問題児達と時の人が異世界から来るそうですよ? (ガイドライン)
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君塚 大助の説明書

始めて読む方へ、ネタバレになるのである程度読んでからの方がいいかも。気にしなければどうぞ。








君塚 大助(きみづか だいすけ)

年齢17歳 男

 

 

 

目立つ特徴はないが、強いていうなら「優しそう」というイメージが強い。仲間意識が強くその仲間のためなら無茶もなんでもするが、しかし以外にメンタルは弱い。

しかしキレたときは恐ろしい、ジャックがトラウマになるほど徹底的に攻撃をした。

 

服装は学校のブレザーだがネクタイはしておらず不良のイメージになりやすいのだが大助の容姿だと私服のイメージになるため、平日にブレザーだろうが問題はない

箱庭に来る前は「死神」と言われているが、誰かを殺したりしているわけでもなく噂が流れているだけである。しかしケンカをしたときその相手を「停止」させてしまい、そして長い間解除出来ずにその相手の「時間」を奪ってしまった。それからは「生きている者」に対して、攻撃をしてくる相手に対して直接的な「一時停止」を使えなくなった

この「一時停止」は大助にとって異質で異常なる力、その望まない力は箱庭にいたはずの時の精霊「クロノス」の力であり、白夜叉からはクロノスの後継者と言われている。

そして十無(つなし)の出会いにより聞かされたのは大助の魂とクロノスの魂が混ざり、さらにその魂の一部がパラレルワールドにいる十無達の魂と混ざった。そして十無のように濃い魂の場合は大助が瀕死の場合入れ替わる。そして正界の大助が死ねば分界である十無達全員が死んでしまう。

 

 

 

 

ギフト

一時停止(サスペンド)

あらゆる物を停止することが出来る。それは空から降ってくる雨をその場に「停止」させたり、業火の炎を「停止」させてそれ硝子のように粉々にさせたり、一瞬の雷さえも「停止」させてまるで写真を撮ったようになる。足裏に使えば水上や空中を歩くことでき、相手に触れば大助と同じように攻撃などを防ぐことが出来る

 

そして「一時」「停止」というので、停止させたものを再生することが出来る。これを応用し衝撃を何重にも停止させ一気に解除することによって、重ねた分だけ衝撃がプラスされる

 

 

 

 

空間掌握

大助から目に見える範囲の空間の全てを「掌握(理解)」する。例えどんな小さいものでも見つける事が出来る。一時停止と合わせれば空間そのものを停止させる

 

 

 

巻戻(まきもどし)

その物の時を戻すことが出来る。ただし「命あるもの」に関してはギフト所有者本人しか使用できない

 

先送(さきおくり)

その物の時を進めることが出来る。ただし進めた後に起きる現象の元を用意する必要がある。例えば武器を作るにも素材、その行程で行う工具、それらを用意すれば時を進めて武器を作れる

 

 

 

神通棒

シェルが持っていた武器。所有者の力をそのまま神通棒に移すことが出来る

 

 

時界の因子(タイム・ファクター)

精霊クロノスが最後の最後まで

手にすることの出来なかったギフト

知恵も実力も度胸もあったが

どういう訳かそれを手にできなかった

 

そして残留思念体として現れたクロノスから

『この砂一粒に「世界があり」「君がいる」

この一粒一粒の時界の因子(タイム・ファクター)

君を、君達を助けてくれるよ』

と言われたが、まだこの力は分かっていない

 

 

 

眷属

光の精霊アスカ(レイ)

姿は女性であり誠実な性格である。初めはクロノスの後継者ある大助のために使えていたが、いまは大助という存在に使えている。

力はほとんど明らかになってないが、大助の手助けとして光の衝撃を、その衝撃を大助は移動や攻撃に使用している

 

闇の精霊シャドウ(カルマ)

姿は男性であり無口な性格である。大助の影に入り込んでいるのはギフトゲームにより逃れない場所から大助が空間掌握により自分の影に移したのだ。なので他の精霊も一緒に影に住んでいる。

力は闇の中に攻撃を吸収させて放出させることが出来、闇を操り縛り付けることなども出来る

 

風の精霊シルフ

姿は女性であり明るく思ったことを言ったり実行する性格である。レイのことをお姉様と呼ぶほど大好きでご主人様である大助の前でも関係なくくっついている

力は飛行を可能にしたり相手の動きを読みカマイタチで相手を切ることが出来る



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YES!ウサギが呼びました!
プロローグ


「………寒いな……」

 

 

雪が降る、空から雪が降る。

毎年この季節は僕にとっては心が安らぐ

静かにゆっくりと落ちる雪は

少しずつ少しずつ地上を白で埋めつくし

いつかそこは銀景色に変わる

 

それがまるで心を真っ白にしてくれるようで

心の闇を消してくれるようで……

 

 

 

「…でも、僕は……」

 

 

 

落ちる雪は僕の掌と止まる

だけど言葉通りに「止まる」だけ

雪は溶けず風に吹かれて飛んで行く

 

 

 

いつの頃からというのはおかしいが

始めてハッキリとこの力に気づいたのは中学生の頃

なんでもない普通のケンカをしただけだった

だけどそれだけでは終わらなかった

 

ケンカをした相手は突然動かなくなり

その場に倒れてしまった

救急車がきて病院に運んで

原因究明をしたのだが分からなかった…

 

当然ケンカをしていた僕は犯人扱いされ

何をしたのかと問い出されたが

その時はまだ、何も分からなかった

結局、僕がこの力に気づいたのは

こんな雪が降る日であり、二年以上経っていた

 

 

その子は意識を取り戻したが

二年以上の月日は取り戻せない

僕がやったことは罪深い

例えそれが無意識だとしても……

 

 

それからだろうか…

誰も僕に近づかなくなったのは…

原因を知りたいとケンカをした相手に

この二年を奪った原因を話した

そして次の日から……

 

 

 

 

「おい、あいつって…」

「あぁ、死神だよ死神」

 

「触ると突然死するらしいぜ」

「なんでそんなやつ野放ししてるんだよ!!」

 

 

「警察も何度も逮捕しようとしたけど

捕まえられないらしいぜ、まるで幽霊みたいに」

 

 

 

そんな声が聞こえてくるがいつものこと

高校に通うことを諦めてバイトを

だけどそのバイトも噂が広まればクビとなる

 

ケンカをした相手が噂を流したと知っていたが

それを許さないとは考えたことはなかった

怒りや恨みなどもこの心では感じれなかった

それよりもあの日の後悔と罪の重さがとても……

 

 

だからこそ僕はこの力を……

 

 

 

 

「…………うん??」

 

 

 

そんなことを考えていると何かが落ちてきた

空からだろう、目の前をヒラヒラと地面に落ちた

それはどうやら手紙のようで

その手紙には僕の名前「君塚 大助」と書かれてあった

 

手紙を手に取り封を開けて中身を見ると

 

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。

その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、

我らの“箱庭”に来られたし』

 

 

 

そして気づいたとき僕は

見たこともない大空にいたのだった

僕の近くには、見知らぬ女性二人と男性一人

合わせて四人の見知らぬ男女は

断崖絶壁や未知の都市が広がる異世界にいたのだった



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まずは自己紹介から始めましょう。

さてどうしたものか??

このままだと死んでしまうな…

まぁ、死ぬことはないのだけど。

 

 

それでも他の三人はどうだろうか??

あの手紙に書かれていた「ギフト」という言葉

恐らく僕の力と関係しているはず

なら他の三人にも何かしらの力があると考える

 

 

だけどそんなこと関係けどね。

 

 

さてどうしようかな…

 

 

 

 

「あぁ、そこの猫を抱えたキミ

信じてくれるなら手を握ってくれないかな??」

 

「……どうして……」

 

 

「助けたいから…かな??」

 

 

 

そういいながら僕は女の子に手を伸ばす。

もう少しで水面に叩きつけられる

死にはしないがずぶ濡れになるだろうな

これはもう無駄だったなと思ったが…

 

 

 

「……よろしく。」

 

「あっ…あぁ……」

 

 

まさか手を握ってくれるとは…

でも自分からしておいてなんだけど

今さらになって恥ずかしくなってきたな…////

 

取り敢えず僕は水面に叩きつけられる前に

空中にある「もの」を握りスピードを落とす

そして水面に足がついたがそれ以上沈まない

そう、水面の上にいま二人立っている

 

 

 

「…スゴいね…」

「そうかな…」

 

 

「うん、ありがとう。」

「ど、どういたしまして…」

 

 

そんな会話をしていると、

水の中から髪の長い女の子が

 

 

 

「どうして私にも声をかけなかったのかしら??

おかげさまでこの通りよ。」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

 

「まぁ、いいわ。

それより本当に信じられないわ。

まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、

空に放り出すなんて!」

 

 

するとその隣からヘッドホーンをつけた男の子が

 

 

 

「右に同じだクソッタレ。

場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。

石の中に呼び出され た方がまだ親切だ」

 

「…………。

いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

 

 

 

「俺は問題ない」

 

「そう。身勝手ね」

 

 

 

まぁ、さすがにこのまま二人をそのままは気まずく

まず髪の長い女の子の手を取り引き上げたあと

男の子を引き上げて湖から陸上まで案内した

 

 

 

………………………

 

 

 

湖から陸上まで髪の長い女の子の手を取り

案内をさせてもらったのだが

その際、猫を抱えた女の子は手から洋服に握り替え

そして何故だか黒いオーラみたいなものを

背中に感じながら無事陸上に上がることができた

 

 

 

 

「エスコートありがとう。」

 

「いや、そうしないとまた湖に逆戻りだからね」

 

 

「…………………」

 

「……えーと、何かしたかな??」

 

「…知らない…」

 

 

 

せっかく仲良くなれたと思ったのに…

なにかをやらかしたのか……

……分からない……

 

そして僕の後ろでアハハ!!と笑っていた男の子が

 

 

 

 

「面白いものを見せてもらったところで、

まず間違いないだろうけど一応確認しとくぞ。

もしかしてお前たちのも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは“オマエ”って呼び方を訂正して。

私は久遠飛鳥よ。以後は気をつけて。

それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

 

「・・・・・・春日部耀。以下同文」

 

 

 

「それじゃ、ここまでエスコートしてくれたあなたは?」

 

「君塚 大助。

最初に言っておくけど急に脅かすためだけに

僕に触れたりしないでね、死んじゃうから。」

 

 

「えぇ…注意しておくわ……」

 

 

 

うわぁ、気まずい雰囲気になったな…

でもきちんといっておかないと

これだけはいっておかないと……

 

すると猫を抱えた女の子、春日部さんが

僕の手にその手をゆっくりと重ねてきた

 

 

 

「か、春日部さん…」

 

「これなら…問題ないよね。」

 

 

「う、うん……」

 

 

 

まさか手を添えてくるなんて…

さっきまで怒っていたと思ったんだけど

やっぱり女の子ってよく分からないな……

 

 

「え、えぇ~と…それで最後に、

野蛮で凶悪そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。

見たまんま野蛮で凶悪な逆廻十六夜です。

粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、

用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれよお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、 十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

 

 

ひとまず自己紹介は終わったけど

なんか一癖も二癖もありそうな人ばかりだな

……僕も含めて……

 

 

 

 



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黒ウサギのウサギ耳って…

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねぇんだよ。

この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうものの

説明をする人間が現れるもんじゃねぇのか?」

 

 

(それって…あそこに隠れている人をいってるのかな…)

 

 

 

何となくだが昔からそういうのには敏感であった

なぜだかそこにいると分かるのだが

それがどうしてなのかはよく分からない

いってしまえば勘、ただそれだけなのだ

 

 

しかし、

 

(あれって…コスプレ……なのか??)

 

 

ちょうど自分が立つ位置から隠れている相手が

見切りで見えるのだが、それがウサギの耳を付けている

そのこの世界に呼び出した人はそう趣味なのか…

とにかく茂みに隠れていると教えた方がいいのかと

十六夜に話そうとしたとき

 

 

 

「___仕方がねぇな。

こうなったらそこに隠れている奴にでも話を聞くか?」

 

 

物陰に隠れていた黒ウサギは心臓を掴まれたように飛び跳ねた。

四人の視線がウサギの耳を付けた人に集中する。

 

 

 

「えっ、逆廻君も気づいてたの??」

 

「君付けなんかしなくていい。

それに俺のことは十六夜で呼べよな」

 

「あぁ、うん。」

 

 

 

「で、そちらのお二人も気づいていたんだろう。」

 

「当然よ。」

 

「風下に立たれたら嫌でも分かる。」

 

「僕の場合は直感だけど……」

 

 

 

「へぇ、面白いなお前ら。」

 

 

 

そこでまた熱い視線が隠れている人に注ぐ

すると観念したのかゆっくりとその姿を表しながら

 

 

 

「や、やだなあ御四人様。

そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?

ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。

そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に

御話を聞いていただけたら嬉しいでございますヨ?」

 

 

「断る」

「却下」

「お断りします」

「自分のことを本当にウサギっていうなんて…

でも人の趣味をどうこう、ましてや

ウサギ耳を付けていることに関していうのは失礼だよな……」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪

って、黒ウサギはウサギ耳は本物です!!

そんな同情するような目で見ないでください!!

それこそ失礼でございますよ!!!!!!」

 

 

 

いや本物だと言われても……

いくら目の前にそれが存在したとしても

簡単に信じれる訳が……

 

すると春日部がいつのまにか黒ウサギに接近していて

その黒ウサギのウサギ耳というものを思いっきり

 

 

 

「えい」

 

「フギャ! ちょ、ちょっとお待ちを!

触るまでなら黙って受け入れますが、

まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を

引き抜きに掛かるとは、 どういう了見ですか!?」

 

「好奇心の為せる業」

「自由にも程があります!」

 

「へえ? このウサ耳って本物なのか?」

「………。じゃあ私も」

 

 

そういいながら十六夜と久遠さんは

黒ウサギのウサギ耳を両側から引っ張りあげる

それを見て僕は、

 

 

「ナイス春日部さん。

これで本物だと断定出来たよ♪」

「当然のことをしただけ。」

 

 

「本物だと探るならもっと他の方法はなかったのですか!!?」

 

 

「「ない。」」←大助、耀

「「あるわけない。」」←十六夜、飛鳥

 

 

「息がぴったりにもほどがありますこのおバカ様!!!!」

 

 

 

そんなこというものだから

これから暫く黒ウサギのウサギ耳は引っ張られ続けた。



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その一言が、僕を変えた。

「───あ、あり得ない。あり得ないのですよ。

まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。

学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

 

本物だと証明するためとはいえちょっとやり過ぎたかな…

でも、おバカ様はいけなかったな、あれはいけないよ。

 

 

「いいからさっさと進めろ」

「手厳しいんだね、十六夜って…」

 

 

だが、とりあえず話を聞いてもらえる状況が出来たので

彼女は黒ウサギは気を取り直して話を始めた。

 

 

「それではいいですか、御四人様。

定例文で言いますよ? 言いますよ? さあ、言います!

『ようこそ“箱庭の世界”へ!

我々は皆様にギフトを与えられた者だけが

参加できる『ギフトゲー ム』への参加資格を

プレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!』」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです! 既に気づいてらっしゃるでしょうが、

御四人様は皆、普通の人間ではございません!

その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、

星から与えられた恩恵でございます。

『ギフトゲーム』はその恩恵を用いて競い合うためのゲーム。

そしてこの箱庭の世界は強大な力をもつギフト保持者が

オモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

 

 

普通じゃない…かぁ……

それは分かっていたことだが改めて言われると

こうも凹んでしまうもんなのか…

 

何してるんだ僕は、そんな感情はあとでいい

それよりいまは黒ウサギの話を聞かないとな…

 

 

 

……………………

 

 

 

それからこの箱庭について黒ウサギから説明を聞いたが

ギフトにギフトゲームかぁ……

この力がそのギフトゲームでどう「影響」するのか…

すると十六夜から、

 

 

「待てよ、俺がまだ質問してないだろ」

 

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。

 

ずっと刻まれていた軽薄な笑顔が無くなっていること、

視線が鋭さを増したことに気がついた黒ウサギは、

構えるように聞き返した。

 

 

「・・・どんな質問でしょうか?

ルールですか? ゲームそのものですか?」

 

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、

黒ウサギここでお前に向かってルールを問いただしたところで

何かが変わるわけじゃねえんだ。

世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、

プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは……

……たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

一体なんのことだろうか…

静まり返るなか十六夜が出した言葉は、

 

 

「この世界は・・・・・・面白いか?」

 

 

この言葉に僕はとても驚いた。

だってそうだろう、何も知らない世界

そして始めて知らされる世界のルール

それだけでも頭の要領がいっぱいなのに

ただ一言、それを言えるなんて……

 

 

黒ウサギは一瞬目を瞬かせると、笑顔で言った。

 

 

「―――YES。

『ギフトゲーム』は人を超えたものたちだけが参加できる神魔の遊戯。

箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

 

……面白いか……

そうだ、僕はずっとこの力に怯えていた

だけどこの世界は、箱庭は、

そんな僕は受け入れてくれたんだ。

だったら…楽しんでみるか

 

そしてこの力の、ギフトの意味を、僕は見つけ出す。

 



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メンタルの弱さにご注意を。

この箱庭で頑張るぞ!!と決意して

黒ウサギに連れられて移動していたときのこと

突然、十六夜が僕の肩を叩いて

 

 

「ちょっと世界の果てを見てくる。」

「……なんだって……」

 

「なんならお前も来るか??

そのギフト、一体なんなのか気になるしな」

 

 

勝手に話を進めているが

いやいや、ちょっと待って!!!

 

 

「なんでそんな話になるんだよ!!!??

だいたいそんなことしたら黒ウサギが……」

 

「よろしく。」

 

「十六夜!!!!

……もう…知らないからな……」

 

 

 

………ホントに知らないからな……

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

さてどうしたものか…

このまま言わないままはいけないは分かっているけど

あんなルンルン気分の黒ウサギにいうのは

かなり気が引ける、ってか、言えないよ……

 

後ろめたい気持ちのまま2105380外門という所にやって来ると

その門の前にはダボダボのローブを着ている少年が1 人 。

どうやらその少年は黒ウサギの知り合いらしく

大きく手を振りながら、

 

 

「ジン坊っちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」

「お帰り、黒ウサギ。そちらの御三方が?」

「はいな、こちらの御四人様が──」

 

 

クルリと振り返り、固まってしまう黒ウサギ。

や、ヤバイ…バレたよ……

 

 

「……え、あれ? もうひとりいらっしゃいません でした?

ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、

全身から”俺問題児!”ってオーラを放っている殿方が……」

 

「……えぇ~と、ごめん黒ウサギ……

十六夜なら『ちょっ と世界の果てまで行ってくる!』

ってあっちに………」

 

 

申し訳なさそうにいう君塚に対して、呆然とする黒ウサギ。

 

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「止めようとしたけど、勝手に行ったんだよ!!」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか⁉」

「それは…あんなにルンルン気分の黒ウサギに

いうのがどうしても出来なくて……」

「嘘です、絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう!!」

「ちょっ、ちょっとヒドイよそれ!!」

 

 

まさか黒ウサギからの言葉

確かに会ってそんなに時間は経っていないが

ここまで信用されてないなんて……

 

 

「あ、あれ??

もしかして君塚さんって意外にメンタル弱かったんですか!!?

だってさっきまで黒ウサギを弄っていたじゃないですか!!!?」

 

「そうだよね…行いが悪かったからこうなったんだよね…

ごめんね黒ウサギ、僕が十六夜を連れて帰ってくるから……」

 

 

 

凹んだ君塚はトボトボと来た道を戻っていく

それを見た飛鳥と耀は、

 

 

 

「黒ウサギ、さすがに引くわ…」

 

「大助、私も一緒に行く」

 

「あ、ありがとう春日部さん……」

 

 

 

「あ、あれ…

これって黒ウサギが悪いように見えるのですが…」

 

 

 

冷や汗をかく黒ウサギを三人はじっと見つめる

するとさすがに我慢できなかったのか

 

 

「分かりました、分かりましたから!!!

そんな目で黒ウサギを見ないでください!!!

全面的に黒ウサギが悪かったです!!!!」

 

 

「「「その通り。」」」

 

 

 

またしても息があった言葉にガクリくる黒ウサギ

するとなにかを思い出したようにジンが

 

 

「た、大変です! “世界の果て”には

ギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、

特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます」

 

 

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオー バー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?・・・・・・ 斬新?」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

 

 

ジンは必死に事の重大さを訴えるが、二人には関係なさそうだ

黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

 

 

 

「はあ……ジン坊ちゃん。

申し訳ありませんが、皆様の御案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

 

「わかった。黒ウサギはどうする?」

 

 

「問題児を捕まえに参ります。

事のついでに ―――“箱庭の貴族”と謳われる

このウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

 

悲しみから立ち直った黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させ、

つやのある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

 

外門めがけて空中高く跳び上がろうとしたとき、

 

 

 

「ちょっと待って黒ウサギ!!!」

「なんでしょうか大助さん??」

 

「僕も一緒に行くよ。」

「先程のことでしたらもう気にしなくても…

それに黒ウサギの足ははや…」

 

「それじゃ先にいくよ、黒ウサギ」

 

 

 

するとどういう原理かは分からないが

一瞬にして森へ入り込んだ大助

全く見えなかったとは言えないが

それでも普通の人では速すぎる

 

 

「な、なんですかあのスピードは!!!!

黒ウサギと同等の速さなんて、一体どんなギフトを…

と、とにかく一刻程で戻ります!

皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご堪能ございませ!」

 

 

 

黒ウサギは弾丸のように飛び去り、

あっという間に四人の視界から消え去っていった。

巻き上がる風から髪の毛を庇う様に押さえていた飛鳥が呟く。

 

 

「……箱庭の兎は随分早く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

「それに大助も…どんなギフトなんだろう……」

 

 



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蛇神との戦い

「あーもう!一体何処まで行ったんですか!?」

 

「全然見つからないね。」

 

 

 

深い森をスピードを落とさずに突き進む二人

黒ウサギはー箱庭の眷属ーと言われているらしく

この箱庭でこの下層にいることは珍しい

 

そんな黒ウサギは大助に対して驚いていた。

ただの人間ではないことは分かっていたが

水面に浮かび、さらに同じスピードを出せる

そんなギフトがあるのかと…

例え複数持っていてもいまその原理が分からない

 

 

 

(水面に浮かぶだけギフトなら複数ありますが、

ただ浮いたいただけではあの「現象」は説明ができません。

それにこのスピードもただの脚力とは思えない)

 

 

 

いま隣を走っている大助だが

どう見ても脚力だけでこのスピードを出せると思えない

それこそギフトを持ち要らないとだけないのだが…

 

 

 

「大助さん、お聞きしてもいいですか??」

 

「なに黒ウサギ??」

 

 

「そのスピードといい、水面に浮かぶといい、

一体どんなギフトをお持ちなんですか??

水面に浮かんでいるとき波紋がなりませんでした。

それどころか私には「止まっている」ように見えましたが…」

 

「……スゴいね黒ウサギ。

十六夜にはバレてると思ったけど黒ウサギもか…

詳しいことはゆっくり話すとして……」

 

 

 

そんなことを言いながら十六夜を探していると、

遠くの方で爆音とともに水しぶきが上がった。

 

 

 

「ほら十六夜が見つかった。」

「確か、あそこには水神の眷属がいたはず・・・

これはまずいのです!!!!!」

 

 

「大丈夫だと思うけどな……」

 

「そんな呑気に言っていられません!!!!

急ぎますよ大助さん!!!」

 

「ちょっ、ちょっと黒ウサギ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

水しぶきが起きた場所へたどり着いてみると

そこには十六夜が水辺に向かって立っていた。

 

 

 

「お~い、十六夜!!!」

 

「おっ、大助に…黒ウサギか……

なんで髪がピンク色に変わってるんだよ。」

 

 

 

はぁはぁ、息切れしている黒ウサギと

全く疲れをみせずケロッとしている大助

それを見て十六夜は何かを分かったような表情をする

そして息を整えた黒ウサギは、いままで不満をぶつけるかのように

 

 

 

「そんなことより一体どこまで来てるんですか!!?」

 

「世界の果てまでですよっと。

まぁ、そんなに怒るなよ。

それにしてずいぶん速かったな」

 

「それはこっちの台詞だよ。

全力ではないとはいえ追い付けなかったんだもんな」

 

 

(黒ウサギが…半刻以上もの時間、追いつけなかった……?)

 

 

 

黒ウサギは箱庭の世界、創始者の眷属である。

そのかける姿は疾風より速く、

その力は生半可な修羅神仏では手を出せない。

その黒ウサギに気づかれることなく姿を消したことも、

追いつけなかったことも、

思い返せば人間とは思えない身体能力だった。

 

そしてそれ十六夜だけではない。

隣でのんびりと景色を見渡している大助もまた同じ

 

 

 

「ま、まあ、それはともかく!

十六夜さんが無事 でよかったデス。」

 

「あのさ、黒ウサギ。

水神というものはあの白い蛇のことをいうの??」

 

 

 

え? と黒ウサギは硬直する。

大助が指指したのは川面にうっすらと浮かぶ白くて長きモノだ。

黒ウサギが理解する前にその巨体が鎌首を起こし、

 

 

『まだ…まだ試練は終わってないぞ、小僧ォ!!!』

 

 

 

それは身の丈30尺強はある巨躯の大蛇だった。

それが何者か問う必要はいだろ

間違いなくこの一帯を仕切る水神の眷属だ。

 

 

「蛇龍…!

って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 

 

ケラケラ笑う十六夜は事の顛末を話す。

 

 

「なんか偉そうに『試練を選べ』とかなんとか、

上から目線で素敵なことをいってくれたからよ。

俺を試せるのかどうか試させてもらったのさ。

結果はまあ、残念な奴だったが」

 

「大物だね十六夜は。

そんな恐ろしいこと僕には出来ないよ。」

 

 

「何をいってやがる。

全部は分からないが分かっただけでも大助のギフトは

俺と同等かそれ以上だろうが」

 

「それこそ何言ってるんだよ。

僕のギフトは、まぁ…許されざる力だよ……」

 

 

 

それを聞いていた蛇龍は、

 

 

『貴様…付け上がるな人間!

我がこの程度の事で倒れるか!!』

 

 

 

蛇龍の甲高い方向が響き、牙と瞳を光らせる。

巻き上がる風が水中を上げて立ち昇る。

黒ウサギが周りを見れば、戦いの傷跡と見て取れる

捻じ切れた木々が散乱してい。

あの水流に巻き込まれたが最後、人間の胴体など

容赦なく千切れ飛ぶのは間違いない。

 

 

 

「十六夜さん、下がって!」

 

「あぁいいぜ。その代わり…」

 

 

 

十六夜は大助より一歩下がり、会って始めて見る十六夜の満面な笑顔

そして十六夜は大助の背中を……蹴った。

 

 

 

「こいつがやるから♪」

 

「はっ!?、はあぁ!!!??」

 

 

 

飛ばされた大助はこけそうな足取りで水面を歩き

視線を水面からゆっくりと上げていくと

 

 

 

『心意気は買ってやる。

それに免じ、この一撃をしのげば貴様に勝利を認めてやる』

 

「いやちょっと待て!!!

僕は関係ないだろうが!!!!!」

 

 

 

「おい蛇、通訳するとな『お前ごときじゃ相手にならない』ってよ。」

 

「いってないだろうが!!!」

 

 

だがそんな大助の言葉もいまの蛇龍には関係ない。

 

 

 

『その戯言が貴様の最後だ!』

 

 

 

蛇神の雄叫びに応えて嵐のように川の水が巻き上がる。

竜巻のように渦を巻いた水柱は蛇神の丈よりも遥かに高く舞い上がり、

何百トンもの水を吸い上げる。

竜巻く水柱は計三本。

それぞれが生き物のように唸り、蛇のように襲いかかる。

 

 

 

「い、十六夜さん!!!

なんであんなことを、あれでは大助さんが!!!!」

 

「いいから黙ってろ黒ウサギ。

いまから面白いものが見れるぞ。」



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異質で異常なるギフト

とんでもないことになった。

確かに僕はこの世界から新しい人生を始めようと思っていた

だけどこんな展開を望んではいなかった

もう少し世界を見て自分の似合ったギフトゲームをして

出来ればみんなの役にたてればと、そう考えていたのだが…

 

 

 

「どうしてこうなったのかな…」

 

 

 

迂闊にギフトを使ったからかもしれないが

それでも、この世界に来てから、ワクワクしている

自分がいた世界ではこのギフトを使うのは躊躇っていた

このギフトはあの世界では異質であり異常

どうして持って生まれたのか呪ったときもあった

 

だけど……

 

 

 

「これも、人生ですか、っと」

 

 

いまは少なくとも感謝している

このギフトがどれだけ人の役に立ち、

人を助けることが出来るか

いまはそれだけで十分に楽しい。

 

だから僕は一歩一歩と前に向かって進む

向かってくる水柱の方へと

 

 

 

「真正面から受けるなんて無理です!!!」

 

 

 

大丈夫だよ黒ウサギ

だって僕のギフトは異質で異常

もしかしたらこの箱庭でもあってはならないものかもしらない

だけどいまは、いまだけは、見ていてほしい、知ってほしい

このギフトの力を、そしてその意味を。

 

 

水柱とはもうわずか

触れれば簡単に人を傷つけ、その肉体を引き剥がすだろう

だけどそれを分かっていないのか、

いや、分かっているからこそか、

大助はその水柱に対してそっと壊れないような手つきで

 

その水柱に触れてみせたのだ。

 

 

するとどうだろうか、水柱は大助の手を傷つけなかった

それよりも水柱が大助を傷つけないように「止まった」のだ

 

 

 

「なっ!!!?」

「……ほう…」

『なんだと!!!!!!』

 

 

全員が驚いている、いま起きている現象に

大助が触れた水柱はそこで止まった

止まったといっても水柱が無くなったりしたわけではなく

言葉通り水柱が「止まっている」、「停止」しているのだ

 

それはまるで造形のように水面に立っている

ビデオを途中で一時停止しているように立っている

いまそこには普通では見ることのできないものがあるのだ

 

それはもはや人智を遥かに超越した力である

 

 

 

「やっぱりこの箱庭でもこれは異質で異常なのか…」

 

 

 

分かっていたことだがそれほど異質で異常なんだろう

それでも構わない、例え周りからどんな風に見られようとも

どうやらここにはキチンと見てくれる人がいるようだ

 

 

 

「いいもの見せてもらったぜ大助」

 

 

 

背後から聞こえる声の主、十六夜は

大助が止めた水柱を踏み台にして高く飛び上がり

放心している蛇神に向かい

 

 

 

「これは手伝ってくれたアンタへの礼だ、受けとれ!!!!」

 

 

 

大地を踏み砕くような爆音。

胸元に飛び込んだ十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち

蛇神の巨躯は空中高く打ち上がり川に落下した。

その衝撃で川が氾濫し、水で森が浸水する。

 

 

 

「こっちまで水を飛ばすなよ十六夜」

 

「濡れていない奴が何いってやがる。

くそ、今日はよく濡れる日だ。

クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

 

 

大助に飛んできた水しぶきはその体に触れた瞬間に止まり

重力に負けて雫やしぶきは足元の水へと帰った

だが、そんな大助や十六夜の冗談めかした声は

いまの黒ウサギには届かない

 

 

(人間が…神格を倒した!?

それも只の腕力で!?

いやそれよりも水柱をいとも簡単に止めたなんて…

そんなデタラメが―――!)

 

 

だが現実、いま目の前では横たわっている蛇神と

その蛇神に勝利した人間が二人

 

 

(信じられない……

だけど、本当に最高クラスのギフトを所持しているのなら……!

私達のコミュニティ再建も、本当に夢じゃないかもしれない!)

 

 

「おい、どうした?

ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

 

「え、きゃあ!」

 

 

背後に移動した十六夜は黒ウサギの脇下から豊満な胸に、

ミニスカートとガーターの間から

脚の内股に絡むように手を伸ばしていた。

押しのけて飛び退き大助の後ろに隠れ

黒ウサギは感動を忘れて叫ぶ。

 

 

「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?

二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」

 

 

「二百年守った貞操?

うわ、超傷つけたい」

「二百年も生きてるの!?

……黒ウサギは長生きなんだな…」

 

 

「お馬鹿!? いいえ、お馬鹿!!!!

それに大助さんもマイペース過ぎます!!!!」



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コミュニティの状況とギフトゲーム

「と、ところで十六夜さん。

その蛇龍様はどうされます?というか生きています?」

 

「命までは取ってねえよ。殺すのは別段に面白くないしな。

゙世界の果でにある滝を拝んだら箱庭に戻るさせ」

 

 

 

「それでしたら蛇神様かギフトを戴きましょう。

十六夜さんと大助さんで蛇神様を倒されましたから

きっとスゴいものを戴けますよ!!!!」

 

「僕は大したことしてないけどね。

てっきり僕が戦うかと思ってたのに、

まさかおいしいところを持っていくなんて」

 

「何いってやがる。

『この一撃をしのげば貴様に勝利を認めてやる』って言っていただろうが

あの時点でお前は勝利して、俺はただのオマケだ。」

 

 

「オマケであそこまでいたしますか…

ま、まぁともかくギフトを………」

 

 

 

そういって黒ウサギは蛇神の元へ行こうとしたが

それ邪魔するかのように十六夜が立ちふさがる

 

 

 

「おっとその前に黒ウサギ。

どうしてお前は俺達をこの箱庭へ呼び出す必要があったんだ??」

 

「ど、どうしてって…

それは十六夜さん達にこの箱庭で

オモシロオカシク過ごしてもらおうと」

 

 

「まぁ、それについては俺ば暇゙の大売りしていたからな

他の三人については箱庭に来るだけの理由があったんだろうよ。

だからオマエの事情なんて特に気にかからなかったんだが―――

なんだかな。俺には、黒ウサギが必死に見える」

 

 

 

その言葉に息詰まる黒ウサギ

大助も何かを言いたそうだがここは十六夜に任せることに

 

 

 

「……なにも言わないなら俺は大助を連れてここから去る」

 

「おいこら、なんで僕を巻き込む。」

 

 

「お前のギフトを面白いからな。

個人的にじっくりと観察して実験してみたい」

 

「僕は十六夜のオモチャじゃないぞ!!」

 

「ということだ黒ウサギ。

さっさと喋らないと無理矢理でも大助をつけていく。」

 

 

 

勝手に話を進めるなと言おうとしたが

黒ウサギはなぜだか黙りで何かを悩んでいる

もしかして本当に何かあるのか??

この箱庭に呼び出し僕たちに話せない理由が……

 

 

 

「黒ウサギ…何かあるならちゃんと話してくれないかな??」

 

「ほら大助もいっているぞ。

なんならいますぐ他のコミュニティに行ってもいいんだぜ」

 

「や、だ、駄目です!

いえ、待ってください!」

 

「だから待ってるだろう。

ホラ、いいから包み隠さず話せ」

 

 

 

これ以上抵抗しても無理だろう。

いや、抵抗という言葉を使う時点で失礼だ

目の前にいるこの軽薄そうな少年の瞳は

゙箱庭の世界゙を見定めることに真剣だったのだから…

 

 

「………話せば、協力していただけますか?」

 

「ああ。面白ければな」

 

「………分かりました。

それではこの黒ウサギもお腹を括って、

精々オモシロオカシク、

我々のコミュニティの惨状を語らせていただこうじゃないですか」

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

それから黒ウサギが聞いた話は壮絶だった。

現在黒ウサギのコミュニティにば名゙がない

それどころか旗もなぐノーネーム゙と周りから別称で称されている

さらにギフトゲームにいま参加できるのは黒ウサギとジンだけ

そしてそんな状況を作り出したのが゙魔王゙という天災

魔王によってコミュニティとして

活動していくために必要なものすべて奪われた

 

それでも黒ウサギはコミュニティを解散せず

戻ってくるであろう仲間のために再建を図る

いや仲間だけではなく誇りもすべて取り戻すために

そのためには十六夜達にすがるしかなかった

四人の強力なギフトをコミュニティのために貸してもらうために

 

 

 

「いいな、それ」

 

「――――………は?」

 

「HA? じゃねえよ。

協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」

 

 

 

「え……あ、あれれ?

いまの流れってそんな流れでございました?」

 

「そんな流れだったぜ。

で、大助はどうする。強制はしないが」

 

「十六夜と同じかな。

この箱庭に呼んでもらった恩義があるからね

出来るだけのことはさせてもらうよ」

 

「だとよ。素直に喜べ黒ウサギ。

じゃないと本気で余所行くぞ」

 

 

「だ、駄目です!!!!」

 

「ならさっさとヘビを起こしてギフトを貰ってこい」

 

「は、はい!」

 

(なんか、いいように丸められてるな……)

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

「な、なんであの短時間に

『フォレス・ガロ』のリーダーと接触して

しかも喧嘩を売る状況になったのですか!?

しかもゲームの日取りは明日⁉

それも敵のテリトリー内で戦うなんて!

準備している時間もお金もありません!

一体どういう心算が あってのことです!

聞いてるのですか3人共‼」

 

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省して います」」」

 

 

「黙らっしゃい!!!」

 

 

 

蛇神から水樹の苗を貰い

きゃーきゃーきゃー♪と喜んでいた黒ウサギだが

噴水広場で合流し、話を聞いた黒ウサギは

このように嵐のような説教と質問をしていた

 

 

 

「別にいいじゃねえか。

見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、

このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?

この“契約書類”(ギアスロール)を見てください」

 

 

 

“契約書類”とは”主催者権限”を持たない者達が

“主催者”となってゲームを開催するために必要なギフトである。

 

そこにはゲーム内容・ルール・チップ・賞品が書かれており

“主催者”のコミュニティのリーダー が署名することで成立する。

黒ウサギが指す賞品 の内容を十六夜が読み上げる。

 

 

 

「“参加者”が勝利した場合、

主催者は参加者の言及する罪を認め、

箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、

コミュニティを解散する”

―――まあ、確かに自己満足だ。

時間をかければ立証できるものを、

わざわざ取り逃がすリスクを背負ってまで短縮させるんだからな」

 

 

 

ちなみに飛鳥達のチップは“罪を黙認する”こと。

それも、今回だけでなく今後一切について口を閉ざすことだった。

 

 

「時間さえかければ彼らの罪は暴かれます。

だっ て肝心の子供たちは・・・・・・その」

 

 

 

黒ウサギが言い淀む。

彼女も“フォレス・ガロ”の悪評は聞いていたが、

そこまで酷い状態になっているとは思っていなかった。

 

 

「そう。人質は既にこの世にいないわ。

その点を責め立てれば必ず証拠は出るでしょう。

だけどそれには少々時間がかかるのも事実。

あの外道を裁くのにそんな時間をかけたくないの。」

 

「はぁ……。

仕方がない人達です。まあいいデス。

腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。

“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」

 

 

 

十六夜と飛鳥は怪訝な顔をして、

 

 

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「当たり前よ。貴方なんて参加させないわ」

 

 

 

フン、と鼻を鳴らす二人。

黒ウサギは慌てて二人に食ってかかった。

 

 

「だ、駄目ですよ!

御二人はコミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

 

 

十六夜が真剣な顔で黒ウサギを制した。

 

 

 

「いいか?この喧嘩は、こいつらが売って、奴らが買った。

なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

「……。ああもう、好きにしてください」

 

 

 

するとさっきまで黙っていた耀は

ゆっくりと大助に近づき袖を引っ張って

 

 

 

「ねぇ大助は参加してくれるよね?」

 

「……あれ、ここは僕も参加しない方向では…」

 

「何をいっているのかしら

私は十六夜君にいっただけで大助君には言ってないわよ。

それに女性二人を危険な目に会わせるつもりなのかしら??」

 

 

「……喜んでナイトとして参加させていただきます。」

 

 

 

 

その言葉に耀と飛鳥はハイタッチをする

十六夜はアハハと笑い、黒ウサギはぐったりとなり

大助は流れに任せようとため息をついた



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サウザンドアイズ

話がまとまったところ??で

ジンの提案でコミュニティに帰る話になったのだが、

 

 

 

「あっ、ジン坊っちゃんは先にお帰りください。

ギフトゲームが明日なら゙サウザンドアイズ゙に

皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」

 

 

「゙サウザンドアイズ゙?コミュニティの名前か?」

 

「YES。

゙サウザンドアイズ゙は特殊な゙瞳゙のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。

箱庭の東西南北・上層下層の全て精通する超巨大商業コミュニティです。

幸いこの近くに支店がありますし」

 

 

「ギフト鑑定というのは?」

 

「自分の力の正しい形を把握していた方が、

引き出せる力はより大きくなります。

皆さんも自分の 力の出所は気になるでしょう?」

 

 

同意を求める黒ウサギに

十六夜・飛鳥・耀・大助の四人は複雑な表情で返した

 

 

 

と、いうことで゙サウザンドアイズ゙に向かうことに

日が暮れて月と街灯ランプに照らされている並木道を歩く

そして着いた先は蒼い生地に

互いが向かい合う二人の女神像が記されている

あれが゙サウザンドアイズ゙の旗なのだろう。

 

日が暮れて看板を下げる割烹着の女性店員に、

黒ウサギは滑り込みストップを、

 

 

「まっ」

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやってません」

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

 

「ま、全くです!

閉店時間五分前に客を閉め出すなんて!」

 

「文句があるならどうぞ余所へ。

あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!? これだけで出禁とか御客様を舐めすぎでございますよ!?」

 

 

キャーキャーと喚く黒ウサギに、

店員は冷めたような目と侮蔑を込めた声で対応する。

 

 

「なるほど、“箱庭の貴族”である

ウサギのお客様を無下にするのは失礼ですね。

中で入店許可を伺いますので、

コミュニティの名前をよろしいでしょうか?」

 

「……う」

 

 

一転して言葉に詰まる黒ウサギ。

しかし十六夜は何の躊躇いもなく名乗る。

 

 

「俺たちは“ノーネーム”ってコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこの“ノーネーム”様でしょう。

よかったら旗印を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」

 

 

全員の視線が黒ウサギに集中する。

彼女は心の底から悔しそうな顔をして、小声で呟いた。

 

 

「その……あの……私たちに、 旗はありま」

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉ!

久しぶりだ黒ウサギ イィィィ!」

 

 

黒ウサギが店内から爆走してきた着物風の服を着た

真っ白い髪の少女に抱きつかれ、少女と共に街道の向こうにある

浅い水路まで吹き飛びボ

 

 

「きゃあーーーーー……!」

 

 

ボチャン、と転がり落ちた。

 

それを、十六夜達は目を丸くし、

店員は痛む頭を抱えた。

 

 

「・・・・・・おい店員。

この店にはドッキリサービスがあるのか?

なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

 

黒ウサギを強襲した白い髪の幼い少女は、

黒ウサギの胸に顔を埋めてなすり付けていた。

 

 

「し、白夜叉様!?どうして貴女がこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろに!

フフ、フホホフホホ!やっぱりウサギは触り心地が違うのう!

ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 

胸に顔を埋めている白夜叉を引き剥がし、

頭を掴んで店に向かって投げつける。

 

クルクルと縦回転した少女を、十六夜が足で受け止めた。

 

 

「てい」

「ゴバァ!お、おんし……

飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

 

ヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

 

一連の流れの中で呆気に取られていた飛鳥は、

思い出したように白夜叉と呼ばれていた少女に話しかけた。

 

 

「貴女はこの店の人?」

 

「おお、そうだとも。

この“サウザンドアイ ズ”の幹部様で白夜叉さまだよご令嬢。

仕事の依頼ならおんしのその年齢のわりに発育がいい胸を

ワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。

それでは売り上げが伸びません。ボスが怒ります」

 

 

どこまでも冷静な声で女性店員が釘を刺す。

黒ウサギは濡れた服を絞りながら水路から上がってきた。

 

 

「うう……まさか私まで濡れる事になるなんて」

 

「落ちる前に黒ウサギに触れてたら濡れなくて良かったけど…」

 

 

「そんなこと出来るならどうしてしてくれなかったんですか!?」

 

「い、いや…春日部さんに止められて……」

 

「……………。」

 

 

どうしてだろうか、かなりの威圧感が耀から飛んでくる

飛鳥の手に触れた時もなんか黒いオーラが見えたような…

それに気づいたのは黒ウサギだけてはなく飛鳥も気づいたようで

大助と耀から離れて黒ウサギの元へ向かい

 

 

(これ以上の詮索はやめた方がいいわよ)

(は、はい、それにしてもすでにここまで仲良くなっていたんですか?)

 

(私に聞かれても知らないわ。

とにかく春日部さんの前で大助君に触れるのは)

(やめた方がいいみたいですね。)

 

 

なんか気まずい雰囲気の中、空気を読んでくれた白夜叉が

 

 

「まぁ、ともかく話があるのじゃろ。

話があるなら店内で聞こう」

 

「よろしいのですか?

彼らは旗も持たない“ノー ネーム”のはず。規定では」

 

 

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる、

性悪店員に対する侘びだ。身元は私が保証するし、

ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

 

 

む、っと拗ねるような顔をする女性店員。

彼女にしてみればルールを守っただけなのだから

気を悪くするのは仕方がない事だろう。

女性店員に睨まれながら五人は暖簾をくぐった。



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空気を読むこと、それはノリがいいこと。

お店に通された五人は店が閉まっていたので

白夜叉の私室へ通された

そこにショーウィンドに展示された様々な珍品が並んでいる

 

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。

私は四桁の外門、三三四五外門に本拠を構える

“サウザンド アイズ”幹部の白夜叉だ。

この黒ウサギとは少々縁があってな。

コミュニティが崩壊してからもちょくちょく

手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

 

投げ遣りな言葉で受け流す黒ウサギ。

その隣で耀が小首を傾げて問う。

 

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。

数字が若いほど都市の中心に近く、

同時に強力な力を持つ者達が住んでいるのです。」

 

 

箱庭の都市は上層から下層まで七つの支配層に分かれており、

それに伴ってそれぞれを区切る門には数字が与えられている。

 

 

そして黒ウサギは紙に上空から見た箱庭の略図を描いた

 

 

「……超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかし ら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

「バームクーヘンか…なるほど……」

 

 

うん、と頷きあう四人。

見も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

対照的に、白夜叉はカカと哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

 

「ふふ、うまいこと例えるが、

その例えなら今いる七桁の外門は

バームクーヘンの一番皮の薄い部分にあたるな。

更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、

外門のすぐ外は“世界の果て”と向かい合う場所になる。

あそこはコミュニティに属してはいないものの、

強力なギフトを持ったもの 達が住んでおるぞ

―――その水樹の持ち主などな」

 

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。

白夜叉が指すのはトリトニスの滝を棲みかにしていた蛇神のことだろう。

 

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?

知恵比べか? 勇気を試したのか?」

 

「いえいえ、ここに来るまでに大助さんと十六夜さんが蛇神様を、

水柱を大助が防いだあとに十六夜が素手で叩きのめしたのですよ。」

 

「なんと!?

クリアではなく直線的倒したとな!?

ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。

神格なら一目で見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。

しかし神格を倒すには同じ神格を持つか…

それにアレの攻撃を防ぐなどというのも信じられないが…」

 

 

神格とは生来の神様そのものをではなく、

種の最高ランクに体を変化させるギフトを指す。

 

 

「白夜叉様はあの蛇神様とお知り合いだったのですか?」

 

「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。

もう何百年も前の話だがの」

 

 

小さな胸を張り、豪快に笑う白夜叉。

 

 

「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の“階層支配者”だぞ。

この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、

最強の主催者だからの」

 

 

“最強の主催者”

―――その言葉に、十六夜・飛鳥・耀のさん3人は一斉に瞳を輝かせた。

 

一人は、大助は、その表情にまさかと冷や汗をかいていた

 

 

「そう……ふふ。ではつまり、

貴女のゲームをクリア出来れば、

私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

 

 

三人は剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る。

白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。

 

 

「抜け目ない童達だ。私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え? ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

「やっばりかよ……」

 

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えて いる」

 

「ノリがいいわね。そういうのは好きよ」

 

「後悔すんなよ。」

 

 

全員が嬉々として白夜叉を睨む

 

 

「それでお主はどうする? 強制はせぬが」

 

「じゃパスで。」

 

 

「ノリ悪いな」

「うん、悪すぎ」

「そうね悪すぎだわ」

 

 

「いいだろう別に!」

 

 

「それではお主は抜きでやるかの

しかし、ゲームの前に確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

 

白夜叉は着物の裾から“サウザンドアイズ”の旗印

―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、

表情を壮絶な笑みに変えて一言、

 

 

 

 

 

 

「おんしらが望むのは“挑戦”か――

―――もしく は、“決闘”か?」



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世界って広いなんて、知らなかった。

一瞬にして何かが起きて、何が起きたのか分からなかった…

この視界が何を捉えているのか、いや、これは現実なのか…

脳裏を掠めたのは、黄金色の穂波が揺れる草原。

白い地平線を除く丘。森林の湖畔。

記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から四人を呑み込んでいく

 

四人が投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔

――――そして、水平に太陽が廻る世界だった。

 

 

 

「……なっ…………!?」

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。

私ば白き夜の魔王゙

―――太陽と白夜の精霊・白夜叉。

おんしらが望むのは、試練への゙挑戦゙か? それとも対等の゙決闘゙か?」

 

 

魔王・白夜叉。

少女の笑みとは思えぬ凄味に、再度息を呑む四人

十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う

 

 

「水平に廻る太陽と……そうか、白夜と夜叉。

あの水平に廻る太陽やこの土地は、オマエを表現しているってことか」

 

「如何にも。

この白夜の湖畔と雪原。

永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私がもつゲーム盤の一つだ」

 

 

 

マジかよ…これがただのゲーム盤……

この広大な世界が、これがゲーム盤……

おいおい、おいおい、おいおい、おいおい……

 

 

「……あ、ああ、あはは……」

 

「……大助?」

 

「ちょっと大丈夫なの??」

 

「まぁ、当然の反応かもな…」

 

 

「そんなこといってる場合ですか!!?

大助さん落ち着いてください!!!!」

 

「落ち着いて…大助。」

 

 

 

黒ウサギと耀が大助の側に駆け寄り

落ち着かせようと声をかけるが、

 

 

 

「大丈夫だよ春日部さん、黒ウサギ。

ただこの世界に感動してるだけだよ…

……本当にちっぽけだったんだな僕の不安は……

それが分かったよ、心の奥の奥から……」

 

 

世界は広いっていうけど

まさかここまで広いなんてな……

 

 

「お主、こんな状況で感動できるとな。」

 

「できるよ、僕の世界は小さかった。

それは世界そのものじゃなくて僕の感じていた世界が

だけど、この世界は僕の世界をどんなものか教えてくれた

だからありがとう、白夜叉。」

 

 

「そんなつもりはなかったんだが、面白いのお主は。」

 

 

くくくっと笑う白夜叉だが、

次にはその笑いの表情は不気味なものと変わり

 

 

「さて、おんしらの返答ば挑戦゙であるならば、

手慰み程度に遊んでやる。

―――だがしかじ決闘゙を望むなら話は別。

魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

 

「………………っ」

 

 

飛鳥と耀が、即答できずに返事を躊躇った。

白夜叉に勝てないことは一目瞭然だが、

自分たちが売った喧嘩をこのような形で取り下げるには、プライドが邪魔した。

 

しばしの静寂の後、十六夜が諦めたように笑って見せながら

 

 

「参った。降参だ、今回は黙って試されてやるよ 」

 

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをした十六夜を

白夜叉は堪え切れず高らかと笑い飛ばした。

プライドの高い十六夜にしては最大限の譲歩だろう

 

 

 

「ふふ、試されてやるとは、

随分とかわいい意地 張り方じゃないか。

して、ほかの童達も同じか?」

 

 

「・・・ええ。私も試されてあげてもいいわ」

「右に同じ」

 

 

苦虫を噛み潰した表情で返事をする二人。

その様子を見ていた黒ウサギと大助は安堵の表情を浮かべる

ホッとしていたら彼方に見える山脈から甲高い叫び声が聞こえた。

その鳥とも獣とも思える叫び声に逸早く反応したのは

動物の声を聞くことができる耀だった。

 

 

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ……あやつか。

おんしら三人を試すには打って付けかもしれんの」

 

 

白夜叉が手招きするとそれに応じてソレはやって来る。

鷲の頭と翼にに獅子の身体を持った伝説上の生物、

グリフォンだ。体長はざっと5メートルはある。

 

 

「グリフォン……うそ、本物!?」

 

「フフン、如何にも。

あやつこそ鳥の王にして獣の王。

"力""知恵""勇気"の全てを備えたギフトゲームを代表する獣だ」



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グリフォンとの闘い

「肝心の試練だがの。おんしら四人とこのグリフォンで

“力”“知恵”“勇気”の何れかを比べ合い、

背に跨って湖畔を舞うことが出来ればクリア、という事にしようか」

 

 

すると虚空から“主催者権限”にのみ許された輝く羊皮紙が現れる。

白夜叉は白い指を奔らせて羊皮紙に記述する。

四人は羊皮紙を覗き込んだ。

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名:“鷲獅子の手綱”

 

・プレイヤー 一覧 逆廻 十六夜 久遠 飛鳥 春日部 耀 君塚 大助

・クリア条件 グリフォンの背に跨り、湖畔を舞う。

・クリア方法 “力”“知恵”“勇気”の何れかでグリフォンに認められる。

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 

“サウザンドアイズ”印』

 

 

 

「私がやる」

 

 

読み終わるや否やピシ!

と指先まで綺麗に挙手をしたのは耀だった。

彼女の瞳はグリフォンを羨望の眼差しで見つめている。

 

 

『お、お 嬢……大丈夫か?

なんや獅子の旦那より遥かに怖そうやしデカイけど』

 

「大丈夫、問題ない」

 

 

耀の瞳は真っ直ぐにグリフォンに向いている。

キラキラと光るその瞳は、探し続けていた宝物を見つけた子供のように輝いていた。

隣で呆れたように苦笑いを漏らす十六夜と飛鳥。

 

 

「OK、先手は譲ってやる。失敗するなよ」

「気を付けてね、春日部さん」

「うん、頑張る」

 

 

二人は耀に言葉をかけ、大助も応援の言葉を言おうとしたが

 

 

 

「よし、頑張ろう大助。」

「………あれ??」

 

 

流れ的にここは春日部さん一人のはず

確かにプレイヤーには自分の名前はあったが

 

 

「これ……僕も出るの??」

「えっ、ちょっとなにいってるの??」

 

「これ僕がおかしいの!!?」

「そういうことだからよろしく。」

「いや、もう…はい。」

 

 

これ以上何をいっても無理だろうな…

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

グリフォンとのギフトの取り決めはこうだ

僕と春日部さんはグリフォンの背中に乗り

山脈を時計回りに迂回しこの場所に戻るまでに

一人でも振り落とされなければ僕達の勝ち

それはグリフォンにとっては誇りを、名誉が失墜する

その誇りをかけるグリフォンに対して僕達は命を懸ける

 

もちろんそのことに対して黒ウサギや久遠さんは反対

だけど十六夜と白夜叉によりこのままやることに決まった

 

 

 

「はい、春日部さん」

「ありがとう。」

 

 

僕が先にグリフォンの背に乗り春日部を引き上げる

手綱を持った僕が前へ春日部さんが後ろに座ったのだが

掴むところがないと、その腕を伸ばして僕のヘソのところで手を組んだ

つまりは僕の後ろから耀が抱きついてきたのだ

 

 

 

「ちょっ、ちょっと春日部さん!!!??//////」

 

「こうしないと掴むところがない。

だから手綱は大助に任せたから」

 

 

 

任せたって……

こんな状況どうも思わないのか春日部さんは!!

僕はこんなにドキドキしてるのに////

 

そんな状態が分かったのか、

十六夜や久遠さん白夜叉はニヤニヤと

黒ウサギはその光景にオロオロしている

 

 

 

「///// 春日部さん、早く始めよう!!」

 

「う、うん?

その前に一言だけ……

…私、あなたの背に跨がるのが夢の1つだったんだ」

 

『………そうか』

 

 

グリフォンは苦笑してこそばゆいとばかりに翼を三度羽ばたかせる。

前傾姿勢を取るや否や、大地を踏み抜くようにし て薄明の空に飛び出した。

 

 

「うおっ!!!!!」

 

 

思わず声が出てしまった。

覚悟はしていたけど実際に味わうとこうも違うのか…

この空を自由に駆けるグリフォンのスゴさに……

 

そして耀は何かに気が付き、強烈な圧力に苦しみながらも、

感嘆の声を抑えられずに漏らした。

 

 

「凄い……! 貴方は、空を踏みしめて走っている!!!」

 

 

鷲獅子の巨体を支えるのは翼ではなく、旋風を操るギフト。

この翼は彼らの生態系が、通常の進化系統樹から逸脱した種であることの証

力学を無視して空を駆けるその姿は、まさに゙幻獣゙の名を相応しいものだった。

 

 

『小娘、小僧。もうすぐ山脈に差し掛かるが……

…本当に良いのか?この速度 で山脈に向かえば』

 

「うん。氷点下の風が更に冷たくなって、

体感温度はマイナス数十度ってところかな」

 

 

森林を越え、山脈を跨ぐ前に、グリフォンは少し速度を緩める。

低い気温の中を疾風の如く駆けるグリフォンの背に跨れば、

衝撃と温度差の二つの壁が牙を剥き、 人間に耐えられるものではない。

 

これはグリフォンの良心から出た最後通牒。

 

耀の真っ直ぐな姿勢に思うところあっての言葉だろう。

だが、その心配を耀は微かな笑顔と挑発で返した。

 

 

「だけど、大丈夫って言ったから。

それよりいいの ?貴方こそ本気で来ないと。本当に私が勝つよ?」

 

『……よかろう。後悔するなよ娘!』

 

 

次の刹那、大気が揺らいだ。

今度は翼も用いて旋風を操る。

 

遥か彼方にあったはずの山頂が瞬く間に近づき、

下を見れば、羽ばたく衝撃で割れる氷河が見える。

衝撃は人間の身体など一瞬で拉げさせてしまいそうな衝撃の中、

耀は歯を食いしばって耐えていた。

 

これだけの圧力、冷気。

これらに耐えている耀の耐久力は少女を逸脱している。

 

 

(なるほど……相応の奇跡を身に宿しているという事か……!)

 

 

頂から急降下する際、グリフォンの速力は倍に近しいものまで迫る。

手心不要と悟るやいなや、グリフォンは旋回を交えて

春日部耀を振るいかける。

鞍が無い獅子の背中は縋れるような無駄は無く、

大助にしがみ付いている耀の下半身は空中に投げ出されるように泳ぐ。

 

 

「っ・・・・・・!!」

 

 

流石にもう軽口は叩けない。

 

耀は必死に大助にしがみ付き、

グリフォンは必死に振り落とそうと旋回を繰り返す。

 

が、

 

 

「『なっ!!!??』」

 

 

だけど、そこで、異変に気がつく

下半身が空に投げ出されている耀だが

どうして、こんなにも安定してしがみ付いているのか?

大助は耀に比べて手綱を握っているが

それでも座っている所は同じである

 

なのに、こうして、いま、

振り落とされそうになっているのは

……………耀だけなのだ。

 

 

耀が必死にしがみ付いている大助

その者は、今も、グリフォンに「跨がっている」のだ。

少しも動かずに手綱も必死に掴んでいる様子もなく

ただそこに「座っている」のだから……

 

 

グリフォンは地平ギリギリまで急降下して

大地と水平になるように振り回す。

 

それが最後の山場だったのだろう、

山脈からの冷風も途絶え、残るは純粋な距離のみ。

勢いもそのままに、湖畔の中心まで疾走したグリフォン。

 

耀と大助の勝利が決定し、飛鳥と黒ウサギが喜んだ瞬間 ――

――大助にしがみ付いていた耀の小さな体は

突風に吹き飛ばされたように舞い、慣性のまま打ち上がる。

 

 

『何!?』

「春日部さん!?」

 

 

安堵を漏らす暇も称賛をかける暇もなく、

耀の身体が打ち上げられ、グリフォンと飛鳥は息を呑んだ。

助けに行こうとした黒ウサギの手を十六夜が掴む。

 

 

「は、離し―――」

 

「待て!まだ終わって―――」

 

 

焦る黒ウサギと止めようとする十六夜。

すると耀の身体が突然動きを変えた。

 

決着がつき、慣性のまま打ち上げられたとき、

耀の脳裏からは、完全に周囲の存在が消えていた。

 

脳裏にあるのは只一つ、

先ほどまで空を疾走していた感動だけが残っている。

 

 

(四肢で………風を絡め、大気を踏みしめるように―――!)

 

 

ふわっと、耀の身体が翻った。

慣性を殺すような緩慢な動きはやがて

彼女の落下速度を衰えさせ、

遂には湖畔に触れることなく飛翔したのだ。

 

 

「・・・・・・なっ」

 

 

その場にいた全員が絶句した。

先ほどまでそんな素振りを見せなかった耀が、

湖畔の上で風を纏って浮いているのだ。

 

そして驚くことはもう1つ。

 

 

「よ、よかった…

飛ばされたときはもうヒヤヒヤしたよ……」

 

「大助も…浮いている……」

 

 

 

耀の隣にはいつのまにか大助が立っていた

風を纏い浮いている耀とは違い

大助はそこに「地面」があるように立っているのだ

 

 

「まぁ、春日部さんとは違うやり方だけどね」

 

「そう…なんだ…」

 

 

聞きたいことはあった

だけど下にいる仲間に心配かけたくないと降りることに

ふわふわと泳ぐように不慣れな飛翔を見せる耀に、

呆れたように笑う十六夜が近づいた。

 

 

「やっぱりな。お前のギフトって、

他の生き物の特性を手に入れる類だったんだな」

 

 

軽薄な笑みに、むっとしたような声音で耀が返す。

 

 

「………違う。これは友達になった証。

けど、いつから知ってたの?」

 

「ただの推測。お前黒ウサギと出会った時に

“風上に立たれたら分かる”とか言ってたろ。

そんな芸当は人間にはできない。だから春日部のギフトは

他種とコミュニケーションをとるわけじゃなく、

他種のギフトを何らかの形で手に入れたん じゃないか……

……と推察したんだが、それだけじゃなさそうだな。

あの速度で耐えられる生物は地球上にいないだろうし?」

 

 

 

そのやり取りの中、いまだ空中にいた大助は

いきなり足場を無くしたように重力落下し

地面にたどり着いた瞬間にピタッと止まった

まるで最初からそこにいたように

衝撃や突風やなにもかも「発生」していないのだ

 

何もなかったように歩いてくる大助に対して

誰もが言葉を出せずにいた。

それはそうだ、耀を追いかけるために空に浮かんだこと

グリフォンの背中に跨がりびくともしていなかったこと

 

 

それだけでも異質で異常

 

 

まぁ、仕方ないと苦笑いする大助に、

 

 

 

「ありがとう大助。」

 

「うん、なんのこと?」

 

 

「大助にしがみ付いていたとき手が暖かった。

何かしてくれたの??」

 

「あ、あぁ。

春日部さんの手から腕にかけて周囲の気温を「止めたんだ」。」

 

 

それはつまり気温がずっと一定で保たれるということ

性質も状態をすべてを止めて留める

そうすることにより耀の手は悴むことはなかった

 

 

「それが大助のギフトなの。」

 

「うんまぁね。」

 

 

「スゴいね、大助のギフト」

 

「春日部さんのギフトもね。」

 

 

……なんだこのラブラブな空間は……

と、全員ツッコミしたかったが

二人の貢献者には少しはと、そのままに…



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スプリングホワイトのギフトカード

「ということで、ギフト鑑定をお願いします。」

 

 

黒ウサギの要求にゲッ、

と気まずそうな顔になる白夜叉。

 

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。

専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

 

ゲームの褒章として依頼を無償で引き受けるつもりだったのだろう。

白夜叉は困ったように白髪を掻きあげ、

着物の裾を引きずりながら四人の顔を両手で包んで見つめる。

 

 

 

「どれどれ……ふむふむ……うむ、

四人ともに素養が高いのは分かる。

しかしこれではなんとも言えんな。

おんしらは自分のギフトをどの程度に把握している?」

 

 

「企業秘密」

 

「右に同じ」

 

「以下同文」

 

「どうでしょうか…」

 

 

「うおおおおい?

いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを

教えるのが怖いのは分かるが、 それじゃ話が進まんだろうに。」

 

「別に鑑定なんていらねえよ。

人に値札張られるのは趣味じゃない」

 

 

ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、

同意するように頷く飛鳥と耀。

大助は苦笑いでアハハとごまかす

 

困ったように頭を掻く白夜叉は、

突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

 

 

「ふむ。何にせよ“主催者”として、星霊のはしくれとして、

試練をクリアしたおんしらには“恩 恵”を与えねばならん。

ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復興の前祝いとしては丁度良かろう」

 

 

白夜叉がパンパンと拍手を打つ。

すると十六夜・飛鳥・耀の

三人の眼前に光り輝くカードが現れた。

カードを見てみるとそれぞれの名前と、

体に宿るギフトを表すネームが記されていた

 

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜

・ギフトネーム“正体不明”(コード・アンノウン)

 

ワインレッドのカードに久遠飛鳥

・ギフトネーム“威光”

 

パールエメラルドのカードに春日部耀

・ギフトネーム“生命の目録”(ゲノム・ツリー)“ノー フォーマー”

 

 

それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。

黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で三人のカードを覗き込んだ。

 

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

 

「ち、違います!

というかなんで皆さんそんなに息が合っているのです!?

このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!

耀さんの“生命の目録”だって収納可能で、

それも好きな時に顕現できるのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!

あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

 

「我らの双女神の紋のように、

本来はコミュニ ティの名と旗印も記されるのだが、

おんしらは”ノーネーム”だからの。

少々味気ない絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

 

白夜叉は自分のカードを取り出し説明を進める。

 

 

「ふぅん……もしかして水樹って奴も収 納できるのか?」

 

 

十六夜は何気なく黒ウサギの持つ水樹にカードを向ける。

すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。

見ると十六夜のカードは溢れるほどの水を生み出す樹の絵が差し込まれ、

ギフト欄の“正体不明”の下に“水樹”の名前が並んでいる

 

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「出せるとも。試すか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!

その水はコ ミュニティのために使ってください!」

 

 

チッ、とつまらなそうに舌打ちする十六夜。

黒ウサギはまだ安心できないような顔でハラハラと十六夜を監視している。

白夜叉は両者の様子を高らかに笑いながら見つめていた。

 

 

「そのギフトカードは、

正式名称を“ラプラスの 紙片”、即ち全知の一端だ。

そこに刻まれるギフトネームとは

おんしらの魂と繋がった”恩恵”の 名称。

鑑定はできずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 

 

十六夜の声に、ん?と白夜叉が彼のカードを覗き込む。

そこには確かに“正体不明”の文字が刻まれている。

ヤハハと笑う十六夜とは対照的に、白夜叉の表情の変化は劇的だった。

 

 

「……いや、そんな馬鹿な」

 

 

パシッと、表情を変えた白夜叉がカードを取り上げる。

真剣な眼差しでカードを見る白夜叉は、不可解とばかりに呟く。

 

 

「“正体不明”だと……?

いいやありえん、全知たる“ラプラスの紙片”がエラーを起こすはずなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。

俺的にはこの方がありがたいさ」

 

 

パシッと十六夜がカードを取り上げる。

だが、白夜叉は納得できないように怪訝な瞳で十六夜を睨む。

それほどギフトネームが”正体不明”とはありえないことだった。

 

 

(そういえばこの童……蛇神を倒したと言っていたな。

強大な力を持ってい ることは間違いないわけか。

……しかし“ラプラスの紙片”ほどのギフトが正常に機能しないとはどういう……)

 

 

ギフトが正常に動作しない。そこで白夜叉の脳裏に一つの可能性が浮上した。

 

 

(ギフトを無効化した……?いや、まさかな)

 

 

浮上した可能性を、白夜叉は苦笑と共に切り捨てた。

修羅神仏の集う箱庭で、無効化のギフトは珍しくない。

だが十六夜のように強大な奇跡を身に宿す者が、

奇跡を打ち消す御技を宿しては大きく矛盾する。

 

それに比べれば、“ラプラスの紙片”に

問題があるという結論の方がまだ納得できる。

 

 

だがそこで白夜叉の予想をさらに上回ることが起きる

 

 

「ねぇ、白夜叉……

……僕にはそのギフトカードはないのかな??」

 

「な、なに!!?」

 

 

誰もが気づかなかったが大助には

いまだにギフトカードが出てきていない

十六夜達がギフトカードを手にした時のように

大助の眼前にも光り輝くものはあるのだが

その中には何もなくただそこにあるだけ

 

 

「これはどういうことじゃ!!!??

゙正体不明゙でも訳が分からぬというのに、

ギフトカードそのものが出てこないなんて」

 

 

すでに゙ラプラスの紙片゙やギフトの無効化どころではない

ギフトカードそのものが出現しないなどと

一体どんなイレギュラーが発生しているのか

 

とりあえずギフトカードを出さないことには原因究明も出来ない

 

 

白夜叉はパンパンと柏手を打つがまだ出てこない

二度三度とパンパン、パンパンと鳴らすがいっこうに出ない

 

 

「もういいよ白夜叉、別にギフトそのものが使えないわけじゃないし」

 

「お主がよくてもワシのプライドが許さん!

えぇい、こうなったら出るまで叩いてやるわ!」

 

 

やけくそでパンパンと鳴らしまくる白夜叉

しかしギフトカードは出てくることはなく

眼前の光がどんどん肥大化していくのが分かる

 

 

「白夜叉様、もうお止めになった方が…」

 

「えぇい止めるな黒ウサギ!

これはワシとギフトカードの勝負なのじゃ!」

 

 

その言葉に呆れ返る黒ウサギ

だが、黒ウサギもまたその異常差に驚いている

白夜叉が柏手を打ち始め3分経過

すると光の奥から何かがうごめき始めた

それを見た白夜叉は出現すると確信し

さらにスピードを上げる

 

そして光が最高潮に輝いた瞬間、

その光の中からギフトカードが現れた

だが、やはり、普通ではない。

 

そこに現れたギフトカードは数千と

いや数万、数億といわんばかりに

光の中からギフトカードを出現させ空へと飛ばす

 

 

 

「ば、バカな!!!?」

 

「景気いいじゃねえか白夜叉

まさかギフトカードの紙吹雪を見せてくれるなんてな」

 

「そうね、ギフトカードがキラキラと光って幻想的だわ」

 

「うん、こんなの初めて見る」

 

 

「そんなこといっている場合じゃないですよ!!

ギフトカードというものは一人に一枚

それがこんなに出現するなんてありえません!!!」

 

 

 

まだきちんと出現していないためか

ギフトカードの形をしているがそれはただ光が形付いただけ

それが空一杯に広がりゆっくりと舞い落ちる

 

そしてその中の一枚、大助の元へ落ちてきたギフトカード

そのギフトカードを手に取った刹那、

光がカードの中心へと吸い込まれ始めた

 

それだけではない、その光と共に周りにあるギフトカードさえも

大助が持つギフトカードへ吸い込まれていく

空一杯に広がったギフトカードは数十秒ですべて吸い付くした

光だけだったカードは少しずつ形を作り始め、そして、

 

 

スプリングホワイトカードに君塚大助

・ギフトネーム“一時停止”(サスペンド) ゙空間掌握゙

 

 

「これが僕のギフトカード…」

 

「なんですかさっきのは!」

 

「ワシにも分からん。

すまぬがギフトカードを貸してくれんか」

 

 

大助は躊躇わずにギフトカードを白夜叉に渡した

すると十六夜と同様に驚いた表情を見せる

 

 

「これは!?

お主、このギフトはどこで手に入れた!!!?」

 

「えっ、いや、いつのまにかというか…

多分ですけど生まれた時からだと……」

 

 

その言葉に納得はしてないようだが

白夜叉は諦めたような、悟ったような表情をした

 

 

「そ、そうか…

出現しなかった原因は恐らくこの゙一時停止゙という

ギフトの影響ではないかの

大量のギフトカードの出現と吸収した理由は分からぬ…」

 

 

 

そういって白夜叉はギフトカードを大助に返した

スプリングホワイトのギフトカード

ありえないことばかり起きる中、白夜叉にはまだ気になることがある

 

 

 

(あの2つのギフト、あれは間違いなく「クロノス」のギフト

なぜあやつが持っているかは知らんが

またそのギフトがこの箱庭を荒らすというのか……)



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決戦前夜??

ノーネーム、そこのがこれから所属するコミュニティ

そしていま眼の前にある、というか夜中で見えにくいが

月明かりのシルエットで浮き彫りになる本拠は

まるでホテルのような巨大さである。

 

屋敷に着いてすぐ耀達は水樹の苗から溢れる水により

お風呂に入れることが分かったためそちらへ向かった

十六夜はなにか用事があるとどこかに行ってしまった

 

 

特にやることがなくなった大助は、

部屋でゆっくりすることに

 

 

 

「はぁ~疲れた……」

 

 

部屋に入るや否やベットを見つけた大助は

勢いよくベットにダイブした

もう一歩も動きたくない

そんな衝動が襲ってくるなかズドガッン!と

デタラメな爆発音が屋敷全体に広がる

 

 

「なにやってるんだ十六夜のやつ…」

 

 

こんなことをするのは十六夜しかいない

それも木陰に誰かいたような気がしたが

まぁ、十六夜が向かったようだったから気にしてなかったが

ここで派手にやるとは…さすが問題児

 

 

「って、僕は異常者か…

……さてと、」

 

 

ポケットからギフトカードを取りだしギフトネームを見る

一時停止・空間掌握の2つのギフト

その1つを、空間掌握を使い部屋全体を認識する

そして続けて一時停止を使い認識した部屋を「停止」させた

 

これによりこの部屋と屋敷は切り離された

時間が大助のいる部屋全体が停止したのだ

なかにいる大助には影響ないが

時間が切り離されたことにより

すでに一秒一秒部屋と屋敷の時間が離れていく

 

 

そんな空間の中、大助はギフトカードを見つめる

すると外からコンコンという音が聞こえたため

一時停止を解除して扉を開けると

 

 

「大助、おはよう。」

 

「おはよう、春日部さん」

 

 

「……なんだか疲れてない?」

 

「まぁ、ちょっとね…」

 

 

 

それは疲れているに決まっている

大助のいた部屋は停止していたため

その部屋では時間は進んでいない

屋敷は通常通りに時間が進み朝を迎え

耀がドアをノックするまでこの部屋は

一時停止する前の時間が続いているのだから

 

 

「先に行ってくれないかな、顔を洗ってからいくから」

 

「うん、分かった。」

 

 

耀には先に行ってもらい、大助は部屋に入り

 

 

「なんだよこのギフトは!!!」

 

 

思わず声が出てしまった。

いやいや、どんなものかと試しに使っただけなのに

まさか一晩過ぎるなんて、それも数秒で!!

 

 

空間掌握

認識した空間を自由に操る能力

操るといっても大したことは出来ない

物を動かしたりする程度

だけどそこに一時停止を加えたら

まさかこんなことになるとは……

 

 

昨日、いや、僕にとっては今日だが

ギフトカードを見たときに初めて知ったギフト

空間掌握など今まで持ってなどいなかった

気づかずに過ごしていたなんてこともない

つまりはギフトカードが出現したとき

その時この空間掌握を手にしたと考える

 

 

「まぁ、危険なギフトじゃないみたいだけど…

まさか徹夜になるとはな…はぁ……」

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

「あっ、皆さん!見えてきました……けど」

 

 

黒ウサギは一瞬、目を疑った。

他のメンバーも同様。

居住区が森のように豹変していたからだ。

ツタの絡む門をさすり、鬱蒼と生い茂る木々を見上げて耀は呟く。

 

 

「…ジャングル?」

 

「虎の住むコミュニティだし、おかしくないだろ」

 

「いえ、フォレス・ガロの本拠は

普通の居住区だったはず…それにこの木は」

 

 

ジンがそっと気に手を伸ばす

その樹枝はまるで生き物のように脈を打ち、

肌を通して胎動の様なものを感じさせた。

 

 

「やっぱり―――゙鬼化゙してる? いや、まさか」

 

「ジン君。ここに゙契約書類゙が張ってあるわよ」

 

 

今回のゲームの内容が書かれている

 

 

 

 

『ギフトゲーム名“ハンティング”

 

・プレイヤー一覧

君塚大助

久遠 飛鳥

春日部 耀

ジン=ラッセル

 

・クリア条件 ホストの本拠内に潜むガルド=ガスパーの討伐。

・クリア方法 ホスト側が指定した特定の武具でのみ討伐可能。

指定武具以外は“契約ギアス”によってガルド=ガスパーを傷つける事は不可能。

 

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

・指定武具 ゲームテリトリーにて配置。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノー ネーム”はギフトゲームに参加します。

 

“フォレス・ガロ”印』

 

 

 

 

「ガルドの身をクリア条件に・・・指定武具で打倒!?」

 

「こ、これはまずいです」

 

 

ジンと黒ウサギから悲鳴のような声が聞こえてくる。

飛鳥は心配そうに問う

 

 

「このゲームはそんなに危険なの?」

 

「いえ、ゲーム自体は単純ですが問題はこのルールです。

このルールだと飛鳥さんのギフトで彼を操ることも

耀さんのギフトで傷付ける事も出来ないことになります」

 

「どういうことだ?」

 

「“恩恵”ではなく“契約”で身を守られているのです。」

 

「すいません。僕の落ち度です。

こんなことならその場でルールを決めておけば・・・」

 

 

ルールを決めるのが“主催者”である以上、

白紙のゲームに承諾するのは自殺行為に等しい

 

 

 

「あまり気にしない方がいいよ。

決まった以上、あとは対策を打つしかない」

 

「へぇ、何かあるのか?」

 

「それなりのものはね、あとはやったみるしかないけど」

 

 

 

それを聞いて少しは落ち着いたジン

さらに、そこに黒ウサギが、

 

 

「そ、そうですよ。

“指定”武具と書かれているで何かしらのヒントがあるはずです。

もしなければフォレス・ガロの反則負けです

この黒ウサギがいるかぎり、反則はさせませんとも!!」

 

 

「……ええそうね。

むしろあの外道のプライドのくらいのハンデは必要かもね」

 

 

愛嬌たっぷりに励ます黒ウサギと

やる気を見せる耀と飛鳥も奮起する

それを見て大助は改めて思い知らせれた

これから先は武具以外は効かない闘い

もしかしたらケガを、もしかしたらそれ以上が…

 

 

「……頑張るしかないな。」

 

 

絶対にそれだけはさせない。

決意を胸に四人は門を開け突入した

 



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3人の作戦

門の開閉がゲームの合図なのか、

生い茂る森が門を絡めるように退路を断つ。

光を遮る程の密度で立ち並ぶ木々、

その木々の下から迫り上がる巨大な根によって

街路と思われる道は人が通れるような道ではなくなってる

ここは人が住んでいた場所とは思えない程ひどい。

 

ジンと飛鳥はいつ奇襲されるかと緊張した面持ちで

周囲を警戒しているため、心配させないように

 

 

「ここでいきなり奇襲してくるなんて

仮にもコミュニティのボスがすることじゃないよね」

 

「ど、どうかしらあの外道ならやりかねないわ」

 

 

 

「一応その外道なりのプライドというのとあると思うよ

話を聞くかぎりじゃ奇襲をかけてギフトゲームを勝っても

満足するような奴には思えなかったけど」

 

「確かに…それに指定武具がある以上、それを僕達に見せずに

ゲームを終わらせるなんてそれこそガルドの敗けになる可能性があります

 

「だから大丈夫だと思うよ、それに…」

 

 

 

それでもまだ緊張する二人を安心させるため

大助は耀に「あとはお願い」とアイコンタクトすると

うん、と頷き二人に話しかける

 

 

「大丈夫。近くには誰もいない。匂いでわかる」

 

「あら、犬にもお友達が?」

 

「うん。二十匹ぐらい」

 

 

それを聞いてホッとしたようだ。

しかし奇妙な木々は家屋を飲み込んで生長したらしく、

住居のほとんどが枝や根に食い破られていた。

 

この中から武具を見つけガルドを倒す

考えるなら武具はガルドの近くにあると思う

唯一自分を倒せる武具を遠くに奥などしないはず

ならガルドを先に……

 

 

そこで空間掌握でガルドを探そうと考えたが

範囲が曖昧で認識することができない

この住居区をまるごと認識すればいいが

それだと時間がかかりすぎる

認識に必要なのは1度視覚に捉えること

さらに範囲に必要な目安となる支点が必要

部屋で使ったときは角を支点して範囲を決めた

 

要は2つの条件が揃わないと発動しないギフト

人探しのようなことは苦手のようだなこれは

自分のギフトを考えていた大助を余所に

耀達はどのように攻略するか模索していた

 

 

「気が乗らないけど、方針を変えましょう。

まずは春日部さんの力でガルドを探して」

 

「もう見つけている」

 

 

その声の先を見てみると耀は樹の上にいた

樹を飛び降りた耀はレンガの残骸が残る街路を指し、

 

 

「本拠の中にいる。

影が見えただけだけど、目で確認した」

 

 

スゴいな春日部さんは…

そのギフトをうまく使いこなしている

僕と違って何かの為に、自分のために使っている

……僕もそんな風に…僕も……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「見て。館まで呑み込まれてるわよ」

 

 

゙フォレス・ガロ゙の本拠に着く。

虎の紋様を施された扉は無惨に取り払われ、

窓ガラスは砕かれている。

豪奢な外観は塗装もろともツタに蝕まられて剥ぎ取られていた

 

 

「ガルドは二階に居た。入っても大丈夫」

 

 

そういってくれたが館に入ってすぐ空間掌握を発動

視覚と範囲の条件を満たして認識、掌握した。

これならどこから攻撃が来ても対応できる

まぁ、掌握した時点でガルドがいないのは分かっているけど

それにどうやらここには武具はないようだ

ガルドを倒せる唯一の武具いうことは

なにかのギフトが備わっていると思われる

だからそういう「力」みたいなものは見られない

 

 

「ここには武具はないみたいだよ

探すなら二階だね。」

 

「あら、どうしてそんなことが分かるのかしら?」

 

 

 

「春日部さんとは違って条件がいるけど

捜索できるギフトがあってね。」

 

「だけど瓦礫の下にあるかもしれないし、

それに武具がどういうものか分からないじゃない

針みたいなものだったりしたら…」

 

「ガルドを倒せる武具ならそれなり力があるはずなんだ

僕はそれ見分けられるから、ここには武具はない」

 

 

見分けられる。

それならここには武具はないのだろうが

 

 

「まぁ、いいわ。

でもどういう理屈で見分けられるのか教えてくれないかしら」

 

「簡単だよ。

僕達以外を全て停止させたんだ。」

 

 

それを聞いた飛鳥や耀、ジンは驚きを隠せない

それはそうだ、知らない間にこの館は停止していたなんて

全然気づかなかった、そんなことが起きていることに…

 

 

 

「この一時停止はギフトの効果を停止させることはできるけど

ギフトそのものまではできないんだ。

分かりやすくいうなら、

火を停止させても「火」そのものを停止できない

もし停止させたなら火は消滅するから

 

それは一時停止というギフトではできないんだ。

 

だからギフトそのもの停止できないなら

それは一時停止にとって異物しかない

だから分かるんだ、ここに武具はないよ」

 

 

その言葉に納得は出来たが

出来たが…理解が追い付かない

さっきの言い方だとギフトさえも停止できるのか…

そんな反則的なギフト、ありえるのか…

 

 

「春日部さん、ガルドは二階だよね。」

 

「う、うん…」

 

「じゃいこうよ。

きっとガルドの近くに武具はあるはず」

 

 

 

そういって先に進もうとする大助

自信満々に言っていた大助だけど

何故だかその背中が悲しそうで

思わず耀が大助の手を取り止めた

 

 

「ど、どうしたの春日部さん?」

 

「…………大丈夫だよ。」

 

 

「えっ?」

 

「私は…大丈夫だよ…」

 

 

その言葉がどういう意味か分からなかった

だけどなんだか暖かい感じがした

それは今まで忘れていたものだと…

だから自然に言葉が出てきた……

 

 

「ありがとう、耀。」

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

二階へ登りその先にあった最後の扉の前にたどり着き

ここで飛鳥がジンに

 

 

「ジン君、あなたは此処で待ってなさい。」

 

「どうしてですか?

僕だってギフトを持ってますから足手まといには」

 

「違うわ。あなたには退路を守ってほしいの」

 

 

ジンは不満そうだったがしぶしぶ待つことに

そして飛鳥と耀は扉の両脇に立ち

飛び込む前に大助が、

 

 

 

「さっきの作戦だけど…

本当にいいの、二人とも危険なのに…」

 

「ええ、構わないわ。

それに大助君の作戦、

悔しいけど上手い役割分担できてると思うわ」

 

「うん、それでいいと思う

それに大助のこと、信じてるから」

 

 

それを聞いて決意した大助は

勢いよく扉を開けると

 

 

「―――………GEEEEEEEYAAAAAa aaaa!!」

 

 

昨日とは変わり果てた姿をしたガルドが

白銀の十字剣を背に守りながら立ち塞がった。

目にも留まらぬ突進を仕掛ける虎を受け止めたのは

大助と飛鳥を庇う耀だった

 

 

「大助!早く!!!」

 

「あと少し…」

 

 

耀がガルドからの攻撃を防いでいる間に

大助がこの部屋の空間掌握をしていたのだ

この空間掌握は範囲は早く出来るのだが

認識は視覚からの情報が必要

全てを見渡すまで少し時間がいる

 

そしてこんなことをするにはもちろん理由がある

 

 

さらなるガルドの攻撃に耀が苦戦している

このままだと…というとき、

 

 

「春日部さん!! 下がって!!!」

 

 

ガルドから距離を取る耀

すると今度はガルドの前に飛鳥が立つ

眼の前に立った飛鳥にガルドは攻撃を仕掛けようとするが

 

 

「くらえ!!ガルド!!!!!」

 

 

大助の叫び声と共にガルドの後ろから物音がした

振り返るガルドが見たのは白銀の十字剣が飛んでくる姿

すでに眼の前に飛んでくる十字剣に対して

とっさに回避したガルドだが、それが悪かった

回避した場所、いやその後ろには飛鳥がいた

 

そうこれが狙い、これが作戦なのだ。

 

初めは大助一人で戦おうとしたのだが

正直ガルドが仕掛けた制限が気になっていた

いくら異常なギフトでもガルドには効かない

例え大助が防御に使ったとしても

制限により向こうされたら大怪我を負うだろう

するとここで耀が買ってでたのだ、自分が盾になると

もちろん大助は反対したが

全員がいまできることを話し合った結果、これしかなかった

もっとスマートなやり方があるかもしれない

だけど耀も飛鳥もこの作戦から降りようとしなかった

 

 

だから大助も決意した、二人の為に成功させると

この作戦の要は大助の空間掌握

掌握したのち、タイミングよく武具を飛ばし

そして必ずその武具を、飛鳥に渡すこと。

 

飛んできた白銀の十字剣を受け取った飛鳥は

ギフト・威光の、支配によって

破魔の力を十全に発揮する白銀の十字剣を

方向転換しきれていないガルドへと、

 

 

 

「はあああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

ガルドのその額を貫く。

十字剣の激しい光と、歯切れの悪い悲鳴。

それが虎の怪物の最後。

 

最後の抵抗で吹き飛ばされた飛鳥は

先回りした大助に受け止められ停止する

 

 

「今さら言ってはアレだけど…

……貴方、虎の姿の方が素敵だったわ」



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突然の訪問者は吸血鬼

「ゲームが延期?」

 

「はい…このままだと中止の線もあるそうです」

 

 

 

黒ウサギはウサ耳を萎れさせ、口惜しそうに顔を歪めて落ち込んでいる。

十六夜は肩透かしを食らったようにソファーに寝そべった。

このゲームはこのノーネームの仲間が出品される

そしてその仲間は元・魔王らしい

 

いまは全員が談話室でこれからについて話していたが

まさかそのゲームが中止になるなんて

 

 

「どうにもならないの。

サウザンドアイズが開いたゲームなのでしょう、

白夜叉ならどうにかできるじゃ…」

 

「無理ですよ。

いくらサウザンドアイズ直轄の幹部だとしても

今回のゲームは傘下のコミュニティの幹部

゙ペルセウズが主催したんです。

 

双女神の看板に傷が付くことも気にならないほどの

お金やギフトを得れば、ゲームの撤回ぐらいやるでしょう」

 

 

ふざけている…

だけどそれが箱庭のギフトゲームの絶対の法律

敗者として奪われた時点でそんな文句をいう権限はない

それでも悔しいだろう、折角取り戻すチャンスが

こうも簡単になくなってしまうのだから…

運が悪かったと諦めるには、悔しいじゃないか……

 

 

「ねぇ、黒ウサギ。

その仲間ってどんな人なの?」

 

「そうですね……

一言でいえば、スーパープラチナブロンドの超美人さんです。

指を通すと絹糸みたいに肌触りが良くて、

湯浴みの時に濡れた髪が星の光でキラキラするのです。」

 

「へえ?

よくわからんが見応えはありそうだな」

 

「確かにすごそうだね。」

 

 

 

「それはもう!

加えて思慮深く、黒ウサギより先輩でとても可愛がってくれました

近くにいるのならせめてもう一度お話ししたかったのですけど……」

 

「おや、嬉しい事を言ってくれるじゃないか」

 

 

全員が窓の外を見た。

コンコンと叩くガラスの向こうで、

にこやかに笑う金髪の少女が浮いていた。

飛び上がって驚いた黒ウサギは急いで窓に駆け寄る

 

 

「レ、レティシア様!?」

 

「様はよせ。

今の私は他人が所有される身分。

゙箱庭の貴族゙ともあろうものが、

モノに敬意を払っていては笑われるぞ」

 

 

黒ウサギが錠を開けると、

レティシアと呼ばれた金髪の少女は苦笑しながら談話室へ

美麗な金の髪を特注のリボンで結び、

紅いレザージャケットに拘束具を彷彿させる

ロングスカートを着た彼女は、

黒ウサギの先輩と呼ぶには随分と幼く見えた

 

 

「こんな場所からの入室で済まない。

ジンに見つからず黒ウサギへと思っていたのだが…

君には会わせる顔が無くてな……」

 

「そんなこと……」

 

 

ないです!!と言いたかったようだが

どんな気持ちでここに来たのかと考えると

それ以上はなにも言えなかった

 

 

「ちょっとお待ちを、すぐにお茶を淹れてまいりますので!」

 

 

久しぶりに仲間に会えて嬉しかったのか、

黒ウサギは小躍りするようなステップで茶室に向かう

十六夜の存在に気づいたレティシアは、

彼の奇妙な視線に小首を傾げる。

 

 

「どうした?

私の顔になにか付いているか?」

 

「別に。

前評判通りの美人……いや、美少女だと思って。

目の保養に観賞してた。」

 

「いや観賞してたって……」

 

 

十六夜の真剣な回答だったのだが、

レティシアは心底楽しそうな哄笑で返す

口元を押さえながら笑いを噛み殺し、

なるべく上品に装って席についた

 

 

「ふふ、なるほど。君が十六夜か。

白夜叉の話通り歯に衣着せぬ男だな。

しかし観賞するなら黒ウサギも負けてないと思うのだが。

あれは私と違う方向性の可愛さがあるぞ」

 

 

「あれは愛玩動物なんだから、観賞するより弄ってナンボだろ」

 

「そうね、弄られるための黒ウサギだわ」

 

「うん、それがしっくり来るかも」

 

「ごめん黒ウサギ、否定できないかも…」

 

 

「ふむ。私も否定しない。」

 

「否定してください!」

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、レティシア様はどうしてここへ?」

 

「いや……用というほどものではない。

新生"ノー ネーム"の実力がどれほどか見に来た。」

 

 

レティシアは黒ウサギが持ってきた紅茶を

上品にカップ口をつける。

 

 

「今回、私が黒ウサギに会いに来たのは

コミュニティを解散するように説得しに来たのだ。

コミュニティの再建など……

それがどれだけ茨の道なのか

お前が分かっていないとは思えなかったからな」

 

 

図星なのか黒ウサギが黙り込む。

 

 

「そこで私は一つ試したくなった。

その新人達がコミュニティを救えるだけの

力を秘めているのかどうかを」

 

「結果は?」

 

 

黒ウサギが真剣な眼差しで問いかける。

レティシアは苦笑しながら微笑する。

 

 

「生憎、ガルドでは当て馬にもならなかったよ。

ゲームに参加した彼女達はまだまだ青い果実で判断に困る。

……が、一人ぐらいは可能性は見えたがそれもまだどうも言えない」

 

 

どこまで見ていたのか知らないが、

戦いだけなら確かに判断に困るかもしれない

 

 

「ならよ、試してみねぇか?」

 

「…………何?」

 

「実に簡単な話だ。

その身で、その力で試せばいい―――どうだい、元・魔王様?」

 

 

スっと立ち上がる十六夜。

その意図に気付いたレティシアは一瞬唖然とするが、

先程より弾けるような笑い声を上げたレティシアは、

涙目になりながらも立ち上がる。

 

 

「ふふ……なるほど。

それは思いつかなんだ。実に分かりやすい。

下手な策を弄さず、初めからそうしていればよかったなあ」

 

 

「ちょ、ちょっと御二人様?」

 

「ゲームのルールはどうする?」

 

「どうせ力試しだ手間暇をかける必要もない。

双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」

 

「地に足を着けて立っていたものの勝ち。

いいね、シンプルイズベストって奴?」

 

「あぁ、そうだ。

そして君もやってもらおうか」

 

 

そういって指を指したのは大助だった。

驚きを隠せない大助はテンパりながら

 

 

「いや、なんで僕も!?」

 

「さっきの会話で分かっていると思ったが君には可能性が見えた

しかしそれは決定付けるものではない、なら試すだけだよ。」

 

「………分かりました。」

 

 

これはやらないと納得してくれないだろう。

十六夜とレティシアは笑みを交わし窓から中庭へ

それに追うように大助も飛び下り着地すると

 

 

 

「へえ?箱庭の吸血鬼は翼が生えてるのか?」

 

「ああ。翼で飛んでいるわけではないがな。

………制空権を支配されるのは不満か?」

 

「いいや。ルールにはそんなのなかったしな

それに一人にはその言葉は必要ないぞ」

 

 

そういって十六夜が見る方向を辿るレティシア

そこにはレティシアと同じように宙に浮く大助

ただレティシアとは違い、そこに立っているようだが

 

 

「ほう、私にも分からないギフトで浮いているようだが」

 

「まぁ、そうでしょうね。」

 

 

どことない皮肉と自分に対する嫌味が

レティシアをそれ以上質問させてはくれなかった

どうもまた自分のギフトに嫌気を感じていた

人と違うのは分かっているが

自分のギフトは他とはどうしても違う、異常だから

それでもいまはやるしかない。

 

これで認められるなら、自分自信にも

このギフトを少しは……

 

 

 

「さて、どちらからやる。」

 

 

その言葉に引き戻された大助

レティシアの言葉に十六夜がすぐ名乗り出ると思ったが

 

 

「譲ってやるよ。」

 

「なんだよ十六夜。

昨日といい今日といい、どうして俺に譲るんだよ。」

 

 

「簡単だ、いつかお前と戦うためにだ。

今のうち借りを作っておけば、心やさしいお前でも

その借りを返すために俺と戦うことになる

いま挑んでも本気を出さなかったり

どこかに逃げるだろうからな。

それにだ、俺が面白いことを「本当に」譲ると思うか?」

 

 

「………いい性格してるよ、本当」

 

「最高の誉め言葉だな」

 

 

まさかあの時から十六夜に借りを作っていたなんてな…

これいつかまとめて返すとき、十六夜と戦うのか

………うわぁ、超嫌だ。かなり絶対に嫌だ。

 

だが、いきなり借りを返すことはないだろうし

いつまでも待たせるわけにはいかないか

 

 

 

「と、いうことで僕からお願いします。」

 

「あぁ、よろしく頼むよ。」



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レティシアからの腕試し

「さて、互いにランスを1打投擲する。

受け手は止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「うん、どうぞ。」

 

 

その言葉は余裕の現れか、それとも緊張しているのか

それはレティシアには分からない

分からないが試すことはできる

投擲用に作られたランスを掲げる

 

 

「ふっ――――!」

 

 

レティシアは呼吸を整え、翼を大きく広げる

全身を撓らせた反動で打ち出すと、

その衝撃で空気中に視認できるほど

巨大な波紋が広がった。

 

 

「ハァア!!!」

 

 

怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、

一直線に大助へと、流星の如く大気を揺らして突き進む

そんな攻撃に大助は焦りも動揺も見せず

ただその手を、大助を貫こうとする槍に向けて伸ばす

その行動に驚きを隠せないレティシアだが

次の瞬間にはこの行動を理解してしまう。

 

熱を帯びた槍は確かに大助に当たったのだが

ただそれだけ、ただそれだけで終わった

ランスは大助の手に触れた瞬間に停止した

スピードも衝撃も熱も音も重力も全てが止められた

 

 

それはレティシアにとって想定外

いや白夜叉には前もって教えてもらっていたが

こうも易々と攻撃を止められるとは思わなかった

だけどここまではレティシアも十六夜もみんな知っていた

 

そうこれからがまだ見せていない力

いや、ちょっと違うか、十六夜と黒ウサギは見ていた

だけどはっきりと見せるのは初めてなのは確かだ

 

 

大助はランスの先をレティシアへと向け

まるでランスを押し出すかのように

それを握る所の先端に掌を添えた

 

 

「次は僕の番だけどいいですか?」

 

「あ、あぁ、構わないがそれで放つというのか?」

 

 

「え~と、はい。そうですね。」

 

「……ふざけているのか」

 

 

レティシアの表情が変わった

元・魔王というだけの殺気が伝わる

そこにいるだけで皮膚が切り裂かれそうなほどの殺気が

いま大助に対して向けられている

 

しかし、その殺気さえも停止させているような

全く動じない大助は声いろ変えずに

 

 

「そんなことはないですよ。

それに貴女なら大丈夫か…と、」

 

「なに!?」

 

「き、機嫌を悪くしたならすみません。

でも……」

 

 

ビクッと体が震えたレティシア

特に殺気もなにもしていないはずの大助から

なぜか恐怖に似たものを感じたのだ

そしてそれ知ったとき、レティシアは見た

大助の掌に集まる「何か」を

視覚では感じれないが直感で分かるのだ

 

それは………ヤバイと。

 

 

「避けなかったら危ないかもですよ?」

 

 

その刹那、大助の掌から槍が消えた

レティシアは考えた、これは自分の知らないギフトにより

その場から消え去りどこからか現れるものだと

だけとそれは頭に過った瞬間に間違いだと分かった

槍は、ランスは消えてはいなかった

ただ見えなかったのだ、速すぎて全く見えなかった

それを捉えたときにはすでに回避不可能な距離まで迫っていた

 

 

 

(……これほどか…)

 

 

もうだめかと目を閉じそのランスを受けるつもりだが

どういうことか、それが、その瞬間が訪れない

ゆっくり目を開けてみると

 

 

「……なっ!!?」

 

 

 

そのランスは止まっていた。

レティシアの眼の前に手があるのだ、大助の手が

それがランスを止めていたのだ

 

 

「ちょっとやり過ぎたね。

まさかあんなに速度が出るとは思わなかったので」

 

「……追い付いたというのか、あのランスに…」

 

 

 

とんでもないことをさらっという大助に

もう驚きを通り越してなにも感じれなくなった

レティシアが逃げ切れない速度で向かってきたランス

それを追い付き止めた大助に、

 

 

「参った、私の負けだ。」

 

「すみません…なんか……」

 

 

「君は…どうも君は謙遜すぎる。

もう少し自信を持った方がいい

さっきのように自信満々に言ってみたらどうだ?」

 

「いや、あれはあまり弱いとこを見せないようというか

まあなんというか……」

 

 

「もういい、もういい。

全くこれでは負けた私がバカらしい…」

 

 

頭を抱えるレティシア

どうしてさっきまで敗北感を感じていたのに

こうもバカバカらしく思えるのか……

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

その後、レティシアは十六夜との勝負を行い

レティシアの放ったランスを殴り付けた

たった一撃で拉げた只の鉄塊と化して

散弾銃のように無数の凶器となってレティシアに向けられた

 

大助と同じくあり得ないことに思考が追い付かず

いや追い付いても意味をなさない

第三宇宙速度に匹敵する凶器を避けることはできない

 

だが、そこで黒ウサギが助け出したのだが

確認したいことがあるのかレティシアのギフトカードを掠め取る。

 

 

「ギフトネーム・゙純潔の吸血鬼゙(ロード・オブ・ヴァンパイヤ)

………やっぱり、ギフトネームが変わっている。

鬼種は残っているものの、神格が残っていない」

 

「ハッ。どうりで歯ごたえが無いわけだ。

他人に所有されたらギフトまで奪われるのかよ」

 

 

十六夜は隠す素振りも見せずに舌打ちをする。

そんな弱りきった状態で相手をされたことが不満だったようだ

 

 

「いいえ……魔王がコミュニティから奪ったのは

人材であってギフトではありません。

武具などの顕現しているギフトと違い、

"恩恵"とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。

隷属させた相手から合意なしにギフトを奪う事は出来ません」

 

 

 

それはつまり、レティシアが自分からギフトを差し出したという事になる。

二人の視線を受けて苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら目を逸らす。

黒ウサギも苦い表情で問いかける。

 

 

「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を備えていたため

"魔王"と自称するほどの力を持てたはず。

今の貴女はかつての十分の一にも満ちません。

どうしてこんなことに……!」

 

「……それは」

 

言葉を口にしようとして呑み込む仕草を幾度か繰り返す。

しかし打ち明けるには至らず、口を閉ざしてしまった。

話にならないと十六夜は 頭を掻きながら鬱陶しそうに提案する。

 

 

「まあ、あれだ。話があるならとりあえず屋敷に戻ろうぜ」

 

「………そう、ですね」



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レティシアの石化

中庭から屋敷に戻ろうとする黒ウサギ達四人。

異変が起きたのはその時だった。

顔を上げると同時に遠方から褐色の光が四人に射し込み

レティシアはハッとして叫ぶ

 

 

「あの光……ゴーゴンの威光!? まずい、見つかったか!」

 

「だ、駄目です! 避けてくださいレティシア様!」

 

 

 

黒ウサギの叫びも虚しく、レティシアは三人を庇おうとしたのだが

それよりも早く大助が光へ自ら向かっていた

自分ならあの光を停止することができる

そう確信したからこそ大助はその光に向かったのだが

 

 

「何しているのだ!!!!!」

 

 

レティシアは大助を後ろから光を浴びないように突き飛ばした

その瞬間にレティシアはその光に飲み込まれ体は石となって倒れた。

大助は光が差した方向を見上げる。

空を駆ける翼の生えた靴を履いた西洋鎧を着む男達。

数は百はくだらない。彼等が下手人で間違いないだろう。

 

 

「と、とりあえず御二人共本拠に逃げてください!」

 

 

黒ウサギは近くにいた十六夜の手を引いて屋敷に逃げようとする。

だけど一人そこから動けないものがいた。

 

 

「…………なんで……」

 

「大助さん!!!早くこちらへ!!!!!」

 

 

レティシア自身はペルセウスの所有物

それが主の命もなく出歩いていたのだから庇いようがない

これで何かがあったら、万が一もめ事を起こしてはただでは済まない

十六夜もそれが分かっているからこ素直に

黒ウサギと一緒に屋敷の中へ入った

 

だけど大助一人は未だにその場にいた

逃げようともせずただ立ち尽くす

その間にも石となったレティシアに縄をかけ始める

 

 

「これでよし……危うく取り逃がすところだったな」

 

「おい、こいつはどうする?」

 

 

「ふん、同じように石化しろ」

 

 

その一言で大助にもゴーゴンの威光が降り注ぐ

だがペルセウス達は知らない

すでにそこに、大助はいなかったことに

 

気づいたときにはペルセウスの騎手の一人の眼の前に立っていた

 

 

 

「なっ!!?」

 

「レティシアを…どうする気なのかな?」

 

 

突然のことで驚きを隠せない騎手だが

それを見せないように強気な口調で

 

 

「この吸血鬼がどうなろうと私たちにはかんけ…」

「どうするつもりなのかな??」

 

 

その瞬間に騎手が首に手を当て苦しみ始めた

周りの騎手にも何が起きているのか分からず混乱する

 

 

「どうするつもりなのかと、聞いているんだけど??」

 

「取引でこ…の吸血鬼は、箱庭のそ…とへ…」

 

 

「箱庭の外ですって!?」

 

 

驚いたような表情で黒ウサギは屋敷から出てくる

その黒ウサギに敵意を込めてみる騎手達だが

そんなことお構いなしに、

 

 

「ヴァンパイアは――

――《箱庭の騎士》は箱庭の中でしか

太陽の光を浴びれないのですよ!?

そのヴァンパイヤを箱庭の外に連れ出すなんて…」

 

「我らの首領が取り決めた交渉。部外者は黙っていろ」

 

「君が黙っていてよ。」

 

 

また別に騎手が首を押さえて苦しむ

いったい何が起きているのか…

恐怖するものもいるがそれをノーネームに見せては

ペルセウスの名を汚すと考え必死に我慢する

 

 

「君達のリーダーが決めたならここでどうこう言わないし

レティシアを連れていっても邪魔はしない」

 

「ちょっと大助さん!?」

 

 

「だけどね、謝罪一つぐらい言ってもいいはずだよ。

ここは僕達のコミュニティだ。

不当な侵入をしてこちらは侮辱されているんだ

それだけでもしてくれたら、帰っていいから」

 

 

 

不当な侵入は侮辱行為になる

それは確実にペルセウスがノーネームに対して

見下していることを指すのだ

 

 

「ふ、ふざけるな!!!!

なぜ我々が゙名無じ風情にそのようなことを!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だったらもう黙れよ。」

 

 

するとペルセウス全員が手で首を押さえて苦しむ

そんな光景を冷たい目で、威圧的に視線を送っている

特に特別なことはしていないのだ

ただ、ペルセウス全員の周りにある酸素を停止したのだ

空間掌握でペルセウスの騎手達の一番外側にいる騎士を支点にし

騎手達全員を包むように、酸素を停止しさせている

 

 

 

「言葉はいいよ。

だから態度で示してもらおうか

全員、その場で頭を下げたら許してやるよ。」

 

 

 

全員、もう分かったのだろう

これ以上逆らうと命が危ないと…

先頭に立つ騎手が頭をゆっくり下げる

すると次々と騎手達が頭を下げていく

そしてペルセウス全員が頭を下げたのを確認すると

指をならし停止を解除した

 

気管に入ってくる酸素を思いっきり吸い込み

必死に吸い込むあまり噎せる騎手達

 

 

「もう帰っていいよ、てか帰って。

これ以上何も聞きたくない、ここに居てほしくない。

どうせまた会えるし、すぐにこちらから会いに行くから

その時にでもレティシアを返してもらう

だから…帰ってくれるよね?」

 

 

すると睨みも文句も言わずに

石化したレティシアを連れて帰っていった

 

それを見送った大助はまるで力尽きたように

見えない足場が崩れたのか

とにかく意識のない大助は地面に吸い込まれるよう落ちる

 

 

 

「大助さん!!!!」

 

 

 

すぐさま黒ウサギが駆け出し

地面に激突する寸前に大助を抱き捕まえた

顔を見ると顔色はいいが眠っているようだ

 

 

「……いったい何が…」

 

「ったく、あんだけ啖呵切っておいて…

まぁ、こいつもよく我慢したほうだ。

目の前で庇った奴が石化されて、さらに箱庭の外へとなると

それは温厚なやつでもぶちギレる

 

でもこいつばノーネーム゙どサウザンドアイズ゙の関係のため

最低限の謝罪で済ませたんだ、あとは俺達がやるだけだ

さて、この事情に詳しそうな奴に話を聞かないとな」

 

 

その言葉を聞き黒ウサギはハッとする

白夜叉から詳しい話を知っているかもしれない

 

 

「他の連中も呼んでこい

なにかあった場合、最悪その場で

ゲームになることだってあり得る。

なら頭数はいた方がいいだろ」

 

 

 

 

 

 



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弱点と逆転

「……う、う……うん……」

 

 

なんだか瞼が重い、体が重い

動かそうとするがうまく動かせない

それでもなんとか瞼を開くと

つい最近見た天井が見えた

 

 

「僕の…部屋……」

 

 

これで一つ分かった。

どうやら僕は寝ていたようで

僕はこの部屋で寝た記憶はない

 

ということは、と、思い出そうとしたら

 

 

「ずいぶん遅かったね。」

 

 

その声のする方へ見てみると椅子に座った耀がいた

足元には三毛猫がぐっすりと寝ている

 

 

「えーと、ごめんなさい?」

 

「別に怒ってないけどまだお昼ご飯食べてない」

 

 

いや怒ってるよね、それに対して怒ってるよね!

それについては踏み込まない方がいいと言わずに

現在の状況を把握しないといけない

 

 

「レティシアはどうなったのかな??」

 

「まだ売りには出されてないけど大変な状況

ちょっといざこざがあってただいま黒ウサギは謹慎処分中」

 

 

「…何してるんだよ黒ウサギは……」

 

 

頭を抱える大助

レティシアを助けるときに謹慎処分って

……人のことは言えないけど……

 

 

「でも黒ウサギの気持ちは分かる

レティシアがギフトを失ってまで私達のところに来たの

それを知った黒ウサギ、かなり落ち込んで

そこに黒ウサギを引き渡す代わりにレティシアをって…」

 

「あぁ、読めたよ。

それの条件を受けようとして、

さしずめ十六夜辺りに止められたんだろ

なるほどね…ペルセウスっていうコミュニティが

どれほどかよく分かったよ。」

 

 

「でも、十六夜はもう帰ってこないかも…」

 

「はぁ!?

ちょっとまだなにかやったの黒ウサギ奴!!!!」

 

 

しかしそこで春日部の頭がゆっくり下がった

まるで凹んでいるかのように……

 

 

「実は…黒ウサギを説得しようとしてみんな熱くなって

十六夜以外全員謹慎を受けたの。

で、「ちょっくら箱庭で遊んでくる」っていったきり

三日帰ってきてない。」

 

「十六夜のやつ…

とにかく黒ウサギと話さないとな」

 

 

 

そういってベットから降りようとしたが

何故か耀がその手で止めた

その表情は真剣であり、なにか聞きたそうな感じだった

 

 

「どうしたの春日部さん?」

 

「別に怒ってないけど、心配した。

顔色はいいのにまるで人形のように動かなかった

それって大助のギフトと関係あるんだよね」

 

 

………これはいうしかないか……

 

 

「分かったよ。

それも黒ウサギ達と一緒に話したいから」

 

「うん、分かった。」

 

 

そういって手をどかしてくれた耀は

先に部屋を出ようとしたところで

 

 

「春日部さん。」

 

「なに?」

 

 

「看病、ありがとう。」

 

「うん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

「もう大丈夫なのですか??」

 

「僕より黒ウサギの方がまいっている感じだね」

 

 

 

部屋にやって来ると凹んでいる黒ウサギ

レティシアや仲間での言い争い

そんなことが立て続けにあれば精神的にくるだろう

 

そしてそれは耀や先に来ていた飛鳥も同じようで

この部屋にきてからまだ口を開いていない

だけどそれを変えてくれるきっかけを飛鳥が持っていた

 

 

「久遠さん、その手にあるってなに?」

 

「これはコミュニティの子供達から貰ったの

これを持って『お願いですから、黒ウサギのお姉ちゃんと

仲直りしてください!』――って狐耳の女の子や他の年長組の子が」

 

 

「こういうの敏感だからな子供って…」

 

「本当に子供って卑怯だわ。

あんな泣きそうな目でお願いされたら、断れるのは鬼か悪魔ぐらいよ」

 

「ダメだよ飛鳥。きっかけをくれたんだからちゃんと仲直りしないと」

 

 

フン、と、顔を背ける飛鳥となだめる耀

それを見た黒ウサギも、困ったように笑った

 

 

「そうですね……

黒ウサギ達がしっかりしないと、コミュニティのみんなが困りますよね」

 

「そういうこと。

だから貴女には悪いけど、他所にいかせるわけにはいかないわ。

このコミュニティの中心はジン君でもなければ私達でもない。

私達を招き入れ、ずっと一人で支え続けた貴女なのよ、黒ウサギ」

 

「……はい。」

 

 

 

これで少しは元に戻ったかな

飛鳥の持つお菓子があるならと大助は

この部屋にある湯沸し器へ向かい

 

 

「お茶にでもしようよ。

黒ウサギ、これ使っていいの??」

 

「あっ、はい。

私が淹れますので」

 

 

「こんな時まで気を使わない。」

 

 

 

なんか申し訳なさそうにする黒ウサギ

別にこんなことまで気を回さなくてもいいんだけどな…

お湯が沸くまでしばらくかかるなと考えていると

 

 

「それで大助、いつ話してくれるの??」

 

「そうだね、十六夜はいないけど

なんだかアイツは知っているような気がするし

十六夜抜きで、ここで話しておいた方がいいかも」

 

 

「えっ、いったい何を話すのですか??」

 

「僕のギフト、一時停止に関することだよ」

 

 

そういって大助は沸騰しきれてない水を

その手にかけて、水を停止させた

沸騰してないとはいえ火傷するほど熱を持っている

だけどその温度も停止、重力さえも停止させている

いま水は大助の手から離れて宙に浮いている

 

 

「いつ見ても不思議な光景よね…」

 

「いまは水全体を一時停止させているのですよね?」

 

「その通り。

で、ここからが本題なんだけど

僕のギフト、一時停止には2つ弱点があるんだ」

 

 

 

一件無敵に見える一時停止

どんな攻撃も衝撃も熱も重力も何もかも

すべてを一時停止できるギフト

 

そんなギフトに弱点がある

 

 

「一つは一時停止の「時間使用制限」

僕自身を取り巻く一時停止には期限はないけど

僕から離れたものに使用する一時停止には

使える「時間」が存在するんだ

 

使える時間といっても、使った時間だけ寝るだけなんだけど

一時停止が始まった時点から睡眠時間が増えていって

あのペルセウス達に使った時にはもう限界だったんだ

で、今日まで寝ていたわけです。」

 

 

 

「つまり最大が72時間ってこと??」

 

「まぁ、その時の体調やちゃんと睡眠取れば使用時間は延びる

逆に広範囲に一時停止を使ったり体調が悪ければ短くなる

こんなこといってるけど一時停止の範囲によって

溜まる時間は違うからいつ睡魔に襲われるかは分からない」

 

 

 

この睡魔はいつ襲うか分からない

だからギフトゲーム中かもしれないし

命懸けのときになるかもしれない

 

 

「で、ですが大助さんを取り巻く

一時停止は制限はないのですよね

それを使えば相手を直接てい…」

 

「出来ないそんなこと!!!!!」

 

 

 

突然大声を出す大助に全員がびっくりした

いままで見たことのない表情で

まるで何かに怯えているように……

 

 

「ご、ごめん……

……普段人に触れる分は大丈夫だけど

喧嘩とかになるとダメなんだ…一時停止が使えない」

 

「それじゃ直接的な戦いになると」

 

「うん、体は普通だから簡単にやられるね」

 

 

 

苦笑いでごまかす大助に静まり返る

全員が思っていた、大助なら大丈夫だろうと

どんなギフトゲームに出ても問題ないと

だけど聞いてみたらとんでもない

 

 

「そういうこと、もっと早く言って欲しかったわ」

 

「じゃ、ガルドのときにいっていたことって」

 

「そう、直接攻撃されてたら大ケガだったね。

これが僕の弱点、一時停止の弱点だよ」

 

 

 

「なるほどな、邪魔するぞ」

 

 

突然、ドガァン!

と十六夜がドアを蹴破った。

黒ウサギは驚いて声を上げる

 

 

「い、十六夜さん!

今まで何処に、って破壊せずに入れないのでございますか貴方は!?」

 

「おいおい十六夜

盗み聞きはよろしくないぞ。」

 

 

「ならこいつで勘弁してくれ。

ほれゲームの戦利品、見るか?」

 

 

その戦利品を見るがなんなのか分からない

だけど耀や飛鳥は表情を変え

笑いを堪えながらお互い言葉を交す

 

それを聞いただけでは分からなかったが

十六夜が黒ウサギにその戦利品を渡し

 

 

 

「逆転のカードを持ってきたぜ。

これでオマエが゙ペルセウズにいく必要はない

後はオマエ次第だ、黒ウサギ。」

 

「ありがとう……ございます。

これで胸を張っでペルセウズに戦いを挑めます」

 

「礼を言われる事じゃないさ。

むしろ、面白いのはここからだからな」

 

 

なるほど、これを集めるためか

本当に十六夜はスゴいよ

暗くなっていた雰囲気をこんなに簡単に変えるだから

 

黒ウサギは溢れそうな涙を拭き、勢いよく立ち上がる。

その瞳には何の迷いも見られない。

四人の顔を見渡した黒ウサギは、高らかに宣言する。

 

 

「ペルセウスに宣戦布告します。

我々の同士・レティシア様を取り戻しましょう」



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不可視のギフト

『ギフトゲーム名:“FAIRYTAIL in PERSEUS”

 

・プレイヤー 一覧

逆廻 十六夜

久遠 飛鳥

春日部 耀

君塚 大助

・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル

・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

・敗北条件 プレイヤー側ゲームマスターによる降伏

プレイヤー側のゲームマスターの失格

プレイヤー側が上記の勝利条件 を満たせなくなった場合

・舞台詳細 ルール

*ホスト側ゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない

*ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない

*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマス ターを除く)人間に姿を見られてはいけない

*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行できる

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、

“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。

 

“ペルセウス”印』

 

“契約書類”に承諾した直後、

六人の視界は間を置かずに光へと呑まれた。

次元の歪みは六人を宮殿の門前にへと追いやり、

ギフトゲームの入口へと誘う

 

振り返ると宮殿は箱庭から切り離され、

未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた

 

 

「姿を見られれば失格か。

ペルセウスを暗殺しろってことか。」

 

「伝説に倣えばルイオスは睡眠中ということになりますよ。

そこまで甘くないと思いますが」

 

「YES。そのルイオスは宮殿の最奥で待ち構えているはずデス。

それにまずは宮殿の攻略が先でございます。

伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ たちはハデスの兜を持っていません。

不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です。」

 

 

 

「見つかった者はゲームマスターの挑戦資格を失ってしまう。

同じく私達のゲームマスター ――

―――ジン君が最奥にたどり着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北

なら大きく分けて3つの役割分担が必要になるわ」

 

 

飛鳥がそういうと耀が頷く

 

 

「だな。まずはジンと一緒にゲームマスターを倒す役割。

次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。

最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」

 

「春日部は鼻が利く。耳も眼もいい。

不可視の敵は任せるぜ」

 

 

十六夜の提案に黒ウサギが続く。

 

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。

ですからゲームマスターを倒す役割は、十六夜さんにお願いします」

 

「あら、じゃあ私は囮と露払い役なのかしら?」

 

 

飛鳥が不満そうに声を漏らすが

飛鳥のギフトではルイオスを倒すには至らないことは事実だが、

それでも不満なものは不満なのだろう

 

 

「悪いなお嬢様。譲ってやりたいのは山々だけど、

勝負は勝たなきゃ意味が無い。

あの野郎の相手はどう考えても俺が適している」

 

「……ふん。いいわ。

今回は譲ってあげる。けど負けたら承知しないから」

 

 

 

なんだかまとまったような雰囲気を出しているが、

 

 

 

「あれ?

僕は、僕はどこにも当て嵌まってないよね」

 

「あぁ、勝手にしてくれ。」

 

 

「ひどっ!!!!

ちょっと待ってよ、さっき黒ウサギが言ってたよね

綿密な作戦が必要なら僕にもちゃんと役割を」

 

「それでしたら大助さんには耀さんと同じ役をお願いします。

空間掌握ならより正確な敵の状況を把握できますし

ですが、できることなら十六夜さんと一緒に行ってもらいたいです」

 

「そうだな、御チビの盾ぐらいにはなるわな。」

 

 

「本当に酷いなオマエ…

黒ウサギの部屋の扉を蹴破ったとき以上に酷い」

 

「そうか、そうか。

大助がいうその酷い蹴りってのは…」

 

 

ヤハハと笑う十六夜は門の前に立ち、

 

 

「こうやって開けた時の事をいうのかよ!!!!」

 

 

轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜達は宮殿の柱の影に隠れ、

耳を澄まして周囲の気配を探る耀

大助は空間掌握をするために

見つからないように宮殿を見渡していた

 

ピクリと反応を示した耀は全員に目配せし、

 

 

「人が来る。皆は隠れて」

 

 

緊張した声で警告。

耀の高性能の五感は、不可視のギフトに対抗できる手段である

大助の空間掌握もそうのだが、使うためには時間がかかる

それまでは耀が頼りとなる。

 

獣のように腰を落とした耀は、見えない敵に奇襲を仕掛けた

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

耀は見えない騎手の後頭部を激しく強打して一撃で失神させた

前のめりに倒れた騎手から兜が落ち、虚空から騎手の姿が現れた

 

 

「この兜が不可視のギフトで間違いなさそう」

「ホレ、御チビ。お前が被っとけ」

 

「わっ」

 

 

十六夜が兜を拾い上げてジンの頭にのせると、

ジンの姿は瞬く間に色をなくし姿を消す

 

 

「やっぱり不可視のギフトがゲーム攻略の鍵になっている。

どんなに気を付けたところで姿を見られる可能性は排除出来ないもの」

 

「連中が不可視のギフトを使っているのを限定しているのは、

安易に奪われないためだろうな。

………なら最低でもあと一つ、贅沢言えば二つ欲しいところだが……」

 

 

そんなことをいいながら十六夜は大助の方を見て

 

 

「さて、どうだ我らが希望様は」

 

「何が希望様だ。

………掌握完了。

ジン君、兜をちょっと貸して」

 

 

「は、はい。」

 

 

ジンは被った兜を外して大助に渡す

手に取った大助はしばらく兜を握り

 

 

「これでOK。」

 

「なにをする気だ。」

 

 

「なに嬉しそうな表情してるんだよ。

不可視のギフトを掌握したんだ、これで居場所が分かる」

 

「マジかよ、それでどれだけある??」

 

「近くに2つ、あとちょっと変わったのがさらに近くに」

 

 

「変わったやつ…それはこっちでやっておく。

大助はその2つを取ってきてくれ」

 

 

 

了解と、言い残し大助は耀達と離れて兜を探しに向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

 

 

「簡単だったな。」

 

 

空間掌握により何処に騎手がいても

不可視により消えていても全て分かる。

大助の手には兜が2つ

 

そして大助の足元には複数の兜

空間掌握を使い、兜を持っているものを引っ張ってきた

そう足元にいるのは不可視のギフト、兜を被っていた騎手達

 

十六夜達がいる前でも出来たが

それだと兜を持った騎手以外が集まる恐れがあった

皆より一人方がいいと考えたが

まぁ、元より見つかることは考えていなかった

 

 

「久遠さんの分もあるけど、見つかっているなら意味ないか…

……っと、早く十六夜の所に戻らないと。」

 

 

 



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VS.ルイオス・アルゴール

4つの不可視のギフトを手に入れた

十六夜・ジン・大助・耀は、白亜の宮殿の最奥、最上階に着く。

最奥に天井はなく、まるで闘技場のように簡素な造りだった。

 

 

「よかった…皆さん……」

 

 

最上階で待っていた黒ウサギは安堵したように

四人の姿を確かめてため息を漏らす。

眼前に開けた闘技場の上空を見上げると、

見下ろす人影があった。

 

 

「――――ふん。

ホントに使えない奴ら。

今回の一件でまとめて粛清しないと」

 

 

空に浮かぶ人影には、確かに翼があった。

膝までを覆うロングブーツから、光り輝く対の翼が。

バサッと翼が羽ばたく。

たった一度の羽ばたきでルイオスは風を追い抜き、

落下速度の数十倍の勢いで十六夜達の前に降り立った。

 

 

「なにはともあれ、ようこそ白亜の宮殿・最上階へ。

ゲームマスターとして相手をしましょう。

………あれ、この台詞をいうのってはじめてかも」

 

 

 

不適に笑うルイオス

その表情にイラつきを覚えた大助は

 

 

「これは僕がいうことでもないかもしれないけど

自分の仲間を使えないなんていうべきではないよ。

全ては君のために戦ったこと、それをそんな言い方…」

 

「うるさいよ。

本当に君のいうことじゃない、ってかバカじゃないの」

 

 

 

小馬鹿にする言い方をしたルイオスは

また天へ、壁の上まで飛び上がり

首にかかったチョーカーを外し、

付属している装飾を掲げた

 

 

「低俗なやつら相手に僕が直接手を出すなんてありえない。

それこそありえないが僕の敗北はそのまま

゙ペルセウズの敗北になる。

そこまでリスクを負うような決闘じゃないだろう」

 

 

ルイオスの掲げたギフトが光り始める。

星の光のようにも見間違う光の波は、

強弱を付けながら一つ一つ封印を解いていく。

 

光が一層強くなり、ルイオスは獰猛な表情で呼んだ

 

 

「目覚めろ―――゙アルゴールの魔王゙!!」

 

 

土煙の中からルイオスと体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻き、

乱れた灰色の髪の女が現れる。

そして女は褐色の光を放つ。

 

 

「ra、GYAAAAAaaaaaaa!!」

 

「な、なんて絶叫を」

 

「避けろ黒ウサギ!」

 

 

えっ、と硬直する黒ウサギ

十六夜は黒ウサギとジンを抱き抱えるように飛び退いた

危険を察知した耀はすでにその場を脱し

大助は未だにその場から動かない

 

直後、空から巨大な岩塊が山のように落下してきたのだ

その岩塊は空に存在する雲であり、それが石化して落ちてきた

 

 

「どうした、怖くて動けないのか!!」

 

 

その場から動かない大助をルイオスは

恐怖で動かないと思っているようだ

だけど、それは違う。

 

 

「動かなくていいだけ、掌握完了。」

 

 

大助を潰そうとした岩塊は、その頭をギリギリで止まり

周りの岩塊もすべて同じタイミングで停止した

 

 

「なっ!!?」

 

「ほら返してあげるよ。」

 

 

そういって瞬間に岩塊はルイオスに向かって飛んでいく

飛び回るルイオスに迫る岩塊

そしてその間にアルゴールが入り

ルイオスを岩塊を素手で破壊する

 

そんなやり取りのなか、十六夜とジンは

 

 

「どうする?例の作戦は止めておくか?」

 

「十六夜さん、僕らにはまだ貴方がいます。

貴方が本当に魔王に打ち勝てる人材だというなら

―――この舞台で、僕たちにそれを証明してください」

 

 

「OK。よく見てな御チビ」

 

 

最後にぐしゃぐしゃと髪を撫でてから前に出る

 

 

「おい大助、選手交代だ。

そいつは俺がやる。」

 

「なら絶対に勝てよ。」

 

 

「はっ!!

誰に言ってやがる」

 

「十六夜様にだよ。」

 

 

大助は十六夜に近づきハイタッチを交す

ジンと黒ウサギ、そして耀達の前に大助が立つ

まるで大きな盾が、皆を守ってくれるように

 

 

「ごめんね春日部さん。

勝手に十六夜に任せちゃって」

 

「ううん、いいよ。

その代わりに大助に穴埋めしてもらうから」

 

 

「……それで許してくれるなら。」

 

「さぁ、それはどうかな。」

 

 

そんな会話をしている間に

十六夜はルイオスやアルゴールに対して

圧倒的な力の差にルイオスは

 

 

「アルゴール! 宮殿の悪魔化を許可する! やつを殺せ!」

 

「RaAAaaa!!! LaAAAA!!!!」

 

 

謳うような不協和音が世界に響く。

途端に白亜の宮殿は黒く染まり、

壁は生き物のように脈を打つ

宮殿全域にまで広がった黒い染みから

蛇の形を模した石柱が数多に襲う

 

 

「もう生きて帰さないッ!

この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!

貴様にはもはや足場一つ許されていない!

貴様らの相手は魔王とその宮殿の怪物そのもの!

このギフトゲームの舞台に、

貴様らの逃げ場は無いものと知れッ!!!」

 

 

変幻する魔宮は白亜の外壁を、柱を、

蛇蝎の如き姿に変えて襲い掛かり、

十六夜の体を覆う。

千の蛇に飲み込まれた十六夜は、

その中心でボソリと呟いた。

 

 

「―――――………そうかい。

つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな?」

 

「「「「え?」」」」

 

 

味方である大助達にも訳がわからず、

その言葉に嫌な予感がした。

 

 

十六夜は無造作に上げた拳を、

黒く染まった魔宮に向かって降り下ろした。

千の蛇蝎は一斉に砕け、十六夜の周囲から霧散する

直後に宮殿全域が震え、闘技場が崩壊し、

瓦礫は四階を巻き込んで三階まで落下した

 

 

「………馬鹿な………

どういう事なんだ??

奴の拳は、山河を打ち砕くほどの力があるのか!?」

 

 

上空で怒りとも恐怖ともいえる叫び上げるルイオス

だが、それはまだ足りなかった。

崩壊した場所に立っている姿を見たからだ

空中に浮くギフトがあることは知っている

だけどそれはもう空中に浮いているとは思えない

 

空中に立っている大助の下

落下したはずの瓦礫が全て空中で止まっている

 

 

「おい、十六夜!!!

ここには僕達以外にも人がいるんだぞ!!!!」

 

「ハッ、なに言ってやがる。

お前がいるからやったんだよ。」

 

 

「本当に性格悪いぞ。」

 

「最高の誉め言葉だ」

 

 

 

アハハと笑いながら十六夜は

 

 

「おい、ゲームマスター。

これでネタ切れってわけじゃないよな?」

 

「…………っ…………!」

 

 

もはやありえないとしかいえない。

十六夜についてもそうだが

問題はもう一人といってもいい

 

力ならまだ分かる、スピードならまだ分かる。

だけどこれはなんだ、何なんだあれは…

空中に立っているのは理解しても

無数の瓦礫を、大小、上下左右、

いろんな場所や大きさの違う岩塊を

全て、まるで、絵のように動かない岩塊は……

 

 

ここまで一方的に押されるなんてと

しばし悔しそうに表情を歪めていたルイオスは

――スッと真顔に戻る。

 

そして極めつけに凶悪な笑顔を浮かべ、

 

 

「もういい。終わらせろ、アルゴール」

 

 

星霊・アルゴールは謳うような不協和音と共に、褐色の光を放つ

まず向けられたのは大助はため息をつきながら

 

 

 

 

「どうやら停止(終わる)のは君みたいだね。」

 

 

 

その瞬間、ルイオスは何かを見た

ほんの一瞬だが確かに大助の背後に何かを見た

そしてその一瞬と同じ時に褐色の光が

石化のギフトが全て

 

「消え去った」のだ

 

まるでなにも最初からなかったように

放たれた褐色の光はそこには無い

 

 

ルイオスは恐怖で体が震えそうな所を必死に押さえ

その恐怖を消し去ろうと大声で叫びながら

今度は十六夜に向かって放つ

 

褐色の光に包まれた十六夜は、

真正面からその瞳を捉え―――

 

 

 

 

「――――――――………カッ。

ゲームマスターが、今さら狡いことしてんじゃねえ!!!」

 

 

 

 

褐色の光を、踏み潰した。

…………比喩は無い。

十六夜の一撃でガラス細工のように砕け散り、

影も形もなく吹き飛んだのだ

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「せ、星霊のギフトを無効化――いえ、破壊した!?」

 

「あり得ません!

あれだけの身体能力を持ちながら、ギフトを破壊するなんて!?」

 

 

ギフトを無効化することは珍しくない

だが十六夜はギフトを一つしか持っていなかった

なのに天地を砕くギフトと、ギフトを砕く力両立するなど

そんな魂は、絶対にありえないはずなのだ。

 

そしてもう一つ。

十六夜の行為に驚き忘れていたが

その前の出来事は同じようにありえなかった。

 

十六夜のようにギフトを無効化したなら分かるが

あれはそんなものではない。

なにも触らず、何も動かさずに、その場から消えた

動きが速すぎて見えなかったとか、気づかなかったでもない

ただ褐色の光を見つめていただけ、それだけだった。

もしもそれが現実に存在するなら……

 

………一体どのようにして防げばいいのか……

 

 

 

茫然とするルイオスに対して黒ウサギは勝敗を決めようとした

だが、黒ウサギが宣言する前に十六夜は

凶悪な笑みでルイオスを追い立てた

 

 

「ああ、そうだ。

もしこのままゲームで負けたら……

お前達の旗印。どうなるか分かっているだろうな?」

 

「な、何?」

 

「旗印を盾にして即座にもう一度ゲームを申し込む、

――――そうだなぁ。次はお前達の名前を戴こうか」

 

 

ルイオスの顔から一気に血の気が引いた

 

 

「その二つを手に入れた後、ペルセウスが

箱庭で永遠に活動できないように名も、旗印も、

徹底して貶め続けてやる。

たとえお前達が怒ろうが泣こうが喚こうが、

コミュニティの存続そのものが出来ないぐらい徹底的に。徹底的にだ。

………まあ、それでも縋りついちまうのが

コミュニティってものらしいけど?

だからこそ貶めがいがあるってもんだよな?」

 

 

「や、やめろ……!」

 

 

「そうか。嫌か。

――――ならもう方法は一つしかないよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来いよ、ペルセウス。

命懸けで―――俺を楽しませろ」

 

 

 

 

自ら招いた組織の危機に直面したルイオスは、

覚悟を決めて叫んだ

 

 

「負けない……負けられない、負けてたまるか!!

やつを倒すぞ、アルゴオォォォル!!」

 

 

輝く翼と灰色の翼が羽ばたく。

コミュニティの為、敗北覚悟で二人は駆けるのだった。



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星空からのプレゼント

「「「それじゃあこれからよろしく、メイドさ ん」」」

 

「「え?」」

 

 

 

レティシアが目を覚めているのを確認して3人が言った言葉を

ジンと黒ウサギは信じられないといった感じで3人を見た

 

 

「え? じゃないわよ。

だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?

貴方達はホントにくっ付いてきただけだったもの」

 

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし。」

 

「つーか挑戦権を持ってきたの俺だろ。」

 

「何いってるんだよ…

戻ってきた仲間にその扱いは……」

 

 

 

「ということで所有権は

2:2:3:2で残り1 を黒ウサギということになった」

 

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」

 

「ってか、俺まで巻き込んだよな!!?」

 

 

 

そんなこと望んでいないのに勝手に巻き込むなんて…

黒ウサギやジンも混乱しているなか

当事者であるレティシアだけが冷静だった

 

 

 

「んっ・・・・・・ふ、む。そうだな。

今回の件で、私は皆に恩義を感じている。

コミュニティに帰れた事に、この上なく感動している。

だが親しき仲にも礼儀あり、コミュニティの同士にも

それを忘れてはならない。

君達が家政婦をしろというのなら、喜んでやろうじゃないか」

 

 

「れ、レティシア様!?」

 

 

黒ウサギの声は今までにないくらい焦っていた。

まさか尊敬していた先輩をメイドとして扱わなければならないとは…

……と困惑しているうちに、飛鳥が嬉々として服を用意し始めた。

 

 

「私、ずっと金髪の使用人に憧れていたのよ。

私の家の使用人ったらみんな華も無い可愛げの無い人達ばかりだったんだもの。

これからよろしく、 レティシア」

 

「よろしく……いや、主従なのだから

『よろしくお願いします』の方がいいかな?」

 

「使い勝手がいいのを使えばいいよ」

 

「そ、そうか。………いや、そうですか?

んん、そうでございますか?」

 

「黒ウサギの真似はやめとけ」

 

 

ヤハハと笑う十六夜。

意外と和やかな四人を見て、

黒ウサギは力なく肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

 

トントン

扉をノックすると部屋の主から返事が返ってくる

ドアノブを回し部屋へ入るとそこには

メイド服に着替え終わったレティシアがいた

 

 

「反対していたからあんまり信用ない出来ないかもだけど

レティシアすごく似合っているよ。」

 

「そんなこと言わなくても私は主様のことは信用しているよ」

 

 

それを言われると少しは楽になる

だけどまだ残るコレをはっきりさせないと

 

 

「あのレティシア…

どうしてあの時、僕を庇ってくれたの??

知ってるでしょう、僕の一時停止は石化のギフトを止めれたのに」

 

「それは分かっていたが勝手に体が動いたのだ

それに主様も私に一時停止をかけたのだろう」

 

 

意地悪をするような表情をするレティシア

それに対して大助は困った表情をする

 

 

「主様を触れた瞬間に体が動かなくなってしまった

まぁ、あの時点でもう間に合わなかったから

石化は主様のせいではないし、むしろ感謝している。」

 

「そういっくれると助かるけど…

……レティシア、もうあんなことはしないでくれないかな?」

 

 

「ああ、主様がそういうなら」

 

「………お願いね……」

 

 

 

きっと理解していないだろう。

だけどいまはそれでもいい

僕が気を付ければいいだけのこと

 

………ただ、それだけで…いいんだ……

 

 

 

 

 

 

 

…………………………

 

 

 

 

 

 

 

それから三日後

黒ウサギの提案でパーティが行われることになった。

子供達を含めた“ノーネーム”総勢一二七人+一匹は

水樹の貯水池付近に集まり、ささやかながら 料理が並んだ長机を囲んでいた。

 

 

「えーそれでは!新たな同士を迎えた

“ノーネー ム”の歓迎会を始めます!」

 

 

黒ウサギの音頭に、ワッと子供達が歓声を上げ た。

人数の九割以上が子供の歓迎会だったが四人は悪い気はしなかった。

 

 

「だけどどうして屋外の歓迎会なのかしら?」

 

「うん。私も思った」

 

「黒ウサギなりに精一杯のサプライズってところじゃねえか?」

 

 

実際“ノーネーム”の財政は、

あと数日で金蔵が底をつくほどだった。

こうして敷地内で騒ぎながらお腹いっぱい飲み食いする、

ということがちょっとした贅沢になることを

知っている飛鳥は苦笑しながらため息を吐い た。

 

 

「無理しなくていいって言ったのに…… 馬鹿な娘ね」

 

「そうだね」

 

「そんなこといわない。

せっかくここまでしてくれたんだから楽しまないと」

 

 

3人で話していると、黒ウサギが大きな声を上げて注目を促した。

 

 

「それでは本日の大イベントが始まります!

みなさん、箱庭の天幕に注目してください!」

 

 

十六夜達を含めたコミュニティの全員が、天幕に注目する。

その夜も満天の星空だった。

空に輝く星々には今日も燦然と輝きを放っている。

異変が起きたのは、注目を促して から数秒後だった。

 

 

「………あっ」

 

 

星を見上げているコミュニティの誰かが、声を上げた。

それから連続して星が流れた。

すぐに全員が流星群だと気が付き、口々に歓声を上げる。

 

黒ウサギは全員に聞かせるような口調で語る。

 

 

「この流星群を起こしたのは他でもありません。

我々の新たな同士、異世界からの四人が

この流星群の切っ掛けを作ったのです」

 

 

「「「「え?」」」」

 

 

子供達の歓声の裏で、十六夜達は驚きの声を上げる。

 

 

「箱庭の世界は天動説のように、

全てのルールが此処、箱庭の都市を中心に回っております。

先日、同士が倒した“ペルセウス”のコミュニティは、

敗北の為に“サウザンドアイズ”を追放されたのです。

そして彼らは、あの星々からも旗を降ろすことになりました」

 

 

黒ウサギの説明に、十六夜達は完全に絶句した。

 

 

「――……なっ……まさか、

あの星空から星座を無くすというの……!?」

 

 

刹那、一際大きな光が星空を満たした。

そこにあったはずのペルセウス座は、

流星群と共に跡形もなく消滅していたのだ。

 

ここ数日で様々な奇跡を目の当たりにした彼らだが、

今度の奇跡は規模が違う。

 

 

「今夜の流星群は“サウザンドアイズ”か“ノーネーム”への、

コミュニティ再出発に対 する祝福も兼ねております。

星に願いをかけるもよし、皆で鑑賞するもよし、

今日は一杯騒ぎましょう♪」

 

 

嬉々として杯を傾ける黒ウサギと子供達。

だが、十六夜達はそれどころではなかった。

 

 

「星座の存在さえ思うがままにするなんて……

ではあの星々の彼方まで、その全てが、

箱庭を盛り上げる為の舞台装置ということなの?」

 

「そういうこと……かな」

 

 

その絶大ともいえる力を見上げ、

飛鳥と耀は呆然としている

 

 

「これはスゴいな…

本当に箱庭に来てからは驚かせれてばかりだ」

 

「ふっふーん。驚きました?」

 

 

黒ウサギがピョンと跳んで十六夜たちの元に来る

 

 

「やられたと思ってる。

まあ、お陰様で新しい目標が出来たからな。」

 

「おや、なんでございましょう?」

 

「あそこに俺たちの旗を飾る。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは……とてもロマンがありますね。」

 

 

黒ウサギが満面の笑みで返したが、道のりは険しい。

だけど他の三人も反対はしないだろう



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番外編
思い出のティーカップ


ノーネームの歓迎会から一週間

さすがにここの生活も慣れてきたところ

毎日のようにギフトゲームがあるわけでもなく

かといって平和というわけではない

 

僕と一緒にこの箱庭に呼ばれた3人は

とにかく面白おかしく過ごしたいらしく

そしてその矛先がどうも黒ウサギへ集中

集中しなくても結果的には精神的にきているようだ

 

 

 

「大助さ~ん、だずけでください~!!!!」

 

「…………なにがあったの??」

 

 

 

今日もこうして目に一杯涙を貯めた黒ウサギが

割れたティーカップを手にして持ってきた。

 

 

「うわぁ~派手にやられたね

今回は何をしたんだ、十六夜達は」

 

「………ぐすっ、お屋敷の掃除をしていた子供達の手伝いを

しようところまでは良かったんですが、

「ならいっそう、丸ごと洗おう!!!」と水樹の苗を使って

黒ウサギの部屋を水浸しに………」

 

 

「何やってるんだあいつらは!!!」

 

 

 

すぐさま黒ウサギを連れて談話室にいる十六夜の元へ

そこでは耀や飛鳥達が楽しそうにお茶会をしている

 

 

「おい君達。」

 

「なんだ、異常者」

 

 

「今回は明らかにお前らの方が異常だ!!!

なんで黒ウサギの部屋を水浸しにしたかいってみろ!!!!」

 

「十六夜君の世界では汚れを高圧洗浄機という

水を圧縮したものでキレイにしていると聞いたわ

私たちも黒ウサギには迷惑をかけたと思ったから

お部屋の掃除でもと思ってやっただけだわ」

 

 

 

そういって悪気はなかったと主張する飛鳥

 

 

 

「よし、百歩譲っても黒ウサギが大切にしていた

ティーカップを割る必要はなかったよね」

 

「それは、部屋の家具を濡らさないように運んだけど

そのティーカップは使ったあとだったから

それもピカピカにしようと思って……」

 

 

耀はその自覚はあったようだが

その手はお菓子に向けられ話ながらも

クッキーをずっと食べ続けている

 

 

「よし、よし、それもいいとしてもだ!

頭のいい十六夜様がそれに気づかずに

黒ウサギの部屋を水浸しにした挙げ句に

ティーカップを割るなんてこと分からなかったなんて…」

 

「分からん。」

 

「堂々と嘘をつくな!!!!!」

 

 

黒ウサギではないがいま思いっきり

この頭にハリセンを叩きつけてやりたい

 

 

 

「さすがにこれはやり過ぎだろお前ら…」

 

「そうですよ、どうしてくれるんですかこのティーカップ…」

 

 

するとまるで狙っていたように3人は

アイコンタクトで合図を送り、

 

 

「「「じゃ後片付けよろしく!!」」」

 

「結局人任せかてめぇら!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にすみません…」

 

「いいよ、というか黒ウサギが謝ることじゃないだろう」

 

 

 

黒ウサギの部屋に訪れてみると確かに水浸しだった

これにはもうため息しか出なくて

すぐさま空間掌握を行い、部屋全体にある水を一時停止

それを持ち上げて外へ運びそこで解除する

 

最近はこんなことばかりである

この一時停止と空間掌握を見たいためか

何かをやらかす度に後始末をやらせる

少しは落ち着きというものを知ってほしい

 

 

 

「あの大助さん…ティーカップなんですが……」

 

「ごめん黒ウサギ。

引っ付けることは出来るけどそれはあくまでも一時的

ずっとくっつけるとなるとその眠気がその分だけ溜まっていくから…」

 

 

 

「そ、そうでしたね…

すみません、勝手なことばかりいってしまいまして

只でさえこうして部屋を戻してもらったのに…」

 

「これくらいは気にしなくていいよ

例えばさ壊れた物を戻すギフトとかはこの箱庭にはないの?」

 

 

 

自分の一時停止のようなものがあったり

それを修復するようなギフトがあればいいのだけど

 

 

「あることにはあるのですが、誰が持っているとか

どのようなギフトゲームにあるかまでは…」

 

「そうか…

ねぇ、レティシアなら知らないかな??」

 

 

「そうですね、聞いてみましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまぬが分からないな」

 

「そ、そうですか…」

 

 

それを聞きウサ耳がシュンと倒れ込む

かなりへこんでいるな……

よっぽどお気に入りのティーカップだったのだろう

いまも手の中にある割れたティーカップを覗き込んでいる

 

だけどこれはどうしようもない。

いつかは土に返る、そう思うしかないのかもしれない

 

 

 

「黒ウサギ、僕が新しいティーカップを買ってくるよ

それが代わりになるとは思わないけど、

それで十六夜達を許してくれないかな??」

 

「なら私も同行しよう。」

 

 

「ありがとうございます。

…実は十六夜さん達はそこまで怒ってないのです

出しっぱなしにした私が悪かったわけですから

 

……ただ、これには思い出がありましたから……」

 

 

 

その切なそうな表情になにも言えなかった。

きっとその想いではとても大切で

このティーカップを使う度に思い出していたのだろう。

それを聞いてしまうと、どうしても諦めきれない。

どうにかして直せないものか……

 

 

 

「これをいうと人のことを言えなくなるけど、

まぁ、仕方ないか。」

 

「何か思い付いたのか?」

 

 

「うん、白夜叉に聞いてみよう。」

 

「し、白夜叉様にですか!?

ですがたかがティーカップを直すためにそんなことを…」

 

「黒ウサギがティーカップに対して

「たかが」なんて言ったらダメだよ。

ダメ元かもしれないけど僕はやりたいから

 

やらずに後悔するよしやって後悔した方がいい

ダメでも新しいティーカップは買ってくるから」

 

 

 

 

それを聞いた黒ウサギは苦笑いをしながら

 

 

 

「それでは…お願いします。」

 

「お願いされました。」

 

 

 

こうして黒ウサギのティーカップを戻すために白夜叉の元へ

これが後にあんなギフトゲームに参加させられるなんて

いまはまだ知らなかった……



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耀とケンカ

サウザンドアイズの支店

そのお店の前には玄関前に集まっている葉っぱを

かき集めている割烹着の女性定員が

 

 

 

「帰ってください。」

 

「いや、バカらしいかもしれないけどさ

とりあえず白夜叉に話してくれないかな??」

 

 

「そんなティーカップごときで呼ぶなんてありえません。」

 

「それはそうだけど……」

 

 

 

ダメ元で来たのだが、まさか初めて来たときと同じように

門前払いを食らうなんて思っていなかった

しかし今日はこの前みたいなことにはならないようだ

困っていた僕の前に立ったのはメイド、レティシアだった

 

 

 

「来た客に対してそれはあまりにも失礼ではないか

ついこの前、そちらのペルセウスの後始末をしたのは

我等ノーネームだということを忘れたとはいうまい」

 

「そうだとしてもただメイドである

貴方にいわれる筋合いはありません。」

 

 

 

「ほう、これは主様が決めてくれたもの

それはノーネームに対する侮辱だと受け取っても構わないのか」

 

「どう受け取ってとらっても構いませんが、

そちらこそどこのコミュニティに喧嘩を売っているのか

よくご存じだとは思いますけど」

 

 

 

火花散る女性定員とレティシア

そのやり取りが怖くて、割ってはいることはできなかった

するとお店の扉が開き、白い和服姿の少女が現れた

 

 

 

「なに店の前で騒いでおるのか…

おお、お主であったか、それと小僧。」

 

「ちょっとオマケな感じにしないで」

 

 

「すまぬすまぬ、それで今日はどうしたのだ??」

 

「ちょっと黒ウサギについて…」

 

「よし、入れ。」

 

 

 

うわぁ、はやっ。

さっきまでのやり取りが無駄じゃないかと思うぐらいに

それを聞いた女性定員は明らかに不機嫌な表情で

 

 

 

「内容を聞かずに中にいれるつもりですか??」

 

「確かにそうだが、お主も知っておるだろうこの間の貢献を

入店させるだけならばいいではないか

もちろん、内容を聞きキチンもこちらで判断する。」

 

 

「………はい。」

 

 

やはり上司の言うことには従わないといけないのだろう

不満そうな表情をするが、それでも僕とレティシアを店に通した

なんか、申し訳ないような……

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきはすまなかった。」

 

「まぁ、元々あり得ないことを持ってきたこちらにも非がありますから」

 

 

「うぬ、しかしそれは聞かずとも儂にはすでに分かっておる。」

 

 

 

まだ話していないのにもう分かったの?

心眼とか持っているのかもしれない

それだったらなにもかもお見通しというわけか

話を知っているからか、真剣な表情でこちらを見る白夜叉は

 

 

 

「黒ウサギの今後の衣装について!!!」

「違います。」

 

 

「………お主、ノリが悪いの…」

「僕をどこぞの問題児と一緒にしないでください。」

 

 

 

全くこれじゃ女性定員があんな感じにだということが

はっきりとくっきりと分かってしまう……

ため息をついて僕は本題に入ることに

 

 

 

「で、ちゃんと話を聞いてくれますか?」

「儂は最初から真面目じゃがの」

 

「達が悪すぎです。

で、本題なんですが…物を元に戻すギフトを知ってますか?」

 

 

 

その瞬間、白夜叉は表情が強張った

だがすぐに表情を元に戻して

 

 

「なんじゃ、黒ウサギの大切な物でも壊したか?」

 

「その通りです、あの問題児達がね…

黒ウサギの大切なティーカップを壊したんです」

 

 

「しかし、ティーカップを元に戻すためにギフトをの…

 

「それは分かりますが、黒ウサギがあのティーカップを

大切な思い出が詰まったものといったんです。

元々ダメ元で来ましたが、もしあるなら手に入れたい

この箱庭にはそれを可能性することがあるなら

僕はそれを………逃したくない。」

 

 

 

その真っ直ぐな瞳に思わず白夜叉もハッと驚き笑う

 

 

 

「アハハ!!

そんな真っ直ぐな瞳で、そんなことをいう輩は久しぶりだの!

よし、お主ならあのゲームをクリアできるかも知れぬな」

 

「あるんですか!!!」

 

 

 

あの時の表情を見たときもしかしてと思ったが

白夜叉の口から聞くと改めて驚く

 

 

 

「あぁ、あるとも。

いままで誰一人クリア出来ずにいるギフトゲーム

この儂もクリアできなかった…」

 

「白夜叉殿もクリアできなかったギフトゲーム……」

 

 

 

その真実にレティシアも驚く

元・魔王さえもクリア出来ないギフトゲーム

それをたかが一人の少年に

たかがノーネームにやらせるなんて…

 

 

「そのクリア条件が難しいが

まぁ、お主ならいけそうな気がしての…

もちろん、参加はじゆ」

「やります!!!!!」

 

「威勢がよいの。

それではまた明日、ここに来るがよい。

それまでにこちらで準備しておく」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうことか説明して。」

 

「いや、ちょっと…」

 

 

「説明して。」

 

 

 

どうしてこうなった…

白夜叉のところから屋敷に帰ってきたはいいが

何故か春日部が、春日部 耀が滅茶苦茶怒っていた。

現在は談話室でみんなのいる前で

正確には春日部の前で正座をさせられている

 

 

 

「説明もなにも白夜叉にティーカップを戻せる為の

なにかギフトがないかと聞きにいったぐらいで…」

 

「違う、そこじゃない。」

 

 

「いや、でも説明ってこれ以外…」

 

「どうして私の埋め合わせをせずに

レティシアと一緒にいったのかを聞いてる」

 

 

 

その瞬間、まさか名を呼ばれてビクッと動揺するレティシア

これには十六夜すすでにニヤニヤしており

飛鳥も成る程という表情をしている

 

黒ウサギやジンはこの状況をどうやって納めようか

というか、耀の黒いオーラに口だせずにいるのだが…

 

 

 

「埋め合わせって、これは黒ウサギのティーカップを…」

 

「そんなことはどうでもいいの」

 

 

「ちょっと待って、どうでもいいってなに?

これは黒ウサギが大切にしていたティーカップなんだよ」

 

「それなら私の埋め合わせは大切じゃないの」

 

「そんなことをいってないだろう!!」

 

 

 

思わず大声で叫んでしまった

自分の愚かさに恥ずかしくなりすぐさまの場から去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よ、耀さん…さすがに、あれは…」

 

「うん、ちょっとやり過ぎたかも…」

 

 

「しかし大助もあんな声出せるんだな

こいつはいいものを見たな~~」

 

「しかし、春日部さんも焼きもちを焼くのですね。」

 

「なぜ私を見る…」

 

 

 

「??

私はただ埋め合わせをして欲しかっただけなんだけど…」

 

((((気づいていないのか…))))



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闇迷う者

翌日、やっぱり皆に顔を会わせずらかった大助は

朝早くから屋敷を出ていきゆっくりと白夜叉の元へいくことに

この箱庭に来てから初めてなことが多かったが

こんな初めても味わうなんて正直考えていなかった

 

だからどうやって謝ればいいのか、どんな顔をすればいいのか

経験もないからどうすればいいか全く分からない

 

 

そんなことを考えながら歩いていると

すでにお店の近くまで来ていたことに気付き

そしてそこには女性定員が掃除していた

 

 

 

「朝早くからご苦労様です。」

 

「それはこっちの台詞です。

こんなに早く来られてもお店はまだ開いてません」

 

 

「そうですよね……

あの、なんか手伝うことありませんか?」

 

 

 

それを聞いた女性定員はあきれたような表情で

はぁ、とため息をついたあと

 

 

「なんですかいきなり。

そんなことしても利益になることはありませんが」

 

「いやただ待つだけとか、出直しとかが嫌なだけですよ。

だから何かをしていたら暇を潰せるかな~~と、」

 

「そんなことをされたら邪魔なだけです。

………お店の中に入ってください、もういらっしゃいますので」

 

 

 

まさかの言葉にびっくりする大助

昨日みたいに追い返されると思いきや

お店の中に通してもらえるなんて…

 

 

「いいんですか?」

 

「なんですか、入らないなら帰ってください。」

 

 

「入ります、入りますから!」

 

 

 

焦りながらお店に入る大助

その後ろ姿を見送った女性定員は

またため息をつきながら掃除を再開した

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します。」

 

「おぉ、もう来たのか。

そんなに急がずともギフトゲームは逃げぬぞ」

 

 

「ちょっと色々ありまして早く起きただけですよ」

 

「…そうか。

来たなら早速始めるとするかの」

 

 

 

 

すると白夜叉の袖口からギフトカードを取りだし

そこから粒子が溢れだして大助の前に集まっていき

 

 

 

「これって……手鏡?」

 

 

大助が疑問でいった理由はその鏡にあった

普通はその持ったものの姿を写すはずなのに

どういうわけか真っ黒で何も写し出さない

何かで塗りつぶしているわけではなく

その鏡は「暗闇」を写し出している

 

 

「その手鏡は『闇』を閉じ込めてあっての

鏡の中にお主が求めておるギフトがある」

 

「この手鏡の中に……」

 

 

 

『ギフトゲーム名“闇迷う者”

 

・プレイヤー一覧 君塚大助

 

・クリア条件 闇を捕らえること

・クリア方法 闇を捕らえて鏡の外へ持ち出すこと

・敗北条件 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノー ネー ム”はギフトゲームに参加します。

 

“サウザンドアイズ”印』

 

 

 

 

その内容に呆然とする大助

闇を捕らえるなんてそんなこと…

このギフトゲーム、クリア方法があるのか…

 

 

 

「さて今からお主を鏡の中に送る。

その中では時間感覚が狂ってしまうからの

明日の朝までに出てこれなかったら敗北とみなし強制的に外に出す」

 

「分かりました、お願いします。」

 

 

「そうじゃ、このランプを持っていくがよい。

三時間ぐらいは持つじゃろうから使いどころを間違えぬようにの」

 

 

 

首を縦に振りふると白夜叉は

その手鏡を大助に向けた

すると目の前にある暗闇に吸い込まれるように

暗闇に飲み込まれるように意識が遠退いていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………どうやら鏡の中に入れたようだ。

ただこれが現実なのかが分からないこと

一応、目を開けた感覚はあるのだが

さすが暗闇を封じ込めてあるだけはあって

上下左右どこを見ても闇、闇、闇、闇

これでは夢の中にいるような感じだ

 

だけど手足の感覚もあるし

ちゃんとランプを持っているようだ

 

とりあえずこのまま倒れている訳にもいかない

立ち上がり行く宛もなく歩いてみることにした

 

しかしここには何もないようだが

暗いところはどうしても恐怖心が生まれる

何かにぶつかるのではないかとか

突然何かが起こるのではないかとか

見えないという恐怖はとてつもなく怖い

 

 

手元にはランプを持っているが

これを使うと三時間で終わり

そのあとの時間は暗闇で過ごすしかない

 

 

 

「…これは…きついな……」

 

 

 

精神的に追い詰められていく

それにさっきから考えているクリア方法

闇を捕らえる、なんてどうやっても無理だろう

だけどクリア不可能なことをゲームにすることはない

 

だからこのゲームは必ずクリア出来る

…はずなんだけど、さてどうするか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……もうだめ、もう歩けない……

あれからどれくらい歩いたか分からない

恐怖を持たないように無心で歩き続けたが

たどり着けないということがさらに心を蝕む

 

力尽きた大助はその場に倒れこみ

はぁはぁと息を切らしながら仰向けになる

目が慣れてからは自分の周囲ぐらいは見える

周囲というが自分の手足やランプぐらいは見えるのだ

 

ポケットをまさぐり中からクッキーを取り出す

朝御飯を食べてなかったからとりあえずと

ポケットに入れておいたのだが本当によかった

 

 

クッキーを食べながらこれからをどうしようかと

空を、いや暗闇だから分からないけど

こうして見上げれば何か思い浮かぶのではないか

 

 

 

「………って、無理だよな……」

 

 

 

こんなんで思い浮かぶほど簡単なゲームではない

本当に手詰まりだ、これではただ時間を無駄にするだけ

実際この手鏡に来てからどれくらい経ったか分からない

大体の感覚なら六時間くらいだろう

だけど時計もないし正確ではないから

もしかしたら二時間や、あるいはもうすぐ24時間かもしれない

 

 

 

「せめてヒントくらいはないのかな…」

 

 

 

そんな愚痴を言いたくなる

闇を捕らえるなんてわかりづらい文章ではなく

もっとはっきりとしたものはなかったのか…

 

 

そんなとき、音が聞こえた。

なにもないはずの、自分以外はいないこの暗闇に

確かに遠くから音が聞こえた

すぐに立ち上がり大助はその方向へ向いてみると

未だに音が聞こえるのだ、微かな音が

足音のような音が徐々に大きく近づいてくる



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捕らえろ闇を!

近づいてくる足音

そしてこちらに向けられている殺気

どうやら穏便に済ませることは出来ないらしい

 

戦闘態勢に入る大助

まぁ、大助の一時停止があれば大抵のものは無力だが

それが直接攻撃になると話は変わってくる

それだけはどうしても一時停止出来ない

 

 

 

(なら、逃げ回ってどうにかして相手の動きを止めるしないな…)

 

 

 

いまはそれが一番だと思い回避体勢に入った

ただどんな奴かは確認しないと、と思い

回避出来るギリギリまで動かなかった

 

だけどそれがいけなかった

近づいてくる足音が、殺気がおかしかったから

おかしいというより、それを知っていたからだ

その殺気は最近まで忘れていたもので

どす黒くすべてのものを否定して

なにもかも終わらせてしまう力を持つ

 

 

 

「ふ、ふざけるなよ…これを捕らえろって……」

 

 

 

それは影と呼べるもの

自分自身の影であり、そして「闇」である

人には光と闇がある、正義と悪がある、表と裏がある

その暗く黒く暗闇である「闇」である影が目の前にいる

 

そしてその影は………自分より遥かに強い。

 

 

 

「闇を捕らえるって、こういうことか!!!」

 

 

 

すぐさまその場から離れた大助

するとそこには影が立っていた

そのスピードは大助と同じくらいだが

捕らえられることだけは絶対に回避しないといけない

あの影は…自分を、君塚 大助を殺そうとしている

 

 

 

「っ!!!」

 

 

 

フルスピードで逃げる大助に対して追ってくる影

スピードは互角かもしれないが、このままだと追い付かれる

このスピードはいままで溜めていた「スピードと衝撃」を使っている

一時停止させたスピードを積み重ね一気に解除することにより

十六夜や黒ウサギと同じスピードが可能となる

その分体に衝撃がかかるのでそこはまた一時停止を行い

大助の体全体に突発的なスピード、回避行動ができる

 

だがそれでも限界はある。

大助の表面上の一時停止には使用回数はないのだが

使用すればそれだけ精神的に追い詰められる

一方影はそんなものは存在しないだろう

 

ましてや大助はすでに精神的に追い詰められていた

暗闇の中をずっと歩き続けて体もキツい

そこを狙ったように奇襲をかけてきたなら……

 

 

 

「本当に…ヤバイぞこれ……」

 

 

 

身体のあらゆる場所から衝撃を解除して

不規則な回避行動をしているのだが

それでも追い付いてくる影、迫る影

おそらくあの影に触れられたら

その瞬間、死んでしまうだろう……

 

 

それだけの力があるのだ。

そう、その力が自分の中にある

ギフトカードには載っていなかったが

自分の中には「――――」があることを知っている

だけどそれだけは使わないようにしないといけない

 

あのとき、一瞬だけ使用したからか

どうしてもあの頃を思い出してしまう

それが、というわけではないが、原因の一部ではある

耀とケンカしたとき、あのとき、昔の自分が現れた

だから怖くなった…また同じことをするのではないかと

 

 

だけど、

 

 

 

「それじゃ…昔と同じだよな……」

 

 

 

 

変わると決めたんだ。

この世界で新たな人生を過ごすって決めたんだ

だったら自分の影ぐらい越えないと

この先、なにも越えられない!

 

 

 

「……だから、倒すからな…お前を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「半日過ぎたか…よくもっておるの……」

 

 

 

白夜叉は手鏡を除きこみながそんなことをいう

その手鏡の中では大助と影が戦っているが

もちろん暗闇で何が行われているか分からない

だけど白夜叉もこのギフトゲームをやったことがあるから

それがどんなものかよく知っている

 

あの中にいるのは自分の影

そして自分の闇である。

そんな自分のとの対決となると

神格を返上しないといけなくなる

 

だから倒せなかったのだ

まぁ、神格を返上しても勝てたかは別だが…

 

 

 

 

「お主はどう、その「闇」を捕らえるのか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァハァ…クソッ…」

 

 

 

やはりキツいものがある…

トラウマがよみがえってくるのだ、あの日のことを

ケンカして時間を止めてしまったこと

そしてその人から二年間を奪ってしまった

 

それからこの力を使わないように

 

いや、使えずにいたのだ、また同じことをしてしまいそうで…

だけどいま、それを乗り越えないといけない

あの力を使わないとこの影には勝てない

 

 

だが影も同じようにその力を使ってくる

それではどちらが殺られるか分からない

影は俺だから実力も同じなのだ

だけど、一つだけ違うことがある

僕が持っていて影が持っていないもの

 

 

「やっと…全部見えたぞ!掌握完了!!!」

 

 

 

それは空間掌握

もし影が空間掌握を持っていたら

すでに僕は殺られていたから

対象を確認しないと発動しないギフト

影はここに来るときどうやって僕を見つけたのか

向こうはこちらを見えているからだ

自分は影からの殺気や音でどこにいるか把握して

近づいたときは影の攻撃を避けながら姿を見ていた

 

 

いくら自分自身とはいえ確認する必要があり

さらに支点を見つけないといけない

そしてそれがたった今完了した

 

 

空間掌握を終えた瞬間に大助は「――――」を使った

すると影はまるで力が抜けたようにその場に倒れた

ハァハァと息を切らしながら大助は影に近づき

 

 

 

「これで……ゲーム終了だ。」

 

 

 

その手で影に触れた。

すると影から光が漏れだし

その光がこの空間全てに光輝いた

あまりの眩しさに大助は目を閉じる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光に飲み込まれた大助は

気づいたときには真っ白な世界に立っていた

どうやらさっきいた手鏡とは違うようだが

そこにはさっき捕らえた影が立っていた

 

すぐさま戦闘態勢に入った大助だが

どうやら影はその気はないらしく

その場から動こうともしない

そして影の隣に何か光が集まりだし形を作る

光は影と同じように大助の形になり

 

 

 

「やっと会えましたね、クロノス」

 

「えっ、僕は…大助ですけど……」

 

 

 

「そうでしたね、すみません。

貴方は私達精霊の主の一人

「時の精霊、クロノス」の気配がしましてので…」

 

「……クロノス……」

 



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ギフトゲームの勝利品

クロノス、時の精霊クロノス

聞いたことはあるけどちょっとしたことだけ

時空を操ると言われているとしか知らない

そのクロノスと僕が似ているって……

 

 

「そのクロノスと僕はそんなに似ているの?」

 

「外見も中身も全然違います。

ですがアナタの持つギフトは元々クロノスのギフト

それは唯一無二のギフトなのです。

ですから、あなたを見たときクロノスと錯覚しました」

 

 

 

なるほどと納得したいけどそれだと

 

 

 

「どうしてクロノスのギフトを僕が…」

 

「……分かりません。」

 

 

「分からないって……

僕はこの力でどれだけキツい思いをしたのか知ってますか!」

 

「すみません…私達はあるギフトを守るために

この鏡の中にいましたのでいまクロノスがどこにいるかは…」

 

 

 

なんだよ、それ……

自分の力だと思って苦しんで悩んで

それでもこの力に意味があると思い生きてきた

それがクロノスのギフトだったなんて……

じゃ僕は他人のギフトのせいで苦しんでいたのか…

 

すると光の形をした者は、となりの影を見ながら、

 

 

 

「この影は、あなたの闇です。

怒りや嫉妬などの黒い部分を表してます。

そして私は反対である光

希望や喜びなどの光の部分を表してます。

私達は二人で一人、表裏一体

ですから貴方のいう思いを私は知っています。」

 

「………だからなんですか…」

 

 

 

その投げやりな言葉に

光の者は優しく僕にこう言った

 

 

「ですからもしそのギフトを手放したいなら

……私達がそれを回収します。」

 

「……えっ……」

 

 

「貴方がいうようにそのギフトは貴方のではありません。

持っているのが辛いなら、背負うのが辛いなら

私がその重りを取り除きます。」

 

 

 

まさかの言葉だった、ギフトを回収するなんて…

このギフトが無ければといつも思っていた

無ければ普通の、一般人と同じ世界に生きられると

だけどいまは、いまはそれが出来ない

だってこの力は、このギフトは、

 

 

 

「できるわけ…ないです。

これはもう、僕にとって必要なものです。

仲間を助けるために、コミュニティを再建するために」

 

「はい、それも知ってます。

ですから貴方はこの影に勝ち、ここにいる。

クロノスの真意は知りませんが、

彼にもなにか考えがあったと思います。

ですから、クロノスを恨むとはも、許せともいいません。

でもクロノスに会ったときは、話だけでも聞いてください」

 

 

「…………はい……」

 

 

 

すぐにハイとは言えなかった

いまはこのギフトに感謝しているが

確かにこのギフトを恨んでいたから

だから、そのクロノスに会ったときは

僕はどんな風にするかなんて…分からなかった……

 

 

 

「さてゲームに勝利した貴方にギフトを渡さないと。

ギフトカードはお持ちですよね??」

 

 

 

頷く大助に対して光の者はギフトカードを手に取り

その中に光の者の全身から光の粒子がギフトカードの中へ

すると少しずつギフトカードにギフトネームが表れる

 

 

「これが貴方が望んだギフトであり、またクロノスのギフトです。

でも貴方ならこのギフトを正しく使ってくるでしょう」

 

「これが…僕が望んだギフト……」

 

 

 

そのギフトカードには

『巻戻』と書かれてあった

これで、黒ウサギのティーカップを直せる!

 

 

「さてこれでゲーム終了です。

私達もこれで役目を終えました」

 

「役目って…

君達はこれからどうするの……」

 

 

 

「どうすると言われましても…

ゲームが終了してもここからは出られません。

クロノスがいれば話は別ですが……」

 

「みんなクロノスに振り回されている感じだな

あのさ、今さらだけど二人とも精霊なんだよね」

 

 

 

すると驚いた表情で、いやそんな風に見えただけだが

そのあと笑ったように見えたのだ

 

 

「そうですよ、まだお話ししてませんでしたね。

私は光の精霊アスカ、こちらが闇の精霊シャドウ

これでも上級精霊なのですよ」

 

「上級精霊か…

もしかしてクロノスも上級精霊なのかな」

 

 

 

「クロノスはその上、

世界を創ったといわれる三大精霊の一人です。」

 

「世界を…創った精霊か……」

 

 

道理で異常で異質な力だったわけだ

世界を創ると言われた方がしっくりくるな

 

 

「あの…僕じゃ鏡から出してあげられないのかな

一応そのクロノスのギフトを持っているわけだし」

 

「無理でしょうね、それにはあるギフトがいりますから

気持ちだけでも嬉しいです。

それにこうしてゲームをクリアしてもらって

もう縛られるものはありませんから

のんびりと待ってますよ」

 

 

「……………光の精霊なんだよね。

それならもしかして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃいくよ…」

 

 

屋敷に戻ってきた大助は早速黒ウサギの元へ

テーブルには壊れたティーカップがあり

大助は両手をティーカップにかざした

するとまるで時間を巻き戻すように

破片が空中に浮かび次々に重なっていく

 

 

「す、スゴいです!!!

みるみる直っていきます!!!!!!」

 

「これで終わりっと。

はい、黒ウサギもう割らないようにね」

 

 

「ありがとうございます大助さん!!」

 

 

 

もとに戻ったティーカップを手に喜ぶ黒ウサギ

いや~頑張った甲斐があったな

するとトントンとノックのあと扉が開き

 

 

 

「大助、帰ってたの?」

 

「か、春日部さん……うん、ただいま。」

 

 

「おかえり。」

 

 

 

喜びの雰囲気が流れていたのに

いつの間にか気まずい雰囲気へと変わり

黒ウサギはどうしようかとウサ耳をピコピコ動かす

 

 

 

「今朝は…ごめん。」

 

「ううん、もういいから。

それより埋め合わせ、明日買い物に付き合って」

 

 

「それはいいけど、それでいいの?」

 

「それがいいの。」

 

 

 

よかったと安堵する黒ウサギだが

次の瞬間には、ドガァンと扉が壊されて

部屋に十六夜と飛鳥が入ってきた

 

 

 

「マジで元に戻すギフトを手にしたってな!!

ほほう、本当にティーカップが戻ってやがる

よし、次に何故か壊れた扉を戻してみろ」

 

「なにいってますのこのおバカ様!!!

どうして黒ウサギの扉を壊さないと入れないのですか!!?」

 

 

 

「入れるわよ。

だけどどうせなら大助君のギフトを見てみたいと思ったから」

 

「だからといって扉を壊さなくても……」

 

 

 

ウサ耳が垂れる黒ウサギ

苦笑いしながら大助は扉に近づき両手を向ける

すると扉の時間が巻き戻り直っていく

 

 

「面白い。」

 

「す、スゴいわね…」

 

 

「これなら何を壊しても問題ないな♪」

 

 

「壊さないでください!!!!」

 

「このギフトをなんだと思ってるんだよ…」

 

 

 

「「「修理屋」」」

 

「よし、ケンカを売ってるんだな…

買ってやるぞこのやろうが!!!!!!」

 

 

 

 

少しは気持ちを出してもいいだろうか…

昔みたいに思いをさらけ出してもいいだろうか…

こうして言いたいことをいってもいいだろうか…

 

もしいいのなら、僕はもっと僕になれるはずだから

あの日から止まっていた僕が動き出すはずだ。



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その後、とある一日。

ちょっとした大助の一日を公開。




AM7:30

目覚まし時計が時間を迎えてアラームを鳴らすように

正確にこの時間に大助は起きる

ムクッと起き上がり、カーテンを開け朝日を浴びる

これが毎朝欠かさずに行っている

 

そして着替えを済ませると

いつものタイミングでドアがノックされ

 

 

 

「大助様、起きていますか?」

 

「うん、入っていいよ。」

 

 

失礼しますとドアが開くと

そこには二本の尻尾と狐耳を忙しなく動かす少女

年長組のリリがそこにいた

 

 

「おはようございます。

朝食をお持ちしました。」

 

「いつも悪いねリリ

こちらから食べにいかないといけないのに…」

 

 

「そんなことさせられません!!

それに大助様のお陰でボロボロになっていた屋敷が

こんなにもきれいになったんですから!!!」

 

「でも、農園は無理だったな…」

 

 

 

屋敷の壊れた箇所を大助が巻戻により再生させた

だが庭にある農園の土や建物はどうしても戻ならなかった

 

 

(きっとあれは僕と同じ

「時のギフト」を使って時間を進めたはずだ。

だけどギフトは唯一無二だっていっていたから…)

 

 

と、いつもそこで考えをやめる

そんなことあり得ないと…

気を取り直して朝食を取ることにした

 

 

 

 

 

 

 

AM10:00

朝食を取り終わり少し休憩したあと

談話室にいってみたのだが誰もおらず

疑問に思った大助は近くを通ったレティシアに話しかけた

 

 

 

「ねぇ、レティシア。

十六夜達はどこにいったの??」

 

「なんか面白いものはないかと街に向かったようだ

黒ウサギとジンはそれを止めに……」

 

 

「なにしてるんだか…

でもなんで僕は呼ばれなかったんだ??」

 

 

するとレティシアが少し視線をズラした

それに気づいた大助はジィーと見つめる

しばらくそうしていると観念したレティシアは

 

 

「主様達は「説教臭いから呼ばない」といい

黒ウサギ達は「ご迷惑をかけたくない」と…」

 

「成る程、つまりは「邪魔」だということだね。」

 

 

「ち、違うぞ主様!!!

屋敷を直してもらって感謝しているのだ

だからこそ体を休めてもらおうと」

 

「もういいよ、レティシア。

部屋で寝てるからなにかあったら起こして」

 

 

 

ううぅ、まさかこんな風に省かれるとは…

はぁ、とため息をつきながら大助は部屋へ戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

PM12:30

拗ねてベットで寝ていると

突然ドアが開き部屋の中に

 

 

「なに昼寝してるんだ大助

面白いもん買ってきたから外に出ろ」

 

 

 

ドアを蹴破って入ろうとした十六夜だが

この部屋は大助の空間掌握の範囲内

ここでの破壊は一切行えない

まぁ、ギフトを破壊するその力を使われたら

もちろん無惨なことになるだろうが

どうやら純粋な力で壊したいらしい

 

だがそんなことはいま、どうでもいい。

 

 

「うるさい。

別に僕がいなくても楽しめるだろ」

 

「予想通りの反応だなオイ。

拗ねてる暇があるなら外に出ろ、いや出るぞ、出す。」

 

 

「痛いっ!!

十六夜痛いって!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM12:43

強制的に外に出された僕は中庭へ

そこには耀と飛鳥、黒ウサギとジンがいた

そしてその手には何かを持っている

 

 

「どうしたの皆して」

 

「すみません……

なんか大助さん一人仲間外れにしたみたいで」

 

 

「いいよ、その方が楽しめたでしょう。」

 

「そんなに拗ねなくても。」

 

「そうよ、男子は堂々としているものよ」

 

 

 

なんか僕が悪いように感じるんだけどな…

すると今度はジンが一歩前に出て

 

 

「実はこれは僕が言い出したことなんです。」

 

「ジン君が??」

 

 

「僕達のノーネームのお屋敷を

元の形に直ったのは大助さんのお陰でです。

ですからほんの些細なお礼なんですけどコレを」

 

 

 

するとジンや耀達は袋から何かを取り出した

それは筒状のものでありそれを地面に立て

その筒状から伸びた縄に火をつけた

火はその縄を燃やしていき筒状に行き着いた瞬間に

 

ひゅーーーーどん!!!!!

 

と、空に大きな花が咲いたのだ

 

 

 

「おお!!!」

 

「街にいってかき集めてきました。

本当はちゃんとしたことをしたかったのですが

この前のことでお金も厳しくて……」

 

 

「いやいやそんなことないよ。

ははは、これはスゴいや」

 

 

 

空には花だけではなく

星形や龍や大助の名前など

いろんな花火が空で輝いている

 

 

「これどうやったの??」

 

「この手の花火は打ち上げる前に

花火にしたいものを思い浮かべるだけです

するとこんな風に………」

 

 

すると今度の花火はウサ耳の形をした花火

これは面白いと十六夜は花火にイメージし

打ち上げられた花火は何か台形の形をしていた

 

 

「なんだよあれは?」

 

「あれか、あれは…黒ウサギのスカート」

 

 

「なにやってますかこのおバカ様!!!!!」

 

 

 

伝家の宝刀、ハリセンが十六夜の頭にクリーンヒット

それでも反省の様子もなく、いや、伝染するように

空には台形の花火がドンドンうち上がる

 

 

 

「なんで皆さんやっているんですか!!!」

 

「えっ、これ常識だよ。」

「そうよ、黒ウサギ。

私の世界でもこんな花火あったわ」

 

「嘘です!!

こんな花火があってたまりますか!!!!」

 

 

「こんな素敵なプレゼントをくれたんだ

この花火を一時停止して空に永遠に飾ろう」

 

「「「いいね。」」」

 

「なに考えてますのこの問題児達は!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM23:00

「…………子供だな、僕は……」

 

 

 

まさかあんな風に思ってくれたなんて…

はぁ、とため息をつきながら眠ろうかと思ったが

 

 

「……人だからな、仕方あるまい……」

 

「そうよ、こういうことがあって信頼が深まるのでしょう」

 

 

「人と接することがこんなに難しいんだな…」

 

 

 

大助一人しかいないはずの部屋に誰かの声がする

まるでそこで会話をしているような声が…

 

 

 

 

「…人であるお前がいうと、さほど難しく聞こえる…」

 

「だから面白いじゃないの?」

 

 

「そうかもね、きっとそうなんだろうね…」

 

 

 

クスクスと笑い声が部屋に響く

たまたま通りかかった黒ウサギが

ちょっとした恐怖を感じたのはまた別の話。



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耀との埋め合わせという名のデート??

「埋め合わせ。」

 

「本当に分かってるから、お願いだからちょっと待って!!!」

 

 

 

とある日、朝早くから大助の部屋にノックの音が響く

寝起きである大助は眠たい目を擦りながら返事をすると

 

 

 

『埋め合わせ。』

『……えっ?』

 

『埋め合わせ。』

『う、うん、分かったからちょっと待って』

 

 

 

待たせる訳にもいかないため急いで寝癖を直し

楽なスエットから通常着ている学生服に着替える

その間にもずっと「埋め合わせ」と言ってくる耀

余程楽しみにしているのか、もしくは怒っているのか

平坦な声のためそれからどんな感情なのか分からないが

 

 

 

「埋め合わせ。」

 

「あとちょっとだから、本当にやめて!!」

 

 

とにかく早くして欲しいと言うことだけは分かる

なんとか五分以内に終わらせた大助

ふぅっと息を吐き自分を落ち着かせて

ドアノブに手をかけ扉を開くと

 

 

 

「埋め合わせ。」

「……ぶれないね…」

 

 

 

「遅い」とか「待ってた」とか言わず

ひたすらこの「埋め合わせ」をいう耀

表情も一切変わらず、ジィッと大助を見ている

これには思わず目線を外してしまい

少し赤く染まった頬を掻きながら

 

 

 

「え、え~と………

その埋め合わせ…何したらいいの??」

 

「それ大助が決めることだよ。」

 

 

 

「そんなこと言われてもな……

だいたい目的があって朝早くから来たんじゃ…」

 

「私はただ埋め合わせをして欲しかったから」

 

 

 

これには困った。

朝早くから起こされたことは問題ないが

目的は埋め合わせしてもらうだけで

具体的な内容がそこにはなかった

 

しかしその内容は決めていいらしい

というか、元々埋め合わせを提案したのは

自分だったと思いだし何かないかと考える

 

 

 

「とりあえず街に行ってみる?」

 

「うん、それでいい」

 

 

ハッキリとした内容も決まらず

行き当たりばったりで進めることにした

耀 それでいいといってはくれたが

街に着くまでに考えないといけないな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い付く前に着いちゃったよ……」

 

「??」

 

 

 

頭を抱える大助と隣でキョトンとしている耀

二人は普段はなかなか来ない街の外れに来ていた

いつも来ているカフェにいこうとも思ったが

せっかく朝早くから来てくれた耀に

ちゃんとした埋め合わせをしようと

まだいったことのない場所にしようとここに来たのだが

結局、なにも思い付かずに着いてしまった

 

 

 

「な、なにかあったら寄るけど…」

「うん、分かった」

 

「って、もうすでに食べていらっしゃる!!?」

 

 

とにかく時間を稼がないといけないと思い

耀の寄りたいお店に行こう話しかけたのだが

隣を歩く女の子はすでにお店に寄った形跡があり

それも手には食べ物を両手に持ちすでに食べていた

 

 

 

「………もしかして朝ごはん食べてない??」

 

「うん、朝からずっと待ってたから」

 

 

もしかしてノックに起こされる前からずっと

あの扉の向こうで耀は待っていたのか

それを聞いた大助はいてもたってもいられなくなり

今さっき空いた耀の手を握り

 

 

「そういうことならどこかお店に入ろう。」

 

「………うん。」

 

 

どういうことか、さっきまで勢いよく食べていたのが

大助がお店を見つけ入店するまで

片手に持っていた唐揚げには手をつけなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませ♪」

 

 

大助が決めたお店は言わばバイキング的な所

女の子との食事でバイキングなど普通はあり得ないが

耀の食べっぷりを見たらここ以外はお財布がヤバイ

それでもどんな風に思っているか気になって隣を見ると

表情はほとんど変わらずなのだが、キラキラと瞳は輝いていた

 

この箱庭に来てから、コミュニティに入ってから

どうやら満足にご飯を食べていなかった耀

もちろん大助達と同じ量、それ以上なのだが

それでも満足になるまで食べたことはなかったらしい

そんなことを三毛猫と喋ていたこと思い出したのだ

 

 

ちなみに今回三毛猫は一緒ではない。

例のカフェの猫耳店員とデートらしいのだが、

 

 

 

(よく考えたらこれって、デートなのか…)

 

 

よく考えなくてもデートなのだが、

洗脳するかのように「埋め合わせ」とした頭になく

いまになってやっと気づいた大助

 

それに気づいた途端に顔が熱くなるのが分かる

女の子と話す機会もなかった大助がデートなどと

そんなイベントを起こしたことがなかったためか

いまになって物凄く緊張してきたのだ

 

 

 

「一時間半食べ放題……早く食べよう。」

 

「ひゃい!!

…う、うん……そうしよう…」

 

 

「顔が赤いけど、大丈夫??」

 

「あ、あぁ、気にしないで…

少ししたら治るはずだから」

 

 

それ以上詮索せずお店の3分の1を占める料理を前に

溢れる出るヨダレを必死に飲み込む耀

一方大助は未だに緊張がとれないのか

辺りをキョロキョロしている

 

それを見掛けた店員の一人がこちらに近づき

 

 

 

「いらっしゃいませ。

本日はどのようなコースになさいますか??」

 

「コース??

これ全部食べるコースがいい」

 

 

「それでしたらギフトゲームとなりますが」

 

「「ギフトゲーム??」」

 

 

 

そこで正気に戻った大助は耀と同じ台詞をいう

店員は説明をしようとこのお店のメニューボードを見せる

そこには「男なら肉だあぁ!!コース」「体に優しいサラダコース

「甘いものは別腹よ♪スイーツコース」と

その他グループ分けされたコースと通常のメニューがあり

最後に「お店赤字覚悟のバラエティーコース(無料、時間無制限)」と

でっかい文字で書かれていた

 

だがこのバラエティーコースは他のとは違い

店員さんとのギフトゲームに勝てば無料の時間無制限

しかし負ければメニューボードに全コースの合計金額と

その金額の3倍した金額の支払いをしないといけない

そして払えなければ強制アルバイトが待っている

 

 

 

「どうされますか??

勝てば好きなだけ、いつでも、食べ放題です。

しかし負ければ………お分かりですよね??」

 

 

 

その金額は普通のコミュニティでも払えない

言わば負ければ強制的にアルバイト

下手したら永久に、それはコミュニティ脱退に繋がる

 

だがそんなことを恐れていてはノーネームの名に傷をつける

そしてなによりも、

 

 

 

「私はご飯のために戦う。」

 

「やっぱりやるんだね…」

 

 

お腹が空いている耀を止めることなんて無理だろう

それこそ大助の一時停止を使用しても…

こうなったら勝つしかない。

そしてすこしでも満足のいく埋め合わせをするために



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気紛れの大掃除

「これで……よし。」

 

「何していますの…って、

ずいぶんと大がかりな掃除ですね……」

 

 

 

黒ウサギがひょこっと大助の部屋を覗きこむ

そこでは部屋にある家具すべてが

天井ギリギリまで浮かんでいたのだ

その下で大助はホウキとちり取りを手に

大がかりな掃除をしていたのだ

 

 

 

「本当に大助さんのギフトは

いつ見ても驚かされます

空間掌握と一時停止を使われたんですよね」

 

「その通り。

さてと元に戻しますかね」

 

 

 

 

そういって大助は一時停止を解除して

空間掌握で家具を元の場所へ戻した

それを終えたのを確認した黒ウサギは

失礼しますと一言いって部屋に入ってきた

 

 

 

「いつきても綺麗な部屋ですね…

でもどうしてこんな大がかりな掃除を??」

 

「元いた世界では今日ぐらいが

大晦日だったなって思い出してね。

それならといま大掃除していたわけ」

 

 

 

「大晦日といいますと一年の最後の日ですよね」

 

「そう、気持ちを新たに年を向かえるために

こうして大掃除をしているわけ

まぁ、こういうのは気持ちの問題だから

とりあえず掃除しておこうかなってね」

 

 

 

「ならついでに年越し蕎麦を作ってもらおうか」

 

 

 

 

この声に振り返りたくなかったが

それをしなかったらきっとこの部屋が

メチャメチャになってしまう

ということで明らかに嫌な顔をしながら

この部屋の入り口の方へ振り向くと

 

 

 

「ならまず自分の部屋を掃除してこいよ問題児」

 

「そんなものは吹っ飛ばせば1秒もいらないぜ異常者」

 

 

 

「異常なのは十六夜さんです!!!!」

 

「アハハ、誉めるな!!!」

 

「もう黙って下さいこのおバカ様!!!!!」

 

 

 

 

黒ウサギのハリセンを喰らいながらも

全く反省の色をみせない十六夜

だが確かに大晦日の時は必ず年越し蕎麦を食べていた

何気に掃除を始めたがこうなったら

 

 

 

「ほらさっさと掃除してこいよ。

こうなったら年越し蕎麦を作ってやるから」

 

「いってみるもんだな。

なら明日のおせちと雑煮もよろしくな」

 

 

「ふざけるなっ!!!

って、人の話を聞いていけ!!!!!!」

 

 

 

善意で年越し蕎麦を作ってやるというと

十六夜のやつ、調子に乗っておせちとか

ふざけたことを言い残して去っていった

すると、大助の声を聞いて気になったのか

今度は飛鳥と耀が大助の部屋を覗きこんできた

 

 

 

「一体どうしたのかしら??」

 

「なんか十六夜が悪い笑顔になってたけど」

 

 

「………あぁ、それは……」

 

 

 

さっき起きたことを簡単に説明をする

すると二人はワクワクしたような表情で

 

 

 

「そういうことならおせちと雑煮は私に任せて」

 

「黒ウサギも手伝います」

 

 

「それじゃ私は大助の手伝いする」

 

「よろしく。」

 

 

 

 

「ふふふ、楽しみだわ。

堅苦しい生活の中で規則に縛られた状態だったから

お祝い事らしいことを楽しんだことがなかったのよね」

 

 

「そうです、ノーネーム全体で

年末年始、大晦日お正月が楽しむことにしましょう♪」

 

 

「思い付きでやっただけなのに…」

 

 

 

 

まさかこんなことになるなんて…

とは、喜んでいる黒ウサギ達をみていうことは

さすがに出来なかっ………

 

 

ズドーン!!ガッシャン!!!!!!

 

 

何かが爆発もしくは吹き飛んだような音と振動が

屋敷全体に響き渡った

そして次に聞こえてきたのは

このノーネームの我らがリーダーの大声

 

 

 

「な、なにやってるんですか十六夜さん!!!!!

どうして部屋を吹き飛ばしてるんですか!!!??

……………………………

………ちょっ、ちょっと待って下さい!!!

そっちは僕の部屋が……ダメですうううぅぅ!!!!!」

 

 

 

再び爆発のような音と振動が聞こえてきた

それを聞いた黒ウサギはワナワナと震え

髪の色をピンク色に染め上げて

 

 

 

「何やってるんですかあのお馬鹿様は!!!!!!!!」

 

 

 

鬼のような表情で大助の部屋から飛び出した

そして飛鳥と耀はなにもなかったように

準備をしましょうと部屋を出て

大助だけが部屋に取り残された

 

 

 

「……つまり、また壊れのを直せというのか……」

 

 

 

深いため息をついた大助は

重い足をゆっくりと動かしながら

十六夜が壊した部屋を修復に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に反省してるのかオイ」

 

「してるしてる。」

 

 

「だったら蕎麦を食べている手を止めろ!!」

 

 

 

 

余計な仕事をした後、耀と二人で蕎麦を打ち

黒ウサギと飛鳥でおせちを作りあげた

夜になり年越し蕎麦を湯がいていたのだが

壊すだけ壊して逃亡していた十六夜が我先にと

自分の分をついで食べ始めたのだ

 

なので昼間のことについて説教をしようとしたが

全く聞く耳持たず、ずるずると蕎麦を食べている

 

 

 

「大助、俺だってさすがにやり過ぎたと反省してる」

 

「……本当に??」

 

 

 

「あぁ、明日になれば分かる」

 

「………おい、何企んでるんだ問題児。」

 

「まぁ、おもしろいことだ異常者。」

 

 

 

十六夜の企みはまともに終わった試しがない

しかしこれ以上追求しても話さないことも知ってる

どうせ面倒事が待っていると割りきり

全員分の蕎麦を器に移して

空間掌握で屋敷全体に聞こえるように

 

 

 

「年越し蕎麦ができましたよ~」

 

「本当に便利だなお前のギフト

これからは「便利屋大助」と呼ぶか」

 

 

「ケンカ売ってるよな!?

本当にいい加減にしろよこの問題児!!!!」

 

 

 

ちなみに、空間掌握を解除してなかったので

この会話は屋敷全体にみんなに聞かれてしまった



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神様にお願い事をするときは。

翌日、ノーネームでは新年・お正月を迎えた

といっても大助の気紛れによる大掃除から

十六夜が話を広げて黒ウサギ達により実現した

ただいま大助一人でおせち料理をテーブルに並べている

 

 

 

 

「これで……よしっと」

 

 

 

昨日というより今日の12時過ぎまで

おせち料理を作っていた大助は

あくびをしながら仲間が来るのを待っている

ちなみに十六夜は蕎麦を食べたらさっさと部屋に戻り

朝早くから何処かに出掛けたようだ

 

 

 

「十六夜のやつ、なに考えんだ…」

 

 

 

こうして近くに十六夜がいないだけで

頭を悩ませるなんて本当に問題児であると思い

同時にそれに慣れてきている自分が怖いと思った

まぁ、人間関係をぐちゃぐちゃにするよりは

物を壊したりしてもらった方がいいなどと

最近そんなことを考えてしまっているからだ

 

 

こんなことを新年そうそう考えていると、

 

 

 

 

「大助さんー、お待たせしました♪」

 

 

 

 

部屋に入ってきたのはノーネームの女性陣

それも全員が着物を着ていた

黒ウサギはオレンジ色をメインとしたもの

飛鳥はやはりというか赤を主張したもの

耀は黄色で白いラインが入っている

レティシアは黒で大人な雰囲気があり

リリは白と水色の可愛らしいものである

 

 

これには思わず見いってしまい

少し間を空けてから

 

 

 

「みんなとても似合っているよ」

 

 

「ありがとうございます♪」

「黒ウサギ…キツすぎ……」

「帯を締めすぎましたか、後でやり直しましょう」

「ふふ、私はとても気に入ったわ♪」

「たまにはこういうのも悪くない」

 

 

 

どうやら昨日、これもまた十六夜の思い付きのようで

せっかくだから着物を着たらどうだと、

黒ウサギ達に話したことを

以前に白夜叉から貰った(押し付けられた)着物が

クローゼットの奧にあるということで

大助よりも早い時間から

着物を着るために起きていたようだ

 

 

飛鳥や黒ウサギのように髪の長いものは

頭部に一纏めにして簪をさしている

耀はふわふわのストールのようなものを首に巻いている

 

 

 

 

「そうだ、言うのを遅れたけど

新年明けましておめでとうございます。」

 

「「「「「おめでとうございます。」」」」」

 

 

 

 

なんか本当にお正月を迎えたような気分になっていると

ふらふらと何処かにいっていた十六夜が帰ってきた

手には何かを持っているようだが

袋に入っていて中身が分からない

 

 

 

 

「全員揃ってるな」

 

「十六夜さん、何処かに行かれていたんですか??」

 

 

「ちょっとな、それよりおせちを食ったら出掛けるぞ

着物は着たままだからな」

 

「出掛けるってどこにいくの??」

 

 

 

「……私、早く脱ぎたい…」

 

「ちょっ、ちょっと耀さん!!ここではダメです!!!!

向こうで締め直しますからこちらに来てください!!!」

 

 

 

「お正月といったら「お参り」しないといけないだろう」

 

「…………うわぁー、すごく嫌な予感がする……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、「神様」にお参りさせろやコラッ」

 

「…………………………。」

 

 

 

「そんな憐れむような目で見ないで下さい!!!」

 

 

 

 

十六夜に連れられ来たのはサウザンドアイズの支店

そして十六夜のいう「神様」というのが白夜叉

つまりは着物を着た女性陣を引き連れて

白夜叉にお参りさせろという

なんとも訳の分からないことをしているのだ

 

これには割烹着の女性店員も言葉を無くし

ただただ見ているしかなかった

 

 

 

「……すみません……」

 

「謝るくらいならなぜ来たのですか??

これでも私はあなたぐらいは

この人達よりも僅かに常識人だと思ってましたが…」

 

 

 

「なんというか…原因を作ったのが僕なので

どうにも完全否定できないといいますか…」

 

「………帰ってください。」

 

「そんな壊れかけの物が動き出したと思ったら

やっぱり動かなかった時の

使えないなーというような表情と

凍てつくような声で言わないで下さい!!!」

 

 

 

 

もう泣きそうだ……

この人がこういう人だと分かっていたが

今日は全面的にこっちが悪いのだが

そんな態度を取られるとキツい…

 

 

 

「ちゃんと神様にお供え物も持ってきてるんだ。

ちょっとくらい会わせてもらってもいいじゃねえか??」

 

「そういう問題ではありません。

あまりウチの主人を軽………」

 

 

「お供え物よこせえええぇぇぇ!!!!!」

 

 

 

酒飲み酔っぱらいで頬を赤くして

酒瓶と升を手にして黒ウサギに突撃してきた

キャアアァァァと悲鳴を上げながら

絡まってくる白夜叉を引き剥がそうと抵抗するが

酔っぱらって力を制御できないのか

全然離れる気配がないのだ

 

 

 

「えーと……あれは……」

 

「なにも言わないで下さい…」

 

 

 

本当にお互いに大変だな…問題児がいると……

そうしみじみに思った大助は

はぁと軽くため息をついた後に白夜叉の元へいき

 

 

 

「白夜叉、後でちゃんとお供え物するから

いまは黒ウサギから離れてくれないかな」

 

「そ、そうか…ならそうするかの。」

 

 

 

お供え物に心が動いたのか

それともただ酔っぱらっているためか

まぁここで離れてくれたからよかっ…

 

 

 

「あっ、白夜叉のお供え物は黒ウサギだぞ」

 

「おい、十六夜!!!!」

 

「ちょっとお待ちを!!

お供え物はこの重箱だったので……」

 

 

「それでは早速いただきます~!!!!!!」

「ぎゃああああぁぁぁ!!!!!!」

 

 

 

 

それを光景を眺めているノーネーム一同は

神様(白夜叉)に二礼二拍手一礼をした

それを端っこから見ていた大助は

諦めたのかみんなと一緒に同じように

二礼二拍手一礼をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん酷すぎです!!!!

どうして黒ウサギが

お供え物にならないといけないんですか!!!!!」

 

「白夜叉にはこれが一番だろうが」

 

 

「それに私に白夜叉様の相手を押し付けて

皆さんは凧揚げや羽根つきや……

私もしたかったです!!!!」

 

 

 

 

屋敷に戻ってきても未だに怒っている黒ウサギ

正直、酔っぱらっている白夜叉を相手するのは嫌だ

ということで黒ウサギには悪いと思ったけど

こちらは白夜叉が眠るまで正月らしい遊びをしていた

 

 

 

「それじゃ、もうひとつ正月らしいことを」

 

 

 

そういって大助は黒ウサギの手を取り

その手に小さな小袋を渡した

 

 

 

 

「こ、これは……」

 

「お年玉だよ

まぁ、お金は入ってないんだけどね」

 

 

 

そういわれ気になった黒ウサギは

小袋を入り口を下に向けて

もう片方の手で中身を受け取った

それは折り畳んだ紙であり

中身を見ようとしたとき

 

 

 

「あっ、ダメ黒ウサギ!!!

中身は一人で見てね」

 

「は、はい…分かりました。」

 

 

 

「ほう、ラブレターか?」

 

 

 

大助と黒ウサギの間にいきなり十六夜が現れ

いきなり訳の分からないことをいいだした

 

 

 

「何言ってるんだこの問題児!!!」

「おお、焦ってるところをみると…」

「ふざけるな!!!!」

 

 

「き、気持ちは嬉しいですが…///」

「ちょっ、ちょっとなに真に受けてるの!!?」

 

 

「男の子ならはっきりと責任を取らないとね」

「久遠さん??本当に何言ってるの??

ここは助けてくれるところじゃないの!!?」

 

 

「……………………。」

「か、春日部さん……

なんでそんな最低なものを見るような目で見るの??

ちょ、ちょっとお願いだから

僕の話を聞いてよおおおおぉぉぉ!!!!!!!」



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魔王襲来のお知らせ?
北からの招待状


時は過ぎ一ヶ月、ここの暮らしにもなれてきた頃

さて今日は何をしようかな~と考えながら

部屋を出ようとしたとき

トントンとノックの音がして

 

 

「大助君、起きてるかしら。」

 

「起きてますよ。」

 

 

扉を開けるとそこには久遠 飛鳥と春日部 耀がいた

朝早くから女性二人の顔を見れるなんて

昔の僕じゃ考えられなかったな…

 

 

「おはよう、大助」

 

「おはよう、春日部さん」

 

 

「私もいるのだけど、まぁいいわ。

大助君、ちょっとこれを見てもらえるかしら?」

 

 

 

ちょっと不機嫌な飛鳥から受け取ったのは一枚の手紙

その封蠟には向かい合う双女神の紋、

゙サウザンドアイズ゙の旗印が刻まれている

 

 

「これって白夜叉から?」

 

「えぇ、中身を見たらとても面白そうなことが書いてあったわ」

 

 

そういわれて中身を読んでみることに

それを読むや否や大助の表情がニヤリと変わり

 

 

「へぇ、僕こういうの大好きなんだよ。

これ十六夜には見せたの?? 」

 

「いまから。」

 

「きっと十六夜君も乗ってくれるわ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「十六夜君! 何処にいるの!?」

 

「………うん?

ああ、お嬢様か………――――」

 

 

屋敷の中を探し回りやっとやっと見つけた場所は書庫

そこではグッスリと寝ているジンと

うつらうつら頭を揺らして二度寝をしようとする十六夜

飛鳥は散乱した本を踏み台に、

十六夜の側頭部へ跳び膝蹴り――

――別名・シャイニングウィザードで強襲。

 

 

「起きなさい!」

 

「させるか!」

 

「クボハァ!?」

 

 

飛鳥の蹴りは、盾にされたジンの側頭部を見事に強襲

寝起きに襲われたジンは三回転半して見事に吹き飛んだ。

 

 

「君達二人は少しはおとなしく話し合いができないのか?」

 

「「むり。」」

 

「哀れなり、ジン。」

 

 

耀と一緒に合掌する大助

ジンを吹っ飛ばした飛鳥は特に気にも留めず、

腰にてを当てて叫ぶ。

 

 

「十六夜君、ジン君! 緊急事態よ!

二度寝している場合じゃないわ!」

 

「そうかい。それは嬉しいが、

側頭部にシャイニングウィザードはやめとけお嬢様

俺は頑丈だから兎も角、御チビの場合は命に関わ」

「って僕を盾に使ったのは十六夜さんでしょう!?」

 

 

ガバッ!!

と本の山から起き上がるジン。

どうやら生きていたらしい。

 

 

「大丈夫よ。

だってほら、生きてるじゃない」

 

「デッドオアアライブ!?

というか生きていても致命です!!

飛鳥さんはもう少しオブラートにと黒ウサギからも散々」

「御チビも五月蝿い」

 

 

スコーン!

っと、十六夜が投げた本の角がジンの頭にクリティカルヒットし

先ほど以上の速度で後ろに吹き飛び失神

これには可哀想だと素直に感じる大助だが

まぁ、途中から一緒に付いてきたリリが

変わりにジンを看病しているようだからスルーしよう

 

 

「…………それで?

人の快眠を邪魔したんだから、

相応のプレゼントがあるんだよな?」

 

「いいからコレを読みなさい。絶対に喜ぶから」

 

「うん?」

 

 

不機嫌な表情のまま、開封された招待状に目を通す十六夜

 

 

「双女神の封蠟……白夜叉からか? あー何々?

北と東の゙階層支配者゙による共同祭典――

―――゙火龍誕生祭゙の招待状?」

 

 

「そう。よく分からないけど、きっと凄いお祭りだわ。

十六夜君もワクワクするでしょう?」

 

 

何故か自慢げな飛鳥に、プルプルと腕を震わせて叫ぶ十六夜

 

 

 

「オイ、ふざけんなよお嬢様。

こんなクソくらだないことで快眠中にも関わらず

俺は側頭部をシャイニングウィザードで襲われたのか!?

しかもなんだよこの祭典のラインナップ!?

『北側の鬼種や精霊達が作り出した美術工芸品の展覧会及び批評会に加え、

様々な『主催者』がギフトゲームを開催。

メインは『階層支配者』が主催する大祭を予定しております』だと!?

クソが、少し面白そうじゃねえか行ってみようかなオイ♪」

 

 

「ノリノリね。」

 

 

 

ノリノリだな、本当に。

だけどそれは自分もそうだ。

特に美術工芸品の展覧会がいい!!

かなり行きたい、超行ってみたい!!!

 

そんな気持ちが表情として出たのか、

 

 

 

「楽しそうだね」

 

「早く行きたい、超行きたい!!」

 

 

「珍しいなお前がそんな表情するなんてよ。」

 

「それじゃ決定ね。」

 

 

 

肝を冷やしながら見ていたリリは、血相まで変えて呼び止める。

 

 

 

「ま、ままま、待ってください皆さん!

北側に行くとしても黒ウサギのお姉ちゃんに相談してからじゃないと!

……ほ、ほら、ジン君も起きてよ!

皆さんが北側に言っちゃいますよ!?」

 

 

リリは十六夜と飛鳥の気迫に少し呆然としていたが、

何とか意識を戻して必死に彼らを止める。

 

 

「……北………って北側!?

ちょ、 ちょっと待ってください!

北側に行くって、本気ですか!?」

 

「ああ、そうだが?」

 

 

「何処にそんな蓄えがあるというのですか!?

此処から境界壁までどれだけの距離があると思ってるのですか!?

リリも、大祭の事はあれほど秘密にと─────」

 

 

「「「「秘密?」」」」

 

 

重なる四人の疑問符とギクリと硬直するジン

ちゃんとその言葉をしっかりと聞いてしまった。

邪悪な笑みと怒りのオーラを放つ

耀・飛鳥・十六夜・大助

 

 

「…………そっか。

こんな面白そうなお祭りを秘密にされてたんだ、私達。ぐすん」

 

「コミュニティを盛り上げようと

毎日毎日頑張ってるのに、とても残念だわ。ぐずん」

 

「ここらで一つ、黒ウサギたちには

痛い目を見てもらうのも大事かもな。ぐすん」

 

「てか、こんな楽しい事を隠し事なんて悲しすぎるよ。ぐすん

本当に本当に悲しいよ、ぐすん。

ということで早速見てもらおうかな

案内よろしくジン君。ぐすん」

 

 

 

問題児三人の歯止めになるかもしれない大助が

まさか向こう側に荷担するなんて…

哀れなジンは拉致されるような形で

北の境界壁を目指すことに



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お話しタイム。

一方、農園跡地で黒ウサギとレティシアが

丁度北側の祭典について話していたとき

慌てた様子でリリが手紙を持ってきたのだが、

 

 

 

『黒ウサギへ。

北側の四○○○○○○外門と東側の三九九九九九九外門で

開催する祭典に参加してきます。

貴女もあとから必ず来ること。あ、あと、レティシアもね。

私達に祭りの事を意図的に黙っていた罰として、

今日中に私達を捕まえられなかった場合

「四人ともコミュニティを脱退します。」

死ぬ気で探してね。応援してるわ。

P.S.ジン君は道案内に連れていきます』

 

 

 

リリから手紙を受け取った黒ウサギは、

 

 

 

「…………………………、」

「…………………………?」

「………………………!?」

 

 

たっぷり黙りこむこと30秒。

手紙を持つ手をワナワナと震わせながら、

悲鳴のような声をあげた。

 

 

「な、―――――…何をいっちゃってんですか

あの問題児様方ああああ―――――!!!」

 

 

 

黒ウサギの絶叫が一帯に響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リリに手紙を預けたあと四人は

ぺリベット通りの゙六本傷゙の旗印を掲げるカフェを陣取ったのだが

そこである問題にぶつかってしまった

北側の境界壁までの距離

ジンが言うには箱庭の世界は恒星級の表面積だという

それはどれだけかよく分からず具体的に聞いてみると

 

 

「此処は少し北寄りなので、大雑把でいいなら…

…………980000kmぐらいかと」

「「「「うわお」」」」

 

 

 

それにはさすがに遠い。

まぁ、「自分の時間を掛けずに」行く方法はあるが

どっちにしても現実時間は掛かるから意味がない

さてどうしようかと思ったときジンが

 

 

「今なら笑い話ですみますから…

……皆さんも、もう戻りませんか?」

 

 

「断固拒否」

「右に同じ」

「以下同文」

「一蓮托生」

 

 

ガクリ、と肩を落とすジン。

四人は勢いよく立ち上がり、ジンのローブを掴んで走り出す

 

 

「黒ウサギ達にあんな手紙を残して引けるもんですか!

行くわよ三人とも!」

 

「おう! こうなったらダメで元々!

゙サウザンドアイズ゙へ交渉に行くぞゴラァ!」

 

「行くぞコラ」

 

「ヨッシャ!!行くぞ!!!!」

 

 

ヤハハと自棄気味にハイテンションな十六夜と飛鳥

その場のノリで声を出す耀と、行く気満々な大助

もう止められないと諦めかけているジン

 

ぺリベット通りを走り抜け

゙サウザンドアイズ゙の支店の前で止まる

店前では竹箒で掃除をしていた

割烹着の女性店員に一礼され、

 

 

「お帰りください。」

「まだ何も言ってないでしょう?」

 

 

門前払いを受けた。

大助が前に来たときもこんな感じで嫌われていたが

 

 

「あの、白夜叉いませんか?」

 

「貴方もいましたか。

オーナーが入るときなら貴方ぐらいは…」

「やっふおおおおおおお!

ようやく来おったな小僧どもおおおおおお!」

 

 

何処から叫んだのか、

和装で白髪の少女が空の彼方から降ってきて

空中でスーパーアクセルを見せつけつつ荒々しく着地

ズドォン! と地響きと土煙を舞い上がらせて登場した白夜叉

十六夜は土煙を払いながら、呆れたように女性店員に言う。

 

 

「ぶっ飛んで現れなきゃ気がすまねえのか、此処のオーナーは」

「…………………………、」

 

 

この前はこんなことはなかったが

もしこんな風に現れたら、帰っていたかもな……

すると飛鳥が大助の服を引っ張り

 

 

「ちょっとどういうことかしら?」

「な、なにが?」

 

「私達にはお店に入れようとしなかったあの人が

どうして貴方だけは入れようとしたのかしら??」

 

「それ、私も聞きたい。」

 

 

そこで耀も話に乗ってくる

特に何もしていないのに何故?

 

 

「それを僕に聞かれても……」

 

「なら直接貴女に聞くわ。

どうして彼だけは入店を許したの??」

 

「貴女方と違うからです。」

 

 

 

素っ気なく言い終わった女性店員は

また店前の掃除に戻った

その言葉に飛鳥と耀は大助を睨む

 

 

「すみません、具体的にお願いします…」

「それこそ自分で思い出してください。

ただ私にとって貴方は「初めて」だったということです。」

 

 

その言葉に飛鳥と耀は固まった。

大助もその言葉がどういう意味でとらえたのか分かったようで

 

 

「ちょっ、ちょっと!!!!

未だにどんなことだったか分からないけど

言い方ってものがありますよね!!!!!!」

 

「あんなことしておいてそんなことを言えますか??」

 

「だから含みのある言い方しかできないの!!!」

 

 

これはヤバイ!!

すぐにでも思い出すか、女性店員にいってもらわないと!

と、思っていたのだがすでに遅し

 

 

「大助君、ちょっといいかしら?

向こうで「お話し」をしましょう」

 

「じっくりと話さないとね。」

 

「い、や、ちょっ、まっ…」

 

 

有無も言わさず飛鳥と耀は大助の腕をつかみ

先にお店の中へ入っていった

そしてその後、なにか悲鳴らしきものが聞こえたが

 

 

「なかなかやるようになったの~」

「私はそんなつもりはありません。」

 

「大助がいると本当に面白いな!!」

 

 

こんなやり取りのなかジンは一人、

大助の無事を祈りながら終わるのを待った



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その方が面白い

ノーネーム一行は店内を通らず中庭から白夜叉の座敷に招かれた

白夜叉は上座に立てられた屏風の前に座り、

カン! と煙管の灰を落とし、

 

 

「大丈夫か、小僧。」

 

「……えぇ、なんとか……」

 

 

大助はそう答えるが見た目ではボロボロ

両隣に座っている女性陣は、

 

 

「誤解を生んだ大助君が悪いわ」

 

「その通り。」

 

「…………すみません…」

 

 

実際は勘違いをした二人なのだが認めるわけもなく

そんなことをいったらまた恐怖が始まると

もう抵抗しないことにした大助だった

 

 

「それでは本題に入る前にまず、一つ問いたい。

゙フォレス・ガロ゙の一件以降、

あんしらが魔王に関するトラブルを

引き受けるとの噂があるそうだが………真か?」

 

「ああ、その話?

それなら本当よ」

 

 

飛鳥が正座したまま首肯する。

白夜叉が小さく頷くと、視線をジンに移す。

 

 

「ジンよ。

それはコミュニティのトップとしての方針か?」

 

「はい。

名と旗印を奪われたコミュニティの存在を手早く広めるには、

これが一番いい方法だと思いました。」

 

 

ジンの返答に、白夜叉は鋭い視線で返す。

 

 

「リスクは承知の上なのだな?

そのような噂は、同時に魔王を引きつけることにもなるぞ」

 

「覚悟の上です。

それに仇の魔王からシンボルを取り戻そうにも、

今の組織力では上層にいけません。

決闘に出向く事が出来ないなら、

誘きだして迎え撃つしかありません」

 

 

「無関係な魔王と敵対するやもしれん。それでもか?」

 

 

上座から前傾に身を乗り出し、更に切り込む白夜叉

その問いに、傍で控えていた十六夜が不適な笑みで答える

 

 

「それこそ望むところだ。

倒した魔王を隷属させ、より強力な魔王に挑む

゙打倒魔王゙を掲げたコミュニティ――どうだ?

修羅神仏の集う箱庭の世界でも、

こんなにカッコいいコミュニティは他には無いだろう?」

 

「…………ふむ」

 

 

 

茶化して笑う十六夜だが、その瞳は相も変わらず笑っていない

白夜叉は二人の言い分を噛み砕く様に瞳を閉じる。

しばし瞑想したあと、呆れた笑みを唇に浮かべた。

 

 

「そこまで考えてのことならば良い。

さて、゙打倒魔王゙を掲げたコミュニティに、

東のフロアマスターから正式な頼みたいことがある。

此度の共同祭典についてだ。よろしいかな、ジン殿?」

 

「は、はい!

慎んで承ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「サ、サンドラが!?

え、ちょ、ちょっと待ってください!

彼女はまだ十一歳ですよ!?」

 

 

その後、北のフロアマスターの一角が世代交代したこと

それがノーネームと親交があっだサラマンドラ゙だったこと

トドメに頭首はジンと同じ年のサンドラが火龍を襲名した

 

 

「あら、ジン君だって十一歳で私達のリーダーじゃない」

 

「そ、それはそうですけど……! いえ、だけど、」

 

「なんだ、まさか御チビの恋人か?」

 

「凄いなジン…僕なんてまだ作ったことないのに……」

 

「ち、違っ、違います!

失礼な事を言うのは止めてください!!」

 

 

ヤハハと茶化す十六夜と飛鳥

軽くショックを受ける大助

怒鳴り返すジン

全く関心のない耀は

 

 

「それで?

私達に何をしてほしいの?」

 

「そう急かすな。

実は今回の誕生祭だが、北の次代マスターである

サンドラの御披露目も兼ねておる。

しかしその幼さゆえ、東のマスターである

私に共同の主催者を依頼してきたのだ。」

 

「あら、それはおかしな話ね。

北には他にもマスター達が居るのでしょう?

ならそのコミュニティにお願いして共同主催すればいい話じゃない?」

 

「…………うむ。

まあ、そうなのだがの」

 

 

急に歯切れが悪くなる白夜叉に

十六夜が隣から助け船をだした

 

 

「幼い権力者をよく思わない組織がある。

―――とか、在り来たりにそんなところだろ?」

 

「ん――…………ま、そんなところだ。」

 

「………そう。

神仏の集う箱庭の長達でも、思考回路は人間並みなのね」

 

「うう、手厳しい。だが全くもってその通りだ。

実は東のマスターである私に共同祭典の話を

持ちかけてきたのも様々な事情があってのことなのだ」

 

「大変なんだなマスターってのも…」

 

 

すると耀がハッと気がついたような仕草で

 

 

「ちょっと待って。

その話、まだ長くなる。」

 

「ん、んん、そうだな。

短くともあと一時間程度はかかるかの?」

 

「それはまずいかも……

黒ウサギ達に追い付かれる」

 

 

ハッと他の者たちも気づく

今は黒ウサギ達と追いかけっこの最中なのだ

気づいたジンは咄嗟に立ち上がり、

 

 

「し、白夜叉様! どうかこのまま、」

 

「ジン君、黙りなさい!!」

 

 

飛鳥の支配する力で黙らせられたジン

すかさず十六夜が

 

 

「白夜叉! 今すぐ北側に向かってくれ!」

 

「む、むぅ?

別に構わんが、なにか急用か?

というか、内容聞かず受諾してよいのか?」

 

「構わねえから早く! 事情は追々話すし何より――

――その方が面白い! 俺が保証する!」

 

 

十六夜の言い分に白夜叉は瞳を丸くし、

呵々と哄笑を上げて頷いた

 

 

「そうか。面白いか。いやいや、それは大事だ!

娯楽こそ我々神仏の生きる糧なのだからな。

ジンには悪いが、面白いならば仕方ないのぅ?」

 

 

白夜叉は両手を前に出し、パンパンと柏手を打つ

 

 

「―――うむ。これでよし。

これで御望み通り、北側に着いたぞ」

 

「「「「――――…………は?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人は支店から外に飛び出してみると熱風が頬を撫ぜる。

まず目に飛び込んできたのは北と東を区切る赤壁。

数多の巨大なランプが炎を灯し、

挙句キャンドルが二足歩行で街を闊歩しているのが見える。

炎とガラス。 常に黄昏色に染まる街。

東とはまるで違う文化様式に大いに心躍らせた。

中でも特に瞳を輝かせた飛鳥が子供のように声を弾ませた。

 

 

 

「今すぐ降りましょう。

あのガラスの歩廊にいってみたいわ!

いいでしょう白夜叉?」

 

「ああ、構わんよ。

続きは夜にでもしよう。

暇があればこのギフトゲームにも参加していけ」

 

 

ゴソゴソと着物の袖から取り出したゲームのチラシ

四人がチラシを覗き込むと、

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ィつけた――――のですよおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 



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黒ウサギ、問題児と追いかけっこ

「ふ、ふふ、フフフフ……

……ようぉぉぉやく見つけたのですよぉ?

お覚悟は出来てますよねぇ …………!!」

 

 

淡い緋色の髪を戦慄かせ、怒りのオーラを振りまく黒ウサギ

まさかこんなにも早く追い付かれるとは思っていなかった

危機感を覚えた十六夜はとっさに

 

 

「逃げるぞッ!!」

 

「逃がすかぁッ!!」

 

 

 

十六夜は近くに居た飛鳥を抱え展望台から飛び降りる。

それに続くように耀も飛び出すが、数手遅かった。

黒ウサギも同時に飛び出し耀を捕まえたのだ

 

 

「わ、わわ……!」

 

「……耀さん、捕まえたのです!

もう逃がしません!!!」

 

 

どこかぶっ壊れ気味に笑う黒ウサギ

耀を引き寄せ、胸の中で強くだきしめ

黒ウサギは耀の耳元で囁く

 

 

「後デタァップリト御説教デスカラネェ?

フフフ……オカクゴシテイテクダサイネ♪」

 

「りょ、了解」

 

 

反論を許さない片言になっていく黒ウサギに

耀は怯えながら頷く

今日の黒ウサギは普段よりバイオレンスだと、

野生の直感が見抜いたのだろう

 

着地した黒ウサギは、

白夜叉に向けて思いっきり耀を投げた。

 

 

「きゃ!」

 

「グハァッ!?お、おいコラ黒ウサギ!

最近おんしは些か礼儀を欠いておらんか!?

これでも私は東のフロアマスター─────」

 

「白夜叉様、耀サンヲ御願イシます!

黒ウサギは残りの御三方を捕まえに参りますので!!」

 

「ぬっ…………そ、そうか。

よ、よく分からぬが頑張るのだぞ」

 

「はい!」

 

 

 

黒ウサギは十六夜を追いかけるために大きく跳躍した

それを見送る白夜叉と耀だが、そこでフッと気づいた

 

 

「そういえば白夜叉。

大助はどこに逃げたの?」

 

「うむ。そういえば…音もなく消えよったな

さすが奴のギフトを所持しているだけのことはある」

 

 

それは耀も知っている

あの出来事があったあと大助から話を聞いた

所持しているギフトは本人も物ではなく

精霊クロノスのギフトだということ

そしてそのギフトにより随分と苦しめられたこと

だけど今はそのギフトに助けれていること

 

 

 

「なんじゃ、小僧となにかあったか?」

 

「別になにも」

 

 

 

「ふふふ、それならいいが。

それはそうと、お主に参加してもらいたい

ギフトゲームがあるのだが……」

 

「ギフトゲーム?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十六夜と飛鳥は煉瓦とカットガラスで

彩られた赤窓の歩廊を歩いていた

そこではテクタイト結晶で彫像された

初代頭首゙星海龍王゙のモニュメント

さらに二足歩行のキャンドルスタンドに浮かぶランタン

 

飛鳥の世界ではハロウィンは珍しく素敵な催しも

それは憧れといえるものだろう

息苦しい生活とは反対であるものに

 

そこで十六夜が提案したのは

ノーネームによる「俺達のハロウィン」を主催すること

農園を復活させてノーネームとして

初めて主催者をするギフトゲームをハロウィンにする

そうすればコミュニティも大助かりであり

なにより白夜叉に対して借りが返せる

 

ハロウィンは元々、太陽に一年の感謝をする収穫祭

太陽に感謝するならお礼をするには打ってつけ

白夜叉には十六夜達だけではなく

黒ウサギ達も随分と世話になっているらしい

ともすれば、彼女がいなければ飛鳥達は

箱庭に来ることだってなかったかもしれない

 

彼女達には感謝する理由が山ほどある。

飛鳥は納得したように微笑んだ。

 

 

 

「そうね。何時かお礼するために、

白夜叉を招くのに相応しい主催者を目指しましょう」

 

「とはいえ、今はまだ無理だけどな。

ますは色々なギフトゲームに勝たないと」

 

「もちろん。こんな大きなお祭りなんだもの。

凄いギフトが貰えるゲームがあるはずよ」

 

「YES! 祭典では創作系のギフトを競い合う

二大ギフトゲームが進行中なのですよ!」

 

「創作系?

何か作るの?」

 

「はいな。

耀さんが持づ生命の目録゙のように

人造・霊造・神造・星造を問わず、

様々な創作系ギフトを持つ者達が参加できる

ギフトゲームなのでごさいます♪」

 

「へえ?

よく分からんが、凄いギフトが貰えるのか?」

 

「それはもう!

新たにフロアマスターとなったサンドラ様から

直々に恩恵を与えられるとなれば、

よっぽどのものでございますよ!」

 

「そう。

なら春日部さんに連絡して出場してもらおうかな。

伝言お願いね、黒ウサギ」

 

「YES! 任されたのですよ♪

それではそれでは御二人様!

今から向かうので黒ウサギニオトナシク捕マッテクレマスヨネ?」

 

 

壮絶な笑顔で問う黒ウサギ。二人は即答した。

 

 

「「断る!」」

 

 

瞬間、十六夜が歩廊にクレーターをつくる脚力でスタートダッシュ

飛鳥は反対方向に逃げていくが、

空から舞い降りた金髪メイド服の吸血鬼、

レティシアに飛び付かれて捕まる

 

 

「きゃ!」

 

「フフ。観念してもらうぞ飛鳥」

 

 

黒い翼を畳み、微笑しながらブラブラと抱き付くレティシア

仕方なさそうに降参して両手を上げる飛鳥。

最後に一声、十六夜に向かって叫んだ

 

 

「十六夜君! 貴方が最後の一人よ!

簡単に捕まったら許さないわ!」

 

「了解、任せとけお嬢様!」

 

 

ヤハハハハハハ!

と叫びながら赤窓の歩廊を走り抜ける。

しかし黒ウサギも負けてはいない

箱庭の貴族と呼び称される彼女の身体能力は

並の神仏ですらもて余すほどなのだ

 

 

「逃がさないのですッ!!

まだ大助さんを見つけていないのでおとなしく」

「誰が捕まるか!!」

 

「もう! 今日という今日は堪忍袋が爆発しました!

捕まえたら黒ウサギの素敵なお説教を

長々と聞かせて差し上げるのですよ―ッ!!」

 

「ハッ、そりゃ素敵な申し出だ!

帝釈天の眷属のご説法、聞かせたいなら捕まえてみろ!」

 

 

二人は建造物の尖塔の頭部に躍り出る

下にはギャラリーが集まり

その追いかけっこの結末をみようとしていた

これでは簡単に捕まると結末は許されない

と、いうことで十六夜が提案してきたのは

 

 

「そこで提案なんだが、俺と黒ウサギだけで、

短期間の別ゲームをしないか?

そうだなあ。謝罪代わりにそっちのチップは無しでいい

こっちのチップは――ん、何がほしい?

一回分の命令権とか?」

 

 

「は―――――!?

そ………それは、駄目でございますよ、十六夜さん

十六夜さんの謝意は伝わりました。

ま、まあ、黒ウサギの頭が少々固かったことも認めます。

ですのでギフトゲームをするなら……

………それはやはり、対等の条件でなければ、と」

 

 

これには十六夜も瞳を丸くして驚いた

つまり黒ウサギも、一回分の首輪を

十六夜に賭けるというのだ

 

 

「ギフトゲームは対等の条件でのみ行われるべきです。

ペナルティーのあるゲームで得たギフトなんて貰っても

達成感は得られません。なのでやるならば正々堂々!

そして真正面から、黒ウサギは十六夜さんにお説教をするのです!」

 

「…………ハッ。

黒ウサギのくせに生意気言いやがって」

 

 

互いの自由を賭けた、対等の勝負。

それを望まれては全力で挑まざるを得ない

問題児と黒ウサギの追いかけっこは、

最終ラウンドを迎えようとしていた。



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命令権とお説教と

『ギフトゲーム名゙月の兎と十六夜の月゙

・ルール説明

・ゲーム開始のコールはコイントス。

・参加者がもう一人の参加者を、゙手のひらで゙捕まえたら決着。

・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。

宣誓 上記のルールに則り、゙黒ウサギ゙゙十六夜゙の

両名はギフトゲームを行います。』

 

 

 

二人が宣誓を交わすと、羊皮紙が一枚ずつ手元に舞い落ちる

 

 

「これはコミュニティ間の決闘ではなく、

個人の間で取引される゙契約書類゙です。

決着と同時に勝者の紙は命令権へと変化し、

敗者の紙は燃える仕組みです。」

 

「へぇ………?」

 

 

物珍しそうに羊皮紙を読み直し、ヤハハと笑う十六夜。

 

 

「いいぜ。コインが地面に着くと同時に開始だな?」

 

「YES。トスは譲るのですよ」

 

「………ふぅん?

随分と余裕そうじゃねえか」

 

「YES。

このゲームは、どう転んでも黒ウサギに有利でございますから」

 

 

そう黒ウサギには高性能なウサ耳がある

審判としてギフトゲームの情報を収集できるなら

プレイヤー時にも使用可能なら脅威になる

 

だが十六夜は臆することなくトスし、

開始のタイミングに全神経を研ぎ澄ます

 

 

――――……キン!

という金属音が響くと同時に――二人の姿はギャラリーから消え、

スタートダッシュの爆発音だけがその場に残った

 

黒ウサギは開始と同時に、全力で後方に跳躍したのだ

そして十六夜もそれが分かっていたように跳躍する

常に相手の位置や言動を把握でき、

速度がほぼ互角なら十六夜に勝ち目はない

十六夜がこのゲームに勝者するためには

゙黒ウサギを見失わない゙事だった。

 

黒ウサギは右手に見える尖塔群の中心、

巨大な時計塔に跳躍し、十六夜もそれを追う

ギャラリーは巨大な時計塔を駆け上がる

黒ウサギは瞬く間に時計塔を登りきり、

尖塔の頂上にまで辿り着く

猛追する十六夜は、不満そうに叫び声を上げた

 

 

「オイコラ黒ウサギ!

スカートの中が見えそうで見えねえぞ!

どういうことだ!?」

 

「あやや、怒るところはそこなのですか?」

 

 

黒ウサギはスカートの裾を押さえながら、

下から追ってくる十六夜に笑いかける。

実はこのガーターとミニスカート、

視覚を惑わす魔符だったりするのだ。

 

 

「フフン。

この衣装は白夜叉の好意で、

絶対に見えそうで見えないという

鉄壁ミニスカートなギフトを与えられているのでございますよ」

 

「はぁ? あの野郎、チラリストかよ。 クソが。

こうなったらスカートに頭を突っ込むしか」

 

「黙らっしゃいこのお馬鹿様!!!」

 

 

これ以上なく速攻で断じる黒ウサギ。

この男はヤルと言えば本当にやるから恐ろしい。

しかし黒ウサギは十六夜に向けてペロ、と

舌を出して悪戯っぽく笑った黒ウサギは、

右手を掲げて宣言する。

 

 

「もっとも、そんなお馬鹿なことを言えるのはそこまでです」

 

「何?」

 

「黒ウサギの勝利なのですよ。十六夜さん」

 

 

 

 

突然の勝利宣言。

黒ウサギは身体を小さく縮こませ、全身の力で超跳躍

瞳下の歩廊めがけて突撃した黒ウサギを前に

十六夜は自分の失態に気がつく

 

このままだと黒ウサギを見失う

地道に追えばその間に黒ウサギは身を隠し

10m手前や前方に飛んだとしても

その程度の距離ならタイミングを合わせられ

逆にこっちが捕まってしまう

だけど遠すぎても見失う

 

着地地点を模索検索思考連想、

瞬時に連続計算し――――

―――――そんな事は、つまらないと切り捨てた。

 

 

「………中々やるじゃねえか、黒ウサギ。

シンプルだが、お前のゲームメイクは面白いぞ

だが、此処からは俺のゲームメイクだ。

大胆素敵にほえづら掻きやがれ黒ウサギ……!!」

 

 

十六夜は身を翻し、力を溜め込む。

針金の様なしなやかさで全身を撓らせ、

足場の時計塔を――全力で蹴り飛ばした。

 

 

「…………は? え、ちょ、

ちょっと待ちなさいお馬鹿様ああああああ!?」

 

 

巨大な時計塔の頭角は無残にも瓦礫かし、

第三宇宙速度で迫る散弾の雨となって歩廊を襲う

幸い人的被害はなさそうだが

赤窓の歩廊はさながら爆撃を受けたように残骸が舞い散る

堪らず足を止めて残骸を避ける黒ウサギ

その瓦礫の陰から、ヤハハという笑い声が響く

 

 

「っ、十六夜さん…………!」

 

「射程距離だぜ、黒ウサギ」

 

 

舞い落ちる瓦礫を蹴り飛ばし十六夜が襲いかかる

しかし黒ウサギも負けずに応戦し

千手の攻防、互いが互いの攻守に全霊を尽くす

しかしそんな二人に倒壊した建物が襲う

それが二人の勝負の分かれ目

二人は同時に拳を振り上げて倒壊した建物を吹き飛ばす

その一撃に割いた時間で、守の一手が遅れる

掴みかかった2人の手は―――

 

 

「「あっ、」」

 

 

バシッ。と、全く同時にお互いの腕を掴み取る

二人の゙契約書類゙が発光し、勝敗を定める

 

 

『『勝敗結果:引き分け。

゙契約書類゙は以降、命令権として使用可能です』』

 

 

「………は?」

 

「あ―――………コレは、アレです。

引き分けなので、互いに命令権を一つ得たみたいです」

 

「そんな事はどうでもいい。

腹の底からどうでもいい。

俺が気に入らないのば引き分げの結果だけだ。

どう見ても俺が速かっただろ」

 

 

「やや、そんな事は無いですよ?

箱庭の判定は絶対なのです」

 

「はぁ?

なんだそれどこの神様が決めた判定だよふざけるな

今すぐ速攻で誤審を問いただしてやるから

俺の前に連れてきやがれ糞ウサギ―――!」

 

 

「そこま」

「そんな事いってる場合かお前らああああああ!!!!!」

 

 

その瞬間、厳しい声音が響いたかと思いきや

怒り満ちたそれも聞いたことのある声が

同時に二人の頭に拳骨が降り注いだ

 

 

「ふぎゃ!!

だ、大助さん!!!? 一体どこにいっ」

「そんな事はどうでもいいだろうが黒ウサギ。

この状況はなんだ、いってみろオイコラ」

 

 

その普段ではとても想像できない

そこには完全にぶちギレている大助がいた

 

 

「これは十六夜さんとギフトゲームをしまして…

そ、それにこの惨劇は十六夜さんがあんな無茶を」

「その前にこの問題児であり十六夜が

「おとなしくギフトゲームを行うはずがない」と

いうことを黒ウサギ、お前は考えて行動したのか!!!」

 

 

それを言われると何も言い返せない。

今までの行動から考えれば分かっていたはず

なのに十六夜の提案に乗ってしまい

 

 

「く、黒ウサギが悪かったのです……」

「誰が黒ウサギ一人だと言った??

お前もだよ、十六夜!! 何考えてるんだ!!?

招かれた北の地でこんな騒ぎを起こしやがって

ノーネームの名前を売り込むどころか

逆に傷をつけるつもりかお前は!!!!!」

 

 

十六夜のことだからそんな事は分かってるはず

だけど言わずにはいられない

今度ばかりは許すわけにはいかなかった

十六夜の返答を聞く前に先ほど何かを言いかけたものが

 

 

「何を勝手に」

「黙っていろ!!人のコミュニティに口出しするな!!!!」

 

 

周りにいるのはその北の地

北側の゙階層支配者゙――゙サラマンドラ゙のコミュニティ

蜥蜴の鱗を肌に持つ集団が三人を取り囲んでいるが

そんな事お構いなしにお説教タイム

黒ウサギがたっぷりするはずだったお説教は

大助が長々と言い終わるまで続いたとかいないとか……



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激情から現れるもの

「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

 

「ああ。ご要望通り盛り上げてやったぜ」

 

「胸を張って言わないでお馬鹿様!!!」

 

 

「どうしてこんなことに……」

 

 

 

黒ウサギは十六夜の頭に向かってハリセンが唸る

その後ろでジンが痛い頭を抱えていた

白夜叉は必死に笑いを噛み殺し、

サンドラの側近らしき軍服姿の鋭い目付きで前に出て、

十六夜達を高圧的に見下す。

 

 

「ふん!

゙ノーネーム゙の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな!

相応の厳罰は覚悟しているか!?」

 

「これマンドラ。

それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」

 

 

白夜叉がマンドラと呼ばれた男を窘める

サンドラは謁見の間の上座にある豪奢な玉座から立ち上がると、

黒ウサギと十六夜に声を掛けた

 

 

 

「゙箱庭の貴族゙とその盟友の方。

此度ば火龍誕生祭゙に足を運んでいただきありがとうございます。

負傷者は奇跡的に無かったようですし、

貴方達が破壊した建造物の一件ですが

修復も完全なようですし、この件に関して私からは不問とさせて頂きます」

 

 

それに大してマンドラは大助を視線で殺せるように睨み付け

聞こえるようにチッ、舌打ちをする

 

 

 

「ほ、本当にご迷惑をかけてすみませんでした。」

 

「いいえ、それはもういいです。

それよりこのような場所からすみません

まさか時の精霊、クロノスの後継者にお会いになれるとは」

 

 

「そんな事は構いませんが、

というかおい白夜叉なにいっているんだ、オイコラ。」

 

「いやいや、何も間違ってはおらぬだろう

クロノスのギフトを三つも所有しておる時点で

後継者に相応しいと思うのだが」

 

 

 

くくくっと不適に笑う白夜叉

あの野郎…一体何を考えてるんだ…

大体クロノスの後継者って、

 

 

「とにかく後継者になるつもりはありません。」

 

「よいよい、儂も今すぐだとは思っておらん。

だがクロノスがいないことが、後継者がどれ程必要か

お主にも後に分かってくるだろう」

 

 

 

それがどういうことか聞こうと思ったが

後継者にならないと言ったあとにそんな事は聞けない

後々分かってくると言っていたことだし

とにかくいまは目の前の、ノーネームの復興を頑張らないと

 

 

「さて、いい機会だから昼の続きを話しておこうかの」

 

 

白夜叉が連れの者達に目配せをする。

サンドラも同士を下がらせ、側近のマンドラだけが残る

そしてこの場に残ったのは彼らと

十六夜、黒ウサギ、ジン、大助だけが残った

サンドラは人がいなくなると、硬い表情と口調を崩し、

玉座から飛び出してジンに駆け寄り、

少女っぽく愛らしい笑顔を向けた

 

 

「ジン、久しぶり!

コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた。」

 

「ありがとう。サンドラも元気そうでよかった」

 

 

同じ笑顔で接するジン。

サンドラは鈴の音の様な声で一層はにかんで笑う。

 

 

「ふふ、当然。

魔王に襲われたと聞いて、

本当はすぐに会いに行きたかったんだ。

けどお父様の急病や継承式のことでずっと会いに行けなくて」

 

「それは仕方ないよ。

だけどあのサンドラがフロアマスターになっていたなんて―――」

 

 

「その様に気安く呼ぶな、名無しの小僧!!!」

 

 

ジンとサンドラが親しく話していると、

マンドラは獰猛な牙を剥き出しにし、

帯刀していた剣をジンに向かって抜く

ジンの首筋に触れる直前、

その刃を十六夜が足の裏で受け止めた

蹴り返した十六夜は軽薄な笑みを浮かべているが、

その瞳は笑っていない

そして大助もほぼ同時にジンをその場から連れ出し

先ほど睨めたお返しと言わんばかりにマンドラを見る

 

 

「…………おい、知り合いの挨拶にしちゃ穏やかじゃねえぜ。

止める気なかっただろオマエ」

 

「当たり前だ! サンドラはもう北のマスターになったのだぞ!

誕生祭も兼ねてこの共同祭典に゙名無じ風情を招き入れ、

恩情を掛けた挙げ句、馴れ馴れしく接されたのでは

゙サラマンドラ゙の威厳に関わるわ!

この゙名無じのグズが!」

 

 

 

その瞬間、マンドラが驚きの表情へと変わった

先ほどジンへ向けた剣が、十六夜に蹴り返された剣が、

一瞬、瞬間、刹那、瞬きを忘れるほどの間に

マンドラが持っていた剣が消えたのだ

 

誰も触っていないし誰もそんな動きをしていない

見えないほどのスピードならどれ程よかったか

持っていた剣が「その場から消失」したように消えたのだ

握っていたマンドラが最初に気づき

そのあとその表情を気になった十六夜達も気づき始める

 

 

「な、何を゙名無じ共!!!!」

 

「まっ、待ってください!! 私たちは何も」

「………謝れ………」

 

 

その言葉に誰もが振り返る。

重く怒り満ちたその声色に驚く

あの時と同じように、

レティシアが連れていかれた時と同じように

仲間の為にぶちギレている

 

 

「ふざけるな!!

このようなことをしておいてなにをいっている!!

これはサラマンドラに対する侮辱と」

 

「そんなことどうでもいい。

どうでもいいほど怒っているだよ僕は

サラマンドラの威厳を守ることに意見は言わないし

ジンの態度が悪いと言うなら謝るよ

 

だけどね、ただそれだけで命を奪おうとした。

その威厳を守るためだけにノーネームのトップを消そうとした

僕はねそれに対して謝れと言っているだよ。」

 

 

 

「゙名無じ風情に、ましてや貴様のようなクズに

謝る言葉などないわ……―――!!!!??」

 

 

 

…………言葉が止まった。

いやこれ以上喋ることを許されなかったのだ

突如現れた「白き刃」と「黒き刃」がマンドラの首筋手前にある

 

 

 

「それ以上私達のご主人の悪口は許しません」

 

「……もう一度言ってみろ、かっ切るぞ……」

 

 

マンドラの右側には白いドレスを着た女性が

左側にはタキシードを着た男性の姿がある

だがその者達は人ではない

 

 

「やめんか、アスカ!シャドう!!

それ以上はコミュニティにも

大助にも迷惑が掛かると分からんのか!!!」

 

 

その白夜叉の言葉が聞いたのか

二つの刃はマンドラの首筋から離れ

二人は、いやその白と黒の「影」は大助の背後に戻り

そして大助の影の中へと消えていった

 

 

 

「これで気がすんだろう小僧。

これ以上まだ言うのなら儂も入らないといけなくなるが」

 

「……分かりました……」

 

 

「マンドラもこれ以上は、分かっておるな」

 

 

しかしそれでも尚も食ってかかり、睨み返すマンドラ。

 

 

「゙サウザンドアイズ゙も余計な事をしてくれたものだ。

同じフロアマスターとはいえ、越権行為にも程がある。

『南の幻獣・北の精霊・東の落ち目』とはよく言ったもの。

此度の噂も、東が北を妬んで仕組んだ事ではないのか?」

 

「マンドラ兄様ッ!!

いい加減にしてください!!」

 

 

サンドラが見かねて叱りつける。

いくらなんでも失言が過ぎた

しかし事情を知らない゙ノーネーム゙一同は、

顔を見合わせて首を傾げている。

 

 

 



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黒ウサギの苦労って…

『火龍誕生祭にて、゙魔王襲来゙の兆しあり』

 

 

マンドラがいう噂

それは今回ノーネームがこの火龍誕生祭に呼ばれた理由

十六夜が白夜叉から封書にこの文章が書かれてあった

そう白夜叉がここへ呼んだ理由は

ノーネームへ依頼した事は予言の魔王のゲーム攻略の協力

 

魔王襲来の予言があった以上

こればノーネーム゙の初仕事である

ジンは事の重大さに受け止めるように重々しく承諾した

その緊張したジン対して白夜叉は

 

 

 

「そう緊張せんでもよいよい!

魔王はこの最強のフロアマスター、白夜叉様が相手をする故な!

おんしらはサンドラと露払いをしてくれればそれで良い

大船に乗った気でおれ!」

 

 

双女神の紋が入った扇を広げ、呵呵大笑する白夜叉

しかしジンが快諾する一方で、スッと目を細めて

不満そうな双眸を浮かべる十六夜

それが気になった白夜叉は、口元を扇で隠しながら苦笑を向けた。

 

 

「やはり露払いは気に食わんか、小僧」

 

「いいや?

魔王ってのがどの程度か知るにはいい機会だしな。

今回は露払いでいいが―――

別に、何処かの誰かが偶然に魔王を倒しても、問題ないよな?」

 

 

挑戦的な笑みを浮かべる十六夜に、呆れた笑いで返す白夜叉

 

 

「よかろう。

隙あれば魔王の首を狙え。私が許す」

 

 

そう言いながら白夜叉は十六夜から

視線を大助に向けて

そして扇子を閉じて先端で指す

 

 

「お主もその機会があれば狙うがよい

そのギフトはクロノスに比べればまだ未熟

経験がその力を開花させるじゃろ」

 

「……機会があれば…だけどね……」

 

 

そうは言うが十六夜のように乗る気はない大助

ワザワザ魔王に戦いを挑むなんて考えない

大助が戦うのはノーネームの仲間の為だ

 

 

「おい大助。

言っておかなくても分かるだろうが」

 

「邪魔はしないよ。

経験もないのに自分から魔王に

戦いを挑むバカの邪魔はしないよ」

 

 

「へえ、俺的にはお前とも殺り合いたいがな」

 

「ふざけなよ十六夜。

100歩譲って喧嘩ならいいとして

「決闘」をするっていうなら本気で怒るぞ」

 

 

睨む合う二人

この状況の中マンドラなら何かをいうと思ったが

その二人が放つ殺気に言葉を無くし顔がひきつっている

黒ウサギもまた何も言えなかった

いまは均衡が保たれている状態であり

そこに一言でも発したら何が起こるか分からない

それこそ白夜叉いえども簡単に止められないものが……

 

 

 

「…………ごめん、さっきのは言い過ぎた…」

 

「随分と簡単に折れたじゃねえか」

 

 

「僕が認めないと終わらないし、

何より黒ウサギの困った顔は見たくない」

 

「何言ってやがる!

困らせるためにやってるんだろうが」

 

「…………ハッ!!」

 

 

「ハッ!!じゃありません、このお馬鹿様!!!!!」

 

 

 

思いっきり二人の頭にハリセンを喰らわせる

もう涙目になりながら睨み付ける黒ウサギ

 

 

 

「もう冗談でもあんな殺気を出さないでください!!!

こっちは仲間同士の戦いが始まるかと

ハラハラしたのですよ!!!!!」

 

「僕は十六夜次第だったよ。

本当にこの問題児には困ったもの」

「完全に大助さんも問題児です!!!!!!!」

 

 

さっきのハリセンの威力よりも強く叩く

その姿にヤハハと十六夜と白夜叉は笑い

十六夜や大助の態度が不謹慎だと告げるマンドラは

ノーネームをゲームから追放するように訴えたが

白夜叉とサンドラに説き伏せられ、

十六夜達は渋々協力を受け入れられるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

境界壁の展望台、サウザンドアイズ旧支店

戻ってきた十六夜達だがそこで女性定員が

「久遠 飛鳥がネズミに襲われて怪我をしている。」

で、泥とネズミの返り血で汚れたその姿を見た女性定員は

無理矢理服を剥ぎ取りお風呂へ連行された

 

それを聞いた黒ウサギは慌てた様子でお風呂場に向かい

白夜叉はだらしない表情をしながら黒ウサギの後を追う

何を考えているかは何となく分かるが……

 

 

「さて、黒ウサギも離れたことだ。ここは一つ」

「言っておくけどさっきの続きはしないからな」

 

「そうですよ!

十六夜さんも大助さんもノーネームにとって大事な仲間なんです

それに魔王が襲来するとあった以上勝手な真似は許しません」

 

 

 

その言葉には確かにノーネームのリーダーの意志

それを確認したかったのか十六夜は不適に笑う

 

 

「ああ、そんな事は分かっている。

大助との勝負は後継者になったあとの方が面白そうだ」

 

「色々ツッコミたいが、今はおとなしくしてくれたらいいよ…」

 

 

「おとなしくしてやるよ。

その代わりさっきの「精霊」について話してもらおうか」

 

「そうですよ大助さん!!

いつの間精霊を隷属させていたんですか!!?」

 

「別に隷属させたわけじゃないんだけどな…」

 

 

 

そういうと大助の影から二つの影が現れた

その影は影よりも更に濃ゆい黒さ

そしてもう一つは白く光る影

影はそこから人の姿へと実体化した

 

 

「そんな寂しいこと言わないで。

ご主人様があの鏡からご主人様の影へ移してくれたから

こうしてこの世界に帰ってこれたの

私達はご主人様の隷属でも構わない」

 

「………ああ、私達はご主人様に従う……」

 

 

「そう言ってもらうと嬉しいけど

頼むから隷属より眷属の方でお願いします…」

 

 

 

鏡の世界から外へ出すにはクロノスの力が必要

だから大助は考えたのだ、他に方法はないかと

そこで思い付いたのは自分の影に移すこと

鏡の世界全体にある影の一部を自分の影に移し

そこにアスカとシャドウを一緒に

 

 

「で、でもスゴいですよ大助さん!!

光と闇の精霊が仲間になれるなんて」

 

「あら、悪いけど私達はご主人様の物

貴方達のコミュニティに興味ないわ」

 

 

「お、おいアスカ…

僕の手伝いなら問題ないだろう」

 

「はい、ご主人様のためなら」

 

「……右に同じ……」

 

 

 

ジンとしては喜ばしいことなんだが

どうやら大助のことしか話を聞かないらしい

それでも十六夜達、問題児より話を分かってくれる

それだけで頭痛の種が減るならいいと心から思った



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お馬鹿な会話と名前

十六夜達は用意された来賓室で

のり煎餅を齧りながら

この店がどうやって移転したきたのかを質問

客人の話し相手に嫌々ながらも指名された女性店員は

眉を顰めながらも応対する

 

 

「ああ、この店ですか?

別に移動してきた訳じゃありません。

境界門と似通ったシステムと言って分かります?」

 

「いや全然」

 

 

即答する十六夜

溜め息を吐き、少し砕けた口調で話す女性店員

 

 

「要約すると、数多の入り口が全てひとつの

内装に繋がるようになっているの。

例えば蜂の巣……ハニカム型を思い浮かべてくれれば

分かりやすいはずですよ。」

 

「へえ?

つまり本店も支店も全部兼ね備えている、とういうことか?」

 

 

「違います。けどそうね、語弊がありました。

境界門と違う点はそこです。

境界門は全ての外門と繋がっているのに対し、

サウザンドアイズの出入り口は各階層に

一つずつハニカム型の店舗が存在しているの」

 

「ふぅん?つまり七桁のハニカム型支店

六桁のハニカム型支店ってことか?」

 

「そう。無論、本店への入り口は一つしかありませんが」

 

 

 

得心がいったように頷く十六夜。

続ける女性店員

 

 

「この高台の店は立場が悪く、閉店となった過去の店。

今回は白夜叉様が共同祭典に来られるということになり、

一時的にこの店へ出入り口を繋げ、

私室部と店内の空間を別に切り分けているの。

店内へと繋げる正面玄関は、

開かない仕組みになっておりますので悪しからず」

 

 

「あいよ」

 

「本当に箱庭はスゴいな…

こんな風に空間移動が可能なんて」

 

 

すると女性定員が頭を抱えながら

 

 

「あなた本当にクロノスの後継者ですか?

空間移動なんてクロノスにとっては当たり前でしたよ

毎回毎回、玄関から入らず直接白夜叉様の元へ来ては…

……思い出しただけでも腹立ちます。」

 

「空間移動か……」

 

 

「あら、そんなところで歓談中?」

 

 

話が一区切り付くと、湯殿から飛鳥達が来た

飛鳥達は備えの薄い布の浴衣を着ており、

首筋から上気した桃色の肌を見せている

十六夜は椅子からそっくり返って

湯上がりの女性陣を眺めた。

 

 

「………おお?

コレはなかなかいい眺めだ。

そうは思わないか御チビ様?なぁ~大助??」

 

「はい?」

 

「なんで僕に聞く…」

 

 

「黒ウサギやお嬢様の薄い布の上からでもわかる二の腕から

乳房にかけての豊かな発育は扇情的だが

相対的にスレンダーながらも健康的な素肌の

春日部やレティシアの髪から滴る水が

鎖骨のラインをスゥッと流れ落ちる様は

視線を自然に慎ましい胸の方へと誘導するのは確定的にあ

 

 

スパァーン!!

ウサ耳まで紅潮させた黒ウサギは思いっきりハリセンで叩く

隣にいた飛鳥もまた耳まで紅潮していた

 

 

「変態しかいないのこのコミュニティは!?」

 

「白夜叉様も十六夜さんもみんなお馬鹿様ですッ!!」

 

「ま、まあ二人とも落ち着いて」

 

 

慌てて宥めるレティシア。無関心な耀

ケラケラと腹を抱えて笑う白夜叉

一人、痛そうな頭を抱えているジンの肩に

同情的な手を置く女性店員

 

 

「………君も大変ですね」

 

「………はい」

 

 

一方は、組織の重要戦力が問題児である

一方は、組織のトップが最大の問題児

そんな虚しい哀愁を分かち合う二人

そんな裏側で、同好の士を得たように

握手する十六夜と白夜叉だった。

 

そんな様子を遠くから頭を抱えながら

大助は独り言のように、

実際はアスカとシャドウと会話をしていた

 

 

「大丈夫なのですかこのコミュニティは…」

 

「ごめん、今はハッキリといえない…」

 

「……大丈夫なのか本当に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、レティシアと女性店員は来賓室を離れた

残りの人達はその場に残り

白夜叉は来賓室の席の中心に陣取り、

両肘をテーブルに載せこの上なく真剣な声音で

 

 

「それでは皆のものよ。今から第一回、

黒ウサギの審判衣装をエロ可愛くする会議を」

 

「始めません」

「始めます」

「始めませんっ!」

 

 

白夜叉の提案に悪乗りする十六夜

速攻で断じる黒ウサギ

飛鳥はやり取りに呆れつつも、

例の深紅のドレススカートについて思い出した

 

 

「そういえば、黒ウサギの衣装は

白夜叉がコーディネートしているのよね?

じゃ私が着ているあの紅いドレスも?」

 

「おお、やはり私が贈った衣装だったか!

あの衣装は黒ウサギからも評判が良かったのだが、

如何せん黒ウサギには似合わんでな。

何よりせっかくの美脚が」

 

 

「白夜叉様の異常趣向で却下されたのです。

黒ウサギはあのドレスは

とても可愛かったと思っていたのですが………

衣装棚の肥やしにするのも勿体ないと思った次第で、

飛鳥さんは赤色がとても似合うので良かったのですよ」

 

「ふふ、ありがとう。

黒ウサギの普段着ている服もとても似合っているわ」

 

 

飛鳥が御礼を言うと、むぅっと複雑な表情を浮かべる黒ウサギ

白夜叉はニヤニヤと笑いながらも本題を語り始める

 

 

 

「ま、衣装は横においてだな。

実は明日から始まる決勝の審判を

黒ウサギに依頼したいのだ」

 

「あやや、それはまた唐突でございますね。

なにか理由でも?」

 

 

「うむ。

おんしらが起こした騒ぎで

゙月の兎゙が来ていると公になってしまっての。

明日からのギフトゲームで

見られるのではないかと期待が高まっているらしい。

゙箱庭の貴族゙が来臨したとの噂が広がってしまえば、

出さぬわけにはいくまい。

黒ウサギには正式に審判・進行役を依頼させて欲しい。

別途の金銭も用意しよう。」

 

 

なるほど、と納得する一同。

 

 

「分かりました。

明日のゲーム審判・進行はこの黒ウサギが承ります」

 

「うむ、感謝するぞ。

………それで審判衣装だが、

例のレースで編んだシースルーの黒いビスチェスカートを」

 

 

「着ません」

「着ます」

「断固着ませんッ!!

あーもう、いい加減にしてください十六夜さん!」

 

 

茶々を入れる十六夜。

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。

すると大助の影から白い影が人の形に変わり

白いドレスを着た女性が現れた

 

 

「ずっと気になっていたのだけど、

貴女の名前も「アスカ」なのよね」

 

「えぇ、そうよ。

そちらは光の精霊「アスカ」だったかしら?」

 

 

「そう、だからややこしいのよ。

ご主人様がその名前で呼ぶと見分けがつかないわ」

 

「いや、その前に下の名前で呼んだことは……」

 

 

すると黒い影、シャドウが大助の口を閉じた

むごむごと言葉を伝える前にアスカが

 

 

「そこでご主人様。

私とシャドウに新しい名前を付けてください。」

 

「ぶはっ!!!

…はぁ、はぁ……はあ!!?」

 

 

「私達はご主人様の眷属になったのです。

ですからそれに伴って新しい名前を付けてください。」

 

「名前ね……」

 

 

そう言われてもイキナリ思い付かない

アスカにシャドウ、この名前に負けない名前か…

すると何かで聞いたことがあったのか

フッとなにかが頭によぎった

 

 

「……レイ……」

 

「えっ?

それが私の名前ですか??」

 

 

「う、うん。どうかな?

それとシャドウは、カルマってどう?」

 

 

すると二人はフッと笑い

 

 

「ありがとうございますご主人様

これから私はレイです。」

 

「……カルマか、悪くない……」

 

 

 

満足そうな表情に大助の方も嬉しくなった

ただ名前を付けただけなのに……

 



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造物主達の決闘

アッと今まで無関心状態だった耀は

思い出したように白夜叉に訊ねる

 

 

「白夜叉。

私が明日戦う相手ってどんなコミュニティ?」

 

「すまんがそれは教えられん。

主催者がそれを語るのはフェアではなかろ?

教えてやれるのはコミュニティの名前までだ」

 

 

パチン、と白夜叉が指を鳴らすと羊皮紙が現れ、

そこにはコミュニティの名前が書かれている

そしてそれを見た飛鳥は驚いたように目を丸くした

 

 

「゙ウィル・オ・ウィスプ゙に――

―――゙ラッテンフェンガー゙ですって?」

 

 

それはここに来る前に飛鳥ととんがり帽子の幼い精霊

この精霊は自分のコミュニティをラッテンフェイガー

と、繰り返し名乗っていたようだが…

 

 

 

「うむ。

この二つは珍しい事に六桁の外門、

一つ上の階層からの参加でな。

格上と思ってよい。

詳しくは話せんが、余程の覚悟はしておいた方がいいぞ」

 

 

白夜叉の真剣な忠告に、コクリと頷く耀

すると大助が何も言わずに手をあげる

そして耀に白夜叉にノーネームに向けて

 

 

「補佐は一人までいいんだよね。

なら春日部さんの補佐は僕がやる」

 

「……ほぅ……

お主はこのような目立つことはしないと思っていたが」

 

 

 

「白夜叉の言ったとおりだけど、

なによりコミュニティの貢献に繋がるなら

少しでも何かしないとね

もちろん春日部さんがいいならだけど」

 

「うん、いいよ」

 

 

 

こうして大助も明日のギフトゲームに参加することに

するとさっきから表情が思わしくない飛鳥に黒ウサギが

 

 

「どうかされましたか飛鳥さん?」

 

「い、いえ、ちょっとさっきの対戦相手の名前にね…」

 

「確がウィル・オ・ウィスプ゙と……」

 

 

黒ウサギの言葉に遮るように十六夜が

 

 

「゙ラッテンフェンガー゙だったか。

成程、゙ネズミ捕り道化゙のコミュニティ。

明日の敵はさしずめ、

ハーメルンの笛吹き道化だったりするのか?」

 

 

え?と飛鳥が声を上げる。

しかしその隣に座る黒ウサギと白夜叉の

驚嘆の声に、飛鳥の声はかき消された、

 

 

「ハ、ハーメルンの笛吹きですか!?」

 

「まて、どういうことだ小僧。

詳しく話を聞かせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラッテンフェんガー

それば幻想魔道書郡゙(グリムグリモワール)という

魔王のコミュニティの下部コミュニティの名だった

 

全200篇以上にも及ぶ魔書から悪魔を呼び出し

魔書の一つ一つに異なった背景の世界が内包され

魔書の全てがゲーム盤として確立されたルールと

強制力を持つという絶大な魔王

 

しかしその魔王はとあるコミュニティとの

ギフトゲームで敗北してこの世を去った…

……はずなのだがどうやら潜んでいるようだ

 

 

それでも白夜叉は魔王が現れると聞いて

最小限の対策を立てている

 

゙参加者以外はゲーム内には入れない゙

゙参加者は主催者権限を使用できない゙

 

これで魔王が襲ってきても

゙主催者権限゙を使うのは不可能となる

 

 

 

こうして本番当日となったのだが、

 

 

 

 

『長らくお待たせいたしました!

火龍誕生祭のメインギフトゲーム』゙造物主達の決闘゙の

決勝を始めたいと思います!

進行及び審判ばサウザンドアイズ゙の

専属ジャッジでお馴染み、

黒ウサギがお勤めさせていただきます♪』

 

 

「うおおおおおおおお月の兎が

本当にきたああああああぁぁぁぁああああああ!!」

 

「黒ウサギいいいいいいい!

お前に会うために此処まで

きたぞおおおおおおおおおおお!!」

 

「今日こそスカートの中を

見てみせるぞおおおおおおおおおおおぉぉぉおお!!」

 

 

 

割れんばかりの熱い情熱が迸らせる観客

その声を観客席から見えない舞台袖で

 

 

「……本気でやめたいと思ってきた……」

 

 

バカバカらしい声にやる気を無くした大助

その隣では耀が三毛猫と戯れていた

セコンドについたジンとレティシアは、

次の対戦相手の情報を確認していた。

 

 

 

「―――――゙ウィル・オ・ウィスプ゙に関して、

僕が知っている事は以上です。

参考になればいいのですが………」

 

「大丈夫。

ケースバイケースで臨機応変に対応するから」

 

 

何処かのキャッチフレーズのような

返答に苦笑いするジン

会場では黒ウサギの手でゲームが進行し、

とうとう試合開始が近くなる

 

 

「二人とも頑張ってくれ。

大助がサポートに回るなら耀も安心して

ゲームに専念できるな」

 

「………そのことなんだけど……」

 

 

 

すると耀は気まずそうに大助を見て

 

 

 

「私がいうまで手を出さないで欲しい」

 

「………理由を聞きたいだけど……」

 

 

「……………ごめん…………」

 

「……分かったよ。

でも無理だと思ったら必ず頼って」

 

「うん。」

 

 

 

すると舞台の真中では黒ウサギがクルリと回り、

入場口から迎え入れるように両手を広げた

 

 

『それでは入場していただきましょう!

第一ゲームのプレイヤー・ノーネームの春日部耀と、

゙ウィル・オ・ウィスプ゙のアーシャ=イグニファトゥスです!』

 

 

三毛猫をジンに預け、通路から舞台に続く道に出る

その瞬間――耀の瞳前を高速で駆ける火の玉が横切った

 

 

「YAッFUFUUUUUuuuuu!!」

「わっ………!」

『お嬢!』

 

 

耀はバランスを崩し仰け反り倒れそうになるが

そこを隣にいた大助が受け止める

しかし更なる追撃が大助を襲う

襲うといっても大助の足元を払った

さすがに二人分の体重を支えきれずに倒れた

なんとか耀を地面に着かさずにすんだが

その、体勢というか、その状態が、

 

 

「だ、大丈夫か耀……」

 

「う、うん……」

 

 

 

それは大助が耀を両腕で支えている

まるでお姫さまだっこしているように

足は地についているが頭は、その顔は大助に近い

 

 

「な、なんだよ!!!

こっちは素敵に不適に

オモシロオカシク笑ってやろうとしたのに

なにいい雰囲気を出してるんだよコラ!!」

 

 

その声に二人はとっさに離れた

周りの観客達はヒューヒューと冷やかす

さすがに耀も頬を赤くして俯いている

そして大助は、

 

 

(……出なきゃ…よかった……///)



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耀VSアーシャ&ジャック

『ギフトゲーム名゙アンダーウッドの迷路゙

 

・勝利条件

1、プレイヤーが大樹の根の迷路より野外に出る

2、対戦プレイヤーのギフトを破壊。

3、対戦プレイヤーが

勝利条件をみたせなくなった場合(降参含む)

 

・敗北条件

1、対戦プレイヤーが勝利条件を一つ満たした場合。

2、上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 

 

「―――――゙審判権限゙の名において。

以上が両者不可侵で有ることを、御旗の下に契ります。

御二人とも、どうか誇りある戦いを。

此処に、ゲーム開始を宣言します」

 

 

黒ウサギの宣誓が終わる。

それが開始のコールだった。

 

今回の対戦相手゙ウィル・オ・ウィスプ゙

入場開始からノーネームを小バカにしたアーシャと

腰かけていた火の玉から現れた

誰もが知っているジャック・オー・ランタン

この二人は、いや所属しているコミュニティは

六桁の外門に構えており

通常は下位の外門のゲームに参加しないらしい

 

ただ今回はフロアマスターから得る

ギフトを欲して降りてきたようだ

つまりは格上、強敵なのだ。

 

 

しかしノーネームの皆は心配していなかった

確かに格上であり強敵なのかもしれないが

このゲームは耀だけではない、大助がいるから

十六夜と同等といっていいほどのギフト

異質で異常なギフトを大助は所持している

余程難解なゲームではないかぎりは負けはしないと

誰もが思っていたのだろうが、

 

 

「それじゃ春日部さん、頑張ってね。」

「うん。」

 

 

そういって大助は巨大な樹の根に寄りかかり座った

このゲーム盤は上下左右、その全てが

巨大な樹の根に囲まれている大空洞

その中から先に外へ抜け出せば勝ちなのだが

 

 

「おいおい、補佐はやらないのかよ。

随分と舐められているよな、なぁジャック!」

 

「YAッFUFUUUUUuuuuu!!」

 

 

そうこのゲームは耀一人でやるのだ

あくまでも大助は補佐として

耀が助けが必要なときだけ参加する

 

 

「まぁいいや。どうせ勝つのは私達だ!

だから先手は譲ってやるぜ」

 

 

ツインテールを揺らしながら肩を竦め、

余裕の笑みを浮かべるアーシャ

耀は無表情でしばらく考えたあと、

一度だけ口を開いた。

 

 

「貴女は………゙ウィル・オ・ウィスプ゙のリーダー?」

 

「え?あ、そう見える?

なら嬉しいんだけどな♪けど残念なことにアーシャ様は」

 

「そう。分かった」

 

 

リーダーと間違わられたことが嬉しかったのか

愛らしい満面の笑みで質問に答えるアーシャ。

だが耀は聞いておらず背後の通路を疾走した

 

 

「え……ちょ、ちょっと………!?」

 

 

自分から投げ掛けたにも拘わらず

話の途中で逃げ出した耀にアーシャはしばし唖然

ハッと我に返ったアーシャは全身を戦慄かせ

怒りのままに叫び声を上げた

 

 

「オ………オゥェゥウウウケェェェェイ!

行くぞジャック!樹の根の迷路で人間狩りだ!」

 

「YAHOHOHOhoho~!!」

 

 

怒髪天を衝くが如くツインテールを逆立たせて

先に進んだ耀を追いかけていった

その姿を見送った大助は誰も聞こえない声で

 

 

「……………頑張って………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそ、やべえぞジャック………!

このままじゃ逃げられる!」

 

「Yaho…………!」

 

 

 

耀の後ろから業火が放たれるが

すべて最小限の風を起こして避けていた

゙ウィル・オ・ウィスプ゙の篝火の正体

それは可燃性のガスや燐を撒き散らしている

そしてその無味無臭の天然ガスだが嗅覚が

人間の数万倍の感覚を持つ耀は

その違和感を感じ取り軌道を曲げていた

噴出したガスや燐を発火前に霧散させていたからだ

 

 

豹と見間違う健脚は見る見るうちに

距離を空けて遠ざかる

しかも耀の五感は外からの気流で

正しい道を把握している

迷路の意味は既にない。

 

アーシャは離れていく耀の背中を見つめ――

―――諦めたようにため息を吐いた

 

 

 

「…………くそったれ。

悔しいが後はアンタに任せるよ。

本気でやっちゃって、ジャックさん」

 

「わかりました」

 

 

え? と耀が振り返る。

遥か後方にいたジャックの姿は無く

耀のすぐ前方に霞の如く姿を現したのだ。

巨大なカボチャの影を前にした耀は、

驚愕して思わず足を止める

 

 

「嘘」

 

「嘘じゃありません。失礼、お嬢さん」

 

 

ジャックの真っ白な手が、強烈な音と共に耀をなぎ払う

樹の根の壁に叩きつけられた耀は、

意識が飛びそうになるほどの衝撃を受けて

軽い嘔吐感をもよおし、ケホッと咳をつく

 

 

「っ…………!?」

 

「さ、早く行きなさいアーシャ。

このお嬢さんは私が足止めします。」

 

 

「悪いねジャックさん。

本当は私の力で優勝したかったんだけど……」

 

「それは貴女の怠慢と油断が原因です。

猛省し、このお嬢さんのゲームメイクを

少しは見習いなさい」

 

 

「う~……了解しました」

 

「ま、待っ」

「待ちません。貴女は此処でゲームオーバーです」

 

 

ジャックが言う。そしてランタンから篝火を零す

その僅かな火は樹の根を瞬く間に呑み込み、

轟々と燃え盛る炎の壁となった

先ほどまでとは比にならない圧倒的な熱量と密度

耀は息を呑んでジャックを見る

 

 

「…………。貴方は、」

 

「はい。貴女の御想像はきっと正しい。

私はアーシャ=イグニファトゥス作の

ジャック・オー・ランタンではありません

貴女が警戒していた存在――

―――生と死の境界に顕現せし大悪魔!

ウィラ=ザ=イグニファトゥス製作の大傑作!

それが私、世界最古のカボチャお化け……

………ジャック・オー・ランタンでございます♪」

 

 

 

ヤホホ~♪と笑うジャックだが、

カボチャの奥の瞳には

先ほどまでとは違う炎が灯っている

明確な意思と魂。そして威圧感。

ふざけたその口調と仕草はしかし、一分の隙もない。



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小さなその手は

「さて……貴女は一つ、侮辱に等しい

誤解をされているようですね。

゙ウィル・オ・ウィスプ゙の炎の原点は

悪魔の炎で間違いありません。

外界では人間達にも理解できるように、

わざわざ科学現象として我々が発信しているのです」

 

 

「なぜ、」

 

「そんな事を?

それはですねえ。

死体がそこに埋まっていることを知らせているのですよ

無念にも、遺棄された哀れな魂を救うために」

 

 

ヤホホ!

と大きな指を立てて笑うジャック

燐やメタンガスなどは、

土葬された死体の土壌から発生する事が多い

それ以外に゙ウィル・オ・ウィスプ゙の

炎が発生する場所には、

死体が遺棄されている事がよくあるのだ。

 

 

「…………。なら、」

 

「どうして先ほどまで燐を使っていたか?

此れまた簡単。

アーシャは本来、地災で亡くなり、

そのまま自縛霊となって彷徨っていたところを

ウィラが引き取り、

今では立派な大地の精霊として

力をつけ始めているからです

天然ガスを放出していたのは地精の一端」

 

 

「…………。どうして、」

 

「どうして見知らぬ霊を引き取ったのか?

――聞いたこと有りません?

我々゙ウィル・オ・ウィスプ゙に纏わる逸話を。

我々の蒼き炎の導は、報われぬ死者の魂を導く篝火。

彷徨う御霊を導く功績で、

私達は霊格とコミュニティを大きくしてきたのです」

 

 

 

ギョロリ、とカボチャ頭の奧に見える瞳を見据える

 

 

 

「知らぬなら今こそ知りなさい。

我ら蒼き炎の導を絵描きし旗印は、

無為に命を散らした魂を導く篝火なのだと。

救済の志は、神々に限られた領分ではないのだと――!!」

 

 

ジャック・オー・ランタンは己が旗印を誇る様に腕を広げ

轟々と燃え盛る炎を背に叫ぶ。

 

 

「いざ来たれ、己が系統樹を持つ少女よ!

聖人ぺテロに烙印を押されし不死の怪物――

――このジャック・オー・ランタンがお相手しましょう!」

 

 

業火の炎で燃え盛り、大炎上する樹の根の空洞

あの炎の瞳が放つ違和感は、

耀が箱庭で対峙したどの敵よりも強大なものだった。

 

 

(………。参ったな)

 

 

 

これが゙悪魔゙と呼ばれる種。

世界に独立した霊格を認められた、超常存在

 

の実感が徐々に春日部耀の臓腑の中に満ち満ちていく

アーシャが先行した今、ジャックを破壊するしか

勝利条件は満たせないが――

 

耀はまるで勝負を諦めたように

肩の力を抜きジャックの瞳を見据える

 

 

 

「おや、向かってこないのですか?」

 

「私じゃ、貴方には勝てないから」

 

 

「自分の実力を知り正しく判断することは難しい

貴女はそれが出来る、素晴らしいことです。

ですがならなぜ、補佐と一緒に

ゲームに挑まなかったのですか?

 

自分の実力を試したいとしても

戦わずとも助言をもらったり側にいるだけでも

この戦況は変わっていたはず」

 

 

そうかもしれない

大助なら助言をくれるだろう

側にいるだけでも違っていたかもしれない

 

だけど、

 

 

「私は十六夜や大助みたいに強くなりたかった

だから私はこのゲームでそれを証明したかった」

 

「気持ちは分かりますが

それが貴女達の敗北に繋がってしまったら意味がない」

 

 

「そうかもしれないけど……まだ諦めてない。」

 

 

まだ耀の瞳は諦めてない

それよりも強い意思を感じる

それを感じ取ったジャックはその大きな手で

耀を吹き飛ばそうとするが

 

 

「「!!?」」

 

 

その瞬間、耀とジャックを

囲んでいた業火が「停止」した

まるで硝子細工のように固体化した業火は

キラキラと光り今でも熱を発しているようだ

停止した業火は突然にヒビが入り

高い音を出しながら崩れ落ちた

その時間は一秒も掛からず

今度は耀を攻撃しようとした

ジャックのその大きな手が小さな手によって止まった

その小さな手、比べれば頼りにならないかもしれない

だけど耀にとってはその手は大きく見えた

 

 

 

「お待たせしました、補佐の大助です。」

 

「………大助。」

 

 

 

ジャックの方を向かずに耀を向いている

攻撃対象だと分かっているのにも関わらず

平気そうに耀と会話を続ける

 

 

「さすがにずっと座りっぱなしはキツかったからね」

 

「もしかしてずっと探してた?」

 

 

「これだけ広いと見つけるのも時間が掛かったよ

そんなことより早くアーシャを追いかけないと

こっちは足止めしておくから」

 

 

初めは戸惑っていた耀だが

自分ではどうにも出来ないことを知っている

そして自分がアーシャより早く

出口に向かわないといけないことを

 

コクリと頷いた耀は

大助を背を向けてこの場から去っていった

見届けた大助はゆっくりとジャックの方を見て

重ねあった手をはずして指をパチッンと鳴らす

すると停止して動作が動きだした

 

 

 

「ヤホホ!!?

ここにいたお嬢さんは何処へ?」

 

「悪いけどアーシャの元へ行かせてもらったよ」

 

 

 

「……これは瞬間的な移動によるもの…

いえ違いますね、それではこの業火の説明が出来ないません」

 

「本当に悪いけど例え理解したとしても

僕を止めることは出来ないよ

そしてジャック、君は僕の前に現れたらいけなかった

そのせいで僕は……この「時」を使える。」

 

 

大助はその手をジャックの方にかざした

次の瞬間にはジャック・オー・ランタンは

その身がいくつもの樹の根を貫き

他のとは一回り大きな樹の根にぶつかり止まった



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憐れなジャック・オー・ランタン

「これは……一体…」

 

 

樹の根の木屑を落としながら立ち上がるジャック

持っていたランプは無事だが服はボロボロ

その頭を所々に傷が入っている

フラフラで立ち上がるジャックの目の前には

 

 

 

「流石だね、あれを受けても立ち上がるなんて

正直魔王や十六夜クラス専用なんだけど…

悪魔であるジャックにこれだけなら、

まだ「重ねる」必要があるな」

 

 

 

何を言っているのかジャックには分からなかった

だが一つの単語「魔王」という名を聞いたとき

この少年のギフトは魔王を倒せるほどの力があると

その身を持って理解してしまった

 

だが、このギフトゲームでは殺しは御法度

その危険性がため言ってしまえば

無理をしても戦うことが出来る

まぁ、不死であるジャックには関係ないが

どれほど強い相手でも一瞬の戦況が

その場を逆転させることが出来る

 

 

「何をされたかは知りませんが

私は不死の怪物であるがゆえ貴方には負…」

 

「不死だからこそ君は…負けるんだよ。」

 

 

 

その瞬間にジャックの全身から50㎝離れた空間を

まるでゴム弾が不規則に跳ね回っているように

わずか一秒の間に100回もその僅かな空間を跳ね回った

そして一秒後、無惨に壊れたランプを手に

立つことさえ出来なくなったジャックは倒れた

 

 

 

「ヤ、ホホ……」

 

「まだ意識あるの…本当にタフだね」

 

 

 

動かない体、しかし意識はまだあった

ジャック自身まだ奥の手はあるのだが

それを出す前に攻撃をされてどうしようも出来ない

動作もなく突然攻撃をされたのでは…

 

すると大助はジャックに近づきこう言い放つ

 

 

 

「先に言っておくけど不死だからという理由は

この攻撃ではないからね」

 

「……っ」

 

 

 

「すでに何回も使ったんだけど

その「不死」とうカテゴリーは僕にとっては有難い

だって使っても……時間を超越しているなら問題ない」

 

 

そして大助はジャックを触れずに立ち上がらせて

そのジャックの瞳の前には大助の顔がある

 

 

 

「教えてあげるよ。どうせ後から分かるだろうから

僕はね君に触れて君の「時」を止めたんだ。」

 

「……それは…」

 

 

「どういうこと、といいたいのですか?

僕のギフトは「一時停止」でジャックの時を止めた

そしてジャックが停止している間に

何重にも重ねておいた衝撃を四方八方から行い

一時停止を解除して一斉攻撃をしたわけ」

 

 

 

それを聞いたジャックは表情が歪んだ

気づかないうちに自分の「時」を止められた

大助はジャックが気づかないスピードで移動し

そのジャックの体に触れて「時」を止めたのだ

 

 

「気に病まなくていいよ

誰も「光」を捕らえることは出来ないんだから」

 

「………ッ」

 

 

 

「そしてこの攻撃は大悪魔である

ジャック・オー・ランタンに権威を表して

こうして解説付きで見せたんだ

 

……ごめん、嘘ついた。

本当はね春日部さんを

攻撃しようとしていた貴方を見て怒っているだよ

これはギフトゲームなのに何故だと

理不尽だというかもしれないけど…」

 

 

 

その大助が見せる笑顔なのだが

明らかに目が笑っていない

むしろ仇を討つかのような

睨むだけでも殺せそうな視線を送りながら

 

 

 

「なんだかね胸の奥底から

モクモクと黒いなにかが溢れてきてね…

悪いけど捌け口になってもらうよ♪」

 

「ヤ、ヤホホ……」

 

 

 

流石の不死である大悪魔のジャックさえ

この理不尽過ぎる内容に苦笑いをして一歩後退した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場は、まるで夢から覚めたような静けさだった

ゲームの決着が付いた瞬間、

会場の舞台は硝子細工のように砕け散り、

円状の舞台に戻ってきていた

 

 

『勝者、春日部耀!!』

 

 

しかし、誰一人歓声の声は上がらない

そんな中一人だけパチパチと拍手の音が聞こえる

振りかえるとそこにはニコニコ笑顔の大助が

 

 

 

「おめでとう耀さん!!!」

 

「ううん、大助のおかげだよ」

 

 

「そんなことないって♪

こっちはただ「足止め」しかできなかったし

もっと補佐らしいことしたかったけど……」

 

「そんなことない。

私が勝てたのは大助のおかげ」

 

 

 

そんなやり取りをしていると大助の後ろから

不機嫌なアーシャが顔を出した

 

 

「くそ!!くそ!!くそ!!!

言っておくけどな、今回はたまたまなんだからな!!

今度やったら絶対に私が勝つ!!!」

 

「私も、一人で勝ったとは思わないから」

 

 

「お前の名前覚えたからな耀!!!

絶対に勝つんだから覚えとけ…ってジャックさん!!?」

 

「……………」

 

 

 

姿は試合開始前と変わらないのだが

地に失せているジャックはピクリとも動かない

まるで置物がそこに落ちているように…

 

 

「お前ジャックさんになにしたんだよ!!!!」

 

「あっ、ごめんごめん!

すっかりギフトを解除するの忘れてたよ」

 

 

 

パチンっと指を鳴らすと息を吹き替えしたように

突然に動き出したジャックは大きくその場から跳ねた

そして肩を揺らしながら息を切らしていた

 

 

 

「こ、ここは…」

 

「ジャックさん!大丈夫かよ!!」

 

 

「え、えぇ……」

 

「本当に大丈夫ですか、ジャック??」

 

 

 

優しい声でジャックの身を心配する大助なのだが

その声を聞いたジャックは瞬時に距離をとり

大助を警戒するように睨み付ける

 

 

 

「恐ろしいお方だ……

貴方が言っていた意味が

こうして身をもって体験するなど思いませんでした」

 

「今度は「一対一」でやりますか?」

 

 

 

「ご冗談を…もう貴方とは戦いたくありません」

 

「ちょっ、ちょっと待ってよジャックさん!!」

 

 

 

すぐこの場から離れたかったのか

ジャックはアーシャが追ってくるのを無視して去った

 

 

 



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魔王襲来のお知らせが空から降ってきました。




「勝つことには勝てたのだけど…」

 

「いいじゃねえか、大助の本気ってのを見れたしな」

 

 

あまりにも異常すぎたギフトゲーム

ジャックを一方的に攻撃をし

その光景を見ていた黒ウサギ達はは正直ドン引きし

十六夜や白夜叉はヤハハと笑っていた

 

 

 

「本気って…恐ろしすぎます!!!

レイ様は光の精霊でその攻撃も光速なのですよ

それを大助さんの一時停止で重ねて一気に放出なんて…」

 

 

「クロノスでもその様なことは見たことがない

一時停止のみで戦う、それも直接なことをせずにな

あやつだからこそ思い付いた戦法なのだろう

いやいや、面白いゲームだったぞ!」

 

 

初めは耀一人だけでゲームをクリアしようとした

だがそれではジャックを足止め出来ない

そこに大助が加わりジャックを足止めをして

あとは耀が五感と気流の流れを読み

この大樹の根の迷路を攻略をした

 

 

こうして六桁の最上位の一角に勝てことは

コミュニティとして喜ばしいことなのだが

白夜叉は隣にいた十六夜の様子が気になった

十六夜の視線は遥か彼方、箱庭の空に向けられている

十六夜は怪訝な表情で白夜叉に問う

 

 

 

「……………白夜叉。アレはなんだ? 」

「何?」

 

 

白夜叉も上空へ目を向ける。

観客の中にも、異変を感じた者たちが声を上げていた

遥か上空から、雨のようにばら撒かれる黒い封書。

黒ウサギはすかさず手にとって開ける

 

 

 

「黒く輝ぐ契約書類゙………ま、まさか!?」

 

 

笛を吹く道化師の印が入った封蝋を開封すると、

゙契約書類゙にはこう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名《The PIED PIPER of HAMELIN》

 

 

プレイヤー一覧

・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存 在する参加者・主催者の全コミュニティ。

 

プレイヤー側

・ホスト指定ゲームマスター、太陽の運行者・星霊、白夜叉。

 

 

ホストマスター側 勝利条件

全プレイヤーの屈服・及び殺害。

 

プレイヤー側 勝利条件

一、ゲームマスターを打倒。

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

 

宣誓、上記を尊重し、

誇りと御旗とホストマス ターの名の下、

ギフトゲームを開催します。

 

 

 

《グリムグリモワール・ハーメルン》印』

 

 

 

 

数多の黒い封書が舞い落ちる中、静まり返る舞台会場

観客席の中で一人、

膨張した空気が弾けるように叫び声が上げた

 

 

 

「魔王が………魔王が現れたぞオオオォォォォ―――!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初の変化は本陣営のバルコニーから始まった。

突如白夜叉を黒い風が包み込み。

彼女の周囲を球体に包み込んだのだ。

 

 

「な、何ッ!?」

「白夜叉!?」

 

 

サンドラは白夜叉に手を伸ばすが、

バルコニーに吹き荒れる黒い風に阻まれた。

黒い風は勢いを増し、

白夜叉を除く全ての人間が一斉に

バルコニーから押し出した

 

 

 

「きゃ………!」

「お嬢様、掴まれ!」

 

 

空中に投げ出された十六夜はすかさず

飛鳥を抱きかかえて着地し、遥か上空の人影を睨む

 

 

「ちっ。

゙サラマンドラ゙の連中は観客席に飛ばされたか」

 

 

゙ノーネーム゙一同は舞台側へ

゙サラマンドラ゙一同は観客席へ

十六夜は舞台裏から出てきたジン達を確認し

 

 

「魔王が現れた……そういうことでいいんだな?」

「はい」

 

 

「白夜叉の゙主催者権限゙が

破られた様子は無いんだな?」

 

「はい。

黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上、

誤魔化しは利きません」

 

 

 

「なら連中は、ルールに則った上で

ゲーム盤に現れているわけだ

……さすがは本物の魔王様、期待を裏切らねえぜ」

 

 

「どうするの?ここで迎え撃つ?」

 

 

「ああ。けど全員で迎え撃つのは具合が悪い。

゙サラマンドラ゙の連中も気になる

アイツらは観客席の方に飛んでいったからな」

 

「では黒ウサギがサンドラ様を捜しに行きます。

十六夜さんとレティシア様

それと大助さんで魔王に備えてください。

ジン坊ちゃん達は白夜叉様をお願いします」

 

「分かったよ」

 

 

 

レティシアとジンが頷く。

対照的に飛鳥の顔が不満の色に染まる

何かを言おうとしたがそれよりも早く大助が

 

 

「ごめんね久遠さん

このギフトゲーム、何が起こるか分からない

ここはそれぞれの力に合わせて分担しないといけない」

 

「……そうよね……」

 

 

 

「それに白夜叉の元へ誰か来る恐れがある

だから久遠さんには対処してほしい」

 

「…いいわ、その口車に乗ってあげるわ」

 

「ありがとう。」

 

 

 

すると逃げ惑う観客が悲鳴を上げたのは、

その直後だった。

 

 

 

「見ろ!

魔王が降りてくるぞ!」

 

 

上空に見える人影が落下してくる

十六夜は見るや否や両拳を強く叩き、

レティシアに向かって振り返って叫ぶ

 

 

 

「んじゃいくか! 黒いのと白い奴は俺が、

二人はデカイのと小さいのは任せた!」

 

「了解した主殿」

 

「頼んだぞ十六夜」

 

「てめぇもな!」

 

 

十六夜は嬉々として身体を伏せ、

舞台会場を砕く勢いで境界壁に向かって跳躍した。

それを見送った大助は、

 

 

「レティシア、あの女の子は任せてくれないか?」

 

「それはいいが…なぜ?」

 

 

「気分を悪くしてしまうかもしれないけど

あの子は僕が相手をしたほうが……」

 

「……ふふ、気にしなくていい

主殿がそういうなら私は構わない

それに…………」

 

 

 

 

 

 

 

「主殿の強さはよく知っているからな。」

 

「ありがとうレティシア」

 

 

方針が決まったところで二人は戦いへと向かう



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魔王と風の精霊

舞い降りてくる斑模様の少女と陶器の巨兵

大助はこの二人を切り離そうと

レイの光速移動で一気に近づき後方へ吹き飛ばした

しかし吹き飛ばした際に何かおかしな感覚だった

斑模様の少女も特に表情は変わっておらず

どうやら防御をしてようだ

 

吹き飛ばされた斑模様の少女は

建物にぶつかる前に空中で停止し

同じ速度で追い付いてきた大助を

何も興味がないような眼で見る

 

 

 

「あなた面白いわね、いったい何をしたの??」

 

「そうだね、どうやって防御したか教えてくれたらね」

 

 

 

お互い笑った表情をするが眼は笑っていない

そしてしばらく膠着状態が続き

遠くから聞こえてきた音色により、始まった

先に動いたのは大助、光速により一気に距離を縮め

何重にも重ねた光速による「重さ・衝撃」を

斑模様の少女の腹部にぶつけた

それにより吹き飛ぶはずだった少女なのだが

今度は吹き飛ぶこともなくまた黒い風で防御された

 

 

驚く大助をよそに今度は斑模様の少女が仕掛ける

黒い風を渦巻くように蜷局が出来上がり

双腕に付いた黒い蜷局を大助に向けて放つ

だがその攻撃は大助に触れた瞬間に停止した

それでも斑模様の少女は動揺せずに

真上に黒い風をまとめ上げて

ハンマーの様なものを造る

それを大助の頭上へ一気に落とす

しかしそのハンマーも大助に触れた瞬間に停止した

 

お互いの実力を確かめたように

同時に後方へ下がり距離を空けた

 

 

 

「………面白いわねそのギフト」

 

「貴女も、その黒い風だけじゃないよね」

 

 

「貴方もそれだけじゃないわね」

 

 

たった数回の攻撃と行動で

相手のギフトがどのようなものか探る二人

だがお互い分からずじまいだと思いや

 

 

 

「ご主人様、この者からある気配を感じます」

 

「気配??」

 

 

「なるほど…だからこっちも疼いたわけね。」

 

 

 

すると斑模様の少女の身体中から

黒い風が溢れだして少女の上空に集まり始めた

不気味で何もかも奪い飲み込もうするような…

そしてその黒い風の向こうに何かが蠢く

黒い風の集合体から何かが姿を現した

 

 

 

「!!!?

ど、どうしてそこにいるの……シルフ!!!!!!」

 

「レイ、シルフってもしかして」

 

 

 

「ご主人様の思った通りです

あそこにいるのは四大の一人「風の精霊 シルフ」です」

 

「四大って「火・水・風・土」の元素を司るという…」

 

 

 

そんな二人の言葉を遮るように

薄気味悪い声が聞こえてくる

まるでビルとビルのすきま風のように

まるで枯れ木を揺らす風ように

聞く者たちを恐怖を与える

 

 

 

「久しぶりアスカ姉さん、500年ぶりかしら」

 

「……久しぶりシルフ

あなた随分と暗くなったわね…」

 

 

 

「姉さんもまさか人間如きに従われてるなんて…」

 

「人間如きと言った時点でシルフ

あなたの底が見えてるわよ」

 

 

 

睨み合う二人の精霊

しかしシルフは不適に笑ったあと

 

 

「フフフ…いいわ、実にいいわ

私一度でもいいから姉さんと戦ってみたかったの」

 

「……どうしたの、シルフ…

……あなたはそんな……」

 

 

「なに、姉さんに私の何が分かるの?

これまで私がどんな思いをしてきたか、

姉さんに分かるというの!!?」

 

「何があったの、シルフ……

それにどうして魔王に従っているの!!」

 

 

 

質問に答えようするシルフだったが

その前に斑模様の少女が空にある何かを掴むように

掌を握るとシルフの周りにある黒い風が

再びシルフを飲み込み少女の体へと戻っていく

 

 

「雑談は終わりよ。

後はあなた達を倒して傘下に納めたときに

ゆっくりと話すといいわ。」

 

「一体シルフに何をしたの!!!

シルフはあんな子じゃないわ!!!!!!」

 

 

「知らないわよそんなこと。

それより早く続きを始めましょう」

 

 

 

身構える斑模様の少女に二人も戦闘態勢に入る

相手は恐らく魔王である

そして風の精霊であるシルフが取り込まれている

楽に勝てるとは思っていなかったが

これは状況的に悪い方へ流れている

 

 

そんな雰囲気の中、突然激しい雷鳴が鳴り響いた

 

 

 

「そこまでです!」

 

 

その声のする方へ見てみると

幾度も轟く雷鳴を発していたのは、

軍神・帝釈天より授かったギフト―――

―――゙疑似神格・金剛杵゙を掲げた黒ウサギである

黒ウサギは輝く三又の金剛杵を掲げた、

高らかに宣言する。

 

 

 

「゙審判権限゙の発動が受理されました!

これよりギフトゲーム゙The PIED PIPER of HAMELN゙

は一時中止し、審議決議を執り行います!

プレイヤー側、ホスト側は共に交戦を中止し、

速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!

繰り返します―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――境界壁・舞台区画。

大祭運営本陣営、大広間。

 

宮殿内に集められた

゙ノーネーム゙一同と、その他の参加者達

負傷者も多数いる中、

十六夜や大助を見つけた黒ウサギ達は

心底心配したかのようにピョンッと跳び跳ねて現れる

 

 

 

「十六夜さん、大助さん、ご無事でしたか!?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

「こっちは問題ない。他のメンツは?」

 

 

 

「残念ながら、十六夜さんと大助さん

黒ウサギを除けば満身創痍です。

飛鳥さんに至っては姿も確認出来ず……

……すみません、僕がしっかりしていれば……」

 

 

 

すると大助の様子を見ていたのだろう

突然に十六夜が大助の肩を握ったのだ

その行動に驚いた大助はその次に十六夜を睨み付ける

 

 

 

「……一応聞くけどなにするんだ十六夜?」

 

「いまから審議決議が始まる。

主力メンバーであるお前が「どこへ行くつもりだ?」」

 

 

 

その言葉に黒ウサギも驚く

いまから審議決議が始まるというのに

それを抜け出そうととしているのだ

恐らく追いかけっこしたときと同じように

誰も気づかないスピードで

ここから離れるつもりだったのだろう

 

 

 

「いま大助さんがいなくなると困ります!!!」

 

「だけど久遠さんがいないんだよ!!

何かあったら……」

 

 

「その時はその時だ。」

 

 

 

その一言に大助は肩に握られた手を取り

そのまま十六夜を壁に叩きつけた

 

 

「仲間を…仲間をなんだと思っているんだあぁぁ!!!!!」

 

「魔王と戦うと決めたとき誰もがその覚悟をした

それにだ、少しはお嬢様を信じたらどうだ?」

 

 

「………分かった、でも審議決議が終わったら…」

 

「あぁ、好きにしろ。」

 

 

 

未だに大助の怒り治まっていないようだが

その手を放し十六夜に向かって黙って頭を下げた

 

 

 

 

 



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明日の戦いに勝つために

『ギフトゲーム名《The PIED PIPER of HAMELIN》

 

 

プレイヤー一覧、

現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇・境界壁の舞台区画に存在す る参加者・主催者の全コミュニティ(《箱庭の貴族》を含む)。

 

プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター、

太陽の運行者・星霊、白夜叉(現在非参戦のため、中断時の接触禁止)。

 

プレイヤー側・禁止事項、

・自決及び同士討ちによ る討ち死に。

・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。

・休止期間の自由行動 範囲は本祭本陣営より五百メートル四方に限る。

 

ホストマスター側勝利条件、

・全プレイヤーの屈服・及び殺害。

・八日後の時間制限を迎ると無条件勝利。

 

プレイヤー側勝利条件、

一、ゲームマスターを打倒。

二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。

 

休止期間、

一週間を相互不可侵の時間として設ける。

 

 

宣誓

上記を尊重し、誇りと御旗と

ホストマスターの名の下、

ギフトゲームを開催します。

 

 

《グリムグリモワール・ハーメルン》印 』

 

 

 

 

 

これが審議決議で決められたギフトゲームのルール

明らかにこちらに不利な条件ではあるが

ジンや十六夜達の交渉により

ペストによる黒死病にかかった人達が

精神的にも肉体的にもギリギリ耐えられる時間

そう8日までという時間制限は

プレイヤー側もホスト側も理想的な期限だった

 

 

そして今は6日目

大助は未だに飛鳥を探すために

街の隅々まで空を駆けながら探し回っている

しかしどういうわけか飛鳥は見つからず

こうして6日も過ぎたのだ

つまり明日の夕方にはゲームが再開される

 

 

「………どこいるんだ飛鳥さん……」

 

 

すでに飛鳥は敵に捕まっていると分かっている

分かっているけど探さずにはいられない

初めてできた仲間、そんな仲間をただ待つだけなんて…

 

 

 

「大助さん!!」

 

「黒ウサギ??」

 

 

そんなことを考えていると少し離れた場所から

黒ウサギが手を降っているのが見える

一直線に黒ウサギの元に向かった大助は

接触1m手前で急停止して地面にたった

 

 

「もうお休みください、明日はゲーム再開されます

万全にしていただかないと勝てるゲームも勝てません」

 

「だけど……」

 

 

 

「きっと飛鳥さんなら大丈夫ですよ

十六夜もいってましたがここは信じるしかありません」

 

「…………分かった……」

 

 

 

黒ウサギのいうことは分かる

分かるけど気持ちはまだ認められない

それでもノーネームの為だと考えれば

それが一番だということも……

 

暗い表情をしていたのだろう

大助の表情を見てあたふた黒ウサギが

気分を変えるために話を振る

 

 

 

「そういえばペストが風の精霊を取り込んでいましたが

なぜ、シュトロムではなかったのでしょうか?

ペストは黒死病であり、シュトロムは嵐

シュトロムであれば相性もいいはずですが」

 

「レイがいっていたけどシュトロムでは

シルフを押さえ込む力はないそうです。

それにペストはシルフの力を使い

黒い風を武具として顕現させていました

恐らくまだ力はそれだけじゃないだろうけど…」

 

 

「やっかいですね…

触れるだけでも黒死病にかかる恐れがあるのに

武具となると少しでも掠れば時点でアウトですよ」

 

 

 

外側と内側、黒い風を武具にするだけで

触れるだけではく怪我を負わせて内側から感染させる

毒を付けた武具と考えればいいのだろうが

その武具は相手の次第で形が変わる

 

 

「まぁ、それは僕にとって関係ないけど

一応警戒をしないとね」

 

「本当に大助さんのギフトはデタラメですね…」

 

 

 

「僕的には十六夜の方がデタラメなんだけどな…」

 

「どっちもどっちも問題児です。」

 

「十六夜と同等の問題児扱い!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――境界壁・舞台区画。

大祭運営本陣営、隔離部屋個室

 

大助は黒ウサギと別れて耀がいる部屋へ向かっていた

ノーネームの同士の中で耀だけが黒死病を発症

サンドラの計らいで特別に個室を与えられた

発症してから毎日のように耀の元へ訪れる大助だが

その度に容態が悪くなる姿を見て胸が苦しくなる

それでも大助は耀の元へ行かずにはいられない

 

 

耀のいる部屋に行く途中、

妙にご機嫌な十六夜がこちらに向かってくる

 

 

 

「なんだ、ご機嫌だな。

いいことでもあったか問題児様」

 

「あぁ、春日部のお陰でゲームクリアの目処がたった

お前もさっさとお姫様にあって活力もらって休め」

 

 

「……よし、これが終わったら殴ってやる。」

 

「いつでも受けてやるよ。」

 

 

 

ヤハハ、と高笑いしながら十六夜は去っていく

はぁとため息をつき大助は耀の部屋に付いた

コンコンとノックをするが返事もなく

一言かけてからゆっくりと部屋へ入る

するとすでに耀は三毛猫と一緒に寝ていた

 

 

起こさないようにベットの隣のイスに座り

すやすや寝ている耀の寝顔を見つめる

少しは容態はいいらしく顔色も良くなっている

だけど明日のギフトゲーム参加は難しいだろう

 

ゆっくりと大助は耀の頭に手を伸ばす

触れるか触れないかの所でその手が止まり

どうしてもそこから先が動かない

 

 

耀が発症した黒死病

それを大助がギフト「一時停止」で止めようと

その手を伸ばし頭に触れて一時停止しようとした

だけど、手が止まってしまった

どうしてもこの力を人に使うことは出来ない

ジャック・オー・ランタンは不死であり

躊躇うことはあっても使えたのだが

やはり人相手に使うのは……出来ない。

それを使えば僕は………

 

 

 

それでも触れることは出来ると

耀の頭を数回撫でたあと

 

 

「ゆっくり休んでて、明日は頑張るから…」

 

 

聞いていないと分かっていても

言葉に出して伝えたかった

明日のギフトゲームを勝つために…



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黒ウサギとノーネームと作戦会議

―――境界壁・舞台区画。

大祭運営本陣営、大広間。

 

黄昏時の夕陽に染まる舞台区画の歩廊は

今や人一人いない。

赤いガラスの歩廊も閑古鳥が鳴き、

一週間前までの賑わいがうそのようだ。

尖塔群の影も傾き、陰る宮殿の大広間に

集まった人員の数は僅か500程

 

一週間前に屈服を強制された者や、

ジャックなどの『出展物枠』には

参戦資格がない事が判明し

病魔に冒されていないメンバーを集めたのだが

それでも全体の一割未満である

 

ざわつく衆人の前に現れたサンドラは、

不安を掻き消すような凜然とした声で話す

 

 

 

「今回のゲームの行動方針が決まりました。

動ける参加者にはそれぞれ

重要な役割を果たしていただきます。

ご清聴ください……マンドラ兄様。お願いします」

 

 

 

傍に控えていたマンドラは軍服を正し、

参加者側の行動方針を決める書状を読み上げた

 

 

 

「其の一。

三体の悪魔ばサラマンドラ゙と

ジン=ラッセル率いる゙ノーネーム゙が戦う

其の二。

その他の者は、各所に配置された130枚の

ステンドグラスの捜索。

其の三。

発見した者は指揮者に指示を仰ぎ、

ルールに従って破壊、もしくは保護すること」

 

 

「ありがとうございます。

―――以上が、参加者側の方針です。

魔王とのラストゲーム、

気を引き締めて戦いに臨んで下さい」

 

 

 

おおと雄叫びが上がる。

ゲーム再開の間際ではあったが、

クリアに向けて明確な方針が

出来たことで士気が上がったのだろう

 

病魔に蝕まれている者もいるが、

そんな事はいってられない。

魔王のゲームに勝つために、

参加者は一斉に行動を開始する。

 

 

 

 

 

一方、黒ウサギは宮殿の上から舞台区画を憤慨していた

街のシンボルでもあった

巨大なペンダントランプの破片が散乱し、

まだ片付けられていない屋上から

尖塔群を独り見つめ、両手を胸に当てる。

その手は、微かだが震えていた。

 

 

「………………っ、」

「どうしたんだ黒ウサギ?」

 

 

 

ひゃっ!

と不意の声にウサ耳と尻尾を跳ねさせて驚く。

そして胸元を見て二度驚く。

気が付けば十六夜の手が背後から、

脇の下を通って胸に伸びていたのだ。

 

 

 

「な、何をやっているのですかこのお馬鹿様ッ!」

「胸を揉もうとしてるんだぜ、黒ウサギさん」

 

 

伸びる魔の手。大急ぎで逃げる黒ウサギ。

 

 

「も、もう!

十六夜さんのそういうエッチなところは

宜しくないと思いますっ!」

 

「ハッ、何を言う。

古来、『前屈みのむっつりスケベより、

胸を張ったオープンエロであれ!』という格言が」

 

 

「ありませんッ!」

「あります」

「断固ありませんッ!!!」

 

 

「なにやってるんだお前ら……」

 

 

 

この二人をやり取りを遠い目で見ている大助

これからギフトゲームが始まるというのに

本当になにやってるんだか……

 

はぁ、とため息をつき屋根の上に腰を下ろすと

十六夜は少し離れた場所に座り黒ウサギに問う

 

 

 

「………それで?

何を思いつめたような顔をしてたんだ?」

 

 

 

へ?っと質問に一転、黒ウサギの言葉が詰まる

見られていた事を気恥ずかしく思った黒ウサギは

ウサ耳をほんのり赤くしてそっぽを向く

 

 

「べ、別に何でもありませんっ

ゲーム開始を前に、武者震いしていただけでございます」

 

「ふぅん?

俺はてっきり、人生初の大舞台に緊張で

震えていたんだと思ったが?」

 

 

 

ニヤニヤと笑いながら十六夜が指摘すると、

ぐぬぬと黙りこむ黒ウサギ。

彼女達゙箱庭の貴族゙は、゙審判権限゙によって

ギフトゲームの参加に制限がある

余程の機会に恵まれない限り、

ギフトゲームに参戦するという事はありえないだろう

 

十六夜の指摘は的を射てはいたが……

黒ウサギが気鬱な理由は其処になかった

 

 

 

「た、確かに緊張していないと言えば嘘になります。

しかし我々゙月の兎゙は帝釈天の眷属

いざ戦いになれば、後はこの身に流れる

血脈が自然と戦いに順応するでしょう」

 

「ほう? じゃ手が震えていたのは別の事だと?」

 

 

茶化す十六夜だが、黒ウサギの表情は硬い

瞳とウサ耳を伏せ、黒ウサギは思いつめた様に

胸の内を吐露する。

 

 

「実は、コミュニティのことと……

捕まっている飛鳥さんのことを、考えてました。」

 

「そうか……そうだよね

……黒ウサギも不安だよね…」

 

 

「はい、負ければコミュニティは事実上の壊滅

あの地に子供達だけ残されることになります

それを思うとどうしても不安なのです。

 

ですがこの箱庭では珍しい話ではありません

それはそれで諦めのつく話なのです。

 

…むしろ黒ウサギが申し訳なく思っているのは、

飛鳥さんと耀さんの事でございます」

 

 

 

何処か冷めた声音の黒ウサギは、

ふっと遠い目をして問う

 

 

「十六夜さんは、白夜叉様の忠告を覚えていますか?」

 

「忠告?」

 

「飛鳥さんと耀さんに向けられた言葉です。

『魔王のゲームの前に、力を付けろ。

お前達の力では――魔王のゲームを生き残れない』と

 

黒ウサギは今日までその忠告を軽んじ、

皆さんの溢れる可能性に眼が眩んでいたのです

 

 

……゙打倒魔王゙を掲げると聞いた時

黒ウサギは皆さんの頼もしさに胸が震えました。

しかしだからこそ!

先の先まで見据えた計画を立てねばいけなかったのに!

この神仏が集う箱庭で生まれ育った黒ウサギだからこそ

教えられることがもっとあったはず!

なのに、魔王と対峙するまで

計画も立てずに安穏と過ごし、その結果……!」

 

 

不意に、情けなさで泣きそうになった。

コミュニティの中心は黒ウサギだと

いってくれた彼らの心を

蔑ろにしたと言っても過言ではない

 

それを見て聞いていた大助は

ポケットからハンカチを取り出して黒ウサギに渡す

 

 

 

「もういいよ黒ウサギ

君だけのせいでもない、春日部さんと久遠さんもだ

それにそれを知っていた僕や十六夜だって同じ

一人で背負わなくてもいいんだよ」

 

 

「………大助さん…」

 

 

 

涙を拭き黒ウサギは顔を上げ、

ウサ耳を伸ばし、真っ直ぐに十六夜に向き合う

 

 

「………十六夜さん。

一つ、お願いがございます。聞いてもらえますか?」

 

「聞くだけなら自由だな。……何だ?」

 

「魔王の相手は、この黒ウサギに任せては

いただけないでしょうか?」

 

 

真摯さに、静かな怒りを込めて

黒ウサギは十六夜に頭を下げる

 

 

「十六夜さんが魔王とのゲームを

心待ちにしていたことは承知しております

しかしどうしても……黒ウサギは、

魔王に一矢報いてやらねば気が済みません」

 

 

ザワッと黒ウサギの髪が闘志で戦慄く

黒い髪は淡い緋色の光に包まれ、

軍神の眷属に相応しいオーラが全身を包む

十六夜はそんな黒ウサギを一瞥し――クッと喉で笑った

 

 

 

「勝算は?」

 

「あります。

いえ、むしろ最高の相性とも言えるギフトを

黒ウサギは所持しております。

たとえ相打つ事になろうとも、

必ずや魔王の首を―――」

 

 

「なら却下だ」

 

 

即決を出す十六夜

慌てて言い返そうとする黒ウサギの唇を指で押さえ

呆れたように笑う

 

 

 

「悲観しすぎだ黒ウサギ。

お前が考えているほど状況は悪くない

連中の目的を忘れたか?

『優秀な人材を出来るだけ多く手に入れたい』

それが奴等の狙い。

なら必然的に奴等の行動は

タイムオーバー狙いの消極的な時間稼ぎになる

………そして、それが奴等の隙になる」

 

 

 

ハッと黒ウサギも気が付いた様に息を呑む

 

 

「連中は自分が倒されないようにしつつ、

ステンドグラスも守らなきゃいけない。

しかし防戦ってのは必然的に数が必要になる

なら連中は自然と、バラけて行動するはず」

 

「そこを各個撃破……でございますか?」

 

「そう。ハハッ、聡いのはポイント高いぜ黒ウサギ」

 

 

笑って黒ウサギのウサ耳を引き寄せ

 

 

「まず、サンドラと黒ウサギで

゙黒死斑の魔王゙を確実に抑えて

風の精霊シルフは大助が倒すか良ければ奪い取る」

 

「間違ってはないけど他に言い方ないのか…」

 

 

「その間に俺とレティシアが

ヴェーザーとラッテンを倒す

主力が集結したと同時に、

黒ウサギの切り札でトドメを刺す

――――必勝策としてはこれが最良だろ」

 

 

 

十六夜の具体的な作戦に感嘆する黒ウサギは

同時に驚いたように瞳を瞬かせた

 

 

「た、確かに、必勝の布石でしょう。

しかし十六夜さんは……それでいいのですか?」

 

「別に構わねえよ。

魔王と戦う機会はまた別に来る

今回は特別に譲ってやる。

 

それにだ、゙黒死斑の魔王゙と同化しているシルフを

どうにかして切り離さないといけない。

それは俺がやってみたいと思ったが

大助の方がうまくやれるようだからな

時間をかけるわけにはいかない

精霊には精霊にやってもらう方がいいわけだ」

 

 

「とうとう精霊枠に入ったのかよ僕は…」

 

 

ニヤリと黒ウサギに笑いかけながら十六夜は

 

 

「帝釈天の眷属の力って奴を、

今回は楽しませてもらうさ」

 

 

その言葉に黒ウサギも力強く返す

 

 

「了解です。

帝釈天様によって月に導かれだ月の兎゙の力

とくと御覧くださいまし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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゙属する者、主する者゙

「久しぶりね、時の精霊さん」

「違います、僕は人間です。」

 

「それじゃ時の人さん。」

「……勝手に呼んでください。」

 

 

 

一週間ぶりに対面した二人

このゲームに勝てると自信があるのか

余裕を見せているペストはフフと笑い

それに対して大助はため息をつく

これからギフトゲームが始まるというのに

どうも緊張感がないような気がする

 

大助の両隣に控えている黒ウサギとサンドラは

いつでも攻撃を仕掛けられるように身構えている

 

 

 

(黒ウサギ、サンドラ。

始めは三人で仕掛けてシルフが出てきたら僕が)

 

(分かりました、サンドラ様もよろしいですか)

 

 

 

サンドラも頷き了解を得たところで

一斉にペストへ向かう

正確には大助がいち速くペストに一撃を与える

だが黒い風により体に当たることはなかった

すぐさまペストが黒い風を凝縮・双剣を作り出した

両手に握られた剣を振り落とされた大助は

動かずに一時停止により攻撃を防ぎ

今度は大助が両手をペストに向けて

何重にも重ねた光の衝撃波を放った

だがペストの体は動かずニヤリと表情が変わった瞬間

ペストの体から大量の黒い風が吹き出て

その風が凝縮・三日月の形をした刃へと姿を変えた

それもその刃物はペストの周りに何百もあり、

 

 

 

「く、くそっ!!!!」

 

 

 

何かに気づいた大助は直ぐ様黒ウサギの元へ

いくら黒ウサギが゙疑似神格・金剛杵゙を持っていても

サンドラが゙龍角゙の放出する紅蓮の炎を放っても

大助が放った光の衝撃波が届かない時点で

凝縮された三日月の刃一つさせ壊せる可能性はない

 

そして一つでもその刃を体に受けたら

戦闘へ復帰は不可能となるだろう

だから大助は黒ウサギ達の前に立ち

 

 

 

「カルマッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

その名を呼んだ瞬間に大助からも黒いものが現れ

大助達を包み込みそこに三日月の刃が突き刺さり

それは黒いものに、闇にゆっくりと飲まれていく

 

 

闇あれば光あり、光あれば闇あり

 

 

大助達を包み込みこんだ闇から一筋の光が漏れだし

その光からさっき闇に飲まれた

三日月の刃がペストに向かって放出された

もちろんペストの攻撃のため効果はないが

 

 

「驚いたわ… さすが光と闇と時の精霊ね」

 

「だから僕は精霊じゃないだけど…」

 

 

闇は晴れその向こう側から大助達が姿を現した

大助は平然とした表情をしていたが

黒ウサギとサンドラは唖然としていた

 

例え攻撃が効かずとも大助の援護ぐらいはと

そう思っていたのだが現実は違った

援護どころか逆に助けられているのだ

 

 

 

「黒ウサギ、思っていたよりヤバい。

二人には悪いけど離れたとこから援護をお願い」

 

「……し、しかし……」

 

 

それはつまりこれから先は

大助一人にやってもらうということ

ただでさえ魔王相手に戦わないといけないのに

それをたった一人で戦わせるなんて

 

 

「たったお一人で魔王なんて…無茶です!!

魔王との経験もないのに一人でなんて…」

 

「それは分かってるつもり……

だけどここは僕じゃないとダメだ。

誰一人……欠けないために…勝たないといけないんだ」

 

 

 

大助の言っていることは分かる

だけどそれほど魔王との戦いは甘いものではない

それを大助はまだ分かっていない

目の前に魔王は未だに力を出していない

そんな魔王を一人で戦うなんて……

黒ウサギのそんな表情を読みたったのだろう

大助は静かにカルマへ

 

 

 

「カルマ…頼む。」

「あぁ…」

 

 

その一言でカルマは黒ウサギとサンドラを

闇で包み込み身動きがとれないようにした

 

 

 

「だ、大助さん!!?」

「ダメです!!お一人で戦うなんて…」

 

 

 

 

「……ペスト、悪いが直接二人が参加できないように

゙契約書類゙でルールを作っていいか?」

 

「構わないわ。

もちろん、そちらの条件を呑むのだから

こちらの条件をのんでもらうわよ。」

 

 

「ああ、こちらはさっきの条件でいい

そちらは条件は??」

 

「そうね、勝利条件は一撃を、

ダメージを先に与えたほうの勝ち

そして勝ったほうが負けたほうの

精霊をもらうなんてどう?」

 

 

 

思ってもいない条件が提案された

正直ペストからシルフを

引き剥がす方法はまだ思い浮かばずにいた

レイからは「精霊に力を示し屈伏させる」と聞いており

シルフと戦い勝てばいいだろうとしか考えていなかった

だからこの条件は魅力的な提案だが

 

 

 

「構いませんわご主人様。

私達はご主人様のご意志のままに」

 

「私もどう意見だ。」

 

 

「……ありがとう。」

 

 

 

本当にこの精霊達は……

これでシルフを取り戻す条件が決まった

 

 

 

 

 

 

『ギフトゲーム名 ゙属する者、主する者゙

 

・ルール説明

・ゲーム開始は宣誓を終え一分後

・先に一撃、ダメージを与えたら決着

・敗者は精霊を渡す

・援護または助言は受けられない

 

宣誓 上記のルールに則り、

゙大助゙゙ペスドの両名はギフトゲームを行います。』

 

 

 

二人が宣誓を交わすと、

羊皮紙が一枚ずつ手元に舞い落ちる

その羊皮紙には試合開始に向けて数字が現れ

60秒から一秒一秒と時間が減っていく

 

 

 

「これで決着が着くまで邪魔は入らない。」

 

「ふふふ、そうね。

だけど貴方バカなことをしたわね

攻撃を塞いでいるそのギフト、弱点あるわよね。」

 

 

「………………」

 

「黙秘は認めることになるわよ。」

 

 

 

まさか気づかれた……

大助の身体全体を守る一時停止

だがそれは無機物だからこそ出来る

例外はあるが有機物、つまり生きているもの

未だにトラウマにより直接的に触れること

触れて相手を一時停止することは出来ない

 

 

そして時は間もなくゲーム開始を告げる。

 

 

 

 



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VS.゙黒死病の悪魔゙ペスト(Ⅰ)

羊皮紙に書かれた数字が0へと変わり

それと共に先手を打ったのは大助だった

さっきまでは接近戦を行ったが

ペストが一時停止の、大助の弱点を見つけたため

迂闊に近づき一撃を受けてしまう可能性が出てきた

 

それならと大助は両手から光の衝撃波を放つ

直接ペストの体に衝撃波を打ち込ま波なくても

遠距離でも衝撃波は充分に強い

ただ狙いを定めないといけないし

必ず当たるわけではない

それでもそうしなければいけない

一つのミスがレイやカルマを失うことになる

絶対に負けるわけにいかない

 

 

一時停止は遠距離や武器の使用など

その衝撃やそのものを停止出来るが

素手での攻撃、つまりは他者に触れることが

大助にとってのトラウマである

 

相手を2年もの間、時間を止めてしまった

それにより相手の体に異常が現れたりはなかったが

周りから2年もの間遅れてしまった

歳も知識も友達と一緒に過ごせた筈の思い出さえも…

それがどれ程のものか……

 

 

(……ぐっ、…やっぱりキツイ……)

 

 

思い出してしまうあの日のことを、

拒絶するかのように頭痛が大助を襲う

片手で頭を押さえ痛みを耐えようするが

その隙をペストが見逃すわけがない

 

黒い風を凝集し形を「長槍」へと変え

片手で放たれる衝撃波を捌き落とす

その長槍の先端には目でもはっきり分かる

シルフの加護を得た風の真空刃

あの真空刃ならあらゆるものを切り裂いてしまうだろう

 

ペストは次々と衝撃波を打ち落とし

どんどん大助に近づいてくる

しかし未だに治らない頭痛を抱えながら

距離を開けようとするのだが

思ったように距離が開かない

 

この頭痛により集中できていないのか

少しずつだが衝撃波の放つ感覚も遅くなってきた

 

 

 

「勝手に自爆しているようだけど?」

 

「………くっ……」

 

 

 

ペストの言っていることは正しいだろう

一時停止の弱点を見つけられただけで

こうも簡単に心が揺らぐなんて…

正直レイとカルマとのギフトゲームや

ジャック・オー・ランタンとの勝負で

もう大丈夫だろうと思い込んでいた

 

それがどうだ、この様は。

確実に勝てるとは言えなくとも

互角の戦いは出来るのではないかと思ったのだが

こうして自分の心の弱さで戦況が変わるなんて……

 

 

「ご主人様…一度私とカルマを戻してください」

 

「な、なんでこんなときに!」

 

 

「こんな時だからこそです。

私とカルマは他の精霊よりも

ご主人様の心の影響を受けます

それは逆に私とカルマが戻れば

その心の乱れを押さえられます」

 

「………分かった……」

 

 

 

そういってレイとカルマは大助のもとへ

するとレイが言ったように少し頭痛が治まった

しかしそれを行ったタイミングが遅かった

すでにペストの長槍は大助に届く範囲に

 

 

「大助さん!!!!」

 

 

すでに解放された黒ウサギだが゙契約書類゙により

このゲームに参加することは出来ない

ただ見守るしかできない

 

しかしどんなに鋭い刃でも

一時停止の前では意味をなさない

長槍は大助の腹部に接触しその場で停止

だがペストはそれが狙いだった

長槍の先端、風の真空刃を止めた

その真空刃だけを止めただけ

 

ペストが使っていたのは長槍

真空刃だけが止められただけで柄は止まっていない

だからその柄を解除し黒い風に戻した

つまりはまだペスト自身、その行動をめていない

それに気づいた大助はとっさにその場から離れた

大助が避けた瞬間にはそこをペストが通りすぎ

あと少し反応が遅ければ一撃を喰らっていただろう

 

 

 

 

「思った通りね。

直接的な攻撃を止めることも出来ない

そして武器もダメージなる場所だけを止めて

他の部分は止めてないみたいね

 

まさかだと思うけど、武器そのものを止めることが

「いつかその使用者を止めてしまう」なんて

そんなバカな理由じゃないわよね♪」

 

 

 

完全にペストにばれている……

しかしどうして……

 

 

 

「参考までに…

どうして分かったのか教えてくれないかな??」

 

 

 

「そんなこと簡単でしょう

あのかぼちゃと戦っているとき

「相手の時間を止めた」でしょう

そしてそれを私には使わなかった

精霊が賭けの対象になっているのに

そんな反則なギフトを使わないなんて……

 

初めはそのギフトに使用制限があるかと思ったけど

それならその衝撃波に対して説明がつかない

衝撃波も停止で止めていたものなら

そのギフトに使用制限はないはずよ

ならなぜ私を停止させないのか??

 

ならあとは使用者が原因

それもギフトを使えない理由がある

ギフトの反動でも対価でもない

心に刻まれた負の記憶……じゃないかしら?」

 

 

 

ハハハ……まいった…

さすが魔王だ、簡単に分かるなんて…

それも知られたらいけないものを知られるなんて

 

 

 

「さぁ、どんどんいくわ。

すぐに終わらせることは出来るけど

それだと面白くないしね

少しずつ柄を短くして少しずつ少しずつ…

その心の傷口をさらに広げてげるわ」

 

 

そういって黒い風を凝集し

今度は突起物のついた棍棒を作り出した

 

 

 

「な、なんて卑怯な!!」

 

「戦略といってほしいわね

さて続きといきましょうか。」

 

 

 

不気味な笑みを浮かべながら

ペストは大助に向かって動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……お…だ……せ……

……け……わた……

…………れが……べ…を………止め……)

 

 

 

すべてが闇に染められた世界

その中に踞る「影」が一つ

その瞳、すべてを否定するかのように光り

ただなにも見えない闇を見つめる……



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VS.゙黒死病の悪魔゙ペスト(Ⅱ)

「だ、大丈夫なのですかあの者は…」

 

「分かりません………

ですが、大助さんが苦戦してるところは

初めて見ました……」

 

 

 

ペストは棍棒を振り回し大助に襲いかかる

大助は光の移動を使わずに音の移動で回避

光の移動は凄まじく速いが

速すぎて短距離移動には向かない

少しの移動が一気に距離が開く

退避や遠距離などには最適、回避や短距離は不向き

だからこそ音の移動で回避を行っている

 

しかし音の移動ではペストの攻撃からは逃げられない

シルフの風を使い周囲の状況を把握している

大助のわずかな動きが空気を伝わり風に伝わり

シルフからペストへと状況が伝達される

だから大助の行動を先読みして行動している

 

いくら音の移動をしていようが

どこにどう動くか分かればいくら速くても問題ない

少しずつだがペストの攻撃は大助に近づいている

そして……

 

 

 

「……ぐっ!」

 

「残念ね、まだまだいくわよ」

 

 

 

とうとう棍棒は大助の腹部に当たった

もちろん一時停止により攻撃は止まったが

突起物の部分が停止しても柄は違う

柄部分は一時停止が働いていないため

ペストは黒い風に戻し大助の視界を遮った

 

すぐに光の衝撃波により黒い風は拡散されたが

ペストにとってはその一瞬だけでよかった

その一瞬でペストは大助の懐に入り

大助へとその一撃が……

 

 

 

「う、うわああああぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

体が心が拒絶をした

恐怖が目の前に襲いかかる状況から逃げようと

大助は光の移動で一気に距離を開ける

ただ雑に逃げたためにそれほど遠くない場所に

それも建物に思いっきりぶつかった

ダメージはないのだが建物は破壊され

瓦礫に埋まっている大助はなんとか立ち上がったが

それでも全身が小刻みに震えている

 

 

 

「あらもう限界かしら?

もう少し楽しめると思ったけど…終わりよ。」

 

 

 

さらに恐怖を与えようとしているのか

ペストはゆっくりと大助の方へ近づく

その手にはなにも持っていないところを見ると

今度は素手で、一時停止が出来ない素手で

このゲームを終わらせようと近づいている

 

それが分かっていても足が体が動かない

震えがずっと続いて止まらない

ペストのその手で殺される恐怖ではなく

やはり相手の時間を止めてしまうというトラウマ

 

確かに一時停止させたとしても

すぐに解除してしまえばなんも問題ない

現にジャックとの戦いでは問題なく使えた

自分の影と勝負したときも使えたのだ

だからあとは自分の心の持ちようなのだ

そう分かっているつもりだったが

迫りくる手が恐怖が甦り、心と体が拒絶をした

 

 

 

(落ち着け…落ち着け……

ただ少し止めるだけだ、ほんの少し止めるだけ…

そうすれば勝てるんだ、勝てるんだ……)

 

 

 

必死に自分に言い聞かせる大助

しかし心は体は正直であり

まだ体の震えは止まらない

それでも足は動かせ瓦礫から抜け出せた

 

 

(ここで勝たないと…レイやカルマが……

それにこのギフトゲームが終わったら

黒ウサギ達にまた襲いかかる…

それを最小限に減らすためにはシルフを!!)

 

 

決意を新たにペストに向かい踏み出そうと、

 

 

 

「……げて……逃げてください大助さん!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貫いたのは一本の刃物

それは黒く鈍く光り、赤い液体がその刃物に流れる

 

 

「……………えっ………」

 

 

目の前には、いや懐にペストがいる

ニヤリと笑い両手で握っているのは短剣

そしてその短剣は大助の腹部を貫いている

 

 

「ただ闇雲に攻撃していたと思っていたの??

シルフの風には具現化・周囲検索だけじゃない

幻覚を見せる風をあなたの周囲をばら蒔いたの」

 

 

 

全然気づかなかった……

よく目を凝らせば大助の周りには鱗粉があり

それが大助に幻覚を見せていたようだ

 

ズブリっと引き抜かれた短剣には赤い血が付いており

大助の体から血が溢れてでくる

手で出血を止めようとするが止められない

 

 

「勝負ありね。」

 

 

 

 

『勝者ペスト、敗者の精霊は勝者へ移行します』

 

 

 

すると大助の影からレイとカルマが現れ

まるでペストに吸い込まれるかのように

必死に抵抗しても引き寄せられる

 

 

「ご主人様!!……ご主人様!!!!」

 

「これからは私がご主人様よ。」

 

 

レイとカルマはペストの背後に周り

そして金縛りにあったかのように硬直した

二人の周りには目には見えない風で拘束

その二人の間にシルフが現れ

 

 

 

「やったわ…やったわ!!

レイ姉さんが私のものになったわ!!」

 

「シ、シルフ……正気に戻って…」

 

 

「私はいたって正常よ。

だけど残念ね、もうあの男は助からない」

 

 

 

その言葉を聞きレイは大助の方を見た

そこには地面に踞り床には大量の血が……

 

 

「ご主人様あああああぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

 

近づきたくとも拘束され身動きとれない

シルフより格上のレイならば簡単に拘束など解けるが

どういうことなのかその拘束が解けない

いくらペストの元に降ったとして

精霊の力を押さえることは出来ない

つまりはいまのシルフはレイ達よりも強い

 

 

「大助さん!!大助さんしっかりしてください!!!」

 

「出血が酷い……悪いが焼いて出血を…」

 

 

 

サンドラは手に炎を灯し大助の腹部の傷を焼き

出血を止めようとしたのだが

炎が大助に触れる前に停止したのだ

そしてさらにまるで排除するかのように

大助を中心に周りに衝撃が放たれた

それに吹き飛ばされた黒ウサギやサンドラは

空中で体勢を整え、近くの建物へ着地

すぐさま大助の元へ向かおうとするが

そこで不思議な現象を目撃する

 

大助の周りでは、周囲10mの物が停止した

空中に飛んだ建物の破片や塵

風も水も炎も、なにもかもその場で停止し

そして大助自身も停止していた

 

 

 

「なるほど…自己防衛が働いたのね」

 

 

ペストがいう通りだろう

現に大助の体から流れていた血も停止して

大助の「時間そのもの」も停止した

これで大助の命は守られたが…

 

 

「でもこれで時の人、時人はリタイアね。」



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VS.゙黒死病の悪魔゙ペスト(Ⅲ)

「よ、よくも同胞をおおぉぉぉ!!!!!」

 

 

怒りに我を忘れペストの元へ跳躍した

手にば疑似神格・金剛杵゙を持ち

怒りが形となったと思わんばかりの雷を放った

だがペストは片手を前にだし下から上へ動かしたとき

襲いかかる雷の前に闇の柱が現れた

 

その闇の柱は雷を飲み込み

そしてそのとなりに光の柱が現れ

さっき吸収された雷が黒ウサギに向かって飛んできた

 

 

すぐさまに同じ雷を放ち相殺したが、

 

 

 

 

「こ、これは大助さんの!!」

 

「違うわ、これはこの精霊の力よ。

素晴らしいわ…これなら白夜叉を……」

 

 

その瞬間、一際大きな振動が起きた

黒ウサギはサンドラの元へ戻り顔を見合わせる

サンドラは華美な衣装の袖で光る汗を拭いながら呟く

 

 

 

「今の揺れ、かなり大きかった」

 

「YES!

十六夜さん達の決着がついたようです!」

 

 

次いで響く爆音。

外で野放しにされていたシュトロムの一体が破壊された

どうやら力を合わせた参加者達が打倒したのだろう

 

こちらの戦況は思わしくないが

少しでも好転してくれたことは正直しい

 

 

(ラッテンもヴェーザーも……

二人とも倒されてしまったみたいね……)

 

 

冷静にゲームの状況を頭の中で整理する

二人がやられたいま、やることは決まっている

シルフ・アスカ・シャドウという精霊を手にして

あとその手に納めるものといえば……

 

ラッテンとヴェーザー。

彼らにしばし黙祷した後、

 

 

 

「―――――――……止めた。」

 

「え?」

 

「時間稼ぎは終わり。

白夜叉だけを手に入れて―――皆殺しよ」

 

 

 

刹那、黒い風は天を衝いた

雲海を突き抜けた奔流は瞬く間に雲を散らし、

空中で霧散してハーメルンの街に降り注ぐ

空気は腐敗し、鳥は地に落ち、

街路のネズミ達は触れただけで命を落とす

 

 

「先ほどまでの余興とは違うわ。

触れただけで、その命に死を運ぶ風よ………!」

 

「なっ、」

 

 

ペストの指先が伸びる

天から襲う陣風は、如何なる力も引き付けない

金剛杵を掲げて雷鳴を向けた黒ウサギだが、

刹那に霧散され手も足も出ずに逃げ回る。

 

 

「や、やはり゙与える側゙の力!

死の恩恵を与える神霊の御技ですか………!!

 

ケ、ケルト神話の魔王は

見るだけで死を与えると聞きますが、

あれはまさにそれです!

あの死の風を貫通するには、

物理的な力では不可能でございます!」

 

 

死の風を解放した、無差別攻撃。

上空から吹き荒れる死の風

このままでは黒ウサギ達やここにはいない十六夜達

ステンドグラスの探している参加者達

その誰が、いや、全員が命を落としかねない

 

 

(こんな時に…大助さんが……!!!)

 

 

そんな幻想は無意味だと分かっていながらも

この状況を簡単に覆せるだろうと考えてしまう

それだけの力と信頼が大助にはある

だがそんな大助はいまは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……ここで……しん…ら………こまる…』

 

『……しかた……な…………』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………代われ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、まずい!

このままじゃステンドグラスを

探している参加者がッ!!」

 

 

吹き荒れる死の風を避けながら

その力にサンドラも戦慄きながら叫ぶ

しかし他の参加者に気を配っている暇はない。

街の各所に散らばっている者にまで

2人の手は回らない

 

辛うじて建造物に避難しているようだが、

参加者を庇った幾人かの゙サラマンドラ゙のメンバーが

迫りくる死の風に巻き込まれようとしていた

 

 

もう向かったところで間に合わ……

 

 

 

 

「…………えっ、」

 

 

 

状況が飲み込めなかったペストが発した

ついさっきまで参加者が黒い風に飲まれて

その命を失うところだったはず

 

しかしその時は来なかった。

参加者を飲み込むはずだった黒い風は「停止」していた

だがそれはありえない、ありえるはずがない!!

そのギフトを使う者は、時人はリタイアしたは……

 

 

 

 

「なんだ?

この目障りなものは、うぜぇんだよ。」

 

 

 

 

その声に誰もがその主の元を向いた

そしてその場にいる誰もが驚いた

知っている人物がそこにいると思っていた

確かにその服装は知っている者が着ていたのだが

ただそれだけ、それしか認識できないのだ。

 

白髪で腰まである長髪

優しかったその目付きが敵意むき出しな細い目

瞳の色が深海のような深く黒に近い青

 

極めつけはその背後にある巨体な時計

Ⅰ~ⅩⅡまでが円の周りに刻まれ

さらにその中で大小様々な時計が組み込まれている

いやそれだけではなく巨体な時計の周りにも

数えきれないほどの時計が宙に浮いているのだ

そして巨体な時計の中心から二つの針

長い針と短い針はⅩⅡピッタリに止まっていた

 

 

 

「だ、大助さん……ですよね……」

 

「あっ?

なんだウサギ、もしかして俺のことをいっているのか?

そうか「正界」の俺は大助というのか…」

 

 

 

なるほどな~と言いながらも全く気にもせずに

周りをキョロキョロしている

そしてもう一度黒ウサギの方を見て

 

 

 

「おい、ウサギ。

ここの俺はお前らの仲間なんだな?」

 

「Y.YES!!

大助さんは私達仲間なのですよ!!!」

 

 

 

「なら単純にあの目付きの悪い

斑尾ロリを潰せばいいんだな!!」

 

「しかしその傷で戦うなんて!!!」

 

 

 

あっ、大助??は自分の腹部を見ていた

そして流れ出るその血を確認したことろで

何が起きたのか、突然笑いだした

 

 

 

「マジかよ!!!?

一時停止使ってるのにこんな怪我負うなんて!!!!

全く「正界」の俺はなにやってるんだ!!アハハ!!!

 

……まぁ、そうなってなきゃ

俺がここに来ることはなかったわけだが……」

 

 

 

そういって大助??はその手で

傷口を押さえると思いきや

すぐさまにその手を離した

するとそこにはさっきまであった傷口が

綺麗サッパリ消えてなくなっていた

 

 

「なっ!!?」

 

 

「驚くことかよウサギ。

「正界」の俺が持っている力なら簡単だろうが

って、それが出来たら俺はここにいねぇか……

 

全く……世話のかかる「大助」だなあああああぁぁ!!!!」



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VS.゙黒死病の悪魔゙ペスト(Ⅳ)

咆哮をあげるかのような声は

どこまでも広がっていくよう……

大助??の近くにいるものは耳を塞いでいるが

特に耳のいい黒ウサギは本当に参っているようで、

 

 

 

「そんなに声をあげないでくださいいいぃぃ!!!」

 

「あっ、なんだウサギ。

人がノッてるときに邪魔しやがって

今度邪魔してみろ、カラッと喰うぞ。」

 

 

「カラッと……って黒ウサギを揚げるつもりですか!!?」

 

 

 

そんな即席漫才をしていると

痺れを切らせたペストが攻撃を仕掛けてきた

触れただけで死を運ぶ風、その風を小さな銃弾に

その小さな銃弾を全方位、隙間なく大助に向けられ

なんも前触れもなく一斉に放たれた

 

 

「大助さん!!!」

 

「人の心配をしている場合??」

 

 

放たれたはずの銃弾の一部が残っており

銃弾は大助??から黒ウサギの方へ向きを変え、

 

 

「オイコラ、自分の心配をしてろこの駄ウサギ!」

 

 

側面から助勢に現れた十六夜の蹴りが

着弾寸前で吹き飛ばされ霧散された

何が起こったのか分からないペストは一瞬、唖然とした

 

 

「ギフトを砕いた……? 貴方、」

 

「先に断っておくが、そこの奴と違って

俺は人間だぞ魔王様!」

 

 

死の風を霧散された勢いで懐に飛び込む十六夜

下から突き上げる蹴りを喰らわせようとしたが

やはりペストを防御する風により当たらなかった

だがそこは十六夜だからだろう、

その防御していた風を見事に消し去った

 

それに気づいたペストはレイの光の移動を使い

一瞬のうちに十六夜から距離をとる

 

 

 

「驚いたわ、まさか消されるなんて…」

 

「あぁ、こっちもだ。

あの異常者が負けるとは思わなかったぜ」

 

 

睨み合う二人

その間にディーンを乗って飛鳥が現れ

黒ウサギに詳しい状況を聞いていた

 

 

「……なんかすごいことになってるわね…

それで大助君は無事…と考えていいわけ」

 

「恐らくは……」

 

 

 

「なにもあるわけないだろうがアゲウサギ」

 

「どうして揚げる前提でいってますの

このおバカ様あああああぁぁ!!!!!」

 

 

 

大助??に放たれた銃弾は

一メートル手前で停止していた

そしてその手をただ振るっただけで

停止していた銃弾は全て消え去った

 

 

 

「…………………。え、えーと?

あの人、ギフトを砕いた様に見えたけど…

それにあの人も攻撃物そのものを消しましたよね」

 

「さ、さて?

黒ウサギも十六夜さんについては

知らぬことだらけでございますから……

大助さんにいたっては姿も性格も

変われているようですし……」

 

 

 

黒ウサギも改めて目の当たりにし、

そのデタラメ加減に舌を巻いている

すると突如、大助??と同じぐらいの声が

8000万の怨嗟の声が衝撃波となって十六夜を襲う

思わぬ不意打ちを受けた十六夜は

大助??のいる方向へと吹き飛ばされた

 

飛ばされた十六夜を大助は

なにもなかったように避けてスルー

それに気づいたのか十六夜は

すぐさま体勢を立て直した

 

 

 

「こっちに飛んでくるなヘッドホン」

 

「うるせぇ、クロノスもどき」

 

 

 

そんなやりとりも向かってきたペストが

黒い風を二人にぶつけ妨害してきた

十六夜は足で黒い風を吹き飛ばし

大助??はただ手で振り払いそのものを消し去った

 

 

 

「この程度で私に勝つ気なの?

星も砕けない分際では私は倒せないわ」

 

「いってくれるな斑尾ロリ」

「消してやろうかあぁ、斑尾ロリ」

 

 

 

そういって大助??はまるで刀を抜くような

そんなモーションをとったのだが

元々大助はそんな物は持っておらず

もちろん大助??になってからもそんな物はない

 

だからもちろん大助??の手は空を握っただけ

それに気づいたとたんに表情が怖くなり

 

 

 

「どこへやったあああああぁぁ!!!

俺の「無刀」をどこへやったあああああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「お、お、落ち着いてください!!!

もしかしたらギフトカードに

収納されているかもしれません!!!!」

 

 

 

あぁ!!?と不良のように黒ウサギを睨み付ける

しかしそれでは何もならないと分かったのか

チッと舌打ちをうち身体中をべたべた弄る

すると胸ポケットから

スプリングホワイトのギフトカードが見つかったのだが

 

 

 

「ないぞウサギ!!!」

 

「そんなこと言われましても!!

そもそもあなた様は誰なのですか??

どうして大助さんに乗り移っているのですか??」

 

 

「うるせぇ!!!

俺は俺だあぁ!!誰でもねぇ!!!

おい、無刀!!!さっさと俺のもとに来やがれえええぇ!!!!!」

 

 

 

 

そんなむちゃくちゃな、と誰もが思ったが

大助??が持つギフトカードが光り出したのだ

少しずつ光が強くなり光が最高潮に輝いた瞬間、

その光の中から光るギフトカードが吹き出したのだ

それも数千と いや数万、数億といわんばかりに

光の中からギフトカードを出現させ空へと飛んでいく

 

 

 

「な、なんなのこれは!!!」

 

「これはあの時と同じ!!?」

 

 

具現化されてない光るギフトカードは

空一杯に広がりゆっくりと舞い落ちる

 

そしてその中の一枚が

大助??の持つギフトカードに触れた刹那、

その光はカードの中心へと吸い込まれ始めた

 

それだけではない、

その光と共に周りにある光るギフトカードさえも

大助が持つギフトカードへ吸い込まれていく

空一杯に広がったギフトカードは

数十秒ですべて吸い付くした

その後ゆっくりと光は収まり始め

光が消えたあとそのギフトカードには

 

 

 

 

・ギフトネーム

゙ ??゙

゙??゙

゙??゙

゙無刀゙

 

 

 

 

と、無刀以外なにも分からないと表示されている

しかしそんなこと気にしていないように大助??は

 

 

 

「来たぜ来たぜ来たぜ!!!!!

来い無刀!!全てを「無」と返せえええぇ!!!!!!!」



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VS.゙黒死病の悪魔゙ペスト(Ⅴ)

スプリングホワイトのギフトカード

光輝く中から柄が現れ、鍔・鞘が続けて出てきた

これは日本刀、名を『無刀』

取り出した無刀を片手でくるくると回した後

無刀を確認するようにジッと見つめた後

ゆっくりと鞘から刀を抜いた

 

 

…………のだが、

 

 

 

 

「「えっ??」」

 

 

 

 

その場にいる誰もが驚いた

驚いたというより信じられないと言うべきか

その刀には、無刀には、「刀身」がないのだ

刀身が鞘から抜け落ちないようにするための

「はばき」というものさえ付いているのに

刀に必要な刀身がそこには…ない。

 

 

 

「な、なんなのよ…それ……

そんな刀で私を切るつもりなの??」

 

 

 

そしてフハハとお腹を抱えながら笑うペスト

黒ウサギ達も心配して大助??を見つめる

だが一人だけ冷静な奴は、

 

 

 

「やり過ぎるなよ

てめぇは出る幕じゃないんだよ、クロノスもどき」

 

「うるせぇヘッドホン。

……ちっ、なら借りを返すだけにしてやるよ。」

 

 

 

そんな話をしたあと十六夜は

すぐさま黒ウサギ達の元へ行き

 

 

 

「黒ウサギ、サンドラ、お嬢様

参加者達をすぐにこの場から避難させろ」

 

「いますぐでございますか!!!!??」

 

 

 

十六夜の突然の言葉に戸惑う黒ウサギ

この周りを全員避難させようとするなら

それもどこに誰がいるのか分からないのに

すぐに避難させることなんて……

 

 

 

「゙サラマンドラ゙の人々なら避難の合図があります

それでしたらすぐにでもこの場から離れます」

 

「ジン君やレティシアには

サラマンドラと一緒に行動するように言っているわ」

 

 

 

「ならさっさとしろ!!

……下手したらここ一帯、消し飛ぶぞ!!」

 

 

 

一気に表情が強ばった

あの十六夜が必死とは言わずとも

はっきりと危険だとそういったのだ

それはサンドラでもどれだけのものか理解した

別のコミュニティだとしても

その者の実力がどれ程か短時間でも分かる

 

分かるからこそ、驚いたのだ。

その実力者がそれほど恐れていることに…

 

 

 

「待ってください!!

それより確実に被害を出さない手がございます!!!!」

 

「あるならさっさとしろ駄ウサギ!!!!」

 

 

「どうして今日はこんなに風当たりが強いのですか!!!?

いいですか、いきますよ。

今から魔王と此処にいる主力――

――――纏めて、月までご案内します♪」

 

 

 

 

は?という疑問の声は、刹那に消えた。

白黒のギフトカードの輝きと共に急転直下、

周囲の光は暗転して星が巡る

温度は急激に下がり、大気が凍りつくほどの

過酷な環境が十六夜達を襲う

激しい力の奔流が収まり、瞳を開けて天を仰ぐ

天には、箱庭の世界が逆様になって浮いていた

石碑のような白い彫像が

数多に散乱する月の神殿を見て

ペストは蒼白になって叫ぶ

 

 

 

「チャ……………゙月界神殿゙!

゙軍神゙ではなく、月神゙の神格を持つギフト………!」

 

「YES!

このギフトこそ、我々゙月の兎゙が招かれた神殿!

帝釈天様と月神様より譲り受けた、

゙月界神殿゙でございます!」

 

 

黒ウサギは、満点の星と

箱庭を誇るように両手を広げる

神殿とは言わないが、その名残の様なモノは

白い石碑の彫像群だけだ

 

彫像の結界をのそとに出れば、

月面の過酷な環境があらゆる生物を死滅させるだろう

 

 

 

「け、けど…………!

ルールではゲーム盤から

でることは禁じられているはず、」

 

「ちゃんとゲーム盤の枠内にいますよ?

ただ、高度が物凄く高いだけでございます」

 

「っ…………!?」

 

 

 

「これで参加者の人間の心配はなくなりました!

サン……」

「面白いことしてくれたなウサギ!!

お礼だ!!さっさとヘッドホンの影にでも隠れて

揚げられるのを待っていやがれ!!!!!!」

「何をいってますのこのおバ、」

 

 

 

黒ウサギが言葉を発する前に十六夜が前に立つ

その刹那、十六夜を避けるかのように周りが

消ゴムで消されたように消えてなくなった

クレーターのように陥没したわけではなく

正真正銘、地面が、月の一部が、消えた。

 

 

 

「な、何ですかこれは!!?」

 

「俺の後ろからか動くな!!!

……跡形もなく消えたくないならな」

 

「流石だなヘッドホン。

これは警告だ、俺がいいというまで動くな

…………いいな??」

 

 

ギフトには光を浴びるだけで死に至るものがある

それに似たこのギフトは、一瞬にして「無」にする

死とは違う恐怖、それを考えただけで恐ろしい

そして黒ウサギは大助??が

こちらに刀身のない刀を向けているのを見た

刀身を向けられている訳でもないのに

何故か全てを失う感覚に囚われた

 

 

 

「さて、ウサギ達には

斑尾ロリを倒す手段があるようだ

その間、「俺」が受けた借りを返してやるよ。」

 

 

 

そういって大助??は無刀をペストへ向ける

向けられたペストも黒ウサギと同じように

全てを失う感覚に囚われ冷や汗をかく

なにも起きないのかと油断した瞬間

 

 

 

「っ!!!!」

 

 

すでに大助??から攻撃され

ただ何も起きていなかったと錯覚していた

ゆっくりと手を腹部に当てると

そこからは夥しい血が溢れだしていた

すぐさま傷を癒そうとするがそれが出来ない

その間にも血が体から抜けて月の地面へと落ちる

 

 

 

「な、何をし…たの…。」

 

 

「理解出来ないだろうな

この無刀は刀身がないんじゃない、いらないんだよ

俺が斬ると思った物「全て」斬る。

どんな固いものでも、精密なものでも、

どんなに離れたいても、

距離も空間も時間も何もかも斬る

 

聞くが斑尾ロリ、この無刀からどう逃げる??」

 

 

 

そんなデタラメなギフトがあるのか??

ありとあらゆる物を斬るなんて…

それも距離を必要としないとせず

ただ斬ると思った物を斬る

 

そんなものから逃げるなど……

 

 

「諦めろ斑尾ロリ。

例え無刀から回避出来たとしても

その傷には再生出来ないように停止してある

死にはしないだろうが、終わりは見えてる」

 

 

 

まだ戦える。

星を砕く一撃ではないかぎり死にはしない

そのはずなのに、ただ治らない傷を負っただけで

はっきりと勝利するというイメージが浮かばない

突然と現れた時人とは違う者

 

 

 

あの者は……一体何者なんだ………

 

 

 

 

 

「…………あとは勝手にしろウサギ。」

 

 

 

 

大助??はその場から離れると

影で見えなかった黒ウサギと飛鳥が

そしてインドラの槍を持ったディーンがいた

 

 

 

「今です飛鳥さん!」

 

 

「撃ちなさい、ディーン!」

 

「DEEEEEEeeeeEEEEEEEEEEN!!!」

 

 

赤い鋼の巨人が怒号をあげて撃ちだす

インドラの槍は飛鳥の言葉に応じ、

千の天雷を束ねてペストを襲う

簡単に避けられるはずだが

治ることのない傷がその行動を鈍くし

ペストは避ける間もなく被弾し、

月面を空高く打ち上げられ貫かれた

 

 

 

「こ、この……程度で、なんかで………!」

 

「無駄でございますよ。

その槍は正真正銘、帝釈天の加護を持つ槍

太陽の鎧と引き換えた、

勝利の運命(ギフト)を宿す槍なのですから」

 

 

 

 

 

「そんな……私は、まだ…………!」

 

「――――――さようなら、゙黒死病の魔王゙」

 

 

 

飛鳥が別れの言葉を告げると、

一際激しい雷光が月面を満たす

轟と響きを上げて軍神の槍は、

圧倒的な熱量を撒き散らして魔王と共に爆ぜた。



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この話を語るは、また後日に。

―――境界壁・舞台区画。

゙火龍誕生祭゙運営本陣営。

 

ゲーム終幕より四十八時間が経過。

 

 

外では祝勝会を兼ねた誕生祭に加え、

終日宴の席が設けられていた。

サンドラが魔王に初勝利を収めたことや、

゙ノーネーム゙の功績が取り上げられ

大いに盛り上がりを見せている。

 

゙サラマンドラ゙どノーネーム゙には

惜しみない称賛の声が上がった。

今回のゲームに参加した者達に、

彼らを軽んじる者はいないだろう

 

 

十六夜が考案した策は、一先ず成功を収めた。

 

 

だが、

 

 

 

 

「お主がクロノスの後継者なのか??」

 

「ちげぇよ、「俺」じゃねえ。

こっちの「俺」はどうだか知らねぇが「俺」は違う」

 

 

 

「しかしだな…」

 

「うるせぇな、だいたいさっきからなんだ!!!

見せ物のように集まりやがって!!!!!」

 

 

 

十六夜が予測できなかったこと

それは此処にいる「大助」のことだ

顔は似ているが髪は白髪で長髪

そしてその背中にはコンパクトになった時計盤

 

この大助は突然と現れ

ペストに勝利のカギとなったダメージを与え

さらにこの境界壁に広がるはずだった黒い風を停止させ

誰一人死人を出さずに

このゲームを終わらせることが出来たのだ

 

 

そしてその貢献者を一目見ようと

様々な者達が大助??を見に来ていた

 

 

 

「ご、ご主人様…そんなに怒らずとも……」

 

「うるせぇっていってるんだ!!!

俺はお前らのご主人様じゃねぇだよ!!!!!」

 

 

 

「……しかし、精霊は強き者につく……

…あの゙黒死病の魔王゙に勝者したのは…」

 

「止めをさしたのは赤女だろうが!!」

 

「誰が赤女よ!!!!

私にはね、久遠 飛鳥という名前があるの!!!!!」

 

 

 

ノーネーム一同は宴会席でいう上座で集まり

大助??を中心に席に座っていた

他の参加者達は下でそんなやり取りを見ているのだが

どうやらその見せ物のような扱いが

かなり気に入らないようだ

 

 

 

「初めは私の元に来たけど、

「ご主人様でなければ従いません」というのよ

なら元のご主人様に戻すのが筋でしょう?

それに私は仲間を無理矢理従わせることは嫌なの」

 

 

(……僕は何度かされましたが……)

 

 

「ジン君、何か言いたそうね?」

 

「な、なんでもありません!!!!」

 

 

 

飛鳥の迫力に後退りするジン

ペストを倒したあと三体の精霊は飛鳥の元へ

しかしいくら眷属したとしても

納得しない、というより大助??以外はありえない

そして飛鳥自身も精霊を引き取るつもりはないようだ

ずっと小言のように文句をいってくるため

耐えきれないというのが一番の理由である

 

 

 

「そんなに嫌ならご主人様を返してください。」

 

「そうです、アスカ姉様が心配されてます~」

 

 

「後ろでイチャイチャしてんじゃねぇ!!!!

どいつもこいつもうぜぇうぜぇうぜえええぇ!!!!!」

 

「貴方が一番五月蝿いでござますよ!!!!」

 

 

 

 

黒ウサギがハリセンで大助??を叩こうとしたが

視線で殺しそうなほど睨み付ける

ヒッと一歩下がってしまいそうになったが

 

 

 

「し、しかしですね……

どうして…えーと……」

 

「なんだウサギ、ハッキリ言え!!!!!」

 

 

 

「それでは……

…貴方は「大助」さんではないなら、

貴方は一体「誰」なんですか……」

 

「あぁ??

………そうか、いってなかったか……」

 

 

 

うーんと悩む大助??

少ししか出会っていないが

こんな風に悩むような人とは思わなかった

 

しかし突然にやっと笑う

それを見た者達全員が「うわっー」と嫌な予感がした

 

 

 

「なら、俺の名前を言い当ててみろ

そしたら「大助」を返してやるよ。」

 

「ちょっとお待ちを!!!

どうしてそういうことに…」

 

 

 

「うるせぇ、本当に揚げるぞウサギ!!!

別にノーヒントなんていってないだろうが」

 

「そ、そうなのですか…」

 

「あぁ、三つだけ質問していい

だから考えて言えよな」

 

「無茶苦茶でございます!!!!!!」

 

 

 

確かに無茶苦茶である。

人の名前をたった三つのヒントで

言い当てるなんて…どうにかしてる……

 

 

 

「なら止めるか??

こっちはずっとこのままでもいいだが…」

 

「ずっとこのままでといいますと…

もう、「大助」さんには会えないのですか!!?」

 

 

「……そういうことだ。

さあ、どうする。やるのかやらないのか??」

 

 

 

不敵に笑う大助??

一方黒ウサギは困惑していた

魔王のギフトゲームに勝ち、心から喜んでいた矢先

まさか仲間の存在をかけることになるなんて

それもその仲間から言われるなんて…

 

たった三つのヒントで名前を言い当てることは

本当にできるのだろうか??

いくらこちらが質問出来たとしても

それこそ山ほど星ほどある名前を言い当てるなんて…

 

 

だが、大助??はその表情を無表情に変えて

 

 

 

「嘘だ。誰がそんなめんどくさいことするか

教えてやるよ、俺の名前を……」

 

「どうしたのですか突然……」

 

 

 

「黙ってきけウサギ。

俺の名前は……「十無(ツナシ)」だ。」

 

 

 

 

すると十無が言ったように

名前を明かした瞬間から体に変化が起きた

白く長い髪が光り、少しずつ短くなり

時計盤も縮小を始めたのだ

 

 

 

「どうやら大助が目を覚ましたみたいでな

主導権を持っていない俺は消えるだけだ」

 

「そ、そんな……

まだお礼もしてませんのに……」

 

 

 

「なら俺にアゲ喰われろ」

 

「…………そ、それは…」

 

「なに、真面目に受け取ってやがる。

礼なんざ要らねえよ、こいつに死なれたら困る

ただそれだけ、それだけで出てきたんだ」

 

 

 

さらに髪が短くなり

白かった髪が黒へと変わり始めている

もう別れの時が近いのだろう

 

耀は大助??、いや十無の目の前まで近づいた

 

 

「……ねぇ、十無。

………また会える??」

 

「さあな、

もう一度大助が死にかけたら出てくるかもな」

 

 

 

長い髪も白い髪も時計盤も

全て元の大助に戻ろうとしている

いまここにいる十無の時間はもう僅か

 

 

 

「本当にありがとう。

貴方はコミュニティの為じゃないというけど

それでもありがとう十無」

 

「………そうか、なら……」

 

 

 

誰も予想できなかった

そんな行動を取るなんて誰も思わない

敵意のない行動なら尚更分からない

そしてその行動がまるで当たり前のような

ごく自然な行動で……

 

 

 

 

十無は耀の頬にキスをしたのだ

 

 

 

 

 

あまりの出来事にその場から動けない耀

その間に十無の姿は完全に大助へと戻った

 

 

 

「……ここは、

……あれ、春日部さん…もう起きてもだい…」

 

 

 

立ったまま気がつき目を開けたのだが

目の前にいる耀は顔を真っ赤にしながら

象との友達の証であるギフトを使い

まさに大助自身に攻撃をしようとしていた

 

それだけではない。

黒ウサギば疑似神格・金剛杵゙を

飛鳥はディーンを

レイは疑似太陽を

いつの間にか仲間になっているシルフは

風を凝縮させた巨大なハンマーを

大助に向けて放とうとしている

 

 

 

「ちょっ、ちょっとまっ……」

 

「「「「「この大バカ様ああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!」」」」」

 

 

 

未だかつてない総攻撃が大助に直撃

後にその総攻撃の跡が北の境界壁の

目玉スポットになったかとならなかったとか

また、改めて語ることになる。



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そう………巨龍召喚
今後の活動内容


―――゙黒死病の魔王゙との戦いから一ヶ月。

 

 

十六夜達は今後の活動方針を話し合うため、

本拠の大広間に集まっていた。

大広間の中心には上座からジン=ラッセル、

逆廻十六夜、久遠飛鳥、春日部耀、

君塚大助、黒ウサギ、メイドのレティシア、

そして年長組の筆頭に選ばれた狐娘のリリが座っている

 

゙ノーネーム゙では会議の際、

コミュニティの席次順に上座から並ぶのが礼式である。

リーダーであるジンの次席に十六夜が座っているのは

水源の確保や同士の奪還など、

様々な戦果をあげているためだ。

十六夜の次席に座っている飛鳥は

やや不満そうであるが、

特に異論はない様子で座っている

 

 

そしてリーダーであり旗頭であるジンだが、

ガチガチに緊張した面持ちで上座に座っていた

そんなジンを、十六夜はヤハハと笑ってからかう

 

 

 

「どうした?

俺よりいい位置に座っているのに、

随分と気分が悪そうじゃねえか」

 

「だ、だって、旗本の席ですよ?

緊張して当たり前じゃないですかっ」

 

 

 

ギュッとロープを掴んで反論するジン

上座に座ることが出来るものは前提として

コミュニティの為に試練に参加できる者

というのが箱庭の常識である

 

それに加えて組織への

貢献・献身・影響力などが求められる

戦果らしい戦果をあげていないジンが

引目を感じるのは当然のことだろう。

ジンが控えめに言うと、

十六夜はゲンナリしたように肩を落とした

 

 

 

「あのなあ、御チビ。

これは何度も言ってきたことだが、

お前はノーネームの旗頭であり名刺代わりなんだ

俺達の戦果は全てジン=ラッセルの

名前に集約されて広がっている。

そのお前が上座に座らないでどうするんだよ

 

それに、戦力としては申し分もないのに

戦果としてはダメダメでありながらも

あの黒ウサギの前に座っている大助を見習え」

 

 

 

そうこの座席の順番に疑問がある

どうして大助が飛鳥や耀の後に座っているか

戦力的にも十六夜と肩を並べる実力はある

功績もジャック・オー・ランタンを倒したり

この本拠の屋敷を元に戻したりなどある

 

だが、ジャックを倒してもそのギフトゲームでは

耀がゲームをクリアした為、

屋敷を元に戻してはくれたが

それでノーネーム自体に影響を

大きな変化を与えたわけではない

 

いくら強いギフトを持っていようとも

戦果を上げてはいないのだ

その為飛鳥と耀の次席に座っている

もちろん大助もこれには賛同しており

文句を言ってきたのはレイぐらいだった

 

 

 

 

「……事実だとしても、

いちいちトゲのある言い方しか出来ないのか問題児は」

 

「……なにか腑に落ちないことがありますが、

十六夜さんのいう通りでございますよ!

事実、この一ヶ月間で届いたギフトゲームの招待状は、

全てジン坊ちゃんの名前で届いております!」

 

 

 

 

ジャジャン!

と黒ウサギが見せたのは、

うち二枚は参加者ではなく

貴賓客としての招待状なのだ。

旗印を持たないノーネームにしては破格の待遇である

黒ウサギは幸せそうにはにかみながら、

三枚の招待状を大事そうに抱きしめた。

 

 

 

「苦節三年……

とうとう我らのコミュニティにも、

招待状が届くようになりました。

それもジン坊っちゃんの名前で!

だから堂々と胸を張って上座にお座りくださいな!」

 

 

 

 

黒ウサギは何時も以上のテンションで喜びはしゃぐ

しかしジンは、先ほど以上に思いつめたように俯いた。

 

 

 

 

「だけど、それは――――」

 

「そこまでだジン。

それ以上はコミュニティのみんなを侮辱することになる

その上座は誰もがそこに

ジンお前が座っていいと認めたんだ

 

それでも納得できないなら、

お前が思い描くリーダーになれるように頑張れ」

 

 

 

「僕の思い描くリーダー……」

 

 

 

どんなリーダー象を想像しているかは分からないが

ウーンと悩んでいるようなので話を進める

 

 

 

「さて、話を進めようよ黒ウサギ」

 

「分かりました。

それではまずコミュニティの現状をお伝えします

備蓄に関してはしばらく問題ありません。

最低限の生活を営むだけなら

一年は問題ないかと思います。」

 

 

 

゙黒死病の魔王゙との戦い。

推定五桁の魔王に認定されたため

規定報酬の桁が跳ね上がったのだ

 

 

 

「それとですね、五桁の魔王を倒したため

依頼以上の成果を上げた十六夜様達には、

金銭とは別途に恩恵を授かることになりました。」

 

 

「あら、本当なの?」

 

「YES!

これについては後ほど通達があるので、

ワクワクしながら待ちましょう!」

 

 

 

へぇ、と十六夜から喜色の籠った声が上がった

他の二人も同様だ。

新たなギフトがどんなものか分からないが、

魔王を倒した報酬というなら

相当゙面白い゙ものに違いないだろう

 

 

農園区の状況を話したのだが

土壌全体の1/4は使える状態になり

田園に整備するにはもう少し時間はかかるが

数ヵ月後には成果が期待できる

 

 

 

「それでここからが本題でございます。

復興が進んだ農園区に、

特殊栽培の特区を設けようと思うのです。」

 

「特区?」

 

「YES!

有りていに言えば霊草・霊樹を

栽培する土地ですね。例えば、」

 

 

 

「マンドラゴラとか?」

「マンドレイクとか?」

「マンイーターとか?」

「……思い付かないからツッコミどうぞ黒ウサギ。」

 

 

 

「いやいや大助さんがツッコんでください!!!

マンイーターとかマンドラゴラとかマンドレイクとか

危険すぎて子供たちに任せられません」

 

「………はっ、ラビットイーターとか?」

 

「何ですかその黒ウサギを狙った

ダイレクトな嫌がらせは!?

実はこれを狙って黒ウサギに

ツッコミを任せたのではないのですか」

 

「……………違うよ。」

 

「嘘が下手すぎですこのおバカ様!!!!」

 

 

 

うがーッ!!

とウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギは

一時停止されると分かってもハリセンを

大助に入れずにはいられなかった



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収穫祭を賭けたゲーム

レティシアは一向に話が進まないことに肩を落とし

十六夜達へ率直に告げた

 

 

 

「つまり主達には、

農園の特区に相応しい苗や牧畜を

手に入れて欲しいのだ」

 

「牧畜って、山羊や牛のような?」

 

 

 

「そうだ。

都合がいいことに、南側の

゙龍角を持つ鷲獅子゙連盟の招待状が届いている。

連盟主催ということもあり、

収穫物の持ち寄りやギフトゲームも多く開かれるだろう

中には種牛や希少種の苗を賭けるものも出てくるはず

コミュニティの組織力を高めるには、

これ以上ない機会だ」

 

 

 

なるほど、頷く問題児たち

黒ウサギば龍角を持つ鷲獅子゙の

印璽が押された招待状を開いて内容を簡単に説明する

 

 

 

「今回の招待状は前夜祭から参加を求められたものです

しかも旅費と宿泊費ば主催者゙が請け負うという

 

゙ノーネーム゙の身分では考えられない破格のVIP待遇!

場所も南側屈指の景観を持つという

゙アンダーウッドの大瀑布゙!

境界壁に負けないほどの

迫力がある大樹と美しい河川の舞台!

 

皆さんが喜ぶことは間違いございません!」

 

 

 

黒ウサギが胸を張って紹介する。

彼女がここまで強く勧めてくるのは非常に珍しい

十六夜達は顔を見合わせ、

楽しそうに黒ウサギを皮肉った

 

 

 

「へえ………゙箱庭の貴族゙の太鼓判付きとは凄い。

さぞかし壮大な舞台なんだろうな

……お嬢様はどう思う?」

 

「あら、そんなの当たり前じゃない。

だってあの゙箱庭の貴族゙がこれほど推している場所よ

目も眩むぐらい神秘的な場所に違わないわ。

…………そうよね、春日部さん?」

 

 

 

「うん。これでガッカリな場所なら

……黒ウサギはこれから、゙箱庭の貴族(笑)だね」

 

「゙箱庭の貴族(笑)゙!??

な、何ですかそのお馬鹿っぽい

ボンボン貴族なネーミングは!?

我々゙月の兎゙は、

由緒正しい貞潔で献身的な貴族でございますっ!」

 

「献身的な貴族っていうのがもう胡散臭いけどな」

 

 

 

ヤハハと笑ってからかうと、

黒ウサギは拗ねた様に頬を膨らませてそっぽを向いた

十六夜たちは黒ウサギのやり取りに

苦笑いを浮かべたジンは、

コホンとわざとらしく咳払いをして一同の注目を集める

 

 

 

「方針については一通り説明が終わりました。

……しかし一つだけ問題があります」

 

「問題?」

 

「はい。

この収穫祭ですが、二十日ほど開催される予定で、

前夜祭を入れれば二十五日。約一ヶ月にもなります。

この規模のゲームはそう無いですし

最後まで参加したいのですが、

長期間コミュニティに主力が居ないのはよくありません

そこでレティシアさんと共に二人残って欲し

 

 

「「「嫌だ」」」

 

 

「本当にこういうときは息が合うよな……」

 

 

 

即答だった。

まぁ、この問題児達の行動は大体だが予想はついていた

だがこればかりは譲れない。

コミュニティが力をつけ始めた今だからこそ、

防備も固めておかなねばならない。

 

 

 

「でしたらせめて日数を絞らせてくれませんか?」

 

「というと?」

 

 

「前夜祭を三人、

オープンニングセレモニーから一週間を四人。

残りの日数を三人。

 

…………このプランでどうしでしょうか?」

 

 

 

むっ、とお互いの顔を見る問題児たち

しばし顔を見合わせた後、耀が質問を返す

 

 

 

「そのプランだと、

二人だけ全部参加できる事になるよね?

それはどうやって決めるの?」

 

「それは―――」

 

 

 

「それなら僕が残ろ……」

「そんな面白くないことをするより俺から提案がある

なら前夜祭までの期間で、

誰が何日行くのかをゲームで決めるのはどうだ?」

 

 

 

「ゲーム?」

 

「あら、面白そうじゃない。

どんなゲームをするの?」

 

 

 

「そうだな……

゙前夜祭までに、最も多くの戦果を上げた者が勝者゙

ってのはどうだ?

期日まで実績を比べて、

収穫祭で一番戦果を挙げられる人材を優先する。

………これなら不正不満はないだろ?」

 

 

 

十六夜の提案に飛鳥と耀が顔を見合わせる

それなら条件は五分五分である

二人は同時に頷き合って承諾した

 

 

 

「わかったわ。それで行きましょう」

 

「うん。………絶対に負けない」

 

 

 

不適な笑みを見せる飛鳥と、

珍しくやる気を見せる耀

しかし未だに悩んでいる大助は

 

 

 

「だから僕が……」

「よし、やるぞー!!!」

 

「明らかにワザとらしい声を出すな!!!

分かったよ、やればいいんだろう!!!!!!」

 

 

 

どうしてでも大助を

このゲームに入れようとする十六夜

 

こうして問題児達は、゙龍角を持つ鷲獅子゙

主催の収穫祭参加を賭けて、

ゲームを開始したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、どうしようかな……

みんな戦果を挙げられるために行動を始めたのだが

本当にこのゲーム、全くといっていいほどやる気がない

 

もちろん収穫祭には出たい

だけど全く出れない訳ではない

それならいまやっておきたいことを…

 

 

 

「どうされますご主人様??」

 

「僕としてはこの前の原因を探りたいだけど…

まぁまずは白夜叉から話を聞いてから決めようか

と、いうわけで白夜叉に会いたいのですが……」

 

 

「…また、あなたですか……」

 

 

 

大きく明らかに来ないで下さい的な

深いため息をつく割烹着の女性店員

その態度にムカッときたレイは

 

 

 

「何ですかその態度は!!?

そちらの白夜叉から来るようにと言われて来たのに

それは客に対して失礼ではないのですか」

 

「お客様なら、失礼に値しますが

ただ話を聞きにきたコミュニティに対して

どうやってお客様として接すればいいか

私としては考えずとも答えは出てますので」

 

 

 

「……ふざけているのか…」

 

「そうですよ、私達精霊をバカにしていますよね」

 

 

 

大助の中で「だから僕は精霊じゃないけど」と

言いたかったが話がややこしくなると思い

 

 

 

「それで構いませんので

白夜叉に会わせてもらえませんか??

それにこちらも……」

 

 

 

大助がカルマに向けて手を出すと

渋ったような表情をしたあと

その闇の体から一つの袋を取り出し渡した

そして大助は女性定員だけに聞こえるように

 

 

 

「これは「あの店の、あの御菓子」なんですが…」

 

「分かりました。すぐに白夜叉様を。」

 

 

 

やはりどこの世界でも女性は甘いものに弱いらしい



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瘴気と精霊の役割

大助が通されたのは白夜叉の私室。

個室と言うにはやや広い和室の上座に

腰を下ろした白夜叉は大きく背伸びをして

 

 

 

「それでワシのおみやげは??」

 

「持ってきてますよ

行列の出来る「あの店」の「あの御菓子」です。」

 

 

「おぉ、さすがじゃの!!

こうして敬う者がめっきり少なくなっての…」

 

 

 

言葉には出さなかったが

ここ数ヵ月、何度しか会ったことしかないが

白夜叉がどういう人物かそれなりに分かったつもりだ

だから言わせてもらうと、敬う人いないだろうな……

 

 

黒ウサギへのセクハラ上等の接し方

温泉後の変態発言

造物主達の決闘での十六夜とのお馬鹿発言

 

 

これだけの事実があれば決定的だ

白夜叉、敬われたいなら尊敬されるようなことを

その本能のままに動かないようにしないとね……

 

 

 

「これは後で頂くとして話を始めるかの

まず結論からいうとシルフを変貌させたのは

…………「瘴気」じゃ。」

 

「瘴気??」

 

 

「しょ、瘴気ですか!!!??」

「……なぜ、」

「思い出した…そう、瘴気よ」

 

 

 

どうやら大助以外「瘴気」について知っているようだ

それもレイ達は驚いているみたいだが

 

 

 

「ご、ごめん…知らないんだけど……」

 

「謝らなくともよい

この瘴気についてはこの箱庭でも

ごく一部の者しか知らぬ。」

 

 

 

 

「ち、ちょっと待って!!

ならどうしてレイ達は知っているわけ??」

 

 

「知っているも何も瘴気を封印したのが

アスカ・シャドウ・シルフなどの半星霊と

マスクウェル・クロノス・オリジンの星霊じゃ

 

お主のことだがらアスカなどを「精霊」だと

認識しておったはずじゃが

精霊といってもそこには

半星霊と星霊に分かれておって…」

 

 

「それはこの前説明してもらったから分かるけど

つまり精霊がその瘴気を封印した

その封印という行為をしてまでヤバイものなんだね」

 

 

 

 

星霊

惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。

鬼種・ 精霊・悪魔などの最高位。

質量・空間を司る最強種。

ギフトを与える側の存在でもある。

 

半星霊

星霊とは別の使命を課せられた最高クラスの精霊。

星の恩恵を得て生まれ、

その土地の山神、 海神、地母神となる存在。

星霊の候補者であり、

彼らの中の一人だけが真の星霊として覚醒する。

誕生に際して何かしらの手違いがあった場合、

土地や空間に縛られることがなくなるため、

生まれついて修羅神仏に並び立つ力を有するが、

実際の半星霊に対して使命を帯びないため、

周囲に対する影響範囲の自由度は

こちらのほうが 高いと言える

 

 

このことから光の精霊アスカや闇の精霊シャドウ

風の精霊シルフなどは半星霊となり

時の精霊クロノスは星霊になり

それは白夜叉と同じ存在である

 

 

「そうじゃ、瘴気はいわば「毒」であり「闇」であり「悪」

生きるもの全てが持っておるその「黒い」ものが

憎しみや怒りや悲しみなどで溢れだし

さらに死者が転生する際にその魂は浄化され

その時にも「黒い」ものが溢れて

それが集まることにより瘴気が生まれるのじゃ

 

そしてその瘴気は草木を枯れさせ水は濁り空気は淀み

命あるものは生命の危機に陥ることになる」

 

 

 

「そ、そんなに危険なの??」

 

 

「瘴気に触れたり吸ったりしようともすぐには死なぬ

それでも正気を保てず凶暴化してしまう」

 

 

「じゃシルフが凶暴化したのは瘴気のせい…」

「ということになるの…」

 

 

 

まさか瘴気という世界を脅かすものが

シルフを凶暴化させていたなんて

それもその瘴気は封印されていたということは

 

 

 

「ち、ちょっと待って!!

なら封印は解かれて瘴気が溢れだしたの!!?」

 

「いや、それはない。

もし解かれていたならすでに箱庭全土に広がっておる

恐らくじゃが封印が弱まり隙間から漏れたと思われる

 

そしてその原因と考えられるのは……

……クロノスがいなくなったためじゃ」

 

 

 

 

その瞬間、自分の体から血の気が引いたのが分かった

クロノスがいなくなったことが瘴気を

封印を弱めて瘴気が漏れたというのか…

 

そしてそのクロノスは……

 

 

 

「……お主が気に悩むことではない…」

 

「その通りです、

ですからそんな表情をしないでください……」

 

 

 

自分では分からなかったが

どうやらひどい顔をしていたようだ

大きく深呼吸をしてもう一度白夜叉を見る

 

 

 

「……ごめん。」

 

「気にすることはない。

だいたいクロノスが勝手にいなくなったのが悪い

それに何度もいうがお主には感謝しておる

お主のそのギフトはクロノスのギフト

それがこの箱庭にあるだけで封印が強まり

完全ではないが瘴気を押さえられる」

 

 

 

「……完全に封印できないんですか??」

 

「それは分からぬ。

同じ封印をしようにもクロノスが不在であり

他にも封印するための要素がかけておる

いまはそのシルフが瘴気に

当てられた場所をどうにかするしかない」

 

 

 

どうにかするしかない。

だがしかし一体何をしたらいいのか…

すると白夜叉が袖の下から羊皮紙を取り出した

 

 

 

「正直これはお主がもう少し成長してから

このゲームを受けてもらおうと思ったのだが…

いま瘴気を押さえることが出来るのは

「原初の三霊」であるマスクウェル・クロノス・オリジン

そしてその後継者であるお主しかおらぬ

 

どうじゃこのギフトゲームを受けて

新たなギフトを手にしてみる気はないかの??」

 

 

 

新しいギフト

それがあれば瘴気を押さえこむことが…

別に後継者には興味はないが

 

 

 

「白夜叉、もしかしてこういう時が来るって

それを分かっていてあの時あんなこと言ったの??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とにかく後継者になるつもりはありません。』

 

『よいよい、儂も今すぐだとは思っておらん。

だがクロノスがいないことが、後継者がどれ程必要か

お主にも後に分かってくるだろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どうだったかの~」

 

 

 

扇子を広げてカッカッカッと笑う白夜叉

……全く、テノヒラの上で踊らされている気分だよ…



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のんびりしてていいの??

「どうしたんですか大助さん??

さっきから手が止まっているようですが…」

 

「お口に合いませんでしたか??」

 

 

 

「そんなことないよリリ。

ちょっと考え事をしていただけだから…」

 

 

 

 

談話室で黒ウサギとリリと一緒に

紅茶とリリが作ったクッキーを食べながら

収穫祭の参加をかけたゲームについて話していた

耀と飛鳥はどうやらゲームを見つけたようで

十六夜はまだゲームを見つけられずに探している

 

正確にはゲーム自体はあるのだが

そしてどれも十六夜なら簡単にクリア出来るもの

しかし誰も十六夜にギフトゲームを

これまでの功績と戦果を考えて

十六夜に対して参加を拒否しているのだ

 

 

なのでゲーム参加中の耀と飛鳥

ゲームを探している十六夜達は屋敷にはおらず

大助だけがこうしてお茶会をしているのだが、

 

 

 

「こうしてお茶会してますが

大助さんは大丈夫なのですか??

戦果を上げないと収穫祭の参加日が減りますよ

 

「だから別に僕が残っていいんだって」…

 

 

 

「ですがそれでは

お三方は納得するとは思いませんが…」

 

「……はぁ、心配しなくても

うまくいけばなんとかなると思うよ」

 

「いやいや、心配しかありませんよその言い方では…」

 

 

 

はぁ~とため息をつく黒ウサギに

苦笑いで返すしかできない大助

しかし大助自身もそうとしかいえないのだ

黒ウサギにはギフトゲームの目星がつき

開始するまで時間があるため戻ってきたと伝えた

 

 

しかし実際のところ、

すでにギフトゲームは始まっている

だがゲームの内容もクリア方法も

未だに大助は知らないのだ

 

 

 

 

「大助様、そのギフトゲームは

一体どのようなゲームなのですか??」

 

「黒ウサギも気になります。

白夜叉様から直々のゲームだと、

むちゃくちゃなものではないと思いますが…」

 

 

 

「……まぁ、他の人に教えると敗北になるから

それに黒ウサギが考えているようなゲームじゃないよ」

 

 

 

白夜叉からは

「ノーネームに戻り普段通りに過ごせば自ずと分かる」

とそれだけしか言われていないため

内心大助もどんなギフトゲームなのかドキドキしてる

 

 

 

「ならよいのですが……」

 

「おい黒ウサギ、リリもここにいたのか

悪いが晩御飯の支度を手伝ってくれないか??」

 

 

 

すると談話室に入ってきたのは

メイド服を着たらレティシアだった

 

 

 

「は、はい。分かりました。

すみませんが私達はこれで」

 

「人手が足りないなら手伝うよ??」

 

「気持ちはありがたいが主様は

いまギフトゲーム中なのであろう

どのようなものか知らないが

ゆっくり出来るうちにゆっくりしたほうがいい」

 

 

 

確かにレティシアがいう通りだ

このギフトゲーム、どんなものか分からない

どのタイミングでどんな内容でどんなクリアか…

 

そういってレティシアは二人を連れて

晩御飯のため談話室から離れていった

残された大助は言葉に甘えてのんびりと

紅茶を飲もうと手を伸ばすと

頭上からヒラヒラと羊皮紙が落ちてきた

落ちる羊皮紙がテーブルに着地し

紅茶から羊皮紙へと方向を変えその手にとって

 

 

 

『ギフトゲーム名 Where is the footstep's destination which gonna trace for?

 

・プレイヤー一覧 君塚大助

 

・クリア条件 堕ちゆく中「異」を取り除き「先」に向かえ

・敗北条件 プレイヤーの敗北宣言、死亡

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノー ネー ム”はギフトゲームに参加します。

 

“サウザンドアイズ”印』』

 

 

 

 

一通り読み終わったころ羊皮紙の隣から

一粒の光が現れ大きくなるにつれて

その中から何かが姿を表した

形がはっきりしたところで光が薄れてゆき

その光の中から出てきたのは「砂時計」だった

まだ横になっている状態であり砂は落ちてはいないが

その砂は星のようにキラキラと輝いている

 

 

 

 

「す…ごく綺麗だ……」

 

 

 

この現れたこの砂時計は

立てたら上部に溜まった砂が

中間の僅かな隙間から下部へと落ちてゆく

これにより時間を知ることができるのだが、

 

 

 

「この゙Where is the footstep's destination which gonna trace for?゙って、

「足跡を辿る先には?」という意味だよな……

それにこの「異」って、なんか気になる……」

 

 

 

それよりこのクリア条件だ。

全く意味が分からない、一体何をしたらいいのか??

そんなこと考えていると談話室に誰かが入ってきた

 

 

 

「ただいま大助君」

「…ただいま」

 

「二人ともお帰り。」

 

 

 

帰ってきたのは久遠 飛鳥と春日部 耀

二人はギフトゲームを見つけて出掛けたと聞いていた

 

 

 

「もうギフトゲーム終わったの??」

 

「ううんまだ。

申し込みをしてきただけ」

 

 

「大助君はどうなの…って、

もしかしていまゲームの真っ最中なの??」

 

「真っ最中というかいま始まったばかりで

……とにかくお茶にしようか??」

 

 

 

それでいいの??と言おうとしたが

耀が普段通りにテーブルについたため

戸惑いながら飛鳥も席についた

 

それから耀が受けたギフトゲームのこと

そして現在行っているギフトゲームのことを

紅茶を飲みながら、お菓子をつまみながら

本当にゲームしているのかと思うぐらい

のんびりとお話タイムしていた

 

 

 

「…どういうゲームなのかしら??

これを見た限りじゃ戦うものじゃないわよね」

 

「でも取り除きってあるから

戦うってこともあるかもしれない」

 

 

「せめて何をするか具体的なものがないと…」



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その世界について、何を知る??(Ⅰ)

「ねぇ、さっきから気になってたんだけど

この砂時計って大助君のなの??」

 

「僕のというか羊皮紙と一緒に出てきたんだけど…」

 

 

「それならこれを動かしたらいいじゃない。」

 

 

 

そういい耀は砂時計を手に取り

光輝く砂が貯まっている方を上部にして置いた

そして砂が一粒、なにも入ってない下部へ

上部と下部に繋がる細い道に砂が一粒落ちる

 

その瞬間、世界が曲がりくねった

大助の部屋が大きくうねり、

そのうねりとなった波が砂時計に集まる

大助達はその波に飲まれることはなかったが

どんどん部屋が砂時計に飲まれていく

 

 

そして飲まれた部屋の後には

全く知らない部屋に、いや景色に代わった

そこは部屋ではなく森林の中だった

 

 

 

「な、なにここ……」

 

「見たことのない植物がいっぱい…」

 

「ギフトゲームが始まったのか…」

 

 

 

そこは見たことのない形をした葉っぱや

うねうねと他の植物に巻き付いていたり

まるで寄生しているような植物もある

そんな未開の土地に突然投げ出された三人

 

 

 

「で、なにをしたらいいのかしら??」

 

「そこなんだよね…」

 

 

 

クリア方法には

『堕ちゆく中「異」を取り除き「先」に向かえ』とある

恐らく堕ちゆくとは砂時計であり

この世界が砂時計の「中」ということだろう

 

なら「異」を取り除くというのは、

 

 

 

 

「………誰か、来る。」

 

「!!?」

 

 

 

 

木々や植物が密集しているこの場所では

視覚による空間掌握は狭まれる

だから耀のように「誰か」が来るなんて分からなかった

こんな所なら色んな動物がいてもおかしくないが

その中で耀は「誰か」といったのだ

 

 

 

「二人とも僕から離れないで!!」

 

「あら??

大助君の手を借りなくても

自分の身は自分で守れるわよ。」

 

「うん、問題ない。」

 

 

 

そういって大助の前へと二人は踏み出す

その先からは茂みが揺れ動くところが分かるが

二人は分からないのか……その誰かは、

 

 

 

格が違いすぎることに。

 

 

 

 

「ダメだ!!さがっ

 

 

 

その声はむなしく弱く

一瞬のうちに二人は宙を舞い落下を始める

とっさにシルフを呼び出し風のクッションで

落下による衝撃を緩和させた

 

と、同時に大助は誰かに襲撃させていた

あまりにも突然だったため

どういう人物かも確認せずに

触れられるという恐怖により

その誰かと大助の間に一時停止させた空気の壁を引いた

棍棒のようなものがまず空気の壁にぶち当たり

急停止できなかった誰かは

とっさに体を強制的に後ろに転倒させようとさせ

足を空気の壁に押し当て、棍棒でさらに空気の壁を突く

そのまま誰かはその壁を登り始めたのだ

棍棒を支えにその足で空気の壁を

 

 

 

「なっ!!!??」

 

 

 

あり得ない光景を目撃した大助に対し

誰かは即興で作った空気の壁(20㍍)を登りきり

今度は重力にまかせ、大助の頭上から攻めていた

このまま逃げてもあのスピードでは捕まる

こんな植物などが密集している場所では

光はおろか音による移動もできない

いやそれ以前に耀達を置いていくわけには行かない

 

覚悟を決めた大助はその誰かに手を向けて

 

 

 

 

「レイ!!カルマ!!!」

 

 

 

そう叫んだ瞬間、大助の影から二体の精霊が

光の精霊アスカことレイと

闇の精霊シャドウことカルマが

主人である大助を守るために立ち向かう

しかし、誰かはそんなことは関係ないように

たった一撃で精霊である二体を撃退したのだ

 

光の槍を与えようとするレイに

誰かは棍棒でその槍を弾きレイの胸に一撃

それを見たカルマや闇の槍を2つ構え

一撃を棍棒を弾くために使い

二撃を誰かに喰らわせる算段であるが

それよりも早く棍棒により槍を弾かれ

レイと同じように胸に一撃を喰らった

 

 

このままだと自分も危ない

なのでとっさに大助は地面を蹴りあげ

宙に舞った砂や土を停止させ目隠しをした

だが誰かはその砂や土をその棍棒で全て砕き

そのまま大助の元へ激しい一撃を放った

 

その際に舞った砂埃でなにも見えない。

だが「誰か」は全く手応えがなかった

実際棍棒の先には誰もおらず

まわりは砂埃でなにも見えない……なっ!!

 

 

 

「動けないでしょう。

砂埃を全て停止させたから体全身

いや指も瞼も髪の毛もなにも動かせない」

 

「…………………」

 

 

「あっ、ごめん。

口ぐらいは動かさないと喋れないよね」

 

 

 

そういって大助は空間掌握で

その誰かの口元の砂埃だけは解除した

 

 

 

「さて、なんでこんなことをしたのか

きちんと教えてくれるよね??」

 

「な、なんだ貴様は…

この奇術をさっさと解け!!!!」

 

 

 

「奇術……、解いてもいいけど

まずこんなことをした理由を話してくれないと」

 

「貴様らが我、領土に侵入しておいて……

何が目的だ!!場合によってはその命奪うぞ!!!!」

 

 

 

なにか変だ…箱庭では力や能力を「ギフト」と呼ぶ

それを「奇術」といったみたいだけど…

とりあえず最小限の縛りを残して

誰かの容姿を見るために砂埃をどかした

 

その誰か見たことのない容姿をしていた

こただそれは確実にその姿は

戦闘を意識したものだと人目で分かる

そして見た目が……幼かった。

 

 

 

「…………うん、そうだね。」

 

「おい貴様!!!

いま「あっ、子供か」と思っただろうが!!!」

 

 

「じゃ、何歳なの??」

「…………8…」

 

「そうだね。大人だね。」

「明らかに子供相手をしているような対応をするな!!!!」

 

 

 

いや、だって子供だもの。

確かに恐ろしく強いが、そのなんていうか、

手が、伸長が、顔が、目が、口が、

その全てをとっても「幼い」の一言で片付けられる

 

 

 

「うんうん、ごめんね。

お名前は何て言うのかな??」

 

「シェル・メルテオっていうのだが…

って、全然反省してないだろうが!!!!」

 

 

 

「そんなに怒ったらダメだよ。

そうだ、確かお菓子を持っていたような…」

 

「ふざけるな!!!

よし、これを解け!!ぶっ飛ばしてやる!!!!!!」

 

 

 

 

最近の子供はどうも怒りっぽいな…

まぁ、とにかく一度春日部さんと久遠さんの様子を…

大助はシェルをそのままにしてその場を離れた

後ろでガヤガヤ言っているが気にしない

二人はシルフが看病してくれているようだが

 

 

 

「二人とも大丈夫??」

 

「問題ないわ。

姉様達も大丈夫よ。

でもどうしてなのかしら、

目覚める様子がないのよね」

 

 

 

「えっ、それってどうい…」

「それはこの「神通棒」の効果である。」

 

 

 

するとシェルがこちらを見ながら

これは私がした、どうだ!!ってみたいな

どや顔をしているのだが……

 

大助はシェルに近づいて、

 

 

 

「ダメだろ、そんないたずらをしたら

後でちゃんとみんなに謝らないとね」

 

「だから子供扱いするな!!!」

 

 

 

「そうか。

なら、大人なら、きちんと謝ること出来るよな

それこそ大人だもんな~~」

 

「あ、当たり前だ!!

大人だからな、謝ることなど容易い。」

 

 

 

すでにここに来た理由も忘れているだろう

簡単に大助の誘導に乗せられ

停止された砂埃から解かれたあと

敵だということを忘れてその効果を解いている

 

 

 

(とにかく…いまの内に事情を聞いたほうがいいかな

うまく乗せればいろいろ分かるかもだし…)



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その世界について、何を知る??(Ⅱ)

「魔獣??

それを撃退しようと向かっていたときに

私たちを襲ってきたというの?」

 

「明らかに異質な者がおると感じたからな…

それがまさかこんな優男だとは……」

 

 

「弱々しくて悪かったね。」

 

 

 

 

耀と飛鳥はシェルの手によって目が覚めた

初めは状況が飲み込めなかった二人がだ

徐々に思い出したところで二人は

シェルの頬を左右から引っ張り始めたのだった

痛い!痛い!!と子供のように叫ぶシェル

大助は助けてあげようとしたが

二人に思いっきり睨まれヒビってしまった

 

二人の気がすんだのはそれから一時間

シェルの頬は真っ赤になっており涙目になっていた

なんかどこかで見たことがあるなーと思いながら

どうしてこんなことをしたのかと話していることろ

 

 

 

 

「その魔獣は気配を消すことができるのだが

あまりにも「存在が無い」ために

見つけるのはそこまで難しくないのだが…」

 

「ちょっと待って、存在が無いなら

普通は見つけるのは難しいのではなくて??」

 

 

 

 

「悪い悪い、説明が足りなかったの

私は「有機物」ならば全て気配を感じることができる

だからこの森に魔獣がおるならば

気配を感じない所に向かえばいいだけなのだが

岩などと間違える場合もあるのだ…」

 

 

 

岩などは無機物

それなら気配を感じることはできない

間違えることはあるだろうが

けして見つけられない訳ではない

 

 

 

「それでどうして大助を異質だと感じたの??」

 

「この者から複数の気配が感じたからの

一人の者からそんなもの感じたら充分異質だろう」

 

 

 

「「それがなくても充分異質だけど」」

 

「息がピッタリあったね~」

 

 

 

自分でもイヤというほど分かっていたが

こんなときまで思い知らされるとは…

 

 

 

「で、その魔獣を倒したらいいの??」

 

「……おい、まさか付いて来る気か!??」

 

 

 

「悪いけどこっちも事情があってね

もしかしたら僕もその魔獣に用事があるかも」

 

「来るのはいいが邪魔はすることは許さぬ」

 

 

 

 

さっきまでも子供モードとは違い

出会った頃の様子に戻っていた

シェルは黙々と道なき道を歩く

それを追いかけるように三人も付いていく

 

その後ろ姿は何かの覚悟があるような

小さな体では背負いきれない何かを

必死に担いでいるような……

 

 

それが何かは知らないが

きっとそれがその強さなのだろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハズレね。」

「…ハズレ。」

「…ハズレだね。」

 

「…………………。」

 

 

 

あれから何回目だろうか

またしても大きな岩にたどり着いたのだ。

シェルがいうには魔獣は普段は動かずに

食事をするときだけ行動するらしいが

その食事が一週間に一回と少なく

時間もバラバラであるのだ

 

 

 

「し、仕方ないよ。

こればかりはしらみつぶしに探すしかないよ」

 

「………う、う、うわあぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

「あぁ、泣かしてしまったわね…」

 

「止めをさした。」

 

 

 

そんなつもりはなくった

と、いえば簡単だがこればかりは…

 

すっかりさっきまでの戦う者から

子供モードへとまた戻っていた

 

 

 

「ご、ごめん!!!

別に攻めたわけじゃないんだよ!!」

 

「ど、どうせ…私は無能だ…う、うわあぁぁぁ!!!」

 

 

 

「1抜けたわ」

「2抜けた」

「3抜けました」

「……4抜けた」

「5抜けね」

 

 

「ち、ちょっと!!!!」

 

 

 

 

もう完全に子供モードなシェルを

大助以外の者はその場から離れた

飛鳥も耀も子供が苦手なのはなんとなく分かっていたが

まさか精霊も苦手なんて……いやそれよりも

姿を見せずに声だけなんて思わなかったな…

 

そんなことを考えていても状況は良くならない

わんわんと泣き止まないシェルに大助は

 

 

 

「ほ、ほらシェルは大人なんだからね

こんなことでは泣いたらいけないよ!!」

 

「………大人、なのか……」

 

 

 

「そ、そうだよ大人だよ!!!

それに魔獣を倒すシェルには涙は似合わないよ!!」

 

「……そ、そうじゃな…」

 

 

 

 

涙をぬぐうシェルにホッとしていたが

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

 

 

またしてもシェルの表情が変わる

それもなにかに気づいたようだ

ぐるっと180度回転しその方向をジッと見ている

 

 

 

「どうやら動いたようだ。」

 

「動いたって…魔獣が??」

 

 

「ここからかなり離れておるが油断するな

魔獣は狩りをするときは見た目よりも

ものすごいスピードで迫ってくる」

 

 

「ちょっ、ちょっと待って!!

狩りってその魔獣ってもしかして…」

 

「魔獣の主食は「人間」じゃ」

 

 

 

 

その言葉が合図かと思うぐらいタイミング良く

遠いところから低く崩れる音が聞こえる

それもその音はなんだか大きくなっているようで

 

 

 

 

「まさかと思うけど……」

 

「間違いなく私や主らを狩るために近づいている」

 

 

「弱肉強食。」

 

「春日部さん…間違いはないけどいまは言わないで!!」

 

 

 

 

そんなことしている間にもどんどん大きくなる

それにつれて耀と飛鳥の表情が強張る

シェルからの奇襲にも反応できず倒れた

同じ失敗しないようにと嫌でも力が入る

 

それを感じとった大助は、

 

 

 

「落ち着いて二人とも。

僕が囮になるからその間に魔獣を倒して」

 

 

「そんな危険なっ!!?」

「大丈夫だよ、相手は「獣」

獣なら至近距離でも一時停止は使えるから」

 

 

「………信じて…いいの??」

 

 

 

「うん、大丈夫。」

 

 

 

その言葉に安心したのか強張った表情は柔らかくなり

それに釣られ飛鳥も緊張がほぐれたようだ

シェルはそんな光景を見てフッと笑い

 

 

 

「話し合いは終わったか?

私は前線に、お主ら二人は後方支援を

で、貴様が言ったように囮を頼む

もちろん好きあらば攻めていいが……

 

……自分の力量を考えて行動することだ。」

 

 

 

 

ムッとする耀と飛鳥だが

すぐにその言葉を素直に受け止めた

ここで自意識に力を信じて行動すると

また同じことを起こしてしまう

 

自分の力には自信はある

そうでなければ戦いに身を投じれない

しかし相手と自分の力の差を理解しないといけない

それを理解し自分の出来ることをする

 

 

そしていま、それが試される。

 

 

 

 

「それで、気配を消せて存在が無いに等しい魔獣を

どうやって確認したらいいのかしら??」

 

「……私にも分からない。」

 

 

「あっ、僕も分からないな。

ちなみに視覚での認識は出来るのかな?」

 

「あほ、存在が無いといったろうが

気配も無く姿も無く、あらゆる存在が無いのだ

いま確認できるのは木々を壊すという破壊行動

後は、狩りをするための行動のみじゃ」

 

 

 

その瞬間、何かが迫ってくるのを感じた

目に見えるわけでもなく、気配を感じるわけでもない

ただ木々を切り裂き近づいてくる

その視覚しか捕らえられないのだ

 

 

シェルと大助はすぐさま防御に入った

見た限りではその攻撃は二人だけを狙っている

理由は分からないがこれでいい。

攻撃をするということはどこにいるかが分かる

 

まずシェルの方に見えない攻撃が近づいた

蛇が動くかのようにうねうねと木々を切り裂き

その傷痕からは白い煙が吹き出ている

そして少しずつ溶けていっているのが分かる

あれを一撃でも喰らったら死ぬ

 

しかしシェルはそんなことを臆せず

その棍棒を構えジッと待っている

見えない攻撃はどんどん近づき、そして、

 

 

 

「………はっ!!」

 

 

 

変則に動き見えない攻撃を

たった一発で見切り棍棒で叩きつけた

地面にめり込んだその攻撃は止まったようで

クレーターからは液体がこぼれ白い煙がたつ

 

それを見た大助はすぐさまに作戦を変更

魔獣の見えない触手みたいなものを

まずどうにかしないといけない

シェルのように叩きつけ潰せばいいが

魔獣がどれだけの触手を

持っているか分からない以上

本体を見つけないといけない

 

 

 

「シェル、魔獣の居場所はハッキリ分かるの??」

 

「あぁ、分かるが…その前に攻撃はどうしたのだ……」

 

 

 

「うん、もう大丈夫だよ。

それじゃもう一つ、一撃で魔獣を仕留められるかな??」

 

「か、可能じゃが……一体なにを……」

 

 

「それは後でね。

久遠さんディーンで」

「分かっているわ。」

 

 

 

言いたいことが分かったのか

飛鳥が言うのと同時にディーンを呼び出し

大助の前にその大きな手が近づく

ディーンは見えない触手のようなものを掴み

握ったままその大きな手を振り上げた

すると芋づるのように

その触手が空へ上がり

それと同時に木々も空へうち上がる

 

 

見えない魔獣は確かに空にいるのだが

やっぱり気配もなにも感じれない

しかしその触手だろうか

うち上がった木々が突然に壊されていく

それも広範囲であるため木屑が空全体に広がっている

 

それをその木屑を印に触手の場所を確認し

大助は木屑が広がっている

全ての空間を空間掌握し停止させた

 

 

 

「春日部さん、シェルを」

「うん、任せて。」

 

 

 

春日部はシェルを強引に背中に乗せて

グリフォンのギフトを使い空を駆けた

その出来事にシェルは驚きを隠せなかったが

すぐさまに思考を代えて

大助の考えていることを実行することに

 

 

 

「私をあの木屑が無く広がっている場所に」

「分かった。」

 

 

 

耀はシェルを言われた場所に向けて投げ飛ばした

今はハッキリとそこに魔獣がいることが分かる

直径20㍍近くあるその魔獣へその棍棒を構え

 

 

 

 

「一竜・痺動体(いちりゅう・ひどうたい)!!!!!!!」

 

 

 

その棍棒を魔獣の方へ突きだし渾身の一撃

物凄く鈍い音が響き渡る

攻撃を終えたシェルは地上へ落下を始め

着地と同時に魔獣も地上へ落ちてきた

 

 

するとさっきまで見えず気配も無い魔獣が

霧が晴れるように少しずつ姿を現していく

その姿は虎のような胴体に

背中からは磯巾着のようなうねうねとした触手

そして頭は牛のような……なんとも奇妙な姿

 

 

 

「き、気持ち悪いわね……」

 

「これが魔獣……」

 

 

 

「確かに…でもどうして姿が見え始めたんだろう」

 

「さっきの一撃で全身を麻痺させたためじゃな

しかしここまで姿酷いとは……」

 

 

 

そんなことを言っていると

魔獣の体内から光る球体がすり抜けて現れた

その球体はまるで呼び寄せたように

一直線に大助の元へ飛んでいき手前で停止した

すると今度は大助の前に砂時計が光の中から現れた

 

 

 

「どうして砂時計が」

 

 

 

と言葉を遮るように突然に

大助、耀、飛鳥の体が光始めた

それと同時に砂時計の下部の手前で

停止していた一粒の砂がゆっくり動き始めた

 

 

 

「今度は一体何が起きたんじゃ!!?」

 

「どうやらこの世界とお別れみたいだね」

 

 

「あら、これでギフトゲーム終了かしら」

 

「いや、それはないと思うけど」

 

 

「なにをいっておるのじゃ!!

貴様らにはまだ礼しておらぬのに!!!」

 

「気にしなくていいよ。

勝手に現れて勝手に消えるだけなんだから」

 

 

 

 

しかし、そんなことを言われても納得出来ない様子

うつむいているシェルは何かを決めたようで

大助に向けて持っていた棍棒を投げた

 

 

 

「なら、この神通棒を持っていけ」

 

「いや、これは!!!」

 

 

「礼ぐらいさせろ!!

正直私一人では魔獣を

仕留められることは無理だったろう。

 

…気にせんでいい、いくつか持っている武具の一つ

その一つである神通棒を礼として渡すだけじゃ。

通神棒は使い手によって効果が変わるが

きっと手助けしてくれるはずじゃ」

 

 

 

大助がもう一度声をかけようとしたが

その前に一粒の砂が砂時計の下部へ落ちていき

それと同時に三人はシェルのいる世界から消えた

 

 

 

「……また会えるかの……」



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その世界について、何を知る??(Ⅲ)

どれだけ時間が過ぎたのだろうか……

途中までは感覚的に分かっていたが

今では曖昧でどれだけの時間がたったか…

 

 

どの世界にいくにしても砂時計が必要であり

そして大助の手には砂時計がある

砂時計の下部一面は砂が引き詰められていた

その砂を数えただけ100以上はあるだろう

それはつまり100以上の世界を渡ったことになる

 

 

例えば戦争が絶えない世界に飛ばされ

戦争を確実に終わらせることのできる

中性子核爆弾に砂時計が隠れていたり

メルヘンのような世界に飛ばされ

可愛らしいウサギやパンダなどいる世界の王様、

テディベアが被っている王冠に隠れていたり

灼熱の砂漠のど真ん中に飛ばされ

目印もなくただ砂漠から砂時計を探すこともあった

 

ギフトゲームが始まってすでに

1ヶ月、半年、一年は過ぎているだろう

しかしそれでもこのギフトゲームを

リタイヤしようとは思わなかった

 

 

ある世界を移動する前に飛鳥が怪我をし

次の世界で治療をしようとしたのたが

その時には怪我は完治してた

いや完治というより元々怪我など

傷痕さえもなかったように……

 

 

そして一番はいくら時間が過ぎようと

大助達の中の「時」は世界が代われば元に戻る

これに気づいたのはある砂漠の世界

ここではオアシスにある砂時計にたどり着くまで

やく1ヶ月もかかり、大助の髪は伸びきって

飛鳥や耀も少し容姿が変わったように見える

その後、別の世界に移動したさい

その容姿が元に戻っていたのだ

容姿だけではなく大助という存在の時も戻る

 

だからギフトゲームをリタイヤなどしないかぎり

この世界移動は続き、経験と記憶だけが蓄積される

 

 

それと世界移動ではその世界の物を

次の世界に持ってはいけない

現実には時間が巻き戻るため

その世界で持っていた事実も無くなるからだ

だけどどういうわけか神通棒だけは無くならなかった

名前の通り「神」とついた武具だから

時の支配も関係ないのか……

 

 

 

ともかく繰り返す世界移動の中で

巻き戻る世界の中で

とある変化が少しずつ見え始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 

 

「大助君、起きなさい!!」

 

「……うぅ、おはよう…久遠さん……」

 

 

 

「もう何回起こせば気が済むのかしら??」

 

「ご、ごめん……

もう春日部さんは御飯食べてるの??」

 

「わかってるなら早く起きることね

耀さんも待っていたのよ」

 

 

 

ここは他の世界よりも平和な世界

ある都市のホテルの一室を借りており

そこを拠点としてこの世界の「異」を探している

 

自分の部屋から出るとリビングでは

テーブルの上にたくさんの料理が並んである

そこでは耀がゆっくりと食事をしていた

 

 

 

 

「大助、遅い。」

 

「ご、ごめん……」

 

 

「大助の3時のデザートをくれるなら許す」

 

「わ、分かりました……」

 

 

 

 

このホテルではお客様の衣食全てを管理しており

朝食はもちろんおやつや夜食も用意してくる

洋服も部屋にあるパンフレットから選び

電話一本で部屋に洋服が届くのだ

それもこれら全てタダなのだから

こうして大量の料理が用意されて耀の胃袋に消える

 

どうしてこんなVIP待遇だというと

ただの偶然としか言えないほどの事が起きた

 

 

この世界に到着したときに

偶々このホテルがテロにあっており

さらに偶々犯人のいるフロワーだったため

一分弱で犯人を制圧したのだった

 

で、さらにさらに偶々であるが

そこのホテルは世界屈指の最高級ホテルだった

オーナーは助けてもらったお礼として

好きなだけ宿泊していいといってくれたのだ

ただ誤算だったのが……耀の食欲でした

 

 

 

 

「さて、今日はどこにいきましょうか??」

 

「オーナーが言っていた裏カジノに

いこうと思っているんだけど……」

 

「イイと思う。」

 

 

 

食事も終わり大助の提案で

この街にある裏カジノに向かうことに

噂ではそのカジノの景品に

謎の鉱石が出ているという

もしかしたらそれがこの世界の異かもしれない

 

 

 

 

「二人ともカジノはしたことはあるの??」

 

「ないわ。」

「右に同じ。」

 

「ならまずは簡単なルーレットからしようか」

 

 

 

 

 

二人が先にこの部屋を出ていき

そのあと部屋の戸締まりをしようと鍵をとり

続けて大助が部屋を出……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………なっ!!?」

 

 

 

確かに部屋から廊下へ出たはずなのに

何故か行き着いた先は暗闇の世界

いや、暗闇というより小さな光が四方八方で光っている

まるで宇宙にいるような感覚だった

しかし息は出来るし無重力でもない

目には見えないが確かに

地に足が着いているのが分かる

 

 

一体ここは何処なんだろうか…

まさか異を見つけて砂時計が現れ

別の世界に移動したのか??

 

 

でもついさっき出ていった二人が

異を見つけたなんて思えない

なら俺が見つけた??

それこそあり得ない、あり得るはずがない。

 

 

ならこの世界は一体なんなんだ……

 

 

 

 

 

「何してるんだテメェは」

 

「えっ……ど、どこにいるの??」

 

 

 

見渡すが誰もいない

だけど確かに聞こえたのだ

それに…聞き覚えがある……

 

 

 

「いつまでこんな世界にいるつもりだあぁ!!」

 

「なんでそれを…誰なんですか貴方は!!!?」

 

 

 

 

いや誰かなんてもう分かっていた

ただそんなことがあり得るのかと…

……それこそあり得るのか…それが「僕」だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば向き合って話すのは初めてか

だったら覚えていろ、「俺」は「十無」だぁ!!!」

 

 

 

 

 

そして「俺」だから。



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その世界について、何を知る??(Ⅳ)

「…十無…貴方が……」

 

 

 

耀から聞いていた十無は

大助をベースに姿を変えた十無だった

だけどいま目の前にいるのは本当の十無

 

長髪で身長は180㌢ぐらいで

黒のジャケットと黒のジーンズ

腰には無刀があり首にはドクロのネックレス

口が悪いと聞いていたので

想像していた十無の姿と結構合っていた

 

 

と、そんなことを考えている場合ではない

どうして目の前に十無がいて

どうしてこの世界を、

ギフトゲームを知っているのか…

 

 

 

「どうし」

「うるせぇ、黙れ。

いまお前に喋る権利があると思っているのか

いやねぇな、あるわけがねえ

誰がテメェを助けたと思っているんだアアァ!!?」

 

 

「で」

「だから喋るんじゃねぇ!!!!!!!!

聞きたいことは分かってるんだよ

いまから説明してやるから大人しく聞いてろオオオォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

切れやすいとは聞いていたが

ここまでとは……

しかしこの状況を知っているのは十無だけ

なので大助は喋らずジィっとすることにした

 

 

 

 

「さて何から話すか……

……よし、俺はお前だ。

 

詳しくいえばお前の魂の一部混じってる

いや、クロノスの魂の一部だな

あぁ、安心しろテメェはクロノスじゃねぇ

ただクロノスの魂の半分がテメェの魂と同化して

そして同化の際に僅かに切り離されたテメェの魂と

残りのクロノスの魂が混じりあい

そしてバラバラにパラレルワールドに飛び散った

こうやって俺や「いままでこの世界であった俺達」の

魂と混じりあっている

 

その中でも俺の魂は濃くてな

この前みたいに瀕死状態になれば変わることが出来る

まぁあと何人か俺と同じ奴はいるがな

 

あっ、もう分かってるだろうが

いまお前がやっているギフトゲーム

全ての世界に「俺達」はいるんだ」

 

 

 

 

「……………………………………………………。」

 

 

 

 

「リアクションねぇな。

そうか、喋っていいぞ。そして驚け」

 

「いやいや、驚きすぎて喋れなかっただけです。」

 

 

 

 

 

いきなり過ぎて頭がついていけない

いや、話事態は理解したがどうしても受け入れられない

クロノス、時の精霊

そのクロノスの魂の半分が混じりあって

そして残りが十無達「別世界の俺」の魂と……

 

 

 

「僕と十無は…その、似てないね……」

 

「当たり前だ!!!

別世界といっても魂が同じだけで

容姿や生き方や考え方、行動も話し方も違う

パラレルワールドっても完全に瓜二つじゃねぇ

容姿が似ようが生きた時間と選択が

そいつの人生になるんだ、一緒なわけあるか」

 

 

 

 

 

そうだ、いくら同じ世界があっても

たった一瞬の選択で全てが変わることもある

いくら同じ姿・性格でも全てが同じじゃない

 

 

 

 

「あ、あの…質問してもいい??」

 

「いいが、なんでさっきからよそよそしいんだ??

テメェは俺だろうが!!しっかりしやがれ!!!!!」

 

 

「いやさっきは違うって……」

 

「この際だからはっきりしておくが

テメェはと俺達じゃ全く違うことがある

それはテメェが「正界」で俺達が「分界」ということ

お前が死ねば俺達全員死ぬんだよ。

 

だからな、テメェがしっかりしてねえと

こっちまでとばっちりを受けるんだよ、分かったか!!!」

 

 

 

魂が一緒なら生きるも死ぬも一緒

そしてその生き死にが決めるのが……

 

 

 

 

「だからテメェにはさっさと強くなってもらわないと

こっちが迷惑なんだよ分かったか!!!」

 

「そんな二度も言わなくても……」

 

 

 

 

「分かってるなら早くこのギフトゲームをクリアしろ!!」

 

「早くって…いやまだまだ終わらないよ!!

砂時計の砂の数だけ「異」を取り除かないと

次の世界に移動出来ないんですよ」

 

 

 

「………おい、テメェマジで言ってるのか……」

 

「マジって…」

 

 

 

すると十無が腰にある無刀を手に取り

その刀を抜きそれを大助に向けた

瞬間に大助の周りが吹き飛ぶような衝撃が走った

一時停止によって助かったが

もしなかったら…………

 

 

 

 

「なにするんですか!!!??

その無刀って切った結果しか残らない刀ですよね

そんなものが当たったら死んでしまいますよ!!!!!」

 

「あぁ!!死ねエエェェ!!!!!!

まさか本当に「異」が分からねぇなら

テメェは死ねエエェェ!!!!!!!!」

 

 

 

 

そういって十無はもう一度無刀を振るい

大助を本気で殺そうと……

 

 

 

「お前は本気で元の世界に帰りたいと思っているのか!!

ここなら死ななければずっと生きることができ

経験を積めるからかぁ!!!!ふざけるな!!!!!!!!」

 

 

「経験を積んで何が悪いんですか!!?

そうすれば皆の役に……」

 

 

 

 

「だったらそいつらの名前を言ってみやがれええええぇぇぇ!!!!!!」

 

「何を言ってるんですか!!!!!!

そんなの春日部さんに、久遠さんに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………ぁ、………ぇ、………ぁぁ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……な、なんで……出て……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界はな、このギフトゲームはな、

お前自身と向き合うためのもの

大切なものみつけるためものなんだ!!!!!!

 

よく考えやがれ!!!お前の「異」はなんだ!!!

この世界の「異」はなんだ!!!!!

自分自身か!!

仲間か!!!!

 

もう見つけてるはずだあぁ!!!

さっさとクリアしやがれ大助ええええぇぇぇ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

その言葉を聞き終わった時にはすでに

ホテルの廊下に立っていた

まだ、聞きたいことはあった。

だけど、それより、

 

 

 

「何しているの、いくわよ」

 

「大助、早く。」

 

 

 

………僕は、どうしたら……いい??



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その世界について、何を知る??(Ⅴ)

「はぁ~やはりうまくいきませんわね」

 

「でも、いいところまではいったと思う」

 

 

 

「そうなのよ!!

あそこで変えなかったら…

もう「威光」を使えば使ったかしら」

 

「でもそれだと賭け事の意味がなくなるって」

 

 

 

 

 

それも分かっているのだけど、

とさっきから同じことを繰り返している飛鳥

耀も悔しかったのだろう

いやな顔をせず飛鳥の話し相手をしている

そしてもう一人の人物、大助はというと

離れた場所で一人暗い顔をしている

飛鳥も耀も気にはしているが

なにかをいうまでこちらからは言わないと

言葉を交わしたわけではないがそう決めたようだ

 

 

 

 

 

 

「明日は絶対に勝ってみせるわ!!」

 

「うん、私も頑張る」

 

 

 

「そうと決まれば明日に備えて食事にしましょう」

 

「骨付き肉がいい」

 

「もうちょっと女の子らしい物を……」

 

 

 

 

しかし耀はすでに骨付き肉を求めているのだろう

もう瞳がキラキラと光っているように見える

はぁ~とため息をつきながら

一人離れた場所にいる大助に近づいて

 

 

 

 

「ほら大助君も食事にするからこっちに来なさい」

 

「……久遠さん……」

 

 

 

「何があったか知らないけど

言えるようになったら教えて頂戴

あなたのことだから私たちのために

色々と考えていくれているのでしょうけど

私たちのことなら一緒に悩めることができるわ」

 

「一人抱え込むのは良くない」

 

 

 

「……久遠さん…春日部さん……」

 

 

 

 

 

その優しさがすうっと胸の奥に入っていくが分かった

そうだ、ここには仲間がいる

ずっと一人だったあのときの自分じゃない

いまはこうして一緒悩んでくれる仲間がいる

 

何かを決意した大助は二人の瞳を交互にみたあと、

 

 

 

 

「ありがとうございます

それとお願いします、一緒考えてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界が、いままでの世界が、

全部大助君の「分身」がいる世界だというの」

 

「分身とも違うかな

魂は2つが同化しているし、

それにシェルみたいに全然似てないよ」

 

 

 

「でも大助でもあるんだよね」

 

「そう僕が死ねば「僕達」は死んでしまう

だから僕は何百・何千の僕の命を背負っている」

 

 

 

 

その話を聞き表情が暗くなった二人

いままでのギフトゲームでも

他人の命を守るため戦ったことはある

けどこれは命の重みが違う

自分が死ねば一緒に死んでしまう

それもギフトゲームもなにも関係ない「大助」が

想像しただけでもとんでもない

これを一人で背負うなんて出来るのか……

 

 

だけど大助は、

 

 

 

 

「だけどね、正直そこまでプレッシャーはないんだ

まだ実感がないだけかもそれないけど…

………ほら、僕には一時停止があるからかな」

 

「なにいってるのよ!!

ついこの前はナイフで刺されたじゃない!!!!

それにプレッシャーを感じないわけが……」

 

「やせ我慢しなくていいよ大助

ほら、手が震えてる」

 

 

 

 

耀が優しく両手で大助の手を握った

そこでやっと気づいた、手が震えていることに

その優しさに、温かさが抑えてくれる

本当に、本当に、嬉しかった

こんなにも考えてくれることが

一方的な思いを渡すんじゃなくて

お互いがお互いを助け合うことが

こんなにも嬉しいことなんて………

 

 

 

だからこそ、言わないといけない

この手が震えていることについて

いま一番恐れていることについて

 

大助達の命がかかっていることも確かだけど

いまはそれよりも、なによりも

「目の前の二人について」言わないといけないことが

とても辛いけど、だけど言わないといけない

 

 

 

 

「ありがとう二人とも

だけど本当に違うんだ、この手の震えは

もっと、もっと、辛いことなんだ……」

 

「……ちょっ、ちょっと大丈夫なの??」

 

「無理しなくていいよ」

 

 

 

 

さっきよりも手の震えはひどくなっている

だけど、

 

 

 

 

 

「ううん、言わないと…いけないんだ

そうしないと僕は、僕を許せなくなる

 

やっと分かったんだ、このギフトゲームの意味を

そしてクリア方法も、「異」が何なのかも……」

 

 

 

 

 

そういって大助は決めた

これから話すことがどれだけ残酷だとしても…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このギフトゲーム

『Where is the footstep's destination which gonna trace for?』の内容を覚えてる??

「異」を取り除く、その異はすでに

羊皮紙に記されてたんです

いや、正確には「なにも書かれてない」んです」

 

 

 

「それってどういうことなの……」

 

 

 

 

「あの羊皮紙に書かれてないもの

そしていまここにあるもの

それがこのギフトゲームの「異」

その「異」を取り除けば…ゲームクリア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その「異」は……春日部 耀、久遠 飛鳥

君達二人が羊皮紙に書かれていなかったんだ」

 

 

 

 

二人が表情は変わらなかった

いや、変えられないほど驚いているのだろう

 

だっていままでこのギフトゲームをクリアするために

三人一緒に頑張ってきたのに、異を探していたのに

まさかその異が自分達なんて……

 

 

 

 

 

「……そう、なのね……」

 

「こんなこというのは無神経かもしれないけど

いや最低なんだけどさ、

君達二人はこのギフトゲームが始まる瞬間

精神だけがこちらの世界に来たんだ

 

だから傷ついてもその体は治ることが出来る」

 

 

 

 

「でも大助も…」

 

「僕は、僕が気づかない内に巻戻を使って

傷を、歳を元に直していたんだ」

 

 

 

 

だからこの世界を渡りつづけても

なにも変わることもなく

知識と経験だけが積み重なる

 

 

 

 

 

「それじゃ私たちが消えたら

ギフトゲームクリアで大助君は元の世界に戻る」

 

「うん、それなら私たちは…」

 

 

 

 

「なんでそんな簡単に言うんだよ!!!!!」





どうもです。
かなりひさしぶりに書きました
もう話が出てくる出てくる
更進は遅いかもしれませんが、
確実に書いていきますのでよろしくどうもです。

この回で終わる予定でしたが
まだまだ書きたいことがありまして
次回までこの話は続きます


さて、大助はどんな決断をするのか??


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その世界について、何を知る??(Ⅵ)

何を言っているんだ僕は…分かっているのに…

こんなことをいうことが間違っているのことを…

耀や飛鳥がどれだけ苦しくて、悲しくて、辛くて、

それでも僕の為に言ってくれたのに…それでも、

この思いを言わずにはいられなかった

 

 

 

 

 

「怖くないの!!

この゙取り除ぐという意味

分からない訳じゃないんでしょう!!!!!」

 

 

「えぇ、分かっているわ…」

「でも、それしかないなら…」

 

 

「だったらなんで簡単に諦めれるんだよ!!

二人は確かに゙ここに゙いるんだよ!!!

ずっと三人でいろんな世界を回ったんだよ!!

目の前にいる゙飛鳥゙も゙耀゙も存在するだよ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

ここにいる二人がギフトゲームのために

存在しているとしても

現実にいる二人とは違い、偽物だとしても

確かに大助は二人と一緒に、三人でこの世界を、

 

 

 

 

「……本当に、仲間のことになると感情的になって

こうして私達を自分以上に心配してくれて…」

 

「大助は本当に優しい人…

でも、きっとその優しさだけじゃダメだと思う

その優しさに大助が含まれてないから」

 

 

 

 

 

 

なんでそんなことをいうだよ……

 

 

 

 

 

「ずっと疑問だったのよこのギフトゲーム

砂時計の砂、異世界の移動、異世界の゙異゙

死ななければ完治する傷、そしで大助君達゙

 

これってクロノスに関する

ギフトゲームじゃないかしら??」

 

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

「大助は気づいていたんだよね

このギフトゲームの本当の意味を

きっとこれは大助を成長させるためのギフトゲーム

だから、進んで、この゙先゙に」

 

 

 

 

 

二人も気づいていたんだ…

ギフトゲームの本当の内容を…

そしてこのギフトゲームを終わらせるための

本当の゙異゙を取り除くその意味を……

 

それを実感した瞬間、体が震え始めた

いままで感じたことのない゙カンカグが、

 

 

゙異゙を取り除くこと

その゙異゙とは飛鳥と耀であり

そして取り除くという行為は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このギフトゲームから二人を゙消ずことを指す。

 

 

 

 

 

「ッ!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

恐怖が、罪悪感が、闇が、押し寄せてくる

心の奥底に押さえ込んでいたモノが溢れてくる

記憶が、あの日の、この闇の、記憶が、

まるで昨日の出来事のように甦ってくる

 

 

何気ないケンカから引き起こした事故

2年という月日を奪った

もしかしたら2度と

解けることのないものだったかもしれない

それは、生きながら゙死゙を与えるものだった

 

 

 

友達が、親友が、恋人が、家族が、

誰もが死んでいくなか生きてく恐怖

いや、その恐怖を感じることなく過ぎていく時間

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠に、

 

 

 

 

 

 

その世界で、

 

 

 

 

 

 

 

ただ一人、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

停止した(生きた)ままで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………大丈夫……」

 

 

 

 

そっと何が手に触れ

震えていた手が止まった。

 

それに気づいたときは

耀が僕の手を握ってくれていた。

 

 

 

 

温かいその手がゆっくりと伝わってくる

いつの間にか僕の手が冷たくなっていたのか

それとも耀の手が温かったのか

 

どちらでもいい

温もりがゆっくりと、同時に震えも消えてゆく

それがなによりも安心できて、優しくて、

 

 

 

 

 

 

 

「…もう、前に進めるはずだよ…

大助にはもう踏み出す勇気があるから…

…それにね……止めるだけじゃないよ……

一時停止(サスペンド)はただ止めるだけじゃない

 

…だって、゙一時゙゙停止゙なら゙動き出せる゙」

 

 

 

 

 

 

 

心から、その奥底から感じることが出来る

きっと僕は、この人が、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから進んで、この先に

゙私達゙と一緒に、その先に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春日部 耀のことが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に帰ろう、大助」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

好きなんだって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、いくよ」

 

 

「うん、向こうの私にもよろしくね」

 

「しっかりね、大助君なら大丈夫よ」

 

 

 

 

 

右手に耀の手を握り

左手で飛鳥の手を握り

 

 

 

 

「またね」

 

 

「うん、またね」

 

「それじゃ、また」

 

 

 

 

二人の「時」を止めた。

笑顔で止まった二人だけど

今でも動き出しそうな、そんな感じだ。

 

 

心から込み上げてくるものがあり

目頭が熱くなり涙が溢れそうになったが

いまはまだ流すわけにはいかない

ずっと見ていると泣きそうになり

二人に背を向け涙をこらえた

 

 

 

 

すると、懐に入れていた砂時計が光だし

取り出した砂時計は宙に浮き

上部と下部がゆっくりと入れ替わるように回りだし

高速回転により砂時計が円を描き出す

その円が広がり、直径2㍍の光の円が生まれた

 

 

この先が元の世界へと繋がる入り口

二人が後ろで見てくれている

 

この先、その人の「時」を止めることはないだろう

でも仲間を守るため、

この「時」はきっと力を貸してくれる

 

 

もう、怖がらなくてもいい

この「時」は自分に力を貸してくれる

どんな経緯があろうとも、クロノスの力だろうと

守るため、この手で守れるものを、守るために。

 

 

一歩と足を動かし、光の中へ踏む入れた

今はだけは、過去でも、現在でもなく

その先にある、未来のために………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい光の中で過ごしたのだろうか…

一瞬だったか、それとも何時間いたのか、

何だか時間の感覚がうまく取れず

僕が元の世界に戻る前に、ある出来事があった

 

夢を見ているような、霧がかかった感じで

頭のなかに直接語りかけてきたあの声、

 

 

 

 

 

『君は本当に優しいんだね』

 

「??

貴方は…誰??」

 

 

 

『これは失礼した

私は君でもあり、君は私でもある

私は「原初の三霊」の一人、クロノス』

 

「!!?

あ、貴方が……クロノス」

 

 

 

 

やはり(もや)がかかっており顔が見えない

だけど姿はそれとなく分かる

タキシード姿で黒いハット

右手にはチェーンのついた懐中時計を持っている

でもこれって……

 

 

 

 

「…精霊って感じがしないんですね」

 

『私はこの姿が気に入っていてね

精霊の姿だと醜いとは言わないが

それはやはり人に避けられるから』

 

 

 

「人間が好きなんですね」

 

『正確には信頼していた人間が、だけどね』

 

 

 

 

それはどういう意味か、と思ったけど

きっと聞かれたくないことなんだろう

 

 

 

 

『気づいていると思うけど私は

このギフトゲームに残った思念体だ

生まれ変わった私が私の為に残したギフトゲーム

……まさか、魂が混合するとは思わなかった』

 

 

「……僕ではダメだということですか??」

 

 

 

 

 

『そういうことではない

このギフトゲームは「一時停止」の正しい使い方を

その意味を知って欲しくて作られた

昔の私は無闇に力を使い、多くの゙時゙を奪い

世界を狂わせてしまうほどに悪用した

だから、このギフトゲームには「あるギフト」を

クリアした時に渡すように仕向けて

ギフトゲームの真意が

分かるまで閉じ込めるつもりだった

 

しかし、君はそれを乗り越えた

目的のために「一時停止」を使わずに

仲間のために「一時停止」を使ってくれた

そしてまさか自分のトラウマさえも乗り越えた

私は君という「君塚 大助」として生まれ変わって

心の底から感謝しているよ、ありがとう』

 

 

 

 

 

まさか…感謝されるなんて……

てっきり罵倒されるとばかりに…

こんな精霊にとって弱い人間を

それも魂が混合するなんて、

といわれるかと思ったのに……

 

 

 

 

 

『さて、クリアした君にギフトを渡さないとね』

 

 

 

 

クロノスの持っていた砂時計が宙に浮き

そのまま光の玉となり僕の胸にぶつかった

いや、ぶつかったというより入り込んだ

温かいものが胸から身体中に巡るように広がっていく

 

 

 

 

『そのギフトの名は「先送(さきおくり)

使い方は…もう分かっているだろうから言わないよ』

 

 

 

 

そういうと今度はクロノスの体が光始めた

それもその光が一粒クロノスの体から離れていく

光の集合体が飛散し、消えていくように…

 

 

 

 

 

『これで私の役目も終わりだ

いや…あと1つ贈り物をあげよう

これは君にしか、君だけしか持てないギフトだ』

 

 

 

 

離れていく光の一粒が

少しずつ大きくなっていく

そしてその光の玉から現れたのは砂時計

 

 

 

 

 

『この砂一粒に「世界があり」「君がいる」

この一粒一粒の時界の因子(タイム・ファクター)

君を、君達を助けてくれるよ』

 

 

「それって…どういう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ大助さん♪

今夜の晩御飯は大助のリクエストにしますので

なんでもいって貰っても構いませんよ!!

あら、飛鳥さんに耀さん帰っていたのですか??」

 

 

「えぇ、ついさっきね」

 

「私、お肉がいい」

 

 

 

「耀さん、今回は大助さんに

頑張って貰うために提案したものですから…って、

だ、だ、大助さん!!?どうされたんですか!!!!!??」

 

 

 

 

 

……帰って…きたんだ……

なんともいえない感情が溢れてきた

喜びや悲しみや悔しさなどが入り交じって

そしてなにより僕の目の前に耀と飛鳥が……

 

 

 

 

「お、お二人とも!!

一体大助さんに何をしたんですか!!!?」

 

 

「何もしてないわよ!!!!!

ちょっと大助君!!なんで泣いているのよ!!!!!!」

 

「えぇ…と、私がクッキー食べ過ぎたからなの…」

 

 

 

「いや、耀さん……それで泣かれてはないかと…

しかしどうしたんですか??

私達に出来ることならいってください」

 

 

 

 

 

 

それからしばらく声も出せずに

恥ずかしいがけっこうわんわんと

みっともなく泣いていたようだ

 

それでも泣かずにはいられなかった

溜まりに溜まったこの思いを吐き出したかった

これが終わったら始めるんだ、みんなで

だから今日だけは止まってもいいよね…



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収穫祭に向けての戦果発表

結論から言おう、拉致られた。

まぁ、拉致なんて大げさなことだが

昨日は泣きつかれて

いつ自分の部屋に着いたか覚えていないが

誰かが運んでくれたのは覚えていた

 

そして目覚めた後の景色が

この結論を導きだした

 

そこは和風な部屋であり

どことなく、いやはっきりと見たことがある

ということで、

 

 

 

 

 

「十六夜、いま謝るなら許す」

 

「おいおい、見ても覚えてもねぇのに

起きて速攻喧嘩売るのか??」

 

 

 

「そんなこといってる時点でアウトだ」

 

「ったく野郎には厳しいな、まぁ俺なんだが」

 

 

 

 

 

悪気もなくヤハハと笑う十六夜に

はぁ~とため息つきながら起き上がろうと

頭を動かそうとしたのだが、動かない

というより、押さえられている

 

そういえば頭の下に温かく、柔らかいものが…

 

 

 

 

 

「まだ起きたらダメ」

 

「よ、耀さん!!!

ちょっ、ちょっと何して!!!!ふごっ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

耀の顔を見ようと目線を動かそうとしたが

何故か座布団を顔に押さえつけられてた

 

 

 

 

 

ふごっ!がっ!!ぐふっ!!!ごほっ!!!!(本当に何してるのさ!!!!!)

 

「な、なんで、いきなり……」

 

 

 

 

 

大助には見えないが耀の顔は赤く染まり

どんどん座布団を押さえつける力が強くなる

それを見ながら微笑ましく見ている十六夜達だが

さすがに大助の抵抗が弱まっているのを

死にかけているのを見た黒ウサギが

 

 

 

 

「よ、耀さん!!!さすがに大助さんが死んじゃいます!!」

 

「だ、大丈夫…私の恥ずかしさに比べれば…」

 

 

「死んじゃうほどに!!!??」

 

 

 

 

埒があかないと分かった黒ウサギは

力ずくで押さえつけている座布団を奪い取った

足りなくなった酸素を補うために

ハァハァと息づかいを荒くしながら呼吸を整えた

 

 

 

 

「な、なんで…えっ、何かしたのかな…」

 

「……………………」

 

 

 

「も、もしかして、膝枕かな??

ご、ごめ、いや、ありがとうだよね

まさか、耀さんが膝枕を…ごふっ!!!!!!」

 

「もういいから、こっち見ないで!!」

 

 

 

 

よっぽど膝枕が恥ずかしかったのか

耀さんは僕から見えない所に逃げていった

そして未だに十六夜達がニヤニヤとしている

……なんだろう、かなりウザイだけど……

 

 

 

 

 

「……あぁ~、それでどうしてここに…

ついでに黒ウサギ、なにそのハレンチ着物は??」

 

「やっぱりそうですよね!!!??

ちょっと十六夜!!!時崎さんの世界ではこれが

正装などいいましたよね!!!!

全然違うんじゃないですか!!!!!!!??」

 

 

 

 

 

黒ウサギが着ていたのは

身体のラインがはっきりと分かるように

小さめに着付けられた着物を、

股下でバッサリと切り取った奇形の着物

加えて肩から胸までを大胆に開き、

肌の露出を多くさせている

加えて花柄のレースのガーターソックス

もはや統一感も何もない衣装である

 

 

 

 

 

 

「俺は「らしいぞ」といった

それを勘違いしたのは黒ウサギだ」

 

「それはそうかも…って今日は騙され」

「いいから着替えてきなさい!!!!」

 

 

 

 

長引きそうになった会話を無理矢理に止め

黒ウサギには悪いが思いっきり睨み付けた

さっさと着替えないと怒るぞ!!!的な感じで

それを察知した黒ウサギは直ぐ様部屋から出ていき

残った十六夜に向かってさっきより鋭い目付きで

 

 

 

 

()()()!!!」

 

「……悪かった…これは謝る…」

 

 

 

 

冗談で誤魔化そうと考えた十六夜だが

完全に目付きがヤバすぎる

どういう訳かいま目の前にいる大助は

何だがついこの前の大助とは違う気がする

見た目が変わったわけではない

なんといったらいいのか、雰囲気が違う

なんかを経験し積み上げてきた経験者のように

 

 

それからしばらくしたあとに黒ウサギは戻ってきた

もちろんいつもの洋服で、

 

 

 

 

 

「大変お見苦しいものを…」

 

「もういいから…それは、

それでどうしてここに連れてきたんだ??」

 

 

 

「決まっているんだろうが

これから収穫祭の参加日数を決めんだよ」

 

「あぁ…なるほどな」

 

 

 

 

 

それから戦果を報告を始めた

飛鳥は牧畜を飼育するための土地の整備と山羊十頭

飼育小屋と土地の準備が整い次第

゙ノーネーム゙に連れてくる予定だそうだ

 

 

 

 

次に耀ばウィル・オ・ウィスプ゙からの再戦

正確にはアーシャ=イグニファトゥスからである

あの時は大助がジャックを足止めをしたからこそ

ノーネームが勝てたと大助も耀も思っていた

そしてアーシャも同じことを考えていたからこそ

この再戦が決まったのだった

 

 

で、このゲームに勝利した耀は

ジャック・オー・ランタンが製作する

()()()()()()()

巨大キャンドルホルダーを無償発注した

 

なので竈・燭台・ランプといった生活必需品を

ウィル・オ・ウィスプに発注した

それにより燭台などに

火を灯し続けられることができる

 

 

 

そして十六夜は更なる戦果をあげてきた

白夜叉゙階層支配者(フロアマスター)゙の活動の一環として

十六夜からの提案である潤沢な水源の確保に挑戦

白夜叉は十六夜に白雪姫から

箱庭に来て早々神格である蛇神(白雪姫)から

水源となるギフトを取りにいってもらった

十六夜は白雪姫とのギフトゲームに勝利し

白雪姫を隷属させてきた

つまり十六夜は白夜叉との挑戦(ゲーム)に勝った

 

そして白夜叉から十六夜へ、

いやジンへ、ノーネームへ渡されたものは

『外門の利権書』つまりは、゙地域支配者(レギオンマスター)゙だった

 

 

 

 

「凄いのです…………!

凄いのです、凄いのです!!

凄すぎるのですよ十六夜さんっ!!

たった二ヶ月で利権書まで

取り戻していただけるなんてっ…………!

本当に、本当にありがとうございます!」

 

 

ウッキャー♪

と奇声を上げてクルクルと

十六夜にぶら下がる黒ウサギ

 

 

これには飛鳥も耀も負けを認めるしかなかった

外門利権書は、箱庭の外門に存在する

様々な権益を取得できる特殊な゙契約書類(ギアスロール)

外門同士を繋ぐ゙境界門(アストラルゲート)゙の

起動や広報目的のコーディネートなどを一任し

コミュニティが施した装飾や規模が

そのまま地域の復興に繋がることもある利権である

 

 

 

 

「喜んでくれてるのは嬉しいが黒ウサギ

俺達はまだ大本命が残ってるぜ」

 

「そ、そうです!

一体大助さんはどんな戦果を!?」

 

 

 

「それはもちろん私たちよりも凄いんでしょうね」

 

「うん、絶対に凄いはず」

 

 

 

 

十六夜のように意地悪したり

黒ウサギのように天然で期待する分はまだいいが

飛鳥と耀はどちらかというと

十六夜に負けた気持ちを大助に対して

嫌みとして言われているようでキツいものがある

 

本人はそんなつもりはないとは分かっているが

どうしてこうハズレくじを引くのか…

 

 

 

 

 

「期待してくれるのは嬉しいけど

……ごめん、ギフト二つだけなんだ戦果は」

 

「そんなんですか

白夜叉様からの紹介でしたから

てっきり凄いものかと……」

 

 

 

 

「黒ウサギ、騙されるな

こいつはこんなことをいうが謙遜すぎて

物凄いことをやり遂げている自覚さえないはずだ」

 

「………あぁ~、確かに……」

 

「そんなことは……まぁ、見てもらえばいいか」

 

 

 

 

まず大助がギフトカードから取り出したのは砂時計

ギフトゲームの際、使用していたものとは違い

クロノスから貰った砂時計の砂は

一粒一粒が光を放って「星の砂」のようだ

 

 

 

 

 

「凄く…キレイ……」

 

「本当に…こんなの初めて見るわ」

 

 

「そうですね、まるでこの一粒が星のようで…」

 

「というか、゙星゙そのものだろ

いや、正確にば世界゙というべきなのか」

 

 

 

「十六夜、これがどういうのか分かるの!!?」

 

 

 

 

その言葉に十六夜は呆然とした表情をしたが

すぐにハッと笑いながら

 

 

 

 

 

「手にした本人が分からねぇギフトか

まぁ、本人に覚えがあるならそうなんだろうよ

あくまでも俺の意見はクロノスがらみだろうと

勝手に予想をしただけだ」

 

「……いや、合ってると思うよ

ギフトゲームの時もこの砂の一粒が゙世界゙だった

……時界の因子(タイム・ファクター)、一体どんな…」

 

 

 

 

 

 

時界の因子(タイム・ファクター)じゃと!!!!!??」

 

 

 

 

 

その大声に、驚き具合に、取り乱しに、

そしてこの声の主が白夜叉だということに

誰もが驚き全員の視線が集まる

 

その視線に気づいた白夜叉はゴホンと咳き込み

 

 

 

 

 

 

「す、すまぬ…取り乱してしもうた…」

 

「いえ、白夜叉様がそのように取り乱すなんて…

この砂時計はそんなにすごいものなんですか??」

 

 

 

「星霊クロノスが最後の最後まで

手にすることの出来なかったギフトじゃ

知恵も実力も度胸もあったのだが

どういう訳かそれを手にできなかったと聞いておる

お主はどうしてそのギフトを手にしたのじゃ??」

 

 

 

「……ギフトゲームクリア後に現れたんです

残留思念のクロノスが僕の目の前に

その時に言われました

 

『この砂一粒に「世界があり」「君がいる」

この一粒一粒の時界の因子(タイム・ファクター)

君を、君達を助けてくれるよ』って、

 

恐らくなんですが「時」であるクロノスの魂が

様々な異世界に飛び散ったことが

このギフトを生み出したんじゃないかと……」

 

 

 

 

「……なるほどの…それなら手に入らぬはずじゃ

だがクロノスの魂が飛び散ったことは課程にすぎぬ

そこに゙君塚 大助゙がいたからこそ

きっとこのギフトは生まれたとワシは思う」

 

 

 

 

 

白夜叉の言葉に皆が頷く

皆は僕のことを゙クロノズではなぐ大助゙として…

当たり前のことなんだろうけどそれが嬉しい

 

 

 

 

「しかしワシも時界の因子(タイム・ファクター)ついては知らぬが

こういうものは必要な時に力になってくれる

焦ることはない、待つことも必要じゃ」

 

「は、はい」

 

 

 

 

「それでお主、もうひとつというのは??」

 

「あっ、先送(さきおくり)というギフトです

巻戻(まきもどし)の逆で゙時゙を進めるんですが

これには制約があるので使いづらいけど

心強いギフトだと思いますよ」

 

 

「……軽く言っておるが

とてつもないギフトだと分かって…おらぬな……」

 

 

 

 

はぁ~とため息をつく白夜叉に疑問に思う大助

いや、時界の因子(タイム・ファクター)に比べたら

とてつもないギフトなんて思わないけどな……



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ヘッドホンと"境界門"

─────翌朝。出発直前になっても、十六夜は本拠の前に現れなかった。

初日から参加する飛鳥は日傘を片手に遠出用に鞄を隣に置いている。真っ赤なドレスコートは今日も鮮やかに映え、凛とした彼女の佇まいを優雅に引き立てている。

 

 

「十六夜君、まだ見つけられないの? 夜通し探したのでしょう?」

 

「YES。子供たちも総動員して探しているのですが………うう。そろそろ出ないと間に合わないです」

 

 

いつも何時ものミニスカートにガーターソックスを着込んだら黒ウサギは、ハラハラしながら十六夜を待っている。隣で待っているジンも同様だ。

 

 

「…………あ、来ましたよ!」

 

 

ジンが声をあげる。しかし十六夜の頭上にはヘッドホンが無く、代わりに髪を押さえるためのヘアバンドが載せてあった。

黒ウサギは目を丸くして十六夜に問う。

 

 

「ど、どうしたんですそれ」

 

「頭の上に何かないと髪が落ち着かなくてな。それより話がある」

 

 

耀は十六夜の隣に立つと顔を見上げ、僅かに小首を傾げる。

 

 

「………本当にいいの?」

 

「仕方ねえさ。アレがないとどうにも髪の収まりが悪くてな。壊れたスクラップだが、ないと困るんだよ。ったく、こういう時使えねえんだからな大助は」

 

「一緒に探したのになんだよその言い種は!!!」

 

「時の精霊の後継者の割には役に立たない」

 

「出来ないものは出来ないんだよ!!!

現物もないのに『巻戻』は使えないのにどうしようというだ!!!!」

 

 

コントのようにやっているが他の"ノーネーム"も状況を把握して顔を見合わせる。つまり十六夜は、ヘッドホンを捜すために本拠へ残るというのだ。

耀は無表情のままパチパチと瞬きをしてからしばらく十六夜を見上げ────ふっと、小さな華が咲いたように柔らかい微笑みで十六夜に礼を述べた。

 

 

「ありがとう。十六夜の代わりに、頑張ってくるよ」

 

「おう、任せた。ついでに友達100匹ぐらい作ってこいよ。南側は幻獣が多くいるみたいだからな。俺としては、そっちの期待が大きいぜ?」

 

「ふふ、分かった」

 

 

耀は十六夜に向かって元気に手を降り、三毛猫と共に飛鳥たちの元へ駆け寄る。こうして春日部 耀、久遠 飛鳥 黒ウサギ、ジン=ラッセルと三毛猫、そして君塚 大助。計五人と一匹は本拠を後にした

本拠に残った十六夜とレティシアは小さく手を降ってそれを見送る。彼らの背中が見えなくなると、少し緊迫したような顔で十六夜を除き込んだ。

 

 

「十六夜………その、本当に良かったのか?外門利権証を手にいれてまで勝ち取った順番を、こんなにあっさりと手放して……ヘッドホンなら私たちが、」

 

「出てこねえよ。これだけ捜しても出てこないってことは、隠した本人しか分からない場所にあるんだろう」

 

 

レティシアの表情が一層緊迫する

く口には出さなかったが、彼女も同じことを思っていたのだろう。

十六夜は肩を竦ませて苦笑いを浮かべた

 

 

「俺が外したのは風呂に入っている時だけ。ヘッドホンが一人で何処かに行くはすがねえだろう?それとも何か?付喪神でも憑いたってのか?それならまあ、それで儲けもんだが」

 

「それは………しかし、一体誰が」

 

「さあ?状況証拠として一番怪しいのは春日部だったが……アイツはそういう事が出来る奴じゃない。そう判断したから、先に行かせたんだしな。それにだ、アイツにもそれとなく探らせてみたが屋敷にはないことだけは分かったからな」

 

「それは………大助に調べさせたのか?」

 

「ああ、空間掌握である場所以外を徹底的にな。だが見つからなかったんだ。屋敷の外にあるか「今移動しているか」だ」

 

「なっ!!!!??それは!!!!!」

 

「あぁ、仲間の部屋以外を全て調べて出てこなかったんだ。その考えを持つのは当たり前じゃねえか 。アイツはしつこく違う言っていたがな」

 

「そ、そこまで分かっていて何故……」

 

「ほっとけほっとけ。そのうち出頭するだろう。」

 

「しかし………」

 

「いいじゃねえか、仲間を信じるだからよ。ったくアイツに毒されてきたか俺も………くそが」

 

 

嫌がるように言っているが顔は嬉しそうな顔に見えた

そうだ。信じればいい。簡単なことだった。何もなくヘッドホンをただ隠すなどありえないなら、きっとそれには理由がある。なら、信じて待ってみよう。

と、そのあと十六夜の故郷の話があるのだが、それはまた別のお話で。

 

 

 

………………………………………………………………

 

 

 

 

──────二一0五三八0外門。噴水広場前。

"境界門(アストラルゲート)"の起動は定期に行われる。個人での使用は緊急の時しか出来ない為、起動時間には行商目的のコミュニティも一斉に集まってくる。一人につき"サウザンドアイズ"発行の金貨一枚というのは最下層のコミュニティにとって大きな出費だが、それでも需要が有るのはやはり、箱庭の都市の交通には欠かせないギフトだからだろう。

しばらくして門前にちらほらとそれらしい人影が見え始めたころ。

飛鳥達は門柱に刻まれた虎の彫像を凝視し、溜め息を吐いた。

 

 

「この収穫祭から帰ってきたら、いの一番にこの彫像を取り除かないと」

 

「ま、まあまあ。それはコミュニティの備蓄が十分になってからでも、」

 

「あら、何を言っているの黒ウサギ。この門はこれからジン君を売り出すために重要な拠点になるのよ。先行投資の意味でも、ます彼の全身をモチーフにした彫像と肖像画を」

 

「お願いですからやめてください!」

 

 

しジンが青くなって叫ぶ。いくらなんでもそれは恥ずかしすぎた。飛鳥は残念そうに溜め息を吐き、

 

 

「じゃあ…………黒ウサギを売り出しましょう」

 

「何で黒ウサギを売り出すんですかっ!」

 

 

スパン、と軽めにハリセンでツッコミを入れる。飛鳥はむぅっと口を尖らせた。隣で小首を傾げていた耀は、

 

 

「じゃあ…………黒ウサギを売りに出そう」

 

「何で黒ウサギを売るんですかああああああ!!!」

 

 

十六夜が欠けたところで二人が問題児であることに変わりない。万事同じ調子の二人に溜め息を吐いたとき、一人いないことに気づく黒ウサギ

いつもならこの二人を止めるか軽く乗ってくるかしてくる黒ウサギにとっても安定剤のような大助がどういうわけか会話に入ってこないのだ。キョロキョロと周りを見渡すと絶句するような事が起きていた。

 

 

「とりあえず虎の彫像は「元に戻した」から次に「黒ウサギの彫像」を作ればいいのかな?」

 

「貴方様が一番何をしているのですかああああああああああああ!!!!!!!」

 

 

いつの間にか虎の彫像があった所は元の門柱になっており、すでに黒ウサギの彫像を彫ろうと大まかな型が出来上がっている

 

 

「いや、完成図と材料と工程さえ分かれば「先送」で一気に現物が出来るんだけど……」

 

「な、なにやら物凄いギフトだと分かりましたが……そんなギフトをこんなくだらないことに使わないでください!!!!!」

 

「なるほどね。つまり黒ウサギは私たちの案に反対というわけね」

 

「仕方ないよ、黒ウサギだから」

 

「納得いかない気がしますが……理解してくれたならそれで、」

 

「「黒ウサギとリーダーの二人の彫像を作って」」

 

「はい、了解」

 

「「止めてくださいいいいいいいいぃぃぃぃ!!!!!!!」」



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アンダーウッドとグリフォン

「わ、…………!」

「きゃ……………!」

 

 

ビュゥ、と丘陸に吹き込んだ冷たい風に悲鳴を上げる耀と飛鳥。多分に水を含んだ風に驚きながらも、吹き抜けた先に風景に息を呑んだ。

 

 

「す…………凄い! なんて巨大な水樹………!?」

 

 

丘陸に立つ外門を出た耀達は、すぐに眼下を覗き込む。彼女達の瞳に飛び込んだのは、樹の根が網目模様に張り巡らされた地下都市と、清涼とした飛沫の舞う水舞台だった。

遠目でも確認出来る程に巨軀(きょく)の水樹は、トリトニスの滝に通じる河川を跨ぐ形で聳え、数多に枝分かれした太い幹から滝のような水を放出している。

水を生む大樹。"ノーネーム"の水樹は此処で生まれた苗木なのだ。

 

 

「飛鳥、下! 水樹から流れた滝の先に。水晶の水路がある!」

 

 

耀は今まで出したことが無い様な歓声で飛鳥の袖を引く。

巨軀の水樹から溢れた水は幹を通して都市へ落下し、水晶で彩られた水路を通過して街中を勢い良く駆け廻っている。大樹の根は地下都市を覆うように網目模様で伸びており、その隙間を縫うようにして作られた水路は、加工された翠色の水晶でできている。

巨軀の水樹と、河川の隣を掘り下げて作られた地下都市。これらの二つを総じて"アンダーウッド"と呼ぶのだ。

 

 

(…………あら、あの水路の水晶………?)

 

 

飛鳥は水晶の輝きを見て首を傾げる。記憶違いでなければ、北側でも同じようなものを見た気がした。

 

 

(あの水晶………翠色のガラス? 確か北側でも、)

 

「飛鳥、上!」

 

 

えっ、と今度は上を見上げる。上下に忙しないとも思ったが、直ぐに考えが変わった。遥か空の上に、何十羽という角の生えた鳥が飛んでいたからだ。唖然と見上げる飛鳥とは対照的に、耀は熱っぽい声を上げながら鳥の群れを見つめている。

 

 

「角が生えた鳥………しかもあれ、鹿の角だ。聞いたことも見たこともない鳥だよ。やっぱり幻獣なのかな? 黒ウサギは知っている?」

 

「え? え、ええまあ…………」

 

「ホント? 何て言う幻獣なの? ちょっと見て来てもいい?」

 

 

珍しく熱い視線を向ける耀。黒ウサギが困ったようにしていると、旋風と共に懐かしい声が掛かった。

 

 

『友よ、待っていたぞ。ようこそ我が故郷へ』

 

 

巨大な翼で激しい旋風を巻き上げて現れたのは、"サウザンドアイズ"のグリフォンだった。嘴のある巨大な頭を寄せると、耀も応えたようにグリフォンの喉仏を優しく撫で上げた。

 

 

「久しぶり。此処が故郷だったんだ」

 

『ああ。収穫祭で行われるバザーには"サウザンドアイズ"も参加するらしい。私も護衛の戦車(チャリオット)を引いてやってきたのだ』

 

 

見れば彼の背中には以前より立派な鋼の鞍と手綱が装備されている。契約している騎手と共にきたのだろう。

グリフォンは黒ウサギ建ちにも視線を向け、翼を畳み前足を折る。

 

 

『"箱庭の貴族"と友の友よ。お前達も久しいな』

 

「YES! おお久しぶりなのです!」

 

「お、お久しぶり………でいいのかしら、ジン君?」

 

「き、きっと合ってますよ」

 

 

言葉の分からない飛鳥とジンはその場の空気でとりあえずお辞儀をする。

しかしもう一人この場にいる大助の声が聞こえない。耀達が大助の方に視線を向けると大助は未だに巨軀の水樹をじっと眺めていた。グリフォンとの出会いの時も世界が変わったとき感動で笑っていたが、まさか周りの声も聞こえなくなるほど感動しているなんて……

 

 

「えぇーと……大助さん?」

 

「………………………」

 

「うわっ。今まで見たことの無い笑顔!!?」

 

 

すると大助の影からシルフが現れて風を纏った右手で大助の頭を思いっきり叩いた。もちろん一時停止でダメージはないのだがその主に対する振るまいにレイが現れて

 

 

「何してるのシルフ!!!」

 

「だってアスカ姉様、こうしないと気づかないと思って……」

 

「貴女は昔から思い付きでやるんだから……」

 

「……性格は……変わらない……」

 

 

いつの間にかカルマも姿を現して三体の精霊が大助を取り囲んで会話している。この光景には流石のグリフォンも驚き

 

 

『なっ!!!? 上位精霊のアスカ様にシャドウ様!!!それに四大のシルフ様まで!!!!??一体あの小僧は何者なんだ‼!!!』

 

「あぁ……あまり気にしない方がいいと思います。大助さんは規格外ですので」

 

「うん、気にしたら負け」

 

 

二人の言葉に更なる追及はしなかった。すでにあの時から不思議な者だと思っていた。しかしこんな風に見せられると無理にでも実感させられた

と、どうやら精霊が現れたことに気づいた大助は一言二言レイ達と話した後耀達の方に振り向いて

 

 

「うおっ!!グリフォン!!!!」

 

『………気にしない方がよさそうだな……』

 

「「うん。」」

 

「な、なに??なに二人で納得してるの??」

 

 

大助の問いに答えるつもりはないのだろう。直ぐ様に話題を変えた。

 

 

『此処から街までは距離がある。南側は野生区画というものが設けられているからな。東と北よりも道中は気を付けねばならん。もし良ければ、私の背で送っていこう』

 

「本当でございますか!?」

 

「あれ?もしかして無視されてる??」

 

 

喜びの声を上げる黒ウサギと、言葉が分からず首を傾げる飛鳥とジン、それと無視されて軽く凹んでいる大助。耀はグリフォンから一歩距離を置き、深々と頭を下げた。

 

 

「ありがとう。よかったら、名前を聞いていい?」

 

『無論だ。私は騎手より"グリー"と呼ばれている。友もそう呼んでくれ』

 

「うん。私も耀でいいよ。それでこっちが飛鳥とジン。それと無視されて凹んでいるのが大助」

 

『分かった。友は耀で、友の友が飛鳥とジン、凹んでいるのが大助だな』

 

「言葉は分からないけど凹んでいるのが僕で認識したのだけは分かったよ!!!!!!」

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

飛鳥・ジン・黒ウサギ・三毛猫はグリーの背中に乗り、自らの力で飛べる耀は大助は正体不明の鳥について質問をした

ペリュドン、人間を殺す言わば殺人種。先天的に影に呪いを持ち、己の姿とは違った影を写している。そして解呪方法が"人間を殺す"こと。生存本能以外で"人を殺す"という理由を持たされたペリュドンは典型的な"怪物(モンスター)"

 

 

『再三の警告に従わぬなら………耀には今晩、ペリュドンの串焼きを馳走することになるな』

 

 

ニヤリ、と大きな嘴で笑うグリー。

翼を羽ばたかせて旋風を巻き起こすと、巨大な鉤爪を振り上げて獅子の足で大地を蹴った。

 

 

「わ、わわ、」

 

 

"空を踏みしめて走る"と称されたグリフォンの四肢は、瞬く間に外門から遠退いて行く。耀は慌てて毛皮を掴み並列飛行をするが、彼の速度に付いていくのは生半可な苦労ではない。

それでも何とか付いてくる耀に、グリーは称賛の言葉を投げかけた。

 

 

『やるな。全力の半分ほどしか速度は出していないが、二ヶ月足らずで私に付いてくるとは』

 

「う、うん。黒ウサギが飛行を手助けするギフトをくれたから」

 

「YES! 耀さんのブーツには補助のため、風天のサンスクリットが刻まれております!」

 

 

そしてその隣ではシルフの風により悠々と空を飛び、風圧などは一時停止により何ともなく、まるでフワッと宙に浮いている状態で高速移動しているのだ

 

 

「グリーだったかしら。これが全力の半分ほどなら大したことないわね」

 

『返す言葉もありませんシルフ様』

 

「えっ、シルフってグリーの言葉分かるの??」

 

「もちろんですご主人様、精霊ですから。私ならご主人様に言葉を聞き取れるように出来ますが」

 

「本当に?じゃお願いするよ」

 

 

シルフの風によりグリーの発せられる声を、振動を、人間の言葉になるように変換させることが出来る。それにより動物の言葉が分かるようになったのだが

 

 

『お、おじゅぅうおおぉおおおッ!!!も、も少し、も少し速度落としてと旦那につたぅえてぇええええええええええ!!!』

 

 

ギニャアアアアア! と叫んでいるようしか聞こえないが、割と本気で命が危険だった。

耀は慌てて減速するように頼む

 

 

「うわぁ……始めて聞いた動物の言葉がこれか……」

 

『そんなこという前に助けろ!!!!』

 

「悪い悪い。ほら一時停止かけるから」

 

「大助、三毛猫の言葉が分かるの!?」

 

「うん、シルフが聞こえるようにしてくれて」

 

「うれしい、大助にも分かってもらえて」

 

 

耀は自分が思ったことを言葉にしただけなのだが、どんな風に受け取ったのか顔を真っ赤にして視線を外すように顔を横に向けた

耀はその行動が何故なのか分からず首を傾げ、黒ウサギ達は苦笑しながら二人を見守っていた。



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ウィル・オ・ウィスプとノーネーム

「あー! 誰かと思ったらお前、耀じゃん! 何? お前らも収穫祭に、」

 

「アーシャ。そんな言葉遣いは教えてませんよ」

 

 

グリーに街まで乗せてもらった後グリーと別れたと宿舎の上から知った声が掛かった

賑やかな声に引かれて上を見る。其処には"ウィル・オ・ウィスプ"の少女アーシャと、カボチャ頭のジャックが窓から身を乗り出して手を降っていた

 

 

「アーシャ…………君も来ていたんだ」

 

「まあねー。コッチにも色々と事情があって、サッと!」

 

 

窓から飛び降りて耀達の前に現れるアーシャ

自慢の青髪ツインテールを揺らし、ゴスロリ衣装の後ろで手を組ながらニヤリと笑う

 

 

「ところで、耀はもう出場するギフトゲームは決まっているの?」

 

「ううん、今着いたところ」

 

「なら"ヒッポカンプの騎手"には必ず出場しろよ。私も出るしね」

 

「………ひっぽ………何?」

 

 

 

何それ?と黒ウサギの方へ振り返る。口を開こうとした黒ウサギはしかし、ジンの背中を叩いて説明役を譲る。コホン、と一問入れたジンは簡単にだけ説明する。

 

 

 

「ヒッポカンプとは別名"海馬(シーホース)"と呼ばれる幻獣で、タテガミの代わりに背ビレを持ち、蹄に水掻きを持つ馬です。半馬半魚と言っても間違いではありません。水上や水中を()()()彼らの背に乗って行われるレースが、"ヒットの騎手"というゲームかと思います」

 

「…………そう。水を駆ける馬までいるんだ」

 

 

 

耀は両手を胸の前で組み、強く噛みしめる。半刻もたたないうちに、二種類も幻獣の情報が聞けたのだ。南側は本当に幻獣の宝庫なのだと、実感がわき始めてきたのだろう。

 

 

「前夜祭で開かれるギフトゲームじゃ一番大きいものだし、絶対に出ろよ。私が作った新兵器で、今度こそ勝ってやるからな」

 

「分かった。検討しとく」

 

 

パチン、と指を鳴らして自慢げに笑うアーシャ。一方のジャックはジンと大助の前にフワフワと麻布を揺らして近づき、礼儀正しくお辞儀をした。

 

 

「ヤホホ、お久しぶりですジン=ラッセル殿、そして大変ご無沙汰してました君塚 大助殿。」

 

「い、いえ。此方こそおひさしぶりです」

 

「いや、ちょっと…なんで僕だけ言葉遣いが、というか何かおかしいよジャック!!?」

 

「なんといいますか、口が、体が、その勝手に……」

 

 

 

やっぱり"造物主達の決闘゙が原因なんだろうな… 今となっては大人気なかったというか本当に申し訳ないという気持ちで一杯である。

 

 

「本当に気にしないで…って僕がいうのもおかしいけど、もうあんなことしないからさ、ねぇ!!」

 

「は、はい…私としても2度と貴方には逆らわないように……」

 

「だからもうしないってば!!!!」

 

 

 

あの陽気なジャックからは見えない姿に一緒にいたアーシャもどうしたらいいのか戸惑っている。そこに助け船としてジンが話題を変えてくれた

 

 

 

「え、えぇーと……注文していたものはどうなっているんでしょうか??」

 

「例のキャンドルスタンドですが、この収穫祭が終わり次第に届けさせていただきますヨ。その他生活用品一式も同じです。…………しかし"ウィル・オ・ウィスプ"製の物品を一式注文していただけるとは! いやはや、今後とも御贔屓にお願いきたいですな!」

 

 

ヤホホホホホ! となんとかいつもの陽気な声で笑いあげるジャック。飛鳥はそっと前に出て、ドレスの裾を上げながらお辞儀をする。

 

 

 

「おお久しぶりジャック。今日も賑やかそうで何よりよ」

 

「ヤホホ! それは勿論、賑やかさが売りなものですからね! 飛鳥嬢もご健勝なようでなによりですよ。前回のゲームではディーンに不覚をとりましたが、何時かリベンジを──────」

 

「え!」

 

 

となりで話を聞いていたジンが疑問の声を上げる。飛鳥は慌てて話題を変えた。

 

 

「そ、そんなことよりもジャック! 貴方はゲームに参加しないの?」

 

「ヤホホ。私は主催者がメイン活動なもので。というのが苦手な性分なのですよ。今回の収穫祭も招待状が来たので足を運びましたが、目的は日用品の卸売りです」

 

「あら、それでは参加者はアーシャ一人だけなの?」

「うん」

「おいッ!!」

 

 

二人の挑発にツインテールを逆立たせるアーシャ。それを見てヤホホとカボチャ頭を揺らして笑うジャック。箸が転んでも笑える人柄とは、きっと彼の事だろう。

その後"ノーネーム"一同は、"ウィル・オ・ウィスプ"と共に貴賓客が泊まる為の宿舎に入った。それから"アンダーウッド"ことを話だした。そこで話題に出たのが水路の水晶の技術、これは北側の技術であり十年前の魔王襲撃から復興出来た。そうこの技術を持ち込んだのはその御方の功績だという

 

 

 

「そ、それは初耳でございます。一体何処の何方が───」

 

 

黒ウサギを含め、一同は顔を見合わせる。

ジャックはカボチャ頭の顎っぽいところに手を当てて説明する

 

 

 

「実は"アンダーウッド"に宿る大精霊ですが…………十年前に現れた魔王の傷跡が原因で、未だ休眠状態にあるとか。そこで"龍角を待つ鷲獅子(ドラコ・グライフ)"のコミュニティが"アンダーウッド"との共存を条件に、守護と復興を手助けしているのです」

 

「では"龍角を持つ鷲獅子"で復興を主権されている御方が……………?」

 

「そう。元北側の出身者。おかげで十年という短い月日で、再活動の目処を立てられたと聞き及んでおります」

 

「…………そうですか………凄い御仁でございますね」

 

 

 

黒ウサギは胸に手を当て、ジャックの言葉を噛み締める。そんな中大助は何か独り言をさっきから言っており近くにいた耀が心配している

 

 

 

「どうしたの大助??」

 

「うん?あぁ、ちょっと待って………そうだね、うん……みんなちょっといいかな??」

 

 

 

大助の言葉にその場にいた人が全員が此方を向いた。自分で言っておきながらこう視線が集まるとなんか緊張する。この世界にくるまでは本当に一人だったからこうして大人数は苦手である。

 

 

「アンダーウッドの大精霊についてレイから話があるそうなんだ」

 

「お話しですか??」

 

「そうですよ!!大精霊であるアスカ様なら何かご存知なのでは!!!?」

 

 

すると大助の影の中からレイとシルフが一緒に出現した。一緒にというかシルフがレイの腕にしがみついてきたといったほうがいいだろう…

 

 

「シルフ、放しなさい。ご主人様の前でしょう」

 

「イヤです。それにご主人様はそういうことは気にしない人ですよ」

 

「そういう問題ではありません。」

 

「いいですよねご主人様ー」

 

 

「いいけど、……なに、前から思っていたけど本当にシルフってレイの事が好きなんだな」

 

 

「好きですよー でもご主人様はそういうの苦手、というか鈍感ですよねー」

 

「そんなことはないと思うけど……って痛い!!痛い!!!!ちょっとレイ!!それに耀さんまで痛いって!!!!」

 

 

 

いきなり二人から人差し指で頬をグリグリと突いてくる。それも両側からなので逃げることも出来ない。

 

 

 

「大助君だもの、仕方ないわ」

 

「そうですね大助さんですから」

 

「YES!!これはどうしようもありません♪」

 

 

「いや何を諦めたのかしらないけど助けてよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しました。それではアンダーウッドの大精霊について話します」

 

 

グリグリ攻撃も止み、なんとか話が続けることが出来たが大助の頬は真っ赤になっていた。

 

 

「先に申し上げますが私はアンダーウッドの大精霊というものは知りません」

 

「えぇ、そうなのでございますか??てっきりご存じかと……」

 

「精霊といっても様々ですので、少なくとも「世界の在り方に関わるもの」「ある属性の頂点に立つもの」しか知りませんので」

 

 

 

レイの属性は光、カルマの属性は闇、シルフの属性は風。このように大精霊であるレイ達や四大などはこの部類にはいる

 

 

 

「だといってもアンダーウッドの大精霊が弱いとかいう意味ではありません。さっきいった通りに精霊は様々いますから」

 

「それでしたら一体……」

 

「…………詳しくは、といいますかハッキリとしないのですが……このアンダーウッドの何処かに水の精霊「ウンディーネ」がいると思います」



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ノーネーム、大助の一時的な離脱

うぅ……うまく書けてるか……
頭の中では、おぉっ!!ってストーリーがあるのにな……うまく行かないな………
このタイトルも何か捻りがないかも……

………よし!!ポジティブに行こう!!!!
ということで、どうぞ。


「う、ウンディーネ様がこのアンダーウッドにですか!!!?」

 

「正確にはアンダーウッドよりも高い場所……そこから気配がしてます」

 

 

 

この巨大なアンダーウッドよりも高い場所からウンディーネの気配がする。耀が空を見上げるがそこにはただの空しかなくウンディーネがいるようには思えない。

しかし黒ウサギはその言葉の意味が分かるようで

 

 

「そうですね……もしかしたらいらっしゃる可能性はあるかもしれませんわ」

 

「ちょっと黒ウサギ、どこをどうみても空しかないわよ」

 

「あぁ…それはですね……まぁお楽しみとして待って頂けませんか??」

 

「どういうことなのかしら??」

 

「このアンダーウッドにいれば自然と分かります。ですから私がいうよりもその目で確かめて頂きたいのです」

 

「……そういうことなら分かったわ」

 

「仕方ないね」

 

 

ということでウンディーネの詳しい場所は明らかにすることはせずに、耀と飛鳥はレイから話を続きを聞くことにした

 

 

「詳しくは話せませんがウンディーネはいま眠りについてます」

 

「どうしてなのかしら??」

 

「………」

 

「それが話せないのね、ならどうしたら目覚めるの??」

 

「眠りの原因を取り除くしかありませんが現場に行かないと分かりません」

 

「…もしかして今からそこに行くの??」

 

 

その言葉に大助の頬が僅かに動いた。その僅かな変化に耀は気づかないわけもなく

 

 

「せっかく屋台とか一緒に回ろうと思っていたのに…」

 

「ごめん耀さん…なるべく早く帰ってくるから……だから、それからでも……いいかな??」

 

「うん、待ってる」

 

「ありがとう」

 

 

何か甘い空気に苦笑いするノーネームメンバーとその空気にどうしたらいいのかと戸惑うウィル・オ・ウィスプのメンバー。流石にこのままと思い黒ウサギがゴホンと咳き込み話の流れをもとに戻す

 

 

「分かりました。一緒に"主催者(ホスト)"にご挨拶をと思いましたが状況が状況ですので……こちらはお気にならさずに行ってください‼」

 

「えぇ、ちゃんと大助君のことを「問題児」だって説明しておくわ」

 

「誰が問題児だぁ!!!!」

 

「えっ??」

 

「ちょっと耀さん!!?なにその驚きはぁ!!!!」

 

「………まぁ、仕方ないかと……」

 

「「「うんうん」」」

 

「嘘だああああぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

 

「……絶対に…嘘だ……僕が一番マトモだよ……」

 

「…ぇ…えぇ…と……ご主人様??」

 

「やめなさいシルフ、今はそっとしておくのよ」

 

 

かなりの精神的ダメージを負ったらしくシルフの自動運転による空中飛行だったから良かったもの、自分の手で運転した日には衝突事故は間逃れなかったと言えるだろう

 

 

 

……………………………………………………………

 

 

 

────"アンダーウッドの地下都市"壁際の螺旋階段。

螺旋状に掘り進められた"アンダーウッド"の都市をグルグルと回りながら登っていく。深さは精々20㍍といったところだが、壁伝いに登るとなるといささか距離がある。

しかし"ノーネーム"一同は億劫そうな顔など一切見せず、初めて訪れた都市に瞳を輝かせていた。収穫祭ということもあって、出店からは美味しそうな薫りが漂っている。

耀は"六本傷"の旗が飾られている出店に、ふっと瞳を奪われていた。

 

 

 

「…………あ、黒ウサギ。あの出店で売ってる"白牛の焼きたてチーズ"って、」

 

「駄目ですよ。食べ歩きは"主催者"への挨拶が済んでから、」

 

「美味しいね」

「いつの間に買ってきたんですか!!?」

 

 

黒ウサギのツッコミを意を介せず、耀は小さな口に含んだ熱々のチーズを手で伸ばす。

ホクホクと湯気を立ち上がらせるチーズは焼き上がり特有の薫りと食感があり、単品で食べていても飽きが来ない。

するとふっと何かを思ったのか後ろに振り向いて

 

 

「大助も食べる??」

 

「えっ、あ、あの……」

 

「ごめん黒ウサギ、間違えた」

 

「い、いいえ……」

 

 

白牛の焼きたてチーズを向けたのは大助ではなく黒ウサギだった。その行動に戸惑う黒ウサギを見て謝ったあと前を向いて渡すはずだったそれを一口食べる

それを見ていた黒ウサギと飛鳥は耀に聞こえないように

 

 

(相当楽しみだったんじゃないのかしらアレは…)

 

(………そうだと思います……)

 

(で、でも食欲はあるようだし…大丈夫よね??)

 

(………そうだと思います……)

 

耀の姿に黒ウサギもビックリしていたのか、飛鳥の受け答えが全く同じてあることに気づいていない。これには飛鳥もため息をついた

 

 

 

(本当に大丈夫なのかしら……)

 

 

 

心配してもしょうがない。実際、耀は気にしていないのか普段通りに振る舞っている。二口、三口、と食べ進めていたところで心配していた飛鳥の視線と、アーシャの物欲しそうな視線に気づいた。

すると耀は、包み紙を二人に近づけて小首を傾げた。

 

 

「───────…………匂う?」

「匂う!?」

 

「匂う!!? 匂うって聞かれた!? そこは普通『食べる?』って聞くはずなのに『匂う?』って聞いたよコイツ!!」

 

「うん。だって、もう食べちゃったし」

 

「しかも空っぽ!?」

 

「残り香かよ!! どんなシュールプレイ望んでるのお前!?」

 

 

ペロ、と指を舐める耀。

アーシャは離れていく出店を名残惜しく見つめながら歩を進める。それを見てなんかいつもの耀だと感じほっとしたのか苦笑いをする飛鳥。先頭を歩いていたジャックは、(かしま)しい女性陣のやり取りにカボチャ頭を抱えて笑っていた。

 

 

「ヤホホホホホ! いやまったく、春日部嬢は面白いですねえ。賑やかな同士をお持ちで羨ましい限りですよ、ジン=ラッセル殿」

 

「はい。 でも賑やかさでは"ウィル・オ・ウィスプ"の方が上だと思います」

 

「ヤホホホホホ! いやまったく恐れ入ります!」

 

 

どの集団よりも賑やかに進む一同は、網目模様の根を上がって地表に出る。

しかし長いのはここからなのだ。大樹を見上げた耀は口を開けて呆けたまま問う。

 

 

「………………黒ウサギ。この樹、何百㍍あるの?」

 

「"アンダーウッド"の水樹は全長500㍍と聞きます。境界壁の巨大さには及びませんが、御神木の中では大きな部類だと思いますよ」

 

「そう…………私たちが向かう場所は?」

 

「中ほどの位置ですね」

 

「…………。そう」

 

 

つまり高度250㍍。それも梯子や備え付け足場を伝っていかねばならない。耀は面倒くさそうな様子を隠す素振りもなく表情に出し、

 

 

「………私、飛んで行っていい??」

 

「春日部さん、いくらなんでも自由度が高すぎるわ」

 

「ヤホホ! お気持ちはわかりますが、団体行動をみだすものではありませんよ。それに本陣まではエレベーターがありますから、さほど時間はかかりません」

 

 

 

エレベーター? と首を傾げる一同

しかししジャックは説明せずにどんどん歩みを進める。

太い幹の麓にまで来ると、ジャックは木造のボックスに乗って全員に手招きをした

 

 

 

「このボックスに乗ってください。全員乗ったら扉を閉めて、傍にあるベルを二回鳴らしていください」

 

「わかった」

 

 

木製のボックスに備えられたベルの縄を二回引いて鳴らす。

すると上空で、水樹の(こぶ)から水が流れ始めた。

耀たちが乗っているボックスと繋がった空箱に、大量の水が注がれているのだ。乗用ボックスと連結している滑車がカラカラと回ると、徐々に上がり始めた。

 

 

 

「わっ………………!?」

 

「上がり始めたわ!」

 

「ヤホホ! 反対の空箱に注水して引き上げているのです。原始的な手段ですが、足で上がるよりはよほど速い」

 

 

 

ジャックが言うとおり、水式エレベーターはものの数分で本陣まで移動した。



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