線で結ぶ千と一夜の物語 (七草青菜)
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キャラクター紹介 <マスター>編

(∪^ω^) <随時更新予定

(∪^ω^) <時系列は本編登場時なのでキャラ事に違います

(∪^ω^) <<エンブリオ>編もいつか差し込みます


名前(アバター):不撓不屈

名前(リアル):?

年齢:20前後

象徴(シンボル):〖庇護者(ア・ガーディアン)

メインジョブ:【鉄塊王(キング・オブ・アイアン)】(壁系統超級職)

<エンブリオ>:【庇保忌童 ヒルコ】

キャラ紹介:無所属。

厄災の素(スタンピーダー)”。“難攻不楽”。ティアンからは“忌避すべき災厄”と呼ばれている。

[ 'ω' ]。

何もしていなくてもモンスターの方から寄ってくるため、私生活もままならない。

一応着ぐるみは持っている。

リアルは元孤児で孤児院に住んでいたが、引き取り先がなく自立して働くようになり、デンドログラムを始めた。

 

(∪^ω^) <討伐ランキング何位ですか???

 

[ 'ω' ]<無所属です

 

余談:好きな食べ物は本人曰く「“くさりまめ”」だそうだが、よく聞いてみるとどうやら納豆では無く豆腐の事らしい。

 日本に旅行に来た時に現地の子供にからかわれたのだろう。

 

 

名前(アバター):クロケット

名前(リアル):?

年齢:14

象徴(シンボル):〖捕食者(ワールド・イーター)

メインジョブ:【木樵(ロガー)】(木樵系統下級職)

<エンブリオ>:【世界咀嚼 ハラペコアオムシ】

キャラ紹介:レジェンダリア所属。食べることが好きなコレージュ三年生。好きな食べ物はお母さんのクロケット。もう食べられない。

 

(∪^ω^) <絶賛アルターへ向かっています

 

余談:鉈、ナイフ、ツルハシ、斧、釣竿、ハンマー、スコップを持っていて、採取の七つ道具とよんでいる。

 

 

名前《アバター》:権兵衛・ドウ

名前(リアル):?

年齢:40前後

象徴(シンボル):〖政治家(デマゴーグ)

メインジョブ:【民将軍(モブ・ジェネラル)】(群衆指揮特化超級職)

<エンブリオ>:?

キャラ紹介:無所属。残りの人生をどう楽しくのらりくらりできるかを常に考えているナンセンスミドル。

原稿さえ作れば会議なんかでは完璧に喋ってくれるので会社では結構重宝されていたりする。

でも少しでもアドリブが入ると直ぐに失敗してしまう。

 

(∪^ω^) <皆に担ぎあげられる神輿みたいな人という意味で将軍に向いていました

 

余談:他のクランメンバーと違って自分だけは割かしまともだと思っている勘違いおじさん。

まともな人はアポ無しで<超級>と対談出来ません。

 

 

名前《アバター》:ザクⅩ

名前(リアル):?

年齢:26

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【操将軍(ギア・ジェネラル)】(有人兵器指揮特化超級職)

<エンブリオ>:【灰闘炉模 グリバウン】

キャラ紹介:熱い人。自らが最前線に立って指揮するタイプのリーダー。<アーミー・コー>とは別にドライフでクランを経営しており、結構上位にくい込んでいる。

 

(∪^ω^) <ちなみに<アーミー・コー>は非公式クランなのでそれとは別にクランに所属している人は結構居るらしい

 

余談:本編ではマジンギアのパワードスーツとして登場した<エンブリオ>だが、上級になる前は他の乗り物の外装だった。

 

 

名前《アバター》:ミンナ?

名前(リアル):?

年齢:?

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【大将軍(ギガ・ジェネラル)】(?指揮特化超級職)

<エンブリオ>:?

キャラ紹介:“万軍統率”、“全方美人”。

将軍限定クラン<アーミー・コー>のオーナー。

クランへの勧誘はサブオーナーの三人の担当となっているが、全員やる気とコミュ力がないので実際勧誘しているのはオーナー。勧誘というよりは友達になってそのままクラン入りする感じ。

あざと可愛いとよく言われるが、それが素なので直しようがない。

 

(∪^ω^) <たくさんの将軍をまとめてる凄い人

 

(∪^ω^) <夢は友達100万人

 

余談:将軍限定クランとは謳っているけど、将軍の配下もサポートメンバーとして受け入れていて、待遇はそんなに変わらない。皆ミンナの友達。

 

 

名前《アバター》:UV(ウルトラヴァイオレット)

名前(リアル):?

年齢:17

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【反将軍(テロ・ジェネラル)】(犯罪指揮特化超級職)

<エンブリオ>:【干渉遊戯 ピクシー】

キャラ紹介:テロリストロールプレイを頑張っていた人。

諦め癖があり、ちょっとでも計画が狂うとすぐに諦めて逃げる。

 

(∪^ω^) <いいとこの家のいいとこの高校で退屈な毎日を過ごしてる系の人

 

余談:カルディナで本編のあれと同じことをやって指名手配を食らっている。

レジェンダリアでやったらシャレにならない。

 

 

名前《アバター》:林坊

名前(リアル):?

年齢:?

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【建将軍(ログ・ジェネラル)】(建築指揮特化超級職)

<エンブリオ>:【建防園 カザモツワケノオシオノカミ】

キャラ紹介:権兵衛がオーナーに派遣を依頼した人その一。

余談:事件の後処理をよくやらされてる人。

 

 

名前《アバター》:?

名前(リアル):?

年齢:?

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【聖将軍(エル・ジェネラル)】(信仰指揮特化超級職)

<エンブリオ>:?

キャラ紹介:権兵衛がオーナーに派遣を依頼した人その二。

余談:事件の後処理をよくやらされてる人。

カノッピと知り合いらしい。

 

 

名前《アバター》:カノッピ

名前(リアル):カノン・リュミエール

年齢:18

象徴(シンボル):〖救世主(ライト・ソース)

メインジョブ:【聖騎士(パラディン)】(騎士系統上級職)

<エンブリオ>:【青天星 シリウス】

キャラ紹介:デンドロガチエンジョイ勢。

本編後直ぐに【聖騎士】に転職し、光と闇が合わさって最強になるべく日夜レベル上げ中。

 

余談:掲示板回の【混沌騎士】でマウント取ってた人は実はカノッピ。ようするにフランから《聖別の銀光》の条件を聞いて、習得するためにジョブリセットした。

 

[ 'ω' ] <【聖騎士】と【暗黒騎士】の複合超級職は無いって言われてなかったか?

 

(∪^ω^) <捏造設定アリ

 

 

名前《アバター》:アンチ・バードック

名前(リアル):?

年齢:9

象徴(シンボル):〖捕虜(プリズナー)

メインジョブ:なし

<エンブリオ>:【神風主義 セリヌンティウス】

キャラ紹介:レジェンダリアの犯罪都市<メクテロロン>にておみせやさんを頑張っている女の子。

ステータスが上がるからという理由からジョブに就いておらず、戦闘能力は皆無。

児童虐待によって捕まった両親の帰りをずっと待っている。

 

(∪^ω^) <可哀想だと思ってるのは本人以外

 

余談:ジェンツと出会ってからはそちらの仕事に同行しているのでおみせやさんは休業中。数人の<マスター>が嘆いたらしい。

 

 

名前《アバター》:ジェンツ・パーバート

名前(リアル):?

年齢:56

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【幸売(ハッピー・バイヤー)】(薬売人系統超級職)

<エンブリオ>:【発情発条 ティンマン】

キャラ紹介:レジェンダリアを中心として麻薬を売りさばいているビジネスマン。

サディストであり、合意の上で幼い子を虐待したいという願望を持っていた。叶った。

 

(∪^ω^) <リアルはエリートビジネスマンらしい

 

[ 'ω' ]<人は見かけによらないってのとはちょっと違うやつ

余談:国絶やし”によって滅ぼされた国からホムンクルスでできた禁断の麻薬である【アゲインライフ】をちょろまかした。

 

 

名前《アバター》:カスガイ

名前(リアル):?

年齢:32

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【監察王(キング・オブ・インスペクト)】(警察系統超級職)

<エンブリオ>:?

キャラ紹介:レジェンダリアの治安維持兼青少年保護クラン<R18SP>のサブオーナー。

エゴの塊な人。

 

余談:リアルでも警官をやっている。

 

 

名前《アバター》:ロード?

名前(リアル):?

年齢:?

象徴(シンボル):?

メインジョブ:?

<エンブリオ>:?

キャラ紹介:“全知”。

なんでも知ってる人。アット・ウィキさんを始めとした<wiki編纂部>の人達が検証に検証を重ねてwikiを充実させるべく頑張ってるところを、斜め上辺りから嘘か本当かわからないレベルの新情報をぶっぱなしてそっと去る人。

普通ならば相手にもされないけどこれまでの実績から本当なんだろうなと思われている。

国を作った。

 

(∪^ω^) <僕もメネオン所属です!

 

余談:普段から掲示板は見てるしなんならデンドロする時間より長いかもしれない

 

 

名前《アバター》:アッチュン

名前(リアル):畦道遊歩

年齢:21

象徴(シンボル):〖根無草(ボヘミアン)

メインジョブ:【超旅人(オーヴァー・トラベラー)】(旅人系統超級職)

<エンブリオ>:【開拓歩道 ナイトウホライゾン】

キャラ紹介:無所属。旅を愛し、旅に愛された男。

いつかデンドロ全てを回るのが夢であり実現させる予定。

 

(∪^ω^) <アッチュンはうちなーぐちで歩き回るみたいな意味らしい

 

余談:シャボンとフレンドにはなってない。旅人は旅先で出来た友達とは滅多に会えない方がいいらしい

 

 

名前《アバター》:シャボン

名前(リアル):水無月水樹

年齢:14

象徴(シンボル):?

メインジョブ:【人魚姫(マーメイド・プリンセス)】(泳士+精霊術師系統超級職)

<エンブリオ>:【原水源 オケアノス】

キャラ紹介:黄河帝国所属。水が好きな女の子。

趣味は海中散歩。

 

余談:人魚アバターにしようとして管理AIに止められたらしい

 

[ 'ω' ]<ん? 普通に人魚じゃなかったか?

 

(∪^ω^) <♪~

 

 

 

 




(∪^ω^) <象徴(シンボル)っていうのに特に意味は無いです

(∪^ω^) <二つ名でもないです


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一人目 災厄を(いだ)く者

元は“災厄の忌み子”という作品だったものを短編集にしました。


 □最初の<SUBM>

 

 <Infinite Dendrogram>のサービス開始から丁度一年。内部時間では三年が経過した今日、二〇四四年七月十五日。

 

 ドライフ皇国辺境にて一体の<SUBM>が投下された。

 

 其の名も【一騎当千 グレイテスト・ワン】。

 金と銀のどちらとも言えぬ光沢に身を包まれた巨大なガーゴイルである。

 

 【グレイテスト・ワン】は、あらゆる攻撃を受け止める超硬度の超級金属、あらゆる熱変化を遮断する熱量完全耐性、あらゆる攻撃魔法を無効化する魔法攻撃完全耐性を有する。

 そして、ソレを象徴するものはその防御能力だけでは無い。

 重力の枷より解き放たれし飛翔。超振動の尾による粉砕。口腔より放たれるは分子振動熱線砲(メーサーキャノン)

 

 まさに最高にして『最硬』。

 

 今、ドライフ帝国は未曾有の危機に侵されようとしている。

 

 はずだった(・・・・・)

 

 その脅威のステータスから“物理最強”、「“獣戦士ガードナー理論”の完成系」とまで謳われる【獣王】。

 死者と道を共にし、その圧倒的なまでの力を我がものとした【冥王】。

 

 偶然居合わせた二人の<超級>の手によって、史上初の<SUBM>投下は、呆気なく終わりを告げる事となった。

 

 ──が、しかし(・・・・)

 

 この物語にはドライフの危機も史上初の<SUBM>投下も全く関係ない(・・・・・・)

 

「アレを超えれば、俺は“最硬”になれる。……一緒に来てくれるか?」

「うん。こなたはどんなときも、ますたぁと一緒にいるから」

 

 これより紡がれし物語は、史上「最硬」の<SUBM>を打ち倒した「最強」に挑まんとする、一人の<マスター>と<エンブリオ>の話である。

 

 ◇

 

 ドライフ皇国辺境。一体の<SUBM>と二人の<超級>による熾烈を極める争いの最中。

 

 一人の<マスター>はその戦い──否、圧倒的なまでの蹂躙を眺めていた。

 

 その<マスター>は身体を覆い隠せるほどの大きさの外套をその身に纏い、外套の中には服を着込んでいた。そこまでなら何らおかしい所はない。

 だが、彼の外套の中には服の他に、齢五にも満たないであろう少女が、抱っこ紐によって抱えられていた。

 

 その少女こそが彼の相棒。第六形態に至ったTYPEメイデンの<上級エンブリオ>である。

 

「すごいね、ますたぁ」

「ああ、これが<超級>の戦いか。しかし、あの【冥王】に必殺スキルまで使わせるあいつはいったい何なんだ?」

 

 見た目からガーゴイルだということは察することが出来る。だが、あのように硬い金属を、その<マスター>は見た事が無かった。もしもENDに換算したとしたら恐ろしい数字を叩き出す事になるだろう。

 

 そして、そのガーゴイルに大立ち回りをしているのが【冥王】の必殺スキルにより呼び出された【■■】である。

 【■■】は、【グレイテスト・ワン】の熱線を防ぎきり、その体躯を地に縛り付けてみせた。

 

「あ、ますたぁ、【獣王】が動き出したよ」

 

 そして、そのスキを逃さず、【獣王】とその<エンブリオ>は駆け出した。

 

「《■■■■■(レヴィアタン)》」

 

 彼は見る事となる。

 

 全てを壊し、蹂躙し尽くす、『最硬』を超えた『最強』の怪獣の姿を。

 

 ◇

 

「出てきなさい、臆病者」

 

 【グレイテスト・ワン】との戦闘を終え、【冥王】も居なくなった地にて、レビィアタンはこの戦闘中ずっと遠い物陰に隠れ潜んでいた<マスター>に声をかけた。

 

 しばらく待つと、やがて勘弁したのか、物陰から、外套を着込み、腹部が異様に盛り上がった<マスター>が現れる。

 レヴィアタンの自身の察知能力によると、その膨らみは<エンブリオ>、それもメイデンに違いなかった。

 

「そこで何をしていたのですか? そして貴方は何者ですか? 返答によっては殺します」

「……あー、あれだ。PKってやつ」

 

 そのマスターはまるで今考えついたかのようにPKと名乗り、一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「見てたよ。必殺スキル使ったんだろ? もうお前に戦う力なんて残って無いだろ、【レヴィアタン】」

「……私が、必殺スキルを失った程度で貴方達に負けるとでも?」

 

 自身を、そして【獣王】を最強と信じて疑わないレヴィアタンに対し、その<マスター>が放った言葉は、レヴィアタンの怒りをいとも容易く頂点まで引き上げた。

 

「いや、ちょっと違うな。お前らは負けはしない。ただ勝てないだけだ」

 

 レヴィアタンの理性がもったのはそこまでだった。

 

 ──レヴィ、状態異常にかけられてる。

 

 自らの装備の能力により、状態異常を防いだ【獣王】はレヴィアタンに思考を飛ばす。

 

 だが、その忠告はレヴィアタンには届かない。

 

 単独全力戦闘形態(ソロ・フルパワーバトルモード)へと至らない(・・・・)怪獣女王は、地を駆ける。

 

 ◇

 

 レヴィアタンは、彼の<エンブリオ>の能力、《災厄の忌み子》の影響下にあった。

 

 その能力とは、周りの生物へ段階的に上がっていく精神系状態異常を無差別(・・・)にかけるというもの。

 

 【嫌悪】より始まり、時間経過で徐々に段階が上がっていくその状態異常の最終系は【憎悪】。

 

 【グレイテスト・ワン】との戦闘中は、そちらに意識を向けていた事と段階が低かった事もあり、こちらに関心が向かなかった。

 【冥王】は、状態異常が【憎悪】に至るその前に、その場を離れる事を選択した。

 しかし、今のレヴィアタンは完全にこちらを意識してしまっている。

 

 【憎悪】の影響により、形態を変化するという思考を放棄し、相対する<マスター>、正確にはその<エンブリオ>へと一直線に襲いかかるレヴィアタン。

 彼女の全力には程遠い、しかしSTR数万にも至る一撃が<マスター>の身へ襲いかかる。

 

 それに対する彼が取った行動は“防御”、それも地に伏し蹲うずくまる、言わば土下座の構え。

 彼が普通の人間であれば、それは自殺行為に等しい行動。その身に護られた<エンブリオ>ごと粉砕される運命だったであろう。

 だが、その<マスター>は違った。

 

 彼は、レヴィアタンの、「最強」の一端の拳を弾いてみせたのだ。

 

 何故防げたのか。

 特典武具であるその装備の力か、はたまた<エンブリオ>の能力によるものか。

 

 否、そのどちらでもない。

 

 ただ硬かった(・・・・・・)のである。

 

 【僧兵】の《五体投地結界》、【獣拳士】の《甲亀の構え》。

 

 地に伏し蹲るという共通の動作が条件の防御力数倍化スキル。

 

 そして彼が就く【壁】系統超級職【鉄塊王】、その奥義《フェイト・リジェクション》。

 

 “他者を守る”という行動をした時のみ発動するその奥義は、自らの素のENDを十倍化するという効果がある。

 

 数々の防御力、END増強スキルにより強化された彼のENDは、純粋な防御力で言えば、先の【グレイテスト・ワン】に勝るとも劣らない。

 

 その代償に地面に半分程埋まってしまったが、彼にとっては些細な事である。

 

 何故なら、彼の戦闘の全てはこれ(・・)で行われるからだ。

 

 自らの<エンブリオ>を護りつつ相手の攻撃を防御スキルによって防ぎ切る。

 それが彼の戦い、否、これでは戦いですらない。

 相手に諦めてもらうために、ひたすらに攻撃を耐え続ける。

 いわば、始まる以前から負けているのである。

 

 では、如何にして攻撃を行うのかと言うと──。

 

 ◆

 

 怒涛の猛撃に耐え続ける<マスター>を、【獣王】は警戒し続けていた。

 

(完全に耐える事のみのビルド構成。確かに防ぐだけだったらそれは最適解)

 

 END特化。

 それはデンドロにおいてもAGI特化に次ぐ人気のビルド構成である。

 

 しかし、それはパーティにおいてタンク役をする者が至るビルドである。

 戦場の最前線に立ち、敵のヘイトを稼ぎつつその攻撃を受け、味方に戦ってもらう。

 まさにチームで戦闘する前提の者が構成するビルドと言えよう。

 

(──でも、彼はソロだ。あの<エンブリオ>はおそらく無差別に状態異常をばら撒くタイプの能力。たまたま仲間が居ないというのはありえないはず)

 

 そもそも仲間が居るのなら、最初から全員で来てるだろう。こんなセーブポイントからも離れた辺境に一人で来ているという事は、ソロ以外に考えられない。

 

 仲間が隠蔽特化の<エンブリオ>を持っていて、状態異常も克服している、そもそも状態異常は敵にしか掛からないという可能性もあるが、自ら(<超級>)が気づかない程に隠蔽にリソースをつぎ込んだ<エンブリオ>相手なら、【獣王】たる自分が負ける訳が無い、負ける訳にはいかない。

 

 そして、予想通りソロ専のEND特化なら──

 

(絶対に何か(・・)あるはず)

 

 彼がソロでありながら、その土下座スタイルでレベルを上げていくための戦闘手段が。

 

 <エンブリオ>の未だ見ぬ第二の能力か、はたまた特典武具によるものか。

 

 ──否、そのどちらでもない。

 

(……? ……なんの音?)

 

 【獣王】の自身の記憶によると、それは翼をはためかせる音。主に翼竜種等が起こす音である。

 彼女が辺りを見回すと、なるほどそこには、百体を優に超えるモンスターが(ひし)めきあっていた。

 

(そういう事か! だから彼は自身をPKと言った)

 

 PKはプレイヤーキルの略称であり、その名の通りプレイヤーを殺すという所謂悪役(ヒール)プレイを行う者達の総称である。

 

 両者の合意を得てから正々堂々と戦う者、対象を<マスター>のみに絞り、<監獄>行きを回避しつつ悪役プレイを楽しむ者、ティアンも<マスター>も関係なく殺す外道なプレイをする者など、様々なPKが居るが、皆共通しているのは“自らの手によって”PKを行うということ。

 

 だが、PKには、直接手を下す以外の殺し方もある。

 

MPK(モンスタープレイヤーキル)

 

 それはトレイン等とも呼ばれる、自らがヘイトを稼いだモンスターを、他のプレイヤーになすりつける事によってプレイヤーをキルする方法である。

 

 《災厄の忌み子》は周りの生物(・・)へ無差別に状態異常をばら撒くもの。その効果範囲は、丁度隣の山を半分程覆い尽くしてしまうほど(・・・・・・・・・・・)

 

 翼竜種だけではない。時間経過によって【憎悪】の状態異常がかけられた様々なモンスターが、発生源の<エンブリオ>に向けて一直線に迫ってくる。

 

 そしてそれは、今もその<エンブリオ>を殴ろうとしているレヴィアタンに迫っているのと同義である。

 

 モンスターは多数、だが狙うはたった一人。

 必然、その場は大渋滞となり、「俺が先に殺るからどけ」と言わんばかりにモンスター達は同士討ちを始めた。

 

(これが彼の戦い方(・・・)

 

 周り全てを敵に回し、自分という小さな一点を狙わせる事によりモンスターを同士討ちさせる。

 

 それがその<マスター>、【鉄塊王】不撓不屈の戦闘回避法(・・・・・)である。

 

 ◇

 

「ますたぁ、大丈夫?」

「……ん? ああ、平気だ、これくらい」

 

 戦闘とも呼べぬものが始まって早一時間。

 なんて事の無いように言う不撓不屈だったが、その実もう限界に近かった。

 

 HPは三分の一を切り、痛覚設定をOFFにしていなければ痛みに耐え切る事も出来なかったであろう。

 

 自らが所有する古代伝説級特典武具、【転嫁揺籃 マースピアル】が無ければその余波で自らの<エンブリオ>も危なかった。

 

 辺りでは、【獣王】がそのAGIを駆使し、文字通り蹂躙の限りを尽くしていた。

 その全てはレヴィアタンに攻撃させないため。事実、レヴィアタンに攻撃が来ることはなく、不撓不屈の唯一の攻撃手段は無くなった。

 

(あー、万策尽きちまった。絶対絶命ってやつ)

 

 レヴィアタンだけならまだどうにか出来た。だが、その<マスター>、【獣王】はどうだろうか。自身が有する状態異常は防がれ、その状態異常の影響で誘い出したモンスター共も、レヴィアタンに届くことなく蹂躙されていった。

 

 彼の状態異常がかかったモンスターを倒していたため、その経験値は【獣王】と自身に折半で入ってきていたのは不幸中の幸いではあったか。

 

(やっぱり、“物理最強”に勝とうなんて無理だったか。そりゃそうだよな、自分の弱点である状態異常、その対策をしてない訳が無い)

 

「……ますたぁ」

「何だ?」

 

 唐突に自らの<エンブリオ>から声がかかる。未だにレヴィアタンからの攻撃は受けていたが、二人が至近距離にいた事もあり何とか会話が出来る状態にあった。

 

「諦めちゃ、だめだよ」

「ヒルコ……」

 

 不撓不屈の内心を読み取り、彼の<エンブリオ>──ヒルコは声を絞る。

 

「“最強”の攻撃を耐えきって、“最硬”になるんでしょ? なら、こんなところで諦めちゃだめ。ますたぁは、そんな事、しないよね?」

 

 ヒルコはじっと自らの<マスター>を見据える。

 

「……ああ、そうだな。そうだよな」

「うん、そうだよ」

「まったく、俺ってやつはまたヒルコに教えられちまった」

「いいんだよますたぁ、一緒にがんばろう。こなたはますたぁの<エンブリオ>だから」

「よし、アレを超えれば、俺は“最硬”になれる。そして、お前をずっと護る。……一緒に来てくれるか?」

「うん。こなたはどんなときも、ずっと、ずぅっとますたぁと一緒にいるから」

 

 掴んでみせる。

 

 ──勝利の可能性ではない、敗北の回避を。

 

 そのとき、彼のウインドウの片隅に赤いウインドウが展開される。

 

「これは……」

「──大丈夫」

 

同調者(マスター)生命危機感知】

【同調者生存意思感知】

【<エンブリオ>TYPE:メイデン【忌子乙女 ヒルコ】の蓄積経験値――グリーン】

【■■■実行可能】

【■■■起動準備中】

【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

【停止しますか? Y/N】

 

「これはきっと、こなた達の力」

「そっか。なら拒む必要はないな」

 

【カウント終了】

【■■■による緊急進化プロセス実行の意思を認めます】

【現状蓄積経験より採りうる一三パターンより現状最適解を算出】

【対象<エンブリオ>:【忌子乙女 ヒルコ】に対して■■■による緊急進化を実行します】

 

「こなたは変われない(・・・・・)けど、それでもメイデンだから」

「いや、ヒルコは変わった(・・・・)よ。昔とは比べ物にならないくらいに」

 

【■■■――完了しました】

 

「さあ、行こうか」

「うん」

 

 不撓不屈とヒルコは至った。

 

 【獣王】と同じ高み、第七形態──すなわち<超級>へと。

 

 かくして、【獣王】、【鉄塊王】。ここに<超級>という頂きに立ちしもの者が二人揃う事となった。

 

 果たして勝負の行く末は──。

 

 ◇◆

 

 【憎悪】のかかったレヴィアタンを紋章へと戻す事でフレンドリーファイアを防ぎ、【獣王】は自身の有する【爪拳士】の奥義である《タイガー・スクラッチ》を放つ。

 

 が、対する不撓不屈は【獣王】のその動作の前、それこそ緊急進化が完了した直後にはもう新たに取得したスキルを発動し終えていた。

 

「《我、因果隔てし者(ヒルコ)》!!」

 

 【獣王】の渾身の一撃、そして、その後に追撃する二枚の光刃が不撓不屈に迫る。

 だが、■■■により新たに発現した能力(ちから)必殺スキル(・・・・・)の効果により、彼女の攻撃の全ては防がれた。

 

(ここで必殺スキル! さっきまでのレヴィとは違う、状態異常にかかってないステータス特化の<超級>の本気の一撃。それを防がれたということは、十中八九完全防御系)

 

 【獣王】の予想は的を射ていた。しかし、足りなかった。

 

 再び攻撃を仕掛けた【獣王】だったが、結果は変わらない。【獣王】の拳は防がれる事となる。

 

(また防がれた。これは継続する完全防御?)

 

 必殺スキル、《我、因果隔てし者》は【盾巨人(シールド・ジャイアント)】の奥義、《サウザンド・シャッター》に酷似している。

 

 しかし、《サウザンド・シャッター》が1000以下のダメージを全て遮断するものなら、《隔てし者》は実質無制限にダメージをシャットアウトする。

 

 その効果とは、“スキルを使用した後の五秒間に受けたダメージを全て合計し、以降それ以下のダメージをシャットアウトする”というもの。

 

 そして、スキルを使用した後五秒間に受けたものは、【獣王】の渾身の三撃。

 

 それ以降の攻撃が通らないのも必然であった。

 

 そして、数巡の間に似たような答えに辿り着いた【獣王】は、自身の別のスキルの使用によって初撃以上の一撃を繰り出そうとした。

 

(身体が動かない?)

 

 正確には、身体が思うように動かせなくなっていた。

 

(まさか、今になって状態異常が通った? 時間経過で段階だけじゃ無く、状態異常そのものの威力も上がる?)

 

 不撓不屈が今第七形態に至ったことを知らない、そして状態異常の効果によりウインドウを見る事が出来ない【獣王】はそう結論に至ったが、それは間違いである。

 

 状態異常が通った、その点については的を射ている。だが、それは状態異常の威力が上がったからでは無い。

 

 《災厄の忌み子》、その効果である“段階的に上がっていく状態異常”、その最終系【憎悪】。

 第七形態へ到達したことによってその更に上が発現した。その名も、【嫌忌】。

 

 それは自身より弱い者を遠ざけ、強い者は全ての思考を放棄して襲いかかるというもの。

 

 全ての思考を放棄というのは、スキルの使用や装備の変更が出来ないだけではない。呼吸や筋出力の抑制(・・・・・・・・・)などの生きていく上で必要なものも行使出来なくなるのである。

 

 長時間の戦闘によりすでに【嫌忌】に至るまでの条件を満たしていた【獣王】は、その装備している状態異常耐性装備を貫通してヒルコの最大の状態異常である【嫌忌】に侵される事となった。

 

(これは、ちょっと不味いかも)

 

 【嫌忌】の効果により息ができない状態、それに日常生活では無くてはならない筋出力の抑制ができないので、肉体の崩壊を止められない。

 

 端的に言っても状況は覆されていた。

 

(なんとかしないと)

 

 【獣王】は焦っていた。

 

 しかしそこはゲーマー。直ぐに対処法を見つける。

 

(<エンブリオ>目掛けての攻撃なら多少の融通がきく。なら、上から攻撃するんじゃなくて……)

 

 【獣王】は上からの攻撃を止め、地面に埋まる不撓不屈を下から掬い上げるように蹴り上げた。

 

 すると、【獣王】に比べてSTRの低い不撓不屈はいとも容易く宙に浮くこととなる。

 

(よし、これで<エンブリオ>を狙えば……)

 

 【獣王】打ち出した拳は、ヒルコへと炸裂する。

 が、しかしヒルコは無傷だった。

 

 それは不撓不屈の装備、抱っこ紐の古代伝説級特典武具【転嫁揺籃 マースピアル】のスキル《天使の揺り籃(マースピアル)》によるものである。

 効果は抱っこ紐に包まれた者へのダメージを全て装備者に転嫁するというもの。

 

 その効果によりヒルコに攻撃が通ることはなかった。

 

(無傷か……でも、これで終わりだね)

 

cya(楽しかった、またね)

 

 その言葉が不撓不屈に届くことは無かった。何故なら、彼は空中にて攻撃を受けたことによる衝撃により、慣性に従い飛んでいってしまったからである。

 彼は今山の中心辺りに埋まっている事だろう。

 

 その証拠に、レヴィアタンのウインドウにずっと書かれていた状態異常が無くなっている。

 

 【獣王】は自らの紋章からレヴィアタンを呼び出した。

 

 ◆

 

 紋章より呼び出されたレヴィアタンは口惜しそうに地面を殴りつけた。辺りの地面が大きく揺れる。

 

 状態異常にかかっていた時の記憶は無かったが、紋章に入れられたという事実から危険だと【獣王】に判断されたことはレヴィアタンにも分かった。

 

「……次会った時は殺します」

yup(うん、がんばろうね)

 

 【獣王】ベヘモットと【怪獣女王 レヴィアタン】は自身の親友、クラウディア・L・ドライフの元へと向かって行った。

 

 ◇

 

 戦場の隣にあった山。その中心には、埋まったままの不撓不屈が居た。

 地中故酸素が薄く、このままでは【窒息】になるだろう。

 

「《瞬間装着》」

 

 そのため、いつ【窒息】の状態異常にかかってもいいように常に用意している酸素マスクを自身とヒルコに付けると脱力したようにその場に身を任せた。

 

「……ちゃんと全部防ぎきったね」

「ああ、俺達にしちゃあ、上出来じゃねえか」

 

 不撓不屈とヒルコは戦闘の余韻に浸る様に地中にて眠りについた。

 

 蛇足ではあるが、その影響で、一周年のアニバーサリーモンスターを含めた山の動物、モンスターを全て死滅させてしまいレベルが更に上がることとなった。

 

 ◇◇◇

 

 ここに一人の<超級>が産まれた。

 

 その<マスター>、【鉄塊王】不撓不屈。

 ソロでありながら、攻撃を行うという選択肢を端から捨て防御のみを取ることによりその力は<超級>を見比べても引けを取らない。

 

 そしてその<エンブリオ>、新たな名を【庇保忌童 ヒルコ】。

 生きるにおいておよそ必要な全てを<マスター>に依存しており、<マスター>に庇保される(・・・・・)ことでのみその存在を維持することが出来る。

 TYPEはメイデンwithワールド・ガードナー。彼女は人間型のガードナーであり、その姿は変化することが無い。

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて人々(ティアン)に忌み嫌われながらも各地を放浪する世界派プレイヤーである。

 

 

 〖庇護者(ア・ガーディアン)〗。不撓不屈。

 

 

 

 “最強”VS“最硬(・・)”。

 

 ──引き分け。




初めに、最後の“最硬”というのは作者がカッコつけたかったがためのフレーバー的なものですので、実際に不撓不屈が最硬なのかは定かではありません。

あと、【獣王】と引き分ける事が出来たのは、最初から潜伏(気づかれてはいる)していたことにより段階的に上がる状態異常を戦闘時には最終系に出来ていたこと、それと【獣王】とレヴィアタンは【グレイテスト・ワン】との戦闘で多少なりとも消耗していたこと、更には■■■による最適化でこの状況を覆しうるスキルが発現したこと。

この三つのおかげです。
普通にやってたら第六形態のまま瞬殺でした。

<物理最強>は変わらず最強です。


因みに、不撓不屈は日本が好きな外人です。


・エンブリオについて

[ 'ω' ]<【鉄塊王】の不撓不屈です

(U ^ω^)<合いの手を入れる他人です

[ 'ω' ]<……うちのヒルコは何故か第七に進化してもガーディアンにハイエンドしなかったんだが

(U ^ω^)<ガーディアン(守護者)ってよりはガードされる方って感じだからじゃね

[ 'ω' ]<まあ、必殺スキルも俺はダメージカットされるけどヒルコは普通にダメージ通るからな

(U ^ω^)<君マースピアル(特典武具)の運用前提で戦ってるし、そこのところが上手くアジャストしたんだろうね

[ 'ω' ]<それもあるだろうが、おそらくヒルコの能力特性的に「自らが守護をする」ってのが選択肢に無いんじゃないかと思う


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二人目 全てを喰らう者

一人目は<超級>でしたが、彼は特に<超級>でも何でもないです。


 □【木樵(ロガー)】クロケット

 

 レジェンダリアとアルター王国とを繋ぐ森。そんな森に、かつん、かつんという小気味の良い音が響き渡っている。

 

 まあ、おいらが自分で出してる音なんだけど。

 今は【木樵】のジョブが示す通り、斧を使って木を切り倒している。理由は簡単、食糧の調達だ。

 っと、もちろんおいらが食べる用じゃあ無い。まあ、レジェンダリアの木はおいら的には美味いのは確かだが、食べるのはおいらでは無くおいらの<エンブリオ>だ。

 

 なんて考え事をしながら無心で斧を打ち続ける間にどんどん木は削られてゆき、やがて大きく音を立てて切り倒された。

 そしたら、次は切り倒した木を斧で加工して丸太に、それをさらに加工して薪に、それを今度はナイフを駆使してさらに加工して、おいらの<エンブリオ>が食べられるサイズまで加工を重ねるという作業が待っている。

 

 この作業がかなり精神に来るんだ。

 

「あー、めんどくさい。何が悲しくて木をスティック状にしなくちゃいけないのか。野菜スティックかよ」 

 

 そんなことを呟くと、傍らで見ていたおいらの<エンブリオ>、かなりデフォルメがなされた小型犬サイズのいもむしが怪訝な面持ちで顔をこちらへと向けてくる。

 

「ああ、お前が悪いんじゃないから。ただめんどくさいだけだ。【木工職人】とかなら木を自在に加工するスキルとかもあるんだろーなー」

 

 でも、ジョブ枠の余り的に就くわけにはいかないけど。

 今就いてるのが、樹木を切り倒す(採取する)ための【木樵】、鉱石を採掘する(採取する)ための【採掘師】、魚を捕獲する(採取する)のための【釣師】、モンスターを解体する(採取する)ための【解体屋】とその上級職の【高位解体屋】、そして採取スキルの効果を上げるための【学者】だ。

 今はカンスト目前の【木樵】のレベルを上げつつ<アルター王国>に続く森を進んでいる。

 

 なぜおいらがアルター王国へ向かっているのか。

 

 理由は簡単。新たなジョブに就くためだ。

 そのジョブの名は家屋解体(採取)系のジョブである【壊屋】。七大国家ならば、どの国にもジョブクリスタルの存在するジョブのひとつだ。もちろんここレジェンダリアにも【壊屋】というジョブは存在する。

 ならば何故おいらがレジェンダリアではなく、わざわざアルター王国にまで赴いて【壊屋】に転職しようと思ったのか、それには二つの理由が存在する。

 

 まず一つ目は、単純にレジェンダリアにある【壊屋】のジョブクリスタルに向かうよりもアルター王国にあるジョブクリスタルに向かった方が近いからだ。

 

 というのもレジェンダリアで【壊屋】に就くものはレジェンダリアの中でも南の方に存在するとある民族の極少数のみであり、ジョブクリスタルもその民族が暮らす近くにしか存在しないからだ。

 おいらは元々レジェンダリアの北の方に腰を据えていたから、わざわざ南に向かうよりは、国境を越えてでもアルター王国に向かった方が近かったという訳。

 

 まあ、アルター王国にしても、【壊屋】系統のジョブクリスタルは王都であるアルテアに存在するので距離的に言えばあまり差は無いんだけど。

 

 だけど、国境越えをしてでもアルター王国へと向かうのは、二つ目の理由が関係している。

 

 その二つ目というのが、

 

「……レジェンダリアもあらかた食い尽くしたからな」

 

 レジェンダリアに存在するありとあらゆる種類の料理、食材、果ては素材(・・)まで、おいらとおいらの<エンブリオ>で食べ尽くしてしまったからだ。

 

「まあ、まだまだ食べ切れてないものは山ほど沢山あるんだろうけど」

 

 おいらが食べ切れてないもの。

 それは、おいらじゃ倒しきれないモンスター、高すぎて手の届かない料理、見つけ出すことすら出来ない素材など、数え切れないほどあるだろう。

 だけど、それはおいらがもっと強くなってから、だな。

 おいらがもっと強くなってから、そのとき改めてレジェンダリアに戻ってくる。そう決意を固めてこの国を出ることにした。

 

「美味いか? いや、美味いな」

 

 傍らで野菜スティックと同じ大きさにまで加工した野菜スティックを頬張るあおむしを撫でる。

 

 なぜ美味いと断言出来たのか、その理由はとあるスキルの効果にある。そのスキルとは《味覚連結》。おいらはおいらの<エンブリオ>のスキル、《味覚連結》によっておいらの<エンブリオ>の食べたものの味がわかる。

 

 “全てを食べ尽くす”と決めたおいらでも、いまあおむしが食べてる樹木や、他にも鉱石なんかは物理的に食べる事が出来ないから、代わりに食べてくれるコイツはおいらのかけがえのない仲間なんだ。

 

 《腹の虫の知らせ》の効果により頻繁に【空腹】に陥るあおむしの食事タイムも終わりを告げ、歩き続けること約三十分。そろそろあおむしの【空腹】が再来するかな、といったタイミングではたと気づく。

 

「……あれ、これ迷ったな。<アクシデントサークル>にでも捕まったか?」

 

 レジェンダリア特有の魔法現象である<アクシデントサークル>には、森が放つ光の霧が別色に輝いた時に発動するという条件がある。だけど、時折何も変化することなく突発的に<アクシデントサークル>が発生する事もある。

 まあ、にしても全然記憶に無いんだけど。

 

 こういうときはとりあえずマップの確認が先だな。

 マップを取り出し、開いてみる。すると、

 

【レジェンダリア・<エンジェリア>】

 

 と書いてあった。そして、その表記においらは唖然とした。

 

 <エンジェリア>って言ったらレジェンダリアに腰を置いている多くの【木樵】が探し求める伝説のエリアじゃないか!

 これはアルター王国に行く前に神様がくれた餞別か何かか? 何にせよ今日のおいらはツイてる!

 

 この機会を逃したら次は無い、そう考えたおいらは早速探索を開示した。ここなら遂においらが見つけ出す事ができなかったあれがあるはずだ。

 

 ◇

 

「……おお、初めて見た。これが伝説の【ケルビム・ツリー】」

 

 あおむしの食事を挟みつつ<エンジェリア>を探索する事はや二時間。ようやくそれはおいら達の前に現れた。

 

 今、おいら達の目の前にはその荘厳な雰囲気を隠しもせずに、威風堂々とそびえ立つ樹木があった。

 この隙間無く樹木の生えているレジェンダリアの森で、何故かその樹木の周りだけはほかの草木達が避けるように土ばかりの剥き出しの地表が広がっていた。

 

 レジェンダリアの森には、日光や湿度、そして聖属性の魔力が一定に達しないと生えてこないとされる【エンジェル・ツリー】と呼ばれる樹木が存在する。

 滅多にその姿を見せることが無い【エンジェル・ツリー】は、レジェンダリアの【木樵】達の憧れとされ、その神秘的なまでの外観やまるで本物の天使のような輝き、そして聖属性の魔力が豊富に凝縮されたその樹木は、杖や棍などに加工され、主に【司教】や【牧師】などが使用する最高位の魔法媒体となる。

 

 そして、レジェンダリアの【木樵】達の間ではこんな伝説がある。

 曰く、この森のどこかには、極稀にしか生えないとされる【エンジェル・ツリー】、それのみしか生えていないエリア──<エンジェリア>が存在するという。

 

 伝説とは言ったが、実際にそのエリアに到達した者は極小数ではあるが確かに存在する。それは、<アクシデント・サークル>によって偶然引き寄せられた一介の【木樵】であったり、様々な樹木に愛された稀代の【伐採王】であったり、そもそも【木樵】とは関係の無い人であったりなど多岐に渡る。

 

 だが、その誰もが口を揃えてこう言った。

 

「あそこは正しく“天国”だった」と──

 

 そんな<エンジェリア>。

 だが、そこまでなら別においらもここまで興奮しなかっただろう。実際に【エンジェル・ツリー】は大金を払って食べたことがあるので、その味なら知っているし。

 

 けど、この<エンジェリア>には【エンジェル・ツリー】よりも更に凄いものが生えている。

 その名こそが【ケルビム・ツリー】。それは【エンジェル・ツリー】が幾万年もの時を経ることで変化するとされる伝説級樹木。

 

 今おいらの目の前に存在するそれは、まるで神にその威光を示すようにキラキラと光り輝いていた。

 

 おいらはその壮大さに完全に圧倒されていた。

 

 が、傍らから伝わってくるあおむしの物凄い期待の眼差しを受け、おいらは現実へと引き戻された。

 

「……つっても、これ(・・)を一介の【木樵】ごときに切り落とせるとは思えねーなー」

 

 恐れ多いとかそれ以前に不可能だろう。

 END(耐久力)が高いとかそういうレベルでは無い。この類の樹木や鉱石には、往々にして《加護》と呼ばれるものが掛かっている。

 

 まず、この《加護》の掛かっている樹木や鉱石は特定のジョブ(樹木なら【木樵】系統、鉱石なら【採掘師】系統、など)に就いているものにしか傷を付けることすら出来ない。もちろん、【壊屋】系統について調べている時に見つけた、アルターの三巨頭である【破壊王】の《破壊権限》などの例外は存在するが。

 

 さらに言うと、《加護》持ちの資源には採取レベル制限が存在する。

 採取レベル制限とは装備レベル制限と似たようなものであることから<マスター>達が付けた造語であり、それは高位の樹木や鉱石を採取する場合には、採取を行う対象に応じたジョブ系統の合計レベルが一定を超えなければ、少しの傷を付けることすらままならなくなるというものである。

 

 今、おいらの持つ樹木採取に関するジョブは、メインジョブである【木樵】、それと採取系のスキルを向上させるスキルを持つ【学者】のみであり、その合計レベルは100にも満たない。

 

 伝説級樹木ともなればそのレベル制限は300を優に超えるであろう。もしかしたら500に至っている可能性もある。

 

 ともかく、この樹木を斧で切り倒すのは今のおいらには不可能だ。

 

「これは無理だな……」

 

 おいらのその言葉に、おいらの<エンブリオ>のつぶらな個眼が大きく潤む。

 その綺麗な瞳はまるでおいらに「食べたい」と訴えかけている様にキラキラと輝いていた。

 

「おいおい、虫に涙腺は備わってないぞ……」

 

 おいらの<エンブリオ>はかなりデフォルメされているので、時折こういった人間らしい動作や表情を見せる事もある。

 

「泣くなって……おいらだって【ケルビム・ツリー】の味にはすごく興味があるけど、切れないものは仕方ないだろ」

 

 おいらの<エンブリオ>、【ハラペコアオムシ】には《凶悪食》というスキルがある。

 その効果は、“口に入りさえすれば、どんなものでも食べる事が出来る”というものだ。

 例え神話級金属だろうと、魔法系超級職の奥義だろうと、ちゃんと口に収まりさえすれば食べる(無効化する)事が出来る。

 

 だが、その口に収まりさえすればというところがネックであり、少しでも口より大きかったらそのスキルは意味をなさない。

 そしてこのあおむしは、いもむしである事から分かる通り口がすごく小さい。こいつに何かを食べさせようとすれば、それはもう小さく細かくしなければならない。先程樹木の野菜スティックを作っていたのもそのためだ。

 もちろん、神話級金属などを加工する術はおいらにはないし、こいつの口に収まるほどに小さく凝縮された魔法など、その余波だけでただでは済まないだろう。

 故に、こいつはおいらが細かく出来る範囲のものしか食べられないし、強力な《加護》を持つ【ケルビム・ツリー】など夢のまた夢だ。

 

「ほら、落ちてる葉っぱとか枝なら食えるからそっちにしとこうぜ?」

 

 おいらがそう窘めると、あおむしはいやいや、と節を横に振った。

 

 ……子供かよ。

 

「Quuu……」

「いもむしが声出して泣くなよ……」

 

 ちなみに鳴くいもむしはいるらしい。流石に泣くのはいないが。

 

「Quuuu!」

 

 そのまましばらく泣いていたあおむしだったが、急に決意に満ちた目になると、気合いの一声を上げた。

 

 ほっといたら大人しくなると思って泣き止むまで【ケルビム・ツリー】の周りに落ちてる葉っぱ食べてたんだが、急にどうしたあおむし。

 

 おいらは興味深く決意のあおむしを眺めていた。すると、あおむしはプルプルと身体を震わせたかと思うと、その口からぴゅるると白い糸を吐き出し始めた。

 その糸は自らの身体へと巻き付いてゆき、それはやがて大きな繭へと変貌を遂げた。

 

「ええ……お前、ここで進化するのか……」

 

 そう、おいらの<エンブリオ>は、進化の際に必ずこんな感じで糸を吐き出し、その糸で作り出した繭の中に籠るのだ。

 その期間はピンキリで、一番長かったときで丸三日、つまり現実時間で一日かかったこともある。

 まあ、おいらがログアウトしてもこの繭の状態は維持されるので、とりあえずこの暇な時間にログアウトしてトイレや食事なんかをしてくる事にした。

 

 ◇

 

 デンドロへと戻ってくる。あおむしを紋章から出すと、そこから罅の入った繭が飛び出してきた。これはもうすぐ羽化するな。

 

 そして、ピシピシと音を立てながら繭が開かれる。中から出てきたのは直前の形態よりも一回り大きい、そしてそれ以外はなんの変化もないいもむし。うん、もう突っ込まない。これで5回目だし。

 

 あおむしは「ぼく、やったよ!」と言わんばかりにこちらへと詰め寄り、尻を振る。その姿からは尻尾を降る犬を彷彿とさせるが、残念ながらいもむしだ。

 

「Quuu……」

「いや、残念ってそういう事じゃないから、泣くなって」

 

 泣き虫あおむしを軽く流しつつ第Ⅵ形態へと至ったあおむしの性能を確認する。

 

「……おいおい、まじかよ」

 

 するとそこには、正しく今の状況にぴったりなスキルが生えていた。これならあの【ケルビム・ツリー】を食べる事も不可能では無いだろう。

 あおむしもえっへんと言わんばかりにその身体を上方に逸らしている。

 

「でも、これ……いいのか?」

 

 このスキル、デメリットが結構大きいけど。

 

「Quuuu!!」

 

 おいらの言葉にも臆することなく、あおむしが鳴く。その目には決意の炎が物理的に宿り、熱くないのかそれ、と呟きそうになる。もちろん、デフォルメの結果なのでなんの効果も無い。

 

「……まあ、食えるんならなんでもいいか。ほら、行っていいぞ」

 

 あおむしが【ケルビム・ツリー】へと這いよっていく。そして、目の前へと到達すると、新しく手に入れたスキルを行使する。

 

「Quuuu!」

 

 新しいスキル、《虫食い味見穴(ワームホール)》の能力によって、あおむしは《加護》を無視して対象を一口のみ食べる事が出来るようになった。

 

 そのスキルによって、あおむしは【ケルビム・ツリー】の幹を一口、その口に収めることに成功した。果たしてその味はどんなものだろうか。

 やがて《味覚連結》の赴くままにあおむしが体験した味がこちらへと流れてくる。

 

 これは……昔あおむしが喰った《フォース・ヒール》のジェムに近いだろうか。だが、それはあえて例えるならばであって、あのジェムとこの樹木にはまさに月とスッポン程の差がある。

 その味が示すものはまさに濃密なまでに神聖な魔力の味であり、それだけでこの【ケルビム・ツリー】が一体幾万年の年を経てきたのか、その歴史がありありと浮かぶようだ。

 おいらが、おいらの<エンブリオ>がこれまで食べてきたどの樹木よりも美味いと断言出来る。流石伝説級樹木と言うべきだろう。

 

 ──だけど、まだあれ(・・)には、あの時(・・・)には遠く及ばないよ。

 

 まあ美味かったことに変わりはない。一口分ではあったがとても満足した。

 

「美味かったな、あおむし」

「Quu……♪」

 

 傍らのあおむしも満足そうにその場に寝転がっている。周りには音符が飛び交い、わかりやすく自分は幸せであるということが伝わる。

 

 が、そんなあおむしの幸福も唐突に終わりを告げる。あおむしは先程までの蕩けた顔を突如サアッと青くさせ、その身を捩るように丸くなった。

 

 今あおむしが使ったスキル、《虫食い味見穴(ワームホール)》。

 それには“《加護》や耐久などに関係なく対象とする物体を一口だけ食べる事が出来る”、という破格の能力を持つ代わりにおいら達にとってはかなりキツいデメリットが存在する。それこそが“スキル使用後、咀嚼した対象の等級に応じた時間の間、決して解けることの無い【腹痛】に犯される”というもの。

 

 もちろん、そのデメリットはスキル使用者であるあおむしにしか入らない。同じ味を共有したはずのおいらは平然とあおむしを見る事が出来ている。

 悶え苦しむあおむしを傍から見つめておいらだけ何も無いというのは、なんというか、すごく申し訳ないな……。

 

 手持ち無沙汰にあおむしを撫で続けたが、特にあおむしの表情が晴れることは無かった。

 

 ◇◇◇

 

 一人の<マスター>がいる。

 

 その<マスター>、【木樵】クロケット。

 彼の“味”への興味は料理や食材に留まらない。植物、昆虫、はては死骸、鉱石、魔法にまで及ぶ。

 故に、八つあるジョブの枠全てを資源採取系に費やすべく奔走し、世界の全てを採り尽くさんとする。

 

 そしてその<エンブリオ>【世界咀嚼 ハラペコアオムシ】。

 <マスター>との《味覚連結》に伴い、数多の“味”を<マスター>に提供するべく進化を重ね、世界の全てを摂り尽くさんとする。

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて、遠き過去の“味”に勝る新たな“最上の味”を求めて彷徨う放浪者である。

 

 〖食道楽(ワールド・イーター)〗。クロケット。

 

 

 

 




普通のガーディアンってどんなのかなとか考えながら書きました。
あとレジェンダリアの【壊屋】と樹木の《加護》については完全な捏造設定なのでご了承ください。


作中で紹介しなかったスキルについて
《腹の虫の知らせ》
・偶発的に【空腹】になる代わりに珍しい“食”に巡り会いやすくなる(具体的にはレアドロップ率が上がったりする)。が、そこまで顕著に分かる程では無い。


オリジョブについて
【解体屋】
・主にモンスターを解体したりするジョブ。DEXが上がりやすい。

【学者】
・採取系スキルの向上やドロップアイテムの解析などが出来るジョブ。DEXが上がりやすい。

後は大体名前の通りです。


<エンブリオ>について
[ 'ω' ]<前話に引き続き不撓不屈です

(U ^ω^)<合いの手を巧みに差し込む他人です

(U ^ω^)<ということで、童話のはらぺこあおむしでした

[ 'ω' ]<原作では絶対に出せないな、主に権利の関係で

(U ^ω^)<それにしてもだいぶイカれた舌を持つボーイだったね

[ 'ω' ]<それもそうだが、あいつはリソースの使い方も上手いと思うぞ

(U ^ω^)<そうかね? ていうか上手い下手があんの? 自分で使う方向を決められるわけでもあるまいし

[ 'ω' ]<いや、ガードナーなしで自分でアレらを食べようとするなら歯から胃袋まで全て置換しないといけなかったが、それをガードナーとの《味覚連結》でひとまとめにしたのは中々効率的なリソースの使い方をしてたな

(U ^ω^)<いやぁ、ただ単にパーソナルがガードナーのソレだっただけだと思うけどねー


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三人目 超級勧誘してみた

 □ドライフ帝国 バルバロス辺境伯領

 

 機械と鋼鉄の国ドライフ帝国。上空には常に黒煙が立ち上り、それはまさに天におわす神を汚しているかのようだった。

 

「えーっと、今この辺りに居るのは……」

 

 男は闘技場への道を歩きながら、小型のデバイスをいじっている。傍からみれば一昔社会問題にもなった歩きスマホをしているようであり、大変危険な行為なのは明白だが、不思議と男は目を前に向けることなくスルスルと人混みをすり抜けていった。

 

「【紅将軍(ゴア・ジェネラル)】……は会いたくないな、【操将軍(ギア・ジェネラル)】……は使えないし。てか寝てんなこいつ」

 

 男がブツブツと呟くのはどれも先着一名のみにしか許されない到達点である超級職の名。それを次々と酷評していく彼の身分に気づくものは誰もいない。

 

 男の名は権兵衛・ドウ。

 傍から見ればかなりの異質な名であると言えるが、本人自身もこれは変な名にしたと後悔しているというので世話はない。

 

 ゲームでの名前をあえて名無しやジョン・ドウなどにする時期というものは誰にも存在するだろう。彼は今がその時期なのだ。

 ただちょっと捻りたい時期でもあるのだ。まさに中二病と高二病のダブルブッキングのようなものだ。権兵衛は今年でアラサーのくたびれたおっさんだが。

 

 ともあれ、一通りの確認を終えた権兵衛はデバイスから顔を上げ、首の筋肉をほぐすように一回転させた。

 

「はぁ……いつも通り一人で行くかぁ」

 

 どうやら彼のお眼鏡に叶う人物は今この場には居なかったようだ。

 

 再びデバイスに向き直った権兵衛は画面を指でタッチし横にスライドさせることで別の表示を呼び出す。

 そこには、今回権兵衛がここバルバロス辺境伯領へとやってきた理由、つまりスカウト対象(・・・・・・)の情報が細かく記されていた。

 

(今回の目的人物(ターゲット)は……ローガン・ゴッドハルト。【将軍】系の超級職に就いていながら闘技場に入り浸っている変わり者……か)

 

 もちろん、権兵衛は事前にその情報の全てを確認していたのだが、見落としが無いかの確認の意も込めて改めてしっかりと目を通す。

 

(性格は傲慢で自分の強さに誇りを持っている。だが、その戦闘スタイルから観戦者達からは嫌われており、陰ではローガンがランキング一位から外れるのを望まれている……やっぱなんか可哀想だな)

 

 そう、ドライフ帝国決闘一位、“矛盾数式”ローガン・ゴッドハルトの戦闘スタイルは至極シンプルなものだ。

 その戦闘スタイルとは、ローガン自らが就く【魔将軍】という超級職。その特性である悪魔召喚を用いたゴリ押し戦法。どのような敵と闘おうともローガンの取る行動は奥義を利用した【ゼロオーバー(神話級悪魔)】による蹂躙の一点のみ。

 その代わり映えしない戦闘は刺激を求めてやってくる観戦者達に不評であり、事実ローガンは決闘王者でありながらまるでヒールの様な扱いを受けている。

 

 そんなローガンの現状を知り、権兵衛は若干の同情の念を胸に抱いた。

 

(まあでも、そこを点けば勧誘も不可能ではないかな)

 

 そう結論づけた権兵衛は、デバイスをポケットへとしまい、一般前を向いて歩きだした。

 

「全く、<超級(・・)>の勧誘なんて俺に任せるなよ。そういうやべえ奴はゲイジーか空に任せりゃいいのに……」

 

 日は傾き、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

 

 ◇

 

「おっと、着いたか」

 

 辿り着いた先は闘技場。

 ちょうど本日のメインイベントである決闘一位のローガンの決闘が終わった後であり、そこは少数ではあるが、ローガンのファンが興奮仕切った様子で先程の決闘について語っており、周りの者達はそんなファン達を冷めた目で眺めていた。

 彼らもまたローガンの試合を観戦した者達である。だが、彼等は蹂躙を見たいファン達とは違い、ローガンが対戦相手により倒されるという一縷の可能性を見に来たアンチ達である。

 だが、決闘は今日もローガンの快勝に終わりアンチの気分は最悪であった。

 

 ──だから付け込まれた。

 

 ◇

 

 所変わらず闘技場内。権兵衛が向かった先は受付。どうやら彼はここで決闘王者であるローガンとの交渉のアポを取ろうとしているらしい。アホである。

 

「すいません、ちょっとお話よろしいですか?」

「はい、いかが致しましたか?」

「実はですね──」

 

 が、彼にはそのアホな行動を成功に収めるだけのスキルがあった。

 

 権兵衛は《説得》、《演説》、《煽動》などのセンススキルの赴くままに口を回し続ける。もはや自分自身何を喋っているかよく分かってないが、とにかく喋り続ける事であとはスキルがカバーしてくれる。大事な事は自信満々なスタイルを崩さない事だ。

 

「それでは、ローガン様の下にご案内しますね」

「よろしくお願いします」

 

 やがて受付嬢、そして受付嬢から通された先に居たお偉いさんへの【洗脳】を終えた権兵衛は無事ローガンにアポを取ってもらえる事になった。

 

 ◇

 

 闘技場の控え室の一室。そこには今しがたランク争奪ではない普通の決闘を終えたローガンが居た。

 

 ローガンは自身の専用らしい豪華な椅子に深く座り込み、こちらをじっと見据えていた。

 

「貴方が、かの【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト閣下で相違ないでしょうか?」

「……ふむ、まず貴様から名乗るのが礼儀ではないか?」

 

 こちらの問いに不遜な態度でそう返してくるローガンに若干のイラつきを覚えながらも、権兵衛は腰を低くして謝る。

 

「おっと、これはとんだ失礼を……私は権兵衛、クラン<アーミー・コー>のサブオーナー、権兵衛・ドウと申します」

「ふん、滑稽な名だ。<アーミー・コー>も知らんな。……まあいいだろう。いかにも、私がローガンだ」

 

 ──笑顔だ、《ポーカーフェイス》を解くな。

 

 若干沸点の低い権兵衛であったが、何とか持ちこたえると、笑みを継続する。

 

「して、貴様はこの私に一体何用か?」

 

 さて、権兵衛が先程使ったスキルの数々はどれもプレイヤー保護の観点から<マスター>にはあまり効果が無い。

 もちろん言語の補助は変わらず続くが、【洗脳】などの、“精神を弄って自分の思い通りにする”という状態異常に掛かることは無くなる。

 つまり、ここからが権兵衛の腕の見せどころという訳だ。

 

「実は、ローガン様に耳寄りの情報を持ってきまして、それをご清聴いただければ、と」

「ふん、信用ならんな」

「まあまあ、そう言わずに話だけでも、決して悪くは無い話です」

 

 権兵衛は語った。

 クラン<アーミー・コー>への勧誘。

 そのメリット。

 そして、<アーミー・コー>の説明。もちろんクランメンバーの詳細は避けつつである。

 そして、ローガンが入る事によりクランがどう変わっていくのか。

 

 もちろん、その提案は《演説》のセンススキルをフル稼働させてのものであり、誰もが魅力的な提案に感じるようになっていた。

 

 して、その返答は……。

 

 

 

「──話にならんな」

 

 明確な拒絶であった。

 

「この私に貴様等の弱小クランに入れとは。頭でも沸いてるのか?」

 

 罵倒。それがローガンの答え。

 いくら《演説》が上手くても、最初から否定してかかっている物を惹かせることなど土台無理な話であった。

 

「……闘技場での仮初の栄光よりも、こちらの方が圧倒的に充実した生活を送れると思いますが?」

 

 悪足掻きのようにそう口走る権兵衛。

 何のスキルも介していないその言葉は、ローガンの地雷を的確に踏み抜いた。

 

「……なんだと?」

 

 ローガンは激昴した。

 

 当然である。

 自身があれ程に入れ込んでいる決闘。その決闘者としての誇りをを土足で踏みにじった権兵衛に怒りを覚えるのは当然である。

 

「失せろ。さもなければ殺す」

 

 ローガンは最後の警告を発する。

 それは言わば慈悲の様なものであり、ここで引き下がるのなら、あるいは逃げ出す権兵衛のその憐れな背中に溜飲を下げていたのやもしれない。

 

「……えぇ、ちょっと待ってくださいよぉ」

 

 しかし、権兵衛が選んだのは引き伸ばし。

 相手が明確な拒絶を示しているというのに、彼は今一度のチャンスを掴みにかかったのである。

 

 愚か。愚かとしかいいようがない救いようのない行為だった。

 

「失せろと言ったのが聞こえなかったのか?」

「いや、だってこのスカウト成功させないと俺これなんすよ?」

 

 権兵衛が親指で首を切る動作をした。

 嘘である。

 

「そんな事俺が知るかっ!! いいから失せろ!」

 

 権兵衛のその神経を逆撫でさせるような物言いに、ついにローガンは声を荒らげた。

 

「えぇー……」

「……は、どうやら貴様は私を本気で怒らせたらしい。勧誘、いいだろう。ならば実力で示せ。返り討ちにしてくれる」

 

 「あれ、これなんか不味いことになったんじゃ……」などとアホな事を考えているうちに、権兵衛はローガンに引きずられるようにまだ整備中の闘技場へと入っていった。

 

 ◇

 

 闘技場は、ローガンの悪魔によって出来た地面の抉れ等を補修するべく、闘技場専属の【黒土術士】や【土木操縦士】がせっせこ働いていた。

 

「あれ、ローガンさんだ」

「いったいどうしたんですか? 闘技場は今整備中ですけど……」

 

 彼等は、ローガンが派手に闘技場をぶっ壊してくれるおかげで仕事を貰えている。故に彼等はローガンに対して感謝こそすれど、悪感情抱く事など微塵も無かった。

 

「どけ」

「……え?」

「どけと言っている。三度はない」

 

 今日までは。

 

「は、はいぃぃ!」

 

 恐怖を植え付けられた作業者達はそそくさと闘技場を去っていく。

 

 そして、体良く作業者を追い出したローガンはアイテムボックスから剣を取り出し、権兵衛の目の前に放った。

 剣は闘技場の床に突き刺さる。

 

「うおぅ!」

 

 権兵衛はビビった。一部始終をばっちり見ていたのにビビった。

 

「取れ。塵すら残さず焼き尽くしてやる」

「いや、俺戦闘はちょっと……」

「黙れ痴れ者が! 馬鹿にするのもいい加減にしろ! 僕を虚仮にしてタダで済むと思うなよ!」

 

 その権兵衛の情けない物言いに、ついにローガンがキレた。ロールプレイではなく本当にキレた。

 

「えー……」

 

(なるほど、今の奴が素だな。で、周りに見せたいのはいつもの奴、と。ていうかこの人結構幼いな、成人もして無さそうな感じある)

 

 コロコロ変わる一人称や口調から生粋のロールプレイヤーだと察した権兵衛は、激昴するローガンに対して冷静な分析をした。

 

 余裕であった。

 当然である。権兵衛は自身が死ぬなどとは欠片も思っていない。なぜか……アホだからだ。

 

(さーてどうやって逃げ帰ろうか……)

 

 その証拠に、結界に囲われた闘技場の中に入った今でさえ逃げる算段を整えているという始末。

 

「来ないならこちらから行くぞ! 《コール・デビィル──」

「あー、いやーその、そう! 闘技場に入らないんすよ! 俺の<エンブリオ>!」

「──なんだと?」

 

 そもそも、今権兵衛の<エンブリオ>はここ(・・)には無いのだが。ともあれ権兵衛は<エンブリオ>を用いた戦闘を行えない。

 

 どころか、権兵衛は戦闘が出来るようなジョブを、技術を、ましてやスキルさえ持ち合わせていない。

 

「俺の<エンブリオ>デカいんすよ。だから<エンブリオ>が使えない訳でして……これって公平って言えませんよね? ね?」

 

 故に、口八丁で何とかその場を乗り切ろうとする。

 

「はぁ? 臆したか、ザコが。なら俺も<エンブリオ>無しで戦ってやろう」

 

 ローガンの<エンブリオ>、【技巧改竄 ルンペルシュティルツヒェン】は自身のジョブスキルの数値を同時に十箇所まで十倍化させるという破格のスキルを持ち、そのスキルを使う事でこれまでの数々の決闘を勝ち進んできた。

 

 だが、今回の決闘でならそんなもの使わずとも、特典武具を生贄にして適当に伝説級悪魔でも放れば余裕だろうと考えていた。

 

 ──しかし、その認識は甘かったと言わざるを得ない。

 

「い、いやー、えっとぉ……あ! それに俺戦闘に関するスキルとか持ち合わせてませんし! これもアレじゃないっすか? 不公平ってやつじゃ!」

 

 互いの<エンブリオ>の使用禁止。そんな事で権兵衛が止まるはずが無い。どうにか戦闘を中止させようと、必死に言葉を並べていく。

 

 言い訳に言い訳を重ねる愚行。

 そんな余りにも無様な権兵衛の様に、ローガンの興はみるみる削がれていった。

 

「はぁぁ……もういい、ザコに用はない。ここから立ち去れ」

 

 こんな奴倒す価値すらない。ローガンは冷めた目でそう告げた。

 

「あ、ほんとっすか! じゃ、失礼しましたー」

 

 そんなローガンに構わず、権兵衛はそそくさとその場を後にした。

 

 こんな大人にだけはなるまい、ローガンはそう決意した。

 

 ◇

 

「はぁ……どうして俺って奴はこうなのかねぇ」

 

 権兵衛は自嘲の溜息を零す。

 

 今日も失敗した。

 今までに一度でも成功したことがあっただろうか。

 いや、無い。

 権兵衛はただの一度も成功したことが無い。

 

「はぁ……」

 

 失敗はしたが、報告はしなければならない。

 

 報告、連絡、相談とは社会における三要素であるが、権兵衛の最も嫌う行為は報告である。

 理由は明快。

 報告を行うときは、決まって失敗しているから。

 

【あ、オーナー、報告します】

【おお、権兵衛くんか! どうだったか!? 勧誘出来たか!?】

 

 通信機器の向こうからは可愛らしい女性の声が聞こえる。

 

【いやー、無理でしたわー】

【またか! 君って奴はまたなのか!】

【そうなんすよ、俺って奴はまたなんすよ】

【……君がこのクランに入ってからの勧誘成功率を言ってみなさい】

【…………0っす】

【0だろう! 一体全体どうなってるんだよ! 君のそのジョブ群は飾りか!?】

 

 飾りでは無い。権兵衛はこのジョブ群が無いと、文字通りただのおっさんに成り下がる。

 権兵衛がここ(・・)まで上り詰めることが出来たのも、一重にセンススキルの扱い方が、いや、センススキルからの扱われ方が上手かったからだ。

 

【まったく、ぷんぷんだぞ?】

【すいません……】

【まぁ、<超級>の勧誘なんてそんなに期待して無かったけどねー】

【あーそうなん……え?】

 

 衝撃のカミングアウトであった。権兵衛動揺を隠しきれない。

 が、オーナー話を逸らす。

 

【それより、今回もちゃんとがんばった(・・・・・)?】

【それはもちろん】

【ならよし! ゆっくり休むんだぞ!】

【……あざっす】

 

 通信を切る。

 相変わらずうちのオーナーはあざと可愛いなぁなどと思いながら、権兵衛は酒の飲める施設へと足を進めた。

 衝撃のカミングアウトは忘れた。

 

 ◇

 

「エールお待ちっ!」

「あざーす」

 

 元気のいいウェイトレスから酒を受け取り、一気に呷る。氷魔法によって冷やされたジョッキに注がれたエールは、癖こそ強いものの、喉に抜ける爽快感は確かにあった。

 

「あー、成果を出さずに飲む酒は上手いなーマジで」

 

 この男、やはりクズである。

 

「現実だとこうはいかねえからなー」

 

 出された料理を食べつつ、酒を飲み、周りの酔っ払い共と歓談を楽しんでいたまさにその時、事件は起きた。

 

 突然空中に現れたホログラム。酒場の中だけでなく、このバルバロス辺境伯の全ての人の前に映し出されたその《犯行声明(フラグメント・ホロウ)》。そこには大勢の者達が映っており、その中には先程決闘場にいたローガンアンチの者達も居た。

 そこで、一歩前に出たリーダーらしき男はにこやかに手を振り語り出す。

 

「皆さん、こんにちは。【反将軍(テロ・ジェネラル)】です。これより、ここバルバロス辺境伯は私が乗っ取りました。皆々様に置かれましては、早々に別の街へ避難する事をおすすめします。さもないと──」

 

 そういって、ホログラムは指をパチンと鳴らす。

 

「──こうなってしまいますので、あしからず」

 

 瞬間、酒場の隣、職の斡旋を行うギルド施設となっていた建物が爆発した。

 耳鳴りと共に爆風と熱気が立ち込める。

 隣が爆発したためか、こちらにもパラパラと破片が降ってきた。

 

 誰もが唖然と空中(ホログラム)を眺める。権兵衛を含めた誰もがその異常な状況についていけずにいた。

 

「あー……」

 

 が、数々の修羅場を文字通り潜り抜けてきた権兵衛は、民衆よりも早くに立ち直る事が出来た。

 すぐに先程の通信機器を起動する。

 

【すいませんオーナー】

【なんだね、権兵衛くん、そんなに焦って】

【あー、焦ってる様に見えます? まあ焦ってるんですが】

【君のその回りくどいところはダメダメだぞ、早く要件を言いなさい】

【……【建将軍(ログ・ジェネラル)】、【聖将軍(エル・ジェネラル)】の派遣を頼む】

【うん、了解したぞ】

【あと、あいつ(・・・)叩き起こしといてくれ】

【……理由は後で聞くからなー】

【あざっす】

 

 通信を切る。これで直ぐにでも必要な戦力は揃うだろう。

 

「よし、あとは」

 

 権兵衛は自身の持つ【民将軍(モブ・ジェネラル)】、そのスキル《拡声》LvEXを発動する。

 

『マイクテス、マイクテス。……おほん、時間が無いので要件から。今皆様の元にパーティ申請を送りました。直ぐにでも私のパーティにお入り下さい』

 

 バルバロス辺境伯の全体に時化たおっさんの声が響き渡る。

 人々はその声に疑問を抱く……事は無い。

 

 

「おいおい、何だよ立て続けに……とりあえずパーティに入らないと……」

 

「お母さん、怖い……」

「大丈夫よ、パーティに入りさえすれば安心だから」

 

「テロリストの方はやべえけどあっちは大丈夫そうだ! 皆、あいつのパーティに入ろう!!」

「おう!」

「当たり前だ!」

 

 

 民の元に差し出されたパーティへの勧誘申請。

 バルバロス辺境伯に所在するおよそ全ての民に配られたそれを、民は臆することなく何の疑問を抱くことなく受け入れた。

 

 ──《民心掌握(アンチ・ヘイトスピーチ)》。

 

 それが、【民将軍】である彼が発動したスキルである。

 効果は“範囲内のレベル250以下の者にパーティ申請を送る”というもの。

 

 彼の指示に従い、次々に目の前に現れたパーティ申請に肯定していく。

 彼の《民心掌握》使用時の発言には先程使った《説得》、《演説》、《煽動》などのスキルも織り交ぜられており、本来ならば恐怖や戸惑い、疑いによって起こりうる、長時間の説得を経てパーティに入ってもらうという過程をすっ飛ばして民衆を囲う事に成功した。

 

『おほん、えー、皆さん大変素直で宜しいです。それではこのまま避難を開始致します。道中先程の爆発などが起こる可能性はございますが、皆様は私がお守り致しますので、どうか落ち着いて対処頂きますようお願い致します』

 

 その命令(・・)に、民は迷わず従う。

 まるで彼の言うことに一片の間違いも無いと思っているかのように、彼に従えば万事OKだとでも言うように。

 

 ──あっている。

 

 いや、正確には、“限りなく正解に近い”だろうか。

 

 この局面では、権兵衛に従うことが得策であり、それ以外は愚策に落ちる。

 例えこの場に頂きに立ちしものが、<超級>が居たとしても、権兵衛には適わないだろう。

 何故なら、敵は【反将軍】。つまり相手は《軍団》による大規模構成で攻めてきていると推測できる。そこに<超級>が一人いた所でどうにもならない。

 無論、敵の大将、【反将軍】は討ち取れるかもしれない。敵のほぼ全て、もしかしたら一人残らず殲滅し尽くせるやもしてない。

 

 だが、それでは駄目、愚策も愚策である。

 

 何故なら、その行為は、民衆の安全が考慮されていないから。

 大将を討ち取る間に他の敵によって民衆が危険に晒される。

 敵の全てを討ち取る為に民衆に危険を汲み取らせる。

 

 それでは本末転倒。民衆を守れぬ行為に、罵倒こそされど感謝される謂れは無いだろう。

 

 しかし、権兵衛は違う。

 

 【民将軍】の二つ目のスキル、《生渇保護(コモン・アサイラム)》とは、“自身のパーティ内の合計レベルが250以内の全ての者を、スキルレベル×1000以下のダメージをシャットアウトする結界で覆う”というものである。

 

 その恐るべき効果により、民衆の安全は保たれている。【反将軍】の起こす爆破や、それに伴う瓦礫の飛来程度なら結界によりシャットアウト出来るのだ。

 

 そして、敵を討つのは権兵衛ではない。

 

(……頼むぞ、信じてるからな)

 

 一見すれば、権兵衛が民衆を逃がし、その後【反将軍】を倒しに戻ってくる展開だと推察出来るだろう。

 だが違う。

 

 それはこの戦いが、【反将軍】率いる犯罪集団と【民将軍】権兵衛・ドウの所属する──

 

 将軍限定(・・・・)クラン、<アーミー・コー>の闘いだからである。

 

 ──不意に地面が揺れ、砂煙が立ち始める。

 

『──おぅーい、権兵衛ぇ! いるかー!』

「おっせーよ! ザク!」

 

 【操将軍(ギア・ジェネラル)】ザクⅩ。

 彼こそはあの権兵衛をして交渉事には「使えない」と称される程のバカである。

 

『あぁ? 陛下ちゃんから通信来てすぐ起きたぞ?』

「お前のすぐ(・・)は世間一般的なすぐじゃねえ!! いいからさっさと働け!」

『うぅーい』

 

 ザクのその言葉と共に、吹き出す煙を見に纏った30メテル程もある機体がその体躯を稼働させた。

 

 彼の<エンブリオ>、【灰闘炉膜 グリバウン】はTYPE:アドバンスの超大型パワードスーツであり、その所持スキルである《マーシャル・アジャスター》により量産型の<マーシャルⅡ>に搭乗したまま(・・・・・・)乗り込む事が出来る。

 まさに規格外の<エンブリオ>である。

 

『敵はどこだぁー!』

「知らん! 今は(・・)見えねぇ!」

『了解っ! とりあえず全体攻撃でいいなぁ!』

「民衆は全員囲った! ()も居る! ぶちかませぇ!」

『おっし!』

 

 ザクの操縦する【マーシャルⅡ】の搭乗する【グリバウン】。それが装備する特注品である大型の【ハンドキャノン】を左手で構え、足元周りに居る<ガイスト>や<マーシャル>、<マーシャルⅡ>に乗り込んだ配下へ合図を掛ける。

 

『──全員俺に続けぇ! 《エネミー・ファイア》!!』

 

 彼の絶叫と共に打ち出されるエネルギー弾。

 そして、それに続いて高威力の弾丸が次々に街中に浴びせられた。

 

 街のあちこちから火の手が上がり、逃げ回る敵の悲鳴が(つんざ)く。

 だが、そんなものお構い無しとばかりに第二、第三の弾が炸裂する。

 まさに阿鼻叫喚。

 敵にとってそれは地獄に等しかった。

 

 そして、後に残るは敵の親玉、【反将軍(テロ・ジェネラル)】ただ一人となった。

 

 

 

 ──はたしてこれで良かったのか。

 

 確かに敵は倒せただろう。

 だが、それでは民衆は? 建物は?

 敵同様に死んだのでは? 破片すら粉々に破壊されたのでは?

 

 ──答えはどちらも(NO)

 

 あれだけの絨毯爆撃を行っていながら、民衆にも建物にも傷一つつかず、犯罪を行った者達のみがデスペナルティ、完全死亡へと導かれた。

 それは一重に【民将軍】である権兵衛、そして先程到着した【建将軍】である林坊がそれぞれ民衆、建物を囲ったおかげである。

 ともあれ【反将軍】を残して犯罪集団は壊滅することとなった。

 

 唯一残った【反将軍】。自身のスキル、《アナーキー・ディストピア》によってパーティ内のほぼ全てのHPを自身に振り分ける事によって生き残った彼だったが、【グリバウン】の思わぬ反撃には完全に虚をつかれる形となっていた。

 

「チッ……今、貴方の機体をジャックしました。何かしらの動きを見せた瞬間にその魔力を暴走させて爆破します」

 

 苦し紛れに発した言葉。だが、それは決してブラフでは無い。

 

 彼の<エンブリオ>はTYPE:カリキュレーター・ワールドであり、その範囲は約1キロメテル程。

 それは【グリバウン】に乗り込むザクなぞ容易く囲んでしまえるものであり、そのスキルにより、たった今【反将軍】はその機体(グリバウン)の命運を自身の手の内へと収める事に成功した。

 

 が、バカはバカ故に止まらない。止まれない。

 

『うぉぉお!! 暴走がなんぼのもんじゃぁい!!』

 

 確かに彼はバカである。

 だが、バカはバカでも、彼は相当の戦闘バカであった。

 

「あ、バカお前──」

『轟けぇ! 《灰に亡れども(グリバウン)》ンンン!!』

 

 【反将軍】の言葉など意にも介さず、権兵衛の声が届くことも無く、ザクは一切の躊躇無く必殺スキルを使用した。

 

 【グリバウン】からシュウウウ、と何かが溶けだす様な、語弊を恐れずに表現するならお風呂に入れた固形の入浴剤が溶ける様な音が鳴り出す。

 いや、事実【グリバウン】は溶けている。そして溶けた部分からは白色の濃い煙が噴き出している。

 

 【グリバウン】の必殺スキル、《灰に亡れども(グリバウン)》は時間制限付きで自身と、自身の全兵装を超強化するスキルである。

 時間制限とは煙と共に溶け、灰と化してゆく【グリバウン】が完全に消失するまでであり、その時間は極僅かである。故に強い。

 【ハンドキャノン】よりぶっぱなされるエネルギー弾は、自身のパーティ内の配下の<エンブリオ>や【観測操縦士】などのスキルによる精密操作により、正確無比に【反将軍】一点へと集中した。

 

 《アナーキー・ディストピア》により、およそ三百人分の膨大なHPを持つ【反将軍】であったが、その銃撃の前には無力であり、そのHPはまるでじくに油を染み込ませた蝋燭の様に急速に消えていった。

 

「あークソ! 話聞けよダボが!! もう知らねえ! 爆ぜろ!」

 

 人よりは気が長いはずの【反将軍】ではあるが、ここまで自身の思い通りにいかないとは思っていなかった。故にキレた。緒が、堪忍袋の緒が。

 

「《徒に消えゆくもの(ピクシー)》!!」

 

 そして必殺スキルが発動される。

 【グリバウン】に罅が入り、その隙間から閃光が迸る。

 

「間に合えぇ! 《大衆先導》!!」

 

 ──そう、大爆発だ。

 

 ◇

 

 爆心地。

 爆発したのはバルバロス辺境伯の一部分、およそ6%程である。しかし爆発の影響を受けたのは闘技場の近く、つまり都市の中心であり、その被害は甚大に過ぎるものであった。

 

 炎が立ち上り、灰が舞い散る、その地に【反将軍】は居た。

 自身の目に入る範囲に人は一人も居ない。だが遺体すら無いのはおかしい。光の塵になるには早すぎる。経験値も入ってない。逃げられたか。

 

「あー……生きてるわー。死にそう」

お互い(・・・)命拾いしたな、死ね」

 

 背後から聞こえる声。咄嗟に振り向く。

 【マーシャルⅡ】に乗り込んだザクⅩは、普通サイズの【ハンドキャノン】、その筒先を【反将軍】へと向けた。

 

「……はーおもんな」

 

 ──爆音が轟く。

 

 ◇

 

 こうして、【民将軍】率いる<アーミー・コー>の尽力により、バルバロス辺境伯の平和は守られる事となった。

 

 しかし、【反将軍】の起こした【グリバウン】の大爆発により、辺り一面は爆心地と化してしまった。

 それによる被害は甚大であり、建物は言わずもがな、死者こそ出なかったものの、《生渇保護》では守りきれなかった者達が重傷を負う事となった。

 

「…………あー、また失敗した」

 

 権兵衛の一日は、今日も失敗に終わった。

 

 ◇◇◇

 

 □■

 

 その<マスター>、【民将軍(モブ・ジェネラル)】権兵衛・ドウ。中身はただのおっさんだが、そのがわ(・・)には計り知れないほどのポテンシャルを持つ。おおよその普通の者とは真逆の存在であると言えよう。

 

 その<エンブリオ>、未だ見えず。

 それは昼にのみ姿を現す。まさに月と対局の存在と言えるだろう。

 

 彼は民の味方であり、民を味方にする完全民主主義者である。

 

 

 〖政治家(デマゴーグ)〗。権兵衛・ドウ。

 

 




 □クランについて

(U ^ω^)<非公式クラン<アーミー・コー>のサブオーナーはみんな変な人です

[ 'ω' ]<非公式なのか……

(U ^ω^)<エンジェルアドバンス、アナザーレギオン、インベイジョンラビリンス、って言えばどのくらい変なのか分かってくれると思う

[ 'ω' ]<変だな

(U ^ω^)<そしてオーナーはもっと変です

(U ^ω^)<でもまあそっちはおいおいね



 □権兵衛の<エンブリオ>について

(U ^ω^)<今回は出ませんでした

[ 'ω' ]<分かっていることと言えば、昼しか姿を現さないって事か

(U ^ω^)<上の3つ(アドバンス、レギオン、ラビリンス)のどれかってのは間違ってないよ

(U ^ω^)<後は……最初のあの歩きスマホデバイスは<エンブリオ>の一部です



 □ジョブについて

民将軍(モブ・ジェネラル)】:民衆指揮特化型超級職
操将軍(ギア・ジェネラル)】:有人兵器指揮特化型超級職
反将軍(テロ・ジェネラル)】:犯罪指揮特化型超級職
建将軍(ログ・ジェネラル)】:建築指揮特化型超級職
聖将軍(エル・ジェネラル)】:聖職者指揮特化型超級職

紅将軍(ゴア・ジェネラル)】:???指揮特化型超級職


【■将軍】:■■指揮特化型超級職

(U ^ω^)<こんな感じ

[ 'ω' ]<将軍職は嫌いだ

(U ^ω^)<なんで?

[ 'ω' ]<蹲ってたら目の前で皆で殺し合いしだすから

[ 'ω' ]<ヒルコの情操教育によろしくない

(U ^ω^)<それ君が悪いよね



 □【反将軍】弱すぎない?

[ 'ω' ]<結果だけ言えば惨敗だな、最後のも言わば自爆だし

(U ^ω^)<だってこんな街中で被害考えずにぶっぱなすと思ってなかったし……

(U ^ω^)<こちらに交渉にやってくるであろう人辺りを脅しつつ時間を引き伸ばし、裏から《軍団》の数の力で着実にバルバロスを乗っ取ろうと思ってた

(U ^ω^)<だけど<アーミー・コー>にやられた

(U ^ω^)<ちゃんとローガンがログアウトしてから事に及んだのに

[ 'ω' ]<あ、ローガン居なかったのか



 □で、あのあとどうなったの?

(U ^ω^)<爆心地になった所その他【反将軍】により爆破された建物は【建将軍】率いる【大工】とか【建築士】とかが1日で何とかしました

(U ^ω^)<最初と最後の爆破で出た少なくない数の怪我人は【聖将軍】率いる【司祭】や【信者】の方達が治しました

[ 'ω' ]<【反将軍】はどうなったんだ

(U ^ω^)<デスペナったけど別の国でもセーブしてたから普通にシャバにいるよ



 □ちなみに

(U ^ω^)<ザクくん達が絨毯爆撃した時に民衆と建物が傷つかなかった理由

(U ^ω^)<作中では説明されていません

[ 'ω' ]<民衆については《生渇保護》のおかげじゃないのか?

(U ^ω^)<うんにゃ、そのスキルではあの絨毯爆撃は普通に耐えられないよ

[ 'ω' ]<ならどうやったんだ?

(U ^ω^)<……いつか出せるといいよね!

(U ^ω^)<多分僕の出番よりさらに後で解明される

[ 'ω' ]<そんなの一体何年かかるんだ……

(U ^ω^)<馬鹿にしてるよね? ねえ馬鹿にしてるよね?

[ 'ω' ]<してる

(U ^ω^)<……まあ、あの時は民衆は【民将軍】が、建物は【建将軍】がパーティに囲ってたからね


 ◇


(U ^ω^)<次回、光と闇が合わさり割と強いあの“七輝夜煌”、“光の御旗”なあの人の原型

[ 'ω' ]<原型どころか完成系を知らないんだが

(U ^ω^)<ではまたいつの日か


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四人目 極光と冥闇

またいつの日か(明日じゃないとは言ってない)


 □どっちつかずな話

 

 そこは暗かった。

 

 何も、何にも見えなかった。

 

 故に光を欲した。

 

 追い求めて、追い縋って、やがて極光を手に入れた。

 

 だけど、そこは眩しすぎて、やっぱり闇が恋しくなった。

 

 

 

 だけど、そこは暗すぎて、やっぱり光が恋しくなった。

 

 ◇◇◇

 

 □【暗黒騎士】カノッピ

 

 インフィニット・デンドログラムに、そしてアルター王国に降りたって早半年。ここに来て俺は最大の壁にぶち当たっていた。

 

「【聖騎士】取れねえ……」

 

 そう、騎士系統上級職である【聖騎士】に就けないのである。

 

 

 そもそも【聖騎士】に転職するには条件が三つある。

 

 一つ目が“亜竜級以上のボスモンスターを自分で50%以上のHPを削って討伐する”こと。

 

 二つ目が“教会に20万リル寄付する”こと。

 

 そして三つ目が“騎士団関連の主要人物の推薦を受ける”ことだ。

 

 この三つのうち一つ目と二つ目は既に達成している。どちらの条件も上級<エンブリオ>と上級職を持つ俺にとって簡単な作業だった。

 強いていえば、教会に赴いた際に附属されている孤児院の子供達に懐かれた時は中々大変だったくらいかな。

 

 だが、三つ目の条件、これがなかなかに厳しいものだった。

 

 まず、<マスター>である俺に騎士団の主要人物、つまり貴族とのコネなどあるはずもない。

 ゲーム開始初日に近衛騎士団副団長にぶつかってしまい高難易度クエストに巻き込まれる事など、有り得ないのだ。

 だから貴族に取り入るために騎士団の詰所まで訪れてもみたが、軽く門前払いをされてしまった。

 

 というのも、教会に20万リルを突っ込んだことでお金が殆ど無くなってしまい、騎士としての正装でもある鎧を買うことが出来なかったのだ。

 

 ん? 仮にも騎士職である【暗黒騎士】なんだから鎧くらい持ってるだろって? 

 そう、何を隠そう、それこそが俺が【聖騎士】に就けない最大の理由なのだ。

 

 曰く、【暗黒騎士】に就いている者に【聖騎士】に就かせる訳にはいかない、と。

 

 どんな罠だよとは思ったが、言われてみれば当たり前で、呪術師(物理)な【暗黒騎士】が【聖騎士】という真逆とも言えるジョブに就けるわけがなかった。

 ゲームなら何とかしてくれとは思ったがここはリアルさを極限まで追求してるデンドロ。その程度の制限はあって当然だったのかもしれない。

 

 と、言うわけで、俺が普段使ってる呪われた鎧を装備していく訳にもいかず、泣く泣く普段着で向かった訳だ。まあ、仮に鎧が買えていたとしても【暗黒騎士】だとバレたら元も子も無かったのだが。

 

 という事で、俺が【聖騎士】になるのはほぼ不可能になった。

 

 だが、だがしかし、【暗黒騎士】と【聖騎士】という二つのジョブの両立はやはり捨て難い。俺の中の厨二心が囁くのだ。光と闇が合わさったらわりと最強だぜ、と。

 

 ……気ままに探すかぁ。

 

 ◇

 

 狩りに出る。討伐よりは決闘の方が好きだし自信があるんだが、いかんせん俺の<エンブリオ>は観戦者達に評判が悪い。俺が本気を出せば上位ランカー入りなんて楽勝なのに。多分。

 

 む、《危機感知》に反応あり。

 

「おっと、《カースド・アッド》」

 

 スキルにより呪いの出力を上げた剣で振り返りざまに切りつける。

 敵の正体はゾンビ。正式名称は【リフレッシュ・ゾンビ】というらしい。人型アンデッドとかおおよそ森に出るモンスターじゃないと思うんだが……ティアンでも死んだか?

 

 攻撃の方は思いの外当たりどころが良かった様で、肉の切れる鈍い音と共に返り血と肉の破片がこちらまで飛び散った。

 戦闘終了だ。

 

「おぉ……グロい」

 

 生暖かい体組織の感触が非常に気持ち悪い。しかも経験値は入ってこない。【暗黒騎士】のレベルは既にカンストしているからだ。スキルレベルを上げるため、そして金を稼ぐ為にも戦闘を行う必要はあるが、出来ればアンデッドとは戦いたくないもんだな。

 何のために【墓標迷宮】を避けたのか分かりゃしない。

 

「うへぇ……気持ち悪いなぁ」

 

 軽く落胆しつつも、とりあえずは一息ついた俺は先程の戦闘開始時にズレたサングラスを定位置の額に掛け直す。手鏡で確認。よし、イケてる。

 

 意気揚々と森の奥へと進んで行った。

 

 ◇

 

「ん、悲鳴か?」

 

 道無き道を、抑え目にした光源を頼りに進んでいると、何処かから甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 

 こんな夜遅い時間にこんな森の奥深くに来る命知らずなティアンは居ないだろうし、<マスター>か?

 でも<マスター>があんな真に迫った悲鳴上げるかな? 肝試しでもしてんだろうか……。

 

「……まさかな」

 

 一応見に行ってみるか。万が一取り返しのつかない事になったら寝覚めが悪いし。

 たとえ何も無かったとしても笑い話になるしあわよくば悲鳴の主とお近づきになれるやもしれぬしな……うむ。

 

 スピード上げてこう。

 

 まるで誘蛾灯に群がる害虫の様に俺の抑え目の光源へとやって来るモンスター共を《告別の黒闇》を用いてバッサバッサとなぎ倒し、悲鳴の元へと急ぐ。

 

 そして全力で走り続けること早数分。

 元々森の奥ということもあり、薄暗かった景色がより一層暗くなってきた。

 日が落ちただとかそういうことじゃあない。悲鳴の元に近づくに連れて禍々しい闇が深くなっていく。

 十中八九この先に闇の大元がいる。悲鳴の主の安否が心配だ。

 

 頼むから、最悪の結末にはなってくれるなよ……。

 

 ◇

 

 ──はたして、そこには闇があった。深淵の底よりもなお暗いその闇は、光というものを置き去りにしたかのように、はたまた漆黒の絵の具を空にベタ塗りしたかのようにそこに存在していた。

 

 そして、その黒い塊のそばには一人の少女がいた。

 少女は膝を抱えてうずくまり、自らの最期を思いガタガタと震えていた。

 

「──《逸灯星(トップ・スター)》!」

 

 脊椎反射で身体と口が動く。

 まず初めに今まさに少女に襲いかかろうとしている黒い塊に向け、剣を構えて飛びかかる。

 次に俺の<エンブリオ>のスキルによって俺と黒い塊の前にいい具合の光源を出現させる。

 

 すると、黒い塊は俺が出したいい具合の光源に反応してその動きを止めた。

 

 よし、誘いにはちゃんと乗るな。やりやすい。

 そしてもちろん隙は逃さない。

 

 教えてやろう、俺の得意なことは不意を打っての最大火力ぶっぱだ!

 

「《ダーク・エンチャント》、《リバース・クルセイド》!」

 

 地獄より迸る致命の漆黒により、黒い塊が闇に呑まれる。

 なんの予備動作も無く唐突に現れたそれに黒い塊は囚われ、逃げ出そうともがきだす。

 逃がさない。

 

 ──かーらーのー、

 

「《告別の黒闇》、《カースド・アッド》、《アビス・セイバー》!!」

 

 《リバース・クルセイド》により生命エネルギーを削りつつ逃げないように地面に縫い付けたソレにやっと身体が追いつく。

 俺は剣を大きく振り被り、自分の【暗黒騎士】特有のHP減少によるバフをHPを削り過ぎないように調整しつつ行い、もがき続ける黒い塊を呪いを纏った剣で切りつける。

 

「オラァ、くたばれやぁ!!」

 

 血こそ吹きでないものの、確かな手応えを感じた。

 

 おそらくスライム系統のモンスターか、もしくは実体のあるエレメンタルか。どちらにせよ核は潰せてないしドロップアイテムも落ちてない。

 まだ油断は出来ないな。

 

 綺麗に着地を決めた俺は少女を避難させるべく手を差し出す。

 

「おい、ここは危険だ、ひな──」

「──いやぁ! 新たな敵襲ですわ!?」

「それは酷くね!?」

 

 確かに【暗黒騎士】のスキル特有の闇的なエフェクト纏ってるけど! ここに来る途中に斬り伏せたモンスターの血とか肉片が身体中についてるけど!

 ちなみに血とか肉片が消えずに残ってるのは俺が装備してる呪われた鎧のスキル、《血肉を糧に》の効果であり、時間経過で勝手に吸収されるのだが。

 

「って、人……ですわ?」

「そうそう、今【リフレッシュ・ゾンビ】と格好あんま変わらない自信あるけどこの知能と簡易ステータスで信じてくれ」

 

 【リフレッシュ・ゾンビ】っていうモンスターは名前の通り生前とあんまり変わらない姿形をしていて、斬るのにすごい抵抗があった。まあ、仲間のなのか自分のなのか知らんがすごい血まみれだったけど。

 

「ごめんなさい、わたくし気が動転していて……助けていただきありがとうですわ」

 

 このお嬢様口調、姫騎士を彷彿とさせる装備……貴族の娘か何かか?

 いや、だとしたら、何でこんな森の奥に……。

 

 ってそんなこと考えてる場合じゃねえか。

 

「ああ、礼もいいが……」

 

 奴の切られた箇所がくっついて、徐々に再生していく。

 

「まだ戦いは終わってないぞ」

 

 俺は少女を自分の後ろに庇い、剣を構えた。

 

「え、生き返ったですわ!?」

「いや違う、おそらく敵の種族はスライムかエレメンタル。身体をくっつけて再生くらいならするだろう……ん?」

 

 だが、それにしては再生が速いような……それに何だか奴の身体が膨張して……ってまさか!

 

「あ、もしかしてコイツ闇属性吸収系かっ!?」

 

 やっべ、迂闊だった。

 これまでの俺の攻撃は全部ヤツにとって何の驚異でも無かったって事かよ。てか明らかに闇そのものっぽい時点で気づくべきだった!!

 

 そして、闇属性吸収系の敵だという事で、俺の戦闘系スキルのほぼ全てが使い物にならなくなった。

 

 NPC(ティアン)を庇いながら自分の不利な敵と、か。これはキツい戦いになるな……。

 

 と、そこで、分かたれていた二つの身体を再生させ、そして膨張させた黒い塊は、大きく()を広げた。

 

「あ、悪魔ですわ!?」

 

 いや、違う。あれは……、

 

「……鳥だ」

「と、鳥って、そんなわけ……」

 

 先程までは暗すぎて見えなかったが、《逸灯星》の光に照らされその輪郭が朧気ながら見えてきた。

 【獄落鳥 ベンタブラック】。それが奴の名前らしい。

 

 そして、こいつはスライムでもエレメンタルでも、ましてや悪魔でもない。

 

「──こいつは怪鳥だ。ほら、翼以外にもどことなく鳥の形をしている」

 

 《逸灯星》を【ベンタブラック】の顔へと近づけると、そこには鳥としての特徴であるクチバシや、羽毛の形のみが、凹凸の感じさせないベタ塗りの輪郭から見て取れるだろう。

 

「ん?」

 

 俺の《逸灯星》に【ベンタブラック】が大きく反応し、避けるように更に上へと飛び上がった。

 

HOAAAAAAA(暗黒侵食)!!」

 

 【ベンタブラック】は、戦闘が始まって初めて鳴いた。

 まるで、今この瞬間、俺達を敵と認めたかのように。

 

 そして、その瞬間【ベンタブラック】がその身をより一層膨張させる。

 

「大きくなったですわ!?」

「くっ、《鳥獣切り》!」

 

 俺が横凪に振るった剣は【ベンタブラック】を深く切り込むが、奴はすぐさま損傷箇所を闇で覆うことで再生した。

 

「全然通らねえ……」

 

 おそらく奴は条件特化型、闇の中でのみその力を発揮するタイプ。更には自身の手によっても闇を生み出すことが可能。

 と、いったところだろうか。

 

 更に付け加えれば今は真夜中であり、奴のコンディションはバッチリか、もしくはそれ以上。

 

 俺も闇属性に分類されない【騎士】などのジョブスキルを使い応戦するが、全くと言っていい程手応えは無かった。

 

「HOAAAAA!!」

「うるせえ! ここで起死回生の【ジェム-《セイント・ブロウ》】を喰らえ!!」

 

 ガチャで当ててからアイテムボックス内に死蔵しといて更にそのまま忘れかけていた聖属性の上級攻撃魔法である【ジェム】を取り出し、奴に投げつける。

 

 爆音と共に聖属性の衝撃が降り注ぎ、奴に直撃する。

 

「やったですわ!?」

 

 あ、それ言っちゃダメなやつ。

 最近はフラグを立てると逆にへし折れる事もあるらしいけどそれに限っては不動のやつだから。絶対不朽のやつだから。

 

「HOAA?」

 

 効い……て、無いな。若干の硬直を見せた後、輪郭が若干朧気になった【ベンタブラック】だったが、すぐに元のベタ塗りに戻ってしまった。

 

「HOAAAAAAA……」

 

 【ベンタブラック】が迫る。

 奴は自身の絶対的な有利が分かっている様で、じっくりと嬲るように迫る。

 

「も、もうおしまいでずわぁ!! お父様、お母様、勝手に抜け出してごめんなさい! いい子にするから助けてえ!」

 

 あまりの恐怖に若干幼児退行している少女に、俺はそっと語りかける。

 

「落ち着け、俺が着いてるだろ?」

「落ち着けるわけないですわ!! 貴方の攻撃は先程全部吸収されたでしょう!?」

 

 いやいや、

 

「【暗黒騎士】としての俺が対処されたくらいで終わりだと思ってるなんて、そんなんじゃ<マスター>理解検定三級にも及ばないぞ」

「そ、そんなのあるのですわ?」

「ないけど」

「ですわっ!?」

 

 君結構余裕あるね。

 

「大丈夫、大丈夫だ。こういうの(絶望の状況)を何とか出来るのが、<マスター>って奴らなんだぜ?」

 

 少なくとも、俺は何度も覆してきたし、覆したやつを見てきた。

 

「そういや、君名前は?」

「……フランソワ、フランソワ・リュミエールですわ」

 

 ……へえ、そりゃあすごい偶然もあったもんだな。

 

「そうか。じゃあ、フラン」

「……なんですわ」

「──俺がお前を守ってやる。だから安心しろ」

 

 我ながら臭いセリフだよ。まあ、ティアン向けならクサイ位がちょうどいいかな。

 

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですわ! 後ろ!」

「おっと、《逸灯星》」

 

 フランの首をぐりんと180度回転させ、背後にわりと本気の光源を出現させる。

 フランの小さな背中から抗議の念が放たれるが危なかったので勘弁して欲しい。

 

 そして【ベンタブラック】の方はというと、光をモロに受けてしまったのか、翼の部分が丸く抉れていた。

 

 ◇

 

 ここでこれまでの戦闘を少しおさらいしようかと思う。

 

 俺はこの戦闘を継続する上で、奴のおかしな行動を度々目にした。

 

 まずは最初の奇襲のとき。俺は抑え目の《逸灯星》を奴の背後に出現させた。

 すると、奴はその身を硬直させた。

 

 これだけならば普通に奴が新たな敵に反応しただけだと思っていた。

 

 だが、奴の顔付近に《逸灯星》を近づけたとき。奴はその光に大袈裟な程に反応し、まるで逃げるように上へと飛び立った。

 そして、まるで周りの空間を補完するようにその身()を膨張させた。

 ここで俺は少しの違和感を持った。

 

 

 

 そして今。

 ようやく俺は確信に至ることが出来た。

 

 ──奴は光を嫌う。

 

 俺達が今の今まで死なずに済んでいるのも、俺の《逸灯星》で俺達の周りを囲んでいるからだ。

 その結果により、奴は俺達に近づくことが出来ない。そして俺達は奴にダメージを与えることが出来ない。故に戦闘は膠着状態に陥っている

 

 だが、その丸く抉れてしまった羽根を確認し、こちらも確信に至った。

 やはり、このモンスターは光がダメージになる。

 

 光による熱量(火属性)でも神聖(聖属性)な光でも無い。純粋な光属性の輝きこそ、奴にとってのダメージとなる。

 おそらく、《液状生命体》ならぬ《闇状生命体》の様なスキルでも持っているのだろう。

 

 全く、聖属性が弱点の闇属性とか死属性のモンスターはいくらでも見てきたけど、光属性のみがピンポイントで弱点のモンスターとかデンドロやってて初めて見たわ。

 

 で、

 

「ほう、やっぱお前は光が弱点なのか、そうかそうか、ふーん」

 

 いやぁ、一時はどうなる事かと思ったが、何とかなりそうで本当に良かった。

 

HOAAAAA(冥闇侵食)!!」

 

 【ベンタブラック】はというと、こちらに対抗できる手段があると分かると、すぐさまこちらを打倒しに動きだす。

 相も変わらずその身を膨張させ続ける【ベンタブラック】だったが、奴のひと鳴きと共にその()の性質が変わった。

 奴に呑まれた周りの木々がみるみるうちに枯れていく。おそらく生命エネルギーを吸っているのだろう。

 

 俺は額のサングラスを外す。

 

「なに余裕かましてるですわ! 迫って、迫ってくるですわぁ!!」

「あ、ちょっとこれかけてて」

「これなんですわぁ!?」

「《明視》付きのサングラス。……まあ、かけなかった場合の命の保証は出来ないな」

「ひいっ」

 

 ちなみに《明視》とは《暗視》の光バージョンであり、光に目が慣れる様な感じで極度の明るさから目を保護する効果がある。

 このサングラスはその《明視》をレベル最大の状態で保持している。これを買うために当時の俺は私財の八割を使い切った。

 普段使いの鎧や剣より高いサングラスってどうなんだろとは思うがこれが無いと自滅するので手放せない。

 

 まあ、今から自滅するんだけど。

 

 【ベンタブラック】はその()を膨張させながらゆっくり、ゆっくりと辺りを呑み込み、迫ってくる。

 

 そんなおぞましい光景に、流石に余裕の無くなってきたフランは怯え、丸くなっている。

 俺はそんなフランを庇うように前に立ち、最大威力の光源を呼び出す。

 

「《蒼磨灯(オーバー・スター)》」

 

 六つの《逸灯星(光源)》で囲んだその中央、つまり【ベンタブラック】のちょうど真上に、青い光がポツリと出現する。

 その光は弱く淡いもので、すぐに消えてしまいそうなか弱さがあった。

 なので、こいつを今から磨かないといけない。

 

「《献磨(カット)》」

 

 六つの《逸灯星(強い光)》が《蒼磨灯(弱い光)》の元に集結し、その周りスレスレの所を回り始めた。

 やがて六つの光からその光力が徐々に失われていく。まるで自らの力を託すように萎んでいくその光達、だが、代わりに《蒼磨灯(一つの光)》がその光を受け継がんとばかりに大きく、強くなっていった。

 

「HOAAAAAAAA!!?」

 

 

 ──ナゼダ。

 

 ──ナゼコウモアカルイノダ。

 

 ────マブシイ。マブシイ。

 

 

 そんな【ベンタブラック】の嘆きが聞こえてくる様な気がする。

 

 いや、本当に可哀想な奴だよ。おそらく俺以上にお前にぶっ刺さってる奴は世界中どこ探してもいないと思うぞ。

 

 そろそろ決めるか。かっこよく、な。

 

 俺は左手を真っ直ぐ目の前に突き出し、そして強く握り込んだ。

 

「掻き消えろ、──《至琉素(シリウス)》」

 

 

 白に染まって──

 

 

 ◇

 

【<UBM>【獄落鳥 ベンタブラック】が討伐されました】

 

【MVPを選出します】

 

【【カノッピ】がMVPに選出されました】

 

【【カノッピ】にMVP特典【獄落双鏡 ベンタブラック】を贈与します】

 

 ◇

 

「目が、目が痛いですわー!?」

「あーあー、大丈夫か? ちゃんと俺が渡したサングラスかけたか?」

「かけたけどすっごく眩しかったですわ!!」

 無事討伐アナウンスが頭に響いて数分。ようやく極光が収まると、緊張の解けたフランが目の痛みを訴え始めた。

 

 まあ、あのサングラスでも俺の必殺スキルを完全に防ぎきるのは流石に無理だったということかね。《蒼磨灯》まで使って本気で必殺スキルを使用した事が無かったので、あの場面は実は結構ギリギリだったのだ。

 

 ちなみに、俺が必殺スキルを使用するのをあんなにも躊躇ったのにはもちろん理由がある。

 その前に俺が放った《蒼磨灯》はいくつかの条件によりその明るさを限界まで引き上げる事が出来る。

 一つは“《逸灯星》を現在出せる上限、つまり六つまで出現させ、その光量を最大にしておく事”、もう一つは“《研磨》を使用し、《逸灯星》の光で《蒼魔灯》を磨きあげる事”だ。

 他にも色々と条件はあるんだが、ややこしいので省く。

 

 そして必殺スキルである《至琉素》を使い、その光を更に強いものへと変化させた、という訳だ。

 

 普段は《蒼磨灯》なんてめんどくさいスキルは使わないんだが、今回はありったけの光をぶつけないとこちらがやられそうだったのと、ちょうど使用条件を全て満たしていたので本気の光を作り上げたのだ。

 

 っと、

 

「あったあった」

 

 アイテムボックスから手先の感覚だけで目当てのブツを見つけ出す。

 そしてそれを目をくしくししている気配のするフランに手渡しした。

 

「ほい、【劣化万能霊薬(レッサーエリクシル)】。これを目薬代わりに使いなさい」

 

 痛いですわー、じんじんしますわー、と恨み言を呟きながら目薬をさすフラン……え、できないの? しょうがないなぁ、ほら、顔上にむけて、はいポトン。ちゃんと落ちた? ほい、じゃあ目をしぱしぱさせてー。

 

「まだちょっと痛いですわ……」

「ごめんて。流石に<UBM>相手に出し惜しみとか出来ないし。現に俺も今【失明】してるし」

「……え、【失明】?」

 

 そう、フランに渡したのは俺のサングラス。ということは、必然的に俺がかけるサングラスは無いわけで、つまりあの光をモロに受けたわけで、絶賛目が見えませぬ。

 

「んー、ま、問題無い問題無い。【劣化万能霊薬】ではちょっと治りそうに無いけど、伝手はあるから」

 

 【薬学王(キング・オブ・ファーマコロジー)】のあいつとか【聖将軍(エル・ジェネラル)】のあの人とか。

 俺より先に超級職になりやがったあいつらならどうにかしてくれるだろう。てかしてくれないと困る。あの時やあの時の借りを返して貰わねば。

 

「それでは──」

 

 ん?

 

「改めまして、助けてくれてありがとうございますわ!」

 

 ああ、そうか。人助けしたんだな、俺。

 

「いいよいいよ、結果的にではあるけどこっちにも大きな収穫もあったし」

 

 【獄楽双鏡 ベンタブラック】。

 世界に一体しか存在しないボスモンスター。その魂と概念を具現化させた唯一無二のアイテム。

 特典武具なんてそうそう拝めるものでもないし、それを俺が手に入れたなんて未だにちょっと信じられない。

 

「いいえ! それだけではわたくしの気がすみませんわ!」

 

 ほんとにいいのに。

 逆に感謝したいくらいだ。

 <UBM>に襲われてくれてありがとう……いや絶対違うな。

 

「お礼に何でも仰ってくださいな! リュミエール家の名にかけてどんな願いでも必ず叶えて差し上げますわ!」

 

 おお、この言い方はやはり貴族。

 

 で、言っちゃいましたか……。

 

「……ほう、なんでも、と?」

 

 その言葉は禁句だぜぇ? ほんとになんでもしていいのかぁい?

 

「…………はっ!? も、もしかして、わたくしに、エ、エッチな事を?」

「え、していいの?」

 

 割とするよ? 俺割と普通にするよ? 現実ではしないけど、ゲーム内ならするよ? ましてやティアンとか……うん、する。

 

「ダ、ダメに決まってますわ! そういうのは心に決めた殿方とだけにしなさいとお母様も仰っていましたし……」

「リュミエール家の名にかけてーどんな願いでもーなんちゃらー」

「そ、それは……」

 

 やば、この子からかうの楽しい。

 

「はっは、ごめんごめん冗談だって」

「じょ、冗談!? 酷いですわ! 乙女の心を弄ぶなんて!」

「ごめんて」

 

 フランがポカポカとグーで殴ってくる。全然痛くない。むしろ微笑ましい。

 

 やがて疲れてしまったのか、ようやくフランの猛攻が止む。

 そのタイミングで俺は口を開いた。

 

「あ、そうだ。フランはなんでこんなとこにいたんだ?」

 

 それがずっと引っかかっていた。俺が見る限り(見えない)フランは完全にティアンだろうし、こんな森の奥深くに一人で来るとかすごく危ないことだと思うんだか。

 

「そ、それは……」

 

 フランは口を噤む。

 

「怒んないから、お兄さんに話してご覧?」

「いや貴方、わたくしと歳そんなに変わらないでしょう!」

 

 少し茶化してみたりもしたが、やっぱり言いたく無いようだ。

 これは結構重い話なのだろうか。

 

「まあ、別に、言いたくないなら言わなくてもいいんだぞ?」

「……いえ、命の恩人に対してそんな恥知らずな事……出来ませんわ」

 

 それでもフランは大分言い淀んでいる様で、結局数分程の時間を置いた後、ポツリポツリと語り始めた。

 

「……お父様が言いましたの、お前を【聖騎士】にさせられない。お前はまだ子供なんだって」

 

 ……【聖騎士】。

 

「それでついカッとなって言ってしまったの、お父様なんて大嫌いって」

 

 ああなるほど。親子喧嘩か。

 

 けど、その結果こんな森の奥深くに来たんじゃあ世話ねえな。

 

「それは……いつの間にかこんな所まで来てて」

 

 いつの間にかで来れるほど生易しいフィールドじゃないんですが……。

 

 聞けば、フランは下級職六つを既にカンストさせ、【聖騎士】の転職条件である、“亜竜級以上のボスモンスターを自分で50%以上のHPを削って討伐する”も満たしていると言う。

 

 ティアンで下級職を六つ全て持てるというのはかなりの才能だ(天地を除く)。フランは貴族なだけあってそこいらのティアンよりも大きな才能を保持しているらしい。

 

 その強さと、道中に強力なボスモンスターに遭遇しなかった運のおかげもあって、フランはここまで生き残る事が出来た、という訳だ。

 

「本当は分かってますの……お父様はわたくしに危ない道に進んで欲しくないって」

 

 なんだ、分かってるじゃないか。

 

「でも、わたくしは【聖騎士】として人々の役に経ちたいんですわ!」

 

 それも立派な志じゃないか。

 

 だが、それで父を退けるなんて間違ってると思うぞ。

 これは善意じゃない。ただの経験だ。

 

「……居なくなってからじゃあ、遅いんだぜ?」

「そう、ですわよね……」

 

 辺りは沈黙に満たされる。

 きっとフランは苦悩しているのだろう。

 

 やがてフランは決意と共に声を上げる。

 

「決めましたわ! わたくし、お父様に謝る! その上で、もう一度【聖騎士】に推薦して貰えるように頼みますわ!」

 

 あーいい子。すごいいい子。

 

「ほんと可愛いなぁ」

 

 あ、思考が口から出た。まあ、ティアンだしいいか。

 

「な、か、可愛い……!?」

 

 目は見えないけど、フランの顔が赤くなっていくのが何となく分かった。

 

 ◇

 

 帰り道。

 フランと俺はあれから一言も発することなく、黙々と森を抜けていった。

 俺は【失明】により目が見えないので、フランと手を繋ぎ、案内してもらう形になっている。

 

「あ、そういやお願いなんだけどさあ……」

 

 俺は立ち止まり、手を解くと唐突にフランに話しかける。

 これはさっきから言おうと思っていた事だった。

 なんだか変な空気になったのでタイミングを見て言おうと思ったが、そんなタイミングこなかったので今言う。

 

「…………もう、なんですの! 早く言うですわ!」

 

 恐らくは照れから早くと急かす彼女に、俺は気配を頼りに右手を差し出す。握手の為だ。

 

「俺も【聖騎士】に推薦してくれる様に頼んでくんない? 一緒になろうぜ、【聖騎士】」

 

 

 俺の光と闇が合わさり最強生活の幕が今上がった。

 

 

 ◇◇◇

 

 そのマスター、【暗黒騎士】カノッピ。リアルでの本名がカノン・リュミエールなのは偶然かそれとも運命か。

 ともあれ彼は修羅ではない。超絶的な技巧も、狡猾な頭脳も、狂気を孕んだ様な精神性も、彼は持ち合わせていない。故に多種多様なスキルを駆使した戦闘と、数多のゲームで培った経験を武器に彼は戦う(遊ぶ)

 

 そしてその<エンブリオ>、【青天星 シリウス】。

 それは光を生み出し、光を極光に変える。TYPE:エレメンタルワールドたるその<エンブリオ>が高めるものは明るさ。

 まさに光を追い求めた彼らしい<エンブリオ>だろう。

 

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて、光を求め、闇を恋した遊戯派プレイヤーである。

 

 

救世主(ライト・ソース)〗。カノッピ。

 

 




(U ^ω^)<光と闇が合わさって実際割と最強な人

(U ^ω^)<あとラノベ主人公

(U ^ω^)<六つの《逸灯星》と一つの《蒼磨灯》、あと【獄楽双鏡】で“七輝夜煌”って呼ばれてる


 □<エンブリオ>について

(U ^ω^)<【青天星 シリウス】

(U ^ω^)<彼の<エンブリオ>は純粋な光エネルギーを顕現するものです

(U ^ω^)<故に熱は発生しません

(U ^ω^)<そのことについて何かしらの科学的な矛盾が生じているとしたら……

(U ^ω^)<ごめんちょ!

[ 'ω' ]<TYPE:エレメンタルワールド

[ 'ω' ]<エレメンタル???

(U ^ω^)<オリジナル枕詞です、エルダーじゃないです

(U ^ω^)<エンブリオの保有する属性そのもの、もしくはその性質を大きく引き上げた際に付いたり付かなかったりします

(U ^ω^)<別作のシャボンちゃんとかいつかこれになる可能性を秘めている


 □ちなみに

(U ^ω^)<彼が闘技場で嫌われてるのは

(U ^ω^)<眩し過ぎて何にも見えなくなるから

[ 'ω' ]<俺も嫌われてるぞ、俺以外何にも見えなくなるから(怒り的な意味で)

(U ^ω^)<それ君が悪いよね


 ◇


(U ^ω^)<次回、おみせやさんをしているかわいいおんなのこのおはなしです

(U ^ω^)<※ただしレジェンダリア民

[ 'ω' ]<あっ……

(U ^ω^)<見たり見なかったりしてね


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五人目 殴られ屋さんの一日

※この話には残酷というかナンセンスな表現がちょっとだけ含まれます。苦手な方は親御さんに読み聞かせてもらってください。


 □レジェンダリア 犯罪都市<メクテロロン>

 

 ここレジェンダリアにはどういった訳か特殊な性癖を持ち合わせる、いわゆる“変態”な<マスター>が多く生息している。

 その大半が自分の性癖ときちんと向き合い、自制を行う事が出来ているが、中には自分の性癖を隠そうともせず、寧ろオープンに降るまう輩がいる。

 有名なところで言えばやはりトップクランである<YLNT倶楽部>のオーナー、LS・エルゴ・スムだろう。

 

 しかし、そんな自分の性癖にオープンな輩の中でも更に質の悪い者が存在する。

 

 主に遊戯派の者達であり、他者の事など考えずに自身の快楽のみを求め愚行にはしる者達である。

 

 ゲームの中で、しかもアバターという仮初の身体を持つが故に行われるそれらの行動は純粋にゲームをエンジョイしたい者達からしたら不愉快以外の何ものでもない。

 

 大半の者は、その行為の結果罪に問われ、罰則スペースである“監獄”へと連れていかれる。

 

 だが、やはり例外というものは存在する訳で、罪に問えない変態行為というものがある。

 

 そこにいる彼女もそうだ。

 

 彼女は所構わずスクショを撮っては、風のように去っていくもの。

 そこには幾度となく鳴るシャッター音とコピーされた大量のツーショット写真だけが残る。

 

 たしかに迷惑な行為ではあるが、決して罪と言う訳でも無い。

 

 そしてやはり、変態というものは惹かれ合うものなのか、この都市にはそういう輩が特に多く生息している。

 

 そういった<マスター>の増加に伴い、ここ<メクテロロン>は“犯罪都市”と揶揄されるようになってしまった。

 

 ──“何をやっても許すから、何をやられても許せ”。

 

 それは<メクテロロン>において暗黙の了解とされている。

 法にさえ触れていなければ、そしてたとえ法に触れていたとしても本人達の了承があれば、ここでは全てが許されるのである。

 

 そんな<メクテロロン>の大通りに、惚けた顔でふらふらと歩く一人の少女が居た。

 

 少女はインナーの様な服(初期装備)を着込み、<殴られ屋(・・・・)>と書かれたプラカードを首から下げていた。

 

 殴られ屋。こことは異なる世界である現実(リアル)でも極少数ながら存在していたことのある職業だ。

 曰く、殴られることによって収益を得る者達。そのほとんどが男性であり、女性や子供がすることはおおよそ有り得ないものである。

 

 もちろん、今となってはその行為は法で規制され、その存在どころか、伝聞すら見聞きすることは少なくなったのだが。

 

 少女の放つ異様な雰囲気に近寄るものは……一定数いたが、それは物珍しさからでは無く、少女を殴るためである。

 少女を殴り、お金を放って早足に去っていく。おおよそ普通ではありえない行為。だが、その行為を咎めるものはこの街にはほとんど居ない。それはこの街がもはや見放された街であるから。

 そもそも、ここ<メクテロロン>ではこの様な職業は規制されていない。

 街の方々を見れば、花を売るティアンの少女や奴隷を連れた男などを見て取れる。

 

 そんな<殴られ屋>の少女に、話しかける者が居た。

 

「少し、お話宜しいでしょうか?」

 

 彼の格好は、燕尾服にシルクハット、さらにステッキという完全に英国紳士を意識したものであり、立ち振る舞いも英国紳士のそれに寄せていた。

 

「どうぞぉ、……あ、もしかしてお巡りさんですかぁ?」

 

 まともに声をかけられたのはこれが初めてなのか、紳士の声に少女は表情をパッと明るくさせ、その後、この街に一定数存在する治安維持の者なのかと表情をしゅんと暗くさせた。

 

「いえ、私はその様な職には就いて居ませんね」

「あぁ、じゃあお客さんですねぇ」

「はい、端的に言いますとそうなります。恥ずかしながら、私は貴方のようなか弱い少女に暴行を加える事に興奮を覚える質でして」

 

 常人が聞いたならおよそ全ての人が激しい嫌悪感を示す言葉だろう。だが、少女はその言葉にビクッと肩を震わせると、頬を上気させた。

 

「それはぁ……うぇへへぇ……興奮しますぅ」

 

 少女もまた普通ではない。その事実に紳士も興奮を覚える。

 

「私はジェンツ・パーバートと申します」

「いいお名前ですねぇ」

 

 それは、直訳して「変態紳士(意訳)」。そのおぞましい名を、少女は知ってか知らずか、いい名だと表現した。

 

「ありがとうございます。それで、貴方の事はなんとお呼びすれば宜しいでしょうか?」

「えっとぉ、アン、でいいですよぉ。もちろん、雌豚とかも大歓迎ですけどぉ、うぇへへぇ」

「分かりました。それではアンさん、とお呼びしましょう」

「あぁーんいけずぅ、ですぅ」

 

 アンは身体をくねらせる。

 そんな時、ジェンツは周囲から多数の視線を感じ、辺りをぐるっと見回す。そこで、自分達が見られているという事実を認識した。

 

「……こんな街中ではなんですし、私の利用する拠点へと向かいませんか? アンさんも衆人に晒されるのは気分が宜しく無いでしょう」

「うちはそれでも良いんですけどぉ、うぇへへぇ……お客さんがそう言うのならついて行きますよぉ」

 

 ◇

 

「さて、先に値段を聞いておきましょうか、ないとは思いますが、万が一払えないとなれば困りますので」

 

 自身の拠点へと辿り着いたジェンツは、早速とばかりに値段交渉へと映る。

 このような仕事には法外な値段が設定されている場合も珍しくない。

 最も、たとえどんなに法外な値段を提示されたところで、ジェンツに払えない道理など存在しなのだが。

 

「えぇーっとぉー、言い値でいいですよぉー。なんならタダでもぉ、それはそれで興奮しますしぃ……」

 

 だが、予想に反してアンの返答は酷く適当なものだった。

 どうやらお金には頓着していないらしい。

 

「いえ、私は労働には対価があるべきだと考えていますので、それでは後程私の満足度合いに応じて報酬をお支払いしましょう」

「おっけーですぅ。はやくしましょぉ」

 

 アンが急かす。

 だが、ジェンツは前戯をこそ大切にするべきだと考えている者の一人だった。

 故に、焦らす。

 

「その前に貴方のステータスやメインジョブ、出来ればリアルでの年齢などもお聞かせくださいませんか? もちろん、答えたくないのであれば構いません」

 

 アンは少し考え込んだが、やがて語る。

 

「……いいですよぉ、えっとぉ、ステータスはあんまり覚えてないですぅ。でもぉ、<エンブリオ>のステータス補正は低かった筈だから、あんまり無いと思いますぅ」

「なるほど」

「それでぇ、メインジョブとかはよく分からないけどぉ、ジョブには就いてないですぅ。<ティアン>の子供はジョブに就かないらしいですしぃ、硬くなったら気持ち良くなくなるじゃないですかぁ」

「ほぅ……」

「あとぉ、年齢は九歳ですぅ」

「っ! ……それは、本当でしょうか?」

「はぁい、嘘じゃないですよぉ。……うぅ、こんなとこでリアル小学生暴露は恥ずかしいですぅ、すっごく興奮しますぅ」

 

 もちろん、彼の持つ《真偽判定》に反応は無かった。

 

「それは……とても素晴らしい」

 

 ジェンツは歓喜した。それこそ、今日の巡り合わせを心中で神に感謝するほどには。

 

「……そろそろ始めませんかぁ? もしかしてそういう(・・・・)やつですかぁ? それなら構いませんけどぉ」

「……いえ、そろそろいいでしょう」

 

 その言葉に、アンの頬が上気する。息は小刻みに浅くなり、心臓は早鐘を打つ。

 

「貴方がどれだけ泣き叫ぼうと、私は構わず続けますので、何卒御容赦を」

「……ひへ」

 

 これより始まるのは狂乱の宴だ。

 

 それは筆舌に尽くし難い暴力と被虐の一夜。

 

 その甘美な想像に浸かりながら。

 

 ──アンは背中に鞭の衝撃を覚えた。

 

 ◇

 

「ふぅ……ひひっ」

「ふぅー、ふぅー」

 

 アンが息を荒らげていた。ジェンツもまた、息を荒らげていた。

 

「……失礼、少し興が乗ってしまいました」

「ばっちこいですよぉ、もっとぉお願いしますぅ……」

 

 露出した腕や腿から、柔肌を裂いた数多の鞭痕を晒しながら、アンは更に上の快楽を要求した。

 

「……いいでしょう、それでは私も少し本気を出すとしましょうか」

 

 ジェンツがアイテムボックスへと手を伸ばす。

 

 

 ──その時だった。

 

 

「治安維持クラン<r(ロール)18(エイティーン)S(セイクリッド)P(プリシンクス)>のカスガイだ!」

 

 彼は唐突に、酷く唐突に現れた。

 そしてアンからジェンツを引き剥がすと、アンの身柄を抱きあげ、肩に抱えた。

 

「あぁ! やめてくださいぃ! 合意、合意の上でやってるんですぅ!」

「たとえ合意であったとしても、君のような子供に暴行を加えることは一般的に考えて良しとしない。よって君の身元はこちらで預からせてもらう。二度とこの様な気が起きないように徹底的に躾てやろう」

 

 彼は何者か。

 彼はメクテロロンのみならず、レジェンダリア全体に置いても尚珍しい、治安維持に務めているクラン所属のものである。

 変態の巣窟であるレジェンダリアで態々治安維持に働こうなどという酔狂な者達は、<R18SP>を除けば他には七大国家全てに拠点の存在する<モヒカン・リーグ>くらいしか居ないのではないかという程に少ない。

 

 ともあれ、たまたまメクテロロンに居合わせたカスガイにより、アンは捕らえられたのだ。

 

「え、それは…………いやですぅ! お客さん、助けてぇ!」

 

 躾てやろうの言葉に若干の食指をそそられたアンだったが、すぐにその考えを振り払い、ジェンツに助けを求める。

 アンも、自身が普通で無いことは理解していたが、かといって真人間になりたい訳でもないのだ。

 

「アンさん!」

 

 ジェンツが手を伸ばす。

 

「《早縄・柳颪(やなぎおろし)》!」

 

 が、その手は、身体は、カスガイの持つ縄によって拘束されてしまった。

 

「お客さぁん!!」

 

 ジェンツの健闘も虚しく、カスガイはアンを担ぎ消えていった。

 

 後に残るのはカスガイの縄により柱に縛り付けられたジェンツのみとなった。

 

 何とか縄を解こうともがくジェンツだった。だが、唐突に全身に力が漲るのを感じる。

 

「何でしょう、これは。かつて無いほどに力が湧いてきます。それに、アンさんが何処にいるのかも何となく分かる……これなら」

 

 ジェンツは腕に力を込め、縄を無理やり引きちぎる。通常であれば不可能な行為。だが、今日この時に限ってジェンツにはそれが出来た。

 

「アンさん、私が必ず救い出しましょう。そしてまた、あの甘美な時間を……」

 

 紳士は決意を胸に、拳を硬く握り締めた。

 

 ◇◇◇

 

 ■<R18SP>本拠地

 

 そもそも、何故アンを捕らえたのか。

 先程の光景を加害者と被害者に分けるとしたならば、捕らえられるのは必然ジェンツの方である。

 

 ではなぜアンなのか。

 

 それはカスガイのエゴである。

 本来ならば、アンとジェンツの行為は罪に問われるものでは無い。本人達の了承があるならば、それは誰に咎められることも無い、絶対の聖域であるべきなのだ。

 だが、カスガイはそれをよしとしなかった。リアルでもゲームでも正義感の強い彼は、軒先から強く感じた《他危察知》の警報に、我慢が効かなかったのだ。

 

 故に、未成年保護クランでもある<R18SP>のサブリーダー、カスガイはまた(・・)拉致という許されざる罪を犯してしまった。

 

「うぇへへぇ、人質だぁ。興奮しますぅ」

「……まずはその性根を叩き直す所からだな」

「うぇぇ、そうゆうのはご遠慮したいですぅ……うちはこのままで大丈夫ですよぉ」

 

 自らを庇うように手を盾にする彼女に、カスガイは心底呆れたようにため息を零した。

 

「全く、どういう躾をされたらこんな子供が出来るのか」

「あぁ、ママもパパももういないですよぉ」

 

 軽い調子で吐かれたその言葉に、その場の空気が固まった。

 

「二人ともお巡りさんのところに行っちゃいましたからぁ」

「それは……すまない」

「いやぁ、児童虐待で捕まっただけですしぃ」

 

 児童虐待。

 それが彼女が歪んでしまった最大の要因なのだろう。

 自己防衛本能。

 自身を狂気に染めなければ、彼女は生きて行くことができなかったのかもしれない。

 カスガイは彼女に同情の念を抱くと共に、やはり彼女は救われるべき存在だと再認した。

 

「はぁ……早く戻って来ないかなぁ」

 

 が、そんなカスガイのエゴに反して、アンは両親との再会を心待ちにしていた。

 そんなアンの気持ちを、カスガイには理解することが出来なかった。

 

「……君は虐待を行った親に会いたいのか?」

「会いたいですよぉ? なんで会いたくないと思うのかうちにはわかんないですぅ」

「それは……また虐待を受けるかもしれないだろう」

 

 それは、至極当然の疑問であった。おおよそ普通の人間ならば耐え難いこと。それをまた受けるかもしれないというのに、何故会いたいのか。

 だが、その疑問を彼女にぶつけるのは違った。彼女はおおよその普通と呼称される人間では無かったからだ。

 

「それの何がいけないんですかぁ?」

 

 アンは事も無げにそう返した。

 

「みんなおかしいんですよぉ。どうして自分のものさしでしか物事を考えられないんですかぁ? 先生も、警察も、貴方も、みぃんなうちの気持ちを分かってくれないんですよぉ」

 

 愕然とするカスガイを尻目に、抱えた膝に自らの頭を押し付けた。

 

 ──そんな気まずい空気を吹き飛ばすように扉が勢いよく開け放たれる。

 

「カスガイさん! 門番が何者かにやられました!」

 

 その突然の報告に、しかしカスガイは即座に対応する。

 

「なんだと!? くそっ、オーナーは今別件で居ない……しかたない、俺が指揮を執る!」

「はいっ!」

「すぐにクランハウス内の警報を鳴らせ! あとは、お前、残って状況の説明を頼む!」

「了解です!」

 

 カスガイは報告者達に的確な指示を送る。

 

「では、門番がやられた経緯について細かい説明を頼む!」

「はい! 先程クランハウス入り口の近くで悲鳴が聞こえました! そこで我々が向かってみると、そこには白目を向き倒れ伏した門番が居ました!」

「ふむ、その門番達に外傷は?」

「特に見当たりませんでした。しかし、そのステータスには数種類の精神系状態異常と、【発情】という見たことの無い特殊な状態異常が明記されていました!」

 その言葉に、カスガイの表情が曇る。

 

「【発情】……“感情前線”か」

「か、“感情前線”ですか?」

「ああ、お前が知らないのも無理はないだろう。これはクランの中でもひと握りのものにしか知らされていない情報だ」

 

 顔も名も知られていない。

 麻薬売買に特化した商人系統派生職、【薬売人】系統、その超級職、【幸売(ハッピー・バイヤー)】。

 その頂きに立ち、レジェンダリア近辺で人知れず麻薬を売り捌く者。

 

「それが奴、“感情前線”だ」

「そ、そんな奴が居たんですか……」

 

 何故ひと握りの者にしか知らされていなかったのか。それは【幸売】の麻薬に惹かれてしまうのを防ぐ為だ。

 【幸売】を知った者は気になってしまう。どんなに自分を律しても、その誘惑からは逃れられない。

 そんな者達に【幸売】は甘く語りかける。そうして気づいたときにはもう手遅れだ。その手を振りほどく事さえ出来なくなる。

 そんな理由から、この情報は一部の者、一定以上の位に就く、マスターのみ(・・・・・)にだけ開示されている。

 

「しかし、一体なぜこのタイミングで……しかもあいつは非戦闘員のはずだ。意図が読めない」

「──お客さんが助けに来てくれたんですよぉ。うちには分かるんです、うぇへへぇ、嬉しいですぅ」

 

 アンはにやにやと下卑た笑みを浮かべた。

 

 ◇◇◇

 

「──《インダファニット・マッドネス》」

 

 キリキリと発条(ぜんまい)の巻かれる音が響き渡る。それに乗じて男の悲鳴も大きくなる。

 

「はぁ、男の悲鳴など、穢らわしい以外の何者でもありません」

 

 男に馬乗りになったジェンツは頬杖を付き大きくため息を吐く。

 

「くそっ! カスガイさんの下には行かせるな!」

「おう!」

 

 通路の奥からは、ぞろぞろとクランの構成員がやって来ており、ジェンツを捕獲しようと迫る。しかし、通路が狭い事やここが自分達の拠点である事もあり、なかなか派手な攻撃を出来ずにいた。

 

「何人で来ようと変わりませんよ。むしろ的が増えてちょうどいいですね」

 

 ジェンツは、剣を構えて突っ込んできた者を、ちょうど馬乗りにしていた男を盾にする事で無力化し、自身のアイテムボックスより一つの包みを取り出す。

 

「クソっ、捕縛陣いくぞ! 《一筋縄で(ナワノウレン)》」

「「「《包囲網》!!」」」

 

 リーダー格の男が発動した必殺スキルにより呼び出された縄を使用し、いつの間にか現れていた後方の敵と協力して【警官】系統のスキルである《包囲網》がジェンツの周りに敷かれる。

 スパイ映画で見るような赤外線の様に張り巡らされた縄がジェンツの退路を消した。

 

「成功だ! これでやつはここから動けん!」

 

 【警官】達が歓喜に沸く。しかし、ジェンツは酷く冷静だった。

 

「はて、なぜ私が動く必要があるのでしょうか?」

 

 ジェンツの言葉に、【警官】達が訝しげにジェンツを見張る。

 

「では、返してもらいましょう」

 

 ジェンツが掌に乗せた小さな包みを解くと、サラサラと神経弛緩の銀の粉が宙に舞う。

 

「──《テイスティング・ドラッグ》」

 

 麻薬は撒かれ、人々は【依存】する。

 

 ──抗える者は、何人たりともいない。

 

 ◇

 

「アンさん!!」

 

 維持者が居なくなった(・・・・・・・・・・)事で効力を失った《包囲網》の縄をくぐり抜け、奥の部屋へたどり着いたジェンツはその扉を勢い良く開け放つ。

 

「お客さぁん! 来てくれたんですねぇ!」

 

 アンが歓喜の声を上げた。

 

 が、ジェンツとアンとの間にカスガイが割り込む。

 

「ここから先に行かせるわけにはいかんな」

 

 カスガイは十手を構える。

 

「御用だ! ──《雨突(うづ)き》!」

「貴方に用はありません! ──《ブローアップ・エモーション》!!」

 

 警官と売人が衝突する。

 

 だが、その戦闘は稚拙の一言に尽きた。

 

 もちろん、カスガイは治安維持クランのサブオーナーとして数多くの《逮捕術》系統スキルを収めていたし、戦闘センスもあり、普通戦闘で使用される事の無いであろう十手を上手く戦闘に組み込んでいた。

 しかし、対するジェンツの戦闘は子供の遊戯にも等しい者で、武器も持たず、カスガイの動きにも酷く大雑把に対応していた。

 

 そして、カスガイの就くジョブは【警官】系統超級職【監察王】であり、そのステータス、スキルは捕縛に比重を置いておりながらも確かに戦闘系の超級職である。

 

 対するジェンツは、【薬売人】系統超級職である【幸売(ハッピー・バイヤー)】。

 超級職ではあるため、そのステータスは戦闘系上級職よりは高い。しかし、スキルは完全に商人系統のそれであり、戦闘に分類されるスキルなどほぼ無いに等しい。

 

 このことから、この戦闘において圧倒的優位を保っている者がカスガイである事は明らかである。

 

 ──この場にアンが、アンチ・バードックが居なかったら、の話だが。

 

「お客さぁん、頑張れぇ!」

 

 なぜ未だに戦闘が続いている、続く事が出来ているのか。

 

 それは、ジェンツのステータスがカスガイに比べて圧倒的に勝っていたからだ。

 

 アンの<エンブリオ>のスキル、《日没のホサナ》とは、自身を救うもののステータスを大幅に上昇させるというもの。

 それにより、ジェンツのは急激に力を増していた。

 

 多少の差では、カスガイの技術に追いつけず、すぐにジェンツが倒されるだろう。

 

 だが、今のジェンツのステータスはカスガイのおよそ三倍。その圧倒的ステータス差によってこの戦闘は続く事が出来ていた。

 

 そして今、カスガイの十手の雨を潜り抜け、ジェンツはカスガイの身体に自らのぜんまいをくっつける事に成功した。

 が、カスガイは冷静だ。

 

「話は通っている。このぜんまいさえ回さなければそのスキルは脅威たり得ない」

「問題ありません、ええ、問題ありませんとも。──《ぜんまい仕掛けの》」

 

 ジェンツによるスキルの宣言の後、その効果は現れる。

 

「なにっ!?」

 

 キリキリ、キリキリとぜんまいが自動で巻かれてゆく。そのスピードは酷くゆっくりなものだったが、確実にカスガイの状態異常は進行していった。

 

「そんなものを隠していたのか……」

「札は隠すものですからねえ、ええ」

 

 先の《ブローアップ・エモーション(感情の爆発)》と合わせて、カスガイの精神系状態異常への抵抗値はかなり下がっていた。

 精神系状態異常の対策のためのアクセサリーを装備していたカスガイではあったが、そんなものは“感情前線”の前には意味を果たさない。

 

 そして遂にジェンツが攻撃以外の行動に出る。

 アイテムボックスから《即時放出》されて出てきたのは光り輝く粉。それは麻薬では無いものの、【劇薬師】にも就くジェンツにとって身近な薬、一定の確率で怯みを引き起こす精神系状態異常【恐怖】、そして光により視力を低下させる制限系状態異常【盲目】。

 その二つの状態異常を起こす薬をジェンツはばら撒く。

 

「くそっ」

「ひぇぇ、チカチカのビクビクですぅ。眩し止まりですぅ」

 

 無論、周囲への配慮を考えずに撒かれたそれはアンの目にも直撃する。

 耐えられたのは《精神耐性》、《制限耐性》などの状態異常対策装備を纏い、薬物にも多少の耐性がつく《麻薬耐性》LvEXを持つジェンツのみであった。

 

 そうして続く戦闘。

 カスガイの目が潰れ、行動がある程度不自由になった今、この場を支配していたのは完全にジェンツであった。

 

 本来ならばこのまま薬物をばら撒いていればいずれ勝てる勝負だっただろう。

 即効性の致死毒を撒いてもいい、このまま心臓麻痺する程の制限系状態異常を与える薬物もいいだろう。

 しかし、この場にはアンがいる。

 生憎、ジェンツには薬物散布の対象を絞るようなスキルは持ち合わせていなかった。これではアンにまで被害が及ぶだろう。

 直接飲ませようにも、不用に近づけばいくら制限された状態であろうとカスガイなら反撃してくるだろう。

 それに、TYPE:ルールなどの目に見えないものでもない限り、カスガイはまだ自らの<エンブリオ>を一度も使用していない。カスガイにどんな隠し球があるか不明な以上、直接飲ませることは今はするべきでは無い。ジェンツはそう判断した。

 

 故に近接攻撃。ヒットアンドアウェイによる打撃で確実にカスガイを殺ぐ。

 

 ジェンツの打撃を食らい、更に撒かれた薬により新たな状態異常にかかるカスガイ。確実に余力を無くしていくカスガイに対し、未だ五体満足のジェンツ。

 この戦闘はジェンツとアンの勝利へと収束しようとしていた。

 

 が、カスガイは諦めない。

 それが自身のエゴだから。

 カスガイに出来る唯一の償いだから。

 

 カスガイは見つける。ジェンツの隙、カスガイの入り込める程の大きな隙。

 そしてカスガイは成功する。ジェンツに触れる事に。

 それは指先が触れる程の、小さな小さな接触。だが、カスガイにはそれで充分だった。

 

「捕まえたぞ! 《観察処分》!!」

 

 カスガイが触れた部分、燕尾服から露出していたジェンツの手首に鎖のようなタトゥーが浮き出てきた。

 

「これは……?」

「もう逃がさんぞ、ジェンツ・パーバート(・・・・・・・・・・)

「……何故その名を?」

 

 ジェンツの名を知るのは、この場ではカスガイ以外の二人だけのはず。アンが名を教えたのか。いや、その可能性は低いだろう。アンはジェンツをお客さんと呼んでいる。さらに、客であるジェンツの個人情報を晒す事をアンがするとは思えない。

 

 では何故ジェンツの名を知っているのか。それは先のスキル、《観察処分》の効果である。

 

 対象の身体に触れる事が条件であり、相手のステータス、居場所をミリ単位で正確に随時確認し、絶対に逃がさないようにするスキル。

 これこそが【観察王】の奥義、《観察処分》である。

 

 そのスキル能力を駆使し、カスガイはすんでのところでジェンツの猛撃をくぐり抜ける。

 だが、【盲目】の状態異常はそれで無効化出来ても、【恐怖】の状態異常が依然カスガイを苦しめる。

 

 いつ来るか分からない怯み。それはカスガイの中に不安となってのしかかり、結果カスガイは短期決戦を迫られていた。

 

 が、そんな極限の状態の中、カスガイはジェンツのしっぽを掴むことに成功する。

 

「《環那突き》!」

「なっ!?」

 

 それは完全にジェンツの隙を突いた攻撃であり、大きく円を描く様に突き出された十手に服の端を引っ掛けられたジェンツは、そのまま地面に尻もちを着くことになる。

 

 そしてそれは大きな、大きな隙となる。

 カスガイは《即時放出》を使い、迅速に頑丈な縄をアイテムボックスより取り出す。その際に【恐怖】が発動し、一瞬の怯みがあったが、もはやそんなものは関係ない。

 

「取った! 《悠拐(アブダクト)》、《早縄・五体不満足》!!」

 

 縄がスルスルとひとりでに動き、ジェンツの四肢を完全に拘束し、微動すら出来ぬように縛りつける。

 

「くぅっ!!」

 

 無様に地面に転がるジェンツは何とか縄から逃れようと身を捩るが、縄は微動だにしない。

 カスガイはこれ以上の抵抗をされないように、スキルを用いて縄の強化を試みようとする。

 

「──うちに任せてくださいぃ!!」

 

 と、そこで後ろから声がする。それは自身に満ち満ちたアンの言葉であり、それは確かに何かを起こそうと企むものの声だった。

 

「うぇへへぇ、うちをか弱い少女だと思って油断しましたねぇ?」

「なんだっ!」

 

 咄嗟にカスガイは後ろを振り向く。

 

「まあ、ほんとにか弱いからこの縄を解くことすら出来ないんですけどねぇ」

 

 そこには依然縄に撒かれたままのアンが情けなく寝転がっていた。目の焦点はあっておらず、時折ビクンビクンと静止する事から、【盲目】と【恐怖】の状態異常も治ってないことが伺える。

 

 しかし、カスガイは確かに振り向いた。それが油断に繋がる。

 

 その一瞬の隙を見たジェンツは先とは別のアイテムボックスから《即時放出》により腐食性の毒薬液を取り出し、縄を腐らせる。

 そうして脆くなった縄を腕の力のみで縄を引きちぎり、脚の縄も同様に引きちぎる事で拘束から逃れてしまった。

 それに気づいたカスガイは再度捕縛を試みるが、ジェンツが距離を離したことによりそれはあえなく失敗に終わる。

 

「でもでもぉ、うちはお客さんの味方なんですよぉ?」

 

 そんな事をやっているうちにもアンの口上は続いた。カスガイを、そしてジェンツを(・・・・・)追い詰める、追い縋るために。

 

「──《信じぬ者は掬われる(セリヌンティウス)》」

 

 カスガイは迂闊だった。彼女もまた<マスター>なのだから、ジョブなどなくとも当然<エンブリオ>によるスキルは使えたのだと、彼は気づけなかった。

 

 そしてアンの、【神風主義 セリヌンティウス】の必殺スキルが行使される。

 が、特に派手なエフェクトが発生することも無く、何も起きない。

 

「な、なんだ? 何も起きない……?」

 

 カスガイが怪訝な顔を浮かべたのも束の間、その効果は現れる。

 

(──右ですよぉ)

 

 突然脳内に響いた声に、カスガイは咄嗟に右に避けた。

 刹那、その声がアンの者だと気づき、敵の罠に嵌ってしまったと嘆く。

 

 だが、その予想に反し敵の攻撃がこちらに至ることは無く、先程まで自分が居た場所にはジェンツの拳が迫っていた。

 

「避けますか……」

 

 ジェンツの嘆きに、この一連の流れにジェンツが関与していないことが分かる。

 

「……何のつもりだ、アンチ・バードック」

 

 突如自身の味方を始めたアンに、カスガイは戸惑いを隠しきれないでいた。

 

「なんの事ですかぁ? うちは何にもしてませんよぉ?」

 

 必殺スキルを使用したにも拘らず、何もしていないと下卑た笑みですっとぼけるアン。

 

(──左行ってジャンプですぅ)

 

 だが、その言葉とは裏腹に、次の指示がカスガイの頭を過る。

 

 ──くっ、これは罠だ! 相手のペースに乗るな!

 

 そう自分に言い聞かせるカスガイだが、相手が自身のAGIを遥かに上回っており直感で避けるしかない現状の中、アンの示す行動指針は魅力的なものであり、尚且つ一度はそれで助かっている。

 結局、カスガイは無意識にアンの指示に従ってしまう。

 

 結果、ジェンツの繰り出したパンチ、そして足払いの二つを避ける事に成功する。

 

 必然、カスガイは安心する。もちろんこれも無意識下での安心だ。だが、二度指示をだされ、二度助かった。その事実はカスガイの深層心理にこびりつき、離れなくなっていく。

 

 その後も、カスガイは頭では抗いつつも、身体が勝手にアンの指示どおりに動きだす。

 アンの指示は的確であり、カスガイの【恐怖】の怯みも考慮された先にある最適解を提示してくれる。カスガイには反撃をする余裕こそ無かったものの、確かな光明が見えるのが分かった。

 

 そして、遂にその時が来る。

 

(──次は左ですぅ)

 

 カスガイは左に避ける。

 避けた先にはジェンツの拳が迫っていた。

 

「ぐはぁっ!!」

 

 必然、カスガイはその拳をモロに食らってしまう。

 

「ふぅっ、ようやく当たりましたねえっ!」

 

 ジェンツはこれまでのアンの指示を知らないため、状態異常に侵されながらも紙一重で避け続けるカスガイの能力の高さに焦りを覚えていたところだった。

 

 だが、当たった。これで事態は好転する。ジェンツの方へ。

 

 当たる。ジェンツの攻撃、その全てが。

 

 カスガイの行動。その全てが裏目に出る。

 

 一度間違えた(・・・・)アンの指示を再び聞き入れようとするほどカスガイも馬鹿ではない。

 が、カスガイがアンの指示を無視する度に、一撃、また一撃とジェンツの拙い拳が刺さっていく。

 

 そのため渋々アンの言葉を聞き入れたとしても、何度目かの一撃をモロに食らってしまう。

 

 このままでは本当に死んで(デスぺナって)しまう。

 そう考えたカスガイは、ジェンツに殴られながらもアンに説得を試みる。

 

「がっ、アン! 君はそれでいいのか!?」

 

 それ、とはジェンツとの関係の事であろう。苦痛を介して人と触れ合う事しか出来ないアンには少しも響かない言葉だ。

 

「君がジェンツを救っても、待っているのは苦痛のみのはずだ!」

 

 そう、苦痛こそアンの求めるものであり、カスガイはどこまで行ってもアンを理解出来ていない。

 

「君の父母が君にした事を繰り返すだけ! そこに愛なんて無いんだ!」

 

 愛なんて無い。

 その愛の無い言葉に、遂に、遂にアンは激昴する。

 

「さっきからぁ……うるさいんですよぉ!!」

 

 その言葉に、カスガイはもちろん、ジェンツすらも固まる。

 

「なんですかぁ!? うち言いましたよねぇ!? パパもママも大好きだって!! それを愛だのなんだの……そんなのどうでもいいんですよぉ!!」

 

 この場をやき尽くしてしまいそうな程の激情。

 だが、凍りついた周りの空気に、アンの言葉はだんだんと尻すぼみになっていく。

 

「待ってるんですよぉ、ずぅっとぉ……」

 

 縛られ、転がったままのアンは芋虫のように身体を丸くし、自身のひざに顔を埋めた。

 

「うぇへへぇ……ごめんなさいぃ……」

 

 そうして出されるのは謝罪。苦痛の次にアンの得意とするコミュニケーションだ。

 

「針のむしろですぅ、興奮しますぅ」

 

 ゾクゾクと身を震わせているアンに対し、ジェンツもまた身を震わせる。

 

「素晴らしい!!」

 

 ジェンツが、今日一番の声量を出し、喝采を上げる。

 

「やはり人の感情が溢れる様は酷く美しく、そして酷くいじらしい」

 

 ジェンツの目線の先にはアンがいる。アンは未だ状態異常に侵されたまま、先の自分の所業に悶絶している。

 

「アンさん、貴方は最高です」

 

 ジェンツはアンを愛おしそうに見つめる。

 

「どんな犠牲を払おうとも、貴方を救いましょう──」

 

 カスガイに取り付けていたぜんまいが、サラサラと崩れ、粉となり消えてゆく。

 そうして自らの<エンブリオ>をコストにする事で発動する。

 

 ジェンツの、【発情発条 ティンマン】の必殺スキルが。

 

「──《罅く心臓、空の脳(ティンマン)》」

 

 それはただ一つ、感情のみを求めて。

 

 ◇

 

 □ティンマンについて

 

 ティンマンとは、オズの魔法使いに登場するブリキ男の事である。

 オズの魔法使いに登場するドロシーと三体の仲間。

 

 勇気を求めたライオン。

 

 脳を求めたカカシ。

 

 そして、感情を求めたブリキ男。

 

 それぞれがそれぞれに無いもの、焦がれたものを欲し、旅を共にした。

 

 そうした性質がジェンツの<エンブリオ>であるティンマン、その必殺スキルに現れている。

 

 その効果とは、<エンブリオ>をコストとして、ぜんまいを取り付けていた対象に【恐慌】、【痴呆】、そして【激情】という強力な精神系状態異常を与えるというもの。

 

 普通なら、感情が無かったブリキには勇気と脳があったという解釈になるだろう。

 お互いが、自身に無いものを願ったわけであり、ライオンには脳と感情が、カカシには感情と勇気が最初からあったのだと。

 

 だが、感情を取ったブリキ男は、代わりに勇気と脳を捨てた。

 そんな解釈も出来るのでは無いだろうか。

 

 ◇

 

 □決着

 

 【恐慌】、【痴呆】、そして【激情】という三種の強力な状態異常に侵され、蟲の様に床に這い蹲るしかないカスガイに対し、ジェンツは優しく語りかける。

 

「これは私の“とっておき”です。とある国で造られている【ホムンクルス】を材料にした麻薬。吸えばたちまち【幻覚】に見舞われ、生前の【ホムンクルス】を追体験する事ができるでしょう」

 

 手には一つの胎児型の固形薬があり、それは禍々しいオーラを放ち、時折赤子の泣くような声がしていた。

 【アゲインライフ】。それがその麻薬の名前。

 文字通り、【幸売】ジェンツ・パーバートの“とっておき”であり、その最たる特徴とは、“マスターにも効果を及ぼす”というものだ。

 

 普通、【麻薬】というアイテムは使用者の思考を弄る事により、快楽等を与える禁忌のアイテムだ。

 【薬師】にも作ることは可能だが、ギルドに所属していないものがレシピを所持する事さえ重罪であり、見つかれば即刻牢獄行きだろう。

 故に、闇に生きる【麻薬師】や【劇薬師】を除き、麻薬を作ろうとする者はいない。

 

 そして、その麻薬を専門に取引するのが、他でもない【薬売人】である。

 彼らは法に則った手順を介して麻薬を売買し、その対価として金銭を得る。

 

 だが、その取引の対象となるものはティアンのみである。

 

 一体何故か。

 前述した通り、【麻薬】とは使用者の思考を弄る事でその効果を発揮する。

 思考を弄るという事がどういう事か。

 そう、

 

 ──【麻薬】というアイテムを<マスター>が使用する事は、プレイヤー保護により制限されているのだ。

 

 つまり、<マスター>による【麻薬】の使用は、プレイヤー保護の観点から禁止になっている。

 だが、この【アゲインライフ】はそれを無視して対象を夢の中に誘い込む事が出来る。

 

 なぜその様な事が起こるのか、それは、

 

「この薬には【ホムンクルス】達の人工の記憶が埋め込まれています……快楽や苦痛、そして喪失。それらの感覚全てを同時に追体験するのです」

 

 そう、【ホムンクルス】が見せられていた夢を、感覚毎そのまま(・・・・)見るだけだからだ。

 その行為は、どちらかというと《念話》に近いだろう。だが、《念話》が声のみを頭の中に届けるものであるならば、この【アゲインライフ】は五感全てを届けるものである。

 

 快楽も苦痛も全て【ホムンクルス】の追体験。そこに対象の精神を弄るという要素は無い。

 

 もちろん、快楽も苦痛も痛覚をoffに設定しておけばそれほどの脅威ではない。だが、喪失感。腕が、脚が、腹が、そして頭が無くなろうとまだ生きているという喪失感を防ぐ事は、プレイヤー保護の範囲では不可能だ。

 それはただの【ホムンクルス】の夢なのだから。

 

「ちなみに、その国は【疫病王】によって滅ぼされてしまったためもう存在しません。なのでこの麻薬は本当に貴重なものなのですよ」

 

 ジェンツは愛おしそうにその麻薬を撫でる。

 

「これを──《トキシック・オーバードーズ》」

 

 そして自身のジョブ、【幸売】の奥義を発動する。

 

「これでこの麻薬には強力な【依存】の状態異常を齎す効果が付与されました」

 

 《トキシック・オーバードーズ》。

 それは麻薬に強力な【依存】の状態異常効果を付与することにより、お客様にまた麻薬をお買い上げ頂ける様にするものだ。

 

 そんな麻薬がカスガイに直接投与され、カスガイはその場に倒れ伏す。

 

「またのお買い上げをお待ちしております」

 

 それは、やけに耳に残る言葉だった。

 

 ◇

 

 少女が花を売り、男がそれを買う。そんな<メクテロロン>の街道を、一組の紳士と淑女が共に歩いていた。

 手を繋ぎ、歩を進める彼等の関係を知るものは誰も居ない。

 

「お父さんとお母さんが帰ってくるまではぁ、お客さんと一緒にいてもいぃですかぁ?」

「それは、とても素晴らしい。是非お願い致します」

「うぇへへぇ、嬉しいですぅ」

 

 日はすっかり沈み、闇が二人を包み込んでいった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その<マスター>、アンチ・バードック。

 ジョブというインフィニット・デンドログラムにおける目玉要素の一つを捨ててまで彼女が欲したものは、苦痛。そして、それに伴う激しい感情の変化である。

 確かな痛みを感じながらも、その痛みを忘れて溺れてしまう程の激情こそ、彼女の求めるものであり、歪んだ彼女のカタチである。

 

 そしてその<エンブリオ>、【神風主義 セリヌンティウス】。

 TYPE:エンジェルルールのそのエンブリオは、人質特化という常人のパーソナルでは決して発現しないであろう特性を持つ。

 捕えられ人質になり、あわよくば拷問を、などと願う彼女は想像にかたくない。

 だが、その人質という特性が示す通り、彼女は誰かに救われたいのかも知れない。

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて、苦痛を求めて自ら人質となり、誰かに救ってもらう事を望む哀れな破滅願望者である。

 

捕虜(プリズナー)〗。アンチ・バードック。

 




(U ^ω^)<おみせやさん(隠語)をしてるおんなのこでした

(U ^ω^)<タイトルの“質”は人質でありながら人を無くして、物として扱われたい感を演出しようと思いました

[ 'ω' ]<無理矢理感あるぞ

(U ^ω^)<それは言わないお約束よ

(U ^ω^)<まあ、それはそれとして(デビルマン風)


 □<エンブリオ>について

【神風主義 セリヌンティウス】

TYPE:エンジェルルール

《日没のホサナ》
・救出者の全ステータスを五倍化する。自身が人質状態である事が条件。

《信じぬ者は掬われる》
・必殺スキル。対象に自身と同じ声で戦闘についてのアドバイスを送る。が、一割の確率で致命的な失敗に繋がる。同じ声、なのでアンが直接念話を行っている訳では無い。対象とその戦闘相手を追い詰めて追い縋るスキル。
 実際あんまり意味無い。

(U ^ω^)<あのメロスとズッ友のセリヌンティウスです

[ 'ω' ]<チョイスが意味不明なんだが

(U ^ω^)<原作に出なさそうなのを中心にしてるから

(U ^ω^)<こうなっちゃうよね


【発情発条 ティンマン】

TYPE:エルダーアームズ

《ブローアップ・エモーション》
・感情の爆発。ぜんまいを取り付けた相手に【発情】の状態異常を付与する。ぜんまいを回す程効果は増す。
【発情】
・精神系状態異常に掛かりやすくなる状態異常。より効果の強いものに【激情】がある。

《インダファニット・マッドネス》
・不定の狂気。ぜんまいを取り付けた相手に掛かった状態異常が一定期間解けなくなる。ぜんまいを回す程効果は増す。

《ぜんまい仕掛けの》
・取り付けたぜんまいがゆっくりと自動で回る。

《罅く心臓、空の脳》
・必殺スキル。<エンブリオ>自身をコストにし、ぜんまいが取り付けられていた相手に【恐慌】、【痴呆】、【激情】の状態異常を付与する。
【恐慌】
・【恐怖】の超強化状態異常。その場に倒れ伏し動けなくなる。
【痴呆】
・強力な精神系状態異常。アクティブスキルの使用が出来なくなる。
【激情】
・【発情】の超強化状態異常。精神系状態異常に非常に掛かりやすくなり、効果も増す。


(U ^ω^)<で、【ティンマン】

(U ^ω^)<皆さん知っての通りオズの魔法使いのブリキさんですよ?

(U ^ω^)<変な想像しないでね


 □超級職について

(U ^ω^)<薬売人系統超級職【幸売(ハッピー・バイヤー)

[ 'ω' ]<【魂売(ソウル・バイヤー)】みたいだな

(U ^ω^)<商人系統超級職は全部【〜売】になると思い込んでるので

(U ^ω^)<今後もこういうのが出ます

(U ^ω^)<【国売】とか【戦売】とかね


 □アンチ・バードックについて

(U ^ω^)<アンチ=反対、対抗

(U ^ω^)<バードック=ごぼう、そしてごぼうの花言葉は“いじめないで”

(U ^ω^)<つまりそういうこと

[ 'ω' ]<どういうことだよ

(U ^ω^)<虐待とか逮捕とか色々言ってたけど

(U ^ω^)<実を言うとアンちゃんにはそんなに重い設定はないよ

[ 'ω' ]<……には?




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掲示板 その1

とりあえず掲示板回挟んどきますね


Infinite Dendrogram考察スレ 158

 

 

 

 

152:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

あいつマジ氏ね

 

 

153:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

じゃあ結論として幽霊のマスターは存在しうるけどほぼ確でボディだから実質無理ってことで

 

 

154:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Did

どうした

 

 

155:その名無しは既に使用されています[sage]ID:yuu

目撃証言あるんだから信じろよ……

 

 

156:その名無しは既に使用されています[sage]ID:o0i

スクショも撮ってないくせに信じろとか無理なんだよなぁ……

 

 

157:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

疫病王だよあいつ俺のデオドランドまで潰しやがったまじ氏ね

 

 

158:その名無しは既に使用されています[sage]ID:s2E

直近のイベントだと【疫病王】の国絶やしツアーだけどそれ関係?

 

 

159:その名無しは既に使用されています[sage]ID:s2E

あ、やっぱそうか

 

 

160:その名無しは既に使用されています[sage]ID:k7l

デオドランドって【国売】さんの奴じゃんww絶やされたのかww

 

 

161:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Yuu

>>156

だから透けてて撮れなかったんだって

 

 

162:その名無しは既に使用されています[sage]ID:d4f

【国売】さんご本人登場かな?

 

 

163:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ssE

えっ【国売】ってデンドロ引退したんじゃねーの?

 

 

164:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dr4

速報:管理AI増える

 

 

165:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

あー、俺は国売じゃねえよ

デオドランド一般国民な

 

 

166:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

>>163

あー、それデマだぞ

普通にデオランにいるしまあ絶やされたときにはいなかったが

それより管理AI増えたってマ?

 

 

167:その名無しは既に使用されています[sage]ID:k7l

管理AIが増えるなんていつもの事だろ(トムキャット並感)

 

 

168:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dda

立ち直り速くて草

 

 

169:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dr4

いやほんとに管理AIなのかは知らんが本人がそう言ってたぞ

 

 

170:その名無しは既に使用されています[sage]ID:9vb

詳細をください

 

 

171:その名無しは既に使用されています[sage]ID:f22

それ運営に確認取ったのかよ嘘くさ

 

 

172:その名無しは既に使用されています[sage]ID:kjh

くさせう

 

 

173:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ljk

くさそう

 

 

174:その名無しは既に使用されています[sage]ID:poi

くさそう

 

 

175:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ftb

ホモは帰ってどうぞ

 

 

176:その名無しは既に使用されています[sage]ID:c4h

>>172

レズが混ざってますねぇ……

 

 

177:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ds2

究極型疑問系淫石ネキニキネキの話はやめてさしあげろ

 

 

178:その名無しは既に使用されています[sage]ID:SfE

究極ネキ亡くなったんだよね……

 

 

179:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dr4

えっと、確か管理AI15号のモックタートルって名乗ってたな

格好はビジネススーツになぜか大きいリュックを背負ってたけどあれで亀のつもりなんだろうか

 

 

180:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

シャレになんないからこの辺にしとけ

 

 

181:その名無しは既に使用されています[sage]ID:yfj

で、運営には直接聞いたの?

 

 

182:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

管理AIって13号までじゃなかったっけ?

ぬこが僕が一番下的なこと言ってた気がするが

 

 

183:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

管理AI14号が人知れず誕生していた……?

 

 

184:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

一応モックタートルもアリスシリーズにいるな

ウミガメのスープの代用ウミガメ

 

 

185:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dr4

>>182>>183

それは俺も思ったんだけど間違いなく15番目らしい

 

 

186:その名無しは既に使用されています[sage]ID:sik

管理AI偽装ロールプレイとか新しいな

 

 

187:その名無しは既に使用されています[sage]ID:tty

「間違いなく」15番目か……なんか引っかかるな

 

 

188:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

ルイス・キャロル最後の管理AI説また唱えるの?

 

 

189:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

デンドロってアホみたいに世界観詰め込んでるしな……何かあるのかも

 

 

190:その名無しは既に使用されています[sage]ID:sik

なんでも知ってる人に聞いたんじゃね?

 

 

191:その名無しは既に使用されています[sage]ID:gzd

>>188

ルイスキャロルさん絶対偽名だよな

それかほんとにAIつかってんのか

 

 

192:その名無しは既に使用されています[sage]ID:346

ロードちゃんは噂をすれば現れてくれるんだ

 

 

193:その名無しは既に使用されています[sage]ID:sik

>>190

なんでも知ってる人って?

 

 

194:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Lop

なんでも知ってるすごい人

 

 

195:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

定期的に情報で殴りつけてくる人

 

 

196:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

質問返答担当の管理AI14号のことだよ

 

 

197:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

デンドロの色んな方面にやたら詳しい

多分そういうエンブリオ持ってるわ

 

 

198:その名無しは既に使用されています[sage]ID:sik

>>193

よくスレに出没して爆弾投下してく人

噂によると最近国作ったらしいよ

 

 

199:その名無しは既に使用されています[sage]ID:gff

ルイス・キャロルの手によって世界はデンドロに支配されるんだよ

 

 

200:その名無しは既に使用されています[sage]ID:SDe

ロードちゃんはかわいい女の子です

 

 

201:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Lop

国作るのは無理だろ……

セーブポイントとかどうすんだよ

 

 

202:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

簡易セーブポイントでどうにかなるんじゃね?知らんけど

 

 

203:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

>>198

その噂はあってるわよ

 

 

204:その名無しは既に使用されています[sage]ID:juu

 

 

205:その名無しは既に使用されています[sage]ID:xcT

キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!

 

 

206:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

その取ってつけたような女口調は……

 

 

207:その名無しは既に使用されています[sage]ID:yyfj

爆弾ください!

 

 

208:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Did

爆弾おいしいです

 

 

209:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

火薬をストローで鼻から吸引しながらまってました

 

 

210:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ftd

機雷設置しないと……

 

 

211:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

お前ら爆弾投下まで待てないのかよ……偽物の可能性もあるだろ……(導火線とマッチを小脇にかかえる)

 

 

212:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

お久しぶりね皆さん、ロードよ。

さっきの噂通り、最近新しい国を作ったの。

国名は<メネオン>といって、厳冬山脈の近くにあるの。

厳冬山脈は寒いけれど、国の中には【スチーム・コア】があるから案外暖かいわ。

 

 

213:その名無しは既に使用されています[sage]ID:pPa

本人確認は爆発にて成されるからな

 

 

214:その名無しは既に使用されています[sage]ID:5hJ

はい爆弾とうかー

 

 

215:その名無しは既に使用されています[sage]ID:sWE

ちょっと待って貰っても……いやどんどん誘爆させてください

 

 

216:その名無しは既に使用されています[sage]ID:gzd

ID神なの笑うわ

 

 

217:その名無しは既に使用されています[sage]ID:kjh

やっぱ爆弾投じゃん?

 

 

218:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

※ただ今絨毯爆撃中につきご注意ください

 

 

219:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

<メネオン>には他の国には無い【蒸気技師(スチーム・エンジニア)】や【航空員(パイロット)】、他にも【空賊(ハイジャッカー)】なんかのジョブクリスタルもあるから良かったら遊びに来てね。

 

 

220:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

そうそう、さっきの管理AI15号さんの話だけど……これは残念だけど内緒ね。

 

 

221:その名無しは既に使用されています[sage]ID:qqq

>>217

知らん

 

 

222:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

その代わりと言ってはなんだけれど、何か質問があったら答えてあげるわよ。いくつ答えるかは分からないけど、上の質問から早い者勝ちね。

 

 

223:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ftb

>>217

知らん

 

 

224:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Yuu

幽霊アバターは存在しえますか!?

 

 

225:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

【航空員】その他の特徴とか聞きたい

 

 

226:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KMs

【混沌騎士】への転職条件を!なにとぞなにとぞ!

 

 

227:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

みんな黙って聞いてるの本当草

 

 

228:その名無しは既に使用されています[sage]ID:poi

<アーミー・コー>に入りたいんですけど手っ取り早く将軍になる方法はありますか?

ちなみにエンブリオは圧力無効をもってる奴です

 

 

229:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Sdr

最近ドライフの近くの山から生物が消えたんですけどあれなんですか?災厄ですか?

 

 

230:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Mnt

ロードちゃんはやっぱり<超級>なんですか? エンブリオはなんですか? 就いてる超級職は?

 

 

231:その名無しは既に使用されています[sage]ID:h3f

<エンジェリア>への行き方を……教えて……

 

 

232:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Zet

第六でも閣下に勝てる攻略法

 

 

233:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hxe

この修羅の地獄から早急に抜け出したいんですけど低レベルの私は一体どうすればいいんですか?

 

 

234:その名無しは既に使用されています[sage]ID:D1d

全ての<超級>の能力の詳細

 

 

235:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Nln

好きな食べ物何ですか?

 

 

236:その名無しは既に使用されています[sage]ID:v6f

自我交代(リリーフ・クオリア)”ってどこにいるんですか?

 

 

237:その名無しは既に使用されています[sage]ID:h3f

やっぱりコピペ勢が速い

 

 

238:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Kst

あの“精神最強”ってやつどうにかならないんですか?

 

 

239:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ug9

最近の日本についてどう思いますか?

 

 

240:その名無しは既に使用されています[sage]ID:sik

空言王(キング・オブ・ペテン)】ってどうやったらなれますか?

ロストとか嘘ですよね???

 

 

241:その名無しは既に使用されています[sage]ID:4h5

お金がすぐに貯まる裏技ないっすか?

 

 

242:その名無しは既に使用されています[sage]ID:23c

即身仏(マスター・ミイラ)】って居なくね?誰が就いてんの?条件満たしたのにアナウンス来ないんですけど

 

 

243:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

そんな中で異彩を放つ幽霊アバター質問の人はどんだけ証明したいねん

 

 

244:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

>>224

幽霊アバターは無理だけれど、さっきの結論ででたTYPE:ボディの幽霊さんなら知り合いに居るわよ。多分貴方が会った人と同一人物ね。

 

 

245:その名無しは既に使用されています[sage]ID:cod

【神】になりたいですこのゲームにおいての才能の定義を教えて

具体的には何レベル?それともスキルレベルも必要なの?

 

 

246:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dr4

トム・キャットって運営らしいけど同じ動物系超級職の【兎神】とか【獣王】はどうなの?やっぱ運営なの?

 

 

247:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

>>225

【蒸気技師】は文字通りの蒸気を扱う技師ね。飛行船なんかもこのジョブで作っていたらしいわよ? ちなみに、超級職の【蒸気王(キング・オブ・スチーム)】はもう取られてしまったわ。残念ね。

 

【航空員】は飛行機や飛行船、飛空挺を操縦するジョブね。《操飛》なんかの操縦スキルを持ってるわよ。これの超級職はまだ見つかってないから欲しい人は探してみるといいわ。

 

【空賊】は海賊や山賊なんかと似たジョブね。飛空挺に搭載されている兵器の扱いなんかにも長けているわ。

 

こんなところかしらね。これは主なジョブだから、派生の下級職なんかも存在するわよ。それはまた今度教えてあげるわ。

ちなみに今の技術では空のモンスターを相手取るのは少し厳しいの。スチームパンクに興味がある人は是非お手伝いに来てくれると嬉しいわ。

 

 

248:その名無しは既に使用されています[sage]ID:sik

もう遅いかな……

“匿名鬼謀”についてくやしく教えてください

 

 

249:その名無しは既に使用されています[sage]ID:goj

天使になれるジョブとかないんですかね?

 

 

250:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

ん?

 

 

251:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

あれ

 

 

252:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ff9

……途絶えた?

 

 

253:その名無しは既に使用されています[sage]ID:h6j

おーい、ロードさまー

 

 

254:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Yuu

ほらいたじゃん幽霊の人

 

 

 

 

334:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dfg

~十分経過~

 

 

335:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

おいおい次の質問なんだ?

 

 

336:その名無しは既に使用されています[sage]ID:anc

答えられないから逃げちゃったじゃんあいつ

 

 

337:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Yui

混沌騎士の転職条件についてだな

なんだ混沌騎士って

聞いたことないんだが

 

 

338:その名無しは既に使用されています[sage]ID:h6j

は?

 

 

339:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ff9

お前ロードちゃんに何言ってんだよ

 

 

340:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

はーこういう奴がいるから萎えるんだよなぁ

 

 

341:その名無しは既に使用されています[sage]ID:4h5

おまえら煽り耐性皆無かよ

あーいうのは無視が一番なんだよね、それ一番言いたい

 

 

342:その名無しは既に使用されています[sage]ID:kIk

ロードちゃんにも急な用事くらいあるだろうが少しくらい待て

 

 

343:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KMs

【混沌騎士】は騎士系統の超級職な

転職条件のもう一つがさっぱりわからんのだよ

 

 

344:その名無しは既に使用されています[sage]ID:mto

>>341

ちょっと違いますよ究極ネキ

 

 

345:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ffj

まあ掲示板って玉石混じゃん?

 

 

346:その名無しは既に使用されています[sage]ID:qqq

>>345

知らん

 

 

347:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hjk

>>345

知らん

 

 

348:その名無しは既に使用されています[sage]ID:jkl

>>345

知らん

 

 

349:その名無しは既に使用されています[sage]ID:oo0

おまいら究極ネキのネタはもうやめようってネキと約束したじゃん

 

 

350:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

ごめんなさいね、ちょっとお呼ばれしてたわ。

 

>>226

【混沌騎士】は、そうね。せっかくだから教えてあげるわ。

 

①《聖別の銀光》と《告別の黒闇》を習得する。

 

……あら、最後の一つってこれのことかしらね。じゃあ後は秘密にしとこうかしら。

 

 

351:その名無しは既に使用されています[sage]ID:66h

あのあと究極ネキ無くなったんだよね……

 

 

352:その名無しは既に使用されています[sage]ID:778

お疲れ様です!

 

 

353:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KMs

それですあってます……

ありがとうございます……諦めます……貴族専用の《聖別の銀光》が条件にあるとは思わなんだ……

 

 

354:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

ってか《聖別の銀光》ってティアン専用の奴じゃね?

 

 

355:その名無しは既に使用されています[sage]ID:eb7

実質ティアン専用って……【勇者】じゃあるまいし

他にもあんのかな?

 

 

356:その名無しは既に使用されています[sage]ID:0k8

ティアン専用ジョブかーい

 

 

357:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ert

いうて聖女とか龍帝とかもティアン専用っしょ

 

 

358:その名無しは既に使用されています[sage]ID:y7k

え……(ゼクスさんを見ながら)

 

 

359:その名無しは既に使用されています[sage]ID:0k8

その人やばい人だから……

 

 

360:その名無しは既に使用されています[sage]ID:y7k

犯罪王に人の理を説いても仕方ないじゃん?

 

 

361:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ytm

せめて人扱いしてあげてよ……

 

 

362:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KNP

>>353

あ、ではお先に頂きますね(^^)(《聖別の銀光》を身に纏わせる)

 

 

363:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

犯罪王普通に嫌いなんだが

 

 

364:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KMs

>>362

は?え、あれティアン専用じゃないの?嘘乙だろ

 

 

365:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Mnt

犯罪王は嫌い大嫌いが別れる人だから……

 

 

366:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KNP

>>364

《聖別の銀光》はティアン専用じゃないよ? 君を聖騎士に推薦した人に聞いてみれば???

 

 

367:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KMs

まーじ?

 

 

368:その名無しは既に使用されています[sage]ID:eTr

>>365

好き嫌いじゃないのかなぁ

 

 

369:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KMP

あ、ただ今再取得した【暗黒騎士】のレベル上げ中につきこれにて失礼致します(^^)(^^)(^^)

 

 

370:その名無しは既に使用されています[sage]ID:ed7

メシウマ案件?

 

 

371:その名無しは既に使用されています[sage]ID:aLt

いや、話聞くに銀行取得前に暗闇持ってたらしいし時間の問題だったろ

 

 

372:その名無しは既に使用されています[sage]ID:KMs

はぁーくっそ

 

 

373:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

あらあら、もう条件達成間近の人が居たのね。それはご愁傷さまだわ。

 

それはそれとして次ね。

>>227

<アーミー・コー>に入りたいのなら、サポートメンバーになるのもいいと思うわよ? あそこは将軍限定とは言ってるけど、クランメンバーとサポートメンバーの待遇はそんなに変わらないし、オーナーのミンナちゃんは社交的な御方だから話しかけたらすぐに仲良くなれるわよ?

 

そして、貴方が就けそうな将軍なら……そうね、【淵将軍(イア・ジェネラル)】なんかならいけるんじゃないかしら? 深海生物指揮特化だからグランバロアの深海をうろついて目に入ったモンスターをかたっぱしからテイムしていくといいわよ。

 

 

374:その名無しは既に使用されています[sage]ID:rty

いあ……いあ……

 

 

375:その名無しは既に使用されています[sage]ID:poi

ありがとうございますさっそく潜ってきます

 

 

376:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hjk

あれ、深海生物って下手すりゃUBMよりやばいのがごろごろいたような……

 

 

377:その名無しは既に使用されています[sage]ID:jkl

あいつ死んだわ

 

 

378:その名無しは既に使用されています[sage]ID:kuu

あそこのクランオーナーのコミュ力は異常

【教祖】とタメ張れるレベル

 

 

379:その名無しは既に使用されています[sage]ID:gig

あの人なんで将軍っていうリーダーの極致みたいなやつらを纏めてるの?

 

 

380:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

“共振者”VS“全方美人”のコミュ力対決とか胸熱過ぎない?

 

 

381:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

万軍統率は伊達じゃねえよ……地球防衛軍事件は凄かったですね……

 

 

382:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

あれはオーナーよりサブオーナーの人がやばかったような……

 

 

383:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

次で最後ね。

 

>>228

ドライフの山から生物が消えたのは……あれは新しい<超級>誕生の影響ね。

不撓不屈っていう名前のマスターで、“装甲最強”……は言い過ぎね。でもかなり硬いわよ。

ティアンの間では“厄災の素(スタンピーダー)”なんて呼ばれてるわ。本人……というよりはその<エンブリオ>に対しての言葉ね。あまり気に入っては無いみたい。

 

 

384:その名無しは既に使用されています[sage]ID:igy

クトゥルフなっつ

 

 

385:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Rgb

超級キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

 

386:その名無しは既に使用されています[sage]ID:zz3

あー、あれか

あいつ難攻不落って呼ばれてるぞ

 

 

387:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Sdr

ありがとうロードちゃん

あれマスターがやったんだなー

新たな広域殲滅型の<超級>か……とづまりしとこ

 

 

388:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

>>386

正確には“難攻負楽”な

攻撃を通すのは難しいけど負かすのは楽って意味

ちなみに考えたのは俺

 

 

389:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dhu

へーおぼえとこ

 

 

390:その名無しは既に使用されています[sage]ID:gig

難攻負って感じじゃん?

 

 

391:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

いや、ぶっちゃけ“厄災の素”の方がかっこいいから覚えなくてもいいよ

 

 

392:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

覚えるなっていうと覚えたくなる……はっ、そういう作戦か

 

 

393:その名無しは既に使用されています[sage]ID:yug

てかこれで最後かー

その次の質問がロードちゃんについてなのが関係してるのかどうか……

 

 

394:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

>>392

いやべつにそんなことは考えてないが

 

 

395:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

そりゃあ誰だって自分の事は迂闊に話したくないだろ

他にもロードちゃんは個人に対しては見たら分かる以上の情報はくれないぞ

全ての超級の詳細とか書いてるやつ居たが論外だな

 

 

396:その名無しは既に使用されています[sage]ID:GOD

それでは、さっき言った通り今日はこの辺でおしまいね。

あ、この情報はwikiにも追加しておくわね。

 

ちなみに好きな食べ物はポトフよ。

それではごきげんよう。

 

 

397:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

また爆撃期待してます

 

 

398:その名無しは既に使用されています[sage]ID:r3f

お疲れ様でした

 

 

399:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

安定の自前wiki書き込み……やっぱり俺らのロードちゃんやでぇ

 

 

400:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dfr

また導火線用意してまってますね

 

 

401:その名無しは既に使用されています[sage]ID:t56

はぁ今日からまた火薬を吸って耐え忍ぶ毎日がやってくる…

 

 

402:その名無しは既に使用されています[sage]ID:Nln

好きな食べ物についてもちゃっかり答えてくれるそんなロードちゃんが僕は好きです

 

 

403:その名無しは既に使用されています[sage]ID:aeR

ポトフいいな、食いたくなってきた

 

 

404:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

寝るか

 

 

405:その名無しは既に使用されています[sage]ID:dhu

おまえら燃え尽きすぎだろ

まだ21時だぞ?

 

 

406:その名無しは既に使用されています[sage]ID:A23

ここにいるの日本人だけじゃないんです……

 

 

407:その名無しは既に使用されています[sage]ID:qqq

>>390

知らん

 

 

408:その名無しは既に使用されています[sage]ID:hYg

ちゃんと話題が終わってから書き込むの草

 

 




(∪^ω^) <書きたかったので書きました

[ 'ω' ]<レス番とIDがくっそめんどくさかったそうだ

(∪^ω^) <なんでも知ってる人はなんでも知ってます

[ 'ω' ]<俺のことも何故か知られてたな

(∪^ω^) <ティアン経由で知ってる人は多そう


・<メネオン>って?

(∪^ω^) <国

[ 'ω' ]<いや、そうじゃない

(∪^ω^) <なんでも知ってるロードちゃんが厳冬山脈近くに墜落してた超巨大飛空挺を中心に作った国

(∪^ω^) <てか超巨大飛空挺を中心にして暮らしてた集落っぽいところを改造してセーブポイントっぽいやつ設置して国っぽくしたやつ

(∪^ω^) <近くに埋まってた【蒸気技師】以外の【航空員】とか【空賊】のジョブクリスタルを掘り起こしたのもロードちゃん

[ 'ω' ]<セーブポイントっぽいやつ?

(∪^ω^) <ぽいやつ

[ 'ω' ]<厳冬山脈の近くで生きていけるのか?

(∪^ω^) <【蒸気技師】だけは埋まってなくてそれ使って寒いとこでがんばって暮らしてた

[ 'ω' ]<なんで離れないのか

(∪^ω^) <飛空挺がよほど大事だったのでしょう……今では落船都市<ナラカ>として国の首都になってます

(∪^ω^) <そこに【蒸気王】とった<マスター>もいます

[ 'ω' ]<マスターなのか

(∪^ω^) <ほんとはロードちゃんが欲しかったけど先に来て取ってたらしい


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知恵袋 その2 / <UBM>閑話“一”

(∪^ω^) <入れ忘れてた話です

(∪^ω^) <“その2”で合ってます


 □落船都市<ナラカ>

 

 <厳冬山脈>の麓に構えられた集落<メネオン>。

 そこには昔栄えたとされる超巨大飛空挺、今は朽ち果てたその飛空挺を中心にして集落が存在し、人々は【蒸気技師(スチーム・エンジニア)】のスキルを使用し、細々と暮らしていた。

 

 一人の<マスター>、フレキが訪れるまでは。

 彼は寒いところが好きという、極寒の地においては信じられないような理由からここ<メネオン>に住み着き、住民が秘匿にしていた【蒸気技師】のジョブクリスタルを探し当て、強引に就き、更にはその先、【蒸気王(キング・オブ・スチーム)】にまで届いてしまった。

 

 これまでは<マスター>という異質の存在を毛嫌いし、嫌悪の目を向けていた住人達。しかし、超級職を取られたとなればもはや住民達は彼を受け入れない訳には行かない。

 

 何せ彼は<マスター>。彼の気分一つで、【蒸気王】は金輪際届かない砂上の楼閣と化してしまうのだから。

 

 そうして、<メネオン>の長となったフレキ。だが、それからの生活は、住人達にとって存外悪いものではなかった。

 彼の作成した【スチーム・コア】は、長年悩まされてきた凍死による人口の現象に終止符を打ち、更にはティアンにとっての伝説である彼の<エンブリオ>は、外界からの干渉を完全に断つ物であり、それは時折<厳冬山脈>から降りてくる地竜種や怪鳥種から集落を護るのに大いに貢献していた。

 

 控えめに言って彼等は限界だった。そんな彼等が生き残れたのはフレキのお陰であり、<メネオン>の住人は次第にフレキと打ち解けていった。

 

 ──そして、二度目の転機は訪れた。

 

 現れたのは、ロードと名乗る一人の少女。彼女は<メネオン>の長、フレキの絶対の結界を難なく突破し、ゆうゆうと彼の住む屋敷に向かい、その日のうちに新たな長となった。

 

 そうして、彼女は失われ(ロストし)ていた

航空員(パイロット)】、【空賊(ハイジャッカー)】、【汚術師(ポルート・マンサー)】などのジョブを掘り当て、遂にただの集落であった<メネオン>を、ひとつの国へと造りあげてしまった。

 

 彼女は知らしめることとなる。彼女こそが<超級(スペリオル)>。

 “全知”のロードであると。

 

 ◇

 

 周囲を太い蔦で覆われ、一縷の隙間も無い閉塞感に満ちた空間。そんな空間内に根付くようにして、一人の少女が座っていた。

 

「ふふ、彼は<超級(スペリオル)>になったのね。やっぱりトリガーは“挑戦”だったわ」

 

 少女は聞き役が誰もいない状況でありながら、まるで誰かに話しかけるように独り言を呟いていた。

 その言葉は、取ってつけたような女口調であり、まるで男が想像として漠然と抱いている女性像をそのまま口調として反映したような、言うなれば、“ネカマ”をしているような口調であった。

 

「彼は、何かしら……“望郷”、もしくは“決別”かもしれないわよ?」

 

 少女が見ているのは虚空。何も無い虚無に目を向けていた。しかし、少女の目の焦点は定まっており、確実に彼女は何かを見ていた。

 

「……あぁ、彼は分かってるからいいわ。自発ね。多分無理だわ」

 

 その後も彼は直視、彼女は愛情、といったふうにつらつらと言葉を並べ立てていく。

 

 と、閉ざされた蔦の空間に、唐突に人ひとり入れる程の隙間が開き、二人の人影が顔を覗かせた。

 

「相変わらず何言ってるのか分かんないすねー。あ、フレキさんどうも」

「仕事ですから」

「あれそれって仕事じゃなかったら嫌って事ですかっていなーい」

 

 声を向けた先には既に誰もいないというのに一人でコントのようなノリツッコミをしているのは、無精髭が印象深い壮年の男であった。

 

「ふふふ、私はなんでも知ってるの。超級職への転職条件、<超級>への至り方、この世界(・・)の秘密。他にも、何でもよ」

「あー、いつもの決め台詞ですね。まぁそれも結構信ぴょう性帯びてきましたよねー」

 

 そんな彼の態度は、信じていないというよりは真実であっても偽りであってもどっちでもいいといったふうであった。

 

「もう、本当なのに」

「いや、まぁ何でも知ってるのは分かりますけど、その中に嘘が混じってるかどうかってのは知ってる本人にしか分かりませんしねぇ」

 

 頬を膨らませる少女に対し、飄々と交わす壮年の男。そこには確かな信頼関係があった。

 

「まぁ、一種の悪魔の証明ね。私の知識を全て伝えるのなんて無理だわ。それこそ、【大賢者】になって知識の継承でもしない限りはね」

「また新情報でましたねー。wikiに書きます?」

「ふふ、今のはオフレコでお願いするわ。【大賢者】に目を付けられたくは無いもの」

 

 もうとっくに目を付けられてるかも知れないけれどね、と男を不安にさせようとするも、男はどうでも良さそうに耳を搔いていた。

 まだそこまでの信頼関係は築けていないらしい。

 

「でもまぁ、【民将軍(モブ・ジェネラル)】取れたのも教えてもらったからですからねー、やっぱ信じるべきだとは思いますよ」

「あれは貴方に才能があったから、それを後押ししただけなのだけれどね」

「いやぁそれは信ぴょう性ないですわー」

 

 事実、彼には才能があった。人を率いるリーダーではなく、人に担がれる神輿の才能が。

 だからこそ、少女は彼を自陣に引き入れたのだし、こうして任を与えているのだった。

 

「じゃ、引き続き【大将軍(ギガ・ジェネラル)】の監視よろしくね、権兵衛・ドウ」

「うい、仰せのままに、ロード様」

 

 まだ夜は明けない。だが、それは日が出ていない事の証明にはならず、事実太陽とは宙の上に在り続けるのだ。

 

 目醒めの時は、幾星霜よりもまだ遠い。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 □■???

 

【亜空土竜 ホルモール】

 最終到達レベル:46

 討伐MVP:【蟲将軍(バグ・ジェネラル)】くさば Lv885(合計レベル1385)

 <エンブリオ>:【狂創造主 フライング・スパゲッティモンスター】

 MVP特典:伝説級【亜空土竜完全遺骸 ホルモール】

 

 

 【獄楽鳥 ベンタブラック】

 最終到達レベル:72

 討伐MVP:【暗黒騎士(ダークナイト)】カノッピ Lv100(合計レベル500)

 <エンブリオ>:【青天星 シリウス】

 MVP特典:古代伝説級【獄楽双鏡 ベンタブラック】

 

 

 【岩屑芥 ズンビブー】

 最終到達レベル:27

 討伐MVP:【星将軍(ミラ・ジェネラル)】スターゲイジー Lv100(合計レベル600)

 <エンブリオ>:【累加奇石 シャイニング・トラぺゾへドロン】

 MVP特典:逸話級【芥義手 ズンビブー】

 

 

 【大拡犀 ナースホルン】

 最終到達レベル:13

 討伐MVP:【大応援団長(グレイト・チア・リーダー)】ダニエル男 Lv23(合計レベル223)

 <エンブリオ>:【青瞬川原 ウルル】

 MVP特典:逸話級【拡声角笛 ナースホルン】

 

 

 【山彦鯆 ウベルーガ】

 最終到達レベル:18

 討伐MVP:【海獣騎兵(マリン・ライダー)】アマデウス・イネプトクラシー Lv100(合計レベル500)

 <エンブリオ>:【怪勇魚 バハムート】

 MVP特典:伝説級【はいぱーきぐるみしりーず うべるーが】

 

 

 複数のウィンドウを並行処理しながら、<UBM>担当管理AI四号、ジャバウォックはとあるひとつの画面を注視していた。

 

「ムゥ、<超級>の手によって容易に討伐されないよう辺境に解放したのだが……なんの巡り合わせか」

 

 映し出されているのは、始まりの<SUBM>【一騎当千 グレイテスト・ワン】と二人の<超級>、その戦いである。

 

 本来ならば<マスター>を<超級>へと誘発するための舞台装置であるはずの<SUBM>。

 だが、それがどうだろう。たった二人の超常により、いとも容易く壊されていく“最高”。

 悲劇でも喜劇でも、ましてや英雄劇でもない。それはただの茶番劇だった。

 

「ハァ、結局、この投下で<超級>に至る者が出ることは無かったか」

 

 初の<SUBM>投下。もちろん、ジャバウォックを始め管理AI達の期待も高く、<超級>へと誘発されるその時を待っていた。

 その目論見も失敗に終わり、今回の事も次への糧としようと、過去のものにするべく思考を切り替えていく。

 

「ン?」

 

 だが、画面を閉じ自らの業務に思考を割こうとしたその時、画面にひとつの人影が写りこんだ。

 

「これは……?」

 

 現れたのは腹部が異様に盛り上がった一人の<マスター>。

 なにやら【獣王】に対して挑発的な態度をとるその<マスター>のことが気になり、ジャバウォックはこの続きを見守ることにした。

 

 ◇

 

 その戦いは熾烈の一言に尽きた。

 

「ホゥ……<超級>と互角にやり合うか。面白い」

 

 もちろん、相手の疲労や潜伏中の時間経過による状態異常の悪化等、様々な要因が重なった結果の“互角”ではあったが、客観的に見て“物理最強”である【獣王(キング・オブ・ビースト)】に対して、その<マスター>──【鉄塊王(キング・オブ・アイアン)】が負けていないことは確かだった。

 

 そして、終幕(フィナーレ)。覚醒した【鉄塊王】に対し一瞬の焦りを見せた【獣王】が対応する形となって、戦いは引き分けに終わった。

 

「戦いの最中で■■■によって<超級>へと至ったか。素晴らしい、絶対的な強者へと立ち向かう様はまさに英雄叙事詩(ヒロイック)と呼ぶに相応しいだろう」

 

 自身にとって満足のいく英雄叙事詩(ヒロイック)を見ることが出来たジャバウォックは、今度こそ自らの業務に集中するべく画面を閉じた。

 

 なお、余談ではあるが、この後<超級>へと至った【鉄塊王】不撓不屈によって付近の山のモンスターが一匹残らず死滅してしまった事実に、とあるモンスター担当が激怒し、とある環境担当が頭を悩ませたのは別の話である。

 

 




(∪^ω^) <原作の<UBM>閑話の色んな<超級>の討伐履歴が出てるとこ好きです


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六人目 旅人の流儀

 □畦道遊歩

 

 旅がしたい。ただそれだけだよ。

 

 ◇

 

 □【超旅人】アッチュン

 

「あいたっ!」

 

 “道”に反応あり。

 ぶつけた? 頭かな?

 いや、ここ大海原のド真ん中なんだけど。

 

「いったー……浮き島?」

「いや、どっちかというと浮き道かな?」

「うわ……え、人?」

 

 うわ、か。

 心に傷がつくな。

 罅が入るかもしれない。

 嘘だよ。

 僕の心は鋼だからね。

 いや、比喩だよ。

 

「え、船とか無いよね? え、道? 何で?」

 

 混乱してる。

 同じ立場だったら僕も混乱しそう。

 するかは分からないけど。

 

「って、人!?」

 

 あ、気づかれた。

 自分から名乗るのは得意じゃないな。

 それなら聴けばいい。

 僕はそれに合わせるだけだ。

 

「君は?」

「え……わたしはシャボン! 【人魚姫(マーメイド・プリンセス)】のシャボンだよ!」

 

 消えそうな名前。

 今にも消え入りそうな名前じゃないか。

 名前だけ。

 

「僕はアッチュン。【超旅人(オーヴァー・トラベラー)】のアッチュン。よろしく」

「よろしく! ねー、アッチュンはどうしてこんな海のど真ん中に立ってるの? その道ってなあに? ジョブスキル? それとも<エンブリオ>?」

 

 元気。

 少しうるさい。

 ……少しだけね。

 

「……内緒」

「そっかー、そうだよね! ごめんね、わたしゲームのマナーとかよく分かんなくて」

「なるほど」

 

 確かにマナーが悪いと言われればそうかもしれない。

 たった今出会ったばかりの人にスキルについて質問するのは。

 でも、僕はただめんどくさかっただけだよ。

 言わないけど。

 

「まあ、いいと思うよ。君なら」

 

 彼女にならどんな人だって何だかんだで許してくれそうだ。

 そんな気がする。

 

「ありがとう! で、アッチュンは何でこんなところにいるの?」

 

 何でって、そりゃあ。

 決まってるでしょ。

 

「旅をしてるんだよ」

 

 旅人だからね。

 旅人は大概旅をするものなんだ。

 普通なら旅できないような所でも、僕は出来るんだ。

 

「そうなんだー」

「そうなんだよ」

 

 ……あ、話題が尽きる音がした。

 いや、比喩だよ。

 

「……えーっと、この辺に休憩出来るとことかない?」

 

 ここ靄が多くて先が見えないんだよね。

 灯台とかもないし。

 あるわけないし。

 決めつけは良くないかな。

 でも、無いな。

 じゃあ決めつけても問題ないか。

 

「休憩かー……あ、そうだ! 《水脈感知》使えばいいんだ!」

 

 なぜ水脈?

 地と水は真逆だと思うけど。

 あ、だからか。

 水が無いところはすなわち地上だね。

 どうやら彼女は頭がいいらしい。

 少なくとも、僕よりは。

 

「むー……あ、見つけた! あっちだよ! 案内したげる!」

「おお、ありがたい」

 

 どうやら彼女はいたく親切らしい。

 少なくとも、僕よりは。

 

 ◇

 

「ねー、それって、道が伸びてるよね? 物理的に」

「そうだね」

「で、後ろの道は消えて言ってるよね?」

「そうだよ」

「……どうなってるの?」

 

 好奇心。

 さっき内緒にしたのに。

 まあ、いいか。

 案内して貰ってるし。

 親切は回さないとね。

 ……ちょっとちがうか。

 

「これはね、僕の<エンブリオ>。道型のTYPE:チャリオッツだよ」

「へー! 道かぁ……すごく面白いね!」

 

 そう、ユニークなんだ。僕の<エンブリオ>。

 乗るためのものじゃなくて、乗られるためのもの。だからギアやアドバンスに派生しないでずっとチャリオッツのまま。

 これがちょっと自慢だったりする。

 アームズやキャッスルなんかと違って、チャリオッツは大体どっちかに派生してしまうからね。

 人と違うというのは気分がいいよ。

 

「でもね、わたしの<エンブリオ>も凄いよ!」

「ほぉ」

 

 興味がある。

 ちょっとやそっとじゃ驚かないよ僕は。

 色々見てきたからね。

 土地置換とか寿司ネタ。幽霊なんかもいたなぁ。

 全て旅の思い出だね。

 

「わたしのはこれ! お水だよ!」

 

 紋章から出たのは水。

 どばどば出ている。止まる気配はない。

 そのまま海に溶け込んでいく。

 ……水?

 

「TYPE:エレメンタルアームズ! 超々純水の【原水源 オケアノス】です!」

 

 それのなにが……いやまてよ?

 なんの効果も無いただの水であるだけの<エンブリオ>?

 

「おお」

 

 それはすごいな。

 面白くもある。

 一体どんなパーソナルならただの水なんていうエンブリオが発現されるんだろうか。

 興味があるね、とても。

 

「あ、‪もうすぐ着くよ! あそこなら休めるよね!」

 

 シャボンがひれをばしゃばしゃとさせている。

 指さす先には小さな、それこそ人が五人も立てばぎゅうぎゅうになるような浮島があった。

 

「なるほど、そうだね」

 

 ちょっと狭いけど、大丈夫だね。

 旅人は宿を選り好みしないものなんだ。寝られる空間さえ提供してくれれば問題無い。ゆっくり休むのは、僕の仕事だからね。

 

 と、着いた。

 足を下ろす。

 

 なるほど、しっかりとした島だね。揺れなければもっと良かったかもしれないけど。

 

「まとまれー! “水牢”」

 

 シャボンはというと、何やら大きな水の球体を空中に作り出し、そこに飛び込んだ。

 そしてその珠の淵に黄河でお馴染みの符を貼り付けると、さっきまで浮いているだけだった水球が、すいすいと泳ぐシャボンを中心にして、連動して動くようになった。

 

「何故水を……?」

「お水が無いと死んじゃうからだよ! カラカラになっちゃう!」

 

 なるほど。

 流石【人魚姫】って事か。

 ちょっと違うか。

 

「じゃあ、お話しよ!」

「もちろん、構わないよ」

 

 旅人は旅での出来事を旅先で話すものなんだ。

 

「君はグランバロア出身かい?」

「いや、わたしは黄河帝国所属だよ!」

「……ここと真逆じゃないかい?」

「そうだよ! 海を歩いてきたんだ!」

 

 .......歩く? 足が見当たらないんだけど、比喩かな?

 まぁいいか。僕は自分の話をしたいだけだからね。旅人は独りよがりでも許されるんだよ。

 

「なら、君は七大国家以外の国を知っているかい?」

「……七大国家?」

 

 そこからなんだ。まぁ、教えてあげるよ。僕より親切な人なんて、それこそ星の数くらいしか居ないからね。

 

「七大国家っていうのはセーブポイントがある大きな国の総称だよ。ほら、チュートリアルのときに七つの国を提示されただろう?」

「えーと、いち、に……確かに!」

 

 わざわざ指折り数える程でもないけどね。納得した素振りを見せるよりはいいと思うけどね。

 

「まぁ、話を戻すけど、このデンドログラムには七大国家以外にも国があるんだよ。俗に小国家なんて呼ばれてるね」

「はえー」

「みんな七大国家の方に目を向けがちだけど、小国家もなかなかユニークで特徴的なところがたくさんあるんだ」

「ほぅほぅ」

 

 適当な相槌かな? いや、いい意味の適当だよ。話を遮られるよりは一言のいいリアクションで締めてくれた方が話しやすいよ。

 

「<デオドランド>とか<センザンコウ>とか、いろいろな国があったけど、やっぱり一番は<メネオン>かな」

 

 あの国は本当、凄かったな。比喩無しでね。

 

「どんな感じなの?」

「とても寒かったね。でも暖かかったよ」

「んー? よくわかんないなー」

 

 ああ、だめだな。また分からないように言っちゃったよ。

 旅人は状況説明が得意でないといけないんだ。詩的な表現は詩人がすればいいんだ。まぁ、詩人は旅人だけどね。

 

「<メネオン>は<厳冬山脈>にある国なんだ」

「え、あの寒いところ!? あそこ国とかあるんだ!」

 

 あ、<厳冬山脈>は知ってるんだ。自慢しずらくなったかな? そんなことないか。

 

「そう、国があるんだ。それも<マスター>が作った国がね」

「えー、国って作れるんだねー」

 

 いや、作れないよ。普通はね。普通じゃない人は作れるけど。

 

「【スチーム・コア】っていうセーブポイント兼暖房装置が国の中心に備え付けてあって、国内は割と暖かかったな」

 

 さすがは<超級>、“全知”のロードといったところだよね。

 

 とまぁ、そんな感じで、僕と人魚姫はたくさんの話をしたんだ。主に僕が訪れた国の話だったけど、シャボンの言ってた人魚の国ってのは中々興味深かったな。いつか絶対いってみよう。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。《千里の一歩》」

 

 これは僕の持つ【超旅人】の奥義。

 次の街に着くまでの間、旅に関するスキルのコストを街に着いてから纏めて支払うっていうとても便利なスキルだ。

 これのいいところはコストとして支払うSPが僕の最大SPを超えた場合は、超過分は払わなくてもいい点だね。長い道のりを旅をする程にその価値は上がっていくんだ。

 

「次へ続こう、《掃き溜めの地平線(ナイトウホライゾン)》」

 

 そして、こっちは僕の<エンブリオ>の必殺スキル。次の目的地まで道を作り続けてくれるスキルだね。

 途中で目的地を変えても、それに合わせて道を作ってくれる。融通も効く素晴らしいスキルだよ。

 

 このふたつを使って僕は旅を続けていくんだ。

 

「ばいばーい! グランバロアに着いたら、れーちゃんによろしくねー!」

 

 誰だよ。

 新情報だよ。

 

 こうして、旅人と人魚のダイアローグは終わりを告げたんだ。

 

 いつか、このデンドロ内を旅し尽くしたら、その時はどうしようか。

 ……二週目かな。うん。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その<マスター>、【超旅人(オーヴァー・トラベラー)】アッチュン。

 旅を愛した彼は、ゲームという手段を見つけた。故に、彼は旅を続ける。

 

 そしてその<エンブリオ>、【開拓歩道 ナイトウホライゾン】。

 旅を愛した彼に足りない物、その一つである、通行不可能な場所を通るための道をさずけるべく発現した、乗騎するためのものでなく、乗騎されるためのチャリオッツ。

 その本質は、孤島に住み気軽に旅のできない彼の嘆きであり、色んな所に行きたいという本質である。

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにおいて、旅を繰り返すことで自らの旅行欲を抑える旅中毒者である。

 

根無草(ボヘミアン)〗。アッチュン。



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七人目 遥か彼方のその先へ

(∪^ω^) <昨日、キャラ紹介と<UBM>閑話を追加したので良かったらどうぞ


 □???

 

 どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがる。俺を軽蔑の目で見るほかの教授共、まるで珍獣に出会ったかのようにいじってくる学生共。全員死んじまえ。くそっ。

 

「えひひっ、せんせーってほんとにばかだよねー」

 

 ああ、こいつもか、こいつも俺を馬鹿にするのか。

 

 こんなくだらない奴は無視だ。俺は車椅子に前進するように口頭で指示を出す。

 しかし車椅子はびくともしない。

 なんでだよ! 充電切れか?

 

『くそっ、前だよ、前に進めって……」

 

 合成音声発生装置(SSG)を通して俺の脳から直接言葉が出力される。しかし、車椅子はビクともしない。

 

 その時、俺の願いが通じたのか車椅子は前に進み出した。いや違う、これは後ろから押されている?

 

「しょーがないなーせんせーは」

 

 くそ、なんだよお前は。俺を馬鹿にしやがるくせに俺の役に立つな。

 車椅子を止めるように呼びかけるも、コイツが歩みを止める事は無かった。

 

「ねーせんせー、教えてよー」

『その話は何度もしただろ! いいからほっといてくれ!」

 

 俺の必死の願いにコイツは耳を傾けようともしない。

 

「まーまー、充電出来るとこまでは連れてってあげるってー」

 

 何を言っても聞き入れてくれなさそうなので、仕方なくなすがままにされる。そうだ、どうせ俺は誰にも逆らえない。この全身不随の身体じゃ誰かに異議を唱えることすら出来ない。

 

「あたしはさー、せんせーに教えて欲しいって言ってんじゃーん、陸上」

 

 ……うるさい。

 

「知ってるよー? せんせーが何人ものアスリートを生み出したすごい人だってー」

『どうせ……」

「ん?」

 

 ……ダメだ。

 

『どうせお前も捨てるんだろ! 俺が一から十まで教えてやったのに、有名になったその日の内に俺を捨てやがったあのクズ共みたいに!」

「え……」

『もうほっといてくれよ! 俺はもう誰かを育てるとかはしないって決めたんだ!」

 

 感情が爆発するのを抑えられない。

 

 この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。これが普通のドラマなんかだったら俺が走って去っていく場面だろう。だが、俺にその選択肢は取れない。

 

 この世界は理不尽だ。個性なんてものを掲げて、普通のやつとダメなやつとの区別をしようとしない。

 

「せんせー、あたしは、そんなことしないよ?」

『……」

「覚えてる? あたしがまだ小学生だったころ、せんせーはわたしの小学校に一日講師として来てくれたよね」

 

 たしかに、一度だけ近くの小学校から頼まれて身体障害者として、そしてスポーツ研究者として一日講師をした事がある。だが、その時にも俺は何も知らないガキ共にいいように遊ばれるだけだった。

 ……だが、その中にずっと俺に憧れを持って接してくれた奴が居たな。

 

「あたしはせんせーを凄い人だと思ったんだ。だって生まれた時から身体が全然動かないのに、あんなにスポーツに熱くなって、なんか凄かったもん!」

 

 あの時と同じような、キラキラと輝く瞳で語る彼女は、俺には眩し過ぎて見ていられなかった。

 

 結果として、俺は彼女に絆されてしまった。俺の指示を素直に受け入れ、メキメキと上達していくその様を眺めるのも、存外悪くない気分だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 □2043年7月 ???

 

「せんせー、昨日の見た!?」

『昨日の……? お前には何度も言ってるが話す時は主語を交えないとわからんぞ」

「もう! インフィニット・デンドログラムだよ! ゲームの!」

 

 インフィニット・デンドログラム? なんだそれは。こいつは俺がゲームの情報を逐一確認する奴に見えるのだろうか。

 

『ゲーム? 知らんな」

「えー知らないのー? 遅れてるなーせんせーは。えひひっ」

 

 少しイラついたが、それを態度に出すほど子供でもない。

 その後、こいつ──照夜(てるよ)の分かりにくい説明を俺が噛み砕きながら理解するというめんどくさい手順を踏みつつデンドロというゲームの概要を聞いていき、その胡散臭さにこいつの将来に不安を覚える。

 

『なるほど、そりゃあすごいな。まあ、本物だったらの話だが」

「で、買ってきました!」

『……は?」

 

 やたら大きい袋を地面におき、ジャジャーンと照夜が取り出したのは大きめの箱二つ。

 

『……まさか、買ったのか?」

「うん! 善は急げってせんせーに教わったし。……せんせーの分もちゃんと買ったよ? もうすぐ誕生日でしょ?」

『ああ、もう、お前ってやつは……」

「……ダメだった?」

 

 照夜は純粋無垢な瞳でこちらを覗いてくる。やめろ、そんな目を俺に向けるな。吸い込まれそうだ。

 

『くそっ、だめじゃねえよ。まあ、ありがとな」

「えひひっ! よかったー」

 

 まぁ、勝手に俺の金で買ったわけでも無い。こいつが俺の誕生日を覚えてくれていたことも素直に嬉しい。

 このゲームがダメだったとしても、まぁ礼としてなにか買うくらいはしてやるか。

 

「さっそくやろー! せんせーもいっしょに!」

『お前は馬鹿か。ここは学校敷地内だ。帰ってからやれ」

「えー、じゃあせんせーも一緒にやろーね! わたし待ってるから!」

『…………はぁ、わかった、わかったからそんな目で俺を見るな」

「えひひっ、約束だよ!」

 

 指切りげんまんと言い、照夜は自身と俺の小指を絡める。

 まぁ、そんなことをしようと感覚は無いから無意味だろう。

 

 それは少し、寂しい。

 

 ◇

 

「あ、せんせーだ! あたしだよ! てるよ!」

 

 チュートリアルを終えてすぐ、上空からのダイビングは、なるほど悪くない。風を感じるという初めての感覚には気分が高揚した。

 そして、そこには当たり前のように照夜が居た。

 

「おんなじ国選べたんだね! えひひっ、これって運命かなー?」

 

 ……ただの偶然か趣味が合っただけだろ

 

「……せんせー?」

 

 ん? どうした……って、そうか。今は合成音声発生装置が無いから思考から発言領域のものだけを切り取って音として発生させることが出来ないのか。

 

「ぉああぎ、でゅ」

 

 あーだめだ。舌は動くようになったが、やっぱり喋り方がわからん。

「あ、そうか……せんせー」

 

 くそっ、ゲームの中ですらまともに動かせないのかよ。

 そんな俺の苛立ちを感じ取ったのか、照夜が申し訳なさそうに縮こまる。

 

「せんせー……ごめん」

 

 あ? ちがう、お前が悪い訳じゃない。喋りはともかく、身体だけでも動かせば安心してくれるだろうか。

 身体の動かし方なら熟知している。思考通りならちゃんと動くはずなんだ、ここの筋肉を動かせば……。

 

 腕の筋肉に力を入れる。すると、腕が出鱈目な方向へと動いた。

 違う、違うんだよ、俺はそんなふうに動きたいわけじゃないんだよ。

 

 くっそ、動かし方は誰より分かってるはずなのに、筋繊維一本一本まで意識しねえと。

 

「あの、せんせー、そんなに力入れなくてもいいと思うよ?」

 

 まあ、お前らはそうなんだろうがな、俺は生まれた時から今の今まで動かしたことが無いもんを動かしてんだよ。

 

 そうだ、俺は結局こうだ。どこに行っても、やっと“普通”になれたってのに、このザマ。

 

 あーくそ、自分が考えた通りに身体が動けば……。

 

 そう考えたその時だった。俺の左手の甲が僅かに光った。かと思うと、くっついてた卵の様な宝石が無くなり、そこには“思考吹き出しの中にある複雑な幾何学模様”の描かれた紋章があった。

 

「……なんだ?」

「せんせー、これって<エンブリオ>のふか(・・)ってやつじゃない!?」

 

 照夜の言葉になるほどと思い、ヘルプを呼び出す。そこには<エンブリオ>の項目と、自身の<エンブリオ>についてのジョブがあった。

 

「【酷使夢想 オモイカネ】……TYPEテリトリーか」

「テリトリーって確か見えないやつだよねー?」

「……そうだな。説明を見る限り俺のやつは結界という感じはしないが」

「なーんだつまんないの」

「…………とにかく、ほれ」

 

 俺は腹、腿、尻の筋肉を動かし膝を曲げ、再び腹筋と下半身全体の筋肉を動かし、つま先を曲げ膝を伸ばした。

 立ってる最中も筋肉、主に下半身の筋肉に軽く力を入れる事で起立を維持する。

 

「すごい! せんせーが立った!」

「おお……これは、感動だな」

 

 右手の五指を曲げて力を入れ、力を抜いて五指を伸ばすという、話に聞く“グーパー”というものをゆっくりと繰り返し、自らの身体の動きに感動する。

 

 【酷使夢想 オモイカネ】、そのスキルはたったひとつだけだった。

 

 そのスキルとは《考動》。パッシブスキルであり、その中でもセンススキルという分類に入るらしい。

 効果は、自分が思った通りに身体を動かす事が出来るというもの。

 

 今は動かしたい筋肉を指定して立ち上がったが、単純な動作なら……例えば歩く、とかなら。

 

 俺が歩け、と念じると、【オモイカネ】はその思いに反応して《考動》を発動させる。俺の足はゆっくりと交互に歩を進めた。

 

「少しぎこちないが、まあ俺のイメージが固まれば最適化されるだろう」

「おー……ってあれ!? せんせー喋ってるじゃん!」

 いや、流石に気づくのが遅すぎないか?

 

「これも《孝動》の効果だな。俺自身は口の動かし方なんて全く分からないが、俺が思った通りに勝手に口を動かしてくれる」

 

 これについてはリアルで合成音声発生装置を使用するのとなんら変わらないため、他の動きよりもスムーズに理解することが出来た。

 

「そっかー。よくわかんないけど、せんせーとお喋り出来て楽しいよ!」

 

 そうか。……まぁ、悪くない。

 

「あ、そういえば、あたしは『てるてる』って言うの、せんせーは?」

「ああ、『メアリー・スータブル』だ」

「え……なあにそれ? 女の子みたいだよ?」

「まあ、確か元ネタは女性だったな……なんだ、そんな目で見るな」

 

 そんな憐れむような……いや、違うな。優しい目を俺に向けるな。

 

「せんせー、あたしはせんせーにどんな趣味があってもせんせーの味方だよ?」

「いやまて、誤解しているぞ。メアリー・スーって知らねえか?」

 

 まぁ、知らんだろうが。

 

「知らない」

「だよな。わかりやすく言うと、「ぼくのかんがえたさいきょうのキャラクター」ってやつだよ」

「ふーん」

「で、スータブルってのは最適な、みたいな意味の英語だ。つまり、メアリー・スータブルってのは、俺の考えた最強で最適なキャラクターって意味だ、どうだ、笑えるだろ」

 

 特に何かを思ったわけでも、考えがあって付けた訳でもない。ただ

 

「何かかっこいーね!」

「……皮肉のつもりで付けたんだがな、まあいいか」

 

 ……結局、<エンブリオ>という便利な能力を自分の動作の補助に使っちまったから、この世界でも俺はハンデを背負ってんだな。

 

 でもって、ここから俺の活動(・・)がようやく始まるって訳か。

 

 まぁ、なんだ。悪くはない。

 いや、違うか。

 

 良いな。すごく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その<マスター>、メアリー・スータブル。

 生まれた頃より全身不随である彼は、自らでは決して成しえない“スポーツ”の指導という茨の道へと進んだ。

 全てはいつか自分が動けるようになった時のために。

 

 そしてその<エンブリオ>、【酷使夢想 オモイカネ】。

 そんな彼の願いは思わぬ形で叶えられた。ゲームの中という限られた枠の中ではあったが、彼は確かに動作を手に入れたのだ。

 しかし、そんな彼にのしかかるのはまたも厳しい現実。

 だが、その現実は、遊戯(ゲーム)の中で存在していいものではなかった。

 故に、彼の動きをサポートするべく、【オモイカネ】は産まれたのだ。

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて、全てを乗り越え、よじ登り、高みへと、人の域へと至る目指すチャンスを与えられた、飽くなき探求者である。

 

 〖現人神(チャレンジャー)〗。メアリー・スータブル。




(∪^ω^) <全身置換しても意味ないので

(∪^ω^) <動作補助

(∪^ω^) <両利きどころか足も手みたいに使えるし早口言葉も完璧だしいい事ずくめですね

[ 'ω' ]<あんまり良さそうじゃない紹介をするな


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八人目 七日天下

 □死にたい

 

「1週間やる。全クリしてそのデータをくれ」

 

 ちょっと何言ってるか分からない。

 

「だが、それじゃあ仕事とは言えないから、一日一回デンドロについてのレポートを提出しろ。その日のデンドロでの一日、つまり3倍の72時間の全てを事細かく記録しろ」

 

 あの、72時間丸々ゲームしたらレポート書く時間ないんですけど……。

 

「そんなのは自分で考えろ、お前ならできるだろう。期待してるぞ」

 

 わーいぼくぶつりほうそくねじまげちゃうぞー。

 

 ──首吊るのとゲームするのが究極の選択になる日が来ると思わなかった。

 

 

 

 ……ん? オンラインゲームで全クリ? 脳波認証なのにデータ讓渡? やっぱり首吊ろっかな……。

 

 ◇◇◇

 

 □【詐欺師】ステア・カデス

 

 一日目。

 

 早速ログインした。

 チュートリアルで俺と同じ波動を感じる黒服の美女に会った。名前を聞かれて適当に“捨て垢です”って言ったら“ステア・カデス”にされた。めんどくさいからそれでOK。

 

 所属国はカルディナ。理由は商人の国ってとこ。金稼ぎやすそうだった。とりあえず何をするにも金がいるからな。方針が決まるまでは金稼ぎに終始しよ。

 

 落下するときびびったけど、これでやっと死ねるって思ったら怖くなかったな。あ、生きてるって素晴らしいよ。死ね。

 

 とりあえず帰宅中に流し見たwikiで一番金稼げそうな【賭博師】はギャンブル性が高いのでNG。俺が人生の選択肢を外しまくってるのは確定的に明らかだから無理な奴だ。後で泣こ。

 

 とゆうことで、裏路地入って怪しそうなギルド入って【詐欺師】ってやつになりました。

 ぼくひとからおかねだましとるのすき。

 実際一番稼げる。口は回る方だし。

 

 

「き、貴様! 騙したな!?」

「騙してませんよ、ええ。【契約書】のここにきちんとそう書かれてるじゃありませんか」

「“この場合に発生した金銭は二度と返さないものとする”だろう! だから返さないと……」

「いえいえ、ですから、きちんと“二度と返さない”と書かれているじゃありませんか。これは一度目ですよね? さぁ、お返しくださいな」

「な……!?」

 

 

 めっちゃ稼いだ。【契約書】便利過ぎない?

 

 現実時間で丸一日詐欺ってた。睡眠時間とかそんなのねーから。

 

 ◇

 

 二日目。

 

 気づいたら【詐欺師】がカンストしていた。この頃になると【契約書】のペナルティを無視してでもお金を渡さない輩が出てきやがったので、【契約書】の効果を増強するスキルを持つ【契約師(コントラクター)】というジョブに就いてただひたすらに詐欺る。

 

 

「こ、こうなったら、刺し違えてでも殺してやる!」

「……おやおや、それはまた恐ろしい」

「うるせえ! 《クリムゾン・スフィア》!」

 

 

 死にかけた。護身用の【身代わり竜鱗】が無かったら即死だった。慰謝料は合法的に搾り取った。詐欺とか現実でやったことないから実際にこんなことしてくる奴がいるのかはわかんないけど、とりあえずもう姿を見せるのは辞めようと誓った。そろそろサツに見つかりそうだしね。

 影の存在になるために会社を興す事にした。俺は誓うよ、ブラックじゃなくてホワイトにするって。何がとは言わないけど。部長死ね。

 

 トイレのために一旦ログアウトしたら部長から怒涛の鬼電が来ていた。

 

 部長曰く、「何故会社に来ない、お前がいないと会社が成り立たんだろ!」とのこと。

 

 おっかしいな。彼は記憶に何らかの障害を患っているのだろうか。

 その懸念もあるにはあったが、俺は素直に理由を説明した。説明するしかなかった。

 

 すると部長は、「ゲームはクリアしろ、会社には来い」とのたまいやが……おっしゃられた。

 死ねばい…………死ねばいいのに。

 

 仕方なく会社に向かう。

 帰って来れたのは夜中の四時だった。……夜中? 空が光り輝いてるんですけど……まじShine。部長Shine。

 

 でもログインする。俺健気すぎない? ……だめだ、深夜テンションやばい。

 

 ◇

 

 ログインするとデンドロ内では真昼だった様で、お天道様がギラギラドラドラと輝いていた。眩しすぎて蒸発しそう。した。

 うそ、してない。

 

「お待ちしておりました。我が君」

 

 誰だ貴様。どこかで見たような顔をした貴様。具体的には鏡とかでよく見る貴様。あ、俺だ。

 

 して、俺よ、俺が俺に一体何の用だ?

 

 俺が俺の前に姿を現すという事は、俺に何らかの理由があるという事だろう。俺は俺だからな。ああ、眠い。

 

「いえいえ、(わたくし)如きが我が君とは……いえ、もちろんそれが御心とあらば完璧に我が君を演じることも造作のない事ですが」

 

 なんだこいつ。自信ありげだな。俺は眠いと言うのに俺が眠そうじゃない時点で俺は俺じゃないぞ。いや、俺は俺だぞ? あれ? なんか死にそうになってきた。

 

「おや、どうやら我が君は酷くお疲れの様子ですね。ここは私が全てやっておきますので、我が君はどうぞお休み下さい」

 

 ……やすみ? やすみこわい。やだ。こわいもん。

 

「……ふむ、我が君がそう仰られるのであるならば、私としてはその御心に従うまでですね」

 

 そうか。やっぱりやすみなんて無いよな。なんか寒気してきた。こんなにぽかぽか陽気なのに。これが自然の神秘ってやつか。

 

「それで、貴方は何方でしょうか?」

 

 俺は俺だがお前は俺では無いだろう。お前が俺ならば俺は俺じゃ無くなるからな。なんだこれゲシュタルト崩壊か? 俺ってなんだ?

 

「私如きに敬語とは、身に余る光栄ではありますが、それが我が君の本心で無いとしたら、どうぞその御心のままに私に接して下さい」

 

 敬語は癖だぞ。べつにいいだろ。泣くぞ。

 

「それは申し訳もございません。心よりお詫び申し上げます」

 

 俺じゃない俺は深く頭を下げる。その礼はまさに完璧の一言であり、その声色、礼の角度、そして申し訳なさの全ての視点から許せオーラを発している。

 

 おお、これすごい参考になるな。これこそ俺である俺ができる限界の礼だろう。

 まあ、限界の謝罪ならまだ土下座があるけど。いや、もっと限界はあるか。焼き土下座とかやったことあるし。

 

「申し遅れました。私は我が君の<エンブリオ>、TYPE:アポストルwithガードナー・テリトリーのドッペルゲンガーでございます。今日より私は我が君の代わりとなり、我が君の為だけに誠心誠意尽くす所存です」

 

 あー、<エンブリオ>ねー。オンリーワンの可能性とかいう部長が知ったら憤死案件の奴。嫌いだよ、うん。部長も<エンブリオ>も。

 

 

 

 …………ま、いっか。代わりね。うん、ありがたいよ。やってもらおうかな。俺の代わりに、天下取り。いや、むしろ国盗りかな?

 

 決めたんだ、俺。国盗って部長のものにする。それをもって全クリって事にする。ダメだったら吊る。

 

「それが我が君の願いとあらば、どんな手を使ってでも成し遂げましょう」

 

 うん、よろしく。とりあえず俺はあと少しで仕事だから、俺がログアウトするまで俺と俺で詐欺ろうか。

 

 そういや、貴様は詐欺れるの?

 

「はい、私のステータスを見てもらえば分かる通り、私は《相私双相》というスキルを持っています。これは我が君のステータス、所持しているスキルなどを私も所持していることになるというものです。もちろん、《詐術》も完璧にこなせるでしょう」

 

 よく喋るなあ。愛いやつめ。俺め。

 

 ステータスか。見とかなあかんのかね。あかんね。見とこ。

 

 ほう、なかなかになかなかだな。これなら最大の懸念であった俺がログアウトしたあとの事もどうにかなるな。

 

「はい、《時間外労働(バイロケーション)》があれば、特定空間内のみですが、我が君がいない間にも私のみで働く事が出来ます」

 

 その言い回しとネーミング嫌いだけど嫌いだよ。頭に響く。

 

 そんな茶番やってる時間が惜しいので早速会社を興す事にする。

 

 興した。《有限会社ホワイトカンパニー》。有限会社は気分で付けた。ホワイトカンパニーは私怨で付けた。

 気づいたら【契約師】がカンストしていた。会社興すためにアホみたいに契約したからかな。

 ちょうど【青詐欺(カンパニー・スウィンドラー)】っていう上級職の転職条件が満たされたらしいのでそれに就いた。

 ちなみに転職条件は、

 

 “【詐欺師】と【商人】系統のジョブがそれぞれ一つずつ50である”

 “【詐欺師】として稼いだ金額が100万リル以上である”

 “会社を興す”

 

 の三つだった。余裕。

 

 ◇

 

 三日目……? だよな? 時間感覚が死んできた。

 

 えーっと、デンドロ時間で九時間やったからただいま現実では七時。やばいじゃん。後の事を俺に任せて俺は仕事に向かう。

 

 終わった。ただいま自分。只今六時。勘違いすんな朝だぞ。何で帰らないといけないのか。もう明日から会社にデンドロ持っていこうかな。……だめだうちの部署娯楽品持ち込み禁止だ。本すら読むなってなんなの? 馬鹿なの? 死ねよ。

 

 一時間だけログインする。

 

 会社がでっかくなってた。ちょっとわからない。

 呆然としていると、俺に気づいた俺がやって来た。何故か顔を隠せるフード付きのコートを羽織っている。俺も同じものを被せられた。よく見ると《認識阻害》とか付いてた。

 でっかくなった会社の社長室に入れてもらった。道中ですれ違った清涼感溢れる佇まいのおそらく部下達が挨拶してくるので軽く答える。みんなちゃんと目が詐欺師だった。ここ詐欺グループだしね。

 

 てか部下多くね。この間デンドロ内時間で僅か三日ぐらいだぞ。俺やば。

 

「あらためてお帰りなさいませ、我が君」

 

 メイドか。いや執事か。いや違うわ俺だわ。

 

「私のいない間にここまで大きくしたのですか?」

 

 三日にも満たないぞ。デンドロ時間で。

 

「はい。詳細は私の新しく取得したスキル、《公私魂同》にてご確認ください」

 

 そう言って俺は俺の額に額を押し付けて来た。おい、やめんさい。俺にそんな趣味はないぞ。

 

 すると、これまで(かれ)が過ごしてきたであろう記憶が流れ込んでくる。いや、何これ。痛覚offなのに頭痛するんだけど。もうちょい噛み砕かせて。

 

 終わった。この間僅か一時間。七徹したときくらいの頭痛がする。

 

「おわかりいただけましたか?」

 

 わかったよ。あれから詐欺を繰り返した事も弱味を握って通報させてないことも部下を大量に育成してることもその部下にすらも自身の顔は見せてないことも。あとついでに第四形態になったことも。

 

 優秀。

 

「ありがたきお言葉でございます」

 

 よしよし、それじゃあお金も貯まった事だし国盗り始めますか。

 どの国にしようか。七大国家は無理っぽいし小さいのがいいよね。カルディナの近くの小国家。

 

「その目星ももう付けてあります」

 

 まじか有能。

 

 こちらを、と言って俺が差し出したのは、三つの資料だった。

 その三つの資料には、それぞれ国についての特徴がこと細かく記されていた。

 

 すごく要約する。

 

 

<デオドランド>。何かやばい麻薬売ってる。【麻薬王】がいる。アルター寄りにある。

 

<センザンコウ>。あんまりやばくない。黄河寄りにある。

 

<メネオン>。やばい寒い死ぬ。【蒸気王】がいる。厳冬山脈寄りにある。

 

 

 はい<センザンコウ>一択。

 

 よっしゃ。盗りますか。

 

 あ、その前にお仕事ですね。死に近づいて来ます。

 

 ◇

 

 四日目。お仕事終わりました。……終わってないでした。お仕事して来ます。死にます。

 

 ログインすると会社が無かった。更地だった。

 ……ちょっと分からない。吊りたい。

 

「我が君……」

 

 ……どしたの? なんかあった? むしろこの有様でなんかなかったらそっちの方がヤバいが。

 

「いえ、私の思惑通りに事は進んでおります。……失礼します」

 

 彼は俺の額に額を合わせる。そして流れてくる記憶と頭痛。だが今回はそれを見越して頭痛薬を用意してくれていたらしい。うれしみ。

 【薬学王】ってのが調整(・・)した特製の頭痛薬らしい。効かなかったけど。かなしみ。

 

 そして理解した。なるほど、一度終わったものにして情報を完全に遮断したのか。

 確かに会社興したのも金稼ぐためだったし、従業員も、俺が国盗ろうってなった今となってはただ邪魔なだけだしな。退職金はちゃんと出てるからホワイトだよな? うちでないし。

 

 じゃあ行くかー。

 

 と、その前に仕事。仕事からの仕事。準備よろしく俺。俺は死ぬ。

 

 ◇

 

 五日目。

 

 準備は万端、俺の命は終端。さぁ行くか。もしくは逝くか。

 

 到着。黄河近くの<センザンコウ>。部長確か中国とかよく行ってたし気に入るだろ。主に浮気しに行ってたはずだけど。女の敵だし俺の敵。

 

 まぁ別に黄河に近いってだけで中華っぽさ0の普通の砂漠だけど。砂が顔にまとわりつく。スーツで来るんじゃなかった。

 

 移動に時間がかかったので今日はここまでかな。

 金に物を言わせて買い取ったドライフの<ガイスト>でぶっ飛ばしてきてこれだからね。体の節々が外れてます。薬で治した。いやどうなってんのかは俺には分からない。【薬学王】すごいってことは分かる。

 

 ◇

 

 六日目。

 

 会議の資料作ってたら、普通に定時に帰ってた部長から電話で「今日は早く帰っていいぞ! デンドロは順調なんだろうな!」って言われたので任せてくださいと返して切った。

 やったー早く帰れた夜中の二時ー。死ね。

 

 てか会議は朝イチなんだから別に早く帰っても資料は作るんだよ。くそ。素早く帰って一時間で資料作成してログイン。

 

 もうクライマックスになってた。ドラマで言うと5話くらいから最終話まで一気に飛んだ感じ。まぁ《公私魂同》でどうなってるのかは分かってるからいいんだけど。

 

「この国を差し上げます。どうか、どうか国民をお救いください」

 

 なんか盗るの辞めた<デオドランド>がカルディナ侵略の第一歩として、アルター寄りである<デオドランド>とは正反対に位置する<センザンコウ>を奪おうとしているらしい。

 しかも国民の虐殺という最低の方法で。なんでせっかくの人的資源を無駄にするんだ? アホなのか? 別に力だか恐怖だか麻薬だかで従えればいいじゃん。

 え、ティアンの完全遺骸から麻薬を作る? あ、そうですか。私にも分けてください全てを忘れたいんです。

 え、麻薬は<マスター>には効かない? じゃあ死にます。

 

 ……てか仮にも一国の王が俺みたいな中間管理の極みみたいなやつに頭下げんなよ。こっちが寒気するわ。

 

「どうか……どうかっ!」

 

 ……いやだよ。知らねえし。ゲームの中のこととか知らんがな。俺が死にそうなんだよ。むしろ俺を救ってくれ。

 

 …………知らねえよ。

 

 国は貰った。ギザ嬉しす。貰えるものは貰っときたいタイプ。仕事と依頼と労働以外。

 

 

【【契約書】を用いての国の略奪に成功しました】

【条件解放により、【国売(ネイション・バイヤー)】への転職クエストが解放されました】

【詳細は詐欺師系統への転職可能なクリスタルでご確認ください】

 

 

 ふうん、【国売(ネイション・バイヤー)】、か。……へえ、いいやん。貰ったろ。

 一人しか就く事の出来ない超級職奪って後続に嫌がらせしたろ。

 

 転職クエスト受けてきた。(かれ)がいたから楽勝だったわ。

 

 

 はは、これで仕事終わりだな。

 

 ……一日余ったな。

 

 …………疲れたわ。寝よ。

 

 ………………うん。

 

 ◇

 

 七日目。

 

「準備は出来ております」

「おけ、有能。ありがとな」

「……! 有り難き、お言葉でございます」

 

 あー、初めてのタメ口。ビジネスが抜けたぞぅ。

 

 ここは既に<デオドランド>。俺が居ない間になんで移動出来てんのっていうのは、なんか■■L? ってやつで第六に進化して、その時に《休日出勤》っていう“<マスター>が非ログイン時に、一日限定で特定範囲外も行動できる”というスキルを手に入れたかららしい。

 俺が見ないうちに勝手に成長する。優秀の極みだわ。まじで見習いてぇ。

 

「いえ、私は我が君。私に出来ることは我が君にも出来る事であり、事実我が君は私など足元にも及ばないくらいに成長しておりますよ」

 

 下の方から上から目線で矛盾した言葉を頂いた。ありがと。

 

 じゃあ、目の前のこいつをなんとかしようかな。

 

「な、なんだお前は!」

 

 いきなり現れた、俺と瓜二つの俺に困惑した声で俺と俺を交互に指さす豚に良く似た<デオドランド>の国王。

 【麻薬王】は別に居るらしいが、既に捕縛済みらしいのであとはこいつだけだ。

 

「失礼、申し遅れました。私は<センザンコウ>現国王、ステア・カデスと申します。この度は、この国を頂きに来ました」

 

 シンプルイズベスト。あんまり難しいこと言うと理解されなかったとき困るからな。専門用語を説明するのに別の専門用語使うやつはクソだから覚えときましょう。

 

「<センザンコウ>!? あそこの国王は確かもっと別の……」

「ええ、最近国を買い取りまして、今は私が国王です。どうぞお見知り置きを」

 

 まぁ最近ってか昨日だけど。そして国を貰いに来たっていうのは頭に入らなかったらしい。

 やっぱ教育って難しいよな。大事なのは根気だけじゃない。

 

「それで、国を頂くという件についてですが……」

「はっ、な、何を言うかと思えば、国を寄越せだと? 勘違いも大概にしろ! お前らの国と我の国、争って勝てるとでも思っているのか!」

「いえ、全く勝ち目はないと思っております。だからこそ、こうして平和的に解決しようとしているのですよ」

 

 まぁ、実際は【麻薬王】は抑えたし、麻薬の流通止めればなんとかなりそうな気もするけど、今日で終わらせるつもりだから別にいいや。

 

「はっ、交渉には乗らんぞ、バカバカしい! おい! 誰かこいつらを捕らえろ! 馬鹿を仕出かしたことを後悔させてやる!!」

 

 豚王が周りの近衛兵っぽい人達に命令する。あー口調が部長に似てるわー。イライラする。いやムカムカする。吐きそう。

 まぁ、でも近衛兵は動かない。いや、動けない、かな。

 

「いえ、彼等とは既に“契約済み”ですので、手出しは出来ませんよ」

「なっ!?」

 

 流石、詐欺師系統契約特化派生超級職【国売(ネイション・バイヤー)】。契約的拘束力は折り紙付きだな。これ現実に持ち込めれば俺は入社6年目にして初めての有給休暇を取れるんだろうか。いや無理か。滅ぶか。

 

 豚王は動かない近衛兵に怒りを顕にしようとするが、なぜ動かないのか、その意味を悟ったとき、初めて俺と俺に恐怖したように顔を青冷めさせた。おっそ。理解力皆無かな? そんなところも部長にそっくりだね。もしかして君ドッペルゲンガー?

 

「それに、対価も用意しているのですよ?」

「た、対価……? 馬鹿馬鹿しい。そんなもので我が国を手渡すと思っているのか!!」

 

 精一杯の虚勢。まぁ、俺も商人だし、ちゃんと釣り合うものは用意したはずだよ、多分。まぁ、俺も詐欺師だし、もし釣り合わなくても勘弁してくれ。

 

「貴方に対価として差し上げるのは、私自身です」

「……はぁ?」

「実は、私<マスター>でして。貴方に私の身体を差し上げましょう。全てのジョブに適正を持ち、限界の無い才能を持つ、この不死身の肉体を」

 

 (かれ)の調べによると、こいつは不老不死になるために色々と試行錯誤していたそうだ。【麻薬王】がこの国にいるのも、その不老不死を叶えるための薬作りをさせるためであり、そのための支援を惜しまなかったから【麻薬王】もこの国に留まっていたという。

 

 まぁ付け込むよね、そんな隙あったら。

 

「不死身……しかし……うーむ」

「……なにか勘違いされている様ですね。もはや貴方に選択肢はございません。貴方はただ、私に委ねる事しか出来ないのです」

 

 そこでずっと見守っていた(かれ)が、懐から何かを取り出す。

 

「だって、貴方書きましたよね、この【誓約書】に」

 

 【誓約書】。それは国家間での契約を行う際に使用される契約書だ。その契約を反故にすれば、災害や飢饉など、国単位での制裁が待っている。

 

 そんな【誓約書】に書かれてあるもの。俺の手からひったくったそれを読んだ豚王の顔が驚愕に染まる。

 

「こ、これは……!?」

 

 書かれてある内容は極限まで要約するとこうだ。

 

 ・我が国で流通している()を貴方の国に売る。

 ・その対価として、貴方の国は我が国に、私達が適当であると判断した金額、もしくは物品、土地、その他を支払う。

 

 それは、国家間での麻薬を売買する際に用いる、<デオドランド>が使用している【誓約書】。それと全く同じ内容の文章であった。

 いやー、結構足元見てんよねこれ。定額じゃかなくて時価だし、絞れるだけ絞ろうという意思が垣間見える。

 

 普通は<デオドランド>にて発行されるものだが、これを書いたのは(かれ)。俺が国王であるならば、当然俺である(かれ)も国王である。

 そして、全く同じ内容だったとしても、別国の王が書いたのであればそれは全く別の意味を持つものとなる。

 

 <センザンコウ>で流通させた薬──文字通り薬を持って国中を走り回った(・・・・・・・・)らしい──それを、紛れ込ませた【誓約書】と一緒に<デオドランド>で売ったらしい。

 

 売った薬は、【薬学王】謹製の最高級品。俺が稼いだ金ほぼ全てを費やして買い叩いたそれは、小国一つや二つくらいなら傾くくらいの価値を持つ。

 

 それを隠して、通常の薬と同じかそれよりも安く売った為、まぁ足りないよね。

 <デオドランド>貰うくらいじゃないと、釣り合わないよね。

 

 だから、要するに俺の身体をあげるってのは契約にはない、言うなればプレゼントみたいな物だ。これで豚王が満足してくれれば俺も嬉しいよ。

 

 ってのはまぁ嘘で、本当は【国売】の奥義である《御国の為に(エンゲージ・ギフト)》を使用しました。効果としては“契約の際、契約にある物より多くの対価を支払った場合、相手が契約を断る事が出来なくなる”という理不尽なスキルです。欲しい。

 

「そ、そんなのずる……」

「ええ、詐欺師ですので」

 

 ずるいのは当たり前。本当は清くありたいんだ。でも部長が国欲しいっていうし……センザンコウの人達が助けて欲しいっていうし……仕方ないよね!

 

「それでは交渉成立ということで、この身体を差し上げますね」

 

 使用するのは必殺スキル。なんでこんなものになったのかは俺にも分からない。

 まぁでも、逃げたいってのはあったかもしれない。

 

「──《一私剥くいて我が君に(ドッペルゲンガー)》」

 

 俺の身体が、醜く太った豚へと変わっていくのが分かる。

 

 そして、対する豚の方は次第に俺へと変貌を遂げている。まあ、正確には俺じゃなくて(かれ)なんだけど、(かれ)も俺だから問題は無い。

 

「な、なんだ! これは!?」

 

 このスキルの効果は単純明快だ。ただ、身体、そして器を入れ替えるという、それだけのスキル。

 ただし、それは、俺と(かれ)と対象の三人が、トライアングルのように入れ替わることを指す。

 俺の身体は(かれ)が継ぎ、(かれ)の身体は豚王が継ぎ、そして豚王の身体を俺が継ぐ。

 その三竦みを経ることで、必殺スキル完了となる。

 

 うわー、体力の低下が著しい。身体が重すぎて立ってるのが辛い。

 

「は、はは。不死身だ、我は不死身の<マスター>へと至ったんだ!」

 

 俺の顔で我とか言わんで欲しい。反吐が出る。

 

「ということで、契約どおり、この国はいただきますね」

「はっ、勝手にしろ! 不死身という夢が叶った今、この国なぞくれてやる!」

「それはよかった。ですが、念の為国外追放ということにさせていただきますね」

 

 それに了承した豚王……いや、もう豚でも王でもないな。(あいつ)は、(かれ)に連れられて意気揚々と砂漠へ向かった。

 

 さて、(あいつ)は<マスター>として不死身の身体を手に入れたわけだけど、あいつが死んだら一体どこに行くんだろうな。現実には行かんだろうし。俺は知らんぞ。

 

 ……ふぅ。

 

「国盗ったったぞコラァ! しかも二個だぞ! コノヤロー!!」

 

 これはもうクリアでいいだろ……さすがに。

 

 あとはデータ讓渡か……国王の引き継ぎをすれば実質讓渡だろ。その為の手続きもしとこ。終わった。よし、もう知らん。これでだめだったら社会的に死ぬ。

 

 早速会社に向かって部長に報告。報連相は基本。相談は抜きで。報告と連絡はしたら嫌がられるけどしないと怒られる。

 ……あ、レポート。………………多分忘れてるでしょ、うん。

 

「おお、よくやった!」

 

 やったぜ。寝よ。

 

「何言ってるんだ。仕事があるだろう」

 

 さいですか。七徹で頑張ったのにまだお仕事ですか。

 

 ……かしこま!!

 

 ◇

 

 八日目。

 

 今日も今日とて働きます。お国のために、欲しがりません勝つまでは。

 昨日は20分も寝れてすがすがしい気分だ。死にそう。

 

 部長、おはようございます。今日も健康そうですね! 俺の血液型ABのRH-なんですけど良かったら輸血しませんか!

 

「おい! 俺の国がぶっ壊されたぞ! これはどういう事だ!」

 

 ……あ、はい、死にます。

 

 会社の屋上から飛び降りた。大事になって会社が労基に見つかった。俺は終末治療ニートになった。デンドロは捨てた。もう疲れた。寝る。おやすみ人生。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その男、【国売】ステア・カデス。

 その者のログイン日数は総計で僅か七日。その僅かな時間にて、彼は二つの国を手に入れ、デンドロを辞めた。

 

 そしてその<エンブリオ>、【反面共私 ドッペルゲンガー】。

 彼は<マスター>のために存在し、<マスター>につき従えることにこそ喜びを感じる社畜である。

 彼は己の<マスター>が帰ってくるのを今も待ち続けている。

 

 それは、このインフィニット・デンドログラムにて、伝説となり、歴史として消えた社会家畜者である。

 

 〖労働者(ライブストック)〗。ステア・カデス。

 

 

 




(∪^ω^) <アバターはアリスさんが再構築しているらしいですが、<マスター>の肉体だからといって、ただのティアンのために再構築を行うんですかね

(∪^ω^) <そもそも、<マスター>の肉体を奪った(語弊)あの人を、アリスさんはどうするんでしょうね

(∪^ω^) <まぁ、わかんないですけど



 □詐欺師系統の超級職

(∪^ω^) <詐欺師系統契約特化派生【青詐欺】の超級職である【国売】です

(∪^ω^) <あとはもちろん【黒詐欺】、【白詐欺】、【赤詐欺】の超級職の人も居ます

[ 'ω' ]<詐欺師系統の超級職はロストしてるんじゃないのか?

(∪^ω^) <はい、なので原作の本編開始時までに全員引退してます

[ 'ω' ]<えぇ……


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