不良怪獣ゼットン君 〜宇宙恐竜川神転校記〜 (変人28號)
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ゼットン君の朝

その頃怪獣特捜隊日本支部では・・・

タカダ・リホ隊員「川神水ってどんな味するんだろう?今度ブログで載せたいなぁ」

(鳴り響くサイレン)

タカダ・リホ隊員「⁉ 都内にゼットンが出没しました!」

ゼットン
別名:宇宙恐竜 身長:60m 体重:3万t
科学特捜隊の本部を襲い、ウルトラマンをも倒した強敵中の強敵である。

タカダ・リホ隊員「ゼットンはまじこいの主人公が寝泊まりをするという島津寮の食堂に現れた模様です!」


 人々が目覚め仕事場へ行く準備をする平日の早朝、川神学園の生徒が宿泊する島津寮よりこの物語は始まる。

 

「おはよー」

「大和好き 抱いて」

「(スルー)おはようクッキー」

『おはよう大和。寝癖ついてるよ』

「本当だ。ありがと」

「そのチャームポイントを梳かしてあげる。口で」

「結構です」

 

 京との日課のようなやり取りしながら直江 大和は食卓へ着く。そこでは先に3人の人物が朝食を摂っていた。

 

「おはようございます大和さん」

「おはようまゆっち」

「遅えぞ。さっさと食え」

「余裕だって源さん。味噌汁ありがと」

「ピポポポポポポ」

「ようゼットン 朝早いな」

 

 忠勝より味噌汁を受け取りながら朝の挨拶を交わしていく。同クラスメイト源 忠勝。一年の後輩にしてファミリーの仲間黛 由紀江。そして武士道プランの後に急遽同じ2-Fに転校してきたゼットン。

 真っ黒な甲冑のような身体と雄牛のような2本の角、ゴマダラカミキリの印象を受ける甲羅と凹凸状の顔に点滅する発光体。「ピポポポポポポ」という電子音以外言葉らしい言葉は喋らず、その無口さと無機質な動きで当初は不気味がられていた。しかし妙な愛嬌を周りが感じ始め、まだ日が浅いながらも馴染むのは早かった。

 

「それでさ 梅子先生に指されても全然答えなかったから危うく鞭で叩かれそうになったんだよ」

「そ、そんなことが……」

『それでも無口なのがいっそ清々しいZE』

「自業自得だろうが。先行くぞ。ちゃんと食器に水張っとけよ」

「私は大和がその気ならいつでも水張るよ」

「味噌汁ウマー(スルー)」

「いけずぅ……それでもめげない私なのだった!」

「さいですか」

 

「ゼットン!今日こそ俺様とどちらの力が上か勝負しようぜ!」

「クリスティアーネ・フリードリヒ 覚・醒!ということでゼットン!今日こそ自分は我が名に懸けてお前を喋らせてみせるぞ!」

 

「朝からうるせぇ……」

「はいはい飯食ってからにしな!」

 

 朝っぱらからテンション高い岳人とクリスに辟易して大和はご飯を咀嚼する。二人はというと寮母の麗子に注意され渋々席に着く。

 

『ほらマスターさっさとご飯食べないと遅刻するぞ!』

「ちょっとくらい良いだろ?昨日遅くまで起きてたから寝不足なんだよ」

『ダーメ!これ以上そんなこと言うようだと ガチャガチャ シャキーン! この一刀の元に切り伏せるぞ!』

「わかったわかった…!わかったからそれ閉まってくれ!」

『ガチャガチャ わかればいいのさ』

 

 クッキーに押されて着替えながら翔一がやって来る。島津寮の住人が続々と食堂集ってきたところでゼットンは席を立つ。

 

「お、もう行くのかゼットン?」

「…………」

 

 コクリと頷くと鞄を持って食堂を後にしようとする。

 

「おい待て!俺様との力比べを忘れてるぞ!見ろこの筋肉!日々筋トレで鍛え上げたこの美しき肉から生まれしパワーでお前を──」

「食べ終わったら“ごちそうさま”だぞ。ちょっとこっちに来い。“ごちそうさま”に隠された深い意味を独自の視点で語ってやろう!聞くも涙語るも涙、聞いたら最後“ごちそうさま”と言わずには──」

「おーい待ってくれゼットン!実はお前に伝えたいことがあるんだ!昨日遅くまで考えた末の事にだな──」

 

「食 っ て か ら に し な」

 

「「「はい」」」

 

「というわけだから先行ってろよ」

「後でまたお会いしましょう」

「…………」

 

 ゼットンは頷くと今度こそその場を後にした。

 

「しかしゼットン、かぁ…どこかで聞いたような……」

「ゼットンを知っているのか大和?」

 

 後姿を見送り、大和はその名を聞いた時からの引っ掛かりを呟くとクリスに尋ねられる。

 

「うん、でもまあ気のせいだと思うけどな。 そういえばキャップ、ゼットンに何を言おうとしてたの?」

「ん? おう!聞いて驚け!実はだな──」

 

 

 

 

 

 多摩大橋。川神学園へと通うために多くの生徒がここを通過する。ちなみにどういう偶然か奇抜な人間達がよく通行することから「変態の橋」とも言われている。

 ゼットンは今、一人この橋を歩いていた。

 

「ぜ~っとん!」

「!」

 

 急に何者かに後ろから抱き着かれる。見れば白い髪の女子生徒が張り付いていた。さらに後ろには二人の男子が控えていた。

 

「こらユキ 人の往来する場所でそんな股広げて抱き着くんじゃありません。もうちょっと年頃の女の子の自覚持ちなさい」

「うっさいハゲ、ロリコン、ギンガ、ダークルギエル」

「後半関係あるのかそれ……」

「おはようございますゼットン君。今日もいい天気ですね。とてもさわやかな一日になりそうです」

 

 話しかけてきた三人はそれぞれSクラスの榊原 小雪、井上 準、葵 冬馬。Sクラスはゼットンが所属するFクラスとは別に川神学園の特別進学クラスで、成績が学年50位以下になると在籍できなくなるという完全実力主義のクラスである。選民思想の強いエリートが多いので問題児だらけのゼットンのFクラスとは何かと対立することが多い。

 

「ほーほっほっほ!なんじゃ道端にカミキリムシがいると思うたらサルどものいるFクラスに転校してきた愚か者ではないか。道を開けよ、此方のお通りである」

 

 そうこうしているとそんなSクラスの負の権化たる不死川 心が現れた。

 

「…………」

「にょほほほ此方の高貴なオーラに言葉も出ぬか。無理もないのぅ」

「…………」

「その矮小さを嘆く必要はないぞ?なぜなら事実故なぁ。我が不死川家は名家中の名家!路頭の貧民が一目見れば貧しき己を省みて墓穴に入るほどじゃ!あーはっはっはっは!」

「…………」

「はーはっはっはっはっは!」

「…………」

「はははは」

「…………」

「はは……」

「…………」

「なんか言わんかい!」

 

 しかしヘタレであるためすぐこれである。

 

「なんじゃ!まるでいい気に語る此方が憐れみたいではないか!」

(((むしろその通りなのでは……?)))

「なんかリアクションとかせい!なんかあるじゃろうが!こう!」

「…………?」

 

 全く見当がつかないのか小首を傾げるゼットン。その様に不死川は怒り心頭になり説明し始める。

 

「ああもう!例えばじゃな!こう跪いて「こんな素晴らしい御方が前に現れるとは此方はなんて幸運なのかー!どうかもっと此方に罵詈雑言を浴びせてくださいお願いします!」とかそんなんじゃ!」

 

 わざわざ跪いて丁寧に教える不死川。そんな不死川に井上が声をかける。

 

「ゴホン ……あー不死川?」

「む? なんじゃハゲ。今忙しいのじゃ後にせい」

 

 茶々を入れるなと指すような目を向けるが井上は構わず言う。というか本人のために言わなければならない。

 

「いやなんつーか、構図っていうか?今のお前……まるでゼットンに土下座してるように見えるんだけど?」

「にょわ?」

 

 不死川は我に返ると冷静に自分の状況を考える。

 

 ゼットン(小雪装備)←不死川 orz(地に手を着いて詫びるようなポーズ)

 

「おいあれ不死川じゃね?」

「土下座してるぞ!」

「あのプライドの権化のような不死川さんが恥も外聞もなく地に頭を擦りつけてるなんて!」

「うおっしゃベストショットォォォォォ!宴が盛り上がるぜええええええ!」

 

 そして次々と誤解する通行人

 

「にょわ…にょわわ……」

「…………」

「よっさすが名家、きれいな土下座!」(小雪腹話術)

「にょわーーー!覚えておれーーーーー!」

 

 耐え切れなくなった不死川は涙目になって逃げ出した。

 

「……?」

「何もしていないのにこの有様。やりますねえゼットン君は」

「ゼットン、お前も大変だな……」

「……?」

「ぜ~っとぉぉん」

 

 未だ状況が掴めていないゼットンに葵と井上は同情するのだった(葵は少し違うが)。小雪は未だ抱き着いたまま角をいじって遊んでいた。

 

「見よ庶民!この九鬼英雄の輝かしき通学姿を!」

「輝きすぎて目が眩みそうです英雄様! オラオラ退け退け英雄様のお通りじゃオラァ!」

 

 変態橋は今日も変態が通る。

 

 

 

 橋を渡り終えゼットンは三人と共に土手を歩いていると、今度は同じクラスの甘粕 真与と小笠原 千花に出会う。

 

「おはようございますゼットン君。今日は指されたらちゃんと答えるんですよ?」

「おっすゼットン。相変わらず何考えてるかわからないわね……ってうっそ冬馬君⁉学園のイケメン四天王であるエレガンテ・クアットロの一人といつの間にそんな関係になってんのアンタ⁉」

「……?」

「たまたまお会いしたのでご一緒してるだけですよ。まあそんな関係も吝かではありませんけどね」

「若ー危ない発言は控えてくれー」

「構いませんよ。私は女性も好きですが男性も好きですから」

「いやそもそもゼットン人間じゃないから」

「種族間を超えた愛もあるというもの」

「もうそれ誰得ってレベルじゃないから!」

「あの冬馬君と一緒に登校できるなんて……ゼットンナイス!今度うちの店の割引券あげるわ!」

「ゼットン君無口なので心配でしたが、こんなに友達ができていてお姉さん一安心です!」

「ぴぽぽぽぽぽぽぽぽ~」

「…………」

 

 話題の本人を他所に和気あいあいと土手を歩くゼットン一行。しかしそこで前方から学ランの不良が集団でやって来る。リーゼント全開なその姿はまるで昭和のヤンキーそのものである。

 

「物々しいな……どこの奴らだ?」

「あの制服、たしか赤王高校のものだとお見受けしますが……」

「あーイヤイヤ!あーいういかにもって感じのヤツら本当イヤ!もう生理的に受け付けないわ」

「わざわざここまで何しに来たんでしょう?」

 

 真与が怪訝な顔をしていると相手方の不良が声高く語りだす。

 

「よっしゃ来たぜ川神!」

「俺ら赤王が最強ってことを知らしめるために、まずは武神とか呼ばれてる川神 百代をぶっ倒すんすよね!」

「へっ武神だか何だか知らねえが所詮は女なんだろう?だったらどうってことねえぜ!」

「赤子の手を捻るようなもんだぜ!」

 

(((((ああ……)))))

 

 早い話、川神 百代への挑戦者だった。この川神の地、そして先ほど出てきた島津寮の大和たちファミリーの一員である川神 百代は世界最強の人物として世間で通っている。故に我こそはという腕自慢の者たちの挑戦が後を絶たないが、大抵瞬殺される。そのせいで当の本人は強者に飢えているのはまた別の話。

 今回もまた力量差を把握しない愚か者たちが来たと思って素通りする。その筈だった……

 

「オラ邪魔だ!」

「きゃっ」

 

 不良の一人によって真与が蹴られる。幸い当たりはしなかったがその行動が千花の逆鱗に触れる。

 

「真与大丈夫⁉ちょっとアンタら待ちなさいよ!」

「千花ちゃん……」

「ああん?なんだこの(アマ)ぁ」

「ああん?じゃないわよ!そんなゾロゾロと来たら道なんて開けられるわけないでしょ!邪魔なのはアンタたちよ!」

「千花ちゃん私は大丈夫ですから……」

「いいや我慢ならない!こんなことで蹴られてたまるかっての! そんな超ダサい頭してオラついて他人迷惑かけるとか最低よアンタら!」

「こ、この野郎……言わせておけば!」

「女だからって容赦しねえぞ!」

 

 千花の物言いに逆切れした不良は拳を振り上げる。

 

「きゃっ」

 

 そして今まさに殴られようとしたその時、その拳は止められる。それは流石にまずいと察した井上ではなくましてやぶら下がっている小雪でもない。葵、真与、千花など以ての外。

 そう、拳を止めたのは──

 

「…………」

 

 ゼットンである。いつの間にか千花の前にいたゼットンは片手でその拳を止めていた。

 

「て、てめえ…今まで何人もノしてきた俺の拳を片手で……!」

「…………」

「や、野郎!やんのか…!」

「ま、待て!そ、そいつって……」

 

 今一度拳を振り上げようとした不良を後方に控えていた不良が慌てて制止する。

 

「あん?なんだよ……」

「そ、そいつって…ゼットン、君じゃね?」

「ああん?……………………ぁ………ゼットン君だぁ」

 

 先程拳を振り上げた不良は指摘されもう一度よく見ると思わず後ずさり、恐怖で震え裏返った声を発すると、咥えていた煙草をポトリと落とす。後ろの不良たちも一気にその顔を青くさせて慄く。

 

「やべえよ…俺ら…ゼットン君に手を出したら……やべえよぉ……!」

「あいつはバケモンだぁ……!あのウルトラマンを唯一破った……宇宙恐竜ゼットンに勝てるわけねえだろおおおおおお!!」

「に、逃げっ──」

 

 不良たちはすぐさま踵を返して全速力で逃げ出した。しかし、

 

「…………」

「うおわあああああああああ!?」

 

 ゼットンが不良たちの進行方向にテレポートし道を阻む。それは大事な友達を傷つけられたからなのかはわからないが逃がすつもりはないらしい。

 

「…………」

『ああ……!』

 

 不良たちにとってその表情のわからない顔と発光体が逆に不気味であり恐怖に映り、

 

「…………」

『あああ……!』

 

 またその電子音が無慈悲な処刑宣告に聞こえた。

 

「…………」

『ああああああああああああああああああああああああ』

 

 某日早朝、川神の土手に複数の断末魔が響いた。

 

 

 

 

 

「急げ!早くしないと先生に叩かれるぞ!」

「ちょっとガクト!走りながらその気持ち悪いポージングやめてよ!」

「なにおうモロ!この筋肉の素晴らしさがなぜ理解できない!」

「しょーもない」

「校舎まで勝負だ犬!」

「望むところよクリ!」

「一緒に走って登校……まるで青春のようで感激です松風!」

『まだまだこれからだぜまゆっち。ここからドラマティックでロマンティックファンタスティックな青春の一ページを刻むのさ!そら走れ!ゴーゴーまゆっちー!』

「うおおおお俺は風になるーーー!」

「そして天から美少女登場!走ってるなあお前たち!そして金貸してくれ!」

 

 時間ギリギリに出てきた風間ファミリーは今橋を渡り終えるところだった。

 

「ねえキャップさっきの話本気?」

「弟ー金貸してー」

 

 走りながら大和は翔一に問いかける。

 

「本気も本気だ!一晩考えて決めたことだ!」

「でも入れるにしても本人には言ったのか?」

「それをさっき言おうとしたんだけどさっさと行っちまったからなぁ…でもゼットンが決めるならそれはそれでいいさ!俺は入れたいと思った!それだけだ!」

「成程ね。ま、あとは本人に聞いてみるしかないな」

「おい無視かよー弟のくせに生意気だぞー」

「いだだだだだ!?姉さん話し中にヘッドロックはやめて!」

「おう! お!そんなこんなしてるうちにゼットン発見!」

 

 

 そして土手に差し掛かったところで翔一はゼットンを見つける。

 

 

「いだだだだだ!あ、あれ?もう先に学校着いてると思ったのに?」

「ほうあいつか、今度ファミリーに入れたいというやつは。なぁんだ美少女じゃないのか……私はんたーい」

「反対の理由が雑!? ってなんかあったのか?」

「他の人もいるね。大和好き愛してる」

「本当だ。お友達で」

 

 そんなことは構わず翔一は声をかける。

 

「おーいゼットン!お前をうちのファミリーに……ってあら?」

 

 ゼットンのそばまで来るとやっと翔一は状況を認識する。

 

「…………」

 

「ぅ、ぅう……」

「がっ……」

「つ、強え……」

「……」←虫の息

 

『…………』

 

 ゼットンの眼前にはボコボコにされた不良たちが倒れていた。葵たち含めその場の全員がそれを見て言葉なくした。

 

「…………」

 

 全員が注目する中、ゼットンはいつもと変わらず顔の発光体を光らせ電子音を鳴らしていた。

 

 

 

 宇宙恐竜ゼットン、ウルトラマンを唯一破った怪獣。なぜかこの町ではそのすごさを知る者が少ない。




書いてて不良怪獣なのに全然不良してないことに気づく←レッドファイ!


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