ありふれた転生者の異世界巡り (折れたサンティの槍)
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原作プロローグ前 『自己紹介的な』

注意

筆者の妄想から生まれました。
筆者はまだ《空の境界》の小説を【上(途中)】までしか読んでいません。
なので空の境界の知識には期待しないで下さい。
ただなんか書きたくなったから書いたものなので。
そして投稿は完全に筆者のペースです。

この駄筆者、並行連載だってよ(脳内で、自分の分身を大剣構えて待っている山の翁がいるホームベースに向けてぶん投げながら)。
自分から首を絞めにいくのか……。

12/1
オリ主の語尾を女性っぽく修正。
後の展開の伏線になる様にオリ主の過去を一部修正。
他いろいろ修正。


私の名前は《両儀 四季》と言います。

よくある"死んだらしいけど神様やら神様的存在やらに出会うこと無く、特典的なものも無く新しく生まれ変わった系転生者"です。

前世も今世も女の子です。

だいたい中学校に上がった辺り、唐突に前世の記憶を思い出し、強い恐怖を感じて思わず泣きそうになってしまった。

それはそうだ。

いきなり他人の人生の記憶……ほんの17〜8年ではあるが、その生死を頭の中に叩きこまれ、こちらを塗り潰してくるのだ、こんな風にもなる。

そのパニックは何故だかすぐに収まった(・・・・・・・・・・・)けれど。

落ち着き、"他人の人生"を、"自身の前世である"と認識してから………。

自分の姿と、漢字こそ違うが自分の名前が《リョウギ シキ》である事を思いだし、思わず一瞬だけ呼吸を含めた自身の身体の動きを全て止めてしまった。

この《両儀式》というキャラクターについて知っている事はそれ程多くは無い。

型月作品はアニメのFate/SN[UBW]とFate/zero、FGOしか知らず、『空の境界』という作品もFGOコラボイベントと某動画サイトで見た戦闘シーンとかしか知らないし、《両儀式》という人物の知識も、殺式と剣式のマテリアルと流し読みした彼女の型月wiki程度。

こんな事になるなら小説とか読んでおけばよかった……こんな事予測できる筈も無いのだけど。

なんとなく分かっている事は、

 

・殺式にはどうやら夫?がいるらしい。

・剣式は人間の思う大抵の願いを叶えられる力があるらしい。

・二重人格がどうのこうの(多分殺式&剣式の事だと思う)とか。

・なんか殺人衝動がヤバイらしい。

 

そして特に重要な事と言えば、

 

・どちらも可愛いという事。

・物の"死"が線として見える様になり、それをなぞればそれだけでなぞった物を殺す事が出来てしまう《直死の魔眼》

が凄い(小並感)。

 

絶対に何かあるわと内心ガクブルしながら身構えてはいたものの、別に両儀家は家と使用人さんがいるのと、偶に剣術を教えられる以外《ち○まる○ちゃん》みたいな家族構成の普通の家だし、事故に遭ったり2年間昏睡したり魔眼を手に入れたりもしないし、殺人衝動も生まれないし、残念ながら二重人格として殺式や剣式がいたりもしない。

偶に誰かが自分の中から(・・・・・・・・・・・)見守ってくれている(・・・・・・・・・)様な感じがする(・・・・・・・)時があるけれど気のせいだと思うし。

…事故はこれから遭うのかもしれないけれど。

物騒な話ね(震え声)。

 

ちなみに私の家は結構大きな和風の屋敷です。

何処と無く衛宮士郎の屋敷に似ていなくもない。

 

今日は月曜日、前世ならば"1週間の中で最も憂鬱な始まりの日"なんて言っていたかもしれないけれど、今では「今週も平和だといいな……」なんて思う日ではあるが、まあ嫌いでは無い日だ。

 

今日からまた1週間、頑張りましょうか。

 

 

 

 

 

 

「――行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日が"憂鬱な1週間の始まり"では無く"平穏な日常の終わり"だと思い知るまで、あと数時間…………。




次話はハジメ視点の、ざっくりとした主要キャラ紹介と、ハジメから見たオリ主の事、そして日常の終わりです。

ちょくちょく修正するかも。


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プロローグ 『ハジメから見たクラスメイトたち』

筆者が大分はっちゃけた結果こうなった。
ごめんね光輝くん、しばらくオリ主に罵倒され続けてね。
光輝くんファンの皆様ごめんなさい、彼の扱いはしばらく酷いです。

原作主要キャラ紹介回なので、原作を読んでいる方々は半分以上読み飛ばして下さって結構です。

オリ主の台詞をほんの少し修正しました。
感想を元に修正してみた。


side 原作主人公

 

 

僕、《南雲ハジメ》は何時もの様に始業チャイムが鳴るギリギリに登校し、夜更かしでふらつく体をなんとか踏ん張り教室のドアを開けた。

その瞬間、教室の男子生徒の大半から舌打ちやら睨みやらを頂戴する。

女子生徒も友好的な表情をする者は、一部の者を除けばいない。

極力意識しない様に自席に向かう僕に、しかし、毎度の事ながらちょっかいを出してくる者がいる。

 

「よぉキモオタ!また徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっキモ〜。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃ〜ん」

 

何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒たち。

声をかけてきたのは《檜山》、毎日飽きもせず日課の様にハジメに絡む生徒の筆頭だ。

近くでバカ笑いしている《斎藤、近藤、中野》の三人と共に頻繁に自分に絡む。

 

檜山の言う通り自分はオタクだが、キモオタと罵られる程身だしなみや言動が見苦しいという訳では無い。

コミュ障という訳でも無いので、積極性こそ無いものの受け答えは明瞭だ、と思っている。

単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけである。

 

本来ならば学校のクラスのオタクは、嘲笑こそあれどここまで敵愾心(てきがいしん)を持たれる事は無い。

では何故男子生徒全員が、自分に対して敵意や侮蔑を向けるのかといえば。

 

その答えの一つ(・・)が彼女だ。

 

「南雲くんおはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

ニコニコと微笑みながら一人の女子が自分の下に歩み寄った。このクラス、いや学校でも自分にフレンドリーに接してくれる数少ない例外の一人(・・・・・・・・・)であり、この事態の原因でもある。

名を《白崎香織》といい、学校で三大女神と呼ばれている女神の一人であり、男女問わず絶大な人気を持つ途轍(とてつ)もない美少女だ。

いつも微笑の絶えない彼女は非常に面倒見が良く責任感も強いため学年を問わずよく頼られ、それを嫌な顔一つせず受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。

 

そんな彼女は何故かよく自分を構うのだ。

夜更かしや徹夜のせいで居眠りの多い僕は、成績は平均を取っているにも関わらず不真面目な生徒と思われてしまっており、それを見た彼女がその面倒見の良さを発揮してしまい気にかけている、と思われている。

これで僕の授業態度が改善したり、あるいは僕がイケメンであれば彼女が構うのも許容できるのかもしれないが、生憎僕の容姿は極々平凡であり、『趣味の合間に人生』を座右の銘としている事から態度改善をするつもりも無い。

そんな僕が彼女と親しくできている事が、他の男子生徒たちには我慢ならないのだろう。

「なぜあんな奴だけが!」と。

女子生徒たちは単純に彼女に面倒をかけている事と、なお改善しようとしないことを不快に感じているようだ。

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん」

 

瞬間、これが殺気か!?と言いたくなる様な眼光に晒されながら、頰を引きつらせて挨拶を返す。

それに嬉しそうな表情をする白崎さん。

なぜそんな表情をするのだ!と、心の中で叫びながら更に突き刺さる視線に冷や汗を流した。

というか何故彼女はこんなにも自分に構ってくるのだろうか。

どうにも彼女の性分以上のものがあるような気がしてならない。

 

……僕など比較にならないほど"いい男"が彼女の周りにはいるのもあって、自分に恋愛感情を持っているなどと自惚れるつもりは毛頭無いのだが。

 

というかいい加減、この殺気を孕んだ眼光の嵐に気づいて下さい、それとも自分に構ってくるのは悪意あってのものなのかキサマァー。

 

なんて思い始めていると、三人の男女が近寄ってきた。

そこには、先程言った"いい男"も含まれている。

 

「南雲君、おはよう。毎日大変ね」

「香織、また彼の世話を焼いているのか?まったく、本当に香織は優しいな」

「まったくだぜ、そんなやる気の無い奴にゃあ何を言っても無駄だと思うがなぁ」

 

三人の中で唯一朝の挨拶をした女子生徒は《八重樫(やえがし)雫》といい、白崎さんの親友だ。

ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークである。

彼女の実家が八重樫流という剣術の道場を営んでおり、彼女自身、小学生の頃から剣道で負けなしの猛者なのだとか。

 

次に、些か臭い台詞で香織に声をかけたのが《天之河(あまのがわ)光輝(こうき)》。

如何にも"勇者"っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗成績優秀スポーツ万能の完璧超人で、ダース単位で惚れている女子生徒がいる筋金入りのモテ男だ。

 

最後に、投げやり気味な言動の男子生徒は《坂上龍太郎》といい、天之河くんの親友だ。

努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、僕の様な学校に来ても寝てばかりのやる気が無さそうな人間は嫌いなタイプらしい。

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。まぁ自業自得とも言えるから、仕方ないよ、ははは」

 

八重樫さんたちに挨拶を返し苦笑いする。

「あん?てめぇ、何親しそうに八重樫さんと話してんだオラァァン!?」という言葉より明瞭な視線がグサグサと刺さる。

八重樫さんもまた、白崎さんに負けないぐらい人気が高い。

 

「そこまで分かっているなら直すべきじゃないか?いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君にばかり構ってはいられないんだから」

 

天之河くんの目にも、自分は白崎さんの厚意を無碍(むげ)にする不真面目な生徒として映っているらしい。

僕としては「甘えたことなんて無いよ!寧ろ放っておいてくれ!」と声を大にして反論したい。

のだが、彼は無駄に思い込みが激しいところがあるので言ったところで無駄だろう、と思う。

 

直せと言われても、両親の仕事現場では即戦力扱いされていたりと、自分としては真面目に人生しているので、誰に何と言われようと今の生活スタイルを変える必要性は感じない。

白崎さんが僕を構わなければ、"物静かな目立たない一生徒"として終わるはずだったのだ。

 

「いや〜、あはは……」

 

それ故に、笑ってやり過ごそうとする。

が、今日も変わらず我らの女神は無自覚に爆弾を落とす。

 

「? 天之河くん、何言ってるの?私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

ざわっ、と教室が騒がしくなる。

男子たちは、僕を呪い殺さんばかりに睨みつけ、檜山たち四人組は何やら話し込んでいる。

おそらく昼休みに僕を連れて行く場所の検討でもしているのだろう。

 

「え?…………あぁ、ホント、香織は優しいよな」

 

どうやら天之河くんの中で白崎さんの言葉は、僕に気を遣ったと解釈された様だ。

彼は完璧超人なのだが、そのせいか自分の中の正しさを疑わなさ過ぎるという欠点がある。

 

(そこが厄介なんだよなぁ)と思いながら現実逃避気味に教室の窓から青空を眺めていると………天之河くんが僕の一つ後ろの席にいる女子に向けて話し出した。

 

「なぁ、《四季》もそう思うだろう?」

 

その言葉を聞いた、四季と呼ばれた女子は、読んでいた小説に栞を挟みパタンと音を立てて閉じると彼に向けてこう言った。

 

 

 

 

 

「アマノガワコウキくん、馴れ馴れしく名前で呼ばないでって毎日毎日言ってるわよね?」

 

やんわりと言ういつも(・・・)と違い、言いながらギロリと睨まれた彼は、

 

「あ、ああ、悪かっ……」

「せっかくだから言わせて貰うけれど」

 

謝罪を遮られ、続けられる。

 

「アマノガワコウキくん、貴方に毎日毎日馴れ馴れしく名前で呼ぶなって言っていた理由、教えてあげましょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

友達でもない貴方に名前を呼ばれるとね、虫唾が走るからよ」

 

良く通る《彼女》の声で、教室の空気が死んだ。

 

「な、何を言って……」

「それから」

 

再び言葉を遮り、《彼女》はまた続ける。

 

「毎日毎日私に対して当然の様に、勝手に自分の身内みたく接してくるの、やめてくれないかしら、すごくイライラするわ」

 

天之河くんは呆然としている。

ちょっと可哀想に思えてきた。

 

「それから……私の席の周りで、大人数で騒がないでくれる?さっきまでまでこうやって小説を読んでいたのが見えなかったのかしら

どうしても私の席の周りで騒ぎたいのなら、私がいない時にして貰える?」

 

そう言って一瞬こちらを見た《彼女》は、最早用は無いと言わんばかりに小説を鞄の中に仕舞い、教室の窓から空を眺め始めた。

天之河くんは最早何も言うことが出来ずに、一瞬だけ《彼女》を睨みつけた坂上くんと共にすごすごと自分の席に戻っていった……かなり可哀想に思えてきた。

白崎さんも《彼女》に対して、怒りとはまた違う感じにムムムッと唸ってから戻っていった……《彼女》は顔を向けすらしなかったが。

 

「……えーっと、ごめんなさいね?南雲くん。彼らに悪気は無いのだけど……」

 

八重樫さんがこっそりと申し訳なさそうに謝罪してきた。

 

天之河くんが《彼女》に話しかける直前までの話の続きだ。

彼女にも先程の流れに関して言いたい事はあるのかもしれないけれど、どうやら「とっとと失せろ」という《彼女》の意思を尊重したらしい。

 

自分は「仕方ない」という風に苦笑しながら肩をすくめるのだった。

 

そうこうしている内に始業のチャイムが鳴り教師が入ってきた。

いつもと違う教室の空気を疑問に思いつつも、いつもの様に朝の連絡事項を伝えている。

そしていつもの様に自分は夢の世界に旅立ち、授業が開始された。

 

 

 

 

 

そして僕は意識が沈む直前に、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(《両儀さん》、言ってた事こそ本音だろうけど、絶対僕が勧めたラノベのキャラの口調を参考にしていたよ……)

 

なんて思ったのであった。




次回、ハジメと四季の、少し変わった関係の始まり。

そして…………。


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プロローグ2 『南雲ハジメの"馴れ初め回想"』

この小説、"筆者が書きたいと思っている話"の都合で、"とある地点"から一気に時間が飛びます。
黒幕にはサクッと逝ってもらいます。

上の文を分かる人には分かる風に例えると、
第一特異点修復後から、一気に終局特異点の黒幕辺りまで飛びます。
黒幕には(『晩鐘EX Lv10』使用後の『死告天使』くらったラフム並みに)サクッと逝ってもらいます。



……だってマジで《ありふれた〜》の全話分書こうと思ったら、1年は書き続けなきゃいけなくなるだろうし、そうすると書きたい話書ける様になるまで遠いし、"ある地点"以降のオリ主の動きを考えるのがぶっちゃけめんどくさい。
《佐々木小次郎もどき》も書いてるし、他の妄想も書きたい。

この小説を読み続けるのならその点を注意して下さい、よろしくお願いします。

もう少し剣式のマテリアルを読んでおけば良かったなと思った午前2時。
ついさっきマテリアル読んだら書きたいと思った事が少し増えたので、自分が最初考えていた展開よりも、もう少し面白くなるかも。
本文の二人の会話部分を加筆修正。
後書きにも加筆。

本文を少し修正&後書きを大きく修正。
今後の展開に大きな変更はありません。

サブタイトル変更……馴れ初めで合ってるな、うん。


side ハジメ

 

 

僕と《彼女》との奇妙な関係が始まったのは何週間か前、家から自転車で大体10分程の場所にあり様々な店や食事処が各階に存在するビル、の中にあるそこそこ広めの本屋、の中のライトノベルコーナーでのとある出来事からだ………その時まではまだ、少なくとも自分は彼女に関しては、"珍しい服装で学校に来る女子生徒"くらいにしか思っていなかった。

 

その日は確か自分が良く読んでいるラノベの新刊発売日だった。

新刊が売り切れている事無くホクホク顔でレジに並びに行こうと思いながら、何となしに他のラノベが置いてある棚の方を向いてみたら……なんと《彼女》がいた。

こんな場所でも周りの視線に構う事なく着物を着て、うーんと唸りながらラノベの棚を物色している《彼女》を見て思わず

 

「ヒョッ!?」

 

という声が出た。

 

《彼女》の名前は《両儀四季》といい、学校で女神と呼ばれている女子の一人にして、自分が殺気の込められた視線を浴びる一因となってしまっている女子生徒だ。

 

いつも高そうな車で登下校をしており、制服着用が義務づけられている僕らの学校で、両儀さんは体育の授業以外では常に着物(後に本人から聞いた事だが、アレは正式な着物ではなく、浴衣の様な単衣の着物らしい)を着て授業を受けている。

最近は女子の体育着である赤いジャージを、上着として羽織っている。

学校側は両儀家から金銭的支援をしてもらっているからか、それを黙認している。

 

両儀さんは外見も内面も物凄く綺麗だ。

それこそ女神と呼ばれるほどに。

もちろん男子たちは放って置く事は無く、ちょっかいをかける者もいれば、告白した勇気ある者もいる。

しかし、他人に興味無さげな彼女はそれらをやんわりと躱し、断っている。

……一度、剣道部の部長が気の迷いからか「俺が勝ったら付き合って貰う!」などと言って、廊下で歩いていた両儀さんに対して竹刀防具フル装備で勝負を仕掛けたけど、一瞬で近づいた両儀さんの「物騒な話ね」という一言と共に放たれた掌底が部長の側頭部にぶつけられ、あえなく撃沈したなんて事もあったが、つよい(小並感)。

 

『どこか浮世離れした様な空気感を纏い、アンニュイでありながら、"少女的な活発さを持つ白崎さん"とは違う"大人の女性的な穏やかさ"を持つ(しかしやる時はやる)和服美女』というのが、学校にいる人間から見た彼女の姿だ。

 

僕もそんな風に思っていたからこそ驚き戸惑ったのだ。

『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』という言葉を体現したかの様なあの(・・)両儀さんが、何故ライトノベルコーナーを物色しているのか、と。

 

「?……あら」

 

僕の『《狂戦士の魂》でオーバーキルされた虫野郎』みたいな奇声が聞こえてしまったのか、彼女はこちらに振り返り、僕を見つけてしまった。

 

「こんにちは、えっと、確かナグモくん……で良かったかしら」

「あ、はい、えっと、こ、こんにちは、両儀さん」

 

うわっ、僕の返答気持ち悪すぎ……?

と思いながら固まっていると、彼女が僕の持っているラノベを指差しながら言った。

 

「ナグモくんの持っているその本って、その……ライトノベル、よね?」

「え、あ、ああうん、そうだよ」

 

手先も綺麗だなぁと思いながらも答える……幸い僕が持っていたのは表紙がいかがわしくないものだった。

良くやった、さっきまでの僕。

 

「……ナグモくんって、こういうの、結構知っている方?」

「うん、まぁ、結構?」

 

何故か疑問形で答えた自分を、次の瞬間呪った。

うわあああなんで正直に答えちゃうかなこんな風に答えたら両儀さんにもキモオタとか思われちゃうよ引かれたら僕もう学校行かずに両親の仕事現場で働くんだ……。

 

なんて思った次の瞬間、

 

 

 

 

 

花が咲いたかの様に笑う"少女"が、僕の手を両手で包み込む様に握り、顔を近づけてきた。

 

「そうなの?良かった!実はこういう本に少し興味があって、でもどれが良いのか分からなかったの。ナグモくんのお勧めがあったら教えてくれないかしら」

 

両儀さん以外と掌硬いんですね、スポーツか何かやっていらっしゃるのですか?

あとそんな風に笑えるんですね、瞳がキラキラ輝いていてとっても可愛いらしいです。

あと顔と体が近い近い近い綺麗近い近いなんか良い香りがする近い!

 

「う、うん、良いよ。とりあえず、僕のお勧めは___」

 

両儀さんを自分から離しながらなんとかそう返し、彼女を連れながら歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから僕と彼女の不思議な関係が始まった。

 

学校では、周りの生徒たちの僕の扱いを理解してくれていたからか不干渉でいてくれて、

学校が終わった後や休日に、僕の家に迎い入れて一緒にアニメを観たり、彼女の家にお邪魔して着物や剣術を見せて貰ったりして。

最初は僕を警戒していたらしい彼女の家族は彼女と話している僕を見て、僕が彼女を無理矢理襲ったり出来ないヘタレだと知ったからか歓迎してくれる様になった。

 

彼女と話す様になってからいろんな彼女を見てきた。

綺麗な着物を着た、大人の女性の様な綺麗な彼女も。

アニメやラノベを見る時に目を輝かせる、幼い女の子みたいな可愛いらしい彼女も。

物憂げな表情で自分の事を語った彼女も。

 

だからこそ僕は彼女の事を本当に好きになった。

まあでも僕なんかじゃ彼女にはふさわしくないし、何より彼女にとって僕は、良くて"友達"止まりだろうからもう諦めているけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……だからご家族の皆様、歓迎してくれる時に「娘の婿候補が来てくれたぜ……!」みたいな期待のこもった凶暴な笑みを向けてくるのはやめて下さい(プレッシャーで潰れて)死んでしまいます。




型月作品がこの世界に無い事を知ったオリ主が、「しょうがないから他に面白そうなラノベとか無いかなぁ」と思いながらラノベ棚をウロウロしていたものの本気でどれが良いのか分からなかった時に偶然、普段から学校で"キモオタ"と馬鹿にされていたハジメに遭遇。
ラノベの事とか良く知っていそうなのと、オリ主が個人的にハジメに気になっていたのもあって接触してみた……というのがオリ主にとっての、ハジメとの友好関係の始まり。

その後も付き合いが長いのは、言葉を交わした事でハジメが"良い人・優しい人"だと分かったから。

オリ主がハジメを家に招待していたりする理由は、そうしても良いと思った程ハジメに危険を感じなかったから。
今世での初めての友だちでテンションが舞い上がっていたのもある。



次回予告
・光輝がウザいというよりキモい
・両儀さんに負けない様にがんばる! by白崎香織
・日常崩壊

そんな感じ


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プロローグ3 『"日常崩壊"』

僕が投稿した話はちょくちょく加筆やら修正やらしてます。
前話の後書きは時間のある時にでも読んでもらえると助かります。

そんな感じです。

感想を元に修正してみた。


side ハジメ

 

 

教室のざわめきで意識が覚醒していくのを感じる。

居眠り常習犯なので起きるべきタイミングは体が覚えている。

どうやら昼休憩に入ったらしい。

 

突っ伏していた体を起こし、10秒でチャージ出来る定番のお昼を取り出す。

何となしに教室を見渡すと、購買組が既に飛び出していったからか人数が減っている。

それでも自分の所属するクラスは弁当組が多いので3分の2くらいの生徒が残っており、それに加えて4時限目の社会科教師である畑山愛子先生が数人の生徒と談笑していた。

 

朝に、あるラノベのヒロインの口調を真似ながら本音を語っていた両儀さんはというと、水筒とお握りをモサモサ頬張っていた。

お握りは多分手作りでは無いだろう。

両儀さんは、実際は和料理が得意で物凄く美味しい。

本人曰く、良家に生まれたために舌が肥えているので他人が作ったのなら不味くても許せるが、自分で作るものなら絶対に妥協出来ないとか。

彼女の父曰く、普段自炊する事は無いらしいのだが作り始めると止まらず、結果食卓には豪勢な食事が並ぶ様になるとか。

実際彼女の家に行った時に、「夕御飯作るから食べていかない?」と言われ手料理ヤッターなんて思いながら頷き、いざ食卓に座ってみるとその迫力に「ヒェッ……」っと声が漏れたり。

全部美味しくて完食しましたがね!

 

じゅるるる、きゅぽん!

 

そんな事を思いながら午後のエネルギーを10秒でチャージした僕は、もう一眠りするつもりで机に突っ伏そうとして、女神みたいな悪魔……白崎さんがニコニコしながら自分の席に近づいて来るのを確認してしまった。

 

しまった、月曜日という事もあってか少し寝ぼけ過ぎていた様だ。

いつもなら彼女たちに関わる前に教室を出ていたのだが、流石に1日徹夜(夜更かし)してからの寝落ちは地味に効いていたらしい。

 

「南雲くん、珍しく教室にいるんだね。お弁当?良かったら一緒にどうかな?」

 

教室を不穏な空気が漂い始める。

いやもう本当になしてわっちに構うんですか?

思わず意味不明な方言が飛び出しそうになった。

あと一瞬両儀さんの方見て勝ち誇った様な顔しましたけど、両儀さんは面倒くさいから作らなかっただけです。

本気出されたら多分あなたの負けです(アークエンジェル級2番艦艦長並感)。

 

「あ〜、誘ってくれてありがとう、白崎さん。でももう食べ終わったから、天之河くんたちと食べたらどうかな?」

 

そう言って、中身を吸い出されたお昼のパッケージをヒラヒラと見せる。

断るのも「何様のつもりだ」とか思われそうだが、昼休憩の間ずっと針のむしろよりは幾分かマシだ。

 

しかしこの程度の抵抗は意味を成さなかったようで。

 

「えっ!?お昼それだけなの?駄目だよちゃんと食べないと!私のお弁当、分けてあげるね!」

 

まさかの追撃である。

もう勘弁して!いい加減気づいて!周りの空気に気づいてよ!

僕からすれば、この"悪い意味で空気が読めない・鈍感"という欠点のせいで、白崎さんを好きにはなれそうにない(・・・・・・・・・・・)よ!

 

刻一刻と増していく圧力に冷や汗が流れるのを感じていると救世主が現れた……少なくとも今の僕にとってはだけど。

その救世主とは、既に都合良く両儀さんの言葉を忘れているであろう天之河くん、そして八重樫さんと坂上くんだ。

 

「香織、こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝たり無いみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて、俺が許さないよ?」

「気持ち悪……」

 

爽やかに笑いながらそんな台詞を吐く天之河くん、その言葉にキョトンとする白崎さん、さらっと天之河くんに毒を吐く両儀さん。

ちょっと両儀さん?いくら嫌いだとしても声に出すのはどうかと思われますわよ?

 

「え?なんで光輝くんの許可がいるの?」

 

素で聞き返す白崎さんに思わず八重樫さんが「ブフッ」と吹き出した。

白崎さんの鈍感と天然が合わさり最強に見え、更に両儀さんによる追撃の毒舌により(光輝の精神への)ダメージは更に加速した!

 

天之河くんは困った様に、若干引きつった笑いを浮かべながらあれこれ話しているが、結局ハジメの席に学校一有名な四人組+一人が集まっている事実に変わりは無く周りの視線が突き刺さる。

 

もういっそこいつら異世界に召喚されたりしないかなぁ。

どう見てもこの四人組そういうのに巻き込まれそうな感じがするもん。

どこかの世界の神か姫か巫女か誰でもいいので召喚してくれませんかね……。

 

そんな事を思いながら、いつも通りどうにかしてお茶を濁して退散しようと椅子から腰を上げたところで…………凍りついた。

 

自分の目の前にいる天之河くんの足元に"純白に光り輝く円環と幾何学(きかがく)模様"が現れたからだ。

その異常事態には周りの生徒も直ぐに気が付いた。

全員が金縛りにでもあったかの様に輝く紋様………魔法陣らしきものを注視する。

魔法陣は徐々に輝きを増していき、教室全体を満たす程の大きさに拡大した。

自分たちの足元まで異常が迫って来たことで、ようやく硬直が解け悲鳴を上げる生徒たち。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

未だに教室にいた愛子先生が「みんな!教室から出て!」と叫んだのと、

 

 

 

 

 

 

右腕を誰かが掴んだのと、

 

 

 

 

 

 

 

魔法陣が爆発したかの様に、カッと輝きを増したのは同時だった。




オリ主介入小説だけど、基本ハジメ視点になりそう。

【悲報】白崎香織、(勝手にライバル認定している)オリ主に負けない様にハジメにアタックし続けていたら、割と取り返しのつかない所にまで来てしまっていた(香織はやはりそれに気付かない)。

次回予告
・召喚された直後にパニックにならず、冷静に周囲の確認が出来るハジメくんは型月主人公の素質があると思うんだ。
・この緊急事態に「愛ちゃんが頑張ってる……」って和む生徒たちって緊張感無さ過ぎじゃない?ヤーナムにでも放り込んでやろうか?
・原作の『異世界召喚』の話を久しぶりに読んだけど、あの状況で話し相手をしっかり観察出来るハジメくんは流石主人公やなって……実際は魔王になったけど。

そんな感じ。


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異世界召喚 『縋り難い希望』

原作を見ながらカリカリ書いた。
ハジメの出番もほとんど無いし、ちょくちょく読み飛ばしても良いんじゃないかな。
あと女口調難しい……。

《原作プロローグ前》の話を結構修正しました。

12/15 モソモソ修正。
1/8 少し修正


side 四季

 

 

咄嗟に南雲くんの腕を掴み、光に包まれ気が付いた時には、私は巨大な壁画のある、大理石の様な白い石でできた大聖堂にいた。

周りには、自分と同じ様に呆然と周囲を見渡している白崎さんたちとクラスメイトたちがいる。

あの教室にいた全員があの魔方陣による異常に巻き込まれてしまったのだろうか。

ふと、掴んでいた腕の感覚を辿る様に振り向くと、自分と同じ様に周りを見渡していた南雲くんと目が合った。

勝手に腕を掴まれて怒っているのか、顔が少し赤い。

 

「勝手に掴まってしまってごめんなさい」

「あ、ああいや……大丈夫だよ両儀さん。両儀さんは怪我とかしてない?大丈夫?」

「ええ、おかげ様で。ありがとう南雲くん」

「うっ…うん、どういたしまして」

 

謝りながら腕から離れると、そんな言葉が返ってきた。

悪感情を持つどころか、本心からこちらの心配をしてくれているのがわかった。

 

(こんなに優しくて良い人と友だちになる事が出来て良かった)

 

………自分が一方的にそう思っているだけで向こうは単なる"趣味の合う話し相手"という認識かもしれないけれど。

 

少し混乱していたものの今は落ち着き、冷静に周りを確認する余裕が生まれた。

昔から異常事態や緊急事態には、ほとんど動揺する事無くすぐに冷静になる事が出来た。

そんな自分を不思議に思う事は多かったけど、今はそれに感謝すべきだと思う。

 

どうやら自分たちはこの大聖堂の奥にある台座の様な場所にいて、その台座の前方には白い法衣を纏った三十人近い人々が、祈りを捧げるかの様に跪き、両手を胸の前で組んでいた。

 

その中でも特に豪奢(ごうしゃ)(きら)びやかな衣装に、細かい意匠の凝らされた烏帽子(えぼし)の様なものを被った老人が進み出てきた。

その老人は手に持った錫杖(しゃくじょう)をシャラシャラと鳴らしながら、深みのある落ち着いた声音で告げる。

 

「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様、歓迎致しますぞ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いております、イシュタル・ランゴバルドと申す者です。以後宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺(こうこうや)然とした微笑を見せた。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

場所を移した私たちは今、10メートル以上はありそうなテーブルがいくつも並んだ煌びやかな作りの大広間に通されていた。

恐らくここで晩餐会を行ったりするのだと思う。

上座に近い方に愛子先生とアマノガワコウキたち四人組が座り、後はほとんど適当に座っている。

南雲くんは最後方、私はそのいくつか隣だ。

 

全員が着席したタイミングで、メイド服を着た使用人さんたちがカートを押して入ってきた。

使用人さんなど始めて見たのか、この場にいるほとんどの男子が彼女たちを見ていた………私はメイド服はともかく使用人さんは見慣れているので、『あのメイド服は絶対に自分には似合わないでしょうね』くらいしか思うところは無い。

カートに乗っていた飲み物が座っている全員に行き渡るのを確認すると、イシュタルが話し始めた。

 

「さて、あなた方はにおいてはさぞ混乱している事でしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

そう言って話始めたイシュタルの話は、実にファンタジーでテンプレートでどうしようも無い程に勝手な話だった。

 

まずこの世界は《トータス》と呼ばれていて、大きく分けて《人間族》《亜人族》《魔人族》の三つの種族が存在している事。

この内の、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けていてたが、最近になって"魔人族による魔物の使役"という異常事態が多発している事。

魔物とは、それぞれ強力な固有の魔法が使える凶悪な害獣の事だという事。

その魔物の大量使役によって人間族側の"数"というアドバンテージが崩れ、人間族側は滅びの危機を迎えている事。

 

「あなた方を召喚したのは《エヒト様》です。我々人間族が(あが)める守護神、聖教教会の唯一神にしてこの世界を創られた至上の神。

人間族が滅びると悟られたエヒト様は、その滅びを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位に存在し、例外なく強力な力を持っています。

召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのです。

あなた方という“救い”を送ると。

あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し、我ら人間族を救って頂きたい」

 

そう言ったイシュタルはどこか恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべていた。

神託を聞いた時の事を思い出しでもしているのだろう。

 

私は言い知れぬ危機感を抱いていた。

“神の意思”を疑い無く、それどころか嬉々として"それ"に従ってしまうのであろう、この世界の人間の(いびつ)さに。

 

そんな時、突然立ち上がり、猛然と抗議する人が現れた。

愛子先生だ。

 

「ふざけないで下さい! 結局この子たちに戦争させようってことでしょう! そんなの許しません! 先生は絶対に許しませんよ! 私たちを早く帰して下さい! きっとこの子たちのご家族も心配しているはずです! あなたたちのしている事は、唯の誘拐ですよ!」

 

理不尽な召喚理由に怒る愛子先生。

しかし残念ながら、低身長童顔という見た目に加え、見ている者に庇護欲を感じさせてしまう性格のせいで、周りの生徒たちは「ああ、また愛ちゃんが頑張ってる……」などと和んでしまっている。

 

……よくもまぁこんな緊急事態にそんな風にしていられるものね。

自分なんて目の前に置かれている飲み物に、口一つ付けていない程に警戒心全開だというのに。

 

そんな周りの生徒たちは、次のイシュタルの言葉によって凍りつく事になった。

 

「お気持ちはお察しします。しかし、あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

場に静寂が満ちた。

誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

しかし私は今、周りの生徒たちの表情を見渡せる程に冷静になっていた。

 

「ふ、不可能……!?不可能ってどういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先程言った様にあなた方を召喚したのはエヒト様です。

我々人間には異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな。

あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第、ということですな」

「そ、そんな……」

 

愛子先生が脱力したように、ストンと椅子に腰を落とした。

その様子を見た、警戒心皆無だった周りの生徒たちは、ようやく口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ!? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

 

恐慌(きょうこう)状態に陥る生徒たち。

しかし昔から(・・・)負の感情が一定以上(・・・・・・・・・)()()()()()()()()()()()私は、"ある程度この展開を予想出来ていた"のもありそれ程ではなかった。

前世も今世もオタクであるが故に、こういう展開の小説はいろいろと読んでいたのだ。

これ以上に最悪な、"召喚者奴隷扱い"モノや"異世界転移直後から目の前で化け物が大暴れしている"モノなんかも知っていたのだ。

……自分がこんな事に巻き込まれるとは、露ほどにも思わなかったけれど。

『事実は小説よりも奇なり』とはよく言ったものだと思う。

 

そんな誰もが狼狽(うろた)える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた………いや、何となくその目の奥に侮蔑が込められているような気がする。

今までの言動から考えると『エヒト様に選ばれておいて何故喜べないのか』とでも思っているのかもしれない。

 

未だパニックが収まらない中、アマノガワコウキがテーブルをバンッと叩きながら立ち上がった。

その音に、ビクッと動きを止めながら注目する生徒たち。

アマノガワくんは生徒たち全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた。

 

「みんな、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない、彼にだってどうしようもないんだ。

……俺は、俺は戦おうと思う。

この世界の人たちが滅亡の危機にあるのは事実なんだ。

それを知って放って置くなんて、俺にはできない。

それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。

……どうですか?イシュタルさん?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍(むげ)にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっとこの世界の者と比べると、数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、みんなが家に帰れるように!……俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言するアマノガワコウキ。

無駄に歯がキラリと光った。

同時に、アマノガワくんが持っているらしいカリスマは遺憾なく効果を発揮した。

絶望の表情を浮かべていた生徒たちが活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。

アマノガワくんを見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけた、とでも言うかの様な表情だ。

 

……はたしてこんな(泥舟)に希望を見たり、あるいは縋ったりしても良いものか。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど、私もやるわ」

「雫……」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織……」

 

いつもの三人がアマノガワくんに続き、後は当然の流れの様にクラスメイトたちも賛同していく。

……アマノガワくんのいる方向から視線を感じたものの、当然の様にスルー。

 

いい加減、学校で一時期席が近くだったぐらいで身内認定するのをやめて欲しい。

一方的に話しかけてきて、言ってしまえば鬱陶しいことこの上なかった。

 

愛子先生はオロオロしながら「ダメですよ〜」と涙目で訴えていたが、アマノガワくんの作った流れの中ではあまりにも無力であり、結局全員で戦争に参加する事が、勝手に決まってしまった。

 

おそらくクラスメイトたちは、戦争をするという事が……殺し合いをするという事がどういうことなのかを、本当の意味で理解してはいないだろう。

………それは自分にも言える事ではあるのだけど。

彼らからすれば崩れそうな精神を守るための、一種の現実逃避とも言えるかもしれない。

 

さて……これからどうなる事やら……。




天之河くんがオリ主に付きまとう理由は、本文通りの理由に加えてオリ主が美少女であった為です。
席が近くだった時もほぼ一方的にオリ主に話しかけ、それに対して返事を貰えたから身内(この場合、同じグループの仲間)認定……多分『ありふれた〜』の原作天之河くんと変わりないですね!(白目)

次回予告
・『城』と聞いたら自分は大体《アノール・ロンド》とか《ロスリック城》とか《廃城カインハースト》をイメージしたりします。 by筆者
・ステータスプレートの話。
・プレートに表示されたオリ主の力とは……。

そんな感じ


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ステータスプレート 『天より降りたる神の使徒』

前回の予告詐欺。
ゲーム的に言うとまだチュートリアルなので原作とはあまり変わらず。


それぞれの話のサブタイトルは、

○○○(時系列的には、原作のこの話の中)『○○○(筆者が気分で付けたサブタイトル)』

という感じ。

少し修正。


side 四季

 

 

戦争に参加する事になってしまった以上、私たちは戦いの(すべ)を学ばなければならない。

私たちがこの世界の人間よりも強力な力を持っていると言っても、元は日本という平和な国に浸かりきっていた高校生たちである。

それ故にいきなり魔物や魔人と戦うなど不可能である。

 

 しかし、その辺りの事情も当然予想していたらしく、イシュタル曰く、この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。

 

その王国は聖教教会と密接な関係があり、聖教教会の崇めている創世神エヒトの眷属である……ナントカという人物が建国した、最も伝統ある国であるのだとか。

自らの命に関わらない話は聞き流していたので覚えていない。

 

私たちは今いる【神山】と呼ばれている山を下山しハイリヒ王国とやらに行くために、聖教教会の正面門にやって来た。

聖教教会は神山の頂上にあるらしく、教会の荘厳な門を潜るとそこには雲海が広がっていた。

高山特有の息苦しさや寒さを感じていなかったのは、おそらく魔法か何かで環境を整えていたからだと思う。

クラスメイトたちは、太陽の光を反射してキラキラと煌めく雲海に、透き通るような青空という雄大な景色に呆然と見蕩(みと)れている様だ。

その辺りで私はようやく警戒を少しばかり解きはしたけれど、いつか「騙して悪いが」などと言われるのではと完全に解く事は出来なかった。

 

イシュタルに促されて先へ進むと、柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。

おそらくは、大聖堂で見たものと同じ素材で出来ているであろう回廊を進み、促されるままその台座に乗った。

 

台座には、巨大な魔法陣が刻まれている。

柵から雲海に落ちるのを嫌がった生徒たちが中央に身を寄せる。

それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルが何やら唱えだした。

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、〔天道〕」

 

その途端、足元の魔法陣が鮮やかに輝き出し、ロープウェイのように滑らかに動き出した台座が、地上へ向けて斜めに下っていく。

どうやら、先ほどの“詠唱”で台座に刻まれた魔法陣を起動(?)したようだ。

ある意味、初めて見る“魔法”にクラスメイトたちがキャッキャッと騒ぎ出し、雲海に突入する頃には大騒ぎになった。

うるさいなぁ……いい歳した男女が子供みたいに……。

 

その内、台座が雲海を抜けたことで地上が見えてきた。

眼下には大きな国が見えた。

山肌からせり出すように建築された巨大な城。

その城から放射状に広がる城下町は、ハイリヒ王国の王都だろう。

台座は、王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いている様だ。

 

……側から見れば、今の私たちはまさに"雲海を抜け天より降りたる神の使徒”に見えるのでしょうか。

そんな光景を見せられては、聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理は無いのかも知れない。

 

この世界には異世界に干渉できる程の力をもった超常の存在が実在しており、文字通り“神の意思”を中心に世界は回っている。

自分たちの帰還の可能性と同じく、世界の行く末は神の思うがままなのだろうか。

 

そんな風に思った私は、徐々に鮮明になってきた王都を見下ろしながら、言い知れぬ不安が胸に渦巻くのを感じていた。




キリがいいので今回はここまで。

次回は原作とだいぶ変わりますかね。


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ステータスプレート2 『底辺を共に歩く』

説明会、だけど一応読んでみて下さい。

最後の方が割とぐだぐだになってしまった感じがするので、いつか修正とかするかもしれない。

"生徒たち"を"クラスメイトたち"に修正
その他一部修正
後書きの技能説明修正
サブタイトル変更&微修正

2019.7/1 サブタイトル変更


side ハジメ

 

 

あの後到着した王宮で、王族方・お偉いさん方・僕たちの教官方の自己紹介とか、歓迎の晩餐会なんかが開かれ、その後各自に用意された部屋に案内され、部屋の中のベッドで即座に意識を落とした次の日。

早速訓練と座学が始まる事になった。

 

まず、集まったクラスメイトたちに12センチ×7センチ位の銀色のプレートが配られた。

不思議そうに配られたプレートを見る生徒たちに、騎士団長のメルド・ロギンスさんが直々に説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、《ステータスプレート》と呼ばれている。

文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。

最も信頼のある身分証明書でもある。

これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

非常に気楽な喋り方をするメルドさん。

この人は豪放磊落(ごうほうらいらく)な性格で、それは「勇者様ご一行だとしても、これから戦友になろうって奴らに何時までも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員たちにも普通に接するように忠告するくらいだ。

 

僕たちもその方が気楽で良い。

遥か年上の人達から慇懃(いんぎん)な態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。

そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。

それで所持者が登録される。

〔ステータスオープン〕と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。

ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。

神代の"アーティファクト"の類だ」

「アーティファクト?」

 

"アーティファクト"という聞き慣れない単語に、天之河くんがそう言葉を返す。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。

まだ神やその眷属たちが地上にいた神代に創られたと言われている。

そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。

普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。

身分証に便利だからな」

 

なるほど、と頷き僕たちは顔をしかめながら……いや、隣にいた両儀さんは表情一つ変える事なく……指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。

すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。

血を擦りつけたプレートを見てみると。

 

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

 

と表示された。

 

まるでゲームのキャラにでもなったみたいだなー。

なんて思いながら、自分のステータスを眺める。

 

メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか?説明するぞ?

まず、最初に【レベル】があるだろう?

それは各ステータスの上昇と共に上がる。

上限は100でそれがその人間の限界を示す。

つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。

しかしレベル100というのは人間としての潜在能力を全て発揮した極地であって、そこにたどり着ける様な奴はそうそういない」

 

どうやらゲームのように『レベル上昇→ステータス上昇』という訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬でも当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。

また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。

詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。

それと、後でお前たち用に装備を選んでもらうから、楽しみにしておけ。

何せ救国の勇者様ご一行だからな。

国の宝物庫大解放だぞ!」

 

宝物庫、と聞いた両儀さんの表情が少し曇った。

ああ、確かにこんな異世界じゃあ刀なんて無いだろうしなー。

 

「次に【天職】ってのがあるだろう?

それは言うなれば才能だ。

末尾にある【技能】と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。

天職持ちはそう多くはいない。

戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。

非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。

十人に一人という珍しくないものもある。

生産職は持っている奴が多いな」

 

自分のステータスを見る。

確かに天職欄に【錬成師】とある。

どうやら【錬成】というものに才能があるようだ。

 

自分たちは上位世界の人間だからこの世界、トータスの人間よりハイスペックである、とイシュタルから聞いた。

俺TUEEEEE出来るのでは、と思わずニヤついてしまう。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。

大体レベル1の平均は10くらいだな。

まぁ、お前たちならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!

あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。

訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

メルド団長のその言葉を聞いた僕から喜びは消え去り、嫌な汗が噴き出るのを感じた。

 

あれぇ~?僕のステータス、どう見ても平均なんですけど……もういっそ見事なくらい平均なんですけど?チートじゃないの?俺TUEEEEEじゃないの?

……ほ、他のみんなは?やっぱり最初はこれくらいなんじゃ……。

 

なんて思っていたら、メルド団長の呼び掛けが始まり、早速天之河くんがステータスの報告をしに前へ出ていた。

そのステータスは……

 

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

 

ちょっと引くぐらいチートだった。

 

ちなみに団長のレベルは62で、ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。

しかし、天之河くんはレベル1で既に三分の一に迫っている。

成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。

 

しかも、天之河くんだけが特別かと思ったら他の連中も、光輝に及ばないながら十分チートだった。

なんでどいつもこいつも戦闘系天職ばかりなんですかね……。

そして錬成師……響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない……。

技能も二つだけ、しかも一つは異世界人にデフォの技能の【言語理解】……つまり、実質一つしかない。

 

世界とは悲劇なのか……などと思っていたら報告の順番が回ってきてしまったので、メルド団長にプレートを見せた。

 

今まで規格外のステータスばかり確認してきたのであろうメルド団長の表情はホクホクしていた。

が、しかし、その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたり、ジッと凝視したりしている。

 

団長……?何やってんだよ、団長ォッ!

やめて!もう僕のライフはゼロよ!

 

そんな風に現実逃避していた僕に、やがてもの凄く微妙そうな表情をしたメルド団長がプレートを返してきた。

 

「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶をするときに便利だとか……」

 

歯切れ悪く僕の天職を説明するメルド団長。

鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。

クラスメイトたち全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況ではほとんど役立たずだろうなぁ……。

 

なんて思っていたら、檜山がニヤニヤしながらウザい感じに声を張り上げてきた。

 

「おいおい南雲ぉ。もしかしてお前、非戦系かぁ?鍛治職でどーやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんすか?」

「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は、全員持っているな」

「おいおい、南雲~。お前そんなんで戦えるわけぇ?」

 

檜山が実にウザイ感じで僕と肩を組んできた。

見渡せば周りの生徒たち、特に男子はニヤニヤと嗤っている。

とりあえず強気に答えてみる。

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだろうなぁ~?」

 

メルド団長の表情から内容を察しているだろうに、わざわざ執拗に聞いてくる檜山……こいつ本当に嫌な性格してるなぁ……。

檜山の取り巻き三人もはやし立ててくる。

強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動だ……もはや憐れみの感情が湧いてくるレベルの。

そんなことを考えながら、投げやり気味にプレートを渡した。

 

僕のプレートの内容を見て、檜山は大笑いした。

そして、斎藤たち取り巻きに投げ渡し、内容を見た他の連中も大笑いなり失笑なりしていく。

 

「ぶっはははっ、何だこれ!完全に一般人じゃねぇか!」

「ぎゃははは~!むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃあその辺の子供より弱いかもな!」

「ヒァハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」

 

次々と笑い出すクラスメイトたち。

……少し俯きながら、今はこの笑いが止むまで耐えよう、と考えていたその時。

 

 

 

 

 

「これは……【縫製師】、か……」

 

まだメルド団長の近くにいたからか、生徒たちの笑いの間を縫う様に、そんな声が聞こえた。

 

「縫製師は、あー、錬成師と同じ様に、衣服の仕立てる者たちの間ではそう珍しくはないらしい。布地を魔力によって作成したり、破れた衣服を魔力を使って直したりできるらしい……のだが……」

 

そんな歯切れ悪い説明の声に、顔を上げ、すぐ横を向いてみれば、そこにはまたしても微妙そうな表情をしたメルド団長と、苦笑している両儀さんの姿があった。

 

「大丈夫ですよメルドさん、魔力も日々の鍛錬で増えていくのですよね?そうすれば、応急処置の為の包帯ぐらいは作れる様になりますよ、きっと」

「お、おお……そう、だな」

 

苦笑しながらそう言った両儀さんに、おずおずとプレートを返したメルド団長。

 

そんな両儀さんに、僕のプレートを持った檜山の取り巻き三人組が近付いてきた。

その顔には『どんな反応するのか楽しみだなぁ!』という様な、嫌な笑みが張り付いていた。

 

「両儀さんも見てくださいよ、南雲クンのステータスをさぁ!」

「マジ爆笑ものですよこれは!」

「ドーゾドーゾ、ご遠慮無く!」

 

ヘラヘラと笑いながら近付いた三人組を、両儀さんは、ぎりっと奥歯を鳴らしながら睨みつけた。

うぐっ……と怖気付いた三人組の一人、中野から、僕のプレートを奪う様に掻っ攫うと、表を見ない様に裏返してから、僕の方に向き直り、プレートを差し出してきた。

……一部の生徒が舌打ちしていたのには、かなりイラっと来た。

 

「南雲くん、これ、返すわね」

「あ、うん、ありがとう、両儀さん……見なくても良いの?」

「見て欲しいものでも無いでしょうし、散々聞こえていたもの……ああ、私だけ知っていたら不公平よね?」

 

そう言った両儀さんが、堂々と僕に向けて見せてきた物は……

 

 

 

 

 

 

 

 

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

両儀四季 17歳 女 レベル:1

天職:縫製師

筋力:25

体力:15

耐性:20

敏捷:25

魔力:5

魔耐:5

技能:布地生成・布地修復・言語理解

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

 

 

 

 

 

そんな事が表示されていた、両儀さんのプレートだった。

 

「これが私のステータスです。……いくらでも笑ってくれて構わないわ」

 

苦笑しながらそう言い放った両儀さん。

それを見た周りのクラスメイトたちは、笑う事はおろか、何か発言する事すらも出来ない。

檜山と取り巻きの四人組に至っては、顔面真っ青である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、"ショボイ天職の、肉壁にもならない雑魚"同士、これから一緒に頑張りましょう?」

 

笑いながらそう言って、僕の手を取ってきた両儀さんに、

 

「うん、一緒に頑張ろう、両儀さん」

 

僕は、やっぱり苦笑しながら、そう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに両儀さんのその言葉を聞いた、笑っていたクラスメイトたちは顔面真っ青に、檜山四人組は真っ青を超えて真っ白になっていましたとさ。

ザマァ。




【布地生成】…魔力を使って、使用者がイメージした布地を生成する事が出来る。
この技能で作られた布地は普通の物よりも少し頑丈であり、貴族たちの衣服なんかはこのスキルを持った者たちが仕立てていたりする。
【布地修復】…布地に空いた穴やほつれ、破れた場所なんかを直せる。
布地生成と同時に使用すると、焼失などして無理矢理失われてしまった部分を元通りに直せる。

という、結構設定ガバガバなオリジナル技能。
オリ主の着物はオリ主自身に直してもらいます、みたいな感じ。

次回予告
・ハジメと四季、周囲に関係を隠したりはしなくなった。
・香織さんはもう台詞無いんじゃないかなぁ……。
・原作サブタイトル詐欺になるかも。

やったね筆者!次回からハジメと四季の絡みが増えるよ!


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最弱とイジメ 『成長遅き二人』

とりあえずこんな感じで投稿。

《ありふれた〜》の魔法がどんなものか知りたい人は、原作にGOだ!


side ハジメ

 

 

僕と両儀さんが自分たちの弱さと役立たず具合を突きつけられ、しかしクラスメイトたちを見返した(?)日から2週間がたった。

 

現在僕は、訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしている。

調べ物と言っても、“北大陸魔物大図鑑”という何の捻りもないタイトルの大きな図鑑を眺めていただけなのだけど。

 

何故こんな本を読んでいるのか。

それは、この2週間の訓練で、成長するどころか役立たずぶりがより明らかになっただけだったからだ。

その為、力がない分知識と知恵でカバーできないかと訓練の合間に勉強しているのである。

 

そんなわけで僕は、しばらく図鑑を眺めていたのだが……「はぁ~……」と溜息を吐いて机の上に図鑑を放り投げてしまった。

ドスンッ!という、予想以上に大きく重い音が響き、偶然通りかかった司書さんが、物凄い形相で僕を睨んできた。

 

ヒェッ…とその睨みに恐怖しつつ、急いで謝罪した。

『次はねぇぞ、コラッ!』という無言の睨みを頂いて何とか見逃してもらえた。

何をやってるんだ僕は……。

 

おもむろにステータスプレートを取り出し、頬杖をつきながら眺める。

 

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:12

体力:12

耐性:12

敏捷:12

魔力:12

魔耐:12

技能:錬成、言語理解

=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:=:

 

これが、2週間みっちり訓練した僕の成果である。

……いや、刻み過ぎでしょコレは。

 

おまけに僕には魔法の適性が全く無く、細かい説明は省いてしまうけど、RPGでは定番の様な〔火球〕を一発放つのに直径2メートル近い魔法陣を必要としてしまい、実戦では全く使える代物ではなかったのだ。

 

そんなわけで近接戦闘はステータス的に無理、魔法は適性がなくて無理、頼みの天職・技能の【錬成】は鉱物の形を変えたりくっつけたり、加工できるだけで戦闘には役に立たない。

錬成に役立つアーティファクトもないと言われ、錬成の魔法陣を刻んだ手袋をもらっただけ。

 

一応、頑張って落とし穴(?)とか、出っ張り(?)を地面に作ることは出来るようになったし、その規模も少しずつ大きくなってはいるけど……。

対象には直接手を触れなければ効果を発揮しない術である以上、"敵の眼前でしゃがみ込み地面に手を突く"という自殺行為をしなければならず、結局のところ戦闘では役立たずであることに変わりはない。

 

故に、仕方なく知識を溜め込んでいるのだけど……何とも先行きが見えない。

 

いっそ人間族はクラスメイトたちに任せて、旅にでも出てしまおうか。

図書館の窓から見える青空をボーッと眺めながら、そんな事を思っていると、横からハンカチが差し出された。

『これで涙拭けよ』って事ですかね?

そんな風に優しくされたら本当に涙出ちゃうのでやめてくれませんかね?

 

そんな事を考えながら、ハンカチの持ち主のいる方を向いてみれば、そこにいたのは何と両儀さんである……彼女が隣にいた事を、僕が忘れていただけである。

 

「ハンカチ、要るかしら?」

「……何で、そう思ったんですかね?」

「少しだけど、泣きそうな顔をしていたもの」

「さいですか……まぁ、大丈夫ですよ、ちょっとここ数日間を思い出していただけですから」

「あぁ……そういえば私たち、魔法の適性が全く無いんだったわね」

「しかも貧弱ステータスに加えて、武器の扱いも上手く出来ないから、全然戦えないんだよねー……」

「せめて刀が有れば良かったのだけどね……」

 

彼女は、魔力を使って(・・・・・・)編まれたハンカチを僕の目の前に落としてから、ぐでーっと机に突っ伏した。

両儀さんは何しても可愛らしいですね。

 

「弱小どうし一緒に頑張りましょう?」と言ったあの日以来、両儀さんは僕との友好関係をクラスメイトたちにあっさり話し、それを良いことに訓練の間や今みたいな休憩時間にも僕と一緒にいる事が増えた。

……多分、役立たずとして僕がイジメられない様にいてくれてるんだろうけど、やっぱり男子たちからの視線がヤバイです。

両儀さんなら別に良いけど。

 

両儀さんの事だけど、この国の宝物庫にはやはりと言うか何と言うか、刀は存在せず、結局両儀さんは刃渡りが大体18センチメートルぐらいの短剣を選んでいた……まだ上手くは扱えないらしいけど。

技能に関しては、最初こそハンカチ1枚すらも作れなかったけど、ひたすらに鍛練し続けた今では、1日にバスタオル1枚ぐらいなら作れる様になったのだとか。

 

そんな事を考えていたら訓練の時間が迫っていることに気がついて、慌てて両儀さんを連れて図書館を出た。

王宮までの道のりは短く目と鼻の先ではあるが、その道程にも王都の喧騒が聞こえてくる。露店の店主の呼び込みや遊ぶ子供の声、はしゃぎ過ぎた子供を叱る声、実に日常的で平和な光景だ。

 

やっぱり、戦争なさそうだからって帰してくれないかなぁ……。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

訓練施設に到着すると既に何人もの生徒たちがやって来ていて、談笑したり自主練したりしていた。

どうやら案外早く着いたみたいだ。

両儀さんは短剣を部屋に置いてきてしまったらしく、取ってくるからと別れた。

話し相手もいないし、自主練でもしながら待とうかな、と支給された西洋風の細身の剣を取り出した。

 

しかし、唐突に後ろから衝撃を受けて、僕はたたらを踏んだ。

何とか転倒は免れたものの抜き身の剣を目の前にして冷や汗が噴き出る。

顔をしかめながら背後を振り返った僕は、最近忘れていた面子に心底うんざりした。

 

そこにいたのは、檜山率いる小悪党四人組(僕命名)である。

いつもは両儀さんがボディガードになっていたから絡んで来れなかったのだろうが、今は一人でいるからと絡んできたのだろう。

 

「よぉ南雲、"一人で"何してんだ?お前が剣持っても意味ないだろ?マジ無能なんだしよぉ」

「ちょっ、檜山言い過ぎ!いくら本当だからってさぁ!ギャハハ!」

「なんで毎回訓練に出てくるわけ?俺なら恥ずかしくて無理だわ!ヒヒヒ」

「なぁ、檜山。いつもみたく両儀さんもいないし、俺らで稽古つけてやんね?」

 

ニヤニヤゲラゲラ、一体何がそんなに面白いのかね。

 

「あぁ?おいおい中野、お前マジ優し過ぎじゃね?まぁ、俺も優しいし?代わりに稽古ぐらいならつけてやっても良いかもなぁ~」

「おー、いーじゃーん!俺ら超優しーじゃん!無能のために時間使ってやるとかさ~!南雲ぉ~感謝しろよ〜?」

 

そんな事を言いながら、檜山たちは馴れ馴れしく肩を組み、僕を人目の無い場所まで連行していく。

それにクラスメイトたちは気がついたみたいだけど、みんな見て見ぬふりをしていた。

 

「いや、僕は両儀さんを待ってるから大丈夫だって。僕のことは放っておいてくれていいからさ」

 

 一応、やんわりと断ってみる。

 

「はぁ?最近調子に乗ってるお前のために、俺らがわざわざ鍛えてやろうって言ってるのに何言ってんだ?

マジ有り得ないんだけど。

お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

そう言って、脇腹を殴ってきた。

「ぐっ」と痛みに顔をしかめながら思わず呻く。

訓練とはいえ武器や魔法といった"力"を扱ってきたからか、暴力に躊躇いが無くなっている。

思春期男子がいきなり大きな"力"を得れば溺れるのは仕方ない事とはいえ、その矛先を向けられては堪ったものじゃない。

かと言って反抗できるほどの力もない。

だから歯を食いしばって耐える事しか出来ない。

 

やがて、訓練施設からは死角になっている人気のない通路に来ると、檜山は僕を突き飛ばした。

 

「ほらさっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

檜山、中野、斎藤、近藤の四人に囲まれた。

悔しさに唇を噛み締めながら立ち上がると、

 

「ぐぁ!?」

 

その直後、背後から背中を強打された。

近藤が剣の鞘で殴ったのだろう。

前のめりに倒れた僕に、

 

「ほら、何寝てんだよ、焦げるぞ~?ここに焼撃を望む、〔火球〕」

 

中野が火属性魔法〔火球〕を放ってくる。

倒れた直後であることと、背中の痛みで直ぐに起き上がることが出来なかった僕は、ゴロゴロと必死に転がり、何とかそれを避ける。

だがそれを見計らったように、今度は斎藤が魔法を放ってきた。

 

「ここに風撃を望む、〔風球〕」

 

風の塊が立ち上がりかけた僕の腹部に直撃し、仰向けに吹き飛ばされた。

「オエッ…」と胃液を吐きながら(うずくま)る。

 

魔法自体は一小節の呪文の下級魔法だ。

それでも大人に本気で殴られるくらいの威力はある。

それは彼等の適性の高さと、魔法陣が刻まれた媒介が国から支給されたアーティファクトであることが原因だ。

 

「ちょっマジ弱すぎ!南雲さぁ~マジやる気あんの?」

 

そう言った檜山が、蹲る僕の腹に蹴りを入れてきた。

僕は込み上げてくる嘔吐感を抑えるので精一杯だ。

 

その後も暫く、稽古という名のリンチが続いた。

痛みに耐えながら、何故僕はこんなにも弱いのかと、悔しさに奥歯を噛み締める。

 

本来ならば、敵わないまでも反撃ぐらいはするべきなのかもしれない。

でも僕は、小さい頃から人と争うとか、本気で誰かに敵意や悪意を向けるという事は苦手だった。

誰かと喧嘩しそうになった時は、何時も自分が折れていた。

何故なら、自分が我慢すれば話はそこで終わりだからだ。

自分が折れて、耐えて、解決するなら喧嘩するよりずっといいと、そう思ってしまうのだ。

 

言い訳の様に頭の中でそんな考えを連ねながら、そろそろ痛みが耐え難くなってきた頃、

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だけ、濃密な威圧がこの通路を満たした。

 

「「「「ヒィッ……!」」」」

 

その威圧を受けた四人組は、短い悲鳴を上げながら、僕への暴力を一斉に止めた。

ようやく解放された僕は、暴力による吐き気や痛みに震える身体をどうにか持ち上げ、その威圧の発生源……通路の入り口へと向き直った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、短剣を持ちながら、無表情でこちらにゆっくりと歩いてくる両儀さんの姿があった。

 

 

 

「ねぇ、あなたたち……私の友だちに、一体何をしていたの?」




次回予告
・果たして筆者は、読者が愉悦出来る話を書けるのか!?

・これから先の話に香織さんの台詞がいくつかあるかも!
……ハーレムからは外されたけど!(この小説のタグにて)

・感想欄にて、筆者に原作最重要キャラ認定された【天職:恋のキューピッド】な檜山くんの運命やいかに!


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最弱とイジメ2 『制裁』

12/8 活動報告に、今後のこの小説の事に関して、結構重要な事を書きましたので、読んで下さい。





ほぼほぼオリジナルの話なので、結構不安。

それから、天之河くんのハートブレイクに期待していて下さった読者様方、残念ながらハートブレイクとまでは行きませんでした。
されたのは檜山くんでした。

グロ注意かも。


side ハジメ

 

 

コツ…コツ…コツ…

 

両儀さんの、ゆっくりと歩み寄ってくる靴音が、通路に響く。

 

両儀さんの姿を見た斎藤、近藤、中野は、若干引きつりながらもまたいつもの様なヘラヘラした笑みを浮かべ始めていた。

檜山に至っては、完全に余裕を取り戻している。

檜山たちが余裕を取り戻せたのは、彼女が僕と同じ最底辺にいる両儀さんだったから……自分たちよりも圧倒的に弱い存在だとわかったからだろう。

歩み寄ってきた両儀さんに向けて、檜山が話しかけた。

 

「あ〜、両儀さん!いや誤解しないで欲しいんですけど、俺たち南雲の"特訓"に付き合ってやってただけなんですよぉ〜」

 

どうやら『両儀さん以外には誰も見えないから、先程の"アレ"は何かの気のせいだろう』と思う様にしたらしい。

だけど僕には。

"アレ"は紛れも無く彼女の……両儀さんのものだとしか思えなかった。

 

「そっ、そーそー!珍しく一人でいたもんだからさ!」

「今日は一人で特訓すんのかなーって思って、せっかくだから!」

「でも南雲くん、すーぐバテちゃってさぁー!」

 

いかにも『(やま)しい事何もありませんよ』とでも言うかの様な檜山のその言い訳に、同調する三人。

そんな、すぐにでもバレそうな言い訳を聞かされた両儀さんは、

 

 

 

 

 

 

「あら、そうだったのね……私がいない間に、構っていてくれて、ありがとう」

 

感謝の言葉を述べながら微笑んだ。

 

その言葉と微笑みを、間近で受けた斎藤は「い、いやぁ〜それ程でも〜」などと良いながらニヤニヤしていた。

檜山は同じ様にニヤニヤしながらも、両儀さんを完全に見下していた。

 

 

 

 

 

 

 

「そう、私の友だちに、沢山構ってくれたのだもの___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___"お返し"、沢山してあげなくちゃぁね?」

 

 

 

 

 

そう言った両儀さんは、

 

 

 

右手に持っていた短剣を、

 

 

 

素早く、静かに、

 

 

 

斎藤の鳩尾(みぞおち)に突き立てた。

 

 

 

 

 

「……………………は?」

 

何が起こっているのか分からない、という表情を浮かべている斎藤。

他の三人も、動揺からか完全に硬直している。

 

やがて両儀さんは短剣を、突き刺したまま動かして斎藤の左脇腹を切り裂きながら抜き取った。

 

「イッ……ギャアアアアアアアアアアッ!?!?」

 

ようやく痛みを認識できたらしい斎藤が、叫び声を上げながら膝をついた。

既に興味を失った斎藤を放置した両儀さんが、血の滴る短剣を握りながら、更にこちらに歩いてくる。

 

 

 

 

 

「まずは一人」

 

 

 

 

 

その声で、逸早く硬直が解けた中野が、両儀さんにアーティファクトの杖を向けた。

 

「こっ……、こんのクソ女ァァァァァ!!ここに焼撃を___」

「それは止めさせて貰うわね」

 

魔法を放とうとした中野へと、身を屈めながら一気に近付いた両儀さんは、確かに言葉の通りに魔法の発動を止めてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……中野の口角を切り裂く事で(・・・・・・・・・・・・)

 

「ア"ッ……オ"オ"オ"オ"オ"オ"ォォォォ!!??」

 

「とりあえず、二人目」

「てめぇっ、死ねやァァァァッ!」

 

口元を両手で覆いながら悶える中野を退かした両儀さんに向けて、近藤が鞘から抜いた剣で横一文字(よこいちもんじ)の薙ぎ払いを繰り出した。

両儀さんはそれをしゃがみ込む事で躱し、逆手(さかて)に持ち替えた短剣を近藤の右太腿(ふともも)に突き刺した。

 

「ガァァァァッ!!痛いィィィィィィィィッ!!」

 

トドメとばかりに近藤の足を払った両儀さんは、ゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 

 

「これで後は……あなたで最後ね?」

 

着物に大量の血を付着させ、口元を薄く笑わせながら、両儀さんはそう言った。

最後の一人……檜山は、仲間たちの死屍累々とも言うべき姿を見て……そして『次はお前が"こうなる"番だ』と見せ付けられて、完全に恐慌状態に陥っている。

 

「ヒッ、ヒィィッ!ごめんなさい!俺が悪かったからっ!もう南雲に手を出したりしませんからっ!痛いのは嫌だァァァァァッ!!」

 

そう叫びながら土下座する檜山の顔は、涙と鼻水でベトベトに汚れている。

檜山のその声を無視し、短剣を構えながら距離を詰めようとした両儀さんの動きは、

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているんだ、四季!」

 

と叫びながら、間に入った天之河くんの剣……バスタードソードによって、短剣が遠くへ弾き飛ばされた事で止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほんの一瞬だけ(・・・・・・・)

 

「邪魔よ?」

 

即座にターゲットを切り替えた両儀さんは、天之河くんの顎に掌底を打ち込んだ。

 

「うごッッッ……!」

 

まさか武器の無い状態から攻勢に出られるとは思わなかった天之河くんは、ソレをまともに受けていた。

ステータスの差故に大したダメージにはならないだろうけど、それでもかなりの衝撃を頭部に受けてしまった天之河くんは怯み、思わず剣を手離してしまう。

 

怯んだ天之河くんの横を抜けながらバスタードソードを回収した両儀さんは、それを両手持ちして即座に構える。

そして、土下座の状態から上半身だけを上げていた檜山の右腕の二の腕を、剣の(つば)辺りまで深く刺し貫いた。

 

「グアアアァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

 

 

そうして、人気の無い通路に、あっという間に惨状を作り上げた両儀さんは、ようやく止まった。

 

「こんな……酷い……」

 

天之河くんと一緒に来ていたらしい白崎さんが、両手で顔を覆った。

 

「……香織、彼らの怪我を治してあげて」

「そう、だね……わかった」

 

八重樫さんにそう言われた【治癒師】の白崎さんはそう言って、恐怖で気絶していた斎藤たちに、小走りで近付いていった。

 

「それで……どうしてこんな、惨たらしい事をしたのか……説明してくれるんだろうな?」

 

そう言った坂上くんに睨み付けられながら、両儀さんは平然と、微笑みながら答えた。

檜山に突き刺した剣は、抜かれる事無く放置されている。

 

「惨たらしいだなんて。私はただ、彼らに"お返し"してあげただけなのよ?」

「お返し、だと?」

「ええそうよ?この人たちが、南雲くんの"特訓"に付き合ってくれたの。だから付き合ってくれた分(・・・・・・・・・)、"お返し"してあげたのよ?」

 

その言葉に、天之河くんが食いついた。

 

「お返し!?何処が!?こんなのの何処がお返しだって言うんだ!?」

「全部よ?彼らが南雲くんにしてくれた事を真似してみたの」

「だとしても、これはやり過ぎだ!

聞けば南雲は、訓練のない時は図書館で読書に(ふけ)っていたそうじゃないか!

それを知った檜山たちは、そういう南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、それを本気で言っているのなら、その眼球(節穴)抉り出すわよ?」

 

両儀さんは一瞬で天之河くんに近付き、天之河くんの眼に手刀の先端を添えながら、そう言った。

痛みを与えられる恐怖からか、天之河くんが息を呑む。

 

5秒程そうしていた両儀さんは、やがて天之河くんから離れ、落ちていた短剣を拾い、血を払ってから鞘に仕舞った。

 

斎藤、近藤、中野の治療を終えたらしい白崎さんが治癒魔法を使って、怪我を治してくれる。

 

「ありがとう白崎さん、助かったよ」

「……本当に、大丈夫……?痛い所無い……?」

 

僕の身体の所々を触りながら、心配してくれる。

 

「檜山くんたちにされたの……?またこんな事にならない様に、私が……」

「ホントに大丈夫だよ、気にしないで!もうこれでこいつらも懲りただろうし。それよりも白崎さんは檜山を治してあげてよ」

「……うん、わかった……」

 

渋々とだけど身を引いてくれた白崎さんを視界から外し、両儀さんに向き直った。

 

「両儀さんも、助けてくれてありがとう」

 

両儀さんは僕の声に、びくりと体を跳ねさせると、両手を胸の前で組みながら、おずおずと話しかけてきた。

 

「南雲くん、ごめんなさい……あなたを一人で残してしまった私の所為ね……。

嫌なものを見せてしまったわよね……?

だけど、南雲くんが嬲られているのを見ていたら、自分を抑えられなくなって……」

「いや!大丈夫だよ!両儀さんが途中で助けてくれたからさ!」

 

顔を(うつむ)かせながら、そう謝ってきた彼女に、僕は慌ててそう返す。

 

「両儀さんが来てくれなかったら、もっと酷い目にあっていたかもしれないしさ」

「それでも……」

「両儀さん、」

 

血に濡れた彼女の手を、両手で握って、俯いている彼女の目を合わせながら。

 

「助けてくれて……ありがとう」

「___」

 

 

 

 

 

泣き出す寸前の子供の様な表情だった彼女は、

 

 

 

 

 

 

 

 

「___……どういたしまして」

 

 

 

 

 

そう言って、花が開いたかの様に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

その笑顔を見て(ああ、やっぱりこの人には勝てないなぁ)なんて思いながら、段々と顔が熱くなっていくのを感じていた。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

あの後両儀さんは、厳重注意を受けたものの、特に咎められる事は無かった。

なんでも、八重樫さんと坂上くんが目覚めさせた檜山四人組に、何をしていたのかをSETTOKU(説得)の末に聞き出して、『元はと言えば四人組が悪く、彼女は少しばかりやり過ぎではあったが、後遺症は作らなかったから』という事になったからなのだとか。

僕、元の世界に帰れたらバイト代使って、二人にご飯奢るんだ……。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

そんな風に、なんやかんや有りつつ。

 

訓練が終了した後、いつもなら夕食の時間まで自由時間となるのだけど、今回はメルド団長から伝えることがあると引き止められた。

何事かと注目する僕たちに、メルド団長は野太い声で告げた。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く!

必要なものはこちらで用意してあるが、今までの、王都外での魔物との実戦訓練とは大きく違うと思ってくれ!

まぁ要するに、気合入れろってことだ!

今日はゆっくり休めよ!では、解散!」

 

そう言って伝えることだけ伝えると、さっさと行ってしまった。

ざわざわと喧騒に包まれる生徒たちの後ろの方で、僕はゆっくりと天を仰いだ。

 

 

 

 

 

……本当に、前途多難だなぁ……。




とりあえずこんな感じで。

原作だと、この時点ではまだマイナスイメージの強い坂上くんですが、筆者は嫌いではありません。

次話は大迷宮からスタートです。
《月下の語らい》は、あった事にはしますが書きません。


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トラップ 『大迷宮へ』

始めに。
この小説の、今後の執筆についての事を活動報告の方で書きました。
結構重要な事だと思うので、出来れば読んで欲しいです。
先程まで修正を加えていたので、既に読んだ読者様も出来れば目を通して欲しいです。

上記の報告をしたいが為に、少し短めで投稿します。


side ハジメ

 

現在僕たちは、【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

"大迷宮"と聞いていたので、何となく薄暗い陰気な入口を想像していたのだけど、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。

そして制服を着た女性が、笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

なんでも、ここで《ステータスプレート》をチェックし出入りを記録することで、死亡者数を正確に把握するのだとか。

 

入口付近の広場には露店なんかが所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。

まるでお祭りみたいだ。

 

浅い階層の迷宮はいい稼ぎ場所として人気があるようで、人が自然と集まる。

そうすると、馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、使われなくなった倉庫のごとく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたらしく、『戦争を控えながら国内に問題を抱えたくない』という事で、冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。

入場ゲート脇の窓口で、モンスターの落とした素材の売買をしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝(ちょうほう)しているらしい。

 

僕たちは、メルド団長の後をカルガモのヒナのように付いていきながら、大迷宮に足を踏み入れるのだった。

 

 

= = = = = = = = = =

 

迷宮の中の縦横五メートル以上ある通路は、明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明りの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。

それは《緑光石》という特殊な鉱物が多数埋まっているからなのだとか。

【オルクス大迷宮】は、巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

この迷宮には数多くの階層が存在し、現在の最高到達階層は六十五層らしい。

しかしそれは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十層越え、二十層を越えれば十分に一流扱いだか。

 

しかし僕たちは、戦闘経験こそ少ないものの全員がチート持ちなので、割りかしあっさりと問題もなく、何度か交代したりしながら戦闘を繰り返して、二十層にたどり着いた。

 

もっともメルド団長曰く、迷宮で一番怖いのはトラップであるらしい。

なんでも、致死性を持ったトラップも少なくないらしく、それは確かにかなり怖い。

 

このトラップの対策として、《フェアスコープ》というものがある。

これは特殊な魔力の流れを感知しする事で、トラップを発見することができるという道具だ。

迷宮のトラップはそのほとんどが魔法を用いたものであるらしく、八割以上はフェアスコープで発見できるらしい。

しかし索敵範囲がかなり狭いので、スムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要なのだとか。

 

それ故に、僕たちが素早く階層を下げられたのは、クラスメイトたちのチートに加えて、騎士団員さんたちの誘導があったからだとも言える。

メルド団長からも、「トラップの確認をしていない場所には、絶対に勝手に行くな」と強く言われていた。

 

「よし……お前たち!ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくるぞ!今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するな!今日はこの二十層で訓練して終了だ!気合入れろよ!」

 

大迷宮に、メルド団長のかけ声がよく響く。

 

ここまで僕は、特に何もしていない。

一応、騎士団員さんが相手をして弱った魔物を相手に訓練したり、地面を錬成して落とし穴にはめて串刺しにしたりして、一匹だけ犬のような魔物を倒したけど、それだけだ。

 

基本的には、両儀さんと二人きりで、騎士団員に守られながら後方で待機していただけである。

何とも情けない事で……。

それでも実戦で錬成を多用して、魔力が上がっているのだから意味はある……と思う。

魔力の上昇によりレベルも二つほど上がったのだから、実戦訓練は間違いではないらしい。

ただ、これじゃあ完全に寄生型プレイヤーだよね……。

でもまぁ、錬成の精度は徐々に上がっているし……地道に頑張ろう……。

 

ちなみに両儀さんは、短剣を上手く使いこなして、的確にモンスターの急所を突いていた。

檜山たちとのいざこざの後にも思ったけど、いつの間にそんな風に使いこなせる様になったんですか……。

 

再び、騎士団員さんが弱った魔物を僕の方へ弾き飛ばしてきたので、溜息を吐きながら接近し、手を地面に突いて錬成。

地面を変形させて動けない様にしてから、魔物の腹部めがけて剣を突き出し串刺しにした。

 

これは、何もない自分の唯一の武器は錬成しかないと考えていたので、(鉱物を操れるなら地面も操れるんじゃない?)と思い付き、鍛錬した結果生み出された戦法だ。

なのだけど、一匹相手にするので精一杯なのでやはり僕は役立たずだろう。

 

そう思いながら、魔力回復薬を口に含み、額の汗を拭った。




今話はこんな感じで。


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トラップ2 『炎に向かう蛾のように』

オリ主の出番がねぇ!
というかハジメ視点が書きやすすぎてオリ主視点すらねぇ!
次回はオリ主視点で書いてみようかな……。


side ハジメ

 

 

錬成を使ってどうにかモンスターを倒した後、ふと前方を見ると白崎さんと目が合った。

彼女は僕と視線が合った事を認めると、穏やかに微笑んだ。

 

 

 

昨夜、彼女は「話したい事があるから」と、僕の部屋に尋ねてきた。

そして彼女の話を聞いた。

 

僕が……「"南雲ハジメが何処か遠くに行ってしまうのではないか"という不安や、嫌な予感がするから町に残っていて欲しい」……と。

それに僕は答えた。

「ベテランの騎士団員さんたちも、チートだらけのクラスメイトたちもいるし大丈夫だろうけど、それでも不安であるのなら治癒師の力で守って欲しい」と。

彼女はそれを了承してくれた。

 

それからもいろいろな話をした。

自分の恥ずかしい記憶を話に出されたり、実は僕は両儀さんとか白崎さんみたいな、イケメン(女子)に胸を高鳴らせるヒロインなのでは……などとおかしな事を考えたり。

 

……僕も年頃の男子だから、女子に自分を良く言われたらある程度の好意は持つ様になるからね!

 

 

 

……話を元に戻そう。

 

数秒だけ目を合わせていたけど、昨夜の事を思い出して、何となく気恥ずかしくなったので、僕から目を逸らした。

あの話での『守る』という言葉の通りに見守られているみたいでなぁ……悪くは思わないんだけど……。

 

そんな風に思っていると、ふと視線を感じて思わず背筋を伸ばした。

ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線。

今までも教室などで感じていた様な視線だけど、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

その視線は今日の朝から度々感じていたものだ。

そして視線の主を探そうと視線を巡らせると、途端に霧散する。

朝からそれを何度も繰り返しており、いい加減うんざりしてきた。

 

何なのかな……僕、何か気に触る様な事したかな?

むしろ無能なりに頑張っている方だと思うんだけど……もしかしてそれが原因かな?

「調子乗ってんじゃねぇぞ!」的な?

はぁ…………。

 

 

= = = = = = = = = =

 

 

それからも僕たちの二十層探索は続いた。

 

探索の最中に現れた《ロックマウント》の気持ち悪い形相に女子たちが悲鳴を上げて青ざめたり。

それを"死の恐怖を感じたせいだ"と勘違いしたらしい天之河くんが、怒りに任せて大技をぶっ放したり。

「もう大丈夫だ!」と言わんばかりのイケメンスマイル振り返った天之河くんに、メルド団長が拳骨を食らわせたりしていた。

……全部、つい先程の出来事なんだけどね。

 

ちなみに両儀さんは、この岩ゴリラには予想通りノーリアクションでした。

寧ろ「アマノガワくんのアレのせいで崩落したりしないかしら……」と言いながら僕の腕をガッチリと掴み、いつでも一緒に逃走できる様に身構えていた。

やっぱり僕はヒロインなんじゃないかなって……。

 

「この馬鹿者が!気持ちはわかるがな、ソレはこんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうするんだ!」

「うっ……す、すみません……」

メルド団長のお叱りに、バツが悪そうに謝罪する天之河くんを、白崎さんたちが苦笑しながら慰める。

 

ふと白崎さんが、天之河くんの大技によって崩れた壁の方に視線を向け、指差した。

 

「……あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

その言葉に、僕を含めた全員が白崎さんの指差す方へ目を向けた。

 

そこには青白く発光する、水晶の様な鉱物が花咲くように壁から生えていた。

白崎さんを含めた女子たちは、その美しい姿にうっとりとした表情になっている。

両儀さんも、うっとり、という程では無かったけど、

 

「へぇ……、綺麗な石ね」

 

と感嘆の声を漏らしていた。

 

「ほぉ、珍しい。あれは《グランツ鉱石》だな。大きさも中々だ。」

 

メルド団長が笑みを浮かべながら、その鉱物の名を言った。

グランツ鉱石とは言わば宝石の原石みたいなものらしく、特に何か効能があるわけではないけど、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれる……らしい。

求婚の際に送る宝石として、良く選ばれるのだとか。

 

「素敵……」

 

メルド団長の簡単な説明を聞いた白崎さんの、更にうっとりとした声が聞こえた。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言いながら檜山が動き出し、グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。

メルド団長が慌てて声をかける。

 

「おい!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

しかし檜山は聞こえないふりをして登り続けている。

 

メルド団長は、檜山を止めようと追いかけ始める。

だけどその動きは、フェアスコープで鉱石の辺りを確認していた騎士団員さんの叫び声で止まってしまった。

 

「団長ッ!トラップです!」

「ッ!?」

 

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がった。

鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだろうか。

 

「撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルド団長の言葉に僕たちは急いで部屋の外に向かったけど……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

僕は周りの空気が変わったのを感じた後、地面に叩きつけられた。

尻の痛みに呻き声を上げながら、周囲を見渡す。

クラスメイトのほとんどは僕と同じように、尻餅をついていたり膝をついていたりしたけど、メルド団長や騎士団員さんたち、天之河くんたちなど一部のクラスメイトは既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやらあの魔法陣は、範囲内のものを転移させるものだったらしい。

現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから、神代の魔法は規格外だ。

 

転移させられた場所は、巨大な石橋の上だった。

だいたい100メートルぐらいはありそうだ。

天井も高く20メートルはあるかもしれない。

橋の下には川などはなく、代わりに全く何も見えない闇が広がっていた。

橋の横幅は10メートルくらいはありそうだけど、手すりなどは無く、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだろう。

 

僕たちはその巨大な橋の中間にいた。

橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

「お前たち!すぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け!急げ!」

 

雷の如く轟いたメルド団長の号令に、わたわたと動き出す僕たち。

 

しかし撤退は出来なかった。

上層への階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。

更に、奥への通路側にも魔法陣は出現し、そこからは一体の巨大な魔物が現れた。

 

現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の、呻く様な呟きが聞こえた。

 

「まさか……《ベヒモス》……なのか……」




【炎に向かう蛾のように】……蛾(が)には『螺旋を描きながら激突するまで明かりに向かっていく』という特性があります。
蛾が街灯などに激突しまくっている姿を見た事がある人は、少なく無いと思います。
この『蛾が明かりに向かっていく』現象、実は"燃えている炎"に対しても起こってしまいます。
その為、近くに炎があると同じ様に近づいていき、自分から炎に突っ込んで燃えてしまいます。

『鉱石という"明かり"に誘われ、無防備に向かってしまった檜山という"蛾"は……』
みたいなイメージから付けたサブタイトル。

まぁ上記の知識は、数年前に読んだ本のものなのでうろ覚えで、所々間違えているかもしれませんが。


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奈落の底 『"ハジメは胸に決意を抱いた"』

投稿遅れた理由。
・最近いろいろあって忙しかった。
・最近始めた《デレステ》《デモンズソウル》にハマった。
・《白猫プロジェクト》内で、ガチャ石収集の為に走り周っていた。
・また妄想が湧いてきて、新しい連載小説のプロローグを書いていた。

……まぁ僕は僕のペースで小説を書いていくので、読者様方も読者様方の判断で僕の小説を切ったり読んだりして下さい。

場面的に区切り良かったので、三人称視点で書いてみました。
こんな感じで良いのか不安もありますが。


・三人称視点

 

 

濡れた服による不快な感触に、呻き声を上げながらハジメは目を覚ました。

ボーとする頭、ズキズキと痛む全身に眉根を寄せながら両腕に力を入れて上体を起こす。

 

「痛い……」

 

どうやら自分は気絶していたらしいと気付いたハジメは、ふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回す。

 

「ここは……僕は……」

 

周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。

二つの岩壁が遥か上方まで続いており、その幅はかなり広い。

正面には幅5メートル程の川がある。

 

「そうだ……確か……」

 

ハジメは自分が気絶するまでに何があったのかを思い出した。

檜山の不注意でトラップに引っかかり、魔物に囲まれた事。

クラスメイトたちを逃す為に巨大な魔物……メルド団長曰く《ベヒモス》の足止めをした事。

足止めを終えて退避する途中、クラスメイトに魔法を撃たれた……裏切られた事。

ベヒモスの攻撃によって石橋は崩れ、奈落に落ちた事。

 

 

 

 

 

 

そして、崩れている最中の石橋を走って来て、自分に向けて手を伸ばしてくれた少女の事。

 

ゾクッと、明らかに濡れているせいでは無い、寒気が体を走り、一気に血の気が引いていくのを感じた。

 

「あ…ああ……そうだ…両儀さん……両儀さん!!」

「私はここにいるわ、南雲くん」

 

その声の聞こえた方へ向けて、全身の痛みを無視しながら、ガバッと体ごと振り返る。

そこにはバスタオルで身体を包みながらこちらに早歩きで寄ってくる四季の姿があった。

 

「……はぁぁぁぁぁ……良かった……両儀さん無事だった……」

「心配してくれて、ありがとう南雲くん。……目を覚ましてくれて本当に良かった」

「ありがとう、両儀さん。……ところで、ここが何処なのか、両儀さんは分かる?」

「いいえ……残念ながらまだ何も。近くを探索しようと思った時に貴方の声が聞こえたの」

「そっか…………は、は、はっくしゅん!……さ、寒い」

 

地下水という低温の水で濡れてしまっていた為に、すっかり体が冷えてしまっている。

よく見ると四季の体も寒さからか、少し震えている。

このままでは低体温症の恐れもあると思ったハジメは、ガクガクと震えながら服を脱がずに絞った後、錬成の魔法を使って硬い石の地面に魔法陣を刻んでいく。

 

「ぐっ、寒くてしゅ、集中しづらい……」

 

使うのは火種の魔法。

その辺の子供でも10センチ位の魔法陣で出すことができる簡単な魔法だ。

しかし、今ここには魔法行使の効率を上げる魔石が無い上、魔法適性ゼロの二人しかいない。

たった一つの火種を起こすのに1メートル以上の大きさの複雑な魔法陣を書かなければならない。

途中四季が作ってくれたバスタオルに包まりながら10分近くかけ、ようやく完成した魔法陣に詠唱で魔力を通し起動させる。

 

「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、〔火種〕……何で唯の火を起こすのにこんな大仰な詠唱がいるんだろうね」

「こんな魔法でも無ければ格好良いと思えるのだけれどね……」

 

二人揃って深々とため息を吐き、それでも発動した拳大の炎で暖をとる。

 

「……だいぶ落ちたんだと思うけど……帰れるかな……」

「…………」

 

不安からか目元に涙が溜まり始めるが、今泣いては心が折れてしまいそうであるし、何より隣には片想いの人がいるのだから、と堪える。

ゴシゴシと目元に溜まっていた涙を拭うと、ハジメは両

手でパンッと頬を叩き、少し驚いた表情をしながらこちらを向いた四季と目を合わせる。

 

「やるしかない、何とか地上に戻ろう」

「……そうね……いつまでもここで助けを待っていても、最悪二人揃って餓死するしか無いでしょうし……動かないよりは……」

 

彼女も彼女なりに考えてくれていたらしい。

その事を少し嬉しく思いながら、ハジメは再び炎に向き直る。

彼女の顔を見た事で、ハジメは胸に決意を抱いた。

 

(最悪、僕が盾になって、両儀さんだけでも……)

 

ハジメは決然とした表情でジッと炎を見つめ続けた。




《小説家になろう》の《ありふれた〜(原作)》で言う『ベヒモス』の辺りを書き始める。

2000文字ぐらい書いてから、オリ主が全然出て来ずほとんど原作通りの文章を書いていた事に気がつく。

(この後もオリ主の出番ほとんど無さそうだし、この話は全カットで良いや)

そんな感じで出来上がった今話。


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奈落の底2 『頭蓋砕く蹴りウサギ』

お久しぶりです。

Q.どうしてこの時間に投稿したのか。
A.何故かこの時間に目覚めてしまったので。
あと昨日の昼に本文は大体仕上がっていたからです。

久しぶりの投稿、面白く書けているでしょうか……。
そんな事より、あけましておめでとうございます。
筆者の家族は去年の年末に体調を崩して辛そうでした。
読者様方はお身体に気を付けて。

1/8 少し修正


・三人称視点

 

 

「服もほとんど乾いたし、そろそろ出発しましょうか」

「うん」

 

20分ほど炎で温まった後、二人は出発する事にした。

どの階層にいるのかはわからないが、かなり奥深くだろうと思われる。

その為、二人は慎重に慎重を重ねて奥へと続く巨大な通路に歩みを進めた。

 

二人が進む通路は正しく洞窟といった感じで、低層の四角い通路とは違い、岩や壁があちこちからせり出し通路自体も複雑にうねっている。

さらに複雑で障害物だらけ、通路の直径は20メートルはあり、狭い所でも10メートルある。

歩き難くはあるが隠れる場所も豊富にあり、物陰から物陰へと隠れながら進んでいった。

 

 

 

そうやって進み続けて何十分かした時、初めて道が分かれた。

二人が進んできた道を合わせれば巨大な十字路になる。

二人は岩の陰から少しだけ身を出して考える。

 

「分かれ道かぁ……どうしよう、間違えた道を選んで奥に進んで行っちゃうだけは避けたいなぁ……」

「………ッ、隠れてっ」

「わっ」

 

何かが動いたのが見えた四季が、慌ててハジメの腕を引っ張りながら岩陰に身を潜める。

ハジメは立ったまま、四季は四つん這いになってから、そっと顔だけ出して様子を窺うと、自分たちのいる通路から直進方向の道から白い毛玉がピョンピョンと跳ねて来たのがわかった。

見た目はウサギ、しかし大きさが中型犬程もあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。

そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っている。

明らかにヤバそうな魔物の為、しばらくは様子をうかがう事にした。

しかしあのウサギがこちらの道に進んで来ないとも限らない。

 

(気付かれない様に左右の道に進めないかな……)

 

と思いながらも観察を続ける。

 

 

突然、ウサギがピクッと身体を震わせたかと思うと、背筋を伸ばして立ち上がった。

警戒するように耳が(せわ)しなくあちこちを向く。

二人は即座に岩陰へ、張り付くように身を潜めながら冷や汗を流す。

 

しかしウサギが警戒したのは二人では無かった。

 

「グルゥア!!」

 

獣の唸り声と共に、大型犬くらいの大きさに白い毛並みを持っている、狼のような魔物がウサギ目掛けて岩陰から飛び出して来たのだ。

その狼には尻尾が二本あり、ウサギと同じように赤黒い線が体に走り脈打っている。

その二尾狼が飛びかかった瞬間、別の岩陰から更に二体の二尾狼が飛び出す。

 

先程と同じ体勢で岩陰から顔を覗かせ、その様子を観察する二人。

どう見ても狼の群れがウサギを捕食する瞬間であり、このドサクサに紛れて移動出来ないか、とハジメは考えた……

 

……その直後。

 

「キュウ!」

 

という可愛らしい鳴き声を洩らしたウサギはその場で飛び上がり、空中でクルリと一回転すると、その太く長い足で一体の二尾狼に回し蹴りを炸裂させた。

 

ドパンッ!!

 

という、ウサギの足蹴りが出せるとは思えない音を発生させて、二尾狼の頭部にクリーンヒットし、

 

ゴギャ!

 

という明らかに鳴ってはいけない感じの音を響かせながら、狼の首はあらぬ方向に捻じ曲がってしまった。

 

「「…………………………」」

 

唖然とするハジメと四季。

さらにウサギは回し蹴りの遠心力を利用して更にくるりと空中で回転すると、逆さまの状態で()()()()()()()()地上へ隕石の如く落下、着地寸前で縦に回転して、強烈なかかと落としを着地点にいた二匹目の狼に炸裂させた。

 

ベギャ!

 

断末魔すら上げられずに頭部を粉砕される狼。

直後、更に二体の二尾狼が現れて、着地した瞬間のウサギに飛びかかった。

今度こそウサギの負けかと思われた瞬間、何とウサギはウサミミで逆立ちし、足を広げた状態で高速回転した。

飛びかかっていた狼二匹が竜巻のような回転蹴りに弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。

 

グシャァ!!

 

という音と共に血が飛び散り、狼だったモノがズルズルと壁を滑り落ち、動かなくなった。

最後の一匹が唸りながらその尻尾を逆立て、バチバチと放電を始めた。

 

「グルゥア!!」

 

咆哮と共に二尾狼の、固有魔法だと思われる電撃がウサギ目掛けて乱れ飛ぶ。

……が、しかし、高速で迫る雷撃をウサギは素早いステップでかわし、電撃が途切れた瞬間一気に踏み込み、狼の顎にサマーソルトキックを叩き込んだ。

狼は仰け反りながら吹き飛び、

 

グシャ!

 

と頭から地面に、音を立てて叩きつけられた。

そしてウサギは、

 

「キュ!」

 

という勝利の雄叫び(?)を上げた。

 

(……嘘だと言ってよママン……)

(……えぇぇ……)

 

未だ硬直し続ける二人。

ヤバイ、などというものでは無い。

 

((気がつかれたら絶対に死ぬ……!))

 

偶然にも思考が一致した二人が、表情に焦燥を浮かべたその時、

 

 

 

 

 

カラン……

 

という音が洞窟内に響いた。

 

ハジメが無意識に足を後ろに下げた際、足元にあった小石を蹴ってしまったのだ。

あまりにもベタで……致命的なミスである。

ハジメの顔は青ざめ、四季の額からドッと冷や汗が噴き出る。

音の発生源である小石に向けていた顔を、ハジメはギギギ……と油を差し忘れた機械のように、四季は流石というべきか素早く回して、ウサギの姿を確認する。

 

 

 

 

 

ウサギは、ばっちり二人を見ていた。

 

赤黒いルビーのような瞳が二人の姿を(とら)え、細められている。

ハジメは思わず後退る。

四季は素早く立ち上がり、鞘を放り投げる様にして短剣を抜いた。

 

やがて、首だけで振り返っていたウサギは体ごと二人のいる方に向き直り、グググ……と足に力を溜めた。

 

(ッッッ!!)

 

直後、ウサギは地面を粉砕しながら跳躍し、後ろに残像を引き連れながら、途轍もない速度で突撃してきた。

ハジメと四季は、それぞれ別の方向に、全力で横っ飛びをした。

 

直後、一瞬前までハジメのいた場所に砲弾のような威力の蹴りが炸裂し、地面が爆発したように抉られた。

硬い地面をゴロゴロと転がったハジメは尻餅をつく形で停止し、四季はハジメと同じ様に転がったもののすぐさま立ち上がり、ウサギに向き直った。

ハジメは陥没した地面に青褪めながら後退る。

 

(ハジメくんは……無事ね、でもあの体勢じゃ……)

「ハァッ…!ハァッ…!」

 

ウサギは余裕の態度でゆらりと立ち上がると、隙だらけのハジメに狙いを定め、再度地面を粉砕しながら突撃する。

 

「南雲くん!!」

「……ッ!!」

 

咄嗟に地面を錬成して石壁を構築したハジメは、しかしその石壁を容易く貫いたウサギの蹴りを受け、衝撃で吹き飛ばされ地面を転がった。

 

「ぐぁっ……!」

 

咄嗟に左腕を掲げられたのは本能のなせる業か。

転がっていたハジメが停止した時、蹴りを受けた左腕に激烈な痛みが走った。

見れば左腕がおかしな方へ曲がり、プラプラと揺れている。

ハジメが痛みで蹲りながら必死でウサギの方を見ると、今度はあの猛烈な踏み込みはなく余裕の態度でゆったりとハジメに向き直る。

四季は庇う様にハジメの前に出ると、ウサギをキッと睨み付け、短剣を構える。

しかし、ウサギの目には二人を見下すような、あるいは嘲笑うかのような色が見え、『雑魚(ハジメ)その仲間(四季)は自分よりも圧倒的に格下だ』と思われているのが分かった。

 

しかしほとんど心が折れたハジメには、自分の命を投げ出してでも守ると決意した四季に庇われ、尻餅をつきながら後退るという無様しか出来ない。

 

次はこいつだ、と言わんばかりに四季に狙いを定めたウサギは、ハジメに見せつけるかの様に大袈裟に動きながら足に力を溜め始める。

 

(ああ……やめろ……やめてくれ……!)

 

最悪の未来を想像したハジメの目から涙が溢れる。

そして遂に地面を粉砕しながら、即死級の威力の蹴りが四季に繰り出され……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……………………?」」

 

……る事は無く、ウサギは何時まで経っても動かなかった。

まさかまだ自分の反応で遊ぶつもりなのか、とハジメが絶望的な気分に襲われていると、四季が奇妙なことに気がついた。

 

「……震えている……?」

 

四季のその言葉を聞いたハジメが腕で涙を拭い、ウサギを注視すると、ウサギの身体はふるふると震え、目からは一切の余裕が消えているのが分かった。

 

(な、何?何を震えて……これじゃあ()()()()()()()()()()()()()()な……)

 

"まるで"ではなく、事実ウサギは怯えていた。

二人がやってきた通路から見て右側の通路から現れた、新たな魔物の存在に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソレは後に、力弱くとも心優しかった少年(南雲ハジメ)から"優しさ"を奪うモノ。




もうちょっとだけ『奈落の底』は続くんじゃよ。
物語が大きく動くのは次回からですかね。


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奈落の底3 『絶望の始まり』

僕が好きな様に書くと決めた小説ですが、評価やお気に入り登録をしてくれていたり、待っていて下さる読者様方もいるので謝罪を。
遅れてしまってすみませんでした。
言い訳をさせていただきますと、真面目にめちゃくちゃ忙しかった時期があり、どうにかそれを乗り越えたら"頑張った自分へのご褒美"などと言いながらモンハンやっていたり、別の小説書いたり、ハーメルンで面白そうな小説を漁ったりしていました。

まぁそんな感じなのでで、今後僕の小説の更新を待つ時は、あんまり期待しないで待っていて下さい。

そういえばFGOで空の境界コラボイベント復刻版が来ましたね。
スペシャルゲストに浅上藤乃が来たのには驚きましたね。
ガチャの感想としては「FGOにも"好きな鯖が貰えるチケット"的なものが欲しいなぁ」という感じです。
というか「剣式さん来てほしいなぁ」という感じです。
まぁ自分、微課金勢なんですけどね。

実はFGOに来る前から「ふじのん(を元にしたオリ主)が主人公な小説書きたいな」なんて思っていたり。


・三人称視点

 

 

その魔物は巨体であった。

二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。

やはりど言うべきか、赤黒い線が幾本も体を走っている。

見た目は熊の様ではあるが、足元まで伸びた太く長い腕の先には三十センチはありそうな鋭い爪が生えている。

 

その爪熊がいつの間にか接近して来ており、ウサギとハジメ、四季を睥睨していた。

ハジメは元よりウサギも硬直したまま動かない……いや、動けない。

そのウサギの様は、まるで先程のハジメの様で、爪熊を凝視したまま凍りついている。

 

「……グルルル」

 

突然爪熊が、この状況に飽きたとでも言うかの様に、低く唸り出した。

 

「ッ!?」

 

それを聞いたウサギは、ビクッと一瞬震えると踵を返し、まさに脱兎の如く逃走を開始した。

今まで敵を殲滅するために使用していたあの踏み込みを逃走のために全力使用する。

それに対し、爪熊はその巨体に似合わぬ素早さでウサギに迫り、その長い腕を使って鋭い爪を振るったからだ。

ウサギは流石の俊敏さでその豪風を伴う強烈な一撃を、体を捻ってかわした。

 

ハジメと四季の目には、確かに爪熊の爪は掠りもせずウサギはかわしきったかの様に見えた。

 

しかし着地した蹴りウサギの体はズルと斜めにずれると、そのまま噴水のように血を吹き出しながら別々の方向へ、ドサリと転がった。

 

ハジメは愕然とした。

狼の群れを殲滅できる程の圧倒的な強さを持っていたウサギが、まるで為す術もなくあっさり殺されたのだから。

同時にウサギが怯えて逃げ出した……逃げ出そうとした理由がよくわかった。

あの爪熊は別格なのだ。

ウサギの強力な脚撃を持ってしても歯が立たない化け物なのだ。

 

爪熊はのしのしと悠然と蹴りウサギの死骸に歩み寄ると、その鋭い爪で死骸を突き刺しバリッボリッグチャと音を立てながら喰らってゆく。

 

ハジメは動けなかった。

あまりの連続した恐怖に、そしてウサギだったものを咀嚼しながらも鋭い瞳でこちらを見ている爪熊の視線に射すくめられて。

冷静であった四季はひたすら熊を観察していた。

あの不可思議な魔法を見極め、隙や弱点を見つけて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と。

 

爪熊はわずか三口ほどでウサギを文字通り全て腹に収めると、グルル……と唸りながらハジメと四季の方へ体を向けた。

その視線がまるで、次の食料はお前たちだ、と言っているかの様で。

 

結果、ハジメはその視線に耐えきれず、恐慌に陥った。

 

「うわぁぁあああッ!!」

「!? 南雲くん!?」

 

意味もなく叫び声を上げながら折れた左腕の事も……自身の決意さえも忘れて、必死に立ち上がり爪熊とは反対方向に逃げ出す。

 

しかし、あのウサギですら逃げること叶わなかった相手からハジメが逃げられる筈が無く、

ゴウッと風がうなる音が聞こえ、何かにぶつかられる衝撃を感じた直後、それよりも強烈な衝撃がハジメの左側面を襲い、壁に叩きつけられた。

 

「がはっ!」

「うぁっ……!」

 

肺の空気が衝撃により抜け、咳き込みながら壁をズルズルと滑り崩れ落ちるハジメ。

衝撃に揺れる視界で何とか爪熊の方を見ると、爪熊は何かを喰らっていた。

 

ハジメは、最初は爪熊が何を食べているのかが分からなかった。

ウサギはさっき食べきっていたはずだ、と頭の隅でそこまで考えた時、その喰らっているモノが人間の腕である事に気がついた。

それは白く細い綺麗な腕で、その周囲には()()()()()()布が散乱している。

ハジメは理解出来ていない事態に混乱しながら、自身にもたれかかっている四季に目を向けた。

 

「ハァッ……ハァッ……」

「両…儀、さん……?」

「ごめ……なさい……間に合わな、かった……」

 

玉の様な汗を噴き出し、必死に息継ぎをする四季。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の左腕は二の腕の辺りから無くなっていて。

左腕のあった場所からは蛇口をひねったかの様にドクドクと赤い血が流れていた。

両儀さんが自分を庇ってくれたのか、と理解し息を呑んだ直後、

 

「ガァッッ……!!!」

 

強烈な痛みがハジメを襲った。

痛みの元へと目を向ければ、そこには半分以上が切断されてほぼぶら下がっているだけの様な自身の左腕があった。

彼女が自分を庇ってくれていなければ、熊の目の前にあったのは自分の腕であっただろう。

そう理解できてしまったハジメは、体から血の気が引いていくのを感じた。

 

四季の腕を喰い終わった爪熊が悠然と二人に歩み寄る。

その目にはウサギのような見下しの色は無く、ただの食料であるという認識しかない。

 

「あ、あ、ぐぅうう、れ、〔錬成ぇ〕!」

 

あまりの痛みと恐怖に涙と鼻水で顔を汚しながら、ハジメは右手を背後の壁に押し当て錬成を行った。

ほとんど無意識の行動だった。

 

無能と罵られ、魔法の適性も身体スペックも低いハジメの唯一の力。

通常は武具を加工するためだけの魔法で、その天職を持つ者は例外なく鍛治職に就く。

故に戦いには役立たずと言われ、しかし異世界人ならではの発想でクラスメイトを助けることもできた力。

だからこそ死の淵でハジメは無意識に頼ったのだ。

背後の壁に縦60センチ、横130センチ、奥行2メートル程の穴が空く。

 

獲物が逃げようとしている事を察知した熊は二人に迫ろうとする。

 

「ぐっ、ガァァァアアアッッ!!!」

 

その直後、ハジメはぶら下がっていた自身の左腕を()()()()()()()()()熊に向けて投げつけた。

ドチャッ、と熊の横に落ちたハジメの腕に熊は惹かれ、喰らい付いた。

 

「〔えんえい(錬成)ッ〕、〔えんえい(錬成)ッ〕、〔えんえい(錬成)ッ〕!」

 

その隙にハジメは、四季の服に噛み付きその体を引っ張りながら穴の中へ体を潜り込ませた。

 

「グルァアアアッ!!」

 

獲物を逃した事に気がついた熊は、怒りをあらわにしながら固有魔法を発動し、ハジメが潜り込んだ穴目掛けて爪を振るう。

凄まじい破壊音を響かせながら壁がガリガリと削られていく。

 

「うああああっ!!〔えんえぇ(錬成)〕〔えんえぇ(錬成)〕〔えんえぇ(錬成)〕ぇぇっ!!!」

 

熊の咆哮と壁が削られる破壊音に半ばパニックになりながら、少しでもあの化け物から離れようと連続して練成を行い、奥へ奥へと進んでいく。

がむしゃらに錬成を繰り返し、四季を引っ張りながら地面をほふく前進する様に進んでいく。

左腕の痛みの事は既に頭から無くなっており、ただ"死にたくない、死なせたくない"という感情のまま、唯一の力を振い続ける。

 

どれくらいそうやって進んでいたのかハジメにはわからなかったが、恐ろしい音はもう聞こえなくなっていた。

しかし実際はそれほど進んではいないだろう、とハジメは頭の隅で思う。

一度の錬成の効果範囲は二メートル位であるし(これでも初期に比べ倍近く増えている)、人間一人の服を咥えながら引っ張っているし、何より左腕の出血が酷い。

そう長く動けるものではないだろう。

 

実際、ハジメの意識は出血多量により既に落ちかけていた。

それでももがくように前へ進もうとする。

 

「〔えんえぇ(錬成)〕……〔えんえぇ(錬成)〕……〔えんえぇ(錬成)〕 ……えんえぇ……」

 

何度錬成しても眼前の壁に変化はない。

意識よりも先に魔力が尽きたのだ。

ズルリと壁に当てていた手が力尽きたように落ちる。

ハジメは、朦朧として今にも落ちそうな意識を何とか繋ぎ留めながらゴロリと仰向けに転がった。

ボーッとしながら引っ張ってきた四季を見つめる。

この辺りは緑光石が無く明かりもないため、彼女の荒い息継ぎだけが聞こえてくる。

 

何時しかハジメは昔の事を思い出していた。

もしかしたらこれが走馬灯というやつなのかもしれない、とハジメは思った。

まだ小さな頃から、小学校、中学校、そして高校での思い出。

様々な思い出が駆け巡り、最後に思い出したのは……月明かりの下で儚げに笑う片想いしている彼女(両儀四季)の姿で。

 

その美しい光景を最後にハジメの意識は闇に呑まれていった。

意識が完全に落ちる寸前、ぴたっぴたっと頬に水滴を感じて。

 

ハジメはそれが、誰かの流した涙の様に感じた。




『空の境界』知らねぇ、って人は読まなくても良い感じの後書き。



今更ですが、この小説のオリ主の性格は最終的には
『物騒な感じを無くしたFGOの両儀式(セイバー)』
みたいな感じになります。
僕はまだ『両儀式』というキャラクターの事をあまり知りませんが、
『殺人衝動のやべーヤツ(ファンの方々に怒られそうな言い方)』
というよりは
『FGOに登場する綺麗で格好良くて可愛いヤツ』
みたいな感じです。


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豹変 『奈落の底で化物は生まれる』

遅れました、本当に。
リアルが忙しくなってしまい(心地良く小説を読んでもらう為、何で忙しくなったかは伏せます。病気などではありません)、その結果なかなか執筆時間が取れなくて……。
待って下さっていた読者様方、遅れてしまい申し訳ございませんでした。
残念ながら次話更新もかなり遅れてしまうと思います、ご了承下さい。

あとタグに一時期『型月的設定無し』と入れていましたが、多分『ご都合主義』タグの名の下に、強引にねじ込んでいくと思いますので、『型月的設定無し』タグは消しました。

そんな感じでどうぞ。


ぴちょん……ぴちょん……

 

水滴が頬に当たり口の中に流れ込む感触で、ハジメの意識は徐々に覚醒した。

自身が目覚めた事を不思議に思いながらゆっくりと目を開く。

 

(……生きてる?……助かったの?)

 

疑問に思いながら体を起こそうとして低い天井にガツッと額をぶつけた。

 

「いだっ!?」

 

自分の作った穴は縦幅が50センチ程度しかなかったことを今更ながらに思い出し、ハジメは錬成して縦幅を広げるために天井に両手を伸ばそうとした。

しかし、視界に入る腕が一本しかないことに気がつき動揺する。

 

しばらく呆然としていたハジメだったが、やがて自分が左腕を失っていた事を思い出し、その瞬間無いはずの左腕に激痛を感じた。

幻肢痛というものだろう。

そして、表情を苦悶に歪めながら反射的に左腕を抑えて気がつく。

切断された断面の肉が盛り上がって傷が塞がっていることに。

 

「な、なんで?……それに血もたくさん……」

 

暗くて見えないが灯りがあればハジメの周囲が血の海になっていることがわかっただろう。

普通に考えれば絶対に助からない出血量だった。

ハジメが右手で周りを探れば、ヌルヌルとした感触が返ってくる。

まだ辺りに流した血が乾いていないのだろう。

やはり、大量出血したことは夢ではなかったようだし、血が乾いていないことから、気を失って未だそれほど時間は経っていない様で。

 

「ッ……両儀さん……!?」

 

ハッ、とハジメは四季を探すために体を動かした。

真っ暗なせいで何も見えないが、腕を動かせば彼女……四季に触れる事ができた。

良く聞くと彼女は小さく早い、苦しそうな呼吸をしている事がわかった。

 

「両儀さん……」

 

彼女は出血多量で苦しんでいるのに、何故自分だけこんな風に傷が塞がっているのか。

ハジメが微かな苛立ちと疑問を感じていると再び頬や口元にぴちょんと水滴が落ちてきた。

それが口に入った瞬間、ハジメは少しだが感じ取れる程度に体に活力が戻ったのがわかった。

 

「……まさか……これが?」

 

ハジメは幻肢痛と貧血による気怠さに耐えながら右手を水滴が流れる方へ突き出し錬成を行った。

 

「両儀さん、ここで少しだけ待ってて」

 

四季に声をかけたハジメは返事を待つ事無く、ふらつきながら再び錬成し奥へ奥へと進んで行く。

不思議なことに、岩の間からにじみ出るこの液体を飲むと魔力も回復するようで、いくら錬成しても魔力が尽きない。

ハジメは休む事無く熱に浮かされたように水源を求めて錬成を繰り返した。

 

やがて、ポタポタと垂れていた謎の液体がチョロチョロと流れる様になり、明らかに量を増やし始めた頃、更に進んだところでハジメは遂に水源にたどり着いた。

 

「こ……れは……」

 

そこにはバスケットボール程の大きさがある、青白く発光する鉱石が存在していた。

その鉱石は周りの石壁に同化するように埋まっており、下方へ向けて水滴を滴らせている。

アクアマリンの青をもっと濃くして発光させた様な神秘的で美しい石だった。

 

ハジメは一瞬、幻肢痛も忘れて見蕩れてしまった。

そして縋り付くように、あるいは惹きつけられるように、その石に手を伸ばし直接口を付けて啜った。

すると体の内に感じていた鈍痛や、靄がかったようだった頭がクリアになり倦怠感も治まっていく。

治癒作用がある液体の様で、幻肢痛は治まらなかったが他の怪我などは、瞬く間に回復していった。

 

「これがあれば……」

 

ハジメは通ってきた穴を広げながら四季の元へ急いで戻った。

そして発光する鉱石のおかげでようやく彼女の姿を見る事ができた。

目は閉じられ、微かに開いた口は必死な呼吸を繰り返していて、切断された左腕の傷はハジメの様に塞がれてはおらず、出血を止めるための布で強く縛られている。

 

ハジメは四季の頭を少しだけ持ち上げて、伸ばした自分の足の上に乗せた後、どうにか鉱石を片手で持ち上げ、滴る水滴を四季の口の中へと垂らしていく。

しばらくそうしていると、だんだんと呼吸は穏やかになっていき、左腕の傷も塞がっていった。

 

ようやく生きた心地がしたハジメはそのままズルズルと壁にもたれながらへたり込んだ。

そして思い出した死の恐怖に震える体を抱え、体育座りしながら膝に顔を埋めた。

心は折られ、既に脱出しようという気力はない。

 

敵意や悪意になら立ち向かえたかもしれない。

助かったと喜んで、再び立ち上がれたかもしれない。

 

しかし、爪熊のあの目はダメだった。

 

自分たちを餌としてしか見ていない捕食者の目。

日本という平和な場所にいた人間がまず向けられることのない目。

その目を向けられた事に、そして実際に彼女(四季)の腕を喰われた事に、ハジメの心は砕けてしまった。

 

(誰か……助けて……)

 

奈落の底。

彼女は目覚めず、ハジメの言葉は誰にも届かない。

 

 

 

 

 

どれ程の間そうしていただろうか。

 

ハジメは壁に体を預け、手足を投げ出してボーっとしていた。

 

二人が崩れ落ちた日から四日が経った。

 

その間、ハジメはほとんど動かず、四季を介抱しながら滴り落ちる液体のみを口にして生きながらえていた。

介抱、と言っても滴る液体を飲ませてやっているだけであるが。

しかしこの液体は服用している間は余程のことがない限り服用者を生かし続けるものの、空腹感まで消してくれるわけではなかった。

死なないだけで、現在ハジメは壮絶な飢餓感と幻肢痛に苦しんでいた。

 

(どうして僕がこんな目に?)

 

ここ数日何度も頭を巡る疑問。

 

痛みと空腹で碌に眠れていない頭は液体を飲めば回復するものの、回復してクリアになったがために、より鮮明に苦痛を感じさせる。

何度も何度も、意識を失うように眠りについては、飢餓感と痛みに目を覚まし、苦痛から逃れる為に再び液体を飲んだり、彼女に飲ませてやった後、また苦痛の沼に身を沈める。

 

もう何度、そんな微睡みと覚醒を繰り返したのか。

 

「こんな苦痛がずっと続くなら……いっそ……」

 

そう呟いてから、彼女の顔を思い出し、死ぬ訳にはいかないと思いながら、意識を闇へと落とす。

何度、そんなことを繰り返したのか。

彼女はまだ目覚めない。

 

 

 

それから更に三日が経った。

 

幻肢痛は一向に治まらず、ハジメの精神を苛み続ける。

まるで端の方から少しずつヤスリで削られているかのような、耐え難き苦痛。

 

(もう……死にたいなぁ……ぁぁ、早く、早く……)

「ッ……ハッ……アッ……」

(……嫌だ……彼女が死ぬのだけは……僕が死ぬのは、駄目だ……)

 

死を望み、彼女の(うな)されている声を聞いて、死ぬ事を否定する。

ハジメは既に正常な思考が出来なくなっており、支離滅裂なうわ言すら呟くようになっていた。

彼女はまだ目覚めない。

 

 

 

それから更に三日が過ぎた。

 

この頃からハジメの精神に異常が現れ始めた。

ただひたすら、死と生を交互に願いながら、地獄のような苦痛が過ぎ去るのを待っているだけだったハジメの心に、ふつふつと何か暗く澱んだものが湧き上がってきたのだ。

それはヘドロのように、恐怖と苦痛でひび割れた心の隙間にこびりつき、少しずつ、少しずつ、ハジメの奥深くを侵食していった。

 

(何で僕たちが苦しまなきゃならない……僕たちが、何をした……? 何でこんな目にあっている……?何が原因なんだ……? 神は理不尽に、僕たちを誘拐した……クラスメイトは僕を裏切った……あのウサギは僕を見下して、あの熊は四季を喰った……)

 

次第にハジメの思考が黒く黒く染まっていく。

まっさらな白紙に黒インクが落ちた様に、ジワリ、ジワリとハジメの中の人間性が汚れていく。

誰が悪いのか、誰が自分たちに理不尽を強いているのか、誰が自分たちを傷つけたのか……無意識に敵を探し求める。

激しい痛み、飢餓感、暗い密閉空間、苦しんでいる四季の声、そして孤独感がハジメの精神を蝕む。

暗い感情を加速させる。

 

(どうして誰も助けてくれない……? 誰も助けてくれないならどうすればいい……? 僕たちの……彼女の(・・・)苦しみを消すにはどうすればいい?)

 

 

 

九日目には、ハジメの思考は現状の打開を無意識に考え始めていた。

 

激しい苦痛からの解放を望む心が、湧き上がっていた怒りや憎しみといった感情すら不要なものと切り捨て始める。

 

憤怒と憎悪に心を染めている時ではない。

どれだけ心を黒く染めても彼女の(・・・)苦痛は少しもやわらがない。

この理不尽に過ぎる状況を打開するには、生き残るためには、余計なものは削ぎ落とさなくてはならない。

 

()は何を望んでる?

俺は、ただ彼女が(・・・)生きることを望んでる。

それを邪魔するのは誰だ?

邪魔するのは敵だ。

敵とは何だ?

彼女の(・・・)生を邪魔をするもの、彼女に(・・・)理不尽を強いる全て。

では俺は何をすべきだ?)

(俺は、俺は……)

 

 

 

十日目。

 

ハジメの心から憤怒も憎悪もなくなった。

神の強いた理不尽も、クラスメイトの裏切りも、魔物の敵意も、自分を守ると言った誰かの笑顔も……全てはどうでも良いこと。

生きる為、生存の権利を獲得する為に、そのようなことは全て些事だ。

ハジメの意思は、ただ一つに固められる。

鍛錬を経た刀のように。鋭く強く、万物の尽くを斬り裂くが如く。

 

すなわち……

 

(……殺す)

 

悪意も、敵意も、憎しみもない。

ただと生かす為に必要だから滅殺する(・・・・・・・・・・・・・・)いう殺意。

 

彼女の生存を脅かす者は全て敵。そして敵は、

 

(殺す、殺す、殺す、殺す、殺す…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス■■■■■■■■■■■■■■■_____)

 

彼女を苦しみから解放する為には、

 

(殺シテ、喰ラッテヤル)

 

かつて、自分達がそうされた様に。

 

 

 

 

 

今この瞬間、優しく穏やかで、対立して面倒を起こすより苦笑いと謝罪でやり過ごす、■■が強いと称した南雲ハジメは完膚無きまでに崩壊した。

そして、生きる為に、彼女の為に、邪魔な存在は全て容赦なく排除する新しい南雲ハジメが誕生した。

 

砕けた心は、再び一つとなった。

ツギハギだらけの修繕された心で無く、奈落の底の闇、絶望、苦痛、本能で焼き直され鍛え直された新しい強靭な心だ。

 

ハジメはすっかり弱った体を必死に動かし、いつの間にか地面のくぼみに溜まっていた神水を、直接口をつけて啜る。

飢餓感も幻肢痛も治まらないが、体に活力が戻る。

 

ハジメは、目をギラギラと光らせ、濡れた口元を乱暴に拭い、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

歪んだ口元からは犬歯がギラリと覗く。

 

ハジメは起き上がり、錬成を始めながら宣言するように、もう一度呟いた。

 

「殺シテヤル」




最後の辺りを書いている時に、
「豹変したてのハジメ君に、《アクセル・ワールド》に出てくる『災禍の鎧』着せて、完膚無きまでに叩き潰させたり、喰らい尽くさせたりしてみてぇなぁ……」
なんて思った。
僕の技量では多分面白く書けないだろうし、単純に面倒くさいと思ったので書きませんが。


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番外編的な
ありふれた予告風妄想


すまない……本編で無くて本当にすまない……。
今、執筆モードじゃなくて読者モードなので、次話はもう少し遅れるかもです。

前半は、この小説が一応完結した後に書く予定の話の予告的なもの
後半は、この小説とは無関係な筆者の妄想を置いていきます。
深夜テンションが混ざって混沌としているかもですが、まぁ暇つぶしにでも読んで下さい。


・書くかもしれないやつ その1

 

世界中を巻き込んだ大規模なテロが発生した。

それに巻き込まれた(義理の)娘からのSOSを受け取った魔王は立ち上がる。

その時、彼女は___

 

『後日談 魔王の正妻なので(仮タイトル)』

= = = = =

小説家になろうにある《ありふれた職業で〜》の原作にある『ありふれたアフター 魔王の娘なので』という話のオリ主(四季)視点的なもの。

書くなら多分、雫の代わりにオリ主が行く感じになる思う。

 

 

 

 

・書くかもしれないやつ その2

 

異世界から帰ってきたハジメ一行は、なんやかんやで四季の家に顔を出しにいく事にした。

しかし、ハーレム反対派の両儀家はハジメ一行(四季以外)に牙を剥く。

果たしてハジメ一行は生き残る事ができるのか。

 

両儀父「魔王とか言われてるって話だが、俺たちが負けるわけねぇだろ!行くぞぉぉぉああ!」

両儀祖父「知ってるか?人は皆、獣なんだぜ?」

両儀母「哀れだよ、炎に向かう蛾のようだ。そう思うだろ?あんたたちも」

両儀祖母「ダァーイスンスーン……」

両儀四季「あ、今からご飯作るから、台所の近くでは騒がないでね?」

両儀家族「「「「はーい!」」」」

ハジメ一行『!?!?』

 

『後日談 両儀家のDIE歓迎(仮タイトル)』

= = = = =

フロム脳な両儀家がハジメ一行に襲いかかるかもしれないし、

円卓脳な両儀家が「その財布を奪う!」とか「ぬんぬんぬんぬん!」とか「私は悲しい(ポロロン)」とか言いながらハジメ一行に襲いかかるかもしれない。

 

 

 

 

・書くか書かないか分からないやつ

 

様々な異世界に呼ばれる様になっ(てしまっ)た光輝。

彼はとある異世界で答えを得た。

 

「俺は夢想を止めない……全て救いたい。だけど、選択しなきゃいけない時が来たなら俺は、〝大切な一人〟よりも〝大勢の人たち〟を選ぶ。選んで、だけど、それでもずっと夢想を掲げて足掻き続ける」

 

そんな光輝に四季は歩み寄り、ある男たちの人生を話し始めた。

 

『僕はね、正義の味方になりたかったんだ』

『しょうがないから、俺が代わりになってやるよ。まかせろって、爺さんの夢は___』

 

 

『後日談 勇者と正義の味方(理想を追い求める者たち)(仮タイトル)』

= = = = =

小説家になろうにある《ありふれた職業で〜》の原作にある『ありふれたアフターⅡ 光輝編』の後の話。

四季が光輝に、正義の味方の話をするという内容。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

妄想が湧いたけど書かないであろう『ありふれた×FGO』 その1

 

かつて幼い頃のハジメに拾われ、ハジメの義妹となった少女。

少女は南雲家で幸せに暮らしていたが、ある日義兄であるハジメが世界から消え去ってしまう。

少女はハジメのいる世界を数ヶ月の間探し続け、ついにその世界を探し出した。

 

「叔父さま、叔母さま、ごめんなさい。私も勝手に居なくなってしまう、悪い子になってしまうわ」

 

奪い去られたユエを取り戻すための最終決戦に備えるハジメたちの前に現れたのは、長い金髪を揺らしハジメの妹を名乗る少女であった。

 

かくして降臨者(少女)は、魔王(ハジメ)の大切なものを取り戻すために戦う(蹂躙する)

 

「イグナ……イグナ、トゥフルトゥクンガ。我が手に(しろがね)の鍵あり___」

 

『魔王の義妹は降臨者(仮タイトル)』

= = = = =

この小説(ありふれた転生者〜)とは全く関係ない小説。

幼い頃から邪神を見てきた結果SAN値がカンストしたハジメと、ハジメの義妹という設定のアビゲイル(見た目は子供で中身は霊基再臨最終段階、たまに見た目も変わる)、そしてSAN値ピンチな周りの人たちによる、微シリアスなほのぼのストーリー。

 

 

 

 

書かないであろう『ありふれた×FGO』 その2

 

様々な騒動に巻き込まれながらも妻と共に幸せな人生を送り、笑いながら逝った遠藤。

しかし遠藤は英霊として召喚される事になり、人理を修復するために戦う事となる。

これは、初代山の翁並みの《気配遮断スキル》を獲得してしまった少年と様々な英霊たち、そして人類最後のマスターとその後輩による、未来を取り戻す物語___。

 

『(タイトル未定)』

= = = = =

この小説(ありふれた転生者〜)とは全く関係ない小説。

大体上記されている通りの内容。

 

 

おまけのおまけ:遠藤の召喚時セリフ

「暗殺者のサーヴァントとして召喚された遠藤浩介だ。

無名の英霊だが足手まといになるつもりは無い、まぁこれからよろしく頼むぜ。

……いや麻婆豆腐とかアゾット剣が喋ったわけじゃないから!俺ちゃんと目の前にいますから!」




後半の妄想は後々追加する……かもしれない。
後半の妄想を元に、誰か書いてくれても良いんやで……。


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