 元ティターンズでPTパイロットという共通項もあり、なし崩し的に面倒を見ていたアラドがイングの参入を受けて正式に部下に収まったためだ。

 国際警察機構からの出向という扱いでαナンバーズに参加している私たちは、それなりの権利を有している。イングが中尉で私が少尉待遇だ。

 もっとも奴は自分が正式に軍事訓練を受けていないことを理解しているから、だいたい私に指揮権を委譲している。

 

 しかし……、改めてみるとアラドの操縦は酷かった。目も当てられん。

 感覚派と言えば聞こえがいいが、ようは行き当たりばったりで場当たり的に動いているということだ。落ちこぼれというのも宜なるかな。

 イング曰わく「アイツはヒュッケバインよりゲシュペンストの方が向いてる」とのこと。私もそう思う。

 《ゲシュペンストMkーII改》をマオ社に置きっぱなしにしていたことが悔やまれるな。あれば、貸してやれたのだが。

 無い物ねだりしても仕方がないし、私たちがアラドをビシビシと鍛えてやればいいだけだ。

 

 

 

 新西暦188年 △月◎日

 地球、極東地区日本 ダイモビック周辺

 

 バーム星人軍にちょっかいを出されつつ、αナンバーズは極東地区を中心に転戦している。

 バーム人と言えば、クスハやさやか、ファなどは竜崎とエリカの関係にやきもきしているようだが、私に話題を振らないでほしい。他人の恋愛などに興味はないのでな。

 

 さておき、またぞろやってきたギシン星間連合からの刺客を撃退した。

 まあ、倒れた敵の詳細などどうでもいい。ましてや、明神、ツワブキサンシローとともに対決したイング曰わく「木っ端超能力者」のことなど。

 その部隊には、《レイズナー》と同じSPTと呼ばれる星間連合軍の機動兵器部隊も参戦していた。

 部隊の指揮官はゴステロとか言ったか?嫌な気を放つ男だったが、我々αナンバーズの敵ではないな。

 

 で、その戦闘の際にアイビスが民間人の少女を救助した。

 名前はイルイ。記憶喪失らしい。

 しかしイルイは、イングと顔を合わせてすぐ「お兄ちゃん……?」と呟き、それを受けたアイビスから「ホントに兄弟なの?」と訊ねられた奴はやや困惑していた。

 ただ、子供は嫌いではないというか、兄貴風を吹かしたいらしいイングはそれからというものイルイによくかまっている。向こうも存外懐いている様子だ。

 私は某かの刺客かと密かに警戒していたのだが、どうやら杞憂だったようだな。

 

 あと、今回の出来事を通じて明神が《ゴッドマーズ》の構成機を自在に操れるようになった。今回の敵部隊の指揮官で、敵の目を欺いて接触してきた実の兄から授けられたのだとか。

 また、《ゴッドマーズ》がギシン星の神話に伝わる「遙か宇宙の彼方からやってきて、皇帝を痛めつけた最古の大邪神」の姿を模したものだと判明した。モチーフが邪神なのはギシン星の支配者、ズール皇帝に対する当てつけだろう。

 ともかくこれで、反陽子爆弾の危険性が薄れたな。

 

 

 

 新西暦188年 △月¥日

 地球、極東地区日本 Gアイランドシティ

 

 Extra-Intelligence (エクストラインテリジェンス)こと「ゾンダー」及び機械帝国ガルファの機獣、さらには謎の巨大戦艦――「ガイゾック」の「メカブースト」が入り乱れた「粒子加速機イゾルデ」での戦いが明けて翌日。

 私たちαナンバーズは、東京市臨海を埋め立てGアイランドシティに滞在している。

 

 ここに来て、さらにメンバーが増えてきた。

 ざっとおさらいしてみよう。

 

 新たにαナンバーズと協力関係を結んだ「GGG」から正式参入したのは、GBRー1《ガオガイガー》と獅子王凱ら「勇者ロボ」。そして特別隊員天海護少年だ。

 サイボーグ同士、凱と宙はさっそく意気投合していたな。

 なお、GGGはGアイランドシティに偽装されたベイタワー基地をαナンバーズの拠点として提供してくれるという。どこぞの無能な防衛長官とは大違いだ。

 

 余談だが、実はこのGGG、国際警察機構とも協力関係にあるらしい。私は大河幸太郎長官から聞くまで知らなかったが。「オレは知ってたぞ」とドヤ顔した馬鹿(イング)には一発お見舞いしておいた。

 現在、梁山泊で秘密裏に建造された「GSライド」を用いた勇者ロボが調整中だそうだ。

 

 こちらも合流を決めたGEARからは、ベガ副指令を引率に《GEAR戦士電童》のパイロット、草薙北斗と出雲銀河。それに《セルファイター》のパイロット、吉良国進、天才少女エリス・ウィラメットらがαナンバーズにやってきた。

 銀河は武術をたしなむようで、やや慢心が気になるものの、さっそく竜崎に空手の手ほどきを受けていた。一方、北斗はイングの同好らしく、αナンバーズの機体に目を輝かせていたな。

 エリス・ウィラメット、大学卒業レベルの頭脳を持つ天才少女とのことだが、中身は憧れのホシノ・ルリを前に興奮する普通の娘のようだ。イング曰わく「どこぞの赤毛ザルとは大違いだ」。よくわからんが、後でどうなっても知らないならな。

 風貌は怪しさ満点なベガ副指令だが中身はマトモらしく、さっそくアムロ大尉と部隊編成について打ち合わせしていた。

 最後に吉良国だが……あれはヤマダと同類だな。

 

 なお、イゾルデではガルファに対抗する手段となり得る「データウェポン」、《レオ・サークル》なる存在を確保したとか。

 

 謎の特機と戦艦――《ザンボット3》と《キングビアル》とそれに搭乗する神一族もまた、αナンバーズに協力を表明した。やはり予想通りだったな。

 彼ら神一族は「ガイゾック」に滅ぼされた「ビアル星人」の末裔であり、怨敵が地球に来襲することを予期して対抗戦力を整えていたという。

 なお、彼らの先祖が地球にたどり着いた理由だが、「機械の女神の導き」と代々伝わっているそうだ。

 正直、αナンバーズ各艦の格納庫は酷いことになっていたので、《キングビアル》の参入は有り難い。

 《ザンボット3》のメインパイロット、神勝平の名前を聞いたとき、思わずイングを二度見してしまった。部屋を家捜ししたことは言えないから、問いつめることはできなかったが。

 

 そういえば、イングがやけにガイゾックの旗艦に突っかかっていたな。

 「トラウマイベントは御免だぞ」などと言って猛攻をかけ、瞬く間に致命傷を与えて追い返していた。あれはなんだったんだ?

 

 「竹尾ゼネラルカンパニー」の《トライダーG7》。

 こちらは零細とは言え民間企業所有の特機(それもどうかと思うが……)なのだが、今回は万丈が多額のポケットマネーで長期契約を結んだのだとか。さすがだな、破嵐万丈。

 パイロットにして社長の竹尾ワッ太は11歳、前記の銀河たちや勝平とは同級生。子供だ。

 ただ、バルマー戦役時にも《トライダーG7》で地球防衛の一翼を担っていたようで、戦闘に対する心構えは図らずも出来ている模様である。

 

 

 バラエティー豊かな新入メンバーを迎え、ベイタワー基地の「ビッグオーダールーム」でささやかな歓迎パーティーが開かれた。

 改めてみたが戦闘員非戦闘員に関わらず、子供が増えたな。まるでジュニア・スクールのような光景だったぞ。

 まさか、少年兵である私やイングが年長の部類に入ることになろうとは夢にも思わなかった。イングなどは「賑やかになっていいじゃないか」と呑気にしていたが、そういう問題ではない。

 大河長官やシナプス艦長、アムロ大尉、バニング大尉、ベガ副指令などの良識ある大人たちは、彼らになるだけ有人機と戦わせぬようにとコンセンサスを取っている。

 脱出装置が優秀とは言え、未来ある子供たちを殺人者にするわけにはいくまい。……まあ、地球圏の状況を見れば、戦う意志と力があるなら立ち向かうべきだというイングの意見も筋が通ってはいるがな。

 

 さておき、多種多様の特機の参入に、イングの悪癖が久々に爆発した。

 《電童》《トライダーG7》は元より、《氷竜》、《炎竜》、《ボルフォッグ》の写真を撮りまくって彼らに迷惑をかけたり。合体形態の《ガオガイガー》、《超竜神》、《ザンボット3》などは《アッシュ》のカメラデータから画像を抽出する手の入れよう。

 やはりと言うかなんと言うか、コレクションにした上で、自作プラモデルの資料にするつもりらしい。……あとで私にも回せよ。

 

 なお、この歓迎パーティーにおいて、クスハが“例のアレ”を披露して被害者を増加させていたことを記しておく。

 

 

 

 新西暦188年 △月※日

 地球、極東地区日本

 

 先日の戦闘で現れたガルファのGEAR、《騎士GEAR凰牙》に敗北を喫した銀河も立ち直ったようだな。

 また、ベガ副指令が《凰牙》の登場に酷く動揺していた。イングには理由に心当たりがあるらしく、「よくあること」と述べていた。

 

 さておき、αナンバーズに、光子力研究所及び新早乙女研究所が開発した新たな特機が届くという知らせが入る。

 しかし輸送中、ミケーネ帝国に奪取されてしまった新型機《ミネルバX》だったが、ミケーネの手を逃れた《ゲッターQ》と《ドラグナー3型》の活躍で無事取り戻された。

 またその戦闘中、《凰牙》との戦いにおいても交戦した鉄甲龍の八卦ロボ、《火のブライスト》《水のガロウィン》が現れる。αナンバーズの戦力を削ぐためだろう。同モチーフの《氷竜》《炎竜》が対抗心を燃やしていたな。

 さらにラスト・ガーディアンの白い特機――《天のゼオライマー》が再び乱入し、恐るべき力で八卦ロボを撃破、次いで現れた《月のローズセラヴィー》とやり合い、両機は撤退していった。なんだったんだ。

 

 とまあ、ここまではいいのだが。

 《ミネルバX》と《ゲッターQ》の女性型ロボを見たイングの一言。

「《ファルケン》におっぱいつけたら、お前も少しは女の子らしくなるんじゃねーの?」

 余計なお世話だ、バカっ!

 だいたいアイツは(以下、イングに対するグチが続く)

 

 

 

 新西暦188年 △月◆日

 地球、極東地区日本

 

 リリーナ・ドーリアン外務次官がガイゾックとの交渉に乗り出したとの知らせが入り、現場に急行した。

 この前の邪魔大王国に続き無茶なことをと思ったが、実際無茶なことだった。何せ、ガイゾックの指揮官、キラー・ザ・ブッチャーに《バンゾック》から突き落とされそうになったのだから。

 ヒイロ・ユイに間一髪で救われ、事なきを得たが。まったく無茶をする。

 ドーリアン外務次官救出の際、イングはお得意のテレポーテーションで《バンゾック》の内部に進入し、散々に暴れ回って手ひどい一撃を与えた。

 あれだけのダメージを受けたら、しばらくは行動できないだろう。

 

 その戦闘後、ふと思い立って「星間連合はともかく、ネオ・ジオンやギガノス帝国ならテレポートで潰せるんじゃないか?」とイングに尋ねてみた。

 奴の返答は「やって出来ないことじゃないが、暗殺はαナンバーズ的じゃないからやらない」だそうだ。なんだそれ。

 あれか、シャアやギガノス、木星帝国を馬鹿にしているんだな。……まあ、実際のところ超能力には限りがあるらしいから出来る限り温存しているのだろう。

 

 

 

 新西暦188年 △月▼日

 地球、極東地区日本 富士樹海

 

 ラスト・ガーディアンから緊急事態の一報を受け、急行するαナンバーズ。

 恐竜帝国の軍勢に劣勢に立たされていた《ゼオライマー》を保護した。

 どうやらまたぞろ八卦ロボ、《月のローズセラヴィー》を倒したらしい。イングが、「名ゼリフ聞きそびれた!」とアホなことを叫んでいたが、さておき。

 戦闘後、ラスト・ガーディアンからGEARを通じてαナンバーズに協力要請が入った。有り体に言えば、《天のゼオライマー》が参入した。

 元は鉄甲龍により建造された八卦ロボの一体であり、「次元連結システム」という超科学で稼働している。あの《メイオウ攻撃》の破壊力はおぞましいものがあるな。

 

 鉄甲龍は《ゼオライマー》の奪取を目的としているようで、体のいい厄介払いをされた感もある。

 パイロットは秋津マサトと氷室美久。

 美久はともかく、秋津の方は戦闘中の残虐な所行が響いているのだろう、甘ちゃん揃いなαナンバーズのメンバーからもやや遠巻きにされている。また、破嵐万丈は二人について何か知っているらしい。

 さらに珍しく、イングは《天のゼオライマー》ともども秋津マサトを警戒しているようである。どちらにしろ、私には軟弱な民間人の男にしか見えなかったな。

 

 

 

 新西暦188年 △月♪日

 地球、極東地区日本 

 

 かねてから準備していたデータウェポンたちが好む物質、「メテオキューブ」を用いて残るデータウェポンを一挙に集める作戦が発動した。

 発案者のエリスは天才少女の面目躍如と言ったところか。

 

 だが、結果から言えば成功したとは言い難い。ガルファに嗅ぎつけられ、一体奪われてしまったからだ。

 新たに銀河が《ガトリングボア》を、北斗が《ドラゴンフレア》を。そして《凰牙》が《ブルホーン》を得た。

 聞くところによるとデータウェポンとは心の形質により契約者を選ぶらしく、

その差によるものだろう。

 《凰牙》に新しい能力が追加されたの

は痛いが、どちらにしろ警戒すべき《ファイナルアタック》は一発しか撃てないのだ、与し易い相手であることに変わりはない。

 

 データウェポンが増えて、艦内はますます騒がしくなった。しかし、イルイを筆頭に、チビたちが戯れている様子は見ていて和やかな気分になれた。

 

 

 

 新西暦188年 △月⊿日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 今日は珍しく、戦闘のない退屈な一日だった。

 なので、作りかけのプラモデルにゆっくりと熱中できた。フルスクラッチの《ビルトファルケン・タイプL》、まだまだ完成にはほど遠い。

 

 気分転換に部屋を出て基地内をぶらついていたら、談話室に年少組が屯していたのを見つけた。……のはいいのだが、そこにイングが違和感なく混じっていたのが問題だな。いちおう、保護者役のつもりではあったんだろうが馴染みすぎだ。

 

 どんな話の流れだったかは忘れたが、銀河のアイドル好きという一面が発覚した。ちょっと意外だ。

 なお、じゃりん子たちに混じっていたイングはエイーダ・ロッサという最近売り出し中のアイドルが気になるとか。「中の人的にレアだから」とか「ぽんこつだし」とか「出演できるか心配」などともらしていた。

 

 その後、シャワー上がりにイングに呼び止められた。

 どこから聞きつけたのか、《ビルトファルケン》とその兄弟機によるパターンアタック「TBS」に対抗して、《アッシュ改》とのコンビネーションアタックを作ろうと提案されたのだ。

 私は当初、「機体のパワーが釣り合わないだろう」と難色を示したのだが、「Rー1でできたんだからファルケンとでもできるだろ。アーマラ、お前とじゃないと駄目なんだ」と熱心に要求されて、思わず折れてしまった。

 ま、まあ、お前がそこまで言うならやってやろうじゃないか。うん。

 とりあえず、両機の性能と頻発するモーションデータの比較から始めてみるかな。

 

 

 

 新西暦188年 △月▲日

 地球、極東地区日本 大阪 

 

 唐突に、恐竜帝国の本格日本侵攻が開始された。

 未来世界でも現れた奴らの本拠地、「マシーンランド」により占領された大阪を解放すべく、急行するαナンバーズ。

 だが、マシーンランドのマグマ砲と現地の一般市民を肉の盾とする「人間の砦」に攻め倦ね、撤退を余儀なくされた。

 下劣極まりない作戦だ。奴らめ、こちらが手段を選んでいるからと舐めた真似をしてくれる。

 この代償は高くつくぞ、トカゲ共……!

 

 

 

 新西暦188年 △月*日

 地球、極東地区日本 大阪

 

 私とイングは、獅子王凱を除いた生身の戦闘を得意とするメンバーを率いて敵要塞マシーンランドに対し、テレポーテーションによる奇襲を仕掛けた。

 奴ら、αナンバーズを撃退したと高をくくっていたのだろう、全く警戒していなかった。無論、本隊による陽動もあったが無様なことだ。

 馬鹿め、国際警察機構のエキスパートを舐めるなよ。十傑集や北辰集とやり合うより、粟を食ったトカゲ共を撃ち殺す方が何百倍も簡単だった。

 さらに、《ガオガイガー》の空間湾曲デバイス《ディバイディングドライバー》によりマシーンランドと都市部を空間的に分断、結果住民は解放された。

 頼みのマシーンランドの機能を停止させられ、人質も失い、追いつめられた恐竜帝国の指導者、帝王ゴールは機動兵器による決戦を挑んできた。

 ……その決戦において、ゲッターチームの巴武蔵が戦死した。《ブラックゲッター》のゲッター炉を暴走させ、《無敵戦艦ダイ》諸共自爆したのだ。

 私は、特に個人的なつき合いはなかったが、バルマー戦役以来の戦友だったイングはことさらショックを受けていた。

 

 「オレがもっとうまくやれていれば」などと戯けたことを吐いたので、おこがましい考えだと叱り飛ばしてやった。

 例えお前が全知全能に近しい力を持っていたって、独りで出来ることには限界があるのだと。そんな惰弱で傲慢な考えは、全身全霊を尽くして逝った戦友に失礼だと説経を垂れた。我ながら、似合わない真似をしたものだ。

 

 

 

 新西暦188年 △月☆日

 地球、極東地区日本 阿蘇

 

 邪魔大王国の拠点を強襲した。

 簡潔に言えば、邪魔大の指導者ヒミカを討ち取った。

 ただ、ククルや幹部たちは逃してしまったことが少し気がかりだな。

 

 

 

 新西暦188年 △月□日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 オルファン封じ込め作戦「バイタル・ネット作戦」及び北米、アリゾナ基地から核燃料と核弾頭を奪ったネオ・ジオンを追撃するため、αナンバーズは部隊を分割した。

 

 一方私とイングは、《ナデシコB》に同乗してギガノス帝国やその他の敵性勢力に対応するために地球を奔走することになった。まずは量産型へのフィードバックのため、《ドラグナー》を重慶基地への移送だ。

 《ナデシコB》には、イングが保護者をすることになったイルイも一緒に同乗している。

 そのイルイだが、別れる間際、イルイはアイビスに自分のつけていたネックレスを渡していた。いつの間にそんなに打ち解けたんだ。イングが「百合百合な関係なんて、お兄ちゃん許しませんよ!」と馬鹿を言っていたので黙らせている。

 イングの奴、武蔵の戦死から多少は立ち直ったらしい。まだまだ空元気なようだが、落ち込んでいる姿など見たくもないので安心した。

 

 その道すがら、ガルファの襲撃を受けていた梁山泊に立ち寄り、調整の終了した《風龍》《雷龍》と共闘、合流して私たちの指揮下に入った。

 だが、どちらも《氷竜》《炎竜》兄弟に比べるとAIの発達が未熟なように思える。まあ、そこは追々学んでいけばいいだろう……イングに妙なことを吹き込まれないように、目を光らせなければ。

 

 艦内では、ケーンらが「これで軍隊生活ともおさらばだ」と浮かれている。

 ……騒がしい奴らだったが、いざいなくなるとなると少し寂しい気もするな。

 

 

 

 新西暦188年 △月∧日

 地球、極東地区中国 地球連邦軍重慶基地

 

 意外なことになった。

 重慶に到着した《ナデシコB》。現地に先乗りしていたプラート博士との遭遇で一悶着あったものの、無事《ドラグナー》各機を引き渡した。

 《ナデシコB》は無事認証を解除したケーンたちを降ろし、ギガノスの部隊の掃討に向かったのだが、その裏をかかれた形で重慶基地はギガノス帝国の「グン・ジェム隊」に襲撃を受ける。急ぎとって返す《ナデシコB》。そこでは、三機の《ドラグナーカスタム》がギガノスのメタルアーマーと激闘を繰り広げていた。

 ケーンたち三人は、プラート博士により強化改造を施された三機の竜騎兵に乗り込んでギガノスと戦っていたのだ。

 結局、元サヤというわけだ。奴らも、なんだかんだ言って地球圏の現状には思うところがあったのだろう。

 イングとイルイがうれしそうに三人を迎えていたのが……、また騒がしくなるだけだろうに。何がうれしいのやら、だ。

 

 

 

 新西暦188年 △月ℓ日

 地球、極東地区日本 京都

 

 日本地区に戻った《ナデシコB》にギガノスの蒼き鷹から秘密会談の要請が舞い込んだ。

 明らかな罠であり、実際罠だった。

 そこに待ち受けていたのは仕掛け人の北辰集だけではなく、BF団のエージェント、呼炎灼(コ・エンシャク)。BF団との決戦で私とイングが倒したはずの強敵だった。

 ベガ副司令と協力してなんとか撃退したが、恐るべき相手だった。

 やはり、BF団は壊滅してはいないのだな。いつか近いうちに、奴らとは雌雄出を決さねばなるまい。

 

 

 

 新西暦188年 △月Å日

 地球、極東地区日本 沿岸地帯

 

 ドラグナーチームが哨戒任務中、グラドスの地上部隊と遭遇、本隊到着の後そのまま本格的な戦闘に突入した。無論、返り討ちにしてやった。

 連中は「ギガノスの汚物」と呼ばれているらしく、下品な奴らだった。いつぞやのグラドス人といい勝負だな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月∑日

 地球、極東地区日本 沿岸地帯

 

 引き続き、日本周辺の哨戒任務で今度は星間連合のSPT部隊と交戦した。指揮官はエイジの知り合いだったらしい。

 後に聞いたところによると、実の姉の婚約者らしい。ドロドロだ。

 

 その指揮官、ゲイルとか言ったか、はなかなかの実力者でSPTのサイズと相まってかなりてこずらされた。音に聞くオーラ・バトラーもこのように厄介なのだろう。

 もっとも、ゲイルは発動した《レイズナー》の《VーMAX》で海の藻屑と消えたがな。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月#日

 地球圏、衛星軌道上 L4宙域

 

 連邦軍の防衛網をすり抜けてくる異星人勢力を迎撃するため、宇宙に上がった《ナデシコB》。

 かつてバイオハザードを起こして封鎖されたというとあるコロニーのほど近く、そこには星間連合の大部隊が待ちかまえていた。

 その指揮官の名はマーグ。明神の実の兄だ。

 以前、敵の目を欺いて接触を試みてきた時とは打って変わり、明神=マーズに対して明確な敵意をもってこちらに攻撃してきた。

 

 まともに戦えない明神を守りつつ、私たちはなんとか奴らを撃退した。

 兄弟だけあって、マーグはイングに匹敵するほどの超能力者だった。私としては敵なら討てばいいと思うのだが、そうもいかないようだ。

 実の兄の豹変に明神はかなり動揺していたが、イングによると「念が濁っていたから洗脳されてるな」。曰わく、機械的にしろ医学的にしろ超常的にしろマインドコントロールを施された人間の念には決まって歪みがあるのだという。

 なお、奴は例として《凰牙》のパイロットを上げており、さらっと「あれが典型例」と述べていた。なんというか、いろいろと台無しな気がするのは気のせいか。

 だがあのとき、一瞬私に気遣わしげな視線を向けたのはどういうことだ?

 

 

 

 新西暦188年 ◎月♬日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 バイタルネット作戦及び北米ネオ・ジオン追撃作戦を完遂し、αナンバーズが再び集結した。

 《ナデシコB》隊が言えたことではないが、両隊ともに激戦をくぐり抜けてきたようだ。

 

 北米を経由し、宇宙に向かった部隊に参加していたアラドが、例の《ファルケン》の兄弟機、新型PT《ビルトビルガー》に乗り換えていた。どうやら元相方と宇宙で一悶着あったらしいな。

 

 また、ヴィレッタ大尉がプラズマ・ジェネレーター仕様の《ヒュッケバインMkーIII・タイプL》(かつて、リョウトがバルマー戦役で使用していた機体だ)でαナンバーズに参加してくれた。心強い味方だ。

 なお、SRXチームの他のメンバーは別の任務に就いているらしい。

 

 さらに、レーツェル・ファインシュメッカーを名乗るPTパイロットが参入した。

 怪しい。極めて怪しい風体だ。

 アラドの《MkーIII》を大尉と同じ仕様にし、パーソナルカラーらしい黒・赤・金に塗り、「トロンベ」と呼ぶ変人である。

 大体なんだ、「謎の食通」ってネーミング。偽名だと隠す気がないのか。

 ゼンガー少佐とは親しい仲のようだが、余計に怪しいと思ってしまった私は悪くない。

 後にイングからSRXチームのライディースの兄であると教えられた。……とりあえず、お前は何でそんなことまで知ってるんだ。

 

 さておき、ここG・アイランドシティではついに浮上してしまったオルファンの対策会議が行われることになっている。

 我々αナンバーズは、その警備に駆り出された。

 こういう任務は私とイングにはお誂え向きだ。ここは一つ、超一流のエキスパートがどういうものか見せてやろう。

 

 

   †  †  †

 

 

 復活したメガノイドの策略により、アーマラとイングは万丈、そして故郷を滅ぼした宿敵を討つためボソンジャンプで現れたアキトとともに亜空間に閉じ込められてしまった。

 ボソンジャンプやイングの強力な超能力も通じない完全な閉鎖空間で、彼らは援軍もないままの戦いを強いられる。

 《無敵戦車ニーベルング》を駆るメガノイドの司令官、コロス。《メガボーグ・サンドレイク》、《メガボーグ・ベンメル》、《メガボーグ・ミレーヌ》の三人のメガノイドに、ソルジャーの大軍勢が押し寄せる。

 万丈の旧友、コマンダー・キドガーこと木戸川が旧友の危機に反旗を翻して助太刀に入るも、コロスによって粛正されてしまう。

 メガノイドの猛攻に追い詰められたイングは、起死回生の切り札を切った。

 

『アーマラ、あれをやるぞ!』

「! テストも無しにかっ?」

『オレの相方、“レディ・マグナム”なら出来るだろ?』

「……フッ、いいだろう、やってやる。言い出したからにはしくじるなよ、イング!」

『あたぼうよッ!』

 

 二人のやりとりに、メガボーグと化したコマンダー・サンドレイクが嘲笑を浮かべる。

 

『何をするのか知らないが、ヒトの分際で超人間たる我々に楯突くとは身の程知らずめ』

『勝手にほざけ!』

「メガノイドの分際で、私たちを舐めるなよ」

『っ! 小娘、貴様ぁ!』

『黙れ! 貴様の邪念、オレたちが断ち斬る!』

 

 檄するサンドレイクを征し、イングはお決まりの口上とともに念を解き放つ。

 《アッシュ改》のコクピット周囲に設置されたTーLINKフレームが念を関知して、超常的な力を発揮し始めた。

 

『TーLINK、ダブルコンタクト! シーケンス、SDE!』

「テスラ・ドライブ、出力最大! オーバー・ブーストッ!」

 

 《アッシュ改》から伝播した念動波が《ビルトファルケン》に伝わり、背部の翼が最大可動形態に変形する。

 テスラ・ドライブの真骨頂、慣性制御による急加速で飛び出した《ファルケン》を見送り、《アッシュ改》は眼前に重力の穿孔を生み出した。

 

『まずはオレからだ! グラビトン・ライフル、ランダム・シュート!』

 

 格納空間から呼び寄せられた《グラビトン・ライフル》から文字通りランダムに放たれる幾条もの重力波の合間を縫うように、紅い荒鷹が最大戦速で飛翔する。

 同士討ちを恐れない大胆な機動は、二人の信頼の証と言えた。

 

「影すら踏まさん! パターンセレクト、S・D・E……エンゲージ!」

 

 テスラ・ドライブの軌跡を残し、《ビルトファルケン》が猛烈なスピードでメガボーグの背後を奪う。

 左手の《バスタックス・ガン》を掲げ、速度を乗せて突撃する。

 

「ストレイト・アタック! 撃ち抜く!」

 

 先端部の突起を突き刺し、最大出力のテスラ・ドライブの推進力により《ダイターン3》と比する巨体を。

 ゼロ距離砲撃を繰り返し、メガボーグの分厚い装甲に傷を刻んでいく。

 

「そちらに送るぞ、イング! マキシマム・シューートッ!」

 

 最大限までチャージした《バスタックス・マッシャー》が、巨体を上方へと一気に押し出した。

 その先には、オレンジの外套をはためかす手負いの騎士。翠緑の念動光を迸らせた《アッシュ改》が攻撃モーションを取って待ち受けていた。

 

『ハァァァァッ、セイヤーーッ!』

 

 強靭な念動フィールドを右足のつま先、その一点に収束集中させた跳び蹴りをメガボーグにお見舞いした《アッシュ改》は、そのまま敵の巨体を足場にして跳躍。ひらりと宙返りをした後、テスラ・ドライブで慣性制御、再び肉薄する。

 両腰の《ロシュダガー》をマニュピレータの間に挟んで引き抜き、起動させた。

 

『ロシュダガー! 六爪流だ!』

 

 展開させた六本の光刃を突き刺し、そのまま振り抜いて前面の装甲をズタズタに切り刻む。

 《ロシュダガー》を脇に投げ捨てつつ、《アッシュ改》は左腕の《ストライク・シールド》から伸びた柄を握りしめた。

 

『セイバー、アクティブ! 剣風一陣ッ、瞬殺百閃ッ!』

 

 引き抜いた《TーLINKセイバー》による超高速斬撃。パーソナルトルーパーの限界を超越したデタラメな機動で、刃が縦横無尽に繰り出される。

 斬撃の檻、惨殺空間に囚われた哀れな獲物にもはや逃れる術はない。

 

『凶鳥は、無明の闇を斬り裂いて飛ぶ! アーマラ!』

「まだ終わらんッ! 翔ろッ、ファルケン!」

 

 一旦モーションを終了し、イングが合図する。するとアーマラは《ビルトファルケン》を急速接近させ、《バスタックス・ガン》の紅黒い砲撃を次々に放り込む。

 再び光速斬撃の嵐を刻む《アッシュ改》の間隙を縫い、縦横無尽に飛び回る《ファルケン》。そんな複雑な機動の中でも、アーマラは狙いを違わず、正確な射撃でサンドレイクを追い詰める。

 剣撃と砲撃で散々に痛めつけた後、両機は同時に攻撃を停止、メガボーグを挟み、ちょうど対角線上に距離を取った。

 

「さあ! とどめだ!」

『TーLINK、フルコンタクトッ! 灰は灰に、塵は塵に! 貴様のエゴを、その邪念ごと断ち斬ってやる!』

 

 ラスト・アタックを決めるべく、更なる念を解き放つアーマラとイング。コーティング・クロークを翻す《アッシュ改》、そして一対のテスラ・ドライブユニット羽撃かす《ビルトファルケン》。

 《バスタックス・ガン》と《TーLINKセイバー》を念動フィールドが覆う。二人の念動力が共鳴し合い、両機に強力な相乗効果をもたらしていた。

 

『ダブル・デッド・エンドォォォッ――』

 

 前後からの完全な挟み撃ち。テスラ・ドライブが唸りを上げる。

 斧と剣、“凶鳥(ヒュッケバイン)の眷族”たちが邪念を断つべく武器を振りかぶる。

 

「『スラァァァァッシュッッ!!!」』

 

 すれ違いざまの一閃が重なり合う。

 《ビルトファルケン・タイプL》と《エクスバイン・アッシュ改》の合体攻撃――《ストライク・デッド・エンド》が炸裂した。

 

『ば、馬鹿な!? この私がっ、メガノイドが人間などにぃぃぃ!?』

「貴様はお呼びじゃないんだよ、三下」

『一番大事なヒトの心を忘れたお前らに、この技はちと勿体なかったか。あばよ、あの世でお前の罪でも数えてな』

 

 意味にならない断末魔を叫び、《メガボーグ・サンドレイク》は爆発四散する。《ダイターン3》、《ブラックサレナ》と交戦していたほかのメガノイドたちはあまりの一方的な展開に絶句していた。

 そんな中、イングがあっけらかんという。

 

『悪いな万丈さん、宿敵の一人を倒しちまって。あんまりふざけたこと抜かすから、思わずぶっ飛ばしちまった』

『いや、いいんだイング、僕も目が覚めた思いだよ。大事なのはヒトの心と、仲間との絆なんだってね』

 

 どこか憑き物が落ちたような表情で万丈はイングに応じた。

『くっ!』コロスが悔しげに呻く。しかし、自身の優位な状況は揺るがないと見て笑みを浮かべる。

 

『たかがコマンダー一人を討ち取ったところで、あなた達がこの空間に囚われているという事実は変わらないのですよ』

『フッ、そうでもないみたいだぜ?』

『何?』

「ッ! なんだこの念……空間に、亀裂が……?」

 

 不意に、亜空間に亀裂が入る。

 外界の光とともに現れた白い巨鳥に導かれ、《ナデシコB》、《大空魔竜》、《アルビオン》、《マザー・バンガード》、《キング・ビアル》が姿を現した。

 

『ご無事ですか、皆さん』

 

 心配するルリの第一声を皮切りに、万丈の事情を知る仲間たちが声を上げる。

 皆、水くさい、自分たちを頼れと口々に言う様は万丈が持つ抜群の人望の現れだろう。特に、勝兵やワッ太は万丈に懐いているとあって感情的になっていた。

 

『あと、やっぱりいましたね、アキトさん。ユリカさんが急にいなくなったって、心配してましたよ』

『ルリちゃん……ユリカに会ったのか』

『ええ。「ルリちゃ~んっ、アキトがいなくなっちゃった~!」ってボソンジャンプで現れまして。相変わらずですね』

『ユリカ……、いろいろ台無しだよ』

 

 一部では揉めているが、さておき。

 

「どうやら形勢逆転のようだな、メガノイド」

『役者も揃ったところで。万丈さん、いつもの頼むぜ』

『すまない……みんなの力、今一度貸してもらうよ』

 

 万丈は感動を押し隠すように、わずかに瞼を伏せる。

 拓かれた眼差しが、メガノイドを射抜いた。日輪のような闘志を宿して。

 

『いくぞ、コロス! 世のため人のため、メガノイドの野望を打ち砕くダイターン3! この日輪の輝きを恐れぬならば、かかってこい!!』

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◎月∇日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ついさきほどまで、万丈主催のパーティーに出ていていささか疲れた。イルイも同じようで、ベッドで夢の世界に旅立っている。

 コマンダー・キドガーもとい木戸川め、存外しぶとかったようだ。あのとき、死んだと思ったんだが。

 

 しかし、今回は久々に窮地に陥った気分だ。

 滅びたかに思われたメガノイドが再び姿を現し、破嵐万丈の抹殺に暗躍した。私とイングはその罠に巻き込まれたというわけだ。さすがに、今回ばかりは死を覚悟したぞ。

 

 宿敵の復活を受け、万丈は破嵐財閥を解体して身辺の整理をし、さらにはαナンバーズからも離れて独自に対抗するつもりだったらしい。もっとも、今回の一件で思い直したようだ。

 身軽になるという判断は間違ってはいないし立派だとも思うが、破嵐財閥の財政的な後押しというのは密かに重要だったわけで。今後に影響がなければいいが。

 

 それにしても、あの白い鳥型ロボは何だったんだ? 外にいた連中によると、突然飛来して不可思議な光(イングに匹敵するほどの強力な念を放っていたとはクスハ談)により、亜空間への活路を拓いてくれたそうだが……。

 敵か味方か、だな。

 



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αIIー3「凶鳥は三度死ぬ」

 

 

 新西暦188年 ◎月■日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ロブがGGGに滞在していた理由が判明した。

 GGG中国支部が受け持つ「Gストーン」の欠片の一つを込めた「GSライド」を《アッシュ》、正確に言うならその後継機MkーXの動力源にするためだったらしい。

 諸々の事情でトロニウムエンジンが使用できないことを受けた処置で、ヒトの生きようとする意志に反応して無尽蔵のエネルギーを生み出すGストーンの性質に着目したわけだな。

 ということで、《アッシュ改》がまたまた改修を受けた。

 もっとも、予備のプラズマ・ジェネレーターを取り外して、そのスペースにPT用のGSライドを搭載するだけだから作業自体はすでに終わっている。

 いい加減、いじりすぎだと思うのは私だけか?

 

 ただし、現在GSライドは稼働していない状態だ。

 ロブ曰わく「理論上では完璧なはずなんだが」。獅子王博士によれば「アッシュに染み付いたイング君の念と、無垢な状態のGストーンが拒否反応を起こしてるんじゃ」。

 しばらくGストーンをイングの念に馴らしてから再度調整を行うとのことで、《アッシュ》のパワーアップに繋がらなかったことをイングは大変残念がっていた。

 

 なお、そのイングだが、Gストーンの無限情報サーキットとしての性質を生かして、勇者ロボのような超人工知能の搭載を熱望している。

 どうも《レイズナー》の支援AI、「レイ」が羨ましいらしい。もう勝手にしろという感じだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月☆日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 《雷龍》《風龍》が《氷竜》《炎竜》といがみ合って困っている。

 合流した当初から不穏な空気を醸し出していたのだが、ここに来て確執が表面化してしまった。どうやら《雷龍》《風龍》が未だ合体を出来ていないことが原因のようだ。

 レスキューマシンとしての色が強い《氷竜》《炎竜》と、初期から兵器として造られた《風龍》《雷龍》の違いと言えばそれまでだが。

 ロボットとはいえ、二機は私たちの部下である。どう解決しようか、頭が痛い……。

 

 

 追記。

 明日、竜崎が銀河と北斗に稽古をつけるために《ダイモス》と《電童》で模擬戦をやるらしい。ベガ副司令に、ついて行ってやってくれと頼まれた。

 訓練とは結構なことだが、妙な事件の発端とならなければいいのだが。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月◎日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 イングの戯言ではないが、昨日の日記がフラグとやらになってしまったらしい。

 

 Gアイランド・シティ近海、東京湾での一対一の模擬戦。

 結果は《電童》の辛勝だったが、そこに火星の後継者が襲来する 。例のごとく現れた《ブラックサレナ》《ユーチャリス》と協力して対抗していたのだが、奴らの目的はGGGの保有するEOTだったようで、機動兵器を陽動に北辰とその部下たちが基地内に白兵戦を仕掛けてきた。

 だが、相手が悪かった。

 獅子王凱、司馬宙のサイボーグコンビだけでお釣りがくるほどの戦力だというのに、ベガ副司令を筆頭に生身でも戦えるメンバーで返り討ちにしてやった。無論、私とイングも急行して白兵戦で迎え撃った。

 しかし、北辰集を数人始末することには成功したが、肝心の北辰を逃してしまったのは痛恨だったな。

 

 さらに悪いことは続くもので、同時に鉄甲龍による大規模なサイバー攻撃が始まった。現在も、世界規模で深刻なネットワーク障害が続いている。

 国際警察機構の調べによれば、鉄甲龍は「国際電脳」という企業を隠れ蓑にしていたようだ。

 ベイタワー基地はホシノ艦長と《ナデシコB》の管制AI「オモイカネ」、GGGメインオーダールームのチーフ、猿頭寺耕助の手でハッキングに対抗しているが、世界中の量子コンピュータから攻撃に押し負けてやや不利に陥っている。

 早急に敵本拠地を潰さなければ、こちらが危うい。αナンバーズ首脳陣の編み出す作戦に期待だ。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月∑日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 先日の日記には期待と書いたが、後手後手に回っている。

 ここは鉄甲龍の手際を評価すべきところだろうか。

 

 東京市、そしてGアイランド・シティに侵攻した八卦ロボ、《地のディノディロス》《山のバーストン》との前哨戦。人工的に地震を引き起こす《地のディノディロス》も厄介だったが、特に多数のミサイルに核ミサイルまでもを爆装した《山のバーストン》は、質の悪い機動兵器だった。

 《山のバーストン》により都市部に向けて発射された核ミサイルは、《ユウ・ブレン》《ヒメ・ブレン》を筆頭にしたブレンパワードたちが協力し、発生させたオーガニック・エナジーで宇宙に弾き出され、事なきを得た。

 またその際、《雷龍》《風龍》が《氷竜》《炎竜》から人命救助と勇者とやらの心を学び、《撃龍神》へと合体を成功させたことを特記しておく。

 

 さておき、鉄甲龍の本拠地を突き止めるべく、私たちは撤退する二機の八卦ロボを追撃したのだが、そこに最後の八卦ロボ、《雷のオムザック》が現れた。

 しかし、三度豹変したマサトからの何らかのアクションをきっかけに仲間割れを始め、最終的には《メイオウ攻撃》で消し飛ばされた。

 

 錯乱したのか、苦しんだように暴走し、こちらに攻撃しはじめた《ゼオライマー》を止めたのは他でもない、シュウ・シラカワの《グランゾン》だった。

 途中で《ゼオライマー》が停止したからよかったものの、あのまま戦い続けていたら冗談抜きに地球が終わっていたかもしれない。

 正直言って、私はあの二機の戦いに割って入りたくない。イングでさえ、顔色を変えて震えていたのだからな。

 拘束された秋津マサトの処遇は、明日に持ち越すことになった。

 

 

 

 新西暦188年 ◎月▲日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 《グランゾン》と《ゼオライマー》の対決から一夜が明けた。

 

 シュウはラ・ギアスでの事件を解決させたその足で、地上にやってきたらしい。

 さらに、私たちαナンバーズに協力するつもりらしい。「因果率の収束点を自分の目で観測するため」と意味ありげに嘯いていたが、実際のところその目的は不明だ。

 イングは「利用されたどこぞの誰かを潰したいだけなんじゃね?」と核心を突いた感想を漏らしていた。

 

 シュウ・シラカワの登場と、マサトの変化で様々な事実が判明した。

 その情報を纏めるために、ここに記しておくことにする。

 

・《天のゼオライマー》とは、木原マサキの野望のために生み出されたものである。

 その木原マサキという男は大変歪んだ人物のようで、《ゼオライマー》により地上全てを滅ぼしてそこにただ独り君臨することを目的としていたようだ。

 

 

・秋津マサトは木原マサキのクローン人間である。

 マサトは木原マサキの野望を達成するための駒であり、《ゼオライマー》に記録されていた木原マサキの人格等を徐々に上書きされていた。突然の豹変はそれが原因だった。

 現在は何らかの不具合により、どっちつかずの状態に陥っているらしいことが本人の口から語られている。

 さらには鉄甲龍の幹部の殆どが木原マサキのクローンであるという。

 

・木原マサキはEOT会議のメンバーであり、ビアン・ゾルダーク博士と交友があった。

 シュウ・シラカワはビアン博士自身からその人となりを聞いていたそうで、「人間性はともかく、才能ではビアン博士にも匹敵する天才」と評価していた。

 

・「次元連結システム」の正体と原理。

 美久は次元連結システムそのものであり、人間のように成長するアンドロイドだと判明した。それだけでも驚愕すべき科学力だが、その実体がすごい。

 次元連結システムとは、アカシックレコードとも呼ばれる宇宙の根源から、木原マサキが「次元力」と名付けた無限のエネルギーを汲み取る装置であり、サイコドライバーの力を機械的に再現したものなのだという。

 なお、シュウ曰わくこの「次元力」とはラ・ギアスの概念「プラーナ」とも密接に関連しているとのこと。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月♪日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 現在、αナンバーズは未知のコンピュータウィルスに侵されたユニコーンドリル、レオサークルの治療に全力で当たっている。

 ホシノ艦長、エリスらその筋のスペシャリストたちは元より、イルイや護、ケン太、宇都宮比瑪についてきた孤児のちびっ子たちも仲のよかったデータウェポンのために、必死になって奔走している。

 

 一方、私たちはウィルスの感染源と思われる宇宙生物「ラゴウ」を捕獲するため、出撃準備中だ。

 この日記も、《ファルケン》のコクピットで書いている。

 その《ファルケン》の対面には、青白い特機サイズの機動兵器が駐機されている。《サイバスター》、ラ・ギアスからやってきた風の魔装機神である。

 

 ことの経緯はこうだ。

 先日のシュウによる暴露の後、マサトは自身のオリジナル、木原マサキの始末をつけるべく美久とともに鉄甲龍の本拠地に乗り込んだ。

 鉄甲龍の首魁にして、同じく木原マサキのクローンである幽羅帝諸共《ゼオライマー》で自爆したマサトたちだったが、何の因果か生き残ってしまった。

 そこに、北辰と火星の後継者がまたぞろ現れる。おそらくは次元連結システムが狙いだったのだろう、確かに手負いの《ゼオライマー》なら与し易い。

 窮地の《ゼオライマー》を救ったのが偶然通りすがったマサキ・アンドーと《サイバスター》だったわけだ。

 よくもまぁ、状況もわからずマサトたちに助太刀したものだと思ったが、後に聞いたところ「大勢で寄ってたかって攻撃してんだから、助けるのは当たり前だろ」との答えが返ってきた。

 

 私たちが合流したのはその辺りだったのだが、さらに乱入するものがあった。それが上記の《ラゴウ》、ガルファ皇帝のペットで金属を喰うという宇宙生物である。

 データウェポンとは何らかの因縁があるらしく、四体のデータウェポンは勝手に「ファイルロード」して立ち向かっていった。

 が、あえなく返り討ちにあい、ラゴウからウィルスを注入されてしまった。

 

 これから一時間後、消滅の危機にあるデータウェポンたちを救うべく、ラゴウの捕獲を目的にガルファの拠点がある月へと向かう予定だ。

 月と言えば、様々な勢力が入り乱れて地獄のような様相を呈している地帯である。

 ギガノス、あるいは木星帝国、はたまた星間連合の横やりが予想される。気を引き締めなければ。

 

 少し意外だったのが、マサキが宿敵シュウ・シラカワと顔を合わせても比較的冷静だったこと。ラ・ギアスで何かあったらしいが、詳細は不明だ。

 とはいえイングに、「さんざん道に迷ったあげく、シラカワ博士に先越されてやんの」とイジられて顔をしかめていたが。

 また、木原マサキと同名なためか、その名前が会話に上がる度に微妙な表情をしていることを記しておく。

 もっとも、これはヤマダにも言えることだがな。

 

 なお、ダメージが深い《ゼオライマー》はGGGに残り、マサト自ら修理するそうだ。あのビアン博士に匹敵するという木原マサキの知識に期待するのは酷だろうか。

 生き残ってしまったマサトは、木原マサキの犯した罪を購うためにαナンバーズの一員として戦いたいと決意を明かした。神隼人や剣鉄也らいわゆる皮肉屋たちが「信用できるのか」と異を唱えていたが、大河長官が認めたことで納得したようだ。長官の人徳のなせる技だな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球圏、衛星軌道上

 

 結果から書くと、ラゴウ捕獲作戦は失敗に終わった。マーグ率いる星間連合の妨害によるものだ。

 しかし、ユニコーンドリルとレオサークルは無事だ。

 ウィルスに消滅する間際、GGGに保管されていた《ガオガイガー》の構成パーツ、《ドリルガオー》《ステルスガオー》の予備機をそれぞれ取り込んで復活を果たし、さらには合体して「超獣王輝刃」となり《電童》に力を貸し、ラゴウを葬ったのだ。

 

 なお、宇宙への打ち上げの際、ゾンダーによる妨害があり、アイビスが単騎で迎撃に出ている。

 データウェポンたちと仲のいいイルイのためだろうアイビスの無茶な行動の援護に、凱とゼンガー少佐、レーツェルも残っている。

 四名は無事、ゾンダーを撃退したそうだ。

 

 肝心の作戦だが、前述の通りマーグ率いる星間連合の部隊の妨害を受けた。ガルファと繋がっていたわけではなく、漁夫の利を狙っていたのだろう。

 また、その部隊にはエイジの実姉、ジュリアが婚約者の敵として実の弟の命を狙って参加していたようだ。前にも書いたが、一世紀前の昼ドラ並にドロドロだな。

 それから、あのトリ型メカに類似したサメ型メカが現れて共同?したことを記しておく。

 

 イングは輝刃の誕生を感知していたようで、私は「希望が輝いた」と小さく呟いたのを確かに聴いた。

 「輝いた」は輝刃の暗喩だろうが、「希望」とはいったい何のことだ?

 

 さておき、αナンバーズは現在地球に帰還すべく、移動中だ。

 地上に残った四名との合流とミケーネ帝国に対抗するため、北米はテスラ・ライヒ研究所に降下予定である。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月¥日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ネオ・ジオン、及び木星帝国との遭遇戦があった。

 特筆すべきことはその部隊に《ビルトファルケン・タイプR》がおり、ジュピトリアンの巨大モビルアーマー《ラフレシア》と交戦した。あの触手、厄介だったな。

 

 戦闘時に合流したロンド・ベル旗艦《ラー・カイラム》、ブライト艦長とともに、青い《量産型F91》のパイロット、ハリソン・マディン大尉が加わった。

 アムロ大尉がαナンバーズへ参加していた間の代わりを勤めていた人物で、正規の軍人にしては出来た人柄を持っている。イングにも見習わせたいくらいだ。

 

 《量産型F91》、いい機体だ。

 アムロ大尉たちの尽力で実践配備されただけあって、試作機とほぼ遜色ない性能に仕上がっている。量産機にしては高性能すぎというのはいささか難点だが、αナンバーズには関係ない。

 量産機といえば、《レイズナー》及び鹵獲した星間連合の《ドトール》を解析した地球産SPT《ドール》が、連邦軍正規部隊で運用を開始されたらしい。こちらは元が量産機だけあって操作性やコストに優れているようだ。

 現在の連邦軍は現行の《ジェガン》に加え、《ドラグーン》《量産型F91》、《ドール》のハイ・ロー・ミックスで構成されている。あと、一部には《VFー1バルキリー》シリーズや《エステバリスII》なども使用されている。

 さすがに《量産型グレート》などの特機は配備されていないが、少数生産された《量産型グルンガスト弐式》も現役で活躍しているそうだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球圏、衛星軌道上

 

 諸々の事情で接触した《マザー・バンガード》の協力者、ベラ艦長の従姉妹であるシェリドン・ロナの子供じみた妨害には辟易と言った気分だ。

 シェリドンにより、ジュドーとともに拘束されていたトビアは《クロスボーン・ガンダムX3》を奪取し、木星帝国との戦闘に馳せ参じた。

 後になって聞いたが、シェリドンは狂信的なニュータイプ信者でそのためトビアとジュドーを拘束したらしい。「ニュータイプなんて大したことない」が持論のイングとは水と油だろう。

 

 木星帝国の首魁、クラックス・ドゥガチの娘、テテニス。ベルナデット・ブリエットを名乗り、一時期《マザー・バンガード》と行動をともにしていたらしい彼女は、実の父親によってモビルアーマー《エレゴラ》に乗せられ、αナンバーズに敵対させられることになった。

 もっとも、その小細工はトビアの活躍によって見事ご破算と相成ったわけだが。

 しかし、「海賊らしく、頂いていく」か。トビアめ、なかなか味なことを言う。

 言い放たれたときのドゥガチの顔を直に拝めなかったのが、残念でならない。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月ℓ日

 地球圏、衛星軌道上

 

 ネオ・ジオンを脱走したゼオラ・シュバイツァーを保護した。

 先日の戦闘で思うところがあったのだろう、ゼオラは元ティターンズのヤザン・ゲーブルらに追われていた。それを聞きつけて勝手に飛び出したアラドを援護して、一戦交えたのだ。

 しかし、《ストライク・デッド・エンド》のオリジナルと言える《ツイン・バード・ストライク》をぶっつけ本番で決めるとは、あの二人なかなかやるな。

 アラドの奴、普段はへっぽこなくせに相方がいると動きが抜群によくなるようだ。あるいはゼオラのフォローが上手いだけかもしれないが、それでも大したものである。

 

 さておき、いろいろあったが明日にはようやくテスラ研に到着だ。

 久々にまとまった休息が取れそうだし、イルイにかまってやるとしようか。

 

 

   †  †  †

 

 

 北米地区の荒野に建てられた研究施設、「テスラ・ライヒ研究所」。革命的な推進機関テスラ・ドライブ、そして名機《グルンガスト》を世に輩出した場所である。

 物資補給のために立ち寄ったαナンバーズの面々は、つかの間の休息を楽しんでいた。

 

 αナンバーズ所属艦の一隻、《マザー・バンガード》。

 遊覧船のような優美な船体に相応しく軍艦にしてはすっきりとした印象の通路を、ピンクブロンドの少女が金髪の幼い女の子の手を引いて歩いている。

 αナンバーズが誇るエースパイロットの一人、アーマラ・バートンと謎の少女、イルイだ。 

 

 普段は《ナデシコB》に同乗している二人は、持て余した暇を潰すべくほかの所属艦に行ってみようという話しになった。主にイルイの希望である。

 

「狭い軍艦に押し込められて退屈じゃないか、イルイ」

「ううん、毎日楽しいよ」

 

 アーマラの気遣わしげな視線を見返し、イルイは笑顔で否定する。

 

「友だちも、いっぱいできたし」

「ふふ、そうか」

 

 相変わらずαナンバーズには年少の子供たちが多いし、一部は戦闘要員として活躍している。

 《キング・ビアル》などは一族総出で乗り込んでいるし、大半のメンバーは成人前の少年少女ばかり。さらに数少ない正規軍人のブライトやアムロなどさえもかつては同類だったのだから、αナンバーズがどれだけ異質な集団であるかがわかるだろう。

 

「みんなとお勉強するのも楽しいよ」

「イルイは偉いな」

「えへへ、うん」

 

 アーマラに褒められ撫でられて、イルイはご機嫌だった。

 

 未だ学校に通っていなければならない年齢の子供たちのために、《大空魔竜》のサコン・ゲンや大文字博士などが教師役になって、彼らに一般教養を教えていたりする。

 もっとも、ジュドー以下シャングリラ・チルドレンたちやケーンらドラグナーチームなど、年齢的には「子供」の範疇に当たる悪ガキたちは、この勉強会から何かにつけて逃げ回っていたりもするのだが。

 なお、アーマラはともかく、イングも真面目に受けていることに周囲は意外に思われている。

 

 閑話休題(それはさておき)。

 

 二人は《マザー・バンガード》の食堂に立ち寄った。

 食事時ではないから、船員の姿はまばらだ。

 

「広いねー」

「そうだな。ナデシコBと同じくらいはありそうだ。――ん? あれは……」

 

 閑散とした食堂を見渡していたアーマラが、ふと何かを目撃する。

 

「あっ、お兄ちゃん!」

 

 同じものを見たイルイが、ぱっ、と繋いでいた手をすり抜けて駆けていく。

 アーマラは、やれやれ、とニヒルな仕草で肩をすくめ、その後を追っていった。

 

「なにをしてる、イング」

「んあ? アーマラにイルイか」

 

 アーマラの声に前髪に蒼いシャギーの入った銀髪の少年――イング・ウィンチェスターは包丁片手に作業していた手を止め、振り向いた。もう一方には、剥きかけのジャガイモが握られている。

 傍らにはキンケドゥとトビア、アラドが同じように包丁やらピーラーやらで黙々と山のようなジャガイモと格闘していた。

 

「何ってしてるって、ジャガイモの皮むきだけど?」

「いや、それは見ればわかるが……」

「おいも?」

「おう。ベラさんがパン焼いてみんなに振る舞うらしくてさ、キンケドゥが具にコロッケを作るんだよ。で、それを手伝ってんの」

 

 控えめにすり寄ってきたイルイの頭を撫でつつ、イングが事情を説明する。もちろん、包丁を置き、汚れた手を拭った上でだ。

 

「要するに、二人の明るい将来に向けての予行練習だな」

「ま、まあ、そんなところだ」

「今、ベラさんが奥でパン粉を練ってるんだ。ベルナデットも手伝ってるよ」

 

 軽くからかわれて言葉を濁すキンケドゥと、トビアが状況を補足した。《マザー・バンガード》の師弟コンビは、女性関係でもよく似ている。

 

「それはわかったが、どうしてアラドまでいるんだ。お前、今日はゼオラと訓練するんじゃなかったのか」

「いやー、それがなんかイングさんに捕まっちゃって。……おれって、消費するの専門なんスけど」

 

 アーマラの問いに、アラドが困ったように事情を説明する。ちょっぴり不服そうだ。

 はぁ、と頭痛を感じたようにアーマラは頭を抱えた。

 

「バッカおめぇ、今時のイケてる男子は料理が出来て当たり前なんだって。レーツェルさんとか、すげーカッコいいだろ?」

「ああー、なるほどッス」

 

(イケてる、って言葉自体がすでにダメっぽいのは言わない方がいいかな)

 

 お気楽な義兄弟コンビのやりとりに、トビアは苦笑している。

 謎の美食家ことレーツェルの料理通ぶりはαナンバーズに浸透しており、今日もその腕で何を披露してくれるか大変期待されている。――一部に、クスハの例の“アレ”を警戒する向きもあるが。

 

「オトナってのは、自分の食い扶持ぐらい自分で用意するもんだ。それにほら、お前の相方ってメシマズさんだろ? ……ウチのと一緒で」

「! たしかにっ!」

「どういう意味だ、それは」

 

 使い方の間違った言葉を軸に持論を展開するイングに、アラドが感銘を受けたように何度もうなづいている。引き合いに出されたアーマラが、眉間にしわを寄せた。

 そんなパートナーに、イングはシレッとした顔で告げる。

 

「だって、事実だし」

「バカにするな。私だって料理くらいできるぞ。お湯をかけて三分待つだけだ」

「インスタント食品は料理って言わねえのっ!」

「インスタントじゃなくて、軍用レーションだぞ」

「余計にダメだよっ!」

 

 わりとズレたアーマラの返答に、イングがすかさずツッコんだ。

 二人のやりとりがおかしくて、イルイがけたけたと腹を抱えて爆笑している。

なお、イングとアーマラは、甲児や豹馬、マサキなどから「夫婦漫才」と呼ばれていたりする。

 

「ふ、ふんっ! お前だって、大口を叩ける腕前じゃないだろうに」

「残念だったな! オレは一通りレシピを覚えたから、味付け以外は完璧だっ!」

「威張ることじゃないと思うぞ……」

 

 二人のズレズレな掛け合いに、キンケドゥが脱力したようにツッコミを入れた。

 

 もっともイングは自身が極度の甘党なだけで、他人に食べさせる料理はそれなりにまともに作れるのだが。

 一応、中の人は極々普通な一般人であるからして、料理の経験だってある。ただ、根本的に味覚がおかしいだけだ。

 

 

 ジャガイモを剥き終わったイングとアラドを加えた一行は、イルイのたっての願いで。ロンド・ベル隊旗艦《ラー・カイラム》に向かう。

 イングの(多少はアーマラの)影響を受けているイルイは、軍艦やαナンバーズのロボットに興味を示している。置かれた環境や、同世代に男子が多いことも無関係ではないだろうが。

 そのイルイは、「お兄ちゃん」におんぶされて大変ご機嫌だった。

 

「ああーっ!」と、廊下の向こうから金切り声が響く。

 声を上げ、土煙を上げんばかりに走り寄ってくるのは、銀髪の少女だった。

 

「アラドッ、やああああっと見つけたっ! 約束の時間、何時間過ぎてると思ってんのよ!」

「げっ、ゼオラ!?」

「何が、「げっ、ゼオラ!?」よ! 私との約束すっぽかして、どこいってたのっ!?」

 

 怒り心頭、憤慨するゼオラ。彼女のアクションにあわせて大いに揺れる胸をガン見していたイングが、「ありがたやありがたや」と拝んでいる。

 アホな相方のわき腹に制裁を加えつつ、アーマラは怒り心頭のゼオラと責められるアラドを取りなす。

 

「すまんな、ゼオラ。ウチの馬鹿がアラドを引っ張っていたらしい」

「あ、いえ、アーマラ少尉に謝っていただくようなことじゃ……」

「ゼオラ。何度も言うが、私はもう連邦軍の少尉ではないぞ?」

「は、はい」

 

 すると一転して畏まるゼオラ。先ほどまでの怒りっぷりが嘘のような態度だった。

 戦場では同じ《ビルトファルケン》のパイロットとして鎬を削ったアーマラとゼオラだったが、現在は良好な関係を築けていると言える。

 αナンバーズに保護され、仲間入りしたゼオラはアーマラに「生意気なことを言ってごめんなさい」と敵対中の言動を謝罪した。まだ参加して間もないが、PTパイロットの先達として敬意を払っているのが伺える。

 アーマラの方も慕われることに悪い気はしておらず、アラド共々弟分妹分としてかわいがっていた。

 

「こんにちわ、ゼオラ」

 

 話しが一段落したのを見計らっていたのか、イルイが挨拶する。

 

「こんにちはイルイ。お兄さんとお姉さんが一緒で、ご機嫌ね」

「うんっ」

 

 ゼオラの指摘に、イルイが元気いっぱいに答える。そして、改まったように通路を見やった。

 

「なんだか、狭いね」

「まあ、ラー・カイラムは純粋な戦艦だからな。ナデシコBやマザー・バンガードはもとより、大空魔竜とかと比べたら気の毒だ」

「ふーん……でも、お兄ちゃんは前に住んでたんでしょ?」

「んっ、ま、そうだな。バルマー戦役やイージス事件でも世話になったフネだよ。そういう意味では、ラー・カイラムはオレの我が家(ホーム)みたいなもんかな」

 

 イングが誇らしげに言う。

 乗船した期間は短かったものの、アーマラも同意見らしく得心したように頷いていた。

 

 この《ラー・カイラム》は未来世界から持ち込まれた艦であり、現代に残っていた方は《ジャンヌダルク》と改名されて連邦軍の正規部隊で使用されている。

 同じく、《マジンカイザー》《真・ゲッターロボ》も二機あったことになるのだが、こちらは不思議な現象により両者が一つになっている。

 イージス事件、真の最終章、自立起動した両機との熾烈な戦いはまた別の話だ。

 

 時折擦れ違う船員やαナンバーズのメンバーに挨拶しつつ、のんびりと艦内を散策する一行。

 

「あ、アムロ大尉とヴィレッタ大尉だ」

 

 と、アラドが声を上げる。通路の少し先に種類の違う軍服を来た男女の姿が見える。

 女性の方、ヴィレッタを見てアーマラが僅かに身構えたのをイングはちらりと視界の隅で確認した。

 

「ンッ、やあ」

「あなたたち、ラー・カイラムに何か用事?」

 

 フランクに挨拶するアムロに対し、ヴィレッタが前置きもなしに単刀直入に事情を聞く。

 

「イルイの社会科見学ってとこです」

「イング、それでは事情がわからんだろう。イルイがラー・カイラムの艦内を見てみたいと」

「なるほど、そういうことか。だけどイルイ、ただの軍艦を見て回っていて楽しいかい?」

「はい、楽しいです」

 

 イルイの礼儀正しく元気いっぱいの返事にアムロは微笑みを浮かべ、頭を軽く撫でる。保護者たちと違って、真面目で素直ないい子である。

 空気が一層和やかになったところで、イングが切り出す。

 

「お二人は、お仕事中ですか?」

「ああ、これからの部隊編成について軽く打ち合わせをしていたんだ」

「ゼオラが新しく加入したから、多少の変更があるのよ」

 

 アムロに続いて、ヴィレッタが事情を説明する。

 ヴィレッタは、メタな表現をするとバンプレストオリジナルチームの実質的な指揮官として活躍していたりする。

 階級的なトップはゼンガーだが、本人から指揮権を委譲された形だ。この辺り、イングとアーマラの関係に近いものがある。

 故に、αナンバーズ機動部隊のトップと言っても過言ではないアムロとは行動を共にしている姿がよく目撃されている。もっとも、両者の間にあるのは色気のある関係ではなく戦友といった風情であるが。

 

「お、お手数おかけします……」

「ゼオラ、謝ることではないわ」

「そうだな、ヴィレッタの言う通りだ。これが俺たちの仕事なんだから、」

 

 恐縮しきりのゼオラを年長二人が窘めた。

 

「それで、あなたたちはこれからどうするの?」

「とりあえず、ブライト艦長に挨拶しとこうかなと。オレもそうですけど、この機会にイルイを紹介したいんです」

「なるほど。みんな、ブライトの仕事を邪魔しないようにな」

 

「はーい」と声を上げるイング、アラド、それからイルイ。アムロは苦笑したが、お目付役のアーマラとゼオラがいるから大丈夫だろうと。

 とはいえ、艦橋が騒がしくなることは間違いない。旧友の胃の調子を心配するアムロである。

 

 

「いい顔をするようになったな、イングは」

「大尉からはそう見える?」

「出会った頃のイングは、一見明るかったけれど、どこか危ういというか不安定だったからね。今はイルイやアーマラに囲まれて、地に足が着いたように見えるよ」

 

 守るヒトが出来たからかな。アムロはそう言って、去りゆく五人の後ろ姿に目を細めた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球、北米地区 テスラ・ライヒ研究所

 

 現在、αナンバーズはテスラ研で補給を受けている。

 予定通り、イルイの相手をして過ごした。周囲が荒野に囲まれたここテスラ研では娯楽などないに等しいが、みな思い思いの方法で余暇を取ったようだ。

 

 イルイの願いで立ち寄った《マザー・バンガード》の厨房で、イングがキンケドゥらと見た。

 ロンド・ベル時代、厨房で下働きをしていたこともあるらしく、憎たらしいほど。器用な奴だ。

 ……やはり、私も料理のひとつ出来た方がいいのか?

 

 合流したゼンガー少佐だが、新たな特機に乗り換えていた。

 「ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン」一号機、通称《ダイゼンガー》。《グルンガスト参式》から受け継いだ《参式斬艦刀》のみを武器に戦うイング曰く漢の機体だ。

 テスラ研に死蔵されていたDCの遺産、ビアン・ゾルダーク博士設計のスーパーロボットであるらしい。

 乗り換えたのは、テスラ研に襲来したミケーネ帝国と邪魔大王国との戦闘でのことで、例のククルとかいう女に《参式》を破壊されたからだという。イングが「また名シーン見逃した!」と騒いでいたが、どうでもいいことだな。

 ちなみに、修復された《ゼオライマー》もこの戦闘の際に合流している。

 

 また、アイビスがネオ・ジオ

ンに組みしているDC時代の同僚と戦った模様だ。合流後、顔つきや雰囲気が好ましいものに変わっていてちょっと感心した。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月†日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 国際警察機構から召集を受けた私とイングは現在αナンバーズ本隊を離れ、上海は梁山泊にいる。

 同行者はイルイ、クスハ、ヴィレッタ大尉、アラド、ゼオラ、ゼンガー少佐、レーツェル、アイビスとその相方、ツグミ・タカクラだ。

 

 要件はBF団の動向について。

 かつての決戦で大幅に戦力を減じたBF団だが、最近になってにわかに活動が活発になっているという。京都で、コ・エンシャクとやりあったこともその証左だろう。

 エキスパートたちの調査により、連中がバルマー戦役の頃から進めていた「GR計画」、その正式名称が判明した。「グレート・リターナー」、大いなる帰還者、あるいは大いなる者の帰還といったところか。

 詳細は解らないが、まだ諦めていないらしいことは確かだな。

 

 それと、滞在していた安西エリ博士から例の鳥型メカについての見解を聞いた。

 「クストース」と名付けられた彼らは、あるいは超機人に関連する存在であるかもしれないとのことだ。

 

 あと、イルイがクスハに行方不明というか洗脳されているらしいブルックリンについて質問していた。

 あの子なりに、クスハを思いやって胸を痛めているようだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月ℓ日

 地球、極東地区上海 梁山泊

 

 梁山泊に襲撃してきた黒い《虎王機》と対決し、無事正気に戻すことに成功した。無論、ブルックリン・ラックフィールドも洗脳から解放された。

 イング曰く「テンドン」。バルマー戦役でのことを言いたかったらしい。意味がわからんが。

 例の鳥型メカ、サメ型メカの同類と思わしき豹型メカがちょっかいを駆けてきたが、合体した《龍虎王》に撃退されている。

 やはりあれらは単なる味方と見るのは危険なようだ。

 

 たが、イルイとクスハの会話のすぐ後というのはいささか出来すぎているようにも思える。

 私の杞憂であればいいが、な。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月@日

 地球、極東地区日本 GEAR本部

 

 現在、αナンバーズ各艦は沈痛な雰囲気に包まれている。

 特に、銀河と北斗の落ち込みようは見ていて痛々しいほどだ。

 

 《電童》のメンテナンスとデータウェポンのデータ取りのため、GEAR本部にやってきたのだが、ガルファとガイゾックの連合が来襲する。

 ガイゾックにより「人間爆弾」に改造された連邦兵士の乗る《ドラグーン》の自爆特攻を陽動に、《凰牙》のパイロット、アルテアが単身GEAR本部に乗り込んできた。

 その結果、ベガ副司令が無力化されて浚われてしまった。

 以前交戦したときの様子がおかしかったと言うから、その後再調整でも受けたのだろうか。

 ベガ副司令がアルテアの妹というのも驚きだが、北斗の実の母とは驚きを通り越して唖然としたな。

 

 しかし、アルテアの物言いには我慢ならん。

 何が「愚かなる人間ども」「全宇宙に破壊をもたらす真の破壊者」だ。確かにその通りだが、侵略異星人に言われる筋合いはない。大きなお世話だ。

 ご丁寧にも人類以外の勢力まで引き合いに出した御託に動揺して戦意を失うとは、銀河たちもただの子供だったということか。

 そのせいで、ユニコーンを始めとした《電童》のデータウェポンたちは契約を解除し、アルテアに奪われてしまったのだから忌々しいが。

 

 まあ、ベガ副司令を浚い、六体のデータウェポンを手にした《凰牙》だったが、久々にキレたイングと《アッシュ改》に機体をズタボロにされて這々の体で逃げ帰っていた。《凰牙》にベガ福司令が乗せられていなかったら、あのまま撃破できていただろう。

 その際の奴の返しは秀逸だったな。

「この地球は確かに争いの止まない場所かもしれない。オレたちは相手を選んでいるかもしれない。だがなッ、それを理由に貴様らガルファやガイゾックが命を好き勝手にしていい道理はないんだよ! 地球人の始末は地球人の手でつけるッ、貴様らは去れ!」

 何やら反論していたが、もはや聴くに値しない雑音でしかなかった。

 「邪念を断つ剣」に、支離滅裂な詭弁は通じんということだな。

 

 なお、他にも《ボルテスV》の剛三兄弟やエイジが強く反発していた。

 αナンバーズには地球人以外の人種も少なくないから、なおさらアルテアの言葉には説得力がなかった。 

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 星間連合やギガノス、ガルファに対抗する連邦軍の一大反攻作戦「ムーンレイカー」が発動し、現在月では大規模な戦闘が起きている。

 また、バルマー戦役以来、アステロイド・ベルトに戻り、息を潜めていた旧ジオンの宇宙要塞「アクシズ」が再び地球圏に接近しているという。

 それに、ベガ福司令を攫ったアルテアを追撃しなければならない。

 

 私とイングは例によって《ナデシコB》に同乗して《ラー・カイラム》、《マザー・バンガード》とともにアクシズに対応する。

 一方、《大空魔竜》《アルビオン》《キング・ビアル》は、ベガ副司令が囚われていると思われるガルファの戦艦に対して攻撃をしかける。データウェポンを失った《電童》も、αナンバーズメカニック陣により制作された武装を装備した《フルアーマー電童》として、戦いに赴く。

 その後、合流して月の正規軍に協力する手はずだ。

 このほどの戦乱も、もうすぐ終わりだろう。改めて、気を引き締めなければな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月*日

 地球圏、衛星軌道上

 

 妙なことになった。

 アクシズの真意を確かめるために、味方のはずのモビルスーツ相手に孤軍奮闘する《キュベレイ》と《ヴァルシオーネR》。何がどうなってそうなったのかまったくわからなかったが、とりあえず彼女らを助け、モビルスーツ部隊を撃退した。

 

 聞いたところによると、どうもアクシズ内部でシャア派によるクーデターが起きたらしく、要塞そのものを乗っ取られてしまった。事前に危機を察知したハマーンだったが、ミネバを連れて脱出せざるを得なかった様子である。

 例によって例の如く、木星帝国の暗躍によるもののようだ。「北辰便利すぎだろ!」とはイングの叫びだ。

 

 一方、《ヴァルシオーネR》のリューネ・ゾルダークだが、マサキと共に地上にやってきた後、因縁深いジュピトリアン、木星帝国を探るために独自に行動していたようだ。

 だが、潜入や調査に長けたわけでもないリューネは地球圏をさまよっていたところ偶然、ハマーンの窮地に立ち会ったのだそうだ。

 天才ビアン・ゾルダーク博士の娘だそうだが、もろもろの経緯からしてやはりマサキとは同類のようだな。

 

 シャアに対し怒り心頭、恨み骨髄のハマーンは、αナンバーズに協力を申し出た。もちろんリューネも同様である。

 また、身の安全が確保できないとしてミネバも滞在することになる。存外子煩悩らしいハマーンは不本意なようだが、合流後には子供の多さに唖然とするだろうさ。

 

 そのミネバだが、年かさの近いイルイとうまく打ち解けることが出来ているようだ。

 《ラー・カイラム》の食堂で、コンバトラーチームの十三が焼いたたこ焼きを、二人しておいしそうに頬張っていた。

 年下のミネバ相手にお姉さんぶるイルイの仕草には、不覚にも悶えてしまった。

 

 なお、さすがのイングも鉄の女にちょっかいをかける気はなさそうだ。

 「昔のツインテールなはにゃーんさまなら別だけど」と訳のわからんことを言っていたのだが、「貴様、どこでそれを知った!」というハマーンの割と本気なリアクションからして事実らしい。

 本当に、どこでそんな情報を掴んでくるんだ、あいつは。

 

 

   †  †  †

 

 

 ――月面。

 様々な勢力が入り乱れ、地獄のような様相を呈していた激戦区。

 連邦軍による反撃で、敵性勢力は大幅にその勢力を失った。

 そして今まさに、月における雌雄を決定する決戦が行われていた。

 

 ガルファの前線基地、《螺旋城》とガイゾックの旗艦《バンゾック》を撃破したαナンバーズは、ギシン星間連合との決戦に赴く。

 その最中、地球壊滅作戦が遅々として進まないことに業を煮やしたギシン星間連合の主、ズール皇帝が自ら地球圏に来襲した。

 

 もはや用済みとばかりに半ば洗脳が解けかかったマーグを始末したズール皇帝は、激昂するタケルの《ゴッドマーズ》を一蹴、さらには結集したαナンバーズの戦力すらも圧倒するほどの邪念を振りまく。

 果敢にも立ち向かったイングと《アッシュ改》だったが、返り討ちに合い、増加装甲はおろか《TーLINKセイバー》すら失って沈黙していた。

 

『アラド、行くわよ!』

『おう!』

『これ以上はやらせん!』

『フハハハハハ! そのような脆弱な念でワシに刃向かうなど、片腹痛いわ!』

 

『ぐぅ……!』『きゃあ!?』『うわあっ!』

 

 アーマラの《ビルトファルケン》が擱坐した《アッシュ改》を守るため、アラ果敢にズール皇帝に立ち向かう。

 だが、サイコドライバーにも匹敵する超能力の前には歯が立たたず、三機は散々に打ち据えられる。

 特に、先頭にいたアーマラ機はほぼ直撃を受けた格好だ。

 

『アーマラ! っ、龍虎王! 龍王炎符水!』

 

 拡散する怪光線が念動フィールドと接触し、その衝撃で月面に叩きつけられた《ファルケン》。それを庇う《龍虎王》が展開した術符から法術の龍火《マグマ・ヴァサール》を放つ。

 溶岩の帯が砲撃となってズール皇帝を打ち据えたが――

 

『フン! あの女の下僕も、大したことはないな』

『! 超機人のことを知って……?』

『クスハ、下がれ!』

 

 戸惑うクスハを追い越して、魔法の風を纏う魔装機神が躍り出る。

 

『てめぇの存在何もかもを、アカシックレコードから消し去ってやる!』

 

 《サイバスター》は目の前に創り出した魔法陣の中心へと魔法剣《ディスカッター》の(きっさき)を突き刺し、青白い火の鳥が羽撃く。

 続いて《サイバード》形態に変形し、ズール皇帝へと突撃を敢行した。

 

『アァァァカシックッ、バスターーッ!!』

 

 《サイバスター》の代名詞、《アカシックバスター》が炸裂する。

 

『やったか?』

『マサキ、それフラグニャ』

『ここでバカニャ! とか言わないだけマシなのかニャ』

 

 魔術攻撃による爆発を見て思わず漏らしたマサキの一言に、シロとクロから散々なコメントが飛ぶ。

 それが原因ではないが、爆炎を超能力で吹き飛ばしてズール皇帝が健在な姿を現した。

 

『ほう……僅かとはいえアカシックレコードに干渉するとは、貴様からは不愉快な善なる意志を感じるぞ。ワシ手ずから、マーズともども滅ぼしてやろう』

『善なる意志……サイフィスのことか!?』

『なるほど、あなたはなかなかに博識ようですね』

『――ム……!』

 

 唐突に乱入する《グランゾン》がズール皇帝の頭上を取り、胸部装甲を展開。発生させた空間の歪み、ワームホールに拡散ビームを撃ち込む。

 

『ワームスマッシャー、発射!』

 

 ズール皇帝を取り囲むように開く亜空間から、無数の閃光が襲いかかる。

 最大65536発からなる同時攻撃――《グランゾン》の代名詞の一つ、《ワームスマッシャー》。しかし、銀河を統べる邪帝はものともしない。

 

『今の攻撃、なかなか効いたぞ。その機体、どうやらワシと同じ負の力に呪縛されていたようだな』

『……やれやれ、赤の他人に秘密を喋られるというのは、存外不快なものですね』

『ブーメランですよぉ、ご主人様ぁ』

『黙りなさい、チカ』

 

 口賢しい使い魔をシュウはぴしゃりと窘めた。

 

 

 その後も、激闘は続く。

 猛攻を加える《マジンガーZ》《ゲッタードラゴン》《コンバトラーV》らスーパーロボット軍団と、アムロの《リ・ガズィ》率いるガンダムチームが先陣を切る。

 《ガオガイガー》とGGGの勇者ロボが死中に活を見出すべく奮闘すれば、《ダンクーガノヴァ》《ザンボット3》《トライダーG7》とともに、復活した《ゴッドマーズ》が戦線に復帰する。

 正気に戻った叔父のアルテアから譲られた北斗の《騎士GEAR凰牙》と銀河の《GEAR戦士電童》が連係攻撃を繰り出し。《ブレンパワード》たちや《ナデシコB》の艦載機《エステバリス》や三機の《ドラグナー・カスタム》、《レイズナー》《ベイブル》《バルディ》が波状攻撃を仕掛ける。

 バツグンのコンビネーションで戦う《ダイゼンガー》と《ヒュッケバインMkーIII・トロンベ》。《アステリオン》とその兄弟機《ベガリオン》が合体した《ハイペリオン》が、流星のように宇宙を切り裂く。

 さらに、αナンバーズの窮地に、マオ社からリョウト、リオの駆る二機の《量産型ゲシュペンストMkーII改》と、《壱式》を最新技術で強化改造した《グルンガスト改式》のイルムが駆けつけた。

 

 しかし、その全てを相手にしてなお、ズール皇帝は強大無比だった。

 

 

 沈黙した《アッシュ》のコクピット。非常電源により辛うじて明かりが灯る狭い空間に、赤い滴が点々と漂う。

 意識を取り戻したイングは全身に痛みを抱えながら、必死でコンソールをいじり回し、打開策を模索していた。

 

「くそっ! みんなが戦ってるってのに、見てるだけしかできないなんて……!」

 

 イングの卓越した超感覚は、コクピット越しに仲間たちの命の息吹とズール皇帝の邪念を感じ取っていた。

 それが一層、彼を焦燥させる。

 

「これでいいのか、アッシュ……! こんな終わり方で、誰も護れなくて!」

 

 ただの機械に、言葉をかけても届く訳ないと冷静な部分が訴える。けれど言葉を、自分の想いの丈を尽くすことをやめられなかった。

 

「オレは嫌だ。ここにいる意味も解らず、オレ自身を勝ち得ることも出来ないで――、こんな終わり方に納得できるか!」

 

 歯を食いしばり、操縦桿を強く握りしめる。

 無力感に打ち震えるイングは、この世界で必死に生きる内に生まれた願望、それを吐露した。

 

「仲間を、みんなを護りたい……この力が誰かから与えられたもので、この想いが誰かの思惑に縛られたものだとしても、オレは――!」

 

 そのとき――、GSライドに込められたGストーンが脈動した。

 

 

 ――わたしも、あなたといっしょに……――。

 

 

 聞き覚えのない、けれどずっとすぐ側にいてくれたような気のする幼い少女のささやきが聞こえる。

 不思議な温もりがコクピットいっぱいに溢れ、イングを包み込んでいた。

 

「そうだ、オレは、オレたちはまだ戦える……まだ飛べるんだ。みんなを、護れる!」

 

 封印されたGSライドが稼働を始め、沈黙していたはずのブラックホールエンジンに再び火が灯る。

 甦らんとする愛機の脈動を感じ、イングは瞼を閉じた。

 

 ――アースクレイドルの調整槽から生まれ落ち、訳も分からぬまま、戸惑いながらも自分の心に従って、大戦を戦い抜いた。

 それは、サイコドライバーという強大な力を持っていたから出来たことかもしれないが、同時に彼が彼であったからこそこ迷いながらもここまで進めてきたのだ。

 

 彼は、■■■■はどこか頼りなさげな風貌の、どこにでもいそうな少年だった。

 悪に眉をひそめ、非道に対して義憤を燃やし、悲劇に胸を痛める、子供の頃に見た物語のヒーローたちに憧れ、平和を愛する心を育んだ平凡な少年だった。

 その気持ちをいつまでも忘れず、心の奥で育んで――、誰にでも持ちうる英雄/勇者(ヒーロー)の素質を持ったどこにでもいる少年だった。

 

 ■■は忘れていなかった。

 愛する者を護るために戦う人がいたことを。

 そして自分がその一員になれたのだということを。

 

(来い……)

 

 精神の深いところまで内没し、念を高めていく。

 心に剣、輝く勇気を携え、影さえも斬り裂いて。自分という切り札で、奇跡を導く。

 戸惑いを、恐怖を、心に巣くう闇その全てを熱い炎で焼き払う。

 立ち止まる暇なんてない。

 考える余裕なんてない。

 ありったけの想いを胸に、信じた道を突き進む――、これはその一歩目なのだから。 

 

「……来い……!」

 

 カッ、と目を見開き、イングが念を解き放つ。

 千の覚悟を身に纏い、少年は戦士として、邪念を断つ一振りの剣として再び立ち上がる。

 

「来いッ!! オレとアッシュの、ヒュッケバインの新しい翼――! アーマラッ、お前のガリルナガンも一緒にッ!!」

 

 イングの念とその心に燃える不屈の勇気に呼応して、GSライドに込められたGストーンが緑に輝くGパワーの光を放つ。

 ゾル・オリハリコニウムの特性が活性化され、損傷した部分が瞬く間に修復していく。

 

『イング!?』

 

 機体を損傷させながら、果敢にも戦線に舞い戻っていたアーマラがパートナーの突然の復活に驚きの声を上げる。

 翠緑の念動光を発し、《アッシュ》が右手を掲げた。

 それに伴い、マオ社の格納庫から念動転移で呼び寄せたMkーXのパーツが念により《アッシュ》に組み込こまれ、さらには封印処理されていた《ガリルナガン》のトロニウム・レヴをも取り込んで、《アッシュ》が新生する。

 

「――フィッティングデータ、ロード! スペック、FCS、 T-LINKダイレクト、ラーニング・スタート! モーション誤差、サーボモーター限界値、RT修正ッ! 過負荷部分はフィールド・コート! リスタートオミットッ、 オプティマイゼーション!」

 

『MkーXのパーツを、念動力で呼び寄せたの!?』

『プリセットやシミュレーションをしていたからって、あんな形で装着し、瞬時に最適化するなんてあり得ない……!』

 

 紛いなりにも「MkーX」の開発に携わっていたリオとリョウトは驚愕を隠せない。

 

『見てくれ、カーク。トロニウム・エンジン、いやトロニウム・レヴのポリーラインにピークがいくつも出来ている』

『TーLINKシステムとトロニウムの相乗効果……かつて、リョウトがMkーIIIを強制起動させたことの再現か』

『けれどこれは、それ以上に不可解な現象だ。第一、トロニウムエンジンならともかく、トロニウム・レヴとのフィッティングなんて想定外にもほどがあるだろう!?』

『恐らく、ガリルナガンのエンジン周りのパーツごと取り込んだのだろうが……あるいは、組み込んだGストーンの影響か?』

 

 マオ社から戦闘をモニターしていたロブとカークが、唖然としつつ目の前の現象を分析していた。

 

「――オプティマイゼーション、コンプリート」

『あれが、新しいヒュッケバイン……』

 

 散りゆく翠緑の燐光を《ファルケン》のコクピット越しに見上げ、アーマラが息を飲む。

 初代から続く特徴的な黒と紫のカラーリング。《エクスバイン》と《SRX》を思わせる頭部バイザーに覆われたツイン・アイが戦場を見据える。

 全身の鋭利な突起は《リープ・スラッシャー》、《ファング・スラッシャー》の流れを組む念動兵器《TーLINKスライダー》だ。

 

『愉快な芸だったぞ、地球人。だが、所詮はガラクタ、継ぎ接ぎを重ねたところで銀河の支配者たるワシには届かぬ』

「黙れ!」

『!』

 

 嘲笑するズール皇帝を一喝するイング。

 彼の駆る《ヒュッケバイン》は、リョウトが戦い続ける親友のために設計したもの。そしてこの世界において行く宛もなく、存在する云われもない彼に居場所と目的を与えてくれた無二の戦友、掛け替えのない相棒を誹謗することを許さない。

 

「凶鳥は二度死に、その魂はエクスバイン・アッシュへと受け継がれた」

 

 《EX》、《エクスバイン》、《アッシュ》……傷つき、その姿を幾度となく変えつつも、イングとともに地球の平和を、牙無き人々を守るために戦い続けてきた《ヒュッケバイン》。

 “バニシング・トルーパー”との誹りを受けながら、生み出された使命を全うすべく幾多の戦場を駆け抜けた。

 

「そしてアッシュは死をも乗り越え、灰の中から甦生する……」

 

 宇宙を覆う強大な邪念に敗れ、灰となった凶鳥が今、死を、逃れ得ぬ“運命”を超克して不死鳥の如く甦る。

 ――ありとあらゆる災厄から人類を守護する、最強のパーソナルトルーパーとして。

 

「エグゼクスバイン! ヒュッケバインの魂を受け継ぐ新たなる凶鳥が、ズール皇帝ッ、貴様の邪念を断ち斬るッ!!」

 

 強念を迸らせ、イングが吼える。

 スーパー・パーソナルトルーパー、PTXーDEX《エグゼクスバイン》。

 《MkーI》、《MkーII》、《MkーIII》、二機の《EX》に次ぐ六番目の凶鳥にして、ブラックホールエンジン、グラビコン・システム、トロニウム・エンジンという歴代の《ヒュッケバイン》の要素を結集した集大成。

 全身に念動兵器を備え、《ヒュッケバイン》シリーズの特徴である重力兵器《ブラックホール・バスター・キャノン》を使用可能な《エグゼクスバイン》は、《MkーIII》で一端は完成を見た「PTサイズの《SRX》」――さらにはGストーン、ラプラスデモンタイプコンピュータ、トロニウム・レヴ等の超技術を組み込まれた「地球製《アストラナガン》」とも呼べる超兵器である。

 

「TーLINK、フルコンタクト! 唸れ、トロニウム・レヴ!」

 

 イングの強念を受け、バイザー越しのツイン・アイが赤く光る。

 

「アカシックレコードアクセスッ! 世界よ、オレに力を貸せ! 奴の邪念を断ち斬る力をッ!!」

 

 《エグゼクスバイン》の全身から、可視化された念動光が迸る。

 ヒトの限界を突破してなお高まるイングの念がTーLINKシステムとTーLINKフレームによって増幅され、世界の根源にまでその手を伸ばす。

 高められたサイコドライバーの力は、因果律の計算すら成し遂げるラプラスコンピュータの助けを受けて、ついにはアカシックレコードにすら干渉する。

 Gストーンが()み出すGパワーに導かれ、トロニウムから発生した莫大なエネルギーがアカシックレコードの後押しを受けて形を成していく。

 ――それはまさしく、ズール皇帝に折られた《ストライク・シールド》と《TーLINKセイバー》だった。

 

『折れたTーLINKセイバーが……!』

『いくらなんでも、無茶苦茶だ!』

『ヒュー♪ やるじゃない、あの子』

『! サイバスターが、いやサイフィスが震えてんのか?』

『これが完聖したサイコドライバーの力の一端……、“宿命”に選ばれし者の真価というわけですか』

『その強念……! まさか……まさかっ、バビルの!?』

 

 全てを置き去りに、不滅の凶鳥(エグゼクスバイン)が暗黒の宇宙に羽撃く。

 

「スライダー、パージ! 来い、ストライク・シールドッ!」

 

 両腕のハードポイントに備え付けられた《TーLINKスライダー》が分離する。

 さらに、念動力により追随する《ストライク・シールド》を左腕へと接続し、黒き不死鳥がその柄を握り締める。

 

「セイバー……、アクティブッ!」

 

 奇跡の力が新生させた《ストライク・シールド》から、あらゆる邪念を断つ剣――《TーLINKセイバー》が引き抜かれた。

 

「念動フィールド、オンッ!」

 

 幾多の強敵を斬って捨てた剣が、邪悪を駆逐する太陽の念に覆われて光り輝く。

 まるで雨露を払うように《TーLINKセイバー》を振るい、背部のテスラ・ドライブが×字の航跡を描いて《エグゼクスバイン》は猛然と突進する。

 

「うおおおおおッッ!!」

 

 眼前に掲げた《TーLINKセイバー》の鋒が、背後から《TーLINKスライダー》に拘束されたズール皇帝を真っ直ぐに貫く。

 強念を込めた剣を深々と突き刺し、擦れ違いざまにすり抜ける。

 テスラ・ドライブで慣性を打ち消し、着地した月面に土煙を残す《エグゼクスバイン》が、ゆっくりと右手を掲げた。

 

「念動爆砕ッ!!!」

 

 右手を握りしめると同時に、背後で大規模な念動爆発が巻き起こる。

 後方から飛来した《TーLINKセイバー》をノールックで確保して、《エグゼクスバイン》は飛び去った。

 

『ぬおおおおおおっ!? ば、馬鹿な! 只人(ただびと)の身で、“源理の力”までもを操るというのかっ!?』

 

 αナンバーズの攻撃をものともしていなかった姿が嘘のように、ズール皇帝は傷ついていた。纏っていた邪念のベールが、凶鳥の一太刀により斬り裂かれたのだ。

 闇の支配者は、宇宙すら鳴動させる驚天動地の強念にかつて自分を打ち据えた古き宿敵の面影を見て戦慄する。

 

『おのれバビルめ、このような輩を遺していたとは! やはり地球は危険だ! マーズともども、ワシの手で滅ぼしてくれるわ!』

「ズール皇帝、貴様ではオレに勝てない!」

『――それは違うな、イング』

「……アーマラ?」

 

 黒い凶鳥の傍らに、寄り添うようにして紅い隼が飛来する。

 サブモニターには、疲労を残しつつもニヒルな笑みを浮かべた少女の姿が映った。

 

『オレたちαナンバーズには、だろう?』

 アーマラが、勝ち誇ったように胸を張る。

 

『そうだぜ、イング! このままやられっぱなしじゃ終われねぇ!』

『俺たちで奴の邪念を、この星から追い出すんだ』

 甲児とカミーユが、戦友の活躍に応えんと闘志を漲らせる。

 

『クスハ、俺たちも!』

『うん! 悪しき念、百邪は龍虎王が討ちます!』

 操者たるブリットとクスハの意気に応え、青き“無敵龍”が吼える。

 

『やっぱすっげーな、イングさんて! ゼオラ、おれたちも行こうぜ!』

『ええ!』

 

 アラドとゼオラ、“百舌”と“隼”が光の尾を引いて駆けつける。

 

『友よ、我らも彼らに続こう! この星の未来のために!』

『応!』

 

 歴戦の戦士たるレーツェル、ゼンガーの両名が、子供たちに負けじと戦場に参じる。

 

『アイビス、ハイペリオンのテスラ・ドライブは全て正常よ!』

『この期に及んでミスは許さんぞ、アイビス』

『わかってる! あたしたちの夢を、星の海をあんな奴に汚させない!』

 

 アイビス、ツグミ、スレイの三人は、自分たちの目指す先にある未来を護るため、気炎を上げる。

 

『イング、君の勇気は確かに見せてもらった。今度は俺たちが、勇気を示す番だ!』

『マーグの、兄さんの敵を討つってだけじゃない。俺たちの故郷を、地球を守るために!』

『人様の星に上がり込んで、デカい顔させとくワケにはいかないわよね』

『この地球圏に、悪が栄えた(ためし)はないと遠い星からのお客人に教えて差し上げるとしようか。僕たちの手でね』

 力強く宣言する凱と、正義に燃えるタケル。葵がクールに言い放ち、万丈が最後にキザに決めた。

 

「こりゃ、一本取られたかな」

 

 仲間たちの心強い言葉を受け、イングは不敵に笑う。「それじゃあ、改めて――」

 

「本当の戦いはここからだ!」

 

 



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αIIー4「サイコドライバーズ」

 

 

 新西暦188年 ◇月♯日

 地球圏、月面 マオ・インダストリー社

 

 星間連合との決戦から一夜が明け、現在αナンバーズはマオ社に止まり傷を癒している。

 ズール皇帝はかつてない強敵だった。正直、イングの力がなければ私たちは宇宙の藻屑となっていただろう。 

 そのズール皇帝だが、散り際すら余裕な態度を崩さなかった。イングは「あれは本体じゃない」と表していたが、もしもそれが本当なら。

 

 ともかく、ガルファとガイゾック、星間連合の撃破により、月面での大勢は決したと言っていい。

 未だギガノスが残ってはいるが、こちらも連邦宇宙軍正規部隊の猛攻で著しく勢力を失っている上に、どうやら政変が起きて内部分裂しているらしい。敗退した星間連合も一部の戦力がバーム星人と合流したようだが、指揮官を失った時点でもはや烏合の衆でしかない。

 どちらも語るに落ちた、と言ったところか。

 

 明神の兄マーグは、ズール皇帝により指令艦を潰されて生死不明だ。明神は彼の生存を信じているようだが、あれでは絶望的だろう。

 それから彼の副官で、私も何度か交戦したロゼが投降を申し出てきた。マーグの遺志だとのことだ。

 コスモクラッシャー隊のメンバーといざこざを起こしていたが、私とて似たような立場だったからな。強くは拒絶できん。

 それに、「邪念は感じられない」とイングやカミーユからのお墨付きも出たから、まあ心配ないだろう。

 

 さておき《アッシュ》もとい《エグゼクスバイン》は、完成早々にオーバーホールと相成った。イングの念で外部から無理矢理に安定させていたのだから無理もない。

 戦場では物理的に換装できなかった部分を「MkーX」用の部品に取り替えて、応急処置を施すそうだ。

 特に間接部の損傷が酷かったそうで、「トロニウム・レヴなんてよくわからないシロモノを組み込むからだ」とはロブのコメントだ。

 あれはもともと私の《ガリルナガン》のものだったのだから、そんな言い方はしないでほしいが。

 

 《エグゼクスバイン》といえば、いささか困ったことが発覚した。

 中枢部、具体的に言えばGストーンにイレギュラーな人格、いわゆる超AIが発生しているようなのだ。イングの特異な念を大量に浴びたことが原因らしいが、馬鹿の一念という奴か?

 無難に「エクス」と名付けられた超AIのジェンダーは女性で、年の頃を人間に換算すると13、4歳程。真面目で大人しくどこか引っ込み思案な印象の話し方をする割に、妙に古くさい言い回しをする。イング曰く「無限の楽園の白雪姫と同じ声」。

 今のところAIとしては未成熟だが、コクピットのコンソール周りに簡単な改装を施して、《レイズナー》や《ドラグナー》のような対話型戦闘支援AIとして正式に整備された。

 性格もろもろ含めて正直、戦闘支援としては役に立たないと言わざるを得ないのだが、イングは満足しているらしい。

 よくわからんが、何故か胸がムカムカとしてきたので、今夜はここで筆を置くことにする。

 

 

   †  †  †

 

 

 月面決戦から数日後。

 とある日の午後。《ラー・カイラム》の通路をアーマラが一人歩いていた。

 

 《ラー・カイラム》本格参加に際し、母艦を《ナデシコB》から移動したアーマラとイング。士官待遇の二人には、士官用の個室を与えられている。イルイはアーマラと同室だ。

 αナンバーズの艦隊旗艦は名目上《大空魔竜》だが、あちらは特機を運用するための戦艦であり、《キング・ビアル》と折半する形で特機とそのパイロットたちが詰め込まれている。仮にもPT乗りの二人には《ラー・カイラム》が合っていた。

 最新技術で改装を重ねられている《ラー・カイラム》は《ナデシコ》級のようにオートメーション化が進んでおり、生活スペースには多少の余裕がある。

 とはいえ、生活環境は都市をまるまる艦に納めた《マクロス》《ヱクセリヲン》とは比べようもないが。

 

 自室の隣にあるイングの部屋の前。

 アーマラはノックもせず、不躾にドアを開く。勝手知ったる何とやらだ。

 

「イング、ちょっといいか」

「んあ?」

「……何をしてるんだ?」

 

 気の抜けた返事をするイングの様子に、アーマラは用事も忘れて疑問を挟んだ。

 彼の周りにはドライバーなどの工具類、導線、機械基盤や用途不明の部品が散乱していたのだ。丸い金色の物体を使って弄っているようである。

 その背中にもたれるようにして一人遊び中のイルイ。《マジンガーZ》、《Zガンダム》等を模したイングの私物のおもちゃ――主に完成品。彼は、遊ぶ用・飾る用・保管用に同じものを三つ所持している――を使って、「αナンバーズごっこ」をしている。

 

「何って、工作?」

「何故に疑問系だ。……プラモデルを作っているわけではなさそうだが」

 

 気の抜けた脈絡のない返答にアーマラは顔をしかめる。彼女の推察通り、明らかに工作というレベルの作業ではない。有り体に言うと、かなり専門的だ。

 するとイングはきちんとした説明をし始めた。

 

「いや、「エクスが一人でいるのはかわいそう」ってイルイが言い出してさ。自由に動けるマスコットロボみたいなのを作ってやろうかと思って」

「なるほど」

「アストナージさんからジャンクパーツを融通してもらってさ。設計は、アムロ大尉とかカミーユとかリョウトに手伝ってもらったんだ」

 

 イングが事情を端的に説明する。どうやら、錚々たるメンバーが協力しているようだった。

 

 エクスとは、《エグゼクスバイン》完成に伴いGストーンに発生したイレギュラーな人格だ。

 イングの莫大な強念を一身に浴び続けた結果生まれた存在であり、《エグゼクスバイン》そのものとも言える。

 それ故、《ヒュッケバインEX》時代からの記憶も持っているらしく、「ずっと、ずーっとイングさんとお話ししたかったんです」と無防備な好意を露わにして、イングを大いに照れさせていた。

 シュウ曰く「ラ・ギアスにおける精霊に極めて近く、限りなく遠い存在」。イングは「九十九神みたいなもんかな」と自分なりに納得している。

 

「確かに、アムロ大尉といえばハロだしな。私も、特脳研時代に持っていたぞ」

「意外な過去だな。アムロ大尉ってば、ハロのパテントで何気に結構な資産家だって話だし……羨ましいぜ。そしたらプラモとかフィギュアとか超合金が買い放題だもんなぁ!」

「お前は……、それ以外に使い道が思いつかんのか」

「おう!」

 

 二人のやりとりを、後ろでイルイが面白がって笑っている。

 イングがそんな無茶なお金の使い方を出来るのも、αナンバーズが仮にも軍事組織であるからこそなのだが。

 

「で、完成図がこんな感じ」

 

 設計図を写していたタブレット端末に、モデリングされた3D画像が表示される。

 丸みを帯びたフォルムに、突起のような足が四本。くちばし状の口に、透明な青いカメラ・アイ。ボディのカラーリングは、柔らかな(チェリー・ブロッサム)色で口や目の回りが純白(ピュア・ホワイト)だった。

 

「超小型テスラ・ドライブに永久電池、TーLINKフレームの端材……かなり本格的だな。この色は?」

「今は素材の色で金ぴかだけど、後で塗装する予定だよ」

「チョイスがお前らしくないな? 《エグゼクス》と同じ色にはしないのか」

「それはほら、日曜朝八時半枠だから」

「はあ?」

「クロスオーバー劇場版枠でも可」

「ますます意味が分からん」

 

 イングの意味不明な供述にアーマラは首を傾げるのだった。

 なお、イングは完成品に「サイコロン」と名付ける(あわよくば商品化も)つもりだったのだが、エクス本人の強い反対により頓挫している。

 曰く「おならはいやですっ!」とのことだ。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ◇月¥日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 コンビを組んで一年程度経つが、未だにイングの考えることは理解できん。

 まあ、イルイが喜んでいるようならいいか。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月▲日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 ネオ・ジオンの偵察艦隊を撃破した。

 そしてどうやって宇宙(ソラ)に上がってきたのか、ククルが単身、ゼンガー少佐と決着をつけるために現れた。

 少佐の意を汲んで、私たちは撤収した。イルイが心配していたのが印象的だったな。

 

 後に少佐によると、クストースが現れ、ククルにトドメを刺して行ったらしい。

 奴ら、何がしたいんだ?

 

 

 

 新西暦188年 ◇月◎日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》

 

 シャアめ!やってくれたな!

 と、思わず日記に殴り書きしてしまうような出来事に直面した。

 連邦軍とαナンバーズの注目が月面に向いている隙を突いて、ネオ・ジオンが小惑星「5thルナ」を奪取したのだ。

 同盟者であるはずのギガノスを囮に使うとは、いい面の皮をしている。

 

 現在5thルナは核パルスエンジンを推力に、地球に向けて接近している。かつてのジオン公国の「コロニー落とし」ように質量爆弾とするのだろう。

 あれを、あんなものを地球に落とさせるわけにはいかない。

 エクスは「わたし、堪忍袋の尾が切れました!」だそうだ。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月×日

 地球、北米地区テスラ・ライヒ研究所

 

 負けた。私たちは負けた。ネオ・ジオンの隕石落としを防げなかった。

 αナンバーズの攻撃により砕けた5thルナの破片は、連邦議会のあるラサに落ちて甚大な被害をもたらしたと聞く。

 ネオ・ジオンとの戦闘の余波と大気圏突入で仲間と散り散りとなりながらも、私とイングは何とかテスラ研にたどり着くことができた。他のメンバーも無事にいいのだが。

 特に、コクピット付近に深刻なダメージを負った《クロスボーン・ガンダムX1》が心配だ。

 

 しかし、いくら《エグゼクスバイン》の念動フィールドが強力だからって、大気圏に突入しながら《ブラックホール・バスター・キャノン》による破砕活動を敢行するとは、相変わらず無茶苦茶な奴だ。

 ま、そんな無茶苦茶につき合った私も大概だがな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月●日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 にはαナンバーズのメンバーの大半が集結した。だが、やはりキンケドゥの姿はない。

 彼の恋人であるベラ艦長や、弟子のトビアは酷く心配していた。

 また、現在《ナデシコB》と《エステバリス》隊は別行動を取っている。

 大方、かつての《ナデシコ》の乗員たちを迎えに行ったのだろう。ホシノ艦長は彼らを揃えることに拘っていたようだからな。

 

 それと、合流した伊佐未勇の《ユウ・ブレン》の姿が変わって?いた。新たな名を《ネリー・ブレン》というらしい。同時に保護されたアイビスに事情を聞いてみたのだが、微妙なリアクションで答えを濁されてしまった。

 微かに、悲しみのような念を二人や《ネリー・ブレン》から感じたが、私のような半端な念動力者ではそれを汲み取ることが出来ない。

 昔は些末なことだと切り捨てていただろうに、私も変わったものだ。イングの影響かな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月※日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 ようやくしつこいグンジェム隊とのケリが着いたな。

 配下を討たれて追いつめられ、本国からの支援もなくなったのだろうグンジェムが悪趣味な色をした大型のメタルアーマー、《ギルガザムネ》とか言ったか、を持ち出し、Gアイランド・シティに強襲を仕掛けてきたのだ。

 重厚な見た目の割に動きは軽快、さらには大量のミサイルによる火力を持つというかなり厄介な敵だったが、どうも質の悪いシステムを積んでいたらしく突然暴走し出して味方を攻撃し、破壊した。

 錯乱した《ギルガザムネ》はその性能を発揮することなく、《ドラグナー》チームによる連係攻撃で撃破された。

 まったく、「ギガノスの汚物」らしからぬ呆気ない最期だったな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月♬日

 地球、極東地区日本

 

 5thルナ落下による地上の混乱を突き、ついにミケーネ帝国が大侵攻を開始た。

 恐竜帝国や邪魔大王国の残存戦力を吸収して肥大化したミケーネの前に、情けないことだが、連邦軍は為す術もなく敗退し、瞬く間に主要都市を制圧されてしまった。

 

 特記戦力を多数有する私たちαナンバーズは、例の如く敵の本隊を討つことで事態の収拾を図る。

 まずは日本地区の各地で暴れ回る戦闘獣の排除からだ。

 

 私たちが急行した現場では、どこに隠し持っていたのか、白鳥九十九が旧木連派の特機型機動兵器《ダイテツジン》で、ミケーネ相手に大立ち回りを演じていた。

 確か奴は、旧姓ハルカ・ミナトと結婚してヒモ同然の生活をしていたと。木連の軍人が堕ちたものだと呆れていたが、存外に意気地がある。

 またミケーネにより民間人が多数拘束されていたが、こちらは私とイング、凱や宙、竜崎、ベガ副指令などいつもの白兵戦メンバーで突入、救出した。ここでは《ボルフォッグ》が大活躍だったな。

 

 意気地があると言えば、人質にされていた女子高生がミケーネの兵士相手に啖呵を切っていたな。

 白鳥ミナトが教師をしていると聞く、陣代高校の生徒だったように見えたが。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月★日

 地球、極東地区日本 連邦軍極東支部ビッグファルコン

 

 結論から記する。ミケーネの連中を撃退することに成功した。

 

 科学要塞研究所で暗黒大将軍との決着を着けたαナンバーズ。

 間髪入れず、光子力研究所と新早乙女研究所から奪取された《マジンカイザー》と《真・ゲッターロボ》を伴い、かつてのDr.ヘル、地獄大元帥が極東支部を陥落させんと侵攻する。

 両機は、《ミネルヴァX》のように人工

知能により制御され、さらにはコクピットに人質として弓博士、早乙女博士が囚われており、迂闊に攻撃も出来ない。

 未来世界に続いて、つくづく敵に奪われる特機たちである。いや、《カイザー》は奪われていなかったか。

 

 何とか両機にダメージを与えて弱らせたものの、二機の特機は停止しない。人質諸共破壊するしかないのか。そんなときに活躍したのが最新鋭のナデシコ級、《ナデシコC》だ。

 修復された《ゼオライマー》に救出されたというキンケドゥとともに駆けつけた《ナデシコC》には、先日保護した白鳥ミナトを筆頭に、アオイ・ジュン、メグミ・レイナード、アマノ・ヒカリ、マキ・イズミ、イネス・フレサンジュ、ウリバタケ・セイヤらかつての《ナデシコ》のメンバーが乗艦していた。

 皆、それぞれに生活があったのだろうが、この非常事態にはそうも言っていられないらしい。

 さらには空気を読んだのか、ボソンジャンプを駆使して世界各地で遊撃していた《ブラックサレナ》と《ユーチャリス》が登場し、まさしくナデシコ・オールスターズが勢揃いと相成った。

 

 電子戦に特化した《ナデシコC》により制御系を強制ハックされた《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》はさすが最強のスーパーロボットと言うべきか、抵抗してみせる。おそらく、ミケーネの奴らも《ミネルヴァX》の一件でジャミングやハッキング警戒していたのだろう。

 とそこに出現した三機の動物ロボ。クストースらの不可思議な力により、ようやく無力化され、弓、早乙女両博士は無事に救出された。

 

 進退窮まった地獄大元帥は《マジンガーZ》、《グレートマジンガー》、《ゲッタードラゴン》による合体攻撃《ファイナルダイナミックスペシャル》により完膚無きまでに撃破された。

 

 続けて日本地区の地下にあったミケーネの前線基地を叩き潰し、奴らの野望を挫いたというわけだ。

 ようやく配備された《νガンダム》と《Hiーνガンダム》が大暴れした。ちなみにアムロ大尉が《Hiーν》、フォウが《ν》を任されていた。

 ヤマダの「スーパーロボット軍団、怒りの大反撃だな!」という感想はなかなか的を射た表現だったな。

 

 なお、《ブラックサレナ》《ユーチャリス》は一連の戦闘終了後にボソンジャンプで姿を消した。

 やはり、復讐を遂げるまではホシノ艦長らに会う気はないようだ。強情なことだな。

 

 

 

 新西暦188年 ◇月★日

 地球、ユーラシア大陸沿岸

 

 リクレイマーと接触し、話し合うために浮上したオルファンに向かう。

 だが、やはりと言うべきか、リクレイマーもエゴイストの集まりであることは変わりないらしい。この地球の危機に際してなお、「オルファンが飛翔すれば関係ない」などと自分たちの都合ばかりを優先するのだからな。

 

 会合の機会すら得ることも出来ず物別れに終わり戦闘が開始される中、ドクーガ三将軍、ケルナグールにより核ミサイルが発射されたが、ブレンパワードとグランチャーが協力して宇宙空間へと弾き返して事なきを得た。八卦ロボ戦でのそれとは比べものにならないパワーだった。

 そう言えば、久しぶりにドクーガを見たな。

 

 オルファンの声を聞いたというイングは「あれはひとりぼっちで寂しがり屋の単なる子供」と評していた。

 寂しいから、ひとりぼっちだから他人との距離が上手く取れず、傷つけてしまう、と。

 なんというか、身につまされる思いだな。

 

 

 

 新西暦188年 ☆月◎日

 地球、欧州地区 アイスランド

 

 《ゴーショーグン》の母艦《グッドサンダー》から連絡が入り、北欧はアイスランドで接触することに。

 が、それをドクーガに嗅ぎつけられたらしく、包囲されてしまった。

 

 相手はドクーガだけではなく、ビムラーを狙うメガノイドやゾンダーロボ、さらにはガイゾックの置き土産であろうメカブーストの大群だ。

 とはいえ、所詮有象無象。数だけの雑魚に手こずるαナンバーズではない。

 その戦いの中、ビムラーの成長により強化された《ゴーショーグン》の《ゴーフラッシャー・スペシャル》がいろいろな意味で危険なドクーガの戦闘メカ、《ドスハード》に炸裂する。

 《ゴーフラッシャー・スペシャル》を受けたドスハードは大破するのではなく、自ら自爆するという不可解な形で消滅した。ケン太とイング、そしてエクスが「戦うくらいなら死んだ方がマシ」との声を聞いたという。

 なお、イングは《ドスハート》を見て、「あれがいいならヒュッケバインだって問題ないだろう」と何故か憤慨していた。よくわからんが、ガンダムオタクのニナ・パープルトンと五十歩百歩だな。

 

 それにしても、ビムラー、機械に命を与える意志を持つ超エネルギーか。地球に生命を与えた力と聞くが、まるでゲッター線のようだな。

 シュウ曰く「この宇宙を支配する大いなる意志の一つ」。マサト曰く「次元力の一種」。αナンバーズのメンバー中でも超技術関連に造詣の深い二人は、これなる不可解な力すらも把握していたらしい。

 さらにシュウは、ビムラーの成長は「地球のソウル」として選ばれた真田ケン太とともにあり、本来ならばもっと後であったとも推察し、ビムラー自身(!)が何らかの要因で覚醒を急いでいるのではないかとも話していた。

 まったく、ケン太もよく解らないものに見込まれて災難だな。本人は気にも止めていないようだが。

 

 

   †  †  †

 

 

「んんーっ……、こんなものか」

 

 日課の日記を書き終え、アーマラは大きく伸びをした。

 デスクには、しっかりとした作りの真っ赤な日記帳が置かれている。この新西暦にあって手書きというアナログな手手法を取っているのは、偏にイングの影響である。

 共に行動するようになってそれなりの時間を経て、アーマラのイングに対する八つ当たりじみたわだかまりこそなくなった。だが、未だに妙な対抗心を燃したりしているのは、相手が見た目が年下(大した差はないが)の男の子だからだ。

 要するに、お姉さんぶりたいお年頃なのである。

 

「……イルイ?」

 

 ふと振り返る。同居人の妹分、イルイがベッドの隅でうずくまり、陰鬱な雰囲気を漂わせていた。

 普段ならアーマラが日課を済ませている間は、勉強したり絵を描いたり本を読んだりと子供らしく一人遊びしているにもかかわらず、今夜はどこか様子がおかしい。

 

「イルイ、どうした?」

 

 アーマラが声をかける。

 イルイが顔を上げた

 

「あ……うん、なんでもないよ」

「……そうか?」

 

 お茶を濁したような態度を訝しむアーマラ。しばらくの間、じっ、と見つめられてイルイはとうとう観念したのか、ぽつりぽつりと胸の内をこぼし始めた

 

「……どうして」

「うん?」

「どうしてあの人たちは、あんなひどいことができるの?」

「ネオ・ジオンのことか?」

 

 こくり、とイルイが頷く。

 そして、どこか危うい様子で心情を打ち明けた。

 

「悪いのは……、ネオ・ジオンや他の星から来た人達……。あの人達さえいなければ……」

「イルイ、それは短絡的な考えた方だな」

「でもっ」

「お前の言うことはある面では正しい。星間連合やゾンダーはともかく、この情勢下で今更地球人同士の内輪もめなどバカバカしい。ネオ・ジオンやギガノス、木星の奴らはどうかしてるのさ」

 

 アーマラの嘘偽りない感想だった。

 バルマー戦役を経てなお地球人類は愚かな。これではアンセスター、狂った機械(メイガス)の言うとおりではないかという。

 

「だがな、イルイ。異星人とスペースノイドが全て悪いと決めつけるのはよくないぞ。仮にもティターンズの兵士だった私が言うことではないがな」

「……」

「納得いかないか」

「……うん」

 

 アーマラに諭されたイルイは不服そうだ。

 

「まあ、そうだろうな。未だに大多数のスペースノイドは、“シャア・アズナブル”の虚像に期待を寄せているようだし。……あんな情けない男に、何が出来るものか」

 

 呆れた風に人々の妄信を斬り捨てるアーマラ。短い間とは言え上官だった男の行動に思うところは多々あった。

「……やっぱり……」イルイの表情がますます暗くなる。それをちらりと見て、アーマラは努めて冷静に言葉を続ける。

 

「しかしお前の言い方も、そんな身勝手な理屈を振りかざす奴らと一緒だと、私は思うぞ」

「……う」

「αナンバーズは、そんな理不尽と戦うためにあるんだ」

 

 普段クールで皮肉屋な態度を崩さないアーマラらしからぬ熱い発言に、イルイが目を丸くする。

 

「……と、イングなら諭しただろうな」

 

 冗談めかして末尾を切る。

 その言葉で少しは救われたのか、イルイは儚げに微笑む。

「さて」アーマラがデスクチェアから立ち上がった。

 

「シャワー、浴びにいくか」

「うんっ」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦188年 ☆月@日

 地球、極東地区日本近海

 

 日本近海で補足された《グッドサンダー》を支援し、ドクーガと決戦した。

 

 ドクーガの首領、ネオネロスが現れ、そして倒された。

 イング曰く「ズール皇帝の同類」。悪の意識体であるネオネロスは、ビムラーのケン太だけでなくイングにとっても打倒すべき邪悪だったようだな。

 まあ、そのズール皇帝と比べると脅威度は大したことがなかったようにも思えたが。

 

 倒れたネオネロスは置き土産として大量の中性子ミサイルを残していった。

 もちろん、全て破壊処理した。旧世紀の遺産であるとはいえ、所詮ミサイルだ。何するものぞ、だな。

 

 

 

 新西暦188年 ☆月@日

 地球、極東地区日本 Gアイランド・シティ

 

 イルイが行方不明になった。ドクーガとケリを着けた矢先だ。

 本当に、煙のように忽然と姿を消したイルイを私とイング、αナンバーズの仲間たちは夜通しで探したのだが、足取りの一つも掴むこととが出来なかった。

 

 このベイタワー基地からは出ていないはずだということは、監視カメラの映像等からも明らかだった。

 あるいは何者かにさらわれた可能性も考えたが、イングやその他の感受性の高いものたちからの証言で否定されている。この情勢下だ、イルイの身が心配でならない。

 それでも、私たちは前に進むしかない。

 この地球の未来のためにも。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八八年――

 “バルマー戦役”、“イージス事件”という大戦を辛くも潜り抜けた地球圏に、新たな争乱が噴出する。

 後に“封印戦争”と呼ばれることとなるこの戦乱は最終局面を迎えていた。

 

 ビルドベース、司馬博士により判明したミケーネ帝国の本拠地、火山島基地を叩く。

 地上に逃れた地獄大元帥、アルゴス長官らミケーネの幹部を全滅させたαナンバーズの前に、ミケーネ帝国の支配者、邪気の権化たる闇の帝王が現れる。

 クストースの協力を受け、《マジンカイザー》、《グレートマジンガー》――二体の魔神を筆頭に、αナンバーズのスーパーロボット軍団がバルマー戦役からの因縁を断つべく激闘する。 

 ついに闇の帝王は倒れた。

 

 東京市23区。ゾンダープラントと化した東京は多数の民間人を抱えたまま、浮上を開始する。

 大気圏から突入を計るαナンバーズを復活したドン・ザウラー率いるメガノイド軍団が立ちはだかる。

 辛くもメガノイドを退け、ゾンダリアン四天王をも撃破したαナンバーズの前に、ゾンダーの親玉、《EIー01》ことパスダーが姿を現す。

 地球全てを「機界昇華」せんと猛攻するが、「弾丸X」により強化された勇者ロボたちの勇気が限界を超え、ついには邪悪な機界神を討ち滅ぼした。

 

 星間連合の生き残り、ド・ベルガンとリオン大元帥暗殺から始まった争乱の元凶、オルバン大元帥を討ち、バーム星人との和解を成功させたαナンバーズ。

 そこに、小バーム周辺宙域に潜んでいたゼーラ星の支配者――ダリウス大帝が、ズール皇帝、オルバン大元帥が倒れたことを好機と見て襲い掛かる。

 《ガイキング》、《ダイモス》、《ボルテスV》が先陣を切り、彼らの野望を挫いた。

 

 地下勢力、星間連合が壊滅したことを契機に、再び人類勢力の活動が活発化すした。

 αナンバーズは部隊を分け、戦争の早期終結を計る。

 

 月面。ギガノス帝国の切り札、ギガノス機動要塞戦攻略戦。

 母を人質に取られたケーンが寝返るというアクシデントがあったものの、義により助太刀するマイヨ・プラートとその仲間たちを加えたαナンバーズ分艦隊は、図らずもギルトール元帥を廃し、ギガノスの実権を握ったドルチェノフを倒すことに成功する。

 こうしてギガノス帝国は崩壊した。

 

 一方、火星。極冠遺跡を舞台にした火星の後継者との決戦。

 極冠遺跡を掌握し、そのオーバーテクノロジーによって連邦政府へ攻撃を仕掛けようとする火星の後継者に対し、《ナデシコC》による電子戦攻撃を皮切りに、αナンバーズ分艦隊が猛攻する。

 そこに現れる《ブラックサレナ》と《ユーチャリス》。黒き復讐鬼はその鎧を脱ぎ捨て《夜天光》を討ち、因縁に終止符を打った。

 

 

 外敵が滅びたことを受け、ついに大気圏からの離脱を開始するオルファン。

 オーガニック・エナジー枯渇の危機を防ぐため、オルファンとの対話のためにαナンバーズが急行する。

 自身のエゴを振りかざすリクレイマーたちとの戦いの中、勇と比瑪の必死の呼びかけをオルファンは受け入れ、地球の生命は救われた。

 

 そこに再び姿を現したドン・ザウラーらメガノイドが、倒したはずのパスダーを伴ってオルファンを乗っ取るべく強襲する。

 リクレイマーのクィンシーら、そしてゾンダリアン四天王、ピッツァがαナンバーズに協力する。

 そして激闘の末、《ダイターン3》、《ザンボット3》、《トライダーG7》の合体攻撃《無敵コンビネーション》が炸裂し、ドン・ザウラーはついに倒れたのだった。

 

 地球のソウルたるケン太の意志がビムラーに伝わり、オルファンに宇宙へと羽撃く力を与えた。

 オルファンが地球を離れる。

 

 

 そして――――

 

 

「アクシズ、行け! 忌まわしき記憶と共に!」

 

「アクシズが、地球に落ちる……!」

「ダメ、オルファンさん!」

「シャアめ! 私を追い出し、アクシズを掌握したのはこのためだったか!」

 

 ボソンジャンプにより突如として転移したアクシズが、地球の引力に引かれてオルファンと衝突の軌道をひた走る。

 シャア・アズナブル率いるネオ・ジオン艦隊と、クラックス・ドゥガチの木星帝国が最終作戦を発動したのだ。

 

 火星の後継者やギガノスの残党をも取り込んで、地球人類を粛清せんと地球に迫る。

 アクシズ、あるいはオルファンが地球に落ちれば致命的な事態になることは間違いないだろう。

 だがあまりにも地球に近く、またオルファンと接近しているこの状況ではαナンバーズのスーパーロボット軍団の力を持ってしても、アクシズを破砕することは簡単なことではない。

 それでも彼らは決死の覚悟を持ってアクシズ破壊に望む。

 

 だが、ネオ・ジオンも指をくわえて見ているわけではない。全戦力を持ってαナンバーズに対抗する。

 全身に核武装した白き破壊神、木星帝国の超巨大モビルアーマー、《ディビニダド》がドゥガチの歪んだ憎悪をはらんで行く手を阻む。

 《クロスボーン・ガンダムX3》が、《ムラマサ・ブラスター》を手に立ち向かう。

 

「真の人類の未来? 地球不要論!? そんなものは言葉の飾りだっ!  わしが真に願ってやまぬものは唯ひとつ!  紅蓮の炎に焼かれて消える 地球そのものだーっ!」

「安心したよ、ドゥガチ! あんた……まだ人間だっ!  ニュータイプでも新しい人類でも、異星からの侵略者で もない! 心の歪んだだけのただの人間だ!」

 

 《ドラグナー1・カスタム》と《ファルゲン》は恐るべき速さで駆け抜け、メタルアーマーを斬って捨てる。

 

「マイヨさん、いいのかよ? 奴ら、元お仲間だろ」

「ギルトール総帥のご意志を履き違えた輩だ、構わん」

「へっ、そうかい。頼りにしていいんだよな?」

「無論だ!」

 

 一方、《ナデシコC》と《ユーチャリス》が《グラビティブラスト》を連続して放ち、ネオ・ジオン艦隊を蹴散らす。

 《ブラックサレナ》と青い《エステバリス・カスタム》もまた、直衛機として獅子奮迅の闘いを見せていた。

 

「アキト!」

「ああ。復讐者の戦いはもう終わった。これからは地球を護るための戦いだ」

「おうおう、いいこと言うじゃねーか、アキト! 地球を守るため、力を合わせるスーパーロボット軍団ッ! くぅーっ、最高に燃えるぜ! これだよこれこれ!」

「フッ……」

 

 

 αナンバーズとネオ・ジオン、木星帝国連合の最終決戦。

 道を踏み外した宿敵との決着を着けるため、アムロの《Hiーνガンダム》が宇宙(ソラ)を切り裂く。《Zガンダム》、《ZZガンダム》、《キュベレイ》がその後を続いた。

 迎え撃つのは赤きモビルアーマー、《ナイチンゲール》。直下の《ギラ・ドーガ》が指導者を守ろうと間に入るが、瞬く間に撃墜された。

 

「シャア!」

「アムロ! もはやアクシズを止めることは出来ん! 重力に引かれた人類は粛正され、私は父の下に召されるだろう!」

「この期に及んで、世迷い言を! 火星の後継者と組んでいたのは、このときのためだったのか!」

「そうだ、お前たちαナンバーズには感謝している。地球圏の混乱を収めてくれたのだからな!」

「地球を徒に混乱させておいて、どの口が言う!」

 

 言葉が迸り、《ファンネル》が交錯する。

 カミーユ、ハマーン、ジュドーがそれぞれの思いを乗せ、鋼の巨人が。

 地球圏最高峰のニュータイプたちによる白と赤の決戦は、激しさを増していく。

 

「オレたちを忘れてもらっちゃ困るな」

「! イングか!」

 

 《TーLINKスライダー》のビームが直上から降り注ぎ、《エグゼクスバイン》が戦場に乱入する。

 《ビルトファルケン・タイプL》、《龍虎王》、《量産型ゲシュペンストMkーII改》がそれに続いた。

 

「クワトロ大尉!」

「もう止めましょう! こんなことをしたって、世の中は変えられませんよ!」

「クスハ、リョウト、すでに賽は振られた。私とお前たち、どちらかが倒れるまで戦うしかないのだ!」

 

 クスハとリョウトの懇願を一考だにせず、シャアは攻撃を続ける。

 両機を一蹴した《ナイチンゲール》に、《エグゼクスバイン》が《TーLINKセイバー》を振りかざして挑む。

 激突する剣と盾。スパークが迸る。

 

「シャア・アズナブル、いやさ、キャスバル・レム・ダイクン! ニュータイプなんて曖昧なものに縋って、これ以上間違いを犯すな!」

「ニュータイプの否定、お前の持論だな。だが、実際にニュータイプには力があり、人類が革新しなければ地球が保たん時が来たのだ!」

「どうだか。アムロ大尉や、あんたが憧憬するララァ・スンはどこで生まれた?」

「っ! それは――」

「そう、地球だ。今、オレたちがニュータイプと呼ぶものが、あんたの親父さんの唱えた「ニュータイプ」と同じ存在だって保証はない。いや、ザビ家が歪めた選民思想を土台にしてるんなら、それはもはや別のものなんじゃないのか!?」

 

 イングの指摘に図星を突かれ、動揺するシャア。《ナイチンゲール》の巨体を押し出し、《エグゼクスバイン》は《TーLINKセイバー》を引き抜いた。

 念動力をたぎらせて、イングが吼える。

 

「ニュータイプ、戦争をしなくていい者を目指しながら争いしか出来ない――そんなあんたの歪んだ理想を、このオレが断ち斬るッ!!」

 

 

 αナンバーズの総攻撃によりアクシズは破砕され、オルファンも被害を免れた。

 そして死闘の末、《ナイチンゲール》は《Hiーνガンダム》と《エグゼクスバイン》により大破に追い込まれる。

 だが、砕けたアクシズの半分は地球に落着する軌道を取ったまま、大気圏に突入していく。

 

「たかが石ころ一つ、ガンダムで押し返してやる!」

「大尉! オレたちも!」

「わたしたちで、みんなの地球を守るんです!」

 

 アクシズの破片に取り付く《Hiーνガンダム》。イングとエクスが発憤し、アムロに続く。

 大気との摩擦で両機は瞬く間に真っ赤に染まった。

 

 《マジンカイザー》が。

 《真・ゲッターロボ》が。

 《グレートマジンガー》が。

 《Zガンダム》が。

 《ZZガンダム》が。

 《サイバスター》が。

 《鋼鉄ジーグ》、《ガオガイガー》、《ネリー・ブレン》、《ガイキング》、》、《クロスボーン・ガンダムX3》、《ダイモス》。

 《ウィングガンダムゼロ》、《ガンダム・ステイメン》、《ダイターン3》、《コンバトラーV》、《ボルテスV》。

 《電童》、《ゼオライマー》、《ドラグナー1・カスタム》、《ブラックサレナ》、《ザンボット3》、《ゴッドマーズ》、《トライダーG7》《レイズナー》、《ダンクーガノヴァ》――

 αナンバーズに所属するすべてのスーパーロボットがアムロとイングに倣い、アクシズに取り付いていく。

 無駄な抵抗だろう。

 愚かな行為だろう。

 だが確かに、アクシズの速度は僅かだが低下していた。

 

 その姿に感銘を受けたのか、争っていたはずのネオ・ジオンの機動兵器や、地球の危機に馳せ参じた連邦軍正規部隊が駆け付けて、アクシズを押し返すべく参加する。

 推力が足らず重力に引かれて地球に落ちていく《ギラ・ドーガ》に《ジェガン》がマニュピレータを伸ばす。

 しかし、うまく掴むことが出来ず、重力の井戸に転落していく。そのまま爆散するかに見えた《ギラ・ドーガ》だったが、間一髪で《龍虎王》が助けに入って事なきを得た。

 そういった光景がそこかしこで見られた。

 

「Hiーνガンダムは――」「エグゼクスバインは――」

 

「「伊達じゃない!!」」

 

 アムロとイングの思惟がサイコフレームとTーLINKフレームによって増幅され、共鳴現象を起こす。

 《Hiーνガンダム》の装甲表面が淡いエメラルドグリーンに染まる。

 

 二人の、αナンバーズの、そしてこの宙域にいる全ての人の思いが虹となって、宇宙に伝播した。

 オルファンの発するオーガニック・エナジーがアクシズを包み込む。不可思議な虹はまるで一人一人違う心の在り様のようにきらきらと様々な色に輝き、漆黒の宇宙(ソラ)を彩った。

 

 人の心の光――

 宇宙に瞬く綺羅星のような命の輝きが地球の遍く人々を救ったのである。

 

 

 アクシズの消滅を持って、ネオ・ジオン、木星帝国連合軍との戦闘は終結した。

 生き残った兵士たちは全員投降、シャア・アズナブル以下、名だたる幹部は戦死、ないしは行方不明となった。

 

 ――だが、戦いは終わっていなかった。

 アラビア半島、ナフール砂漠の地下深くから、先史文明の遺跡「バラルの園」が浮上する。

 《ガンエデン》――

 先史文明により創り出された強大なる念動兵器、ファースト・サイコドライバーの玉座にして人智を越えた力を持つ人造神。創世神ズフィルードとしてバルマー星に文明を築き、結果的にビアル星人を地球へと導いた機械の女神である。

 《カナフ》、《ケレン》、《ザナフ》、三体のクストースとその量産機を引き連れ、地球を守護/封印せんと強力極まりない結界を張り巡らし、コロニーや月、小バーム、オルファンに対して攻撃を開始した。

 

 《ガンエデン》としての本性を現したイルイは、αナンバーズに語りかける。

 自分の許へと下り、地球を守護する剣となれ、と。

 地球に害を為す組織を全て壊滅させたαナンバーズを守護者と認め、惑星封印への理解を求めたのだ。

 だが、しかしαナンバーズは地球を封印し、月、コロニーに攻撃を行い排除しようとすることを良しとせず、敵対。機械の女神に戦いを挑む。

 ドクーガ三将軍、クィンシー・イッサー、そしてリヒテルとハイネルが助太刀に現れる。

 

「イング、あなたをこの世界に招いたのは、他ならぬ私です」

「な、に……! 何を、根拠に!」

「あなたの本当の名は浩一、山野浩一……思い出しましたか?」

「!!」

「あなたは私と“あの人”の力を以て、外なる宇宙より招かれた強き魂。この地球(ほし)を護る剣として……そして、大いなる災いから逃れるために」

「大いなる災いだと!?」

「そう、それは根源的な破滅。森羅万象、ありとあらゆるものの破綻です。それを回避することこそ、あなたがこの世に遣わされた意味なのです。さあ、イング、我が許に下るのです。私と共にあることが、あなたの使命なのですから」

「断る!」

「……それは何故です?」

「オレはオレだ! ガンエデン! 例えお前の言うことが全て真実であろうが、関係ない! あらゆる邪念を断ち斬る――それは他ならぬオレが、オレ自身に科した使命だからだ!」

「どうしてもと言うのですか」

「くどい! 大いなる災厄とやらを防ぐのは、お前を倒してからにさせてもらう!」

「愚かな……仕方ありません。まずはあなたのその強靱な精神を折り、屈伏させることにしましょう」

 

 激しい戦いの最中、イングはイルイに――《ガンエデン》に取り込まれたイルイ自身の意識に触れた。

 《ガンエデン》の呪縛からイルイを解き放つために、αナンバーズのメンバーは思いの丈を彼女に投げかける。

 閉じられた念、封じられた意志が徐々に目覚めていく。

 

「私は言ったはずだぞ、イルイ! 今のお前の在り方は、身勝手な理屈を振りかざす奴らと一緒だと!」

 

 紅い《ビルトファルケン》を駆り、アーマラが声を張り上げる。

 言い様こそ突き放したような物言いだが、そこにはイルイに向けた優しさと厳しさが込められていた。

 少なくない時間を仲のいい姉妹のように過ごした少女たちの絆は、いつしか本当の家族にも勝るほど強く結ばれていたのだった。

 

「そして、αナンバーズはあらゆる理不尽と戦うためにある!」

「そうだ、イルイ! お前の本心は、こんなこと望んじゃいないはずだ!」

「!」

「お前の心が泣いている! 誰も傷つけたくないと、友達を傷つけたくないと! 友達になれるかもしれない人たちを傷つけたくないと!!」

「イルイちゃん、ガンエデンに負けないで! それでいっしょに帰りましょう、みんなのところに!」

「わ、わた、し、私、は……――お兄ちゃん……!」

「イルイ! お前がオレを兄と呼ぶなら、オレは兄貴として、お前を救ってみせる!  そしてガンエデン! お前のその妄執、ここで断ち斬ってやる! このエグゼクスバインでな!」

 

 イングとアーマラとエクスと――αナンバーズの想いを乗せて、不滅の凶鳥が機械の女神と対峙する。

 

「エクス!」

「はい、イングさん! GSライド、フルドライブっ! ブラックホールエンジン、トロニウム・レヴ――、シンクロナイズ!」

「TーLINKダブルコンタクトッ! フィナーレだ、アーマラ!」

「ああ! これで決まりだ!」

 

 《エグゼクスバイン》と《ビルトファルケン》が念動剣の柄を握る。

 重ね合う手と手。重なり合う意志の力。イングとアーマラ、二人分の念動力によるダブルコンタクトの相乗効果、莫大な念の光が《TーLINKセイバー》の刀身を覆い尽くしていく。

 まるで天を突くが如き念動剣が完成した。

 

「「デッド・エンド・スラァァァァッシュ!」」

 

 振り下ろされる極大の斬撃――両機による《ストライク・デッド・エンド》が光の帯となって、《ガンエデン》を貫き、バラルの園をも両断した。

 

「おおおおッ!」

 

 《エグゼクスバイン》が念動フィールドを纏い、突進する。

 《ガンエデン》に宿ったファースト・サイコドライバーの莫大な強念が解放されれば、地球は被害を免れない。

 それを押さえ込み、《ガンエデン》と最期を共にしようとするイルイ。間一髪、イングは外部から強制的に念を封じ込めることで彼女の救出に成功した。

 ここに至り、イングの念はファースト・サイコドライバーすらも超越していたのだった。

 

 

 中核たる《ガンエデン》を失い、崩落を開始するバラルの園。イルイを救出することに成功したイングとαナンバーズは脱出を計る。

 そのとき、全天を強大な思念が覆い、バラルの園を捕らえ、地球、遙か古の時代にメソポタミアと呼ばれた地域の一角から光の柱が立ち上った。

 

 光の柱――強烈な念動光とともに降臨したのは白と金に彩られた神秘的な巨人。どんな材質で創られたのかもわからないその姿は、あるいは古代の石像のようにも見えた。

 

「ぼくの名はバビル。もっとも、きみたちにはビッグ・ファイアと名乗った方が通りがいいかもしれないね」

 

 白髪の少年――ビッグ・ファイアは語る。自身は《ガンエデン》の意志――、ナシムと同じ太古の人類、ファースト・サイコドライバーの一人、「バビル」だと。

 彼は今現在、ナシムと同様に肉体を失い、神体《ガイアー》に思念を封入して存在を維持している。先史文明人として一度滅びた地球に生命の種を蒔き、遙か太古から気の遠くなるような時間をかけて地球人類を見つめ続け、またBF団を組織して人類社会の裏側を牛耳ってきた。

 人類最強の汎超能力者(サイコドライバー)

 

「ビッグ・ファイア……彼は新生を司る者達の一人、神であって神でなく、 人であって人でない存在。50万年前の終焉をゼ・ バルマリィ帝国の創世神ズフィールドと共に生き延び、現在の世界を創り上げた人物です」

「そのとおりだ、シュウ・シラカワ」

「ビッグ・ファイア……、ゼーレにも伝わる創世神、無限力(むげんちから)に選ばれ、次元力を自在に操るファースト・サイコドライバーだ」

「きみは生前、彼らと繋がりがあったのだったね、木原マサキ。いや、いまは秋津マサトか」

「まさか、ギシン星の神話に残る邪神!?」

「名答だ、マーズ。ズールがきみをこの地球に送り込んだのはぼくに対する攻撃だったようだね」

 

 ビッグ・ファイアは、ことここに至ってαナンバーズの前に姿を表した真意を明かす。

 

「イング。ガンエデン――、ナシムはきみを“アポカリュプシス”に対抗するための単なる戦力としてしかみていなかったようだけど、ぼくは違う」

「どういう意味だ?」

「きみの肉体は、ガイアーに残されたぼくの遺伝子データを基にして生み出された。BF団を通じてイーグレット・フィフに接触、提供することでね」

 

「自由に動けないぼくの代役として地球を護ってくれたきみは、ナシムの撃破を以てついにサイコドライバーとして完聖した。いまこそその肉体を召し上げるときが来た」

「それではまるで……!」

「イングラム・プリスケンのようだと言いたいのかい、ヴィレッタ・プリスケン」

「! 貴様、どこまで知っている?」

「ふふふ……、さてね」

「私に、エンジェル・ハイロゥの攻略法を伝えたのも、その一環というわけですか?」

「そうだ、シュウ。諸葛亮を通じてきみやイングラムに策を与えたのもすべてはこのときのため、ぼくが現世に復活する布石だったんだ」

 

 ビッグファイアの語るイング誕生の真相に、一同は言葉を失う。

 

「外なる世界から招かれたきみは、この世界を支配する因果律、アカシックレコードには縛られない。そのきみをガイアーに取り込むことで礎にし、肉体を得て蘇ったぼくはこの地球に再び君臨する。言うなればきみは人柱なんだよ」

 

 ビッグ・ファイアは言う。それこそが真のGR計画、きみの存在理由だと。

 

「αナンバーズ。きみたちはよくやってくれたけれど、ぼくがこうして立ち上がった以上もはや用済みだ。完全復活した暁には、ナシムの残したガンエデンシステムにより改めて封印を施し、この地球に安寧と平和をもたらそう」

 

「ふざ――、ふざっけんな!」

 

 イングが激昂する。自身の生誕の真実を突きつけられても、彼の精神は折れなかった。

 積もりに積もった理不尽に対する憤りが爆発したのだ。

 

「テメェら、揃いも揃ってくだらねぇ御託並べやがって! お前らの都合なんか知ったことか! もう一度言ってやる、オレはオレだ!」

「その選択は愚かだ、イング。……しかたない、絶対的な力の差というものを教えてあげよう。G(ガイアー)R(リライブ)……七神合体!!」

 

 《ガイアー》を中心に不可思議な魔法陣が描かれ、現れた六神体が《ゴッドマーズ》と同様のプロセスを経て合体、完成する巨神――《ガンジェネシス》。ズール星にて建造された六神ロボの原型であり、言うなれば《真・ゴッドマーズ》とも呼べる存在である。

 遙か昔、先史文明人により《ガンエデン》と共に建造された創世の人造神。《ガンエデン》が惑星の守護神であるなら、《ガンジェネシス》は外敵を打ち砕く絶対の破壊神。地球、いや、宇宙最強の汎超能力者(サイコドライバー)ビッグ・ファイア――バビルの人智を越える超能力を十全に発揮させる、前人未踏の念動兵器だ。

 

 恐竜帝国、邪魔大王国、鉄甲龍、ガルファ、ガイゾック、ギシン星間連合、ミケーネ帝国、メガノイド、ゾンダー、ギガノス、リクレイマー、木星帝国、ネオ・ジオン――長きに渡った“封印戦争”、その最終決戦。封印を破ったαナンバーズと、封印から目覚めたビッグ・ファイアの戦いは熾烈を極めた。

 

「ぼくに従え、イング」

「う、がああああッ!?」

「お兄ちゃん!」

「イング! しっかりしろ! 私を倒したお前が、特Aエキスパート“ワンゼロワン”が情けない様を晒すなど許さんぞ!」

「――! ったく、お前にそう言われちゃ、負けてらんねーよな!」

 イングを操ろうとするビッグ・ファイアの強念を仲間たちの、そして何よりアーマラの声がはねのける。

 

「バビルお兄ちゃん、もう止めて! αナンバーズのみんなは地球を護ろうとしているのよっ!」

「イルイか。彼らを倒した後で、もう一度ナシムの器としてあげよう」

「!」

「そんなこと、させるわけねーだろ!」

 イルイの懇願を一蹴するビッグ・ファイア。イングがその態度に激怒する。

 

 無限にも思える無尽蔵のエネルギーと圧倒的なパワー、そして「マシン・セル」を彷彿とさせる化け物じみた再生能力を持つ《ガンジェネシス》を前に、αナンバーズは一人、また一人と脱落していく。

 けれども、彼らの攻撃が無駄だったわけではない。

 仲間たちの攻撃を呼び水にした《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《Hiーνガンダム》による決死の攻撃で《ガンジェネシス》が初めて揺らいだ。

 

「我が名はゼンガー、ゼンガー・ゾンボルト! 神を断つ剣なり!! ――チェストォォォォオッ!!」

「龍虎王が超奥義っ! 龍王破山剣ッ! 天魔降伏! ()ーーんッ!!」

「「ツイン・バード! ストラァァァァイクッ!!」」

「マニューバーGRaMXs! フィニィィイッシュ!!」

 

 すかさず《ダイゼンガー》、《龍虎王》、《ビルトビルガー》と《ビルトファルケン》、《ハイペリオン》がそれぞれの必殺技を叩き込む。

 そして、《ゴッドマーズ》の《ファイナルゴッドマーズ》が炸裂した。

 

「くっ、六神体が……!? ガンジェネシスを維持できない!」

「この瞬間を待っていたんだ! 来い、ブラックホールバスターキャノン!」

 

 仲間の援護を背に、イングは念動力で巨大な砲を呼び寄せる。

 パージした《TーLINKレボリューター》による念動結界「サターン・フォーメーション」が《ガンジェネシス》を捉えた。

 

「ヒュッケバインから受け継いだ力を……! 今こそ! 見せてやる!」

 

 《エグゼクスバイン》の最強兵器、《ブラックホールバスターキャノン》が発射された。

 

「超重獄に墜ちろ! ビッグ・ファイア!!」

「っ、まだ、六神体をやられただけだ……!」

 

 極小のブラックホールにより、完全に破壊された《ガンジェネシス》から《ガイアー》が分離した。

 

「イング、きみとの決着だけは着けさせてもらう!」

「しまっ……!?」

 

 大爆発の中から現れた《ガイアー》は、《エグゼクスバイン》に組み付くと諸共念動転移する。

 

「イング!」

「お兄ちゃん……!」

 

 そしてアーマラとイルイの悲鳴を残し、両者は虚空に消えた。

 

 

   †  †  †

 

 

 BF団の本拠地、超古代文明の遺産「バビルの塔」。

 地底、地下深くに広がる巨大な空間で凶鳥と巨神が激突する。

 

「いい加減往生際が悪いぜ、ビッグ・ファイア!!」

『それはぼくのセリフだ、イング!』

 

 無数の光弾を放つ《ガイアー》。念動力により、まるで《ファンネル》のように飛翔して《エグゼクスバイン》を追い立てる。

 対する《エグゼクスバイン》の動きは精彩を欠いていた。

 リクレイマー、シャアとの決戦から《ガンエデン》、《ガンジェネシス》と連戦を演じてきた機体はすでに限界に近く、全身至る所にガタがきている。サブコンソールにはエラー情報が飛び交い、警告音が耳を劈く。

 さらには《ガイアー》の性能も《ガンジェネシス》に負けず劣らず強烈だ。

 光弾の雨霰に、近接戦のエネルギー衝撃波。全身から超高熱の炎を吹き出し、さらには念などのエネルギーを吸収すらしてしまう。

 それでもイングは諦めない。強くしなやかな心は折れたりしない。

 仲間たちのもとに帰るため、最強のサイコドライバーとの孤独な戦いを続ける。

 

『これでどうだ!』

「ぐあ……! ね、念動フィールドォォッ!」

 

 念動力による引力で引き寄せられ、至近距離で光弾を受ける《エグゼクスバイン》。

 イングは念動フィールドの応用で《ガイアー》を無理矢理引き剥がすが、ゼロに近い距離で光弾を叩きつけられたダメージは深刻だ。

 

「イングさん、これ以上は機体が保ちません!」

「まだだ、まだやれる! まだ終わりじゃない! 限界を超えたとき初めて見えるものがある、掴み取れる力が……! オレたちならやれるはずだ、エクス!」

「は、はいっ!」

 

 エクスの警告を退けて、イングは哮る。

 けしかけた《TーLINKレボリューター》は全て破壊され、《フォトン・ライフル》、《グラビトン・ライフル》もエネルギーを使い切るか喪失した。

 残った武装は数本の《ロシュ・ダガー》と《TーLINKセイバー》のみ。

 しかしイングの闘志はますます燃えさかる。ビッグ・ファイアは疑問を呈す。

 

『イング。どうして、そうまで戦えるんだ? きみを突き動かしているのは単純な正義感だろう。けれど、その正義感を向ける相手に、ヒトに命を懸けるほどの価値ない』

「だからどうした! アクシズを防いだ光を見ただろう! ヒトはそんなに捨てたもんじゃない!」

『あの暖かい光を創り出せるヒトが、同時に残酷で愚かな行為をいとも簡単に犯す。それは歴史が証明している。だからぼくはBF団を組織した。愚劣なるヒトが地球を滅ぼさないように、監視するためにね』

「じゃあ、そうさせないようにするさ。あんたを倒してな!」

『それでどうする、イング。所詮、きみの力はぼくの劣化コピー。オリジナルには勝てない』

「コピーがオリジナルに劣ると誰が決めた! 例え、お前から与えられたものだろうとも! この力、みんなの笑顔のために使うんだッ!!」

 

 決意が意志を動かし、意志が強念を生む。

 イングの念は魂の力。ビッグ・ファイアの肉体を基礎としたものであっても、結局のところは彼の意志によるものでしかない。

 揺るがぬ精神と、確固たる信念が新たな力を呼び覚ます。

 

「唸れ、トロニウム・レヴ! Gストーンよ、おまえが無限の力を発揮できるというなら、オレの勇気を燃やして光り輝け!」

 

 《エグゼクスバイン》に搭載されたトロニウム・レヴが唸りを上げ、Gストーンが勇気を力に変えて輝く。

 それに伴い、イングの髪がまるで燃え立つように真赤(まっか)に染まった。

 

「アカシックレコードアクセスッ! 限界を超えろ、エグゼクスッ!!」

 

 まばゆいばかりの光を放ち、不滅の凶鳥が息を吹き返す。

 《TーLINKスライダー》の接続コネクタから念動力で形作られたブレードが出現し、機体全体が翠緑の光を帯びる。

 《ストライク・シールド》から《TーLINKセイバー》を引き抜き、《エグゼクスバイン》は限界を超越し、極限(エクストリーム)に到達する。

 

「オオオオ――ッ!!」

『速い……!?』

 

 光り輝く極限の凶鳥が、圧倒的なスピードですれ違いざまに《ガイアー》を斬り裂く。

 僅か一瞬の接触は、エネルギー吸収の隙を与えない。

 

「この念、ぼくを超えている……!? 無限力(むげんちから)を掌握しているとでも言うのか! これが“神なる世界”の者の力……! イング、きみは危険だ!」

「ようやくオレの存在を認めたな、ビッグ・ファイア! オレはお前の複製でもなければ、影でもない! ましてやお前の(にえ)になるなんて以ての外だ! オレは一人の人間として、地球人としてお前を倒す!  忘れるな、オレの名前はイング・ウィンチェスターだ!」

 

 乗機を一方的に切り刻まれて初めて狼狽を見せるビッグ・ファイアに、イングは決然と言い放つ。

 振り下ろされた《TーLINKセイバー》が《ガイアー》の左腕を断ち斬り、残った右手が放った光弾がそれを弾き飛ばす。

 

 それは死闘と呼ぶに相応しい戦いだった。

 激しい攻撃の応酬。天地を揺るがす強念の激突で、バベルの塔が悲鳴を上げる。

 そして……

 

「ヒトの世界にッ、カミは――いらないッッ!!」

 

 ついに、イングの信念が込められた拳が、大地の名を持つ巨神を貫いた。

 

 胸に風穴を空けられた《ガイアー》は、破損部を激しくスパークさせて空中に漂う。残った四肢はだらりと力なく垂れ下がっていた。

 

『み……見事だ、イング……。それで、こそ、ぼくが、後継者として見込んだ、男だ』

「何っ!?」

『こ、これで、ぼくも……心おきなく、因果地平の彼方に、無限力に逝くことができる……』

「ビッグ・ファイア、お前……そういうことか」

 

 イングは悟る。

 数々の困難を与え、「イング」を後継者として育て上げる――それこそが、真のGR計画なのだと。

 最後に自らが試練として立ちふさがり、打ち倒されたことで目的を果たしたビッグ・ファイアは満足そうだった。

 

『イング……虫のいいことだけれど、最後にひとつだけ、頼みが、あるんだ……』

 

 譫言のように、ビッグ・ファイアはイングに語りかける。

 

『ナシムは……ぼくの、ほんとうの妹だった……。ナシムの血を色濃く、受け継いだイルイを……そして、彼女の愛した地球を、ぼくらの代わりに、護ってやって、ほしい……」

「わかった。イルイはオレの妹でもあるんだ。地球を護るのも、妹を護るのも、あんたに言われるまでもない」

『ふふ……、ありがとう、イング……』

 

 イングの素直でない物言いに、ビッグ・ファイアは微笑んだ。まるで憑き物が全て抜け落ちたような、安らかな笑みだった。

 

『ナシムの願いで……、ぼくらは、バルマーを離れた……。それ自体は、今でも、間違いだったとは……思わない。でも、でもそのせいで彼が……ゲベルが、歪んでしまったのなら、ぼくは――』

 

 誰に語るでもない途切れ途切れの言葉には、ビッグ・ファイアの――バビルの深い後悔の念が込められていた。

 

『地球を、この宇宙の未来を頼む……バビル二世……』

「ああ。頼まれた」

 

 後継者に未来を託して、《ガイアー》が爆散する。

 《ガイアー》の残した光が粒子となって、《エグゼクスバイン》のTーLINKフレームに吸い込まれていく。

 地球を誰よりも愛し、ヒトを厳しくも愛おしんだファースト・サイコドライバーの最期だった。

 

「…………」

「イングさん……」

 

 暫し、黙祷するイング。エクスが気遣わしげにする。

 ビッグ・ファイアの――バビルの残した“(しゅくふく)”を受け入れて、“バビル二世”はここに完成した。

 

「――帰ろう、エクス。みんなのところに」

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――《ガンエデン》、《ガンジェネシス》という太古の念動兵器群に辛くも勝利したαナンバーズ。

 無事地球に降下したαナンバーズのメンバーにより、《ガイアー》とともに姿を消した《エグゼクスバイン》の捜索が続けられていた。

 

 だが、イングの行方は蓉として知れなかった。

 

 

 紅い《ビルトファルケン》に搭乗し、イングを捜索していたアーマラとイルイ。彼女たちは休息もそこそこに、懸命な捜索活動を続けていた。

 

「あ……!」

「この暖かい念は……」

 

 イルイとアーマラが何かに気づく。

 二人は顔を見合わせると、すぐに移動を開始した。

 

 慣れ親しんだ念を関知した場所に、《ビルトファルケン》が着陸する。

 ひざを突く《ファルケン》。コクピットを開き、アーマラはイルイを抱えて慌ただしく飛び降りる。

 そこは青々とした背の低い草花が生い茂るなだらかな草原だった。

 

 武装の大半を失い、損傷も激しい《エグゼクスバイン》の足下に立つ、銀髪の少年の後ろ姿。傍らには、鮮やかなピンク色のマスコットロボが浮遊している。

 

「おにーちゃーんっ!!」

 

 抱き上げられていた腕をするりと抜けて、イルイが一目散に駆けていく。

 少年が振り向いて、彼女を迎える。

 アーマラは苦笑し、ゆっくりと歩いてその後を追った。

 

「イング」

「アーマラ」

 

 イルイを抱き上げ、言葉少なに自分を迎える少年――イングが、アーマラにはどこか大人びて見えた。

 

「勝ったのか」

「ああ。ビッグ・ファイアは……バビルは逝ったよ」

「バビルお兄ちゃん……」

 

 落ち込むイルイの頭を軽く撫で、イングが空を見上げる。

 雲一つない抜けるような青空には、燦々と光を振りまく太陽とオーガニック・エナジーの虹が瞬いていた。

 

「……勝手にこの世界に呼ばれて、訳も解らず戦争の中に放り込まれて……、始めは単純に怒りとか憤りとか、そういう感情で戦ってた」

 

 長いようで短い旅の記憶を手繰り寄せ、イングは述懐する。

 責任を感じているのだろう、イルイが腕の中で心配そうに見ている。

 

「ロンド・ベルの、αナンバーズのみんなと出会って、いつからかこの地球に愛着を感じるようになって。たくさんのヒトがいて、たくさんの命にあふれてて、たくさんの想いがあって……それを護りたいって思えるようになったんだ」

 

 そう思えたのも、イングが純粋だからだろう。

 英雄(ヒーロー)に対する憧憬は時として歪みに変わり、最後には身の破滅に変わることもあるのだから。

 

「自分が今ここにいる理由がわからなくても、それでもいいって思ってた。けれど……、オレにも託されたものがあった。ここにいる意味があったんだ」

 

 視線を落としたイングは、しばし口を噤む。

 

「オレは、ここにいる」

 

 そして瞼を開き、晴れ晴れとした表情で力強く言った。

 アーマラは、そんなイングの横顔を見つめていた。見惚れていたといってもいい。

 それは気高い戦士のようで、年相応の少年のようで――とても尊く思えたから。

 

「アーマラ」

「……」

「アーマラ?」

「んッ? あ、ああ! なんだ?」

 

 自分が惚けていたことに気付いたアーマラは、訝しげな視線に狼狽する。その頬は、薄く薔薇色に染まっていた。

 様子のおかしいアーマラに首を傾げつつ、イングは本題を切り出した。

 

「これから、地球、いやこの銀河には今までにない大災厄が訪れるだろう。それはこれまでの戦いとは比べものにならないほど辛く、厳しいものになるはずだ。そしてオレは、その戦いの真っ直中に行くつもりなんだ」

 

 それが託された願いだから。

 それが英雄(ヒーロー)の姿だから。

 それが誰にはばかることのない自分自身の望みだから。

 

 だからイングは命を懸けて戦うのだ。

 人々の志を束ねる希望の太陽として。終わらない平和を求めて。

 

「……それでも、オレと一緒に戦ってくれるか?」

 

 少しだけ弱気な顔を覗かせる。

 ふっ、とアーマラが笑う。いつものニヒルで、けれどもどこか背伸びをした表情は彼女のいつものスタンスだ。

 

「馬鹿者。私はお前のパートナーだぞ。そんなもの、言うまでもない。お前が嫌と言ったって、離してやるものか」

「お兄ちゃん、わたしもいるよっ」

「わたしとエグゼクスバインもお供します!」

 

 アーマラの勝ち気な宣言。健気なイルイとエクスが続く。

 

 彼らの頭上に、連絡を受けて集結したαナンバーズ艦隊と仲間たちの姿がある。

 心強い仲間に恵まれた自分の幸運に感謝して、イングは破顔した。

 

「行こう、終焉の銀河に。この世界を終わりにさせないためにも」

 

 

 

 

 




※おまけ

特殊技能『サイコドライバー』
 気力140以上で発動
 全ステータス+20、全地形適応S、毎ターンSP20回復、SP消費80%、
気力最大値+30、EP時回避率30%up、攻撃力+1500、CT率10%up、サイズ差無視、最終ダメージ1.3倍、移動時のコスト無効


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番外編「その名はバビル二世」

 

 

 超古代の遺産、あるいは未来的な。

 “バベルの塔”――不可思議な砂塵に隠された秘密の場所。かつて、BF団の本拠地であったここに、イングとアーマラ、イルイ、エクスが訪れていた。

 油断なく辺りを見回すアーマラは後ろを振り返る。

 

「ここがバベルの塔……イルイは来たことがあるのか?」

「ううん、わたしはないよ。ナシムはすごく昔に、来たことがあるみたいだけど」

 

 エクスを抱えたイルイが答える。

 ガンエデン――ナシムの残留思念を抱えたイルイは、彼女の記憶を多少引き出すことができた。また、時折ナシムの意志が表に出て来ることもある。

 とはいえ、地球と宇宙の命運をαナンバーズに託したナシムは、イルイに寄り添うように在る意志は言わば守護霊のようなものだ。

 イルイに害を為すわけではないとして、イングは現状を看過している。

 

 仲睦まじい姉妹のような二人の自然なやり取りに頬を緩ませつつ、イングは視線を上げた。

 かつては十傑集が集った、その場所で――

 

「さぁて、オレを呼びつけるとはいい度胸だな――諸葛亮」

 

 イングの見上げた壇上には、不敵な笑みを湛えた軍師の姿があった。

 

 

   †  †  †

 

 

 “封印戦争”が終わった。

 αナンバーズは解散、皆それぞれの場所に帰っていった。

 もとの生活に戻る者たちもいれば、広大な宇宙へと旅立った者たちもいる。

 オレとアーマラはと言えば、イルイを預かり、次の戦いに備えた仕込みに世界中を駆け回っているところだ。

 ちなみに、《エグゼクスバイン 》はテスラ研でオーバーホール中。無茶させすぎだとロブに叱られた。

 

 ビッグ・ファイアが倒れ、BF団が事実上消滅したことで国際警察機構の黄帝・ライセがどう動くかが懸念だったのだが、「この星の未来を頼む、バビル二世」と妙に殊勝なことを言われてしまった。オレとしては国際警察機構を抜ける覚悟をしていたくらいだったのに、拍子抜けだ。

 まあ、征服する地球が滅びてしまっては元も子もないものな。……ん?何の話だって?アカシックレコードに記された配役の話さ。

 

 

 アメリカ地区、デトロイト。

 かつての合衆国の重工業の中心地であり、宇宙に産業の舞台が移った今でもいくつもの有名企業が支社、あるいは本社を置いている。

 オレは、アーマラ、イルイ、エクスを連れて、とある兵器関連の企業を訪れていた。

 

「イング、こんなところに何の用だ?」

「んっ? まあ、行けばわかるさ」

 

 アーマラがもっともな質問をしてくるが、適当にはぐらかす。一から説明するのも面倒だし、何よりこいつが驚く顔が見たいってのが一番の理由だな。

 イルイはいつものようにエクスを抱えて、テトテトと後からついてくる。かわいい。癒される。

 

 ここに来た理由はわりと複雑で、単純だ。

 だいぶ前から仕込んでた()()()の確認ってとこか。あるいは懸念の払拭ってのもあるが、まあ、それはついでだ。

 

 受付嬢のおねーさん(金髪の美人だ)に話しかける。

 

「アポを取ってあるイング・ウィンチェスターだが。取り次ぎを頼みたい」

「アポって……お前、いつの間に」

 

 いいんだよ、そういうことは。

 

 呆れた様子のアーマラをスルーしつつ、おねーさんの問い合わせを待つ。 

 こういうことしていると、なんかオトナになった気がしてワクワクしてきた。こんな気分は、《エクスバイン》に初めて乗った日以来かもな。

 

 無事アポイントが確認されたので、案内されたエレベーターに乗る。

 と、しばらくして障る念を感じ取った。

 

「! お兄ちゃん……」

「イルイ、お前も感じたか」

「……何の話だ?」

 

 この吐き気をもよおす邪念を敏感に感じ取ったのだろう、イルイが背中にひしっと縋ってくる。さすが、バビル二世(オレ)と同格のサイコドライバーなだけはあるな。

 アーマラは気づいていないようだから、説明してやろう。端的にな!

 

「敵だよ、敵。ズール野郎さ」

「何っ!?」

 

 アーマラが血相を変える。

 と、エレベーターが目的の階に停止して、ドアが開く。

 するとそこには、明らかに堅気の者じゃない黒服のみなさんがずらずらと待ちかまえているじゃありませんか。

 

「おっと、手厚い歓迎ご苦労」

「馬鹿っ! 言ってる場合か!」

 

 それもそうだな。

 

「貴様っ、マーズの仲間のっ! どうやってここを嗅ぎつけたかは知らないが――」

「知るかボケ」

「――がはっ!?」

 

 リーダーらしき(というか、コイツが“アレ”だな)が何やらグダグダ喋っていたので、超能力で炎を纏わせた跳び蹴りをかましてやったら一撃で爆散しやがった。脆いな。

 

 アーマラが唖然とした。

 

「……おい、前口上くらい聞いてやったらどうだ」

「嫌だね。ああいう手合いは見つけたら即抹殺、サーチアンドデストロイが基本なんだよ」

「あれは害虫か何かか」

 

 害虫だろ。宇宙の。

 

「で、結局奴は何だったんだ?」

 

 このオレの超能力に恐れをなして、蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていく黒服どもを軽く見やり、アーマラが訊いてくる。さもあらん、だな。

 

「ゲシュタルト。ズール皇帝の配下にして分身体、奴そのものだよ」

「……! やはり、ズールは滅びていなかったのだな」

「ああ。オレたちが倒したのは単なる分身、偽ズールってわけさ」

 

 アーマラが愕然としている。

 まあ、あれだけの死闘を繰り広げたにも関わらず、倒せてないってんだからその気持ちは分かるが。

 まったくズールめ、ガンエデンと先代バビルが倒れたのを見て地球制服に乗り出したな。厚かましいし、いい面の皮をしてやがる。

 しかしな、こちとらナシムとバビルからの記憶封印が解けたんだ。ネタはだいたい割れてるんだぞ、と。

 

「つまり、奴の分身がこの地球でよからぬことを企んでいた、と」

「そゆこと。別に奴らがいると踏んでたわけじゃないが、予想はしてたよ」

 

 難しい顔のアーマラと受け答えしつつ、歩を進める。

 あれを駆除したのはついでなんだからな。 

 

 この企業の社長室。

 重厚なドアを開くと、そこには水色のスーツを着こなした金髪碧眼の紳士(胡散臭い)がいた。

 その人物の顔を見て、アーマラが固まる。

 

「よおアズにゃん、元気してたか?」

「イング君、その呼び方止めてくれませんかネ?」

「ヤなこった」

 

 からかってるんだからな。

 思考停止していたらしいアーマラが、ここで再起動して声を上げる。

 

「ムルタ・アズラエル……! ブルーコスモスの盟主!」

「そういうあなたはアーマラ・バートン、“レディ・マグナム”としてその筋では有名なエキスパートですネ」

 

 顔をしかめるアーマラ。このおっさん、相変わらず人を食ったような物言いをする。

 ムルタ・アズラエル。「機動戦士ガンダムSEED」の登場人物、悪役だ。詳細はググれ。

 所詮は小物だし、汎超能力者のオレならいくらでも処理できる相手なのだが、一応一般人であるし、まだ犯してもいない罪で裁くってのは烏滸がましい行為だ。なので、以前からちょっぴりテコ入れしていた。

 つか、ぶっちゃけSEEDではわりと好きなキャラだったり。相対的に、だけど。

 

 問答では埒が明かないとみて、我が相方はこちらに質問を振る。

 

「コイツが今日の仕事の相手だとはわかったが。イング、どういう関係だ?」

「ぶっちゃけて言うと、アズラエルは戦争の火種になるって前からマークしてたんだよ」

「いやはや、キミがこの執務室に突然現れたときは、寿命が縮むかと思いましたヨ」

 

 アズラエルがげんなりとする。テレポートで無断進入余裕でした。

 

 立ち話もナンだと、応接室に案内された。黒革のたっかそーなソファーはふかふかだ。

 秘書のおねーさん(やっぱり美人だ)がジュースを持ってきてくれた。デレデレしてたらアーマラに睨まれた。プリプリ怒っちゃって、なんなんだアイツ。

 

「で、今回の用件は“プラント”の?」

「それもあるけど、とりあえず、妙な連中が身辺に紛れ込んでたろ?」

「あー、彼らね。どうもボクに洗脳かなにかをしたかったらしいですケド、キミに先を越されて残念でした、って感じですネ」

「つまり、フリだけしてたってことね」

「イエス、と言っておきまショウ」

 

 不敵な笑みだ。食えんおっさんだ。

 イルイは退屈なのだろう、出されたオレンジジュースをちびちびと飲んでいる。かわいい。癒される。

 

「おい、イング。今、不穏な単語が聞こえたんだが?」

「洗脳ったって、ちょっとトラウマを取り除いてやっただけだぜ? 一応、精神防壁も敷いといたけど」

 

 最初に接触したとき、コーディネーターに対するトラウマを催眠で風化させてやったのだ。

 当時から深い考えがあったわけじゃないが、ともかくこの男の末路が哀れに思えたのだろう。それが幸をそうしたな。

 

「まあ、それでもティターンズ並みのアースノイド至上主義だったんだが」

「「商人なら、異星人とだって商売してみせろよ。そんなだから、アナハイムやネルガルに後れを取るんだ」と言われまして。まさしく目から鱗が落ちる思いでしたヨ。蒙が開くって感じですかネ」

「自明だろ?」

 

 つーか、このおっさんもだけど、たまに新西暦生まれのくせに、時代錯誤も甚だしい考え方をしてる奴がいるんだよね。ティターンズとかさ。

 これがアカシックレコードに記されたシナリオの内なのだとしたら、いけ好かない連中だ。オレに言わせれば、それすらも“神”の掌の内なんだが。

 

「まず、プラントってのが何かは知ってるよな?」

「ああ。第一次木星探査隊のメンバー、ジョージ・グレンの告白により誕生した“コーディネーター”たちの住むコロニー国家だな。連邦政府、いや各サイドのスペース・コロニーからも半ば無視され、孤立しているな」

「正確に言えば、彼らに工業コロニー群を乗っ取られたんですけどネ」

「当時の連邦は宇宙開発やコロニー統治に忙しかったし、コーディネーターたちはいろいろな意味で厄介な存在だった。だから、プラントをなかったことにして無視を決め込んだ。実に英断だったとオレは思うぞ」

「しかし、かつてのジオン独立戦争ではジオンに陰ながら協力していたらしいが。潜在的脅威を放置していたのは失策ではないか?」

「それはザビ家がバルマー戦役で倒れてから発覚したことだろう? それだけプラントの連中は狡猾で節操がないのさ」

 

 む、とアーマラが唸る。

 イルイがキョトンとしてオレを見てきた。オレの言い分に驚いたらしい。

 

「で、そのプラントが地球に戦争を仕掛ける、と」

「地球というか、奴らの言う“ナチュラル”に対してだな。ここでゲシュタルトを見て確信した。間違いない、向こうでもゲシュタルトが暗躍してるのだろうさ」

「だが、何故今になって?」

「アカシックレコード的には地球の強硬派により核攻撃がきっかけだが、そこはアズラエルの手腕に期待しよう。まあ、難しいだろうが」

「それがなくてもコーディネーターのことですシ、「我らを虐げるナチュラルに正義の鉄槌を」とかなんとか、見当違いなことを言い出すんじゃありませんかネ」

「まるでジオンじゃないか」

「まるでじゃなくて、ジオンそのものだよ。いや、劣化ジオンかな? 何せ奴ら、自分らコーディネーターを“新人類”と自称してるんだぜ?」

 

 ついにアーマラが絶句した。

 この新西暦、宇宙人と戦争したり友好したり、銀河に新天地を求めて旅に出る時代に何を戯けたことをと思っているのだろう。

 たかが遺伝子をいじっただけで、何が新人類か。つーかあれ、単なる遺伝子の引き算であって、プルツーのような人体機能の足し算とは話が違う。引き算だからおそらく念動力に類する超能力は発現しないだろうし。

 

「また、地球人同士で戦争なんて……」

「そうならないように、オレたちは今いろいろがんばってるんだろ?」

「うん……ありがとう、お兄ちゃん」

 

 声をかけて慰めてやると、イルイが微笑んだ。不謹慎だが、かわいい。癒やされる。

 しかし、もしそうなったら、クスハやカミーユは気を病むだろうな……。

 

「しかしイング、どうも辛辣じゃないか。お前らしくもない。コーディネーターは嫌いか?」

「このおっさんと違ってコーディネーター全体が嫌いなわけじゃないが、プラントは嫌いだぞ」

 

 アズラエルが「おっさんとは、心外ですネ」となどと首を竦めているが、無視無視。

 

「新人類名乗るなら、せめて生身で機動兵器解体してみせろってんだ」

「そんなこと出来るのはお前か十傑集くらいのものだ」

「わたしもできるよ?」

「む……」

 

 イルイの思わぬインターセプトに、アーマラが押し黙る。忘れているようだが、ウチの妹様も完聖したサイコドライバーなんだぜ?

 まあ、まだプラントが事を起こしたわけじゃないから、今のところはオレの偏見でしかないが。……起きるんだろうなぁ、やっぱ。全力で阻止していくつもりだが。

 

「ともかく、方針は以前のままで?」

「ああ。ブルーコスモスの盟主として、主戦派を煽りつつ手綱をしっかり握っておいてくれ。くれぐれも、プラントに核ミサイルなんて撃たせてくれるなよ」

「努力しますヨ」

 

 これは期待してもいいかな?

 とはいえ、アカシックレコードの定めから逃れることは難しいかもしれないが。

 アカシックレコードに刻まれた「シナリオ」を逸脱しないように、それでいて運命に逆らう。

 アキトさんたちのときは、オレが甘かった。やるなら徹底的に、妥協はしない。手段は程々に選んで、最適でも次善でもなく最善を目指していく。

 とりあえず、SEED勢には「お前らの出番ねーから」の方針で行くつもりだ。

 フフフ……純粋な地球人勢力が、バビル二世に敵うと思うなよ。

 

「あともう一つ、国防産業連合理事としてのあんたに依頼がある」

「おや、商談ですカ?」

「いんや」

「それは残念」

 

 またぞろアメリカンな仕草をするアズラエル。小癪な奴だ。

 ある意味、今回のアズラエルのもとに訪問した本題を切り出す。

 

「ハマーン・カーンを、今度新設される地球安全評議会の議員として後押ししてほしい。出来れば、ジオン共和国選出で連邦上院議会の椅子もあれば完璧だな」

「ほう、あの鉄の女を……大丈夫なのですカ?」

「野心というか、連邦政府に対するくすぶりはまだ持ってるようだがな。それ以上に、シャアの代わりに地球の行く末を見るという意志の方が強いな」

 

 封印戦争時やその後に、何度か面と向かって会話した印象だ。

 多少憑き物は落ちたみたいだけど、やっぱ苛烈でおっかないお姉さんなことは変わりない。……まあ、そこは仕方ないだろう。どこぞの赤い奴のせいだ。

 

「なるほど。ですが、ボクは宇宙の方にはそんなに影響力はありませんヨ?」

「マオ社とアナハイム、ネルガル重工にも話は通してるから表だってはそっちが後援する。あんたには立場もあるだろうし、消極的支持、つまりは妨害しなきゃ何でもいい。ちなみに、本人もやる気があるみたいだぞ」

 

 ここに来る前、現在ドレルを護衛代わりにロンデニオンへ身を寄せているハマーンさんに、このことを直接打診した。

 最初は大いに渋っていた(俗物となれ合いたくなかったらしい。子どもか)が、「平行世界には、連邦議会の議員になったキャスバルだっているんだよ」と煽ったらやる気になった。ちょろい。

 なお、我が家のかわいい妹様は友達とキャッキャうふふと戯れていた模様。かわいい。癒される。

 

「ずいぶん手厚く便宜を図っているのですネェ」

「何だかんだ言ってあの人、美人だしな。綺麗なひとの力にはなりてーじゃん?」

「ほうほう、イング君の女性の好みはあのようなタイプだト」

「かもな」

「……」

 

 アズラエルの勘ぐりにノってみる。

 結構タイプなのは否定しないが――って、

 

「イタッ! 何すんだよ!」

「ふんっ!」

 

 突然オレの腿を抓ってきたアーマラはぷいっとそっぽを向いて、プリプリと怒ってる。

 イルイとエクスがシラッとした目で見てくるし、アズラエルがやれやれと肩をすくめている。なんだってんだ、いったい。

 

「ところで、あの()()()からの妨害が予想されますケド」

「そこはあんたが何とかしなよ。得意でしょ、そーいうの」

「はぁ……ま、何とかしまショウ」

 

 アズラエルは肩を竦める。こういうからには、何とかするだろう。

 うむ。頼もしいことだな。

 

「しかし、なんと言いますか、今回のやり口はアナタらしくありませんネ。どなたか、アドバイザーでも付けましたカ?」

「んっ……まあ、な」

「おやおや? もしかして図星?」

 

 なかなか勘の鋭いことで。生き馬の目を抜く業界でのし上がってきたいっぱしの商人だけはあるか。

 オレはその“アドバイザー”との出会いを思い出し、ちょっぴりげんなりした。

 

 

   †  †  †

 

 

 黄緑色のデカいリボンがついた赤いベレー帽を被る、金髪ショートの幼女だった。

 

「――って、孔明ちゃんかよっ!?」

「あわっ、あわわ……!」

 

 あわわ軍師かっ!そこまでやるか!

 いかん、いかんぞ。奴のペースに乗せられてる。これが孔明の罠か。

 

「この子どもが諸葛孔明? 私が聞いた人相とはかけ離れているが」

「見た目に騙されるなよ、アーマラ。あれは確かに正真正銘、BF団のナンバー2、軍師・諸葛亮孔明だ」

「何……?」

「そ、その通りでしゅ……です。あわわ、噛んじゃった」

 

 噛むところまで再現してんのか。あざといなっ!さすが孔明あざとい!

 つーか、その姿の情報ソースはどこからだよ。

 

「あれの正体は、このバベルの塔を管理する超高性能コンピュータ、その対話用アバターだ」

「なるほど。故に姿形も自由自在、と」

 

 アーマラが納得したように頷いた。

 気を取り直し、諸葛亮を問い詰める。

 

「で、諸葛亮。とりあえず、何でそんな格好をしてるのかを話せ」

「はい。ご主人さまの知識の中に、私がお仕えするのに相応しいものがありましたので。……えっちいのはいけないとおもいましゅ」

「失礼なこと言うなっ」

 

 情報ソースはオレかっ!

 

「あわわ。以前のアバターよりも、こちらの方がご主人しゃまもうれしいかと思いまして。あわわわっ」

「余計なお世話だよっ!」

 

 まあ、むさ苦しいおっさんよりはかわいい女の子の方が遥かにマシだが。

 

「……」

「なんだよ、アーマラ」

「ふんっ」

 

 指すような視線を感じて、後ろを向く。

 なんか、相方さんが急にご機嫌斜めなんだけど? 意味わからん。

 

「まあ、いい。で、本題は?」

 

「はい」と答えた諸葛亮は居住まいを正し、刃のように鋭い視線を投げかけてくる。やはり、さっきまでの拙い振る舞いは擬態か。

 

「ご主人さま……いえ、バビル二世。あなたはこれから何を為すのでしょう?」

「……」

「先代から受け継いだその神にも等しい力を、あなたは何のために奮うのです? 富? 名誉? それとももっとほかの何かかもしれませんが」

「……確かに、この力を使えばどんなことだって叶えられるかもしれないな」

「はい。そしてあなたはバビル二世、このバベルの塔とその戦力をも継承しています。世界を支配するのも、滅ぼすのも自由自在です」

「なるほど、ね」

 

 諸葛亮を囲むように、みっつの影が姿を現す。

 地を駆ける豹、アキレス。

 空飛ぶ怪鳥、ガルーダ。

 海を行く巨人、ネプチューン。

 ――ビッグ・ファイア三つの護衛団。《ガンエデン》のクストースに対応する《ガンジェネシス》、バビルのしもべだ。

 αナンバーズとの決戦に持ち出してこなかったのはやはり、オレにあれらを引き継がせるためだったか。

 

 背中にアーマラとイルイからの視線感じる。ったく、オレがそんなに信じられないってのか?

 

「だけど、オレが憧れた存在は、なりたかったものはそうじゃない。彼らは……物語の中のヒーローたちは、見返りなんて求めてなくて。目には見えない大切な何かのために戦っていたんだ」

 

 幼い日にみた鮮烈な記憶。

 一番のヒーローが誰かなんて、決められない。だってオレは、どんなヒーローだって大好きだったから。

 今はもう会えない両親に、幼いころのオレはしきりに「ぼく、大きくなったらヒーローになるんだ」って言っていた記憶がある。いつだって憧れたヒーローに恥じることがないように生きてきたつもりだ。

 

 普通、そういった憧れは成長するうちに現実を知って薄れていくものだろう。所詮、幻想は幻想でしかないのだから。

 けれどオレはまだまだ子どもで、そういう夢みたいな憧れを捨てるにはいろいろと足りてなかったし、捨てるつもりもなかった。

 そりゃ、あの平和な世界で「世界の危機」と戦うことなんてありえない。だいたいオレは十把一絡げの平凡な高校生で、ゲームとかアニメとか特撮とか、そういうので夢を疑似体験してる――きっとどこにでもいる。

 だけど、ここでは違う。

 憧れたヒーローたちみたいになれる。いや、ならなくちゃいけないんだ。

 

 この手には贈られた力がある。

 この胸には託された願いがある。

 この背には背負った未来がある。

 

 だから――

 

「オレは“運命”と戦う……そして勝ってみせる。戦えない全ての人たちの代わりに、オレが戦うんだ」

 

 地球の平和を守るため。

 世界の未来を拓くため。

 どんなにツラい戦いも、仲間たちとなら乗り越えられる。

 

「オレはヒーローになりたい。正義の味方なんて陳腐なものじゃなくて、ただヒトを、命を、世界を救うヒーローに」

「まるでガキだな」

「ガキで悪いかっ! オレは子どもだ、子どもでたくさんだ」

 

 なんだかなま暖かい視線を向けてくる相方に言い返す。

 アーマラめ、せっかくいいこと言ったってのに横から茶々入れやがって。お前、口では憎まれ口叩いてるけど気持ちはだいたい裏腹だって知ってるんだからな。

 

「わたしは、ステキな夢だと思うよ?」

「ありがとう、イルイ」

「イングさんならなれますよ、絶対!」

「エクスもありがとうな」

 

 優しいイルイとエクスは撫でてやる。素直じゃない相方さんとは大違いだ。

 改めて、諸葛亮に向き直る。

 

「そういうわけだ諸葛亮、いやバベルの塔。お前のその頭脳、平和のために使え」

「それがご主人さまのお望みなら」

 

 こちらの意志など最初からお見通しだったのだろう、諸葛亮の表情は澄ましたものだ。

 諸葛亮は一礼すると壇上から降り(背がちんまいからだろう、その際かなり難儀してアキレスに助けられていた)、いそいそとオレの後ろ、右手側に立つ。

 あれか、主より頭が高いのは臣下的にナシなのか。右腕アピールなのか。

 

 振り返る。

 そこには、口は悪いが頼もしいパートナーと、賢くかわいい妹と、素直で心強い相棒。それから腹黒いが頭の切れる参謀がいた。

 ふ、と口元には自然に笑みが浮かぶ。

 

 コイツらとなら、できるかもしれない。夢みたいな理想も、実現できるかもしれない。

 

 オレは、ぜんぶ一人で出来るって思い上がるほど馬鹿じゃない。

 仲間が欲しい。

 特別な力なんてなくたっていい。同じ理想を抱いてくれる仲間が欲しいんだ。

 

 ヒーローたちだって一人で戦ってたわけじゃないんだ。

 少なくない仲間に支えられて、時にはヒーロー同士が垣根を越えて力を合わせて、巨悪を打倒することだって珍しくないんだから。

 

「さあ、新生BF団の旗揚げといこうじゃないか」

「新生BF団、か。イング、その活動理念、大目的はなんだ?」

「そいつはもちろん――」

 

 アーマラが問う。

 オレはニヤリ、と笑みを返した。

 

「――宇宙の平和、さ」

 



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αIIIー1「クロスゲート」

 

 

 封印戦争から一ヶ月。

 途切れることのない砂嵐に閉ざされた超古代遺跡、バベルの塔。

 かつてはファースト・サイコドライバー、バビルの眠っていた場所であり、悪の秘密結社BF団の本拠地でもあった場所。

 現在はバビルの後継者、バビル二世ことイング・ウィンチェスターとその仲間が住まう彼らの本拠地である。

 

 新しく整備された居住スペースの一室。朽ちた外観とは裏腹に、航宙艦の内部を思わせる近未来的な内装の広々とした部屋。

 銀髪の少年――このバベルの塔の現在の主であるバビル二世、イングは自室の執務机で資料を読みふけっていた。いつものクロークはハンガーにかけ、半袖状のボディスーツ。

 その傍らには、漆黒の毛並みを持つ大きな豹、バビルのしもべ、アキレスが静かに侍っている。

 

「ったく、目の前に悲劇があるのがわかってて防げないってのは悔しいよな」

 

 「ラダム樹」と呼ばれる侵略機構についてのレポートを読みつつ、イングは眉をひそめた。

 目の前のデスクには、「シグナライト計画」及び宇宙探査艦「アルゴス号」についての資料が乱雑に積まれている。

 外なる世界――神の領域からの視点を持つ彼は、その資質と相まって高い精度で未来を予知・予測できる。

 だが、あまりにも大規模で強引な因果への干渉は、無限力のみならず“番人”からの攻撃をも誘発する。故にイングは封印戦争後、可能な限り()()()()に沿った事象の改変に努めてきた。

 力を持ちすぎた弊害というべきか、今のイングは無限力に監視されており、かつてテンカワ・アキト、ミスマル・ユリカ夫妻を救ったときよりも身動きが取りにくい状態が続いていたのだ。

 

「ご主人しゃま……さま!」

 

 不意に扉が開き、少女が飛び込んでくる。諸葛亮孔明――このバベルの塔の制御コンピューター、その対話用アバターである。

 イングが顔を上げた。

 

「ん、孔明か。どうした、そんなに興奮して」

「当該宙域に、クロスゲート出現に伴う次元震を関知しましたっ」

「! ……ついに、か」

 

 火急の報告に、イングは目を伏せる。

 

「ですが、これで我々も本格的な活動を開始できるということでしゅ……です」

「無限力の……イデの試しが始まった今なら、シナリオに対する直接的な干渉も出来るんだな?」

「はい。出来るかどうかは別にしても、運命にあらがうことは彼らの望みでもありますから」

 

 主の問いに軍師はすらすらと解答する。

 僅かに考える仕草をするイング。その脳裏には、ここ一ヶ月の間に観測、準備した“因子”が思い浮かぶ。

 因子とはすなわち“因”、『直接的原因』であり、『間接的条件』、“縁”との組合せによってさまざまな『結果』、“果”を生起する。アズラエルとの接触はそのうちの“縁”に当たり、アカシックレコードに記された因果(シナリオ)を変化させる波紋となりうる。

 さまざまな運命が交錯するこの宇宙には、本来ならあり得ない因果が頻繁に発生する。しかし、変えることが困難な定めというものも思いの外多い。

 イングは、そういったアカシックレコードの絶対運命を覆そうと足掻いているのだ。

 

「孔明、ガルーダとネプチューンは?」

「“B.Z”氏の協力の下、鋭意改修作業中です。当面、ご主人さまの護衛がアキレスだけになってしまいますが……」

「んー……ま、アキレスがいれば十分だろ」

 

 孔明の懸念に、イングはあっけらかんと答えた。もともと彼は、深く物事を考えない楽観的な質であるし、自分としもべの力を信じている。

 そのアキレスだが、相も変わらず主の足元に寝そべっている。

 

「んじゃま、相方さんと妹様を呼びに行くかな。孔明、アキレス」

「は、はいっ」

 

 立ち上がったイングに従い、軍師としもべが続く。

 テンプレートな執事風の男性に姿を変えたアキレスは、トレードマークとも言える黒いクロークをハンガーからとって、腕時計型通信端末を装着するイングに着せる。

 当初は嫌がっていたイングも、最近は素直に着せられている。諦めたとも言う。

 

 

 バベルの塔、格納エリア。

 オーバーホールを終え、返還された《エグゼクスバイン》と《ビルトファルケン・タイプL》がメンテナンス・べッドに横たわっている。

 また、奥のスペースには六〇メートル弱の真紅(あか)い厳めしい特機(スーパーロボット)が鎮座していた。

 

「クロスゲートとやらが現れれば、また戦争が始まる……そうなんだな、イルイ」

 アーマラが、いつものように腕を組んだ挑戦的なポーズでクールに立っている。

 

「うん……宇宙が、銀河がざわめいてるの……」

 一方イルイは、儚げな容貌に微かなおびえを浮かべて言う。

 

「だいじょぶですよ、イルイちゃん。イングさんとアーマラさんがなんとかしてくれます」

 イルイに抱えられたエクスは、いささか脳天気な発言で勇気づけていた。

 

 少女とロボットの微笑ましいやりとりをちらりと見やり、アーマラはイングに向き直る。

 

「しかしイング、やはりイルイまで連れて行くのは危険ではないか?」

「このバベルの塔の防御システムを疑ってるわけじゃないが、オレたちの手元に置いといた方が何かと安心だって」

「だが……」

 

 イングに諭されるアーマラの表情は苦い。存外、妹分には過保護なようだ。

 

「つーか、バルマーの連中には塔の存在はバレてるんだろうし、事実何度か探りに来てんのはお前だって知ってるだろ。そんな場所に留守番なんてさせられるかよ」

「む……」

 

 イングの指摘にアーマラが黙る。

 バルマーと思わしき集団に対しては、あえて姿を見せず静観に努めてきた。未だ彼ら新生BF団の存在を掴ませるわけにはいかないのだ。

 

「ありがと、アーマラ。わたしのこと、心配してくれてるんだよね」

「んっ、ああ」

 

 イルイの屈託のない笑みを前に、アーマラはバツが悪そうにそっぽを向く。その耳は真っ赤に染まっていた。

 こういうところはかわいいんだけどなぁ。イングは失礼なことを考えつつ、気を取り直す。

 

「さて、孔明。後のことは任せる」

「はい、ご主人さま」

 

 イングの言葉に、孔明が一礼した。

 

 

 《エグゼクスバイン》のコクピット。

 《ヒュッケバインEX》から改修に次ぐ改修を経て、もはや原形を留めていない、けれども馴染むシートに身を預けるイング。グラビコン・システムの改良により、ノーマルスーツを身につけなくなったのも久しい。

 メインコンソールに誂えた台座には、エクスがぴったり納まっている。

 

「緊張、してるんですか?」

「……ちょっと、な」

 

 これから赴くのは。宇宙の命運、それを背負っていると思えば尚更だ。

「だいじょぶです」エクスが明るく言う。

 

「だって、イングさんだけじゃなく、この世界にはたくさんのヒーローがいるんですもん! みんなで力を合わせれば、きっとどんなことだってできるはずですっ」

「……! そっか、そうだよな」

 

 一人で気負うなど、自分らしくもないなとイングは自嘲した。

 と、《ファルケン》からの通信が入る。サブモニターに挑戦的な笑みを浮かべたアーマラと、心配そうなイルイの顔が映った。

 

『どうしたイング、ビビってるのか?』

「び、ビビってねーしっ」

『ふんっ、どうだか』

「あ、お前今笑ったな? 鼻で笑ったなっ!?」

『ふふっ。お兄ちゃんとアーマラ、仲がいいのね』

「『よくないっ!」』

 

 

「ぃよしっ!」相方(アーマラ)とのコントでいつもの調子を取り戻したイングは、自分の両頬を叩いて気合いを入れ、コントロール・レバーを握り直す。

 

「行くぞ、エクス」

「はいっ、トロニウム・レヴおよびブラックホールエンジン、ミドルドライブ。――全機能、正常に稼働中ですっ」

 

 TーLINKシステムを通じてエクスがイングの念を感知し、トロニウム・レヴをドライブさせる。機体の全システムを掌握している彼女の自己診断が終了し、《エグゼクスバイン》の準備は完了した。

 メンテナンス・ベッドの固定が解除され、それと同時に頭上にある扉が開き、カタパルトが起動。テスラ・ドライブが甲高い音を立ててアイドリングする。

 

「イング・ウィンチェスター、エグゼクスバイン、出るぞ!」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月×日

 地球、某所

 

 日本地区に向けて移動中、襲撃をかけてきた機動兵器部隊を蹴散らした。

 《チャクラム・シューター》を思わせる特徴的な武装を装備したオレンジ色の機動兵器群、封印戦争後から何度か交戦しているコイツらはおそらくバルマーの手の者。狙いはイルイか、あるいはオレか。

 今回は、隊長機らしき《サイバスター》に似たそこそこ手強い機体が出張っていた。

 やけにアーマラに突っかかっていたんだが、やっぱそういうことなのか?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月○日

 地球、極東地区日本 サンジェルマン城

 

 クライン・サンドマン主催のパーティーに潜り込んでみた。

 おハイソな感じでやや場違いである。

 会場には万丈さん、ネルガル重工現会長のアカツキ・ナガレ、フィッツジェラルド上院議員や北斗の祖父である西園寺氏。それからアズにゃんもといアズラエルもいたが、珍しく家族連れだった。娘さんは相変わらず洗濯板以下略。

 

 破嵐財閥を解体して身軽になった万丈さんだが、どうも竹尾ゼネラルコンツェルンに就職したらしい。営業担当で。

 それとは別にアズラエルとの関係を何気なく聴かれたので、包み隠さず答えておいた。

 あこがれの万丈さんに感心されて、鼻高々である。

 あと、葵さんとくららさんもいたな。二人ともお仕事だったらしいけど。

 

 さておき、突如現れた「ゼラバイア」の侵略兵器を《ゴッドグラヴィオン》が撃破した。言うなれば、「超重神グラヴィオン」第一期第一話のエピソードってとこだな。

 オレらは、その後現れたラダム獣どもを駆逐して(《グラヴィオン》は重力子限界で撤退した)颯爽とその場を離れる、つもりだったのだが、サンドマン氏に打診されてサンジェルマン城への逗留することに。

 

 喧嘩腰な(しぐれ)エイジをあしらったり、ミヅキ・立花の素性をそれとなく示して警戒されてみたり。ふふん、国際警察機構の特A級エキスパートワンゼロワンの名は伊達ではないのだ。

 斗牙? 今のあいつは、オレが相手をしてやるレベルじゃあないな。

 

 とりま、リアルメイドさんごちそうさまでした。

 ただ、あんな美女美少女おまけに美幼女に囲まれているのにあんま羨ましい感じがしないのが不思議だが。

 

 なお、大方の予想通りアーマラが(ぐすく)琉菜(ルナ)と衝突していた。アイツ、ほんと期待を裏切らないよな。

 まあ、さすがにプロ子は出ないだろうが。フラグじゃないぞ?

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月△日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン

 

 宇宙に上がる《ナデシコC》に便乗してロンデニオンにやってきた。

 ヤマダさんとゲキガンガーのメディアを見て過ごしたが、あのひとやっぱディープすぎだわ。オレはわりと節操ないからな。

 

 ちなみに、民間人メンバーはさすがに退艦している。

 とはいえ、「次の決戦にも呼んでくれ(意訳)」とのこと。まったく、フリーダムなひとたちだ。

 なお、テンカワ夫妻(まだ籍は入れていない)だが、ソフィア・ネート博士の元で治療に専念していたりする。

 目には目を、歯には歯を、ナノマシンにはナノマシンを、といったところか。

 

 で、その道中、妙なものと共闘した。

 あれだ、Dボゥイ。まあ、ラダムがいるなら間違いないわけだが。

 等身大の《テッカマン》は厄介と言うほかないな。

 さて、彼の鬱フラグをどうやって粉々にするか、それが問題だ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月□日

 地球圏、衛星軌道上 オービット・ベース

 

 イカロス基地周辺に出現したクロスゲートと、ゾンダーの親玉「機界31原種」によるGGGベイタワー基地破壊を受け、かつての仲間たちがGGGの新たな拠点、オービット・ベースに召集された。

 αナンバーズ再集結である。

 

 とはいえ、封印戦争決戦時よりかは大分戦力が目減りしているな。

 主な不参加者は以下の通り。

 オルファンとともに銀河に旅立ったノヴィス・ノアのメンバー、同じく外宇宙に出たアイビスら《ハイペリオン》チーム、ロゼの導きでズール皇帝に支配された星々を解放しに向かった《コスモクラッシャー》隊、契約が切れた《トライダーG7》。《キング・ビアル》と《ザンボット3》も仇敵を倒したことで不参加だ。

 マオ社に戻ったリョウトらと別任務らしいゼンガー少佐とレーツェルさん、ヴィレッタ大尉。《ダンクーガノヴァ》、《ゼオライマー》、《サイバスター》、《グランゾン》、《ヴァルシオーネ》のパイロットたち。それから、どこぞでパン屋をやってるシーブックとセシリーだ。

 なお、目的を果たして解散した宇宙海賊だが、トビアとベルナデットらは参加している。どうやらあの後、宇宙の運び屋をやっていたらしい。

 《X1》と《X3》を(大破したわけでもないのに)ニコイチにした《スカルハート》を新たな愛機にしていた。

 そういえば、ケーンたちは結局軍から抜けられなかったんだな。

 あとはググれ。あるいは攻略本でも読んでくれ。

 

 さておき、まず重要なのはクロスゲートから現れた《ヱクセリオン》とタシロ提督、副長さんについてだろう。

 お二人は、バルマー戦役の雷王星宙域での決戦で自沈する《ヱクセリオン》と運命をともにしたはずであった。

 おそらくは役者を揃え、シナリオを円滑に推進するために無限力が手を加えたのだと思われる。

 で、シラカワ博士とかマサトがいないため、オレが代表してクロスゲートの成り立ちと仕組み、無限力の存在、そして銀河の終焉「アポカリュプシス」について可能な限り説明した。

 え?早くもぶっちゃけすぎだって? 回りくどいのは嫌いなんだ。

 つか、あれを設置したのはバビルたちなんだから、そのへんの事情は知ってて当然である。

 

 さて、ここで重要メンバーについて書き連ねよう。

 

 クォヴレー・ゴードン。

 ロンド・ベル隊に新たに編入さ れることになっていた火星基地所属の新人パイロット……らしい。乗機は《量産型νガンダム》。

 現在クォヴレーは記憶喪失とのことで、アラドとゼオラと即席チームを組んでいた都合上、オレとアーマラが面倒を見ることになった。

 可能な限り経歴を洗ったが、怪しいところが一つもなくて逆に怪しい。だいたい、αナンバーズに新人パイロットってないだろ。素人ならまだしもさ。

 彼が乗っていたという謎の機動兵器《ベルグバウ》だが、どことなく《アストラナガン》を思わせる機体だ。

 これはかつて、《ガリルナガン》に搭乗していたアーマラも同様の発言をしている。無理を言ってコクピットを見せてもらったのだが、あの人の残留思念は感じられなかった。

 ……あるいは、クォヴレーに?

 クォヴレーの動向には、今後も注目していきたいと思う。

 

 トウマ・カノウ。

 炎のアルバイター、成り行きでスーパーロボット《雷鳳》のパイロットとなった青年である。

 《雷鳳》の開発者であるミナキ・トオミネとの参加だ。

 ズブの素人だが、その心根には見所がある。オレなんかは、バビル譲りの念動力があってこそここまで戦ってこられたって自覚があるから純粋に尊敬できるし、今後の彼のノビには期待を寄せたいところだ。

 格闘ロボ乗りということで、さっそく銀河と北斗にまとわりつかれていたな。火星にいる一矢さんに会わせてやりたい。

 

 セレーナ・レシタール。

 連邦軍の特殊部隊「チーム・ジェル バ」の生き残り、潜入工作及び格闘が得意な女スパイだ。《アサルト(A)スカウター(S)ソルアレス》を乗機としている。

 実は、新生BF団のメンバーとしてスカウトしようとして目を付けていた人物だったり。ウチの幹部にぴったりじゃん?いろいろと。

 とりま、前回接触したときに「ヴィレッタ・バディムはあんたの復讐対象じゃないぜ」と情報を流しておいた。

 そのときは袖にされたのだが、「あんたの言うとおりだったわ、ワンゼロワン」となかなかの好感触だった。

 もう一押しかな、と機会をうかがっている次第だ。

 ちなみにウチのエクスが、彼女の連れたサポートメカ、エルマと早速意気投合していた。

 

 なお、お馴染みクスハとブリットだが、《グルンガスト》シリーズの後継機と言える鋼機人(ヒューマシン)で参戦している。

 《龍王機》《虎王機》は封印戦争でのダメージを癒すためにテスラ研で療養中だ。

 

 テスラ研といえば、甲児が留学してたんだっけ。

 オレのクロスゲートについての説明を理解していた模様だ。さすが、科学者家系と言わざるを得ない。知的分野で相方に置いてかれた豹馬はご愁傷様だな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月◎日

 地球圏、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 アステロイドベルトで機界31原種を迎え撃ったオレたちだが、連中を取り逃した。痛恨である。

 乱入してきた《オーガン》と追っ手のイバリューダー、そしてラダム獣に邪魔されたのだ。

 ゼラバイアといいラダムといいイバリューダーといい、どうしてこう忙しいときにやってくるのか。

 いや、正規軍のみなさんも防衛網構築にがんばってはいるんだ。ただ、大半が《ジェガン》のような平凡な量産機で連中と正面からやり合うのは難しい。《ドラグーン》や《量産型F91》はいい機体なんだが。

 星間連合も本格的に再侵攻をかけてきたし、いよいよもってきな臭くなってきた。

 

 

 新西暦一八九年 ×月※日

 地球圏、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の自室

 

 クロスゲートでの帝国監察軍との戦闘から一夜あけて、現在αナンバーズ艦隊はアステロイドベルトに身を潜めている。激戦の傷を癒すためだ。

 

 異変を聞きつけ、クロスゲートを目指すオレたちを阻むギシン星間連合の再侵攻部隊はかなりの規模で、手を焼かされた。

 ズールは本格的に地球の武力制圧を目論んでいるらしく、支配下に置いた文明から相当数の戦力を差し向けてきた。

 新顔は、円盤型戦艦《マザー・バーン》と円盤獣が主力のベガ艦隊と、三隻の戦闘母艦と戦闘メカベムボーグからなるザール艦隊だな。さらに、ムゲの小型戦闘機や《ゼイファー》などもいた。

 つか、ムゲとズールってよくよく考えると嫌な組み合わせだよな。

 

 さておき、星間連合を辛くも撃退したαナンバーズはクロスゲートにたどり着く。

 そこには帝国監察軍、ゼ・バルマリィ帝国によって大破に追い込まれた《SRX》の姿があった。

 

 親友の、リュウセイの危機でオレってばひさびさにブチ切れた。

 サイコドライバーの力を全開にして、《ジュデッカ》を思わせる念動兵器《ヴァイクラン》のカルケリア・パルス・ティルゲムに外部から強制干渉、行動不能に追い込んでやった。サイコドライバーなめんな。

 やりすぎて、余波を受けたアーマラの《ファルケン》やクスハ、ブリット機のTーLINKシステムまで不具合が出ちまったけどな。

 大人げなかったと今は反省している。

 

 動けない《ヴァイクラン》撤退のために現れたバルマー軍の中には、グラドスのSPT部隊が混じっていた。

 事情は知らんが、ズールの一時敗退を受けて離反でもしたんだろう。元々はバルマーの支配下だったらしいから、元サヤといったところか。

 

 つーか、ル・カインうっぜー!

 《レイズナー》に猛攻する黄金のSPT《ザカール》と死鬼隊の相手をしたのだが、あのサイズの小ささと機動力はかなり厄介だった。

 《VーMAXレッドパワー》を使ってこなかっただけマシだがな。

 

 戦闘後、《SRX》から救助されたのはリュウセイとライ少尉のみだった。

 アヤ大尉は生死不明。トロニウムエンジンとともに浚われた可能性もある。

 今は彼女の無事を祈るばかりだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月☆日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の自室

 

 マジでやりやがったよ、プラント。

 空気よめよー。これだからコーディネーターは嫌いなんだ。わかっていても失望感が強い。

 クソっ、今からアプリリウスに乗り込んで評議会ぶち壊してくるか?

 

 本題に入る。

 再び攻め寄せるズール星間連合に対抗して、地球連邦は「地球絶対防衛線」と称して防衛線を構築、αナンバーズもそこに参加して迎え撃った。

 が、そこに地球連邦に対して宣戦布告したプラント軍、ザフトが襲いかかってきたのである。

 さっき知ったが、その理由は「ユニウス7に対する核攻撃の報復」と「地球連邦の不当な扱いへの抗議」。核攻撃を防げなかったのはこちらの完全な落ち度だが、後者の言い分は支離滅裂だ。やはり、ゲシュタルトが暗躍しているようだ。そうに違いない。

 ちなみに時代遅れというか、時代錯誤なバッテリー駆動、実弾メインのザフトのモビルスーツだが、思ったよりは手強かった。つーか、核融合枦機と互角ってのはいくらなんでも理不尽じゃね?

 

 ともかく、プラントの狙い澄ましたかのような横やりにより絶対防衛線は脆くも崩壊、星間連合とザフトの地球降下を許してしまった。

 さらには、ラダム獣の群の本格的な地球降下まで招いてしまった。おそらく地球各地にラダム樹が発生しているだろうな。

 

 ここでは本格的にムゲ――、ムゲ・ゾルバドス帝国の戦力が姿を現した。

 どうやらズールとムゲは対等の同盟者のようで、デスガイヤーがベガ艦隊のガンダル司令やザール艦隊の三将軍を顎で使っていた。奴らの名称が「星間連合」なのはこのためだろう。

 つーか、敵の中に忍者くさいのがちらほらいたんだが。

 あれか、トラウマ忍者くるか?ランカスレイヤー=サンくるのかー? 

 いや、ランカいないけど。まだ生まれてもないだろ、多分。

 

 アカシックレコードにアクセスしてカンニングしたいところなんだが、このところプロテクトが堅くて全く情報を読みとれないんだよな。

 

 とりあえず、星間連合を地球から叩き出すのはもちろんだが、プラントの連中には特に目にもの見せてやるつもりである。

 まずはアズラエルに連絡を取ってGATシリーズの仕込みから始めるか。オレを本気にさせたことを後悔しろよ、変態仮面。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月*日

 地球、某所 バベルの塔の自室

 

 絶対防衛線が崩壊してから、αナンバーズは地球各地に散って星間連合や三度姿を現した地底勢力の残党、そしてザフトと激しい攻防を繰り広げている。

 オレとアーマラ、イルイは一端αナンバーズを離れて、本拠地に帰還した。

 ウチの軍師に、今後のことを相談するためだ。

 

 で、その孔明からの情報だが、やはりラダム樹は地球各地で発生してしまっているようだ。

 国際警察機構を通じて宇宙軍のミスマル提督に詳細を伝えてあったが、防げなかった模様。あるいは対応しきれなかったか。

 

 ここで、この宇宙においてのラダムについて記すことにしよう。

 ラダム、本能のみを高度に発達させた知的生命体、及びその種族の名称。

 虫状の生物で、頭脳(脳髄)のみを高度に発達させたため、肉体そのものは非常に脆弱であり、僅かな環境変化や外因性ショックに対しても抵抗力を持たない。

 その為、専ら他の知的生命体の体内に寄生し、その知的生命体の「脳」をラダムの強い「本能」で支配する事によって生態系の上位を維持してきた。

 ここまでは“原作”と同じだが、続きがある。

 ラダムの進化は宇宙の滅びを逃れるためのもの、らしい。事実、ラダムは知性体とは認められず、宇宙怪獣にも襲われないようだ。

 とはいえ銀河自体がリセットされれば元も子もないし、連中はもともとああいうエゴの権化のような生き物だったようだが。

 なお、情報源はバベルの塔に蓄積されたデータベースからである。

 

 あと、傭兵組織ミスリルの“トイボックス”とアマルガムに動きが見られたと孔明から報告があった。

 アマルガム。所詮、地球人類の組織だとあまり重要視していなかったが、この状況下でちょろちょろされるのは目障りだ。

 

 それからいくつか、未確認情報だが、気になる話がある。

 クロスゲート出現に前後して《ライディーン》の拠点、ムトロポリスに現れたという“白い《ライディーン》”。オレの記憶が確かなら、それはおそらく《ゼフォン》もとい《ラーゼフォン》だ。 なぜあれがこの宇宙に現れたのか、早急な調査が必要である。

 

 また、宇宙科学研究所の宇門大介の動向にも注目したい。彼の正体は十中八九、デュークフリードだろう。

 因果の“因”は揃っているのだから、彼の出番も近いということか。

 

 どちらにも、接触する必要があるな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月@日

 地球、極東地区日本某所

 

 現在中学生として生活しているマサトと会うため、オレたちは日本のとある町を訪れた。ちなみにマサト、美久と同棲しているらしい。羨ましい。

 《ゼオライマー》は簡単な封印を施され、ラストガーディアンに眠っている。

その戦力を当てにしているというわけだ。

 

 で、マサトの引き入れに成功した(本人も元々そのつもりだった様子だ)のはいいのだが、厄介な事態になった。

 白い鬼――、“マキナ”《ラインバレル》の登場である。

 マサトのクラスメートとして「早瀬浩一」の存在と、JUDAコーポレーションの存在は確認していたので驚きは少ないが。しかし、この“ラインバレル”の原典はどっちだ?

 

 ともかく、早瀬浩一の件はプリベンターというか、カトルとディオ、それからマサトたちに任せてオレたちは引き続き、地球各地を回ることにする。

 αナンバーズのみんなには悪いが、表面化した敵対勢力の相手は丸投げしてしまおう。今は雌伏の時だ。

 

 追記。

 現在バベルの塔に滞在中の協力者、“博士”からの伝言をマサトに伝えた。

 マサトがずいぶん驚いていたのが印象的だったな。さすがの天才様も、同じ天才の行動までは予測できないようだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月♬日

 地球、極東地区日本 ムトロポリス

 

 予定通り、ムトロポリスを訪れた。

 星間連合の部隊をちょちょいと蹴散らし、目的の白い《ライディーン》、《ラーゼフォン》と接触した。やはりと言うほかない。

 

 さておき、洸とはイージス事件以来の再会である。

 お互いの無事と再会を喜びつつ《ラーゼフォン》について訪ねたわけだが、どうもややこしい事態になっているようで。

 

 洸の案内で引き合わされたのは《ラーゼフォン》の奏者、神名綾人、紫東遙、如月久遠の三名。《ラーゼフォン》の物語における最重要人物たちだ。

 彼らから事情を聞き、オレが知りうる限りの情報を伝えた。

 

 それらを統合すると、彼らは「MX」に近い世界から来たようであり(洸は元より、他作品の情報を持っていた)、その世界は《ラーゼフォン》による多次元世界の調律がなされたらしい。

 調律により神となった綾人曰く、「とても大きな力が宇宙を覆って、全て無くなってしまったんだ」とのこと。

 要するに、その結末を認めない無限力によりアポカリュプシスが発動して、宇宙がリセットされたのだろう。

 

 その後、おそらはく無限力によりこの地球に招かれた彼らは洸に発見され、ムトロポリスに保護されていたそうだ。

 なお、発見した際には綾人が遙さんに熱烈なキスをされていたと洸が苦笑混じりに教えてくれた。

 諸々の経緯を鑑みれば頷けるのだが、イルイはともかくアーマラまで顔を真っ赤にしていたのはなぜだ。妙にウブなんだな、ウチの相方さん。

 

 彼らにこの地球の現状を説明すると、協力を快諾してくれた。元の世界には帰れないと薄々わかっているのだろう。そも、彼らの宇宙はすでに終わってしまっているのだから。

 当面は、洸と一緒にムトロポリスを守っていてもらおう。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月◇日

 地球、極東地区日本 《ナデシコC》

 

 現在、《ナデシコC》に乗って各地の混乱を鎮圧中である。

 今日は外宇宙開発機構から発展した民間の対ラダム組織、スペースナイツに保護されたDボゥイこと《テッカマン・ブレード》と共闘した。

 もちろん相手はラダム獣。まだ《ペ ガス》は作られてなかった。展開的には、序盤も序盤だな。

 意外?な繋がりとしては、CCCの母体が外宇宙開発機構だったことか。

 

 Dボゥイとの面会については割愛する。オレ個人としては今更聞き取るべきこともなかったしな。

 アーマラがかたくなな態度に憤慨していたが、さておき。最初から知ってるオレはともかく、イルイも彼が記憶喪失であることに感づいたみたいだが、黙っているように言い含めておいた。武士の情けだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月♪日

 地球、極東地区日本 《ナデシコC》

 

 今日も今日とて、治安維持活動に東奔西走である。

 

 国際警察機構経由で懐かしい人物の動向が届いた。

 カサレリアに赴いた大作少年がウッソたち旧リガ・ミリティアメンバーと共闘したらしい。

 さすがにマーベットさんは子育てがあって参戦できないそうだが、ウッソたちはそのまま大作たちに協力して。

 シンジたちネルフのチルドレンたちはイカロス基地にいるらしいし、バルマー戦役を駆け抜けたSDF艦隊のメンツが勢揃いしそうな予感だ。

 そのときが楽しみだな。

 

 ほかには、アフリカ戦線、エル・アラメインの情報が舞い込んだ。

 月下の狂犬は砂漠の虎の前に破れたらしい。某モビルタンクならともかく、今時戦車部隊というのもどうかと思うが。

 凄腕の傭兵、サーペントテールの動向も聞こえてくるし、アストレイ勢の参入もあり得るか。

 

 

 

 新西暦一八九年 ×月#日

 地球、極東地区日本 宇宙科学研究所

 

 クスハ、ブリット、甲児たちマジンガーチームと合流して星間連合、ベガ艦隊とやりあった。

 ここでは宇宙の王者《グレンダイザー》の登場が登場した。

 

 ちゃちゃっと敵をやっつけて、宇門大介ことデュークフリードとの初接触に挑む。詳しい内容は割愛するが、大変有意義な会合だった。

 

 その情報をまとめて記する。

 彼の故郷、フリード星を結果的に滅ぼしたのはギシン星間連合だ。

 様々な星に攻め入り、勢力を伸ばしていたベガ星は原作通りフリード星を我がものにしようとして侵攻していたが、当時同盟関係にあった星間連合に裏切られて壊滅。星間連合はそのままフリード星をも支配下に置いた、とのこと。

 ベガ大王はすでに故人らしいが、ズールに関わったのが運の尽きか。

 

 デュークフリードからは、宇宙の情勢について深く聞くことが出来た。

 彼の知る限り、ギシン星間連合はバルマーことゼ・バルマリィ帝国、ゾヴォークこと恒星間国家共和連合、ガルラ大帝国、他の銀河系の軍団(おそらくバッフクラン)などの勢力との星間戦争を長年に渡って続けているらしい。

 また、星間連合により滅亡した惑星国家の名前にはエリオス星、エリオス王国の名もある。元祖ライオンロボ《ダルタニアス》も出番を待っているということだな。

 

 さすがフリード星の王子というだけあって、そのあたりは教養の範囲だそうだ。

 

 ちなみに、封印戦争時には戦いを望まないデュークフリードは事態を静観していたらしいが、見覚えのある円盤獣の姿を見てついに戦うことを決意したのだとか。

 

 なお、この戦闘では神ファミリーが《ザンボット3》、《キング・ビアル》で参戦した。彼らもまた第二の故郷、地球を守るために立ち上がったようだ。

 神ファミリーの神北兵左衛門老はデュークフリードと異星人繋がりで知り合いだった模様で、その縁もあって今回の参戦に至ったのだろう。

 

 サンドマンも含め、彼ら様々な星の住人たちがこの地球に集ったのはナシムの気まぐれによるものだが、こうして星の垣根を越えて力を合わせる、それは無限力の望んだことだ。

 オレに託されたのは、そんな人々の志をひとつに束ねること。

 ヒーローってのはそういうもんだ。

 

 

   †  †  †

 

 

 どことも知れない無人島。

 曇天から雨粒がしとしとと降り始めている。

 

 地球各地の混乱、修学旅行先から急ぎ戻る最中、陣代高校の生徒と教職員はハイジャック拉致事件に巻き込まれた。

 

 その中にいた“ミスリル”の兵士、相良宗介は護衛対象者である千鳥かなめを連れてテロリストの手から逃れることに成功した。

 だがしかし、二人は現在追いつめられていた。

 

「そ、宗介っ」

「くっ!」

 

 《Rk-92 サベージ》。アームスレイブと呼ばれる機動兵器が目の前に立ちふさがっている。

 巨大なアサルト・ライフルの銃口を向けられ、身動きを制される二人。このままでは早晩、再び捕らわれるのは目に見えていた。

 絶体絶命の危機、その時だ。

 

 紫電を伴った一筋の光が《サベージ》の腕をライフルごともぎ取る。

 宗介は、咄嗟にかなめを連れて物陰に飛び込んだ。

 

「セイヤーーーッッ!!」

 

 さらに、上空から翠緑の閃光を伴った人影が乱入した。

 両足による跳び蹴りが直撃した《サベージ》のカエルに似た頭部がひしゃげる。

 ひらりと宙返りした人影は、自由落下しながらどこからか両手に光る刀剣を取り出して《サベージ》を瞬く間に解体した。

 

 人影が軽やかに二人の前に降り立つ。

 いつの間に現れたのだろう、黒い大きな豹が傍らに侍っていた。

 

「何者だ!」

 

 かなめを背中に庇いながら、宗介は乱入者――銀髪の少年に拳銃を向けて誰何する。

 その額には、じわりと汗が浮き出していた。

 裏社会に生きるものならばその名を知らぬものはいない、かつて権勢を振るったBF団の十傑集。

 宗介自身は直接遭遇した経験はなかったが、彼ら十傑集は人智を超えた力で機動兵器を生身で粉砕すると聴く。

 得体の知れない相手に、プロフェッショナルの兵士は静かに警戒していた。

 

 緊迫した雰囲気を破ったのは、ある意味空気を読まない無敵の現役女子高生だった。

 

「えっ、子供っ?」

「……子どもって、失礼だな。これでもオレは一七歳だぜ」

 

 銀髪の少年――イングは、かなめの思わず漏らした感想に憮然とする。

 そんな子供じみた態度に緊迫した空気が不思議と弛緩した。

 

「あんたがミスリルのウルズ7だな。オレは国際警察機構のワンゼロワン、故あって助太刀するぜ」

「!」

「ウルズ7って、宗介のことよね?」

「肯定だ。……ワンゼロワン、あなたが自分たちの味方と判断して間違いないか」

「おう。あんたんとこの上司から作戦は聞いてる。“エンジェル”はウチでもマークしててね、ドーリアン外務次官の身の安全もかかっているなら介入せざるを得ないさ」

 

 二人に事情を説明するイング。

 宗介の態度が中途半端に改まっているのはあくまで正体不明の相手であり、軍の階級上、上官に相当するイングに畏まっているためである。

 

「こちらワンゼロワン、ウルズ7とエンジェルの保護に成功。以降は作戦通り、敵テロリストの排除を――」

「あっ!」

 

 身につけた腕時計型の通信端末で仲間に連絡する。

 かなめは取り乱した様子でイングに詰め寄る。

 

「ミナト先生やクラスのみんなが人質になってるの! 早く助けなきゃ……!」

「ああ、それなら心配いらない。全員解放済みで安全なところに避難させてある」

 

 予想外、ノータイムのレスポンスにかなめかが「へ?」と抜けた声を上げた。

 と、そのとき、彼方から灰色の空を切り裂いて飛来した赤黒い光線が、遠目に見える《サベージ》を撃ち抜いた。

 続いてテスラ・ドライブ特有の光跡を残し、紅い隼が戦場に進入する。

 

「お、来たかアーマラ」

 

 イングが空を見上げて笑みを浮かべる。

 《ビルトファルケン・タイプL》が猛スピードで《サベージ》の背後を取り、《バスタックス・ガン》を振りかぶる。哀れ、《サベージ》は原型を留めないほど粉々に粉砕された。

 さらに遙か天空から飛来するのは白熱化した翼を広げる青い天使、《ウィングガンダムゼロ》。代名詞の《ツインバスターライフル》を抜くまでもないと、《ビームサーベル》のみで《サベージ》たちを斬り捨てていく。

 

「ま、ミスリルからのプレゼントが届く前に、奴らは全滅しちまうかもしれねーけどな」

「プリベンターの告死天使に、国際警察機構のレディ・マグナム……陸戦歩兵(サベージ)では航空機の相手にならないか……」

「そーゆーこと」

 

 宗介の呟きを、イングは軽妙な口調で肯定するのだった。

 

 

 イングの先導で、指定されたランデブーポイントにたどり着いた一行。

 《ファルケン》と《ウィングゼロ》は作戦を把握しているのだろう、指定ポイントから離れるように敵アームスレイブ部隊をさりげなく誘導している。

 と、《コダール》とは明らかに違う正体不明のアームスレイブが出現し、両機を相手に圧倒し始めた。

 

「敵のリーダー格……出来るな。しゃーない、オレもいっちょ暴れるか」

 

 イングはそう不敵に嘯いて、腕時計型の通信端末を眼前に構えた。

 かなめが疑問符を浮かべるが、事情を多少なりとも知る宗介が僅かに顔をひきつらせた。

 そしてイングは、そんな二人を尻目に高らかに宣言する。

 

「コール・ヒュッケバイン!」

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ×月¥日

 地球、極東地区日本 《ナデシコC》

 

 リリーナ、ミナトさんを含めた陣代高校の生徒と教職員が、テロ組織にハイジャック拉致された。

 下手人はアマルガムだ。

 とはいえ、連中は大半が戦死するか拿捕されて鎮圧済み。保護された人質を連れ、《ナデシコC》は日本に向かっている。

 

 彼らは地球の混乱を受け、修学旅行先から帰国する最中だったらしい。

 偶然、旅客機に同乗していたリリーナを隠れ蓑に本命の千鳥かなめから目をそらせたかったのだろうが、無駄なことだな。馬鹿め、ネタは割れているんだぞ、と。

 

 生徒として潜入していたミスリルの兵士、ウルズ7こと相良宗介、リリーナの危機に宇宙から強襲してきたヒイロと協力し、テロリストは殲滅された。ミスリルの新型AS《ARXー7 アーバレスト》はなかなかイケメンなロボだったな。あとでプラモ作ろっと。

 なお、主犯の戦闘狂の戦争屋と《プラン1056 コダール》は《エグゼクス》で始末した。因縁のある相良軍曹には悪いが、ああいう外道は見つけたら即抹殺するのがセオリーだ。

 ラムダ・ドライバ?念動力を機械的に再現してるだけだろ。指鉄砲やり返してやったよ。

 ただ懸念なのは、戦争屋の死体を確認できていないことか。まあ、出てきたら出てきたで返り討ちにしてやるだけだがな。

 

 そろそろ目障りなので、近い内にアマルガムを叩き潰そうと思う。上役?のゼーレと違って、社会的にもシナリオ的にも影響は少ないはずだ。

 孔明がBF団を使って集めていた連中に名簿を国際警察機構に流して社会的に吊し上げ、かつオレらが秘密裏に直接攻撃する両面作戦。原作の流れを鑑みればまさしく“因果応報”だろう。

 

 まだまだ仕込みは続く。

 本格的な戦いの始まりは三ヶ月後、GATシリーズのロールアウトを待つことになるだろう。

 さてさて、次はどこに行こうか。アーマラたちと相談でもするかな。

 



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αIIIー2「銀河大戦」

 

 

 新西暦一八九年 ◎月○日

 地球圏、衛星軌道上ヘリオポリス周辺宙域 《リトル・グレイ》艦内の一室

 

 絶対防衛線崩壊から三ヶ月。

 αナンバーズやその他のスーパーロボットたちの活躍で、「同時多発敵勢力出現事件」を終息させることに成功した。

 敵勢力の凡そ三分の二は撤退、地球圏の混乱は一応の終わりを見せたと言える。

 

 その間にも《グラヴィオン》、《ラインバレル》、《アーバレスト》、《テッカマン・ブレード》と《オーガン》がらみの一連の事件がいろいろあったが、割愛する。

 とりあえず、ゼラバイアとの戦いで《アーキ・オーガン》が《グラヴィオン》と《ブレード》を守るためにその身を散らした、とだけ記しておく。

 あれは、オレとしても断腸の思いだった。

 

 あと、元祖ライオンロボ《ダルタニアス》関連の登場イベントもあったな。

 墜落した宇宙船、アダルスを巡り、エリオス星のロボ、《アトラウス》、《ガンパー》と協力して星間連合ザール艦隊と戦った。

 ただ、彼らとの協力は取り付けられなかった。エリオス星の旧臣、アール博士の態度はとりつく島もないほど強硬だったし、こっちが連邦軍だからかもしれないな。

 ま、どうせすぐに合流してくるだろ。

 

 さておき、現在オレたち「サイコドライバーズ」(αナンバーズ内でそう呼ばれている)は「SEED」の始まりの地、ヘリオポリスにいる。

 足はトビアらの「ブラックロー運送」の宇宙船、《リトル・グレイ》だ。

 

 例の仕掛けで変態仮面に一泡吹かせてやるぜ!と、意気込んではみたものの、すでにヘリオポリスは崩壊した後だった。

 ちくしょう。途中で星間連合の艦隊にちょっかいかけたのが間違いだったか。

 

 しかし怪我の功名か、ジャンク屋ロウ・ギュールと愉快な仲間たちに遭遇することには成功した。

 彼らと、傭兵サーペントテールのいざこざに介入しつつ、間を取り持った。サーペントテールの叢雲劾は知らない相手じゃないしな。

 オーブの手のものであろう《メビウス》部隊にはかわいそうなことをしたが、とりあえず命は取らないでおいた。アストレイのノリで。

 なお、ジャンク屋組合とかいういかがわしい存在はありません。一応、連邦政府による認可制度があるにはあるけどな。ジュドー、ディオが免許を持ってたりする。

 

 で、推進器の故障した救命ポットを救助したのだが。

 出た、フレイ・アルスター嬢。

 オレが拾うのかよ!と叫ばなかった自分を褒めたい。ちなみに彼女、一人きりだった。何かの拍子でイレギュラーな事態が起きたらしい。

 何の因果か《アークエンジェル》に保護されなかった彼女だが、このままというのもかわいそうだし、決まりが悪い。《アークエンジェル》との合流のついでに引き渡してやろうと思う。

 せっかくだ、彼女の親父さんを助けるのに例の仕掛けを使うとしよう。プラントのお姫さんとの会合も楽しみだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月×日

 地球圏、衛星軌道上 デブリベルト 《アークエンジェル》艦内の一室

 

 《アークエンジェル》と無事合流し、同行していたクォヴレー、アラド、ゼオラとも再会した。クォヴレーは、ようやく《ベルグバウ》を使う気になったらしい。

 プラントの歌姫、ラクス・クラインを保護した直後だったようで、今回はタイミングを逃さずにすんだ。

 

 ここで《アークエンジェル》のメンバーについて記す。

 《アークエンジェル》の臨時艦長、マリュー・ラミアス大尉。いいおっぱいの持ち主である。まるで母性の固まりのような女性だ。

 同じく臨時副官、ナタル・バジルール少尉。こちらもいいものをお持ちだ。ツンツンキリリとした感じがすばらしい。

 と、デレデレしてたらアーマラに弁慶蹴られた。痛い。

 

 続いて、エンデュミオンの鷹ことムウ・ラ・フラガ大尉。本人に自覚はないがニュータイプの亜種、言うなればカテゴリーFである。

 乗機は《ZII》。アナハイムに死蔵されていたのを送りつけておいた。変態仮面ザマァ。

 

 え?《メビウス・ゼロ》? 話はビーム兵器を搭載してからだ。《メビウス》のカタログスペック自体は悪くはないんだが、如何せん武装が貧弱すぎる。メガ粒子砲くらい積めよ、火力が《コアブースター》以下だぞ。

 それに、ゲームじゃないんだから、乗り換えくらいそれなりに自由に出来るさ。フラガ大尉は仮にも()()の軍人だぜ?

 

 キラ・ヤマト。GAT-105《ストライクガンダム》に偶然乗ることになったヘリオポリスの少年。コーディネーターだ。

 《ストライク》の未完成のOSを土壇場でスパゲッティ化して、ザフトの《ジン》を撃退、才能の片鱗を示して見せた。

が、アーマラ曰く「念で機体を組み上げた誰かさんよりは普通だな」とのこと。うるせぇやい。

 

 その辺、ぶっちゃけオレも含めてαナンバーズには珍しくもない経緯だが、本人がかなり嫌戦的なのが大きな違いかな。

 その理由は、プラントのコーディネーターを同族と感じているからだろう。密かに、ナチュラルならいいのかよと思わなくもない。直接は言わないが。

 キラにはとりあえず、いつぞやのシンジのように「戦いたくないなら戦わないでいい」と伝えておいた。

 

 キラの友人、ヘリオポリスの学生たち。良くも悪くも、民間人と言ったところか。キラを慮って軍に志願するなんて典型だな。

 バルマー戦役、イージス事件、封印戦争と立て続けに大戦が起こったというのにいささか平和ボケし過ぎな面を感じる。いや、これは最前線にいたオレから見た認識の差かも知れないが。

 

 

 さておき、お待ちかねのラクスとの接触だ。

 口さかないファンからは、悪意を込めてラクシズ呼ばわりされる未来の女傑。猫をかぶっているのか覚醒前なのかは知らないが、なかなかに底の読めない女の子だったな。

 

 彼女との討論は有意義だった。

 議題は主に、この連邦プラント間の戦争について。

 まず彼女は「血のバレンタイン」、ユニウス7の件を持ち出し、痛ましげに眉を伏せた。

 そこは素直にこちらの力不足を謝罪し、国際法廷の場で罪を問うことを約束した。実行犯と関係者は、すでに国際警察機構の手で捕らわれているのだし。

 ゼーレ?オレとウチの最高責任者が奴らの好きにさせるわけがない。

 

 一方、オレはプラントの孤立主義について問う。

 地球人類が銀河に漕ぎ出した今この時代に、プラントのやっていることは一年戦争時のジオンと同じ、いやその劣化コピーでしかないのではないか。遺伝子の優劣などナンセンスだ。

 そう問うとラクスは「わたくしたちは、経験不足なのです。ほかの星の方々との交流の経験が」と言い、「もしかしたら、恐れているだけなのかも知れません。自分たちだけが世界の歩みに取り残されていることを」と持論を述べていた。

 

 また、戦線の無意味な伸張についてラクスは危惧しているという。素人の彼女から見てもザフトの戦略は拙く、最終的な目標が皆無に感じられるのだろう。

 さらに開戦を前後してプラントの空気がどこかおかしくなったように感じていたらしい。これはオレ自身、プラントの主要なコロニーに潜入した際にも感じたことだ。

 本人は、自分は政治的なものを学んでいない小娘であると謙遜していたがなかなかどうしてマトモなご意見である。

 

 ちなみに、当然だが原典におけるプラントの所業については論じていない。

 国連首脳の爆破テロ(オレはコーディネーターの仕業だと見ている)や、ニュートロンジャマー投下による「エイプリールフール・クライシス」も起こしていないのだ。

 この世界においてはズールにいいように操られているだけだろうし、そういう意味では同情の余地があるかも知れないな。

 

 ラクスには、連邦、プラント間の戦争を早期に終結させるために力を貸してほしいと打診しておいた。

 地球安全評議会の場で和平を訴えるとか、できることはあるはず。効果があるかないかじゃなく、行動に移すことが大切なんだ。

 

 最後に、プラントに潜入した際に購入した「静かな夜に」のメディアディスクにサインしてもらった。アーマラには「お前、プラントが嫌いなんじゃなかったのか?」と驚かれたが、知ったことか。

 オレが嫌いなのはプラント、ひいてはザフトの排他的で時代錯誤な在り方であって、コーディネーターそのものに隔意があるわけじゃないんだ。

 むしろラクスの歌は、“浩一”だったころから大好きだったんだぜ。

 

 逆にラクスからはリリーナとの面会を強請られた。

 どうやらクィーン・リリーナのファンらしく、ぜひ一度お話ししてみたいとのこと。せっかくだ、彼女が所属する「平和解放機構」に繋ぎを取ってやろうじゃないか。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月×日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン 《アークエンジェル》艦内の一室

 

 結論からいうと、仕込みは大成功だった。

 フレイの親父さんは無事だし、ロンデニオンに強襲してきたクルーゼ隊を撃退して、さらには《イージスガンダム》とアスラン・ザラを捕らえることに成功した。変態仮面ザマァ。

 外宇宙から帰還したイサムさんとガルドさんと協力したことも大きいな。

 

 その方法だが、GATシリーズ五機の制御系に隠していたTーLINKシステムを外部から起動させ、あたかもマシントラブルを装い行動不能にして捕らえたのである。なお、《イージス》は未来を先取りして《ロシュ・ダガー》の二刀流で切り刻んでおいた。

 まさに「よくわからないものを使うから」、だな。

 

 要するに、《ストライク》を含めたヘリオポリス製GATシリーズはブービー・トラップだったというわけだ。未完成のOSやバッテリー駆動であることも含めてな。

 モビルスーツが世に登場してから約9年、今更OSが未完成だなんてそんな馬鹿げた話があるか。この地球圏に、どれだけの人型機動兵器が溢れていると思う。

 ちなみに、TーLINKシステムを取り外してしまうと物理的に動かせないように予め設計され、ブラックボックス化している。プラントでは解析するも難しいだろう。

 今回はアスランを捕らえるのが目的だったので、ほかの機体は起動させなかった。まあ、もう一度使う気はあんまりないけど。

 

 さておき、アスラン・ザラ君である。

 彼には自発的にαナンバーズに協力してほしいので、キラと自習室に閉じこめておいた。

 ラミアス大尉やバジルール少尉には大反対されたが、仲裁役にラクスをつけたし、二人は親友同士だから心配ないだろう。

 キラが二人に絆されて一緒に脱走する可能性も考えないでもないが、男子二人はともかくラクスはそこまで馬鹿ではない。プラントが連邦に勝てないのは明白である。ならば、オレたちに協力して平和的な早期解決を目指した方が賢明なのではないだろうか。

 

 追記。

 休憩に出てきたラクスから聞いたのだが、キラとアスランは面と向かって互いの主張をぶつけ合い、無事和解できたようだ。ただ、一部口下手なキラの代わりに彼女がアスランをやりこめたらしいが。

 どうもラクス、クルーゼ隊がヘリオポリスを崩壊させたことを憤慨していたご様子。スペースノイドとしては至って真っ当な考えだな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月#日

 地球圏、衛星軌道上 《アークエンジェル》艦内の一室

 

 アークエンジェルはオービットベースに向けて移動中。

 

 飯を食いに食堂に行ったら、キラとヘリオポリスの愉快な仲間たち+アラド、ゼオラ、クォヴレーがラクスとアスランを交えて食事していたのでお邪魔した。

 監視付きだが、ラクスとアスランには多少の自由を与えている。バジルール少尉はいい顔をしなかったが、権力にものを言わせて黙らせた。

 下世話な言い方だが、情に訴える作戦だ。《アークエンジェル》に馴染んだら戦い難くなるだろ?

 

 なお、オレたちよりも後から来たフレイがコーディネーターとの同席を嫌がるという一幕もあった。

 場を和ませようとして「オレ、人造人間だけど?」と持ちネタを披露したら、逆に場が凍り付いてしまいアーマラに蹴られた。

 まあ、うやむやにできたからいいけど。

 

 で、意外だったのがアーマラだ。

 何やらラクスと仲よさげに会話しているじゃありませんか。あの気むずかしいことで知られる相方さんが、である。

 

 同じピンク頭だから仲良くなったわけではないだろうが、なんとなく馬が合うらしい。それともあれか、日曜八時半的にはパートナーだからか。

 まあ、アーマラに仲のいい友人ができたのはいいことだな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月☆日

 地球圏、衛星軌道上 デブリ・ベルト 《アークエンジェル》艦内の一室

 

 あのトゲトゲ女めっ、油断した。

 《アークエンジェル》に単身潜入してきたセレーナに、アスランとラクスを奪い返された。痛恨の極みである。

 こっちがサイコドライバーだからって、遠慮なしにスタン・ビュートを振るってきやがって。電撃が利かなくても、痛いものは痛いんだぞ。

 あれで案外義理堅い女だから、ザフトに対して筋を通したのかも知れない。

 苛立ち紛れに、逃げる《ASソルアレス》を《TーLINKレボリューター》のビームで蜂の巣にしようとしたらエクスに止められた。反省。

 

 まあ、考えてみればアスランとラクスの思想に一石を投じることにはなったし、これはこれでありか。二人には是非、プラントでがんばってほしいと思う。

 少なくともアスランはヘリオポリス組と知り合いになったし、《イージス》もすでにオシャカだからキラと死闘を演じることはないはずだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月◎日

 地球圏、衛星軌道上 オービットベース近海 《アークエンジェル》艦内の一室

 

 オービットベースを目前にして謎の機動兵器部隊、めんどくせぇから言うが、帝国監察軍のゴラー・ゴレム隊とやり合った。

 《サイバスター》似の機体、キャリコ・マクレディの《ヴァルク・バアル》に追いつめられたクォヴレーと《ベルグバウ》が更なる力、《アキシオンバスター》を解放した。

 アキシオン、やはり《アストラナガン》の系譜か。

 あの機体を見ていると、あの人の影と同時にどこか嫌な予感を感じる。気のせいだと思いたいが。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月*日

 地球圏、衛星軌道上 オービットベースの一室

 

 αナンバーズ、再集結である。

 地上で戦っていたメンバーが合流し、さらには新たな仲間を迎えたオレたちはここから本格的に反抗を開始することになるだろう。

 《アークエンジェル》に収容されていた避難民は無事地球に送り届けられたが、キラたちヘリオポリス組は退艦しなかった。意外なのはフレイだが、親父さんが「αナンバーズにいるのが一番安全だ」と考えたらしい。

 

 ここで仲間たちの近況について書き留めることにする。

 北米を中心に星間連合と戦っていたクスハ、ブリット。

 ようやく《龍虎王》が怪我から回復して復帰したのはいいのだが、四霊の超機人《応龍皇》の操者、孫光龍にちょっかいをかけられたようだ。奴はナシムに仕えていたはずだが、何のつもりだ?

 妙なことを企んでいるなら、初代に代わって痛めつけてやろうと思う。

 

 新しい仲間は《グレンダイザー》のデュークフリード、《ライディーン》と《ラーゼフォン》の関係者、空間転移で地球各地を遊撃していた《ゼオライマー》、《キング・ビアル》の神ファミリーだ。

 懐かしい顔としては、獣戦機隊と《ダンクーガ》がやってきた。封印戦争時は三輪に睨まれて、合流できなかったらしいな。

 

 で、新顔《ダンガイオー》チームと同行者のターサン博士。

 「宇宙海賊バンカー」の依頼(脅されたらしい)で、ターサン博士により建造された四人乗りのスーパーロボットだ。

 チームのメンバー、ミア・アリスの故郷であることから地球にやってきて、 クスハたちと協力してバンカーの追っ手を撃退し、保護されたそうだ。

 なお、ミアたち女性陣のパイロットスーツはかなりエロい。眼福である。

 

 

 一方、トウマはGGG機動部隊と行動を共にしていた。

 白い戦艦ロボ《キングジェイダー》と共闘したり、暴走した《雷鳳》をゼンガー少佐らが止めたり、宇宙に上がってバルマーの武人、バラン・ドバンとやらに伸されたりといろいろあった模様。

 聞き捨てならないのは、通りすがりの拳法家に度々助けられたとか。主に戦った相手はギャンドラーらしいし、ロム兄さんかよ。

 あと、マキナを使うテロ組織「加藤機関」に五飛の姿があったそうだ。ザフトの方にいなかったと思ったら、あいつ何してんだ。

 ちなみに加藤機関だが、目的が大方わかっているのであえて放置していた。別に忘れてたわけじゃない。本当。

 

 加入した新メンバーは、《ゴッドグラヴィオン》とグランナイツ、Dボゥイらスペースナイツ、再結成されたチームD。《ラインバレル》を確保したJUDAのファクターたちは、《ペインキラー》が重装甲の支援仕様だからアニメ版だな。

 あと、大作とウッソらが予想通り合流した。同僚の大作はともかく、ウッソたちとは再会を喜んだ。

 

 こちらの新顔は《ゴライオン》。アルテア星の守護神であり、文字通り五体のライオンが合体したスーパーロボットだ。

 パイロットの黄金(こがね)(あきら)たち五人は皆地球人であり、外宇宙探査艦隊の一員だったが、ガルラ大帝国の攻撃を受けて遭難。アルテア星に漂着した後、《ゴライオン》に選ばれた。

 この《ゴライオン》、シュールな見た目に反して単独での空間転移をしてのけ、またアポカリュプシスから逃れるための言わば箱船でもある。その能力で窮地のアルテア星を脱出し、地球までやってきたようだ。

 同行者にはアルテア星の数少ない生き残り、ファーラ姫がいる。さすがのターサン博士も隠れ住んでいた彼女のことは知らなかった模様だ。

 もちろん、お姫様ということでお近づきになりましたが何か?

 

 同じライオンロボ《ガオガイガー》との関係は深く、「ギャレオンが強く反応してる」とは凱さんの言葉だ。ぶっちゃけ、同じ獅子座文明の遺産だったりする。

 さらに、パイロットの面々とその凱さんは、母校、富士宇宙学校の先輩後輩の間柄とのこと。その点でも、運命的なものを感じる。

 

 なお、イルイというかナシムは遙か昔にこの《ゴライオン》と戦ったことがあるらしく、イルイ曰く「おいたしてたからこらしめたの」。なるほど、《ガンエデン》は確かに“宇宙の女神”だ。

 

 

 さて、αナンバーズの現在の陣容は、《ラー・カイラム》、《キング・ビアル》、《アークエンジェル》、《ナデシコC》の四艦だ。若干、艦内が手狭なのは秘密だ。

 なお、《リトル・グレイ》はさすがに戦闘には適さないのでオービットベースで留守番である。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月▽日

 地球圏、衛星軌道上 オービットベースの一室

 

 今日はなかなかハードな一日だった。

 いつの間にか潜入していたセレーナと協力して、基地内に強襲してきたゴラー・ゴレム隊を撃退したのも束の間、外部での戦いでは、バルマーの連中のみならずゾンダーまでもが現れる。

 ゴラー・ゴレム隊の目的は、やはりイルイの身柄のようだ。まあ、オレが側にいる限り妹に指一本触れさせないがな。

 

 確かに機界原種もゴラー・ゴレム隊も厄介な相手だったが、《ステルスガオーII》を得てパワーアップしている《スターガオガイガー》と《キングジェイダー》を筆頭に、勢ぞろいしたαナンバーズのスーパーロボット軍団の敵ではない。

 どちらもまとめて返り討ちにしてやった。

 

 ここでは独自にバルマーの影を追っていたらしいヴィレッタ大尉、ゼンガー少佐とレーツェルさんが現れて協力してくれた。

 ゴラー・ゴレム隊の隊長格でありチーム・ジェルバ壊滅の下手人、スペクトラ・マクレディとセレーナ、ヴィレッタ大尉、ついでにアーマラによる女の戦いは恐ろしいものがあった。頼まれても介入したくない。

 

 ヴィレッタ大尉とのやり取りを見るに、キャリコとスペクトラはイングラム少佐のクローンだろう。記憶の制限が解かれて思い出した知識だ。

 また、奴らがアーマラのことを「ヴェート」、二番と呼ぶのは、ヴィレッタ大尉を「アウレフ」、イングラム少佐の一番目のクローンと見なした場合なのだろうと推察する。

 いつアイツに真実を話すか、それが問題だ。

 

 またセレーナが仲間入りを表明、信頼できるのかと懐疑的な視線を受けながらも飄々としている。仇を追うより、待ち受けた方が確実だと考えたのだろう。合理的だ。

 役者は揃った、というわけだな。

 

 追記。

 セレーナの加入に伴いエルマも仲間になったわけだが、エクスが特に喜んでいた。

 ウッソのハロを含めて「マスコットロボ同盟」なるものを結成したのだと報告されて、リアクションに困った。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月※日

 地球圏、アステロイド・ベルト

 

 対帝国監察軍殲滅作戦「オペレーション・ハルパー」のため、αナンバーズ艦隊はクロスゲートのあるアステロイド・ベルトに向けて移動している。

 航海は順調だ。ラダムやイバリューダーとの戦闘はあったけどな。

 

 哨戒に出ていたセレーナ、イサムさん、ガルドさんが損傷した《ベガリオン》とスレイを保護した。

 聞き取りした話では、銀河に旅立ったチームTDだが、謎の敵に遭遇。チームのキャプテンであるアイビスの独断で、スレイと《ベガリオン》は逃されたのだそうだ。

 そのことをスレイは酷く憤っていたが、同時にアイビスたちの身を心配してもいた。封印戦争時とはエライ変わりようだ。外宇宙に出ると、こうも人格が変わるのかと感心してしまった。

 未だに内輪もめしてる連中に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月○日

 地球圏、衛星軌道上 オービットベース

 

 結論から述べると、オペレーション・ハルパーは失敗に終わった。いや、よくて痛み分けかな。

 

 イカロス基地で合流した三体の《エヴァンゲリオン》シリーズとシンジ、アスカ、そしてレイの三名が参戦、ゾンダーと帝国監察軍に挟み撃ちにされたものの、相変わらずの鉄壁ぶりでオレたちを助けてくれた。

 あれから二年、シンジ、アスカもずいぶん成長した様子だ。いや、見た目はまったく変わってないんだが。曰く「エヴァの呪縛」、新劇設定かよ。

 

 で、問題のレイ。バルマー戦役時、戦死したはずの彼女だが、この世界の前世、綾人たちがいた世界から彼ら同様にこちらに送り込まれたものと思われる。

 イデめ、これだけ因子を集めて何のつもりだ?

 

 ミサトさん率いる旧ネルフのサポートスタッフ一同もイカロス基地で合流しており、デリケートな《EVA》のメンテナンス体制はバッチリだ。

 密かに驚いたのは、その中にリツコさんもいたこと。オレは特に何もしてないんだが、何の因果か生き残っている。詳しく聞くにも事情がアレだからとりあえずうっちゃったが。

 本人は、「シロちゃんとクロちゃんはいないのかしら」と残念そうにしていた。この猫好きさんめ。しばらくしたら合流するから、ベルナデットの飼い猫で我慢しててください。

 シラカワ博士目当てに、マサキを呼んだからな。

 

 そして、ついに帝国監察軍本隊、帝国監察軍第一艦隊と激突、あと一歩で敵旗艦《ヘルモーズ・エハッド》を撃沈せしめるというところでアクシデントが発生した。

 オービットベースが、機界31原種に襲撃されているとの緊急通信が舞い込んだのだ。

 さらに「一刻も早い帰還を」というオレたちの意志にクロスゲー トが反応して、部隊全員がオービットベースへ転送。このとき、亜空間に取り残されかけた《アークエンジェル》を救うため、《超竜神》がその身を犠牲とした。

 

 クロスゲートを潜り、たどり着いたオービットベース。

 等身大の姿でオービットベースに侵入し、ゾンダープラント化をもくろむ「機界最強7原種」、さらにはDボゥイとの決戦をもくろむ《テッカマンアックス》が乱入する。

 三つ巴の対決。かつてのゾンダリアン四天王ピッツァの真の姿であるソルダートJ、さらには天空宙心拳の伝承者、ロム・ストール(「貴様らに名乗る名前はない!」を生で聞けなかった!)一行の協力もあり、何とか《テッカマンアックス》を撃破。しかし、原種らはアルマこと戒道幾巳少年を浚って月へと逃れた。

 

 月面での決戦。

 機界最強7原種が合体した《合体原種》はそれぞれの能力を持ち合わせる強敵だった。特に、無限にも思える再生能力はおぞましいものがあった。

 窮地を脱すため、《テッカマンアックス》、いやラダムの洗脳から解き放たれたゴダートより託された“テッククリスタル”を用いてビームを集束、再生能力の要である肝臓原種をピンポイントで破壊。αナンバーズによる総攻撃で、《合体原種》は倒された。

 

 結果、オペレーション・ハルパーは中断され失敗に終わったが、帝国監察軍第一艦隊も地球圏から撤退、火星圏に後退している。

 ちなみに、第一艦隊にはル・カイン以下グラドス星の部隊もいた。以前戦ったときは、ゴラー・ゴレム隊に協力していただけのようだな。

 

 

 

 新西暦一八九年 △月○日

 地球圏、衛星軌道上 オービットベースの一室

 

 またもや異星からのお客様がやってきた。

 折り鶴のような優美なデザインの星間航行艦《エルシャンク》、シェーマ星系ラドリオ星からの来訪者だ。やっぱり出たかって感じだ。

 オービットベース近くの宙域で星間連合と戦闘していたところを発見。《ダイモス》等、知り合いも一緒にいたのでとりあえず星間連合を追っ払って接触した。

 

 主なメンバーは以下の通り。

 《エルシャンク》の指導者にしてラドリオ星のプリンセス、ロミナ・ラドリオとお付きの二人。火星移民のジョウ・マヤ、レニー・アイ、マイク・コイルの三名はそれぞれ《黒獅子》、《鳳雷鷹》、《爆竜》のパイロットだ。

 《エルシャンク》は、星間連合に追われて火星にたどり着いた後、現地の《ボルテス》チームや一矢さん、ゼクスさんやノインさんらと協力して戦っていた。しかし、火星圏に帝国監察軍第一艦隊が後退したことで火星を放棄、地球圏に撤退してきたとのこと。

 なお、ザ・ブーム軍はやはり星間連合に吸収合併されている模様。どんだけがんばってんだ、ズールの奴。

 

 ロミナ姫だが、同じ亡国の姫ということでファーラ姫とさっそく仲良くなっていた。キャッキャうふふである。

 ベガさんに「混ざってきたらどうです?」と持ちかけてみたが、「おばさんをからかうんじゃありません」と窘められてしまった。やはりミサトさんやラミアス大尉、遙さんとの方がいいらしい。

 亡国といえば、ジークフリードこと大介さんとゼクスさんも意気投合していた。二人ともやんごとない生まれで、妹を持つお兄さんでもあるからだろうか。

 

 《エルシャンク》は原作通りラドリオ星に伝わる「伝説の忍者」を求めて太陽系にやってきたそうで。

 もしやと思いイルイに訪ねてみたら案の定「ナシム、そんなことを話した記憶もあるって」との答えが返ってきた。またかというより、超古代にも忍者なんてのがいた方がびっくりだよ。

 こうなりゃウチの赤マスクを呼んでやろうか。いや、話がややこしくなるから裏方として忍んでてもらおう。

 あ、十傑集は解散したけど、一部はまだ孔明が部下としてこき使ってたり。直系?弟?しらんがな。

 

 で、三輪がキレるでお馴染みの外道、ハザード・パシャが暗躍し始める季節なのだが。どうしようかな、あえて放置してアズラエルの本来の立ち位置に自分で立ってもらうのもアリか。

 孔明にその旨、伝えておこう。

 

 

 

 新西暦一八九年 △月☆日

 地球、アフリカ 《アークエンジェル》の一室

 

 αナンバーズは、部隊を二つに分ける。ロンド・ベル隊から続くいつものパターンだ。

 《ストライク》の稼動データ等をアラスカにある現地球連邦最高司令部、通称「JOSH-A」に届けるために地球に降下する《アークエンジェル》、《ナデシコC》。

 相変わらず月面に居座るギシン星間連合軍に対応する《ラー・カイラム》と《キング・ビアル》、《エルシャンク》。

 

 いろいろと考えた結果、オレは《アークエンジェル》の地球降下につき合うことにした。

 まあ、アラスカに《ストライク》のデータを届けるなんて任務は、もはやあってないようなものなんだが。ラミアス少佐(このたび昇進した)には悪いが、ヘリオポリスのGATはまるっと欺瞞だからな。

 いや、《ストライク》自体は悪くないんだ。動力源さえ抜きにしたらな。特に、ストライカーパックシステムの基本思想はリョウトの“新型”にも採用されているらしいし。

 

 道連れは直属になるクォヴレーチームとセレーナ、スレイだ。

 《アークエンジェル》には旧リガ・ミリティアのメンバーとトビアたちが乗っているし、僚艦の《ナデシコC》には、《ドラグナー》チーム、《レイズナー》チーム、スペースナイツ、JUDAの面々。チームD、《ゼオライマー》の二人、《ダンガイオー》チーム、大作と銀麗さんが乗っている。

 概ねリアル系が揃っているな。

 

 で、お約束のように大気圏突入のタイミングでクルーゼ隊に襲われたわけだが。あらゆる意味で予測していた事態なので、《アークエンジェル》のメンバー以外は落ち着いたものだ。

 そろそろ本気で原作ブレイクとやらを始めようと思い、その先駆けに《デュエル》、《バスター》、《ブリッツ》を無傷で捕らえてみた。もちろん例のトラップでだ。変態仮面ザマァ。

 ちなみに、やはりアスランは戦場にはいなかった。

 イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン、ニコル・アマルフィの三名には地球圏の危機的な現状をたっぷり堪能してもらおうと思う。

 この三人、思ったより大人しい。ちょっと拍子抜けしてたり。

 力の差を教えてやろうと、イザークを生身同士で軽くあしらったのがまずかったのか?

 

 あ、そういやオレンジ色の《ジン》がいたな。生きてたのか、“魔弾”の人。ちょっと嬉しかったのは秘密だ。

 あれ?もしかして後方不注意の方かな。それはそれで嬉しいけど。

 

 さっさとプラントとの不毛な戦争を、やめさせなきゃな。

 

 

   †  †  †

 

 

 アフリカ、バナディーア。

 ザフトの名将、アンドリュー・バルトフェルドが駐留する小さな街だ。

 

 大気圏突入を妨害され、目的のアラスカから遠く離れたアフリカ大陸に不時着した《アークエンジェル》。その不足物資の買い出しのため、αナンバーズのメンバーは街に繰り出していた。

 

 協力関係にある現地?ゲリラの少女を案内に、キラ、クォヴレー、エイジ、シンジとアスカなどほか数名が気分転換も兼ねて日常品の買い出しに街へ出ている。

 ゲリラに武装を提供している商人に当たるのはアムロやナタル、ミサトの大人組だ。

 

 イングとアーマラはイルイを連れて参加している。名目上は護衛だが、実際は気分転換の物見遊山だ。

 出立の際、イングはアーマラに「久々のデートだな」などと冗談を言って蹴られていた。内心、アーマラが満更でもなかったことを知っているのはイルイだけだ。

 

 イルイの両手を引き、街をぶらぶらと散策するイングとアーマラ。

 彼らの容姿はこの新西暦にあってもかなり目立つ部類だが、ある意味コーディネーター的なのでそれなりに溶け込んではいた。

 

「平和だな」

「ああ。今の地球圏の状況を思えば、仮初めでも貴重な平和だ」

 

 街は活気に溢れていたが、人々の顔には微かに緊張感も漂っていた。

 その違和感に、ザフトの占領地であることが関係していることは間違いない。

 

「カガリが聞けば、また怒るだろうな」

「あれは世間知らずのお嬢様だろう。聞く耳持たん」

「うわ、アーマラひでぇ。事実だけど」

 

 カガリ・ユラ。その正体は南洋の国、オーブの現首長の娘だ。イングは「どういう教育してんだ。現在進行形で」と頭を抱えていたりする。

 また、百戦錬磨のαナンバーズに向かって「砂漠の戦いでは素人」と言い放った怖いもの知らず少女でもある。

 

 イングとアーマラに言わせれば、そんなカガリたちレジスタンス「明けの砂漠」が戦争の素人(アマチュア)だ。

 生身とわずかな武装で機動兵器を保有した軍隊に挑むなど、正気の沙汰ではない。イングはよくやっているが、それは例外中の例外であることは言うまでもないだろう。

 

 また、地球に降下して直ぐ、マシントラブルにより行動不能に陥った《アークエンジェル》を襲ったバルトフェルド隊の四足獣型MS《バクゥ》部隊は、《エグゼクス》と《ファルケン》のコンビネーションの前にズタボロにされている。

 ついでにバルトフェルド隊旗艦《レセップス》を撃沈間際まで追い込んだが、逃げられてしまった。こちらはバルトフェルドが旨く立ち回ったと見るべきだろう。あるいは、《ナデシコC》との合流が一足早ければ撃沈もあり得たのだが。

 

「それにしても、ゲリラの女の子なんて、世が世なら悲劇のヒロインにされてたところだな」

「何の話だ?」

アカシックレコード(Wiki)参照。いやぁー、ザカールは強敵でしたね!」

「参照できるかっ! ……まあ、いい」

 

 イングがおかしなことを言うのはいつものことだ。

 そして、記憶の制限が解かれてよりいっそう酷くなったのは言うまでもない。

 

「お兄ちゃん」

「んっ? どうした、イルイ」

 

 イングは、ちょんちょんと袖を引っ張ってくる妹に顔を向ける。

 イルイが恥ずかしげにうつむき加減でおなかを押さえている。すると、きゅるる、と小さい音が聞こえた。

 

「お腹、すいた……」

「そっか。んじゃ、ケバブでも食いに行くか」

「ドネル・ケバブか。ここらの名物料理だな」

「そそ。たぶんおもしろいもんが見れるだろうし、ここは行かなきゃ損だぜ」

「……? またお得意の予知か?」

「そゆこと」

 

 意味深な笑みを浮かべるイングを先導に、三人は人並みに消えていった。

 

 

 

 

「ニガっ」

「ふっ、ガキだな」

「うるせぇ」

 

 出されたカップに口を付け、顔をしかめたイングをアーマラが鼻で笑う。そのアーマラは、さも旨そうにコーヒーを啜っていた。

 

 現在、キラたちと合流したイング一行は紆余曲折あり、“砂漠の虎”ことアンドリュー・バルトフェルドの滞在するセーフハウスに招かれている。

 バルマー戦役、イージス事件、封印戦争の英雄、国際警察機構のワンゼロワンの名ははさすがにザフトにも知れ渡っているらしく、そこかしこから敵意と恐れの感情が突き刺さってくるが、イングは涼しい顔で受け流していた。

 

 キラと行動を共にしていたクォヴレー、エイジの両名は警戒を切らしていないが、イング一行はリラックスしきっている。コーディネーターの軍隊が相手でも切り抜ける自信があるのだ。

 二人が十傑集や北辰集とやりあうよりは遙かに楽だと考えているのを、イルイだけが知っている。

 なお、そのイルイは横でアップルジュースをくぴくぴと平和そうに飲んでいた。こちらも、イングにはやや劣るが《ガンエデン》の巫女(マシヤフ)に選ばれたサイコドライバー、念動力さえ使えれば自分の身を護るのは容易いことだ。

 

 

 ドレス姿のカガリが現れ、一悶着あった後、バルトフェルドは持論を語り始める。

 要約すれば、「戦争には制限時間も得点もない。ならばどうやって勝ち負けを決め、終わらせるのか」。

 敵将からの問いに答えを窮すキラ、現実的な意見を述べるクォヴレー、自身の経験から反論するエイジ。三者三様の反応を示す中、イングは嘲るように鼻を鳴らした。

 バルトフェルドが戦争をゲームに例えたことを、不快に感じたのだ。

 

「何かな、少年?」

「終わりはあるだろ、広義の意味での戦争には」

「確かにね。でも、ボクたちがしているのはそうじゃない」

「ああ。だからこそ、プラントの仕掛けた戦争は根本から間違ってるし愚かだ」

 

 “同族”としてプラントに感情移入しているであろうキラが、イングの嫌悪に敏感に反応した。

 

「イングは、ブルーコスモスみたいにコーディネーターを嫌っているの?」

「そうじゃない。復讐したいって気持ちはヒトとして当然な感情だし、共感も出来るよ。だけど、プラントにはビジョンがない。何が戦争目的なのか、何をもって勝利とするのか、それがないから殺し合いにしかならない」

 

 紅い瞳にまっすぐ見つめられ、キラが言葉を失う。

 

「知ってるか、キラ。大昔、西暦の戦争じゃ、殺し合ってた兵士たちが戦場の外じゃ酒を酌み交わし、互いの健闘を称えてたことだってあったらしい。案外ヒトってのは単純で大雑把で大らかなのさ。だからこそ、残酷なことだってやってのけやっちまう」 

 

 イングはヒトに期待していない。

 ただ誰しもが持つ心にある光を信じているのだ。

 だからこそ、彼は悪に対して苛烈になれる。光を翳す闇を斬る――イングは一振りの研ぎ澄まされた剣である。

 

「戦争の終わり方? 敵を全て滅ぼす? ――そんな考え方自体がナンセンスなんだよ。ガキの喧嘩じゃねーんだぞ」

 

 彼らしくない発言のオンパレードに、キラたちは目を丸くするが、アーマラとイルイだけは当然のような顔をしている。イングが、孔明からそういった知識を叩き込まれていることを知っているからだ。

 むっつりとした表情のまま、イングは腕を組む。

 

「かつての一年戦争は、ジオン独立戦争って呼ばれることがある。あの戦争は実質的に地球連邦の一植民地でしかなかったサイド3が、国家主権を勝ち取るためのものだった」

「お前、詳しいんだな」

「カガリがものを知らないだけだろ」

「うぐっ」

 

 茶々を入れたカガリがイングに切って捨てられた。

 

「ジオンは国力で連邦に劣っていることはわかっていたから、勝つためにコロニーを落とし、早期決着をもくろんだ。そしてそれに失敗して、泥沼に陥った。一方、プラントはどうなんだ?」

「評議会には、そんなものはないんじゃないかな? 感情的に始めてしまった戦争を、目的もなく野放図に広げて収拾がつかなくなっている。報復行為が目的なら、他にやりようがあったとボクも思うよ」

 

 だからこそ、終わりがない。終われない。

 バルトフェルドの先の発言は、これを踏まえたものだったようだ。イングは彼に対する評価を一段上げた。

 

「地球の技術を奪って、侵略者に対抗するという目的もあるにはあるようだが。その行為自体、私にはコーディネーターの優位性を自ら否定する矛盾だと思えるよ」

「だろ? 大体、この地球圏にコーディネーター脅威論を本気で信じている人間がどれだけいるんだ。コーディネーターの大半はプラントに引きこもってて、大多数の人間は“ナチュラル”、“コーディネーター”なんて区別には意識もしてなかった。“ニュータイプ”と“オールドタイプ”ならともかく」

 

 それだって、あのサイコフレームの光を見た後じゃ薄れてるって話だ。イングはわずかに誇らしげにしている。

 旧ジオン系のものたちですら、過去の遺恨を脇に置いて地球人として侵略者と戦っていた。無論、そこには地球安全評議会の議員になったハマーンの尽力があったが、命の光を垣間見た彼らの心に何らかの善い変化が起きたことは疑いようがない。

 故にイングは、時代に逆行するかのようなプラントの凶行に憤りを隠さないのだ。

 

「ボクもあれは見たけれど、とても美しい光景だったね」

「今の形のブルーコスモスの思想が本格的に蔓延した切っ掛けは、プラントが宣戦布告してからだ。始まりが異星人の侵略、バルマー戦役にあってもな。キラ、お前はどう思うよ」

「あ、うん。たしかに、僕も戦争が始まってからそういうのを意識するようになったかな。なんだか、居心地が悪くなったっていうか……」

 

 訥々と答えるキラ。コーディネーターであることを親しい友人にのみ明かし、事実上隠れ住んでいることは、善良な彼に無意識の罪悪感を与えていた。

 得心したように一つ頷き、イングは口を開く。

 

「そういうヒト、地球圏には大勢いると思うぜ? たかが遺伝子の違い、能力の違いがなんだってんだ。この宇宙には、恐竜が進化したヒト、機動兵器サイズのヒト、角のあるヒトや羽の生えたヒトだっているのに」

「爬虫人類、巨人族、バーム人、ボアザン人だね。ボクは、いやプラントの大多数の者は映像すら見たことがないんだよ。恥ずかしいことにね」

「ラクス・クラインが言ってたよ。自分たちは異星人とつき合う経験が足りない、と。そして、時代から取り残されていることを恐れているともな」

「へぇ……、あの歌姫が。どうやって彼女と知り合ったかは、聞かないでおこう」

 

 バルトフェルドの興味深そうな視線を鬱陶しがるイング。別段隠すようなことでもないが、詮索されるのは不愉だと空気で示す。

 

「でだ、バルトフェルドさんよ。戦争なんて馬鹿げた真似はやめて、オレたちを黙って通しちゃくれないか?」

「こちらは移民船を引き渡せば、キミたちが通ることを黙認するって勧告したはずだが?」

「そんな要求、受け入れる筋合いはないし権限もないな。それにあんたらじゃ、αナンバーズは止められないのは自明だよ。つーか、オレ一人でも壊滅余裕だし」

「ちょ、ちょっとイング、何言い出すのさ!」

「そうだぞお前!」

「事実を言って何が悪い。こちとら地球圏最強の超能力者だぞ、砂漠の虎がなんぼのもんじゃい」

 

 キラやカガリの非難めいた声にも耳を貸さず、逆に胸を張るイング。必要以上の高飛車な力の誇示は本心であると同時に、無用な争いを回避するポーズでもある。

 

 バルトフェルドはそんなイングの態度に一瞬呆け、そして呵々大笑と笑った。

 

「だが、それはできない。私とて仮にもザフトの兵士だ。故国を裏切るわけには行かないさ」

「バルトフェルドさん……」

「あんた、死んだ方がマシって口?」

「そうだとも。私は死んだ方がマシなのさ」

 

 二人にしかわからない不穏なやり取りに周りが凍り付く中、イングとバルトフェルドは不敵に笑みを交わしあった。

 

「次は戦場か」

「そうなるだろうね」

「手加減できねーぞ」

「宜しい。こちらも、全身全霊でお相手しよう」

 

 

 こうして“砂漠の虎”との邂逅は、物別れに終わった。

 

 しかしイングはどこか上機嫌で、周りを困惑させていた。

 その真意を知るのはパートナーと妹だけである。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 △月※日

 地球、太平洋 《アークエンジェル》の一室

 

 《アークエンジェル》はバルトフェルド隊を退け、無事アフリカ大陸を離れて現在日本に向けて海上を移動中。

 え?オーブ?どうして寄らなきゃいけないの?ウソ。途中で立ち寄る予定だ。

 キラたちの家族に会わせてやりたいし、連邦軍の方にも連絡入れとかないとだしな。

 

 アフリカでは、《アルビオン》隊と合流し、さらに遙か銀河の彼方から無限力により飛ばされてきた《シティ7》を保護した。

 彼ら《マクロス7》船団が旅した宙域は無限力が作り出した時空の断層で地球圏とは時間の流れが全く違ったようで、《シティ7》の市長をしているミリアはいいお年の奥様になっていた。

 向こうの感覚では数十年ぶりに再会したミリアに、「懐かしいわぁ、イング。少し背が伸びたかしら?」と過剰なスキンシップを受けたわけだが。まるで年始の集まりであった親戚のおばちゃんみたいだったぞ、ミリア。

 カミーユやアムロさん、ジュドーやウッソなんかは、容姿の変わらないミリアのメルトランディの血に納得を見いだしていたが、あとで旦那を見て驚愕すればいいさ。

 ちなみに彼女とその旦那はバーニングPT仲間だったり。SDF時代はリョウト、リュウセイを交えて遊んでたんだぜ。

 

 《シティ7》等の移民船団は独自に自治権を持つが、目下地球圏の現状で自衛は難しい。ということで、日本にある地球安全評議会本部に送っていくことに。

 かつての上官、グローバル議長が保護責任者ならミリアも安心だろう。

 プロトデビルンのシビルとは生身でやりあったが、さすがに手強かったぜ。

 

 また、《シティ7》には白きヘビーメタル《エルガイム》を駆るダバ・マイロードと反ポセイダル軍の仲間たちが同乗していた。

 バッフ・クランから逃走中、ペンタゴナワールドに迷い込んだ《マクロス7》一行と、ポセイダル軍(ギシン星間連合と同盟関係らしい)を相手に共闘、そのままなし崩し的に地球圏に来てしまったとのこと。

 本来はこの銀河系とは別の銀河であるペンタゴナワールドが、外宇宙の一地域(そちらのものたちはこの銀河の名前を差してペンタゴナワールドと呼んでいる)に組み込まれているようだ。

 ちなみに、ダバの連れている妖精、ミラリー族のリリス・ファウを、旧SDFメンバーがチャムに見間違える一幕も。

 お約束だな。知らんけど。

 

 で、太平洋上に出た目下の予定は国際警察機構経由で接触のあったミスリルの“トイ・ボックス”こと、強襲揚陸潜水艦《トゥアハー・デ・ダナン》と合流だ。

 これはあれかな、戦争狂に乗っ取られるイベントかな。まあ、させねーけど。

 とりあえずアマルガムは孔明に命じて粗方潰しといたけど、“水銀”と“鋼鉄”を捕らえられなかったのは地味に痛い。

 というか、表は国際警察機構のエキスパート、裏では新生BF団の首領ってそれなんて悪役?

 いやいや、オレダークヒーローだから。ゴッサムのダーク・ナイト的なヒーローだから。

 悶々としてたらアーマラに呆れられた。無惨。

 

 

 

 新西暦一八九年 △月#日

 地球、太平洋 《アークエンジェル》の一室

 

 無事、《トゥアハー・デ・ダナン》と合流した。

 向こうの責任者、テレサ・テスタロッサ嬢(愛称テッサ)は可憐なお声の持ち主である。さっそく口説こうとしたらアーマラと怖いおねーさんに蹴られた。

 「オレってば上官じゃねーの?」ってマオさんに言ったら、「それとこれとは話が別」と言い返された。ちぇっ、BF団に引き抜こうとしただけなのに。

 

 そんなこんなでアーマラとテッサが仲良くなっていた。またそれか。

 あと、エクスがテッサについて「他人のような気がしません」なんて言ってたな。あれか、テスタロッサ繋がりか。

 

 艦には以前、南海の孤島で助けた千鳥かなめが乗艦していた。《トゥアハー・デ・ダナン》の就航一周年を記念したパーティーに参加するためらしい。

 もちろん、ウルズ7こと相良宗介軍曹もいた。こっちが「相良軍曹」と呼びかけると改まるので、宗介さんと呼ぶことにしている。軍人気質が生粋すぎてやりづらい。こう見ると、ウチってやっぱ軍隊としては異常極まりないな。

 

 ここでちょっとかなめとテッサの持つ異能、「ウィスパード」についておさらいしておく。

 原作「フルメタル・パニック!」でのウィスパードの実体はWikiを参照してもらうとして、このα宇宙においてウィスパードの根元もやはり無限力、アカシックレコードに帰結する。

 アカシックレコードから限定的に知識を得る、あるいは一方的に囁かれるもの、それがウィスパードである。

 ニュータイプ等の人知を超えた能力も、この宇宙において最終的にはサイコドライバーへと繋がっていく。ようは方向性の違い、個々人の資質の違いというわけだ。オレは密かに「ヒトは皆サイコドライバーになれる」とか思ってたりする。

 博士に頼んで、浴びたヒトを革新させる謎粒子でも開発してもらおうかなぁ。

 

 さて、まずはミスリル内の裏切り者の始末といこうか。

 悪はことごとく斬るのがオレだからな。

 

 

 

 新西暦一八九年 △月*日

 地球、太平洋上 《アークエンジェル》の一室

 

 予想通り現れた戦争狂をあしらいつつ、《アークエンジェル》は進む。

 ちなみに予想通りの行動をして無様に失敗したガウルンだが、あえてとどめを刺していない。でも、かなめを浚うとかそういうことは今後一切させないぜ。

 

 で、今日はザフトのカーペンタリア基地で起きた騒ぎに介入、鎮圧した。イサムさんとガルドさんも現地にいたそうだ。

 そして来ました真紅の《ファイアーバルキリー》!

 思わず「バサラキター!」と思わず叫んでアーマラとエクスに怪訝な顔をされた。こっちで曲とか用意したら、「真赤な誓い」歌ってくんねーかな。

 

 そんな中、ゼラバイアと謎の機動兵器、というかクトゥルフの《ディロスθ》が現れた。シャロン・アップルも含めて、AIつながりか。

 侵略者は本格介入を決定したαナンバーズによりゼラバイア等は撃破されたが、その戦闘では式典に招かれていたラクスが巻き込まれて、大怪我をするところだった。キラが間一髪で救助したのだが、これはフラグか?フラグなのか?

 

 しかし、こうなると確実に《イクサー》も来るらしい。

 もうどうにでもしてくれ、と泣きたい気分だがそうも言っていられないのがバビル二世の辛いところだ。

 とりあえず加納渚の身元の特定と、身辺の警護を孔明に命じとおこうと思う。

 

 あと、《Rーダイガン》が《ノヴァ》の援護をしていたな。由来バレバレだから原作通りの対決の流れにはならないらしい。加藤機関とはつるまないのか。残念。

 エイーダ・ロッサが会場にゲストで呼ばれていたようなので、それが原因のようだ。

 

 連邦の公式上は《ダンクーガ》の後継機として葉月博士により開発されたとされている《ノヴァ》。実際の設計者は、WILLという超古代に生み出された無機生命体であり、その目的は地球等の知的生命体を監察することだ。

 かなり早い段階から葉月博士とは接触していたようで、《ダンクーガ》は《ノヴァ》を生み出すための試金石であり、同時に生命情報の方舟たる《ノヴァ》を導き護る存在だった。

 このWILL、やはりと言うべきかアポカリュプシスに対する回避策の一つとして生み出された。ただし、リセットされる何巡か前の宇宙が由来らしいがな。

 つーか、バビル、ナシムとはだいぶ旧い知り合いらしく、二代目を就任して直ぐに孔明に引き合わされた。F.Sもいたぞ。

 

 月には兄弟機、ムーンWILLがいる。

 クトゥルフ、ゼラバイア、未だ健在のガルファとゾンダーも併せて封印戦争同様、機械化同盟を結成してくることは予想に難くない。ガイゾック復活の気配が濃厚だし、ギャンドラーと手を組む可能性もある。

 まあ、こっちとしては個別でかかってこられるよりまとまってくれた方がやりやすいんだけどな。

 

 

 

 新西暦一八九年 △月◎日

 地球、オーブ首長国連邦 《アークエンジェル》の一室

 

 《トゥアハー・デ・ダナン》と別れ、《アークエンジェル》隊はオーブについた。正式ルートできちんと正面からだ。

 道中、星間連合やゼラバイア、ラダムとやりあったがザフトとは戦わなかった。やはり、ザラ隊は結成されていないようだ。

 

 カガリの親父さん、獅子の人はあんまり好きじゃないので接触する予定はない。アムロ大尉たちには悪いけど、難しい話はオトナに任せてオレたちは平和の国とやらを存分に満喫した。

 ケーンやカミーユ、浩一、マサトなんかはガールフレンドとデートしていちゃついていて大変羨ましい。あ、カミーユは別に羨ましくないか。あの危うい三角関係は、見てるだけで胃に穴が空きそうだ。

 とある公園で黒髪紅目の男の子と妹らしき女の子を見つけて、密かにほっこりした。妹ちゃんとウチの妹さまが仲良くなってさらにほっこりした。

 

 ちなみに、イザークたちも監視付きだが外出させてやった。社会勉強だな。

 いろいろ甘いのは、ロンド・ベル隊から続くαナンバーズの特徴である。

 

 オーブに到着したことで、やっとこさ確度の高い情報が手に入った。

 月面方面部隊は予想通りというか、《バトル7》および《ソロシップ》と接触したようだ。

 が、その後がまずかった。

 ハザード・パシャがさっそく暗躍し、奴に煽られた連邦政府内の一部高官が移民船の受け入れの拒否を勝手に表明、それを受けて《ソロシップ》が先走りした。

 バカどもめ、現在の地球安全評議会の基本方針は移民船団を受け入れて、共に侵略者に対抗することだってのに。

 ゼーレ、ブルーコスモスの息のかかった議員もいるが、ハマーンさんやリリーナ、カットナルなどこちらに味方してくれる議員の方が遙かに多い。さすがは孔明先生の孔明マジック、根回しの勝利である。

 

 さておき、《ソロシップ》を巡るいざこざでは《ゴーショーグン》チームのみならず、懐かしのJ9チームが活躍したそうだ。外宇宙から《マクロス7》船団に同行していたらしい。

 イージス事件後は外宇宙を中心に活躍していた彼らを、マックスが個人的に雇ったのだとか。それを知ったミリアは「私に何の相談もなく勝手に!」と怒り心頭だった。こえぇー。

 

 《ソロシップ》の最大戦力、《イデオン》。無限力内の最強硬派、アポカリュプシスを強引に押し進めるイデの化身である。

 オレ、イルイ、エクスはすでにあれから発せられる無限力の意志を感じ取っている。イヤな感じだ。

 

 また一方で、元祖ライオンロボ《ダルタニアス》が正式に加入した。

 メインパイロットの楯剣人は、エリオス星という滅亡した星間国家の王家の血を引いている。アール博士に詳しく聞いてみないとわからないが、滅ぼしたのはおそらくギシン星間連合だろう。よくやるよ、まったく。

 というか、αナンバーズに宇宙国家の王族が集まってきてるよな。ノブレスオブリージュって奴?

 

 さらに、《マクロス》級クラスの巨大な都市艦が突如開いたクロスゲートらしきワームホールにより転移、月に落下した。詳しいことは調査待ちとのことだが、これはあれだな、《MZ23》だな。

 「D」とアニメ版「鉄のラインバレル」の設定を鑑みるに、あるいは《MZ23》の時祭イヴから高蓋然性世界についての話が聞けるかも知れない。

 いや、さすがに完璧親父は出てこないと思うが。出てこないよな?

 

 

 追記。

 国際警察機構経由の情報だが、日本地区に《大空魔竜》が現れたらしい。いや、なんかどこぞの怪獣王が現れたみたいに聞こえる。

 その《大空魔竜》、今は宇宙へ任務に出ているはずで、空間転移でもしなければ地球、それも日本地区にいるはずがない。

 もしかしたら、《大空魔竜》違いのそっくりさんかもしれない。心当たりはありすぎるほどにあるが、「ツワブキ・ダイヤ」は地球にいないはずだったんだけどなぁ。

 また無限力の仕業か!と言った感じである。

 

 地球圏に外宇宙、しまいには平行世界まで巻き込んだ今回の戦乱はまさに銀河大戦と呼ぶに相応しいカオスだ。

 まったく、この銀河は地獄だぜ。

 





 ※次回予告


 数々の苦難を乗り越え、αナンバーズはついにアラスカ、「JOSH-A」にたどり着く。
 暗躍する悪意。風雲急を告げるアラスカの大地。
 謎のガンダムに敗北を喫するキラ。
 応龍皇の猛攻、窮地に陥るイング。
 迫るカウントダウン。

 αナンバーズ、絶体絶命の危機に、天空から新たな翼が舞い降りる。

 次回「凶鳥を継ぐもの」。
 運命(さだめ)を斬り裂け、エグゼクス!


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αIIIー3「凶鳥を継ぐもの」

 

 

 新西暦一八九年 △月♬日

 地球、オーブ首長国連邦 《アークエンジェル》の一室

 

 《アークエンジェル》はまだオーブに留まっている。どうもエンジンの調子が芳しくないらしく、整備班のマードック軍曹もお手上げとのこと。

 仕方なしに、オーブの国営企業、モルゲンレーテに修理を依頼した。

 おかげでオーブ政府に足元を見られて《ストライク》の稼動データの譲渡、さらにキラが新型MS《M1アストレイ》のOSをブラッシュアップする羽目になったが。

 オレもいくらか手伝ったが、さすがにプログラミングに関してはキラにはかなわなかったな。

 ちなみにこの《M1》、赤枠青枠の“プロトアストレイ”と違ってミノフスキー核融合炉で動いている。オーブもきちんと考えているようだ。《アストレイ》のコンセプトが先守防衛に相応しいかどうかはともかく。

 

 あ、今更だけどカガリもいるぞ。

 どうもオレたちについてくるつもりだったらしいが、オーブに寄ると聞いて

 で、あんまり我が儘がウザったかったから正体を暴露して無理矢理連れてきたんだ。身分がある立場なんだから、少しは国元のことも考えろっての。

 そんなんだから、アスカにバカガリって呼ばれるんだぞ。

 

 

 

 新西暦一八九年 △月¥日

 地球、オーブ首長国連邦 《アークエンジェル》の一室

 

 まだオーブだ。

 イザークやカガリをからかうのも飽きてきたので、《アークエンジェル》の入っているドックをぶらついていたら、久々にジャンク屋一行と顔を合わした。

 デブリベルトにあるグレイブヤードを探索したり、大気圏近くで金色のモビルスーツに地球へたたき落とされたりして大変だったらしい。

 友好を深めつつ、以前はじっくり見れなかった《エグゼクス》を見学させた代わりに、《ガーベラストレート》を見せてもらった。

 オレはベタに西洋剣派だが、やっぱカタナもかっこいいよなぁ。

 

 いいものを見せてもらったお礼に、《戦国アストレイ頑駄無》のイラスト(プラモを作る前に書いた仕様書のようなものだ)を進呈した。

 ロウはそれをいたく気に入ってくれたようで、本気で《レッドフレーム》を改造するか悩んでいたな。マジで造ってきたらどうしよう、と今更ながらに後悔している次第だ。

 あのジャンク屋ロウだもんなぁ、やりかねないぞ。マジで。

 

 

 新西暦一八九年 △月@日

 地球、オーブ首長国連邦 《アークエンジェル》の一室

 

 まだまだオーブだ。

 そろそろ月の方の戦闘も佳境のようで、《ナデシコC》が援軍に向かった。

 あれは攻防に優れた重力兵器に単独で大気圏を突破できる特殊な推進機関、なおかつボソンジャンプによる奇襲も可能という地球圏有数の戦艦だ。

 《ドラグナー》チームと《レイズナー》チーム、ダバたち《エルガイム》チームがそれに同行している。

 さらに宇宙科学研究所から《グレンダイザー》の支援メカ、地球製《スペイザー》三機、光子力研究所から《ダイアナンA》、《ミネルバX》用の《スクランダー》の支援物資を搭載している。

 《ミネルバX》はともかく、《ダイアナンA》用の《スクランダー》ってなんか聞いたことがあるような?

 

 で、こっちの状況なのだが。

 大破した《ブルーフレーム》と大怪我を負った劾が運び込まれてきた。

 戦闘用コーディネーター、ソキウスと戦い、敗北したようだ。

 

 アズラエルにコンタクトをとったところ、自分は関知していないと明言していた。まあ、孔明の情報網にも引っかかっていないし、信じてもいいだろう。

 ソキウスに、ブーステッドマン。どちらもヒトの人権に喧嘩を売った鬼畜外道の所行である。

 そういう施設や技術はティターンズやジオンのものも含めて、BF団は先代の頃から潰して回っているんだがまだ生き残っていたとは。

 ゼーレめ、思ったより侮れないな。

 

 

 

 新西暦一八九年 △月◆日

 地球、オーブ首長国連邦 《アークエンジェル》の一室

 

 ロウの手により修復された《ブルーフレームセカンドL》(エンジンが核融合炉に換装されている)で挑むソキウスとの雪辱戦。

 決闘は劾の勝利に終わったが、戦いはそれで終わりにはならなかった。

 

 ギャンドラーとバンカーの連合軍がオーブを制圧するため攻めてくる。

 立会人をしていたオレとアーマラ、ロウ、《ダンガイオー》チームが応戦した。

 

 バンカーの軍勢には《アイザム・ザ・サード》、シャザーラがいた。

 ランバは、バンカーの侵略により滅亡したリリス星の王家の生き残りであり、かつての従者であるシャザーラは国を見捨てた王家の人間を恨んでいたのだ。

 

 だが、そのランバの必死の説得でシャザーラは思い直してくれた。

 しかし、《アイザム・ザ・サード》には遠隔操作装置が仕掛けられていた。

 人質を取られて反撃もロクにできず、無抵抗でなぶられる《ダンガイオー》。オレたちも助けに入ろうとするが、雑魚に邪魔されて手出しができない。

 「自分ごと討て」と覚悟を決めるシャザーラ。涙を飲んで放たれる《スパイラルナックル》。ランバは、《ダンガイオー》チームは、オレたちはバンカーの非道に怒りを燃やす。

 

 ――と、そこに颯爽と現れたのは天空よりの使者! ロム・ストール!

 彼は、大破する《アイザム・ザ・サード》からシャザーラを間一髪で救い出していたのだ! さすが剣狼の導きッ、何でもアリだぜ! 口上を決めるロム兄さんかっけー!

 

 本隊も到着し、戦況は一気に逆転。外道どもにはご退場願った。

 なお援軍の中には、《デュエル》《バスター》《ブリッツ》の姿。パイロットはもちろん、イザーク、ディアッカ、ニコルの赤服三人組だ。

 同胞とは戦えないが、異星人相手には力を貸してくれるらしい。彼らも、オレたちと行動して心境に何らかの変化があったのだろう。

 

 一命を取り留めたシャザーラだがランバと和解し、《ダンガイオー》チームに同行することになった。また亡国のお姫様が増えましたな。

 なお、壊れた《アイザム・ザ・サード》だが、ターサン博士とロウが一晩で直していた。

 お前ら、どこのジェバンニだ。 

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月■日

 地球、極東地区日本 科学要塞研究所 《アークエンジェル》の一室

 

 ようやく日本に着いたわけだが。

 事情を書き留める前に、ややこしいので区別のために新たに現れた《大空魔竜》、《ガイキング》をそれぞれ《大空魔竜(LOD)》、《ガイキング(LOD)》としておく。

 まあ、結論から述べるとこの《大空魔竜》、やはり「LOD」版だった。

 

 異変は《ガイキング》のボディ、ヘッドパーツらしき物体が現在の連邦軍極東支部、科学要塞研究所近くに転移したことから始まる。

 岡長官の指示で救助されたヘッドパーツには少年が乗っていた。じきに意識を取り戻した彼はツワブキ・ダイヤと名乗り、困惑混じりに自身の身の上などを説明する。

 その説明の内容については割愛するとして、彼が未知の異世界、ダリウス界から現れ、なおかつパラレルワールドからの来訪者であることが判明する。

 バイストン・ウェル、ラ・ギアスの存在を把握し、タイムスリップの事例さえ知る岡長官だ。そういうこともあるだろう、と納得して見せてダイヤにこの地球について説明したそうだ。

 どこぞの三輪と違って有能で話の分かるお人ある。

 

 そこに謎の巨大メカ、というかダリウス鉄獣が襲来する。

 ダイヤは科学要塞研究所に研究目的で保管されていた《ガイキング》のパート1、パート2、そのプロトタイプをヘッドパーツに装着して戦った。

 いわゆる《カイキング》ということになるのだろうが、いろいろツッコミどころ満載である。確かに、ゾルマニュウム合金製だろうけどさ。

 

 MS、MA、SPT、PT混成部隊の援護もあり、ダリウス鉄獣を撃破、その後時を置かずして現れたのが《大空魔竜(LOD)》というわけだ。

 

 「《大空魔竜》戦隊」との会合に、《アークエンジェル》隊の代表団の一員として参加した。オレは頭脳労働担当じゃないんだが、仕方ないとあきらめた。はやくシラカワ博士来ないかなぁ。

 《大空魔竜(LOD》のキャプテン、ルル・アージェスの生声を聞いて、うるりと来てしまったのはオレだけの秘密。

 オレは彼らの活躍の詳細を知っている、というかリアルタイムで見てた口だからかなり感動ものだったり。《グレート》初合体ので無双っぷりが生で見れなかったのは残念だけどな。

 物語の時間軸としては「原作」の終盤、ダリウス帝国の帝都が崩壊し、ダリウス界から三度地上に出たタイミングだろう。中盤あたりだったら面倒だが、それはそれでややこしいことになりそうだ。

 僚艦の《大地魔竜》《天空魔竜》の行方は不明。連邦軍の防衛網にも引っかかっていないことから、出現に時間差があるか彼らの世界に取り残された可能性もあり得る。

 というか、プロ子が向こうに残ってたらかなりやばいな。ダリウス鉄獣が出てきたのだし、そうでないことを祈る。

 彼らの本来の世界は高蓋然性世界である可能性が考えられる、とは孔明先生の

お言葉だ。やはり、時祭イヴには早急に接触しないと。

 

 ダイヤたち「《大空魔竜》戦隊」はこの地球圏の現状を聞き、オレたちαナンバーズに協力してくれることになった。

 また、この世界にも《大空魔竜》戦隊があると聞き、驚いてもいたな。

 

 情勢が安定し、無限力の活動が停滞化すればオレがクロスゲートに干渉して彼らを元の世界線に帰すこともできるだろう。その旨はもちろん伝えてあるが、別にそれを盾に協力を強請ったわけじゃないぞ。

 彼らは正しくヒーロー、困っている人を見捨てるなんてできるはずないんだからさ。

 

 イデの手配に従うようで癪だが、使えるものは使わせてもらう。こちとら、猫の手も借りたいくらい忙しいんだ。

 

 追記。

 予想通りというか、アーマラの声がプロイストに聞き間違われた。

 「プロイストとはどのような奴なんだ」と聞かれたので、「ブッチャーとタメを張る外道」と簡潔に答えたら盛大に顔をしかめられた。さもありなん。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月*日

 地球、極東地区日本 科学要塞研究所 《アークエンジェル》の一室

 

 地球圏安全評議会で答弁するため、第一東京市に訪れたミリアを護衛した。

 アーマラ、イルイはいつもの如くだが、今回は《マクロス7》船団の正規軍人、ガムリン木崎中尉が同行している。

 ちなみに、公式の場ではきちんと「ミリア市長」って呼んでるぞ。普段呼び捨てにしているのは本人の希望だからだ。

 

 答弁は《マクロス7》船団の現状と、外宇宙から迫る脅威を訴えるものだった。

 「あなた方の来訪が外敵を招いたのではないか」と言う議員(実は孔明の仕込んだサクラ)の意見には、「私たちが帰還しなくても、侵略者は地球へとやってきていた」と正論で言い返していた。

 さすがは戦闘民族、小細工なしの真っ向勝負だったな。

 

 ミリアの答弁をご破算にしたいのだろう、テロリストが雑多な型落ちの機動兵器で襲撃してきたので返り討ちにした。

 さっき孔明から聞いたのだが、どうやらその正体はアマルガムの残党であり連邦軍の強硬派、いわゆるブルーコスモス。黒幕はゼーレのだったようだ。

 

 そういえば、連中の中には鉄甲龍の八卦ロボ、《雷のオムザック》の姿もあったな。サイなんとか、生きてたのか。

 狙いは美久、いや《ゼオライマー》の次元連結システムだったようだ。

 まあ、案の定あっさり《ゼオライマー》に敗退した際には、「()()さえ完成すれば、貴様らなど!」とかほざいていたが。まさかグレ、いやいやいや、まさかそんなまさか。

 とりあえずそれは棚上げにしておく。

 

 地球安全評議会の出した決定は、住民を地球に受け入れることは現状難しいが、そのかわりに最大限の支援を行うというもの。

 悪意を持って解釈すると弾除けになれってことなんだが、ようは地球安全評議会の直属組織になっているαナンバーズに合流しろということだ。《MZ23》、《ソロシップ》も含めてな。

 

 余談。

 ミリアはハマーンさんと意気投合したようだ。女傑同士だからか。

 事実上、ミネバの義母をしている新米母親として、ベテランのミリアからいろいろとアドバイスをもらっているのかも。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月*日

 地球、極東地区日本 科学要塞研究所 《アークエンジェル》の一室

 

 現在、《アークエンジェル》隊はまたまた足止めを食らっている。

 《シティ7》及び《マクロス7》船団に対する地球安全評議会の沙汰を待つためだ。

 

 時間が空いたので、加納渚の様子を見に行ってみた。

 すると、案の定クトゥルフの手の者に襲われていたので、ロム兄さんを見習ってヒーローらしく颯爽と救出した。決めゼリフは「通りすがりの超能力者さ」だな。

 ちなみに渚とその家族や友人は腕利きの護衛をたんまりとつけてあるし、いざとなったら《シティ7》に避難させる予定だったのだが。グロい死亡フラグなんて立たせないぜ!

 

 で、運の悪いことにイクサー1とはち合わせてしまったんだ。

 なんだ、第一声が「得体の知れない奴!」って。お前の方が得体が知れないよ。ムカッときて思わずムキになって戦っちまった。

 イクサー1、クトゥルフの戦士はかつてない強敵だった。さすがのオレも、危ないところだったぜ。

 

 ちょうどいいタイミングでクトゥルフの戦闘メカが現れてくれたので、イクサー1と和解、共闘した。

 無理矢理《イクサーロボ》に乗せられた渚には悪いことをしたな。

 

 戦闘後、イクサー1は姿を消したが、混乱して途方に暮れている渚を保護した。

 オレがαナンバーズの一員であることを知って驚く渚。イクサー1のパートナーに選ばれたこと、彼女とともにクトゥルフと戦う運命にあることを訳知り顔で教えたら、「なんで私がそんなことしなくちゃならないのよ!」と全身で拒否された。まあ、普通の女の子だものな、仕方ない。

 嫌がる渚にはいつも通り、「戦いたくないなら戦わなくていい」と言っておいた。オレが代わりに戦えばいいんだからな。

 最終的に渚とその関係者は事情を説明して、《シティ7》に避難してもらっている。それはそれで危険かもしれないが、こっちの方が護りやすいんだよ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月★日

 地球圏、衛星軌道上 オービットベース 《ラー・カイラム》の一室

 

 途中、ラダムとイバリューダーの小競り合いに巻き込まれつつ、《アークエンジェル》隊は《シティ7》、《大空魔竜(LOD)》を引き連れて無事オービットベースにたどり着くことができた。

 

 月方面隊だが、星間連合の戦力を削ぎ、月から撤退させることには成功したものの、イバリューダーとガルラ大帝国の介入で地球圏から叩き出すことには失敗した。

 現在、ギシン星間連合とガルラ大帝国、イバリューダー、ラダムの四つ巴により宇宙は酷いことになっている。異星人を素体にした《テッカマン》軍団が来襲、ラダムも本格的に殺しに掛かってきている。

 幸いなのは星間連合と繋がっている疑いのあるザフトがガルラ、イバリューダー、ラダムに掛かりっきりでまともな軍事行動ができていないことか。

 まあ、連邦軍だって似たようなもんだけどな。

 

 宇宙組にはこっちの《大空魔竜》も合流していたし、何より嬉しいのが《超竜神》の復帰だ。六五〇〇〇年前の地球に流れ着いて朽ち果てていたが、発動した無限力の一端、ザ・パワーにより復活したのだ。

 兄たちの無事に、《風龍》《雷龍》兄弟も喜んでいたな。

 

 逆に、スペースナイツのアキさんが隊を一時離脱してGGGアメリカに渡ったという。

 身を削って戦うDボゥイの姿に、思うところがあるのだろう。フラグである。

 

 同じ《ガイキング》乗りということで、サンシローさんとダイヤが親交を深めていた。

 元はプロ野球選手のサンシローさん、子どもの扱いはお手の物ってことか。

 

 

 新しい仲間について書き留める。

 デュークフリードの妹、マリア・グレース・フリード。フリード星人の生き残りのナイーダ。二人とも、紆余曲折の末仲間になった。

 大介さんは、地上から合流したひかるさんとナイーダさんの間に挟まれて修羅場ってるし、甲児は甲児でさやかとマリアが火花を散らして修羅場ってる。うらやましくねー。

 ちなみに、超能力持ちのマリアと《ミネルバX》の組み合わせは何気に一軍レベルの戦力だったり。

 

 なお、ベガ艦隊と戦闘中のガンダル司令から「ルビーの花を探せ」とのメッセージが届いたという。

 大介さんにはなにやら心当たりがあるようだ

 

 《ソロシップ》。開拓惑星ソロの人々を乗せた遺跡艦である。

 連邦政府の煮え切らない対応に怒るユウキ・コスモに絡まれたりもしたが、仲良くやりたいと思う次第だ。

 ちなみにカガリはオーブに残っているので、噂の迷言は飛び出さなかった。残念、なのか?

 

 《ガーランド》の矢作省吾。

 一九八〇年東京を再現した《MZ23》から新西暦に放り出された彼は、カルチャーギャップが酷いらしい。ジュドーやコスモと意気投合していたな。

 あと、彼の友人として紹介された霞渚にげんなりした。いや、確かに筋の通った役回りだけどさ。

 

 熱気バサラ。ロックバンド「FIRE BOMBER」の一員であり、歌う《バルキリー》乗りである。

 「戦争なんてくだらねぇ!」が口癖だけあって、仮にも軍隊のαナンバーズに協力するのは不本意なようだ。

 とりあえず、《シティ7》で買ったアルバムにサインをもらっておいた。ありきたりなアイドルソングも嫌いじゃないが、やっぱ熱いロックが一番だな。

 

 

 さてお待ちかね、《MZ23》の管理者、時祭イヴとの面談だ。

 大河長官、大文字博士、ブライト艦長、新たに加わった《バトル7》のマックスとミリア(出会い頭に修羅場ってた)、ラミアス艦長、ルリルリ(たまにそう呼んでる)、神北のじいちゃんとロミナ姫。そうそうたるメンバーを後ろに、無限力に精通するオレが代表して質問した。オレ、単なる一パイロットだったはずなんだけどなぁ。

 なお、《大空魔竜(LOD)》からは代表としてルルとダイヤ、サコン・シロウが参加していた。

 

 やはり思った通り、《MZ23》は統一意志セントラルに支配された地球から逃れるための都市艦だったようだ。

 また《大空魔竜(LOD)》の出身も同様であり、セントラルに支配されるずっと前の時代からやってきたことが判明した。《MZ23》に残されたデータによると、「《大空魔竜》戦隊」はダリウス界に向かったまま行方不明。しかし、以後ダリウス界からの侵略もなかったとされている。

 それを聞いたダイヤたちは大変ショックを受けていたが、同時にプロ子、次大帝プロイストが向こうに残っていないことには安心していた。

 

 ダイヤから本当に帰れるのかと問われたが、難しいことじゃない。

 《エグゼクスバイン》のラプラスコンピュータで因果律を観測すれば、帰還すべき世界線・時間軸の特定は可能だ。そもそも、旧プリベンターのメンバーはタイムスリップを経験しているんだからな。

 どちらにせよ、銀河の終焉を阻止し、無限力の活性化を終わらせなければお話にならないけどな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月×日

 地球圏、アステロイド・ベルト イカロス基地 《ラー・カイラム》の一室

 

 放棄された火星を帝国監察軍第一艦隊から奪還するため、αナンバーズはイカロス基地にやってきた。

 《ラー・カイラム》、《大空魔竜》、《ナデシコC》、《キング・ビアル》、《アークエンジェル》、《エルシャンク》、《ソロシップ》、《バトル7》、《大空魔竜(LOD)》の九隻からなる大艦隊だ。

 バルマーの最精鋭、第一艦隊とてひとたまりもないだろうさ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月*日

 地球圏、火星 エリシオン基地 《ラー・カイラム》の一室

 

 第一艦隊は壊滅、火星は無事奪還された。

 バラン・ドバンの《ベミドバン》。

 孫光龍の《応龍皇》。

 キャリコ・マクレディの《ヴァルク・バアル》。

 スペクトラ・マクレディの《ヴァルク・イシャー》。

 それぞれ、トウマ、クスハ、クォヴレー、セレーナと因縁ある相手であり強敵だ。

 さらに巨人族との戦闘経験を反映した超巨大要塞型《ズフィルード》、第一艦隊の決戦兵器《ズフィルード・エヴェッド》が行く手を阻む。

 激しい砲撃の嵐と、ディフレクト・フィールドの鉄壁はまさに難攻不落の要塞と言える。

 だが、新たに結成されたサウンド・フォースの歌による援護を受けたαナンバーズの総攻撃に、第一艦隊司令エペソ・ジュデッカ・ゴッツオともに倒れた。

 

 しかし光龍め、よりにもよってバルマーにつくとは。超機人の役目を忘れたか。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月*日

 地球圏、火星 エリシオン基地 《ラー・カイラム》の一室

 

 ネルガルから木星圏に異変アリという一報が入る。

 機界原種の来襲を察知した連邦宇宙軍は、《ユーチャリス》を改装した《ナデシコYユニット装備型》を筆頭にした艦隊を派遣、旧木星帝国の住民の救助活動を行っているそうだ。

 

 木星、ゾンダーとの決戦、か。

 この戦いがこの戦争の一つの区切りになるような、そんな予感がするな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ◎月※日

 地球、極東地区日本 科学要塞研究所 《ラー・カイラム》の一室

 

 長い戦いだった。

 クロスゲートから現れた宇宙怪獣の群れを退け、原種の罠に嵌まってクライン・スペースに閉じこめられるも突破。木星にあるザ・パワーを得たゾンダーのマスタープログラム、Zマスターを獅子王博士と《ジェイアーク》の犠牲を出しつつも撃破。

 さらに帰還した地球では、命さんがかつてパスダーにより植え付けられた種子が発芽、変異した機界新種(ゾヌーダ)の《ゾヌーダロボ》と東京市を舞台に激闘を繰り広げた。

 あらゆる物質を石ころ同然に変える「物質昇華」の猛威を潜り抜け、《ガオガイガー》の《ヘルアンドヘブン》が《ゾヌーダロボ》のコアを摘出、護渾身の浄解により命さんは救われたのだった。

 

 だが、満身創痍のαナンバーズに追い打ちを掛けるように、ゴラー・ゴレム隊が襲いかかる。

 Zマスターとの戦闘と、ゾヌーダ出現によるトラブルで出撃できなかった《エグゼクスバイン》、《ビルトファルケンL》、《龍虎王》、《雷鳳》、《ベルグバウ》、《ASソルアレス》、《ビルトビルガー》と《ビルトファルケンR》、《ベガリオン》が迎え撃つ。

 しかし、主力を欠いた上に多勢に無勢、追いつめられるオレたち。絶体絶命の危機に駆けつけたのは、心強い仲間たちだった。

 リュウセイとヴィレッタ大尉、ゼンガー少佐とレーツェルさん。そして、《メギロート》の群れを《サイフラッシュ》で消し飛ばすお約束の流れで、《サイバスター》率いるアンティラス隊が参上したのだった。

 これで形勢逆転、ゴラー・ゴレム隊は壊滅的打撃を受けて逃げ帰った。

 

 

 さて、新メンバーの紹介だ。

 クロスゲートから現れたかりそめの旅人、《テムジン 707J》のチーフ、《アファームド・ザ・ハッター》のハッター軍曹、《フェイ・イェン・ザ・ナイト》ことフェイ・イェン――、いわゆるバーチャロンチームにはもう一人(?)、イレギュラーがいた。

 電脳の歌姫、《フェイ・イェンHD》である。

 フェイ・イェンの二人には「おまえら同一人物なんじゃねーの?」とツッコんだが、「「なんだかよくわかんない」」とユニゾンで返された。また無限力の仕業か。いい加減にしろ。

 

 とりあえずややこしいので、《HD》の方は中の人に因んでミクと呼ぶことに。そう提案したら「この子を知ってるの?」と驚いていた。

 チームD、JUDA特務室のメンバー、《エルシャンク》隊、《マジンガーZ》と各種《ガンダム》を見て反応を示していたことから、どうやら「UX」世界か、それに近い宇宙からきたようだ。「誰かの歌が聞こえてきたんだ」とは本人談だが、誰かって誰さ。

 

 木星決戦では、GGGアメリカに保護されていた《テッカマンレイピア》こと相羽ミユキが《マイク・サウンダース13世》の新武装を届けに参戦した。

 身体の方は大丈夫なのか、とそれとなく聞いたら言葉を濁された。そういうことか。なんとかしなきゃな。

 

 リュウセイは、《アルブレード・カスタム》で参戦だ。

 敗北の後遺症で念動力を失ってなお、バルマーと戦おうとする彼はまさしくヒーローだ。オレもダチとして、全力で力になってやりたいと思う。

 また、ゼンガー少佐の《ダイゼンガー》は設計者直々に改修を受けたそうで、《ゼネラル・ブラスター》、《ダイナミック・ナックル》の固定武装が解禁されていた。

 レーツェルさんのダブルG、《アウセンザイター》との合体攻撃《竜巻斬艦刀・逸騎刀閃》は強力無比だ。

 

 おなじみ、マサキとリューネのラ・ギアス組。今回は仲間も伴ってやってきた。とはいえ、イージス事件時のメンバーのみだが。

 ラ・ギアスの方にはきちんとした母艦もあるのだそうなのだが、諸事情により持ってきていないらしい。こっそりセニアに理由を聞いたら、「お金の問題よ、お金の」とげんなりした様子で答えられた。世知辛ぇえ。

 シラカワ博士は別行動とのことで、率直に残念がったら「なんでぇ、シュウの方がよかったってのかよ」とマサキがふてくされていた。

 いやいや、お前らが来てくれてうれしかったって。

 

 ゾンダーが滅び去り、護は生まれ故郷を訪ねるべく《ギャレオン》とともに、外宇宙へ旅立っていった。

 ケンタに次いで護も旅立ち、銀河や北斗ら、年少組がしんみりしていたな。

 ウチの妹様もだいぶ落ち込んでいて、慰めるのが大変だった。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月*日

 地球、極東地区日本某所 「愚裸美温泉」の一室

 

 ったく、ひでー目に合ったぜ。

 

 激戦の労を労うということで、サンドマンがαナンバーズ全員を個人所有(!)の温泉地に招待してくれた。

 慰安旅行中(という名目で、かなめの身の安全を確保しているらしい)の《トゥアハー・デ・ダナン》のメンバーとなし崩し的に合流、英気を養ったわけだ。

 

 で、せっかくの温泉ということで、甲児、豹馬、ボス一味他有志を引き連れて女湯を覗きに行ったんだが、失敗してエラい目にあった。

 アーマラの奴、殺す気で発砲してきやがって。死ぬかと思ったぞ。

 まあ、その模様はいつか別口で披露することにして。

 

 温泉地にほど近い火山の火口内からゼラバイア、《炎獄の竜神 マグガルド》が出現。それに便乗して、デビルサターン率いるギャンドラー一派が攻撃を仕掛けてきた。

 

 だが悲しいかな、シチュエーションが悪かった。

 FIRE BOMBER with アーズガルツメイド隊の「合神!ゴッドグラヴィオン(サンドマンの合いの手つき)」から、FIRE BOMBER with フェイ・イェンHDによる「SKILL」のメドレーをバックに、気力を大いに充填したαナンバーズの総攻撃を受けたんだからな。

 デビルサターンはギャグ担当だし、お誂え向きのシチュエーションだったか。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月#日

 地球、某所 バベルの塔

 

 現在αナンバーズ艦隊は極東支部で激闘のダメージを癒している。

 で、オレたちはというと、孔明から連絡を受け、バベルの塔に帰ってきた。

 ことの発端であるウチの博士の依頼で、マサトと美久、赤木のリッコさん、セニアとウェンディさん、両サコン氏、ターサン博士とアール博士が同行者だったり。多いわ!

 

 つーか、着いてびっくりした。

 光子力研究所の弓博士と新早乙女研究所の早乙女博士、科学要塞研究所の兜博士らを筆頭に、有名どころというかαナンバーズに関係する科学者・技術者が勢ぞろいしていたんだからな。

 イルム中尉の親父さん、ネート博士と安西博士、ロブとカークさんもいた。GGG代表の獅子王雷牙博士が「弟も参加したかっただろうね」と言っていて、ほろりとした。あ、プラート博士なんかもいたぞ。

 

 第二次EOT会議とでも言うべきか、博士の音頭で地球と異星、異世界の頭脳が一堂に会したこの会議。

 議題はアポカリュプシスと無限力について。あと、なんかみんなの知恵を出し合って一つのものを作り上げるらしいが。

 まあ、途中で追い出されたんだけどな!

 

 何を作るつもりなのかを発案者の博士に聞いてみたのだが、「それはヒミツだよ、イング」とウィンクを交えてはぐらかされた。あの人、いい年してお茶目というか子供っぽいところがあるんだよなぁ。ろくなもんじゃないな、こりゃ。

 リューネにだってまだ会うつもりはないらしいけど、その理由が「相応しいタイミングというものがあるのだ」ってことだし。

 

 追記。

 ガルーダとネプチューンの改修作業はまだ続いている。

 どうやら博士がノリにノってしまったらしく、近代化改修に留まらないマ改造を施しているとのこと。もしかしたら今回の集まりにも関係しているのかと思うと、戦慄を禁じ得ないな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月¥日

 地球、極東地区日本 科学要塞研究所 《ラー・カイラム》の一室

 

 ようやく本隊に合流した。

 第二次EOT会議は一週間も続いたわけだが。

 

 今日の出来事。

 科学要塞研究所近くに停泊していた《シティ7》内にクトゥルフの戦士、イクサー2が進入した。

 再び姿を現したイクサー1、サイボーグ宙、セレーナと協力し、撃退に成功する。

 しかし、クトゥルフの新型、ではなくムーンWiLLの生み出した戦闘メカ《レギュラスα》が現れた。あ、《ディロスθ》ももちろんいたぞ。

 

 イクサー2が《イクサーΣ》を持ち出して決戦を挑む。

 援軍として《Rーダイガン》と《ブラックウィング》、そして新たな勇者王が登場する! ファイティングメガノイド《ガオファイガー》!

 純地球製《ガオガイガー》、生機融合体「エヴォリュダー」に進化した凱さんのGパワーを受けた新しい勇者王の戦いぶりは、圧倒的と言う他なかった。

 

 《イクサーロボ》同士の戦いに勝利したのはイクサー1と渚だった。

 戦闘後、イクサー1はαナンバーズに同行することを表明、渚もようやく覚悟を決めた様子だ。

 

 が、新たな問題も噴出した。

 戦闘終了間際、ガルファの機獣に隙を突かれ、拘束された《凰牙》が連れさらわれるというアクシデントが起こった。

 確かにそんなイベントもあったな、と今更ながら思い出し、大いに凹んでいるところだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月*日

 地球、太平洋 《ラー・カイラム》の一室

 

 JUDAのメンバーが一時本拠地に帰還すると聞いて嫌な予感がしたんだが、大当たりだ。

 

 森次が加藤機関に寝返り、JUDA本部は壊滅、石神社長が殺害された。彼らの真意を知っているとはいえ、やるせない。

 さらに、それに呼応するようにクーデター軍が決起し、地球安全評議議事堂を占拠すると同時に、バイオネットやアマルガム残党、さらには最近影の薄かった地下帝国までもが世界各地で混乱を引き起こした。

 当然、αナンバーズが行動を開始。まずは全軍で、人質に取られた地球安全評議会のメンバーを解放に向かう。

 

 現場に急行するオレたち。

 敵は当然の如く加藤機関とクーデター軍。アルマとマキナ、そして型落ちの機動兵器。人型アルマことジャック・スミスを生身で一騎打ちして投降させつつ、クーデター軍を壊滅させた。

 というかハマーンさんが《キュベレイ》を議場近くに持ち込んでいたらしく、一人でリアル無双状態だったんだが。オレたちの出る幕ないじゃんか。

 

 マズい事態は立て続けに起こるもので。戦闘後、グランナイツ内にゴタゴタが発生、リィルが戦闘不能、ミズキさんはチームを抜けるという体たらく。

 ここに来て、嫌な流れだな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月○日

 地球、極東地区日本 科学要塞研究所 《ラー・カイラム》の一室

 

 月軌道上に、突如として巨大な戦艦がワープアウトしてきた。

 地球圏はクーデター軍の決起もあって大混乱だ。

 

 外宇宙の事情通、ターサン博士によれば、ワープアウトしてきた不明艦は共和連合ゾヴォークの大型砲撃艦、《ウユダーロ級制圧砲艦》とのこと。

 ついに出たか、ゾヴォーク!と身構えたところに、意外な人物からメッセージが届いた。

 

 その人物とはシュウ・シラカワ。地球圏でも一二を争う天才科学者にして、《グランゾン》のパイロットだ。

 なんとシラカワ博士は封印戦争後、旧DC時代から持つ独自のコネクションを駆使してゾヴォークの枢機院に接触、連邦政府との同盟締結を働きかけていたのだという。オレは知らなかったが、すでにグローバル議長やミスマル提督、大河長官らには内密に話しを通していたらしい。まあ、なにやら個人的な思惑も絡んだものらしいが。

 で、ゾヴォークの意向だが。この宇宙的危機に際し、渦中の地球と連携して滅びを乗り切りたいというのだという。しかし、聞いた話によると政敵暗殺上等なドロドロとした社会構造をしているらしいし、真意は定かではない。

 まあ、仮にも共和制の国だし、同盟相手としてはバルマーや星間連合よりマシだろう。

 大河長官らは連邦政府を代表して彼らと会見を目指すようだが、はてさて、どうなることやら。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月◇日

 地球、極東地区日本 科学要塞研究所 《ラー・カイラム》の一室

 

 引き続き、世界規模の混乱は続いている。αナンバーズは母艦ごとに五つ部隊に分け、同時進行で事態の収拾を図ることになった。

 

 アラスカ、現地球連邦最高司令部「JOSH-A」防衛に向かうのは、《ラー・カイラム》と《アークエンジェル》隊。

 戦力はモビルスーツを主力に、《ボルテス》チーム、《ゼオライマー》、獣戦機隊、《ダイモス》チーム、チームDだ。

 

 北米地区、GGGアメリカの支援に向かうのは二隻の《大空魔竜》。両《ガイキング》とGGG機動部隊、《ゲッター》チーム、《レイズナー》チーム、スペースナイツ、大作と銀麗さんが同行する。

 クスハ、ブリットとSRXチームはこの部隊である。

 

 日本地区防衛に残るのは《キング・ビアル》。竜魔帝王により統一された地下帝国を抑え、ガルファから北斗を取り戻すのが主な目的だ。

 主な陣容は《鋼鉄ジーグ》、《マジンガー》チーム、《コンバトラー》チーム、GEAR、J9、《ザンボット3》、旧JUDA特務室のメンバー。グランナイツも諸事情により居残。J9はオレが無理を言って加えてもらった。

 トウマ、ミナキ、ゼンガー少佐とレーツェルさんも残るようだ。

 

 宇宙に出て、星間連合とザフトに睨みを利かすのは《ナデシコC》と《エルシャンク》。

 両艦の専属機、《ライディーン》と《ラーゼフォン》、《グレンダイザー》、《ダンガイオー》チーム、《ダルタニアス》、《ドラグナー》チーム、トビアら旧宇宙海賊が戦力だ。

 クォヴレー、アラドとゼオラにはザフト相手にがんばってもらいたい

 

 最後に、ゾヴォークと接触するのは《バトル7》と《ソロシップ》。

 《バルキリー》全般に《イデオン》、旧ネルフ組、《ガーランド》、イクサー1と渚、《ゴーショーグン》チーム、ラ・ギアス組、《ゴライオン》チーム、バーチャロンチームが参加する。

 シラカワ博士と顔見知りらしいセレーナ、スレイはここだな。

 

 さて、オレとアーマラ、イルイだが、《ラー・カイラム》隊に加わってアラスカに行くことになった。

 ブライト艦長曰く「アラスカでは激戦が予想される。頼りにしているぞ、イング」とのこと。ブライトさんにそこまで言われちゃ、張り切らないわけにはいかないよな。

 

 嫌な予感がビシビシ感じやがるが、オレの身は一つしかないのが辛いところだ。

 孔明と国際警察機構に各部隊のフォローをするよう依頼しておこうと思う。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月@日

 地球、太平洋 《ラー・カイラム》の一室

 

 《ラー・カイラム》隊は海上を移動中。

 敵に遭遇するわけでもなく、静かなものだ。不気味すぎるほどな。

 

 日本地区の《キング・ビアル》隊から火急の知らせが入った。

 《ゴッドグラヴィオン》の敗北とグランナイツの崩壊だ。

 無人操縦装置取り付けのため、単独行動しているところをゼラバイアに狙い撃ちにされたらしい。

 エィナの犠牲と、ルナの失踪。

 盗用した《グラヴィオン》のデータから生み出された連邦軍の特機、《グラントルーパー》隊も現れたようだ。

 

 原作の流れから考えるに、ルナが連邦政府、いやブルーコスモスあたりに捕らえられているはずだ。ここはコスモレンジャーJ9の出番だな。

 あと、シャッセールの“獅子の女王(リオン・レーヌ)”にも救出依頼をしておこう。

 

 とはいえ、こっちにもよそを心配している余裕はない。

 アズラエルからの連絡によればハザードが暗躍しているようだし、アラスカでは何が起こってもおかしくないんだ。

 ミスマル提督のような実力実績のある高官が後ろ盾についてくれているのだし、さすがに反逆者扱いはないと思いたいが。

 

 

   †  †  †

 

 

 アラスカ、地球連邦最高司令部「JOSH-A」。ヘリオポリスから長い道のりを経て、《アークエンジェル》は旅の目的地にたどり着く。

 しかしそこはすでに、ブルーコスモスの巣窟と化していた。

 

 失脚したはずの三輪長官により査問と称して拘束されるブライトやマリュー。αナンバーズのメンバーも相手が仮にも味方とあって、無抵抗で拘束されてしまった。

 しかし、アズラエルからの警告を受け、また半ば予想していたイング――地球圏最強の汎超能力者の前には生半可な謀略など意味をなさない。

 アキレスを密かに潜入させ、αナンバーズの戦力を手中にせんとする連邦軍強硬派の罠を力づくで食い破り、入り込んでいたズールの手の者、ゲシュタルトらを蹴散らしてイングはエクス、アキレスを連れて司令部に進入する。

 

 何も知らない司令部職員を国際警察機構の威光で黙らせ、端末に取り付く。

 バルマー戦役から続く長い戦乱における英雄イング・ウィンチェスター、国際警察機構の「ワンゼロワン」の勇名は連邦軍内外にも響きわたっている。ましてやここは仮にも連邦軍の頭脳、彼を知らぬものはいなかった。

 

「これは……!」

 

 基地システムにアクセスした結果得た情報に、イングは瞠目した。

 

「中性子爆弾……核だと!?」

「イングさん、この量の核爆弾が爆発したら、地球は……!」

「わかってる! クソッ!」

 

 二人のやりとりを聞いて、司令部は俄に騒然となる。

 アラスカの地下深くにあったのは、ドクーガのネオネロスも用いた旧世紀の悪しき遺産。その物量は、一度爆発すれば地球を死の星にしかねないほど。 

 悲鳴と戸惑いが交錯する中、イングは爆発を阻止すべく、あらゆる手段を用いる。エクスも、その演算能力を駆使してサポートする。

 だが――

 

「駄目だ、停止信号を受け付けない!」

「こっちもだめですっ! システムが切り離されてるの!?」

 

 エクスの悲鳴にも近い叫びが響いたとき、司令部内に警報が響きわたる。

 広域警戒網を映した特大のモニターには、不吉な赤い光点が次々と点灯していった。

 

「敵襲っ!? ザフトの大部隊が、大気圏外から降下してきます!」

「オレたちを餌に誘い込んだ……? いや、違うな、惨たらしい戦争によって地球を苦悶と絶望で満たす、それがズールとムゲの狙いか!」

 

 「パナマじゃないのか?」「そんな、どうして!?」――悲鳴や怒号を背に、イングはやりどころのない苛立ちを拳に固めて目の前のコンソールに叩きつける。

 砕けるコンソールには見向きもせず、彼は身を翻した。

 

「みんなを解放して迎え撃つ! ゼオライマーの次元連結システムなら、核爆発だって宇宙に逃せるはずだ!」

「はい!」

 

 

 途中、独自に進入していた岡長官、アラン・イゴールと協力し、囚われていた仲間たちを解放。さらにイングは、半ば強制的に転属を命じられていたナタル、フレイ、ムウの三名を確保した。

 何も知らず、未だ基地内に残る大勢の職員の避難を岡長官らに任せ、迎撃に打って出る。

 

 灰色に曇った空を覆い尽くさんばかりに押し寄る、ザフトのモビルスーツ。そして、星間連合の戦闘メカ群。

 ザフト乾坤一擲の作戦、「オペレーション・スピットブレイク」。全軍に近い戦力と《ゴーストX9》まで投入して、連邦軍の本丸を落とさんと猛進する。――そこに悪辣な罠が待ちかまえているとも知らずに。

 

 守備隊の《イージス艦》や《ジェガン》、《ドラグーン》が必死の抵抗を続けるが多勢に無勢、成す術なく破壊される。

 職員避難の時間を稼ぐため、前面に出てザフトの攻撃を一身に受ける《ラー・カイラム》、《アークエンジェル》。全域に核爆弾の存在を告げるが、ザフトは聞く耳を持たず止まらない。

 母艦を守るために、アムロ率いるモビルスーツ部隊は必死の抵抗を続ける。それが、ザフトを深みに引きずり込む結果になるとわかっていても――

 

 

「はぁ……、はぁ……!」

 

 白いモビルスーツ《ストライクガンダム》のパイロット、キラ・ヤマトもまた泥沼の戦場にいた

 不意に、《グゥル》に騎乗した《ジン》を高出力ビームが射抜く。

 

「な、なんだ……トーラスに、ジム? いや、新型?」

 

 キラは、カメラに映る《ジン》を撃破したと思わしき機影に怪訝とする。

 編隊を組んで飛行する黒い可変モビルスーツ《トーラス》、その上にシンプルな青いモビルスーツが騎乗していた。

 連邦的な、どこか《ストライク》を思わせる意匠のモビルスーツ部隊は《トーラス》とともにザフトを攻撃する。

 

「援軍なの?」

 

 ふと気を抜いたキラをあざ笑うかのように、不明機が《ストライク》に向けてビームライフルを発砲する。半ば反射的に構えたABシールドがビームを拡散させた。

 衝撃に軋むコクピットで、キラは混乱する。

 

「コイツ、撃ってきた!?」

『キラ!』

 

 ウェイブライダーから変形した《Zガンダム》がビームライフルの引き金を引き、《トーラス》と謎の新型を破壊した。

 《ストライク》の傍らに、《Zガンダム》が着地する。

 

「カミーユさん!」

『ソイツらは無人機、モビルドールだ! 遠慮はするな!』

「は、はい!」

『モビルドールなんて持ち出しちゃって、どこのどいつよ?』

 

 カミーユの忠告を受け、キラはトリガーを引く。

 上空ではモビルアーマー形態の《ガンダムZZ》がミサイルの雨を降らせながら、旋回していた。

 

 

『殺気!?』『キラッ、避けろ!』

 

「え――うわぁっ!?」

 

 カミーユ、ジュドー、二人のニュータイプが捉えた

 強烈な()()()()ビームが、《ストライク》を襲う。

 ビームは偶然構えたままだったシールドに直撃し、それを融解させながら弾き飛ばした。

 

『――フンッ、唯一の成功体と言えど、ガンダムが出来損ないではこのザマか』

 

 そんな敵意に塗れた声が吹き飛ばされた《ストライク》のコクピットに響く。どこか自身に似たその声色に、キラの困惑は深まる。

 アラスカの深い森から姿を現したのは、白と赤を基調とした“ガンダム”。

手にはサブマシンガン状の銃器を持ち、背中にはビームを放ったであろうウィングバインダーを背負っていた。

 

『ガンダムタイプ? また新型ってわけ?』

『気をつけろ、キラ。生半可な相手じゃなさそうだ』

 

 《Z》と《ZZ》が膝を突く《ストライク》を庇うように立ちふさがる。

 赤白のガンダム周囲には、複数の新型機が従っていた。

 

『Zに、ZZ……バルマー戦役時代の骨董品か。ガンダムは、このハイペリオンガンダムだけでいい! そしてキラ・ヤマト! 貴様は俺が倒す!』

 

 キラと同じ声をした男――カナード・パルスは、強烈な憎悪を露わにし、《ストライク》にぶつけた。

 

 

 作戦を完遂するためにブルーコスモス、あるいはゼーレが差し向けた刺客たちが戦場に乱入する。

 《ストライク》の流れを汲む戦時簡易量産機、GAT-01《ストライクダガー》。

 機体自体は大幅にデチューンされているものの、動力源にはミノフスキー型核融合炉を採用しており、パワーだけなら原型機を遙かに凌ぐ。

 そして、試作型モビルスーツCAT1-X1/3《ハイペリオンガンダム》。

 同じくミノフスキー型核融合炉を動力源に、新型ビームシールド「光波(アミューレ・)防御帯(リュミエール)」を装備した最新鋭の“ガンダム”だ。

 

 モビルドールに制御された《トーラス》、《サーペント》、《ギラ・ドーガ》、《ドーベンウルフ》に加え、元ティターンズの生き残り、ヤザン・ゲープルや元アマルガムのガウルンらが猛攻を掛ける。

 核爆発が迫っているというのに、まるで死兵のように――実際、自らの死を恐れてはいまい――躊躇のない攻撃は脅威的の一言だった。

 

 一方、核爆発に備えるマサトと《ゼオライマー》の前には、八卦衆の生き残り、塞臥(サイガ)が立ちふさがる。

 風、火、水、月、地、山、雷――かつて撃破された八卦ロボの要素を一つに集めた異形にして巨大な特機、《ハウドラゴン》。

 鉄甲龍の名を関した最期の八卦ロボが、“天”を追い落とさんと襲いかかった。

 

『八卦ロボの武器に、このパワー、ゼオライマーと同等とでも言うのか!?』

『マサトくん!』

『フハハハハハ! この程度か、木原マサキ!』

『違う! 僕は秋津マサト、木原マサキじゃない!』

『フン、ならば貴様の代わりに俺が冥府の王となってやろう! このハウドラゴンでな!』

 

 激突する《ゼオライマー》と《ハウドラゴン》が、天地を揺るがした。

 

 

 海上では、《エグゼクスバイン》と《ビルドファルケン・タイプL》が星間連合を相手どりに奮闘していた。

 周囲には《ダンクーガ》ら特機部隊が撤退の準備をする輸送艦を守るべく、敵機を撃墜している。

 また、イザーク、ディアッカ、ニコルの三名が同胞たちに罠の存在を訴えるが、聞き入れられない。皆熱狂に浮かされたように、我先に基地へと突入していく。

 

『ザフトめ、星間連合と組みしていたようだな』

「そうらしい。つーか、奴ら外面を取り繕う気もなくなったらしいぜ」

『――厄介なことだ、なッ!』

 

 互いの死角をカバーするように、背中合わせで銃器を放つ両機。息のあった華麗なコンビネーションで敵機を寄せ付けない。

 その周囲では、《TーLINKレボリューター》と《TーLINKリッパー》が乱舞して鉄くずを量産していた。

 

「現在、避難率35%。爆発までの時間は不明です!」

「っち、こいつはマジでやべーな。マサトたちは動けねぇし……最悪、オレが核爆発を転移させるしかないか」

『できるのか、そんなこと』

「できるできないじゃねぇ、やるしかねーだろ」

『しかし、お前は――』

「! アーマラッ!」

『ッ!』

 

 イングの発した警告に、アーマラは思考の間もなく反応した。

 阿吽の呼吸でその場を離れる二機の凶鳥。そこに、一筋の落雷が降り注ぐ。

 曇天から次々と落下する稲妻。

 αナンバーズ、連邦軍、ザフト、星間連合――強烈な雷光は勢力を問わず降り注ぎ、戦場を無造作に蹂躙する。

 

『雷だと?』

「これ、自然現象じゃありません! 上空に強力なαパルス反応! ――きますっ!」

 

 エクスの警告とともに、一際巨大な落雷が戦場を切り裂く。

 長城の如き巨体が、灰色の雲海を悠然と泳ぐ。万雷を轟かせ、万里の龍神が姿を現した。

 

「応龍の超機人、応龍皇! 孫光龍!」

『やあ、火星ぶりだね、バビル二世』

「テメェ! こんなところにノコノコやってきて、何のつもりだ!」

 

 全長推定8,000km、巨大なる超機人は、まるで下界に溢れる塵芥を見下す天上人のように。

 

『何のつもり? もちろん、キミを倒すためさ。かつてこの応龍皇を下したキミの先代、ビッグ・ファイアはもうこの世にいない。そしてナシムもガンエデンを失ってあのザマさ。あとはキミさえ消えれば、応龍皇に敵はないんだ』

 

 自身の狙いを明かす光龍。

 歪んだ念と不快な思惟を感じ取り、イングの眉間に深い皺が寄る。

 

『それに、僕の今の雇い主がマシアフ――イルイの身柄をご所望でね。邪魔なキミにはここで消えてもらおうってわけだよ』

「させると思うか、光龍!」

『ありきたりなセリフをありがとう、二世。僕からも一言遅らせてもらおう』

 

 光龍は、道化の仮面を被ったまま、殺意を露わにした。

 

『僕はね――、キミみたいに暑苦しい奴が大嫌いなのさ!』

 

 鳴り響く雷光とともに、応龍の超機人がその顎門(アギト)を開く。

 

 

 

 

 アラスカ上空、衛星軌道上。

 白い翼を持つ優美なピンク色の戦艦から、三機の機動兵器が発進した。

 

 桃色に染めたザフトの高級士官用パイロットスーツを着た少女が、やや緊張した面もちでシートに収まっていた。

 アラスカの地で死闘を繰り広げる友人たちを救援すべく、周囲の反対を押し切ってここにいる。

 

「これが、地球……わたくしたちヒトの生まれた星……」

 

 今、彼女の眼前に広がるのは母なる惑星(ほし)、地球。その雄大な威容に、その美しいまでの碧に、少女は感銘を受けると同時に微かな恐れを覚えていた。

 

『本当に大丈夫なのか? 君は軍事的な訓練を受けていないんだ、余り無茶をするべきじゃない』

 

 サブモニターに映るいわゆるザフトレッドのパイロットスーツに身を包んだ少年が、気遣わしげに声をかける。

 少年は、全天周囲モニターに映し出された背中に“リフター”を背負ったワインレッドの“ガンダム”に搭乗しており、少女の乗るモビルスーツと手を繋いでいた。

 

「だいじょうぶですわ。わたくしも、お友達の助けになりたいのです。それに、あなたがエスコートしてくださるのでしょう?」

『あ、ああ』

 

 少女のたおやかな笑み。少年は言葉に詰まり、反射的に頷いていた。

 

『二人とも、お喋りはそこまでにして』

『アラスカの戦況は芳しくないみたいだ。急いだ方がいい』

 

 凛々しい面差しの女性が二人を咎め、続いて柔和な印象の青年がわずかに急いた様子で告げる。

 彼らは友人の身を心配して、気が急いていたのだ。

 

「ごめんなさい、わたくしはいつでも行けますわ」

『こちらも準備完了しています』

 

 出発を促され、少女と少年が表情を改めた。

 少女の機体の全天モニターには、少年の赤い機体とは別に、もう一機の機動兵器が。映し出されている

 船舶に似た機体に搭乗した黒と紫紺の機動兵器――ブレードアンテナこそ四本になっているものの、事情通ならばある意味特徴的なフェイスデザインでその素性を理解するだろう。

 

 “バニシング・トルーパー”、《ヒュッケバイン》と――

 

 

 

 ビームサブマシンガン《ザスタバ・スティグマド》が放つメガ粒子の直撃を受け、《エールストライカー》が損傷、爆発する。

 キラは死の恐怖を押し殺しながらもはや邪魔にしかならない《ストライカー》を破棄、その勢いと本体の貧弱なスラスターの推力を全開にして反転し、《ビームライフル》を撃ち放つ。

 狙い違わぬ射撃はしかし、《ハイペリオン》のビームシールドの前には無力だった。

 

「やっぱり、ビームが……!」

 

 キラは歯噛みする。

 《ストライク》のビームライフルは《ハイペリオン》の代名詞、光波防御帯に阻まれる。

 バルトフェルドが“バーサーカー”と表したその未知なる能力も、厳然たるスペック差を埋めるまでには至らない。

 

『そらそらそらぁ! どうしたキラ・ヤマト! 成功体の力はその程度かぁ!』

「き、君はいったい!?」

『ふんっ、やはり何も知らないか。でなければ、そのように惰弱ではいられん!』

 

 《ハイペリオン》のパイロット――、カナード・パルスは無知を嘲り、憎悪をキラにぶつける。

 見に覚えのない弾劾。だが、相手の声を聞いていると自分とは無関係とは思えず、キラは心身ともに追いつめられていった。

 

 バッテリー駆動の《ストライク》では、核融合炉を持つ《ハイペリオン》に歯が立たない上、鉄壁とも言えるアミューレ・リュミエールの前には《ストライク》のあらゆる武装は通用しない。

 友軍機は皆、それぞれ戦闘中で孤立無援。いつでも血祭りに上げられると、カナードはキラを、《ストライク》をことさらにいたぶっていたのだ。

 

 頭部がえぐられ、左腕が切り飛ばされ、ライフルが潰される。《ハイペリオン》によって《ストライク》は無惨な姿に変えられていく。

 ついにビーム刃が前面の装甲を切り裂き、コクピットが露出した。

 

「う、うわああっ!」

 

 ついに、キラの口から悲鳴が飛び出した。

 核融合炉のパワーが込められた蹴りを胴体に受け、吹き飛ばされた《ストライク》が木々をなぎ倒す。フェイズシフト(PS)装甲でなければ、真っ二つに折れてもおかしくない衝撃がコクピットを軋ませた。

 

「ぐぅぅっ!!」

『これまでだな。――死ね、キラ・ヤマト!』

 

 無慈悲な言葉とともに、ビームサブマシンガンの銃口が無様に擱坐した《ストライク》を捉える。

 そのとき、天空より一筋の光が降り注ぎ、《ザスタバ・スティグマド》を射抜いた。

 

『!?』

「えっ!?」

 

 何者かの狙撃により主武装を失った《ハイペリオン》はそれを投げ捨て、腕の光波防御帯を展開して後退する。

 同時に、込められたメガ粒子が。

 轟く爆音。膨れ上がる爆炎が《ハイペリオン》の姿を一瞬覆い隠した。

 

『ちぃ、新手か!? どこから――』

 

 苛立つカナード。地面を這うように、赤いリフターが猛スピードで強襲する。

 咄嗟に飛び退く《ハイペリオン》の頭上から、赤い“ガンダム”が《ビームサーベル》を落下ざまに振り下ろす。

 

『おおおおっ!』

『ぐぅぅッ、邪魔をして!』

 

 咆哮一閃。ビームとビームが激突し、粒子と爆光が迸る。

 シールドに防がれた赤いガンダムは、手に持ったサーベルを腰にマウントされたもう一本と連結、長刀状にして追撃する。両端からビーム刃の延びたサーベルを器用に操り、《ハイペリオン》を追い立てていった。

 

「あのガンダムはいったい……?」

 

 もはや動くことさえままならない《ストライク》の前に、青い翼の“ガンダム”が降り立つ。

 その“ガンダム”は倒れた《ストライク》のすぐ側に寄り添うようにして膝立ちとなり、フェイズシフトダウンする。そして、人体で言う鎖骨の間からシートがせり上がってくる。

 ピンク色のスーツを着たパイロットはベルトを拙い手つきで外し、ヘルメットを脱ぎ捨てる。コーディネーターの優れた視力が、その人物の素顔を捉えた。

 

「……えっ、ラクスさん!?」

「はい!」

 

 明るい返答とともに、ラクスはシートから飛び降りるようにしてモビルスーツの手の上に降り立つ。その危なっかしい様子を見せられたキラは、はらはらして思わずコクピットから身を乗り出して彼女を出迎えた。

 軽快な足取りで傷ついた《ストライク》の、キラの元にたどり着いたラクスは、一転して頬を膨らませる。

 

「キラ、わたくしのことは“ラクス”とお呼びくださるよう、お願いしましたのに」

「あ、うん、ごめん……って、そうじゃなくて! どうしてラクスさ、ラクスがこんなところにいるのさ!」

 

 混乱気味のキラに、ラクスはふわりと微笑む。

 その可憐な笑顔に追求の言葉を失うキラ。親友が同じようにやりこめられたことを知る由もない。

 

「熱気バサラさんの姿を見て、わたくしは思ったのです」

「バサラさんの?」

「はい。わたくしもただ平和を願うだけではなく、行動しなければと。……力だけでも、想いだけでもだめなのです。耳に心地いい理想を歌うのは簡単で、それだけでは世界を変えることなどできないとわかったのです」

 

 ラクスは胸元で手を組み、祈るように切々と言葉を紡ぐ。

 

「この星を平和を取り戻すために、そしてほかの星々の方たちと手を取り合うために……その始めの一歩として、このモビルスーツ――、フリーダムをキラに託します」

「フリーダム……」

 

 こちらに。ラクスに誘われ、キラは“ガンダム”のコクピットに足を踏み入れる。

 ラクスと肩が触れ合う距離に。

 立ち上がるOS。ザフトの軍章が表示され、次いで文字の羅列が流れていく。

 

 Generation

 Unsubdued

 Nuclear

 Drive

 Assault

 Module Complex――

 

 《ストライク》のOSと同じ「G.U.N.D.A.M」のアナグラムにキラは思わずくすりと笑みを漏らした。そして、モニターに表示されるスペックに目を通していく。

 その視線は、ある一点に釘付けとなった。

 

「動力は――レーザー核融合炉!? プラントは、ミノフスキー物理学を使わない核融合エンジンを完成させたの?」

「はい。ザラ議長……アスランのお父さまはわたくしの父に、「コーディネーターの意地だ」と仰っていたそうですわ」

 

 複雑な表情を見せるラクス。その凝り固まった考え方が愚かだと思う彼女はプラントにおいては異端だ。

 かたくなに、“ナチュラル”の生み出したミノフスキー物理学の使用を拒んでいたプラントが至った英知の結晶――ZGMF-X10A《フリーダムガンダム》。

 連邦が再び核融合エンジンを採用したことに対抗するかのように、プラントもまた新たなステージに足を踏み入れていた。

 

「これなら、あのガンダムとも戦える……!」

 

 キラは自身を散々に打ちのめした“ガンダム”に対して闘志を燃やした。

 《ハイペリオン》のパイロットと何らかの因縁があるのなら、自分はそれを知らなければいけない。漠然と、キラはそう感じていた。

 

『ラクス、キラは確保できたか!?』

 

 とそのとき、赤いガンダムタイプ――ZGMF-X09A《ジャスティスガンダム》から通信が入る。

 キラは聞き慣れた親友の声に驚き、顔を上げた。

 

「! アスラン!? もしかして、あの赤いガンダムに?」

『そうだ! キラ、詳しい話しは後にして、ラクスをアークエンジェルかラー・カイラムに下ろすんだ』

「いいえ。キラ、わたくしのことはかまわず、このまま戦ってください」

『ラクス!?』

「そんなっ、危ないよ!」

「わたくしが直接ザフトのみなさまに訴えかければ、この無意味な戦いを止めることができるはずです。違いますか?」

 

 真剣さを帯びた水色の瞳がじっ、とキラを射抜く。

 ただのぽやぽやとしたお姫様ではないことはキラとて理解していたが、ここまで意志の強いとは予想だにしていなかった。そしてその意志を曲げることは極めて難しいとも思い知った。

 

「……わかったよ」

「まあ! ありがとうございます、キラ」

『キラ!』

「アスラン、ラクスだって命懸けで戦うつもりなんだよ。平和の、みんなのために」

『キラ……。仕方ないな。その代わりキラ、お前がラクスを守るんだぞ』

「うん、わかってる」

 

 親友(キラ)の力強い答えにアスランは僅かに目を見開き、確かな

 

 ラクスをサブシートに座らせ――今回の作戦に合わせて急増で後付けされたものらしい――、キラは猛スピードでキーボードを叩いていた。

 時間はないが、多少になりともOSをカスタムし、万全の状態に持って行く。自分の命だけではなくラクスの命までかかっているのだ、妥協はしたくなかった。

 

「よし! 行くよ、ラクス」

「はい。キラはキラの想うとおりに戦ってくださいな。わたくしはザフトのみなさんに、戦闘を止めるように訴えてみますから」

「うん。くれぐれも、舌を噛まないようにね」

「ふふふ……はい」

 

 

 立ち上がる《フリーダム》。同時にフェイズシフト装甲が起動し、機体全体が鮮やかな白と蒼に色づく。

 それを待ち計っていたかのように、《ストライク》の残されたツイン・アイの片方から光が消え、フェイズシフトが落ちた。

 その姿がキラにはまるで、主の無事を確かめ、次なる“剣”に後を託して力つきたように見えて。

 

(今までありがとう、ストライク……)

 

 少なくない時間ともにした愛機の最期に黙祷を捧げる。

 最初はなし崩し的に巻き込まれ、嫌々乗っていた《ストライク》にも今や愛着を感じていたようになっていた。

 ヘリオポリスの友人たちや、αナンバーズの仲間たちとの交流と戦いを経て、キラはそれまで自分がいた平和の危うさを知り、同時に世界がどれだけ広かったのかを知った。

 そしてそれを護りたいとも思った。

 戦いを知らなかった子供だったからかこそ、純粋な思いで今のキラは戦っている。

 

 ――種子が弾けるイメージとともに、キラの視界はクリアに拓かれる。

 

「キラ・ヤマト、フリーダムガンダム、行きますッ!」

 

 蒼き双翼を広げ、新たな剣が自由と平和を求めて飛び立った。

 

 

 

『黄龍は神精! 応龍は四龍の長! よい子はねんねしな、ってね』

 

 雨を呼び、竜巻を呼ぶ。天候を支配する応龍の力。

 口から放たれた《応龍轟雷槍》が二羽の凶鳥を襲う。

 

「ぐ……!」

「きゃあ!」

『ちぃ!』

 

 野太い雷槍を回避する《エグゼクス》と《ファルケン》。その強烈な余波は念動フィールドを貫通し、少なくない損傷を受ける。

 濁った雲海を我が物顔で泳ぐ極大の龍は凶悪な雷光を纏い、下界を見下ろす。

 

『あははははっ、無様だねバビル二世! キミは確かに最強の強念者かもしれないが、そのガラクタでは十全に力を発揮できないようだ』

「っく、ヒュッケバインを――なめるなッ!」

『なめてはいないよ。正当に評価しているだけさ』

 

 《TーLINKセイバー》を引き抜いて突撃する《エグゼクスバイン》を、《応龍皇》の全身を覆う無数の鱗が分離した《龍鱗機》が向かえ撃つ。

 念動フィールド同士が激突し、スパークが迸った。

 

「っ、ごちゃごちゃと数ばかりいたって!」

『ハハッ、強がりだね。そいつらが何機いるのか、僕も知らないのさ!  数える のが面倒だからねぇ』

「数には数だ! TーLINKレボリューター!」

 

 《龍鱗機》はそれそのものが一個の超機人であり、《応龍皇》の鱗の数だけ存在する。

 念の刃が念動結界ごと《龍鱗機》を次々に両断していくが、多勢に無勢。《応龍皇》本体からの攻撃も加えられ、次第に《エグゼクスバイン》は追いつめられていく。

 

「スラスター噴射1秒ッ、UHBMで外力相殺……!」

「スライダー、四機喪失っ! トロニウム・レヴの出力、86%まで低下!」

『イング!』

 

 窮地のパートナーを救うべく、アーマラの《ファルケン》が果敢にも砲撃による援護を加えるが、《龍鱗機》の妨害で効率が上がらない。

 次第に追いつめられるイング。もがき足掻く様を光龍は嗜虐的に。

 そのときだ。

 

『!』

「この念は、もしや――!」

 

 イングと光龍、優れた強念者が強力な念を同時に関知した。

 次の瞬間、遙か彼方から飛来した六条の重力砲撃が十数機の《龍鱗機》をまとめて押し潰す。

 

 《エグゼクスバイン》のメインカメラが砲撃が到来した方角を捉える。

 水しぶきをあげ、海面スレスレを高速で滑るダークブルーのAM(アーマードモジュール)が、両舷のサイロを解放、無数の各種ミサイルを発射して辺りを蹂躙した。

 

『あれは、ヒュッケバイン・ガンナー?』

「いや、違う……あれはもっと別の――」

 

 アーマラのつぶやきに、実機を知るイングが訂正する。

 シルエットこそ《ヒュッケバイン・ガンナー》に酷似していたが、細部が異なる。特に、《ヒュッケバイン》と思われるPTの背部には《Gインパクトキャノン》と思わしき一対の砲塔はかつての機体には存在していなかったものだ。

 

 謎のPTから、両機に通信が入る。

 

『イング、アーマラ!』

『二人とも、無事みたいね』

 

 モニターに映し出されたのは戦友にして親友、リョウト・ヒカワとリオ・メイロンのコンビだった。

 

『リョウトにリオか!』

「なるほどな、だいたいわかった。リョウト、そいつがお前たちの新型か?」

『うん、ヒュッケバインMkーVIとAMガンナーIIだよ』

「おお! すげーかっけーな、MkーVIっ! 全部乗せてんこ盛りってところが最高にイカすぜ!」

『あはは……ありがとう』

 

 久々に噴出したイングの悪癖に、リョウトは苦笑い。しかし、()()が丹誠込めて()()()()()新たな愛機を褒められるのは悪い気はしないらしい。

 

「イングさんっ、エグゼクスバイン(わたし)というものがありながら浮気ですかっ」

「お、おいエクス、どうしてそうなる。オレはお前一筋だぞ」

「リック・ディアスとか、MkーIIにも乗ってましたっ!」

「お前、何でそんなことまで知ってんだよ!?」

「女の子のカンですっ」

 

 《MkーVI》をベタ褒めするイングに嫉妬したエクスがへそを曲げたが、さておき。

 

『おやおや。サイコドライバーのなり損ないのご登場かい? 新型らしいけど、所詮はヒトの創りしもの、応龍皇には足下も及ばないさ』

『それはやってみなくちゃわからないよ。リオ!』

『ええ、リョウト君! ヒュッケバイン、ドッキングアウト!』

 

 《ヒュッケバイン》背部に接続されていた一対のキャノンが分離して90°回転、《ガンナーII》の下部に格納された。

 テスラ・ドライブの光跡を残しながら、新たなる凶鳥がその全貌を現す。

 

 RTXー015《ヒュッケバインMkーVI》――

リョウト自身が設計した《MkーIII》のコンセプトを受け継ぐ正当後継機。“ヒュッケバイン”の名を継ぐもの、七番目の凶鳥。

 《エグゼクスバイン》で培われた「トロニウムエンジンとブラックホールエンジンの併用」、「TーLINKフレーム」等の運用データを、超技術「EOT」の信頼性を上げるために連邦軍やマオ・インダストリーで立ち上げられた「レイオス・プラン」でブラッシュアップ、発展させて採用した史上二機目のスーパー・パーソナルトルーパーである。

 

 レイオス・プランで安定性を増したトロニウムエンジンとブラックホールエンジンにより得たパワーは絶大、その最大出力は特機にすら匹敵する。

 さらに機体の骨格、HII(エイチツー)フレームは別名「フルTーLINKフレーム」と呼ばれ、全てをTーLINKフレーム化することで強念者の思念に対する感応性、追随性を劇的に向上させている。

 機体本体には《ヒュッケバイン》シリーズの伝統を踏襲して頭部《フォトン・バルカン》以外の固定武装は施されておらず、《ハイ・グラビトン・ライフル》、《ロシュセイバー》、《ネオ・チャクラムシューター》等が主武装だ。

 プロジェクトTDのスピンオフ技術を用いた新型テスラ・ドライブにより空中戦に対応、DHBMを併用した分身機構、グラビコン・システムの発展により「歪曲フィールド」の展開が可能になっている。

 そして最大の特徴は、《ストライク》のストライカーパック、《量産型ゲシュペンストMkーII改》の換装システムに影響を受けた「ネオ・コアトルーパーシステム」にある。

 両肩に装着する副腕兼増加装甲と《ブラスターキャノン》を内蔵した胸部増加装甲、ブレード付きの脚部増加装甲を全て装備した姿は《AMボクサー》を彷彿とさせる。

 背部ウィング・バインダー内に納められた計一八機の小型思念誘導兵器《TーLINKビット》は、念動力により攻防一体として運用可能。実戦投入されなかった《AMサーバント》の流れを汲んだ武装だ。

 その両者を装備したまま、専用の支援戦闘艇《AMガンナーII》との合体も可能であり、まさしく《パーフェクト・ヒュッケバイン》と言っても過言ではない機体となっている。

 

『行くよ、MkーVI! これが僕たちの初陣だ!』

 

 新たな《ヒュッケバイン》が、傷ついた友を助けるべく応龍の超機人に戦いを挑む。

 

『ターゲット・ロック! TーLINKビット、ソードモード! 行けッ!』

 

 ウイング・バインダー内部から射出された六つの小型飛翔体、《TーLINKビット》。両サイドに三機ずつ配置された《ビット》がリョウトの念を受けて翠緑の剣を形成する。

 まるで翼のように広がった強念の刃が飛翔した。

 《TーLINKビット》はリョウトの思惟に従って、その小さなサイズと機動性を武器に《龍鱗機》を次々に串刺しにしていく。

 同時にリオの《ガンナーII》が《Gインパクトキャノン》の連射による援護を加え、瞬く間に《龍鱗機》は半壊する。

 だが《応龍皇》も攻撃の手を緩めない。生き残りの《龍鱗機》とともにその顎門を開き、雷火の束を放った。

 

『ハイ・グラビトン・ライフル!』

 

 幾条もの雷撃をかいくぐる《MkーVI》は、開いた重力空間から《ポジトロンライフル》に似た形状の黒い銃器――《ハイ・グラビトン・ライフル》を引き抜く。

 再び射出された三機の《TーLINKビット》を三角に配置、射撃態勢を取った。

 

『TーLINKビット、リフレクトモード! 直撃させるッ!!』

 

 《TーLINKビット》が歪曲フィールドによる重力レンズを形成、《ハイ・グラビトン・ライフル》の威力を増幅する。

 放たれた超重力の一撃が《応龍皇》に直撃、巨体を揺るがした。

 

『ぐっ、この応龍皇をここまで! やってくれるじゃないか!』

『まだよ! アームリンク、開始! ガイスト・ナックル、セット!』

 

 両肩の増加装甲が展開したサブアームが、握りしめた手腕に覆い被さるように接続される。

 《ボクサー》の由来でもあるファイティングスタイルを取った拳に、TーLINKフレームにより増幅された攻撃的念動フィールドが集中していく。

 

『僕の作ったモーションだ! やってみせるさ!』

 

 意気を上げるリョウト。テスラ・ドライブが唸りを上げ、《ヒュッケバイン》が猛進する。

 

『はあああッ! ええい!!』

 

 雷撃の嵐を潜り抜け、肉迫した《応龍皇》の頭部に《ガイストナックル》が打ち込まれる。

 特殊火薬により打ち出された拳が龍鱗を砕く。

 

『もう一撃だ!』

 

 追撃に、脚部増加装甲のブレードによる回し蹴りをお見舞いし、《MkーVI》は後退する。

 猛烈なコンビネーションにより、《応龍皇》の巨体が再び揺らいだ。

 

「やるな、リョウト!」

『いつまでも、ヒュッケバインの名前を君に独り占めにはさせないよ。僕だって、凶鳥のパイロットなんだからね』

「へへ、言うじゃねーか」

 

 親友のらしくない強気な意気を聞き、イングは快活な笑みをこぼす。

 

「今日からオレとお前でダブルヒュッケバインだな」

『あはは。なんだい、それ?』

 

 上機嫌な親友の脈絡のない発言で、リョウトが思わず笑い声を上げた。

 

『お前たち! 仲がいいのはわかったから、さっさと戦え!』

『リョウト君! こっちはギリギリで手一杯なのよ!?』

「ご、ごめんリオ」

「おっと、オレらのパートナーが揃ってお怒りだ」

 

 必死に《龍鱗機》に対処するアーマラとリオから咎められた二人は表情を改め、眼前の脅威と対峙する。

 

「エクス、MkーVIにパターンDRKのモーションデータを送ってくれ」

「はいっ!」

『! これは……! ぶっつけ本番で、こんなシビアなタイミングを合わせろっていうの?』

「お前なら出来んだろ。奴に、本当の強さを見せてやろうぜ」

『……まったく、イングは無茶苦茶だなぁ。わかったよ、やろう!』

 

 リョウトはイングの無謀さに呆れ、そして口元に笑みを浮かべる。

 

 ここに、バルマー戦役を駆け抜けた二人の英雄、二羽の凶鳥による最強タッグが復活した。

 対峙するは最強の超機人、《応龍皇 》――

 

『何かやるつもりみたいだけど、四龍の長たるこの応龍皇の前には無駄な足掻きさ』

「勝手に言ってろ! 往くぜ、リョウト!」

『うん! TーLINK、フルコンタクト! 羽ばたけ、ソードビット!』

 

 リョウトの思惟をフルTーLINKフレームが増幅し、《MkーVI》の全身から翠色の波動が円を発する。

 トロニウムエンジンの出力上昇に伴いウィング・バインダーが展開、内部からTーLINKフレームと同じ素材で造られた放熱板が露出した。

 さらに、六機の《TーLINKビット》を媒体に念の刃を形成する。放射状に鋒を向けたさまはまさしく風を受け止める翼のようだった。

 

「TーLINKコンタクトッ! 唸れ、トロニウム・レヴ!!」

「全スライダー、パージっ! リミット解除! わたし、堪忍袋の尾が切れました!」

「エグゼクスバイン、エクストリーム・フェーズだッ!!」

 

 全身各所のコネクタから念の刃を発生させる《エグゼクスバイン》の奥の手にしてイリーガルな状態、《エクストリーム・フェーズ》。覚醒したイングの頭髪が紅く輝くのと同時に、《エグゼクスバイン》のゾル・オルハリコニウムの装甲が燃え上がるような真紅に染まる。

 念動力に感応して出力を引き上げるトロニウム・レヴのエネルギーが莫大な熱量を発生させ、その影響で赤外線と赤外寄りの赤や緑色の可視光を放射して、全身が赤く変色したように見えているのだ。

 その鮮やかな姿はさながらかつての《EX》を彷彿とさせた。

 

 紅く燃え上がる《エグゼクスバイン》と翼を解放した《ヒュッケバインMkーVI》が、揃えた足先に念動フィールドを集束させて《応龍皇》の真正面から突進する。

 感応し合う念が、互いの力を高め合う。右と左、それは究極のバランス。

 

『はああああっ!』

「セイヤーーー!」

 

 胸に燃やした炎が邪念を焼き尽くす。

 降臨した“奇跡”の力が、《応龍皇》に炸裂した。

 

 

    †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ☆月△日

 地球、太平洋上 《ラー・カイラム》の一室

 

 オレたちはアラスカを後にし、極東支部への帰路に就いている。

 予想外の出来事の連続で一時はどうなることやらと思ったが、なんとかなったな。

 

 サイなんとかが持ち出してきた《ハウドラゴン》は順当に《ゼオライマー》に敗北、這々の体で逃げていき。

 キラの新たな剣、《フリーダム》とアスランの《ジャスティス》による《コンビネーションアサルト》の前にカナード・パルスと《ハイペリオン》は敗退。

 《応龍皇》も、リョウトの《ヒュッケバインMkーVI》との協力での合体攻撃、ダブルライダーキックならぬ《ダブル・ エクストリーム・ストライク》によりご退場と相成った。

 ちなみに、モチーフの組み合わせはコアのごちゃ混ぜだけど、諸事情でメガマックス方式のキックだ。《応龍皇》が長すぎて、挟み撃ちにできなかったんだよ!

 

 中性子爆弾の爆発を阻止することこそかなわなかったが、残された職員の退避には成功。最後まで基地に残っていた岡長官もきちんと脱出してオレたちと合流、今は生き残った防衛艦隊の指揮をしている。

 放射能を含んだエネルギーは《ゼオライマー》により宇宙空間へと逃された。

マサトの「次元連結システムを応用すれば、出来るはずだ!」というセリフにはちょっと感動した。

 

 今回の事件を主導したハザードだが、事件の子細を国際警察機構に提出したことで失脚、奴に煽られていた連邦政府の強硬派も同じくエキスパートに逮捕された。過去の罪も併せて裁かれることになるだろう。

 いろいろな因果を集まっているおかげで腐っていても連邦にはまともな軍人、政治家だっているのだ。悪い奴らの好き勝手にはさせないぜ。

 

 ラクスとアスランだが、母艦の《エターナル》とザフトの有志を伴ってαナンバーズに合流しにきたそうだ。

 諸々あって失脚した元プラント最高評議会議長、シーゲル・クラインの主導で新造艦《エターナル》と《フリーダム》を始めとするいくつかの新型モビルスーツを奪取、サーペントテールの協力の下で亡命というかプラントを正すために決起した。

 《エターナル》にも同乗しているシーゲル氏、どうやら以前からプラントの異変を察知しており、密かに志を共にするものを集めて機会をうかがっていたらしい。それにしたって、いきなり《エターナル》を新型モビルスーツごと奪取してくるとは大胆すぎだろう。

 追っ手と戦っていたところを《ナデシコC》隊に助けられた後、アラスカの異変を察知。月から直接合流にやってきたリョウトたちとともに、急遽降下してきたとのこと。

 

 レーザー核融合炉の発明といい、ちょっとプラント人を見直したオレだった。

 

 

 追記。

 寝ようとしたら無限力の発動を感知した。あれはたぶん、クロスゲートが開いた余波だろう。

 だいぶ近くに感じたが、またなんか来たのか? 正直、もういい加減にしろよって感じだぞ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月#日

 地球、太平洋上 《ラー・カイラム》の一室

 

 極東支部経由で、他の部隊から一方が届いた。

 結論から言う。やはり彼方から新たな来訪者がやってきたようだ。

 

 北米地区に向かった《大空魔竜》隊のもとには、バイストン・ウェルからクロスゲートにより再現されたオーラロードを通り、《グラン・ガラン》と《ゴラオン》が。

 宇宙、ゾヴォークとの交渉に向かった《バトル7》隊は、未来世界の仲間たちと再会した。今は《ローラ・ラン》と名付けられた《アーガマ》と《月光号》がクロスゲートから現れたらしい。

 詳細は不明。極東支部にたどり着いたら、急ぎ修理中のオービット・ベースに集結する予定だから、そのとき聞くことにしようと思う。

 シーラ様やエレ様、恋愛少年団と会うのが今から楽しみだ。

 

 どちらもオレたち旧SDF、旧プリベンターにとっては懐かしい仲間であり、心強い援軍だ。

 しかし、今までこの混乱は無限力、イデの仕業かと思っていたが、こういう援軍に関しては先代の采配のように思えてきた。

 もしそうなら、因果地平の彼方に消えたビッグ・ファイアには感謝してもしきれない。オレは先代の意志を継ぎ、バビル二世として、この宇宙をイデの因果から解放し、平和な未来を創らなきゃと決意を新たにした次第だ。

 



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αIIIー4「鋼の救世主 前編」

 

 

 新西暦一八九年 ☆月♢日

 地球、衛星軌道上 オービット・ベースの一室

 

 αナンバーズ、全員集合である。

 しっかし、メンツがまたぞろ増えたからか、今日はいつにもまして騒がしい一日だった。

 まずは他の部隊の活躍について大ざっぱにまとめることにしよう。

 

 北米地区、《大空魔竜》隊。

 テスラ研を襲う地底勢力を撃退したそうだが、その中にはダリウス鉄獣の姿があったらしい。まさかあのプロ子が他人と組むなんてことはないと思うが。

 ここでは、GGGアメリカとスペースナイツが協同開発した「地球製テックシステム」、その被検体に自ら志願したアキさんがテックセットする《テッカマン・アキ》をリーダーに、三人の地球製《テッカマン》が仲間入りした。

 また、宗介らミスリルの特殊対策班の面々とそれに同行していたかなめが合流。別に《トゥアハー・デ・ダナン》が撃沈したりはしてないけどな。

 《グラン・ガラン》と《ゴラオン》が現れたのはここだな。

 

 日本地区、《キング・ビアル》隊。

 ルネ・カーディフ・獅子王と《光竜》《闇竜》姉妹の協力もあり、北斗は無事救出、グランナイツも《ソルグラヴィオン》を得て完全復活だ。

 しばらく姿が見えなかった万丈さんだが、日本地区の方に合流して大活躍だったらしい。太陽繋がりってわけだな。

 万丈さんと再び参戦したワッ太の《トライダー》が撮影していたエイジと斗牙による《真・超重斬》の映像は、しっかりコピーさせてもらった。

 ついでに、サンドマンと和解したフェイと《グラントルーパー》隊が仲間入りしたがどうでもいいか。

 

 宇宙、《ナデシコC》隊。

 こちらはプラント穏健派の《エターナル》と接触した部隊だ。そのとき、星間連合のザ・ブーム艦隊とも交戦して《飛影》が出たらしいが、さておき。

 この《エターナル》。ちょっと問題がある。

 生きていたアンドリュー・バルトフェルドが穏健派の一員だったのは想定通りだ。キラは驚いていたが、同時に喜び、涙ぐんでもいた。

 シーゲル・クライン氏がいてサーペントテールを雇っているのはいいし、ザフトガンダムの試作型、YMF-X000A《ドレッドノートガンダム》とプレア・レヴェリー、《シグー・ディープアームズ》のシホ・ハーネンフースがいるのだって問題ない。あんま違和感ないし。

 だが、どうして《エターナル》の艦長がタリア・グラディスで、モビルスーツ隊にハイネ・ヴェステンフルスがいるんだ!あんたらの出番はもっと先だろ!

 いや、この世界はゲームじゃないんだし、シーゲル氏が主導してるならそういうこともあり得るだろうけどさ。腑に落ちないぞ。

 ちなみに、ハイネ(本人がそう呼べと言っていた)の乗機はオレンジ色に塗装された《ゲイツ》だった。

 先行量産機らしいが、動力源が核融合炉なのは言わずもがなだな。

 

 月面、《マクロス7》隊。

 シラカワ博士の采配で、ゾヴォークとの事前交渉に望んだ部隊だ。

 こちらは月だけに、未来組を保護している。

 ガルラとクトゥルフのちょっかいを受けたようだが、相手が悪い。《グランゾン》とゾヴォークの機動兵器にさっさと撃退されたようだ。

 なお、ここではイルム中尉とリン社長(!)が参戦したりしている。なお、リン社長の乗機は再生産されたブラックホールエンジン搭載型《エクスバイン》である。

 

 さて、現在オービット・ベースはゾヴォーク代表を迎え入れる準備でおおわらわだ。

 オレは大河長官らαナンバーズ首脳陣から要請を受けて、ゾヴォーク代表団との事前交渉に参加するように言われた。

 無限力とか第一始祖種族とか、いろいろ裏事情に詳しいからだろうことは間違いないが、最近こんな役回りが多くてちょっと不本意だ。

 

 まあ、それはともかく。忙しい合間を縫って未来組、バイストン・ウェル組と再会を喜んだ。

 

 ショウやチャムたちとはラ・ギアス事件以来だが、シーラ様、エレ様とは二年以上ぶりの再会だ。あこがれのシーラ様から「見違えましたね、イング」とお褒めの言葉をいただいて小躍りした。

 で、お二人からの証言だが、何者かの声が聞こえ、オーラロードに導かれて地上に出てきたのだという。

 オーラバトラー等の兵器を破棄せずに留めていたのも、なにやら予感があったからだそうだ。まあ、そのせいでラ・ギアス事件に巻き込まれちまったんだけどな。

 

 懐かしの未来組。

 旧《フリーデン》隊、《アイアン・ギアー》隊、ミリシャとムーンレイス、エクソダス組、ゲッコーステイトが勢ぞろいしていた。

 

 彼らの感覚では、あれから三ヶ月ほどしか過ぎていないらしい。

 ジャミルさんを艦長に迎えた《ローラ・ラン》号による、地球・月間の輸送航路開通記念式典でかつてのメンバーが集合し、月への処女航海に出発しようとしたところでクロスゲートの発動に巻き込まれたとか。

 ガロード、ゲイナー、レントンは彼女たちとうまくやっているみたいだ。あと、ホランドが一児の父になってたので「似合わねー」って笑ったら殴られた。痛い。

 式典に出席し、巻き込まれる形になってしまったアナ姫が気の毒である。まあ、本人は至って明るくオレたちの時代を楽しんでいるようだが。

 さすがに《アイアン・ギアー》は来ていないが、ジロンたちは勢ぞろいだ。乗る機体のなくなったエルチだが、《ローラ・ラン》号になぜか積まれていた《ブラッカリィ》を持ち出して使うつもりとのこと。さすがシビリアン、底抜けのバイタリティだな。

 

 あ、書き忘れてたけど未来組には《ソレイユ》もいた。うん、素直に忘れてたんだ。誰がとは言わないけど。

 で、その《ソレイユ》、艦長はなんとディアナ様だった。キエルさんに任せて隠居したんじゃ?と思ったら特別に表舞台に出てきたのだとか。ちなみにキエルさんもハリーさんといたぞ。

 で、ロランだが、式典の後に《∀ガンダム》を埋めて(!)封印するつもりだったらしい。埋めてどうする。つか、奴は勝手に出てくるぞ。

 

 そういやディアナ様、シンジやアスカを見て昔を思い出すような遠い目をしていたけど、あれなんだったんだろうな。

 

 それにしても、まるで狙い澄ましたかのようなタイミングに聞こえたという“声”、やはりビッグ・ファイアの力添えなのだろうか。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月×日

 地球、衛星軌道上 オービット・ベースの一室

 

 予定通り、αナンバーズ首脳陣とゾヴォーク代表団の交渉に参加した。

 

 シラカワ博士が連れてきたゾヴォークだが、こちらに接触してきたのにはそれなりの理由があるようで。

 

 以前から、地球文明については《ガンエデン》の存在(伝承レベルではあるが把握していたらしい)もあり内偵はしていたものの、自分のところの戦争が忙しくてちょっかいを出すどころではなかった。

 ゼ・バルマリィ帝国、巨人族、星間連合、ガルラ大帝国との長年に渡る戦争。さらには宇宙怪獣、ラダム、ガルファ帝国、ゾンダー、ガイゾック、ゼラバイア、プロトデビルンなどなどの宇宙的脅威にさらされて国力がだいぶ疲弊しているらしい。銀河における勢力が大きいだけに、遭遇する敵対的勢力の数も比例して増えるだろうしな。

 それに加えてバッフ・クランの武力介入だ。

 もうにっちもさっちも行かなくなって、俄に列強化してきた地球文明を取り込もうという腹積もりだとぶっちゃけたのは、ゾヴォーク代表団のリーダー、枢密院特使のメキボス・ボルクェーデ。

 ラ・ギアス事件の裏側、いわゆる「シュウルート」で地球に潜入中だった彼の副官、ガヤットーバ・スチェッカ(ガヤトと呼ぶように、とのこと)がシラカワ博士一行と接触。そこで彼らはその伝手を頼り、地球連邦との本格的な交渉に踏み切ったというわけだ。

 ゾヴォークは、一艦隊とはいえかつて誰もが成し得なかったゼントラーディとの和平を成功させた地球の高度な文明と豊かな文化、宇宙規模の災害とも言えるゾンダーを壊滅させた戦力を高く評価しているとのこと。野蛮人扱いはしていないようだな。

 

 それとなく同盟に反対するものがいないのか聞いてみたのだが、「そういう頭の固い輩は、星間連合やら宇宙怪獣にやらにみんなやられちまったよ」と返された。

 さらにサイボーグ化された身体を示しつつ、「俺も下手を打ってこのざまさ」と自嘲していた。ガヤトさんが辛そうにしていたから、そのとき肉親か仲間でも失っているのかもな。

 あと、「まあ、シュウ・シラカワにハメられた奴らもいるがな」とも語っていた。オレは旧作シリーズの内容にはまるで詳しくないから何とも言えないけど。まあ、シラカワ博士を利用しようとした愚か者がいたんだろう。

 

 さて、同盟締結におけるゾヴォークからの要求は、「地球連邦の代表がゾヴォークの勢力圏内に赴くこと」。

 地球とゾヴォークの支配領域はちょうど銀河の対岸に位置するため、フォールド通信等の超空間通信を用いても意志疎通は難しいから当然の要請だろう。言外に、αナンバーズを招致したいって意図が見え見えだけど。

 対する大河長官は、このことをαナンバーズの上位組織である地球圏安全評議会の議題にかけた後、その決定に従うと回答している。そりゃ、勝手に動くわけにはいかないよな。

 ただし大河長官は個人的見解としておきながら、「助けを求めるものがいるなら、それが銀河の果てであっても駆けつけて手を差し伸べたいと私は思います」と熱く語っていた。

 これにはメキボスも苦笑い。底抜けにお人好しなのがαナンバーズのいいところだよな。

 

 さて、新顔に懐かしい顔、αナンバーズのメンバーもだいぶ増えてきた。これだけ多ければ、顔を知らないって間柄の人たちも多いことだろう。

 というわけで、αナンバーズ全員集合の全体会議とゾヴォーク代表団の歓迎パーティーを執り行うことになった。

 場所はビッグオーダールーム。

 勇者ロボやバーチャロンたち、エキセドル参謀も入れ、なおかつαナンバーズのメンバーが勢揃い出来うる場所ということで選ばれた。

 

 でだ、なぜかオレがその全体会議の司会進行役を仰せつかってしまった。

 確かにオレはバルマー戦役からの古参組だし、顔もみんなに知れて渡ってるし、いろいろ事情通だけどさ。オレってばいちパイロットなんだって。

 

 余談。

 αナンバーズに集まった星間国家の王族たちに、メキボスらは驚きを通り越して呆れ果てていた。

 「これだけ王族が居りゃ、もうひとつ共和同盟が出来そうだな」とはメキボス談だ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月*日

 地球、衛星軌道上 オービット・ベースの一室

 

 激しく疲れたが、全体会議と歓迎パーティーは成功裏に終わった。

 

 地味に懸念だった全体会議。解説のアシスタントはシラカワ博士とマサトに依頼しておいた。

 まず、新しい仲間たちやメキボスたちにも地球圏の窮状について正しく理解してもらうために、バルマー戦役から続く戦乱の流れを一から簡潔におさらいした。オレたちが撃退してきた侵略者のあまりの多さに、新顔であればあるほど引いていたな。

 そして、この宇宙の争乱の大本、無限力やイデについても一通り語り尽くした。さすがのゾヴォークもこの辺りの事柄は把握していなかったらしい。

 

 会議では、メンバーからいくつかの意見も述べられた。

 《マクロス7》船団からはバロータ軍、プロトデビルンについての調査。イサムさんからは行方知れずのメガロード船団の捜索を求められたし、アイビスら《アステリオン》の捜索もすべきとの意見もある。

 また、星間連合の勢力圏に向かったタケルたちの安否を心配する声も挙がっているし、ダバたちはペンタゴナ(彼ら的にはこの銀河に当たる言葉だが、ここでは彼らの文化領域を指す)の情勢が気がかりとのこと。ゼ・バルマリィ帝国の思惑についてもいろいろと疑問だ。

 どちらにせよ評議会の決定が待たれるが、あるいは評議会に止められても外宇宙に飛び出してしまうかも知れない。オレも含めて、血の気の多い奴ばっかりだからな。

 

 その後のパーティーは、盛大に執り行われた。

 レーツェルさんをリーダーに、腕に覚えのある有志が腕を振るう。オレも、スイーツに関しては参加した。甘いものは大好きだからな。

 

 お約束的にチャムとリリスが騒がしく交流したり、カトルとトロワとシンジとニコルの演奏に女性陣がうっとりしてたり、リュウセイが《光竜》《闇竜》姉妹に興奮してフェイたちの不興を買ったり、バサラとハイネが一目で意気投合して即興セッションしたり、エウレカがαナンバーズの多種族っぷりに目を丸くしたり。

 ウッソやジュドーらの年少組にガロードたちが混ざっていたり、ヒイロと宗介が二人でむっつりしてたり、二人の渚とかなめがさっそく友達になってたり、ラクスとフレイがキラを挟んで火花を散らしたり(アスランはいいのか)、カミーユの周りが相変わらず修羅場ってたり、甲児と大介さんも修羅場ってたり、沙羅と葵さんが俄に修羅場ってたり、ディアナ様たちがお姫様同盟に迎え入れられたり、ヤーパン忍者こと《XANー斬ー》を操るゲイナーとボルフォッグ、ジョウが話してたりetc.etc.……エピソードは尽きない。

 みんなパーティーを楽しんでいたようだ。

 

 身内の話では、エクスと《闇竜》《光竜》姉妹が意気投合していた。また中の人ネタか。

 妹様は風花、プレアという新たな妹分弟分を得てご満悦だった。

 アーマラ?ラクスと仲良くガールズトークしてたぞ。

 

 とりま、今日は頭を使いすぎて疲れたので、もう寝る。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月=日

 地球、衛星軌道上 オービット・ベースの一室

 

 さっそく地球安全評議会からの決定が届いた。

 評議会から下された沙汰は、「地球連邦政府の代表として、αナンバーズ全艦でゾヴォーク勢力圏に赴くこと」。ゼーレの息がかかった派閥からの妨害があったようだが、グローバル議長たちががんばってくれたみたいだ。

 地球圏の防衛についてはゾンダーの壊滅と、アラスカの一件でザフトの戦力が壊滅状態に陥ったことで一時的に余裕が出たため可能、と判断したのだろう。また正規軍の面子というか、ブルーコスモスが勢力を増すためにαナンバーズが邪魔というのもあるはずだ。

 やや業腹ではあるが、αナンバーズの活動範囲を銀河規模にまで広げるいい機会だと思っておこう。

 

 外宇宙派遣に際し、地球安全評議会からリリーナ嬢とハマーンさんがオブザーバー兼交渉役として派遣された。

 リリーナは、平和解放機構とのコネも持ち地球圏での人気は未だ絶大だし、ハマーンさんは言わずと知れた女傑である。うなづける人選だ。

 なお、地球圏に残していくのが心配なのだろう、ハマーンさんは地球で留学中だったミネバを伴っていた。また《キュベレイ》も持ち込んでおり、いざとなれば戦うつもりらしい。オブザーバーはどこいった。

 

 とりあえず、友だちが来てテンションが舞い上がっているイルイを見て和んだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月◎日

 地球、衛星軌道上 オービット・ベースの一室

 

 外宇宙へ出発するため、αナンバーズは準備中。なぜか機動部隊の中間管理職扱いされているオレも、アーマラと忙しく駆け回った。

 

 物資を満載した《ナデシコ・Yユニット》に同乗してやってきたウリバタケさんが、アストナージさんと組んで大活躍だったな。《アーバレスト》を宇宙仕様に改装してもらって宗介もご満悦だったし。

 また、ロウ一行も新しい母艦《リ・ホーム》にジャンクパーツを満載でやってきた。こちらはオレが呼んでおいた。

 外宇宙への旅に誘ったら喜び勇んで駆けつけたわけだ。主に、キャプテンG•Gことジョージ・グレンがな。

 彼の寒いアメリカン・ジョークに、キラたちコーディネーター組が微妙な顔をしていたのは余談。

 ちなみに《150ガーベラストレート》は普通にあったし、《パワーローダー》も作られていた。まあ、あれはさすがに《ダイターン3》でも振れねーよな。《ガンバスター》ならいけるか?

 

 なお、《ナデシコ・Yユニット》は地球に残って防衛の一角を担うらしい。先日のパーティーに参加できなかったことと居残りについてユリカさんがブーたれていたが、アキトさんになだめられていてすぐに機嫌を直していた。仲いいな。末永く爆発しろ。

 なお、《ナデシコ・Yユニット》を足に使ってヒカリさんとイズミさんが合流している。一方、九十九さんは、月臣弦一郎(封印戦争時は裏方に徹していたらしい)と《アルストロメリア》で地球圏防衛のために残るとのこと。《ナデシコC》に乗り込むことになった妻のミナトさんとは、単身赴任状態ってわけだ。こっちも爆発しろ。

 

 《ナデシコ》が運んできたのは物資や追加増員だけではない。

 オーバーホールの終了した《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《Hiーνガンダム》がとうとう帰ってきたのだ!

 リュウセイと二人でヒャッハー!と喜んだ。甲児やリョウに引かれたけど知ったことか。

 

 さて、ここでこの三機についてちょっとメタ臭い説明を挟もうと思う。

 まず《マジンカイザー》、旧作デザインで《カイザースクランダー》がついたままだ。つまり、肩から出すのは《ショルダースライサー》ってわけ。《真・ゲッター》も同上。

 

 そして《Hiーν》。こちらは未来世界でマウンテンサイクルから発掘したものをそのまま使用している。見た目は白に紫の旧デザイン版だ。

 で、未来世界のモビルスーツとはいえあの時代がパラレルワールド化した今、《Hiーν》は技術的にはやや時代遅れな感が否めない。SEED系のモビルスーツが最先端だしな。

 そこでアナハイムは「ネェル・Hiーνプロジェクト」と銘打って、最新のモビルスーツ関連技術を用いた《Hiーνガンダム》を新たに建造しているそうだ。

 もちろんアムロ大尉もそれに参加していて、どんな仕様になるのかちょっとだけ教えてくれた。それによると、フルサイコフレーム化とミノフスキー・ドライブを組み込むことは確定しているらしい。

 アムロ大尉にそんな機体を渡したらどうなるか、想像しただけでワクワクしてくるな。

 

 まあ、とりあえずパワーアップの余地が残っているってことだけ覚えておいてくれたらいい。

 

 あと、封印戦争以来開発が進められていた地球製SPT《レイズナーMkーII》が完成、送られてきた。

 レイというかフォロンが移植を拒否するという騒動があったものの、無事戦線に投入。αナンバーズの心強い戦力になってくれることだろう。

 

 

 追記。

 ミノフスキー核融合炉搭載型の《ストライク》、ライトニングストライカー及びマルチプルアサルトストライカーも搬入されている。《ストライク》だが、これが正式生産版らしい。

 誰が乗るかは未定とのこと。無難にフラガ少佐が乗るんじゃないかな、カタログスペックはかなりのものだし。

 で、未だバッテリー駆動機が乗機のイザークたちが不満を漏らしていたので、キッドとロウに《ブルデュエル》《ヴェルデバスター》《ネロブリッツ》のデザインとコンセプトを渡しておいた。もちろん動力源は核融合炉だな。

 あの“ジャンク屋”ロウとジャンクパーツから《ディバイダー》なんて代物を作り上げたキッドのコンビだ、必ずや再現してくれるはず。

 ハイネ等のイレギュラーで、完全に吹っ切れたオレである。

 

 改造と言えば、マイクロウェーブ基地がないため《サテライトキャノン》が撃てない《DX》のリフレクターを、恒星の発する光エネルギーにも対応できるよう改修を施すらしい。

 そのうち、ハンマーやらジャベリンやら両刃のサーベルなんかを作り出しそうな勢いだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月⊿日

 銀河系、ゾヴォーク勢力圏付近 《シティ7》内、宿舎の一室

 

 クロスゲートを通り、αナンバーズ艦隊は銀河の反対側までやってきた。

 現在、ご苦労にも地球圏から追いかけてきたらしい星間連合ザール艦隊、ベガ艦隊を蹴散らしつつ、ゾヴォークからの接触を持つために指定された宙域に移動中だ。

 

 クロスゲート突入を阻むように、ゴラー・ゴレム隊が性懲りもなく妨害してきたが、ここで《ヱクセリオン》の後継、白亜の超々弩級艦《ヱルトリウム》と《ガンバスター》、《シズラー黒》が登場。さらにドクーガ三将軍が応援に駆けつけ、加勢してくれた。

 ちなみに《ヱルトリウム》は見送りに来ただけだった。残念。

 

 まあ、ゴラー・ゴレムの奴らはどうでもいい。懐かしのトップ部隊、類友ノリコとの再会だ。相方のカズミさんは諸事情により半ば引退状態で、今は《ガンバスター》に一人乗りしているとのこと。

 かつてのロンド・ベル、SDF艦隊を遙かに越えたαナンバーズのスーパーロボット軍団っぷりに大興奮だったのは言うまでもないな。

 リュウセイと示し合わせて、吉良国さん、ヤマダさんを交えて鑑賞会(地球圏を離れている間に放送された新作を重点的に)を主催していた。

 飛び入りでミスリルのクルーゾー大尉が参加して、名作系を布教していたな。男子三人はともかく、ノリコはイケる口のようだ。かつての愛機が《ナウシカ》だけに。

 

 リュウセイとノリコ、息の合いっぷりは相変わらずで、もうお前らつき合っちゃえよって感じだが、本人たちは「いや、ないない」と真顔で否定していた。

 曰く「こんなアニオタ」。ブーメランで墓穴掘ってるぞ。

 

 そうそう。つき合うと言えば、アスランとラクス、婚約解消していた模様だ。

 経緯はともかく、ラクス的に渡りに船だったらしい。アスラン哀れ。

 アーマラから聞いた話では、「アスランはいいお友だちですけれど、恋愛対象にはみれませんわ。政略結婚なら仕方ありませんが」とぶっちゃけていたそうだ。オンナってこええ。

 オレがフラグを叩き追っちまってアスランの周りが寂しいことになっているが、あんまり罪悪感を感じないのはたぶん「女難」のせいだろう。

 一方、イザークはシホとイチャついていた(語弊あり)。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月#日

 銀河系、ゾヴォーク勢力圏付近 《シティ7》内、宿舎の一室

 

 外宇宙を旅していたオルファンと合流、これを保護した。

 オルファンの願い通りに宇宙に出たものの、異星人ラダムや宇宙怪獣、ガルラやバッフ・クランにさんざん追い回されていたらしく、勇たちはかなり疲弊していた。あのクインシィが、殊勝な様子で感謝を述べてたくらいなんだから相当だな。

 

 オルファンとその一団はオレたちと合流して地球への帰還と、銀河の危機に立ち向かうことになった。

 なお、「宇宙(おそと)怖い。地球(おうち)に帰りたい」とは比瑪によるオルファンの意志の意訳。なんかイルイってかナシムが激しく共感を示してたんだが。

 こどもか! いや、実際こどもなんだけどな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ☆月★日

 銀河系、ゾヴォーク勢力圏付近 《シティ7》内、宿舎の一室

 

 ゾヴォークの出迎え、先遣艦隊が到着。先遣艦隊の責任者、ゼブリーズ・フルシュワが枢密院からの親書を持参してやってきた。

 このゼブリーズ(愛称はゼブ)という人物、メキボスの旧友らしいがとぼけた振る舞いでなかなか底を読ませない。油断ならないな。

 しかし、ここまで呼び寄せておいて直接顔を合わせようとしないあたり、やはり枢密院は地球文明を見下しているようだな。まあ、いいさ。身勝手な理由で戦争を仕掛けてこないだけずっとマシだ。

 

 そんなとき、ゾヴォーク先遣艦隊に一報が入った。

 それによると彼らの友好国家の一つ、イプロン星系エドン国が星間連合に包囲されており、その解放の協力を願われた。αナンバーズを呼び寄せた目的の一つらしい。

 また、消息不明だった《メガロード》からの救援を求めるフォールド通信をキャッチ。マックスとミリアが戦友たちの救出を強く希望している。

 

 そこでαナンバーズは例によって例のごとく、《マクロス7》と《大空魔竜》を旗艦に部隊を分けて対応することになった。

 編成の詳細は割愛するが、まあリアル系とスーパー系で分かれるってことにしといてくれ。例外はあるけどな。

 

 

   †  †  †

 

 

 都市型移民船《シティ7》。

 新たなる戦場へと出発するまでのつかの間の休息。αナンバーズのメンバーは各々、思い思いに過ごしている。

 それは「サイコドライバーズ」こと、イングとアーマラも例外ではなかった。

 

 《シティ7》の片隅にある宇宙を展望できる自然公園。

 イングとアーマラは、青々とした芝生に寝そべったアキレスの身体にもたれ掛かり、休息をとっていた。

 その間にはイルイが、まるまるようにエクスを抱えてスヤスヤと眠っている。

 

「よく眠ってるな、イルイ」

「はしゃぎ疲れたんだろう。今日は一日、ご機嫌だったからな」

 

 目を細めるイングの言葉にアーマラは、イルイの柔らかなブロンドを撫でながら小さく笑みを浮かべた。

 全長約六二一〇メートル、居住区で約三五万人の民間人が暮らす巨大な都市船は。イングは持ち前の好奇心を発揮してよく街中を散策しており、この公園はその際に見つけた場所の一つで彼のお気に入りのスポットだった。

 

「しっかし、何がそんなに楽しかったのかね。やっぱ、外宇宙に出てきたからか?」

「そうだな。 前々から外宇宙に出てみたいと話していたし」

「へぇ? そうなのか。もしかしたら、アイビスの影響かも」

「なるほど、確かに」

 

 イルイはアストロノーツを目指していたアイビスによく懐いていた。

 

「心配だな、アイビスたち」

「まあ、大丈夫だろ。たぶんな」

「なぜそう思う?」

「世界の運命を物語に例えるなら、アイビスは主人公の一人なんだよ。だから、この宇宙を支配するアカシックレコードに定められた記述に守られているとも言えるんだ」

 

 アーマラの疑問に、イングは訳知り顔で答える。

 この宇宙に満ちた支配的因果率はイングにとって気に食わないものであるが、それに助けられている一面もある。そのことについてはイングも素直に感謝していた。

 

「物語、か……確かにこの宇宙の混迷ぶりを鑑みれば、そういう見方もできるかもな」

「だろ?」

「なら、お前は」

「もちろんオレは主人公さ」

 

 自信たっぷりな相方に、。ーマラは呆れたようにため息をついた。冗談なのか本気なのか、彼の性格的に半々だからたちが悪い。

 

「まったく、普通の私には考えられないことだな」

「お前が普通? またまたぁ~」

「少なくとも、αナンバーズでは平均的だろう? 念動力者など珍しくもない」

 

 なかなか説得力のある反論に、イングは答えに詰まる。古代人類のクローンでサイコドライバーなマシンナリー・チルドレン、彼は特殊な人種の筆頭格だ。

 念動力に限らず、超能力とそれに類する能力者は存外に多い。が、珍しくもないというのは明らかな語弊である。

 

「いや、そんななりして兵士やってるの事態普通じゃねーだろ。オレが言えたことじゃないけどさ」

「私のように一年戦争で家族を失い、軍に拾われた孤児は多いぞ。例えば、アラドやゼオラなどもそう大差ない生い立ちだろう」

 

 とニヒルな笑み。

 密かにウィットに富んだ返事をを期待したアーマラだったがしかし、イングは軽く俯いて、じっ、と考え込むように黙りこくっていた。

 

 イングは考え、悩んでいた。

 薄々察していた彼女の()()、それを告げるべきかと。

 

「アーマラ、お前は――」

 

 暫しの後、イングは意を決して口を開く。

「うん?」けれど、僅かに小首を傾げた存外に可愛らしい仕草を見て思いとどまる。イングは、真実を知ったアーマラの心が壊れてしまうかもしれないと、恐怖を覚えた。

 

「どうした、イング?」

「いや、何でもねぇ」

 

 そうして口を噤んだイングを、アーマラは不審そうに見つめていた。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ♬月*日

 銀河系、ゾヴォークの勢力圏 《シティ7》内の宿舎の一室

 

 外宇宙での仕置きを終えて、αナンバーズ集結である。

 

 まず、《大空魔竜》艦隊の成果だ。

 星間連合と現地の反政府組織「新惑星同盟」からイプロン星系を解放、平和を取り戻した。

 それを受けて加わったのが、エドン国の王子、エドワード・ミトご一行と《ダイオージャ》。そして彼に付き従う銀河烈風隊と《バクシンガー》、成り行きで参加したJJ9と《サスライガー》だ。

 この動乱の影ではヌビア・コネクションが暗躍していたようで、ギャンドラーとバンカーが用心棒的に雇われていた。

当然、ロム一行が現れたのは言うまでもないな。

 彼らもまたこの銀河の混乱を鑑みて、αナンバーズに協力してくれることになった。あと、キナ、コロンの姉弟もだ。いつの間にフラグたてたんだ。

 最終的に、《ブライガー》を含めた三機による《J9スペシャル》でカーメン・カーメンは再び打倒されたとのこと。

 《ダイオージャ》のノリにはリューネが大興奮だったらしい。

 

 ちなみに、J9チームはかつてイプロン星系で仕置きをしていたこともあるようで「J9」の名前が広まっているのはそのためだそうだ。

 

 一方、《メガロード》を救援に向かった《マクロス7》艦隊。

 フォッカー少佐らとは合流することが出来たものの、ミンメイたちはさらわれてしまった。

 そこで《マクロス7》は、バロータ軍、ひいてはプロトデビルンの謎を追って惑星ラクスにたどり着く。

 現地で発見されたプロトカルチャーの遺跡は、巨人族の血を引くハーフのミレーヌにより開かれた。プロトカルチャーの残したメッセージには、プロトデビルンの正体やアポカリュプシスを警告するものだった。

 その後、バロータ軍の大群が到来。窮地に陥った《ライディーン》のムートロンが解放され、《ゴッドボイス》が解禁。《ラーゼフォン》もまたそれに呼応するように覚醒して《ボイス》を放ち、グラビルを撃破した。

 また、ポセイダル軍とも交戦したようだ。ダバの乗機が《エルガイムMkーII》に変わっていたし。

 

 今後の予定についてだが。

 さきほどリリーナの持つ平和解放機構の秘匿回線に、「バラの騎士」を名乗る人物から連絡が入った。曰くタケルたちは厳しい戦いを強いられているらしい。星間連合の徹底的な弾圧により、和平派は風前の灯火であるとのこと。

 そこでαナンバーズ及びゾヴォーク先遣艦隊は彼らの救援を決定。星間連合の勢力圏に踏み入り、ギシン星に強襲を仕掛けることを決定した。

 そろそろ、ズールとの因縁にケリを付ける頃合いかもな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月×日

 銀河系、星間連合勢力圏旧ベガ領 《ラー・カイラム》の一室

 

 星間連合の勢力圏に踏み入って早一ヶ月。αナンバーズ艦隊は快進撃を続けている。

 

 さすがに勢力圏内とあって、星間連合の抵抗は激しい。地球圏に攻め入っていた艦隊全てを引き上げたらしく、ベガ艦隊、ザール艦隊、ザ・ブーム艦隊とは会戦済みだ。

 

 さて、本日のトピックス。

 ベガ艦隊に誘導されるように立ち寄ったルビー星で、大介さん、デュークフリードのかつての婚約者、ルビーナ姫を保護した。

 どうやら彼女、旧ベガ星の人々を従えるための人質になっていたようだ。彼女をオレたちに保護させただろうガンダル司令のこの行動は、亡きベガ大帝への義理立てだろうか。なかなか見上げた忠誠心じゃないか。

 

 余談。

 大介さんの元婚約者が現れたことで、ひかるさん、ナイーダさんとキリカさん(書き忘れてたけど、仲間になってるんだよ)が衝撃を受けていた。要するに、また修羅場ってるわけだ。

 まあ、仮にも王族だし、みんな娶っちゃえばいいんじゃねーの?

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月◎日

 銀河系、星間連合勢力圏旧エリオス領 《ラー・カイラム》の一室

 

 《飛影》敗れる! 第二のチート忍者、《零影》の登場である。

 偵察任務で単独行動中だった《エルシャンク》隊がザ・ブーム艦隊と交戦、かつての仲間イルボラ・サロとゴタゴタしていた。

 オレは裏切り者って大嫌いだからどうでもいいが。イングラム少佐だって、ユの字に操られたこととは言え、許してはいないんだ。

 なお、《XANー斬ー》との新旧チート忍者対決はおぞましいものがあったとだけ記しておく。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月△日

 銀河系、星間連合勢力圏旧エリオス領 《ラー・カイラム》の一室

 

 《シティ7》をぶらついていたら、おもしろいものをみた。

 トウマと銀河が訓練していたんだ。

 指導しているのは一矢さんや凱さん、鉄也さん、ゼンガー少佐のいつものメンバー。さらにはロム兄さんまで居て、トウマをしごいていた。ちょっと羨ましい。

 観戦者は北斗とエリス、レイナ、命さん、ミナキさん。いろいろ妬ましい。

 

 せっかくなのでオレも参加してみた。

 久々にゼンガー少佐と一戦交えた後、調子に乗ってロム兄さんと手合わせした。天空宙心拳を自分自身で味わいたかったからな。

 まあ、訓練とはいえボッコボコにされたけどな! さすがに生身でマシンロボの相手は無理だったか。

 アーマラに呆れられ、イルイには心配をかけてしまった。反省。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月*日

 銀河系、星間連合勢力圏旧ベガ領 《ラー・カイラム》の一室

 

 ザール艦隊から送り込まれた刺客、“宇宙の虎”の異名を取る旧エリオスの将軍ガスコンと剣人、ミト王子のコンビが対決、引き分けた。

 砂漠の方の虎がなんか対抗心を燃やしていたが、さておき。

 オレたちに乗じて侵攻してきたらしいガルラ大帝国の艦隊を、一時休戦したガスコンと撃退した。まあ、ガルラは絵に描いたような悪の帝国だから、ガスコンの方もやりやすかっただろう。

 

 その指揮官はシンクライン。下劣な奴だ。

 奴めファーラ姫だけじゃなくロミナ姫やマリア、しまいにはアーマラやシーラ様たちにまで色目を使ってやがった。

 無論、女性陣からは非難囂々。男性陣も怒り心頭で、メッタクソにされてたのは言うまでもないな。

 オレ? もちろんブチ切れましたが何か? アーマラが揶揄されて一番ムカついたのは、ここだけの秘密にしておこうと思う。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月⊿日

 銀河系、星間連合勢力圏旧エリオス領《ラー・カイラム》の一室

 

 ザール艦隊の司令官、クロッペンの演説により、αナンバーズ内に動揺が広がっている。

 特に酷いのはアール博士か。

 信じたものを根底から崩されたのだから、無理もないが。

 オレが真実を語るのも無粋というか、空気読めてないし。歯がゆいな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月★日

 銀河系、旧エリオス領 《ラー・カイラム》の一室

 

 定期点検と補給のために停泊中だった《シティ7》にガルラの手のものが進入、《ゴライオン》チームの貴が命を落とした。

 オレの念の探知範囲外での出来事とはいえ、不甲斐ない。流れは知ってたはずなのに。

 記憶を思い出せても、使いこなせなきゃ意味ないだろ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月※日

 銀河系、旧エリオス領 《ラー・カイラム》の一室

 

 いろいろごたごたも《青獅子》の後継者にファーラ姫が無事収まって、さておき。

 性懲りもなくオレたちを付け狙うクトゥルフの戦士、イクサー2との戦闘で負傷した傷を癒すために戦列を離れたイクサー1に代わり、彼女の妹、イクサー3が遠路はるばるやってきた。

 イクサー3はまるっきり子ども、というかガキだから渚sは結構手を焼いているようだな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月○日

 銀河系、旧エリオス領 《ラー・カイラム》の一室

 

 平和解放機構からの緊急連絡が入った。

 αナンバーズと接触するためやってきた平和解放機構の指導者たちが、星間連合の大艦隊に追われているとのこと。

 オレたちはハイネル、リヒテル、そしてバラの騎士とやらが孤軍奮闘している現場に駆けつけ、救援した。

 というかバラの騎士、《ゴッドマーズ(OVA)》に乗ってるとか完全にマーグじゃねぇか!と思わずツッコんだら、みんなに「おまえなに言ってんの?」的な顔をされた。仮面してるからわからないって?うっそだー。

 

 さらに、戦闘中には平和解放機構の援軍として懐かしい顔ぶれがやってきた。

 プラート大尉が駆る《ファルゲンカスタム》とプラクティーズ+1、《グライムカイザル》と《ブラッディカイザル》のゲイル夫妻(もはやこう呼んでもいいだろう)だ。

 あれか、今回は兄貴繋がりの流れなのか。

 

 戦闘終了後、さすがにオレの前で正体を隠せないと悟り、マーグは事情を明かした。

 月面の戦いで瀕死の重傷を負った彼は

、当時地球圏で事前調査していた平和解放機構の構成員に辛くも救われ、傷を癒した後そのまま協力者となった。

 乗機の《ゴッドマーズ(OVA)》は彼ら兄弟の亡き父が秘密裏に用意していたもので、星間連合に悪用されそうだったところを奪還したとのこと。ハイネル、リヒテルとは立ち位置が似ているためか、盟友のような間柄らしい。

 

 次、プラート大尉らがここにいる理由だ。

 彼は封印戦争当時、シャア、いやクワトロ大尉から自身が滅びた後のことを託されており、その志を継ぐために独自に平和解放機構と接触、協力していたそうだ。あの人も、手段こそ間違っちゃいたが地球圏の未来を想う心は本物だったのかもな。

 なお、《ファルゲンカスタム》はプラート博士が改造した機体である。親子仲は修復された模様だ。

 

 次、アーマス・ゲイルとアルバトロ・ミル・ジュリア・アスカの二名。

 二人はそれぞれ撃墜された後に救助され、オーブで療養していたようだ。

 再会した彼らは、地球の美しさを知り、地球人とのふれあいで自分たちと変わらないヒトであると悟った。

 すでにグラドスは星間連合から解放されてバルマー所属に戻っているが、霊帝の民を省みない所業(グラドスが占領されたのも援軍を差し向けなかったからだ)には思うところがあり、そういった人たちの代表として平和解放機構に所属しているのだそうだ。

 二人との再会と和解に、エイジは泣きそうなくらい喜んでいたな。

 

 さらに、平和解放機構の中核メンバーには剣人の親父さん、楯隼人ことハーリン王子が加わっていた。

 これには剣人とアール博士だけじゃなくオレたちもビックリだ。

 海で難破した後、紆余曲折あって自身の出生を思い出し、平和解放運動に身を投じた。現在はズールの支配体制からの解放を訴える旗手として活動しているという。

 

 旧エリオス王家の遺児ハーリン王子に、発起人であるバーム星人のメルビ、ボアザン星の元将軍タンゲとラ・ゴールこと剛博士の四人がこの平和解放機構の中核である。エリカも地球を離れて彼らに協力していた。

 ギシン星間連合に支配された様々な星の平和勢力を結集した組織であり、地球人ではリリーナやそこちらには来ていないが、あのシェリンドン・ロナもメンバーだ。

 独自のネットワークを武器に反抗活動を続けていたが、ズール配下のエスパーには翻弄されているようだ。今回の襲撃も、あるいはスパイによるものかもしれないし。

 まあ、このオレ、バビル二世が来たからには連中の好き勝手にはさせないぜ。

 

 しかし、星間連合もだけど、こっちもやたらめったら豪華なクロスオーバーをしてやがる。

 便利な設定だからって何でもかんでも混ぜりゃいいってもんじゃないぞ、と思わずにはいられない。メタだが。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月♪日

 銀河系、星間連合の勢力圏旧エリオス領 《ラー・カイラム》の一室

 

 クロッペンの生き様は敵ながら天晴れだった。それに引き替え、いくら母星が滅びていたからって寝返ろうとするなんて、《エルシャンク》のラドリオ人たちは不甲斐ないな。

 詳しく書く気分じゃないから、どんなことがあったかは察してほしい。

 

 

 

 新西暦一八九年 ♬月=日

 銀河系、星間連合勢力圏ギシン星付近 《ラー・カイラム》の一室

 

 ロゼの故郷という星で、ようやくタケルたち《スペースクラッシャー》隊と合流できた。

 マーズ、マーグの感動の対面だ。

 が、薔薇的な展開が繰り広げられるかと密かに身構えていたのに、タケルが心配させやがってとマーグをグーパンで思いっきり殴ってた。あれか、甲児や宙たちのノリに影響されたか。

 

 タケルとロゼがいい仲になっていたのは余談。

 ええい、イチャコラしやがって。羨ましくなんてないぞ!

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月×日

 銀河系、ギシン星付近  《ラー・カイラム》の一室

 

 単刀直入に言おう。

 ついにズール皇帝を撃破した。

 

 本格的に反旗を翻したガンダル司令による決死の支援の元、たどり着いたギシン星本星。

 直属の部下、ワール司令を退けてズール皇帝との雌雄を決する最終決戦。《ダルタニアス》、《グレンダイザー》、《ゴッドマーズ》、《エルガイムMkーII》、《レイズナーMkーII》、《獣魔》を筆頭に、星間連合と因縁あるものたちが奮戦する。しかし、ズール皇帝は幾度となく復活してオレたちを苦しめた。

 

 決戦の舞台を宇宙に移し、奴の邪念とオレたちの信念がぶつかり合う。

 FIRE BOMBERwithフェイ・イェンHDが歌い上げる「VICTORY」をBGMに、オレたちは死力を尽くした。

 バサラの、ミクの歌声が銀河を揺るがし、ついには無限力が力を貸して四機の魔装機神が地上では成し得ない精霊憑依(ポゼッション)形態へと変化、さらなる力を呼び覚ます。

 激闘の末、二体の《ゴッドマーズ》による《ダブルファイナルゴッドマーズ》が炸裂。さらに往生際の悪いズール皇帝にトドメを刺そうと、タケルは反陽子爆弾による決死の特攻を敢行する。

 たがそれは、《ダルタニアス》の解き放った超空間エネルギーによって防がれ、ズール皇帝は反陽子爆弾を直接送り込まれて跡形もなく消し飛んだ。

 奴の怨念も、オレとイルイにより発動した無限力で因果地平の彼方へと消え去ったはずだ。

 

 ギシン星間連合は瓦解、ギシン星やたくさんの星々はズールの恐怖支配から解放された。

 未だ戦力を残すポセイダル軍、ボアザン星、キャンベル星、ザ・ブーム艦隊。それに異世界が本拠地のムゲ・ゾルバドス辺りの動向が気になるが、当面の脅威は取り除かれた。

 αナンバーズ艦隊はゾヴォーク先遣艦隊と別れ、地球圏に帰還する。

 

 隼人さんとアール博士、それにマーグはここに残り、ギシン星や旧エリオス領の復興に努めるそうだ。

 また、剛博士とエリカはボアザン星に赴くとのこと。やや心配ではあるが、ハイネルとリヒテルが同行するそうだから、彼らに任せるとしよう。

 一方、大介さんやルビーナ姫、ダバ一行やミト一行らイプロン星系組、メキボスとガヤトさんは引き続きαナンバーズに協力してくれる。

 受けた恩を返すというだけではなく、この銀河の平和のために力を貸してくれるって言うんだ。こんなにうれしいことはない、って感じだな。

 



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αIIIー4「鋼の救世主 後編」

※二話連続投稿につき注意!


 

 

 

 新西暦一八九年 ※月◎日

 地球圏、極東地区日本 科学要塞研究所 《ラー・カイラム》の一室

 

 意気揚々と地球に凱旋した。

 どうやらオレたちが留守の間は、《ナデシコ・Yユニット》やこちらに転移してきた《天空魔竜》が地球の平和を守ってくれていたようだ。なお、《大地魔竜》は未だ不明とのこと。《ザ・グレート》はお預けか。残念。

 彼らにはエイーダ・ロッサと《Rーダイガン》が、アランさんと行動をともにしていたらしい。《ノヴァ》の支援機だってことは隠す気ないみたいだ。

 とりあえず、さっそくミクと意気投合していたエイーダには銀河と一緒にサインはもらっておいたぞ。

 あと、五飛もしれっと加わっていた。曰く「加藤機関の正義は見極めた」とのこと。ズールに洗脳されなくてよかったよな、お前。

 

 突然「やることがある」と姿を消したシラカワ博士にマサキの奴が憤慨していたが、さておき。

 地球各地で、待っていましたとばかりにゴラー・ゴレム隊がちょっかいをかけてきた。まったく、懲りない連中だよな。

 

 《龍虎王》に導かれて訪れた蚩尤塚ではクスハが孫光龍と激突。力を取り戻すために目的を忘れた《応龍皇》を正すため、そして百邪を討つため目覚めた《雀王機》、《武王機》の魂と合身、《真・龍虎王》が誕生した。

 ただ、《応龍皇》の猛攻でブリットが意識不明の状態に陥っている。今度は眠り姫かよ、とはさすがに言わなかった。クスハがシリアスしてたからな。

 

 バラン・ドバンとの決闘をきっかけに道を踏み外しかけたトウマだったが、こちらも収まるところに収まった。

 生まれ変わったことで正式にDGGに加わった《大雷鳳》が、百刃隊とやらを文字通り蹴散らした。心・技・体が揃ってこそ、訓練の成果が実るってわけだな。

 ハザルざまぁ。

 

 で、トウマが妙なのを拾ってきた。

 ゼ・バルマリィ帝国の巫女、アルマナ・ティクバーとそのお付き、ルリア・カイツだ。

 周りの目を盗んでお忍び的に地球へと降りてきていたようで、ゴラー・ゴレム隊があちこちで暴れていたのは彼女らの捜索が目的らしい。なにやら複雑な事情が背景にあるようだが、まったくはた迷惑なお姫様だ。

 

 トウマを挟んでミナキさんとにわかに修羅場ってるこのアルマナ、バルマーの事情に詳しいエイジらによるとかなりの地位にある人物らしく、彼らは緊張しつつ敬意を払っていた。

 二人の尋問には、ヴィレッタ大尉が当たっている。身元を知られるのは承知の上だろうな。

 

 あと、ルリアの声に聞き覚えがあるなぁ、 とずっと考えてて今さっき思い出した。あれ、ファムだ。それもオリジナル版の。

 気づいたらなんだか丁重に扱わなきゃいけない気がしてソワソワしてきたわけだ。中の人、実はファンなんだよなぁ、オレ。

 まあ、本人からは敵意満々で睨まれてるんだけどな。「火星ではよくもやってくれたな」って何さ。え? 火星決戦の時にいたの?

 

 

 追記。

 《ZZ》のフルアーマーパーツ、《V2》のアサルトパーツ、バスターパーツ、《ν》のHWS、《ストライク》のガンバレルストライカー等の強化装備が届いている。

 さらに、トビアのアイデアをキッドとロウがジャンクパーツを使って実現した《クロスボーン・ガンダムX1フルクロス》が完成した。胸部にサテライトキャノンを仕込むとかはさすがにしてないぞ。

 また、ハマーンさんの伝手で旧ネオ・ジオンから《サザビー》が送られてきた。こいつは、クワトロ大尉に格別の思い入れがあるカミーユが使うらしい。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月#日

 地球圏、極東地区日本 科学要塞研究所 《ラー・カイラム》の一室

 

 端的に言おう、加藤機関がまるっと味方に加わった(やや語弊あり)。

 いろいろあったが経緯は省略。さすが、「ナタクのファクター」だなということで一つ。

 森次の裏切りには思うところがないわけではないが、当事者たちで話がついてるんだからまぁ、いいか。

 高蓋然性世界からの侵略者、セントラルとの決戦も近そうだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月♢日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン 《ラー・カイラム》の一室

 

 くさくさした気分でこれを書いている。

 

 αナンバーズは現在、機能不全に陥ったオービットベースからロンデニオンに拠点を移した。

 バイオネットのギムレット(最終的にはルネに潰された)から接収した「Qユニット」を奪うため現れた護とギャレオン、そのレプリジンにより発生した被害は甚大だ。パピヨンさんが犠牲になっている。

 最終的には《ガオファイガー》の《ゴルディオンハンマー》により光となったが、あいつらも洗脳されていなければ仲間になれただろうに。

 友だちと同じ姿の存在が、非道を繰り返す様を見せつけられたイルイの悲しみはいかばかりか。

 直後に現れたソール11遊星主にパスキューマシンを奪われたが、パルパレーパとピルナスには怒りと悲しみの拳を叩き込んでおいた。

 後で覚えとけよ。復活する度に消滅させてやるからな。

 

 余談。

 Gアイランド・シティの戦いでは、復活した《第五使徒ラミエル》が出現した。

 かつては苦戦させられた《ラミエル》だったが、αナンバーズの過剰戦力にタコ殴りにされてあっさり撃破できてしまった。魂の欠けたガワだけの存在とはいえ、哀れだ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月★日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン 《ラー・カイラム》の一室

 

 先日の事件を受け、αナンバーズに対する風当たりがにわかに強くなってきた。

 地球安全評議会ではハマーンさんやリリーナが弁護してくれているが、旗色は思わしくないらしい。

 とそこに、連邦軍強硬派がマスドライバーを狙ってオーブに侵攻するとの一報が入る。オレたちは、先発する《アークエンジェル》隊につき合って急行した。

 オーブ首脳部を交えた会議。「マスドライバー、使わせたら? 使用料ふっかけて」というオレの提案は黙殺された。ウチの軍師からの入れ知恵だったんだけど、無駄になってがっかりだ。

 その後、ウズミ氏とカガリの「最後通告だと!? もはや体裁を取り繕う余裕すらなくしたか!」「再度の会談要請に応えもないまま……! くっそーーーッ!!」というやりとりにイラッ☆と来たのは秘密。いや、最初から交渉する気がなかったのはアンタらもでしょ?

 

 お話にならないので、先んじて迎撃準備をしておいたわけだ。もちろん、孔明先生の振り付けである。

 作戦は海上での迎撃。上陸を許す?市街地戦?論外です。

 さっさと準備を整え、さらに念のためオーブ中を駆けずり回って民間人を避難させた。会戦ぎりぎりに疎開?あり得ないです。

 無論、例の赤目の少年と家族も無事に国外、極東地区日本へ避難している。幸せになってくれるといいが。

 

 戦闘についてだが、ついに完成を見た《ブルデュエル》、《ヴェルデバスター》、《ネロブリッツ》のお披露目である。相手は新型GATシリーズ、《カラミティ》《フォビドゥン》《レイダー》の通称常夏三人組。機体性能は互角かやや上らしく、いい感じに圧倒していた。

 そういや、やけに動きのいい《M1》がいたけど、アレってやっぱ“拳神”かな?

 

 さらに、ようやく登場の地球製ソリッドアーマー《オーガン》。オレたちが外宇宙に行ってる間、オーブで建造していたらしい。

 連邦軍の《ソル・テッカマン》部隊、はぐれ《テッカマン》の《テッカマン・デッド》を相手に大立ち回りを繰り広げた。

 アラスカでもお世話になったゼーレの刺客部隊もいたな。アークエンジェル級二番艦《ドミニオン》を母艦にしてたが、艦長は誰だ? 三輪か、あるいは真空管禿かもな。

 ガウルンこと戦争狂はいたんだが、《ハイペリオン》の姿はなかった。やっぱ宇宙じゃないとアミューレ・リュミエールの本領を発揮できないからか?

 激闘の末、《ゼオライマー》が《ハウドラゴン》を撃破。しかし《ゼオライマー》の方のダメージも色濃く、マサトは隊を一時離脱して修復・強化に専念するとのこと。《グレート》フラグですねわかります。

 

 そうそう、《ストライクダガー》のパイロットは仮にも連邦軍人なので、キラ同様に手足首をもいで陸地の方に転がしておいた。《TーLINKレボリューター》大活躍である。

 つーか、オレたちαナンバーズを相手にして士気を保てるその気概にはある意味感心したぞ。

 

 

 常勝無敵のαナンバーズ唯一の弱点、防衛戦の常、オーブ防衛は残念ながら完遂できなかった。

 とりま、強硬派の戦力に大打撃を与えることには成功し、再度交渉のテーブルに着かせることも出来たから結果的には勝利と言えるだろう。

 

 なお、ウズミ氏によるモルゲンレーテとマスドライバーを爆破自殺は当然止めている。

 感動のシーン?知らんがな。身内とか理念のことばかりじゃなく、残された国民のことも少しは考えろよ。あんた国家元首だろ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月×日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン 《ラー・カイラム》の一室

 

 オーブは事実上解体、連邦の監視下に置かれており、ウズミ氏は国際警察機構の手で軟禁という名の保護されている。

 で、カガリが見聞を広めるとしてαナンバーズに同行してきた。

 イズモ級二番艦《クサナギ》を足に、お着きはアストレイ三人娘と、オーブに身を寄せていたらしい“煌めく凶星J”ことジャン・キャリー氏。。《ストライクルージュ》と使えもしないIWSPを持参しつつ。

 正直カガリはどうでもいいが、ジャンさんの登場で《レッドフレーム》のパワーアップが現実味を帯びてきた。え、《戦国》作るの? マジかよ。

 

 そういえば、ロンド姉弟ってどうなったんだ?とロウに聞いてみたが、「誰だそれ?」と言われた。

 《ガーベラストレート》を折ったのは、《テッカマン・エビル》らしいが。

 

 で、調べてみたらなんと、ウチの博士と協力していろいろ暗躍していたようなのだ。

 おい、どこの因果の影響だよ。《ヴァルシオーネ・ミナ》とか作り始めたら、オレってばどうしたらいいのさ?

 

 ちなみに、《ブリッツ》は撃破されていないが《ゴールドフレーム(あまつ)》は原作通りの形で完成しているようだ。博士が作ったんだろうな。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月†日

 地球圏、衛星軌道上L4宙域 コロニー・メンデル 《ラー・カイラム》の一室

 

 久々のザフト、クルーゼ隊と交戦した。

 プラント内部の協力者と接触しようと単独行動していた《エターナル》が狙われたのだ。

 さらに、《ドミニオン》を旗艦とする連邦軍強行派の艦隊(中には《アルビオン》も)が。

 

 クルーゼ隊には、ZGMFーX11A《リジェネイトガンダム》とアッシュ・グレイが参加していた。《アッシュ》と同じ名前でムカついたので、優先的に攻撃しておいた。

 連邦軍強行派はお馴染みの面子に加えて、《アルビオン》の艦載機としてSEEDMSVのエースたちが加わっていた。

 “月下の狂犬”モーガン・シュバリエの《ガンバレルダガー》、“切り裂きエド”ことエドワード・ハレルソンの《ソードカラミティ》、“乱れ桜”レナ・イメリアの《バスターダガー》の豪華布陣だ。“白鯨”のねーちゃんは、搭乗機が水泳部だから地上でお留守番か?《レイダー制式仕様》にでも乗せてやればいいのに。

 《ハイペリオン》の真骨頂、アミューレ・リュミエール全方位展開はやはり厄介だったな。

 

 さらにさらに、シンクライン率いるガルラ、《ブレード》、《オーガン》を狙ってラダム、イバリューダーが大挙して押し寄せた。各勢力が入り乱れ、戦場は大混乱である。

 ていうかザフトと連邦軍、侵略者と戦えや!と思わず切れてしまった。

 

 なお、メンデル内でのいざこざにはオレとアーマラも参加している。カナード・パルスも進入していたので心配になったのだ。ちなみに、カナードはやっぱり実力行使しようとしたのでちゃっちゃと撃退しておいた。

 クルーゼの生い立ちとカナードの正体を突きつけられ、キラはだいぶショックを受けていた。クスとフレイが慰めるのに必死になっていたな。

 美少女に囲まれて羨ましい、爆発しろ。と呪ってたらアーマラに蹴られた。痛い。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月†日

 地球圏、衛星軌道上 ロンデニオン 《ラー・カイラム》の一室

 

 ロンデニオンに帰還する途中、月面に異変ありとの知らせを受け、急行するオレたち。同時に、地球からガンドール級二番艦《ドラゴンズ・ハイヴ》が飛翔する。

 敵は、突如姿を現したムーンWILLとビッグゴールド率いるクトゥルフ本体、さらにはゼロ率いるガルファ帝国の連合軍だ。

 アラスカ基地での一件で上層部の非道を弾劾し、月に左遷されていた岡長官とイゴールさんが月面都市を護るために奮戦、その命を犠牲にする。

 爆発する野生。獣戦機隊とチームDは神おも超える力を発揮し、《ファイナルダンクーガ》と《ダンクーガノヴァ・マックスゴッド》が誕生する。

 《ファイナル断空光牙剣》と《断空彈劾剣》がムーンWiLLの《オリジナル・ダンクーガ》を粉砕。さらに、外宇宙で一時離脱して以来、傷を癒して帰還したイクサー1と反旗を翻したイクサー2、イクサー3による《イクサーズファイナルアタック》がビッグゴールド、そしてネオスゴールドを無に還した。

 ゼロもどさくさ紛れに撃破したのだが、やっぱすぐさま復活しやがった。とりあえず、北斗と治療から復帰したアルテアさんの希望でスバルを説得、捕獲もとい降したら撤退したけど。

 

 二人に託された地球の未来と平和、オレたちが必ずかなえてみせる。

 だから、無限力の中から見守っていてくれ。

 

 

 

 新西暦一八九年 ※月☆日

 地球圏、衛星軌道上 《ラー・カイラム》の一室

 

 アーマラとスレイが重傷を負った。また、クォヴレーが《ベルグバウ》ともども光龍の奴に捕獲されている。

 《ベガリオン》、《ビルトファルケン・L》は無惨にも大破だ。

 

 原因は、セレーナの裏切りである。

 アルマナらの身柄を引き渡すことを口実に、ゴラー・ゴレム隊に寝返ったのだ。あいつの真意は概ね理解できるが、やり方が気に食わねえ。

 イルイ共々、アイビスたちが無事帰ってきたことも素直に喜べずにいる。

 

 アーマラだが、キャリコとの戦闘中に自分の正体、「ユーゼス・ゴッツォによって製造されたバルシェムであり、地球での記憶は全てイングラムにより植え付けられたもの」だと明かされて激しく動揺し、その隙をスペクトラに突かれて撃墜された。

 

 さっきヴィレッタ大尉の口から、詳しい事情を聞かされた。

 アーマラはやはりバルマー戦役で失われたユーゼス製のバルシェムの中の一人で、ヴィレッタ大尉同様イングラム少佐によって極秘裏に“枷”を外された上で特脳研に送り込まれたのだという。

 その役割はSRXチームが揃わない場合の保険であり、また自分と大尉に万が一のことがあったときの予備だった。用意周到なことだ。

 

 大尉がことさらアーマラに気かけていたのはそのためで、「あの子は私の妹なのよ」とどこか後悔したように言っていた。

 おそらく、そのことを本人に教えなかったことを気に病んでいたんだと思う。

 

 それは概ねオレの推理した通りで。

 クソッ、もっと早くアイツに真実を告げていればこんなことにはならなかったのに。アーマラがこうなったのは、日和見たオレのせいだ。

 自分の撒いた種だ、自分で処理する。キャリコとスペクトラには必ず落とし前をつけさせてやる。

 

 

    †  †  †

 

 

 目が覚める。

 オレは、妙な液体に浸かっていた。

 

「――ッ!?」

 

 嫌なデジャヴに一瞬混乱したが何のことはない、ここはバベルの塔内のメディカルルーム。“バビル”を治療するための専用施設だ。

 

 操作パネルをいじり、溶液を排出。治療カプセルから抜け出して息を吐く。

 

「そうか、オレは……」

 

 負けたのか。そう口にすると、胸に苦い思いが広がる。

 いや、あれを“負けた”というのは語弊があるが、それでも倒れて戦線を離脱してしまったのは事実だ。

 無敵を気取るつもりはないが、“地球圏最強の汎超能力者(サイコドライバー)”の肩書きを背負う者として、バビル二世としてオレに敗北も失敗は許されないというのに。

 

「っち、情けない!」

 

 イラつきを八つ当たりして振るった拳が、治癒カプセルのガラスを粉砕した。

 

 

 備え付けの簡易シャワー室で溶液を洗い流すと、アキレスが姿を変えた執事が着替えを持って現れた。どうやら出待ちしていたらしい。 

 滴を拭い、用意してくれた新しいボディスーツといつものクロークを身につける。着替えながら、こうして至った経緯を思い返した。

 

 セレーナの裏切りを端に発した一連の戦闘。

 アルマナらを人質に取り、バルマーの手を脱したクォヴレーとセレーナ。《ベガリオン》のテスラ・ドライブと《AMサーバント》のパーツを組み込んで復活した《ASアレグリアス》の活躍でキャリコたちを撃退したオレたちの前に現れたのは、奪われた《ベルグバウ》が新生した黒き銃神《ディス・アストラナガン》だった。

 ズール皇帝がバルマーに潜入させていた最後のゲシュタルトに奪われ、そしてそのゲシュタルトを媒体に何者かが憑依し、操っていたのだ。

 

 名乗ることすらしない奴はかつてない邪念を発露し、オレたちに襲いかかってきた。

 銃神の心臓“ディス・レヴ”の更なる覚醒を促すべく、クォヴレーを、ひいては無限力に祝福されたαナンバーズの魂を求めていたんだろう。

 奴は「あらゆる因果を集めた幾億万周期の輪廻の果て、ついに銃神の心臓を手に入れた」「然る後、無限力より運命を奪い取ってくれよう」とひび割れたように聞こえる声で独白していた。

 ……微かに感じたあの念は、ゲベル・ガンエデン? だが、あの濁りきった念は何だ?

 

 おぞましくも強大な悪しき邪念に支配された《ディス・アストラナガン》を止めるべく、オレと《エグゼクスバイン》は全力を超えた領域で戦った。

 激戦の末に、満身創痍の《エグゼクス》は《アストラナガン》と組み合って辛うじて動きを止め、《ヴァルク・ベン》に乗ったクォヴレーの接触を助ける。

 最後の記憶には、クォヴレーにより奪還された《ディス・アストラナガン》の上げる咆哮と、オーバードライブ寸前のトロニウム・レヴとブラックホールエンジンが緊急停止するアラートサイン。そして、枯れ木のよう老いた自分の手が残っている。

 あれは念の、超能力の使い過ぎによる弊害か。

 黄帝・ライセや孔明から何度も注意されていたし、何よりオレ自身漠然と危険性は感じ取っていたが、それだけ黒き銃神が強大だったということだ。

 

 一通り回想したところで、ドアが開く。

 

「ご主人しゃま!」

「孔明か」

 

 部屋に飛び込んできたのは我が軍師、諸葛亮孔明だ。オレの覚醒を聞きつけて飛んできたようだな。

 

「心配をかけたな。お前が、オレをここ無事に運ぶように手配してくれたのか?」

「はい。ご主人さまの傷ついた身体を治療するためには、ここの施設でないといけませんから」

「そうか、ありがとう。……それで、アーマラやみんなは? それにイルイはどうした?」

「αナンバーズの皆さんは、連邦政府により地球圏から追放されました。最後の通信では、「宇宙収縮現象の原因を突き止めるために出発する」と」

「それは、グローバル議長の差し金だな」

「はい。ブルーコスモス、ゼーレによるEVAシリーズ等の超兵器の接収を回避するためですね。そしてイルイさんですが、ご主人さまが倒れた後、ラー・カイラムから姿を消したとのことです」

「そう、か……」

 

 やはり、という思いがある。

 おそらくナシムの判断だろうが、オレが倒れたことでイルイの身に危険が降り注ぐことを回避するためだろう。

 追っ手からうまく逃げ切ってくれればいいが……。

 

「最後に、アーマラさんは……」

 

 

 

 

 自動ドアが開く。

 

「アーマラ」

「! イング、か?」

 

 顔を上げたアーマラはベッドの上にぼんやり座り込み、どこか焦燥した様子だった。

 無理もない。アーマラは今まで、自分が生粋の地球人だと思って戦っていたんだからな。大切な柱をへし折られたようなものだろう。

 

 無言で傍らに腰を落ち着けた。

 僅かに身じろぎしたが、アーマラはいやがる様子はないのでとりあえずよし。あとは切り出すきっかけだ。

 

「……」

「……」

 

 暫し、沈黙する。

 どう言ったものかといろいろ頭で考えてみて、結局ストレートに自分の気持ちを明かすことにした。やっぱ、ウジウジ難しく考えるのは性に合わないしな。

 

「ごめんな。お前がヴィレッタ大尉と同じなんじゃないかって感づいておきながら、教えなくて」

「……」

「ショックだったか? 自分が地球人じゃないこととか、記憶が嘘だったこととか」

 

 オレの問いに、アーマラは自嘲を浮かべた。

 

「……いや、そうでもない。自分が地球人ではないことや、両親の記憶と思い出が作られたものだったことに衝撃を受けなかったわけじゃないんだ。だが、お前を側で見ていたんだ、私の生まれなど些末なことだろう」

「それなら、どうしてそんなに落ち込んでるんだよ」

「一番ショックだったのは、それを知って僅かでも動揺して、お前の足を引っ張ってしまったことだよ。これまで兵士だなんだと散々言っておきながらな、な」

 

 こんなザマではキラのことを笑えん。そういう表情は痛々しいほど自虐に満ちていた。

 アーマラはプライドが高い奴だが、同時に自分に厳しい奴だ。でなきゃ、念動力に劣るにもかかわらずオレと同等の操縦技術を持てるわけがない。

 オレは反射的に立ち上がり、アーマラと相対した。

 

「馬鹿言え。そんなことでお前を笑う奴がいるなら、オレがぶっ飛ばしてやる」

「……」

「アーマラ。お前がスゲーヤツだってことは、オレが一番知ってる。」

「しかし、私は……」

 

 今更自己否定を口にして口ごもるアーマラに、オレはますますイラついた。

 理由は自分でも判断付かないが、ともかくイライラして仕方がなかった。

 だから――

 

「つべこべ言うな。お前はオレに着いてくればいいんだ」

「あっ」

 

 らしくないセリフを吐いてアーマラの手を取り、無理矢理に立ち上がらせた。

 

「きゃっ!」

「おわっ、と」

 

 足をもつれさせたアーマラがかわいい悲鳴を上げて、倒れ込んでくる。

 若干慌てつつ受け止めると、アーマラの顔がオレの胸に突っ込んできた。背丈は大体同じくらいだけど、コイツの体制が崩れてるからこんな格好になったわけさ。

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「………………」

「………………」

 

 ち、沈黙が痛いっ!

 目の前にある桃色の髪からは、なんというか、女の子的な甘いに香りが漂ってきてドキドキする。

 いろいろとたまりかねて、オレは口を開いた。

 

「な、なんか言えよ」

「お、お前こそ何とか言ったらどうなんだっ」

「こういうのは苦手なんだよ」

「私だって……」

 

 消え入るようなアーマラ。普段、勝ち気で高飛車なこいつの、らしくない殊勝で弱気な様子が女の子していて。

 顔から火が吹きそうだ。

 

「と、その……イルイのこと、聞いたか?」

「あ、ああ」

 

 苦し紛れではないけれど、話題を変える。

 顔を上げたアーマラは、頬を僅かに赤みを残しながらも表情を曇らせた。イルイとは本当の姉妹のように仲がよかったから、気がかりだったのは間違いない。

 

「イルイは強い子だから泣いてはいないだろうけど、きっと一人きりで心細いはずだ」

「うん」

「オレたちのことだって心配してると思う」

「そうだな」

 

 いくらか落ち着いた様子でアーマラが肯定する。

 

「だから、その……」

 

 うまい言葉が思いつけない自分が苛立たしい。やっぱ直球一本勝負しかないか。

 アーマラの肩を軽く掴んで身体を離し、目と目を合わせる。深い藍色の瞳からは。

 

「一緒に、あいつを迎えにいこう」

「一緒、に?」

「ああ。オレとお前の、二人で。ついでに世界を救ってやってればいい」

「できるだろうか、私に」

「できるさ。なにせオレたちは、“サイコドライバーズ”だぜ?」

 

 αナンバーズのエースチーム、「サイコドライバーズ」――自惚れるわけじゃないが、オレたちはバルマー戦役から続く長い戦乱の中心をひた走ってきた自負がある。

 全ては平和のために。みんなの笑顔のために。

 ……オレは純粋にこの世界の生まれじゃないが、思い入れも、大切なもの だってあるんだ。

「サイコドライバーは、お前だけだろう」苦笑するアーマラ。けれど、さっきまでの弱気のムシは消えたようだ。

 

「ふっ……お前の無理無茶無謀の三拍子につき合えるのは、“相棒”の私くらいだな」

 

 桃色の髪を掻き上げて、クールに決める我が“相棒”。

 これだこれ。クールで高飛車で大人ぶって、だけどかわいいところもあって。そして、頼りになるオレの最高の相棒――、アーマラ・バートンはこうじゃないとな。

 

 居住まいを正し、改めてアーマラと相対する。

 オレは、今の気持ちのそのままを、なんら飾ることなく紡いだ。

 

「もう一度言うぜ、アーマラ。オレと一緒に来い。オレには、お前が必要なんだ」

「……ああ。銀河の果てまでだって、私がついて行ってやる」

 

 

 

 

 

 バベルの塔、格納庫。

 あらかたの照明が落とされ、薄暗い中をアーマラと二人行く。

 しばらくすると、見覚えのある青い軍服を着た男女に出くわした。

 

「ライ少尉に、レビか?」

「いつぞやの防衛戦ぶりだな、イング」

「久しぶりだ、イング。あと、いま私はマイ・コバヤシと名乗っているから、そう呼んでくれるとうれしい」

「ンッ、そうか、すまん。じゃあ改めて、マイ、ライ少尉、どうして二人が?」

「わたしたちはここで、SRXアルタードの調整を行っていたんだ」

「! 完成したのか、SRXアルタードが!」

「ああ、分離機能をオミットした急造仕様だがな。暴走する地球連邦政府に横やりを入れられないために、国際警察機構の手配でここに運び込んだ。作業には、シュウ・シラカワの手を借りている」

「なるほどな」

 

 シラカワ博士が急に離脱したのはそれが理由か。そういや《グランゾン》は便宜上、Rー0の名を与えられてるんだっけ。豆知識だな。

 

「健在は、XNディメンションの最終調整をしている段階だな」

「XNディメンション?」

「イングラム少佐が残したSRXの真の存在意義、機動兵器及びその周辺の物体の転移を行うシステムだ。長らく開発が難航していたが、何とか使用可能にまでこぎ着けた」

 

 なんでも、月面の研究施設での攻防(アウセンザイターの初陣)の際、別宙域にいた二人を何者かが転移させており、その際のデータから完成を見たのだという。また、イルイが姿を消す前にバベルの塔に残していったデータも重要な情報だったようだ。

 その何者かってのは、おそらくビッグ・ファイアだろう。先代には、また助けられたみたいだな。

 

「イングたちは、やっぱり?」

「ああ、オレたちは“博士”に呼び出されて――」

 

 マイの疑問に事情を説明しようとしたとき、どこからか甲高い音(テスラ・ドライブの駆動音か?)が聞こえてくる。

 避ける隙もなく、ピンクの丸い物体が、ゴガッ、と顔面に直撃した。

 

「ったあ!? ……何してくれてんだッ、エクス! 首がもげるかと思ったぞ!」

「ごご、ごめんなさいぃぃ!」

「ま、まあまあ」

「ったく……ん? なんかお前、変わってね?」

 

 おバカなマスコット・ロボを引き剥がしつつ、よくよく見るといろいろ細部が違っている。いや、自分が作ったものだしな。

 特に、後ろからふわふわと漂っている羽衣みたいなリボンみたいなものなんてかなり目立つぞ。

 

「はい! すーぱーしるえっとです!」

「スーパー、ね。で、何か性能的な変化はあんの?」

「特にありません!」

 

 そんな張り切って言うなよ。

 

 

 

 エクスに案内されて格納庫の最奥、オレすら立ち入りを禁止されていたエリアへと足を踏み入れた。

 

「来たかイング、アーマラ君」

 

 そこで待っていたのは白衣を身につけ、見事な髭を蓄えた強面の偉丈夫。

 ビアン・ゾルダーク――かつて「人類に逃げ場なし」と説き、ディバイン・クルセイダース社を設立して地球防衛の旗手を担った希代の大天才だ。

 

「どうやら、立ち直ったようだね」

「はい、ご心配をおかけしました」

「オレたちはもう大丈夫だぜ、博士」

「宜しい。決意を新たに立ち上がった君たち同様に、エグゼクスバインもまた新しく生まれ変わった」

 

 ビアン博士の力強い声が響き、照明が点灯する。

 

「これが――」

「新しい、エグゼクスバイン……」

 

 オレの言葉を引き継いだアーマラが、感嘆の声を上げる。

 転生した《エグゼクスバイン》は、とてもシンプルな姿をしていた。

 頭部は依然ゴーグルタイプだが、ところどころに《ガリルナガン》の要素も加わって凛々しい顔つきに。側頭部に見える四つの穴はバルカンか?

 ボディは《エクスバイン》の情報量をさらに多くした感じだが、突起は少な目だ。気になるのは《TーLINKスライダー》はおろか、《ストライク・シールド》すら装備されていないことか。

 

「青いんだな、今度のヒュッケバインは」

「ああ。俺の乗った008と同系色だ」

「ライディース君には酷なことかもしれないが」

「いえ、自分はもうそのことを乗り越えましたから」

 

 マイの感想通り、メインは白に近い薄い水色を基調にしたアーリーカラー。アクセントに上品な紫が加わっているのは、これまでの《ヒュッケバイン》の名残か。

 さらに、ボディにはフレームに沿うようにして碧い光のラインが走っており、さながら鳴動するようにエネルギーが行き交っていた。こちらは《ガリルナガン》を思わせる。

 

「機体性能を説明しよう」

 

 嬉しそうに言うビアン博士。おいおい、説明おばさんじゃないんだから。

 一度言ってみたかった? あ、そうですか。

 

「全長二〇メートル、総重量四二トン。基本設計は私がしたが、先日の会議に召集した各方面の天才たちが手を貸してくれている」

「やっぱり……。てか、単純にエグゼクスを改造したわけじゃないのか」

「さすがにダメージが深刻でね、フレームなどは断裂して使い物にならなくなっていたのだよ。それに、システムの都合上コクピットブロックも新しくせざるを得ない。無論、コンピュータ周りの中枢やエンジンコアなど無事な部分は極力移植しているが」

 

 君には残念なことかもしれないな。と、博士は言う。

 確かに、《ディス・アストラナガン》との戦いで《エグゼクスバイン》は限界を超えてボロボロに傷ついた。最終的にはオレの念動力で無理やり動かしていたような有様だったし。

 残念と言えば残念だ。あの機体は、オレがこの世界に生まれ落ちてからずっと一緒にいた愛機で相棒なんだからな。

 だが、地球を護るべく生み出された《ヒュッケバイン》の意志は、次代に受け継がれた。それさえあればいい。

 

「マン・マシン・インターフェイスは、TーLINKシステム及びウラヌス・システムからコバヤシ博士、ウェンディ君共同開発のアスラ・システムに変更されている」

「アスラ? 阿修羅のことか?」

「いや、ゾロアスター教のアフラ・マズダが由来だと聞いている。善悪正邪を超克し、この銀河に終わらない平和をもたらしてほしい、という願いが込められているそうだ」

 

 なるほどね。終わらない平和と来たか。責任重大だな。

 

 解体したGSライドのGストーンを中枢回路とし、ラプラスコンピュータと同調、プラーナコンバーターを介して生命力と念を次元力に変換し、それを触媒にアカシックレコードへの常時アクセス・限定的な改変を可能とする――と、原理や何やらを説明されたがちんぷんかんぷんだ。

 重要なのは、オレの念を完全に受け止めることができ、なおかつ今まで以上に高めることができると言うことだな。

 

「フレームは専用のHIIフレーム。装甲のゾル・オルハリコニウムは新たにPS装甲の理論とラ・ギアスの精製技術を組み込み、徹底的に対魔術(オカルト)処理を施した。さらに、ネート博士が完成させた念動力に反応するマシンセル、ネオ・マシンセルを機体全体に散布している」

 

 なにそれこわい。

 

「トロニウム・レヴは移植、ブラックホールエンジンは新型縮退炉に換装、そしてGSライドの代わりとして新たに光量子波動エンジンを搭載した」

「光量子波動エンジン?」

「うむ。故兜十蔵博士が残した未完成の理論を、兜剣造博士が私と宇門博士がそれぞれ提供した量子波動エンジン、光量子エンジンの技術を用いて完成させた。一種の次元力でありタキオンすら凌駕するフリーエネルギー、ディファレーター光線を発する人工太陽プラズマスパークを封じ込めた、次時代の光子力エンジンだ」

 

 これまたすっげー開発経緯だな。

 つか、プラズマスパークって……激しく聞き覚えがあるんだけど?

 

「この三種のエンジンを統合したシステムを、総称して“オウル・レヴ”と言う」

「オウル・レヴ……さしずめ、光神の心臓ってとこか」

「メイン推進機関には、グランゾンのネオ・ドライブとTーLINKフライトシステムを統合したTFDS(TーLINKフィールド・ドライブ・システム)。補助的に、クロスゲートドライブの原理を軸に、超空間エネルギーとフォールド技術を応用した光推進システム、マキシマオーバードライブを採用している」

 

 おい、また聞き覚えがある単語が出たぞ。総帥自重しろ。

 

「そして、早乙女博士から提供されたゲッター融合炉と《グッドサンダー号》に残されていた試作型ビムラー発生器を使い、多量のゲッター線とビムラーを浴びせ、ゾル・オルハリコニウムを変質させた」

「ちょ、ま」

「私は、変質したこれを生体金属ヒヒイロカネと名付けた。このヒヒイロカネにはイデオナイトと同様の性質があり、またゾル・オルハリコニウムの流体性を受け継ぎ、尚かつ限定的な再生・増殖・進化機能まで持ち得た――」

「待てぇいっ!」

「む。何かね?」

「何かね?じゃぬぇーよ! なんてもん浴びせてくれんだ、アンタ! 虚無ったらどうする!」

 

 いくらビムラーが無限力の最穏健派で、ゲッター線もかなり自重してるとは言ってもやりすぎだろ!?

 マシンセルが異常進化して、《デビルヒュッケバイン》とかになったらヤだからな!?

 つーか、イデオナイトと同様ってなおさらヤバい――

 

「あがっ!?」

「落ち着け、馬鹿者」

「ってーな、アーマラっ! 銃で殴んな!」

 

 マイが「痛そうだ……」と涙目で自分の頭を押さえていて、ライ少尉が苦笑を漏らしている。言っとくけど、リュウセイを義手で殴るアンタも同類だからな。

 

「ふんっ、お前が騒ぐのが悪いんだ。それでビアン博士、見たところセイバーやスライダーの類は装備していないのですね」

「ふむ、いいところに目を付けたね。基本武装は、頭部二連装フォトン・バルカンと両肩両腰に装備した計一二本のオールレンジ攻撃対応ロシュ・ダガー、MkーIVと共通装備のハイ・グラビトン・ライフルだ。超念動フィールドを応用したTーLINKナックルというのもあるが」

「基本武装ということは、まだ何か?」

 

 うむ。とアーマラの疑問に頷く博士。

 

「無論、それだけではない。見たまえ」

 

 《エグゼクスバイン》の背後を頭上から点灯した照明が照らし出す。

 そこには、様々な武装を全身に装備したトリコロールカラーの怪鳥、胸の中心に緑色のランプをつけた赤と銀の巨人、胸元に見覚えのある仮面をつけた黒一色巨豹が鎮座していた。

 オレは思わず目を見開く。

 

「これは……!」

「“マシン・アニマリート(MA)”、新生エグゼクスバイン専用のサポートメカであり、生まれ変わったみっつのしもべだ。私の古い友人から提供されたデータを元に建造したボディに、ガルーダ、ネプチューンの電子脳を移植した。言うまでもないが、彼らの完成には先日の会議で集まった各界の頭脳が協力してくれている」

「マッドどもめ……。そういや、アキレスは?」

「胸部コアユニットに直接乗り込み、機体全体を構成する流体ヒヒイロカネの制御を担当する方式だな」

「モビルホースかよ」

「この三体のMAと合体(フォームアップ)することで、新生エグゼクスバインは真価を発揮するのだ」

 

 ビアン博士が言うには《MAアキレス》が「仮面の英雄」、《MAガルーダ》が「鋼鉄の戦士」、《MAネプチューン》が「光の巨人」にそれぞれ対応しているのだそうだ。

 確かに、カラーリングとか意匠とかそれっぽいよな。……前に博士にこの世界の前世にいたヒーローたちについて語ったこともあるけど、それがこんなところに影響してくるなんて。

 

「そして、この新生エグゼクスバインは副座式の二人乗り。コ・パイロットは勿論アーマラ君、君しかいない」

「私が、ですか?」

「そうだ。アウグストゥスたるバビル二世が真に力を発揮するには、ヒトの念が必要なのだ。至聖三者、ガンエデンで言うなればマシアフ、イルイ君と同じ立場だな」

 

 父、子、聖霊の三位一体ってわけね。

 十字教は厨二ワードの宝庫だから、結構詳しいのだ。

 

「イング、お前、このことを知っていたのか?」

「いんや、ぜんぜん。でも何となくそんな気はしてたぞ」

「予知でもしたのか」

「まあ、そんなとこ」

 

 ニュータイプ的な直感、オレは鈍い方なんだが今回ばかりは予想も予知もしていた。

 

「丁度いいじゃん。ファルケンも性能的に厳しくなってきてるし、オレにはお前が必要だ。さっきも言ったろ? お前はつべこべ言わず、オレに着いてくればいいんだってな」

「イング……」

 

 言い切ると、アーマラは僅かだが照れたように頬を薔薇色に染めて微笑む。

「……っ……」なんつーリアクションしてくれてんだっ。気にしないようにしてたのに、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきたぞ。

 

 マイが乙女チックな視線を向けてくるし、ライ少尉には苦笑されるし散々だ。

 満足そうに見つめていた博士が口を開く。

 

「地球圏の、そして銀河のあらゆる英知を集めて誕生した対アポカリュプシス決戦機――エグゼクスバインは、人類の未来を勝ち得るため、太陽の光の力を得て甦ったのだ」

 

 どこぞの太陽の子かよ。

 しっかし、ご大層なお題目だな。ホント、責任重大だよ。ヒーローはツラいね。

 

「ところでさ、博士。なんでいつまでも“新生エグゼクスバイン”って呼んでんだ? せっかくパワーアップしたんだし、名前も新しくしていいんじゃないの。リーゼとかラインとかブレイズとか付けてさ」

「ふっ、それはだなイング、ネーミングを君に委ねようと思うのだよ」

「え? オレに?」

「うむ。エクス君たっての希望でね」

 

 ちらりとピンクのボールを見ると、キラキラとした目で見ている。いや、単なるイメージだけど。

 困ったようにアーマラを見ると、力強く頷いてくれた。

 

 みんなの期待に満ちた視線を受けつつ、新しい愛機の姿を仰ぎ見る。

 アースクレイドルから始まったこの旅も、思えば短くも長かった。

 様々な出会いと別れを経て、オレはオレの理想とするヒーローに少しでも近づけたように思う。自惚れじゃなく、心から。

 ビッグ・ファイアとナシムに託された願いは、もはやオレの理想と等しい。オレたちはこの閉じられた銀河の輪廻に風穴をあけ、新しい未来を斬り拓く。

 

 志も果たせず封印された初代《ヒュッケバイン》。

 リョウトとともにバルマー戦役を駆け抜けた《MkーII》、《MkーIII》。

 二機の《EX》とそれぞれが転生した《ガリルナガン》、《エグゼクスバイン》。

 そして凶鳥を継ぐもの《MkーIV》。

 それらに続く、八番目の凶鳥――

 

「それなら、コイツの名前は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴラー・ゴレム隊の度重なる攻撃により追いつめられたαナンバーズ。窮地に陥った彼らを閉じこめていたES空間が、突如斬り裂かれるようにして崩壊する。

 漆黒の宇宙に投げ出されたαナンバーズの前には、見慣れない機動兵器が待っていた。

 

「みんな、待たせたな! 真打ちの登場だ!」

 

 副座式に改められた楕円形の全天コクピット。操縦席に座したイングは、浮遊する光球の形をした独特な操縦ユニットを握りしめ、高らかに謳う。

 その前方、一段下がったコ・パイロットシートではアーマラが自信を全身に漲らせて静かに戦意を高めていた。

 

『イング……! それに――』

『リュウ、間に合ってよかった』

『間一髪だったようだな』

『ライ、マイ! バンプレイオスが完成したんだな!』

「それだけじゃないぜ、リュウセイ!」

 

 心強い援軍の到着に、αナンバーズがにわかに活気立つ。

 

 彼らが率いるのは時空を斬り裂く鋼の戦神、《バンプレイオス》だけではない。

 破壊神に由来する真の力を解き放った蒼き魔神、《ネオ・グランゾン》――

 撃破した《ハウドラゴン》を取り込み、完成された究極の八卦ロボ《烈のグレートゼオライマー》――

 決意を胸に重力子を解放したクライン・サンドマンこと、ジーク・エリクマイヤーが駆る黒き超重神《ゴッドΣグラヴィオン》――

 ――――宇宙に覇を轟かせる最凶無敵の巨人たちが、仲間の危機を救うべく一堂に会したのだ。

 

『イングくん! アーマラ!』

『この登場の仕方、まるでいつかの再現だな』

『あれがイングの、新しいヒュッケバイン……!』

『エグゼクスバインと比べてシンプルに見えるが、それだけではないか。それにこのプレッシャー……イング、一皮むけたようだな』

 

 クスハが戦友の登場に喜びを露わにし、クォヴレーが前任者(イングラム)から引き継いだイメージを思い返して苦笑を漏らす。

 一方、リョウト、アムロがエンジニアとしての一面を見せる。

 

『おいコラ、シュウ! 来るのが遅ぇんだよ!』

『そうがならないでください、マサキ。私たちはあの機体、バビル二世の座であり新時代のガンエデンの完成に駆り出されていたのですから』

『私たち? ってことは、もしかしてマサトもか?』

『うん。最終的な調整には木原マサキの、いや、僕の持つ次元連結システムの知識がどうしても必要だったんだ。ちょうどグレート完成のために地球に残っていたからね』

『私も銀河に住まう者の一人として、及ばずながら協力させてもらったよ』

『サンドマンまでかよ……って、なんか髪の色変わってねぇか?』

『ははは。エイジ、そのことについては後ほど説明しよう』

 

 マサキがシュウに噛み付き、マサトが。エイジの目聡い指摘をサンドマン。

 

『あれは……まさかそんな……?』

『え、姫様?』

『あれはまるで創世神ズフィルード……、いえ、もっと違う、大いなる力を担う存在?』

 

 αナンバーズに同行していたアルマナは、新たな凶鳥を祝福する無限力の息吹を感じ取り、困惑と期待を浮かべた。

 

「このヒュッケバインは、銀河に住まう人類の英知を結集して生まれた決戦存在ッ! オレたちの、銀河の未来を斬り拓く新しい剣だ!」

 

 それは、真紅の時代に終止符を打つため、世界が待ち続けた鋼の救世主(メシア)

 それは、愛に満ちた日々を、終わらない平和をこの銀河にもたらすことを約束された勝利の(つるぎ)

 それは、邪念を断ち、そして定められた終焉すらも斬り裂いて、煌めく未来を創り出す奇跡の戦士(ヒーロー)

 

 その名は――

 

 

「エグゼクスバイン・メヴィウス! 人々の希望と祈りを受けて、凶鳥は冥府から甦る! 貴様ら悪党どもを根絶やしにするまで、何度でもな!」

「ハザル・ゴッツォ! 貴様との鬱陶しい因縁、その邪念諸共ここで断ち斬ってやる!」

 

 イングとアーマラが口上を上げると、機体フレームに沿って走るエネルギーラインが蒼白い光を放つ。

 SRTXー00DEX《エグゼクスバイン・メヴィウス》――八(8)番目の凶鳥にして無限()の名を冠した救世(ぐぜ)の担い手、不死鳥の勇者。

 理不尽な運命から力尽くで明日(あす)を掴むため、過去・現在・未来、異星異世界――ありとあらゆる人類の英知の粋を結集して産み出された、究極のスーパー・パーソナルトルーパーである。

 

『グッ、バルシェムの分際でふざけたことを! エイス、予備兵力を出せ! 全て残らずだ!』

『……了解……』

 

 ハザルは恐怖と戦慄を押し隠すように、引き連れてきた戦力すべてを放出する。

 《メギロート》や《エスリム》、《ハーガイ》などだけではなく、かつて支配していた頃に捕獲したものだろうボアザン星やキャンベル星の機動兵器の姿もある。師団規模の大部隊だ。

 さらに――

 

『あれは……!』

『そんな……!? ジュデッカが十体も……!』

 

 敵母艦《フーレ》から現れたのは白き地獄、十体もの《ジュデッカ》にリュウセイとマイが言葉を失う。

 特に、かつてレビ・トーラーとして《ジュデッカ》に囚われていたマイは、僅かに恐怖を滲ませていた。

 

『だが、ジュデッカと言えど念動力者が操縦していなければただの機動兵器だ』

『いやライ、そうじゃねぇ。あのジュデッカからは確かに念が感じられるんだ』

『なんだと?』

『うん。だけど、その念がおかしいんだ。まるで機械のような……同時に酷い苦しみを感じる』

 

 ライディースの考えを否定し、リュウセイとマイは口々に違和感を吐露する。

 イング、そして彼と()調()しているアーマラもまたその違和感を感じ取り、表情をゆがめた。

 

『ハハハハ! その通り! この強化型ジュデッカには、念動力者の脳髄が封入されている。それも人形(バルシェム)などではなく、征服した星の猿どものものをな』

『な、なんということを……!』

 

 明かされた非道な行為にアルマナが絶句する。

 それを聞きつけたハザルは、嫌らしい笑みを浮かべ、慇懃無礼に言い返す。

 

『何が問題なのです? 我々ゼ・バルマリィ帝国という優れた存在に有効活用される。奴ら猿どもも本望でしょう』

 

『この……ッ、外道!』

『ハザル! あなたという人は……!』

『貴様の存在は、もはや許してはおけない!』

『あたしもいい加減、アンタのゲスなやり口には頭に来たよ!』

 

 命を踏みにじる悪魔の所業に、トウマ、クスハ、クォヴレー、セレーナが怒りを露わにする。

「ふんっ」《ジュデッカ》率いる敵団を一瞥し、アーマラは高飛車に鼻を鳴らした。それはまるでハザルを嘲るようで。

 

「語るに落ちたな、ハザル。自分の力を誇示しようと御託を並べて喚く様は見苦しいぞ。貴様のような奴を、負け犬というのだ」

「ハザル! テメェはつくづく見下げ果てた野郎だ! ついでだ、再生怪人は弱いってお約束を身を持って教えてやる!」

「わたし、堪忍袋の尾が切れましたっ!」

「行くぞッ! 最初はお前だ、来いアキレス! フォームアップ!」

 

 気炎を上げるイングの発した指令とキーワードを合図とし、《エグゼクスバイン》の背後に開いた重力ゲートから飛び出す《MAアキレス》が、胸のパーツを残して瞬く間にボディを液状化させる。

 胸部コアパーツが《エグゼクスバイン》の頭部に仮面として合体、流体ヒヒイロカネが機体を覆い尽くしてその色を濃紺と紫、僅かに赤が施されたものへと塗り替える。宇宙に満ちるタキオン粒子が実体化して虚空に《ストライク・シールド》と《TーLINKセイバーver.2》を形成し、左腕に装着された。

 その背から延び、宇宙にたなびく紅い外套「メタル・クローク」すらも、流体ヒヒイロカネが変化したものだ。

 

 地を駆ける無双の英雄、《エグゼクスバイン・メヴィウスR》。

 かつての《エクスバイン・アッシュ》を彷彿とさせるその姿は、《MAアキレス》と合体(フォームアップ)した形態。“仮面の英雄”を象った《エグゼクスバイン・メヴィウス》の基本戦闘形態であり、最も性能の調和が取れたオールマイティな形態である。

 

「さあ、エグゼクスバイン・メヴィウスのお披露目だ! ド派手に行くぜ、アーマラ、エクス!」

「任せておけ、イング!」

「全力全開っ、です!」

 

 白き地獄に囚われた哀れな命を解放すべく、不死鳥の勇者が立ち上がる。

 念動フィールドと連動したTFDSが起動し、フィールド状の翼が大小二対発生して《エグゼクスバイン・メヴィウス》を物理法則のくびきから解き放った。

 

 その戦いは圧倒的という言葉も不足なほど超然としていた。

 重力空間から取り出した《ハイ・グラビトン・ライフル》を用い、空間転移による挟み撃ちで《エスリム》を押しつぶす。

 腰部に装着された計六つのシースから《ロシュ・ダガー》が投射され、両端より光子が吹き出す。《リープ・セイバー》と名付けられた光の戦輪が空間転移を繰り返して縦横に駆け回り、《ハーガイ》《ヲエラ》をズタズタに引き裂いた。

 真紅の外套を翻し、仮面の騎士が躍り出る。強念を纏わせた四肢が唸りを上げ、《ヴァルク・ベン》を粉砕していく。

 

「散れ、TーLINKスプラッシュ!」

 

 強念がほとばしり、翻した《メタル・クローク》が水滴のように()()()()()

 ヒヒイロカネ製のボールベアリング弾がイングの思念に従って縦横無尽に暴れ回り、《メギロート》たちを次々に蜂の巣にしていく。

 ヒヒイロカネの特性を生かした特殊武装、《TーLINKスプラッシュ》。《参式斬艦刀》に用いられた液体金属操作技術を昇華したものだ。

 

 暴れ回る《エグゼクスバイン》対して、《ジュデッカ》の内の一体が攻撃を仕掛ける。

 サソリ型に変形して突撃をかける《第一地獄カイーナ》。だが、《エグゼクスバイン》はそれをあっさりと躱し、反撃に打って出る。

 

「一気に蹴散らす! シーケンス、FSEッ!」

「了解だ! TーLINK、ツイン・コンタクト! 輝けッ、オウル・レヴ!!」

「リミットブレイクっ! エグゼクスバイン、フルドライブです!」

 

 出力を上げるオウル・レヴに従って、メタル・クロークがマフラー状に変化する。

 イングとアーマラの念により制御されたネオ・マシンセルが流体ヒヒイロカネを爆発的に増加させ、増加したヒヒイロカネがマフラーの先端から散布されて《メヴィウスR》の形に変化していく。

 

「光を超えろ、エグゼクスバイン! ファイナル・ストライク・エンド!!」

 

 無数の分身が、次々に念動フィールドを纏って突撃。当たるは幸いとばかりに、《ジュデッカ》へと強烈なキックを叩き込んでいく。

 さらに一撃をお見舞いした分身が、それぞれ《TーLINKセイバー》を引き抜いて斬りかかる。

 

千路(ちじ)吹く風巻(しま)きに祟れて滅せ!」

「アカシックレコードアクセスッ! 一気に振り切るぜ!」

 

 エクスの珍しくドスの効いた口上を皮切りに、分身達の速度が増していく。

 光速の斬撃が幾重にも折り重なり、次元断層を創り上げる。全身をずたずたに斬り裂かれ、悲鳴のようなきしみを上げる《ジュデッカ》を数体が四方から串刺しにしてその身を翠緑のクリスタルへと変え、動きを完全に封じ込める。

 そして四方を囲んだ分身が刃を振るい、白き悪魔の巨体が高々と打ち上げられる。

 

「さあ、フィナーレだ!」

 

 打ち上げられた《ジュデッカ》めがけて、メタル・クロークのマフラーを三対の翼へと変化させた本体が莫大な念を左の足先に集中させて突撃をかける。

 そこに散布された流体ヒヒイロカネが集結し、念動フィールドと交わって猛烈な勢いで螺旋を描いていた。

 

「はあああああ――ッッ!!」

「せいやーーー!!!」

 

 念動力で創られた円環状の加速ゲートをいくつもくぐり抜け、光を超えるかのように加速していく。

 そして、念の高まりが最高潮を迎え、イングの髪が紅く燃え上がる。サイコドライバーモード――、“バビル二世”としての力が発揮されるのに併せて、アスラ・システムで()調()するアーマラの髪もまた、深い紺青色へと変化していた。

 身動きの取れない状態で吹き飛んだ《ジュデッカ》を、加速ゲートはホーミングして捉え続ける。そしてついに《エグゼクスバイン》による強烈な蹴りが炸裂する。

 

「セイバー、アクティブッ!」

「念動フィールド!」

 

 胴体を貫通した勢いのまま《エグゼクスバイン》が、振り向きざまに《TーLINKセイバー》を引き抜く。

 イングとアーマラ、二人の強念を帯びた刃が光り輝く。

 光刃一閃。空間ごと引き裂く大斬撃は、苦し紛れの念動フィールドを容易く両断した。

 

「名付けて、光刃閃・(きわめ)ッッ!! デッド・エンド・オール――」

「「スラァァァァッシュッ!!!」」

 

 さらなる一太刀。まっすぐに振り下ろした刃から放たれた極大極光の帯に飲み込まれ、《ジュデッカ》は大爆発とともに消滅する。

 再び外套型に戻ったメタル・クロークを靡かせて、《エグゼクスバイン》は剣を鞘に納めた。

 

 単体では敵わぬと判断したのか、《ジュデッカ》の中の一機が取り巻きに各種SPTを多数引き連れ、数にあかせて押し切ろうと《エグゼクスバイン》に迫り来る。

 

「ザコばかりがごちゃごちゃと。そんな小細工、私たちの前には無駄だということを教えてやる!」

「お次はコイツだ! 出てこい、ガルーダ!」

 

 《MAアキレス》が《エグゼクスバイン》から分離。続いて姿を現した鋼鉄の怪鳥、《MAガルーダ》が嘶きながら大きく羽撃き、変形を開始する。

 上半身と下半身、そして両翼が分離し、さらに両足が切り離される。その脚部が変形した両肩の追加アーマーは、小型《TーLINKスライダー》六機のプラットフォームだ。

 上半身、二つに割れた首が上から肩に被さり、頭部が顎を引いた形で《エグゼクスバイン》の胸に装着。背部に合体したボディには《フェルミオンブラスター》の展開ギミックと砲身を備える。空間そのものに接続した複雑な機構が組み合わさった《フリーダム》を思わせる可動翼は、《TーLINKフェザー》を発するフライトユニットであり、大型《TーLINKスライダー》八機がさながら羽根のように装着されていた。

 また、脚部の増加スラスターは《カロリック・クラスター・ミサイル》の発射ユニットだ。

 腰部リアアーマーには、《ガルーダ》の尾を形成する八枚の白い板状の武装が合体。その武装の名は《タオーステイル》、超魔装機《デュラクシール》を代表する兵器を設計者であるセニア自らがTーLINKシステムを組み込んで復活させた必殺武器である。

 合体が完了したと同時に相転移(フェイズシフト)するヒヒイロカネの装甲が、《ガルーダ》と同じトリコロールに染まっていく。

 

 空を飛ぶ無敗の戦士、《エグゼクスバイン・メヴィウスG》。

 PTのみならず、《ガンダム》に代表されるMSやMA、SPT、HM、さらにはオーラ・バトラーや魔装機の技術までをも取り込んだ《メヴィウス》の高機動砲撃空戦形態。その姿はまさしく“鋼鉄の戦士”と言えた。

 

「アスラ・システム、正常に稼動中っ」

「アーマラ、アスラ・システムとメヴィウス、使いこなせるか?」

「ふん、私を誰だと思っている」

「ははっ、お前にゃ愚問だったな」

 

 《メヴィウス》のアスラ・システムはイングとアーマラ、両者のあらゆる能力を同調させ、さらにお互いの優れた部分で相手を補い合う。

 それ故、メイン・サブの区別はなく、二人で一つの機体を操る――、それこそがこの《エグゼクスバイン・メヴィウス》の真価なのだ。

 

「TーLINKフェザー、展開!」

「出ろ、タキオン・ライフル!」

 

 翠緑の光翼が羽撃き、イングの念によって空間が穿たれる。放たれる砲火を掻い潜り、一気に最大戦速まで加速した《エグゼクスバイン》は、開かれた重力空間から射出された一対のライフルを手に取る。

 

「私に出会った不幸を呪え!」

「タキオン・ライフル、シュート!」

 

 《TーLINKフェザー》とTFDSによる超光 速機動の中、《ツインバスターライフル》に似た形状のそれを二つに分割し、それぞれから超光速の砲撃を断続的に放って敵陣をズタズタに切り裂いた。

 撤界効果により、理論上空間の繋がりを無視して平行世界の別の時代に向けて狙撃が可能なタキオン粒子波動砲《ツイン・タキオン・ライフル》。《メヴィウスG》のメインアームだ。

 

「ターゲットロックッ、ツイン・タキオン・ライフル!」

「マキシマム・シュートッ!」

 

 再び連結した《ツイン・タキオン・ライフル》から極太の光の柱が解き放たれた。

 解き放たれたまばゆいばかりの光の束は超光速。莫大なタキオン粒子の奔流に巻き込まれたバルマーの機動兵器群は、火球を残して消滅した。

 

「まだだ! 全スライダー、タオーステイル、パージ!」

「制御はオレに任せろ! オープンブレードッ!」

 

 アーマラの意思により分離した各種武装が、イングの念を受けて展開する。《タオーステイル》が四つづつ組み合わさって砲陣を敷き、《メガバスターキャノン》を放つ。

 また、変形した《TーLINKレボリューター》が回転しながら鎹の中心のレンズよりレーザーを照射して光の檻を形成、圧倒的な火力で宙域を制圧していく。

 

「アーマラ、一気に決めるぞ! シーケンス、OPV! 輝け、オウル・レヴッ!」

「了解だ! TーLINK、ツインコンタクト! 数価変換、ゲマトリア修正!」

「ターゲット、マルチロックです!」

 

 アスラ・システムにより増幅・拡大された二人の思念が、エクスの制御に従って戦場を覆い尽くす。

 メインモニターに投影された多数の敵影を、ロックオンを示す赤いマーカーが捕捉していく。

 

「サンシャイン・フォーメーションッ! トリガーは任せたぜ、アーマラ!」

「ああ! 外しはしないッ!」

 

 アーマラが、コ・パイロットシートの前方からせり出した拳銃を模したスティックを握りしめる。

 《エグゼクスバイン》は背中の《フェルミオンブラスター》が展開、ガルーダの頭部が口を開いて《ハイパーサテライトキャノン》が発射態勢を取る。また、脚部増加スラスターが《カロリック・クラスター・ミサイル》の発射準備を整えた。

 さらに、《タオーステイル》と《TーLINKレボリューター》が《エグゼクスバイン》の背後にまるで日輪のような陣形を組む。

 閃く翠緑の光。溢れ出す擬似魔力の輝きが虚空を走る。

 《エグゼクスバイン》の足下に、火・水・風・大地の四大属性に、星・月・太陽の象徴が描かれたラ・ギアスの魔法陣が完成した。

 

「メヴィウスの力を……! 見せてやる! オペレィション・ヴィクトリー!!」

「フルバースト・アタックッ、デッド・エンド・ファイア!!」

 

 引き金が引かれたと同時に、《エグゼクスバイン》の全身から無数の火砲が解き放たれた。

 両手に持った《ツイン・タキオン・ライフル》を始めとして、オウル・レヴの莫大なエネルギーをダイレクトに重粒子ビームへと変換した《ハイパーサテライトキャノン》、魔術プログラムにより生成されて分裂・炸裂する熱量の矢《カロリック・クラスター・ミサイル》、フェルミオン粒子収束砲《フェルミオンブラスター》――《タオーステイル》、《TーLINKレボリューター》のエネルギー集束レンズからは意志を持ったかのように枝分かれし、歪曲するホーミングレーザーが照射された。

 全天を覆い尽くす砲撃の嵐。

 アポカリュプシスの尖兵、宇宙怪獣に対抗するための超々広域殲滅攻撃《オペレィション・ヴィクトリー》を前に、《ジュデッカ》は為すすべもなくを巻き込まれ、バルマー軍は壊滅的な大打撃を受けた。

 

 さらに――

 

『せめてもの慈悲です……、あなた達の存在を、この宇宙から消し去ってさしあげます……!!』

 《ネオ・グランゾン》の《縮退砲》。

 

『彼らの苦しみ、無念は、僕らが冥府へと導こう! 真のゼオライマーの力……、今!! ここに!!!』

 《グレートゼオライマー》の《烈メイオウ 》。

 

『宇宙の宝、命を弄ぶ者を私は許さない! グラヴィトンランサー!!!』

 《ゴッドΣグラヴィオン》の《グラヴィトンランサー》。

 

 三体の魔神の必殺攻撃により、《ジュデッカ》が次々に破壊された。

 

『ば、馬鹿なっ?! 強化型ジュデッカが、こうも簡単にやられるだと!?』

 

 あまりにも一方的な展開に、ハザルが顔色を変えて狼狽する。

 残る《ジュデッカ》も《大雷鳳》、《真・虎龍王》、《ディス・アストラナガン》、《ASアレグリア》により撃破され、一機のみ。

 最後の《ジュデッカ》は、獣士やマグマ獣など比較的損傷が軽微な手勢を引き連れて、三度攻撃を開始する。あるいは、《ジュデッカ》に込められた脳髄に僅かに残された本能が《エグゼクスバイン・メヴィウス》に対して恐怖を覚えたのかもしれない。

 

「まだ来るか、懲りない連中だ」

「特機には特機だ。行くぜ、ネプチューン! システムチェンジ!」

 

 分離する《ガルーダ》と入れ替わるように、赤と銀の巨大トレーラーが重力ゲートを潜って発進する。

 イングの発したキーワードを合図にトレーラーが変形するのは、四〇メートル級の赤銀のロボット《MAネプチューン》。流線型ではなく直角を多用しているものの、がっしりとした体型や厳つい顔立ちは《ジャイアント・ロボ》を連想させた。

 

「ネプチューン、フォームアップ!」

 

 《ネプチューン》は、主の指示に従いさらに変形を開始する。

 脚部、腰部等の装甲が展開し、頭身を伸ばす。太い前腕が肩アーマーに変形して二の腕を露出、鋭利な螺旋状のモールドが施された前腕が新たに接続した。

 胴体前面を鏡開きに開き、《ゴッドマーズ》や《SRX》と同様に《エグゼクスバイン》を格納。重力空間から胸部追加装甲――翠緑の宝珠「エナジーコア」を中央に、その両脇に念動ブーメラン《コスモスラッガー》を配した飾りが装着される。《マジンガー》シリーズ、《グルンガスト》シリーズから受け継いだ意匠であり、この形態の必殺武装の一つである。

 最後に《エクスバイン》《SRX》譲りのゴーグルが付いた翠緑色の水晶が特徴的な兜飾りを装着、《ネプチューン》の口元をマスクが覆った。

 

「天動合体! エグゼクスバイン・メヴィウス!」

 

 完成したのは四九メートルの特機。カラーリングは赤と銀のツートンから変化し、各部が展開することによりブルーが施されたボディが露出している。

 また、スマートかつマッシブなプロポーションが《ダンクーガ》やその後継機《ノヴァ》、《グラヴィオン》、《ダンガイオー》、《ダイゼンガー》に酷似しているのはそれらの開発者たちが完成に携わっているからだ。

 

 海を行く無敵の巨人、《エグゼクスバイン・メヴィウスU》。

 プラズマスパークの莫大な光を最大限・最大効率で発揮できる特機型強攻形態であり、SRG-01《グルンガスト》、SMH-01《ヴァルシオン》、DCAM-00/Rー0《グランゾン》、DGG-XAM1《ダイゼンガー》等のDC系特機の流れを汲む“光の巨人”である。

 

 仁王立ちする赤き巨人に向けて、バルマー軍が攻撃を仕掛ける。

 しかしそれらは、強力無比な「超念動フィールド」と全身に纏う七色のオーラ、「オーロラエフェクト」に阻まれて容易く弾かれた。

 

「無駄だ! その程度の攻撃、このメヴィウスには通用しない!」

「今度はこっちのターンだぜ! こいつを喰らえ、ウルティメイトバニッシャーーッ!」

 

 反撃は、胸部エナジーコアと《コスモスラッガー》から放つ光量子波動砲《ウルティメイトバニッシャー》。莫大な光の濁流が《サイモン》《ダイモン》を包み込み、瞬く間に輝く粒子へと昇華させた。

 敵機の撃破を確認する間もなく、巨人は右腕を引き絞り、次の攻撃動作に入る。

 

「砕け散れ! バニシィィィイングッ――」

「マグナァァァァムッ!!」

 

 アーマラの叫びとともに、鉄拳が放たれた。《ガオガイガー》の《ブロウクンマグナム》同様、手首と前腕とが高速で逆回転して飛翔する。

 猛スピードで飛来した拳が《強力ナマズンゴ》を貫通し、一撃で粉々に破壊した。

 《バニシングマグナム》。元祖スーパーロボット《マジンガーZ》の代名詞、《ロケットパンチ》に連なる特機の伝統的武装である。

 

 帰還した右腕が再び合体し、各部から蒸気が吹き出る。

 鉄壁の防御と圧倒的なパワーによる蹂躙戦――、それはまさしくスーパーロボットと呼ぶに相応しい姿だった。

 

「よしアーマラ、あれをやるぞ!」

「……それはかまわんが、本当にあのセリフを言わなきゃダメか?」

「当っ然!」

 

 イングのイイ笑顔に、アーマラが盛大に顔をしかめた。

 ビアン博士が施した《メヴィウスU》の「音声入力式武器選択装置」には、彼女が恥ずかしがる恥ずかしいセリフが登録されていたりする。

 

「ああもうっ、やればいいんだろ! やればっ! TーLINKツインコンタクト!」

「がんばりましょう、アーマラさんっ! リミット解除! オウル・レヴ、フルドライブです!」

「まずはこいつだ! サイキックウェェェィイブ!!」

 

 突き出した左の掌に翠緑の念動光が迸る。猛烈なサイコキネシスが《ジュデッカ》を捉え、その動きを完全に封じ込めた。

 《ダンガイオー》と同様のサイコキネシスによる拘束攻撃を始動にして、《エグゼクスバイン・メヴィウス》三形態の内で最大最強の破壊力を誇る必殺技が今、解き放たれようとしていた。

 

「漲る勇気ッ!」

「っ、溢れる愛情ッ!」

「愛と勇気を光の力に変えて!」

 

 イングを皮切りに、アーマラ、エクスが上げる口上は必殺技を発動するキーワード。

 フルドライブするオウル・レヴ――光量子波動エンジンが莫大な光エネルギーを生み出し、縮退炉内部のマイクロブラックホールから無尽蔵のエネルギーが汲み出され、トロニウム・レヴが念に反応して出力を上げていく。

 天の光、地の闇、人の心。正負、そしてその間に立つ純粋なるエネルギーが交わって、無限を超える究極の(ウルティメイト・)(パワーフォース)が解き放たれた。

 

「宇宙よ、銀河よ! オレたちに力を貸せ! アカシックレコードアクセスッ!! 次元を斬り裂け! エグゼクスカリバー、アクティブ!!!」

 

 胸部から分離したエナジーコアとその台座から柄が延び、さらにコアを囲むように黄金の光が瞬く。

 柄を両手で握り締める赤い巨人。

 念動力により導かれ、翠緑の光を帯びた流体ヒヒイロカネが間欠泉のように吹き出し、両刃の刀身をクリスタル状の物質で形成する。その様はさながら《スレードゲルミル》の《斬艦刀》を思わせる。

 太陽を模した黄金の鍔に、結晶化したヒヒイロカネの刀身を持つ念動剣《エグゼクスカリバー》、別名《天地神明剣》。《グルンガスト》シリーズの後継機とも言える《エグゼクスバイン・メヴィウスU》の必殺剣である。

 

「す、素敵に無敵に絶光超ッ!」

「天衣無縫の天動超奥義ィィイッ!!」

 

 壮絶に顔を赤らめたアーマラがやけっぱち気味に言い放つ一方、イングはノリに乗っていた。

 高く掲げた刀身に稲妻が落ち、ヒヒイロカネが二人の念を喰らってまばゆいばかりに光り輝く。それと同時に、頭部のクリスタルが金色に変化した。

 煌めく剣を腰溜めに構え、赤き巨人が金色の極光を纏う。

 

「「オオオオオ――――ッッッ!!」」

 

 裂帛の咆哮。

 輝くオーラが形を変え、羽撃くは宇宙の闇を斬り裂く黄金の不死鳥。愛と勇気と希望を胸に、邪念を断ち斬る光の一撃――――

 

「「スペリオルフラッシュッッ!!!」」

 

 袈裟懸けに振り下ろされた光の剣が《ジュデッカ》の巨体に吸い込まれる。

 次元諸共断ち斬る大斬撃を繰り出し、突進の勢いで背後にすり抜ける《エグゼクスバイン》。振り下ろした《エグゼクスカリバー》のクリスタルの刀身が砕け散り、それと同時に念動の光を帯びた左手が掲げられた。

 

「バースト・エンド!」

 

 イングによるトドメのキーワード。

 握り締めた拳の間から翠緑の光が漏れ出し、斬撃とともに撃ち込まれた念がそれと連動して《ジュデッカ》を中心に大爆発を引き起こす。

 白き地獄は、黄金の爆光に包まれて跡形もなく消失(バニシング)した。

 

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》により壊滅的な、いや文字通り壊滅したバルマー軍、ゴラー・ゴレム隊。

 発狂したハザルは怒りによって強念を呼び覚ました。《ガドル・ヴァイクラン》。地球の特機の「合体」に着目した《ヴァイクラン》の最強形態である。

 

 ハザルは怒りと恐怖に任せて《ガドル・ヴァイクラン》の必殺技、《アルス・マグナ・フルヴァン》を《バンプレイオス》に向けて放つ。乗り換えたばかりのリュウセイを狙った狡い攻撃だ。

 しかしそれは、サイコドライバーの力を取り戻したリュウセイの強念の前に凌がれる。

 

『な、なんだと!? このガドル・ヴァイクランの攻撃を、アルス・マグナ・フルヴァンに耐え抜いたというのか!? あり得ん!!』

『そんな合体モドキでバンプレイオスを倒そうなんざ、百年早いぜ!』

『ぐ、おのれぇえ! リュウセイ・ダテ! 未開惑星の猿の分際で!』

『……』

 

 ハザルの無様を受け、《ディバリウム》を操るエイスが行動を起こそうとしたそのとき、それに割り込むように、イングが――《エグゼクスバイン・メヴィウス》が《バンプレイオス》の傍らに降り立った。

 

「リュウセイ! 奴らに本物の合体攻撃ってのを教えてやろうぜ!」

『おっ? そいつとバンプレイオスでアレをやるってのか? オーケー、乗ったぜ!』

 

 息を合わせたイングとリュウセイは、《ガドル・ヴァイクラン》に向けて乗機の人差し指を突きつける。

 七九メートルと四九メートル、サイズ比では大人と子どもほどの差だが、二機の立ち姿は不思議と様になっていた。

 

『ハザル! テメェの悪行もここまでだ!』

「貴様のしてきたこと、お天道様が許してもオレたちαナンバーズが許さない! 行くぜ、TーLINKダブルコンタクトッ!!」

 

 イングとリュウセイ、それぞれの念が機体によって増幅され、その意思が共鳴し合いさらなる力を発揮する。

 地球圏最強の汎超能力者(サイコドライバー)と、それに次ぐ最強クラスの強念者。そしてその乗機は地球圏でも指折りのスーパーロボット――、鬼畜外道に引導を渡すに相応しい役者と舞台が揃う。

 

『行くぜッ、TーLINKブレードナッコゥッ! 破ァッ!!』

 

 まず挑みかかるのは《バンプレイオス》。拳から念の刃を作り出す《TーLINKブレードナックル》で、《ガドル・ヴァイクラン》を滅多打ち滅多斬りにする。

 

『オラオラオラオラァッ!』

『SRXの仇は討たせてもらうぞ!』

 

 ハザルによって《SRX》を破壊された破壊された借りを何倍にもして返すべく、リュウセイとライディースが気炎を上げる。

 猛烈な連打の後、締めのアッパーカットで殴り飛ばし、リュウセイが戦友に後を譲る。

 

『イング!』

「紅蓮を纏え、エグゼクスバイン!!」

 

 上昇していた《エグゼクスバイン・メヴィウス》の全身から、強烈な真紅(あか)い念動光が炎のように迸った。

「デーーーヤッッ!!」イングの雄叫びとともに、紅く燃えさかる炎を纏う跳び蹴りが、《ガドル・ヴァイクラン》を打ち貫いた。

 

「オレたちのビックバンはもう止められないぜ!」

「意味が分からんぞ……」

 

 アーマラのツッコミはさておき。追撃として炎を纏った拳による連携から強烈な手刀を打ち込むコンビネーション・アタック、《ビッグバンフィスト》が《ガドル・ヴァイクラン》を打ちのめす。

 強烈な連続攻撃に合体状態を維持できず、《ヴァイクラン》は《ディバリウム》のパーツをばらまきながら吹き飛んだ。

 

「リュウセイ!」

『おう!』

 

 さらなる追撃をかけるべく、《バンプレイオス》と《エグゼクスバイン・メヴィウス》が《ヴァイクラン》に肉薄する。

 《バンプレイオス》が右腕を、《エグゼクスバイン・メヴィウス》が左腕を引き絞り、その拳に強大な念を集中させていく。

 

「天上ォッ!」

『天下ァッ!』

 

「『超級念動拳ッッ!!!」』

 

 ズフィルード・クリスタルの防御力、再生力すら突破して正義の鉄拳が炸裂する。

 二つの拳が同時に《ヴァイクラン》の胴体に突き刺さり、溜めに溜め込んだ強念を流し込む。サイコドライバー二人分の莫大な念に耐えきれず、装甲には漏れ出した光とともに蜘蛛の巣状の亀裂が刻まれていく。

 

『ば、馬鹿なァ!? この、俺がっ……、選ばれしサイコドライバーたる、この俺がぁぁぁぁあああああ!?!?』

 

「ハッ、貴様など十把一絡げの念動力者(ぼんじん)に過ぎん。力に溺れ、道を踏み外した己の不徳を呪え」

「身の程を知っていたユーゼスの方がまだマシだったな。あばよ、ハザル。因果地平で奴が待ってるぜ」

『弄んだ全ての命に、あの世で詫びるんだ、ハザル!』

 

「『「念動爆砕ッ!!」』」

 

 イング、リュウセイ、アーマラの掛け声を引き金に《ヴァイクラン》の内部から発生した巨大な念動爆発に巻き込まれ、ハザル・ゴッツォは因果地平の彼方へと消えていったのだった。

 

 




いろいろな意味でやり過ぎた感はあるが、後悔も反省もしていない(キリッ


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αIIIー5「終焉の銀河へ」

 

 

 新西暦一九〇年 ※月△日

 銀河系、とある宙域 《ラー・カイラム》の一室

 

 いつの間にか年が過ぎ、一九〇年になっていた。

 長かったこの大戦も、佳境を迎えつつあると言っていいだろう。

 

 さておき、近況だ。

 無事、みんなと合流することができた。現在は、合流した宙域で体勢を立て直しているところだ。

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》大活躍! ハザルに引導を渡し、ゴラー・ゴレム隊はついに壊滅した。キャリコやスペクトラ、光龍、エイスという幹部格は取り逃がしたが、もはや地球圏で活動する余力はないだろう。

 そういえば、何気にバラン・ドバンとは初対面だったな。あ、戦闘後に潔く投降を申し出てきたのだ。トウマとの決闘で負けを認めたかららしい。

 奴は、主に《ジュデッカ》の所業に本国に対する不信感を覚えたのだとか。あと、エイスが残していったハザルと自身の正体、シヴァー・ゴッツォが生み出した「ハイブリッド・ヒューマン・タイプPD」についても思うところがあるようだ。あれ、オレには負け惜しみにしか聞こえなかったんだがなぁ。

 

 惜しむらくは、ソール11遊星主をこの手でブッ飛ばせなかったことか。

 パレッソ粒子だかなんだかしないが、オレがその場にいたなら問題なくブチのめせただろうに。ま、過ぎたことだな。

 

 さて、《ジェネシック・ガオガイガー》の自作プラモの設計図引くとするか!

 

 

   †  †  †

 

 

 《ラー・カイラム》、格納庫。

 地球、いや全銀河の特記戦力をこれでもかとかき集め、十数隻からなる母艦で運用するαナンバーズ。

 その無茶苦茶な体制を維持する労力は並大抵のものではなく、整備の神様アストナージがいなければ十全に稼働させることは至難と言えるだろう。

 

 激戦に次ぐ激戦で傷ついた機体。

 喧噪から離れたキャットウォークに、クォヴレー・ゴードンとヴィレッタ・バティムがいた。

 共通する因縁の相手、イングラム・プリスケンの魂の行方――、そしてお互いの存在意義を確かめ合った二人の見上げた先には漆黒の銃神《ディス・アストラナガン》。また、その隣には鋼の救世主《エグゼクスバイン・メヴィウス》が静かに佇んでいる。

 

「よお、クォヴレー」

「イングか」

 

 クォヴレーは呼びかけられた方に視線を向ける。

 イング・ウィンチェスターとアーマラ・バートン――αナンバーズの窮地を救った立役者、クォヴレーにとっては様々な意味で因縁浅からぬ者たちである。

 さとえき、クォヴレーのぶっきらぼうな返答に、イングは半眼を向けた。

 

「お前ってば、相変わらずだよな」

「ならば隊長と呼んだ方がいいか?」

 

 ふてぶてしい態度にイングは肩をすくめた。

 確かにイングはクォヴレーの監督役ということになっているが、隊長らしいことをした覚えはない。それに改まるでもなく口調も変えていないのでは皮肉にしかならないだろうが、クォヴレーの場合は本心から言っているから始末が悪い。

「この天然め」と小さくこぼし、イングは話題を本題に切り替える。

 

「オレはお前を探してたけど、こいつは大尉を探してたんだ。ほら、アーマラ」

「あ、ああ」

 

 イングの背中に隠れていたアーマラが、促されておずおずと進み出た。

「私に?」ヴィレッタが疑問符を浮かべる。

 

「その、大尉は私の素性をご存じで、いろいろと気にかけてくださっていたんでしょうか」

「そうね……あなたが私たちと同類で、保険として地球に送り込まれていたことはイングラムから知らされていた」

 

 「未来世界で、ガリルナガンに乗って現れたときは肝を冷やしたわ」とヴィレッタは述懐して苦笑を漏らす。

 《アストラナガン》のコピーである《ガリルナガン》と、それを駆るバルシェムという意味深な組み合わせに、事情を知るヴィレッタが深読みするのも無理はない。まかり間違ってユーゼス・ゴッツォが再来したとなれば、悪夢でしかないのだから。

 

「……ということは、大尉は私のお姉様になるのでしょうか?」

「! そ、そうね……あなたがそう呼びたいなら、構わないわ」

「はい、お姉様」

 

 アーマラが嬉しそうにはにかむと、ヴィレッタは頬をわずかに染める。クールビューティーの鏡のような美女が照れ入っている姿は、なかなかに破壊力があった。

 こっちも天然かよ。イングは苦笑をかみ殺し、自身の目的を切り出す。

 

「クォヴレー」

「なんだ?」

「お前……いや、()()()()()()だ?」

「!」

 

 イングの主語の欠けた問いはしかし、クォヴレーをわずかに動揺させた。

 脈絡のないやりとりを横で聞いていたアーマラが、眉をひそめる。ヴィレッタは心当たりがあるように、二人の会話を厳しい目で見つめている。

 

「……わからない。ただ気の遠くなるほどの輪廻の果てということしか、な」

「イングラムはそれを把握していたのか?」

「いや、思い出したのはつい今し方――俺とイングラムが統合され、アストラナガンが真に覚醒を果たしてからだ」

「なるほどね。だいたいわかった」

 

 などと脈絡のないリアクションをして悦に入るイングの脇を、難しい顔をした

アーマラが小突く。

 目を向ければ、眉間にしわを寄せ、わずかに膨れたようにする桃髪の少女。その態度がかわいく見えて、イングは軽く悶絶せる。

 

「イング、一人で納得してないで私にもわかるように話せ」

「ンッ、そうだな、すまん」

 

 咳払いし、イングは真面目くさって説明を始めた。

 

「掻い摘んで説明するとだな、この宇宙は滅びと再生を繰り返しているんだ。配役を変え、細部や結末を変え、ときには大きく舞台を変えて――延々と永遠に」

「それはやはり無限力によるものなのか?」

「いや、奴ら(イデ)もその輪廻の一部さ。卵が先か、鶏が先かはわからんけど

「そしてその輪廻の輪にイングラムとクォヴレーは――、いえ、私たちは皆組み込まれているということね」

 

 イングの解説を受け、ヴィレッタが纏める。

 

「そうだ。イングラムはユーゼス・ゴッツォのクローンとして生まれ、世界を渡りアストラナガンを建造し、大いなる負の力に敗れて死ぬ。その魂がアイン・バルシェムに宿り、クォヴレー・ゴードンという存在が生まれ、大いなる負の力を打倒し、果てない旅に出る……因果律の番人たるアストラナガンはそれら全てを記憶している。――いつか来たる俺の滅びすらも、な」

 

 やや冷笑を浮かべて自身に待ち受ける定めを語るクォヴレーの姿に、イングはイングラムの姿を幻視した。

 気になる単語を聴きつけ、アーマラが再度問う。

 

「その、大いなる負の力とはなんだ?」

「アストラナガンとイングラムが教えてくれた……。奴の名は霊帝ケイサル・エフェス、バルマーの支配者、創造神ズフィルードと呼ばれるファースト・サイコドライバーの一人。そして今や怨霊を統べる反無限力の権化となった存在……イング、お前はよく知ってはずだな」

「ゲベル・ガンエデン――、ナシム、バベルとかつての破綻を乗り切り、今の世界の礎を築いた者の成れの果て。やっぱり、あのときアストラナガンを乗っ取っていたのはゲベルなんだな?」

「そうだ。もっとも、完全な状態ではなかったようだがな」

 

 であれば、この宇宙はあの時点で滅びていただろう。クォヴレーがさらりと恐ろしいことを告げ、他の三人の表情を曇らせる。

 ディス・レヴと霊帝の組み合わせはまさに致命的だ。クォヴレーの記憶には、ケイサル・エフェスが銃神の心臓を強く求めていた様が残っていた。

 

「ケイサル・エフェス……それが私たちが倒すべき奴の名か、クォヴレー」

「そうなる。だが、この記憶は奴を打倒した後、俺が因果律の番人となって初めて解放されるはずだった。それが何故、今なのか……」

「それなら心当たりがあるぜ」

 

 クォヴレーのこぼした疑問に答えたのはイング立った。

 

「クォヴレー、お前の話でようやく合点が行った。ゲベル、いやケイサル・エフェスは幾度となく死と再生を繰り返す宇宙の輪廻を利用して、因子を集めていたんだろう。アポカリュプシスの果て、自身が無限力を乗り越えた戦士たちに打倒される――その大きな流れすらも計画に組み込んで、負の無限力を高めるために」

 

 ズールやムゲなど、強大な負の力の使徒により広げられた銀河を覆う大戦において、数多の命が散っていった。その多くが怨霊となり、反無限力を肥大化させているのだ。

 すでに手段と目的をはき違え、本末転倒に陥っていることも思い当たらず――もはやゲベル・ガンエデンという人格はないに等しく、ただ邪気と怨念の集合体と成り果てているのだ。

 

「そうして集められた因子が今のαナンバーズであり、ズールやムゲ、その他の宇宙的災厄ということね」

「高蓋然性世界の勢力や、バーチャロンたちもその一部か?」

「ああ。そうして奴は無限力(イデ)から運命を簒奪する準備を完了したんだろうな。まあ、無節操に集めすぎてXANだの冥王だの飛影だのハート・オブ・ディーヴァだのゼフォンだのとイレギュラーまで続々招いてるけど。そして極めつけのイレギュラーがこのオレ、バビル二世だ」

 

 ヴィレッタ、アーマラの言葉を肯定し、イングは不敵に宣言してみせる。

 

「先代バビルはゲベルの所業をどこかの輪廻(ループ)で知ったんだろう。ゲベルの行動を逆手に取り、この世に招いた自分の代行者をカウンターとする――、オレが喚び込まれるくらいに、この宇宙は切羽詰まったところまで来ていたんだな」

 

 やれやれと肩をすくめるイング。あるいは、《ディス・アストラナガン》を奪われた時点でこの銀河の命運は決していたかもしれない。

 全ての命が死に絶え、怨霊が支配するようになった世界は文字通り地獄。生と死を反転させるという霊帝の目論見は、是が非でも防がなければならない――それが数奇な運命に導かれ、この宇宙に集ったαナンバーズの使命だったのだ。

 

「今のケイサル・エフェスは、かつて“俺”が対峙した時よりもずっと強大で恐ろしい存在になっているだろう。……こちらの戦力も増強してはいるが、果たして打ち倒すことができるのか――」

「ま、オレがいるんだから楽勝だろ?」

 

 クォヴレーが険しい表情で懸念を口にすると、イングは間髪入れず楽天的な意見を述べる。

 まるで気負いのない態度に、自分たちの未来を信じ切った目。地球圏最強の汎超能力者らしい振る舞いに、因果律の番人は思わず笑みをこぼした。

 

「そうだな、お前はそういう奴だった」

「この馬鹿には無用の心配だったな、クォヴレー」

「イング、あなたはもう少し謙虚さを身につけた方がいいわね」

 

「……なんか、ひどい言われようなんだけど?」

 

 そうぼやき、がくりと肩を落とすイングに三人は笑みを交わすのだった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ※月□日

 外宇宙、とある宙域 《ラー・カイラム》の一室

 

 大方の修理を終えて、どうにかこうにか一息つけたところだ。

 GGGのディビジョン艦隊の超科学の賜物である。あと、メキボスの手配したゾヴォークの輸送艦隊が補給物資を運んできてくれたことも大きいな。

 

 さて、何とか体裁を整えた俺たちαナンバーズ。次の目標を決めるために《シティ7》の会議所で各団体の代表が集まった。え、オレ?もちろん召集されましたが何か?

 まずは地球圏のゴタゴタを収拾すべきという意見もあったが、囚われたミンメイたちや剛博士らの身を案じる声もある。

 位置的な効率や火急性を考え、まずはバロータ軍とキャンベル・ボアザン連合軍をおとなしくさせることになった。ついでに、バンカーやギャンドラーと決着をつけられれば最高なんだが。

 というわけで、大河長官らαナンバーズ首脳陣がチームを編成中だ。これに関してはオレはノータッチ、使われる方だからな。

 

 さて昨日、書き忘れたことを端折りつつつらつらと残してみる。

 オレが戦線離脱していた間にもいろいろイベントごとがあったようで。

 地球では《ブレード》、《エビル》のブラスター化イベントが起きたようだし、連邦軍強硬派から逃れるためにクロスゲートで外宇宙に旅立ったあとも苦難続きだった。

 

 バッフ・クランの大艦隊に強襲され、散り散りになったαナンバーズ。

 ガルラ大帝国の艦隊というかシンクラインに付け狙われたり、覚醒した《イデオン》が恒星を両断したり、キャンベル・ボアザン連合に人質を取られたハイネルが敵対しされたり。ストールさんちの長兄、ガディ・ストールが刺客として現れたり、封印戦争で倒したはずのガイゾックが再び(三度?)現れたり。

 紆余曲折ありつつも何とか集結し、宇宙収縮現象の原因、獅子座に位置するかつての三重連太陽系、ソール11遊星主の本拠地へとたどり着く。

 

 激闘の末、緑の星の遺産、真なる勇者王《ジェネシック・ガオガイガー》によって光となるが、同時に奴らが作っていたレプリ宇宙も安定を失って崩壊、αナンバーズは暗黒のES空間に取り残されてしまった。

 進退窮まったみんなは原作通り、護と戒道少年をESウィンドウで送り出した。ちなみにこの人選は別に年少だからとかではなく、サバイバリティの問題だ。実際、閉ざされたES空間を特定できたのは送り出された二人が発していた念波をキャッチ出来たからだしな。

 あとは《グレートゼオライマー》と《ネオ・グランゾン》がパパっと片づけてくれました、とさ。

 ていうか、次元斬なしでもあの二機だけで何とかできたような気がするのは気のせいじゃないだろう。

 

 なお、凱さんがケミカルボルトで洗脳されたとき、ロム兄さんがいつもの口上(「勇気」だったらしい)で颯爽と現れたとのこと。また聞き逃したぞ、チクショウ!

 

 

 

 新西暦一九〇年 ※月●日

 銀河系、バロータ星系付近 《ラー・カイラム》の一室

 

 というわけで、やってきましたバロータ星系。今回、オレとアーマラはこちらに配属されている。まあ、オカルトじみてて厄介なプロトデビルンが相手なんだから妥当な人選だな。

 他のメンバー? 今回は人数が多いから省略で。

 さらわれたミンメイや他の人たちが心配だし、何より宇宙の状勢は切羽詰まってる。

 サクッと片付けて次に行こう。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ※月△日

 銀河系、バロータ星系付近 《ラー・カイラム》の一室

 

 プロトデビルンの首魁、ゲペルニッチとの和解に成功。ミンメイや早瀬少佐ら、囚われていた人々は無事に解放された。

 え?展開が速すぎ?いやいや、いろいろあったんだって。

 

 バサラの銀河を震わす魂の歌声は、プロトデビルンたちを進化させ、自らスピリチュアを生み出せるようになったらしい。さすがアニマスピリチュア、何でもありだな。オレが言えた事じゃないけど。

 進化したゲペルニッチは迫るアポカリュプシスを乗り越えるために協力を約束してくれ、自分の名代としてガビルを残していった。シビルはあれだ、自由意志って奴だ。

 久々の生「愛・覚えていますか」に張り切ったのは秘密。ボドルザー艦隊との決戦を思い出したぜ。

 

 追記。

 やっぱジーナス夫妻はジーナス夫妻だった。天才ヤベェ。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ※月△日

 銀河系、某宙域 《ラー・カイラム》の一室

 

 ボアザン星系に向かったチームと合流した。

 圧制と腐敗を招いていたボアザン帝国皇帝ズ・ザンジバル、そして平和勢力のクーデターによりキャンベル星から放逐された女帝ジャネラは倒れた。ボアザン、キャンベル両星は平和を取り戻したのだ。

 また、囚われていた剛博士、エリカを救出することには成功したが、ハイネル、リヒテルの両名がその命を散らすこととなった。彼らの肉親たちだけでなく、向こうで合流したマーグも盟友たちの死を大変悲しんでいた。

 それを聞き、あっちについて行けばよかったと凹んでいたら、アーマラに叱咤された。

「過ぎたことをクヨクヨ悩むな、顔を上げて前を向け。皆が最善を尽くした結果なんだ、受け入れろ」だってさ。

 ったく、あいつに諭されるなんてオレもヤキが回ったかな。

 だが、目が覚めたぜ。バビル二世がこんなところで立ち止まってるわけにはいかないもんな。

 

 で、気持ちを新たにしたところで、また一つ敵対勢力を壊滅させた。

 度重なる敗北を自身の身をもって濯ぐべく決戦を挑んできたガルラ大帝国の首魁、ダイ・バザール大帝王、それからついでにシンクラインの野郎に引導を渡してやった。これで奴らに虐げられていた人々も浮かばれるだろう。

 ギブアップ? するわけねーだろ。今のオレたちは絶対無敵だぜ!

 

 

 

 新西暦一九〇年 ※月△日

 太陽系、木星圏 《ラー・カイラム》の一室

 

 太陽系に帰ってきて早々、大事件に遭遇してしまった。

 ちなみに、連邦を刺激しないようにだいぶ離れた場所にクロスゲートを開いたわけだが、それが功を奏したかな。

 

 宇宙怪獣殲滅作戦「カルネアデス計画」の要、コードネーム「BMIII」へとするため移送中の木星に、ザフトの遠征艦隊が接近しているとの一報を受け、オレたちは急行した。

 旧式のマシーン兵器、ではなく《シズラー白》で孤軍奮闘していたお姉様ことカズミさんと合流、真価を発揮した《ガンバスター》の《スーパー稲妻キック》が放たれる。

 早々にザフト(性懲りもなく《リジェネイト》がいたので、ぶっ飛ばしておいた)を撃退したところにギャンドラー、宇宙海賊バンカー、ガイゾックが大挙をなして来襲し、オレたちは迎撃を余儀なくされた。

 「BMIII」が自分たちを攻撃するものだと勘違いしているらしいザフトはともかく、ギャンドラーの狙いは木星に眠るザ・パワー、奴らの言うところの“ハイリビード”だ。

 

 先触れとして現れた《バンドック》、コンピュータードール8号と決着をつけ、バンカー旗艦に殴り込む。

 バンカーの大船長、ガリモスと復讐鬼ギル・バーグ。そしてギャンドラーの首領、ガデス。強敵揃いで補給もままならないボスラッシュだったが、《ダンガイオー》の《ファイナルサイキックウェイブ》、《バイカンフー》の《運命両断剣・ツインブレード》が炸裂、何とか撃破することに成功した。

 

 しかしガデスめ、紛いなりにも反無限力を操るだけになかなか物知りだったな。

 死と再生の輪廻を関知しているばかりか、オレを「太極に至りしもの」と呼んで警戒するとは小賢しいぜ。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月◎日

 地球圏、アステロイドベルト周辺宙域 《ラー・カイラム》の一室

 

 現在、木星輸送艦隊の護衛をしつつ、地球圏に帰還中だ。

 

 偵察に出ていた《エターナル》、《アークエンジェル》が未確認の使徒と遭遇した。《第一六使徒アルサミエル》だ。

 同化能力を持つ厄介な使徒で、取り付かれた《零号機》の自爆によりなんとか撃破されている。

 辛うじて一命は取り留めたレイは、治療のために大破した《零号機》ともども一足先に地球圏へと輸送されている。ゼーレと碇ゲンドウの思惑なんてハナから読めてるが、あえて今回は乗ってやった。因果の消化は大事だ。まあ、あの逞しいシンジが壊れるなんて予想できないんだけどな。

 リツコさんが滅茶苦茶心配してたのは余談。BMIII建造に協力するからついてけないのだ。

 

 で、《アークエンジェル》隊はその後に連邦軍の艦隊と交戦。独断専行したらしく、独自に部隊を引き連れてきたカナードをキラとプレアが応戦して撃退している。

 ちなみに、《クラップ》級や《サラミス》級、《アガメムノン》級などの一般的な宇宙戦艦でも専用の大型フォールドブースターさえあればここらまで来るのは比較的簡単だ。でなきゃ、アステロイドベルトに基地なんて作れないしな。

 

 なお、《ドレッドノート》が新たに新造されたドラグーンユニットを装着して、《Xアストレイ》に。《ブルーフレーム》には《ローエングリンランチャー》が追加され、《レッドフレーム》がパワーシリンダー内蔵の《戦国アストレイガンダム》にそれぞれパワーアップしている。

 ついにやりやがったぜ、ロウ。ちなみに“頑駄無”ではない。あしからず。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月□日

 地球圏、アステロイドベルト宙域イカロス基地 《ラー・カイラム》の一室

 

 ようやっとイカロス基地に到着した。

 一応、退去処置を受けているのでこちらに留まっているが、ガン無視して地球に乗り込む所存である。

 

 さて、今後の方針だ。

 そろそろ連邦軍強硬派がプラントへの攻撃を始めそうな気配があるし、ラダム母艦をいつまでも月に放置しているわけにはいかない。

 また、地上でも竜魔帝王により纏められた地底帝国が最終決戦をもくろみ、決起したらしい。ついでに、竜魔帝王と形だけの同盟を組む次大帝プロイストも姿を現して暴れているようだ。

 さらに、ハザードの手引きでザ・ブーム艦隊に制圧された火星に向けて、ポセイダル軍の大部隊が接近しているとの情報もある。どうやらアポカリュプシスにより母星が壊滅し、進退窮まって地球圏に侵攻してきた模様だ。

 地球圏の命運はマッハでデッドエンドへひた走っているってわけだ。

 

 というわけで、αナンバーズは六つにチームを分けて対抗することになった。

 なお、「誰がどこに行ったかわからない」というお便りがあったし、おそらくこれがボスラッシュの最後なので今回は説明しようと思う。ヌケがあったらゴメンな。

 

 まず、連邦軍及びザフトの決戦に武力介入するチームだ。

 《ラー・カイラム》を旗艦に、《アークエンジェル》、《エターナル》、《クサナギ》、《ローラ・ラン号》、《ソレイユ》、《リ・ホーム》の総勢七隻。

 人員はアムロ大尉を筆頭に、新旧の垣根を越えたガンダムオールスターチーム(一部例外アリ)だ。

 クォヴレー、アラド、ゼオラとリョウト、リオがここに参加する。

 

 続いて、ザ・ブーム艦隊を主体とした星間連合残党、そしてポセイダル軍に制圧された火星を解放する部隊。

 《ナデシコC》を旗艦に、《ナデシコ・Yユニット》、《エルシャンク》、《ゴラオン》の四隻。

 それぞれの母艦の所属機に、ダバたち《エルガイム》チーム、エイジら《レイズナー》チーム、ゲイナーらエクソダス組、バーチャロンチーム。《コンバトラーV》、《ボルテスV》、《ダイモス》、《ダイターン3》と特機も揃っている。

 ほかには、マサキら魔装機神組、イルム中尉とマオ社長、メキボス、ガヤト。まさに“火星決戦”だな。

 

 月、ラダム母艦を撃滅する部隊。イバリューダーの介入も予想される。

 旗艦に《ドラゴンズ・ハイヴ》、《キング・ビアル》にGGGのディビジョン艦隊が同行する。

 戦力は、因縁深いDボゥイらスペースナイツを筆頭に、GGG戦闘部隊と《ジェイアーク》、《ドラグナー》チーム、オルファン組、《オーガン》、イクサー1たち三姉妹、チームD、ロム一行、《ゴライオン》チーム、《ザンボット3》、《トライダーG7》。地上から連邦軍の有志も後に合流するそうだ。

 あと、セレーナとチームTDが同行する。アストロノーツ、スペースマン繋がりということにしておこう。

 

 地球圏に接近するゼラバイアの本拠地、ゴーマを木星圏付近で迎撃する部隊。

 《マクロス7》を旗艦に、《ソロシップ》、そしてサンジェルマン城の真の姿《グラヴィゴラス》及び、GEAR本部から《メテオ》が現地で合流する予定だ。

 メンバーは、サンドマンとグランナイツ、《グラントルーパー》隊、フォッカー少佐率いる《バルキリー》部隊とサウンドフォース、シビルとガビル、トップ部隊、《イデオン》、《電童》チーム、《グレートゼオライマー》、《ダンガイオーチーム》だ。

 トウマとミナキさん、アルマナ一行、ゼンガー少佐、レーツェルさんはここだ。バリメカ縛りである。

 敵は強大だが、こっちもバカげた戦力だから心配ないだろう。

 

 《大空魔竜(LOD)》、《天空魔竜》、《月光号》を母艦に、地上でようやく現れた《大地魔竜》、《トゥアハー・デ・ダナン》と合流する。ヴェスターヌを通じて連絡を取ってきたダリウス大帝(もちろん封印戦争で倒した奴とは別人?だ)との接触が目的だ。おそらくプロイストとの決戦も行われるだろう。

 ついに揃った三大魔人を筆頭に、《EVA》チーム、宗介たちミスリル組、ゲッコーステイトの面々と《アイアンギアー》隊、《ダルタニアス》、ミト王子一行、三つのJ9チーム、旧JUDA及び加藤機関メンバー、《プロト・ガーランド》らが戦力だ。

 他には、クスハとブリット、《SRX》チームが参加する。《ザ・グレート》登場には期待大だが、悲劇が待っていることも予想される。孔明にひとつ言付けしとくか。

 

 ラスト、地底帝国との最終決戦。

 《大空魔竜》、《グラン・ガラン》が母艦である。

 主なメンバーは《マジンガー》チーム、《ゲッター》チーム、《鋼鉄ジーグ》、《ガイキング》とその僚機、大作と銀麗さん、獣戦機隊、《ライディーン》、《ラーゼフォン》、タケルと《コスモクラッシャー》隊。文章に起こすと少なく見えるが、チームごとの戦力は十分と言えるだろう。

 そして、オレたちサイコドライバーズが参加する。流れ的にはクスハが担当すべきところなんだろうけど、イルイが捕らわれているらしいとあっちゃ黙ってられない。兄貴だからな、オレは。

 

 待ってろ、イデ。ちゃっちゃと厄介ごとを片づけて、次はお前らとの決着だ。

 

 

   †  †  †

 

 

 ゼ・バルマリィ帝国による地球侵略を契機に、長きに渡って続いた大戦はついに佳境を迎えていた。

 銀河大戦――この戦争は後の世に、そう称されることとなるだろう。

 

 

 太陽系第四惑星、火星。

 赤き軍神の星は、ハザード・パシャが実権を握ったザ・ブーム艦隊と、宇宙怪獣の襲撃を受けて母星が壊滅したポセイダル軍により制圧されていた。

 《サイバスター》、《グルンガスト改》を筆頭とするαナンバーズ分艦隊がその解放を目指す。

 ついに《飛影》に操者として選ばれたジョウ・マヤと、己の使命に目覚めたイルボラ・サロの《零影》が先陣を切る。対するは真のオルドナ・ポセイダル、アマンダラが駆る黄金のHM《オージ》。「バイオリレーションシステム」による不死身じみた性能を発揮し、立ちふさがる。

 

 

 コーディネーターたちの住まうスペース・コロニー、「プラント」。

 歪んだ選民思想を振るう連邦軍強硬派とザフトの激突とそれに伴う破滅を回避するため、αナンバーズ《ラー・カイラム》艦隊が両者の間に割って入る。

 最新技術により新たに生み出された《HiーνガンダムHWS》を駆るアムロ・レイと、彼率いるガンダムチーム。地球人類に、これ以上の愚行を繰り返させるわけにはいかない。黒き銃神と比翼の鳥たち、そして凶鳥の名を継ぐ者がそれに続く。

 人の革新を信じる者たちが、プラントに迫る悪意の群――「フェルミオンミサイル」を食い止めるため、戦乱の宇宙(ソラ)を駆け抜けた。

 

 

 月、ラダム母艦。

 双子の弟、シンヤこと《テッカマンエビル》との決着をつけた相羽タカヤ――Dボゥイこと《テッカマンブレード》はラダムの首領、《テッカマンオメガ》と化した自身の兄を討つべく命の炎を燃やす。正気を取り戻した弟の後押しを受け、《ブレード》は行く。

 々夢を追うものとしてアイビスたちの《ハイペリオン》がそれを助け、そして《ASアレグリアス》が《テッカマン》すら置き去りにするスピードで障害を撃滅していった。

 多くの仲間を得て、愛する者たちに支えられ、孤独な復讐者は真の英雄(ヒーロー)になる。

 

 

 ゼラバイアの拠点にして本拠地たる戦闘惑星「ゴーマ」が地球に迫る。

 おぞましい数の兵器を《イデオン》と《グレートゼオライマー》の一撃が壊滅し、開かれた活路。 《アウセンザイター》とともに駆け抜ける《ダイゼンガー》が切り開き、無限の闘志を力に変え、《大雷鳳》の蹴りが外道を砕く。

 地球を、生きとし生けるもの全てを殲滅せんとするジェノサイド・マシンを迎え撃つは重力子の勇者、グランナイツ。紅き牙、《ソルグラヴィオン》が青い炎を纏う《ゼラヴィオン》と激突した。

 

 

 地球、南極圏。

 かつてセカンド・インパクトという未曾有の災害を引き起こしたその地で、無限力により招かれた高蓋然性世界からの来訪者、ダリウス帝国との最終決戦。

 邪炎の魔竜《魔炎超魔竜ファイナルドヴォルザーク》により焼き尽くされた酷寒の大地。次大帝プロイストの歪んだ傲慢を、平和な未来に続く王道を行く若者たちが弾劾する。

 サイコドライバーたちの強念が悪意を駆逐する中、《大空魔竜》、《大地魔竜》、《天空魔竜》――勢揃いした炎の三大魔人がその力を結集し、最強無敵の魔人《ガイキング・ザ・グレート》が地上に再臨した。

 

 

 

 そして――

 

 

 極東地区日本。

 バルマー戦役前後から続く戦乱の中心とも呼べる地球の特異点においてもまた、一つのピリオドが打たれようとしていた。

 

 恐竜帝国、妖魔帝国、ミケーネ、邪魔大王国――地上侵略をもくろみ、スーパーロボット軍団によって壊滅された。

 激戦の末、地底帝国の首領、竜魔帝王に深手を負わせたαナンバーズの前に、地獄大元帥、いやDr.ヘルの“切り札”

が姿を現した。

 

「あれは、カイザー!?」

「フハハハハハッ! 見よ、兜甲児! これこそワシの最後にして最高傑作ッ、デビルマジンガーだ!」

 

 《デビルマジンガー》――《マジンカイザー》に酷似した最凶最悪の魔神。

 地下勢力の技術によって改良を施した《量産型グレート》をベースに、《量産型ドラゴン》由来のゲッター線を過剰に浴びせて異常進化させた邪悪なる存在だ。

 

「兜甲児! 貴様の祖父、兜十蔵から続く因縁をここでワシが断ち切ってやろう!」

 

 Dr.ヘルの頭脳が移植された《デビルマジンガー》は瀕死の竜魔帝王にトドメを刺し、そのマイナスエネルギーを吸収して恐るべきパワーを発揮する。

 《量産型グレート》《量産型ドラゴン》《メカギルギルガン》《ドラゴノサウルス》の大群を率い、甲児、ひいては兜一族との最終決戦を挑む。

 

 《デビルマジンガー》とその軍勢の前に力尽きていくスーパーロボット軍団。スクランダーを破壊され、翼をもがれた《マジンカイザー》が地に堕ちる。

 兜甲児、絶体絶命の大ピンチに父、剣蔵は科学要塞研究所の司令塔を分離させ、《デビルマジンガー》に特攻をかける。

 それによって生じた僅かな隙。

 ――そのとき、科学要塞研究所から新たな紅き翼が発進した。 

 

「おじいさんの残してくれたカイザーと! おとうさんの作ってくれたこのスクランダーで……Dr.ヘル、てめぇに引導を渡してやらぁ!!」

 

 父、剣造博士の遺した新型カイザースクランダー「ゴッドスクランダー」と合体した《カイザー》は、「神モード」を発動する。

 ――《ゴッドマジンガー》、悪の魔神を打倒するために生まれた最強最後の正義の魔神。究極のマジンガーの誕生だ。

 

「おい、リョウ! コイツは……!」

「ゲッターが、カイザーに反応している!?」

 

 さらに、《カイザー》のパワーアップに呼応したかのように《真・ゲッター》の全身が蒼く輝く。

 発動した新たな力――《ファイナルカイザーブレード》と《ゲッターファイナルクラッシュ》が《デビルマジンガー》に炸裂するが、撃破までには至らない。

 いや、むしろDr.ヘルの執念を体現するかのようにその力は増大していた。

 《デビルマジンガー》はディス・レヴ同様負の想念、死霊の怨念を吸収し、力に変える。そして、無限力の負の一面にすら干渉する能力を持っていたのだ。

 

「クソッ! これでもまだ倒せないってのか!」

「諦めるにはまだ早いぜ、甲児!」

「あのマジンガーがマイナスエネルギーを取り込むというなら、同量のプラスエネルギーをぶつけてやればいい」

「そういうこった! 行くぜ、TーLINKコンタクトッ! アカシックレコードアクセスッ!!」

 

 イングとアーマラの思念が高まり、《エグゼクスバイン・メヴィウス》のオウル・レヴが輝き唸る。

 アカシックレコードにアクセスし、喚起した無限力を《デビルマジンガー》のマイナスエネルギーにぶつけて相殺、バビル二世の強念が活路を切り開く。

 

「やるぞ、甲児君!」

「宇宙の平和のために、僕も力を貸そう!」

「所長の敵は討たせてもらうぞ!」

「テメェら悪党との腐れ縁ともこれまでだ!」

「Dr.ヘル! 俺たちの、この一撃を受けてみやがれ!」

 

 竜馬、デュークフリード、鉄也、宙、そして甲児が決意を。

 《反重力ストーム》による拘束から、《ファイヤーブラスター》と《ブレストバーン》/《ダブルバーニングファイヤー》、《スピンストーム》、《ストナーサンシャイン》が次々と浴びせられる。

 力の源たる負の無限力を封じられた《デビルマジンガー》が苦しみうめく。

 さらに――

 

「マジンガーと……」

「ゲッターの恐ろしさを、教えてやる!!」

 

 光子力エネルギーを全開にし、紅き灼熱の光を纏う《マジンカイザー》と、ゲッター線のまばゆい輝きを放つ《真・ゲッターロボ》が背中合わせで同時に飛び立つ。

 物理現象を超越した軌道で、究極のスーパーロボットが悪魔の魔神に肉薄した。

 

「コイツで決まりだ!」

「真ッ!! ファイナルダイナミックスペシャルッッ!!!」

 

 《カイザーノヴァ》と《真シャインスパーク》の同時攻撃。愛と平和の矢となって悪魔を討つ。

 《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《グレートマジンガー》、《グレンダイザー》、《鋼鉄ジーグ》による夢の競演《真・ファイナルダイナミックスペシャル》が、Dr.ヘルの執念ごと悪の魔神を葬り去ったのだった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月◎日

 地球、極東地区日本 《グラン・ガラン》の一室

 

 長かった地下勢力との戦いもこれで終わりだ。

 Dr.ヘルの遺した言葉によれば、囚われていたイルイはシャピロによって連れ浚われた後らしい。場所はアステロイド・ベルト、入れ違いか。

 「異星人に地球人の祖先が造り上げたシステム……、ガンエデンを渡すのも腹立たしい……。貴様らにはムゲ・ゾルバドス帝国の秘密基地の場所を教えてやる」「勘違いするな……ワシはただこの星を愛し、他の誰にも 渡したくないだけだ」「奴らはアステロイドベルトのポイント1204にいる……」。奴の今わの際の台詞だ。

 手段は致命的に間違ってたが、奴も地球を愛していたのは間違いがいないだろう。

 

 他のチームも順当に勝ち抜いている。

 プロイスト、ポセイダルは倒れ、両軍は瓦解。ダリウス軍は仕込み(プロイストの悪足掻きに警戒するよう言っただけだが)が功を奏して命を拾ったダリウス大帝に大人しく従っているし、難民と化したポセイダル軍残党の方もメキボスが上手く纏めてくれている。

 また、ゴーマは最凶最後の超重神《アルティメットグラヴィオン》により破壊され、ヒューギ・ゼラバイアの憎しみは宇宙に消えた。

 

 地球圏の他のチームも勝利を収め、プラントは降伏、ラダムは完全に壊滅した。なお、強硬派の三輪や真空管ハゲはプラントの決戦兵器「ジェネシス」第一射で《ドミニオン》諸共戦死したらしい。ざまぁ。

 しかし、ジェネシスの自爆と暴発に巻き込まれた《フリーダム》、それが照射されたラダム母艦内で《テッカマンオメガ》と戦っていた《ブレード》が消息を絶っているのが気がかりだ。

 とはいえ、孔明からの未確認情報だが、カナードとミユキが二人を救出しているとの報告もある。オレの知識的にも十分あり得る話だし、キラとDボゥイについては心配ないだろう。

 

 さて、一刻もイルイを早く助けに行きたいところだが、主要勢力の壊滅を受けて動き出した連中がいる。それを見過ごすわけには行かないよな。

 

 統一意志セントラルには、オレたち極東地区組と南極組が合流して対抗。ラダムが壊滅したことを受けて行動を開始したイバリューダーの本拠地、「戦闘惑星ゾーマ」に向かうのはプラント組と月面組。混沌とする銀河中央部から遙々やってきたガルファ本星には、火星組と木星組がそれぞれ当たる。

 ちょうど因縁深い面々が揃ってるのは天の配剤って奴かもな。

 

 さーて、今度もサクサク片付けていくぞ。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月■日

 太陽系、アステロイド・ベルト クロスゲート周辺宙域 《ラー・カイラム》の一室

 

 宣言通り、サクサク片づてやったぜ。

 《ネイキッド》とセントラルの破壊により発生した次元の歪みだが、マキナの力を結集した《ラインバレル modeーC》の《ファイナルフェイズ》により終息。《ラインバレル》と浩一も無事帰還している。

 なお、因果率的に欠けている《零号機》の代わりはオレたちの《エグゼクスバイン・メヴィウス》が務めた。ATフィールドと念動フィールドは原理的に同じものだし、お誂え向きだろ?

 

 そういや戦闘中に、戦争狂が単身乱入してきたな。失敗続きでついにゼーレからも見限られたらしいが。

 宗介が珍しく熱くなって相手をしていた。まあ、因縁にケリをつけられたんだから万々歳ってことにしとくか。

 

 ガルファ皇帝及びゼロは、フェニックスエールを得た《電童》と《凰牙》により撃破。《アカツキの大太刀》は生で見てみたかった。

 また、地球に向けて放たれようとしていたゾーマの反物質砲を防ぐため、《ゴルディオンクラッシャー》の光を受けた《オーガン》決死の《グランドクルスアタック》、そして予想通り復帰した《ブレード》の《ブラスターボルテッカ》が放たれ、ゾーマ諸共破壊されている。

 

 解放されたガルファ本星、いやアルクトスの数少ないの住民たちについてはアルテアに任せておけばいい。王子だしな。事態が落ち着けば、然るべきところに星ごと移民することになるだろう。

 生き残ったイバリューダーは彼らの指導者、ミークが纏めている。強力な予知能力を持つミークはアポカリュプシスによる終焉、そしてその先に待ち受ける存在を関知しているようで協力を約束してくれた。地球への侵攻も、それが原因の一つだったらしいな。

 

 なお、イバリューダーたちは地球圏から旅立ったが、アルクトスは安全保証上その他の理由で木星圏辺りに留まっている。

 あそこなら、タシロ提督率いる地球連邦最精鋭の宇宙艦隊の目と鼻の先だし、いろいろ安心だ。

 

 合流したオレたちは、一部の艦艇(シティ7、メテオ、ディビジョン艦隊などの非戦闘艦)を残しつつ、これからシャピロが待ち受けるアステロイドベルトの秘密基地へと向かう。

 待ってろよ、イルイ!すぐに助けてやるからな!

 

 

 追記。

 流れで仲間に加わったカナード・パルス君。キラの兄貴的な存在の彼だが、搭乗機もそれらしいもので。前の戦闘で《ハイペリオン》が壊れたらしく、連邦の月基地から奪ってきた《ストライクノワール》(《グランドスラム》所持)だったのだ。現在ロウ他の手で、光波防御帯発生装置を移植中。

 いや、確実に似合うし、核エンジン強奪イベントの一部再現だろうけどさぁ。またぞろ因果が流れ込んだか、それともジェネレーションシステムでもどっかにあんのか?

 

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月☆日

 太陽系、アステロイド・ベルト クロスゲート周辺宙域 《ラー・カイラム》の一室

 

 痛恨である。イルイをキャリコたちに横からかっさらわれた。

 アステロイドベルト基地でシャピロの《デザイア》を下しつつ(部下に裏切られた哀れな末路だった)、イルイを追ってムゲ帝国の本拠地である異次元へ。

 そして、ムゲ・ゾルバドスと性懲りもなく復活したズールを相手に大立ち回りを演じたわけだ。

 

 ギルドロームの専用機《ギルバウアー》の精神波攻撃で同士討ちさせられたのもやばかった(《ディストラ》とガチンコとかやめてよね)が、そのあとも苦労させられたな。

 奴ら、自分らのテリトリーだからってやりたい砲題しやがる。厄介な精神攻撃はもちろん、闇の皇帝や帝王ゴール、竜魔帝王、ダリウス大帝(封印戦争の方だ)、ネオスゴールド、ムーンWIIL、ガデス、ダリモスをあの世から呼び出しやがった。

 まあ連中、ますます神懸かってきた感のあるバサラとミクの歌に充てられてさんざんに弱ってたけどな。え?設定ミス? ナンノハナシデスカ?

 

 最終的にはズール皇帝を、マーグとロゼたちの“愛”で黄金に輝いた《ゴッドマーズ》の《スーパーファイナルゴッドマーズ》が。

 ムゲ・ゾルバドスを、《ダンガイオー》の《ファイナルサイキックウェイブ》から《アルティメットグラヴィオン》の《超重弾劾剣》、そして《ファイナルダンクーガ》と《ダンクーガノヴァ・マックスゴッド》による合体攻撃《断空双牙剣》が黄泉路へと帰した。

 また復活されてもあれなので、オウル・レヴをフルドライヴさせて無限力を生み出し、ムゲ空間にぶつけてやった。あそこに溢れていた悪霊どもは今頃因果地平の彼方だろう。南無南無。

 

 

 

 新西暦一八九年 ⊿月※日

 太陽系、アステロイド・ベルト クロスゲート周辺宙域 《ラー・カイラム》の一室

 

 緊急事態発生だ。ムゲ宇宙から帰還し、満を持してカルネアデス計画が発動するという最中、その間を縫ってゼーレが人類補完計画を発動させたのだ。

 復活使徒の《ゼルエル》の妨害を退けつつ、急行中。宇宙軍のミスマル提督によれば、地球全土を赤い光が覆い尽くし、十字架のような光の柱が無数に立ち上っているらしい。

 リアルタイムの映像を見たが、かなりグロかったぞ。

 

 

   †  †  †

 

 

 赤い生命のスープに満たされた旧ネルフ地下、セントラルドグマ。

 仲間の呼びかけにより、自我を取り戻したシンジの《初号機F型装備》――戦闘によるダメージを補助するためにリツコ以下が突貫で装備させた――、アスカの《弐号機》を筆頭に、《マジンカイザー》や《真・ゲッターロボ》、《HiーνガンダムHWS》、《ダイターン3》、《ジェネシックガオガイガー》、《ガイキング・ザ・グレート》、《グレートゼオライマー》、《ライディーン》、《ラーゼフォン》、《XANー斬ー》、《飛影》などの特記戦力。そして《エグゼクスバイン・メヴィウス》、《真・龍虎王》、《ディス・アストラナガン》、《大雷鳳》、《ASアレグリアス》――αナンバーズ最精鋭部隊が降り立つ。

 相対するのはレプリカ《初号機》と《量産型EVA》を引き連れた碇ゲンドウ。世界と人類の未来に絶望し、全てのリセットを願う男だ。

 

 セントラルドグマに対峙する両者。

 そのとき突如として開いた虚数空間、“ディラックの海”から黒いヒトガタが這い出した。

 

「黒いエヴァ……参号機?」

「あれって鈴原のエヴァじゃない。誰が乗ってるの? 今さらアイツなワケないし、まさかレイ?」

「いや待て、この念は――」

 

 突然現れた《参号機》。それはかつてシンジらの友人が使用していた機体だった。

 シンジとアスカが困惑する中、イングが見知った念を関知して声を上げる。

 

「やあ、久しぶりだねシンジ君」

「! か、カヲルくん!? カヲルくんなのっ!?」

 

 ウィンドウに映るアルピノの少年を見て、シンジは驚愕する。

 彼、渚カヲルはおきまりのアルカイックスマイルを浮かべた。

 

「うん、キミが知っている渚カヲルではないけれど、僕は確かに渚カヲルさ」

「……? えっと、カヲルくんも一緒に戦ってくれるってことでいいの?」

「ふふ、そういうことになるかな。今は戦えないリリス――、綾波レイの代わりだよ。それから、このエヴァの元のパイロットの彼に、シンジ君の助けになってくれと頼まれてもいるしね」

「そっか、トウジが……」

 

 離ればなれになった友人の思いに感銘を受け、シンジの目尻に僅かに涙が浮かぶ。《弐号機》がからかうように《初号機》の小脇を小突いた。

 

「それに、僕ら使徒もこの宇宙に生きようとする命、全ての終焉に抵抗するのは当然のことだよ。シトとヒトが共存できないなんて、ゼーレやアカシックレコード(運命)が勝手に決めつけた妄言さ」

「どこの世界線の話だよ、それ」

「案外、そんな宇宙はたくさんあるんじゃないかな。ヒトの数だけ、ヒトの想いの及ぶ限り宇宙は限りなくあるんだから」

 

 イングの茶々をものともしないカヲルは、意味ありげな笑みを潜める。

 なお、彼の発言にエウレカが激しく同意を示していたのは余談。

 

「太極に至る道筋を順調に歩んでいるようだね、おめでとうイング、いやバビル二世と呼ぶべきかな?」

「そりゃ嫌みか何かか、タブリス」

「まさか。新しい至高天の誕生を僕はもとより、世界もまた長らく待ちわびているんだ。遍く宇宙の平和と平穏のため、キミにはそれを支える一柱になってもらわないとね」

 

「いちいちややこしい言い回しする奴だな」カヲルの抽象的で詩的な表現に、イングは肩をすくめて苦笑を浮かべるのだった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一八九年 ⊿月△日

 地球、第三新東京市 《ラー・カイラム》の一室

 

 サードインパクトによる人類補完計画は防がれ、アンチATフィールドによりLCLと化していた人々も個を取り戻している。未だ混乱しているようだが、直にそれも終息するだろう。

 セントラルドグマでの碇ゲンドウとの決着戦において《EVA参号機》で参戦してきたタブリスこと渚カヲルだが、そのままαナンバーズに残って協力するようだ。曰く「監視者としてこの宇宙の因果律の乱れは余りに酷くて、看過できないんだよ」とのこと。ついに運営側からも出張ってきたか。

 あとは、補完に呼応して《ラーゼフォン》が神聖化しなかったのは残念であり安心だけど、ずっと影の薄かった久遠が対抗するように《ベルゼフォン》を呼び出して、そのまま戦闘メンバーに居座ってしまったのは想定外だ。

 お前ら隠しユニットかよ。フラグ立てた覚えねーぞ。

 

 しかし、ゼーレの、あるいはゲンドウの仕掛けていた罠には逆に感心してしまった。

 シンジから聞いたんだが、どうやら数多ある平行宇宙の『碇シンジ』たちの心情、それもかなり末期のものに強制的に共感させられ、発狂してしまったらしい。これが《初号機》に仕込まれた赤い靴、ってとこなんだろう。

 無理もない。《EVA》に搭乗するのはある意味心を剥き出しにするのと同じだ。そこにショッキングなイメージをぶつけられれば、タダでは済まない。

 まあ、その代わりに善い結末を迎えた平行世界の因子も流れ込んできて、復帰を助けてくれたみたいだけどさ。紫陽花がどうの三つ子がどうのって言ってたけど、なんのことやら。

 しかしまぁ、マダオこと碇ゲンドウの悲観論は聴くに耐えなかったな。

 霊帝のやってることとまさに同じで、善と悪、正と負はまさしくコインの表と裏、どちらか一方が欠けることはあり得ない。世の中、どちらか一方だけ知ったかぶって悟ったふりする奴が多くて困る。クルーゼみたいにな。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月△日

 太陽系、アステロイドベルト イカロス基地 《ヱルトリウム》内、宿泊施設

 

 ついに、「カルネアデス計画」発動の時がきた。

 銀河殴り込み艦隊、旗艦《ヱルトリウム》。αナンバーズの各艦を収容してしまうほど大きな白亜の巨大戦艦だ。

 その巨大さは想像を遙かに超える規模であり、ノアの方舟的な要素も持たされているらしく都市一つ(初代《マクロス》のそれよりデカいかも?)をまるまる抱えているほど。まあ、今は人が少なすぎて閑散としてるけどな。

 

 明日、オレたちはクロスゲートを使って銀河の中心に向けて出発する。

 みんな各々、思い思いのことをして最終決戦の前のひとときを過ごしていることだろう。

 バサラとカヲルが、ミンメイら歌姫ズとこそこそやってるのを見かけたな。メキボスもそれに関連して何やら悪巧み?してるようだし。まあ、悪い感じはしないので、好きにしたらいいと思うが。

 

 準備は万端。細工は粒々。運を天に任す段階はもう過ぎた。後は、オレたちの気持ち次第だろう。

 だが、あの性格最悪なイデが、オレたちの抵抗をみすみす見過ごすわけがない。嫌な予感がヒリヒリとしやがる。

 銀河の中心で戦うのはバッフ・クランと宇宙怪獣、そして邪念の化身ケイサル・エフェス。敵の勢力は強大だ。

 志半ばで銀河の海に散ることだって、あり得るかもしれない。いや、オレた ちは死地に旅立つんだ。未来の礎となるために。

 

 と、アーマラと二人きりになったときにぽつりとこぼしたわけだ。まあ、オレだって弱気になるときくらいあるさ。

 んで、いろいろあって物理的に叱咤激励されてしまった。今さっきまで、余韻に耽ってボーッとしてた。

 なんかもうめちゃくちゃ柔っこくて、アイツも女の子なんだなぁ、って改めて思った。なにがとは口が裂けても言わないが。

 

 

   †  †  †

 

 

 幾多の苦難を乗り越え、ついに意志の統一を果たした地球連邦により母なる星の、いや全銀河の命運を賭けた「カルネアデス計画」が発動された。

 白亜の旗艦《ヱルトリウム》率いる「銀河殴り込み艦隊」。地球人類の英知と資源、あらゆるリソースをつぎ込んで建造された大艦隊はしかし、クロスゲートを目前にして立ち往生を余儀なくされていた。

 

 暗黒の宇宙に、プラズマの花が無数に咲き乱れる。

 クロスゲートを通り、際限なく現れる宇宙怪獣の群。全宇宙規模で集結しつつある災厄と破滅の化身の天文学的物量は、歴戦のαナンバーズをすら圧倒して見せた。

 

「どれだけいるんだ、こいつらッ」

「敵が七分で黒が三分――だそうだ!」

「ジリ貧だな、それでは!」

「だが、やるしかねェだろ! ここを乗り越えなきゃ、イルイを助け出すことも、ましてや銀河を救うことなんてできやしない!」

 

 機体を必死に操りながら、イングは歯噛みする。殲滅形態《メヴィウスG》による対軍攻撃も、焼け石に水にしかなっていない。アーマラが思わず弱音を吐くのも無理はなかった。

 《グレートゼオライマー》、《ニルヴァーシュ》、《ガンダムDX》、《テッカマンイーベル》、《ネオ・グランゾン》、《サイバスター》、《ヴァルシオーネ》、《ASアレグリアス》など、強力なMAPWを持つ機体もまたそれに続くが、宇宙怪獣の大群を押しとどめるには至らない。

 活路を見いだすべく、《Hiーνガンダム》、《ビルバイン》、《XANー斬ー》、《飛影》、《マジンカイザー》、《真・ゲッターロボ》、《ジェネシックガオガイガー》、《バンプレイオス》、《ディス・アストラナガン》、《大雷鳳》が果敢にも群れの真っ直中へと突撃をかける。

 《ラー・カイラム》を始めとしたαナンバーズ艦隊が猛烈な砲撃を加え、《真・龍虎王》と《ヒュッケバインMkーIV》、《EVA》各機、アンチボディたちが協力して形成した防御フィールドが艦隊を守護した。

 

 ――だが、彼らの奮闘もむなしく、戦況は悪化の一途を辿っていた。

 アポカリュプシスを主導するイデの意志を受けて沈黙する《イデオン》。艦隊を構成する《ヱクセリオン》級が一つ、また一つ轟沈していく。

 

「クソ、オレたちは、こんなところで終わりだってのか……!」

 

 一抹の絶望感がイングの胸にも到来した、そのときだ。

 突如後方から飛来した強大なビームの奔流が合体宇宙怪獣に直撃し、巨体の半分をえぐり取る。

 

「っ、新手か!?」

「いや、これは――!」

 

『クロスマッシャー、発射!!』

 

 さらに、螺旋を描く赤青の砲撃が宇宙怪獣にトドメを刺した。

 

『クロスマッシャー? ん、どうしたんだよリューネ?』

『い、今、まさか……!』

 

 リューネの動作を忠実に反映する《ヴァルシオーネ》が、驚愕の表情まで浮かべて振り向く。

 

『久しいなリューネ、我が娘よ』

『お、親父ぃ!?』

 

 割り込まれたウィンドウに映る威丈夫の姿を見て、ついにリューネは仰天した。

 凶悪な剣《ディバインアーム》を()()に突き立て仁王立ちするのは、究極の名を冠する真紅(あか)き巨人――究極ロボ《ヴァルシオン》。その背には、ディバインクルセイダース(DC)の紋章が金糸で描かれた黒いマントがはためく。

 両脇に左右対称の“アストレイ”、《ゴールドフレーム天ミナ》、《ゴールドフレーム天ギナ》を従える様はまさしく覇王の風格を纏っていた。

 

『あれは究極ロボヴァルシオン! くぅぅぅぅっ、生で見れるなんて感激だぜ!』

『落ち着いて、リュウ。念が乱れているぞ』

 噂に名高いスーパーロボットの搭乗に悪癖をヒートアップさせるリュウセイを、マイが冷静になだめる。

 

『リューネの親父さんって確か……?』

『ビアン・ゾルダーク博士、EOT研究の第一人者であり、地球防衛を目的にDCを設立した人物です、マサキ。……ビアン博士……、私は貴方が再び表舞台に返り咲くことを心待ちにしていたのですよ』

 マサキの疑問に答えるシュウは、感慨深げつぶやく。

 

『SDFー1マクロス……!』

『おっと、ついに現役復帰ですかグローバル議長?』

『死地に赴く君たちの支援のための特別処置だよ、フォッカー少佐。後背は我々に任せ、後顧の憂いなく任務を果たしてほしい』

 かつての上官の戦線復帰を、フォッカーが軽口を交えて歓迎した。

 

 《ヴァルシオン》が立つのはSDFー1《マクロス》強行型、その右腕である《アームド02》だ。

 バルマー戦役における殊勲艦であり、退役した後は地球連邦の首都に当たるダカールはマクロスシティの象徴だった《マクロス》だが、カルネアデス計画発動に際し、進発する銀河殴り込み艦隊を支援するため急遽現役復帰、グローバルを始めとしたかつての乗組員を迎え、地球連邦軍の総旗艦として返り咲いた。

 そこにはDCの創始者にしてSDF設立の立役者、そしてグローバル、タシロ両名の盟友でもあるビアンの働きがあったのはいうまでもないだろう。

 

『全艦、戦闘開始! αナンバーズを援護せよ!』

 

 グローバルの指令で、《マクロス》率いる艦隊――《アルビオン》、《リーンホースJr》、《ジャンヌダルク》、《ネェル・アーガマ》、《アマリリス》等リリアス級戦艦の姿もある――から無数の機影が、光の帯を引いて発進する。

 

『各機、αナンバーズに後れを取るなよ! 連邦軍正規軍の底力を見せてやれ!』

『へっ、いけ好かねェブルコス野郎に使われるよりずっとマシだな』

『エド、真面目にやりなさいよ』

『ジェーンこそ、ブルーが宇宙仕様になったからってはしゃぐなよ』

『あなたたち、お喋りはそこまでにしなさい』

 

『ナチュラルに後れを取るわけには行かないな!』

『ふっ、今回のオペはタフな仕事になりそうだ』

 

 《ガンバレルダガー》の指揮を受け、《ソードカラミティ》、《フォビドゥンブルー改》、《バスターダガー》――地球連邦のエースたちが《ジェガン》や《ギラ・ドーガ》、《ドラグーン》、《量産型F91》、《ドトール》、《エステバリスII》、《レイダー制式仕様》、《ソルテッカマン》、《迅雷》からなる大部隊を引き連れて宇宙怪獣の群れに挑む。

 またその中には、“ドクター”と“黄昏の魔弾”など、ザフトのエースパイロットたちの姿もあった。

 

 そして――

 

『お久しぶりです、アムロ大尉』

『クリス、バーニィ!』

『俺たちは軍を退役しましたけど、地球の平和を守りたいって気持ちはみんなと一緒です』

 

『マザー・バンガードとF91……、キンケドゥさんとベラ艦長まで!?』

『今はシーブックだよ、トビア』

『私たちも、地球の未来のために戦うわ。あなたたちだけに、負担は押しつけない』

 

 かつての仲間が、旅立つ戦友たちを送り出そうと駆けつける。

 さらに、国際警察機構の赤い《グルンガスト弐式》、旧SDF現連邦宇宙軍のトロイエ隊が駆る《ガーリオン・カスタム》。《ヒュッケバインMkーII》二号機とモスグリーンに塗られた先行量産型《エルシュナイデ》。ゼンガー、レーツェルのかつての僚友やイルムとリンの同期たちが、《ゲシュペンストMkーII改》で参戦する。

 ――イングたちαナンバーズの影で、世界の平和のために大戦を戦い抜いた戦士たちが各地から次々と集結していた。

 

 全てはアポカリュプシスを乗り越えるため。未来を切り拓く、そのために――

 FIRE BOMBERの奏でる「鋼の救世主」の勇壮なメロディーと歌声が響き渡る中、猛烈な勢いで宇宙怪獣を撃滅する《ヴァルシオン》から、全周波数で電波が発信される。

 

『この宙域に集いし戦士諸君。始めまして……いや、すでにまみえた事のある者もいるだろうか。私はビアン・ゾルダーク、かつてDCを設立し、地球の危機に備えようとした者だ』

 

 ビアンの演説が、通信回線を通じて届く。

 

『何もしないという事は、生きる事を放棄する事と同じだ。それは生命体の存在意義に反すると、私は思う。人類に逃げ場なし……だからこそ、選ぶべきは戦いの道、生き残る道だ。そして、人類は幾多の苦難を乗り越え、異なる星、異なる人種とも手を取り合い、その道を選んだ。――それが無駄な足掻きであろうと、そこには確かに生が有る。命の輝きがある。最後まで、諦めることなく人間として精一杯生きる――、それが、我々の出した答えだ』

 

 その力強い言葉の一つ一つが、生きるため、未来を掴むため、力の限りに戦う戦士たちを鼓舞し、その背を後押しする。

 誰しもが持ちうる心の光、それが輝いて今、絶望を駆逐する原動力となる。その光の名前は勇気、あるいは愛、あるいは希望……ヒトの持つ、最も強くて尊い力の正体。絶対運命すらも覆す“奇跡”を起こしうる無限の可能性――、目には見えない最強最後の(つるぎ)なのだから――

 

『若者達よ、その手で未来をつかみとれ! そう、力尽くでだ!!』

 

 宇宙怪獣を一刀両断した《ヴァルシオン》が、ビアンの身振りを写して拳を高々と振り上げる。

 傷つき、倒れても、何度でも立ち上がり、明日の平和の礎にならんとする戦士たち。ビアン・ゾルダークの演説は、そんな彼らを鼓舞し、勇気づける。

 それはすなわち未来への咆哮――闇の時代に終止符を打つ、勝利の凱歌だ。

 

 ――宇宙怪獣に埋め尽くされた戦場に、一つの大きなうねりが生まれようとしていた。

 

「こうまでお膳立てされて、立ち止まってなんかいられないよな!」

「ああ。私たちもうかうかしていられない」

「やりましょう、イングさん、アーマラさん!」

 

 心強い援軍を得て、イングの胸には熱い思いが焔のように燃え盛っていた。

 ヒーローたらんとする彼自身の決意。

 バビルから託された使命。

 ナシムが夢見た理想。

 それら全てを抱き、鋼の勇者は終わりゆく銀河に旅立つ。

 

 ――《MAアキレス》と合体し、《メヴィウスR》となった《エグゼクスバイン》がメタル・クロークを翻す。

 

「ビアン博士、そして地球のみんな! オレたちは往く!」

「わたしたちの武器は、みなさんの愛と勇気と希望なんです!」

「この戦いは、地球人だけのものじゃない。この宇宙に生きる、全てのヒトの戦いだ!」

「だから見ていてくれ! そして信じてくれ! オレたちは必ず、未来を取り戻してみせる!!」

 

 黄金に輝く精神に『覚悟』を銀の剣に変えて――、鋼の救世主が今、終焉へとひた走る銀河に旅立つ。

 

 イングの、アーマラの念が高まり、それに呼応した光神の心臓(オウル・レヴ)が唸りを上げて、無限の光エネルギーを生み出した。

 

「宇宙怪獣、来ます!」

「私たちの邪魔をするな! 輝け、オウル・レヴッ!」

「おおおおっ!!」

 

 接近する混合型宇宙怪獣に光を込めた両足蹴りを叩き込む。

 最接近した《エグゼクスバイン・メヴィウス》は、腰から《ロシュセイバー》を引き抜いた。ビームの刀身が、凄まじいほどの輝きを放った。

 

「リボルスパークッ!!」

 

 突き込まれた《ロシュセイバー》を通って流された莫大な光エネルギーが、宇宙怪獣の内部で拡散し、破壊する。

 振り返り、光剣を一振りする《エグゼクスバイン》。その背後で、混合型がさながら恒星と見まごうほどの大爆発を起こした。

 

「行くぞ、エグゼクスッ! TーLINKフルコンタクトッ、本当の戦いはこれからだぜ!!」

 

 《ロシュセイバー》を格納し、左腕の《TーLINKセイバー》がアクティブ。

 千の覚悟を身に纏う不死鳥の勇者――人々の光を受けた救世の剣(セイバー)が、太陽の輝きを放って災厄の化身を断ち斬った。

 



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αIIIー6「今遠い遙か彼方……」

 

 

 

 新西暦一九〇年 ⊿月#日

 銀河系中心宙域、バルマー星系 《ラー・カイラム》の一室

 

 

 銀河殴り込み艦隊本隊はゾヴォーク、平和解放機構、イバリューダーやプロトデビルンなどの銀河中の協力者と合流を目指し、銀河の中心へと移動中。宇宙怪獣やバッフ・クランの妨害が予想される。

 一方オレたちαナンバーズは、同じく銀河中心付近にあるバルマー本星に向かっているところだ。

 目的は、ゼ・バルマリィ帝国の霊帝ルアフと接触し、カルネアデス計画への協力を求めるため。バルマー本星があるのはBM3が起動したら被害を受ける宙域でもあるし、無視はできない。

 ちなみに発案者はアルマナ。「創世神ズフィルードなら、きっとお力を貸してくださるはずです」だってさ。同じバルマー人のエイジやゲイルさんとかは若干難色を示していたりするんだが。

 まあ、オレもここだけの話求めるだけ無駄だって思ってるけど、ゴラー・ゴレム隊に連れ浚われたイルイを助けるためならやる気も出るってもんだ。

 

 まずはホワイトスターもとい、ネビー・イームの攻略からだな。

 

 

 追記。

 なんだか誤解が広がってるみたいだから訂正するが、オレはまだDTだ!

 アーマラとはほら、チューしたというか、されただけみたいな? あるいはハグしただけみたいな?

 不意打ちで唇を奪われたんだよ。うん。

 で、自分からしといて真っ赤になったあいつがかわいくて、オレもお返しにキ(以下、黒く塗りつぶされている

 

 

   †  †  †

 

 

 ゼ・バルマリィ帝国の大深度に広がる荘厳なる神殿。

 ここで、地球とバルマー、同じルーツから始まった二つの星の宿命が、今果たされようとしていた。

 

 偽帝ルアフを排したシヴァー・ゴッツォは、自我を失わせたイルイをマシヤフ(人柱)としてコアに利用し、《ゲベル・ガンエデン》を支配した。

 だがその行為は、今や事実上、宇宙最強のサイコドライバーとなったイング、“バビル二世”の逆鱗に触れたのだった。

 

 αナンバーズの猛攻の前に因縁のゴラー・ゴレム隊、エイス、キャリコとスペクトラは敗退し、残るはシヴァーが操る《ゲベル・ガンエデン》のみ。

 その《ガンエデン》も、αナンバーズの総攻撃を受けて黒煙を上げていた。

 

『ぐぅぅぅ! ば、馬鹿なっ! ズフィルードの神の盾が、こうも容易く!?』

『借り物の力で、俺たちに敵うわけねぇだろ!』

『シヴァー……、俺たちを思い通りに出来ると思うな。イングラムに代わり、俺がお前の枷を消滅させる……!』

 

 長きに渡る因縁を精算せんと哮るリュウセイとクォヴレー。

 αナンバーズ各機の猛攻の後、鋼の戦神《バンプレイオス》と《RーGUNパワード》による合体攻撃《天上天下一撃必殺砲・改》、黒き銃神《ディス・アストラナガン》の《アイン・ソフ・オウル》――銀河に轟く最凶の必殺技が炸裂し、人造神を大いに揺るがした。

 そして――

 

「シヴァー! イルイ()は返してもらうぞ!」

 

 紅き光の巨人《エグゼクスバイン・メヴィウスU》が、宇宙誕生に匹敵するほどのエネルギーを纏う手刀――《ビッグバンスマッシュ》を《ゲベル・ガンエデン》に打ち込んだ。

 灼光(しゃっこう)の一撃が超念動フィールド、神の盾を貫いて《ガンエデン》の胴体に突き刺さる。超至近距離で発動したイングの超能力は囚われたイルイを確実に捉え、空間をねじ曲げて引き寄せた。

 

 強制的な転移により《メヴィウス》のコクピット内に現出したイルイを、イングはしかと抱き留める。

 

「イルイ!」

「おにい、ちゃん……?」

「よく頑張ったな、もう大丈夫だ」

「ん……」

 

 自分を呼ぶ声を聞き、薄く目を開けたイルイ。彼女は大好きなイング()の姿を認め、安心したように微笑んだ。

 

 安堵したイルイ()が意識を失ったのを見届け、イングは顔を上げる。

 視線の先には人造神から木偶人形に成り下がった《ガンエデン》。その紅い瞳には燃えさかる怒りを浮かべ、その胸には熱い義憤を抱き――そして清水のように澄んだ心でその力を振るうのだ。

 

『我が計画は完璧だったはず! それが、何故!?』

「テメェの志がどれだけ素晴らしかろうとッ、手段を間違えた時点で無価値なんだよ! 因果応報、所詮はユーゼスと同類だ!」

「あなたのしてきたこと、たとえバルマーの星の人たちのためだとしても許せません! この銀河に生きる命は、みんなみんな平等なんです!」

「貴様の息子があの世で待っているぞ! シヴァー!」

 

 計画が崩壊し、動揺するシヴァーの譫言を切って捨て、怒れる鋼の救世主(メシア)は偽りの機械神に引導を渡す。

 

「こいつで決めてやる! サイキックウェイヴッ!!」

 

 《エグゼクスバイン》から放たれた強烈な念動波が《ゲベル・ガンエデン》を空間に縛り付け、動きを完全に封じ込む。

 制御の要たるマシヤフを奪還され、まともに動くことも出来ない《ガンエデン》に逃れる道理はない。

 

「シヴァー・ゴッツォ! お前を縛る因果の鎖ごと、その歪んだ理想をオレたちが断ち斬るッ!!」

「貴様らバルマーとの因縁もこれまでだ! TーLINKツインコンタクトッ! 輝けッ、オウル・レヴ!!」

「行きます! リミット解除っ、エグゼクスバイン、フルドライヴ!」

「アカシックレコードアクセスッ! 次元を斬り裂け! エグゼクスカリバー、アクティブ!」

 

 覚醒したイングの髪が紅く燃え上がり、アーマラの髪もまたそれに伴って深い蒼に染まる。無限力(イデ)すら超越しつつあるサイコドライバーの力が発動し、宇宙の根源オリジン・ローから次元力を汲み上げる。

 オウル・レヴの輝きが同様に次元力を生み出すのに伴って胸部エナジーコアが分離、下部から引き延ばした柄を光の巨人が掴み取る。

 頭部に飾られた結晶体が、まばゆい光を放った。

 

「素敵に無敵に絶光超ッ!」

「天衣無縫の天動超奥義ッ!!」

 

 リミット解除のキーワード、爆発する強念。エナジーコアから放たれたプラズマスパークの光をたらふく抱え込み、流体ヒヒイロカネが結晶の刃となって一振りの剣を形成した。

 

「行くぞッ、スペリオルフラッシュ! デッド・エンドォォォッ――」

「「スラァァァァシュッッ!!!」」

 

 極光を伴った大斬撃が《ゲベル・ガンエデン》に吸い込まれ、炸裂した。

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》の最大攻撃を受け、全身の至る所で小爆発を起こす《ガンエデン》。

 ノイズの走る映像には、自嘲の笑みを浮かべた。

 

『フッ……ここまでか。――地球の勇者たちよ……銀河の命運だけではなく、願わくば、帝国の臣民の未来も、護ってくれないだろうか……』

「ハッ、言われるまでもねぇ。アンタは潔くあの世に行って、オレたちの創る未来を眺めてるんだな」

 

 イングの人を食ったような返答にシヴァーは笑みを漏らし、盟友バランとアルマナに後を託して《ゲベル・ガンエデン》と命運を共にした。

 こうして、ゼ・バルマリィ帝国の守護神、創世神ズフィルードと、神となって故国を救おうとした男は光となって消滅したのだった。

 

 

   †  †  †

 

 

 新西暦一九〇年 ☆月◎日

 銀河系中心付近 《ヱルトリウム》内の医療施設

 

 無事、イルイを救い出すことに成功した。

 念を酷使させられて消耗し、衰弱しているイルイは《ヱルトリウム》の施設に収容されている。命に別状はないそうだが、心配だ。

 

 さて、ゼ・バルマリィ帝国での決戦を簡単におさらいしてみよう。

 バルマー星系ゼ・バルマリィ帝国本星に近づいたオレたちを待ち受けていたのは、監察軍第五艦隊及び第六艦隊、そして白き魔星「ネビー・イーム」。また、特使として先んじてバルマーに帰還していたバランが洗脳されて立ちはだかる。

 ちなみに、敵軍の中にはル・カインの《ザカール》率いるグラドス星のSPT部隊の姿もあり、エイジの《レイズナーMkーII》と《VーMAX》による超高速戦を繰り広げていた。まあ、決着つかず、だがな。

 

 正気に戻ったバラン、ルリアの活躍で、ネビー・イームの一つに囚われていたアヤ大尉とトロニウムを奪い返したSRXチーム。ついに真の完成を果たした《バンプレイオス》の《天上天下一撃必殺砲・改》が、エツィーラ・トーラーの《ジュモーラ》を文字通り一撃の下に粉砕した。

 なお、エツィーラの策略(悪趣味な幻影だ。トラウマシャドーか?)でマイが念を暴走させかけていたが、アヤ大尉の登場とオレの妨害(サイコドライバーにも力の差ってもんがあるのだ)で事なきを得ている。あ、イデはお呼びじゃないんで、お引き取りください。

 

 ゼ・バルマリィ帝国の支配者、霊帝を名乗るルアフ・ガンエデンは、謁見を求めたオレたちをバルマー星に招き入れた。

 だが奴は、端から協力なんてするつもりはなく、αナンバーズの戦力を力付くで奪おうとするという浅はかな真似をしくさった。ルアフめ、思った通りちっちぇえ野郎だったぜ。見た目じゃなくて器がな。

 自分らの戦力が足りないから余所から補おうってのはわからんでもないが、敵対したら本末転倒だろうに。自分以外の他者を見下す見当ハズレなエゴ、まさしく旧来のバルマー人そのものだな。

 ルアフと《ゲベル・ガンエデン》は哀れ、スーパーロボット軍団の総攻撃を受けてあえなく敗退した。

 

 オレたちに破れたルアフは無様にも逃げ出したのだが、どうやらゴラー・ゴレム隊の黒幕であるシヴァー・ゴッツォになぶり殺しにされたらしい。

 そのシヴァーは、地下帝国の邪術により自意識を奪われていたイルイをコアに《ゲベル・ガンエデン》を掌握、ゴラー・ゴレム隊を引き連れて決戦に打って出る。

 だが、所詮は借り物の力に溺れたものと負け犬の群れだ。オレたちαナンバーズの敵じゃない。

 キャリコ、スペクトラ、エイスはそれぞれクォヴレーとアーマラ(つまり《メヴィウス》で)、セレーナとヴィレッタ大尉、リュウセイたちSRXチームにより倒され、因果地平の彼方に散っていった。

 もちろん、神を気取ったシヴァーの野郎にもオレがキッチリ落とし前をつけてやった。人様の妹に手を出したのだから当然の報いだな。

 

 なお、バルマー本星は、ついに本格的に活動を開始したイデの寄越した隕石群により壊滅しているが、バルマー星系の住民はシヴァーの手により全て退避済み。サルデス、ヒラデルヒアの両名に保護されていて無事だ。

 不安に駆られる市民を慰撫するために向こうに移ったアルマナは、自分の名代としてバラン、ルリアを残している。

 アルマナを含めた船団の護衛をル・カインが買ってでているんだが、意外なことにアルマナにキチンと敬意を払ってるみたいだ。あれか、地方領主の息子的な立ち位置だから性格がマイルドになってんのか。

 

 シヴァー・ゴッツォ、万丈さん曰く「あなたはもしかしたら、この星を救う人間だったかもしれない」。

 《ガンエデン》の力を過信して晩節を汚したとはいえ、最後は思いの外潔い奴だった。敬意くらいは示しても、いいかもな。

 

 

 

 新西暦一九〇年 ☆月△日

 銀河系中心付近 《ラー・カイラム》の一室

 

 バッフ・クランとの銀河間戦争に終止符を打った。

 端折りすぎ?激戦過ぎて日記書いてる余裕がなかったんだよ。

 

 現在の状況だ。

 地球から進発した銀河殴り込み艦隊は旗艦《ヱルトリウム》を残して壊滅、かなり厳しい状況に立たされている。

 バッフ・クラン軍だが、総指揮官ドバ・アジバが旗艦《バイラル・ジン》と運命を共にしたことで戦意を喪失している。

 ハルル、カララ姉妹がなんやかんやあって和解したのは朗報と言えるだろう。お姉さんの方にはいい

 

 イデの奴め、思惑通りに進まなくてさぞや悔しがっているだろう。

 奴らは「人々の融和」を望みつつ、その一方で争いを助長するようなことをしやがる。矛盾するのがヒトって言ったらそれまでだが、あれはもっと機械的に行動するからタチが悪い。それすらも、この宇宙よりも上位にある誰かの思い描いたものでしかないのに。

 まあこれは、あくまでオレの個人的な所感でしかないんだけどな。

 

 アカシックレコードに定められた大きな流れは、この宇宙に流れ込む因果によってその形を大きく変じさせている。その果てしなき流れの果てに何が待ち受けているのか、それはオレにもわからないが、きっと誰もが想像だにしない、想像を超えた結末が待っているはずだ。

 

 明日、BMIIIと銀河殴り込み艦隊は銀河の中心にたどり着く。

 あるいは、その結末は悲劇でしかないのかもしれない。オレたちは志半ばで宇宙に散るかもしれない。けれど、立ち止まるつもりなんか最初からない。

 使命だとか、運命だとかそんなもん知ったことか。未来を掴みたいというこの衝動は、誰にはばかることもない、オレ自身のものだ。

 イデと、それからこの大戦の黒幕を一発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まないってのも、あるけどな。

 

 どちらにせよ、最終決戦はもうすぐだ。

 

 

   †  †  †

 

 

「ふぅ……」

 

 日課の日記を書き終えて、一息つく。

 今この部屋にいるのはオレだけだ。

 エクスはイルイんとこだろうし、アーマラは《エグゼクス》の最終調整に参加している。いくらあれがメンテナンスフリーな機体だからって、整備は疎かにできないし、むしろ明日のために念入りにしないとな。

 

「……」

 

 殺風景な部屋にあって、唯一生活感のある日記帳がずらずらと並ぶ本棚に目を向ける。ちなみに他の私物は地球に置いてきた。

 ほぼ毎日欠かさず続けてきた日記(だいぶ分厚いんだぞ)も十冊を軽く越えている。よく続いたもんだと我ながら感心する。

 というか、オレってそれほど勤勉なタイプじゃなかったんだけどなぁ。

 

「んー……最初から読んでるか? これまでのバビル二世の活躍を振り返る!みたいな」

 

 ――と、思ったがやめておく。

 いろいろあったが、ことここにいたって振り返る必要は感じないし、ましてや後悔なんてあろうはずもない。

 この魂の感じるまま、命を燃やし尽くしてでも戦い抜く。そしてアポカリュプシスを、終わりのない死と再生の輪廻を乗り越えるんだ。

 もし読み返すにしても、その後でいいよな。

 

「さて、と……行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 “BMIII”――バスターマシン三号による宇宙怪獣殲滅作戦、カルネアデス計画の成功をもって大いなる終焉(アポカリュプシス)は終わりを見た。

 

 かつて例を見ないほどの宇宙怪獣の大軍勢を前に絶体絶命の窮地に立たされたαナンバーズを救ったのは、星間連合を構成していた星々、平和解放機構に連なる星々、巨人族、ゾヴォーク、イバリューダー、プロトデビルン、バッフ・クラン軍――銀河中から未来と平和を望み、集結した勇士たちだった。

 宇宙に満ちる、ヒトの意志の力――

 一つ一つは取るに足らぬものであろうとも、その志を束ねたならば逃れ得ぬ運命すら断ち斬る無敵の剣となる。

 それはまさしく無限力――イデの望んだ“融和”の光景だ。

 

「わかったぞ、イデ! お前だって生き延びたいんだよな! 俺達と一緒に!」

「どけぇーッ!! イデの巨神の力を使うぞ!!!」

 

 迷うイデの意志はコスモとの対話でヒトと共に、寄り添って生きることを決断し、その力を解放。銀河の未来を護る守護神として真に目覚めた《イデオン》の光が、災厄の破壊神を撃滅する。

 

「奇跡は起きます! 起こして見せます!」

 

 質量不足により爆縮不全に陥ったバスターマシン三号を起爆すべく、《ガンバスター》が単身中枢に突入。自機の縮退炉。

 宇宙怪獣が押し寄せる中、そこに《マジンカイザー》、《真・ゲッター》、《ジェネシックガオガイガー》、《ライディーン》、《グレートゼオライマー》、《ソルグラヴィオン》、《ガイキング・ザ・グレート》が駆けつけた。

 縮退炉の爆発を引き金に、バスターマシン三号が起爆する。

 

 奇跡は――起きた。

 

 

 

 そして――――

 

 

 

 

 

 特異点の暴走と崩壊により発生した次元空間の乱れに巻き込まれたαナンバーズは、遙か時の彼方、何処とも知れぬ暗黒宙域に投げ出された。

 悲観に暮れつつも、前を向いて未来へと歩むことを決めた彼らの前に、ついに全ての元凶がその姿を現す。

 

『我が名は霊帝……全ての剣よ、我が下へ集え』

 

 霊帝ケイサル・エフェス――

 ファースト・サイコドライバー、ゲベル・ガンエデンのなれの果て。無限力(イデ)から運命を奪取することを目論見、アポカリュプシスによって不安定となった因果を操りさまざまな異常事態を引き寄せた原因。

 那由他の彼方、生と死の輪廻に擦り切れ、宇宙破滅のエントロピーの一部となり果てた根源的破滅をもたらす者。そこにもはや原初の願いなどなく、ただ宇宙の消滅をもたらすだけの空虚な存在だ。

 

『全ての肉なる者たちよ。今こそ土塊の肉体を捨て、新生せよ。さすれば、汝らはあらゆる苦しみから解放されるであろ う。我が名は霊帝ケイサル・エフェス……心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして我を受け入れよ』

 

 その成り立ちと行動目的から「反イデ」とも呼べる存在。

 今、αナンバーズの眼前に現れた黒き人型に怨念が交わった翼を羽織うそれは、知的生命体の怨念「負の無限力」を操るケイサル・エフェスの台座であり、惑星に匹敵するほど巨大な機械体である。

 真理に触れて興奮してまくし立てるエツィーラを目障りだと始末した霊帝は、負の無限力を喚起する。

 

『虚無より来たれ、幾千の怨霊よ』

 

 ケイサル・エフェスの呼び掛けに呼応して、宇宙の深淵から死霊の群れが溢れ出す。

 宇宙空間に穿たれた不気味な闇から《ズフィルード》、《ズフィルード・エヴェット》を始めとしたゼ・バルマリィ帝国の機動兵器が出現。さらに《ヴァルク》シリーズ、《ヴァイクラン》などのゴラー・ゴレム隊の機動兵器や、黒と白の《ジュデッカ》までもが地獄から舞い戻る。

 また、それだけではない。

 《ナイチンゲール》、《ジ・O》、《ギルガザムネ》、《夜天光》、《プロヴィデンス》、《リジェネイト》、《オージ》。《ターンエックス》、《ガンダムヴァサーゴ》、《ガンダムアシュタロン》、《オーバー・デビル》。

 《デビルマジンガー》、《パルパレーパ・プラジュナー》、《ハウドラゴン》、《ベクターゼロ》、《超炎魔竜ファイナルドヴォルザーク》、《ネイキッド》、《テッカマンオメガ》、《ゼラヴィオン》。

 ――バルマー戦役から今日までの戦乱において、αナンバーズの行く手を阻んできた数々の強敵たちが怨念を纏って姿を現す。

 それらを操るのは“ネシャーマ”――魂、霊魂、精神、呼吸、 生き物を意味する正真正銘の怨霊である。

 

『闇の帝王に竜魔帝王、懲りない奴らだぜ!』

『そんな……! ズール皇帝やムゲまで!』

『本人かよ!?』

『いや、あれらはもう負の力に飲み込まれて自意識を失った抜け殻だ』

『だが、その力は本物みたいだね。油断しない方が良さそうだ』

 

 

『孫光龍! あんな邪念の塊に味方するなんて!』

『はははっ、哀れだね! 必死に無限力に抗ったのにもかかわらず、終いにはこんな辺鄙な時間(ばしょ)に残される! これがイデの仕打ちさ!』

『貴様、超機人の役目を忘れたのか!』

『何とでも言うといい。世の中、最後に勝ち残った方が正しいのさ。勝てば官軍、負ければ賊軍ってね!』

 

 

 強敵の復活に少なくない動揺が広がる。

 そしてイングたちの前にも、かつての強敵が姿を変えて現れた。

 

「こいつ……ガンジェネシスか!?」

『否。これなるはガンジェノサイダー、真なる破壊神なり』

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》と対峙するのは暗黒の破壊神《ガンジェノサイダー》。邪念により黒く染まったクストースを引き連れて立ちふさがる。

 

「ちぃっ、下手なパチモン持ち出しやがって!」

『バビル二世、貴様に宿るバビルの残り香ごと、全次元から葬ってくれよう。世界の未来が開くことは最早無いのだ』

「やってみろよ! テメェを倒して、それで全部終わりだ!」

 

 

 少なくないダメージを負いつつも、《応龍皇》を含めた強敵たちを撃破するαナンバーズ。

 たが、ケイサル・エフェスの司る負の無限力により怨霊は何度でも甦る。無間地獄のような終わりの見えない死闘に追い詰められ、疲弊していく。

 輪廻の果てに宇宙破滅のエントロピーと一体化した霊帝は、生命の持つ負の感情を取り込み力に変え、負の感情が存在する限り尽きることのない力と再生と復活を遂げることが可能である。

 相対するαナンバーズの負の感情すら吸い上げ、さらに負の無限力の使徒が広げた銀河大戦、そして霊帝自身が起こした破壊活動による負の連鎖が更に力を与えるという悪循環が発生する状況に陥った今、霊帝を完全に消し去ることは不可能だ。

 もはや全てが破壊し尽され、滅び去らない限り倒すことはできないだろう。

 

『イング、私も戦います』

「イルイ? いや、ナシムか!」

 

 仲間の窮地を受け、無限力にアクセスして《ナシム・ガンエデン》を召喚したイルイ=ナシムが参戦する。

 地球の守護神《ガンエデン》の力は健在で、怨霊をなぎ倒していく。

 けれども、負の無限力、宇宙のマイナスエネルギーそのものとも言える存在となったケイサル・エフェスの力は絶大であり、文字通りの無限だった。

 

『く、うう……! この負の想念、すでにイデを超えている!?』

『そうだナシム、幾億万那由多の果てに我はついに(しん)なる全知全能となったのだ! 貴様らを滅ぼし、然る後忌々しい無限力(イデ)をあらゆる次元から消し去ってくれよう!!』

 

 原初の目的を失い、無限力(イデ)に対する憎しみだけが膨れ上がったケイサル・エフェスはついに宿願を達成しようとしていた。

 

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》と《ナシム・ガンエデン》、究極の念動兵器の攻撃すらケイサル・エフェスの“負の衣”を破ることは叶わない。

 霊帝と《ガンジェノサイダー》、《ゲベル・ガンエデン》の猛攻から主を護って、《アキレス》らみっつのしもべが次々に大破する。

 武装と戦闘力の大半を失いながらも、《エグゼクスバイン・メヴィウス》は奮闘する。しかし力及ばず、その命運は尽きようとしていた。

 

『よくぞここまで戦い抜いた、運命(さだめ)の戦士たちよ。死に逝く諸君らにせめてもの手向けとして、母なる星とともに銀河に散ることを赦そう』

 

 恐るべきは霊帝の負の無限力。発生させた極大のブラックホールにαナンバーズを強制的に引きずり込み、彼らを還るべき場所――地球圏へと誘う。

 霊帝の振りまく怨念が地球圏を汚染し、阿鼻叫喚の渦が発生する。絶望を、恐怖を、憎しみを、悲しみを――負の感情を喰らい、怨霊が力を増していく。

 

『このままでは……! せめてこの身に代えてでも、ゲベルを止めます!』

 

 イルイの身体を借りたナシムが、イングを、そして地球を護るために霊帝へと決死の特攻をかける。

 かつての主を庇う《ゲベル・ガンエデン》。《フォロー・ザ・サン》と《キャッチ・ザ・サン》、二匹の巨竜が正面から激突した。

 爆散する二柱の《ガンエデン》。イングは目を見開いて妹の無事を叫んだ。

 

「ッ、イルイ!」

「わたしは、だいじょうぶ……ナシムが逃がしてくれたの。でも……」

 

 イングの膝の上、ナシムの意志により強制転移させられたイルイは目尻に涙を浮かべて、《ガンエデン》の残骸に目を向ける。すでにそこには、ナシムの意志は残っていない。

  かつては身体を乗っ取られ、操られた相手だったが、それでもイルイはナシムを許していた。彼女の平和への祈りと地球への愛は本物だったと一番知っているから。

 

『さあ、我が手で滅ぶ地球とともに破滅を享受するのだ、運命(さだめ)の戦士たちよ。だが、恐れることはない。そなたらに待ち受ける死とは即ち究極の平穏――全てが無に還れば、恐怖、怒り、憎しみ、悲しみなどという感情を感じることなど、永劫なくなるのだから』

 

 かつての同士を始末したケイサル・エフェスは、αナンバーズに最後通牒を突きつける。

 

『天よ聞け! 地よ耳を傾けよ!』

 

 漆黒の機械体の頭部が迫り出し、口ぶの先に一二芒星の魔法陣が虚空に描かれた。宇宙破滅のエントロピーが物理現象を伴って顕現する。

 

『恐れよ! 竦め! そして泣き叫べ! 我が名は霊帝ケイサル・エフェス! そなたらをまつろわす全知全能の神なり!!』

 

 全ての生きとし生ける者への見せしめとして地球を消滅させるべく、霊帝が喚起させた銀河に蔓延する怨念、マイナスエネルギーの固まりがおぞましい邪光を放つ。

 その余波がコロニーに被害を与え、地上に降り注いでは阿鼻叫喚の地獄絵図を作り出す。

 碧き星、地球消滅のカウントダウンが刻一刻と進む。

 霊帝の恐るべき権能により、その様子は時空間を超越して全銀河の人々に見せつけられていた。リアルな恐怖感を伴って。

 

 銀河に蔓延する絶望。

 今、絶対的な運命()を前に、幾多の困難を乗り越えた歴戦の勇者たちですら膝を屈しようとしていた。

 だが、それに抗うものがいた。

 

「諦めるな!」

「諦めたら全部おしまいです!」

「まだ戦えるなら、力尽きるまで戦おう! 私たちはそうやってここまで来たはずだ!」

「ヒトは諦めない限りなんでもできる、わたしはそう信じてる! だから!」

 

「オレは……オレたちは諦めない! 命ある限りッ!」

 

『そうだ諸君ッ!! 諦めるにはまだ早いッ!!』

 

 雷鳴のような一喝が宇宙に轟く。

 地球から《ヴァルシオン》率いる地球連邦軍の大艦隊が来援し、またゾヴォークの将軍、ゼブリュースらの呼びかけにより全銀河から集結した勇士たちが続々と地球圏にワープアウトする。その中には、アルマナらバルマーの人々の姿もあった。

 さらに、《マクロス》に乗艦したリン・ミンメイからのメッセージが届く。

 元ドクーガ三将軍、ブンドル・ド・メディチの指揮の下、《マイクサウンダース十三世》の兄弟たちがバックオーケストラを勤める大合奏団が演奏を開始した。

 

 宇宙が鳴動を開始し、無限力に導かれたαナンバーズは邂逅する。

 ――シャア・アズナブル、イングラム・プリスケン、巴武蔵、獅子王夫妻、兜剣造、司馬博士、相羽孝三、相羽シンヤらアルゴス号のメンバー、ハイネルとリヒテル、銀貴、トレーズ・クリシュナーダ、ロス・イゴール、岡長官――

 その生命を全うし、木星のザ・パワー……真理にたどり着き無限力と一体となった有名無名の英霊たちが、αナンバーズに、この決戦場にたどり着いた勇者たちに語りかける。

 

『この流れ……この歌、そうこの歌だ……幾億万那由多の輪廻で我を悉く阻む最大の障害! アニマスピリチュアッ、我が大望は邪魔させぬ!!』

 

『そいつはこっちのセリフだぜ!』

『ケイサル・エフェス! これ以上、貴様の身勝手なエゴにつき合うつもりはない!』

『バサラの、みんなの歌の邪魔はさせないぞ!』

 

 “歌”を阻止しようと、その中心たる《ファイヤーバルキリー》に迫るケイサル・エフェスに対し、《マジンカイザー》、《HiーνガンダムHWS》、《真・ゲッターロボ》がその進路を阻む。

 彼らの決死の攻撃により、ケイサル・エフェスが初めて明確なダメージを受けて揺らいだ。

 

『行くぜ、悪霊ども! 俺の歌を聴けーッ!!』

 

 「GONG」――バサラとミンメイ、ミク、ラクスやエイーダ、イヴ、カヲルらが協力して作成した“生命の賛歌”。運命(さだめ)に立ち向かうため、終焉の銀河へと旅立つ戦士の心情を歌った雄壮で壮大な凱歌である。

 

『鳴らすぜ、生命のゴングを!!!』

 

 ――どこかのコロニー。歌姫に憧れる少女が、宇宙を見つめてその音を歌う。

 ――とある移民船団。歌姫に成りうる少女が、空を見上げてその詩を詠う。

 ――また別の移民船団。歌姫を目指す少女が、都市の片隅でその歌を唱う。

 

 メキボスとゼブ、平和解放同盟の采配により銀河中に届けられた“歌”。人々はその壮大なメロディーと勇気ある詩に惹かれ、誰もが自然と口ずさむ。

 地球で、月で。どこともしれない星々で。遙かなる銀河で。

 惹かれ合う音色に理由などいらない。胸にわき上がった熱き思いが天を貫く。

 魂の赴くまま、生命のゴングを鳴らした。

 

 

「本当の戦いはっ――!」

 エクスの可憐な声が。

 

「本当の戦いはッ――!!」

 アーマラの凛々しい声が。

 

「本当の戦いはッ――!!!」

 そしてイングの勇ましい声が。

 

 

「「「本当の戦いはここからだッッッ!!!!」」」

 

 三人の声が重なって、奇跡の凱歌を銀河に上げた。

 αナンバーズの、全銀河の人々の諦めない心――無限の光。それが全てのヒトの魂の歌に乗せられて地球へと、太陽へと集まっていく。

“太陽は昇る”――地球の影から、一筋の輝きが空亡(くうぼう)を斬り裂いていく。

 輝く日輪。恒星に秘められた神秘の力が暗黒の宇宙を照ら出し、アキレス、ガルーダ、ネプチューン――傷つき倒れたみっつのしもべが、緑、青、赤の輝く風となって《エグゼクスバイン》を包み込む。

 みっつの風は、バスターマシン三号の発動により宇宙に満ちたザ・パワーと、生者死者を問わない人々の祈りを巻き込んで一つの巨大なうねりを生み出していく。

 それは“運命”だった。

 

『ヌゥ……!? この力、我が負の無限力を、死霊どもを奪うこれは、一体なんなのだ!』

 

 負の存在であるはずの死霊が光の直中に集まっていく様に、霊帝は困惑する。

 皆、生きたいと願うことには変わりない。それは死霊怨霊に堕ちたものたちとて同じこと。偉大なる太陽の輝きが怨念を癒し、正しき輪廻の輪の中へと――次なる世界へ導くのだ。

 

『これは、超神……?』

『ユーゼスが追い求めた光の巨人か……まさか、この目で拝むことになるとはな』

 

 風が四散し、大いなる光を纏って不死鳥の勇者(エグゼクスバイン)が再誕を果たす。

 その姿はまさしく、“ヒトの姿を取った光”と呼ぶに相応しいものだった。

 バイザーを取り払り、グリーンの瞳を露出させた《エグゼクスバイン》のフェイスに王冠のような八本の角を持つ頭部。胸部には結晶化したヒヒイロカネが輝き、上半身の青系から下半身の赤系へとグラデーションする紫の体色、全身に神秘的な光のオーラを纏い、身体の各所にある裂け目から虹色の光を放つ。

 無限の愛と無限の勇気を携えて、無限の力、希望により絶望を駆逐する究極の一(アルティメット・ワン)がここに光臨する。

 

『ク、虚仮威しを! 地球諸共消し去ってくれる!』

 

 再び喚起した負のエネルギーが、邪悪な光条となって光の巨人に向けて放たれた。

 地球を滅ぼして余りある破壊光線はしかし、光の巨人が無造作に掲げた右手に阻まれ、押さえ込まれ、そして呆気なく霧散した。

『ば、馬鹿な!?』霊帝が驚愕の声を上げる。

 

「ナシム……! もう一度だけ、私に、みんなに力を貸して……!!」

 

 光に満ちた心臓部(コクピット)、イングの膝の上でイルイが懇願する。

 光の巨人の背に六対一二枚の黄金の翼がまばゆい光とともに生じると、相打ちとなった《ナシム・ガンエデン》、《ゲベル・ガンエデン》の残骸から光り輝く二匹の巨竜が現れた。

 それは《ガンエデン》に宿っていたナシムの魂が姿を変えたものであり、《ガンエデン》に残されていたゲベルの捨て去った人間性が変じたものだった。

 

「今ここに、正と負の力が交わる! テトラクテュス・グラマトン……!!」

 

 イングが聖句を唱え、光の超神が翼打つ二匹の巨竜をその身に(よろ)う。

 全身各所に翠緑のクリスタルを配した黄金の鎧「サンライザー」、その中心には王者の石「グリタリングエナジーコア」が虹色に輝き、背から二本一対の白い尾が、両肩に竜の頭部を思わせる結晶を備える。そして左右の腕の手甲には《ナシム・ガンエデン》、《ゲベル・ガンエデン》の顔を象った蒼と紅の水晶が煌めく。

 そしてその瞳は、赫耀と燃えさかる太陽の紅と優しく広がる宇宙の蒼――二色のオッドアイへと変化を見せる。その色合いはイング、アーマラのそれに酷似していた。

 

『獣の血、水の交わり、風の行く先――そして火の文明を経て、太陽の輝きがこの銀河(じだい)を包む……だけどこのシンカは、これまでのそれとは違うようだ。ビッグ・ファイアは、ここまで予期していたのかな?』

 

 《参号機》のエントリープラグ内、LCLに包まれたカヲルがぽつりとこぼす。その表情はいつものアルカイックスマイルではあったが、それは心底から浮かべた笑顔だった。

 

 ――人間は生命体であり、そこにはどんなに進化しても消えることのない本能、そして生まれ育った大地への執着たる 「獣の血」が流れている。

 ――そして、それを持った人間は己と異なるダレカ、他のナニカを受け入れることを知り、心を通わせることで、澄み渡る「水の交わり」に至り、さらなる一歩を踏み出す。

 ――踏み出した人間は、まるでドリルで掘り進むように新たな 場所を、ものを切り開き、螺旋を描くようにして進化して いく。その辿り着く先は、「風の行く先」のように不確かで、定められていない。

 ――しかし、どんな道を辿ろうと、進化を続ける限り人間は文明に至る。螺旋の力によって発展を続ける文明は、やがてプロメテウスに準えられる「火の文明」を実現し、その力によって大地を離れ、宇宙へと生活の場を求める。

 ――過酷な環境で生きていくために人は誤解なき相互理解を求め、獣が鳥にシンカするように、その本質そのものの変革 を迫られる。

 ――それを乗り越えた先に、人は全ての始まりにして終わりたる真理を、まるで「太陽の輝き」のように明らかなものと して知る。 そして、人はシンカを遂げ、神となるのだ。

 

『ともあれイング、キミたちの成したことは僕らの想像を遙かに超えていった。おめでとう、奇跡は果たされた』

 

 銀河全ての生命が歌う凱歌、その雄壮にして壮大なメロディーに身を任せ、“自由の使徒”は人類の自由なる未来を祝福する。

 

『ふふっ、ここであえて言わせてもらおうかな。……やっぱり歌はいいねぇ、心を燃やしてくれる。ヒトの生み出した文化の極みだよ』

 

 

 人々は願う。絶望の淵に墜ちたとき。抗い難い困難に直面したとき。

 “いろいろあったが神が出てきて解決した。”

 これこそが、最後の希望。

 滅びに傾いたものたちが、絶望の闇の中でそれでもどこかで解決できるものがいるはずだと(こいねが)う。

 そしてそれを成し得るのは、いつだって“ヒーローだ。

 ただの人間が、血を吐きながら誰かの命を、未来を護るためにヒトでない何かに生まれ変わり、ヒトとしてその力を自分以外の誰かのために振るう。

 ここに集う彼ら一人一人こそが“英雄(ヒーロー)”。

 そして、彼らをこの場、この時、この瞬間へと導いた少年(イング)はついに、ヒトではない何かに到達した。

 生きたいと願う全ての者を救う救世(ぐぜ)の化身。絶望の淵にいてなお、諦めることのない人々の希望が生み出した、絶対無敵のご都合主義(デウス・エクス・マキナ)――――

 

 それは鋼の勇者たちが紡いだ『巨人の神話(サーガ)』――その集大成にして、人々の絆が生み出した心の光そのもの。

 それは人々の祈りが生み出した『最後の希望(インフィニティ)』――光のオーロラを身に纏い、ありとあらゆる奇跡を起こす創世の王。

 それは正と負の力を備えた『太陽の化身(ソーラレイカー)』――聖邪善悪……対立する二つの要素をその身に宿す、唯一無双の超絶戦士。

 

 三人のファースト・サイコドライバー――バビルの“知恵”、ゲベルの“力”、ナシムの“心”が一つとなって生まれた黄金なる超神《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》。

 上位世界――“神”の世界の魂を持つイングに、バビル二世に相応しい姿へと神化(シンカ)を遂げた《エグゼクスバイン》の究極最終形態(ウルティメイト・ファイナル・スタイル)が、混沌の闇を貫き顕現する。

 その力、その姿はイングが脳裏に描いた“究極のヒーロー”を象っていた。

 

『おのれ、バビル二世!! 貴様に死霊どもを奪われようとも、我が負の無限力は健在なり!!』

 

 激するケイサル・エフェスは無限力を喚起し、死霊(ネシャーマ)を呼び寄せる。

 対する《エグゼクスバイン》は、胸部のグリタリングエナジーコアから黄金の光を放射する。

 そのとき、()()()()()()が起こった。

 

『な、何だと!?』

 

 放たれた黄金の輝きは宇宙を満たし、ネシャーマの現出を食い止める。

 さらには傷ついたαナンバーズの仲間たちを癒し、限りない気力とかつてないほどの活力を与えていく。

 

『この光、νのサイコフレームが反応している?』

『あの時感じた太陽の念が、暖かい思念が宇宙を満たしていく……』

『さっすが! イングさん、やることがド派手だねっ』

 

『マサト君、見て! 星が――』

『星の流れが逆行している……まさか、時間を巻き戻しているのか?』 

 

『ええっ!? に、ニルヴァーシュ、形がまた変わってるよ!?』

『レントン、ニルヴァーシュがこれならもっと頑張れるって張り切ってる。やろう!』

『う、うん!』

 

『ラーゼフォンとベルゼフォンが神聖した……? 俺たちはヒトのままなのに』

『綾人……』

『ああ。ヒトのまま、ヒトとして戦えってことか。優しい神様だな、イングは』

 

『サイバスターが勝手にポゼッションしたぜ!?』

『ヴァルシオーネの方も完調だよっ!』

『完聖したサイコドライバーの力がこれほどまでとは……いえ、彼らはそれすらも超越したということでしょうか』

 

 

『くぅぅぅぅっ! 最終決戦にこの展開! さらに三人の戦士(トリプルファイター)の誕生たぁ、燃えに燃えるぜ!!』

『……何の話だ?』

『なるほど。コロナの果て、緑の城、ということだな、リュウ』

『おっ、マイってばマニアック~。それってリュウセイの入れ知恵?』

『うん』

『イングの奴、いつも趣味に走ってるけど今回のは格別だよな』

『確かにね。超合体劇場版!って感じ?』

『あなたたち、真面目にやりなさい』

『そうね。まだ戦闘は終わってなくてよ、ノリコ』

 

 

 イングの魂と完全に同調した《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》は源理の力(オリジン・ロー)を自在に操り、また森羅万象の遍くを例外なく統べ、そして下位次元のありとあらゆる原理・法則に縛られない。

 これこそが、かつてユーゼス・ゴッツォの生み出した「クロスゲート・パラダイム・システム」の完成型――いや、それすら超える“神”のシステム。

 もはや彼らにとって奇跡は奇跡ではなく、実現できぬことなどありはしないのだ。

 

 黄金なる日輪の出現とともに士気を取り戻したαナンバーズと全銀河連合軍が、未だ現世(うつしよ)に居座る死霊の群れを相手に激闘を繰り広げる中、黄金の超神が漆黒の邪帝と対峙する。

 《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》が、ケイサル・エフェスに人差し指を突きつけた。

 

「最後の最後で墓穴を掘ったなッ、ケイサル・エフェスッ!」

『何ッ!?』

「貴様が私たちをこの時代、この地球圏に(いざな)ったことで勝敗は決した!」

「わたしたちには、たくさんの仲間たちがいます。あなたなんかには負けませんっ!」

 

『グゥゥゥゥッ! やれ、ジェノサイダー! あの目障りな光を消し去れ!』

 

 けしかけられた《ガンジェノサイダー》が、負の想念を迸らせて《エグゼクスバイン》に迫る。

 

「無駄だ!」

「ナシム、ゲベル……! みんなの未来のために、いっしょに戦おう!」

 

 イルイの祈りを合図に、“古き人祖(ガンエデン)”を象徴する腕のエレメントが分離、それぞれ細部の異なる黄金の柄と鍔、クリスタルで構成された刀身を持つ二振りの剣に姿を変えた。

 雌雄剣《ナシム》、《ゲベル》。

 ファースト・サイコドライバーの強念と人造神《ガンエデン》の力により、銀河一つ分にも匹敵する正負の無限力を剣の形に凝縮した神器である。

 

 一対の双剣からプラス、マイナスのエネルギーが放出され、一つに交わる。

 

「邪念だけの存在は去れ! サザンクロスッ!!」

「「「ソォォォォルッッ!!!」」」

 

 ありとあらゆる次元に存在する人々の心と繋がった光神の心臓(オウル・レヴ)、そこから無尽蔵のエネルギーを供給された二振りの剣が一閃する。

 繰り出される必滅の一撃。《サザンクロスソール》が直撃し、《ガンジェノサイダー》は抵抗することもできず葬り去られた。

 

「決着をつけるぞ、ケイサル・エフェスッ!!」

 

 雌雄剣を再びエレメントに戻し、《エグゼクスバイン》が輝くオーロラと無限の強念を纏う。

 翼を広げる黄金神の後ろから、幾つもの機影が駆け抜けていった。

 

『ケイサル・エフェス、覚悟!』

『四神の超機人、真・龍虎王が霊帝を討ちます!』

 クスハ・ミズハ、ブルックリン・ラックフィールドと地球の守護者《真・龍虎王》――

 

『銀河に消えろ、ケイサル・エフェス!!』

 トウマ・カノウと闘志の巨人《大雷鳳》――

 

『ケイサル・エフェス! 貴様を倒すのはどの世界でも、俺たちαナンバーズだ!!』

 クォヴレー・ゴードンと黒き銃神《ディス・アストラナガン》――

 

『ケイサル・エフェス、お前を倒せば全てが終わる……そう、私の復讐もね!』

 セレーナ・レシタールと麗しき幻影《ASアレグリアス》――

 

 そして、鋼の戦神《バンプレイオス》、風の魔装機神《サイバスター》、凶鳥を継ぐもの《ヒュッケバインMkーIV》――長きに渡る大戦に終止符を打つ鋼の巨人(スーパーロボット)たちの競演。

 それぞれがそれぞれの想いを必殺の一撃に込め、霊帝に、ケイサル・エフェスに叩き込んでいく。

 未だ健在の負の無限力により無限再生する霊帝だが、猛攻に次ぐ猛攻で復活が追いつかない。

 

「行くぜ、みんな! TーLINK、トリプルコンタクト!」

「了解だ、イング! 数価変換ッ、ゲマトリア修正! オウル・レヴ、フルドライブッ!!」

「アスラ・システム正常稼働っ! ラプラスコンピュータでアカシックレコードを観測、事象の書き換えを開始します!」

「目覚めてガンエデン! 今こそ、テフェリンの解放を!」

 

 左右に巨竜の幻影を従えた《エグゼクスバイン》の胸部に、額にエナジーコアを備えたオッドアイを持つ竜型の宝具が生成された。

 

「天を行く星座が作り出す十二宮……その軌道は、恒星の放つ次元力の軌跡に等しい。星々の輝きに呼応したヒトの意志、強念が霊子を動かして次元力を統べるんだ」

 

 《エグゼクスバイン》の全身から光が放たれ、四大属性に月と太陽、十二星座のシンボルを配置した黄金の魔法陣が後背に描かれる。

 《ガンエデン》の幻影は、二つの太陽を召喚して結界を形成してケイサル・エフェスを封じ込む。顎門(あぎと)を開いた竜頭の咥内に、まばゆい光が瞬いた。

 

「大いなる太陽に集約された、オリジン・ローの輝きを受けろ! トリニティ・ザ・サンッ!!」

「マキシマム・シューートッ!!!」

 

 音無き咆哮とともに竜の頭部から放たれた金色のブレスが巨竜の放った二本のブレスと一つに交わり、一つの巨大な光の柱となった。

 ケイサル・エフェスを飲み込んだ光柱は銀河を縦断し、何十万億光年の彼方へ突破していく。だが、あたかも偶然のように星々はその射線上に存在しない。

 因果律の操作による事象の改竄――それすらも、《メヴィウスインフィニティ》の権能の一端でしかなかった。

 

『グ、ォォォオオオ!? わ、我が神の盾が、負の衣がはぎ取られる?!』

「続けて食らえ! 機神ッ、絶掌!!」

 

 太陽の輝きにより大打撃を受けたケイサル・エフェスに、《メヴィウスインフィニティ》が光を引いて肉薄する。

 七色の煌めきを発する左右の拳による無数の連打の後、強烈なかかと落とし。揺らぐ巨体に向け、さらにエナジーコアから生成したまばゆいばかりに輝く光球――極小の太陽を撃ち放つ。

 恒星のエネルギーを凝縮した極光が炸裂した。

 

「お兄ちゃん、ここだと地球が危ないよ」

「だな。よし、場所を変えるか!」

 

 イルイの言葉に肯くイング。操縦桿に当たるクリスタル状の球体を強く握りしめる。

 《エグゼクスバイン》を統括するアスラシステムは、システムを介して搭乗者同士(イングとアーマラ)の意志を繋ぎ、機体(エクス)にダイレクトに伝える。故に、イングの考えは言葉を交わさずともアーマラと、そしてイルイにも伝わるのである

 

「用意はいいか!」

「はいっ、リミット解除! オウル・レヴ最大解放ですっ!」

「相変わらず無茶ぶりを……が、それがお前か。アスラ・システム、完全同調!」

「よっしゃあ! オレたちなら進める!」

 

 《エグゼクスバイン》のオッドアイが紅と蒼の光を放つ。

 眼前に掲げた右の拳に三重の強念を込め、光の速さでケイサル・エフェスに再度肉薄した。

 振りかぶる右手。強念が迸る。

 

「これがオレたちのッ、自慢の拳だぁぁぁああッッ!!」

「ハイパァァァッ!!」

「TーLINKっ!」

 

「「「ナックル!!!」」」

 

 三人の念とともに、全力の右ストレートが放たれた。

 

「「はあああああッッ!!」」

「「いっけーっ!!」」

 

 “座”たる機械体に突き刺さる拳。あふれ出す黄金の粒子。

 そこに込められた純粋無垢なエネルギーはケイサル・エフェスの機械体を破壊するだけに留まらず、その巨体を彼方へと押し出した。

 

 

 殴り飛ばされたケイサル・エフェスは、銀河を飛び越え――膨張する宇宙の最果て、事象の地平にたどり着く。

 次いで、《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》が超光速で現れる。

 光も届かぬこここそが、超神と霊帝――宇宙開闢から連綿と続く光と闇、善と悪、正と負、希望と絶望による争いの行き着く先、終着点だ。

 

「ここなら全力でやれるぜ!」

『馬鹿め! 仲間の援護を自らを捨てるとは!』

「何を言っている? 貴様にも聞こえるだろう、銀河を、この宇宙を揺るがす生命の歌が!」

「心に光が輝く限り、わたしたちは絶望なんかに負けません!」

「どれだけ遠くにはなれてたって、みんなの想いは届いてる。わたしたちを助けてくれる!」

「ケイサル・エフェス……いや、ゲベル・ガンエデン! お前に思い出させてやる! 生命の尊さを、そしてこの宇宙の偉大さを!!」

 

 啖呵を切って、《メヴィウスインフィニティ》が黄金の翼を羽撃く。

 物理が物理を生じる弱々しいエネルギーなど、それの内側に蓄えられた思惟の複合体――、そこから無尽蔵に生じる力に比べれば影絵にも等しい。

 全身から溢れ出す黄金の光を推力に変え、虹色に煌めく燐光が筋を引いた。

 人々の願いと祈り、無限なる心の光が込められた生命の歌――「GONG」が銀河に鳴り響く中、全てのヒトの愛と勇気と希望を背負った《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》に、負ける可能性など那由多の彼方だ。

 

『古の白き祭壇よ……!』

「オオオオ――――!!」

 

 破壊された機械体を脱ぎ捨て、巨大化したケイサル・エフェス本体――黒い人型に頭二本の角、三つの目、六本の腕を持つ黒き異形を、黄金神《エグゼクスバイン》が真っ向から迎え撃つ。

 事象の最果て――、絢爛豪華たる光の勇者と悪しき幻想の化身が壮絶なる死闘を繰り広げる。

 

『無限力による死と再生の輪廻、それを乗り越えるには肉の器を捨て去る他術は無いのだ! 何故それが解らぬ!』

「それは逃げだよ、ゲベル!」

「生きることを自ら放棄した先に、未来などあるはずがない!」

「オレたちは生きてるんだ! 生きていれば、辛いことも、悲しいことも、苦しいことだってある……だけど、それが生きるってことなんだよ!」

 

 光速を遙かに超え、次元時空を置き去りにした神々の最終戦争。

 霊帝が、反転した生命の樹(クリフォト)の描かれた符を媒体に天文学的数値の知的生命体の怨念を喚起して、光も逃さぬ終焉の銀河へと誘う。それを三重の超念動フィールドと身に纏うオーロラエフェクトにより耐え抜いた超神は、左右のエレメントから刃を持つ光輪を生成、無数に分裂させて投射する。

 拳打の応酬。放たれた閃光が空間を穿ち、繰り出す斬撃が次元を切り裂く。

 ケイサル・エフェスが闇黒を利用してテレポートを繰り返せば、《エグゼクスバイン》が光を超越した神速法(アクセラレイター)で対抗する。

 真っ向からぶつかり合う正と負の力――《メヴィウスインフィニティ》による保護がなければ、宇宙はその余波で瞬く間に消し飛んでいただろう。

 

『ならば、貴様は生きる意味があるというのか! 殺意と悪意に狂い、悲劇が()まぬ地獄のようなこの世界で!』

「そんなもんあるかよ!」

「生まれること、生きること……ただそれだけですばらしいことなんだって、わたしはαナンバーズのみんなから教わった!」

「もしも生きることに、命に意味があるとするなら。それは想いを、絆を未来に繋げていくことだ!」

 

 ちゃぶ台を返すイングとイルイの心からの叫びを引き継いで、アーマラが超然と言い返す。

 無限力により虚空から生成した橙色の長銃《ゴッドオメガ》を腰だめに構え、放たれた《日輪天照破》――無限の力、日輪の輝きが霊帝に直撃し、邪念の闇を焼き尽くした。

 

『バルシェムの分際が命を語るか! 人形は人形らしく、身の程を弁えよ!』

「だからどうした! この身が紛い物の命だとしてもッ、私の心に浮かぶ全ての情景は、誰にはばかることのない私自身の本物だッ!」

「ただの機械でしかないわたし(エグゼクスバイン)にだって、平和を願って生み出されたことがわかります! そしてその想いを、次の時代に繋げていくことだってできるはずです!」

 

 繰り出す拳打に、剣戟に万感の想いを込めて――

 霊帝の尽きることのない怨念から生成された無数の《ズフィルード》に対し、次元時間(せかい)を超越して無限に駆けつけた《メヴィウスインフィニティ》の平行存在が、光を纏った跳び蹴りで文字通り蹴散らしていく。

 

「光は絆だ! 例え絶望の闇に墜ちたとしても、いつか必ず誰かに受け継がれて再び輝く!」

 

 《エグゼクスバイン》本体が繰り出す捻りを加えたキックが霊帝に直撃。さらに、エナジーコアから引き抜いた光の剣を突き刺す。

 《リボルスパーク・ファイナルエクスプロージョン》――オウル・レヴが発する光エネルギーがエナジーコアによって増幅された太陽の次元力、それを体内に直接に送り込まれたケイサル・エフェスは、甚大極まるダメージを負う。

 

 ――がんばれ、イング君!

 ――負けるな、イング!

 ――アーマラ、わたくしたちも戦います!

 ――一緒に宇宙の先を観よう、イルイ!

 ――勝って!

 ――俺達がついているぞ!

 

 

『お、おおおおおおお!? 何故ッ、何故だ!? 何故(われ)がッ、万物を支配し圧する霊帝たる()が力が通用しないのだぁぁぁッ!!?』

「オレたちサイコドライバーの力は、理不尽な運命にも抗い、けして希望を捨てない人たちのためにある! それを忘れたお前が、オレたちに勝てるはずがねェんだよ!」

「命は一つだよ! 誰にとっても!」

「だからわたしはがんばりたいんです! みんなと力を合わせて! それが無限の力になる素だって信じて!」

「オレたちは生きるために、全力を尽くす!!」

「“努力”に!」

「“根性”!」

「“ド根性”!」

「“友情”!」

「“熱血”!」

「“愛”と!」

「“勇気”!」

「“闘志”を燃やして!」

「“ひらめき”、“集中”!」

「“鉄壁”のガードを固めて!」

「“直感”信じて狙いに“必中”!」

「“魂”ッ、“覚醒”!」

「“絆”と“夢”と!」

「“幸運”だって大事です!」

「私たちは戦う! 私たちは生きる! ここに生まれたからには! 生まれてしまったからにはッ! 命の限り精一杯に生きて、“希望”を次の未来に繋ぐんだッ!!」

 

『黙れッ! 黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇえいッ!! そんなもの、何の役にも立たない綺麗事だッ!!』

「そうだよ、綺麗事だ! でも、だけどッ、綺麗事が一番本当だから現実にしたいんだろッ! 心の光を忘れなければ、ヒトは誰だって英雄(ヒーロー)になれるッ! どんな“奇跡”だって起こせるんだッ!!」

 

 万感の想いを込め、イングが吼える。精神が、広がる心が生み出す無限の力が《エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ》からさらなる力を引き出し、限りない輝きを与える。

 地球圏に残り、怨霊たちと戦っている仲間たちの声援を翼に受け止めて――――

 

「これでフィナーレだッ! TーLINKトリプルコンタクト! 天よ地よ、森羅万象の全てよ! アカシックレコードッ――、アクセスッ!!」

「オウル・レヴ、マキシマムドライブ! 閃光(ひかり)を放ち、暗黒(やみ)を切り裂け、エグゼクスバイン!!」

「食らえ、この光っ!!」

 

 遙か彼方で戦う仲間の、そして平和を祈る人々の声援を受け、光の超神が黄金の翼を広げて飛翔する。

 また、それに対抗するように、霊帝がどす黒い邪念を全身にたぎらせた。背後に、朱い邪光でクリフォトを象徴した巨大な魔法陣を描き出す。

 

「「はぁぁああッ!!」」

 

 イングとアーマラが裂帛の気迫とともに、《メヴィウスインフィニティ》が翼を羽撃いた。

 突き出した右足に竜頭の宝具を呼び寄せ、再び現出した巨竜の幻影を伴って突撃する黄金の超神(エグゼクスバイン)。眼前に描かれた金色に輝く魔法陣の中心に突入すると、周囲の光の輪を無数の円環として残して法陣ごと加速する。

 

『オオオオオオオ!!』

 

 霊帝もまた全身の邪念と怨念とを込め足先に集め、邪気をまき散らしながら突撃した。

 両者、真っ向から相対する。

 

「光を越える希望への一撃! ストライク・インフィニティ・エンドッ!!」

 

 激突する《メヴィウスインフィニティ》と、ケイサル・エフェス。宇宙が大いに揺れ、次元が悲鳴を上げる。

 わずかな間拮抗していた両者のパワー はしかし、《エグゼクスバイン》に軍配が上がる。ついに竜頭が、イングたちの光が霊帝の魂を捉えたのだ。

 

『フ――、フフ、フハハハハハハハハハッ!! 見事だ、バビル二世!! 我は滅びる! だが忘れるな、この宇宙を縛る因果の鎖が断ち切れぬ限り、我と負の無限力は何度でも現れるのだ! 無限力の覚醒とともに!!』

「そうかよ! だったら、こうするまでだッ!」

 

 金光に邪念を消し去られながらも呪詛を残そうとするケイサル・エフェス。それに対してイングはさらに念を発揮した。

 ドラゴンヘッドと黄金の魔法陣をケイサル・エフェスに叩き込んだまま、錐揉み回転する《エグゼクスバイン》。思惟の推力が、霊帝を押し込んでいく。

 

『おおおおおおおああああーッ!!?』

「でやあああああああッ!!!」

 

 事象の地平をたった光が銀河へ、地球へと一直線に伸びていく。

 

 ――――気の遠くなるような距離を一瞬で踏破して地球に飛来した彗星は、衛星軌道上に描かれた虹色の魔法陣に正面から衝突した。

 爆発する正負の無限力。宇宙創世、ビッグバンをも超越する途方もないエネルギーが炸裂する。

 完全制御された大爆発の中から、《エグゼクスバイン》が飛来する。翼を広げ、慣性を一瞬でゼロにした超神は振り返り、碧き地球を背にした。

 

「やっぱ、グランド・フィナーレはみんなで決めなきゃな!」

 

 そう高らかに宣言するイング。正と負の無限力、その究極を受けて姿を保てなくなった霊帝は、始め現れたときのような“卵”の形で衛星軌道上にたゆたっている。

 今はまだ、地球を触媒とした極大の魔法陣によりこの宇宙に留まっているが、時間をおけばその魂は虚空へと還り、また悪しき輪廻の輪に戻るだろう。

 碧き母なる惑星を背負った《メヴィウスインフィニティ》は、イングは銀河に向けて呼び掛けた。

 

「大地よ、海よ、大空よ! この宇宙に生きる全ての命よ! オレたちに力を貸してくれ!!」

 

 この宇宙で幾億万回と繰り返されてきた戦争の輪廻。その根本的な原因は、銀河を構成する負の無限力によるものではなく、ケイサル・エフェス――ゲベルが抱えた生の感情によるものだ。

 アポカリュプシスの前に力及ばず、全てを失った無念は何度もループする宇宙の深淵で澱のように降り積もり、強固に根付いている。それをゲベルが捨て去らない限り、この悪しき流れが止まることはない。

 このままでは、いつかの宇宙で再び霊帝が生まれ、また因果と運命が乱れるおぞましい大戦が引き起こされるだろう。

 人の心は無限――輝く光が尽きることがないように、広がる闇にも際限はないのだ。

 だからこそ――

 

「奴を再び甦らせないために、ここで全てのケリを着ける!」

「わたしたちの愛と勇気と希望があれば、きっと!」

「ゲベルの怨念を、みんなの光で取り払うの!」

 

 その求めに応じたαナンバーズ全機が次々に最大攻撃を繰り出した。

 過去・現在・未来――この銀河の全ての文化文明を象徴するスーパーロボット軍団による全身全霊、怒濤の総攻撃を受けた霊帝の、永遠にも等しい輪廻の輪の中で蓄えた負の無限力――怨念が浄化されていく。

 念を高めながらその様を見守るイングが、ぽつりと言葉をこぼす。

 

「……アーマラ」

「なんだ?」

「今更だけどさ、ついてきてくれて、ありがとな。お前のおかげで、お前が支えてくれたから“ここ”にたどり着けた」

「ふんっ、お調子者のお前らしくないセリフだな?」

「まあ、これが最後だと思えばしおらしくもなるさ」

 

 自嘲気味に返すイング。兄の膝の間に座ったイルイと、台座に収まったエクスが二人の様子をそわそわと見守っている。

 

「最後、か……確かにな」

 

 同意して見せたアーマラはニヒルな笑みを浮かべ、だが、と続ける。

 

「私たちの旅はまだまだ続く……そうだろう?」

「! ……ははっ、お前の言うとおりだ。――さあ、こいつが正真正銘、この大戦のフィナーレを飾る最後の一撃(ラスト・アタック)だッ! ド派手に決めるぜッ!!」

 

「ああッ!」

「はいっ!」

「うんっ!」

 

 快活な笑顔を浮かべ、終幕を宣言するイング。アーマラ、エクス、イルイがそれに応えた。

 

 銀河中に住まう一人一人の祈りたる金色の粒子、それが一本の光の柱となって《エグゼクスバイン》に頭上から降り注ぐ。

 光に満ちあふれた暖かい奔流の中、雌雄剣の柄を融合させた双頭の長刀(ツインブレード)――《天地開闢神明剣》、その刀身を天高く掲げる。

 

 「アースクレイドル」から始まった“イング”の旅。

 旅路の過程で経験した様々な苦難や出会い、別れ……それによって得た想いを、誇りを――今、その全てを解き放つ。

 

「受けろ、ケイサル・エフェス! これがオレたちの光だッ!! アークインパルスッッ!!!」

 

 大上段から振り下ろされた光の剣。

 刀身から放たれた極光纏う大斬撃が闇を斬り裂き、邪念を飲み込む。

 まばゆい光の中を、黄金神が翼を広げた駆け抜ける。その先にある、誰も見たことのない未来へと――

 

「邪念を断ち斬りッ、未来を斬り拓く!! ファイナル・デッド・エンドォォォォオオオッ――」

 

「「「「スラァァァァァァァシュッッッ!!!!」」」」

 

 クロスする斬撃が、混沌の繭に吸い込まれる。

 《アークインパルス//0(アイン・)0(ソフ・)0(オウル)》――ヒトの無限なる可能性を束ねた極光の剣が、全てを輝きの中に漂白していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――今、オレの目の前には見渡す限りの真っ白な世界が……、因果の地平が広がっている。

 ふと気配を感じて傍らを見ると、両脇にはアーマラと、エクスを抱えたイルイが立っていた。

 

「おにいちゃん」

 

 あれ見て、とイルイが前方を指さす。

 顔を上げると、三人の少年少女がいた。

 

 真ん中、いわゆる学ランを着た銀髪の少年が優しげにほほえんでいる。

 彼の両脇には見慣れぬ、だけど既視感のある女の子と男の子。

 女の子の方はイルイによく似ている。違いは、ツインテールが地面まで届くくらいのロングヘアになってることか。

 男の子は金髪で、どこか生意気そうだ。オレと目が合うと、小さく黙礼する。

 

 三人は一様に穏やかな笑顔を浮かべていて……彼らがどこの誰なのか、オレにはすぐわかった。

 だから、グッと右の拳を前に突き出した。真ん中の、銀髪の少年が満面の笑みを浮かべて拳を押し出す。

 それから親指を立ててサムズアップ!

 少年が苦笑したように、オレに応じて真似をした。

 

『――――』

 

 彼が何か口にする。声は聞こえてこない。

 けれど、その想いは伝わってきた。

 

 ――――“ありがとう” 

 

 感謝の言葉だ。

 オレは頷く。

 そして、応えようとする。

 この胸をつく熱い想いを言葉にするのは、難しいけれど――――

 

「オレたちの方こそ、ありがとう。この世界に喚んでくれて、必要としてくれて。オレはオレが成りたかったものになれたんだ」

「私とイングを引き合わせてくれて、ありがとう。私は私自身になれたような気がする」

「わたしたちの宇宙が平和になったのは、みんなあなたたちのおかげです」

「宇宙を、みんなを護ってくれて、ありがとう。……さようなら」

 

 三人は頷き、振り返る。

 そして手に手を取り合い、笑みを交わし合い、歩き出した。

 その姿は仲のいい兄弟そのもので。

 彼らの行く先には、光に満ちた世界が広がってるはずだ。きっと、絶対に――

 

 

「……オレたちも行こう」

 言って、踵を返す。オレたちの進む先は、彼らとは違うのだから。

 

「うん。みんなのところに、還ろう」

 イルイがオレの手を取る。

 

「新しい未来が待ってます!」

 エクスが楽しげに言う。

 

「行こう、イング」

 アーマラが柔らかく微笑み、オレの手握った。

 

 

「さあ、新しい時代の幕開けだ!」

 

 そうして、最初の一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新西暦一九六年 †月X日

 地球 Gアイランド・シティ 宇宙港

 

 あれから六年がたった。

 

 最終決戦の後、最後に発動した《イデオン》の手により、遠いところからきた仲間たちは自分の場所へ帰還していった。

 未来組は自分たちの時間に戻ったし、バイストン・ウェル組やラ・ギアス組、大空魔竜戦隊、バーチャロンたちも異世界に帰っていった。

 あ、帰るところをなくした《MZ23》とか綾人たちはこっちで暮らしてるぞ。遙さんが第二子を生んだってこの前聞いた。高齢出産、よくやるよ。

 

 あの短いようで濃すぎた一連の大戦と比べれば大したことはないが、この六年間にも大事件はそれなりに起きている。

 第一回ガンダムファイトの開催と「デビルガンダム事件」とか、ジオン残党によるミネバ誘拐から端を発した「ラプラス事件」とか、解体された旧ザフト兵によるユニウスセブン落とし未遂事件「ブレイク・ザ・ワールド」とか、位相を違えたバイストン・ウェルのホウジョウ軍が現れた「リーンの翼事件」とか。

 移民船団マクロスギャラクシーによる反乱とか、エグゼリオ変動重力源なんてのもあったか。

 最後がちょっとおかしいが、気にするな。もう因果の鎖はないんだからな。

 

 明日、オレたちはこの宇宙を旅立つ。

 あれからも新生BF団の首領として平和を護るために影に日向に戦ってきたが、もう大丈夫だろう。

 地球連邦、ゾヴォーク、平和解放機構を主体にして成立した超銀河規模の共同体『銀河連邦』による統治はおおむねうまくいっている。もちろん小さな綻びや腐敗はあるものの、αナンバーズメンバーの王族・指導者たちが協力し、よりよい世界を目指して日夜努力を重ねている。

 人々の心には確かな光が息づき、平和を愛するスーパーロボットたちがそれを護るために力の限り悪と戦うだろう。

 

 だけど、この世にはオレたちの助けが、ヒーローが必要な世界がたくさんあるはずなんだ。

 だからオレたちは旅立つ。

 弱きを助け、悪しきを挫くバビル二世と鋼の勇者の新たな物語の始まりだ。

 

 その旅に終わりはないかもしれない。

 でも人生なんて、生きることなんてそんなもんさ。

 オレはオレだ。イングとして、この生を力の限り、全力を尽くして全うする。

 それが想いを託して散っていった者たちに対する、残された者の責任だと思うから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球、Gアイランド・シティに新たに新設された宇宙港。

 穏やかに凪いだ海に、白亜の巨大戦艦が浮かんでいる。

 

 第八世代型次元航行型戦闘艦《エ・テメン・アン・キ》――《ヱルトリウム》級の後継に当たる艦であり、《バトル》級と同等の全長約一五〇〇m、《ヱルトリウム》を思わせる白く優美な船体が特徴。主機に大型光量子波動エンジン、推進機関にオーバー・クロスゲート・ドライブを備え、恒星間はもとより異次元すら踏破してみせる超高性能艦だ。

 銀河連邦議会の肝いりで建造されたこの艦は、旧時代の遺産バベルの塔の中枢を丸ごと移植された特別な戦艦である。

 

 トレードマークのクロークを潮風に靡かせ、バビル二世ことイング・ウィンチェスターが桟橋に立つ。

 その傍ら、風で乱れた見事な髪をかき分けるアーマラ・バートンが白亜の戦艦を見据えてつぶやく。

 

「エ・テメン・アン・キ……私たちの新しいホーム、か」

「おう。カッケー(フネ)だろ?」

 

 アーマラの発言を受け、イングが胸を張る。

 いつまでたっても(肉体年齢的には二十歳を超えているのに)無邪気で子供っぽいパートナーに半眼を向けつつ、アーマラはもう一人の同行者に水を向けた。

 

「しかし、よかったのかイルイ。おまえは学校があるだろう?」

「んー、大丈夫! 夏休みだし?」

 

 と答えるのはイルイ・ガンエデン(G)・ウィンチェスター。現在一五歳。

 六年たってすっかり成長し、今は元気いっぱいに中学校に通う現役女子中学生(JC)

 また、躯を失った憎しみにより百邪に墜ち掛けていた《応龍皇》の魂を調伏、鋼機人ベースの新造機体に封入した新世代の超機人、《黄龍皇(オウリュウオー)》の操者でもある。

 

「おい、わざわざ帰ってくるつもりか」

「……帰ってこないの?」

「いや、帰ってくるけど。オレらの世界はここだろ」

「ならばよし!」

「何なんだそれは……」

 

 テンションマックスな妹にアーマラが頭を抱えた。

 元気に成長したのはいいが、イング()の悪影響を多分に受けている感は否めない。

 

「異世界かぁ……どんな人たちと会えるんだろう!」

「ワクワクしますねっ」

 

 そんなイルイは、抱えたエクスと楽しげに会話している。

 

「どっかで、クォヴレーの奴にも会えるかもな」

「それは楽しみだ」

 

 銀河大戦の直後、クォヴレーは“因果律の番人”としての使命を果たすべく何処へと旅立った。

 以来、彼とは連絡すら取れていない。かつての部下で一応の弟にもなるので、アーマラはちょっぴり心配だったりもする。

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん。みんなが待ってみたいだよ?」

 

 イルイの声に、二人は顔を上げた。

 

 《エ・テメン・アン・キ》が降ろしたタラップの前でたくさんの人たちがイングたちを待っていた。

 

 先頭には軍師にして参謀、諸葛亮。いつものはわわ軍師スタイルだ。

 

 そして、“新十傑集”。

 銀河大戦時からの協力者であるビアン、イングのスカウトで参加したソルダートJ、セレーナとエルマ。そして、事が終わってなおこの世界に居座っていたカヲル。

 新顔には、白髪をお下げにした老人とアホ毛が特徴の少女。どちらも銀河大戦後に参入した。

 十傑集は現在六名で、欠員募集中。なお、アーマラとイルイは護衛団として別格扱いである。

 

 そして、A級エージェントの面々。

 弟分妹分のアラドとゼオラはもちろん、古株のロンド姉弟、Jにつき合って参加したルネ、母国運営をシュウたちに投げて地上にやってきたセニア、何故かこの世界に残っていた《フェイ・イェンHD》、俗世のしがらみから逃れてきたマサトと美久、フリーの用兵から転じたカナードなど、おなじみのメンバー以外にこちらにも新顔が何名かいた。

 元スクール所属、黒髪の女性と紫の髪の女性(ゴスロリにあらず)。

 プラントに縁の深い紅目の少年と金髪の少年、紅髪の姉妹。かつては連邦の非合法研究所にいた吊り目の少年、水色の髪の少年、金髪の少女の三人組。

 ジオン残党に潜入していたこともある赤く長い髪を首のあたりで結った女性と、元ギャラクシーのサイボーグである緑がかった金髪の青年。

 いずれも、αナンバーズのメンバーにも劣らぬ優秀有望な若者たちだ。

 

 

「それでイング、目的地などはどうするんだ?」

 

 ゆったりと歩きながら、アーマラが問い掛ける。

 

「助けを呼ぶ声があればどこへでも、ってね。まあ当面は、有用な人材をスカウトしたり新十傑集の増員が目標だよ」

「なるほど、組織の増強か。妥当だな」

 

 思いの外現実的な目標に感心を示すアーマラ。バカにしては真面目に考えているな、とわりと酷い感想を抱いた。

 

「採用の条件は?」

「十傑集なら、生身でジェガンを破壊できるか、グレートゼオライマークラスの機動兵器を操れることかな」

「ハードル高すぎだよ、お兄ちゃんっ!」

「あるいは、ウチのビアン博士みたいな一芸入社も可」

「ムチャぶりすぎます!」

「最低限十傑集走りは出来なきゃなぁ」

「いや、それはそれで難しすぎだろう」

 

 イングの常識を蹴飛ばした発言に、やっぱりこいつは底抜けのバカだったとアーマラは頭を抱える。

 とはいえ、それくらいでなければ十傑集は務まらないし、結局採用のほどはビッグ・ファイア(イング)の意向次第というか、存在のインパクト次第なのだが。

 白髪の老人などがいい例である。

 

 

 桟橋の半ばまでさしかかったところで、不意にイングが立ち止まる。

 一拍遅れて止まったアーマラとイルイが、その行動をいぶかしむ。

 

「とりあえず、締めに一言言っとくか」

 

 ますます疑問符を浮かべる二人に視線を向け、イングはニヤリ、と挑戦的な笑みを浮かべる。

 握った拳を天へ、蒼天に輝く太陽へと高く突き上げた。

 

「本当の戦いはここからだ! ――ってなッ!」

 



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お・ま・け「用語集」

 

 

 

『αナンバーズ』

【組織・団体】

 

 旧SDFロンド・ベル隊を母体に、地球圏(最終的には全銀河規模)の特記戦力を一つに集めたトンでも部隊。

 非営利団体であり、宇宙規模のお人好し集団。神が泣いて土下座し、悪魔が裸足で逃げ出す究極最強の機動部隊である。

 

 特筆すべきはその絶大な戦力だけではなく、現銀河連邦政府を構成する惑星国家の指導者、王族が多数所属していたこと。善良で有能な彼らの不断の努力が、今日の銀河の平和を形作っていると言っていいだろう。

 

 銀河大戦後は解散、メンバーはそれぞれの場所に帰っていったが、宇宙の危機的な事件とあれば続々と集結してくる。

 最近の集合は、「ギャラクシーの反乱」によるヴァジュラの大規模襲撃時。銀河各所で元メンバー等が一斉決起、ヴァジュラ・クイーンをフルボッコにした。

 

 

 

 

『BF団』

【組織・団体】

 

 ビッグ・ファイアことバビル及び、その後を継いだバビル二世の率いる秘密結社。

 初代ビッグ・ファイア時代は世界各地で悪事を働いていたが、現在はボスの意向で正義の秘密結社となっている。

 

 地球、バベルの塔を拠点に、銀河全体を股に掛けて活動中。平和を乱す悪党を懲らしめて回っている。

 また、現在は少数精鋭で、A級以下のエージェントをもっていない。

 マオ社から提供されたゲシュペンストシリーズ及びヒュッケバインシリーズ、秘密工場で生産したリオンシリーズ、ヴァルシオンシリーズが主力兵器。

 

 

 

 

『アキレス』

【人物?】

 

 バビルに従うみっつのしもべ。護衛師団のひとつ。

 

 戦の神の名を持つ黒い大豹。スライム状の不定形生命体であり変身能力を持ち、潜入・調査に長ける。また、BF団のエージェント、コ・エンシャクの正体であり、戦闘力は高い。

 普段はイングらの身の回りの世話や護衛を務め、時には専用のマシンアニマリートに搭乗して主とともに戦う。

 

 

 

『秋津マサト』

【人物】

 

 元αナンバーズのメンバー。

 中学・高校卒業後、美久と静かに暮らしていたが、銀河連邦政府からの半ば強引な勧誘などを受ける。そんな世俗の柵が煩わしく思え、マサキのようになりかけていると自覚し、気心の知れたイングやある意味恩師のビアンを頼り、BF団に加わった。

 

 現在はビアン率いる科学班の一人として、天才的頭脳を遺憾なく発揮している。しかし、いざとなれば烈のグレートゼオライマーで戦うことも辞さない。

 なお、十傑集でないのは本人の意向とイングの決定によるもの。イング曰く「マサキならともかく、マサトじゃインパクトが足りない」。

 

 

 

 

『紅髪の姉妹』

【人物】

 

 ルナマリア・ホークとメイリン・ホークのこと。

 

 戦艦ミネルバ所属の元プラント国防軍の兵士で、紛争後にヘッドハンティングされて姉妹でBF団に加入する。

 どうやら気になる男の子(姉妹で違う)と一緒にいたいから入団した模様。

 姉、ルナマリアはアカデミーの次席(本来の主席が不在なため)で、インパルスガンダム二号機を任されていた。なんやかんやあってシン(後述)が気になっているらしい。

 妹、メイリンはスティング(後述)といい仲。

 

 なお、メイリンの主な職務はオペレーター業であり、特に戦闘力があるわけでもないが便宜上A級エージェントに数えられている。

 

 

 

 

『赤く長い髪を首のあたりで結った女性』

【人物】

 

 マリーダ・クルスのこと。またの名をプル・トゥエルブ。

 

 エルピー・プルのクローンの一人。バルマー戦役時、当時のロンド・ベルと戦い撃墜されるも生き残る。

 BF団に回収され、エージェントとして密かに養育、主にジオン系の組織に対しての潜入工作員として活動していた。

 

 ミネバ誘拐から始まった「ラプラス事件」では、ミネバの身辺警護をしつつ事態の収拾に尽力。最終決戦では、BF団が奪取したユニコーンガンダム三号機フェネクスで参加して奮戦するものの、機体を大破させ大怪我を負った。

 

 なお事件中、銀河連邦軍地球駐留軍に拘束され、再強化されかけるもセレーナとルネにより無事解放されている。

 そのためか、二人を慕っている模様。

 木星にいる姉二人との仲も良好。量子通信で頻繁に連絡を取り合っている。

 

 

 

 

『アホ毛の女の子』

【人物・機動兵器】

 

 第六世代型恒星間航行決戦兵器バスターマシン七号のこと。またの名をノノ。

 かつての所属は、銀河連邦宇宙軍太陽系直掩部隊直属。

 現在の所属は、BF団新十傑集。

 

 アカシックレコードのコントロール下を離れ、見境なく破壊を繰り返す宇宙怪獣を銀河から完全に駆逐することを目的に開発された。

 特に記憶喪失になることもなく、銀河連邦軍の一員として宇宙怪獣駆逐の任務を遂行する。

 銀河大戦の英雄、タカヤ・ノリコを「お姉様」として慕っており、彼女が操るグレートガンバスターとともに《イナズマダブルキック》をエグゼリオ変動重力源にぶち込んだ。

 

 事件後はその強力すぎる性能を問題視され、去就が取り出される。結果、素性の確か?なイングが面倒を見ることとなり、BF団に迎え入れられた。

 

 なお、エグゼリオ変動重力源の特異点はエグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティにより完膚なきまでに無効化されている。

 

 

 

 

『紅目の少年』

【人物】

 

 シン・アスカのこと。

 

 家族旅行で訪れたプラントでテロに巻き込まれ、偶然最新鋭のMS「インパルスガンダム」二号機に乗ってしまう。

 成りゆきで、旧ザラ派ザフト脱走兵によるユニウスセブン落とし未遂事件「ブレイク・ザ・ワールド」を経験、それを皮切りにした紛争を戦い抜く。

 

 事件後は、仲間たちとともにBF団に参加した。

 美少女二人とブラコンな妹に囲まれるモテ男。「ハーレム野郎三号」。

 

 なお、家族は皆生存しており、家族仲も良好である。

 

 

 

 

『アーマラ・バートン』

【人物】

 

 本作メインヒロイン。

 桃色の髪のクールビューティー。おでこかわいい。

 その正体はユーゼス・ゴッツォにより産み出されたバルシェムの一人。便宜上、ヴェート(二番)の名を与えられているが、実際の順番は不明である。

 また、メタ的な視点においては「ロストチルドレン」のヒロイン、ジュラの代役に当たる。

 

 元ティターンズのPTパイロットで、イージス事件ではイングと激闘を繰り広げた。

 和解した後は終始彼のパートナーとして銀河大戦の最前線を戦い抜き、終戦へと導いた立役者の一人。

 

 冷静を絵に描いたような性格で皮肉屋、ニヒリスト。また自信家だが、生い立ち(偽りとはいえ)によるものか、密かにメンタル面が弱かったりする。

 恋愛に関してはやや奥手で、イング曰く「ツンデレではなくクーデレ」。恋人関係になったイングとは、なんだかんだでラブラブ。恥ずかしいセリフにも照れずに余裕を持って返せるようになった模様。

 

 正規の訓練を受けた歴とした兵士であり、またバルシェムとあって機動兵器のパイロットとしての適性は高く、身体能力も常人を遙かに凌ぐ。一方、念能力の資質は低く、かつては「出来損ないの念動力者」とさげすまれていたが、イングと深い領域で念を共有したためか、銀河大戦後は準サイコドライバーレベルの強念といくつかの超能力を得ている。

 馬鹿でかいマグナム銃を軽々操る姿から、付いたあだ名は『レディ・マグナム』。コールサインもそれに因んで『マグナム2』と誇称される(本編未使用)。

 あまり社交的な方ではないが、ラクス・クラインとは親友同士の間柄。また、テレサ・テスタロッサとも仲がいい。

 趣味は模型制作。イングを凌ぐプロモデラー級の腕前の持ち主である。

 

 なお、髪の色は染めているのではなく遺伝子調整による後天的なもの。イングラムらとの関係を隠すための偽装である。

 

 搭乗機体は、ガリルナガン、ビルトファルケン・タイプL、エグゼクスバイン・メヴィウスなど。

 

 

 精神コマンド【加速 集中 努力 直感 直撃 魂

※OG2ndでの彼女とほぼ同じラインナップ。「加速」、「直撃」、「努力」により小隊を組んだ相方(イング)をサポートできる。「努力」が加わっているのは、文字通り努力の現れ。

 

 小隊長能力 『最終命中率+20%、受ける最終ダメージ-10%』

※OGでのエースボーナス。可もなく不可もなく。一方……。

 

 固有エースボーナス 『気力160以上で自軍フェイズ開始時に精神コマンド「覚醒」がかかる』

※アルテウルこと、創造主ユーゼスと共通のボーナス。デフォルトでは発動できないが、メヴィウスに同乗すると猛威を振るう。

 

 

 

 

『アラド・バランガ』

【人物】

 

 元αナンバーズのメンバー。

 

 αナンバーズの一員として封印戦争、銀河大戦を戦い抜く。その後は兄貴分のイングを頼ってBF団の一員に。

 スクール時代の仲間との再会を果たし、現在は女子四人に囲まれて生活している。「ハーレム野郎一号」とはイング談。

 

 旧式化した愛機ビルトビルガーに代わり、現在は専用の量産型ゲシュペンストMkーII改・改を乗機とする。

 六年経って腕を上げ、エースというよりはベテラン的な戦いをするようになった。しかし、突撃癖は相変わらず。

 

 

 

 

『アスラ・システム』

【設定・特殊能力】

 

 エグゼクスバイン・メヴィウスに搭載された、新世代型マン・マシン・インターフェイスのこと。

 念動力研究の第一人者、ケンゾウ・コバヤシ博士主導により開発された究極のTーLINKシステム。ネーミングは拝火教の神、アフラ・マズダより。

 搭乗者二名以上の念をGストーンを介して安定的に同調・増幅させ、フルTーLINKフレームに余すことなく伝えることで機動兵器を真の意味で人機一体とする。また、ラプラスデモンコンピュータによる因果律の観測及び、アカシックレコードへの円滑なアクセスを可能とする一種の「クロスゲート・パラダイム・システム」。

 TーLINKシステム及びウラヌスシステムの方向性、機械により強制的に念を引き出すことを完全に捨て去り、サイコドライバーの絶大な念を完全に受け止めることを第一に設計されている。

 事実上、イングとアーマラ、イルイ専用のマン・マシン・インターフェイスである。

 

 

 アスラ・システム

 気力130以上で発動

 各搭乗パイロットの最も高い数値の能力値を参照し、特殊技能の効果を全員に及ぼす。また技能Lvを合算する。このとき、特殊技能の限界Lvは無効化される

 さらに、小隊長能力および固有エースボーナスが同時に発動する

※ぶっちゃけエレメントシステムの上位互換。つまり、イング念動力Lv9+アーマラ念動力Lv6=Lv15(!)。サイコドライバーが発動すると、アーマラもその恩恵を受けることに。単純にスキルの育成枠が増えたとも考えられる。

 

 

 

 

『アッシュ』

【機動兵器】

 

 型式番号PTXーEXH、正式名称「エクスバイン・アッシュ」。

 凶鳥の眷属。灰から甦った新たな剣。

 BF団の襲撃により破壊されたブラックホールエンジン搭載型ヒュッケバインMkーIIIの心臓部をベースに、エクスバイン、ヒュッケバインMkーIIのパーツを組み合わせて完成された。 

 

 急造機だが、優秀なベース機のスペックにより最新鋭(当時)のPTに相応しい性能を秘める。イング専用機として近接戦闘、特に剣戟戦向けに調整されており、彼との相性は抜群。

 後に、成長するイングの念に追従できなくなっため、TーLINKフレームやGSライド、ラ・ギアスで入手したラプラスデモンタイプコンピュータとゾル・オリハルコニウムを用いてアッシュ改にアップデートされている。

 ビルトファルケン・タイプLとの合体乱舞攻撃《ストライク・デッド・エンド》は強力無比。

 

 イングの愛機としてバルマー戦役から封印戦争中盤までを戦い抜くが、ズール皇帝により破壊、エグゼクスバインに進化する。

 

 主武装は《TーLINKセイバー》、《グラビトン・ライフル》など。

 必殺技は《極大念動破斬剣》、《念動破斬剣・光刃閃》、《ストライク・デッド・エンド》。

 

 

 

『イルイ・ガンエデン・ウィンチェスター』

【人物】

 

 本作サブヒロインその1。

 金髪ツインテの(元)ロリっ子。地球圏最強クラスのサイコドライバーにして、元ナシム・ガンエデンのマシアフ。

 

 封印戦争時、ガンエデンの代行者としてαナンバーズと接触、激闘の末、彼らによって役目から解放された。

 銀河大戦では同居させていたナシムの導きによってアポカリュプシスを乗り越え、ファースト・サイコドライバーの魂の救済に多大な貢献をした。

 銀河大戦以後もその強念を保持し、地球と銀河の平和のために力を振るっている。

 

 ファースト・サイコドライバー、ナシムの遺伝子を色濃く受け継ぐ存在で、バビルのクローンであるイングとは兄妹に近い関係。

 銀河大戦後、正式?にイングの妹としてウィンチェスターの姓を名乗っている。ガンエデンを残しているのは、ナシムに対しても相当の思い入れがあるから。

 立派なブラコンであり、「お兄ちゃん大好きっ」と公言してはばからない。また、アーマラにも大変なついており、こちらも「お姉ちゃん」と呼ぶようになった。

 二人に倣って「ガイア3」のコールサインを用いる。由来はバーストとかグレートになる黄龍から。

 

 イングの影響を多大に受け、アニメ・特撮に一家言持つように。現在はどちらかというと魔法少女系アニメが好きらしい。

 某超銀河シンデレラの熱烈なファン。

 

 αナンバーズ非戦闘員系年少組と仲が良く、一時期部隊に滞在していたミネバ・ラオ・ザビとは親友同士。『ラプラス事件』の際には、陣頭に立って事件解決に奔走した。

 なお、当時はミネバを妹分扱いしていたが、実際の見た目は同い年くらいである。

 

 搭乗機体は、《ナシム・ガンエデン》、《エグゼクスバイン・メヴィウス》、《黄龍皇》など。

 

 精神コマンド【愛 感応 信頼 祝福 激励 期待

※第二次α時のものと同様。消費SPも同じであるため、「愛」「期待」で悪用が可能。

 

 小隊長能力 『マップ兵器無効』

※同上。

 

 固有エースボーナス 『気力160以上で自軍フェイズ開始時に精神コマンド「絆」を使う』

※サイコドライバーの力の現れ。一度ではなく毎ターン発動するので、こうなればもう負ける気がしない。

 

 

 

 

『イング・ウィンチェスター』

【人物】

 

 本作ヒーロー。

 スパロボ宇宙を観測できる上位次元からやってきたトリッパー。マシンナリー・チルドレン、イーグレット・イングの身体に憑依した。

 その正体はファースト・サイコドライバー、バビルの同位体でありクローン。ビッグ・ファイアの名を継ぐバビル二世。

 本名、山野浩一。サイコドライバーモード時に髪が紅く染まるのは、彼が“バビル二世”だからである。

 

 名実ともに銀河最強の汎超能力者(サイコドライバー)であり、先代バビルの遺志を受け継いで繰り返される死と生の輪廻に終止符を打った銀河的英雄。心身共にシンカを果たし、太極に至った神そのもの。太陽の念で人界を照らし、邪念を断ち斬る一振りの剣。

 上位世界の存在である彼の前に不可能はなく、万物全てが膝を突く。

 

 性格は基本的に楽天家のお調子者、年長者には畏まるなど常識的な面も。(た正義感に篤いタイプで、邪悪に対しては存在を許さない。ただし、ある程度の必要悪についても理解を示し、許容している模様で「邪悪じゃない奴は殺さない」と公言し、実行している。

 年相応にスケベでおっぱい星人。一時期クスハに横恋慕していたり、シーラ姫に熱を上げていたりなど、わりとミーハー。最終的には相方と呼ぶアーマラと恋人関係になる。

 

 マシンナリー・チルドレンとして植え付けられた知識と、バビルのクローンとして彼の能力の全てを受け継いでおり、機動兵器のパイロットとして破格の才能を持つ。

 また、凡そあらゆる超能力を使いこなすサイコドライバーであるため、生身での戦闘力も極めて高い。光子を念動力により刀剣状に束ねた「ライトセイバー」を主武装に戦い、強敵に相手には紅いマフラーを靡かせる黒い異形の騎士に変身(アクセスッ)したりする。

 国際警察機構時代の暗号名(コードネーム)は『ワンゼロワン』。刀剣を用いた高速戦闘を好むことから『セイバー1』(本編未使用)のコールサインを用いることも。

 

 趣味は模型制作。自分で複雑な設計図を引けるのは、マシンナリー・チルドレンの能力が所以。

 アニメ・特撮番組の愛好家で、特に特撮ヒーローをこよなく愛するヒーローオタク。好きなヒーローはレッド全般。

 極度の甘党で、味覚音痴。ただし、レシピ通りに作るので料理は人並みにできる。

 

 αナンバーズ古参メンバーの一人であり、同じく古参の兜甲児、カミーユ・ビダンとは本人曰くダチ。また、リョウト・ヒカワ、リュウセイ・ダテ、マサキ・アンドーの三人とよく連む。

 交流関係は広く、様々な場所から集まったαナンバーズの全メンバーと何らかの面識・交流を持つなど、隊の象徴的存在である。

 

 搭乗機体は、《エクスバイン》、《アッシュ》、《エグゼクスバイン》、《エグゼクスバイン・メヴィウス》など。

 

 

 精神コマンド【集中 直感 気合 熱血 覚醒 奇跡

※どちらかといえばスーパー系寄りの構成。直接戦闘での隙はほぼないが、補助系・経験値アップ系のコマンドを持たないため、サポートは必須か。どんな状況でも最後に修得する「奇跡」は、彼のサイコドライバーの力を象徴している。

 

 小隊長能力 『移動力+1、念動力系武装の最終ダメージ+10%』

※無難に強力。「加速」がないイングには必須の効果。また、最終後継機は念動力系の武装を多く持つのでさらなる真価を発揮する。

 

 固有エースボーナス 『精神コマンド「奇跡」のSP消費が80から40になる』

※バランス崩壊の必至の効果。集中力、サイコドライバーと重複するため、ますます手が着けられなくなる。40なのは過去作のオマージュ。

 

 

 

 

『エクス』

【人物】

 

 本作サブヒロインその2。

 アッシュ改のGストーンに偶発的に生まれた超AIの名前及び、イング作のマスコットロボのこと。

 アッシュ改、エグゼクスバインの意志でありそのものとも言える存在。

 

 人格のベースは中学生ほどの少女と思われ、ときおり古風な表現をする。決めゼリフは「わたし、堪忍袋の尾が切れました!」。

 とある無限の楽園にいる妖精姫とよく似た声をしており、お約束的に歌が得意。イングがアカシックレコードからダウンロードしてきた歌詞を記録して、しょっちゅう歌っている。

 基本的に温厚穏和な性格だが、イングが自分以外の機体に乗ると激しく嫉妬する。ヒュッケバイン系列の機体ならギリギリセーフとのこと。

 最近は、人型の擬体を作ってもらおうか本気で悩んでいたりする。

 

 イルイとは種族を越えた親友同士で、よく抱き抱えられている。また光竜闇竜姉妹と仲がよく、フェイ・イェンHDとも気が合う模様。

 

 本体がエグゼクスバイン・メヴィウスに移されたのと同時に外装を一部変更、本人曰く「すーぱーしるえっと」にパワーアップ?した。

 

 精神コマンド【応援 不屈 鉄壁 幸運 ド根性 勇気(パワーアップ後、愛に変更

※サポート、防御に特化。イング、アーマラの持っていない精神コマンドで二人を献身的に支える。

 

 

 

 

『エクスバイン』

【機動兵器】

 

 形式番号PTXーEX。

 大破したヒュッケバインEXに、先行試作されたヒュッケバインMkーIIIのパーツ、武装を組み合わせて建造された改造機。

 改造にあたり、TーLINKシステムを搭載されたことにより十分な追従性・操作性を獲得。テスラ・ドライブによる高い機動性と空戦能力、さらに当時としては最新鋭の防御システム「グラビティ・テリトリー」が試験的に導入されており、高いサバイバリティを誇る。

 バルマー戦役中盤、上海は梁山泊で龍王機により破壊された後、エクスバイン・アッシュに生まれ変わる。

 

 また、銀河大戦時にはブラックホールエンジンを採用した上で再生産され、リン・マオ専用機として参戦している。

 

 主な武装は、《フォトン・ライフル》、《ファング・スラッシャー》など。

 

 

 

 

『エグゼクスバイン』

【機動兵器】

 

 形式番号PTXーDEX。

 冥府から甦った六番目の凶鳥。MkーX。

 リョウト・ヒカワの原案を、ロバート・A・オオミヤとカーク・ハミルの両名がブラッシュアップして完成させた、史上初のスーパー・パーソナルトルーパー。

 アッシュの機体をベースに設計されたため互換性があり、月面決戦では念動力でパーツを呼び出して戦場で直接換装している。

 

 TーLINKフレームによる高い追従性と強念を引き出し増幅する特異性。GSライド、ブラックホールエンジン、トロニウム・レヴの三つの動力源による絶大なパワー。アッシュから受け継いだ《TーLINKセイバー》《ストライク・シールド》のみならず、攻防一体の超念動フィールドと全身に備えた《TーLINKスライダー》、ヒュッケバインシリーズ伝統の重力兵器《ブラックホールバスターキャノン》を持つ。

 MkーIIIのコンセプトを受け継ぎ、PTサイズのSRXと呼ぶに相応しい凄まじい性能を誇る。

 

 また、ビッグ・ファイアとの決戦では《スライダー》のコネクタ部から強念の刃を発生させ、超高速ですれ違いざまに切り裂く戦法を披露した。

 このイレギュラーな状態を「エクストリーム・フェーズ」と呼び、後の調整で機体が余剰エネルギーの発散で紅く発色するようになる。

 ヒュッケバインMkーIVとの合体攻撃《ダブル・エクストリーム》は、強烈な同時キック攻撃である。

 

 主な武装は、《TーLINKスライダー》、《TーLINKセイバー》、《ブラックホールバスターキャノン》。

 必殺技は、《TーLINKレボリューター》、《エクストリームフェーズ》、《ストライク・デッド・エンド》、《ダブル・エクストリーム》。

 

 

 

 

『エグゼクスバイン・メヴィウス』

【機動兵器】

 

 形式番号SRTXー00DEX。

 八番目の凶鳥にして無限の名を冠した救世の担い手、不死鳥の勇者。全銀河の英知を結集して生み出された究極のスーパー・パーソナルトルーパー。

 次世代のガンエデンと呼べる存在で、ビアン・ゾルダーク指揮の下、銀河を代表する科学者たちが一堂に会して建造した対アポカリュプシス決戦兵器である。

 別名「一人スーパーヒーロータイム」。

 

 バベルの塔にて極秘裏に建造され、大破したエグゼクスバインのコクピットの一部、TーLINKフレーム、トロニウム・レヴなどを移植されて誕生した。

 全身をTーLINKフレーム化した「HII(エイチツー)フレーム」。トロニウム・レヴ、縮退炉、光量子波動エンジンを統合した「オウル・レヴ」。特殊加工を施したゾル・オリハルコニウムと念動感応性を持つネオ・マシンセルが、無限力により変異した流体結晶金属「ヒヒイロカネ」。ネオ・ドライブとTーLINKフライトを組み合わせた推進機関「TーLINKフィールド・ドライブ・システム」と、クロスゲート・ドライブの発展系「マキシマ・オーバー・ドライブ」。

 ――など、画期的かつ規格外の超技術が大量にかつ野放図に投入されている。

 

 ヒュッケバインMkーIのアーリーカラーに、エクスバイン譲りのゴーグル、HIIフレーム上を走るエネルギーラインや頭部デザインなどはガリルナガンを意識させる。その姿はまさしく、イングとアーマラ――“サイコドライバーズ”の乗機に相応しい凶鳥の集大成である。

 単体でも優秀すぎる性能を持つPTだが、支援メカ「マシンアニマリート」と合体することでさらなる真価を発揮する。

 

 主な武装は、《フォトン・バルカン》、《ロシュダガー》、《ハイ・グラビトン・ライフル》。

 必殺技は、《TーLINKナックル》。

 

 

 

 

『エグゼクスバイン・メヴィウスR』

【機動兵器】

 

 形式番号SRTXー00DEX/R。

 《エグゼクスバイン・メヴィウス》が《MAアキレス》とフォームアップした形態。

 主なモチーフは「仮面ライダー(ディケイド以降の平成二期)」及び、「ヴァイサーガ」、「ツヴァイザーゲイン」、「アシュクリーフ」などの非主流派バンプレストオリジナル。

 

 アッシュに酷似した姿をしており、全身をMAアキレスのヒヒイロカネの増加装甲が覆う。背中には攻防一体の紅いマント、「メタル・クローク」を備える。

 陸上戦闘を得意とするオールマイティーな形態であり、走行速度は真・ゲッター2と同等の亜光速。タキオン粒子から生成した《TーLINKセイバーver2》による、超高速剣撃を主な戦闘手段とする。

 また、「メタル・クローク」を散布・変化させることで実体を持つ分身を作り出したり、《TーLINKスプラッシュ》、《ファイナル・ストライク・エンド》などの必殺技に用いる。

 

 主な武装は、《ハイ・グラビトン・ライフル》、《ロシュ・ダガー》、《ストライクシールド》、《TーLINKセイバーver2》など。

 必殺技は、《TーLINKスプラッシュ》、《リボルスパーク》、《ファイナル・ストライク・エンド》、《光刃閃・極》、《エグゼクスダイナミック》(本編未使用)、《ダブル・エクストリーム》(本編未使用)。

 

 

 

 

『エグゼクスバイン・メヴィウスG』

【機動兵器】

 

 形式番号SRTXー00DEX/G。

 エグゼクスバイン・メヴィウスがMAガルーダとフォームアップした形態。

 主なモチーフは、「エクストリームガンダムEXAフェース」と歴代ガンダム及び、各リアル系ロボットと魔装機、「ヒュッケバイン・ガンナー」。

 

 MAガルーダ由来の巨大な翼が目を惹くトリコロールカラーの機動兵器。

 全身各所に無数の火器と念動誘導兵器を備えた空飛ぶ兵器庫であり、その最大火力は圧倒的。下手な物量差をものともしない。

 空中戦に秀でた形態であり、最高速度や巡航距離は三形態のうちで最も優れる。一対多数の戦闘を念頭に置かれている反面、一対一のガチンコは苦手。また、防衛戦についても不得意。

 ラ・ギアスの魔術・錬金術の影響を最も受けた形態でもある。

 

 未使用の武装として、《ツイン・タキオン・ライフル》を胸部に接続して超重力波を放ち拘束した後、圧壊・粉砕する《アキシオン・ディザスター》。サイバードに騎乗し、光を纏って突撃する《アカシック・レイ・ウィング》がある。

 

 主な武装は、《ツイン・タキオン・ライフル》、《カロリック・クラスター・ミサイル》、《TーLINKスライダー》、《タオー・ステイル》、《ハイパー・サテライトキャノン》、《フェルミオン・ブラスター》など多数。

 必殺技は、《オペレィション・ビクトリー》、《アキシオン・ディザスター》(本編未使用)、《アカシック・レイ・ウィング》(本編未使用)。

 

 

 

 

『エグゼクスバイン・メヴィウスU』

【機動兵器】

 

 形式番号SRTXー00DEX/U。

 エグゼクスバイン・メヴィウスがMAネプチューンとフォームアップした形態。

 主なモチーフは、「ウルトラマンゼロ」及び「ウルトラマンギンガ」、「エクスカイザー」、「グルンガスト」と「ヒュッケバイン・ボクサー」。

 

 全長四九メートル。MAネプチューンとエグゼクスバイン・メヴィウスが「天動合体」することによって誕生するスーパーロボット。頭部に水晶の角飾り、赤と青、そして銀色のボディを持つ。

 三形態の内、最も打撃力と防御力に優れた形態である反面、機動性にはやや劣る良くも悪くもスーパーロボットらしいスーパーロボット。しかし、VG合金をも超えるヒヒイロカネの柔軟性により、人体とほぼ同等の可動域を獲得しているため、ダイナミックによく動く。

 オウル・レヴのプラズマスパークのエネルギーを最も引き出すことが可能で、攻撃のみならず「オーロラ・エフェクト」による絶対じみた防御効果を発揮する。

 胸部の「エナジーコア」は残りの戦闘時間を示すランプ、ではなく、プラズマスパークのエネルギーが込められたヒヒイロカネの結晶である。

 

 ガチガチのスーパーロボットであるためか、この形態のときのイングはテンションが上がる模様。最大攻撃《スペリオルフラッシュ》は星をも砕く。

 なお、MAネプチューンと合体しているため水中戦が得意だが、おまけのようなもの。

 

 主な武装は、《バニシングマグナム》、《コスモ・スラッガー》(本編未使用)、《光量子ビーム》(本編未使用)、《天地神明剣》など。

 必殺技は、《ウルティメイトバニッシャー》、《ビッグバンスマッシュ》、《スパイラルマグナム》(本編未使用)、《プラズマスパークラッシュ》(本編未使用)、《バーニングダイナマイト》(自爆技。本編未使用)、《スペリオルフラッシュ》、《超級念動拳》など。

 

 

 

 

『エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ』

【機動兵器・神】

 

 生命賛歌「GONG」と銀河中の人々の祈りを受けたエグゼクスバイン・メヴィウスに、みっつのしもべと二柱のガンエデン、そして三人のファースト・サイコドライバーの魂が融合して生まれた究極最終形態(ウルティメイト・ファイナル・スタイル)

 主なモチーフは、「ウルトラマンサーガ」と「ウルトラマンノア」、「ウルトラマンメビウスインフィニティー」、「仮面ライダーウィザードインフィニティドラゴンゴールド」と「仮面ライダーBLACKRX」、「スペリオルカイザーZ」と「ファイナルフォーミュラー」、「無限プリキュア」他。

 人呼んで「一人スーパーヒーロータイム超劇場版」。

 

 イングの思う「おれのかんがえたきゅうきょくのひーろー」を形にしており、もはや何でもありのチートを超えた台無し(バグ)

 まさしく一機超神・至高天。

 例を挙げると、進化による宇宙の終焉なんてへっちゃらだし、エントロピーの増大による宇宙の寿命も片手間でなかったことになる。BETA?珪素生命体?相手にならない。

 イングの生誕世界(つまり、我々の世界に極めて近い世界)から観測できる下位世界においては無敵。ルール無用、問答無用で無敵。そうでなくてもだいたい無敵。つまるところ敵なし。

 すなわち「負ける気がしない」。

 

 なお、銀河大戦後、バベルらの魂は因果地平の彼方に消えたものの、イルイがエグゼクスバイン・メヴィウスに同乗してガンエデンの力をアカシックレコードから喚起すれば、わりといつでも変身可能である。バベルたちは未来とイングたちのために、TーLINKフレームに力を遺していったらしい。

 ただし、何でありすぎるのでイング自身が使用に制限をかけている。「全知全能の存在が積極的に力を貸せば、ヒトは簡単に堕落する」とのこと。

 

 なお、究極最大攻撃《アークインパルス//000》の威力は∞(!)+即死判定(!!)。問答無用のカンストダメージとフルブロックすら貫通して必中する特殊効果で相手は死ぬ。もとい、因果地平送り。

 GONGが銀河に流れ、人々の協力がなければ放てない特別な攻撃なのが幸いである。

 

 

 

 

『エ・テメン・アン・キ』

【機動兵器・戦艦】

 

 全長約一五〇〇メートル。正式名称「第八世代型次元航行艦エ・テメン・アン・キ」。

 新生BF団の拠点であり要塞、そして助けを求める者のもとへとたどり着くための方舟である。

 

 バビルの遺した超古代遺跡「バベルの塔」の機能・施設のほぼ全てを何らかの形で移設されており、まさにバビル二世のための(フネ)と言える存在。

 国家規模(恒星系レベル)の予算を投入されたヱルトリウムの後継艦であり、装甲に人工素粒子エルトリウム、防御兵装には歪曲フィールド、光子魚雷発射管と無数の迎撃用ホーミングレーザー、副砲重力波砲(グラビティブラスト)、主砲相転移砲、特装砲の超大型光量子波動砲などを備える。ジェイアークを合体・収納する特別なスペースもあり。

 通常空間をマキシマ・オーバー・ドライブにより超光速で航行し、オーバー・クロスゲート・ドライブにより次元の壁を突破する。

 

 メガロード級とほぼ同サイズであるため、内部には空間操作技術で拡張された小規模の都市を持っている。

 元素転換装置など移民船に必要な機能を一通り完備しているため、下手な地方都市や開拓惑星よりもずっと快適。

 

 なお、エ・テメン・アン・キとは、古代シュメール語で「天と地の基礎となる建物」という意味。ぶっちゃけ、バベルの塔のこと。

 

 

 

 

『黄龍皇』

【機動兵器】

 

 鋼機人を素体に、応龍皇の魂が宿った最も新しい超機人。

 読みは「オウリュウオー」。

 五行思想による土行、中央を護る黄龍の超機人である。

 

 操者と肉体を失い、魂だけとなって悪龍と化した応龍皇が生まれ変わった姿で

、西洋竜形態の「黄龍機」とスーパーロボット形態の「黄龍皇」に変形する。

 大まかなスタイルは、分離合体しない黄色のバクリュウオー。

 

 蚩尤塚にて再びの眠りについた真・龍虎王から受け継いだ《龍王破山剣・勾陣(こうちん)》と、《武鱗甲》が変化したビームシールド《武雀光盾》が主な武装。

 

 

 

 

『オウル・レヴ』

【技術】

 

 エグゼクスバイン・メヴィウスの動力。トロニウム・レヴ、光量子波動エンジン、新型縮退炉の三つを総称した呼び名。

 天の光、地の闇、人の心、三つの力を統合することにより、無限かつ超常的なパワーを発揮する。

 銀河大戦後はあらゆる人の心の光に繋がったため、さらにパワーアップを果たしている。

 

 

 

 

『ガリルナガン』

【機動兵器】

 

 未来世界でのアーマラの乗機。黒焔の狩人。

 アンセスターによって確保されたアストラナガンの解析データを元に、ヒュッケバインEXが変貌を遂げた機体。

 

 アンセスターにとってはあくまでもバルマー系の技術習得が目的であったためか、彼ら独自のマシン・セルは用いられておらず、性能的にもアストラナガンには遠く及ばない。

 だが、メインエンジン「トロニウム・レヴ」には月のマウンテンサイクルから入手したトロニウムを使用しており、バルマー系の魔術を用いた攻撃は強力。

 

 イージス事件後は解体・封印処置を受けて月のムーン・クレイドルに眠っていたが、心臓部であるトロニウム・レヴはエグゼクスバインへと受け継がれている。

 

 

 

 

 

『黒髪の美女』

【人物】

 

 オウカ・ナギサのこと。

 

 ティターンズ崩壊後は連邦軍のPTパイロットとして妹分と一緒に銀河大戦を戦っていたらしく、最終決戦にも参加していた。

 銀河大戦後、イングの采配によりアラドらと再会、恩義を感じて妹分ともどもBF団に加入する。

 

 

 

 

『カナード・パルス』

【人物】

 

 地球連邦の元兵士。スーパーコーディネーターのなり損ない。

 

 ゼーレからの刺客としてαナンバーズの前に現れ、キラ・ヤマトと激闘を繰り広げる。

 和解した後もスーパーコーディネイターのことに拘っていたが、αナンバーズに入ってその規格外っぷりにどうでもよくなった模様。

 なお、キラとは兄弟としてわりとうまくやっている。

 

 銀河大戦後、元部下の少女とともに傭兵をしていたが、イングにスカウトされてBF団に加入した。

 

 

 

 

『ガルーダ』

【機動兵器】

 

 バビルに従うみっつのしもべ。護衛師団のうちのひとつ。

 

 神の鳥の名を持ち、大空を行く巨大な怪鳥。新たな主、イングに従うためにマシンアニマリートに生まれ変わる。

 

 

 

 

『ガンエデン』

【機動兵器】

 

 遙か太古の昔、先史文明により建造された人造の神。

 地球とバルマー、それぞれに存在し、どちらにもファースト・サイコドライバーの魂が封入されている。

 

 封印戦争、銀河大戦の最中に両機は破壊されたが、その力はエグゼクスバイン・メヴィウスへと受け継がれた。

 

 

 

 

『ガンジェネシス』

【機動兵器】

 

 神体ガイアーと六機のロボットが「七神合体」して誕生するバベルの座。

 またの名を真・ゴッドマーズ。ギシン星の神話に残る破壊神である。

 

 先史文明によりガンエデンの護衛・守護を目的に建造され、その存在理由から両機を遙かに上回る驚異的な戦闘力を誇る念動兵器。

 ズフィルードクリスタルとはまた別の、マシンセルのオリジナルとなった特殊なナノマシンによる驚異的な修復能力を持ち、サイコドライバーたるバビルの恐るべき強念と併せたその戦闘力は、封印戦争当時の銀河最強と言えるだろう。

 単騎で宇宙怪獣の群を壊滅させることも可能だったが、それでもアポカリュプシスによる滅びを食い止めるには至らなかった。

 

 

 

 

『金髪の少年』

【人物】

 

 レイ・ザ・バレルのこと。

 

 遺伝子の欠陥をバルマー系の超科学によりあっさりと治療、ザフトの兵士として活動しており、紛争時にはインパルスガンダム一号機のパイロットとしてシンのライバル役をしていた。

 紛争後、養父の勧めでシンらとBF団に参加する。

 ラウ・ル・クルーゼについては「気持ちはわかるが、手段も選択も致命的に間違っていた」と断じている。

 

 

 

 

『ゲベル・ガンエデン』

【人物・機動兵器】

 

 ファースト・サイコドライバーの一人、あるいは男性型ガンエデンのこと。

 霊帝ケイサル・エフェスの正体。

 

 遙か太古、無限力に選ばれてサイコドライバーの力を与えられた強念者。

 かつてのアポカリュプシスで心に深い傷を負い、何者にも奪われない絶対的な力を欲した。それこそが、彼を霊帝へと変貌させた原因である。

 なお、当時の彼はルアフによく似た少年だったらしい。

 

 

 

 

『サイコドライバー』

【能力・特殊技能】

 

 またの名を「汎超能力者」。念動力、精神感応能力、透視能力、予知能力など様々な超能力を持つ者を指す。

 その力は神にも喩えられるほど絶大で、アカシックレコードに干渉して無限力を引き出し、極まれば因果律さえ自在に操る。

 要するに「もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな」。

 

 念動力、超能力のみならず、ニュータイプ、オーラ力、野生、フォールド波、忍者などの異能は全てサイコドライバーに至る可能性を持つ。人類の可能性の一つの到達点。

 ただし、有史以来真にサイコドライバーの領域に到達した者はバビル、ナシム、ゲベル、イング、イルイの五名のみ。

 

 

 サイコドライバー

 気力140以上で発動

 全ステータス+20、全地形適応S、毎ターンSP20%回復、SP消費80%、気力最大値+30、EP時回避率30%up、

 攻撃力+1500、CT率10%up、サイズ差無視、最終ダメージ1.3倍、移動時のコスト無効

※開幕「気合」「奇跡」で発動して無双が可能。気力限界突破、集中力、SP回復と重複するため、これらの養成は必須だろう。OGイングのPDモードのオマージュであり、効果の一部は念動力、超能力、予知能力等の効果になっている。

 強力極まりないが、バベルらも収得しているため地獄を見ることに。

 

 

 

 

『サイコドライバーズ』

【用語】

 

 イング、アーマラの小隊の通称、デフォルトネーム。または本作題名。

 

 

 

 

『諸葛亮孔明』

【人物】

 

 先代から“バビル”に仕えるBF団の軍師・策士。その正体は、バベルの塔統括コンピュータの対話用アバター。

 

 先代の頃は胡散臭い髭のおっさんだったが、現在は「はわわ」が口癖の幼い少女の姿を取っている。その理由はご主人様(イング)が親しみやすいようにとの配慮で、実際受けは悪くない。

 本体がエ・テメン・アン・キに移されてからは、艦の統括や艦内都市の運営を一手に握っている。内政、軍略に優れたBF団の頭脳的存在。

 

 なお、リ・ガズィな孔明先生にもなれるが、νな天翔竜には因子(データ)が足りないので無理とのこと。三国伝の続編を期待!

 

 

 

 

『ゼオラ・シュバイツァー』

【人物】

 

 元αナンバーズのPTパイロット。

 

 アラドのパートナーで、銀河大戦後は彼とともにBF団に。元ティターンズ、同型機のパイロットという共通点からアーマラには大変懐いている。

 真面目で委員長気質であるためか、後輩(と相方)のまとめ役をする苦労人。また、セレーナから悪の女戦士スタイルを継承させられそうになっていたりする。

 

 現在はアラドと同じく専用の量産型ゲシュペンストMkーII改・改を使用している。

 

 

 

 

『セレーナ・レシタール』

【人物】 

 

 元αナンバーズメンバー。

 新十傑集のNINJAもといスパイ担当。

 六年たって熟れ熟れの美女となったが、相変わらず色仕掛けは苦手らしい。

 

 復讐を果たし、スレイらの旅立ちを見送った後、イングのスカウトを承諾して相棒のエルマとともにBF団入り。かつての十傑集、マスク・ザ・レッドに師事して業を磨き、晴れて新十傑集に名を連ねた。元々備えていたスキルに、忍者の業を修得してさらに超人化している。

 なお、依然としてトゲトゲ過多の古い悪の女戦士スタイル。

 

 度重なるダメージにより破棄されたASアレグリアスに代わり、かつての愛機、ゲシュテルベルン改の再生産機を主に使用している。が、基本的にスパイなので現地でモビルスーツなどを奪って乗り回すことの方が多い。

 

 なお、BF団では新たなASを建造中。

 仮称「ASレッドシャドー」。飛影、零影の解析データを用いたNINJAである。

 

 

 

 

『セニア・グラニア・ビルセニア』

【人物】

 

 ラ・ギアス、ラングラン神聖王国の王女。生粋のメカフェチにして愉快犯的ハッカー。

 

 魔力的に適正がないために王位を継げないことを幸いとして、シュウや弟妹(ていまい)に国を託して(丸投げしたとも言う)地上に。かねてからガンダムタイプやヒュッケバインタイプに熱を上げていた彼女は、イングの熱烈なアプローチも手伝ってBF団に仲間入りした。

 現在は、ハッカーとしての腕を生かした諜報活動、魔術・錬金術の分野の知識を用いた機体設計・改造を主に担当している。

 趣味はヒュッケバインタイプの魔改造。本人曰く「やっぱり地上は天国ねっ!」とのこと。

 

 なお、破壊的な料理の腕前の持ち主だが、イング曰く「普通にイケる」。味覚音痴の言うことなので、実体は不明である。

 

 

 

 

『ソルダートJ』

【人物】

 

 赤き星の戦士。大空の勇者。

 αナンバーズの元メンバーであり、新十傑集に名を連ねる。 

 

 銀河大戦後、戒道少年と別れ、ルネとともにジェイアークで銀河を放浪していたが、イングに請われてBF団に参加した。

 本人としては、あらゆる空を護ることに異存はないらしい。密かに、根無し草の生活に飽きた(ルネ)の意向も多少あたったりなかったり。

 

 

 

 

『吊り目の少年、水色の髪の少年、金髪の少女の三人組』

【人物】

 

 それぞれ、スティング・オークレー、アウル・ニーダ、ステラ・ルーシュのこと。

 

 銀河大戦当時、地球連邦軍の非合法研究施設をビアンらが襲撃した際に保護された。

 以来、ビアンのことを父と慕っており、BF団で活動しているのも主に養父のためである。

 「ブレイク・ザ・ワールド」事件の際には、BF団のエージェントとして旧ザラ派のテロリストの動向を追っていた。

 

 なお、急に弟妹が三人もできてリューネは大いに困惑したようである。

 

 

 

 

『渚カヲル』

【人物】

 

 新十傑集のメンバー、第13使徒タブリス。シンカしたシトであり、無限力に連なる時の観測者。

 

 銀河大戦後も、依然α宇宙に留まる。イングが間違わないように監視するのが目的としているが、実体はシンジに絡むためでしかない。

 生身でも相応に強力だが、機動兵器戦ではエヴァンゲリオン参号機を自身の分身としてシンカさせ、魔改造を施したエヴァンゲリオン虚号機(見た目は参号機カラーのMkー6)を操る。

 自身と虚号機のS2機関を補完し合うことでほぼ不死身。

 

 

 

 

『ナシム・ガンエデン』

【人物】

 

 ファースト・サイコドライバーの一人、あるいは女性型ガンエデンのこと。

 

 遙か太古、無限力に選ばれてサイコドライバーの力を与えられた強念者。

 かつてのアポカリュプシスで全てを失った恐怖で、心に深い傷を負う。彼女が地球を封印し、引きこもろうと考えたそもそもの原因である。

 

 封印戦争で座を破壊された後はイルイの身に宿り、αナンバーズを導く。最後はバビル、ゲベルとともに因果地平の彼方へと旅立った。

 なお、生前の彼女はイルイによく似た容姿をしていた。またバビルとは実の兄妹で、とても仲がよかったらしい。

 

 

 

 

『ネプチューン』

【機動兵器】

 

 バビルに従うみっつのしもべ。護衛師団のうちのひとつ。

 

 海の神の名の通り、水中戦を得意とする巨大ロボ。新たな主、イングに従うためにマシンアニマリートに生まれ変わる。

 

 

 

 

『白髪の老人』

【人物】

 

 東方不敗マスターアジアのこと。

 流派東方不敗の創始者で、おそらく宇宙最強クラスの武人。

 

 とある星出身の異星人で、武者修行中に立ち寄った地球の美しさに魅せられて以来定住した。武者修行中には、天空宙心拳のキライ・ストールと手合わせしたことも。

 かつてはシャッフル同盟の一員であり、裏社会でBF団と激闘を繰り広げていた。当時、シャッフルの後援者だった黄帝・ライセ、ビアンは固い絆で結ばれた盟友。

 

 第一回ガンダムファイト時、地球人類抹殺を企んで暗躍していたが、愛弟子ドモン・カッシュに敗れ、暁に死する。

 が、黄帝・ライセとビアンにより密かに蘇生されてガンダム連合に馳せ参じている。

 

 なお、旧十傑集、衝撃のアルベルトとは宿命のライバルであり、長きに渡って激突してきた。

 事件後、盟友二人の依頼で新十傑集の一員となった際には「よもや、ワシが十傑集に名を連ねることになろうとはな」と感想を漏らしている。

 

 搭乗機は、ネオ・マシンセルにより再現されたマスターガンダム。肩と腰のアーマーが金色だったりする。

 

 

 

 

『バビル』

【人物】

 

 三人のファースト・サイコドライバーのうちの一人。

 BF団の首領、ビッグ・ファイア。

 

 かつて、アポカリュプシスに直面した先史文明人の中から生まれたサイコドライバーの一人であり、三人のうちでもっとも年長かつ最強の念を持つ。

 地球圏のみならず、銀河最強の汎超能力者と呼べる存在である。

 

 彼のみが肉体を遺していたのは、その生来の強大な念故。

 幼かった当時のナシム、ゲベルにはサイコドライバーの力は多大な負担であり、ガンエデンシステムを十全に稼働させるには肉体を捨てざるを得なかった。

 

 BF団を操り、自身の後継者を現世に招くGR計画を遂行、イングやαナンバーズに銀河の命運を託して壮絶に散る。

 その後もケイサル・エフェスによる因果律の操作を逆手にとって未来組や異世界組を招き入れるなど、因果地平からイングたちをサポートした。

 銀河大戦終結後、ナシム、ゲベルとともに因果地平の彼方へと旅だった彼は、輪廻の先で新たな生命を歩んでいるだろう。

 

 

 精神コマンド【集中 直感 気合 熱血 覚醒 奇跡

※イングと同一の構成。しかし、ボスキャラらしく消費ポイントが軒並み低く、「奇跡」にいたっては40と破格。

 

 小隊長能力 『全地形適応S』

※ラストボスらしく死に能力。これまでイングと同じだったら地獄じゃすまないだろう。

 

 

 

 

『ビアン・ゾルダーク』

【人物】

 

 元DC総帥。現十傑集筆頭。

 地球を代表する天才的科学者であり、政治・戦略に優れた偉大な指導者であり、超一流のパイロットであり、厳しくも優しい一人の父親である。

 いわゆる超人で、「新西暦のダ・ヴィンチ」の異名を取るとか取らないとか。

 銀河大戦終結から六年が経ち、五二歳になったが全く老けていない。天才だから。

 

 木星圏で行方不明になるが、バルマー戦役半ば、極秘裏に地球に舞い戻る。

 オーブに潜伏し、ロンド・ベルの活動を国際警察機構を通じて陰ながら助ける。また、このときロンド姉弟と知己を得る。

 ヒュッケバインMkーIII及びグルンガスト参式、エクスバイン・アッシュの開発・完成にも関与している模様。

 

 イージス事件以後も、αナンバーズの活躍を裏方として支援していた。

 またその際、ビッグ・ファイアの意を受けた孔明と接触、来る宇宙の終焉に対抗するため、BF団に協力する。

 表舞台に姿を現した銀河大戦では、八面六臂の活躍でαナンバーズを支援し、輪廻の輪を解き放つという偉業に多大な寄与をした。彼のカリスマと天才的頭脳が銀河を救ったと言っても過言ではない。

 

 銀河大戦後もBF団に引き続き協力しており、イングなどからは父のように慕われている。

 ビアン自身もイングには特に目をかけており、彼が道を誤らぬよう“大人”として導いている。趣味の面も含めて、実の娘が呆れるほど意気投合している模様。

 特筆するような異能を持っているわけではないが、新十傑集筆頭を務める。無論、身体能力も超人的ではあるものの、彼の天才的頭脳とその強き心こそが十傑集入りした最大の要因である。

 

 ちなみに一年戦争後、シャッフル同盟のために専用モビルスーツを開発・提供した。このとき開発されたモビルスーツが後のガンダムファイターの雛形となっており、またヴァルシオーネ、ダイゼンガーのダイレクト・モーション・リンクの発祥ともなっている。

 

 現在の乗機はネオ・ヴァルシオン。

 光量子波動エンジンを始めとしたオーバー・テクノロジーをこれでもかと投入した真の究極ロボだ。

 

 

 

 

『ヒュッケバインEX』

【機動兵器】

 

 形式番号RTXー009C/RTXー008LC。

 ヒュッケバインMkーIの改造機で、外見上は紅いMkーII。

 

 RTXー009C。イング機である。

 ヒュッケバイン008Rの暴走事故を経て、通常エンジン搭載型の009は後継機開発のテストベッドとして改良を受けた。MkーIIと外見が酷似しているのはこのため。

 量産試作型ヒュッケバインMkーIIが完成を見た後、本機はアースクレイドルに研究目的で譲渡された。

 保管されていたEXはイングにより奪取され、グルンガスト零式との戦闘で大破。エクスバインに改修され、以後姿を幾度も変えながらイングの愛機として戦った。

 

 一方のRTXー008LC。アーマラの使用した機体だ。

 消滅した008Rと同じ仕様で生産された008Lはブラックホールエンジンの危険性を鑑みて一時封印されるが、地球連邦軍極東支部のSRX計画がそれに目を付け、預かることとなる。

 009C完成と時を同じくして、縮退機関の解析が進み、ブラックホールエンジンの欠陥を修正することに成功。008LもまたSRX計画の一環として、近代化改修を受けてEXへと生まれ変わる。

 バルマー戦役後、半ば死蔵されていた本機は実権を握ったティターンズにより接収され、TーLINKシステムを搭載された上でアーマラへと渡された。当時、最強の念動者と目されていたイングへの刺客とするためである。

 最終的にはアンセスターによりガリルナガンへと変貌し、現代に戻ってからは解体・封印の憂き目にあった。

 だがその心臓部、トロニウム・レヴはエグゼクスバインに受け継がれ、ついにはエグゼクスバイン・メヴィウスへと到達した。

 

 数奇な運命を辿った二機のEXは、イングとアーマラを引き合わせたきっかけであり、言わばエグゼクスバイン・メヴィウスの生みの両親である。

 

 

 

 

『ヒュッケバインMkーIV』

【機動兵器】

 

 形式番号RTXー015。

 MkーII、MkーIIIに続くヒュッケバインシリーズ正当後継機。

 

 リョウト・ヒカワ、リオ・メイロンの専用機でリョウト自身が設計した。

 エグゼクスバインの運用データを受けて開発された機体であり、TーLINKフレームを発展させたフルTーLINKフレーム「HIIフレーム」に、レイオス・プランにより安定化したトロニウムエンジン、ブラックホールエンジンを搭載。プロジェクトTDの成果、新型テスラ・ドライブ。そして、量産型ゲシュペンストMkーII改とストライクガンダムの換装システムに着想を得た「ネオ・コアトルーパーシステム」による汎用性など、「パーフェクト・ヒュッケバイン」と呼ぶに相応しい超高性能機。

 先代機MkーIIIのコンセプトをそのまま引き継ぐ、何気にシリーズの異端であったりもする。

 

 専用のアーマード・モジュール「AMガンナーII」と常時合体しており、近接戦闘時において随時分離。強化装甲「AMボクサーII」による打撃戦を得意とする。

 また「AMサーバント」の要素、最大の特徴である念動誘導兵器《TーLINKビット》は、ビーム砲、ビームソード、リフレクターの三種に使い分け出来、数ある念動誘導兵器の決定版と言える。

 最大武装は六本の《Gインパクトキャノン》から重力波を一斉に放つ《オーバー・フルインパクトキャノン》。その純粋な破壊力は、グランゾンの《ブラックホールクラスター》に匹敵する。

 

 

 

 

『ビルトファルケン・タイプL』

【機動兵器】

 

 型式番号PTXー016LC。

 月のマオ・インダストリー社でロールアウトした次期量産試作機ビルトファルケン・タイプLに、簡易改造を施した機体。形式番号のCはカスタムのC。

 

 簡易改造とはいえ、パイロットであるアーマラに最適化されているため、その性能は改造元を遙かに上回る。

 当時では最新式のTーLINKシステムを思念操作と念動フィールド、念動誘導兵器《TーLINKリッパー》に用いて戦術に幅を持たせている他、メイン武装を《オクスタン・ライフル》からガリルナガンの《バスタックス・ガン》のレプリカに変更したことで、一撃の破壊力が大幅に上昇している。

 

 アーマラの愛機として封印戦争、銀河大戦を戦うが、ゴラー・ゴレム隊により大破させられた。

 搭乗者の思い入れもあり修復され、現在は予備機としてエ・テメン・アン・キの格納庫で出番を静かに待っている。

 

 主な武装は、《ロシュセイバー》、《バスタックス・ガン》、《TーLINKリッパー》など。

 必殺技は、《バスタックス・マッシャー》、《バスタックス・シーケンス》、《ストライク・デッド・エンド》。

 

 

 

 

『フェイ・イェンHD』

【人物・機動兵器?】

 

 バーチャロン、フェイ・イェンの一種。

 熱気バサラ、アニマスピリチュアと並び立つ宇宙最大のイレギュラー。HDは「ハート・オブ・ディーヴァ」の略。

 

 どこかの宇宙から、歌に導かれて現れた緑の歌姫。バサラとともに様々な歌を歌い上げ、αナンバーズを勇気づけた。

 銀河大戦終結後もα宇宙にいるのは、この宇宙が気に入ったため。放置しているといろいろ問題があるので、組織的に身軽なイングが面倒を見ている。

 銀河に張り巡らされた霊子ネットワーク上で、素人さんが作詞・作曲した歌を歌ったりして、アイドルの名を欲しいままとしている。

 その際には、フェイ・イェンの特性で緑色の髪の少女の姿を取る。もちろん名義はまんま「初音ミク」。

 

 

 

 

『紫の髪の女性』

【人物】

 

 ラトゥーニ・スゥボータのこと。

 

 オウカとともにBF団に入団した現在二十歳のメガネっ()

 発育があまりよろしくなく、今でもゴスロリが似合う体格。本人は嫌がっているが、キャラ付けのために着させた方がいいのではないかとオウカとイングは常々思っている。

 

 なお、「スゥボータ」の姓はイングが再有性的にピッタリだと名付けている。それまではただのラトゥーニだった。

 

 

 

 

『元ギャラクシー所属のサイボーグ』

【人物】

 

 ブレラ・スターン、あるいはブレラ・メイのこと。

 

 現在人気上昇中のアイドル、ランカ・リーの実兄。

 身体の大部分をインプラント化している機装強化兵と呼ばれるサイボーグ。ヴァジュラを巡る一連の争いで失っていた過去の記憶を取り戻し、以後はブレラ・メイを名乗っている。

 洗脳されていたとはいえ仮にも戦争犯罪者であり、それなりの刑罰は免れない立場だった。そこで、銀河連邦政府に顔の利くイングが取りなし、BF団で保護観察という体で引き取ることに成功した。

 

 なお、密偵時代に何度かイングと生身で交戦している。勝敗はお察しである。

 また、援軍に来たらランカスレイヤーをやってもいないのにぶっ飛ばされたことも。

 そんなこんなでイングと絡むとギャグキャラにされるので、苦手らしい。

 

 

 

 

『ルネ・カーディフ・獅子王』

【人物】

 

 元αナンバーズのメンバー。獅子の(リオン・)女王(レーヌ)

 

 父、獅子王雷牙博士により、不完全なサイボーグの身体を一新。排熱等の不具合はなくなった。

 ボディを新しくした現在も厚着は健在。癖になってしまったとのことだが、「熱い」の口癖も残ってしまっている。

 シャッセールの捜査官だったこともあり、潜入・調査はお手の物。そのため、

BF団ではセレーナとよくコンビを組んで行動している。

 

 

 

 

 

『ロンド姉弟』

【人物】

 

 ロンド・ミナ・サハクとロンド・ギナ・サハクのこと。

 

 元オーブの五大氏族、サハク家の者。コーディネーター。

 かねてからウズミ・ナラ・アスハの独善的な政治思想に反感を覚えており、密かに様々な策謀を行っていたが、偶然遭遇したビアンの思想に共鳴して国を離れる決意をする。

 本格的に国元を離れたのは、へリオポリス崩壊後。ウズミのやり方についに愛想が尽きたとのこと。

 

 政戦両略に秀でているため、わりと脳筋揃いな新生BF団の頭脳労働を担当する。ビアン、孔明と共謀して日夜様々な謀略を張り巡らせている。

 イングがポロッとこぼしたせいで完成してしまったヴァルシオーネ・ミナ、ヴァルシオン・ギナが現在の愛機。

 




随時更新。
活動報告のコメント欄に知りたい項目などのリクエストがあれば、加筆とかするかも?


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お・ま・け「サイコドライバーズ外伝 Another Century's Episode」

 

 

 新西暦一九五年――

 あの“銀河大戦”から五年……地球は、終わることのはない平和を謳歌していたかに思われた。

 しかし、未だ潰えぬ悪意が、邪悪なる思念が密かに蠢動していたのだ。

 それは、極めて近く限りなく遠い世界からもたらされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極東地区日本、旧DC社施設。

 数々の名機を生み出してきたこの場所で、今まさに新たな“龍”が産声を上げようとしていた。

 

「ロブ、これって鋼機人(ヒューマシン)だよね?」

「そうだよ、イルイ。こいつが正式量産型の鋼機人(ヒューマシン)、その名を雷龍だ」

 

 イルイ・“ガンエデン”・ウィンチェスター、一四歳。

 かつての銀河大戦の渦中にあり、また幾億巡の戦いの輪廻に終止符を打った英雄の一人。また、未だ保持する強大な念により人界の平和を護る“宇宙の女神”である。

 

 学校の授業参観でここを訪れたイルイは旧知の相手と交友を深める。こう見えて、彼女はロボット大好きっコだ。

 

「かっこいいねぇ!」

「そうだろうそうだろう? 苦節五年、ようやく日の目を見せることができたよ」

 

 目をきらきらと輝かせるイルイに、ロバートは満足そうに頷く。

 銀河大戦終結から五年の歳月を経て、ついに量産化の運びとなった鋼機人(ヒューマシン)《雷龍》はその名の通り、《轟龍改》と《雷虎改》の長所を武装の換装という形で引き継いだオールマイティーなマシンだ。

 またレスキューマシンとしての一面も合わせ持ち、まさにこの平和な時代に即した機体と言えるだろう。

 

「じゃあ、この子はクスハとブリットの子どもになるんだね」

「はは、まあそうなるかな」

「男の子かな? 女の子かな?」

 

 そんなとき、不意に鳴り響く警報。

 突如として現れた“未知の生命体”群が街を、人々を無差別に殺戮する。

 

「みんなを助けなきゃ! ロブ、雷龍借りるよ!」

「ま、待てイルイ! いくら君がサイコドライバーだとしても、それは量産仕様の機体だぞ!」

「おにいちゃんにできて、(わたし)にできないことはない!」

「いや、そういう問題じゃ――」

 

「イルイ、いっきまーすっ!」

 

 友人を、そして人々を守るため、強引に《雷龍》へと乗り込んだイルイは、“未知の生命体”――インベーダーの群れをあっさりと撃退した。

 そんな彼女の前に、異変を聞きつけ、白亜の戦艦――《ナデシコC》が飛来する。

 

「ルリルリ! ひさしぶり!」

「はい、お久しぶりです。それにしても、大きくなりましたね、イルイさん」

「もち! わたし、おねえちゃんみたいなボインちゃんになるんだからっ」

「……ボインちゃん……誰の悪影響なんでしょうね、これ」

 

 《ナデシコC》と合流したイルイは、《雷龍》の操者として事態の真相究明のため、彼らと行動をともにすることとなった。

 

 ――そして地球は、銀河は再びの戦禍に包まれる。

 

 ごく普通の学生、バレル・オーランドは、突如墜落してきた青いロボット――銀河連邦軍の試作兵器《イクスブラウ》とそのパイロット、フェイ・ロシュナンテとともに“未知の生命体”と交戦する。

 イルイと《ナデシコC》隊の助力もあり、バレルは何とか生き残ることが出来た。

 

 また、衛星軌道上で銀河連邦軍の次期主力機と目される可変人型兵器《アーク》シリーズの機動試験を行っていた《アルビオン》も、異変に遭遇していた。

 

 テストパイロットのタック・ケプフォードとマリナ・カーソンは、プラント国防軍の新型“ガンダム”強奪事件に居合わせる。

 

「また戦争がしたいのか、アンタたちは!」

「……違う。わたしたちは、戦争をさせないために動いてる」

「! それって、どういう――」

「だから――ジャマ、しないで!」

 

 新造戦艦の進宙式を観覧するため家族旅行でプラントに訪れ、偶然居合わせたシン・アスカは、ひょんなことから新型ガンダム――《インパルスガンダム》に乗り込み、同じ新型のうちの一機、黒い《ガイアガンダム》と刃を交える。

 これがシン・アスカと、BF団のエージェント、ステラ・ルーシェのファーストコンタクトだった。

 

 テロリストにより奪われた三機のガンダムを追うため、新造戦艦《ミネルバ》が発進する。居合わせた地球安全評議会の議員、アスラン・ザラの懇願により、成り行きで《インパルス》のパイロットとされてしまったシンを乗せて――

 

 それぞれの異変を追って合流した《ナデシコC》、《アルビオン》、《ミネルバ》に火急の報せが入る。

 ユニウス・セブン――かつての大戦の折り、核の火により散った宇宙の墓標。それが、安定軌道を離れて重力に引かれているという。コロニーの残骸が地球に墜ちれば、核の冬がくる。フィフス・ルナの二の舞だ。

 

 コーディネーター系テロリストの操るカスタムタイプの《ジン》、さらには黒い《アーク》タイプとジオン系モビルスーツ部隊の妨害により、破砕作業は遅々と進まず――

 

「くっ、この黒い可変機、強い!?」

「落ち着いて、バレル! 動揺すればこちらがやられるわ!」

 

 一同の奮闘虚しく、阻止限界点を越え、重力に引かれて地球へと落下するユニウスセブン。赤熱する様は、かつてのアクシズ落としを彷彿とさせる。

 そのとき、強念とともに一筋の光が宇宙に走る。

 

「待たせたな! 真打ちの登場だ!」

「わたしもいますよーっ」

「お兄ちゃん、エクスっ! ……あれ、お姉ちゃんは?」

「今回は別行動だ。まあ、こんな三下どもなんぞ、オレたちだけで十分だろう?」

 

 “鋼の救世主”――銀河最強の人型機動兵器《エグゼクスバイン・メヴィウス》。操るは銀河最強の汎超能力者、“バビル二世”ことイング・ウィンチェスター、イルイの兄である。

 銀河を守護する無敵の英雄(ヒーロー)が、黒い《アーク》タイプと激突する。

 

「TーLINKセイバー、アクティブッ!」

「……!」

「お前の正体は割れてるぜ、ブラッディアークのパイロット!」

「! 貴様、何を!」

「とっとと自分の世界に帰れっつってんだよ、異邦人(ストレンジャー)!」

「ぐぁっ! ――クッ、消えろイレギュラーが!」

 

 黒い《アーク》タイプを退け、有象無象を蹴散らして、不死鳥の勇者が宇宙を直走る。

 

「シーケンス、TLS! ユニウス・セブンの怨念たちよ! お前たちの無念、この俺が因果地平に還してやる!!」

 

 放たれるは邪念を絶つ剣、《極大念動破斬剣》。振り下ろされた光の刃が墓標を真っ向から斬り裂き、光の粒に変わる。

 無念、苦痛、憎悪――そのすべてを太陽の輝きが因果地平の彼方へと送った。

 

 

 一同の活躍により、辛くも地球は滅びを逃れた。

 そんな彼らの耳に飛び込んできたのは、ネオ・ジオン残党、“袖付き”により親友である、ミネバ・ラオ・ザビが誘拐されたとの一報だった。

 

 一方、新天地――未だ見ぬ銀河を目指して航行中の《マクロス・フロンティア》は、地球外生命体“バジュラ”との抗争状態に陥っていた。

 激化する戦闘の中、民間軍事プロバイダーS.M.Sのバルキリーパイロット、早乙女アルトは、某かの理由で崩壊した惑星エリアから逃れてきたもの――、次元の壁を突き破って転移《デフォールド》してきた戦艦《アーク・アルファ》と、銀髪の少女オータム・フォーと接触していた。

 

 

 

 ――風雲急を告げる地球圏。

 可能性の獣、《ユニコーンガンダム》と「ラプラスの箱」。

 《マクロス・フロンティア》が遭遇した超時空生命体“ヴァジュラ”。

 もう一つのバイストン・ウェルからの来訪者、ホウジョウ軍。

 何者かの手により復活したDG細胞。

 

 平行世界からの来訪者たち。

 無限力を喰らう生命体“インベーダー”ともう一つのゲッターチーム。

 一二〇〇〇年の時を越えて目覚めた機械天使《アクエリオン》。

 かつての仲間たち、“ゲッコーステート”の平行存在。

 仮面の男“ゼロ”と白騎士《ランスロット》。

 “特異点”、桂木桂と《オーガス》。

 

 それらがもたらす異変と危機に対応するため、再びαナンバーズが結成される。

 ――混乱の火種は地球だけではなく、銀河の遙か彼方、極めて近く限りなく遠い世界にもくすぶっていたのだ。

 

「バルドナドライブ……それがお兄ちゃんたちが今探っていることなの?」

「そうだ。バルドナドライブとは、ジル・バルドナ博士が建造した次元力を人為的に発生・制御し、平行世界を観測、あるいは干渉を可能とする装置――、それが今回の事件の原因だ」

「……でもそれだけじゃ、こんな混沌とした状況にならないよね?」

「正解。無限力(イデ)がそれを悪用して、残った因果(ふくせん)の回収を目論んでるらしい」

「また無限力(イデ)の仕業かーっ」

「どうどう。ま、いつものことだよな、実際」

 

 独自の調査に戻る兄と別れ、イルイは新たな仲間と共に戦場を行く。

 友と平和を取り戻すために。

 

 

 

 戦いの中、イルイにもまた乗り越えるべき試練が訪れていた。

 

「やめて、応龍皇! もうあなたが戦う必要なんてないんだよ!?」

 

『■■■■■■■■――ッッ!!!』

 

 堕ちたる超機人、《応龍皇》。

 力を失い、繰者を失い、躯を失い、誇りを失い――全てを失って悪龍と化した超機人の長は、だだ破壊と混沌を振りまき、もはや人界に仇成す悪災へと成り果てていたのだ。

 

「本当に大丈夫なのか、イルイ?」

「うん、お姉ちゃん。あの子はわたしがなんとかしなきゃいけないの。それが……ナシムの器だったわたしの責任なんだよ」

「イルイ……」

「つまり……わたしがやらなきゃ誰がやる!」

「元気なのはいいが、シリアスするなら最後までやろうな」

「えへへ」

 

 

 決戦の舞台は、蚩尤塚上空。

 四神の魂が眠る地で――

 

「それならっ! ――応龍皇っ! あなたのその怨念、わたしがナシムに代わって祓います!」

 

 イルイの、サイコドライバーの類い希な強念。それは、TーLINKシステムを持たない《雷龍》にすらも強大な力を与える。

 掲げた《シシオウブレード》に集う次元力――《龍王機》《虎王機》《雀王機》《武王機》の魂が因果地平の彼方から小さな彼女に力を貸す。

 

「邪、破れば人々を救い! 顕正、則ち上大法を弘む! 奥義! 破邪顕正・桜花放神ッ!!」

 

 激闘の末、イルイの念に屈した《応龍皇》は怨念を全て吐き出し、降伏された。

 その魂は回収され、《応龍皇》は新たに生まれ変わる――

 《龍王機》《虎王機》の解析データに《雷龍》の開発により蓄積された最新技術、そしてラ・ギアスに由来する錬金学をフィードバックして建造された躯を得た四神の長。

 その名は――

 

「行くよ、龍王転神! オウリュウオー!」

 

 宇宙の女神(イルイ)を守護する黄金の龍、《黄龍皇(オウリュウオー)》――この世でもっとも新しい超機人は遍く人界の平和のため、百邪を討つのだ。

 

 

 いくつもの戦いがあった。

 だが、それもいつかは終わる。この宇宙に鋼の勇者たちがいる限りは。

 

 “袖付き”を主体とするクーデター軍により乗っ取られたプラント防衛施設「メサイヤ」を、ビスト財団の暗躍により復活したDG細胞が瞬く間に席巻。「デビルメサイヤ」となって人類を粛清せんと破滅の光「ネオジェネシス」を輝かす。

 ギガノス残党や旧火星の後継者、木星帝国の遺児たち――銀河連邦の統治を由としない勢力が、平和の象徴たる地球を破壊せしめんと決起したのだ。

 

「フロンタル! 貴様が奴の、シャアの怨念の器だというなら、俺たちがそのエゴを帰す!」

「クワトロ大尉の理想をこれ以上汚すな! お前は宇宙の闇に還れ、フル・フロンタル!」

「いい加減、戦争なんて飽き飽きなんだよね! そういうのは、これでお終いだ!」

 

「運命を切り開く! そのためには! 今の俺には、みんなを護る力があるんだ……!」

「戦いの痛みも背負って、未来に進む……それが僕たちの覚悟だ!」

 

 

「ジオンに生み出されたものとして、私がここでジオンの怨念は絶つ! フェネクスッ!!」

「バンシィィイ!! その仮面の下にあるものを吐き出せ、フル・フロンタル!!」

 

「ガンダム! 俺に力を貸せ! 弱くて、不完全で……だから託すんだ!  託されて歩き続けるんだ!  どんなに辛い道であっても――!」

「そのために俺たちは戦う!  ユニコォォォーーーンッ!!!」

 

「これが火の文明……人が自ら生み出したものは人に新たな力を与える……それは誰かと共に希望を信じる力……その化身、ガンダム!!」

 

 吼える三機の《ユニコーン》。

 再び開くクロスゲート。未来世界から《ガンダムDX》と《∀ガンダム》を迎えたガンダム連合を迎え撃つは、赤き彗星の落とし子――フル・フロンタルと《デビルネオジオング》。サイコシャードの放つおぞましき光が、全ての歴史を虚無に塗り替えようと妖しく輝く。

 一年戦争から始まった“ガンダム伝説”――その最後を飾る正真正銘、ほんとうの最終決戦。

 ガンダム乗りたちの熱い“魂”をその身に受け、覚醒する《ユニコーンガンダム》。サイコフレームがシンなる力を発揮し、虹色の光が宇宙を満たした。

 

 

 

「わたしの――!」

「あたしの――!」

「アタシの――!」

 

「俺たちの歌を聴けーッ!!!」

 

 

「ランカちゃーん!」

「バサラーッ、シェリルーッ!」

「ミーアさぁーん!」

 

「真面目にやれ、お前たち!」

 

 銀河を牛耳らんとするマクロス・ギャラクシーの卑劣な策略により、操られたバジュラクイーン。

 ヒトの身勝手なエゴに縛られたバジュラたちを解放するため、銀河に三人の歌姫(ディーバ)と一人の(ロッカー)の歌声が響くとき、鋼の勇者たちが再び集結する。

 不滅の聖剣の名を冠したバルキリー――《YF-29デュランダル》がその紅い翼に歌と想いを乗せ、銀河の果てまで羽撃いた。

 

 そして――――

 

 

 傾いたビルの残骸がそびえ立つ閉鎖海域。水平線から朝日が射し込む。

 海上施設に位置するバルドナ・ドライブが異常稼働し、様々な平行世界から無作為に因果を呼び寄せる。それは、世界の垣根を破壊し、遍く次元の崩壊を意味していた。

 

「追い詰めたぞ、ベルクト!」

「もう止めましょう! バルドナは……いえ、ドクター・シキは倒れた! あなたの復讐は終わったんです!」

 

 この宇宙の技術により完成した最終決戦仕様フレーム《イクスブラウtypeAs》に乗るバレルとフェイが訴える。

 眼前には深紅の人型機動兵器。

 崩壊した惑星エリアに隠されていた禁断の“紅い熾天使(セラフ)”。史上最悪の汚染粒子により稼働し、翠緑の死をまき散らしながら理外の性能を発揮する極死の天使である。

 

「フェザーアークの機動テストからこっち、随分な大事になっちまったが……」

「それでも、やるしかないわ。私たちは銀河連邦の軍人なんだから」

 

 最新型《アーク》シリーズ、専用カラーの《バスターアーク》に乗ったタックとマリナ。

 彼らと相対するのは海面と上空を埋め尽くす黒い無人兵器。それらは、“紅い熾天使(セラフ)”と共通した意匠を持っていた。

 

「……私の故郷、惑星エリアはもうどこにもない……けれど、この地球は――もう一つの故郷は滅ぼさせない!」

 

 《アルファート》のコクピットでオータム・フォーが独白する。

 後陣に控える《アーク・アルファ》に残された惑星エリアの住人の遺伝子情報、そしてこの美しい惑星(ほし)と、命の輝きに満ちた宇宙を護りたいと願っていた。

 

「バルドナ・ドライブはすでに臨界点を越えた。これを止めたいのなら、俺を殺すしか方法はない。――この“セラフ”ごとな!」

 

 ありとあらゆる平行世界を抹消するため、暴走するバルドナドライブ。

 それは、惑星エリアのジル・バルドナ――ドクター・シキの遺した悪意。

 自分のいない世界。そして“自分”ではない自分など認めないという身勝手で狂気的なエゴが惑星エリアのみならず、この地球や他の数多の星々に襲いかかろうとしていた。

 “紅い熾天使(セラフ)”を駆る男、ベルクト――彼は平行世界のバレル・オーランドであり、実父によりバルドナ・ドライブの生体キーに仕立て上げられ 、非人道的な扱いを受けてきた。その憎悪たるや世界を焼き払ってあまりあるものだろう。

 彼はあえて憎悪する男の計画を引き継いでいる。それは、自身を拒絶する“世界”への復讐に他ならない。

 

「ベルクト……あなたの境遇、知りました」

「……」

「だけど……だけどッ、わたしはイルイ・ガンエデン・ウィンチェスター! 人界の平和を護る汎超能力者(サイコドライバー)として、四神の王、大地の龍神オウリュウオーが繰者として――」

 

 黄金龍――《黄龍皇》が吼え、その心臓たる真・五行炉が唸りを上げる。

 天地が震え、海原が裂ける。雷鳴轟く時、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「そしてなにより、“バビル二世”の妹として、あなたのすることを許すことはできませんッ! 天意招来・迅雷疾駆! ――龍王破山剣・勾陣(こうちん)ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「もう……終わった」

「終わってない!!」

「どちらかは否定される。そのことはわかっていたはずだ」

「そんなの……知るかよ」

「……」

「俺たちは違うだろ!! 俺は俺だ。君は……君だ!」

「……。そうか……。なら……ここからはお前だけの道だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤツらが来るぞ、イング……!」

「宇宙怪獣……エグゼリオ重力変動源だよ、お兄ちゃん!」

「宇宙が埋め尽くされてますっ!」

「あれが解き放たれれば、銀河全てが食い尽くされるだろうな――だが!」

 

 

「――オレたちαナンバーズの敵じゃない!」

 

 

「この宇宙での最後の仕事だ! 行くぞ、アーマラ、イルイ、エクス! ――アカシックレコード、アクセスッ!!」

「了解だ、イング! 輝き唸れ、オウル・レヴッ!」

「わたしたちに力を貸して、ナシム、ゲベル!」

「リミット解除! エグゼクスバイン、マキシマムドライブです!」

「今再び、正と負の力が交わる! テトラクテュス・グラマトン……!!」

 

「心、技、体を一つに極め――」

「絶望、討ち滅ぼす極光の刃ッ!」

「平和の意志をこの胸に!」

「まとい輝く黄金竜!」

 

「「「遠からん者は音に聞け、近ばよって目にも見よ!!!」」」

「一騎超神・至高天ッ! エグゼクスバイン・メヴィウスインフィニティ!! 本当の戦いは――、ここからだ!!」

 



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