GGOで好き勝手書いてみた短編集 (rockless)
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シノンさん危機一髪?!

さぁここで小話を一つ、ソードアートオンラインのGGO編のヒロイン、シノン
彼女はボスに全弾を撃ち込んで倒して、ヘカートⅡを手に入れた
では弾が無い状況で彼女はどうやってダンジョンから街まで帰ったのか・・・?


「どうやって帰ろう・・・?」

 

 ダンジョンである遺跡からフィールドへ出てきた少女、シノンはそこで初めて自分の置かれている状況を知った

 

 つい先ほど、遺跡の下層のボスをメインウェポンのスナイパーライフルの全弾を撃ち込んで倒したばかりである。サブウェポンは射程も威力も心許ないハンドガンのみ。こんな状態でフィールドを歩いてグロッケンまで戻らなければならない。そんな装備で大丈夫か?

 

 この状況で対人プレイヤーに襲撃されたら?間違いなくPKされるだろう。普段のシノンならば、それも仕方ないと受け入れられるが、残念ながら今だけはダメだった。なぜならボスからレア銃であるアンチマテリアルライフル、ヘカートⅡをゲットしてしまったからだ。死に戻りでフィールドにこれを落としてしまえば、彼女は恐らく二度とGGOにやってくることは無いだろう。しかしそのヘカートⅡもドロップしたばかりで、生憎弾が無いという状況である

 

「なんとしても、生きて帰らねば・・・」

 

 生還への決意を胸に、状況打開の策を考え始めたそのときだった。すぐ近くでエンジンの始動する音がした。プレイヤーの気配を感じ、すぐに身を隠すシノン。そしてエンジン音のするほうに意識を集中する

 

「このエンジン音、車にしては・・・?」

 

 半年前まで東北地方で暮らしていたシノンの中の人は、この音が自動車ではないことに気付いた。そして、この音を発生させる乗り物、それに近いこのゲーム内の乗り物にも心当たりがあった。操作が難しくて誰も乗れないと言われていたあの乗り物・・・

 

「3輪バギー、つまり」

 

 ―相手は1人か2人だ

 

 彼女の中に、1つの解決策が浮かんだ。なんとか交渉して一緒にグロッケンまで帰ることはできないだろうか、と・・・現状、他のプレイヤーと接触するのは推奨できる行動ではないが、運がよければ無事生還できる

 っと、そうこうしているうちに、3輪バギーのエンジン音が一層大きくなった。恐らく走り出したのだろう。音がドンドン近付いている。彼女が隠れている場所から外を窺うと、1台の3輪バギーが走ってくるのが見えた

 

 ―運転者の後ろにプレイヤーは、いない?!やった!!

 

 シノンはグッと拳を握った。勢いに任せて3輪バギーの進路に飛び出す

 

「止まってーーっ!!」

 

 両手をバッと前に出し、思い切り叫んだ。あれ?これ下手したら轢かれるのでは?と、自身の早まった行動を反省した彼女だったが、幸運にも3輪バギーは減速し、彼女の前に停止した

 

「お願い!!グロッケンまで乗せてください!!」

 

 3輪バギーが停止したのを見ると、すぐに近寄って交渉をする。近寄ったのは交渉のためではあるが、もしも交渉が決裂して戦闘になっても、向かい合って1メートル以内のこの距離ならば、ハンドガンでもワンチャン勝ち目があるかもしれないからだ

 

「うーん、乗せてって言われても・・・」

 

 バギーを運転していたプレイヤーが、バギーの後部座席に視線を送る。そこには旅行用のトランクケースのような箱が積んであった

 

「このケースの上でいいならいいけど・・・落っこちても知らないよ?」

 

「ホント?ありがとう!!」

 

 交渉が成立し、シノンが後部座席にあるケースの上に乗る

 

「あ、俺に掴まるのは無しね。運転に影響が出るから」

 

「わかったわ」

 

 バイクの2人乗りよろしく運転者に掴まろうと手を出そうとしたシノンだったが、注意されてしまい。仕方なく自分が乗っているケース自体にしがみつくことにした

 

「えっと・・・出すよ?本当にいい?」

 

「ええ、いいわ」

 

 じゃあ・・・っとプレイヤーはバギーを発進させる。不整地を走るため、時折大きな揺れが発生したが、歩いて帰るよりはマシ・・・っとなんとか耐えるシノンだった

 

 

 そんな感じで5分ほど・・・

 シノンもやっとバギーの乗り心地に慣れてきて、周囲の景色を楽しむ余裕ができてきた。グロッケンに戻ったら自分でも運転できるように練習するのもいいかもしれない・・・なんて考えていた、まさにそのとき

 

「チッ・・・ちょっと飛ばすからしっかり掴まってて」

 

「え?わ、キャッ」

 

 その言葉とともに、バギーのエンジンは吼えるように回転を上げ、バギーは加速していく。そして揺れも今まで以上のものになり、シノンは慌ててケースにしがみつき直す

 

「ちょっと、一体何?!」

 

「お客さんだよ!!」

 

 ハンドルが切られ、進路を変えるバギー。そしてそんなバギーを追い駆けるように猛スピードでこちらに向かってくる3台の車。不整地でも走れる軍用の高機動車、ハンヴィーである

 

「ハッハァーッ!!今日こそお前を殺してドロップ品を奪ってやるぜ!!」

 

「お?カワイ子ちゃんもいるぜ?」

 

「構うもんか、殺せば関係ねえよ!!」

 

 ハンヴィーの銃座にいる3人が叫びながら機関銃をバギーに向け、発砲する。銃座に取り付けられたM249機関銃から5.56×45ミリ弾が発射されていく。小口径だが、バギーを破壊するには十分の威力を持った弾である。バギーはさらに加速し、左右に進路を振って弾を回避する

 

「ちょっと、なんなのよーっ?!!」

 

 強烈な揺れに耐えつつ、運転者のほうを向いて問いかけるシノン。運転者はというと、右手はハンドルとアクセルを保持したまま、左手でいつの間にか抜いたハンドガンのスライドを、口でくわえてスライドさせてコッキングしているところだった

 

「こういうこと、だよ!!」

 

 運転者は左手に持った銃を後方やや左に向けた。シノンの目の前に武器がやってくる。運転者はバギーに付いているサイドミラーを通して狙いを定め、発砲。直後、ガラスの割れる音がシノンの耳に届いた。彼女が後方に目を向けると、1台のハンヴィーの運転席のガラスが割れていた。そのハンヴィーの運転席のプレイヤーは顔面にダメージエフェクトを散らし、消滅した

 

「嘘、でしょ・・・?」

 

 シノンは目の前で起こったことが信じられなかった。走行中のバギーから、ミラー越しに狙いを定めて、同じく走行中の車の運転席のプレイヤーの頭に当てる。神業と言ってもいい射撃であった。しかも・・・

 

「デザートイーグルの片手打ちで、なんて・・・」

 

「あ?41口径のだから反動は軽いもんだって」

 

 大口径マグナムを装填したデザートイーグルでそれを行うなんて・・・シノンは背筋がゾッとした

 

「クソッ、やりやがったな!!」

 

「調子のんなよ!!」

 

 1台のハンヴィーが脱落し、残り2台のハンヴィーからの射撃が一層激しくなる。バギーは左右に蛇行を繰り返しながら、運転者は再び射撃を試みるが、同じ手は食うまいとハンヴィー2台も進路を揺らす

 

「それなら!」

 

 運転者はバギーの進路を左に取った。1台のバギーと2台のハンヴィーが左にカーブする中、運転者は発砲した

 

「ハッ!どこを狙って、うおっ?!なんだぁああっ?!」

 

「わーバカ!こっちくんじゃねぇええ!!ぬわー!!」

 

 運転者が放った弾を車体下部に食らったハンヴィーが、突如横転したのだ。横転したハンヴィーはもう1台のハンヴィーを巻き込み派手にクラッシュした。発射された弾丸は、左カーブで荷重のかかったハンヴィーの右サススプリングに命中。損傷したサススプリングはハンヴィーの車重と旋回Gに耐え切れず破損し、車体はバランスを崩し横転した、というわけである

 

「まだ負けてねえぞーっ!!」

 

「しつこいなぁ・・・」

 

 残り2台をまとめて仕留めて、片付いたと思ったら、最初に脱落させた1台が再び追走してきた。最初の1台目は運転席のプレイヤーを殺しただけなので、銃座にいたプレイヤーが運転席に着き、追い駆けてきたというわけである。しかし、それはつまり銃座には誰も着いていないので、射撃ができないということである

 

「射撃じゃなくても、バギーとハンヴィーの車重差なら体当たりで吹っ飛ばせるんだよ!!」

 

「ま、当てられたら、な」

 

 ハンヴィーの体当たりを、バギーは難なく回避した。当然のことだが、バギーとハンヴィーならば、小回りが利くのはバギーである

 

「それじゃ、お疲れさんっと」

 

 運転者はデザートイーグルでハンヴィーのある部分を狙って発砲した。狙い違わず命中したその部分、給油口から炎が噴き出し、燃料タンクが爆発。ハンヴィーは炎上しながら前方へ1回転半してスクラップと化した

 

「あなた、一体・・・?」

 

「さぁて、グロッケンへ急ぐかな。ちょっと遠回りしちまったからな。うかうかしてたらまた襲撃されちまう」

 

 

 バギーがグロッケンまで戻ってきた

 

「マーケットには向かわず、付き合いのあるバイヤーの店に向かうから、降りたいところで言ってくれ」

 

「じゃあその店まで連れてってもらえないかしら?弾の補充をしたいから」

 

「オッケー」

 

 2,3分ほど走ったところでバギーは1軒の店の前で止まる。運転者がバギーから降りたので、シノンも同じく降りる

 

「ブラックアロー?」

 

 店の名前が書かれた看板を見上げるシノン。運転者はシノンの下にあったケースを重たそうにバギーから降ろし、店に持って入った

 

「おーい、着いたぜ」

 

「お、帰ってきたか、おかえり。っと、珍しいな、連れがいるとは」

 

「帰りに拾ったヒッチハイカーだよ。弾の補充をしたいんだとよ」

 

「そうかい。何の弾だい?」

 

 店主のプレイヤーがシノンに向き直って応対した。シノンはストレージからヘカートⅡを取り出した

 

「これの弾なんですが」

 

「ほぉ、こりゃあまた・・・すごいのがきたな」

 

 店主が驚きの表情を浮かべた

 

「今日入手したばかりかな?」

 

「えぇ」

 

「ちょっと見てもいいかな?」

 

 シノンからヘカートⅡを受け取った店主は、マジマジと舐めるようにそれを見始めた

 

「PGMヘカートⅡ、フランスの対物用の大口径ライフルで、弾は12.7×99ミリのNATO弾だな」

 

「対物ライフルか、結構なレアリティだな」

 

「そうだな。未使用品みたいだし24メガ(2400万)、いや25メガ(2500万)クレジットってところか?今日ドロップしたならどうだい?売る気は無いかい?」

 

「あの・・・その・・・」

 

 GGOは公式でリアルマネートレードが可能なゲームで、ゲーム内クレジットを現実の通貨に換金することができる。変換レートは100クレジット=1円となっている。つまり店主はヘカートⅡを25万円で買いたいと持ちかけていることとなる。今年高校生になったばかりのシノンの中の人にとっては困惑する金額であった

 

「そういうのはお前、あの銃売ってからにしろよ。いつになったらアレ売るんだよ」

 

「バッカ、お前、アレ売ったらウチの看板がなくなっちゃうだろ!!1億クレジット出されてもアレは売らねーよ!!」

 

 ここまでバギーに乗せてもらった運転者のプレイヤーが、顎でしゃくって店主の後方の壁に飾ってあるライフルを指して言う。その銃を見た瞬間シノンは圧倒された

 

「何、あれ・・・?」

 

 ヘカートⅡよりも長大な全長、漆黒の本体に銃口の先には対物ライフル特有のマズルブレーキを備えたその銃は・・・

 

「ツァスタバM93ブラックアロー。セルビアの対物大口径ライフルだ。弾は12.7×108ミリ。ヘカートⅡに使用する12.7×99ミリより高初速で長射程、貫通力もある。間違いなく現在このゲーム内最強の対物ライフルだ」

 

「すごい・・・」

 

「ちなみに買い取り価格は、未使用で80メガ(8000万)クレジットだったな」

 

「は、8000万・・・」

 

 シノンはゲーム内なのに軽く眩暈を感じた

 

「まぁ、売る気になったらウチにおいで。中古でも21メガ(2100万)22メガ(2200万)は出すからさ」

 

 店主は持っていたヘカートⅡをシノンに返し、カウンターの下から、12.7×99ミリの弾丸を1箱出し、シノンがクレジットを支払って売買を終えた

 

「それじゃ次は俺だな」

 

 店主とシノンのやりとりが終わるのを、持ち込んだケースに座って待っていたバギーの運転者は、そう言って立ち上がると、重たいケースをなんとか持ち上げて、カウンターの上に載せた。シノンは好奇心から、その様子を近くで見ている

 

「さて、今日はどんなものが出てくるかな・・・」

 

 店主が恐る恐る持ち込まれたケースを開けると、そこにはアサルトライフルとサブマシンガンがギッシリと入っていた

 

「まずはアサルトライフルだな。SIGに、H&K、うわ、ステアーまである・・・」

 

 店主がアサルトライフルを1丁ずつ取り出してカウンターに並べていく。SIGSG550、SIGSG552、H&KG36、H&KHK416、H&KHK417、ステアーAUGが取り出され、並べられた

 

「次はサブマシンガン・・・メーカーは同じか」

 

 そう言って、次はサブマシンガンを取り出し始めた。SIGMKMS、H&KMP5、H&KUMP、ステアーTMPの4種類が仕様違いで複数丁。全てカウンターに並べられた

 好奇心で見ていたシノンは開いた口が塞がらない。ここにある銃だけで、数百万クレジット、下手をすれば1000万クレジットに達していてもおかしくないのだ

 

「それで?ストレージのは出さないのか?」

 

「まだあるの?!」

 

「こんなのまだ前座だよ。一番大事なものはストレージに入れておく。当たり前のことだろ?」

 

 もう勘弁してくれ、そんな思いで口から出たシノンの言葉に、店主が返す。ケースに入れてバギーの荷台に積む。確かにそんな運搬方法だと、プレイヤーが倒されなくても、ケースだけ奪えばいいのだ。通常、このゲームでドロップ品の売却で利益を上げているプレイヤーたちは、複数人でチームを組み、1人を運搬役としてストレージを空けさせておくのだ。ケースを使用する方法を取るプレイヤーなど普通はいない

 

「フッ、見て驚くなよ。2丁あるからな」

 

 そう言ってウィンドウを操作して、ストレージから2丁の銃が出てきた。独特のフォルムを持つその2丁の銃。シノンはその銃が何かわからなかったが、店主たちはどうやらわかっているようで、シノンがヘカートⅡを出したときより大きな驚き、驚愕の表情をしていた

 

「H&KXM8とXM29か・・・初めて見たぜ。ヤバイなこれ」

 

「あぁ、ヤバイ。特にXM29のほう」

 

「あの・・・なにがそんなにヤバイの?」

 

 2人が重苦しい雰囲気に包まれている中、シノンが意を決して問いかける

 

「この銃はな、括り言えばアサルトライフルなんだが、部品交換により、サブマシンガンからスナイパーライフルまで、使用方法を変えることができる。それだけならH&KHK416なんかも似たような感じなんだが、コイツはその部品交換を道具を使わず素手で行える。汎用性の高く、さらに装着可能なオプションも多い。本体重量もXM8は3.4キロしかないと言う点も脅威だ」

 

「さらにヤバイのはXM29だ。XM8の汎用性をそのままに、20ミリのグレネードランチャーを合体させた代物だ。それで本体重量5.5キロだからな。対人プレイヤーたちなら5000万でも6000万でも出しかねんな」

 

 本体重量の軽さは装備時の要求STR値に影響する。必要なSTR値が少なくて済むということは、GGOが始まってからずっと強いと言われているAGI型ビルドを行っているプレイヤーにとって、好ましい銃ということなのだ

 

「さて、いくらで買い取る?」

 

「そうだな・・・この2丁は一先ず置いておくとして、ケースに入ってた銃は、まとめて600万で・・・」

 

「600万ってお前、それは買い叩くにもほどが」

 

「まぁ最後まで聞いてくれ。正直バイヤーとしてプレイしてる俺でも、この2丁、特にXM29はいくらの値まで上がるか予想がつかない。このゲームの対人戦特化のプレイヤーの欲には底が見えん。さっきのブラックアローだって、いつか本当に1億クレジットを提示してくるヤツが出てきそうなくらいだ」

 

 GGOというゲームで強くなる方法は主に3つで

 

 1つ、モンスターを倒し、経験値を得てレベルアップし、ステータスやシステム上のスキルを上げる

 2つ、地道な練習でプレイヤー本人のスキル、プレイヤースキルを伸ばす

 

 そして、一番手っ取り早く簡単で楽なのが・・・

 

 3つ、高性能の武器を使う

 

 である。1つ目や2つ目と違い、3つ目はお金で解決できる以上、GGOの対人戦が盛り上がれば盛り上がるほど、現実の金に糸目をつけないプレイヤーが次々と現れることとなるわけである

 

「っでだ、とりあえずXM8を3000万、XM29を5000万で買い取る。それで、この2丁の利益分の半分を後払いで上乗せする。どうだ?」

 

「・・・信じていいのか?」

 

「俺だって、お前のおかげでたんまりと稼がせてもらってんだ。ここで裏切って、もうウチに卸に来なくなると大損する。確実に約束は守る」

 

「2丁それぞれの利益だからな?どっちかで損失出したから、もう片方の利益で補填して支払い分を減額とか無しだぜ?」

 

 2人がガンを飛ばし合う。GGOには契約書を作ることができないので、こういった取引は口約束になる。だから相手を信用するかを慎重に判断しなければならない

 

「いいだろう。交渉成立ってことで」

 

 シノンの目の前で、2人が8600万クレジットという途方も無い金額の取引が成立する

 

「あぁそうだ。これも買い取ってくれ。それと預けてたアレ、出してくれないか?」

 

「もう使うのか?早いな」

 

 カウンターに41口径のデザートイーグルが置かれ、それ用の予備マガジン、使用されなかった弾丸も置かれた。店主は、店の倉庫ウィンドウを開き、同じ種類の銃を取り出した

 

「いよいよ44口径か。それで物足りなくなったら50口径を使うのか?」

 

「どうだかな・・・41口径と44口径はマガジンの装弾数が8発だが、50口径は7発だからな。リロード回数が増えると面倒だしな」

 

「なるほど」

 

 銃の動作を確認しホルスターに納め、追加で出された44口径マグナム弾と予備マガジンをストレージに入れていく

 

「それじゃ、今日はこれで」

 

「毎度あり~。って、おーいお嬢ちゃん。いつまでそこにいるのー?寝オチしちゃったー?」

 

「っ!」

 

 シノンは店主の声で我に返った。目の前で行われたあまりにも自分の常識の外のやり取りに、呆然としてしまっていたのだ

 

「す、すみません。失礼します」

 

「今後ともご贔屓にね」

 

 慌てて店を出て行くシノンを見送る店主

 

 フィールドでの戦闘、店での途方も無い金額の取引、この日起こったことが、今までこのゲームで、ただ我武者羅に『強さ』を求めてきたシノンに、どんな影響をもたらすのであろうか・・・?




 っといったところでお時間となりました。続きはまたいつかどこかで(ババン!)

 バギーの運転者や店主のプレイヤーの名前は考えてませんでした
 とりあえずキャラ設定としては

 バギーさん(ワンピースのじゃないよ)
・トレジャーハンタースタイルのロールプレイ
・ステはラックガン上げでラック補正とプレイヤースキルで戦闘するタイプ
・お金大好き

 店主さん
・商人スタイルのロールプレイ
・収集癖あり。できれば珍しいのは売らずに飾ってたいタイプ
・戦闘はサッパリ

 初めはオリ主(バギーさん)とシノンで、短編を一本と思ったんだけど、これで『バギーさん強い、ステキ、好き』なんてなっても、金に目が眩んでるようにしか見えなくて止めました。シノンさんはそんな子じゃないよね

 戦闘に関するあれこれ(41口径のデザートイーグルでハンヴィーのフロントウィンドウを貫通させてキルするなど)、そんなことできるの?って疑問には

 全てはラック補正です

 ということで寛容な心でよろしくお願いします
 ついでに登場した銃器や乗り物、GGOの設定などで間違っている点などがあっても、どうか大目に見ていただきたく・・・

 続きはいつか・・・来年かもしれないし、10年後かもしれない・・・


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レンちゃん危機一髪?!

初対人戦闘を終えたレンに次なる試練が・・・


 不慮の遭遇により、プレイヤーと戦闘に発展。それに勝利したレン

 

「これ、使えるかも・・・っ!」

 

 自身の着衣のカラーが現在位置の砂漠の保護色となり、視認されにくいことに気付くと同時に、聞き慣れない音が耳に入ってくる

 

「エンジン音?誰かがこっちに向かってくる?」

 

 ―さっきのやつらの仲間?いや・・・

 

 音の聞こえてくる方向に、レンは頭の中に浮かんだ可能性を否定する。その音は先ほどのプレイヤーたちがやってきた方向とは逆から聞こえてきていた

 

 ―もっと遠くで狩りをしてた人が、帰り道にここを通るんだ・・・さっきのでプレイヤー殺しちゃったし、それが1人増えるだけ・・・

 

 先ほどの戦闘で自信がついたレンは、続けてPKをすることを決める

 奇襲するために地面に伏せて身を隠し、エンジン音が近付いてくるのを待つ

 

 ―よーし、やってやる!

 

 少しすると、砂埃を巻き上げながら走る3輪バギーがレンの視界に入ってきた。レンはバギーの進路を読み、タイミングを計り・・・

 

 ―今!

 

 バッと起き上がり、AGIに任せた高速ダッシュでバギーの左側から突っ込む。距離が目測で30メートルほどから射撃を開始するが、数発撃った弾が光弾防護フィールドに防がれる。しかし、例えそれが無かったとしても、自身の射撃が全て相手に当たらないコースであることにレンは気付き、顔を顰める

 

 ―なんで?!バレットサークルのほとんどが相手に被っても命中コースに弾が飛んでいかない?!

 

 自身がダッシュしながら、走行中のバギーの運転者を狙った射撃のため、バレットサークルが大きい状態で狙いが定まらないのは仕方が無いことだが、それでも今までにない現象に、レンは疑問を持った

 射撃を受けたことで、襲撃に気付いたバギーの運転者は、逃走を図ろうとアクセルを吹かしバギーを加速させた

 

 ―それでも、近付けば・・・

 

 対してレンは弾道の疑問は一旦置いておき、まずは光弾防護フィールドを抜ける距離まで近付くことを優先させようと射撃を止めてダッシュに専念する

 

「っ?!」

 

 っと次の瞬間、レンの頭に向かってバレットラインが伸びる。バギーの運転者が左手でデザートイーグルを構えていた。即座に横に跳び弾丸を回避したレンに、再度バレットラインが伸びる

 

 ―近づけない?!なら・・・

 

 先ほどの戦闘と違い、完全に自身が捕捉されていることを悟ったレン。すぐに作戦を閃き、バギーの後方に入って砂埃に紛れ、運転者から隠れる。そのままバギーの右側へ出て、AGIをフルに使った全力疾走でバギーに追いつく

 

 ―左手に持った銃で右側後方のこの位置は撃てないはず

 

 そう思ったレンは銃を構えた。左手に持った銃をこの方向に構えるのは、かなり無理な体勢を取らねばならない。なぜなら、右手はハンドルにあるアクセルを握っていなければ、バギーが止まってしまうからだ

 

 ―この距離なら防護フィールドも抜ける!取った!

 

 勝利を確信し引き金を引く・・・まさにそのとき、バギーが急減速した

 

「えっ?!ちょ、まっ、グヘェ」

 

 バギーの減速に対応できず、レンは猛スピードでバギーの右後輪のカウルに突っ込んだ。ぶつかった勢いのまま空中を舞い、バギーの前方に落下した。衝撃で目を回したレンに、バギーがゆっくりと近付いて止まり、運転者が右手に持ち替えたデザートイーグルをレンに向ける

 

「1人でよく頑張ったけど、ちょっと詰めが甘かったな」

 

「っ!」

 

 デザートイーグルの引き金に指がかかり、銃口からレンの額にバレットラインが伸びる

 

 ―あとちょっとだったのに、悔しいよっ!!

 

 負けの悔しさから、ギュッと瞑ったレンの目から涙が一筋流れた

 

 しかしここでよく考えてほしい。GGOでは珍しいレンのロリアバターで、そんな表情をするとどう見えるのか?

 

「・・・その見た目でそれはズルイだろ」

 

 どう見ても子どもをいじめているようにしか見えないこの状況に、襲われた側のバギーの運転者が居た堪れない気持ちになり、苦々しく言葉を漏らした

 やがて、引き金から指を離して、バツの悪そうにため息をついた。レンはそれに対し、止めは刺されないようだと、倒れている状態から上半身を起き上がらせる

 

「にしても、PKやるなら実弾銃だろ。チュートリアルやってないのか?」

 

「やったけど・・・初めてフィールドで他の人と出会ったから、とにかく戦わないとって」

 

 呆れ半分に話すバギーの運転者に、レンは負けたショックで凹みつつ返す

 

「はぁ、マジかよ・・・初めての遭遇戦を単独でここまで・・・末恐ろしいな」

 

「そうなの?負けちゃったから実感無いけど」

 

「自分で言うのもなんだが、俺はレアドロ目的のMOB狩りメインのソロプレイヤーだけど、フィールドに出たらほぼ毎回襲撃されるが、もうかれこれ半年以上はキルされてないからな。正直ここまで接近されたのも初だ。久々にヤベッて思ったな」

 

「そうなんだ・・・」

 

 励ましの言葉を受けてレンの表情に明るさが戻り、表情には出さないが内心でホッと一安心したバギーの運転者であった

 

 そうして、その場がやや和やかな空気になる

 

 が、そこに招かれざる客が・・・

 

「ったく、今日はツイてないな!」

 

 バギーのエンジン音よりも大きな重低音を響かせ、小型の軍用トラックが2輌、猛スピードでこの場に突撃してくる。荷台にはそれぞれ2人のプレイヤーが自動小銃を装備して射撃の態勢をとっていた

 

 急いでバギーのエンジンを掛け直し、バギーを発進させる運転者。運転者はちゃんと避けるつもりでハンドルを切っていたが、右後輪に轢かれると思ったレンは、咄嗟に後部座席に置いてある大きなケースに飛び乗った

 

「おいおい、付き合う必要はないぜ?」

 

「あ、あのまま置いてかれても助かる保障なかったし!!」

 

 ―しまったー。轢かれそうだったからつい飛び乗っちゃったけど、逃げる選択肢もあったんだ・・・

 

 どう考えても狙いが目の前のプレイヤーなのだから、逃げて砂漠に隠れたほうが生存確率は高かったことを、レンは後悔する

 

「ま、まぁ、やられたのに止めを刺さないでもらった借りも、あるわけだし?」

 

 銃を構えつつ顔を逸らし、判断を誤ったことを誤魔化すレンだった

 そうこうしているうちに、2輌の軍用トラックがバギーに追いついた。それぞれバギーの左右斜め後方に位置取り、荷台の4人が個々に装備している自動小銃を狙いをバギーに定める

 

「ここであったが百年目!!お前をふち殺してアイテムゲットだぜ!!」

 

「おうおうツレがいんぜ?!彼女と狩場デートか?!リア充爆発しろ!!」

 

 遠目からでも女の子だとわかるレンの姿に、襲撃者たちは一層いきり立って、バギーに向かって射撃を始める

 

「ひぃー、あ、あたっ、当たる?!やられるー?!」

 

「やられるかよ!!」

 

 4丁の自動小銃から発射される弾を避けるバギー。揺れるケースの上で器用に頭を守るように伏せるレンが半ばパニック気味に叫ぶ

 

「全部5.56×45か。スコードロンで弾統一して弾薬費節約か」

 

 避けながらも運転者は相手の装備を観察する

 

「昔のCMでもあったしな。『よーくかんがえよー、おかねはだいじだよー♪』ってな」

 

「反撃しないの?!」

 

 一方的に撃たれながらも暢気に歌ってる運転者にレンがツッコミを入れる

 

「まぁ慌てんなよ。相手の観察は戦闘の基本だ」

 

 襲撃者たちのトラックは、荷台のプレイヤーを守るために装甲板が設置されていて、簡易的なガントラック化されていた。キャビンの窓にも同様に、運転に必要な最低限の視界を確保した上で装甲板が付けられていて、装甲板を避けつつガラスを抜いて運転者を狙うのは角度的に不可能であった。エンジンや燃料タンクは、軍用トラックであるため堅牢に守られていて破壊は不可能。タイヤを狙っても、軍用トラックのタイヤはパンクしてもある程度の距離は走行ができるような構造になっている

 

 はっきり言って、44口径のデザートイーグルでは手も足も出ない相手であった

 

「ハァー、コレ高いから使いたくないんだけど・・・ま、仕方ないか」

 

 デザートイーグルの代わりに、ストラップで肩から腰辺りに提げているモノを左手で取る。そのまま親指で安全装置を解除した

 

「なにそのへんなの?」

 

 ピストルグリップにフォアグリップ、ショルダーストックと一見サブマシンガンに見えるが、しかしマガジンが無く、照準具が側面に付いている・・・

 

「M320グレネードランチャー」

 

 レンの問いに答えると同時に、左後方のトラックにそれを向ける

 

「吹っ飛べ」

 

 相手のトラックが左ハンドルの為、フロントウィンドウのやや左側を狙って榴弾を撃ち込む。運転席前の装甲板とガラス、屋根などが吹き飛んだ。運転していたプレイヤーも死亡し、誰もいない運転席が露になる

 

「やった!」

 

「ってか借りを返すって言ったよね?とりあえず弾込めなおすから、右の相手してくんね?」

 

 減速して離れていくトラックに小さくガッツポーズをするレンに、運転者が片手でランチャーの薬室を開けながら言う

 

「乗り物相手なら光学銃のほうが比較的ダメージ通るんだから、適当に応戦してて」

 

「う、うん、わかったよ」

 

 レンはケースに伏せたまま銃を構え、トラックに向かって撃ち始める。ペチペチとトラックに弾が命中するも、全く相手にされていなかった

 

「効果が感じれないんだけど・・・」

 

「そりゃー軍用トラックだし耐久値高ぇからなー。ある程度までは無視するよ」

 

「むぅー」

 

 不機嫌そうに頬を膨らませるレン。とはいえ、運転者が右手でハンドルとアクセルを操作してバギーを走らせて射撃を避けつつ、左手でグレネード弾の装填をしている様を見ていると、これ以上文句も言えなかった

 

 そこでレンはふと思い出す・・・

 

 ―そういえば私もグレネード持ってたな・・・

 

 っと・・・本来の目的だったMOB狩り用に使用するためにトラップ用とは別に投擲用のハンドグレネードを用意していたのだ

 レンは射撃を止めて、ウィンドウを操作してストレージからハンドグレネードを出す。そしてなんと揺れるバギーの中、ケースの上に立ち上がると・・・

 

「てやぁーっ!」

 

 なんて声を上げながらトラックに向かって、スイッチを入れたハンドグレネードを力いっぱい投げた

 投擲されたハンドグレネードは、やや高めにトラックまで飛んでいき、キャビンの屋根でワンバウンドして荷台へ・・・

 

「なかなかエグイことするなぁ・・・南無南無」

 

 運転者が呟くと同時に、トラックの荷台でハンドグレネードが爆発した。爆発により荷台のプレイヤー2名はもちろん死亡。トラックの燃料タンクも破壊されて燃料に引火し爆発。運転席のプレイヤーまでも死亡した

 恨みを買うと面倒なので、襲撃者でもやり過ぎず、適度にあしらうようにしている運転者は、レンの行為にドン引きする

 

「やったぁー!」

 

 運転者の心情などお構い無しに大喜びのレンだった

 

 ともあれ、襲撃者を返り討ちにした2人だった・・・

 

 

 グロッケンに戻ってきた2人

 

「おっと、ついそのまま連れてきてしまった。悪い」

 

「ううん、別にいいよ」

 

 運転者のいつもの癖で、レンを乗せたままで付き合いのある個人ショップ『ブラックアロー』の前にバギーが止まる

 ケースの上からレンがピョンと飛び降り、運転者がそのケースをバギーから降ろし、店に向かう

 

「じゃあな、戦友」

 

 なんてカッコつけて別れの言葉を言って店に入る運転者だったが、その後ろにレンもついて行く

 

「いらっしゃい・・・っておぉ、来たか」

 

「おぉ来たぜ。買い取り頼む」

 

 店内のカウンターでだらけていた店主が、ケースと一緒に入店してきたのを見て喜色を浮かべた

 

「あら、ラッシュじゃない?久しぶりね」

 

「シノンか。最近結構有名になってきてんな。冥界の女神サン?」

 

「もう、やめてよ」

 

 店内にいたお客、シノンもそれに気付きやってくる。以前の一件以来、消耗品はここで揃えるようにしていて、なんだかんだで常連となっているシノンである

 

「「・・・」」

 

 そして2人はレンの姿に気付き、ジト目を向けた。おい、どこで攫ってきたこの子?っと・・・そこで初めて運転者、ラッシュはレンがまだついて来ていたことに気付く

 

「うおっ?!なんでまだいるんだ?さっき別れたろ?」

 

「いやー、ケースの中身はなんだろうなぁーって」

 

「あぁ、そういうことか・・・ま、いっか」

 

「いやいや、まずお前らどういう関係よ?」

 

 店主が耐え切れず問い質す

 

「1人で果敢に襲撃してきたPK。ぶっちゃけ強いし・・・エグイ」

 

 ハンドグレネードの件を思い出し、嫌な表情になるラッシュ

 

「今日初めてだったらしいけど、バギーを止めるくらいには追い詰められた」

 

「へぇー、そりゃすごいな」

 

「このナリだから止め刺すのも気が引けてたら別のが来て・・・軍用トラック2台だぜ?マジついてねぇよ」

 

「襲撃遭遇率150%は伊達じゃねぇな」

 

 フィールドに出ると100%の確率で1度は襲撃され、さらに50%の確率で2回目の襲撃に遭うという。治安の悪い都市のコピペのような日常であった・・・

 

「ぶっちゃけ今回は不漁だな」

 

 っと言い訳をしつつラッシュがケースをカウンターに置いた。シノンも見ながら店主がケースを開けた

 

「確かにあんまりだな」

 

「前のところが使えたらいいんだけどなー」

 

「まぁ、仕方が無いだろ。億レジットの狩場なんだから」

 

「億れじっと?」

 

 唯一事情を知らないレンが聞いた

 

「第2回BoBの前。俺がとある高性能銃を2種類ここに卸した。それの販売価格が2丁合わせて1億クレジットに達したって話」

 

「1億クレジットって・・・100万円?!」

 

「ホント対人戦専門のプレイヤーの欲は底なしだよ。取引の情報は漏らしてないのに噂って怖いよな。以来、その狩場は億レジットの狩場と呼ばれて、ラッシュみたいなレアドロ漁りのプレイヤーが取り合う、超ホットスポット化したってわけ」

 

「取り合いになり過ぎて、MOB狩りと対人戦を同時にしてるようなもんだ。弾がいくらあっても足りゃあしない」

 

 なんて話ながらも、ケースから銃が取り出されてカウンターに並べられていく

 

「アサルトライフルはAK-47、AK-74の外国版ばっかだな」

 

「AK-47・・・アイドルみたいな名前」

 

「鉄板のボケをありがとう」

 

 レンのボケに場がホッコリとした。銃がメインのGGOでは某芸人の『ネットのヤホ●で検索』並みのテンプレのボケである

 

「ギネスにも載ってる有名な銃よ。元はソ連が開発した銃なんだけど、砂漠でもジャングルでも、どこでも使えるから色んな国がそれを基にした銃を設計してるのよ」

 

「あとはそんな加工精度が求められないから、テロリストが密造してたりな。だから映画とかでの『悪役の銃』だな」

 

「ふーん・・・」

 

 特に興味惹かれる内容ではなかったのか、シノンとラッシュの解説をレンは聞き流していた

 

「それで、サブマシンガンは・・・UZIか。こっちも悪役系か・・・売れっかなー?」

 

 そんな感じで全ての銃がケースから出された

 

「っで?ストレージは?」

 

「ん、今出す」

 

 ラッシュがウィンドウを操作してストレージから1丁の狙撃銃を出す

 

「ドラグノフ~」

 

「「知ってた」」

 

 店主とシノンが驚く素振りも見せず言った。AKシリーズの銃がケースから大量に出てきた時点で、この流れは容易に予想できたことだった

 反応が薄い2人に凹みつつ、もう1丁・・・

 

「VSS~」

 

「「知ってた」」

 

「お願いだから、もうちょっといい反応して・・・」

 

 ラッシュとしては、必死こいてドロップさせた取って置きの銃なのである

 

「あれ?でもちょっと待って。今、セミオートの狙撃銃ってあったかしら?」

 

「そういえば・・・PSG-1やWA2000がドロップしたって話は聞かないな。じゃあ、結構レアか?」

 

「でも・・・」

 

 っとここでスナイパービルドのシノンが少し考え込む

 

「スナイパーの最大の強みは、相手に最初の1射目のバレットラインが見えないことだから、すぐに2射目を撃ててもバレットラインが見えるから回避は可能よ?」

 

「対人戦のプレイヤーには需要が薄いか・・・でもMOB狩りには使えそうだな」

 

「VSSはサイレンサー付きなのはいいけど、それも結局2射目以降はバレットラインでわかるわけだし。あと専用の弾で補給が難しいのがねぇ・・・」

 

「あの、お願いだからそういうのは買い取ってから言って?こっちは結構苦労したのよ?」

 

 なまじ不漁であったことを自覚してる分、強く言えないラッシュであった

 

「全部合わせて10メガ(1000万)ってとこだな。狙撃銃はそれぞれ3メガ(300万)。残りはまとめて4メガ(400万)

 

「かぁー、厳しい」

 

 査定結果にラッシュが項垂れた。しかし、1000万クレジット=10万円なので実は結構な稼ぎである。ちなみに、トッププレイヤーの月当たり(・・・・)の稼ぎが20万~30万円と言われている。ラッシュはその半分を1回のレアドロ漁りで稼いだことになる

 その後、弾代等の消耗品の補充の支払い分を差し引き、900万クレジットで取引を完了させたラッシュであった

 

「またどっか別の狩場でも探しに行くかな・・・荒野、砂漠のダンジョンは行ったし、次は森林、山岳、雪原あたりか?」

 

「あー、そのことなんだが・・・取り戻すって考えはどうだ?」

 

 今後の方針を悩むラッシュに、店主がプランを提案する

 

「今回の件はどうやらお前さんの同業者だけじゃなく、俺のような商人ロールが、対人専門のプレイヤーを傭兵として雇って荒らしてるのもあるっぽいんだわ。あれで俺も結構儲けたからな」

 

「出る杭は打つってか。ネトゲプレイヤーの嫉妬は怖いよな」

 

「それに今後、お前さんがまたいい狩場を見つけたとしてだ。それが噂になってプレイヤーが集中したらまたお前さんは別の狩場を探すのか?」

 

「はいはいわかったって。で、どうすんだよ?同業者も傭兵も皆殺しにでもしろと?俺一人じゃ厳しいぜ?」

 

「いるじゃねーか。ここにもう2人」

 

 っと店主はシノンとレンを見る。急な話に2人、特にレンは驚く

 

「ぶっちゃけあと1人、腕の立つやつが来ねーかなと思ってたところだ。報酬は1人100万クレジットで弾代はこっち持ち。3人だから移動は俺がハンヴィーを出してやろう」

 

「マジか。じゃあミニガン付けようぜ」

 

「ゴメン、それはマジやめて。毎分3000発で破産しちゃう」

 

「そこはブローニングM2でしょ。ヘカートⅡと同じ弾なんだから」

 

「M240機関銃で勘弁してください・・・」

 

 ―あ、あれ?私だけ?違和感持ってるの私だけなの?!

 

 いつの間にか自身の参加が決まっていること、誰もそれに異議を申さないことにレンはさらに驚く

 

「あ、あの!本当に私も参加するの・・・?」

 

「嫌か?」

 

 うーん・・・っとレンは考え込む

 

「今日初めてPKをしてどうだった?俺に負けてどう思った?」

 

 もっと上へ・・・強くなりたくはないか、おチビさん?

 

 ラッシュの言葉に、レンのモヤモヤした感情は吹き飛ばされた

 

 ―私は何のためにこの世界に来た?可愛いレンのアバターでいるためだ。今日初めてプレイヤー相手に負けた。殺されなかったけど、悔しかった。もうあんな思いは嫌だ。じゃあフィールドに出ない?そんなリアルの私のような生き方をレンにさせたくない

 

 強さが、ほしい・・・

 

「やる。強くなりたいから」

 

「上出来だ。よっしゃ、勝つぞ!」

 

「「「おーっ!」」」




 っとまぁいい感じのところで終わりましたが、続きの予定はないです。ぶっちゃけ出会いを書きたかっただけなんで
 主人公の名前がなんとなくでラッシュになってしまった・・・由来は単純にゴールドラッシュから

 レン対ラッシュ、LUK型を相手にすると、バレットサークルの中心付近、またはLUK型のアバターへの命中コースに弾が飛ばなくなります。これはLUKによる回避の補正が働いているという設定です。対してラッシュはLUKによる命中の補正で、それと逆のことが起きてます。LUKの補正は、自身が不利な状態な程、強く働くようにできてる・・・という設定
 ラッシュはレンを追い詰めてますが、撃っても弾がもったいないので、バレットラインでの脅しだけで撃つつもりは元からありません。レンの強さと装備が光学銃だったのがチグハグで気になったから声をかけただけです

 ラッシュ&レン対襲撃者。今回の敵の乗り物は軍用トラック。なので使用武器はサブのM320グレネードランチャー。とはいってもデザートイーグルも移動時に使うサブって設定なんですが。メインはまだ考え中
 最後はレンのエグイ手榴弾攻撃でまとめて撃破。アニメでの、あの威力のグレネードを逃げ場のないトラックの荷台に投げ込むエグさ。しびあこ
 
 街パート

 未だに名前の出てこない店主・・・とりあえず解説役でシノンも出しておいた

 前話の高額取引は偶然で、普段は稼ぎはこんなものだったり。おまけに狩場を奪われ、不景気気味
 レンちゃんのボケはGGOでは鉄板なんです!ドラグノフをドラゲナイでセカ●ワ?と並ぶ鉄板ネタなんです!!中の人は2025年で大学1年生なら、2016年で10歳なんでおかしくないし!!

 本日の目玉商品、ドラグノフ狙撃銃とVSS
ドラグノフはホントはマークスマンライフルって種類らしい?けど、本来PDWであるP90がサブマシンガンのカテゴリーになってる(らしい?)ので、細けぇことはいいんだよってことで狙撃銃に分類
 シノンさんのセミオート狙撃銃評価。場所がバレてなくても、システム的に強制で相手の認識下に置かれてしまうのがキツイところ。2射目が当たらないのならボルトアクション式でよくね?強制的にバレるならサイレンサー意味なくね?

 楽しい楽しい戦争のお時間(チーム結成編)
 まぁ前話も今回もバギーに乗った状態での戦闘だったので通常の戦闘も、という布石(書くかは不明だけど)
 店主さんは戦闘はサッパリでも、乗り物を運転するプレイヤースキルはある(まぁ、現実でMTの免許持ってるだけだけど・・・)
 前衛でLUK型のラッシュとAGI型のレン、後衛にスナイパーのシノン、サポートに店主(名前不明)。もし戦争編を書くなら、原作キャラを敵側で出したいな・・・
 レンちゃん覚悟完了。いきなりきっつい実戦なので装備も、おそらくスコーピオンから別のなにかへ・・・AGI型だとマイクロUZI2丁はキツイかなー。毎分1400発×2の鬼仕様。最終的には原作と同じP90になっても、サブがエグイ仕様になるのは間違いない

 イカジャム、アニメ面白いけど、SAOⅡの再放送とクールが被ってて、マザーズロザリオ編見て、ピトの自殺宣言見るのが、なんだかなーって感じ。冬クールにやってたファントムバレット編が終わった春クールに放送したかったんだろうけど、夏クールでいいじゃんって思った


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戦争のお時間

GGOのラックの省略表記がLUKじゃなくてLUCだった件・・・どうでもいいか


 荒野を1台のハンヴィーが走行していた

 

「あーあー、テステス、マイクチェック。本日は晴天なり」

 

『リアルは雨だけどね』

 

『それな』

 

『まったく折角の日曜日に雨なんて・・・』

 

 銃座に就いているラッシュがインカムの調子を確認していたが、車内の3人から鬱陶しそうに返され、涙目になる。そもそもGGO内では、専用の妨害機器を使用されない限りはインカムが不調になることはないので、敵のいない現状で確認する意味すらないのである

 

「にしても、決行日がちょうどリアルが雨でよかったな。しかも全国的に雨ときた」

 

『あぁ、休日の日曜日に雨とくれば、プレイヤーはほぼログインしてるだろうさ。おまけに、こっちは今日まで一切動きを隠してない。どんなバカでも、なんかやらかすと気付いてるだろうさ。それを予見して逃げるやつらなら、最初から仕掛けては来ない』

 

『もしかしたら、向こうのプレイヤーたちが結託してるかもしれないわね』

 

『かもな。どちらにせよこれから行く先にいる奴らが全部、俺らの敵であることに変わりは無いが』 

 

 1回の戦争で敵をまとめて皆殺しにできるように、店主が意図的な情報流出をして敵側を動かしていた。面倒事が嫌いなラッシュは、1回で済ませられるならと、それを知っていながら放置していた

 

『大丈夫かな・・・?』

 

『大丈夫よ。この数日間、ラッシュに付き合ってMOB狩りして、キャラの強化とプレイヤースキルを練習したんでしょ?』

 

「あぁ、結構筋がいいから、あっという間にモノになった。ぶっちゃけ強いよ。戦術の読み合いなんかはまだ経験不足だけどな。見えてる目の前の敵ととにかく戦えって場面なら、BoBファイナリストクラスに匹敵するだろうさ」

 

 これからの激戦に、レンが不安になる。しかし、シノンが言ったとおり、戦争の準備と平行してレンはラッシュから戦闘の訓練を受けていた。MOB狩りをしてキャラのレベルを上げ、クレジットを稼いで装備を更新し、ラッシュからプレイヤースキルを学んでいた。この数日間で、レンの強さは格段に向上していた

 

『にしてもラッシュよ?お前のその格好はなんだ?』

 

「これからカチコミに行くんだから、正装するのが礼儀だろ」

 

 店主の指摘に、ラッシュがさも当たり前のように返した。そんなラッシュの格好とは、高級感のある上下黒のスーツに、真っ赤なワイシャツ、元から金色だったアバターの髪をオールバックにまでして、●クザと見紛う格好であった。首にはLUK型を示すかのように金色の四葉のクローバーのペンダントをしていた

 

「キマッてるだろ?防弾素材を使ってDEF(防御力)との両立したから結構高かったんだぜ」

 

『アホだ』

 

『アホね』

 

『アハハ・・・』

 

 酷評の店主とシノン。自身もピンク一色のレンは苦笑いを浮かべることしかできなかった。そんなレンも、ラッシュからのアドバイスで、目元を隠すミラータイプのゴーグルを着けていた

 

「おっと、そんなことよりお迎えがきたようだ」

 

 ラッシュがそう言うと同時に、銃座のM240機関銃を構える。待ち伏せをするために隠れていた敵のハンヴィーが3台、加速して追いかけてきた

 

「こないだの奴らかよ。燃えた1台を新調したようだな」

 

 ラッシュの見立てどおり、以前シノンをバギーに乗せたときに襲ってきたプレイヤーたちのようで、燃えてスクラップになった1台を新たに購入、他の2台を修理して使い続けているようだった

 

『面倒だ。全部スクラップにしちまえ』

 

「当然」

 

 敵のハンヴィーの銃座からM249軽機関銃の射撃が行われる。しかし、以前に比べて弾幕が薄かった

 

「持続射撃してーのか、弾代ケチりてーのか知らんが、そんなチマチマした射撃が意味あると思ってんのか?」

 

 発射レートを毎分100発に落とされたM249軽機関銃の発射に対し、ラッシュが銃座からM240機関銃で7.62ミリ弾を撃ち返す。初期設定の発射レートである毎分750発もの早さで連射される弾丸で、敵ハンヴィーの運転席を集中的に攻撃。最初の十数発はフロントウィンドウが耐えたものの、その後は貫通を許し、運転席のプレイヤーは死亡した

 

『ブローニングM2ならもっと楽にやれるのに』

 

「そういうなら、ヘカートⅡでやってくれよ」

 

 失速していく敵ハンヴィーの進路にラッシュはハンドグレネードを投げ落とす。敵ハンヴィーの真下でそれは爆発し、銃座のプレイヤーごと敵ハンヴィーを完全に破壊する

 そんな攻撃の様子を窓から見ていたシノンがじれったそうに言い、2台目への攻撃に移っているラッシュが返す

 

『嫌よ。50キャリバーは安くないのよ。この先でたっぷり使うから無駄撃ちしたくないわ』

 

「それの本来の用途は対物だろー!」

 

 シノンの拒否に、ラッシュは叫びながら2台目の運転手を殺した。それと同時に100発給弾のベルトを1本撃ち尽くした。1台目と同様にハンドグレネードで2台目を処理する

 

「だー、めんどくせー!」

 

 給弾ベルトの交換の手間を惜しみ、M320グレネードランチャーで40ミリグレネードを3台目に放った。ボンネット上で榴弾が爆発し、衝撃波と弾殻の破片がフロントウィンドウを破壊して運転手を殺すと同時に、ボンネットを突き破ってエンジンを破壊した

 

「クソッ、50キャリバーより数を用意してない40ミリグレネードを使ってしまった・・・」

 

『このチーム、大丈夫かな・・・?』

 

『さぁな・・・ま、鉄火場になればキッチリ呼吸を合わすだろうさ』

 

 

 荒野の先にある遺跡を模したダンジョン。その中層にある少し開けた空間。バラけて沸くMOBを集めて一網打尽にすれば、それはそれは美味しい狩場になる、ラッシュのお気に入りの狩場の1つだった場所。そんな場所に4,50人ほどのプレイヤーが集まっていた。MOBが沸くにもかかわらず、誰一人として光学銃を装備していない異様な集団である

 

「道中の襲撃を担当した奴らから連絡が来た。全員やられてグロッケン送りだとよ」

 

「使えねーな、おい」

 

「ま、元々あいつらで片付くとは、欠片も思ってなかったがな」

 

 そんな言葉に、集団に下品な笑いが広がっていく

 

「それで?ここにはいつ来るんだ?」

 

「まぁ待てよ。上の遺跡入り口にスカウトを忍ばせてるから、そっちからの連絡待ちだ」

 

「早く来ねーかなぁ。ここでぶち殺すために、わざわざ遺跡内の道中にトラップを1つも仕掛けなかったんだからな」

 

 集団のプレイヤーたちは、これから来るラッシュたち4人を殺すために集まった傭兵であった。もはやドロップ漁りのプレイヤーたちは、襲撃による弾代の出費と狩場の利益が割に合わないとほとんど撤退してしまっていた。一部諦めの悪いのが商人ロールのプレイヤー同様に傭兵を雇ってこの場に送り込んでいた

 

「まだ連絡は無いのかよ?」

 

「そう慌てるなって、仮に連絡あったからって、そこから徒歩でここまで降りて来るんだ。まだまだかかる・・・」

 

 だろうよ。っと言いかけたプレイヤーの言葉が止まった。否、この場にいるプレイヤーが動きを止めた。普段、ダンジョン内ではまず聞こえない種類の音が聞こえ出したからだ

 

 それは車の、エンジン音だ!

 

「襲撃だ!来やがった!奴らダンジョン内をハンヴィーで突っ込んできてるぞ!」

 

「イカレてるぜ!!」

 

「スカウトの連中はどうなってんだよ?!」

 

 一気に慌しくなる集団。準備もまだ整わないそんな集団の前に、ハンヴィーが1台突入してくる

 

「ハロー!ご機嫌いかが?!」

 

 銃座から7.62ミリで掃射しながらラッシュが集団に向かって叫ぶ。ハンヴィーは開けた空間でドリフトターンで車体を180度旋回、銃座のラッシュもそれに合わせて動いて照準を集団からブレさせない

 

「パーティーだ!盛り上がっていこうぜ!!」

 

 ベルト1本撃ち尽くすと、銃座からルーフに登ってM320グレネードランチャーを発射、HPの削れていたプレイヤーをまとめて死亡させる。そのままラッシュはルーフから飛び降り集団に突撃する

 後部座席のドアからレンが飛び出てラッシュに続き、ハンヴィーは一旦入ってきた道を戻って戦場を離脱する

 

「敵は2人だ!殺せ!ぶっ殺せ!グホォアッ!」

 

「指示がないと動けねーのかよ?程度が知れるぜ」

 

 やたらと叫んでいたリーダー格と思われるプレイヤーに、ラッシュがセミオートショットガンのスパス15で軍用の6粒の散弾をお見舞いした。自動小銃を構えていたそのプレイヤーは、頭部、左肩、左肺、腹部2箇所、左大腿部に弾を喰らい死亡した

 

「さぁ踊れ!つまんねーステップ踏んでるヤツからブチ抜いてやる」

 

 それにしてもこの男ノリノリである

 

 

 

 一方そのころレンは・・・

 

「ロリだ。ロリがいるぞ・・・」

 

「お嬢ちゃん、ここは危ないよ。お兄さんが殺して安全な場所に送ってあげ・・・っ?!」

 

 変態ロール(?)のプレイヤーがレンに狙いを定めた瞬間。レンの姿がブレて消えた。そのプレイヤーは次の瞬間、顔の下から不自然な風を感じ、目線を下に向けた

 

「確かにこの程度なら私でも戦えそうかも」

 

 1メートルも無い距離までレンが接近していて、下から自身の頭にミニUZIを向けられていた。そのまま9ミリの連射を喰らって変態は死亡した

 

「このロリ強いぞっ?!」

 

「うわ幼女つよい!」

 

 傭兵たちがレンに対する認識を改め、銃を向けた。だが、レンがミニUZIを横に振って薙ぎ払うように弾をバラ撒き、彼らは一瞬動きを止められてしまう

 

「ハッ、所詮は9パラだ。アーマー来てりゃダメージなんざ・・・」

 

 弾を喰らった1人が少ない被ダメージ量に強気に出ようとしたそのとき、足元にハンドグレネードがコロコロと転がってきた

 

「グ、グレネッ?!」

 

 最後まで言い切りことなく爆発に巻き込まれ、まとめてグロッケンに送り返された。その間にレンは空になったマガジンを交換して次の敵に向かっていた

 

「なんだこの幼女?!中身闇風かよ?!」

 

「幼女怖い!」

 

 かのGGO対人戦最強と謳われるプレイヤー、闇風を彷彿とさせる戦闘スタイルに、傭兵たちが恐怖する

 そこへ、一時戦場を離脱していたハンヴィーが戻ってくる。銃座にはヘカートⅡを構えたシノンがいる

 

『どんくらいヤってる?』

 

「多くて10人くらいってとこよ。よかったわ。出番が残ってて」

 

 っと言って歯を見せて笑みを浮かべ、狙撃に入るシノン。50メートルもない距離の狙撃に、バレットラインによる予告などもはや意味は無く、傭兵は頭をブチ抜かれた

 

『一応言っとくが、お前さんの最優先事項はこのハンヴィーの防衛だからな。2人の支援はその次だ。歩いてグロッケンまで帰りたくなかったら、キッチリ役割を全うしておくれよ』

 

「わかってるわよ」

 

 運転席の窓から1人、高みの見物と洒落込む店主であった

 

 

 快進撃を続ける4人(3人?)。ラッシュとレンが集団の中に飛び込んで戦っているため、敵が同士討ちを警戒して攻撃しにくい状況であることも大きく、すでに30人以上をグロッケンに送り返していた

 

「なんかさっきから、予測線のない弾が飛んできてんだよな・・・」

 

 ラッシュが戦いながら、自らを掠めるように飛んでいく弾に不思議がる。1射目を射撃後は強制的に発見状態となり、一定秒数後の認識リセットが行われるまでバレットラインが表示される仕様のGGOにおいて、それは違和感のあるものであった

 

「シノン、なんかラインが見えない射撃で俺を狙ってる奴がいる。頼めるか?」

 

『わかったわ』

 

 インカムに手を当ててオンマイクにしてシノンに支援を要請する。集団の中でも1人だけスーツ姿の異様なラッシュはすぐに見つかり、スコープ越しにラッシュを見た。相手をしている傭兵たちとは別の方向から弾が飛んできているのが見え、それを追って射手の居場所を探すと、戦場の隅にある倒れた柱を台にして、狙撃をしている大男がいた

 

「なるほど、トリガーに指をかけると同時に引くことで、バレットラインが出ないわけね。そんな方法があったとはね・・・ラッシュ、少しだけ耐えてなさい。どうせ当たってないならいいでしょ?」

 

『なるべく早くしてくれよ?』

 

 シノンは敵スナイパーの動きを観察し、ライン無し狙撃の原理を見破った

 

「ちょっとアンタ、銃座(ここ)に就きなさい。優先順位が変わったわ」

 

「オーライ。だが期待せんでくれよ」

 

「歩いて帰りたくないなら、しっかりやることね」

 

 シノンは銃座からルーフに登り伏射の体勢になると、敵スナイパーを狙う前に試しに他の傭兵を、同じ方法で狙ってみる

 

 ―トリガーに指をかけないから、バレットサークルも出ないってことね・・・

 

 シノンはとりあえずスコープに付けられた十字の照準を当てにして撃ってみた。しかし撃った弾は相手の頭上を通過して外れた

 

「オーケー、大体わかったわ。つまりはシステムアシスト無しの完全にマニュアルで照準を定めるわけね。上等よ。やってやるわ」

 

 たった1射でライン無し狙撃の理屈を理解したシノンは、いよいよ相手のスナイパーを狙う

 

 ―銃口初速825メートル毎秒の弾が、約50メートル進むのにかかる時間、その間に重力によって落ちる高さ。それと今のヘカートⅡのゼロインの距離を考えて・・・風は屋内だからほぼ考慮しないでいいだろう・・・

 

 シノンの頭の中で様々な計算がなされ、ヘカートⅡの照準が定まっていく。大きく息を吐き、集中を高める

 

 ―ここ!

 

 一気にトリガーに指をかけて引く。ガク引きによる照準のブレを警戒して、グリップを握る手にはやや力を込めて銃を固定する

 

「まぁ、ビギナーズラックってとこかしら?これは要練習ね・・・ラッシュ、敵スナイパー沈黙したわ」

 

 シノンが撃った弾は、敵スナイパーの頭にギリギリで命中し、大口径弾のインパクトダメージでHPを削りきって殺していた

 ふぅっと一息つき、少し疲れた声で目標の撃破を伝えたシノンだった

 

 

 

「スマン、助かった。別に当たりはせんがチラチラ飛んでる弾が見えて、気が散って仕方が無かったんだ」

 

「チッ、エムが死にやがった。あいつリアルで覚えてろよ・・・」

 

 狙撃の支援が途切れたこと、そしてラッシュがシノンに礼を言っている内容が聞こえ、スナイパーが死んだことを知り、舌打ちをした女性プレイヤーが1人。そのプレイヤーはラッシュに向かおうとして、付近にいた別の傭兵の腰にあるハンドグレネードを見つけ、ニヤリと顔を歪ませた

 

「おらよっと!」

 

 その傭兵をドロップキックでラッシュに向かってふっ飛ばす。それと同時に銃でグレネードを撃ち抜いた

 

「っ?!」

 

「なにしやが・・・」

 

 蹴り飛ばされたプレイヤーは、味方とは言わないまでも、最低限敵ではないとする協定を結んていた同じ傭兵からの攻撃に怒りを露にした。しかしグレネードが爆発寸前なため、ラッシュにショットガンを撃たれて押し返され、最後まで言い切る前に爆発四散した

 

「お前!なにやって・・・」

 

「敵の前でゴチャゴチャうっさいんだよ」

 

 女性の行為に文句を言おうとした傭兵が逆に女性に撃ち殺される

 

「なんだ仲間割れか」

 

「仲間?アハッ、仲間ねぇ?」

 

 ラッシュの言葉に、女性は狂ったように笑う

 

「命も匿名性も担保されたVRゲーで仲間?笑えるわ・・・笑いすぎて死んじゃいそう」

 

「あー・・・なら勝手に死んどけよ。笑って死ねるのはいいことだ」

 

 ラッシュは女性が狂人ロールだと思い、まともに付き合うと疲れそうだと適当に返した

 

「じゃあ殺してよ。じゃないと殺すから」

 

「おーおー、おっかねぇ。僕泣いちゃいそう」

 

 挑発に挑発で返して撃ち合いが始まる。しかしラッシュにとって敵は彼女だけではない。他の傭兵をSTR任せのスパス15の片手撃ちで片付けながら、左手でデザートイーグルを抜いて彼女に応戦する。LUK補正の効いた弾を彼女は避けてみせた

 

「ほう、避けることができるのか・・・レン、シノン、生きてるか?」

 

『生きてるよー』

 

『生きてるわよ』

 

 スパス15の弾が切れ、苦しくなってきたラッシュ。デザートイーグルで周りを牽制しつつ下がって距離を取り、インカムをオンマイクにして2人に生存確認の連絡を入れた

 

『俺はどうでもいいのか?』

 

「ハンヴィーさえ無事なら、俺が運転して帰るだけだからな。それより手練と当たった。ザコを裁きながらじゃ少しキツイ。フォローしてくれ」

 

 店主のツッコミを流しつつ、2人に援護を頼んだ。デザートイーグルの残弾を女性プレイヤーに連射する。デザートイーグルがホールドオープンすると同時に最後の弾が彼女の足を掠めた。命中により僅かな硬直が発生した隙に、ラッシュは急いである場所に向かう

 

『あの女ね?確かにやるわね。躊躇が無いっていうかなんていうか・・・』

 

『まるでタイのどこぞにある犯罪者の街から来たようなプレイヤーだな』

 

「あぁ、イカレ具合が特にな!こいつは俺がヤるから他を頼む」

 

 他の傭兵たちをレンとシノンに任せ、ラッシュは敵スナイパーが使用していた倒れた柱を飛び越え、一旦身を隠すと柱に背中を預けてスパス15とデザートイーグルのマガジンを交換する

 

「ったく、マガジンの装弾数が少ないのがコイツらの欠点なんだよなぁ。サブにマシピスでも持って来るんだった」

 

 スパス15もデザートイーグルもマガジンの装弾数が10発にも満たない

 ボヤいてる間に女性プレイヤーがラッシュに迫る。柱の上に飛び乗り、上からラッシュに銃を向ける

 

「休憩?殺してあげるからゆっくり休めよ!」

 

「吹くなよ死にたがり。深追いは二流のすることだぜ」

 

 ノールックでスパス15を彼女に向けて撃つ。彼女は咄嗟に仰け反って回避するが、6粒の内3粒が腹部と左右の胸下部(下チチ)に当たる

 

「っ!」

 

「残念、貧乳だったらもう2個は避けられたのになっ!!」

 

 散弾を喰らった衝撃で彼女の体は浮き上がり、空中で隙が生まれる

 

「コノヤロォッ!!」

 

「あばよ死にたがり。強かったが、つまんねーダンスだったぜ」

 

 ラッシュは仰向けになりながら柱を蹴って背中で地面を滑って距離をとり、彼女にスパス15を撃ち込み倒した

 

「絶対ぶっ殺してやる・・・」

 

 終始笑みを浮かべて戦っていた彼女だったが、最期は怒りに表情を染めてグロッケンに送り返されていった

 

「そんな捨て台詞は聞き飽きたよ。なんだ、死にたがりの癖に、やられりゃ怒りの感情も沸くんじゃねぇか」

 

『負けて怒ってたわけじゃないと思うけどなぁ・・・』

 

『ラッシュ最低』

 

 レンとシノンの冷たい声での非難がインカムに入り、ギョッとする。ラッシュは援護を頼むときにインカムをオンマイクにしてから、オフマイクにするのをすっかり忘れていたのだった。戦闘に夢中で普通にインカムで会話をしていたことに気付かなかったのだ

 

「え?なに?聞っこえなーい。インカムの不調かなー?」

 

 立ち上がったラッシュは、冷や汗が出てきた気がしたが、すっ呆けることにした

 

『まだ敵残ってんだから油断すんなよ。戦争は最後の1人を以って半分と思え、だ』

 

「手練はあいつくらいだろ。あとはザコばっかりだ」

 

 戦場を見回し、残りの敵戦力を分析する。ラッシュの言うとおり、残りは10人ちょっとだが、強そうなプレイヤーは見当たらないようだった

 

「ま、キッチリ全員グロッケンに送り返してやるさ。徒歩で帰らせるのは可哀想だからな」

 

 ちなみに、最後まで残った敵がグロッケンに送り返されたのは、この3分後にことである

 

 

「コレで全部かー?」

 

「えぇ、もう無いみたいよー」

 

 戦場に散らばっている、死亡したプレイヤーがドロップしていった銃を1箇所に集める

 

「おーおー、随分あるなー。これ全部売ったら30メガ(3000万)はいくな」

 

「ちょっと、もったいないかも・・・」

 

 山のように積み重ねられた銃を見て、レンが残念そうに言う。なんと積まれた銃の下には爆薬が仕掛けてあり、これから爆破して全ての銃を破壊するのだ

 

「ま、これで俺らも・・・ってか俺の店も、今回の戦争での収入はゼロで大赤字ってことだ。傭兵の雇い主共も大損こいたんだから、痛み分けってやつさ」

 

 店主が撮影端末を準備しながら淡々と事情を説明する

 ラッシュやレン、シノンは店主から報酬の100万クレジットが渡されるので収入が無いわけではない。しかし店主は今回の戦争で一切の収入は無く。その上さらに、3人の弾代、ハンヴィーに付けたM240機関銃の弾代に、ハンヴィー自体の燃料代と整備費、爆薬の費用などの支出があるのだ。その額は数百万クレジットに上る

 

「ちなみに俺も報酬の100万じゃ、このスーツのジャケットも買えんから、大損なんだけどな」

 

「そんなことは知らん」

 

「私も銃やゴーグル買ったから、丸々100万クレジットじゃないなぁ・・・」

 

「なら丸儲けは私だけね」

 

 シノンが少し勝ち誇った表情をした。今回の戦争の準備でシノンが新たに購入した装備は無く、弾は店主持ちなので経費に入らず、100万クレジット丸々懐に入ることになる。しかも戦いの中でバレットライン無しの狙撃という新たな技術まで学んだのだ。まさにシノンの一人勝ち状態であった

 

「よーし撮影準備できたぞー。そんじゃフィナーレだ」

 

 動画撮影を開始し、ハンドグレネードを1個投げる

 

「これにて戦争終結っと」

 

 グレネードの爆発が爆薬を誘爆させ、全ての銃の耐久値が一瞬で全損し、銃は木っ端微塵に吹き飛び、光となって消えていった

 

 

 

 この後に、特定のプレイヤーの狩場の占有や締め出しを禁止したりといった、所謂暗黙のルールが広められ、この1件は終息した・・・

 

 

 

 

 

 ・・・わけではなく

 

「全く、対MOB屋だからザコだって?騙しやがってあの糞バイヤー共」

 

「ぶっちゃけ、あいつがあの狩場を回せば、レア銃が多く出回るんだろ?いいんじゃね?」

 

「そうだな。俺ら対人戦屋からすればそっちのほうが得だし、ほっとこうぜ」

 

 傭兵として参加していた対人戦プレイヤーたちが、自分たちの利益を取り、雇い主だった小狡い商人ロールのプレイヤーたちと距離を置いたことで、本件は終息を迎えるのであった




 戦争編はっじまったよー、っで終わったよー
 以下後書きという名の言い訳集

 行きの車内、インカムはSAOⅡのシノンとダインのスコードロン対ベヘモスと対MOB屋の話のところで使ってるシーンがあったので出してみた
 ラッシュと店主のリアルのことを決めてないので、天気は全国的な感じに
 レンちゃん強化。ラッシュのレアドロ漁りに同行してレベリングとプレイヤースキル特訓。襲撃者への対処で実戦は経験済みだが、初めてのバギーの上以外での戦いにちょっと不安という感じ
 ラッシュの戦装束。防弾素材をふんだんに使用したスーツ。アホです。ただレンが目立つ格好なので、それで集中攻撃されないように、自身も目立つ格好をして敵の目を分散しようというちょっとした気遣いもあったり・・・

 敵のお迎え。以前出したハンヴィー部隊と同じプレイヤーたちという設定ですが、前回と違い容赦する必要がないので一方的かつ圧倒的に殲滅
 シノンさんはやらなくていいことはやらないメリハリの効いた仕事人タイプ

 戦場で待機する傭兵たち。MOBは邪魔なので別の場所に誘導済み。ぶっちゃけ烏合の衆。もう対MOB屋はほぼ撤退したが、狩場にラッシュに戻ってきてブラックアローが儲かることだけを妨害したいがために他の商人ロールが送り込んでいる感じ。事前に集まってる場所がゲーム内掲示板に漏れてるので、それをラッシュたちは見てやってきてる
 スカウトの対処は・・・
1.スカウトの存在を予見して、遺跡入り口からの視認距離外でレンをハンヴィーから降ろし、レンが迂回しながらダッシュで接近
2.スカウトの位置と人数を確認して、シノンの狙撃とレンのバックアタックで撃破
3.グロッケンに送り返されたスカウトが連絡を入れる前にハンヴィーで一気にダンジョンを下る(トラップや道中待ち伏せも警戒しての選択。解除や応戦してるヒマがないから凸った)
 たぶんこんな感じ。レンはサブでビームナイフ(光剣のナイフ版)を装備していたり・・・

 ラッシュのメインアーム登場。セミオートショットガン、スパス15。ショットガンだけどアサルトライフルのような形でマガジンが箱型でリロードが楽。だけど本編でもあるように装弾数が本体の薬室を入れても1桁。散弾がLUK補正で全て当たる鬼仕様
 ちなみに、LUK型ではあるが、LUK極ではないのでSTRはそこそこある設定です

 レンちゃんのとりあえずのメインアーム、ミニUZI。前話で想像してたマイクロUZI2丁持ちは、やっぱり片手が自由に使えたほうがいいか、と断念。ミニUZIならフォアグリップもあって連射を制御しやすいし、この後P90に持ち替えても違和感少ないかなと
 戦い方は原作同様のAGI型のオーソドックスで、ロリ体型なので闇風より性質が悪い。ラッシュからのアドバイスで着けた目元を隠すゴーグルのおかげで、視線で動きを読まれなくなって、原作の強さにより磨きがかかってる感じ

 敵側で原作キャラ、エム。エムのライン無し狙撃は、結局引き金に指を当てるのと撃つまでの時間が短すぎてラインやサークルが出ないだけで、システム的には引き金を指で引いてる間はそれらのシステムは働いてるわけなので、ラッシュのLUK補正の対象内です。さらに『ラインが見えない』『対多戦闘』という不利条件が、補正をより強くしてます

 シノン覚醒。原作キャリバー編でALOを初めて2週間以内で弓でシステムアシスト対応外の長距離狙撃をやってのけたという設定があったはずなので、ライン無し狙撃も素質はあるかと・・・でも今回の命中は銃の性能とリアルラックによるところが大きいかな?エムはまだ盾を持ってない設定です
 しかし、シノンがライン無し狙撃が使える設定でファントムバレット編に入ると、ペイルライダーのところで死銃を倒せるよね?どうしよう・・・

 エムが出てきたのでもう1人のほうも・・・あれは何フーイさんなんだろうね?エムとこのピトなんとかさんは雇われた傭兵ではなく、自由参加枠です。アニメしか見てないから何フーイさんの戦闘中の話し方がわからなくて、ただのキチガイになってしまった
 ()の人的なネタで貧乳ネタはタブーでしたってことで。匿名性が担保されててもセクハラはダメ、ゼッタイ。それのせいで強敵に勝ったのに、ラッシュへの評価が上がらない
 この2人はたぶんこれからも敵枠だと思います

 戦闘終了
 死んだプレイヤーが落としてった銃は、まとめてあぼーん。それを撮影して掲示板にアップして終了ってことで。武器壊されたプレイヤーたちは堪ったもんじゃないかもしれませんが、負けて失ったんだから文句を言う資格は無い。雇い主に補償してもらうか、運がなかったねってことで

 オチ?
 荒っぽいゲームだからこそ、強さを示したプレイヤーはリスペクトされ、それに抗うなら相応のリスクを負うのが当たり前というお話。妨害してた商人ロールは傭兵雇うだけじゃなく自分でも戦えってことで



 いやー頑張った。もう流石に続きは無い。無理
 時期的にもうファントムバレット編に入らないといけないし、そうなるとラッシュのリアルの設定も考えないといけないし、シノンがライン無し狙撃できるようになってるだろうから、展開も大きく変わるだろうし、BoBにはピトも出場してるみたいだから、仮にラッシュが参加したらひと悶着あるかもだし・・・頭ごっちゃだよ


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2025年12月
1話


ファントムバレット編、はっじまっるよー


 1人の女性がいた

 

 ―うぅ、やっぱり見られてる・・・ハァ、早く帰りたい

 

 周囲が振り返るほどの高身長・・・スタイルのよさで、颯爽と歩く女性、小比類巻香蓮。GGOでレンのアバターを動かしている女子大生である

 

 ―東京に来れば、何か変わると思ったんだけどなぁ・・・

 

 高身長故に周囲から浮いた存在となり、嫌気が差して半ば無理やり北海道から大学進学と共に上京してきた彼女。しかし価値観が多様化した大都市東京であっても、彼女の高身長は好奇の的であった

 そんな周囲からの視線を不快に感じている香蓮は、帰宅のために駅へと向かう足を早めた

 

 ―今日もGGOに入ろう・・・そういえば今週末は確か大会が・・・BoB、だっけか?どうしようかな・・・シノンさんは出るって言ってたな。店主さんは出たほうがいいって言ってた・・・けど、ラッシュさんは出ないみたいだし・・・この間の戦争は楽しかったなぁ。また一緒に戦いたいなぁ・・・

 

 気付けばネトゲの思い出に浸っている自分がいることに、ちょっとイヤな気分になる

 

 ―ダメだダメだ。これじゃネトゲ廃人一歩手前だ・・・切り替えろ。今はまだ現実世界にいるんだ

 

 足を止め、軽く頭を振って悪い思考を振り払う

 

「ん?」

 

 っと、そんなふと足を止めた場所、そこから見えるビルの間の細い路地、奥でなにかをしてる集団がいた。少し目を凝らしてみると、その集団は制服姿の女子高生であった

 

「朝田さん、また貸してくれない?あたしら友達でしょ」

 

「まだ前の返してもらってないけど・・・」

 

「それは今度返すって」

 

 ―これは所謂、カツアゲというあれですか・・・?うわぁー東京恐ろしー

 

 自身が高身長故、特になにかのスポーツをしていたわけでもないのに体格がよく見えることから、実家が裕福でもそういう方向のトラブルには縁がなかった香蓮。ほんの少しだけその身長に感謝した瞬間であった

 

「いいから、とっとと出せって言ってんだよ!!」

 

 ―どうしよう・・・関わらないのが一番だけど、見ちゃったもんなぁ・・・

 

 空を見上げ、手で顔を覆った香蓮。GGOのレンならば間違いなくほっといて逃げただろう。あれはそういう世界観のゲームでもあるが・・・

 なんて香蓮が躊躇している間に、事態は悪化する。お金を集られている少女が、口を押さえて嘔吐しそうになる。明らかな体調の急変に、香蓮は咄嗟に体が動いた

 

「なに、やってるの、あなたたち・・・?」

 

 路地に足を踏み入れ、声を出す

 

「なにオバサン?関係ないんだから引っ込んでてよ」

 

「その子、嫌がってるじゃない」

 

 ―お、オバサン?!このクソガキが!私はまだ19歳だ!

 

 女子高生の物言いにイラッとするが、GGOでの経験からこの手の言葉に乗るのは悪手であることは身に染みており、サラッと流す

 

「友達同士でじゃれあってるだけじゃん。オバサン、そんなこともわからないの?」

 

「その友達、体調悪そうだけど?友達なら休ませてあげるのが普通じゃない?」

 

「いちいちうっせえんだよ!どっかいけよババア!」

 

 ―あ?今何つったこのガキ?

 

 地元の人付き合いで色々不快な経験をし、耐性のついている香蓮も許容できる範囲というものがある。未だ体調が悪そうな被害少女のことを考えると、早期に事態の解決を図りたかったこともあり、強攻策に出る

 

「言っていいこと悪いことってあるんだよ?」

 

 所謂目の笑ってない笑顔で、カバンを地面に置く。拳の関節をポキポキと鳴らしながら、不良女子高生たちに近付いていく

 

「うっ・・・」

 

「なんかヤバくね?」

 

 やや細身とはいえ体格がある香蓮のその行為に、調子づいていた不良女子高生の気勢が削がれる。もちろん香蓮にケンカの経験などなくハッタリであるが、その体格がそれを感じさせないのだ。本来ならコンプレックスである高身長。しかし、どんな外見も使い方で大きな武器になる。それはGGOで学んだ、現実で使える数少ないことの1つであった

 そして不良女子高生の目の前に立った。不良女子高生はほぼ真上から見下ろされ、圧倒される

 

「オバサンじゃなくてお姉さんでしょ?・・・クソガキ」

 

「っ?!」

 

 最後だけ声を低くして脅すように言う。圧倒されていた不良女子高生は言い返す心が折れ、顔を逸らした

 

「チッ、行こう」

 

「じゃあ朝田さん。また学校で」

 

 逃げるように去っていく不良女子高生。本当にケンカ沙汰にならなくてよかったと、香蓮が内心ホッとする。不良女子高生が路地からいなくなると、香蓮は被害少女に向き直る

 

「あなた、大丈夫?」

 

「はい・・・なんとか・・・」

 

 未だ口を押さえ、嘔吐感を堪えている少女の体を支える

 

「あなた、名前は?」

 

「朝田、詩乃、っです・・・」

 

 ―朝田詩音(しのん)さんかな?ん、シノン?まさかね・・・

 

 香蓮が少女に名前を聞く。少女が乱れた呼吸の中で答えた名前を、香蓮は僅かに聞き間違える

 

「私は小比類巻香蓮。苗字長いから香蓮って呼んで」

 

 こうして、2人は出会った

 

 

「本当に、ありがとうございました」

 

 詩乃を休ませるために、近くの喫茶店に入った香蓮。体調も少し回復した詩乃からお礼を言われる

 

「ううん、気にしないで」

 

 ―あの不良たちもあなたと同じ学校みたいだし、明日以降のあなたのことを考えると、助けたどころか事態は悪化したかもしれないんだけど・・・

 

 イジメ問題の解決の難しさは社会問題として、よくニュースに取り上げられている。それを知っている香蓮は、詩乃のお礼を素直に受け取れなかった

 

 ―教師でもない私がイジメ問題に向き合うとは・・・でも首突っ込んじゃった以上、もう投げるわけには・・・それに・・・

 

 香蓮は、もしかしたら目の前の彼女がGGOのシノンなのではないか?という可能性をまだ捨て切れていなかった

 

「あ、あのね、やっぱり、あぁいうのは親とかに相談したほうがいいと思うよ?」

 

「親は、いません・・・1人暮らしで、親は地方で」

 

「そっか・・・1人暮らしか。私と一緒だ。この春、北海道から大学進学でね」

 

 っと言う香蓮だが、姉夫婦の暮らす高級マンションの別の部屋で暮らしている自身と、単身上京してきた詩乃では全く違うのだが・・・まぁそれは置いておくとしよう

 

「じゃ、じゃあ、これからは私に言って?私も、この高い身長で、嫌な経験一杯してきたから、わかるんだ。こういうのは溜め込むと悪い方向にしかいかないし、私になにかできるかわからないけど、とにかく話を聞くことだけならできるから」

 

 普段の詩乃ならば、GGOで最強になることで自身の銃のトラウマを乗り越えようとしていて、誰の助けもいらないと心に刻んでいる彼女は、この申し出を断っていただろう。しかしなぜだろうか、同じ地方出身で上京してきた者同士だからか・・・

 

「ありがとうございます・・・」

 

 詩乃はその申し出を受けた

 

「それなら、早速連絡先交換しよっか」

 

 そう言って香蓮と詩乃は、スマホを取り出して連絡先を交換する。電話番号からメールアドレス、トークアプリのIDまで・・・

 

 ―これから少しの間、GGOへのログインを控えないとな・・・この子のことを気にかけたいし

 

 ついさっきまで楽しみにしていたGGOのプレイができなくなることに、憂鬱さは全く感じない。この子の助けになることで、自分も前向きになれるのではないか、とさえ思えていた

 

「レン・・・」

 

「いつでも連絡してきて大丈夫ですから。詩音(しのん)さん」

 

 スマホの画面に表示された、香蓮のトークアプリのハンドルネームを呟いた詩乃に、少し距離を詰めようと香蓮は詩乃の名前を呼んだつもりだった

 そして、忘れていた可能性が蘇った

 

「ピンクの暴風・・・」

 

「っ?!」

 

 詩乃の呟いた言葉に、香蓮がビクッと反応した

 

「え、ウソ、でしょ・・・?」

 

 スッと顔を逸らす香蓮。もはや肯定しているも同然であった

 

「そういう詩音さんは・・・やっぱりあのシノンさん?」

 

「ハァー・・・どこで気付いたのか知らないけど、そうよ。私がGGOのシノン」

 

 大きなため息とともにテーブルに向かってガックリと項垂れる詩乃

 

「え?どこって本名・・・」

 

「私の名前は詩乃よ」

 

「あー・・・」

 

 ―聞き間違ってただけかー。でもなんていうミラクル

 

 どうやらGGOへのログインは控えなくてよさそうであった

 

 

 レンとシノンは早速GGO内で落ち合った。ログイン前に連絡し合っていたこともあり、ログイン地点で2人は合流した

 

現実(リアル)を知ってると、こうも違和感が沸くものなんだ・・・ですね」

 

「あーうん、今までどおりでいいよ。敬語とかも使わなくてもいいから」

 

 レンの姿を見たシノンがなんとも言えない表情をして思ったことを言う。レンも似たような表情をし、気を使った

 

「こうなると、ラッシュさんや店主さんのリアルもちょっと気になるかも・・・」

 

「コラコラ、リアルの詮索はマナー違反でしょ」

 

 興味津々のレンを窘めるシノン。現実とは年齢の上下が逆になったようである

 

「それじゃ、どこか行く?それとも、ブラックアローで話す?」

 

「うーん、折角だしどこか入ってのんびりと話したいな。フードエリアのほうに行こうよ」

 

 2人は、いつも向かうブラックアローではなく、飲食が楽しめるフードエリアに行くことにした

 ログインエリアから10分ほどグロッケンの街を歩くと、レストランやバーが建ち並ぶフードエリアに着いた

 

「そういえば私、フードエリアって始めてかも。こっちで食べても何の栄養にもならないからって」

 

「ならお店は私が選んでいいかな?たまに来てるから」

 

「えぇお願い」

 

 今まで強くなることのみを重視していて、ゲーム内での食に無頓着だったシノン。対して、適度に熱中して楽しむことが目的だったレン。長距離狙撃のスナイパービルドと近距離戦闘のAGI型ビルドなど、正反対なことが多い2人であった

 レンの案内でフードコートの中の1つのレストランの前までやってきた

 

「ここの海鮮がおいしいんだー。たまに地元の海鮮料理を思い出してここに来るんだ」

 

「へぇー」

 

 そんなことを言いながら、レンがレストランの入り口のドアを開けようとしたときだった。レンがドアの取っ手を掴もうとする前に、中からドアが開けられた

 

「おっと」

 

「あっと、悪い。大丈夫か?」

 

 咄嗟に下がってぶつかるのを避けたレンに、ドアを開けたプレイヤーが謝った。もちろん街の中なのでセーフティエリアとなっていて、ぶつかったとしてもHPが減ることなど無い・・・っと、そんなことなど、どうでもいいとばかりにレンとシノンは固まった

 

「ラッシュ?!」

 

「ゲッ、なんでお前らが・・・?」

 

 ドアを開けた人物がラッシュであったからだ。しかも先の戦争のときに作ったという防弾スーツまで着ている。レンとシノンに気付いたラッシュは露骨に嫌な表情をする

 というのも・・・

 

「ラッシュ君、お友達かな?」

 

 柔らかい女性の声がラッシュの背後から聞こえてくる。本音としてはこのままドアを閉めて篭城したいラッシュだが、仕方なくレストランからその女性を伴って出てくる

 

「わぁ、可愛い子!あらあら、ラッシュ君にこんな可愛い女の子の友達がいるなんて、知らなかったわ!」

 

 東洋系の容姿格好をしたアバターのその女性は、レンとシノンを見るや、とても嬉しそうな笑顔を浮かべて2人に近付き、両手で2人の頭を撫でる

 

「え、あの・・・」

 

「ラッシュさん?」

 

 そんな女性の行動に戸惑いつつ、2人はラッシュに向いた。ラッシュは現実逃避するように天を仰いでいた

 

「っで、ラッシュはどっちが好きなの?」

 

「「ブフッ?!」」

 

 GGOどころかVRゲームの世界観をぶち壊す発言に、2人が噴き出した

 

「ハァー・・・いい加減にしてくれ、母さん」

 

「「お母さん?!」」

 

 大きなため息をつき、女性の正体を明かしたラッシュだった

 

 

「ラッシュのリアルの母親のジェーンです。よろしくね」

 

「ちなみにもうすぐ還れk・・・」

 

「VRにリアルを持ち込まない。OK?」

 

「オ、オーケー」

 

 家賃を払えばプレイヤーホームとして使えるマンションの一室、ジェーンとラッシュが共同で借りているらしいその部屋に移動した4人。リビングのテーブルに4人が向かい合っていた

 ジェーンの自己紹介に、ラッシュが余計な付け足しをしかけ、彼の前のテーブルにクナイのような刃物が刺さる

 

「いくつになってもストレス発散の場があるってことが、精神の健康を維持するにはとっても大事なことなのよ?」

 

「そっすね・・・」

 

 ラッシュは正論に言い返すことをやめた。決して、次のクナイがジェーンの手に握られていたからではない

 

「ア、アハハ・・・えと、レンです」

 

「シノンです・・・」

 

 2人のやり取りに若干引きつつも自己紹介をしたレンとシノン。ジェーンもクナイをスッと消すかのように収めて、手をポンと合わせて2人に向き直る

 

「レンちゃんにシノンちゃんね?まあまあ、ラッシュ君ったらいったいどこでこんな可愛い子たちを引っ掛けてきたのかしら?」

 

「引っ掛けたって、俺はナンパ師か。どっちも初めはそっちから絡んできたんだっての」

 

((絡んだって、否定できないけど・・・))

 

 ラッシュの言い方に思うところはあったが、シノンもレンも、ラッシュとの出会いを思い出し、何も言えなかった

 

「あ、あの、その、ジェーンさんは、どんなビルドなんですか?」

 

 話題の転換と純粋な疑問でレンが尋ねた

 

「うーん、そうねぇ、どう説明したらいいのかしら?」

 

「そのまんまここでやってることを言ったらいいよ」

 

「そうねぇ・・・なら直接見せたほうが早そうね」

 

 そう言うと、ジェーンは席を立ち、レンとシノンを連れてリビングから自分の部屋に向かった。一応説明役でラッシュもついていく

 

「ここが私の工房(アトリエ)よ」

 

 ドアを開けて部屋の中を見せた。標準品としてあるログアウト用のベッド、アイテムストレージの収納ボックス、そして多目的デスクがある。一見普通の部屋である

 

「そしてこれが私の作品の1つ」

 

 ボックスのストレージからジェーンは徽章のようなものを出し、アイテムの説明を表示させた

 

 【四葉のクローバーの襟章】

 四葉のクローバーを模した金でできた襟章 LUK+5

 

 「「うわぁ・・・」」

 

 レンとシノンの声がハモる。まるでブラックアローで初めてラッシュのレアドロ漁りの結果報告を目の当たりにしたときのようだった

 

「ま、まぁ、こんな感じで、色々作ってるんだ。ほぼDEXでストレージ確保用の少しのSTRの製作者ビルド。戦闘だと罠メインのトラップマスターって感じだ。銃でドンパチするためにやってるヤツがほとんどで、あとは商人ロールくらいしかいないこのゲームじゃ、かなり珍しい部類のプレイスタイルだろうよ」

 

 ラッシュが説明をしながらジェーンから襟章を受け取る。代わりにラッシュはジェーンにクレジットを払っていた

 

「色々ってまさかそのペンダントやスーツも・・・」

 

「ま、そういうことになる・・・あくまで性能とファッション性の両立のために腕のいい製作者に頼んでるだけで、母親が用意したモノだから使ってるわけじゃないからな。このスーツやペンダントだって、要求性能もデザインも俺がリクエストして、相応のクレジットを支払って製作してもらったものだ」

 

((あ、その●クザファッションはラッシュの趣味なんだ・・・))

 

 少し恥ずかしそうにラッシュは答えた。いい歳こいて親に服を選んでもらっていると思われるのは、ラッシュの中の人の年齢的に恥ずかしかったようだ。っとそんなラッシュのリアルの人柄が見えると、やはり気になるもので・・・

 

「ラッシュさんやジェーンさんのリアルってどんななんですか?」

 

「あ、ちょっと、さっき注意したばっかりのことを・・・」

 

 レンは流れでポンッと質問を投げかけた。それを呆れ顔で注意するシノン。ここまでくると、さすがにシノンも気になってはいたのだが、我慢しようと思っていたのだ

 当の2人は、キョトンとして目をパチクリとしていた

 

「うーん、俺らのリアルなぁ・・・」

 

「簡単には明かせないのだけど・・・そうねぇ」

 

 ジェーンは少し考える

 

「遥か彼方の宇宙から、VRゲームに惹かれてやってきた宇宙人、なんてあたりで、どう?」

 

 

「ジェーンさん>

 

「不思議な人だったね>

 

<宇宙人なんて、どう?」

 

<って言われてもねぇ・・・」

 

「あんまりリアルに触れられたくないってことなのかな?>

 

<そうなのかもしれないわね」

 

 GGOからログアウトした香蓮と詩乃。スマホのトークアプリでやり取りを交わす。内容はもちろんGGOでの4人での会話についてだった

 

<そもそもリアルの詮索はマナー違反なんだから」

 

<注意しないとね」

 

「うぅ・・・>

 

「そういえば>

 

「BoB>

 

「私も出ようかな?>

 

 マナー違反の注意から話題逸らしで香蓮はBoBの話題を振った

 

<ホント?」

 

「だから>

 

<?」

 

「その日ウチに泊まって一緒にログインしない?>

 

 香蓮は思い切って詩乃をお泊りに誘った。GGOではそれなりに付き合った仲ではあるが、現実では今日知り合ったばかりの2人だ 

 

 ―断られるかも・・・

 

 恐る恐る返信を待つ香蓮

 

<いいの?」

 

「もちろん>

 

 感触のいい返信に、飛び付くように返した

 

<なら、お言葉に甘えよっかな」

 

 やや畏まった文面の返信に、香蓮は小さく笑った




 ファントムバレット編開始
 今回は戦闘は無し、たぶんプロローグ的な何か。行き当たりばったりの思いつきで文章を打ち込んでるので、今後どうなるか自分でもわからない

 香蓮が~詩乃と~出会った~(ウルルン風)
 香蓮の設定が東京のお嬢様系の女子大に通ってるとのことだったけど、『東京』と『女子大』で、勝手に文京区大塚のあの女子大にしました。自宅マンションもその付近ということに。詩乃の自宅アパートも湯島で同じ文京区だし(ほぼ西と東の端だけど)会えるんじゃないのってことで、出会っちゃった感じに・・・

 ピトと出会う前にラッシュやシノンと出会って、ゲーム内で楽しい経験をしているからこそ、現実とのギャップが辛く、ちょっと挫けそうになってる香蓮。そこで詩乃との出会い。香蓮視点寄りで書かれていますが、詩乃も同じ感じです。ラッシュたちと戦争を乗り切って、ライン無し狙撃という技術を身に付けて、強くなった実感があるにもかかわらず、現実の自分はこんなに弱い・・・そのギャップに苦しんでいる。現実の2人は原作よりも苦しい状態です
 お互いそんな状態なので、現実で普通なら絶対しないようなこと、香蓮は他人の揉め事に割って入ったり、詩乃は差し伸べられた手を取ったり、をしてしまう・・・その結果の出会いってことで・・・
 香蓮がなんか精神的に強く、というか器が大きい?感じになっちゃってますが、原作SJ2で自殺仄めかしてるピトを助けようとしてるから、こんな感じなのかなって。ただ抱えきれなくなると、自棄になって投げ出すみたいだけど・・・

 GGOで合流。レンに感じる違和感はアバターのギャップだけじゃなく、ゲーム内での性格の変化もあると思う。裕福な家庭の箱入り娘の末っ子の香蓮と、母子家庭で母親の面倒も見ていた詩乃。精神年齢は近いか、詩乃のほうが上か?
 GGOにおけるフードエリアの存在意義は、息抜きだったり、プレイヤー同士の交流だったり、BoBなどの大会のパブリックビューイングの場だったり

 新キャラ、ジェーンさん。現実のラッシュの実母。もうすぐ還暦は本当
 下手に女性キャラを出してハーレム化するのもなぁーっと思った結果、母親ならそういう対象にならないし、いいじゃん?みたいな感じで。ビルドも生産職系でそれを生かした戦い方を・・・戦うとしたらSJ編に入ってから。そもそもが、このままSJ2まで行ったとすると、レンは別にフカに応援頼まなくていいから爆発物専門がいないのは寂しいなって思ったから
 ラッシュのとの付き合いで煽り耐性はできてきている2人だけど、警戒を緩めたところでのド直球の問いかけには流石に反応してしまう。そういうのが得意な性格の人

 GGOでのプレイヤーホームという設定のマンション。ALOのような大容量サーバーを何機も使用できるわけじゃなく、マップ内の土地が限られているGGOでは、1棟のマンションを起点にして、部屋は別マップ扱いで入居数に制限は無いって感じの設定。用途はスミスの工房だったり、コレクションルームという名の物置だったり

 アイテムの設定はかなり適当

 宇宙人についてはファントムバレット編の最後で明らかになる・・・はず?

 ログアウト後の香蓮と詩乃のやり取り。書き手の自分がガラケーなのでラインの文章の区切り方がイマイチわからない
 詩乃の香蓮宅へのお泊り決定。これによってファントムバレット編での詩乃の内面の変化が原作とは違う方向に・・・百合展開じゃないよ!それも嫌いじゃないけどね!

 数話に渡る予定ですが、毎話あとがきに言い訳を書きます。その都度書かないと精神的に落ち着かないので


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2話

「お、お邪魔しまーす・・・」

 

「どうぞ、そんな緊張しなくていいからね」

 

 ―いやいや、するって!なんなの、この高級マンションは?!大学進学の1人暮らしでこんなのありえないでしょ?!

 

 BoBの予選日、詩乃は香蓮の部屋に招かれた。まさに借りてきた猫状態の詩乃は、心の中で香蓮に対し盛大にツッコミを入れる

 玄関がオートロックなのは当たり前で、1階には管理人や警備員が常駐していて、高層階と低層階の間にはラウンジまであったのだ。今いるこの部屋の間取りも、明らかに単身者用ではなく家族用の広い間取りである

 

「す、すごいところに住んでるのね・・・」

 

「姉夫婦が別の部屋に住んでるから、親がここをね・・・」

 

 ―別の部屋?!それって別の号室ってこと?!このお高いマンションの部屋を2つも持ってるの?!

 

 価値観の違いに詩乃は一瞬眩暈を起こしかける。下手をするとリビングだけで、自分が住んでるアパートの部屋が丸ごとスッポリ入ってしまいそうな広さである

 

 ―お金ってあるところには、本当にあるのね・・・

 

 世界は広いのだ、と少しだけ悟った詩乃であった

 

 

 GGOへログインした2人

 

「どうしようか?まだ予選開始までは少し時間あるし・・・」

 

「ちょっと回復系の消耗品を補充したいのだけど・・・ブラックアローに寄ってる時間はないから、マーケットに行きましょ?」

 

 ということで、最近行くことのなかったマーケットに向かった。マーケットとは、主にレアリティの低い装備やそこそこのレアリティの中古装備が売られている市場である。個人ショップを開けないバイヤーや、バイヤーとのコネクションを持たないプレイヤーがアイテムを販売する場所として利用されている他、地下には射撃場もあり、プレイヤー同士の交流の場としても利用されている

 

 ログインポイントから少し歩くとすぐにマーケットに着く。2人が建物の中に入ると、銃の販売エリアに見慣れたスーツ姿の男性を見つけた

 

「ラッシュ?」

 

「あ、ホントだ。ラッシュさんがマーケットにいるのってすごい珍しいんじゃない?」

 

 2人はそんなラッシュに近付こうとして・・・隣にいた長い黒髪の少女のアバターを見て、足が止まった

 

「誰?」

 

「・・・ジェーンさんを幼くしたような感じ?妹、とか?」

 

 またしてもラッシュが女性と一緒にいる。GGOは女性プレイヤーは少ないはずなのになぜ?LUK補正で女運まで上がるのか?

 2人はコソコソと人ごみに紛れながらラッシュとその少女に近付く

 

「だから、5.56とか7.62ってライフル弾はAGI型の弾なんだよ。例えるならお前の嫁のアスナのように速い突きでダメージを出す感じだな。っで、9パラとか.45ACP弾とかの拳銃弾は拳術スキルで殴る感じだ。あくまで補助であってメインで使うには力不足だな」

 

「なるほど」

 

((え?わかるの?今の説明で?))

 

 なんとも滅茶苦茶な説明だが、相手の少女は納得したように頷いている

 

「お前の使いたいような、STR要求の高い剣に相当するのは・・・ショットガンあたりが近いだろうが、あれはメイスやハンマーの部類だろうしな・・・ってかもう普通に剣で戦えよ」

 

「え?この世界にも剣があるの?」

 

 投げやりなラッシュの言葉に少女は、嬉しそうに辺りを見回す。恐らく商品の中からラッシュが言った、剣を探しているのだろう

 

「ほら、これだよ。フォトンソード。まぁこれも補助的装備なんだが、使えないことはないはずだ。刃の実体がないせいで、軽すぎて振り辛いって欠点があるけど、その分刃の耐久値もないからな。エネルギー切れにならなければ、いくら切っても切れ味は落ちない」

 

「そっか・・・ラッシュも使ってるのか?」

 

「俺は・・・もう人は斬らん」

 

「・・・悪い」

 

 少女の問いかけに、ラッシュは表情を曇らせた。少女自身も失言であったことに気付き、すぐに謝った

 

「撃ち殺しはするがな」

 

「おい」

 

 ―ただのボケだった?いや、でも・・・もう(・・)人は斬らないって・・・

 

 すぐに茶化したラッシュに、少女が突っ込む。しかし、シノンはラッシュの表情や言葉に気になるものを感じた

 

「っで、どうすんだ?エントリー締め切りまで1時間切ったから、早く決めないと間に合わなくなる。剣をメインにするにしても、距離の関係上サブで銃が必須なのは変わらない」

 

「うーん・・・」

 

「それと、武器以外にも買うものはあるんだからな?弾に、替えマガジンに、防具に、回復キットに・・・」

 

「「・・・」」

 

 珍しく優しくない態度をしているラッシュに、少し少女が可哀想に思えてきたシノンとレンは、アイコンタクトを交わし、覗き見をやめて出て行くことにする

 

「ちょっとラッシュ、そんなに責め立てるように言ったら可哀想じゃない」

 

「ゲッ・・・またかよ」

 

 ジェーンとの食事が見つかったときのような表情をするラッシュ。追及をシノンに任せたレンは、相手の少女を観察する

 

「うーん、やっぱりジェーンさんに似てる?ジェーンさんを幼くして東洋系っぽさを減らした感じかな?っというより、前の戦争のときの、あの女性に似てるような・・・でもあの人よりちょっと小さいかな」

 

「あ、あのー・・・そんなに見られると、ちょっと・・・」

 

「おっと、ごめんごめん」

 

 少女の周りを回りながら観察しながらアバターの姿を分析するレンに、少女がタジタジになる

 

「えっと、ラッシュ?この2人は・・・?」

 

「その前にお前の自己紹介をしたらどうだ?色々と勘違いされてるから」

 

「?・・・キリトって言います。ラッシュとは前の前のゲームで一緒に戦ってました」

 

「「?」」

 

 キリトという少女の自己紹介に、シノンもレンもなにを勘違いしているのかわからなかった

 

「アバターの型番は?」

 

「え?確か、アバターのバイヤーがM9000番台とかって言ってたな・・・」

 

「ん?M9000番台?」

 

「ってことは・・・」

 

 シノンもレンも具体的にM9000番台がどんなアバターなのかは知らなかったが、1つだけはっきりわかったことがあった。頭がMから始まる型番は、女性プレイヤーには与えられない

 つまり・・・

 

「「男?!」」

 

「あ、アハハ・・・デスヨネー」

 

 2人の驚きの声に、キリトは諦めたように空笑いを浮かべた

 

 

 その後、なんやかんやで無事装備を整えたキリト。主に面倒見のいいシノンがキリトの所持金内でできるだけいい装備を選んであげたようである

 参加締め切りまで余裕を持って総督府にやってきた4人は、ロビーで参加登録をする

 

「あれ?ラッシュさん参加しないって言ってませんでした?」

 

「ん?まぁ・・・気紛れってやつだ」

 

 参加登録をしているラッシュに、レンが問いかけた。だが、はぐらかしたラッシュに、レンも深くは聞かなかった

 参加者待機エリアとなっている総督府地下にエレベーターで移動中、それぞれの予選ブロックを確認すると、シノンとキリトが同じブロックになっただけで、ラッシュとレンはそれぞれ別のブロックのようである

 

「でも、決勝までは当たらないようだし、勝ち上がればお互い本戦には出られそうね」

 

「まるで自分が本戦に出るのは確定してるかのような言い方だな」

 

「当然よ。前回も本戦に出てるし、予選落ちするようなら引退するわ」

 

 キリトの煽り言葉を、シノンは自信を滲ませつつ冷静に流す

 

「後にこの発言を後悔することになろうとは、このときのシノンは思いもしなかった・・・」

 

「ちょっ?!アンタが言うとシャレにならないのよラッシュ!!」

 

 実力もあり、運も持ってるラッシュの予言めいた言葉に、シノンは慌てたように突っ込み、気を引き締めなおすのだった

 そしてチーンっと音を鳴らし、エレベーターが待機エリアに着き、ドアが開く

 

「わぁ、すごい人の数・・・」

 

「あー・・・1ブロック当たり64人で、15ブロックだから・・・うわ、960人もいんのかよ。ホントにそんないるか?」

 

 エレベーターを出て、人の多さにレンが驚き、ラッシュがざっくりと計算して総参加者数を出した。実際には1ブロック当たりの人数は64人よりも少ないし、まだエントリー受付中で全員が揃っているわけでもないので、ラッシュの言った人数よりもだいぶ少ないのだが、それでも500人以上は、待機エリアで予選の開始を待っている状態だった

 

「お、おい、あれ・・・」

 

「ブラックアローのとこの3人じゃねーか。やっぱBoBに出てくるか」

 

「どのブロックだ?当たるヤツはツイてないな」

 

 ラッシュやレン、シノンを見て、待機エリアのプレイヤーたちがザワつきだす

 

「あ、あの、なんか3人とも、すごい見られてない?」

 

「こないだちょっとしたカチコミしてな。俺ら3人とサポートのヤツの4人で、50人くらいを皆殺しにしたんだよ」

 

「うわぁ・・・」

 

「ま、強いのは1人か2人で、あとはみんなザコだよ。商人ロールから小遣いほしさのクエスト気分で参加してた金欠のビギナーや、そこそこやってるのに未だうだつの上がらないド三流どもだったから」

 

 キリトのドン引きの視線を向けられながらも、ラッシュはなんてことのないように前の戦争の真実を語る。ラッシュの言ったとおり、前の戦争の相手側のプレイヤーは、ほとんどが素人だったり、プレイヤースキルの覚束無い、見も蓋もなく言えばヘタクソであった

 

「あの黒髪ロングは新しいヤツか?」

 

「要チェックや!」

 

「なんか俺までマークされてんだけど?」

 

「知らん。どうせお前の戦い方なら1回戦終われば嫌でも注目される」

 

 GGO初心者なのにいきなり注目され、キリトは非難の目をラッシュに向ける

 

「にしてもなんであいつの周りにばっか、可愛い子が集るんだよ」

 

「金か?!金なのか?!」

 

「やっぱ参加するんじゃなかった・・・」

 

 別の理由で向けられる非難の目に、ラッシュは大きなため息をついた

 そんな中、シノンとキリトは準備のために更衣室エリアに行くことした。ラッシュとレンは武装だけストレージに収めている以外、初めから戦闘服でいるので、2人とは一旦別れることに・・・

 

「ねぇ、ラッシュは以前のゲームで・・・」

 

「?」

 

「いや、いいわ。なんでもない・・・そっち空いてるみたいだから使うといいわ。私はこっちで着替えるから。終わったら一緒に戻りましょう」

 

 マーケットでのやり取りがまだ気になっていたシノンは、キリトにそのことを尋ねようとした。しかし、やはり詮索はすべきではないと思い直し、そそくさと更衣室に入った

 

 ―仮に私が思ってた通りの回答が来たとして、それで私になにができるってのよ・・・

 

 入り口にロックをかけると、体を投げ出すように更衣室のベンチに寝転がるシノン。顔を手で覆い、ため息をついた

 

 

 数分後、更衣を終えたキリトとシノンは、ラッシュたちの下に戻る

 

「シノン」

 

「ん?あぁ、シュピーゲル」

 

 途中、シノンは現実での付き合いのあるプレイヤー、シュピーゲルに呼び止められた。置いていくのも・・・っと思ったキリトも足を止めるが、すでにラッシュたちが見える位置にいたので、シノンは『大丈夫、行って』っとジェスチャーで伝える

 

「新しい友達?」

 

「まぁ、そんな感じ。でもBoBのためにコンバートしてきた人だから、終わったら元のゲームに戻るみたいよ。それよりどうしたの?前に出場しないって言ってたけどやっぱり出場するの?」

 

「いや、その、どうせ勝てないから、せめてシノンの応援に・・・」

 

「そう?」

 

 ―レンもシュピーゲルと同じAGI型だし、前回ゼクシードが勝ってあんなこと言ったからって、まだAGI型は終わってないと思うのだけど・・・そもそも運動性能に影響しないLUKにガン振りしてるラッシュはどうなのよ?

 

 第2回BoBで優勝したゼクシードは、それまでの主流ビルドであった攻撃を避けるAGI型のビルドではなく、攻撃を受けても耐えられるVIT型のビルドであった。装備によるところが大きかった、と周囲が評価する中、ゼクシードはGGOを特集したネット番組で『AGI型ビルドは終わった』っと宣言したのである

 

 しかし、レンのようなAGI型ビルドの新星もいるし、努力次第ではそんなのどうとでもなる、っと言ってシノンは励まそう思った・・・だがシュピーゲルの諦めた表情に、シノンの中の彼への感情が冷めていき、そんな気は失せてしまう

 

「・・・まぁ、ありがと。じゃあ、頑張るわね」

 

「うん、頑張って・・・」

 

 そう言って、シュピーゲルと別れたシノンはラッシュたちの輪に戻っていった。去っていくシノンに、シュピーゲルが何度手を振っても、シノンが振り返ることはなかった・・・

 

 

 エントリーが締め切られ、予選が始まったラッシュたち4人は全員1回戦を突破した

 

「デスガン、か・・・まさかホンモノのキチガイだったとはな」

 

「あぁ・・・腕にあのマークを入れてた・・・」

 

 1回戦から帰ってきたラッシュは、様子がおかしかったキリトから話を聞いていた

 

「お前がGGOに来てるの見つけて、声かけたらいきなり『BoBに出る』って言い出した時点で、なんか面倒事になってんだろうなって思ってたよ」

 

「ホント、このアバターでよく俺だってわかったな・・・」

 

 兄が弟に接するかのようにラッシュはキリトの髪をグシャグシャと撫で回す。ただ、キリトの容姿のせいで弟が妹に見えるのはご愛嬌である

 そうこうしている間に、2人はそれぞれの2回戦のフィールドへ転送されていく

 

 

 

 Hブロック2回戦

 RUSH 対 Pitohui

 フィールド:廃車場

 

 直前の待機エリアからフィールドに転送されたラッシュ。周囲にはスクラップの車が高く積まれていた

 

「さて、どうすっかな?」

 

 デザートイーグルを片手に、ブラブラとフィールドを歩く。メインのスパス15や、もう1つのサブのM320グレネードランチャーは予選の間は温存するつもりである

 

「あー、退屈だな」

 

 わざと大きめの声を出して、相手に居場所を教える

 

 ―ったく、タイマンで1キロ四方って広すぎだろ。明日までに終わんのか、この予選・・・?

 

 それから数分が経ち、やっと状況が動いた。積まれた廃車たちの上から、ハンドグレネードが転がって落ちてくる。1つや2つなんて数ではなく、いくつもいくつも・・・

 

「最初からクライマックスだな」

 

 デザートイーグルでハンドグレネードを1つ撃ち、時限信管の起爆より早く爆発させ、誘爆させる。積まれた廃車の塔が吹き飛び倒れた

 

「どしたどした?!これで終わりか?!」

 

 挑発するラッシュ。だがグレネードの爆発に視覚聴覚が向けさせられた中で、相手がラッシュの背後に組み付いた。そのまま相手はラッシュの首にナイフを刺しにかかる

 

「これならご自慢のLUKも関係ないでしょ?!」

 

「お前、あのときの死にたがり・・・」

 

 ラッシュは相手のピトフーイが前の戦争で戦った手練のプレイヤーだと認識した。デザートイーグルでナイフを防ぎ、銃とナイフで押し合いになる中、ピトフーイがもう片方の腕を首に回して締めようとしてくる。ラッシュはそれに抵抗するために、もう片方の手でその腕を掴む

 

「ハッ、胸が小さくなったな?サラシでも巻いたか?」

 

「連れを見てたら、でかいチチは好みじゃないようだってわかったからね!」

 

 ―ってかこの行為、男女逆ならハラスメントコード抵触で反則負けだろ・・・ズル臭ぇ

 

 分が悪いラッシュは、周囲を見回して、廃車の尖った部分が向き出た場所を発見する

 

「悪いが電子データの女体には興味ないんだわ。女体はやっぱりリアルに限るってな!!」

 

 尖った部分にピトフーイの体を勢いをつけてぶつける。尖った部分とはいえ、オブジェクトへの衝突ダメージ以上のダメージは入らないが、突き刺されるような鋭い感触に、ピトフーイの組み付きが一瞬緩む。その隙に背負い投げでピトフーイを引き剥がすと同時に、地面に叩き付けた

 

「カハッ・・・」

 

 叩き付けた衝撃ダメージがピトフーイに入るが、ラッシュの攻撃はまだ続く。ピトフーイの腕を掴んだまま、背負い投げの反動を使って倒立っぽく脚を上げ、ピトフーイの鳩尾に膝を叩き込む

 

「ゴホッ・・・」

 

「悪いな死にたがり、今回も俺の勝ちみたいだぜ」

 

 ピトフーイの体に膝を乗っけたまま、デザートイーグルを彼女の頭に向けるラッシュ

 

「ハッ、ハハハ・・・」

 

 嘆くように笑うピトフーイ。負けを悟り、体から力が抜け、四肢がダラリと地面に投げ出される

 

「ヤれよ・・・ここで死んで、リアルでも死んでやる」

 

「リアル持ち出して、精神揺さぶりかけてるつもりか?見苦しいな」

 

「あの世界に行けなかった失敗者(ルーザー)にはちょうどいい最期だろ」

 

 ―あの世界ね・・・この程度の状況で諦めてるようじゃ、なんもできねぇよ。しかしこんなこと言うやつが出てくるとは、これが事件の風化ってヤツか

 

 ピトフーイの言葉に、ラッシュの表情から温度が消えていく。デザートイーグルの銃口に目がいっているピトフーイはそれに気が付かない

 

「そうだな。負け犬にはお似合いの最期だ・・・お前程度があの世界にいたとしても、始まりの街の宿屋で、布団被ってガタガタ震えながら2年間を過ごして終わりだったろうさ」

 

「なっ・・・っ!」

 

 ピトフーイはラッシュの言葉が癇に障った・・・が、そこで初めてラッシュがさっきまでとは違う、冷酷な表情をしているのに気付き、言葉が出てこなくなる

 

「お前の思想に興味はねぇよ。こんな命と匿名性が担保されてる場所でしか、屁にも似たそんな寝言が吐けない時点でお察しのクズだからな。あばよ糞虫」

 

 ―せめてリアルで顔を晒して、その寝言を抜かしてみろよ

 

 デザートイーグルの引き金を引き、ラッシュは試合を終わらせた




 後書き後半はアンチ的要素なので読みたくない人は飛ばし推奨
 っというか後書きは基本言い訳なので読みたくなければ飛ばしても構いません

 BoB予選日。詩乃の香蓮宅訪問。マンションの設定は少し盛ってる?ラウンジはアニメで出てきたけど、警備員や管理人がいる様子は見て取れない。仮にいたらMの中の人と香蓮のファーストコンタクトで警備員が出てきそう
 香蓮の部屋の間取りは、最低でも寝室+オーディオルーム+LDKの2LDK?SHINCとSJの映像を見てた部屋は、テーブルやソファ等も無いのでリビングとは思えないからオーディオルームとして一部屋あると予想

 GGO内、マーケットの設定はたぶんこんな感じなのかなって・・・競売みたいに手数料取られるけど販売を代行してくれる感じ

 キリ子登場。ラッシュのリアルはある程度テンプレです
・SAO生還者 ・SAOでは攻略組で、当時のキリトやアスナ等攻略組プレイヤーと面識有り ・ラフコフ討伐戦に参加、殺しも経験済み ・リアルは都内、またはその近郊に在住
 大体これがテンプレだと思ってます。あとは、年齢が10代で、SAO生還者のための学校に通ってる、を追加すれば完璧テンプレオリ主の出来上がりかなと・・・ですがこの2つは外して、別の要素を入れます。ヒントは宇宙人

 弾丸の説明は、銃オンチのキリトでも分かりやすいように・・・合ってるかは不明

 キリト「前(ALO)の前のゲーム(SAO)」
 ラッシュはALO事件には関わっていません

 BoBにラッシュ緊急参戦。3人は先の戦争で注目されてますが、実際はこんなオチ。ベヘモスやダインのスコードロンなどがいない時点でお察しでしたってことで。ラッシュたちと一緒にいるせいでキリトに対する予選での敵の警戒度上昇

 お着替えのラッキースケベが無い代わりのちょっとしたシリアス。もうこの辺りでシノンはラッシュがSAO生還者だと気付いてるってことで

 シュピーゲル登場。原作と違いキリ子の勘違いは訂正されず。ラッシュやレンとの出会いで、シノンの強さの考え方が『ビルドよりプレイヤースキル』にシフトしてる。そのため、ビルドにばっかり拘ってプレイヤースキルを身に付けることを諦めてるシュピーゲルは見限られました

 緊急参戦の理由。キリトのトラブル呼び込み体質は原作どおりってことで

 やっとのことで戦闘。相手は再びの登場ピトフーイ。恐らく初めてのラッシュの内面描写。そしてラッシュ敗北のピンチ。ピトは投影面積を少しでも減らすためにサラシでバストダウン
 シノンやレンから、ラッシュの貧乳好き疑惑。しかしシノンもレンもリアルはそこそこある模様。ちなみにラッシュがSAO内やそれ以前で彼女がいたとか想い続けている人がいるとかの設定はありません

 ピトさんの対ラッシュ戦術論『弾が当たらないならナイフで切ればいいじゃない』
 運の要素が入り込む余地の無い方法でダメージを与える。ナイフじゃなくても銃の接射とかでもいけるはず。ジャムったり暴発したりってのが仕様で存在しなければだけど

 マウント取って勝利宣言。同じ相手に2回連続で負け、しかもタイマンだった今回はメインのスパス15すら使われず、前回そこそこやれたのがウソのように呆気なく負けたので、情緒不安定に。あぁ言ってますが、ピトは死んでません。死んでたらSJ書けないですし
 ピトの考えについて、SAO生還者の思うことは、たぶんこんな感じ。始まりの日のチュートリアルでアバターが無くなってリアルの姿でプレイすることになった恐怖とかを考えると、『あの世界に行きたかった』なんてアホかと。ましてやアニメ6話の『PKやPKKをしたかった』なんて粋がってんじゃねぇよって思われるでしょうね。リアルで公言すれば炎上間違いなし。それすら避けて匿名性があるVRゲーの、世界観も殺伐としててSAO生還者の少ないGGOでそんなこと言ってるピト。現実でもMの中の人とか身内くらいにしか言ってないみたいだし、ただのバカの粋がりに見えるのは自分だけなのだろうか?

 原作では頭打ち抜かれても生きてますが、こっちは死にます








 あれなんで生きてるの?回復薬が間に合ったとか、リアルラックで即死せずHPが残ったとか認めたくないですが・・・システム内では一瞬でダメージ計算は終わるはず。HPゲージが減って行ってるのは、視覚的にわかりやすくしてるだけで、計算が終わってないからなんてありえない。計算が終わってない=処理落ちしてるってことだし、そうだったらクソゲーもいいとこ。あの残ったHPが回復薬の分だったら、システムログ上では0になったHPが回復薬分だけ復活して生き返ったってことでしょ?なんだそれ?バグじゃん。リアルラックってのも、貫通分とインパクトダメージの2つのダメがあるのに生き残ったの?シャーリーが使ってた銃の最小口径って.308で、約7.8ミリらしい。SAOⅡで出てきたベヘモスのミニガンが7.62ミリ。シノンの足はそれで千切られたんだけど・・・

 ステがVIT型だった?仮にヘッドショット耐えられるだけのVIT型だったとして、10話で出した武器たちをストレージに入れていられたSTR、その重量を持った上で9話の軽快な動きをするAGI、プレイヤースキルの長距離狙撃にアバターがついていけるDEX。それらはどうやって確保してるの?実はピトだけレベルがレンたちの4倍以上とか?そんなどこまでもレベル上げてステ上げられるなら、ステ振りで悩むこと無いじゃん。なぁシュピさんや?

 ピトが何かしらの行動する度に、原作ファントムバレット編で出てくるGGOの設定との乖離が出てくる気がする。プレイヤーキャラではなく、ザ・シードの簡易カーディナルが動かしてるNPCだって思えば、納得がいくけどなぁ・・・それかピトの中の人がGGOの運営の上の人で、SAOでのヒースクリフのような状態。強さのタネが明かされないなら二次創作の俺TUEEキャラと同等だよね。ラッシュと同じくらいふざけてる

 アニメ11話でSHINCのボスもヘッドショットを1発耐えてたように見えるけど、あれは単純にDEADの表示が出るのが遅いだけで、どのキャラも死亡して倒れて動かなくなって、そこから一拍間を置いて表示が出てる。SAOⅡのデスガンもキリトに胴体真っ二つにされてから少しの間はしゃべってたわけだし
 Mが追撃したのは、相手の狙いがわかって、焦りもあったんじゃないかな、と・・・撃たなくてもボスはそのままで死亡してたんじゃないかと思う


 毎話後書きに言い訳がいっぱい・・・後書きいっぱいだから本編の話の区切りも気にせず、大体5000字以上になったら、そろそろ次の話に移ろうかと考える感じです


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3話

「やっぱブラックアローの奴らは全員残ってんな」

 

「あの黒髪もヤベーだろ。光剣で戦うヤツなんて初めて見た」

 

 予選が順調に進んでいく中、観戦しているプレイヤーたちはラッシュたちの快進撃に、興奮した様子でモニターに喰らいついていた

 そんな待機エリアの、目立たない位置のバーカウンターのような場所で、グラスを傾けている男性プレイヤーが1人・・・

 

「酒飲みながら予選とは余裕そうだな」

 

「中身はノンアルコールだ。そう余裕こいてられるモンでもないんでな」

 

 その男性の隣の席に着いたプレイヤー、ラッシュの言葉に、男性はグラスの中身を揺らしながら返す

 

「噂のLUK型が何の用だ?」

 

「挨拶だよ。どうやらダチが決勝まで上がれば、お前さんと当たるみたいだからな」

 

「ほお、挨拶なぁ」

 

 男性はグラスを煽りながらラッシュの話を聞く

 

「ところでお前さんは、決勝に進出した時点で本戦出場は確定なわけだが、その決勝はどうするつもりだ?即降り、なんてツマンネー真似しないよな?」

 

「どういう意味だ?」

 

「ダチの後学のために、そこそこ本気で撃ち合ってくれないか?もちろん本戦用の隠しだままで出せとは言わんさ。最後はきっちりお前さんが勝ってくれて構わない」

 

「後学ね。ツブれちまうかもしれないぜ?」

 

「見た目と違って、そんな可愛いタマじゃないんだよ」

 

 そう言ったラッシュのアバターが次の試合のための転送準備で光に包まれる

 

「まぁあくまでお願い(・・・)ってヤツだ。弾代を出してやるわけでもないから、最後はお前さんに任せる」

 

 それじゃ本戦で、っと言ってラッシュは転送されていった

 

「・・・」

 

 残された男性は、ふと1つのモニターを見る。ピンクの暴風が相手プレイヤーを襲い、喰らい尽していた

 

「あんなの見せられて、即降りなんてできるわけねぇだろ」

 

 

 Gブロック決勝戦

 LLENN 対 闇風

 フィールド:鉄道車両基地

 

 フィールドに転送されたレンは、まず周囲の確認をした。地面は線路と敷石、周りには貨物列車の貨車がある。貨車は空車もあれば、積荷としてコンテナやタンクが載っているものがある。遠くにはクレーンや駅舎、防音林と思える樹木が見える

 

 ―足場が悪い・・・全力で走るにはレールが邪魔だし、敷石も足を取られる・・・駅舎の周りならコンクリートで足場もしっかりしてそうだから、まずはそっちに・・・

 

 自分のいる場所が不利だと悟ったレンは、移動を始める。一応いつでも戦闘になっても大丈夫なように、今回のBoB用に新しく買ったメインアームであるP90を構えつつ走る

 目的地の駅舎に近付き、線路側からホームに上がり、そのまま改札方向に歩く

 

 ―相手は私と同じAGI型、そのトッププレイヤー。いつエンカウントしてもおかしくないはず・・・

 

 そう思った瞬間、レンが通り過ぎた駅舎の窓から、ガラスを突き破って闇風が現れる

 

「っ?!」

 

 闇風の銃から伸びるバレットラインに、回避行動をとってホームを飛び降り、段差に隠れるレン。闇風の射撃が収まると段差から飛び出して闇風に接近する

 

『ぶっちゃけレンと闇風を比べたら、ビルドの完成度に装備の質、本人のテクや戦闘経験、どれをとっても闇風のほうが上だ』

 

 レンは決勝前にラッシュから言われた言葉を思い出していた

 

『しかし闇風はAGI型だが、体が大きい。だから5~10メートルくらいの距離を維持したミドルレンジ主体の戦闘スタイルだ。だけど、レンはその体の小ささで、同じAGI型でも1メートル以内のクロスレンジで戦える。そこに勝機がある』

 

 ―喰らいつく!とにかく前へ!!

 

 ホームの上で動きながらの撃ち合い、距離を詰めようとするレンに、闇風はホームから線路に飛び降りる。狭いホームの上だけでは、彼の高すぎるAGI値を全開にして動くことができないからだ

 

 足場の悪さを無視して線路を走る闇風、体が大きいということは足も相応に長いため、レールの段差も苦にならないようである。しかし体の小さなレンでは足も短いため、体格比で大きく足を上げてレールを越えなければならない

 

 ―追いつけない、離される!!

 

『決勝の場所がどんな場所かは、転送されるまでわからん。けど、どんな場所だろうと、お前のその小ささが活きる場所ってのは必ずある。お前にしか入れない空間だったり、あとは闇風が躊躇するような狭い道でも、お前なら全速力で抜けられたりな』

 

 ラッシュのアドバイスを思い出し、周囲を観察する。転送された地点と似たように、貨物列車が数編成並んでいる

 

 ―これなら!

 

 足場の悪さをなくすため、レンがコンテナが載った貨車に飛び乗る。台車の部分からコンテナの小さな突起を掴んでその上へ。これは同じAGI型でも闇風よりDEX値があるレンだからできた業であった。コンテナの上を走ることで、足場の問題を無くすことができたレンは、さらに上から闇風を狙うことで、動きの先読みがしやすくなり、当たらないまでも至近弾で闇風の行動を阻害することに成功し、距離を大幅に縮めることができた

 

 ―ココだ!一気に行く!!

 

 一気に加速をつけ、P90を連射しながらコンテナの上から闇風に向かって飛び込む。マガジンを撃ち尽くすP90の射撃に、さすがの闇風も足を止めた。そして闇風も撃ち返すが、身を縮めたレンの体には命中弾はない。レンが着地すると、両者の距離は僅か1メートルになった

 

 ―ごめんねピーちゃん

 

 着地と同時に、P90を投げ捨て、腰から筒状の柄を抜く。スイッチを入れると、柄の先から30センチほどのビーム状の刃が発生する

 

『このビームナイフは、金属製のコンバットナイフより遥かに切れる代物だ。どんなアーマーでも無視できると言っていいくらいにな。接近戦に持ち込んだら、とにかくコイツで切れ』

 

「たぁあああっ!!!」

 

 ナイフを構えて地面を蹴り、闇風に突進するレン

 しかし、闇風も抵抗をする

 

「っ?!」

 

 レンと自身の間に、プラズマグレネードをポンッと浮かせるように投げる。突然のグレネードに、レンは驚きで動きが止まる。そしてそれは大きな隙となる

 闇風は銃のストックでグレネードを明後日の方向に弾き飛ばすと、レンの首をストックの先で突いて押し飛ばした

 

「作戦は悪くなかった。(テク)も度胸もあった。だが、最後の最後でビビッた。それだけが敗因だ」

 

 空中を舞うレンに、闇風からの射撃が叩き込まれた

 

 Gブロック決勝戦

 勝者:闇風

 

「これで満足か?LUK型さんよ」

 

 

「すげー、闇風相手にあそこまで追い詰めたぞ」

 

「予選で闇風がグレネード使ったの初めてじゃね?」

 

「それ以前に、足を止めたのが初めてだろ」

 

 待機エリア、レンと闇風の対戦に釘付けとなっていた観客たちが、対戦が終わると同時に堰を切ったように話しだす

 

「惜しかったわね」

 

「もしかしたら・・・っと思ったが、やっぱり闇風が勝ったか。でも闇風も、アレを使わせられるとは思わんかっただろうな」

 

「あのグレネードって普通のじゃなくて、プラズマグレネードだから結構高いのよね。予選中は温存したかったでしょうね」

 

「隠しだまは出さんでいいって言ったのになぁ・・・」

 

 決勝に進出した時点で明日の本戦出場は確定している。その上で高価なプラズマグレネードを使用してまで勝ちに行った闇風。つまりはそれほどに、レンの強さは彼のプライドを刺激した、ということであった

 

「あなたなら闇風に勝てる?」

 

「んー、ミドルレンジ主体の闇風とは相性は悪くないけど、よくもないからな。仮に(テク)が同等なら、フィールドとかそのときのリアルラック次第だな」

 

「自分のプレイヤースキルが闇風と同等と仮定できるだけ凄いわ・・・」

 

 ラッシュの言葉にシノンは呆れた

 

「それよりお前さんはどうなんだ?随分と気を抜いてるみたいだが?」

 

「私は、決勝は即降りもアリだと思ってるわ。50キャリバーは安くないのだから」

 

「この観客の熱気を前にしてそれを言えるとは、お前さんの図太さも大概だろ・・・」

 

 各ブロックの決勝の開始は、それぞれのブロックの進行具合に左右されている。レンや闇風のいたGブロックは、2人の圧倒的な強さによって1番最初に終わったブロックであり、他のブロックはこれから決勝戦が行われる

 

「でもそうか、即降りするのか・・・キリトに発破かけた意味無くなるな・・・」

 

「発破って、クロスレンジの剣士ロールが、スナイパー相手にどう戦うのよ?勝負にならないわ」

 

「どうかな?ぶっちゃけ俺がこのBoBで純粋に(・・・)マークしてるのは、闇風とレン、そしてキリトの3人だ」

 

「おかしいわね?私の名前が入ってなかったけど?」

 

 それまで冷静に話していたシノンの声に、震えが混じった

 

「あぁそうだな。だがスナイパーに俺は殺せない。それはスナイパーのシノンが1番よくわかってるはずだ」

 

「っ!」

 

 ラッシュの言葉に、シノンはカチンときた。しかしラッシュの言っている意味もわかっていた。それは、そのビルドを取っているプレイヤーとしては、理解したくないものであったが・・・

 

「キリトを撃ち抜けるなら、あるいは・・・っと思ったが、即降りなら仕方が無いな」

 

「わ、私は即降りもアリって言っただけで、するとは言ってないわ。上等よ!ぶち抜いてやるわ!」

 

 ラッシュに背を向けて転送されていくシノンを、ラッシュはニンマリとホクホク顔で見送った

 

 

 Fブロック決勝戦

 キリト 対 シノン

 フィールド:大陸横断高速道

 

「って、よりにもよって一本道のフィールドか」

 

 決勝のフィールドに転送されたキリト。左右を壁で閉ざされた一本道。対戦相手のシノンがこの道の先にいることは容易に想像できた

 

 ―ま、相手の位置をある程度特定できたことに、今はこのフィールドに感謝しとこう・・・

 

 キリトは肩を窄めつつ、前へと歩き始める。いつでも銃弾に対処できるように、光剣だけを手に持って・・・

 

『キリト、デスガンがどんな相手か知らんが、決勝でシノンに何もできずに負けるようなら、本戦でヤツと遭遇しても何もできないからな?このゲームに慣れてないお前に、消化試合なんてあると思うなよ』

 

 予選の最中、ラッシュに言われた言葉を思い出す。予選が始まる前は、内心で自身のスタイルが通用するか不安だったキリト。1回戦でその不安はある程度払拭できる戦いができたと思った。しかしその直後、待機エリアでデスガンと接触し、デスガンがSAO生還者で、殺人ギルドのメンバーだったプレイヤーだとわかった。2回戦以降を必死で戦い、勝ち上がるキリトに、ラッシュが言った言葉がそれだった

 

 ―どれくらい歩いた・・・?100メートルくらいか?1キロの直線道路で、仮に初期位置が中心から250メートルずつの500メートル離れた場所なら、お互いの後ろにも250メートルも道があるのか・・・

 

 道路上にある廃車に身を隠し、後ろを振り返るキリト。スナイパーのバレットライン無しの第1射というもののプレッシャーがキリトの神経をすり減らしていく

 

 ―覚悟決めろ俺!過去にケリをつけるんだろ?!こんなところでビビッてどうする?!

 

 深呼吸をして落ち着き、集中しなおすキリト。意を決して廃車の陰から飛び出し、隠れることを止め、道を只管走る

 

 ―どこかから狙ってるんだろ?!撃つなら撃ってこい!!

 

「っ?!」

 

 心の中で相手を挑発したキリト。そのとき、背筋に冷たいものを感じとり、咄嗟に光剣のスイッチを入れる。その次の瞬間、キリトの前方にある大型バスのフロントウィンドウが砕け散った

 

 ―来た!!行ける!!

 

「はぁあああっ!!」

 

 気合一発、タイミングを合わせて振った光剣が、秒速約800メートルで向かってくる12.7ミリの弾丸を切った

 

 

 

「チッ!!」

 

 大型バスの車内で、ヘカートⅡを伏射で構えていたシノンは思いっきり舌打ちをした。相手にはこちらのバレットラインは見えていないはずだった。一本道のフィールドだから、方向は特定されてても、システム的に位置を認識されているわけではない。落ち着いてバレットサークルを使って正確に狙いを定めて撃ったのだ

 

 ―それが剣で叩き切られましたって、どんな冗談よそれ!!

 

 ボルトを操作して廃莢を行って、2射目のためにスコープを覗くシノン

 

 ―上等よ。予選じゃやらないつもりだったけど

 

 引き金に指をかけず、スコープの十字と計算で狙いをつける

 

 ―位置を認識できて、ラインが出ると思って油断してるところをぶち抜いてやるわ!

 

 先の戦争で学び、練習を重ねてやっと身に付けたライン無し狙撃で2射目を撃った。システムアシストを使わず撃った弾はキリトへの命中コースを突き進む。1射目と違い、フロントガラスを突き破った分のエネルギー損失もなく、両者の距離も縮まっている。キリトから見て、条件は今回のほうが悪いと言えるだろう

 しかし・・・

 

「うそ、でしょ・・・人間業じゃないわ」

 

 1射目の弾同様に切り飛ばされた2射目の弾を見て、シノンの思考は停止する

 

 ―もっと引き付けるしか、なさそうね・・・

 

 すぐに復帰した思考で、次の行動を決めたシノン。狙うはキリトの反応できないであろう距離からの射撃。当然、相手からの射撃もくるだろう

 

 ―こっちだってこのゲーム、遊びでやってるわけじゃないのよ!!

 

 シノンの3射目。2射目同様にライン無しの狙撃。距離は20メートルもない近距離。これ以上は俯角がキツくて狙い辛かったため仕方なくこの距離で撃った。シノンは撃った直後、命中確認すらせず、ヘカートⅡを抱えてバスの中を後退する。篭城の構えだ

 

 ―ここまで追い詰められるなんて、情けないったらないわ・・・でも、だからこそ負けたくないのよ

 

 ウィナー表示が出ない時点で、3射目をキリトがいなしたことを自覚する

 

 ―さぁ来なさい。アンタの装備はわかってる。私が選んだのだもの。グレネードを持ってないのだから、突っ込んでくる以外に方法はないはずよ

 

 バスの後部中程で膝射で構えるシノン。割れたフロントウィンドウからでも、自分が乗り込んだ正規の乗車口からでも対応できる位置についた

 

 ―焦らしたって無駄よ。スナイパーは待つのも戦いなのだから

 

 持久戦も覚悟し、ヘカートⅡを構え続けるシノン

 だが、キリトの突入路は、彼女の予想したものではなかった

 

「っ?!」

 

 シノンのいる位置の右の窓ガラスに拳銃弾が撃ち込まれヒビが入る。音に気付いてシノンがそっちを向くと、そこにはヒビの入った窓ガラスに向かって、突っ込んでくるキリトがいた

 

「やられたっ!前だけを警戒しすぎた!」

 

 慌ててヘカートⅡを向けるももう遅い。ガラスを破ったキリトはバス内に侵入し、ヘカートⅡの銃口より接近してシノンの首元に光剣の刃を添えた

 

「どうして・・・どうしてそこまで強いのよ?!」

 

 明らかな敗北に、シノンの目から涙が零れ落ちた

 

「たぶん・・・中途半端だからだと思う。シノンが、何か遊び以外の理由で、この世界で戦っているのは、今の戦いの中でわかった。だから、レンみたいに遊びと割り切れない。けど、ラッシュみたいに本当の殺し合いだという認識も、100%でき切れていない。そこが、君の弱さだ」

 

「アンタは、どうなのよ・・・?」

 

「俺も、シノンと同じ中途半端だ・・・今こうして光剣を一押しできずにいるのが何よりの証拠だ」

 

 だけど・・・っとキリトは続けた

 

「もう、ラッシュだけに全てを背負わせない。そう決めたんだ」

 

 スッと光剣がシノンの首に触れた。この予選で、1ドットの欠けも許さなかった彼女のHPゲージは、一瞬で全て失われた

 

 Fブロック決勝戦

 勝者:キリト




 バトル回
 待機エリアでの根回しラッシュ。ただの勝利には興味ありません!ギリギリの中で掴み取る勝利こそ美味!ってわけではありませんが、レンの成長のために、ちょっと本気目でバトってくれない?というお願い

 ブロック決勝。レン編
 根回しの相手はまさかの闇風。ラッシュからのアドバイスも受けて、勝つために全力で挑みます。闇風の考察はちょい適当め。実際キャリコとP90だとどっちがいいのだろう?闇風のアバターは原作アニメのSAOⅡのGGOを特集したネット番組のところのを思い出してイメージしてます。口調や態度なんかはほぼ勝手にオリ設定で
 レンのサブ装備、ビームナイフ。原作の金属ナイフより万能。キリトの光剣より刃が短い分熱量が凄く、ほぼ何でも切れる感じで・・・
 結果、まぁまだ勝てませんよ。残当だね。でも見込みはあるよ
 ちなみに、プラズマグレネードは普通のハンドグレネードの上位アイテムという感じで考えてます。NPCの武器屋で買えますが、高いです

 ラッシュとシノンのやり取り
 シノンは予選は結構ドライに本戦に行ければそれでいいという思考。弾代を気にしてますが、確かBoBの予選は撃った分の弾が試合後に補填される設定だったはず。近接オンリーでレンのように速いわけでもないキリト相手なら勝ち確と高を括っている
 ラッシュの『スナイパーに俺は殺せない』の意味は、ビルドの相性のこと。どんなに小さく、点のような状態のバレットサークルで第1射を撃っても、高LUKの相手には無意味。理由はバレットサークルの弾道計算には、相手のLUK値による回避補正が要素として入っていないから。弾丸が長い距離を飛べば飛ぶほど、その間に風やら気圧やら空気中の塵やらの乱数にLUKの補正が干渉して、発射時の計算とは違う状態になって弾は逸れていくので、バレットサークルの外に着弾という現象すら起こり得る。バレットサークルはあくまでアシストなので絶対じゃない。バレットサークルのアシストを強化(弾道計算の高速化や、弾が飛んでる間の全て時間の気象状態を予測して弾道計算に組み込んだり)するスキルを取れば多少改善はされるが焼け石に水で、根本はお互いのLUKの補正勝負なので、スナイパーには分が悪い
 キリトを撃ち抜ける云々は、原作SAOのキリトやアスナのように、システムの柵を破ることができるかどうかという話

 ブロック決勝 シノン編
 初めはキリト寄りの視点で、最初からやる気あるよって感じを出しつつ、撃たれる怖さも持って挑んでるってことを・・・あとはSAOのシステム外スキルの殺気を感じ取る部分を・・・
 視点が変わってシノン寄りの視点。予選中はライン無し狙撃を封印する戦略。下手に公開して本戦で警戒されないようにというつもりでしたが、キリトの弾丸切りにノせられてライン無し狙撃解禁。しかしそれも初披露で対応される。たぶんだけど、ライン有りで1発撃ってからライン無しやったほうが、キリトの油断を誘えたんじゃないのって、書いてて思いましたが、シノンも焦って戦術ミスをした感じです
 試合中のシノンのモノローグが多い気がしますが、原作でもこの試合は結構シノンの感情が暴走気味だったのでいいかなって・・・

 決着の前のやり取り
 ラッシュがSAOでやっていたこと、それの重さを知っているキリトの決意みたいな?ラッシュの強さの源、レンの強さの源、それらとシノンの違い。シノンと同じ状態のキリトの、そこから脱却するための初めの一歩として、降参を要求せずにキチンとケリを付けた
 原作と展開は違うけど、シノンの内面については、ここまでは大凡同じ感じだと思う

 ラッシュの決勝?知らんな


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4話

 予選日の翌日

 

「少し、気分転換しに外に行かない?」

 

「そう、ね・・・」

 

 香蓮も詩乃も、予選決勝の敗戦のショックを引き摺っていた。まるで葬式かのような雰囲気の中で朝食をとり、お互い何かを話すでもなく、昨日の敗戦をグルグルと頭の中で思い返していた。しかし、これではダメだと意を決し、香蓮は詩乃を外出に誘った

 

 

「ここが、私の通ってる大学」

 

 外出に誘った香蓮ではあったが、特に目的地があったわけではなかった。さらに東京に友人がいるわけでもなく、遊ぶ場所にも縁がない。困った挙句に出た場所が、マンションから近い香蓮の通う大学であった

 

「高校1年生でも、卒業後の進路を考えておいて、損はないからね」

 

 と言って大学の中を案内する香蓮。しかしいくら外部入学枠があるとはいえ、エスカレーター式のお嬢様学校の大学部を見ることが、進路の参考になるのか、疑問の余地があるのは否めなかった。香蓮自身も日曜日に大学に来ることはほぼ無く。どこを見学していけばいいかもわからないという始末である

 

「私自身もあまり日曜に来ることが無いから、どこでなにやってるかわからないし、適当に見て回ろっか?」

 

「えぇ」

 

 そんな感じで、いつも講義を受けている教室を見たり、逆に過去の経験からあまり足を踏み入れたくないサークル活動をしている場所などを回ってみたりした

 

「結構奥まで来たな・・・ここら辺はもう高等部なのかな?」

 

 あちこち回っているうちに、いつの間にか併設されている高等部のエリアのほうまでやってきた2人。体育館やグラウンドなどが見え、部活中の運動着姿の高校生がそこかしこにいた

 

「あの、どうかしましたか?」

 

「え?あ、その・・・友達に大学を案内してたら、奥のほうまで来すぎちゃって・・・」

 

 そんな中で場違いの2人に、声をかけた少女が1人。部活中だとわかる運動着姿の女子生徒だった。不意に声をかけられた香蓮は、不審者と間違われたかと勘違いをして、事情を説明する

 

「この辺りは、もう高等部なのかな?」

 

「そうですね。ただ、体育館もグラウンドも大学部のクラブ活動が使ってますので、共有してる感じです」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

「いえいえ~」

 

 女子生徒にお礼を言って、来た道を戻る2人だった

 

「今の子って知り合い?」

 

「ううん、違うけど?ただ、通学中にたまに見かける程度かな?どうして?」

 

「香蓮さんと話せたのが嬉しそうだった気がしたから?」

 

 

 

「みんな、やったよ!さっきあの人と話せた!」

 

「え?あの人って、ボスがすれ違うときに見てる、背の高くて、髪の長い大学部の先輩?」

 

「そう!さっき、そこに来てたの!なんか、友達を案内してたら来ちゃったんだって!私たちと同い年ぐらいの子と一緒にいたよ!」

 

「へぇー、じゃあ面倒見とかよさそうな感じ?ボスも今度大学部を案内してくださいとか言ってみたら?」

 

「って内部生なら1人で自由に行けるでしょ」

 

 

「ホッ・・・」

 

 運動部の活動場所を離れ、香蓮が少し気を緩めた。そんな様子の香蓮を、詩乃は不思議そうな表情で見る

 

「あ、あー・・・実はね。中学高校と運動部にはいい思い出がなくて、この身長でしつこく勧誘されて・・・」

 

「そう、だったんですか。ごめんなさい、私のせいで・・・」

 

「ううん、気にしないで!最近では、ほんの少しだけど吹っ切れてはきてるから。GGOで小さなレンになって、色んな戦いを経験して、少しずつ強くなって・・・」

 

「そう・・・なんだ」

 

 ―弱いままなのは、私だけ、か・・・

 

 苦手意識を克服しつつあるという香蓮に、詩乃は俯き、表情を曇らせた。所在なさげに持ち上げた右手に視線を落とし、中指から小指までの3本を少し曲げて、止まる

 

「・・・」

 

 ―強さって、なんなのかな・・・

 

 そんな詩乃の右手を、香蓮が掴む。ハッと我に返った詩乃は香蓮を見る

 

「お昼ご飯、食べに行こっか?」

 

 詩乃ことを心配しているが、聞けない・・・そんな気持ちを誤魔化す、ぎこちない笑顔で香蓮は言う。近くの時計を見ると、もうお昼時を少し過ぎていた

 

「そうね。そうしましょう・・・っ!」

 

 頷いた詩乃に、香蓮は手を握ったまま歩き出した

 

「実はずっと行きたかったお店があってね。でも1人で行く勇気がなくて行けなかったんだけど、今日なら!」

 

「・・・ありがとう」

 

 グイグイ引っ張っていく香蓮に、詩乃は小さくお礼を言った

 

 

 マンションに戻った2人は、BoBの本戦に向け、早めの夕食をとるための準備をする

 

「聞いてほしいことがあるの・・・」

 

「ん?」

 

 台所に2人で並んで立ち、夕食を作りながら、詩乃は話を始めた

 

「私の昔の話・・・」

 

「うん」

 

「5年前、小学生だった頃、地元の郵便局で強盗事件に巻き込まれた。私の家、母子家庭で、母さんが精神的に危ういところがあって、そんな母さんがパニックになって」

 

 ポツリポツリと、詩乃は自分の過去を語る

 

「犯人が、パニックになった母さんに拳銃を向けて、私は、母さんを守るために、その拳銃を奪って・・・犯人を、撃ち殺した」

 

「っ!」

 

 詩乃の言葉に、香蓮は息を呑んだ

 

「犯人と揉み合いになって、お腹に1発、次は左肩、最後は・・・頭に。私は発砲の反動で手の骨が折れて、肩も脱臼した。正当防衛が成立して、罪には問われず、マスコミにも犯人は暴発によって死亡と発表されたわ」

 

 話の内容に、香蓮の料理の手は止まる。そんな香蓮を、あえて見ないようにして、詩乃は1人、料理をしながら淡々と話を続ける

 

「でも、小さな町で起こった事件だから、噂があっという間に広まって、イジメが始まった。それから逃れるために、進学で東京に来たけど、結局それも無意味だった・・・」

 

「あぁ、あのときの・・・」

 

「あのとき、私が体調が悪くなってたのも、あの事件がきっかけで、私は銃を見ると強い動悸や吐き気が出るようになった。所謂PTSDってヤツ。銃を連想させられたら、発作は起きるの。だから手を銃の形にしただけでも・・・」

 

「そっか・・・じゃ、じゃあどうしてGGOに?発作は大丈夫なの?」

 

 香蓮の疑問に、詩乃は自嘲するように小さく笑う

 

「それが、不思議と仮想空間では発作は起きなくて・・・だからあの世界で戦って、もしも最強になれたなら、トラウマを克服できるんじゃないかって・・・」

 

 待ちの時間で作業の手が空き、そこで初めて詩乃は香蓮のほうを向いた

 

「これが、私がGGOで、BoBで戦う理由」

 

「そう、なんだ・・・でもどうしてそれを私に教えてくれたの?」

 

「知って、ほしかったから・・・その上でこれからの、私との付き合い方を決めてほしいって・・・重いとか、面倒だって思うなら、拒絶して、忘れてくれても・・・」

 

 構わない・・・っと詩乃は続けようとした。しかし、そんな彼女の言葉は、香蓮が彼女を自らの腕の中に引っ張り込んで、抱き締めることで止められた

 

「あの喫茶店で、連絡先を交換したとき、私GGOを止めようと思ってた。その時間使って、あなたの助けになろうって。GGOのレンより、私は詩乃のことのほうが大切だと思った。それは今も同じだよ」

 

「・・・」

 

 香蓮の言葉に、詩乃はゆっくりと香蓮の背中に手を回した。嗚咽する声が漏れ、香蓮はそっと詩乃の頭を撫でながら、空いた手でコンロの火を少し小さくした

 

 

 午後6時、軽めの夕食をとり終え、食べ物が入った消化器官を落ち着かせる時間をとるために、まだGGOにはログインはしない2人

 

「前回のBoBの本戦は2時間くらいだったから、もう少ししたら準備のためにログインしましょう」

 

「わかった」

 

 時間と量を考えて夕食をとったため、本戦が終わってログアウトした後は空腹になっていることを考慮し、作った料理を後で食べられるように小分けにして保存する2人

 

「・・・昨日の予選で、わかったことがある。ラッシュのことで・・・」

 

「ラッシュさんのこと?」

 

「ラッシュは、あのデスゲーム、ソードアートオンラインの、生還者だって・・・」

 

「ラッシュさんが、SAO事件の生還者・・・?」

 

 香蓮はあまり驚いた様子を見せない。薄々、そうではないかと感じ取っていたからだ。当時は深く突っ込まなかったが、思えばBoBのエントリーのときから違和感を持っていたのだ

 

「あの人もきっと、何かを抱えている。私のより、もっと大きくて重い、何かを」

 

「いったい何があったんだろう・・・?」

 

「わからない・・・けど、そんなラッシュのところに、同じくSAO事件の生還者であるキリトが来た。間違いなく、今回のBoBは荒れるわ。出場するのが、怖いくらい。ただのゲーム中の撃ち合いじゃ、終わらない。そんな気がするの」

 

「でも、出るんでしょう?」

 

「昨日の決勝で、キリトに言われたの。中途半端だから、私は弱いって。だから決めたの」

 

 私は、もう逃げない

 

 

 午後7時、2人はGGOにログインした。総督府で本戦出場のエントリー確認をして、予選のとき同様にエレベーターで地下の待機エリアに降りた

 

「あ、あそこ」

 

 レンが指差す方向をシノンが見ると、ボックス席のようなところにラッシュとキリトが座っていて、ウィンドウを開いて何かを話していた

 

「闇風から聞いた情報だからな。確度は高い情報だろ」

 

「そうか・・この3人の誰かが・・・」

 

「奴らにしては安直なネーミングだが、現段階で怪しいのはコイツだろうな。ただ、計画を立ててからアカを作ったのか、逆なのかでそれにも疑問が出る。他の2人もマークするべきだろう」

 

「確かに・・・」

 

 妙に真面目な表情でやり取りを交わしている2人に、レンとシノンは声をかけるのを躊躇った。彼女たちは再び昨日同様に2人にバレないようにコソコソと近付き、会話を盗み聞きし始めた

 

「っで、仮にコイツがデスガンだったら、どうするんだ?倒してそれで終わりってわけにもいかんだろ?殺しの方法を探る必要がある」

 

「そうだな・・・それに、アイツがラフコフの誰かってのも、俺は思い出せていない」

 

「そっちは俺が覚えてる可能性がある・・・が、やっぱ直接見てみないことにはな」

 

「そうか・・・」

 

 ―デスガン?あんなの都市伝説レベルの噂話のはず・・・まさか本当の話なの?本戦にデスガンがいるっていうの?

 

 ログイン前の嫌な予感が当たってしまったことに、シノンは心の中で盛大に舌打ちをした

 

「ねぇ、シノン。デスガンって何?」

 

「そのプレイヤーに撃たれたプレイヤーは、現実でも死ぬって噂のことなんだけど・・・そんなのできるわけがないし、一種の都市伝説のようなものね」

 

 デスガンの噂を知らない様子のレンに、シノンは噂の内容を簡単に教える

 

「でもそれなら、ラッシュさんたちが、本戦前のこの時間に、あんな真面目に話すってことは・・・」

 

「いるってことでしょうね。それで、今回の本戦で誰かを殺すつもりなのよ」

 

「そーいうことだ、お2人さん」

 

「「っ?!」」

 

 会話に気が逸れていた2人は、盗み聞きに気付いていたラッシュの接近に気付かず、驚く

 

「その、今の話って本当なの?」

 

「あぁ、残念だが・・・今回のBoBの本戦で、ヤツは現れる。そして、現実で人が殺される」

 

 いつもは見せない真面目な表情で答えるラッシュ

 

「そこで、2人に相談なんだが・・・本戦、辞退してくれね?」

 

「ふざけてんの?」

 

「デスヨネー」

 

 本戦の出場辞退を勧めたラッシュに、真顔で怒気全開の声のシノン。思わずラッシュがボケに逃げた

 

「でも現状、方法も標的もわかってない。覚悟はしとけよ」

 

「上等よ!」

 

 啖呵を切るシノンの後ろに、マジかーっといった様子のレンがいた

 

「ったく・・・なんかあれば躊躇無く逃げろよ。そういえば母さ・・・ジェーンから2人に渡すように頼まれてたものがあったんだ」

 

 っとラッシュが言って、アイテムウィンドウを操作して2つのアイテムを出現させる

 

 【銀の四葉のクローバーの髪留め】

 純銀製の四葉のクローバーの髪留め LUK+3

 

「え?これ・・・もらっていいの?」

 

「可愛い!」

 

「2人のために作ったアイテムなんだとよ。本当は昨日渡したかったみたいだが、ログインできずで今日の午前にできたらしい」

 

 シノンとレンは髪留めを受け取り、装備欄で装備を行う。+3程度で何が変わるかは不明であるが、初期値よりはマシと言えるだろう

 

 ともあれ、望む望まざるに関わらず、4人はデスガンに立ち向かうことになったのである

 

 

 

 

 

「ところで、どうやって闇風から情報もらったのよ?」

 

「昨日コネクションは作っといたし、その流れで。あのヤロー、情報料だって抜かしてプラグレ集りやがった。あいつが勝手に昨日の決勝で使ったんじゃねーか・・・」

 

「あっ!あのグレネード!」

 

「おっと・・・シノンから聞いてなかったか・・・」

 

「あら?私はそんなこと頼まれた記憶無いのだけれど?」

 

 レンは昨日の決勝を思い出し、ラッシュに詰め寄った。シノンから昨日の件は聞いてるだろうと踏んでいたラッシュだったが、シノンは関係ないといった感じである

 

「あれ?昨日の予選は試合毎に消耗品は補填されるってルールじゃなかったか?」

 

「それな、弾薬と装備の耐久値だけなんだってよ。グレネードや回復キットなんかは、勝つために大量に持ち込んで使いまくるヤツが過去にいたから対象外なんだとよ」

 

 当然BoB初参加のラッシュは、ルールを全て網羅しているわけではない。そこを突いた闇風の意趣返しであった




 バトル無しの繋ぎ回

 敗戦のショックからの切り替えのためのリアルでのアレコレ
 香蓮は詩乃ほどではないものの、負けたのはやっぱりショックを受けてる。ラッシュからアドバイスを色々貰ったのにもかかわらず・・・最後の最後で自分のミスで勝敗が覆ったのが悔しい・・・という感じで

 香蓮と詩乃のお出かけ
 ただ、外での遊びを知らない香蓮には当てがない。ここら辺は行き当たりばったりで書いてる度合いが凄い
 おまけでSJの方々をちょこっと出したり・・・ホラ、あの人たち、シノンと面識あるみたいだし

 香蓮の内面の変化
 原作のSJ1の後ほどではないが、詩乃との出会いで少しは前に進んでる

 詩乃の変化への1歩
 原作と違い、リアルで事件のことを話すことで、GGOのシノンを頼らずに前に進もうとしてる。言葉では突き放してるけど、本音は香蓮と一緒に乗り越えたい
 香蓮側の考えは1話から変わらず、それよりもっと寄り添う方向へ

 詩乃の推測。ほぼ間違ってない。そしてリアルの詩乃で覚悟を決めた

 GGO内
 シノンのログインが原作より遅れているため、情報は闇風から。名前は出してないけどラッシュは犯人の可能性が高いプレイヤーをほぼ絞れてる。シノンとレンにも本戦開始前にある程度の情報共有。その辺はラッシュの優しさ
 シノンは命かけてる覚悟で本戦に出場するが、レンは遊びの中で勝つつもりで命をかける覚悟は無かったり・・・

 ジェーンからのプレゼント
 ラッシュの襟章と数値が違うのは素材の違いによるもの
 LUKのステについてオリ設定・・・他のステは数値が高いほうが必ず勝ちますが(陸上競技の100メートル走でAGIが高いほうが必ず勝ったり、駆け引き無しの純粋な押し合いの腕相撲でSTRが高いほうが必ず勝ったり)、LUKに関しては数値が高ければ必ず勝つとは限りません。LUK10と1000が完全に運の勝負をして、10が勝つこともあるという感じ

 前話の闇風への根回しでのコネクションの利用と仕返し
 まぁ、実際全ての消耗品が補填されるなら、そういう戦い方するヤツは絶対出てくるだろうな、と・・・回復薬打って、常時回復しながらのゾンビアタック。相手から逃げながら試合フィールド全体にグレネードしかけて爆破とか。運よくフィールドに乗り物があれば、乗り物に乗ってれば先に乗り物の耐久値が減って、相手より一瞬でも長く生きてられる。予選ならそれで勝ち上がりも可能そうだから、運営が対処済みってことで。だから前々話のピトさんの大量グレネードは自腹です

 さて、次回から本戦開始です


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5話

 本戦が始まって、30分ほど経った頃

 シノンはキルを稼ぎつつ、山岳地帯と森林地帯の合間を流れる川、その川にかかる橋の袂に来ていた

 

「ダイン・・・BoBの本戦に3回連続で残ってる割には、後ろの注意が疎かね」

 

 ターゲットにされているダインというプレイヤーは、隠れているシノンに気付かず橋を渡り始めた。シノンはゆっくりと息を吐き、落ち着いてバレットサークルを使って狙いを定め・・・

 

「動くな」

 

「っ?!」

 

 突然背後から発せられた声、そして後頭部に拳銃が突き付けられた

 

「どういうつもりよ、キリト?」

 

「見ろ」

 

 キリトが前を指して短く言う。シノンがヘカートⅡのスコープを覗くと橋の反対側からペイルライダーが歩いてきていた。このままダインと戦闘に入ると予想できた

 

「あの2人の戦闘を観察したい。音を立てて見つかりたくないから、君との戦闘は今は避けたい」

 

「嫌だ、と言ったら?」

 

「切る。それなら音を立てずに殺せるから」

 

「DEADの表示は茂みでは隠れないわよ」

 

 脱落者の表示は遠くからでも見えるように、茂みや障害物で隠れないように高さが変わる仕様になっている。今シノンが死亡すると、茂みの上まで表示が上がることになる

 

「・・・」

 

「っ!」

 

 シノンの言葉に、キリトが動揺した。その隙を突いて、シノンが反撃に出る。ヘカートⅡを支持していた両手を放すと、ガッとキリトの拳銃を掴む。そのまま対物ライフル持ちのSTRで銃口を頭から無理矢理横にずらす。咄嗟のことにキリトは拳銃を奪われまいとグリップを握る手に力を込める。その弾みで引き金に掛かる指にも力が入るが・・・

 

「っ?!引き金が・・・」

 

「覚えておきなさい。銃にはセーフティってものがあるのよ」

 

 シノンは銃口を横にずらす際に、安全装置も掛けていたのだ。スナイパービルド故のDEXの高さが、この手癖の悪さを実現していた

 シノンは横に転がりつつキリトのわき腹を肘で殴った。そして自身の上から退かすと、逆にマウントを取ってサブのグロッグ18を抜いて彼に向けた

 

「形勢逆転ね。あっちの戦いも、もうすぐ終わるようだし」

 

 っと、橋の戦闘の発砲音に耳を傾けると、いつの間にかアサルトライフルの発砲音が聞こえなくなっていた

 

「・・・どっちが勝った?」

 

「ペイルライダーのようね。ダインの武装はSIGSG550だったから。発砲音からして、ペイルライダーはショットガン使いのようね」

 

「ダインの死体は残ってるか?」

 

「さぁ?」

 

 キリトの質問に、キリトに視線を向けたまま答えるシノン。橋に視線を逸らした隙を突こうとしたが、失敗に終わり、キリトは内心舌打ちをする

 

「ハァー・・・わかったわよ。貸し1よ。絶対返しなさいよ」

 

 追い詰められ、悔しそうな表情を隠せないキリトに、シノンは彼の目的を思い出し、大きなため息をついて仕方なくといった表情で銃を収めた。キリトの上から退いてヘカートⅡの位置まで戻るシノンに、キリトも起き上がってその隣の位置で観察に入る

 

「ダインの死体はあるわね。ペイルライダーは・・・弾込めをしてるわね」

 

 橋にはDEAD表示の付いたダインの死体と、その傍らでショットガンに弾を込めているペイルライダーがいた。ショットガンは一部の例外を除き、マガジンの構造上1発ずつ弾込めをしなければならない

 しかし、そんなペイルライダーが、どこかから狙撃を受けた

 

「っ?!」

 

「あれは、ペイルライダーに何が起こってる?!」

 

 狙撃を受けたペイルライダーは、青白い光に包まれて動けなくなっているが、GGOに慣れていないキリトは、それがどんなものなのかわからない

 

「あれは電磁スタン弾?!普通はボスモンスターに使うようなものをなぜ?!1発でプラズマグレネード並みの値段よ?!・・・えっ?!」

 

「どうした?!」

 

「橋の支柱のところに、プレイヤーが・・・いつの間に・・・」

 

 突如現れたプレイヤーは、痺れて動けないペイルライダーに近付く

 

「あの銃、サイレントアサシン・・・サイレンサー標準装備の対人狙撃銃。電磁スタン弾を撃ったのはアイツよ」

 

「ヤツだ。ヤツがデスガンだ。撃て!」

 

「でも殺しの方法とかプレイヤーを特定するって」

 

「そんなの後でいい!!アイツは今、ペイルライダーを殺そうとしてるんだ!!」

 

「っ!」

 

 キリトに言葉に、シノンは慌ててヘカートⅡを撃った。急いでいたため、バレットサークルを使用して照準速度を短縮した方法で狙撃を行った

 シノンの撃った弾は、ペイルライダーの傍に立つデスガンに向かって飛び・・・命中する直前で回避された

 

「なっ・・・アイツ、ラインが見えてる。私たちの位置を認識してるわ。なら・・・」

 

 すぐにボルトを操作して廃莢を行って、ライン無し狙撃に移行するシノン。デスガンは回避した体勢から、再び元の体勢に戻り、ペイルライダーにハンドガンを向けた

 

「これならどうよ・・・」

 

 ライン無し狙撃で撃たれた2射目・・・しかし、その2射目も直前で回避された

 

「なんなのよ?!アンタといい、ラインが見えないはずなのにどうなってんのよ?!」

 

「殺気だ」

 

「はぁ?!」

 

「だから、そんな殺気垂れ流してたら、ラインなんて無くてもわかるって言ってるんだ!オカルト染みてるかもしれないが、わかるんだよ!」

 

 キリトからの説明を、シノンは理解できない。しかしそれも仕方の無いことだろう。急にそんな超能力的第六感を信じろと言うほうが無理があるのだ

 

「ったく、SAO生還者ってのは、みんなそんなシックスセンス持ってんの?!」

 

 毒づきながらのシノンの3射目を、デスガンは避けると同時に、ハンドガンでペイルライダーを撃った

 

「「っ?!」」

 

 キリトとシノンは、撃たれたペイルライダーの様子を確認する。電磁スタン弾の効果が切れ、青白い光が消えたペイルライダーは、スッと立ち上がり銃をデスガンに向けた・・・しかし、急に胸を抑えて苦しみだし、やがて回線切断の表示を残し、アバターが消滅した

 

「・・・どうなったの?」

 

「ペイルライダーは死んだ。死んで、アミュスフィアが脳波を読み取れなくなった。だからアバターが消えた」

 

「信じられない・・・」

 

 デスガンはその場から去りながら、徐々に体が薄くなっていき、最後には完全に姿が消えてしまった

 

 

「知ってたのか?俺がSAO生還者だって・・・」

 

「あれだけ臭わす様なこと言ってたらバカでも気づくわ。それと、さっきはごめんなさい・・・あまり、言っていいことじゃなかったわよね」

 

 デスガンが消えて、サテライトスキャンでもその位置がわからず。2人は僅かな可能性から、マップ中央部の廃都市地帯を目指すことにした

 

「ねぇ、その、聞いていい内容じゃなさそうだけど・・・」

 

「なんだ?」

 

「ラッシュはSAOでいったい何をしたの?」

 

「っ!」

 

 シノンの質問に、キリトは思わず足を止めた

 

「本人がいない場所で聞くのは、自分でも非常識だと思ってる。でも、本人がいる場所だと、絶対に聞けそうにない内容だと思ったから・・・」

 

「聞くと絶対後悔する。ラッシュも、きっとそれを望まない」

 

「人を、殺したから?」

 

「・・・」

 

 シノンの問いに、キリトは視線を逸らした

 

「決勝でのあの言葉・・・もしかして、あなたも、なの?」

 

「・・・そうだ」

 

 キリトは苦しそうな表情で、短く返した

 

「俺はあの世界で4人・・・ラッシュはもっと、それこそ10人20人って単位で、人を殺した」

 

「っ!」

 

 

「俺はあの世界で『赤斬り』って呼ばれてた。SAOはな、頭の上にカーソルが出るんだ。普通のプレイヤーはグリーン、傷害行為や窃盗行為をした犯罪者はオレンジってな」

 

 廃都市地帯の東、草原地帯との境界付近。運よくレンと合流できたラッシュは、サテライトスキャンまでの待ち時間、世間話のように、自分の過去を語り始めた

 

「だけど殺人をやるプレイヤーは、自分たちをレッドプレイヤーと言っていた。それを斬るから赤斬り。俺はPKKをしてたんだ。あの世界の治安の全てを背負って、レッドプレイヤーを殺していた。それで気付けばレッドも真っ青(ブルー)になるほどの数のプレイヤーを殺してたってわけだ。最後のほうは俺も奴らと同じような評判だったよ」

 

 織り交ぜたジョークも、全く笑えないほど、ラッシュの話は重かった

 

「どうしてそんな話、私に聞かせてくれたんですか?」

 

「デスガンは、俺があの世界で殺し損ねて、生き残ったレッドプレイヤーだ。何も知らないまま戦わせるのは、卑怯だと思ったからだ。それに、戦闘中にデスガンがポロッと今の内容を言ったら、何も知らなかったら間違いなく動揺するだろ。下手すりゃその隙に撃たれて・・・死ぬぞ」

 

「だからって・・・」

 

「そんな危険な状態になる可能性は潰しておかなきゃならん。例え、俺という人間の見方が180度変わろうとな」

 

「っ!」

 

「オウフッ!」

 

 ラッシュの言葉を聞き、レンはカッとなった。P90を置いて、素手でラッシュの腹を思いっきり殴った。STR値の低いレンのパンチは、ダメージは全くなかったが、ラッシュは咳き込み、膝を付いた

 

「バカにしないでください!私が、私たちが、そんなことでラッシュさんから離れていくと思ってるんですか?!」

 

「そんなことって、結構でかいことだと思うが・・・」

 

「ついこの前、私はシノンと偶然リアルで出会いました。今日、ログインする前、彼女の過去の話を聞きました。子どもの頃、強盗事件に巻き込まれて、正当防衛で人を撃ち殺したって。それから、銃に強いトラウマができて、PTSDになってるって・・・それを克服するために、GGOで戦ってるって」

 

「人の過去を勝手に語るのは、どうかと」

 

 思うんだが・・・っと続けようと思った言葉、しかしレンがラッシュを抱き締めたことで、遮られた

 

「シノンも、リアルで同じことを言ってました。自分の過去の話を聞いて、その上でこれからの付き合い方を考えてほしいって。だから、ラッシュさんにも同じことをして答えてます。変わりません、何も・・・私はシノンも、ラッシュさんも、仲間だと思ってます」

 

「ハハハ・・・なんていうか、小さいはずのレンが、すごく大きく感じるな」

 

 ラッシュはレンの背中をポンポンと叩いてから離れ、立ち上がる

 

「でもな、ぶっちゃけ俺は、そこまで気にしてないんだよ。殺しすぎて罪の意識も逆に薄れたっていうか・・・」

 

「でも、マーケットでキリトさんと剣の話で、暗い雰囲気になってましたよね?確か、『もう人は斬らない』って・・・」

 

「ALOって剣と魔法のファンタジーVRMMOに、SAO生還者の多くは接続している。俺もSAOで使ってたアカがそこにある。でも5月に1回だけしか使ってない。俺がいると周りが楽しめないんじゃないかってな・・・それでGGOで剣を使ってたら、未練があるように見えて、カッコ悪いんじゃないかって・・・」

 

 カッコ悪いことはしない・・・それがラッシュの言動のポリシーだった

 戦闘はスマートにカッコよく。会話もジョークに富んでてユニーク。身形も機能性とファッション性を両立してビシッとキマッてる。レアドロで大金を得て、RMTで多額のリアルマネーをゲットして、左団扇で高笑いの夢追いロールプレイ

 

「ラッシュさん自身はどうなんですか?ALOで、元のアカウントで、VRMMOをしたいんですか?」

 

「よくわからん。今使ってるこのアカも、愛着はあるし・・・でも、使わないくせにあっちのアカの利用料も毎月払ってる・・・失いたくはないのは確かだ」

 

 SAOからALOに引き継いだアカウントは、外見とステータス、スキルがそのまま引き継がれる。しかし、ストレージのアイテムや装備、通貨は消滅する。ラッシュのSAOアカウントは外見とステータス、スキル以外は現在も初期状態のままであった

 

「私のリアルはただの大学生で、精神科医でも心理学者でもありません。だから、それについて何か言える訳じゃありません。元々私も、現実から逃げた弱い人間ですから。ちなみに最初に接続したのはALOで、そこから気に入るアバターに引き当てるまで、コンバートを繰り返してGGOにやってきました」

 

「そりゃまた、強くなったもんで・・・おじさんはうれしいよ」

 

「おじさんって、言うほどラッシュさん、年上じゃないですよね?なんとなく話してて思うんですけど」

 

「さぁね。おっと、そろそろスキャンの時間だ」

 

 

「ラッシュとレンが一緒にいるわ。私たちと同じように組んで動いてるようね」

 

 キリトとシノンは廃都市地帯に入り、サテライトスキャンの結果を見ていた。廃都市地帯にいるプレイヤーを虱潰しに当たる

 

「いた。銃士X!スタジアムの中!」

 

「可能性は低いけど、潰すに越したことは無いわ」

 

 事前に決めていた作戦通り、見つけたデスガン容疑者に迫る2人

 

「ラッシュたちはどうするんだろうな?」

 

「気にする必要はないわ。スキャンの結果と本戦前の情報から、こっちの行動を読んで、上手く合わせてくれるはずよ」

 

「そっか。よくわかってるんだな」

 

「当然よ。戦友なんだから」

 

 やがて、前衛として突撃するキリトと、後衛として支援射撃を行うシノンは、分かれてそれぞれの場所へ向かう

 

 ―スタジアムの客席を越えての狙撃なら、この辺りのビルの上層に・・・

 

 狙撃場所を探して上に注目していたシノン。そんなシノンに近距離で、サイレンサー付きの銃の発射音がした

 

「え・・・?」

 

 ペイルライダーのように、電磁スタン弾で動けなくなるシノン。そのすぐ隣の空間が歪むように乱れ、デスガンの姿が現れた

 

 ―メタマテリアル光歪曲迷彩?!よりにもよってこんなヤツの手に?!

 

 誰もいないはずの空間から突然現れた理由、サテライトスキャンに映らない理由を一瞬で理解したシノン

 

 ―でも、油断したわね・・・まだ手くらいは動くのよ

 

 シノンは麻痺状態の中、サブのグロック18に少しずつ手を動かして伸ばしていく。デスガンはペイルライダーを殺すときに使用したハンドガンを出した

 

 ―なっ・・・

 

 そのハンドガンは、シノンのリアル、詩乃が強盗犯を撃ち殺すのに使用した銃、五四式黒星だった。トラウマが蘇り、撃ち殺した強盗犯の顔が、シノンの目の前に幻覚として現れる

 

 ―・・・

 

『警告!心拍異常』

 

 詩乃のアミュスフィアが、心拍の急上昇を検知し、シノンに警告音とともに警告が表示される。しかし、今のシノンには警告の表示は幻覚によって塗り替えられ、警告音がより恐怖を煽る

 

 ―・・・

 

 デスガンが何かを呟き、ハンドガンをシノンに向ける。今のシノンには、そのデスガンの仮面が、撃ち殺した直後の血まみれの強盗犯だった

 

 その瞬間、シノンの、否、詩乃の中で何かが弾けた

 

「ふっざけてんじゃないわよ!!!!!」

 

 怒声とともに思いっきり手を動かし、グロッグ18を掴む。麻痺状態が消し飛び、抜くと同時に立ち上がって、デスガンに、否、強盗犯に銃弾を撃ち込む

 

「っ!」

 

 シノンの反撃に、デスガンはギリギリのところで回避する 

 

 ―お前が私の前に出てくるなら、何度だって撃ち殺してやる!殺してやる!!

 

「殺してやる!!!」

 

 引き金を引きっぱなしのフルオート射撃のグロック18で、デスガンを追従して9ミリ弾をバラ撒く

 

「ハァ、ハァ・・・」

 

 しかし、それも長くは続かなかった。グロック18の33発入りマガジンを撃ち切ったのだ。唯一の近接戦闘用の武器を失い。シノンには反撃手段が無くなった

 だが、シノンは諦めておらず、デスガンに獰猛に笑って見せた

 

「魂に響くいいシャウトだったぜ、シノン」

 

「レンとのデートは楽しかったかしら?」

 

「あぁ、途中で抜けて、レンの機嫌も急降下だ。今頃暴れまわってて手が付けられんだろうな・・・ま、あとは任せな。こっから先は本職(・・)の出番だ」




 本戦開始。ラッシュが関わるまでは似たような展開

 橋の場面
 ダインのスコードロンには参加していないので、シノンの彼への印象はあんな感じ
 背後を取ったキリトへのシノンの言葉での揺さぶりからの反撃。DEAD表示はたぶん近くにいないと障害物を避けて表示されないかも。だから茂みから距離のある橋にいる2人には恐らく見えないかも。シノンは命かけて戦ってる覚悟を持ってるので背後取られようが本気で抵抗する。当たり前。原作と違い、殺すかどうかの選択権はシノンが持つことに・・・

 デスガンへのシノンからの狙撃
 時間最優先で撃たなければならない場合は、やはりシステムアシストを使う。アニメでもMはライン有り、ライン無しを使い分けてるし
 システム外スキルの殺気はキリトの専売特許じゃないだろうし、デスガンも察知可能。ただ、カメラに向かってキメポーズと御託を抜かしてる余裕はなくなった

 ラッシュのSAOでの行い
 キチガイになって本能の赴くまま殺すPKとは違い、理性を保ったままプレイヤーを殺していくのがPKK。どっちが精神的に辛いかは明らか
 ラッシュの言う『最後のほう』はラフコフ討伐戦の以降。攻略組がラフコフと戦って、PKと対峙する怖さ、捕まえる難しさ、そしてプレイヤーを殺す重さを知って、それが平然とできるラッシュのことを畏怖の目で見るようになった。キリトはその後のクラディールの一件でラッシュを見る目が変わる感じ。他のプレイヤーも頭では治安維持のためにやってくれてたってわかってはいるが、心が納得しない感じ

 ラッシュの過去に対するレンの答え
 詩乃のことも支えると決めたし、今更1人増えても変わらないんじゃー!!みたいな?
 レンちゃんは天使になったんや・・・

 ラッシュのロールについて
 あくまでラッシュ本人がそう思ってやってることです(ココ重要)

 シノン対デスガン
 シノンの内面の変化はあれです。人は他人から大切に思われていることを知ると強くなる、的なあれです。こちらの詩乃は原作よりも現実が辛く感じ、そんな中で香蓮との出会いで光を見出した。しかしそれを壊すかのように現れたデスガン、トラウマの元凶である五四式黒星を持っていたことで、感情の爆発が起こって暴走状態に
 麻痺を消し飛ばしたのは、キリト対ヒースクリフ戦のアスナに近い状態だったか、+3されたLUK値が運よく状態異常緩和で働いたのかのどっちか

 最後にいい感じに登場するラッシュ。おいしいところは持ってく主義


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6話

「その赤い目、お前ザザだろ?なんだ?気付いてほしくて、そんな目にしてんのか?かまってちゃんかよ」

 

「っ!」

 

 ラッシュの登場に、デスガンは分が悪いと煽り文句を無視して撤退を決め込む

 

「逃がすかよ!」

 

 メタマテリアル光歪曲迷彩で姿が薄れていくデスガンに、ラッシュはスパス15で散弾を撃ち込む。かつての戦争のときに使用した6粒弾より数の多い9粒弾がデスガンを襲い、透明化がキャンセルされる

 

「シノン、ヘカート持って一旦引け!キリトと合流しろ!」

 

「私も戦うわ!・・・え?」

 

 シノンがそう言って見上げたラッシュの顔、そこには顔面全体を覆うガスマスクが着いていた

 

「巻き込まれっぞ!」

 

「ヒッ?!なんてこと考えてんのよバカァ!!」

 

 それを見た瞬間、シノンは嫌でもラッシュの次の手を理解し、飛ぶように逃げていく

 

「そのマスクの性能試験だ!!いくぞコラァ!!」

 

 M320グレネードランチャーから、特殊な弾を発射する。デスガンの近くに着弾すると、それは大量のガスを撒き散らした

 

「ハッハァ!!1回でもまともに吸い込めば、毒、麻痺、発声不可、嗅覚喪失の特殊催涙ガスだ!ついでに目も開けてたらやられるぞ!」

 

 傍目にはどっちが悪役かわからない有様だった・・・

 

 

 一方、ラッシュと分かれたレン。ラッシュたちのデスガン退治が次の段階に入ったことを受け、レンはこの本戦自体を終わらせるために戦っていた。廃都市地帯から東の草原地帯に、そこから北西にある砂漠地帯に向かって進路を取って、見つけた敵を片っ端から殺していく

 

 ―ラッシュさんたちの戦いで、直接私にできることはない・・・こうして本戦を1秒でも早く終わらせるために動くことだけ・・・それに

 

「っ!」

 

 レンは飛んできた銃弾を避け、その銃弾を撃ったプレイヤーと対峙した。レンがこの進路を取っていたのは、このプレイヤーとの対戦が目的と言ってよかった

 

「さっきのスキャンでは、LUK型と行動していたようだが、分かれたか・・・」

 

「闇風さん・・・」

 

 ―私には私の、借りを返さなければならない人がいる

 

「昨日の決勝とは、まるで別人の空気。入れ替わりでもしたか・・・」

 

「いいえ、同じです」

 

「あぁ、すまない。侮辱するつもりはなかった。それにリアルを持ち込むのはご法度だった」

 

 強者として、また一プレイヤーとして礼節を弁えている闇風は、自身の発言を謝罪した。それはレンを強者と認めているからこそ、妙な遺恨を作りたくないということでもあった

 

「昨日の今日で、何が変わったが、見させてもらう!」

 

「いきます!!」

 

 2人のAGI型が一気にトップスピードまで加速する。しかし、どちらも射撃は極力せず、バレットラインでの牽制とフェイントを繰り返す

 

 ―どうする?!昨日と同じ追いかけっこじゃ、勝てない!!私に有利な場所はどこにある?!

 

 草原地帯と砂漠地帯の境界の緩衝地帯で始まった戦闘。前日の決勝と同じ展開にレンは打開策を模索する

 

 ―砂漠・・・砂漠?!

 

 ふと視界に入った砂漠地帯に、レンの記憶が蘇る。ラッシュと初めて出会った、あのときのことを・・・

 

 ―そうだ、追いかけっこである必要は・・・無い

 

「っ!」

 

 レンの動きが変わり、闇風を追うことをやめ、砂漠地帯に向かい始める。闇風との距離が一度大きく開く

 

 ―追って来い・・・来ないの?!

 

「得意なのは逃げることだけ?!」

 

「っ?!」

 

 レンの挑発の言葉に、闇風は動いた。砂漠地帯に戦闘場所を移したいという思惑もわかった上で、その挑発に乗ったのだ

 

「っ!」

 

 そして、すぐに闇風はレンの行動の理由を理解し、表情を変えた。砂漠の砂に、闇風の足が取られるのだ。闇風の大きな体、それに相応する重い体が、足を砂に深く沈ませる。そして高すぎるAGI値による地面を蹴る足の力が、砂に吸収される。それでも並のAGI型より速く動く闇風・・・しかし、小さな体に相応の軽い体重が、AGIだけでなくDEXも上げていて柔らかいタッチで地面を蹴れるレンが、闇風の速度に匹敵するスピードに達する

 

「今度は私が逃げる番!ついて来れる?!」

 

 軽く挑発して、闇風から距離を取る。やはり何か作戦があることをわかった上で、闇風はそれに乗る。その理由は、対人戦最強のプライドか、はたまた敵の成長がどれほどか知りたい好奇心からだろうか・・・

 

 ―風がないから、仕方が無い。コレで・・・

 

 逃げながら、レンはハンドグレネードのスイッチを入れる。ポンッと前に投げ置き、それを思いっきり踏みつける。砂漠の砂の中にハンドグレネードが埋まった

 

「っ!」

 

 闇風が通る少し前に爆発したハンドグレネード。闇風は回避のため足を止めた

 

「焦ったな、起爆タイミングが早過ぎだ」

 

 爆発で舞い上がった砂の中で、闇風はレンの作戦の失敗だと認識した。だが、もちろんレンの作戦はこれで終わったわけではない

 

「そっちこそ、私の攻撃が終わったと判断するなんて、焦ってるんじゃないですか?」

 

「っ!」

 

 すぐ近くから聞こえたレンの声に、闇風はドッと冷や汗が出た

 

「私のこの服の色、なんて言うか知ってますか?デザートピンクって言うんですよ」

 

「くっ!」

 

 舞い上がった砂漠の砂に紛れ、接近戦に持ち込んだレン。片手にビームナイフを持ち、闇風に襲い掛かる。足場の不利、視界の不利、武装の不利と追い詰められた闇風は、危機打開の一手として、決勝のときと同じくプラズマグレネードを持ち出す。もしものときはお土産グレネードで道連れにするつもりでもあった

 

 だがしかし・・・

 

 ―ごめんなさい、ラッシュさん・・・ナイフ、返せそうにありません

 

「グオッ?!」

 

 ビームナイフでプラズマグレネードを突き刺し、貫通した刃をそのまま闇風の体に突き刺した。ビームナイフを手放し、レンはAGI全開で離脱する

 

「ありがとうございました。真っ正面から戦ってくれたから、私はあなたに勝てました」

 

 爆発して死亡した闇風に、レンはサッと一礼してから、風のようにその場を去っていった

 

 

「まったくアイツは、なんてモン用意してんのよ?!」

 

 デスガンとラッシュの戦闘地点から離脱したシノンは、銃士Xを倒したキリトと合流して盛大に愚痴った

 

「SAO時代からアイツは容赦って言葉を現実に置いてきたような戦い方だったからなぁ・・・レッドプレイヤーを殺すのも、躊躇無かったし・・・」

 

「っで?アイツからはなんて指示されたの?」

 

「他のプレイヤーが来ないように排除しろってさ。アイツのことだから、すぐに終わるだろう。これで一応もう被害者は出ないはずだ」

 

「っていうか、殺害方法の特定もするんじゃなかったの?」

 

「うっ・・・」

 

 まだ解明できてない謎に、キリトは言葉を詰まらせた

 

「そういえば橋のとき、俺たちを認識してたなら、そのまま撃てば俺たちって死んでたかもしれないよな?なんで見逃したんだ?」

 

「そういえば・・・今さっき私を狙ったのなら、あのとき狙っても同じだったはず・・・」

 

「なにか、違うことがある?橋のときと、今さっきの状態で・・・マップ上での場所、付近にいたプレイヤー、あとは・・・中継カメラは、どっちも無かったよな?」

 

「なら時間、とか?」

 

「あのとき、あの場所で殺せたのは、君じゃなくペイルライダーだった・・・なぜ?」

 

 議論を交わす2人に嫌な可能性が1つ浮かんでくる

 

「このGGOの中でのことじゃなく、現実世界のことが関係してる。例えば、デスガンのアバターを動かしてるヤツの他に共犯者がいて、あのときはペイルライダーを動かしてた現実の人間のすぐ傍にいた。だから君はスルーしたんだ」

 

「待って、どうやって住所を・・・って、BoBのエントリー記入欄に住所を入れるところがあったわね。アイツの光学迷彩と、望遠鏡でも使えば、覗き見は可能かもしれないわ・・・」

 

「おい待った。なら今、現実の君の部屋の中に、デスガンの共犯者がいるんじゃないか?」

 

 どこまでも落ち着いているシノンに、キリトが指摘した

 

「それは無いわ。私は今、エントリー記入欄に記入した住所とは違う場所からログインしてる。とある高級マンションの高層階の一室で、玄関のドアは最新式の電子錠とシリンダー錠。1階入り口はオートロックで警備員室と管理人室があって、24時間人が常駐してる。ホールにエレベーター、廊下などの共有部は防犯カメラがあってセキュリティは万全よ。侵入は無理ね」

 

「すごいところにいるんだな・・・実家か?」

 

「いいえ、友達の家よ・・・とても大切な親友のね」

 

「そうか・・・じゃあ今頃ヤツの共犯者は、誰もいない君の自宅に・・・」

 

「そういうことね。空き巣にでも入られたと思うしかないわね。命の危険に比べたらマシ・・・でも、あーもう、ホント最悪!」

 

 シノンは心底嫌そうな表情で声を上げた

 

 

「さて、ザザよ。俺はお前をここでぶち殺してもいいし、このまま放って置いてもいい。なぜなら、どっちにしろ結果は変わらんからな。俺はお前と違って、ここで現実のお前を殺せるわけじゃない」

 

「・・・」

 

 時間経過でガスが消滅し、ガスマスクを着ける必要の無くなったラッシュはマスクを外す。そしてガスを吸い込んで状態異常を全て喰らい、麻痺で倒れているデスガンに話しかけた。だがデスガンは発声不可で声を出すことができず、何も言葉を返すことはない。さらに毒でHPが毎秒減っていっている

 

「その銃、スナイパーか・・・VIT初期値ならフルヘルスでも持って3分・・・このままお前が死ぬのを眺めるのも一興か」

 

「・・・」

 

 スパス15とM320グレネードランチャーをストラップで肩から提げて手を放すラッシュ。戦う構えを解き、空いた手をポケットに突っ込み、棒立ち同然にただ立っているだけのラッシュが1人、言葉を発していた

 

「不様だな。かつてアインクラッドを恐怖に陥れたラフコフの幹部が、麻痺で野晒し、毒で野たれ死にとは。昔のほうが強かったんじゃねーか?」

 

 ラッシュは、デスガンを見下ろしながら、ストレージから出したタバコ・・・に見える駄菓子を1本、口にくわえる

 

「ま、安心しろや。この不様な姿晒してる中継を見てる奴らの反応を、お前が知ることはないんだからよ。お仲間と、仲良く豚箱ん中だ。よかったな」

 

 デスガンの近くにしゃがみ、嘲笑を浮かべるラッシュ。デスガンの唯一の救いは、目もやられていて、その姿を目に収めることはないことだろう

 

 何も知らず中継を見ている多くの人は、デスガンであるプレイヤー、Sterbenに哀れみの情を抱いていた

 そしてそんな中、デスガンは死亡した

 

 

「っで?あの後どうなったの?」

 

「ガスで状態異常フルコンボだったから、ほっといて毒で殺した」

 

「エッグイやり方するなぁ・・・」

 

 デスガンを見取ったラッシュはシノンとキリトに合流する

 

「さて、これからどうするかね?ヤツが死んでも、BoBはまだ終わらんわけだし」

 

「とりあえず、もうすぐサテライトスキャンの時間だし、結果を見ないことには動きようがないわね」

 

「それもそうか・・・ま、レンの頑張り次第では、俺らまとめてドーンで優勝を謙譲するのも悪くない」

 

 っと言いながら、3人はサテライトスキャンの結果を眺める

 

「おいおい、結構すごいことになってんぞ?」

 

「闇風が死んでるわ。まさかレンがやったの?」

 

「残ってるのは、ここにいる俺たち3人とレン、あとは2人・・・あ!」

 

 スキャン結果の表示中に、2つの点の色が変わった

 

「グレネードを投げ合ったのね・・・」

 

「最多キル賞は、レンか、南の岩山に篭ったリッチーだろうな」

 

 西部の草原から北部の砂漠にかけてと、南部の岩山の辺りに脱落者を表す白い点が集中している

 

「そんじゃ、頑張ってくれたレンにお礼とご褒美ってことで、まとめてドーンしますかね。誰かハンドグレネード出して」

 

「私持って無いわよ?」

 

「俺も無いな」

 

「無いのかよ!って、俺もグレラン持ってるからハンドグレネードは無いんだが・・・」

 

「ダメじゃん」

 

 まるでコントのようなやり取りに、場の空気が白ける

 

「グレラン真上に撃って落下させるか」

 

「そうね・・・」

 

「早く終わらせよう。リアルに戻ったら、やることがたくさんあるからな」

 

 投げやりになりながらグレネードランチャーに榴弾を込め、真上に発射するラッシュ。スポンッと撃ち上がる弾を、顔を上げて追うキリトとシノン・・・そんな2人のすぐ近くで、金属が鳴る音が

 

「え?」

 

 間抜けな声を最期に、下から頭を撃ち抜かれたキリト。ラッシュがデザートイーグルを抜き、キリトを撃ち殺したのだ

 

「っと?!」

 

「そんなことだろうと思ったわ!」

 

 死亡し倒れるキリトに、ラッシュは次の標的であるシノンを撃とうとすると、シノンは既にヘカートⅡを腰の高さに構えてラッシュに向けていた。即座に発射された12.7ミリを、ラッシュはシノンの指の動きで読み、紙一重で回避する。2人がその場から退避し、残ったキリトの死体に榴弾が落下した

 

「あなたが勝利を譲るとか、そんな殊勝な思考をするなんて思えないもの」

 

「ヒドイなぁ・・・俺だって傷つくんだぜ?ま、どうせ始めた悪役ロールだ。最後まで通さんとな。それに譲ってもらった勝利で、レンが喜ぶとも思えんしな」

 

「それについては同意ね。たぶん今頃、ここに乗り込んで漁夫の利を狙おうとか考えてるはずよ」

 

「あぁ、アイツは初めて会ったときからエグイ性格してた。逃げ場のない走行中のトラックの荷台に、グレネード投げ込むようなヤツだからな」

 

 本人がいないことをいいことに、散々に言い合う2人である

 

「あの子を迎えるのは、親友の私1人でいいと思うのだけど?」

 

「どうかな?ここは同性より異性が出迎えたほうが絵になると思わね?」

 

「ロリコン」

 

「あ゛?」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべながらも、目が笑っていない2人

 

「やるか?この距離でスナイパーに勝ち目があると思ってるのか?」

 

「あなたこそいいの?LUK型の殺し方が公開されてしまうのだけれど?」

 

 一触即発の空気の中、2人が銃を構えなおす。2人の銃から伸びるバレットラインが、お互いを射抜いた

 

「・・・殺す前に聞いていいかしら?」

 

「なんだ?」

 

「あなたはどうやって・・・その・・・」

 

「俺を参考にするな。俺は俺で、お前はお前だ」

 

 質問の内容を察したラッシュが、淡々と返した

 

「ただ、俺に言わせれば、1人だけで済んで、そのことを悩む暇がある。そんなお前が羨ましいよ。俺だって最初の1人2人は罪悪感もあったさ。だけど悩む暇なんてなかった。それで、気付けばそんなもの麻痺してわからなくなってた」

 

「っ!」

 

 動揺するシノンに、ラッシュは銃を構えたまま歩み寄る。やがて、ヘカートⅡの銃口のすぐ前でラッシュは止まった

 

「まぁ、お前にはもう、乗り越え方なんて必要ないだろ?1人じゃないんだからよ」

 

「そうね」

 

 次の瞬間、ラッシュのデザートイーグルからのバレットラインが消えた。それを合図にシノンが引き金を引く。ヘカートⅡから発射された12.7ミリの弾が、ラッシュの体を上下に二分した

 

「レンによろしくな」

 

「えぇ」

 

 第3回BoBの優勝者はレンだった

 シノンはサテライトスキャンの結果からレンの接近経路を読み、最後の勝負で狙撃を試みたが、当てが外れ、レンの接近を許してしまい、一方的に撃たれて終わった

 

 そして、もう一つの戦いも、一方的に決着が付いた

 デスガンのアバターを操作していたザザこと新川昌一は自宅で、共犯者で弟の恭二は詩乃の自宅アパートの部屋に不法侵入していたところを、もう1人の共犯者である金本敦は都内某所にて、それぞれ逮捕された




 ラッシュ対デスガン
 デスガンの正体即行看破。やりあった数が違うし・・・他にも後の話で理由が出てきます
 戦闘?そんな気サラサラありません。別に卑怯とも思ってない。あの手の状態異常攻撃をしてくる敵MOBなんて、どんなゲームにも必ず1種類はいる。対策を怠ったヤツが悪いってことで。催涙ガスの効果はFF風に言うなら、毒、麻痺、沈黙、暗闇。それとVR特有で嗅覚喪失

 レン対闇風 第2戦
 レンの進路の説明のところ、実はBoBの本戦のマップで、ストーリーに出てこない場所はイマイチ覚えていないので、廃都市の東が草原地帯だったかも覚えていなかったり・・・違ってもそれはそれってことで
 闇風さんは常識人。そのイメージの元はGGOを特集したネット番組でのゲスト出演時の言動から。比較対象がゼクシードだから当てにはならない
 決戦の地は砂漠地帯に。原作ファントムバレット編の決着の地とレンのPK初体験の場所が砂漠とは偶然って怖いね・・・
 砂漠地帯はレンが有利。DEXに振ることによって上がる器用さは、力加減のコントロールでも適用されるってことで。群馬の走り屋兄弟の言葉を借りるなら『アクセルの開度を5段階から10段階に増やす』みたいな感じでしょう。当然AGI特化の闇風はDEX不足でマネできません
 決着。レンの勝利。しかしラッシュから貰った大事なビームナイフを失うという、無傷の勝利とはいかない結果に。あくまで闇風が挑戦を受ける側の者として、正面からレンを叩き潰しに行ったからレンの作戦は成功して勝てた。単にレンが闇風より強くなったわけじゃない

 合流したキリトとシノン
 ここでデスガンが死亡するってことは、ギャレットは生き残るってことになった。後に出てくるとかは無い。ペイルライダー、かっこいいのに・・・残念
 殺害方法の特定。ここでやらないでいつやるの?原作ではこの辺りはまだ本戦中盤だけど、こっちはもう終盤だったり。香蓮のマンションは鉄壁のセキュリティ。箱入り娘を1人暮らしさせるんだから、親としては当然だよね

 デスガンの最期
 マスクは見た目だけだった模様。『プークスクス、ねぇ、どんな気持ち?殺してほしい?楽になりたい?残念、弾が無駄だからやんないよーだ。そのまま毒で野たれ死ねよ。俺それ見ながらお菓子食ってるから』ホントどっちが悪役かわかんねぇな。煽っても煽っても感情でシステムぶち破れなかった模様
 周囲から哀れみの情を向けられながら死んでいくのは、レッドプレイヤーとしては屈辱じゃないかな、っと。そんな死を与える元PKKのラッシュ
 
 3人集ってのアレコレ
 本心から早く終わりたいと思ってるのはキリトだけ。ラッシュとシノンはまだ優勝も狙ってる感じ
 他参加者はスキャン結果を見て『うわ、ブラックアローのヤツらが廃都市に集ってる。チーミングか?廃都市は避けよう』っと廃都市を避け、南のリッチーも避けた結果北の砂漠エリアに集っていくという結果に。結果全てレンがおいしくいただきました
 騙まし討ち、被害者はキリト。殺された挙句、死体にグレネードまで落ちてくる。SJでは死体は破壊不能オブジェクトだけど、さてBoBでは?
 流れでラッシュ対シノン。ただ、口撃がメインなので、声が聞こえない観客は『なにやってんのコイツら?』っと思ってる

 事件の決着
 予選日の態度で、弟のストーカー度上昇。恐らく詩乃が自宅でログインしてたら、GGO内のデスガンの行動と関係なく殺してた可能性も
 金本敦については次話で説明

 ってあれ?BoBでラッシュが真面目に戦ってた描写って、予選のピト戦だけ?むしろシノンやレンのほうが多かったり?

 次回、ラッシュの正体
 なお、ガッカリ不可避な内容も含まれてます


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7話

この話から本格的に好き勝手な展開に走っていきます

恐らくこれまでの評価が覆って、『どうしてこうなった・・・』っとなるはず


 BoB本戦から3日後

 

「朝田さんさぁ、最近ちょーっと調子乗ってんじゃないの?」

 

 放課後の校舎裏、詩乃は以前と同じ不良女子高生に絡まれていた

 

「今日は、アンタ躾けるのにいいもの持ってきたのよ」

 

 不良女子高生の1人が、カバンからモデルガンを取り出し、詩乃に向けた

 

「ホラ、怖がれよ!」

 

「・・・」

 

 モデルガンを向けられても、動かない詩乃。今、彼女は頭の中で、幻覚の強盗犯を撃ち殺していた

 

「なに?ビビッて動けもしないの?ならもっと怖が・・・ん?」

 

 モデルガンの引き金を引こうとする不良女子高生。しかしモデルガンでも安全装置があり、それが掛かっていることに気が付いておらず、引き金はロックされていて引くことはできない

 

「ハァー・・・貸しなさい」

 

「あ・・・」

 

 詩乃は、露骨に面倒臭そうにため息を吐くと、モデルガンを奪い、安全装置を解除した

 

「全く、どこかの剣士ロールじゃあるまいし、銃には安全装置があることくらい常識でしょうに・・・ガバメントねぇ。でもプラスチック製の安物もいいところ」

 

 詩乃は辺りを見回し、ちょうどよく置いてある空き缶に向けてモデルガンを撃った。アイアンサイトすら使わず、適当に構えて狙ったにもかかわらず、プラスチックの遊戯弾は空き缶に命中する

 

「あら、安物でも精度はそこそこあるのね。でもブローバックもしない単発なのね」

 

 2発目を撃とうとして引き金を引いたがカチンッと音が鳴るだけだった。スライドを引いてコッキングを行った詩乃は、モデルガンを不良女子高生たちに向ける

 

「ヒッ?!」

 

「今まで貸した(・・・)お金、全部返しなさい」

 

「そ、そんなの持ってるわけ」

 

「そう」

 

 詩乃の要求を拒否した不良女子高生。モデルガンを突きつけられても、無いものは無いと必死に言い返す。詩乃も要求が通るとは思っていなかったようで、短く言葉を返し、持っていたモデルガンを・・・

 

「あ、ちょっ、ま・・・」

 

 思いっ切り校舎の壁に投げ付けた。壁に叩き付けられたモデルガンは、本物の銃に使用されるような強化プラスチックですらなく、遥かに強度が劣る普通のプラスチックフレームだったため、衝撃でバラバラになってしまった

 

「もう返さなくていいよ。金額的には全く足りないけど、これでチャラにしてあげるから」

 

 モデルガンを壊され、ショックを受ける不良女子高生たち。そんな彼女たちを余所に、詩乃は校舎裏を後にする

 

 

「いーけないんだ、いけないんだ、人のもの壊しちゃいけないんだ」

 

「誰?」

 

 校舎裏から1つ角を曲がったところで、詩乃はスーツ姿の男に声を掛けられる。詩乃は一瞬、学校に侵入した不審者かと思ったが、首から提げられている来客者パスに、その可能性を否定した

 

「わからない?寂しいねぇ・・・冥界の女神さんよ」

 

「っ!・・・まさか、ラッシュ?!」

 

「正解」

 

 詩乃は相手の口調と、GGOでの自身の二つ名を知っていることから、相手がラッシュの中の人だと看破した

 

「え?待って・・・外国人なの?」

 

「それについては、後で香蓮にも一緒に説明するから、そのときで」

 

 日本人の容姿ではないラッシュの中の人に、詩乃は驚く

 

「香蓮さんもいるの?」

 

「あぁ、表の車で待たせてる」

 

「え?」

 

 そう言って詩乃を高校の敷地から連れ出す。もちろん来客者パスを事務室に返すのも忘れていない

 

「え?」

 

 車を見て詩乃がさらに驚く。政府要人が使うような黒塗りの高級セダン。しかし、白ナンバーであることから、ハイヤー配車業者から借りたものでもないことは明らかで・・・

 

「いったい、なんなの・・・?」

 

「それを説明する場所に、これから行くんだよ」

 

「は?」

 

 意味が分からず呆ける詩乃を、車の後部座席に乗せるラッシュの中の人。その後部座席には、既に1人の女性が座っている

 

「香蓮さん?」

 

「アハハ・・・」

 

 車の中にいたその女性、香蓮は詩乃の呼びかけに乾いた笑いを返した。助手席にはラッシュの中の人と同じ印象のスーツ姿の女性が座っていた。ともあれ役者は揃い、運転席にラッシュの中の人が乗り込み、車は発進した

 

「さて、目的地に着くまでに、軽く予習の時間といこう。聞きたいことがあればどうぞ。できれば事件のことでな」

 

「その前に、なんて呼べばいいの・・・ですか?」

 

「あぁ、ラッシュで構わんさ。本名は別にあるけど、ニックネーム的な感じで呼んでくれていい。敬語もいらないさ。ぶっちゃけ俺、下っ端なんだよ」

 

「は、はぁ・・・」

 

 GGOのラッシュからジョークを抜いたような話し方の現実のラッシュに、詩乃と香蓮はやや戸惑いを見せる

 

「フフフ、GGOの姿に負けないくらいに、2人とも可愛いわね」

 

「え、ジェーンさん?」

 

「せいか~い」

 

 助手席からの声に、詩乃がもう何度目かの驚きを見せる。ラッシュと同じ印象ではあったが、年齢がどう見ても還暦間近には見えない若々しい姿をしているのだ

 

「さあ、質問していいわよ」

 

「あ、えと、なら、具体的にあのあとで、何がどうなったのか・・・?ログアウトしたら、急に警察からスマホに電話が掛かってきて、『あなたの部屋に不審者が侵入し、逮捕されました』って」

 

 BoB本戦後、ログアウトした詩乃は、同じくログアウトした香蓮に状況を説明し、自宅アパートへ向かおうとした。しかし、そこでいきなり警察からの連絡。事情聴取や現場検証の付き添いのために、詩乃は香蓮と一緒に自宅アパートに向かうことになる

 そこで逮捕された、詩乃の友人の1人だった新川恭二。不正アクセスによる電子錠の開錠具を使用し、詩乃の部屋に侵入していたところを現行犯逮捕。本来なら病院から持ち出せない筋弛緩剤と、それを打つための高圧注射器を所持していたこと、逮捕時の言動から詩乃の殺害を計画していたようで、現在警察は裏付け捜査中とのこと・・・

 

「簡単に言うと、デスガンをガスで放置死させてる間に、中継カメラにサインを送ったんだ。それを見た俺がいる組織の仲間が動いた」

 

「動いたって?」

 

「あー、それについて、君たちに謝らなければならないことがある・・・俺のいる組織は、高度なハッキング技術を用いて、デスガンの容疑者と思われるプレイヤー、並びに被害者のプレイヤーの個人情報を盗み見た。さらに、デスガンだと確定したSterbenのプレイヤーのログイン場所、あのとき狙われた詩乃のログイン場所の逆探知に、香蓮のマンションの防犯カメラ映像も・・・本当に申し訳ない」

 

「ごめんなさいね」

 

 ラッシュとジェーンが2人に謝罪をした。赤信号で車が止まっていたので、しっかりと頭も下げて・・・

 

「今日、こうして俺らが君たちの前に現れることができたのは、それで得た個人情報を使ったからだ」

 

「組織って、いったいなんなんですか?外資系の企業とかですか?」

 

「・・・それについては、キリトと、キリトの雇い主の説明が終わってからするよ。おっと、組織のこととハッキングの件は警察やこれから会う人たちには内緒な」

 

 

 銀座の高級スイーツレストラン、その個室で、キリトこと桐ヶ谷和人と、彼をデスガン調査に雇った菊岡誠二郎から、デスガン事件の全てが語られた。説明の過程で、詩乃の友人の新川恭二の犯行動機も語られたが、それに対し詩乃は『そうですか』の一言しか発しなかった。BoBの予選日の諦めた態度で、詩乃は彼を見限っていたのだ

 

「さて、次の説明の場所へ移動だ」

 

 菊岡からの説明が終わり、レストランを出たラッシュたちにキリトを加えた一行。菊岡は先に仕事に戻っていき、残された5人である

 

「俺はエギルの店にでも行くか・・・」

 

「あぁそうだキリト、いや桐ヶ谷和人」

 

「なんだよ、いきなりフルネームで・・・」

 

 ラッシュたち4人から1人分かれて去ろうとするキリトを、ラッシュが呼び止める

 

「この国を外から見た人としての、お節介な助言だが・・・あの男と手を切れ。いつか痛い目を見ることになる」

 

「どういうことだ?」

 

「アイツに裏の顔があることくらい、お前ならわかるだろ?その裏はお前の想像よりも、何倍も大きく、深く、ドス黒いものだ。一個人のお前が関わって、タダで済む相手じゃない。引きずり込まれて、扱き使われて、潰される。その前に、体よく断って逃げろ。金が要るならコッチから仕事を回せんことも無い」

 

「・・・考えとく」

 

 ラッシュからの助言を聞き、キリトは表情を曇らせて帰っていった

 

「んじゃ、行きますか」

 

「いやいや、さっきのやり取りは何ですか?」

 

「裏の顔とか映画じゃあるまいし・・・」

 

 ラッシュの切り替えに、香蓮と詩乃が突っ込んだ

 

「事実は小説よりも奇なりってな。この国も見た目ほど綺麗ってわけじゃないのさ」

 

「遠くからではないと見えないものも、世の中にはあるのよ」

 

 ラッシュとジェーンが、疲れた表情を見せて返した。4人が車を止めていたパーキングに着き、車に乗り込む

 

「一応言っておくが、これから俺がいる組織の拠点に向かうんだが・・・知らないで帰るって選択肢もあるってことを確認しておく。それなら、この車の行き先は、キリトが言っていた、エギルの店に変更しよう。御徒町のカフェで、SAO生還者がよく通ってる集いの店ってやつだ」

 

「何よ、いきなり・・・?」

 

「そうですよ。ここまで引っ張られたら、気になります」

 

「知ったら、後悔するかもしれんぞ?今までの常識が間違いなく覆るし、さっきの裏に通じる内容も一部ある。もちろん他言無用だし、迂闊に漏らせば・・・」

 

「「漏らせば・・・?」」

 

 ラッシュの脅かすような口調に、香蓮と詩乃がゴクリと息を呑んだ

 

「ネットの陰謀論をガチで信じちゃってる中二病の痛い子認定は免れん」

 

「「それは絶対嫌!!」」

 

「そうねぇ、命を狙われるとかって心配はない・・・はずね。あってもちゃんと組織が守ってくれるわ」

 

 ジェーンの言葉に、2人はホッと一安心する

 

「えっと、悪いことしてる組織、なんですか?」

 

「いや?俺の仕事だって、楽しいことや、美味い食べものを探して、上に報告を上げるだけだからな。元々SAOに入ったのも、今GGOやってるのも、その調査の一環だ。もちろん趣味も入ってるがな」

 

「あとは日本という国の文化や歴史だったり、暮らしてる人たちの人間性も調査してるわ」

 

「「??」」

 

 ラッシュとジェーンの説明に、2人は『それって、どんな職業?』っと首をかしげた

 

「えと、とりあえず命の危険とか、悪いことしてるわけじゃないなら・・・ね?」

 

「えぇ、知りたいわ」

 

「わかった。それじゃ、向かいますかね」

 

 ラッシュは、ゆっくりと車を発進させた

 

 

 車は銀座から、隅田川を渡って月島、晴海を通り、豊洲へ・・・この辺りの隅田川河口の運河沿いは高級マンションが建ち並び、築地から移転した豊洲新市場、東京五輪の選手村の近くというこで、注目を浴びた地区である。それを目当てに外国人が投機目的に売買がされ、バブルのように価値が高騰し・・・当然のごとくそのバブルは弾け、大暴落という結末をみた

 

 ラッシュが運転する車は、そんな高級マンションの1棟の地下駐車場に入っていった

 

「よし、着いた」

 

 4人は車を降り、地下からマンション内に入る。当然のように入り口の傍には警備員室がある。高層階用と低層階用のエレベーターがあり、高層階用のエレベーターに乗り込む

 

「ウチのマンションよりセキュリティがしっかりしてるかも・・・ってか間違いなくウチのマンションよりグレード2つ3つくらい高いよココ」

 

「バブルが弾けて安くなったときに買ったからな。上はいい買い物をしたよ」

 

 そう言っている間に、エレベーターは目的の階に到着する

 

「早い・・・」

 

「さて、職場のほうじゃなく居住の部屋でいいかな?」

 

「そうね」

 

「「・・・」」

 

 まだなにも聞かされていないはずなのに、これまで常識が崩れてしまいそうな詩乃と香蓮であった。そんなこんなで、やっと4人は目的地に到着したのだった

 マンションの一室の中のリビングに通された香蓮と詩乃。ソファに座った2人に対し、ラッシュとジェーンはまだ立っている

 

「くどいようだが、これが最後の確認だ。ここから先は、ポイントオブノーリターン・・・完全に後戻り不能だ。どうする?やめるって言うなら、月島でもんじゃを食べてから、自宅まで送ってあげよう」

 

「聞くわ」

 

「聞きます」

 

「わかった」

 

 決意の変わらない2人に、ラッシュとジェーンはそれぞれ取り出した鈴の付いたチョーカーを首に着け、鈴の部分を軽く叩いた

 その瞬間、ラッシュとジェーンの体が光に包まれ・・・

 

「へ?」

 

「は?」

 

 2人の体に猫耳と尻尾が生えた

 そんな2人の変化に、香蓮と詩乃は呆然とする

 

「俺のいる組織、正確には俺たちの種族は、宇宙の、この地球から遠く離れた星で暮らすキャーティアという、猫から進化した人類だ」

 

「私たちは、その宇宙外交団の1つ。この地球と、外交関係を結ぶためにやってきた、あなたたちで言うところの、宇宙人よ」

 

「「・・・」」

 

 ポカーンと口を開けたまま、固まっている香蓮と詩乃

 

「来月から、ってか来年の頭から、日本政府と秘密裏に交渉が始まる。まぁ、それは俺や母さんよりもっと上の役職の仕事だが・・・俺はタダの現地調査員だからな。本来なら、こうして地球に降りて行動することもできない下っ端なんだが、SAOの件があるから特別に許可が出てる」

 

「私はキャーティアシップの医務室に所属する医務官の1人。キャーティアシップっていうのは私たち外交団が乗っている、宇宙船のことよ」

 

「おーい、聞こえてるー?」

 

 いつまでも呆けている2人に、ラッシュが目の前で手を振って声をかけた

 

「ハッ!え、ちょ、ちょっと待って・・・あまりにも内容が・・・」

 

「うん・・・私もちょっと受け止めるのに、時間をください・・・」

 

 揃って額に手を当て、俯く2人。しかしそんな2人に落ち着く暇はなかった

 ピョコピョコと、40センチくらいの大きさの人形のような物体が、お茶を運んできたのだ

 

「えっと・・・これは?」

 

「アシストロイド。アシスタントアンドロイドで、俺たちキャーティア人の生活や仕事のサポートをしてくれるロボット」

 

 お茶を運ぶ1体に、数体が一緒に来ていて、俯いている2人を心配そうに見ていた

 

[だいじょうぶ?]

 

「え?あぁ、うん。大丈夫だよ」

 

 アシストロイドがプラカードを見せ、気遣う。香蓮が少しぎこちなくだが、笑顔で返した

 

「今度、2人の自宅にそれぞれ2体ずつ送るから、使ってあげてね。日常の家事の手伝いから留守番、フルダイブ中の部屋の警備までできるいい子たちだから」

 

「「は、はぁ・・・」」

 

「とりあえず、今日はこの辺りまでにしておこうか。2人とも、もう頭がパンクしそうな顔してるから」

 

 

「まさか、本当に宇宙人だとは思わなかったわ・・・」

 

「てっきりジェーンさんの冗談か、その場を誤魔化すはぐらかしかと・・・」

 

 帰る香蓮と詩乃を送る車の中、今だ頭がついてきていない感のある2人である

 

「あれには俺もドキッとしたがな。まぁ、いきなりあんなこと言って、信じるヤツはいないか」

 

 運転席には、再び地球人に変化したラッシュが座っている

 

「そういえば、来年から日本政府と交渉が始まるなら、ラッシュさんも仕事が変わってGGOに来れなくなったりするの?」

 

「いや、ラッシュで稼いだお金は外交団の資金源の一部にもなってるし、俺がこっち方面の調査の担当をするのは変わらないだろうから、特に変わらずログインできると思う」

 

「じゃあ、元のSAO引継ぎアカウントのほうは・・・?」

 

「ま、あれはあれで、残しておくさ・・・過去を忘れないためにもな」

 

 香蓮の問いかけに、ラッシュは少し気まずげに返す

 

「それじゃダメだと思う・・・ラッシュさんは、もう一度そのアカウントを使うべきだと思います。GGOで言うなら、ケリが付いてないって状態ですよ」

 

「いや、でもなぁ・・・周りが」

 

「周りのことを気にするなんてラッシュらしくないわ。GGOであれだけ好き勝手やってるってのに」

 

「いや、それは違うんです。あれはゲーム内だから少しはっちゃけてるだけで、ってかリアルでゲーム内のロールのアレコレは恥ずかしいからやめてください、お願いします」

 

 詩乃の指摘に、ラッシュが早口で言い訳をした。リアルでは一応真面目な性格であるラッシュなのである。そんな、ちょっとカッコ悪いラッシュの様子に香蓮と詩乃が揃ってため息をつく

 

「それに、みんながみんな、あなたのことを悪く思ってるわけじゃないはずよ?キリトとか、他にもあなたのことを理解してくれていた人はいるんじゃないの?」

 

「・・・そんなの片手で数えられるくらいだ。6000人以上いるSAO生還者の0.1%以下だ」

 

「だから逃げるの?」

 

「・・・」

 

 詩乃の視線が、ルームミラー越しラッシュに刺さる。少しの沈黙の後、折れるようにラッシュがため息をつく

 

「・・・わかったよ」




 事件の説明回
 確か原作では2日後になってるけど、ラッシュたちの介入で拗れて1日ズレた
 原作では警察が用意した病院に泊まってたけど、こっちでは事件で身体的な被害を受けたわけではないし、あと犯人は全員逮捕されてるので、一応の安全確保ということで、香蓮の部屋に泊まっていたり・・・

 不良との最後の絡まれ
 原作とは違い、この時点で既に乗り越えてる。その結果、取る行動も違うことに。書いといてなんだけど、モデルガンを投げ付けて壊すのは、たぶん単発のエアコッキング式の安物でも無理かも。アニメだと1発しか撃ってないからわからないけど、ガスガンや電動ガンもあるし、それなら内部は壊せるはずだけど、フレームが壊れるとは思えなかったり・・・でも準備無しで勝手に持ち出して使えるなら、ガスの充填やバッテリーの接続が必要なタイプではなさそう

 現実のラッシュ登場
 SAO生還者ですが日本人ではありません。日本人どころか地球人でもなかったけど
 ラッシュが乗ってきた車。個人的にニュース見てると、最近は要人はセダンじゃなくミニバンに乗ってる印象があるけど気にしない

 事件の決着の裏側
 簡単に言えば、キャーティアが地球の数十世代先のハッキング技術でアミュスフィアやザ・シードのセキュリティを突破して、個人情報やGGOへのアクセスポイントの場所を取得。それをしかるべきところにチクッた。金本敦も同じで、SAO時代の個人情報と顔写真を取得し、ワイルドスピードスカイミッションのゴッドアイばりの、カメラというカメラに対するハッキングで、防犯カメラ網だけでは捕らえられなかった金本敦を確保させた
 ラッシュとジェーンがリアルで詩乃と香蓮の前に現れたのは、その不正アクセスに対する謝罪が目的の1つだった

 事件の説明はカット
 デスガン事件自体は原作と同じだからカットします。唯一の違いは詩乃の恭二への反応。面会に行くことは無い

 レストランの外でのやり取り
 ラッシュとキリトは現実ではこの日が初対面。5月のオフ会にはラッシュは欠席だった。だから呼び方が覚束ない。
 キャーティアの調査で、もうプロジェクトアリシゼーションをラッシュは把握済み。オーシャンタートルの製造、または元になった船からの改装の期間を考えると、この時点で計画は立ってるはず。キャーティアのハッキングは政府中枢にまで入り込んでいる。地球の技術では痕跡を見つけることは不可能
 原作であった本戦中の洞窟のやり取りが丸々なくなってるから、キリトは詩乃をダイシーカフェに連れて行く理由が無いのでここでお別れ。詩乃がアスナたちと会うのはもう少し後のこと。郵便局の元局員の人と会うことも無い

 車の中、ラッシュの警告
 まぁ、宇宙人が実在して政府と交渉してるなんて、アメリカのゴシップじゃあるまいし・・・
 ラッシュの仕事は、キャーティアが出てくる『あそびにいくヨ!』のエリスのような感じ。ただ、個人の調査権限で地球に来れたエリスよりラッシュはさらに下っ端

 キャーティア大使館(仮)は豊洲
 これはキリトの家が埼玉県川越、詩乃の自宅アパートが文京区湯島、明日奈の家は世田谷区宮坂。豊洲辺りにあれば、新宿や皇居を囲んだ大きな四角形になるなーって。別に港区でも大田区でも、神奈川県の川崎や横浜でもよかった
 職場と居住の部屋がある・・・実はフロアごと買ってる

 香蓮と詩乃への正体を披露
 キャーティアの設定については後の話で触れますが、あそびにいくヨ!のウィキを見たほうが早い。自分もうっすらと覚えてるアニメの話とウィキ頼みなので
 まぁ、ジェーンさんが言ってたことは本当でしたってことで。あそびにいくヨ!の原作とは地球への現れ方が違って、いきなりキャーティアシップで地球までやってきて、地球人に知られないまま調査を進めてる。政府との交渉はその後に行う感じ
 詩乃と香蓮が混乱してるので、詳しい話は別の機会に持ち越しってことに。たぶんこの後は説明無しで夕ご飯振舞ってこの日は終了

 帰りの車内
 衝撃の事実、ラッシュの稼いだクレジットをRMTした現実通貨は、ラッシュの懐には入ってなかった件。現地で行動するために必要な現地通貨の入手法の1つです。なにげにGGOの通貨のRMTは『日本円では』とレートの説明文に入っていることから、日本以外の国の通貨にも換金可能と推測できるので、ドルやユーロを得ることにも使えそうという、結構優秀な通貨入手手段

 現実でゲーム内のロールの指摘はダメゼッタイ。恥ずか死ぬって。リアルのラッシュはキャーティア外交団の中の立場は下なので、あまり周りに強く出られない

 次回、ラッシュ、ALOに行く
 って、もはやGGOじゃなくなった件


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8話

 詩乃と香蓮が、未知との遭遇(?)を果たした3日後

 

「半年振りか・・・何もかもが懐かしい」

 

 SAO引継ぎアカウントでALOにログインしたラッシュ。空に浮かぶアインクラッドを感慨深げに見上げる。ちなみに種族はケットシーで、着ているものがスーツになれば、現実のキャーティアの姿のラッシュとほぼ重なる容姿である

 

「何浸ってんのよ」

 

「あそこに2年もいたんだ。浸りもするさ」

 

 ラッシュの隣に立ち、突っ込みを入れるシノン。ラッシュが逃げないようにと、シノンはわざわざALO用に新アカウントを取得してログインしたのだ。ちなみにこちらもケットシーである

 

「BoBで優勝したからいなくなれないって、GGOに残ったレンの分も私がちゃんと見届けてあげるから」

 

「へいへい、ありがとさん」

 

 闇風を破り、名実ともにGGO最強の称号を得たレンは、挑戦を受ける側の人間として、GGOに残る決断をした。もちろん、初めてのVRゲームでALOの長身アバターを引き当て、苦手意識があるのも理由の1つである

 

「さて、これからどうするの?」

 

「いや、俺が聞きたいって。お互いに金無し、アイテム無しで何もできねぇよ」

 

 新規アカウントのシノンはもちろん、SAOの引継ぎアカウントのラッシュも、お金とアイテムは初期化されている。GGOのように公式RMTの無いALOでは、装備を揃えるお金もなく、それを稼ぐ当てもない

 

「・・・え?まじで?今更ニューゲームでチマチマやっていくの?」

 

「うわ、私もそれは嫌だわ・・・」

 

 2人して呆然と立ち尽くす。もう言いだしっぺのレンがいないことをいいことに、適当にごまかしてGGOに帰ろうかとすら思い始める始末である

 

「なんかないの・・・?一攫千金ドカンと稼げる方法・・・」

 

「PKでもしてアイテム奪うか・・・ハハハ、GGOとは真逆の立場だ」

 

 堕ちたなぁ・・・っと涙目になるラッシュ

 

「んだとコラァ?!」

 

「やんのかコラァ?!」

 

「上等だ!!」

 

 っとそんな2人から少し離れた場所で、2人のプレイヤーが喧嘩を始めた。口喧嘩では埒があかないと、2人は決闘を始め、野次馬の他のプレイヤーが集っていく

 

「なぁ、どっちに賭ける?」

 

「そうだな。俺は・・・」

 

 野次馬の中には賭けを始めるプレイヤーも出始めていた

 

「そうか・・・その手があった。賭けだ!」

 

 

 1時間後・・・

 

「はい、次の人ー、いねーの?一撃決着の賭け試合。お互い5万ユルドずつ出して、勝てば総取り10万ユルドだ」

 

「おい誰か、ヤツに勝てるヤツいないのか?!」

 

「もう何連勝だ?」

 

 イグドラシルシティのど真ん中で、賭け試合を大々的にやり始めたラッシュ。初めは初期資金を賭けていたが、徐々に金額が上がっていき、今では万単位のお金を賭けている。シノンは初めのほうで勝敗予想の賭けの胴元をしていたが、ラッシュが勝ちすぎて賭けが成り立たなくなってしまったので、今はお金の一時預かり役をしている

 

「はいはーい!じゃあ私やりまーす!」

 

 ラッシュの呼びかけに、1人の女性シルフが手を上げた

 

「おっ、元気いーねー。お名前は?」

 

「リーファです」

 

「はい、挑戦者のリーファちゃんに拍手ー!」

 

 ラッシュの隣にやってきた挑戦者を紹介し、場を盛り上げる

 

「ルールは、アイテム無しの魔法有り、飛行も有りね。オッケーならそっちのシノンにお金を渡してくれ」

 

「はーい」

 

 返事をしてリーファが5万ユルドをシノンに渡す。連勝中のラッシュのお金は、もうシノンが管理しているので渡す必要がない

 

「それじゃ決闘を申し込んでくれ、決着方法は受ける側が決めるから一応ね」

 

「わかりました」

 

 リーファはラッシュの指示に従い、決闘を申請し、ラッシュは一撃決着でそれを受ける。決闘開始までのカウントダウンが始まり、その間に2人が適度に距離をとって開始位置に着く。リーファは武器の刀を抜いて構える

 それに対しラッシュは・・・

 

「居合い・・・?」

 

 リーファと同じく刀装備で、鞘に収めた状態のまま抜刀術の構えをとる。やがて、カウントダウンが0になり、決闘が始まった

 

「・・・っ」

 

「どうした?来ないのか?」

 

 ラッシュの構えに、迂闊に飛び込めば負けると、リーファは彼我の力量差を悟った。1合の打ち合いもなくそれを悟れるのは、現実で剣道をやっているリーファの中の人のプレイヤースキルと言ってもいいものだった

 

 ―刀の勝負では、私に勝てる相手じゃない・・・でも空中戦からの一撃なら

 

 リーファは羽を出して空中に飛び上がる。空中で加速をつけ、水平飛行で最高速に達した状態で急降下に入り、ラッシュに一気に接近する

 

 ―急降下での更なる加速、間違いなくALOで出せる最高速度!これに・・・

 

 リーファは急降下しながら、初級の風魔法を唱える。風属性の矢が複数現れ、ラッシュに放たれる

 

 ―この矢と同時に突っ込んで斬る!これだけの矢を回避すれば、体勢は崩れて抜刀はできないはず!

 

 自身に迫る矢とリーファを視界に納め、しかし未だにその場を動かないラッシュに、勝ちを確信する

 しかし・・・

 

「やっぱALOの速さってこんなもんなのな・・・」

 

 そんなやる気のない呟きが聞こえたリーファ。そして次の瞬間にラッシュの姿がブレた。放った矢はラッシュのアバターを通り抜けるかように見えるほどギリギリで回避され、地面に刺さる

 

「一刀流居合い、獅子歌歌・・・のマネ」

 

「「「マネかよっ?!」」」

 

 突っ込んできたリーファの刀を回避しながら、ラッシュは抜刀術からの一撃で、擦違う一瞬でリーファの体に僅かに切り傷を付ける。リーファのHPバーが数ドット削れ、勝敗が決まる。納刀するラッシュの前にウィナー表示が現れる

 

「うぉおおっ!!勝ちやがった!!」

 

「動きが見えなかったぞ?!」

 

 SAOでラッシュが上げに上げたキャラの敏捷値と磨き上げた抜刀術、猫から進化したキャーティアの優れた動体視力と高い反応速度。4つが合わさってできたスタイルである。要するに半分はチートである

 

「ほい、毎度ありー」

 

「そんなー。あの速度見切られたら、コッチは手が出ませんよー」

 

 っとリーファは悔しそうに言うが、リーファが今の決闘で出した速度は時速200キロにも満たない。秒速ならば55メートル程度である。GGOでは低威力の拳銃弾ですら秒速300メートルの初速で発射される。GGOに慣れたラッシュが遅いと思うのも、仕方が無いことである

 

「さて、これでも結構頑張ってきたつもりだが、いよいよ以って刀の耐久値が限界のようだ。賭け試合はこの辺で終わりにさせてくれ!」

 

 ラッシュは見物客に自身が使っている刀の耐久値を見せ、賭け試合の終わりを宣告する。初期装備の安物の刀の耐久値はレッドゾーンを割り込んでいる。それを見せられた見物客も仕方が無いと散り散りに去り始めた

 

 その場に残ったのは、ラッシュとシノン、そして最後の対戦相手だったリーファの3人・・・

 

「さて、リーファちゃん。同じ刀使いの好で、いいショップを教えてくれたりなんかは・・・ダメかな?」

 

「え?あ、はい、それは構いませんが・・・」

 

 

「ヒッ!!」

 

 ラッシュの顔のすぐ横を、細剣の突きが通った

 

「よ、よお、アスナさんや。お久しぶりで・・・なぜに俺は殺されかけたので?」

 

「BoBの本戦でキリト君を撃ち殺してたので、ついカッとなって」

 

 リーファに連れられてやってきた、SAO生還者のリズベットが経営する武具店。ラッシュが店に入り、キリトの彼女ことアスナと目が合った途端、アスナは笑顔でラッシュに突きを放った。所謂目の笑っていない笑顔というやつである

 

「ちょっとアスナ!柱に穴が開くじゃない!」

 

「突っ込むところそこか?」

 

 店の主であるリズベットのズレた注意に、キリトは突っ込みを入れながら、ラッシュに『ヤッちまったな・・・』っと同情する表情を浮かべた

 

「あれ?お兄ちゃんたちの知ってる人なの?」

 

「あぁ、ラッシュは同じSAO生還者だよ。ホラ、BoBの本戦で、スーツ着て戦ってたヤツ。そっちはたぶんレンかシノンだろ?」

 

「正解、シノンよ。本戦でキリトに銃を突きつけて、馬乗りにされた・・・ってあれは中継されてなかったわね」

 

「キーリートーくーん?」

 

「誤解だ!」

 

 シノンの絶妙なパスでアスナのヘイトがキリトに向かう。グッジョブっとラッシュはシノンにサムズアップをした

 

「まさかリーファちゃんはキリトの妹だったとは・・・」

 

「おいラッシュ、俺の妹に手を出すなら、斬られる覚悟できてんだろな?」

 

「抜かせ。秒殺で三枚卸にしてやるよ」

 

 リーファに手を出すかのような馴れ馴れしさで接するラッシュに、キリトはイラッとして挑発が、ラッシュはそんな挑発を軽くあしらう。ちなみに、そんなキリトの言動に、リーファはコッソリと嬉しそうな表情を浮かべていたり・・・

 

「兎にも角にもまずは装備を揃えんとな。一番いいやつを頼むってことで。俺は速さ重視の刀。シノンは・・・」

 

「弓矢。200メートルくらい飛ぶので」

 

「は?」

 

 シノンのリクエストを聞いたリズベットが、『お前は何を言ってるんだ?』っという表情をした

 

「あのねぇ、この世界の弓ってのは槍以上、魔法未満の射程で、精々20メートル前後で使うものよ」

 

「なら、金はあるから、ここは一つ、シノンの弓はオーダーメイドで頼むよ。大丈夫、多少時間がかかっても構わない。シノンはこれから習熟度を上げていくし、いきなりハイエンドなものがあっても習熟度不足で装備ができないしな。俺のは店内に並んでるもので済ますさ」

 

 カウンターにユルド硬貨がドッサリと入った袋をドカッと置き、ラッシュは笑顔で言った 

 

「どうやって稼いだんだよ・・・?」

 

「どうやってって、決闘で賭け試合を」

 

「人はもう斬らないんじゃなかったのか?」

 

「殺してないからノーカンだ・・・それに」

 

 ラッシュがシノンに視線を向けた

 

「シノンがわざわざついて来てくれたのに、貧乏苦労人ロールは御免なんでな」

 

「そういえば、何しに来たんだ?」

 

「特に何も」

 

「は?」

 

「いや、レンがな・・・俺がこのSAO引継ぎアカを飼殺しにして、ALOを避けてるのがダメだって言うからな・・・なんかケリ付けて来いって。いったい何をしろって言うんだか・・・」

 

 ラッシュは事情を説明し、肩を竦めた

 

「ま、それを見つけるためにも、しばらくはGGOと二束の草鞋で行くさ」

 

「そうか、まぁ、なんだ・・・その、おかえり」

 

 

 ラッシュがALOに戻ってきた・・・その報せを受けたキリトやアスナたちと付き合いのあるSAO生還者、エギルとクラインは、それぞれリアルでのその日の仕事をマッハで終わらせて帰宅し、ALOにログインした

 

「よおラッシュ!随分と久しぶりじゃねーか!」

 

「お前さんはリアルのウチの店にも来ないからな。SAOをログアウトしてからどうしてたんだ?」

 

 イグドラシルシティのキリトとアスナのホームに集った一同。ラッシュは数少ない彼を理解する人たちに囲まれ、昔話に花を咲かせている

 

「さて、男どもは男同士で話し始めちゃったし、こっちも女の子同士で話しますか」

 

 リズベットの言葉に、リーファやアスナ、シノンが集ってソファに座った

 

「そうだね。まずは自己紹介からかな・・・名前はアスナ。細剣使いで、SAOでは攻略組のギルドの副団長をしていて、迷宮区攻略なんかでラッシュさんとはたまに顔を合わせてたりしてました」

 

「アスナ・・・あぁ」

 

 アスナの自己紹介に、シノンは聞き覚えのある名前だったので、ポンと手を打つ

 

「ラッシュが言ってたキリトの嫁ね?」

 

「「ブフッ!!」」

 

 シノンの言葉に、リーファとリズベットが飲みかけた紅茶を噴出した

 

「うん、まぁ・・・その通りです」

 

「「ぐぬぬ」」

 

「ふーん・・・モテる恋人を持って大変そうね」

 

 アスナの肯定の言葉と、リーファとリズベットの反応で、全てを察したシノンであった

 

「そういうシノンはラッシュとどうなのよ?ラッシュに合わせてALOにまで来るんだから」

 

「私とラッシュは・・・」

 

 ―私がラッシュのことを・・・?ってあれ?そもそも地球人とキャーティア人って付き合えるのかしら?

 

 リズベットに仕返しされるように質問されたラッシュとの関係に、シノンは初めて生き物としての種族の違いというものを実感する

 

 ―まぁ、ラッシュがキャーティア人だと知らなかったときは、結構自由にモノを言い合える人だから、一緒にいて楽しいし、好意が無いって言えば嘘になる。それは今も同じ・・・とりあえずリアルのラッシュは何歳なんだろう?見た目20歳前後って感じだけど、母親であるジェーンさんも還暦前って言われながら見た目30代、いや20代後半くらいにしか見えないし・・・

 

「うーん・・・」

 

「おーい、そんな深く考え込まれるとは、あたしゃ予想外だよー」

 

「!」

 

 リズベットの声に、思考に没頭していたシノンが復帰する

 

 ―とりあえずこの件は香蓮さんと相談しつつ、改めて考えよう

 

「そうねぇ・・・好意的な感情はあるけど、仲間とか戦友って感じのが大きいと思うわ。それに私は高校生だし、ラッシュは社会人だから、すぐ付き合うとかはないかしらね」

 

「おー、この手の話題にクールに返す・・・割りと初めてのタイプかも」

 

 ラッシュとの付き合いで、煽り耐性のできているシノンであった

 

「じゃあ自己紹介の続きで、あたしはリズベット。SAOにいた頃からの鍛冶師で、さっきいたリズベット武具店はアインクラッドでもやっていたのよ」

 

「改めて、私はリーファです。私はSAO生還者ではなく、ALOをずっとやってます」

 

「あとは、シリカがいるのだけど、今日はリアルの用事で来れないみたい。まぁそのうちすぐに会えるわ」

 

 簡単に自己紹介がされ、次はシノンの番かと思いきや・・・

 

「私はユイです。パパとママの娘です」

 

 アスナの肩に降り立った小さな妖精がシノンに向かって自己紹介をした

 

「娘?」

 

「あぁえっと、SAOで出会ったAIなの。消されそうになったところを、キリト君がシステムから切り離して助けて、こうして引き取って一緒にいるの」

 

「AI・・・」

 

 ―これって本来は驚くところなんだろうけど・・・キャーティアの技術力を目にしたら、もう地球の技術で驚くことなんてないわよね・・・

 

 大抵の人には驚かれるユイの存在に、シノンは動じない。なぜなら今、詩乃の部屋にも高度な学習AIを積んだロボットが2体いるからである

 

「じゃあ最後に私ね。名前はシノン。BoBの本戦の中継を見てたなら、準優勝してたのが私。とはいえ、ラッシュに助けられたり、勝ちを譲られたりで、全く実感が無かったりするのだけど」

 

「そういえば、本戦でラッシュさんが毒ガスで殺したプレイヤーって・・・」

 

「えぇ、あなたたちと同じSAO生還者だったらしいわね。菊岡って人から全部聞いたわ」

 

「そう・・・」

 

 攻略組の最大ギルド、血盟騎士団の副団長だったアスナ。当然、彼女はラッシュの行っていたことも知っていた。立場も力もあった彼女は、キリトの言う『ラッシュに背負わせていた』プレイヤーの1人だったのだ

 

「私が標的だったのは、また別の事情があってのことなのだけど・・・それも全部解決してる。あれはもう終わったのよ」

 

「そうですか。ごめんなさい・・・これからよろしくね」

 

「よろしく」




 繋ぎ回
 ラッシュはケットシー。理由はキャーティアだからという安直なもの。原作同様シノンもケットシー
 BoB後のレンは一応闇風を倒して優勝したので、他のプレイヤーたちからは最強と思われてる。闇風がレンの挑戦を真正面から受け止めたので、それに倣って勝ち逃げはしない。そういえば原作ではキリトとシノンが優勝したけど、その後で2人は活動をALOに移すから、GGOはどうなってたんだろう・・・?

 見切り発車のALO紀行
 さて、レンはラッシュに、ALOでどうケリを付けろと言うのか・・・

 お金稼ぎの賭け試合
 自分が苦労すると、シノンも苦労するので、あっさりと人斬り解禁。本編でも言ってますが殺してないからノーカンってことで。お金稼ぎついでに昔の勘も取り戻してる

 対戦相手で登場、リーファ。リーファがラッシュに惚れるとかは無い予定です
 ラッシュの戦闘スタイルはカウンター寄りのAGI刀使い。AGI型なのはキャーティアの体重が、地球人の2/3しかないため。ラッシュはSAOに入ってすぐのころは体重が1.5倍に感じていたので、軽快さを求めてAGI型になった
 抜刀術の理由は、ラッシュ本人がカッコイイと思ってるから。日本の娯楽文化の調査で極道モノの映画でも見た感じ。GGOのファッションもこれが理由
 リーファのプレイヤースキル。リーファの中の人は確か剣道が強いって設定だったはず

 決着、ゲーム内でのラッシュの言動は、ほぼ全て娯楽調査で見た映画や漫画の影響を受けている。キャーティアの動体視力と反応速度は、GGOでLUK型なのに強い理由でもある

 高い反応速度と二刀流について。二刀流は、1度はラッシュにいってたが、抜刀術スタイルを崩したくなかったから消して、次の人だったキリトにいった感じか、キャーティアの技術でカーディナルやヒースクリフにはバレなかったが、実は不正アクセス紛いにSAOに割り込んでいたからか、対象外になってしまったかのどちらか

 鬼嫁・・・もといアスナとの再会
 撃ち殺した挙句グレネードで死体ボーンですから。それをやった人が何食わぬ顔で現れたらね・・・なんだかんだで突きを外してる気の置けない仲な感じが、シノンは少し面白くなかったりして、キリトで少しストレス発散をしてる

 キリト、妹を心配するお兄ちゃん
 妹(嫉妬されてる?これ私ワンチャンあるんじゃない?)
 妹って言ってるし、無いんじゃないかな?

 一番いい装備を頼む
 ラッシュとリズベットはSAOで面識はありませんでしたという設定です。ラッシュが面識あるのは攻略組だったプレイヤーだけです。リズはスミスとして攻略組との付き合いは多かったみたいですが、本人は攻略組ではないですし・・・話には聞いてたかも
 サラッとお金の使い方をシノン優先にしてるラッシュ。シノンの無茶なリクエストにリズが苦しむ姿が見たかったり

 キリト「お前、なにしにきたんやねん・・・」
 ラッシュ「知らん」
 そのうちなにか見つかるんじゃないですかね?

 エギルとクラインがオリ主の理解者。ハイハイ、テンプレ要素
 集ったメンバーにシリカがいない理由はなんとなくで、原作のダイシーカフェでも、いたのはアスナとリズだけでシリカはいなかったし・・・

 シノン→ラッシュの関係
 好印象だが恋愛感情はまだ薄い。わからないことも多いし、1人で考えても無駄なので、唯一相談できる香蓮の意見も聞いてみよう、と・・・

 ユイちゃんとアシストロイドのAIの違い。ユイちゃんはトップダウン型、アシストロイドはあそびにいくヨ!のウィキでは特に書かれてないけど、プロジェクト・アリシゼーションで作り出そうとしてるボトムアップ型なのかな?

 アスナ→ラッシュの見方
 キリトと同じで、クラディールの件まではラッシュをよく思ってなかったが、自分たちが被害者側になることで、見方が変わった感じ。大ギルドの副団長という権力を持つ立場だったアスナは、治安維持でもその力を使えたはずなのに、偶然遭遇した圏内事件くらいしか対応してないし、ある意味他のプレイヤーよりラッシュに責任負わせてた人とも言える

 アスナ「ウチらのゴタゴタに巻き込んでスマンのぉ」
 シノン「済んだことやけぇ気にすんなって。それより前見ようや」
 アスナ「そう言ってもらえると助かるわぁ」
 2人「「これからよろしくな」」
 心の中ではなに思ってるか・・・コワイコワイ

 次回は時系列的にキャリバーではなく、クリスマスの21層フロアボス攻略戦です
 アニメの放送順では逆になってますが、こちらは時系列優先です


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9話

 ラッシュがALOに戻ってきてから2週間。ALOもGGOも、現実でも特に何も起こらない平凡な日々を過ごしていた。そうしてクリスマスが迫ったある日のこと

 

「25日のアップデートでアインクラッドの21層から30層までを実装か・・・」

 

「あぁ、もう20層のフロアボスは討伐済みだから、実装されれば即21層が開放される」

 

 暇つぶしがてらに行った20層の迷宮区での狩りから帰ってきたラッシュに、キリトはアップデートの情報を伝えていた

 

「そんで?それだけをわざわざ言いにくるほど、お前さんもヒマじゃないだろ?」

 

「それでなんだけど・・・アップデートしたその日に、21層のフロアボス討伐をしたいんだ。誰よりも早く、いの一番で。手を貸してくれないか?」

 

「なんだ?ボスからのドロップ品狙いか?って待てよ・・・ハハーン、そういうことか」

 

「うぐっ・・・」

 

 キリトの頼みの理由がわかったラッシュに、キリトは気まずそうに顔を逸らす

 

「OKだ。シノンにもメッセージで要請しておこう。えーっと、タイトルは、『キリアス夫婦の思い出の愛の巣、再ゲットの協力依頼』っと」

 

「ちょ、ま?!」

 

 ラッシュの、聞いてるだけで恥ずかしくなるようなメッセージのタイトルに、キリトが止めようとする。しかし、ラッシュはキリトを片手で抑え、器用にもう片方の手だけでメッセージを打ち込んでいく

 

「ホイ送信っと、残念だったな」

 

 あっという間に入力し終え、送信ボタンが押された

 

「あとは今のをコピペして、風林火山とエギルに、この間知り合ったケットシーの領主のアリシャにも・・・」

 

「お願いします止めてください恥ずか死にます!」

 

「SAOで彼女作ったリア充は爆発しろ!!」

 

 どうやらラッシュの悪役ロールはまだ続いていたようであった・・・

 

 

 

 

 

「周りからの視線が生温かい・・・」

 

 アップデート日の25日、21層の迷宮区のボス部屋の前、現在ボス戦前のローテアウト中。集ったレイドパーティのメンバーからの視線に、キリトが肩身狭そうに呟いた

 

「もう!ラッシュさんが変なタイトルで参加を呼びかけるからですよ!!」

 

「んー?本当に俺のせいかなぁー?」

 

「ま、メッセージのタイトルのセンスはともかく、目的は間違ってないんでしょ?」

 

「そ、それはそうなんだけど・・・」

 

 シノンの返しに、アスナは口篭った

 

「あれ?ひょっとして今俺ディスられた?」

 

「そう?気のせいじゃないかしら?」

 

 初めてのフロアボス攻略に参加するシノンだったが、意外と落ち着いているようで、ラッシュを軽くあしらっている

 

「っつーかラッシュ、GGOでも違和感あったのに、ALOでもスーツ姿なんだな」

 

「別にいーだろ。カッコいいんだから。こういうのはファンタジーな世界だからこそ映えるんだよ。所謂ギャップ萌えってやつだ。リアルじゃ着てるだけで疲れるけど、ゲーム内ならそういうのもないしな」

 

 この2週間でラッシュは一通りの装備を揃えた。刀はオーダーメイドではないが、リズベット作の店頭販売の品。防具扱いのスーツは金にものを言わせ、SAO生還者で腕利きの針子のアシュレイに作らせたものである。GGOでしていたビシッとした着こなしではなく、ネクタイを適度に緩めてワイシャツの上のボタンを開けるという、ラフな着こなしである

 

「スーツに刀。イッツァジャパニーズ●クザスタイルってやつだよ。女のセーラー服に機関銃と並ぶお決まりのスタイルってやつだ」

 

「いや、それなんか違う気がする」

 

「俺は仕事を思い出しちまうぜ」

 

 っとクラインが会話に割って入る。他にも数人の社会人プレイヤーが、ラッシュの姿を見てはウンウンと唸り声を上げていた

 

「相変わらずラッシュは●クザスタイルなのね・・・レンとも話したことあるけど、あなたのカッコいいの基準がイマイチわからないわ」

 

「そう言いつつ、シノンの衣装だって学校の制服風じゃねーか」

 

「あら?私はラッシュが周囲から浮かないように合わせただけよ」

 

 シノンの格好はブレザーの制服で、下はもちろんスカートだが中にスパッツを穿くという、鉄壁のパンチラ対策がされていた。もちろんアシュレイ作である。武器は、なんとか間に合ったリズベット作のオーダーメイドの弓である。残念ながら200メートルの射程はシステム的に実現しなかったようだが、それでも100メートルの射程は確保されている

 

「テーマはアーチェリー部の女子生徒ってところかしら」

 

「こっちもこっちでマイナーなフェティシズムを擽る格好を・・・」

 

「キーリートーくーん?」

 

「ハッ!・・・アッ!ちょ?!耳を引っ張るのは・・・」

 

 シノンの格好を眺めていたキリトがアスナに引っ張られていった。妖精の長い耳を強く触られ、キリトが苦悶の声を上げている。ALOでは現実の人間には無い、妖精の長く大きい耳やケットシーやインプの尻尾などは、触覚が敏感になっているのだ

 

「ありゃ新しい扉開きそうだな」

 

「ラッシュ下品」

 

「すんません」

 

 ククク・・・っと笑うラッシュをシノンが嗜める。そして流れるように謝るラッシュであった

 

「でも、ここだけの話。俺にはわからん感覚なんだけどな」

 

「あぁ、そういえばあなたはリアルでも持ってるものね」

 

 少し声を抑えつつ話す。キャーティア人のラッシュは、現実の体でもケットシーと同じ猫耳と尻尾を持っているので、触覚が敏感になるということは無いのである

 

「ただ、副耳がある位置に何も無いのが違和感だな」

 

「副耳?」

 

「人間の耳のほうのことだ。構造も人間の耳と同じで、主に音の方向を知るために使うものだ」

 

「へぇ。なら耳が4つあるってこと?」

 

「そういうこと。おっ、ローテアウトの最終組も戻り始めてきた。そろそろ始まるな」

 

 

「あ、これアカンやーつや」

 

 ボスが現れて早々に、ラッシュはそんな声を上げた。というのも、ボスがラッシュのようなAGI寄りの刀使いとは相性が最悪に近い岩石ゴーレム系のモンスターだったからである。タダでさえ繊細な刃を持っているので耐久値の低めの刀の、さらに低いAGI寄りのそれは、堅い体を持つ敵は天敵とも言えた

 

「悪い、これ俺戦力外だわ。刀の耐久が持たん」

 

「うぉおおい?!いきなり何言ってんの?!」

 

「文句はこんな刀売ってたリズベットに言え。資金もカツカツだったから予備の刀も無い。俺は終盤まで積極的な攻撃は仕掛けない方針でいく。それまで遊撃でタゲ分散に務める」

 

「ったく、仕方ないか」

 

「アンタらあとで覚えてなさい!!」

 

 ボスに突撃する攻撃部隊。その中にいるラッシュとキリトのやりとりである。もちろん同じ攻撃部隊にいるリズベットには丸聞こえである

 ダメージによるヘイトとは別の、接近状態を保つことによるヘイト上昇を利用し、ボスの攻撃ターゲットを自分に向けるラッシュであった

 

 

 

「もう、ラッシュさん、また危なっかしい戦い方をしてる。SAOでもアレやってたのよ」

 

「へぇ、でも攻撃は喰らってないみたいよ」

 

 後衛の魔法支援ポジションのアスナは、そんなラッシュの戦い方にハラハラとしている。同じく後衛で、弓矢による射撃支援ポジションのシノンは、パーティメンバーであるラッシュのHPが減っていないとアスナに伝える

 

「いやはや、彼はすごいねぇ・・・動きが人間離れしている気がするよ」

 

 ―その人間が、地球人って意味なら、ラッシュは人間ではないことになるわね・・・

 

 アスナと同じウンディーネで、男性プレイヤーのクリスハイトがラッシュの動きを見て呟いていた

 

 ―そういえば、このプレイヤーはあの菊岡って人なのよね・・・政府の人間だけど、ラッシュの正体は知らないのかしら?

 

「ALOがレベル制でもセルフでステータス割り振り制でもないからそう見るだけで、レベル制で自由にステ振りのできるGGOならザラにいるわ」

 

「ゲームが違うだけで、あれも普通の動きになるのか・・・いやはやVRゲームの世界は複雑だ」

 

 シノンはラッシュのフォローをしておいた。菊岡という人物が信用できないからこそ、キャーティアの存在は知られないほうがいいと踏んだからだ

 シノンの言葉に、クリスハイトは疲れたようにため息をつき、戦いに集中しようと頭を振って余計な思考を断ち切った

 

「タンク部隊、30秒後にA隊からB隊への入れ替え!メイジ隊は撤退サポートを!ヒーラー隊は回復準備を!」

 

 攻略の指揮を取っているアスナの指示が飛び、メイジ扱いの長射程アーチャーのシノンも弓に矢を番える

 

 ―アスナの指揮や統率力も、年齢を考えるとありえないくらい堂々としててスゴイと思うわ・・・しかもかつてはSAOで、命がかかった戦闘で周りに指示を出してたって言うのだから・・・

 

 初めてのフロアボス攻略戦で、その激しさを体感しているシノンは、冷静に指示を出しているアスナの胆力に驚かされていた

 

「5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・魔法放て!魔法命中後タンク部隊スイッチ!」

 

 アスナの合図でボスに向かって一斉に魔法が放たれ、それらが命中し一瞬タンクへのヘイトが相対的に下がる。その隙にタンクが交代し、キリトたち攻撃部隊の盾役が復活する。最後に攻撃部隊がボスに攻撃を行い、上昇した後衛へのヘイトを上書きする

 

「・・・うん、今の状態での攻撃パターンは掴めたわ。偵察無しのぶっつけ本番だったけど、今のところ想定外の要素もない・・・ゴーレム系だから防御堅めだけど、その分スピードは遅いから、じっくりやれば勝てるわ」

 

 

「HPがレッドゾーンに入るぞ!攻撃パターンの変化に注意しろ!!」

 

 攻略は進み、前衛でキリトが周囲に警戒を促す

 

「さて、終盤だし、そろそろ俺も積極的に攻めていきますかね」

 

「あぁ、そうしてくれ。できれば一気に片を付けたい」

 

 ボスのHPがレッドゾーンに入り、パターン変化を知らせるかのようにボスが咆哮する。そんなボスを見て、ラッシュが刀の鯉口を切る

 

「パターン変化後の最初の動きを見て、行けそうなら行く」

 

「わかった」

 

 咆哮を終えたボスは拳による薙ぎ払いからの振り下ろしの2連攻撃を繰り出した。タンク部隊が薙ぎ払いで吹っ飛ばされ、振り下ろしの衝撃で攻撃部隊の足が止まり、前衛の隊列が崩れる

 

「クッ!!」

 

「出るぞ!俺が相手してる間に、隊列を組み直して体勢を整えろ!」

 

 ラッシュは刀の柄に手をやり、抜刀術の構えをとる。それをトリガーにデータが読み込まれ、僅かに見える刀身が光り輝く

 

「ソードスキル?!初っ端から放つのか?!」

 

「いや、おかしいぜキリの字よ!刀系スキルに、あんな構えから始まるモーションは存在しねぇ!」

 

「なら考えられるのは・・・OSS?!」

 

 OSS・・・オリジナルソードスキル。独自のモーションを登録することでソードスキルを製作する機能。しかし製作における成功条件が非常に厳しいために、一種の奥義扱いされているものである

 

 データの読み込みが終わり、ポンッとラッシュがボスの顔の前にジャンプした瞬間、ソードスキルのモーションが始まる。抜刀からの右やや上に向かっての横薙ぎに始まり、斬り返しの右上からの袈裟切り、それを右下から左上への斬り上げに繋げ、右やや下向きの横薙ぎに持っていく。一点で交差する4本のダメージエフェクトのラインがボスの顔に刻まれた。そこで刀は鞘に戻された

 

「4連撃か・・・」

 

 誰もがそこでラッシュのOSSが終わったと思った。しかし空中にいるラッシュにソードスキル後の硬直が来る気配がないことに、一部のプレイヤーたちが気付くと同時に、ラッシュの刀は再び鞘から抜き放たれた

 

「まだ行くぞ?!」

 

「ならなんで一旦鞘に戻したし?!」

 

 再び抜かれた刀でラッシュはボスを斬り始める。初めに付けた4本の切り傷を補助線にするかのように、星型八角形(八芒星)を刻む。最後にその中心に突きを放ち、素早く抜き去る

 

「必殺、『なんか適当に図形描いて点打ったらできた13連撃』切り!!」

 

「「「ネーミング悪っ?!」」」

 

「ってか、なんでモーション中に鞘に戻す動作入れたんだよ・・・?13連撃だけど隙だらけだろ・・・」

 

「そういう無駄なところに拘るのはラッシュらしい気がするぜ」

 

 周囲がツッコミを入れるが、そんなことお構いなしにラッシュは納刀してソードスキルを終え、静かに着地する。キリトとクラインは呆れたようにボヤいていた

 13連撃を叩き込まれたボスはというと・・・

 

「うわー・・・微妙に残ったよー・・・この刀がもうちょっと強かったらイケてたぜ?」

 

「なんですって?!」

 

「事実だろ?・・・あ」

 

 数ドットだけHPが残っていた。ソードスキル後の硬直で動けないラッシュは、それを見て刀のせいにした。製作者であるリズベットが文句を言おうとするが、直後にラッシュの刀は壊れて消滅した。SAOからの引継ぎで刀の習熟度は上限に達している。もちろんラッシュは刀に無理な力を掛けたわけでもない。しかし、いくら耐久値の低いAGI寄りの刀で堅い相手を斬ったとはいえ、13連撃で耐久値が全て無くなることは通常ありえない

 

「13連撃を1回やって、耐久値全損・・・なにか言いたいことは、リズベットさん?」

 

「あー、うん、そのー・・・ごめんなさい」

 

 ラッシュのジト目での追及に、流石に自分でも不良品だったと認め、謝罪をしたリズベットであった

 ちなみにボスは、後衛からアスナが特攻仕掛けて倒していた

 

 ともあれ、こうしてキリアス夫婦の思い出の愛の巣への最難関は突破されたのである




 21層フロアボス攻略戦
 この2週間でラッシュがALOでやってたのは、賭け試合による金儲けと、SAOにはなかった魔法防御系のパッシブスキルの経験値稼ぎくらい

 ラッシュの妬み。リア充は爆発すべきなのは宇宙共通
 ケットシーなので、一応アリシャと面識ができた。今後出てくるとかは無い

 攻略戦当日
 シノンのラッシュディスり。変なタイトルのメッセージ送りつけられて、読んでみれば要するに『クリスマスに一緒にALOやろうぜ』という内容。イラッとするのも仕方が無い
 ALOでもラッシュはスーツ。ファンタジー世界でスーツ姿に刀って、違和感の塊。一方のシノンもロングボウに制服。アシュレイ乙
 キャーティアの体の説明。主耳は猫耳でメインの音を聞く機能。骨伝導で音を拾うらしい。たぶん人間の形に進化していく過程で猫耳の可動域が小さくなってしまい、音の方向が判別しにくくなったために、副耳ができたと推測。キャーティアはケモミミでも珍しい、人間の耳の位置がどうなっているかをちゃんと設定している種族

 ボス戦開始
 ラッシュいきなり戦力外。偵察を省いたからね。仕方ないよ。ラッシュのヘイトの稼ぎ方は、要するに『敵の目障りな位置にいる』こと

 視点変わって後衛陣地
 菊岡はキャーティアの存在を知りません。日本で知っているのは、詩乃と香蓮を除くと、交渉準備をしている外務省の一部官僚のみ
 シノンのフォロー。実際GGOならAGI型のプレイヤーはあれくらいザラだろうに。ALOはGGOより現実の運動神経がモノをいうゲームシステムだからすごく感じるだけ
 攻略指揮はアスナ。アニメではユージーン将軍がいるように見えるから、ひょっとしたら領主クラスのプレイヤーもいるかもしれないが、レイドのリーダーはアスナという設定です

 ラッシュ「今から本気出す」
 OSSの設定は適当。鯉口切っただけの鞘にほぼ挿しの状態でスキルが読み込まれるのかとか、モーション中に鞘に戻すことができるのかとか・・・
 ラッシュのOSSは抜刀から、2度目の納刀までのモーションで、ポンッとジャンプして空中にいる間に全てのモーションをこなしたので、長くても5秒くらい?片手剣汎用斬り系OSSってことで。名前はまだこの13連撃OSSができて間もないという感じで、ラッシュも決めてないってことで

 ラッシュの刀は不良品だった?
 習熟度が上がると、システム上の設定で使い方が上手くなってると判断されて、武器の耐久値が減りにくくなる補正が入るというオリ設定。もちろん実際の使い方の良し悪しを逆転させるほどの補正は入らない。SAOで2年間刀使って扱い方をマスターしてるラッシュは当然13連撃でも耐久値を全損させることは無い。普通の刀なら

 ボス撃破
 ちなみに、キリアス夫婦の家で初めに行われたことは、ラッシュの13連撃の命名会議だったり・・・

 次回キャリバー

 ぶっちゃけ作中で時期が被ってるマザーズロザリオまではALOと現実がメイン。じゃなきゃラッシュをキャーティアにした意味がないし


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10話

「なぁレン・・・最近ラッシュのやつがドロップ品を売りに来る頻度が減ったような気がするんだが・・・?」

 

「そうですねー。今別アカウントでシノンとALOに行ってるみたいですから、仕方ないですねー」

 

 GGO、商人ロールの個人バイヤーが経営するガンショップ・ブラックアロー。GGO内のラッシュたちの補給の拠点となっている場所である。店主はコレクション兼商品の銃たちを満足そうに見つつ、やや退屈そうに、消耗品の補給にやってきていたレンと話していた

 

「何?ALOだと?あんなメジャータイトルを今から始めても、上位プレイヤーのお零れ頂戴プレイしかできないんじゃないか?」

 

「ラッシュさん、元々ALOにアカウント持ってるらしいですよ。新規アカウントはシノンだけですよ」

 

 ―ラッシュさんがSAO生還者だってことは、言わなくてもいいかな?

 

 店主は人気タイトルVRMMOの競争の激しさと出遅れを取り戻す難しさを指摘する。事実、VRMMOはそれ以前の非VRのネットゲームよりもプレイ人口が多い分、競争が激しい。またアバターとはいえ顔を合わせて会話ができるので、人間関係にも気を使わなければならず、先を行くプレイヤーに追い付くことも困難と言われている。ただゲームが上手いだけでは、ほぼ上位に上がることは不可能。しかし、シノンのように人や運に恵まれたら新規プレイヤーも上位に名を連ねられるチャンスがあるという、ある種現実よりも厳しい世界である

 

「もう最前線まで行ってるらしいですよ。昨日はアップデートで追加された場所を大人数で攻略したって」

 

「ほーお・・・ま、アイツのコミュ力なら、人付き合いに苦労はせんか・・・にしても、ラッシュがシノンとばっかりつるんでALOに行ってて、お前さんとしては面白くなかったりしないのか?」

 

「え?いやべつに・・・」

 

 ―っていうか私がラッシュさんの背中押して、行ってもらってる感じなんだけどなぁ・・・

 

「あれ?そういうもんか?まぁ、俺はそういう目的でVRゲーしてるわけじゃねぇから興味無いが、他人がやってるのを否定もしないスタンスのつもりだ。俺はてっきりお前さんやシノンは、ラッシュのことをそういう風に見てると思ってたぜ?」

 

 店主のからかいにレンは冷静に返す。そんなレンの反応は、店主にとっては意外だったようで、核心を突く質問がされる

 

 ―私がラッシュさんを・・・?んー、この前詩乃ともそれ話したけど、まず地球人とキャーティア人が付き合えるのかって問題が・・・

 

「確かに、そういう感情はある、ことにはある・・・って感じかな」

 

 ―仮に生物学的に問題がなかったとして、ラッシュさんと・・・悪くない気がする。リアルでも私より背が高かったし、リアルでもGGOでも普通に接してくれて話し易いし・・・お母さんであるジェーンさんの印象もいいし、結婚してからもいい関係で・・・

 

 近くに既婚者の姉が暮らしているためか、恋愛を結婚前提として見ている感があるレンであった

 

「たぶん、シノンも同じ感じだと思う・・・でもGGOで会える時間なんて限られてるし、取り合うのに時間を割くくらいなら、どうせゲームだし2人でラッシュさんを振り回してたほうが楽しいだろうなぁ・・・」

 

 ―現実でも、私は大学1年生、詩乃は高校1年生、ラッシュさんは社会人・・・すぐにどうこうなることもないだろうしなぁ・・・折角仲良くなった2人とピリピリしたくないし・・・

 

 現実で顔を合わせたことがあることは店主は知らないため、予防線としてGGO内のこととしてレンは返した

 

「エグイこと考えるなぁ・・・お前さんらに目を付けられたラッシュに同情するぜ」

 

「さて、GGOに入るのは今年は今日で最後。明日は帰省しなきゃだし、そろそろ落ちますね。よいお年を~」

 

「おう、よいお年を~」

 

 今日もGGOは平和な1日であった

 

 

 

 

 

「え?何?エクスキャリバー?」

 

『あぁ、今年最後の大クエストってことで、アスナたちとヨツンヘイムのダンジョンに行くんだ。移動方法の都合で7人の1パーティでしか挑めないってことなんだが・・・』

 

 年の瀬も迫った28日。現実世界でラッシュのスマホにキリトの中の人こと桐ヶ谷和人からの着信が来た

 

「悪い、俺は無理だ。ちょっと来年から職場の人員が増えるから、今大掃除がてら受け入れ準備してるんだ。ゲームに入る余裕が無い」

 

『そうか・・・』

 

「代わりに詩乃を誘ってやってくれ。香蓮がもう帰省して、俺がこんな状態だから、たぶんヒマしてるだろうさ」

 

『わかった。じゃあまた』

 

 電話が切れ、ラッシュは作業に戻った

 

 

『ってラッシュが言ってたからかけてみたんだが・・・』

 

「えぇ、まぁヒマだったけど・・・」

 

 年末ではなく、年が開けてからの帰省の計画を立てていた詩乃は、キリトからの電話に、顔を顰める。越してきて1年目であるため、そこまで大掃除も手がかからず、またキャーティアから与えられたアシストロイドたちの手伝いもあったおかげであっという間に終わり、詩乃は久方ぶりの余裕のある年末を過ごしていた

 

 ―まるで私がラッシュやレン以外の友達がいないみたいじゃないの・・・否定できないけど

 

 デスガン事件以降、正確には銃に対するPTSDをある程度克服し、イジメから抜け出してからは、学校内で話をするくらいの友達はできている詩乃だったが、休みの日に遊ぶまでの友達はまだいなかったりする

 

 ―ま、ラッシュ抜きでもALOで人付き合いをするにはいい機会か・・・

 

 これまで、ALOにはラッシュと一緒にログインしていた詩乃にとって、初めてラッシュ抜きでALOにログインすることになる。キリトとはデスガン事件の説明で現実でも顔を合わし、初めてALOにログインした日から数日後には、エギルのカフェで現実のアスナたちとも会っている。ラッシュ抜きでもなにか問題が起こるとも思えないため、詩乃も安心して参加を決める

 

「それじゃ、あとのことはログインしてからでいいわね?」

 

『あぁ、それじゃALOで』

 

 っと電話を切り、ふぅっと一息

 

「それじゃ、準備しますか・・・」

 

[いってらっしゃい]

 

 アシストロイドのプラカードに詩乃はクスリと笑う。アミュスフィアを装着してベッドに横になる

 

「それじゃあ、留守番お願いね」

 

[まかせて]

 

「リンクスタート」

 

 

 それから数時間後のこと・・・

 現実世界、東京御徒町にある『ダイシーカフェ』は夜の営業時間に入り、昼間のカフェからバーとしての営業にシフトしつつあった

 店の入り口のドアが開き、ドアに付けられたベルが音を鳴らし、店内に客の訪れを告げた

 

「いらっしゃいませ」

 

「よ、エギル。いいところだな」

 

 夕食時ではあるが、年末の忘年会シーズンということもあり、やや少な目の入りの店内で、スーツ姿の客はカウンター席に着き、カウンター内で料理を作っている店主に話しかけた。それに驚き、店主であるSAO生還者、アンドリュー・ギルバート・ミルズ、通称エギルはその客をまじまじと見た

 

「お前、ラッシュか?」

 

「店に来ねぇって嘆いてたから、仕事終わりに来てやったぜ。カフェだって聞いてたが、夜はバーなんだな」

 

 お客は地球人に変化しているラッシュである

 

「おうよ、クラインのヤツなんかはよく呑みに来るぜ。酒はイケる口か?」

 

「イケるが悪い、車なんだ。そこのコインパーキングに停めてきてな」

 

「そりゃ残念だ」

 

 エギルは作業をしながらも、肩を竦めた

 

「飯は何が・・・っと」

 

「おっと悪い、電話が・・・」

 

 ラッシュがメニューを選んでいると、店の電話が鳴る。エギルは電話の子機を取って肩を頭で挟み、応対しながら作業を続けた

 

「はい、ダイシーカフェ・・・あぁキリトか?・・・そうか、終わったか・・・それで、打ち上げをウチで・・・まぁ1時間もすれば空くからできるぞ・・・わかった、準備しておく」

 

「なんだ?キリトたちが来るのか?」

 

「ダンジョン攻略と聖剣エクスキャリバー獲得の打ち上げだとさ。それと今年最後の現実での集りだとよ」

 

 電話を戻したエギルはラッシュに内容を話す

 

「若いねぇ」

 

「お前さんも見た目変わらんだろ。そういやお前さん歳は?」

 

「今年22になった」

 

「クラインより下かよ。アイツ25だからな。それでもう仕事してんのか?」

 

 22歳ならば普通は大学4年生辺りである。そんな年齢でスーツを着て仕事をしているラッシュにエギルは驚く

 

海外(・・)育ちだからな。飛び級で少し早めに学生は終えてた。SAOに入ったときは、もう今のところに就職してたな。だからってわけじゃないが、今だに下っ端なんだけどな」

 

「お前が人の下で働いてるなんて、俺は想像もできんがな」

 

「そうか?リアルじゃ結構真面目にやってるつもりだぜ?」

 

 キャーティアの外交団は日本で例えるならば外務省と自衛隊を足したような組織である。ラッシュも当然それらの教育を受けた人なのである。ここでアルコールを取れないのも、車で来た以外の理由として、外交団の一員としての行動制限もあるからである

 

「さて、じゃあキリトたちが来るなら、軽めのものにして待って、飛び入りで参加するか」

 

「そうだな。あいつらも喜ぶだろうさ」

 

 

 キリトからの電話から1時間ほど、打ち上げの参加者は集り、クエスト達成お祝い兼今年1年の納会は始まった

 

「ALOでSAOの引継ぎアバターを見てて思ったけど、ラッシュってホント絵に描いたようなイケメンよね」

 

「いきなり凄い絡み方してくるなぁ・・・おーい、リズベットに酒飲ましたの誰だよ?」

 

「飲んでないわよ。スーツでキメちゃってモデルかって」

 

 開始早々にリズベットの中の人である篠崎里香がラッシュに絡み、ラッシュは辟易とした表情をする。遺伝子調整で美形揃いのキャーティアにとっては、イケメンは何の褒め言葉にもならないのである

 

「私は、初めはSAOからの引継ぎだって知らなかったですから、ALOのアバターがそのままいるような感じがします」

 

「私もSAOでは会ったことありませんでしたから・・・それにALOでもスーツ着てますし・・・」

 

 リーファの中の人である桐ヶ谷直葉と、今回のクエストに参加していたSAO生還者のシリカの中の人こと綾野珪子が違和感あると言いたげな表情を浮かべている

 

「なんでぇ!俺だってスーツぐらい仕事で着てらぁな!」

 

「アンタが着てても、普通のサラリーマンにしか見えないわよ。しかしこんなイケメン、会社の女性たちがほっとかないんじゃないの?」

 

 女性陣からのウケがいいラッシュにクラインの中の人こと壷井遼太郎が妬みの声を上げ、それに里香はツッコミを入れつつ、大変そうねぇ・・・っと詩乃を煽る視線を向ける。もちろん詩乃はそんな視線をクールに受け流した

 

「ま、ウチの会社は女性が強いからな。それに、会社のカウンセラーで俺の母親がいるせいか、あんまりそっち系の話はないな。ぶっちゃけ子ども扱いだ」

 

「あら?そうなの?」

 

「社内カウンセラーがいるなんて、結構大きい会社なんですね」

 

「まぁな、福利厚生はしっかりしてるよ」

 

 適度にボカシつつの世間話に付き合うラッシュ。この手の本当の部分を隠す会話は、VRゲーム内でのリアルの話題を話すときとあまり変わらないものである

 

 っと、ラッシュについてはそこそこに、徐々に話題は今日行ったクエストにシフトし、打ち上げは進んでいくのであった・・・

 

 

「ごめんなさいね。わざわざ送ってもらっちゃって」

 

「いや、構わんよ。そんな遠回りってわけでもないしな」

 

 打ち上げ終了後、詩乃はラッシュの運転する車で自宅に送ってもらうことになった

 

「あいつらとのクエストは楽しめたか?」

 

「えぇ、友達とこんな風に遊ぶのは凄く久しぶりだから、少し戸惑ったりもしたけど、楽しかったわ」

 

「そっか、それならいい。人生楽しいが一番だ。そのために俺たちキャーティアは宇宙を渡って楽しいことを探してるんだ」

 

 キャーティアの宇宙外交は、7万年以上にも及ぶ平和なときが続き、文化的な行き詰まり感が強くなったために、それを打破することを目的としている

 

「ねぇ、そういえばキャーティアと地球人って付き合えるの?」

 

「あぁ、リズベットの言ってたことか?」

 

 話の流れで詩乃はラッシュに、ここ最近で気になり始めていたことを聞いた

 

「・・・まぁ、お互い越えなきゃならんハードルはあるが、医学的、あるいは生物学的に不可能じゃないさ」

 

 少しの思考の後、ラッシュは真面目な表情で詩乃の質問に答え始めた

 

「ハードルって・・・?」

 

「まずは寿命だな。俺らキャーティアの平均寿命は200~300歳だ。一方で地球人、日本人は90歳くらいか。その差は大きい・・・必ず地球人がキャーティア人を残して逝くことになる。それをお互いがどう感じるかだ」

 

「そうね・・・」

 

 ラッシュの説明に、詩乃は表情を曇らせた。自身の母親は、夫の死で精神を病んだ。愛する人を残して死ぬ重さ、愛する人に先立たれることの悲しみ、苦しみを詩乃は一番近くで見てきたのだ

 

「次は、単純に競争率の問題。キャーティアは男女比が1対30とかなり女性に偏っている。それでいて一夫一妻制だ。女性側の競争率は単純に考えて30倍。そこに種族の違う女性が割って入ることになる」

 

「それは・・・」

 

「さらにやっかいなのは年1回の発情期だ。男も女も子孫を残す本能が強くなって理性がほぼ無くなる。投薬で止めることはできるが、『止めるのもやむを得ない』という理由と、医者の処方箋がいる。基本的は安全上の理由や怪我等の治療上の理由以外では認められない。これは俺たちキャーティアの法律で決まっている」

 

「止められない人は、どうなるの?」

 

「女性は、運よく(つがい)となる男性を見つけて妊娠して止まるか、VRでそういう行為をして脳を騙すかで止める。問題は男は時が経つのを待つしかないってことでな。1人でも多くの子孫をって本能で、1回ヤっても発情期が収まらん。その辺りは元が猫だから仕方が無い」

 

 かなり赤裸々なキャーティアの男女の事情に、聞いた詩乃は顔が真っ赤になっているが、ラッシュとしてはあくまで生物学の授業のような意識で話している

 

「トラブル防止から、番を持った男性は、相手を妊娠させたら、投薬で止められるが、それもその年と次の年だけだからな・・・」

 

 詩乃としては、結婚などを想定しての質問ではなかったが、発情期のあるキャーティアとしては『付き合う=結婚=子どもを持つ』である

 

「えっと、他にも何かハードルはあるの?」

 

「そうだな・・・まだキャーティアと地球人との間に子どもが生まれた前例は無い。恐らく初めの数例は研究としてデータを取られるだろう。医学的、生物学的に成長過程が記録として細かく残されることになる。これはその子どもが母親の胎内にいるときから始まるだろう。母親は妊娠中、キャーティアシップの医療エリアで管理されることになる。ある意味観察動物扱いだ」

 

 そして最後に・・・っとラッシュは続ける

 

「生まれる子どもが、地球人、キャーティア、どちらの容姿かは胎内での成長を見ていかないとわからない。キャーティアの生物学者は、地球人とキャーティアではキャーティアの容姿になる可能性が高いという意見を示してる。自分が生んだ子が、自分には無い猫の耳や尻尾を持っている。それを受け止める覚悟はいるだろうな」

 

「随分と詳しく語るのね・・・まるで」

 

「今の質問を想定してたようだ、か?」

 

 車が詩乃の住むアパートの前に着く。しかし、会話は続く

 

「えぇ」

 

「してたよ・・・俺じゃなく、母さんがな。GGOでシノンとレンと出会ってから、すぐに過去の事例を調べて、俺に釘を刺してきた。『もしも2人がそういう素振りを見せたら、ちゃんと説明をすること』ってな」

 

「そう・・・」

 

 あのときの詩乃や香蓮は、ラッシュと現実で会うことになるなんて、予想もしていなかっただろう。そのときから想定していたとは、母親とはすごいものである

 

「それで、『その上で、2人があなたと一緒にいたいと望むのなら、あとはあなた次第よ』だとさ」

 

「でもキャーティアは一夫一妻なんでしょ?ラッシュは、私と香蓮、どちらを選ぶの?」

 

 突き放すだけではない言葉に、詩乃は少し安心しつつ、軽いからかいのつもりで聞いてみた。しかし、その問いに、ラッシュは気まずそうに詩乃に顔を見られまいと、フロントウィンドウから運転席側のドアウィンドウに顔を向ける

 

「これも母さんが言ってたことだが・・・『大丈夫、キャーティアの一夫一妻制なんて建前で抜け道だらけだから』っと・・・」

 

「えぇー・・・」

 

「まぁ、詩乃も香蓮もまだ学生だ。その気であっても、今すぐどうこうってわけじゃない。ゆっくり時間をかけていけばいい。母さんの言ってることは、あくまで拗れたらそれで無理矢理解決って意味だろう」

 

「それはどうかしら・・・?」

 

 ラッシュの母親であるジェーンとはまだ短い付き合いだが、案外本気で言ってそうだ、と詩乃は自分たちのそんな将来を少しだけ想像してしまうのだった




 2025年12月の章の最終話
 諸々の説明回

 年末のGGO
 久々登場の店主。ラッシュがALOにもログインするようになったので、ブラックアローは商品の仕入れがやや不安。でも減っただけで無くなったわけじゃない

 VRゲーの後追いの難しさ。トッププレイヤーやギルドの縄張り意識や既得権益で暗黙のルールとかできてそうで面倒そう。トッププレイヤーと偶然装備や戦い方が似ただけで『真似してる』って叩かれて晒されて、商人ロールのプレイヤーも相手にしなくなる。スミスになって武器売ってたら、『誰に断って商売してんの?』って・・・仮想空間に法は無いから仕方が無いね

 レン→ラッシュの関係
 生物学的に問題ないなら相手としてはアリ。シノンから相談されてから時間も経ってるし、そこそこ現実的に考えられてる
 ただ、ラッシュとシノンがALOに入るようになって、GGOで会える時間が減ったため、ゲーム内では恋愛どうこうより3人でバカやってたい気持ちが強い。現実では、3人ともそれぞれ立場が違うし、いきなり事が動くとも思えないから静観の構え

 ラッシュ、キャリバークエスト欠席。お仕事だから仕方が無い

 詩乃とキリトたち
 原作と違い、詩乃の過去のことをキリトたちは知りません

 ダイシーカフェにラッシュがくぅぅるぅ~
 ラッシュのお仕事は年末でも定時で終了。キャーティアの外交団はマジホワイト企業。キャリバークエストは原作どおり終了し、打ち上げの予約の電話。居酒屋じゃないダイシーカフェはサラリーマンの忘年会の会場にはなるわけもなく、貸切可能

 ラッシュの年齢は22歳。あそびにいくヨ!のエリスが16歳で下級士官だったり、12歳の副艦長がいたりなので、飛び級制度はあると思う。ラッシュは19歳で既に外交団の調査員になっていて、仕事でSAOに入った。ラッシュの階級は下級士官よりも下。とはいえラッシュは軍人で、PKKやってたのもその関係だったり、GGOでのプレイヤースキルの基にもなってる。キャーティアは日本人に近い精神を持っているって設定されてるけど、軍隊持ってるから、やっぱり違うところは違う

 打ち上げ開始
 シリカもSAOではラッシュと面識ありませんでした。シリカの件は原作どおりキリトが解決
 キャーティアは女性が強い。男女比1対30で一夫一妻なら男を外交の場に出すのは抵抗があるかなって・・・ラッシュが下っ端なのはそれもあったり。本編では言ってないけどキャーティアの宇宙外交の目的は遺伝子的行き詰まりも打破したいとのことだし。それはつまり別の遺伝子、男女比を考えると、他種族の男性を番の相手としてほしいってことじゃないのかなって・・・『子ども扱いされてる』はラッシュがそう思ってるだけで、実は狙ってる女性キャーティアはいるはず

 帰りの車内。詩乃の現実が好転してますよってことを確認

 キャーティアと地球人のハードル
 原作あそびにいくヨ!でもここまでハッキリと触れてはないかも・・・触れる意味も無いし。しかもあっちは地球人の男性とキャーティアの女性で、こっちは逆。この作品に出てくるキャーティアはあそびにいくヨ!の明るく楽しい雰囲気の外交団じゃなく、真面目な感じの外交団という設定。でもエリス並みの不倫肯定発言もあるところは、やっぱり同じキャーティアだから

 最後の詩乃の予想
 古今東西、三角関係が上手く解決した物語は存在しない。当然、文学少女の彼女はそれを知っている
 ちなみに、この作品は恋愛は重要視してません。あくまで『ラッシュがバトルでイエェェェェイ!する作品』です



 ってわけで、ファントムバレット編からキャリバーまでの、2025年12月の章は終わりです
 2026年1月の章は、前半マザーズロザリオです。ラッシュをキャーティアにした意味はこのためです


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2026年1月~
11話


感動の欠片も無いマザーズロザリオ編、はっじまっるよー


 年が明け、2026年になった。正月休みの3日間も過ぎた1月4日

 香蓮が東京に戻ってきたこともあり、また、年末年始の帰省ラッシュを避けて帰省する詩乃が、香蓮と入れ替わるように次の日に東京を発つこともあり、ブラックアローのメンバーは夜にGGOで会っていた

 

「今年もよろしくお願いします」

 

「よろしくね」

 

「ことよろ」

 

「今年も儲けさしてくれよ」

 

 4人がそれぞれ挨拶をしつつ、適当に世間話に興じ始めた

 そんな中、店主が『あっ!』っと何か思い出したように、手をポンと打った

 

「そういえば、お前さんら、スクワッドジャムって知ってるか?」

 

「知らん」「知らないわ」「わかんない」

 

「お前ら、最近俺に冷たくね?」

 

 店主の問いかけに、3人は考える素振りすら見せず即答で返し、聞いた店主は涙目になる

 

「おっと、先に言っておくが、イカのジャムじゃないからな?」

 

「そんなボケ、誰がするかよ」

 

((そういえば、猫ってイカを食べさせたらダメって聞くけど、キャーティアはどうなんだろう・・・?あれ?そもそもこの前一緒に食べたもんじゃに、切りイカが入ってたような・・・))

 

 店主とラッシュのやり取りを余所に、レンとシノンの思考は脱線していた

 

「簡単に言えば、BoBのチーム戦バージョンだ。どこぞの誰かが個人スポンサーでザ・スカーに開催を要望したらしい」

 

「個人スポンサーって、ザ・スカー金儲けに貪欲すぎだろ。他VRゲーより高い接続料に、公式RMT、グロッケン内に現実の企業の広告出したり・・・その上個人スポンサーの大会開催とか」

 

「ま、デスガン事件で報道されたから、焦ってるのもあるんだろうな。どれもプレイヤーがいなきゃ話にならないシステムだし。プレイヤーを繋ぎ止めるのに苦労してんだろうさ。他にも、対物ライフルがアップデートで大量に増えるって話があるしな」

 

 デスガン事件の報道で、ガンゲイルオンラインの名前は悪い意味で世間に広まってしまっている。その影響はプレイヤーのみならず、広告を出してる企業にも及び、ザ・スカーは苦境に立たされていると言えた

 

「っで?俺らもそれに出ようぜ、と?」

 

「ま、お前さんらは第3回BoBの本戦の1位から3位なわけだし、個人スポンサーの小さな大会じゃ余裕で優勝だろうが、話題作りくらいにはなるだろうさ。日々稼がせてもらってるこのGGOに、ちょっとくらい恩返しするのも、悪くないだろう?」

 

「なるほどな」

 

 店主の言葉に、ラッシュは頷きを返す

 

「っで、本音は?」

 

「お前がALOに行くようになって刺激が無くて寂しいんです」

 

「キモッ!俺、男同士の絡みは現実、仮想問わずNGなんで」

 

 店主が泣きながら本音を口にするが、ラッシュはそれに対し距離を大きく取りながら返した

 

「ハッ、俺だってBLはゴメンだよ。だが、お前がドッサリとドロップ品を持ってくる、あの滾る感覚が、もっとほしいだよ」

 

「それ単純に、もっとコレクション増やしたいとかお金稼ぎたいってだけじゃ・・・」

 

「そうとも言う」

 

 レンのツッコミに、店主はケロリと表情を変えた

 

「とりあえず日程はいつなの?」

 

「2月1日だとよ」

 

「まぁ、私は特にリアルの予定に影響は無いわね。ラッシュやレンが出るなら私も出るわ」

 

 ただし・・・っとシノンは店主に向く

 

「弾薬運搬係は任せたわよ。私、ストレージにはヘカートⅡとグロッグ18のマガジンが1つずつしか入らないから」

 

「おいおい、マジかよ。そんなの聞いてねぇぞ・・・通りで前の戦争のとき、ハンヴィーの中に実体化させたままでマガジン置いてると思ったらそういうことかよ」

 

 シノンのビルドは通常のスナイパービルドよりSTRを多めに振っている、対物ライフル用スナイパービルドというものである。STRが多い分ストレージの容量も大きくなっているが、肝心の対物ライフルがその容量のほとんどを占めており、予備弾薬の携行数が大幅に制限されてしまっているのである

 

「私は一応実体化、ストレージ合わせて50発入りマガジン18本だからP90はなんとかなるかも。だけどハンドグレネードは2個だけだし、あとラッシュさんにもらったサブのビームナイフ壊しちゃったから・・・」

 

「チーム戦なら1回の戦闘の時間も長くなるだろうな。前の戦争で浮き彫りになったが、俺の武装は戦闘が長期化すると、1マガジン当たりの装弾数が少ないからリロードが増えて面倒臭い。そもそもの話が、俺のやってるドロップ漁りのMOB狩りが1マガジンで1グループの敵集団を殺しきる短期決戦だからな・・・」

 

 どんなビルドにも一長一短があり、プレイヤースキルで長所を伸ばしつつ短所を補うことが必要になるのである

 

「レンはともかく、ラッシュとシノンはよく2位3位になれたな・・・」

 

「レンが他を倒したから、俺らの順位が上がっただけだ。俺らのキル数は上位陣の中じゃ少ないほうだ。俺とシノン、あと4位のキリトを足してもレンのキル数には届かない」

 

 店主は知らないが、ラッシュたちはデスガン討伐の裏ミッションを遂行していたので、戦闘は可能な限り避けていた。その結果のそれぞれの順位であった。あまり褒められた戦略ではないが、ラッシュもシノンも予選で実力をしっかりと見せているので、観客から批判されることはなかった

 

「どっちにしろ、そのスクワッドジャムに出るなら、粗を潰しておかないと、案外簡単に負けもありえるかもな。お前も商人ロールだからレベル上げないと頭数にもならんし」

 

「うっ・・・戦闘は苦手なんだよなぁ」

 

「最悪、俺のドロップ漁りに連れてってパワーレベリングするからな。出るつもりなら時間は空けとけよ」

 

「わかったよ・・・」

 

 店主は肩を竦めた

 

 

 次の日、帰省する詩乃を東京駅まで見送りに来たラッシュと香蓮

 

「そういえば、2人に言っておくことがある」

 

 新幹線の待ち時間を潰していた3人に、ラッシュが話を切り出した

 

「年が明けて無事にウチと先方との交渉は始まった。それで、2人は一般人だけど俺らの現地協力者ということにしてある。特になにかやってもらうことがあるわけじゃない。今までどおり口は固めで頼む」

 

「わかったわ」

 

「はい」

 

 周りの人に聞こえないよう、やや声を抑えて2人に連絡事項を伝えた。こういうことは直接会って伝える。自分たちが突破できたアミュスフィアやザ・シードのセキュリティはもちろん。スマホなどの通信機器すらキャーティアにとっては信用できないものなのである

 

「基本、何か連絡事項があるときは、俺か母さんが伝達役になってる。2人からも俺や母さんに連絡くれれば、優先して時間を作れるようになってるから。何度も言うが俺は下っ端で、そう重要な仕事をしてるわけじゃないから、気楽に連絡してくれて構わない」

 

「自慢になってないわよ」

 

「アハハ・・・」

 

 ラッシュの軽い言い方に、詩乃と香蓮は乾いた笑みを浮かべた

 

「緊急時は別の人が行くかもしれないが、そのときはそのまま(・・・・)の姿で君らの前に現れるから、わかると思う。だから知らない人にはちょっと用心深くしてくれ。君らはもう、非日常に半分足を踏み出している状態だってことを、忘れないように」

 

「・・・わかりました」

 

「わかったわ・・・」

 

 緩んだ雰囲気から一転して、真面目な警告をするラッシュ。振り幅のギャップがより警告の重さを彼女たちに印象付けることになったのだった・・・

 

 

 詩乃を見送り、東京駅に残されたラッシュと香蓮。香蓮が帰省から戻ってきた移動疲れも残っているので、ラッシュが車で真っ直ぐ送っていくことになった

 

「わざわざ送ってもらわなくてもいいのに・・・豊洲とは方向逆だから」

 

「そう言いなさんなって。最近ALOに入ってるから、香蓮との付き合いが薄くなってる気がしてるしな。GGOでもブラックアローで会えるときもあれば、会えないときもあるし」

 

「そういえば、リアルで2人きりって初めてかも・・・?」

 

 車内で男性と2人きり。恋愛経験の無い香蓮は少しラッシュを意識するように頬を赤らめた

 

「あ、あの・・・詩乃から聞いたんだけど・・・私たち地球人と、キャーティアが結婚できるって・・・色々問題はあるみたいだけど」

 

「あぁ、聞いたか・・・本当は俺が話さないといけなかったんだけどな」

 

 一旦意識しだすとそのことばかりが頭を占領し、恥ずかしさがあるのに香蓮は話題を振る

 

「ラッシュさんは私や、詩乃のこと、どう思ってるの?」

 

「直球で来るなぁ・・・」

 

「ジェーンさんに言われたから、それだけで真面目に私たちにそういうことを説明しようってのは、少し理由としては弱い気がしたんです。私たちのこと、少しもそういう目で見てないなら、『ありえない』で終わる話だと思いますし」

 

「確かに母さんに言われたこと、あれが単に母親として言ってたことなら、少なくともまだ、2人には言わなかっただろうな。早いタイミングで話したのは、あれは母親としてじゃなく、外交団の医務官の1人として告知してきた事項だったからだ」

 

 ラッシュとジェーンは親子であるが、仕事上の上下関係もある、複雑な間柄である。親としての注意したことが、仕事の遵守事項にもなることもあるのだ

 

 ―命令だから話したの?

 

 詩乃に話したあの内容が、仕事上の命令で行われたことに、香蓮はショックを受けた

 

「じゃあ・・・」

 

 私や詩乃とは、仕事だから関わってるだけ?っと香蓮が問いかけようとした

 次の瞬間だった

 

「ありえないわけないだろう」

 

「っ!」

 

 ラッシュは香蓮の言葉を遮って言い放つ

 

「ありえないなら、2人の前に現れるかよ。マンションに呼んで、秘密晒すかよ。その後アシストロイド送って安全確保したり、現地協力者として外交団が緊急時に保護できるようにするかよ。現にデスガン事件の関係でハッキングして個人情報得たプレイヤーたちに、謝罪なんてしてないし、協力関係だったキリトには何の情報も渡してなんかないからな」

 

 少し自棄が入りつつラッシュが胸の内を語りだした

 

「ぶっちゃけ見てるよ、そういう目でさ。だってGGO内だけの付き合いで終わるかと思ったら、色んな巡り会わせで現実で会えるチャンスが転がってきたんだぜ?内面や本音が出やすいVRゲーで、気軽にモノを言い合える仲の女性を、好きにならないわけ無いだろう」

 

「・・・っ」

 

 『好き』の言葉がはっきりと出てきたことで、香蓮の顔は真っ赤になった

 

「日本の感覚なら、香蓮は19歳で、詩乃は16歳だし相手として若すぎるのかもしれんが、キャーティアは大体16歳で最初の発情期が来る。感覚の違いとしか言えないが、キャーティアの中じゃなんの問題もない。ま、学生ってのは少々問題だが、地球人より長生きの俺らは、社会人になる5,6年後まで待つのも苦じゃない」

 

「ぁぅぁぅ・・・ちょ、ちょっとタイム・・・」

 

 あまりにも直球に語られるラッシュの言葉に、香蓮はとうとう根を上げる。ラッシュも我に返り、自分の言った内容の恥ずかしさに、居たたまれない表情をしている

 お互い落ち着くために、しばし無言の時間が過ぎていく

 

「・・・まぁ正直、この問題は俺の気持ちどうこうじゃなく、女性の側である2人の気持ちが一番重要になる。越えるハードルは女性のほうが多いし、1つ1つも大きいからな」

 

「そう、ですね・・・」

 

 

「だってさ>

 

<だってさ、じゃない」

 

<香蓮さんのその肝の座り方は」

 

<いったいどこから・・・?」

 

 その日の夜、香蓮はトークアプリで詩乃に、車内での会話の内容を伝えていた。返ってきた詩乃の文面には、呆れが表れていた

 

「私も聞くべきか迷ったんだけど>

 

「やっぱ気になったから・・・>

 

「男女比1対30の中で、違う種族の私たちをどう思ってるか?>

 

<それは・・・」

 

<そうなんだけど」

 

<ここの文章で見てるだけで」

 

<顔から火が出そう」

 

 ―だよねー・・・私はそれを直接言われたんだよ

 

 詩乃の返信を見て、香蓮は一旦スマホから目を離して、寝転がっていたベッドからボーっと天井を見る

 

 ―一応私はラッシュさんのことを、好きではあると思ってる。けど、それがラッシュさんの言ってるハードルを越える覚悟を持てるほどかと言われると・・・ラッシュさんの言ってるハードルを越えてでも、ラッシュさんの傍にいる覚悟・・・難しいな。わかんないよ・・・

 

 小比類巻香蓮、19歳。初めての恋の悩みは、かなり難題なものであった

 

 

 一方その頃ラッシュはというと・・・

 

「なぁユイちゃんや・・・お前さんのパパは、実は凄いヤツだったんだな・・・」

 

「?」

 

「あれだけ周りの女性陣とキャッキャウフフな展開を経験しても、アスナ一筋なんて・・・」

 

「おいラッシュ、ユイに変なこと教えんな」

 

 自己嫌悪の真っ只中であった。ALOにログインし、偶々見つけたキリトと一緒にいるAIのユイに、悩み相談をしていた

 

「なんだよ。レンかシノンに惚れでもしたのか?」

 

「あぁ、そうだよ。悪いか・・・でも俺は社会人で、あいつらは学生。さらに俺は日本人じゃない。こっちからアクション掛けることもできん。このもどかしさがわかるか?」

 

「わかんねーよ。ってかあいつ()って言ったか?最低だな」

 

「うっせーよ。わかってんだよ・・・」

 

 キリトに言い返す言葉にも気力が無いラッシュであった

 

「どうでもいいけど、あたしの店で暗い空気漂わせないでくれる?客足が悪くなるわ」

 

「元から俺ら以外に客なんて来ないくせに」

 

「あ゛?」

 

 ラッシュたちが駄弁っていた場所の主であるリズベット。ラッシュの言葉に、今まで鉄叩いていたハンマーを投げ付けようと振りかぶった

 そのとき、ドアベルが来客を告げた

 

「あのー・・・お取り込み中、だったり?」

 

「いえいえ、とんでもない!いらっしゃいませ、リズベット武具店へようこそ!片手剣から戦斧まで、なんでも揃えております!」

 

 来客にリズベットが表情と態度を一変させて対応し始めた

 しかし、その来客はリズベットではなく、なぜかラッシュのほうに視線を向け、ラッシュに近付いていく

 

「わぁー、ホントにいたー!この店に来れば、噂の13連撃の人に会えるって聞いたから来たんだ!」

 

「俺?」

 

 来客の用事がラッシュであったことに、リズベットは再び表情を一変させ、来客者の背後からラッシュを睨みつける

 

「ねぇ、ちょっと、僕とバトってくれない?」




 とりま、SJ1まで書き溜めが終わり、賢者モードに入ったので投稿開始

 年始のブラックアロー。ラッシュがALOに行って、店主は刺激(ドロップ品)が足りない

 東京駅でのやりとり、ラッシュが言ってる緊急時は起こる予定なし。もう現実側で面倒な事件はこの作品ではありません

 帰りの車内。ラッシュ→香蓮や詩乃
 訳)好きに決まってんだろ。言わせんな恥ずかしい

 香蓮の恋の悩み
 解決するまでこの作品は続かないと思う

 ALO内
 キリトがアスナ一筋なのかは疑問。ゲームでは他ヒロインのルートもあるし

 賢者モードで読み直すとあとがきが少ないな・・・


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12話

 イグドラシルシティの中央広場。そこで2人の決闘が行われようとしていた。周囲には100人以上の観戦客が集っていた

 

「観客多すぎね?」

 

「僕が呼んだんだー。ちょっと事情があって、僕はこの決闘に勝って強さを証明しなきゃいけないから」

 

「はぁ、強さねぇ・・・」

 

 自己嫌悪+色ボケ中のラッシュは決闘にやる気なさげな態度で、対戦相手のインプの少女に向き合う。2人の間には立会人としてキリトが所在なさげに立っている

 

「ルールはなしありの羽有りでいいのか?それで一撃決着」

 

「んー、そうだね。なんでもいいよ。僕はこの剣だけだから、なしなしでもありありでもいいし、地上戦も空中戦も僕は問わないよ」

 

 対戦相手は腰の提げた剣の柄に手を当て、やや挑発気味にラッシュを見詰めて言う

 

「ただ、できれば全損決着でやりたいんだけどなぁー」

 

「自分が先に一撃もらうことは確定してるってことか?」

 

「そういうわけじゃないけどさー。むしろなんで一撃決着?」

 

 対戦相手のHP全損ルールのリクエストを、ラッシュは拒否するために煽る。しかし対戦相手は煽り言葉を受け流して理由を問いかけてきた

 

「別に?強いモン同士なら、1合でもやり合えば、どっちが上かわかるだろうって思ってな?それに、こっちは斬り合うには刀の耐久値も不安だしな。修理代払ってくれるわけじゃねーだろうし」

 

 それに・・・っとラッシュは言葉を続ける

 

「ぶっちゃけ俺、SAO生還者なんだわ。その俺にHP全損の勝負をさせる意味、わかるか?」

 

 ラッシュの、自身がSAO生還者であるという暴露に、キリトは驚きの表情をする。観客とした集ったプレイヤーたちも、その発言に口々に驚きの言葉を発している

 ALOはSAO生還者が多く接続しているVRMMOではあるが、偏見やトラブルを避けるため、SAO生還者は自身がそうであると公言することはまず無い。キリトやアスナなどSAOで有名だったプレイヤーは、公言しなくても人伝にそれが知られているが、自らが簡単にそれを言えるような、軽い内容では決して無いものなのである

 

「命賭けて戦って、お前さんを殺せってか?冗談キツイぜお嬢ちゃん。俺に君みたいな可愛い女の子を斬り殺せって?」

 

「おいラッシュ・・・」

 

 流石に発言にマズイものを感じたキリトが止めに入る

 

「・・・すまない。ラッシュの言い方はともかく、SAO生還者の中には、まだHP全損の意味を重く捉えているプレイヤーが少なからずいるんだ」

 

「・・・わかった。それなら仕方が無いね。じゃあ半減決着でやろう。それならいいよね?」

 

 キリトがフォローしてその場を納め、対戦相手も事情を聞いて、無理を通すべきでないと悟って引いた

 

「ラッシュも、半減ならいいだろ?」

 

「はいはい、わーったよ。それで、賭け金はいくらにする?最近だと10万は賭けてるが、半減決着だから上乗せして・・・30万くらいか?」

 

「えっと・・・お金はちょっと勘弁してほしいかなー・・・」

 

「はぁ?」

 

 ラッシュが決闘で賭けるお金について聞くと、今度は対戦相手がそれを拒否し始める

 

「いやーその、お金はちょっと別に使う当てが・・・」

 

「いや、ちょっ待てよ・・・金賭けずになに賭けるんだよ・・・?」

 

 バツが悪そうに顔を逸らして言う対戦相手

 

「最強の座、とか?」

 

「最強の座がほしいなら、サラマンダー領に行ってユージーン将軍とやるか、そこにいるキリトとでもやれよ。俺は別に最強なんて称号持ってねーよ」

 

 コテンっと首を傾げながら言った対戦相手に、ラッシュは話にならないといった態度である。観客はラッシュが賭けデュエルで成り上がったことを知っているので、野次が飛ぶことも無い

 

「・・・わかった。ただ、今30万ユルドなんて持ってないから、出世払いで!」

 

「言ったな?マジで取り立てるから覚悟しろよ?」

 

「か、勝てば逆に30万ユルドもらえるんだし!」

 

「声震えてるぞ?あと、そっちから決闘申し込め」

 

 対戦相手がラッシュに決闘を申請し、ラッシュが半減決着でそれを受けた。決闘開始のカウントダウンが始まり、対戦相手が剣を抜く。ラッシュはお決まりのスタイルである抜刀術の構えを取った

 

「そういえば、名前を聞いてなかったな」

 

「デュエルの申請に載ってたけど?」

 

「周りの客は知らないだろう?」

 

 ラッシュの言葉に、対戦相手はあぁそうか・・・っといった表情をする

 

「そうだね。ギルド『スリーピングナイツ』リーダー、ユウキ」

 

「ギルド無所属、そうだな・・・13連撃のラッシュ、とでも言っておくか」

 

 名乗りが終わって、カウントダウンが0になって決闘が開始された

 

「っ!」

 

 対戦相手、ユウキが開始と同時にラッシュに突っ込む。素早い突きと振りの連撃を、ラッシュはキャーティアの動体視力と反応速度、SAOで磨いた見切りで回避する

 

「っ!速いな」

 

 それまでやる気なしだった表情が変化し、気合を入れ直したラッシュ。そんなラッシュの変化に、ユウキは警戒度を上げる。その直後、ユウキの踏み出そうとした足を、ラッシュが軽く蹴り、ユウキは体勢を崩す

 

「クッ!」

 

 体勢を崩されながらも、追撃を避けるために大きく後ろに飛んで距離を取ったユウキ。しかしユウキの右腕の内側には切り傷のダメージエフェクトが付いていた

 

「綺麗に戦いすぎだな。騎士様ロールか?」

 

「いつの間に・・・」

 

「抜く、斬る、納める。とことん突き詰めた結果だ。ま、一撃決着なら俺の勝ちだったな」

 

 ユウキがバックステップで飛ぶ瞬間、ラッシュは刀を半分鞘から抜き、ユウキの腕に傷を付けたのだ。小さな傷で、ダメージ自体は微少なものであったが、この攻撃の本質はダメージではない。納刀状態だから、とどこかで油断が生じていたユウキは、ラッシュの刀を扱うテクニックの高さに驚く。そして、攻めの意識が鈍る

 

「・・・っ」

 

「どうした?来ないか?お前は挑戦者としてここにいるんじゃないのか?」

 

 決闘開始前のラッシュの言葉通り、1合の打ち合いで彼我の実力差を悟ってしまったユウキ

 

「ま、折角大金を賭けた決闘だ、こっちから攻めるのも悪くないか」

 

 これまでの賭け試合では徹底して抜刀術でのカウンター戦法を取っていたラッシュが、スッと刀を抜いた

 

「っ!」

 

 高い敏捷値で一気に距離を詰めユウキに斬りかかる。ユウキは剣で打ち払って防御をしようとする。しかし、ラッシュの狙いはその剣を持つ腕だった。ユウキの右腕にダメージエフェクトがさらに増える

 

「こんのぉっ!!」

 

「やっぱ腕じゃダメージ小さいな」

 

 ユウキの剣を回避しながら呟いたラッシュが、刀を鞘に戻す

 

「頼むから、死んでくれるなよ」

 

「っ?!」

 

 鞘の隙間から漏れるソードスキルの光りに、ユウキは危険を感じ取り、先にラッシュを倒すべく剣を振るうが、それがラッシュに当たることは無い

 13連撃のソードスキルの読み込みが終わり、モーションが開始された。21層フロアボス攻略戦よりも速い振りで、初めの4連撃がユウキに刻まれる

 

「意外と持つな」

 

 4連撃でのHPの減り具合を見て、残りの9連撃を叩き込めると判断したラッシュは、攻撃を続行しようとする。周りからの意見でモーションを改善して、一旦鞘に収める動作は排除された

 

「負け、られないんだっ!!」

 

 しかし、ユウキもただそれを待つわけではなかった。ユウキの剣もソードスキルが読み込まれ光る

 そしてそこからはソードスキルの斬り合いになる。八芒星を斬り結ぶラッシュと、斜めに十字を刻んでいくユウキ。お互いソードスキルの最後の一撃までモーションをこなし、ソードスキルに付与された魔法が発散することで起こる煙が観客からの視界を遮った

 

「ったく、だから一撃決着で済ませたかったんだ」

 

 徐々に晴れていく煙の中で、ラッシュが呟いた声が、周りのプレイヤーたちの耳に届いた。煙が晴れ、姿が見えたラッシュの手から、刀が光となって消えていく。立会人のキリトは一瞬、ラッシュの敗北かと思った

 

「出世払いの30万が入るまで、まーた金欠プレイだ」

 

 次の瞬間、ラッシュの目の前にウィナー表示が出現した

 ソードスキルでの斬り合いの中、先にHPが半分以下のイエローゾーンに達したのはユウキであった。ラッシュはユウキのソードスキルを、致命傷となる部位を避けて喰らってダメージを緩和させていたり、ソードスキルのモーションの僅かな遊び(・・)を利かせて、ユウキの剣筋をズラして命中を回避させたりしていた。刀が壊れたのは、ユウキの剣筋をズラすのに、耐久がゴッソリ持っていかれたためである

 

 ガックリと膝を付き肩を落としてその場に崩れるユウキ

 

「負けた・・・あ、あれ?」

 

 やや放心状態だったユウキは、自身の頬を涙が伝っていることに驚く

 

「お、おかしいな・・・もう、泣かないって決めたのに・・・っ!」

 

 拭っても流れ続けるユウキの涙を隠すように、ラッシュがユウキを抱き寄せた

 

「ったく、何抱えてんだかしらんけどよ、泣きたきゃ泣けばいいだろ。泣くことはストレス発散に一番いいって、俺のカウンセリングをしてる人が言ってた」

 

「うっさい・・・」

 

 抱き締めて慰めるラッシュ、ユウキはそんなラッシュの行為に純粋に(・・・)悔しさが沸き、それをぶつけるようにラッシュのわき腹をボコボコとやや強めに殴る。しかし決闘モードは解除されているのでダメージは入らない

 

「ぶっちゃけ、強かったよお前さんは。俺がここにいる奴らと同じ人間(・・・・)だったら相手にならなかった」

 

 ラッシュの言葉通り、今回の決闘に勝てたのは、地球人とキャーティアの運動能力の差が全てである

 

「もう!いつまで抱き締めてるんだ?!」

 

「おっと、スマン」

 

 いい加減、恥ずかしくなってきたユウキはラッシュを押し退けるように離れる

 

「うし、泣き止んだな。よかったよかった・・・さて、じゃあ30万ユルドは借金としておいおい返してもらうから、とりあえずフレンド登録しよっか」

 

「うげっ」

 

 ニッコリと笑顔で告げるラッシュに、キリトを含めた周囲のプレイヤーは、『こいつ鬼だ・・・』っと思ったのだった

 

 

 

 

 

 次の日、ユウキの辻デュエルには多くのプレイヤーが来た。そもそものラッシュとの決闘の理由が、辻デュエルの告知を出したのにイマイチ人が集らず、その原因が自身が持つ11連撃より強い13連撃をラッシュが編み出していたからであった。ラッシュの13連撃は今のところ誰かに教える予定は無いが、11連撃が手に入るかもという情報はプレイヤーたちをやる気にさせた。しかしそれを鬼のような強さで悉く返り討ちにし、ユウキはあっという間に勝ち星の山を築いた

 

 そんな中・・・

 

「んー、おねーさんに決ーめた!」

 

「へ?え?」

 

 ユウキは自身の目的を果たすための、運命の人を決めた

 その運命の人、アスナの手を取ると、ユウキは羽を出して空中に舞い上がる

 

「おーい、アスナー?」

 

「アスナさーん!」

 

 ―まぁ、あの子はラッシュとの契約があるから、滅多なことはできないし大丈夫だろう・・・それにたぶんあの子は・・・

 

 アスナを連れ去っていくユウキの行動に、リズベットたちが戸惑いを見せる中で、キリトは安心して見送る。キリトのそんな様子に、アスナも多少落ち着きを取り戻して、ユウキの誘導に従って飛び始めた

 

 

 

 そしてしばらく飛び、2人きりになったところで、ユウキはアスナに向き合う

 

「あの、僕たちを助けてください!」

 

「わかった」

 

 ユウキの頼みをアスナは即答で了承した

 

「え?いいの?っというか何も聞かないの・・・?」

 

「事情は全部わかってるよ・・・」

 

「え?」

 

 アスナの言葉に、ユウキは『どうして?』っと戸惑いを見せる。そんなユウキの疑問を余所に、アスナはやや怒りの表情をして続きを口にする

 

「ラッシュさんへの借金だよね?キリト君から聞いてるよ。まったく・・・ラッシュさんったらこんな子にデュエルで30万ユルドなんて大金賭けさせるなんて・・・ホント大人気ないんだから!!」

 

「違ーう!いや、それもあるけどー!!」

 

「え?どっち・・・?」

 

 ユウキの矛盾した言葉に、アスナは混乱する

 

「だから、僕たちのギルドを、助けてほしいんだよ!」

 

「ギルドの権利を担保にさせられたのね?なんて酷い・・・」

 

「ちーがーうーのー!!僕たちのギルド6人にお姉さんを足した7人で、フロアボスを倒したいんだよ!!」

 

「え?フロアボスの討伐を?7人で?」

 

 ユウキは仕方なく、メンバーに会わせる前に目的を話すことにした

 今年の3月で自分のいるギルドが解散すること、その前に記念となること、ゲーム内に名前が残ることを成したい。そこでフロアボス討伐をギルドメンバー6人でやろうとなったこと。だけど1パーティのフルメンバーに満たない6人ではそれが難しく、何度も失敗したから、仕方なく1人メンバーを募集しようということになったこと・・・

 

「えっと・・・なんで私、なのかな?それこそラッシュさんとか・・・」

 

「それは絶対嫌!!あんなお金の亡者に頼むなんて・・・あの人とのことはあくまで僕個人の問題だから、ギルドには絶対に持ち込みたくない!!」

 

 ―随分な嫌われようですよ、ラッシュさん・・・

 

 心底嫌そうに言うユウキに、アスナは昔の自分を重ねる。アスナ自身も、SAO時代にはラッシュを嫌悪していた時期があった。ラフコフ討伐戦、事前に計画が漏れていて、レッドプレイヤーの奇襲で乱戦になってしまった。そのときラッシュは躊躇なくレッドプレイヤーを殺して排除していった。そんなラッシュを味方の攻略組プレイヤーはレッドプレイヤーを見るような嫌悪の目で見ていたのだ。もちろんアスナもその1人であった

 

「うん、わかった。微力ながら手伝うよ」




 ユウキ登場の12話

 ラッシュ対ユウキ
 戦うまでが長い。ちなみにアニメのマザーズロザリオ編のアスナ対ユウキのシーンで、半減決着のルールはウィンドウには無かったり・・・
 ラッシュの回避力。見切りはレッドプレイヤーとの戦闘経験から得たものなので、キリトやアスナたちのより対人向きという設定
 決着。そしてラッシュはまた刀を壊す。ラッシュがまともにダメージを喰らってるのは初かも

 アスナお冠
 アスナのユウキへの第一印象が『借金少女』へ・・・


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13話

 1月7日、平日

 都内の多くの学校が3学期の始業式をしているこの日、ラッシュの母親であり、GGOでジェーンを操作するキャーティアの女性、ケニーは、医務官として地球の医療技術についての調査をしていた。もちろん、キャーティアのハッキング技術を用いて、勝手に論文やデータを盗み見ているわけである

 

「VR技術を医療転用した機器の臨床試験・・・」

 

 ケニーは日本でのメディキュボイドの臨床試験の経過データを読んでいた

 

「試作1号機、被験者、紺野木綿季、15歳。病名、後天性免疫不全症候群」

 

 キャーティアにはかざすだけで診察から治療までを行え、擦り傷から遺伝子治療まで可能な万能な、医療コミュニケーターという医療機器が存在する。しかし、それでも生命の大切さは変わらず、医者という職業はなくならず、医療の研究は日夜続けられている

 

 ―ターミナルケア目的にしては機器が大きすぎて高額。導入できるのは一部の富裕層を相手にしてる病院や介護老人ホームってところかしら?それでも実用化したら需要に供給が追いつきそうに無いけど・・・さて、患者の家族から、いったいいくら取るつもりなのかしら・・・?

 

 仕事モードのケニーは、モニターに映るデータを冷めた目で読み続ける

 

「この子のような、本当に必要とする患者に行き渡るのは、10年単位の時間がかかりそうね」

 

 っと、ケニーが別の論文の調査に切り替えようとしたそのとき、ケニーの仕事部屋である医務室のドアが開く。そしてラッシュが医務室に入ってくる

 

「あら、トスカ君。どうしたの?」

 

 ケニーは仕事モードの医務官から一転して母親の顔になり、ラッシュこと本名トスカに向く。子ども扱いされることを嫌う彼が仕事時間中にケニーのいる医務室に来ることは、珍しいことなのである

 

「ちょっと専門外のデータが出てきたから、意見をもらいに」

 

「なるほどね」

 

 トスカはそう言うと、端末から調査中のデータを空中モニターに映し出す

 

「例の交友関係の調査ね」

 

「全く、デスガン事件なんか起こるから、全部洗い出さなきゃならんくなった」

 

「わざわざ介入するからでしょ。上が言うには、そんなの放っておけばいいってことなのよ。所詮は余所の星の小さな事件なんだから」

 

 デスガン事件に関わってからというもの、ゲーム内にラッシュとしてログインした際の関わる人物の簡単な身辺調査が仕事として増えたトスカ。不穏分子の洗い出しは、外交団の安全に関わる問題なので、キッチリこなさざるを得ない

 

「えーっと、アカウント名YUUKI。本名紺野木綿季・・・あら、偶然ね」

 

 ハッキングで得た個人情報を読み上げたケニーは少し驚くと同時に、それまで読んでいたメディキュボイドの臨床試験の被験者データを横に並べる

 

「トスカ君の聞きたいことは、この子の病気のことね?」

 

「うん、まぁ・・・ぶっちゃけ治る見込みがあるのかどうか」

 

 医療は専門外のトスカでも、臨床試験の期間が長いことはデータから読み取れた。それだけ長い期間治療を要する病気ならば、完治するかどうかを疑うのは当たり前とも言える

 

「無理ね。今の地球の医療ではこの子の病気は治らない。治せないわ。今も医療用VRマシンを用いて、体感覚をカットして苦痛を無くすことが精一杯のようね。持ってあと1,2ヶ月ってところじゃないかしら?」

 

「そうか・・・」

 

 ケニーが医務官として、冷静に病気の進行具合からの余命を見積もる。トスカはややショックを受けつつも、調査書にケニーの意見を記入した

 

「あまり深入りしちゃダメよ。可哀想と思っても、この子に医療コミュニケーターは使用することはできないのだから」

 

 キャーティアにはキャーティアの守るべき法があり、それによってキャーティアと比較して医療レベルの低い星での医療コミュニケーターの使用の制限が入っている

 

「わかってるよ・・・」

 

 力なく言葉を返し、トスカは医務室から出ていた

 

「まったく、あの子ったら・・・」

 

 

 

 

 

 1月の第2月曜日、日本は成人の日という祝日であり、その前の土日と合わせて3連休になる

 そんな3連休の初日の土曜日、アスナとスリーピングナイツのフロアボス攻略戦は決行された。しかしそれは失敗に終わり、2度目の挑戦に向かっているとき、トラブルは起こった

 

「そう、じゃあ・・・戦うしか、ないよね・・・」

 

 スリーピングナイツの挑戦を盗み見て、フロアボスの攻略を有利に進めるギルドが、2度目の挑戦をしようとするスリーピングナイツの行く手を阻む。レイドパーティのメンバーが揃っていないにも関わらず、挑戦権を主張するギルドに、ユウキは剣を抜いた

 

「ヘッ、後ろを見ても同じこと言えんのか?」

 

「っ?!」

 

 相手のプレイヤーたちの中の1人が、そう挑発する。ユウキたちが振り返ると、相手のギルドの残りのレイドパーティのメンバーが押し寄せて来ていた

 これは流石に・・・っとユウキもアスナも思った・・・そのときだった

 

「悪いな。ココは通行止めだ」

 

 押し寄せる集団に紛れていたキリトが、スキルの壁走りを使用して前に出て、集団を止める

 

「おいおい、ブラッキー先生よ?この人数相手にやる気か?勝てると思ってんのか?」

 

「そうだな。俺じゃキツイかもな・・・」

 

 だけど・・・っとキリトが言うと同時に、集団の背後から断末魔が響く。集団が後ろを見ると、1人のプレイヤーの死亡後のリメインライトと、異彩を放つスーツ姿のプレイヤーが1人

 

「じゅ、13連撃のラッシュ・・・」

 

「・・・」

 

 刀を構えたラッシュの姿に、集団がザザッと距離を取り、道ができた

 

「お、お前はSAO生還者で、PKをしないんじゃ・・・」

 

「ハッ、この前の決闘の観客がいるのか。俺は可愛い女の子を斬りたくないって言ったんだ・・・お前らムサい男共なんざ、いくらでも斬ってやるよ」

 

 氷かのような冷たい表情で言い放つ。そんなラッシュの姿に、味方であるはずのキリトですら背筋に冷たいものが走る

 

「そ、それでもたった2人だ!なにができるってんだよっ!!」

 

「そうだな。50人を相手に皆殺しできたGGOじゃなく、ALOだもんな」

 

「ご、50人?!」

 

 フロアボス攻略のレイドパーティの上限人数は49人である。ボス部屋の扉の前に待機しているメンバーが十数名いるので、キリトとラッシュの間にいる集団の人数は大体30名ほどである

 

「アイツには、この刀の代金30万ユルドを払ってもらわなければならない。じゃないと、俺がリズベットに殺されるからな」

 

「ひ、人殺し・・・」

 

「安心しろ。命が担保されてる世界だ。町で復活するさ」

 

 

 

「行こう、ユウキ!」

 

「え?あ、う、うん!」

 

 後方で始まった戦闘に、ユウキは釘付けになっていた。ラッシュの殺気は彼女も感じ取ることができた。圧倒され、恐怖も感じた。そんな彼女を我に返らせたのは、アスナの声だった

 

 ―どうして?どうしてラッシュはそこまで・・・

 

 扉の前にいる残りメンバーとの戦闘をしながら、ユウキはラッシュの行動をずっと問い続けていた

 

 ―借金があるから?ただのネトゲの貨幣にそこまでするの?どこかのゲームみたいにRMTできるわけでもないのに?

 

 ユウキの、ラッシュへの印象は2つ。お金に汚(ガメつ)いこと。そして見た目や言動に反して異様に人の反応を気にしていることだった。決闘のときもHP全損を避けていたのは、周囲の目を気にしているからだと、ユウキは読み取っていた

 

 ―それをどうして、こんなところであっさりと・・・僕なんか(・・・)のために

 

 

「ハァー、疲れた」

 

 ユウキたちが扉の前のメンバーを倒し終わる。それとほぼ同時に、ラッシュとキリトと、それに遅れてきたクラインが集団のプレイヤーを倒しきったのだった

 辺り一帯にプレイヤーのリメインライトが残る中、ラッシュは刀を納める

 

「耐久も残ってるな。いやぁー流石30万ユルドの予算で頼んだオーダーメイドだ。いい仕事してるぜ」

 

「どうして・・・?」

 

 刀が壊れなかったことに安心するラッシュに、ユウキが近付いて問いかける

 

「言っただろ。お前さんに30万ユルド払ってもらわんと、俺がリズベットに殺されるってな」

 

「そんなの、わざわざこんなことしなくたって・・・例え、僕が払えなくても、また賭け試合で稼げば」

 

「いいか?賭けはちゃんと支払い分を取り立てるから成り立つ。支払いから逃げるのは詐欺師のやることだ。お前さんは詐欺師になりたいのか?」

 

 親が子を諭すように言葉をかけるラッシュ。ユウキはそれに首を横に振って返す

 

「なら、行ってこい。まずはギルドの目的を果たせ。借金返済はその後まで待つさ」

 

 ユウキの体をクルッと回し、背中を叩いて仲間の下へ送り出すラッシュ

 

「待ってて!絶対、絶対返すから!行こう、みんな!」

 

 そしてスリーピングナイツとアスナがボス部屋の扉を開けて中に入った。それを確認し、ラッシュとキリト、クラインの3人は撤収しようと来た道を戻り始める

 

「ラッシュ!ありがとう!」

 

 扉が閉まる最後に、ユウキの声が隙間から飛び出してきた

 

「ありがとう、だとよ」

 

「ラッシュにだけかよ。俺やキリの字も戦ってたっての」

 

 キリトとクラインがニヤニヤと、からかうような表情でラッシュに言う

 

「お前は遅刻しただろ」

 

「それを言うなよ。ここの道が複雑なのが悪いんだぜ」

 

「それに、ほとんどラッシュが倒したからな。ザッと半分以上はラッシュだろ?」

 

「知らんな。MOBもプレイヤーも数は数えんようにしてる」

 

「サラッと重いこと言うなよ・・・」

 

 

 

 

 

 スリーピングナイツの27層フロアボス攻略戦は成功した。しかし、ユウキはそれ以降ALOにログインしなくなったのだった

 そして2日経った月曜日

 

「ねぇー?そろそろ代金支払ってほしいんですけどー?」

 

「それはユウキに言ってくれ。まぁ今日もログインしてないが」

 

 リズベットからの代金の催促に、ラッシュはフレンドリストを見ながら返す

 

 ―まさか、容態が悪化したのか?いや、でも母さんの見立てではまだ・・・でも『持ってあと1,2ヶ月』なら、もういつ何が起こってもって状態だと思うべきか・・・

 

「ログインしてないなら言えないじゃない。あたし明日から通常授業でインできる時間がかなり減っちゃうんだから」

 

「じゃあアスナに伝言でも託しとけよ。同じ学校なんだろ?アイツが最後に会ってたんだからよ」

 

「それがアスナに聞いても、突然のことでわからないって。他のメンバーも知らないみたいだし」

 

「じゃあ諦めようぜ。お互いユウキに騙されたってことで」

 

「あ゛?刀差し押さえるわよ?」

 

「スンマセン・・・」

 

 リズベットの剣幕に、ラッシュが即行で謝罪した

 

 ―でも、マジでどうすりゃいいんだか・・・そりゃあ支払いだけなら、賭け試合で稼げばどうにかできるんだが・・・それをするのもアイツを信じてないようで・・・あぁクソッ、メンドくせえ

 

 

 

 

 

 次の日

 

「トスカ君、外へ出ましょう」

 

「外?」

 

 ユウキの情報をモニターに開いたままウンウンと唸っているトスカに、ケニーが車のキーを見せて誘った

 

「ちょっと行きたい場所があるのよ」

 

「行きたい場所?」

 

「横浜港北総合病院ってところなんだけど」

 

「それって・・・」

 

 モニターに映る、ユウキの情報をもう一度見た。逆探知で出たアクセス場所の施設名がケニーの言うそれであった

 

「深入りしちゃダメって言ったのに、こうもすぐに破っちゃうのだから・・・会いたいんでしょ?彼女に」

 

 

「っで、認識霍乱装置(そんなもの)まで使って、昼間っから病院の関係者エリアに忍び込みとは・・・」

 

 トスカとケニーは今、横浜港北総合病院の関係者専用区画にやってきていた。もちろんアポ無しの彼らは無許可での立ち入りである。認識霍乱装置という、人の意識に干渉する装置を使い、病院関係者の注意を逸らしての侵入である

 

「それだけじゃないわよ。ハッキング班の子にお願いして、監視カメラ映像をインターセプトしてもらってダミーに差し替えてるし、ドアの開錠記録も残らないようになってるわ」

 

「もう何でもありだな。俺らキャーティアって日本と外交を結ぼうとしてるんだよな?」

 

「交渉に裏工作は付き物よ」

 

 呆れるトスカに、ケニーは『まだまだ甘いわね』っといった表情である

 

「ここね。心の準備はいい?」

 

「別に想い人に会うわけでもないのに、心の準備なんて」

 

「誰もそんな準備をしてとは言ってないわ。3年間フルダイブし続けている人間がどんな姿になるのか、分からないあなたではないでしょ?」

 

「軽率な発言、失礼いたしました・・・」

 

 医務官としての顔になったケニーに、トスカは子としてではなく、部下として丁寧に謝罪した。トスカもSAOで2年間フルダイブしたので、彼女の体がどんな状態になっているのかは、容易に想像することができた

 

「ちなみに、メディキュボイドから病院のサーバーにアップロードされる彼女のバイタルデータも、ダミーになってるから」

 

「おいおい・・・ま、うん、とりあえずオッケー」

 

 トスカの心の準備もでき、2人は臨床試験室の携帯式ハッキングツールでドアを開錠して開ける

 

「このガラスの向こうはエアコントロールのようね」

 

 ケニーがその場にあるパネルを操作して、ガラスの向こうが見えるようになった

 

「っ!」

 

「終末期はどんな種族も似たような姿ね。トスカ君は見たことないでしょうけど、老衰で死亡する前のキャーティアも同じような感じになるわ。トスカ君もあの2年間は似たような状態だったわ」

 

 ベッドに横になり、骨と皮といった状態のユウキの中の人、紺野木綿季の姿。点滴や機材のセンサーが体から伸びていて、周囲のモニターには、彼女の生体情報が全て表示されていた

 そんな姿にトスカはショックを受けるが、医務官のケニーには見覚えのある光景だった

 

『・・・誰?』




 ラッシュとジェーンの本名
 キャーティアの存在は秘密だったので、ゲーム内からは類推されないように、ゲーム内の名前は本名とはまったく関係なし

 メディキュボイドの考察
 アニメのあの外観だと、市民病院に置けるようなものには思えないけど、横浜港北総合病院ってどんな病院なんだろ?ちなみに、某救命病棟のドラマの第2シリーズの舞台が港北医大救命救急センターだったり

 ラッシュの交友関係の調査
 ハッキングでザッと個人情報を抜き取る程度です。何かあったら使うかも。その何かが起こる予定は無い

 ラッシュの刀、生存
 魔法を切ったら武器の耐久値ってどうなるのだろう?まぁ、ラッシュは『当たらなければ(ry』なので関係ないけど

 病院に潜入
 ラッシュの『もう何でもありだな』は、書いてる自分も思ってる


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14話

『・・・誰?』

 

「っ!」

 

 ガラス越しの会話用に付けられたスピーカーから、か細い声が発せられた

 

「あ、あのー、母さん?見られてるみたいだけど・・・ハッキングや認識霍乱装置(それ)は?」

 

「切ったわ。ハッキングはまだ継続中で、今この部屋と外は完全に隔離されてるから安心して」

 

『・・・ラッシュ?』

 

「あぁ、そうだ・・・俺がラッシュだ。本名はトスカって言うんだが・・・まぁ好きに呼んでくれ」

 

 スピーカーから発せられる木綿季の声に、トスカが戸惑いながら返す

 

『どうして・・・ここに?』

 

「言っただろ?絶対取り立てるって。お前さんも絶対返すって言ったじゃないか」

 

『アハハ・・・そうだったね・・・でも、ゴメン。フロアボス討伐で得たお金、祝勝会で使っちゃったんだ・・・』

 

「おいマジかよ・・・」

 

『そっちの女の人は?さっきお母さんって・・・』

 

 状況に頭がついていかないトスカに、気を使った木綿季が話を振った

 

「トスカ君の母、ケニーよ」

 

『若いお母さんだね・・・お姉さんにしか見えない』

 

「ありがと。私は医者をしてるのよ。あなたに1つ質問があるのだけど・・・もしも、あなたの病気が治って、生きられるなら、全てを失える?」

 

 ケニーのその質問に、木綿季だけでなくトスカも固まった

 

『どういう、こと?心理テストかなにか・・・?』

 

「そうね、あなたの思想に関するテストと受け取ってくれるかしら?全て・・・あなたの持ってるもの、個人資産はもちろん、思想や戸籍といったアイデンティティーなんかもね。それら全てを失ってでも、病気が治って生きていられるなら、どうする?」

 

『そんな例え話・・・考えるだけ無駄だよ・・・』

 

「それがそうでもないのよ。こっちにしてみれば」

 

 っとケニーがそう言うと、鈴の付いたチョーカーを2つ取り出した

 

「え、えっと、母さん?どういうことコレ?」

 

「いいから」

 

 チョーカーを首に着け、鈴にタッチして地球人からキャーティアの姿に変化する2人

 

『え?え?猫耳・・・?あれ?ケットシー?』

 

「随分と混乱しているわね。モニターにも出てるわ」

 

 キャーティアの姿を見た木綿季のバイタルデータが顕著な変化を見せ、ケニーは笑いを堪えて言う

 

「えっと、紺野木綿季さん。私たちキャーティアは、あなたたちから見て宇宙人であり、あなたの病気を治す技術を持っています」

 

『ホント・・・?』

 

「えぇ、本当よ。しかし、それを行うには1つだけ、あなたが越えなければならないハードルが存在するの。それは、その技術で治療を行ったあなたは、私たちキャーティアと同じ体に遺伝子変換を行わなければならない・・・簡単に言うと、地球人であることを捨てなければならない」

 

「あのー、母さん?医療コミュ()ニケーター()は使えないんじゃ・・・?」

 

 ケニーの突然の提案に、トスカは完全についていけない

 

「法には抜け道が付き物よ。地球人には使用できないなら、対象を地球人じゃなくせばいいのよ」

 

「だからって、キャーティアシップの遺伝子変換機まで、あれは艦長クラスの権限でしか動かせない代物・・・」

 

 外交団が乗ってきた宇宙船であるキャーティアシップには、遺伝子構造を変換して、他種族をキャーティアに、キャーティアを他種族に、体を作り変える装置が存在した。しかし、そんな神をも恐れぬその行為を成す装置を動かすには、外交団のトップであり、キャーティアシップの艦長の許可が必要不可欠であった

 

「話は通してあるわ。向こうも交渉があまりうまく進んでないそうよ。キャーティアシップがあまりにもコッソリとやってきたから、きっと舐められてるのね。派手にドーンと地球の傍に現れたら、いったいどんな反応してたのかしらね?」

 

「力の差を見せ付けたいってか?木綿季を使って・・・」

 

「武力を見せるわけにもいかない。だから逆の技術を見せる。どんな種族も命は惜しいものよ」

 

『あ、あのー・・・』

 

 キャーティアの内情の話に、今度は木綿季がついていけない

 

「さて、今日来たのは、この提案を示しに来ただけ。判断までは求めないわ。そろそろあなたの主治医も来るだろうから、ここらで私たちは退散するわ。私たちが来たことは、先生たちには秘密ね」

 

 ケニーとトスカが再び鈴に触れ、地球人の姿に戻る

 

「私たちの医療を受けるにしろ受けないにしろ、早めの決断を私たちは望むわ。キャーティアのことで何か聞きたいことがあれば、ALOでトスカ君が答えるから」

 

「ただし、コッソリと、だぜ?まぁ、とりあえずALOに戻ってこいよ」

 

『わかりました・・・?』

 

 最後にパネルを操作し、ガラスを不透明に戻した。そして呆気に取られたままの木綿季を残し、2人は臨床試験室から去っていった

 

 

 その日の夜、ALO内、ユウキが決闘を行っていた24層の小島

 

「ユウキ!」

 

「アスナ・・・」

 

 ―お姉ちゃんに抱っこされる感じだ・・・懐かしい。もしもあと1年、あの人たちが早く来てくれていたら・・・

 

 フロアボス攻略戦の以来の再会に、アスナはユウキに抱き付く。ユウキも再会に喜ぶが、頭のどこかにキャーティアのことが引っかかっていた

 

 ―もし、あの人たちの治療を受けたのなら、全てを失う・・・っということは、このアカウントも・・・

 

「・・・ユウキ?」

 

「アスナ・・・アスナに渡したいものがあるんだ」

 

 アスナからそっと離れ、OSSのスクロール製作モードを起動させる。剣を抜き、自身の編み出した11連撃を行い、OSSのスクロールを製作した

 

「アスナ、受け取って」

 

「え・・・?」

 

「技名は『マザーズロザリオ』。ラッシュのOSSには劣っちゃうけど」

 

「どうして・・・?」

 

 アスナから見て、それはユウキ自身を表すものだと思っていた。それをなぜ自分に・・・?っとアスナは戸惑う

 

「アスナ、僕はね・・・いつ、どうなるかわからない。だから、渡せなくなる前に・・・」

 

「ユウキ・・・どうして、そんなこと言うの・・・?」

 

 ユウキの言葉に、アスナは涙を流す

 

「まだ、これからいっぱい、いろんなことして・・・」

 

「うん、そう、だね・・・」

 

「それにラッシュさんへの借金も返さないと」

 

「アハハー、それは忘れたかったなぁー」

 

 ―『絶対取り立てるからな!』って現実の僕のところまで来ちゃうくらいだし・・・

 

 とにかくシリアスな空気を変えたかったアスナが出したラッシュのことが、今のユウキには深く刺さる

 

「忘れられたら、困るんだがな・・・」

 

「「っ!」」

 

 そんな中、突然聞こえてきたラッシュの声に、2人は驚く。豊洲のマンションに戻ってログインしてきたラッシュが、小島にかかる橋からゆっくりと歩いてきていた

 

「・・・ラッシュ」

 

 リアルでされたキャーティアの治療の話の聞こうと思ったユウキだが、アスナが傍にいることで思い直し、言葉が出てこなくなる

 

「ぶっちゃけ俺もあの話には驚いた。俺もあのとき初めて聞いたからな」

 

「・・・どうして?どうして、僕なの?」

 

 ―あのときケニーさんが言ってた理由なら、僕である必要はないはず・・・

 

 ラッシュがその話題を振ったので、ユウキも改めて質問する

 

「理由は聞かないほうがいいぞ?慈悲とかそんな甘いものじゃないからな」

 

「聞かせて」

 

 ラッシュのほうを向き、しっかりと目を見て問いかけるユウキ

 

「・・・お前さんには、もう家族がいない。だから関わる人間が減って、余計な仕事が無くて済む。リアルの居場所が拠点から近い。俺と面識があったから説得がしやすい・・・くらいだろう。最後のは無くてもいいものだからおまけもいいところだ」

 

「そう、だね・・・」

 

 ラッシュの言葉に、ユウキは頷く。説得など必要ない。拒否しても待っているのは、苦痛の日々とその先にある死のみ。キャーティア側としては候補者など、掃いて捨てるほどいるのだ

 

「はっきり言って、不治の病で死にそうだ、というデータが揃ってる都内かその近郊の病院に入院している患者なら、上はある程度誰でもよかったはずだ。真っ先に話が行って、考える時間を与えられた。その点ではユウキは優遇されてるかもな」

 

「ホントはっきり言うなぁ・・・」

 

 あまりにも明け透けに語るラッシュの言葉に、アスナが怒りの表情で口を開きかけるが、当のユウキがそんな言葉を受け入れてしまい、何も言えなくなる

 

「ラッシュは、僕にどうしてほしいの?」

 

「どうって・・・」

 

「口では僕に拒否させようとネガティブなことばっかり言ってる・・・」

 

 だけど・・・っと、言葉を続けながらユウキがラッシュの前までやってくる。すぐ前まで来たユウキは、ラッシュの顔を見上げる

 

「ラッシュの顔には、『治療を受けろ』って書いてあるよ」

 

「ハッ、顔に文字を書いた覚えはねーよ」

 

 ユウキの言葉に、ラッシュは顔を逸らす。しばしの無言の後、ラッシュが折れる

 

「・・・俺だってわかんねーよ。お前の命が政治的な駆け引きで弄ばれるなんて、いい気するわけがない。だが、それを差し引いても命が助かるならって思うと、否定もできん。そもそも俺には否定する権利すら存在しないしな」

 

「どういう、ことですか・・・?治療とか、政治的駆け引きとか・・・」

 

 話の内容が掴めなかったアスナが、話に割って入った

 

「ユウキの病気を、ラッシュさんは治せるんですか・・・?」

 

「そんな感じだ・・・だが、その方法は日本では認められていない。だから日本を離れる必要がある」

 

「そんな・・・あんな状態のユウキを・・・」

 

 ラッシュの言葉にアスナはショックを受ける。アスナがショックを受ける分、そんなアスナの姿を見ているユウキは幾分か落ち着きを取り戻していた

 

「(本当は、治療を受けてから移動するから、死ぬ危険はないから。移動もこっちが完璧にこなすから安心していい)」

 

「(あ、そうなんだ・・・)」

 

 ラッシュはユウキに顔を近づけ、小声で伝えた

 

「(治療自体も一瞬だ。ただ、お前さんの場合は寝たきりだったから、日常生活に戻るにはリハビリは必要だがな)」

 

「(えっと、体を変えられるってのは?)」

 

「(それも一瞬で終わる。大丈夫だ、宇宙人っても、一般的に想像されるようなエイリアンとかじゃない。さっき見せた俺らの姿と同じだ。とりあえずはリアルのお前さんの体に、猫耳と尻尾が生えるだけだ)」

 

「(うわー、それなんてラノベ?)」

 

 ついでに治療後の話も一気に早口で説明していく

 

「(ラッシュのお母さんが言ってた、全て失うってのは?)」

 

「(戸籍上は、紺野木綿季は死亡になる。もちろんキャーティアの戸籍が用意される。お前さんの年齢的に、母さんが養子として引き取る予定だ)」

 

「(じゃあ、ラッシュの義妹になるの?えーウソー・・・)」

 

「(ハハハ、それは諦めろ。もう母さんはその気だったから、俺にはどうすることもできん。あとはやっぱり今使ってるアカウントは、後々の面倒を避けるために破棄してもらう。まぁ、リハビリが終わったら頃には新しく取得もできるだろうから安心しろ)」

 

 早口での説明を終え、『何か質問は?』っとラッシュはユウキに小声で問いかける。ユウキは、今だ呆然としているアスナに視線を向けた

 

「(アスナたちと、また会える?)」

 

「(会えないことはない。ただ、紺野木綿季は死亡したことになるから、アスナたちからすれば、『ユウキに似た別の誰か』だろうな。アスナに対してはちゃんと再会させられなくもないが・・・)」

 

「(どうやって?)」

 

「(実はな、俺らキャーティアには既に一般人の現地協力者がいる。俺としては、キリトとアスナをそれに勧誘したいと思ってる。現地協力者になれば、何の障害もなく会うことができる。リアルでもな)」

 

 ラッシュとしては、和人と菊岡の繋がりを絶ちたい思いもあり、明日奈はそのついでの感じなのだが、ユウキのためになるのなら、それだけで意味のあることだと認識できた

 

「(ぶっちゃけ話を切り出すタイミングを見てる段階なんだよ。お前さんと一緒にアスナをこっちに引き込めたら、キリトも芋蔓式でいけるだろ)」

 

「(僕はエサってわけ・・・?)」

 

 ラッシュを見るユウキの目がジト目になった。ラッシュは目だけを逸らした

 

「(実行には多少根回しがいるから、早くて4,5日後ってところだ。今週末辺りでどうだ?)」

 

「(僕まだ受けるって言ってないけど?)」

 

「(じゃあ死ぬのか?)」

 

「・・・」

 

 ラッシュの直球の問いに、ユウキは答えることができない。ラッシュはこちらから話すことはなくなったと、近づけていた顔を離す

 

「俺の母さんは医者だ。医者ってのは、患者に命よりも大切なものがあったとしても、それを捨てさせてでも命を救う。なぜなら、生きていれば、また別の大切なものができると思ってるからだ。生きてナンボの人生ってやつだよ」

 

「ズルいなぁ・・・」

 

 ユウキは目を閉じ、心に焼き付けた『大切なもの』を思い起こした。両親、姉、スリーピングナイツの仲間、アスナ、それら人々との思い出たち・・・そして

 

「ラッシュは、僕に生きてほしい?」

 

「当たり前だろ」

 

「!」

 

 ユウキの問いに即答で返したラッシュ。そんなラッシュに少しドキリとしたユウキ

 

「・・・ど、どうして?」

 

「そんなの決まってる。お前にいなくなられるとゲームが楽しくなくなるからだ」

 

 ラッシュの言葉に『はぁ?』っという表情になるユウキ

 

「ユウキという強いプレイヤーがいなくなると、ライバルが減る。それはそのままゲームの楽しみが減ることと同じだ。俺たち(・・・)は楽しいのために全てを懸ける・・・」

 

 いいか、よく聞け・・・っとラッシュは言葉に溜めを作る

 

「楽しいは最強で、楽しいは正義で、楽しいは・・・無限大だ」

 

「・・・」

 

 ―一瞬でもときめいた僕がバカみたい・・・

 

 ドーンっと言い切ったラッシュに、ユウキはポカーンと口を開けて呆気にとられていた

 

「プッ、クハハハッ、アハハハハハッ!!」

 

「ゆ、ユウキ?!」

 

 そして、可笑しさが込み上げてきて、笑い声を上げた。そんなユウキの笑い声に、アスナが我に返った

 

「アハハハッ!!最高だよ、ラッシュ!!うん、そうだね。楽しいって大事だよね」

 

 一頻り笑って、落ち着いてきたユウキ

 

「うん、わかった。僕、治療を受ける」

 

「そうか・・・よかった。勇気ある決断に感謝するよ。ユウキだけに」

 

「「あ゛?」」

 

「オウフッ!」

 

 ラッシュの寒いダジャレが、ユウキとアスナの腹パンで制裁される。ALOではAGI型であるラッシュに、同じAGI型のアスナと、そこそこのSTR値を持つユウキのパンチはかなり効いたのだった

 

「・・・と、とりあえず、日本にいるうちに、やりたいことは済ませとけよ・・・協力してほしいことがあれば、ゲーム内のことでもリアルのことでも言ってくれ」

 

「うん・・・」

 

「それと、この件は他言無用で頼む。アスナもな」

 

「はい・・・その、ユウキのこと、お願いします・・・」

 

「アスナ・・・」

 

「もしものことが起こったら、絶対許しませんから」

 

「ア、ハイ」

 

 この日ラッシュは、初めてアスナの殺気を感じ取った




 感動のないユウキ生存ルート
 リリカルなのはの二次で入院中の高町父にケアルだのホイミだの使うレベル。最近はそういう作品が減って悲しい・・・

 遺伝子変換機はあそびにいくヨ!のウィキには無いみたいですが、アニメで出てきた装置。アニメ最終話で男の猫耳姿という誰得なものを生み出した

 ALO内
 あと1年早く・・・は、実はラッシュがSAOに囚われなければ実現してたかもしれない

 ラッシュ登場、そしてアスナは空気に・・・

 原作設定でエイズ発症前のユウキは文学少女。発症後、フルダイブしてる時間が長く、ALOに入っていないときは・・・さて何をしてたのでしょうね?

 アリシゼーション潰し
 とりあえずキリトを菊岡から離してソウルトランスレーターのバイトをさせないところから・・・その裏ではオーシャンタートルの予算を取り消しにかかってたり・・・

 説得の最後の一押し
 色んな作品から台詞を取ってきてる。ドラマのコードブルーだったり、漫画のあまんちゅ!だったり・・・


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15話

 ユウキが、キャーティアの治療を受けると決めた日から2日後の木曜日

 

「よう、キリト・・・いや、桐ヶ谷和人」

 

「いい加減リアルでの呼び方を決めろよ・・・別にキリトでも構わないから」

 

 朝、トスカは和人たち10代のSAO生還者が通う学校にやってきていた。ユウキはやりたかったこととして、『学校に通いたい』と言い、明日奈が自身の通っている学校に働きかけ、トスカたちキャーティアがそれに乗っかる形で協力をしたのだ

 

「それで、モノは?明日奈とユウキが使う前に見てみたいんだが・・・」

 

「あぁ、お前さんらが開発してる視聴覚双方向通信プローブ。ウチの会社で作ったモデルだ」

 

 トスカは一応アタッシュケースに入れてきた、キャーティアの技術力で作られた機材を見せる。キャーティアとしては数世代前のモデルであるが、とはいえ和人たちのグループが開発したものとは比べ物にならないほど、高性能で小型軽量であった

 

「すげーな・・・この大きさと重さで、機能を満たしてるのかよ・・・」

 

「俺らの作ったものがおもちゃに感じるよ」

 

「それは違う。お前さんらは学業の一環で、限られた予算や期間、人員でそれを作った。その意味が大きいんだ。ウチの会社はこれを開発して、このレベルにまでするのに、莫大な予算と年単位の長い期間を使ってる。関係者なんかも100人単位だ」

 

 キャーティア製の機材を見て、性能の違いにショックを受ける和人のグループの生徒に、トスカは言葉をかける

 

「今回、こうやってお前さんらに見せたのも、その熱意を買って、後学になればって思ってのことだ。日本人は技術の吸収力が凄いからな。期待してるぜ」

 

「うわ、ラッシュがなんか真面目なこと言ってる・・・」

 

「おい」

 

 トスカの真面目な言葉に、和人は気味悪がる

 

「あと、今はトスカって呼べ。ここには、お前や明日奈以外の攻略組だったヤツもいるんだろ?」

 

「・・・スマン」

 

 トスカの注意に、和人が謝った。このSAO生還者の学校に来るに当たって、トスカはわざわざ伊達メガネをかけ、軽く変装をしていた

 

「さて、そろそろ木綿季のところと通信を接続するか。お前の嫁が来る前にチェックは済ませておきたいだろ?」

 

「あぁ、そうだな」

 

 

 その日の夜。ALOにて

 

「ラッシュ、ありがとう」

 

「気にするな。善意でやってるわけじゃないんだから」

 

 ユウキのお礼に、ラッシュは照れくさそうに言う

 

「またまたー」

 

「なんだよ?」

 

 ニヤニヤしながら言うユウキに、ラッシュは少し構える

 

「学校にいるラッシュたちに通信を繋げる前にケニーさんが来て、機材を使って通信による授業を受けることを先生に説明してくれたんだけど。そのときに、ラッシュが機材をわざわざ用意してくれたって。その・・・母星から転送してもらって」

 

「っ!・・・母さんめ・・・」

 

 最後の部分だけボソッとラッシュの耳元で言ったユウキに、ラッシュは苦々しい表情をする。ケニーが木綿季に伝えた通り、今回の機材はトスカが母星に要請して、地球で使える技術レベルのものを備品として取り寄せたものである

 

「地球の技術レベルの向上も狙ってのことだ。別にキリトたちが開発したものでも性能的には問題なかっただろうからな」

 

「本当に~」

 

「そ、それより、借金を返す当てはできたのか?いい加減リズベットも待ってくれそうにない」

 

「んー、それがさー、全く無いんだよね。11連撃のOSSはアスナにあげちゃったから、賭け試合もできないし」

 

 相変わらず借金を返さないユウキにラッシュはため息をつく

 

「助けてよ、お義兄ちゃーん」

 

「ハハハ、例え兄妹でも借金は有耶無耶にはさせんから安心しろ」

 

「チッ・・・」

 

 兄妹の情に訴えるが、素気無く返され、ユウキが小さく舌打ちした

 っとそのとき、2人の近くでガシャンっとものが落ちた音が・・・

 

「・・・ちょっと目を離した隙に、何やってるのかしら?」

 

「あ・・・し、シノン・・・」

 

 帰省から戻ってきて、学校の始業式などの諸々のリアルの事柄が済み、ようやくALOにログインしたシノンであった。足元には彼女の愛用のロングボウが落ちている。そんなシノンを前に、モロに浮気がバレた彼氏の表情をしているラッシュである

 

「へぇー、そう・・・ラッシュは妹萌えなの・・・ふーん・・・」

 

「あ、あの、これは俺の趣味じゃ・・・」

 

「リアルで香蓮にあんなこと言っておいて、すぐ別の子?流石オス猫ってわけね?」

 

「お、お願いだから説明する時間をくだしあ」

 

 シノンの剣幕に、涙目で弁明しようとするラッシュ

 

「す、すごい・・・口に出した言葉で誤字ってる・・・ん?リアル?オス猫?・・・あ、お姉さんもしかして、ラッシュの言ってた現地協力者の人?」

 

「正解。あなたがユウキね。ジェーンさんから聞いてるわ。私が帰省してる間、どっかのオス猫は一度も連絡してこなかったけどね」

 

「うぐっ・・・」

 

 シノンの、相手を射殺すような視線がラッシュに突き刺さる

 

「い、いやぁ、だって、里帰り中に連絡するのは重いかなーっと・・・」

 

 っと言って視線を逸らすラッシュ。単純にユウキの件で気を揉んでいたために、連絡を疎かになってただけである

 

「私、6日の夜には東京に戻ってきてたわよ?7日から普通に学校行ってるし。まぁ冬休み明けで色々あったから、今日までログインはできなかったけど」

 

「か、帰ってきた途端に、アレコレ聞くのもなんか・・・束縛してる感が・・・」

 

「それが、戻ってきた私への言葉が、『おかえり』の一言だけだったワケってこと?アシストロイドのほうがまだ言葉が多かったわよ」

 

「そ、その・・・今回のユウキの件も含めて俺個人の裁量で言えることが少なくて・・・世間話の話題にできることも特に無くて・・・ごめんなさい」

 

 ―まるで仕事にかまけて放っておかれた彼女に謝罪する彼氏だ・・・

 

 ラッシュとシノンのやり取りを見て、ユウキはそんなことを思う

 

「えっと、その、2人は恋人同士なの?」

 

「いいえ、違うわ・・・でも、妹萌えでデレデレの姿を見せられて、イラッとくるぐらいには好意はあるつもりよ」

 

「うぐぐぐ・・・ネクタイを引っ張るな」

 

 シノンが目の笑ってない笑顔でラッシュのネクタイを引っ張り、首を絞める

 

「SJでは精々後ろに気をつけることね。嫉妬で集中が乱れてフレンドリーファイアするかもだから」

 

「本当にごめんなさい・・・」

 

「えすじぇー?」

 

 ラッシュが涙目で謝罪する中、ユウキはシノンの言葉が気になった

 

「スクワッドジャム・・・私とラッシュは別アカウントでGGOってガンシューティングもやっているの。そこで今度チーム戦バトルロイヤルの大会があって、それに、私やラッシュ、あと向こうの仲間3()人の計5人で出場するの」

 

「ん?人数増えてね?店主とレンと誰だ?」

 

「ジェーンさんが出るって」

 

「おいおい、ユウキのリハビリの経過見たり、養子として引き取る手続きとか、いっぱいやることあるんじゃねーのか・・・」

 

 下っ端の調査員のトスカからしてみれば、医務官のケニーがこなす仕事の量は途方も無く見えるのだ

 

「まぁ、でも、うん、戦力としては申し分無いんだよな・・・そろそろ店主のビルドのプランニングとレベリングをしたり、準備をしていかないとな」

 

「いいなー・・・僕がリハビリやってる間、ラッシュたちはゲームしてるんだ・・・」

 

「そう言うなよ。GGOは公式RMTで現実通貨を稼ぐことだってできるんだから、俺たちにとっては収入源の1つなんだから。それに大会は来月頭だ。流石に2週間じゃリハビリも終わらんし・・・」

 

「でもずっとリハビリってわけじゃないんだしさ・・・」

 

「それは母さんの判断次第だけど、新規アカウント取って、GGOに慣れながらゼロからビルドしていくことを考えると、どうやっても間に合わないだろう」

 

 ラッシュの言葉にシノンも頷いていた。レベル制のGGOでは、対人戦専門のプレイヤーでも初めはMOB狩りをしてレベルを上げる。そうしてステータスやスキルを成長させないと、対人戦では全く歯が立たないからだ。運営が定めたレベル上限までレベリングをして、それの過程でステータスやスキルを自分好みのスタイルに仕上げていくのが、GGOの楽しさでもあり、難しさでもあるのだ

 店主のように商人ロールで戦いを重要視しないプレイヤーでもない限り、それを他人任せで短期間で作業のように済ませるなんてことは、つまらない行為だとラッシュは思っていた

 

「それよりお前は、30万ユルドの返済方法を考えろ」

 

「もう!いい感じで話題を逸らせてたと思ったのにー!!」

 

「何?30万ユルドって?」

 

「俺とユウキが決闘で賭けた金。そのときは手持ちで無かったから借金ってことにした」

 

 事情を知らないシノンに、ユウキとのこれまでの経緯を説明していくラッシュ

 

「ユウキの支払いが滞ると、ラッシュの刀の代金がリズに支払えず・・・でもユウキにお金の当てはない」

 

「お恥ずかしながら・・・」

 

「とりあえず、ユウキへの取り立てとは別に、ラッシュは刀の代金を自分で払えばいいんじゃない?」

 

「ま、それはそうなんだが・・・」

 

 ユウキのリアルの事情が変わった今、ラッシュがユウキの返済金でリズベットへの代金支払いをする必要はなくなっている

 

「仕方が無い・・・じゃあちょっと、血の気の多いって噂のサラマンダー領まで出張してくるか・・・」

 

 その後、1時間ほどで刀の代金分を稼いだラッシュであった

 

 

 

 

 

 それからさらに2日経った土曜日。木綿季の治療と移送が行われる日

 

「すまんな。呼んでおきながら傍にいさせてやれなくて」

 

「いえ・・・呼んでもらえただけで」

 

 木綿季の治療は外交交渉の一環で行われるので、外交団の上層部と医務官のケニーが、それを行うことになっている。下っ端のトスカは病院内に入ることができず、病院の外の駐車場にいた。ここまでの高級セダンではなく、それと同じくらい高級なミニバンであり、トスカは運転手の役目を与えられたのだ

 

「なんで俺も?」

 

「明日奈だけ呼んで、それでお前が安心できるなら別に今からでも帰っていいぜ?」

 

「殴るぞ」

 

「おお、怖い怖い」

 

 この場には、トスカが呼んだ明日奈と和人、それに現地協力者扱いの詩乃と香蓮もいた

 

「そろそろ移送準備が行われてるはずだ。ところでお前さんら、木綿季がこれから具体的にどこに運ばれるか、気にならないか?」

 

 トスカは4人に問いかけているように見せて、実際は和人と明日奈の2人に質問する

 

「えっと・・・ラッシュさんの出身国?あれ?そういえば・・・」

 

「ラッシュ、お前の国ってどこなんだ?」

 

 当然答えを知らない2人はそれがわからない

 

「もし、木綿季の移送先に、一緒に行けるとしたら、どうする?しかも日帰り可能で」

 

「え?ど、どういうことですか・・・?」

 

「海外に行くんじゃないのか?今から一緒についていくなんて不可能だろ?しかも日帰りでなんて・・・」

 

「それが行けるんだよなぁ・・・」

 

 っとトスカがニヤリと笑ったそのとき、トスカのスマホに連絡が入る

 

「はい、トスカ・・・はい、わかりました。こちらも移動を開始します」

 

 トスカは連絡に短く言葉を返し、連絡を終えた

 

「たった今、木綿季の移送が開始された。こちらも移動を始めるぞ。車に乗ってくれ」

 

 

「って、向かってるのは東京・・・でも羽田じゃなかった。成田か?」

 

 高速に乗って東京方面に走る車。和人が車の走行経路から予想を立てていた

 

「キリト、いい加減わかってるくせに無駄な予想をするなよ。この地球上に、アイツの病気を治せる治療法があると思ってんのか?」

 

「なっ!」

 

「じゃ、じゃあ、ユウキをどうするつもりなんですか?!」

 

 トスカの言葉に、和人と明日奈が驚き、トスカを問い詰めた

 

「簡単だ。地球上に無いなら、地球外の治療を受ければいい。宇宙は広いんだ。アイツの病気を治す方法くらいあるんだよ」

 

「ふざけないでください!」

 

「宇宙人がいるとでも言いたいのか?」

 

「いるぜ。お前らの目の前にな。目的地に着いたら、色々見せてやるから、待ってろ」

 

 やがて車は高速を降り、一般道を走って豊洲に・・・拠点のマンションの地下駐車場に止めると、高層階用のエレベーターに乗り、普段は入れない屋上に上がった

 

「さて、キリトに明日奈。今から見るものは全てこの世界の現実だ。そして他人には話してはならない極秘事項だ」

 

 トスカはチョーカーを取り出して装着し、鈴にタッチして地球人からキャーティアの姿に戻った

 

「え?」

 

「は?」

 

 初めてキャーティアを見たときの詩乃や香蓮と同じ反応をした2人。そうなるよねーっと言った表情でそんな2人を見ている詩乃と香蓮だった

 しかし、そんな詩乃と香蓮も、すぐに2人と同じ表情になる

 

「ルーロス、光学迷彩を解除。搭乗口を開けてくれ」

 

 トスカがもう一度鈴に触れて、何かに命令を出す。すると何もなかった屋上に、SF映画に出てくるような小型宇宙船が現れた

 

「それでは4名様、キャーティアシップへご案内~」

 

 

 僅か数分で、トスカたちはキャーティアシップに着いた

 

「もう、何がなんだが・・・」

 

「いっそ夢であってくれと思う・・・」

 

 宇宙空間にあるキャーティアシップに上がるまでの間、トスカから説明されたキャーティアのことに、明日奈と和人が頭を抱えた

 5人は発着ピットから木綿季が移送された医療棟に向かう

 

「キリトと明日奈・・・お前さんらは今日付けでキャーティア外交団の現地協力者として登録された。おめでとう、君らはこれでめでたく、こっち側(・・・)の人間だ」

 

「「えぇー・・・」」

 

「別になったからって、何かあるわけでもないわよ」

 

 現地協力者としての注意事項を言っている間に、5人は医療棟に着いた。そこで木綿季の移送に付き添っていたケニーと合流し、木綿季の病室まで向かう

 

「あの、今ユウキは・・・?」

 

「安心して、もう治療は全て(・・)終わって、安静にしてるわ。これまで寝たきりだったのもあって、体力が無くなっているから、移送の疲れで眠っているけど」

 

「そうですか・・・」

 

「でも顔を見るくらいならできるわよ」

 

 っと、一行は1つの部屋に入る。木綿季が横浜の病院でいたメディキュボイドの試験室とは違い、エアコントロールされていない病室、そこで寝かされている木綿季の体には最低限のバイタルを読み取るセンサーしか付けられていない

 

「ユウキ・・・えっと、本当に治ったんですよね・・・?」

 

「えぇ、この子を蝕んでいた病は全て完治したわ。あとはリハビリで体力を付けていけば、何の支障も無く日常生活を送れるようになるわ」

 

「よかった・・・」

 

 ケニーの言葉に、明日奈が涙を流して喜ぶ。そして木綿季に触れようと手を伸ばして・・・止まる

 

「耳・・・それに尻尾も・・・」

 

「えぇ、この子の体はもうキャーティアになった・・・ここにいるこの子は、日本人の紺野木綿季ではなく、キャーティアのユウキということになるわ。この15年間、地球で生まれ育った人間としてのアイデンティティーは、無くなってしまった・・・これから先、そのことで悩むことがあるかもしれない。そんなときは、あなたたちが頼りよ」

 

「はい」

 

 明日奈がしっかりと返事をし、再び手を伸ばして、ユウキの頭に触れた。長期の臨床試験で艶の無くなった髪の毛を撫でる。そしてキャーティアの主耳である猫耳にも触れた。ユウキの主耳は、触れている異物を外そうとパタンと動く

 

「んっ・・・」

 

 触覚が敏感な耳を触れられ、眠ったままのユウキが小さく艶のある声を出した。そんな反応に、明日奈は『え?』っと固まる

 

「あら、大胆・・・」

 

「地球人でも耳は敏感だろ・・・」

 

 ケニーとトスカの言葉に、明日奈は顔を真っ赤にしたのだった




 ラッシュの貴重な真面目なシーン
 キャーティア製視聴覚双方向通信プローブ。キャーティア7万年の技術は伊達ではない。キャーティア側から日本への数少ない技術提供(非公式)。キリトがメカトロニクスを専攻しているのは、キャリバー編の打ち上げでダイシーカフェにユイを連れてくる(?)作業をしていたのをラッシュは見てたから知っている

 ユウキ「お義兄ちゃん」
 実はユウキ生存ルートは、これ言わせたかっただけだったり・・・

 シノン帰還
 ライオンは一夫多妻だし仕方ないよね。でもサーカスのライオンみたいに調教すれば・・・

 GGOの初心者の行動の流れ
 PKで経験値が入っても、強さにバラつきが大きくて実弾銃で費用がかかって効率悪いだろうから、MOB狩りでレベリングは当然

 ユウキの治療と移送
 本文で触れてませんが、倉橋先生も現地協力者リスト入りです。そしてアスナとキリトも強引にリスト入り

 マザーズロザリオ終了
 何の感動も無く、ユウキ生存ルートへ。本文で触れてない他のことは、全てうまくいってる感じで



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16話

「ハァー、やっとGGOに戻ってこれたぜ・・・」

 

「でもケリが付いたかどうかは微妙だけど」

 

 ユウキをキャーティアシップに移送した次の日、約2週間ぶりにGGOにログインしたラッシュとシノン

 

「ケリは付いたか知らんが、区切りは付いたって感じだな。それで十分だろ」

 

「そうね」

 

「それじゃ、本格的に月末のSJに向けて、各々の弱点の対策をしていかんとな」

 

 っということで、ブラックアローのバックヤードに集った、ジェーンを除くSJに出場するチームメンバー4人によるミーティングが行われようとしていた

 

「まず、俺の使ってるスパス15やデザートイーグルの1マガジン当たりの装弾数の少なさ。それによる長時間戦闘の不利について。ぶっちゃけ、これは銃を変えるしかないな。散弾銃からアサルトライフルにでも変えれば問題ないだろう。習熟度は店主のレベリングと平行してやれば、実戦レベルには間に合うはずだ」

 

「モノは何を使う?」

 

「そうだな・・・5.56のアサルトライフルなら特に何でも・・・適当に在庫で残ってるのを見繕ってくれ」

 

「あいよ」

 

 GGO内にいるのに、割と真面目に意見を言っていくラッシュ。出るからには当然優勝を狙う。ガチになるから楽しいのだ

 

「次、レンが壊したビームナイフ。店主のレベリングついでに漁りに行ってドロップを狙う。以上」

 

「早っ?!」

 

「あと、ハンドグレネードの携行数に関しては、爆破担当のジェーンがいるので、使う機会が少ないと思うのでこのままでいいだろう。AGI型は先人が多いから、情報量も多い。ビルドの欠点の対策法も色々と出揃っているのが利点だな。まぁ結局はプレイヤースキルの一点に尽きるが」

 

「はーい・・・」

 

 (テク)の問題と言われ、レンは少し憂鬱そうに返事をした。BoBで闇風に勝って優勝したことで、GGO内で彼女はかなりの評価をされているが、本人としては状況や作戦がうまくハマっただけで、過大評価されていると思っているのだ

 

「次、というか最後。シノンの携行弾薬数の少なさと、店主のビルドについて」

 

「1つにまとめたってことは、やっぱり俺が弾薬を運搬するのか?」

 

「そうなる。だけど、運ぶのは弾薬だけじゃない。回復キットも運んでもらう。店主のビルドはポーター兼メディックにしようと思う。俺らチーム全体の欠点として、VITやDEF(防御力)の低いメンバーばかりであることが、大きいと思うからだ」

 

「確かにな・・・」

 

 ラッシュの指摘に、店主のみならず、レンやシノンも頷いた。レンのAGI型ビルドとシノンのスナイパービルドは、共通の欠点としてVITとDEFの低さが知られている。ラッシュのLUK型も、初期値ではないがVITは低く、DEFもレンやシノンよりは多少マシといった感じである。生産者ビルドのジェーンも、VITやDEFはレンやシノンとほぼ同等とである

 本来ならばVITやDEFに長けたタンクがチームには必ず1人はいるが、ラッシュたちにはそれがいないのだ

 

「ステはSTRとVITの二極上げ。スキルで医療を取って、それによってアンロックされる通常のよりも回復量の多くて即効性のあるキットを使用できるようにする。武装はシノンのサブと同じグロッグ18だな。少しでも弾薬とマガジンを共通にしてストレージを効率的に使いたい」

 

「なるほどな」

 

「ポジションとしては、後衛でシノンとの行動が主になるだろう。狙撃をサポートするスポッターなんかも任せるかもしれん。敵とドンパチしない代わりにこなす役割が多くて、そのほとんどが俺らの都合の悪い部分を尻拭いさせる感じになってしまって、申し訳ない気がするが・・・」

 

「構わんよ。自分でドンパチ苦手だって言っておきながら、お前らと戦いたいって言ったんだ。そういう役回りでしかチームに貢献できそうにないって、前の戦争で身に染みてるよ」

 

 ラッシュの提案した、自身のビルドのプランを聞いた店主。チームの都合重視のビルドであるそれを、店主は受け入れる

 

「さて、チームの連携確認なんかは店主のレベリングをしながらやっていくが、ジェーンがリアルの仕事で大会までほぼイン不可能なので、5人での戦闘は大会でのぶっつけ本番になる。まぁ、トラップメインの戦い方だから、俺らがドンパチやってる間は目の前の戦ってる相手以外のチームを警戒したり、足止めする役割を任せることになるだろう」

 

「あのよぉ・・・そのジェーンって誰だ?」

 

 店主が面識のないジェーンについて質問する

 

「俺のスーツを作った人。生産者ビルドでトラップマスター」

 

「あとラッシュさんのお母さん」

 

「リアルを持ち込むのはダメだぜー、レン」

 

 ラッシュが目の笑ってない笑顔で、レンの頭を片手でガシッと掴む

 

「イタタタタ・・・頭が割れる!」

 

「ハハハ、安心しろ。俺のSTRによる握力じゃ頭を割ることはできんから」

 

「その分ギリギリミシミシと痛い痛い!!」

 

「それじゃ、早速装備を揃えてレベリングに出発!」

 

 無理矢理誤魔化し、ミーティングから狩りの準備に移った4人であった

 

 

 

 

 

 3日後・・・

 

「緊急ミーティングってなんだよ?」

 

「大会について、エントリーしたチームに運営から連絡メールがきた」

 

 再びブラックアローに集った4人に、店主が運営から来たというメールを見せた

 

「えーっと・・・『開催日等変更のお知らせ』」

 

 代表してラッシュがメールを読み上げる

 内容としては、運営の想定を越える参加チームのエントリーに、通常サーバーと回線の容量に不足が予想され、急遽大会用の大容量のサーバーと回線に切り替える対策を行うために、準備期間として1週間開催日を延期する。っとのことである

 

「さらに土曜日に予選。次の日曜日に本戦と、BoBと同じ流れになるようだな」

 

「現状エントリーしてるチーム数は60チーム。本戦に進めるのは25チームだ。BoBと違ってチーム戦の分、プレイヤー数が多くなるから、処理リソースの確保のために、本戦のチーム数を絞ってるみたいだな」

 

「というか、なんでこんなにエントリーが多いのよ?ただの個人スポンサーの小さな大会じゃなかったの?」

 

「それが、GGOの情報交換やってる掲示板をちょっと覗いてみたら、お前らが原因っぽい」

 

「えぇ~ウソー」

 

 店主の言葉に、レンが疑いの目を向けた

 

「そもそもの発端が、前の戦争だ。腕の立つヤツがチームを組み、ザコを一掃する。こういう設定は、物語ではよくあるものだ」

 

「●パン三世しかり、●グーン商会しかりな」

 

「なぜそのチョイスなのかしらんが、まぁそうだ。そして、そういう精鋭のチームは憧れの対象でもある。そこでこれまで個人主義の強かったGGOに、スコードロンとは別に少人数でチームを組む流れができた」

 

「そいつらが腕試しをするのに、SJはもってこいの機会ってことか」

 

「おまけにその流れを作ったこのチームが参戦するわけだしな。お前らは個人でもBoBのトップスリーなわけだし・・・ホレ、これ見てみろよ」

 

 店主は現在エントリーしているチームの一覧を出して見せる。主にレンに向けて

 

「あ!闇風さんまで?!」

 

「うわ、アイツ誰と組んだんだよ・・・」

 

 っと、ラッシュが疑問を持つが、エントリー表にはチーム名とリーダーの名前しか載っていないので、知ることはできない

 

「しかも今も参加チームは増え続けているときた。BoBと違って予選はある程度まとまったチーム数でのバトルロイヤル。このまま行けば、4,5チームくらいで1枠を争う感じだろうな」

 

「マークされるだろう俺らは予選からキツそうだな。でも、うん・・・面白くなってきたぜ。準備期間も延びたことだ。バッチリ準備して乗り込もうじゃねーの」

 

 ラッシュがニンマリとイイ笑顔で言った

 

「とりあえず開催日変更に対しての再エントリーはやっておいていいんだな?リアルの予定は大丈夫か?」

 

「私は問題ないわ」

 

「私も」

 

「俺も問題は無いが、ジェーンには確認を取るから、ちょっと再エントリーは待ってくれ」

 

 

 っということで、その日のプレイを終えてログアウトしたラッシュことトスカは、ジェーンことトスカの母のケニーに通信を繋ぐ。ユウキのリハビリに付き添っているケニーは、現在宇宙空間にあるキャーティアシップにいるので、チョーカーに付いている鈴の通信機能を使用する

 

「母さん、今大丈夫?」

 

『どうしたの?』

 

 鈴から映し出される空中モニターに、ケニーの姿が現れる

 

「GGOの大会の件なんだけど、開催日が1週間ズレて、開催期間も2日間になるから、母さんの予定は大丈夫なのかなって・・・?」

 

『えーっと、1週間ズレて2日間なら、2月7日と8日ね・・・大丈夫よ』

 

 ケニーも特に予定は入っていないということで、トスカはホッと一安心した

 

『あ、ラッシュ・・・いや、トスカ?』

 

「どっちでも構わんって」

 

 っと、そこに声が入り込み、ケニーが声の主であるユウキの姿を映した

 

『じゃあ・・・お義兄ちゃん』

 

「な、なんでやねん」

 

 ALOのときと違い、真面目に兄と呼ばれたことに、動揺したトスカであった

 

「調子はどうだ?」

 

『うん、今まで苦しかったのが、ウソみたいに調子がいいよ』

 

「そうか・・・」

 

 調子がいい、っという割には表情が曇って見えるユウキに、トスカは話が続かない

 

 ―病気が治って、少し時間が経ったから、色々と思うこともあるか・・・

 

「・・・」

 

『いいなぁ・・・僕もゲームしたい』

 

「あ?」

 

 ―コイツ、まだ根に持ってやがる・・・ちょっとでも心配した俺がバカだった・・・

 

 メディキュボイドの臨床試験で仮想空間にフルダイブし続けたユウキ。その分普通の15歳よりもVRゲームができる時間が多く取れた彼女。急に病気が治ったからといって、そこでVRゲー絶ちができるほど、彼女は大人ではなかったのである

 

『あらあら・・・トスカ君、メンバーの追加はまだ可能なのかしら?』

 

「開催日が変更になって、再エントリーが必要になったから、できるが・・・」

 

『リハビリの経過次第で、ユウキちゃんにアミュスフィアの使用の許可を出すわ。そうねぇ・・・1週間、様子を見てから判断するわ』

 

「甘すぎませんか、先生?義娘に甘くしてポイント稼ぎしてるように見えるんだが・・・」

 

 ケニーの判断が医者としてではなく、母親としてのものになっているように見え、トスカはジト目で追及する

 

『そう・・・なら、SAOからログアウトしてきて、たった4ヶ月でGGOを始める許可を求めてきて、それを認めてあげたあの判断も、息子に対するポイント稼ぎと言えるわね』

 

「ホントごめんなさい感謝してますお母様」

 

 仕事モードの真面目な顔で、抑揚の無い口調で返すケニーに、トスカは即行で謝罪するのだった

 

『よろしい』

 

 トスカを言い包めることに成功したケニーは、いい笑顔で通信を切ったのだった

 

 

 

「まったく、あの子ったら・・・最近口答えが多くなってきた気がするわ・・・反抗期かしら?」

 

「アハハ・・・」

 

 通信を切ったケニーは、トスカの言動を愚痴る。ケニーの親としての一面を見て、ユウキは乾いた笑いを浮かべていた

 

「でも、本当にいいんですか?まだ、リハビリらしいリハビリは、全然やってないのに・・・」

 

「今は環境や体の変化に慣れるのが先よ。それに、これからのリハビリを考えると息抜きの1つもあったほうがいいのは確かなのよね」

 

 つい口に出してしまったが、ワガママを言っている自覚があったユウキに、ケニーは医者としての意見を返す

 

「だけど・・・病気まで治してもらったのに・・・」

 

「それは私たちキャーティアが、キャーティアの都合で、勝手にしたことよ。むしろこちらがお礼をしなければならないことだから、あなたが恩を感じる必要は無いのよ」

 

 ケニーは優しく微笑み、ユウキの頭を撫でながら語りかける

 

「私たちが無理矢理治療をしたのだから、命が助かったことを重く考えなくてもいい・・・誰かのためじゃなく、自分のために、自由に生きていいのよ」

 

「はい・・・」

 

 

「ってことで、ユウキが早ければ来週辺りからGGOに入る件>らっしゅ

 

シノン<何が」

 

シノン<ってことでよ?」

 

「医務官としての母さんの判断だから仕方が無い>らっしゅ

 

 ケニーとのやりとりの結果をトークアプリで詩乃と香蓮に報告するトスカ

 

レン<SJにも出るの?」

 

「かもしれん・・・ちょうど1人枠空いてるし>らっしゅ

 

「でも店主になんて説明すればいいんだよ・・・>らっしゅ

 

レン<1人だけ何も知らないですもんね」

 

「ALOで戦った感じだと>らっしゅ

 

「前のBoBのキリトと同じ戦法でいけば>らっしゅ

 

「普通にGGO最強レベルになれるだけのセンスはあるがな>らっしゅ

 

 ―地球人のみのプレイヤーでALO最強は間違いなくアイツだったろうな・・・

 

「問題は、ユウキのキャラをSJまでに>らっしゅ

 

「ゼロからビルドしていかないといけないこと>らっしゅ

 

「実戦レベルに達してたら店主も納得するだろう・・・>らっしゅ

 

「っと思いたい>らっしゅ

 

レン<ガンバ」

 

シノン<ガンバ」

 

 ―こいつら即行諦めやがった

 

 SJ予選日まで、あと20日




 SJ編プロローグ的なモノ

 個々の問題点とその対策。ほぼ店主がカバー
 店主がここまで出番があるとは、BoB編書いてるときは思わなかったな・・・そして名前出すタイミングもなくなったな・・・

 開催日変更。ほぼブラックアローのせい
 1週間ズレたことで、例のアノ人も出てきます
 そして、闇風参戦

 親子の通信
 口答えが多くなった原因はゲーム内のロールがリアルに滲み出てきてる感じ
 ユウキ新アカ取得してSJ参戦。今思うとSJ2からでよかったかなぁ・・・


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17話

ちょっと文字数少なめ


 2月7日SJ予選日

 当日0時になると同時に締め切られたエントリー受け付け、参加チーム数は最終的には120チームにまで上った。出場者待機エリアになっている酒場に、ラッシュたちが現れると同時に、酒場の空気がピンと張り詰めた

 

「おーおー、注目されてんねぇ」

 

 ラッシュたちに向けれらる数百のプレイヤーの視線、それらを先頭で真正面から受け止めたラッシュがニヤリと笑った。入り口から歩いていくラッシュに、シノンやレンたちが落ち着いた表情で続く

 

「お前らよくこれだけの視線を集めて落ち着いてられるな・・・俺、一瞬思考が止まったぞ」

 

「僕も・・・」

 

 周囲からの視線に呑まれている店主やユウキが、その後をおっかなびっくりといった様子で付いて行く

 

「前のBoBがこんな感じだったから慣れたわ」

 

「私もBoB優勝してから、街を歩けばこんな感じだし・・・」

 

 っと返すシノンとレン。ちなみに今回の大会中も、詩乃は香蓮宅にお泊りである

 

「あらあら・・・」

 

 最後に微笑みながらジェーンが入ってきた

 

「ってか、酒場のキャパに収まる人数じゃねぇだろコレ・・・座るトコがねぇ・・・」

 

「ホント、早く予選始まらないかしら?」

 

 適当な場所に陣取り、立ったまま待機するブラックアローの面々であった

 

「よう。堂々の御入場、流石だな」

 

「お、闇風か。まさかお前さんも参加するとはな」

 

 っとそこに、闇風が近付いてきて声を掛けてくる。それによって周囲のプレイヤーたちはさらにザワつく

 

「誰と組んだんだよ?」

 

「秘密だ。こっちは挑戦者だからな。手の内は晒さんさ」

 

 ラッシュの質問をさらりと受け流す闇風

 

「BoBの借りは返させてもらうぞ、レン」

 

「受けて立ちます」

 

 闇風はレンに視線を移し、火花を散らすような視線を交わして、真っ向勝負を宣言した

 

「ねぇラッシュ・・・この人、すごく強いよね?GGOに来て、まだ日が浅い僕でもわかる・・・」

 

「当たり前だろ。ピラミッドの頂点にいるヤツだ。前のBoBでレンが勝ったのは、その頂点にいる者としての心構えを利用した作戦がハマったからだ」

 

 闇風の強者としてのオーラを感じ取ったユウキは、そんな闇風と普通に話しているラッシュやレンが異様に見えた

 

「謙遜すんなよLUK型の。ステで不利なLUK型で戦ってるお前のプレイヤースキルが1番ヤバイのはわかってんだ。今回の大会で機会があれば、後学(・・)のために一戦よろしく頼むぜ」

 

「勘弁してくれよ・・・」

 

 ラッシュの肩をポンと叩いて去っていく闇風に、ラッシュは肩を竦めた

 

「僕、もしかして入るチーム間違えた?」

 

 

 予選第13組

 フィールド:山林

 

 SJの予選はBoBと違い、複数チームでのバトルロイヤルによって行われる。今回の参加チーム数と本戦枠から、1試合当たり4~5チームで予選は行われる

 

「さて、予選フィールドは共通して直径2キロの円形、中心付近100~300メートルが山や建物、池など通り抜けが不可能、または困難な地形やオブジェクトになっているらしい」

 

「要はそれより外の周囲で戦えってことだな」

 

 試合開始直前の準備エリアの中で、公開されていた予選フィールドの共通情報を確認するブラックアローの面々

 

「BoBの予選と同じで、各チームは最低500メートルは離れた場所でスタート・・・となると自ずと個々のスタート地点は予測できる。フィールドに飛ばされて、端末にマップが出たら、すぐにマップ中央を向いて正面を確認、スキャン情報がなくても、そこからだいたい10時と2時の方向に近い敵チームはいる」

 

「なるほど・・・速攻仕掛けるのか?」

 

「それがいいだろう。こっちは一応優勝候補扱いされてるわけだから、待ちはカッコ悪いしな。俺とレンで回ってくる。待ってる間の行動は任せるが、襲撃されんように警戒はしとけよ」

 

「わかってるよ」

 

 作戦会議も終わり、試合開始時間となって準備エリアから試合フィールドに転送され、予選が始まった。同時に、チームリーダーの店主が端末でマップ構成を確認した

 

「正面はこの方向・・・右、左、どっちからだ?」

 

「右!行くぞ!」

 

 店主の言葉に、ラッシュが勘で方向を選んで走っていき、レンが後に続く。2分ほど走ると、木々の間に敵影が見えた

 

「いた!予想通り!レン、左側に回れ。反対側に俺が回る。合図したら突っ込んで殲滅しろ。俺がALOに行ってる間に、どれだけ腕を上げたか、見せてみろ」

 

「うん、わかった」

 

 ラッシュの後ろを走っていたレンが、ラッシュを追い抜いて敵チームの左側に回った。AGIとDEXをフルに使って静かに速く、敵チームに接近する

 一方ラッシュは敵チームの右側の少し離れた距離に回り、挟撃の態勢となる

 

「さて・・・」

 

 ラッシュは新しい武器であるステアーAUGA3を構え、スコープで敵チームを観察した。始まったばかりということもあり、端末でマップの把握をしている6人組の敵チーム・・・その端末を持つプレイヤーにラッシュは狙いを定める

 

「まずはリーダーをってな」

 

 引き金を引き、発射された弾丸が端末を持っていたプレイヤーの頭に命中し、死亡した

 

「なっ?!敵だと?!スキャン前なのに、なぜ位置が?!」

 

「頭と足使って探すんだよ、ドアホ!!」

 

 残りの敵の目を引き付けるために、ラッシュが敵の前に姿を晒す。一斉にラッシュに向かって銃を向ける敵チーム。その1人の胸からビームナイフが生えた

 

「ゴフッ?!」

 

「もう1人だと?!ガッ!!」

 

 レンが敵プレイヤーに背後からビームナイフを刺したのだ。レンはその状態で片手でP90を持ち、近くにいる別の1人の頭を撃って死亡させる

 

「クソッ!!」

 

 一瞬でチームの半分の3人が死亡したことに毒づくプレイヤーを余所に、レンとラッシュがさらにそれぞれ1人ずつ撃ち殺す。そして最後の1人になったそのプレイヤーに、レンがP90を向けた

 

「ヒィッ・・・」

 

 ゴーグルで目元が隠れているせいで、レンの表情からは感情が読み取れない。そのため最後のプレイヤーには、レンが感情の無い機械のように見え、恐怖を感じた。短く悲鳴を上げ、そして撃ち殺された。最後にビームナイフを刺さっているプレイヤーから抜き、ドサリと倒れたそのプレイヤーからDEADの表示が上がった

 

「なんかお前さん怯えられてたぞ?」

 

「普通に集中して戦ってるだけなのになぁ・・・」

 

 レンは不思議そうに首を傾げる。ラッシュはそんなレンを見て、理由に気付きながらもあえて言わないのだった

 

 

 一方その頃スタート地点に残ったメンバーたちは・・・

 

「たーいーくーつー」

 

「我慢しなさい」

 

 ラッシュたちが行った方向とは逆の方向にヘカートⅡを向け、警戒をしているシノン。近くにはユウキが木に寄りかかって座り、詰まらなさそうに小さく声を上げていた。店主とジェーンは数メートルの距離を空けて別の方向を警戒している

 

『ん?・・・来たぞ』

 

 そんな中、外周方向を警戒していた店主の視界に人影が現れる。インカムでそれがシノンたちに伝わる

 

『外周から回り込もうってハラか。しかし3人だ。他の方向との挟撃だろうな』

 

「ユウキ、出番よ。コッソリ近付いて最低限の弾で倒しなさい」

 

「オッケイ」

 

 シノンがヘカートⅡを外周方向に向けながらユウキに指示を出す。ユウキは腰を上げ、低い体勢のまま茂みに隠れて敵チームを横から襲撃するために向かう

 

『私の分も残しておきなさいよ』

 

「それは保障できないかも」

 

 ユウキがポイントに着き、背負っていたHK417A2のカービンモデルを手に取り、セーフティを解除する。コッキングを行い、準備が終わる

 

「行くよ?」

 

『えぇ』

 

「っ!」

 

 ユウキが隠れてきた木からバッと敵に姿を晒し、適当に定めた1人を撃つ。7.62ミリの弾丸がアーマーを貫き死亡させる

 

「しまっ・・・」

 

 敵チームが待ち伏せに気付くも、それはもう遅く、シノンのヘカートⅡによる1発が同一射線上の2人の頭を貫いた

 

『2枚抜きイタダキ』

 

「あっ、ズルい!」

 

 そのとき、ユウキの位置からシノンを挟んだ向こう側、マップの中心方向で爆発が起こった

 

『あらあら・・・誰か引っかかっちゃったみたい・・・爆発物は補填されないから後で回収しようと思ってたのに・・・』

 

 っとジェーンの声がインカムから聞こえてくる。挟撃されようとしてる中で、シノンたちが落ち着いていられたのは、彼女たちの周りにはジェーンが仕掛けたトラップがあったからである。試合が始まってまだ数分ということもあり、時間的に全ての方向に仕掛けられてはいないが、それでも中心方向とラッシュたちが行った方向にかけては、いくつか仕掛けることができていた

 

『DEAD表示1つ確認。他敵影確認できず』

 

『敵影1つ発見・・・あ』

 

 店主がトラップの爆発跡で1人の死亡を視認する。そしてジェーンが別方向から接近してくる敵影を発見するが、その敵影は次の瞬間に爆炎に包まれる

 

『撃つ必要はなさそうね・・・』

 

『安くないから、あまり引っかからないでほしいわ』

 

 トラップの作動にジェーンが困った声で言うのだった。とはいえ、本来は補助であるトラップ系スキルを極め、また製作者としての高DEX値と合わさることで、ジェーンの仕掛けたトラップは、実質仕掛けた本人であるジェーン以外には発見や解除は不可能なほどのものになっているのである

 

「クソッ!なんなんだよ?!どうなってんだよ?!コイツらはよ?!」

 

「ホント、僕も割とそう思う」

 

「っ!」

 

 最後の1人が自暴自棄に叫ぶ中、いつの間にか隣にいたユウキが、同情しつつそのプレイヤーの頭にそっと銃を向けて1発だけ撃った

 

「最後の1人を倒したよ」

 

 

「おいおい、ブラックアロー開幕5分と経たず1チームやりやがったぞ」

 

「しかもラッシュとレンの2人だけでだ。開幕即行でチームを割るとは思い切ったな・・・」

 

 観戦エリアの酒場では、予選の全ての試合がモニターに映し出されていた

 

「あの速さでかつ無音って、忍者かよ・・・いや、女だからくの一か」

 

「待機してたヤツらも半端ねぇぜ」

 

「トラップなんて見えたか?」

 

「全然。センサー式かと思ったぜ。あれがアナログのブービートラップだとは信じらんねぇ」

 

 なんて話している間に、ブラックアローの勝利で予選13組は終了する

 

「しかし・・・こうして見てると、結構やりそうなチームはチラホラとあるな・・・」

 

「あぁ、始まる前はブラックアローと闇風んトコくらいかと思ってたが・・・」

 

「これは賭けが面白くなりそうだな・・・」

 

 他の組の試合でも、圧倒的な強さを見せて勝ち上がるチームがあり、観客は明日の本戦に期待を高めた




 一気に飛んでSJ予選日
 なおエントリー数120チームとはいえ、12月以降に組んだようなポッと出のチームが勝ち残れるのか疑問。闇風のような個人で腕の立つプレイヤーでもいない限り無理ちゃう?

 酒場でのやり取り
 王者のプライドを捨て、挑戦者となった闇風。泥臭く勝ちに行きます。ターゲットにラッシュを追加

 予選の試合形式
 原作SJ2とは違い、複数チームでのバトルロイヤル。運営主催のBoBとは違って個人スポンサーなので試合数を減らす狙い

 予選開始
 ラッシュの新メイン武器、ステアーAUGA3。ブラックアローでの売れ残り。LUK補正で短距離の狙撃もいける
 BoB以降のレンの実力。プレイヤースキルで忍び足を取得。ナイフの使い方が原作レンは切る感じだったのが、こちらは刺す感じに。ラッシュの影響で弾を撃ち過ぎることなく最少の弾数で相手を殺すスタイルになった
 ついでに忘れかけてたレンのゴーグル設定を描写

 居残り組みの戦闘
 ユウキの武器、HK417A2のカービンモデル。ラッシュのステアーAUG同様、ブラックアローの売れ残り品。レンが5.7ミリの拳銃弾、ラッシュが5.56のアサルトライフル、ユウキが7.62のバトルライフル、シノンが12.7ミリの対物ライフルとなんか揃った感
 ジェーンのトラップ。もう発見用のスキルを持ってないと発見不可能レベル

 ちなみに裏設定として、デスガン事件があったので、対MOB用の状態異常を起こす弾やガスの使用は対人戦の大会では全面禁止になったという設定


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18話

 翌2月8日、SJ本戦日

 

「いぃたぁ~敵めっけ!」

 

 2人組チーム『PM』は森からスタートした。そこからビル街へと向かい、森とビル街の境界で敵チームを発見した

 

『もうすぐスキャンが始まる。詳しい情報をくれ』

 

「えっとねー、私のいる位置の道路挟んだ向かい側。確認できる人数は5人。全員マシンガン装備」

 

『わかった。スキャンの情報を確認する』

 

「撃つ?ヤッちゃう?」

 

 先行しているピトフーイは敵を発見したことに、興奮した様子でもう1人のメンバーのMに問いかけた

 

『・・・今ビル街に複数の敵チームがいる。迂闊に出て行くと、人数が少ない俺たちが集中攻撃を受ける可能性もある。精々潰し合ってもらおう』

 

「チッ・・・りょーかい・・・っ!」

 

 Mの行動方針に、ピトフーイは舌打ちしつつも受け入れる・・・が、そんな彼女に向かって複数のバレットラインが伸びる

 

「おっと・・・ねぇー、仕掛けてきたわよー。撃っていい?」

 

『距離があるのに無駄なことを・・・まぁ、撃たせておけ。太い木の裏にでも隠れていれば当たることは無い、そのうち他のチームがやってくれるさ』

 

 っとMが言うと同時に、敵チームの1人が狙撃で死亡する。別チームからの襲撃にマシンガンの乱射が止まり、ピトフーイが木の裏から顔を出してみると、もう1人のメンバーが狙撃を受けて死亡した

 

「ヒュ~♪ヘッドショット決めたわ。いい腕してるわ」

 

「スナイパーの場所はわかるか?」

 

「あんたいつの間に・・・いんや、わっかんない」

 

 ピトフーイは後方から追いついてきたMに驚くも、淡々と質問に答える

 

「場所がバレるような素人ではないということか・・・いたぞ。あのビルの上」

 

 次々に倒される目の前の敵チームに、相手の狙撃位置を発見するM。Mが差す方向のビルには、外壁をロープで降下するプレイヤーが2人・・・

 

「あのラペリング・・・スキルだけじゃなさそうね」

 

「あぁ、それに始まってすぐにチームを割る思い切りのよさ・・・というよりは、統率の取れた分隊行動。ホンモノか?」

 

「専用のエアガン使って訓練やってる連中が・・・専用の仮想空間組んでやってればいいのに」

 

「平和ボケのこの国じゃ、そんな予算は組めそうにないがな」

 

 Mの言う『ホンモノ』の意味を理解したピトフーイは、つまらなさそうに言い捨てる

 

「でも、ま・・・ホンモノとやり合える機会なんて、そうあるものじゃないものね・・・ヤるわよ」

 

「ハァー、了解」

 

 

「おーおー、この国の軍人もやるじゃねーの」

 

「軍じゃなくて自衛隊。日本はそういうトコうるさいのよ」

 

 一方、ビル街の中にいるブラックアローも、PMが目を付けたチームと同じチームを観察していた。ラッシュの言葉に、シノンが注意を入れる

 

「でも自衛隊が出場してるなんて、マジなのか?」

 

「さぁな、でもシステム上のスキルじゃなく、プレイヤースキルでゴリ押ししてる感じは、他のプレイヤーとは明らかに違うがな。あれだけ撃って動けてなら、リアルでも同じことやってる人間だろ。警察の特殊部隊とかもありえたが、射殺が許されない日本の警察がこのゲームで訓練して、なにが身に付くって話だしな」

 

 自衛隊の出場を疑っている店主に、ラッシュは観察して得た情報から推理していく

 

「アメリカとかだと、軍の航空機や戦車の操縦訓練は、専用の仮想空間を作って、そっちに移行し始めてたりするらしいわよ。もちろん、だからといって現実での訓練がなくなってはないのだけれど」

 

「イメトレ感覚で本物飛ばしてるのと同等に近い訓練ができるのは大きいはずだ」

 

 ジェーンの情報にラッシュが言葉を足す

 

「ま、日本はこういう技術を公的機関で取り入れるのは、決まって先進国の中じゃ最後だからな。政治家共の頭の固さは世界でもトップクラスだしな」

 

「あぁホントにな」

 

 店主の言葉に、ラッシュはやや実感の篭った声で返した

 

「えっと、それで、これからどうするの?」

 

「その自衛隊チームと戦う?」

 

 レンとユウキがラッシュに問いかける

 

「ま、GGOはリアルとは違うってことを、先達として教えてやろうじゃないの」

 

 

「敵全滅を確認、クリア、損害無し」

 

『了解。現在地でスキャンを受ける。周囲を警戒されたし』

 

「了解」

 

 ビル街にて、3チームの争いにグレネードでピリオドを打った自衛隊チーム。リーダー役の隊員の指示に他隊員が周囲を警戒する

 

「確か、2チームほど付近にいたはずだ。見張りを厳に」

 

「「「了解」」」

 

 前衛の上官役が注意を促し、スキャンが始まる

 

『スキャン結果・・・南西の1チームが近い位置にいる。恐らくこちらを狙って接近していると思われる』

 

「了解、現在位置にて迎撃する」

 

『スキャン結果は高さが表示されない。上下方向からの襲撃に注意あがぁっ?!』

 

 リーダー役の男の通信が途中で切れる。その1秒後、重く響く発砲音がビル街に轟く

 

「狙撃?!」

 

『1名死亡!どこからだ?!』

 

「着弾と発砲音の聞こえた時間からして、結構な距離なのは確かだ。安心しろ。どうせシステムアシストを使っての狙撃だ。2発目はラインが見える。落ち着いて対処しろ」

 

『・・・了解』

 

 前衛の上官役の男の言葉に、後衛に1人残された狙撃手は深呼吸をして落ち着きを取り戻して返事をした

 

「訓練だからシステムアシストに頼るなって話では?」

 

「意図しなくても見えてしまうものは仕方が無い。それを無視するのは逆に不自然だ・・・っ?!」

 

 っとそのとき、狙撃手が待機している建物の壁が砕け、穴が開く。同時にチームメンバー欄の狙撃手の欄がDEAD表示に変わる。そしてまた1秒後に先ほどと同じ発砲音が轟く

 

「なっ・・・どうなってる?!距離からしてラインが見えてからでも十分回避可能なはず・・・」

 

「!・・・今はその疑問は捨て置け。目の前の敵に対処するぞ」

 

 動揺を見せる残された隊員に、敵の接近に気付いた上官役が指示する。隊員はそれぞれ建物の壁や放置されている廃車などに身を隠す

 

「この本戦に1チーム・・・遊びに水を差す荒らしがおる」

 

 コツコツ・・・っとわざとらしく靴音を鳴らして歩いてくるスーツ姿の男が、呟いた。隊員たちが体を半分出して銃を男に向ける

 

「お前らだろ?」

 

 『いえ違います・・・』っと上官役は心の中で答えた

 

「√3の語呂合わせを言ってみろー!!」

 

 男、ラッシュは叫び、右手にM320グレネードランチャー、左手にデザートイーグルを構えた

 

「えっと、1.7320508・・・ヒトナミニヤレレバ・・・あ」

 

「お前らやー!!」

 

 ラッシュが廃車に向かってグレネードを撃つ。吹き飛ぶ廃車に、隠れていた隊員が慌てて回避し体を晒してしまい、デザートイーグルで頭を撃ち抜かれる

 

 ともあれ、開戦のゴングは鳴らされた

 

「チクショウが!・・・っ!」

 

 建物の陰からラッシュを撃とうとした隊員をデザートイーグルで牽制する。一度引っ込む隊員だが、そこに路地裏を通って背後を取ったレンが・・・

 

「俺だけに注意向けてていいのか?!俺たちはチームで戦ってんだぞ!!」

 

「っ?!」

 

「とぉーう」

 

「ウガッ?!」

 

 レンのAGIで速度の乗ったドロップキックが決まり、建物の陰から蹴り出される隊員。そしてラッシュに撃たれて死亡する

 

「クソッ調子に乗るな!!」

 

 生き残っている隊員がラッシュに向けて発砲するが、死亡した隊員を片手で支えて盾にして弾を防ぐ

 

「マジで弾が貫通しねえのな。爆発も防げたりするのか?」

 

 BoBでは意識することのなかった死体の破壊不能特性に感心するラッシュ。LUK補正もあり、盾にした死体に弾が集中し、ラッシュにダメージを与えることができない

 その隙にレンが隊員を撃ち殺し、残されたのは上官役の男が1人。訓練の継続は不可能と判断し、戦う構えを解いた

 

「な、なんなんだお前たちは・・・?」

 

「俺たちか?俺たちはただのゲーマーだ。楽しくゲームを遊ぶ一般人だよ。この世界じゃ、ちょっとばかし強いかもしれんが、リアルじゃ平々凡々だ」

 

 『い、一般人・・・?』っとレンが疑問に満ちた視線をラッシュに向けた

 

「システムを無視してゴリ押すのは本当のプレイヤースキルじゃない。システムを利用し相乗効果を出す、あるいはシステムの足りない部分を補うのが本当のプレイヤースキルってモンだ。リアルじゃ役には立たんがな」

 

「・・・そうかい」

 

 ラッシュのお説教に、上官役だった男は少しの間呆気に取られた後、吹っ切れたように短く言葉を返してリザインの操作をして本戦から去った

 

 

 戦闘後、集合してスキャンの結果を見ているブラックアローの面々

 

「結構減ってるな・・・隣の住宅地エリアとの境界に1チーム、沼地と砂漠と山岳地帯に1チームずつか・・・」

 

「BoBと違って生存を示す点がどのチームなのかわからないのが痛いわね・・・」

 

 付近に敵がいないと言うことで、端末をプロジェクターのようにして壁に結果を映し、チーム全員でそれを見ている

 

「ま、通常ならここは住宅地エリアのチームを狙うのがセオリーか」

 

「そうなんだが・・・他の3チームがどう動いてるか・・・三つ巴で睨み合っててくれたらいいけど、こっちに来られて三つ巴四つ巴になったら面倒だぞ?」

 

 店主の意見に、ラッシュはふむと考え込む。ラッシュが気にしている3チームの周りには、それぞれ全滅を示す白い点がいくつかあり、激戦を潜り抜けたことが想像できた

 

「でも結構距離あるよ?」

 

「敵の移動が徒歩ならな。BoBでも乗り物は用意されてたが、乗り物はチーム戦でこそ活きる。次のスキャンまでに近くまで接近されてる可能性もある。俺らのいるビル街や隣の住宅街のような整地は乗り物での移動もしやすいから、不利になる」

 

 SJの本戦はBoBの本戦と同様に各所に乗り物が用意されている。個人戦だと1人で運転と警戒、または戦闘をこなさなければならなくなるため、使用にはリスクも大きいが、チーム戦ならば複数人でそれを分担できるため、使用しない理由が存在しないのだ

 

「じゃあ、どうするんだ?」

 

「俺としては、森を抜けて山岳地帯にいるチームを狙いに行きたい。森は乗り物では入れんし、徒歩ならジェーンのトラップが活きる」

 

「だが、俺らも徒歩では10分で山岳地帯までは行けんぞ?」

 

「そりゃそうだ・・・が、そこでまたチームを2つに分ければ、奇襲ができる。まず自分で弾を携行していて、単独での継戦能力があるレンとユウキが先行して森を一気に抜ける。残ったメンバーは次のスキャンはこのビル街で受けて、スキャンが終われば残ったメンバーも森を抜ける。先行した2人が戦闘を始めて、俺らが後詰として加わる・・・こんな感じだが、どうだ?」

 

 ラッシュが作戦を説明し、キーとなるレンとユウキに判断を振る

 

「うん、いいよ」

 

「僕もやる」

 

「他は?」

 

 ラッシュがレンとユウキ以外の面々を見る。異論はなく、シノンたちはコクリと頷く

 

「よし、なら移動を始める」

 

 

「森を抜けて敵チームと当たっても、俺らが着くまで無理はするな。耐えられんと思ったら、森へ引き返せ」

 

「次のスキャンまで、あと6分だ!」

 

「よし、行け!」

 

 ビル街と森の境界でレンとユウキを送り出す。2人が幹線道路を超えて森の中に消えていった。続いてシノンとジェーンが森の際に移動する

 

「恐らく住宅地エリアのチームは次のスキャンまでは待ってくれん。ここで戦闘になるだろう。次のスキャン後、即行でトンズラするから、射撃は足止め程度でいい」

 

 住宅地のチームは乱戦を避けるならば、このブラックアローしか狙えるチームが存在しない・・・っとラッシュが考えていた

 

『50キャリバーで足止めとはね・・・別に倒してもいいのよね?』

 

「いいが、あまり高望みはするなよ。こういうのは欲張ったヤツから死んでいくんだ」

 

『LUK型に欲張るなって注意されるなんて、なんの冗談かしらね・・・』

 

 シノンはそう茶化しつつ狙撃の体勢に入り、ジェーンは森の際から少し奥のエリアにトラップを仕掛け始める

 

「いいか・・・下手すると、住宅地のチームを追って、沼地と砂漠のチームのどっちかがそのままここに雪崩れ込む可能性もあるんだからな?」

 

「ちなみに、そうなったらどうするんだ?」

 

「俺が森でジェーンの仕掛けたトラップを使いつつ殿をする。それで俺以外の3人だけで、先にレンとユウキのところに向かってもらう。俺とジェーンがこっちに残ってるのはそのためでもある」

 

「そうか・・・」

 

 ビル街の端に残ったラッシュと店主。ラッシュが適当なビルの1階の窓ガラスを割って、店主を中に隠す

 

「スキャンまで、あと3分だ」

 

「スキャン結果が出たら、すぐにレンとユウキに山岳地帯のチームの位置を伝えろ。俺らの周りはその次だ」

 

「わかった」

 

「っ!」

 

 っとそのとき、ラッシュの横のビルの外壁に、弾が当たる

 

「おっと、運がよかったな。対物ライフルならお前は外壁ごとぶち抜かれてたぜ」

 

「あぁ、ホントにな。お前も気をつけろよ」

 

「ハッ、いらんお世話だ」

 

 店主の入ったビルから離れたラッシュは、ステアーAUGを構えて狙撃のあった方向から身を隠す

 

「さて、敵チームの構成はどうだろうな・・・?後衛のスナイパーが最低1人、残り5人が前衛だと、ちとキツいか?」

 

 悲観的なことを言いつつも、ラッシュの表情は獰猛な笑みを浮かべるのだった




 本戦開始
 日程がズレたことで出場できたピト。開始位置は原作のLMと同じ

 ブラックアローの開始位置はビル街の南のほう。原作ではプロチームの中の人は警察や海保の特殊部隊の可能性もって言ってたけど、現実で射殺が許されないそれらは、射撃訓練程度にしかならないから、大会に出る必要がないよね
 先達云々・・・ラッシュとジェーンはキャーティアの軍の所属です

 自衛隊チーム
 アニメ見て思ったんだけど、システムアシストのオンオフが無いのわかってて、なんで大会出たんだろうね?

 この中に・・・
 チャラリ~鼻から牛乳~

 ラッシュは一般人か?
 GGOの中では一般人なんだよ!

 戦闘後のスキャン
 マップの東西南北と各地の地形は、ようつべに公式の5.5話があるので、LMと自衛隊チームの戦いの前か後に廃住居で床に映して見ているのを参考にしてます。レン側が北と捉えてます
 ザッと書くなら全体を3×3の9ブロックに分けて・・・北西が山岳地帯で、北と北東が森林、西が沼地、中央が住宅地、東がビル街、南は全体的に砂漠や荒野・・・っと思って書いてます(実際は違うところがあるかも)

 ブラックアローの次の行動
 とりあえず複数チームを同時に相手にするのは嫌なので遠くに逃げます。相手チームたちがこちらをブラックアローだと認識した瞬間にチーミングされるのを恐れての行動です。ま、残ってるチームはアレとアレとアレなんで、その心配はないのですが・・・

 行動開始・・・そして接敵
 対物ライフルなら云々で思ったのですが、原作でシノンのヘカートⅡ以外の対物ライフルってどうなってるんでしょうね?確かBoB編より前の時点で十数丁はあるって設定だったはず


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19話

「射線上に候補になりえる建物が複数あって、狙撃手の位置が特定できないわ」

 

『そうか・・・仕方が無いな』

 

「それより前衛も着いたようよ。さっきからチョロチョロと隠れながら動いてるわ」

 

『何人だ?』

 

 森の際、やや俯瞰してビル街を見ていたシノンは、ビルの合間や廃車の陰で動くプレイヤーを発見する

 

「1人よ。あのときのイカレ女ね。BoBの予選といい、随分と好かれてるわね」

 

『勘弁してくれよ・・・』

 

 シノンの言葉に、ラッシュは肩を落とした

 

「でも、予選の映像だとあのチームは2人組みだから、ここ仕留めれば・・・」

 

 シノンがバレットサークルを使い、ピトフーイの動きを予測して、照準を先回りさせる

 

 ―残念だけど、ラッシュの中にあなたの居場所は無いのよ・・・消えなさい

 

 静かに引き金を引いたシノン。12.7ミリの弾丸が、ビルの陰から飛び出したピトフーイの胸を貫く。インパクトダメージで胸から上がゴッソリと削り取られた体が残り、DEADの表示が上がった

 

「どうよ?」

 

『カウンター!』

 

「っ?!」

 

 自慢げにキル報告をしたシノンに、ラッシュの怒鳴り声が飛ぶ。シノンが咄嗟に地面に這い蹲ると、弾丸が後頭部の髪を千切り去り、少し離れた地面に突き刺さった

 

『大丈夫か?』

 

「えぇ・・・ギリギリ。ありがとう、助かったわ」

 

 間一髪で助かったことを自覚し、全身から冷や汗が出るシノン

 

 ―相手にも味方がいる。これがチーム戦の怖さってことね・・・でも、今ので相手のいる建物は絞れたわ

 

 シノンはヘカートⅡを持ち上げ、自身の位置を少し変えつつ、膝射でその建物に銃口を向け、スコープを覗く。撃ち込まれた弾丸の角度から大凡の高さを逆算し、それに当たる階の窓を鷹眼のスキルを併用して見ていく

 

『あと1分だ』

 

『トラップは仕掛け終わったわよ』

 

『シノン、仕返しは諦めろ。撤退準備に入れ』

 

「嫌よ!」

 

『言っただろ、欲をかくなって』

 

 ラッシュの指示にシノンが反対する。しかし、ラッシュは冷静にそれを諌める

 

 ―見つけた!

 

「今見つけたわ・・・1発で決めるから撃たせて」

 

 そんな中、シノンはビルの中にいる敵のスナイパーであるMを発見する。そのまま引き金に指をかけずに狙いを定めていく・・・

 

 ―ダメって言っても撃ってやる・・・

 

『・・・わかった』

 

『スキャンが始まる』

 

 スキャンが始まる中、シノンは静かに引き金に指をかけると同時に引く。冷静さを欠き、スキャンを確認することなくピトフーイの敵討ちをしようとしていたMは、狙撃銃のスコープごと頭を吹き飛ばされ死亡した

 

『山岳にいたチーム、残存。やや南の沼地寄りに移動している。沼地のチームは住宅地エリアに移動した模様』

 

『入れ違いになったな。いい感じに乱戦が回避された。レン、ユウキ、そのまま進め。すぐに追いかける』

 

『了解』

 

『わかった』

 

 敵チームの位置を聞き、ラッシュが突撃の指示を出す

 

『って、ヤバッ・・・たぶん砂漠のチームがこっちに来てる!!近いぞ!!』

 

『たぶん乗り物で一気に距離を詰めてきてるな・・・だが無視だ。撤退するぞ!』

 

 店主がビルから出てきて、ラッシュと幹線道路を渡り、森の際に着いた。シノンとジェーンに合流し、トラップのないルートを通って森を駆けていった

 

 その1分後、SHINCの乗る軍用トラックが、もぬけの殻になったこの場に到着するのだった

 

 

『今、森に入った。そっちの状況はどうだ?』

 

「こっちは山岳地帯に入って、敵チームを見つけたよ。敵チームは闇風さんのところだった」

 

 先行したレンとユウキは、森と山岳地帯の境界を少し越え、更新された敵チームの位置情報を頼りに、遠距離から敵チームを目視で確認していた

 

『闇風んトコかよ・・・いや、でも予選しか情報がない他のチームよりマシなのか?全員見えるのか?』

 

「うん・・・闇風さん、ミニガンの人、前のBoBにいた銃士Xって人、それぞれのサポートの3人」

 

 レンが目視で確認した敵チームの構成を伝える。闇風のチームは簡単に言えば、2人組みチームを3つ合わせただけの6人チームである。AGI特化型の闇風、ミニガン使いのベヒモス、スナイパーの銃士X(マスケティアイクス)、その3人が主力となり、それぞれのプレイヤーの弱点となる部分を補うサポート役のプレイヤーと1人ずつコンビを組む。そういった構成であった

 

『主力は主力、サポートはサポートって完全に割り切ってチームを組んだのは正解だろうな。全員BoBの本戦クラスやソロのプレイヤーじゃ、チームが空中分解して終わりだっただろう』

 

 GGOは殺伐としているため、強いプレイヤーは基本的に我が強い傾向にあり、BoBなどで上位に入るなどの結果を残しているとそれが悪い方向にも出てしまい、他人と組んでの行動に支障が出るケースが多々あるのだ

 

『スナイパーは位置に着く前にヤっときたいが、ミニガン相手じゃAGI型でも蜂の巣は確実だ。大きく北に回って、相手の北西側まで行ってくれ。俺らと挟撃に持ち込みたい』

 

「・・・わかった」

 

 ラッシュの指示に、レンは一度ユウキに視線を向け、彼女が頷いたのを確認して返事をした

 

 

「・・・来たか」

 

 一方、山岳地帯を移動中だった敵チームのリーダー闇風は、直感で接敵を悟った。残り2人の主力に合図を送り、2人は周囲を警戒しつつ闇風から距離を取る。それぞれのサポート要員は、各々に現実の警察機動隊が持つような形状の防弾シールドを構え、文字通り主力の盾となり、自分のペアに付いて行く

 

「っ!」

 

 先手はブラックアローが取った。スポンッと軽い発射音とともに、空に撃ち上がる1発のグレネード弾。それは高く空に上がり、ゆっくりと大きく弧を描いて・・・

 

「ベヒモス!」

 

「わかっている!」

 

 重量装備で機動力の低いベヒモスに向かって降る。ベヒモスはミニガンの仰角を上げてグレネード弾を撃って破壊しようとする・・・が、補助具を使用して装備しているため、ミニガンの仰角が飛来するグレネード弾まで届かない

 

「・・・クッ!頼む!」

 

 迎撃が不可能と判断すると、ベヒモスは鈍重ながらも回避に移る。そして盾を持ったサポートメンバーが、グレネード弾の着弾予想地点とベヒモスの間に割って入り、爆発の衝撃や飛んでくる弾殻を盾で防ぐ。衝撃をモロに受けて2人が吹き飛ばされるが、HP上では大きなダメージになることなく済んだのだった

 

「グレネード弾・・・LUK型か」

 

 初撃を凌ぎ、闇風は相手のチームがブラックアローであると当たりをつけた

 

「100メートル先に敵2、グレネードを発射した相手と推測」

 

「OK」

 

 銃士Xの付いているサポートメンバーが観測手としての役割をこなし、攻撃を仕掛けてきたブラックアローのメンバーを発見し伝える。それを聞いた銃士Xがその方向へライフルを向けた

 

「フゥー・・・っ!」

 

 サポートメンバーの盾に身を隠しつつ、引き金に指をかけずに狙いを定めて、ラッシュに向かってラインなし狙撃を行う。海外育ちの彼女はリアルでの発砲経験があり、それがゲーム内で活きていた

 

 しかし・・・

 

「なっ・・・」

 

 軽く体を捻る程度の回避行動で、容易く避けるラッシュに、銃士Xは唖然とする

 

「アイツに狙撃は無意味だ。スナイパーとはビルドの相性が致命的に悪い。アイツは俺がやる。それよりそろそろ・・・」

 

 っと闇風が言ったところで、闇風の視界に北西に回り込んでいたレンとユウキの姿が映る

 

「北西に敵影2だ。アイツらの戦法で最初に姿を現すヤツは大抵囮だ。敵の目を囮に向けさせ、別方向から襲撃、最後は乱戦で各個撃破していくのが常套手段。北西はベヒモスだ。弾幕張って接近を許すな」

 

「わ、わかった!」

 

 体勢を立て直したベヒモスの持つミニガンが北西から接近する2人に指向する。ユウキが同口径のHK417で牽制をするが、彼のサポートメンバーの盾に阻まれる

 

「私は?」

 

「まだ見えていないがスナイパーがいる。スナイパーはスナイパー同士で戦ってもらう」

 

「了解」

 

 そう指示を残し、闇風は彼のサポートメンバーを連れてラッシュに向かっていく。特化したAGIを最大限に発揮しサポートメンバーを置き去りにしてラッシュに突撃する闇風。対するラッシュ、向かってくる闇風に一瞬笑みを浮かべると・・・

 

「ほう・・・っ!」

 

 メイン武器のステアーAUGA3と、サブのM320グレネードランチャーをその場に落とし、ラッシュ自身から闇風に向かってきた。一見バカな行動に映るその意味を、闇風は一瞬で見破った

 

「装備を捨てて重量を削減し、STR依存の機動力ブーストか」

 

 異様な速さを見せるラッシュに、闇風はその理屈を呟く

 

「そういうこった!お前の速度にちょっとでも追いつくためには、多少の無茶もせんとな!!」

 

 ラッシュは闇風の言葉を肯定する。今、ラッシュのストレージは空っぽである。武器はホルスターに収まっているデザートイーグルのみ、その予備マガジンも実体化させて携帯している分だけ・・・他はすべて、ラッシュと一緒にいるジェーンに渡したのだ。彼女のストレージを占めていたトラップは半分近く使用されているため、彼女のストレージには空きができていて、そこに入れたのだ

 

「攻めてくるじゃねぇのっ!!」

 

 普段ならば、相手と一定の距離を保つ戦い方をする闇風だが、その一定距離よりもさらにラッシュに接近する。動きながらの射撃では集弾率が低くなるので、より接近しなければ、LUK補正に打ち勝つことができないのだ。もしもゼロ距離の格闘戦に持ち込まれた場合、STRやVITに劣る闇風に勝ち目は無い。それは彼自身も認識していることである。しかし勝つために、特化させたAGI値を信じ、高速での接近戦を彼は選んだのだ

 

 しかし、彼は1つ見落としていた。今、彼がやっている戦い方は、すでにラッシュの身近にいる人物がやっていることを・・・そして彼は知らない。このような高速近接戦はラッシュのALOでの戦法であることを・・・

 

「っ!」

 

 射撃のために距離を詰め、さらに自身の持つ銃を相手に向けたことにより、近づけすぎた銃口がラッシュの左手に掴まれる。ラッシュは9ミリの拳銃弾を手のひらで受けるが、被弾場所や弾種からダメージ量は無視できるレベルであった。ラッシュはLUK型故、STRは決して高くはないが、それでもSTRが初期値の闇風にとってはパワー勝負は絶対に勝てないものであり、銃に引っ張られる形で闇風は動きが止められてしまった

 

「つーかまーえたっと、オラァッ!!!」

 

 そうして、動きの止まった闇風の頭に、ラッシュの右ストレートが入る。咄嗟に銃を手放し、その場で受け止めずに飛ばされることでダメージの軽減を狙う。AGI特化型故に頭部を守る防具を装備できない闇風。目元を隠すアクセサリーとして着用していたサングラスが壊れて吹っ飛び、空中で消滅する。VITもDEFも低い闇風は、ラッシュのパンチでHPが1割も減ってしまう

 

「クッ・・・っ?!」

 

「ハッ!脳震盪判定入ったようだな」

 

 追撃を避けるために殴り飛ばされた後、すぐに立ち上がる闇風だが、足元が覚束ない。頭部への打撃ダメージによって、システム的に『脳震盪になった』という一種の状態異常に陥っていたのだ。平衡感覚が狂い、視界もややボヤけている闇風

 

 ラッシュは闇風の銃を投げ捨て、デザートイーグルを抜いて闇風に向けていた。闇風のボヤけた視界でもそれは認識でき、自身の負けを悟る

 

「やらせるかよ!!」

 

 しかし、ラッシュの撃った弾丸は間に割り込んだサポートメンバーの盾によって防がれる。片手で盾を支え、空いた手で治療キットをタクティカルベストから取り出して闇風に打つ

 

「クッ!!」

 

 闇風の回復を待つサポートメンバー。そんな彼の視界の端に、ジェーンがラッシュの置いたステアーAUGを構える姿が入る。盾をそのままに、5.56ミリの弾を体で受けて闇風を守る。習熟度が無いため、ジェーンの撃った弾はバラつきが酷く命中弾は少ない。またサポートメンバーはVITとDEFが高いため、当たっても攻撃を耐えることができていた

 

「イクスさん援護をください!」

 

 攻撃手段を持たないサポートメンバーは、縋る思いで銃士Xに支援を要請する。数秒後、ジェーンに向かってバレットラインが伸びてきた。そして飛んできた弾を、ジェーンは射撃を止めて横に転がって回避する

 

「スマン・・・助かった」

 

 時間経過で脳震盪が治り、闇風が復帰する

 

「クソッ・・・仕方が無いとはいえ、銃を手放してしまった」

 

「なら、まず拾うところからですか・・・」

 

 闇風の銃は、ラッシュの後方の地面に落ちている。すぐに投げ捨てられたため、特に壊されたような様子は見受けられない

 自分の(テク)に自信を持っていたため、サポートメンバーに武器を持たせなかったことを、闇風は後悔する。と同時に心の隅にあった『チーム戦でも個人技で戦い抜ける』という思い上がりを恥じた

 

「第2ラウンドだ・・・協力していくぞ」

 

「了解です」




 ラッシュが戦うと思いきや・・・
 シノンの狙撃でピト死亡。原作に比べてピトが弱体化してるわけではなく、初登場から成長してないだけです。原作でもBoBの予選で狙撃されて敗退してますし、SJ2でもシャーリーからの狙撃で死に掛けてますし。狙撃に対しての警戒が甘いんじゃないですかね?
 シノンさん危機一髪(再)。部位欠損扱いで後頭部がハゲました

 山岳地帯にて
 闇風のチームメイトは銃士Xとベヒモスと無名のサポート3名。火力担当のベヒモスと、狙撃担当の銃士X
 サポートは、ブラックアローの店主のよりも、非戦闘員として割り切ったビルド

 戦闘開始
 アニメでフカ次郎が連発式グレランを買うシーンで、バイヤーが『最近追加された連発式グレネードランチャー』って言ってたけど、単発はゼクシードが第2回BoBでアサルトライフルと一体化してるのを使ってたからあるはずなのに、なんで使い手がいないんだろうね?
 銃士Xのラインなし狙撃の設定は勝手に追加

 ラッシュ対闇風
 STR依存の機動力ブーストは、STR極じゃないのでペイルライダーほど大きく発揮されないが、あることにはあるという感じ
 闇風は、同じAGI型のレンの距離で戦闘をしたが、この距離での高速での戦いは、ラッシュの得意分野だった
 脳震盪判定はオリ設定。軽度の状態異常扱いで、現実よりも短時間で回復する

 サポートさん大活躍。闇風は仲間の大切さを知ったのだった・・・めでたしめでたし


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20話

「うひゃぁああっ?!」

 

「わわわっ!!」

 

 北西方面、ベヒモスの構えるミニガンから、高速で7.62ミリ弾が連射される。反動と弾薬消費を抑えるため、やや発射レートを抑えているとはいえ、毎秒30発以上の弾丸がレンとユウキに向かって発射されていた

 弾を回避するため、地面の窪みに向かってヘッドスライディングしたレンとユウキは、間一髪被弾を免れる

 

「これどうすんのっ?!」

 

「わかんない!」

 

 ユウキの問いかけに、レンは即答で返した。スピードのあるAGI型のレンでさえも、ミニガンの連射力は脅威である。レンよりも遅いSTR-AGI型のユウキでは言わずもがなである。現実では不可能とされるミニガンの手持ち発砲。GGOの中でそれは可能ではあるが無理もあり、過重ペナルティや射撃の制御に難があって集弾率が悪いなどの欠点がある。しかし徐々に距離が近くなるにつれ、それら欠点を差し引いても7.62ミリの火力と自動小銃を超越する発射レートが2人の接近を阻んでいた。現在ベヒモスまで30メートルほどの位置に2人はいた

 

「あれだけ連射してるから弾切れするかなって思ったら・・・」

 

「まさか、サポートの人が弾薬を持ってたって・・・」

 

 その連射力故、弾薬消費が激しいミニガン。初めはベヒモスの携行する弾薬が尽きるのを待つつもりであった2人。だが、彼に同行するサポートメンバーがストレージから追加の弾薬を出したことで、その望みは絶たれた

 

「ねぇ、ALOで凄い剣士だったなら、弾切って進めない?」

 

「無茶言わないでよ・・・」

 

 レンが現実逃避しつつユウキに問いかける。一応光剣も持っているユウキだが、ミニガンの張る弾幕に飛び込むのは無謀であった

 

「なにか弱点とかないの・・・?」

 

「うーん・・・私も銃は詳しくないから・・・店主さん、ミニガンの弱点とかってあります?重さとか弾の消費以外で」

 

 ユウキの呟きにレンが少し考え、知識を持っているであろう店主に情報を求める

 

『ガトリングの弱点?・・・『撃つ』と思って引き金引いてから弾が出るまでの時間差とかだな。銃身の回転数を上げないと撃てないからな』

 

「そういえば、僕らが飛び出しても、すぐに弾が飛んでくることは無いよね」

 

「あれってなにで回してるの?」

 

『電気のモーターだな。そういった部分も弱点ではあるな』

 

 店主の情報を聞き、レンはふむ・・・っと作戦を考える。しかし、今いるこの場所に止まっていられる時間も少なく・・・

 

「とりあえず左右に分かれて挟撃を・・・あとは流れで」

 

「わかった」

 

 レンがとりあえずの策を考え、指示を出す。そして2人は窪みの中で、モゾモゾと匍匐前進をして左右に分かれていった

 

 

 

「クソッ・・・チョロチョロと!」

 

 レンとユウキが苦戦しているベヒモスだが、彼の側もあまりいい状況とは言えなかった

 

 店主の指摘通り、圧倒的な発射レートを誇るガトリングの短所である、銃身の回転の上昇からの発射、そのラグによってレンとユウキに回避、接近を許してしまっていることに、彼は焦っていた

 銃身を回しっぱなしにすることは、電動式であるために必要なバッテリーの容量上、不可能である。なぜなら、このスクワッドジャムの本戦の展開が彼自身の想定以上の激戦になり、サポートメンバーに弾薬と一緒に持たせていた替えのバッテリーが無くなってしまったのだ

 

 これは彼のチームメイトが、闇風と銃士XというBoB本戦進出レベルであることに対し、ベヒモスはそういった結果を残していないこと。また、過重ペナルティというわかりやすい弱点を持っていることが大きく、要するに敵チームから狙いやすいカモ扱いをされていたのだ。それを尽く打ち倒した結果、彼の想定以上の早さでバッテリーを消耗してしまったのだ

 

 バッテリーが切れれば、銃身を回転させることができなくなるため、ミニガンは機能を停止してしまい、攻撃の手段が無くなる・・・弾薬以外にバッテリーの消耗を軽減させながらの戦いは、ベヒモス自身も始めての経験であり、ジリジリと後退を続けるベヒモスとサポートメンバーであった

 

「っ!」

 

 二方向から分かれて出てきたレンとユウキ、ベヒモスもすぐに反応してミニガンの銃身の回転を上げる。狙うのは2人の内、AGI値の低いユウキである。レンのほうにはサポートメンバーが向き、盾で射線を遮る

 

「ほっ!」

 

 回転が上がり、射撃を予告するようにバレットラインが伸び始める。ユウキはそれを視認し、進行方向を大きく変える。重量が大きいため、慣性も大きいミニガンは、ユウキの動きの変化に付いていけず、発射され始めた弾が外れる。そしてユウキが応戦するために、射撃を行う。バレットラインを見て、ベヒモスが横にズレてそれを回避するが、そのせいでミニガンのユウキへの指向がさらに遅れる

 

 その一方でレンが、AGIを活かして一気に距離を詰める。それに対してベヒモスへの射線が通らないように、微妙に位置を変えるサポートメンバー。しかしレンの動きに集中するあまり、防御の基準となるベヒモスの位置が、ユウキの射撃を彼が回避することで変わってしまったことに気付くのが遅れる。その隙を突き、レンがP90をベヒモスに向けた

 

「っと!」

 

 P90から伸びるバレットラインで、自身のミスに気付いたサポートメンバーは、すぐさま位置を修正する。そして今一度ベヒモスとの位置関係を注意深く確認するようになる・・・しかし、それは同時にレンへの注意がそれまでより疎かになるという意味であった

 

「クソッ!バッテリーが・・・」

 

 ミニガンのバッテリー残量がいよいよ危なくなってきたベヒモス。最後の博打でピンポイントに対象を狙った射撃から、周囲を薙ぎ払う掃射に撃ち方を変える。やや振り回し気味に弾丸を広範囲にばら撒き、相手を殺すことよりも、被弾させて動きを止めることを目的にする

 

「ったぁ?!」

 

 ばら撒かれた弾丸にユウキも回避しきれず左上腕に被弾する。インパクトダメージで被弾箇所から先の腕が千切れ飛ぶ

 

「ま、だまだぁ!!」

 

 右腕一本でHK417を構えて撃つユウキ。左手の支えがないことで、銃身がブレて弾は大きくバラけるが、それでも数発はベヒモスに向かって命中コースに飛ぶ。当然バレットラインで見えているので、ベヒモスは回避行動を取り、サポートメンバーもそれを確認し合わせて動く

 

 その僅かにレンから注意が逸れる瞬間・・・レンにはそれで十分だった。腰からハンドグレネードを取り、スイッチを入れてアンダースローで投げる。投げた手をそのままP90に持っていき、両手で構えて射撃に移った。サポートメンバーの盾に激しく撃ち込んで音を鳴らし、ハンドグレネードの落下音を紛れさせる

 

「無駄だ、無駄だ。この盾は素材と厚さで強度は折り紙付きだ。7.62ミリだろうが余裕で防ぐ。拳銃弾程度じゃ傷すら付かん」

 

 っと余裕をかますサポートメンバーの盾の横を、地面スレスレの軌道でハンドグレネードが過ぎ、サポートメンバーとベヒモスの間に転がり爆発。爆発跡の倒れている2人からDEADの表示が上がった

 レンはユウキに駆け寄り、大会が個人に配布した簡易治療キットを使って、ユウキのHPを回復させる。欠損した左腕は時間経過でしか復元しないが、HPだけは満タン状態に戻した

 

「北西方面、ベヒモスとサポート1名撃破!」

 

 チームに撃破報告をし、2人は右手だけでハイタッチを交わした

 

 

 少し時間を遡り、スナイパー同士の対決の銃士X。しかしブラックアロー側のスナイパーであるシノンをまだ発見できずにいた

 

「いるとしたら森の中、ですかね?」

 

「相手の射程は1000を越えてる。可能性はあるわね。対してこちらは800がやっと・・・」

 

 スポッターを兼任するサポートメンバーが双眼鏡で森を監視する

 

『イクスさん援護ください!』

 

 っとそこに闇風に付いているサポートメンバーからの叫ぶような援護要請が入ってくる。銃士Xが闇風の戦闘を狙撃銃のスコープで覗く・・・すると、銃を無くした闇風を守るサポートメンバーの姿があった

 

「チッ」

 

 仕方なく闇風の援護に入る銃士X。ジェーンに向かってバレットサークルを合わせ撃ち込む。射撃を止めて回避行動をとったジェーンに追加で2発ほど撃って牽制し、闇風から遠ざけさせる

 すると、ジェーンがステアーAUGを銃士Xのほうに向けた

 

「?・・・っ?!」

 

 チームメイトの銃で、明らかに持て余している感のあるジェーンに、『ここを狙えるのか?』と不信に思っていた銃士Xだったが、直後に精確に自身に伸びてきたバレットラインに驚く。すぐにサポートメンバーの盾に隠れて銃弾を回避する

 

「!」

 

 同様にサポートメンバーの頭にもバレットラインが伸び、彼は慌てて盾に身を隠す

 

「精確な射撃・・・あの人もスナイパーなのでしょうか?」

 

「いや、たぶん違う・・・あの銃はもう1人が持ってたものよ。スナイパーなら自前で狙撃銃を持つはず」

 

 銃士Xがそうっと盾から顔を出してジェーンのほうを覗く。すぐにジェーンの持つ銃からバレットラインが彼女の顔まで伸びてきた。顔を引っ込め、飛んできた弾丸が盾の横を通過する

 

「あの人は確かトラップ使い・・・なら高DEX値によるゴリ押しの狙撃だわ。アサルトライフルを単射で撃てば、銃の習熟度不足による弾のバラつきは起きない」

 

 ジェーンの精密射撃の理屈は、銃士Xの推理どおりであった。製作者ビルドによる高DEX値で精確に狙いを定め、大きさが変化するバレットサークルの中で、一番小さくなったタイミングで撃つ・・・それだけであった。バレットサークルを用いた場合の狙撃は、難しい計算など必要の無い単純なタイミング勝負である

 

「それでも、牽制としては十分の意味がある・・・」

 

 そんなジェーンの拙い狙撃だが、闇風の援護どころか、シノンの捜索すら行えなくなった現状を考えると、効果は絶大である。ジェーンの周りに遮蔽物はなく、一見狙われ放題だが、本戦も終盤で他チームの横入りの可能性が低い中では、その堂々さも立派な戦法である。今のジェーンは、盾から顔を出そうとする2人を押し戻すモグラ叩きをしているような状態である

 

 っとそのとき、北西方面で爆発が起こる。同時にチームメイトのベヒモスと彼に付いていたサポートメンバーの欄がDEADの表示に変わる

 

「ベヒモスさんたちが倒された?!」

 

 この後、ベヒモスたちを倒した2人が、自分たちの背後を突くことは容易に想像でき、切迫した状態に陥る銃士Xたち。彼女たちからすれば、只管に目の前の敵と戦ってるだけの闇風たちのほうが、楽そうに思えるほどである

 

「仕方ない、こっちは闇風に任せて、私たちが北西方面に・・・」

 

 シノンの捜索を諦め、ベヒモスを倒したレンとユウキにマッチアップをすることを決める銃士X

 しかし、それをジェーンは許さなかった。ジェーンは、ラッシュが落としたもう1つの武器であるM320グレネードランチャーを構え、盾に向かってグレネード弾を撃ち込む

 

「グオッ?!」

 

 爆発の衝撃で盾ごと吹き飛ばされるサポートメンバー。それにより、銃士Xは遮蔽物がない状態に晒される。そんな中で、ジェーンが再びステアーAUGを向けようとする

 

「早撃ちならっ!」

 

 ジェーンに撃たれるよりも早く撃とうと、銃を構えて狙いを定める・・・が、ジェーンが狙ったのはサポートメンバーのほうであった

 

「私じゃない?!・・・っ!」

 

 ジェーンの狙いに気付くも既に遅く、彼女たちの予想通り森にいたシノンから長距離狙撃で放たれた弾が、ジェーンや闇風たちを飛び越え、銃士Xの体は上下に割ったのだった

 同時に、倒れているサポートメンバーにもジェーンが撃ち込み。DEAD表示が上がった




 ラッシュ対闇風は一旦置いといて・・・

 レンとユウキ対ベヒモスとサポートさん
 ミニガン使いがいるなら、もしかしてストパンの某お姉ちゃんスタイルの両手MG42とか出てこないのかな?
 ベヒモス付きのサポートさんはポーターがメイン

 ベヒモス側寄りの視点
 GGOでは、ミニガンのバッテリーはどういう設定になってるんだろう?
 サポートさんが持ってる盾は、素材はMの盾と同じ。そういえばこの作品ではMは盾を使わなかったな・・・

 シノン対銃士X
 ・・・かと思いきや、銃士Xの相手は初めはジェーン。シノンはごっつぁんゴール


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21話

「あとはお前ら2人だけのようだな」

 

 ベヒモス、銃士Xが死亡し、闇風のチームは闇風と彼と行動するサポートメンバーの2人だけになる。ラッシュが勝敗はついたとばかりに余裕そうな態度を取る

 

「ま、俺たちがチームワークについて偉そうに言えた立場じゃないが、もうちょっとチームメイトを頼ってもよかったんじゃねーか?」

 

「そうだな・・・今回の大会は反省材料が多く出た。次はもっと連携について詰めてくるさ」

 

 だが・・・っと闇風はサポートメンバーの盾から体を出して言葉を続ける

 

「それは終わってからの話だ・・・ここで即降りなんてツマラン真似はせん。例え負けようが、1人くらいは連れて行くぞ」

 

「銃も無いのにか?」

 

「お前こそ、俺に当てられるのか?」

 

 睨み合うラッシュと闇風。デザートイーグル片手に適度に脱力して立つラッシュ。対して闇風は腰を低く構え、駆け出すタイミングを計る

 

「っ!」

 

 シノンからの狙撃を警戒し、睨み合いもそこそこに闇風は駆け出す。目的はラッシュの後方に転がっている自身の銃。格闘戦に引き込まれないように、ラッシュには近付かずに迂回するルートを選ぶ。そしてサポートメンバーが盾を構えたままラッシュに向かって突撃する

 

「盾持ちを囮にする単純な時間稼ぎか。この状況で武器を持ってない盾持ちを相手にする必要はねぇよ」

 

 闇風に向けたデザートイーグルからバレットラインが伸びる。射撃を妨害しようと、盾ごと体当たりするかのように突っ込むサポートメンバー。それが当たる直前で、ラッシュが少し位置をズラして回避する。盾の重さのせいで急に止まれず、盾の横からサポートメンバーの体が隙だらけに晒される

 

「ほうら、よっと!!」

 

「ガッ?!」

 

 横から蹴りを入れてサポートメンバーを転ばせる。そんなラッシュの下にプラズマグレネードが落下してくる

 

「盾持ちごとかよっ!割り切ってんな!」

 

 走って逃げるラッシュ、最後はヘッドスライディングのごとく飛び込みで、ギリギリ爆発範囲外に逃げ仰せて生還することに成功する。なお、着地はズサーっとはいかず、片手を地面についてからの半回転捻りを無駄にキメて足から着地した

 ラッシュがそんなことをしている間に、闇風は一気に自身の銃の位置まで駆けていく

 

(これ)は返してもらう・・・っ!」

 

 自身の銃に手が届く距離まで近付いた闇風。しかしそこで、自分が踏んだ地面から、カチリと嫌な音がする

 その瞬間、闇風の中に色々な思考が駆け巡る・・・

 

 なぜ、奪った銃を壊さなかったのか?

 なぜ、ベヒモスや銃士Xたちが倒された今も、ラッシュが1人で自分たちの相手をしているのか?

 なぜ、こうも簡単に銃を拾いに来れたのか?

 

 奪った銃は囮に・・・

 すでにラッシュ以外のメンバーの行動が終わっていた・・・

 銃を落とした場所にはトラップが、そこに自分は誘導された・・・

 

「ハメやがったな、コノヤロー!」

 

 このまま闇風が足を動かさず、地面を踏んだままならば地雷は爆発はしない・・・しないが、スピードに乗ったAGI型は急に止まれない。どれだけ踏ん張ろうと体の勢いは止まらず、とうとう足が地面から離れた。次の瞬間、その地面が爆ぜ、連鎖して付近の地雷も爆発する

 

「さよーならー」

 

「闇風さん?!」

 

 ラッシュが暢気に爆発に向かって手を振る。プラズマグレネードを盾で防ぎ、生き残ったサポートメンバーが叫ぶが、爆発の煙が収まるとそこには下半身の無い闇風の体・・・そしてDEAD表示が上がる

 

「闇風、お前は強かったよ・・・だが、チームでかかれば、お前もこんなもんさ・・・」

 

 妙なキメ顔で呟くラッシュであった。すでに生き残りのサポートメンバーには興味も無く、彼自身も降参の操作をしてバタリと倒れる

 

「んー、まだ終わってないってことは、前のスキャンでビル街に向かってたチームと住宅街にいたチームが生きてるってことか・・・森の際辺りまで戻ってスキャン待機するか」

 

 

「いよいよ最後の戦いだ。まさかここまで来れるとは・・・」

 

 住宅地エリアのビル街との境界付近、荒れ果てた住居の中で、GGOでは珍しい女性プレイヤーが3人、車座に固まっていた

 女性だけで組まれたチームSHINC・・・彼女たちがブラックアローと同じく生き残ったチームである。ブラックアローが去った後のビル街でMMTMとの戦闘に辛くも勝利をし、ブラックアローとの最後の決戦に望む

 

「しかしこちらは既に手負い・・・」

 

 チームリーダーのエヴァは生き残ったチームメイトであるトーマとターニャに視線を向ける。先ほどのMMTMとの戦いで、チームのタンク役であるローザとソフィー、アタッカー役のアンナは死亡してしまっていた

 敵も味方も死亡する壮絶な消耗戦の中で、勝敗を分けたのは手に入れた乗り物の違いであった。MMTMの手に入れたホバークラフトは水上では高い機動性を発揮したが、陸上で瓦礫の多いビル街では速度が出せなかった。対して、軍用トラックを手に入れたSHINCは、トラックを盾にして陣地を構築、真っ向からMMTMを迎え撃った。結果として、軍用トラックの高耐久値に助けられ、SHINCはMMTMを撃破することに成功する

 

「最後の相手はブラックアローか、闇風のチームあたりだろう・・・このメンバーで勝てる可能性は低い。降りたいなら、今のうちに言っておけ」

 

「まさか」

 

「ここで降りたら、死んでいったローザたちに合わす顔がねぇよ」

 

 リーダーとして、降参の選択肢を提示するエヴァだが、2人ともそんな気はサラサラ無いと言わんばかりに戦う気を見せる

 

「なら、これから山岳地帯に向け、突撃を行う。作戦は無い。相手に潰されるか、こちらが食い破るかだ!」

 

「「了解!」」

 

 3人は立ち上がり、住居から出る。そして北に向かって駆け足で移動し始める。そこから森の際を通って山岳地帯に向かう腹積もりであった

 

 

「最後の敵は住宅地とビル街の境界あたりか・・・向こうからも接近してきてないと10分じゃ接敵は難しいな。移動しながら次のスキャンだな。森の際を移動して北から住宅地に入る班と、一旦南下して沼地沿いに西から住宅地に入る班、2つに分かれて移動しよう」

 

 スキャンの結果を地面に投影して見ながら、ラッシュが行動方針を提案する。生き残りが自分たち含め2チームだけとはいえ、油断をせずに優勝を狙いにいくため、チームを分けて行動という安全策を取る

 

「もし、相手がこっちに向かってくるなら北ルートで行く班が、住宅地エリアで待ち伏せするなら西ルートで行く班が接敵する可能性が高いだろう。どっちが接敵しようが、もう片方がその背後を突くことになるから、どう分けてもあまり変わんねーな」

 

「なら、私は西ルートで行くわ。いい加減森から出たいわ」

 

「そんじゃ、俺も西ルートになるな」

 

 ラッシュの作戦を聞き、シノンは沼地沿いに降りる西ルートを選んだ。と同時に、彼女の弾薬運搬役の店主も西ルートが決定する

 

「っとなると、後衛2人だから一応残り1人は前衛で・・・ユウキ、いいか?」

 

「オッケイ」

 

 バランスを考え、ユウキを西ルートに振り分け、残ったラッシュ、レン、ジェーンが北ルートと班が決定する

 

「接敵したら、基本は時間稼ぎに務めて、もう片方の到着を待て。攻めるのはその後だ」

 

「わかったわ」

 

 沼地沿いまで降りていくシノンたち西ルート班を見送り、ラッシュたち北ルート班も移動を始める

 

「あの、ところでジェーンさんや、ステアーAUG(その銃)返してくれん?」

 

「あら、返さなきゃダメ?狙撃結構楽しかったのに・・・」

 

「・・・なら、いいっす。とりあえずこの本戦中は使ってて・・・」

 

 気に入ったと言わんばかりにニッコリと笑うジェーンに、ラッシュが折れる

 

「この本戦が終わったら、狙撃銃買ってみようかしら・・・」

 

「おいおい・・・」

 

 狙撃の楽しさに目覚めたジェーンにラッシュは、やや呆れの目を向ける

 

 高DEX値を持つジェーンならば、狙撃だけなら習得することはできるだろう・・・しかし、狙撃手というスタイルは、ただ長距離の的に命中させれば、それで成り立つスタイルでもない。位置取りや索敵などのスキルも必要であり、また最近広まりつつあるプレイヤースキルによるラインなし狙撃もこれからは必須技能となる

 

 ―そこまで極めるつもりなのか・・・?年齢考え・・・

 

「ラッシュ君?今何考えたの?」

 

「は、はひ?」

 

 ラッシュの心を読んだかのようにジェーンが銃口をラッシュに向けた

 

「戦場での上官の死因の何パーセントかは部下の謀反なのよ?」

 

「じょ、冗談キツいっすよ、ジェーンさん・・・」

 

 ニッコリと目の笑っていない笑顔で引き金に指をかけ、銃口からバレットラインが伸びる。それに対して両手を上げて、降参の意を示すラッシュ

 

「優勝争い中に仲間割れで自滅は流石に・・・」

 

「なら、戦いに集中することね」

 

 静かな怒りを感じる低いトーンの声で注意したジェーンは引き金から指を外し、銃を下ろした

 

「ホッ・・・レン、先行してくれ。もし敵が北ルートでくるなら、できれば森に着くまでに発見したい」

 

「あ、うん、わかった」

 

 レンが先行して森を進み、ラッシュとジェーンは、住宅地に入って北の道路沿いに進行する

 

 しばらく進み、森の中のレンが、ビル街と住宅地の境界を望める位置までたどり着く

 

『あ』

 

「敵か?」

 

『うん、見つけた・・・だけど3人だけ』

 

「3人?」

 

 ―向こうもチームを分けた?ならシノンたちをこちらに呼ぶのは逆に危険か?

 

 レンの報告に、ラッシュは相手の作戦を読む

 

『こっちに来るよ。森を通って私たちのいた山岳地帯の方に行くのかな?』

 

「かもしれん。ヤツらは先行部隊ってトコか・・・」

 

『最初から3人のチームとか?あるいは途中で仲間は死んじゃったとかは?』

 

「ありえるが、そうだとわかるまでは、基本相手は6人チームで全員生存していると想定して戦う。楽観視して負けるのはカッコ悪いだろ」

 

 っとラッシュが腕時計でスキャンまでの時間を確認する

 

「恐らく森に入る手前あたりで、次のスキャンになる・・・そこで相手は西ルート班のほうへ向かいだす。そこを叩くぞ」

 

『わかった』

 

「西ルート班、まだ敵チームの全戦力の位置がわかっていない。まずはこっちだけで相手を叩いて残りを誘き出すから、背後を突くのはそれまで待て」

 

『了解よ』

 

 そして、スキャンの時間が近付き、SHINCの3人が身を隠すために住宅地エリアの一番北東の角地の住居に入る。レンからは道路一本挟んだ向かい側、ラッシュやジェーンからは東に住居3軒の位置であった

 

「敵は北東の角地の住居に入った・・・他に位置に表示が出たら別動隊だ。そうじゃなくても油断はできんがな」

 

『わかった。スキャンを確認する』

 

 スキャンが始まり、通信の向こうで西ルート班の店主が結果を確認する

 

『・・・ラッシュが言った場所に表示が出た。とりあえず、そいつらが本隊ではあるってことか?』

 

「そういうことだな・・・そっちに向かいだして、少ししたら仕掛ける。西ルート班はゆっくり移動を続けてくれ」

 

「彼女たち裏口に回ったわよ」

 

「ん、わかった・・・レン、音を立てないように俺の正面の茂みまで移動してから真っ直ぐ道路を渡ってきてくれ」

 

 SHINCが1本南の通りに移動したのを受け、森に隠れているレンを呼び寄せる

 レンが合流し、仕掛けるタイミングを読む

 

「よし、行くぞ」




 ブラックアロー対闇風のチーム、決着
 闇風のチームはSJ2では、ちゃんとチームで戦うことでしょう・・・さて、なんとなくで組ませたこのチームは、どう連携するんだろうか・・・?

 相変わらず、真っ向勝負は避けるラッシュ
 LUK型だから仕方ないね

 最後の相手はSHINC
 原作でのSHINCとMMTMの実力差が、どれだけあるのかわかりませんが、ここではSHINCが生き残ったということで・・・
 正直この作品のレンは、1対6でもSHINCに勝つんじゃ?と思ってる

 ブラックアローも行動開始
 ジェーンさん狙撃に興味が出るの巻。DEXが高いトラップ使いとビルドの相性もいいし、両立はできるかな?ただ、ブラックアローにはシノンがいるので、住み分けできるような狙撃手にしないと・・・
 リアルではジェーンのほうが上司だが、大会中はブラックアローの実質リーダーであるラッシュを上官としている

 そういえば・・・
 アニメでSJ2の、ピトが狙撃される前のスキャンの時間を確認するとき、レンがG●ョックみたいな腕時計を見て時間を確認してたけど、GGOってそういうアクセサリー系ブランドとも提携してるのかね?


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22話

SJ1終了


 荒れ果てた住居が並び、不気味なほど静かな住宅街。その中を堅い靴底の足音を鳴らして走るチームSHINCの3人の女性プレイヤー。住宅地西部にいる敵を目指し、東西に伸びる通りを行く彼女たちは、南北に伸びる通りとの交差点に差し掛かる

 リーダーのエヴァ、アタッカーのターニャが続き、スナイパーのトーマが交差点に入った瞬間、北方向から1発の銃弾が飛んでくる

 

「ウッ?!」

 

「トーマ?!」

 

 銃弾はトーマの足を貫通し、トーマは交差点の中心に倒れる。すぐにターニャが弾が飛んできた方向を警戒し、エヴァがトーマのフォローに入る。しかし、エヴァが差し出した手をトーマが掴もうとした瞬間、エヴァの腕にバレットラインが伸びてくる

 

「っ?!」

 

 咄嗟に手を引っ込めるエヴァ。わざとダメージの低い四肢を狙われ、弄ばれていることに、苛立ちを覚える3人

 

「いた!1ブロック北の交差点、住居の塀のところ!」

 

「当たらなくてもいいから撃て!」

 

 エヴァの指示に、ターニャが短機関銃で応戦する。拳銃弾ではやや遠い50メートルほどの距離だが牽制にはなったようで、狙撃をしたジェーンは弾を回避するために塀に隠れた

 

「なぜ一気に仕掛けてこない・・・?」

 

「私たちが3人で行動してるから、残りの3人が別で動いてると考えているんだろう。私たちを適度に攻撃してそれを炙り出す算段か・・・」

 

「敵はかなり慎重ね」

 

「だからこそ生き残ったんだろう」

 

 エヴァが改めて手を差し出し、それを掴み立ち上がるトーマ。そこに、第2波としてレンが住宅の塀を跳び越えて現れる

 

「っ!ピンクの暴風?!」

 

「最後のチームはブラックアローか!」

 

 ジェーンが隠れた塀のある住居と3人がいる交差点に面した住居、その敷地の境界あたりから跳び出てきたレンは、着地とともにAGI全開のダッシュでターニャの射撃を回避する

 

「クッソ!!速い!!」

 

「トーマ、狙撃手の相手をしろ!」

 

「了解!」

 

 立ち上がらせたトーマの背中を押して送り出し、エヴァが突っ込んでくるレンに向かっていく

 

「ターニャ、2人で掛かるぞ!」

 

「オッケー!!」

 

 BoB優勝者の実力者相手に、2対1で挑む。エヴァの銃はフルオート射撃可能な狙撃銃のVSS。2人の銃から伸びる多数のバレットライン・・・流石にレンも回避がしきれない、っとエヴァが確信する。そんな中、彼女の視界の端、彼女たちのいる交差点の北東側の角地の住居の敷地から、ラッシュが出てくるのが見える

 

「しまっ・・・」

 

 ラッシュはデザートイーグルを構えると、ラインなし狙撃と同じ要領で発砲する。発射された弾は、短機関銃を持つターニャの右肩に当たり、44口径のマグナム弾の衝撃で体勢を崩されて短機関銃の狙いがレンから大きく外れ、エヴァの射撃はレンが自分で回避する

 

「クソッ!LUK型が・・・よりにもよって!」

 

 最悪の相手の登場に、エヴァの表情がより険しくなる。ジェーンからステアーAUG(メイン武器)を返してもらえなかったラッシュは闇風との戦い同様に、ストレージ空っぽ状態の機動力ブーストで、素早い動きで接近していく

 

「バカな・・・こんな速くはなかったはず?!」

 

「ボス!」

 

 機動力ブーストに驚くエヴァ。レンに向かって射撃をしているエヴァを守るため、ラッシュに撃たれたターニャが体勢を崩されながらも、左手で抜いた拳銃でラッシュを狙い、接近を妨害する。しかしレンへの射撃もラッシュへの射撃も、簡単に回避されて牽制にすらならない

 

「っ・・・舐めるなぁっ!!」

 

 VSSのマガジンが空になり、状況からリロードを諦めてそれを手放したエヴァ。突っ込んでくるレンに向かって拳を繰り出す。レンはそれに対し拳の軌道を冷静に見極め、左手で取りやすいように右肩口に納めているビームナイフを掴み、エヴァの拳と腕を縦に切り裂いた

 

「っ?!」

 

「ごめんね」

 

 同性だからか、レンが一言謝り、右手で持ったP90をエヴァの胸部に軽く押し当てて10発ほど撃ち込む。高い貫通力が設定されている5.7×28ミリの銃弾が、タクティカルベストも防弾ベストも貫き、エヴァの体に突き刺さり、エヴァのHPを削り切った

 体から力が抜け、倒れるエヴァ・・・しかし、そこで彼女が執念で行動を起こす

 

「うわっ!」

 

 レンに向かって倒れこむエヴァ。彼女の左手から、戦死した仲間であるローザから取ったハンドグレネードが、スイッチが押された状態で転がる。お土産グレネードである

 

「ちょ、まっ、重?!ヤバイッ?!」

 

 上に乗っかるエヴァの重さで動けないレン。死体となったエヴァの体は破壊不能オブジェクトとなり、ビームナイフで切ることもできない・・・

 

「ひ、ひぃ~!!」

 

 地面とエヴァの死体の間から見えるグレネードに、もうダメかとギュッと目を瞑るレン。そんなレンの耳に、弾が地面に当たる音、そして5.56ミリの発射音が聞こえる。聞こえてきた音にレンが目を開けると、そこにあったグレネードが無い・・・

 

「っと思ったらあるー?!」

 

 しかし、グレネードはエヴァの足のほうへ少し移動しただけで、爆発範囲にレンを捉えたまま存在していた。グレネードは銃弾を受けたことで、タイムリミットよりも早く爆発の前兆であるスパークを発し始める

 

「ったく、世話が焼けるっ!!」

 

 っと、そんなグレネードをラッシュが缶蹴りの缶よろしく思いっきり蹴っ飛ばした。すぐに後ろに跳び、地面に伏せるラッシュ。蹴り飛ばされたグレネードは、レンもラッシュもギリギリで巻き込まず起爆した

 なんとかピンチを脱したレンとラッシュ。しかし相変わらずエヴァの死体に押し潰されているレンはもちろん、地面に伏せたラッシュも、ターニャとトーマからは隙だらけである

 

「ボスの仇!!」

 

「ファッ?!なんで俺?!」

 

「アイツはボスの死体で撃てないからだ、よっ!!」

 

 ターニャが短機関銃をラッシュに向けて発砲。伏せた状態で横に転がって回避するラッシュ

 

『まったく、何遊んでんのよ?』

 

 そこに、シノンからの呆れまじり通信とともに、ターニャの頭を吹き飛ばす1発が届く

 

「レンが敵のボスとやらと熱い抱擁をしててな」

 

「うぅ・・・ちょ、ちょっと油断しただけだし!」

 

 やっとのことでエヴァの死体の下から這い出たレン。立ち上がるラッシュとレンは、2人の狙撃手に狙われて動くに動けないトーマの下へ・・・

 

「ヒィッ・・・」

 

「いや、そんな怯えんでも・・・降伏勧告くらいはするって。警戒していた別動隊はいないみたいだし」

 

 追い詰められた状況に、小さく悲鳴を上げるトーマに、ラッシュが優しく言葉をかける

 

「勝負は決したし、こちとら対MOBが本業だから、撃たなくていい弾は撃ちたくない。だから降参してくれないかな?あとお仲間に伝言ね。『できればフルメンバーの君らと戦ってみたかった』って」

 

「・・・わかった」

 

 ラッシュの説得と伝言を受け取り、トーマが降参のウィンドウを開いた

 

「あ、最後にね、こういうときは悲鳴じゃなくて、『くっ、殺せ!』って・・・」

 

 っと話す途中で、ラッシュの頭にバレットラインが2本伸びてくる

 

「うわっ?!あっぶね!!」

 

「??」

 

 慌ててバク転で回避するラッシュに、トーマは意味がわからないといった表情をする

 

「あ、気にしなくていいよ。私も意味わからなかったけど、どうせロクでもないことだろうから」

 

「そうなの?」

 

「ロクでもなくねーよ!素晴らしき様式美ってヤツだよ!」

 

 レンの言葉に反論するラッシュ。そしてラッシュの頭に再びバレットラインが刺さる。それをラッシュは機動力ブーストを無駄に活かしてアクロバットで回避する

 そんなラッシュを見て、レンは頭痛を堪えるように額に手を当てる

 

「はぁ・・・ごめんね。あの人たちが本気で撃ち合い始めちゃう前に、降参ボタン(それ)押しちゃってくれる?」

 

「あ、はい」

 

 レンのお願いで、トーマに手が降参ボタンに触れた。死亡扱いになり倒れるトーマの体を、レンが受け止めてそっと地面に寝かせた

 

『コングラッチレイション!!第1回スクワッドジャム、優勝はチームGSBA!!総発砲数は59997発でした!!』

 

 なんとも締まらない終わり方であるが、一応ブラックアローの優勝で大会は幕を閉じたのだった

 

 

 

 

 

 次の日・・・

 

「あー・・・眠たい・・・」

 

「あの後、公開された本戦の映像見ながら打ち上げして騒いで、結局0時越えたものね・・・」

 

 朝、香蓮と詩乃は、それぞれの学校に向かうために歩いていた

 

「ホント、最後ラッシュさんに撃ち始めたときはどうしようかと・・・」

 

「だって、用意した弾がかなり余ってたから・・・」

 

 ―そんな、冷蔵庫の消費期限切れそうな食品使っちゃおう的なノリで仲間を撃たないでよ・・・

 

 詩乃の言葉に香蓮は呆れる。店主に大量に持たせた12.7ミリ弾。だが実際に本戦中で使用したのは、ラッシュに向けて撃ったのを含めてもたった2マガジン分である

 

「ジェーンさんも森に仕掛けたトラップに誰も引っかからなかったからって、トラップ無駄にしたって言ってたし」

 

「あれは、たまたま追いかけてきたチーム同士が争ってくれたから、森に入ってこなかっただけなのに・・・」

 

 ―まぁ、部品レベルで自作したトラップだから、もったいないって気持ちもわかるけど・・・

 

 ジェーンが森に仕掛けたトラップは、NPCが売っている基本的なトラップではなく、敵に触れるワイヤーやそこから爆弾に繋がる部分などが手作りで、隠蔽性が高くて繋げる爆弾も選択可能というハイスペックものであった

 

「それに、店主が持ってた高度回復キットも、結局誰も死に掛けるるようなダメージ喰らわないから意味なかったし」

 

「DEFが低い私は、持っててくれるだけで安心して戦えるから、それで意味があるけどなぁ・・・」

 

「あのー・・・」

 

 そんな会話をしている2人に、1人の女子高生が声をかけてきた

 

 ―あれ?この子、うちの大学の付属高の生徒で、道でよく擦違う子・・・

 

 その女子高生に、香蓮は見覚えがあった。彼女は香蓮が大学へ通う道でよく擦違う、大学に併設された高等部の生徒であった。彼女の後ろには、同じく見覚えのある彼女の友人たちが5人・・・

 

「よく擦違うお姉さんですよね?そちらは、12月に学園の高等部のエリアに来たときに一緒にいた同い年くらいの子」

 

「うん、そうだね」

 

「えぇ」

 

 明るい笑顔で話しかけてくるその女子高生に、寝不足の香蓮も詩乃も少し引いた返事をする

 

「御二人が一緒にいるところ見るの、あの時以来だったので、つい声をかけちゃいました」

 

「あ、うん。久しぶりに泊まりに来たからね」

 

「そうだったんですか。あ、自己紹介がまだでした。私、新渡戸咲っていいます」

 

「小比類巻香蓮です」

 

「朝田詩乃です」

 

 っと自己紹介を交わしたところで、1人違う高校の詩乃は通学の時間が迫ってきたので、お話もお開きに・・・

 

「あ、最後に・・・」

 

「「?」」

 

 っと言った咲の表情から笑みが消え、急に真剣なものになる

 

「優勝おめでとう。せめてあなた(レン)だけは道連れにって思ってたけど、それすら阻止されて悔しかったです。伝言通り、私たちも次はフルメンバーでぶつかりたいです。そして勝ちたいです」

 

「あ・・・あなたまさか・・・」

 

「はい、チームSHINCリーダー、ボスことエヴァです」

 

 ―世の中って思ったより狭いんだな・・・

 

 驚きを通り越し、悟りを開いた香蓮であった

 

 

「ってことがありました>レン

 

らっしゅ<身バレm9」

 

シノン<まぁ今思うと」

 

シノン<あれだけゲーム内のことを話してたら」

 

シノン<わかる人には普通にバレるわ」

 

らっしゅ<数少ない女性プレイヤーの中の人だったことが救いだな」

 

 ―うぅ・・・確かに

 

らっしゅ<にしてもこれからは」

 

らっしゅ<こんな個人スポンサーの大会が増えていくのかねぇ?」

 

らっしゅ<GGOも変わっちまうな・・・」

 

シノン<去年までの殺伐さがなくなっていくのは」

 

シノン<賛否あるわね」

 

 ともあれ、GGO初の個人スポンサー大会、スクワッドジャムは終わったのだった・・・




 ブラックアロー対SHINC、戦闘開始
 5.56ミリなので、トーマの足は千切れませんでした
 ウィキ見てたら、なんかVSSってフルオート射撃ができるんだって?ってか、ターニャはなんで短機関銃のPP-19?レンぐらい速いAGI型じゃないと、短機関銃じゃ攻撃力不足じゃない?せめてAK-74とかじゃ?ボスのVSSって選択も理由がわからんし。SJ2で狙撃はしてたけど、狙撃手ならトーマやアンナと同じドラグノフでいいし、フルオートのアサルトライフルがほしいなら、専用弾を使うVSSである必要が・・・

 拳銃でラインなし狙撃と同じ撃ち方・・・ってかラインなし狙撃の原理を知ると、原作ファントムバレット編で出てくるアンタッチャブルゲームと矛盾が出てくる。あのNPCは早撃ちだから、引き金に指をかけてから撃つまでが一瞬なのに、ラインはちゃんと出てる。そもそも、ラインが見える、見えないのシステムが曖昧なんだよね・・・『相手の位置がわかっても、自分が狙われていないと見えない』ってのが・・・

 レンのビームナイフの携帯方法
 バイオ4のレオンと同じ

 エヴァ渾身のお土産グレネード
 死体は破壊不能でも爆風で吹き飛ぶので盾にはならない・・・ってことで
 ジェーンの狙撃でちょっと位置がズレることで、ラッシュが蹴り飛ばすことができて、危機一髪

 西ルート班合流
 これでこの本戦でシノンに頭を吹き飛ばされたのは何人だろうね?

 決着
 降伏勧告をするのは、弾代の節約のため
 ラッシュのネタは、トーマの中の人はロシア人なのでわかりません。あれ?ツッコミ入れてるシノンはネタわかってるってこと・・・?文学少女(意味深)

 総発砲数
 ラッシュが降伏させた(見逃した)プレイヤーの3人に1発ずつ撃って殺していたらちょうど60000発でした・・・意味は無い

 意外と少なかったシノンの発砲数
 たぶん店主のストレージの中には、ヘカートⅡのマガジン10個くらいはあっただろう。でも実際は多めに持っても5マガジンで足りた

 新体操部登場
 原作と違い、本戦の翌日。香蓮は髪を切ってもいない
 ウィキ見て驚いたのが、新体操部の子たちは全員が1年生じゃないってこと、上級生はあれで詩乃の1個上なんだぜ?

 SJ編終了
 個人スポンサーって、いくら払ったんでしょうね?競馬や競艇のレース名付けるのと同じくらいなんでしょうかね?


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