シンデレラ達とのストーリー (テリアキ)
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1話

初投稿なので文章力もなく誤字脱字等あると思いますが、感想や評価お待ちしております。


チュンチュン

 

「気持ちいい朝だね、ハナコ。」

 

4月とはいえまだ肌寒い朝だが愛犬との散歩は私、渋谷凛の日課。

私が話しかけると愛犬もワンッとこちらを向いてくれる。今日も可愛いなぁ…。

 

親バカっぽいけど、もし自分に子供ができたらもっと親バカになるのでは?なんて思っていると、散歩コースの折り返し地点である公園に着いた。

 

この公園を来るといつもアイドル仲間であり、親友の女の子と、ちょっと目付きの悪いプロデューサーを思い出す。私がアイドルになるきっかけ…あれから1ヶ月も経ってないけどね。

 

そんなことを思い出していると、急にハナコが駆け出した。いつも大人しい子だからつい気を抜いていた。手からリードが離れてしまったのである。

 

「ちょっ!待って!…ハナコッ!」

 

私の呼びかけにも応じず一目散に公園を走る。賢い子だから、誰かに噛み付くとは思えないが万が一の時がある。私も全速力で追いかける。

 

5分程追いかけっこが続き、ハナコが公園の曲がり角を曲がった。それに続くと、ハナコが見知らぬ男の人に抱き抱えられていた。

 

 

「おお…、どうしたお前?迷子か?」

 

私が角を曲がった時に男の人がハナコに話しかけていた。

男の人はタオルを頭に巻いて、ジャージ姿だったのであの人も散歩中かランニング中だろうか。

とにかく謝らなきゃ!

 

「すみません!うちの犬なんです!…お怪我はありませんか?」

 

「ああ、大丈夫ッスよ。ペロペロされただけで噛み付かれたりはしてないんで。」

 

男の人がハナコを撫でると、我が愛犬がすごく気持ち良さそうに目を細めている。…ちょっとデレ過ぎじゃない?

 

「もうご主人様に心配かけんなよ?」

ハナコのリードを渡してもらうと、ハナコも男の人の言葉にワンッ!ワン!と応える。いや私の時よりいい返事なんだけど…。

 

「本当にありがとうございました。普段こんなことないんだけど…。」

 

「元気な犬ッスねー。俺何故か動物に懐かれやすいんでそのせいかもしれないッスね。」

 

笑いながら言う男の人を改めて見てみた。身長は私より10センチくらい大きくて、体格もガッチリしている。髪型はタオルに隠れて分からないけど、襟足が少し茶色がかっていたので茶髪だろうか。

少しヤンキーみたいな見た目だけど、笑った顔は少し可愛いかも。

なんて初対面の人に失礼か。

 

「私の名前は渋谷凛です。よろしければお名前を教えてくれませんか?」

 

「俺の名前は浅村毅(アサムラタケシ)です!よろしく渋谷さん。」

 

「何かお礼したいんですが、お急ぎですか?」

お礼は何がいいかな?なんて考えてると、浅村さんが少し申し訳無さそうに言ってきた。

 

「…あぁー、それじゃお願いがあるんスけど…」

 

「私にできることなら何でも言ってください。」

 

「…帰り道を教えてください。」

 

「…へっ?」

 

彼との初対面はこんな朝だった。

 

 




どうも姫川友紀担当です。
小説って書くの本当に難しいですね泣
なるべく多くのアイドルを登場させたいですが、自分にそんな文章力がないので、まだどうなるかわかりません。


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2話

ライラさんのSSRが当たらないのはアイスが足りないせいですか?泣


 

凛「じゃあ毅は私と同い年なんだ。てっきり年上かと思った。」

 

毅「老けてるって言いたいのか?そうなのか?」

 

凛「誰もそんなこと言ってないじゃん…。」

 

毅「いやしかし凛がいて助かったわ。あと3秒でマジで泣くとこだ

ったわ。」

 

凛「引っ越してきて土地勘無いのは分かるけど、自分の家くらい覚え

ときなよ。それにそんなに迷うくらいの距離じゃないと思うよ?」

 

毅「周りの景色見ながらランニングしてたつもりが考え事してて何も

覚えてなくてな…。」

 

 

今私達は一緒に毅の家へ帰っている。あの後、毅が家への帰り道が分からないと言ってきたので、スマホにメモしていた住所を見せてもらうと、ここからそんなに遠くない場所だった。ていうか私の家からも近い。ご近所さんだったんだ。

今ハナコのリードは毅が持っていてハナコも嬉しそうにしている。

…やっぱり少し悔しい。

 

凛「毅はどこの高校?ていうかもうすぐGWって時に転校してきたんだ。珍しいね。」

 

毅「確か◯△高校だったかな?それと転校じゃなくてちゃんとこの高校受けたんだぞ?…まぁ家庭の事情で入学が少し遅れたけどな。」

 

凛「あっ私と同じ高校じゃん。すごい偶然だね。…でもうちの担任の先生は何も言ってなかったから、違うクラスなのかもね。」

 

 

同じ学校、同じ学年ってことで少し嬉しかったけど、クラスは違うんだ。まぁそこまで偶然は重ならないか。

 

毅「ま、違うクラスでも会う機会もあるんだし、これからよろしくな。」

 

凛「うん。分からないことあったり、クラスで友達できなかったらいつでも言ってね。慰めてあげる。」

 

毅「ぼっちになるの前提で言うんじゃねえよ!100人作ってやるわ!」

 

凛「だって毅ちょっと見た目ヤンキーっぽいんだもん。怖がられるかもよ?」

 

毅「ぐっ…、人が気にしていることを…!」

 

 

やっぱ自分でもヤンキーっぽい見た目って思ってたんだ。でも見た目とは裏腹にこうやって冗談も言えるし、今歩道を歩いててもさりげなく道路側歩いてくれて優しいし、何よりその笑った顔見せたら大丈夫だと思う。

…なんて恥ずかしくて言わないけどね。

 

 

二人で話しながら歩いていると目的地に着いた。毅の家はマンションで、一人暮らしだそうだ。外観は真新しく、ロビーも綺麗。高そうだなぁ…。

 

凛「綺麗なマンションに住んでるんだね。」

 

毅「じいちゃんの知り合いのマンションでな。家賃安くしてくれてるんだよ。」

 

凛「へぇー。でも一人暮らしかぁ。ちょっと憧れるかも。」

 

毅「いや絶対実家だろ。一人で自炊洗濯掃除とかやってらんねーわ。」

 

凛「これから最低でも約3年やらなきゃいけないのに、今そんなので大丈夫?」

 

毅「大丈夫だろ。やるときゃやる男だから。…たぶん。」

 

 

そう言って彼は苦笑いをした。私は今実家で料理も洗濯も掃除もお母さんがやってくれている。私も少しは手伝ってるけど、それを全部一人でやるのは確かに大変だ。…お母さんありがとう。

 

毅「今日は助かった。じゃあ明日から学校だから、また学校でな。」

 

凛「うん、私の方こそ今日はありがとね。バイバイ。」

 

ハナコ「ワンッ!ワンッ!」

 

毅「ハハッ、ハナコもまたな。」

 

 

毅からハナコのリードを貰って私も帰路に着く。まぁここから10分もかからないけどね。

帰りながらさっきのことを思い出す。ハナコを保護してくれたのが同じ学校の人で、事情により明日から登校する男の子。こんなこともあるんだね。

 

 

しかし今思ってみると、同じ年代の男子とこんなに話したのって初めてかもしれない。同じクラスの男子とは学校が始まって1ヶ月が過ぎようとしているが、ほとんど挨拶だけ。

 

そういえば、クラスの友達の女の子が「凛はちょっと無愛想なとこあるから、男子も話かけにくいのかもねー。」なんて言っていたのを思い出した。

 

そりゃあ私は他の子みたいに見た目が可愛らしくもないし、自分から話しかける方でもないけど…いやこれじゃ人の事言えないか。

ごめんね毅。

 

 

家に着くと、軽くシャワーを浴びて、お母さんの朝ご飯を食べて準備をする。今日も一日レッスンの日だ。頑張ろう!

 

と思いながら外に出ると、ふと思った。

 

 

あ、連絡先聞いてないや。…ま明日でいっか。



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3話

この話からオリ主視点になります。


ジリリリリリリリ!

 

「………朝か。」

 

鳴り響く目覚ましを止め、ふぁっと背伸びをする。今日は月曜日。学校への初登校の日だ。

俺、浅村毅は理由あって一人暮らしをしている。高校生が住むには十分過ぎるくらいのマンションに。正直慣れる気がしないんだが。

洗面所に向かい、顔を洗ってからジャージに着替える。中学の時から毎朝ランニングを欠かした事はない。新しい土地でもやらないと気持ち悪いくらいになっている。

 

「昨日はまさかあんな事になるなんてなぁ…。」

 

 

 

−昨日の朝–

 

昨日の朝にもランニングに向かった。新しい風景を見ながら走ったら道も覚えるし、いつもより速く感じるだろうと思い、家を出たが、初めての一人暮らし。この後買い出しに出かける予定だったが、何を買えばいいんんだ?食材はどのくらい買うべき?必需品は何があるんだ?等と考えているうちに、見知らぬ公園に着いた。

 

 

ヤバいな……

 

 

 

 

道覚えてねええええええぇぇえ!!!

 

え?ここどこ?どの道通ってここに来たんだ?引っ越して早々に迷子?笑えませんなぁ〜!16歳になるってのに見知らぬ土地で迷子?

あれ?なんか泣きそうなんだが…どうやって帰んの?教えてくれそこの犬!

………犬?

 

ふと前を見ると、小さな犬が凄まじいスピードで俺目掛けて走ってくる。尻尾を千切れんばかりにブンブンさせてやがる。発情期か?

 

昔から犬や猫、兎に鳥等に異様に懐かれる。友達の家に行ったらそいつのペットからもご主人以上に懐かれたこともあった。野良犬とかも噛まれたりはしたことがない。むしろ擦り寄ってくるレベル。

まぁ動物は好きなので気にしたことないが。

 

目の前の犬が俺の足に頭をすり寄せていたので、そいつを抱っこしてやった。ふむ…中々可愛いじゃねぇか。首輪着いてなかったら危なかったぞ。

 

犬を抱き抱え頭を撫でようとしたら、今度は犬じゃなく、女の子が走って来た。ついに動物じゃなく女の子にも懐かれたか?等とふざけた事を考えていると、女の子が走りながら、

 

「すみません!うちの犬なんです!…お怪我はありませんか?」

 

ですよね。

これが渋谷凛との出会いだった。

 

 

 

 

 

「今日はちゃんと道覚えて走ってやる」

 

昨日の出来事を思い出した後、俺はそう呟いた。

もうこの歳で迷子はごめんだ。そう決意し、エレベーターを降りロビーを抜けると、見知った女の子がリードに繋がれた犬と立っていた。

 

 

 

 

 

 

凛「おはよう。いい天気だね。」

 

ハナコ「ワンッ!」

 

 

…いやなんでいるの?

 

 

 

 

 

 

 

 

毅「朝来るんなら言ってくれりゃよかったのに。結構待ったんじゃねえか?」

 

凛「連絡先聞いてなかったから、ちょっと早く出て毅のマンションの前で待ってようと思って。それに、毅が降りてくる10分前に着いたから大丈夫。」

 

毅「いや大丈夫。っていうのもおかしいけどな?…んで、何か用か?」

 

凛「せっかく迷子にならないよう一緒に走ってあげようと思ったのに、そんな態度なんだ?ふーん。」

 

毅「今日は昨日みてーにヘマしねーよ!子供か!」

 

凛「まぁハナコも喜ぶし、一緒に行こう?私も誰かと話しながら散歩するの楽しかったしさ。」

 

毅「んじゃ、今日は俺も歩くわ。ルートは凛に任せる。」

 

凛「走って大丈夫だよ?私も体力つけなきゃって思ってたし。」

 

毅「あぁ、部活か何かか?確かにスポーツは体力つけるのが大事だからな。」

 

凛「うん、まぁ…そんなとこ。それより早く行こ!学校もあるんだしさ!」

 

毅「あいよ。ペースは凛に合わせるわ。会話ができるくらいでいいからな?」

 

凛「そんなに私とおしゃべりしたかったの?」

 

毅「じゃあな。」

 

凛「あ!待ってよ!行くよハナコ!」

 

ハナコ「ワンッ!」

 

 

慌てる凛を置いて俺は走り出した。上目遣いでからかってきた凛に少し可愛いと思ったとか不覚だわ。

 

 

 

 

 

 

30分くらいで凛とマンションの前に帰ってきた。ランニング中もといハナコの散歩中はたわいも無い話をしていたから30分があっというまに過ぎた。

 

 

凛に道案内を兼ねてもらっていたので、だいたいの道は覚えたと思う。実を言うと、道に迷ってから、若干トラウマになり買い出しも行けず、昨日は一日中家にいた。

 

いやもう迷子になりたくねーし?泣きそうになるくらいなら部屋でゲームしたりした方がマシだし?と思い引き込もった。

必要最低限の日用品はあったし、食事は2日目にしてカップ麺という出だしになったが後悔はしていない。

 

凛「やっぱり話ながらだと早く感じるね。楽しかったよ。」

 

凛もそう思ったか。まぁ実際一人で走るより誰かと一緒に走った方が体感早く感じるし、楽しい。

 

毅「俺も。凛のおかげで道覚えれたしな。サンキュ。」

 

凛「…本当に覚えたの?」

 

毅「疑ってんじゃねーよ。物覚えは良い方だってじいちゃんにも言われてたから。」

 

凛「まぁ分からなかったら電話してね。…警察に。」

 

毅「間違いなくめんどくせーことになるじゃねーか。そこは私にって言っとけよ。」

 

クスクスと凛が笑っている。こいつ会って二日目で容赦ねーな。

いや昨日もからかわれたっけか?まぁいいか。

 

 

 

 

凛「…そういえば、毅は学校の道は知ってるの?」

 

毅「……あっ。」

 

 

学校も一緒に行きました。




今更ですが、この物語では視点がコロコロ変わります。読み辛いかもしれませんが、よろしくお願いします。


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4話

デレステの限定奈緒ほすぃ……。


 

 

 

凛と一緒に学校へと向かう途中

 

凛「てかさ、スマホで地図出したら道に迷わずに済むんじゃない?」

 

毅「…………。」

 

 

確かにスマホで地図アプリを利用すれば良かったと、自分でも思う。

しょうがないだろ、見知らぬ土地でほんの少しビビってたんだよ。察しろ。

 

心の中でそう呟いていると、俺達の学校に着いた。

校門をくぐると、新しい学び舎に少し緊張してきた。

大丈夫か俺……。

 

 

凛「あれ?ちょっと緊張してる?顔がいつもより凶悪になってるよ?」

 

毅「き、き緊張するわけねーだろバーカ!このバーカ!」

 

凛「その返しで余裕無いのバレバレだよ……。」

 

 

いやだって凛とは違って、既にスタート失敗してんだぞ?もうクラスではある程度グループも出来てるだろうしな……。ホームの学校になるのにアウェイだわ。うわ帰りたい。

 

俺と凛が一緒に歩いていると、周りの生徒から視線をビンビン感じる。主に男。

多分、凛が俺の隣でいることに騒ついているのだろう。確かに凛は友達目線から見てもかなり美人だ。そんな凛と、見知らぬ生徒が朝から一緒に登校して来たら、そりゃ騒つくのも分かる気がする。コイツやっぱモテんのな。

 

 

しかし、さっきから男連中が俺達を見てヒソヒソと話していて、不機嫌そうな顔をしているのは良い気分じゃない。

 

………よし、最初が肝心だし一発ガン飛ばしとくか。

 

男連中「ヒィッ……!」

 

 

その時、凛に頭をシバかれた。

 

凛「こーら。威嚇しないの。」

 

毅「あでっ!いや見てきたのはあいつらだぞ?俺は悪くない!」

 

凛「そんな事して友達100人とかよく言えたね…。毅が教室の隅で泣いてる姿が目に浮かぶよ。」

 

毅「………友達は量より質だ!」

 

凛は呆れた顔で笑っている。腑に落ちねー…。

 

 

 

すると、今度は女子のグループがこちらを向いて何やらヒソヒソ話している。凛の友達か?だとしたら直接話してきたらいいのに。

離れていたので、しっかりとは聴きとれないが、会話のトーンがキャッキャウフフしている。なんだ?朝から恋バナか?すげえ混ざりたい。

 

 

その様子を見た凛が何やら不機嫌になっていた。俺何かしたか?と考えていると、凛がその女子達に思いっきりガン飛ばしていた。

 

女子達「ヒィッ……!」

 

 

可哀想に……。あの子達が何したっていうんだ?

俺は凛の脳天にチョップした。

 

毅「お前も威嚇してんじゃねえか。」

 

凛「痛ッ…!し、してないよ!毅と一緒にしないでくれる?」

 

毅「いや目だけで人を殺めそうな顔だったぞ。俺も泣きそうになったわ。怖ッ。」

 

凛「……だって毅の事カッコいいって……。なんか…その…。」

 

毅「何ボソボソ喋ってんだ?」

 

凛「な、なんでもない…!///」

 

 

何故キレられたのか分からないんだが。…さては女の子の日か。

 

全力でシバかれそうなので黙っておこう。まだ死にたくないです…!

 

 

 

凛「ところで毅はどのクラスかわかってるの?」

 

毅「いや登校したら職員室に来てくれって言われてたからまだ分からん。」

 

凛「じゃあ職員室まで着いてくよ。」

 

 

 

職員室の前で凛と別れ、俺は職員室に入った。職員室って苦手なんだよなー。何もしてないのに、入る時緊張するんだよな。

 

毅「失礼します。今日から登校してきた浅村です!」

 

???「ああ、浅村君か。こっちに来なさい。」

 

俺を呼んだのは、見た目が渋い男の先生だ。すげえスーツ似合いそう。禁煙パイポも様になっている。ヤダ素敵!

 

 

???「私がお前のクラスの担任の山崎だ。よろしくな。」

 

毅「よろしくお願いします。俺は何組ですか?」

 

山崎「君は1年C組だ。朝のHRで自己紹介をしてもらうからな。あと何かボケろ。」

 

毅「学校来て早々にイジメられたくないんでお断りします!」

 

山崎「チッ、つまらん奴だな。そんなんじゃ友達できねーぞ?」

 

毅「その場合俺は友達ってより玩具になりますよね…?」

 

なんだこのオッサン。良いのは見た目だけかよ。少しでもカッケー!と思った俺の気持ち返せこの野郎。

 

 

毅「まぁ入学式の後とかに俺の事はクラスの皆に伝えてるんスよね?なら簡単な自己紹介でいいでしょ。」

 

山崎「………まぁ、その……なんだ。」

 

何か先生の歯切れが悪い。嫌な予感がするんだが……。

 

 

山崎「…実は伝えるの忘れていたんだ。まぁ別に問題無いだろう?」

 

毅「いやそれじゃ俺転校生みたいなもんじゃないッスか!どーすんだよ!」

 

山崎「ゴチャゴチャ煩い奴だな。男なら腹括れこの野郎!というか教師に向かってなんだその言葉遣いはぁ!」

と言って山崎は俺にアイアンクローをかましてきた。こ、このオッサン力強えぇ!潰れるぅぅぅ!

 

毅「いでででで!!す、すびばぜん!」

 

山崎「以後気を付けろクソ餓鬼。」

 

あなたの言葉遣いも教師とは思えませんよ…?

 

 

 

 

そして、俺と山崎先生は一緒に1年C組まで来た。先生の後に付いて教室に入ろうとすると止められた。俺が呼んだら入ってこいとの事。マジで転校生じゃないですかやだー。

 

山崎「皆んなおはよう。今日は諸事情により、入学式から来れなかった生徒が、今日から皆んなと一緒に勉強を開始する。皆んなよろしく頼むぞ。」

 

???「…えっ?それって…。」

 

山崎「じゃあ入れ。」

 

 

緊張しながらドアを開け、俺は教壇の上に向かった。そーいや自己紹介何も考えてなかったわ。まぁ適当でいいだろ。

 

毅「えー、浅村毅です。諸事情で登校開始が遅れましたが、よろしくお願いします。」

 

………………シーン。

あれ?俺何か変な事言ったか?反応悪くない?拍手待ってんだけど?先生ぇー!

と先生の方を向くと同時に出席簿が俺の頭にクリーンヒットした!

 

毅「痛ぁっ!…何すんだヤマさん。」

 

山崎「一昔前の刑事みたいな名前で呼ぶな。お前はまともに自己紹介もできんのか。」

 

毅「これ以上無いってくらいまともな自己紹介だったっスよね?何故シバかれなきゃなんねーんだよ!」

 

山崎「全員シラけてんだろうが。あれ程ボケろと言ったのを忘れたか?」

 

毅「ボケる必要性を見出せねーよ!あれ?俺がおかしいの?」

 

山崎先生とギャーギャー言い争っていると、クラスの人達からクスクスと笑い声が起き、最終的にはかなりウケていた。いや笑うところじゃないぞ?

 

山崎「とまぁ、俺のナイスアシストで自己紹介ができた浅村に歓迎の拍手!」

 

 

パチパチパチと拍手が起こる。まぁとりあえずは良しとしよう。先生に席を案内され、席に着く。一番廊下側の後ろから2番目と悪くない。

 

 

 

とそこで周りを見渡すと、一番グラウンド側の一番後ろに見知った女の子を見つけた。…なんだ結局同じクラスかよ。

少しホッとしていると目が合った。

 

凛(あ・と・で・ね)

 

と口パクで言ってきた。わかりやすくする為に大きく口を動かしていた凛。…ちょっと可愛いじゃねーの。

 

 

 




話が中々進まなくて申し訳御座いません。あと少しで他のアイドルも出てくる予定です。


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5話

友達とキャッチボールしている時に、この作品の展開どーしよーかなーと考えていたら、ボール(硬球)が顔面にクリーンヒットしました。ありがとうございました。


俺の自己紹介の後、先生から幾つかの連絡事項が伝えられ朝のHRが終了した。10分後から授業開始だが凛に話しかけるために席を立とうとすると、クラスの皆に包囲された。

 

 

「浅村君って中学どこー!?」

 

「彼女いるの!?」

 

「部活は何か入るの!?」

 

「いい身体してんなぁ…。レスリングをヤらないか?」

 

 

等と質問攻めだ。転校生じゃないからね?…いや転校生みたいなもんか。あと最後のやつ、今すぐ殺ってやんよ。

でも俺なんかに興味を持ってくれたのは素直に嬉しいし、学校生活に出遅れはしたがこれはかなりいいスタートを切れるのでは?と思い、一人一人の質問に答えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛〜?さっきから浅村君のこと見すぎじゃない?」

 

凛「…………女の子にはデレデレしちゃって。だらしないんじゃない?」

 

「ちょっと凛〜?聞いてます〜?」

 

凛「ニヤニヤしてて気持ち悪いよ。…私と話す時はあんな顔しないくせに…!」

 

「りーーん!!聞けー!!」

 

凛「なっ、何?どうしたの?」

 

「はぁ〜…。やっと気付いた…。」

 

 

私が質問攻めにあっている毅を見ていると、前の席に座ってる友達が話しかけてきた。

この子は入学式の日に席が前後ろだったので、一番最初に話して一番仲良くなった友達。…なんでちょっと疲れてるの?

 

「まぁいいや…とりあえず単刀直入に聞くね?隠し事は無しだからね?」

 

凛「私が大切な友達に隠し事なんてしないよ。何?」

 

「あんた浅村君と付き合ってるの?」

 

凛「………………は?」

 

いきなり何を言い出すんだろうこの子は。

 

凛「私が毅と?…ないない。ただの友達だよ。」

 

「さっきチラッと聞こえたけど、浅村君って最近こっちに引っ越して来たんでしょ?そんな人といつの間に一緒に登校する仲になったのさ?」

 

凛「あー…、まぁ色々あったんだ。色々と。」

 

「さっそく隠してんじゃん…。」

 

 

だって、毅との出会いを話すのはなんか恥ずかしいし…。

ん?恥ずかしい?なんで?多少は運命的なものを感じるかもしれないが、別に恥ずかしがるような話ではないよね?

…もうっ。分かんない。

私が仏頂面で考えていると、また質問された。

 

「それに、凛があんなに仲良くしてる男子って浅村君だけでしょ?凛が男子を名前で呼んでるの見た事なかったし。」

 

凛「それは…まぁ…そうなのかな?」

 

「朝も学校の前でイチャイチャしてたしね♪」

 

凛「してないっ!」

 

イチャイチャだなんて人聞きの悪い。普通に友達と話してただけなんだけどな。

 

凛「とにかく、私と毅はそんな関係じゃないから。ただの友達。」

 

「…結局詳しい事聞けてないんだけど?」

 

とそこで始業のチャイムが鳴り、1限目の先生が入ってきた。毅に質問していた人達もそれに合わせて自分の席に着く。ギリギリまで質問されてたんだ…と毅の方を見ると、毅と目が合った。顔の前で手を合わせ、申し訳無さそうに

 

 

毅(す・ま・ん!)

 

と口パクで言ってきた。

 

…ふんっ。知らないっ。

私は窓の方にそっぽを向いた。横目で毅の方をチラッと見ると、机の上でうなだれていた。…授業始まってるよ。怒られちゃえ。

 

可哀想なので帰りに何か奢ってくれたら許してあげよう。

今日は甘いケーキが食べたいな…♪

 

 

 

 

 

 

 

帰りのHRが終わって、皆んなそれぞれ動き出す。

部活に急ぐ者、友達と帰りにどこ行くか駄弁っている者、早々と帰っている者など。

俺はというと、凛と一緒に帰ろうと下駄箱の前で待っている。凛は掃除当番らしい。

 

スマホを弄っていると、凛が早足で歩いて来た。

凛「あっ、ここにいたんだ。もう帰ったかと思った。」

 

毅「同じクラスなのに、わざわざラ◯ンで放課後下駄箱の前で待っててって送ってきたのはそっちじゃねぇか。」

 

凛「あとでねって言ったのに、今日一日私の所に来なかったから嫌われちゃったのかなーって思ったんだ。ごめんね?人気者の毅くん?」

 

毅「うぐっ……すんません。」

 

そう、俺の質問攻めは最後の休み時間まで続き、結局凛と教室で話せなかった。教室に残ってたらまた誰かに捕まると思い、HRが終わると下駄箱に直行したのである。

…だって仕方ないじゃん?皆んないっぱい質問してきたら、疲れるけど嬉しかったし、無下にできなかった。

 

凛「今日一日、私の心は傷付きました。あぁ悲しいなぁー。」

 

毅「大根役者すぎやしません?」

 

凛「あ?」

 

毅「さーせんっした!!」

 

凛が真顔でキレるとすげえ怖いのな。でもやっぱ綺麗だけど。

 

 

凛「でも駅前のケーキバイキングを食べると、今なら何でも許せるかもー。」

 

毅「よし行くぞ。すぐ行くぞ。」

 

凛「え、でも私今あんまりお金無いんだ…。」

 

毅「水臭え事言いなさんな。ここは私が!」

 

ちくしょう!抗えねぇ!

まぁ今日は俺が悪かったしな。今日くらいはいいか。

隣でやった♪と笑う凛。その顔は先程とは打って変わって幾分か上機嫌だ。…この顔を見れただけでも良しとするか。

 

凛「ほらっ、早く行こう。置いてっちゃうよ?」

 

お前しか場所知らねーんだぞ?帰っちゃうぞ?

と冗談を言い合いながら、凛の隣を歩く。

 

 

やっぱ渋谷凛には逆らえないな。

 

 




欲しいもの?文才。


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6話

 

 

出遅れた学校生活も1週間が過ぎ、明日からGWとなった。

この1週間で仲良くなった友達は結構いるが、なんだかんだで一番仲良いのは凛だ。

 

クラスの男子からは

「あ、浅村!渋谷さんとはどどういう関係だ?」

「まさか付き合ってないよな?そうだよな?な?」

「こ、今度渋谷さん誘って遊ばないか?」

「貴様ぁ!抜けがけは許さんぞぉ!!」

等としつこいくらい聞かれた。

 

俺と凛はあれから毎朝一緒に登校し、一緒に帰っている。男連中から俺らが付き合っていると思われるのは仕方ないかもしれないが、俺達はただの友達だ。

 

まず凛みたいな魅力的な女の子と、年齢イコールDTの俺なんか相応しくないと思っている。……自分で言って悲しくなるな。

 

俺と凛がこうやって話すようになったのも、たまたま俺が道に迷っていたからであって、普通に入学式から過ごしていれば、仲良くなっていたかは分からない。

 

凛とクラスの男子の関係を見ると、たぶん話しすらしてなかっただろな。

そんなことを思っていると、帰りのHRが終わった。よし、帰るか。

 

荷物をまとめていると、凛が(先行ってて)と目配りしてきた。

…目だけで会話できるとか忍者かな?

 

 

 

 

 

凛「ねぇ…、毅はGW何するの?」

 

毅「毎日勉学に励むに決まってんだろ。学生の本分忘れんな。」

 

凛「バイト情報誌を食い入るように見てなかったらすごいと思ったんだけどな…。」

 

今俺達は喫茶店でお茶している。最近、凛と帰りにどっか寄るのが定番になっている。

俺はというと、今はバイト探しに夢中だ。一人暮らしだから、何かと金がいる。おっ、ここ自給いいな…って18歳以上かよ。18歳がそんなに偉いか?ああ?

 

凛「今お金無いの?家賃とか食費はどうしてるの?」

 

毅「あー……まぁ親からの金はあるんだが、あまり使いたくなくてな。なるべく自分の金で払いたいんだよ。」

 

凛「へぇー、偉いじゃん。…この前はケーキ奢らせてごめんね?今日は私が出すよ。」

 

…こいつ意外に義理堅いとこあるんだよな。

 

毅「気にすんな。必要経費だ。」

 

凛「社長じゃないんだから…。」

 

苦笑いする凛。しかし、本当に気にしなくていいのに。あれは俺が悪かったのは事実だ。

それに、まだ高校生とは言え、俺も男としてのプライドがある。女の子に奢ってもらうことには抵抗がある。

だから凛とこういう時に気を遣わせないってのも、バイトする理由の一つだ。決して貢ぐためじゃないからな?

 

 

毅「しっかし、なかなかいいバイトねぇな。これじゃ決まらねーわ。」

 

凛「何かやりたいバイトってあるの?」

 

毅「いや、自給がそこそこあって高校生OKならなんでもいいわ。」

この際、ワガママいってられないと思う。誰か、俺に職を…!

 

凛「…ちなみにうちの学校、基本的にバイト禁止だからね?」

 

毅「浮気もバイトもバレなきゃ問題にならねぇよ。」

 

凛「うわっサイテー。毅は浮気するんだ。」

 

毅「相手居ねーのに浮気もクソもあるか。物のたとえだよ。たとえ。」

 

凛「もし相手ができたらその人が可哀想。こんな節操無しなんて。」

 

毅「いや実際できたらしねーよ!」

 

凛「どうだか…。」

 

凛はジト目でオレンジジュースを啜る。…何ムキになってんの?お前は俺の彼女か?勘違いするぞ?

 

 

 

凛「…話変わるけどさ、毅は将来何になりたいとかあるの?」

 

毅「急にどした?」

 

凛「んー…ちょっと気になっただけ。」

 

俺は情報誌をパタンと閉じる。

…ふむ、将来か…。

 

毅「まだ何も考えてねーなぁ…。夢もなけりゃ、夢中になってる事もないしな。このまま普通に社会の歯車になるんじゃねーの?」

 

凛「毅ってスポーツできるし、意外に勉強もできるでしょ?それに、この前の美術の授業で絵も上手かったじゃん。何でもできるのに勿体ないね。」

 

毅「器用貧乏っていうやつだよ。…てか凛の方はどうなのよ?お前もたいてい何でも得意じゃん。愛想は無いけど。」

 

凛「うるさい。……実は、私もつい最近まではなりたいもの、熱中してることもなかったんだよね。」

 

暗い顔をして凛が呟く。

まぁこの歳ではそんなもんだろう。まだ高校1年生。まだまだ子供だ。……ん?最近までは?

 

毅「ってことは、最近なりたいもの見つけたのか?」

 

凛「んー…、ナイショ。」

 

毅「そこまで言っといて内緒はねーだろ…。」

 

凛「まだ言いたくないの。女の子にはいろいろあるんだよ。」

 

毅「…あぁ、あれか。お嫁さんか。頑張れよ。」

 

凛「はぁ?何言ってんの?…私がお嫁さんとか言うと思う?」

 

毅「凛だって愛想は無いけど女の子だろ?だからお嫁さんになりたいって思うのは別におかしくないんじゃねーの?愛想ないけど。」

 

凛「無愛想で悪かったねっ…!ていうか愛想無い言い過ぎ!」

 

毅「冗談だよ。悪い悪い。」

 

凛「…無愛想な私は良いお嫁さんなんてなれませんよ!結婚なんてできないかもね!」

 

毅「いや、それはねーだろ。凛って美人だし、意外に優しいとこあるし。」

 

凛「ちょっ……!い、いきなり何!?///」

 

凛が結婚できないのは有り得ないと思う。

今現在、クラスの男子から熱い視線を送られているしな。学年関係無く、凛が廊下を歩けば男子が振り向く。

道に迷ってた俺のために、わざわざ朝ランニングや学校まで着いて来てくれる優しい所もある。引く手数多だろう。

 

凛「ストレート過ぎるよ…!

……で、でも…ありがと…///」

 

こーやって照れる所が可愛いのもポイント高い。眼福眼福…。

 

凛「…何ニヤニヤしてんの?殴るよ?」

 

毅「すぐ手を出そうとするのは治しましょうね?」

 

 

からかい過ぎると怖い。

 

 

 

 

 

 

 

凛「結局バイト決まらないんだね。」

 

毅「マジでどうすっかなー…。」

 

今俺達は、喫茶店を出て家に帰っている。

この後、凛は用事があるらしいので、今日はいつもより早く別れる。

 

 

毅「この際新聞配達でもするかねー…。」

 

凛「朝走るのに、新聞配達は大変だね。」

 

毅「いや新聞配達になったら、朝走るのはやめようかなと。」

 

凛「え!?何で…!?」

 

毅「単純にキツいと思ったから。なんなら、配達で走らせてもらえたらそうしたい。」

 

朝早く起きて、新聞配達終わった後ランニングするのはかなりキツそうだしな。

凛と初めてランニングしてからも、毎朝凛とハナコと一緒に走っている。新聞配達が決まったら、この日課も終わりかぁ…。

 

などと考えていると、凛が怒った顔で文句を言ってきた。

 

凛「…新聞配達はダメ!絶対ダメ!」

 

毅「なんでだよ…。もう新聞配達くらいしかないんだっての。」

 

凛「他にまだあるかもしれないでしょ?私も一緒に探すからさ!」

 

何故凛は新聞配達を頑なに否定するんだ?俺だって、まだ日が昇ってない時間に起きるのは嫌だが、生活していくためだ。仕方ない。

 

毅「凛はなんでそんなに否定するんだ?何か理由あんの?」

 

凛「そっ…それはっ…!その…」

 

毅「…あー、俺と一緒にランニングできなくなるのがそんなに嫌なのか?悪いな。まぁ寂しいとは思うが、学校でいつでも…」

 

凛「……そうだよっ!悪い!?」

 

毅「……え?」

 

顔を真っ赤にして凛が言ってきた。え?冗談のつもりだったんだけど…

 

凛「あっ……なんでもない!なんでもないから!」

 

そう言った後、凛はシュンとなって俯いた。

こんな事を言ってくれるという事は、凛は俺との朝の日課を少なからず楽しいと思ってくれていたんだろう。

 

なんだろう…すげー嬉しいぞ…!

 

 

毅「…やっぱ新聞配達はやめとくか。寝坊して怒られるのがオチだろうしな。」

 

凛「…別にやったらいいんじゃない?お金稼ぐためなら仕方ないじゃん。」

 

毅「いやー…、その…なんだ。俺も凛と朝会えないのは、少し寂しいわ。」

 

凛「…えっ?」

 

毅「さて、新しいバイト探すか!凛も一緒に探してくれよ?」

 

凛「…うんっ。そうだね!」

 

 

よく見なければ分からない程だが、凛が笑った。

俺も素直じゃないな。

 

 

 

 

凛「…そうだ。良かったらウチの店聞いてみようか?」

 

毅「へっ…?」



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7話

最近押忍にゃんが自分の中でキてますわぁ…。
顔に当たったのがボールじゃなくて、押忍にゃんの回し蹴りなら泣いてた。(歓喜)


−ラ◯ンでの会話–

 

凛『じゃあ用事が済んだら迎えに行くからね。』

 

毅『おう。頼むわ。また連絡してくれたまえ。』

 

凛『働く前から看板娘にそんな上からモノを言うんだ?減点だね。』

 

毅『えっ?もう面接始まってんの?今日も可愛いよ』

 

凛『そんなゴマ擦っても無駄だよ。』

 

…今のやり取りで、スマホ越しなのに顔が熱くなるなんて私もどうかしてる。

 

 

 

今日はウチの花屋に、毅がバイトの面接に来る。

あの後、家に帰ってお母さんに「ウチの店でバイトしたい友達がいる」って伝えると、ぜひいらっしゃいと歓迎していた。今日は面接も兼ねて、一度話しがしたいとの事だ。

私は午後までレッスンがあるから、その後に毅と家に向かう予定。

レッスンが始まる前に、更衣室のベンチに座って毅とラ◯ンしてるところ。さて、今日も頑張ろうかな。

 

 

「凛ちゃん、嬉しそうですねっ!何か良いことありました?」

 

凛「そう?別にいつも通りだよ。卯月。」

 

隣にいる笑顔が眩しい女の子に答える。

この子は島村卯月。私と同じ346プロのアイドル。卯月の笑顔がきっかけで、私もアイドルをやってみたいと思ったんだ。あの時の卯月の笑顔は、今まで見てきたものの中で一番キラキラ輝いていた。

 

卯月「そうなんですか?さっきからスマホを見ながらなんだか嬉しそうにしてたんで…。」

 

 

「しまむー!しっぶり〜ん!おっはよー!」

 

卯月「あっ!未央ちゃん!おはようございます♪」

 

凛「おはよう、未央。今日も元気だね。」

 

 

元気良く入ってきたのは、同じく346プロのアイドル、本田未央。

私と同い歳で、いつも明るく元気な女の子。未央といるとこっちまで元気になってくる。誰にも明るく接していて、そんな未央がちょっと羨ましい。

 

未央「ねぇねぇ!何話してたの?」

 

卯月「凛ちゃんが嬉しそうにしてたので、何か良いことあったのかなーって!」

 

未央「ほほぅ…?気になりますなぁ〜?」

 

凛「別に何もないよ。卯月の勘違い。」

 

未央「でも最近、しぶりんってやたらスマホ見ながらニヤニヤしてるよね?誰かとラ◯ンでもしてるの?」

 

凛「なっ…!ニヤニヤなんてしてないっ!」

 

卯月「ラ◯ンしてるのは否定しないんですか?」

 

凛「ラ◯ンもしてない!」

 

未央「さてはしぶりん……彼氏ですかな〜?」

 

凛「は、はぁっ…!?///」

 

卯月「えええぇぇ!?本当ですか!?」

 

凛「違うよっ!卯月も何言ってんの!?」

 

未央「否定する割には顔が赤いよしぶり〜ん?」

 

凛「…未央?怒るよ?」

 

未央「ごっ、ごめんってばー!」

 

未央はこういう時、かなりしつこい。いつも私が怒るまで続くのがテンプレ。卯月も未央には私以上にからかわれてる。

赤くなんてなってないし。……なってないよね?

 

3人で騒いでいると、勢いよくドアが開かれた。そこには、鬼の形相をしたトレーナーさんが立っていた。…ヤバい!

 

「お前らぁぁぁー!!とっくにレッスンの時間は過ぎてるぞ!!今日は倍のメニューでいくから覚悟しろォ!!」

 

 

私、生きて帰れるかな…?

 

 

 

 

 

 

午後12時のチャイムが鳴り、地獄のレッスンが終わりを迎えた。

…もう無理。血反吐吐きそう…。

 

未央「ぅぅぅぅぅ……、もう遅刻はしないぞぉ〜…」

 

卯月「立てませぇ〜ん…」

 

凛「ほら卯月、タオル持ってきたよ。汗拭かないと風邪引いちゃうよ?」

 

卯月「凛ちゃぁ〜ん…、ありがとうございますぅ〜…」

 

未央「しぶり〜ん…、未央ちゃんのは?」

 

凛「あ、生きてたんだ。てっきり手遅れかと。」

 

未央「酷くない!?ちゃんと生きてるよ!!」

 

 

誰のせいでこうなったと思ってるの?

まぁここまでにしとこう。さすがに可哀想だ。

 

凛「ほら、未央もタオル持ってきたから。」

 

未央「しぶりん愛してる!」

 

 

…なんだ、まだ元気じゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未央「そーいえばしぶりんってさ、最近スタミナついたよね!今日のレッスン終わった後も、立ってたのしぶりんだけだったし!」

 

卯月「そういえばそうですね!レッスン終わっても、トレーナーさんに個別指導してもらったりしてますし!」

 

 

現在、更衣室で着替えを済ませて、休憩スペースで雑談中。

確かに…最近はレッスン終わった後でも少し余裕ができてきた。

最初の方は、軽いダンスレッスンでも息が上がって苦しかったのを覚えている。毎朝、毅と走ってるおかげかな。

 

 

卯月「レッスン以外にも、何かトレーニングしてるんですか?」

 

凛「ハナコの散歩くらいで、特別なことはしてないよ。」

 

未央「いやいやしまむー!もしかしたら…、彼氏と一緒にトレーニングしてるかもよ?」

 

凛「ちょっ、未央!!何言ってんの!?」

 

未央「しぶりん、冗談だよ?そんな怒らなくても…」

 

凛「…ッ!ご、ごめん…。」

 

未央「…おやおやぁ〜?」

 

卯月「……?」

 

未央の冗談に必死になってしまった。…未央が変なこと言うからだよ!

そして未央は、私の顔を見てニヤニヤしだした。

まずい、この未央は面倒くさい未央だ…!

 

 

ふと時計を見ると、時間は1時になろうとしている。

凛「やばっ、急いで帰らないと。」

 

卯月「凛ちゃん、もう帰っちゃうんですか?」

 

未央「えぇ〜!しぶりん帰るの!?まだ聞きたいことあるのにー!」

 

凛「ごめんね未央。また今度。それじゃ、二人ともおつかれ。」

 

卯月「お疲れ様でした!」

 

未央「あっ、ちょっとしぶり〜ん!」

 

 

退散退散。未央には悪いけど、面倒事になりたくないからね。

 

 

 

 

 

 

 

未央「……しまむー、どう思う?」

 

卯月「えっ?何がですか?」

 

未央「しぶりんのことだよ!…何か様子おかしくない?」

 

卯月「そうなんですか?今日の凛ちゃんも、可愛いかったですね!」

 

未央「ハァ……しまむー、クレープ食べに行こ?」

 

卯月「クレープ!いいですね♪行きましょう♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凛「ごめん!遅くなっちゃった!」

 

毅「俺はかまわねーよ。それより、凛の母さんは大丈夫か?」

 

凛「さっき電話したら、時間は大丈夫だから気をつけて来てって。」

 

毅「良かった…。とりあえず行くか。案内頼むわ。」

 

凛「うん、ついて来て。」

 

 

今俺は、凛と一緒に凛の実家の花屋に向かっている。

俺がバイト探しに四苦八苦していたところ、凛が母さんに頼んでくれた。

…それにしても、凛の家は花屋だった事に少し驚いた。別に似合ってないとかは思ってないぞ?むしろ、凛が花屋で働いているのを見てみたい。

 

毅「そーいやバイト頼んだ時って、凛の母さんは何か言ってたか?俺こんな見た目だけど、花屋で働いていいのか?」

 

バイトの面接なんて初めての経験だ。今の俺は、白いシャツに黒のスキニー、足元は白のスニーカーといった格好だ。

何を着ていけばいいかわからなかったが、派手な格好じゃなけりゃいいだろうと思った結果の選択だ。

この機会に、髪も黒染めしようと思ったが、時間が無くてやめた。

 

凛「見た目は関係ないと思うよ?ちゃんと友達がウチでバイトしたいんだけどって聞いてみたら、ぜひお願いしたいわって喜んでたよ。」

 

毅「…なら良いか。まぁ、俺としては助かったよ。サンキュー。」

 

凛「まだ受かってないけどね?」

 

毅「…ちょっと髪を黒染めしてスーツ着てくるわ。」

 

凛「ごめんごめん。大丈夫だから早く行こ?」

 

 

本当に大丈夫なのか…?不安しかないんだけど?

 

 

 

 

 

しばらく歩いていると、目的の花屋、もとい凛の家に着いた。

店の外にたくさんの、色とりどりの花が咲いてる。店の外観もとても綺麗だ。

 

凛「じゃあ入ろっか。…お母さーん!連れて来たよー!」

 

毅「こ、こんちわ!」

 

凛の後に続いて、店の中に足を踏み入れる。

店の中には、外以上に種類が多くカラフルな花が咲いていた。

ショーケースの中に入っていたり、鉢植えの中に束になって咲いているもの等様々だ。

こん中で俺働くのかぁ…。すげー浮いて見えるのは容易に想像つくな。

などと考えていると、店の奥から一人の女性がパタパタと足音を鳴らせてやってきた。

 

凛母「ごめんなさいねぇー!ちょっと電話に出て………て……?」

 

凛「お、お母さん…?」

 

凛がお母さんと呼んだ人が、俺の方を見た途端に固まった。

え?俺なんかした?

 

毅「おい凛、お前の母ちゃん俺見て口開けたまんま固まったぞ?何か失礼があったか?」

 

凛「いや、私もよく分からないんだけど…。」

 

毅「もしかして見た目か?花屋に茶髪はやっぱダメか?そうなのか?」

 

凛「だから見た目は関係ないってば。」

 

毅「いや、今からでも急いで黒染めとスーツ、七三分けにして…」

 

凛「気持ち悪いよ!…ちょっとお母さん?何固まってんの?」

 

凛が母の肩を揺らす。

ようやく正気に戻ったのかハッとした表情で、今度は凛の母さんが凛の肩を揺らしていた。

 

凛母「り、凛…?あの男前な子が、あんたの言ってたお友達なの…?どうなの?ええ?」

 

凛「ちょ、ちょっとお母さん…!揺らさないで!」

 

凛母「ドッキリなの?ついにあんたも芸能界でドッキリかけられるくらいのアイドルになったの…?」

 

凛「ドッキリなんかじゃないって…!っていうか、毅が困って店の外見てんじゃん!しっかりしてよもう!」

 

凛母「名前呼び!?あの凛が男の子を!?」

 

 

 

凛と凛の母さんが二人でギャーギャー騒いでいる。

凛は親の前では、こんな感じなのか…。なんか新鮮だな。

 

 

ていうかいつまで続くんすかね……?



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8話

 

 

 

 

凛母「いやー、あの凛が男の子の友達を連れて来たからびっくりしちゃった!ごめんなさいね?」

 

毅「い、いえ!浅村毅と申します!凛さんには、いつもお世話になっております!」

 

 

凛の母さんが正気に戻った後、俺の面接?が始まった。

友達の親とはいえ、少し緊張すんなぁ…。

目の前の凛の母さんはなんだか上機嫌だ。凛と俺を交互に見ながら、ニヤニヤとした表情を浮かべている。

それに対して隣に座っている凛は、少し俯いているが時々俺の方をチラチラ見てくる。…気になるからやめてくれません?

 

 

 

凛母「いえいえ、こちらこそいつも凛がお世話になってます♪この子無愛想なとこあるからいろいろ大変でしょ?」

 

毅「………そんなことないっすよ?」

 

凛「……ふんっ!」ゲシ

 

毅「いってぇ!何でスネ蹴るんだよ!?」

 

凛「…今間があったから。」

 

毅「ちゃんと否定したのに理不尽過ぎやしませんか…?」

 

女の子がそんな事しちゃいけません!

俺らのやり取りを見ている凛の母さんは、クスクス笑っている。

今はあなたの娘さんの暴力を叱るとこだと思いますよ?何笑ってんの?

 

 

凛母「あなた達とっても仲が良いのね!いつから付き合ってるのかしら?」

 

凛・毅「付き合ってない!(ません!)」

 

凛母「息ピッタリじゃない♪」

 

 

どこをどう見てそんな考えになるんだ?もし付き合ってたとしても、これはただのDVだ。今の蹴りに愛もクソもないだろ。

 

凛「ハァ……私着替えるから部屋戻るね。何か手伝う事あったら呼んで。」

 

凛母「じゃあ着替えたらすぐ降りて来てちょうだい。毅くんに仕事内容教えてあげてね。」

 

凛「りょーかい。」

 

返事をすると、凛は店の奥に入って行く。

ってか俺受かったの?自己紹介くらいしかしてないよ?

 

凛母「毅くん、凛の着替え覗いちゃダメよ?」

 

毅「いえ、まだ死にたくないです。」

 

凛「…どーいう意味?」

 

キッ…!と凛が睨んできた。

そんな事したらお前絶対俺の目潰した後、息の根止めてくるだろ?

 

凛母「ちなみに今日の凛の下着の色はみずいr…」

 

凛「お母さんッ!!///」

 

凛母「はいはい。さっさと着替えてらっしゃい。」

 

顔を真っ赤にした凛が階段を登って行った。

…それにしても、みずいr……いかんいかん。考えるな。凛をそんな目で見ちゃいけない。

 

 

頭の中に沸いた雑念を消そうと、凛の母さんにお願いした。

 

毅「あの、少し店の花見させてもらっていいですか?」

 

凛母「ええ、構わないわよ。好きなだけ見てちょうだい♪」

 

店内の花達に目を向ける。…花はいい。俺の心を浄化してくれるようだ。花の種類とか全然分からんがな。

こんなんで花屋の店員が務まるのか…?

 

 

不安に思っていると、凛の母さんが真面目な顔で話しかけてきた。

 

凛母「毅くん…凛と友達になってくれてありがとう。」

 

毅「え…?急にどうしました?」

 

凛の母さんに背を向けて花を見ていたが、声の方に振り向く。

 

 

凛母「あの子は昔から手のかからない子でね…。店の事も嫌な顔せず

手伝ってくれたりよく出来た娘なんだけど、親の私にもあまり弱い所を見せないのよ。」

 

毅「あー…なんとなく想像できますね。」

 

凛母「学校での事とかもあまり詳しくは知らないのよ。いじめに遭っているとかは無いと思うけど…、最初に言った通り愛想がいい方ではないでしょう?だから、親としては少し心配だったの…。」

 

 

最初の方こそ凛をからかってはいたが、やはり親としては色々心配しているとこもあるんだな。

凛がしっかりしているのも凛の母さん、父さんが愛情を注いだ賜物だろう。

……俺にとっては少し羨ましい。

 

凛母「だから毅くんみたいに、頼りがいのある男の子の友達がいて安心したわ♪これからも凛のことお願いね?」

 

 

 

…そんな事、言われるまでもない。

 

毅「俺も、凛には助けられてばかりですし…。もし凛に何かあったら絶対に守ってやるし力になろうと思ってます。それは約束します。」

 

うわ今のすげえクサイ台詞だったわ…。なんか恥ずかしくなってきた…。

 

凛母「うふふ♪今の言葉、凛が聞いたらきっと喜ぶわね…あら?」

 

凛の母さんが俺の後ろに目をやると、そこには着替え終わった凛が立っていた。やべっ、今の聞かれたか?だとしたら凛の顔を直視できないわ…。

 

凛「お待たせ。話終わった?」

 

凛母「ええ、じゃあ毅くんは凛に色々教えてもらってね?」

 

毅「わ、分かりました!」

 

 

良かった…聞かれてはいないようだ。

ホッと安心していると、凛が近づいて来て耳元でボソッと呟いた。

 

凛「恥ずかしがるならあんなクサイ台詞言わない方がいいよ?」

 

 

…聞いてたんかい!恥ずかし過ぎだろコンチクショウ!!さっそく帰りたい!いや死にたい!

顔に熱を帯び、心臓の音が大きくなったのが自分でも分かる。

 

俺の側を通り過ぎた凛は、こっちを向いて片目を閉じ舌を出した。

 

 

 

凛のあっかんべーに、さらに鼓動が速くなったが…凛、君はツメが甘いぞ。

 

 

凛の後ろ姿からは真っ赤になった可愛らしい耳が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

凛「…仕事内容はこんな感じかな。何か分からないとこある?」

 

毅「んー…とりあえずやってみたいかな。分からないとこあったらその時に教えて欲しい。」

 

凛「そうだね。…じゃあちょうど花のラッピングが1件入ってるからやってみよっか。」

 

凛から仕事内容を一通り聞いた後、俺達は花のラッピング作業を開始した。色のバランス、大きさや贈る目的によって使用する花を決めなければいけない。意外に難しいな…。

 

 

凛と作業をしているとそれまでレジに立っていた凛の母さんが、凛にレジを変わって欲しいと頼んできた。ご近所さんに頼まれていた花を届けてくるとの事。

 

凛「じゃあ私レジの方に行くけど、一人で大丈夫?」

 

毅「お、おおう。だ、大丈夫だ。問題ない…。」

 

凛「ホントかな…。」

 

ふん、俺の美的センスなめんな。芸術作品を作ってみせるぜ…!

まぁちゃんとマニュアルがあるんだけどな。

店の隅にあるテーブルで作業をしているが、レジからはそんなに遠くないからすぐ凛を呼べるし。大丈夫だろ。

 

 

俺が作業に戻り、凛がレジに立つとちょうど店のドアが開いた。

 

 

未央「こんちわー!しぶりんいる〜?」

 

卯月「み、未央ちゃんっ!ちゃんと挨拶しないとダメですよ!こっ、こんにちは〜!」

 

凛「………げっ」

 

 

ドアの方を見ると、女の子二人が入って来た。

というか凛、客に向かって「げっ」はないだろ…。

 

そういや俺も一応バイトの身だから挨拶しないとな。

なるべく笑顔を心がけて二人に挨拶をする。

 

毅「いらっしゃいませ!どうぞどうぞ!」

 

…完璧な挨拶だな。女の子二人もキョトンとしている。…あれ?なんで?

 

未央「…おやおや?しぶりんのお店に男のバイトさんっていたっけ?」

 

卯月「は、初めて見る人ですっ…!ここ、こんにちは!」

 

俺の方を訝しげに見た子、少し怯えながら挨拶をしてくれた子がこっちを見てくる。常連さんか?一応自己紹介しとくか。

 

…てかしぶりんって?

 

 

毅「あ、今日からこの店でバイトさせていただく事になった浅村です。よろしくお願いします。」

 

未央「そうなんだ!初めまして!本田未央ですっ♪」

 

卯月「しっ島村卯月ですっ…!よ、よろしくお願いします…!」

 

未央「さっそくですが…お兄さんはしぶりんとどんな関係ですかな〜?」

 

凛「ちょっと未央、変なこと聞かないで。」

 

毅「あぁ、凛のこと?凛とはクラスメイトっすね。」

 

未央「しぶりんの同級生!?それも男の子!?……ほうほうほう♪」

 

 

本田さんがニヤニヤしながら凛の方を見る。

後ろの島村さんは俺と目が合ってもサッと視線を逸らし、またしばらくすると遠慮がちにこっちを見てくる。…なんだろう、なんかこう…すごく意地悪したい衝動に駆られる。決してそんなことしないけどな。…でも初対面なのに嫌われてるの?俺?

 

 

未央「しぶりんも隅に置けないね〜?アイドル渋谷凛に熱愛発覚!スクープだよ〜♪」

 

凛「あっ…!」

 

毅「俺と凛はそんなんじゃないっすよ。………ん?アイドル?」

 

凛「ハァ……。」





先輩の結婚式の余興でtulipを踊るのはダメですかね?


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9話

 

 

毅「へぇ、本田さんと島村さんは凛と一緒にアイドルやってんのか。」

 

未央「なんか反応薄くない?もっとびっくりすると思ったのに!」

 

毅「まだピンとこないだけだ。」

 

 

先程凛の母さんが帰って来て、少し休憩していいとのことなので今は凛の家のリビングで4人で話している。

 

それにしても、凛がアイドルねぇ…。

 

 

卯月「凛ちゃんはなんで教えてあげなかったんです?」

 

凛「まだデビューもしてないし…ライブやテレビにも出てないからなんか恥ずかしくって…」

 

未央「えぇー?私はクラスの皆にすぐ教えたよ?」

 

卯月「私も、仲の良い子に伝えたらいつの間にかクラスの皆さんが知ってましたねー…。」

 

凛の話によると、アイドルとしてスカウトされたのは1ヶ月前だそうだ。

クラスの仲の良い友達は知っているそうだが、数える程度らしい。

コイツ意外に交友関係狭いもんな…。

 

 

そこでふと疑問に思う。

 

まだ知り合って1週間程度とは言え、毎日一緒に朝走ったり登下校したり、帰りには寄り道する仲の俺にはなぜ黙っていたのか?と。

 

…もしかして仲良いと思ってるのは俺だけか?

もしそうならすごいショックなんだが…。

 

 

未央「じゃあタケっちとしぶりんはそんなに仲良くはないの?」

 

タケっち?何それ俺のこと?どんなネーミングセンス?

 

凛「…っ!そんなことない!毅は私の大切な友達だよ!」

本田さんの質問に、凛が身を乗り出して答える。

 

お、おぉ…そこまで言ってくれるとは…。すげえ嬉しいけど、すげえ恥ずかしくなる。

 

凛も自分の言った事に恥ずかしくなったのか、ハッとして段々しおらしくなる。

そんな凛を見た島村さんは、眩しいくらいキラキラした目で俺達を見る。

 

卯月「へぇー!凛ちゃんと浅村さんって本当に仲良しさんなんですね♪」

 

凛「うぅ…///」

 

未央「…♪」ニヤニヤ

 

凛が恥ずかしがって下を向いている。その様子を本田さんがニヤニヤと見ている。

凛をこんなにするなんて…島村さん、ナイスだ。

 

 

 

卯月「じゃあ仲の良い浅村さんに内緒にしてたのはなんでですか?」

 

凛「…なんとなくだよ。タイミングが無かったってのもあるし。」

 

凛さんや、それはそれでどうなんですか?

 

 

そこで、先日の喫茶店での凛との会話を思い出す。つい最近までは、将来なりたいものや、今夢中になれるものが無かったと言っていた。

 

つまり、今は…そういうことだろう。良かったな。夢中になれるものが見つかって。

 

 

 

 

 

 

 

 

毅「島村さんと本田さんもデビューはまだなのか?」

 

未央「そうなんだよ〜…ていうか私の事は未央でも未央ちゃん♪って呼んで構わないよ?同い年だし!」

 

卯月「私も…卯月で構いませんよ!敬語も使わなくて大丈夫ですから♪」

 

毅「じゃあ卯月と本田さんで。俺の事も好きに呼んでくれ。」

 

未央「私変わってないんだけど!?…あっ!もしかして照れてる〜?このこのー!」

 

 

 

 

毅「…そーいや卯月は最初俺と目合わせてくれなかったよな?ちょっと傷ついたわー…。」

 

肘で俺の脇腹をグリグリしてくる本田さんを無視して、卯月に質問する。

本田、少し黙ってくれ。

 

卯月「ああぁ!すみませんっ!…正直、毅くんを最初見た時に…少しだけ怖そうだな〜って…本当、すみませんでしたっ…!」

 

毅「いや…慣れてるから大丈夫だ。今は平気か?」

 

卯月「はいっ♪凛ちゃんのお友達って分かって安心しました!」

 

毅「なら良かった。これからよろしくな?」

 

卯月「こちらこそ、よろしくお願いしますね!…男の子のお友達はあまりいないので毅くんとお友達になれて嬉しいですっ!

…えへへ♪///」

 

何この子天使か?…守りたい、この笑顔!

 

 

未央「……私を無視するなぁぁー!!」

痺れを切らした本田さんが叫ぶ。ちとやり過ぎたか。

 

毅「悪かったよ。…未央もこれからよろしくな?」

 

未央「フム…ま、優しい未央ちゃんはよろしくしてあげるっ!仲良くしようね?タケっち♪」

 

未央がはにかんだ笑顔で喜んでいる。

こうして二人の笑顔を見ると、アイドルなんだってのも何となく分かる気がする。

 

凛「……むー。」

 

俺が二人と話していると、凛が俺を睨んできた。

あの…凛さん?アイドルに相応しくない顔になってますよ?

 

未央「あー!しぶりんがヤキモチ妬いてるー!」

 

卯月「ヤキモチ妬いてる凛ちゃん…可愛いです!」

 

凛「ヤキモチなんて妬いてない!毅!仕事に戻るよ!」

 

毅「ちょ、凛!引っ張んなよ!痛っ!」

 

凛が俺を引きずりながら店の方に向かう。

お前こんなに力強かったの?段差に尻ぶつけてすげえ痛いんですけど…。

 

 

 

 

 

未央「にっしっしー♪これは楽しくなりそうだぞ〜?」

 

卯月「はいっ!毅くんと仲良くなれて良かったですね♪」

 

未央「……しまむーは本当にいい子だねぇ…。」

 

卯月「……?」

 

 

 

 

 

 

俺と凛が仕事に戻った後、未央と卯月が帰っていった。

帰る時に二人と連絡先を交換する事になったが、その時も凛が不機嫌そうにジッと見てきた。

連絡先を交換するくらい何がいけないんだ?…もしかして凛は俺の事…

 

…その先を考えるのは辞めた。有り得ねぇ。自意識過剰にも程があるだろ。

せっかく凛とこうして友達になれたんだ。これでいいじゃねーか。

 

あれだろ?「私の大切な友達に変な気起こすなよ」って事だろ?

 

 

 

心配しなくても、自称紳士な俺はそんな事しねえよ。

 

 

 

 

 

 

 

初めてのバイトが終わり、凛の母さんのご厚意に甘えて晩御飯をご馳走になった。その時に、花の配達から帰って来た凛の父さんに挨拶すると、なぜか泣きながら「凛をッ…!娘を頼むよッ…!」と懇願された。

凛の母さんはずっとニコニコしてたが、凛の方はそんな親父さんを見て若干引いた後親父さんにドロップキックをかましていた。

ご愁傷様です…。

 

 

凛「今日はお疲れ様。ごめんね、あんな親で…。」

 

毅「親父さんもお袋さんもいい人じゃん。こうやって皆んなで飯食ったの久しぶりだっから、俺も楽しかったよ。ご馳走さん。」

 

 

晩御飯をご馳走になった後、凛の両親にお礼を言い、俺達は店の外で話している。今日は色々あったが、とても充実した1日になった。

 

凛「未央と卯月もまた会いたいって言ってたよ。…モテモテだね。」

 

毅「揶揄うなよ…。友達としてって事だろ。二人にもよろしく言っといてくれ。」

 

凛「…うん。じゃあまた明日もお願いね?私は午後からレッスンでいないけど。」

 

毅「ああ、また明日。」

 

そう言葉を交わした後、俺は凛に背を向けて帰りだす。

…おっと、忘れてた。

 

店の中に入ろうとする凛を呼び止める。

 

毅「凛っ!……アイドル、頑張れよ。ずっと応援するからな!」

 

 

凛「……うんっ!私頑張るから!デビューするまで待っててね!」

 

驚いた顔をした後、凛も俺に笑顔でそう答えた。

手を振る凛の姿は、ステージ上でファンの声援に笑顔で応えるアイドルのように見えた。

…お前ならなれるよ。トップアイドルに。

 

凛「……ちょっと!二人とも見てたの!?そのニヤニヤした顔やめてよ!もうっ…!」

 

 

少し歩くと、凛の店の中からそんな声が聞こえてきた。

 

 

…俺も明日、凛の母さんにからかわれるんだろなー…。

 

 





反対意見を押し退け結婚式でtulipを踊る事に決定。


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未央の誕生日

一日遅れたけど、未央誕生日おめでとう!
ということでifストーリーになります。本編とは関係ないです。


 

 

12月が始まり本格的に冬の足音が聞こえてきた。

道行く人達を見ると、皆寒さに身を縮めるようにして歩いている。

 

カップルと思われる男女を見ると手を繋いでポケットに入れていたり、腕を組んで身体を密着させていた。

 

別に羨ましいとは思いませんよ?あまりくっついて歩いていると危ねーし。…本当だぞ?

 

 

今俺は、駅前の噴水の前で人を待っている。時計を見ると時刻は18時50分を回ったところ。約束の時間まではあと10分ある。

 

しかし寒い…。こんな寒い中で待ち合わせするなら、せめて駅の中にあるファストフード店で良かったんじゃね?すごく帰りたいんだが!

 

と、心の中で悪態をついていると前方から待ち合わせの女の子が走ってきた。

 

未央「お待たせー!タケっち早いねぇー!」

 

毅「いや俺もさっき来たとこだ。」

 

未央「…おぉ!なんかカップルみたいだね!ありがとダーリン♪」

 

毅「ハニー…、俺たち終わりにしよう?」

 

未央「会ってすぐ破局!?」

 

毅「いいから早く行こうぜ。寒くて死にそうだ。」

 

未央「そうだね!じゃあ、あっためてあげる♪」

 

未央が俺の腕にくっついてきた。ちょ、未央さん?恥ずかしいからやめてくんない?

 

毅「ええい鬱陶しい!離れろ!」

 

未央「まあまあ、あったかいでしょ?」

 

いたずらっ子のような笑みを浮かべた未央が、くっつける力をさらに強める。…確かに暖かくなったが、それは未央の温度ではなく柔らかさのせいだとは言えなかった。

 

未央ってやっぱデカいなー…。

 

 

 

今日俺達がなぜ一緒に歩いているかと言うと、昨日の夜に遡る。

 

 

 

 

 

未央「もしもーし、タケっち?起きてる?」

 

毅「…今未央に起こされた。」

 

 

時刻は0時を過ぎたあたり。風呂から出た俺はすぐに布団に入り、眠りについていたら未央からの着信で目が覚めた。何の用だ?

 

未央「あぁっごめんね!?寝てたんだ…」

 

毅「別に構わねーよ。それで、何か用か?」

 

未央「ありがとね♪…明日、っていうか今日は何の日か知ってる?」

 

毅「ん?そーいや今日から12月か。月日が経つのは早ぇーな。」

 

未央「そうだねぇ、今年もあと1ヶ月で終わり…じゃなくて!」

 

毅「…誕生日おめでとう、未央。」

 

未央「そうそう!今日は未央ちゃんの誕生日…って知ってたの!?」

 

 

そりゃあ知ってるさ。だいぶ前に346プロのHPで未央のプロフィールを見た時に覚えたからな。ちなみに卯月の誕生日もそこで覚えた。

 

毅「友達の誕生日だ。覚えてるに決まってんだろ?」

 

未央「そっか…えへへ♪ありがとう!」

 

毅「じゃあ、おやすみ。」

 

未央「わー!待って待って!タケっち明日の夜はおヒマ?」

 

毅「夜は特に予定はないな。」

 

未央「ホント!?じゃあ一緒にご飯食べに行こ!焼肉!」

 

毅「せっかくの誕生日なのに家族や凛達じゃなくて、俺でいいのか?」

てか焼肉ってどうなのよ?まぁ未央らしいけど。

 

未央「皆んなには夜までに祝ってもらうからいーの!それにタケっちと一緒にいたいんだ♪」

 

未央の言葉に少しドキッとする。

不意打ちはやめろ。好きになっちゃうじゃねーか。

 

毅「…分かったよ。どこで待ち合わせだ?」

 

未央「やった!じゃあ駅前に7時ね!よろしく♪」

 

毅「了解。また連絡するわ。」

 

未央「はーい!おやすみ♪」

 

 

 

 

そして現在に至る。店までの道を未央と腕を組みながら歩いていた。

 

未央「いやー楽しみだね!焼肉!もうお腹ぺこぺこだよー」

 

毅「…情けないけど、俺あんま高すぎるのは払えねーよ?」

 

未央「ダーリンの甲斐性無し!」

 

毅「だから誰がダーリンだ!」

 

未央「でも心配ご無用!実は仕事先で今から行くお店の無料券貰ったんだ♪だから安心して!」

 

毅「愛してるぜハニー!」

 

どうやら財布の心配はしなくていいそうだ。…情けないがな。

焼肉屋で無料券ってスゲーな。さすが芸能界…!

ちゃんと礼を言おうと、隣の未央を見ると下を向いてボソボソと呟いている。え?やっぱハニー呼びはダメだった?

 

未央「…い、今愛してるって……愛してるって言われちゃった…!」

 

毅「おーい、未央?」

 

未央「は、はいっ!?何かね!?」

 

毅「どうした?気分でも悪くなったのか?」

 

未央「な…なんでもない!大丈夫!」

 

急に大人しくなった未央を心配していると、目的の店に着いたので俺達は店の中に入って行った。

 

 

 

 

 

未央「…はぁ〜、食べた食べた!余は満足じゃ♪」

 

毅「未央って結構食うんだな…。店の人もビビってたぞ?」

 

未央「アイドルは体力が大事だからね!…それと、そんな事女の子に言っちゃダメだぞ〜?」

 

毅「へいへい。時間も時間だしそろそろ出るか?」

 

未央「そだね!…じゃあ先行ってて!渡してくるから!」

 

毅「ありがとな。ご馳走さん。」

 

 

 

 

 

 

店から出た俺達は、駅に向かって歩いている。

しかしさっきの焼肉めっちゃ美味かったなぁ…。あんな美味い焼肉は初めて食ったぞ。未央には本当に感謝だ。

 

毅「未央、今日は本当にありがとうな。祝う側なのにご馳走になってすまなかった…。」

 

未央「いーのいーの!タケっちが来てくれただけで未央ちゃんは嬉しいよっ♪こっちこそありがとうね♪」

 

本田さん…エエ子や…。未央と友達で俺も嬉しいです…!

 

 

そこで、隣を歩いていた未央が突然俺の前に出た。

 

未央「ねぇ、タケっち…もう少し未央ちゃんに付き合ってくれる?行きたいとこあるんだ!」

 

毅「俺は大丈夫だ。でも未央は親が心配するんじゃないのか?」

 

未央「今日は遅くなるって言ったから大丈夫!帰りはタケっちがいるから安心だしね♪」

 

毅「ちゃんと家まで送るってやるよ。んで?どこ行くんだ?」

 

未央「それは着いてからのお楽しみ♪」

 

嬉しそうな顔をした未央が、また俺の腕にくっついてきた。

今日は未央の好きにさせよう。……俺も、この未央の柔らかさを味わえるのは満更でもない。

 

 

 

 

 

 

未央「ねぇ、見て見て!すっごいキレイだよ!」

 

毅「おぉ、これはスゲーな!」

 

目の前のライトアップされたイルミネーションの数々に、俺達は目を輝かせる。

未央に連れられて来たのはそこそこ大きな公園。この公園は冬の間だけイルミネーションのイベントが開催されている。今日はその初日だそうだ。

 

普段は何の変哲も無い樹木だが、今はクリスマスツリーの姿に変えていたり、ベンチや遊具も色鮮やかに装飾されていた。

周りには家族連れやカップルがその景色を楽しんでいる。その顔は柔らかな笑顔で溢れていた。

 

未央「タケっち!あっちの方にスゴいのあるらしいよ?早く行こう!」

 

毅「はいはい。あんまりはしゃいでると転ぶぞ?」

 

 

未央に引っ張られながら、俺達はイルミネーションを楽しんだ。

光の世界に夢中になっている未央のキラキラした瞳に、俺は釘付けになっていた。

 

 

 

 

 

 

未央「イルミネーションもここで終わりかぁ…なんか寂しいなー…。」

 

気付けば俺達は、公園の出口にある噴水の前まで来ていた。

噴水の周りもライトアップされていて、未央はそれを見ながら名残惜しそうに言った。

 

時刻は夜の11時を過ぎている。そろそろ帰らないと、未央の親御さんが心配するだろう。

 

並んで噴水を見ていた未央が噴水の前に近づいて、俺の方に振り向く。

 

 

未央「今日は本当にありがとね!…ステキな誕生日が送れたよ♪」

 

はにかみながら未央が言う。

周りを見渡すと人が誰も居ない。…ここで渡すか。

 

毅「…未央、目閉じてくれないか?」

 

未央「え?目を?…別にいいけど変なことしないでね?」

 

毅「しねーよ!ほら早く目閉じろ!」

 

未央「冗談だって♪…ん。」

 

目を閉じた未央に近づいた俺は、ポケットの中から小さな箱を取り出し中身を出す。

中から出てきたのは、チェーンの先に小さなオレンジのハートが着いたネックレス。それを未央にかけてやる。

 

首にネックレスをかけられた未央は「えっ…これって…」と呟いた。

 

 

毅「…よし、目開けていいぞ!」

 

未央がゆっくり目を開ける。自分の首元を確認すると口に手を押さえ、目に涙を浮かべた。

 

未央「嬉しい…すっごく嬉しい…!これ貰っていいの!?」

 

毅「未央へのプレゼントなんだから当たり前だろ?…改めて、誕生日おめでとう。未央。」

 

 

今日の待ち合わせ場所に行く前、ショッピングモールでプレゼントを買っていた。最初は、プレゼント選びに悪戦苦闘していたがそのネックレスを見た瞬間に、未央の顔が浮かんだ。

 

 

未央「…タケっち〜!ありがとう〜!」

 

未央が俺に抱きついてきた。いつもなら力づくで剥がすところだが、今の未央を見るとその体を受け止め、抱きしめた。

 

未央「ずっと大事にするから!絶対外さないからっ…!」

 

毅「そこまで喜んでくれると、俺も嬉しいわ。…似合ってるよ。」

 

未央「…えへへ♪」

 

 

 

 

 

公園を出た俺達は一緒に帰り道を歩く。隣の未央はネックレスを触りながら、ずっとニコニコしている。そんな未央を見ていると、未央が小声で呟いた。

 

未央「…0時が過ぎる前に、王子様から素敵なプレゼント貰っちゃった…///」

 

毅「…///」

 

誕生日おめでとう。シンデレラさん。





改めて未央誕生日おめでとう!
デレステの限定未央は50連爆死しました。


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10話

 

 

 

−346プロレッスンルーム内−

 

トレーナー「よし、15分程休憩だ。しっかり休むように。」

 

未央「うへぇー…。今日もしんどいねー!」

 

卯月「でも、最近はなんだか体力ついてきた気がします!」

 

 

私達は現在、レッスンに励んでいた。今日もトレーナーさんは私達に容赦がない。でも、私達は確実にレベルアップしているのを感じる。

最近はレッスンが楽しいんだ。

 

 

 

すると、レッスンルームの扉が開き一人の男性が入ってきた。

この少しだけ強面な大男は、私達のプロデューサー。今は慣れたけど、最初は私もびっくりしたなぁ…。卯月なんかは会った時腰を抜かしそうになったとか。

 

 

プロデューサーは私達の元へとやってきて「お疲れ様です。」と言った後、私達を見回しながら話しだした。

 

 

 

武内P「渋谷さん、本田さん、島村さん、レッスンの後少しお時間よろしいでしょうか?」

 

未央「何々?もしかしてお仕事の話!?」

 

武内P「まぁ…そのような所です。では、また後ほど。」

 

トレーナーさんにも挨拶をしてプロデューサーが部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

凛「話ってなんだろ?」

 

未央「だからー、お仕事の話だってば!テレビかな?それともラジオかな?」

 

凛「それがホントなら少し緊張するね…。」

 

未央「だーいじょうぶ!3人で力を合わせようじゃないか!ね、しまむー?」

 

卯月「は、はい!島村卯月、頑張りますっ♪」

 

 

3人であーだこーだ話していると、トレーナーさんから休憩終了の声が聞こえ私達はレッスンに戻る。今は目の前のことに集中しなきゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毅「ありがとうございましたー。またお越しください。」

 

凛母「…すっかり一人で出来るようになったわねー。毅くん物覚えが良いんだ?」

 

毅「まぁ、早く戦力になりたいとは思ってましたね。まだ怪しいところもあるっすけど。」

 

凛父「凛がアイドルになって手伝ってくれる時間が減ったからね。毅くんが来てくれてホント助かるよ!」

 

凛母「花嫁修行ならぬ、花婿修行よね♪」

 

凛父「我が家も安泰だなぁ!ハッハッハ!」

 

毅「あんた達ホント何言ってんの?」

 

今俺はアルバイトの真っ最中。俺が接客を終えて客が外に出た後、凛の両親が冗談を言い合っている。

初めてのバイトから2日しか経っていないが、凛や凛の両親に助けてもらいながらなんとか、ある程度は一人でこなせるようになってきた。

 

凛の両親は俺のことをからかってくるものの、すごく良くしてくれている。昨日も晩御飯をご馳走してくれて、一人暮らしの俺には非常に助かる。

 

 

 

 

外がすっかり暗くなって閉店時間が近いてきたので、俺は店内の清掃をする。…しかし凛のやつ、今日は遅いな。

 

ある程度片付けを終えレジを閉めようとすると店のドアが開いた。見ると凛が帰ってきた。

 

凛「ただいま。少し遅くなっちゃった。」

 

毅「おかえり。何かあったのか?」

 

凛「うん、ちょっとね。今日も晩御飯食べて帰るんでしょ?」

 

毅「二人とも、凛が帰ってきたら俺も入れて皆で食べようって言ってくれてるからな。」

 

凛「そっか。…じゃあ話があるから晩御飯の時に話すね。」

 

毅「了解した。」

 

凛は両親にもただいまと言った後、自分の部屋に向かった。

気のせいかもしれないが、帰って来た凛は幾分か上機嫌に見える。

何か良いことでもあったんだろう。それに話ってなんだ?

 

レジを閉め終え、凛のおやっさんと店の奥に入っていく。

リビングへと繋がる廊下からも良い匂いがする。今日はカレーか。

 

 

 

 

 

 

毅「やっぱ凛の母さんの料理は最高っすね!おかわり!」

 

凛母「そう言ってくれると嬉しいわ♪どんどん食べてね!」

 

凛父「母さんの料理は世界一だからな!俺もおかわり!」

 

凛母「あらあら♪…って凛?どうかしたの?」

凛の母さん特性のカレーに舌鼓をうっていると、凛が真剣な顔をして俺達の方を見る。

そーいや話があるって言ってたな。何だろう?

 

凛「…みんなに報告があるんだ。」

 

凛父「報告?何かあったのか?」

 

凛「実は……CDデビュー、決まったんだ。」

 

 

リビング内がシーン…とする。そんな空気に凛が「あ、あれ…?」と困っていたが、数秒後に理解が追いついた俺達は凛を祝福した。

 

凛父「そうか…!やったじゃないか凛!おめでとう!さすがは俺の娘だな!」

 

凛母「おめでとう、凛。今日はお祝いしなくちゃね?」

 

凛「べ、別にいいよっ!まだ発売もしてないんだから!」

 

凛母「私今からケーキ買ってくるわ!」

 

凛父「俺もついていくぞ!凛の大好きなチョコレートケーキを買ってくるからな!」

 

凛「ちょっ、ちょっと!…行っちゃった。大袈裟だなぁ…。」

 

家の中が俺と凛だけになった。ハァ…とため息を吐いた凛は俺の方をチラッと見てくる。

 

凛「…毅は何か言うことないの…?」

 

凛が不満気な顔で見てくる。ないわけねーだろ。心配すんな。

 

毅「あの二人に圧倒されてな。タイミング失ってたわ。…おめでとう、凛。頑張れよ。」

 

凛「…うんっ。ありがと。」

 

俺がお祝いの言葉をかけると凛が少し笑った後、晩御飯を食べ始めた。

 

その後、凛の両親がどデカイケーキを買って帰ってきた。凛は文句を言いつつも、『祝CDデビュー!』と書かれたチョコレートケーキを嬉しそうに食べる。そんな凛の顔を俺はずっと見ていた。

 

ケーキを食べ終えた後帰り支度をする俺と凛に、凛の母さんがニコニコしながら言ってきた。

 

凛母「毅くん!明日はお休みだから、凛と一緒にデートしてきなさい♪」

 

凛&毅「………はい?」

 

 

 

 

 

 

マンションの自室に帰った俺は風呂に入った後ベッドに転がる。

 

それにしても凛がCDデビューか…なんか変な感じだ。

 

祝福はしている。この気持ちは本当だ。だが、心の中では凛が遠くに行ってしまうような感じがする。

凛はアイドルだ。CDデビューなんてスタートラインに過ぎない。

CDが売れ、知名度が上がってくるとそれこそテレビやラジオなどに引っ張りだこになるだろう。

 

ただの一般人の俺とは全く別世界に行っている。今みたいな日常はやがて無くなるんだろう。

そう考えると、心がモヤモヤしてくる。…やめよう、今は凛を応援するんだ。

 

ベッドの上でそんなことを考えていると、スマホが鳴った。

画面を見ると凛からの着信だ。

 

凛『もしもし、今大丈夫?」

 

毅『大丈夫だ。どーした?』

 

凛『うん、明日の事なんだけど…』

 

毅『…ん?明日?』

 

明日って何かあったか?…頭の中で思い出していると帰り際の凛の母さんの言葉が浮かんだ。マジ?デートするの?

 

毅『…アイドルがデートなんかしていいのか?』

 

凛『デっ…デートじゃないよ!ただ一緒に遊びに行くだけだから!変なこと言わないで!』

 

電話越しに凛の焦ったような声が聞こえる。

それを世間一般ではデートって言うんじゃねーの?したことないから分からんが。

 

凛『…私はただ、CDデビューのご褒美が欲しいだけ。』

 

毅『ああ、いいけどあんま高いのは勘弁な?何が欲しいんだ?』

 

まだ給料入ってないんだよ。ブランド物とかは買えねーぞ?

 

 

凛『…毅と1日中一緒にいたいな。ただそれだけ。』

 

毅『へっ?そんなのでいいのか?』

 

凛『うん。ダメ…?』

 

全く、欲が無いヤツだな。せっかくのご褒美なのに…

しかし凛の言葉に俺の心臓の音はみるみる大きくなってくる。

 

 

毅『……分かった。明日の朝も走るんだろ?』

 

凛『もちろん。走りながらどこ行くか決めよ。じゃあまた明日、おやすみ。』

 

 

なんとか平静を保ってみたがその日の夜は全く眠れなかった。





展開が遅くてすみません。
物語を書くのは本当に難しいです泣


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11話

 

 

 

 

5月に入り朝一番でもようやく春の暖かさを感じられるようになった。

走っていると暑くなってくるので、下はジャージだが上はロンTの上に半袖のTシャツという格好にした。準備を終えて店の外にいる愛犬のリードを握り歩きだす。毎朝この時はハナコもすごく嬉しそうだ。

尻尾を振るハナコを見てペットは飼い主に似るって言葉が頭に浮かぶ。……ハナコ程じゃないよ。

 

 

 

 

 

 

毅「おはようさん。今日はどこ走る?」

 

凛「おはよ。一番最初のコースでいい?」

 

毅「公園で折り返すんだな。んじゃ行くかハナコ!」

 

ハナコ「ワンッ!」

 

 

愛犬のリードを毅に渡す。ハナコが喜んでるからいいけど、少し毅にヤキモチを妬いているのは秘密。飼い主は私だからね?

 

毅にジェラシーを感じながらも、毅とハナコの隣で走り出す。私が左端、毅が真ん中でハナコが右端。この立ち位置も最初から変わらない。

毅がニコニコしながらハナコの方を見る。それを隣で見るのが好き。

だってこんな笑顔私には向けないから。

 

 

ヤキモチを妬いているのはハナコに対して…

違うから。断じて違う。

自分の中に沸いた感情を忘れるように私は少しペースを上げた。

少し驚きながらも毅はハナコと着いてくる。置いてっちゃうよ?

 

 

 

 

 

 

 

毅「んで、今日はどこ行くんだ?」

 

凛「こういう時は男の人がエスコートするもんじゃない?」

 

毅「んじゃ今日はデートって事でいいんだな?」

 

凛「…………違うよ。何勘違いしてんの?」

 

毅「今の間は何なんだよ…。」

 

 

この後のことを決めようと、私達は公園のベンチに座り話している。

ハナコは毅の膝の上で撫でられながら丸くなっている。

気持ち良さそうにしちゃって。羨ましいとか思ってないから。

…やめよう。今日の私は何か変だ。

 

毅のデートという言葉に少しドキッとしながらもそれに否定する。

変なこと言わないでよ。走って暑いんだから。

 

毅「じゃあ凛はどっか行きたい所はないのか?」

 

凛「んー…特にないかな。」

 

毅「何かしたいことは?」

 

凛「……毅と一緒ならそれで良いよ。」

 

毅「…ッ!」

 

私の言葉に毅の顔が少しだけ赤くなった気がする。

おかえしだよ。照れちゃって可愛い。

それにしても今日は暑いな。

 

 

毅「…何も決まんねーじゃん」

 

凛「そうだね。」

 

毅「このままだと帰れねーよ?」

 

凛「そうだね。」

 

毅「あの渋谷さん?考える気あります?」

 

凛「さぁどうだろ?」

 

毅「ダメだこいつ早く何とかしないと…。」

 

目の前の毅が項垂れる。

その姿を見て私はクスクス笑う。

 

 

 

ああ…楽しいな。正直私の望みはもうほとんど叶っている。

毅とこうやって冗談を言い合ったり、たわいもない話をするのが私の一番の楽しみなんだ。

この時間がずっと続くといいな。…貴方はどう思ってる?

 

毅「よし…じゃあとりあえずショッピングモールに行くぞ。そこなら何でもあるしな。」

 

凛「んー、まあ悪くないかな。及第点。」

 

毅「人に任せてんのにえらい厳しいなオイ」

 

そう言って毅がハナコを地面に降ろして立ち上がる。

ショッピングかぁ…。毅とは初めてかも。

そう思うと少しだけ緊張してきた。…なんで?

疑問を抱きつつも私達は元きた道を走り出した。

 

 

 

 

 

 

凛と一旦別れた後、俺は部屋に戻って準備を始める。

1時間後に凛の家に迎えに行く。正直30分で充分なのだが、凛に「女の子はいろいろ時間がかかるの」と怒られた。

シャワー浴びて着ていく服をある程度決めたら、ほとんど終わった。

ここまで15分の早業だ。

 

テレビでも見ながら時間を潰そうかと思っていると、スマホが鳴った。

画面を見ると未央からの着信だった。

 

未央『もしもし、タケっち?おっはよー♪』

 

毅『おはよう。どした?』

 

未央『今日しまむーとしぶりんも誘って、皆んなで遊ぼうと思ったんだ!どうかな?』

 

毅『凛はもう誘ったのか?』

 

未央『今のところはしまむーだけかな!しぶりんはこの後連絡するんだー。』

 

毅『じゃあ凛には俺から伝えとくわ。』

 

未央『さっすがタケっち!じゃ、10時に駅前のカフェに来て!よろしく!』

 

毅『了解。また後で。』

 

 

電話を切って時計を見る。現在8時45分くらい。凛を迎えに行くのは9時半。そこから駅前までは15分かからないほど。ちょうどいいか。

 

しかし、勝手に決めてしまってよかったのか?

 

…人数多い方が楽しいだろ。それに行き先は未央が決めてくれると思うから楽できそうだ。凛も二人がいた方が喜ぶだろう。

 

よし、未央達が来ることは黙っていよう。サプライズってやつ?

我ながら粋な計らいだな。

 

 

 

 

 

10分程歩いた俺は凛の店の中に入る。

中には凛の両親が花に水やりをしてたり、ラッピング作業をしていた。お疲れ様です。

 

毅「おはようございます!」

 

凛父「おお毅くん、おはよう。」

 

凛母「おはよう毅くん。凛を呼んでくるからちょっと待っててね♪」

 

凛の母さんが階段を登って凛の部屋に向かった。

二階から二人の声が聞こえたが、よく聞こえなかった。

 

しばらくすると凛の母さんがニヤニヤしながら降りてきた。

何ニヤニヤしてんの?凛が何かやらかしたか?

 

と思っていると、階段から凛が降りてきた。その顔は真っ赤になって俯いていた。

不思議に思いながら凛をよく見ると、青い薄手のセーターに白いロングスカートといった格好だった。

腰のくびれ、ロングスカートを履いていても分かるくらいの足の長さ。流石アイドル。

 

凛の姿をボーっと見ていると凛が近づいてきた。

 

凛「お、おまたせ…。」

 

毅「お、おう。今来たとこだ。」

 

凛母「毅くん!そこは凛の服装を褒めるとこよ!普段スカートなんて履かない凛が頑張ったんだから♪」

 

凛「お、お母さん!!///…毅っ!行くよ!」

 

毅「は、はいっ!」

 

 

怒った凛が俺の腕を引っ張って歩きだす。

凛の両親に頭を下げて俺も凛の後に続く。

 

凛から解放され、今は二人で並んで歩いている。

しかし、凛はさっきからずっと黙っている。チラッと顔を見ると少しだけ眉間にシワが寄り不機嫌そうだ。怖いよ?凛さん?

 

凛の雰囲気にビビってると、凛が申し訳なさそうに話しかけてきた。

 

凛「ごめんね…。お母さんがスカート履いていかないと一週間ご飯抜きだって言ってきてさ…。やっぱ似合わないよね…。」

 

毅「…んなことねーよ。すげえ似合ってる。やっぱ凛は何でも似合うのな。」

 

正直な感想を伝えると、凛が「ほ、ホント?」と言って次第に機嫌が良くなってきた。

…よかった、なんとか機嫌が直ったようだ。

今では小さく鼻歌なんか歌っちゃう凛は可愛い。マジで。

 

 

 

凛「そーいえばモールとは反対方向に歩いてるよね?どこか違うとこ行くの?」

 

毅「あー…まぁな。もう少しで着く。」

 

凛「そっか。じゃあ道案内よろしくね。」

 

危ない。俺の完璧なサプライズが無駄になるところだった。

俺じゃなく未央のおかげだが。

 

 

しばらく歩いた俺達は目的のカフェに着いた。未央に地図を送ってもらってたので、迷うことはなかった。ナイス未央。

 

店の外観はいかにも女子が好きそうな、レンガ造りになっている。凛もまじまじと見ている。

 

凛「へぇ、毅がこんなとこ知ってるなんて。やるじゃん。」

 

毅「こ、この前たまたまな…?とりあえず入ろうぜ。」

 

なんとか誤魔化しながら俺達は店の中に入る。

店内にもお洒落な空間が広がっていた。こんなとこ俺一人じゃ入れねーよ。

すると、店の奥から未央が手をぶんぶん振っているのが見えた。俺も手を振り返す。

 

 

 

しかし、チラッと隣の凛を見るとしばらく呆然とした後にキッと睨んできた。

 

凛「…毅?どういうこと?」

 

 

 

あれ?なんで怒ってるの?女の子がそんな顔で睨んじゃいけませんよ?

 

凛の後ろに般若が見えた気がした。

 

 

 






無料ガシャでSSRちゃんみおキター!
なお恒常の模様。


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12話

 

 

 

 

カフェの中に入った俺達の間には現在重苦しい空気が流れている。

俺と隣にいる未央は下を向いて俯いていたり、正面に座る卯月はオロオロしている。可愛い。

 

そしてこの空気の発信源である卯月の隣に座っている般若…凛の方をチラッと見ると先程からずっと俺を睨みつけながらアイスコーヒーを啜っている。ヤバい。今日俺死ぬわ。

 

 

短い人生だったなと半ば諦めていると未央が耳元で囁いてきた。

 

未央「……ちょっとタケっち?なんでしぶりんはあんなに怒ってるの?あんな顔初めて見るよ?」

 

毅「いや俺も心当たりがないんだが……。」

 

未央「ホントに?タケっち以外考えられないよ?」

 

毅「そう言われてもなぁ……もしかしてサプライズが失敗したのか?」

 

未央「サプライズ?」

 

毅「ああ。凛を驚かそうと未央と卯月が来るのは黙ってたんだよ。」

 

未央「……ん?それじゃしぶりんは今日タケっちと二人で遊ぶと思ってたの?」

 

毅「そうだよ。何がいけなかったんだ?」

 

未央「……あーあ。犯人ここにいたわ。死刑に値するよ。」

 

毅「は?なんで俺なんー…」

 

凛「ちょっと?さっきから二人で何コソコソしてるの?」

 

未央と小声で原因を突き止めていると凛が冷たく低い声で言ってきた。……マジ怖い。

 

未央「え、えーと……しぶりん?今日はホントごめんね?タケっちがちゃんと伝えてたのかと思ってたからさ!」

 

毅「ちょ、未央!何俺のせいにしてんだよ!」

 

未央「うっさい!このバカちんがぁ!タケっちがサプライズなんてアホなことしなきゃーー」

 

凛「二人とも?他のお客さんに迷惑だから少し黙ってね?」

 

未央&毅「はい……。」

 

凛が笑顔で俺達を注意してきたが凛の目は笑っていなかった。

卯月はまだオロオロしている。可愛い。

 

俺と未央が項垂れていると凛がハァとため息をついて俺達を見る。

 

凛「……もういいよ。未央も毅も私を思ってしてくれたんだし。今日は4人で遊ぼっか。」

 

卯月「凛ちゃん、今日はごめんなさい。」

 

凛「卯月は気にしなくていいよ。悪いのはそこの2人だから。……ね?」

 

俺&未央「すんませんでしたぁー!!」

 

俺と未央は机に頭をぶつけながら謝罪する。

どうやら許してくれるらしい。未央なんか今にも泣き出しそうな顔で喜んでいる。安心しろ、俺も泣きそうだったから。

 

 

 

 

凛に許しを貰った後、俺達は4人でショッピングモールに向かっている。未央と卯月も買い物がしたかったらしいので俺の最初の案が採用された。

 

未央と卯月はこれから何を買うか色々話しながら歩いている。その後ろを俺と凛が付いて行く。

しかし、カフェを出てから二人と話す時は終始穏やかな顔をしているが、俺が話しかけると凛は「ふんっ」とそっぽを向く。

許してくれたんじゃないの?

 

このままじゃ話しもできない。そう思った俺は凛に改めて謝罪をする。

 

毅「なぁ凛、今日は黙ってて悪かった。やっぱ除け者にされたと思うよな。ごめん。」

 

凛「……はぁ。もういいってば。やっぱり毅には分からないよね……。」

 

毅「分からない?何が?」

 

凛「なんでもない。ほら行くよ?二人に置いてかれちゃう。」

 

凛が早足で俺の前を歩く。

なんとか話しは聞いてもらえたが、まだ不機嫌そうだ。

どうやら凛が怒っているのは、除け者扱いを受けた事に対してではないらしい。

考えるが……分からん。答えが出そうにも無い。

とりあえず俺も凛の後を追った。

 

 

 

 

 

 

未央「おぉ!人がゴミのようだ!」

 

卯月「未央ちゃん!そんなこと言っちゃいけませんよ!」

 

凛「でも本当に人がいっぱいだね。皆、はぐれないようにね?」

 

GWという事もあってモール内は人でごった返している。

たくさんの家族連れや学生などが俺達の前を行き交う。これは本当にはぐれないようにしないとな。

 

未央「じゃあまずは服見に行こ!未央ちゃんのファッションショーだ!」

 

卯月「ああ、未央ちゃん!待ってくださーい!」

 

未央が先陣切って動き出し、それを卯月が追いかける。危ないぞ?

 

 

 

 

 

 

 

毅「はぁ……疲れた。」

 

あれから2時間程経って俺はショップの前のベンチに座っている。

女の子の買い物ってすごいのな。店を回る効率なんか考えず、目に映る店に入ったり一度見た店に戻ってみたり。これだけ経っても全然進まない。

店内にいる未央と卯月は楽しそうに服を見ている。アイドルの体力恐るべし。

 

俺がグッタリしていると隣に凛が飲み物を持ってやって来た。

 

凛「まだ全然見てないのにだらしないよ?はいこれ。」

 

毅「なんでお前ら余裕なんだよ……。サンキュ。」

 

凛から貰ったジュースを飲む。ああ、疲れた。

チラッと隣に座っている凛を見る。カフェを出た後よりも随分と機嫌が良くなっている気がする。今日は凛の顔色を伺ってばかりだな。

 

社会に出ると上司にこういう感じなのか?と考えていると、目の前の店から買い物袋を下げた未央と卯月がヒソヒソ話しながら出てきた。

なんか俺と凛をチラチラ見てくるし。

 

未央「しぶりーん!私達ちょっと買いたい物あるからタケっちのことよろしくねー?」

 

凛「へっ?」

 

卯月「凛ちゃん!また後でね!」

 

凛「ちょっと!……ほら、着いてくよ!」

 

毅「へいへい。」

 

ベンチから立ち上がろうとすると、未央が俺の腕をぐいっと引き寄せて耳元で囁く。

やめろ。いい匂いするから。

 

未央「タケっちはしぶりんと二人で買い物しなさいな。」

 

毅「なんで?一緒に行けばいいだろ?」

 

未央「いいから、つべこべ言わず行きなさい!また後で連絡するね♪」

 

そう言った未央は卯月と一緒に歩いて行った。どういうつもりだ?

 

凛「ねぇ、未央はなんて?一緒に行かないの?」

 

凛が若干焦りながら聞いてくる。

俺も分かんねーよ。

 

未央達の方に目を向けると、人混みの中に消えてしまったらしく姿が見えない。探すのも一苦労だし、このまま行くか。

 

毅「しゃあない。凛、一緒に回ろうぜ。二人は後で合流するってよ。」

 

凛「……二人で?毅と?」

 

毅「他に誰がいんだよ。それに元々今日は二人で来る予定だっただろ?」

 

凛「その予定を黙って変更してたのは誰だっけ?」

 

毅「いやホントすみませんでした。」

 

クッソまだ根に持ってやがる……!何も言えねーけどな!

頭を下げている俺を見て凛がクスッと笑う。Sかコイツ。

 

凛「よし、じゃあ行こっか。ちゃんと付いて来てよ?」

 

毅「任せろ。絶対はぐれねーからな!」

 

そう言って俺は凛の手を握る。凛が「あっ」と小さな声を出し驚いている。

ヤバい、いくら凛相手でもマズかったか?

 

不安に思っていたが、凛もぎゅっと握り返してきた。

……なんか恥ずいな、これ。手汗掻いてないよな?

 

少し緊張しながら歩き出し、ふと隣の凛を見る。

心なしか凛の顔がほんのり赤くなっているように見えた。

 

鳴り止め俺の心臓よ!

 

 

 

それから俺達は色んな店を回った。凛が服を試着したり、アクセサリーを着けてみたり、ペットショップで犬や猫を見たり……。

その時の凛はとても嬉しそうに見えた。そして毎回店を出る時に何も言わず、どちらからか手を繋ぐ。それだけで俺も疲れなんて忘れていた。

 

 

 

どれくらいの時間が経ったか、現在凛がトイレに行っているのを待っているとポケットの中のスマホが震えた。未央からだ。

見ると1Fの入り口で待ってるとの事。凛が帰ってくるとその旨を伝え一緒に待ち合わせ場所に向かった。

その時は手は繋がれなかった。

 

 

 

 

 

未央「今日は楽しかったねぇー!また皆んなで遊ぼうよ!」

 

卯月「はいっ♪凛ちゃんも毅くんも今日はありがとうございました!」

 

凛「うん。また行こうね。」

 

俺達はモールから出て帰り道を歩いている。今日は何だかんだ楽しかった。3人も楽しそうに話している。

しばらく歩いて未央と卯月と別れた後、今は凛を家まで送っている。

会話は無い。だが、朝に比べてなんだか心地よく感じる。

 

すると、凛が近づいて来て俺の手を握った。

少し驚いて凛の顔を見る。凛は何でもないように平然としていた。

そして俺も手を握り返す。二人の間には変わらず沈黙が流れていた。

 

 

凛の店の前に着いて凛の手を離す。細く綺麗な凛の手を離すのは名残惜しかったが、凛の両親に見つかったりすれば面倒だ。絶対いじられる。

 

毅「今日は楽しかったな。二人にもお礼言っといてくれ。」

 

凛「うん。私も楽しかった。また一緒に遊ぼうね?」

 

毅「おう。今度は隠し事しないからな。」

 

凛「はいはい。」

 

少し呆れたように凛が笑う。いや、反省してます。

 

すると凛が少し照れたようにしてバッグの中から小さな箱を出した。

 

凛「はいこれ、今日のお礼に。貰ってくれる?」

 

毅「え、マジ?……実は、俺もあるんだが。」

 

そう言って俺もポケットから紙袋を取り出す。

 

凛「嘘っ!?いつ買ったの?」

 

毅「凛がトイレ行ってた時に。」

 

凛「……ふふっ。なんだ、同じこと考えてたんだ。」

 

 

俺からのプレゼントは今日のお詫びと、CDデビューのお祝いを兼ねたものだ。

まさか凛からもプレゼントを貰えるとは思わなかったが。

 

プレゼントを交換し、中身を開ける。凛がくれた箱にはシルバーにブルーのラインが入ったブレスレットが入っていた。

凛らしいチョイスだな。

 

凛が紙袋を開けると中から水色と白のシュシュが出てきた。

店を手伝う時に凛は髪を結んでいる。その時に着けてもらおうと思ってプレゼントした。色のチョイスは頭の中で凛を想像してみると、この色が一番似合っていたから。

 

すると、凛はシュシュで髪を頭の後ろで縛りだした。所謂ポニーテールになった凛が「どう?」と感想を求める。

ヤバい、めっちゃ似合う。か、かわいいなオイ。

 

凛「そ、そう?……ありがと。大事にするからっ///」

 

目の前の凛の顔が赤く染まる。どうやら声に出ていたようだ。

だが今更否定はしない。正直にそう思ったから。

 

俺もブレスレットを左手首に着ける。普段は時計以外着けたことないが、凛からのプレゼントだ。ずっと着けとこう。

 

毅「俺の方こそありがとな。大事にするよ。」

 

 

 

 

店のライトに反射して光るブレスレットを俺はジッと見つめた。

その時、店の中からニヤついた顔をした凛の両親が顔を出す。

まさか見てたのか?

 

俺は凛に一言別れの挨拶を済ませてすぐに帰路につく。

からかわれるのはごめんだ。

後ろを振り返ってみると。凛の方は二人を睨みつけていた。

前もこんなんあったなー……。

 

 

思い出し、笑みがこぼれる。この楽しい日常がいつまでも続きますように。俺は夜空を見上げ、そう願った。

 

 

 

 






仕事が残業フェスに入り更新ペースが遅くなるかもしれないので、今回は気持ち長めに書いてみました。
なるべくペースを落とさないように気をつけます。


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13話

 

 

 

楽しかったGWから1ヶ月が過ぎ、季節は段々と梅雨の時期に近づいてきた。

テレビの天気予報では来週から雨が続くという。洗濯物が心配になってくる。

若干憂鬱気味になりながらも、壁に貼ってあるカレンダーに目をやると今日の日にちの空白にCDとだけ書かれていた。

 

そう、凛達のCDの発売日。

 

凛達というのは、リーダーの未央と卯月との3人ユニットであるニュージェネレーションズだ。

 

俺は予約開始日初日に予約済みだ。学校が終わり次第買いにいく予定。

凛達はCDの販売イベントがあるので今日一日中CDショップを回るらしい。アイドルって大変なんだな。

そんな事を考えているとテレビの天気予報が終わり、次のニュース番組に切り替わった。やべ、学校行かねーと。

 

 

 

 

今にも雨が降りそうな曇り空の下、俺は学校への道を一人で歩く。

ここ1週間は凛が仕事やテレビの収録があり、学校へ昼から来て授業が終わると急いで出て行くので登下校は俺一人だけだ。

 

日課になっていた朝のランニングも、凛のデビューが近づくにつれてレッスンがキツくなったのでしばらく行ってない。俺のバイトが終わる頃にレッスン帰りの凛と顔を合わせる事があるが、その時の凛は少し疲れているように見えた。凛はランニングくらい大丈夫だと言っていたが、俺がなんとか説き伏せた。

デビュー前に体調を崩しては元も子もないからな。

 

いつもは凛とたわいも無い話をしながら歩くこの道が、最近は長く感じていた。

 

 

 

 

 

教室に入り自分の席に着く。あと10分で最初の授業が始まるので鞄の中から教科書を取り出し、今日の範囲を読む。来月にはテストがあるから少ない時間でも無駄にしない。なんか俺勉強できる人っぽい!

……誰か話しかけてこねーかなぁ。

 

そう思い周りの声に耳を傾けると、凛の話で持ちきりになっている。

デビューが決まってからその話が学校中に広がり、今では知らない人はいない。凛が学校に来るとその周りには人だかりができる。一躍時の人となった。

 

「渋谷さんのCD今日だよな?楽しみだわー!」

「俺は2枚買ったぞ!鑑賞用と保存用にな!」

「凛ちゃんのテレビ見た!?衣装すっごく可愛いかったよね!」

「いいよねーあの衣装!あたしもアイドルなりたいなぁ〜。」

 

今日も大人気だな。CD発売した後もすごいことになるぞこれ。

ため息を一つ吐き、俺は予習に戻った。

 

 

 

 

山崎「……以上でHRは終わりだ。気をつけて帰るように。」

 

先生の声に生徒たちが席を立つ。皆いつもより早く教室を出て行っているような気がする。

ああ、CD買いにいくんだな。

 

俺も早く帰ろうと思い席を立とうとすると、不意に声をかけられた。

 

「浅村くーん、ちょっといい?」

 

毅「へ?」

 

声がした方を見ると一人の女子が近づいてきた。

確かこの子は凛の前の席に座っている子……だよな?

 

「急にごめんね?実は、凛に今日の授業のノート写したの届けて欲しいんだ!」

 

毅「え、なんで俺?」

 

「だって凛の家近いんでしょ?帰り道なんだしいいじゃん♪」

 

毅「……わかったよ。ちゃんと渡しとくわ。」

 

「ありがと!凛も喜ぶと思うよ!」

 

毅「お礼は言われても喜びはしねーだろ?」

 

「まぁまぁ♪最近あまり会ってないんでしょ?凛、電話した時に浅村くんと会う時間が減って寂しいって言ってたよ?」

 

毅「え、それマジ?」

 

「ヤバっ!内緒だった!……まぁあの子、今ちょっと弱ってるから。CDデビューやテレビやらで疲れてて私につい本音が出ちゃったのかも。」

 

毅「本音、か。」

 

女の子の話を聞いてふと思う。俺の本音はどうなのだろうと。

 

考えているうちに、女の子が「よろしくねー!」と言い教室を出て行った。ノートを鞄の中に入れ、俺も教室を出る。

今日はバイトもないし、CD買ったら届けに行くか。凛と会えるかも。

そう思うと自分の胸が高鳴る。

 

 

 

なんだ、俺も……寂しがってるんだ。

 

 

 

 

 

 

CDを購入した俺はそのまま凛の家に向かう。

早く聴きたいが今はノートを届けて、凛に会っていろんな話をして……と考えていると花屋の前に着いた。

店の外には凛の母さんが花に水をやっている。

俺に気づいた凛の母さんは、笑顔で挨拶してきた。

 

凛母「あら?毅くん、こんにちは♪今日はバイトないのにどうしたの?」

 

毅「こんちは。凛、います?」

 

凛母「あらあらぁ〜?凛に会いに来てくれたの?最近あんまり話せてないから寂しくなっちゃった?」

 

毅「……ノート渡しに来ただけっすよ。」

 

ニヤニヤと顔を覗き込む凛の母さんに、俺は本心をあっさり見破られた。少し動揺したが平然を装いながら言葉を返す。この人エスパー?

 

凛母「でもごめんなさいね?凛は今日も遅くなるらしいのよ。せっかく会いに来てくれたのに……。」

 

凛の母さんが申し訳無さそうに謝罪する。

まぁしょうがないか。今はかなり忙しそうだし。

 

毅「いえ……。ノートよろしくお願いします。それじゃ、また。」

 

凛母「ありがとね!ちゃんと凛に渡しておくわ♪」

 

凛の母さんにノートを預け、俺は家に帰る。この空虚感は何なんだ?

 

CD聴いて今日は早く寝るか。なんか疲れた。

 

 

 

 

 

その日の夜、早めに布団に入った俺だが何故か全然眠れない。

文字を読んでたら眠くなるだろうと、本を読むために部屋の電気を点けようとしたがめんどくさくなってやめた。何を必死に寝ようとしてんだ俺は。

 

寝る前にはあまり良くないが、代わりにスマホを見る。すると俺は自然と電話帳を開いた。そこには凛の電話番号が表示されている。

指が発信ボタンをタップしようとするが、直前に思い留まる。

 

時間は夜22時。凛も疲れているだろうし、迷惑だろうと勝手に理由付けてスマホの電源を落とし目を閉じる。

 

あ、なんか今なら寝れそうだ。明日は土曜日だし昼まで寝るか。

心のモヤモヤを忘れるように、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン……

 

部屋のインターホンの音で俺は目を開ける。

時計を見ると0時を回っている。誰だよこんな時間に……!

のそのそとベッドから起き上がり、まだ眠い目を擦りながら玄関のドアを開ける。俺の睡眠を邪魔した罰だ。一言文句言ってやる。

 

ガチャ

毅「オイ、こんな時間に何のーー」

 

凛「あ、寝てた?ごめんね?」

 

毅「えっ……」

 

扉を開けた俺は、その光景に言葉が出なかった。

そこにはマンションの通路の灯りに照らされ、クスッと笑った凛が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

毅「こんな時間にどうしたんだ?」

 

凛「毅に会いに来たんだよ。」

 

現在、凛は俺の部屋に入っている。時間も時間だが、話がしたいとの事だったので部屋に上げた。

先程から部屋の中をキョロキョロと見回す凛。なんか恥ずかしいからやめてくれない?

 

 

毅「明日じゃダメだったのか?それにこんな遅い時間に出歩くのは感心しねーな。」

 

凛「すぐ会いたかったの。それに、毅に電話しても出てくれなかったもん。」

 

凛の言葉にハッとしてスマホの電源をつける。すぐにホーム画面が映り、そこには凛からの着信が入っていた。

 

毅「すまん……。電源切ってたわ。」

 

凛「もういいよ。……今こうして会えたんだし。」

 

そう言って少し笑った後、凛はコーヒーを飲む。その顔はどこか嬉しそうだ。

俺もコーヒーを一口飲む。さっきまで寝るのに必死になっていたが、今はずっと起きていたい。凛とずっと話していたい。

 

凛がコーヒーの入ったマグカップを机の上に置くと、あるものに目を向けた。

 

凛「あっ、CD買ってくれたんだ?」

 

そこには発売したばかりの3人のCDがあった。

 

毅「ああ、学校終わって買いに行ったよ。いい歌だな。」

 

凛「そっか……。なんか恥ずかしいかも。でもありがとう。」

 

凛が照れを隠すように、下を向いて髪を弄る。

歌ってる本人の前で、CD買ったって伝える俺も恥ずかしいんだが。

 

すると机を挟んで正面に座っていた凛が立ち上がり、俺の隣に座った。

何?どうした?

 

驚いている俺に凛がクスッと笑った後、話し出した。

 

凛「最近慣れないことばかりでさ。新しいことに挑戦できるのは嬉しいんだけど……ちょっと疲れちゃった。」

 

そう言った凛の顔には、確かに疲労の色が出ていた。

 

普通の高校生だった凛がたった二ヶ月で、アイドルとしてテレビやラジオ、イベント等でファンの前に立っている。

ただの一般人の俺には想像もつかない程の緊張やプレッシャーを感じていたのだろう。

こんな弱っている凛の姿始めて見たな。

 

 

隣に座っている凛の頭を、俺は無意識に片方の腕で抱き寄せた。

 

なぜそんな事をしたのかは分からない。だが、今の凛を見ていたらそうしないと、そうしたいと思ってしまった。

「きゃっ」と驚く凛。俺の胸の辺りには凛の頭がある。

 

毅「凛はすげえよ。アイドル、頑張ってんだな……。しんどいと思うけど、無理はするなよ?」

 

凛に労いの言葉をかける。今の俺には、凛に言葉をかけてあげるくらいしか出来ない。そんな無力な自分に腹が立つ。

 

少しの沈黙が流れる。途端に自分の今の状況が恥ずかしくなってきた。

しかし、その沈黙を凛が破った。

 

凛「ふふっ、ありがとね。私、これからも頑張るよ。だから……ずっと見ててね?」

 

凛が俺の顔を見て微笑む。

その顔は見ている者を虜にするような、魅力的な笑顔だった。

 

凛「それに、疲れてたけど……今元気になったよ///」

 

小声で呟く凛。

俺の顔が熱を帯びたのが分かる。今になって凛のシャンプーのいい香りが鼻をつく。

それに凛、その顔と台詞は反則だ……。

 

 

 

 

しばらくそのままの姿勢で話をしていた俺達。

しかし、時計を見るともう2時になろうとしていた。

流石に夜も遅い。凛を家に送るか。

 

毅「もうこんな時間か。凛、家まで送ってくわ。」

 

凛「大丈夫だよ?今日は泊まってくって親に言ったから。」

 

毅「……は!?」

 

 

 

凛の言葉に俺はしばらく固まったままだった。

 

 






鼻水が止まりません☆


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14話

 

 

 

凛「んっ……」

 

 

カーテンの隙間から朝の日差しが差し込んでくる。

その光を浴びてベッドの上でのそのそと起き上がる。

寝ぼけ眼を擦り目を開けると、私の視界には見慣れぬ部屋が広がっていた。

 

凛「そっか……泊まったんだっけ。」

 

辺りを見回しながら状況を確認するように呟く。

自分で言っておいて何だけど、なんか凄く恥ずかしくなってきた。

男の子の家に入るのも初めてだった私が、男の子のベッドの上で朝を迎えている。

昨日はノリと勢いで泊まったけど、今思うと仲の良い友達とはいえ異性の友達の家に泊まるのはどうなんだろ?

 

ふとベッドの下に引いてある布団に目をやると、まだ静かな寝息を立てて寝ている毅の寝顔が見えた。

気持ち良さそうに寝ちゃって。お客さんが起きてるんだよ?

 

すっかり眠気も覚めた私はまだ目覚めない家主さんにちょっぴりイタズラしようと、ベッドから降りて床に寝ている毅の隣に座る。

顔に落書きでもしようかなと思い寝顔を覗き込む。

 

改めて見た毅の寝顔は、普段の目付きの悪さは消えて少し可愛く思えた。あ、毅って睫毛長いんだ。

いつもこれくらい可愛げのある顔ならなぁ……。

 

毅「可愛げ無くて悪かったな。」

 

凛「ひゃっ!」

 

先程まで閉じられていた毅の目がパチっと開き文句を言ってきた。

それに私は驚いて尻餅をつく。

急に起きないでよ!てか私声に出てたの?

 

凛「……起きてたならちゃんと起きなよね。」

 

毅「いや、起きようと思ったら凛が顔覗き込んできたんじゃねーか。起きれるかよ。恥ずかしいし。」

 

凛「う、うるさい!バカっ!」

 

毅「なんで怒られんの?」

 

凛「……ねぇ、朝起きて言う事は?」

 

毅「え?あぁ、おはよう。」

 

凛「おはよ。お腹空いたなぁ。」

 

毅「色々言いたい事あるが飯作ってくるわ……。」

 

不満気な毅が布団から出て台所に向かう。

手伝おうと思ったけど先に布団を片付けてあげよう。

料理が出来ない訳じゃないからね?

 

 

 

 

 

 

凛「ごちそーさま。毅って料理出来るんだね。ちょっと意外かも。」

 

毅「一人暮らしで料理出来ないのは死活問題なんだよ。外食ばっかだと金が飛びまくる。」

 

毅の作った朝ご飯を食べ終え、食後のコーヒーを飲む。

料理のスキルは私より断然上だった。……私もお母さんに教えて貰おう。なんか悔しい。

 

今の時間は午前9時半。もう少し寝るつもりだったがここ最近起きるのが早かったせいもあってかいつもより少しだけ遅い起床となった。

習慣って怖い。

 

凛「毅は今日何するの?」

 

毅「んー、今日は色々買いたいもんがあるから買い物に行こうかと。」

 

凛「え、私も行きたい!」

 

毅「いいけど凛は今日予定ないのか?」

 

凛「……今日は家族で親戚の家に行かなきゃいけないんだ。」

 

私がオフという事で前々から両親に今日は親戚の家に顔を出しに行くと言われていた。今この時ほど両親を恨んだことはない。一緒に買い物行きたかったなぁ。

 

落ち込む私に毅が優しく声を掛ける。

 

毅「家の用事はしゃあないな。また今度どこか一緒に行こうぜ?」

 

凛「……約束だからね?絶対だよ?」

 

毅「たかが遊びに行く約束なのに何故そんなに睨むんだよ!怖いわ!」

 

凛「約束破ったら末代まで呪うから。」

 

毅「コイツ……重い……っ!」

 

だって約束してないとまたいつ会えるか分からないでしょ?

ただでさえ最近会えてないんだからさ。

 

 

 

 

 

凛「じゃあ私帰るね?色々ありがと。それと、急に来ちゃってゴメン。」

 

毅「ほんと急だったな。まぁ俺も連絡気付かなくて悪かったよ。また今度な?」

 

凛「うん。あ、それとノートありがとう。助かったよ。」

 

毅「礼ならあの子に言ってくれ。写したのは俺じゃないしな。」

 

凛「……あの子何か変なこと言ってなかった?」

 

毅「え、寂しいって……ナニモイッテナカッタヨ?」

 

凛「ーーッ!お邪魔しました!バイバイ!」

 

私はドアをやや乱暴に閉めて早足でロビーまで向かう。

あの子、学校で会ったら承知しないから!

 

 

 

 

 

 

 

 

凛が乱暴に閉めたドアを呆然と見つめる。ヤバい、どうやらバレちまったようだ。すまんな凛の友達よ。健闘を祈る。

心の中で凛の友達に謝罪した後、台所の流しに浸けていた食器を洗い出掛ける準備をする。洗剤などの日用品が少なくなってきたので買い足す必要があるのだ。

近くのスーパーでも良いが、せっかくの休みだしちょっと遠出するとしよう。……同じ過ちは繰り返さん。迷子にはならねーぞ?

ただの買い出しに並々ならぬ覚悟を決め、俺は街へと出掛けた。

 

 

 

 

 

 

 

毅「……よし、あらかた買えたな。」

 

街へと繰り出した俺は某激安の殿堂にて買い物を済ませた。

やっぱここは何でもあるし安いよなぁ。これがマンションの目の前にあったら毎日行くわ。

店内にかかっているBGMを口ずさみながら店を出る。

もう買う物は無いが、せっかく街に来たから帰りに何か美味い物買って帰るか。少し遠回りして帰ろう。

そう思い俺は来た道とは逆に歩き出した。

……荷物が少し重いけどな。

 

しばらく歩いていると道端にクレープの屋台を発見した。

少し離れたところからでも甘い匂いが漂っている。よし買うか。

 

しかし店の前には若い女性で列が出来ていた。男もいるが、皆カップルだと思われる女の人と一緒に話しながら待っている。

この中並ぶの?罰ゲームだろ……。

 

また別の日に凛と一緒に来るかと思い、引き返そうとすると近くのベンチに座っている小さい女の子2人の姿が見えた。

 

黒髪の女の子はタブレットとにらめっこしているが、隣のうさぎ?の着ぐるみを着た女の子は泣きそうな顔で黒髪の子を見ている。

なんかあったのか?

その光景を見てしまったので見過ごす訳にはいかないと声をかけてみる。

 

 

毅「どうした?何かあったのか?」

 

??「……だ、誰ですか?もしかして私達を誘拐するつもりですか!?」

 

黒髪の子がかなり警戒している。見知らぬ人に声かけられてビビるのは分からんでもないが、少し傷つく。この顔か?この顔がダメなのか?

 

毅「断じて誘拐なんてしねーよ!てかデカイ声でそんな事言わないでくれる?」

 

??「怪しい……。」

 

まだ警戒を解いてはいないようだ。女の子が睨んでくる。

もう泣いていい?

 

俺が泣きそうになっていると、先程まで俺と同じく泣きそうな顔をしていた着ぐるみの子が俺を見ると、ベンチから立ち上がって助けを求めてきた。

 

??「おにいさぁん……助けて欲しいでごぜーます……。」

 

毅「お、おう。なんだ?」

 

??「迷子になっちゃったでごぜーますよぉ……」

 

どうやら今回は俺が迷子を助ける立場になったらしい。

 

 

 

 

 

 

毅「で?なんで迷子になったんだ?」

 

ありす「迷子じゃありません!タブレットが動かなくなって、地図が表示されないので少し道に迷っただけです!」

 

毅「ありす?それを迷子って言うんだぞ?」

 

ありす「橘です!さっきそう呼んでくださいと言ったでしょう!?」

 

毅「すまんな、ありす。」

 

ありす「もうっ!あなたのことは嫌いです!」

 

仁奈「クレープ美味しいでごぜーますよ〜♪」

 

俺達は今、先程と同じベンチに座って3人でクレープを食べている。

二人ともお腹が空いていたようなので、ちょうどいいと思いクレープ屋に一緒に並んでもらった。

これなら妹と一緒に買いに来ましたー、妹のため仕方なくーとか言い訳できるしな。完璧だろ。

 

並ぶ前にそれぞれ自己紹介をしてもらった。

黒髪の子は橘ありすと言い、言葉遣いも良くしっかりした子だった。

まだ俺に心を開いてくれてないが、嬉しそうにイチゴクレープを食べるその姿は大変可愛い。あと名前で呼ぶのはダメらしい。ま、呼ぶけどな!

 

着ぐるみの子は市原仁奈。変わった言葉遣いだがクレープを買ってあげるとちゃんとお礼の言葉をくれたし、ありすより俺に懐いてくれている。大変可愛らしい。

……決してロ◯コンではない。断じて違う。

 

そーいえば二人の目的地はどこだ?聞いてなかったな。

 

毅「二人はどこに行くつもりだったんだ?」

 

ありす「えっと、その…」

 

何やらありすが言いにくそうにしている。

あ、流石に家だったら教えたくないか。んじゃスマホでルート検索してメモ書いて……

と思っていると仁奈が手を挙げて教えてくれた。

 

仁奈「私達は346プロの事務所に帰るところなんでごぜーますよ!」

 

毅「……マジ?」

 

この小さな女の子達は芸能人だったようだ。

 

 

 

 

 

 

毅「じゃあ二人とも子役とかなんかか?」

 

ありす「いえ、一応はアイドルとして活動してます。」

 

毅「マジ?んじゃ凛と一緒なの?」

 

仁奈「凛おねーさんを知ってやがりますか?」

 

毅「ああ、友達だ。」

 

現在、スマホで346プロまでのルートを検索してそれを見ながら歩いている。ありすは隣を歩いて、仁奈は俺の上、つまり肩車している。

仁奈を担ぐくらい全然余裕だが、先程から仁奈が頭をペシペシ叩いているのはちょっと痛い。でも可愛いから許す。

 

しかしこんな小さな子もアイドルだったのか。二人とも小学生とアイドルをちゃんと両立してやってるのだから、本当にすごいと思う。

 

ありす「本当に凛さんと友達なんですか?」

 

毅「どんだけ疑ってんの?」

 

ありす「あのクールで優しい凛さんが、こんな茶髪で見た目ヤンキーみたいな人と友達とは思えません!」

 

毅「見た目関係無くね?」

 

小学生にここまで言われるとかなりキツいな。ありすにはめっちゃ嫌われてるなぁ俺……。

 

仁奈「毅おにーさんはいい人でごぜーますよ?」

 

毅「仁奈ぁ!」

 

仁奈はいい子だなぁ!

俺の頭をまだ笑いながらペシペシしてくるけど。

 

仁奈に癒されていると、隣のありすが俺から顔を背けて小声で呟く。

 

ありす「ま、まぁクレープ買ってくれたり、こうやって助けてくれたのは感謝してます……ありがとうございます。」

 

毅「聞こえないからもっかい言ってくれありす。」

 

ありす「絶対聞こえてるでしょう!?それと橘ですっ!」

 

ありすもいい子だなぁ。

 

 

 

しばらく歩くと、目的地である346プロに着いた。

初めて来たけどデケーなおい。城みたいだ。門の前から中を覗くと、スーツを着た人や作業員のような服を着た人が歩いていた。

ここで凛がアイドルとして働いてんのか…。

俺が346プロの外観をまじまじと見ていると、俺の肩から降りた仁奈がありすと並んで感謝の言葉をかけてきた。

 

仁奈「毅おにーさん!今日はありがとうごぜーました!また今度一緒に遊ぶですよ!」

 

毅「ああ、いつでも言ってくれ。3秒で駆けつける。」

 

ありす「……変態ですね。」

 

毅「真顔で言うのやめてくれません?」

 

最後までありすとは仲良くなれなかったか。と思っていると、ありすが俺の手に握られているスマホを奪って、何やら操作しだした。

操作を終えたありすからスマホを受け取ると、ラインの友達の欄に橘ありすと表示されていた。

 

ありす「……私の連絡先です。必要無かったら消してください。」

 

毅「消す理由がねーよ。またな、ありす。」

 

ありす「……今回は許してあげます。でも橘です。」

 

そう言ってありすがクスッと笑った。

なんだ、やっぱアイドルじゃんか。笑った顔も可愛い。

 

 

すると、俺達が別れの挨拶をしていたところにスーツを着た大男が門の中から歩いてきた。顔もかなり厳つい。マ◯ィアの方ですか?

ヤバい、殺られる!

 

武内P「あの、どうかなさいましたか?」

 

毅「いや、あの、これはっすね……」

 

どう言ったらいいの?この状況は小学生二人に声かけている不審者にしか見えねーよな?

あ、死んだわ俺。いろんな意味で。

 

俺が言葉を詰まらせていると、スーツの男性の後ろから見知った顔がひょこっと出てきた。

 

未央「あれあれ?タケっちじゃん!どしたの?」

 

毅「……救世主っ!」

 

 

 

日常でメシアって初めて言ったな。

 

 






今回も長くなってしまいました……。
ありすと仁奈可愛い。


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15話

 

 

 

武内P「ーーそうでしたか。お二人を助けていただき、ありがとうございました。」

 

毅「い、いえ!とんでもない!」

 

未央「やるじゃんタケっち!」

 

346プロ事務所内に連れられた俺は、現在応接室で武内さんと未央の3人で話している。ありすと仁奈がここに来るまでの経緯を説明してくれ、未央が俺のことを怪しい者ではないと話してくれた。

おかげで不審者扱いは免れ、こうやって武内さんからお礼の言葉をかけられるまでになった。

いやホント大した事はしてないんですが……。

 

にしても、一般人の俺が事務所に入ってもいいのだろうか?セキュリティどうなってんの?何もしないけどさ。

まぁ入れる機会なんて一生のうちで今回だけだろな。と思って応接室の中をキョロキョロ見回す。

 

すると、壁に貼ってあるポスターの数々が見えた。アイドルや芸能界に疎い俺だが、何人かテレビや雑誌で見た人がいた。

ポスターを順に見ていくと、端の方にニュージェネの3人のポスターがあった。

最近貼られたのであろう、まだ真新しいポスターをジッと見ていると未央がそれに気づいた。

 

未央「もー、タケっち見過ぎ!なんか恥ずかしいじゃーん!」

 

毅「安心しろ。卯月と凛を見ていただけだ。」

 

未央「もっと興味持たんかー!」

 

このポスターで未央だけ見ないってのは逆に難しくね?

 

武内P「お二人はお知り合いとのことですが、随分と仲が良いのですね。」

 

未央「そーなんだよ!でもタケっちはしぶりんとの方がラブラブだもんね?」

 

毅「アホか。ただの友達ですよ。凛とはクラスメイトです。」

 

武内P「渋谷さんの同級生でしたか。……いつも渋谷さんがお世話になってます。」

 

毅「なんか親みたいですね?」

 

武内P「……プロデューサーとはそういうものです。担当するアイドル全員が宝物のようなものですから。」

 

未央「おおっ!プロデューサーいい事言うね!じゃあ未央ちゃんも可愛い娘ってことかな?」

 

武内P「え、えぇ……まぁ。」

 

未央「なんで困った顔するの!?」

 

ギャーギャー騒いでいる未央はさておき、この武内さんはとても良いプロデューサーだと思った。アイドルやそのプロデューサーの事はど素人な俺だがこの人は凛を含めたアイドル全員を大切に思っている、そう感じた。……見た目はめっちゃ怖いけど。

 

この人なら安心だな。凛や未央達を途中で見捨てる事は絶対にしないだろう。必ずトップアイドルまで育ててくれそうだ。

 

毅「武内さん、俺が言うのも何ですが……凛をよろしくお願いします。」

 

武内P「……はい、もちろん。浅村さんも渋谷さんを応援し、支えてあげてください。」

 

毅「了解です。」

 

未央「未央ちゃんも応援してね?」

 

毅「当たり前だろ。」

 

 

それから武内さんは凛達の仕事中の事や、レッスン中の様子を話してくれた。俺が知らない、アイドル活動中の凛の事を聞いてなんか新鮮な感じがした。学校やバイト先での凛しか知らなかったしな。

 

いろいろ話していると、応接室の扉が開いた。

そこには少し元気のない仁奈が立っていた。

どうした仁奈!?なんでそんなに泣きそうなんだ!?

 

仁奈「プロデューサーさぁん、事務所に誰もいやがらねーから、寂しいでごぜーますよ……。」

 

武内P「市原さん!すみません、もう少しで自分は営業の方に行かなければならないので……。」

 

仁奈「そうでごぜーますか……お仕事はしかたねーです……」

 

未央「仁奈ちゃん!未央お姉ちゃんと一緒に遊ぼう?」

 

仁奈「ホントでごぜーますか!?嬉しいですよー!」

 

仁奈が未央と遊べるとなって、キャッキャと喜んでいる。可愛い。

そーいや仁奈はこの後何もないのか?

小声で武内さんに質問する。

 

毅「仁奈はこの後仕事やレッスンは無いんですか?」

 

武内P「ええ、ですが親御さんが迎えに来るまでは事務所にいてもらってます。今日みたいに一人で帰るのは危ないので。」

 

毅「俺みたいなのがいるから?」

 

武内P「い、いえ!何もそのような事は!」

 

この人ホント冗談通じないよな。未央にかなりいじられてんだろなぁ。

武内さんとヒソヒソ話していると、仁奈がこちらに近づいてきた。

 

仁奈「毅おにーさんも一緒に遊びやがるですよ!」

 

毅「よし、今すぐ遊ぼう!めっちゃ遊ぼう!何するんだ?おままごとか?なら仁奈のお父さん役は兄ちゃんに任せろ!」

 

仁奈「やったー!毅おにーさんと遊べるですよー♪」

 

未央「……タケっちって、もしかしてロ◯コンさん?」

 

毅「違う。断じて違う。」

 

なんて失礼なヤツだ。仁奈は妹のような、娘のような……とにかくそんな感じだ。邪な感情は無い!

 

てか勝手に遊ぶって決めたけど、部外者の俺がここにずっといるのはマズイか?

と思って武内さんを見ると、そんな心配は杞憂だった。

 

武内P「構いませんよ。浅村さんにはご恩がありますし、むしろ市原さんが喜んでいるのでこちらとしても有り難いです。」

 

武内さん、アンタやっぱいい人だわ!

 

未央「よし!それじゃ3人で遊ぼー!」

 

 

 

 

 

それから俺達3人は日が暮れるまで遊んだ。おままごとしたり、346本社を探検したり、346カフェでお茶したり。終始、仁奈は喜んでいた。

 

今は事務所内のソファーに座って、仁奈が俺の膝を枕にして寝ている。遊び疲れたのだろう。すやすやと寝息を立てている。天使か!

 

 

……そーいやアイツもこうやってよく俺の膝で寝てたな。

 

過去を懐かしんでいると、未央がニコニコした顔で話しかけてきた。

 

未央「それにしても、タケっちって面倒見良いよねー?仁奈ちゃんがめちゃくちゃ懐いてるし!」

 

毅「ん?ああ、俺も妹がいたからな。これくらいの子の扱いは慣れてるよ。」

 

未央「ふーん。……ん?"いた"って……」

 

毅「去年、交通事故で亡くなったよ。」

 

未央「え!?ご、ごめん!私、デリカシー無かった!」

 

毅「いいって。知らなかったんだし気にすんな。」

 

落ち込む未央の頭をポンと叩く。

 

そう、未央が落ち込む事はない。もう過ぎた事なんだ。

ホントお前もいいヤツだよな。

湿っぽい空気が流れていたので話題を変えようと、まだ元気のない未央に話を振る。

 

毅「そ、そういや未央は今日オフじゃなかったのか?凛はオフだって言ってたけど。」

 

未央「へっ?あー、今日は私もオフだったんだけど、ヒマだったから事務所に遊びに来てたんだ!で、プロデューサーとお昼食べに行こうと思ったら、タケっちがありすちゃん達といたからビックリしたよ!」

 

よし、いつもの未央に戻ったな。作戦成功だ。

 

毅「ふーん、でも未央も体は大事にしろよ?これから忙しくなるんだし。」

 

未央「そだねー、来月末には346オールスターライブがあるし……」

 

毅「オールスターライブ?」

 

武内P「ええ、346プロダクションオールスターライブです。」

 

毅&未央「うわっ!?」

 

いつの間にか営業から帰ってきた武内さんが俺達の後ろに立っていた。

全く気配が無かったぞ?何者だこの人……。

膝の上の仁奈を見るとまだ寝ている。よかった、起こしてしまうとこだった。

 

未央「プロデューサー!?帰ってきたなら言ってよ!」

 

武内P「す、すみません……。言おうと思ったのですが、お二人がライブの話をしていたもので、つい。」

 

毅「だ、大丈夫ッス。それで、オールスターライブって?」

 

武内P「346プロに所属するアイドル総出演でのライブです。」

 

未央「私達ニュージェネは初のライブだからね!気合い入りまくりだよ!」

 

未央の顔がやる気に満ち溢れている。

ライブか、俺は今までライブやフェスに行ったことがないからどんな感じなのかはわからん。

テレビの芸能ニュースなどでたまに見たことある程度だが画面の中ではいまいちどんな規模か想像できない。

 

毅「ライブねぇ、やっぱファンが大勢来るんだろな。」

 

未央「みんな未央ちゃんの勇姿を見に来てくれるからね!当日は満員かな?」

 

毅「自信満々じゃん。その感じだと未央は大丈夫っぽいな。」

 

未央「えへへー♪そだ、タケっちも見に来なよ!」

 

毅「見に行きたいがチケットはまだ取れるのか?」

 

武内P「残念ながら、チケットは即完売でした。」

 

未央「ええー!?じゃあタケっち来れないの!?それじゃしぶりんも悲しむよー!」

 

何故そこで凛が出てくるのよ。てか凛からライブがあるなんて聞いてないぞ?

 

毅「しょうがないですね。次回のライブがあれば行きますよ。」

 

武内P「すみません……。私も関係者席に入れるかどうか上に掛け合ってみます。」

 

毅「いやいや!そこまでしなくていいッスよ!」

 

凛達がステージの上で歌っているのを生で見てみたかったが、こればかりは仕方がない。

DVD出ねーかなぁ……。

 

??「あ、プロデューサーさん!探しましたよ!」

 

俺が残念がっていると、そこへ緑色の事務服を着た女性が入ってきた。綺麗な人だがこの人もアイドルか?

ボーっと見ていると目が合った。

 

??「あら?こちらの方は?」

 

武内P「ああ、こちらは浅村毅さんです。実はーーー」

 

 

??「まあ、そうでしたか!私は千川ちひろと申します。346プロで事務員をしています♪ありすちゃんと仁奈ちゃんがお世話になりました!」

 

毅「い、いえ!どうもです……。」

 

ちひろ「お礼に……ハイッ!スタドリとエナドリを差し上げますね♪」

 

ちひろさんは懐から栄養ドリンクのようなものを2本取り出し、俺に手渡した。

こんなドリンク初めて見たんだが変なモン入ってないよな?ちょっと怖いんですが。

 

武内P「千川さん、それで私に何かご用ですか?」

 

ちひろ「そうなんです!実はオールスターライブの件ですが思ったより規模が大きくて、当日のスタッフ数が少し足りないみたいなんです!」

 

未央「それは一大事だ!確かにスタッフさん居なかったら色々大変だよね!」

 

武内P「ですが、今からですと何人探せるかわかりませんね……」

 

3人がライブの事であーだこーだ話している。

ライブ一つやるのも大変なんだな。アイドル以外にも裏方さんがいて初めてライブができるのか。

蚊帳の外になった俺は寝ている仁奈の頭を撫でる。

そーいやライブにはありすや仁奈も出るのか?それならめっちゃ行きたいんだが!しかしチケットが無い俺は入ることができない。

何で凛は早く教えてくれなかったんだ!怨んでやる!

 

一人でここにいない凛にイライラしていると、先程まで話していた3人が一斉にこちらを向いた。なんだなんだ?

 

未央「タケっち……そうだタケっちがいいんじゃない!?」

 

ちひろ「そうですね!今は一人でも多くの人員が必要ですし♪」

 

毅「ちょ、何のことですか?」

 

武内P「浅村さん、ライブ当日……スタッフとして参加していただけませんか?」

 

毅「……マジっすか?」

 

 

 

武内さんの提案に仁奈を撫でる手が止まった。

 

 






この作品で出てくる346プロのアイドルは全員同じ部署です。
武内P過労死しそう。


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16話


今更ですが、主人公の容姿はBLEACHの一護っぽいイメージです。


 

 

 

今日は日曜日。本来なら学校が休みの休日だが、CDデビューを果たし来月のライブに向けてパフォーマンスの精度を高めなければならない私は今日もレッスンに励んだ。

 

レッスンはいつも厳しいものだが、今の私はそのレッスンさえすごく楽しい。今はアイドルに夢中なんだ。

アイドルになった頃から目の前のことは全力で取り組んできた。それは今も変わらない。

 

まぁ変わったといえば……

 

 

 

 

仁奈「毅おにーさん!仁奈と一緒に遊ぶでごぜーますよ!」

 

みりあ「みりあも遊ぶ〜!」

 

雪美「毅……ペロも……遊びたいって。」

 

毅「よっしゃ!皆んなで遊ぶか!」

 

年少組「わーい!!」

 

事務所に毅が出入りするようになったこと。

 

 

 

 

凛「ホント、知らない間にあんなに懐かれてるんだから……。」

 

卯月「でも毅くんが来るようになってから、今まで以上に事務所のみんなが明るくなりましたね!」

 

隣で卯月が嬉しそうに言う。

 

先日、私がオフの時に毅がありすと仁奈ちゃんを助けてあげた事がきっかけで346プロに招かれたらしい。

プロデューサーとちひろさんともいつの間にか仲良くなってたし、その場に居なかった私はその事に驚いちゃった。

 

ウチの事務所は基本プロデューサーが1人でアイドル全員をプロデュースしてるから、年少組以外は自分で仕事へ行く事も多い。

だから、事務所でレッスンや仕事を終えた年少組の子たちはちひろさんが面倒を見ているが、最近はライブが近い事もありちひろさんも中々忙しいらしい。

もちろん、仕事やレッスンまで時間がある時は私を含めた皆でなるべく一緒にいてあげている。

 

しかし、事務所に小さい子達だけになるのは心配だからと、プロデューサーとちひろさんが毅に時間がある時に年少組の面倒を見て欲しいと頼んだ。

 

それ以来毅は、仁奈ちゃんや雪美ちゃんを始めとした年少組達にすごく懐かれている。

 

 

 

 

凛「あんなニヤニヤしちゃってさ、変態だね。」

 

卯月「あ、あはは……」

 

美嘉「凛ー、卯月ー!おっつかれー★」

 

唯「お疲れちゃーん!何してんのー?」

 

卯月「あっ!美嘉ちゃん!唯ちゃん!」

 

小さい子達にだらし無い顔をしている毅を見ていると、レッスンを終えた美嘉と唯がやってきた。

すると、毅を見た唯がいきなり毅の方に走っていき腕に抱きついた。

 

唯「あ!タケちゃんだー!やっほー♪」

 

毅「うぉ!?……って唯か、お疲れさん。とりあえず離れてくれ。」

 

唯「なんでー?タケちゃんは唯の事キライなの?」

 

毅「んなわけないだろ。ほら、仁奈達もいるしな?」

 

唯「みんなやっほー♪イイ子にしてる?」

 

仁奈「唯おねーさんも一緒に遊ぶでごぜーますか!?」

 

唯「いいの!?遊ぶ遊ぶ〜♪」

 

毅「話聞いてくれません?」

 

 

毅と年少組の輪に唯も加わり、さらに賑やかになった。

唯は初めて毅と会った時からやけに毅を気に入ったらしく、会う度にいつも過度なスキンシップを取っている。

 

毅の方も唯のスキンシップ、もといボディタッチを注意はするものの拒むことなく受け入れている。

……イヤなら離しちゃえばいいじゃん。

 

 

美嘉「ホント、唯は毅クンの事大好きだよねー」

 

凛「…………。」

 

美嘉「ちょ、凛?顔めっちゃ怖いよ?」

 

小さい子ならまだしも唯に抱き着かれてデレデレしている毅を見ると、なんかモヤモヤする。

そりゃあ唯は同性の私から見てもすごく可愛い。私とは違って明るくて人懐こくて、その……スタイルも抜群だ。

男の子が好きそうな魅力的な女の子だと思う。

私も唯みたいに毅に接したら……やめよう。想像できない。

 

ていうか私はなんでこんなにモヤモヤしてるの?

 

 

 

凛「私、ちょっと飲み物買ってくる。」

 

卯月「え?ちょっと凛ちゃん!」

 

美嘉「……凛?」

 

私はその場から逃げるように出て行った。

 

 

卯月「凛ちゃん、どうしたんでしょうか?」

 

美嘉「……まぁ、あんなの見せられたらヤキモチも妬いちゃうよね。」

 

卯月「えっ?」

 

美嘉「なんでもない!それより、私も混ざってくるね!みりあちゃんもいるし★」

 

卯月「は、はい!美嘉ちゃんはみりあちゃんのこと大好きですね♪莉嘉ちゃんを入れて3姉妹みたいです!」

 

美嘉「……卯月は本当にいい子だね!」

 

卯月「へっ?……ありがとう、ございます?」

 

 

 

 

 

その日の夜、仕事を終えて家に帰ると店先の花を手入れしている毅の姿があった。私がレッスンしている間に帰ってきたのかな?

 

最初の頃は私がつきっきりで教えていたが、今では1人でこなせるようになっている。細かいところまでちゃんと出来ているのが凄いと思ったし……ちょっぴり寂しかったりする。

 

毅の作業をボーっと見ていると、毅が私に気づいた。

 

毅「凛、お疲れさん。今日も遅かったな。」

 

凛「ただいま。ライブ近いし、頑張らないといけないから。」

 

毅「そうか、ライブ頑張れよ。凛のステージは絶対見るからな。」

 

凛「……うん。ありがとね。」

 

たわいもない会話だが、毅の優しい声に私の疲れが吹き飛ぶように感じる。最近は毅との会話で私の心の中が色んな反応を見せるようになった。ドキドキしたり、チクチクしたり、癒されたり……。私の表情よりも豊かかも。

 

今日のレッスンもかなりキツかったけど、ライブ当日にスタッフとはいえ毅がライブに来てくれるし下手な所は見せられない。もっと頑張らないと。

毅にカッコイイところ見せるんだ……!

 

 

 

毅「そーいえば……凛、明日は事務所行くのか?」

 

凛「うん、明日も学校終わったらレッスンだからね。」

 

明日は放課後からレッスンだから朝、久しぶりに毅と一緒にハナコの散歩に行こうかな?

なんて考えてると、毅が申し訳無さそうに言ってきた。

 

毅「じゃあ悪いんだが、唯にコレ渡してくれるか?今日話してたら、唯もこの歌手好きみたいでさ。俺のおすすめのアルバム貸してやるって約束したんだ。」

 

そう言いながら、一枚のCDを私に手渡す。

 

 

大切な友達のお願いはなるべく聞いてあげたい。でも唯の名前を聞いたら心がチクっとして……何故か素直にうんと言えなかった。

 

凛「……最近特に唯と仲良いよね?私は毅が好きな歌手なんて知らなかったしさ。」

 

毅「凛?どーした?なんで急に怒ってんだよ。」

 

凛「やっぱり私みたいに無愛想な子より、唯みたいに可愛げがある女の子といた方が楽しいよね?」

 

 

ダメだ、私何言ってるんだろう……。こんな事言うつもりじゃないのに。

 

 

毅「いや誰もそんな事言ってないだろ?何言ってんだ?」

 

凛「……とりあえず渡しておくよ。じゃ、私疲れてるから部屋に戻るね。バイバイ。」

 

毅「ちょ、凛!待てよ!」

 

毅が私を呼び止める声を無視して、私はその場から逃げるように早足で部屋に戻った。

 

部屋に入った私は、ドアを勢いよく閉めて自責の念に駆られる。

 

何やってんだろ私……。なんで毅の前でこんなに情緒不安定みたいになってるの?最悪じゃん……。

 

 

制服がシワになるのを気にもせず、ベッドの上に寝転ぶ。

右手に持ったCDを見て、一つ大きな溜め息を吐いた。

 

 

 



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17話


残業フェスも残り1週間……


 

 

−346プロレッスンルーム内−

 

 

ベテトレ「渋谷ッ!1人だけテンポずれているぞ!」

 

凛「…ハァ、ハァッ……すみません……!」

 

ベテトレ「少し休憩を取る。今のお前ではレッスンにならん。」

 

凛「……はい。」

 

 

レッスンルームにトレーナーさんの怒号が響いた。

いつもはテンポがずれるなんてミスはしない。

でも、なんだか今日はレッスンに身が入らない。

 

このままではダメだ。ライブまであと1週間に迫っているのに……。

 

卯月「凛ちゃん!大丈夫ですか?」

 

未央「しぶりん調子悪いよー?ライブ近いし無理しちゃダメだぞ?」

 

凛「うん……2人ともごめん。ちょっと顔洗ってくる。」

 

私のせいで未央や卯月に迷惑をかけてしまっている。

優しい2人は私を心配してくれてるけど、今はその優しい言葉が辛い。

情けないなぁ……私。

 

 

 

トイレで顔を洗ってレッスンルームに向かう途中、自販機の前で談笑している2人を見かけた。美嘉と……唯だ。

 

別に2人と喧嘩した訳でもないのに、自然と私の歩調が速くなる。

まるで2人から逃げるように。

 

今は迷惑かけている分レッスンに集中したいから、と自分の中で勝手に理由づけながら、2人に気付かれないように通り過ぎようとしたらそんな私に唯が気付いた。

 

唯「あっ!凛ちゃんだー!レッスン中かな?」

 

美嘉「凛〜、お疲れサマ♪調子どう?」

 

凛「……お疲れ。まぁまぁかな。」

 

唯「凛ちゃん達なら大丈夫!ライブ、頑張ろうね!」

 

凛「うん……じゃあ、休憩終わるから行くね?」

 

唯「ほーい!またねー♪」

 

 

2人との会話を早々に切り上げ、私はレッスンに戻る。

その時の唯の眩しい笑顔を私は真っ直ぐ見れなかった。

 

 

 

 

美嘉「……まぁまぁって、明らか調子悪そうに言う?」ボソッ

 

唯「ん?どしたの?」

 

美嘉「なーんでもない。私達もライブ頑張ろうね★」

 

唯「そだね!早くライブやりたいよ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

凛「……ハァ。」

 

 

レッスンを終えた私はトボトボ歩きながら事務所を出た。

あの後レッスンに戻った私は、それからもボロボロだった。

トレーナーさんにはこっぴどく怒られて、未央と卯月にはかなり迷惑かけてしまった。

 

こんなんじゃライブにも出れないかも……。

そんな考えばかりが頭に浮かぶ。

 

何故こんな状態なのかは分かってるつもり。

先日の毅との事だ。

 

毅は何も悪くないのに、私が一方的に自分の嫌な感情を押し付けてしまった。

 

……あの感情は、たぶんヤキモチ。

でもそれが仲の良い友達に対してなのか、それとも……想い人に対して抱くものなのかは、まだ分からない。

 

私は今まで恋をした事が無い。好きになった人すらもいない。

だから、この気持ちがどういうものか答えが出ない。

 

しかし、友達や想い人に抱く感情にせよ私は酷く、

 

面倒くさい女だ。

 

 

昨日の夜、毅から電話がかかってきても全て無視してしまっている。

一言ごめんと言えばいいのに、それが出来ない。

 

 

……私は何がしたいのかも分からなくなってきた。

 

 

 

 

自己嫌悪に陥りながら信号が青に変わるのを待っていると、急に背後から誰かに声をかけられた。

 

美嘉「よっ、お疲れサマ★あ、このセリフ2回目だね♪」

 

凛「美嘉?……お疲れ。」

 

美嘉「疲れてるとこ悪いんだけど、ちょっと寄り道していかない?」

 

凛「え?……う、うん。」

 

 

 

 

 

 

美嘉に連れられてやって来たのは駅前のカフェ。

そーいえばここは未央と卯月と毅の4人で来たことあったな。

……なんだか懐かしい。

 

注文した飲み物が来て美嘉がそれを一口飲んだ後、口を開いた。

 

美嘉「……ねぇ、凛ってさ今好きな人いる?」

 

凛「へ!?き、急に何!?」

 

美嘉「ただの恋バナじゃん♪ウチらJKだし★」

 

凛「……いない、と思う。たぶんだけど。」

 

美嘉「じゃあ、毅クンのコト狙ってもいい?」

 

凛「ーッ!だ、ダメ!……あっ」

 

美嘉「教えてくれてアリガト♪」

 

美嘉の言葉に咄嗟にダメと言ってしまった。

本当に無意識にだった。

 

凛「……誰も異性として好きとは言ってないよ?」

 

美嘉「じゃあ質問を変えるね?凛は毅クンと一緒にいてドキドキした事ある?」

 

凛「それは……ある、かな。」

 

美嘉「一緒にいるだけで幸せって思った事は?」

 

凛「ある、かな?ていうかちょっと恥ずかしいんだけど?///」

 

美嘉「じゃあもしこれから毅クンに会えなくなったらどう思う?」

 

凛「そっ、そんなの絶対やだ!」

 

美嘉「それなら、もう答えは出てるんじゃない?」

 

凛「えっ……」

 

美嘉「凛が毅クンに抱いてるのはね、恋心ってやつ♪」

 

凛「えぇ!?」

 

 

この気持ちは恋……なの?

急に顔が熱くなってきたが、まだ確証が持てない。いや、自信が無いのかもしれない。

毅に恋をして、今までの関係が壊れることが怖い。もう一緒にいれなくなるかもと考えてしまう。

 

不安になっている私に、美嘉が優しく声を掛ける。

 

美嘉「人を好きになるのってさ、本当にすごく素敵なことだと思うよ?恋をしてその人の為にもっと頑張ろう!って思えたりして。そうやって、女の子はもっと可愛いくなると思うんだ。」

 

凛「でも……」

 

美嘉「凛が今一番会いたくて、一緒に居たい人は誰?それでその人はどんな人かな?」

 

私の心がトクンと脈を打った。

同時に頭の中は毅のことでいっぱいになる。

 

目付きがちょっと怖くて、道に迷ったりするドジなとこもあって、意外に料理も上手くて、寝顔やたまに見せる笑顔がちょっとだけ可愛いくて、ハナコにすごく懐かれてて、なにより……私なんかにいつも優しさを与えてくれる。

そんな毅に会いたい。ずっと一緒に居たい!

 

 

そっか、私は今……恋をしてるんだ。

 

 

 

胸の中が締め付けられるような、切なさで苦しいような、言葉に出来ない事が起こっている。

でも、不思議とその感覚は嫌じゃない。むしろもっと感じていたい。

 

初めての感覚に浸っている私に、美嘉がニヤニヤしながら言葉をかける。

 

美嘉「いや〜あのクールな凛も、やっぱ中身は恋する乙女だね★」

 

凛「そうだったの、かな?なんか美嘉に気付かされたのはちょっと不覚だけどね」

 

美嘉「まぁそこはカリスマJKの経験ってヤツよね!」

 

凛「じゃあ百選練磨のカリスマビ◯チ美嘉さんにこれから色々相談しないとね?」

 

美嘉「誰がビ◯チよ!?アタシはまだしょz…ンンッ!なんでもない!」

 

凛「ふふっ、冗談だよ。ありがとね?」

 

美嘉「やっと笑ったわね?女の子は笑顔が武器!覚えといてね?」

 

凛「勉強になるよ、先生。」

 

それからは美嘉に毅とのこれまでの事を色々話した。

ちょっと恥ずかしかったけどね。

私の話を美嘉はニコニコと聞いていた。本当にありがとう、美嘉。

 

話を終えて、店を出ると外は真っ暗になっていた。

夜風が涼しくて心地良く、空を見ると星空が広がっている。

 

 

美嘉「じゃあまた明日ね!相談ならいつでも乗るから♪」

 

凛「うん、頼りにしてるからね?」

 

そう言って美嘉と別れたが、何かを思い出したような美嘉がこちらに振り返ってまた近づいてきた。その顔は先程とは打って変わり真剣だった。

 

美嘉「あのね、今の凛は初めての恋で余裕がないだけだと思うけど……唯のこと、嫌いにならないでね?」

 

凛「……確かに、唯に対してヤキモチ妬いちゃったけどそんなことにはならないよ。むしろ、唯にも友達としてちゃんと話したいんだ。それで、唯の気持ちも聞いてみるよ。」

 

美嘉「もし唯も凛と同じ気持ちだったら?」

 

凛「その時は祝福するよ。今なら友達と一緒の人を好きになるのって素敵だと思えるんだ。でも……負けるつもりもないよ。」

 

美嘉「凛……!今のアンタ、すっごくイイ女だよ♪」

 

凛「ふふっ。そこは前からって言って欲しかったかな?」

 

私の言葉に安心した様子の美嘉と別れて、私は帰り道を歩く。

 

 

今日の出来事、日付けも私は一生忘れない。

私が生まれて初めて恋をした大切な記念日。

ケーキでも買って帰ろうか?何か特別なことがしたい気分だ。

 

でも、まずはやらなければならない事がある。

 

私はスマホを取り出し、電話をかける。

コールが3回鳴った後、電話が繋がった。

 

 

毅「もしもし?凛?昨日はーー」

 

凛「毅、昨日は本当にごめんなさい。私、ヒドイこと言っちゃって……」

 

毅「え?お、おう。大丈夫だ、気にしてねーよ。」

 

凛「良かった……。ねぇ、今日私すごく良い事があったんだ。」

 

毅「良かったじゃん。何があったんだ?」

 

凛「……内緒♪」

 

毅「なんだそれ!?そこまで言ったなら言ってくれよ!」

 

凛「とにかく、私は今機嫌が良いんだ。だからお願い聞いてくれる?」

 

毅「それって普通俺のお願い聞いてくれる台詞だよな?」

 

凛「今から毅に会いに行っていい?」

 

毅「……ダメだって言っても来るんだろ?」

 

凛「よく分かったね?」

 

毅「流石に危ねえから俺が凛の家まで行くよ。」

 

凛「ホント?じゃあ待ってるね。」

 

毅「また連絡するわ。」

 

 

電話を切ると、帰り道を歩く速さが先程と比べて速くなった。

早く帰ろう。今直ぐにでも毅に会いたい。

 

早足になったせいか、それとも毅の声が聞けたからか私の鼓動も早くなっていた。

 

 







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18話



かなり間が空いてしまいすみません!
転勤やら新しい部署やらでてんてこ舞いでして……(言い訳)
まだ見てくださる方がいるかは分かりませんが、これから頑張ります!


 

 

 

人生初の恋を自覚した夜から次の日の昼下がり。

 

私はレッスンを終えて、事務所近くの公園のベンチで座っている。

 

夏の足音が近づいているからか、ジッと座っているだけでも制服のワイシャツが湿ってくる。でも、この感じは嫌いじゃない。

 

一人季節の変わり目を感じていると、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

唯「おーい!凛チャーン!」

 

公園の入り口から手をブンブン振りながら唯が走って来る。

私も手を振り返す。

ニコニコしながら手を振る唯を見て、ご機嫌で尻尾を振る犬みたいだと思ったのは内緒。

 

 

 

 

 

唯「いやー、凛チャンからお誘いなんて初めてだよね!しかも二人きり!唯テンション上がっちゃう〜♪」

 

凛「フフッ。唯、落ち着こう?そんなに喜んでくれるのは嬉しいけどさ。」

 

唯「ゴメンねー!それで?今日はどしたの?」

 

ルンルンな唯が私を見つめる。

あ、散歩に行く前のハナコみたい。

……これ以上は唯に失礼か。

 

目の前の可愛い女の子を愛しの我が愛犬に例えているのをやめて、本題を切り出す。

 

 

 

凛「唯ってさ、好きな人っている?」

 

 

 

単刀直入過ぎたか、唯の顔を見るとキョトンとしている。

それもそうか。事務所以外で初めて二人で会う私から、いきなり恋愛の話なんてされたら困っちゃうよね。

どこかで遊んだりしてからの方が良かったのかな?

なんて不安になっていると、唯が少し顔を赤らめながらニカっと笑った。

 

唯「うんっ!いるよ!」

 

その言葉を聞いた私はしばらくボーっとして答えた。

 

凛「そっか。唯も恋する乙女だったんだ?」

 

以前の私ならこんな余裕は無かったと思う。

唯の毅に対しての行動にヤキモチを妬いた私なら、ショック……だったと思う。

何故なら、自分に自信が無かったから。

今は違う。友達と同じ人を好きになっても、それを受け入れて負けない!って思える。

 

すると、私の言葉に唯は、何かを悟ったような、それでいて柔らかい笑顔でこう聞いてきた。

 

唯「誰って聞かないの?」

 

凛「なんでかは唯が知ってるんじゃないの?」

 

唯「エヘヘッ、凛チャンにはお見通しだったんだね♪」

 

はにかみながら唯が笑う。

その笑顔を見ると、改めて魅力的な女の子だと思った。

私が男の子だったら惚れてるかも。なんてね。

 

すると、唯がベンチから立ち上がった。

 

唯「唯はね、今まで男の子を好きになったことなかったんだー。」

 

凛「うん。私もだよ。」

 

唯「ホントッ!?凛チャンもなんだー!?意外かも!」

 

むっ、それは喜んでいいの?

 

凛「よく言われるよ。唯もでしょ?」

 

唯「まぁねー♪でね、周りにいる男の子って子供っぽいしさー、だから恋をするのはもっとオトナになってからかなって思ったの。」

 

唯「恋愛に憧れはあったんだけど、心の中ではちょっぴり諦めてたんだ。」

 

唯の後ろ姿しか見えないが、その背中は少し寂しそうだった。

華の女子高生が恋をするのを諦めるなんて、あんまりだ。

まだ恋をした事すらなかったのに。

そして、唯は私の方に振り返った。

 

 

唯「そんな時、タケちゃんに出会ったんだよ♪」

 

可愛く微笑みながら、唯は嬉しそうに話しだす。

 

唯「最初は凛チャンのお友達ってだけだったんだ。でもね、話してみるとすごく楽しくて、すごく優しくて、何より小さい子達に囲まれて一緒に遊んであげてるのを見て……ドキッとしちゃった♪」

 

唯「他にも好きになったきっかけはあるんだけど……長くなるからまた今度ね!」

 

凛「大事なとこお預けされちゃった。」

 

唯「だって唯にとってスッゴく大事な出来事だったんだよ!だからこの続きは、いつかタケちゃんに告白した後に教えてあげる♪」

 

いたずらな笑みを浮かべながら唯が答える。

小悪魔っぽいところとか、ホント私に無いものばかり持ってるよね。

でも、

 

凛「なら私の事も、私が毅に告白してから教えてあげるね?」

 

唯「ええー!凛チャンのいじわるー!」

 

プンプンと怒る唯を宥めながら、一番伝えたかった言葉を唯に伝える。

 

 

 

凛「唯、私達ってさ、同じ人を好きになった所謂ライバルなんだけどさ…私は唯の恋も応援するよ。」

 

紛れも無い心から出た素直な気持ち。

大切な友達だからこそ、素敵な恋愛ができると思うんだ。

例えどちらかが、それともどちらも悲しい結果になったとしても、二人なら大丈夫。きっと笑っていられるから。

 

 

唯「うんっ!唯も凛チャンのこと、応援するよ!だから頑張ろうねっ♪」

 

私の言葉に、唯はまた一段と嬉しそうな顔で答えた。

 

 

それから、暗くなるまで唯と語り合った。

お互いの毅との惚気?話とか、毅とこんなことしたいだとかをたくさん話した。

 

唯から毅にスキンシップをしていた時、私が怖い顔をしていたと聞かされた時は全力で謝ったけどね。

 

 

 

日が暮れて、お互いのお腹から可愛らしい音が鳴ったところで帰ることにした。

唯とは家が反対なので公園の前で別れる。

 

別れ際に唯が私を呼び止めた。

 

 

唯「凛チャン!ライブ、頑張ろうね!お互いカッチョいいとこ、タケちゃんに見せてあげようね♪」

 

凛「うんっ!絶対成功させよう!あと、ライブでは唯に負けないから!」

 

唯「その勝負受けて立つー!じゃ、またね!」

 

来た時と同じく、手をブンブン振りながら唯が走って去っていく。

やっぱり犬みたい。

 

 

 

唯とお互いの気持ちを話して心がかなりスッキリした。

コイバナってこんなに楽しかったんだ。そりゃあ周りの友達も好きなわけだ。

 

心の蟠りが解けた後は、一カ月を切っているライブに向けて今以上に頑張ろう。観に来てくれるファンのために、そして、毅のためにも。

 

 

 

歩いて帰っていた帰り道、私は無意識のうちに走り出した。

 

 






久しぶりの投稿で誤字脱字、おかしな文章等御座いましたら遠慮なくコメントしてください。


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19話


体調を崩してしまいまして長い間投稿出来ませんでした。
まだ読んでくださっている方がいるかは分かりませんが、申し訳ございませんでした。
まだ完治とは言えない状態なので、また間が空くかもしれませんがなるべく早く投稿できるようにします!


 

 

1ヶ月が過ぎ、ライブ当日を迎えた。

 

 

夏本番となりドームの外は茹だるような暑さとなっている。

蝉の鳴き声と開場までまだ2時間以上あるのだが、今か今かと待っているファンの人達の会話が聞こえていた。

 

アイドルのライブってこんなにたくさんの人が集まるんだな。

皆んな暑い中活気に満ち溢れてる。開場したらどうなるんだ?

 

 

 

俺は今、ライブ会場の設営のお手伝いを一通り終えてドームの外にある非常階段で一息ついている。

いやマジで疲れた…。朝からずっと作業し続けたがかなり重労働だ。

 

まぁバイト代とタダでアイドルのライブが見られるんだからかなり好条件だわ。これも全部武内さんや凛のおかげだけど。

 

 

ドームの中は今、アイドル達が最終のリハーサルを行っている。

武内さんに見ても構わないと言われたが、初めてのライブだ。楽しみはとっておきたい。

 

そういえば今日はまだ凛の姿を見ていない。

ライブが始まると凛達も忙しくなると思うから、今のうちに頑張れよと一声かけておこうと思ったが、邪魔しちゃ悪いと思いここに来た。

……別に寂しくなんかないからな?な?

 

 

我ながら気持ち悪い一人言に呆れながら、そろそろリハも終わった頃だろうと会場の中に向かおうとした。

すると、階段の先にある扉が開いた。

 

唯「あっ!タケちゃん発見〜♪こんなとこにいたんだ!」

 

仁奈「毅おにーさん何してやがるんですか?仁奈たちすげー探したんでごぜーますよ!」

 

扉から唯と仁奈が飛び出して来た。

 

毅「おう、2人ともどした?てかリハは終わったのか?」

 

 

俺の足に抱きついている仁奈を撫でながら問いかける。

くすぐってーですよー♪って言いながら笑う仁奈はマジ天使。

 

唯「唯と仁奈チャンのリハは終わったよー!だからタケちゃんと遊ぼうと思ったのに、タケちゃんどこにもいないんだもん!」

 

毅「いや俺が言うのも何だが…本番前って集中したり気持ち入れたりするもんじゃないの?緊張って言葉知ってる?」

 

 

ライブなんて経験も無いのでなんとなくのイメージだけど。

でも本番前に遊ぶのはちょっと違う気がする。

違うよな?

 

唯と仁奈と話していると、また扉が開いた。

次から次へと誰だよ。

 

 

 

 

ありす「唯さん!仁奈さん!全体リハが終わってもう皆さん衣装に着替えてますよ!何してるんですか!」

 

唯「げっ!ありすちゃん!」

 

ありす「早く戻りますよ!それと橘です!」

 

ぷんぷん怒りながらありすが2人を連れ戻しに来た。

小さい手で唯と仁奈の手を取り一生懸命連れて行くありす超かわいい。

あ、やっぱ俺ロ◯コンかもしれない。

 

 

そんな3人を側から見ていたが、ついでに声かけておこうと呼び止めた。

 

毅「唯!ありす!仁奈!ライブ、頑張れよ!ちゃんと応援するからな!」

 

唯「まっかせてー!唯のカッチョいい姿に惚れちゃうかもよー?」

 

ありす「橘です!言われなくても完璧なライブにしてみせます!…だからちゃんと見ててくださいね?」

 

仁奈「精一杯頑張るでごぜーますよ!」

 

そう言って3人は階段を後にした。あれなら大丈夫だろう。

俺もそろそろ中入るか。

 

 

 

結局凛と話せないままライブが始まろうとしていた。

 

 

 

 

ーーーー

 

未央「しっぶりーん!リハ完璧だったね!」

 

凛「うん、この調子で本番も頑張ろうね。」

 

卯月「ふ、二人とも緊張してないんですか?私もう心臓がバクバク鳴ってますよぉ……。」

 

凛「卯月は緊張し過ぎ。リハも大丈夫だったし、心配ないよ。」

 

私達は今リハが終わり、楽屋で衣装に着替えている。

リハと言っても最終確認みたいなもので、比較的スムーズに進んでいった。

しかし、本番になると気持ちが高ぶって色々アドリブ入れる人もいるけどね。

未央とか未央とか未央とか。

いつも私と卯月が大変なんだからね。

 

 

 

ニュージェネにとって初めてのドームでのライブ。絶対成功させたい。

プロデューサーやスタッフやファンの為にも。

 

 

あと、私の好きな人にも。

一番輝いている私を見せたいんだ。

 

そんなことを考えていると、不意に未央が尋ねてきた。

 

未央「そーだしぶりん!タケっちにはもう会った?」

 

凛「え?毅?……会ってないけど。」

 

未央ってたまにエスパーって思う時があるんだよね。

あ、裕子がキョロキョロしてる。

声に出てたかな?

 

未央「もーっ!そんなんじゃいかんよしぶりーん!せっかくライブ見に来てくれてるんだから!会って闘魂注入してもらいなさいな♪」

 

凛「何言ってるの。それにビンタされるのはヤダよ。」

 

未央「元気があれば何でも!って違うよ!」

 

ノリツッコミが雑だなあ。

卯月はクスクス笑ってるけど。

 

凛「毅にはこれから会いに行くつもり。……だったんだけど、どこにいるか分からないから探さなきゃ。」

 

卯月「ええー!?もうすぐ全員集合しなきゃいけないんですよ?」

 

未央「そうそう!どうすんのさー!?」

 

そう言われても、さっきから毅の姿が見当たらないんだからしょうがないじゃん。

ていうか毅も毅だよ。普通「頑張れよ」って声くらいかけてくれてもいいのに。

 

 

心の中で毅に八つ当たりしていると、楽屋の扉が開いた。

ありすに連れられて唯と仁奈が入ってきた。

 

メイクさん達に謝りながら衣装に着替えてメイクをしている。

 

すると、唯がこっちを見て近づいてきた。

そして私の耳にボソッと呟いた。

 

唯「タケちゃんならさっき非常階段にいたよ。今はもう中に入ってるんじゃないかな?」

 

そう呟いて私に手を振りメイクさんの所に戻り衣装に着替え始めた。

唯、ありがとう!

 

凛「私ちょっとトイレ!」

 

そう言い残して私は楽屋を出ていった。

 

卯月「あっ、凛ちゃん!」

 

未央「しまむー、しぶりんならすぐ戻ってくるからさ、それまで待ってあげよ?」

 

卯月「は、はい…。」

 

 

 

 

 

楽屋を出た私は唯の言っていた非常階段に向かった。

扉を開けようとドアノブに手をかけると、勝手に扉が開いた。

 

 

毅「あれ?凛?何やってんだこんなとこで。」

 

凛「それはこっちのセリフだよ。」

 

キョトンとした顔の私の想い人がそこにいた。

変な顔。でも…すっごく安心する。

 

凛「ねぇ、なんで私に会いに来なかったの?」

 

毅「いや邪魔になるかなーって思ってな。……もしかして寂しかったか?」

 

ニヤニヤしながら毅が揶揄ってきた。

そんなの効かないよ。

 

凛「うん、寂しかった。」

 

毅「…ッ!」

 

 

照れてる照れてる。赤くなっちゃって。可愛いなあもう。

残念でした。私はもう、あなたのことが大好きなんだから。

 

 

ずっと毅と話していたいが、もうすぐ時間だ。

楽屋に戻らないといけないので毅と別れなきゃならない。

 

凛「じゃあ、私もう行くね。ライブ、ちゃんと見ててね?」

 

毅「あぁ、ちゃんと見てるから頑張れよ?」

 

そう言いながら、毅が私の頭を撫でてくる。

私は咄嗟に手を払ってしまった。

 

毅「わ、悪りぃ!嫌だったか?」

 

凛「ち、違うの!急だったから、恥ずかしくなって……。」

 

私の声が段々と小声になってしまう。

顔が真っ赤になっているのも分かる。耳が熱い。

 

不意打ちは卑怯だよ!

 

 

毅「……じゃあ急じゃなけりゃいいんだな?」

 

凛「えっ?」

 

すると、毅がまた私の頭を撫でながら言った。

 

毅「ライブ、頑張れよ。凛のカッコいいところ見せてくれ。」

 

撫でる手、かけてくれる声がとても優しい。

ずるいなぁ。こんなの、頑張るに決まってるじゃん。

 

 

 

凛「うん…!一番輝いてる私を見せてあげる!」

 

 

 

 

私のハートは夏の暑さにも負けないくらい燃え上がった。

 

 






読んでくださった方、ありがとうございます。
次回からライブ回です。(不安しかない)


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20話



ライブスタートです。ですが先に謝っておきます。
作者はまだライブ参戦したことありませんので、イメージで書いてます。
なのでそんな演出ねーぞ!とかサイリウムの色が違う等といった指摘があるとは思いますがご了承ください。


6th行きたかったなぁ……




 

 

左手に着けている腕時計を確認すると午後6時になったところで、会場の中がほのかに暗くなった。

 

ザワついていた観客達の声が静まり、静寂が中を包む。

 

そんな時、ステージにスポットライトが当てられた。

光の中には4人のアイドルが立っていた。

 

それを確認したファンの歓声が会場の中に響いた。

 

美嘉「皆んなー!おっ待たせー!」

 

楓「皆さん、今日は私達のためにお越しいただきありがとうございます。」

 

まゆ「室内ですが、ちゃんと水分補給を忘れずに。楽しい時間を過ごしましょうね♡」

 

瑞樹「それじゃあ早速、346プロオールスターライブ……始めるわよー!」

 

観客「うおおおおおおお!!!」

 

美嘉「まずは全員でこの歌から!お願いシンデレラ!」

 

 

 

美嘉のタイトルコールで舞台袖から続々とアイドルがステージに踊り出る。

 

かなりの人数だが、皆んな一糸乱れずに歌いながら踊っている。

 

ファンの歓声、コールもそれについて行っている。

地響きのようなそれらは、まるで戦場にいるかのような錯覚を引き起こす程の衝撃だった。

その光景は正に圧巻だ。

 

それを見た俺は自然と呟いた。

 

 

 

毅「すげぇな……。」

 

 

 

 

 

今俺は会場の一番後ろの出入り口付近でライブを見ている。

武内さんから舞台袖や関係者席で見てもいいと許可が出たが、こうやってライブ会場に連れて来てくれただけで充分だった。

なので、それを丁重に断り出入り口の少し空いたスペースで見ることにした。

 

 

346プロ総出で歌うお願いシンデレラとファンの歓声に圧倒されながらも、俺の目は自然と一人のアイドルに向けられる。

 

まだまだ新人だからか左端のほうでどこか緊張しながら、それでいて楽しそうに歌う渋谷凛の姿に。

 

 

凛が歌う姿を見るのはこれが初めてだった。

普段凛に会うたび愛想がないとよく揶揄っていたが、今はそんなことは思わない。心の底から楽しんでいるんだろう。俺が見たことない笑顔でファンの声援に応えている。

 

 

 

ああ、これがアイドルの姿なんだな。

 

 

 

 

 

 

全体曲が終わり、ソロの曲が次々に歌われる。

ファンの歓声も変わらぬどころかなおヒートアップしている。

 

アイドルもそうだが、ファンの凄さにも驚かされていたところに、背後から誰かに肩を叩かれた。

 

 

武内P「どうですか、初めて見るライブは。」

 

いつものような無表情の中にも少し誇らしげな顔をした武内さんが俺に問いかける。

 

 

毅「いや……圧倒されたというか、衝撃的というか…とにかく言葉では表せないくらい凄いって思いました。」

 

武内P「そうですか。そう言って頂いて私も嬉しく思います。」

 

俺の隣に立った武内さんはそう答えて目線をステージに向ける。

ステージの上では速水奏が妖艶なパフォーマンスを披露していた。

 

 

俺はファンの人達とステージの上にいる速水奏を見た後、武内さんに問いかけた。

 

 

毅「武内さん…ひとつ聞いていいですか?」

 

武内P「ええ、なんでしょう?」

 

毅「武内さんはこのライブを見てどう思いますか?」

 

武内P「どう…とは?」

 

毅「確かに、これだけライブを盛り上げてるアイドル達は凄いと思います。でも、そのアイドルをここまで育てたのは武内さんですよね?俺はライブ初参加の一般人でただただ凄いとしか思えてないですけど、プロデューサーから見るこのライブってどういう感じなんですか?」

 

俺の問いかけに武内さんは少し考える素ぶりを見せた後、ゆっくり答えた。

 

武内P「そうですね…浅村さん、ここにいるファンの方々の顔を見てください。」

 

毅「顔、ですか…?」

 

周りにいるファンの人達に目を向ける。

どの人も目を輝かせ、ステージの上のアイドルに声援を送っている。

 

毅「とにかく、皆んなすっごい笑顔ですね。」

 

武内P「そうでしょう。確かにこの笑顔を作り上げているのはアイドルの皆さんが一生懸命頑張っている成果です。ですが、私がアイドルの皆さんのプロデュースを蔑ろにしていたら少なくともこのような光景は見られてなかったと思います。少しおこがましいかもしれませんが。」

 

毅「いや、そんなことはないと思いますよ?」

 

武内P「ありがとうございます。なのでライブを見る度に改めて実感するんです。ああ…アイドルでなくとも人々を笑顔にできるのだと。」

 

今の武内さんの顔は誰が見ても分かるような誇らしげな顔をしていた。

 

毅「人々を笑顔に…。」

 

 

武内P「それがプロデューサーの役目でもあり、醍醐味でもあります。」

 

 

武内さんの答えを聞いた俺は、胸の中が熱くなった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

しばらく武内さんと並んでライブを見ていると、ステージの上には唯の姿が見えた。

 

 

唯「イェーイ!ここからは唯の出番だよー♪皆んな一緒に盛りあがろーねー!」

 

観客「ワアアアアァァ!!」

 

唯「じゃいっくよー!Radio Happy!」

 

 

軽快なリズムと共に唯が歌い、踊る。

アップテンポな曲が唯によく似合う。

唯のパフォーマンスは見ているこちらが踊りたくなるくらい、観客を楽しませる。

 

そんな時、歌の途中で唯がダンスをやめて真っ直ぐ手を伸ばした。スクリーンにはどこかはにかみながら歌う唯の顔が映る。

 

唯「大好きな、君に届けたいよ〜♪」

 

そんな唯を見たファンの歓声は今日一番と思えるくらい会場の中に響いた。

 

曲が終わりに差し掛かり、唯が色んなポーズを決めている。

やっぱ唯はどんなポーズでも映えるなぁと思っていると、最後に唯が投げキッスをした。

 

これにもファンは大盛り上がり。オレンジのサイリウムがブンブン振られている。

 

 

 

しかし、さっきの手を伸ばして歌った時といい、投げキッスといい…

 

 

 

 

 

俺の方に向けられた気がしたのは本当に気のせいだろう。……気のせいだよな?

唯は俺がどこにいるかは知らないはずだしな。

 

 

 

 

自分でも自意識過剰気味なことを考えていると、唯の曲が終わりまたもや大歓声に包まれる。

手を振りながら舞台袖に帰っていく唯を見ながら俺も大きく手を振る。

 

 

そんな時、唯がこちらを向いて嬉しそうに両手を振りながらピョンピョンと跳ねた。

 

 

 

え、もしかして本当に気づいてたのか?

 

まさかなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

ー舞台裏ー

 

 

唯「楽しかったぁー!もうサイコー!」

 

美嘉「唯!お疲れー!めっちゃ良かったよー☆」

 

唯「ありがとー!唯、頑張ったよ♪」

 

 

舞台裏に帰ってきた私を美嘉チャンが労ってくれた。

 

やっぱりライブは最高だね♪すっごく楽しい!

 

 

椅子に腰掛けてペットボトルに入った水を飲む。

火照った体を冷やそうとするが、全然治らない。

 

曲の途中で幾つかアドリブを入れちゃった。

ダンサーの皆んなは戸惑いながらも最後まで踊ってくれた。

やっぱりプロなんだな、凄いや!

 

タケちゃん気づいてくれたかな?くれたよね?

手をいっぱい振り返したらポカーンとしてたし。

 

唯の精一杯の気持ちだよ!ファンの皆んなと、大切な貴方に。

 

 

思い返してみてもドキドキが止まらない。

体の火照りはこれが原因かな?なんちゃって♪

 

 

しばらく余韻に浸っていると、舞台裏にある扉が開いた。

中からは次の次にステージに上がるニュージェネレーションズが出てきた。

 

卯月「あっ!唯ちゃん!お疲れ様です!ステージ凄かったです!」

 

唯「アリガトー!卯月ちゃん達も頑張ってね!」

 

未央「任せてよ!ニュージェネの本気をお見せしましょうぞ!」

 

唯「アハハ♪未央ちゃんは大丈夫そうだね!」

 

 

卯月ちゃんと未央ちゃんを激励した後、二人から少し離れて入ってきた凛ちゃんに目を向ける。

 

真っ直ぐな瞳、背筋がピンと伸びた堂々とした佇まい。それは新人アイドルとは思えない程だった。

 

 

やっぱり凛ちゃんは凄いなぁ。

 

凛ちゃんのそんな姿に目を奪われていると、向こうから声をかけられた。

 

 

凛「唯、お疲れ様。やっぱり唯のライブは盛り上がりが違うね。凄いや。」

 

唯「アリガト!でもこう見えてめっちゃドキドキだったんだよー?」

 

凛「そりゃああんなアドリブしたらね。私なら恥ずかしくて舞台袖に帰っちゃうかも。」

 

唯「やっぱ凛ちゃんは気づいてたんだねー。」

 

凛「もちろん。でも同性の私がドキッとするくらい可愛かったよ。」

 

唯「ホント!?なら唯と付き合っちゃいなよー♪」

 

凛「私好きな人いるんだ。ごめんね?」

 

唯「ちょ、冗談だって!てか凛ちゃん知ってるクセにー!」

 

凛「ふふっ。ごめんごめん。」

 

 

凛ちゃんとお互いに笑い合う。

そうしてる内にスタッフさんから声がかかる。

 

スタッフ「ニュージェネレーションズさん!そろそろ所定の位置に着いてください!」

 

凛「出番だね。それじゃ、行ってくるよ。」

 

唯「うん!頑張ってね!」

 

凛「あっそうだ、ニュージェネの後ちょっとしたサプライズあるから。」

 

唯「サプライズ?」

 

凛「まぁ楽しみにしててよ。」

 

手を振りながら凛ちゃんが舞台袖に向かう。

 

サプライズって何だろう?

ニュージェネの次は10分の休憩時間だ。

そこで何かするのかな?

 

 

私がウンウンと頭を悩ませていると、凛ちゃんが途中で足を止めて、私の方に振り返った。

 

 

 

凛「私、唯に負けないから!」

 

 

そう言った凛ちゃんの姿は凛々しくて凄く魅力的だった。

私の心も昂ぶってきた!

 

唯「お手並み拝見だー!凛ちゃんの本気を見せてみろ!」

 

 

凛ちゃんは私の言葉に頷いた後、また舞台袖に向かった。

 

 

相手にとって不足なしだね!

頑張れ!唯のライバル!

 

心の中でそう呟くと、私はステージを移すモニターに目を向けた。

 

 

 

 

 

美嘉「青春してるねぇー。……いいなぁ。」

 

 

 

 





次回ニュージェネのライブ回です。
ライブの様子を書くのって本当に難しいですね。


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