あいえすって・・・まじで? (onekou)
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うーさぎうさぎーなにみてはねるー

どうもonekouでございます。

テンまじの方から来て頂いた方々はお久し振りでございます。そうではない方は初めまして。
随分間が開きましたが、とりあえずぽつぽつ投稿していきたいと思います。
年末なのもあって投稿もまちまちなのは変わらずだとは思いますが、書きたい部分だけでも書き切りたいと思います。

また、ご助言・感想などを頂ければ狂喜乱舞して永遠の刹那してでも書くかもしれないので是非よろしくお願いします。


 

 

 

 

 

「あぁ、どうして、何で、何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何でっ!!!!!!!!」

 

 ガシャンっと両の手から血がにじむのも厭わず、手のひらを叩き付けた者が叫ぶ。

 その声に含まれるのは単純な疑問ばかりではなく、世の不条理や嫌悪感、悲哀、絶望、憎悪、苦悩、様々な感情が綯交ぜになりつつドロドロと煮詰められていく。

 

「この無能共が!! 何故認めない!! 認めることができない!!? お前たちの玩具よりよっぽど高性能でしょう!!!?」

 

 遂には涙まで浮かべながら嘆く少女。

 彼女はただ認めてほしかっただけだ。

 自分たちの居場所が欲しかっただけだ。

 だがそれは、世間から見ればただの“子どもの我が儘”でしかなかった。

 少女は自分が見ている世界を共有する者が欲しかった。

 少女の唯一と言っていい友は、その弟共々居場所すらなかった。

 そんな彼女は、天才とも言えるその頭脳が故に、ならば作ればいいと、そう思いついた。

 だから少女は作り上げた。

 彼女の頭脳を以てしても長い時間が必要であった“ソレ”は、未だ調整が必要な部分もあるが現行のあらゆる電子機器を置き去りにするだけのスペックがあった。

 だが、大人たちは認めなかった。

 子どもの戯言だと、妄想だと、切って捨てた。

 少女はただ同じ夢を追いかける誰かが欲しかったのだ。

 認めてほしかったのだ。

 しかしそれも、大人の都合という勝手な言い分によって踏み砕かれた。

 

 

「私は、私はただ―――っ!!!」

 

 

 

 ――――果て度も無い空が見たかっただけなのに、悠久の空が見たかっただけなのに

 

 

 

 彼女の声ならぬ叫びは、ただただ部屋へと消えゆく。

 誰も聞く者は居ない。

 この部屋には少女しかいないのだから。

 でもそれでも、絶望の裏に確かにある“ヒト”というものへの期待が、その慟哭の裏で願いを吐き出す。

 

 

 

 

 ああ、どうか・・・・・・。

 どうか私に、私を、私たちを認めてくれる世界を下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっけー!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこれ……」

 

 俺、織斑一夏はそんなことを口に出さずにはいられない位に現在の状況を理解できずにいた。

 始まりは俺が受験会場で迷い、その挙句に別試験を行うためにISが置かれている場所に迷い込んだことからだった。

 

 インフィニット・ストラトス、通称IS。これは宇宙空間での活動を目的としたマルチフォームスーツだ。

 ISは宇宙進出を目的としたものだけあって、過去に在ったあらゆる機器を圧倒する性能を秘めている。

 人の身でありながら搭乗者の意志によって自由自在に空を舞えるのだ。

 制空権という言葉があるが、戦闘機以上の機動力を持つISは登場の瞬間に空の支配権を奪い去った。 

 宇宙空間においては極小さな礫ですら致死レベルの損傷を人に与える可能性があるのだ。その他諸々に対する防護面に関してもISは優れている。

 

 ともかくそのIS、それの有用性を理解した各国は本来の目的である宇宙への進出はさておいて、軍事技術として発展させた。現在進行形で発展して行っているの方が正しいだろうか。

 搭乗者の感覚を補助するハイパーセンサー。慣性制御を行うPIC。あらゆる被害をエネルギーの限り守るシールドバリアー。あとは死に直結する様なダメージから守ってくれる絶対防御なるものもあるらしい。

 当然そのどれもが宇宙進出における活動を補助するための機能であったが、世界はそれを軍事技術として有用であると判断した・・・・・・らしい。

 

 とはいえ、そのISにも一つだけ大きな欠陥があった。

 女性しかISに乗ることが出来ないのだ。

 その所為か世論は女尊男卑の時代へと変化している。酷い所だと、女性がそこらの男性を小間使いか何かの様に使う(・・)ほどだ。

 

 そんなISだが、ごく最近、男でありながらISを動かしてしまった男が居る。

 それが何を隠そう俺だ。いや隠せなかった結果がここに居る理由なんですがね。

 というのも、受験に行った会場ではISに関する試験も行われていたらしく、何をどう間違ったのか俺はそこに迷い込んだのだ。そしてそこでISを動かしてしまった。

 そこからは崖から転げ落ちるように、ISを男で唯一動かしたということが世界に知らされ、そしてここ、IS学園への入学が決まってしまった。

 ただ、待ってほしい。

 先に述べた通り、ISは女性しか動かせない筈なのだ。そして世界で二人目の男が俺だ。

 因みに一人目に関しては行方不明だし、公式情報はほぼ出回っていない。

 ぶっちゃけて言えば、この学園には俺しか男が居ないわけだ。

 まぁ結局何が言いたいかというと……。

 

 

 何 だ こ の 状 況 は。

 

 

 つまりまぁその辺りが俺が冒頭にてつい声に出してしまった理由の一つである。

 悪友の弾ならこの状況に歓喜するのかもしれないが、正直俺はこんな環境ごめんだ。家でも俺以外女な環境ではあったが比率がそれどころではない。

 40人近くが1クラスに居るんだが、残り全員が女性でそのほとんどがこちらを見ている。それも生半可な視線ではない。

 ついでに言えば俺の席はこのクラスにおいて中央前付近である。何この苛め。

 正直に言えばヘッドホンをして音楽を聞くふりをしながら机に突っ伏したい気分だ。しかし男としての矜持(プライド)がそれを許してくれない。

 プライドなんぞかなぐり捨ててしまいたいが、家に居る男より漢らしい、というか逞しい二人の姉の所為でこれだけは死守したい最後の一線である為それだけはできない。片方の姉には『いっくんって女子力高いよな』なんて言われて地味に涙した位だ。

 そんなわけで、徐々に削られていく精神力的何かを犠牲にしながら俺は普段なら絶対読みもしないクソ分厚い参考書を読むふりしてなんとか対面を保っている状況だ。

 これならまぁ突っ伏すよりもマシだろう。

 

 しかし、俺が困惑してしまった原因はもう一つあるのだ。

 それが横の席に居る女子の存在だ。

 

 雪のように白い髪、ルビーの様に紅い瞳。

 これだけでも各国から様々な人種が集まるこの学園でも目立つであろう特徴だがそれだけではない。

 シスコンと思われるかもしれないが美人な姉たちに囲まれて居た俺からしても綺麗の一言に尽きる整った容姿、モデルのような体型、纏う雰囲気も唯人ならぬものがある。

 とはいえこれだけでは綺麗な人だなぁで終わる。

 実際うちの姉の片方も似たようなカラーリングだ。ジャージ着てる残念姉だけど。

 兎も角問題は耳だ。耳なのだ。

 その一点に置いて、前座に置かれた容姿なぞ吹き飛ばして余りある衝撃がそこにはある。

 

 

 

 

 何でこの人は機械の耳をしてるのだろうか?

 

 

 

 

 いや待ってほしい。なにも頭を違えたとかいうわけではなく、文字通り機械の耳なのだ。

 本来人の耳が在る筈の部分に、三角形のSFチックな耳が生えている。

 チラリともう一度見る。

 うん、やっぱりアレ機械的な何かだよな? メタリックだし、時折薄ら光ってるし・・・・・・。

 コスプレ?

 そういえばこの学校は制服の改造が認められている。

 元々は各国の風習等に合わせて工夫できるようにという為の制度らしいが、チラリと見た感じではそれぞれが好き勝手お洒落に改造しているように見えた。

 お隣の子もその類いだろうか。

 でもなんでメカ?

 少し前にうちのうっかり姉の方が「メカっ娘はロマンあるよね」とか言っていたが、ひょっとして流行っているのだろうか。

 

 あ、ひょっとして何かの理由で耳に障害を負っていて、それを補助する機械だったりするんじゃなかろうか?

 その場合俺がこうやって興味本位でチラチラ見ているのはかなり失礼に当たるのではなかろうか?

 いかん、その場合とても申し訳ないぞ。

 かといって突然謝っても何だこいつはとなるのは確実だ。

 気にはなるがそこはクラスメイトとなる訳だし、その内知る機会もあるだろう。

 

 そう思い直し前へと視線を戻そうとし・・・・・・たが、件の少女がこちらを向き目が合った。

 とても気まずい。

 見ているのがバレたのだろうか?

 しかし目が合ってしまった以上、ここでいきなり視線を外すというのも不自然だろう。

 そうだ、こうなってしまえばお隣さんということで軽く挨拶をしてこの場は済ませてしまおう。

 うむ、これは中々良い案ではなかろうか。

 チラチラと見てしまっていたのは挨拶のタイミングを計っていたとでも言えばおかしくないだろうしな。

 

 そう思い口を開こうとしたところ、先に件の少女が声に出した。

 

 

 

「あの、あまり見ないでください気持ち悪いです」

 

「ごめんなさい」

 

 本当にごめんなさい。

 反射的に謝ってしまう。

 ジロジロと見ていた俺が悪かったです。

 でも無表情で言わないでくれ心に刺さる。

 

 自身の心臓部辺りにグサりと矢が刺さるのを幻視しながら項垂れるも、嫌なことに姉二人の御陰(所為)でメンタルはそれなりに強くなったのだ。

 故にすぐさま再起動した俺は下ろした視線をもどした。

 すると不思議なことに、目の前の少女はどうも困った表情をしていた。

 端的に言うならば言葉を間違えたと言ったところだろうか。

 いやでもいくら何でも間違えたといったレベルで出てくる単語ではないだろう。

 そう思いながらも何も言えずにいると、少女が唐突に頭を下げた。

 

「すみません。冗談のつもりでしたが上手くいかなかったようです」

 

「冗談だったのか!?」

 

「はい、母より人とのコミュニケーションには冗談を交えることが好ましいと言われておりますので」

 

 いやいやいや、初対面でいきなり鋭角な言葉を投げ掛けるのは冗談じゃなく喧嘩を売っているだけだと俺は思うのですが!?

 そもそも冗談だったとしても最初の一言目からというのは難易度が高すぎなのではなかろうか。

 

 あ、待てよ・・・・・・。

 

「それってさ、ひょっとすると冗談を言い合える仲になるのが好ましいって感じじゃないのか?」

 

「・・・・・・ああ、なるほど。それは興味深い意見です。御教授下さり感謝します」

 

「お、おう・・・・・・」

 

 変わらず無表情のまま再び頭を下げる少女に、思わず言葉が詰まる。

 悪気があったわけでもないだろうし、悪い子でもないのだろう。悪気が無ければいいって訳でもないのかもしれないが、俺は別に気にはしていない。

 ただ、今まで自分の周りに居た人達の中には居ない初めてのタイプだったもので少しばかりたじろいでしまった。

 

「・・・・・・?」

 

 俺が反応に困っていると首を傾げる少女。

 慌てて俺は反応を返す。

 

「あ、ごめん。ただ、どうにも今まで出会ったことのないタイプの子だなと思ってさ」

 

 俺の周りに居る人達は皆が皆、個性的だ。

 女なのにお姉さまと同性に呼ばれて慕われる姉1、どうにもやることなすことダイナミックな姉2、斬ればわかると言って憚らない幼なじみ1、謎が目の前に在れば改造か解体をしたがる幼なじみ1の姉、殴ればわかると言って憚らない幼なじみ2。

 うん、これ個性的ってレベルじゃない気がするぞ。

 というか比較対象が悪すぎる気がして来た。

 そんな中でこの子はとても静かな印象だ。

 周りの人達が“動”をその身で表したような人達ばっかりだったから、“静”をイメージさせるこの子は本当に新鮮に感じる。

 

 そんな風に感じていると、目の前の少女が微かに笑った。

 本当に少しばかり口角が上がっただけなので、見間違いかとも思ったが先程までの無表情具合と比較すれば確かに笑った。

 

「何だか嬉しそうだな」

 

「嬉しい・・・・・・、私がですか?」

 

「ああ、さっきからずっと無表情だったけどさ、今は何だか嬉しそうだ」

 

「私に感情は、いえ、どうでしょうか。ひょっとしたら嬉しいのかもしれませんが、よくわかりません。ただ、個性的だと言われたのは初めてです」

 

 そう言いながらも既に先程の笑みは消えていた。

 それに何とも不思議な言い回しだ。

 まるで端から感情は無いような言い方。

 確かにずっと無表情ではあったが、どう見ても普通の女の子だ。

 “普通”という定義には些かズレがあるかもしれないが、それでも女の子以外の何ものにも見えない。

 なのになぜ彼女はあんな言い回しを?

 

 そう頭の中で考えていると、彼女は突然入口の方へと目をやった。

 

「話は終わりにしましょう。どうやら教員が来たようです」

 

「きょういん?」

 

 一瞬何の事かと思ったが、そうこうする内に前の扉から女性が入って来た。

 その手には出席簿らしき薄い板。

 なるほど先生の事だったのかと納得する間にも、ふと疑問が出る。

 なぜ彼女は扉が開く前から先生が来ると分かったのだろうか?

 誰かが来るなら兎も角、先生だと確信していたのか。

 

 いや、これは考え過ぎだな。

 よくよく考えてみてもうちの姉も気配がどうとか言っていたりするし、彼女も実は何かしらの武術に精通しているのかもしれない。

 

 それよりも、もう先生が来たわけだから俺も前を向かないといけないだろう。

 一番前の席だというのに、俺が明後日の方向を向いていては色々と問題だ。

 

 先生が教壇に立つのに合わせて俺は身体を前へと向ける。

 チラリと最後に彼女の方を向けば、彼女もまた前方を注視していた。

 少しばかり気になる子だったが、どうせ暫くは隣の席だ。

 お隣さんの好みで、仲良くしてもらえるといいな。

 

 そう思いながら、俺は今にも泣きそうな先生の話へと耳を傾けるのだった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

短めではありますが、導入だし許してください。なんでもしま(ry
さておき、コウジュの次なる命題とPSPo2iにおける未だ触っていない部分とのコラボを考えましてISで暫く書きたいと思います。
色々と次に行く世界を書いて下さった方が居て本当にうれしかったです。
実際に書きたいなぁと思う世界も多数あったのでポチポチ書いていたりはしますが、未だ形にはなっていないので、一先ずできたISから行かせて頂こうかと思います。
色々ツッコミどころがあるとは思いますが、どうぞよろしくお願い致します。


>>P.S.
PSO2、FGO、スプラ2に加えアズレンもちょこちょこやり始めました。
ルルイエでKoujuが居たらたぶん私だと思います。


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虎子・E・白銀

どうもonekouでございます。

何だか久しぶりに筆が乗り、その結果先週出せずになってしまいましたorz
ま、まぁ、どうせonekouの事だから気まぐれを起こしたのだろうと皆さまは理解してくださっている筈・・・・・・(チラ

さておき、今回もどうぞ!


 

 

 

 

「納得がいきませんわ!!」

 

 そう声を大きくして言ったのは、セシリア・オルコットという少女であった。

 

「その様な選出は認められません!!」

 

 彼女が異議を唱えているのは、クラス代表の選出についてだ。

 何をクラス代表程度でそれほど声を張り上げねばならないのかと思うだろう。

 しかし、クラス代表という肩書はこの学園においては文字通りの意味だけにはとどまらない。

 

 通常の学校であれば、クラス代表・・・・・・つまりは学級委員というものは代表とは名ばかりの雑用係であり、押し付け合うのが定例であろう。

 名門校などになれば多少違うやもしれないが、生徒会長なら兎も角クラスの長程度では然程自慢できるものでもないだろう。

 だが、IS学園での“クラス代表”というものは世界各国が目にする代表なのだ。

 IS学園自体は日本にあるが、その各組には世界各国の様々な思惑の元に入学した生徒たちが居る。

 その“長”となるのだ。

 当然クラス代表ともなれば卒業後の進路は安泰、それどころか活躍如何によっては将来が約束されたも同じであろう。

 それだけ世界各国から注目される立場なのだ。

 

 だというのに、皆が担ぎ上げるのは“男”であるというただそれだけの織斑一夏だ。

 

 実際には何かしら隠しているものが有るのかもしれない。

 だが、先程セシリアが話した印象では“うだつの上がらないそこらに居る様な男”であった。

 学がある訳ではなく、身体は多少鍛えているだろうが部活動の範疇であろうと見て取れた。

 そんな人間をクラス代表にするのはリスクが高すぎる。

 確かに注目は集められよう。

 世界で二人目(・・・)の男性IS操縦者だ。

 しかしそれだけだ。

 現状出ているこの程度の情報では彼をクラス代表へと押し上げる理由にはなりはしない。

 

 それ以前に、セシリア・オルコットには自分こそが相応しいという自負もあった。

 自惚れではない。自信過剰なわけではない。

 そう思うだけの理由が彼女にはあった。

 

 “代表候補生”、それが彼女の立場だ。

 

 イギリスにおける代表候補生たる彼女は、文字通りイギリス国家代表の候補生である。

 しかし、候補とついてはいても十把一絡げに居るような存在ではない。

 現状存在するISコア、実に468。

 その内、開発企業や国家機関に所有され研究用や専用機に使われている145機を除けば、実戦配備されているコアの数は更に限られてくる。

 そんな数限りある中の一機を、セシリアは所持していた。 

 それこそが彼女の自負を支える証。

 否、選ばれし者であるという証左に他ならない。

 故に彼女は異議を唱えた。

 他薦でも構わないと担任が言ったとはいえ、物珍しさから男を選ぶなど言語道断だと。

 

 しかし、それを言われる側に立っている少年もまたセシリアの言葉に異を唱えた。

 

「さっきから黙って聞いてれば好き放題言ってくれるじゃないか。確かに俺はど素人も良い所だけど、そこまで言われても黙っているのは男が廃る!」

 

 小さい方の姉にISに関する知識を教えられているとはいえ、織斑一夏は素人に毛が生えた程度でしかない。

 彼自身それをよく分かっている。

 けれど彼は、言外に役に立たないと言われて黙っていられるような性格でも無かった。

 

 そんな一夏を見て、セシリアは少しばかりの笑みを浮かべる。

 嘲るようなものではなく、少しばかりの関心を含めて。

 

「あら、少しは気骨があるようですわね。けれど気合でどうこうなるものでもなくってよ」

 

「それは分かってる。代表候補生ってのも何となくだけど凄いのも分かった。だけどここで黙ってたら自分が情けなくて仕方がない」

 

「なら、どうしますの? 決闘でも致しますか?」

 

「ああ良いな分かりやすい。四の五の言っているよりは前向きだ」

 

 余裕を保ったまま笑むセシリアに、一夏は鋭い視線を向ける。

 

 一夏はISに乗れると分かってから比べられてきた。

 世界初の男性操縦者と。

 世界1位を取った織斑千冬―――自身の姉に次ぐ実力者とされている1人目の男性操縦者。そんな彼の素性はほぼほぼ知られていない。

 だがその狂戦士のごとき戦いぶりは皆の目に焼き付いている。

 それは一夏とて同じだ。

 そんな人と、一夏はどうしても比べられた。

 世間的に女尊男卑の風潮がどこかにはあるこの世界に於いて、男の代表となり得るかどうかを。

 

 

 

「はぁ、分かった分かった。ならばアリーナの使用を許可する。1週間後、ISでの模擬戦を行え。それ如何でクラス代表は決めろ」

 

 二人の興奮が冷めやらないとみて溜息を吐くのは織斑千冬、このクラスの担任だ。

 苗字からも分かるように一夏の姉でもある彼女は、かつて世界のトップにも立ったことがある。

 故に、一夏とセシリアは今からでもやるぞと言わんばかりの表情をしてはいるが、ブリュンヒルデと称賛されるそんな彼女に言われては、静かに頷くしかない。

 だが、次の言葉で驚きの声を上げる。

 

「ただし白銀(しろがね)、お前も参加しろ」

 

 誰だ? と誰もが疑問を持つ。

 しかし千冬が目を向けているからその正体はすぐにわかった。

 それは、つい先程一夏が話していた隣の少女であった。

 一夏は海外の留学生だと考えていたが、苗字らしき名前は完全に日本人のものだ。

 感性はすこしばかりずれている様に感じたが、きっと帰国子女なお嬢様か何かだろう、そう考えたところで―――、

 

「千冬、私は・・・・・・」

 

「織斑先生と呼べ」

 

 バシバシンっと音が響いた。

 

「燕返しは卑怯です」

 

「2閃程度の擬きでは卑怯も何もない。それで何だ?」

 

 突如行われた凶行。

 自身も良く味わったことのある出席簿アタックだ。

 何故か一夏には手で防いだのにすりぬけて少女の頭へと出席簿が振り下ろされたかに見えたが、見間違いかと目をこすっているうちにも、そんなやり取りなぞ無かったかのように隣の少女、白銀は続けた。

 

「織斑先生。私には参加する資格が無い。そもそも私は・・・・・・」

 

「黙れ、担任命令だ。お前のそれは専用機だ。それ以外の何ものでもない」

 

「しかし・・・・・・」

 

「しかしもかかしもない。やれ、その為に入学したのだろう?」

 

 千冬の言葉に逡巡する白銀。

 一夏が先程も見た無表情のままではあるが、明らかに戸惑っているのは見て取れた。

 なので一夏は参加できない理由でもあるのかと白銀へと聞こうとする。

 が、それを遮るようにセシリアが口を開いた。

 

「白銀さん・・・・・・と仰いましたね? あなたも専用機を持っているんですの?」

 

「所有しているかと聞かれれば確かに所有はしている。でも戦闘に向いてはいない」

 

 白銀の言葉にセシリアは怪訝な目を向ける。

 それは不思議な言い回しだったからだ。

 

 現在稼働しているISは、その殆どがIS戦闘を主としたスポーツを主軸に置いている。

 それでなくとも、各国に配備されているISは防衛戦力としての側面が強い。

 そうでないならば企業代表ということになるが、その場合IS学園へと態々持ち込む理由が薄い。

 ISとの同調率を上げるためならば学園に通う間も訓練に励めばいい。IS同士の戦闘経験を得たいのならばIS学園に来るのが手っ取り早いのかもしれないが、戦闘向けではないと言う。

 ならば、専用機を持ってこの場に居る理由とは?

 セシリアの疑問の答えをどうやら千冬は知っているようだが、易々と聞ける様子ではない。

 

 兎も角、セシリアは一夏に続いて白銀という少女にも興味が沸いてきた。

 目にするだけでもただ者ならぬ雰囲気を醸し出している。

 所作は丁寧であり、どこか気品がある。

 しかし、貴族位を持つ者独特の空気は無い。 

 不思議な違和感、それがセシリアに付き纏う。

 

 とはいえそれは今関係ない。

 セシリアがすべきことは自身の有用性を示し続けること。

 オルコット家当主たる己の有り様を貫き続けること。

 

「専用機を持っていることに変わりは無いのでしたら、あなたも壇上に上がるべきですわ。当然負けるつもりはありませんが」

 

「・・・・・・了承。私もやると決まったなら負ける気はありません」

 

 セシリアの挑発とも取れる言葉に、白銀は少しの逡巡後、何も映さない瞳をセシリアへと向けながらそう返した。

 

 そんな二人を見て千冬が静かに頷くと、授業を始めるために続けた。

 

「よし決まりだな。各自1週間後までに準備を怠るなよ」

 

『はい!』

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「いやぁ参った。運よく引き分けに持って行けたけど、向こうが完全に油断してくれていたからだし、ホントIS戦闘ってのを舐めてたよ」

 

「そうですか。私は見ていないのでわかりませんが」

 

「あ、そういえば公平を期すために虎子(・・)は別室待機だったか」

 

「そういうことです」

 

 虎子・E・白銀、それが彼女の名前だと聞いたのは、あの騒動から間もなくの事だった。

 お隣さんの好で始まった交友ではあったが、今では互いに友人だと言えるくらいにはなった。

 ・・・・・・なったと思う。

 いや何せ虎子は殆ど感情を表に出さない。

 面白いですと言いながら無表情、悲しいですと言いながら無表情。

 幼なじみの箒が何故かすごい剣幕で虎子を見たが、あまりの無表情さに箒が根負けしてオドオドしたくらいだ。

 そのあと二人でどこかに話しに行き、戻ってきた時には箒が心なしか嬉しそうにしていたがどういうことだろうか? 味方がどうとか箒は言っていたが・・・・・・。

 

 あ、箒というのは本名を篠ノ之箒という幼なじみで、小学校のころからの付き合いだ。

 中学校に上がる頃には家の事情とかで引っ越してしまいしばらく交流が途絶えていたのだが、小さい方の姉が何とかすると言い出して、その次の日に何故か家に居た。それからはちょくちょくとあったりしていて、中学校の友人たちと含めてでよく遊びにいったものだ。

 そんな箒は進学先を教えてくれなかったのだが、実は同じくIS学園へと入学していた。

 それもクラスメイトとしてだ。

 なんの偶然かと思ったが、まぁ知り合いが多いに越したことはない。

 

 まぁさておき、そんな虎子と箒とでここ一週間ほど訓練をして、ついには今日となった。

 クラス代表を決める為にISで戦う日だ。

 とはいっても俺の専用機『白式』が届いたのは今日のことで、習熟ができたとは言えない。

 この一週間は箒と剣道をしたり、虎子が予約してくれてあったISの練習機『打鉄(うちがね)』を使って少しばかり練習した程度だ。

 

 そして、その一週間の成果が出たかどうかだが、簡潔に言えばボロボロだ。

 相性が良かったというのもあるが、セシリアは手を抜いてくれていた。

 俺の搭乗時間を聞いて油断をしてくれたというのもあるが、引き分けることができたのは完全に運でしかない。

 あとは、虎子が機密情報ですがと教えてくれたセシリアの専用機『ブルー・ティアーズ』の特性を事前に知っていたのも大きい。

 なぜ虎子がそんなことを知っていたのかは謎だが、今回はそれに助けられたので何とも言えない。

 

 ああくそ、悔しいな。

 アレだけ大口を叩いたってのに運良く掠め取ったのが引き分けだ。

 そりゃISというものにどれだけ慣れているかというのも大いに関係あるだろうが、だからといって簡単に納得できるものではない。

 勝負は勝負だ。

 どれだけ不利な状況であろうと俺は当然勝ちに行った。

 無茶無謀は分かっている。

 でもここまでの差があるとは思わなかった。

 周りの人間からすれば負けて当然の試合かもしれない。

 けれど、やっぱり悔しいものは悔しいのだ。

 

 

 

「しかし、初戦闘で引き分けることが出来たというのは中々に優秀な成果ではないでしょうか。相手が油断をしていたとはいえ、代表候補生ですし」

 

 

 何とか明るく振る舞おうとしていた俺だが、やはり悔しさに途中から言葉がでなかった。

 そんな俺へと、突如虎子から声が掛かった。

 いつものごとく抑揚のない声だ。

 だが確かに、微かにだが温かい感情を感じた。

 

「何ですかジッと見て」

 

「えっと、慰めてくれたのかなって思ってさ」

 

「事実を述べたまでです。試合は直接見ていませんがこれは快挙と言えるでしょう。彼女の隙を突いたとはいえあなたは確かに必殺の剣を当てることが出来た」

 

 先程感じたものが気のせいだったのかと思うほどに淡々とそう告げる彼女。

 その姿はここ一週間程で慣れてしまったいつもの彼女だ。

 思わず俺は笑みを浮かべる。

 

「何ですか突然笑って」

 

「いや、何だか突然饒舌になったのが照れ隠しみたいに見えてさ」

 

「照れ隠しなどではありません。勘違いです」

 

「そっか、なら勘違いしておく」

 

「・・・・・・勝手にしてください」

 

 虎子はそう言いながらプイと顔を背け、そのままカタパルトへと向かった。

 

「次は私の番ですので、お早く退出を」

 

「え、でもお前・・・・・・」

 

 今の今まで気づいていなかったが、彼女は制服だった。

 IS搭乗時にはISスーツを着るのが基本だが、特に彼女はその準備をしていた様子は無い。

 それ以前に、よくよく考えてみれば先程までこのカタパルトデッキには数人姿が見えていたのだが、今は居ない。

 千冬姉や山田先生、それに箒の姿も無かった。

 

 何故だろうか・・・・・・と疑問に思っていると、コツコツと誰かが近づいてくるのが聞こえてきた。

 俺はそちらへと反射的に振り向く。

 

「何で虎子がISスーツを着ていないのか、何でここから人が居なくなったのか、それが疑問なんだろうイッチーは」

 

「コウ姉!?」

 

 振り向いた先に居たのは、まさかの人物であった。

 うちの小さい方の姉、コウジュ姉だ。

 姉、と言っても血のつながりは無い。

 だが、俺が小さい頃からずっと家に居るので、大きくなるまでは本当の姉だと思っていた。

 その姉が何故か作業着を着てそこに居た。

 

「どうかな虎子、行けそう?」

 

「起動自体に支障はありません。しかし、やはり私が戦闘というのは・・・・・・」

 

「前に言ったでしょ? 世の中には主武装がソレの女の子も居るんだって。それに何度も練習したじゃないか」

 

「母上がそう仰るのであれば、私に異論はありません」

 

 え?

 ちょっと待って、え、今の聞き間違いじゃないよなっ!?

 

「い、今母上って言った!?」

 

「言いましたが」

 

「言ったねぇ」

 

「ウェイト、ちょっと待って、え、コウ姉の子ども!?」

 

 いやホント待ってくれ、子ども? コウ姉の子ども? 

 あれでも結婚してたっけ?

 いやいやそれ以前に見た目が成人している様にすら見えないのに子ども!?

 確かにカラーリングは似ているなって思った。

 容姿が整っているのも一緒だ。

 だけど性格やら何やらが違い過ぎるんだけど!?

 というか母って呼ばれてるあんたの方が小さいけど!?

 

「あっはっは!! めっちゃ混乱してるよイッチー!!!」

 

 俺が混乱しているというのに、爆笑してるチビ姉。

 そんな姉へと、虎子が声を掛ける。

 

「母上、まだお話しされていなかったのですか?」

 

「アッハハハっ! ・・・・・・え? あ、うん。だってその方が面白いでしょ?」

 

「なるほど、母上が楽しむ為なら仕方がありませんね」

 

「その理屈はおかしい」

 

 コウ姉が言うことにすかさず頷く虎子。

 それに対して物申したいがそれ以前に、コウ姉に子どもが居たってことの方の驚きが増している。

 俺と虎子は同級生なわけだし、俺の家にずっと居たのにコウ姉には俺と同じ年の子どもが居たってことか?

 というか俺が小さなころからコウ姉は小さかったのに、そんな姉に子ども?

 

「まぁまぁイッチー、今は其れより虎子の準備をしないとなんだ。落ち着いたらまた話すって」

 

「ッ・・・・・・、分かった。絶対だからな」

 

 笑っていたのを止めてそう言うコウ姉の顔は、少し困り顔だった。

 さっきは面白いからなんて言っていたが、どうやら違うようだ。

 よくよく考えれば隠し事が超苦手な姉の事だ。何か事情があるに違いない。

 そう思い直し、俺は素直にコウ姉の言葉を了承した。

 そんな俺に申し訳なさそうな顔をするコウ姉。

 こうなっては深くは追及できまい。

 それに後で言うって言っているのだから、コウ姉はきっと言ってくれるだろう。

 嘘だけはつかない姉だからな。

 うっかり約束そのものを忘れてしまうことはあったけど・・・・・・。

 

 そして、自身の疑問が晴れるのか少しばかり心配になっているとどうやら時間になったようで、虎子がコウ姉へと声を掛けた。

 

「母上、そろそろ」

 

「あ、そうだね。準備しよっか」

 

「しかし一夏が」

 

「あー・・・・・・」

 

 俺がどうかしただろうか?

 

「まあ良いか。イッチーは家族だし、虎子とは兄弟みたいなものさ」

 

「母上がそう仰るのであれば異論はありません」

 

 ひょっとして、今この場に人が居ないのは人払いをしたからなのか? 

 そしてそれは勿論俺に見せるつもりも無かった?

 一体そこまで隠すものって?

 

「それではシステムを起動します。“換装”」

 

 俺の疑問もそこそこに、虎子が静かにそう告げる。

 途端、虎子の身体が光に包まれた。

 

「システムオールグリーン。問題はありません」

 

 虎子がそう告げた時には光が収まっていた。

 そして現れたのは、まさしくISを纏った虎子の姿。

 少しばかり俺が知るISに比べて細身な感じがするが、それを補って余りある2つの大きな盾が彼女の傍に浮遊していた。

 そして何よりも目を引くのがその色合いだ。

 白銀の装甲に、黒い縞模様。

 それはとあるISを彷彿とさせた。

 

「おっけぃ。俺の方でも見てみるよ」

 

 その虎子へと、今度はコウ姉が近づく。

 

「トレース・オン」

 

 そしてコウ姉は虎子の背中へと手を当て、何かを呟き目を瞑った。

 一体何をしているんだ?

 そう疑問を持つ間もなく、コウ姉は再び目を開き手を放した。

 

「うん、問題なさそうだ。折角の晴れ舞台、楽しんでおいで」

 

「はい母上」

 

 虎子は返事をするなり、カタパルトへと乗り飛びだした。

 

 

 

 

 

 

「さぁてイッチー。秘密の共有と行こうか」

 

 

 

 その声に、少しばかり嫌な予感がした。




いかがだったでしょうか?

色々と詰め込みたいものを詰め込んでいますが、その結果化k気が薄くなってしまっているキャラたちが居るのはごめんなさい<(_ _)>
ファース党の方とかほんとごめんなさい。
その内活躍してくれるから!

さておき、謎の美少女の正体ですが、実はコウジュの娘だったんだよ!ΩΩΩ<ナ、ナンダッテー!?
というのもさておき、この虎子こそがこの短編の主人公となります。
コウジュはおまけなんです。
なので最後の方でやたらと濃い存在が出てきたかもしれませんがスルーしちゃってください。

さてさて、それでは今回はこの辺りで。
皆様また次回もお会い出来れば幸いです!
では!!


P.S.
アビーちゃん可愛いですねよね!これで実装してくれなかったら発狂していましたよ。皆さま戦績の方はいかがですか? それとも実装が決定したエレシュキガルちゃんに置いてますか? 


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顕現せよ!

どうもonekouでございます。

月1更新位になってしまっていますね、もう少し早く更新したいところ・・・。
まぁそれはさておき次話になります。
どうぞ!


 

 

 

「そのカラーリング、それがどういう意味か分かっておいでですの?」

 

 セシリアはそう問いながら、目前まで来て浮遊する少女を見た。

 搭乗者は虎子・E・白銀と名乗った少女。

 それは別に構わない。

 問題はその搭乗機だ。

 両側前面に巨大な盾のような物を装備し、装着者自身は鎧の様な様相だ。非固定浮遊部位(アンロックユニット)はこれまた小さな盾が連なっているような物になっており、全体的な印象は強固。

 さておき、それもまた別に構わない。

 セシリアが何よりも気になるのはその色だ。

 いや、セシリアだけではない。

 そのISを見た者全てが、懐疑の目を向けている。

 それほどの意味があった。

 

 虎子のISの色は白銀。そこへ黒い縞模様。

 “銀虎”と、世間一般で呼ばれている()を思わせる色合いだ。 

 

 それは一種の禁忌(タブー)であった。

 憧れるのは良い、崇拝するのも構わない、だが、真似だけは誰も許されなかった。

 いや、出来なかった。

 その色合いにしたISの事如くが、起動し続けることができなくなったのだ。

 どんなオカルト話だと、誰もが最初は笑った。

 何かの間違いだと、誰もが笑った。

 偶然だと、誰かが嘲笑った。

 だがそれもすぐに事実だと知れ渡る。

 科学者が、有識者が、専門家達が、その不可解(オカルト)を解決しようと挑戦するも敗れ去り、ただ出来ないという事実だけが結局残ったのだ。

 そうなると困るのは圧倒的自信を基にその謎を解き明かそうとした各権威達だ。

 テレビで雑誌で、様々なメディアを始めとした場所で己の威信を掛けて知識を披露してきたその威光が瓦解してしまう。

 一人や二人ならばまだ良い。その時代の流行り廃りに飲まれた程度で済まされるだろう。

 しかしあまりにもその人数が多かったため、その謎はオカルトのまま捨て置かれた。

 まるで触らぬ神に祟りなしとでも言うかの如く。

 そうしなければ解き明かす者としての力を保てなかったのだ。

 

 斯くして出来上がったのが“禁忌”であった。

 曰く、『白銀の虎には誰も成るな』と。

 

 とはいえ、対外的には名だたる科学者も挑戦して解明できなかった謎の一つでしかないオカルト話だ。

 セシリアも勿論その話は知っているが、噂されている様に、銀虎を模したものには天罰が下るとしか知らされていない。

 故に目の前に居る“銀虎”に眉を顰める。

 

 少女の立ち居振る舞いからしてそのISを使い始めてすぐという様子は無かった。

 寧ろ慣れた様子で滑らかに操縦しているのが見て取れる。

 ならばあの噂は所詮オカルトであったのか?

 そう言った意味も含めての目線であったが、その答えは思わぬ形で帰ってくることになる。

 

「当然です。これは母から譲り受けたモノですので」

 

「貴女のお母さまですか?」

 

 セシリアの言葉に、虎子はピクリとも感情を動かさずそう告げる。

 そして逆に、キョトンとした表情をセシリアはした。

 突如母、と言われてもピンと来るはずもない。

 “白銀”という苗字で特別有名な技師が居るとは聞いたことも無い。

 だがその答えは先のものも含めて、出た名前によって氷解した。

  

 

「ええ、コウジュスフィール・フォン・アインツベルン。それが母の名前です」

 

「っ!? ・・・・・・魔女(ウィッチ)の娘に、搭乗機は直々に手掛けたISとは、参りましたわね」

 

 

 誰が呼びだしたか魔女(ウィッチ)と呼ばれるのがコウジュスフィール・フォン・アインツベルンと呼ばれる、見た目は少女の女性だ。

 名前からしてドイツ籍のようだが、ドイツ本国にはその様な人間が居た形跡は皆無だ。否、データはあるがそれ以外の痕跡が無いという不思議な経歴を持つ。

 しかしそれだけではない。

 彼女がそう呼ばれるのは他にも理由がある。

 

 彼女は特別技師としての腕が良い訳でも、どこぞの天災の様な頭脳をしている訳でもない。

 ただ、ISの調整に関して右に出る者は居ないと言われているのだ。

 しかもただ触れるだけで、そのISの不備を見抜くと言われている。

 生憎とIS適正は無いのか、ISの搭乗だけは出来ないとも言われているが、整備士として重宝されている。

 更に言えば、彼女の名を誰もが知る要因がある。

 それが“世界初の男性IS操縦者専属技師”という肩書き。

 世界初の男性IS操縦者が操るIS、銀虎とも呼ばれるそのISを生み出したのも彼女とされている。

 ついでに言えば、未だ謎に包まれるその男性操縦者について詳しく知る人物の一人ともされている。

 彼女を残し気付けば姿を消すその男性操縦者、それもあって不可解な部分が多すぎるその少女を指していつしか魔女と呼ぶようになった。

 

 そんな魔女の娘だと言う目の前の少女に、セシリアは常に無い驚きを見せた。

 何せあの魔女に娘が居たということにも驚きだが、銀虎が受け継がれていることにも驚きだ。

 ただ口にされただけならば虚言だと断じることもできるだろうが、銀虎に乗り、魔女と似た容姿をしていればそれも出来ない。

 

 しかしセシリアとて矜持がある。

 銀虎に乗り、魔女の娘だと名乗られようとも負けるわけにはいかないのだ。

 

「正直に言って驚きました。しかし、(わたくし)にも容易には負けられない理由があります」

 

「同じく。前にも言いましたがやるとなれば負ける気はありません」

 

「上等ですわ」

 

 二人は互いに目線を交わしながら、それぞれの武器を握る手に力を入れる。

 

 セシリアが構えるのは2mはある砲塔。

 スターライトmkⅢという名のそれは、高出力のレーザーライフルだ。

 巨大な分その取り回しは難しいだろうが、逆に言えば当たってしまえば忽ちにシールドエネルギーは削られ敗北を喫するであろうことは想像に難くない。

 

 虎子が両の手それぞれで構えるのは、先程まで非固定浮遊部位として肩辺りに浮いていた巨大な二つの盾だ。

 持ち手が先端部に在り、その部分には覆いもあることから唯の盾ではなく籠手としての役目もあることが分かる。

 その見るからに重々しいそれを、軽く持ち上げながらも力強く構えていた。

 

 

「遠距離射撃型の私に足して、近距離格闘型。どこまでも魔女が産みだした銀虎を真似ますか」

 

「猿真似ではないことを証明いたしましょう。とはいえ、そもそもが(・・・・・)勝負にならない(・・・・・・・)と思われますが」

 

「・・・・・・言いましたわね?」

 

 

 

 

 

 そして、開始の合図が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

「先ずは小手調べですわ」

 

 先に動いたのはセシリアであった。

 スターライトmkⅢの砲塔が輝き、光が溢れ出す。

 偽りなく光速で撃ち出されるレーザー。

 それに対して虎子は右の盾を前に出し―――、

 

 

 ―――殴るように拳をぶつけて反らした。

 

 

「なんて出鱈目・・・・・・」

 

「生憎と防ぐしか能がありませんので」

 

 

 遅れて、ドバンっと反れたレーザーが観客席を守るためのレーザー障壁へとぶつかり霧散する。

 それを目にし、セシリアの頬が僅かに引き攣る。

 

 しかし彼女とて幾つもの戦いを既に経験した身。

 すぐさま思考を呼び戻し、照準を新たに向け直す。

 

「ならばこうですわ!!!」

 

 狙いを定めると同時の速射。

 さらに今回はそれだけにとどまらず、続けて第2、第3と撃ち続ける。

 

「無駄です」

 

 しかしそれもやはりというべきか、全てが防がれ、反らされていく。

 

 セシリアが少しばかり表情を険しくする。 

 彼女とて、ただ単に照準を合わせている訳ではない。

 幾ら虎子が持つ盾が巨大だとはいえ、隙間がある。

 それを狙って撃っている。

 時には、先の一射を囮とし、2射目を当てに行くような撃ち方などもしている。

 しかしその全てが効果を及ぼしているようには見えなかった。

 

 

「奥の手などと言っている場合では無さそうですわね」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「さぁてイッチー。秘密の共有と行こうか」

 

 そう、ニヤリと笑うコウ姉。

 頭の中で警鐘を俺の感が鳴らす。

 というのも、こういう顔をしている時のコウ姉には近づかないのが吉なのだ。

 ぶっちゃけて言えば碌な目に遭ったことがない。

 

 一番新しい記憶では、箒の姉である束さんと開発した薬の実験台になった時だ。

 最初の説明では一時的に体の成長を弄るとかなんとか説明されたのだが、実際に飲んでみると俺の見た目は千冬姉に似た姿へと変わっていた。ストレートに言えば女になった。

 ほんともう意味が分からなかった。

 効果は30分程であったが、まるで自分が千冬姉になったかのようで、妙な背徳感があった。

 そのあとコウ姉と束さんは千冬姉にぶん殴られていたが、何故か千冬姉が私にも見せろなんて言ってきて困ったのはついこの前のことだ。

 

 ともかく、そんな感じに良いことに繋がったことが無い時の笑顔をコウ姉はしている。

 

「虎子の学校での様子はどうだい?」

 

「様子?」

 

 ・・・・・・と思っていたのだが、聞かれたことは普通に母親がするような質問であった。

 無意識に"ような"と着けてしまったあたり女々しい自分が嫌になるがそんなことよりも、なぜそんなことを聞くかだ。

 

「本人から聞いたりはしないのか? 見た感じ仲は悪くないと思うんだけど」

 

 俺の言葉にコウ姉が頬を掻き苦笑する。

 

「悪くは無いと思うんよ。でも、教えてくれることが全部堅い内容でな。こんな授業を受けただとか、こんな昼食だったとか、ぶっちゃけ定時連絡というか・・・・・・」

 

「あー」

 

 普段の虎子の様子からしてそれが容易に思い浮かぶので困る。 

 クラスではお隣さんなので休み時間などに話したりするのだが、誰と話す時でも固い印象だ。

 今では俺も慣れたものだが、最初は随分と戸惑った。

 何というか、話すことに慣れていないと言うべきか?

 基本的にテストの例題みたいな定型文で帰ってくることが多い。

 疑問に対して真っすぐに帰って来るから分かりやすくはあるのだが、言い方を変えれば歯に衣着せぬ言葉である。

 それが苦手に感じてしまっているクラスメイトも居るようだが、今となっては慣れてしまった。

 にしても、それがまさか母親相手でもそうだとは・・・・・・。

 

「ってそれより虎子がコウ姉の娘ってどういうことなんだよ!? 旦那さんが居たのか!?」

 

 もしそうなら何故俺に教えてくれなかったんだ。

 千冬姉は知っているのだろうか?

 俺だけが知らなかった?

 教えられない理由があった? 

 

 何とも言えない悔しさと寂寥感。

 それが俺を支配する。

 

 そんな俺を見て、何故かコウ姉が優しく笑みを浮かべる。

 そしてそのまま近づいてきて背伸びをし―――、

 

 ―――ポンポン。

 

 俺の頭を撫でた。

 

「な、え?」

 

「あのなぁイッチー。シスコンも程々にしなよ」

 

「今の流れでどうしてその反応!?」

 

「くふふ、俺もよく言われるがイッチーも中々顔に出過ぎだよ」

 

 俺の頭を撫でるのを止めたコウ姉は口元へと手を持っていき、静かに笑う。

 

「どうせ『俺だけ仲間外れだったのか?』とか思ったくちでしょ?」

 

「ち、ちが・・・・・・」

 

 言い当てられたのがどこか恥ずかしくて、つい否定してしまう。

 これでは本当にシスコンみたいではないか。

 いや、家族は大事だと思う。

 ただそれだけだ。

 しかしその当の姉にはいはい分かってますよ的に笑われてしまえば恥ずかしさは増す一方だ。

 

「まぁ安心しなよイッチー。イッチーに内緒で実は裏で結婚していたとかではないから。そもそも俺はずっとイッチー達と暮らしていたでしょうが。自分で言うのもなんだけど、隠し事超苦手なんだよ俺。知ってるでしょ?」

 

「確かに」

 

「・・・・・・これで納得されるのは微妙に複雑だわ」

 

 なんて言いながら落ち込むコウ姉だが、先程自分自身でも考えたように、実際にコウ姉は千冬姉以上に隠し事がかなり苦手だ。

 もうワザとやってるんじゃないかというぐらいに隠し事をした時はボロを出す。

 目線を反らす。噛む。挙動不審。いつもよりうっかり具合が増す。

 これで気づかない方がおかしいというレベルである。 

 まぁ何よりも、性格的にそういった大事なことを内緒にする人ではない。

 ずっと一緒だった家族なのだから、それ位は分かるつもりだ。

 

 ただ一つ気になることがある。

 

「でもさっき虎子には黙ってた方が面白いからとか言ってたよな? アレも何か理由があるのか?」

 

 俺がそう言うと、不貞腐れるように唇をコウ姉は尖らせた。

 

「ぐぬ、こんな時だけは勘が良いんだからイッチーは」

 

「茶化すなよコウ姉」

 

 そんなコウ姉を俺は真っすぐ見る。

 今のタイミングで茶化すのはあまりにもらしくない。

 家族として過ごしてきた故の勘でしかないが、違和感があったのだ。

 ただ、誤魔化そうとしているというよりは、まだ踏ん切りが付かないという様子だった。

 

 俺がジッと見ていると、降参とでもいう様にコウ姉は両手を上げ、一つ溜息を吐いた後に口を開いた。

 

「・・・・・・だな、ごめん。お察しだろうが何処まで言うべきか悩んでるんだ。ただまぁさっきのについての答えは単純で、あの子にはその理由で俺が言えなかったって思っていてほしいからさ。あの子、自分では分かってないつもりだろうけど、自分が誰かに伝えにくい存在だっていうのを結構気にする方だからさ」

 

「虎子が?」

 

「そうだよ。あの子だって女の子で、まだまだ未熟な子どもだ。感情の整理が下手なだけでね」

 

 寂しそうに、コウ姉がそう言う。

 その姿は紛れもなく子を心配する母の姿であろう。

 まったく、先程からどうも姉から母性を感じて困る。

 ついぞ“母”というものを知らずに育ったわけだが、まさか姉からそれを感じることになるとは夢にも思わなかった。

 

 とはいえ、だ。

 今重要なのはそこじゃない。

 問題は先程コウ姉が言った"虎子の存在は他者に伝えにくい存在である"という部分だ。

 

 推測は、出来る。

 

 コウ姉は世界初の男性IS操縦者のメカニックだ。

 そしてその存在に一番近い存在だとも言われている。

 更に言えば、その操縦者もコウ姉も、そして虎子も銀髪に紅眼だ。

 そこに関連性を見いだすなという方が難しいだろう。

 しかしコウ姉は、結婚していないと言った。

 つまりは見た目に関しては偶然で、養子ということになるのだと思う。

 

「ひょっとしてだけど、虎子はコウ姉の養子に当たるのか?」

 

「おおぅ、どうしたイッチー、今日はやけに冴えてるね・・・・・・っと、茶化すのは無しだったな。どうも真面目な話に慣れなくていけねぇや」

 

 ガシガシと、粗野に頭をかきながら苦笑するコウ姉。

 しかしそれもすぐに真剣な表情へと変わった。

 

「正解だよ。詳しくは言えないんだが、あの子の生まれはちょいとばかし特殊でね。それにあの見た目もあるから大っぴらには紹介できなかったんだよ」

 

「見た目ってのはやっぱり・・・・・・」

 

「まぁあれだけ似ていて邪推するなって方が無理だろうさ。俺自身は別に構わないんだが、あの子がどうもそれを気にしていてな。自分の所為で俺に悪評が立つのが許せないって。そんなもの幾ら言われようが、あの子が俺の娘であることに変わりは無いんだけどねぇ」

 

 寂しそうに、だけどもどこか嬉しそうに、そう口にするコウ姉。

 今日は幾つもコウ姉の見たことが無い顔が見れている気がする。

 そっか、コウ姉はこんな顔もするのか。

 なんだかほっこりとした温かい感情が生まれる。

 

 そんな俺はさておき、コウ姉は続ける。

 

「ま、なんとか説得して、治外法権扱いのここでなら気にせずあの子ものびのびできるだろうからって入学させたのが顛末だ。イッチーにはもっと早く紹介しても良かったんだけど、色々立て込んでいてな。あの子の調整もあったし」

 

「調整?」

 

 その言い回しに少し違和感があった。

 時間の調整という意味かとも思ったが、どうやら違うらしい。

 何故分かったかというと、目の前のうっかり姉がしまったという顔をしているからだ。

 つまりその言葉には、意味があるのだ。

 ふと口にした言葉であったが、きっとそれこそが虎子を知るための道しるべなのだろうと直感的に感じた。

 

「ひょっとしてあの耳?」

 

 虎子がいつも付けている機械の耳。

 それが脳裏をよぎった。

 初めて彼女を見た時、その芸術品とも思える美しさとは別にどうしても目を引いてしまったのがあの耳だ。

 言い方は悪いが、あの耳だけがどうにも異質であった。

 別に異様だとは思えない。

 ただ、違和感だけがあった。

 あの耳は耳でメタリックな質感でありつつも時折走る光のラインがかっこよく見える。

 しかし良い物と良い物をちゃんぽんしても良い物が出来るとは限らないというか、どこかずれを感じるのだ。

 今では慣れたものだが、それでもあの耳には目が行ってしまう。

 

「ああ、アレね。別にアレは関係ないよ。外せるし」

 

「外せるのか!?」

 

 驚愕の真実だった。

 どの授業であろうとも頑なに外そうとせず、そして誰にも触れさせないあの耳が実は外せるだなんて。

 のほほんさんがジーっと見ていても微動だにせず、あののほほんさんが逆に気後れしてしまうあの耳が・・・・・・。

 

 でも、ならば調整とはどういう意味になるのだろうか?

 そんな思いでコウ姉を見るも、あーとかうーとか言うばかりで話が進みそうにない。

 驚くだろう? これで成人してるんだぜこの姉。

 

 とはいえ、だ。

 見た限りこれ以上は流石に踏み込むべきではないことのように思える。

 どういう内容かは分からないが、恐らくコウ姉は言うべきではないと考えての事だろう。

 それにきっと、虎子が居る場所で聞いた方が良い気がした。

 

「良いよコウ姉。コウ姉が話せるようになった時、それと虎子が居る時にでもまた聞かせてくれ」

 

「・・・・・・良いのかい?」

 

「良いも何も、言えることならもう言ってるだろう? ごめん、こちらこそ聞き過ぎた。多分だけど虎子の居ない場所で言うのはどうかとかその辺を考えてなんだろうし」

 

 そう言うと、コウ姉は驚いた顔でこちらを見た。

 

「何だよコウ姉」

 

「エスパーだったのかイッチー・・・・・・」

 

「違う違う。誰かに言われたことない? 俺もよく言われるんだけど、考えていることが顔に出過ぎだって」

 

「ぐぬ、意趣返しかイッチー」

 

「はっはっは、そんな怖いこと出来ないって」

 

 俺が乾いた声でそういうと、コウ姉は溜息を一つ。

 

「はぁ、悪いね。これに関しては俺だけの問題じゃないんだ。俺にも俺の責任があるからさ」

 

「分かった。待ってる。それまで俺も気にしないようにするさ」

 

 俺が笑みを浮かべてそう言うと、コウ姉はジトーっとした目で俺を見た。

 そしてくるッと俺に背を向けた。

 

「・・・・・・この女ったらし」

 

「何でその評価が出てくるんだ!?」

 

 背を向けたコウ姉からボソッとその様な評価を貰ってしまった。

 思わず反論するが、再びこちらを向いたコウ姉は満面の笑みを浮かべていた。

 

「ま、感謝するってことだよイッチー。さすがは俺の弟だ」

 

 その笑みに、俺はもう何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

「行きなさいブルー・ティアーズ!!!」

 

 セシリアが叫ぶと同時、背後のスラスターのように見えた非固定部位が4つセシリアから離れ、虎子へと迫る。

 それを見て虎子は表情には何も出さず思考する。

 

 セシリア・オルコットが今放ったのは俗に言うビット兵器というものだ。

 それ自体は事前に情報を得ており、驚きは特にない。

 だから今まさに自身を包囲しつつその方向を輝かせていることにも驚きは無い。

 

「ふっ」

 

 ビット兵器から放たれたレーザーを右の盾で弾く。

 しかしそうすることで開いた隙間へと、次のレーザーが迫る。

 問題は無い。

 

「武装、展開します」

 

 ガコンと、右の盾が開く。

 

「な!?」

 

 セシリアが驚くのも無理はない。

 虎子が持つ右の盾、その表面が中心から開き、中から白く透き通った宝玉のような物が見えるようになった。

 それが起こると同時、セシリアのレーザーが虎子へと当たる。

 その場所には幾ら盾が開いたとはいえ装甲の無い場所だ。

 これで一手進んだとセシリアは思った。

 しかし、そうはならなかった。

 レーザーが当たると思われた瞬間、半透明の膜のような物が現れレーザーが霧散したのだ。

 

「言った筈です。守るしか能が無いと。この武装のテーマは“要塞”。何ものもこの盾を通しはしません」

 

 盾が閉じ、再び元の姿へと戻る虎子の武装。

 その姿は威風堂々としたものであり、一瞬ではあるがセシリアは気圧される。

 盾を貫くイメージが出来なかったのだ。

 撃ち放った弾丸は既に無数。

 当然セシリアの機体とて撃てば撃つだけエネルギーは消費し、自身の敗北は近くなる。

 だからこそ無駄球を極力無くし、隙があればすかさず撃ち放った。

 だがその先、虎子へと有効打を入れる算段が思いつかない。

 

 とはいえ当然負けるつもりはない。

 一瞬とはいえ弱気になった自分を叱責し、再び隙を探す。

 考えながらもビットを操り、撃ち放っていく。

 ただ、ここから先は泥臭い試合になりそうだと、予測する。

 ビット兵器は同時に幾つもの武装を操作するため、極度の集中が必要となる。

 今隙を探すために思考しているが、それすらもギリギリ。

 更に言えばまだセシリアはこのビット兵器を元々操り切れてはいない。

 故に今、セシリアの足は止まってしまっている。

 

 ふとそこで、セシリアに疑問がうまれた。 

 

 そう、セシリアは動いてはいない。

 思考するため手に持つスターライトmkⅢの照準すら曖昧なものだ。

 だというのに、虎子は動いていない。

 それどころか、開始位置からほぼ動いていないのだ。 

 精々が旋回する際の予備動作分程度のものであろう。

 

 それに気づいたセシリアは、その疑問の答えを知るため、残る2機(・・・・)のビットを解放した。

 

「漸くですか」

 

 腰元からさらに追加されて飛び立つ2機のビット。

 それをみても虎子に焦りは無い。

 元々表情には出ないが、知っていた情報に驚く訳が無い。

 

「知っていることは知っています」

 

「っ!?」

 

 ここに来て初めて、虎子は少しばかり目を見開く。

 追加された2機のビット。

 それに搭載されているのは先の4機とは違いミサイルである。

 虎子は勿論その情報を得ていた為、それに驚いたのではない。

 セシリアが行ったのは単純だ。

 虎子の手前で2つのミサイルをぶつけ爆破し、爆炎を虎子へと浴びせかけた。

 精々が一瞬の目くらまし。

 ハイパーセンサーが搭載されているISにはこの程度の目くらましはすぐに情報を修正されてしまう。

 ダメージに関しても直接ISのシールドに当てるのに比べ何段も落ちてしまっている。

 だが、幾ら問題ないとはいえその中に居るメリットは無い。

 すぐさま抜け出し、セシリアを捕捉するに努めるべきだ。

 セシリアとの距離が近かったならば奇をてらうことも出来ようが、生憎とセシリアは遠距離射撃型だ。

 セシリアの想像できないような戦術があるならばどうしようもないが、恐らくそれは無いとセシリアの勘が告げていた。

 

 そして――――、

 

 

「やはりですか」

 

「・・・・・・」

 

 セシリアの想像通り、虎子はその場所を動いてはいなかった。

 両の盾を展開し、その身を膜で包んでいるが不思議なほどに爆破前とその場所は変わっていない。

 

「余裕の表れかと思ったのですが、どうやらその機体は自身を守りながら動くことが出来ないというわけですわね」

 

「ええ、その通り」

 

 セシリアの言葉に、表情を動かさず肯定する虎子。

 

「私の盾は何も通しはしません。通させはしません。私は守るための盾ですので。なので今は自身を守っています」

 

 表情は変わらないが、何処か真剣な面持ちでそう告げる虎子。

 

「攻撃はしませんの?」

 

「ええ、私はあくまで盾ですので」

 

 淡々とそう告げる虎子。

 そんな彼女をジッとセシリアは見る。

 猛攻は既に止まっている。

 先程まで鳴り響いていた戦闘音は無く、アリーナはシンと静まっている。

 

 先に根負けしたのはセシリアだった。

 

「はぁ、ならば何故この勝負を受けたのですか。あなたの信条はよく分かりました。だからこそよく分かりません。負ける気はないとあなたは仰いましたわね?」

 

 そう、虎子は試合が始まって以降一度も反撃をしてこなかった。

 唯々守りに徹し、防戦一方であった。

 それは果たして試合と呼べるものだろうか?

 否、的に当てている方が些か以上に有意義というものであろう。

 だからこそ疑問なのだ。

 真意がセシリアには分からなかった。

 

 しかし、当の虎子は珍し表情を動かし、キョトンとしていた。

 そして少しの間の後、口を開いた。

 

「貴女が言ったのではないですか、壇上に上がるべきだと」

 

「・・・・・・へ?」

 

 セシリアからお嬢様らしくない声が漏れ出た。

 

「いやあのちょっとお待ちくださいまし! ならば私の挑発に負ける気が無いと言ったのは!?」

 

「盾である以上負ける気はありません。特に勝つ気もありませんでしたが。守るだけが能なので」

 

「な、ならば勝負にならないと仰ったのは!?」

 

「私の武装は基本的にこの盾で殴ることです。しかしマシーンスペック上私の武装で貴方のブルー・ティアーズに追いつくのは困難です。その為無駄を省き私は守りに徹していましたが、そうするとあなたの武装で私を貫くのは不可能です。そうなってしまえば千日手、勝負と言い表すべきものではないと判断しました」

 

 淡々とそう告げる虎子。

 そう、虎子はただ事実を言っていただけだ。

 勝負にならないというのは挑発ではなく、勝負が成立しないという意味なだけだ。

 それでもセシリアが砲口を向けるため、盾として虎子は在っただけだ。

 

「は、ハハハ、戦闘に向いていないというのはそういう意味でしたか・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

『それまで! この試合引き分けとする!!』

 

 

 

 

 

 思考を復帰できずに居たセシリアなど露知らず、審判役であった千冬からドローの声が、ただ虚しくアリーナに響くのであった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?

所々に某シールダー後輩の要素を覗かせている気がしますが、キノセイデス。
分かりやすい展開も含まれていると思いますが、キノセイデス。
とりあえず言いたいのは、セッシーがやはりチョロいんだということ(え

いやぁISのSSに於いて導入編を優しく指導してくださるセッシーとのバトルが書いてみたかったんです。
某異世界ファンタジーのギー〇ュ君と立ち位置的には同じですが、やはり華があるのはこちらですしね! 
あ、向こうも一応華があるか。

さておき、IS編はこんな感じのモノを考えていました。
IS戦闘の描写とか難しそうだったのでチャレンジしたかったというのもありますが、ちゃんと読める程度にはなっていますでしょうか? 楽しめるかはさておいて・・・。
そしてこれからも遅筆ながらお目汚しをばさせて頂きたく思うのですが構わないでしょうか?
IS編の目標は一期終了まで、のほほんさんを出す、なのですが、大丈夫かな・・・。

まぁ兎も角、今後も是非よろしくお願い致します!


P.S.
FGOでは贋作イベも終わり、次は節分イベとか。
何やら厄介な方法で進んでいくようですが、頼光ママと酒呑ちゃんのピックアップがあるなら回したいなぁ・・・。


P.S.2
本編の方は終わったわけじゃないですよね?なんてメッセを最近頂くのですが、あっちもそろそろ動かしたいですね。
2足の草鞋になりそうですが、拙作であろうとも求めて頂けているなら是非頑張りたい。

ところで、特に関係ないですがこのすばってみんなご存知?


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コミュニケーション能力は何処で売っていますか?(切実

どうもonekouでございます。

ホント月1更新中ですね・・・。
一日30時間位にならないかな(遠い目


 

 

 

「ではこれより、ISの基本的な基本操縦を実践してもらう」

 

 そう言いながらジャージ姿の千冬姉がこの場に居る全員を見渡した。

 

 今から始まるのは、入学して初となるISの実機演習だ。

 その為クラスの全員が演習用グラウンドに集合している。

 通常の体育の授業だけでなく、IS使用も前提に入れた場所なので、かなり広大な広さを誇っている。

 そこに40人近くが集合したわけだが、まぁ中々に視線が動かし辛くて困っている。

 というのも、ISへ搭乗する際、乗り手はISスーツというものを着る。

 それがどう考えても水着にしか思えないような薄さなのだ。

 水着に似ているといってもスクール水着とかの上下一体型のものだが、普通にモデルさんとかが着ていそうなデザインの物が多く、何が言いたいかというと、身体のラインが出ていたり切れ目があったりで目のやり場に困るのだ。あれだ、体操選手が着るレオタードを際どくした感じだ。

 一応対面上はキリっとした表情をしている。

 幸いにも一番前の列に並んでいるため、前に居る千冬姉さえ見ていれば視界外の情報はシャットアウトできる。

 千冬姉はそんな俺を時折、物理ダメージを感じさせるぐらい鋭い視線で見ているが。

 

「実際に全員が搭乗するのはマダだ。その前に、お前たちにはISで行える動きというものを実際に見てもらう。織斑にオルコット、前へ出てISを装着しろ」

 

「はいですわ」

 

「お、おう」

 

 いきなりの事だったのでいつもの調子で返事をしてしまったため千冬姉からギロリと睨まれるが、授業の進行を優先したのかそれで終わった。

 とはいえこのままここに居ても、それこそぶん殴られるので、セシリアに倣って前へと出る。

 だがその時には、セシリアは既にISを纏っていた。

 息をするように、自然な流れでセシリアは行うことができていた。

 流石、としか言いようがない。

 

「よしオルコット、そのまま飛べ」

 

「はい!!」

 

 千冬姉が言葉少なに告げると、セシリアもすぐに空へと舞い上がる。

 あっという間だった。

 ほんの数日前には戦っただけだというのに、実際にはそれだけの差があったのだ。

 あそこまで追いすがれたのは、偏に油断してくれていたから。

 悔しい、もっと精進しないとな。

 

「どうした織斑、早くしろ。熟練の操縦者は0.1秒もあれば展開できるぞ」

 

「ぐぬ」

 

 淡々とそう告げられ、慌てて俺はISを呼び出そうとする。

 だが、今になってISの装着方法が分からない。

 よくよく考えれば先日のセシリアとの試合時は、既に機体がある状態の所に乗り込んだ。

 しかし今は待機状態で、右手首にある腕輪となっている。

 何がどうなったらコレがアレになるのか、いつから人類は質量保存の法則をボイコットしてしまったのか俺にはわからない。

 原因は分かるが・・・・・・。

 

 ともかく今は装着方法だ。

 この腕輪の状態から展開する必要がある。

 そのためには―――

 

「呼び掛けてください。それだけでその子は力を貸してくれます」

 

「虎子?」

 

 どうしたものかと思っていたら、掛かる声があった。

 そちらを見れば、いつも通り無表情の虎子だ。

 その虎子は、声は俺へと掛けつつも視線は俺の右腕、正確に言えば腕輪へと注がれていた。

 俺はその視線を追う様に、白式へと目をやる。

 

「白式?」

 

 そう呟いた瞬間、視界を光が包んだ。

 心なしか歓喜を感じさせる光の渦。

 それは一瞬の間の出来事で、気づけば俺は白式に身を委ねていた。

 

 あまりにもあっさりと白式を呼びだせてしまったことに、というか若干食い気味に白式は出てきたようにも思うが、それだけ適正化(フィッティング)された機体というものが操縦者にとって特別になるということなのだろう。

 待機状態ではなく、全身を守るために展開されたその装甲を見る。

 曇り一つない白。

 それを身に纏い、ISの持つ機能によって押し上げられた感覚系が、全能感にも似た力強さを与えてくれている。

 

「遅い、いつまで掛かっている。早く行け」

 

 どこかワクワクするような感覚を持っていると、千冬姉から淡々とした口調で言われてしまった。

 この口調の時の千冬姉はかなりまずい。

 本気でキレかけている時の千冬姉だ。

 

「お、おう、じゃなかった、はい!」

 

 俺はすぐに地を蹴るようにして空へと身を乗り出す。

 勢い余ってふらつくも、前回で何となくつかんだ感覚を思い出し、空中で待機していたセシリアと並ぶ。

 

「何やら手間取っていたようですが大丈夫ですの?」

 

「まあ何とかなったよ。虎子に助言を貰ったおかげでさ」

 

「あら、虎子さんが・・・・・・」

 

 俺の言葉にセシリアが少し意外そうな表情をした。

 というのも、あのクラス代表決定戦以降はセシリアも虎子と話すようになっていた。 

 しかしだからといって虎子に何か変化が起こる訳でもなく、変わらず無表情で淡々としていた。

 だからこそ、自ら虎子が動くというイメージが湧かないのだ。

 最近になってようやく分かってきたのだが、思いやりが無いとかそういうわけではなく、聞かれれば普通に教えてくれるが能動的に動くことが無いのだ。

 

 

 

『何をしている。次は空中機動だ』

 

 おっと、今は私語を慎まないとだな。後で出席簿アタックされてしまう。

 俺はセシリアへと目配せし、同時に向こうもこちらを向いたところで、互いに頷く。

 

「先行しますわ」

 

「助かる」

 

 セシリアはそう言うなり、再び空を切る。

 俺もすかさずその後ろを追い縋る。

 

 正直助かった。

 空中機動といっても何をすれば良いのか分からないが、こうして前を行ってくれれば何とか追うことができる。

 とはいえギリギリ追えているだけであるし、向こうが迷いなく滑らかに動くのに対して自身は余計な動作が目立つのを自覚できる。

 それに、セシリアは恐らく速度を緩めて追いやすいようにしてくれている。

 淀みない動きから、こういった曲芸飛行とでも言うのか、空中でのIS操作を見せることになれている様子だ。

 だから俺の拙い動きで追えているということは、そういうことなのだと思う。

 

「やっぱり難しいな。でも、負けてられない!」

 

 確か空中での機動を行う際は前方に円錐の盾を作るイメージで飛行することが効率的だと授業でやっていた。

 それを思いだし、イメージする。

 

「円錐形・・・・・・円錐形・・・・・・」

 

 

 

 

 特に早くもならなかった。

 

「ちくしょう」

 

 

 

 

 

『それでは二人とも、次は空中からの急速降下だ。目標は地面から10cm以内』

 

「了解ですわ」

 

「・・・・・・了解」

 

 いきなりそんな無茶を言われてもできる気がしない。

 しかしやらなければ千冬姉に何をされるかわかったもんじゃない。

 まぁ、やる前から諦める気は更々無いけどさ。

 けれどイメージがわかないのは事実だ。

 IS操作においては操縦者のイメージがそのままIS自体にフィードバックされるため、明確な成功をイメージする必要がある。

 勿論それだけではなく、その動作を行うための体捌きなども必要となってくるが、先ずはどのようにして地面すれすれで止まることができるかだ。

 

「一夏さん、宜しければ参考にどうぞ見てくださいませ」

 

 悩んでいると、いつのまにか横に並んでいたセシリアが言うなり身を捻り、進行方向を下へと向けた。

 落下中にもスラスターを使っての加速をし、そこへ重力加速度が追加される。

 しかし、あと一歩で地面・・・・・・というところで再びくるりと身を捻り、危なげなく身体を立て直した。

 そして下方へと向いたスラスターによって慣性を殺し、すんなりと地面ギリギリで止まった。

 

『ほう、流石に候補生ともなれば違うか。約5cm、その調子で精進しろ』

 

『はいですわ!』

 

 セシリアの産み出した結果に千冬姉も及第点とでも言うように笑みを浮かべた。

 それを見てセシリアが嬉しそうに返事をする。

 世界1位になったこともあるヴァルキリーに、誉められれば嬉しくもなるだろう。

 特に千冬姉は滅多に誉めたりはしないから尚のことだ。

 負けていられないな。

 そう思い、気合いを入れ直す。

 イメージは先程のセシリアを参考にさせてもらう。

 加速を行いつつも地面が近づいたら身を翻す、だ。

 それをイメージして・・・・・・イメージして・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

『白銀、防げ』

 

『承知しました』

 

 

 

 

 

 

 結果だけを言うと、俺は再び空を舞うことになりました。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「この前のやつ、どうやったんだ? 盾だけ出してたが」

 

「部分装備です。熟練のIS操縦者は誰でも出来る技術ですね」

 

「へぇ、そんなのがあるのか」

 

「あれなら人目を気にする必要もありませんので」

 

「・・・・・・その結果俺は盛大に宙を舞った訳だが」

 

「ダメージは極力出ないように加減した筈ですが?」

 

「いや、うん、何でもない」

 

 休み時間に昨日の事について聞いてみたのだが、少しばかり悲しくなる。

 もうちょっと優しく止めてくれてもよかったのにと思うのだ。

 まあ落ち度はこちらにあるわけだから仕方ないのだが、地面を守るために俺が吹っ飛ばされたというのが結末なのでなんとも言えぬ寂寥感が・・・・・・。

 だってこのお隣さん、ISシールドがあるから大丈夫ですよねって真顔で言うんだよ。ついでにうちの姉もそうだったけどさ。

 はあ、深く考えても仕方ない。

 少しばかり素直すぎるきらいがあるだけだ。

 

「ねぇねぇ聞いた聞いた!?」

 

「隣のクラスに中国からの転校生だって!」

 

「おりむー、いったいどんな娘だと思うー?」

 

 虎子と話していたら、クラスの中でもよく話す方の3人組が話し掛けてきてくれた。

 夜竹さゆかさんに谷本癒子さん、そしてのほほんさんだ。

 いつも仲良く3人で居ることが多く、いつしか食堂で話すようになって以来の関係だ。

 ・・・・・・?

 のほほんさんはのほほんさんだろう?

 

 さておき、隣に転校生か。

 中国というとあいつ(・・・)を思い出す。

 中学2年の終わり位に中国へ帰ることになってしまった幼馴染みだ。

 初めて会ったのは小学5年生の頃、あいつが中国から転校してきた時だ。

 初対面の時は突然殴られたりとあまり良い仲ではなかったが、いつだったかあいつがクラスのやつに苛められているのを見て、思わずかっとなって飛び出してしまってからは何かとよくつるむ様になった。

 あいつも最初は日本語がうまく話せなかったりとクラスにもあまり馴染めていなかったが、その辺りからクラスの皆とも仲良く出来るようになってたっけか。

 そういえば、苛めてたやつらの保護者から苦情が来て学校に呼び出されたりもしたけど、小さい方の姉が「ほぅ・・・・・・」なんて珍しく真剣な顔をしてどこかへ行ったと思いきや、苛めてたやつらが次の日からなんか良い奴になっていたりなんてのもあったなぁ。コウ姉は映画版ジャイ〇ンがどうとか言っていたっけ。

 うん、本当に懐かしい。

 

 そんな風に昔を思い出していると、虎子がジーッと何かを見ていることに気付いた。

 いや他の皆もどうやらそちらを見ていた。

 何だろうか、そう思いそちらを見ていると、皆に見られてビクビクッと挙動不審になっている子がいた。

 というか、すごく見覚えのある子だった。

 

「中国代表候補生、凰鈴音かと思われます」

 

「やっぱり鈴か!!」

 

 注釈のごとく虎子が言った言葉に、間違いではなかったと席を立ち近付く。

 そして手を伸ばし―――たところで鈴が猫の如くズザァッと後ろへ飛びのいた。

 うん、やっぱり鈴だ。

 相変わらずちっこいので持ち上げてやろうと思ったのだが、すんなり躱されてしまう。

 コウ姉がいつも鈴にやっていたものだから気付いたら自分もやるようになってしまったのだが、こんなに簡単に避けられるようになるだなんて成長したなぁ鈴。

 

「あ、あんたはいつもいつも! そう軽々しく触りに来るんじゃないわよ!!」

 

「なんだよつれないな、幼なじみのスキンシップじゃないか。コウ姉の時は喜ぶくせに」

 

「コウジュさんは良いのよ! ちょっと(あやか)りたいし・・・・・・」

 

 言いながら目線を下げる鈴。

 何というか目が死んでいるのだが、何を肖りたいのだろうか?  

 しかしこういう雰囲気の時に内容を尋ねると碌なことにならないというのは十分に身に染みているため、話題を反らすことにした。

 

「そういえば2組に転校したってことだけど、えらく中途半端な時期だよな」

 

 今は4月の半ばを過ぎた頃だ。

 中途編入にしても、時期が入学式からそれほど経っていないこの時期に行うというのは何とも不思議だった。

 IS学園の様な世界各国から入学者が集まる学校ならではと言われてしまえばそれまでだが。

 

「ああ、それは簡単よ。私も最初はここに入学するつもりは無かったんだけど、入る理由が出来ちゃったから慌てて手続きをしたの」

 

 そう言いながら、フフンと俺を見上げる鈴。

 こちらに関してはどうやら聞いてほしそうな感じであった。

 

「それって―――、」

 

「一夏、知り合いか?」

 

「誰よあんた」

 

 俺が聞こうと口を開いたところで、今まで静かだった箒が話に加わった。

 しかし、加わったとは言うが何やら二人して剣呑な雰囲気となっている。

 こう、背後に虎と龍が見える感じの。

 いや柴犬と猫か?

 どちらにしろこのまま放置というわけにもいかない。

 

 そう思い二人の間を取り持とうと口を開いたところで新たな乱入者が居た。

 

 

 

 

「何をしている。チャイムは鳴ったはずだが?」

 

 

 

 

 その声が響いた瞬間、その場に居た全員がビクンっと身体を震わせた。

 見れば、教室へと千冬姉が入ってこようとしている所だった。

 鈴に至っては扉を背にしていた為、油の切れた機械のようにギギギと首をそちらへと向けた。

 

「ち、千冬さん・・・・・・痛ぁっ!?」

 

「織斑先生だ馬鹿者め。そしてお前のクラスは隣だ。もう一発欲しいのか?」

 

「はぃぃいっ!!!」

 

 凜が千冬姉の名を呼ぶとすかさず振り下ろされる出席簿。

 スパーンと凛の頭で良い音を響かせる。

 そしてすかさず千冬姉から言われた言葉に慌てて走り去る鈴。

 そういえば鈴は昔から千冬姉のことは苦手そうにしていたなと思い出す。

 コウ姉とは仲良くゲームをしていたのに、千冬姉を前にすると途端に借りてきた猫のようになる。

 今も猫の如く逃げたところだしな。

 

 などと、のんびり考えているのがいけなかった。

 

 

 

「ほう、大した度胸じゃないか織斑」

 

 

 

 今度は俺が、ギギギと動きの悪い首を回す番だった。

 気づけば他のクラスメイトは皆既に席へと戻っている。

 裏切られた!?

 それを理解した直後、先程よりも心なしか大きく、スパーンッと教室に音が響くのであった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

 

 出掛けていた虎子・E・白銀は、自室に戻ると同時にそう口にした。

 返答は、無い。

 しかしそれはいつもの事だ。

 虎子が言葉として発しているのも、それが常識であると教えられたために行っている日常行動(ルーティーン)に過ぎない。

 同室者は居るが、“おかえり”と返されることはほぼない。

 ただ、虎子もその同室者も寡黙ではあるが常識を弁えており最低限の礼儀は返す。

 同室者の返答が無いのはただその余裕が無いだけだ。

 

 中へ入れば、カタカタと小気味良く打ち続けられるキーボードの音が響く。

 今の時代キーボード入力というものはアナログ扱いされる時代ではあるが、一部の科学者にとってはそうではない。

 思考入力と直接入力、その双方を用いての並行作業により時間を短縮しているのだ。

 当然それが効率のいい方法かは異論あるだろう。

 ただ、彼女にとっては何よりも早く、少しでも早くソレ(・・)を完成させたい理由があった。

 故に彼女はそれ以外の事に思考を裂く余裕が無い。

 だから誰かが部屋に入ってきた程度では気付けない。

 それは彼女の家系から考えれば致命的な失態であろう。

 だがその程度の落ち度、気にもならない位に彼女は今産みだそうとしているモノに執心していた。

 

 

 

 

「そこ、上と逆の方が0.03秒効率が上がりますが」

 

「っ!?!?!?!?!?」

 

 

 

 虎子が少女・・・・・・更識 簪(さらしき かんざし)の背後から画面をのぞき込み、画面に映る文字列について訂正を入れると、今まで画面の中だけで完結していた思考が無理矢理戻された少女は声にならない悲鳴を上げた。

 そしてその驚きから慌てて立ち上がろうとするもタイヤ付きの椅子の足部分の上で立ち上がってしまい、彼女が踏む勢いのままタイヤは滑り、結局手と腹部を机に強打してしまう。

 

「~~~~~っ!?」

 

「おや、大丈夫ですか?」

 

「きゅ、急に声を掛けないでくださいって前にも言いましたよね!?」

 

「はい。なので数秒待ってから声を掛けましたが」

 

「そうじゃないです!!!!」

 

 簪の言葉にはて・・・とでも言わんばかりに首を捻る。

 そんな風に首を捻ろうとも相変わらず無表情なままの虎子に、悪気はないのだと理解はしていてもやりきれない感情のまま拳を握る簪。

 ここ最近ではこのようなやり取りの繰り返しだ。

 簪としては自らの目標の為に静かに只管作業へと没頭したいのだが、この同居人がそれを許さない。

 

「やはりコミュニケーションというものはどうにも難しいですね」

 

「確かに難しいですけど、あなたの場合はコミュニケーションの前に色々と知るべきことがあると思います!!」

 

「成程、ではやはりあなたからコミュニケーションについて教えて頂くべきですね。そもそも円滑なコミュニケーションを人と取るためにはどうすれば良いのでしょうか?」

 

「え、いや、えっと」

 

 ズズイっと身体を寄せる虎子。

 しかし簪はそんな虎子への返答に困る。

 先程からコミュニケーションの取り方について言ってしまったが、それが分かれば苦労はしない。

 ぶっちゃけていえば簪は姉への引け目などもあってその性格は内気な方である。

 円滑なコミュニケーション方法?

 簪の方が知りたい位であった。

 

「やはり依頼には報酬が必要でしょうか? 現状私が最優先で会得するべき分野だと感じていますので、私が提示できる報酬であれば何でも仰ってください」

 

 しかしそんな簪の心内など知らずに虎子は話を進める。

 実際虎子は至急コミュニケーション能力というものを得たいと感じていた。

 母に当たるコウジュからは焦らなくても構わないと言われているが、クラスという集団に加わってからというもの多くを学び、しかし学べば学ぶほど悩むことが増えた。

 悩み、疑問、それはとてもいい傾向だと言われた。

 だがそれをそのままにするのはいけないことだとも言われた。

 更に言えば、虎子が話せば話すほど、相手が苦笑したり返答を悩むことが多いということに気付いた。

 それは彼女が判断するに“遠慮”というものだと推測出来た。

 しかし問題は何故それを自分がされるのか、ということだ。

 そこの答えこそがコミュニケーション能力というものに隠れていると虎子は思ったのだ。 

 

 だからこそ、虎子は早くコミュニケーション能力というものを獲得したかった。

 その為の努力は惜しまないつもりだ。

 しかし、簪の表情は芳しいものではない。

 それほどに難易度の高い物なのか、自身にはそれを獲得することが難しいだろうという判断なのか、それを得るためには多大なる代償が必要だと言うのか、虎子は簪の表情を見ながら思考する。

 

「・・・・・・あ、そうだ!!」

 

 難しい表情をしていた簪が、突如何かを思い出したようで机の引き出しを漁りだした。

 そして少しして、その中から取り出されたのは一冊の本であった。

 

「これでも使って自分で勉強してください!」

 

 簪は自身の身代わりとなるであろうそれを渡した。

 

「『誰でも出来るコミュニケーション方法。話せないあなたも明日から人気者』ですか。確かにこれは今まさに私が求めていたものです」

 

 ペラペラと中身を見る虎子。

 印刷年月日を見れば2000年代と少しばかり年季の入ったものだ。

 更に言えば中の文章などにはマーカーや付箋が張られ、分かりやすく要点がまとめられている。

 こういったものは現在主流である電子書籍ではし辛い部分であるが、紙媒体はそのあたり扱いやすい。

 しかしそうなると、今の時代、紙媒体は逆に貴重なものとなっている。

 買う者が少ない為、一部雑誌を除きこういった特殊なジャンルの本というものは世に出回る数が当然少なくなる。

 虎子が受け取った本は既に使用感も出ているが、それでも丁寧に扱われてきたのが分かる綺麗さだ。

 それだけ大事にされてきたものだと分かる。

 

「しかし宜しいのですが? 紙媒体ということは貴重な物なのでは?」

 

 そう思っての質問であったが、何故か簪は慌てだした。

 

「い、良いの! 私には効果がな・・・・・・もう必要無いから! あっても一緒というか・・・・・・」

 

「成程、簪は既に極められているということですね。素晴らしい。見習いたいものです」

 

 虎子は感心する。

 確かに軽く目を通しただけでも事細かにコミュニケーションの取り方について学んだ跡がある。

 これだけ熱心に学習したのであれば内容など熟知していてもおかしくは無い。

 そしてそんな参考書を貸して貰えるとは思ってもみなかった虎子は喜んだ(当社比)。

 だが、それに対しても簪は何故かワタワタとするばかりだ。

 

「ち、ちが、あ、いや、その・・・・・・」

 

 そんな彼女へ、ここ最近同室者として見てきた虎子は彼女へと慣れないながらもアドバイスというものをしてみることにした。

 

「どうしました? あなたは謙遜しすぎるきらいがある。あなたから学ぶものはとても多い。授業が終わってからもあれほど熱心に勉学を勤しむなどそうできるものではないと思います。その様な姿勢で臨むあなたはとても好ましい。聞けば教室でも休み時間なども級友とコミュニケーションを取る時間も惜しみ作業を行い続け、食事も効率よく時間を掛けないためにか食堂ではなく部屋で取ることが多いと聞きます。成程、コミュニケーションを極めたあなたにとって級友との会話はすでにクリアしたステージに他ならない。さらに先へと我武者羅に進むあなたの姿勢はやはり好ましく思います」

 

「やめて死んじゃうからそれ以上はやめて下さいお願いします!」

 

 何故か顔を真っ赤にしながら泣き叫ぶようにやめてと言う簪。

 とりあえず虎子としてはやめてと言われたことをするつもりは毛頭ない。

 そして前情報として日本人は奥ゆかしい性格の者が多いと聞いていた。

 そこで虎子は合点がいった。

 

「・・・・・・? ふむ、あなたは恥ずかしがり屋なのですね。分かりました。無為に褒めるのは好ましくない訳ですね」

 

「もうそれで良いです・・・・・・」

 

 やはりあれほど鬼気迫る勢いで勉学を励んでいた加減か、虎子は簪が疲れているように見えた。

 なので一端話を終わらせて、食事を取り休憩するように勧めることにした。

 

「どうやら簪は疲れている様子です。ここは一旦休息を取るように勧めさせていただきます。食事を摂り、睡眠を取ることを推奨します。この本の報酬は何かまた考えておいてください」

 

「・・・・・・ご飯も保存食がありますので放って置いて。あなたこそ自分の食事を摂りに行ってください」

 

 溜息を一つ吐いた後、簪は疲れた声でそう言った。

 つい虎子に構ってしまったが、簪にはそんなことに感けている時間は無かった。

 ただ早く作業に戻りたい、だから邪魔をしないで、そんな気持ちで椅子へと再び座る。

 

 そして、その際につい、疲れもあって口走ってしまった。

 

「良いよねあなたは。あの魔女が母親なんだし。専用機にも装備にも困らない」

 

 その言葉には様々な感情が含まれていた。

 自身の境遇や環境への苦悩、他者への嫉妬、そして疎外感。

 簪には優秀すぎる姉が居て、家系のこともあってずっと比べられ続けてきた。

 自身の専用機すら開発し、ロシア代表まで上り詰めた姉。

 対して自身は専用機の開発すら思うようにいかず、肩書きも代表候補生止まり。

 一般的に言えば開発も出来、候補生とはいえ国家代表に近い位置にあるというのは十分なのだが、彼女に妥協は許されなかった。

 元々内向的な彼女は、そんな環境下にあって自分の中に様々な感情を貯めこんで来た。

 ドロドロとこびりつくような暗い感情。

 誰かを傷つけるような外向きのもではなく、自分で自分を否定し続ける様な、自分で自分を追いつめて行くような、そんな哀しみしか生まない感情。

 その一部が、つい漏れ出てしまった。

 

 簪は口にしてから、ハッと口を塞ぐ。

 そして虎子の方を見た。

 そして安堵する。

 内容までは聞かれていなかったのか、無表情ながらも首を傾げている虎子。

 そんな姿を見て、何をしているんだかと簪は自分を内心で嗤う。

 

 

 

「母上は開発が大の苦手ですのでいつも装備は困っていますが?」

 

 聞かれていた!? と、慌てる簪。

 近いとはいえ数かに漏れ出ただけなのにどうして? と内心で右往左往する。

 目の前の少女をただ羨むだけの汚い言葉だ。

 それを聞かれていただなんて羞恥だけではなく自嘲も伴いつつ、やはり今日はどうかしていると嘆く。

 

 そこでふと、先程虎子が言った言葉が気に掛かった。

 あの魔女が開発を苦手としている?

 銀虎を作成し、開発分野でこそ有名とされているあのコウジュスフィールが?

 しかし虎子に嘘を言っている様子は見えない。

 家の事もあって人の感情を窺うという部分に関してはそこそこ自信がある簪はそう感じていた。

 

「開発が苦手って、本当なの?」

 

「はい。開発も苦手ですし、IS適正もSですがISへとまともに搭乗することも出来ていません」

 

 

 

 

 

「・・・・・・え?」

 

 

 

 

 まさかの情報に、簪はそう口にするのが精いっぱいであった。

 

 




いかがだったでしょうか?

かんちゃんの口調が難しいです。
いやそもそも何故か勝手になるギャグ時空のせいでキャラ全員迷走している気がせんでもないですが。

そういえば短編として書かせて頂いていますが、どこまでが短編の範疇なのでしょうか、単行本一冊分位? 2,3話で完結? 細かい事ですがどうしたものやら・・・。
まぁともかくとしてまずは続けることですよね。
一応銀の福音までは行きたいなぁと思っております。
流れはほぼほぼ原作準拠にはなると思いますが、ギャグ時空ISを楽しんで頂けるように頑張りたいと思います。
ではではまた次話で!


P.S.
今期のアニメをあまり見れていないのですが、何か皆さんのおススメとかってありますかね? とりあえずオバロとゆるきゃんは絶対見るようにしているのですが・・・。

P.S.2
FGOイベが全然進められない;;
ガチャはふじのんを何とか当てて撤退、剣式は流石に重ねられませんでした。
最近色々出費が重なっているから自重ちゅうなんです。
モンハンワールドも欲しいのですけどね(´・ω・`)


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