fate/Grand order 妖都櫃夢 (録音ソラ)
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プロローグ
これはセイレムから戻ってきて数日後の話だ。
アビゲイルへと降臨しかけた"異端なる神"を、幾たびの戦場を共に駆け抜けた仲間と共に倒し、彼女の新たな旅立ちを見届けた。
それで終わりだと思っていた。
帰ってから数日後、ダ・ヴィンチちゃんに呼ばれた俺はマシュと近未来観測レンズ「シバ」のある管制室へと急いだ。
「二人とも来たね。ちょっとどころじゃないが異常が発生してね、今からレイシフトをしてもらいたい」
「セイレムで魔神柱の消滅を確認しました。これ以上、人理焼却が行われるとは思えません。それに新局長が来られるまではレイシフトを禁止にするのでは?」
そう、セイレムでの戦いは俺たちにとって最後の戦いのはずだ。生き延びていたはずの魔神柱は全て倒された。そして、レイシフトを封印すると決定されていたはずだ。
「決定が覆るようなことがあった、ということですか」
「そういうことだね。それとセイレム関連のものだからということもあるんだろう。上ってのはいつも身勝手なものさ」
「一体どのような…」
ダ・ヴィンチちゃん曰く、セイレムで現れた"異端なる神"の一部が外へと出てしまっていた。その後、本体そのものを倒したため、消え去りはしたのだが、影響は残っていたということ。その力の残滓に触れ、異常が起きたという。
「異変が発生した場所はアーカム。調べてはみたけど、どうやらあの異端なる神との繋がりが深いようだ」
「アーカム…具体的な場所はどこでしょうか」
「場所はセイレムと同じ。まぁ、ここはセイレムのような風景はなく、大都市になっているようだ」
同じ……?
「どういう……?」
「アーカムというのはセイレムをモチーフにした架空都市。姿形瓜二つ、場所も全く同じときた。もう一つの名前と言っても間違いじゃないんじゃないかな。と、されていたんだがね」
「ダ・ヴィンチちゃん、30字で」
「なんと、架空都市とされていたその都市は実在していたんだ!セイレムという殻を被ってね」
「まとまっていません、ダ・ヴィンチちゃん」
その後、文句を言ったダ・ヴィンチちゃんが簡潔に説明してくれた。
セイレムが存在する場所にもう一つ都市、アーカムが存在していた。それは本来ならば、目にすることも入ることも出来ないよう結界が張られていた。が、先のセイレムから漏れ出た力が結界を揺るがせた。その結果、アーカムがこちら側へと出てきた。
「まぁ、言ってしまうとアーカムはセイレム以上に異常だ。まぁ、異常なのは常らしい。それで安定してるんだから相当狂ってる場所だ」
「どう異常なんですか?」
「いや、それは全く。何せ、入った人間はいても出た人間はほとんどいないんだ」
その一言に空気が凍る。先のセイレムも、初めは同じような状態だった。そして、それよりも異常だとダ・ヴィンチちゃんに言わせたアーカム。中では何が起こっているのか。
「そういうわけで今回こそはほとんど情報無しな状態で行くしかないけど、どうする?」
「もちろん、今すぐアーカムに行こう!」
「うんうん、それでこそだ。なら、共に行くサーヴァントを……」
これから始まる今と次への間の物語。狂いに狂ったアーカム。そこで彼らに待ち受けるものとは一体ーーー
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同刻、アーカムシティ。
「異変に異変にさらに異変!仕事が増えて給料増えるのはいいが受け取りに行く暇もない!実質タダ働きみてぇなもんじゃねぇか!」
「社会への奉仕が存分に出来ると考えれば良いことではありませんか、魔導探偵殿」
「金が無ければやってられるか、んなこと!というより、なんで毎度持ってきてくれないんですかね!執事さん!」
変わらぬ毎日。騒がしい街。今はまだ。
「今は外とこちらは繋がってしまっている。厄介なことが起きなければいいのだが」
「うむ。しかし、ここは表に出るだけでも周囲に影響を与える。何が起きても不思議ではない」
「外から来る客人は耐えられるでしょうか。この狂気に」
図書館では三人の男が話し合う。これから降る最悪に対峙するために。今はまだ。
「さて、彼らが来るまでは見回りと行こうか、レディ」
「今は外には出られないけどね、ダディ」
彼らを待つ二人はいつもの日常を見守る。今はまだ。
「さぁ、再び始めようか。終わりの始まりを。始まりの終わりを。永劫の終焉を。永劫の開演を。もう一度踊ろうではないか。なぁ、魔導探偵」
獣はただ一人静かに呟く。黄金に輝く杯を片手に。
この二つともさっぱり理解出来ない()
作品の内容難しいんだよ。ちんぷんかんぷんだよ。面白いけど。多分続く
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1話 ようこそ、アーカムシティへ
レイシフト。
それは物体を一度霊子化させ、過去や未来、様々な場所へと転移させる事ができる、カルデアにある、人理修復のための技術の一つである。
そのレイシフトで俺たちはアーカムへと直接転移する筈だった。
しかし、目の前にあるのはアーカム行きと書かれた看板のある無人の駅だった。
「………あれ?」
「変ですね。セイレムの時と同じようにアーカムの外へと転移したみたいです」
どうやらアーカムに行けなかったのは全員のようだ。駅には自分の他にも何人か、いや、何体かのサーヴァントが辺りを見渡している。
「とりあえずダヴィンチちゃんと連絡を」
「急いで連絡を取ろう、マシュ。座標入力のミス、とかならいいんだけど」
そうは言ったものの、恐らくその可能性は限りなく0に近い。カルデアにあるスタッフはみんな優秀な人達だ。それにダヴィンチちゃんがそんな初歩的なミスを見落とす筈もない。念入りに確認してからでなければレイシフトを行うことは出来ない。それほどにレイシフト自体安全なものではないのだ。
「センパイ!繋がりました!」
「やぁ、無事のようだね。こちらでも君達がアーカムにいないことを確認している」
ダヴィンチちゃんと連絡が繋がった。が、その表情はいつもの明るい表情ではなく、かなり深刻そうな顔をしている。何かミスか、はたまたトラブルか。
「アーカムの外に転移したのは一体何故でしょうか?」
「原因は簡単さ。あの街にある結界が邪魔をしていた。厄介なことにアーカムに入る直前に霊子が弾かれたのを確認していてね。霊子化した状態では結界内に入ることさえ許されないってことさ。相当な守りだ。よっぽどとんでもないものを封じ込めているとしか考えられない」
「入れないなら入れないようにしているだけじゃ?」
少し疑問に感じたから聞いてみる。結界は外からの侵入を拒んでいるからこそのものなのでは?封じ込めているのだとしたら中はとんでもないことになっている。目も当てられないくらいに異常に。
「外から入れないということは中からも出られないということさ。確かに侵入だけを拒む結界もあることにはあるが、街全体を覆うほどの大きさのものは大雑把で強力なものが一番だ。維持するだけでも相当な繊細さと魔力が必要になるからね」
「大雑把に強力…だとしても、魔力の維持は難しいのでは?」
「確かに。恐らくそれほどの魔力を維持するものか、それか地形を利用した結界だろう。日本には柱を立てて土地に五芒星を作り結界にしたっていう話もあるだろう?それと似たように土地の魔力を使うのさ。それなら、この地球の魔力が無くなるまでは永久に続く。最強の結界の完成さ」
成る程、さっぱりだ。マシュは頷いて聞いているが正直よくわからない。もう少し他のサーヴァントから結界について詳しく聞いておくべきだったかな。最近はレオニダスと筋トレしかしてなかったからなぁ…!
「ほう、であれば相応の力を持たぬ英霊ではあの結界内部には入ることすらままならぬというわけか。ここに来た英霊ではまともに入る事ができるのは我ぐらいか」
「まぁ、ギルガメッシュ王ほどの神性持ちであれば恐らく入れるだろうね。それだけでも結界への影響力は違うだろう。その条件で入れるならあとはクー・フーリンも同じくだ。その二人だけなら入れる」
今回の編成は、マシュ、術ギル、槍ニキ、小次郎とメディアさんだ。この中で神性持ちは確かにこの二人だ。ただ、組み合わせ的に心配しかないのが残念。
「アイツと組むのは真っ平御免だが、入れるのがそれだけなら仕方ねぇ。俺の槍で守ってやるよ、マスター」
「ハッ、当たらぬ槍で何を守るというのだ、駄犬。雑種は我が見張る。それだけで十分すぎるというものだ」
「ダヴィンチちゃん、チェンジ」
心配というかもうダメな気がする。ダヴィンチちゃんにヘルプを出したがあっさり断られた。まぁ、神性持ちサーヴァントって確かカルデアにほとんどいなかったなぁ……
「何、気にすることはない、マスター。そこのランサーもアーチャーもいつも通りじゃれ合っているだけだろう。心配せずともいざという時は力も合わせ守ってくれる」
「エミヤ…」
「まぁ、力を合わせたところなど私は一度も見たことはないがな」
おーい、エミヤさん。突然話に入って来たかと思えば不安の種ぶち巻いて颯爽と去って行くのやめません?貴方そういうキャラでした?
そんなこんなしているうちに電車、というよりどこからどう見ても汽車という感じの汽車が来た。3両編成と短いものだが、意外とすぐに来てくれたのが良かった。
「汽車?アーカム行き?その辺りにはそんなものはないはずだが…恐らく何かある。気をつけて乗って行くほうがいい。それと、連絡手段は恐らく結界内では使えないだろうから、外で待つサーヴァントにでも渡しておくのが一番だ」
「連絡手段はまた中で探してみます。見つかればいいんですが…」
「まぁ、可能性は0に等しい。それよりも生き延びて、特異点を元に戻すことに集中して行ったほうがいい」
これから特異点に向かうというのに、いつもよりも不安げな表情のダヴィンチちゃん、仲間割れというか喧嘩というか何やらしている王様と槍ニキ、霊子さえ弾いてしまうという強固な結界。これだけの不安要素があるからいつも以上に気を張っていかないと。
「ま、いつも通りでいいんだ。気なんて張らずにパパッと解決だぜ?さっ、レッツ聖杯探索」
「軽く言ってくれるなぁ、ダヴィンチちゃん…」
「俺と嬢ちゃんがいるんだ。安心しな、マスター」
「駄犬如きでは不安であろう。我が直々に雑種のお守りでもしてやろう」
不安だらけの最期のレイシフトが今、始まる
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あれから汽車に揺られながら、30分。目の前にアーカムが近づいて来た。周りは自然に囲まれながらも街の中はビルやら何やらが建っている。どう見ても違和感ありまくりな街並みだ。その中でも目立つのは時計塔。魔術師は時計塔が好きなのかな?ロンドンにも確か時計塔があって、孔明がそこで教師してるんだっけ。
そんなことを考えながらアーカムを見ているうちに先程まで「駄犬」「過労死」などと言い合っていた二人の声が聞こえなくなっていた。気になり見てみれば、無言で臨戦態勢に入っているような顔つきになっている。アーカムはまだもう少し先だというのにどうしたのか。
「悪りぃ、マスター。ちょいと席を外させてもらうぜ」
「あと10分ぐらいすれば着きそうなのに?」
「あぁ、だからこそだ。最悪令呪を使ってでも身を守る羽目になるかもな」
そう言い残して、前の車両へと移動するクー・フーリン。そんな彼とは違い、無言のままその場から動かずにアーカムを睨む王様。
まるで、心底嫌いなものに対して嫌悪した目を向けるかのように。
「何かある?」
「気がつかぬか?あの街のあの結界からさえも漏れ出る異質な空気。いや、瘴気とでも言う方が正しいか。あの駄犬に何があろうとここから立つことなど考えるなよ。死ぬことになるぞ、雑種よ」
王様がそこまで言うものなら、恐らく余程なのだろう。
その言葉で少し心配になり、マシュの方を見てみる。マシュも何かを感じているのか、怯えたように身体を震わせ、固まっている。落ち着かせるように頭でも撫でようかと考えた時、初めて何かを感じ取った。感じ取ってはいけないと思えるほどの何かを。
それを感じたと同時に、汽車は、アーカムへと足を踏み入れた。
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汽車がアーカムへと足を踏み入れた。それは身体が感じ取った。結界へと触れた感覚がある。弾き飛ばされることもあり得たが、どうやら条件はクリアしていたようだ。しかし、この街は安心している暇を与えてくれるほど優しくはないようだ。
「この車両は俺の貸切だったはずなんだがな。何処から入り込んだ」
「余は元より此処にいた。貴公が気がつかなかったのは力不足。余の貸切車両に無断で足を踏み入れたのだ」
ランサー、クー・フーリンが睨む先に一人の金髪の男がいた。その姿は見るものを全て魅了するかのような美しさと艶かしさを持ち、されどその奥に、その瞳の奥に獣の姿を感じさせる。人ではないと、彼の直感がそう告げる。
「そいつは悪かった。気がつかせねぇようにしていたアンタにも落ち度はあると思うがね。姿ぐらい初めから出していれば気がつけたんだがな」
「それが貴公の足りていない部分だ。そして、礼儀も欠けている。アイルランドの御子」
お互いに睨み合い、言葉のみで牽制し合うように。しかし、金髪の男が放つ言葉一つ一つは彼の身体を蝕む瘴気が混ざり、交ざる。目の前の男の前に立っていることさえ不思議でならないほどに身体は恐怖を覚えていた。
「名乗らずとも分かっているようじゃねぇか」
「知っているとも。だが、人とはコミュニケーションと言うものが大事であろう。礼儀さえも知らないようであれば、貴公の親の程度が知れる」
「ったく、名乗ればいいんだろうが。サーヴァント、ランサー。クー・フーリンだ。槍のことやらは話す必要はないだろ」
何とか距離を保ちつつ、話を続けようと試みるが、彼の足は根を張ったように動くことすら出来なくなっている。彼の目の奥から見える獣は、獣の如きクー・フーリンさえも恐怖で縛り付けるには十分すぎるものだったのだ。
「お目にかかれて光栄だ、光の御子。余はマスターテリオン。魔術の真理を求道する者なり」
マスターテリオンと名乗る男は一歩、そしてまた一歩と距離を縮めていく。槍すら出せないクー・フーリンの元へと。
「そして、この特異点の黒幕でもある。余を打ち倒し、聖杯を回収すれば、特異点は焼却される。今であれば、余の心臓を貫き、全てを終わらすことも容易いぞ。光の御子よ」
「なら……お望み通り、呪いの朱槍を食らわせてやろう。スカサハ直伝ーー
殺気と瘴気。その全てが緩んだ一瞬で取り出した朱槍。それは彼の宝具。真名を解放すれば必ず当たる必中の槍。槍が当たったという結果を作った後に槍で突くという因果逆転の宝具。それをほぼ至近距離から放つ。回避などーー不可能
「ほう、これが心臓を穿つという因果逆転の呪いの槍か。だが、余のもとに届かなければ話にならない」
かつて、此処ではない何処かの世界では、その槍はアイアスの盾すらも貫いたという。仕留め損ないはしたものの、英霊の盾を貫き手傷を負わせた程のもの。
それほどの一撃だというのに、目の前の魔術師を名乗る何かはいともたやすく、顔色一つ変えることなく障壁ひとつで防ぎきっている。
「な…槍の呪いが…っ⁉︎いや、それよりなんで貫けねぇ…⁉」
「その程度が貴公の実力か。であれば、カルデアのマスターとやらも大したことがないか。では、此処で退場だ。
余としたことが言い遅れてしまった。ようこそ、妖都アーカムシティへ。そして、さようならだ。光の御子よ」
そう言い放つ彼の手が、言葉を失い目を見開いたまま、ただ呆然と立ち尽くすしか出来なくなったクー・フーリンの心臓を刺し穿ったーー
誤字脱字変なところは感想等で教えてね()
ひさびさに書いたけど3時間でこれだけとは……
次回はいつになるかなぁ!!!(やけくそ
2020/5/15 一部修正
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2話 邪神
藤丸立香達の乗る車両がアーカムへと入ると同時に誰もいなかったはずの向かいの席から気配を感じる。
その気配は人のものではない。
人のものどころか生き物の気配なのかすら怪しい。
背筋が凍る。
本能が恐怖を
悍ましさを
死を
絶望を
狂気を実感させる。
目をそらしていたい。だが逃げるわけにはいかない。
気配のする方を見る。
それは人の形をしていた。笑顔を浮かべ優しそうな雰囲気を醸し出してる老紳士のように見える。見た目だけならただの人のようにも思える、服の下から見える顔のような何かさえなければ。
服の下から見えた何かはこちらに邪悪な笑みを浮かべてるようにも見える。
今まで感じたことのない恐怖が吐き気を催す。だがこれ以上は体が動かない。どうすることも
「何を呆けておるか、藤丸立香。目の前の敵に恐怖し動けなくなったなどと言うまいな」
ギルガメッシュが目の前の老紳士を見ながら声をかけてくる。
その声で少し恐怖が薄れる。薄れた恐怖を振り払い、前を向く。逃げたくなる恐怖を未だに微かに震えるマシュの手を握り、お互いに落ち着かせる。
その姿を見た老紳士が口を開く。
「なるほど、なるほど……仲間の声ひとつで恐怖を打ち払えるとは。その勇気、素晴らしい、実に素晴らしいなぁ。いやしかし、そうでなくては、そうでなければ君たちはこの町で生き残れはしないのだよ」
老紳士は優し気な笑みを浮かべたまま、興味深そうにこちらを見つめている。
「あなたは……?」
「私か? 私かね? 私はウェスパシアヌス。ブラックロッジのアンチクロスであり、君たちの敵であり、サーヴァントだ」
「ブラックロッジ……?」
聞きなれない言葉だった。だが、それよりも、目の前の老紳士ははっきりとサーヴァントだと、敵だと言った。
おそらく嘘ではない。だがなぜだろう? こんなにも目の前の存在がサーヴァントだということに違和感を感じるのは
「ふ、はははは! 笑わせるわ。貴様がサーヴァントだと? アンチクロスなどというただ崇拝するだけのものが我と同じ英霊を語るか!」
「そう言われてもだね。今はサーヴァントなのだよ。そうなっているのだよ」
表情に変化はあまり見られないがギルガメッシュの言葉には若干の怒りを感じる。
「すぐに動けず申し訳ありません先輩……手を握っていただけて少し恐怖が和らぎました。もう大丈夫です」
耳元でマシュが囁く。声が若干震えているが表情は落ち着いているように見える。
ウェスパシアヌスと名乗ったサーヴァントとギルガメッシュがにらみ合うように見つめ合う。静寂に包まれた空間で両者いつ仕掛けてもおかしくない雰囲気だ。
そんな静寂を打ち破るように前方の車両──クー・フーリンが向かった車両──から、ガンッと何かがぶつかったような大きな音が響く。
音が聞こえた車両から何かがゆっくりとこちらへ向かってくる。聞こえるはずがないのにしっかりと足音が耳に伝わる。何かが近づくたびに体の震えが戻ってくる。和らいだはずの恐怖がさらにより濃い恐怖となって押し寄せる。
体の震えが止まらない。
より強い死を感じる。
逃げなくては。
勝ち目などあるはずがない。
そんな思考が脳内で駆け巡る。
マシュやギルガメッシュは前方車両を見据えながら身構えてる。ギルガメッシュは立ち上がり戦闘態勢をとれているものの、マシュは盾を杖のようにして震えながらも何とか立っているように見える。
俺は立つことすらできない。声を上げることすら。
コツンコツンと聞こえる足音はついに止み、前方車両とこの車両の連結部につき扉を開ける。
扉の奥から現れたのは人/死だ。人外じみた美しさの男/獣だ。その姿に魅入られたかのように目が離せない。しかし、目の前のそれから感じるのは恐怖/絶望/死―いや、言葉では表せないほどの何かだ。
男はゆっくりと俺の方に藤丸立香に近づいてくる。俺のそばにいてくれていたマシュの横を通り過ぎ、目の前まで
「はじめまして、カルデアのマスター、藤丸立香。余はマスターテリオン。魔術の心理を求道するものなり」
彼は微笑みを浮かべる。その笑みに吸い込まれそうになる。
離れなければ/動けない
ギルガメッシュたちに助けを/口が動かない
逃げる算段をつけなければ/思考が纏まらない
「っ……マスター!」
マシュの声が聞こえた。しっかりと。
その声で思考が纏まり始める。恐怖はぬぐえないが意識ははっきりし始める。
「あなたが……あのサーヴァントのマスターなのか……?」
「いかにも。この者は余の持つ聖杯によって呼び出したサーヴァントだ」
「っ……!」
「そして余もサーヴァントだ。貴公がこの特異点を修復しようとするのであれば必ず倒すべき敵である。以後、お見知りおきを」
マスターテリオンと名乗るサーヴァントは敵と名乗りながらまるで握手を求めるように手をこちらへと伸ばしてくる。血で赤く染まった手を。
この男がやってきたのはクー・フーリンが向かったはずの車両側。なら、彼は? この男がここにきて彼が戻ってこないのは、この男の手の血は
「これは失礼、先ほど貴公のサーヴァントが槍で小突いてきたのでな。少しばかり返礼させてもらった」
やはり、クー・フーリンと戦い傷を負わせたのだ。いや、この男の言葉と外傷のなさからして戦いにすらなっていなかったのだろう。
こんな敵に俺たちは勝てるのだろうか。
「マスターよ、さっさと立ち上がらぬか!座ったままでは何もできぬままここで死ぬぞ!貴様が我のマスターであるというのなら、我の言葉にのみ耳を傾け気概を見せよ!」
「…っ、あぁ!戦おう、王様!マシュ!」
「はいっ!マスター!」
ギルガメッシュの言葉で立ち上がる。彼の号令のような声と言葉は勇気と力がもらえるような気持になる。
恐怖に呑まれ、何もできないなんてことはあっていいはずがない。ここで死んでは今までのことが全部無駄になる。こんなところで死んでなんていられない!
「ふっ、たわけ。何も立ってすぐに戦えというわけではない。衝撃に備えておけ」
ギルガメッシュはそういうと前の車両に視線を送る。すると、その車両から壁でも壊したかのような音が聞こえ、彼の声が聞こえた。
「嬢ちゃん、マスターが怪我しねぇようにしっかり防いでくれよ!
彼の宝具は本来投げることによって発揮される。その一撃が今この車両へと襲い来る。
彼の槍が届くのは一瞬だった。赤い一筋の光が一直線にマスターテリオンの背後へと迫り、ぶつかる。
衝撃波があたり一面に広がる。車両の窓は吹き飛び、壁や天井は変形する。車両のいたるところが今にも壊れんばかりに悲鳴を上げている。
俺はマシュや車両にしがみつき、なんとか吹き飛ばされそうになりながらも耐えている。
そんな惨状だというの俺の目に映るものは目の前のサーヴァント、クー・フーリンの全力の宝具が直撃したはずマスターテリオン。そのはずの彼は
――槍に貫通されることなく、表情も変えずにその場で立っていた。
「え…?」
「ほう。あの傷でまだ生きていたのか、アイルランドの御子よ!貴公の生命力には少しばかり驚かされた」
マスターテリオンは槍が貫き開けた天井から見えるクー・フーリンの方へと向きを変える。
槍が命中したはずの背中には一切の外傷が見られない。彼の宝具はいまだに何かにぶつかり、マスターテリオンを貫くことを妨げられている。
「これでもあんたに一切傷つけることができねぇとはな。マスターの前でかっこわりぃとこ見せちまったぜ」
「クー・フーリンっ!よかった、生きて…⁉」
天井の穴から降りてきた彼の心臓のあるはずの胸にはこぶし大の穴が開いていた。その穴からは後ろの壁が見えている。
礼装を使っての回復でもおそらく彼は助からない。ぎりぎり姿を保っている、そんな状態なのだろう。
それでもと、手を伸ばすもギルガメッシュに止められてしまう。
「駄犬にしてはよくやった。あとは我の任せておけ」
「けっ、気に食わねぇがこの有様だ。殿は俺がやってやるからさっさと行きな。…マスターのことは任せたぜ」
そこからの行動は早かった。
マスターテリオンの障壁に妨げられた槍を手元に戻したクー・フーリンがマスターテリオンとウェスパシアヌスへと槍を構え、襲い掛かる。
その隙に壊れた窓にギルガメッシュが人が通れるほどの穴に広げ、俺とマシュの手を引き、車両の外へと飛び出していく。
「…っ、クー・フーリン!」
「逃げ延びる時間は稼いでやるから後は頼んだぜ!マスター!」
クー・フーリンはギルガメッシュが開けた穴の前に場所を移動し、立ちふさがるように構える。その後ろ姿が一瞬見えたが列車は走り去り見えなくなる。
外へと出た俺たちはなんとか起き上がり、走り去った列車の方を見る。
「クー・フーリンさん…あの傷では…」
「傷心に浸っている場合か。あの駄犬に任せられたのは癪だが、奴は命を賭して貴様を窮地から逃したのだ。奴のためにも今はここから離れ対抗手段を見つけなければならん」
「あぁ…わかってる。行こう。マシュ、王様」
こうして、俺たちは一人のサーヴァントを失いながらもアーカムシティへと足を踏み入れた。
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「まだあのカルデアのマスターとは対話をしてみたかったのだが…」
「わりぃな。だが、マスターにあんたを近づかせるわけにはいかねぇ」
もはや興味をなくしたというように目の前の男は外を見る。隣の老紳士もこちらに興味がなさそうにしている。
それは敵意も感じられないほどに
「
「よい、放っておけ。もう何もできまいよ」
確かに槍を振るうことしかできず、宝具はもう放てない。それにもう魔力は底をついている。
だが、まだ戦える。この体は生きている。何もできないということはない。
「まだ終わりじゃ―」
「もう貴公には飽いた。余は貴公の児戯に付き合うつもりはない」
「――あ」
あぁ、地面が迫ってくる。
前に進んだはずだったが。
転んだのだろうか。
いや、違う。この感覚は落ちて――
いともたやすく、ここに一人の英霊は敗れた。
「さて次はどうしますかな?
老紳士は問う。
その身の下に巣くう何かとともに笑みを浮かべながら。
「決まっている。待つのだ」
青年は嗤う。
これから起こる何度となく経験したあの唯一の楽しみが。
「余に対抗するために召喚された大十字九郎とカルデアのマスター藤丸立香。彼らが出会い、ようやく始まるのだ。此度の闘争が!フ、ハハハ、ハハハハハハ!」
※使わないかもしれない設定
「やはり、カルデアにいる神性持ちのサーヴァントを彼のもとに届けなければまずいかもしれないな」
「何人か召集をかけて向かわせましょう。霊子通信もつながりそうにありせんし…」
不安が募る中、あるサーヴァントが入ってきた。エプロンを身にまとったアーチャー。エミヤだ。
「おや、どうしたんだい?」
「ダ・ヴィンチ女史。ここに皇帝ネロは来なかったかね?」
「いんや、見てないけど…」
「食事の途中で席を離れてから戻らなくてね、探してはいるがなかなか見当たらなくて困っているのだよ」
それは気になることだが、今はそれどころではない。
そのことに関しては彼もわかっているはずだが
「大変です!誰かが勝手にレイシフトを!」
「なんだって!」
サーヴァントといえしようと思って勝手にできるものではない。いったい何が…
それにいったい誰が
「レイシフト直前の映像出します!」
「あれは…赤色のドレスに金髪、皇帝ネロがいったいなぜ」
「レイシフト先から通信が来てます!」
「もう!次から次へといったいなにが!」
「あ、あー。聞こえるか。もしもーし。あんたらがカルデアでいいんだな?俺は大十字九郎。少し話がしたい」
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口調とか忘れたわ。
はい、どうも。久々の更新です。上に書いたのは使うか微妙な設定の話だから気にしないで。
次回更新未定です。すんません。気が向いたら書きますので感想等お願いします!
FGOサボってるからアトランティス終わってないんだ、どうしよう
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