転生したボクですが、姉さんたちが過保護すぎて辛いです (可愛い物を愛する淑女)
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転生したボクですが、姉さんたちが過保護すぎて辛いです

 おはようございます。良い朝ですね。

 現在は朝3:00丁度です。

 何故ボクがこんな時間に起床するかといえば、楓姉さんの昼食用のお弁当を作るためです。前までは楓姉さんが自分で作ってたのですが、楓姉さんには出来るだけ遅くまで体を休めてほしいので、ボクが10歳のときから楓姉さんのお弁当はボクが作ることにしました。

 今世の両親は海外出張が多いので、普段は楓姉さんと二人で暮らしています。ボクが生まれるまでは、楓姉さんはマンションに住んでたみたいなのですが、ボクが生まれたのを期に自宅へと戻ってきました。因みに、僕と楓姉さんが住んでる家は、ここは本当に東京なのか疑ってしまう程に緑溢れた森林に囲まれ、丁寧に管理されている日本庭園(+温泉)付の日本家屋です。神様が体の弱いボクに配慮してくれた結果だとのことですが、東京の一区画に高垣区を増やすのはやりすぎではないでしょうか?名前のとおり、ボクの家系が代々治めてきた区画という設定になっていて、自然の伐採を極限まで制限したことから『東京のオアシス』なんて呼ばれており、療養地として有名となっています。

 話が逸れましたね。

 ボクが何故、楓姉さんのお弁当を作っているかは話しましたよね? 本当なら、楓姉さんは料理をさせるつもりはなかったらしいのですが、ボクの手捌きを見て、ボクが料理をすることを認めてくれたのです(もちろん、手捌きだけではなく、味の審査も含めて考慮してもらいました)。

 今日のお弁当は、ウサギ林檎・豚の生姜焼き・茄子と蕪の糀漬け・ホウレン草のからし和え・なめこの味噌汁・梅干しを載せた白米です。ですが、実際に作っているのは生姜焼きとなめこの味噌汁、ウサギ林檎だけです。ホウレン草のからし和えは、予め和えたものを適当なタイミングで真空状態にしてパックに詰めますと、空気による酸化が遅くなるらしいですので、それを実践してみました。今後の家事に役立つかは効果次第ですが………。

 

「おはよう、ユウ。今日もお弁当作ってくれて、本当に嬉しいですよ」

 

「楓姉さん、おはようございます。ボクは楓姉さんに喜んでもらいたいので、頑張って上手に出来るように、沢山練習しましたから!」

 

「ユウ。もしかして、態とじゃないですよね?」

 

 楓姉さんはたまにボクを心配してくれますが、ボクはそこまで心配される程抜けてはいないはずですよ?

 それよりも、ボクは楓姉さんの方が心配です。

 楓姉さんは、家から出た途端にポンコツになってしまいます。何もないところで躓いたり、呆けて仕事のお話を聞いていなかったりするらしいので、楓姉さんの世間的なイメージはクールでミステリアスな天然美女というイメージとなっていますが、姉さんは家に居るときは、確り者で優しい頼りになるお姉ちゃんです。だから、楓姉さんがボクのことを心配して仕事に身が入らないのを聞くと、胸の辺りが『キュゥ』と締め付けられてしまいます。

 

「楓姉さん。お願いですから、確りとお仕事に身を入れてください。ボクのせいでお仕事に集中できないのは辛いです。ボクは、楓姉さんの重荷に、枷になりたくないです。だから、楓姉さんはお仕事に集中してほしいです」

 

「わかりました。では、私は私室で武内Pが来るのを待ってますから、ユウもそれまでに準備しておいてくださいね」

 

「わかりました」

 

 ボクは、両親と楓姉さんに前世の記憶が有ることを話しました。前世では、ろくに動けずに病床に伏せて一生を過ごしたこと、優しい神様がもう一度、今度は動ける体で人生をやり直させてもらえたことを。

 神様は、何かしらの超常的な能力を贈ると言いましたが、ボクは優しい家族と皆に愛してもらえる、優しい環境を願いました(おまけとして、高い演算能力と高い家事能力を貰いました)。

 ボクがやり直させてもらえた今世の家族は優しくて、ボクのことを保険金や補助金の道具ではなく、家族として受け入れてくれました。だから、ボクは、ボクを愛してくれる人達皆に喜んで貰いたいです。

 ですが、今世でもやはり体が弱く、運動は出来ませんし、体調を崩しやすいので楓姉さんの仕事仲間の方々で休みの方がボクに付き添ってくれます。一応、ボクは楓姉さんの所属している企業の一員となっていて、この屋敷で出来る仕事をやらせていただいたり、芸能プロダクション346の本社に行くこともあります。

 ボクは本来ならば大学生ですが、小中高は家庭教師の指導や通信制の高校でやりましたが、高校卒業資格を取ったは良いのですが、進路を決めていなくて困っていたら、楓姉さんが芸能プロダクション346にボクのことを推薦していたらしく、この屋敷までスカウトに来ました。もともと、ボクが取れる資格は殆ど取っていましたので、そのお陰で厚待遇で迎えてもらえました。

 

「ユウさん、迎えに来ました。既に楓さんは準備が終わってますが、無理をなさらない程度に急いでいただけると助かります」

 

 書類整理と平行して考え事をしていたら、入社以来、良く聞き馴染みのある声が書斎の外から聞こえてきました。今日は確か、美城本社で『月刊ファッション誌346』の撮影だったと思います。もちろん、女性服です。

 何故ボクが女性用の服を着ることを習慣付けているかというと、ボクは力が弱いので誰かから襲われてしまうと抵抗が出来ないので、男であることを隠すのが目的です。それ以外の目的を言えば、小さいときに女性用の服を着たときの楓姉さんが浮かべた嬉しそうな顔が忘れられないのと、お父さんとお母さんがいっぱい可愛がってくれるからという欲があるからです。

 

「態々申し訳ありません、武内さん。ボクが体が弱いせいで………」

 

「いえ、ユウさんは悪くありません。人は生まれを変えることはできませんから、ユウさんは悪くありません」

 

 ボクが今会話をしているのは武内先輩といって、ボクの担当Pでもあります。武内先輩は見た目は怖いですが、とても優しい女性の方です。

 ただ、真面目過ぎる面もあり、度々、同期に入社した千川先輩に弄られてます。

 ですが、その真面目なお陰でボクは大分救われましたから、第2の母の様に思ってしまい、たまに『お母さん』と間違って呼んでしまいます。ただ、その度に抱き頭を撫でるせいで、どんどんその思いが深まってしまい、若干、依存気味になりそうで心配です。

 

「ありがとうございます。………武内さんは本当に優しいですね」

 

「お礼を言われる程のことではありません。………私は事実を言ったまでですから」

 

 武内さんが首に手を回すときは、大抵、照れているときか反応に困っているときなのですが、今回は前者だとわかって、ボクで喜んで貰えることにすごく嬉しくなりました。

 

「それでもです。ボクは貴女の言葉や行動で沢山救われました。だから、いつかお礼をさせてください」

 

「………遠慮しておきます。ユウさんは体を大事にするべきです」

 

 どういうことでしょうか?

 ボクは健康に対しては人一倍気を配っているのですが、武内さんから見たら、やはり何処かが不健康に見えてしまうのでしたら、気になります。

 ボクは体が弱いせいか、健康マニアと呼べる領域のこだわりがあるのですが、それでもこの体はあまり効果が出ない程に弱いのでしょうか?

 …………ボクはやはり、家族を、皆を置いて死んでしまうのでしょうか?

 

「ボクは、独りになりたくないです。………置いて逝くのも、置いて逝かれるのも怖いです。…………皆と、ずっと、一緒に居たいです」

 

 ボクは頭の中が滅茶苦茶になって、寂しくて、悲しくて混乱してしまいましたが、突然、武内さんが強く抱き締めてきました。

 

「大丈夫です!私が言ったのは健康的な意味で心配に見えるわけではなく、貞操的な意味での心配をしているのです。ユウさんは少し自覚が足りません。貴女は男性で、更には儚くも幻想的な美しさを持っています。だから、女性を勘違いさせる発言を気を付けるようにと、そういった意味で『体を大事にするべきです』と私は言ったのです。ユウさんは、間違いなく健康的になってきています。だから、泣かないでください!」

 

「ふぇ?ボクは泣いてなんて………え?ご、ごめんなさい!スーツを濡らしてしって…………」

 

 ボクの顔には、涙か伝ってました。

 武内さんは優しいから、泣いてしまったボクを励ますために、抱き締めてくれたんだと思います。

 武内さんの腕の中で、武内さんの心音と温もりがボクを落ち着かせてくれました。しかし、その代償にスーツが濡れてしまい、ボクは嬉しいような、恥ずかしいような、そんな申し訳ない気持ちになりました。

 

「良いんです。ユウさんは、私の大事な担当女(俳)優(パートナー)で秘書なんですから、私をいつでも頼ってください」

 

 パートナーと言うことばを聞いて、頼り頼られる関係に成れてることがわかり、秘書という言葉で信頼があることがわかり、ボクはとても安心してしまい、つい、微睡みに誘われて意識を落としてしまいました。

 ですが、最期にどうしても伝えたいことがあって、それを離れ行く意識の中で必死に口を動かしました。

 

あ……り…ぉ…………す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「武内P(プロデューサー)さん、私が居るの忘れていませんか?」

 

「……………そ、そんなことは、ありました、ね」

 

「………後でお話ししましょうね、武内P(プロデューサー)さん?」

 

 どのようなやり取りかは分かりませんでしたが、楓姉さんの声が聞こえた気がした瞬間から武内さんの心音が早くなったのは覚えています。

 

 




H26/11/26 加筆修正をしました。
H29/21/26 誤字修正をしました

楓さんを入れ忘れてしまい、本当に申し訳ありません。ただ一心に可愛い男の娘(ユウ)と強面の長身女性(武内P)との絡みを書きたいと思っていたせいで、この作品の超重要人物(ラスボス)のことが頭からすっぽり抜けてしまいました。


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転生したボクですが、346プロの職員たちが優しすぎて辛いです

 

 

「んぅ。…………すいません、寝てしまいました」

 

 武内さんが乗ってきたのであろう社用車の中で、ボクは目が覚めました。

 しかし、曖昧な意識の中でも、優しき抱き抱えられて丁寧に運ばれたことと、愛情の込められた手付きで頭を撫でられたのは、はっきりと覚えてました。

 それらの記憶を思い出して恥ずかしくなってしまい、思わず顔を覆いたくなり、手を動かそうとして気付きました。

 そう、楓姉さんに膝枕をされていたのです。

 

「ひゃあ!?」

 

 慌てて体を起こしましたが、寝起きの急激な運動による立ち眩みに襲われて、楓姉さんの胸元に体勢を崩して倒れ込んでしまいました。

 その驚きによって元々高かった地声の音域であるメゾソプラノボイスが、もう一段階高いソプラノボイスに変わってしまいました。所謂、裏声というものです。

 

「ユウさん、大丈夫ですか?」

 

「武内P(プロデューサー)さん?」

 

「ふふっ」

 

 武内さんの声がドライバー席から聞こえたと共にハザードランプを点けて隅に停車しましたが、楓姉さんに名前を呼ばれた瞬間に身震いをする気配を感じた後、黙々と運転を再開しました。

 そのやり取りがなんだか面白く感じてしまい、つい、軽く笑い声が漏れてしまいました。

 そんなやり取りをしていると、高垣区から美城本社がある土地まで来ました。

 

「私はここで別れますが、体調が悪いときは渡辺さんと高橋さんに確りと伝えてくださいね?」

 

「今日は渡辺(わたべ)さんと高橋さんですね。わかりました。倒れて迷惑は掛けたかないので、もしもの時はすぐに伝えます。楓姉さん、いってらっしゃい」

 

「いってきます」

 

 ボクが美城本社に出勤するのは、週に3~4日程度で良いと346プロダクションの社長さんが直々に屋敷まで来て心の底からの笑顔で話をしてくれした。また、体調不良ならば出社しなくても4日分のお給金を出してくれるとのことでしたが、その話は丁重にお断りさせていただきました。その返事を聞いた途端に社長さんの機嫌は鯉が龍に成るかの如く滝を昇って行く様に上昇して、社長さんの秘書さんがとても困っているような、喜んでいるような感じの表情をして不思議でした。

 

「優ちゃん、おはよう」

 

「おはようございます、恵さん!」

 

「おう。一週間ぶりだな、優」

 

「はい!光輝さんもお元気そうで何よりです!」

 

 優しい口調の女性が渡辺恵さんで、少し粗っぽい口調ですが、思いやりの籠った言葉を言っている方が高橋光輝さんです。二人はもう少し時間を待てば、どちらも高橋さんになるので、普段口に出すときは名前で呼んでいます。

 今日は体調が良い日なので、ボイストレーニングとボーカルレッスンをトレーナーさんにしてもらう予定です。

 ボクは体が弱いので踊るや細かなポーズを続けることは出来ませんが、歌だけでステージに立つのが夢です。

 1度だけですが、楓姉さんのライブを生で観たことがあります。その時の一体感と熱気がとても眩しく、自分もその場所に立ってみたいと皆さんが居るところで言ってしまい、その場は騒然としました。

 ですが、その騒ぎもすぐに収まり皆さんが協力してくれると言ってもらえ、今では346プロダクションの社長さんが先導してプロジェクト企画を練っているという、大手芸能プロダクションとして大丈夫なのか心配になる程に大規模な物となってしまい、今や止めるに止められない状態となってしまいました。

 ただ、これだけは言わせてください。女優俳優の方々やモデルの方々、一般社員の方々に所属アイドルの方々、そして、なによりも346プロの社長さんにも言わせていただきたいです。お願いですから、自分のお仕事をしてください。自分のお仕事放り出して私の我が儘に付き合うのは、正直なところ嬉しく思いますが、流石にドラマの枠移動させないでください。そして、それを撮影監督さんやスタッフさんも認めないでください!ボクのせいでドラマの枠移動や番組な未放映とか、正直なところ他のプロダクションさんに庇って貰わなくては、このプロダクション潰れてましたよ!そして、なにより、他のプロダクションの方々も嬉々として私の我が儘のフォローに取りかかるのやめてください!あなた方は何なのですか?芸能プロダクションでしょう?仕事をしてください!!

 まあ、今でこそ落ち着きましたが、ボクが彼処まで怒らなけらば通常業務に戻らないのなら、もう、我が儘なんて言いません。………というより、言えませんよ。一般市民の方々になんて謝れば良いのでしょうか?

 いえ、愛されているのは嬉しいですよ?ですが、限度があると思いませんか?これは、もしかしたら優し過ぎる神様からの加護(呪い)なのではないでしょうか?

 そんな風に、半年前の芸能プロダクション業界の大事件【お姫様初の我が儘事件】を思い出していると、もう既に本日の書類業務は終わっており、残りはボーカルレッスンとボイストレーニングをやるだけになっていました。

 

「光輝さん、恵さんもう大丈夫ですよ?河住さ…椿さんが視てくれますから、お二人はご自由にしてていただければ………あいたっ」

 

 言葉を最後まで繋げようとしたら、光輝さんにおでこを『ビシンッ』と中指で弾かれてしまい、思わずおでこを押さえながら屈んでしまいました。

 痛くて涙目になりながらも光輝さんを見上げれば───

 

「バカか?俺らは優に何かあったときに対処できるように側に居るんだぞ?側に居ない間に何か起こったら、楓さんにド突かれるっての」

 

「そうそう。優ちゃんは自分で思っている以上に皆に愛されてるのよ?優ちゃんが事件に巻き込まれたときのあの騒ぎが何よりの証拠じゃない♪」

 

 ────と、言われてしまうのでした。

 あの騒ぎですか………確か、連続女児誘拐事件にボクが巻き込まれ、大手プロダクションの殆ど全てが私有の警備会社の職員全員を動員してボクを救出するという馬鹿げた事件で、一般市民の方々は犯人に同情するという迷事件【お姫様誘拐事件】及び【お姫様救出作戦】のことですか。………この事件により、楓姉さんがボクに大量の発信気を付けていることが発覚したのでしたね。

 

「い、いえ。愛されるのが嫌なんじゃないんですよ?ただ、ボクは一応、男性なんですが………」

 

「お前の容姿で男性なんて言っても誰も信じねぇよ。むしろ、ブツを見せろって発情するぞ?」

 

「………否定できないのがこの世界の嫌なところよね」

 

 …………そうでした。皆さんに囲まれているから忘れかけていましたが、下手に男性だとバレるとその場で食べられてしまうのでした。光輝さんに会うまでは、肉体的に食べられてしまうと思って恐怖に怯えて外出していましたが、光輝さんに教えられて性的な意味で食べられてしまうとわかって、更に怖くなって必要な物は楓姉さんや武内さん、千川さんたちといった、特別親しい間柄の方々に買いに行って貰っていたせいで厳重に密閉されていた恐怖が甦ってしまいました。

 

「ぁぅぅぅぅぅ」

 

「な!?」

 

「へ!?」

 

 クロイカミ、クミシカレタジブン、コウソクサレタテアシ────────

 

「ぁぁあああアアアアアアアアア

 

「だいじょ、うぶじゃねぇなチクショウ!!楓と武内を速攻で呼べ!今すぐだ!!俺は優を落ち着かせられるかやってみるが、恵じゃあ逆効果だ!」

 

「わかりました!」

 

 

 

 

 

 




 今回は短めに終わりましたが、優は女性恐怖症ではなく、PTSDです。
 原因は女性による、監禁等によるものですが、この設定が今後出てくるかはすごく確率が低いですが、一応、今回はこれを出しました。
 別に、武内Pによる励ましを次話で出すための布石ってだけですので、今後は出ない予定です。
 私としてはこのような暗い話は嫌いですが、高垣楓の異常なほどの過保護はここから来ているということなので、出させていただきました。なにせ、奥歯の詰め物にも発信器仕込んでますからね。歯科医の資格とってまで。他にも高垣楓は優を守るために資格取ってますが、それはまた次の機会に出す予定です。
 それでは、また今度。

2017/12/1 本文の表記などを一部変更


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転生したボクですが、芸能プロダクションの方々が仕事をしなくて辛いです

後書きにある容姿を一部変更しました


 ボクは今何をしているのでしょうか?

 確か、椿さんのところへ、ボイストレーニングとボーカルレッスンするために、遮音性の高いトレーニングルームに向かっていた筈でしたが、何故、こんなに優しくて暖かい感触に包まれているのでしょうか?

 

「おかあさん?」

 

 どことなく、武内さんの良い匂いがする気がするのですが…………

 

「申し訳ありませんが、私です」

 

「ふぇ?な、なんで武内さんがボクを抱いている………の?」

 

「覚えていないようですね。なら、思い出さなくても結構です」

 

 武内さんの黒くて長い髪(・・・・・・)を見て思い出しました。小学生の頃に一人で外出した際、いきなりスタンガンで意識を刈り取られて監禁されて…………

 

「いやぁ」

 

「!? 大丈夫、大丈夫です。私は、私はユウさんを傷付けることはありません。だから、存分に頼ってください。怯えても構いません。しかし、ユウさんは私が守ります。だから、今は存分に甘えてください」

 

「ぁぅ」

 

 武内さんから離れようとして押しても、それよりも強い力で抱き締められ、頭を撫でながら優しく宥められて、安心できて、心地好くて。千川さんみたいに頼もしくはないけれど、それでも、お母さんに包まれているようで、千川さんとは別の安心感があります。

 

 

 

「武内の奴、自分が矛盾してること言ってるの分かってんのか?」

 

「でも、武内さんはもう認められたみたいですね。少し羨ましいです。私たち芸能プロダクション業界の恩人である【真実を魅せる姫君】の内側に入れるのなんて、未だに圧倒的少数なのに…………。だけど、武内さんや千川さんだからこそ、内側に入れたのかもしれないですね」

 

「………はい。千川さんはとっくに認められたのに、武内P(プロデューサー)さんが内側に入れないで完敗ではと思い、危うく二人の仲を引き裂かなければならないかと思い冷や冷やしてました。今夜は秘蔵の獺祭で乾杯です♪」

 

「いつの間に来たんだよ………」

 

「武内P(プロデューサー)さんが来る前からです」

 

「それなら、早く宥めてくださいよぉ。………減給されなきゃ良いんですけど」

 

「そんなの、優が望むわきゃねぇからされねぇよ」

 

「その通りですよ、メグちゃん」

 

「その呼び方止めてくださいよ、先輩」

 

 段々と周りが騒がしくなり、この格好で居るのが恥ずかしくなってしまってきたのですが、武内さんが離してくれません。

 離れようと再度押しても、『グッ』と抱き寄せられてしまい、離れようにも離れられず遂には呼吸ができなくて意識が暖かくて心地の良い奈落に落ちてしまったのでした。

 

ーーユウの寝顔を見ながら少々お待ちくださいーー

 

 三途の川のような場所で優しい神様と再会して、今までのことを話ながら一緒にお茶を飲んでしばらく過ごしていると、神様が「また会いましょう」と言って手を此方に振ってきたと思ったら、美城本社にある特設医務室──通称【(姫様の)休憩室】にある、明らかにブランド物の最高級ベッドで寝かされてました。たまに疑問に思うのですが、社長室よりも豪華な個人専用の医務室って社内に設置するのは大丈夫なのでしょうか?もし、経費で落としていたのなら、流石のボクも怒らずにはいられません。

 この医務室には、監視カメラが窓や入り口、通気孔等、外部へ繋がる場所全てに仕掛けられて、他には四方の壁や天上、床だけを写して、室内は写さないようにプロの警備会社や角度等を計算する為の専門的な教授等を芸能プロダクションの殆ど総てがコネを使って子供みたいに大袈裟な計画を建てるという始末。そのせいで、ボクの胃には穴が開き、更に大きな騒ぎが起こってしまいました。

 ………神様、嬉しいのですが、少し自重してください。そうでないと、いつか必ず気が滅入って倒れてしまいますから…………

 

「この度は本当に申し訳ありませんでした!………危うく死なせてしまうところでした」

 

「いえ、懐かしい方に会えたので嬉しかったです。お花畑で小川を見ながらお茶を飲んで、色々とお話ししてましたので問題ありません」

 

「………本当に、申し訳ありませんでした」

 

 武内さんが、今度は優しく抱き締めて頭をを撫でてきました。擽ったくて、心地良いです。

 千川さんとは違い、包まれているような感覚になるのは、やはり、武内さんの身長のせいでしょうか?

 ですが、他にも違いが有りそうな気がします。性格でしょうか? 武内さんは真っ直ぐで優しく、正直な方ですが、千川さんは強くて優しく、男前な方なのです。

 普段は武内さんよりも柔和な感じですが、一度悪事を働けば、威圧で鎮圧し、それが効かないなら更に威圧し、最後は拳で鎮圧する方なのです。

 基本的には初撃で自白して反省しますが、たまに二撃目を放ちます。因みに、二撃目を放ったときは連続殺人事件の犯人と遭遇したときで、武内さんが居なければボクも犯人みたいにお漏らししながら震えながら縮こまって泣いていたかもしれませんでした。…………千川さんを怒らせるのは一生しないと誓いました。

 因みに、千川さんはダイヤモンドを砕いたことがあります。固定された電球位の大きさのダイヤモンドを素手で砕ければ、航空会社一社寄贈という大手航空会社が企画した番組に体調不良のボクの代わりに出たときがあり、そのときに正拳突きでダイヤモンドを粉々に砕いてしまい、大騒ぎになりました。その航空会社は、何故か名義がボクになっていたので問い質したところ「ユウくんの代わりに出たのですし、ユウくんにプレゼントですよ♪」とクリスマスプレゼントとなり、今では芸能プロダクション御用達の航空会社になってしまい、大手航空会社の社長が返還を土下座して懇願してしまった事件がありました。利益分配を6:4でその話を解決し、今でも芸能プロダクション御用達の航空会社として運営されています(利益分配の話は美城社長の秘書さんが代わりにしてくれました)。

 脱線した上に千川さんに怒られそうなので本題に戻ります。

 

「大丈夫です!武内さんはボクのことを思って抱き締めてくれたのですし、それに、ボクの方が謝ってお礼を言わなきゃいけなくて………」

 

「ですが!私のせいでユウさんは心臓が一時的とはいえ止まってしまいました…………」

 

 …………やっぱり、あの場所って三途の川だったんだ。

 

「ボクは大丈夫ですから、何時もみたいに前を見て確りとボクを導いてください。……いつもの武内さんが、ボクは好きなんですから」

 

「なっ!? ユウさん、貴方という人はどうしてこう誤解を生む言葉を言うんですか…………」

 

 ボクは、特に誤解が生まれるようなことは言ってない気がするのですが、ここははっきりと意思を示して誤解ではないことを説明しなくては、今後も変な誤解をされるかもしれません。

 だから、武内さんに確りと好き(※友愛)だと伝えなくてはなりませんね。

 

「いいえ、誤解ではないです。ボクは武内さんが好きですよ?」

 

「…………そうですか。私も、ユウさんのことは好ましく思います(※異性愛)」

 

 武内さんも、ボクのこと友達と思ってくれていて、しかも、好ましく思っているということは、今後も仲を深めれば、ずっと友達でいられますよね?

 

「そうですか♪ でしたら、今度どこかへ一緒にお出掛けしませんか?」

 

〈これはデートのお誘いなのでしょうか?しかし、もしそうならば楓さんが出てこないのは可笑しいですので、これはそのままの意味と受け取っても問題ありませんね。それに、例の件以来外に出るのを拒んでいたユウさんが、自分から外に出ると言い出したのですし、これを期に私たちから外へ誘ってみるのも悪くありませんね〉

 

 武内さんの返事が遅くて、とても不安になってきたのですが、やはり迷惑だったのでしょうか? もしそうなら────

 

「───すいません、考え事をしていました。先程のことですが、問題ありません。こちらの予定を確認し次第、ユウさんにお伝えするので、後程連絡します」

 

「ありがとうございます!一緒にお出掛けできるのを楽しみにしています♪」

 

 武内さんの返事を聞いて安心し、安心したら嬉しくなってとても大きな声を出してしまいました。普段の自分からは想像できないくらいの大きな声で、自分でも驚いてしまいました。

 ですが、武内さんとのお出掛けが今から楽しみになってしまい、もう既にワクワクして仕方がありません。

 そうですね、千川さんも誘ってみましょう!

 千川さんが言うには、休みは大抵家に要るとのことですし、武内さんにも聞いてみましょう。

 

「武内さん!千川さんも一緒に行っても大丈夫ですか?」

 

「はい。ちひろさんとは、此方で打ち合わせをするので、先程の通り、私から連絡させていただきます」

 

「はい!」

 

 千川さんとも一杯仲良くしたいです。

 だから、楽しんで貰えるような頑張ります!

 

 




主人公の容姿は

腰くらいまである艶々とした瑞々しい茅色の長髪・身長158.6cm・体重52.3kg・色白で張り艶がある肌・骨格が女性と殆ど同様(誤差の範囲内)・垂れ目が特徴の端正な顔立ち・私服は和装(青系統)を好む・年齢(本文時)19歳11ヶ月。以上

H29/11/27 文章を修正修正しました。
H29/21/29 本文を一部変更しました。


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転生したボクですが、温泉街の人通りが多すぎて辛いです

作品情報詳細を見たら、なんと!
お気に入りカウンターが101人に増えてました!!
さらに!
しおりをしてくださっている方が32人もいました!!
そして!!
作品評価をしていただいた6名様(日本兵様・速川渡(wテレビの人)様・酸化二水素様・クズ魔様・銀蠱様・ケチャップの伝道師様)方、本当にありがとうございます!
今後は更に技量を磨いて、優の可愛さを表現しきれるように邁進させていただきます!


 まだ肌寒い新春から、麗らかな気候の春となったこの日、ボクは武内さんと千川さんと共に変態さんが沢山居る都心部へと向かう筈でした。

 しかし、楓姉さんがお仕事を放り出して付いて来ると言い出してしまったので、楓姉さんをお仕事の現場へ連れて行き、そのままの流れで箱根で泊まることになりました。

 もちろん温泉旅館ですが、名目上は楓姉さんの付き添いという仕事名義になってしまったので、あまり遊べそうにありません。

 

 

 ────このとき、ボクは気付いていませんでした。このときに少しでも疑問に思っていれば、無理矢理にでも日帰りで帰れましたが、気が付いたときには既に取り返しが着かないことになってしまっていたのです。

 

 

「ユウにゆうっちゃいますが、あまりはしゃがないでくださいね♪」

 

「………はい」

 

 楓姉さんがそれを言いますか………

 楓姉さんが駄洒落を言うときは決まって機嫌が良いときなんです。常に駄洒落を言ってたのですが、その駄洒落があまりにも笑えないので、楓姉さんに控えるように言ってからは殆ど言わなくなりましたが、機嫌が良いときだけはいくら行っても直りませんでした。

 ですが、楓姉さんの機嫌の良し悪しがわかるので、駄洒落については諦めました。しかし、駄洒落のセンスについてはなにもフォローできません。

 

「多田D(ディレクター)。私たちは周辺の撮影許可をいただきに回っても良いでしょうか?」

 

「かまわんよ。姫様とそっちの女性連れて行ってきな。それと、蛙屋(かわずや)餅箔屋(もちはくや)の撮影許可はなるべく取ってきてくれ」

 

「わかりました」

 

 多田D(ディレクター)さんに武内さんが話し掛けに行ってますが、ボクは千川さんと一緒に温泉宿【泉ノ湯】の手続きをしに受付に来ています。ですが、母子二人と勘違いされてしまい、少々手間が掛かりましたが、三人と告げた途端に凄まじい程の悪寒を感じたのですが、何だったのでしょうか?

 

「ユウさん。チェックインを終えたら、温泉街を回りましょう」

 

「はい!」

 

 ボクは千川さんがチェックインを終えるのを、前世で好きだった『粉雪』を奏でながら、うずうずとした気持ちで待っていたのでした。

 

ーー足湯に浸かりながら少々お待ちくださいーー

 

 硫黄の匂いが立ち込める温泉街に来たのは良いのですが、人が多くて武内さんや千川さんとはぐれてしまいそうになります。しかし、この年になっても手を繋いでもらわなくては迷子になってしまうような失態は大人としても社会人としても犯すことが出来ません。

 

「あれ?た、武内さん?千川さん?」

 

 …………考えを基に奮起しようとしたら、いつの間にかはぐれてしまいました。

 ま、不味いです。すぐに人通りの多いところから離れなくては、もしボクが男性であるとバレてしまえば、最悪の場合拐われてしまいます。

 

「ねぇ。キミって男の娘よね?こんな人通りの少ないところに居るってことは、合意ってことで良いよね?答えは聞かないよ♪」

 

「い、いや!………来ないで、ください」

 

 茶色で短い髪の女性がボクにジリジリと近寄ってきて、ボクに手を伸ばしてきました。

 それに対して、反射的に手を弾いて後ろに下がった結果、コンクリートの壁にぶつかってしまいました。

 

「……そうだね。うん、嫌だ♪」

 

「いやぁ‥‥‥‥こないでぇ」

 

 茶髪の女性は、もう既にボクの服を半分ほど脱がし終えていて、ボクは怖くて力が入らず、抵抗らしい抵抗は何一つできずに初めてを散らされてしまうのですね…………

 い、嫌です! こんな初めてなんて嫌です!!

 

「…………たけうちさん、たすけて」

 

「はい!」

 

「いったぁ!?」

 

 『………もうダメです』。そう思って、一瞬の間脳裏に浮かんだ武内さんの姿に追い縋る思いで助けを呼んだら、武内さんの声が聞こえたと思ったら、目の前の女性が武内さんに取り押さえられていました。

 

「たけうち‥‥‥さん?」

 

「はい。もう大丈夫ですよ、ユウさん」

 

 先程は怖くて力が入らなかったのですが、今は安心して力が抜けました。

 

「あ、あれ?な、なんでですか!?」

 

「腰が抜けてしまってみたいですね。背負うので掴まってください」

 

 …………お恥ずかしい話ですが、腰が抜けてしまって立てなくなってしまったようです。

 おぶって貰うのは恥ずかしいですが、これ以上迷惑をかけるのは流石に嫌なので、言われた通りに確りと掴まって落ちないようにします。

 

「………いつも迷惑をかけて申し訳ありません」

 

「いえ、迷惑ではありません。ユウさんは我々(芸能業界)の恩人であり、我々(346)が支えるべき一員(社員)ですから。

 ただ、人が少ない所へ行ったのは感心できません。ユウさんは男性で、体が弱く力もあまり無いのですから、人目が少ない所で襲われてしまえば抵抗出来ることは劇的に少なくなります。はぐれてしまわれたのなら、電話を掛けてくだされば幾らでも対処が出来るのですから、今度からはその様にしていただければ、今回のことはこれでお仕舞いにします」

 

 ………確かに、ボクに出来ることと言えば大声を上げることと泣き叫ぶことくらいですから、人目が少ない所に行ってしまえば出来ることは殆どありませんね。

 それにしても、電話ですか…………いえ、持ってない訳ではありませんが、楓姉さんの番号と346本社の電話番号、後は仕事用の電話番号しか入っていないのですよね。良い機会ですし、武内さんにプライベート用の電話番号とメールアドレスを聞いてみましょう。

 

「あ、あの。武内さんの電話番号などを貰えませんか?まだ交換していなかったので、この機会に交換しませんか?」

 

「すいません。………電話番号を交換していなくては、連絡をしようにも出来ませんね。完全にこちらの不手際です。申し訳ありません」

 

「武内さんは悪くありません!………ボクが勝手に路地裏に入ったのが悪いんですから、武内さんは自分を攻めちゃダメですよ。ですから、今後のためにも連絡番号を交換しませんか?」

 

「わかりましたり。ちひろさんにも後で交換するように伝えておきます」

 

 武内さんはどうやってボクの居場所を見つけたのでしょうか?

 まさか、楓姉さんのように発信器を仕掛けていたりしませんよね?………ですが、武内さんになら何をされても構わないと思ってしまうようになったボクは、やっぱり、どこか可笑しくなってしまったのでしょうか?

 

 ───このとき、ボクは自分の心臓が『トクン‥‥‥トクン‥‥‥』と高鳴っていたのには気が付かず…………いえ、心臓が高鳴ってたのには気が付いていましたが、襲われたせいだと勘違いをしていました。ですが、この勘違いがなければ、武内さんとお付き合いすることは無かったのではないでしょうか?

 今となっては『もしかしたらの話』ですが、これからのボクが何を感じて、何を思っていたのかは、今はまだヒミツです。

 

 

 




サブタイトルが役に立たないのはいつものことですが、今回ばかりは役に立ったのではないでしょうか?


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転生したボクですが、346プロの職員がパパラッチ気質で辛いです

2017/12/1
短編部門のランキングで日間2位と週間4位に選ばれました!

評価してくださった

送検美茶様・天菊月様・形見様・日本兵様・速川渡(wTVの人)様・酸化二水素様・TOアキレス様・bram様・クズ魔様・ケチャップの伝道師様・ntsk様・hrau様・銀蠱様・箱男様・フリークスわん様

本当にありがとうございました。

現在の高垣楓の年齢は21歳です。高垣優姫とは1歳差になっています。
原作開始まで後4年ありますが、細々としたモノは省いていく予定です。まあ、それでもまだ暫くは原作に突入しないので、生温かい目線で優のことを見守ってください。

※3話に掲載していた容姿を一部変更しました。


 未だに腰が抜けて動けず、武内さんにおぶってもらっているのですが、武内さんにおぶってもらっていると、やっぱりお母さんのことを思い出してしまい、安心してしまいます。そのせいか、眠くなってしまい、意識が朦朧としてきました。

 

「~♪~~~~~♪~~♪~♪  ………あっ」

 

「少々愁哀の雰囲気がありますが、良いメロディではないでしょうか?」

 

 朦朧とした意識の中で、生前気に入っていた『もう恋なんてしない』のメロディーを奏でてしまったみたいですが、幸いなことに武内さんには好評みたいでした。

 しかし、武内さんはあの一部分だけで曲の雰囲気を感じ取るなんて、流石は武内さんです。

 最近アイドルとしてデビューした楓姉さんが初めての担当アイドルなんて信じられないくらいに優秀で、お仕事も下積み時代に築いた良好な人間関係によりすぐに取ってくるとのことですし、武内さんはすごいです。

 

「こちらM。姫様を襲った野蛮人の処理が終わりました。周囲の安全を確保し次第帰投します。本人の安全は武内Pが確保しているので、我らは邪魔物であると思われるます。なので、至急P(ポイント)αの安全確保に任務を変更します」

 

『こちらK。了解した。姫様が危険に晒されたのは我々の過失だ。今後姫様のガードをプライバシーを損害しない程度に強化しろ。本邸は会長がアリも這い出る隙間がないくらいの完全防御だが、外に出てしまえば姫様を守れるのは我々くらいだからな。だが、仕事を放り出して来たNとSは覚悟しろよ。会長から直々の説教が待ってるからな』

 

『『………………』』

 

 一瞬だけ、河住家長女でダンスレッスン担当の(ゆかり)さんと346プロダクションに所属している人気タレント、水守奈琴(みもりなこと)さんの声が聞こえた気がしたのですが、こんなところに奈琴が来ていたら大騒ぎになってしまうので勘違いだと思いますが、縁さんは今日は休暇を取っていたので、温泉に入りに来たのかもしれませんね。

 

「武内さん武内さん、蛙屋さんの温泉街限定で売り出されている蛙温泉饅頭が食べたいです」

 

「わかりました。蛙屋には元々用事がありましたし、千川さんとは蛙屋で合流しましょう。ユウさん、もう立てますか?」

 

 ………もしも、千川さんがボクを助けに来ていたら、先程の方は精神的に死んでしまっていたのではないでしょうか?

 千川さんは346の職員からは『鬼!悪魔!ちひろ!』と三大恐怖の代表格として挙げられています。ですが、ボクから言わせていただけるのなら、悪事を働かない限りは千川さんが鬼神になることはありません。普段の千川さんはおっとりとしていて、優しく包容力のある近所のお姉さんみたいな方です。だから、怖くなんてありませんよ。………ええ、怖いことなんてありませんとも。

 

「た、たぶん大丈夫です。………まだ少し怖いので、出来れば手を握ってくれませんか?」

 

「……………わかりました」

 

 武内さんの手は、女性らしい柔らかさと武道を修めているときに出来たと思われるマメの堅さを共に感じて、不思議な気持ちになります。……たぶんですが、これが安心感というのではないでしょうか?

 先程の恐怖が、武内さんと共に居るとゆっくりと解れていきます。武内さんと居ると、心が満たされるように温かくなって、幸せな気持ちになります。前世のコト(思い出)も、武内さんと居ると悲しい気持ちじゃなくなって、『ほわほわ』とした気持ちになってしまうのです。

 そんなことを考えていると、目的地まで後僅かになり、武内さんの手を思わず『キュッ』と握りしめてしまいました。

 武内さんはボクが握った手を痛くないけど、それでも少し強いと感じてしまうくらいの強さで握り返してくれて、安心して笑みが溢れてしました。

 

ーーユウの微笑みを観ながら少々お待ちくださいーー

 

 ボクと武内さんが訪れた蛙屋さんは、全国展開されている和菓子屋さんで、その中でも、蛙饅頭は数ある蛙屋さんの商品の中でも群を抜いて人気が高い商品なのです。

 そして、蛙屋さんの2号店(元々は本店)がある箱根の温泉街でのみ売り出されている『蛙温泉饅頭(かわずおんせんまんじゅう)』は、特別な製法で作られた皮と黄身餡で作ったお饅頭に、蛙屋さんの特徴と言えるデフォルメされたカエルの顔が焼き印されているのが特徴です。

 

「はぐれてしまってごめんなさい」

 

「ユウちゃん、頭を上げてください。私たちの方こそ、申し訳ありませんでした。私たちが付いていながら、ユウちゃんに怖い思いをさせてしまいました。それに、私は私で蛙温泉饅頭を沢山食べれたので」

 

 先に蛙屋さんに来ていた千川さんが頼んでいた『蛙温泉饅頭』の数は50皿(一皿2個)という、一人で消費するには多過ぎる数な筈なのです。………筈なのですが、ボクと武内さんが到着する頃には千川さんは既に50皿目を完食して玄米茶を飲んでました。

 千川さんの体は筋肉で構成されているという噂があり、どのような暴食を行おうと筋肉と胸筋(バスト)に吸収されてしまい、脂肪が付くことがないという噂があります。

 しかし、千川さんは実際に鍛えているのかどうかが怪しいくらいに女性的な体をしています。手やお腹も柔らかいですし、腕もぷにぷにです。力を入れてもらっても硬くなくて、柔らかいです。

 そのことから、ボクの中では美城プロダクションの七不思議に認定されています。

 

「あ、あの。蛙温泉饅頭と抹茶ミルクのホットをお願いします」

 

「かしこまりました。蛙温泉饅頭を1つと抹茶ミルクのホットが1つですね?」

 

「は、はい。………お願いします」

 

「では、少々お待ちください」

 

 外食なんて両手で数えられる程しかしたことがないので、やっぱり緊張します。確りと注文できたでしょうか?

 外泊もあまりしたことがないんですよね。したことがあるのは、楓姉さんと一緒か家族全員とでの外泊しかありませんから、誰かと外泊するのは武内さんや千川さんとが初めてです。

 そういえば、武内さんは何処へ行ったのでしょうか?千川さんは座って玄米茶を飲んでいますが、武内さんは見当たりません。もしかして、お手洗いでしょうか?

 

「おませしました。こちらが蛙温泉饅頭と抹茶ミルクのホットでございます。以上でよろしいですか?」

 

「はい」

 

「それでは、何かご用件がありましたらお近くの店員にお申し付けください」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

 やっぱり、何処かおかしいのでしょうか?

 どこのお店に行っても店員の人が微笑ましそうに視てくるのですが、ボクの対応は間違っているのでしょうか?

 ですが、普段から美城本社でしているように対応しているのですから、おかしいところはない筈なのですが………。

 ………あっ。お饅頭と抹茶ミルク美味しいです。

 

「お待たせしました」

 

「遅かったですね、(れん)ちゃん♪」

 

 武内さんの名前は、外見に似合わず可愛い名前です。ただ、武内さんは恥ずかしいから呼ばないで欲しいみたいなんですが、千川さんは武内さんのことをよく名前で呼んでいます。

 

「名前で呼ばないで戴けないでしょうか?」

 

「嫌なんですか?」

 

「嫌いと言うほどではないのですが、少し恥ずかしいです」

 

 このやり取りは美城本社ではよく見掛けるものです。

 ただ、武内さんは外見だけ見ればその手の業界(ヤクザ)の若頭に見えないこともなく、新人アイドルのスカウトでは、よく警察の方から職務質問を受けています。

 その対応を千川さんがこなすことが多く、その関係から、今のように親しい関係になったみたいです。

 そろそろお昼時ですし、お腹も減ってきましたからお昼御飯が食べたいですね。

 そうですね、お蕎麦が食べたいです。

 箱根の湧き水を使ったお蕎麦は絶品だと聞きました。ですから、武内さんや千川さんと一緒に食べたら、きっとすごく美味しいと思います。一人よりも皆で食べた方が、美味しいんです。一人で病院食を食べるのは味気がなかったですが、皆で食べるのは、とっても美味しいです。ですから、今度は楓姉さんも連れてご飯を食べに行きましょう。皆で楽しく食べれば、寂しさや不安なんて飛んでいきます。

 

 

 ボクは今、とっても幸せです。

 



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転生したボクですが、初めてお酒に誘わて嬉しいです!

 一週間前に温泉街へ行った以来、武内さんの側に居ると胸の奥が締め付けられるみたいに苦しいです。それに、心臓の鼓動が速くなって呼吸が乱れて『ボー』としてしまいます。ですが、その苦しさや息苦しさが心地好くて、安心してしまうのは何故なのでしょうか?

 もしかして、ボクはマゾヒストと言われる人達なのでしょうか?

 武内さんやちひろさんに聞いてみたらわかるでしょうか?

 

「あ、あの、ボクはマゾヒストなのでしょうか?」

 

「はぁ? ………(ちひろ、私はどう答えれば良いのでしょう?)」

 

「(いえ、私に聞かれても困りますよ? 恋ちゃんが思うがままに答えてあげればいいんじゃないですか?)」

 

 武内さんやちひろさんが顔を近づけて真剣に話しているのはわかるのですが、武内さんの顔とちひろさんの顔が近くにあるのを見ると、胸の奥が『チリチリ』と痛みます。でも、それとは別に温かい気持ちが胸の奥に流れてきます。

 

「そ、そうですね。例えユウさん被虐趣味を持っていたとしても、私は別段と険悪することはありません。それもユウさんを形作る大切な一つの要素だと思いますから、気にしなくても良いのではないでしょうか?」

 

「あぅ/// そ、そういうことではなくて、ですね。・・・たぶん。ええっと、武内さんの側に居ると胸の奥が締め付けられるみたいに苦しいんですが、その苦しさが………な、なんというか心地好くて、ですね。それで、ボクってマゾヒストって言われる人達なのかなって気になってですね………。どうなのでしょうか?」

 

「武内さん、此方へ(いったいナニヤったんですか? ユウちゃんの顔がまるっきり〝初めての恋に戸惑う乙女のソレ〟ですよ。いっそのこと責任取って堕としてから既成事実作ってお嫁さんにしたらどうですか?)」

 

「・・・・・はい(いえ、ちひろからしたら愉しいかもしれませんが、私からしたら様々な意味での危機ですよ!? ユウさんがアレを阻止したのは、大企業のトップや大国のトップは気付いてるんですからね!? ユウさん自身は完全に隠蔽していましたが、バレてるところにはバレてるので下手なことすれば私は複数の意味で死んでしまいます!! 知恵を貸してください、ちひろ!)」

 

「あ、あの! コレって病気じゃなですよね?」

 

「………そうですね。ユウちゃんの考えは間違っていません。それは確かに病気と言えます───」

 

 ボク、また皆に迷惑かけてしまうのでしょうか?

 

「ちひろ!」

 

「───ですが、その病気は幸せな人だけが患う病気です。確かに、今は理由もわからずに苦しくて、辛いかもしれませんが、その病気は悪い病気ではありません。むしろ、患った人を幸せにしてくれることがある尊い病気です。ですから、武内さんと一緒に治療していきましょう。私も手伝いますから、安心してください(お膳立てしたのですから、さっさと覚悟決めて自分に正直になってしまいなさい。漢になるんです、武内恋!)」

 

「ええ、私もユウさんの相方として最大限にお手伝いさせていただきます(ふざけないでください! そもそも、私はユウさんの上司であり、プロデューサーですよ!? 何よりも、楓さんに勝てる気がしません!)」

 

「あ、ありがとうございます。武内さん、今後とも末長くよろしくお願いします!」

 

 武内さんが真剣にボクのことを考えてくれてる。

 なんだろう。胸の奥が『ぽかぽか』した温かいなにかで満たされる感覚があって、とても、とても安心できて、心地好くて気持ちいい。

 ふにゃぁぁぁ////

 武内さんがボクの頭を撫でてくれてる。気持ちいい。何時までも撫でていてほしいなぁ。

 

「あっ・・・・・・」

 

「どうしましたか?」

 

「あ・・・・・・いえ、何でもないです・・・・」

 

 もっと撫でてほしい。もっと武内さんに触れてほしい。武内さんに触られると嬉しくて、安心できて、温かい気持ちになれるのに、武内さんは必要以上に触ってくれないから物足りなくて、寂しくて心細くなってしまいます。

 

・・・・・・武内さんにもっと触れてほしいです。武内さんに触れていると、温かくて、安心できて、胸の奥がぽかぽかしたなにかで満たされるのに、武内さんの手が離れると物足りなく感じて、寂しくて心細くなってしまっておかしくなりそうです・・・

 

「大丈夫ですか?(恋ちゃん、今の聞こえてましたよね? 真面目な話何ですが、今のこの娘を下手に放置してると大惨事が起きそうなんですが、どうしますか?)」

 

「ユウさん、今夜飲みに行きませんか? 折角二十歳になったのですから、少しくらいならユウさんでも飲めると思うのですが・・・・(私個人の感情で言えば物凄く嬉しいのですが、私の一存でどうこうする問題では無いでしょう。と、本来ならば言ってしまいたいのですが、ここまで一心に想われているのに答えないというのは不義理でしょう。この際ですから、腹を括らせてもらいます)」

 

「行ってみたいです!」

 

 お酒を飲むのは初めてなので、楽しみです!

 楓姉さんも瑞樹さんも美味しそうにお酒を飲んでいましたからどんな味なのか気になっていたんですが、楓姉さんにも瑞樹さんにもお酒は体に悪いから飲んじゃダメだって言ってましたけど、お医者様が言うには少しくらいなら大丈夫だっていう保証をいただけたのに、楓姉さんも瑞樹さんも過保護すぎじゃないでしょうか? ですが、それだけ心配してもらえるなんても大切にしてもらえているとわかってとても嬉しいです。

 

「では、蓬莱亭に行きましょう。あそこなら、ユウさんも気負わずに飲めるんじゃないでしょうか?」

 

「それが良いですね。それに、あそこはお酒も料理も種類も豊富ですし、味も確かなので大丈夫でしょう。ユウちゃんも蓬莱亭で大丈夫ですか?」

 

「ボクはあまり詳しくないので、お二人にお任せします」

 

―――この時のボクは、自分が酔っ払うと手が付けられなくなるほど悪酔いする打なんて思いもいもしませんでした。後日楓姉さんに聞きましたが、ボクが一度楓姉さんが買ってきたお酒を誤飲して酔っ払ってしまい、酷く荒れたみたいで、それを宥めるのに大変苦労した為にボクにはお酒を飲ませないようにしようということを楓姉さんと瑞樹さん達で気を付けていたというのが事の顛末ということでした。

 

 




友人に無茶振りした結果できた、優姫ちゃんをイメージした歌詞です。
本作中にだせるように、話を続けて生きたいです。
一応、歌の方もできてます(私自身が歌詞に合わせてやったので保証はありません)が、それは本作中に乗せたいと思います。
優姫ちゃんに歌ってもらいたいですので、時間を作って頑張って話を進めていきます。


儚い雪のように

〔第一歌詞〕

亡くした想い出は もう二度と戻らないけれど
新しく紡いでゆく想い出を 彩る宝物モノへと代わる
儚い雪のように 消えていく温もりを
忘れないように 心うちに秘めて
消して亡くさないように 新しく紡いでゆこう

〔第二歌詞〕

忘れた温もりは もう二度と想い出せないけれど
時が経って 今になって 変わりゆく想い出は
儚い雪のように 消えていく温もりを
無くさないように 手を繋いで
消して手放さないように 共に歩んでゆこう


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