スーパーロボット大戦Re・disk4 (jupi)
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1話-Twin Gemini

 寄港した佐世保基地にて、ナデシコの通路を歩く伊奈帆は韻子を呼び止めた。

 

「……何?」

 

「韻子。ちゃんと話しておこう。ゆっくり話せる内に」

 

 気まずい気持ちで振り向く韻子。

 

「君に精神的付加をかけていたことは、正直謝るには早いと思う」

 

「別に謝ってほしい訳じゃないわよ……」

 

「ただ韻子やスレインには僕の無理を支えてもらっていたけど、僕もどうにかしたいと思っていた」

 

「……それで?」

 

 韻子はアナリティカルエンジンがどうしても好きになれない。なる必要もないだろうが、それでも婚約者である伊奈帆や自分達すらも救ってきた事実は曲げられない。

 

「あぁ。脳への負担を軽減するには、僕の負担を減らす必要がある。だから、界塚小隊の追加メンバーと会いに行く。一緒に来てほしい」

 

 何となく釈然としない気持ちもありながら、韻子は黙って伊奈帆についていく事になる。

 

 

 数分歩いた先には、やはりというべきかスレインがいた。そしてその奥には。

 

「待たせたね。ユキ姉」

 

「ユキさん!?それに鞠戸大尉まで」

 

 想像より早い二人の合流にも驚いたが、それよりも。

 

「……スレインと何話してたか聞いても?」

 

「ううん。ただの自己紹介」

 

 にこやかに答えるユキと、タバコの火を着けようと背を向ける鞠戸。

 そして冷汗を流しながら顔面蒼白のスレイン。

 

「深くは聞かないけど……スレイン。彼等は?」

 

「あ、あぁ。もうすぐ来ると連絡があったが」

 

 格納庫に搬入されるのはスレイプニールが二機。つまり伊奈帆と同じ練習機だ。

 

「お待たせしました。界塚隊長」

 

「伊奈帆。この二人は?」

 

 伊奈帆や韻子と同じくらいの年齢の兵士が二人。

 

 三影陽弥、三影弥月。

 双子の二人が挨拶に来る。

 

「この二人は北海道でアルドノア搭載の火星カタフラクトを撃墜した経験を持つ。そして」

 

 伊奈帆が左目をおさえてから。

 

「アナリティカルエンジンを作る上での必要な情報をくれた功労者だ」

 

「あ、みなさん。これよかったら」

 

 陽弥がさりげなく土産品を韻子に手渡す。

 

「……笹かま?」

 

「はい。どうぞ。」

 

 北海道から長崎に来たのに不相応な土産。

 もしかしたら、何処かで戦いながら進軍したのか。ただのボケなのか。

 

「韻子」

 

 伊奈帆は韻子に。

 

「陽弥と弥月は、僕と同等の操縦技術を持つ。鞠戸大尉やユキ姉に指揮を任せ、フォローとしてスレインに動いてもらう」

 

 そう告げられて、韻子は理解した。

 伊奈帆が仲間達の事だけではなく、自身の事も勘定に入れた。

 竜宮島での生活で匂わせた退役の意思。

 そして、より確実に生き残るための策。そして他人に頼る事も出来た。

 

「ほんっと、伊奈帆は……」

 

 恐らく伊奈帆なりの気遣いだったのだろう。何となく韻子は嬉しくなった。

 

 ふと、弥月が

 

「あなたが、スレイン・ザーツバルム・トロイヤードね」

 

「は、はい」

 

「火星カタフラクトのゲリュオン、アキダリアという機体の乗り手と面識は?」

 

 一瞬、スレインは黙るも。

 

「確か伯爵と子爵でしたね。何度か会ったことがあります」

 

「そう……今度彼女達の話を、ゆっくりさせてほしい」

 

「えぇ……」

 

 察したスレイン。三影兄妹が火星騎士を倒したのだ。何らかの接触があったに違いない。

 

「なんだか変な感じっすね」

 

「どうした?陽弥」

 

 陽弥は鞠戸に対し話しかける。

 

「火星騎士の幹部だった人と、デューカリオンのエース。それに組み込まれる田舎の一般兵って」

 

「おいおい。この部隊はそんな事言ってる場合じゃないくらいのカオスだぞ?細かい事気にするな」

 

 界塚小隊。

 界塚伊奈帆、スレイプニール改。

 網文韻子、ハーシェル改。

 スレイン・ザーツバルム・トロイヤード、タルシス改。

 界塚ユキ、アレイオン。

 鞠戸孝一郎、アレイオン。

 三影陽弥、スレイプニール。

 三影弥月、スレイプニール。

 

 そして暫定的に指揮系統に組み込まれている黒部部隊も、彼等と動く。

 

 白羽由希奈、青馬剣之介、クロムクロ

 ムエッタ、メドゥーサ。

 ソフィー・ノエル、茂住敏幸、イエロークラブ。

 

 

 

「練習機がこんなにも逞しく見えるなんてな……」

 

 スレインが呟くと、伊奈帆は。

 

「機体の性能が戦力の決定的差にはなり得ない。まぁ、隣のハンガーを見ると比べたくなるけど」

 

 隣はヴァルヴレイヴやファフナー隊がいる。機体性能は歴然だろう。

 

 

 彼等が話していると、スレインにとって見知らぬ女性が歩いてきた。

 それに気付いて驚く韻子。

 

「本当にカオスよね。この部隊」

 

「ライエ……それに……」

 

 伊奈帆にとっても想定外の人物、韻子とスレインの注目が集まる。

 

「エデルリッゾさん!?」

 

 スレインが駆け寄る。

 

「やっと会えました……スレイン様!」

 

 流石に伊奈帆も気にする。

 

「エデルリッゾさん。貴女はアセイラム姫の身代りとしてエフィドルグに拉致されていた筈だ」

 

 エデルリッゾは下を向きながら。

 

「揚陸城に連れ去られた後アセイラム姫殿下と会えるタイミングがありました。そして私を助けるために、ご無理を……そのせいで姫殿下は洗脳を受け……」

 

 涙ながらに語るエデルリッゾを、スレインが頭を撫でる。

 

「私を助けてくれたのはキングガンダム二世と名告る、異形の姿をした王でした……。」

 

 

 




タイトルで分かるかも知れませんが、アルドノア・ゼロの外伝が絡みます。


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2話-暗躍

 

 由希奈は複雑な面持でイエロークラブを見る。

 

「本当によかったのかな」

 

「わからぬ。もしゼル殿が生きていたら怒っていたかも知れないな」

 

 イエロークラブの中でソフィーが纏い手としての契りを交わす。

 コクピットの外でムエッタが、由希奈と同様な顔をしながら機体の調整を行っている。

 重傷の茂住を担いで運んできた騎士ユニコーンは既に伊奈帆の所に向かった。

 

「それにしてもイエロークラブかぁ」

 

 初めて黒部でクロムクロを起動し、初めて戦った相手。

 そして初めて有人機だと知り、敵のエフィドルグ兵の姿を見た。

 初めて人間の姿をした敵が爆散したのを肌で感じた。

 

「そういや、あの時剣之介ったら私の事を拉致したあげく人質にしようとしてたっけ」

 

「ぬ……覚えていたのか」

 

「中々のインパクトだったから。それも思い出。あんたに初めてカレー食べさせた事、買い物に行った事」

 

「……俺としては、学校での創作映画が気になっていた。赤城やカルロス、茅原」

 

「美夏や小春、母さんや叔父さんや先生達も」

 

 話していると、ムエッタが降りてきた。

 

「随分と懐かしい名前だな」

 

「だろうね。」

 

「由希奈、剣之介。ソフィーと茂住の準備は整った。時間が経てば降りてくるだろう」

 

 改修されたイエロークラブ。

 GAUSのコクピットと武装をつぎ込んでいるものの、原型には差ほどの変化は無い。

 

「君たち」

 

「あ、マクギリスさん」

 

 由希奈達に声をかけてきたのは、マクギリスだった。

 

「騎士ユニコーンを見なかったかね?」

 

「伊奈帆さんの所ですよ。あ、界塚小隊に仲間が増えたんですよ」

 

「ほう。それは期待できそうだ。」

 

 マクギリスが去ったと同時に、イエロークラブから声が聞こえる。

 

「セバスチャン!」

 

「申し訳ありません……お嬢様」

 

「構いません。これからも永く、私に使えてください」

 

「このセバスチャン。残りの時間を全て捧げましょう!」

 

 機体から聞こえる茂住の声に、由希奈達は僅かに微笑むのだった。

 

 

 

 その頃のマクギリス。

 伊奈帆の元に向かった頃には騎士ユニコーンの姿がなかった。

 

 

 そして通路で偶然エデルリッゾの姿を確認したので、声をかける。

 

「君がエデルリッゾさんかい?」

 

「は、はい」

 

 合流早々に、生活班に回されて活躍するエデルリッゾ。

 

「聞きたいことがある。キングガンダム二世の件だ」

 

「……貴方がマクギリスさんですね」

 

 今さらだが伊奈帆や他のクルーがいないタイミングで、一人の時に声をかけた。

 

「王より言付けがあります。ボードウィンの邸はエフィドルグの手中に堕ち、アルミリアは最も安全な場所に匿っているとの事です」

 

 マクギリスは理解した。

 安全な場所として自ら視察したのは、エルトリウム。

 地球から離れすぎずに、エフィドルグの侵攻等が確実に影響がない。

 隔離された最高の城といっても過言は無かったのだ。

 

「王は機を見てこちらに合流する予定です」

 

 ふと、騎士ユニコーンと太陽騎士ゴッドが通り掛かる。

 

「……先程彼等にも声をかけられました」

 

「だろうね。」

 

「あの二人には伝えていませんが……真なる敵、という王の言葉が妙に気になるんです」

 

「……あまり気にするまでもないさ。言付け、感謝する」

 

 

 エデルリッゾに背を向けて、人の気配の無い場所で一人になるマクギリス。

 前髪を弄りながら、考え込む。

 

「彼は尻尾を掴めたのか……?」

 

 

 

 その頃の騎士ユニコーンと太陽騎士ゴッド。

 

「やはりキングガンダム二世だった」

 

「ネオ、ゼロ、GP01、キング、そしてゴッド……」

 

「シャッフル騎士、紋章を継承した者達で揃えられたのだな」

 

 一呼吸おいてから、太陽騎士ゴッドが。

 

「なぁ騎士ユニコーン。俺達がこの世界に来た理由はなんだと思う?」

 

「この世界に蔓延る悪の討伐……俺はそう考えている」

 

 考え込む太陽騎士ゴッド。

 

「本当にそれだけだろうか……」



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3話-暴かれた嘘

 

 ヴァルヴレイヴ二号機の生体端末である時縞ハルトは限界をむかえていた。

 

「自業自得だからな」

 

《……エルエルフ。ここはどこだ?》

 

「……地球。日本の佐世保基地だ」

 

 確実にハルトの記憶が欠けてきている。

 

「竜宮島でのデータ送った」

 

《確認した。でも覚えている事は少ないね……。》

 

「……ダイミダラーの戦闘はどうだ?」

 

《記録があるから知ってる。でも》

 

 エルエルフは察した。

 

「忘れているんだな……やはりルーンの欠乏。度重なる戦闘と普段の消費……導き出される結論は」

 

 突如として、エルエルフの近くでガタっと物音がする。

 

「誰だ」

 

「わたしだよ……ねえ、二人とも」

 

 指南ショーコだった。その姿はとても苛立っていて。

 

「今のどういう事?」

 

 黙り込む二人に、ショーコは。

 

「何を隠してたのよ!!」

 

「……説明するしかなさそうだな」

 

 激昂するショーコに、淡々とエルエルフが。

 

「時縞ハルトはルーンの受け取りを拒絶していた。月面基地で合流したその日から、こいつは消えるまでの時間を」

 

 言葉が止まる。

 ショーコが涙を流していた。

 

「どうしてよ……せっかくまた会えたのに……何で離れようとするの……」

 

《ショーコ……僕はもう死んだんだ。あの日カインとの戦いで、自分の力が及ばなくてエルエルフをジャックして、自分の全てを捨てて》

 

「そんなの……」

 

《エルエルフ。ごめん、少しショーコと二人にしてほしい》

 

「あぁ」

 

 コクピットから出るエルエルフと交替で、ショーコが入る。

 モニターの平面映像からハルトが消えて、ナデシコで開発された立体ホログラムとして現れる。

 

《ショーコ。僕は生きている人間を犠牲にしてまで生きていたいとは思わない》

 

「そんな事言わないでよ……わたしのルーンを」

 

《駄目だ。これは僕の人生だ。皆の為に僕自身を使いきりたい。それに》

 

 ハルトは一息入れてから。

 

《もうショーコに触れられないのが悔しいんだ。僕はあんなにもショーコの事が……》

 

 ショーコが顔をあげる。

 

《好きだったのに……》

 

 二人は目をあわせられない。

 

《やっと言えた……随分と昔から言えなかった。もしかしたら僕はモジュール77の神社でこれを言いたかったのかも知れない。もうあの日の事は思い出せないけど、大切な何かがあったのは間違いなかったんだ》

 

 ショーコの手が震える。が、いきなり顔を上げる。

 

《……ショーコ?》

 

「こんなの許せない。奇跡的な両思いだったのに、そんな結末……」

 

《り、両思い!?》

 

「そうよ!両思い!わたしもハルトがずっと好きだった……」

 

 未だ興奮冷めやらぬショーコは。

 

「……決めた!」

 

 ハルトが肉体を持っていたら驚きに半歩下がっていたかもしれない。

 

「何とかする!そしてハルトに無理させない!」

 

《ま、待ってショーコ》

 

「待たない。それに無理をしようとするなら、多少酷いこともする」

 

《……何を》

 

 いきなり手動でコクピットハッチを開く。

 

 何処かへと走っていきながら、何やら誰かと通信で話しているではないか。

 

 

 何も言わず出ていかれ唖然とするハルト。

 さらには焦った様子のエルエルフがハルトの所まで駆け付ける。

 

「時縞!臨戦態勢をとれ!」

 

《はぁ!?なんで》

 

 乱暴にシートに座るエルエルフ。

 

「状況を察しろ!あれを見れば何も疑う事はないだろ!」

 

 時縞ハルト、ヴァルヴレイヴ二号機の前に立ちふさがるのはヴァルヴレイヴ一号機、指南ショーコ。

 

「ハルト!あなたが戦わないように、これ以上自分を失わないようにする!」

 

 ヴァルヴレイヴ一号機がジーエッジを抜き、構える。

 

 格納庫から作業員が次々と逃げ出し、誰かがシャッターを開ける。

 それを見てエルエルフはヴァルヴレイヴ二号機を起動させて外へ移動する。

 

「よせ指南!ダメージを受ければルーンが漏れるだけだ!」

 

「……その対策はある!」

 

 遅れて起動したのはヴァルヴレイヴ六号機。

 

「戦闘を出来なくして拘束する!」

 

《ちょっと待ってショーコ!……アキラちゃん!?》

 

「待たない……気持ちはショーコちゃんと同じ……抵抗しないで。今仲間を呼んだ」

 

 ヴァルヴレイヴ六号機を敵にまわす、エルエルフにとって最悪の展開だ。

 

「……俺達はあの総理大臣を侮っていたようだ」

 

 エルエルフが苦笑いする。

 ヴァルヴレイヴ六号機の背後から現れるのはマークザイン、インフィニットジャスティス。

 

《どうしてそこまで……》

 

「時縞。前から気づいていたが、お前の惚れ込んだ女は時々……」

 

《あー。言わないで。影でキチガイとか言われてるのは知ってるから》

 

 時縞ハルトは自らの力で戦うことを選んだのだが、それを望まれなかった。

 

 離れた所では流木野サキが呆れ顔を見せている。

 

「どうするんだ?」

 

《……受け入れよう。ショーコや皆の気持ちを》

 

 次の瞬間、インフィニットジャスティスがヴァルヴレイヴ二号機の右腕と右足を切り捨てる。

 

「ハルト……お前はここにいる。まだ消えちゃだめだ」

 

 切断面をマークザイン、一騎によって結晶化させられる。

 

《……ほんと、ショーコらしいや》

 

「無力化の手際が良すぎる。これはミスマル艦長の指揮か」

 

 次の瞬間にはヴァルヴレイヴ六号機のハミングバードにつつかれた。

 

「時縞。もう」

 

《あぁ。僕らの負けだ。後で二人でお説教を受けよう》

 

 ヴァルヴレイヴ一号機が、左腕と左足を斬る。

 

 結晶化、行動不能になるエラー。

 

 確実な無力化を果たされた。

 

 

 



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4話-微笑と苦笑い

今年最後の投稿です。

来年もよろしくお願いします。


 

 ヴァルヴレイヴ二号機の拘束が終わり、パイロットが集まっていた。

 

「ハルト!エルエルフ!正座!」

 

 どこかスッキリした顔をしたショーコが、お説教を始めた。

 生体端末であるハルトは立体映像として姿を出して一応正座する。

 エルエルフも渋々嫌々正座させられ、慣れない姿勢にモゾモゾする。

 

「ごめん、ショーコちゃん。わたしも知ってて黙ってた」

 

「アキラちゃんは悪くない。どうせハルトが言わせなかったんでしょう」

 

《そう言うのだけは察しがいいよね》

 

「黙らっしゃい!」

 

 彼らのやり取りを微笑を浮かべながら遠巻きにみているのは、流木野サキ。

 

(犬塚先輩と山田が見てたら、どんな顔してたかな……)

 

 不意にショーコが。

 

「そうよエフィドルグ。ハルトの為に複製人体の製法を盗もう!」

 

 その台詞が聞こえたので思わず注視。

 

「ハルトのルーンを流し込めば復活出来る!」

 

《流し込むって、液体じゃないんだけど》

 

「黙らっしゃい!」

 

 正座しながら笑いだすエルエルフ。

 

「必死だな総理大臣。両思いがわかった途端に強気じゃないか」

 

 冷やかされ顔を赤くする。

 

「黙っ」

 

「ほんっと、幼馴染は最強ね」

 

 サキも話の輪に加わる。

 

「それで参謀さん?さっきの総理大臣の発言について感想は?」

 

「悪くない案だ。作戦の一部に組み込んでいい」

 

 エルエルフは正座しながら。

 

「どのみちエフィドルグとの交戦がある。ムエッタにも協力してもらおう」

 

 

 

 

 

 ナデシコとアークエンジェルの修理や補給が終わり、機体の積み込みも落ち着く。

 ヴァルヴレイヴ隊の一騒動もあり、ショーコが各関係部署に謝りに行ったり。

 

「富山への進軍を開始する?」

 

「はい。既に衛星軌道上でエフィドルグの揚陸城が集結しているとの連絡がありました」

 

 エルエルフがミスマルと話す。

 

「揚陸城の動きは常にエルトリウムを含む宇宙軍艦隊が補足していました」

 

「それは小耳に挟んでいたが……」

 

 モニターには落下予測地点や落下軌道、さらにはそれの影響による被害範囲や避難指示箇所等。

 

「こんなにも細かなデータが送られるとはな」

 

「これは黒部研究所の功績です。過去に落下した揚陸城からデータを吸いだし利用しているとの事です」

 

 同席しているのはユリカとエルエルフ、伊奈帆とキラ、そして。

 

「地の利は我にありってやつですよ」

 

 由希奈が士官会議に顔を出した。

 

「母が研究所の所長に戻って、最近のエフィドルグの動きを察知して独自に動いていたんです」

 

「しかし防衛戦力はどうなっていたんだ?主力であるクロムクロは火星に、メドゥーサも黒部を離れていた」

 

「基本的にはGAUS隊がいましたし、トムさんやシェンミーさんの部下が……あぁ。そうだ。敵艦のバリアもありました」

 

「バリアって?」

 

 由希奈がテンポ悪く説明する。

 揚陸城(富山に落下したのは正しくはエフィドルグ製の戦艦だった)から射出された数十の柱が結界を作り、住民や兵士を隔離して逃げ出せないようにした。そしてこれらを洗脳兵にしたてあげ、同士討ちを強いられていたらしい。

 

「確かに現地の護りはあったけど、今回は……」

 

 キラが追加して。

 

「地球圏内にいたエフィドルグの揚陸城が全て集結した今、この十隻が相手となれば富山の結界は役に立たないだろうね。落下の衝撃を押さえる事と、落下する前に撃墜する事、そして落下してきた戦力を潰す事」

 

「恐らく先手はこちらになる」

 

 次に伊奈帆。

 

「エルトリウムからの光子魚雷とシズラー隊等で集結した戦力に対して攻撃。落下して逃げてくる揚陸城をナデシコとアークエンジェルの艦砲やスーパーロボットでの迎撃。落下後の衝撃は……」

 

「ダイミダラー隊とゼロファフナーが頼りになるはずだ。だが今回は」

 

「例の作戦でグレートゼオライマーとバサラの歌は使えない。既に‘マクロス艦隊のバトル7’が合流予定ですしね」

 

 伊奈帆の次に発言したのは由希奈だった。

 

「提案なんですけど、ヴァルヴレイヴ六号機とかオモイカネでどうにかなりません?」

 

「と言うと?」

 

「既にエフィドルグの艦は一隻黒部にあるから、こう……命令を送信して落下を和らげたり、揚陸城同士をぶつけたり」

 

 由希奈の発言にユリカが。

 

「ん~。外部からの命令って受け付けるのか不安だよね……」

 

「……いや」

 

 再び伊奈帆が。

 

「方法はあります。これは三影兄妹がもたらしたデータですが」

 

 表示したのは‘アキダリア’と言う名の火星カタフラクト。そして‘ソルジャージャベリン’と言うアルドノア兵器。

 

「この装備を揚陸城に突き刺せば受信機の役割を果たします。ヴァルヴレイヴ六号機が中継役をすれば、オモイカネを通じて命令が出来るはずです」

 

「何発ある?」

 

「三発です。少なくとも三隻は無力化出来るかと……ただあれは北海道の基地にありまして」

 

 伊奈帆が言い淀んだのを察してユリカが。

 

「アキトに取ってきてもらうわ。連絡しておく」

 

 話中に通信が入る。

 

「ユリカさん。黒部研究所から連絡が来ています」

 

「ルリちゃん。誰宛かってわかる?」

 

「由希奈さんです。なんか同窓会のお誘いらしくて」

 

 誰もが首をかしげた。

 

 

 

 

 

 



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5話-譲れない願い

 

 送られてきた情報によると立山国際高校の同窓会が、揚陸城落下三日前にあるらしい。

 

「防衛戦力の配置や我々統合革命艦隊が黒部に向かう情報が、一般向け動画投稿サイトで流されている……」

 

 エルエルフが溜め息をつくと、由希奈に向き直る。

 

「……たぶん犯人は知り合いです。捕まえていいですけど、殺さないであげてください」

 

 その犯人は黒部研究所から情報を盗み、投稿していたのだ。

 恐らく親族が研究所にいるとか、そんな所だろう。

 

「同窓会は中止させるべきだ」

 

「え~。」

 

 エルエルフの発言に由希奈は悲しげな眼差しで見つめる。

 

「いくら三日前とはいえ、危険地帯である事に変わりはない。それに」

 

 悲しげな眼差し。

 

「……仲間を巻き込む気か?」

 

 悲しげな眼差し。

 

「……けち」

 

「なっ!?」

 

「だって私はともかく、剣之介とムエッタは五年ぶりに地球に戻ったんだから少しくらい……」

 

 由希奈の台詞に、今度はユリカが。

 

「はいはーい。提案。ナデシコを会場の横に停泊させれば大丈夫じゃないかな?」

 

「緊急時にはボゾンジャンプで退避か……いいんじゃないかな」

 

 キラが賛同。

 

「地形的にも、情況的にも問題はないはず。今回は遭遇戦とは違うから」

 

 伊奈帆賛同。

 

「あ、勿論わたしは由希奈ちゃんの味方だよ」

 

 ユリカが賛同する。つまり。

 

「エルエルフさんは?」

 

「……どうなっても知らんぞ……」

 

 エルエルフは渋々了承する事になった。

 

 

 

 

 それから数時間後、グレートゼオライマーとVF-31改ネオファイヤーバルキリーが宇宙にいるエルトリウムに向かって出発した。

 

「それで空から降ってくる城に毒針を撃つのが俺達って訳か」

 

 三日月が昭弘と話す。

 

「うん。精密射撃の観測をグシオンリベイク。俺のバルバトス・スレイブがバンカーバスターで穴を開けながら針を刺すんだってさ」

 

 二人一組の狙撃作戦。

 ソルジャージャベリンが三発あり、それぞれを役割分担して撃ち込む。

 バルバトス・スレイブとグシオンリベイクのA班。

 マークザインとジーベンのB班。

 そして。

 

「あの組合せは意外だったな」

 

 マークニヒトとストライクフリーダム。

 

「まぁ、あの二人なら信用出来るでしょ」

 

「……三日月。お前、最近変わったかもな」

 

「そう?」

 

「なんとなくだ。阿頼耶識に片腕を奪われたり、フェストゥムと対話したりな」

 

「……いや、多分キラ・ヤマトの戦いを見たからかもしれないよ。自分でも感じてた」

 

「そうか……」

 

 三日月は話ながら視線をストライクフリーダムからクロムクロに移す。

 

「次の戦場は鬼の本丸ってオルガが言ってた」

 

「……地べた這いずり回って戦うのが俺達らしい。揚陸城だろうが何だろうが潰すのみだ」

 

「エフィドルグに遠慮はいらない。洗脳されてる連中はなんとかしてくれるから、後は皆殺しだ」

 

 

 

 そんな二人を遠目で眺めていたのはオルガだった。

 

「お前は家族を見ている顔が一番いいな」

 

 そんなオルガに声をかけたのは、やはりムエッタ。

 

「……だったらお前もなるか?」

 

「一応聞くがそれは」

 

「お前の気持ちに応えたい。だから」

 

 オルガが右手を差し出す。

 

「所謂あれだ。剣之介と由希奈みたいに……えっと……」

 

「よろしく頼む」

 

 オルガがモタモタしている内に、ムエッタが手を握った。

 

「私には何もない。由希奈達のような仲間こそあれど、家族が居なかったのだ。それが羨ましく、欲しかったのだ」

 

「……その辺はゆっくりしようぜ。いきなり飛ばしすぎというかだな」

 

 顔を真っ赤にしたオルガが。

 

「今度富山って場所に行くんだろ。一緒に歩こうぜ」

 

「何処だって一緒に行くさ。モノノフの、いや女としての私は、お前を放す気は微塵もない」

 

 

 二人はそれぞれの持ち場に戻る。

 

 ムエッタはナデシコにメドゥーサを積み込み、オルガは鉄華団としてアークエンジェルに向かった。

 

 



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6話-この空の先に

クロムクロやアルドノア・ゼロがメインの回です。


 

 アークエンジェルとナデシコが佐世保基地から出発。

 

「基地でガンバスターを一度も見なかったのですが、一体どこへ?」

 

 スレインがノリコに声をかけた。

 

「ちょっと沖縄にね。お墓参り」

 

「そうですか……しかし沖縄ですか。さぞや海がきれいで、青い空が広がってるんでしょうね」

 

「それはそうね。でも見慣れちゃってるから一々感動とか無いけど……宇宙暮らしが長いとたまに見たくなるのよ」

 

 

 二人の会話を聞いていた伊奈帆がスレインを手招きしてよぶ。

 

「なんだ?」

 

「スレイン。君は空が青い理由を知っているか?」

 

「どうした急に……。あれだろ?大気を歪めるほどの光の屈折によるモノだ」

 

 伊奈帆は目を会わせずに、電子パネルを弄りながら。

 

「……中々に詳しいじゃないか。あぁ、そうだこれ」

 

「なんなんだ……」

 

「気にするな。チェックを頼む」

 

 今までの戦闘データや富山の地形データ等をタルシス改に送るため端末を手渡して確認させる。

 

「やっぱり君だったか……」

 

 伊奈帆はアセイラム姫の事を思い出す。

 

 

 

 アークエンジェルとナデシコは富山上空に到着。

 

「なんだあれは……」

 

 剣之介の開いた口が塞がらない。

 

「見るの初めてだもんねぇ。あれは‘富山国際きときと宇宙港’って言うんだよ」

 

「きときと?」

 

「ほら。イエロークラブが自爆した場所」

 

「なんと……」

 

 ふと、剣之介が寂しげな顔を見せたのを由希奈は気付いた。

 

「剣之介?」

 

「……すまぬ。変わり行く風景に、自らが羽柴家に使えていた頃から次第に遠ざかっていくのを痛感してな……」

 

 由希奈が剣之介の手を握ろうとすると、何やらバイブ音が。

 

「剣之介?スマホ……って、懐かし」

 

 火星で充電が切れても手放さなかったスマホ。

 剣之介にとって由希奈達との連絡手段だった故に大層大事にしていた。

 エルトリウムに乗った段階で充電はなんとかなったものの、普段から由希奈が近くにいた影響もありスマホを使う必要がなかった。

 そして、富山上空でスマホに通知が来て初めて由希奈はそれを知る。

 

「あ、あんた……その待ち受け……」

 

 由希奈の高校生時代の制服姿だった。

 

「……由希奈。出ていいか?」

 

 表示される発信者の名は‘美夏殿’となっていた。つまり由希奈の親友。

 

《もしもし剣ちゃん?》

 

「おぉ。美夏殿か、久しいな」

 

 通話先の向こうで何やら捲し立てるような声が響くが、剣之介は隣に座る由希奈が気になった。

 

「なんでそっちに電話するかな……」

 

「すまぬ由希奈……えっと美夏殿?」

 

《ハハハ。あんたらの顔が手に取るようにわかるわぁ。由希奈も相変わらずみたいだねぇ》

 

 顔を背ける由希奈を見て微笑を浮かべる剣之介に。

 

《なんかエフィドルグが来るって聞いて皆ピリピリしてたけど、同窓会は強行することになったのよ。今調度カルロスと文化祭の話で盛り上がってね。》

 

「文化祭……」

 

 はて何をしただろうか。

 わたあめ、焼そば、お化け屋敷、占い……どれも由希奈の顔が浮かぶも、やはりムエッタに刺された事は忘れられそうに無い。

 

《ようするに富山から避難したら暫く戻れないだろうから、同窓会をして思い出を作ろうって事なの》

 

 大切な場所が戦場になり、どれ程の被害が出るかわからない状態になる。

 場合によっては山岳地帯が更地になりかねない。

 

《そんな訳で剣ちゃんにも来てもらいたくて電話したんだー》

 

「そうか……すまぬな。わざわざ」

 

《いいって。とりあえず会場も学校だし遅れないで来てね》

 

「承知した」

 

《それじゃよろしく。ばいにゃー》

 

 通話修了。

 何となく笑顔になる二人。

 

 そして数分後にソフィーと茂住が来る。

 

「そちらにも連絡が?」

 

「うん……」

 

「エフィドルグの動きも気になる所ですが……」

 

 この場で考えても仕方ない。

 

 その結論で、彼らはこの件を棚にあげた。

 



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7話-決意を強くしたモノ

クロムクロメイン回です。


 

 竜宮島部隊の面々は戸惑っていた。

 

 島外派遣に行ったメンバーや、それを聞いていたパイロット達は島の外の世界が滅んだと聞かされていたのだ。

 しかしながら佐世保基地では充分な物資や豊かな自然、人類の英知とも言えるような建築物が普通に残っていた。

 

「我々の知り得た情報は、随分と狭い認識だったのかもしれない。」

 

「総士。俺やお前は日本を見ていた。あれも狭い認識だったのか?」

 

「その可能性があるな。だがこうして平和な場所を知った所で、何も変わることはない」

 

 一騎は総士から真矢に視線を移し。

 

「後輩たちはどうしてる?」

 

「動揺してる。でも」

 

 どこか安心した様子で。

 

「うれしそうだった。何となく希望に満ちた感じ」

 

「……希望か」

 

 ふと現れる甲洋。

 

「多くの人間を守る事を強いられる筈だ。俺達のような存在は」

 

「甲洋。お前はそれが無理だとでも?」

 

「 わからない。しかしより多くの犠牲が積み重なるのは間違いない。」

 

 真矢は総士と一騎を見る。

 恐らくこの二人は限界、父親の台詞を使うなら電池切れ間近だ。

 

「それでも足掻くだけだろ?特に迷う必要もない」

 

 一騎がにこやかに不安を払拭する。

 

 

 

 アークエンジェルが富山きときと宇宙港に入港し、ナデシコは立山国際高校の近くに停泊。

 

 アークエンジェルからは希望者だけがナデシコに機体ごと乗り移っていた。

 

「嵐の前の静けさか……」

 

「アスラン、シン少しいい?」

 

 キラが二人に声をかける。

 

「ラクスの事で話があるんだ」

 

「……エフィドルグに洗脳されてるんでしたね」

 

「あぁ。それで僕たちは狙撃が終わってから全員陽動班になる。ファフナーやハサウェイと一緒に」

 

 アスランはキラの微妙な表情の変化に気づく。

 

「いいのか?自分で突入したいんじゃないか?」

 

「……伊奈帆達や剣之介達は信頼出来る。それに、MSの飛行性能は揚陸城内部では」

 

「キラさんの気持ちはどうなんですか?」

 

 シンはキラの言葉を遮る。

 

「……ラクスを助けにいきたい。やっぱり、もう一度掛け合ってみる」

 

 

 

 

 富山に到着した翌日。

 

 立山国際高校の付近にナデシコを止めて、各機体で敷地内に降りる。

 クロムクロにムエッタも乗せて三人でとある場所に訪れた。

 

「ただいまー」

 

 由希奈と剣之介とムエッタは、由希奈の実家に帰ってきたのだ。

 

「お帰りなさーい」

 

 女子高生が家の奥から走ってくる。

 

「ゆきねぇ……剣之介、ムエッタ!?」

 

「……?」

 

 ムエッタは首をかしげる。

 

「わたしだよ!小春!」

 

「なっ……お、大きくなったな……」

 

 戸惑うムエッタと、開いた口が塞がらない剣之介。

 小春はムエッタに抱きついて離れなかった。

 

「やぁ、お帰り」

 

 さらに現れた薬師和尚。

 

「和尚どの、ご無沙汰しておりました」

 

「そう畏まるな。君たちの部屋はそのままにしてある。少し掃除しといたから、先ずはゆっくりするといい。夕飯は寿司を頼んだから」

 

「……寿司……」

 

 剣之介は涙を滲ませる。

 帰還の悦び。なにより久々の寿司。

 地球に戻ってから一度だけ魚を食べていたが、その響きは侍にとっての褒美。

 

「寿司とは?」

 

 ムエッタが尋ねると、由希奈より先に剣之介が。

 

「見てからの楽しみにしてほしい……」

 

「そうか、楽しみだな……」

 

 

 

 

 その後それぞれが部屋で休む。

 

「剣之介」

 

 彼の部屋に由希奈が訪れる。

 

「どうした由希奈」

 

「その、伯父さんとお母さんに私たちの事話そう」

 

「そうだな……御母堂が戻ればすぐに」

 

 由希奈の母親は未だ研究所にいる。

 

「……緊張してきた。戦の前よりも」

 

 結婚の許しを貰う、二人にとって一大イベントが待っていたのだ。

 

 

 



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8話-覚悟の時

クロムクロメイン回


 

「遅い!」

 

 事前に連絡のあった時間より早く黒部研究所の予定場所に到着した伊奈帆とユリカ、エルエルフとキラ、総士。

 

「手短にお願いね。この後娘達とお寿司なんだから」

 

 白羽所長は苛立たしげに、彼等を迎えた。

 

「全く、剣之介くん達も一緒に来れば良かったのに」

 

「ならば早速」

 

 エルエルフが電子端末を開く。

 

「現在、エフィドルグ製の戦艦を流用した観測によって敵の動きを完全に把握出来ているわけだが」

 

「あれだけの数で一気に降下されたら守備隊でも無理なのよ」

 

「その守備隊は全て下がらせてほしい」

 

「え……」

 

 驚く所長を無視してエルエルフはユリカに視線をおくる。

 

「えっと、ナデシコで戦闘となるとディストーションフィールドの展開は避けられません。既にGAUSの重力制御に影響が出ることは確認されています」

 

「歩兵やドワーフも下げてほしい。騎士ユニコーンと太陽騎士ゴッドがいればカクタスの相手には充分余裕がある」

 

「つまりその……」

 

「研究所から職員全員を退避させる事をすすめる」

 

 

 

 数分後に、ユリカはエルエルフと話す。

 

「あんな言い方で良かったのかな……」

 

「あれでいい。責任感が強い相手を逃がすには、足手まといとハッキリと理解させてやるのが一番だ。それに」

 

「籠城戦をするつもりはないものね。揚陸城が落下する場所にわざわざいる必要もないから」

 

 コーヒーを飲み干して、エルエルフはユリカに尋ねる。

 

「今作戦、勝率は?」

 

「……四割……かな」

 

 

 

 ムエッタと小春が風呂から出ると、ムエッタは満足気に由希奈に声をかけた。

 

「小春、随分と育ったな」

 

「まあね。育ち盛りだし」

 

 一息入れてから。

 

「私と剣之介……身体的成長って無くなってるんだよね」

 

「ソフィーと茂住もな。死ななければいくらでも長生きできる」

 

「でも小春とか、他の人達とは同じ時間を過ごせない」

 

 ムエッタは黙りオルガの顔を思いだす。

 

「我々だけではあるまい」

 

 二人の会話が聞こえていた剣之介が加わる。

 

「ヴァルヴレイヴ隊とは同じ時間を過ごせる。騎士どの達はどうかは知らぬが……あまり悲観するのはやめた方がいい」

 

 話していると、玄関の方から話し声が。

 

「お母さんかな?」

 

「寿司ではないのか?」

 

「……」

 

 ムエッタは先程の会話を深く考える事になった。

 

 

 

「あなた達お帰りなさい。元気に帰ってくれたのが何よりの救いよ」

 

 白羽洋美が娘を抱き締める。

 

「剣之介くんもムエッタも、よくぞ戻ったわ」

 

「ご心配をおかけした」

 

「また会えて嬉しい」

 

 一通り挨拶を済ませて、茶の間に腰を落ち着かせる。

 

「で、彼方達。結婚する気なんでしょ?」

 

 剣之介と由希奈がお茶を吹き出す。

 

「ちょ、お母さん!」

 

「だって茅原くんの動画は世界中に配信されてるのよ?」

 

「あ……うん」

 

 すると意を結して、剣之介が姿勢をただす。

 

「御母堂、由希奈を我妻に迎え入れたく……つきましてはその許しを」

 

「別にいいわよ?」

 

 あっさりとし過ぎていて、思わず固まってしまう。

 開いた口が塞がらない剣之介は姿勢をただす事もなく、土下座のまま動けない。

 

「やっと寿司が来たのう」

 

 届いた寿司をテーブルに置く和尚と、小皿と箸を並べる小春。

 

「由希奈」

 

「あ、はい」

 

「お醤油」

 

「……いやいや、親子の一大イベントだよ!?もっとこう……」

 

「神妙に剣之介くんを試して意地悪した方がよかった?」

 

 小声で「うっ」と声をあげてしまう剣之介の横で、由希奈は溜め息をつく。

 すると洋美は。

 

「何年も前から家族じゃない。そりゃあ高校生の頃に通信で求婚は皆で聞いてたけど」

 

「それは掘り返さないでほしかった……」

 

「とっくに認めてたし許してたわ。今更騒いでたら、それこそ私が世界中から大ブーイングの的よ」

 

 話ながらそれぞれがムエッタの表情に気づいていた。

 

「なんだこの美しい食べ物は……」

 

 目を輝かせていたムエッタは、その数分後にワサビという洗礼を受けることになった。



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9話-いくつかの不粋

クロムクロメイン回です


 

 白羽家での食事が終わり、洋美は直ぐに出発の支度をする。

 

「やれやれ……もう研究所に戻るわ」

 

「帰ってきたばかりなのに……」

 

「……流石に今回は仕方ないわ。エルエルフって人に即時退去するように言われてるから。やること満載なの」

 

 靴を履き終えて。

 

「次に男をつれてくるのは、小春?それともムエッタ?」

 

「ならば、つれて来てもいいだろうか?」

 

 ムエッタの発言に、全員が静止する。

 

「ちょ、ちょっとムエッタ!?まさか」

 

「ムエッタどの……いつの間に……」

 

 由希奈と剣之介が取り乱す。

 

「あぁ。想いを受け止めてもらった」

 

 僅かに頬を染める。

 

「あらまぁ。あなた変わったわねぇ……さぞやいい男なんでしょう。おっといけない。それじゃあね」

 

 足早に去る母親を見送ってから、小春と由希奈はムエッタの両脇を掴む。

 

 賑やかな訊問が始り、時間を忘れるような夜を過ごすことになる。

 

 由希奈は夜の内にソフィーや韻子、ユリカや真矢にメールを送る。自らの結婚の事、ムエッタの事……。

 ふと縁側から話声。剣之介だ。

 

「すまぬ。色々と相談に乗ってもらったが何一つ実行できなんだ」

 

 誰と話ているのだろう?電話先の相手の声は聞こえない。

 

「テンカワ」

 

 アキトさんか。由希奈は聞く耳を立てるのをやめて自分の部屋に向かおうとする。

 

「……拙者は由希奈と添い遂げる。故に悩むのだ。どのタイミングで押し倒せばいいのか」

 

「何て事相談してんのよあんたは……」

 

「ゆ、由希奈!?」

 

 剣之介が慌ててスマホを誤操作して、スピーカーをオンにしてしまう。

 

《俺とユリカの時は難しかったんだ。ルリちゃんも一緒に暮らしてたから……でも結局気付かれて、気を使われて。って剣之介?聞いてるのか?おーい》

 

 由希奈はスマホを取り上げて。

 

「あのアキトさん?剣之介に変な事教えないでもらえると」

 

 ツーツーとスマホから鳴る音。

 

「逃げたし……」

 

「えっと……」

 

 気まずい雰囲気の中、スマホを返す。

 

「じゃあ、おやすみ」

 

 由希奈はそそくさとその場を離れる事になった。

 

 

 

 次の日の朝。

 

 二人は家の庭に着陸させていたクロムクロに乗る。

 

「ムエッタはどうする?」

 

「オルガが迎えに来る、それから少し時間を潰してから合流する」

 

「そっかぁ」

 

 ニヤニヤしながらムエッタから家族に視線を戻す。

 

「それじゃ。またね」

 

「先に避難しているからの。早いとこ平和にしてくれよ」

 

「うん。わかった」

 

「由希奈、ムエッタ、そして剣之介。必ず生きて帰るのじゃぞ。お主らに経を唱えるのだけは勘弁じゃ」

 

「和尚……承知した」

 

 二人はその後、途中で羽柴家の城跡に華を添えてから、由希奈の父親の墓前に挨拶に行った。

 

 

 クロムクロが飛び発ってから、僅か数分が経過した頃。

 

「わりぃ。またせた」

 

「それはいいのだが……」

 

 小春と和尚が遠巻きで見ていることより、オルガがスーツ姿で現れた事と……。

 

「車で来ると思っていたのだが」

 

「書類上の手違いで借りられなくてな……取りあえず乗せてもらってきた」

 

 白羽家の庭に立つのはバルバトス。場違いにも程がある。

 

「ラミアス艦長がバルバトス出すのを許してくれたのが謎なんだが……」

 

「……そうか……では行こう」

 

「お、おう。じゃあミカ、サンキューな。」

 

「うん。アークエンジェルに戻るよ」

 

 バルバトスの中から三日月が二人を見てから、アークエンジェルに戻ろうとする。

 

「……面白いな。あんなオルガ初めてだ」

 

 

 

 

 一方の由希奈と剣之介。

 同窓会の会場に到着。既に校舎の前に数人の男女が並んでいた。

 

「おかえりー!由希奈、剣ちゃん!」

 

 先に到着していたソフィーのイエロークラブの隣に着陸。

 待っていたのは赤城、カルロス、美夏だった。

 

 挨拶もそこそこに、会場である体育館に足を運ぶ。

 

 思出話に花を咲かせつつ、火星での出来事等を語る剣之介。

 

「ところで茅原は?同窓会とかなら撮影してたっておかしくはないけど」

 

 由希奈の問いかけに、カルロスが。

 

「普通に逮捕されてるはずや。あいつの事だから仕方がない」

 

 誰もが飽きれ顔になる中、由希奈のスマホが鳴る。相手はエルエルフだった。

 

「白羽。楽しんでいる所無粋な電話をしてすまないが」

 

「それは許しません、ってか連絡先エルエルフさんに教えてないんですが」

 

「……連坊小路アキラに繋いでもらった。それでだ」

 

 もしかしたらエルエルフは由希奈と絡むのが苦手なのだろうか。

 

「緊急なんですか?」

 

「ある意味な。実はお前の友人の茅原という男なんだが」

 

「え、友人ではないですが」

 

 通話先から溜め息が聞こえたので、流石に由希奈は黙る事にした。さっさと話を終らせて同窓会に戻りたい。

 

「エフィドルグに拉致された可能性がある。防衛隊の映像記録に映っていたらしい」

 

「ちょっと待って下さい。それじゃあ」

 

「市内にエフィドルグがいるのだろう。警戒しておくんだ」

 

 由希奈はガックリする。

 エフィドルグといい、エルエルフといい、本当に無粋だと。

 

 




ヴァルヴレイヴもからみました


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10話-影、動く前に

クロムクロメイン回、一区切り。


 

 同窓会は弱冠進行のペースを早めてお開きになった。

 結局ムエッタは合流せず、同窓会も由希奈達の激励が主となったイベントに過ぎなかった。

 

 由希奈の知らぬ間に、剣之介が美夏から‘一肌脱いでほしい’と話があったのだが結局は裸踊りで周囲を賑わせる余興担当と言う事だった。

 

 彼が何やら美夏に真剣な話をしているのを、ソフィーは見逃さなかったがそれはまた後の話に。

 

 

 過去の学園祭の映像やカルロスが作った映画擬き。さらに由希奈が剣之介を見送った茅原の配信映像など。

 さらには小さな華飾りと、寄せ書き。

 

「美夏。ちゃんと逃げるんだよ。ここから先は本当に危ないんだから」

 

「分かってる。由希奈や剣ちゃんの邪魔したくない」

 

 由希奈は美夏と包容を交わす。

 一方で剣之介は赤城と対峙していた。

 

「いつだったか、由希奈の事を頼んだ事があったな」

 

「あの時のお前の顔、実にカッコ悪かったよ」

 

「言うな……」

 

 剣之介が気不味い顔でいるのを、鼻で笑う赤城。

 

「青馬、今度は由希奈だけじゃねぇ。生まれ育った場所を守らなきゃいけない戦いだ。俺も後方支援で軍用機整備士として働いてる。まぁ黒部の外なんだが」

 

「お主も戦っていたのだな……」

 

「そういう事だ。お互い気張って行こうぜ」

 

 赤城はバンダナを外し、剣之介に渡す。

 

「こいつで気合い入れていけ」

 

「……汚いな。まぁ洗って使おう」

 

「ぶち壊しな感想ありがとうよ……」

 

 

 

 仲間達の見送りを背に、クロムクロは発進した。

 

「こちら由希奈。ムエッタ?どこにいる?」

 

 通信機でムエッタに連絡をとろうとした。

 すると何故か薄暗い背景にムエッタが映る。

 

「由希奈か。すぐに合流する……場所は」

 

 由希奈の家から少し距離がある駅付近の飲食店。

 どうやら酒類を扱っている場所のようだ。

 

「オルガが酔いつぶれてしまってな。すまないが迎えに来てほしい」

 

「わかった」

 

 通信を切って苦笑い。

 

「舞い上がったのか、緊張したのか」

 

 剣之介はオルガに同情する。

 

「ムエッタ殿は酔わない。そしてオルガは弱い。結果は見えていただろうに」

 

「オルガさん、落ち込まなきゃいいけど」

 

 

 

 

 クロムクロの背中、クロウにムエッタとオルガを乗せて一度ナデシコに戻る。

 

「中々に面白かった。オルガがバスを乗り違えたり、酔いつぶれたり」

 

「あ~。ムエッタ、その話はしないであげてね」

 

 ナデシコが発艦。

 その日の内に残っていた住民の避難が終わり、富山きときと国際空港にてアークエンジェルと合流する。

 

「随分呆気ない同窓会でしたこと」

 

「でもまぁ皆の顔見たら、また頑張ろうって気になったよ」

 

「そうですね……」

 

 ソフィーと由希奈がブリーフィングルームに入る。

 

「遅かったな」

 

 エルエルフが出迎えた。

 

「エフィドルグに動きがあったのですか?」

 

「あぁ。この映像を見てほしい。」

 

「うわ」

 

 エフィドルグの使用する揚陸城からビームが射出され、少数の人間を捉えたかのように、浮かせて拉致する。

 カクタスの他にも、鳥のようなグロングルがいるではないか。

 

「ブルーバード……」

 

 かつて黒部を襲ったグロングル。

 その纏い手は血戦の後に捕縛、黒部研究所の牢に居た筈だ。

 

「研究所の警備はガバガバだった。抜けられても理解出来る」

 

 エルエルフの溜め息交じりの声、由希奈は目をそらす。

 

「あれ?ここに何か映ってる」

 

 由希奈が指差したのはビーム射出場所付近の砲口より少し上。エルエルフも見落としていた位置。

 

「イエロークラブ?いや、でもこれは……」

 

 黄色く肩の辺りがガッシリした機体が見えた。

 頭部の形はグロングルタイプとはあきらかに違う。

 

「この黄色いの……もしかしてヴァルヴレイヴ?」

 

 映像の解像度を上げると、エフィドルグの揚陸城に黄色いヴァルヴレイヴの姿を確認する形になった。

 

 

 

 

 



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11話-吐き出す言葉と

鉄血のオルフェンズと無敵鋼人ダイターン3が絡んだり


 

 エフィドルグの戦力は過去のパイロット達やロボット云々をコピーして闘う‘複製体’と、カクタスから出される小型機による‘洗脳体’の二種類がある。

 

 その本体は未だ確認できず複製体と洗脳体を倒すのが目的となっていた。

 

「誰が出てても動揺せずに勝利するしかないだろう」

 

 ブリーフィングでエルエルフが顔色一つ変えずに放った言葉が、誰にとっても難しい。

 それを察していた伊奈帆が。

 

「竜宮島ではバサラや太陽騎士ゴッドが先導して事なきを得たけど、やはり過去の仲間や主敵を前にして無関心でいられるとは思えない」

 

 すると、万丈が部屋を出ていく。

 

「万丈さん?」

 

「すまないが気分が優れない」

 

 

 

 

 

 夜風にあたっていた万丈は人の気配を感じ声をかけた。

 

「オルガ・イツカ……ブリーフィングに来ていないと思ったが」

 

「よ、よう、万丈」

 

 青い顔をしたオルガが、うなだれていた。

 

「ムエッタと富山を探索しにいっていたのだろ?どうした」

 

「深くは聞かないでほしいんだが……いや、それより」

 

 オルガは万丈の顔を見て。

 

「ひでぇ面」

 

「君に言われたくないが……そうだろう」

 

 万丈が自分の掌を睨み付けながら。

 

「僕は憎しみを背に復讐と言う目的で戦っていた。しかし、それを完全に否定され戦場の最中で動けなくなった。」

 

「……それで?」

 

 万丈は自らの髪を鷲づかみして。

 

「僕は自分自身が恥ずかしい。ゲキガンガーの影響が見え隠れするナデシコクルーの面々や自らの命を顧みずに戦えるファフナー隊」

 

 黙って聞いているオルガを前に万丈は独白する。

 

「己の正義の為を貫く騎士、界塚達や剣之介達のように力を生かそうとする者もいるのに……」

 

「お前、さっきから何が言いてぇんだよ」

 

 オルガが呟いたので思わず万丈は眉を潜める。

 

「どうだっていいじゃねえか。確かに復讐ってのは周りから見れば印象は悪いけどよ、わざわざ他の奴と比べる必要はないだろうが」

 

「オルガ……」

 

「要はお前はやりたいようにやればいいって事だ。……あの時、ビスケットの偽者を殺された時は完全に正気じゃいられなかった。だがよ」

 

 段々とオルガの顔が青ざめていく。察するに酔いが覚めていないのだろう。

 万丈は然り気無く自販機でミネラルウォーターを購入し手渡す。

 

「わりぃ……えっとな、ムエッタに言われたんだよ。擬物だろうと尊重しなくちゃいけないってな」

 

「尊重……」

 

「エフィドルグは確かに卑劣だ。でも悪事を働くにしたって奴等なりのプライドがあるらしい。命かけて馬鹿やってるなら正々堂々潰してやるだけだ。」

 

 万丈はドンザウサーとコロスを思い出す。

 彼らと戦っていた頃も、様々な葛藤があった。

 今思えば彼らにも彼等なりの思惑があり、万丈自身がそれから逃げずに闘い続けた結果勝ち取る物があったのだ。

 

「……僕は自分が見えていなかったのかも知れない。自らの貫くべき正義を霞ませていた」

 

 万丈はオルガに向き直り。

 

「気付かされたよオルガ・イツカ。君と言う男を見誤っていた」

 

「へっ……そうかよおぼろろろろっ!!」

 

 眼前に吐瀉物が撒き散らされた。

 

 

 

 

 次の日の朝。

 

 ナデシコとアークエンジェルが雲を抜ける。

 上昇した艦の甲板には全機動部隊が展開している。

 

 富山の民間人を拉致した揚陸城を一番艦と呼称し、それ以外を攻撃対象とした。

 

「エルトリウム攻撃開始しました」

 

 ナデシコのホシノ・ルリから全機に通信を入れる。

 

 エルトリウムから発射される光子魚雷。

 

 二番艦から十番艦へと次々とミサイルが直撃する。

 

「敵艦の指揮官も馬鹿じゃないようだ」

 

 スレイプニール改の中で伊奈帆が呟くのも無理はなかった。

 

 シールドを展開した十番、九番、八番がエルトリウム側に出て盾になり、残りの艦隊は距離を取る。

 

 シズラー隊のカルフォルニア弾頭も打ち込まれるが、結局三隻の撃沈に終わった。

 

 残りの七隻が地球に落下するためのコースに入った。

 

「担当の狙撃チームは準備してください」

 

 アークエンジェルのミリアリアの指示により観測のガンダムグシオン・リベイク、マークザイン、マークニヒトがそれぞれのパートナー機体とリンクする。

 

「やるぞ……バルバトス」

 

 バルバトス・スレイブ、マークジーベン、そしてストライクフリーダムが狙撃体制へと移行する。

 

「ソルジャージャベリン、発射」

 

 

 




狙撃から大規模作戦へ


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12話-殲滅作戦

クロムクロに出てくるエフィドルグ。
複製技術により様々な敵を出してきます


 

 三本のソルジャージャベリンが二番、三番、四番艦のバリアを貫き、突き刺さる。

 

「五番、六番、七番への攻撃を開始します」

 

「ヴァルヴレイヴ六号機」

 

「ん、大丈夫。やろう」

 

 ナデシコとヴァルヴレイヴ六号機がリンク。

 

「ソルジャージャベリンの着弾を確認。オモイカネとのデータリンクを最大までアップ。ハーリーくん、ユリカさん。バッアップお願いします。……揚陸城メインシステムに侵食完了」

 

「ルリちゃん。三隻で一番艦を包囲してください!挟み込んで落下速度を低下させます。」

 

 

 

 

 一方、残った五番、六番、七番の揚陸城は真っ直ぐエルトリウムの光子魚雷から逃げて富山を目指していた。

 

「ローエングリン照準……射てぇーーっ!」

 

「相転移砲発射ぁっ!」

 

 艦砲の一斉射撃により七番揚陸城が大きく移動先が反れる。

 

「撃破に至らない……」

 

「ならば僕がやろう!」

 

 ダイターン3が前に出る。

 

「日輪の力を借りて……今、必殺の……サン・アタック!!乱れ撃ちだぁぁぁっ!!」

 

 七番揚陸城の装甲が溶ける。

 

「ノリコ!」

 

「了解!」

 

 ガンバスターが揚陸城の上に立ち、両腕を殴り付けるように壁に叩き付ける。

 両腕と両足の装甲を展開。

 

「ダブルバスターコレダアァーー!!うわあぁぁぁっ!」

 

 大出力の電撃で、七番揚陸城を爆散させる事に成功。

 

 その隙に五番、六番の揚陸城が加速して部隊の面々を突っ切る。

 

「一つは俺達が何とかする!」

 

 ダイミダラー超型と六型が六番揚陸城に貼り付く。

 出力任せにバーニアを噴射して揚陸城の落下速度を押さえようとする。遅れて超南極も参加するも、焼け石に水。

 みるみる内に落下していく。

 

「ゼロファフナー!」

 

 地上で待機していたゼロファフナーが共鳴振動波で迎撃。

 

 しかし速度が上がりすぎていたため、間に合わずに。

 

「駄目か!」

 

 最初の落下を赦してしまう。

 落下の衝撃波が富山を覆い、近隣の家屋や山林を吹き飛ばす。

 

 六番揚陸城はその勢いにより自壊。

 砕け散る城壁が土煙をあげながら広がる。

 

 続いて五番揚陸城も、地表に落着。

 こちらは大規模な衝撃波を出さずにゆっくりと落ちた。

 

 残りの一番艦、二番艦、三番艦、四番艦もそれぞれゆっくりと降下。

 

 計五隻が富山に。

 

「来るぞ!」

 

 五隻の揚陸城の上部から嵐のような迎撃、銃弾やビーム、ミサイル等が上空を展開していた部隊を狙う。

 

「デコイ射出。僕のオレンジ色を目印に降下してください」

 

「伊奈帆!速い。速すぎる!」

 

 揚陸城の迎撃システムを次々と撃ち抜きながら取り付く。

 

「各機突入開始!」

 

 事前に班分けされていた機動部隊が揚陸城に侵入していく。

 

「健闘を祈る……」

 

 ナデシコから出撃したエステバリス隊が揚陸城から大量投下されたヘッドレスにレールガンを乱射。

 

 イズミ、ヒカル、リョーコ、サブロウタ、アキト……さらにはハサウェイが地上での戦闘を開始。

 ダイミダラー、ダイターン3、ガンバスターもそれに参加しようとする。

 

 しかし。

 

「聞こえるか!?ガンバスターのパイロット!」

 

「この声は……」

 

「嘘……まさか……」

 

 エフィドルグは軍の情報を使って複製体を作る。

 何度も確認していた事なのに、その手段に踊らされる。

 

「この私を倒してみろ!お前達!!」

 

 現れたシズラー銀。

 トップ部隊の機体を先頭に、量産型ダイミダラーや量産型ファフナー、さらにはデストロイガンダムが並び立つ。

 

「コウイチロウさん……!」

 

「コーチ!!」

 

 



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13話-真の覇者

スパロボ二次小説です。

アニメ、クロムクロに出るエフィドルグが揚陸城で地上に降下。
その迎撃にアークエンジェルやナデシコ、エルトリウム。

界塚伊奈保による作戦を其々がこなす。
鉄華団が潜入した揚陸城で待ち構えていたのは。


 

 五番揚陸城。

 

 突入したのはバルバトス・スレイブとグシオンリベイク、グレイズ・リッターとオルガのモビルワーカーだった。

 

「俺が爆破装置を設置しながら進む!お前らはフォロー頼む!」

 

 突き進む彼等の前に、最初の難関が。

 

「グレイズ?チョコの人と同型だね」

 

「わたしの敵か……なるほど」

 

 敵の機体が構える。

 

「エフィドルグのやり方を理解出来ているのなら、この乗り手……カルタだな!カルタ・イシュー!」

 

「マクギリス……私があの戦場にいたのはお前が」

 

「喋るな!」

 

 互いの剣が切り結ぶも、力量の差はあきらか。

 

 呆気なく、冷淡なまでにコクピットを貫く。

 僅かに悲鳴が聞こえたのか、マクギリスが唇を噛む。

 

「休ませてはくれないみたい」

 

 マクギリスに視線をおくらずに、三日月が。

 

「ねぇチョコの人。これって」

 

「ヴァルヴレイヴだ。」

 

 黄色い機体と、青い機体が道を塞いでいる。

 

「先手を取る!」

 

 グシオンリベイク、昭弘による銃撃。

 しかし青いヴァルヴレイヴには通用せずに、黄色いヴァルヴレイヴに体当りされる。

 

「昭弘!」

 

「グオオオオッ!俺が力負けだと!?」

 

 グシオンが壁に叩き付けられる。

 

 気をとられたマクギリスも、青いヴァルヴレイヴに掴みかかられる。

 

「くっ!」

 

 その瞬間に突如として、二人が押さえつけられていた壁が消えた。

 グレイズ・リッターとグシオンリベイクがヴァルヴレイヴと共に揚陸城の外へ押し出されたのだ。

 

「ちっ!!」

 

 バルバトス・スレイブが追おうとすると、今度は死角から巨大な手が延びる。

 

「な、なんだ……?」

 

 簡単にバルバトスを鷲づかみして奥に引きずり込んでいった。

 

「ミカアァッ!」

 

 揚陸城の内部で孤立させられるオルガのモビルワーカー。

 

 その僅か数秒後には交戦している激しい音が響き渡る。

 

「オルガ!」

 

 オルガを一人にしてしまう。しかもエフィドルグの揚陸城の中で。流石の三日月にも焦りが。

 

「いいかミカ!!止まるんじゃねぇぞ!!」

 

 バルバトス・スレイブは未だに巨大な存在に捕縛されている。

 

「俺達はこんな所で止まる分けにはいかねぇんだ!!俺は作業を続ける。だからそいつは任せたぞ!!」

 

「……あぁ!任……され……たっ!!」

 

 オルガのモビルワーカーは爆破装置を設置し続ける。

 そして三日月のバルバトス・スレイブも、敵を見据える。

 フェストゥムの力を使い、ワームカッターで巨大な手を切りつけ態勢を整えた。

 

「なんだお前……お前もエフィドルグなのか?」

 

 三日月が睨み付ける相手は巨人。

 脳が剥き出しの人型ロボットにもみえた。

 ボロボロのマントで体を隠していて、両手が機械なのはわかる。

 

 巨人の背後には別の女性巨人の姿が。

 

「確かにエフィドルグ。だが……彼は世界の王、ドンザウサーだ!」

 

 まるで女性の声に反応したように、ドンザウサーが攻撃。殴り付けてくる拳を容易く回避するバルバトス。

 

「なにが王だ……それはお前が決める事じゃないんだよ。むしろオルガ辺りなら名乗ってもいいくらいだ」

 

 バルバトス・スレイブは空中を舞い、テイルニードルをドンザウサーの腕部に刺しながらスイングバイでビームを避ける。

 

「使ってみるか」

 

「……!!」

 

 三日月がルガーランスを、ドンザウサーの腕の傷に刺し込む。

 それを左右に展開してエネルギーを発射。右腕を内部から爆散させて落とす。

 

 その衝撃でルガーランスが折れた。

 

「ファフナーの武器は脆いな……こいつはどうだ?」

 

 ドラゴントゥースから礁夷弾を発射してドンザウサーのマントを燃やすが、然程ダメージは無いようだ。

 

「駄目だな」

 

 ドラゴントゥースを投げ棄てた。

 

「ぶん殴るしかないか」

 

 背負っていたソードメイスを構える。形状こそ剣でも、三日月から見れば打撃を与えるだけの道具。

 

 バルバトスが跳躍してドンザウサーの顔面を殴り付ける。

 もう一撃。

 しかし巨大な左腕に遮られた。

 

 すかさず反撃が来るものの、テイルニードルを壁に突き刺して曲芸師の如く回避。

 

「やっぱり頭か」

 

 剥き出しの脳を守るような戦い方。

 

「貴様っ!ドンに対してなんと無礼な!!」

 

 女性巨人はが怒鳴る。

 三日月は完全に無視。

 それどころか自らの機体に問いかける。

 

「フェストゥム……スレイブ型だったか?俺に力を寄越せ。お前も戦いたいから‘ここにいる’んだろう?」

 

 

ーーあなたは、そこにいますかーー

 

 

 バルバトス・スレイブの関節の発光が増す。

 

「あぁ、いるよ。俺はここにいる」

 

 そして機体は宙に浮く。

 

「なんだ、そう戦えばいいのか」

 

 フェストゥムの言葉を、三日月が受け入れた。

 

 次の瞬間に、ドンザウサーが反応出来ないスピードで両目に向かってソードメイスを叩き付ける。

 すぐにドンザウサーはソードメイスを掴んで抵抗しようとするも、呆気なくそれを手離すバルバトス。

 

「お前、足元弱いだろ」

 

 完全にノーガードだった足元、床に対してフェストゥムのワームスフィアを狙い撃ちして態勢を崩させる。

 

 注意が足元に行った瞬間に、バルバトス・スレイブの鋭利な爪がドンザウサーの脳を貫く。

 

「うん。よかった。これなら殺しきれる」

 

 暴れまわりのたうち回る。

 慌てた様子で女性巨人が走り寄るも、時すでに遅し。

 

 爪で脳をメッタ刺しにして、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。

 

 苦しみもがきながら倒れ付したドンザウサー。

 完全に沈黙。

 

「ドンザウサー!!」

 

「……うるさいな……」

 

「貴様っ!よくも我らの王を!!我らは世界をメガノイドの手によって」

 

「どうだっていいよ。だってこいつは死んでいいやつだし」

 

 次の瞬間に、周囲から爆発音。

 

 それに合わせて機体の足下を車両が駆ける。

 

「ミカ!!ナデシコから通信が入って、この揚陸城に戦力はいない事が確認できた!洗脳兵も外にいる!」

 

 オルガのモビルワーカーが戻ってきて、通信でバルバトスにつなぐ。

 

「爆破装置の設置は終わった!後は俺達が出るだけだぞ!」

 

「ちょっと待ってて」

 

 バルバトスは女性巨人‘コロス’の腹を蹴りつけて距離を取る。

 

「充分だ!」

 

 オルガは手元のスイッチを押す。

 

 コロスの背にあった壁が爆発。

 外に放り出される。

 

「じゃあ、俺達も行こうか」

 

「あぁ」

 

 バルバトスがモビルワーカーを持ち上げて壁に開いた穴から脱出。

 

 揚陸城が爆散した。

 

 



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14話-僕たちの革命

 

「嘘でしょ……」

 

 ヴァルヴレイヴ隊はエフィドルグの揚陸城から吐き出される量産機の迎撃にあたっていた。

 しかし落下してきたのはガンダムグシオンリベイクとグレイズリッター。

 彼等が突入していたのは情報があるから驚きはしなかったのだが、それと一緒に落ちてきた機体を見て言葉を失う。

 

「ショーコちゃん!」

 

 6号機のアキラが悲痛な叫びをあげる。それに構う余裕も無く、通信を開くショーコ。

 

「犬塚先輩……山田くんなの?」

 

「指南」

 

 通信に応じたのは犬塚キューマだ。

 ヴァルヴレイヴ5号機はシールドを構えながら。

 

「俺らは確かにエフィドルグの人形だけど、記憶データが移植されてる以上はこうやって話が出来るんだ」

 

「……だったら私たちの前に現れた事の意味もわかってますよね……」

 

「そりゃあな」

 

「ですよね」

 

 ヴァルヴレイヴ1号機の指南はジーエッジを抜く。

 

「先輩……私ね、ハルトと両思いだってやっと解ったんだよ」

 

「そうか……」

 

「何しんみりしてやがる指南!」

 

 横に割ってはいるのはヴァルヴレイヴ3号機。

 山田ライゾウは機体のビーム兵器を乱射。

 1号機は回避に専念する。

 

「よう!裏切者の総理大臣!神憑きの俺達を追い出しやがった癖に、何でヴァルヴレイヴに乗ってやがる!」

 

「山田君……私は……皆の為に……」

 

「聞こえねぇなぁ!言葉が出ない半端者ならやられちまえってんだよ!」

 

 3号機による連打。

 殴り付けられた1号機は揚陸城の外壁に叩きつけられた。

 

「ぐっ……」

 

 指南の視界の隅には仲間である4号機、流木野の姿。高みの見物をしている。

 

「どうするのよ?今はエルエルフの指示で動くべきタイミングじゃないでしょ?」

 

「……」

 

 ショーコの返答を待たずに、サキは山田に対して。

 

「エフィドルグ化した割にまるで変化無しじゃない。所詮山田は山田か」

 

「……あん?」

 

 そのリアクションを見て、サキが溜め息をつく。

 それを見て目を見開くショーコ。

 

「違う……あんたは‘サンダー’でしょ。」

 

「何言ってやがる」

 

 それを無視してサキはショーコに。

 

「いい加減、割りきりなさいよ。決着つけなきゃ」

 

「そう……だね!」

 

 1号機がジーエッジを構え直す。

 

「アキラちゃんは引き続きナデシコのフォロー。流木野さんは私と戦闘の続行。犬塚先輩をお願い」

 

 ヴァルヴレイヴ3号機を睨みながら。

 

「私は山田くんを」

 

「上等じゃねえか!クソ女ァァァッ!」

 

 

 

 

 再び戦闘が始まろうとした瞬間、何者かが揚陸城上部から落下してきた。

 

「なに……?女の人……巨人?」

 

 ショーコは揚陸城が爆発し始めたのを見て、鉄華団の作戦成功を感じ取った。

 

「まだ生きてるね」

 

 さらに上から、コロスの肩に目掛けてテイルニードルを刺すバルバトス・スレイブが降下。

 合流する三日月は、ヴァルヴレイヴ1号機を一瞥し。

 

「……大丈夫そうだ。俺は他で暴れるから、オルガを」

 

「わかった。ナデシコまで送り届ける。ハサウェイくん!!」

 

 ショーコはクスィーガンダムに通信を。

 

「団長は僕が!そちらは頼みます!」

 

「よろしく!」

 

 モビルワーカーがクスィーに担がれ、離脱する。

 

「さてと……」

 

 ショーコとサキはヴァルヴレイヴ3号機とヴァルヴレイヴ5号機、コロスを睨み付ける。

 

「そこの大きい人も相手にする必要があるんだよね……」

 

「やれそうな人に頼めばいいじゃない」

 

 ヴァルヴレイヴ隊の前に立つコロスに対して、突如として爆撃が。

 

 頭部への直撃に耐えきれずに膝をついたコロスの前に現れたのは、ダイターン3。

 

「グアアァァァッ!やはり来たか!万丈!!」

 

「性懲りもなく貴様はァ!!」

 

 コロスを殴る蹴るしながらダイターン3が突撃。

 

「先程の悪魔は貴様の仲間かァッ!」

 

 万丈はその台詞に、三日月のバルバトス・スレイブを思い出す。

 

「ドンザウサーの仇!」

 

「……エフィドルグの影響下では弱体化したか……不様だな」

 

 バルバトスと言えどMSだ。それに翻弄されたのは彼等が弱くなった事と、フェストゥムの力を使った三日月の技量もあるのだろう。

 

「万丈オオッ!!」

 

「引導を渡すそ!ダイターンザンバー、二段斬りダァァッ!」

 

 万丈は反撃を許さない。

 コロスが態勢を整える前に、連続攻撃をしかけた。

 

「ダイターンミサイル!!ダイターンファン!」

 

 砲撃からの殴打。

 

「万丈……は、話を……」

 

「俺はお前たちを憎む!」

 

 至近距離でサンアタックを直撃させてから、ダイターンジャベリンを胸元に突き刺す。

 

「我ら……メガノイドの……」

 

「死ねエエェェッ!!」

 

 ダイターンクラッシュでコロスを蹴り砕く。

 爆散する敵に目もくれずに、ヴァルヴレイヴ隊に視線をおくる万丈だった。

 

 

 そのヴァルヴレイヴ隊。

 

「流木野!」

 

「気安く呼ばないでよ……エフィドルグの癖にさ」

 

 ヴァルヴレイヴ5号機は24連装ボウガンをサキに向けて放つ。

 圧倒的機動力でそれを避ける。

 

「動きを止めてしまえば!!」

 

 キューマはIMPシールドを構えたままサキの機体に掴みかかった。

 

「あんた、いつまで先輩のふりしてるのよ。あの人はそんなに弱くなかった……」

 

 サキのヴァルヴレイヴ4号機はスビンドルナックルを敵の背後に投げて、それを引く。

 

 戻ってきたスビンドルナックルがヴァルヴレイヴ5号機の背中を抉りながら回転を続ける。

 僅かな断末魔だけがサキの耳に響いたものの、心を揺らがせる事は無かった。

 

 そしてヴァルヴレイヴ1号機のショーコ。

 

「……」

 

「どうした指南!!逃げ回るだけか!?」

 

「わたしはハルトのような気持ちで戦えない……自己犠牲を選んでいい立場にないから」

 

「何をゴチャゴチャと!」

 

「でも、わたしはハルトより勝つ事に拘る。だって私は消えるわけにはいかない。総理大臣として皆を引っ張る為に……」

 

「そしてまた、誰かを裏切るんだろう!!」

 

 ヴァルヴレイヴ3号機は畳み掛けるようにビームの嵐でショーコを追い詰める。

 

「そうだね。多分、そんな非情な判断を強いられるかも知れない。でも、でもね」

 

 ジーエッジを右手に、左手からはルーン。

 光輝くルーンをジーエッジに塗るが如く、それを固着させる。

 

「皆の為に、目の前の敵を倒すことを……わたしは躊躇しない!」

 

 覚悟の一閃。

 

 降り下ろされた刃は一切の迷い無く、敵機体を両断することになった。

 

 

 



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15話-人の業

XperiaからiPhoneに変えたので、投稿に時間かかるかと。
iPhone馴れないなぁ


 四番揚陸城。

 

 キラを中心としたMS隊が揚陸城に侵入を試みた。

 それを妨害するが如く現れた艦影に最早驚きもしない。

 ドミニオン。

 アークエンジェル級二番艦。

 竜宮島の戦闘で量産型ダイミダラーやMSを駆使して苦戦を強いた存在なのだが、今回はこれだけではなかった。

 

「あれは……ミネルバ……」

 

 ドミニオン後方からミネルバ、さらにはガーディールー。

 

「いい加減、惑わされると思うなっ!!」

 

 ミネルバのエンジン部にライフルを射つシンのデスティニー。

 しかしそれをビームシールドで弾く機体が。

 

「レジェンド……レイか!?」

 

「やはり裏切ったか!お前の心の弱さならと思っていたが!」

 

「黙れよ!エフィドルグの癖に!」

 

 デスティニーとレジェンド。

 互いの武器を知り尽くしている事もあり、中々決着がつきそうに無かった。

 

「グアァッ!!」

 

 背後からデスティニーへの攻撃。

 

「だ、誰だ!?」

 

「俺だよ。後輩」

 

 オレンジ色のデスティニーインパルスガンダム。

 

「ハイネ……?」

 

「お前らよ、俺が死んだ原因になった連中と何仲良くやってんだよ」

 

「違う!俺は!」

 

 デスティニーとデスティニーインパルスが切り合う。

 互いにライフルを撃ち合い、お互いに避ける。

 

「ハイネなら、こんな所で俺達に攻撃してくるわけがない!」

 

「そうかよ!」

 

 アロンダイトのぶつけ合い。

 デスティニーインパルスが振るアロンダイトを掴み、パルマフィオキーノ掌部ビーム砲で破壊する。

 

「こんな所で、俺は!!」

 

「ちっ!クソっ」

 

 ハイネの機体のコクピットを見めがけて殴り付け、動きが鈍った瞬間にビームブーメランを突き刺して貫いた。

 

「なんなんだ……なんなんだよエフィドルグ!いい加減にしてくれよ……」

 

 奥歯を噛み締めて自らが出遅れた事に気づく。

 既に揚陸城に潜入を始めたキラ達を追いかけた。

 

 

 

 キラ、アスランを見つけたシンは驚愕した。

 ストライクフリーダムとインフィニットジャスティスが正面から飛んできたのだ。

 

「ちょっ!アスラン!?キラさん!?」

 

「ついてこいシン!」

 

 大声で呼ばれて通路を縫うように突き進むアスランを四苦八苦しながら追う。

 

「ナデシコから連絡があって、ラクスの居場所がわかった!……おいキラ!先行し過ぎだ!」

 

「……ッ!」

 

 焦りを露にしながら先頭を飛んでいたキラが、突如として動きを止める。

 ぶつかりそうになりながらも、後ろを飛んでいた二機も止まる。

 

「やはりあなたが……ラウ・ル・クルーゼ!」

 

 キラ達の前に立ち塞がるのMS。

 

 プロヴィデンス、レジェンド。

 

「レイ!追ってきたのか」

 

「お前たちにラウはやらせない!」

 

 レジェンドがビーム兵器を全てデスティニーに向ける。

 

「ハイネを殺して来たか!」

 

「うるさい!」

 

「シン!」

 

 アスランがレイにライフルを向ける。

 逃げるレイを追撃しようとすると別方向からビームが来て、アスランとシンは一度待避する。

 

 ラウ・ル・クルーゼの機体には既にキラがぶつかっており、迎撃が来るわけもない。

 ドラグーンによる攻撃にも警戒していたのだが、それでも。

 

「どこから……?」

 

「あちらだ!」

 

 クルーゼがキラから距離をとり、彼等の背後を指差す。

 

「なんだあの機体……」

 

 キラもアスランもシンも、全く見た事の無いガンダムと、赤い機体。

 オーブやザフトに関連する機体には見えない。

 

「キラ!一度態勢を整える!退くぞ!」

 

「駄目だ!奥にはラクスが!」

 

 三機のガンダムに囲まれ、さらに謎の赤い機体が彼等を狙う。

 

「すみませんキラさん!」

 

 シンはデスティニーの最大出力でストライクフリーダムに飛びこみ、胴体をホールドしたまま後退させる。

 アスランは火力を駆使して揚陸城の壁を破壊して脱出。

 しかしクルーゼ達が追ってくるのは明白。

 

「フラガさん!ハサウェイ!」

 

 キラ達を援護に来るかと思いきや、外にいたムウとハサウェイは動きを止めた。

 

「ラウ・ル・クルーゼェッ!!」

 

 アカツキがプロヴィデンスに突撃。

 

 しかしハサウェイは動けない。

 既にオルガのモビルワーカーをナデシコに送り届けていて、戦線に復帰したばかりだ。

 

「アムロさん……チェーンさん……それに」

 

 奥から出てきた赤い機体と、もう一機。

 

「シャア……クエス!!」

 

 キラ達もハサウェイの声を聞いて、出てきた戦力を確かめる。

 

 キラ、アスラン、シン、ムウ、ハサウェイ。

 相対するはクルーゼ、レイ、アムロ、シャア、チェーン、クエス。

 

「だ、駄目だ……」

 

 ハサウェイ、クスィーガンダムが棒立ちの姿勢のまま空中で制止してしまう。

 

「ただでさえ僕は……」

 

 エフィドルグ化したとは言え、伝説の白き流星と赤い彗星を相手に出来るほどの技量が自分にはない。

 

 何より、身体が小刻みに震えている。

 

「……クエス……」

 

 ヤクトドーガ、さらに向こうには。

 

「チェーンさん……」

 

 リ・ガズィを見て吐き気を催す。

 

 自分が背負い続けなければいけない罪。

 助けられなかった人、感情のままに殺してしまった仲間。

 

 ハサウェイは過去を乗り越えられていなかったのだ。

 

「ハサウェイ!」

 

 アスランからの声も届かず動かないクスィーガンダムに、リ・ガズィからのグレネードが直撃した。

 

 

 



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16話-流星堕ちる時

 

 グルグルと機体が回転し落下させながら意識を失うハサウェイ。

 

 ダメージは然程では無かったが、彼の心的負荷が大きすぎたのだ。

 

「何してるハサウェイ!」

 

 地表へ激突する寸前にグシオンリベイクにキャッチされる。

 

「……昭弘」

 

「団長命令だ!止まるんじゃねぇってよ!」

 

 ハサウェイは昭弘の怒声に苦笑いする。

 鉄華団に入った覚えがないのだが、彼なりの叱咤激励なのだろう。

 

「……ありがとう!」

 

 止まるな。

 ごく単純な言葉だが、ハサウェイには響いた。

 地球軍の腐敗した官僚の粛清。

 自分にとって優先すべき目的。

 テロリストマフティーとしてやるべき事はまだまだ山積みなのだ。

 

「こんな所で止まれない。たとえ」

 

 立ち塞がるクエス専用ヤクトドーガ。

 

「君が相手でも!」

 

 ファンネルミサイルをヤクトドーガのファンネルに当てる。

 クスィーガンダムの急加速。

 ビームサーベルでコクピットを貫き、踏み台にして更に加速。

 

「次!」

 

 目の前のサザビー。

 クスィーガンダム目掛けて前に出てくるではないか。

 

「グッ!」

 

 正面からの蹴り込み。

 MSでの戦闘は近接格闘でその技量が明らかになる。

 

「簡単にはいかないか!」

 

 サザビーを前にしてシールドを構える。

 

「お待たせ」

 

 淡々とした声が聞こえた瞬間に、サザビーのシールドに向かってワームカッターが直撃する。

 

「三日月!」

 

「苦戦してるなら手を貸すよ?」

 

「頼む!」

  

 バルバトス・スレイブはテイルニードルをサザビーの腕に突き刺す。

 勢いよくそれを引っ張る。

 体勢を崩したサザビーをクスィーガンダムが殴り付ける。

 重量を活かしたパンチ。

 クスィーガンダムはミサイルポッドを外し、ポッドごと投げ当てる。

 サザビーはとてつもない反応を見せてそれを回避する。

 次にバルバトス・スレイブに対してファンネルからのビーム。

 しかしビームが通用しないバルバトスはお構いなく殴りかかる。

 尚も抵抗を続けるサザビーへビームサーベルを構えたまま突撃するクスィー。

 音速飛行のままサザビーの腹部を切り裂き、そのまま突き抜けていったのだった。

 

 

 

 一方のキラ、アスラン、シン、ムウは其々の敵と相対していた。

 

「先に行けボウズ!」

 

「ムウさん!」

 

「クルーゼ擬きは俺がやる!」

 

「判りました!行ってきます!」

 

 ストライクフリーダムの向かう先に立ち塞がるリガズィを通りすぎながらサーベルでバラバラにする。

 

 一足先にキラは揚陸城へ向かった。

 

 アカツキはオオワシ装備でビーム兵器をプロヴィデンスガンダムに対して牽制する。

 ドラグーンを使用した反撃がくるも、ヤタノカガミがそれを弾く。

 

「卑怯かも知れないが、機体の相性バッチリじゃないか!終わらせてもらうぞクルーゼェェェッ!!」

 

「チィッ!ムウ・ラ・フラガ!貴様はぁ!」

 

 プロヴィデンスの武装が一切通用しない。

 完全に距離をキープしたまま射撃のみで追い詰めて撃墜に成功する。

 

 

 そしてシン。

 デスティニーガンダムはレジェンドと対峙していた。

 

「ハイネの次は俺を殺すのかシン!」

 

「黙れってんだよ!!」

 

 圧倒的機動性でレジェンドに距離を積めて、追い詰めていく。

 

「あの時言えなかったから言わせてくれ。サヨナラだ……レイ……」

 

 レジェンドが追い詰められた先は、アークエンジェルの射線上。

 ゴッドフリートが直撃して機体を真っ二つにした。

 

 

 そのアークエンジェルとナデシコがドミニオンとミネルバを相手に艦隊戦を仕掛けていたが、それも終結に向かう。

 ジャスティスとアカツキがそれを可能にしたのだ。

 

 そしてエフィドルグのニューガンダムに襲い掛かるバルバトス・スレイブ。

 

「単純な反応速度?いや、先読みか?」

 

 三日月はフェストゥムの力を最大利用しながら連続攻撃で畳み掛けようとしたが、全く当たらない。

 

 ニューガンダムによるフィンファンネルは相手にしない。する必要が無い。

 

 ライフルやサーベルの攻撃は油断すればバルバトスと言えどダメージをおう。

 かつてキラと戦った時に三日月は学んでいたのだ。

 

「昭弘。ちょっと手伝って」

 

「おう!」

 

「私も手伝おう」

 

 バルバトスとグシオンリベイク、更にはグレイズリッターがニューガンダムを囲む。

 

「確かに強い相手だけど」

 

「一機ではな!」

 

 ニューガンダムによるバスーカがグシオンリベイクに直撃するも、耐えきる。

 

「隙アリだ」

 

 マクギリスによる剣戟。

 回避されるもライフルを両断。

 

「これならどうだ?」

 

 三機で包囲した状態でバルバトスによるテイルニードルで行く手をふさぐ。

 

「充分なお膳立てだ!!」

 

 バルバトスが離れた瞬間に不意をついてクスィーガンダムが突撃。

 サーベルを振り回してニューガンダムの両足と左手を切り捨てた。

 

「こんなところかな」

 

 バルバトス・スレイブのワームスフィアがニューガンダムを吸い込み、消失させたのだった。

 

「アムロさんに……勝ったのか?いやエフィドルグだしな」

 

「後はキラだけか」

 

 三日月のバルバトスが揚陸城を見上げてから再び走り出す。

 

 

 



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17話-利用された情愛

久々に投稿


 

「ラクス!」

 

 エフィドルグの揚陸城を一切迷いなく突き進んだ先には、管制室のような場所があった。

 華奢な身体に合わない大きな椅子に足を組んで座っていたのがラクスだった。

 

「やはり貴方がきましたか……」

 

「ラクス……」

 

「キラ。キラは私をどうする気ですか?」

 

 普段の目付きとはまるで違う彼女に、キラは戸惑う。

 

「僕は……君を助けたい」

 

「それを受け入れられないのです。私はエフィドルグとしてミラーサ様を支えたい」

 

 ラクスは銃を抜き、キラへ向ける。

 

「あの方は弱い……そして多くの支えが無くてはエフィドルグの安寧から遠ざかってしまう」

 

「惑わされるなラクス!君は洗脳されているだけだ!」

 

「お黙りなさい!」

 

 銃を向けたままモニターを切り替える。

 

「あれは……」

 

 キラが驚愕しながらモニターを見つめる。

 写っていたのは‘ジェネシス’と呼称される大量殺戮兵器。

 

「貴殿方がレクイレムの処理に時間を費やしていた頃に完成したのです。あくまで急造品なので一発しか射てませんが」

 

「どこに射つつもりだ……」

 

「決まっているでしょう?ここです」

 

 つまりは富山全域、揚陸城や仲間たちの艦隊が巻き込まれる。

 

「ジェネシスの起動権はここにはありません。そして全てのアルドノアを停止させる必要がある。」

 

「なら僕は……」

 

 キラは両手を広げて敵意が無いことを示す。

 

「自分が出来ることをするだけだ」

 

「無駄な事です」

 

 無慈悲に引き金を引いて、室内に銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 その頃、エフィドルグ地上部隊の指揮をとっていたオオタコウイチロウの擬物がMS隊やエステバリス隊を追い詰めていた。

 

「どうしたお前たち!この程度の戦力で押さえられているようでは無数の宇宙怪獣の相手は出来んぞ!!」

 

「こ、コーチ!」

 

「ノリコ……騙されては駄目……あの人は……」

 

「でも、でもお姉さま!」

 

 

 ガンバスターの攻撃に迷いが生じる中、サブロウタ機のエステバリスが被弾して落下するのをダイミダラー超型がキャッチした。

 

 リョーコ、イズミ、ヒカルがフォローにまわるがデストロイガンダムの火力に太刀打ち出来ずに回避に専念するしかない。

 

「量産型ダイミダラーは陣形を整えつつデストロイガンダムの援護を。ヘッドレスはカクタスを投擲しアークエンジェルとナデシコを集中攻撃だ!」

 

 コーチの指揮で次々と戦艦に迫り来るカクタス。

 

 しかしそれを防ぐ太陽騎士ゴッドと騎士ユニコーン。

 

「冗談ではない!このままでは物量に潰されるぞ!」

 

「これもエフィドルグらしさか!」

 

「太陽騎士!あれを頼む!」

 

「いいだろう!」

 

 左手にゴッドソード、右手を前につき出す。

 

「ゴールド……メテオォォォ……シャイニングゥゥッ!!」

 

 掌から超高熱のエネルギー波。

 次々とヘッドレスやカクタスを溶かしつつ、オオタコウイチロウのシズラー銀を警戒する。

 

「プラズマビアンキを味わってみるがいい!」

 

「させると思うか!」

 

 シズラー銀のプラズマビアンキが弾かれた。

 騎士ユニコーンのマグナムソードと切り結ぶ。

 

 

「まって……後は私たちが!」

 

 ガンバスターが前に出る。

 

「私の夫の擬物……辛いけど……久々に顔が見れて嬉しかった。礼を言わなくてはね、エフィドルグに」

 

「お姉さま……」

 

「やるわよ!ノリコ!」

 

「はい!お姉さま!」

 

 重力波が生み出すエネルギーの球体をガンバスターの左手に出力する。

 

「バスターーーホームランッ!!」

 

 球体を打上げ、揚陸城の外壁を削る。

 強固な外壁と特殊なバリアがあるのはわかりきっていたので、部隊によっては内部からの爆破や無力化が主だった作戦目的だった。

 ガンバスターには、そのどちらも命令されていない。

 

 崩れ落ちた瓦礫はヘッドレスやデストロイガンダムに直撃する。

 つまりオオタコウイチロウの指揮に影響が出て陣形を崩したのだ。

 

「流石はガンバスター!しかしな!」

 

 シズラー銀のバスターミサイル、更にはプラズマビアンキが襲いかかる。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

「何!?」

 

 何も戦術などない、ガンバスターによる腰の入ったバスターバッドの殴打。

 蝿叩きの如くシズラー銀が地面に叩き落とされる。

 

「よくやったお前たち……」

 

 シズラー銀を掴み上げて眼前に向き合う。

 

「お前たちには多くの困難が待ち受けているだろう……しかし後ろを振り返る事は許さん!常勝と生還以外は考えるな!」

 

「……コーチ……」

 

「さぁ、やれ!エフィドルグとて矜持を貫けぬならば死してその罪を償うだけだ!」

 

「コウイチロウさん……」

 

「炎となったガンバスターは無敵だ!後はトップをねらえ!トップであり続けろ!」

 

 ガンバスターの手に力が入り、シズラー銀がミシミシと歪み始めた。

 

「ありがとう……ございました……」

 

 カズミが目を伏せ、ノリコは震えながら操縦管を掴む。

 

 エフィドルグのシズラー銀を握り潰して破壊するのだった。

 

 

 

 そして再びキラ。

 ラクスによる銃撃は何かに跳ね返されたような音がして、それに気付く。

 彼自身はかすり傷一つ無い。

 

「あ……あなたは……?」

 

 その背中には深紅のマント。

 

 小型ガンダムと言われるその容姿は、騎士ユニコーンや太陽騎士ゴッドとは似つかない。

 

「わたしはキングガンダム二世……君と同じ多くの命を救うために戦う者だ」

 

 キングガンダム二世。

 騎士ユニコーン等と同じくスダ・ド・アカワールドから来た存在。

 

 既にエデルリッゾからの情報で合流予定があった最後のカード。

 

「邪魔を……!」

 

 ラクスは銃を乱射。

 キングの豪華絢爛な盾はそれをモノともしない。

 

「少し眠っていてもらうぞ」

 

 小型ガンダムと人間の腕力には圧倒的な差がある。

 

 軽い当て身によりラクスは倒れ、キラが駆け寄って背負う。

 

「キングガンダム二世と言いましたか……その、ありがとうございます。ですがジェネシスが」

 

「……問題なかろう。今はこの場から撤退しようではないか」

 

 キラはストライクフリーダムに乗り、その肩にはキングガンダム二世が立つ。

 

 彼等はアークエンジェルに帰還するのだった。

 

 揚陸城四番艦の攻略が終了する。

 

 



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18話-夢幻の彼方

アルドノアメイン回


 

 三番艦揚陸城。

 

 界塚小隊は慎重に城内を探索し、それと同時に各起動部隊からの情報を受信することに力を入れていた。

 

「エフィドルグは人間以外も複製出来るのか……それにジェネシスと言う大規模破壊兵器。それを止めるなら一つしかない」

 

「彼女がこの城にいるのはナデシコからの通信でわかっている。ならば」

 

 伊奈帆とスレインが会話していると、前を歩いていたアレイオン鞠戸機が立ち止まった。

 

「早速お出ましだ」

 

 現れたのはエフィドルグが乗る火星カタフラクト。

 

「ヘラス、アルギュレ……」

 

 弥月に緊張が走る。

 三影兄妹にとっては初見。

 データこそあれど、実戦で相対するのは初めてだ。

 

「大丈夫だ、弥月」

 

「陽弥……」

 

「あの時とは違う。俺達なら勝てる」

 

「……そうだね。父さんの分までやりきるんだから!」

 

 二機のスレイプニールが前に出た。

 

「ヘラスの拳は強力な」

 

「彼らに任せようスレイン」

 

「……いいのか?」

 

「見てればわかる」

 

 ヘラスからロケットパンチが繰り出された。

 

「行け、我が眷属達よ!」

 

「当たらなければ!」

 

 陽弥が回避しながらヘラス本体にグレネードを撃ち込む。

 

「ならば奥の手!」

 

「変形するなら!」

 

「バーニアを狙って動きを止める!」

 

 弥月がAP弾からHE弾に切り替えて集中砲火。

 

「おのれ……!」

 

「さっさと倒れろよ!」

 

 ヘラスが倒れる寸前でアルギュレが弥月に体当り。軽く弾かれた陽弥のスレイプニールだが、すぐに態勢を整えた。

 

「エネルギーフィールド展開、抜刀!」

 

「時間かけたくないね」

 

「……進むか」

 

 剣戟を避けながらアルギュレの足元へ設置地雷を無造作にばらまく。

 

 ライフルで地雷を破壊して、アルギュレとヘラスが立っていた床を崩した。

 

「ヌアアァッ!!」

 

「それじゃあな」

 

 バーニアが潰れたヘラス。

 元々飛行能力が無いアルギュレ。

 呆気なく目の前からいなくなった。

 

 そらを遠巻きに見ていた伊奈帆、韻子、スレイン、鞠戸、ユキ。

 

「いいのか?とどめをささなくて」

 

 スレインが伊奈帆に問う。

 

「問題ない。エフィドルグの殺害ではなく無力化が出来ていればいい。まぁ、他ではかなり感情的な戦いをしてるようだけど」

 

「……エフィドルグだからと言っても、気不味いのだけど……」

 

 冷静な伊奈帆と対照的なスレイン。

 

「さて次だな」

 

「お前の淡々とした所、どうにかならないのか……」

 

 次に姿を現したのは、ゲリュオンとエリシウム、さらにはソリスの三機だった。

 

「鞭と氷結とレーザーか」

 

「ど、どうするのよ伊奈帆……」

 

「問題ない。奴等は既に自滅している」

 

「……え?」

 

「あの配置じゃ……」

 

 ゲリュオンとソリスが後方、エリシウムが前。

 

「あの組み合わせはお互いの特性を潰しているに過ぎない。エリシウムの絶対零度が邪魔をして、鞭やレーザーの軌道が確保できない。」

 

「でもエリシウムが前では私達の銃弾やミサイルは届かないよ。多分それも……」

 

 ストライクフリーダムの予備ビームライフル。

 伊奈帆がスレイプニール改の追加武装として使っていたのだが、最早自分の物にしていた。

 

「大丈夫だ韻子。気にせず先に進もう」

 

「え?だって」

 

 突如グレネードとビームを敵機体の横にある内壁に撃ち込み穴を開けた。

 

「僕たち自身が対抗する必要はない。上には上がいる事を思い知らせてやろう」

 

「界塚。くるぞ」

 

 鞠戸の合図で韻子や三影兄妹が周囲を警戒し、スレインが僅かに息を飲む。

 

 

 眼を背けたくなるような閃光。

 

 

 ゲリュオン、エリシウム、ソリスの足元が崩れる。

 

 まともに戦ってすらいない。

 

「感謝します。ノリコさん、カズミさん」

 

 風穴から覗き混む巨大なモノアイ。

 

 ガンバスターによる援護攻撃だった。

 

「う、うわぁ……」

 

 韻子が軽く引く。それを見てスレインが苦笑いしながら。

 

「ガンバスターのバスタービームは熱線では無く冷凍光線。エリシウムすら凌駕する低温は宇宙怪獣をも両断します。そしてそれはソリスやゲリュウムが抵抗できるわけもない。」

 

 スレインの言葉に伊奈帆が追加する。

 

「本来爆発するであろう機体、エリシウムが発する次元の裏側からの熱量も消し去る……ガンバスターが敵じゃなくてよかった。」

 

 二人のやり取りに鞠戸が思わず。

 

「お前ら仲良いだろ……」

 

 

 

 

 

 それから数分進軍すると、ユキが皆を停止させた。

 

「嘘でしょ……後少しでお姫様の所にいけるのに……」

 

 分身可能なオルテギュア。

 雷撃のエレクトリス。

 光学迷彩のスカンディア。

 

「何の因果だ……」

 

 重力制御のデューカリオン。

 

「くっ……」

 

 次元バリアのニロケラス。

 未来予測のタルシス。

 

 そして総合力のディオスクリア。

 

「7機同時か……流石に手に負えないな……」

 

 伊奈帆のスレイプニール改がライフルを構えようとすると、敵機体であるディオスクリアから通信が入る。

 

「待たれよ!待たれよ諸君」 



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19話-名誉の対価

pixivでもやってます。

アルドノアメイン回


「諸君らの獅子奮迅足る戦果、実に見事。敵ながら称賛に価する」

 

「……ザーツバルム伯爵……」

 

 エフイドルグと言えど記憶を保持した存在。それが近い間柄の人物であればなおのこと言葉を聞いてしまう。

 

「単刀直入に言おう。我々は劣勢を理解している。エフイドルグは殲滅されると見ていいのだろう?」

 

 ザーツバルムのディオスクリアから伊奈帆達の機体へ強制的に通信を入れてきた。

 

「しかし我々とて再び生を与えられた以上は、それを無駄に散らせる気はない。そして、生前なし得なかった事もある」

 

 溜め息を吐いたのは伊奈帆だった。

 

「それで?あなた方は降伏してくれるのですか?」

 

「そのつもりで声をかけた」

 

「……」

 

「ただし、これは強制力のあるものだ。故に」

 

 ディオスクリアがエネルギーフィールドを展開し、抜刀。

 

「戦闘になれば迎え撃ち、人質にするまで」

 

 それに対してスレインが。

 

「それは火星騎士の教示に反する行為です!」

 

「やむを得ず、だ。スレインよ」

 

 敵側にも現れたタルシス。その乗り手は勿論クルーテオ。

 

「……伯爵!」

 

「やり残したことが山程ある。お主への贖罪。我が息子が結婚した事、居城や領地の安否など」

 

 彼の台詞を遮る鞠戸。

 

「ふざけんな!俺はその機体、そいつを許せないんだよ!」

 

 鞠戸のアレイオンがデューカリオンを指さす。

 

「仲間を……親友を殺されてる。いくらエフイドルグの擬物だとしても、目の前に出てきた以上無視できるわけがねぇ!」

 

「まって下さい鞠戸大尉」

 

 再び伊奈帆が。

 

「……あなた達は僕らがしようとしている事も把握しているのでしょう?」

 

「我が君、アセイラム姫殿下の力を借りようと言うのだろう」

 

 驚きもしない。

 

「僕らがそれを成し遂げれば、あなた方のそれは、動けなくなる。それでも人質に取れると?」

 

「それは無理だろう。順番が逆なのだよ。我らの無事を確実なものにできればよいのだ。騎士と言えど人、死ぬべきではない現状。そして擬物の命でもこの世に戻れた事を利用すべきだと判断したまで」

 

「……エフイドルグの複製体である事を受け入れた上で?」

 

 ユキが騎士達に問う。

 

「当然だな。さぁ選べ。この場で己を通して抵抗し命を落とすか、略式的な人質として我らを受け入れてアセイラム姫殿下の元へ向かうか」

 

 ザーツバルムの台詞に追加するのはクルーテオ。

 

「……姫殿下の政略結婚については異議があった。我が息子が相手と言えど自らが愛した者と添い遂げてほしかったのだ。そして……」

 

「横に並ぶべきはスレイン。お前が相応しいと思っている」

 

「なっ……!?」

 

 スレインが驚愕したのはザーツバルムやクルーテオの台詞だけではない。

 

 

 伊奈帆が銃口をおろしたのだ。

 

 

 

「……既にセラムさんを利用して裏切った身だ。二度目はないと判断する。」

 

「そ、それは左目が?」

 

「いや、僕自身」

 

 スレインが困惑するのを無視して、伊奈帆は。

 

「この場での戦闘行為は行わない。そしてあなた方は降伏し、機体を降りた上で城の中で待機していてください。下の階層では」

 

「騎士達のカタフラクトが落ちているのだろう、取り謀ろう」

 

「えぇ……」

 

 はて、どちらの勝利だったのだろうか。

 伊奈帆から見れば火星騎士を降伏させて捕虜にするだろう。

 ザーツバルムから見ればこの場で伊奈帆達により安全を確保し、お互いを見逃すことでいい結果を見出だした。

 少し考えてからどうでもよくなった。

 

 何よりも、だ。

 

 

「さぁ、スレイン。姫殿下の所に向かうのは君だ」

 

「……君も来てくれ」

 

「僕が?」

 

「その、監視役じゃなかったか?」

 

「まぁ……いいけど」

 

 スレインと伊奈帆が機体を降りると、下にはザーツバルムとクルーテオが。

 

「姫殿下は既に洗脳から解き放たれている。エフイドルグは無能ゆえに最も強力な鍵を城内に残したまま、この地に来た」

 

「そして、彼女を救ったのは……竜宮島から響いた歌声だ。彼の者の力は果てしなき何かがあったと言える」

 

 それだけ聞ければ充分だった。

 

 火星騎士達がそれぞれ機体から降りて顔を見せる。

 トリルラン伯爵を睨み付ける韻子。

 オルレイン伯爵から目を背ける鞠戸。

 

 それぞれ思うところがあったものの、お互いに傷つけあう事はなくその場が収まる形となった。

 

 

 

 

 

「アセイラム姫!」

 

 貴賓室の奥には銃を持ったまま固まるアセイラム姫が。

 

「よかった。元気そうで」

 

「スレイン……それに伊奈帆さん……!」

 

 二人が並び立ち助けに来てくれた。

 その光景に涙を浮かべて頬笑むアセイラム。

 

「……二人とも……本当に……信じていました……」

 

 アセイラムがスレインに近づこうとすると、彼は一歩退く。

 

「僕は……自分は、レムリナ姫に忠誠を誓った身です。そしてアセイラム姫殿下をお慕いしていながら、殿下より与えられた銀仮面を外して御身の前に現れた。……あなたのような人が罪人に触れるべきではありません」

 

 スレインの言葉に、伊奈帆が口を挟む。

 

「罪の償いは、それなりに果たされつつあると思うけど」

 

「そうですよスレイン。私たちは友人としてこうして再会できた。今はそれを喜びましょう。」

 

 一瞬、伊奈帆とスレインが目を会わせる。

 

 先程のザーツバルムの台詞を思い出したのだ。

 

「と、とにかく姫殿下。」

 

「アルドノアを」

 

「そうですね。では参りましょうか」

 

 

 

 数分歩いた先にはアルドノアチャンバー。

 アセイラム姫や一部の起動権限を持つ存在がアルドノアドライブを停止させる事が出来る場所だ。

 

「スレイン。君はどうやって起動因子を?」

 

「……界塚だって。ましてや君は地球の」

 

「それより二人とも」

 

 アセイラムが誤魔化すように。

 

「始めましょう」

 

 アルドノアチャンバー。

 

 かつてスレインが伊奈帆に銃を向けた場所と同じような作りをしている。

 

「アルドノアドライブからの信号をアナリティカルエンジンを通してナデシコへ。オモイカネから各揚陸城、さらにはジェネシスやエルトリウムに……」

 

 伊奈帆が呟きながら左目に手を当てる。

 

「お願いします。」

 

「はい……」

 

 アセイラムが右手を差し出す。

 

 

「眠れ……アルドノア!」

 

 

 



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20話-覚えていますか

月一くらいのペース


 

 二番艦揚陸城。

 

 アルドノアドライブが停止し全ての揚陸城が無力化された。

 

「ようやく本作戦の半分が終わった。フェイズ2へ移行する」

 

 マークザイン、マークニヒト、マークフィアー、マークジーベンが城内を突き進む。

 後輩たちのファフナー部隊はゼロファフナーを中心に城の外での迎撃行動を行っている。

 

「甲洋。本当によかったのか?」

 

「くどいぞ一騎……」

 

 エフィドルグの複製体に自分達の友人たちの姿があるかも知れない。

 

「先に言っておく。羽佐間や衛達は島に居るんだ。これから目の前に現れるのはただの敵でしかない」

 

「……出てきた」

 

 真矢が銃口を上げる。

 

「カノンか……」

 

 マークドライツェンがルガーランスを向けてくる。

 

「わかっていたが……」

 

「エフィドルグの複製体ならSDPは使えない」

 

「……俺がやる」

 

 一騎のマークザインが前に出る。

 圧倒的な出力でのルガーランスによる砲撃により、カノンのマークドライツェンを消し飛ばす。

 

「最早複製体の精神攻撃は我々の部隊に通用しない。機体が同じであっても、パイロットを完全にコピーしている訳ではないからな」

 

 次々と現れるファフナー。

 

「蔵前、道生さん……」

 

 淡々と撃破。

 

「……衛」

 

 旧式のファフナーが相手であれば、例え絶対的な防御性能だとしても。

 

「マークニヒトの敵ではない」

 

 呆気なく突き進む。

 

 自分達で自分達を異常者だと思い始めた。

 

 いくら複製体と言えど、仲間の姿を無感動に潰していく作業。

 

「気を抜くな皆。ナデシコから連絡が入って、この揚陸城に保護対象がいない事がわかった。」

 

「……待ってくれ総士」

 

 目の前に現れた純白のファフナーに、甲洋が思わず声を出してしまうも。

 

「あれは敵だ」

 

 マークゼクス。

 かつて甲洋が好意をよせ、真矢の親友であり一騎を思っていた少女。

 そして総士が……。

 

「皆城くん」

 

「気安いぞエフィドルグ!」

 

「私のお墓、汚すように言ったの皆城くんなんだよね?」

 

「……!?」

 

 羽佐間翔子。

 肉体的ハンデがありながらも島のために自らの命を散らせた存在。

 

「本当なのか、総士」

 

「……待って春日井くん」

 

 マークフィアーがマークニヒトに近寄ろうとするのを、マークジーベンが制止する。

 

「今は……聞き流して。後で気の済むまで、煮るなり焼くなり好きにして良いから」

 

「遠見……知ってたのか……」

 

「うん」

 

「どうして!」

 

「落ち着け甲洋!」

 

 さらにマークザインがマークフィアーを掴もうとする。

 

「来るぞ!」

 

 混乱の隙をついてマークフィアーに突撃するマークゼクス、翔子。

 機体をぶつけながらナイフで滅多刺しにしてくる。

 

「甲洋!」

 

「くぅっ!」

 

「ハハハァッ!やっぱり人間は下等な種族!」

 

 翔子の姿をした人外が甲洋を嘲笑う。

 

《フェンリル・スタート》

 

「消えちゃいな!エフィドルグの安寧の為に!」

 

 

 

 

 

 

 

------------------

 

今あなたの声が聞こえる

「ここにおいで」と

寂しさに負けそうな私に

 

------------------

 

 

 

 

「始まったか……」

 

「なんだ……何の音だ!?」

 

 マークゼクスが顔を上げた瞬間に、マークニヒトがこれを同化し始めた。

 

「フェンリル強制解除!」 

 

「しまった!」

 

 翔子らしからぬ声に甲洋はマークゼクスを殴り付ける。

 

「そうか……お前達にとってこれは、音でしかないんだな」

 

 頭を抱えながら悶える翔子。

 

「な……なんだ!?この不快な……いや、不快なのか……?」

 

 

 

 

 

 

------------------

 

今あなたの姿が見える、歩いてくる。

 

目を閉じて待っている私に

 

昨日まで、泪で曇ってた

 

心が今………

 

------------------

 

 

 

 

「春日井くん、皆城くん……後はわたしが」

 

 マークゼクスの腰、つまりコクピット付近にマークジーベンのドラゴントゥースが突きつけられる。

 

「待てっ!殺すのか、このわたしを!!」

 

「見苦しいよ……それじゃあ翔子が悲しむ……」

 

 その姿を哀れむように、総士はマークゼクスに通信を入れる。

 

「わからないだろうな……猿真似しか出来ぬエフィドルグには!ならば教えてやろう!お前達が拒絶しフェストゥムが受け入れた!」

 

 マークゼクスのコクピットを真矢のドラゴントゥースが射ち貫く。

 

「人類の英知……歌だ!!」

 

 

 

 

------------------

 

覚えていますか 目と目があった時を

 

覚えていますか 手と手が触れ合った時

 

それが初めての 愛の旅立ちでした

 

I Love so……

 

 

------------------

 

 

 



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21話-銀河最大のライブへ

 

 話は数日前に戻る。

 

「やっと会えた……もう!いったい何処ほっつき歩いたのよ!」

 

 熱気バサラ、氷室美久、秋津マサキの三名が衛生軌道上に待機していた戦艦バトル7に合流を果たした。

 

「いいじゃねぇか。遅刻じゃないんだ」

 

「それよりだ、バサラ」

 

 集合したのはロックバンドのメンバー。

 ファイヤーボンバー。

 かつて全銀河のミュージックチャートに名前を刻んだ。

 ここ数年バサラが放浪の旅に出ていた影響で、その人気が低迷し始めていた。

 それを良く思わなかったのが彼女ミレーヌ。

 その横で苦笑いしているのがレイ。

 無言で眺めているのがビヒーダ。

 

「今回の作戦にお前さんが納得しているとは思えないのだが」

 

「確かに納得してないぜ。昔のミンメイアタックみたいな事をするって聞いてる。結局は戦争の道具だ」

 

「だが、心揺れる物があったのだろう?」

 

 レイの背後から現れバサラに問いただしたのは、バトル7の艦長。

 マクシミリアン・ジーナス。

 ミレーヌの父親にして天才パイロット。

 

「まあな。俺の歌が全ての銀河に一度で聞かせられる……こんなサービス滅多にないだろうからな」

 

 彼らが見上げるのはグレートゼオライマー。

 

「次元連結システム、そしてフォールドクオーツによる懸け橋。各地、各銀河へサウンドアンプブースターをチューリップクリスタルを使用して転移してある。さらには黒部から送られ解析したエフィドルグの情報。盤面に多くの材料が整った。後は君達ファイヤーボンバーや彼女達の歌にどれだけのエネルギーがあるかだ」

 

「心配いらねぇと思うぜ」

 

 バサラが見るモニターには多くの歌い手が。

 シャロン・アップル、シェリル・ノーム、ランカ・リー、ワルキューレ……。

 

「あいつらの歌は……いいと思う。だがな」

 

「どうしたのよバサラ」

 

「お前ら、やっぱり惑星ウロボロスの件は覚えてないのか?」

 

「なにそれ?どこ?」

 

「……リオンやアイシャ、ミーアとか……一条輝や工藤シン、イサムやガルドの事も」

 

「流石に一条輝は映画で知ってるに決まってるじゃない」

 

「……会った事を覚えてるのは俺だけなんだな……」

 

「……聞き覚えのある名前があるな」

 

「えぇ……」

 

 レイとマックスが驚きの表情を見せた所でバサラは背を向ける。

 

「いい、気にすんな。それはそうと」

 

「なんなのよ……」

 

「一曲目は頼むぞ。あの曲は俺では駄目なんだからな」

 

 ミレーヌは複雑そうな顔をしてから。

 

「確かに‘愛、おぼえていますか’は男が歌うのは無しだもんねぇ」

 

「それだけじゃねぇ。10曲目のワンダーリング、20曲目のプラネットクレイドルもお前が主役なんだ。この戦い、半端は出来ねぇ」

 

「やけに気合い入ってるわね……あんただって30曲目にエミリアお姉ちゃんと唄うHeart&soulの練習してきたんでしょうね!」

 

「誰に言ってやがる」

 

 ファイヤーボンバーは賑やかにスタンバイする。

 

 

 

 

 

 それから時が流れ全ての準備が整った。

 

「かなりの負担になると思うけど、大丈夫なのか?」

 

 バトル7が人型に変形してマクロスキャノン、いやサウンドバスターキャノンを構えている。

 艦板の上ではファイヤーボンバーが控えていて。

 数多くの歌姫が各銀河でスタンバイ。

 

 サウンドバスターキャノンの砲口の先にはグレートゼオライマーが待機している。

 

「エルトリウム管制システムとリンク完了。次元連結システム正常稼働。バジュラネットワークとのアクセス良好」

 

「……暫く話は無理か」

 

 観測班から通信が入る。

 

「エフィドルグ艦隊への攻撃開始。艦隊、尚も降下中」

 

「了解」

 

 マサキが溜め息をつく。

 

「作戦があまりにも大規模過ぎて実感がない……でもさ美久」

 

 応答が無い次元連結システムに対して。

 

「このグレートゼオライマーが戦闘以外でも役に立つ。こんなに嬉しいことはない……」

 

 

 

 

 

 

 突如、エルトリウムからノイズ混じりの通信が入る。

 

「どうした?何が起こった?」

 

「エルトリウムが次元湾曲を観測!でも、これは!」

 

「モニターから目を離すな!」

 

 バトル7艦内でも緊張が走る。

 

「おかしいですな、余りにもタイミングが良すぎる次元湾曲」

 

「エキセドル参謀。何か心当たりでも?」

 

「わからない。だが、悪い予感しかしないという事だけは」

 

 マックス艦長はエキセドル参謀からファイヤーボンバーへ視線を切り替える。

 

「ミレーヌ」

 

「何?どうしたの、パパ」

 

「何らかの妨害を受けているかも知れない。だが、君達の歌が切札だと言うのには代わり無い」

 

「妨害……」

 

 親子の通信に割り込むバサラ。

 

「関係ない!これだけのお膳立て……過去最大のライブだ!止められる訳がねぇっ!」

 

 バサラのVF-31改ネオファイヤーバルキリーがバトル7に背を向ける。

 

「次元湾曲なんて下らないぜ!山よ、銀河よ……俺の歌を、俺達の歌を聴けぇっ!!」

 

 機体のフォールドクオーツが輝く。

 

「響かせてやろうぜ!全銀河に、最高のハーモニーを!!」

 

 まだ歌い出していない。

 だが、バサラの存在そのものが次元への干渉を始める。

 

「ミレーヌ!前座は任せた!」

 

「誰が前座よ!上等じゃない!あんたの歌が聞こえなくなるくらいの歌を歌ってやる!」

 

 そんな怒鳴り合いが、ミレーヌにとって嬉しくも懐かしかったのだ。

 

「お願い、どこかに居るかも知れないリン・ミンメイ……。あなたの歌を使うけど、力を貸さないで。これは私自身の魂、心を乗せた歌だから……」

 

 

 

 



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22話-暴力で示す者達

 マクギリス・ファリドは絶句した。

 イオク・クジャンの情報を聞いた時は笑いが止まらなかったにも関わらず、エフィドルグ揚陸城一番艦から涌き出てくる機体群の前に体が硬直したのだ。

 その原因足る純白のガンダムタイプMS。

 

「バエル……ガンダムバエル!!!」

 

 マクギリスのグレイズ・リッターの構えた剣が震える。

 

「擬物と言えどバエル!そしてそのパイロット!そこにいるのはアグニカか!」

 

 バエルの隙をついて投擲される瓦礫。

 片手で弾き、攻撃してきた機体に向けてメインカメラが輝かせる。

 

 

 ガンダムバルバトス・スレイブ。

 ガンダムグシオン・リベイク。

 

 二機がクレイグ・リッターと並び立つ。

 

「勝てるのか……バエルに、アグニカに……」

 

「名前くらいなら聞いたことあるけど……」

 

 無関心かつ冷淡に三日月はバエルを一瞥。

 

「全部潰すだけだ」

 

「待ちたまえ君たち」

 

 マクギリスが三日月と昭弘に通信を繋ぐ。

 

「私は擬物とは言えバエルを手に入れたい。可能だろうか?」

 

「めんどくさい」

 

「そもそもそんな楽な相手なのか?」

 

 昭弘の言葉に納得するマクギリス。

 

「確かに。あれはギャラルホルンの象徴足る機体。並大抵の覚悟で戦っていい相手ではないな」

 

「へぇ。よくわからないけど、凄いんだ」

 

「なら、倒すよな」

 

「うん。アグニカってヤツ、オルガや鉄華団の敵になったら厄介だろうから」

 

「待ちたまえ!」

 

 マクギリスの言葉に、三日月はため息をついてオルガに通信を入れる。

 

「オルガ、どうする?」

 

「……あくまでレプリカだろ。悪いな、マクギリス」

 

「くっ……やむを得ないか……」

 

「やっちまえ、ミカァァッ!!」

 

 

 

 ガンダムバルバトス・スレイブが突撃する。

 フェストゥムの力を使用して構成したのはレンチメイス。

 殴りかかるもバエルの機動性が上回る。

 

「さっきの奴と同じだよ。皆で囲んでボコボコにすればいいんだよ」

 

「そう言う訳だ!」

 

 オルガがアークエンジェルから通信を送る。

 

「ミカに手を貸してくれキラ!」

 

「了解!」

 

 ストライクフリーダムがバエルの頭部にレールガンを直撃させる。

 続いてインフィニットジャスティスがバエルの背中を蹴り込む。

 更にグシオンリベイクの砲撃がバエルの両足破壊する。

 そしてデスティニーがバエルの肩にビームブーメランを突き立てる。

 

「いくら強くても、ね」

 

 バルバトス・スレイブがレンチメイスでバエルの胴体を挟む。

 

「馬鹿な……バエルが、こうも簡単に……」

 

 マクギリスが愕然とする。

 

「うん、大した事ないよ」

 

 レンチメイスの刃が回転し、ギリギリと機体を歪ませていく。

 

「アグニカ……」

 

 エフィドルグ複製体であるアグニカ・カイエルの擬物が搭乗するガンダムバエル。

 戦士ではなく指揮官機であるが故に、歴史上の勇姿を見せることもなく爆散すら出来ずに朽ちていく事になった。

 



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23話-PRIDE

 

 バトル7が全ての歌エネルギーを収束してサウンドバスターキャノンから発射しグレートゼオライマーに直撃させる。

 

 機体の次元連結システムを通してそれをエルトリウムに送る。

 

 出力役からブースターへ、そして巨大なアンテナを通じて全銀河へ彼らの歌が広がっていく。

 それを完全には観測出来ない。

 作戦を始めた彼らとて、それを把握出来る手段は持ち合わせていない。

 だが、分かっている範囲では全て成功していた。

 

 歌エネルギーを数値化した‘チバソング’なる値も計測範囲を超えすぎて不明な状態だ。

 

 

 そして警戒していた様々な銀河系のエクセリオン艦隊やマクロス船団から次々と情報が届く。

 

《エフィドルグ艦隊に動きあり。戦闘の意志、無き模様》

 

《混乱が見受けられます。カクタス並びにヘッドレス、停止》

 

《一部抵抗がありますが、無力化は時間の問題かと》

 

 

 

 

 

 その情報は歌い手もモニターで確認出来る。

 

(これだ!この光景が見たかったんだ!!)

 

 熱気バサラは目を輝かせる。

 

「行くぜ!ギラギラよぅ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして地上でもそれを把握する。

 

「随分と歌が流れるのが遅かったけど……」

 

「戦う必要が無かった相手が居たかも知れん。既に殺してしまっている兵も多い」

 

 エフィドルグ揚陸城一番艦。

 

 全ての人質が集結させられている事をナデシコのオモイカネが確認していた。

 

 そこに投入されたのは白兵戦に特化したクロムクロ、メドゥーサ、イエロークラブ。

 

「しかたあるまい。彼らとてエフィドルグの矜持を通して果てたのだ。それを踏み越えてこその平和だろう」

 

 剣之介と由希奈に対してムエッタが無感動に語る。それをソフィーが気付いて。

 

「ムエッタ?貴女の身体は大丈夫なのですか?」

 

「心配無用だ。かなり前からバサラの歌への耐性が出来ていたからな。それに」

 

「それに?」

 

「私は地球の文化に触れて多くの感動を覚えた。何も知らぬエフィドルグの狗には刺激が強すぎるだろうがな」

 

「皆さま方。間もなく人質の面々と御対面です」

 

 茂澄の言葉に、全員が警戒する。

 

「なんだ……?」

 

「もしかしてあれが……」

 

 一人の男性が数人に殴る蹴るされていて、撮影機材で録られているではないか。

 

「おぉ!お前たちは!」

 

 クロムクロとメドゥーサから由希奈と剣之介、ムエッタが降りて近づく。

 ソフィーと茂澄がイエロークラブで周辺警戒を行う。

 

「なんだろう……この光景、どこかで」

 

「良かった!お前達はナデシコにいた者達であろう!」

 

 由希奈の手を握ってくる浅黒い肌をした男に剣之介は刀を向けた。

 

「馴れ馴れしいぞ貴様!」

 

「あ、あぁすまない。私はイオク。クジャン家当主と言えばわかるだろう」

 

「……誰だっけ」

 

「いや……思い出した」

 

 続いてムエッタが抜刀。

 

「ペンギンコマンドの姿をしていた男であろう?」

 

「……待て、話し合おうではないか」

 

「あ!アークエンジェルから逃げ出したスカイグラスパーの!」

 

「逃げ出したのではない!本国に帰ろうとしたのだ!だが!」

 

 イオクは中年男性に怒り顔で指差す。

 

「エフィドルグに操られたこいつらに拉致されたのだ!」

 

「ふん。ペンギン帝国との再戦に向けて人質として連れてきただけだ。」

 

 一見して極道者の長身の男。鋭い目つきや口調は完全なる悪役面だ。

 

「自己紹介させてくれ。私は又吉一雄。美容室プリンスの所長である」

 

「……もしかしてダイミダラーの……」

 

 かつてアークエンジェル艦長が‘頭がおかしい’と評価した機体の産みの親達。

 又吉所長の背後には個性的な女性達が破廉恥な服装でにこやかに見ているではないか。

 由希奈は関わりたくないと思うも、一応保護対象だ。

 そして。

 

「おぉ白羽と侍じゃん!久しぶり」

 

「茅原くん。相変わらずそうで何より……いや、もう少し変わってても良かったかなぁ」

 

「えー。なにそれ」

 

「とにかくだ」

 

 軽くため息をついた剣之介はイエロークラブを見上げる。

 

「セバスチャン殿」

 

「既に連絡をしています」

 

 増援。

 ボソンジャンプによる転移。

 

 ブラックサレナがコンテナを背負って現れた。

 

「お待たせ」

 

「アキトさん」

 

「早速だがテンカワ。この者達を……」

 

 エフィドルグ揚陸城一番艦からの救出目標を確認して退避。

 次々とコンテナに入っていく面々を眺めながら、剣之介とムエッタはイオクに視線を送る。

 

「何故私のように気高いクジャン家当主をコンテナに乗せる……もう嫌だ……」

 

 かつてアークエンジェルのコンテナを寝床にしたことのあるイオクはうつ向いて歩く。

 

「止まれ」

 

 剣之介が刀を鼻先に突き付ける。

 

「なっ……!?」

 

「貴様は自力で脱出するんだな」

 

「何だと!?」

 

「わからぬか?お主は竜宮島を連邦軍の手で業火に晒した大罪人。それを何故助ける事があろうか」

 

「何を言う!貴様はそれでも人間か!」

 

「この場で切り捨てられなかっただけ好運だと思うのだな。なぁに、傀儡共は止まっている。地道に歩け」

 

「待て……待ってくれ!」

 

 イオクを残して撤収が行われるのだった。

 



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24話-暴力で示す者達

 

 マクギリス・ファリドは絶句した。

 イオク・クジャンの情報を聞いた時は笑いが止まらなかったにも関わらず、エフィドルグ揚陸城一番艦から涌き出てくる機体群の前に体が硬直したのだ。

 その原因足る純白のガンダムタイプMS。

 

「バエル……ガンダムバエル!!!」

 

 マクギリスのグレイズ・リッターの構えた剣が震える。

 

「擬物と言えどバエル!そしてそのパイロット!そこにいるのはアグニカか!」

 

 バエルの隙をついて投擲される瓦礫。

 片手で弾き、攻撃してきた機体に向けてメインカメラが輝かせる。

 

 

 ガンダムバルバトス・スレイブ。

 ガンダムグシオン・リベイク。

 

 二機がクレイグ・リッターと並び立つ。

 

「勝てるのか……バエルに、アグニカに……」

 

「名前くらいなら聞いたことあるけど……」

 

 無関心かつ冷淡に三日月はバエルを一瞥。

 

「全部潰すだけだ」

 

「待ちたまえ君たち」

 

 マクギリスが三日月と昭弘に通信を繋ぐ。

 

「私は擬物とは言えバエルを手に入れたい。可能だろうか?」

 

「めんどくさい」

 

「そもそもそんな楽な相手なのか?」

 

 昭弘の言葉に納得するマクギリス。

 

「確かに。あれはギャラルホルンの象徴足る機体。並大抵の覚悟で戦っていい相手ではないな」

 

「へぇ。よくわからないけど、凄いんだ」

 

「なら、倒すよな」

 

「うん。アグニカってヤツ、オルガや鉄華団の敵になったら厄介だろうから」

 

「待ちたまえ!」

 

 マクギリスの言葉に、三日月はため息をついてオルガに通信を入れる。

 

「オルガ、どうする?」

 

「……あくまでレプリカだろ。悪いな、マクギリス」

 

「くっ……やむを得ないか……」

 

「やっちまえ、ミカァァッ!!」

 

 

 

 ガンダムバルバトス・スレイブが突撃する。

 フェストゥムの力を使用して構成したのはレンチメイス。

 殴りかかるもバエルの機動性が上回る。

 

「さっきの奴と同じだよ。皆で囲んでボコボコにすればいいんだよ」

 

「そう言う訳だ!」

 

 オルガがアークエンジェルから通信を送る。

 

「ミカに手を貸してくれキラ!」

 

「了解!」

 

 ストライクフリーダムがバエルの頭部にレールガンを直撃させる。

 続いてインフィニットジャスティスがバエルの背中を蹴り込む。

 更にグシオンリベイクの砲撃がバエルの両足破壊する。

 そしてデスティニーがバエルの肩にビームブーメランを突き立てる。

 

「いくら強くても、ね」

 

 バルバトス・スレイブがレンチメイスでバエルの胴体を挟む。

 

「馬鹿な……バエルが、こうも簡単に……」

 

 マクギリスが愕然とする。

 

「うん、大した事ないよ」

 

 レンチメイスの刃が回転し、ギリギリと機体を歪ませていく。

 

「アグニカ……」

 

 エフィドルグ複製体であるアグニカ・カイエルの擬物が搭乗するガンダムバエル。

 戦士ではなく指揮官機であるが故に、歴史上の勇姿を見せることもなく爆散すら出来ずに朽ちていく事になった。

 



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25話-エフィドルグに安寧を

 

「やはり幾度も廻る長旅には友人は必要だよ。そうだろ?イドゥン」

 

「カインよ、エフィドルグによる祝福は我等フェストゥムやお前達マギウスを友人にしてくれた。彼らにも我々からの祝福を与えようではないか」

 

 ヴァルヴレイヴⅡ号機ダーインスレイブと漆黒のマークニヒト。

 カインとイドゥン。

 

「ならば友人同士、背中を守り合おう」

 

 二機の前に立ち塞がるのは、ショーコとサキ、アキラのヴァルヴレイヴ。

 

 

「強すぎる……同じヴァルヴレイヴでここまで違う事が出来るなんて……」

 

「……倒す術を見出だせない……」

 

「ショーコちゃん、サキちゃん、ごめん」

 

「アキラちゃん!?」

 

「機体温度が限界。負担かけすぎた」

 

 アキラのヴァルヴレイヴは作戦開始時点からずっとオモイカネと接続し続けいた。既にインパクトブースターも使いきっている。

 

「ダミーレイヴ如きが……」

 

 ダーインスレイブが武器を向けようとすると閃光が横切る。

 

「やらせると思うか!?」

 

「なんだ……その不格好な機体は」

 

 カインの前に現れたのはダイミダラーだった。

 

 

 

 

 

 その頃揚陸城の内部では激戦が繰り広げられていた。

 

「数が多い!」

 

 エフィドルグの残存戦力が集結した城内。

 ソフィー達が乗る機体と同種のイエロークラブ。

 バンカーを装備したロックヘッド。

 鉈を装備したロングアーム。

 飛行能力を持つブルーバード。

 薙刀を持つスパイダー。

 そして。

 

「やはり私の複製体!」

 

 ムエッタが搭乗するマナタの眼前には、もう一体のマナタ。

 敵のマナタをオクトパスと呼称する。

 

「我に害なすか!」

 

「ハッ……この声は……」

 

 クロムクロの剣之介がロングアームを蹴り遠退いてからオクトパスを見る。

 

「雪姫様……」

 

「騙されるな剣之介!お前はもう過去の骸ではない!」

 

 マナタとイエロークラブがクロムクロと背中合わせになる。

 

「こら剣之介!もうあんたにはあたしが居るんだから、ご先祖様に惑わされないで!!」

 

「二人とも……すまぬ」

 

 クロムクロが正眼に構える。

 

「我はこれより、羽芝家の家臣青馬剣之介時貞ではない!この世に生きる一人の男として戦う!」

 

「それでこそだ!」

 

 マナタは別の機体を相手取る。

 

「さぁ覚悟してもらうぞミラーサ!」

 

「ヒィッ!頼む、殺さないでくれ!ムエッタ姉様!」

 

「どの口が!」

 

 スパイダーが逃げの一手。

 ミラーサは精神的にも追い込まれていた。

 太陽系に集まっていたエフィドルグ艦隊の全ての戦力を投入したにも関わらず、突如先制攻撃を仕掛けられて衛生軌道上から逃げるように地上に降りた。

 

 さらにエフィドルグの情報網に引っ掛かった猛者を複製させて迎撃に当たらせたのだが、尽く撃破されただけではなく謀反を行う者まで現れた。

 

 

 更に追い討ちをかけるかの如く、バサラの歌が無理矢理脳裏に響くではないか。

 

 仲間に頼りたくても残りの戦力は僅か。

 そして城内の部隊はグロングルのみ。

 

「じ、冗談ではない!!」

 

「潔く討ち取られよ、ミラーサ!」

 

 ミラーサが怯えながら逃げようとすると、イエロークラブ改のソフィー達が戦闘箇所から突如離脱したではないか。

 

「なんだ!?何をしようとしている!」

 

「わからぬだろうな!自らの手柄を求めていた者では!」

 

 クロムクロが他のグロングル達を誘導するように走っていく。

 

「既にお前は孤立した!さぁ教えろ!エフィドルグの複製技術を!」

 

「な、何!」

 

「我々がどのように作られているのか、それを知るべきだろう!」

 

 ムエッタが乗るマナタが、ミラーサのスパイダーを押さえつける。 

 

「知るものか!あれはエフィドルグの安寧に必要なモノ!」

 

「……ミラーサ。お前は何故生きているのだ?確か黒部での血戦で戦死したはずだ。」

 

「ヨルバによって救われたのだ!」

 

 ミラーサは突如吐き気を催す。

 

「……違う。確かに死んだ……そしてヨルバに運ばれ……クゥっ!!」

 

「……ミラーサ……」

 

「そうだ……わたしは複製されたのだ……そして、調整を受けて……’あの方‘からの指示で」

 

「あの方……?」

 

「……えぇい!!これ以上惑わすな!あの方の場所までお前は到達させぬわぁ!!」

 

「チィッ!」

 

 スパイダーからの奇襲。

 アクロバティックな足裁きで跳ね回り機動性で圧倒するも、マナタは躊躇なく壁や床を振動刀で切り裂きながら走る。

 

「……ミラーサ。お前は美味しいものを食べたことがあるのか?」

 

「美味しいもの……何を言っている!?」

 

「お前は気に入った男と手を繋いだことはあるのか?」

 

「世迷言を!!」

 

 ムエッタはミラーサを哀れむ。

 

「人間として生きるのは、とても尊く多くを学べる。エフィドルグの生き方としては相応しくないだろうがな」

 

「ならば死ねぇ!」

 

「さらばだ……ミラーサ!」

 

 今まで仲間達が使っていた戦法。

 

 何百年と進化が止まっているエフィドルグは、それを学ばなかった。

 

 

 

 

 外壁を殴り破ってきたのは、バルバトスだった。

 

「ムエッタ、こいつも殺していい奴だよね」

 

「あぁ、エフィドルグの指揮官だ。恐怖を与えて殺してほしい。後は好きにして構わないぞ三日月」

 

 バルバトスがメイスを構える。

 するとスパイダーは後ずさりしながら。

 

「待て!貴様ムエッタ!武人としての誇りはないのか!?正々堂々と一騎討ちをしろ!」

 

「バサラの歌を聞かなかったお前が悪い。それにこれは‘エフィドルグ殲滅作戦’だ。戦ですらない」

 

「もういい?」

 

「待たせた。後は任せたよ」

 

「待てムエッタ……ムエッタ姉様!」

 

「煩いなぁ」

 

 無慈悲にもメイスが叩きつけられる。

 

 



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26話-輝きの先へ

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「お嬢様、発見しました」

 

「よろしい。では、良しなに」

 

「ハッ。では、まいります」

 

 ソフィーと茂澄が乗るイエロークラブ改。

 機動性を犠牲にした重武装をエフィドルグ製グロングルをGAUSのパーツを組み込む事で戦力強化を図っていた。

 その攻撃力をぶつける相手は何一つ防御の術を持たない無機物。

 

 

 エフィドルグ揚陸城のコアである‘枢石’の破壊。

 アルドノアを停止していても、その石の力で外宇宙への移動を可能にしている。

 彼女らは完全に敵の退路を絶つために、先攻していた。

 

 そしてその砲口が火を吹く。

 

 

 

 

 その頃のクロムクロ。

 次々とエフィドルグの部隊を薙ぎ払って城外へ飛び出す。

 視界の片隅にはムエッタのメドゥーサと、ガンダムバルバトス。

 

「あれは!?」

 

「剣之介!援護いこう!」

 

 クロムクロが全力で接近。

 その先ではダイミダラーが二機横たわっていた。

 

「手を貸すぞお前たち!」

 

 クロムクロ、メドゥーサ、バルバトスが二機を囲むように構えた。

 

「大丈夫だ!俺達に任せろ!」

 

 孝一の大声が響いた。

 

「こんなやつ相手に弱音なんか吐かねぇ!」

 

 ダイミダラーのコクピット内が変形する。

 

「やるぞ恭子!バックアタックモードだ!」

 

「やりなさい!好きなだけ揉んで!」

 

「オォォォッ!」

 

「ん……あぁっ!」

 

 恭子の胸を揉み、ハイエロ粒子をチャージした。

 

「何をしているのやら。興醒めだ。練度評価Fをくれてやろう」

 

 カインのヴァルヴレイヴ・ダーインスレイヴが大剣を振りかざす。

 

「ルーンの輝きに魅せられるがいい」

 

「こっちも教えてやるぜ!」

 

 ダーインスレイヴの攻撃がダイミダラーに直撃。

 首を跳ねられたように見えた。

 

 しかし、ダイミダラーは無傷。

 

「……強度が増した……?」

 

「あぁそうだ!男だからな。エロの力で固くなったんだ!!」

 

 みなぎるリビドー。

 特種粒子が機体を包み、それを見たカインが一歩引く。

 

「なんだそれは!?」

 

「知らないとは可哀相にな!お前、さては童貞だなぁ!?」

 

「貴様何をいっている!」

 

 理解不能な存在に戸惑っているカインの機体をダイミダラーの左手が掴む。

 胴体を固定されたダーインスレイヴは武器を展開出来ない。

 

「くらえぇぇぇっ!!」

 

 指ビーム。

 

 ダイミダラーによる超高出力ビームが発射。

 

「フン……当たらなければどうと言うことも」

 

 ダーインスレイヴが無理矢理拘束を逃れて回避した。

 次の瞬間。

 

「捉えた!!」

 

 背後から霧子のダイミダラーがダーインスレイヴを鷲づかみにしたのだ。

 

「チィッ!」

 

 捉えられ、全身の武装を展開出来ない。

 

「今だぁぁっ!」

 

 リッツが超南極による廻し蹴りを浴びせ、頭部を損壊させる。

 

「浅い!?」

 

 力づくで、さらに孝一のダイミダラーも捕縛へ。

 背後から霧子、前から孝一のダイミダラーがダーインスレイヴを掴み、行動の自由を完全に奪う。

 

「お前に真のエロスを味会わせてやる!」

 

「何をするつもりだ!下等な人間風情め!」

 

 カインが叫ぶ。

 

「このような愚策を取るとはな!練度評価をさらに下げよう!」

 

「うるせぇんだよ!上から目線もうんざりだ!……やるぞ恭子、霧子、翔馬!!」

 

 ダイミダラーによる粒子がダーインスレイヴのルーンの輝きを包み込む。

 

「ダイミダラー……インサートブレイク!!」

 

 二機の合体攻撃が炸裂する。

 

「なんだ……この力は……」

 

 カインは一切の抗いが出来ない。

 

「教えてやるぞ!!これが……俺達人間にしかない最強の力だ!!」

 

「く……クソがぁぁぁぁ!!」

 

 ヴァルヴレイヴ2号機であるダーインスレイヴが爆散。

 戦場にハイエロ粒子が広がっていくのだった。

 

 



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27話-凪ぎ払え悪夢

 

 援護が間に合わずイドゥンのマークニヒトが動きを止めた。

 

「分断されるとは、カイン。哀れな」

 

 次第にマークニヒトの目前まで部隊が展開してきた。

 

「やはり一人では勝てない。ならば」

 

 同化ケーブルを揚陸城に突き刺し結晶化させる。

 

「手伝ってもらうぞ‘虚無の破壊者’そして‘夜天光’」

 

 形成した結晶から次々と姿を現したのは、小型宇宙怪獣。

 それと同じタイミングで夜天光も。

 真紅の機体が仲間を連れて部隊を

包囲。

 

「夜天光か。今更だな……」

 

 ブラックサレナのアキトが冷めた目で見つめる。

 

「……なんだ?」

 

 一機の飛行型グロングルがブラックサレナの横を飛び去る。

 

「まずは奴から倒す!」

 

 それを追うクロムクロ。

 

「……こちらはどうするか……」

 

 ブラックサレナの中でアキトは考えた。

 因縁のある夜天光を相手にするのか。

 それともクロムクロの援護に向かうか。

 

「……剣之介を手伝うか」

 

 もはや因縁すら無意味。

 ユリカとの再会も果たし、自らが施された人体実験の後遺症もバサラのお陰で解決した。

 復讐心はあれど一度殺した相手に興味など無かったのだ。

 

 ブルーバード、クロムクロ、そしてブラックサレナが揚陸城の周囲を旋回しながら飛翔した。

 

 

 

 

 一方のイドゥンに対して真っ先に突撃したのは同型のマークニヒト。

 黒の機体へ飛び込むのは紫の機体。

 

「やはり来たか。皆城総士」

 

「偽りの亡霊め!不快な姿を見せた以上覚悟してもらおう!」

 

 総士を追うように次々と援軍が。

 マークザイン、マークジーベン、マークフィアー。

 

「ファフナー隊!クロスドックは覚えているか!?」

 

「あぁ!」

 

「うん、問題ない」

 

「こちらもいいぞ!」

 

 総士、一騎、真矢、甲洋が息を合わせる。

 

「先ずは私から」

 

 真矢が冷淡にイドゥンへ向けて狙撃。

 

「やるぞ!」

 

 甲洋と総士が左右からルガーランスでの斬撃。

 イドゥンのマークニヒトが体勢を崩す。

 

「今だ一騎!!」

 

「うおぉぉぉっ!!」

 

 マークザインがルガーランスを二本突き刺し距離を取る。

 

「遠見!」

 

「大丈夫。私たちならやれる」

 

 マークジーベンのドラゴントゥースにマークザインが同化。

 

 最大出力の攻撃がイドゥンを貫き爆散させた。

 

「こっちは片付いたぞ!!」

 

 マークザインが再び空へ飛ぶ。

 

「待て一騎!さがれ!」

 

 突如として夜天光がボゾンジャンプをして一騎を包囲した。

 

「くそっ!」

 

 マークザインの胴体に次々と武器が刺される。

 

 しかし次の瞬間にはダイターン3がダイターンザンバーで夜天光を振り払った。

 

「合わせ技をやるぞ一騎くん!」

 

「はい!」

 

「日輪の力を借りて……今、必殺の……サン・アタック!」

 

 ダイターン3の頭部から発射される閃光をマークザインのルガーランスに直撃させる。

 

「この輝きなら、どんな敵だろうと……」

 

 ルガーランスが日輪を反射させて広範囲に散らばる夜天光を次々と同化していく。

 

「だからもう……おやすみ……」

 

 同化し結晶化した夜天光が消滅していった。

 



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28話-視線の先には

 大量発生した宇宙怪獣はガンバスターにより数秒で消失していた。

 

「残りは!?」

 

「あれだけね……」

 

 エフィドルグ製のグロングル。

 ブルーバードと呼ばれる空中戦特化型の機体。

 

「一人だけ逃げようとはな!」

 

「死にたくなかったら投降してよ!」

 

 クロムクロの中で剣之介と由希奈が叫ぶ。

 

「ここで生き恥を晒すくらいなら!」

 

 ブルーバードが突然、クロムクロに接近してくる。

 

「来るか!」

 

「いや……あれは!」

 

 由希奈が機体の警戒表示を指摘。

 

「自爆するかも!」

 

「くぅっ!間に合わぬ!」

 

 接近するブルーバードのスピードに対応が間に合わない。

 出遅れたブラックサレナも距離があった。

 すると通信が響く。

 

「我々に任せろ!」

 

 太陽騎士ゴッドが騎士ユニコーンを掴む。

 

「な、何を!?……ウワァァァッ!!」

 

 返答を待たなかった。

 

 太陽騎士ゴッドの手で力任せに投げ飛ばされる騎士ユニコーンは、弾丸のようにブルーバードへ叩きつけられた。

 

「全く遠慮なしか……だが!」

 

 ブルーバードのコクピットを切り裂いて、纏い手であるヨルバが抵抗しようとするのを無理矢理引きずり出した。

 

「これで……終わりだぁ!」

 

 騎士ユニコーンの叫び。

 それはブルーバードを相手にしている現状だけではない。

 

 黒部での揚陸城の迎撃、エフィドルグとの戦いを示していた。

 

 そして爆発するブルーバードが、まるで祝砲のように散っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 部隊の撤収が次々と行われた。

 

 アークエンジェルとナデシコが富山きときと国際宇宙港に停泊して、乗り組み員達は勝利の余韻を味わっていた。

 

「火星騎士共々、まさか尋問も無しに捕虜としての扱いも無いとはな」

 

 ザーツバルムが与えられたドリンクを飲みながら椅子に腰かけた。

 

「勘違いしないで下さい。あなた方は騎士としての気概をお持ちだ。それを信じていないわけではない」

 

 伊奈帆がザーツバルムと対峙する。

 

「複製体と言えどもそれは守る。我の中にはエフィドルグの武人としての在り方が騎士の心に混じっている。今更悪手は無いだろうて」

 

「まぁ、抵抗も無意味だと理解している以上は大丈夫でしょうがね」

 

 伊奈帆は遠くにいるアセイラムとスレインに視線を送り。

 

「それに、あなたの言ったことは理解できた」

 

「……姫殿下とスレイン。二人の今後も、実に見物だ」

 

 

 

 

 

 そしてベットに横になっているラクスの髪を撫でるキラ。

 

「君が訪れるとは思ってなかったよ」

 

 キラは救護室の入り口から視線を感じると、そこには三日月だった。

 

「その人があんたの戦う理由なの?」

 

「うん。彼女を守るのも理由の一つ。君は?」

 

「オルガと約束の場所に行くため……まぁ、それが何処なのかわからないけど」

 

 僅かに微笑むキラ。

 

「きっと相容れないモノだと思っていたけど……君やオルガ団長が目指す場所は、僕が目指す場所と近いかも知れない……」

 

「……?」

 

「少し先の未来の話だよ。僕が通過点で、君はゴール」

 

「……何となくわかる。それが分かれば、多分もうあんたとは戦わないと思う」

 

 三日月は木の実をキラへ手渡した。

 

「ねぇ」

 

「なんだい?三日月」

 

「まだ何かありそうな気がしない?バルバトスからフェストゥムが離れてないし」

 

 キラは三日月の‘黄金に輝いた’瞳を見た途端、立ち上がる。

 

「……三日月!?」

 

「まだ祝福には早い。フェストゥムが何処かの誰かを気にしているんだよ」

 

 ラクスを守るように立つ彼を余所に、構わず続けた三日月。

 

「ーーーーあなたは、そこにいますか?ーーーーってさ」

 



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