Knight's&Demi-Human 多種族のいるフレメヴィーラ王国 (ペットボトム)
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人馬騎士とオルター兄妹

フレメヴィーラ王国がモンスター娘のいる日常みたいな多種族のいる社会だったなら?という妄想が思い浮かんだので、書いてみました。
*興がのったので続きを書いてみましたw “多種族”って言っておいてオルター兄妹しか出してないのは詐欺だと思うし・・・・・・


 地球の日本で生まれ育った魂を持つ転生者、エルネスティ・エチェバルリアは激怒していた。

 それは。この世の不条理という物に打ちひしがれている双子の幼馴染、アーキッド・オルターの悔しげな表情と、その妹アデルトルート・オルターの涙を見たが故であった。

「ど、どうして・・・・・・・どうしてキッドとアディが騎操士学科に入れないんですか、父上、お祖父様!?酷すぎます!」

「え、エル・・・・・・」「エルや。許しておくれ。これはワシにもどうすることも出来ない問題なんじゃよ・・・・・・」

 今まで見たことのないような憤怒の表情を見せる少年の姿にたじろぐ家族の顔は、罪悪感でいっぱいといった様子だ。

 それを見かねたアーキッドが声をかける。

「エル、俺達のために怒ってくれてるのは解るし、気持ちは嬉しいけどさ。残念だけどこればっかりはしょうがねぇよ。だって俺達は・・・・・・」

 アーキッドは自分と妹の“下半身”を指して、こう続けた。

「だって俺達はケンタウロスだもの。そもそも幻晶騎士の操縦席には座れねぇよ」

 オルター兄妹の下半身は、彼ら自身の髪の色と同じ、鴉の羽を思わせる光沢を湛えた美しい黒毛に覆われている。

 そして、蹄の生えた四脚も備えていた。臀部には尻尾まで生えている。それはもうどうしようもなく馬であった。人間の上半身が馬の首に当たる部分から生えているのだ。

 そう、彼らオルター家はケンタウロス族の血を引く民なのだ。

 このフレメヴィーラ王国は、セッテルンド大陸にかつて存在した超巨大国家「ファダーアバーデン」の人々が、大陸の東側に存在する魔獣達の巣窟「ボキューズ大森海」の一部を切り開いた土地に入植し、ファダーアバーデンの崩壊と共に独立し、建国されたという歴史を持つ国。

 だが、大陸の西側に存在する解体されたファダーアバーデンの末裔である国家群と、フレメヴィーラ王国には決定的な差がある。それは未だに魔獣の脅威に晒されているという過酷な国情と、構成種族の違いだ。

 西側諸国は人間とドワーフ(実はアールヴという種族もいるが一般には知られていない)によってのみ構成された国。

 フレメヴィーラ王国は、その2種類に加えてボキューズ大森海に元々暮らしていた様々な特徴を備えた「多種族」を国民として抱えている。

 この王国は、魔獣達から奪い取った土地を切り開くと共に、そこに住んでいた人間同様の知性を持った多種族との交流を行い、やがて彼らを同胞として迎え入れる事を選択した国家なのだ。

 故に西側諸国からこのように呼ばれている「魔獣番」と。

 魔獣というのは、魔法を使う巨大な獣であり、人類の天敵となる巨大な生命体の総称であるが、この場合の魔獣というのは、彼ら多種族を差別する意味も含まれている。西側では彼らは受け入れられていないのだ。

「ですが、フレメヴィーラにおいて多種族を差別することは、禁忌とされていることですよ!?この国の学舎において、あなた達の職業選択に制限を設けるようなことを許していいわけが無いでしょう!?」

「いや、だから・・・・・・人間の姿を真似して造ってある幻晶騎士に、俺達多種族が乗っても操縦できないだろ?爺ちゃんたち困ってんじゃん。もう、その辺にしとこうぜ」

 幻晶騎士。人の形を模した巨大な魔法で動く機械兵器だ。太古の昔から、巨大な魔獣が跋扈していたセッテルンド大陸において、貧弱な人類が開発した、魔獣と対抗できる唯一の力。

 国防の要であり、国家運営の基礎となっている巨大兵器だ。その操縦者である騎操士と呼ばれている人間は、東西を問わず尊崇を持って語られる。

 この兵器の操縦資格は各地にある学園において設けられた“騎操士学科”を卒業することと、人間と肉体的な構造が変わらない事。つまり、2本の脚と2本以上の腕を持った人型種族であることだ。この用件を満たせない多種族は多い。

 だが、ただそれだけを持ってして、この国において多種族が差別されていると考えるのは早計であろう。現に多種族の特性に合わせた様々な職業斡旋が行われており、各々がその才能を活かせる様に関係各所は配慮している。

 オルター兄妹も、ケンタウロスとしての能力を最大限活かせるように、騎操士学科とは別の「騎兵学科」に入学させるという配慮が為されている。二人はその脚力を活かした有能な騎兵として見込まれているのだ。

 だから、アーキッドは自分達が差別されているなどとは言えなかった。ただ、親友と同じ学科で学べないことが寂しいと感じただけなのだ。アデルトルートが泣いてしまったのだって、学科が違うと離れ離れになってしまうと、早とちりしてしまったからだろう。

 学科が違っていても、友達で無くなるわけではない。進む道が違っても、関係は変わらない。プライベートではまた一緒に遊べばいいのだ。キッドはそう自分に言い聞かせていた。心の奥に宿っている悲しみを隠して。

 しかし、エルネスティはそんな親友が心の奥底に抱いている悲しみをほぼ正確に見抜いていた。それを察しているからなおの事、許せなかったのだ。

 この不条理な“ルール”が。

「いいえ、騎操士という地位は、幻晶騎士という存在は、“皆に拓かれたもの”でなくてはなりません!多種族にその門徒を閉じるなど言語道断です!・・・・・・決めました」

 一拍の後、エルネスティは一つの決断を告げた。その言葉は、“日本人としての良心”が “ロボットオタクとして愛”が “親友への友情”が “多種族への憧れ”が 言わせた台詞だった。

「多種族でも操縦できる幻晶騎士を僕が必ず創ります。幻晶騎士をこの世の全ての“人”が手に出来る権利を持ち得る存在にして見せます!唯一つの例外も認めない!それこそが僕がこの世界に生れ落ちた理由に違いないのですから!」

 この時はその言葉を聞いた全ての人物が、“戯言”と受け取った。しかし、彼の言葉は幾年かの時を経て現実になってしまったのだ。それはエルネスティ・エチェバルリアが、その前身となった「倉田翼」が、持っていた狂おしいほどの“愛”故の結果であったと思われる。

 

 

 

「さあ、キッド。アディ。乗ってみてください。僕の設計した幻晶騎士ツェンドルグです!かっこいいでしょ?頑張って造ったんですよ。ぜひ感想を聞かせてください」

 幼馴染の弾んだ声がライヒアラ騎操士学園の整備場に響き渡るのを、呆けた表情で聞いているオルター兄妹。

「ま、まさか本当に創っちゃうなんて・・・・・・え、エル君・・・・・・あのときの言葉、本気だったんだ・・・・・・本気で私達のために・・・・・・・?」

 自分達ケンタウロスを模して造られた雄雄しい巨大な“人馬騎士”の姿を見て、アデルトルートはただただ涙を流していた。それは金属と魔導で形成された自分達に向けられたメッセージ。“存在の肯定”だった。

 いくら平等だと声高に叫んだ所で、自分達多種族と人間の間には厳然とした壁が存在している。

 多種族間での結婚は禁じられてはいないが、種族の習慣や精神性の違いから推奨されてはいない。

 それを自分達は嫌というほど味わった。他ならぬ自分の生家という場所で。

 アディとキッドは、セラーティ侯爵の諸子だ。公職家の頭首であり、父である人間、ヨアキム・セラーティはケンタウロスである母、イルマタル・オルターを愛妾として迎え入れたが、彼の本妻は多種族である母と自分達を「汚らわしい馬っ面」などと罵倒するひどい人物であった。

 本来、そのような言動はフレメヴィーラ王国においては禁忌とされているが、ヨアキムは本妻の実家に配慮してなのか、注意はするがそれを持ってして彼女を弾劾するようなことはしなかった。

 そして、嫡出子である三人の兄妹の内、これに便乗する奴がいた。次男のバルトサールだ。彼が歪んだ選民意識から来る罵倒と暴力をぶつけてくるのにイルマタルとその子供達は耐えるほか無かったのだ。

 唯一、長女のステファニアだけが涙を流して、自分の親兄弟の理不尽な仕打ちを詫びたが、この事がオルター兄妹の心に深い傷となっていくのを止められるものではなかった。

 それ故にアディとキッドは“多種族”と“非嫡出子”という二重の劣等感に苛まれ続けていたのだ。

 だが、彼らの幼馴染は二人の心に巣食う“劣等感”という魔獣に、幻晶騎士で敢然と立ち向かい、これを打ち滅ぼしたのだ。

「わ、私達・・・・・・エル君の側にいていいんだよね?種族が違うからって、遠慮なんかしなくてもいい。エル君はそう言ってくれてるんだよね、キッド?」

「あ、ああ。俺達の心の中にいた魔獣をエルは倒しちまったんだ。あいつはずっと闘ってくれてたんだ。こいつを創るって形で・・・・・・」

 震える声でそう問いかける妹に応える兄の声もまた涙で震えていた。

 アディは自分の心の中に抱いていた仄かな思いが、熱くて強い愛情に変わっていくのを自覚していた。キッドも同じ気持ちだろう。

「私は・・・・・・あなたに一生ついて行く。エル君・・・・・・大好き・・・・・・」

 

 

 

 これ以後、エルネスティ・エチェバルリア率いる幻晶騎士開発者集団「銀鳳騎士団」の手によって、数多くの多種族対応型の非人型機体がフレメヴィーラ王国に齎され、多くの多種族騎操士が輩出された。

 それらは人型に負けない・・・・・・いや、場合によっては凌駕する働きで持って多種族の能力が人間に劣らぬことを証明していった。

 団長のエルの愛機、鬼面六臂の異形の幻晶騎士イカルガの傍らには、いつも2体の下半身が人型をしていない騎士の姿があったという。彼の言ったとおり、幻晶騎士を遍く全ての種族の物と為すために。その日が来るまで彼らの“闘い”は終わることは無いのだ。




・・・・・・おかしいなぁ。当初の予定ではメカを交えたモン娘ラブコメものにする予定だったはずだったのに、書いてみたら全く違う物になってしまったぞい。
まぁ、せっかくなので投稿してみることにします。短い上に駄文で申し訳ない(><)


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テレスターレとヘルヴィ先輩

身の程知らずにも、続きを書いてしまった・・・・・・
たまに更新をするかもしれませんが、あんまり期待しないでくださいねw


幻晶騎士(シルエット・ナイト)の背中に、腕を増やそうかと考えてるんですよ、親方!」

「あん?そりゃ多腕型種族の真似するって言うことなのか、銀色坊主?」

 目の前の小柄な美少女のような少年、エルネスティ・エチェバルリアから放たれた本日“二度目の提案”。

 この提案に困惑した表情を見せているのは、ライヒアラ騎操士学園の学生鍛冶師、ダーヴィッド・ヘプケン。

 彼は小柄な成人男性のような容姿をしているが、それは彼らドワーフという種族が人間に比べて背が低いが、体毛が濃くなりやすく、筋肉が発達しやすい性質を持つ故であり、彼自身は来年で卒業してしまうが、学生だ。

 あまりにも貫禄があるため、その鍛冶師としての技術力に対する信頼と相俟って、皆に「親方」と呼ばれて、慕われている男。

 そのダーヴィッドは、エルネスティが決して荒唐無稽な事を、何の根拠や当てもなく口にしている訳ではないことを理解している。

 幻晶騎士の歴史を大きく塗り替えかねない大発明品、新型アクチュエーター「綱型結晶筋肉(ストランド・クリスタルティシュー)」の提案を、理路整然と説明して自分達を納得させ、驚愕せしめたからだ。

 だが、エルの2つ目の提案は、1つ目の提案以上にダーヴィッド達、騎士鍛冶師(ナイト・スミス)の胸中に大きな違和感を抱かせる物であったのだ。

「ちょっと、エル君。腕を増やすなら背中なんかに増やすんじゃなくて、私達みたいに腰にやってくれるとありがたいんだけど?」

 エルの提案を聞いて、現在改修中の幻晶騎士「トランドオーケス」の女性騎操士(ナイト・ランナー)、ヘルヴィ・オーバーリが抗議して来た。“上半身にある肩から生えた腕と、下半身の腰から生えた腕を組んで”

 フレメヴィーラ王国に多く住まう多種族の中には、人間と同様に幻晶騎士の操縦資格を獲得することの出来る種族もいる。ヘルヴィもそぅ言った種族の一つ。「アシュラ」という多腕型種族なのだ。

 エルはアシュラという名前を聞いたとき、その前身となった地球人「倉田翼」の魂が有する、地球の神話や創作物の記憶から、彼らの腕は背中から生えている物だと思ったものだ。

 だが、フレメヴィーラに住まうアシュラ達は、どうやらケンタウロスと同じ“下半身に4本の脚をもった霊長類”から分岐進化したものらしく、人間で言えば骨盤から生えた脚とは違う2本の肢が、2対目の腕として機能している生き物だったのだ。

 彼らは2対目の腕も人間の腕と同じく器用に動かせるが、それ自体は日常生活では便利でも、幻晶騎士の操縦には役に立たない物だった。

 幻晶騎士はある程度規格を定めて量産される機械兵器だ。国王や騎士団長などの身分の高い人の為に作り出す専用機ならともかく、一部の種族の為だけに大多数を占める“人間の騎操士”では使えない機能を追加することは認められない。

 もっとも、その機能の戦略的な価値が、“一般機を凌駕しているような特殊なもの”ならその限りではないが・・・・・・。

 だが、その時のエルの考えている物は彼ら多種族を“特別扱いする為の物”ではなかった。

「ああ、ヘルヴィ先輩。腰に腕を増やすのも素晴らしいアイディアなんですけど、それだけだと、僕達人間が操縦する時に機能しないパーツになって、死重量(デッドウェイト)にしかならないんですよ。だから・・・・・・」

「いや、その理屈だと背中に腕を増やした所で、どの道死重量になるだろうが!おめぇは何を言ってるんだ!?」

 どう考えても破綻しているとしか思えない理屈を展開するエルに、思わず怒鳴るような声でつっ込みを入れるダーヴィッド。

 だが、エルの言葉には続きがあった。

「混乱させてごめんなさい。でも、最後まで聞いてくださいね?この追加搭載する2対目の腕の事を補助腕(サブアーム)と呼称しましょう。これで握った魔導兵装(シルエット・アームズ)を操縦席に備え付けられた幻像投影機(ホロモニター)に表示される照星(レティクル)と連動するように設計しておけば、人間でも簡単な操作で副腕で握った魔導兵装の狙いをつけることが可能になります。このシステムを火器管制装置(ファイヤコントロール・システム)、背中側で扱う魔導兵装を背面武装(バックウェポン)と呼ばせてもらいますが、このような装備を用意しておけば、単純な攻撃力の上昇というだけではなく、即応性の上昇や法撃をしながらの格闘戦だって可能になるでしょう?」

 これこそが本日二度目の“革命”であった。彼の語る言葉は、その一つ一つが幻晶騎士という概念をバラバラに分解した後、再構成させる魔法の言葉だったのだ。今までの常識を盛大に改造していく少年に、騎士鍛冶師の面々はある種の畏敬にも似た念を抱く。

 しかし、その中にあってヘルヴィだけはなんだかちょっと寂しげな表情を見せていた。

「う~ん、すごく高性能で便利な機能が追加されるって言うのは解るし、私達にも使えそうだから嬉しいけど、結局私達“アシュラの腕”は幻晶騎士の操縦には役にたたないのよねぇ。そこはちょっと残念かな」

 その言葉を聞いたエルは、キョトンとした顔でこう返した。

「いえ、僕はさっき“腰に腕を増やすのも素敵なアイディアです”と言ったでしょう?腰にも腕は生やしますよ。もっとも全ての機体にという訳にはいきませんけど・・・・・・」

 それから彼はまたも語った。多種族のもっている個性を、幻晶騎士という工業製品の量産性と汎用性を殺すことなく、簡易な変更で最大限活かせるような設計を行うという思想を。

 それは彼の前世、地球ではこのように呼ばれている理念であった。“ユニバーサル・デザイン”と。

 

 

 

 演習場に駐機している幻晶騎士「テレスターレ」。幾度かの模擬戦や試験でブラッシュ・アップが図られた試作型幻晶騎士は、その機体に施されたエルと騎士鍛冶師の考えた新機能を試すべく、今日も多腕の騎操士ヘルヴィを乗せて、試験を開始する。

「まずは背面武装ね!」

 ヘルヴィの操作に応えて、幻像投影機に照星が浮かび上がると、背中に追加された2本の腕が、その手で掴んだ魔導兵装を、照星に連動して調整していく。

「発射!」

 操縦桿に追加された引き金(トリガー)を引き絞ることで、ヘルヴィが機体の魔力を背面武装に流し込む。爆炎の基礎系統に連なる魔法の刻まれた魔導兵装は、空中に巨大な火球を生み出し、それを照準された目標に向かって撃ち放つ。

 目標となっている木の板に、火球は見事命中し、テレスターレの背面武装が正常に機能していることを示した。

「命中!ここまではいつも通り・・・・・・魔力貯蓄量(マナ・プール)は大丈夫よね?以前、これを切らして酷い目にあったわ・・・・・・」

 以前行った模擬戦でヘルヴィはテレスターレと共に、学科最強と言われている幻晶騎士アールカンバーと、その操縦者であるエドガー・ブランシュの前に敗れた。

 理由は荒削りな操縦系統ゆえに、綱型結晶筋肉の持つ凄まじい収縮効率と耐久性から来るパワーをそのまま生かした力押しの格闘戦と、背面武装を頻繁に使った法撃戦を、短時間で連続行使したがために、機体の動力源である魔力転換炉(エーテル・リアクター)の生産能を上回る魔力を消費して、使い果たしてしまったからだ。

 この経験を基に、エルと親方達はテレスターレに魔力をより大きく貯めておける結晶筋肉、つまりはアクチュエーターとしての能力を犠牲にして、キャパシターとしての能力を追求した触媒結晶である「板状結晶筋肉(プレート・クリスタルティシュー)」を開発して搭載し、稼働時間の延長を図った。

 搭載する量や構造、取り付ける位置について大いに悩んだが、稼働時間の減少そのものは現段階では避けられないものとして、あくまで緩和措置と考えて妥協した結果、とりあえずの完成を見た。これは「蓄魔力式装甲(キャパシティ・フレーム)」と呼称され、複数建造されたテレスターレの標準装備となった。

 だが、これから試す物は“ヘルヴィのテレスターレ”にしか搭載されていない機能なのだ。すなわち、自分達“アシュラの能力”を活かす為の新機能。

「これより、側面武装(サイドウェポン)の試験に入るわよ」

 ヘルヴィが自分の有する“アシュラの腕”でもって、操縦席側面に用意されたもう1対の操縦桿を掴むと、腰に付いていた“もう一つの腕”が起動し、その手に握られていた2本の剣を振りかざす。

 そう、このテレスターレには計6本の腕が搭載されているのだ。

 しかも、この3対目の腕は背中側の補助腕とは違い、格闘戦すらこなせるほどの十分な量の綱型結晶筋肉を積んだ追加腕(オプション・アーム)なのである。

 3対目の腕が使う兵装システム。その名前こそが、“側面武装”だったのだ。

 これを取り付ける時、多くの鍛冶師が「こんな物を取り付けるのは、やはり人間が操縦するときの死重量を増やすことにならないか?」という疑問符を浮かべたが、エルはこのように返答した。

「そう思って、これはアタッチメントとして簡単に取り外すことが出来る様にしておきました。人間が操縦する場合は、扱いきれないならはずしてしまえばいいんです」

 操縦系統の複雑化を招くのではないかとの声もあったが、

「そういう声も当然あると思って、親方と相談して魔道演算機(マギウス・エンジン)を含めた操縦席のインターフェイスを根本的に見直した結果、新しいタイプの機体管制システムを設計しました。名づけて“統合制御装置(ユニバーサル・コックピット)”です!」

 今まで鐙や操縦桿の位置は、特定の位置に固定されていて、騎操士の体格を操縦席に合わせるという形式であった。

 しかし、統合制御装置はそんな乗り手を選ぶようなやり方ではなく、操縦席の方を騎操士の体格や種族特性に合わせて追加・調整できるような構造に改めたのだ。魔導演算機にも大幅な変更を加えるはめになったため、鍛冶師もエルも、別学科の構文師(パーサー)候補生達も巻き込んでの死の行軍(デスマーチ)と相成ったが、なんとか物にできた。

 この変更により極端な話では、魔法能力や反射神経は十分だが体格が小さいため騎操士になれないとされていた子供や小柄な多種族であっても、幻晶騎士を操縦できるようになったわけである。

「いやぁ、実を言うとこれが一番造りたかったんですよね。これで僕も完全制御(フルコントロール)でなくても操縦出来る様になりました!やったぁ♪」

 開発者の切実な悩みはさておいて、話を試験に戻そう。

「せりゃぁぁぁ!」

 掛け声と共に、テレスターレは標的に肉薄して、上半身にある腕で握った剣と、下半身の腕で握った剣による多段斬りを叩き込んだ。

「よし、追加腕の格闘性能は上々のようね。正直補助腕よりこっちの方が、私達には馴染みがあって使いやすいわ」

 そして、ヘルヴィが追加腕で握っていた剣を離して床に置くと、もう一機幻晶騎士がやってきて、運んできた魔導兵装を追加腕の方に持たせた。

 まだ追加腕の調整は間に合っておらず、巧緻性が上半身の腕と比べて低いため、このような措置が必要なのだ。最終的にはこの辺の作業も、騎操士自身で出来るようにしたいとエルは意気込んでいるが。

「ヘルヴィ。試験は順調のようだな。そ、その・・・・・・この前のようにならなくて・・・・・・安心したぞ」

「う、うるさいわねぇ!その話はもうしないでって言ったじゃない。エドガーのバカ!」

 模擬戦の事を未だに気にしているヘルヴィが、サポート役として傍らに立つエドガーが繰るアールカンバーに向かって、叫ぶ。

「え~、お二人とも痴話喧嘩してないで、試験の続きをしてくださいね~」

 観覧席から拡大されたエルの声が響き渡り、演習場が笑いに包まれる。思わず顔を赤らめる両人。

「わ、わかってるわよ!魔導兵装の試射も始めるわよ!」

 皆が見守る中、ヘルヴィのテレスターレは追加腕で握った魔導兵装で狙いを付けていく。

「まずは火器管制装置との連動機能で撃って見るわね」

 先程の補助腕と同様、照星との連動で追加腕が動いて狙いを定める。そしてまたも火球は発射され、標的を焼き焦がした。

 これにより、もし人間の中にも「追加腕で側面武装を扱ってみたい」と考えた騎操士が出てきた場合、補助腕と連動して動かすことでならその希望をかなえることが出来る様になったといえる。

「次はマニュアル制御よ」

 照星が消えて、ヘルヴィの“アシュラの腕”と連動してのマニュアル操縦での照準が可能となった。 

「(私たちアシュラは生身では、いつもこの状態で魔法を撃ってるんだ。機能自体に異常が無いなら、これでも命中してくれるはずよ)発射!」

 火球は3度目の命中弾となって、度重なる攻撃ですっかり炭化した標的を爆砕した。観覧席に歓声が起こる。

 予定していた試験は全て消化したので、ヘルヴィはテレスターレの魔力貯蓄量を確認する。

(やっぱり、想定されてたとおり魔力消費量は増えてしまってるわね。また鍛冶師学科のみんなが調整作業に追われるのかぁ・・・・・・なんか、かわいそうになってきた)

 度重なる調整作業で疲弊している構文師と鍛冶師の面々を思い出して同情を隠せないヘルヴィ。

 そうこうしている内に、エドガーがヘルヴィに労いの言葉をかけてきた。

「お疲れ様、ヘルヴィ。すごいなテレスターレは、従来の機体よりもはるかに攻撃力、汎用性が上昇している。完全な状態とはまだ言えないが、それでも素晴らしい。それはこの間の模擬戦でよく味わったよ」

「その話はやめてって言ったでしょ!・・・・・・でもまぁ、概ね同意するわ。新型機は素晴らしい機体よ。そしてそれを設計したエル君も。・・・・・・本当にすごい人」

「エルネスティか・・・・・・あいつの人間を辞めている域の戦闘能力や魔法能力はたしかに凄まじいものだな。その上、幻晶騎士の設計や、魔導演算機の編纂まで可能にする技術力・・・・・・正直、凄まじすぎて理解不能なレベルだよ」

 師団級魔獣「陸皇亀(ベヘモス)」の威容に怯えていた自分達よりも前に出て、それを倒してしまったエルネスティの繰っていた幻晶騎士「グゥエール」の姿を、エドガーは今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 その姿は、あの時あれを見た全ての騎操士の脳裏に今なお焼きついているに違いない。

 そんな彼が創り出すものと、それが齎す未来が見たい。そう思ったからこそエドガーも、騎操士学園の教師と生徒一同も、開発に積極的に協力しているのだろう。

「それもすごいけどね、エドガー。あの子の凄さは、もっと別の所にもあるのよ」

「何?どういうことだ?」

 しかし、ヘルヴィの抱いたエルへの畏敬の念は、そんな表面的なものだけに向けられているものではなかった。

「あの子は今の幻晶騎士を壊して、その概念をもっと拡げようとしてるのよ。以前、彼に親方が“どうしてそんなに次から次へと、今までに無い新しい物を創ろうとするんだ?”って聞いたことがあったのよ。そしたら、彼はこう答えたわ」

『だって、今のままでは不足なのですもの。幻晶騎士とは“もっと拓かれたもの”でなくてはなりません。全ての種族の持つ可能性を最大限引き出せる懐の深いものでなくてはならないんです。それでこそ、僕の愛する“ロボット”足りえるですから』

 ヘルヴィや親方達は、彼の言ってる“ロボット”という物の意味が解らなかったが、それは彼にとって、とても大きくて大切なものであることだけは、理解した。

 そして、彼のその“考え方”も同様に尊ばれるべきものだと、強く思ったのだった。

「あの子は変えるわ。幻晶騎士だけじゃない。この国に暮らす人間や多種族の暮らし、ひいてはこの世界の有り様もね」

 ヘルヴィが口にした言葉は、そう遠からぬうちに現実となった。

 エルの提唱した新型機に使われている技術は世界を怒涛し、多くの闘いも起こした。その最中に失われた命や流された血と涙は決して少なくはない。

 だが、彼が願った“全ての人に拓かれたロボット”となった幻晶騎士は、この国に住まう多くの人間や多種族の可能性を、大きく広げる希望の光となっていったのだ。




どうしようw この世界でのカザドシュ事件や大西域戦争の顛末がどういうものなるのか、私にもわかんなくなっちゃったよw
その内、ハイマットフルバーストみたいな6連想形態になってマナプール一瞬で溶かしちゃうようなカルディトーレとか出てくるんじゃなかろうか?w
ジャロウデクが、強奪したテレスターレからティラントー造られる時にオミットされる機能とかいっぱいあるんだろうなぁとか色々想像はできるけど、そこまで書く程の気力が足らないです(><)


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