私の転生物語 ~龍神として生きる~ (夜刀神 闇)
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My reincarnation story -to start-
prologue 龍神との出会い


どうも、こんにちは。

まずはプロローグからですね。よろしくお願いします。


私は、人間であり、神でもある。

何を言ってるのか分からないかもしれないが……

 

 

 

 

 

これは、とある少女が神様としてひとつの世界を治めていくお話……

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

主人公side

 

 

「いやぁ、それにしても……今日は期末テスト、疲れたな。……理科点数落ちたかも。でも、生物だからまだマシかな?」

 

 

私は、現代社会に生きる中学二年生。

今日は、皆さんが学生時代に体験したであろうしんどいしんどい定期テストの日だった。

今日の期末テストは、まだ一日目。後二日もあるのだ。

あー、勉強ダリィな。提出物も終わらせにゃいかんし……

 

 

「それにしても……今日は晴れるって言ってたのに、やけに曇ってきたな」

 

 

私は、空を見上げて呟く。こうなると、本当に降ってきそうな勢いだ。黒く曇っていってる。……と、思っていると。

 

 

「ってぇ!本当に降ってきたし!?うわ、ヤベッ」

 

 

私は、咄嗟に走り出す。と同時に、家に干してある洗濯物の事を思い出す。

 

 

「うわぁ、洗濯物大丈夫かな……早く帰って、入れないと」

 

 

私は、家に帰るとすぐ様ベランダに向かった。

 

 

「よし、まだ間に合ったな……よし!」

 

 

私は、外に干してある洗濯物を中に移していった。

 

 

「しっかし……何で、雨が降ったんだろうか?天気予報では晴れる可能性が高いと……はぁ、お腹空いたな」

 

 

私は、自分の部屋に戻り財布を取り出した。

 

 

「セーラー服のままだけど……まぁいいか」

 

 

カーディガン羽織ってくか、と呟き、外に出る。

行き先は、すぐそこのコンビニ。

何を買おうかと迷いながら、道路に出る。

外は車が走っており、傘をさしながら歩く人も多い。

私は、愛用の傘を差しながら空を見つめていた。

 

 

「……黒い、異常に」

 

 

空が、異常に黒いのだ。……不吉な予感がする。

 

 

「……急ごう」

 

 

私は、行き先のコンビニまで向かって行こうと走り出した……その時。

 

 

「……」

 

 

後ろから、異様な気配を感じた。振り返ると……

私の事を見つめ、不敵な笑みを浮かべる高身長の成人男性がいた。

その男性から発せられる異常な存在感。その人物がいるだけで、周りを魅了できるであろう美しさ。視線だけで何人もの人間を殺害できるであろう黄金の眼。

そして ̄ ̄なにより。

 

 

「な、に……つ、角?耳も……」

 

 

その、銀髪の頭から生える天を突く様な枝分かれした立派な角。そして、尖った獣耳。

私は、その男性から視線を外せなかった。黄金の眼で見つめられ、魅了されていた。

ふとした時、男性が私にその長い腕を伸ばしてきた。思わず、私は後ずさろうとするが……

 

 

「な、何?から、だが……」

 

 

動かせない。

気付いた時には、もう遅い。全身が、金縛りにあった時の様に動かなくなっていた。

悪魔の鎌が、私に伸びる。終わりだ

 

私は、目を瞑り後に自身に起こるであろう事を予想する。あの大きな手に捕まったらおしまいだ。人生は、ここで終わる。

 

そう、感じた……のだが。

 

 

「……ん?」

 

 

恐る恐る目を開けてみると、そこはさっきまでいた道路ではなくなっていた。例えるならば、全面全てが白い世界か。

 

 

「何処だ、ここ……」

 

 

私は、一歩一歩歩き出す。すると、目の前にさっきの長身男性が現れた。

 

 

?「人間、よくここまで来たな」

 

 

男性は、私にそう言った。

 

 

「いや……勝手に此処に連れてこられたんですけど?」

?「はは、それもそうなんだが」

 

 

ははは、と笑う。

 

 

「そうじゃなくて、あんた誰?」

?「む、そうだな……夜刀神 神琉、とでも言っておこうか」

 

 

神琉と名乗る男性に言われ、そして気付く。

 

 

「あれ、私の名前は……何だっけ」

 

 

自分の名前が、思い出せなくなっていた。さっきまで、確実に覚えていたはず……なのに。

 

 

「なん、で……?」

 

 

私は、何とか自分の名前を思い出そうと試行錯誤するが……

 

 

暫くして。

 

 

神琉「……という訳だ」

「……分かったよ」

 

 

私は、神琉に事の全貌を教えて貰った。

私が、名前を覚えてないのも……これから、私がどうなるのかも。

 

簡単に言うと、私は転生するのだ。

俗に言う、小説とかでよく見るアレだ。

 

まぁ、たまたまなのか転生する世界は、東方project。私の大好きだった、でも金が無くてプレイする事は叶わなかったシューティングゲームである。

 

 

まぁ、私はその世界に転生するのだとか。……転生する時期は、教えて貰え無かったが。でも、私の大好きな世界に転生させて貰えるのだから、それだけでも十分である。

で、それには条件があるのだとか。

 

 

神琉「転生させてやるが、そのかわり……龍神(俺の従者)になれ」

 

 

……との事。

いきなり、従者になれって言われてなれますか?従者ですよ、従者。東方でいうところの紫と藍のような、レミリアと咲夜のような関係ですよ。

まぁ、従者にならないと転生出来ないって訳だと思うんで……腹括って従者になるとしますかね。呼び名は……何でも良いか。

 

 

神琉「では、俺の従者になる為の事をしてもらうぞ」

 

 

なんだ、と思っていると、主様が私の頭に手を乗せた。

反応する間も無く、その手から何らかの力が私に流れ込んでくるのを感じられた。

暖かくて、力強くて、優しい力……もしかして、これが神力という物なのだろうか?

暫くすると、主様が私から手を離した。

 

 

神琉「では、そろそろ転生するぞ」

 

 

私は、足元を見た。……魔法陣?が出来ている。

 

遠のく意識の中……私は、何を見たのか。それは……

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄私を見下ろす、凄まじい存在感を放つ、銀色に光る鱗を持つ龍の姿であった。

 

 

【挿絵表示】

 




ありがとうございました。m(*_ _)m


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第1話 私の仕事と友人と……

投稿遅くなってしまいました……


感じるのは、無。

 

私は、身の回りに感じる違和に目を覚ました。

 

「私は……何をしてたんだっけ」

虚空へ手を伸ばす。あるのは、無だ。光も、影も無い。唯々佇むのは、闇……無だ。

 

「私の名前……何だっけ」

 

「そういえば、自分の名前……忘れたんだっけ」

 

私は、目の前に広がる無の中、考えていた。

自分の名前、これからこの世界で生きていくのに必須なモノだ。

 

闇……無……闇……

 

「闇……夜刀神 闇、私の、名前……夜刀神、闇」

 

私の名前を、数回唱えてみる。……良い実感が感じられただろうか。

 

 

 

「こんな重い空気、私は慣れてないのよね」

 

一人、呟いた。

目覚めてから暫く経つのに、何一つ変化が無いのだ。とりあえず何か、行動を起こさないといけない。

 

「私の能力……なんだろう」

こういう時って、頭の中で考えていたら思い浮かぶやつだよね、と考えてみる。

 

 

ゼン……スベテノモノヲ……シハイ……スル…………ノウリョク

 

 

全てを支配する能力か……中々チートだな。

私の能力は……そうだな、名付けがポイントなんだよな……後々、ネーミングセンスに悩んだりするかもしれないし。

 

……

 

…………

 

「よし、決めた。私の能力は…………全てを司る程度の能力だ!」

 

私は、虚空へ向かって叫ぶ。我ながら、良いネーミングセンスだと思わないか?

でも、流石に何も無いところで一生過ごすだなんてたまったもんじゃない。

 

 

「……とりあえず、宇宙創ってみようかしら」

 

 

と、軽い気持ちで呟く。

創ると言っても、当たり前だが宇宙を創った事など無いので、感覚ではあるが。

 

 

目を瞑り、手を前に翳し、力を溜める様な感じでやってみる。

 

 

「宇宙……創造……ビッグ・バン!!!」

 

 

私はそう叫び、前世で見た事がある宇宙の感じを思い出してみる。

 

目を開けると……

 

赤い大きな珠……太陽を中心に、様々な星が綺麗に並んでいた……勿論、地球も。

 

 

「この目で見るのは初めてだな……やっぱり、図鑑や教科書で見るのとは大違い……ん?」

 

 

私は、自分の置かれている状況に違和を感じた。

 

「あれ……宇宙って、空気が無いんだったわよね?でも、宇宙でも呼吸が出来るって、これも神様スペックなのかしらね……」

 

 

ここで改めて、神……龍神の身体能力の凄さを実感した。

しかし……地球に生物が生まれるまでかなりの時間があるはず。それも、億の桁で。

それまで、龍神である私はどうすればいいのか……

 

 

「自分の家でも、作ってみようかしらね」

 

 

咄嗟に考えついたのが、その答えだ。現代人である……あった私は、自分の家……居場所が無いと、かなり厳しいと思うのだ。

 

 

 

……それでまぁ、作れたのだが。

 

 

「いやぁ……大きくし過ぎたな。主に図書館を」

 

 

そう、図書館を作ろうと思って作業と言う名の能力行使を続けてたら……あら不思議、目の前には半径数kmのどデカイ建物が!……って、

 

 

「何やってんだ私……いくら何でも大きくし過ぎたね」

 

 

現世で見た、紅魔館にあるパチュリー・ノーレッジが管理するヴワル魔法図書館よりも確実に大きいであろう図書館。

半径数kmって……どのくらいの大きさだろうか?移動にかなり時間を要すると思うんだが……どうしよう、かなり端折ったな。

 

ま、いいっか。

とりあえず、地球に……宇宙に生物が生まれるまでここで時間を潰そう……

主様が居れば、良い話し相手って言うか仕事があると思うんだが……無理ね。従者の方から主君を呼び出すだなんて、有り得ないわ。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

あれから、数億年。

私は、かなり力を付けた。

元々の身体能力が高すぎて、伸び率が半端じゃ無いのだ。

魔法の使い方もほぼ全て覚えたし、魔導書の数もかなりある。……常人が読むと死ぬ等ととても危険なのもあるのだが。

 

因みに、私の今の服は白い生地を主とした、夜空に三日月が描かれている、導師風の服を着ている。

 

転生して気付いた事なのだが、私の髪が銀髪になっていた。

 

 

「あ、ポケットがある……ん?これは髪留め?」

 

 

これで縛れってこと?

 

 

そして、私の肌が色白になっていて、目は金色になっていた。

……まぁ、たまたまなのか私は主様の容姿と少し似ていた。

それは、喜んでいい事なのかどうなのか正直、私には分からないのだが。

 

 

「……む?」

 

 

図書館で本を読んでいた私は、図書館の扉の前に見た事も感じた事も無い力を感じた。

頭の中で力の元を辿り、その姿を確認した。

 

 

「これは……」

 

 

その姿は、現世で見た事のあるものだった。

例えるならば、東京とかにいそうな女子……東方projectに出てくる、最強と呼ばれし人物だ。それは……

 

 

「……へカーティア・ラピスラズリ」

 

 

そう、皆さんお察しの通り。地獄の女神様と呼ばれる、地球・月・異界でのそれぞれ別の姿を持つ、かの有名なへカーティアである。

 

それにしても、何故へカーティアがここに?

一応結界を張ってはいるけど、まだ結界の張り方が未熟だったのかしら?

 

でも、この世界に来てから誰とも交流を取ったことが無い私は、突然の原作キャラ登場に少しワクワクしてしまっていた。

 

 

「とりあえず……会いに行ってみる?行ってみる?」

 

 

もし、私が会いに行って、ヘカーティアはどんな反応をするかしら?

一応、宇宙を創ったのは私だけれど、宇宙が出来る前の地獄とか、他世界から来たのかな?わくわく……

 

ちなみに、私がいる所は図書館の最奥の部屋。部屋に篭っているのに何故扉が開いたか分かるかって?ふふふ、それも龍神スペックなんだよ。

 

 

「なんて声かけようかな〜、イキナリ攻撃されたら、今の私が勝てるかどうか……」

 

 

そ、原作キャラが強いのは分かってる。

私が実力を上げまくったのも事実なんだけど、基準が分かんないから、慎重に接しないと……いきなりちゅどーんされたらたまんないからね。

 

私からヘカーティアの方に近づくことにした。

どんどん、ヘカーティアとの距離が縮まるにつれて、興奮が高まっていく。

 

 

ヘカ「あ」

「あ」

 

 

ヘカーティアと出会った時の言葉とか行動とかを考えている内に、いつの間にかヘカーティアとご対面していた。

やっぱ、現世で見た感じのへカーティアだ。……ただ、少し服装が違う気がするような。

 

現世で見たへカーティアは、黒いTシャツに少し刺繍の入ったものと、三色に分けられたミニスカートだったはずなんだが……

 

なんか、このへカーティアは黒い生地のノースリーブみたいなワンピースに所々刺繍がされている位の服装だ。

首輪から鎖で繋がっている手に乗っけた2つのオブジェと、頭に乗っけてるオブジェは変わらないが。

 

 

へカ「……?」

 

 

さて、どう会話をしようかと考えていると……先手を切ったのはへカーティアだった。

 

 

へカ「あっ、初めまして。私、へカーティア・ラピスラズリです」

 

 

私は、ヘカーティアの確信づける言葉に少し驚いていた。

あぁ……私、本当に東方の世界に生まれ変わったのね。

 

 

「あぁ、ごめんなさいね。私は夜刀神 闇。私も、貴女と同じ神です」

 

 

改めてへカーティアの方に向き直ると、しっかりへカーティアに挨拶をした。

いきなり神だなんて名乗るやつのことを信用出来るのかって思ったけど、目の前のヘカーティアはニコニコしたままだ。

 

 

ヘカ「闇さんですね、よろしくお願いします!」

「えぇ、よろしく」

 

 

私は、生まれて初めて原作キャラと話しそして握手した。現世であれば、そんな事絶対に叶わないであろうな。

……まぁ、転生した私にそんな事を当て嵌めるのは違うと思うが。

 

そんなこんなで月日を過ごして、何年経ったか私でも分からなくなってきた。

ヘカーティアとは、友達を超えた……家族みたいなものかな?になっていた。

意外だね。友達になろうと思ってたのに、まさか家族だなんて。ビックリするよね……

 

ちなみに、へカーティアは図書館の司書的な存在になってる。私の手伝いもちゃんとしてくれるし、暇な時にたまに手合わせしたりもするし。

ヘカーティア、強い。でも、私にはまだまだ及ばないかな。

 

へカーティア……って呼ぶのはあれだから、ヘカって呼んでも良い?って聞いたら、良いよ!って言ってくれたんだよね。

ヘカとは、かなり親密した関係になってる。もう、私にべったりなんだよね。ヘカ、やみぃって呼ぶ関係。

 

お互い、種族があれだから食事をとる必要は無い。だけど、私が現代人なので習慣としてやってたらヘカ、真似してくるんだよね。

歯を磨く事も、お風呂も。ヘカってもしかして私の事好き?って聞いたら、大好きだよ!だってさ。もう、妹みたいな存在になっちゃって。

何かあった時に、どうしようって思える存在。お互いの事を大切に思い、お互いの事を本気で考える。前世の私では、そんな事あっただろうか……

 

 

「ヘカ、ちょっとこっちに来て」

 

私は、あるときへカを呼んだ。何故かって?

 

"地球"へ行く時が来た。

言い出しっぺの私でさえも、この途方もない時間の中で忘れそうになってたんだよね。

地球……古代の世界を旅し、見て感じて、愛していく。それを、へカと出会う前から決めていた事だ。

 

 

ヘカ「なに、やみぃ?」

 

 

へカが、私の横に現れる。へカには、どこにでも移動できるスキマを使えるようにしている。

 

 

「えっとね、私とヘカって、会ってからかなりの年月経つじゃない?」

ヘカ「えぇ、それがどうしたの?」

「だから、私……地球に出かけようと思うんだ」

ヘカ「えっ!?」

 

 

ヘカが、とてもびっくりしたような顔をする。

まぁ、驚かれないとは思ってなかったけど、そこまでびっくりするとは……

 

 

「だから、ヘカにはここを守ってもらおうかと……「嫌よ!!」えぇ……」

ヘカ「嫌、やみぃとずっと一緒にいるのよ!」

 

 

……困った、どうしよう。私とした事が、へカが私の出発を引き止めない訳が無いじゃないか……もっと、へカの事を考えておくべきだったな。

 

 

「あのねヘカ、こっちにも時々戻ってくるから……」

ヘカ「嫌!」

 

 

……なんか、へカが段々とキャラ崩壊していってるような……いや、私が原作キャラに介入したからなのだろうか。なんか、へカの将来が気になって仕方がないんだが……それよりも、このへカをなんとか説得しないとね。

 

 

 

 ̄ ̄数十分後

「だから、ね?たまに戻ってくるから……」

ヘカ「……約束よ?」

 

 

やっと、やっと説得できた……疲れた。

へカが、何と言ってもすがり付いてくるもんだから……旅に出るのに、少し時間がかかりそうになったよ。

へカには、時々この図書館に戻ってくる事を約束し、説得出来た。

それにしても……へカ、最初にあった時と大分変わったな。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄数日後

「それじゃあねヘカ、この家をよろしくたのむわね」

ヘカ「任せて!私が、この"異空間の間"を守っておくから!どんな敵が来てもヘッチャラよ!」

「あらあら、それは頼もしいわね……」

 

 

ヘカは、私の背を越し、少女になっている。言葉も女性らしくなり、でも何処か子供っぽさが残る。

そんなヘカに、私がへカーティア・ラピスラズリの服の記憶を辿って直接縫ってあげた服を、プレゼントしてみた。

まだ身長が私より低かった頃の、着てた黒のワンピースからあのへカーティア・ラピスラズリの服装に変わった。やっぱり、ヘカはそれが一番似合ってるよ。

 

 

「……さて、そろそろ行かないとね」

 

 

私は、服装を正して地球に向かう準備をした。

……服装を正すと言っても、異空間から出たら龍神の姿に戻るからあんまり意味無いけど。

大気圏に突入してから少女の姿になるつもりだ。

能力でパパッと地球に行くのも簡単だけど、それじゃつまんないし。だから、直接宇宙空間に飛び出す事にした。

 

 

ヘカ「……もう行くの?」

「うん、でもたまに戻ってくるから待っててよ?」

ヘカ「えぇ、やみぃの頼みだものね。やみぃがいつ戻ってきても良いように準備しておくわ!」

 

 

あははと笑い合う私たち。こんなにも誰かと笑い合ったのは、いつぶりだろうか……もう、何億年も前の事だ。

 

 

「……それじゃ、また何時か」

ヘカ「……えぇ、また何時か」

 

 

その言葉だけ残すと、私は異空間の扉を開け、そこに吸い込まれる様に入っていった。

 

……案外呆気なかったな、もっと引き留めるかと思ったのに。

まぁいいか。また今度戻ってくるしね……

 

 

 

 

目を開けると、いつの日か見た宇宙が広がっていた。

龍神補正なのか、普通なら絶対に見えないはずの太陽が遙か遠くに見える。

あぁ……綺麗だ、地球。私が育った地球に、今から行くのね。

 

そう思いながら、私は目を瞑り、体中に神力を巡らせる。

 

そうすると、私の体が徐々に変化していく。

顎には長く伸びた髭が生え、頭には天を突く様な角が伸びる。

胴体は銀色の大蛇の様に長く伸び、手足の先には鋭い爪が生える。

 

 

 

 

 

「GRAAAAAAAAAAAAAAAAAR!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

そして、誰もいなくなった……あるのは宇宙の暗闇と星達の光だけ。




ご静観ありがとうございます。次話も、おたのしみに!


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古代神話 ~月読命の治める都市~
第2話 新しい出会い


前回の投稿から、かなり遅れてしまいすみません!



「地球に到着……っと。んー、やっぱりまだ木が沢山あるわね……」

 

 

 

私は、異空間の間を出た後、地球に到着した。

ちなみに、今の容姿は周りからは普通の少女に見えるようになっている。……と思う。

 

……まあ、へカとかなりの年月を共にいたせいで、最早何が普通で何が普通じゃないのか、分からなくなってしまっているのだが。

それよりも、私のいる場所は何処だろう……

私は、宛もなく歩き続けた。すると、とあるものを見つけた。

 

 

「……あら、何かしら」

 

 

……それは、とてつもなく大きい"都市"であった。

私の住んでいた前世の世界でも、お目にかかれない様な……

と言っているうちにどんどん都市に近づいていく。

どうやら、この都市には門番がいるらしい。という前に、この都市にはどデカイ壁があるらしい。それと門と門番。

門番は、屈強な体をしており、私より頭二つ分程大きい位……

まぁ、二人どちらも私より体格は良いってことよ。

 

 

門番A「ん?……おい、そこの」

 

 

……と思っていると、門番のうちの一人が話しかけてきた。

私は、戸惑ったり恐がったりする素振りも見せず堂々と歩いていく。

 

 

門番A「都市から離れて、何をしていた?」

 

 

何をしていた、か……元々都市に住んでいないし、なんて言ったら即刻排除されるだろうなぁ妖怪として。

私は妖怪じゃないし人間でもないんだけどね。

まぁ、ここはか弱い少女のフリをしておきましょうか。

 

 

「あの、森で妖怪に襲われて……命からがら、逃げてきたんです」

 

 

私でもビックリするくらいの嘘くさい言葉が出てきたなぁって思った。

でも、さっきみたいな言葉以外、目の前の人間を騙せる言葉なんてある?

 

 

門番A「そうか、それは大変だったな……」

門番B「八意様とツクヨミ様に知らせるか?」

門番A「そうだな」

 

 

どうやら、知らない奴!はい、即処刑!みたいなことにならずに済みそうだ。

なるべく、能力は使いたくないから助かったわ。

もし、怪しまれて銃を突きつけられようものなら、門番が私を怪しんでいることを"無かったことにする"しか解決方法は無いだろうね。

 

 

門番A「お前、名前は?」

 

 

名前か……本名教えても大丈夫かな?

"まだ"私の名前は広まってないだろうしね。

 

 

「夜刀神 闇です」

門番A「夜刀神 闇か……それじゃあ闇、俺に着いてこい」

「はい」

 

 

歩くこと数分……

 

 

門番A「はい、分かりました。……おい、闇。この中に入れ、八意様が待っておられる。八意様の部屋は、1番奥だ」

「……分かりました」

 

 

私は、門番Aの言うことを聞きながらここまで来た。

途中途中、『八意様』と言うフレーズが聞こえてきたが、多分八意永琳……いや、十中八九八意永琳の事だろう。

やっと、へカ以外の原作キャラが出てきたね。何年ぶりかな……原作キャラ。

 

長く続く廊下を歩いていると、他の扉より一際豪華な扉の前に来た。

コンコンコン、とノックをすると、「お入りなさい」と女性の声が響いた。

永琳だろうか。私は、恐る恐る扉を開くと、部屋に置かれた椅子に座っている人物に目を奪われた。

 

 

?「……いらっしゃい。私は八意永琳よ。こんにちは、余所者さん?」

 

 

……私は、暫くその場で動けなかった。

今回初めて会ったはずの永琳。

何故私がこの都市の者ではないことを知ってるの?

私、全く妖力とか出してないのに……

 

 

「私が誰か知っているの?」

永琳「いいえ?私は貴女のことなんか知らないし、今初めて会ったわ。でもね、存在感は全く隠せてない。さては、他の人間に会ったのは始めてね?」

 

 

……全て当たっている。

というか、存在感を隠せていないだなんて。

神力は永い時の中でコントロールするのを覚えた。

というのも、転生して間もない頃は、コントロールが上手くいかなくて、星を破壊しまくっていた。

能力に頼っていると、いざという時に大変だと思うから。

 

 

「ごめんなさい。貴女たちがとても楽しそうに過ごしているものだから、ちょっと覗いて見たくなっただけよ」

 

 

元人間である私は、現在の人間の営みがどんなもんか知りたい。

門番に連れられている時に見たけど、私が人間だった頃の文明なんて足元にも及ばない位発展していた。

それに、この都市を統治する神であり私の妹……月読命にも会ってみたい。

 

 

永琳「あら……随分と妖怪らしい発言ね。おやつの人間でも捕まえに来たのかしら?」

「っ……」

 

 

永琳は、手元にあった弓を取り、矢をつがえ、ぎち、と音が鳴るまで引き絞った。

完全に私を処刑する気満々だろう。

だけど、そうはさせないしさせられないのだ。

 

 

「人間を襲う気なんて無いわよ。人間程面白い生き物なんていないもの。いなくなってもらっちゃあ困るわ」

永琳「……」

 

 

なんて妖怪らしい妖怪の発言なんだって思ったけど、事実だから仕方ないでしょ?妖怪じゃなくて神様だけどさぁ。

自然とそう思えるのは、永い年月を過ごしてきたせいだろうか。

永琳は、私の顔をじぃっと見た後、弓矢を元の位置に戻した。

 

 

永琳「……一先ず、貴女が害の無い妖怪だってことは信じてあげるわ」

 

 

でもね……、と永琳が続ける。

 

 

永琳「貴方は余所者。このままこの都市にいると、他の人間に勘づかれ、いずれは排除されてしまうでしょうね。それに、私も穢れの塊である妖怪を匿っているという罪で、処罰されてしまうわ」

「ご、ごめんなさい。すぐ出ていくから……」

永琳「別に出ていけなんて言ってないでしょ?だから、私と戦い、その強さを示し、その溢れる存在感、妖力全てを引っ込める訓練をして貰いましょう」

 

 

それでいいわね、と永琳が言ったので、私は快く承諾した。

そして、永琳に連れられ、地下にある闘技場みたいなところに案内された。

こんな広いところが普通に地下に作られていることに対して、めちゃくちゃびっくりしたけど……

 

 

永琳「さて、合格ラインだけど、私を認めさせたら勝ち。とってもシンプルだけど、それで構わないでしょ?」

「勿論よ。それじゃあ、認めて頂きましょうか」

永琳「あら、随分と自信満々ね。勝算はあるの?これを言っちゃあなんだけど、私は都市の中でもトップ3に入るくらい強いのよ?」

 

 

永琳は、とても濃い霊力を場内に充満させた。

並の妖怪ならこれで気持ち悪くなるくらいの濃さ。

だけど、私は神様で、霊力も常人以上に持ち合わせているの。

だけど、今は永琳には私のことは妖怪だって勘違いしていて貰う。

 

 

「ふふっ、随分と立派な霊力ですこと」

 

 

私は、お気に入りの日傘を手の中に出現させた。

永琳は、少し驚いたような表情を見せたが、すぐに平常運転になった。

 

 

永琳「じゃあ、始めましょうか!」

「えぇ、勿論よ!」

 

 

私たちは、お互いに適度な距離をとる。

人間相手に戦うのは初めてだけど、上手くやれるはずよね。

永琳がコインを投げ、落ちたと同時に永琳が矢を打ち出した。

 

ふうん。中々やるんじゃないの。

ま、人間だからといって舐めてかかったら痛い目見そうだから全力でいくしかないわよね。

私は、日傘を握り締め、永琳に迎え撃つ体制を整えた。




ご静観ありがとうございました!


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第3話 妖怪とワタシ

皆さん、こんにちは……今日は、伝えないといけないことがあります……





投稿遅れてすみませんでしたぁぁあああ!!!

いや、本当にリアルで忙しかったんです!
チャレンジテストの期間で、勉強をしないといけないと……って感じで。
で、漸く終わって即刻作った4話です。
急ぎに急いでも、かなりの時間がかかってしまいました……すみません。
でも、チャレンジテストが漸く終わったので、これからは定期的に投稿したいと思います。

私の投稿を見て下さっている方がいるならば、これからもよろしくお願いします!


それでは第4話 妖怪とワタシ始まります。どうぞ!


永琳side

 

 

私の前に対峙するは、夜刀神 闇。

彼女は、銀髪であり少女の様な見た目なのだが……彼女が持つその力は、人間(ヒト)の持ち合わせているような力ではない。私は、一目見てそう感じた。

 

私が、何も躊躇することなく矢を何十本と番え、一気に放った。

通常の妖怪であれば一発で再起不能(リタイア)させられるようなものなんだけど。

私は、初めから手を抜かなかった。手を抜いたら確実に私が再起不能(リタイア)させられていたから。

 

 

闇「ふふっ、やるじゃない」

 

 

闇は、手に持っていた日傘で易々と防御してしまった。

……まぁ、想定の範囲内か。

かと思っていると、全ての矢を防ぎ切る前に、闇は日傘を振り抜き、まだ当たる前の矢まで消し去ってしまった。

 

 

「貴女……規格外よ。あの矢には霊力を込めていたし、余っ程のことがない限り消えないのよ?それを貴女は……」

 

 

闇の方を見ると、クスクスと笑っていた。

全く……門番は、あんな化け物を簡単に通してしまったなんて。

1回、都市の軍を教育し直す必要がありそうね。

 

 

闇「化け物だなんて、酷いわね……」

 

 

闇がわざとらしく涙を拭うような仕草をする。

そんなことをしても無駄よ。溢れ出る存在感を隠しきれていないもの。

………………………………闇、貴女は何者?

 

 

「ふぅ、降参よ」

闇「あら?」

 

 

闇は、物凄く不思議そうな顔をして首を傾げていた。

このまま続けていても無駄だろう。

私は、無駄な体力は消費したくないし、何より私の本能が()()()()()()()と警鐘を鳴らしたから……

まぁ、敵に回れば最悪だけど、味方に付いてくれれば最高だから良しとしよう。

さっき知ったばかりだけど、闇の性格上、無闇矢鱈に人間を虐殺するような妖怪に見えないから。

 

 

「貴女は強いわ。しかし、その力を都市の善良な人間に向けた時、貴女のその命は月読命様によって葬られることになっているから、くれぐれも気をつけてね」

 

 

私は、念には念を入れて、闇に警告をした。

私では恐らく歯が立たないだろうから、上に任せることにする。

 

 

闇「えぇ!分かったわ!」

 

 

闇はニコニコしながら軽快に返事をした。

闇の目をよくよく見てみると、凄くピカピカした金色だった。

金色の目を持つ人間は都市にもいるけど、闇の目は一際輝いている。

銀髪の人間もいるけど、闇ほど滑らかで艶やかで美しい者はいなかったと思う……

 

 

「ねぇ、闇?ツクヨミ様にご報告が終わったら、私の家に住みなさい。都市のこととか色々教えてあげられるから」

 

 

私は、持っていた弓矢を直し、闇に

 

 

 

 

 

 

 

「それで、闇はこれからどうするの?」

戦い……とはいえないような戦いを終えた私達は、競技場のロビーのような場所で寛いでいた。

闇「そうね……暫くここにいようかしら。この都市の観光もしたいし……ね」

「……そう」

闇は、にこりと微笑みながら言った。

 

 

……しかし、私には闇について思うことがあった。

それは、家だ。闇のような少女が、都市を1人で出歩いていること自体、不思議なのだが……

どうしても気になったので、私は聞いてみることにしたのだが……

 

闇「家?……無いわよ」

 

私は、余りのあっさり感に落胆した。

途中で気づいたのだが、闇は人間ではない……ような気がする。さっきでの戦い?でだって、絶対私に手加減をしていたし、わざと霊力しか使ってないような感じがしたし……闇は、人間ではない何かなのでは?と言われれば共感してしまう何かがあるのだ。

これは、本人から聞く他無いわね……

 

「……ねぇ、聞きたいことがあるのだけれど」

闇「?……何かしら?」

「闇って……」

 

 

"何者"?

 

 

闇「……」

闇が、若干目を細めてこちらを見てくる。これは……図星ってことで良いのかしら?

闇「……どうして?」

軽く微笑みながら聞いてくるが、その(エミ)は、裏に何かがある、と感じせざるをえない。

私には、その(エミ)が不思議で仕方がなかった。

 

「貴方のその力、常人が持てるものではないわ。しかもね、私は貴方を都市の中から"視て(みて)"いたの。だからこそ……」

闇「あぁそう、そういうこと……」

 

仕方ないわね……と闇は呟き、こう言った。

 

闇「私は、貴方達で言う"穢れ(けがれ)"なる存在。さっきの貴方との戦闘でも、わざと霊力しか使わなかったけど……」

こういう力も出せるのよ?と……

闇はそう言い、私に短刀を渡してきた。

私は、闇にどういうつもりか聞いてみた。

 

闇「……さぁ、刺しなさい。"穢れ(けがれ)"を……消して見せなさい」

 

腕を拡げ、闇はそう言った。だが、私はそういうつもりは無かった。ただ、興味本位で聞いてみただけであって、都市の人間が穢れ(けがれ)を嫌うように、妖怪を殲滅しよう等とは考えてはいない。というより、元々私は闇に負けているのだ。

 

「……都市の人間と私を一緒にしないでくれるかしら?」

闇「……」

私は、闇に短刀を返しそう言った。

 

闇「……不思議な人間ね」

闇は微笑みながら短刀を仕舞った。……というより、消えたの方が合っているだろうか。

 

「……どうも」

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

神と言えば、何が思い浮かぶだろうか。

 

太陽を司る女神、天照大御神(アマテラス)だろうか。それとも、月を司る女神、月読命(ツクヨミ)だろうか。はたまた、武芸を身につけた武神、素戔嗚命(スサノオ)……かもしれない。

 

神と言えど、様々な種類に分かれている。

私や、複数の世界を司る神(へカーティア・ラピスラズリ)のような……色々ある。

 

 

……私の目の前に佇む、月読命(ツクヨミ)もその例に漏れず。

 

ツクヨミ「ようこそ、いらっしゃいました……私、月の女神(ツクヨミノミコト)が治める都市へ」

 

……腰まで伸ばした真っ黒な美しいストレートヘアーに、満月の髪留め、黒の生地に綺麗なラメがあしらわれたテールスカート、上に黒のブレザーを羽織り、中に白いブラウスを着ており、身長は私より頭一つ分高い位だろうか。

 

ツクヨミ「……やはり、貴方様だったのですね」

 

ツクヨミ「ずっと、お待ちしておりました。貴方様にお会い出来ることを」

 

なんか、凄い敬われてる感満載!的な感じで話しかけてくるんだけど……

どどど、どうすればいいのか……私って、そんなに敬われるようなことしたっけなあ?そんな、貴方"様"って呼ばれるような……

ツクヨミ「私達神々の中では、貴方様は物凄く有名なのです。……ですが、私達の中でも貴方様の御姿を拝見した者はそう多くはありません。ですので、貴方様は私達神々の中で神話に語り継がれ、貴方様にお会い出来た者には幸運が訪れる、と言います」

「……そりゃまぁ、御丁寧にどうもありがとう」

 

……そんな風になってるなんて気づかなかったや。

いやでも、そもそも私の神話が出来てること自体、知らなかったしね。ていうか、出来るなんて思ってもみなかったし……

私に会えたら幸運が訪れる……ですって?いやいや、私は幸せの青い鳥じゃないんだから。

でも……なんか、こうやってされることって、神の中では良いことだって言うよね。信仰されることは神力がうんたらかんたら……でもまぁ、私には関係ないしね。私の神力は、世界中の"生物"から成り立ってるから……つまり、生物が生まれれば生まれる程、神力が増えていくってこと。因みに、"星"も生きてるからね。世界中……宇宙中の星が一斉に爆発したりすれば、私は"死ぬ"ってこと。

 

ツクヨミ「あの……」

……と、思っていたらツクヨミが話しかけてきた。

「何かしら?」

ツクヨミ「あの、貴方様に願いを乞うても……宜しい……でしょうか?」

「……言ってみなさい」

ツクヨミ「私の都市に……」

 

 

ツクヨミ「住んでもらえませんか?」

 

 

……

 

私は、口を開けたまま塞がらなかった。

都市に……住む?

えっ、なんでそんな簡単な事を願うかな?私、元々此処に住むつもりだったし……ダメって言われるんなら、ヘカの所に帰るか野宿かにするつもりだったし……

 

「え……えぇ。別に良いわよ?」

ツクヨミ「本当ですか!?」

「ん、龍神に二言は無いわ」

ツクヨミ「ありがとうございます!!!」

ツクヨミは、いきなり立ち上がり私の手を掴んで上下に降ってきた。……えっと、とりあえず離してもらえます?いくら龍神でも、混乱してるんで。

 

 

 

……まぁ、なんやかんやありまして。

ツクヨミに、他人には私のことを黙って置いてくれと。龍神であることを隠しておいてくれと頼んだ。そして、永琳には私は妖怪であると言ってあること。

 

後は……私のことを龍神様と呼ばないでくれと頼んでおいた。

いちいち龍神様って呼ばれるのもなんだかむず痒いのでね。

どうやって呼べば良いのかってツクヨミが聞いてくるから、適当に何でもいいよって言ったら、「お姉様と……お呼びしても宜しいですか?」……だって。

 

お姉様……か。私に、"姉"と呼ばれる日が来るなんて思いもしなかった。

まさか、神話に多く語り継がれる有名な神である月読命(ツクヨミノミコト)に。

……まぁ、家族が増えることは良いことだ。

因みに、他の人がいる時は私の事を呼び捨てにしてくれと頼んだら、最初は「まさかお姉様のことを呼び捨てに……そんな、恐れ多い……」的な感じで中々了承してくれなかったんだけど、何とか説得したら、渋々分かってくれた。

 

……と、そこまでは、すっごーく良かった。だけど……

 

 

「……何で永琳の家なの?」

永琳「あら、私じゃ嫌かしら?」

滞在している間の住む家が、まさか、まさかのかの八意永琳(マッドサイエンティスト)の家だなんて……

「いや、嫌という訳じゃないけど……」

そう、嫌という訳じゃない。……ただそれは、永琳がマッドサイエンティストじゃなければの話だ。新薬とかなんちゃらかんちゃらを飲まされるはず。

 

「……新薬とか飲ますでしょ?」

永琳「……………………飲まさないわよ?」(*^▽^*)

「何よ、その間はッ!?」

 

……これは、永琳に新薬飲まされる道は確定だな。そして、チーンと……まぁ、私は龍神スペックのせいでよっぽどの事がなければ死なない体になってるからね……

 

永琳「それに貴方、妖怪でしょう?そう簡単には死なないじゃない」

「そうだけどさ……」

いくら私とはいえ、感覚というものがあるのだ。変な色のあのボコボコと泡が立っている液体を飲まされては、たまったもんじゃない。

 

永琳「ふふっ……あ、私の家に着いたわよ闇」

 

永琳が私にそう言った。

永琳が指を指している方向を見てみると、確かに家があった。……正確には、大豪邸なのだが。

見たことないけど、絶対確実に紅魔館より大きいと思うんだけど……

 

「ねぇ……永琳の家って、こんなに大きいの?」

永琳「ん?あぁ、そうね……私が、この都市での重役だからかしら。でも、こんなに広くなくてもいいと思うのに……私は、そう思うのだけどね」

「……そう」

 

……永琳も、同じ気持ちだったようだ。

永琳「……さぁ、入るわよ」

「えぇ」

 

 

 



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第4話 軍

永琳と会ってから、数週間が経った頃。

私は、都市で過ごす日々に刺激が欲しいと考えていた。

 

永琳……基えーりんに、そのことを相談してみると、案外面白そうな答えが帰ってきたのだ。

それは、軍に入ること。

だが、私の中では心配になることが幾つかあった。……それは、こんな小さくてか弱い……?見た目の少女を、入れてくれるのだろうか?ということ。

後は、軍に入るには適性試験があるとのことだ。実技は問題ないのだが……筆記もあるらしい。そっちが問題なのだ。

 

まぁ、それは受けてからの問題にしようということになった。

えーりんが言うに、試験は筆記より実技の方が重要視されるのだとか。

だから、実技で高得点をとると、軍からも推薦されることがあるのだとか。

 

永琳「そうそう、闇。貴方なら大丈夫だと思うけど……実技では、負けないようにね。有名な家名の者達が出て来るらしいわよ?」

「そう……まぁ、都市外育ちの私には分からない家名ばっかりだろうけど……まぁ、頑張るわ」

永琳「……頑張ってね」

「そうね、負けるワケないじゃない。私は、こんな見た目だけれど誇り高き妖怪よ?」

 

そう言い、私は明日行われる適性試験に向けての準備をしていた。準備と言っても日傘、札の手入れや筆記テストの勉強だけであるが ̄ ̄

私は、長い間ずーっと都市の外……異空間の間で暮らしていたので、都市のことなんかまるっきり分からない。何日か前に、ツクヨミとえーりんから思いっきりしごかれたのも今となっては良い思い出である。

 

「この都市を作った人物とは……ツクヨミでしょ?」

 

「えーと……この都市が出来る古く昔から生きており、全宇宙を創造したとされる最高神とは?……これ、私じゃないの?」

 

……色々と、適性試験の範囲と言うものがツッコミどころの多さに思わず笑ってしまう。とりあえず、全宇宙を創造した答えは、『龍神』だよね。幸いにも『夜刀神 闇』という名前は知れ渡ってないみたいだし。……これから、私の名前が知れ渡っていくとなると……はぁ、私にも荷が重すぎるわ。

 

永琳「ねぇ、そろそろ寝ましょ?試験、明日なのよ。遅れてしまっては元も子も無いわよ?」

「ふふっ、そうね。そろそろ、寝ましょうか……」

 

そうして、その日は幕を閉じたのであった……

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

試験当日

 

「此処で、合ってるの……かしらね?」

私は、事前に届いていた試験会場の場所に、来ていた。

 

会場には大勢の人が集まっており、誰もが試験に受かってやるぞといった雰囲気である。

私は、そんな大勢の人に紛れ込む様にして試験会場に入っていった。

 

 

「しっかし……広いわねぇ、此処は」

 

私は、試験が行われる場に入り、指定された席に座った。私の両隣は空いていて、机の上にはテストが置かれてある。

無論、私が座った席のにもテストが置かれてあるのだが。

そんな時横から声が掛かった。

 

?「失礼します」

 

薄紫色の髪の毛を黄色いリボンで括り、白いブラウスのようなものを着たその上に赤い色のワンピースの様なものを着ている。

?「私の名は綿月 依姫(わたつきのよりひめ)。ここにいる者達と同じ、軍の適性試験を受ける者です。貴方は?」

 

綿月依姫だ。

貴方は?と言うのは、『自分も名乗れ』そう言っているのであろう。

「そうね……あなたと同じ、軍の適性試験を受ける者で、名前は……夜刀神 闇よ」

 

……原作キャラだ。

久しぶりの原作キャラである。

やはり、後に最強と謳われるだけあってそれだけの雰囲気を醸し出している。……さて、私にはどれ位足掻ける程の強さを持っているのかしら?楽しみだわ……

 

依姫「そうですか。貴方も、中々の強さのようですね……楽しみです」

 

強き者は、相手を見るだけでその強さをある程度図ることができる。

本当の強さは、そこから来る……と、この数億年で学んだ。

 

 

試験監督「それでは、始めッ!!!」

 

 

おっと、試験が始まったようだ……これからの、刺激に期待するとしますか。

これから皆が何を見せてくれるのか……楽しみね。

 

 

 

 

 

 

 

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 ̄ ̄外会場

 

外に出てみると、やはり軍の適性試験を受ける者は男が基本なのか、やたらと男が多い気がする。

私の前も男、両隣も男、そして後ろも男、そして周りもほっとんど男。女の人がさっき会った依姫位しかいないのだ。まぁ、ちょっとはいるよ?ちょっとはね。

 

試験監督「これより、試験の内容を説明する!聞き逃しの無いように!」

おっ、始まるようね。

 

試験監督「試験の内容は、グループに分けて行う総当たり戦!試合に勝つ条件は、相手を気絶させるのみ!以上だ!」

 

試験監督が、立ち去っていく。それに従って、周りの人たちも指定されたグループにバラつき始めている。

 

……気絶させる一択かぁ。結構、キツイかもなぁ。勢い余って、殺しちゃいそうで。

そうだ、リミッター掛ければいいんだ。妖力と神力を使えなくさせてっと……よし。

 

とりあえず能力の方は……『自然を操る程度の能力』で良いか。私、結構自然が好きなんだよね。花や草木を操るって、なんかカッコイイ……っていうか、地球の生命を操るっていうの?が好き。

皆も移動し始めたから、私もそろそろ自分の所へと移動しますかね。

私は……Cグループだな。Cグループは……あそこか。あっ、でもよかった。筋肉マッチョがいない!筋肉ムッキムキなやつらとずっといるなんて、いやぁーむさ苦しくて我慢できやしないね。

 

でも、私だけ女っていうのもなぁ……なんか、周りが男ばっかだから、周りの奴らに舐めて掛かられそうね。……まぁ、その時はその時。確実に舐めて掛かられるだろうけど、逆に返り討ちにしてやろうじゃん。小さな少女だからって、舐めるのは間違いだって教えてあげようか。

 

 

 

 

 

 

 

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……私の番が来るまで、他の人の試合を見ていたけど……正直、誰も私の相手にならない。弱すぎるんだよな。せめてもうちょっと、力が合ったら良かったのに……楽しめると思ってたんだけどなぁ。……と、お?私の番が来たようだ。

 

試験監督「これより、白神 白狐(しらかみ びゃっこ)vs.夜刀神 闇(やとがみ やみ)の勝負を始める!両者、位置につけ!」

 

私の最初の相手はどうやら、白神 白狐という者らしい。

見た目は、別にマッチョでもないし痩せているわけでもなさそうだ。まぁ、所謂中肉中背ってやつだね。

 

白狐「……宜しくな、嬢ちゃん」

「……あまり舐めてかかると、痛い目みるわよ?」

白狐「期待しておくよ」

 

あぁ、やっぱりこれ舐められてるわね。よぉし、こうなったらすこーし痛い目みてもらおうかしら?私が、少女の様な見た目をしているからって、舐めてかかると痛い目みるぞって。

 

試験監督「それでは、開始する!!!」

 

 

 

白狐「なるべく早く終わらせてやるよ」

 

白狐と名乗る男が、切りかかってきた。

「甘いわ」

私は、それをひらりとした身のこなしで躱す。

白狐「やっぱそう言うだけで、ちょっとは身体能力がしっかりしてるんだな!」

 

……ちょっとはって。ちょっとはじゃなくて、めっちゃしっかりしてんのよ。少なくとも、貴方よりかはね。

こちとら、何億年も伊達に生きてないっつーの。

「もうちょっと様子見をしようかしらね?この人間の実力も図りたいし……」

白狐「何ぼーっとしてんだ?」

「別に、ぼーっとはしてないわ?貴方の実力を図っていただけよ」

白狐「ほう……そんな余裕な態度、いつまで続くかな?」

 

別に余裕そうな態度をとっているわけじゃないんだけどなぁ……

それに、貴方の方が余裕そうな態度をとっているように見えるわよ?

……まぁ、でもこの男は人間の中でも弱いわけじゃなさそうね。むしろ強い方……

だけど、私にはまだまだ適わない。これから、軍の人にその腕を磨いてもらうんだね。

そろそろ、終わらせようか。この男の体力も持たなくなってきているし、私的にも……そろそろ飽きてきた頃だし。

「悪いけど、そろそろ終わらせるわよ」

 

私は、男の後ろに一瞬で周り、手刀を首筋に手早く、迷いなく振り下ろした。

それだけで、男は糸が切れたように地面に伏していく。……少し、傷を癒しといてやるか。

 

試験監督「勝者、夜刀神 闇!」

 

試験監督が、声を張り上げる。

それは、私の勝利への掛け声である。……私は、軍に受かっているのだろうか?

グループで勝ち上がった者は、どうすればよいのだろうか?

 

 

 

グループでの総当たり戦が終わり、私達は中へと移動を始めていた。……試合結果?そんなの言う必要ある?

 

次は、霊力診断があるそう。

霊力診断というのは、その人個人個人の霊力を診断し、その診断結果によってそれからの試験結果に繋がるそうで。

……私の場合、どうなるのかな?霊力なんて、半端内程あるんだけど。霊力調べる機械、壊れたりしないよね?

 

ちなみに、今はその霊力診断を受けるために列に並んでいる。

前の人達は、難なくクリアしていっている。

霊力が限りなく低い者であったり、とてつもなく高い……?であったり。はたまた、どちらにも偏っていない、平均的な者であったり。

 

試験監督「次の者!」

 

よし、私の番だな。この水晶に、手を翳せばいいのか……心配だから、少し霊力を抑えておこうかな。割れたりしたら、そっからの私は目立ちまくるであろうから。目立つのは、あまり好きではない……訳では無いが、若干恥ずかしい面もあるのだ。

 

 

結果、水晶は割れず。それは、良かったんだけどね。

私の霊力が表示された時の試験監督の声が、これまた驚いたようなものだった。当たり前だよね、私の霊力がさっきまでの人たちのものより、それを遥かに超えたものだったんだから。

軍の適性試験を受けている人の霊力の平均が300だとしたら、私は1000辺りとかであろう。

抑えすぎても馬鹿にされるし、かといって抑えなかったら水晶が壊れるしでかなり抑えるのは苦労した感じだ。

 

まぁでも、それからの様々な試験を難なく受けていった。

多分、合格しているはず……である。

帰ってその事をえーりんに話すと、結構褒められたりした。

 

 

 

そして、翌日。

私がいつも通り起きて、リビングに向かおうとすると、えーりんが何やらドタドタと音を立てながら私の部屋に入ってきた。

永琳「闇ッ!これ、見て!!」

 

えーりんがそう言って差し出したのは封筒に入った1通の手紙。

永琳「ねぇ、これ!貴方、合格してるわよ!!」

 

 

『軍の適性試験:結果 合格

 

国語:100点

数学:97点

理科:99点

社会:100点

美術:100点

音楽:100点

技術家庭:100点

保健体育:100点

剣術:Aクラス

霊力:1000ポイント・Aクラス

 

総当たり戦:主席

 

夜刀神殿の偏差値:80

 

追記 夜刀神殿は、文系と芸術系、あと剣術が得意のようですね。まさか百点満点を叩き出すなんて、軍一番の賢者です。軍のグループでの総当たり戦に主席で勝ち上がるなど、人並外れた身体能力をお持ちのようですね……これには私も御見逸れしました!』

 

 

私は、その場で飛び上がった。

えーりんと一緒に、ハイテンションになっていた。

 

「やった!やったよえーりん!合格だよ!」

永琳「えぇ!これでやっと、貴方からも収入が得られるわ!」

「そこっ!?」

永琳「ふふ、嘘よ」

そんな風にやり取り(笑)を続けて……^^;

 

その日の夜は、永琳が合格祝いにディナーを作ってくれた。

どうやら永琳、私の為に今夜の晩御飯は豪華にしようと結構奮発してくれたのだ。ありがたい、ありがたい。

 

永琳「ねぇ、闇……」

私が、食べ終えた食器を片付けていると永琳が話しかけてきた。

「ん?何かしら」

永琳「……私達、ずっと一緒よね?」

「えっ、えぇそうだけど?」

永琳「そう、それが聞けて良かったわ」

「……?」

永琳は、意味深な笑みを浮かべ、食器を片付け始めた。

……何だったんだろう?

 

その日、私達は共に眠り、夜を過ごした……

 

 

 

 

 

 

 

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第5話 依姫と私

今日は、前日にあった適性試験を受けた者の内の合格者が、集まる日である。

まぁ、簡単に言えば軍の最初の仕事日、って感じだろうか。

 

?「あの、すみません!」

「……?」

私は、後ろから声をかけられ、振り返る。

声をかけてきたのは……

 

依姫「貴方、試験の時でもお会いしましたよね。こんにちは!お互い試験に受かった者として、一緒に軍のところに行きません?」

 

依姫である。

依姫もまた、軍の適性試験に受かったのだろう。嬉しそうに私の方へ近づいてくる。

「えぇ、良いわよ」

私は、快く了承すると、依姫と共に歩き出す。

軍の場所は、ここからそう遠くない……と言っても目の前である。

私は、軍の門を潜っていく人達の中を依姫と歩く。

それにしても、凄い人だかりだ。……まぁ、試験当日の押しつぶされるほどの人だかりではないが。

 

「依姫と私、同じグループとかだと良いわね!」

依姫「えぇ、そうですね。貴方のような少女?が軍に入るだなんて、試験の日に貴方を見つけた時は、本当に目を疑いました」

「それは、貶しているのかしら?」(⚭-⚭ )

依姫「いえいえ」

 

そんなやりとりを続け、やってきたのは軍の学校のような所。

そこで、元軍隊員の人達が訓練しているのが見受けられる。

……見ていて分かるのだが、皆剣さばきが良くない。この時代の人間は、かなり強かったような気がするんだが……

「ねぇ、依姫」

依姫「何ですか?」

「……あの隊員達、どう思う?」

依姫は、少しうーん……と手を顎に当てて考えた後、こう言った。

 

依姫「……正直な所、まだまだですね。少なくとも、私には敵わないでしょう。……勿論言いますが、貴方にも敵わない、ときっぱり断言出来ますからね?」

「どうしてかしら?」

依姫「観てたんですよ、貴方の戦いを。貴方、規格外すぎますよ!少女の見た目なのに、ギャップがありすぎます」

「あら、そうかしら」

依姫「そうですよ!」

 

……等とそんな風にやり取りを続けていると、目的の場所に着いていた。

軍は以外と広く、学校のような所だった。

自分たちの教室?が貼られてあるのを見てみると……

 

「あら、私たち同じ教室よ?」

依姫「えっ?……あ、本当だわ。これも何かの縁なのですかね」

 

私たちは、ケラケラと笑いながら指定された教室へと歩を進める。

 

 

 

「ここね」

 

私達は、とある教室の前で歩を止める。

 

依姫「私たちは……Aグループですか、まぁ当たり前ですけど」

「そうね」

決して自慢している訳では無い。

 

軍の適性試験の結果、私たちはAグループになった。

結果の段階は、下からEグループ、Dグループ、Cグループ、Bグループ、Aグループ、の順番である。

永琳に聞いてみたが、Aグループは毎年殆ど数人程度しか出ないらしいのだ。滅多に出ないのだとか。

明らかに少なすぎる。なので、まだ人数のあるBグループと一緒の教室にされるのだとか。それでも、Bでも少ない位だ。

 

「少ないとは行ったけど……まさか、Aグループが私達だけだなんて」

依姫「えぇ……そうですね。皆、どれだけ弱いんですか?」

 

いや、貴方達が強すぎるだけだから。……等という声が聞こえたような気がするが。

「あら、そんなことはないわよ」

依姫「?……誰に話し掛けているのですか?」

「何でもないわ」

 

私は、前のホワイトボードに書かれた自分の席へと向かう。

教室内の構造は、現代社会の学校とほぼ変わりはなく、唯一変わっているとすれば、黒板がホワイトボードに変わっている位であろうか。

教室の収容人数は、20人……位だろうか?

私は、依姫とすぐ側の席だ。

 

依姫「皆さん……やはり、男の方が多いですね」

「そうね……やはり、私達みたいな少女は珍しいのかしら?」

依姫「いや、貴方が小さすぎるだけなのでw」

「何よっ、それ!馬鹿にしてるの!?」

私は、頬を膨らませて依姫の方を見る。

悔しいが現実だ。

私は、147cm位しかない。永琳が、大体160cm台前半位だ。

 

……そして、目の前にいる私のことをいじってくる少女、綿月依姫が150cm台後半位。

依姫「ほらほら、怒らないで……小さな女の子は、笑っていた方が素敵なんですよ?」

私の頭を撫でながら、依姫は優しく笑う。

 

……何だか、良い気分だ。頭を撫でられるなんて、わ、私は、あんまり……

「そうね、小さな女の子は女の子らしく振る舞えば良いのよね!」

依姫「……そうですよ!(女の子は頭を撫でれば何でも解決するんですよ!)」

 

何ていう会話をしていると、教室の扉がガラッと開いた。

それだけで、騒がしかった教室の空気が一変し、静かになる。

?「……」

入ってきたのは、背の高い男性。大体170cm台後半位だろうか?

教室に入ってきた男性が、教室全体をぐるりと見渡し……私と目が合った。

?「……?」

男性は、私を見ると首をかしげる。

だが、男性も冷静だろう。すぐに前を向き、皆にこう言った。

 

?「皆の者、先日の試験に受かり、本当におめでとう。私は、このクラスを担当させて頂く者だ」

 

男性「軍も厳しい。これから気を抜かないように!」

 

男性は、それだけ言うと手元の紙を整理し始めた。

何だろう?と思っていると、男性が口を開いた。

 

男性「これから、自分のプロフィールを書いてもらう」

 

そうやって、列の1番前の人に紙を後ろへ回すように指示した。

私の番が来て、後ろ……依姫に紙を渡し、紙を見る。

 

私は、前世でお気に入りとして使っていたシャープペンシルの模様を型どった物を使い、プロフィールを書いていく。

プロフィールの紙は、大体B4位の大きさだろうか。

 

「名前、年齢……年齢か。何歳にしようかな、とりあえず14歳でいいや」

とりあえず、前世での年齢を書いておく。……本当の年齢書いたら、やばいからね?億の桁超えてるからね?

 

名前や年齢の他にも、性別、戦い方、使う武器……などがある。

使う武器か。私は普段、日傘か刀を使用しているが……ここは依姫とかに合わせて刀でいいか。

 

その他にも色々あったが、さっさと書き、シャープペンシルを置く。

周りの人達も終わったのか、ペンを置き、暇そうにしている。

 

男性「……皆終わったようだな。それでは、今度は前に立って、1人ずつ自己紹介をして貰おう」

 

……誰からかな?前の列の人からかな?

あっ、ちなみに、私の席は窓側の席だよ。

男性「それでは、そこのお前!」

 

……え?私?

男性「ほら、早くしないか」

えぇ……

 

私は、仕方なく教壇に向かう。

チラッと依姫の方を見てみると……

依姫「(頑張って~!)」

私のことを応援するような感じで私を見ていた。

 

そして、皆の前に立つ。

 

「え、えぇっと……わ、私は夜刀神 闇……です。得意な戦い方は……剣術です。えぇっと……これから、宜しくお願いします……」

 

今まで静かだった教室が、突然火薬を入れたように爆発的な歓声に包まれた。

その中から、様々な声が聞こえてくる。

 

 

 ̄ ̄よろしく!

 

 ̄ ̄銀髪だ!珍しいし、すっげぇ可愛いな!

 

 

……な、何もそこまで。そこまで言わなくても……

私は、恥ずかしさの余り急ぐように自分の席へ戻った。

 

次の人もその次の人も自己紹介をしていって、その時間は終わった。次の時間は、役割決めをするらしい……

 

気づいたことなんだが、この都市では銀髪は珍しいらしい。

あっ、ちなみに、えーりんは銀髪ではなく黒髪だ。まだ月に行ってないし、不老不死の薬を飲んでいないからなのかな?

 

 

 

 

 

 

 

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第6話 月移住計画と人妖大戦

 ̄ ̄あれから数ヶ月後。

 

依姫含む私たちは、随分と成長した。

クラスの皆も、依姫と渡り合える位は強くなったし、私も然り。

 

そして、私は軍の総隊長を任される位になったのだ!

依姫はいないのかって?もちろんいるよ。依姫は副総隊長だ。

私は、3番隊の隊長。依姫は、5番隊の隊長である。

軍の皆も、大体は強いやつが多いのだが……強い分、私たちに突っかかってくる奴らも勿論のこと、いる。あれって、何なんだろうね?大して力も持っていないのに……せめて、依姫に勝てる位強かったら少しは楽しかったかもしれないというのに……

 

慢心は、戦いでの最大の敵。私はそう思っているし、私に着いてきてくれる者達も、そう思っている。勿論、依姫も……

 

 

そして、今ここにいるツクヨミだってみんなだってそうだ。

 

ツクヨミ「……」

 

全「「「……」」」

 

奥にツクヨミ、そして、両脇に依姫、依姫の姉の豊姫、そして私と……他の軍の隊長達。

全員、ツクヨミの方を向いたままじっとして動かない。そして、そんな沈黙を破ったのは……

 

 

ツクヨミ「……皆さん、今日この場所に集まって頂いてありがとうございます」

 

ツクヨミだ。

 

ツクヨミ「皆さんは、月移住計画というものを知っていますね?」

依姫「えぇ。数週間後に行われる、穢れから逃れるための移住計画の事ですね?」

 

ツクヨミは、黙ったまま頷く。

ツクヨミ「そこで、軍の隊長でもある皆さんに集まって頂いた訳なんですが……」

 

ツクヨミ「数週間後の月移住計画の時に……多数の妖怪が攻めてきます」

 

私達の中に、騒めきが起こる。

 

 

 ̄ ̄妖怪だと!?

 

 ̄ ̄攻めてくるって、結構やばいんじゃないの!?

 

 

ツクヨミは、そんな風に騒ぎ立てる隊長達を一声で鎮め、話し始める。

ツクヨミ「その話については、そこの軍の総隊長が話します……闇、宜しくお願いします」

 

私は、ツクヨミとアイコンタクトを取り、立ち上がる。「今、ツクヨミ様が仰ったように ̄ ̄」

 

 

 

「 ̄ ̄になるわ。皆、良いわね?」

 

私は、妖怪が攻めて来た場合のそれぞれの立ち位置、月へ行く時のロケットの乗る順番など ̄ ̄それぞれの隊長に話した。

 

「私が担当する3番隊は、南門を担当……そして、依姫担当の5番隊は北門担当……豊姫は、ツクヨミ様と永琳達と同じロケットよ」

豊姫「分かったわ」

依姫「分かりました」

 

 

 

 ̄ ̄ツクヨミの部屋にて

 

ツクヨミ「……それでお姉様、お姉様は私達と共に月に来られないのですか?」

「まだ……まだ、分からないわ。私は、軍の総隊長を任されているが故 ̄ ̄皆を纏めなければいけない存在。もしかしたら、っていう場合もあるわ。だから……」

ツクヨミ「……そうですか」

「でも……私も、なるべくなら皆と共に行きたい。出来るだけ、頑張るわ」

 

私は、ツクヨミと向かい合って話す。

数週間後に控えた月移住計画……私は、月に行けないかもしれない。

だから、ツクヨミとその事を相談しあっているのだ。

豊姫や依姫、永琳達に今この場で話していることを聞かれたら、やばい事になる。

私が神だっていうこともバレたらやばいし、ツクヨミと私がそういう関係だってことも知れてしまう。……それだけは避けたい。

 

ツクヨミ「……本当ですね?」

「……えぇ」

ツクヨミ「……約束ですからね」

 

ツクヨミは、私に抱きつき、頭を撫でてきた。

 

ツクヨミ「いつまでも……一緒ですから」

「う、うん……分かってるわよ」

私は、ツクヨミのいきなりな行動に動揺しつつも、返す。

 

「(それにしても……ツクヨミも、以外と子供っぽい所とかってあるのね)」

私は、ツクヨミに撫でられながら思う。

 

 

……月移住計画。

その時には、私はどうなるのだろうか?

永琳達と共に月に行けない……それは、避けたいけど避けられない未来かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

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月移住計画当日

 

永琳「……」

「……永琳、そんなに心配しないで。私は、大丈夫よ」

永琳「……本当?本当に、戻ってくるのね?」

「……えぇ」

永琳「約束よ」

 

私は、ロケットに乗り込んでいく永琳達を見送りながら、考える。

 

「どうやったら無事に永琳達を送れるかしら……私は、軍の総隊長。そんな易易と戻る訳にはいかない。……もしかしたら……いいえ」

私は、嫌な考えを振り払う。

約束したのだ、ツクヨミと……永琳と依姫達と。

 

今更、約束を破ってどうする。

約束を破ったらそこでお終いなのだ。

 

依姫「闇さん!皆を集めました!」

依姫が、私に走りよってくる。……準備は整ったな。

 

「……皆、準備は良いわね?私達がこれから行く場所は、とても危険な場所。死の地……もしかしたら、死ぬかもしれない場所。準備は怠るな、万全な状態で行くわよ!いいわね!!!」

 

全『オーーー!!!』

 

依姫含む隊員達は、威勢よく私に返事をし、自分達の持ち場へと向かって行く。……そろそろ、私も行くかな。

 

 

 

 

依姫side

 

 

「何、なんなの……この妖怪達は!?」

 

私は、目の前の光景に驚愕していた。

妖怪が、妖怪が……百万……いや、一億はいる。こんなの……こんなの、無理に決まってる。

 

「いや、違う……私は、約束したんだ。闇さんと……共に、月に行くって」

私は、自分を奮い立たせる。

私は、もう一度目の前の妖怪達をしっかりとこの目で見る。

 

「……行こう。私が、駄目になってどうする」

 

刀を柄を握り直し、私は……突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

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闇side

 

目を瞑ると、あの日のことを思い出す。

龍神として転生したあの頃……ヘカと出会った頃のあの日々のことを。

あの頃以上に、今のような壮絶な戦いをした事があっただろうか?

道端を歩いていると会う妖怪達とする殺し合い等は、何度もやった。

しかし、私と同等の力を持つ者等、そうそういない。

いるとするならば、数千年以上生きている大妖怪等だろうか。……だが、そういう奴らでも私を倒すことは出来なかろう。いるならば、一度顔を合わせてみたいものだ。

 

 

?「なぁ龍神サマよ、そろそろ始めねぇか?アタシは待ちくたびれたよ?」

「あぁ……ごめんなさいね、少し考え事をしていたわ」

 

……目の前の鬼子母神を見て、思わず笑が零れる。

?「ほぅ?鬼子母神であるアタシを目の前にして、考え事……流石、龍神だな!」

目の前の鬼子母神……鬼神 結花(おにがみ ゆうか)は、はっはっはと豪快に笑う。

全く、鬼らしくない可愛い少女のような見た目をしてる癖して、何でそんな豪快な笑い方をするかな……その可愛い顔が、台無しになっちゃうわよ?

 

結花「なぁ、やみぃとか言ったか?」

「やみぃ……まぁいいわ、何?」

結花「少し……賭けをしないかい?」

「……賭けだと?」

 

私は、結花の発言に疑問を持った。

賭け?何の?……何の為に?

 

結花「もしアタシが勝ったら……アタシの言うことを何でも聞く。もしアンタが勝ったら……アタシも、アンタの言うことを何でも聞こう。……どうだい?悪くないだろう?」

「……良いわね。でも私はそう簡単には負けないわ?」

 

私たちは、お互いに距離をとる。そして……

 

 

「「さぁ……始めようか!!」」

 

 

……お互いの拳をぶつけ合った。

 

 

 

 

 

 

 

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結花「はぁ、はぁ、はぁ……アンタ、中々やるね!アタシにここまで疲れさせたのは、アンタが初めてだよ!」

「えぇ……そう、ね。私も、久々に体を動かしたから……少し、鈍っていた所があったわ」

 

……あの後の戦いは、かなり激戦だった。

私たちの身長は、さほど変わりはない。身体能力も然り。

だから、私もかなり疲れている方だ。常にポーカーフェイスを大事にしているせいか、疲れている風に見られることが少ない。

結花も、なかなかの戦いだった。……だが、そんなので負ける私ではない。ヘカと戦っていた頃よりかは、強くなっている……はずである。

 

結花「流石……龍神だな。だが、生憎アタシも鬼だ。だから、そう簡単には負けを認めないぞ!」

「はぁ。鬼の根性には、参るわ……次で最後にしましょう」

結花「そうだな……」

 

私も、かなり疲れていた。……そろそろ、終わりにしたい所だ。

 

 

 

 

 ̄ ̄結果は、引き分け。

いくら龍神の私と言えど、あの時点で疲れすぎていた。

一方の結花も、私と対等に渡り合える程の力を元々持っていた為、引き分けになった。

結花「はぁ……引き分けかぁ。若干悔しい気もするが、お互いに頑張ったし、良いか!」

「貴方、本当に規格外ねぇ……龍神であるこの私を、倒すまではいかなくとも、ここまでにさせるなんて」

結花「ははは。それは両方、共に言えることだろ?」

「そうね、確かに……」

 

私たちは、共に笑い合った。

そう言えば、賭け事はどうなったのだろうか?と気になったのだが……少し聞いてみようか。

「ねぇ、結花」

結花「何だ?」

「賭けは……どうするの?」

結花「そうだな……もう、アンタが決めていいよ」

「……良いのかしら?」

結花「あぁ」

 

結花は、地面に大の字になって寝転ぶ。

私は、それを見下ろしながら……考える。

 

どうしましょう……結花ともいたいし……

結花に着いていく、となってしまえば永琳やツクヨミたちを裏切るってことにもなるし。どうしましょう……

 

「そうね……私が、ここにいる億を超えた妖怪たちを全滅させてから考えるわ……って、もう億を超えた数もいないしすぐ終わらせられるけど」

 

……私は、ここで悟っていたのだろう。

皆とは、共に月に行けない……私だけがここに残る、と。残らなければいけない……と。そうしなければ皆は助からないのだ……と。

 

 

私は、安心しきっていた。依姫ならば、北門は任せられる……と。

 

 ̄ ̄身体中深い傷を負った、満身創痍の依姫を見るまでは。

 

「あ……ぁ、より、ひめ」

 

私は、そんな依姫の姿を見て……絶句した。

依姫が……妖怪に?依姫は……そんな簡単にやられる娘じゃない。そう、信じていたのに……

 

「なん、で……何で、依姫が負けるのよ」

 

「自分から約束……破ってどうするのよ……ふふ、私ったら本当に馬鹿ね」

 

私は、泣きそうになりながら依姫の傷を癒していた。……横にいた結花は、空気を読んでくれたのか、いなくなっていた。

周りを見渡したが、軍の隊員達は全員撤退していた。妖怪は、1匹たりともいなかった。……依姫、やったんだな。

……依姫の傷は、もう後は意識を取り戻すだけになったのだが、このまま依姫に目を覚まされては後味が悪い……そう思った私は、手紙を書いた。

 

「『都市の皆へ

 

私は、少しばかり旅に出ます。今までお世話になった皆と別れるのは辛いですが……こればかりは私のわがままを少し許してくれませんか?

人妖大戦で、妖怪達から仲間であるはずの依姫を守れず、皆との約束を破ろうとしたのです。皆と月に行く資格は私にはありません。何卒、お許し下さい。

それと、今まで黙っておりましたが……私は人間ではありません。詳しい話は私からは話せません。ツクヨミにでも聞いてください。

 

……今まで、本当にお世話になりました。今後、また皆と出会える事を願っております』……これでよし、っと」

 

私は、その手紙を依姫の服のポケットに入れた。

 

私より一回り大きい依姫の体は、私にとっては抱えにくかったが……それも耐えた。

何時もの姿ではない私は、今皆の前に行けばさぞかし驚かれることだろう。だが、私にはそんな暇は無いのだ。

 

 

依姫が乗るはずだったロケットに、スキマで直接繋いだ。

 

突然現れた私に、その場にいた全員が吃驚したような顔をした。

永琳「闇!?突然、どうかしたの……って、依姫まで!どこに行ってたの!?」

 

私は、黙ったまままだ眠っている依姫を永琳たちに引き渡し、その場を去ろうとした。……が、とある声に呼び止められる。

ツクヨミ「……お姉様、もう行ってしまわれるのですか?」

 

私は、焦ったような表情をしながら、どうしようかと内心思っていた。

永琳「……お姉様、って貴方」

「……っ!」

私は私を呼び止めようとする声を意図的に振り切り、私はスキマの中に飛び込んだ。

 

『いつまでも、待ってるから』

 

……そう、聞こえるはずのない皆の言葉がスキマの外から聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

結花「……もう、お別れは済ませたのかい?」

「えぇ」

 

私は、あの後結花の元へと戻った。

私が勝負に勝った場合の願いは、『結花の言うことを聞く』だ。

そして、結花が私に望んでいたこと。それは ̄ ̄共に旅をする。だ、そうだ。

 

結花「それにしても……アンタと旅かぁ、言い換えれば龍神と旅してることになるんだよね、これ」

「……そういうことになるわね」

 

……旅をするのは良いことだ。だが、私には一つ腑に落ちない点がある。それは……

 

 

「……こんな簡単に終わっていいのかな?」

 

これだ。

いくら何でも、何も起きなさすぎる気がするのだ。

 

都市を攻めてきた妖怪達を全滅させ、軍の隊員達を全員撤退させて……そして、皆に別れを告げた。

何かが……思い出せない。何かが……と、思っていると、結花が私に声を掛けてきた。

 

結花「なぁ、やみぃ……あれ、何だ?」

 

結花が、指を指したその先は…………

 

 

 

黒い塊()……だった。

 

 

 

私は、その物体の存在を確認した後、結花の手を取って全速力で逃げていた。

結花「っ!何するんだい!?」

「核よ、核!!早く逃げないと皆アレで焼き殺されちゃうの!!!!!」

結花「……何だと!?」

 

その核は、現世で見たヒロシマやナガサキに落とされた原子力爆弾のような形をしており、何より……"恐ろしかった"。

 

龍神のスピードは、折り紙付き。あっという間に、先程の場所からはかなり離れていた。だが……

 

「っ、!?」

 

……核の、力を舐めてはいけなかった。

私は、ここまで来るともう大丈夫かと思っていたのだが……その考えが、どうやら凶と出たようだ。

 

私は、そのまま吹っ飛ばされそうになる。が、そこは龍神。そのまま耐えようとしたが……

 

結花「ぐ、ぁっ!!」

 

結花が、少し力不足のようだった。

私は、咄嗟に爆風から結花を庇うように抱き締める。

 

結花「やみぃ!?」

 

結花が、驚いたような顔をするが、それも気にしない。

私は、爆風に耐えきれず……だが、結花を離すことなく吹っ飛ぶ。

私は、吹っ飛び岩に叩き付けられた衝撃で、少し血を吐いたが、何とも無かった。

元々は龍神というスペックのせいで中々死なないようにはなっている。死なないし、死ねないのだ。

 

「ぐぅ、ぅ……結花、大丈夫?」

結花「あ、あぁ……と言うよりも、その体勢は何なのさ」

私は、いつの間にか結花の上に乗っていたらしい。

「あ、ごめんなさ ̄ ̄」

 

ごめんなさい、そう言って結花の上から退こうとした時……急に、私の意識が途切れた。

前向きになれる倒れていく中……驚いたような結花の顔が見えた気がしたが……よく見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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永琳side

 

……闇が、私たちに別れを告げに来た。

私は、それだけで凄く怒った。

 

「あんなに、あんなに約束したのに……最低」

 

本当は、そんなこと思っていない。寧ろ大好きだ。ツクヨミ様が、闇のことをお姉様と呼んだには吃驚したが……

 

なのに……なのに……

ロケットが、出発する音がする。

だが、そこに闇の姿は無い。

 

そんなこと、今までは無かった。

買い物に行く時だって、食事をする時だって、軍の仕事のとき以外全て自分の傍にいた。いてくれた。私のことを気遣い、見てくれていた。

 

 

 

そして今、私たちはとある科学者を取り囲んでいる。

 

「貴方が……この都市に、核を落としたのね?」

科学者「えぇ……そうですが何か?」

「そう……」

そう、この科学者こそがこの都市に核を落とした者だ。核は元々、私が開発し、非常用の為に積まれてあったものだ。……それを、この科学者が。

 

「どうして、核を落としたりしたのかしら?」

科学者「どうして……?そんなこと、簡単じゃないですか。あの妖怪を殺す為ですよ!あんな妖怪、消えて当然なのです!人間に化け、妖怪であるのにも関わらず都市に入り浸ろうとしたこと!それは、死を持って償うのが当然だと思いませんか!えぇ??」

 

私は、この科学者に恨みを覚えていた。

隣で見ているツクヨミ様も、相当怒っていらっしゃるような顔だ。

 

ツクヨミ「貴方には……死んでもらいます」

 

 

 

 

……

シーンと、辺りが静まり返る。

 

科学者「……い、今なんと?」

ツクヨミ「ですから、貴方には死んでもらいます」

 

科学者含むツクヨミ様を除いた全員が、口を開けてポカーンとした顔になっていた。

多分、全員ツクヨミ様がそんなことを言うとは思っていなかったのだろう。

 

ツクヨミ「永琳、ロケットのダストシュートを開けてください」

「えっ?あ、は、はい」

私は、ツクヨミ様の氷のような冷ややかな視線に、とても驚いていた。それは、多分全員が思っていたことだろう。

ツクヨミ「お姉様を侮辱した罪……その体で、死を持って受け入れなさい」

 

ツクヨミ様は、科学者を勢いよく蹴り飛ばし、ロケットのダストシュート……ゴミ箱から、ロケットの外へと放り出した。その間も、科学者は大きな声でギャーッと叫んでいたが……多分、あの科学者は死んだだろう。

 

「……闇、どうか無事でいて」

 

 

私は、ただそれを願うばかりだった。




夜刀神 闇 本小説の主人公、アイドル的存在の闇ちゃん、今回挿絵として初登場して頂きます!遅くなってしまいスミマセンm(。>__<。)m


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私たちの旅 〜諏訪大社編〜
第7話 私たちの旅


皆様、お久しぶりです。
それと、今まで投稿遅れて申し訳ございません……私の体調管理が乏しいせいで風邪をひいてしまい……今度からは、気をつけるようにするので、私の小説を見てくれて頂いている方々、これからも私の転生物語をよろしくおねがいします!


「んっ……」

 

まだ起きてこない体に鞭を入れ、起き上がって辺りを見回すと……

 

「洞……窟?何で?」

おおよそ結花が運んでくれたのだろう。

だが、その運んでくれた結花がいない。……多分、外にでも散歩とかをしに行ってるんだろう。

ここは、核の爆発地点からかなり遠く離れた場所だが……結花も鬼子母神だから大丈夫だとは思うけど、放射能とかには気をつけないと……

 

結花「目が覚めたかい?」

 

洞窟の入口の方から聞こえてくる声……結花だ。

「えぇ、お陰様で。結花、運んでくれてありがとね」

結花「いや、礼に及ぶ程の事でもないさ」

結花は、にこりと笑ってみせる。

 

結花「さて……これからどうしようか」

結花は、私に目線を合わせてくる。……多分、私に意見を仰いでいるのだろう。

「どうする……って言っても、これからは当分洞窟からは出られないと思うわ。その内、氷河期が来て世界は氷に包まれるもの……」

結花「……やみぃが何故そんな事が分かるのかと言いたいところだけど、まぁ良い。とりあえず、当分ここから出られないことは分かった。……それじゃあ、食料探しに行かにゃならんな」

「……そうね、明日にでも行ってみましょうか」

結花「そうだな」

 

氷河期のことを喋ったことは不味い、と思ったけど何とかなった。

そうか、食料のことだな……もうすぐ氷河期が来るから、早めに行かないと手遅れになる。いくら私たちが飲まず食わずで生きていけるにしても、結花は限界があるのだ。

これからの一億年、氷河期をどう過ごそうか……考えないとね。

たまに異空間の間へ、ヘカに会いに行かないと。帰ってくるってヘカに約束しちゃったからねぇ。

……その時は、結花も連れてこようか。結花、異空間の間を見たらどんな反応するんだろうなぁ。特に、図書館に吃驚するんじゃないだろうか?

 

結花「なぁ、やみぃ」

「何?」

結花「……何でもない」

「何それ」

 

私たちは、今日何回目かのやり取りを続ける。

結花と、外の世界へ旅に出られるのもしばらくの間無くなるのか……地球を見られないのは、少し残念だけど、その間は結花と遊べるし大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

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私たちは、その次の日、急いで食料探しに出かけた。

途中で見つけた弱った動物や妖怪たちとかも私の進言で洞窟内に保護したし、食料についてはその辺に落ちていた木の実や、川で泳いでいる魚、そして動物の肉や恐竜の肉だ。意外なことに、恐竜の肉がこれまた美味い。草食恐竜と肉食恐竜とで食べ比べてみたが、草食恐竜の方が良い。柔らかくて、かなり肉のジューシーな味が伝わってくるのだ。

 

捕まえてきた動物達や恐竜たちは、私が加工した。

爪でバラし、内蔵とかを取り払う。これが、普通の人間や血を見慣れていない者であれば、もしかしたら戻していたかもしれない。……私?生憎私は、人間でもないし、血も見慣れてます。

 

結花「それにしても……やみぃと一億年かぁ、なんか新鮮で良いな!」

「そうかしら……あと一億年もこの洞窟生活よ?」

結花「良いんだ!やみぃとだからな!」

 

凄く、意味深な言葉だったけど……まぁいいか( ˇωˇ )

結花と私は、洞窟内に張った結界の中で、のびのびと生活している。外は多分もう氷河期が始まっているのだろうが、出る気にはならない。だって私、爬虫類だもん……変温動物なんだもん。寒いんだもん。

 

私は、洞窟内を見渡す……が、私たちが持ち込んだもの以外は、何も無かった。布団とかは普通に段とか置いてその上から敷いてるし、食料とかについては、私のスキマの中だ。

 

私と結花は、殆ど一緒に寝ている。

初め、結花は一つしかない布団に考慮し、私に譲ろうとしてきたのだが、流石に他人を布団の外でいさせるわけにもいかないので一緒に寝よう、と誘ってあげた。

結花も最初は遠慮していたのだが、渋々了承してくれた。

 

結花との一億年は、意外にも長いようで短かった。保護した動物達や危害を加えない妖怪の世話も結構楽しかったし、ヘカのところへ行って、魔法の練習をしたりした。……練習と言っても、全てマスターしているので新しく魔法を作ったりしただけだけどね。

 

 

 

 

そして、氷河期の氷が溶けて氷河期の終わる頃……

 

外には、新しい自然が広がっていた。

 

目の前に広がる木々、その向こうに見える山。

どれも、この洞窟に入る前とかなり違っていたりする。でも、差し違えなく美しい。

 

結花「……なぁ、どこから向かおうか?」

「とりあえずぶらぶらと歩きましょうよ。氷河期が終わってから、直ぐに洞窟を出た訳ではないし……少なくとも数百〜数千は経ってるはずから、人間も生まれてるかもしれないわよ?」

 

 

 

ということで、結花と話し合った結果人間のところへ行くことになった。

 

ところで、この時代は何時代なんだろう?まだ西暦が始まってないのだろうが……なら、旧石器時代かな?

今まだ、人間には出会ってない。妖怪も然り、だ。……いや、結花がいたかしら。

 

結花「おいやみぃ、村みたいなん見っけたぞ!」

 

と思っていると、結花が声を掛けてきた。村が見つかったとのこと。

村、か。結構いい感じに事が進んでる……と思う。もしかしたら、この村に東方の原作キャラがいるという重要なことが起きる……かもしれない。

「そうね……行ってみましょうか」

私たちは、結花の見つけた村というところに行くことになった……

 

 

 

……はずだった。

 

「……ねぇ結花」

結花「何だい?」

「私たち……人間の村、に行くはずだったわよね?」

結花「あぁそうだね、それがどうしたんだい?」

「あのね」

 

私は、一呼吸置いてから息を思いっきり吸い込む。そして……

 

 

 

「どこが村なんだぁぁぁああぁぁあ!!!」

 

 

 

叫んだ。

……いやだって、こんなんどう見ても村じゃないやん!街やん!

結花「……やみぃ、どうしたんだ?急に叫んで。しかも口調変わってるぞ?」

あら、ら。心の声が漏れちった♪ウフフ♪…………我ながら初めて自分が気持ち悪いと思った瞬間である。…………チ───(´-ω-`)───ン

 

「それで、人間の村……基街が見つかって。それからよ、それから」

結花「そ、そうか……そうだな、(;-ω-)ウーン」

「とりあえず、この街を歩いてみましょ。何か面白いものが見つかるかもしれないわ」

結花「そうだな」

 

 

 

場所は変わって人間の街の門の前……

門番「貴様等、何者だ!」

「私たちはしがない旅人よ、入れてくれるかしら?」

 

私たちは、元の姿では妖怪と間違われるので(結花は妖怪だが)、角や耳を隠して普通の人間には分からないようにしてある。ちなみに、妖力も然り。結花は霊力の操作が一級品。強い陰陽師などが出てきたら厄介だが、常人に分からないようにするなど、朝飯前である。

 

門番「分かった、入れ」

「あら、随分と簡単に入れてくれるのね?」

門番「あぁ。この街は土着神がおられる街、神社に参拝してから回る様に」

「えぇ、肝に銘じておくわ」

門番「では」

 

 

門番との一連を終え、私たちは街の中に入っていった。

そういえば、門番が土着神……って言ってたな。もしかしたら、お仲間に会えるかもしれないわね……楽しみ。

 

結花「なぁやみぃ」

「何かしら?」

結花「土着神って言ってたが……アタシは大丈夫なのか?アタシは鬼子母神という妖怪。いくら霊力でカモフラージュしたかって、神が出てきたら侮れないぞ?」

「あぁ、そんなこと?大丈夫よ、いざとなったら私が出るから」

 

土着神に会いに行く為、私はその土着神の神力を探り始めた。

「あ、あった……ここね」

どうやら、この地に定着している土着神は、それなりの力を持っているようね……それも、もしかすると結花と対等に渡り合える位の。

「ふふ、結花……今度の会う相手は、かなりの実力よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから数十分……土着神のいるという、神社にやってきた。

その間にも、団子屋へ寄ったり、団子屋へ寄ったり、団子屋へ寄ったりしていた。…………あれ?もしかして、余計なことしなかったらもっと早く着いてた?まぁ、そんなことは置いといて。

 

「ここ、が……」

結花「でかいなぁ……」

 

ついた神社は、とてもデカかった。と、言うのも他の神社とは比べ物にならないくらいに。

って言うか、ここ諏訪大社だったわ。神社入る時に鳥居に書いてあったし、この位大きな神社って、なかなか無いからね。

結花「なかなか……な神格を感じさせる風情だな」

「えぇ、そうね……そして、それに比例してここに祭られている神様も……ね?」

私は、そう言うと同時に、あの金髪幼女を思い浮かべる。やはり、あいつは幼女だ。

 

 

 

 

 

 

………………とりあえず、今私たちに向けられている殺気をなんとかしますか。



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第8話 諏訪大戦の幕開け

……後ろから感じる殺気、神力。それは常人には耐え難く、発せられた者は恐怖に陥るだけじゃ済まないだろう。

 

そう、常人ならね。

 

「ねぇ、そこの貴方?そんな怖いもの出さずに、仲良くお話を ̄ ̄」

そう言いかけた時、私と結花は横に飛んだ。何故なら、後ろから神力弾が放たれたからだ。

 

結花「なぁ、やみぃ……こりゃあ話し合いじゃ済まなそうだぞ」

「大丈夫よ、結花……私に任せて」

私は、そう言うと金髪幼女……基洩矢諏訪子の元へと近づく。

 

諏訪子「……ッ貴様、我の神力を受けても動じぬとは!」

「あのね……私たちは妖怪じゃな「黙れ、妖怪風情が!」あぁそう、聞く気は無いのね……」

話を聞いてほしいのだけれどねぇ……と言いながら私は、服に貼られてあった御札を、一つ一つ、べりべりと剥がしていく。

みるみるうちに、目の前の諏訪子の顔が真っ青に染まっていくが、最後の一つで止める。

 

諏訪子「化、物……」

「これで分かったでしょう?……今度からは、ちゃんと人の話を聞きなさいね」

諏訪子「……分かった、あと……ごめんね。話、聞かなくて」

諏訪子は、さっきまで気取っていた神の基質を取り払い、素の諏訪子に戻る。多分、これが素なんだと思う……?

 

 

諏訪子「あっ、私は洩矢諏訪子。あんたは?」

 

……どうしよう、こうなっちゃった時の対処方法考えてなかったわ……っていうか、どの道名乗ることになるんだし、まぁいいか。

「そうね、私は夜刀神 闇……龍神よ。親しみを込めて、砕けた話し方で良いわよ」

諏訪子「なっ……龍神!?あっでも、あんな神力出してたんだし、妥当なのかな……んで、そっちは?」

 

諏訪子が、結花の方を向いた瞬間、少しだけ険しい顔をしてたけど……辞めたげて。

結花「……鬼神 結花、鬼子母神」

諏訪子「鬼子母神!?また、こっちも凄いな……」

諏訪子が、うんうんと何やら納得した様子で一人で頷いている。

 

ていうか、本当に諏訪子は幼女だ。

私の身長も、低い方だとは思うが……諏訪子も大概だ。

諏訪子「あっ!そうだ、あんたたち私の家に来なよ!持て成すからさ!」

「あら、悪いわね」

結花「ありがたいね」

 

 

少女移動中……

 

 

諏訪子「それで……あんた達、何しに此処にきたの?」

「えっとね、街を見つけて……それから、門番にこの街には土着神がいるって感じよ」

 

諏訪子は、ふーんと言い、お茶を飲む。

それにしても、この街の成長速度は早いと思う。……あ、でも普通なのかな?今の時代が何時代か知らないけど、楽しめれば何でも良いよね。

 

「あ、それと……私たち旅をしてるのよ。それで、何処か良い宿とか知らない?」

諏訪子「あ、じゃあ私の神社に泊まりなよ!その方が色々と便利になるし、神社が賑やかになって楽しくなるし!」

「あらそう、じゃあ暫くの間いさせて貰うわね。結花もそれで良いかしら?」

結花「あぁ、別に構わないよ」

 

ということで、私たち一行は諏訪大社に寝泊まりすることになりました。

次の日、諏訪大社の巫女さんとも挨拶をした。私たちが来た時は街へ買出しに行ってたとかなんとか……因みに、名前は東風谷 花慧(こちや かえ)というらしい。

どうやら、やはり名前の通り東風谷の家系だそうで、早苗の御先祖でもあるらしいのだ。

 

 

 

 

 ̄ ̄次の朝

 

「ん、んぅ〜……」

私は、目が覚めた時に、息苦しいことに気付いた。何か……顔に柔らかいものが乗ってる感じ?押し付けられてる感じ?……何かしら?

 

「……」

 

恐る恐るそれを押し退けると、見慣れた顔があった。

……それは結花である。

当の本人は優雅にスヤスヤと寝ているし、自分の胸を私の顔に押し付けて寝るしで……

 

「あんた何やってんのよ、早く私の上から退きなさいっ!」グイ

私は、結花の腕を掴み、引っ張って横に寝かせた。

 

 

結花「んぁ、や〜み〜ぃ〜、もう少し優しくぅ……んんっ!」

 

「……」

 

私は、何やら自らの貞操に危機を感じ、その場を後にした。

その後起きてきた結花に、そのことについて問いただしたのはお約束。

 

 

 

 

その日は特になにも無かった。だが、次の日の巳の刻頃……

 

私は、ただ単に寝そべって煎餅を齧っていただけ。それなのに、急に私の頭の横に矢が、 バスッ!!! っていう音と共に刺さったんだから。流石の私でも、これはビビるわ〜。しかもこれ、神力混じってて普通のやつと違うからね。当たったら痛いよ、それも尋常じゃないくらいに。人間なら、もしかしたら頭が吹き飛んでたかもね!w←(笑い事じゃねぇ!!)

 

結花「なんだ、今の音は?」

「えっとねー、なんか手紙付いた矢が飛んできたよー。宛名は、諏訪子だってさ。おーい諏訪子ー!」

 

私は、矢に付いていた手紙をヒラヒラとする。

諏訪子「なになに?私宛の手紙?どれどれ……」

 

手紙を読み始めた諏訪子。だが、読み始めた諏訪子の顔が、どんどん青ざめていく。

オマケに、手紙を持つ手が震えているのだ。

「どうしたのよ、諏訪子?誰からの手紙だったの?」

 

諏訪子「…………大和」

「ん?」

諏訪子「手紙……大和からだった」

「……!!」

 

私は、この大和(やまと)という言葉に聞き覚えがあった。

「大和……ね、成程。それで、大和からなんて?」

 

諏訪子が、手紙を私に渡してくる。

「なになに……

 

『洩矢神 突然で申し訳ないが、貴様の地を奪わせて貰いに来た。こう書いているとおりだ、奪いに来た。貴様に与えられた権利はただ一つ、降伏か戦争。貴様の地の様子は、我々がよく知っている。だから、何処にいようと隠れようと無駄だ。貴様の国の者を護りたいのであれば、我々としては降伏を勧める。戦争についてだが、出来るのなら他と手を組むのもありだ。 大和』」

 

「……フッ」

私は、思わず笑みを零していた。

結花「ど、どうしたんだ?急に笑い出して……」

「いやね、普通だったら怒り狂ってたんだけど、どうしても笑いを押さえられない部分があって……」

結花「笑いを……押さえられない部分?」

「最後の文を見てみなさい」

 

結花は、手紙を読み出すとしばらくしてから、爆笑し始めた。

結花「あっはっはっは!!!成程、そういうことかい!」

「ね、傑作でしょう?『他と手を組むのもあり』これがどんなに自分に不利益なことか、神だったら普通分かるでしょうに……大和も馬鹿ねぇ」

 

諏訪子「……私は、どうすればいいのかな」

「大丈夫よ諏訪子、私たちがなんとかしてあげるから……貴方は、国の民を護りたいのでしょう?私が何とか、龍神を舐めんじゃないわよって平等に交渉してきてあげるから!」

 

私は、親指を立ててニッコリと笑ってみせた。

諏訪子「……うん、ありがとう!」

 

 

 

 

 

そっからは早かった。

私は、結花に諏訪子と花慧を守っていてほしい。とだけ伝え、諏訪大社を後にした。

 

ちなみに、いつでも龍神の姿でいる訳でもいかないので、種族変更してる。あっ、ちなみに妖獣の設定だよ。

 

そうこうしているうちに、私はいつの間にか大和の方に着いているわけで。

「デカいわね……流石、大和の神たちが住んでいるわけなだけあるわ」

 

「だけど、諏訪子の国を無理矢理奪い取ろうとしたことについては……否めないわね」

私は、愛用の日傘を持つ手に自然に力が入る。

やはり、許せない。人の国を無理矢理奪い取ろうとしたことが。

神になっても、悪にだけは人一倍敏感であった。

 

 

門番「貴様!何者だ!」

「洩矢の使いよ、交渉についてここへ来たわ。ここを通してくれるかしら?」

 

私は、諏訪子宛の手紙を門番に見せる。

門番「洩矢の使いか……まぁいい、通れ。妖怪を使いにするなど、洩矢神ももう終わったな!」

 

……門番よ、余計な一言を聞き逃しておいてやったことを感謝しなさいね?私が急いでいなければ、今すぐに貴様の首が飛んでいたというのだから……

 

 

?「誰ですか、そこの者!」

とある男が、私に剣先を向けてきた。……何やら、感じる神力が他の神より一際高い。

 

「……素戔嗚命(スサノオノミコト)ね」

スサノオ「誰ですか、貴方は!何故私の名前を知っているのです!」

 

私のことを覚えていないのかしら?と言いながら、札を一枚剥がす。

スサノオ「なっ!その御姿……その神力は姉上の!」

 

スサノオは驚き、でも冷静に剣をなおし、私の前に跪いた。……流石、上級神族。流石、私の弟。たまには、神様っぽい話し方をしてみようかしら?

 

「如何にも。我は夜刀神 闇ぞ」

 

……うん、自分でも思ったけど気持ち悪いわね。やっぱりいつも通りの私の方が良いのかな?まぁ、スサノオたち神にとっては今みたいな話し方の方が威厳等を放てて良いと言うが……私には関係ないね。威厳やらカリスマやら面倒臭いだけね。強けりゃ良いんだよ、私としてね。

 

スサノオ「……姉上、お願い申し上げとうことがございます!」

「何かしら?」

スサノオ「アマテラスの姉上を説得しては貰えないでしょうか!……姉上が氷河の地で行方不明になったと聞いてから、姉上の御命令を破っておりまして……」

スサノオは、さっと頭を下げて私に申告した。

 

……なんだ、そんなことか。というより、アマテラスが私の言いつけを破っているですって?

「アマテラスが、私の言いつけを破っている……とは具体的にどういう?」

スサノオ「はっ、具体的に申し上げますと……」

 

スサノオは、ゆっくりと、しかし具体的にはきはきと詳しく話してくれた。

スサノオが言うには、アマテラスが私の言いつけを破って……というのも、『神だからって人間に偉そうにするな』とか。

そういうのを、破っているそうだ。

 

……流石の私も、それを破っているとなると怒る。

偉そうにするなって、幾度も聞かせたはずなのに……どうして破る気になったのかな?そういうの、ダメだと思うんだけどなぁ……

 

 

「スサノオ、とりあえず……案内しなさい?」

スサノオ「分かりました……着いてきてください」

……何処へとは言わない。スサノオも、私もそれは分かっているからだ。

 

 

 

 

〜移動中〜

 

スサノオ「姉上、此方です」

 

スサノオは、着いた部屋のドアを開け、私をエスコートしてくる。

 

 

「……此処が」

 

私が入った部屋は、かなり大きな部屋だった。

他の神々もおり、広い。奥には、この部屋の中でも強い存在感を放っている女性3人組が並んで座っていた。

と、思っていると、3人のうちの1人が声を上げた。

 

 

?「……何ですか、こんな場所に?」

 

 

 ̄ ̄天照大御神だった。



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第9話 交渉と言う名の……何だっけ?

今回は短いです、スミマセンㅇㅁㅇ;;


そうだ……思い出した、太陽神でしかも日本の最高神と謳われる神。天照大御神(アマテラスオオミカミ)だ。

 

アマテラス「何なんですか、妖怪?貴方の本性は見えているのですよ。霊力なんぞにカモフラージュしても、意味などありませんよ?」

 

「……」

 

……私は、このアマテラスの雰囲気に見覚えが無かった。

アマテラスはもっとこう、なんて言うんだろうな……そう、よく表現出来ないが凄く真面目だったはずだ。

 

アマテラス「妖怪、話を聞いているのですかッ!!」

「……!」

 

おっといけない、どうやら考え事をしていたようだ。

「……何だと思う?」

アマテラス「はい?」

 

私は、あえて上から目線で話す。アマテラスがどんな反応をするのか、試してやるのだ。

 

アマテラス「……妖怪、もう少し態度を改めなさい?神の前で、しかも貴方みたいな妖怪ごときが、そのような態度をするなど普通だったら許されないのですよ?」

「……」

 

私は、無言で服に貼ってある御札に手を掛ける。

 

「アマテラス、貴方ってそんなんだったかしら?」

アマテラス「……何ですって?」

 

私は、御札を一枚一枚、ゆっくりと剥がし始める。

 

アマテラス「こっ……このち、力、は……!!!」

アマテラスは、私から発生した神力の渦に顔を青くして後ずさる。

 

アマテラス「ま……さか、お姉……様?」

「だったら……どうするのかしら?」

 

アマテラスは、葉を食いしばり、血が滲むほど拳を強く握り、何かを吹っ切れたかのように私に叫んだ。

 

アマテラス「何で……だったら何でッ、小さな、それも小国でしかない国に見方をするんですか!?それも、放っておけばいいほどでしかない国に!」

スサノオ「辞めなさい、アマテラスッ!!!」

 

……私は、心の奥底でつのる怒りを抑えきれずにいた。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ド 阿 呆 !!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わずそう叫んでしまった。怒りのせいで。

アマテラスが一瞬ビクッとなったが、構わず言葉を紡いでいく。

 

「お前たちだけでこの世界は成り立ってないのよ!お前たちは自分のことしか考えていないわ。私がそんなことをしろ、だなんて教えた覚えなんて全くといって無いわ!!!」

 

その場に、静けさが戻る。

 

 

アマテラス「っ!し、しかし……「黙れ」……」

 

私は、その一言でその場に緊迫感を与える。アマテラスが言葉を語る隙も与えない。

 

「アマテラス、分かる?私は怒っているわ。非常にガッカリしたのよ、貴方のやったことにね」

 

「貴方が、私の言いつけを破ったことに関しては何も言わないわ。だけどね、私は……」

 

 

「貴方が自分より劣る者に対して、傲慢に振舞っていたから怒っているの。それだけ分かっていて欲しかったわ、それじゃ」

 

私は、アマテラスたちに背を向けてその場から去った。その間、スサノオやらが声をかけてきたが、適当にあしらった。スサノオたちには悪いと思ったが、如何せん頭を冷やさねばならない。今のままでは、冷静に対処が出来ないかもしれない……

 

 

 

約数十分後……

 

「……はぁ、やっと落ち着いたわぁ」

私は、空をゆらゆらとゆっくり飛んでいた。

 

まぁ、流石にさっきのアマテラスの変わりようには驚いた驚いた。

まさか、アマテラスがあんな態度をとるとは思わなかった。

あの娘たちも、根は真面目なんだけどね……まぁ、他人を見下してたからなぁ。

 

 

「おっ、もうすぐ着くわね」

私は、諏訪大社に帰っていた。

 

 

境内に降り、日傘を仕舞おうとしたその時……

「……はぁ、今日はヤケに勝負事を吹っかけられるわね」

 

 

私は、攻撃を放ってきた人物の方を向き、日傘を向ける。

 

「貴方……本っ当に勝負事が好きなのね、結花?」

結花「ふ、ふふ。そうだ、アタシも鬼なんだから。……だが、あそこを見破られるとは思ってもみなかったよ」

 

……結花だ、あの結花。鬼神 結花。

妖怪で、私と同じくらい身長が低く、かなり整った顔をしてる癖してすっごくやんちゃな困った少女だ。……ギャップ萌えとか、どこの時代なんだよ。

 

 

「ハァ、分かるわよ。幾ら妖力やら霊力やら何やらを極限まで消したって、無駄。龍神にかかればお手の物よ?……まぁ、今回は頑張ってた方かしらね。精進なさい」

結花「本当かい?……ヤッター!」

 

結花は、褒めるとこうなる。褒めすぎると、調子に乗る。……調子のいいヤツめ。

 

 

「ま、それよりも。諏訪子は?」

結花「あぁ、諏訪子?諏訪子なら、あそこに……」

 

結花は、縁側の方を指さす。

そこには、人形のようにちょこんと座り、お茶を飲みながら私たちの方を眺めていた。

 

 

結花「まぁ、とりあえず中に入ってお茶でも飲みながら話そうじゃないか」

「そうね」

 

 

 



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第10話 諏訪大戦で闇様が威厳丸出しのようです

結花「……で?アンタが、大和を荒らしたって話しかい?」

「何でそうなるのよ!違うわよ、れっきとした交渉よこ・う・し・ょ・う!諏訪子と同等位の神と勝負させろっての!」

 

 

実はあの後、大和に手紙?を送っていた。

諏訪子自体が戦うのは避けられないことは分かっている。だが、もう少し苦じゃない方法もあるんじゃないか?と思い、一騎打ち?的な方法を考えついた。

 

……まぁ、結果的に言うと、諏訪子自体は戦うけど他の沢山の神は私たちが相手するって感じかな。

大和の神が他の奴らからすれば強いってのは分かってるんだけど、正直に言うと私からすれば敵じゃないんだよね。大和のやつらが一斉にかかってきたとしても、私なら一撃で倒せる自信がある。

 

結花も戦いに参加するみたい。……結花が参加しちゃったら、なんかとんでもないことになりそうだけど。(大惨事)

 

 

 

「……という訳なのよ」

諏訪子「私と同等位の……神?……大丈夫かなぁ」

結花「んで、アタシは他の神を相手すればいいってことだね?」

「そうよ。まぁ、私が戦いに参加してもよかったんだけd「入れ!」……はぁ、分かったわ」

 

 

結果、私も諏訪大戦に参加することになっちゃった。主に結花のせいで。

 

まぁ、戦いに参加出来るのは嬉しいんだけどね。楽しいから。

でも結局、隕石一つ降らせば一瞬で終わるからな……まぁ、つまんないからそれはしないんだけどね☆

 

私は主に日傘を使う。そこから某四季のフラワーマスターさんみたいに元祖マスパ……みたいなものを撃ったりする。

私は、前世でポケモンをやっていたりする。ので、ポケモンの技であるりゅうのはどうとかを使ったりするのが好きだ。龍だけに。(笑)

 

 

まぁ、ポケモンをやっていたりするのは本当だ。ポケモンはオメガルビー、アルファサファイアまでやった。サンムーンから突然、やらなくなったのだ。何故かって?……3DSごと田んぼにドボンしたんだよ!!!( 涙目 )

 

やってた頃は、かなりのドラゴンタイプ愛好家だった。手持ちは全てドラゴンだしもちろんのこと、全て100Lv.だ。特に、ガブリアスというポケモンが一番好きだった。その次に、オンバーン。まぁ、ドラゴンタイプならなんでも良いんだけどね!とりあえずドラゴンタイプになりたかったんだ。だって、カッコイイじゃん?リザードンとかも、メガシンカしたら+ドラゴンタイプがあるんだから。私、パワー系が結構好きだったんだよね。だから、ガブリアスとかオノノクスとか、でかいヤツが好きだったんだよね。

 

 

 

…………まぁ、語り始めたら長くなりそうだからやめておこう。

 

とりあえず、諏訪子に修行をさせることにした。今のままでは、確実に負ける。そんな気がするからだ。

 

 

「戦闘では、相手の足元をよく見なさい。あと、相手の隙も見逃さないように。勿論だけど、自分の隙を突かれてもダメよ。あとは……」

 

とりあえず、戦闘の基本を教えてやった。

対人の修行は、私では力が強すぎるので辞めた。代わりに、結花に頼んでおいた。

 

 

 

……やばい。結花教えるの上手すぎぃ!!?もしかしたら、私より上手いんじゃないの!?と思えるくらいだ。

 

まぁ、諏訪子自体の戦闘能力についてはかなり上がったと思う。

結花と身体能力を比べても、対等に渡り合えるくらいにはなった。……結花の元々が高すぎるので、諏訪子は修行しなかったとしても普通の神くらいはあるはず……?

 

 

 

 

 

その日の夜……

 

「ふぅ……」

私は、夕飯を食べた後、縁側で猪口を傾けながらくつろいでいた。

 

「……諏訪大戦、ねぇ」

どっちが勝つのだろうか?……まぁ、原作設定では諏訪子の方が負けることになってるけど。だけど、諏訪子には頑張って欲しいものだ。

 

 

「……いることは分かってるのよ」

結花「てへへ、やっぱりバレたか」

「呑みたいのならここに持ってきて普通に呑めばいいじゃない」

 

……ったく、いっつもこの妖怪には呆れさせられるものだ。

 

 

「……で、なんで隠れる必要があったのよ」

結花「いや、そのな……」

 

結花は、口篭る。

何をそんなに、吃る必要があるのだろうか?何か、言い難いことなのか?

 

結花「実は……」

 

 

 

 

結花は、静かに口を開いた。

どうやら、諏訪大戦が終わったあとに旅をやめようと思うらしい。

その理由を聞くと、何か妖怪の山なるものがあって、そこに強い妖怪が沢山いるのだとか。

そこへ行って、山の頂点になりたいんだとか。

 

……まぁ、結花がそれを望むならばそれでいいんだけど。

私は、一応了承した。……だけど、少しの心寂しさもあった。

当たり前だ、1億年以上接してきた友人だ。結花やその他妖怪にとっての友人は、私が人間だった頃の友人の認識と違うのだろうけど。

 

妖怪としての友人の認識は、戦闘とか、殺し合いとかを気軽に……と言ったら何だけど、そういう関係なのだ。結花がどう感じているのかは分からないが。

 

 

「……まぁ、貴方が私と離れて暮らすことに関しては、何も言わないわ。好きにしたらいいと思うわよ?」

結花「あぁ……そうだな」

 

少し寂しそうだ。

やはり、妖怪である結花にとっても"私"という存在は重要だったのかしら?

 

まぁ、人間だった頃の私の感覚が少なからずまだ残っている為、今の私でも"結花"という存在はかけがえの無いものだ。

 

 

妖怪にとって、友情は人間の考えているものと違う。

それこそ、今言ったようなものだ。妖怪は、別れという感情に疎い。

だからこそ、今あるこの時間を大切にしなければいけない。

 

私は、そう思いながら生きていくのだ。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

諏訪大戦当日

 

 

「諏訪子、出かける準備は良いわね?」

諏訪子「うん……大丈夫」

 

 

私は、諏訪子を連れて待ち合わせ場所の諏訪湖へと向かう。

あれから、かなり修行した。諏訪子は、他の神に比べて身体が小さい。私が言えることではないと思うが……力も然り。

 

今までやってきた修行の成果が、ここで発揮出来る場面なのだ。

 

 

 

 

 

「 ̄ ̄そろそろ着くわよ」

 

見ると、誰もいなかった。大和の方も、まだ着いていないようだ。

 

結花「あっ!大和の奴らが来たぞ!」

結花が指をさした方向に、ぞろぞろとやって来る神の軍勢がいた。

 

諏訪子「うぅっ……どうしよう、勝てるかな……」

「何言ってんのよ、これからでしょ!しっかりしなさい!」

私は、弱気になっている諏訪子の気持ちを奮いたたせる。すると、諏訪子も気を持ち直せたようで、真っ直ぐな目をしていた。

 

 

?「……貴女が、夜刀神 闇様か?」

 

声のする方向を向くと、でかい注連縄を背負った紫髪の神がいた。……ダジャレじゃないよ。多分、神奈子だ。

 

「えぇ、そうよ。私に何か用かしら?」

?「そうか、私は八坂刀売神。又は八坂 神奈子とも言う。……それで、本題に入るが」

「?」

 

 

 

神奈子「……本当に、申し訳ありませんでした!!!」

 

「???」

 

 

神奈子は、私に深くお辞儀をした。

……私は、正直に言わせてもらうと、訳が分からなかった。何故謝られるのか?本当に。分からない。

 

「どうして謝るの?」

 

神奈子「実は……」

 

 

 

 

 

神奈子は、一切を話した。

私の頭の真横に飛んで来た腹立たしい内容が書かれてあった矢文は、神奈子やアマテラスの重鎮共が書いたこと。

あとは、龍神こと私に、大和の神が無礼を働いたこと……まぁ、それに関しては何も言わないけど。別に口調なんて、気にしないし。

 

実際は、神奈子よりアマテラスの方が地位的に言うと上らしい。何でも、アマテラスやツクヨミ、そしてスサノオの父親である伊邪那岐命(イザナギ)からアマテラスに向けて命令があり、「この地の最高神になれ」という内容だったらしい。まぁ、ここまでは日本神話どおりね。

 

 

「それで、貴女と諏訪子が戦うのね?」

神奈子「はい、そうです」

「そう……」

 

私は、諏訪子の方を向く。

「……」

私は、諏訪子を肘でちょいちょいとやって「行ってこい」と言った。

 

諏訪子「頑張ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

諏訪子と神奈子が対峙してる最中、私はスキマに腰掛けて見守っていた。

そうすると、近くに気配を感じた。気になり、振り向いてみると……

 

 

アマテラス「……」

 

アマテラスがいた。何を話しかけるわけでもなく。何やら、気まずそうに私の方を向いている。

 

「何かしら?」

アマテラス「あっ、あの……この前はごめんなさい!」

「別に良いわよ、同じことを繰り返さなければそれでいいの」

 

私は、アマテラスをフォローする。

まぁ、確かにあの件についてはアマテラスが悪かったのだが、ちゃんと反省してるみたいだし。

 

アマテラス「あの、姉様……」

「何かしら?」

アマテラス「私と戦って下さい!」

 

 

私は、目を細めてアマテラスを見つめる。

……真っ直ぐな目だ。いい目をしている。あれから、本当に変わったか試してやるのも面白そうね。

 

「良いわよ」

アマテラス「本当ですか!?やっt「ただし!」……?」

 

私は、一息置いて話す。

「ただ戦うだけってのも、なんだか詰まらないじゃない?だから、少しお互いに勝った時の要望を考えておきましょう」

 

アマテラスは、少し考えた後、笑顔で言った。

アマテラス「そうですね!分かりました。私はもう決まっています。……では」

 

お互いに、距離を取る。そして……

 

 

 

「「いざ尋常に、勝負(です)!!!」



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第11話 諏訪大戦 part1

BGM -幻想のサテライト-

 

 

アマテラス「はぁッ!!!」

 

先行を切ったのは、アマテラスだった。

自身の背後から、夥しい量の弾幕を私に放ってくる。

 

「まだまだ甘いわよ……それ!」

私は、弾幕の隙間を縫って躱す。

 

アマテラス「やはり避けられますか……でも、そんなこと考えの内ですわ!」

アマテラスは、弾幕を放つのを辞め、私の方へと高速で向かってくる。

常人なら、アマテラスの飛行速度に目が追いつかなかっただろう。

幾ら私でも、一度でも気を緩めてしまうと一気に追い込まれてしまうだろう。

 

「っち、何処へ……」

後ろを振り向くが、いない。マジで、どこへ行ったんだ……?

「いや、まさかな……」

 

何か嫌な予感がし、前を向くと……

「……ッ!?」

 

……目の前にアマテラスの手が見え、強制的に、上を向かされる。強烈な痛みが、腹部にくる。

それに比例し、私の体は後方へ吹き飛ぶ。

 

「ぐっ……!」

咄嗟に地面から浮いたお陰で、地面に叩きつけられるという事態は避けられた。

 

「中々、やるわね……」

流石は日本の最高神なだけある。私に痛みを与えるなんて……まぁ、普通は顎を強打された時点で頭が吹き飛んでるだろうけど。

 

アマテラス「中々やりますね……流石は、お姉様。神琉様に仕える方といったところでしょうか」

「そうね……私としては、主様と関わっている時点で凄いと思うわ」

 

主様は、神出鬼没で中々会えない。スキマでバレないように会いに行きたくても、必ずバレる。すぐバレる。

 

 

「いくわよ」

私は、沢山の弾幕を撒き散らしながら、飛び回る。

 

アマテラス「……っぐ!」

アマテラスは、私の弾幕を避けながら此方にも攻撃を仕掛けてくる。

私から見たとしてもかなりの質と量で、美しさとしても欠いていない。これは、結構負けた?と思うかもしれない。……一般人ならね。

 

 

 

カァンッ!!!と音が鳴り響く。

私の日傘とアマテラスの薙刀がぶつかりあった音だ。

両者の力は同等。私がリミッターを掛けていなければ、アマテラスは押し任されているだろう。……まぁ、私は龍神補正で少しばかり力が強いだけである。本当ならアマテラスと私の力は互角だっただろう。流石は太陽神、毎日鍛えているのだろう。

 

私は、一気に日傘に力を込め、振り抜く。

ある程度アマテラスとの距離を取り、先端をアマテラスに向ける。

 

「これで決めるわ……元祖「マスタースパーk……「させませんッ!!!」……ッ!?」

何故か急に、私の日傘が宙を舞う。

 

アマテラス「まだ……いや、お姉様からは決めさせません!私が決着を着けるのです!!!」

アマテラスが薙刀を仕舞い、此方へ豪速で向かってくる。

 

「やってやろうじゃないの……」

私も日傘を仕舞い、自然体になる。

 

目を開けると、すぐ目の前にアマテラスの手が見えた。

私の右の頬に、トラックが突撃してきたような痛みが走る。

これを受けたのが、普通の妖怪や人間であれば、そのまま首が飛んでいただろう。

アマテラスが放った一撃は、大妖怪以上の力を発していただろう。

 

 

だが、その一撃が"夜刀神 闇"に効くかと言うと、それは否だ。

 

「痛いわねぇ……」

私は、頬を擦りながらいう。……実のところ、泣きたい位痛い。

だが、これを耐えられれば、"私の勝ち"だ。

 

 

アマテラス「では、これはどうですか?『太陽神 -天晴の舞姫』!」

アマテラスがそう宣言した途端、アマテラスの周りを雲が覆う。

 

すると、アマテラスから黄金の光が発せられたかと思うと、風と共に雲が消え去った。

 

「これは……」

 

 

 

その中から出てきたのは……"金の光を発し、美しい羽衣を身に纏ったアマテラス"だった。

 

 

アマテラス「どうですか?この姿の私に、勝った者はいませんよ!」

 

さっきよりも、格段に上がった弾幕の量とスピードで私に突っ込んでくる。

 

「美しすぎる……いや、魅了されそうだけどギリ大丈夫ね」

万人を魅了させるような、とても美しい……美しすぎる弾幕。だが、そんなものに騙される私ではない。

 

「さぁ、私もそろそろ追い込みましょうかね……『りゅうのはどう』」

前世で好きだったポケモンの技、りゅうのはどう。

この技は、結構威力が高く、命中率も然り。

 

手を前に突き出し、神力を凝縮させ撃つ。

アマテラス「それは龍の波動……とても強力故、憧れる者も多い……ですが」

 

アマテラス「当たらなければいい話なのです!」

 

まぁ、そりゃそうだよな。

どんなに強力な技であっても、最終的には当たらなければ意味は無いのだ。

 

「……てや」

私は腕をひろげ、某ミサマリの如くミサイルを……星の代わりに龍の頭の形をした弾幕だが……を背面に展開する。

 

アマテラス「大して力を入れていない……!どうすれば……!?」

龍の頭が、アマテラスを噛み砕かんと襲いかかる。

 

「……もう終わりかしら?」

 

私は、一つの光り輝く札を掲げる。

「……『ドラゴンダイブ』」

 

見る見るうちに私の周りに龍の頭が集まり、本当の龍になっていく。

「さぁ……これで終わりよ!」

疾速のドラゴンの如く、アマテラスに突っ込む。

 

これで私の勝ち……ね。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

結花side

 

「……弱い、弱すぎる」

 

 

私は、闇たちが戦っている中で雑魚神共の相手をしていた。

右ストレートでぶっ飛ばす。回し蹴りで抹殺する。

 

神「き、貴様ァ!たかが妖怪の癖に……」

「さっきまでの戦いで、力の差は分かっているだろ!まだ懲りないのかい!?」

 

弱い、つまらない。もっと強いやつと戦いたい。

闇から自分は戦闘狂だ。とか言われるが、別に戦闘狂で良いじゃないかと思う。戦いは面白いんだから。

 

「……はぁ、"殺さないように"って言われたけど。難しいんだよなぁ、殺さないようにって」

 

あいつらが弱すぎるから。加減が実に難しい。

勢い余って殺してしまうなんてことがあるから……

 

「ふぅ、此処もある程度殲滅した(やっつけた)から……そろそろ次へ行こうかなぁ」

?「其処の鬼さぁん、お待ちになって〜!」

「?」

 

とある一人の少女が、ヒラヒラとスカートを揺らしながら此方に走ってきた。

「……誰だ?」

?「これはこれは失礼しましたわ、私は天宇受売命(アメノウズメノミコト)。芸能の神をやってます♪」

 

と言うと、くるりと一回転し、礼をする。

えらく上機嫌な奴だな、とも思いながら、此方も自己紹介をする。

 

「アメノウズメか。アタシは鬼神 結花(オニガミ ユウカ)、鬼子母神をやってる……んで、アタシに何のようなんだ?」

アメノウズメ「そうですねぇ、まぁ……大和の神たちが一人の鬼に全てやられていってるとのことだったんで」

「……見に来てみた、ってところか?」

アメノウズメ「まぁ、そんなところですかね〜」

 

私は、一息つく。そして、拳を軽く握り締め……

 

「……アメノウズメ、一つ質問がある」

アメノウズメ「何ですか〜?」

「……アンタは、アタシを倒しに来たのか?」

 

アメノウズメは、ニコニコしながら答える。

アメノウズメ「ん?いいえ、別に私は貴女を倒しに来たわけじゃないですよ〜」

「じゃあ何故此処へ?」

アメノウズメ「さっきも言ったじゃ無いですかぁ、()()()()()()と」

 

アメノウズメは、扇子を口に当ててクスクスと笑う。

……アタシにとってその笑顔には、何か含まれているのではないかと思ってしまう。

こいつがアタシのことを陥れようとしているのではないか……と。

 

アメノウズメ「それに、さっきの話聞いてましたぁ?私、ただの芸能の神なんですよ?踊りとか歌とかしか出来ないんですよ?まぁ、お遊び程度の戦いなら出来ますが……流石に、鬼……鬼子母神である結花さんの前で嘘なんかつけませんよ〜」

 

確かに……と私は頷く。

嘘が嫌いである筈のアタシ達鬼の前で、堂々と嘘をつけるやつなんて、アタシが知っている限りでは闇くらいだろう。

 

「確かにな……アンタは、本当にこの場を見に来ただけなのか?」

アメノウズメ「そうですよ〜」

 

アタシは、目を細め、アメノウズメの眼をしっかり見据える。

 

「……そうか、とりあえずアンタは嘘をついていないと分かった」

アメノウズメ「ありがとうございまs「ただしな」……」

 

「アタシの仲間に手を出したりしたら、ただじゃ済まさんからな」

アメノウズメ「分かってますよ〜」

 

アメノウズメは、私がこうやって拳を握り締めて睨みつけている今も、ニコニコしながら私を見ている。……何か不穏な空気を感じるが……

 

「……んじゃあな」

アメノウズメ「さよなら〜」

 

私は、アメノウズメに背を向け、飛び立つ。

なかなか怪しいやつだったが……まぁいいか。

 

 

 

 

 

 

アメノウズメ「…………ふふ、なかなか面白いわね」



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第12話 諏訪大戦 part2

闇side

 

「やっ、た……?」

私が放った……というか突っ込んでいったドラゴンダイブは、上手く決まったと言っても過言では無かった。

アマテラスの方も、何か発動させようとしていたらしいが、私のドラゴンダイブはそれをする隙さえ与えない。うん、我ながら上手くいったわね。

 

「はぁ、疲れたけど……まぁ、良い戦いだったわ!」

腰に手を当て、誇らしげに言う。

 

アマテラス「……負けちゃいましたね。だけど、今度は私が勝ちますから」

「ふ、まぁ精々頑張ってちょーだい」

 

傍から見れば、負けるつもりは全く無いように見えるが、結構ぎりぎりだったりする。

良き戦いだったのは間違いないし、もう少し修行を積めば引き分け、もしくは負けていたかもしれない。

 

まぁでも、結花は自身の能力が強力以前に身体能力がバケモノ並み、私並みにあるからなぁ……私が二回目に負ける相手、結花になるかもねぇ。

 

「……はてさて、この物語はどうなることやら」

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

諏訪子side

 

「ぐっ……はぁ、はぁ」

神奈子「はっ!諏訪の神はそんなもんなのかい!?」

「……言うなぁッ!!!」

 

この戦いにおいて、向こうの八坂の神が優勢であることに我慢がならない。

これまで、闇や結花たちと修行してきたのに……負けるわけには!

 

「……『洩矢の鉄の輪』ッ!!!」

 

私は、とある強靭な鉄で作られた輪っかを八坂の神へぶん投げる……のだが、これには実は秘策がある。

神奈子「ふん、洩矢諏訪子よ!お前の攻撃はバレバレ、しかも当たらんという!これじゃあ勝てないぞ!」

 

そっちこそ、と私は薄ら笑いする。

実は、今放った鉄の輪は、ダミー。しかも、別に当たらなくったって良い。本命は……こっちだ!土よ来い!

 

神奈子「何を笑って……ッ!?」

八坂の神が気づいた時には、もう遅かった。

私は、ありったけの土を手の周りに纏わせ、八坂の神に突進し、殴る。

神奈子「がぁっ!……くっ、ただの土風情が!」

 

そう言って、八坂の神は御柱を此方に向かわせてくる。……だが、八坂の神は知らない。

 

 ̄ ̄洩矢の鉄の輪のスペックのことを。

 

「『土風情が!』か。まぁ、確かにそうだね。だけどまさか、私の攻撃はそれだけとは思って、油断してないよねぇ?」

 

何、と八坂の神はたじろぐ。

その間に、私は次の攻撃の準備をする……といっても、ブーメランの如く戻ってくる洩矢の鉄の輪を掴む準備だけだけれども。簡単だ。

 

 

神奈子「ん?何も起きないじゃ……」

 

刹那、八坂の神から大量に血が吹き出す。

……洩矢の鉄の輪が八坂の神の背中に突き刺さったのだ。

それに比例して、八坂の神は痛みに悶えて悲鳴をあげる。

 

「だから言ったろう!……油断するなと」

私は、戻ってきた鉄の輪を軽々と掴む。

 

神奈子「な、に……!」

八坂の神は、脇腹を押さえながら何とか立ち上がる。

「何とか耐えたみたいだね。……だけど、次はそうはいかないよ!」

 

私は両手に鉄の輪を持ち、八坂の神へと突っ込む。

神奈子「……くっ、小癪な!」

八坂の神は、サイドステップの容量で避ける。

 

神奈子「喰らえ……『エクスパンデッド・オンバシラ』!」

八坂の神がそう叫ぶと、その背後から巨大な御柱が何本も撃ち出される。

 

「ふぅん……中々やるねぇ。でも、今度はそうはいかないよっ!」

私は、どんどん撃ち出されていく御柱の間を縫って蛙の如く跳ぶ。

 

神奈子「くっ……ちょこまかと!」

 

八坂の神は、私が軽々と御柱の間をすり抜けていくので、苦戦しているようだ。

私は体が小さい故に、力が他の神より劣っている部分もある。

その身軽さと根性だけで、何とか今まで生き延びてきたのだ。

 

 

「これで終わりだ……」

私は、鉄の輪を手に掲げ、叫ぶ。

「『洩矢の鉄の輪』!!!」

 

鉄の輪が、八坂の神に飛んでいく。

鉄の輪と八坂の神との距離が目前まで迫った時、私は勝利を確信した。

 

 

 

 

 ̄ ̄藁によって、鉄の輪が錆びていくのを見るまでは。

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

「……」

 

私は、神奈子と諏訪子の戦いの一部始終を険しい顔で見ていた。

結花「どうしたんだ、やみぃ?」

「今は諏訪子が優勢だけど……何か、忘れてる気がするような……」

結花「?」

 

諏訪子が鉄の輪を展開し、神奈子がそれを受ける。

第三者の目から見たら、一見諏訪子が優勢に見えるだろう。

……だが、神奈子は持っていたはずだ。あの元々強力でしかも、神力で強化された鉄の輪に対抗しうるものを。

 

神奈子「……」

神奈子は、脇腹を抑えながらニヤリと笑う。

 

「ッ!これは……」

こちらに飛んできたものを掴むと、あることに気づいた。

結花「これは……藁、か?」

「……そうね。しかも、そのせいで一気に諏訪子が劣勢になってしまったわ」

 

私は、手に持っている藁を見つめる。

「はてさて、この戦いはどうなることやら……」

 

運命というものは誰にも予測できないわね、と呟く。

 

 

 

 

結花「なぁやみぃ」

「何?」

結花「アタシらも戦わないか?」

「アホかっ!」



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第13話 結花との決着

前の投稿から遅れてしまい申し訳ございません!
中間テストの二週間前に迫っており、勉強や提出物を終わらせるのに忙しくて……
あと、私も来年高校生なので、これからどんどん勉強などで投稿が遅れてしまうかもしれません。
その分、内容は質のあるものとしたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします!


〜その日の夜〜

 

 

全『かんぱーい!!!』

 

 

あの後私たちは、傷ついて動けない諏訪子を抱きかかえて諏訪大社に戻った。

因みに、神奈子に関してだが、結構洩矢の鉄の輪によるダメージが大きかったらしく、動けずにいたのでアマテラスに任せた。

 

「結花、貴方そんなに初っ端からグビグビ呑んで大丈夫なの?」

私は、赤く大きな盃を持ちながら一気に呑んでいる結花の顔を覗き込み、言う。

結花「ん?こんなの普通じゃないのか?」

「貴方が普通じゃないのよっ!」

 

私は、ため息をつく。

私のお酒の対応度はまぁまぁ。たまに、結花に無理やり呑まされる時があるが、その時は、お察しで……って、これフラグじゃ……

 

結花「アンタが呑まなすぎるんだよ〜!」

結花が、おもむろにテーブルに置いてあった瓶を持ったかと思うと、私の方へ近づいてきた。……嫌な予感。

 

結花「一緒に呑もうぜぇ〜??」

「う"ぇっ!?」

顎を掴まれるが、結花の力が強すぎて対抗できない。あっ、あっ、まさかこのまま流し込む気じゃないでしょうね!?

 

結花「呑め〜!」

私の口に、瓶の口が差し込まれる。

「んぐっ」

 

私から呻き声が聞こえたかと思うと、そこからは何も聞こえなくなったというのはまた違うお話。

 

 

チャンチャn「アホかぁぁああぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

私は、あの後散々結花に呑まされた挙句気絶させられてしまった。

まぁ、私だったからすぐに戻ったが……

 

「結花の能力、"全てを合わせる程度の能力"はとんでもないわね……どんなに自分が劣勢でも、相手と同じ立場に"合わせられる"んだから」

 

まぁ、結花は戦いにおいてあまりその能力を嫌って使わないらしいけどね、と呟く。

 

「……覗き見なんて趣味が悪いわね」

結花「やっぱりバレちまったか〜」

「……何回やるのよ、この展開」

 

私は、覗き見をしていた結花を睨む。

この前もこんなやり取りをしたような気がするが……とため息をつく。

 

「……それで?何の用?」

結花「はっ、とぼけるなよ。……今夜、何も言わずに旅立つ気だったんだろ?何もかもお見通しだっての」

「……」

結花「図星だな」

 

まぁ、結花の言っていることは完璧に的を射ている。

皆に心配を掛けぬように。出ていこうとすると、多分諏訪子たちに「もっといてよ〜」みたいな感じで絶対止められるからだ。

 

結花「まぁ、アンタが出てくって言うのならアタシは止めないさ。ただ……」

「?」

私は、首を傾げる。

 

結花「アタシといた時間、忘れないでくれよ……?」

「……当たり前よ」

しっかりと私の目を見据え、それでも涙目で頼む結花の目は、本気だった。

妖怪でもこんな頼み方をするんだなと思い、それでも誇り高き鬼の嘘が嫌いな性格を守り通そうとするその心に感嘆した。

 

 

「……やる?」

結花「勿論さ、アンタと当分会えないんだからな」

 

私は、結花と共にスキマに入り、お互いに距離をとる。

 

「貴女と殺り合う(たたかう)なんて、久しぶりね……腕が鈍ってないと良いけど」

結花「確かにな……だが、アンタに負けてばっかりなんだ、鬼子母神であるアタシは、いつまでも諦めねぇよ?」

 

結花のタフな性格に苦笑する。

「それじゃ、始めましょうか?」

結花「そうだな……」

 

スキマの中に、お互いの殺気が混じり合う。今から始めるのは、正真正銘の殺し合い(たたかい)だ。油断すると、一気に攻められる。

 

目を閉じ、神気を巡らせる。

目の前は真っ暗だが、存在感妖力等で結花が何をするかは分かる。

 

 

 

僅かな静寂が訪れ ̄ ̄

 

 

 

結花へと向かい、一直線に飛び出す。

「ふっ……!」

結花「……っ!」

 

私は、結花の顎へと鉄拳を入れる。

結花の体は宙に浮き、強制的に上を向かされる。

私は、そのまま結花の体に猛烈な勢いで蹴り等を叩き込む。

 

 

結花「ぐっ……なかなか手強いな、流石龍神……」

「ありがと、よく言われるわ。まぁ、流石に主様には敵わないわね〜」

結花「敵わなくて良いよ、これ以上アンタが強かったら今度はアタシがヤバくなる……まぁ、強いやつと戦えるには十分なんだけどさっ!」

 

結花が、紅い目をギラギラと輝かせながら、私の方に突っ込んできた。

「流石にこれを生身の体で受けるわけにはいかないわね……」

私は日傘をグッと持ち、持ち前の跳躍力を生かし、上へと飛 ̄ ̄べなかった。

 

 

結花「逃がすかよ!!!」

「なっ!」

 

どうやら、飛んだ際に結花に日傘の先を掴まれていたらしい。

結花「ッらぁ!!!」

 

そのまま、結花は日傘ごと私を地面に叩きつける。

「はっ……くっ、……」

龍神の耐久力がもってくれたお陰か、叩きつけられても、多少の衝撃はあったものの、強烈な痛みがくることはなかった。

 

結花「おっ、流石龍神。さっきのは結構な力で叩きつけたんだけどなぁ〜」

「余計なお世話よ、私じゃなかったら絶対に死んでたわ……えぇ、これは確実よ」

 

自分の中で、変に納得する。

でも、私の言ってることはあながち間違いではないはず……よね?

 

「そろそろ切り札を出そうかしら……」

私は、立ちあがり手に札を持つ。

「 ̄ ̄『マジカルリーフ』」

 

私が両手を広げ、普段使う妖力ではなく、"魔力"を流す。

そうすると、自然と私の周りから葉っぱが形作られ、葉っぱ1枚1枚が意思を持ったように、飛んでいく。ちなみに、この技、ポケットモンスターをしていた人なら分かるのではないか?この技の本当に厄介なところを。

 

 

結花「何だ?ただの葉っぱじゃないか!」

結花は、ヒラリと私の放ったマジカルリーフを余裕の表情で避ける。……だが、マジカルリーフの本当の攻撃はここからだ。

 

結花「次は私……ッ!?」

結花は、突然自分の頬を掠めていったマジカルリーフに驚く。

 

「まだまだこれからよ?この技はね……?」

私は、ニヤリと笑い言う。

 

 

 

 ̄ ̄どんなに逃げても、地の果てまで追いかけるのよ?

 

 

 

結花「……あ"ッ!!」

結花は、勢いを増したマジカルリーフに為す術もなく襲われ、苦しそうな呻き声を上げる。

 

結花「この葉っぱ……ッ、ただの葉っぱじゃないな……ッ!」

「その通りよ。魔力を込めなければあまり威力は無いけれど、魔力を込めれば、それなりの威力(もの)になるのよ」

 

結花は、所々マジカルリーフによって切り裂かれた傷を抑えながらなんとか立つ。

結花「流石だな……龍神は侮れねぇや」

「そうね」

 

 

 

結花「っらぁ!!!」

結花は、私の腕を掴み、あらぬ方向に曲げた。

 

「ッ!?……あっぁ……あ"ぁぁぁぁああぁぁ!!!!!??」

私の関節に、思いもよらない激痛が走る。

もし骨が折られたとしても、私の種族が種族なので、いつもならば痛みは余り感じない。すぐ治ると思っていた。……そう、いつもならね。

 

「治らない……ッ、なおらない……ッ!!!」

私は、折られた腕を抑え、必死になって神力を込める。

 

結花「すまないな、やみぃ。一回くらい、一回くらいでいいからさ。アンタに痛みを与えたかったんだよね。……あっ、自然治癒しないようにしてあるからな」

 

何が「すまないな、やみぃ」だ!こっちは激痛を味わってるっつの!!!

……まぁ、今は殺し合い(たたかい)。相手が何をしようが、こっちは何も言えないのだ。

 

「やったわね……」

向こうがやってくるならこっちも!と考え、完治していないしていない腕を持ち上げ、向こうへ全速力で飛び出した。

 

結花「ッ!」

結花は目を見開き、驚いた顔をする。

 

「『我、龍神へと成せ -龍化- 」

 

私の腕が銀色に光り輝き、龍の鱗が浮かび上がってくる。

結花「それは……」

この技は、自身を龍化させる技であり、部分的に龍化させることも可能である。

 

「……食らえ」

私は、龍化させた手……龍腕を、結花に向ける。

 

「『許されざる者』」

 

途端、私の龍腕の先が太陽の如く光り輝く。

それと同時に、太陽の象徴である熱、全てを焼き尽くすが発せられる。この技、元ネタはわかる人にはわかるだろうな。

 

結花「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああ!!!??」

 

……っとまぁ、本物の太陽と同じ質量のものを出しちゃったら、とんでもないことになるしね。結花死んじゃう。

 

結花「あづいぃぃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!???」

 

まぁ、熱いものは熱いわけで。

私は、熱さに耐えかね転げ回る結花を見ながら、そろそろかと呟く。

 

「……どう?降参するかしら?」

結花「ッ、ほざけぇ!」

 

 

結花は、札を取り出し、叫んだ。

結花「『羅針盤』」

 

途端に、結花の目が紅く輝く。

結花「見える……見えるぞ!」

 

 

(しょうり)が!

 

 

「勝利……?何を言っているのかしら、貴女は?結花、貴女は殆ど負けた身じゃない」

 

これが違うんだよなぁという目で私を見た結花は、一気に走った。

「何度やっても同じよ!」

私は、日傘を構える……が。

 

「あれ……、いな、い……?」

さっきまで走ってきていた結花が、消えていた。

「いつの間に……」

 

私は、辺りを見回す。が、やはり結花はいない。

「一体どこへ……」

 

……そう呟いた瞬間、首筋に何かが当たった。

「……貴女!」

結花「おっと、それ以上動くと首が飛ぶぞ?」

「なっ……!」

 

結花はいつの間にか知らないが、私の後ろへ周り、首筋に爪を突き立てていた。

 

結花「……で?」

「……分かったわよ、降参よ」

私は、両手を上げ、降参の意を表す。

 

結花「……よし」

結花は、大きく息を吸いこみ、叫んだ。

 

 

 

結花「ヨッシャァぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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キャラ紹介

私の転生物語 オリジナルキャラクター

 

 

夜刀神 闇(やとがみ やみ)

 

 

年齢 推定百億

 

種族 龍神

 

能力 全てを司る程度の能力

 

身長 147cm

 

危険度 極高

 

友好度 高

 

容姿 銀髪のセミロングの美少女。両サイドの髪だけ伸ばしたアシンメトリーで、両サイドの髪を月と太陽の髪飾りを付けている。月の模様があしらわれた導師服を着ている。

 

概要 私たち人間が住む現代出身。転生した当初は、中学二年生の少女。期末テストが終わり、その日に夜刀神 神琉(やとがみ かんる)に転生させられた。現代では、通り魔に刺されて死んだことになっているらしい。当時の闇は、低身長のごく普通の女の子。趣味は絵を描くことと歌を歌うことだった。それは、転生してからも変わらないという。

 

 

夜刀神 神琉(やとがみ かんる)

 

 

年齢 推測不能

 

種族 龍神

 

能力 全てを司る程度の能力

 

身長 197cm

 

危険度 不明

 

友好度 不明

 

容姿 銀髪の長身の男性。見るものを魅了するような美しさをもっており、闇曰く「イケメン」とのこと。服装は、中華風の服。

 

概要 龍神王。全てにおける世界を創った張本人であり、全世界を支配する正真正銘の神。だが、その正体を知るものは少なく、知っているのは闇やアマテラス、ツクヨミ、スサノオくらいだろうか。闇との関係は未だに不明である。

 

 

 

鬼神 結花(おにがみ ゆうか)

 

 

年齢 推定一億

 

種族 鬼子母神

 

能力 全てを合わせる程度の能力

 

身長 149cm

 

危険度 極高

 

友好度 不明

 

容姿 緑の切りそろえられたボブカットに、緑色の和服。スカートは、フリルがあしらわれたマイクロミニ。スカートから除く脚は、世界中の人間を魅了させるような艶めかしさを放っている。

 

概要 約一億年前の古代、月移住計画の時に闇と出会った。その時交えた戦いは、とても凄まじいものであったという。他人に対しては非常に好戦的であり、しかし人間は自分からは襲ったことが無いと言う。

 

 

 

月読命(ツクヨミノミコト)

 

 

年齢 推定数億

 

種族 月神

 

能力 月を司る程度の能力

 

身長 164cm

 

危険度 中

 

友好度 高

 

容姿 黒髪のロングヘアー。月の髪飾りを付けており、その時の気分などでその形は変わる。白いThe女神のような服を着ている。

 

概要 太陽系が闇の手によって創られた当初に、月の神として、ツクヨミの意識が生まれた。彼女は、非常に人に友好的である。平穏を崩すことを嫌い、地位が下の者に対して傲慢に振る舞うことを許さない。このことは、月移住計画の時の科学者で証明されている。

 

 

 

天照大御神(アマテラスオオミカミ)

 

 

年齢 推定数億

 

種族 太陽神

 

能力 太陽を司る程度の能力

 

身長 168cm

 

危険度 高

 

友好度 中

 

容姿 黒髪であり絶世の美女。輝夜顔負けの美人であり、黒の腰以上もあるロングヘアー。着物を着ており、何よりたわわである。これ以上は何も言わないでおこう。そう、たわわ。

 

概要 ツクヨミと同じく、太陽が出来た当初に太陽を象徴する神として、アマテラスの意識が生まれた。彼女は、大和を率いる頭領である。しかし、人間や妖怪たち、他の国に対し、少々傲慢な態度を振舞っていた為、闇の手によって鎮圧された。

 

 

 

素戔嗚命(スサノオノミコト)

 

 

年齢 推定数億

 

種族 武神

 

能力 武術を扱う程度の能力・災害を司る程度の能力

 

身長 182cm

 

危険度 中

 

友好度 中

 

容姿 一言で言うと、カッコいい剣士。袴を履いており、剣(天叢雲剣)を腰に差しているイケてるっぽい感じの見た目。

 

概要 天照大御神と月読命の姉弟。闇のことをとても慕っており、姉上と呼んでいる。闇の戦い方を真似し、闇の弟子的な存在。闇に剣を習っており、世界で十本の指に入るほどに剣術が上手いとされている。




いくつか修正しました!


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夢源郷 とある少女の想い
第14話 新しい仲間


今回とてつもなく短いものとなっております、申し訳ございません。
近々テストが入っていて、勉強、六月にテストが3回と、沖縄修学旅行の準備などで多忙なので投稿できない日が続くかもしれません。そこのところどうかご理解ご協力をお願いします。


「っ、ぅ〜ん……もう朝?」

 

私は、結花との別れを済ませた後、ひとり草原で眠っていた。

「朝ご飯……」

私が前世でよく食べていた朝ご飯というものが、かの有名な、材料が無いときや病気の時以外毎日欠かさず食べていたものだ。

 

「よぉし、完成!……といっても、卵割るだけなんだけどね!」

そう、卵かけご飯である。

毎日の始まりは、これが無くては始まらないと言っても過言では無い。それ位私は卵かけご飯を愛している!

 

 

「草原で食べる朝ご飯というのは美味しいわね〜……っと、ん?」

 

……なんか、見つめられてる。

誰かの気配がしたと思い、前を向くと、見たことも無い少女が立っていた。心做しか、私の持っている卵かけご飯に目線がいっているような……

 

「……食べたいの?」

?「……コク」

 

私は、箸で卵かけご飯を取り、少女の口へ持っていってやった。

?「もぐもぐ」

少女は、美味しそうに食べている。それにつられ、私も微笑を浮かべた。

 

「美味しいかしら?」

?「コク」

少女は、うん!と言わんばかりに元気良く頷く。

しかし、私はさっきから気になっていたことがある。

 

「あなた……喋らないの?」

?「……」

少女は、少し驚いた後、首を横に振った。

「じゃあ……喋れないの?」

?「……」

少女は、少し俯きがちに首を縦に振った。

「じゃあ、私が喋れるようにしてあげるわ!」

 

私は、食べ終わったあとの茶碗を消し、スックと立ち上がり、少女の頭へ手をやった。

少女へと念を送り、手を離す。

 

「さぁ、これであなたは喋れるようになりました!」

?「えっ?……あっ」

 

少女は、手を口に当てて驚く。

?「わたし……喋れる!喋れてる!」

「ねっ?」

 

私は、少女に満面の笑みを浮かべる。

すると、少女が私に抱きついてきた。

「わっ、わわっ……」

?「お姉さん、だーいすき!」

「あらそう?……ありがとう///」

私は、少し照れながらも少女の頭を撫でてやる。

 

 

その後私たちは、少し草原で話していた。

「……そういえば、貴女って何者?どうしてここにいるのかしら?」

?「わたし、元々は湖に住んでた亀だったの。それで、長い時間生きてたら段々妖怪化して……仲間はみんな寿命で死んじゃって……」

少女は、濃い緑色の髪をいじりながら話す。

 

「あら珍しい。亀の妖怪なのね、貴女……じゃあ名前を教えてもらえないかしら?」

?「……わたし、名前が無いの」

 

私は、とても考えた。彼女に似合う名前は無いか、亀にちなんだ名前は無いか……など。

そして、思いついた名前がこんなものだった。

 

「そうねぇ……よし、貴女は今日から『チロル』よ!」

?「えっ?は?ちろ、る……?」

「ええ、"チロル"よ」

 

目の前の亀妖怪……チロルは、考えるような仕草をした後、こう言った。

チロル「ありがとう!何だか、懐かしい響き……どこかで聞いたことがあるような……」

 

ちなみに、なぜチロルと付けたか。チロルと聞くときっと、殆どの人がチロルチョコのチロルと考えるだろう。まぁそうなのだが。一応ちゃんとした理由があるのだ。

 

私が前世で飼っていた亀のうち一匹の名前が、チロルだったから。

一応彼女も亀なんだし、これ以外に似合った名前は無いと思ったからつけた。

 

 

「さぁチロル、行くわよ!」

チロル「えっ?どこに……って!うわぁ!?」

 

私は、チロルを抱き、空へ飛んだ。

幸いチロルは小柄で、私よりも頭一つ分くらい背が低い。多分130後半くらいだろうか?

チロルの体が小柄なお陰で、上手く抱えられた。

 

「チロル……貴女に世界というものを見せてあげるわ!!!」

 

 

そうして、私たちの世界ライフというのは始まるのだった……



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第15話 闇の従者

?side

 

私は、天界を支配する天人、アリシア・サンチェス。今代当主である。

天人といっても、龍神様の子孫……みたいなものであり、龍天人といわれている。

今、天界に住んでいる天人殆どが多かれ少なかれ龍神様の血を継いでいる。

 

私は今、とある人物……龍神様を探しているのだ。

本で読んだ姿では、輝く銀の鱗を身にまとい、天を突くような長い角を持ち、黄金の眼で下界に住む者を見つめる……などとあった。

また、龍神様は普段は人型の姿に扮し、地上界に暮らしているとかなんだとか……

また、その姿はとても美しいとされている。私は見たことがないが、銀色の髪で、白のドレスで黒の中華風な服を着ている……などと本で読んだことがある。

 

私なぞが龍神様の御姿を拝見させて頂けることなど、あるわけがない。

龍神様は全宇宙を御創造なさった方。

まず、龍神様は天界に来ることなどないであろう。

 

 

「……私もその御姿を拝見できればどんなに光栄なことか。是非、亡くなった母上と父上にも見せて差し上げたかった」

?「あら、貴女の御両親も私のこと見ていたかもしれないわよ?」

 

凛とした声がしたとともに私の目の前が真っ暗になった。……何者かの手によって。

「……誰だ?この屋敷には私しかいないんだが……」

?「ふふっ、そりゃそうよね。この屋敷は貴女一人で管理しているんだから……本当、立派よねぇ」

 

手を離されたので、声の主の方を向くと……

 

?「どうもこんにちは……天界を支配する天人様?」

「……?」

銀髪の小柄な少女が、笑顔で立っていた。

 

「初めまして、私は"龍神"の夜刀神 闇(やとがみ やみ)と申します」

これからどうぞよろしくお願いします、とスカートの裾を持ち、華麗にお辞儀をした。

少女が顔を上げると、それは……所謂、とても可愛いと言われるものだった。

 

 

…………龍神?

「あっ……えっ?りゅう、じん?」

闇「えぇ」

 

……一瞬、頭の中がフリーズした。

あの龍神?えっ?えっ?……えっ?まさか?

「あっ……あぁ……ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

闇「どうしたのよぉ、そんなに驚いて……」

 

「あっ……貴女様は……龍神様ですかっ!?」

闇「だーかーら!さっきからそう言ってるじゃない!」

「あっ……あぁ……も、申し訳ございません……!!!」

 

私は、精一杯の気持ちを込めて、土下座をした。

闇「えっ……えぇ?」

龍神様……は、とても困った様子で手を口に当ててオドオドしていた。……可愛い。

 

「私なぞが、龍神様にそのような態度をとってしまい、大変申し訳ございませんでしたっ!!!」

闇「えっ!?あっ、いや!勝手に貴女の屋敷に上がり込んだのは私なんだし、むしろ謝るのは私の方……ごめんなさい」

「謝らないでください!龍神様を謝らせるなど以ての外……頭を上げてください!」

 

龍神様は、困った様な顔で私の方を見る。

闇「あっあのぉ……」

「はっ、何でしょうか!」

闇「とりあえず……立って?私だけ立ってるのも申し訳ないから……」

「龍神様の御命令とあらば」

 

私は、そのお気持ちを汲み取り、立った。

……今、気づいたことがあるのだが。

目の前にいる龍神様……いや、少女は、凄く小さい。小さく、何より ̄ ̄

 

「銀髪……噂は本当なのですね」

闇「まあ?その噂ってのがどんなのか知らないけど、私は銀髪ねぇ」

 

私のお腹の上あたりまでしかない龍神様は、凄く小柄に見えた。私が大きすぎるのだろうか、いや、本当に小柄な体型なのだろう。

……まぁ、私は女性としても男性としても大きな体型と言われているのだが。

 

 

闇「それで、私がここに来た理由なのだけれど」

 

龍神様は、私を見上げて言う。……若干上目遣いにも見えるのは気のせいだろうか。

龍神様は、息を揃えて言った。

 

闇「貴女……」

 

 

 

闇「私の従者になる気はないかしら?」

 

 

 

……一瞬、その場がシーンと静まり返った。

「えっ?今、なんと……?」

闇「えっと、私の従者になる気はない?って言ったの」

「……聞き間違えでなければ、もう一度言っていただけないでしょうか」

闇「だーかーらぁ!私の従者になる気はない?って言ったのよ!ちゃんと聞いてる?」

「えっ…………?」

 

私は、口を半開きにした顔という、何とも言えぬ情けない表情をしている。

心做しか、龍神様も呆れた様な表情をしていらっしゃる。

 

闇「で、なりたいの?なりたくないの?どっち?はやく決めてちょうだい!」

「はっ、はい!私の様な者で宜しければ!貴女様の傍に侍らせていただきます!」

 

私は、その場に膝をつき、龍神様の小さなお手を取った。

「それでは、龍神さm「その呼び方、気に入らないわ」……それでは、何と?」

彼女は、少し考えた後、こう言った。

 

闇「御先祖、なんてどうかしら。一応龍神の血を引く天人でしょう?」

 

一瞬、私の心の臓が破裂しそうなほど興奮した。

龍神の血を引く、という言葉。龍神様のことを、御先祖様、などと呼ぶことのできる喜び。

まさか私なぞが、龍神様の子孫になることが出来るのか。思ってもみぬことであった。

 

闇「それじゃ、貴女が私についてくってことなら、従者になるためのことをしなくちゃね」

御先祖様は札を取り出し、力を込めるような動作をした。

 

「それは……?」

闇「貴女が私の従者になる為の札よ。さっ、取りなさい」

「はい」

 

私は、御先祖様が私に渡した札を手に取る。

すると、身体を光が通った様に暖まり、力が湧いてきた様な感覚がした。

 

闇「どうかしら?」

「何やら、元の力の何倍もの力が入り込んでくる様な感覚がします」

御先祖様は、そう……と呟くとお手をそっと私の頬に触れ、言った。

 

 

闇「これからよろしく、龍天人(アリシア・サンチェス)

 

 



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第16話 私メリーさん、今あなたの後ろに……いませんwww

沖縄修学旅行も終わり、自由の身となった今、小説の投稿がばんばんできるようになりました……って言うのは嘘で、私も中3。しかも、実力テストが二週間前に迫ってきている現状です。……スミマセン、いつもどおりの投稿ペースです。気長に待って頂けるようお願いします。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

月明かりが灯る夜、その光すら微弱な程の暗闇を、少女は駆けていた。

 

「ここまで来れば大丈夫……キャッ!?」

少女は、不運にも木の根に足を掛けてしまった。

 

悪夢は、もう直ぐ其処までやってきている。

悪夢は、少女を喰い殺さんとばかりにその大口を開ける。

 

「……ッ!」

少女は、これから来る痛みに目を閉じ待つ。

 

 

「……?」

しかし、痛みは来なかった。

恐る恐る少女が見たものは ̄ ̄

 

 

 

 

 ̄ ̄とても、美しい銀の龍神(ドラゴン)だった。

 

「あ……あ……」

ドラゴンは、追ってきていた妖怪たちをいとも簡単に踏み潰し、絶命させていた。

 

少女は、目の前に起きている物事を理解できないまま、腰を抜かしていた。

ドラゴンは語った。

『汝、我に跨るがよい』

 

 

……?

少女の頭の中は、?マークだらけだった。

そうこうしているうちに、少女の体は宙に浮いていて……

 

『……汝、しっかり捕まっているように』

いつの間にか、ドラゴンの体に乗っていた。

 

「えっ……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

 

少女を乗せたドラゴンは、その森を抜け、天空へと飛び立っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

?side

 

……ついさっき、非現実的な現象が起きた。

伝説とされていた、銀のドラゴンが現れたのだ。

そして、私のことを連れ去った。

神隠しか?と私は思った。

だが、私はそれを否定したくてしようがない。

なぜかって?それは……

 

 

 

 ̄ ̄その連れ去ったドラゴンが、私と同世代の少女の姿をしていたからだった。

だから、私には神隠しだとは到底思えない。

 

?「さてっと……とりあえず、大丈夫?」

「あ、はい……大丈夫です。助けて頂いてありがとうございます!」

 

少女が、クスリと笑う。

その笑顔は、とても華麗で、とても魅力のある笑みだった。

少女の外見は、中華風のドレスに身を包み、私と背は頭一つ分ないかくらいで、一つ違和感を感じるところがあるとすれば……

 

「……角?獣耳?」

 

なんと、その少女には天を突くように伸びた角、龍を思わせるピンと生えた獣耳が生えていた。

?「あら……そんなに私が珍しく見えるのかしら?もしかして、貴女はこういった身なりの者を見たことがないかしら?」

 

ジロジロと見ていたのが、バレたようだ。

私は、さっと目線を外し慌てて誤魔化すが……

?「あら、そんなに焦らなくても大丈夫よ?」

 

少女が、諭すように手をこちらに向けてくる。

?「さてと……私は、夜刀神 闇(ヤトガミ ヤミ)。普通のドラゴンよ。貴女は?」

 

さらっとドラゴンと名乗った少女に対し、「いや、普通じゃないでしょ!」と心の中でツッコミを入れておく。

 

「……マエリベリー」

?「……ん?」

「マエリベリー・ハーン」

 

私は、現代での名前を名乗っておく。

明らかにここは、現代社会ではない。

先程、友人とはぐれ、一人歩いているところを妖怪に襲われ、そして目の前の少女に助けられ……というところだ。

 

闇「っ!……そう、マエリベリー・ハーンね……」

闇と名乗る少女は、少し驚いた後、懐かしむ様な表情で笑っていた。

 

闇「じゃあ、マエリベリー……だったかしら?」

「はい……読みにくいので、皆からはメリーと呼ばれてるんです」

闇「じゃあメリー。貴女……能力を持っているわね?」

 

私は、物凄く驚いた様な顔をする。

実はこの私、マエリベリー・ハーンには、一つ能力がある。

それは『結界の境目が視える程度の能力』だ。

この能力は、結界を視ることが出来る能力。

今まで、自分が能力を持っていると当てられたことがなかったので、物凄く戸惑った。

 

「……どうして分かったの?」

闇「まぁ、私は能力を持っている者を腐る程見てきたからねぇ……今更貴女に会って、分からないなんてことは無いわよ」

「そうなんだ……」

 

私は、若干驚きながらも納得した様に頷く。

まぁ、彼女……ドラゴン程にもなれば、そんなことは容易いのかもしれない。

それにしても……

 

「(小さいなぁ)」

彼女は、凄く身長が小さく見える。

大体私の身長が、160cmとちょっとなので、闇はたぶん140cm台なのだろう。……ちび。

 

闇「貴女……今、とっても失礼なこと考えなかった?」

「あぁっ!?い、いやいやいや!そんなわけ~」

闇「そう?ならいいけど……」

 

今一瞬、私の葬式の場面が見えた気がした。……このドラゴン、見た目に反して怖い。

 

 

 

そうして、このあと私は闇に連れていかれるはめになった。……まぁ、可愛いからいっか!



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第17話 マエリベリーの妖怪化とこれから

前の投稿から何日もあけてすみません!やっと期末テストが終わりました!これからはペースを上げて投稿したいと思います!


闇side

 

メリーやアリシアたちと出会ってから、数年の時がたった。

アリシアは私の式として立派に働いているし、たまに私が修行に付き合ってあげたり。

一方でメリーの方は、アリシアが戦っているのを見て、自分も戦い方を教わりに来た。

 

……成長期なのかどうか分からないが、メリーは前よりもかなり成長している。

髪はセミロング程度の長さだったのが、もう腰あたりまで伸びた。あと身長も……

 

……身長も……

 

たぶん160cm台後半くらいにはなったんじゃないかしら?まぁ~身長に縁が無い私からしたらね~……

 

……羨ましいな……

 

 

メリー「やみぃ~!」

「あら何かしら?」

メリー「ちょっと相談があるんだけど……」

 

メリーが何やら私に話があるとのことらしい。

メリーは、私を連れて部屋に来た。

「どうしたのよ、メリー?」

メリー「あのね……」

 

 

 

「……ふむ、まぁ一応把握したわ」

どうやら、メリーは自分の中にある、能力以外の不思議な力に気づいたらしいのだ。

「貴女の中にある、"妖力"は今はまだそんなに無いけど……貴女が、本当に妖怪として生きてゆきたいと願うなら妖力が増えるような手伝いを私はしてあげるけど……」

メリー「私が、妖怪……」

 

メリーは、一瞬考えるような動作をしたが、直ぐに私の目を見据え、言った。

 

メリー「やみぃ、私……妖怪になる!蓮子に、会いたい!」

「ふぅん……決心はしたのね。もう人間(ふつう)には戻れないわよ?」

メリー「それでも良いわ……私は()()なの」

 

私は、メリーの目を見たがその目は本当の目だった。……どうやら、決心は固いようだ。

それにしても、妖怪になりたいだなんて。そんな人間、この世界に生を受けてから初めて見たわね……

 

「いいわ、手伝ってあげる」

メリー「本当!?やっt「ただし」……なに?」

 

私は、メリーを見て言う。

「妖怪になるってことは人道に外れると言うこと。他の生き物を殺したりすることも、安直にできるようになってしまうのよ?それでも怖くないのかしら?」

メリー「えぇ」

「へぇ……大した決心ね、見直したわ。いいわ、貴女が妖怪としての生を受けることを認めます。これは龍神に自分を認められたってことなのだから、誇っていいの。自慢しちゃいなさい!」

メリー「ありがとう、やみぃ!」

「いいのよ」

 

メリーは、私に抱きついてくる。

……少し前よりも重たくなった気がするが、それは言わないお約束。

私は、メリーのこれからについて考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「……出てきなさい」

 

私は、虚空に向かって呟く。

そうすると、前方位から弾幕が張られる。……しかも生身の人間が受けたら、即死するやつじゃん。あいつも性格悪いなぁ。

 

?「おやおや。性格が悪いなんて人聞きが悪いなァ……龍神?」

「あなたもよ……牛鬼(うしおに)

 

()()は段々と私の前に姿を見せる。

牛鬼「いやぁ、久しぶりだなぁ?龍神?」

「そうね……久しぶりね……」

 

私は、ヘラヘラしている牛鬼を睨みつける。

私からは、無意識に多量の汗と神力が出ている。……ここは森だが、メリーかアリシアが感じとらないように、一応結界を張っておいてよかった。

牛鬼「おやおや……最近の龍神様は、気が利くのかい?結界を張るだなんて……」

「最近の龍神様って何よ……」

 

私は牛鬼とそんな会話をしながら、右手に日傘を握り締める。

牛鬼「おやおや、そちら様はもう既に戦う気満々じゃないかい。……この前殺り合った(遊んだ)時は、呆気なく私の前に倒れただろう?それでもまだやるのかい?」

「うるさいッ」

 

私は、前に踏み込むと同時に、日傘を牛鬼の首部分に向かって真横に振り抜く。

こいつをなぶり殺したいだとか、そういう気持ちは私の中には一切無い。早くこいつをこの世から葬り去りたいのだ。

 

牛鬼「ほぅ。前よりも速くなったか?……まぁ、私には首を斬られようが何されようが意味は無いんだが?」

 

私は、歯を食いしばり牛鬼を殺意の篭った眼で睨みつける。

牛鬼「どうしてそんなに……()()()のことを気にかけるんだい?それが気になって仕方が無いよ、あいつはもう死んだろう?それはそれでイイじゃないか、あいつの死に様を見るのは私にとって最高のディナーだったんだからなぁ!」

 

私の中で、何かがフラッシュする。

昔の、出来事……古代での、出来事……愛する者の、死……

牛鬼「あぁ~、イイねぇ!その顔!その顔を待ってたんだよ!愛する者を亡くした時のように精々悲しんで死ぬんだな!」

 

私は、自分の体重を支えきれなくなり後ろに倒れていく。

「…………どう、して」

どうして、いなくなったの。

そう伝えたかった。もっと愛したかった。愛されたかった。

もう一度、戻ろうよ……あの時に戻ろうよ……。

もう一度、その優しい目で笑いかけてほしい。でもそれは叶わぬ夢。

もう当の本人は死んでしまっているのだ、当たり前のこと。

世界で最も愛された神様は決して私なんかじゃない。

 

それは……きっと……

 

「……、」

 

言い終わる前に、私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄……ろ

 

ん……?

 

 ̄ ̄き、……ろ

 

なんだろう……?

 

 

?「起きろ!!!」

「ひぇ!!?」

 

私は、急に大声を出されたもので非常に驚き、変な声を出してしまった。

「急に大きな声を出すだなんて……え?」

 

私は、大きな声を出された以上に何よりも驚いたことがあった。

……それは、目の前にいる人物のことだ。

 

「なっ……どうして、()()が?」

 

……主様だった。

私が宇宙界に転生して以来、そこからちょくちょく修行の相手にもなって頂いていたのだが、実は主様とは、数億年前に顔を合わせたきりだったのだ。

つまり、数億年ぶりに会うことになる。

 

?「久しぶりだな……闇よ」

「久しいですね、主様」

?「……久しぶりすぎて、歳をとりすぎて俺の名前を忘れてないか?」

「……お言葉ですが主様、それは女性に対して少々失礼かと」

 

悪い悪い、と笑いながら謝る主様。……本当に反省しているのだろうか?

 

神琉「それで……俺がここに来た理由だが」

 

場の空気が一変し、緊迫した緊張が走る。

 

神琉「……まずお前は一回本気で死にかけた」

「……っ!」

 

私が、死にかけただと?

神琉「本当だったら()()に殺されてたんだぞ、お前」

「なっ……」

あの意識を失った時に?

神琉「お前は、俺が応急処置をしなければ死んでいた、偶然が重なってお前のところに来ることが出来たんだ」

 

主様が私を見つけなければ死んでいた、と聞いて私の全身に鳥肌が立つ。

「見つけて頂き感謝致します。まさか私が負けるなど……」

神琉「それは仕方ないさ、だって牛鬼は……

 

()()()()()()使()()()()()()()を持っているんだからな」

 

あらゆる力を使う程度の能力。

それは文字通り、あらゆる力を使う能力である。……つまり、私の力を使うことも可能なのである。

全てを司る能力を持ってしても勝てない相手だ。牛鬼はいつ生まれたのかは未だに不明だが……

 

「存じ上げておりますわ、主様。私たちの能力を使うことも出来るのですよね」

神琉「あぁ、そうだ。牛鬼(あいつ)の概念を支配してやってもいいんだが……」

主様は、顔を顰める。

何か問題があるのだろうか。

 

神琉「さっきも言った通り、牛鬼(あいつ)はあらゆる力を使うことができる。だから、俺の動きを先読みされてしまうと命取りになるんだ……だから、牛鬼(あいつ)を完全に抹消するには、不意打ち……この方法しかないだろうな」

 

不意打ち。

これが私としても最も最適な方法なのだが……

「お言葉ですが主様。主様が最高神であらせられること、私でも適わぬ力をお持ちのこと、私は重々承知致しております。……ですが、それはあまりにも危険すぎるかと」

神琉「あぁ……分かっている」

 

不意打ちが成功すれば、作戦は大成功なのだが……

もし動きを先読みされていたら、今度こそ私たちは殺されるだろう。

しかも、相手は牛鬼(あいつ)だ。この作戦が成功する確率はほぼ0%とと言っていいだろう。

牛鬼(あいつ)に不意打ちを掛けるのはほぼ無謀な選択なのだが……

 

牛鬼(あいつ)を抹消できる方法が、これしかないだなんて……」

 

何が、龍神だ。私は、己の無力さに絶望した。

皆を守ることすら出来ない龍神など、この世界に存在して良いのだろうか……とまで考える様になった。

 

神琉「まぁそう落ち込むな、闇。牛鬼(あいつ)を殺すのも、別に今じゃなくていいんだ。後からゆっくり考えればいいさ」

「……はい」

 

部屋に沈黙が訪れる。

そうすると突然、部屋の襖が開いた。

アリシア「御先祖様……って、何奴!」

 

アリシアが、目の前にいる主様に驚き、構える。

「アリシア、辞めなさい。この方は、私の御主人様よ」

 

そうすると、アリシアが酷く驚いて、

アリシア「そうなのでしたか!これはとんだ御無礼を……」

神琉「いや、気にしなくて良いぞ。別に俺はそんな高貴な身分でもないし……」

 

いや、龍神王じゃないですか!高貴な身分じゃないですか!と心の中でツッコミを入れる。

アリシア「御先祖様……昨晩おられませんでしたが、どうされたのですか?」

「実はね……」

 

私は、昨日あったことを一切アリシアに話した。

アリシア「なっ!?御先祖様、ご無事なのですか!?」

「主様が私を見つけて下さったから無事よ」

 

アリシアは、酷く驚き私を心配する。

まぁ、主様が私を見つけていなければ私は今頃帰らぬ龍神(笑)となっていただろうけど……

神琉「……俺はこれで失礼するが、何かあった時は遠慮せずに呼べよ。例えば昨日みたいなことが起これば俺以外はどうしようもないからな」

「有り難きお言葉です」

 

私は、主様に一礼をする。

神琉「別に礼を言われるようなことはしていない。……じゃあな」

瞬間、主様は消えた。

 

アリシア「……御先祖様、今度からは黙って一人で戦うのはお辞め下さい」

「分かったわ」

 

アリシアは、私の肩を掴み、諭すように言う。

心配を掛けたつもりは無かったのだが、アリシアは表情からして酷く心配していたらしい。……後で謝らないとな。

 

だが、あの牛鬼(うしおに)……強すぎる。龍神である私の力を持ってしても、敵わなかった。

極めつけが、主様でも勝つことは非常に難しいという点だ。

どうやったって、牛鬼(あいつ)には勝てないというのか……

 

私は、後々そのことを考えることにした。



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第18話 不死の館

「わぁ、随分と森の深くまで来たわね」

アリシア「そのようですね……」

メリー「ねぇやみぃ、こんな所に何のようなの?」

チロル「随分と緑が多いね~」

 

私たちアリシア、メリー、チロル、四人一行は、とある森の中を歩いていた。

「問題の館まで直ぐだったはず……」

アリシア「あっ、御先祖様……あの館ですか?」

メリー「わ、本当にあった……」

チロル「おっきい~!」

 

私たちの前には、とても大きな、しかも真っ黒な闇で塗りつぶされているかの様に黒い館がそこにはあった。

「ここね……大妖怪が住むという館は」

 

私は、アリシアたちに此処で待ってと言い、前へ踏み出した。

すると、館の門の前に濃い霧が現れ、たちまち人型へと変貌した。

 

?「……待て」

?「……この館へ何の用だ」

 

霧が晴れると、そこには角が生え黒いマフラーを巻き、紅い目をした謎の長身の女性が現れた。

「私たちはこの館の主に用があるのよ、この館について説明して欲しくてね……」

 

私が説明しようとすると、彼女はその紅い目を細め、こう言った。

?「お前たちがこの館に入る権利は無い。……従って、速やかにこの館から立ち去れ」

 

……大人しく入れてくれる気は無いようだ。

私は、もう一度口を開く。

「……もう一度言うわ、入れてくれる気は無いのかしら?」

?「断る!!!」

 

彼女は、凄まじいスピードで此方へ向かってくる。

「やる気ね……なら、こっちも容赦しないわよ」

 

私は、日傘を握り、一歩踏み出す。

?「はぁぁぁぁぁ……」

彼女は、その手に伸びた鋭い爪で私を引き裂かんと迫ってくる。

「無駄よ」

本当だったらそのまま受けてやっても良いんだが、最近の戦いでは受けてばっかり。結花との戦いでも何回も受けてやった。

 

……だから。

「……」

?「ッ!?」

顔を横に傾け、避ける。そして、素早く彼女の腕を掴み……

「……やっ」

そのまま地面に叩きつけた。

 

?「ぐぁッ」

反動で声が出たのだろう、彼女は呻き声をあげた。

 

「……さぁ、通してくれるかしら」

?「……まだだ!」

彼女は、私の手を振り払うと、バックステップの要領で後ろに下がる。

 

「おっと、まだやる気なのね……まだ名乗ってなかったわね、私は夜刀神 闇よ」

?「夜刀神か……私は如月 紫月(きさらぎ しづき)。この館の門番をしている」

 

真っ黒で綺麗な腰まであるストレートヘアーに、紅い目……それに、全身真っ黒く染めたかのように見える、黒いコートに黒いマフラー。

 

その姿はまるで……

 

「( ̄ ̄くノ一、女忍者。だけど何か違う)」

 

紫月「まぁ……誰であれ良い。我が主に危害を加える者には、死あるのみ。……消えろ」

 

紫月は、手のひらを私の方へ向け、そこに自らの妖力を溜める。

そして、そこからは所謂魔理沙が撃つような……八卦炉無しバージョンのマスタースパークのようなビームが発射された。

 

「やる気ね?……なら、正々堂々受けて立つわよ」

 

日傘を片手で持ち、銃のような感じで軽く持つ。

「それ」

私は、日傘の先に相手が死なない程度に魔力を溜める。

「元祖 「マスタースパーク」」

 

私は、原作で風見 幽香が使っていた元祖 「マスタースパーク」を放つ。

紫月が放った攻撃と私のマスタースパークがぶつかり合う。

私のマスタースパークの方が、紫月の攻撃を飲み込み、紫月を襲う。

 

紫月「なっ……うわぁぁぁぁ!!!」

 

ドォォォォォン!!!!!と爆発音が聞こえた後、砂埃が晴れると、そこにはボロボロになった紫月が倒れていた。

 

紫月「お嬢、様……誠に、申し訳……」

紫月は、そこで気を失った。

 

「貴女の主を守ろうとする威勢は素晴らしかったわよ……大丈夫、此処の館にいる者たちは絶対に死ぬことは無いわ」

 

 

私は、アリシアたちの元へ駆け寄る。

 

アリシア「御先祖様!」

メリー「やみぃ、大丈夫だったの?」

チロル「闇ちゃん!」

 

三人それぞれの声がかかる。

「えぇ、大丈夫よ。彼女、紫月……が言っていたこの館の主に会いに行くとしますかね」

アリシア「御先祖様、勝手ながら私はこの館を散策しても宜しいですか?」

「えぇ、良いわよ」

メリー「やみぃ、私もアリシアと一緒に行って良い?」

「気をつけるのよ、アリシア、何かあったら連絡して頂戴」

メリー&アリシア「「分かったわ(分かりました)」」

 

メリーとアリシアは別の方向へ、私とチロルは上の方へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

~二階廊下~

 

チロル「ねぇ闇ちゃん……」

「ん?」

チロル「後ろ……なんかおかしいよ」

「は?」

 

チロルが後ろがおかしいというので、私も振り返ってみる。

「本当だわ……何か不穏な空気を感じる」

私は、振り向いてチロルを後ろに隠し、妖力を少し解放する。

すると、目の前に黒い人型の様なものが現れた。

 

?「あらら、見つかっちゃいましたか……貴女は中々の力を持っているようですね。私を見付けることが出来るなんて……」

貴女がたが初めてですよ、と私の目の前に現れた少女は、言う。

 

「あら、そうなの。それはそれは驚きね……あんな簡単な術を見破れないなんて、最近の者はどうかしてるわねぇ」

私は、扇子で口を隠してわざとらしく挑発するように言う。

 

?「左様ですか……申し遅れました。私は不死の館の当主、天月 永華(あまつき えいか)様の専属メイド、館のメイド長を務めております、天月 聖夜(あまつき せいや)と申します」

特に反応することもなく、以後お見知りおきを、と聖夜は言った。

 

「そう……私はこの娘の保護者、夜刀神 闇よ」

私は、スカートの裾を持ち上げて華麗に礼をした。

 

聖夜「……貴女は、見たところ人間ではありませんね。種族は何なんです?」

「そうね、強いて言うなら……神、かしら?」

 

聖夜は、あらまぁ、と驚いた様に笑う。

聖夜「神様だったんですね。この館に神様がいらっしゃるのは初めてですわ、お会いできて光栄です」

「そうね……じゃあ、神様としてこの館の主に会わせて貰えないかしら?」

 

聖夜は、ピクッと眉を動かし、私を睨みながらに此方に歩いてくる。

聖夜「……申し訳ありませんが、それは出来ません」

聖夜「お嬢様はお会いになりません。……代わって、私がおもてなしするよう申し使っております」

 

まるで、幻想万華鏡の咲夜みたいだな……と思いながら、戦いの準備をする。戦いの準備といっても身体中に妖力その他諸々を満たすだけなんだけど……

それにしても彼女、聖夜の能力は何なのかしら ̄ ̄

 

「ッ!」

そう思っていると、後ろに気配がした……聖夜だ。私に気付かれずにどうやって後ろまで来れたの??

 

また、聖夜の姿が消える。

聖夜「ここですよ……フフッ」

 

まさか……下?

私は、思い切りジャンプする。

そうすると、私のいたところが爆発した。

 

「危ないわね………………あぁ、なるほど。貴女の能力は『影を操る程度の能力』ね?そして、貴女の種族も分かったわ」

聖夜「……どうして分かったのです?」

「まず、私がジャンプして逃げる時、貴女の姿は見えなかったけど……影はあったのよ。そこ、見落としてたわね?そして、貴女の種族だけど……半人半妖。妖力も微弱ながらあったけど、霊力も同じ位持っていた。……まぁ、本当のところ貴女の種族を"視た"だけなんだけどね?」

 

聖夜は、何かを怖れているかのような表情で後ずさる。

聖夜「あ、貴女は……何者……」

 

「だから、さっきも言ったでしょう?……ただの普通の神よ」

聖夜「いや、神っていう時点で普通じゃありませんよ!?」

 

聖夜の鋭いツッコミを頂いたところで、一旦落ち着く。

「それで?戦いの続きはどうする?」

聖夜「えっ!?あっ、そうですね、始めまs「その必要は無いわ」……ッ!?」

 

威厳のある声と共に、発せられた何者かの妖力がこの廊下に立ち込める。

 

 

 

?「ようこそ……この私、天月 永華(あまつき えいか)が当主を務める不死の館へ」

 

 

 



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第19話 鴉の少女

ごめんなさい、いつも通り遅れました!
これからもかなり遅くなると思いますが、受験勉強頑張ってると思っていただけると幸いです!


アリシアside

 

御先祖様たちと二手に分かれた後、私たちは下の階……地下に来ていた。

螺旋階段を降りると大きな扉があり、開けてみると……

 

 

メリー「こ、これは……」

「図書館……だな」

 

扉を開けたその先には、端から端まで本が敷き詰められた本棚が並んでいた。

?「どうやら、招かれざる客が来てしまったようね……」

 

声の先に目をやると、図書館の真ん中に机があり、そこに声の主は座っていた。

黒いローブに身を包み、本を持ったその姿はまるで……

 

メリー「魔法使いみたい……」

?「えぇ、仰る通り私は魔法使い……星蓮寺 玲奈(せいれんじ れいな)よ。図書館の管理人を任されているわ」

 

私は、この魔法使い……玲奈を倒す方法を考えていた。

魔法使いは、他の種族と違って身体能力は人間並みに低い。だから、下手に暴れれば殺してしまう可能性があるからだ。

 

玲奈「それで……ここに何をしに来たのかしら」

「あぁ……私たちは、この館を散策しようと思ってな」

 

私がそう言うと玲奈は、本を持って立ち上がり言った。

玲奈「そう、散策ね。別に良いわよ?……だけど」

 

 

玲奈「私を倒してから行くことねッ!!!」

 

 

BGM:マジックガール

 

玲奈はいきなり、攻撃を放ってきた。

「おいメリー、下がっていろ……『霊槍シャスティフォル第五形態 増殖(インクリース)』」

 

御先祖様に教わった技、『霊槍シャスティフォル第五形態 増殖(インクリース)』。

この技は、大量のクナイへとシャスティフォルを変化させ攻撃させるのだが、御先祖様曰く「この攻撃は、とにかく気持ちいいの。そう、気持ちいいのよ……!!!」……だそうだ。

 

気持ちいいというのがよく分からないけど、とりあえず強力な技ということは分かっている。

私が放った大量のクナイは、玲奈の攻撃を相殺する。

 

玲奈「なかなかやるわね……だけど、そんなもんじゃ私は倒せないわよ!『プラネッツ・スワロー』」

 

図書館の真ん中に光が現れたかと思うと、それが段々広がり、いつしか図書館の中が宇宙空間のようになっていた。

 

 

玲奈「『惑星、我に歯向かう者たちを飲み込め……そして消し去れ』」

 

 

浮かんでいた惑星……太陽、水星、金製、地球、火星、土星、木星、海王星、天王星……が光を帯びだした。

 

メリー「暑い……!?」

「不味いな……このままでは本当に消される」

 

私は、この状況を打破することを考えた。

「(もう一度第五形態を使うか?……いや、それだけじゃ絶対に勝てない。どうすれば……)」

 

その時、ある考えが思い浮かんだ。それは……

「(この技なら……もしかしたら、玲奈の技に勝てるかもしれない。だが、成功するかどうかは……やってみないとわからない)」

 

メリー「アリシア、何か良い方法無いの……ッ!?そろそろやばいんだけど……」

「あぁ、あるにはある。だが、これはまだ私は使ったことが無い技。御先祖様に教えて貰った技なんだ」

メリー「やみぃに教えてもらった技?ならいけるじゃない、やみぃの技はこの世で生まれた一品物なんだから!」

 

そうだな、と笑い私は玲奈の方を見る。

玲奈「さぁ、この状況をどうするつもりなのかしら?」

 

 

 

「『スーパーノーヴァ -超新星大爆発- 』」

 

 

 

私が叫んだその瞬間、ドォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!!という大爆発が起きる。

 

玲奈「ぐっ……何よ、この凄まじい力……!!!」

メリー「凄い……!」

 

私は、私たちの周りに結界を張る。

技に力を込めながら、結界を維持する力。御先祖様に頂いた、神の如き力……この世で最高峰の力。

 

「メリー……」

私は衝撃が収まってから、瓦礫に埋まっている玲奈を尻目に、メリーに話しかけた。

 

メリー「アリシア、凄かったわね!流石やみぃの式!」

「そうか……感謝する」

 

メリーが、私に寄り添ってくる。

「さぁ……これから、どうするかだな」

メリー「まずは、玲奈とかいうやつをどうにかしたら?」

「そうだな……どうしようか」

 

私は、玲奈の傍に歩み寄る。

玲奈「……それで、私はどうなるの?」

「別に。お前が何もしてこないのであれば、私はここを少し散策させて貰う」

玲奈「別に良いけど、荒らさないでね……まぁもう、荒らされてるようなものだけど」

 

私は、図書館を散策し始めた。

と、思っていると、図書館の扉が開く音がした。

?「あらあら……随分とお騒がせしているのね」

「……お前は誰だ?」

?「あぁ、私は天月 永華(あまつき えいか)よ。この館の当主を務めておりますわ」

永華と名乗る少女は、スカートの裾を持ちあげて華麗に礼をした。

 

メリー「貴女、黒い翼が生えてる……妖怪?」

永華「えぇそうね、鴉の妖怪よ」

永華が、黒い羽を広げて言う。

 

永華「あぁそうそう、貴女の御主人様とかいう娘に、さっき会ってきたのだけれど……」

「……!」

御先祖様のことか、と思い反応する私。

永華「『折角だから、あの娘と勝負してきて貰えないかしら?戦歴を積み重ねることで強くもなれるしね』……だそうよ」

 

……私は、正直ゲンナリした。

自慢じゃないが、戦闘力にはかなり自信がある。御先祖様に鍛えられたのもそうだが、種族が天人なので、元々の力がそれなりにあるのだ。

だが、目の前にいる鴉の妖怪と名乗る少女は、かなりの妖力を持ち合わせており、強者だと見て取れる。

 

永華「別に私はどっちでもいいのだけれど……貴女はどうなのかしら?」

「あぁ、する、するよ。私も戦歴を積み重ねておきたいからな」

 

私は、持っていたシャスティフォルを構え、言う。

永華「そうね……私も最近、闘えなくて身体が鈍ってなければいいんだけれど」

漆黒の鴉の翼を羽ばたかせ、風と共に高濃度の妖力がピリピリと感じられる。

 

永華「さぁ……」

 

 

 

永華「綺麗な紅い華を咲かせましょう?」



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第20話 精霊王の少女

闇side

 

「しかし……この館は広いわねぇ」

天月 永華という少女を、アリシアたちの元に行かせたあと、私とチロルは二人でこの館を散策していた。

 

チロル「闇ちゃん、あの黒い女の子強そうだったね?」

「えぇ、本当に強いわよ?もしかすると、私の知ってる中で十本の指に入ると思うわ」

チロル「へぇ、そんなに強いんだ!すごーい!」

 

二人で歩いていると、とある部屋に辿り着いた。

その部屋からは強い妖気が感じられる。大方、中には大妖怪並みの力を持つ、かなり強い妖怪がいるのだろう。

チロル「……この部屋、なんか変だね」

「えぇ。……入ってみましょうか」

 

私はドアノブに手を掛け、開けようとした。だが、その時……

?「(……誰?)」

「……っ!」

直接聞こえたわけじゃなく、急に念話で話しかけた人物に対して、驚く。

私に念話をする理由とは?念話をしてきた人物は、この部屋の中にいる人物だとは思うが……何より。

 

「……どうして、私に気付かれずに念話が出来たの?」

チロル「?」

?「(その話は後。とりあえず部屋に入ってきたら?)」

 

私は、そのままドアノブを開け、部屋に入っていった。

?「いらっしゃい。もうお姉様とは会ったみたいだね」

「そうよ。あの娘は強かった、それも私の知ってる中でかなりの実力者だわ」

?「そりゃあそうだよ。だってお姉様、この館の主だもんね」

 

当然、とでもいうふうに頷きながら話す少女は、かなり特徴のある外見をしていた。

肩より少し上で切りそろえられた白髪のぱっつんボブ。それに、フリルがあしらわれたお嬢様のような服装をしていた。

 

いや、服装や髪型だけじゃない。それ以上に、彼女を象徴する頭の"花"だ。

「貴女、あの娘をお姉様という当たり、家族なのね?それに、頭に同じような花が付いている」

 

少女は、花を触りながら微笑む。

?「そうだよ。……まぁ、血は繋がってないけどね」

「だと思ったわ」

 

だって、髪の色が明らかに違う。

永華は、漆黒の髪色だった。だが、目の前の少女は物凄く透き通った純白の髪色だ。

まぁ、二人とも妖怪を象徴する綺麗なルビーの目をしていたが。

 

「あっ、まだ名前聞いてなかったわね。私は夜刀神 闇よ、貴女は?」

?「私は、天月 聖花(あまつき せいか)。精霊王とも呼ばれているの」

 

精霊王、という言葉に私は反応した。

精霊王、か……まぁ悪くない二つ名ね。

「いい名前ね。さしずめ、『精霊を使役する程度の能力』かしら?」

聖花「っ!」

 

聖花は、明らか驚いたような顔をする。

「あぁ、安心して。他の人には分からないようだけど、私が異常なだけだから。意識してなくても、分かっちゃうのよね……」

聖花「……そう、なら良かった」

 

聖花は、そう言うと指を鳴らした。

すると、さっきまで何もいなかった聖花の肩に、小さな白い鳥のようなものが現れた。

チロル「それは、なに?」

聖花「この子は、"マインガイスト"。私の化身の様なものよ」

「へぇ〜、そうなのね」

 

あ、そうだ。

「そうそう、聖花?」

聖花「なぁに?」

「今頃貴女のお姉様が、私の式と戦ってるとこだと思うから、一緒に行かないかしら?」

聖花「そうだね、面白そうだし行くよ!」

 

先ほど会った永華という少女に、「私の式が図書館にいると思うから、ちょっと手合わせしてきてくれない?」と頼んだところ、結構あっさりとOKしてくれたのだ。

まぁ、永華としては「最近身体が訛ってたから、別に良いわよ」だそうだ。

アリシアの精進にもなるし良いかなって。

 

 

 

 

 ̄ ̄図書館にて

 

「……よっと。ここが図書館ねーって、あれ?」

図書館に入るとそこには、机を囲んで和気あいあいとしているアリシア含むメリー、永華の他に、魔法使いが座っていた。

 

アリシア「あっ、御先祖様」

永華「あぁ、闇とか言ったかしら?もう手合わせは終わって、この通りよ」

 

でも、やけに図書館内が綺麗な気がするんだが……

「ねぇ、何でこんなに図書館内が綺麗なのよ?」

メリー「あっやみぃ、それはね。私の能力なんだよ!私の能力、いつの間にか強化されててね、多分『境界を操る程度の能力』になってたの!」

「境界を操るですって!?」

 

なっ、メリーは結界の境目を見ることしか出来なかったはず……でも、これが事実だとしたら。

「貴女……かなり強くなってるわよ。それも、完璧にその能力を使いこなせれば、私と渡り合えるくらいになるんじゃあないかしら」

メリー「嘘!?やみぃと!?」

 

メリーは、さぞ驚いた様子で声を上げる。

しかし、これは事実だ。原作の紫と同じ能力を手にいれたということは、かなり大きい。いつか本当に私を倒してしまうんじゃ……

永華「お取り込み中失礼するわね」

 

メリーと話していると、永華が突然話しかけてきた。

永華「とりあえず……夢源郷、だったかしら?を創る予定だから、出来たら来ないかって話だったかしら?」

「えぇ、そうよ。で、来てくれるの?」

 

永華は、一呼吸置いて言った。

永華「まぁ、私たちは別に良いわよ。いずれ、人間たちによってこの地も支配される可能性があるのでしょう?」

「ゼロではないわ。あと数百年もすれば、この地にも人間たちが侵略してくるだろう、と踏んだだけよ」

永華「そう」

 

永華「とりあえず、その夢源郷が出来たら教えて頂戴ね。その時は、花鳥族の仲間も何人か連れて行っていいかしら?」

「別に良いわよ、仲間が増えることはいいことだからね」

 

みんなに笑いが訪れる。

「さて……私たちはそろそろお暇するわ」

聖花「えぇ、もう帰っちゃうの?」

永華「寂しくなるわね」

「別に今生の別れって訳でもないのに、何でそんなに寂しがるのよ……」

メリー「また、遊びに来るから!」

「そうそう、夢源郷が出来そうだったら呼びに来るから安心して頂戴よ」

 

私は、みんなに手を振って図書館の外に出ていく。

さて、これから忙しくなりそうね……



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竹取飛翔 〜 Lunatic Princess
キャラ紹介


キャラ紹介 〜夢源郷編〜

 

 

 

 

天月 永華(あまつき えいか)

 

 

年齢 5000歳

種族 鴉の妖怪(花鳥族(後に説明))

能力 自然を操る程度の能力

身長 150cm

髪の種類 綺麗な黒色のミディアムヘア

瞳の種類 紅色

概要 鳥の里出身の鴉の妖怪。特徴はやはり背中に生えた漆黒の翼。彼女は、不死の館を纏める当主であると同時に、それ相応の能力を持っている。『自然を操る程度の能力』というのもかなり強力で、草木や花、火山の噴火などの自然現象を起こすことすら出来てしまうのだ。

彼女は意外とお人好しであり、困っている人がいると、誰であれ陰で手伝っているらしい。

 

 

 

 

天月 聖花(あまつき せいか)

 

 

年齢 4990歳

種族 鴉の妖怪 白羽族(花鳥族〃)

能力 精霊を使役する程度の能力

身長 149cm

髪の種類 白髪ぱっつんボブ

瞳の種類 紅色

概要 鳥の里出身の鴉の妖怪。彼女は、天月 永華の義理の妹であり、鳥の妖怪特有の白羽族でもある。白羽族というのは羽や髪などが白い鳥の妖怪のこと。彼女は生まれた時から自分の能力のせいで他人に恐れられていることを嫌がっており、いつか自らが暴走してしまうことを恐れ、自殺をしてしまう。しかし、それを嘆いた当時の永華が、自ら不老不死になり、聖花を禁忌とされていた蘇生の術を使って蘇らせた。それが、彼女らが花鳥族になる発端になる。

 

 

 

 

如月 紫月(きさらぎ しづき)

 

 

年齢 不明

種族 不明

能力 霧を操る程度の能力・妖術を扱う程度の能力

身長 172cm

髪の種類 黒髪ロング

瞳の種類 紅色

概要 年齢、種族が不明な謎の人物。不死の館で門番として働いており、忍者のような格好をしている長身の女性。角が生えているので、鬼だとも言われている。

 

 

 

 

天月 聖夜(あまつき せいや)

 

 

年齢 15歳

種族 人間

能力 影を操る程度の能力

身長 162cm

髪の種類 黒髪ツインテ

瞳の種類 黒色

概要 不死の館の中で唯一の人間。天月 永華の専属のメイドとして働いており、不死の館の中でもかなり好感度が高い。

 

 

 

 

星蓮寺 玲奈(せいれんじ れいな)

 

 

年齢 推定200歳

種族 魔法使い

能力 魔法を使う程度の能力

身長 157cm

髪の種類 紺色ロング

瞳の種類 アメジスト

概要 不死の館に住む魔法使い。魔法使いなだけあって魔法の腕は半端じゃなく、魔法の腕だけでランキングを付けるならば、龍神を除く夢源郷の住人の中で彼女の右に出る者はいないだろう。

 

 

 

 

星音

 

 

年齢 不明

種族 魔獣

能力 通常時:星座を観測する程度の能力 戦闘時:星座の力を借りる程度の能力

身長 159cm

髪の種類 金髪ロング

瞳の種類 金色

概要 魔界出身の魔獣。星蓮寺 玲奈に仕えており、他人には基本敬語である。腰まで垂れた長い耳が特徴で、いつも望遠鏡を持ち歩いている。

 

 

 

 

チロル

 

 

年齢 不明

種族 亀の妖怪

能力 水を司る程度の能力・あらゆる生物と意思疎通をする程度の能力

身長 138cm

髪の種類 深緑に黄緑ハイライトのボブカット

瞳の種類 黒色

概要 亀の妖怪。闇にいつも付いて回っていて、幼さが感じられる喋り方をする。あらゆる生物と意思疎通ができ、しかし戦闘は未経験。年齢は不明であるがかなりの高齢だと思われる。

 

 

 

 

アリシア・サンチェス

 

 

年齢 不明

種族 天人

能力 次元を司る程度の能力

身長 188cm

髪の種類 エメラルドグリーンの脹脛まであるロングヘア

瞳の種類 紅と金のオッドアイ

概要 天界に住む天人。闇の従者であり、女性としても男性としても身長が高い。実力は不明ではあるが、恐らくはとてつもなく高い方だとは思われる。

 

 

 

 

八百万 秋葉(やおよろず あきは)

 

 

年齢 不明

種族 白狼妖怪

能力 呪いを操る程度の能力・炎を司る程度の能力

身長 165cm

髪の種類 白髪ミディアム

瞳の種類 紅色

概要 都周辺の森を支配する白狼妖怪。呪いと炎を支配しているので、他の人々や妖怪からは()()と呼ばれている。見るもの全てを魅了させるほどの美しさを持ち合わせており、輝夜顔負けの絶世の美女である。しかしオーラは半端じゃなく、能力から分かるようにとてつもなく強い…………が、可愛らしい一面もあるらしい。

 

 

 

 

夜刀神 闇(やとがみ やみ)

 

 

年齢 約138億歳

種族 龍神

能力 全てを司る程度の能力・あらゆる概念を付与する程度の能力

身長 147cm

髪の種類 銀髪ミディアムの両サイド結び

瞳の種類 金色

概要 この小説の主人公。宇宙界を創った張本人であり、龍神王の従者でもある。その実力は半端じゃなく、弾幕ごっこなどの遊び以外で、彼女に本気の勝負を仕掛けるのはとてつもなく危険。最悪、宇宙が滅びるとされる。




花鳥族とは……

・左側頭部に大きな花がついており、花鳥族として生まれた者は元々頭に花がついている。
・不老不死であり、どんなことをされても死なない。
・鳥妖怪だけに見られる種族。様々な鳥妖怪の花鳥族である。
・頭についている花は、鳥の種族によって異なり、色もそれぞれの色がある。
・鳥妖怪全てが花鳥族というわけではない。




その他何かわからない部分があれば、コメント受付けます


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第21話 輝夜と新しい敵

不死の館を後にした私たちは、とある都に来ていた。

この時代の都は結構栄えていて、和服を来た人たちが行き交い賑やかである。

この都には、最近とある噂が流れているらしい。それは……

 

都人A「おいおい、聞いたか?あの"かぐや姫"の噂」

都人B「あぁ。絶世の美女とも言われるほどに美しいらしいな。それで、求婚者が絶えないんだとか」

都人A「でも、ことごとく断られていってるらしいぜ。すげえよな〜」

 

この、"かぐや姫"は多分、蓬莱山 輝夜(ほうらいさん かぐや)だろう。

そして、月からの追っ手から逃げて、永遠亭で過ごすんだとか。

私は、輝夜に接触するため、都の人間に話しかけることにした。

 

「もし、そこの人」

都人「ん、何だ?」

「かぐや姫の屋敷は、どちらかしら?」

都人「あぁ、あっちの方だぞ」

「ありがとう、感謝するわ」

 

都の人間は、人集りの出来ているところを指さした。

牛車などが沢山あり、ひと目で貴族が集まっているのだと、よく分かる。

「かぐや姫ってそんなに綺麗なのかしら……?」

私は、教科書のあの変な風に描かれたかぐや姫しか見ていないから、あんまり良く分からないのだ。

 

あっちなみに、アリシアたちは都に来たので少し散策するらしい。

ってことで、今ここにいるのは私とチロルだけだ。

チロル「闇ちゃん、かぐや姫のとこに会いに行くの〜?」

「んー……まぁ、そんな感じね。勿論、女性である私が正門から行ったらちょっとおかしいから、忍び込む感じになるけどね〜」

チロル「へぇ〜」

犯罪の匂いがプンプンするけど、大丈夫。バレなければ犯罪じゃないからd('∀'*)会うの輝夜だけだから。

 

多分、輝夜の方から月からの追手の話をいつかされると思うけど。

まぁ、その時はその時だ。

 

「さぁ、そろそろ行こうかしらね?」

チロル「楽しみだね〜!」

私はチロルの手を繋ぎ、輝夜のところにスキマを繋げ、入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

輝夜side

 

「ふぅ、また今日も……飽きないのねぇ、あいつらも」

私は、毎日のように来るオヤジ共にイライラしていた。

毎日毎日、「あなた様はこの世で一番お綺麗です〜」とか言ってめっちゃ高級などこから持ってきたんだよっていう感じの布を持ってきたヤツもいたわね。

私は、他の人より綺麗なのかもしれないけど、それでも毎日って……限度があるでしょうに。

 

「はぁ〜あ……なんか刺激のあることないのかしら……」

?「ん〜……それなら、私が提案してあげてもいいわよ?」

「誰っ!?」

 

急に後ろから声が聞こえたので、振り返ってみるとそこには、2人の少女がいた。

1人は小柄な銀髪の女の子で、もう1人は、銀髪の子よりも小柄な緑髪の女の子だ。

「あら……こんなところに、何のようかしら?」

?「貴女……刺激を求めているんじゃなくて?」

「まぁ確かにそうだけども……」

 

この銀髪の少女、どこか変だ。

外見は、間違いなく美少女の類だろうが……オーラのようなものを感じる。

 

「貴女……何者よ?」

?「あぁ、自己紹介がまだだったわね、ごめんなさい……さてと、改めて自己紹介するわ。私は、この地球を纏めさせて頂いております、夜刀神 闇(やとがみ やみ)と申します」

そう言って、夜刀神 闇と名乗る少女は、くるりと一回転し、普通の人間には無いはずの獣耳と大きな角を生やしていた。

 

闇「そして、この娘は……」

?「私、闇ちゃんのパートナーのチロルです!よろしくお願いします!」

「え、えぇ、よろしく……?」

 

私は、夜刀神 闇という名前にどこか聞き覚えがあった。

それも、遠い昔……月で過ごしていた日々のどこかに。

 

「ねぇ……貴女、夜刀神 闇って言ったわよね?」

闇「えぇ、そうよ」

「なら……」

私は、どうしても聞いてみたいことがあった。それは……

 

「八意永琳って知ってる?」

闇「!」

闇が、少し驚いたような顔をする。

もしかしたら、これは当たりかもしれない。どんどん聞いていく。

 

闇「それが……どうかしたの?」

「実はね、永琳は私の従者なのよ。今は月にいるけど……私が地上に来る前は、ずっと一緒に過ごしていたのよ。それで、永琳から貴女のことを聞いていたような気がして……」

闇「そう……」

闇は、少し考えるような仕草をした後、こう言った。

 

闇「確かに、八意 永琳は私の友人。遥か遠い昔に、共に住んでいたこともあったわ」

「やっぱり……!でも、こんな姿だとは思わなかったわ」

闇「……どういうこと?」

まぁ、闇が不思議がるのも無理はない。だって、私も夜刀神 闇という人物がこんな少女の姿だとは知らされていなかったから。

 

「私は、夜刀神 闇ってどんな姿をしてるのって聞いたことがあったのよ」

闇「永琳、なんて言ってたの?」

「そしたら永琳、『銀の鱗に覆われ、その体は1000年の大木を超える太さで、空をも覆い尽くすほどの長さです』って……だから、そんな凄い人と知り合いだったんだって思ってたから、貴女の名前を聞いた時に驚いたのよ」

闇「は、はぁ……永琳たら、なんでそっちの姿の時の話をするのよ……馬鹿じゃないの?分かるわけないでしょ?はぁ……」

 

闇が、ため息をつく。

「でも……こんな可愛い娘だなんて思わなかったわ」なでなで

闇「ふぇっ!?」

私が闇の頭を撫でると、闇が顔を赤くする。

闇「ば、馬鹿ね!そんなわけないでしょ!?」

闇が私の手を払い除けるが、顔が真っ赤になっているので、恥ずかしいのがバレバレである。

 

「あ、でも、こっちの娘もなかなかね〜」

チロル「っ!?」

私は、闇とチロルの両方の頭を撫でてあげる。

闇に関してはもう諦めたのか、顔を赤くしながら我慢している様子が伺える。

多分、傍から見たら私が変質者に見えるかもしれないけど……可愛ければ何でもいいのよ!

 

 

 

 

少し経った後……

「貴女たち、可愛かったわよ〜?」

チロル「ありがとう!でも、闇ちゃんの方が可愛いよ!」

闇「何言ってるのよ、そんなわけないでしょ〜?」

みんなが落ち着きを取り戻し始めた頃、闇が話し始めた。

 

闇「それで、私がここに来た理由なんだけど……」

「えぇ、私の暇つぶしに付き合ってくれるの?」

闇「うん、まぁ、そうなんだけど……貴女、毎日のように来る人間たちにウンザリしてるんでしょう?」

「う〜ん……まぁ、そうね。早くどっかに行ってほしいものなんだけど」

闇「そう、それよ!」

 

闇が、突然閃いたような声を出す。

「それって?」

闇「もう来て欲しくないなら……普通の人間なら絶対出来ないような要求をすればいいのよ!」

「……!その手があったのね!」

 

毎日毎日アホみたいにくる人間たち……私を諦めさせるには、絶対出来ないような難題を出せば良いのね!

「分かった、やってみるわ!……とはいっても、どんなことを言えば良いのか分からないわね」

闇「そうね……それなら、その人間たちが来た時に一緒に考えてあげるわ。それでいいかしら?」

「えぇ、交渉成立ね」

チロル「なんかよくわからないけど私もがんばる〜」

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

あれから1日経った頃、5人の人間たちがやってきた。

1人目、石作皇子。2人目、車持皇子。3人目、右大臣阿倍御主人。4人目、大納言大友御行。5人目、中納言石上麿呂足。

まぁ、聞いてみるといつもの感じである。

私に求婚に来る人間は、貴族とかそこらの人たちである。

 

「石作皇子にはどうすればいいかしら」

闇「そうねぇ……」

といった風に、私が闇に聞き、後は私が対応する感じでやってみている。

 

「では、石作皇子様には仏の御石の鉢を。車持皇子様には最近、都の安全を脅かしているといわれる妖怪の首を。右大臣安倍御主人様には燃えないとされる火鼠の皮衣を。大納言大友御行様には伝説とされる龍神の首飾りを。中納言石上麿呂足様には燕の子安貝を持ってきていただきます。……この難題の中で、唯一成し遂げられた方と私は結婚致します。今日はこれにて失礼致します」

 

そう言うと、人間たちはいそいそと帰っていった。

 

「結構良かったんじゃない?」

闇「そうね、特に龍神の首飾り(私のネックレス)なんか絶対に無理よ。私が渡すわけないものw」

 

後は、都の安全を脅かしている妖怪の首を持ってくることだろうか。妖怪に人間が勝つことなど、まず不可能である。しかも、相手は私から見てもそれなりの力を持つ大妖怪なのだ。

 

「ねぇ、闇?」

闇「何かしら」

「妖怪を討伐しに行った人間が心配だから、ちょっと見てきてくれない?ヤバそうだったら、助けてあげてくれないかしら」

闇「分かったわ〜、あと、チロルを預かってくれないかしら?」

「良いわよ」

チロル「闇ちゃん、がんばって〜!」

私も人の子。他人を思いやる心だってあるのだ。あんな大妖怪に戦いを挑んだところで、先が思いやられる。

闇が出ていった後、私はチロルと一緒に帰りを待った……

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

「ふぅ、ここらへんかしら?最近都の安全を脅かしている大妖怪がいるってのは。まだ人間は来てないみたいね……あら、なんか神社みたいなのがある……あらまぁ、ここもかなりの密度の妖力があるわね」

 

私は、輝夜に頼まれたのでチロルを預けた後、1人で下見に来ていた。

「はぁ、気の毒ね人間も。まぁ、輝夜が出した難題を普通に受けた人間も馬鹿なんだろうけど」

 

妖怪をただの人間が倒すなどまず不可能。最悪逃げきれず殺されるはずだ。まぁ、あの人間は普通よりかなり強いほうらしいが……私からすれば、毛が生えた程度だけれど。

 

 

「さぁ、ここらへんで……「何者?」……」

 

途端、辺りにかなり密度の高い妖力が張り詰める。

……この声の主が、最近都の安全を脅かしていると言われている妖怪かしら?

 

?「答えなさい……私の領地に踏み入る者よ」

その場に、女性の凛とした声が響く。

 

「私は夜刀神 闇。貴女に会いに来たのよ」

その場に、暫くの静寂が訪れた後、私の目の前に1人の女性が現れた。

その女性は、女性としては高い方の背丈で、見た者を魅了させるほどの輝夜とはまた違った美しさを持っている。

 

?「私に会いたいというのは、貴女かしら?」

目の前の女性が、綺麗な紅い目で睨みつけながら話してくる。

「えぇ、そうよ。少し貴女について話があってね……」

?「話……?」

 

私は、輝夜から聞いた話を全て話した。

?「そう……馬鹿な人間もいたものなのね」

「そうよ。だから、先に貴女に伝えようと思ってね……」

?「そうなのね。だけど……」

目の前の女性が私を見据え、こう言った。

 

 

?「その人間が来る前に、貴女と手合わせ願えないかしら?」

 

私は、バックステップの容量で目の前の女性が放った妖力弾を避ける。

「いきなりね……っ!」

?「あぁ、戦いを始める前に一つ……私は、八百万 秋葉(やおよろず あきは)。ここら辺の森を纏める、白狼妖怪。以後お見知りおきを……」

八百万 秋葉と名乗る女性は、華麗に礼をした後、物凄い速さで私に向かってきた。

 

ドガァァァン

 

私は、咄嗟に両腕をクロスさせて攻撃に備えるが、それはあまり良くない手だと気がつく。

「っ……熱い!」

爪で引っ掻かれた後はすぐに癒えるのだが、纏っていた炎が問題だ。

龍神であるはずの私にここまで傷を負わせることが出来るなんて……結花以来じゃないかしら?

 

「分かった……相手してあげるわ」

秋葉「そう来なくっちゃね!」

私たちは、互いに睨み合う。

 

 

秋葉「さぁ……紅い華を、咲かせましょう……?」

 

 

今、戦いの幕が落とされた……



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第22話 白狼妖怪

BGM:SHAMAN QUEEN

 

 

秋葉「あらあら、龍神といえどその程度かしら?」

秋葉が、ありえない量の弾幕を放ってくる。

私は、正直言ってちょっときつくなってる。……やっぱり、本気の"5%"じゃあかなりやばくなるわね。

 

「はぁ……ちょっと解放」

私は、お腹の辺りに手を当て、弱体化の術を解く。

秋葉「っ、結構やるわね!この私相手に、あんなに余裕だったのも頷けるわ……でも、力を解放した私相手にそう余裕でいられるかしら?」

 

秋葉は、少し浮いたかと思うと、1本だった尻尾を9本まで生やすと共に、保有しているその膨大な妖力を解放した。

妖力の量は並の妖怪では保有することはまず無理だ。秋葉が何歳か知らないが、壮絶な妖生を辿ってきたに違いない。美しさも然り。

 

秋葉「さぁ、私を楽しませて頂戴!」

秋葉は、三日月形に口元を歪め、ルビーの色の瞳をギラつかせる。……流石、大妖怪と畏れられるだけかなり恐ろしく見えるな。

 

「まずは、どうやって倒すか……結構強いからなぁ」

私は、まず秋葉と同様に飛び上がり、同じ土俵に経つ。

「久し振りの戦闘……上手く出来るかしら?」

私は最近、戦闘という戦闘をしていなかった。弱小妖怪なら相手はしたが。

 

 

秋葉「来ないならこっちからいくわよ!」

秋葉が、横一線に鬼火を展開し、此方に迫る。

「呪い系の技か……また、厄介な技を出してくるわねぇ。……サイコキネシス」

私は、さらっと鬼火を避け、念力を秋葉に送る。

秋葉「うっ……ぐ!体が……!」

苦しそうにもがく秋葉を、念力で()()()()へと吹っ飛ばす。

 

「はぁ、秋葉もこれで諦めてくれると良いんだけどなぁ。いちいちリミッターかけんの面倒いんよ」

私は、ため息をつきながら吹っ飛んで行った秋葉の所へと向かおうとした……

 

 

?「……動くな。さもないと、お前の首が飛ぶぞ?」

何者かが、私の首に冷たい刃物を押し当てていた。……いや、飛ぶとか言ってるけど、もう血が出てるから!痛いから!斬首する気満々だよね!?

 

?「名乗れ」

「夜刀神 闇よ」

私が名乗った時には、もう秋葉は復活し、此方に歩いてきていた。

 

?「秋葉、どうする?」

秋葉「別に。私は、こいつと単純に戦い(あそび)を楽しんでいただけよ……とは言っても、私が一方的にやられていただけだけどね。それに、私はとある話を聞いて戦いを申し込んだのよ」

?「……話だと?」

 

 

 

秋葉は、私から聞いた話を全て話した。

?「なるほどね。確かに、人間は馬鹿。大妖怪に戦いを挑もうとするだなんて……そういえば、私はまだ名乗ってなかったわね。私は白神 白華(しらかみ びゃっか)。秋葉と同じ白狼妖怪よ。以後お見知り置きを」

白華と名乗る白狼は、華麗にスカートの裾を持って礼をする。

 

「あぁ、そうそう。私がここに来たのにも他に理由があるのよ」

私は、輝夜から頼まれた用事以外に、私の考えていた頼み事を話そうとした。

白華「……待って」

「……?」

秋葉「どうしたの?」

白華「あっち……見てみなさい。団体客がお越しよ」

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

秋葉side

 

白華が指さした方を見てみると、人間共が団体で来ていた。

先頭に立っていた車持皇子?とかいう人間は、他の人間より保持している霊力が際立って高かった。まぁ、毛が生えた程度だが……

 

 

 

車持皇子「お前が、白狼妖怪か?」

「えぇ、そうよ?私も有名になったものねぇ」

車持皇子「そうか……皆の者!位置につけ!」

他の人間に指示をした人間は、ニヤリと笑い、私にこう言った。

 

 

車持皇子「……後悔するんだな」

 

 

周りにいた人間が、一斉に槍を投げてきた。

「『狼炎華 -紅- 』」

私の体に、槍が吸い込まれていく……が、私の体をすり抜け、そのまま地面に突き刺さった。

 

車持皇子「何だとっ!?」

「ふふ……本当に私の首を取る気はあるのかしら?」

私は、人間の反応がとても面白かったので、少し悪戯をしてやろうと思った。……悪戯とはいえ、人間にとっては命に関わるものだけれど。

 

私は、ひとまず両手を地面に付ける。

少し力を入れると、私の体がみるみる内に真っ白い毛に包まれ、鬼火が私の周りを舞うようになった。

ちなみにこの姿は、白華以外ほとんど誰にも見せたことが無い。

見せたとしても、逃げられるか、恐れられるか、気絶されるかのどれかだから……いや、私の姿を見ただけで気がおかしくなって死んでいった奴もいたわね。

 

車持皇子「白狼妖怪はどこだ!……て、うわぁぁぁぁあ!!!犬神だぁぁぁぁ!!!」

人間が、剣を構えて此方に突進してくる。

……この状況のどこをどう見て、勝てると思ったのかしらね?馬鹿なの?

 

「……」

私は、人間が振り下ろしてきた剣の端をくわえ、反対方向にバキッ!!!と折ってやった。

そこそこ高い剣だったようだが、そんなの知らない。私に挑むアナタが悪いのよ。

 

車持皇子「ば、化け物……」

人間が、腰を抜かしたように此方を指さしてくる。

まぁ、たしかに人間からしたら化け物かもしれないわね。……でも、私に戦いを挑んできたのはアナタたちでしょう?

 

「誰かを殺す覚悟があるのなら……勿論、殺される覚悟も出来ていらっしゃるのよね?」

私は、一歩一歩、ジリジリと人間との距離を詰めていく。

私の背後には、いつでも攻撃出来るような形で鬼火が展開されている。

 

車持皇子「ひっ……ひぃ……やめろ、辞めてくれ……!!!」

 

人間が情けない声を出しながら後ずさりするが、私は容赦なく近づいていく。

……主としての威厳なんかこれっぽっちも無くなってるわね。ていうか、従者たち全員気絶しているし。

 

「さぁ、冥土の土産話にでm「ちょちょ!すとーっぷ!すとーっぷ!」……何よ、今から良い時間だってのに」

 

闇が、焦って私を制止してくる。

私、何か変なことしたかしら?今からこの人間を襲おうと……

 

闇「あのねぇ!殺さないでよ?さっき言ったじゃない?もう忘れたの?」

「あっ、ごめんなさい。いつもの癖で……驚かしちゃうのよね」

闇「はぁ、びっくりしたわ……」

 

 

……私は、このような種族でありながら人間をほとんど襲わない。

人間に"畏れ"られているからこそ、私の膨大な妖力が保てるのだ。

「人間、今日のところは見逃してあげるから帰るが良いわ。そして……二度と来るんじゃない」

 

人間は、従者たちを連れてそそくさと逃げていった。

たまに、ちょいと齧った程度の力で私の首を取ろうとしてくる奴がいるが、そいつらは全員帰してる。

殺しても良かったのだが、何故か殺したくなくなるのだ。

白華曰く、"妖怪らしくない妖怪"とのこと。……全く、私も不名誉な名前を付けられたものね。

 

闇「秋葉、ありがとう。協力してくれて」

「別に構わないわ。体が訛っていたけど……あの程度じゃ、ね」

私は元の姿に戻り、闇を見送っていった。

 

 

 

 

 

白華「……貴女は、どういう気があって人間を殺さないの?」

神社に戻った後、白華が私に訊ねてきた。

「何か、殺したくなくなるのよ。昔は普通に喰っていたのだけど、ある時……何かがあって……」

 

その先が、いつも思い出せない。

何か、私にとって大事なことがあったような気がするんだけど……

何か、私や周りの人たちが事件に巻き込まれるような……

「……まぁ、いいわ。このことを考えようとすると頭が痛くなる」

白華「どうしたの?」

「何でもないわ」

 

 



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第23話 親子の絆

特別選抜受かりました!めっちゃしんどかったこの1年間……勉強漬けでかなり疲れたよぉ……

それと……非常に遅れてしまって申し訳ありません!
色々と事情があって、こんなに空白期間を開けてしまったのです……すみません(´;ω;`)

ですが、もう受験も終わったので、これからは他の小説と並行してやっていけると思われます!
これからもどうぞ、龍神編を御愛読よろしくお願い致します!


?side

 

今日、藤原不比等(ふじわらのふひと)、私の父上がボロボロの姿で帰ってきた。

「大丈夫だ」としか言われないし、しかしどう見ても大丈夫な見かけではないので余計心配になってしまった。

 

 

……そして、心配が故の心のすれ違いは大きくなってしまう。

「父上は私のことなどどうでもいいと言うのですか!?」

不比等「違う!そうではないのだ!私は、全ては妹紅の為にと思ってだな……」

「何が私の為です!今日だって、かぐや姫の出したお題を持ってくる為に、あんな危険を犯しておいて、何が私の為ですか!?」

 

なんと、父上は大妖怪・八百万 秋葉の討伐に向かったのだという。

幾ら強い父上とはいえ、大妖怪を相手するのは無理がありすぎる。

相手は、見つかってしまえば殺されると畏れられている八百万 秋葉なのだ。

 

「かぐや姫の為に、毎晩毎晩、あんなに徹夜していたのですか?私との時間を割くまでして、かぐや姫と一緒になりたいのですか……?」

不比等「妹紅……」

 

私は、心の中で何かが弾けた。

「もういい!父上なんか、大っ嫌いです!かぐや姫と一緒になりたいなら、私の事なんか放っておいて、もう好きにすればいいじゃないですか!」

不比等「違うっ!!!おい、待つんだ!妹紅!!!」

 

 

私は、家を飛び出し、無我夢中で走っていた。

あの時は頭がヒートアップして気づかなかったが、今は夜だった。

夜は、妖怪の潜む時間。

そんな夜を、子供一人で駆け出すのはとてつもない危険を犯す行為であった。

 

『小娘、止まりなさい』

 

少し走っていると、前に大きな何かが現れた。

「ひぃ……!」

 

そこに現れたのは、高さ八尺はあろうかとも思える白い狼……浮いた炎を纏った、犬神・八百万 秋葉(やおよろず あきは)であった。

 

私は、腰を抜かし動けなくなった。

犬神の切り裂くような紅い瞳で見つめられると、生気を吸い取られていくような感覚に陥った。

美しい純白の毛並みと、恐ろしい紅い瞳は、噂で畏れられているだけの迫力があった。

 

不比等「妹紅!待ちなさ……い……」

 

私に追いついた父上が、目の前の犬神を見て言葉を失っていた。

 

藤原不比等(ふじわらのふひと)、貴方の娘……頂くわね?』

不比等「……っ!?待てっ!八百万 秋葉!私の娘をどうしようと……!!」

 

私は、いつの間にか犬神の背中に乗せられていた。

犬神は、家の屋根に飛び乗り、父上を見下ろしてこう言った。

 

『……貴方の娘、救いたいならかぐや姫の屋敷に来なさい。来なければ……』

 

……私の命は無い。

そう言いたげな鋭い眼差しで父上を睨んだかと思うと、かぐや姫の屋敷の方角へ向かうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

秋葉side

 

「全く……どうして、自らの子を放っておけるのか」

 

私は、闇に頼まれた仕事をこなすため、ある人物の屋敷に来ていた。

闇に頼まれた仕事とは、こうだ。

今日、私の首を取りに来た人間の娘を、攫ってくること。そして、その娘をかぐや姫の屋敷に連れてくることを頼まれたのだ。

 

しかし、闇にも言われていたけど……父親の癖に、自分の娘をどうして放っておけるのかしら?

会話を聞いていて分かったけれど、娘である妹紅とやらが心配してくれているのに、自分の身体の心配をしない。

かぐや姫と結婚したいがため、出された難題……私の首を取ろうとしたのね。まぁ、それは良いとして。

 

「かぐや姫と結婚したくてしたくてしょうがないみたいね……だから、娘との時間を割くまでしてるのか」

 

全く……腹立たしい。

親としての責任を果たせない親は、親じゃない。もっと責任を持って欲しいものね。

 

「まぁ……あの人間の考えを聞き出すっていうのも1つの手、か。しかし、いつ連れ去るか……ん?」

 

あの人間の娘……妹紅がこちらへ走り去ってくるのが見

える。多方、父親と喧嘩でもしたのだろう。

 

「……さぁ、あの人間は何を考えているのか。真相はいかに、ね」

 

私は、妹紅が走ってくる方向に周り、待った。

「少し驚かすくらいの方が良いわね……まぁ、この姿を見て驚かなかった人間はいないから」

 

暗闇の中を見ていると、妹紅が私の視界に入るくらい近くに来た。

私は、妹紅のすぐ近くまで来て、こう言った。

 

「小娘、止まりなさい」

 

私は、妹紅に話しかける。

妹紅の後ろ側を見ると、あの人間が走ってくるのが見えた。

 

不比等「妹紅!待ちなさ……い……」

藤原不比等(ふじわらのふひと)、貴方の娘……頂くわね?」

 

私は、妹紅を背中に乗せ、屋敷の屋根に登った。

「……貴方の娘、救いたいならかぐや姫の屋敷に来なさい。来なければ……」

 

どうなるか分かってるわよね。

そうあの人間に言い放ち、私はかぐや姫の屋敷に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「来たわよ」

 

輝夜の屋敷の中まで来た時、元の姿に戻った。

妹紅が心底驚いていたが、それは良しとして。

 

闇「あら、来たみたいね」

 

闇が、部屋の襖を開け、顔を覗かせた。

私は、部屋の中に入り、妹紅を降ろした。

妹紅「……どうしてここに連れてきたの?」

 

妹紅は、輝夜のことを鋭く睨んでいた。

深い理由は分からないが、多方父親が自分のことを構ってくれなくなった原因だからだろう。

まぁ、そうなってしまったのはあの娘が悪い訳ではないのだが……

 

輝夜「あら、ご機嫌斜めかしら?私は、貴女を歓迎したかったのだけれど……」

妹紅「結構です、かぐや姫。私は来たくてここに来た訳ではありません。あの妖怪に攫われたのです」

 

妹紅が私に指を指す。

……なんか、ここにいることが物凄く嫌そうな感じが伝わってくる。

輝夜「あら、そう……でも、私は貴女と話がしたいわ。さぁ、こちらへ来なさい?」

輝夜が、闇がいる奥の方へ移動した。

 

妹紅「姫はそうかもしれませんが、私は嫌です。限りなく嫌なのです。それでは、失礼します」

妹紅が出ていこうとするので、私が止める。

 

「……かぐや姫が貴女とどうしても話したいことがあるそうよ。嫌かもしれないけど、少しでいいから付き合ってあげてくれないかしら」

私も、こんなところにいるのは限りなく嫌だが、闇にお願いされて仕方なくいるだけだ。

妹紅「……はぁ」

 

妹紅が、溜息をつき、さぞ嫌そうな顔をしながら輝夜の方に向かう。

闇や輝夜が考えた方法は上手くいくのか……

 

輝夜「さぁ、どこから話そうかしら……」

輝夜が、うーんと考える仕草をする。

この仕草だけ見れば、本当にお姫様のように感じられる。まぁ、姫なんだけど……

 

妹紅「何でしょうか、姫様」

輝夜「まぁまぁ、そんな畏まらなくても。私のことは輝夜って呼んで頂戴。私も、妹紅って呼ぶから」

 

輝夜は、妹紅の方を向いて言った。

輝夜「さっ、体制崩して良いわよ。疲れるでしょ?」

 

輝夜は、その場に横になった。

その姿を見て、妹紅はさぞ驚いたかのような顔をしている。

……そりゃあ、今までお姫様らしいお姫様って感じの雰囲気だったのに、急におっさんみたいな寝方したら誰でもビックリするわよね。

 

妹紅「……なんか、裏切られた感じがするわね」

輝夜「あら、そうかしら?あんなの演技よ演技。これが素だもの」

 

呆れたように妹紅は、今日何回目か分からない程の溜息をつく。

でもすぐに、最初来た時と変わらないような鋭い目付きに変わり、口を開いた。

 

妹紅「でもやっぱり私、あんたのこと……嫌いだわ」

輝夜「そうでしょうねぇ」

 

輝夜は、寝転んだまま自虐するような笑みを浮かべる。

まぁ、妹紅の気持ちもだいぶわかる気がする。

だって、父親が自分に構ってくれなくなったそもそもの原因が、輝夜にあるから。

相当輝夜のことを恨んでいるんだろう。

 

輝夜「実は私、もうすぐここを出ていくのよ」

妹紅「?」

 

妹紅が、どういうことか分からないという顔をしている。

さて、今から話す輝夜の作戦は上手くいくのか……

 

輝夜「私はね、とある罪を犯して、ここにいなければならなかったの。でも、もうちょっとでその刑期も終わる。私は、とある所へ帰らなくちゃならない」

妹紅「……それで?」

 

妹紅が、神妙な面持ちで輝夜の話を聞いている。

 

輝夜「私は、それが嫌なのよ。こんな楽しい所、離れたくない。だから、逃げることにしたの……誰にも見つからないような所へと。でも、求婚して来る人たちは絶えない。どうやったら諦めてくれるかって考えて、それぞれに難題を出した」

妹紅「それが、父上だったわけね。成程……」

 

妹紅が、何やら納得したような顔をする。

しかし、輝夜を睨む鋭い目付きをしなくなった代わりに、何か悩んでいるような表情に変わった。

 

妹紅「……分からない」

輝夜「どうしたの?」

妹紅「分からない!今まで父上が私に構ってくれなくなった原因があんただって分かってたのに、でも、でも……」

輝夜「でも、何かしら?」

 

輝夜が、妹紅に何かを諭すかのような口調で話しかける。

そして、妹紅は言った。

 

妹紅「あんたが悪い訳じゃなかった。あんたは、ただ当たり前のことをしただけ……でも、父上はあんたのことを諦めなかった。私はどっちを恨めば良いのか分かんないの……っ」

 

妹紅は、泣きながらに言った。

妹紅の気持ちもだいぶ分かる。

輝夜は、結婚したくても出来ないのだ。

もし、誰かと結婚したとしても、近い内に別れることになる。だって、月に行くから。

そんな所に、父親は求婚しに行った。

……結局、どちらも悪くないのだ。

 

輝夜「……私のことは幾らでも恨んでくれて構わないわ。でも、貴女の大好きなお父様は恨まないであげて。きっと、何かしら理由があったのよ」

妹紅「……分かった」

 

どうやら、輝夜と妹紅の問題は意外に早く解決したようである。

あんなに輝夜を嫌っていた妹紅が、こんなにも変わってしまうなんて思ってもみなかった。

……抱き合って妹紅を慰めている輝夜の姿を見ると、羨ましくなってしまうのは何故だろうか。

 

闇「2人共、解決したみたいね」

輝夜「えぇ、お陰様で。妹紅も、色々と気持ちの整理を着けたみたいだしね」

妹紅「う、うん」

 

輝夜の裾を掴み、後ろに隠れている妹紅。

話している時は気にならなかった私たちの姿に、緊張している様子だ。

半祟り神であるような私にとって、恐れられるのは嬉しいことなのだけれども。

 

輝夜「あっそうだ妹紅!」

妹紅「何?」

 

輝夜が突然、何かを閃いたように声を上げた。

輝夜「これも良い機会だから、私たちお友達になりましょう!」

妹紅「えっ!?きゅ、急にそんな……別に構わないけど」

輝夜「やったぁ♪これからよろしくね、妹紅!」

 

子供のように喜ぶ輝夜と、少し苦笑いを浮かべる妹紅の姿を見ていると、この娘たちは本当に仲良さそうに見える。

友達になるべくして生まれた、とでも言おうか。

しかし、妹紅にはまだやるべきことが残っている。

 

「水を差すようで悪いけど、妹紅。貴女まずはやらなきゃならないことがあるでしょう?」

妹紅「やらなきゃならないこと……?」

闇「……父親との仲直りね」

 

そう、妹紅は現在父親と喧嘩中なのである。

忘れていたかもしれないが、元々妹紅が父親を突き放してこの屋敷に来たのだ……というよりは、私が攫ってきたのだが。

父親との仲が修復されなければ、父親も、妹紅も本当の意味で、救われることは一生ないのではなかろうか。

 

「貴女、まずは酷いこと言ったの謝りなさい。そしたら向こうからも謝ってきてくれるはずよ」

妹紅「で、でも!父上がここに来てくれるかどうかすら分からないのに……」

「あぁ、それなら大丈夫よ。こなければ貴女を殺す、って脅したからね。貴女も聞いてたでしょう?」

妹紅「ひっ……」

 

妹紅が、さぞ怯えているかのように私から離れ、輝夜の後ろに回った。

……冗談のつもりだったのにねぇ。幾ら何でも怯えすぎだと思うのだけれど。

 

闇「茶番はそこまでよ。……妹紅、貴女のお父様が来たわ」

 

闇がそう言った瞬間、部屋の襖がバンッという音と共に勢いよく開かれた。

そこに立っていたのは、先日私の首を取りに来た時と同じ服装をした、妹紅の父親だった。

 

不比等「かぐや姫!うちの娘は……妹紅!」

妹紅「父上!」

 

妹紅は、父親を見ると、一直線に父親へと走り出した。

そして互いに抱き合い、子供のように泣きじゃくっていた。

 

輝夜「あらあら、藤原様。どうしたのですか?そんな武器など持たれて……藤原様のお子様は、傷一つついておりませんわよ?」

不比等「そ、そうですか。妹紅を護って頂きありがとうございます」

 

不比等は輝夜に深々と頭を下げ、お礼を言った後、私たちに視線を向けた。

不比等「……先程からそこにいる犬神が気になっているのですが。危険ではないのですか?あの八百万 秋葉なのですよ」

「あの時の人間ね。よくもやってくれたわね……と言いたいところだけど、まぁ、今回の所は許してあげるわ」

 

最初から許すつもりでいたけれど。

闇に許してやってくれと頼まれている上に、あの人間を喰らっても見るからに美味そうに見えないし。

 

不比等「……分かった。して、そちらの方は?」

 

不比等は、闇の方を向いた。

正直言って、私よりも闇の方が派手な服装をしているとおもうのだが……まぁ、私の方が因縁があるようだし仕方ないのかしら。

 

闇「私は夜刀神 闇。龍神をやらせて貰っております。以後お見知り置きを」

不比等&妹紅「「り、龍神!?」」

 

不比等と妹紅は、闇が龍神であるという事実に同時に驚いたようだ。

まぁ、そりゃそうよね。

今までそばにいた人がこの世界の最高神だというのだから。

 

闇「あぁ、龍神だからといって畏まる必要は無いわよ?友達と話すような感覚で構わないから」

不比等「り、龍神……様……」

妹紅「分かった、よろしくね闇!」

闇「えぇ、よろしくね妹紅」

不比等「!?」

 

妹紅のあまりにも早すぎる対応に、不比等はかなり焦っている様子だ。

その様子は、あまりにも滑稽で見ていてとても面白い。

 

輝夜「それで、藤原様……妹紅のことなのですが」

不比等「……はい」

 

不比等は、輝夜の方へ向き直った。

いよいよ、あの話を……不比等の父親としては酷い振る舞いについて、話し合うのだろうか。

 

輝夜「妹紅は、貴方様のことをさぞ大切にしております。それも、世界一の宝物のように……」

不比等「そうなのですか。それは、嬉しい限りで……「しかし」……」

 

輝夜「妹紅は、貴方様が最近構ってくれなくなり寂しいらしいのですが……何か心当たりはありますね?」

 

輝夜は、不比等のことを問い詰める。

不比等は、図星というような顔をして、どんどん申し訳なさそうな表情に変わっていく。

 

不比等「……はい。最近、かぐや姫への用事が多く、自らのことが疎かになっていたのです。しかし妹紅のことは気にかけてはいたのですが……」

輝夜「……まずはそのことを妹紅に謝ってあげて下さい。そうすれば幾らかはお互いに分かり合えるのではないでしょうか」

 

輝夜にそう言われ、不比等は妹紅とお互いに向き直った。

不比等「……妹紅、今まで寂しい思いをさせてきて本当にすまなかった!全ては、お前へと為だと思ってやってきたことなんだ!どうか、どうか許してくれないだろうか……」

妹紅「私の方こそ、酷いこと言ってしまってごめんなさい!それと、もういいですよ父上……私はそこまで気にしていません。それに、こんなにも素敵な友達に出会えたのですから……」

 

妹紅は、私たちの方を見て笑顔を見せた。

私も友達の内に含まれているのか、と疑問には思ったが……まぁ、良しとしておこう。

元々友達がいなかった妹紅にとって、こんな体験は出来なかっただろうから。

 

輝夜「ふふっ、無事仲直り出来たようで良かった……それと、藤原様」

不比等「何ですかな?」

輝夜「何故、こんなにも私に執着していたのですか?危険である大妖怪討伐をすんなりと受け入れたりする位に……」

 

それを聞かれた不比等が、答えにくそうに床を見る。

確かに、気になるのは気になる。

まぁ、不思議に感じなくもない。人間の中では美しい方の輝夜を気に入るのは分からなくもないが、力じゃ絶対敵わないはずの私に戦いを挑むのは少し疑問だ。

 

不比等「……実は、私は病に陥ってしまっているのです」

輝夜「……!」

不比等「医者からはもう治らないと言われました。私が死んだら、妹紅の面倒を見る人がいません……そんな時、かぐや姫の噂を聞きつけたのです」

 

不比等の治らない病気にかかった宣言にも十分驚いたが、何より気の毒なのは妹紅の方である。

驚いているというより、何が起こったのか分からないといった様子だ。

 

不比等「かぐや姫なら、私の死後も妹紅の面倒を見てくれるのでは、そう思ったのですが……しかし、直接伺った所で相手にされるか分かりません。ので、妻にさせて頂こうということで求婚しに参ったのです」

輝夜「そのようなお誘いなら別によろしかったですのに……」

 

成程ね。

自分が死んだ後、妹紅の面倒を見てくれる人を探していたのか。

それで、あんなに危険だった難題にも挑戦したという訳ね。

それなら、妹紅のことをあまり構えなかったのも分かる気がする。

 

妹紅「父上!?どうしてそのことを私に相談しなかったのですか!?最近、体調が悪いということで心配してみれば……」

不比等「すまない、妹紅……お前に心配をかけたくなかったのだ」

妹紅「私は放っておいて自分は死のうというなんて、そんな勝手なこと許しませんよ!!!」

 

妹紅が、涙ながらに自分の父親を叱責する。

自分の娘を心配させぬようにしていた努力は認めるが、それが裏目に出たとは……何とも悲しいお話ね。

 

不比等「心配をかけぬようにしていたつもりが、まさか余計に心配させていたのだな……本当にすまない、妹紅」

妹紅「……もう良いですよ、父上。分かって貰えれば良いんです。だけど、これからは私も頼って下さい」

不比等「あぁ……」

 

これが、親子の絆というものか。

妹紅は相当、父親のことが大好きみたいね。

こういう関係を見ていると、羨ましくなってしまうのは何故だろうか……不思議ねぇ、家族なんて遠い昔にいなくなったのに。

 

輝夜「藤原様、今日の所は妹紅を連れ帰り、その時が来たらまたここにいらっしゃって下さい。その時に、妹紅を預かりましょう」

不比等「はい。分かりました……妹紅、かぐや姫に失礼のないようにな」

妹紅「大丈夫!私たちもう友達ですもん!ね?」

輝夜「えぇ、そうね!」

 

不比等は、輝夜と妹紅の仲良さそうな所を見て、安心したような表情を浮かべた。

 

不比等「ご迷惑をおかけして申し訳ありませんかぐや姫……それでは、今日の所はお暇させて頂きます」

輝夜「えぇ、それでは……またね、妹紅」

妹紅「ばいばーい!」

 

不比等は、妹紅の手を引いて屋敷を後にした。

 

 

 

闇「大成功だったわね、輝夜……お友達にもなれて、不比等自身の気持ちも聞けて」

輝夜「えぇ、そうね。病気にかかったと聞いた時は流石に心配したけれど……」

「まぁ、大元は取れたし良いとしましょう」

輝夜「……それと、秋葉さん?」

「何かしら」

 

輝夜が、私の方を見る。

……まだ警戒してるような目付きだけど、気にしないでおきましょうか。

 

輝夜「今回のことは、妹紅を連れてきてくれて感謝しています」

「そう」

輝夜「……しかし、貴女の都での噂は、最悪です。人間を殺すのは、控えて頂けませんか?」

 

まさか、そう来るとは思ってなかったわ。

だって、私は人間を喰らったことが1度として無いから……まぁ、大怪我を負わせたことはあるけれど。

 

「私は、畏れを糧に生きる妖怪よ。それ故に、人間を怖がらせることも多々あるけど……だけど、人間を殺したことは1度たりとも無いわよ」

輝夜「……言われてみれば」

 

私の所に来た人間は、全て都へと帰している。

まぁ大怪我を負わせる程に止めているので、逆に恐怖を与えていると思われても仕方がないと思うが。

大怪我を負わせたことによって、殺された人もいるんじゃないかと極度に怖がらせている可能性もあるのか。

 

「まぁ、結論から言うと私は人間を殺したことは無いわ」

輝夜「そう、それならそのままで結構なのだけれど」

 

輝夜は、何か安心したようにほっと息をつく。

所詮は自分が堕とされた地上の人間なのに、そこまで心配するなんてお人好しね。

自分は月に帰ってしまうというのに……

 

闇「まぁ、解決したみたいだから良いじゃない。今度のことは今度考えましょう」

輝夜「そうね、そうしましょう」

「はぁ、やっと終わりなのね?こんな人間臭い所にいるなんてごめんだわ~」

輝夜「なっ……人間臭い!?失礼ね!謝りなさいよ!!!」

 

輝夜が、何やらギャーギャー喚いているが、無視しておきましょう。

私の言ったことは本当だし、人間臭いというのも事実でしょう?(笑)

まぁ、このことは解決したし……後はこいつらに任せて、私は森へ帰りましょうかね。

まぁ、何かしら困ったことがあるんなら少しばかり協力してやってもいいわね。

 

 

そう思いながら、私は森へと帰っていくのだった……



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第24話 皆との合流、雑談話

闇side

 

藤原不比等との話し合いが終わった後、私は都を散策していた。

秋葉に交渉しに行く前にアリシアたちとは別れていたので、今どこにいるのか分からない。

まぁ、その内見つかるだろう。

 

「はぁ~あ、あの話終えた後は暇になるわね。あ、チロル?何か食べたい物とかあるかしら?」

チロル「んー、お団子食べたい!みたらし団子!」

「分かったわ、じゃあ行きましょうか」

 

チロルが団子を食べたいと言うので団子屋に行くことになった。

因みに、あの話の時チロルはどこにいたのか疑問に思った方もいるだろう。

チロルにこの話をするにはまだ早いと思ったので、輝夜のお爺さんとお婆さんに預かって貰っていたのだ。

 

 

「お、あそこ良さそうね」

 

私が指をさしたのは、非常に繁盛している甘味処。

団子も売っている所らしく、店の外の椅子で食べている人が多くいる。

 

「チロル、買ってくるからここに座っててね」

チロル「はーい!」

 

私は、チロルを外の椅子に座らせ、自分は店の中に入っていった。

中は古風なお店っていう感じで、中にもお客さんが沢山いる。

順番に並んでいたら、どうやら私の番が来たようだ。

 

「みたらし団子4本下さい」

おじさん「はいよ、お嬢ちゃん可愛いからお友達の分と2本サービスしとくな!」

「あら、ありがとう!」

 

店長らしきおじさんが、私に笑顔でそう言い、団子を6本渡してきた。

それにしても、可愛いからサービスするって……なんて平和な都なんだろうか。

私はお金を払い、店を出た。

 

「チロル!買ってきたわよ。後、店長の人が私たちに2本サービスしてくれたわ」

チロル「ホントに!?やったぁ♪」

 

チロルは、子供のように喜んだ。

私からしたらまだまだ子供だが、こんな子でも妖怪なのかと疑ってしまう程幼く可愛らしい。

 

チロル「頂きま~す……ん~美味しい~!」

「頂きます……ん、これは美味ね」

 

私は、団子を1つ頬張り、しっかりと味わってみる。

団子のもちっとした感触と、団子のたれがが上手く合わさってとても美味しい。

これは、今まで味わった経験が無い程の美味しさだ。

 

「とても美味しいわね、チロルはどう?」

チロル「うん!とっても美味しいよ!」

 

チロルは、とても美味しいといった笑顔で返してきた。

しかし……どうやって作っているのかしら、本当に美味しいわね。

あまりの美味しさに、手が止まらない。

転生してから美味しいものなんてあまり味わったことが無かったので、これは久しぶりの良い機会になったのではなかろうか。

 

 

 

10数分後……

 

「チロル、どうだった?あの甘味処のお団子」

チロル「とっても美味しかったよ!また食べに行きたいな~」

「ふふ、また今度……ね」

 

私は、チロルの頭を撫でながら答える。

輝夜を連れ戻しに来る月人が来るのは、約1ヶ月後。

それまでにはまだ時間はあるし、何回か連れて行ってやろうと思う。

 

?「やみぃ~!」

 

そう思っていると、後ろから声がかかった。

後ろを振り返ってみると、こちらに向かって走ってくるメリーと、それを追いかけるアリシアの姿があった。

 

「あら、メリーにアリシアじゃない。都はどうだったかし……ら?あら、メリーその服は……」

メリー「ふふーん、どう?都の服屋さんで買ったんだ~どう?似合ってる?」

 

いけない、メリーの服を見て少し驚いてしまった。

何せ、今のメリーの姿は前世で見ていた八雲 紫(スキマ妖怪)の姿そのものだったから。

私にも似た白を基調としたドレスを身に纏い、リボンの付いたナイトキャップを被っている。

 

「帽子も買ったのね。えぇ、よく似合ってるわよ!」

メリー「そう?良かった!」

 

ドレスを揺らして喜ぶメリーの姿を、未来の霊夢や魔理沙たちが見たら何と言うだろうか。

恐らく、目が点になり軽く引くだろう。

 

「それで、アリシア。最近何か変わったことは無かったかしら?」

アリシア「いえ、特に何も。言うならば、メリーの妖力が倍増された位でしょうか……」

「そう」

 

メリーの妖力が倍増……か。

メリーの妖力はいつにも増して増えている。

妖怪になりたいと言ったその時から数えれば、とんでもない量の妖力が増えた。

……いつか、世界の一片を纏めることになる日もそう遠くないかもしれない。

 

「私たちからの連絡。近々、かぐや姫を連れ戻しに月人がここに来る。私はそれを手伝おうと思うの。協力してくれるかしら?」

全員『了解(です)』

 

全員が、快く私の意見に承諾してくれた。

 

「ありがとう。……それで、夢源郷のことなんだけど」

 

私がそう話すと、全員が私に注目した。

 

「私が一応全体の管理はするし、住居も置こうと思うの。だけど、それじゃ"夢源郷の本当の意味"が無くなっちゃうのよね」

 

私が作る、夢源郷の本当の意味。存在する価値。

それは、夢の源を作ること。

夢を忘れてしまった人が、最後に救われる場所というものなのだ。

私が存在するための土台の管理はするが、中身は是非誰かにやってもらいたいもの。

決してメンドクサイという訳ではない。

夢の源を、自分で作って欲しいのだ。

 

「だから、仮の統括者を作ろうと思うの。候補はもうあるんだけど……」

メリー「あの、闇?」

「何かしら」

 

メリーが手を挙げる。

質問だろうか……それにしては少し不安そうな顔をしているが。

 

メリー「私、それ、やってみたいな」

「……」

 

まさか。

そんなことを言うとは思ってもみなかった。

あんなに内気だったメリーが、自ら進んで立候補するとは。

ここ何年かで、メリーは大きく変わった。それは褒めるべきことだと思う。

……だけど。

 

「ごめんなさいメリー、貴女には任せられないわ」

メリー「っ!!!……そうだよね、こんな弱っちい私になんか、世界の統括者なんか任せられないよね……」

「違うわよメリー。最後まで聞きなさい」

 

私は、メリーの肩にそっと手を置いて話す。

力は十分だ。まぁ、少し足りてないところはあるが……

だけど、メリーはそれを受けるべきでない。

何故なら、メリーには他にやるべきことがあるからだ。

 

「貴女には貴女の夢があるでしょう?……それを、叶えなさい」

メリー「私の……夢」

 

メリーが、何やら思い込んでいるような顔をする。

後の八雲 紫になる者とは思えない程臆病だったのに、この娘は本当に成長したなぁと思う。

……幻想郷。

幻の想いの郷を創るのは貴女よ、八雲 紫(マエリベリー・ハーン)

 

メリー「うん、分かった。私には私の夢がある。それを叶えて、いつかやみぃと肩を並べられる位にまで強くなる!」

「ふふ、それは良かったわ。私はいつまでも、待ってるからね?」

 

私が笑顔を見せると、つられてメリーも笑顔を見せる。

いつしか、アリシアもチロルも全員が笑顔の華で包まれていた。

 

チロル「今のメリーちゃん、凄く可愛かった!」

メリー「なっ、そ、そんなことないよ~……えへへ」

「あら貴女、喜びが隠せてないわよ」

アリシア「そうだぞ、メリー。お前は喜怒哀楽が激しいな」

 

そんなやり取りを続けていると、いつしか辺りは暗くなり始めていた。

 

チロル「あれ、もう暗くなってきたよ?」

「あらそうね、そろそろ私たちの家に帰りましょうか」

メリー「そうね!」

アリシア「そろそろ夕飯の支度をしないといけませんね」

 

都を見渡してみると、電気……じゃなくて松明に火が点々と灯っている。

そういえばもう晩御飯の時間だったわね。

晩御飯についてはアリシアがいつも作ってくれているが、たまには私1人で作ってみようか。

 

「アリシア、今日は私1人で晩御飯を作っても良いかしら?」

アリシア「えっ?あ、はい。構いませんが……」

 

アリシアが作る料理はいつも美味しい。

従者が料理出来て主が出来ないっていうのは恥だしね。

私だって料理が出来ることを証明してやりましょう。

 

チロル「闇ちゃん、料理出来るんだ~!楽しみ~!」

メリー「へぇ、今日はやみぃが作ってくれるんだ。楽しみだなぁ~」

アリシア「何か、申し訳ありません……お手を使わせてしまって」

「良いのよ、私が好きでやってることだし!」

 

皆が私の料理を楽しみにしている……これは、失敗出来ないな。

そう思った私は、みんなを連れて家に帰るのだった……



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第25話 私の夢が叶うまで

メリーside

 

「う、うぅん……あら、もう朝かな?」

 

布団から這い出て襖を開けて外を見てみると、もう陽が登り始めていた。

やみぃがくれた時計を確認してみると、まだ6時であった。

しかし、境内に出てみると、やみぃとアリシアが。

 

闇「良いのよ、これ位私に任せなさい」

アリシア「し、しかし……う~ん」

 

竹箒を持って境内の落葉を掃くやみぃと、それを申し訳なさそうに見るアリシアの姿があった。

それを見てて仲睦まじいなと思った。

私はそこに出ていってみる。

 

闇「あらおはよう、朝ご飯まだ出来てないからちょっと待っててね」

「いや、別に良いよ。それと掃除手伝うね!」

 

私は、傍にあった竹箒を1本取り、やみぃのように掃き始めた。

 

闇「(*`゚з´)b゛チッチッチッそんなんじゃダメよメリー。箒はね、もっとこうやって高速に動かすものなのよ!」

 

やみぃが、お手本のつもりなのか、結構速く箒を動かし始めた。

そんなに速く掃いて、落葉が舞い上がらないのかと疑問に思ったが、以外にも1箇所に綺麗に集められている。

私はそれを見て、負けてられないなと思った。

 

「よぉ~し!私もやみぃに追いついてみせるわよ!」

 

私も、負けじとやみぃみたく高速で箒を掃き始めてみるが、どうも上手くいかない。

どうしても、落葉が舞い上がってしまい、やみぃのように1箇所に集まらないのだ。

 

「えぇ~!?どうして!?」

闇「経験よ経験。貴女も毎日経験すれば、きっと出来るようになるわよ。アリシアに教えて貰いなさい。但し、毎日やらなければ意味が無いからね?」

 

やみぃは、後はよろしくね~と言ったかと思うと、神社の中へと消えていった。

やみぃの朝ご飯を作っている姿を見たことないが、どんな所なのだろうか。

見てみたいな……いや、まずはこの散らかり放題の落葉をどうにかしないとな。

 

アリシア「後は私がやっておくぞ?元々私の仕事なんだから」

「別にいい……いや、せめて箒の使い方教えて」

アリシア「あぁ。まず、箒の持ち方だが……こうして……」

 

箒の持ち方から何まで全て、アリシアが全て丁寧に教えてくれた。

現代では家の掃除なんか碌にしてこなかったし、毎日蓮子と共に研究に明け暮れていたものだから。

しかも、現代には掃除機というものがあった。

だから、こういう原始的な竹箒等扱ったことなんてまぁないので、良い経験になったと思う。

 

「あ~、良い匂い……朝ご飯もう出来てんのかな?」

アリシア「何から何まで御先祖様がなさってしまうので、私の仕事が無くなるんだよな……あまりお手を煩わせる訳にはいかないのだが」

「真面目だね~、アリシアは。やみぃが好きでやってるっぽいし良いんじゃないの?」

 

主と従者の立場が逆転しているような、と私は思ったが。

まぁそんなことはどうでもいい。とりあえず朝ご飯を食べよう。

私は、神社の居間へと向かった。

 

 

「うわ~、美味しそ~!」

 

机の上には、目玉焼き、焼き魚、ご飯、味噌汁等が置かれており、とても美味しそうに見える。

昨日の晩ご飯といい、どうしてやみぃはそこまで美味しそうに、いや実際に美味しく作れるのだろうか。

さっきのやみぃが言った通り、やはり経験だろうか。

 

全員『頂きます』

 

私はまず、味噌汁に手をつけた。

……美味しい。

熱々の味噌汁は濃すぎず薄すぎずの加減がバッチリで、焼き魚に関しては魚臭さも抑えられている。

 

「美味し~、これからは毎日作って欲しいなぁやみぃ」

闇「別に良いわよ」

チロル「闇ちゃんの作る料理ってホント美味しいもんね~、アリシアちゃんに負けず劣らずって感じだよ!」

アリシア「チロル様、それは間違いかと……御先祖様の方が絶品ですよ」

闇「いやぁ、そうかしら」

 

そんな他愛もない会話をし、いつの間にか朝ご飯を食べ終えていた。

皿を洗おうとするやみぃを、アリシアが止めるという主と従者の仲睦まじい姿を見てから部屋に戻る。

 

 

 

 

自室にて

 

 

「ふぅ……今日も頑張りますか」

 

私は、机に向かい、紙の束を取り出した。

実は今、皆には内緒でとある研究をしている。

それは……新しい世界を作る方法。

世界といっても、元の世界から隔絶された土地を作るだけだけど。

……私は、昨日やみぃに言われた言葉を思い出していた。

 

「私の夢……それは、人間と妖怪が平等に暮らせる世界を作ること。ただ、それをするには私がかなり高い存在に着かないとならない。即ち、"大妖怪にならないといけない"」

 

大妖怪……それは、妖怪の中でも強い力を持つ存在。

それになるには、長い年月を過ごし、妖力を最大限にまで高めることが必要。

やみぃが言っていた新しい世界の統括者になりたいとも思ったのだが、やはり自分の夢は自分で叶えないといけないな。

 

「まずは、外と隔絶する為の結界を張る方法を覚えないと……」

 

因みに、結界を張ること自体は出来る。

弾幕勝負だって、やみぃに何度世話になったか分からない。

しかし、あまり強力なのは経験がない。

だから、急に強力すぎるものを張ろうとしたって失敗するだけだ。

 

「手始めに……」

 

私は、手に妖力を溜め、私の周りに線を形作っていった。

元々結界を視る力を持っていた私は、この程度はすぐに出来るようになった。

今は、境界を操る能力を持ち、様々なことに挑戦し、より強力な結界を張ってみる。

 

「これを、もっと……何重にも……」

 

二重、三重、と試してみるも、何故か三重が限界だった。

妖力切れを起こし、いつも倒れてしまうのだ。

四重の結界を張ろうとするも、三重から四重までの間に越えられない壁が存在していた。

私の妖力は日々少しずつ増えていっていると言われるが、それだけじゃ全く足らないのだ。

 

「うっ、く、ふぅ……何で、成功しないのよ」

 

私は、頭の中で良からぬ想像をしていた。

 

 

 

 ̄ ̄私は、夢を叶えられないのではないか。

 

 

 

「っ!……違う!絶対絶対、叶える!やみぃを、越える……っ!」

 

大妖怪になるにはそれ相応の年月と努力が必要。

私が今しているこんなんじゃ、代々の大妖怪たちには到底辿り着けない。

……ましてや、天人であるアリシアや龍神であるやみぃなんかには。

 

「……修行、修行をすればいいんだ。弟子にして貰おう!」

 

元々少し教えてくれていただけのやみぃに、今度は本格的に大妖怪になる為の修行をつけて貰えば良い。

その為に、弟子にして下さいと頼みに行こう。

そう心に決めた私は、早速やみぃの元に向かうのだった……

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

「弟子にして欲しい……?何でまたそんな」

 

今日、メリーが私の所へ「弟子にして下さい!」と頼みに来た。

何を企んでいるのかは不明であるが、理由を聞いてみましょうか。

 

「どうして弟子になりたいの?たまに練習する位じゃダメなの?」

メリー「はい、私は大妖怪になりたいんです!夢を叶える為には、もうそれしかないんです!」

「……こりゃまた驚いたわね」

 

私は、内心凄く驚いていた。

まぁ、メリーが最近部屋にこもって結界を張る練習をやっているのは知ってたけど。そんな理由があったのか。

まさか、メリーが自ら大妖怪になりたがるなんて。

……確かに、目の前にいるマエリベリー・ハーンは後の大妖怪(八雲紫)ではあるが。

 

「ま、別に良いでしょう」

メリー「本当に!?」

「でも、貴女にとって結構な負担になるかもしれないわよ。天人であるアリシアなんて、天界に住んでいた頃は毎日血反吐を吐くようなきつ~い修行をしていたらしいし」

メリー「嘘!?」

 

今は、あんなに立派になっているけどね、と付け加えた。

人は皆、最初は素人で何の力も持たずに始まる。

メリーだって、いつかは本物の八雲 紫になれる日がくるんだから、その日まで時間をかけてゆっくりと修行を重ねれば良いんだ。

いつか、幻想郷ができる日まで……

 

「修行は明日からにしましょう。今日はゆっくり休むといいわ」

メリー「はい、師匠!」

 

師匠って、と思わず笑ってしまった。

まさか、後の八雲紫を弟子に構えるなんてねと、呟いた。

いつか貴女が幻想郷を作り上げるまで、私がしっかりと鍛え上げてあげるから待ってなさいね……

 

マエリベリー・ハーン(八雲紫)



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第26話 最期の別れ、それでも……

チロル「美味しかった~!連れてってくれてありがとうね、闇ちゃん!」

「別に良いわよ、また行きましょうね」

チロル「やった!楽しみ~!」

 

あれから何日か経ったある日、私はチロルを連れていつかの甘味処を訪れて団子を食べに行った。

私が何度も訪れている行きつけのお店で、店主にも顔を覚えられている。無論、チロルもそうである。

 

 

「あっ、そういえば今日、5人の求婚者が来る日だったわね」

 

うっかり忘れそうになっていたが、輝夜に求婚していた男たちが難題をクリアする為のものを持ってくる日が今日である。

因みに不比等の件であるが、私が偽物を用意してあるので大丈夫である。それを渡して、輝夜と結婚したことにしろと言ってあるから。

 

「あら、もうちょっとだわ。少し早いかもだけど、もう行っておきましょうか」

 

 

 

輝夜の屋敷にて

 

チロル「こんにちはー!」

輝夜「よく来たわね、闇にチロル?」

「えぇ。少し早かったかしら?」

輝夜「いいえ、大丈夫よ。貴女たちがいれば退屈しないで済むしねぇ」

 

私たちが雑談を続けていると、ふと輝夜が口を開いた。

 

輝夜「それでね、今日じゃなくて月の使者のことなんだけど……」

「あぁ、月の使者ね。殺すんじゃなくて気絶させるっていう話だったわよね?」

輝夜「そうよ。で、その月の使者の中に私の知り合いがいるんだけど……」

「永琳?」

輝夜「そうそう!永琳を連れて逃げようと思うの、それでも良いかしら?」

「もちろん」

 

永琳、輝夜を連れて私が逃げ場へと行く。

後の永遠亭になる場所に、安全な所へ案内してあげるのだ。

因みに、他の皆についてだが、皆は神社で待っているとのこと。確かに、私が出かけてる間、神社に誰もいなかったら不安だしね。

 

輝夜「本当に……何から何までやらせてしまって、ごめんね。申し訳ないわ」

「良いのよ、好きでやってるだけだし。ね、チロル?」

チロル「うん!輝夜ちゃん可愛いし!」

輝夜「あら、そうかしら~?チロルちゃんとかやみぃの方が可愛いと思うわよ~?」

「もう!何言ってんのよ輝夜!そんな訳ないでしょ!?」

 

私は、輝夜をばんばん叩いて否定してみせた。

輝夜は終始笑っていたが、それはもうお姫様の笑い方ではなく、友達とおしゃべりしている時の笑い方であった。

 

翁「かぐや姫~、求婚者様方がいらっしゃいましたよ」

 

そんな他愛もない話をしていると、翁が襖を開けて入って来た。

もう5人の求婚者が来たようだ。

 

輝夜「分かったわ、おじい様」

翁「頑張ってくださいね。それと、夜刀神様。今日はかぐや姫の為、こんな所においでなすってありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ。私は好きでやらせてもらっていますのでお気になさらず」

 

私は、微笑んでお淑やかに返す。

前から、翁には呼び捨てで呼ぶよう言っているのに未だに夜刀神様と呼ばれている。

まぁ、大概の人間には~様と呼ばれているのでもう慣れているが。

 

 

 

 

輝夜「 ̄ ̄石作皇子様、これはただの石鉢です。よって不合格とします」

石作皇子「っ!そんな……」

 

輝夜に言われた石作皇子は、とても残念そうに帰っていった。

因みに、本物かどうかは私が判断している。

難題は、全て実在する物ではあるのだが、生身の人間であれば絶対に取ってこれないような所に存在しているのだ。

藤原不比等が持ってくる予定(笑)の秋葉の首(笑)は、私が秋葉に前もって了承を得ている。……凄く嫌な顔をされたけど。

 

輝夜「では、車持皇子様……どうぞ」

 

輝夜がそう言うと、車持皇子……藤原不比等が前に出る。

その手には、事前に私が渡してあった、首が入っているであろう木箱が。

 

「……輝夜

輝夜「……えぇ、わかっているわ

 

私たちは、5人の求婚者に聞こえぬよう耳打ちし、輝夜と私は木箱を持って部屋の奥に消えていった。

まぁ、木箱の中は偽物って分かっているのだけど、一応、5人の求婚者には確認しに行ったように見せておかないと。

不比等を除く4人の求婚者には、輝夜は藤原不比等と結婚したと認識させる為だ。

 

 

 

少ししてから……

 

輝夜「車持皇子様、合格です。よって、私は貴方様と婚約致します」

 

輝夜がそう話した瞬間、不比等を除く4人の求婚者が飛び上がる程驚いていた。

何やらザワザワとし、騒がしい雰囲気である。

そう思っていると、不比等が口を開いた。

 

不比等「かぐや姫、誠にありがとうございます。貴女を必ずやお幸せにします」

輝夜「ありがとうございます。楽しみにしていますわ」

 

不比等と簾ごしに会話する輝夜の、いつもと全然違うお淑やかなお姫様のような雰囲気に、私は吹き出しそうになりながらも、耐える。

 

輝夜「それでは、今日にて婚約のお話は終了致します……皆様、ありがとうございました。どうぞお引き取り下さいませ」

 

輝夜かそう言うと、不比等を除く4人の求婚者たちは帰っていった。

抗議する者も現れるかと思ったのだが、以外と素直に帰っていった。

 

不比等「……かぐや姫」

輝夜「分かっています。妹紅を此方に」

 

今まで、庭に隠れていた妹紅が現れる。

ついに、この時が来たのか。

……妹紅が、不安そうに父親である不比等の方をじっと見る。

寂しいんだろうな、父親と別れるのが。

次会えるかも定かではない上、治らない病気にかかっている。

……そう、妹紅にとってこれが父親との最後の時だ。

 

不比等「妹紅、幸せになるんだぞ」

妹紅「はい……父上もご無事で」

 

妹紅も分かっているだろう。

……無事でなんて、いられるはずがない。

さようならなんて、言いたくない。

ずっと、一緒にいたい。

……私も出来ることなら、願いを叶えてあげたいのだが。

 

不比等「それではかぐや姫、妹紅をよろしく頼みます」

輝夜「お任せを。……来なさい、妹紅」

妹紅「……うん」

 

妹紅が、段差を登って此方へとやって来る。

その顔はどこか寂しげだった。

妹紅を此方に渡した後、不比等は何も言わずに此処を出ていこうとした。

 

「不比等さん」

不比等「……?」

 

私は、気づけば不比等のことを呼び止めていた。

どうしても、心に留めておいて欲しいことがあったからだ。

 

「……妹紅との別れを悲しまないで下さい。いつかきっとまた会えますから」

不比等「!!!……はい、分かっています。ありがとうございました。この恩はきっといつか返します」

 

不比等は、とても驚いたような顔をしていた。

だけど、すぐに何かを察したかのような表情になり、私たちにお礼を告げ、本当に此処を出ていった。

 

 

 

輝夜「……ねぇ、やみぃ」

「何かしら」

輝夜「また会えるって……貴女」

 

輝夜が、私の方を見て不思議そうな顔をしていた。

まぁ、不思議がるのも無理はないだろう。

 

「私はただ単に予想をしただけよ。絶対という訳ではないけれど、不比等と妹紅との間に、親子として本当の愛があったのなら、きっと会えると思っただけよ」

輝夜「へぇ、貴女って意外とロマンチストだったのねぇ……まぁ、信じなくもないけど」

妹紅「私、いつか父上に会ってみせる……いつか、どれだけ時間がかかっても絶対会いにいく」

 

お互いを愛する気持ちが絶えない限り、いつかまた会える。

どこの世界でもあるような言葉だが、意外とこれは叶ったりするものだ。

ほら、どんな物語の主人公でも、一度別れた愛する者と最後には再開したりする場合が多いじゃない?

それを、私はただ単に不比等と妹紅に当てはめただけだ。

そこまで、複雑なことを考えている訳ではない。

 

「さて……お別れも済ませたことだし、私は帰るわね」

輝夜「分かったわ。またいらっしゃいね」

「えぇ。帰りましょう、チロル」

チロル「うん、ばいばーい!」

輝夜「えぇ、ばいばい」

妹紅「またね~!」

 

お爺さんとお婆さんに預かって貰っていたチロルの手を引き、私は帰路に就いた。

 

チロル「闇ちゃん、今日の晩御飯何かな?」

「さぁ、何でしょうね?今日はアリシアに作ってって頼んであったからね~」

 

私は、人に見つからないような所に行った後、アリシアとメリーが待つ家へとスキマを繋げ、入っていった。

 

 

 

「ただいま~」

チロル「ただいま!」

 

私たちが、玄関で靴を脱いでいると、アリシアとメリーが玄関まで来て出迎えてくれた。

 

アリシア「お帰りなさいませ、御先祖様、チロル様」

メリー「お、お帰りなさい……師匠、チロルちゃん」

 

アリシアとメリーは、私たちに深々と礼をした。

……ん?メリーも?

いつもなら畳に寝転がっていて、私たちが帰ってきても出迎えるどころか、反応すらしないのに。

 

「へぇ、メリーが出てくるなんて珍しいのね」

メリー「し、師匠を出迎えることなど当然のことです!夕飯はもうできていますので、冷めない内に召し上がって下さい!」

チロル「わぁ、楽しみ~」

 

そう言うと、メリーは居間へと駆けていった。

チロルは相変わらず夕飯を楽しみにしているが、私ははてなのカチューシャだ。

いつもは面倒臭がりなメリーが、夕飯を作れるはずがない!

そう思った私は、アリシアに事情を聞くことにした。

 

「ねぇ、メリーどうしたの?」

アリシア「メリーですか?メリーなら、『師匠の弟子として頑張らなきゃ!……それで、弟子って何をすればいいの?』……と私に聞いてきたので、私が色々と教えていました」

「……メリーらしいわね」

 

すっかり弟子になった気分らしいわね。

まぁ、私も満更ではないが。

だから、だらけている時はだらけるメリーが、あのメリーがあんなに働き者だったのね。

……昔の私を思い出すわ。

 

「まぁ、そんなことは後にしましょう。まずは夕飯を食べなきゃね。冷めちゃうわ」

チロル「うん!」

アリシア「そうですね」

 

そんな会話を続けながら、私たちは、メリーが走っていった居間へと向うのだった……



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第27話 再会

 ̄ ̄月人が輝夜を連れ戻しに来る日。

 

「輝夜、緊張してる?」

輝夜「いいえ、別に。貴女や永琳がいてくれるからね」

「それもそうね」

 

輝夜はいたって普通で、いつものすました顔だ。

妹紅はキョロキョロとせわしなく辺りを見渡し、これから何が起こるのかあまり分かっていない様子。

 

輝夜「それにしても……兵の数多すぎよ。こんなにいてもあんま意味ないし」

 

確かに。

帝から派遣されたと言われる兵は、輝夜の屋敷をぐるりと囲むかのように(きた)る月人たちを待ち構えている。

月の技術は凄い。龍神の私でもそう思う位に。

今もそうかは知らないが、私がまだ都市に住んでいた時でも、月に行くロケットを1ヶ月ちょいで作り上げてしまう程はあったのだ。

だから、そんな技術を持っている月人にただの人間が勝てるはずがない。

 

「まぁ、意味なんかないけど私がいるわ。何とかなるでしょう」

輝夜「ふふ、そうね。貴女がいれば大丈夫ね」

 

しばらく2人でこれからのことを話していると、妹紅が不安げに私たちに話しかけてきた。

 

妹紅「ねぇ、2人共……さっきから言ってる、月人ってそんなに強いの?危険なの?帝が派遣した最強と言われる兵たちでも勝てないの……?」

輝夜「妹紅……」

 

妹紅は、帝が送る兵こそが最強だと信じ込んでいるのだろう。

……まぁ、都の中ではそうだと思うけど。

でも、その最強の実力が月人に効くかと言われれば、それは否と断言出来る。

 

「月人の力は果てしないわ。貴女が見たこともない武器を使ってくる。例えば、人を一瞬で殺す光線を放ってくるわ。彼等は鋼鉄の乗り物を使う。兵が放つ矢なんか、当たった所でかすり傷すら付かないわ」

 

私がそう言うと、妹紅は更に怯え始めた。

まぁ、無理もない。自分が聞いたことの無い話をされた上、最強と信じている兵たちが手も足も出ないことを聞かされたのだから。

 

輝夜「でも、大丈夫……私の友人が月人で、協力してくれるのよ。それに、龍神である闇がいるのよ?私たちが負けるはずないわ。だから、私たちを信じて共に待ちましょう」

妹紅「……それもそうね、分かったわ」

 

輝夜がそう言うと、妹紅は安心して大人しく座った。

私は静かに目を閉じ、来るその時を待ち続けていた。

耳をそばだて、月人の力を感じ取る体制になる。

そして……

 

 

 

「……来たわ!!!」

 

私が目を開け、周りを見渡した時には、兵たちは全員地に伏せていた。

確認したが、どうやら死んではいないよう。気絶しているだけのようだ。

力の発する方に目をやると、銃を持った月人の姿があった。

オマケに、その月人の後ろにはえらくゴツイ宇宙戦艦が。

 

月人「かぐや姫を此方に寄越せ。でないと……」

 

その月人は、私に銃口を向けてきた。

その銃は、私が軍に居た頃使っていたようなものだ。

まぁ、私は銃よりも剣派だったのだが……

 

「ふふ、そんなことをしても無駄よ?月人さん、お久しぶりですね」

月人「なっ!いつの間に……!?」

 

私は、一瞬で月人の目の前まで行き、銃を掴む。

その銃を真横に歪ませ、そのまま月人の顎に拳を叩き込み真上に向かせ、気絶させる。

 

輝夜「貴女の戦ってるとこ、初めて見たけど……あの月人を一瞬で……やはり龍神ね、凄いわ~」

妹紅「す、すご~い……」

「これ位普通よ」

 

私の戦っている所(笑)を見ていた輝夜と妹紅は、さぞ驚いている様子だった。

まぁ、こんなの戦いって言わない……そう思っていたのだが。

すると、戦艦の中から見覚えのある顔が出てきた。

 

 

?「 ̄ ̄久しぶりね、闇」

 

……永琳だった。

長く揺れる髪は既に銀に染まっており、蓬莱人になったのだと確信させられる。

 

「本当に久しぶりね……えーりん」

永琳「なんか、発音が違ったような……まぁいいわ、行きましょう」

 

永琳は、弓に矢をあてがい、月人に向かって放った。

流石永琳、弓の腕は1級品だ。

永琳の放った矢がばらまかれ、周りにいた全ての月人の身体を貫いた。

 

「とりあえず逃げる場所は考えてあるの。私が案内するわ」

輝夜「えぇ。行きましょう、永琳、妹紅!」

妹紅「う、うん!」

永琳「分かったわ」

 

私は、用意してある逃げ場へとスキマを繋ぎ、皆を連れていった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄私の神社にて

 

「はい、着いたわ。私が住む神社よ」

皆『うわぁ……』

 

皆を連れて、私が住む神社へ連れてきた。

本当は、永遠亭となる場所へと連れていきたかったのだが、永遠亭の建物がまだ出来ていないので一時的にここに皆住まわせてあげることにした。

 

妹紅「ここ、本当に闇の神社なの!?」

「そうよ~」

輝夜「とっても広いわね」

永琳「本当にね。流石龍神様って感じだわ」

 

皆は、口々に私の神社を見て感想を述べる。

まぁ、比較的大きめに作ったから……諏訪大社位はあるんじゃないかしら?

急にお客人を何人も連れてきて、お泊まり会~!なんてことも出来る。

 

「で、ここからの話なんだけど……」

 

私は、神社を見てはしゃいでいる皆に話しかけた。

ここからの話。そう、永遠亭が出来るまでの話である。

永琳は月人を裏切り、輝夜はずっとここに住むことを決めている。

2人の友人として、何とかしてあげたいと思った。

 

「貴女たちが住む所、もう決めてあるのよ。貴女たちが気に入ったらの話なんだけれど……」

永琳「私はどこでも良いわよ。姫様が気に入った所ならどこでも」

輝夜「私も。のんびり暇が出来ればどこでも良いわ~」

妹紅「私も!皆といられればそれで良い!」

「そう」

 

3人共どこでも良いそうだ。

それにしても、輝夜はニートなのかしら?

暇が出来ればどこでも良いって……暇が1番苦しいのよ、人生は。

まぁ、永遠亭となる場所はもう決まってある。

とある竹林の奥に、永遠亭となる建物を建てようと思っている。

 

「まぁ、とりあえず今日は寝なさいな。お部屋へ案内するわね」

永琳「あら、ありがとう」

輝夜「ありがと~!」

妹紅「ありがとう!」

 

私は、楽しそうにしている3人を連れて、アリシアとメリーが待つ神社の中へと入っていくのだった……

 

 

 



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第28話 闇ちゃんの頑張り

「……よっと。こんなもんかしらね」

 

翌朝、私は、永琳たちが住む家を建てる為、とある竹林に来ていた。

その竹林はとても大きく、私が数百メートル上に飛んで確認しても、端が見えなかった。

 

「アリシア、皆を呼んできて貰えるかしら?」

アリシア「承知致しました、少々お待ち下さい」

 

アリシアは一礼すると、虚空の中に消えていった。

能力は次元を司る程度の能力。

あらゆる次元を移動出来、一歩間違えていたら私と同等の存在になっていたと思う。

普段の使い方としては、場所移動に使ったりするんだって。まぁ、八雲 紫……今のメリーと同じような使い方ね。

 

「それにしても……良い出来栄えね。内装はどんな感じにするのかしら」

 

外観はほぼ完成した。

後は、永琳たちが内装を考え、要望があれば私が調達する。

庭も結構広めにしたつもりだ。

 

アリシア「御先祖様、連れて参りました」

 

ふと声が聞こえ、後ろを振り返ってみるとアリシアがいた。

アリシアが開いた空間から、メリー、チロル、永琳、輝夜、妹紅が順番に出てきた。

 

永琳「へぇ~、凄いわね。これ全部貴女が作ってくれたの?」

「そうよ、どうかしら?結構壮大じゃない?」

輝夜「広っ!これだけあったらほぼほぼ住むところは困らないわね!」

メリー「師匠がこんなこと……!私も見習わなくっちゃ……」

チロル「凄~い!」

妹紅「こ、こんな家初めて見た……!」

 

皆が、外観についての感想を次々に述べる。

ふふ、やはり腕を奮った甲斐があったわね!家具の調達を頼まれたら、最高級の素材で作ってあげようかしら。

 

「また何か、困ったことがあったら言って頂戴ね。家具位なら揃えてあげられるわ」

永琳「わざわざありがとう。じゃあ、早速なんだけど……」

 

私は、永琳たちと中に入り、どこをどんな感じにするのかの話をしていた。

私は、永琳たちの要望通りに家具を調達出来るようメモをし、必要な材料を予想していた。

 

「……よし、これ位で十分かしら?」

永琳「えぇ。本当にありがとうね、闇。お礼は何が良いかしら……」

「あー、じゃあ、神社で宴会を開きましょうよ!この件に関わった人全員と他の皆の友達も呼んで!」

 

私は、楽しみで仕方がなかった。

大人数で宴会を開くなんて、諏訪対戦以来だろうか。

あの時は結花にお酒のイッキのみを迫られて大変だったわ~。……まぁ、結果的に強引に飲まされて酔いつぶれたのだけれど。

 

輝夜「それいいわねー!で、誰を誘うの?」

「んー……秋葉と、アマテラス、スサノオ、ツクヨミの3人と……」

輝夜「へぇ、かの三貴神も招くのね。ツクヨミ様に至ってはもう驚きの言葉も出ないわ」

「当たり前でしょ。なんたってあの子たちは私の誇らしい姉弟たちなんだもの」

 

永琳は、私たちの様子を見て微笑していた。

永琳たちは知っている。ツクヨミが私の妹だということを……

 

輝夜「……あの白狼妖怪も来るの?」

「……?えぇ、そうよ?何か問題でも?」

輝夜「いいえ、なんでもないわ。気にしないで頂戴」

 

一瞬、輝夜からとてつもなく恐ろしいオーラが発せられたが、気にしないでおこう。

てか、輝夜ってどんだけ秋葉のこと嫌ってんのよ。

 

「ま、良いわ。とりあえず、呼びたい人とか妖怪とか神様でもいいから、いたらどんどん誘って頂戴ね」

永琳「分かったわ。ツクヨミ様も来られるなら、楽しくなりそうね」

輝夜「料理は誰が作ってくれるのかしら?」

「勿論私よ、皆楽しみにしてて頂戴ね!」

 

実をいえば私はかなり張り切っていたりする。

久しぶりに、皆が集まるのだ。腕を奮わないといけないわよね!

ツクヨミたちとは久しぶりに会うけど、元気してるかしらね?

私は、夜に開かれる宴会を楽しみにしながら、料理を何にするかを考えるのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「んー、こんなもんかしらね?後は稲荷と寿司と……和食を主に、洋食を後少し位入れましょうかね」

メリー「師匠ー!私も何か手伝います!」

「あー、じゃあ、アリシアの方……会場の整備を頼めるかしら?あ、それか誰でもいいから宴会に招待してきてくれる?」

メリー「あっ、じゃあ、アリシアを手伝います!では!行ってきます!」

「ふふっ、気をつけてね」

 

境内に向かって走っていくメリーの姿を、手を振って見送った。

私は、途中だった料理の準備を進めていった。

 

「んー、美味しそうな匂い……これなら皆よろこんでくれるわよね!よし、完成でいいかしらね!」

 

私が作ったのは、卵焼き焼き飯お寿司稲荷オムライスパスタ……あたりのベタな料理だ。卵料理が何個か被っている気もするけど、まぁ良いでしょう。

どれも美味しそうで、お寿司も色んなネタがあって色とりどりである。

 

 

「料理も出来たし……運ぼうかしら!」

 

私が料理を持ち、蔵にしまっておこうと立ち上がったところ丁度アリシアが来た。

 

アリシア「御先祖様!お待たせしました、お手伝い致します」

「あら、別に良いのよ?貴女はよく働いてくれるし、たまには休息も必要だと思うのだけど……」

アリシア「いえ、私にとっての幸福は御先祖様の元で働くことですので……」

「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃあ、これを蔵に持って行ってくれるかしら?」

 

私は、持っていた料理の半分をアリシアに渡して、一緒に蔵に向かった。

 

 

「よいっ……しょ!ふぅ、これで宴会での食事の用意は十分かしらね!後は会場の準備かしら?」

アリシア「それでしたら御先祖様、チロル様と遊んでいらしては?会場の準備は私が……」

「えぇ、別に良いわよ~私は平気よ?それに、チロルだって今は寝てるs『どうしたのー?』……」

 

アリシアを休ませたくてついた嘘がこんなにも早くバレるとは……全く、チロルったら!

 

アリシア「チロル様は起きておられますが?」

「っ~!!!///」

 

私は、思わず視線を下に向ける。

アリシアを休ませてあげたくて、こうしたことなのに……

アリシアは毎日が出勤日みたいなものなのに、ほぼほぼ休みなし。

私が呼べばコンマ1秒で来てくれる。それが毎日だ。

 

「ねっ、ねぇアリシア……貴女疲れないの?」

アリシア「えぇ。私の体力は無限です。御心配感謝致します」

 

アリシアは両腕に力こぶを作ってみせた。

体力が無限かぁ……私が言いたいのはそうじゃないのよね。

どうせ私がここで、アリシアに休んで欲しいってお願いしたってアリシアは絶対休んでくれないだろう。

私は、アリシアに休暇を与えることで娯楽とかを楽しめるようにしてあげたいのだ。

 

「アリシア」

アリシア「如何なさいました?」

「貴女、明日は休みなさい……これは、私からのお願いよ。貴女にも自分の楽しみ位あるでしょ?あ、私に関すること以外でね」

アリシア「はい、ありますよ。例えば……神社の整備等でしょうか」

「結局はほとんど私に関することじゃない!……で、休んでくれる?」

 

アリシアは、顎に手を当てて何かを考え始めた。

しばらく経った後、不意に顔を上げて私に呟いた。

 

アリシア「……分かりました。御先祖様の仰る通り、明日は休暇を頂くことに致します。しかし、今日は働かせて下さい。宴会ですので、御先祖様をサポートする者がメリーだけでは不安で御座います」

「あらあら、そんなに心配しなくても大丈夫よ?笑」

 

私たちはそんなやり取りを続け、居間に戻ってきた。

そこには、ちゃぶ台を囲んで楽しそうに話しているメリーとチロルの姿が。

 

チロル「あ、闇ちゃん!アリシア!もう宴会の準備できたよ~!」

メリー「あ、師匠、アリシア……もう宴会が開ける状態にしましたよ!」

 

メリーが、立ち上がって私たちにそう言った。

境内の方を見ると、落ち葉が綺麗に片付けられ、とても綺麗だった。

私は、腰に手を当て、よし、と言った。

 

「じゃあ、宴会の時間までまだまだ時間はあるし……ゆったりしてていいわよ、私も体力温存の為に休んどこうと思うし!」

 

私はそう皆に告げると、スキマを出して異空間へと飛び込むのであった……

 



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~宴会とバトルロワイヤル編~
第29話 宴会への道と戦闘狂とやみぃの使者と


 ̄ ̄異空間の間にて

 

へカ「やみぃ〜!こんなもんでどうかな?」

「あら、いいじゃない…あ、でももうちょっと砂糖を入れた方がいいかもね」

 

私は、皆と別れた後、異空間の間を訪れていた。

そんな簡単に異空間に行けるのかよ、と思った人もいるだろう。

生憎様、私は龍神なので能力でチャチャッと行けちゃうんです!

まぁ、そんな話は置いといて…何故、私は異空間の間に来てるか疑問になってると思うのですが。

実は、ヘカことへカーティア・ラピスラズリという人物は、お菓子作りが大得意。

へカの作るケーキとかクッキーとか格別に美味しい。

なので、宴会に持っていくデザート的なものを作りに来たのだ。

 

ちなみに、私は蒸しパン作りをしてます。

「んー、いい匂い…我ながら上手く出来た気がするわぁ!」

 

私は、お鍋の蓋を開けてそう言った。

使った材料は卵、ホットケーキミックス、砂糖、牛乳、サラダ油だ。

ちなみに、今回は宴会用なので、沢山蒸しパンを作らなくちゃならない。

従って、カップを並べる鍋が1つしかなかったり、小さかったりすると物凄く時間がかかる。

私の目の前には、10~20個位の鍋が並んである。

異空間の間の工房には魔力で動くコンロが沢山あるので、人が沢山集まるところでも沢山作れて効率が良い。

 

「は〜!終わった終わった、さてと、これを袋に詰めたら…ヘカ〜、ドーナツは作り終わった?」

ヘカ「うん!これ、どうかな?」

 

そう言ってヘカが見せてきたのは、色とりどりに飾り付けられた沢山のドーナツ。とても美味しそう。

砂糖がまぶされたもの、ココナッツパウダーがまぶされたもの、チョコを贅沢に使っているものまでもある。

私は、ヘカに試食してみていいか許可をとり、それを口に運ぶ。

 

「あらっ、とっても美味しい...貴女、何処かでお菓子作りでも習ったの?」

ヘカ「いや?全部独学だけど?」

「天才ね...」

 

まあ、納得の事実だ。

ヘカの様に、私と同じ位長生きしてるなら、お菓子作りを上手くなる位訳無いのだろう。

 

「さて、そろそろ(皆の所)に行こうかしら。ヘカ、ありがとうね~!また来るわね!」

ヘカ「うん!またね~」

 

私は、作ったお菓子を包みに入れ、スキマを作ってあっと言う間に異空間の間を後にする。

ヘカ、見ない間に随分と大人になっていたわね。あの調子じゃあ、私の力を凌駕するのも時間の問題かしらね?ふふっ...

 

「さてっと...これを先ずは蔵に入れようかしらね」

 

私は、地上に降り立ち、持っていた荷物を蔵へ運ぼうと歩き始めた時、後ろから私を呼ぶ声がした。

 

アリシア「お帰りなさいませ、御先祖様」

「只今帰ったわ。其方の準備はバッチリかしら?」

アリシア「はい、御先祖様の御命令通りに。メリーとチロル様にも率先して手伝って頂けたお陰で、予定より早く準備が終わりました」

 

アリシアだ。

準備がもう終わったか...全く、どうしてこの娘はこんなにも優秀なのかしら。千年に一度の逸材ね、こりゃあ...

 

「ありがとうね、アリシア。適度に休憩をとってね」

アリシア「勿体無いお言葉」

 

私は、蔵に荷物を入れ、その場を後にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

✿✾❀❁

 

 

 

 

 

 

 

結花side

「さぁ、これ位で大丈夫だろう…出発するぞー!」

 

アタシ達山に住む妖怪は、少し遠くの所で宴会をするという噂を聞きつけ、出かける準備をしていた。

主催者は、なんと……やみぃだったんだ!

久しぶりにやみぃと会える!その事実は、アタシの心をざわつかせた。

 

「種族は選ばない。大妖怪が数名出席!戦いが好きな者は集まれ!バトルロワイヤルも開きます!」

 

…って書いてある紙を下っ端鬼が持ってきたんだ。開催場所は5里ほど離れた山。

鬼子母神であるアタシが行かない訳にはいかないだろこれ!

アタシの力の腕試しになるし!酒もタダで呑めるし!

 

「ふふっ…楽しみだなぁ。どんな妖怪が集まるんだろうなぁ!」

?「ユウ…貴方もうちょっと自重しなさいよ。急に笑いだしたら、気持ち悪いわよ?」

?「辞めてやれよ、ルーミア。ユウは戦い好きなんだよ。無論、私や勇儀もなんだがな〜」

?「ハハッ、そうだよ!私ら鬼は宴会って聞いて駆けつけない訳にゃいかないからね〜」

 

アタシは、宴会に友人のルーミア達を連れていくことにしたのだ。

ルーミアは傍観者として、勇儀と萃香は酒と戦い目的でアタシに着いてきている。

戦いといえばそういや、最近本気を出した覚えが無かった。

本気を出してしまったら、面白くないから。

 

「本気で戦ったのは、''アイツ''と殺りあった(あそんだ)以来か…ふふッ。この大妖怪ってのは、アタシを楽しませてくれんのかな?」

 

アタシが最後に本気を出したのは、龍神のやみぃと戦った時だ。アイツと戦う以外は、本気を出したことが無いのである。

アイツは、ホンモノの熟練者。幾つもの修羅場を駆け抜けてきた、かなりのツワモノ。

 

勇儀「龍神と殺りあって勝つ奴なんか普通いないぞ?」

萃香「ユウは本物なんだよな!鬼の四天王である私らでも勝てないし」

「はっはっは…ん?」

 

勇儀と萃香との掛け合いを見て、笑っていたアタシは、前方に何かが見えるのを確認した。

 

ルーミア「......あら、ユウ。どうしたの?」

「いや、なんか......すっごく強いオーラを感じてだな……多分、妖怪の類だ」

ルーミア「妖怪?」

 

アタシは、一応身構えておいた。

どんな奴が出てくるか分かんないからだ。

アタシが負ける気等しないが、やみぃが言っていた。いつでも謙虚であれよと。

そう思っていると、いきなり、アタシらの目の前に降ってきたヤツがいた。

 

?「我が名は神宮寺 沙織(じんぐうじ さおり)。この地を治める最も高貴な女神、夜刀神 闇様に仕える者なり」

 

煌めいた紺の髪と、紅と金の目をした彼女は、やみぃの使者だとか。

……やみぃも、随分と顔の整ったヤツを連れてるな。そもそもやみぃが美少女だし。

 

「それで?沙織サマはアタシらに何の用だ?」

沙織「む……私はそのような名で呼ばれる身ではない。貴女は御先祖様の御友人なのだろう?私のことは気軽に沙織とでも呼ぶがいい」

 

沙織と名乗る女性は、軽く礼をした。

他の皆は、少し顔が強張っている。あの戦い好きな勇儀でさえも苦笑いをしている。

ツワモノだ。かなりの。アタシも、気を抜けない......

 

沙織「実は、御先祖様から私が貴女の腕前を調べろ、とのお達しがあったのだ。従って、私は貴女と戦わせてもらう」

「はぁ!?」

 

そう言った沙織とかいう奴は、勝手に戦闘モードに入った。

なんか、やみぃから感じるモノと同じ感じ……ってことは!?

 

「アンタは神なのか?やみぃと同じような力をアンタから感じるんだが……アタシは、神は相手にしないようにしているんだが。アタシは妖怪だぞ?勝てる訳がないだろ」

沙織「ふっ……はっはっはっ!!!戯れ言を抜かすでない。貴女は御先祖様に勝利したと聞いた。そのような者が私如き、倒せない訳がないだろう!」

 

そう言うと、沙織は何かを唱え始めた。

ふっ……確かに、やみぃに勝てて、やみぃの従者に勝てない訳ないよな。だが、やみぃと戦ってた時に苦戦したのは事実なんだよ。

それだけは分かってくれ……

 

沙織「 ̄ ̄!!!」

「?……ちっ、そう来たか!勇儀、萃香、ルーミア、隠れてろ!」

勇儀&萃香&ルーミア「「あいあいさー(分かったわ)!!!」」

 

アタシは、途端に地面から飛んだ。

……沙織が何かを唱え終えた瞬間、地面が黒く染まっていき、たちまちそこらじゅう埋め尽くされたのだ。

 

「うっ!?何だよ、コレ……!?危ねぇ!」

沙織「ふふっ。御先祖様直々に教えて下さった技だ。……精々その鋏に切り裂かれるんだな」

 

黒く染まった地面から、アタシなど簡単に切り裂いてしまいそうな鋏が大量に出現しては消えていったのだ。

 

「やみぃったらどんな危ない技を教えてんだ!?下手したら死ぬぞ!?」

沙織「おや、貴女はその技を生んだ方に勝利したのだろう?」

「それとこれとは別だよ!!!」

 

アタシは、沙織が放つ弾を避けながら、下から襲い来る鋏からも避けている。……鬼畜じゃないか!?

やみぃと戦っていた時も、結構鬼畜だったが、それ以上に鬼畜だよコレは!

 

「おらぁ!」

沙織「……やるな、この技を避けた者は貴女が初めてだ」

 

沙織は、そう言うと攻撃を辞めた。

今度は何が来るのかと身構えていたら、沙織は言った。

 

沙織「あぁ、安心するがいい。この技を避けれたら合格と仰っていたのだ。これにて、試験は終了だ」

「何の試験だよ……じゃあ、もう行っていいかい?」

沙織「あぁ、私は貴女の試験の結果を報告しなければならないので、これにて失礼する。先の宴会、私も歓迎致しますぞ」

 

沙織は、空気の狭間を出現させ、その中に消えていった。

……全く、アイツ(やみぃ)の考えることはいつもアタシが考えつかないことばかりだな。

ていうか、本当に強かったな。沙織って奴。

 

勇儀「お〜い、大丈夫か?」

 

1人でため息をついていると、勇儀と萃香とルーミアが木の上から飛び降りてきた。

 

「いやぁ、強かったよ。アイツ……アタシでも苦戦する。あのまま戦っていれば負けていたかも」

萃香「そ、そんなに!?……見てたけど、私も戦ってみたかったなぁ!!!」

勇儀「あぁ、私も手合わせしたかった。あのバカ強い結花が苦戦してたんだ、相当強いからな!」

ルーミア「貴女たち大概にしなさいよ……」

 

いや、アンタら見てたんなら戦いたいとか普通に思うわけないからな!?

ルーミアももっと言ってやれよ!戦闘狂と謳われたアタシでも引きそうだ……

沙織であれだけ強かったんだ、やみぃは相当に強くなったんだろうな……元々強いのに。

 

アタシは、勇儀と萃香とルーミアと共に、宴会会場へ向かうべく、歩き出すのであった……



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第30話 バトルロワイヤルの始まり

遅くなりました!(  '-' )ノ)`-' )ボコッ(T_T)


闇side

 

「皆さん、本日は私開催の宴会にお越し頂き、誠にありがとうございます。この宴会では、私共が作った料理を召し上がって頂く他、皆さんでバトルロワイヤルも開きたいと考えております……それでは、お楽しみ下さいませ!宴会の開幕です〜!!!」

一同『オーーー!!!』

 

私が、開幕の一声を上げると、皆が各々の食べたいメニューを取りに、立ち上がり始めた。

メリーやアリシア、ヘカに手伝って貰ったから、結構豪勢な料理が出来た。

鯛、鯵、岩魚、鮎、鮭、鯉などを釣り、舟盛り、寿司、天ぷらにして料理として出した。

……気に入ってもらえるといいのだけど。特に私の卵料理、あれは結構力を入れたからな。

 

「あら、アリシア。いつまでも私のそばにいなくてもいいのよ。貴女も楽しんでいらっしゃいな」

アリシア「いえ、そういう訳には……」

「そんなこと言わずに。貴女の分、何か取ってきましょうか?」

アリシア「いえ、御先祖様の分は私がお取りします」

「じゃあ、お願い」

 

アリシアは、私のお皿を持って立ち上がり、料理を取りに行った。

……さて、アリシアがいない間私は何をしようかしら。

 

ガラガラ

?「失礼」

「あら、来たようね」

アリシア「!」

 

開けられた襖の方を見ると、存在感を放つとある人物が立っていた。

煌びやかな紺の長い髪に、アリシアと同じ眼をしている背の高い女性だ。

 

「アイリーン、おかえり……どうだったかしら?」

アイリーン「はっ。アイリーン・サンチェス、ただ今帰還致しました。御先祖様の御友人殿の力は実に強大な力であり、御先祖様の力に匹敵する程でございました!」

「そう……!感謝します、アイリーン。貴女も席に着きなさい」

 

アイリーンは、私に一礼をすると、隣に座った。

アリシアは、アイリーンのことをじっと見つめ、料理を取り終えると、私の元に戻ってきた。

 

アリシア「戻ってきたのか、アイリーン」

アイリーン「えぇ、ただ今戻りました。姉様」

 

ちなみに、アイリーンはアリシアの妹で、アリシアほどではないが背が高いほう。

私と並んでも、アイリーンのほうが頭1つ分高い。

 

「貴女も何か自分が食べるものを取ってきなさい。私のことは気にしなくていいわ、アリシアが取ってきてくれるから」

アイリーン「承知致しました」

 

アイリーンは、皆が騒ぐ中に入り、料理を取り始めた。

それにしても、結花……私が考えついたあの技を避けるだなんて。流石、鬼子母神なだけあって、強いわね。

 

「さて……結花はまだ来ていないようだけど。もうすぐで来るわね。存在感がどんどん高まってきている……」

 

諏訪対戦の後に別れてから、結花とはずっと会っていない。

その力がどれ程のモノになったのか、ずっと楽しみだった。

結花の妖力は膨大。だが、それを探るのは素人にはとても難しい。

何故なら、私が妖力を極限まで抑える方法を教えた以来、結花は戦いの時以外、全ての力を隠すようになった。

 

アリシア「御先祖様、料理をお取りして参りました」

「ありがとう。さ、食べましょう」

 

私が食べ始めるまで、絶対に食べてはいけないという決まりがある。

それか``和´´の心だ。アリシアが着てる服は和服じゃないけどね……まぁ、私は全く気にしないのだけれど、神の世界ではそれが顕著に表れている。

つまり、アリシアは私が食べ始めるまで料理に箸を付けられないということだ。

……可哀想だから早く食べてあげなきゃ。

 

「頂きます」

アリシア「頂きます」

 

私は、アリシアが取ってきてくれた「鯉のあらい」を1口頬張る。

……え、めっちゃ美味しいんですけど。わさび醤油で食べるのが私の好み。

 

「貴女も食べて良いわよ」

 

アリシアが鮎の塩焼きを一口齧る。

その瞬間、アリシアの顔が綻んだのが見えた。相当美味しいんだろうな。

さ、私も食べますか。

 

アリシア「御先祖様、誠に美味でございます。どうぞ、召し上がって下さい」

「あら、本当?では、頂くわね」

 

私は、アリシアが勧めてくれた鮎の塩焼きを一口、真似して齧ってみる。

 

「あら、程良い塩気と程良い柔らかさがマッチして、とても美味しいわ……!」

 

ちなみに、この鮎の塩焼きは私が釣ったもの。

間接的に私が作ったってことになるのかな?地球を作り上げたのは私だし。

 

「……ん?」

 

結花が近づいてきていることをすっかり忘れていた。

多分、もう境内にいるはずだ。団体様でお越しのようね。その傍らには3人、とても強大な妖力(ちから)の者がいる。

 

?「失礼するぞ!やみぃにお呼ばれされたモンだ!」

 

皆の視線が、勢い良く開いた襖に集中する。

そこには、深い緑の髪の…立派な角を生やした、和服の少女が立っていた。

 

「ふふ、変わってないわねぇ、結花……諏訪大戦の後に別れた以来かしら?」

結花「あぁ、アンタとまた会えることを楽しみにしてたんだぞ、アタシは!」

 

結花の隣にいたのは、東方Projectの『星熊 勇儀』『伊吹 萃香』『EXルーミア』だった。

なぜEXバージョンのルーミアなのかがよく分からないが、多分、まだ力を抑制するリボンを付けていないからだろう。

 

「あら、お友達?」

勇儀「おぉ、あんたが結花の言っていた龍神か!」

萃香「ちっちゃいな!」

 

いや、あんたの方が小さいわよ。と言いかけたが黙っておこう。

鬼の四天王のお2人に会えるなんて、前世では絶対に叶わなかったからねぇ……嬉しい限りだわ。

ルーミアは、一言も喋らないまま、私の方を見ている。

 

「さぁ、まずは料理を楽しんでいって頂戴な。貴女達が心待ちにしているバトルロワイヤルはまだまだ後よ」

一同「はーい」

 

結花達は、各々の料理を取りに、散らばった。

 

「結花は本当に変わってないわねぇ」

 

皆でバカ騒ぎするのが大好きな結花は、初対面の妖怪たちに対しても気さくに話しかけている。

あぁ、私たちが出会った時もあんな風に話しかけてきたわね……

 

アリシア「……あの者は相当な力を持っているようですね」

「戦っていなくても分かるくらいに努力したのね、感心するわ」

アリシア「お褒め頂き光栄でございます」

 

アイリーンに伝えたのは、結花が"私の技を避けられたかどうか"だ。あの技は、本来私が持っている力の1割程度を詰め込んだもの。

あれを避けられたなら、大したものだわ。結花は……

 

「また、勝負してみたいわね」

 

あれからどれだけ成長しているのか、ひと目見てみたいものね。

私も少しは成長してると良いけど……

 

「アイリーン、楽しんでるみたいね」

アリシア「料理を取ってくるのにどれだけかかっているのだ……」

「まぁ、良いじゃない。楽しければ」

 

まぁ、戻ってこれない理由がありそうだけど。

結花と勇儀と萃香に絡まれているという理由が……(;´Д`)

大変ねぇ、あの子も。何かあったのかしら……

 

「結花、そこまでにしてあげなさいな。アイリーンが困ってるわ」

結花「えぇーつれないなぁ……また話そうぜ!」

アイリーン「構わない。じゃあ失礼する」

「アイリーンも満更でも無さそうね」

 

私に呼ばれて、時間がかかっていることに気づいたのか、アイリーンは急いでこちらに向かってくる。

 

アイリーン「申し訳ございません、予想以上に時間をかけすぎてしまいました……」

「私は大丈夫よ、楽しく会話するのは良いことよ。アリシアは?」

アリシア「私は御先祖様がよろしければ構いませんよ」

アイリーン「承知しました、今後気をつけます」

 

全く、この姉妹は真面目すぎるのよ。

私たちは家族同然の仲なんだから、気にすることないのにね〜。

まぁ、形式的に誰かの主である以上、こういう道は避けては通れないのだろうけど。

 

アリシア「御先祖様、少しお聞きしたいことが」

「何かしら?」

アリシア「……龍神王様は今どちらに?」

「主様は今世界の管理をなさっていて、とてもお忙しいとのことよ。最近も、私にお呼び出しもこないし……」

 

憶測だが、恐らく"転生者"の管理だろう。

私をこの世界へと転生させ、世界操作の権限を与えたのは主様だ。

私よりも何倍も格上の存在であらせられるお方なので、格下の私には存在を感知さえできないことがあるのだ。

 

「それよりも、貴女は式を持たないの?」

アリシア「私は、御先祖様とアイリーンが全てですから、それ以外に気を向ける余裕などございません」

アイリーン「お、お姉様……」

「まぁまぁ、姉妹愛。素敵じゃないの」

 

私は、顔を赤くして恥ずかしがるアイリーンをフォローする。

対して、アリシアは「当然」と言いたげないつも通りの仏頂面で言う。

 

結花「闇ー!バトルロワイヤルはまだかよー?」

「何言ってんのよ、まだ始まったばかりよ?たく、昔っから貴女は戦闘狂よね」

結花「良いじゃないかー」

 

……人妖対戦の時に出会ってから、結花は本当に戦闘狂だ。

ただ単に戦いが好きなだけではなく、それに見合う力があるから、認めざるをえないのだ。

 

「可愛い顔して、本当に恐ろしいわね。じっとしてたら花なのに」

結花「う、うるさいぞ」

 

その会話に、宴会中がどっと笑いに包まれる。

だって、本当に可愛いもの。

戦いが大好きだという結花でも、こんな一面もあるのね。ふふっ!(^^)

 

結花「そーいや闇、牛鬼とかいうとんでもない強さの妖怪が現れたんだって?大丈夫なのかよ?」

 

飲んでたホットミルクティーを吹き出しそうになった。

今、何て!?何で結花が牛鬼のことを知ってるのよ!?

 

「貴女に牛鬼のことを教えた覚えはないわ。どうして知ってるの?」

結花「アタシが住んでる山の妖怪たちがずっと話してるんだよ。今、この世界に潜んでるらしいな......」

「そうよ。私もあったことあるけど、太刀打ち出来なかったわ。貴女も本当に気を付けてね」

 

気を付けてって言っても、あの妖怪に対応出来るのは主様しかいない。

2回目に牛鬼と遭遇した時以来、主様が私たちに牛鬼対策として、直ぐに主様をお呼び出し出来るようにして下さったのだ。

 

「私も修行しないとね……今のままじゃ、牛鬼に傷1つ付けられる気がしないもの」

結花「アンタがこれ以上強くなったら、アタシはどーやって勝てばいいんだよ!」

「強くなりなさい。私を超えるのよ」

 

まぁ、マジな話、能力をフル稼働させたら勝てない相手なんていないんだけどね。

唯一勝てないのが、主様と牛鬼だけ。

妖怪の癖に、強大な力を持ってしまったっていう点では、牛鬼にも憐れなところはあるが。

 

結花「そうだな!……って、宴会なのにこんな辛気臭い空気なんて耐えられないぞ!」

「あらあら、ごめんなさいね。アリシアとアイリーンも、結花と仲良くしてやって頂戴ね」

アリシア&アイリーン「「御意」」

 

結花たちは、先程のように、騒ぐ皆の輪の中に戻っていった。

……はぁ、こういう感じでずっとどんちゃん騒ぎみたいなことをずっと出来たら良いのにね。

そういう訳にはいかない立場だから、仕方ないんだけど。

 

「ねぇ、アリシア、アイリーン……こんな楽しいことがずっと続けば良いわね」

アリシア「私は、この命ある限り、御先祖様にお仕えします」

アイリーン「私も、この命ある限り、御先祖様にお仕えします」

「ありがとう。ずっと一緒よ?」

 

いつかは、家族のように親しくなれれば。なんて思っているんだけどね。

……さて、そろそろかしらね?

 

「貴女も、バトルロワイヤルに参加するのかしら?アリシアにアイリーン」

アリシア「私は、御遠慮させて頂きます。宴会の警備を致しますので」

アイリーン「お姉様が警備係であれば、私もお供します」

「決まりね。実を言うと、私、参加しようと思っているのよ」

 

アリシアとアイリーンが、私のことを畏怖の目で見てくる。

何よ、私が参加して良くないことが起こるとでも言うのかしら?

全く!失礼ね……そんなことある訳ないでしょ!

 

「ちゃんと手加減はするから安心して。流石に、格下の相手に本気は出さないわ」

 

私が使用する武器は、無し。

体術と弾幕のみでバトルロワイヤルに挑むのだ。

馬鹿者!と言う人もいるだろうが、その位自分の力をセーブしないと死人が続出する。

……冗談じゃないわよ?

 

「さぁ、皆!注目!」

 

私が手を叩くと、皆の視線が私に注目した。

 

「さて、宴会は楽しめたかしら?」

一同『はーい!!!』

 

皆が、手を挙げて返してくれる。

どうやら、私が企画した宴会は、楽しめたようだ。

私が知らない妖怪も、神も。色とりどりの種族が、この部屋には集まっている。

 

「そろそろ、バトルロワイヤルを始めようと思うわ。まず、私の指示に従って頂戴ね」

 

今回やろうと思っていたバトルロワイヤルは、それぞれチームを決めて、そのチームの中で戦うゲーム。

神社は広いので、神社の中で行う。私が結界を貼るので、建物の破壊に関しては大丈夫だ。

 

「まず、4つのチームに分かれて頂くわ。参加したい人、手を挙げて頂戴?」

 

ちらほら、挙げていない人もいるが、まぁそれは良しとして。

私は、参加する者に紙を渡していく。私が事前に書いておいた、チーム分けの紙だ。

 

「行き渡ったかしら?なら、まず……」

 

私は、縁側に出て、魔法で宙に数字を書く。

1、2、3、4。この4つのチームで、それぞれ生き残った者同士が戦う。

 

「用意が出来たら、そこに並んでね」

結花「はい、質問!本気でやっちゃっていいのか?」

「良いわよ。但し、相手が死なない程度にお願いするわね」

 

本当に危なくなったら、私が間に入って止めるからね。

……というより、結花に適うのが私位しかいないのが問題ね。

私、結花、3貴神……が残るかしら?

 

「秋葉と輝夜が心配ね」

 

輝夜の方を見ると、秋葉にめちゃめちゃガンつけていた。

一方の秋葉は、ツンとした風に振舞っているが、どういう心境なのかしらね。知らないけど。

少し経った後、料理が無くなった頃合で、一同集合した。

 

「主催者の夜刀神 闇よ。改めて、宴会に来てくれてありがとうね。そろそろ始めようと思うから……まずは1番のチームの人達以外は結界の外へ」

 

私がそう言うと、皆が移動し始める。

ちなみに、1番のチームメンバーには、秋葉がいる。

秋葉なら大丈夫だと思うが、そんじょそこらの妖怪には負けて欲しくないという私がいる。

 

「移動し終えたかしら?なら、このコインが地面に落ちたら初めということにしましょう」

 

私が、コインを弾く。

 

ピィン……

 

 

 

 

カチャ。

 

 

コインが落ちる音と同時に、皆の歓声が上がる。

 

「まぁ、秋葉は高みの見物といった所かしら?」

 

秋葉の方を見ると、宙に浮かび、皆の乱闘を見定めるような目で見つめていた。

余裕ね。心配する必要もなかったかしら?

時々秋葉の方へ飛んでくる弾幕に関しては、軽く片手であしらっている位だ。

 

「さぁ、楽しませてもらうわよ」

 

そうして、私はバトルロワイヤル1回戦、秋葉の戦いを楽しみにすることにした。




ちなみに、牛鬼っていうのは、日本の中で結構危ない妖怪らしいです。
海辺に現れるとか何とか……
地文が…上手く書けないいいいいい…………
キャラ設定もブレブレだし……˚‧º·(´ฅωฅ`)‧º·˚
すみません‪ㅠ_ㅠ‬

さて、乱闘が始まりましたが、誰が勝つんでしょうね?(^Ü^)
闇ちゃんが勝つでしょうか?それとも、3貴神の誰かに勝者の座を譲ってくれるのでしょうか?
それは、次回へのお楽しみってことで……


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第31話 姉たちの期待

「ほぉ……」

 

私は、秋葉の試合を観戦していた。

秋葉の使う技が、前より高性能になっていたのだ。

呪いと炎の力を組み合わせた、割と強い(私から見ても強い)力。

 

「マジカルリーフみたいな力ね。追いかけて相手を燃やしてしまう技……」

 

相手が避けても、炎を抹消しない限り、いつまでも追いかけてくる炎。

どんなに威力があっても、当たらないと意味を成さない。

秋葉の考えることは、歳を重ねている分、尊敬出来る部分がある。

 

「あら、あの一撃で倒れちゃったわね……相手が弱いのか、秋葉が強すぎるのか。どっちかしらね」

?「きっと、秋葉様がお強いのですわ」

「あら、どなた?」

 

私が座っていたスキマの隣に、とある少女が座ってきた。

巫女服に身を包み、紅白のリボンでポニーテールに結い上げている。

それに、秋葉に似てかなりの美形。

人間のようだけど……秋葉"様"と言っていたわね。どういった関係なのかしら。

 

「貴女は、秋葉の巫女?」

?「……龍神である夜刀神 闇様にご挨拶申し上げます。私は麗蘭 くずはと申します。貴女が仰った通り、私は秋葉様の巫女でございます」

 

久しぶりに純粋な人間と会った気がするわね。

天人であるアリシアたちも、龍の血を継ぐ一族だから……

 

「くずは、ね。よろしく」

くずは「よろしくお願い致します」

 

くずはは、私に頭を下げた。

私は、くずはのステータスを瞬時に確認する。

身長は161cm、体重は……

言わないでおきましょう

この操作にも慣れたわね。慣れちゃいけないかもだけど。

前世でこれをすると、セクハラで訴えられそうだわ(--;)

 

「貴女、バトルロワイヤルには参加しないのね」

くずは「私は、そういう分野では活躍出来ませんので。ですから、秋葉様のご威光をお守りしているのです」

「あら、あれだけ人間を避けていた秋葉にも、そう思ってくれる人間がいたのね」

くずは「秋葉様は、ご友人はおられますが、纏う妖気のせいで人間が寄り付かないのです。私は、強さを操る能力のおかげでお近付きになれましたが」

 

……強弱を付ける程度の能力。

この子の霊力はあまり多くはない。

どうして、秋葉はこの子を置いているのかしら?

失礼な言い方になるかもしれないけど、実際地味な能力だし……

 

くずは「秋葉様は、生贄として差し出された私を喰らわれることはなく、逃がそうとしてくれました」

「それで、傍にいようと思った理由は?」

くずは「単なるお礼のようなものです。何かお返しをしたかったので……傍にいようと思いました」

 

秋葉は、くずはから見て、畏れるべき犬神のはず。

細かいことを言うと、秋葉は種族的に言うと妖怪だけど。

人々から畏れられているから、結果的に神力を扱えるのよね。

 

「……あ、勝負が着いたみたいよ」

 

秋葉が、最後の一人を倒した。

すると、秋葉が、此方に気づいていたような素振りで、振り向いて小さく手を振った。

 

「秋葉は、少し休憩していて!次は2番目のチーム、中へ!」

 

秋葉が外へ出ると、2番目の妖怪たちがぞろぞろと入ってくる。

今回は、萃香とツクヨミがチームに入ってるのね、面白い試合になりそう……

 

「ツクヨミー!頑張りなさいねー!」

ツクヨミ「はい!お姉様の誇りにかけて頑張ります!」

 

ツクヨミが、眩しい笑顔を見せてくれる。

これはますます楽しみになってきたわね……

私は、くずはに何かを言いかけたが……

 

「くず…は?あれ、どこに行ったのかしら……ま、いいか。とりあえず、観戦といきましょうか!」

 

私は、コインを投げた。

コインが落ちると同時に、皆の戦闘が始まった。

いつの間にか消えていたくずはを気にすることも無く、私は、皆の戦闘に魅入る。

 

「さて、今回は誰が勝つかしら」

 

私は、2番目のチームに期待をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

月読命side

 

「Moonlight beam」

 

私は、掌から光の束を放出する。

月の化身である私の神力と、月そのものの魔力を組み合わせた技。

……お姉様に期待されているのよ。鬼等に負ける訳にはいかないわ!

 

萃香「にゃははっ!アンタ、強いねぇ!流石神様だ。でも、避けられないものじゃないねぇ!」

「なっ……!?」

 

萃香とかいう鬼が突然消えたかと思えば、細かな大量の粒子が、私の頭上に現れた。

 

「何故、避けられるのです!?光の速度に勝てるはずがありませんよ!?」

萃香「……ある者は言った。鬼は強く遅い……だけど、その根拠は何処なんだろね?」

「!」

 

確かに。

鬼は並外れた怪力を持つ代わり、素早くは動けないとされている。

でも私は、今までに素早く動ける鬼に、出会ったことがなかった。

そもそも、鬼に出会ったことがない。伝聞でしか聞いたことがなかったのだ。

 

「ぐぅ……!」

萃香「おやおや?月の女神サマが、鬼に負けていていいのかい?」

 

上から降ってきた強烈な蹴りを、まともには受けていないが、掠めてしまった。

僅かな神力が奪われる。

 

「容赦しませんから……!」

 

私は、周りで戦っている妖怪たちを吹き飛ばしながら、様子を見る。

上ではお姉様が見守って下さっている。

 

「光の槍……Moonlight spear」

 

手に神力を集め、槍の形を作る。

元々、自分の武器を持っていなかった私。

すると、お姉様が「では、自分で作りなさい。武器となるものを」と助言して下さった。

 

「食らいなさい!」

 

周りに、金色の神々しい光を放ちながら、高速で飛んでいく光の槍。

どんなものでも貫く、1級品。

 

萃香「おっ……やるねぇ、アンタ!だが、私には効かないよ!」

 

私の攻撃を避けたように、飛んできた槍をいとも簡単に避ける。

まさか、鬼がここまで強いなんて。

 

「萃香さんの能力は、密度を操る能力……お姉様と同じ言い方をするならば、"密度を操る程度の能力"ですね?」

萃香「なななななっ何で分かったんだよ!?」

「反応が可愛いですね、ふふっ。鍛えたんですよ!お姉様に教えて頂いたりして、ね」

萃香「ひ、ひぇ……」

 

萃香さんの顔が、みるみるうちに強ばっていく。

力強いと評判の鬼であれ、そんな顔をするのね。

 

「ところで」

萃香「ん?何だ?」

「そんなに油断して、大丈夫ですか……?」

萃香「!」

 

少し油断していたようなので、教えてあげた。

萃香さんは、忘れていたようね……私の武器の存在に。

 

「神宝 Twinkle satellite」

 

私の上に、模倣月が浮かび上がる。

月の女神である、私に相応しいフィールドだと思うわね。

 

萃香「……」

 

萃香さんが、こちらを見上げて目を離さない。

その目は、私が初めてお姉様の姿を拝見した時とそっくりだった。

 

「美しいでしょう?さぁ、魅入られながら倒れなさい!」

 

美しい程の星の輝き。

神の如き美しさ。

月の力を与えられた女神、月読命。

私は、神界の上級神である。

 

勇儀「萃香っ!危ない……!」

 

萃香さんと一緒にいた、金髪の鬼が叫ぶ。

しかし、萃香さんにその声は届かない。

……これは、もう勝負は着いたも同然かしら?

 

萃香「ぐっ……!?」

 

萃香さんが、私の技に飲み込まれるところを、しっかりと見届けると、地上に降り立った。

妖怪は、神力に弱いのを知っていましたか?

 

「良い勝負でしたよ、萃香さん」

 

倒れている萃香さんに、手を差し伸べる。

妖怪と戦うのは、数え切れない位だけれど、これは本当に良い勝負だった。

 

萃香「ふっ、まさか神様に良い勝負だったと言われるとはね。光栄だよ、ツクヨミ様!」

「ふふ、拳を交えた仲なんですから、敬称は必要ありませんわ。どうか、呼び捨てでお願いします」

萃香「そうか。それじゃあ、ツクヨミ……またやり合おうな」

「えぇ、楽しみにしています」

 

私たちは、最後に握手を交わすと、結界の外へ出た。

勝負を終えた妖怪たちが、外で待っていた。

 

アマテラス「ツクヨミ、貴女は良くやったわ」

「ありがとう。お姉様も、太陽神としての力を見せつけるんですよ」

 

宇宙界最高峰の神、夜刀神 闇様に次ぐ最高神である、天照大御神。

一応、私より強い。

月の光は、太陽の光を反射して初めて放てるものなのだ。

 

「頼みますよ……」

 

私は、姉の健闘を祈ることにした。

1度皆に見放されようとも……実の姉であるから。

私は、大和の為に諏訪の国が無くなるのは、反対だった。

あの時、闇お姉様の介入が無かったなら、どうなっていたのだろう……

考えただけでも、ゾッとする。

そんな心配を他所に、放たれたコインは地に着いていた……

 

 

 

 

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第32話 この世界に生まれたからには

闇side

 

私は、アマテラスの戦いを見物し終わり、皆で休憩を取っていた。

……え?つまらないって?

本当に、一瞬だったもの。話すことなんて無いわよ。

スサノオの戦いは、この後のチームだし……

 

アマテラス「ふぅ、お姉様。見てましたか?」

「よくやったわね、アマテラス」

 

私は、アマテラスと共に縁側へ座り、月を眺めた。

 

「スサノオの戦いが楽しみね。貴女は、最後まで残れるかしら?」

アマテラス「必ず残って、お姉様と戦ってみせますよ!今度こそ良い勝負をするんですから!」

 

アマテラスは、力瘤を作るような仕草をする。

楽しみね。私に傷1つでも付けられる位成長していたら、褒めて良いと思うわ……

 

スサノオ「姉上、お久しぶりでございます」

「あら、元気にしてた?」

 

宴会でちらっと見えたが、と言うより神力で気づいたけど。

スサノオたち3貴神がいることは分かってたわ。

スサノオは、私の手を取り、手の甲にそっとキスをする。

 

アマテラス「スサノオ、貴方……お姉様に気安く触れないで」

スサノオ「なっ……アマテラス。俺はそういう意図があった訳じゃない。俺たちは姉弟だぞ」

 

全く、この姉弟は仲良く出来ないのかしら。

 

「アマテラス、スサノオ。そこまでにしなさい。もう……」

 

私が一声かけると、渋々大人しくなった。

この姉弟から愛されているのは嬉しいけど、取り合いみたいなことはしないで、ね?(苦笑)

流石の私も困るわよ……

 

「スサノオ、貴方は美男の内に入るのだから、早く婚約者でも見つけなさいよ」

アマテラス「こんな男のどこg「ア~マ~テ~ラ~ス~???」……」

 

アマテラスがスサノオのことを貶すような発言をしそうだったので、黙らせた。

アマテラス、若干ビビってたような……でも知〜らないっ!

 

スサノオ「有り難きお言葉。しかし、(わたくし)は生涯姉上にお仕え致しますので、伴侶を持つ必要性がございません」

アマテラス「あら、私も姉よ?」

スサノオ「お前とは血の繋がりがあるが、()()とは格が違う。分かるだろ?」

 

はぁ〜。

この姉弟は、ほっといても死ぬまで喧嘩してそうね。

 

「さ、そろそろバトルロワイヤルを再開するわよ〜!!!4番チームは中へ!……次でしょ?スサノオ」

スサノオ「はい、ではこれで失礼致します」

アマテラス「負けたらただじゃおかないからね?」

 

スサノオは、アマテラスの言葉を無視し、結界の中へと入っていった。

その後ろ姿は、いつの日か見た、✕✕✕の様で……

ふふふ。

 

「さて、強くなった男神はどんな戦いを見せてくれるのかしら」

 

これから始まるスサノオの戦いを、アマテラスや他の者たちと見物するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

神琉side

 

俺は、自分の従者である夜刀神 闇の動向を伺っていた。

特に、意味は無い。単なる興味本位だ。

 

「……楽しそうな限りだな。まるで、人間であった頃以上に神生(夜刀神 闇の生)を謳歌している様だ」

 

まぁ、それが俺の願いだったのだけれど、な。

気紛れで闇を転生させた訳ではない。

ただ、俺の傍に置いておきたかったから……。

 

「……何故、そう思ったのか俺でも思い出せないな」

 

基本、俺に出来ないことなど無い。

この全知全能(全てを司る能力)は、皮肉にも()()()()()()()()()のだ。

……他の者にとっては、喉から手が出るほど欲している能力であるのだが。

俺は、気づいたら俺だった。

やるべきことも分からず、ただ、意識のまま空間を漂っていた。

その頃……今より昔々の果てには、俺には実体が無かった。

全ては白い世界で、気がついたら世界を創っていたのだ。

気がついたら体が出来ていた。

気がついたら感情が出来ていた。

気がついたら仲間が出来ていた。

気がついたら……ここにいた。

遥か先の未来を見ていた。

そうしていたら、1人の人間に目がついた。

直感的に、傍に起きたいと思ってしまった。

 

「……」

 

龍神王として、世界を創ったからには、全ての神が集う神界の頂点に君臨するからには、やるべきことは山ほどある。

 

「早く、早く消滅させねば……」

 

……牛鬼を。

俺と同等レベルの力を持ってしまった、可哀想な妖怪を。

何をどう間違い、生み出してしまったのだろうか。

 

「闇に手を出した罪は重いぞ、牛鬼よ」

 

あの時、俺が異常に気づかなければ、闇はあのまま……

いや、考えるのは辞めよう。

やらなければならないことは他にもあるのだ。

 

「よし、闇の所に行くとするか」

 

俺は椅子から立ち上がり、部屋を出た。

ガチャッ、ギィィ……バタン。

長く長く続く静かな廊下に、重い扉が閉まる音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

「ほぉ〜。スサノオは、あんな戦い方もするのね」

 

私は、アマテラスと共にスサノオの戦いを見物している。

空はあまり飛ばず、使うのは単なる身体能力と、剣のみ。

上級神であることを傲慢に思うのではなく、元々の力を高みへと伸ばそうとする。

私が賞賛する神の1柱。

 

「私のことを姉弟という関係以上に、愛してくれているのは有難いけど、誰とも結婚をするつもりは無いからねぇ」

アマテラス「……今の言葉は、聞き捨てなりませんね。スサノオの想いはともかく、誰とも結婚をするつもりが無いとは、どういうことです?」

 

正直、スサノオの想いは気づいている。

だけど、この3貴神とは一生姉弟でいると心に決めている。

と言うより、恋愛感情など私には必要無い。

 

「言葉通りよ。主様に死ぬまでこの身を捧ぐつもりなの。だから、誰とも結婚はしないわ」

アマテラス「そんなぁ、私は、お姉様には幸せになって欲しいんです」

 

今でも充分幸せよ、とアマテラスに言う。

本当だ。

牛鬼さえ……いなければ良かったが。

 

「貴女は私が守ってあげるわ」

 

私がアマテラスに微笑んだ。

一瞬、アマテラスがビクッとしたかと思えば、たちまちその顔は真っ赤になっていった。

……どうしたのかしら?

 

アマテラス「ッッッ!!!そ、そーゆーのは意中の方にい、い、言うものなのでありまして、で、で、で……!」

「??日本語がおかしくなっているわよ?ふふ、可愛いわね♡」

 

アマテラスの頭を優しく撫でてあげると、またまた意味の分からない発言をする。

本当に、どうしたのかしら?

 

アマテラス「ふぅ〜、と、兎に角!スサノオの戦いに勝負がついたみたいですよ、ほら!」

「あらっ」

 

適度に疲れている様子のスサノオ。

本来、神であるはずのスサノオが疲れるはず無いのだけど、私が教えた力の制御法を上手く活用しているようね。

 

「貴方はストイックなのね」

スサノオ「有り難きお言葉。これからも精進します」

 

スサノオが、爽やかに微笑んだ。

私も釣られて顔が緩む。

 

アマテラス「良かったわね、お姉様に褒められて」

スサノオ「あぁ。こればかりはお前と同意見だ」

 

珍しく2柱の意見が一致している。

これ以外にも仲良くしてくれたら良いんだけど。

……さて、4つあるチームのバトルロワイヤルは終了したことだし、これからお楽しみの時間ね。

 

「皆、お疲れ様!これから勝ち上がった方同士のバトルロワイヤルを始めるわ。休憩を取っている間に、デザートを出すから、是非食べてね!」

 

大勢の歓声が沸き起こる。

余程嬉しいのね。作った身としては、大変喜ばしい限りだわ。

私が手を叩くと同時に、アリシアが空間を裂いてデザートを机の上に出した。

ちなみに、もう料理は片付けてある。

 

「よし、と……っ!」

 

皆が思い思いに行動し始めた頃合で、私は気づいた。

とてつもなく大きい存在が、近づいている。

世界を揺るがす程の、大きい存在が。

 

「アリシア、後は頼んだわよ。直ぐに戻れたら戻るから……」

アリシア「……御意」

 

アリシアは、直ぐに何かに気づいたようだ。

部屋の中で騒ぐ妖怪たちは、何も気づいてない。

気づいていたなら、大パニックになっていることだろう。

スキマを開いて、"存在"の元へと繋ぐ。

 

「一体、急に何の御用かしら……」

 

私は、真っ暗闇のスキマの中へと飛び込んだ。

八雲紫(マエリベリー・ハーン)のスキマと違い、目玉は無く、ただ真っ暗な空間が続くのみ。

上や下や右や左といった概念も無く、まるで、私が転生して間も無かった頃の世界である。

そして、私は存在の主の元へと辿り着く。

 

?「まさか、そっちから来てくれるとは思わなかった。手間が省けたぞ、闇」

「いえ……龍神王であらせられる貴方様にお仕えする身として、当然のことでございます」

?「ふっ、そうか」

 

主様。

私は、跪いたまま、言葉を返す。

主様がまさか、地球に来られるとは思わなかったが。

 

神琉「俺が、お前を呼び出した理由を知りたいか?」

「……はい」

神琉「お前の戦闘力を測る為だ。どれだけ強くなったのか、というのをな。というわけで……」

 

突然、視界が上を向いた。

目の前には、主様の顔が……

 

神琉「皆がいる宴会場まで行くぞ」

「!?」

 

……お姫様だっこをされていた。

一瞬、何が起こったのかわからなかった。

ただ、美しい金色の目を細めて爽やかに笑っていた。

本当に、魅了されそうな美しいお顔。

いや、そんなことよりも!!!

 

「ど、どうしてそのような……」

神琉「何を言っている?この方が速いだろう?」

 

そう言いながら、私を抱いたまま飛行する主様。

周りの神々が物珍しそうにこっちを見てる……あぁもう!恥ずかしい……

気づいたら、時空の狭間に入っていた。

 

神琉「移動する間に聞きたいことがあったんだ」

「……何でしょうか」

 

主様は、何かを思い詰めたような顔をする。

いつも澄ました顔で、何でもやってのけるような主様なのに……

 

神琉「闇、お前は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神琉「……生まれたことを、後悔したことはあるか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……何を、言い出すかと思えば。

 

「そんなこと……1度たりとも思ったことはありませんわ」

神琉「だが、お前にはまだ愛する家族もいただろう?俺が、勝手に眷属にして連れてきたんだぞ。恨まれても仕方が無いと思っていたんだ……心を読めば良い?いや、それは出来なかった。闇、お前の口から直接聞きたかったんだ」

 

ぽつりぽつりと語る主様の顔は、とても、とても苦しそうな顔をしていた。

 

「主様」

神琉「……何だ?」

「私は、もう……前世とは決別しましたの。この現世、上手くやっております。それに、もう愛する家族は傍にいますわ」

神琉「……チロルのことか」

「えぇ、そうでございます。アリシアやアイリーン、アマテラスにツクヨミ、スサノオも、かけがえのない愛する家族なのです。ですから、もう、前世が恋しいとは思いません……もちろん、主様もその中に入っていますわ」

神琉「……!」

 

主様が、驚いたような顔をする。

その宝石のような瞳から、静かに零れ落ちた涙が、2柱しかいない異空間を美しすぎるほど照らしていた。

 

まるで、この世界に生まれた2人を祝福するように……




語彙力無くてすみません。
いつも見てくれてありがとうございます!
感想や評価をつけて下さる方々、本当に感謝の限りです!
これからも私の転生物語をよろしくお願いします!


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第33話 神の如き妖怪

最近ネタがめちゃくちゃ浮かびます


結花「……で?」

 

私たちが帰ってきたところを迎えに来た結花が、困惑したような何とも言えぬ表情で私たちを見ていた。

 

結花「何でアンタが抱かれてるんだ?(;´Д`)」

「知らないわよ、そんなの」

アマテラス「……お姉様?」

スサノオ「……」

ツクヨミ「……お姉様」

アリシア「ご、御先祖様、龍神王様……」

 

存在感が溢れる神がいっぺんに集まっている為、デザートを食べていた妖怪たちがなんだなんだと集まってくる。

ニヤニヤしながら見ている者もいれば、興味無さげにデザートを食べ続ける者もいる。

 

神琉「俺のことは気にせず、思い思いに行動してくれていいぞ」

結花「気にするなと言われて気にしない方がおかしいだろ!?」

 

主様は、私を静かに降ろし、アリシアの方へと近づいていく。

それに気づいたアリシアは、即座に跪こうとするが……

 

神琉「いい、いい。そんなことしなくても、構わない。闇が世話になっているな」

アリシア「いえ。御先祖様は素晴らしいお方。私には勿体無い限りでございます」

 

主様がアリシアの手を持ち、立たせた。

ふふ、アリシア。そんなこと言ってくれちゃって……

全く、主としても嬉しい限りよ。

 

神琉「ところで闇」

「はい、如何なさいましたか?」

神琉「いつお前の戦いは始まるんだ?」

「これから、4名の者でバトルロワイヤルを始めます。そして、勝ち抜いた1名が私と戦う権利を得るという仕組みでございますわ」

 

主様は、成程と相槌を打つ。

 

神琉「その、4名は何処に?」

「そこにいるアマテラスと、スサノオ、ツクヨミ、そして……」

 

私は、縁側で月を眺める1人の妖怪を見る。

 

八百万 秋葉(やおよろず あきは)です」

秋葉「……何か用かしら?」

 

赤い目をこちらに向ける秋葉は、月の光と相まって、美しくも恐ろしい何かを感じた。

それが原因なのかは分からないけど、秋葉の周りには妖怪が1人も集まっていない。

 

神琉「……中々、良い友人を持ったな。闇」

秋葉「友人じゃない。敵よ。神と妖怪が友になれると思うかしら?」

 

秋葉が、主様のことを睨みつける。

1悶着ないか、とビクビクしていたが、主様は、そんな秋葉を全く気にしていないようだった。

流石ね。

 

「酷いわね……」

秋葉「始めるなら早くしなさい、帰るわよ?」

「まぁ、良いでしょう。結界の中へ!」

 

秋葉は、やれやれといった感じで結界の中へ入っていった。

それに続き、アマテラス、ツクヨミ、スサノオの3柱も、結界の中へ入る。

 

「皆、頑張ってね。誰が勝っても私は嬉しいわよ!」

 

予想、アマテラスが勝つ。

大和の神であり日本の最高神であるから。

しかし、ツクヨミも良い勝負になりそうだ。

私は、コインを投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄カチャン。

 

コインが地に落ちた音と同時に、乱闘が始まった。

先手を踏んだのはスサノオ。

真っ直ぐに秋葉の方へ向かっていく。

 

ガキン!!!

 

スサノオが振った天叢雲剣と、秋葉の爪がぶつかり合う。

秋葉がスサノオの攻撃に気を取られている内に、アマテラスとツクヨミの弾幕が秋葉の方へ集中する。

まるで、姉弟の戦いに水を差す妖怪を排除したいとでも言う様に……

 

秋葉「都で畏れられている私はこんなものじゃ地に伏せませんわよ」

 

スサノオの攻撃を牽制しながら、アマテラスとツクヨミの攻撃も寄せ付けんとする神力を放つ。

 

アマテラス「ど、どうして妖怪が私たちの攻撃を一瞬で……!?」

秋葉「私、神力も多少使えるんですの。妖怪だからと言って甘く見て貰っては困りますわ」

 

そう言いながら、多少とは言い難い神力を足先に込め、スサノオの天叢雲剣を蹴り上げる。

……妖怪が、力で神様と渡り合えるだなんて。

前代未聞ね。

ん?私と結花?……それは例外よ。

 

秋葉「ふふ♡」

スサノオ「ぐっ……があぁ!!?」

アマテラス「スサノオ!」

 

秋葉が、蹴り上げた後に連続でスサノオの鳩尾に拳を打ち込む。

うわぁ、痛そう……

バトルロワイヤルであるはずなのに、いつの間にか『秋葉VSアマテラス&ツクヨミ&スサノオ』の戦いになっていた。

あら、これは予想が外れそうね……アマテラスかツクヨミのどちらかが秋葉を倒さない限りは。

 

秋葉「私、久し振りに楽しめそうね……!!!」

 

赤い眼差しと攻撃の矛先が、アマテラスとツクヨミの方へ向いた。

 

ツクヨミ「お姉様!私たちの戦いはあの犬神を倒してからです!」

アマテラス「えぇ、言われなくても!」

 

スサノオは、先程のダメージが全身に広がって、未だ立てそうにない状況だ。

流石、呪いと炎を操る白狼ね。

 

神琉「闇、お前の戦いが終わったら、1度神界へ戻ってきて欲しいんだが。良いか?」

「畏まりました……して、何用でしょう?」

神琉「……神界に戻ってこないお前に、不満を抱いている神がいる。他世界の神がな」

 

戦いに夢中になっていた私に、主様が話しかけてきた。

神界……か。

神界とは、全世界の神が集う場所。

もう何億年留守にしているのだろうか。

まぁ、神の中でも力を持つ1柱が留守だったら混乱を招きそうだから近い内に帰ろうかしら。

そんなことを考えていると、突然轟音が結界の中から聞こえてきた。

 

「何があったの!?」

神琉「面白いことが起こってるぞ?見てみろ」

「……?」

 

未だ砂煙が立ち込める結界の中へと視線を移す。

 

「なっ……!?」

 

 

そこには……

 

 

天叢雲剣を持ったスサノオが……

 

 

ボロボロになった秋葉を見下ろしていた……

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いつも見てくれてありがとうございます!


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第34話 姉弟喧嘩

スサノオside

 

秋葉「がっ、ぁ……な、によ……これは……」

「血だ……お前の負けだ、妖怪よ」

 

地に伏す妖怪に引導を渡す。

先程、この妖怪に先手打たれたが、何とか持ち直した。

……本当に、危なかった。

 

秋葉「ふ……ふふ、気高き白狼、此処に倒れる……かしら?」

スサノオ「……意外と直ぐに負けを認めるのだな。妖怪」

秋葉「当たり前でしょう。楽しめたのは貴方が久し振りよ、感謝するわ……それと、私の名前は八百万 秋葉(やおよろず あきは)よ。良い加減、その"妖怪"呼びを辞めて頂戴」

スサノオ「あぁ……言い勝負だった、秋葉」

 

俺は、白髪の女性……秋葉の手を取り、感謝の言葉を述べた。

……中々に滑らかな手だな。姉上には劣るが。

 

秋葉「さて、お次は姉弟で楽しみなさいな?邪魔者は消えるとするわね」

 

気取りながら結界を出ていく秋葉は、戦いの後でボロボロになりながらも、どこか……どこか美しかった。

いや、元々顔は整っていたけれどな……

 

アマテラス「スサノオ!」

 

後ろから声がしたので、振り返ると……そこには薙刀を持った、俺の1番上の姉の姿が。

隣には光り輝く槍を持った1個上の姉がいる。

 

スサノオ「待たせたみたいだな」

ツクヨミ「全く、お姉様とどうするか検討する位だったんだから」

アマテラス「ま、結局こうなったのだけれどね?」

 

どうやら、秋葉との戦闘が必死を極めていたので、姉たちの方へ意識が向いていなかった。

悪いことをしたな、と思いつつも目の前にいる2柱の女神をどう倒すか頭の中で考える。

 

アマテラス「あら、もう戦えるのね?」

「当たり前だ……結界の外でお待ちの、姉上と龍神王様に失礼だからな」

 

縁側で腰掛けている姉上を見る。

俺たちの視線に気がつくと、姉上は小さく手を振った。

……いつ見ても、可愛らしく美しいお方だ。

 

「それじゃあ……」

 

 

 

 

『始めッ!!!』

 

 

 

 

「ぐっ……!」

 

3柱の武器が、一斉にぶつかり合う。

力はほぼ互角。

男である俺でも、大和の最高神であるアマテラスには少し不利。

月の支配者ツクヨミも、中々の力。

 

「だが……負けられん!」

アマテラス「!?」

ツクヨミ「きゃっ……」

 

ありったけの神力を天叢雲剣に込め、振り抜く。

アマテラスが若干後退りし、何とか耐えたが……

 

アマテラス「ツクヨミ!」

ツクヨミ「やったわね……」

 

ツクヨミが攻撃の衝撃に耐え切れず、少し吹っ飛ばされてしまう。

大したダメージは入っていない様だが、アマテラスとこんな差が出来ているなんて……

いや、ツクヨミが弱い訳じゃないだろうな。

アマテラスが強すぎるんだ……

 

ツクヨミ「スサノオ、強くなりましたね。私、姉として感動したわよ」

アマテラス「ツクヨミ、弟に負けていられないわよ。お互い蹴落とす勢いで!」

ツクヨミ「分かっています!」

 

姉に褒められ、少し嬉しい気持ちになる。

あぁ、俺もこの2柱と同じ上級神なんだ……と。

 

ツクヨミ「『広大な銀河の中で漂う小さき星』」

 

ツクヨミが、詠唱を始める。

漏れ出す神力に、強力な技が来る……そう直感した俺は、合わせて身構える。

 

ツクヨミ「さぁ、耐えられるかしら?」

 

ツクヨミの頭に付けている月のアクセサリーが光を放ち、輝きだす。

その眩し過ぎる光を直接見た俺は、思わず片手で目を覆う。

アマテラスは何処吹く風の様だが……太陽神だからだろうか?

 

アマテラス「ツクヨミも良い手を使ってくるわね……!」

「よく耐えられるなっ……!ぐっ……」

アマテラス「当たり前でしょう?月の光は太陽の光を反射しているのよ。太陽の化身である私が、この程度耐えられなくて太陽神は務まらないわ?」

 

まぁ、何となく分かってたけど。

そんなことよりも……ツクヨミの攻撃をどうするか……

眩しい光と共に弾幕も撃ってきているので、正直避けるのが難しい。

俺は、天叢雲剣で弾幕を切り裂きながら、どうやって攻撃に移していくか、考えていた。

 

「(天叢雲剣で弾幕を切り裂きながら、ツクヨミに接近出来るか……?しかし、アマテラスの攻撃も懸念される……どうすれば良い?)」

ツクヨミ「戦闘中に考え事とは良い度胸してるわね、スサノオ!!!」

 

攻撃方法を考えていると、ツクヨミの投げた槍が地面に突き刺さった。

……当たったら大分ヤバかったぞ、今の。

 

「あぁ、悪かったな……!!!」

 

……もう、考えている暇は無いな。

一々考えていたら、寧ろそこまでで2柱に倒されてしまうだろう

 

「お返しするぞ」

 

神力を天叢雲剣に注ぐ。

そして、天叢雲剣が浮き、自分の意思を持った様に、真っ直ぐにツクヨミの元へと突き進んでいく。

 

ツクヨミ「そのようなもので私を倒せるとでも?」

 

ツクヨミは、天叢雲剣をいとも容易く防いでみせる。

……実は、それは本命の攻撃では無い。

 

「……甘いね!!!」

 

ドガァ!!!

俺は、完全に油断しているツクヨミの背後に回り込み、思いっ切り蹴り上げる。

 

アマテラス「ツクヨミ!!!」

ツクヨミ「……〜〜!」

 

ちょっとやり過ぎたか?神力を込めすぎたか……

ツクヨミが、地面に墜落し、苦しそうに藻掻く。

アマテラスが口を抑えて少し引いたように驚いている。

 

「……姉上、判定を!」

 

俺は、縁側に座っている姉上に、判定を仰ぐ。

誰が見ても、恐らくは……

 

闇「そうね、無理しない方が良いわよ……」

 

姉上が、ツクヨミを抱える。

ツクヨミは荒い息を繰り返し、とても苦しそうだ。

少しやり過ぎたか……

 

ツクヨミ「嫌です……!」

 

ツクヨミが、姉上の手を振り払う。

まるで、まだ動けるかのように。

 

闇「辞めておきなさい……これは命令よ」

ツクヨミ「っ!!!……分かりました。降参、致します」

闇「ありがとう」

 

姉上は、ツクヨミを抱えたまま、神社の奥に入っていった。

少しした後、俺たちの前に現れ、こう言った。

 

闇「次は貴方たち2柱での勝負ね。楽しみにしてるわよ?」

 

少し微笑んだかと思うと、姉上は一瞬の内に縁側に戻り、龍神王様と共に此方を見つめていた。

 

「……正真正銘の神はどちらか、決める時が来たようだな?」

アマテラス「そういうのはもう良いでしょ?」

 

アマテラスはそう言いながらも、今一度薙刀を構える。

俺は、俺より幾分か背丈の低いその女神……天照大御神に勝負を挑むのだ。

……正直、無駄な勝負を挑んでいるということは分かっている。

 

「全ては姉上との戦いを望む!お前もそうだろう?」

アマテラス「あら、よく分かってるじゃない。どっちが勝っても恨みっこ無しよ?」

 

俺は、分かっている、と返事をした。

お互いに、適当な距離を取る。

……さぁ、これこそ本当の姉弟喧嘩(たたかい)だ!!!

 

姉上の投げたコインが、地面に落ちる音がした。




結婚して欲しい人
主従関係でいて欲しい人
割と僅差ですねぇ……


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第35話 神聖なバトルフィールド

「ふんっ!!!」

 

俺の振り下ろした天叢雲剣が、アマテラスの薙刀とぶつかり合う。

何度も何度も……

金属同士が触れ合う音が、周囲に響き渡っている。

 

アマテラス「ふふ、良い顔ね」

 

お互いに、神力は使っていない。

何故なら、これ以上使うと神力切れを起こし、消滅の危険があるから……

 

アマテラス「足元がお留守よ?」

「っ!危ない……」

 

アマテラスが足払いをかけてきたので、危機一髪の所で避ける。

俺はすかさず、空中から落下する勢いで天叢雲剣を振り下ろす。

 

アマテラス「貴方もやっぱり成長しているわね……!力ではもう直ぐ追い越すんじゃないかしら?」

「ありがたいことを言ってくれるなっ!!!」

 

地上に降り立つと、もう1度お互いの武器をぶつけ合う。

アマテラスは、余裕振った態度を見せているが、表情は徐々に隠せなくなってきている様だ。

薙刀の1振り1振りに威力が無くなってきているというか……

まぁ、俺も言えた立場ではないのだが。

 

アマテラス「顔は狙わないのね?」

「気が引けるんでな……」

 

流石に、女性の顔に傷は付けられまい。

俺だって、紳士であることを心がけているからな。

 

「会話に夢中になりすぎて、お体の方ががら空きだぞ!」

アマテラス「ぐっ……ぁ……」

 

アマテラスの腹に、横蹴りを入れる。

手から放り出された薙刀が、宙を舞い、地面に落ちる音がする。

まだまだ満身創痍とは言えないな……少しだけ、俺たちの姉弟喧嘩に付き合ってくれよ?

 

アマテラス「ふ、ふふ?やるじゃない、スサノオ……」

「いつまで続けるつもりだ?」

アマテラス「……貴方が負けを認めるまでよっ!!!」

 

来る……!!!

 

「あがっ……」

 

俺の右頬に激痛が走る。

思考を巡らせるものでもないな、アマテラスが俺の顔を殴ったのだ。

俺は、そのままアマテラスに押し倒される。

神社の中には、アマテラスが俺を殴る音のみが響く。

 

「もう、良いだろう?」

アマテラス「何がよ!!?」

 

俺は、今まさに俺を殴ろうとしているアマテラスの右手を掴む。

アマテラスは、俺に攻撃を止められたのが癪に障ったのか、若干イラついた様子で俺に尋ねる。

 

「こういうことだ」

アマテラス「……〜〜〜!!!!???」

 

俺は、起き上がるそのままの勢いでアマテラスに頭突きを食らわせる。

予想していない頭突きは……というより、予想してなくても予想していても激痛が生じる頭突きは、さぞかし応えただろう。

 

「お前は、血縁者には相変わらず甘いな。大和の最高神としての誇りはどうした?太陽神としての誇りは?……今のお前には、そんなもの微塵も残されていない気がするが?」

アマテラス「うっ……うるさいわよ!!!」

 

目に涙を溜めながら、俺を睨みつけるアマテラス。

その姿は、いつもの厳格な太陽神ではなかった。

俺やツクヨミ、姉上と接する時のような……

 

「どうする?降参するか?」

アマテラス「……そんなことするわけないでしょ?最後まで戦い抜くわよ」

 

アマテラスは、服の埃を払い、スッと立ち上がった。

その顔は、もう、いつも俺たちに向ける"家族"としての優しい顔ではなく。

大和を統べる神……"天照大御神"としての獰猛な笑顔だった。

 

「そろそろ決着をつけようか?」

アマテラス「えぇ、そうね」

 

この、誰にも邪魔させない……神聖な勝負に決着をつける。

お互いの体力も、お互いによって削られている。

決めるなら、今しか無い。

 

「……」

 

少し前傾姿勢を取る。

俺の頭の中では、この勝負で何度繰り返したか分からない計算をする。

俺とアマテラスとの距離……踏み込むべき位置……

 

「おおぉぉぉ!!!」

アマテラス「……っ!!!」

 

気づけば、俺はアマテラスの背後にいた。

……精神攻撃を実戦で試すのは初めてだ。

アマテラスの"精神"を斬った。

振り返ると、アマテラスが仰向けに倒れていた。

 

「良い勝負だったぞ」

 

聞こえるはずのない声をかける。

目を瞑り、悔いの無い表情で眠る姉は……とても美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

アマテラスとスサノオの勝負に決着がついた。

勝者は……スサノオ。

正直、意外だったわね。神力でも身体能力でもアマテラスが勝っているはずなのに。

……何が、スサノオを勝利へと導いたのかしら?

 

「ふふ、良い寝顔。今はしっかりお休みなさい」

スサノオ「姉上!私との勝負は……」

「貴方、まさかもう戦うつもり?」

 

アマテラスを寝かせて皆の所に戻ると、スサノオが声をかけてきた。

私と戦いたくて仕方がないみたいね、ふふ……

 

「仕方がないわね……皆が待ちくたびれて帰らぬ内に始めましょう」

 

少し待って、とスサノオに言う。

ほら、アマテラスと戦った後で、そのまま私との勝負を始めるだなんて……流石に不味いでしょう?

私は、スサノオの額に手を触れ、私の神力を流し込む。

 

「これで大丈夫ね」

スサノオ「姉上の神力……有難く頂戴致します」

「こちらこそ。ほら、早く私との勝負を始めましょう!」

 

私はスサノオの手を引く。

縁側で、沢山の妖怪や神が見ている。

これから始まる最も神聖な戦いを、心待ちにしている。

 

スサノオ「姉上、お顔が……!」

「……ふふ、気づかない内に私も待ち切れなくなっていた様ね」

 

私は、自分の頬を触って漸く気づいた。

首は服で隠れているので分からないが、目の横と、顔の下辺りから中腹辺りまでに鱗が浮き上がっていた。

 

「スサノオ、今回は手加減出来ないかもね。覚悟するのよ?」

スサノオ「……御忠告、感謝致します」

 

私は、日傘をスサノオに向けて、宣戦布告とも言える言葉を放つ。

先程まで神々が戦っていたステージに、私たちは立っている。

僅かに、神力の残り香が漂っていることに気づく。

 

「さぁ、始めましょう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世で最も神聖な戦い(あそび)を!!!」

 

 

【挿絵表示】

 




闇ちゃんは、興奮すると鱗が体に浮き上がってきます。


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第36話 終幕戦

スサノオ「姉上……本気の勝負は初めてですね。心の底から何か、湧き上がる様です」

「そう。それはそれは楽しみね……私も、"全力"で戦わせてね?」

 

本気は出さない。だけど、全力で戦う。

私は、空中に浮かびながら言った。

ふぅ……久々の戦いは腕が鳴るわね〜!

 

「ふふ、まずは手始めに……それっ!」

 

私が日傘を振るうと、それに伴い、突風と大量の神力弾が放たれる。

大量の神力弾は、やがて弾幕となり、たちまちスサノオの視界を埋め尽くす。

 

スサノオ「流石は姉上……しかし、その程度で倒れる私ではございません」

 

壁の様な弾幕を容易く飛び越えたスサノオは、大量の追尾型クナイを放つ。

どこにそんなものを隠していたのか……いや、それは私も言えないか。

 

「今回は肉弾戦は無しかしら?貴方が最も有利とする分野でしょう?」

 

私は、追いかけてくるクナイを難無く躱し、たまに日傘で振り落としながらスサノオに問う。

 

スサノオ「……その様なお召し物では、肉弾戦は不利では?」

「ほお、その様な言葉を選ぶか……良い度胸ね。気に入ったわよ!!!」

 

少しカチンときた。

何年この服で生きてきたと思っているの?いや、着替えるのは着替えるけど……

確かにこんな導師服では戦闘は不向きね。

だけれど……

 

「私はそんな不利なシーンを覆す程の経験をしてきたのよ?あまり舐めないで頂戴!」

 

私の日傘とスサノオの天叢雲剣が重なる音が響く。

……相変わらず、この日傘はどんな素材で出来ているのかしらね?←製作者

 

スサノオ「ぐっ……やはり、姉上の力は強大であらせられますね……」

「そう?ありがと」

 

私は、片手持ちの日傘で防いでみせる。

スサノオの力はまぁまぁあるといったところかしら?

でも、そんなんじゃ私には勝てないわね。

このまま終わらせられるけど……でも、それをしたらそこで見てる観客たちに、怒られちゃうからね。

 

「やっぱり、主役同士楽しまないと」

スサノオ「どういうことです?」

「何でもないわよ」

 

バトルロワイヤルの最後に待ち受けていた壁、それが私。

壁を打ち砕くべく、翻弄する。

それを拒むとする私。

……ふふ、楽しそうでしょう?

 

「ほら、避けてばかりじゃつまらないわよ!」

スサノオ「くっ!」

 

斬り合いを楽しんだ後、私は再び空中に戻り、弾幕を展開する。

まるで私がスサノオを弄んでいるように見えるが……面白いのよ。私の弾幕を必死に避けるスサノオの姿が。

ふふふふふ……

 

スサノオ「笑っていますよ」

「え?」

スサノオ「姉上が、です」

 

あら、気が付かなかったわ。

能力の自動発動化に伴って、自分の体のことに関して鈍くなっている気がするわね。

オートマチックよりマニュアルの方が良いのかしら。

 

「それだけ、貴方と戦えて楽しいのね。さぁ、最後まで着いてこられる?」

 

私の背後に魔法陣が展開される。

魔力を込めると、次々に細い光線が撃ち出される。

交差して、交差して、交差して……とても美しい風景が描かれる。

 

スサノオ「お美しい……」

「弾幕が?」

スサノオ「いえ、弾幕の中に佇む姉上に魅了されているのです。このまま死を迎えても悔いはありませんね」

「ちょっとちょっと、これは殺し合いじゃないのよ……?」

 

私は、困惑した表情を見せる。

スサノオは、かなり必死に神力を操作し、弾幕を作り出し、私の弾幕と相殺させている。

でも、もしかしたらそれも長くは続かないかも……

だって、スサノオの顔に疲れが見えてきたから。

だから、私は最後まで付き合ってあげるのよ。

それが……私の使命。

 

スサノオ「はぁ、やはり"弾幕"なるものは慣れませんね。扱い方が難しいというか……」

 

そう言いながらも、スサノオは変わらず弾幕を作り出す手を止めない。

神力が切れる前に終わらせないといけないわね。

 

「よっ……と。さぁ、貴方の得意分野で楽しみましょう?」

 

私は、地上に降り立ち、スサノオを誘い出す。

 

スサノオ「……どういったつもりです?」

「嫌なの?」

スサノオ「いいえ?」

 

私は弾幕戦も肉弾戦も使いこなす2刀流。

なので、スサノオの得意分野である肉弾戦で戦ってあげたくなってしまった。

 

「ほら、余所見してるわね?」

スサノオ「!……すみません」

「ふふ、謝れと言っている訳ではないわよ」

 

私は、地面を蹴って一瞬の内に拳を撃ち出す。

スサノオは片手でそれを掴み、防御した。

いつも爽やかな顔は、間近で見るとやっぱり疲れが見えた。

割と力を入れたはずなのに……よく受けられたわね?

 

「さぁ、貴方から来ても良いのよ?」

スサノオ「では……!」

 

私は、スサノオから幾分か距離を取ると、スサノオに攻撃の余地を与える。

スサノオは、待っていたと言わんばかりの速さで、私に近づく。

スサノオからの怒涛の肉体攻撃に圧倒されつつも、私は余裕の表情でそれを受けていく。

そして、私は気づいたのだ。

……スサノオが、唯一狙わない体の部位を。

 

「さっきから胴体ばかり狙っているわね。どうして?」

スサノオ「姉上の美しいお顔を……!」

「アマテラスの時もそれだったわよね?貴方、今誰と戦っているか分かっているの?貴方が手加減出来る相手なのかしら!?」

 

私は、スサノオの胸ぐらを掴んで凄む。

スサノオが、若干驚いた様な表情を見せる。

今のはちょっと……

……この子ったら、本当に本当に本っ当ーーーーーーーに女性に甘いんだから。

 

スサノオ「……申し訳ございません、今までの態度は姉上とアマテラスに失礼でしたね」

 

スサノオが、申し訳無さそうに詫びる。

 

スサノオ「それでは今から……私も容赦しません」

 

今まで見せたこともない様な表情をするスサノオ。

そう、それよそれ。

戦う時はそうでなくちゃ……

 

「……うぐっ!」

 

少し油断していた私は、スサノオからの足蹴りを腹に受けてしまう。

ふふ、さっきまでとは大違いの威力……これからが凄く楽しみよ!

そんなことを、地面に叩きつけられながら考える。

 

「本当に成長したのね、スサノオ……」

 

砂で汚れた口元を拭きながら立ち上がる。

他者から見た私はどんな風に映っているかしら?

戦いを楽しむ少女?

戦闘狂?

龍と化した人間?

……どうでも良いわ。

 

スサノオ「お褒め頂き光栄でございます」

 

笑顔で告げられる。

私は、それに笑顔で返し立ち上がり、前傾姿勢になる。

次の瞬間、私の目の前にスサノオの拳が見えた……

 

「ふっ……!」

 

……が、それに当たる私ではない。

瞬時に顔を横に逸らし、体を捻って攻撃から逃れる。

 

スサノオ「さすが姉上、いつでも注意力は緩みませんね」

「ありがとう、貴方もね?」

 

そう言いながら、私は次の攻撃に備える。

 

スサノオ「姉上は、攻撃なさらないのですか?」

「まずは様子見よ、様子見」

スサノオ「相変わらず、余裕の表情を見せて下さいますね……!」

 

私の背丈はスサノオの胸位までしかない為、攻撃する位置を計算しなければ当てるのは難しいはず。

なのに、スサノオは的確に、的確に当ててくる。

痛くはないけれど、衝撃が物凄い。

 

「……そろそろ良いかしら?」

スサノオ「何っ…………ぐぁ……っ!!?」

 

私は、瞬間的に掌を突き出し、スサノオの顎にクリーンヒットさせる。

やられてばかりじゃ駄目だもの……漸く反撃の開始よ。

 

「鱗が交じった私の手は痛かった?後で感想を聞かせて……ねっ!」

 

突き出しで浮かせたスサノオの体に、次々と拳を打ち込んでいく。

主に腹、胸、肩……

最後に、体を捻って威力の増した足蹴りを食らわせてお終い。

 

スサノオ「ぐっ……が……、これが姉上の全力……身に染みますよ……っ!」

「あらそう、じゃあこれからも存分に味わわせてあげるわ?」

 

私は、意地悪な笑みを浮かべ、スサノオをからかう。

当の本人は、何だか恐ろしそうな顔を浮かべていた。

 

「まだ終わりじゃないわよね?」

スサノオ「当たり前です……っ」

 

スサノオが、立ち際によろめく。

神力を使いすぎたのかしら?さっきの弾幕戦で……

……無理させちゃったかしらね、やっぱり早く終わらせましょう。

 

「……前言撤回するわ」

スサノオ「えっ……?」

「貴方、本気で言ってるの?」

 

そのままだと消えるかもしれないわね。

少し可哀想だけど、本当に危ないから……

一歩間違えたら、消滅の危機もある。

決して、スサノオの神力が少ない訳では無い。

弾幕戦に慣れておらず、神力の出力を見誤ってしまっていたから。

 

「降参しなさい」

スサノオ「なっ……!?そんなことを言われて降参する者がいますか!」

「なら、気絶してもらうわ!」

 

スサノオは、それはさせまいと言う様にこちらに向かってくる。

あの馬鹿……起きたら説教よ。

 

「無駄よ……お眠りなさい」

 

手刀を繰り出し、スサノオの首筋に当てる。

首が切れない様にするのは大変なんだから。

スサノオの体は、糸が切れた人形の様に地面に崩れ落ちていく。

 

「……勝者は、夜刀神 闇!!!」

 

神社の中にいる皆に聞こえるよう叫ぶ。

突然のことに、少しの間ざわめいていたが、直ぐにその場は拍手喝采で満たされた。

結花も、輝夜も、永琳も、勇儀も、萃香も、ルーミアも、他の皆も。

……主様も。

秋葉に関しては、はいはいといった様子で拍手をしていたけれどね。

私は、結界を解除し、戦闘で荒れた地面を元の神社の姿へ戻した。

直後、数名が私の元へ駆け寄る。

 

結花「凄かったよ闇!……アタシは残念なことになったけど」

輝夜「本当に凄かったわね、闇!」

永琳「姫様も興奮しながら見てたのよ?」

 

興奮しながら駆け寄ってきた3人……永琳に関しては落ち着いて……が、色々な話を聞かせてくれる。

あっ、そっか……結花は1回戦敗退だっけ……神々の戦いが素晴らし過ぎて、完全に見失ってたわ。

……キャッキャキャッキャしている私たちの元へ、誰かが静かに近寄ってくる。

 

結花「初めてあった時は驚き過ぎて言葉も出なかったけどさ〜!強いんだろ!?アンタ!」

 

……他でもない、主様。

私は、慌てて結花を宥める。

 

「ちょっ……結花!?静まりなさい、主様の御前よ!」

神琉「良いんだ、闇。お疲れ様だ。それよりも……良い余興を見させてもらったぞ、ありがとうな」

 

主様は、私の頭を優しく撫でる。

……今度は驚かないわよ。

だって、主様にお姫様抱っこされたばかりだもの。

 

結花「ひゅーひゅー」

「ちょっ、結花!?」

輝夜「仲が良いのね、羨ましいわよ〜?」

永琳「私たちは応援するから、頑張ってね!」

 

だ、駄目だー!!!

まともな奴はここにはいない!

あっ……危ない、キャラ崩壊する所だったわ。

 

「主従関係であるから、そういう関係じゃないわよ」

結花「またまたぁ〜」

「本当よ!」

 

私は、少し食い気味で話す。

だって、本当だもの。

少し会ってなかったからって、結花は調子に乗っちゃって……

 

神琉「……ここには、面白い者が山ほどいるんだな。楽しませてもらったよ」

結花「じゃあ何で闇と一緒にいてやらないんだよ?主だろ?」

神琉「神の頂点というものも、中々大変なのだ……」

 

結花が、へぇ〜といった感じで納得した様子を見せる。

神の世界というものは案外楽じゃないわよ?結花。

 

「さて、これで宴会はお開きよ。皆好き好きにしていいわよ!!!」

 

私は、縁側に向かって叫ぶ。

妖怪たちは散り散りになってそこには何も……いえ、散らかった部屋が残されていた。

……はぁ、これは片付けるの面倒臭いやつね。

 

輝夜「後は任せたわよ〜」

「えぇ、ゆっくりお休みなさい」

永琳「お休み、闇」

結花「お休みー!」

 

皆は、神社の中に消えていった。

……さて、まだやることが残っているわね。

 

「よく頑張ったわね、スサノオ」

 

私は、すやすやと眠るスサノオの頭を撫でる。

その寝顔は安らかであり、全てを解き放ったといった感じだった。

 

神琉「この後はどうするんだ?」

「神界へ戻り、神界の仕事へ戻ります。遅くなり、申し訳ございませんでした……これからは、神界にも顔を出します故、お許し下さい」

 

深く頭を下げると、私はスサノオを抱き上げ、スキマで神社の中へと繋ぐ……スサノオへ神力を分けることも忘れずに。

靴を脱がせると、布団へとゆっくり寝かせた。

 

「ふぅ……これで、ひと段落ね。私も次の仕事に取り掛かろうかしら?」

 

神社の片付けをしてから……疎かにしていた神界へ戻る。

全ての神が集う神界に……宇宙界最高神が戻る。

それだけで神々の間ではニュースになるのでしょうね。

何で戻ってこなかった、と罵られるかしら?

 

「地球で色々あったのよ……」

 

人間という生物を見ていた、と言えば良いかしら?

13歳だった人間が、何億年もの時を過ごして神になっているだなんて、笑い話も良い所よね。

 

「さぁ、体を綺麗にしてから戻ろうかしら!」

 

私は、神社に備え付けられているお風呂場……基温泉へと足を運ぶのだった……

 

 

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神様としてのつとめ
第37話 久し振り、神界……


諏訪子side

 

「!」

 

とある日、守矢神社に1通の矢文が届いた。

差出人は……闇だった。

内容は、闇が近々神界に戻ると。

手紙に書いてある内容曰く、もう随分と神界を留守にしているらしい……

 

「神奈子!闇が神界に戻るんだって……」

神奈子「何!?」

 

闇と聞いて、目を見開く神奈子。

もう何年会ってないかな……なんて、考える余裕も無かった。

 

「神界なんて、元々が地上の神である私たちはあまり関係ないと思っていたけど……」

神奈子「天照大御神様、月読命様、素盞嗚命様、天宇受売命様等……地上の神で頂点に立つと言われる方々にとっては、重要らしいけどね。私たちの戦いに関わる1柱が、神界に戻られるとは……いやぁ、生きていたら何が起こるか分からないね」

 

神奈子は、しみじみと言った感じで語った。

私にとっては、洩矢の国の壊滅を救ってくれた救世主でもあるから、凄く寂しい気分になってしまった。

 

神奈子「でもほら、ここに書いてあるじゃないか。また直ぐ戻るって」

「本当だ……良かった。もう戻ってこないのかと」

 

まぁ、宇宙の創造主であるのに、戻ってこないのはありえないか……と安心する。

 

神奈子「あの時、大和に直談判しに来たのがあの方じゃなかったらどうなってたんだろう……」

「あんた的にはどう思ってたのさ?天照大御神様の部下だったんでしょ?」

 

私が質問すると、少し考えた様な表情をする神奈子。

まぁ、私は大和に属する神ではないから関係無いけどさ!

気になるのは気になるからね。

 

神奈子「んー……良い思いはしなかったよ。でも、部下が物申す訳にもいかなくて、ね」

「まぁそうだよねぇ」

 

私は、届いた矢文を箪笥に仕舞った。

神界ね〜、1度は行ってみたいなと思っている。

神界(あそこ)は上級神しか行けないような所だしな〜。

 

神奈子「そんなことより諏訪子……西瓜はどうだい?人間の所で買ってきたんだけど」

「え!食べる食べる〜!」

 

私は、神奈子に釣られるがまま西瓜を楽しみにするのだった……

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

バトルロワイヤル兼宴会が開催されたその翌朝、私は、神界へ戻る為の準備をしていた。

やっぱり、来ていくのはいつもの導師服!

首元のボタンを留め、腰の上のリボンを締める。

両サイドの髪を月と太陽の髪飾りで結んでOK。

 

「忘れ物は無いわね……まぁ、何も要らないけど」

 

自分の体を鏡で確認し、独り言を呟く。

もう直ぐ主様が迎えに来て下さる。

今日、私が神界に戻ることは、神界にはもう伝達して頂いたようだった。

 

チロル「闇ちゃん……おはよぉ……ふわぁ」

 

支度を終わらせていると、チロルが起きてきた。

昨日の宴会では、チロルはもう寝ていた。

あの時はもう遅い時間だったから……

 

「おはよう、チロル」

 

私は、擦り寄ってきたチロルの頭を撫でる。

いつ見ても可愛いんだから……

 

チロル「あれ、闇ちゃん……もう着替えてるの?」

「えぇ、今日は行かないといけない所があるのよ。いつ戻るか分からないけど、必ず帰ってくるわ」

チロル「そうなの?……寂しくなるね」

 

チロルが悲しそうな顔をした。

普通だったら、泣きそうな所なんだけどね。

本当にお利口な妖怪だこと。

 

アリシア「おはようございます、御先祖様」

「おはようアリシア……じゃあ、昨日言った通りよ」

アリシア「畏まりました。神社はお任せ下さい」

 

アリシアは、私に深くお辞儀をした。

……と、そうこうしている内にいらっしゃったわね。

 

神琉「待たせたな」

「いえ……とんでもございません。参りましょう」

 

目の前に黒い裂け目が現れ、中から主様が顔を出した。

軽く会釈をして、私も中へ入る。

私は、2人に手を振り、主様に続いた。

 

神琉「昨日は良い余興(もの)を見せてくれてありがとうな。これからも楽しみにしてるぞ?」

「いえ、礼には及びませんわ」

 

2柱の神が真っ黒な空間を飛び続ける。

その内、神界へ続く扉が見えてくる。

 

神琉「……心の準備は大丈夫か?」

「もう既に出来ておりますわ」

 

主様は私の返事に頷くと、光の漏れ出す裂け目へと飛び込んでいった。

久々に見る神界……まぁ昨日振りだけれど……は、霧が立ち込めててとても美しい。

様々な様式の家が立ち並び、様々な種類の神が行き交っている。

神に飼われている神獣も例に漏れず、それぞれが自分の仕事を全うしている。

 

神琉「さぁ、俺たちの神殿に行こうか」

 

家が立ち並ぶその先には、とても大きな建物が見えている。

あれが、神殿。主様が普段お住まいの"家"。

私も、何回かは訪れたことがある。

 

「……私が、いないせいで何かご不便でもありましたか?」

神琉「俺を誰だと思ってる?」

 

主様が目を細くしてお笑いになる。

流石、神界を纏める実力をお持ちの方。

神界1位の実力は、私が1番よく知っている。

 

「失礼を致しました。お許し下さい……では、共に参りましょう」

神琉「あぁ、行こう」

 

……神の中心が集まる所へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~神殿~

 

?「龍神様……」

「あら、どうしたの?」

?「どうしてこんなにも神界を留守にされていたのでしょう?」

 

この子はアヌビス。

一応、地球生まれの神であり、神界への出入りを許されている。

真っ黒なジャッカルの頭と人の体を持つ。

 

「い、いや……地球での生活が楽しくて、つい……」

アヌビス「龍神ともあろうお方が何をなさっているんです!?神界の上級神方が不満を募らせ、爆発寸前だというのに……」

「あら、貴方も上級神に分類されるじゃない?」

アヌビス「いいえ、私はまだ冥土の管理職の下位に属する冥界神ですので、上級神にはまだ遠く及びません」

?「楽しそうね、宇宙界神たち?」

 

なーんか聞いたことがあるような声ね……と思っていると、そこには……

 

?「……随分と遅かったのね」

「貴女も変わらないわね」

?「フン、どの口が言っているのかしら」

 

私を睨みつけながら、高圧的に話す彼女の名前は"エマ"。

全世界の情報を管理し、操作する、私にも匹敵する程の実力の持ち主。

 

エマ「さぞ"地球"という所が楽しかったのだろうけど、神界を疎かにするんじゃないわよ?」

「ごめんなさいね」

 

仕方が無いな、といった感じで話すエマ。

私が神界にいた頃、よく話していた上級神。

怒っている様な表情の中にも、穏やかな感情が混じっていることから、本気で怒っている訳ではないと分かる。

 

エマ「ほら、貴女が帰ってきて最初の会議が始まるのだから、早く行きましょう」

 

エマが、私を一緒に行こうと誘う。

ちなみに、主様はもうご自分の部屋に戻られていて、会議室で合流する予定。

 

アヌビス「行ってらっしゃいませ……龍神様、情報神様」

「ふふ、またね」

 

私たちは、その場から立ち去り、2柱で会議室へと向かう。

 

エマ「久し振りの会議で緊張しているんじゃない?」

「そんなことはないわよ?同族に囲まれて過ごすだなんて、日常茶飯事過ぎて慣れっこよ」

エマ「龍神王様の直属の従者だなんて、本当に羨ましいわ……貴女の何が気に入ったのかしらね?」

 

私のことを羨ましそうな目で見てくるエマ。

そんなこと言われても、私にも分からないとしか言い様が無いもの。

それに、私が元人間であることは口外してはならないと言いつけられてあるしね。

 

「いくら貴女でも言えないことはあるわ。ほら、さっさと行きましょう」

エマ「あっ、待ちなさい!も〜……」

 

エマが頬を膨らませているのを笑いながら見ていると、いつの間にか会議室の前まで来ていた。

この扉の向こうから、質の違う神力が発せられるのを感じる。

もう数名来ているようだった。

……さぁ、覚悟を決めろ、私。

数億年振りに会う上級神たちだ。

私は、重い重い扉を開け放った……



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第38話 久々の上級神会議

広い部屋の中には1番奥に玉座があり、座る者の力を示している。

奥から、長方形の机が入口に向かってずらりと並び、その中には既に数名の神が座っていた。

その数名は、私の方を見た途端、目を見開いてボソボソと小声で話をし始めた。

 

「ご機嫌よう。お久し振りですね、皆様」

 

私がニコッと笑顔を見せると、全員が苦笑いにも近い笑顔を見せる。

……まぁ仕方ないわね。

 

エマ「何がご機嫌よう、よ……」

「ふふ、ごめんなさいね」

 

エマに一言詫びを入れると、私は玉座から1番近い席に腰を下ろす。

エマも、私に続いて隣に座る。

座る順は神格順で、位が高い者から順に、奥から手前に座っていくシステム。

まぁ、1番下の位でも、かなり高い位の者だけどね。

私が此処に初めて来た時はプレッシャーが物凄かったのを覚えているわ。

物思いに耽っていると、この部屋の扉が開く音がした。

皆の視線が、扉の方へと向かう。

 

?「……おや?まだあまり来てないんですね」

 

真っ黒な長い髪、真っ黒な目、真っ黒な角、真っ黒な翼……

黒だけで構成されたような者の名前は"アビス"。

私が、最も苦手とする神でもある。

 

アビス「っと……自分の世界に入り浸って職務を放棄するような神もいるみたいですね?」

「……それは、どういう意味かしら?」

アビス「そのままの意味ですが?ご自分でも理解してらっしゃるはずです」

 

くくく、と嫌な笑みを浮かべるアビス。

……はぁ、嫌味しか言わないから苦手なのよ。

私が言い返さないのを良いことに、私を滅茶苦茶弄んでくるようなタイプ。

 

「私の世界は忙しいの。そういう貴方も、私にそんなことを言う暇がある位なら、神格を高める努力をした方が良いのではなくて?」

アビス「なっ……!」

 

私が貶す意味での笑顔を見せると、アビスは顔を真っ赤にして自分の席へ座った。

あんな品も無いような者に構っている暇はなくてよ。

 

エマ「……貴女も悪いわねぇ、ふふ」

「だって苦手なんだもの」

 

隣で傍観していたエマが話しかけてきた。

本当のことよ。他者に嫌味ばかり言うような子は苦手なんだもの。

 

エマ「まぁ、私もアイツは大嫌いだけどね?」

 

私たちが談笑していると、また扉の開く音がした。

今度は誰かしら……と、思い部屋の入口へ視線を移す。

 

?「どうも〜」

一同『!!!』

 

……あぁ、あの子ね。

白銀色にサイドテール。

赤色を基調とした服。

それと……へカーティア以来出てきていなかった東方Projectの旧作キャラクター。

そう……

 

「神綺……」

神綺「あら、初めましての顔もいるわね」

 

神綺。

旧作は全く手を付けてなかったけど、大体はインターネットの画像で見たことがあるので、何となく思い出せた。

魔界を創造した神ね。

 

エマ「今更何をしに神界へ来たのかしら、神綺?」

神綺「酷いわね〜、そこにいるサボり神よりかはマシよ?私が会ったこと無い位、神界に戻ってないんでしょ?」

 

私に指をさす神綺に、一瞬キレかけたけど……何とか耐えられた。

まぁ、神界を放っておいたのは私が悪いし……

でも、言い方があるわよ!

 

「初めまして、神綺様?」

神綺「龍神様ね。初めまして……神綺で良いわよ」

「こちらこそ、闇で良いわ」

 

初めての会話がこんな風になるなんて、誰が予想したかしら?

そもそも神綺に会うと思ってなかったから……

 

神綺「そもそも、あの龍神王様がよくお許しになったわね。貴女が神界を放っておいたことを」

「どういうことかしら?」

神綺「そのままの意味よ。貴女は自分の世界に入り浸り、会議にも来ていないのでしょう?私も大概だけれど、貴女には劣るわ。むしろ劣ってよかった!」

 

はぁぁぁ?(|| ゚д゚)

貴女も言えないでしょう!!?

私は、そう言い返したくて堪らなかったけど、喉元まで来ていた言葉をグッと飲み込んだ。

 

「巫山戯るな!私には私の仕事がある。それを貴女に口出しされる謂れは無いの!」

神綺「なっ、何よ!?(゚皿゚#)」

 

あっ、言っちゃったわね。

後で反省かしら……

私が机をドンッと叩き、珍しく声を荒らげたことで、ビックリしている神々。

 

「さ、こんな巫山戯たお遊びは止めて、さっさと席へ戻りなさい。龍神王様がそろそろ来られる頃だと思うから」

 

私がそう言うと、コソコソ話をしていた周りの神々は途端に静かになった。

まぁ、私が言った言葉は嘘じゃないもの。そこは責められる所じゃないわよね?

 

?「待たせたな。退屈していたのではないか?」

『!!!』

 

突然開け放たれた扉に驚いた神々は、立ち上がって、一斉に深々と頭を下げた。

そう、この方こそ、この神界において最も位の高い神であり、我が主でもある……

 

「親愛なる我らが主……龍神王様、お待ちしておりました」

神琉「あぁ、待たせて悪かったな。そろそろ始めようか……今回の会議は、出席率がまぁまぁって所か?」

 

……龍神王様。

主様は、私たちに目を配らせ、出席率を把握する。

そして、最上位の上座へと歩いていって玉座へと腰掛ける。

 

 

神琉「まぁ、もう知っているとは思うが……上級神の夜刀神 闇が舞い戻ってきた。これで、しっかりとした会議が出来るはずだな?」

 

主様は、私をちらっと見ると、目を細めてお笑いになる。

あぁ〜!

お恥ずかしい……というより罪悪感が凄いのよ!

 

神琉「じゃあ、今期の全世界報告会議を始めるとしようか。まずは、宇宙界の報告からよろしく頼む」

「はい、承知致しました。宇宙界では……」

 

気を取り直して、世界の報告に入る。

神々は私の話に聞き入っており、時々相槌を打ったりしている。

私がデータ等を全員に見せるようにすると、所々から質問をするような声も上がる。

 

「そして……ご存知の方もいらっしゃると思いますが、宇宙界ではとある大きな問題に直面しております」

 

私は、牛鬼の顔を模したものを机の中心に浮かべる。

幾らかの神は驚いた様な顔をし、幾らかの神はなるほどといったような顔をする。

 

「白みが強い肌に真っ赤な目、大きな牙に漆黒の髪……そして、残酷な程なまでの美貌が特徴ですので、よく覚えておいて下さい。もしかすると、上級神である貴方がたの世界にも入り込んでくるのやも……」

 

私は緩み始めた世界の警備を正す為、少し強い口調で神々に伝える。

もう、宇宙界だけの問題ではない。

もし牛鬼が自分の世界に入り込んできた時、どうすれば良いのかを神々に伝えた。

牛鬼らしき者を発見した場合、私か主様に至急報告すること。

自分で太刀打ち出来ない場合、無理に戦おうとしないこと。

 

「……お分かり頂けましたね?」

『承知致しました』

 

私は、次の神に指示をすると、そっと自分の席に腰掛ける。

元々人前で発表等をするのが全く出来なかった私なのに……変わってしまったわね。

まぁ、何億年も生きていれば性格も変わるのは当たり前かしら?

指示をした神の報告が終わり、次から次へと神々の報告が進んでいく。

懐かしい。私が最後に参加したのは、いつだったかしら?

 

神琉「終わったか?なら、次の話題へと進めさせてもらうぞ」

 

主様が、私たちの前に書類の束を出現させる。

 

神琉「俺なりに色々と考えさせてもらった。これについて、次の会議までに検討しておいてくれ」

 

書類の束に1枚1枚目を通していくと、そこには各々の世界のことと、神界に住まう神々が全ての世界に自由に出入り出来るようにすること。

まだ決定したことではないが、私たちにとってどう思うのかとのことらしい。

私的には別に良いのでは無いかと思う。世界の見学をすることで、自身の神格を高めようとすることだって可能だから。

 

神琉「では、いつもより早いが……これにて会議は終了する。解散!」

 

主様は、足早に扉へと向かい、部屋を後にされた。

さて、私も帰るとしようかしら。

 

エマ「闇、これからどうするの?」

「私は宇宙界へ帰るわよ。貴女は?」

エマ「そう。私は全世界の情報の整理があるから、神界に留まるわ。貴女も元気でね」

「じゃあまたね」

 

私は、早く皆に会いたい気持ちでいっぱいだった。

勿論、神界が嫌いだと言うわけではないけど……

神々が次々に部屋を後にする中、私もつられるように部屋を後にした。



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第39話 無意識で確かな愛

お久しぶりです。



神琉「今日も御苦労だった、闇。久し振りの神界で疲れたのではないか?」

「いえ、そんなことはございません。神界に留まるだけで疲れていては、上級神は務まりませんので」

神琉「そうか、それなら良かった」

 

主様が、私に振り向いてお笑いになる。

この笑顔でどれだけの女を虜にしてこられたのかが物凄く気になるわね……

 

神琉「少し良いか?」

「はい、いかがなさいましたか?」

 

私たちは、神殿の廊下を歩いていたのだが、急に主様が止まられたので私も止まる。

そうすると、主様が私の目線に合わせて背を屈める。

何か御用がおありなのだろうか?

聞き逃さぬよう、耳を立てて視線を合わせる。

 

神琉「……今回は、俺も闇と共に宇宙界へ戻っても良いか?」

「えっ?はい、構いませんが……急にどうなさいました?」

 

普段であれば、神界に留まってご自分のお仕事を終わらせるだとかでお忙しい筈なのだけれど……

まぁ、別に迷惑な訳がないが、一応理由を聞いてみる。

 

神琉「……理由がなければ行ってはいけないのか?」

「い、いえ!そんなことは……」

神琉「はは、大丈夫だ。まぁ、強いて言うなら……従者の仕事を視察に行きたい、と言った所か?」

 

私の心情を言うとするなら、かなり焦った。

普通に理由を聞いただけなんだけど……今度からは理由を聞かずに何も言わず頷くだけの方が良いのかしら?( ˊᵕˋ ;)

良かった、主様がお怒りにならなくて……

はぁ、やっぱりこの方の感情は読み取りにくいわね……

 

神琉「ところで、宇宙界に戻ったら何をするつもりなんだ?」

「特には決まっておりませんよ。宴会も終了しましたし」

神琉「そうか」

 

主様は先程のように歩き始めた。

私は、主様の3歩程後をついていく。

どれくらい歩いただろうか。

私たちは、神界に入ってきた時と同じ、とある大きな黒い裂け目の前までたどり着いていた。

 

神琉「一緒に行こうか」

「えぇ、畏まりました……って、何故私を抱える必要があるのです?」

神琉「この方が手っ取り早いだろう」

 

……どっかで聞いたような気がするわね。

まぁ、気にしない気にしない。

そうして、抱きかかえられながら黒い裂け目に飛び込んだ。

他愛もない会話を続けていると、いつの間にか宇宙界への出口までたどり着いており、そのまま地球へと降り立った。

今は昼前のようで、燦燦と照り付ける太陽に思わず手で視界を仰ぐ。

 

「着いてこられて本当に宜しかったのですか?私の家は何も無く……」

神琉「闇、お前がいるだろう?それに、今は仲間が沢山いるだろう」

「まぁ、そうなのですが……」

 

私は、どうすることも出来ずに神社の中へ入っていく。

玄関先でブーツを脱ぎ、自室へと入った。

 

「さて、まだ夜は迎えておりませんが……今夜はどうされますか?客間でお休みになられますか?」

神琉「いや、お前と同室で頼む」

「畏まりました。御用意しておきますね」

 

まさか、同室を希望されるとは思わなかったけど……まぁ、迷惑な訳がないか。

布団を2つ用意しないと……それも、最上質な羽毛布団を。

 

メリー「師匠、いつお戻りになられたのです?」

 

私が色々と思考を巡らせていると、後ろから誰かの声がしたので振り返ると、箒を持ったいつもの姿のメリーがいた。

家事はアリシアと分担しているようで、メリーは主に掃除等を受け持っているらしい。

 

「あら、メリー?今日もお疲れ様!」

メリー「いえ……今までどちらに?」

「言ってなかったかしら?神界よ」

メリー「そうですか……」

 

メリーは、部屋の襖を閉め、私たちの目の前から消えた。

少し不満げなメリーの表情を気にする間もなく、主様が私の肩に手を置き、話しかけてきた。

 

神琉「いつから弟子を持つ程の力を付けたんだ?」

「……マエリベリーが弟子にしてくれと頼み込んできたからです。頼まれると断ることが出来ない性根でして」

神琉「随分と嬉しそうじゃないか?俺と話す時もそういう表情を見せて欲しいものだな」

 

主様が、わざとらしく頬を膨らませてお怒りになる。

いつもだったら完全に焦っていた私だったけれど……

 

「……では、主様ももう少し私にお顔を見せて頂けると幸いですわ」

神琉「お?寂しいのか?これからは出来るだけ会いに来てやるから許せよ」

 

私の頭に、主様の大きな手が置かれる。

いや、置かれると言うより被さると言った方が適切な気がするけれど……まぁ、身長差の問題ね。

 

神琉「そういえば」

「?」

 

主様が、何かを思い出したかのような仕草を見せる。

 

神琉「闇は伴侶を持つつもりはないのか?」

 

何を言い出すかと思えば……そんなことね。

私にとって、この身は主様によって与えられたモノ。

全てを主様に捧ぐと決めたその日から、私の人生……いや、神生?は定まったようなもの。

だから……

 

「この身は主様のモノ同然。他の者に身を委ねるなどという考えさえもありませんわ」

神琉「……そうか」

 

私が主様を見上げた時、不意に逸らされた視線が僅かに揺らいでいた気がした。

何が不満なのかしら?言ってくだされば何でも言うことは聞くのだけど……

 

「如何なさいました?」

神琉「いや、何でもない」

 

ほら、こんな風に話を逸らされてしまうの……って、私は誰と話しているのかしら?

まぁ、主様のすることに文句を言うつもりなんて全く無いし、別に気にも留めないけどね。

 

神琉「そうだ、提案があるんだが」

「はい、何なりとお申し付け下さい」

神琉「……海へ行かないか?皆も連れて」

「海、ですか……」

 

それは、思ってもみなかった提案だった。

いや、前世では何回か訪れたことはあるんだけど……泳ぐのがどうしてもできなくて苦手で、親に帰るよと言われるまで延々と磯遊びをして生き物を観察していたという記憶がまだ残っている。

前世の記憶は、何億年生きていようが残るものなのかしら?

 

「……それは良さげですね。私が皆を誘っておきましょう。いつになさいますか?」

神琉「いつでも良い。お前たちの都合がつく日で構わないから決めておいてくれるか?」

「畏まりました」

 

私たちにとって、時間という概念は無いに等しいけど……

神界で過ごすより、地球で過ごすのが好きな理由は、時間の流れを感じられるから。

神界では、時間の概念が無いから、絶対安全とはいえ少し味気無いのよね……

 

神琉「この後は何かするのか?」

「いえ、何も……」

神琉「じゃあ、少しばかり雑談をしようか」

「それは良い提案でございますね」

 

暇を持て余し気味だったので、助かるといえば助かった気もする。

何より、主様といられる時間がとても光栄だから。

 

神琉「困ったことは無いか?何か、自分の力じゃどうにも出来ないこととか……」

「対応に困ることはあるかもしれませんね。例えば、この原因の分からないモヤモヤした感じ……」

 

不穏な空気を感じる、というか……

原因がどうしても分からないからどう対処すれば良いのか。

はたまた、未来に起こる出来事を感じ取っているだけなのかもしれない……

 

「この原因は、近々調査するつもりです。主様の手を煩わせることはありませんので、御安心下さい」

神琉「そう、か。頼りにしているぞ」

「ありがとうございます」

 

まぁ、基本的に出来ないことは無いから大して困ってないんだけどね。

行き当たりばったりで大丈夫な時がほとんどだし。

 

神琉「……闇は、俺と出会うまでどんな人生を送っていたんだ?」

「珍しいですねぇ……でもまぁ、お答えしますよ」

 

私は、生まれてからどんな境遇で過ごしてきたのかを話した。

小学生の頃は比較的社交的だったんだけど、中学生になってからは友達が激減した。

……一緒にいても、楽しく感じられなくなってしまったのだ。

 

「……そして、今に至ります」

神琉「能力で知り尽くしてはいたが、お前の口から聞けて嬉しかったよ」

「ふふ、プライバシーの欠片もありませんね」

神琉「……一目惚れしたんだよ」

「え?」

神琉「いや、何でもない」

 

プライバシーの欠片も無いと言ってみせたが、不快な思いは微塵も感じてないから良しとする。

私の精神年齢はもう100億を超えているけど、乙女の心はいつまでも残るものよ。

 

神琉「提案があるんだが」

「何でしょう?」

神琉「俺と闇で、本気のぶつかり合いをしてみないか?能力は使わずに……」

「!!?」

 

私の頭に衝撃が走った。

 

『本気のぶつかり合いをしてみないか?』

 

無理に決まっとるやん……

お相手をさせて頂いたことは確かにあったけど、いやぁ……流石に、本気は……

 

「か、仮に本気でぶつかったとしましょう。そうすれば全世界が壊れますわ。いけません、絶対にいけません」

神琉「そんなこと、絶対に起こらないぞ?何故なら、俺がいるからだ(▭-▭)」

「主様はご自分のお力をご存知ですか!?」

 

そんな会話が2時間程続いた。

色々と説得を試みたけど、主様は中々諦めない……(--;)

ので、私が結果的に折れる形となった。

『全てを司る程度の能力』は使わない条件として。

仕方ない。主様だもの……

 

神琉「良いことを思いついたぞ?」

「何でしょう……?」

神琉「他の皆に、俺たちの戦いを見せてやるのはどうだ?身近な者だけに、だ」

「……良いお考えだと思います」

 

はぁ、この先どうなるのか不安だわ……

だけど、自分の力を出す暇なんてろくに無かったから、良い機会かも……?

まぁアリシアたちには適当な理由をつけて見ていて貰いましょうか……




神琉様の闇ちゃんに対する深い深い愛が感じられますね……


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第40話 一行は海へ

私と主様、そして、メリー、アリシア、チロルは海に来ていた。

まぁ、前回(メメタァ……)言っていた主様の「海へ行こう」発言が元になっているんだけど。

さて、ここまで来て私の気分が優れないのには少しばかり厄介な理由がある。

それは……

 

「うっ……何故、こんなことに……」

神琉「まぁ、そう言うなよ?」

 

主様からの要望により、勝負をすることになったから……相手は、勿論主様。

負ける気しかしないわ?いえ、負けてしまうのよ!

そんなの、傍から見ても分かるでしょう!?

 

メリー「師匠ー!頑張ってくださーい!」

アリシア「ご武運を」

チロル「頑張ってねー!」

 

私は、振り向いて皆に苦笑いをした。

そりゃ、苦笑いにもなるでしょ……

なんか最近戦うことが多いような気がするわね。

日傘を懐から取り出して、戦闘可能な状態にした。

 

神琉「そうだ……勝敗はともかく、何かを賭けるのはどうだ?」

「……賭けですか」

神琉「あぁ。俺は闇とのデートを取り付けようかな?」

「デートだなんて……言ってくださればいつでもお供致しますのに」

神琉「賭けるから面白いんだろう?」

「まぁ、反対する理由もありませんので構いませんが……」

 

私は何も言わないことにした。

何故なら、勝敗がもう分かっているから。

 

「では、早速始めましょう。勝敗の決定は、相手が降参するか、気絶させるかのどちらかで良いですね?」

神琉「構わない」

「いざ尋常に……」

 

私は、日傘を持つ手に力を入れる。

……いつでも戦える。

出せる力を全て出すのよ。

 

『勝負っ!!!』

 

私が放った妖力弾によって海の水が破裂し、ダイヤモンドの様に美しく舞う。

1粒1粒が太陽の光に照らされて乱反射し、目を奪われてしまいそうだ。

それらは、目の前の標的(ターゲット)に向かって水の銃弾の如く突き進む。

 

神琉「なるほど、こういう戦い方もありだな……」

「ふふ、ありがとうございます」

 

主様が手を前に突き出したかと思うと、そこから熱気が発せられ、全ての水が蒸発した。

これ位であれば完全なる想定内。

このお方は強敵すぎる。だから……油断は大敵。

 

神琉「さて、俺の従者はこの永い時の中で何を学んだか、何を見てきたのか教えてもらうぞ?」

「えぇ、勿論です……わ!」

 

日傘の先から光を放ち、四方に分散させる。

これは、惑わせる目的で使用しているのもあるけど、本当の理由は"これ"。

……タネばくだんだ。

 

神琉「綺麗だな……闇の戦い方は特徴的なものが多いと感じるが、何かを意識しているのか?」

「いいえ、私が戦いたいと思った戦法ですわ。名付けるならば……"弾幕ごっこ"とでも言えるかもしれません」

神琉「弾幕ごっこ……か、良い名前だ」

 

前世での言葉……懐かしい。

私はいわゆる"厨二病"というやつだった。

東方Projectの二次創作なんて腐る程見てきたし、自分がその世界に放り込まれた様な想像ばかりしてきた。

 

神琉「その"弾幕ごっこ"とやらは、どういった戦法なんだ?」

「そうですね……"美しさ"がとても重要で、相手を殺してはならないルールがあります。私、個人的にとても好きな戦法ですわ」

神琉「ほぉ……中々良いじゃないか。俺も真似て良いか?」

「勿論……」

 

主様の瞳が、一瞬ギラっと光った様に感じた。

ふふ、まぁこっちも何もせずやられようとしてる訳じゃないから……

 

「主様……植物はお好きですか?」

神琉「急にどうした?まさか……」

「種を植え付けて差し上げますわ♪」

 

その瞬間、主様の全身が爆発した。

あっ、グロイ系じゃないから安心して……主様は、私の攻撃如きで壊れるお方じゃないから。

 

神琉「……はは、中々やるじゃないか?」

「戯言を……私如きに倒されるお方じゃないでしょう?」

神琉「それはどうかな?」

 

私の予想通り、五体満足でケロッとしている主様がそこにいた。

タネばくだんをアレンジして、同時にやどりぎのタネが発動するようにしていたんだけどね……

まぁ、こんなの序の口。

主様はもっと凄いものを見せて下さるから。

 

神琉「じゃあ、こっちの番だ」

「どこからでも……!」

 

すると、私の背中に大量の水飛沫が飛んできた。

何が起きたのか確認しようとしたが、それは叶わなかった。

何故なら……後ろの方を確認する前に私の体は海へ引きずり込まれてしまったから。

 

「(なっ、何が……)」

 

幸いなことに、私は息をする必要が無いようにしていたので、死ぬことはない。

だけど、物凄い勢いで海を進んでいるからか、少し苦しい。

ゆっくりと目を開けると、そこには……

私の腕にガッチリと噛みつき、海を駆け巡る"龍"がいた。

 

「(あー、成程……水で形どってるのね)」

 

水龍、とでも呼ぼうか。

噛みつかれているけど、痛くはないかな……

というか、水圧が凄い!

 

「(こんなものに戸惑っている暇は無いわね……えいっ!)」

 

私が神力を手に込め、思いっきり振り抜くと、意外にも簡単に水龍の形は崩れた。

そうして、急いで私は海面を飛び出した。

 

神琉「へぇー……意外にも早かったなぁ。合格だ」

「ありがとうございます」

 

ずぶ濡れで返事をする私の姿はさぞ滑稽だろう。

放っておいてもじきに乾くだろうけど、流石に濡れたままだと動きにくいので……瞬間乾燥する。

 

神琉「じゃあ……再開しようか?」

「えぇ……っ!」

 

右ストレートで主様の顔を狙う。

……が、勢い付けて振り抜いた拳は逆に掴まれ、グッと引き込まれる。

 

神琉「闇の力はこんなものじゃないだろう?」

「勿論です」

 

バックステップで後ろへ下がり、日傘を縦に思いっきり振り抜いた。

生じた斬撃は主様に向かっていき、あるところで弾けた。

まぁ、演出というものである。

弾けた斬撃は小さな刃となり、相手を切り刻むべく散乱する。

 

神琉「おぉ、細かいな」

「細かいだけじゃありませんわ」

 

斬撃一つ一つが威力を持つ、立派な凶器になりえますのよ?

このまま畳み掛けたいところだけど……そうはいかないのが、主様。

 

神琉「だと思った」

「っ!?」

 

と思ってたんだけど、まさかの主様は大量の斬撃を被弾してしまっていた。

かなり威力を持っていたとお分かりだったはずなのにどうして……?

 

神琉「……成長したな?闇よ」

「っ……お褒め頂き感謝致します」

 

服の所々は破れ、顔には多数の切り傷があった。

いくら主様とはいえ、多少は痛覚を持っているはず。

……本当に不思議なお方だ。

 

神琉「さて、ここまでにしておこうか」

「どうしてです!?私はまだ……!」

神琉「そもそも、この戦いを誘った理由は、闇の実力を見たかったからなんだよ。だから、もう良い。降参だ」

「そんな……そんな勝ち方、私は嫌です!」

 

握り締めた手から、血が滲む。

悔しい、悔しい、悔しい……!

せめて全力を尽くしてから負けたかった!!!

龍神として生まれ変わってから感じた久々の屈辱。

こんな勝ち方、全く嬉しくない……!

 

神琉「さ、皆を連れて帰ろうか?」

「むぅ……はい」

 

砂浜で待っている皆の元へ向かった。




ヤバいくらいのグダグダ感……


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第41話 出会いは突然に

皆を連れて家に戻った私は、縁側に座ってぼうっと空を眺めていた。

あんな勝ち方、アリなの……?

……やっぱり納得なんて出来ないわ。

 

メリー「まぁ、そう気を落とす必要は無いと思いますよ?」

「あら、メリー。慰めてくれてるの?」

メリー「そうです、師匠の気分が落ち込むと同時に私もなんだか気が入らなくなるんですよ」

「それはいけないわね……」

 

私の気分と連動しているのかしら?

ま、ウダウダ気にしてても仕方が無いわね。

また今度お誘いしてみましょうか……その時は必ず納得のいく勝負にする!ってことで。

 

「主様は結局どういうつもりだったのかしら……?」

神琉「だから、純粋に闇の姿が見たかったんだって言ったじゃないか」

メリー「ひっ……失礼します!」

 

急に後ろから発せられた声に驚いてメリーはどこかに行ってしまった。

 

「本当にそうでしょうか?」

神琉「……それは、俺を信用出来ないということか?」

「いえ、私がまだ未熟なだけでございます。いらぬ心配をしたこと、どうかご容赦頂けますでしょうか……」

神琉「それは全く気にしてないから闇も気にするんじゃないぞ」

 

私の頭を撫でる主様。

大人の男性の、大きな手。

何故だか心地よく感じた。

 

神琉「最初は、なんてひ弱な女なんだと思った」

「……?」

神琉「それがまさか、こんなに強くなるなんてな?」

「ありがとうございます。ですが、まだ、完全には……なれません」

 

完全になれないことくらい分かっている。

元人間であるうえに、生きている存在である以上は完全になんてなれっこないわ。

それに、完全になるつもりなんてない。

完全にならなくたってこんなに恵まれてるもの。

それ以上に望むものなんてありはしない。

 

神琉「……それはそうと、闇に渡そうと思っていた物があったんだ」

「何でしょう?」

 

そう言って、私の左手を両手で包み込む主様。

一瞬光った後、主様は私から手を離した。

何事かと思うと、何やら自身の左手に違和感があるので、そちらに視線を移すと……

 

「指、輪……?」

 

左手薬指に、金がついている指輪がはめられていた。

指輪だけでも不思議だけど、それよりも驚いたのが指輪に込められた非常に膨大な量の神力。

私がこの量の神力をこんな小さな指輪に込めるのはまぁまぁ厳しい。

 

神琉「驚いただろう?」

「え、えぇ……でも、何故」

神琉「……気休めにしかならないかもしれないが、どうしても困った時はこれが助けてくれるだろう」

 

私が死にかけた時、だろうか?

……あ、何となく分かったかも。主様が私に指輪を渡した理由。

 

「もしや、牛鬼と(まみ)えた時の為に贈って下さったのですか?」

神琉「……あぁ、そうだ。それ以外にも、闇が窮地に立たされた時の逃げ道になってくれるだろうな」

「本当に感謝しかありません……ありがとうございます」

 

私は、座ったままであるが主様に深くお辞儀をした。

指輪なんてファッションとしての指輪でさえ、前世でも付けたことがない。

しかも、ファッションとして付ける指輪ではなく、特別な意味を持つ指輪だ。

左手を宙に翳して指輪を見つめる私を、主様は満足そうに見ていた。

 

神琉「……牛鬼が怖いか?」

「えっ?まぁ、そりゃあ……怖くないと言えば嘘にはなりますが、前世()と違って私には守るべきものがありますので。負ける訳にはいきません」

神琉「はは、それは頼もしいな。これからも頼んだぞ」

「はい、お任せ下さい」

 

少し不安げな主様の笑顔が気になったけど、まぁ大丈夫だろう。

牛鬼に殺されかけたことはある。そして、主様の手を煩わせてしまったこともある。

しかし、私には守るべきものがここにいる。故にまだ命を賭ける時ではない。

 

メリー「お楽しみの所、失礼します」

 

振り向くと、襖を開けて正座しているメリーがいた。

 

「あら、どうしたの?」

メリー「……師匠にお会いしたいという方が、境内でお待ちです」

「分かったわ。いつもありがとうね、ご苦労様」

メリー「いえ、お礼には及びません」

 

師匠らしいことなんて何一つしてあげられてないけど、メリーは本当に何でもやってくれている。有難いことよ。

それにしても、私を訪ねる人なんているのかしら?気になる所だけど……

 

「では、少しの間失礼します」

神琉「あぁ、全然構わない」

 

そうして、私は縁側を飛び立ち、私を訪ねてきたお客様とやらが待つ境内に向かって駆け出した。

せっかく訪ねてきてくれたんだから、お待たせする訳にはいかないわよね。

 

「お待たせしました」

?「……っ!突然お呼び出ししてしまい、すみません。貴女が夜刀神 闇様ですね?」

「はい、私に何の用でしょうか?」

 

肩までの青い髪の毛に、私より頭1つ分位高い背。どこかで見たことがあるような白いジャケットを羽織っている彼女は、この時代では珍しいはずの服装をしていた。

それに、1番気になるのはその神力。

この子……本質は人間だ。なのに、普通の神を凌ぐ程の神力を持っている。

 

導「私……1997代目海神 ̄ ̄

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海月 導(うづき しるべ)でございます!」

 

「海、神……?」

 

 

……海神だなんて、何て突飛なことかしら。




小説名変更しました


【挿絵表示】


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第42話 吸い取られる命、我と共に消え去るか

久しぶりに原作キャラの登場です


「なるほど。先代海神が亡くなったから、海神の仕事を貴女が継承し、それを私に報告しに来たということね?」

導「えぇ、そういうことです」

 

海神は、代々受け継がれてきた高貴な神。

親から子へ世襲される時もあれば()()()()()()()()()()が海神の「権利」と「義務」を継承する時もあったらしい。

この継承の仕方はだいぶ独特だと思う。

 

導「それと……」

「どうしたの?」

導「最近、海の様子がおかしいのです。それを、闇様に見て頂きたくここへ来た次第です」

 

何となく気づいてたけど。

海の命が、存在感が無くなっていく感覚がある。

まぁ、海なんて広大すぎて無くなる命なんて雀の涙程だけど数が多いのは事実。

 

「確かに、この問題は貴女だけじゃ解決するのは難しいかもね……」

導「……はい」

 

導が、私の言葉にしゅんとした顔をする。

やばい、言い過ぎたかしら……?と思ったけど、事実なんだからしょうがない。

というより、まだ継承して間も無いだろうから慣れないのもまたしょうがないこと。

 

「待ってて、今調べるから……」

導「……直接見なくてもお分かりになるのですね」

 

海の命がどこへ流れていくのかまず見てみる。

まぁ、どこへ流れるのかなんて分かりきったことなんだけど。

 

「……ん?」

 

あれ?

 

導「ど、どうされましたか?」

「……思ったより事態は深刻かもしれないわね」

導「そんなに……」

 

自分が限りなく不死に近い存在だから忘れていたのかしら。

海だけじゃなく陸までもが死に()()()()()()感覚がする。

 

「この問題は早く解決しないと、不味いわ。貴女はまず、貴女に出来ることをするの。命に関しては私が解決してくるから、貴女は家に帰って待ってて貰える?」

導「えっ、あ、はい!分かりました」

 

失礼しました、と言って境内を飛び立ち、あっという間に見えなくなってしまった。

まぁ、自慢じゃないけど、私の力だけでほとんどの問題は解決しちゃうんだけどね。

 

「さて、と……そろそろ動き出しましょうかね?」

神琉「……闇が普段どんな風に仕事をするのか見せてもらうぞ?」

「ふふっ……構いませんよ。どうぞご覧下さい」

 

いつの間にか後ろにいた主様に驚くこともせず、微笑んでみせた。

余裕の表情だ。こんな問題、早く解決してやるわ。

 

「では、早速行って参ります」

神琉「健闘を祈るぞ」

 

軽くお辞儀をして、フワッと宙へ浮く。

久し振りね、この感覚。何かが来そうな感覚。

実はもう、この問題の元凶は何となく分かっている。

ある程度の高さまで浮き、神社から離れた後……スキマを開いて、とある場所まで繋いだ。

あらゆる命を()()()()元凶の所まで。

 

「あら、まぁ……とっても綺麗ね」

 

スキマから顔を覗かせてみると、やっぱり"それ"はあった。

見事なまでに咲き誇る桜が。まぁ、ただの桜じゃないことには違いないけど。

……いつか地球の全てを飲み込む前に、何とかしなきゃね。

 

「さて、どこから始めるか……」

 

やっぱり、この桜の持ち主に許可を取るべきかしら?

 

「東方の原作をそのまま当てはめるとしたら……この桜の名前は……」

?「西行桜よ。綺麗でしょう?」

「あら……」

 

急に発せられた声の方を向くと、そこには驚き……いや、もう、何となく分かってた人物がいた。

桃色の髪に、水色の着物を着た可愛い女の子が。

()()人間なのね。一応、名前を……まぁ、聞かなくても分かるけど、一応、よ。

 

「貴女は?」

幽々子「私は西行寺 幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)よ。ここ西行寺家のお屋敷の主を務めているの」

「へぇ、立派ね」

 

まだあの帽子はかぶってないみたいだけど、雰囲気ですぐ分かった。

というより、死に誘われてる時点で、気が付いてたんだけどね。

この桜を見てもう確定よ。

 

幽々子「貴女は……泥棒さんなの?」

「違うわよ。私は夜刀神 闇。一応、こう見えて神様なの」

幽々子「あら、ごめんなさい。神様だと分からなかったわ……」

「……そんなに畏まる必要は無いわ。気軽に接して欲しいもの」

幽々子「そう、分かったわ」

 

東方の原作をやったことはないけど、この子が後に幻想郷最強クラスのキャラクターになるなんて思いもしないわね。

今のままでも充分危険な能力を持ってるんだけど。

西行()だけじゃなく、()()()()()も。

"死に誘う能力"なんて、普通の人間が持って良い物じゃないわよ……

 

?「幽々子様、ここにおられましたか……っ、何奴!?」

 

屋敷の方を見ると、刀の柄を掴んで今にも斬りかかってきそうなお爺さんがいた。

お爺さんと言っても、背が高くて背筋もしっかりしてて、現代の日本でいうところのお爺さんとは全然印象が違うんだけどね。

で、幽々子がいるということはこの人の名前は……

 

幽々子「妖忌(ようき)!この人はお客様よ。手出ししてはいけないわ……私が対応するから大丈夫よ」

妖忌「そうでしたか……それは失礼致しました」

 

やっぱり妖忌だったか。

魂魄 妖忌(こんぱく ようき)。白玉楼の庭師。

てことは、妖夢にも後々会えるのかしら?

 

幽々子「ねぇ、貴女。せっかくだからお茶していかない?」

「ん?じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

出来れば早くこの問題を解決したいが、幽々子の厚意を無下にしたくもない。

だから、ちょっとだけゆっくりしていくことにした。

その段階で、幽々子にも西行桜……西行妖のことも聞いてみる。

西行妖が地球上の生物を取り込んでしまうと大変なことになるし……私の力じゃ解決が難しくなる前に。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

幽々子「この桜、綺麗でしょう?私が生まれるずっと前から生えているのよ」

「えぇ、とても美しいわ……死さえも美しく思えてくる程にね」

幽々子「……あら、気づいていたの」

「当たり前よ。元々ここに来た理由はそれよ」

幽々子「流石神様ね」

 

私は不老不死に限りなく近いから並大抵のことでは死なない(死ねない)が、確かにこの桜の下で死ねるのなら本望、と感じる人間たちの気持ちも分からないでもない。

 

幽々子「……何でこんなことしてくれるの?」

「私は全ての種族の味方よ。だから、被害はなるべく最小限に抑えないといけない……これでも、私はこの世界が好きだから」

幽々子「ありがとう!」

 

私が育った世界とはちょっとだけ違うかもしれないけど、それでも好きな星だ。

作ったのは私だしね。世界を放棄する神もたまーにいるけど、私は創った世界には責任を持つつもりだ。

 

「じゃあ、そろそろ解決に向かうために行動を起こすわ。幽々子は危ないから屋敷の奥で待っていて欲しいの」

幽々子「えぇ。すぐ終わるかしら?」

「分からない。死の力が強いと時間がかかるわ」

 

その通り。いくら私の力が強いとはいえ、下手なことは出来ないし。

……もしかすると、自分が作ったものにさえ、自分が()()()()可能性が出てくるかもしれない。

不老不死に限りなく近いとはいえ、自分の全ての力を吸い取られたら終わりだからね。

 

「じゃあ、行ってくるから」

幽々子「……気をつけてね」

 

幽々子は屋敷の奥へ行ってしまった。

もし私が来なければ、幽々子は西行法師と同様に桜の下で自害してしまってたんだろう。

原作キャラはどうしても死なせたくないからね……

私は、一瞬で西行妖の前まで移動する。

 

「さぁーて……どうしたものかしら」

?「……どうしてお1人で行ってしまわれるのですか」

「……どうやって私の居場所が分かったのかは知らないけど、戻りなさい。危険すぎるわ」

 

後ろを振り向くと、アリシアがいた。

近づいてくる気配も無かったし、恐らくスキマを使って私のそばまで来たのだろう。

いつもだったら私の仕事の手伝いっていうか……まぁ経験させてるんだけど、今回ばかりは許可出来ない。

死ににくいとはいえ、この子は私みたいに不老不死に近い存在でもない。

 

アリシア「龍神王様に教えて頂きました。御先祖様が危険な仕事に出かけたと」

「あぁ、やっぱり……でも駄目よ」

アリシア「何故です!?私では戦力にすらならないと仰りたいのですか!?」

「違うわ!貴女は私の優秀な従者よ。だからこそ手伝わせる訳にはいかないの!死なせてしまうかも……」

 

仲間を失うのは怖い。

ましてや、私を信じて着いてきてくれるこの子は絶対死なせたくない。

こんな妖怪桜の相手は私で充分なの。

 

アリシア「そんなこと、承知の上です。神社を出る前、龍神王様に何度も確認されました。死ぬかもしれないぞ……と」

「貴女はこんなことで死んでも良いと?」

アリシア「はい。御先祖様の傍らで死ねるというなら、間違いなくそれは本望でございます」

「……ふふ。貴女の覚悟は本物なのね。良いわ、でも死んでは駄目よ」

アリシア「えぇ、畏まりました」

 

まさかの返答に驚きながらも、思わず笑みが零れる。

こんなこと言われちゃ、断るものも断れないじゃない。

全く……しょうがないわね。

 

「一応……」

 

私は、アリシアの額に自分の額で触れ、神力を送った。

西行妖の死の力に引き込まれないように、命を吸い取られないように。

気休めにしかならないかもだけど、この子は全力で守らないと。

 

アリシア「ありがとうございます。至極光栄でございます」

「うん、じゃあもう……手遅れになる前に始めましょう」

アリシア「はい」

 

西行妖の方に向き直る。

この桜は今でも死を吸い取り続けている。

このままだと私でさえ……いえ、余計なことは考えないが吉ね。

 

「私が先ず対応してみるから、少し下がってて」

アリシア「はい……お気をつけ下さい」

「勿論よ」

 

西行妖の幹に触れてみる。

うん、触れた感じは普通の木って感じだけど……

何かしら……この感覚。体の中が……

 

バチンッ!!!!!

 

「っ!?」

アリシア「御先祖様ッ!!!」

 

突然音がしたかと思うと、私はアリシアの元まで飛ばされた。

アリシアに抱えられ、ふと見てみると触れていた右手の手首から先が無くなっていた。

服に血が飛び散って真っ赤に染まっている。

激痛……ね。だけど、私でよかった。すぐ再生出来るから。

 

アリシア「御先祖様!今すぐ手当てを……」

「大丈夫。私の神力と、西行妖(この桜)の妖力とが相反するものだから……恐らくお互いが拒否反応を起こしたのね」

アリシア「し、しかしその右手は……いえ、何でもありません」

 

既に再生し切った右手をひらひらとさせると、一瞬目を見開いたアリシアだったが、すぐに安心したような顔になった。

しかし……今のでもう西行妖にとって私からの宣戦布告と見られてもおかしくはないわね。

……あぁ、ほら。やっぱり。

 

「アリシア!離れてなさいっ!!!」

アリシア「……っ、畏まりました!」

 

アリシアを少し離れた場所に行かせると、私は斜め上から襲ってきた西行妖の枝を迎え撃つ。

枝にしちゃあ……少しじゃない、滅茶苦茶攻撃力が高すぎないかしら?

 

「なんて多いのかしら……!」

 

私が1本の枝を切り落としたことに激怒したのか、西行妖は物凄い量の枝を展開させてくる。

大地が揺れる ̄ ̄。

流石ただの桜じゃない、妖怪桜ね。

だからといって、簡単に殺してしまっては何らかの良くない影響が出てしまうかも……

 

「全く、面倒かけるんだから……!!!」

 

弾幕を展開し、今も尚増え続ける西行妖からの枝による攻撃を攻略していく。

でも、たまに弾幕をすり抜けてくる賢い枝もいるわけで。

そういったものは、日傘で防いだりしている。

突き抜けてこないのか、って思うかもしれないけど、転生してからずっと使ってきたやつだから神力が濃厚に含まれているの。

 

「凄い衝撃ね……腕が折れそうだわ」

 

でも、ずっとこんなことをしているわけにはいかない。

持久戦に持ち込ませてしまうと、死の力がますます強くなるだけだ。

私は、弾幕&日傘で枝攻撃を防ぎながら、西行妖に近づいていく。

 

「殺すのも駄目、神力で飲み込もうにも拒否反応を起こす……しかし放っておく訳にもいかない……それならこの方法しかないわね」

 

私は、凄く大胆な方法を思いついてしまった。

一か八か……やってみる価値はある。

無理矢理神力で飲み込もうとすると、文字通り私の体が何個あっても足りないわ。

 

「仕方ない」

 

何倍にも濃縮された神力の結界を繰り出す。

とりあえず、これで作戦に全力を注ぎ込める……!

私は、西行妖の幹に両手で触れる。

今も尚枝攻撃は止まないが、臨時の結界で防ぐことが出来ている。

 

「うっ……!ぐ……」

 

体に注ぎ込まれてきた膨大なまでの量の死の力に思わず顔を顰める。

「死のエネルギー」を限界まで吸収してみる。

一先ず、西行妖の意識は完全に私の方向に向いている。

アリシアや他のものには興味すら示していないっぽい。

……好都合だわ。

 

「さぁっ……西行妖!全ての力を私に寄越しなさい!!!」

 

私は、流れてくる死の力に苦痛を覚えながらも、吸収することを止めない。

吸収した後のことなんて考えてないけど、まぁ大丈夫でしょう。

これでも不老不死に限りなく近い存在よ?

…………あ。

 

「花が枯れていく……もう少しね」

 

枝の先から、どんどん萎んで枯れて落ちていく。

満開ではなくなった。これで、もう少しで、世界に影響を与えないくらい力を弱めさせることが出来る。

 

「ぅぐっ……あああぁぁ!!!」

 

流れてくる死の力が急激に増えた。

周りなんてほとんど見えてない。白飛びしている。

体の中に取り込んだ死の力が増える程、激しい苦痛に襲われる。

私の生命エネルギーが、西行妖の死のエネルギーを吸収していく。

 

「はぁ、はぁ……もう少しよ……っ!」

 

もう大部分の西行妖は取り込んでしまったので、後はもう抵抗出来ない位に弱らせてから……封印の術を使う。

これで、地球の命が西行妖に吸い取られることはなくなるはずだ。

 

「これで……お終いね」

 

神力の鎖で、西行妖を厳重に縛り上げる。

これで、しばらくの間は鎖を外さない限り、西行妖が解放されることはなくなった。

完全に妖力が無くなってから鎖を外せば問題ないと思う。

 

「ふぅ……ひと仕事終えたわ」

アリシア「御先祖様!」

 

アリシアが、私の元へ寄ってくる。

どうしたのかしら?あんなに焦ったような顔をして……

そんなに焦らなくても大丈夫よ……

 

アリシア「御先祖様!お顔が……!!!」

「へっ?顔……?」

 

手鏡を取り出し、自分の顔を見てみると、そこにはとんでもないものが写っていた。

6割方は黒く染まり、金色だった両目は完全に黒く染っていた。

 

「なっ……!何故……!?」

アリシア「一先ず、神社に戻りましょう!そして、早く神力を回復させなければお命が危うく……」

「そう、ね……」

 

私は、震える体に鞭を打って何とか立つ。

西行妖と戦う前は、こんなに大変だと思っていなかった。

正直、見くびっていた。私の最強同然たる力があれば大丈夫だって……

あぁ、なんかもう……今は……ただ寝たい……。

 

アリシア「御先祖様……!?」

 

アリシアの驚いたような顔が見える。

あぁこれ、面倒かけるやつね……ごめんなさい、アリシア。

私は少し眠るから……ちょっとだけ待ってて……




闇ちゃんは死にません。よっぽどのことがない限りは。

あと人によっては急展開すぎるかもしれませんがお許し下さい。語彙力が少ないもので…


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第43話 神の目覚め

んー……ここは……

あ、私……西行妖を取り込んで、それで封印して……

……あれ?そっから何があったんだっけ?

それに……私の中の力がほとんど抜け落ちている感覚がある。

神力も霊力も妖力も魔力も何も無い。

 

「××××××!!!」

 

声が、出ない。

それ以上に、倒れたまま、体を動かせない。

何にも力が出ない。

……まさか本当に死んでしまったのだろうか。

 

?「……よぉ」

「……!!!」

 

目の前に、今1番出会いたくない人が現れてしまった。

いや……人というか……妖怪?

 

牛鬼「久し振りだな……いつぶりだ?」

 

大妖怪どころか神さえ凌ぐ強大な力を持つ妖怪。

現実世界にいる牛鬼が私の夢の中に出てきているのか、牛鬼が力を使って私を呼び出しているのか。

どうでもいいが、何としてもこの状況から抜け出さなければまずい気がする。

 

牛鬼「おー、おー、そんなに暴れようとするなよ。何にもしないから安心しろ」

 

牛鬼は、私の腕を掴みながら言った。

そもそも全く動けないのでどうしたらいいのか分からなかったんだけど……

 

牛鬼「お前をこのまま亡き者にするのも面白いけど、やっぱり足掻こうとするお前を見てるのも最高だな、ははっ!」

 

真っ白な牙をチラッと見せて笑う牛鬼。

皮肉にもその表情は、それが牛鬼じゃなければ惚れる者が居たかもしれない位までに美しかった。

 

牛鬼「まぁ、次に会う時は……楽しみにしてるぞ?」

 

牛鬼は、私の手をそっと離し、足元からボロボロと欠片になって消えていった。

何だったんだ……本当に。

そして、私はそっと目を閉じた。

あぁ、早く目覚めてほしい……こんな夢。

そして、私が龍神として生まれ変わったのも夢なら、このまま目覚めないでほしい。

だって、今、物凄く幸せだから。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

次に目を開けた時、そこには見慣れた天井があった。

……いつもの神社だった。

 

「あー、あー。声は出るわね……って、ん?」

 

私の手が、誰かに握られている感覚がある。

起き上がり、横を見てみると……

 

「あ、チロル……」

 

私のすぐ隣で、すやすやと眠るチロルがいた。

握られていない片方の手で、チロルの頭を撫でる。

何だか髪質が変わったような気がするのだけど……気のせいかしら?

前はふわふわで、癖毛だった。今は凄くツヤツヤしていて、毛先がくるっと外側に跳ねている。

 

メリー「チロルー?もう昼ご飯出来たから一緒に……え」

「あら、メリー。ごめんなさい、西行妖っていう桜を封印しに行ってたら、自分も倒れちゃって……どの位寝てたか教えて欲しいのよ。それに、一緒にいたアリシアに多分迷惑かけちゃったから謝りたいの…………って、どうしたの?」

 

突然襖が開いて、心做しか大人びて見えるメリーが入ってきたかと思ったら……

その紫色の目から、大粒の涙が零れていった。

 

メリー「あっ……師匠……お目覚めに……」

「な、何で泣いてるの?ちょっと眠ってただけでそんなに泣くの?」

 

確かに、西行妖を取り込んで少し危なくなったかもしれないけど……そんなに?

あっ、よくよく考えてみると、私の中から西行妖の死の感覚は消えている。

あんなに膨大にあったのに……

 

「私……何かしちゃったかしらって、わっ!?」

 

メリーが私に抱きついてきた。

いや、まぁこれはご褒b……ゲフンゲフン何でもないわ。

とりあえず、何でこんなことで肩を震わすのか意味が分からない。

夢の中で宿敵である牛鬼が出てきたこと位しか覚えてない。

 

「ねぇ、私はどの位寝てた?もしかして割と長く寝ちゃってた感じ?」

メリー「うぅっ、ぐすっ…………5年ですわ」

「あぁ、そう、5年ね……5年!?」

 

だから、メリーの身長が伸びた感覚があったのか。そっかそっかー!……って、そうはなるかい!

私、どんだけ寝てんのよ!人間だった時でも最高は20時間だったわよ!(実話だけどそれはそれで凄いよね‪w)

 

「そう、私……そんなに迷惑かけちゃったのね。ごめんなさいメリー。まずは色んな人に謝らないといけない気がするわ」

メリー「えぇ、えぇ。私も同感ですわ……後、私の名前はもう人間だった頃の"マエリベリー・ハーン"ではありません」

「……どういうこと?」

紫「捨てたのです、名前と自分を。これからは、人間(マエリベリー・ハーン)ではなく妖怪(八雲 紫)として扱って下さいませ」

 

思わず息を飲んだ。

そもそも、前からメリー……紫は、私が知っている"八雲 紫"の姿そのまんまだった。ファンの間でよく言われる胡散臭さは全く無かったが。

それがまさか、こんな形で本当に八雲 紫になってしまうなんて。

……現代の東方ファンの皆、まさか私が八雲 紫=マエリベリー・ハーン説を立証したわよ。

 

紫「そして、改名した者……いえ、改名というよりかは完全に元の名前を捨てた者が1人いますわ」

「えっ……誰?」

紫「恐らく、最も師匠に忠誠を誓っている者ですわ……そうでしょう?」

 

そう言った途端、紫の後ろから私のよく知る人物が現れた。

エメラルドグリーンの膝ほどまである美しい長髪。背の高さは変わらない。

そして、私の傍まで来て跪いたと思うと、私の手を取ってこう言った。

 

香織「西行妖の件、御先祖様をお守り出来なかったことを心よりお詫び申し上げます……そして、御先祖様がこうして戻ってきて下さること、元アリシア・サンチェスことこの神宮寺 香織(じんぐうじ かおり)、長らくお待ちしておりました!」

「ありがとう。私も貴女にまた会えてとても嬉しいわ……それに、私の方こそごめんなさい。貴女にも色々迷惑かけたでしょう?」

香織「そんなことはございません。こうして戻ってきて下さることが私にとって、何よりも幸せなのですから……」

 

よく見ると、香織の目に薄らと涙が浮かんでいる。

あぁ、こんなに愛されていると感じたことがあっただろうか。

牛鬼に殺されかけた時、主様とアリシア……当時の香織に死ぬほど心配されたことはあったけど。

私も、一生この子たちを愛し、守っていかなきゃいけないわね。

 

「さて、これから会いに行かなきゃいけない人がいるわ」

香織「……龍神王様でしたら、今は境内にいらっしゃいますよ」

「言ってないのに分かるのね?ふふ、流石だわ……」

 

何故境内?と思ったけど、たまたま来ているのだろう。

私は、よいしょ、と立ち上がる。

特に違和感無し。若干髪の毛が伸びているけど。

後は神力とかが全て通常通りに戻っている位?

 

「この子、ちょっと見ててね」

香織&紫「「畏まりました」」

 

私は、快く承諾してくれた香織たちを尻目に部屋を出た。

早く会いに行かなければ。というより、私が早くお会いしたかった相手だ。

急いで境内に向かうと、そこには見慣れた姿が。

 

「……」

神琉「……ようやく戻ってきたか」

「はい。西行妖に、思わず手間取ってしまいまして……申し訳ございません」

 

私は、即座に跪き、頭を垂れる。

正直何を言われても文句は言えない。

 

神琉「闇はいつも、無理をする」

「それは当然ですわ。自分で創った世界なのだから、責任を取るのは当然……それに、いつでも命を賭ける覚悟は出来ております故」

神琉「……まだ分からないのか?」

「……?」

 

振り向いた主様の顔を見て、私は何とも言えない気持ちになってしまった。

いつも澄ました顔をして、常に優しい顔を崩さなかったあの方が。

……怒っているような、悲しんでいるような、そんな顔をするなんて、誰が予想出来ただろうか。

主様は、私と同じ目線になるよう屈み、私の手を掴んでこう言った。

 

神琉「……今度、こんな無茶をしたらこの世界は取り壊し、永遠に神界で暮らしてもらう」

「そっ……それは!」

神琉「本気にするな、冗談だ。それにそれがそんなに嫌ならもっと自分や他の奴らのことも考えてやってくれ」

「……畏まりました」

 

あんなに冷徹だった主様が、こんなことでお怒りになるなんて思わなかった。

というより、今の主様の発言は何故か、冗談じゃなく本気で言っているように聞こえたんだけど……

エマや他の神には悪いけど、何っにも無い空間で一生過ごせだなんて、死んだ方がマシな気がするわね。

 

神琉「この5年で色々と変わったことがある」

「……はい」

神琉「まず、闇が封印した西行妖を管理する屋敷の主についてだ」

「あぁ、西行寺 幽々子ですか?」

神琉「そうだ。あの人間は、闇が眠った後暫くして亡くなった」

 

なっ……!?

私が見た限りでは、あの時点ではまだ大丈夫だったのに!

やっぱり、あの能力が原因だったのかしら……

 

神琉「驚いた顔をしているな。だが、俺にとってはあの人間の死は妥当だと思うんだ」

「……なぜそうお思いに?」

神琉「あれだけの能力を人間が保有しておいて、只事で済むはずがないだろう?」

「……確かに、そう……ですね」

 

原作キャラが死んでしまったことに悲しみを覚える。

あの時、私が眠ってなかったら……死を止められたかしら?

 

神琉「闇が気に病む必要はない。そもそも、生死に間違いなど無いのだからな」

「あっ……ありがとうございます」

 

主様は、優しい手つきで私の頭を撫でる。

いきなりだったが全く嫌な気はしなかった。

私のせいじゃない、か……生死に間違いはない、か。

……その言葉だけで、少し救われた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 ̄ ̄闇が神社に戻ってきた頃

 

紫(メリー)side

 

師匠が変わり果てた姿で帰ってきた。

"西行妖"なんていう妖怪と戦っていたらしい。アリシアから聞いた。

アリシアも傍にいたそうだけど、師匠に「手出しするな」と言われていたらしい。

……また、私は力になれなかった。

 

「どうして」

 

なんて、言うまでもない。

私の力等無くてもやっていけるからだ。

ましてや、私の存在なんて無かった方が仕事の邪魔にならずに済むのでは?

なら、私は何の為に妖怪になったんだろう?

 

神琉「お前は、マエリベリー・ハーンと言ったな」

「うっ……はい」

 

師匠の主こと龍神王様が、私に話しかけてきた。

正直、私はこの人のことが苦手だ。近寄り難い雰囲気があるから。

 

神琉「ではマエリベリー。奥の部屋へは誰も近づかないようこの家の住人に言っておいてくれるか?」

「……どうしてかお聞きしても良いですか?」

神琉「それは、()()()()()()()()()()()()ようにだ」

 

その言葉は、闇のことを1番に考えている為に出た言葉ではあるが、私にとってはこの家の住人のことを全く信用していない為に出た言葉のようにも聞こえた。

私を見下ろす闇と同じ金色の目がとても恐ろしく見えて仕方がない。

 

「失礼ですが、龍神王様が師匠の面倒を見られるのですか?」

神琉「当たり前だ。主なのだから」

「では面倒を見るその役、私たちにやらせて貰えませんか?」

神琉「……何?」

 

龍神王様の耳がピクッと反応する。

私は、これだけは譲りたくないと思ってしまった。

 

神琉「……理由を聞かせろ」

「私もチロルもアリシアも、この家の住人ですし。何より……師匠ご自身が望んで傍に置いて下さるのです。ですから、私が師匠の面倒を見るのが妥当かと思いますが」

神琉「この俺に意見をするとは……中々肝が座ってるな。流石、闇が選んだ者だ。良いだろう、その役、やってみるがいい」

 

何とか許可をしてくれた。

これで拒否されても、力ずくでやらせてもらうつもりだったんだけど。まぁ無理か。

それに……

 

「それに、男性である龍神王様に、女性である師匠の面倒を見させる訳にはいきませんので」

神琉「……」

 

龍神王様は、ぽかんとした顔をする。

師匠と同じ女性が師匠の面倒を見るのが妥当だろう。

後、この男を師匠と2人きりにさせたくないっていう個人的な我儘でもあるんだけど……

龍神王様は、腹を抱えて笑った。

 

神琉「くっ……はははっ!俺が闇に何かするとでも思ったのか?」

「そうではありません。とにかく、私含めこの家の住人が面倒を見るってことで良いですね?」

神琉「あぁ」

 

龍神王様と目が会う度にビクッとしていたが、今回ばかりは引けなかった。

……引きたくなかった。

闇が尊敬する方だってことは知ってるけど、やっぱり私はこの方への苦手意識は拭えない。

やっぱり怖いものは怖いから……

 

神琉「あぁ、言い忘れていたことがあった」

「……何ですか?」

 

まだあるのか。

そう言いたかった言葉をぐっと飲み込む。

 

神琉「闇が目覚めるまでは、俺はこの家に滞在させてもらう」

「っ!……構いませんが」

神琉「おぉ、そうか。ありがとうな!」

 

龍神王様は、わざとらしい笑顔を見せる。

私が断れない立場ってことを分かって言ってるのだとしたら、まぁまぁ意地悪な神様だ。

……この邪神、いつか仕返してやりたい位よ。

 

神琉「俺のことをどう思おうが勝手だが、闇への礼儀を忘れるんじゃないぞ。まぁ、お前なら大丈夫かもしれないが……」

「……はい」

 

この邪神、心を読んでるな……と思った。

まぁ、全世界の最高神ならば出来る芸当なんだろうけど。

 

神琉「じゃあ、俺は少し出かけるから……ここのことは任せるぞ」

 

一生戻ってくんなって言いかけたけどそんなこと言ったら不味い。

私は、スキマのような空間に入っていく龍神王様を苦虫を噛み潰したような目線でそっと見送った。




読んでてわかるかもしれませんが、紫(メリー)は龍神王(神琉)が嫌いですね‪w
で、龍神王(神琉)はツンデレ気質な所がある気がします。
そして、紫(メリー)は闇ちゃんのことが大好きです。
ていうか、ほぼほぼ全員に好かれてます。
オリジナル展開多いですがお許しを……


キャラブレしやすいランキング
1位夜刀神 神琉
2位夜刀神 神琉
3位夜刀神 神琉


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第44話 花畑の主

闇side

 

目覚めてから数日経った今、私は居間で紫とお茶を飲んでいた。

あぁ、そういえば……チロルが、私が目覚めたことを知った時、紫と同じ反応をしていたのには少し笑ってしまった。

 

「そういえば、永琳や輝夜、それに妹紅は元気にしているの?」

紫「あの人たち、師匠が倒れたって聞いて大慌てで駆けつけてきたんですよ。本当に愛されているんですね」

 

あの永琳たちが?

まぁ、永琳に関しては原作キャラの中で1番初めに出会った人物でもあるからね……何かと思い入れがあるキャラの1人だ。

核によって滅ぼされる前の都市にいる時……私が地球に舞い降りて間も無い時位から、仲良くしてくれた数少ない友達。

 

「うん、本当に愛されてる。私じゃ勿体無い位の愛を受けている気がするわ……」

紫「そんなことありません!えっとその……私も、師匠を、その……あ、あ、愛していますから」

「あら、ありがとう!私も愛してるわよ」

 

私は、何故か赤面している紫を不思議に思いつつ、紫が淹れてくれたお茶を啜る。

うん、中々美味しいわ。

 

紫「あっ師匠!そういえば、師匠は目覚めてからどこへも行ってませんよね?」

「えぇ、そうね」

紫「せっかくだから、私とどこかに出かけませんか?」

「あら、良いわね。この後も特に用事は無いし……行きましょうか」

紫「やった……それなら、早く準備しないと!師匠、待ってて下さい!」

「あっ、まだどこに行くか聞いてな……い、って、行っちゃった」

 

足早に部屋を出ていってしまった紫を見送ると、私は溜息をついてお茶を飲み干した。

何か、紫って私が目覚めてから落ち着きが無くなったような気がするわね……気のせいかしら?

 

「私も準備しましょ」

 

私は、立ち上がって部屋を後にした。

準備するとは言ったが、何もすることがない。

とりあえず境内に向かった。

 

 

 

10分後

 

紫「ごめんなさい、遅くなっちゃいました……」

「そんなことないわ。今日の紫、いつもに増してとっても綺麗よ」

紫「あ、その……師匠も綺麗、です……」

「ありがとう!」

 

日傘を差して照れる紫は、まるで太陽に照らされた向日葵みたいで思わず見とれてしまった。

……って、どこのキザ男みたいなことを言っているのよ!私は!

 

「それで……行くあてはあるの?」

紫「勿論ですわ!一先ず着いてきて下さい!」

 

私は、先に行く紫の後を追う。

そういえば、今の紫の服どこかで見たことがあるなぁ……と思ってたら、道士服じゃない方の紫の服だった。

白い道士服じゃない、紫のドレスね。

やっぱり紫って凄く綺麗よね……(←自分もかなりの美少女だと気がついていない)

 

「やっぱり、この辺は変わってないのね。流石に5年位じゃ変わらないかしら……」

 

人間が現代より少ないからか、発展も遅い。

今が多分平安時代辺り?だとするなら、東方の原作が本格的に始まるのは……後1000年近く。

長い。でも、私が転生してから今までの方が遥かに長い。

長い……最早、"永い"の域だ。

 

紫「あっ!ほら、あそこです!」

 

紫が指をさしたその先にあったのは広大な花畑。

向日葵が大量に咲き乱れ、しかし無駄に咲いている訳じゃなく、ちゃんと手入れされている感じがある。

 

「うわぁ、凄く綺麗……」

紫「ふふ、実はあそこに私の新しい友達が住んでるんですよ……」

「あら、それは良いわね。どんな子かしら?」

 

私たちは、花畑の前に降り立った。

空から眺めている分には気づかなかったけど、この向日葵……随分立派に育っている。

私の背丈を優に超える程はある。

 

紫「せっかくだし、この花を見ながら少し歩きませんか?」

「良いわよ」

?「それは良い考えね」

紫「……あら、貴女もそう思う?」

 

突然空から降りてきた人物は、私の背後に立った。

私じゃなかったら怖くて振り向けないだろうな……と、私は目視でその姿を確認する。

 

紫「出かけていたのね?今日は私の師匠を連れてきたのよ」

?「あぁ、貴女がしょっちゅう言ってる……」

「……紫、貴女私のことをそんなに話してるの?」

?「会う度に何回も聞かされるわよ。流石に多い気はするけどね」

 

その人物は、白い日傘を差して私を見下ろしている。

黄緑の肩まである髪、妖怪を象徴する赤い目、チェックのロングスカートにベスト。

もう、お分かりだろう。後に幻想郷"最凶"と謳われることになる大妖怪……

 

紫「師匠、紹介します。こちらが私の友人の……」

幽香「風見 幽香(かざみ ゆうか)よ。紫からお噂はかねがね伺っていますわ」

 

目を細めて笑う彼女は、流石に妖怪の風格が凄い。

初対面で私にこれだけ威圧をかけられるのは彼女位かもしれないわね。

 

紫「幽香!失礼よ、師匠に向かって……!」

「良いのよ、紫。貴女中々度胸があるわね……?」

 

戦闘狂の性格は、今から持っていたのね。

彼女のストレス発散に付き合ってあげられる人なんて、私と紫含めたらほとんどいないと思うわ。

だから、仕方ない……

 

「……また今度、お相手して差し上げるわね」

幽香「また今度?……分かったわ」

 

まるで今からでも戦いたいとでも言いたげな顔をするのね。

私としてはかかってこいって感じなんだけど、今は戦いに来た訳じゃないから。

紫とお出かけしているのよ。

 

幽香「じゃあ、貴女と随分話したいことがあるの。だから貴女たち、お茶していかないかしら?丁度パンを焼いていたのよ……」

紫「どうしますか?」

「貴女が良いなら私はどっちでも」

紫「じゃあ、お邪魔していくわ」

 

紫の承諾も得たし、ちょっと位良いわよね。

しかも、パン……そういえば、何か美味しそうな匂いがする気もするような。

私たちは、楽しみにしながら花畑の奥に見える家に向かった。

 

「幽香、貴女は花が好きなの?」

幽香「そうよ。能力も花を操る能力だから、こんなに沢山の花を愛でることが出来るの」

 

幽香は、花畑を眺めて嬉しそうに話した。

普通にしていればこんなに可愛いのに……どうして幽香はあんなに凶悪な顔をするのだろうか。

 

「貴女と同じ名前の友人がいるのだけどね」

幽香「あら、そうなの?」

「多分、漢字で書くと違うけど……その子も、大概の戦い好きよ。私とも戦ったことがあるけど、強さは本物だわ」

幽香「そう……!」

 

私の方を振り向きながら楽しそうに笑った。

そういえば、"優花"の方は元気にしているかしら……宴会以来だけれど。

"幽香"と"優花"を戦わせたら、本当に激しい戦闘になるでしょうね……見てみたい気もするけど。

 

幽香「でも、私は貴女と戦ってみたいわ。貴女、強いでしょ?」

「強いかもしれないけど、最強ではないわ」

幽香「そんなこと、私も分かってるわよ……でも、私が敵わなそうな相手を見るとワクワクしてしまうだけよ」

 

どこぞのアニメキャラみたいなことを言うのね、と心の中で溜息をつく。

でも、原作キャラの戦闘は見ていて飽きるものではないから。

美しい弾幕の中で感じるものは多い。

 

幽香「ほら、ここよ」

 

気がついたら、もう家まで来ていたみたい。

近くで見ると、そこまで大きな家ではないけど、普通に良さげな雰囲気の家だった。

 

「貴女1人で住んでたら広くないかしら?」

幽香「妖精がたまに来るから広いと感じたことはないわね。後、紫も来るし……ほら、座って」

 

妖精が来るのか……そういえば、原作キャラでいうとチルノにまだ会っていない。

いつか、生で"あたいったら最強ね"を聞いてみたいものね。

 

紫「貴女、妖精には優しいものね」

幽香「あら、貴女にも優しいじゃない」

紫「私が最初に花畑に来た時、容赦なく襲いかかってきたわよね?」

幽香「あら、そうだったかしら?そんな昔のことは忘れたわ」

紫「たった数年じゃない……」

 

どうやら、この2人の間で一悶着あったらしい。

美しいお姉様方2人が激しい戦闘をしている所なんて想像出来ないけど……

 

幽香「ほら、パンよ。後はお茶も。食べなさい」

 

私たちは幽香にお礼を言って、幽香が焼いてくれたパンを食む。

うん、こんがり焼けててとっても美味しい。

何も入ってないけど、焼きたてだったら何でも美味しく感じる。

 

幽香「貴女には敬語を使った方が良かったかしら」

「今更?敬語も要らないし呼び捨てで構わないわ」

幽香「あらそう。じゃあ、闇……これからよろしくね」

「えぇ」

 

……新たな友達がまた1人増えたみたい。



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第45話 戦犯?

幽香side

 

私は花を操る妖怪。

それ故に、花を愛でることが趣味でもある。

そして、花を傷つける者を絶対に許さない。

勝手に花畑に土足で踏み込んできた者は、今までに何人も虐殺してきた。

この唯一無二の枯れない花で、数え切れない位の人間の首を撥ね飛ばして、返り血を浴びてきた。

強い妖怪が現れれば、自ら赴き、戦闘を仕掛け、決して負けることはなかった。

……そう、あの妖怪が現れるまでは。

 

幽香「はぁっ、はぁっ……ぐっ」

紫「ふぅ……ほら、もうそこまでよ。私は貴女の花畑を傷つけるつもりも無い。お互いの為にも、これ以上人間を殺すことを辞めて貰えるかしら?」

幽香「……分かったわ」

 

"八雲 紫"なんていう妖怪が現れるまで、私は無敗を誇ってきたのに。

だけど、私と互角の妖力と身体能力を持つこの妖怪は、おかしな能力を使って私を負かした。

 

「……な〜んてこともあったわねぇ」

紫「えぇ、そうね」

 

私は今日も自宅で紫とお茶を飲む。

自分にとっての死闘を経験した相手は、今では唯一の友達だ。

まぁ、たまに嫌な所もあるけど。

 

紫「……師匠が目覚めたらここに連れてきて良いかしら?」

「勿論よ。いつでも連れてきて構わないわ」

 

私を負かす程の力を持つ紫が、師匠って呼ぶ程の人物。

自分の中の闘争心が沸々と湧き上がってくるのを感じる。

 

「今度戦わせてね」

紫「ちゃんと師匠に許可をとってよね。急に襲いかかったりしたら勘違いされて殺されるかも……」

「そんなことしないわよ……貴女と会って、私も少しは落ち着いたんだから」

紫「本当かしら〜?」

 

紫が、相当疑ったような目で私を見る。

全く、失礼ね!

まぁ、疑われても仕方ないんだけど……

 

紫「じゃあ、今日はもう帰るわね」

「あら、もう帰るのね?」

紫「神社の管理をしないと……後、あの邪神がうるさいから」

「邪神って、そんなこと言っていいの?」

紫「良いのよ。それじゃあね、また来るわ」

「はーい」

 

私は、テラスから飛び立っていく紫を見送り、残っていたお茶をぐっと流し込む。

食器を片付けようと立ち上がった瞬間、微かな、しかし強大な妖力の混じった風が、私の髪を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

「随分と強くなったわね、紫」

紫「いえ、師匠の強さも健在のようで安心しました!」

 

とある日の私は、紫の修行に付き合っている。

どうやら、私が眠っている間に凄く嫌なことがあったらしい。

紫のこの性格も、私が眠っている間に変わってしまったのだとか。本当に大丈夫かしら?

 

「今日の修行はここまで。修行に付き合って欲しくなった時は、またいつでも誘って頂戴ね」

紫「ありがとうございました!またお願いしますね!」

 

紫は笑顔で答える。

初めて会った時は、まだ少し幼かった。

だけど、大人の女性に成長しても、この向日葵みたいな眩しい笑顔は健在。

 

紫「師匠!」

「なぁに?」

 

私が、日傘の埃を払ってスキマに入ろうとしていると、紫が後ろから話しかけてきた。

 

紫「今日の夕飯……焼き鮭です!」

「ふふ、分かったわ……日が落ちる頃には帰るわね」

 

紫は、私が目覚めてから毎日のようにこんなことを言うようになった。

私がまたいなくなるのが怖いんだとか。主様から聞いた。

全く、まだまだこういう所は子供なんだから……

私は、笑って返事をするとスキマの中に入っていった。

 

 

そして、やってきたのは月。

本当に久し振りの人たちに会いに来た。

依姫たち、元気にしてるだろうか。

……いや、それ以前に合わせる顔があるだろうか?

 

?「闇さん……?」

 

随分と長い間聞いていなかった声に、懐かしさを覚えながらも振り返る。

そこには、出会った時より少し大人びて……しかし、雰囲気は何も変わっていない人物が立っていた。

 

「あら、久し振りね……依姫(よりひめ)

依姫「あっ……」

 

目を見開いて動けない"依姫"に、私は近づく。

月は重力がほとんど無いはずなのに、地球にいる時と同じように歩けるのは何故かしら?

 

「あの時……妖怪を討伐した後、依姫に会いに行ったの。そうしたら、貴女が倒れてしまっててね?」

 

私は、"あの時"を思い出す。

あんなに大量にいた妖怪が消えていた。

ほとんど、依姫が。

 

「本当に、ありがとう。都市の皆が助かったのは、間違いなく貴女の貢献によるものよ」

依姫「うぅぅっ……!!!」

 

普段、常に凛々しい顔を保つ依姫が泣き崩れてしまった。

少し驚きながらも、私は依姫のそばに行き、肩に抱き寄せる。

 

「泣いて良いわよ、幾らでも。私はここにいるから」

依姫「良かった、良かった……!」

 

私は、依姫が落ち着くまで、一緒にいてあげた。話を聞いてあげた。

その間、声を聞きつけた人たちが集まってきたが、そんなことは気にしなかった。

 

「少しは落ち着いたかしら?」

依姫「はい、取り乱してすみませんでした……」

?「依姫!こんな所で何を……って、え!?」

 

人混みを押し退けてやってきたのは、依姫の姉であるあの人物。

そう、綿月豊姫(わたつきのとよひめ)

やっぱり、豊姫も私のことを見てとても驚いた顔をしている。

 

豊姫「あ、貴女は!」

「貴女も久し振りね。あまり話したことはなかったかもしれないけど、しっかりと覚えているわよ」

 

私は、豊姫とは話す機会がほとんどなかった。

強いて言うなら、依姫が連れてきた豊姫と挨拶したり……後は、月移住計画の時にちょこっと話した位。

 

豊姫「……まさか、こんな所で会うなんてね?奇遇だわ。だって貴女、地球に残る選択をしたんでしょう」

「その地球を創ったのは誰だと思っているの?」

豊姫「……」

 

私が豊姫に笑いかけると、豊姫は何も言えなくなったように黙り込んでしまった。

本当のことだもの、仕方ない。

それに、地球及び宇宙の創成者だしね。

 

依姫「……すみません、お姉様は少し気が立っているんです」

「何かあったの?」

依姫「ご存知かもしれませんが、先の戦争のことで……」

「戦争って?」

 

依姫は、知らないのか、と少し不思議な顔をしながらも答えてくれた。

……私は、その話を聞いて驚くどころか仰天してしまった。

 

「とある妖怪が大量の妖怪を引き連れて、月に攻め込んで来た!?」

依姫「そうです。ご存知ありませんか?」

「知らなかったわ……その妖怪の名前は分かる?」

 

……嫌な予感がする。

私の心臓の鼓動が体中にうるさく響く。

依姫は、一息ついてこう言った。

 

依姫「その妖怪の名は……」

 

 

 

 

 

 

 

八雲 紫……

 

 

 

 

 

 

 

……嫌な予感は見事に的中してしまった。



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第46話 紫の処遇と眠れない夜

「本当に……ごめんなさい!」

豊姫「貴女が謝ることではないでしょ……それに、私はもう気にしていませんし」

「あら……そう」

 

私は、紫のしたこと、ここで起こったことを全て聞いた。

それを聞いて、私はもうどうすればいいのか分からなくなってしまった。

申し訳ないやら、何やら……

まぁでも、起きてしまったことをグチグチ言っても仕方ないから良しとする。

 

豊姫「紫とやらに言っておいてくれるかしら?荒らさないなら月に来ても良いわよって」

「あら、そうなの?それじゃあ伝えておくけど……」

 

珍しいな。

月に戦争を仕掛けた張本人を自ら招くだなんて。

 

「じゃあ、そろそろ帰ろうかしらね?元々の目的が貴女たちの顔を見ることだったから……」

依姫「えぇ〜!もう帰っちゃうんですか?」

「また近い内に来るわよ。それまで待ってて頂戴ね」

依姫「……分かりました」

 

めちゃくちゃ残念そうな依姫の顔を見て、苦笑いをする。

寿命が無い私たちには、別れなんてほぼ無縁のようなものじゃない。いつでも会えるわ。

 

「それじゃ!」

 

私に手を振る依姫と豊姫に暫しの別れの挨拶を済ませると、私は、少し生まれていた寂しさを振り切って、スキマの中に飛び込んだ。

 

「はぁ〜、全く、紫ったら……」

 

トンッと境内に綺麗な着地音を弾ませると、息を思いっきり吸った。

あぁ〜、地球の空気は美味しいわぁ。

私は呼吸をしなくても生きていけるけれど、やっぱり大昔の地球の空気は格別。

これから汚染されていくと思うと……

 

「さて、何から始めようかしら……」

 

紫に説教するかどうか迷っている。

と、いうのも、紫は考えも無しに無闇な行動をする子じゃない。

それに何より、紫を厳しく叱るというのは可哀想だもの。

……決めた。

 

「このことに関して私は口出ししない!これで平和な解決かしらね?」

 

ほら、こんな広い青空を見てると、そんな悩みすらちっぽけに思えるでしょ?

……って、私は何を言ってるんだか。

 

「あっ、でも豊姫から紫に伝言を預かってるんだっけ……どうしよ……」

紫「あ!師匠!」

 

紫が私の元へ駆け寄ってくる。

はぁ、やっぱり伝えておくのが正解かしら?

 

「月に行ってきたんだけどね」

紫「えっ」

 

紫が、私が話し始めた瞬間に見事なまでに分かりやすい反応をする。

そんなに固まらなくても……。

 

「私としてはノーコメントよ。ただ、豊姫……お嬢様みたいな帽子を被った女の子がね、荒らさないなら月に来ても良いって言ってたわよ」

紫「分かりました……ごめんなさい、師匠」

「良いのよ。でも、次は気をつけないとね?」

紫「……はい!」

 

ぱあっと紫が笑顔になる。

全く、これだから弟子に甘い師匠はダメね……

さて、これからどうしようかしら。

 

「じゃあ、ご飯……作ってくれる?お風呂入ってる間に」

紫「ふふ、分かりました……」

 

私は、台所へ消えていった紫に手を振った。

さてと、私もそろそろお風呂入ろうかしら……

 

「……とっても空が綺麗だわ」

 

西の方角を見ると、既に太陽が半分位隠れていた。

それに伴い、夕焼けになって、空が鮮やかなオレンジ色に染め上げられている。

皆も見たことがないだろうか?オレンジ色に染まった夕焼けに、夜の暗い色が混ざった紫色に近い空を。

……絶景ではないだろうか。

 

「やっぱり地球って最高ね!」

 

私は、着替えの服を取りに神社の中へ入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「う、んんっ……」

 

皆との夕食が終わり、チロルも紫も香織も皆寝静まった頃。

私は、珍しくこんな時間帯に起きてしまった。

 

「……寝れる気がしないわね、少し風に当たろうかしら」

 

目を瞑っても眠気が来ない。

一応コントロールは出来るけど、無理に力を使う必要は無いので、とりあえずそのままにしておく。

いつものブーツではなく、この時代にはないがとても履きやすいサンダルを履いて外に出る。

 

「凄く大きな心配事があるけど、それ以外には悩みなんて無いものね……」

 

まぁ……

 

「そんな時に限って、とんでもない爆弾を持ってくる奴がいたりするんだけど……」

?「ある意味正解だな」

「ッ!」

 

反応する間もなく手首を掴まれていた。

どこからか聞こえてきた忌々しいその声は、もう二度と聞きたくなかった声でもあった。

私は、抵抗なんて出来るわけも無く、あっという間に床へ押し倒されてしまった。

 

牛、鬼……

牛鬼「はは、そんなに俺のことを覚えていてくれていただなんて、嬉しい限りだぜ?ははははっ!」

 

忘れる訳ないだろう。

お前のせいでどれだけ悩んでいたか……!!!

 

牛鬼「流石龍神、奴らへの配慮は万全なんだな、クックック……!!!」

 

私の視界に、美しくも酷く恐ろしい妖怪の笑顔が写る。

血の色に染まった目、メラニンが欠乏している白い肌、漆黒に塗り潰された髪……

美しすぎて誰も寄ってこなそうな顔である。

 

「……当たり前だ。今、ここで、私とお前が全力で戦ったとしよう。そうすれば、ここにいる皆どころか、地球上の生命は死に絶えるだろうな」

 

まだ、死ぬのには早い。

私はここにいる皆の命を背負っていると言っても過言ではない……

 

牛鬼「……へぇ」

 

牛鬼は、私の左手に注目すると、口を三日月形に歪めて笑った。

片方の手が、私の頬へと上がってくる。

つぅ、と指先で頬をなぞると、嬉しそうな声を発した。

 

牛鬼「もう()()()()()とやらのモノになったのか?」

「元々、私は主様……基龍神王様のモノだ。何を今更」

牛鬼「そういうことじゃない。龍神王は、もうお前のことを抱いたのかと聞いている」

「はっ、はぁ……!?」

 

……あぁ、そういうことか。

なるほど。今まで全く気にもしてなかったけど、"そういうこと"が有り得てもおかしくないものね。

 

「肉体関係になったことは一切無い」

牛鬼「成程。では、龍神王は傍にいる女も手に入れられない負け犬ということだな?」

「ちがっ……!」

 

否定しようとすると、牛鬼の指が口の中に入れられてこれ以上は反論を許されなかった。

美しい顔に反して、体は案外大柄であり、3本の指で私の口が塞がってしまう程。

 

牛鬼「ふん、最高神が2匹共々弱々しいとはな……このまま続けてしまっても面白そうだが、もっと面白いことを見つけた」

 

悪戯に笑う牛鬼を見て、無念で仕方がなかった。

こんなにも近くにいるのに、滅殺できないとは……!

この妖怪の言う通り、私は弱くて力無いのかもしれない。

いや、力無いだろう……悔しいが。

 

牛鬼「龍神王ではなく、俺に着いてくる気は無いか?そうすればお前を俺の妃に召し上げてやる」

「うぅうっ……!!!」

 

戯言を!

そう叫びたかったが、指を口いっぱいに入れられているのでそれは叶わなかった。

……反吐が出そうだ。

 

牛鬼「冗談だ」

「むぐ……ぷ、はぁっ……はぁ、はぁ」

 

牛鬼は、私の口の中に入れていた指を抜いた。

私は、思わず息を吸い込んでしまってむせる。

 

牛鬼「近々、面白いことになるかもしれないなぁ……」

「は?」

牛鬼「まぁお前次第だが、ゆっくりのんびり待っていると良い。また、会いに来てやるから」

 

それだけ言い残すと、牛鬼は私の上から飛び起きて一瞬にしてその姿を消した。

消えた所には、牛鬼のその濃縮された妖力が僅かに残っているだけだったが、本当に反吐が出そうな時間だった。

流石に、もう二度とあんなことはされたくない……あぁ、ゾッとするわ。

 

「気持ち悪い……はぁ、もう。安らかな時間になるはずだったのに、何でこうも邪魔が入るのかしら?」

 

安眠を妨げられることがこんなにも苦痛なのか。

いや、相手が相手だったからか?まぁ、もうどうでもいいわ。

あぁ、早く眠りについて良い夢を……見られればいいけど。

私は、足早にその場を後にした。




牛鬼の特徴

艶のある黒髪(長髪ではないが襟足が長く、肩より少し下くらいまで伸びてる)
赤くて切れ長の目
夜刀神 神琉と同じくらいか少し高いくらいの身長
妖怪の恐ろしさと強さ、そして悪の要素を濃縮したようなキャラ
豪華な和服みたいなやつ?(説明が難しい……)を着てる
ワンチャン闇ちゃんのことを手に入れようとしている?


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第47話 願わくば彼女らに幸せを。

「はぁっ、はぁっ……!」

 

私は、今何者かに追われている気がする。

普通に学校に行って、普通に期末テストを受けてただけだったのに。

真昼間で、真っ青だったはずの空が異様な程真っ黒になっており、バケツをひっくり返した様な豪雨が降っている。

制服が肌に張り付いて気持ち悪い……

 

ドシャァ!!

「ッ!」

 

雨で滑りやすくなっていた道路に、私は躓いて転んでしまった。

何故か痛みを感じないことにも気づかないまま、立ち上がり、また走り出した。

もう少しで自宅があるのに、もう見えているのに……何故かいつまで経っても届かない。辿り着けない。手が……届かない。

 

「あ、あれ……私」

 

"何やってたんだっけ……"

 

今の今まで感じていた焦燥感が嘘のように消えていた。

それも、何の脈絡も無く突然に。分からない。

しかも……

 

「……冷たっ!何でびっしょびしょに濡れてんの!?うぅ、気持ち悪っ!」

 

今着てるのはセーラー服。つまり。

 

「なかなか乾かない……」

 

明日からの学校どうすんの!?

 

「明日も期末テストだよ……まだ課題終わってないよ……」

 

早く終わらせないとまた先生にドヤされる……

そう思って再び歩きだした時、後ろから私の肩を誰かが叩いた。

 

?「ねぇ、あなた……」

 

金髪の綺麗なお姉さんだった。

すらりと伸びた長い脚が綺麗って見惚れてる場合じゃ……!

 

「……何ですか?」

?「あぁ、やっぱりそうなのね……」

 

私を見て、少し考えた後、自分の中で何かが解決したのか、うんうんと頷いていた。

いや、だから……

 

?「ほら、早く起きなさい!」

 

お姉さんが、私と同じ目線に合わせてしゃがんだかと思うと、私の頬を両手でぺちっと叩いた。

"起きなさい"……?

 

「どういう…こ……と…………???」

 

視界の端が、ピッケルで壊されていく、氷の様にパキパキとヒビが入っていく。

意識を保とうとすればする程、視界が崩壊していく。

 

?「あなたの居場所はもうここじゃないでしょう!だから早く起きなさい!」

 

不思議な金髪のお姉さんの声を最後に、私の最後の視界の一欠片が剥がれた。

あのお姉さん、綺麗だったなーなんて思いながら、意識を暗闇に落とした。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

……明るい。朝みたい。

私は、布団から上体を起こし、眠い目を擦った。

 

「変な夢を見たわね……ふわぁ。それにしても、どうして夢の中に"エマ"が出てきたのかしら?」

 

夢の中に出てきた金髪は、紛れもなく情報の管理者、エマだった。

不思議に思いながらも特に気にすることも無かった。まぁそういうこともたまにはあるでしょうし。

欠伸をし、立ち上がり、就寝着から部屋着へと着替える。

髪の毛のブラッシングが終わってサラサラになったことを確認すると、私は皆がいるであろう居間に行った。

 

ガラッ

「皆、おはよう」

紫「あっ!師匠、おはようございます!」

チロル「闇ちゃん、おはよー!」

 

いつものこの光景が好きなのよ。

皆が笑って私を出迎えてくれる。

私のことを受け入れてくれる。

 

「香織は外?」

紫「いつも通り、境内の掃除をしていますよ」

「ありがと」

 

私は、香織がいるであろう境内に向かった。

……予想通り。

竹箒を持って落ち葉を集めている香織がいた。

 

「おはよう」

香織「おはようございます」

 

香織は、私に向き直って挨拶をした。

いつも真面目で助かるわね……たまには褒美をあげないとかしら?

 

「ねぇ、こんな変なこと聞くのも変しれないけど……」

香織「何でしょう?」

 

私は、皆を愛している。

それ故に、急に怖くなってしまう時があるの。

さっきの夢から覚めた時だって本当は怖かった。

私は何て欲深い存在になってしまったのかしら?

 

「もし……もしね……私が死んだらどうする?」

香織「なっ!?」

 

香織は、私のあまりにも突然の言葉に驚いてしまったらしく、目を見開き、開いた口が塞がらなくなっている。

そりゃあそうでしょうねぇ。だって、香織にとって、私は不滅の存在そのものだから。

でも、現実はそう甘くないのよ。自分が作ったものに滅される可能性もあるのがこの世の理なんだもの。

西行妖の時みたいに。

 

香織「私は……信じていますので」

「私が死ぬことはない、と?」

香織「そうです!未来永劫、これからも私の主は貴女様だけです!"夜刀神 闇様"!」

 

香織が、目に涙を滲ませて上目に訴えかけてきた。

いつもは凛としていて、表情もあまり変わることはないというのに、こんなことで……

 

「ふふ、ありがとう。それなら私も、貴女に何かしてあげなくちゃ」

香織「いいえ。何も望みません……強いて言うなら、"ここに存在し()てくれること"が望みです」

 

香織は、ニコッと笑った。

嬉しいこと言ってくれるわね、この子含めここに住んでいる子たちは。

私は本当に恵まれているわね。

だって、ある日突然生まれ変わらせられたかと思えば、こんな素敵な仲間たちに出会えたんだから。

 

「ずっと一緒よ?」ギュッ

香織「勿論、です……!」

 

私たちは、暫しお互いの体温を確かめ合っていた。

身長差(40cm)があるせいで私が香織の胸元に顔を埋めるみたいな形にはなったけど。

 

「ふふ、私が使い物にならなくなったら次の龍神は貴女で決まり、ね?」

香織「……恐ろしいことを言わないで頂きたい」

「冗談よ?」

 

一瞬、香織が恐ろしいものでも見るかのような目で私を見てきた。

もう、冗談に本気にならないで欲しいわね……。

でも、冗談抜きで、私の次に宇宙を治めることが出来るのは香織と言っても過言ではない気がする。

まぁ神力を持つ天人なんて滅多にいないから……しかも、龍の血を引く"龍天人"一族だなんてね。

龍の血を引く天人は多いけど、その中でも最高峰の家系なのだもの。

 

「じゃあ、これからもよろしくね?」

香織「何を今更。勿論でございます」

「これから何をするつもり?」

香織「そうですね……いつも通りに家事、でしょうか?」

「何それ、つまんないの……たまには休んだら?」

香織「私にとっては御先祖様のお側(ここ)に在ることが出来るだけで休暇のようなものですので……」

「ふぅん……」

 

忠誠心が高いのは結構なことだけど、でも時々心配になるわよね。

でも、そんなことよりも楽しい毎日を過ごしたいわ。

この子たちと共に、ね。

 

「……幸せ、ね」

 

私は、ビュウッと吹いた風に溶け込んでしまう位の小さな声で呟いた。




幸せを願おう、先にある未来がどれだけ悲しくても。


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第48話 ???キケン???

牛鬼side

 

俺は、先日、龍神……夜刀神 闇の傍に行ったことを思い出していた。

押し倒して上から見下ろした時のあの表情。何度も思い返してはそそられていた。

それに、龍神の左手薬指には指輪が。

だから、俺はこう思った。

 

あの娘は、龍神王と契を結んでいる……

 

何て官能的な響きだろうか。

下界にいるからこそ、ああいうことが出来るのが最高なんだ。

羨ましくも思ったさ。龍神王のことを。

あれ程までに美しい女と契れるなんてな……ってさ。

だが、何とまだコトに至っていないと言うではないか。

何度も何度も殺そうとした相手、だが。毎々失敗に終わった。

でも……でも、思いっきり堪能した後に観賞用として置くのも悪くはない……か?

 

「ククク……最っ高だな」

 

俺は、誰にも聞かれない喜びを独りで呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

「ふふっ……この時代の人間は律儀ね……ŧ‹”ŧ‹”( ‘ч’ )ŧ‹”ŧ‹”」

 

私は、拝殿の屋根からお参りに来る人間たちを見下ろしていた。

……ファ○リー○ートに売ってるジャーキーのおつまみを再現したものを食べながら。高いよね、あれ。

何て罰当たりなんだ、と言われても仕方ない。

御神体は私自身なんだから。

 

チロル「闇ちゃん♪私にも1つ頂戴♪」

「良いわよ。はい、あーん」

 

私は、袋から1切れ取り出して隣に座っているチロルの口に入れてあげた。

チロルは、それなりに硬い筈のジャーキーを数回噛んだだけで飲み込んでしまった。

……何て強力な顎なのかしら。

このチロルが、私が前世で飼っていた亀と同じ亀だとするなら……チロルは「ミシシッピアカミミガメ」かしら?

しかも、普段はあまり気にならないが耳に赤い模様が。

 

「でも、この時代にはまだ輸入されてない筈よね……?」

チロル「輸入って?」

「何でもないわよ?」

 

私は、キョトンとしているチロルの頭を撫でてあげた。

いつの間にか私より高くなってしまった身長でも、可愛いものは可愛いのだ。

難しい話は辞め、私はまた人間モニタリングに徹することにした。

この時代の人間の服装を見てると、現代に移り変わっていくのを見るのが楽しみになってくるわね。

 

「ふふん♪……あら?」

 

私が、来る人々を流し目で見ていると、とある人物に気がついた。

この時代ではまず有り得ない服装に……他の人間よりも圧倒的な存在感を放つ人間が。

 

「人間?」

チロル「あの子妖怪じゃないの?」

「いいえ。妖力が一切感じられないわ」

 

私は、勢い良く拝殿から飛び降りる。

人間に見つからないのか、とツッコまれそうだけど、私の姿は元々見えないから大丈夫よ。

妖力を隠すのが1級品な妖怪か、それとも強力な力を持つ珍しい人間か……

 

「ねぇ、貴女!」

?「!」

 

群青色の髪に、前髪の一部が白メッシュ。

ミント色のパーカーを身に纏った少女は、こちらを少し驚いたような表情で見ていた。

 

?「どこかで見たことあるような……」

「私を?」

?「うん」

 

適応能力高いな、と思いながら少女を観察する。

背は私より高い位……明らかに普通の人間じゃない存在感。

もしかして、現人神だったりして?

 

「神様?」

?「違うよ、僕は時雨沢 千奈(しぐれさわ ちな)。生物学上は普通の人間」

「存在感がまず人間じゃないんだけどね……とりあえず、上がってく?」

千奈「いいの?ありがとー」

 

自分は人間だと言う千奈に疑問を覚えながらも、家に上がらせることにする。

危なくないのか、という声が聞こえてきそうだが、この人間は警戒する必要も無いように感じるのだ。

まぁ、勘なんだけどね。

 

「本当だったら皆いるんだけどね。出かけてるみたいだわ」

千奈「へぇ……君と僕とこの緑の子だけなんだね」

チロル「"チロル"よ。これからはそう呼んで欲しいわ」

千奈「あぁ、ごめんね?」

チロル「気にしてないわよ」

 

緑の子ってwと言いそうになったが堪える。

それより……この人間の正体が気になる所ね。

危なくなさそうな気はするんだけれど……

私は、千奈を居間に案内し、お茶と菓子を出す。

 

「さて、千奈?そろそろ貴女のことを聞かせてもらえるかしら?」

千奈「そうだね、そろそろ自己紹介しないと。まず、僕は人間で、能力は……この世界風に言うなら、"想像を具現化する程度の能力"とでも言えば良いのかな?」

「えっ……何で、千奈がその"言い方"を知っているの?」

 

ちょっと……というか、かなり驚いている。

〜程度の能力って私の周りの子たちしか知らない言い方だもの。

それなのに、どうしてこの千奈という娘がこの言い方を知っているのか……気になる所ではある。

……というより、"想像を具現化する程度の能力"。

使いようによってはかなり危険だと思うわ。

 

千奈「それは、僕が……"夜刀神 神琉"とかいう奴に転生させられた時に教えて貰ったからさ」

「うっ……え!?主様に!?」

千奈「あ、うん。主様って呼ばれてるんだ?あの人」

「いや、私だけだけどね。あの人っていうか……あの方は、全世界の最高神なのよ!」

 

うっ……なんて変な声が出たけど、本当に驚いた。

まさか、主様と千奈が知り合いだっただなんて。いや、それよりも千奈が転生者だっただなんて。

これは……私以外にも転生者がいる可能性が???

 

チロル「ねぇ、転生って何?」

「あぁ、チロルは分からないかしら。転生っていうのは……『同じ世界または違う世界に生まれ変わること』をいうのよ」

チロル「なるほど……」

「ちなみに、私も同じ転生者よ」

 

私が、オマケ程度に付け足すと、チロルは物凄く驚いたような顔をしていた。

千奈は、元々の性格からなのか、さほど驚いたような反応は見せなかった。

ちなみに、この場合は……"同じ世界"と言えるのかしら?

"東方Project"という世界観が貼り付けられた、元の世界とは違う世界ではないのかしら?

 

「私の元々の世界も、似たような所だったわよ。まぁ、私が似たような世界にしたかったから"そう"作ったんだけど……」

チロル「闇ちゃんが凄い神様だってことは知ってたけど……でも、そんなことまで出来たなんて」

千奈「あぁ、そういえば。転生する時、あの人が僕以外にも転生者がいるって言ってたな?もしかして、君のことだったりする?」

「高確率でそうなると思うわよ。何も教えて貰えなかったの?」

千奈「能力・種族・世界観位だよ」

「あぁ〜なるほど……」

 

主様は、私に対しては割と抜けてるところがあったりするからそこら辺が愛嬌があるんだけどね。

まぁ、その"愛嬌"すら計算されてたりするから……全く、心の内が読めない。

 

「で、どうする?ここに住む?それとも人里で暮らしてみる?」

千奈「いや、時々遊びに来る位にしとくよ。人里で何とか家を探してみる」

「じゃあ、私が人里の長にかけあってみるわね」

千奈「そう?ありがとね」

 

私としては、これから仲良くやっていきたかったからここに住んで貰いたかったのだけど。

まぁ、この子の意向を尊重したかったから仕方ない。

ちなみに、人里においての私の種族は人間。驚かせちゃうからね。

買い物は香織か紫に頼んでいるから、私はほとんど人里には降りないんだけど……

 

チロル「これから仲良くしなきゃ、だね!」

千奈「うん。よろしくね」

「何か困ったことがあったら言うのよ?仲間なんだから……」

千奈「仲間……か。嬉しいね。ありがとう……!」

 

よろしくね、と言いながら私たちは握手をしていった。

さて、これからやらなきゃいけないことがあるわね。

 

「そうと決まれば、今から千奈の家を探しに行きましょうか!まだ日は暮れてないけど、善は急げって言うしね」

チロル「あっ!私、その間に家事をしておくから……ゆっくりしてきて良いよ(* 'ᵕ' )」

「あら、そう?ありがとうね、チロル!」

チロル「えへへ……!」

 

私がチロルの頭を撫でると、チロルは嬉しそうな笑顔を浮かべる。

千奈が、その様子を見て微笑ましそうな表情をしていた。

 

千奈「そういえば、君の名前を聞いてなかったよね?」

「あぁ、そういえば言ってなかったわね……私は、夜刀神 闇。気軽に闇と呼んで欲しいわ」

千奈「うん、分かった」

 

これから、千奈の能力制御の特訓に付き合わないといけないわね。

強力な分、危ないから……

 

千奈「そういえば、チロルって闇が名付けたの?」

チロル「そうよ!立派な名前でしょう?この"声"も闇ちゃんに貰ったのよ!」

千奈「うん、甘くて美味しそうな名前だよ」

「千奈!その言い方……ふふっ……」

チロル「えっ……私、甘そう?って!闇ちゃんまで笑わないでよ!」

 

チロルにペチペチと叩かれてごめんなさい、と謝ったが。

でも、よくよく考えれば"チロル"ってチョコの名前よね?前世の私、なんでチロルって名付けたのかしら?

 

「でも、良い名前だと思うんだけど?だって、この私が名付けたんだからね!そうでしょう?」

チロル「う、うん!そうだよねぇ!」

 

でも、私は、チロルと名付けたことに誇りを持っている。

前世で愛した子と、現世で私と話が出来てるんだから。

本当に幸せなことだと思うのよ……

 

「さぁ、千奈。そろそろ行きましょうか?人里へ!」

千奈「うん!」

チロル「行ってらっしゃい。千奈、闇ちゃん!」

 

私は、チロルに見送られながら千奈と一緒に外に出た。

んー、良い天気!

 

「そういえば、千奈は空を飛べるのかしら?」

千奈「ここに来た時は、飛んで来たよ?意外とすぐに慣れちゃった」

「あら、凄いじゃない……じゃあ、私に着いてきて。人里に案内するわ」

 

私は、人里に千奈を連れて行く為、空に浮き進む。

それを見て、千奈は私に着いてきた。勿論、空を飛んで。

本当に飛べるんだ……と感心しつつも、この娘の適応能力・程度の能力に末恐ろしさを感じつつもいた。




『時雨沢 千奈』は、中学以来の親友のオリジナルキャラクターです。後々の重要人物であることが私の中での決定事項です。(出演許可済み)
そして、牛鬼がだいぶ気持ち悪くてスミマセン……後々の展開に必要でして。
もうちょっとでUA数10000超えますね……ありがとうございます。
いつも見て下さっている皆様のお陰です!これからもよろしくお願いします(ᐢ' 'ᐢ)ᐢ, ,ᐢ)ペコ

あっ、あと、いらないかもしれませんがチロルの絵を載せておきます。(๑ ᴖ ᴑ ᴖ ๑)
↓↓↓

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第49話 責任

転生者である「時雨沢 千奈」という人物が私の所に訪ねてきてから10年程が経過した。

私が眠っていた5年間よりも、そう変わったことはなかった。

神社にお参りに来る参拝客も、海を治める神である海神の様子も、人里の様子も……

強いて言うならば、紫が四重結界を作れるようになったこと位?

気になるのが人間である千奈の身体的成長が無いこと。

 

 

 

 

 

……リミッターを掛けた状態にて、私が千奈に勝負で負けたこと。

衝撃だったわよ。私はリミッターを掛けているだけで、手加減したつもりなんて一切無かったんだもの。

数億年前にあった、人妖大戦にて結花と初めて戦った時に、結花に引き分けにまで持ち込まれた原因としては、自分の実力をほぼほぼ大妖怪と同じレベルにまで落としていたから。

 

まぁでも、良い思い出にはなった。

千奈とも良い友達になれたし、人里の人間たちとも上手くやれているみたいだしね。

私としては嬉しい限りだわ。

 

……ちなみに、牛鬼はあれっきりだ。

私に意味深なことを言ったきり、訪ねてはこなかった。

まぁ、一生会わないことを祈るんだけれども!

そして、願わくば勝手に消えてて欲しいわね。

 

 

 

「まぁ、無理か……」

 

私は、神社にある鳥居に腰掛け、1人晩酌をしていた。

日本酒に、塩辛く焼いた鳥の首の肉(ネック)

ここに現代の日本の警察がいたとするなら、私は非行少女として1発で補導されていたでしょうね。

見た目だけで言うと10代前半の少女なんだもの。

でも、この時間帯……もう皆が寝静まった位に呑むお酒が1番美味しく感じるのよ。

 

「……私は、わざわざ来て下さる主を無下にしたりはしませんよ?」

 

私は、誰もいないはずの真横を向いて、話しかける。

そうすると、私が話しかけた数秒後、どうしてだろうか、恥ずかしそうな顔をした主様が現れた。

……共に呑みたいなら、言って下されば良いのに。

 

神琉「……そうか、それなら遠慮無く」

 

私は、主様の分の猪口をスキマから取り出し、日本酒を注いで肴と一緒に渡した。

主様は、おずおずと受け取り、味わい始めた。

恥ずかしそうにしていた主様だったが、美味しいといった表情に変わったので私は安堵する。

 

神琉「あの人間は、最近どうしている?」

「順調そうに人里での生活を送っているそうです。時々、支援もしますが」

神琉「……友達思いで良いな」

「ありがとうございます」

 

ちなみに、千奈の監視役として、私が選ばれた。

千奈を人里に送り、神社に戻ってきた時に、主様から命令を受けた。

あの人間は危険な能力持ちではあるが、転生させた時にある程度リミッターを掛けさせてもらった、と。

それなら、私でも十分対応出来るはずだ、と。

 

神琉「実はな、闇に言わなければならないことがある」

「何だって仰って下さい」

神琉「実は……近い内に、牛鬼が何か行動を起こすかもしれないんだ。とある念話でその旨が本人から届いてな」

 

何てことかしら。

この前、牛鬼が私に似たようなことを言ってきたばかりだというのに。

でも、主様にそれを伝えるメリットって何なの?

不意打ちですら、主様を倒すことなど出来ないに等しいことなのに。

 

「それでは、気をつけておけばよろしいのですね?」

神琉「あぁ。そして、何か行動を起こせば神界の奴らにも伝える……普段、会議に出席していない者も強制的に、だ」

「……畏まりました」

 

"強制的"なんて言葉、普段仰らないのに使うということは、本当に非常事態なのだ。

宇宙界まるごと変えてしまえる程の。

 

神琉「大丈夫か?」

「私とてただの女ではありませんから。主様に敵わないとはいえ、1つの世界を治める神ですので……頼りないかもしれませんが、お任せ下さい」

神琉「そうか、じゃあ……頼んだぞ」

 

私の力が敵わなかった時……それ即ち、宇宙界終焉と私の死を意味する。

地球に住む皆も、月に住む皆も死んでしまうだろう。

きっと、牛鬼は私を殺した後、地球を壊し、破壊の限りを尽くすだろうから。

異空間にいるへカ……ヘカーティア・ラピスラズリはどうなるのかしら。

何とかして神界へ連れて来れないかしら……

 

神琉「何やら悩んでいるようだが、大丈夫だ。もしもの時は俺が何とかしてやる。それが、闇……お前を転生させた者としての最低限の努めだろう?」

 

主様は、そう言って持っていたお酒をぐいっと飲み干し、ふぅと息をついた。

その横顔は、全ての世界を統治する王としての責任感から来る疲れにも見えた。

普段、毅然とした態度を崩さない主様が、私の前では唯一見せる顔だった。

 

「自分の身は自分で守りますし、何かあった時は責任を取ります。ですからご心配なさらずに……」

 

私は、座ったままであるが深くお辞儀をした。

主様は、そんな私を見て困ったような顔をして、少し苦笑いを見せた後、私の頭をポンポンと撫でた。

 

神琉「……実は、これは俺の願いでもあるんだが」

「はい、何でしょう?」

神琉「いや、これは……牛鬼を滅した後に言うことにする」

「?……はい」

 

何を言おうとしたのかと思いきや、突然言うのを止めてしまった。

『牛鬼を倒した後に言うことにする』だなんて……フラグを建てないで頂きたいものですね、主様。

……死亡フラグであって欲しくないわね、本当に。

 

「きっと消滅させられますから」

神琉「ありがとう。俺はいつも、闇から元気を貰ってしまうな……」

「いえ、そんなことを言って頂けるなんて……本望ですわ」

 

お互いの手を取って、お互いの気持ちを分かちあった。

相手が自分の主であるから、謙遜したり立てたりするのは当たり前だけど、今の気持ちは本当に本当。

はぁ、もう、本当に……死ぬ訳にはいかなくなったじゃない。

どうしてくれるんでしょう、主様……

"生きていたい"だなんて、心の底から思うなんて……私らしくもない。

 

神琉「……酒が無くなったな」

「注ぎましょうか?」

神琉「いや、いい……それよりも、今夜は闇と共に布団に入りたいと思う」

「ふふ、構いませんよ……」

 

私は、残った皿と猪口を綺麗にする術を掛け、スキマに収納した。

私たちは鳥居を降り、寝室へと向かった。

私は元々寝巻であったので、先に布団の準備をして待っておく。

すると、着替え終わった主様が寝室へと入ってきた。

 

「お待ちしておりました……っ」

神琉「どうした?」

 

私は、思わず息を飲んでしまった。

服の上からでも分かる、豊かに育った腕の筋肉。

はだけた胸元から見える、立派な胸筋と腹筋。

 

「い、いえ……」

神琉「?」

 

何だか恥ずかしくなってしまい、目を逸らす。

主様は、不思議そうな顔をして私の隣に敷かれた布団に入った。

い、いけない。見とれてしまった……

 

神琉「触ってみたいならそう言えば良いものを」

「!?」

 

主様は、私の手を取って自分の胸元へやる。

一瞬、びっくりしてしまったが、心地よい温かさ。

あぁ、この方にも心臓はあって、絶えず血が流れてるんだな……と当たり前のことを実感してしまう。

 

神琉「どうだ?」

「凄く……硬くて温かい、です」

神琉「……そうか」

 

次の瞬間、私の視界は真っ暗になっていた。

一瞬、状況が把握出来なかったけど、上から呼吸音が聞こえてきたので、抱き締められていることに気がついた。

とても、温かい……温度だけじゃなく、生命そのものの温かさを感じるというか。

……このまま身を預けていると、眠ってしまいそう。

 

神琉「少しこのままでいてくれるか?1人では眠れなさそうだから……」

「良いですよ。いくらでもどうぞ……」

 

今夜は1人では眠れないらしい。

でも、どうしてか嫌な気はしなかった。

主を前に断ることなど出来ないが、この場合は私の意思なんだもの……

私は、傍で感じる温もりに身を預け、そっと目を閉じた。




最近は龍神王様要素多い気がする


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月面戦争での出来事
私の犯した重罪


過去って言ってもそれほど過去じゃないけど……
闇ちゃんが眠ってる間のお話です!
紫のキャラが原作と大きく違う所がありますがお許し下さい!
私の小説にはそういう所が多々あります。

それではどうぞ!


紫side

 

私は、今から……大変なことをしようとしている。

それは、月に攻め込むこと。

月に住む者を全滅させ、私たちの天下にしてしまうの。

名案でしょう?

そうすれば……いつか目を覚ました師匠も褒めて下さるだろう。

実力を認めて貰えるだろう。

 

「この戦争……負けられない!」

 

月には、地球の生物なんかじゃとても手の届かないような実力の持ち主がいるらしい。

つまりは、彼等を倒せば私が頂点だ。

 

結花「紫……本当にやるのかい?」

「あら、結花殿?戦闘狂の貴女にしては随分消極的ですこと。幾ら師匠の御友人とはいえ……私の計画を止めることは出来ませんわ?」

結花「……そうかい」

 

今、私の目の前にいるのが、師匠の御友人の鬼神 結花(おにがみ ゆうか)

"幽香"並に戦闘狂だとか聞いてはいたけど、バトルロワイヤルにて初戦敗退するレベル。

……着いてこられても足手まといになるだけだったかもしれない。

 

結花「アタシは、アンタを止めるつもりは一切無い。だけど、アタシから1つ言えることは……アンタじゃ月の奴らには"絶対に"敵わない」

「っ!やってみなきゃ分からないでしょう?」

結花「決めるのは自由だけど、アタシは忠告したからな」

「……ふん」

 

私は、半ば不機嫌になりながらスキマを開き、神社へと帰った。

何なのよ!あの鬼は……戦いが好きならもっと私の話に乗りなさいよ!

……なんてことを実際に師匠に聞かれていたら不味かっただろうな。

 

神琉「……月に攻め込むらしいな?」

「はい。止めても聞きませんからね」

 

うわぁ、と声が出そうになったけど、我慢してぐっと飲み込んだ。

私を射抜く龍神王様の鋭い眼光が怖い。

龍神王様は、少し口角を上げてこう言った。

 

神琉「随分と面白い真似をするんだな」

「……そうですか」

神琉「精々傷1つでも付けられるよう祈っておいてやろう」

「結構です」

 

……鬱陶しい。

何でこうも、皆して私の計画を否定するのかしら。

全ては、月の領土を獲得する為に捧げる。

 

神琉「闇が聞いたらどう思うだろう?」

「褒めて下さるに決まっています。貴方には……関係ないでしょう?」

神琉「はは、悪かった。この件には手出しはしないと約束しよう」

 

龍神王様は、両手をひらひらとさせて気持ちのこもってなさそうな謝罪をする。

ただ、月に攻め込む計画には手出しはしてこないと思う。

そもそも、師匠の主なんだから、月を狙わなくたって出来ることなんて沢山あるだろう。

 

神琉「それで?どうやって攻め込むつもりだ?」

「……私の能力で、集めた雑魚妖怪たちを月へ移動します。雑魚は雑魚の相手をさせます」

神琉「ほう……随分と余裕な態度だな?精々闇に怒られない程度にしておけよ」

「その辺は大丈夫です」

 

今の私の実力なら、月のトップにも勝てる可能性は無きにしも非ず。

全力で戦えば必ず勝てるわ。

 

神琉「月にはいつ行くつもりだ?」

「少し先延ばしにするつもりでしたが、もう今からでも行こうと思っています」

神琉「……じゃあ、達者でな」

 

私が瞬きをして、目を開く頃にはもう龍神王様はいなかった。

本当に何だったのと言いたかったが言う相手はこの場にはいない。

……さぁ、邪魔者もいなくなったことだし、そろそろかしら?

私は、スキマを開いて出陣予定の雑魚妖怪たちを出現させる。

荒々しいやり方だな、と言われても仕方ない。

 

「ふぅ…………お前たちの役目は下っ端を倒すことだ!行くぞ!!!」

 

今までとない位の妖力を注ぎ込み、特大サイズのスキマを出現させる。

流石に、"月"までのショートカットをするのは力がいるわね。

雑魚妖怪たちは、我先にとスキマの中へ入っていく。

さて、私もそろそろ行きますかね。

 

「……八雲紫、目指すは月完全侵略!いざゆかん!」

 

私の宣言と共に、月への侵略が始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「何で……」

 

私たち側が圧されてる!!!

ありえない、ありえない!

雑魚妖怪が全滅している。それはまだ良い。想定内だもの。

私が言いたいのはそんなことじゃない。

何で……

 

「私の攻撃が全く効かない!!!」

 

詰めが甘かったか?

結界のようなものを使っているが、こちらの結界じゃ比べ物にならない位高性能だ。

誰がこの状況を見ても、こちらが圧倒的不利だということに気づくだろう。

 

?「穢れ如きが……」

 

さっきから私の視界に入ってくる金髪の少女?が私に向かって呟く。

私は妖怪だけど穢れてなんかない!

 

?「我らが月に攻め込むとは良い度胸をしているわね、穢れよ……」

「ふん、貴女が月のトップ?」

?「それは違う。ここ月のトップは"月読命"様。もう随分月へ来られていないけど……」

 

そうだった。忘れてた。

月読命が月のトップだったことに!

……でも、まぁ良い。トップが長らく不在ってことは、この少女を倒せば良い!

 

「今の内に名乗っておくわ!私は八雲 紫。月の新たな頂点に立とうとしている者よ!」

?「ハッ!図々しいにも程があるわね!まぁ良いでしょう、私は綿月豊姫(わたつきのとよひめ)。軍のトップである綿月依姫の姉よ」

 

お姉ちゃんだったのか。

でも、そんなの関係無い。

 

「お前を倒して私が月を制する!」

豊姫「穢れ……妖怪風情が」

 

豊姫が手に持っていた扇子をバッと開き、私へ向ける。

 

豊姫「この罪は重い」

 

私は、何かを仕掛けようとしている豊姫を封じようとするが、何故か能力が効かない。

発動……出来ない。

 

豊姫「……用意」

 

私の背後からガチャ、という複数の音が聞こえる。

怖くて振り向けない。というより、動けない。

 

「やめて」

豊姫「さっきまでの威勢はどうしたの?まぁ、関係ない……」

「やめて!」

 

今まで過ごしてきた風景が、走馬灯のように蘇ってくる。

1秒が1分もあるかのように感じてしまう。

人間だった頃の記憶を……何故妖怪に身を落とす決意をしたのかを……

あれ……?

 

 

 

 

 

"何でだっけ?"

 

まぁ、いっか……

 

 

 

 

 

ドォン!!!!!

 

 

 

 

 

……私の命が終わる音が聞こえた。

はずなのに。

 

何で。

 

「い、生きてる……」

?「当たり前だ……ここで何をしてるんだ、お前は」

 

誰かに抱えられている感覚がしたので、思わず上を向くとそこには見知った顔があった。

凛々しい顔。美人ともとれるし、かっこいいともとれる顔……って、今はそんなこと考えてる暇は!!!

 

「香織、貴女今は忙しいんじゃ」

香織「……誰のせいで私がここに来ることになったと思ってる。心配しただろう」

「あはは、ごめんなさい……」

 

香織……最近名前を変えたらしいけど。

そのせいで、少しやることが沢山あるって……

でも、私の為にここまで来てくれたの?

 

「……ありがとう」

香織「泣くのも説教も帰ってからだ。掴まっているんだぞ」

「うん」

 

チラッと豊姫の方を見ると、信じられないとでも言いたげな顔をしていた。

後ろにいた、銃で私を撃ったであろう兵士たちは白目を剥いて倒れていた。

……香織がやったのかしら?

 

香織「さて……この少女のせいで其方に色々と迷惑をかけたようだが、それについてはまた後日伺わせてもらう。だから、今の所はこんな所で許してやってくれ。では」

豊姫「あっ……」

 

文句を言いたそうな豊姫の顔が一瞬見えたかと思うと、私の視界は見慣れた風景で染まっていた。

香織の顔も。チロルもいた。

 

チロル「やっと帰ってきた!」

「ご、ごめんなさい……チロル」

 

チロルが、少し心配したような顔でこちらを見つめる。

さっきまで死にそうになってたとは思えない程の安心感があるわ……

 

香織「さぁ、話を聞こうか」

「うっ……」

 

香織が、私に向き直って厳しい顔をする。

あぁ、やめて……美人の顔でそんな怖い表情をしないで……泣

 

香織「……何で、あんなことをしたんだ?」

「師匠に認められたかったから」

香織「……は?」

「うっ……だ、だから、師匠に認められたかったの!月さえ支配すれば私の妖怪としての力も上がるでしょ!」

香織「そんな理由でか!?」

 

はぁぁ、と溜息をついてこめかみを押さえる香織。

何だか申し訳無い……

 

香織「御先祖様の妹様であるツクヨミ様の怒りを買うとは思わなかったのか!?」

「だ、だって……長らく月にいないって話を聞いて。だったら今の内にって思ったの……」

香織「お前って奴は……」

 

またこめかみを押さえて溜息をついてる。

もしかして私って、厄介でしかなかったり……?

 

香織「これが御先祖様の知れる所になればどうなるか分かったものじゃないな」

「……何で?」

香織「御先祖様から聞いてないのか?月の連中と御先祖様との関係を」

「何も」

 

あぁ……と深刻そうな顔をする香織。

師匠と月の奴らに何の関係があるっていうのよ?

 

香織「実はな、月の連中を纏めてるトップ的存在と、御先祖様は友人同士なんだよ」

「そっ……そんな話聞いてない!知らなかったんだから仕方が……」

香織「だから、仕方が無いじゃ済まされないかもしれないんだ!」

 

香織は、がしっと私の肩を掴む。

う、痛い……なんて言葉も出ない位に私は焦っていた。

あぁ、やっちまった……って。

少し力を付けたからって調子に乗ってしまっていたって。

後悔した。

 

香織「このことは御先祖様には言わない」

「本当に!?」

香織「あぁ。だが、何らかの要因で御先祖様の耳に入った場合は……私にはどうしてあげることも出来ない」

「うっ……」

 

ただ、私はほとんど攻撃出来ていなかった。

雑魚は倒したけど、トップには攻撃してなかったはず。

何だっけ、綿月豊姫?には傷1つすら付けられなかった気がする。

 

香織「まぁ、何だ……この件は一旦忘れた方が良い。失敗は次に活かさなければならないけどな」

「それは勿論……もう二度とこんな真似はしないわ」

香織「あぁ、それで良い」

 

強くて、かっこよくて優しい香織。

師匠の従者でもある香織。

妹がいるらしいけど、元々天界に住んでいた香織がいなくなったことで、唯一の肉親であるその妹がその代わりをやらされてるんだって。可哀想ね。

 

「お詫びに、今日の夕食は私が作るわ。何が良い?」

チロル「卵焼き!ゆかりんの作る卵焼きは美味しいからね!」

「ふふ、良いわよ。香織は?」

香織「私は何でも良い。強いて言うなら、いつも通りって所か」

「相変わらず欲が無いわね……まぁ、良いわ」

 

さっきまで死ぬ間際だったとは思えない程の和やかなムードで包まれていた。

私は、何て馬鹿なことをしてしまってたんだ……っていう罪悪感が浮かびながらも、夕食の準備に向かった。





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結花のイラストです。


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おしまい?
第50話 もしもこの世界に星が降り注ぐなら。 ~前編~


いよいよこの小説の節目にたどり着いてしまいました。
どんな結末を迎えても、暖かい目で見守って下さい……


とある夜……夢を見た。

とっても不思議な夢だった。

私が転生する前の世界で、暮らしていた時のこと。

ただ、違う所があって……それは、私の傍に千奈がいたこと。

人間だった頃は友達なんていなかったし、ほぼほぼクラスの誰とも喋らない。そんな寂しい人生を送っていた。

 

なのに、どうして。こんなに違和感が無いのかしら?

まるで、今の今までずっと千奈と共に過ごしてきたかのように。

 

 

 

 

「んん……」

 

朝だ。

どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。

視界を開けると、目の前には主様の顔がドアップで写っていた。

 

「わっ……」

神琉「起きたか、闇」

 

主様は、私が起きたことに気づくとそっと頬に手を添えてきた。

むにっ、むにっ。

 

「あの……これは?」

神琉「あ、悪い。柔らかくてすべすべだなぁって」

「は、はぁ……」

 

私は、どうやって返答していいのか分からず、空返事をする。

そういえば、今日は何もすることがない……

まぁ、神なんてそんなもんだけど。

……いや、来るその時に備えておくべきよね。

 

神琉「そういえば、今日は何をするか決まっているのか?」

「来る"その時"に備えて、修行をするつもりですわ。ほとんど意味をなさないと思いますが、気休めの為に……」

神琉「そう、か」

 

主様は、少し残念そうな顔をしている。

私が力不足だから、残念がっているのだろうか。

だとしたら、申し訳ない……

 

「牛鬼の襲撃にどれだけ立ち向かえるか……」

神琉「……何かあったら絶対に言うんだぞ」

 

絶対にだ、と念を押す主様。

何度も何度も聞いたお言葉ね。

だけど、それだけ心配して下さっているのが分かる気がする。

 

神琉「俺は1度神界に戻る。恐らく、近い内にまたここに来るだろう」

「そうですか。では、お待ちしておりますね?」

 

あぁ、と嬉しげに答えると、主様は一瞬にして消えてしまった。

さっきまでここにいたのに、もういらっしゃらないなんて……少し寂しい気もするけど、でもそんなこと言ってられないわ。

 

「まだ、温もりが残ってる……変温動物に値する種族のはずなのに、変ねぇ」

 

ふふ、と私は独り言を漏らす。

やっぱり主様は主様だわ。

生き物を超越した存在なのに、こんなに温かいんだもの。

まぁ、私もなんだけど。

 

「さて、そろそろ起きなくちゃね」

 

私は、2つの布団を押し入れに片付けると、いつもの服装に着替えた。

修行と言っても何をするのかほとんど決まってないに等しいけど……そろそろ、香織に私と同じ仕事を覚えてもらおうかしら?

 

「香織、いる?」

香織「はい、どうされましたか?」

「あら、朝早いのね?じゃあ、頼みたいことがあるんだけど」

 

私の能力を使って、私の記憶を直接香織に伝える。

本当だったら、長い時間をかけて覚えてもらうのが1番良い方法なんだけど……

まぁ、良いでしょう。1番楽で手っ取り早いわ。

 

「今から、私の記憶を香織の脳内に送るわ。そろそろ私と同じ仕事もして欲しいと思ってね」

香織「そんな……光栄です」

 

何でこんなことをしようとしたか。

私が使い物にならなくなった時、私の後釜的存在が必要。

その時、この宇宙界を治めるのは誰か?

香織が1番適任だと思ったから。

満足に能力を使える内に、伝えておかなきゃって思ったのよ。

牛鬼のこともあるし、ね。

 

「じゃあ、流すわよ……」

 

私は、自分の額を香織の額につけ、自分の奥底に流れる、神としての記憶を流し始める。

案外、難しい。

神力の使い方も、神界への扉を開く方法も……全て覚えて貰わないと。

 

「はい、おしまい」

香織「……これが、神としての記憶ですね。然と受け止めました」

 

心做しか、いつもより香織が輝いて見える。

私の神力を分けてあげたからかしら?

元よりだいぶ強くなったはずだわ。

 

「これで、私とほぼ同じ仕事が出来るわ。仕事といっても、ほぼ地球上のことだけなんだけど」

香織「いえ、御先祖様のお手伝いが少しでも出来ることが私にとってのこれ以上ない栄誉なことなのです」

 

あらあら、そんなに尊敬されちゃ手を抜けなくなるわね、と笑う。

これで、記憶自体は香織に渡せた。

後は、完全に馴染むように毎日の訓練が必要ね。

 

「じゃあ、後はこれを……」

 

私は、スキマを開いて、とあるものを取り出す。

それは……

 

香織「!こ、こんなもの頂けません……!」

「良いのよ、私からの贈り物なんだから」

 

"イヤリング"。

アメジストで出来た、私が作った香織への贈り物。

いつか必要になる日まで、作っておいたのだ。

私の神力を、香織に馴染ませる為に……

 

「ほら、じっとしてなさい」

 

私は、2つのイヤリングを香織の耳に直接付けてあげた。

紫色の小さなアメジストが付いた、私が1番好きな石。

 

「ふふっ、今の香織……いつもより何倍も綺麗よ?」

香織「ありがとうございます……御先祖様から直々に贈り物をして頂けるなんて、これ以上ない光栄」

「貴女は私の従者なのだから、変な虫が付かないようにしないと……ね?」

 

私は今、恐ろしい顔をしているかもしれない。

自分で笑っているのは分かるが、何となく歪んでる気が……

でも、自分のものを他人に盗られることが本当に嫌だから、自分が傍にいることの印を付けておきたいの。

 

「あぁ、ごめんなさい……我儘で」

 

私は、あまりにも自分勝手な行動を反省した。

まぁ、香織に変な虫が付かないようにするっていう意味もあるけど、本当はもう1つ意味があるんだけどね。

 

香織「そんな寂しそうな顔なさらないで……私は、いつだって御先祖様のものですから……」

「香織……貴女はどこまで私に優しいの」

 

こんな私の我儘を受け入れてくれるだなんて、この世で香織位じゃないかしら?

 

「ふふ、じゃあいつまでも一緒にいてくれるのかしら」

香織「命ある限りは、お供します」

「私がいる限りは貴女が死ぬことはないのよ」

 

私がそう言うと、私たちはしばらく2人で笑っていた。

こんな日がずっと続いていけばいいのにって思ってる。

最高神に与えられたこの命と体と力さえあれば、何だって叶えられる。

 

 

……この時の私は、完全に思い上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

チロル「……それで、その時紫がー」

「あら、そうなの」

紫「ちょっ!その話は言わない約束でしょう!」

 

天気の良いとある日、私たちは縁側で団欒していた。

こんなに天気も良いんだから、皆でお茶を飲もうって誘ったのよ。

 

チロル「そういえば、闇ちゃんから誘ってくるのは珍しいよねー」

紫「そういえば、そうね」

「急に皆とお茶が飲みたくなったのよ」

チロル「香織も来たら良かったのにねぇ」

 

香織は今、晩御飯に向けての買い物に出ている。

本当、こんな時にすら真面目さを発揮するんだから。

 

チロル「闇ちゃんは、龍神王様のことどう思ってるの?」

「どう、思ってるって?」

チロル「闇ちゃんと龍神王様が主従関係にあるのは知ってるよ。それ以前に、男と女としてどう思ってるのってこと!」

「そんなの、決まってるじゃない……答えは、"何も無い"わ」

 

何も無いっていうのは、どうも思ってないということ。

牛鬼が言及してきたように抱かれてもないし恋仲ですらない。

神の世界には、そんなものは必要ないのだ。

 

チロル「え?そんなことないと思ってたんだけどな〜」

「はいはい、チロルはそんなこと考えなくてもその内イイヒトが見つかるわよ」

チロル「もー!子供扱いしないでよね!」

 

ひどい、と怒るチロルをなだめる私。

そして、それを見て微笑む紫。

一家団欒って感じがするわね。

 

 

 

 

「ん……」

 

……今、何かが。

私の後ろを横切った……?

 

紫「どうかされたのですか、師匠?」

「いいえ、何でもないわ……ちょっと席を外すわね」

 

私は、皆の声を聞く間も無く拝殿の方に向かった。

急に、拝殿の方にある木に寄りかかりたくなった。

本当に何も無いが、何故かそう思ってしまった。

んん、考えててもしょうがない!

 

「ふぅー……どうしちゃったのかしら……っ」

 

私が木にもたれかかった瞬間、私の首が何かによって締まった。

締まった……見えない糸みたいな物で。

取ろうとしても、中々掴めなかった。

 

?「お騒がせしたねぇ、ふふっ」

「うっ……ぁ……」

 

……何てことだ。

"牛鬼"が、まさかここまで来るなんて……!

しかも、こんなに早く……!?

 

牛鬼「大丈夫だよ、手は出さないからさ……あいつらには」

 

酷く美しい顔を歪ませ、恐ろしい笑みを浮かべる牛鬼。

何が、したいんだ……!こいつはっ!

 

牛鬼「俺はねぇ、お前さえよければ消えてやりたいんだけどなぁー」

「かっは……」

牛鬼「あぁ、無理無理。喋らない方が良いと思うぞ。余計に苦しくなる」

 

声が出なかった。

無理矢理抵抗したら首がちぎれ飛びそうだった。

ていうか、"お前さえよければ消えてやる"だと?

願ってもない好機だ。

声さえ出れば……いいのに!

 

牛鬼「お前が考えてることは大体分かるが、面白そうだからまた後でにしようか^^*今はまず、お休み」

「ぐっ……ぁ、え?」

 

牛鬼がパチンと指を鳴らすと、私を縛っていた糸の感覚が無くなり、楽になった。

しかし、視点が……空に。

ゴトッという何かが落ちる音と同時に、私の上に何かが倒れてくるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

……私の、頭の無くした胴体が、倒れてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「ゔっ……」

 

私は、ゆっくりと目を開けた。

そこは見たことも無いような部屋で、誰かが普段から使ってそうな部屋……あれ?扉が無い……

って、違う!さっきまで私は何を……

……あぁ、首を切られたのか。

というより、何かしら、この違和感は。

 

牛鬼「起きたか?」

「っ!?」

 

背中が反り返るような、恐ろしく艶のある声がして、私は思わず目の前のものを引っぱたく動作に入った。

しかし、その手はいとも簡単に阻まれてしまった。

 

牛鬼「ほぅ、流石は龍神。首を切り落とされても生きながらえるのか」

 

感心したような顔で見つめる牛鬼は、そう言いながら私の首筋を指先ですぅーっと撫でた。

それだけでも悪寒がするが、目の前に災いの元がいるのに滅せないのが兎に角悔しい。

 

牛鬼「おいお前、何か言ってみろ」

 

悔しいか、と言いたげな顔の牛鬼は、やはり背筋が凍るほどの美しさを持っている。

見惚れてしまいそうだが、私に限ってそんなことはない。

主様以上に美しいものなど……

 

「……何が目的なんだ」

牛鬼「なるほど。お前を拉致した目的が知りたいと?」

 

嫌な笑みを浮かべる牛鬼は、皮肉にも私の目線を誘った。

正直、牛鬼が何を考えているのかが全く分からないが。

 

牛鬼「簡単だ、お前を観賞用として置いておくだけだぞ」

「観賞用……?」

 

私を観賞用のとして置いておく?

熱帯魚でもあるまいし……どうするのか。

 

 

 

牛鬼「……脱げ」

「は?」

牛鬼「ほら、早く」

 

牛鬼は、私の首にはめられた首輪に繋がれている鎖を引っ張った。

ガシャ、という音と共に私の体がバタッと倒れる。

今の私には、何の力も残っていないみたいだ。

何も……使えない。本当に約立たずになってしまったのか。

 

牛鬼「俺も鬼じゃ……いや、この場合はどうなるんだろう……」

 

1人で何かを考える牛鬼。

そもそも、この状況はなんなんだ!

 

牛鬼「……あぁ、そうか。脱げないのか」

 

牛鬼が人差し指を私の方へ向けて横に振り抜いた。

その瞬間、私の服の袖が切れ、粉々になって無くなってしまった。

 

牛鬼「俺に脱がせて欲しいなら脱がせてやるぞ?」

 

ニヤニヤと笑う牛鬼。

本当に……憎らしい奴だ。

 

「そもそも、何故脱がせる!」

牛鬼「そんなの、決まってるだろう。観賞用なのに、脱がせなくてどうするんだ?」

 

……鬼だ。

いや、そもそも最初から鬼だったか……

と思っていると、牛鬼が私の方へ近づいてきていた。

私の服に手をかけて……そこから先へは進まなかった。

 

 

 

 

牛鬼「ふん、随分と早いご到着か……………………ほぉ、まさか貴様等が来るとは流石の俺も想定外だったな」

 

やれやれ、とため息をつく牛鬼。

私は、誰か来たのかと気になって後ろを見ると……

 

 

 

 

ドガァァァァァン!!!!!

 

 

と言う音が鳴り、壁が粉々になった。

その砂埃が舞う中にいたのは……

 

 

 

 

 

アマテラス「……お姉様っ!」

 

涙を浮かべて私に向かって叫ぶアマテラス。

 

スサノオ「姉上!!!」

 

私に触れようとした牛鬼を物凄い形相で睨みつけるスサノオ。

 

ツクヨミ「お、お姉様!」

 

物凄く不安そうな顔で見つめるツクヨミ。

 

 

私としても、この子たち……三貴神が来てくれるのは想定外だった。

もしかしたら、誰も来てくれずにこのまま朽ち果てる運命にあるんじゃないかって一瞬思ったけど。

 

 

……それと同時に、心のどこかで主様が救い出しに来て下さるのではないかと淡い期待を抱いたりもしたけど。

 

 

牛鬼「……あーあつまんねぇ。仕方ない、引き上げるか」

アマテラス「させないっ」

 

ダメよ、いけない、牛鬼に手を出しては、ダメ……!!!

私が声をあげるより先にアマテラスが動いていた。

……あぁ、遅かった。

 

 

アマテラス「っ!ぐぁぁぁ……」

牛鬼「だ、か、ら、ここら辺で撤収してやるって慈悲を与えてやったのに……残念だ」

ツクヨミ「や、やめて……!」

スサノオ「やめるんだっ!!!」

 

牛鬼が、先に行動を起こしたアマテラスの動きをいとも簡単に封じてしまった。

そして、私にしかけた攻撃と同じものを……あの、見えない糸の。

 

 

 

 

「やめなさい……っ」

 

私は、力を振り絞って牛鬼の服の裾を掴んで、動きを止めようとした。

もう、今の私には人間程しか力が残っていないんじゃないか……そう言われてもおかしくない位弱っていた。

私に気づいた牛鬼は、私の方を見ると、またあの嫌な笑みを浮かべた。

 

アマテラス「ぐっ!はぁ、はぁ……」

牛鬼「……まぁ、その勇気だけは認めてやる」

 

つまんなそうな顔をした後、牛鬼はアマテラスを解放した。

首を抑えて苦しがるアマテラスに寄り添うツクヨミとスサノオを気にも留めず、私の方へ向き直った。

何か嫌な予感がするけど……この子たちが無事ならそれで良いわ。

 

牛鬼「さて、ここまで来て貰ってなんだが、どうやらその苦労は水の泡になりそうだ」

 

牛鬼は、私を抱えて三貴神に言い放った後、スキマと似たようなものを出現させた。

そして、煙幕で視界を遮ったと思うと、どこか暗い場所に降り立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

牛鬼「お前……弱ったなぁ」

「お前のせいだろう!何故私に……」

 

私が言おうとしたその先を、牛鬼は自分の手でそれを封じてしまった。

牛鬼に連れ去られ、力も奪われた今……最早お前に出来ることなど何も無い、とでも言いたいのか。

 

 

牛鬼「そういえば、お前に言ってなかったことがあるな」

 

牛鬼は、少し考えてから……はっとしたような顔になって、私の目をじっと見つめた。

何を考えているのか分からない……そんな顔だ。

 

牛鬼「お前は……転生者だな」

 

 

はっ……!?

 

 

牛鬼「であるが故、俺とお前は一心同体と言っても過言ではない」

「えっ……?」

 

うん、転生者だってことを見破られたのにも驚いたけど。

一心同体ってどういうこと?

私は私で……牛鬼は牛鬼だもの。

 

牛鬼「転生する前に持っていた"闇"を捨て忘れていたんだろうなぁ、あいつは」

「どういうことよ」

 

ふむふむ、といった表情をする牛鬼。

牛鬼が今言った、闇は私の名前を意味する言葉じゃないってこと位しか理解できなかったけど……

じゃあ、どういう意味なのかしら……

 

牛鬼「……あいつも可哀想だなぁ、気付いて貰えなくて」

「だから、どういうこと……!」

牛鬼「こんなものまでくれてやったのになぁ」

 

牛鬼は、私の左手を取ってニヤリと笑った。

そこには、金に光る美しい指輪が。

 

牛鬼「忌々しい……あいつの神力が有り得ない位詰め込まれている」

 

ニヤリと笑う笑顔は崩さないものの、その顔からは確実に良いことじゃないであろう感情が読み取れる。

……嫉妬?

 

牛鬼「ま、いい。そろそろ始めるか」

「何を……」

 

決まっているだろう?とでも言いたげな顔をしながら、私の方へ向き直った。

その目は、今までとは少し違ったような……一言で言うならばギラついてる?

とでも言えば良いだろうか。

 

 

 

 

牛鬼「俺と、お前をこの世から消す為の儀式だ」

 

 

 

 

……牛鬼がそう言った途端、大地が大きな音を立てて震え出した。




後編は近いうちに出すかも……
ここまで、色々と私の趣味に付き合って下さった方々、ありがとうございました。
後編が投稿されて、区切りが付いたとしても、この小説はどんどん続いていきます!!!
いつの日か終わる時が来るまで、どうか暖かい目で見守って下さいね(*・ω・)*_ _)


せっかくの節目ですので、誤字や脱字はしっかりと直させて下さい!!!
気づいたことがあれば、コメント等で教えて欲しいです(*´艸`)


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第50話 もしもこの世界に星が降り注ぐなら。 ~後編~

今まで閲覧して下さった皆様、ありがとうございました。
区切りが着いてしまいますが、これから投稿されていく本編にもご注目下さいませ(*´艸`)


では、後編です!!!


エマside

 

 

どうして、こんなことになったの。

 

 

 

アビス「これは非常に悪しき問題です!」

 

 

 

……どうして。

 

 

 

アビス「私は、この問題を踏まえて……事件を引き起こした宇宙界神である「夜刀神 闇」を」

 

 

 

あなたはどこにいるの?

 

 

 

 

 

 

アビス「この神界から排除すべきだと考えます!!!」

 

 

 

 

 

 

闇……!!!

 

「なっ!?」

アビス「連れ去られてしまった今が好都合です。神格を抹消し、神界へ出入りする権利を剥奪するのです……龍神王様、いかがお考えですか」

 

アビスが、龍神王様に向き直って意見を仰いだ。

私はというと、怖くて龍神王様の顔を見ることが出来なかった。

闇を大層気に入られているというのに、そんなことを言って大丈夫なのか……

 

神琉「……」

アビス「……龍神王様?」

神琉「……………………れ」

「……!」

 

私は、恐る恐る龍神王様の方を向いた……

そして、恐怖した。気づいてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……龍神王様が、この上なく恐ろしい表情をしていることに。

 

 

神琉「……黙れアビス

アビス「ひっ……ぃ……!!!」

 

アビスは、龍神王様の覇気と表情に圧倒され、腰を抜かしてしまった。

手に持っていた書類がバラバラと床にばら撒かれる。

 

神琉「今、この会議で主導権を握っているのは"俺"だ。今度勝手な真似をしたら……消す」

アビス「も、申し訳ございませんでした!!!」

 

涙目になったアビスが、土下座をして龍神王様に謝罪した。

それを見た龍神王様は、まるで興味が無いといった表情で、ぷいと顔を逸らしてしまった。

他の神々はというと、ガタガタと震えて俯く者が殆ど。

元々、そんなことを言うようなお方ではなかったし、他の者に興味を示すこともなかった。

私は、この時初めて龍神王様が本気で怒る所を見た気がする。

 

 

神琉「……この会議は終了だ。進展があったら報告するのでそのつもりで」

 

先程の威圧はどこへやらといった表情で皆に伝えた。

龍神王様のあんな顔はもう見たくない……。

アビスもアビスだけど。

私は、"自分の仕事"を終える為に会議室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

牛鬼「おや?泣いているのか?」

 

牛鬼は、わざとらしく笑って、私の後から後から溢れてくる涙を優しく拭った。

私らしくもない感情。泣くなんて……

神になってから涙を流したことなんてほとんどなかったのに。

 

牛鬼「最高の最後だな……宇宙界最高神と共に滅ぶ……ふっ」

 

気味の悪い笑顔……といっても牛鬼は腐っても美しいが……

ぶつぶつと独り言を呟く牛鬼。

ゴゴゴゴゴ…………と地面が震えている。

そもそもここはどこだろう……神社の近くなら皆が危ないんだけど。

 

牛鬼「ほら、もうすぐ終わるんだ。そんな悲しい顔するなよ?笑顔で終わらせるべきだろう」

 

牛鬼がそう言った瞬間、床がパキパキと割れ始めた。

そこから黒い何かが溢れ出し、周りのものを全て飲み込んでいく。

 

 

牛鬼「俺たちを消せるものなんてこの世のどこにも無い……が、"ブラックホール"だけは別だろ?」

「……そうね。確かにそうだわ」

 

 

確かにそうだ。

今まで生きてきた中で、私を存在ごと消せるものなんて全く無かった。

……いや、西行妖があったか。

 

私を消せるものなんて存在しないが……

光すらも飲み込んでいくブラックホールならば……或いは可能なのかもしれない。

 

この……長きに渡った神生(戦い)に決着をつける時が来たのね。

もう皆に会えないのはとても悲しい……けど、でも、私の後任はもういるもの。

それに、牛鬼に殺されて散ったなんて聞いたら笑われちゃう……そんなの嫌だわ。

 

 

 

 

 

そう、もう、これで良いの。

私はもう十分生きたもの。後は貴女たちで紡いでいくのよ。

 

サララ……と私を抱える牛鬼が足から粒子となって吸い込まれていく。

無論、私も例外ではない。

消えてゆく、全てが。

 

 

「アマテラスたちは」

牛鬼「あいつらは無事だ。もうこことは遠く離れた所にいるからな」

「……そう」

 

 

そう言っている内に、刻々と終わりの時間が迫り来る。

あっ……紫にご飯作ってくれてありがとうって言えなかったわね。

……仕方ない、かしら。

香織にもっと色んなことを教えたかった。でももう大丈夫。

 

 

「新たな生を授けて頂いたのに、ありがとうと伝えることも恩返しも出来なかったわ」

牛鬼「……そうだな、あいつは間違いなく悲しむだろうな。良いのか?」

「えぇ、もうここまで来てしまっては私も何も出来ないもの……今の私に出来るのは、運命に身を任せることよ」

 

 

牛鬼は、少し考えた後、私の髪を撫でて言った。

 

 

牛鬼「お前との死闘は楽しかったぞ」

「……あらそう。私にとっては本当に死闘だったんだけどね」

牛鬼「俺は何度も殺しかけたが、本当に殺してしまうとあいつが黙ってないだろう。丁度いい所でいつも止めてたんだよ」

「はぁ、どうせ楽しんでた癖に」

 

 

私は、柄にもなく牛鬼との会話を楽しんでいた気がした。

そんな訳ないだろうけど、迫り来る最期がそうさせているのかとしれないわね。

 

 

「ねぇ、そうでしょう……」

 

 

私がそう問いかけても、返ってくる答えは無かった。

先に行って、嘲笑ってやる。とでも言いたかったのか?

何にせよ、最後まで意味が分からない奴。

もう粒子すら感じ取ることは叶わなかった。

皆にとっては最高の結末だろう。元凶がいなくなったんだもの。

 

 

私が、牛鬼消滅の為の鍵になるなんて思いもしなかったでしょうけど。

 

 

「さ、運命に身を任せようかしら……」

 

 

私は、宙に手を翳して消えてゆく自分の体を眺める。

漫画とかでよくある消え方だけど。

こういう感覚……だったのね、割と意識はハッキリしているわ。

瞬きをして、次に見た時には私の手はもう無かった。

 

 

 

「でも、ちょっと、怖、い…………か……も………………」

 

 

 

私は、最後に残っていた掠れた声を出した。

あら、怖いだなんて。私らしく……ない。

 

 

 

前世と違って、死ぬってことを意識する死に方ね。ふふ……

 

 

 

長きに渡った私の命に、終止符がつく音がした。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、神社の方では……

 

 

アマテラス「お姉様!お姉様ぁぁぁ!!!」

ツクヨミ「アマテラス姉様……あのお方ですから、大丈夫ですよ。今まで何度も生還なさっているんですかr」

アマテラス「どういう根拠でそれを言ってるのっ!!?牛鬼に攫われたのよっ!」

ツクヨミ「ぐっ……ご、ごめんなさい……」

 

 

取り乱すアマテラス、それをなだめるツクヨミに掴みかかるアマテラス、別室で寝込むスサノオ……神社の奥で震えながらひとしきり泣いているチロル。

皆がいる神社は、少々大変なことになっていた。

いつも冷静なはずのアマテラスが、これだけ取り乱すなんてとても珍しいことだった。

 

夜刀神 闇奪還作戦は見事に失敗し、ボロボロになって神社に帰ってきた三貴神だった。

まぁ、それを目の当たりにした香織にとってはどうすることも出来なかっただろう。

 

 

アマテラス「ねぇ、香織……!貴女従者でしょう。主の居場所くらい…………って、え?」

 

 

さっきまで後ろにいた香織に、何か策は無いのかと聞こうとしたアマテラスだったが……。

 

 

アマテラス「大丈夫!?香織!」

ツクヨミ「香織さん……!?」

 

 

そこにいたのは、苦しそうにうずくまる香織だった。

それだけなら良かったが……いや、良くはないけど……

香織には、とある変化が起きていた。

 

 

アマテラス「髪の色が変わってるわよ!?」

ツクヨミ「本当です……!どうして……」

香織「うっ……どういう、ことです……?」

 

 

香織は、元々濃いめのエメラルドグリーンに輝くとても美しい髪を持っていた。

ただ、本人にとっては闇にはとても敵わないとのことらしいが……

そのエメラルドグリーンの髪が、2割程になり、残りの8割はなんと、闇と同じ色……銀色に輝いていた。

それを見た香織は、驚くでは足りないくらいとても驚いていた。

 

 

アマテラス「お姉様と同じ髪色……?」

香織「えっ!?……えぇ、その、ようです……でもどうして……」

 

 

所々緑の部分はあるが、やっぱり大部分は銀色にすっかり変わってしまっている。

綺麗に2分されているのではなく、所々混じってる、みたいな感じだ。

 

 

香織「っ!これは……」

 

 

香織は、自身の主に貰ったイヤリングに触れる。

紫色に淡く光るアメジストだったのだが、石はほとんど割れてしまっていた。

せっかく貰った大切なものなのに、と残念がる香織だったけれど……

一方の闇は、そんなことよりももっと大変なことになっていることなんて、この時の香織は気づきもしなかった。

闇の神力が徐々に薄れゆくことにも気づかなかったのだ。

 

 

アマテラス「それは、お姉様に貰ったものでしょう?」

香織「えぇ、そうです。後で謝らないと……」

 

 

胸の真ん中でギュッと手を握り、自身の主の安全を祈る。

何も出来ないことに腹立ちながらも、ずっとずっと祈っていた。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

闇side

 

薄く曇ってハッキリ見えない視界。

自身の体を抱え、高速で動く誰か……

風を切り、阻む草木を散らす音。

暖かく、ふんわりした匂い。

 

 

 

 

……なぜ、自分は生きているのか?

どうして、五感が残っているのか?

不思議に思っても、なかなか声は出ないし完全に視界が晴れない。

 

 

千奈「もうちょっとだから……もうちょっとだからね……きっと、君は……」

 

 

あら、千奈の声がする。

私を抱えていたのは千奈だったのか……

私を救ってくれたのも千奈なのかしら?

牛鬼に襲われ…………って、あいつは消滅したんだっけ。

 

 

千奈「……っと、着いた!皆ーーー!!!闇を見つけてきたよーーーっ!!!」

 

 

私を抱えながら、神社の方に向かって叫んだ。

何よ……うるさいわね……と思っても、声は出ないから仕方ない。

と思っていると、中からドタドタと床を踏む音が聞こえてきた。

 

 

アマテラス「お姉様!!!」

ツクヨミ「お姉様!?髪が……」

香織「御先祖様……!!!」

 

 

多分、皆して私を覗き込んでいるのだろう。皆の顔が薄らと見える気がする……

あぁ、この匂い。皆の匂いだわ。

ツクヨミが気になることを言ってた気がするわね。傷んでいるとかそういうことだと思うけど。

 

 

千奈「とりあえず、中に運ぶよ!」

 

 

千奈は、私を抱えたまま、神社の奥…………また、あの部屋。

私が5年間眠っていた部屋に、私を運んだ。

何故か布団が既に出されており、千奈はそこにそのまま寝かせた。

 

 

アマテラス「とてもお姉様には見えない……けど、きっとお姉様なんだわ。絶対に……また、私と笑いあってくれる……はずよね?」

ツクヨミ「アマテラス姉様、それは私も同じです。早く目を覚まして欲しいのですが……」

 

 

アマテラスとツクヨミと香織が後ろでそっと見守る中、千奈は私のすぐ側について、瞳孔の確認、脈拍等の確認をしていた。

この確認方法は現代人しか分からないはず……本当に現代人なのね、貴女……。

 

 

千奈「限りなく危ない状態だと思う……でも、それは人間としての話だからきっと大丈夫」

 

 

多分、アマテラスとツクヨミに言ったんだろう。

アマテラスとツクヨミの良かった、と安堵する表情が見える気がするわね。

皆と話したいことがいっぱいあるのに……なんで声が出ないのかしら。

試しに……

 

 

「ゔぅっ……」

千奈「……え?闇?」

 

 

千奈がそう言うと、視線が一斉に私に向かう。

やっと声が出たと思ったら、あんな声が……まぁ、仕方ない。

 

 

「う……みん、な……」

千奈「起きたの!?」

アマテラス「良かったぁ……(><)」

ツクヨミ「お姉様……」

香織「御先祖様……ご無事で……」

 

 

限りなく掠れて小さな声ではあるけど、やっと声を出せた。

視界は全然戻ってくれないけど、声帯は復活してきたみたい。

皆の顔が見れないなんてね……生き返った意味がない気が。

というか、そもそも生き返ったと言っていいのかしら?

 

 

「こえ、が、でない、の」

アマテラス「生きていてくれただけで良いんです……!」

香織「お力になれず、申し訳ございません……」

ツクヨミ「本当に、本当に良かった……!!!」

 

 

私を取り囲み、皆が涙する様子が簡単に想像出来た。

声帯は回復した。でも、相変わらず視界は晴れないけど……

こんなに自分が愛されてるだなんて、簡単に命を投げ出すものじゃないわね。

私は、開いた瞳をまた閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

私が見事生還してから1ヶ月が経った。

体はいくらか動くようになったけど、まだ歩くのは少しだけ億劫ね。

気づいたことなのだけれど、あの戦いというか……消えそうになった時に、私はほとんどの神力を失ってしまったらしく、今は存在を保つ為だけの神力しか保持していないらしい。

 

……後、視界は相変わらず晴れていない。

だから、皆の顔を見ることが未だ叶わない。

自分の今の姿も……見られていない。

どうしてかはわからないけれど。

 

 

香織「御先祖様、お加減はいかがですか?」

 

 

ノックの音が聞こえ、聞きなれた声が響く。

私が入室の許可を出すと、香織が部屋に入ってくる音が聞こえた。

香織の声。香織は、私が生還してからずっと、私のお世話をしてくれている。

上手く歩けない私を気遣い、目の見えない私の目になってくれている。

時々、私を抱えて散歩にも連れて行ってくれる。

これを、24時間体制で。

 

 

「ふふ、いつもありがとう。この位本当は自分でしたいんだけどね……」

香織「私は御先祖様の手足であり目でもありますから……」

「本当にありがとう……」

 

 

いただきます。と言い、香織が持ってきてくれた料理を自分で口に運ぶ…………ことは出来ないので、香織に料理を食べさせてもらう。

 

 

「うん、美味しいわ……貴女って本当に料理上手よね。これで、私がいなくなっても平気かしら……」

 

 

私は、つい思ったことを口に出してしまう。

…………私には自分がいつ本当に死ぬのか見当がついてしまっている。

後から聞いた話だけど、牛鬼は本当に、完全に消滅したらしい。

だけど、そのせいで私の生命力が9割以上削られてしまったんだとか。

生きて、動けるだけで奇跡なんだって……

 

 

香織「何を仰いますか。貴女様は永遠に、私の尊敬する主なのです。だから、生きる希望を、可能性をお捨てにならないで下さいませ……」

「……そうね、最後まで諦めないでおくわ」

 

 

そうは言ったけど、死にそうなのは本当。

最後まで足掻くけど、それもいつまで持つか。

……それと、実は主様から伝えられていることがある。

 

 

 

『俺の力で、闇を元通りにすることも出来る』

 

 

 

と。

でも、私はそれを、二つ返事で断った。

自然に任せると決めたから……ね。

主様は、そうか……とだけ言い残し、それから訪ねてきていない。

見放されたんだって、思いたくはないけど……

 

 

「……美味しかったわ、ありがとうね。貴女はもう仕事に戻って頂戴」

香織「かしこまりました。ではまた何かあれば遠慮なくお呼び下さい」

「えぇ、いつもありがとう」

 

 

香織は、静かにこの部屋を去った。

襖を閉める音が鳴ると、途端に部屋の中が静かになった。

虚無感が凄いわね……本当は香織にずっといて欲しかったけど、何も出来ない私に変わって、私がやっていたことをあの娘が全て代わりにやってくれているのだから、仕方が無い。

 

 

千奈「闇、最近どう?」

 

 

千奈がノックをしてから襖を開け、部屋に入ってきた。

この娘は、定期的に私の所にお見舞いに来てくれる。

輝夜や永琳、妹紅も定期的に来てくれる人たちの1人。

住んでいる所が遠いから、会える期間は開くけど結花も……後は、海神の導も。

 

 

「本当に皆に愛されてるのねぇ……」

千奈「君が残したものは、未来永劫語り継がれる程のものだよ。きっと永遠に忘れられないさ」

「そう…………所で、私の髪は……どうなってる?」

 

 

千奈が来る度に、私は髪の毛のことを聞いている。

どうやら、色々と変わってしまっているみたいで。

その度に事実を聞いては……肩を落としている。

聞いているのはこっちなのにね……(′・ω・`)

 

 

千奈「……正直に言うよ?」

「えぇ」

千奈「日に日に……"黒く"なってる。前髪に銀髪が残ってくれてるから良いけど、それも探し辛くなってる。もしかしたら、"近い"のかもしれない……」

「……ありがとうね。貴女にも世話になったわ」

千奈「……大丈夫。何かあったら呼んでね?」

 

 

 

少しの会話を交わした後、千奈は部屋から出ていった。

"近い"……か。

もう、私の髪の毛はほぼほぼ真っ黒になってしまっている……のね。

まるで、転生した時と同じ感じかしら?でも、前世の私の髪色焦げ茶色だったからなぁ……

 

私は、千奈と少し言葉を交わすと、部屋を出ていく千奈を見送った。

こうやって千奈と話せるのももう少ししか無いのかもしれないわね。

 

ちなみに、千奈は人里でどんな仕事をしているのか気になったんだけど……

どうやら、人里の子供たちに無償で読み書き等を教えているらしい。

この時代には、読み書きが出来る人がほとんどいなかったらしく、大人ですら読み書きが出来る人は本当に貴重だったのだとか。

 

千奈自身はお金は要らないと言っているらしいが、子供たちの親がチップと称して食べ物等を渡してくれるらしい。

そのおかげで、暮らしには全く困っていないんだって……

 

 

「私がいなくても世界は回る、でしょうね」

 

 

創ったのは私なんだけど……別に、世界を誰が治めようがどうだっていいもの。

トップに立つのが主様で、その次に来るのが……恐らく香織じゃないかしら。

私の神力……全部渡すつもりだから。

だから…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぐっ」

 

 

独りで考え事をしていると、急に喉の奥が熱くなった。

思わず咳をすると、後から後から溢れてくるものが。

ドロっとした様な……液体が。

 

 

「何、これ」

 

 

喋ろうとすると、また痰のからんだ咳が出る。

その度に……溢れてくる。

 

 

「がっ……!ぁ、は、ごほっ」

 

 

私が何度か咳を繰り返していると、部屋の向こうからドタドタと足音が聞こえてくる。

足音だけで、誰が来たのか分かってしまうなんて……病的かしら?

うっ、苦しい…………!

 

 

 

 

紫「師匠!大丈………………き、きゃあぁぁっ!!?」

 

 

紫がノックも無しに襖を開けると同時に、悲鳴をあげた。

目は相変わらず見えないから何が起こっているのか全然分からない。

紫が何に吃驚しているのかすら分かってあげられない。

 

 

香織「どうした、紫……って、御先祖様!!!」

 

 

香織が、私の方に急いで駆け寄ってくる音が聞こえる。

何よ、そんなに急いじゃって。私は無事よ?

……って言いたい所だけど、今の私は喉の奥が熱くて痛くて仕方ない……の。

 

 

香織「っ……!!!紫!早く、清潔な布と水を!」

紫「は、はい!」

 

 

紫がこの部屋から出ていく音がする。物凄く急いで……

なんて思っていると、思わず顔を顰めてしまった。

物凄い鉄の匂いがする。まるで手術室に入ってしまったみたいな……

 

 

香織「御先祖様!分かりますか?香織です!しっかり……!!!」

 

 

香織が耳元で叫ぶ。

意識が朦朧として、その声すら、聞き取り辛くなってきた。

元々晴れていない視界が、更に濁っていく。

頭が痛い……

あぁ、皆の顔が滅茶苦茶頭の中に浮かんでくる……

これが、"走馬灯"ってやつ?なら、私はもうすぐ死ぬ?

本当に……?

 

 

香織「ーーー!!!」

 

 

香織、何を言っているのか分からない……もう少しはっきり言ってよ……

そう言おうとした私の言葉は血と共に喉の奥に飲み込まれ、消え去った。

運命よ、私には最後に言葉を伝える権利すら与えて貰えないの……?

ねぇ、ねぇ、ねぇ!!!

 

 

?「(その機会は今だけじゃないでしょ?次があるじゃんっ!)」

 

 

頭の中に何者かの声が響き、私の意識は完全に暗転した。

あら…………息も、心臓も、止まってる……

誰なの……と尋ねる暇もなく、多分、これが死ぬってことなんだと思う…………

 

 

 

 

……最高に下らなくて最高に最高の神生だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香織side

 

 ̄ ̄ドクン!!!

 

 

血を吐いて意識を失われた御先祖様の傍で手当にならない手当をしていると、私の心臓が大きく激しく鼓動した。

それと同時に……

 

 

パンッ

 

 

何らかの音がしたので、音がした方を見ると、御先祖様の指にはめられていた指輪が、粉々に砕け散っていた。

確か、この指輪は龍神王様から頂いたものだと……

 

 

「……えっ?」

 

 

私は、御先祖様の髪の毛に異変が起こっているのに気がついた。

異変というか……

生還なされた日、驚く程に黒くくすんでしまっていた髪の毛だけれど、銀色の部分は確かにまだあった。

だけど、日に日に銀色の部分が少なくなっていって。

銀色は黒地に目立つ……今、改めて見てみると……

 

 

「無い、無い……」

 

 

銀色の部分が見当たらない!

前髪で唯一輝いていた銀色の部分が、全く煌めきを放たなくなっていた。

それどころか、何故かお顔に生気が感じられない。

私は、最悪の事態を想像してしまって、震えた。

 

 

 

 

まさか……

 

 

 

 

小刻みに震える手を抑えながら、そっと御先祖様の手に触れる。

……体温が伝わってこない。

いつもならもっと、暖かかった。

体温が変化しやすい種族といえど、一応、一定に保てるようにしていたはずだ。

 

何かの間違いだ。

間違いであってくれ。

 

そう思って私は、震えが大きくなっていく手を抑え、恐る恐る御先祖様の首に…………触れた。

 

 

 

 

「……あぁぁ」

 

 

 

 

冷たい……

本来、沢山の血液が流れる所であるはずの首元……

そこが、体温を発しなくなっている。

それによって、導かれる答えなんて、1()()()()()()

 

 

 

 

「うあぁぁぁっ!!!」

 

 

目を背けたくなるような事実に気づいてしまった。

声に出そうとすればする程、涙と嗚咽が邪魔して上手く言葉が出ない。

今、私の顔はめちゃくちゃになっているだろう。

こんな顔、誰にも見せられない。

 

 

紫「香織!持ってき……たわ……」

 

 

襖を開けっ放しにしていた部屋の外から紫の声がした。

思わず振り向いたが、紫はそんな私を見て唖然としている。

普段涙など見せない私がこんなに惨めな姿を見せているのだから、当然か。

 

 

「……紫」

紫「……はい」

 

 

それでも、私は紫にこの出来事を伝えないといけない。

黙っている訳にはいかない……。

私は、嗚咽しながら、伝えたくもない事実を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

「……御先祖様が、亡くなられた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千奈side

 

闇が亡くなった。

初めに聞いた時は、何かの間違いだと思う位、衝撃的なことだった。

神力を失くしても、闇は闇だから……

 

……しかも、僕が最後に闇に会った直後に、だそう。

 

僕は何をしたかったんだろう。

事実を伝えるだけ伝えて、放ったらかしにしてしまった。

もう少し、闇の傍にいてあげたら死期が伸びていたかも……

 

 

神琉「そこまで思い詰めなくても、闇はお前のことを責めたりしないだろう」

「うん……」

 

 

僕は、人里にある自分の家でぼうっとしていた。

たまに、この龍神王……神琉が来てくれるから暇すぎることはないんだけど。

不思議なのが、龍神王が意外に淡々としていて、悲しんでいる風には見えなかったこと。

いつもなら、仮面を被ったような表情だが、闇への愛は本物のように感じていた。

僕は龍神王じゃないから、いつも闇へどんな風に接しているのか分からないから、本当のところは知らないけど。

 

 

「……ねぇ、これからどうなるの」

神琉「闇がいなくなって、龍神の座に穴が空いている。だから、闇が望んでいた通り……香織を正式に龍神として認める」

「やっぱり、そうなるんだね」

 

 

龍神の座に1番近いひとだったもんね……と呟く。

香織が龍神の座についたとして、困ることは何もないだろうけど……

心はどうなるんだろう、とふと思った。

突然、敬愛していた、1番よく理解してくれる主を亡くした香織の心は?

……香織じゃないから知らない、と言ったらそれまでだけど。

 

 

「もう会えないなんて」

神琉「寂しいか?」

「勿論」

神琉「……俺もだ」

 

 

まさか、と思って龍神王の顔を見ると、いつもの顔に寂しげな表情が。

一瞬吃驚したけど、まぁ、一時的なものだろうとすぐに目を逸らした。

闇がしようとしていたこと、誰かがやり遂げてあげないと……

僕はそう思いながら、明日からの日々を考えていた。



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何かが欠けたこの世界で。
第51話 穴が空いた世界で ~とある記録者の戯言~


今回はいつもより短め。
あと、1部はちょいとばかし攻めた内容もあります。
ダイレクトに言葉を言ってるわけじゃないですけど。
闇ちゃんがいなくなった世界で、この先はどうなっていくのかをしばらくは書こうと思います。
闇ちゃんは自分の中で最高の女の子だと思ってるので、形を変えてまた登場させます。


千奈side

 

闇が亡くなってから何年もの時が流れた。

闇のことを慕っていた者たちは、揃って涙を流し、最後に顔を見ておこうと神社に殺到した。

その光景から、闇がどれだけ尊敬されていたか、龍神としてどれだけの偉業を成し遂げたかが簡単に分かる。

え?淡々とし過ぎだろって?……こう見えて僕だって悲しいんだよ。

 

恐らく、1番闇のことを慕っていたであろう香織。

闇が亡くなって間も無い頃の香織は、目も当てられない程悲しみに暮れていた。

今でこそ周囲に悟られないように、気丈に振舞ってはいるけど、僕は知っている。

夜、誰にも見られないように、1人で泣いているのを……

 

後は……紫か。

元人間の妖怪らしく、人間らしさも残しつつ、妖怪としての迫力もあるような女性だ。

だからなのかは分からないけど、ある時……『師匠がいなくなって悲しいはずなのに、どんどん心までが妖怪化して、泣けなくなっていく自分が最早辛い』って言っていた。

 

 

「ハァ〜暇だなぁ」

神琉「あぁ。確かに暇そうだな」

「……僕は今日はオヤスミデーなのです」

 

 

そう。今日は僕の仕事……ボランティアはお休みなのである。

というか、龍神王が勝手に入ってきても全く驚かず、またかーって思うだけで済むなんて、僕もどこかどうにかなっちゃってる気がするけど。

 

 

「どうして君はいつも玄関から入ってこないんだろうねぇ」

神琉「そんなの簡単だ。面倒臭いから」

 

 

おい、それで良いのか龍神王よ……って1人ツッコミをしていた。当然心の中で。

まぁ、どうでも良いけど。慣れっこだしね。

なんて思っていたら、龍神王の手が僕の頬に……スリスリと。

 

 

ゾクッ……!!!

 

 

思わず、パシッと龍神王の手を払い除けてしまった。

 

 

「な、何してるの?」

神琉「……あぁ、何となく触ってみたかっただけだ」

「はぁ!?」

 

 

龍神王の口から出た、あまりにも無責任な言葉に心底引いた。

今まで、この手法で堕ちた女性が何人いたのだろうか。

生憎だが、僕は男性には微塵も興味など無いのだ。

きっと、闇にもそうしていたに違いない。きっとそうだ、そうなんだ……

 

 

「……闇にもこんなことしてたんでしょ」

神琉「あぁ。闇は俺が思うに1番触り心地が良い生き物だと思っている」

「辞めた方が良いよ、色んな人に嫌われるよ。闇以外にも手を出す無責任な奴だって言われちゃうよ」

 

 

僕は、この龍神王がきっと相当惚れ込んでいたであろう、闇のことを口に出す。

だって、恋愛感情なんて皆無の僕から見たって、龍神王と闇は物凄くお似合いのカップルにしか見えなかったんだもの。

それに、龍神王は闇に自ら作った指輪を、自ら左手薬指にはめてあげる位なんだよ?

てっきりもう婚約したのかなって思ったもん。

 

まぁ、闇は何の疑いもせず指輪をそのままはめてたっぽいけど。

闇にも同じように龍神王を愛する気持ちが無くたって、気持ちはちゃんと伝わってたんじゃないかな。

 

 

神琉「……言わなかったか?俺は闇に手を出したことが無い。勿論、他の女にもだ」

「えっ、そうだったの?てっきり僕もう……」

 

 

なるほど、龍神王は1番近くにいた闇にすら手を出したことの無いとんでもなく紳士的な男性……と。

って、僕は何を記録しているんだよ!こんな破廉恥なことは別に得にならないのに!

 

 

「ねぇ、龍神王?これは僕の予想なんだけどね……闇がいなくなる前に、ちゃんと想いを伝えておけば良かったって後悔してる?」

神琉「……」

 

 

龍神王が、少しばかり目を見開いて少しばかり口を開けて、こちらを見た。

はぁ、全世界の最高神なのに、こんな言葉で吃驚しちゃう位には人間らしさもあるんだね。

 

 

神琉「はははははっ!!!あぁ、あぁ、後悔しているさ。だが、その後悔はお前たち人間が思う程に綺麗な形をしていないのだよ。神の世界とはそういうものなのだぞ。それを踏まえて……どうしても……聞きたいか…………?」

「うっ……」

 

 

突然、僕に迫ってきた龍神王に、思わず腰を抜かしてしまった。

後悔……?綺麗な形をしていない……?

いつもの龍神王の顔ではなかった……とりあえず笑顔ではあったんだけど、仮面のような笑顔じゃない。正直、今までの龍神王が見せる表情の中で、1番迫力があったし、1番恐怖を感じた。

 

 

「い、いや……そこまでして聞きたくはないかな……」

神琉「……あぁ、そうか。それなら良いんだがな?」

 

 

僕が、龍神王のあまりにも凄い気迫に圧倒され、本音とは違う思いが口をついて出た。本当は聞きたかった。

だって、怖かったんだもん!あのままじゃどうなってたか。

僕の言葉を聞いた瞬間、龍神王は静かに僕から下がって元通りの仮面のような笑顔に戻った。

僕は、命だけは助かった者のように、ふぅ……と安心した。

 

 

神琉「あんまり長居するのもあれだから、そろそろ失礼させて頂くとしようか」

「え?あ、うん」

 

 

全然長居してないけどね……いつもなら1日中いる時もあるし。なんなら、僕が出かけてる時とか仕事中に勝手に家に入ってきて僕が帰るまで待ってたりするし。

本当、何がしたいんだ……

……なんて、思っていたら本当に消えてた。何の音も無く。

マジで最後まで神出鬼没だよ、まったく。

 

 

「さて、謎の多い男はどっか行ったし、そろそろお昼ご飯にしようかな〜?」

 

 

前世では、添加物がこれでもかという程入れられた食品を口にしてきたけど、こっちでは添加物っていう概念すらない。

本当に最高だし、香辛料自体は貴重だけどあるから、味なんて向こうの比じゃないくらい美味しい。

 

時代的には平安時代後期?中期?それとも鎌倉時代かな?数えてないから分からないって闇に言われちゃったけどどうでもいいよね。

 

僕は、未だに心に残る闇のことを考えながら、街に繰り出す為、出かける準備を始めた。

 




龍神王の気持ちは未だに分からず。
少しばかりダークサイドの龍神王を見れたのではないでしょうか。
ちなみに、作者の頭の中では、一応は怖くなった顔の龍神王をイメージ出来てはいるのですが、生憎様で作者の画力が乏しいので申し訳ないです(ノд-。)
画力を上げてまた投稿してみます〜(*´v`)


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改めて、キャラ説明致します

とりあえず主要キャラのみ!


夜刀神 闇(やとがみ やみ)

 

年齢:150億歳程度

性別:女性

種族:龍神

能力:全てを司る程度の能力

身長:147cm

概要:前世は日本人の、日々を普通に暮らしていた中学生の女の子だった。

期末テストの日に、龍神王と出会って同族にさせられてほぼ強制的に転生させられた。

だけど、前世の名前も思い出せず、突然真っ黒な空間に放り出されてしまったので、とりあえずビッグバンを起こしてみようなどというぶっ飛んだ考えに至る。

だって前世は人間だもんね。仕方ない。

 

 

 

夜刀神 神琉(やとがみ かんる)

 

年齢:測定不能

性別:男性

種族:龍神(王)

能力:全てを司る程度の能力

身長:197cm

概要:夜刀神 闇を転生させた張本人。最初こそ、闇のことを情けなくか弱き可哀想な人間だって思っていたらしい。

だけど、共に日々を過ごしていく内に愛着心が募っていき、色々と闇の為に行動するようになる。

神界にいる時、闇以外の者と関わる時などは、まるで仮面を被ったような、感情を読めない笑顔、または無表情になる。

怒ることはまぁ無いけど、怒っていても滅多に顔には出さない。

結局、闇のことをどう思っていたのかは、誰も知らぬまま。

 

 

 

八雲 紫(やくも ゆかり)(元 マエリベリー・ハーン)

 

年齢:永遠の17歳

性別:女性

種族:スキマ妖怪(元人間)

能力:境界を操る程度の能力

身長:165cm

概要:数少ない原作キャラ。元々はマエリベリー・ハーンという人間としてこの世界に迷い込んでいたが、妖怪に襲われそうになっていた所を、運良く闇に助けられる。

闇のことを、師匠と呼ぶ程に慕っており、少しでも実力で闇に近づこうと、毎日の修行を欠かさない。

幻想郷を作ろうと努力しており、その為の結界を張る為に能力の向上に勤しんでいる。

 

 

 

時雨沢 千奈(しぐれさわ ちな)

 

年齢:20歳前後

性別:女性

種族:人間

能力:想像を具現化する程度の能力

身長:152cm

概要:ある日突然、闇の神社に現れた謎の人間。

実は、闇と同じ世界から転生してきたらしい。能力持ちだが、使い方を間違えると大変危険な能力だ、という龍神王の判断によって、闇が千奈の監視役となる。

しかし、闇亡き今は、闇に代わって龍神王が監視役……ほぼほぼ話し相手とか遊び相手だが……になっているらしい。

 

 

 

鬼神 結花(おにがみ ゆうか)

 

年齢:数億歳

性別:女性

種族:鬼子母神

能力:合わせる程度の能力

身長:149cm

概要:遥か昔、まだ月読命が治める都市が地球上に存在した時、山に住む妖怪を束ねる頂点に立つ存在だった。今でも山の中で1番偉い存在ではあるらしい。

能力自体は、パッとしない感じであまり戦闘には向かないと言われているが、実は、相手の実力に合わせる、距離と距離をくっ付けて至近距離で攻撃が出来る、などの応用がある。

実は、闇のことが大好きであり、普段は涙を流さないのに、闇が亡くなった時は号泣していたらしい。

 

 

 

チロル

 

年齢:100~200歳

性別:女性

種族:亀妖怪

能力:生物と意思疎通をする程度の能力

身長:160cm

概要:闇がとある日に拾ってきた亀の妖怪。出会った瞬間は話せなかったが、闇がチロルに声帯と言語能力を与えることによって会話が出来るようになった。

実は、チロルというのは、闇が前世で飼っていた亀の名前。

闇曰く、何故そんな名前にしたのかは、最早覚えてないらしいが、そもそも何故その名前を覚えているのかが不思議だとのこと。

 

 

 

天照大御神(アマテラスオオミカミ)

 

年齢:数億歳

性別:女性

種族:太陽神

能力:太陽を司る程度の能力

身長:168cm

概要:大和の最高神。2人の弟妹を持ち、普段は威厳のある女神として大和に君臨している。

他の者と同じく闇のことを非常に慕っており、お姉様と呼んでいる。いつかは闇のようになりたいらしい。

諏訪大戦の時は、少しばかりやらかしてしまったらしいけど、闇が仲裁に入り、天照大御神の暴走を止め、事なきを得たんだとか。

 

 

 

月読命(ツクヨミノミコト)

 

年齢:数億歳

性別:女性

種族:月神

能力:月を司る程度の能力

身長:166cm

概要:元々は数億年前に存在した、都市を治めていた女神。現在では月の都の民を統べる女神である。

しかしながら、最近では頻繁に地球に下りて、楽しんでいるらしい。

他の者と同じく闇のことを非常に慕っているが、三貴神の中で1番控えめであり、中々前に踏み出せないでいる。

 

 

 

素盞嗚命(スサノオノミコト)

 

年齢:数億歳

性別:男性

種族:武神

能力:武術を扱う程度の能力・厄を払う程度の能力

身長:182cm

概要:三貴神の中で唯一の男神であり、同じく闇のことをとても慕っており、姉上と呼んでいる。

神話上では妻が何人か存在するらしいが、闇が現れた為に少し変わってしまったらしい。というのも、闇のことを密かに愛しているからなんだとか。

ただ、立場上の問題があるので、自分から攻めたことをするのは絶対に無い。が、龍神王が闇にいつ手を出すのかとヒヤヒヤしているらしい。

 

 

 

神宮寺 香織(じんぐうじ かおり)

 

年齢:1億歳

性別:女性

種族:龍天人

能力:次元を司る程度の能力

身長:188cm

概要:闇に仕える、龍の血を引く天人の女性。闇と妹のことを第1に考えており、物凄く賢くて美しい。

元々は天界に住んでいたが、地上で暮らす闇の従者となった為に、香織は天界を守護する役目を妹に任せて地上に下り立った。

妹とは滅多に会うことは無いが、闇と共に天界へ行くこともある。

 

 

 

神宮寺 沙織(じんぐうじ さおり)

 

年齢:1億歳

性別:女性

種族:龍天人

能力:重力を操る程度の能力

身長:172cm

概要:姉と同じく、闇に仕える、龍の血を引く天人の女性。姉が地上に下りていった為、天界を守護する役目を引き受け、姉を見送ることとなった。

とはいえ、永遠に天界に縛られている訳ではなく、招待された時は普通に地上に下りているらしい。

実力的に言うと、流石に闇や香織に劣ってしまうらしいが、それでも、その強さは目を見張るものがあるのだとか。




何か質問があれば♪♪


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時代の始まり
第52話 時代を越えて


新しい時代に入りますのよ


天照大御神side

 

 

「貴方たちも知っているとは思うけど、我らが頂点に輝く、夜刀神 闇様が亡くなられたわ」

 

 

想像通りの反応をする大和の神々。

この場にいる者全て、知らないはずがないもの。

 

 

「そこで、新たなる頂点を決めなくちゃならなくなったわ。誰か分かるかしら?」

天鈿女命「あら、アマテラス様じゃないのですか?」

「私では、あんな偉業を成し遂げるなんて不可能よ」

 

 

私がキッパリと言い切ると、神々は驚いたような反応を見せる。

まぁ、私がずっと大和のトップに立ってきたものね。

でも、私では本当に力不足なのよ……

"お姉様"との戦いで身の程を知らされたもの。

……本当、お姉様は凄いんだから。

 

 

「皆、神宮寺 香織(じんぐうじ かおり)という方は知っているかしら?」

神奈子「夜刀神 闇様にお仕えされていた方ですね?」

「あぁ、神奈子はかの大戦の時にお会いしたのよね?」

神奈子「えぇ、そうです。しかし、その時と今ではお名前は変わっているらしいですが……」

 

 

そう、神奈子はあの大戦の時に1度出会っているのだ。

しかし、今の姿を見たらどんな反応をするかしら……

んー、まぁ、流石に今までの呼び方を続けたらマズイわよね。

 

 

「これからの地球上の神々の世界にて、我らが頂点に輝くのは……その神宮寺 香織"様"よ」

 

 

私の言葉を聞いた神々は、物凄く驚いたような反応を見せる。

しかし、本当だからしょうがない。私が決めたことでもないんだし。

……それもこれも全て、龍神王様がお決めになられたことだもの。

あの方にはどうしても逆らいようがない。

 

 

「……反対意見はありませんね。でしたら、この会議は解散と致します」

 

 

私は、解散し始めた沢山の神々を見送りながら、お姉様と過ごした日々、今まで起こった事象などを頭に思い浮かべる。

楽しかったなぁ、嬉しかったなぁ、寂しかったなぁ、悲しかったなぁ、苦しかったなぁ…………

お姉様があんな命令さえしていなければ、このまま死なせてなんて命令さえしていなければ、私が無理矢理にでも、お姉様が嫌がっても、私の命を捨てても、お姉様には生きて貰うつもりでいたのに。

 

 

おねえさまの、ばかぁ……

 

 

私は、スカートの裾を掴み、シワになるくらいまで握り締めた。

自然と、幾つかの染みができ、徐々に広がっていく。

目の奥から出てくる少ししょっぱいものは、どれだけ、拭っても、拭っても、拭っても、止まることを知らなかった。

 

 

ツクヨミ「アマテラスお姉様……」

 

 

ツクヨミが、私のことを心配するような口調で話しかけてきた。

これで、私たちは弟妹から姉妹になってしまった。

お姉様がいなくなって、そのショックからか、スサノオも出ていってしまった。

でも、悲しんでいる暇なんて無いってのが無慈悲な時間なのだ。

 

 

「さて、今代の龍神様を見に行くわよ」

ツクヨミ「い、今から!?」

「当たり前でしょう。私たちは少し前までお姉様を支持してきたのだから……その従者であった香織様のサポートをするのは当然でしょう?」

ツクヨミ「は、はい」

 

 

私は涙を拭いて立ち上がり、香織様の元へ向かう為、部屋を後にした。勿論、ツクヨミも着いてくる。

太陽神としての仕事は、地球に住む生物たちに、太陽の光を届けること。

そして、お父様から任命された、大和の最高神としての役目は、大和を治めることと龍神をサポートすること。

お姉様亡き今、いきなりその大任を任されてしまった香織様をサポートするのが私が今やるべきこと。

 

……先は、長いのよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?side

 

 

「……」

 

 

物凄く変で長い長い夢を見た気がする。

中学生の頃の私がいて、そこに何かよく分からない人が現れて、それで私が神になるって夢。

変でしょ?中学生だった頃なんてもう何年も前のことなのに、今更夢に出てきて……

私、皆星 心七(かいせい みな)は不思議に思っていた。

 

 

「今日はあの子と出かける約束してたな……」

 

 

スマホを取り出し、私はとある"友達"にメッセージを送る。

 

 

 

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「なるほど、遅れるのか……」

 

 

私は、友達・「時雨沢 千奈」にメッセージを送った。

 

 

「ゆっくりでいいからね〜」

 

 

いつも、私たちはあだ名でお互いのことを呼びあっている。

私のことは「みぃ」友達のことは「シグ」と。

中学生の頃から友人関係が途切れない、所謂親友だ。

 

 

「よし、後はメイクしてバッグも……後は……」

 

 

身支度を整えた私は、ネットサーフィンをしながら時間になるのを待った。

ちなみに、私は一人暮らしである。

駅から徒歩5分程で、割と好立地な上、近所には遊ぶ所だって沢山あるし、ご飯屋さんも何件かある。

 

 

「よし、行こうか!」

 

 

私は、この、炎天下の中日傘をさして家を出た。

オートロックのマンションなので、女性にも優しい。

少し歩いていると、駅に着き、日傘をしまった。

そうしていると、肩をトントンと叩かれたので振り返る。

 

 

シグ「やっほ」

「シグ、元気してた?今日も暑いねー。電車乗ろうか」

 

 

お互いのスマホをタッチし、改札内に入る。

色々とお喋りしながら階段を上っていると、もう電車が着く頃だった。

 

 

 ̄ ̄まもなく、2番線に○○行きの電車が12両編成で参ります

 ̄ ̄危ないですから、黄色い線の内側でお待ち下さい

 

 

放送が聞こえ、私は電車が来る方向をふっと見た。

相変わらず編成が多いのなぁ……なんて思いながら。

 

 

「(うわ、あの人めっちゃ綺麗……背高いし金髪が似合う美女だなぁ。白い日傘がより一層際立たせてる感じするわぁ……)」

 

 

私がそんな風にふっと見えた美女に見とれていると、シグが私に話しかけてきた。

 

 

シグ「どしたの?電車来るよ、危ないから……」

「いや、めっちゃくちゃ綺麗な女の人がいてさぁ。ほら、あそこ」

シグ「えっ?」

 

 

私が、電車が来る方向を見ると、さっきまでいたはずの女性がいなくなっていた。

 

 

シグ「なんだ、いないんじゃん?ほら、乗るよ」

「あっ……」

 

 

シグに手を引かれ、電車に乗り込む。

さっきまでいたはずなのになぁ……おかしい。

ま、トイレにでも行ったのかな?と考え直し、シグに着いていく。

しばらく電車に揺られていると、目的の駅まで着いていた。

 

 

終点、○○、○○です。お降りのお客様はお忘れ物などございませんよう……

 

 

私たちは、終点に着いたので降り、しばらく歩いていた。

久し振りのお出かけなので、私は胸が高鳴っている。

特に目的は無く、お出かけする時は大体、駅周辺にあるアニメグッズなどが売っているお店をぶらぶらしている。

 

 

シグ「みぃ、めっちゃワクワクしてんじゃん笑」

「あったりまえよ!久し振りのお出かけなんだから!」

 

 

やっぱり主要駅の周辺である為、人が多い!

1人で来ることがほとんどなので、シグと迷子にならないか心配……(´。•ㅅ•。`)

 

 

「ね、ね、近くに出来た猫カフェに行かない?モフりに行こー三┏( ^o^)┛」

シグ「……マジで?」

 

 

実は、この私の隣にいるシグは、大の猫好きである。

何か、よく分からんけど、"来世はぬこになりたい"とか言ってたな。

そして、私もシグ程ではないが、猫好きであるのだ!

 

 

シグ「……(にへら)」( ◜௰◝ )

「めっちゃ笑うやん」

 

 

普段、あまり感情を見せないシグであるが、何故か今はめちゃくちゃニヤけが止まらないみたい。

そんなに猫ちゃんを触るのが楽しみなんか?w

 

 

「さ、ここだよ。上がろっか?」

 

 

ニヤニヤが止まらないシグを連れてエレベーターで上がる。

ビルの一室で営業している猫カフェで、近くには私がいつもお世話になっている爬虫類カフェもある。

いつも行くので、新しいお店の情報は結構入ってくるんだなー(^v^)

 

 

カランカラン

『いらっしゃいませー』

 

 

私たちがお店に入ると同時に、従業員の方々が歓迎してくれた。

私も初めてなので緊張してはいるが、猫ちゃんたちをモフれると思うとワクワクして仕方ない。

案内され、好きな席に座ると早速猫が私の足元にすり寄ってきた。

 

 

「か、かわええ……」

シグ「ぼ、僕のとこにも……」

 

 

座ったばかりだったが、思わずしゃがみこみ、猫を撫でていた。

シグが羨ましそうに私の方を見ていたが、シグも早く撫で撫でしたらいいのに!

そんな風に思っていると、私の横の席にどこかで見たような女性が。

 

 

?「……」ズズズ

 

 

甘えんぼのアメショを撫でながら、その女性を眺めていた。

そう、私の記憶が正しければ、最寄り駅のホームで見かけたとんでもなく綺麗な女性だった。

でも、何故?猫が好きなんだろうか?と思っていると、その女性の方から声をかけてきた。

 

 

?「ねぇ、貴女……」

「何ですか?」

?「猫たちに好かれやすい性質……いえ、生物全般に好かれやすい性質なのね。良く分かるわ」

 

 

女性はそう言って、私をじっと見つめた。

駅で見かけた時は白い日傘を持っていたが、今はどこに置いているのだろうか?

確かに、今だけじゃない。前にも、人には滅多に懐かないはずのグリーンイグアナが、私の肩にするすると乗ってきたことがある。

そして、私は普通に気になっていたことを聞いてみた。

 

 

「どこかで会ったことあるような……貴女は誰ですか?」

?「私?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫「……八雲 紫(やくも ゆかり)ですわ」



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第53話 不思議な人

『うにゃ』

紫「あらあら、可愛い猫ちゃんですこと」

 

 

紫と名乗った女性は、足元にいたラグドールを抱き上げて、優しく撫でた。

まぁまぁ目の保養になる光景である。

ずっと見てたいわぁ………………………じゃなくてぇ!!!

 

 

「や、や、"八雲 紫"って言った……?」

 

 

私がその名にビビり倒してる最中で、一方のシグは人には見せられない顔をしながらペルシャやロシアンブルーを撫でまくっていた。

なんか、心做しか猫ちゃんたちの表情がウザそうな感じするんだけど……気の所為?

 

 

紫「如何にも、ですわ。それがどうか致しましたか?」

「八雲 紫って……」

 

 

"東方Project"の、キャラクター。

東方ファンである私は、名前を聞いて固まってしまった。

私と同じ東方ファンであるはずのシグも普通は驚くはずなんだけどなぁ……

ありゃ、猫たちに夢中で聞いてねーな。( ˘・з・)

 

 

「東方の……キャラクターの名前でしょ?」

紫「はて……東方、とは?」

「あ、やっぱ良いです(--;)聞かなかったことにして下さい」

紫「ふむ、分かりましたわ」

 

 

その言葉を聞いて、考えることを辞めた。

普通に日本人で、たまたま名前が同じで、たまたま不思議な雰囲気を持つ女性だったというだけで……

うん、もういいや。考えるのが面倒臭くなってきた。

 

 

「綺麗ですね」

紫「あら、貴女も貴女のご友人も中々だと思いますけれど?」

 

 

うふふ、と笑って私とシグを交互に見る。

私は、思わずおぉぅふ……なんていう、よく分からない声を発した。

いや、嬉しいけど!嬉しいんだけど!なんだこの状況は!?

 

 

「いや、まぁ……へへ」

『にゃおん』

 

 

私までニヤついた顔になってきてしまっている……いっけねぇ。

そんな私の足元にいる、アメショがコテッとした顔で一鳴きした。

いやん、可愛い。"(∩>ω<∩)"

 

 

紫「そういえば、もしお2人がよろしければなのですが……連絡先を交換しませんこと?何かのご縁ですし」

「あー、まぁ、私は良いですけど」

 

 

シグがどうか、と聞こうとするとシグはまだペルシャとロシアンブルーを撫でていた。

ダメだ、聞けそうにない。

すみません、とりあえず私だけと連絡先を交換して貰った。

現代にしては珍しい口調の女性だなぁと思いながらも、やっぱりめっちゃ綺麗な人だなぁと思う。

 

 

それから1時間が経った頃だろうか。

紫さんと色々お話をして、シグも紫さんと連絡先を交換して。

猫カフェを出て、私たちは紫さんと別れた。

私たちも、アニメショップなどに寄りながら、帰路に着いた。

シグとは最寄り駅で別れ、私は晩御飯をどこかで食べようかなぁと考えていた頃……

 

 

「えっ……?今日、雨の予報だったっけ?」

 

 

晩御飯のことで頭がいっぱいだった私は、すっかり天気のことなんて気にしてなかった。

だって、今日は晴天の予報だって……言ってたよね?

めちゃくちゃ…………

 

 

黒い……???

 

 

家まで近いけど、でも、家なんもないし……外出るのダルいし?

晩御飯食べるついでに雨宿りでも、と思ってたら。

途端に雨がポツポツ降り出し、しまいにはバケツをひっくり返したみたいな大雨になってしまった。

 

 

「やっ、ばーーーい!!!雨じゃんんん!!?」

 

 

道行く人も、突然降り出した大雨に驚いているようで、カバンを頭の上で持って走り出す人がちらほら。

私もその例に漏れず、近くのファミレスに駆け込んだ。

雨宿りついでに何か食べていこうと思ったんよね。

 

 

「はぁー……帰るまでに止んでたら良いんだけど……?」

 

 

ていうか、さっきまで一緒にいたシグは大丈夫なのかよ、と心配し始めた。

流石に、大雨でわざわざ外に出てくる人はいないのか、人はほとんどいなかった。

シグも傘持ってなかったよな……?って心配になりながら、席に案内されて、出された水を飲みながら何食べようかなってメニュー表を見てると、見覚えのある顔が2人入店してきた。

 

 

店員「2名様ですか?」

『えぇ、そうね……あぁ、あそこに座っている方と同じ席でお願いします』

店員「お連れ様ですね。どうぞ、ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」

 

 

髪を少し濡らしたシグと、傘を"3本"持った紫さんだった。

あれ、白い傘って日傘だけじゃなく雨傘も兼用できるんだ……なんてことを思ってたら、私の席に2人が座った。

 

 

シグ「さっきぶりだね、みぃ?雨降られて最悪だーってなってたけど、紫さんとまさかの帰り道で出会って助けられたんよ!ホント良かったあぁぁ……ε- (´ー`*)」

紫「えぇ、本当にね。さっきぶりですね、みぃさん?……あ、みぃさんの分の傘もありますから。どうぞ♪」

 

 

あぁ、それで傘も3本なのかって納得がいった。

ありがとうございます、と言って遠慮なく受け取らせてもらった。

 

 

紫「お2人共、災難でしたね?私が偶然近くにいて良かった……さて、何か食べましょ♪」

 

 

そう言って、店員さんが新たに持ってきたメニュー表をシグと2人でルンルンで見始めた。

あの2人、いつの間に仲良くなったんだ……?と思いながらも、私もメニュー表を見る。

まぁ、ほとんど決まってたのであんまり時間がかからなかった。

2人に許可を取り、店員さんを呼んで注文した。

 

 

「なんか、もうステーキやらハンバーグとかのお肉が食べたい気分なんでね……( *´꒳`*)」

シグ「でもやっぱり1番好きなのは生魚でしょ?」

「まぁね。でも、ガッツリ、ステーキも食べたいんだよねぇ……」

 

 

紫さんは、晩御飯は食べてきたらしく、ちょっとしたスイーツを頼んでいた。私も後で頼もうかな。

談笑しながら、結構早くに届いた料理を食べ終え、またまた話に花を咲かせた。

 

 

「へぇ、紫さんは〇〇に住んでるの」

紫「そうよ♪貴女たちも、いつか遊びにいらっしゃいね(*o̶̶̷ᴗo̶̶̷ )ノ」

 

 

ここからはめちゃくちゃ遠くはないところだったので、いつでも会える距離ではあった。

私たちは快諾し、ファミレスを出てそれぞれは家に帰っていった。

いつの間にか雨は止んでおり、傘をさす必要も無くなっていた。

ただ、少し気になることが…………私は、家へと向かいながら紫さんから貰った傘を見つめながら考えていた。

 

 

「紫さんは傘を持って帰って良いって言ってくれたけど……でも、そもそも、なんでこんな綺麗な傘を持っていたのかな?」

 

 

まるで、雨が降ることを分かっていて、私たちが急に降り出した雨によって困っていることを分かっていたかのように……

それに、〇〇に住んでいるのであれば、どんなに急いでも30分はかかるはず。遠くはない、と言っても。

だから、私たちの為に傘を2本用意してくるなど不可能なはず。

しかも、何処にも売ってないようなめちゃくちゃ高価そうな傘。

 

 

「……なんか、不思議な人だったなぁ」

 

 

だけど、私はそれを"不思議な人だった"で片付けることにした。

だって、せっかくくれた厚意を無下にする訳にはいかないもんね!

私は、傘をくれた紫さんに感謝しながら家に帰っていった。



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第54話 大切な人の為に。

仕事が忙しいっス……( ; ᷄ᾥ ᷅ )


紫さんと会ってから何日か経って、たまに連絡を取り合う仲になった。

私は、傘を返したい気持ちを伝えたんだけど、断られてしまった……というのも

 

 

紫「プレゼントとして受け取って下さい♪晴れの日も雨の日も兼用できる傘ですのよ♡」

 

 

と言われたから。

めちゃくちゃ綺麗な傘でめちゃくちゃ高そうなのに……

飾る用として取っとこうと決めた私だった。

 

 

「……なーんか、最近めっちゃ空が黒いなぁ」

 

 

そう、黒いんだよ。

真っ黒に染め尽くされてるって訳でもないけど。

ほら、雲って、普通は灰色でしょ?それが異常に黒くなってる感じ。

私は、ベランダに出て洗濯物を取り込みながら考えてた。

洗濯物が乾かなくなる、って独り言を呟きながら。

 

 

「まー、朝方だけでも日差しが強いしそこまで支障は無いし大丈夫かな」

 

 

支障が出るとすれば、傘を持ってない時にあの真っ黒い雲が現れること。

真っ黒い雲が現れた後は、決まって紫さんと会った日みたいな大雨が降るから。

政府も、続く異常気象に警戒するよう国民に呼びかけている。

 

 

「折りたたみ傘を持ち歩く癖が付いちゃったよー……」

 

 

考えごとをしている間にいつの間にか洗濯物を片付け終わっていた。

今は、お昼時。ご飯を食べる時間なので、ご飯の用意をする……前に、やることがある。

 

 

「腹いっぱい食べるんだぞー♪」

 

 

私の相棒のミシシッピアカミミガメ2匹に、餌をやる。

私が水槽……2匹の大きさが結構あるので、トロ船を使っているんだけど。

私が近づくと、"早く飯を寄越せ"と言わんばかりにバシャバシャと寄ってくる。可愛いもんだ。

 

ちなみに、2匹ももうお迎えして8年経つ。早いね。

気になる名前なんだけど……結構笑われてしまうことが多い。

その名前を付けた私もそれはそれで変人なのかな?笑

 

 

「君たちはいつも美味しそうに食べてくれるねぇ。ねっ。"アポロ"、"チロル"?」

 

 

そう、チョコレート菓子の名前で統一したのです。

愛らしくて甘そうな名前とは裏腹に、チロルの方はめちゃくちゃ凶暴に育ってしまいましたが(>< )꜆꜄

でも、私にとってはめちゃくちゃ可愛くて幸せなんです(*´ ³ `)ノ

 

 

「よし、そろそろご飯食べてバイト行くか!」

 

 

 

私は、冷凍ご飯を温めて、卵を割って混ぜてかき込む。

それで昼ご飯を食べ終えた。

30秒で。……早いでしょ?(*´꒳`*)

 

 

「じゃ、行ってきまーす♪」

 

 

誰もいないのに、行ってきますと言うのが日課になっている。

何でか分からないけど、一人暮らしを始めた時からずっとそうだ。

そして、帰ってこない返事を待つことなく家を出るんだけど、何故か。

今日は、何故か。

 

 

 

 

 

『行ってらっしゃい』

 

 

 

 

 

……と、声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫side

 

 

「ふぅ……」

藍「紫様、外の世界はいかがでしたか?」

「いつも通り、"元気にしていらっしゃった"わ」

藍「左様でございますか……では、紫様が外の世界にいらっしゃる間に溜まりに溜まったお仕事を片付けて頂きましょうか?」(´ω`╬ )ゴゴゴゴゴゴォ

紫「Σ(・ω・;)ギクッ あ、思い出したことがあるから失礼するわね〜」

藍「あっ、紫様!……もう、あのお方は自由すぎる」

 

 

不満そうにする藍……私の式を置いて、私は空へと逃げた。

だーーって、今は暑いんだもの!仕方ないでしょ!

仕事も投げ出したくなるわよ!

多分、これを見てる閲覧者の方々もきっと共感してくれるわ!

 

 

「閲覧者って誰よ?まぁ、良いわ」

 

 

私が外に行っていた理由は、とある人間を観察する為。

それも、ただの人間でもない。特別なひとだ。

私が気にかけているひとのことを知っているのは極わずか。

 

 

「龍神王様と龍神様から仰せつかっているのだもの。断れる訳ないわ」

 

 

それに、私自身が気になるから。

ただの人間だったら全く気にも留めてなかっただろうな。

私が尊敬していたひとだもの。それはそれは丁寧に扱わないと。

 

 

「もう一度、強制的にこちらの世界に引き込めないのかと龍神王様に言ってみたけど……もう少し時間がかかるみたいね」

 

 

まぁ、仕方ない。いくら龍神王様の力を持ってしても、以前使っていたような力を取り戻すのは、どうしても時間がかかるんだって。全く役に立たn……えー、まぁ、待つしかないわよね。

"師匠"が築いてきた150億年は、取り戻せないんだろう……

ふつーの人間として、転生させる程には。

 

 

「記憶を、無くされてるものね……」

 

 

師匠がお亡くなりになった後、龍神王様の権限で、勝手に生まれた時代に魂ごと飛ばしやがっ……じゃなくて、えー、飛ばしたらしいのだ。

それに伴って、こちらで過ごした殆どの記憶は消えてしまうようで。

長い時を過ごすことで、前世の記憶を取り戻す場合もあるらしいけど……

今度は、師匠がもう二度と苦しまない、幸せな人生を送れるように私がなんとかしなくちゃ。

 

 

「あんまり干渉しすぎると良くないらしいけど……これくらいなら良いよね」

 

 

魂の成長がうんたらかんたら……とかって言ってたけど

関係なくない!?まぁ、素直に従うけど。

私は、気休め程度にしかならないかもしれないけど、師匠の運気をほんの少し上げておいた。

例えるなら、赤信号で引っかからなくなるとか、一生タンスの角に小指をぶつけなくなるとか。

 

 

「師匠をこの"幻想郷"に招くことが出来る頃には、記憶もいくらか戻っていると良いのだけどね……」

 

 

私は、いつになるか分からない師匠と以前のような会話が出来る日が来ることを願っていた。

そして、自分の世界を持つことが出来たと……報告するのだ。そして、褒めて貰うんだ。

 

 

?「……いきなりウチの神社に来ておいて、1人笑いだなんてね。何か良いことでもあったの?」

 

 

私は、ハッとして顔を上げた。

いつの間にか、こんな所まで来ていたようね。

私のことを怪訝そうな顔で見つめるこの少女は、幻想郷中から愛される楽園の素敵な巫女。

博麗 霊夢(はくれい れいむ)である。

 

 

「そりゃあ、ここは居心地が最高に良いんですもの〜、来たくなるのも仕方ないですわよ?」

霊夢「相変わらず胡散臭いのね。まぁいいわ、お茶でも出すから上がったら?」

「あら、ありがとう。お邪魔しま〜す」

 

 

私は、遠慮なく博麗神社に上がらせてもらって、霊夢の入れるお茶を待った。

その後ろ姿を眺めながら、師匠が帰ってきたらこの子をどう紹介しよう……仲良くしてくれると良いんだけどなぁ……なんてことを考えていた。

 

 

いつか来るその日のために。

師匠が、もう苦しい思いをしなくて済むように。

 

 




いつも読んでくださりありがとうございます(_ _)


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第55話 時代を超えた再会と、突然止んだ時雨

霊夢の年齢は諸説ありますが、ここでの霊夢は12歳とします。
先代巫女は亡くなっている設定で、紅魔郷が始まる頃にはおそらく14歳とか……多分そこらへんになってます!曖昧ですみません(^_^;)

博麗神社や、幻想郷や、設定などは私の勝手な想像と原作設定で書いています。原作には出来るだけ沿ってはいますが、オリジナルも結構ございます。
皆様の想像違いがあってもご了承願います(。>人<)


~人里にて~

 

 

死してなお、永遠に語り継がれるひとがいる。

人知れず、誰かに想われるひとがいる。

 

これは、とある幻想郷の人里であった物語の1ページ。

 

 

 

『ねぇお母さん、このひとって誰なの?』

 

 

人間の子供が、人里に建てられている石像を指さして母親に尋ねる。

 

 

『さぁ、誰かしらね、でもきっと素晴らしいひとなんだわ……』

 

『だって、こんなにも凛々しいお顔なんだもの……』

 

 

人間の母親は、石像を見て静かに微笑む。

 

 

『僕もこんなふうになれるかな?』

 

『さあ、どうかしらね〜?^^』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫side

 

 

「あっづい……」

霊夢「暑いのにまぁ飽きないわねぇ」

 

 

とある日の私は、博麗神社に来ていた。

普段であればこんな暑い日は絶対に外に出たくないとか言ってたんだけど、どうしても外せない用事があるのだ。

 

 

霊夢「……そんなに好きだったんだ、その人のこと」

「えぇ、そうよ。好きだった……というか、大好きよ。本当に尊敬していたのよ」

霊夢「へぇ〜、あのズボラなあんたがね」

 

 

ズボラとはなんじゃい。やることはちゃんとやってるだろ。

……と思ったけど、黙って目の前の用事に取り組む。

 

 

霊夢「何で、それだけは自分でしようとするの?他の人に頼めないの?」

「私が自分でやりたいの。少しでも汚れてると我慢出来ないもの」

 

 

そう、あのひとが汚れてるみたいで我慢出来ない。

いつか戻ってきた時の為に、ずっと美しく保たないとね。

うん、本当に綺麗。今日はこんなところかな。

 

 

「さっ、こんなところかな」

 

 

目の前に建てられている、少女と龍の石像を眺める。

私が、一流の建築士に頼んで、建てて貰ったのだ。

人里と、博麗神社に1つずつある。

 

 

「今日はこれで失礼するわね。これをしにきただけだから」

霊夢「あら、そう……」

 

 

雪の季節ともなると、雪で崩れてしまう可能性がある。

今は夏の季節だし、クソ暑いからそれはないけど、やはり劣化はあるものだ。

私がもう少し力の使い方を勉強出来たら、なぁ〜。

ものが劣化しないようにする方法とか、食べ物を腐らずにする方法とかを作り出すことが出来たら、なんだけどなぁ〜。

勉強しなきゃ、だわ……もう師匠に学ぶことは出来ないのだから。

 

 

私とて、1000年は生きることが出来たけど、師匠が教えてくれたから生き延びることが出来たとも言える。

だって、ずっと傍で過ごしていたのだもの。

守られていた、のよね……今度は、私が師匠のことを守らなくちゃね。

ふふ、なんだかあべこべねぇ……

 

 

魔理沙「よぉー!霊夢!遊びに来たぜ……って、なんだ、お前もいるのか」

「あら、私もいますわよ」

 

 

なんだ、魔法使いか。

霧雨 魔理沙、霊夢の友人だ。

 

くるりんと一回転してみせる。

我ながら、めちゃくちゃ胡散臭いのだろうな、とは思うけど仕方ない。

 

 

「でも、もう失礼するところでしたの。ご友人同士で仲良くね♪」

 

 

私は、そう言い残すと能力を使って私の住処へ戻った。

ふふ、人間っていうのも、可愛いものね……

人間になってしまった師匠のことを思い出していた。

師匠……身長全然変わってなかったな……

転生した時の身長から全く伸びなかったって言ってたし……

 

 

「……あの方の運命なのかしら?」

 

 

女の子は小さい方がモテるって聞くけど、どうなのかしら?

しかし、私の役目は師匠の身を守ること。

見守っとくだけで良いと言われたけど、師匠に変な虫が寄り付かないようにしなくては!

師匠……ふふっ。

 

 

「ふふふふ……」

 

 

橙「紫しゃま、何か、怖いです……」((コソッ))

藍「ああいう時の紫様はほっとくのが正解だからな、橙」((コソッ))

 

 

……後ろでこっそり見ていた2人に、いつにも増して不気味だと言われたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡って、闇が亡くなってから少し経った後のこと……

 

神琉side

 

 

香織「……これが、今は亡き我が主、夜刀神 闇様が身につけておられた服でございます」

「……あぁ、感謝する」

 

 

俺は、闇に変わり龍神となった、かつては闇の従者として仕えていた神宮寺 香織に、闇の着ていた服を持ってくるように命じていた。

俺は、香織に持ち場に戻るよう命じた後、その服を広げて、壁に掛けた。

導師風の服で、白を基調とし、月の模様が描かれてある。

 

 

「そういえば、八雲 紫とかいう妖怪もこんな感じの服を着ていたような……」

 

 

闇のことを師匠と呼び慕っていたな……と思い出す。

模様や仕様は少しずつ違っていたが、よく似た服だった。

着る者がいなくなった今、この服をどこに保管しておくかなんだけれども……

 

 

「俺が持っていても怒らない……よな?」

 

 

誰に言っているんだ、と自分にツッコミをいれるが、聞いてくれる者はいないようだ。

正直、闇がいた神社(ここ)の妖怪たちに許可を貰うつもりなど毛頭無いが。

闇が生きていれば、少しは怒ってくれただろうか?

 

 

「あぁ……」

 

 

惜しかったな、その答えを聞けなくて。

このまま消えさせてなんて、そんな願い聞き入れるものか。

生き返らせるなんてことはしない。……そうだ、もう一度、やり直せばいい。

俺が見つけた、あの日まで……

 

 

「……と、なれば」

 

 

俺は、あることを思いつき、それを実行することにした。

その為に必要なものといえば、あの者しかいないだろう。

 

 

千奈「……いったぁ!!?」ドサッ

 

 

少し手荒なやり方だが、まぁ良いだろう。

俺は、人里から時雨沢 千奈……闇の友人だった人間を呼び出した。

めちゃくちゃ睨まれているが仕方ない。目的を達成するには時雨沢 千奈(コレ)()()()()()()のが1番役に立つ。

 

 

千奈「ねぇ!お風呂入ってたらどうすんの!……たくもう、いつになく手荒なやり方だね?本当にどうしたの?いくら自分勝手な君だからと言っても、こんなに急に呼び出すなんて」

「あぁ、そのことだが……」

 

 

俺は、時雨沢 千奈に、作戦……というか、完全に俺のしたいことでしかないんだが。

現代へ赴いて、そこでもう一度闇と仲良くなれ、と言った。

能力は強制的に低下させるが、記憶は残す……と。

 

 

千奈「……闇は、もう生き返ることは望んでいなかったと思うけど」

「生まれ変わる闇には、今世での記憶は無きに等しい。だから、約束を破ったことにはならないだろう?」

千奈「性格悪いね!?」

 

 

神には人間の気持ちなんて分からないものだよ、と時雨沢 千奈に告げる。

本人に記憶が無いのだから、こちらが一方的に約束を守らなかったとして、本人は傷つくこともない。

よって、約束を破ったことにはならないだろう?

時雨沢 千奈は、本人に記憶が無くとも約束は約束だ、なんて喚いてるが……

 

 

「ほら、喚いてないでさっさと行ってこい」

千奈「はぁ……」

 

 

俺は、時雨沢 千奈の足元に術式を展開させると、今から数百年後……俺が闇を見つけたあの時代へ、転送させる準備を行った。

複雑な術式なので、俺以外に使える者は限られている。

確か、闇が呼んでいた名前があったような……

 

 

「……タイムマシン

 

 

そうだ、タイムマシンだ。

この術式のことをタイムマシンとかなんとか呼んでいた気がする。

時雨沢 千奈が、不思議そうな目で見つめてくる。

 

 

千奈「タイムマシンがどうかした?」

「いや……なんでもない。目を瞑っていろ」

 

 

そろそろ時間だ。転送の準備が整ったので、力を込める。

次に目が覚めた時、少しは自分の身を守れるように弱体化した能力をやろう。俺からのちょっとした餞別だ。

俺は、時雨沢 千奈が完全に消えたことを確認し、今度は自分に力を込めた。

胸元に手を当て、神々しく光るものを取り出す。闇の魂だ。

本来ならば閻魔のところに送り出すのが世の掟だが、闇の地位が問題の為、俺が扱っているのだ。

 

 

「……とりあえず数百年後に、また話そう」

 

 

俺は、闇の魂にそっと口付けると、(まじな)いを囁き、時雨沢 千奈を送り出した時期と同じ時期に合わせ、転送を開始する。

また、数百年後……長いな。生まれてからの時間の方が果てしなく"永い"がな。

 

 

「楽しみ、だな……」

 

 

俺は、その場から闇の魂が完全に消え去ったのを確認すると、1人呟いた。

お前がいない数百年後は長いな……だが、俺が何をしても靡かなかったその精神は立派だぞ?

今度こそは、本気にならせて貰うからな……と、意気込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日から、人里で時雨沢 千奈が失踪したとの騒ぎが起こった。

時雨沢 千奈に勉強を教えて貰っていた人間は困り果てていた。

 

 

『今度から誰にものを聞けば良いんだ……』

 

 

実は、時雨沢 千奈は人里で1番頭が良かったのである。

時雨沢 千奈に懐いている子供たちも多かっただろう。

時雨沢 千奈が人里から消えてから、次に上白沢 慧音(かみしらさわ けいね)が、代わって人里の先生役を務めるまで、識字率は下落していく一方だったという。




ご静観ありがとうございました。
感想書いて下さった方々、お気に入り登録して下さった方々、ありがとうございます!日々の励みになっております(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”


紫は龍神王が嫌いでしたが、悪化して大嫌いになりました。
そもそも、天の上のお方に人間の気持ちを理解しろなんて無理な話ですよね。
龍神王は周りから身勝手と捉えられがちですが、神様としては上手く出来てると思います。
闇と出会ってから、かなり人間味が移ってしまったようですが。
基本的には龍神王にとって、闇のことは自分の1部みたいな見方をしてます。
人間がどんな動きをするか興味本位で見てる、みたいなところもありますが、基本は闇のこと考えてます。
千奈のことを転送させたのは、保護係としてです。
自分が守れない時に守ってもらう……みたいな感じですかね。
闇の記憶を戻すつもりはあるみたいですが、完全に手に入れてから……とか考えてそう。龍神王のことだし。


シリアスだけじゃなくて戦闘シーンとか書いてみたいな。難しいけど……
紅魔郷までに時間がかかりそう……


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第56話 九死に一生

心七side

 

 

「あれ……?」

 

 

私は、おかしいな……と思っていた。

寝坊したので慌てて用意して、バイトに向かったら店長がシフト組むのミスってて、人が多すぎるから帰ってくれって言われちゃった。

ふざけんなよーって思って、オープンするまでお店の用意だけして、帰ってきたところだったんだけど、何も予定が無くなってしまったんだ。

 

ネットサーフィンでもしてダラダラ過ごしてやろうかって思って、何気なく見てたんだけど……

あれ、何かがおかしい。

何回調べようとしても……ひっかからない。

 

 

「八雲 紫……がひっかからない。というか、東方project自体がそもそも無い……?」

 

 

東方は、ネットの中でもめちゃくちゃ有名だし、二次創作も沢山作られているコンテンツだ。

事実、私もめちゃくちゃ好きで、幻想郷に行きたいって何回思ったことか。

 

この前に会った、"紫さん"を思い出したから何となく調べてみただけだったんだけどね。

それで、調べてみたらコレだ。何故……?

そこで、気になり過ぎる私はとある人物に電話をかけることにした。

 

 

プルルルル……

「……あ、シグ?ちょっといい?」

千奈『ん?どうしたの?』

 

 

同じく、東方ファンであるシグに。

昔から、東方のことについて話し合った仲だった。

だから、シグならこの異変について気づいてくれるだろう……そう思った。だけど。

 

 

「……え?ごめん今なんて?」

千奈『だから、東方なんて知らないよ?』

 

 

東方なんて、知らないよ……???

知らない。しらない。シラナイ。……はぁ?

どういうことだって言おうとしたけど、シグも忙しかったらしく、電話を切られてしまった。

 

私、今、思わぬ返答に混乱してるんですけど!!?

あんだけ、何回も東方の話とかしてきたじゃん?忘れるわけない……あれが夢だって?

 

……いや、そもそも。

あの、シグと2人で出かけた日に、私たちは"紫さん"と出会っている。

その時に、シグは紫さんを見て、何も言わなかった。

普通、少しくらい疑問に思ってもいいはずだった。

この人八雲 紫に似てない?って言われるかと思ったけど全く無かったから、不思議に思ってたんだ。

同姓同名で、しかも見た目までソックリなんだもん。

 

 

「えぇ……いや、嘘だろ……?」

 

 

実は、東方なんて存在しなくて、全てただの夢だった……というのか?

マジか。そんなことってあるんだ。いや、それしかないよな。

ほら、たまにさ、あるじゃん?めちゃくちゃ壮大な夢を見ていて、それを忘れられないっていうの……そういうのかな?

 

 

「へぇ、本当にそういう経験をするなんて思わなかったなぁ。だとしたら、めちゃくちゃ面白い夢を見たな〜」

 

 

やばいな、夢と現実を混同するところだった……今のは未遂だよね?何も事件なんて起こしてないもんな?

我ながら、ポジティヴシンキングだなーなんて思いながら、テレビを何となく付けた。

 

 

「んー、やっぱり大雨で大変なことになってるんだなぁ……突然降って突然止むから対応のしょうがないのかぁ」

 

 

私の住んでいる地方でも起きていることが、全国的に頻発している。

街の人へのインタビュー映像みたいなのが映されていて、人々は、しつこい異常気象に悩まされているようだった。

『洗濯物が乾かない』『子供が簡単に川で遊べなくなった』など……

 

 

「ふーん、困ってるんだなぁ……」

 

 

まっ、私にはあんまり関係無いけど。

洗濯物は乾燥機があるし、室内干しでも扇風機で事足りてるし。

未だに犠牲者は出てないんだからそんなに騒ぐことでもない気が……

 

 

ヴーッ

「あれっ、紫さん……」

 

 

色々考え事をしていると、紫さんからLINEが入った。

今日暇だから遊びに行かない?だって。

もちろんですよって送って急いで用意を始めた。

紫さんからお誘いがあるなんて。

 

 

「紫さんも暇なんだなぁ〜、ていうか、あの人って何してる人なんだろ?めっちゃ綺麗だし、モデルしか思い浮かばないけど、どうなんかな?背高いしなぁ〜」

 

 

大人の女性的な魅力が溢れてる紫さん。

カフェに行った時、自分が食べ終わった後もスマホを弄るんじゃなく、ご飯を食べる私たちを微笑みながら見守る感じの目でじっと見つめてたし。

正に、"お姉さん"みたいな表現が似合う感じだった。

 

私は、出かける用意をし終わったので、駅に向かった。

紫さんに貰った傘を持っていくか悩んだけど、結局持っていくことにした。

ほら、自分があげたものを実際に使ってくれてるところを見たら、嬉しい!ってなるでしょ?

それに、今日は日差しもきついし日傘として持っていこうと思ってね。

と、思っていると、肩を叩かれる感覚がしたので、私は後ろを向く。

 

 

紫「みぃさん、こんにちは(^^)」

「あ、紫さん」

 

 

私たちは、お互いに会釈をしてホームに向かった。

そういえば、今日の紫さんの服装……凄いオシャレな気がする……

歩くのも上品だし、スタイルめっちゃ良いし、髪の毛もふわっふわで柔らかそう……絶対モテるだろーなー。

 

電車が近づいてきたメロディが流れる。丁度だったみたいだ。

ホームのベンチに座っていた人々も、次々に立ち上がり、電車がホームに入ってくるのを待っていた。

それで、私はたまたま、ベンチに座っていた男性と目が合った。

私は気にもとめず、電車が来るのを待った。

 

 

紫「みぃさん、またあの子たちに会えるのね……楽しみだわ♪ところで、お昼ご飯は何が食べたいですか?(^^)」

「紫さんがよければサイ〇リヤに行きませんか?私、あそこのエスカルゴが大好きで……」

紫「みぃさんのオススメならどこでも美味しそうですもんね(◍>ᴗ<◍)勿論、OKです♪」

 

 

あのエスカルゴ美味しいんだよな、とか思ってたら電車がすぐそこまで来ていた。

なんかいつもよりメロディが聞こえてから、電車が来るのが遅かったなーとか考えていた。

 

 

 

 

 

と、思っていると、突然、背中にドンッという衝撃が走り、体が前に押し出されていた。

 

 

「きゃっ……!?」

紫「みぃさんっ!!!」

 

 

予想外のことに、というか何が起こったんだ……?という感想しか湧いてこなかった。

 

ただ、左から聞こえてくるキィーーーという金属音と、さっきの目が合った男性と紫さんと周囲の人たちの視線しか感じられなかった。

 

何もかもがスローに見えてくる。自分の髪の毛が視線の端で靡く様も、鳥が飛んでいるのも、紫さんが焦った表情でこちらに向かって手を伸ばしている姿も。

 

私がゆっくり左を向くと、いつも乗っている電車が今度は正面から見えていた。

私が瞬時に思ったのは、意外にも、死ぬのが悲しいだとか、皆を置いて死ねないだとか、そんな複雑なことじゃなかった。

 

 

「あっ、これ、終わりだ」

 

 

……ってことくらい。

意外にもあっけないなぁ。そんなもんか、人生って。

私はゆっくり目を閉じ、迫り来る死を待った。

 

 

「………………ん?」

 

 

……何秒待った?

5秒?10秒?分からないけど、いくら目を瞑って待っていても、待てど暮らせど衝撃は来ない。

長くないか、走馬灯。

 

 

「遅くね?」

 

 

いや、ほんとに。ドMじゃないよ?

あー、もしかして、電車にぶつかってはいるんだけど、衝撃なんて感じられないくらい一瞬で死んじゃったとか?

ありえるなぁ、それ。でもそれだったら有難い。

人身事故とかのニュース見てると、痛そうだなぁっとか思ってたけどそんなもんなのか?

 

でもなぁ、目開けるの怖いなぁ……なんて思ってたら、聴覚の方が覚醒してきて、さっきまで聞こえなかった音が聞こえるようになってきた。

周りで何か騒がしい。誰かが呼んでるのか?

だとしたら、もしかして、私って死んだけど早速幽霊になっちゃって、まだあの現場の音を聞いてるとか?

 

 

『ーーーーー!!!』

 

 

あー、もう、誰だか知らんけどうるさいな!

そう思ってると、段々と周りの感触が戻ってきた気がした。

あのまま落ちたとすると、線路の上に寝ているはず……だが、私に感じられるのは何かの布?布団か、これは?

ていうか、いやに涼しい……胸元が開いてる気がする……私、服着てない?破れちゃったのかな?

 

 

『少女の意識が戻りました!!!』

 

 

私が恐る恐る目を開けると、私をのぞき込む女性の姿が。

辺りを見渡すと、同じ服を着ている人たちが何人かいる。

中には、医者らしき服を着た人もいるようだった。

ということは、ここは病院か?私は運ばれたんだろうか?

あのまま電車に轢かれていたら、到底助かるとは思えないんだけどな。

 

 

『おぉ、よかった!!!君、聞こえる!?』

 

 

はい、と返事をすると周りの人たちは安堵の表情を浮かべていた。

もう話せるんだね、というお医者さんの声に反応して、声を出せるか試してみたところ、意外にもすぐに声を出すことが出来た。

 

ちなみに、一時的に心肺停止の状態になってしまっていたらしい。

少しでも救急への通報が遅れていれば、本当に帰らぬ人になっていた可能性が非常に高かったんだとか。

あの時、服がはだけていたのは除細動器使ってたからなのか……

 

その後、色々検査を受けたが、内臓や脳に異常はなかったとのこと。

だから、結構直ぐに普通の病室に移ることが出来た。

全身の打撲程度で済むなんて、電車に轢かれた人の体験とは思えないけどねーって感想を貰ってしまった。

確かに……、何で電車に轢かれて打撲で済んだんだろ?

 

 

『今日1日入院したら、明日にはもう帰れるからね』

「色々、ありがとうございました……本当に……」

『うん、こちらこそ。でもね、その言葉は……あの人に言ってあげなさい』

 

 

お医者さんが病室から出たと同時に、紫さんが入ってきた。

そうか……紫さんが通報とかしてくれたんだ。感謝しなくちゃ。

 

 

「紫さん、ありがっ、て……!?」

 

 

私は、紫さんに対して色々言おうとしていたら、紫さんが頭の後ろに手を回してぎゅっと抱き締めてきた。

よく聞いてみると、めちゃくちゃ泣いてるっぽくて声にならない声をあげていた。

あ、あれ?紫さんってこんなキャラだっけ?(==;)

 

 

紫「みぃさん……!!!よかったぁぁぁ……」

「紫さん!?大丈夫ですか……、って何で泣いてるんですか!?」

紫「当たり前でしょう!死ぬところだったのよ!」

 

 

泣いている紫さんをなだめていると、病室に、またまた見知った顔が入ってきた。

 

 

千奈「みぃ!!!……って、あれ?結構元気そうだね?」

「そうだよ〜。結構ケロッとしちゃってる感じ!心臓が止まってたなんて信じられないや……」

千奈「なぁーんだ、良かったよ〜」

 

 

私には分かる、めちゃくちゃあっさりした反応をしているけど、凄く心配してくれてるってこと。

本当は凄く優しくて、良い子なんだよ。

だって、今も私を見る目が凄く穏やかだもんね。

 

それはそうと、私の持ち物はどうなったのかと聞いてみたんだけど、貴重品は紫さんが管理してくれていたらしい。

そのことを聞いた時に、その時に持っていた持ち物を全部見せてくれ、無事であることが分かった。

全身の打撲で済んだとはいえ、身体中が少し痛むので、痛みが治まるまで仕事は休むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日。

私は病院の人にお礼を言って、入院費を支払おうとしたが、断られてしまった。

いくらなんでも、と思ったが、そうじゃないらしい。

なんでも、金髪の女性が突然現れて、入院費を全て支払ってくれたのだそう。

 

 

「いや、ダメですって!流石に!」

紫「うふふふ、何のことかしら?」

 

 

私の家のことを手伝いに来てくれた紫さんに、私は入院費を払おうとしていた。

いやいやいや、いくらなんでも申し訳なさ過ぎる!

安くもない入院費を支払ってくれるだなんて……どんだけ良い人なんだよ!

と、私が払おうとしても頑なに受け取ろうとしない。

 

 

「うぅ〜、どうすれば……このままじゃ申し訳なさでどうにかなっちゃいそう……」

紫「そんなこと思う必要はありませんわ♪…………あ、でも。もしみぃさんがよろしければ、私と一緒に来て欲しいところがありますの」

「はい!!!なんでもします!!!」

紫「え、えぇ……ありがとうございます。でも、お体の痛みはもう大丈夫なのですか?」

 

 

若干驚いたような反応で聞かれたが、私に出来ることなら何でもします!と答えた。

だって、本来ならば入院費を払わせて欲しいものなのだけど……でも、紫さんの頼みならばなんでも聞ける。

なんでも、は言い過ぎかもしれないが大抵は聞けるはずだ。

 

 

紫「では、1週間後、空いてますか?少し、着いてきてほしいところがありまして」

「えぇ、勿論です!」

 

 

どこへ行くのかと聞くことも無く、その日は終わった。

結局、夜までいた紫さんと夜ご飯を食べて、紫さんは自分の家まで帰って行った。

今まで、不思議な人だなーってことくらいしか印象がなかったけど、今回のことで大きく見方が変わった。

元々いい人だったけど……紫さんってめちゃくちゃ良い人じゃん。

私は、少し痛む腕を擦りながら、眠りについた。




突き落とした犯人についてはまた書きます。
新成人の方々、おめでとうございます。
私は来年成人式ですね。ꉂ( ˊᗜ‪`⸝⸝)
やっぱり振袖着て出た方がいいんかねぇ……Ҩ(´-ω-`)

思った。私、主人公殺しすぎ?笑


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第57話 霊夢という少女。

私にとっての東方キャラのイメージなので、もしかしたら皆様の東方キャラのイメージと違うかもしれませんがお許しください(^-^;)

現代ではゆかりんが意外とハイスペックです。
現代版ゆかりんは現代で過ごしてた頃のマエリベリーを想像していますが、容姿や設定が全然違うと思います。
じゃあ、マエリベリーじゃなくね?って思うかもしれないけどそこはゆるちて……‪(´._.` )ゝ


とある日。

私は、痛みも治まったのでバイトに出ていた。

ニュースを見たバイト仲間や社員さんたちに物凄く心配され、なんとか私を事ある毎に休ませようとしてきたが、仕事は仕事なのでって言ってかわした。

 

そして、バイト終了時刻10分前。

今日は、バイトが早朝から昼までなので、半日余裕があるのだ。

そして、とある人からお誘いが入っている。そう。

この前、とんでもない借りができてしまった人。

いや、しまったって言ったら失礼か。

 

 

紫「(*´ `*)/〜」

 

 

紫さんが待ってくれているのだ!

目が合うと、嬉しそうに笑って手を振ってくれる。

ていうか、紫さんの服、今日も気合入ってるなぁ……

それはいつも通りだけど、髪がそもそも、サラサラの艶々で近くにいたら良い匂いがするっていうか……

あぁ、独り言ね。これ。

 

……と、しょーもない考え事をしていると、あっという間に時間が過ぎて、バイトの終了時刻になった。

そして、速攻で着替えて社員さんや同僚に挨拶して、職場を出た。

 

 

「すみません!紫さん!待たせちゃって……(==;)」

紫「いえ、待ってる時間も楽しかったので全然構いませんわ♪♪」

 

 

さ、行きましょうかと言われて、私は紫さんの後を着いていく。

ちなみに、どこへ行くのかは全く知らない。

そこに車を停めていますので……と言われ、ドアを開けてくれた!なんて優しいんだ?!

そして、紫さんはすぐに車を発進させた。

車を運転する紫さんもとても綺麗だなぁ、なんて見とれていた。

 

 

紫「知り合いがいる神社に行きます。その人が、信仰離れが進む現代で、少しでも参拝客を増やしたいと誘ってくれたんですよ」

 

 

行先も告げずに勝手に連れていこうとしてごめんなさい、と謝られたがとんでもない!と私は返す。

いや、何かしたいって言ったのはこっちだし、神社に行ってお参りして少し話すだけで良いので……って紫さんは言ってるし。

行かない理由が無いよね。予定も無いし?

それに、私は神社が嫌いではない。むしろそういう所に行くのは好きなのだ。

最近行けてなかったので、丁度いい!連れてって貰おう。

 

 

紫「時間は……えーと……少しかかるので、その間お話してましょうか♪♪」

「そうですね!」

 

 

カーナビに表示された時間は、"48分"。

まぁそれなりにかかるけど、話しながら移動してたらスグだろう。

元々そんなに会話が得意な人間ではないが、紫さんがめっちゃトーク上手いから簡単に乗せられちゃうんだよね。

すげぇな、っていつも思う。

 

 

何歳なんだろ」(ボソッ)

紫「……?何か言いました?」

「いや、紫さんってお幾つなんだろう……って気になっちゃって!」

 

 

車を運転しながら、少し考えるような仕草を見せる紫さん。

あっ、まずかったかな?女性に年齢と体重のことを聞くのはタブーってよく言うし。

でも、明らかに気にするような年齢ではないと思うんだよな紫さん……

 

 

「あ、すみません!年齢あんまり聞かれたくないですよね!すみません、アハハ……」

紫「いえ、構いませんよ♪♪ただ、年齢を聞いても引かないで頂きたくて(^-^;)」

 

 

えへ、とちょっと誤魔化しちゃった。

でも、人の年齢を聞いて、引くやつなんかいるのか。

紫さんはこんなに綺麗なのに。

いたとしても、失礼すぎるだろ……とか思った。

ていうか、紫さんはマジで何歳なのか気になる。

肌はピチピチだし、髪の毛は艶があって、性格も最高だし、料理出来るし、自立してるし。

もし、性格が気に入らなかったとしても、そんなの人間だったら誰しもちょっと位はあるじゃん?

 

 

紫「そ、その実は……19歳、といったら……どうします……?」

「へぇー!若いですね?私と同じだなんt……ゑーーーーーっっっ!!!?」

 

 

私は、年齢を告げられて、一瞬普通に反応したが、よくよく考えてみたら物凄いことを言われたことに気づいた。

まさか……紫さんが……10代?しかも同い年?

雰囲気がそもそも年上のお姉さんって感じで、大体25歳前後かな?って思ってたのに……

うふふ、おほほ、って感じの美人なお姉様だと思ってたのに!!??

マジか。良い意味でめちゃくちゃビックリしてしまった……(==;)

 

 

「いや、あの……どうするも何も。紫さんめちゃくちゃハイスペック女子じゃないですか!?」

紫「え!ハイスペック女子だなんて……その……えへ…………/////」

 

 

あっ、紫さんが時々見せるこの仕草が私は結構好きだったりする。

めちゃくちゃオトナな雰囲気を見せる紫さんが、時々お茶目な女の子になる。

例えるなら、普段は美しい、綺麗、って感じだけどこの時だけ、可愛い、可憐って感じになる。

 

 

「可愛くて綺麗な紫さん、好きですよ?」

紫「……///」

 

 

私が褒めまくっていると、紫さんが黙って顔を赤くしていった。

私が、運転に集中して下さいって言うと、すみません、と言って前に向き直った。

恥ずかしがってる紫さんを見るのは楽しいけど、流石に事故ったら大変だからね……(^-^;)

 

そして、世間話や最近あったこと、シグのことなど、楽しい会話を続けること小一時間ほど経った頃だろうか。

少し山手のほうかな?閑散としており、住宅がちらほら見られる程度だろうか。

自然が増えてきた気がする……と思ったところで、紫さんはパーキングエリアに車を入れた。

紫さんのスマートなバック駐車に感動しているところで車を下り、紫さんの後に着いていく。

 

 

紫「ここら辺は何もないですが、神社は近いので安心して下さいね♪♪」

「あ、ありがとうございます!わざわざ……」

 

 

5分程歩いていると、山に入っていく道に、苔だらけの石階段が並んでいるのが見えた。

ここから神社に入っていくのかな?

都会の真ん中にあるような騒がしいところの神社よりも、自然の中にある神社の方が、ご利益ありそーだなーなんて、思ったりすることもある。

 

そうして、私と紫さんは2人で石階段を上り始めた。

途中で、疲れてませんか?とか聞かれたけど、その度になんて優しいんだろう……なんて感動していた。

ほんと、紫さんに会ってから感動することばっかだなー……あ、鳥居が見えてきた。もう少しかな?

 

 

紫「さ、私が言ってた神社はここですよ♪♪中に知り合いがいるので行きましょう♪♪」

「あ、はい」

 

 

私は、石階段を上り終えると、紫さんの後に着いていった。

境内はそこまで大きくはないけど、綺麗に掃除されており、祀られている神様も気を悪くはしないな、という感じか。

そして、裏の方へ入っていくと、紫さんが来たわよーって中の人を呼んだ。

すると、中から透明感のある綺麗な声が聞こえ、足音が近づいてくるのが分かった。

 

 

「来たみたいですね。神主さんでしょうか?」

紫「いえ、この神社の巫女です。神主はここにはいませんよ」

 

 

へぇー、と言って納得していると、かたん、と目の前の障子が開いて、中から人が現れた。

この人が神主……じゃなくて、巫女さんかぁ……と思った。

私よりも少し若くて、でもしっかりした風な雰囲気。

ていうか、神社って神主いなくても経営出来るのか……なんて思ってると、巫女さんが口を開いた。

 

 

?「こんにちは、みぃさん。紫から話は伺っています」

「あっ、はい、こんにちは……(.. )」

 

 

そういえば、巫女さんだけど、いつも巫女服着てる訳じゃないんだ……

そりゃそうだ、巫女さんも言っちゃえば一般人みたいなもんだもんね。

 

 

紫「ね、そろそろ中に入って話しましょう?」

?「あ、あぁそうね。みぃさんごめんなさい、どうぞ入ってください^^」

 

 

巫女さんと紫の後を着いていくと、綺麗な居間に案内された。

神社の中に普通に生活できるとこがあるんだなぁ……なんて考え事をしていると、巫女さんが部屋を出ていった。

 

 

紫「みぃさん、あの娘、何歳くらいに見えます?」

「えっ?んーーー……私より2歳くらい年下に見えましたね。17歳……とか……?」

 

 

高校生くらいかな、と思った。

高校生だとしてもしっかりしてるな〜って思える程度にはしっかりしてたし。

てか、そもそもしっかりしてるの定義ってなんぞや?って思ってると、紫さんが口を開いた。

 

 

紫「14歳です」

「へぇ〜………………!!??」

紫「中学生です」

「嘘ォ!?」

 

 

嘘じゃありません、と口の横に手を当ててコッソリ教えてくる紫さんはまるで、秘密を共有しようとする無邪気な子供に見えた。

心做しかちょっと口角上がってる感じするし……

 

 

?「なぁ〜によ、2人共?私抜きで楽しんじゃって〜妬けちゃうわぁ〜」

紫「いや、そういう訳じゃないのよ?ホラ、貴女がいない間に貴女の説明をしようと……」

 

 

人数分のお茶を持った巫女さんが、紫の方を見て膨れたような顔をする。

てか、2人共顔面偏差値高いなぁ〜〜〜、こっちこそ妬けるわぁ〜〜…………

なんて思ってると、巫女さんが私たちの目の前にお茶を置いてくれ、机の向かい側に座った。

 

 

?「ジョーダンよ、さ、自己紹介に入りましょう?」

 

 

巫女さんが私に向かってニコッと笑った。

お茶を見て私は「選ばれたのは綾〇でした」なんてフレーズが何故か頭に浮かび、笑いそうになるのを堪えて巫女さんの方を向いた。

 

 

?「紫、貴女からよ」

紫「知ってると思うけど、私は八雲 紫(やくも ゆかり)です。ハイ次、貴女よ」

?「短すぎよッ!まぁ良いわ、共通の知人だものね」

 

 

仲良いなぁ〜この2人……ていうか、紫さん、良い意味で年齢の割にメッチャクチャ大人びてるけど、こういうところでは年相応な人だな、なんて思ったりする。

車の中で照れてたこととか、今みたいなこともそうだけどね。

巫女さんが自己紹介をしてくれるというので、しっかり聞こうとした。

 

 

?「私の名前は、博麗 霊夢(はくれい れいむ)です。ここの巫女です……あ、知ってると思いますけど、ここの神社、あんまり人が来ないもんで……あんまり良いお菓子とか出せないけど……アハハ」

 

 

巫女さんが、14歳の女の子がここまで考えてるって凄いな〜なんて勝手に思ってると、紫さんが口を開いた。

 

 

紫「霊夢は親戚の子で、親はいません。だから、私が特別に面倒を見ているのです……そう、私が、みぃさんならこの神社に興味を持ってくれるって思ったので」

「そう思ってくれてありがとうございます!私、神社とかそういうところが大好きで!」

 

 

そう、さっきも言ったと思うけど嘘じゃない。

本当に嫌だったら、ここまで着いてきていないと思う。

そもそも、紫さんのいうことをなんでも聞くという約束だったはず。

本当に嫌だったら断って下さいね……と言われてはいたが、断る気になんてならなかった。

 

 

霊夢「ありがとうございます!とっても、嬉しい……」

 

 

霊夢が、嬉しそうに顔を綻ばせた。

親がいないってことは、ここで1人で住んでるってことなんだろう……

神社のこととか、生活のこととか大変だろうに……

なんて思ってると、霊夢が私に話しかけてきた。

 

 

霊夢「みぃさんって、普段どんなことしてるんですか?」

「あぁ、それはね……」

 

 

私は、普段の生活の様子を話した。

勿論、紫さんとの馴れ初めのことなど、シグのことも話した。

最近、電車に撥ねられて全身打撲で済んだことを話したら、霊夢は心底驚いていた。めちゃくちゃ心配してくれた。

まぁそりゃそうか。誰だってそーなる。私もそーなる。

 

そうして、紫さんを交えて話をして、ワイワイガヤガヤと盛り上がっているうち、日がそろそろ暮れてくる時になった。

まだ日の入り前だけど、そろそろ帰らないと道中暗そうで心配になってきた。

紫さんに視線を合わせると、私の言いたいことを汲んでくれたのか、霊夢にそろそろ帰ることを伝えた。

霊夢は、私に対して今日のお礼を言ってくれた。

また来るねって言ったら、霊夢は喜んでくれたから、バッチグー、ってところかな?

 

 

霊夢「また来てね!みぃさん♪♪」

「いえいえ、こんなところにこんな良い神社があって、こんな良い子に会えたんだから……こちらこそ、良い体験をさせてくれてありがとうね!」

 

 

私がお礼を言うと、霊夢はめちゃくちゃ喜んでくれた。

そして、私はせめてものお礼として、500円を賽銭箱に入れると、霊夢は更に喜んでくれた。

うんうん、良いことをしたなぁ……( *´艸`)

あれ?心做しか霊夢の目が$になってる気が……(^-^;)

 

そして、私は、紫さんと共に元来た道を戻り、車へと戻った。

 

 

紫「みぃさん、今日は来て下さってありがとうございました。霊夢とも随分と仲良くなって頂いて、霊夢の保護者として嬉しい限りですわ♪♪」

「いえいえ、お礼を言うのはこちらですよ!元々神社とか好きだし……それに……あんなに良い子にも出会えたし♪♪」

 

 

と言うと、紫さんは嬉しそうな顔をして車のエンジンをかけた。

すると、狙ったかのように私は眠たくなってきてしまった。

ふわぁ〜と欠伸をしていると、紫さんが気遣ってくれた。

 

 

紫「今日は振り回してしまってごめんなさい……シート倒して、寝てて構いませんよ。晩御飯はどうします?」

「紫さんの手作りが食べたいです〜……良いですか?」

 

 

はーい、という紫さんの声が聞こえたと同時に、私は目を閉じた。

楽しかった、めちゃくちゃ楽しかったんだけどちょっと流石に疲れた……( ̄▽ ̄;)

私は、車の心地良い揺れに身を委ねながら、意識を手放した。




紫は免許合宿に行って免許を取りました。
車種はワゴンRスティングレーのピュアホワイトパールだそうです(主が好きな車種)
運転めっちゃ上手いです。
あと、主人公に対してめっちゃ優しいです。
普通の人じゃ気づかないようなとこまで気づいてくれる……と思う。
車の中で、実は紫は主人公に対して綾鷹を渡してます。
凄い気遣い……多分私やったら出来ん_| ̄|○ il||li

個人的に紫に車を運転させて見たかっただけなんだ……許してくれ……!(^-^;)

質問などあればどぞ〜(´。・▽・)っ


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第58話 幻想郷へ

ちなみに、第49話 責任 にて、闇ちゃんの寝巻姿の挿絵いれときましたー


紫side

 

 

外はすっかり暗くなっており、虫の鳴き声が車の中にまで微かに聞こえる。

今日は満月……綺麗ね。小一時間でこんなにも日が暮れるだなんて、1日はあっという間だわ。

後部座席には晩御飯の為の食材たちが。

そして、隣からは規則正しい呼吸……師匠の寝息が聞こえる。

 

このまま眺めているのも悪くはないとは思ったけど、師匠が起きない内に晩御飯の用意をしてしまいたい。

私は、師匠を横抱きで抱え、食材は能力を使って浮かしながら移動する。

そして、駐車場の地面を蹴って師匠の住んでる階まで上昇し、部屋の前まで来たところで、鍵を取り出して開ける。

 

近隣住民に見つかったら大変だけど、今はほぼ夜だし良いだろう。

それに、見つからなければ能力は使い放題なんだ。

幻想郷に戻ったら、嫌という程仕事が溜まってるんだろう……あぁ、また藍に叱られるわ。

 

 

「……お邪魔します」

 

 

私は、そう言いながら靴を脱いで部屋にあがる。

師匠は毎日、この部屋に寂しくただいまと言っているのだろうか。

私がいれば、毎日でもおかえりなさいと言ってあげられるのになぁ……

まぁ、今は無理でもいずれは本当のことになるんだし、ね。

 

そういえば、師匠の部屋って本当に物が無い……

あったとしても、家電、机、ソファ……生活必需品以外はほとんど無い。

師匠が飼育しているカメの為の飼育用具が、水槽の横に置いてあるのが見える。

その用具の多さに、師匠のカメ愛が伝わってくる。

あと、壁に日常の中で撮ったであろう写真が沢山貼られている。

 

 

「本当に、好きねぇ……」

 

 

師匠をソファに寝かせ、ブランケットをかける。

料理は得意な方だし、師匠に食べて貰えるなら毎日でも作ってあげたい。

正直、人間の姿の師匠を見ていると、幻想郷の賢者という立場を忘れてしまう。

私がそばにいて、いつまでも守りたくなるような雰囲気だ。

 

 

「さっ、お任せでって言われたし……張り切るとしますか!」

 

 

私は、買い出ししてきた食材を出していく。

やっぱり、外の世界のものは溢れかえるくらい豊富ね。

料理が作りやすかったり、生活が楽になったりするのは良いけど、そのぶん大気汚染とか食品ロスとかが酷くなったりするのよね……

ま、師匠はどっちみち幻想郷に連れてくるし、もう少しの辛抱だからどーでもいいけど?

 

さーてさて……できたッ!オムライス!

そんなに時間はかからない料理だったから、楽だったわ……

そう。おまかせでって言われて、師匠が好きだった卵料理が思い浮かんだの。

そして、師匠は半熟が好き。

それはもうトロットロに仕上げたわよ!

 

 

「みぃさ〜ん……」

 

 

私は、師匠を呼ぼうとして、固まった。

どうしているのよ……!

 

 

神琉「いや、何だか美味そうな匂いがしたからつい……」

「……へぇー……ソウデスカ……」

 

 

龍神王が……いた……

しかも、師匠の頭に気安く触れてッ!

何よ、美味そうな匂いがしたからつい……なんて言っちゃって!

あんた神でしょ、ご飯なんて食べなくたって生きていけるでしょ、ていうかそもそもあんたら神に、生死なんて正直言って無いようなもんでしょ!

 

……という言葉をぐっと抑え、オムライスの乗ったお皿を机に置いた。

 

 

「あら……龍神王様がどのような御用でこちらに?」

神琉「ふむ。お前が考えている言葉も面白いが……まぁ良い。時折、様子を見に来たくなるんだ」

 

 

心の中を見透かされていることに息を飲む。

龍神王はそういう人、いや神だ。

神は、上に生きる者は、下界に生きる者の気持ちなんて分からない……

 

人間の社会でも妖怪の社会でも、元からそうじゃないか。

 

 

神琉「ふむ……お前は考えすぎだ。俺は別に何かを支配したいとかじゃない。全てが自分の思い通りになったらつまらないだろう?」

「ふふ……人の心の中を頻繁に見るのはお辞めください……」

 

 

私は、固まった表情のまま、必死に笑顔を取り繕う。

てゆーか、その考え方がそもそも私たち普通の生物とは違うって言うか……

えーい、考えてたら余計にややこしくなってしまいそう!

とりあえず師匠を起こして、晩ご飯を食べてもらわなきゃ。

 

 

「みぃさん、晩ご飯が出来ましたよ〜」

心七「ん、んん…………あれ、家だ……すみません、紫さん。随分と寝てしまってたみたいですね」

 

 

えへへ、と頭をかく師匠。

龍神王はいつの間にか跡形もなく消え去っていた。

一体何をしに来たんだろう、と思いながらも、私は師匠にご飯を食べるよう促した。

 

 

心七「わ、頂きま〜す!…………ん、おいひぃでふ(美味しいです)♪♪」

「うふふ、お口に合ったようで良かったですわ♪」

 

 

オムライスを食べながら喜ぶ師匠の顔を見て、私も釣られて顔が緩んでしまう。

普段は藍にご飯を作ってもらうのだけど……師匠が神社にいた頃、私は元々ご飯担当だった。

香織と交代はしたりしてたけどね?

 

 

心七「ん〜♪♪………………?紫さん、どうかしましたか?」

 

 

師匠が、食べる手を止めて私を心配そうに見つめる。

あらやだ、私ったら少し考えごとをしてしまってたのね……いつもは笑顔を貼り付けて崩さないのに。

師匠に会いに来てる時は、どうしても緩んでしまう。

どうした、私……

 

 

心七「紫さん、自分のご飯は食べたんですか?」

「えぇ、みぃさんが起きる前に自分の分を……どうしました?」

心七「はい、あーん♪♪」

紫「!?」

 

 

予想外の出来事で驚き過ぎて声も出なかった。

あーん!?あーん、って人生で1回も言われたことが無いし、ましてや、その言葉を師匠から聞くと思わなかった。

た、食べさせてくれるのかしら……?

 

 

心七「ふふ、美味しいですか?」

「もぐもぐ…………え、えぇ。それはもう……」

 

 

自分で作ったやつだけど、まぁまぁ美味しい。

というか、師匠に食べさせてもらったら100倍美味しい……という言葉を言いそうになったが我慢我慢。

師匠が食べ終わると、私は食器を洗って片付け、タネ無しマジックを見せていた。

 

幻想郷じゃああんまり珍しいことじゃないけれど、外の世界でやったら大盛り上がりだ。

例えば、私だったら指の先にスキマを作って、そこから旗を沢山出したり。

髪の毛の束の中にスキマを隠して、そこから鳩をバサバサーっていっぱい出したり?

あ、そうそう、某人形使いが人里で人形劇をやっていたような……師匠にも見せてあげたいわ。

 

 

心七「すっごーい……!どうやったんですか!?」

「うふふ、いずれ教えて差し上げますわ……今は秘密です」

 

 

口に人差し指を当てて秘密、と言ったら意外にも素直に聞いてくれた。

勿論、いずれは本当に教えるつもりである。

いずれ……ね。

 

 

「また今度、もっと凄いものを見せますね♪♪」

心七「ありがとうございます!嬉しいなぁ……凄いなぁ……」

 

 

この少女が、かつて宇宙を治めていた先代龍神だと知ったら、皆はどんな反応をするだろうか?

皆が住んでるあの神社に、師匠のことを受け入れない者はいないけど……

しかし、よ。

"香織"が……"香織"が師匠の存在を知ったらどうなるかしら?

 

師匠がいなくなって、まるで人が変わってしまったかのようにやつれていたから。

他の人の前では流石に、威厳溢れる龍神でいるんだけど。

たまに、泣いてるから……心配になるのよ。

 

死に対してそこまで関心を持つわけじゃない妖怪……鬼子母神のあの子でさえ、師匠のお墓に毎日のように花を手向けにやってくる。

あんなに離れた山から……

 

 

「あら、もうこんな時間」

心七「え?あ、ほんとだ」

 

 

ふと時計を見てみると、もう良い時間になっていた。

どうやら、かなり長く楽しんでしまったみたいね。

 

 

「今日は用事に付き合って頂いてありがとうございました♪♪またよければ、遊びに行きましょうね!」

心七「勿論ですよ!いつでも言ってください!」

 

 

私は、なんて言って師匠を幻想郷に連れてこようか、と考える。

というか四六時中考えている。

なるべく、今私の目の前で見せるこの笑顔を崩したくは無い……

となれば、直接幻想郷を好きになって貰えるよう、私は努力するのみだ。

 

私は、玄関で師匠と話した後、師匠に見送られて家を出た。

ちなみに、話していなかったが、師匠の家には害ある者が出入りできない結界を張ってある。

そして、師匠を傷つけようとその結界に触れた者がいれば、直ちにそのことが私に伝わるようになっている。

私は、車に戻り、エンジンをかけたところで横を向き、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「本当に盗み聞きが好きなお方。師匠に嫌われてしまいますよ?」

神琉「ハハっ!盗み聞きとは酷い言い方だな。それはそうと……闇は俺のことは嫌いにならないさ」

「それは自惚れというものでは?」

神琉「手厳しいな、幻想郷の賢者は……そうだな、自惚れではなく、確実に、()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

 

隣で語る龍神王の恐ろしさに、普通なら震え上がるところを、ただただ冷静になれる私は異常だろうか。

あっ、恐ろしい程根回しが早い龍神王に若干引いてる感はあるけれど。

 

 

「それで……師匠を幻想郷に招き入れる計画は、いつにするんです?」

 

 

正直のところ、今すぐにでも連れてきたいけど。

そんなことをしたら、師匠が悲しむだろうからやらない。

私が返答を待っていると、龍神王が口を開いた。

 

 

神琉「あぁ、そのことなんだが……その件はお前に任せることにするよ」

「えっ……」

 

 

予想だにしない返答だったので、若干驚いた様子を見せてしまったが冷静になる。

もし任せて貰えるなら、明日にでも師匠にこのことを話したいんだけどな……

1回話しただけで分かって貰えるかしら。

 

 

神琉「ただ、幻想郷に連れていく……ということは、外の世界で闇がどういう存在になるか、勿論知っているんだよな?」

「……勿論、です」

 

 

そもそも幻想郷という所は、外の世界で幻想になったもの……忘れられたものが集まる所。

例えば、外の世界で信仰を無くした神が幻想入りすることもあるし、存在を忘れられてしまった外来人が来ることもある。

 

まぁ、つまり、簡単に言うと……師匠は、外の世界で()()()()()()()()()

幻想郷に連れてくるということは、師匠を殺すも同然の行為だってことは重々承知だ、けど…………

 

 

「だからこそ!幻想郷を好きになって貰いたい!」

神琉「ほう?」

「私が愛した幻想郷を、師匠に、貰いたいのです……!」

 

 

私は、心の底から思っていることを龍神王に告げた。

これは、力で解決できる問題じゃあない。

理解して貰えるまで、何度だって伝えに来るつもりだ。

 

 

神琉「……まぁ、良いだろう。幻想郷に連れてくるまでのことは、お前に任せたぞ」

「……ご助言、感謝いたしますわ」

 

 

別に何もしていない、と言って龍神王は消えてしまった。

本当に神出鬼没なお方……と思いながら、ため息をついた。

ま、そうとなったら話は早い。

明日にでも話をしよう。

意外にも早く来たその時に、私は楽しみでいても立ってもいられなかった。



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第59話 偶然

心七side

 

 

しまった。まさかこんな時間になるなんて……

紫さんと遊んだ次の日、私は少し離れた場所にあるペットショップまで足を運んでいた。

昨日確認したところ、カメたちのご飯が少し減っていた。

あと、フィルターのメンテナンスをした時に、汚れが落ちにくくなっていたので、替え時だな……と思っていた。

 

 

「いやぁ、あそこの店員さん器具のこととか色々教えてくれるからなぁ……思わず話し込んじゃった」

 

 

見たことない器具が入荷されていたりすると、これはこうで……って詳しく教えてくれるのだ。

後は、最近カメちゃんたちどうですか?って様子を聞いてくれたりする。

でも、まさか、こんな時間になるまで話し込んでしまうとは思わなかった……>_<;

 

 

「それにしても……こんな時間だからか、流石に誰もいないや」

 

 

そこそこの大きさの道だし街灯もあるけど……いつもの時間なら開いてるお店も閉まってるし、道行く人々も全然だ。

車通りも無いに等しい。

 

 

「は〜、もうちょっとで家だなぁ、アポロ〜、チロル〜、待っててねー!」

 

 

家に帰ったら、まずは新しく買った器具を設置してみよう……なんて思っていた。

そして、後ろから声をかけられたので振り返ると、男性が3人いた。

なんで私を呼び止めたんだろう……?と思っていると、その内の1人が私に話しかけてきた。

 

 

男1「君、1人?」

「まぁ、そうですけど……」

男1「じゃあさ、俺らと遊ばない?良いとこ連れてってあげるからさぁ」

「えっ……」

 

 

良いとこ!?何それ!行きたーい!

……なんてことを言う程私はバカじゃないので、丁重にお断りすることにする。

だって、めちゃくちゃ怪しいんだもん。

こんな夜遅くに、しかも私に話しかけるなんて、何か企んでるに違いない!

そう思って、私は、怪しみながらも丁寧に言葉を選んで断った。

 

 

「ごめんなさい、今から帰らないと」

男性1「いやいや、そんなこと言わないでよ〜。ちょっとでいいからさー!」

男性2「うわっ、コイツ、自分がナンパされてると思ってんじゃね〜〜の?ぎゃはは!!!」

男性3「自惚れも程々にしときなよ〜?w」

「は、はぁ……」

 

 

なんなんだ、じゃあなんで私に話しかけたんだ……とてもめんどくさいことになった……と心底思った。

本当に、こういうことを言う人の心理がよく分からない。

例えるなら……綺麗だねって話しかけておいて、断られたら、ブスの癖に!というような人のことね。

 

 

「あの、もう帰っていいすか……」

男性2「いやいや、返すわけねーじゃん」

「うっ……きゃ!?」

 

 

私が、もうこんなめんどくさい奴らに関わるのはよそう、と思い、半ば無理やり帰ろうとした。

そしたら、その中の1人が私の腕を掴んで引っ張った。

 

 

「あ、あの!やめてください!」

男性3「コイツ、自分に拒否権あると思ってるみてーだぞ?」

男性1「あるわけねーのにな〜!w」

男性2「とりま、そこの路地裏にでも引き込もーぜ」

 

 

無理やり引っ張ってくる為、力を入れづらい。

あー!こんな時、護身術とか学んでたら……!なんて思っても、もう遅かった。

大人の男性3人の力に、力の弱い女性1人が勝てるわけない。

そう思っていると、後ろから聞きなれた声がした。

不思議と、物凄く安心する声で、物凄く迫力のある声だった。

 

 

?「もし……そこの男性方、そちらの女性はお知り合いですか?」

男性1「あぁ?……あー、そーそー!知り合い知り合い!」

男性2「何?お姉さんもこの子と知り合いなん?」

男性3「うわっ、お姉さん美人ー!」

 

 

振り返ってみると、驚きと同時に、何故か全身の力が抜けるほど安心してしまった。

何故あの人がここにいるのかは分からないけど、これで助けを呼んでもらえる……!

そう思った私は、その人に声をかけた。

 

 

「"紫さん"!すみません、助けてくれませんか!!?」

紫「言われなくても分かっておりますわ……だって、貴方がたが、嫌がっているみぃさんを無理やり連れ込もうとしてた所、ぜーんぶ撮っておりますもの♡」

 

 

うふふ、と笑った紫さんは、少しばかり怖かったが、でも、物凄く頼りになりそうな雰囲気だった。

てかなんで、紫さん、夜なのに日傘さしてんの?

そこはまぁどうでもいいけど……

 

 

男性1「チッ、コイツ……っ!」

 

 

男性3人のうちの1人が、私の腕を離し、紫さんの携帯を奪おうと掴みかかった。

危ない!!!って叫ぼうとしたけど、その前に紫さんはその男性の腕を、さっきまで日傘をさしていた逆の手で掴んでいた。

 

 

男性1「は!?」

 

 

いつの間にか日傘が無くなっていること、自分が避けられると思っていなかったのか、男性はめちゃくちゃ驚いた顔をする。

私もだいぶ驚いてる……けど、この道でたまたま出会ったのが紫さんで良かったと、謎の安心感がある自分がいる。

 

 

男性1「テメェ……っ!!?」

紫「さて、選ばせてあげます。醜く生きるか?美しく死ぬか?」

 

 

私がポケーと眺めていると、突然男性が苦しみだした。

よくよく見てみると、紫さんが男性の腕に力を込めているような気がする。

てか、ミシミシ言ってるから、確実だろ……どんな握力してんの、紫さん……

 

 

紫「はぁ、もう貴方は引っ込んでてください」

男性1「ぎゃ!!?」

 

 

紫さんは、掴んでいた男性の腕を体ごとそのまま放り投げ、電柱に激突させた。

なんて腕力なんだ……なんて思う暇も無く。

流石の男性も頭を打ってしまっては太刀打ち出来なかったようで、そのままぐったりしている。

 

 

男性2「おい!俺らの邪魔すんなよ!!!」

 

 

この状況を見て、紫さんに掴みかかれる度胸がすげぇなとも思ったが、やっぱりバカなんだな……と瞬時に理解した。

だって、圧倒的力の前に、無謀に向かっていくのは愚か者のすることだ。

あ、ほら、紫さんに足払いかけられて転んで、伸びてるよ……可哀想に(ざまあみろ)

 

 

紫「そうですか……降参しませんか……」

 

 

紫さんは、1度深呼吸をしたかと思うと、残りの男性に向かって言った。

なんか怒ってそうだけど……どうだろう?

でも、私なんかの為にこんなに色々してくれて、本当に嬉しい……

そもそも、私に色々構ってくれるっていう点から謎だけど。

 

 

男性3「おい!こっち向けよ!!!殺ってやる!!!」

 

 

残りの男性がポケットに手を入れ、出したものは刃渡り10何cmのナイフ。

私はそれを見た瞬間、流石にギョッとした。

そこまでするのか、と。

それに、いくらなんでも紫さんが危なすぎる。

 

 

「紫さん!刺されちゃう!!!」

紫「……あらら」

 

 

私は必死で叫んだが、紫さんは手を口に当てて少し驚いただけのようだった。

何をそんなに悠長に……流石に命が危ない!

……と思っていたのだが、それは杞憂のようだった。

 

 

男性3「ゴフッ」

 

 

さらりとナイフをいなし、一瞬で男性の鳩尾に一発お見舞いしていたのだ!

てゆーか、もうこうなってくると男性の方を心配してしまいそうになる。

死んでないよね……って。めちゃくちゃ鈍い音してたし……

そして、そのまま男性は地面に崩れ落ち、ナイフも転がって落ちた。

 

 

紫「美しく残酷にこの大地から去ね…………それと、みぃさん!お怪我はありませんか?」

「あ、はい。大丈夫ですけど……死んでませんよね?」

紫「良かった。さっき、腕を掴まれたりしていたので心配だったので……そうですね、死なない程度に殺しておきました」

 

 

ふふ、と笑顔で語りかけてくる紫さんは怖かったけど頼りになりそうだった。

つまり気絶させただけか、と勝手に解釈したけど合ってる?

まぁ、どうでもいいや……と思っていると、紫さんが散らばってしまっていた私の荷物をかき集めて、渡してくれた。

 

 

紫「とってもカメが好きなんですね?お家にお邪魔した時もカメがいましたもんね」

「えぇ、大好きですよ♪」

 

 

服の汚れてそうな部分を払い、紫さんと共に歩き出した。

もうこんな時間に1人で歩かねぇ……と思っていると、紫さんが思い詰めたように話しかけてきた。

 

 

紫「みぃさん、これから、お家にお邪魔して、お話聞いて頂いてもよろしいですか?」

「え?今からだったら遅くなっちゃいますけど……大丈夫ですか?」

紫「えぇ、勿論。何時でも構いませんよ」

「それなら良いんですが」

 

 

持ちますよ、と言われて、ありがとうございます、と荷物を持ってもらうことにした。

結構重かったから助かった……ε-(´∀`;)ホッ

それにしても、紫さんがこんなに思い詰めて話すの、見たことなかったなぁ。

何かあったのかな?話を聞いて欲しいってんなら何でもドンと来い!だよねぇ。

 

 

「紫さんにはいつもお世話になってますし、さっきも助けて貰っちゃったので、何かお返しさせてください♪お話くらいならいつでも聞きますので!」

紫「本当ですか!嬉しい……」

 

 

ふと紫さんの顔を見ると、さっきまで思い詰めたような悩んでいるような顔だったのに、ぱぁっと笑顔に変わっていた。

私なんかで役に立てるなら、なんでも言うこと聞いちゃう!

 

 

紫「ふふ、しかし……このような時間の女性の1人歩きは危ないので気を付けて下さいね」

「あーっ!スミマセン……ご迷惑を」

紫「良いのですよ、分かって頂けたら」

 

 

そう言って、紫さんは私の頭を撫で撫でしてくれた。

あ、そこ、めっちゃ気持ちいい……っていうのは置いといて。

確かに、もうこんな時間に歩き回るっていうのはしないだろうね。

痛い目見たっていうのもあるし、紫さんに迷惑かけちゃったし……

 

 

紫「さてさて、お家に帰りましょうか♪」

「はい!」

 

 

何故か、居心地良く感じる紫さんの隣で、帰路についていた。

今日は凄い偶然が重なって助けられちゃったな……

だって、偶然紫さんが通りかからなかったら、私はあのまま乱暴されたりしてたかもしれない。

私は、なるべく紫さんに迷惑をかけないように努力しよう……と思うのであった。



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第60話 進展と反応

ここは、現代の日本の、とあるマンションの一室。

 

 

バシャ、バシャ、バシャ…………

 

 

水が何度も何度も跳ねる音がして、遂には止んでしまった。

しかし、止んだその数秒後に、一際大きな水音がし、ドゴッ、という、何かが放り出されたような音が響いた。

 

 

?「うーーー…………!」

 

 

放り出されたのと同時に体のどこかを打ってしまったのか、抑えて痛がるような素振りを見せる。

外の風でカーテンが揺れ、外の光が漏れてきた。

それと同時に、放り出された少女は手で眩しそうにする。

 

光のおかげで、部屋の様子がだいぶ分かるようになった。

少女は、カーテンを全開にし、部屋の様子を確認する。

そして、自身の状態を確認出来る鏡を見つけ、鏡の前に移動し、そして、絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チロル「服、着てないッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇◆◆◆◆◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫side

 

 

「へぇ、それでそんなことが」

心七「そうなんですよー、あれがこうで……」

 

 

私は、師匠と一緒に師匠の家に向かっていた。

というより、もう着いてるんだけど……

そう、今日、決行する…………というか、一応話を聞いてもらうだけなんだけど。

 

 

心七「……あ!」

「どうかしましたか?」

心七「すみません、ちょっと忘れ物しちゃいました!」

「えっ、あ……みぃさん!」

 

 

私が呼び止めるのも虚しく、その鍵で入っといてくれと言わんばかりに鍵を渡され、師匠は走っていってしまった。

もしかして、ポストかなんかに入っている郵便物を取り忘れたとかかしら?

それなら、私が取りに行くのに……と思いながら、玄関のドアを開け、お家にお邪魔した。

リビングまで廊下が続いている為、その廊下の先にあるリビングのドアに手をかけ、1歩リビングに足を踏み入れると、ひとつの影がゆらゆらと動いていた。

 

 

?「……」

 

 

外が真っ暗で何も見えなかったので、壁に付いている電気のスイッチを押した。

そして、部屋の中がパッと明るくなったと同時に、長いこと一緒に暮らしてきた姿が目に入った。

 

 

「あら、チロルちゃん?貴女も来てたの」

チロル「そうなの!しかも、あの邪神、人の姿で送ってくれなかったんだよ!?この時代に生きているはずだった私の元々のカメの体に魂を憑依させられるっていう……本当にひどいよね!!!」

 

 

緑色の髪を揺らし、プンスカと頬を膨らます妖怪の少女は、私に不満の感情をぶつけた。

師匠の周りの人物が来ることは分かってたんだけど、まさかチロルちゃんが!と、思った。

というより、チロルちゃんを見た時に重大なミスに気づいてしまった。

 

 

「ち、チロルちゃん。いつから"その"姿で……?」

チロル「今日の昼くらいかな?服すら送ってくれないなんて、ホント酷いんだからー!」

「困ったわね……」

 

 

生憎、今の私は他の服を持っていない。

身長は私より数cm低いくらいなので、実質私と同じ服でも間に合うんだけど……

それよりも、師匠が今のチロルちゃんを見て、不審者、侵入者、としか思えないだろう。

だから、何とかしないと……と必死に思考を張り巡らせた。

 

 

「チロルちゃん、カメの姿に戻れる?師匠がもう戻ってきてしまうわ」

チロル「そ、そうだね…………っと!」

 

 

ボン!とチロルちゃんの体から煙が出て、姿が消えたかと思うと、目の前の床には1匹のカメがいた。

そういえば、カメの姿のチロルちゃん、あんまり見たことないかも……

 

 

「話が纏まったら、また声をかけるわ」

 

 

そう言って、私はチロルちゃんを水槽の中に戻した。

水はフィルターと師匠の日々の努力によって、とっても綺麗に保たれている。

というか、そういえばの話なんだけど……もう1匹のカメの正体ってなんなのかしら?

師匠と一緒に過ごしていた時にはいなかったわよね……?

チロルちゃんの番かしら?それにしては、チロルちゃんから何も聞いていなかったような。

 

 

心七「紫さーん!すみません、お待たせしましたぁ!」

 

 

考え事をしていると、どうやら師匠が戻ってきたようだった。

そう、話を聞いてもらわなきゃいけない。

 

 

「みぃさん、お茶を入れておきますから、カメちゃんたちの世話、してあげてください♪」

心七「えっ!あっ……分かりました、ありがとうございます!」

 

 

師匠は、買ってきた器具をガチャガチャと取り出し、それを棚へ置き、整理し始めた。

ちなみに、師匠にとっては違いがわかるのだろうけど、私には、器具の違いなんてさっぱり分からない。

 

そういえば、なんだけど……

チロルちゃんとは長年家族として過ごしてきたけど、チロルちゃんって師匠に元々飼われてたカメなのよね。

チロルちゃん的には複雑じゃないのかしら?

 

 

「みぃさん、お茶を淹れたので、ここに置いておきますね」

心七「あ、ありがとうございます!」

 

 

師匠は、器具の整理が終わったのか、テーブルへとトコトコ歩いてきて、座った。

よし、心の整理は出来た。今から話すのよ。

 

 

心七「それで、紫さんの聞いて欲しいお話ってどんなのですか?」

「あぁ、それがですね……実は……」

 

 

私は、師匠の目の前で一瞬の内にコインを出して見せた。

師匠は多少驚いた様子だったけれど、前見たやつですよねーって言って大した反応ではなかった。

まぁ、それが手札ではないんだけど。

 

 

「こういうことも出来るんですよ」

 

 

私が、両手をパンって叩き、両手を下に向けると、手のひらからコインがジャラッと音を立てて大量に落ちてきた。

流石に、師匠はめちゃくちゃ驚いていた。

 

仕組みはこう。

私の手のひらにスキマを出現させ、事前に入れておいたコインを出すだけである。

 

 

心七「えっ、えぇーっ!?流石にヤバすぎですよ!どうやったんですか!?」

 

 

師匠は、私の手の上や下、私の腕の所らへんまで隅々まで見ていた。

あ、ちょっとそんなに見られたら恥ずかしい……(/// ^///)

……なんて思っても顔に出すのを必死に我慢して、師匠に仕組みを説明した。

 

 

「実は、コレ……」

心七「え?何これ……」

 

 

私は、手のひらを師匠の方に向けて、スキマを出現させた。

師匠は私の手に触れ、スキマにも少し触れていた。

自分の指が私の手をを貫通するのに驚き、慌てて指を離した。

 

 

心七「これ、紫さんが前言ってたマジックですか?タネはどこに……」

「……………………タネは、ありませんわ」

心七「え?」

 

 

私が意を決してタネは無く、自分の力だけでこうやっているのだと話した。

流石にコインのくだりだけでは信じて貰えなかったので、私がいつも使っているスキマを出し、その中に入った。

スキマが消えると、師匠は振り向いたりして動揺して、背後から私が肩を叩くと、目を見開いて腰を抜かしていた。

 

 

心七「紫さんは、な、何者なんですか……?」

「私は、人間ではありません。妖怪なんですよ」

心七「え、妖怪!?アニメとかに出てくる!?」

「はい」

 

 

私は、スキマを出し、覗いて見て下さいと言って、師匠にスキマの中を覗いてもらった。

スキマの先は、市内の上空。

師匠は、驚いたような、怖がっているような顔で私を見てきた。

 

 

心七「紫さんは、どういった目的で私に近づいたのですか?」

「あ……私は、ただ……」

心七「妖怪は人間を襲うと聞いたことがあります。紫さんもそうなんですか?」

「ち、違います!確かに妖怪の多くは人間を襲いますが……私は……」

 

 

私は、その言葉の先を言おうとして、思わず口を噤んでしまった。

確率の話だ。妖怪である以上、人間を襲う確率が1%でもあるのに、"絶対に人間を食べない"と言ってもいいのだろうか?

そう思っていると、師匠が恐ろしそうに口を開いた。

 

 

心七「すみません……紫さん」

「……はい」

心七「今は、紫さんと冷静に話せそうに話せそうにありません」

「……」

心七「このままだと、紫さんに酷いことを言って、後悔してしまいそうなんです…………だから、ちょっと、頭冷やしてきますね」

 

 

師匠はそう言うと、静かに家を出ていってしまった。

追いかけるべきなんだろうが、何故か足が動かない。

本来なら、妖怪だと知って恐ろしいだろうし、罵声も浴びせたくなるだろうに。

それでも、最後まで私のことを傷つけないことを、考えていた。

……なんて出来た人間なんだろうか。

 

 

「うっ……うぅ…………」

 

 

師匠に拒絶されてしまった悲しさと、私の不甲斐なさに涙が出てくる。

声を出して泣いたことなんて、師匠が亡くなった時以外無いが、溢れ出てくるものは仕方ないでしょう?

霊夢にこんなところを見られたら「妖怪の賢者も泣くのね〜」くらい言われそうだわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霊夢「なぁーに泣いてんのよ、紫!」

「ふぇ?」

 

 

上から聞きなれた声がしたので見上げてみたら、まさかの霊夢がいた。

今考えてたことが現実になるとは、誰が思っただろうか。

霊夢に見られるなんて……なんという偶然かしら?

 

 

「ぐすっ…………霊夢?何故貴女がここに?」

霊夢「龍神王に言われたのよ。様子を見てきてやれってね……そしたら、まさか貴女が泣いてるなんて思わないでしょ?それに、玄関開いたのにすら気付かなかったの?相当落ち込んでるのねぇ」

 

 

霊夢は、溢れ出てくる涙に声も出ない私の背中を、さすってくれた。

霊夢がちっちゃい頃は私が世話してたのに、これじゃ、あべこべだわ……

 

 

霊夢「そ・れ・に!みぃさんは、別に貴女を拒絶した訳じゃないと思うわよ?」

「え?で、でも……」

霊夢「でもじゃない!みぃさんは、拒絶するようなことを、一言でも言ったの?」

「……言ってない」

 

 

確かに師匠は、私のことを受け入れ難いような発言はしていなかった。

ただ、戸惑ったような、今は何も考えられないような顔をしながら、家を出ていった。

 

 

霊夢「前に話させて貰ったけど、みぃさんは良い人よ。あの人なら、話せば理解して(わかって)くれると思うわ?」

「でも、もう1回、話を聞いて貰えるかしら?」

霊夢「それは貴女次第でしょう?いつもの胡散臭い態度はどうしたってのよ?」

 

 

胡散臭いは余計よ、と言って霊夢の額にデコピンをした。

霊夢は、いったーい!と言って私のことを睨んでくる。

だけど、霊夢のおかげでもう1度話をする覚悟が固まった。

 

 

「うふふ、ありがとう。霊夢」

霊夢「普段通りに戻ったわね……別に、お礼なんか要らないわよ」

 

 

もう、ツンデレなんだから〜と言って霊夢の頭をわしゃわしゃと撫でる。

霊夢は凄く鬱陶しそうにしていたけど、でも、本当に感謝している。

私は、霊夢から離れ、スキマの中にあった普段着ている服を取り出し、急いで着替えた。

 

 

霊夢「あら、もういいの?」

「だって、私は師匠に私のことを知って貰わないといけないんですもの。もう隠しごとをしている場合ではないわ」

霊夢「そうね、一応私も着いていってあげるわ」

「あら、優しいのね霊夢ちゃん♪」

 

 

私が再び霊夢のことを撫でようとすると、即座に霊夢の手によって阻止されてしまった。

少し残念だったけれど……棚の上にあった鍵を取り、私たちは家から出た。

 

 

霊夢「私も、隠しごとしてるようなものだから……」

 

 

霊夢はそう言うと、いつも持っている大幣(おおぬさ)を握り締めた。

静寂が劈く(つんざく)夜に、2人だけの足音が響く。

 

 

霊夢「ていうか、貴女のことだし、スキマの中にでも無理やり連れ込んでさ。『幻想郷に来て』って迫れば済む話じゃない?」

「……貴女、結構エッグいこと考えるのね?」

霊夢「妖怪に言われたかないわよ!」

 

 

そんなに単純な考えではいかないのよ、と言ってスタスタ歩いていく。

どこにいるかなんて分からないけど、とりあえず急がなくては。

また、さっきみたいな男どもに襲われてしまっては大変だわ。

 

 

霊夢「ねぇ、スキマ使ったら気配を辿るより一瞬じゃないかしら?」

「あー……えー……そうね、そうしましょう」

霊夢「……忘れてたでしょ?」

 

 

色々と考えることが多すぎて、自分の能力の存在を忘れていたとは……

都合の悪いことは聞こえませんとばかりに、スキマを開き、躊躇無く足を踏み入れた。

後ろに、霊夢も続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前には、公園のベンチに座り、足元を見つめる師匠の姿があった。

師匠は、私たちの存在に気づくと、はっとして此方を見た。

 

 

心七「ゆ、紫さん……?と、霊夢……?」

 

 

師匠の顔を見ると、目の下に涙の跡があり、少し腫れぼったくなっていた。

あぁ、私ったら師匠を泣かせるなんて……

悲しませずに連れてくる計画が台無しだわ、と思っていると、霊夢が口を開いた。

 

 

霊夢「みぃさん、あんなことがあった後で、今の紫を怖がってしまうのもすっごく分かる。でも、同じ人間として、紫の話を聞いてあげて欲しいの」

心七「……同じ人間として?」

 

 

霊夢は頷き、ベンチに腰掛けると、私の方を見て隣をポンポンと叩いた。

こっちに座れという意味だと捉えて、素直に隣に座った。

 

 

霊夢「紫は確かに妖怪で、すっごく強い能力を持っているわ。だけど、ね。紫はそれを振りかざして自慢することもなければ、妖怪のクセに人間の味方をするヤツなのよ。変わってるでしょ?」

心七「……その、なんで私に関わってくれるのかが分からない。人間なんて、数え切れない程いるというのに」

 

 

私がまだ人間だった時、師匠は、妖怪に追いかけられてた私を助けてくれた。

そして、皆のところに連れて行ってくれて、面倒を見てくれて、いっぱい幸せを与えてくれた。

ただの人間だった私を何故助けてくれたのか、そういえば聞いたことがなかったわね。

 

 

霊夢「それは、紫にとってみぃさんが特別な存在だから……………………みぃさんの前世で、特別な存在だったからよ」

心七「前世……!?」

 

 

師匠は、霊夢の言葉にめちゃくちゃ驚いていた。

正直、私も霊夢が師匠にこのことを話すとは思っていなかったので、少し驚いたけど。

 

 

心七「その、前世って、どういうこと……?」

霊夢「あぁ、それはね……」

 

 

霊夢は、そこまで言いかけて、私の方を向いた。

ここから先は自分で話せと言うのだろうか?

確かに、こういうことは自分で話した方が良いと思う。

折角の場面を霊夢に頼ってちゃあ、大妖怪の名が廃るもの。

 

 

「みぃさん、さっきはごめんなさい。驚かせてしまいましたね……」

心七「あ、あの。紫さん……」

 

 

師匠は、おもむろに立ち上がったと思うと、私の前まで来て頭を下げた。

 

 

心七「ごめんなさい!」

「あっ、え?みぃさん!?」

 

 

何故謝るのか全く分からなかったけど、とりあえず師匠に頭を上げるよう促した。

師匠に頭を下げられるなんて慣れてないし、謝られるようなことをされた覚えもないから。

師匠の反応は正常だと思っている。むしろ優しすぎる方だって……

 

 

心七「猫カフェで会って、不思議で素敵な人だなって思ったんです。しかし、それと同時に、どうして私のことをこんなにも気にかけてくれるんだろうって、ずーーーっと思ってたんです。そして、今日、紫さんが実は妖怪だったって知らされて……その一瞬の内に、紫さんが実は私のことを食べようとしてるんじゃないかって思っちゃったんです」

 

 

私は、その言葉を聞いて心が傷んだ。

確かに、幻想郷には、人食い妖怪が沢山いる。例えば、宵闇妖怪のルーミアや鳥の妖怪のミスティア・ローレライなんかが良い例ね。

というか、そもそも妖怪は人間を襲ってその肉を喰うもの。

たまに言われるわ。妖怪らしくない妖怪だって。

 

 

心七「でも、今まで紫さんが私にしてくれたこととかを考えたら……そんな考え、無くなっちゃいました。私を食べる為に私の信頼を得ようだなんて、そんな回りくどいこと、紫さんがする訳ないなって」

 

 

まさか、そこまで見透かされているなんて、と少し笑いが込み上げてしまった。

これも、龍神だった頃の名残だろうか……と思いを馳せる。

 

 

心七「それに、命の恩人である紫さんにそんな失礼な考えは出来ません」

 

 

師匠は、少し俯きがちにそう言った。

命の恩人であるのは私も同じだと思ったし、何より、私が助けたいと思ったから。

師匠の"元龍神"という肩書きを見ていたのではなく、"師匠"を見ていた。

 

 

「ありがとうございます、みぃさん……本当に……」

心七「あっ!?え!?紫さん、なんで泣いて……霊夢、紫さんが!」

 

 

またしても、勝手に涙が出てきた。

そんな私を見て物凄く慌てて、隣にいる霊夢に助けを求めている。

私は、流れてくる涙を必死に止めようとするが、全然止まらない。

しかも、霊夢はそんな私を見て少し吹き出している。

…………あーっ!恥ずかしい(//////)

 

 

霊夢「……とまぁ、紫の正体が分かったところで、本題に移りたいんだけども。なんか、紫が話せそうな状態じゃないから私が話すわね」

 

 

霊夢が、痺れを切らしたのか、私に変わって話し始めた。

まさか、こんなに泣いてる姿を皆に見られるなんて、とてもじゃないけど幻想郷じゃ出来ないわね……^^;

 

 

霊夢「まず、紫は"幻想郷"っていう、こことは隔離された土地の支配者。そして、私はその土地にある神社の巫女よ。ここまでは良いかしら?」

心七「……もう、何を言われても驚きませんよ」

 

 

幻想郷は、私が作った2つの大きな結界によって隔離されている世界。

幻想郷は全てを受け入れる…………それはそれは残酷な話よね。

 

 

霊夢「貴女は前世で紫と知り合い、そして長い期間家族として暮らしてきたの。まぁ、私はその時生まれてないから言い伝えでしかないんだけどね」

「えぇ、霊夢の言う通り。みぃさんと私は、家族だったんですよ」

 

 

私がそう言うと、師匠は少し驚いた後、前世での話をしてきた。

 

 

心七「前世でも、私は人間として生きていたんですか?」

 

 

私は一瞬、どうやって伝えようかと思ったけれど、ストレートに伝えることにした。

だって、伝わりにくい遠回しな言い方だったら、あんまり知って貰えないと思うしね。

私は、師匠が前世で龍神だったこと、この宇宙全てを支配する神だったこと、そして、神社にいた皆のことも話した。

 

とても愛されていた……今も愛されている人物なのだと、私は一生懸命伝えようとした。

だけど、思い出していくと、懐かしい思い出が邪魔をして、涙がまた溢れてきてあんまり話にならなかった。

だけど、師匠は、私の手を包み込んで、優しく静かに最後まで聞いてくれた。

 

 

「だから、電車に轢かれそうになった時、また身近な人を亡くさなければならないのか……と、とっても不安になりましたし、目を覚ましたと知った時は本当に嬉しかったんですよ」

心七「そ、その節はご迷惑を……」

 

 

師匠がまた謝ろうとしたので、私は慌てて止めた。

だって、師匠は何も悪いことをしてないんですものね。

……本当、お人好しなんだから。

 

 

「私はわがままだから、また一緒に暮らしたいなって思っちゃったんです。だから、みぃさん……幻想郷に来てくれませんか?」

 

 

私は、ずっと言いたかったことを師匠に話した。

どんな反応が返ってくるのか凄く不安だったし、少し躊躇われもした。

だけど、言わなきゃ始まらないので覚悟を決めることにした。

 

 

心七「紫さん、1つ聞きたいのですが……宜しいですか?」

「えぇ、勿論。何でも聞いて下さい」

心七「……幻想郷は、楽しいところですか?」

 

 

私は、幻想郷の皆のことを思い浮かべた。

異変が起きて、人間たち……主に霊夢がそれを解決して、神社でどんちゃん騒ぎをする日々……

 

 

「……とっても、楽しいところです!」

 

 

それを聞くと、師匠は私の気持ちを感じ取ってくれたのか、凄く楽しそうな顔をした。

楽しいところだけど、師匠が来たら、皆がその存在を祝福し、もっともっと楽しくなるだろう。

師匠は、私の目を真っ直ぐ見て、口を開いた。

 

 

心七「私も、そこに行って良いですか?」

「!?も、勿論です!嬉しい……!」

 

 

私は、思わず師匠を抱き締めてしまった……あ、勿論力の加減はするけど。

こんなに嬉しい出来事があるだろうか。

 

 

霊夢「さぁーてと。みぃさん、それじゃー幻想郷に行くまでの準備をしちゃいましょうか♪」

心七「あの、幻想郷に行くって言いましたけど……私の相棒たち……カメなんですけど、連れて行っていいですか?」

霊夢「?勿論よ?ウチの庭に池があるのでそこを使って頂戴♪」

 

 

チロルちゃんたちのことね、と思った。

そもそも、チロルちゃんは人間の姿を保つことが出来ているので、その時点で問題は無いけど……

もう一方のカメが妖怪化する可能性も吟味しといた方が良いかしらね。

 

 

「さて、お話も済んだことですし……1回みぃさんのお家に戻りましょ♪」

心七「はい!こんなに夜も遅いですし……ちょっと眠くなってきた気がしますしね」

霊夢「こりゃー、みぃさんが幻想郷に来たら一気に人気者になっちゃうわね♪」

 

 

私たちは、私が出したスキマに、次々に入っていった。

そう、もう1人、師匠が幻想郷に来る前に話をするべき人物がいる。

もう、さっき話したばかりだから簡単に思い浮かべることが出来た。

私が妖怪だと知った後だから、そんなにショックは受けないと思うけど……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう……

 

 

チロル「遅いよー、私待ちくたびれちゃったよ」

 

 

実は、チロルちゃんも妖怪だということも伝えなければならない。



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第61話 黄金の魂を持つ人間、幻想郷に降り立つ

心七side

 

 

皆さんこんばんは、私でーす。

突然なんですけど、家に帰ったら飼ってるカメが美少女になってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんじゃそりゃあ!!!??

 

 

 

 

ってほとんどの人は思うだろうけど、私はそうじゃないんだな〜。

さっき、紫さんから爆弾発言して貰っちゃって、まだ心の整理がついてないってのに。

これも、紫さんの仕業?……って、仕業って言っちゃ失礼かぁ。

 

 

チロル「みぃーちゃん♪」

「わっ、わっ…………」

 

 

自分はチロル……だという子が、私にギュッと抱きついてくる。

メスのカメだから女の子になったのか……

じゃなくて、何故!なぜッ!?

こんなにも次から次まで妖怪が出てくるんだい!?

ゲ〇ゲの鬼〇郎の世界観じゃあないかッ!!!

 

 

「紫さんがやったんですか???」

紫「いいえ」

 

 

紫さんしかいないと思っていたが、どうやら違ったらしい。

じゃあ、誰がやったというのか。

……いや、待てよ。そういえば、さっき紫さんが話してた内容に、私の前世のことがあったよな。

それで、チロルがいたんだっていう話を聞いて、ビックリしたんだったよな。

 

 

「……私と一緒にこの時代に来たの?」

チロル「んー、正解!ちなみに、みぃちゃんの前の前の人生で飼われてた記憶もあるよ。元々野生だったからそのことも全部覚えてるなぁ……」

「マジか!?」

 

 

なんと、さっきの話から続いてビックリポイントである。

ちなみに、チロルと出会ったのが小学6年生の頃。

1番最初の子がアポロっていうオスのカメで、チロルをお迎えする1年前、アポロとペットショップで運命的な出会いをした。

ミドリガメが販売禁止される、本当に本当に直前だったから、ちょっとでも遅かったら、もしかしたら出会えてなかったかもなんだよね……

 

 

「え、でもさ……それじゃ、チロルが妖怪なら。アポロも妖怪ってこと?」

チロル「んー、それがよく分かんないんだよね。私も1回目の転生した時、湖の傍でみぃちゃんに拾われるまで、それっぽい子に出会ってないの。しかも、この子からは妖力……その、妖怪としての力も感じられないわ」

 

 

チロルと一緒に水槽の方に目をやると、浮島に登って甲羅を乾かしているアポロと目が合った。

何も考えてなさそうな目、でも、そこがいい。

妖怪だろうが、動物だろうが、なんでもいい。

幻想郷に行ったら、この子は幸せになれるだろうか。

まぁ、少なくとも、こんな水槽の中で窮屈な思いはしないだろうね。

 

 

「アポロも連れていく。霊夢が言ってくれたから、博麗神社とやらにある池に放す。良いよね?」

霊夢「えぇ、勿論よ。日本と気候は変わらないし、寧ろ今の日本(ここ)で起こるような大災害も無いから、丁度良いでしょうねぇ」

 

 

そう聞いて、ホッとした。

なら、後はもうやることは無いよね。

…………あ、でも。

 

 

「私の友達に……シグっていうんだけど」

紫「あ、みぃさん、そのことなんですが……その、シグさんも、みぃさんを手助けする為にここに来られたのですよ」

「ダニィ!?」

 

 

思わず、変な返事をしてしまった。

まさか、まさか、シグまでグルだったのかよ!

さっきの紫さんの話で、シグのことを聞いていなかったから、シグはてっきり何も知らない一般人だと思ってたよ!

……でも、陰ながら私のことを守ってくれてたなんて、嬉しいなぁ。

 

 

チロル「ちなみに、千奈ちゃんはみぃちゃんが幻想郷に行ってからそっち向かうって言ってたよ。なんでも、現代から画材を持っていきたいとかなんとかで……」

「……シグらしいこったね。コピックとかケント紙とか持っていきそうだわ、あの子」

紫「龍神王にも確認済だから、大丈夫ですわ……もうこの現代にやり残したことは無いわね」

「……後は、私が幻想郷に行くだけですね」

 

 

紫さんに会ってから激動の日々だったなーって思う。

でも、紫さんが私のことをこんなに思ってくれてなかったら、きっと人生は楽しくなかっただろうね。

ホント、感謝感謝だよなぁ。

 

 

紫「ところで、幻想郷にはいつ来て頂けるのでしょう?」

 

 

紫さんが、私に迫る形で聞いてきた。

いや、コワイコワイコワイ!ちょ、近い!紫さん!

って思ったけど言葉には出さなかった。

いやまぁ、別にいつでもいいし、人間関係以外は問題全く無いし。

バイトも、辞める連絡しなくちゃなぁ……

 

 

紫「……みぃさん、バイトは辞めなくて良いですよ。みぃさんが幻想郷に来たら、人々の記憶からみぃさんは消えるので」

 

 

紫さんが、サラリとめっちゃ恐ろしいことを口にした。

流石妖怪か、と思ったけど失礼だから言わない。

まぁ所謂「私は最初からいなかった」ってことになるから、問題は無いんだろうね。

 

 

「では、準備をするので今からお願いします」

紫「!本当ですか!?」

「勿論ですよ。服とかリュックに詰めて行こうかなぁと」

紫「手伝います!ほら、霊夢も!」

霊夢「ちょ、ちょ、引っ張らないで!?」

 

 

私たちは、服がしまってある部屋に移動し、リュックに服を詰め始めた。

なんか、紫さんが興奮気味で霊夢のことを引っ張ってきているが大丈夫だろうか……(¯¯٥)

まぁ、いいやって思いながら整理をしていると、あるものがタンスの中に入っているのを見つけた。

 

 

「あ、これ中学ん時の卒業アルバムだ。一応持って行っとこうかな」

 

 

私が、リュックに卒業アルバムを詰めようとしたその時、紫さんが自分の手を止め、私を制止してきた。

何か問題があっただろうか……と不安になった。

 

 

紫「みぃさん、非常に心苦しいのですが……多分、持って行っても意味無いと思いますよ」

「え、なんでですか?」

紫「……実はですね。こういった写真類も、記憶としての部類に入ります。だから、皆の姿は写っていてもみぃさんだけ消されている可能性があります」

 

 

申し訳なさそうに紫さんは言ってくれた。

まぁ、そゆことなら仕方ないかと言いつつ、卒業アルバムを元の位置に戻した。

というか、そもそも私自身、写真自体をこの人生であんまり撮ってないという、悲しい現実に気づいてしまった。

 

 

「私が去った後、ここはどうなるんですか?」

霊夢「残ってる食材とかあったら譲って欲しいんだけど……」

紫「……みぃさん、すみません。霊夢に譲ってもいいでしょうか?」

「ふふ、お構いなく。私の残したものが誰かに使って貰えるのは幸せですから(*´︶`)」

 

 

私たちは、霊夢がキッチンの方にトタトタと走っていくのを見送った。

そういえば、アイスとかもまだビックリするくらい残ってたような……キャンプ行った時のクーラーボックスと大量の保冷剤があったはずだから、それも持って行こうかな。

 

 

紫「みぃさん、幻想郷に来たら、すぐに皆さんにみぃさんのこと紹介したい……と言いたいところなんですが、疲れを取ってからにしましょうか」

「あ、お気遣いありがとうございます!そうですね、色々落ち着いてからでお願いしますね^^」

 

 

そして、私は自分の荷物をリュックに詰め終わり、忘れ物が無いか確認した。

ちなみに、お金はこっちのを幻想郷でも使えるらしい。

ていうか、そもそもこっちのお金が幻想郷で普及しているらしい……

だって、霊夢に初めて会った時、500円玉を賽銭箱に入れたら超喜んでたもんねぇ。

 

 

紫「あの……」

「どうしました?」

紫「実は、言い忘れていたことがあったんですが……」

 

 

私の家は、博麗神社のすぐそばに作ってあるらしい。

それに、なんと、なんと、幻想郷に攫ってしまうお詫びとして、インターネットを使えるようにしてくれるらしいのだ!

動画も見れるなんて最高かよ!

 

 

「ありがとうございます!!!」

紫「いえいえ、お気になさらずに。無理矢理連れてきてしまうお詫びですよ」

「私が行きたいと思ったから行くんですよ?」

紫「……!ありがとうございます!」

 

 

勿論、元の世界が嫌いになったとかそういう理由ではない。

紫さんが愛している幻想郷を、この目で見てみたいのだ。

それに、紫さんが言うんだから、幻想郷にいる人たちもみんな良い人なんだろう。

ますます行くのが楽しみになってきたなあ!

 

 

「さて、あとは食材だけなんですが……」

紫「霊夢、遅いですね。全く何をそんなに……」

 

 

まぁまぁ、と言いながらキッチンに向かう。

まだまだ食べ盛りなんだから、いっぱい食べなきゃね。

それに、あんまりお金無いって言ってたし、助けられるなら助けたいし。

と思っていると、私は、キッチンで凄いものを見てしまった。

 

 

霊夢「あっ……」

チロル「あっ……」

「あっ……」

紫「あっ……」

 

 

4人して同じ言葉しか喋ってねぇじゃん、と思ったけど、いや、マジでこの光景見たら誰でもこうなるから!

まぁ、霊夢が食材をめっちゃ詰め込んだ袋を抱えているのは……まぁ、ふふっ……想像してたよ。

問題はチロルの方!

 

 

チロル「あっ」

 

 

チロルが食べていたものが、口からポロッと床に落ちてしまった。

爬虫類とかカメみたいな生き物を飼っていた人は共感してくれるんじゃないだろうか。

この子たちの大好物のことを。

 

 

紫「チロルちゃん!!?」

霊夢「いや、なんかさっきから美味しそうに食べてるなーって思って……なんだろうなーとは思ってたのよ!?」

「あぁ……うん、まぁ、美味しいなら良いんじゃない」

チロル「( "´༥`" )ŧ‹”ŧ‹”……うん、美味しい。香ばしくて、サクサクしてる。生きてるのとはまた違った良さがあるよねー」

 

 

チロルの華麗な食レポに感動しながらも、あーそういえばこの子カメだったわー肉食だったわーとかいう風に1人で考え事をしていた。

想像してみてほしい。さぞかし美味しそうなんだろう、美少女がコオロギをむしゃむしゃ食べているところを…………

 

 

チロル「あっ!!!みぃちゃん、幻想郷にこれ持っていってもいーい!?あと、ミルワームも!!!」

「あー、分かった分かった!それも持っていこうねぇ!?」

 

 

チロルの興奮具合に圧倒されながら、彼女が持っていた乾燥コオロギと、そのストックを全てリュックに詰め込む。

問題は……ミルワームだよな。これに関しては幻想郷で上手くキープ出来るかどうか……

私は、ミルワームを袋の方に移し替え、手に持った。

 

 

紫「みぃさん、準備は出来ましたか?」

「そうですね、持っていくものはもう詰め終わりました」

霊夢「私も……おっと、終わったわよ」

チロル「うん、私も……ムシャムシャ……終わったよ」

紫「…………行きましょ」

 

 

紫さんがマジか、という目でチロルと霊夢を見てた。

長い時間一緒に過ごしていたと聞いたけど、こればっかりは慣れていないんだろうか?

霊夢に関しては野菜とか肉が詰められている袋を持って、ていうか持ちすぎてコケそうになってるし……

紫さんが何も無い空間に手を翳すと、そこに1本の線が引かれ、パックリと大きく裂けた。

 

その中を覗いてみると、目玉がギョロギョロと蠢いていた。

私は、少し恐怖を覚えながらも、意を決してその中に足を踏み入れた。

差し込んできた眩い光に思わず目を閉じ、手を翳しながら辺りを見てみた。

そこは、いつの日か見たことのある光景に思え、それに、すぅーと息を吸い込んでみると、感じたことの無い程に空気は澄んでいた。

 

 

紫「よっと……さて、みぃさん。ここが幻想郷ですわ」

 

 

紫さんが、私の後ろから話しかけてきた。

霊夢やチロルも、後から続く。

ここがこれから過ごすところかぁ……と考えていると、遠くから何者かが凄いスピードで近づいてくるのが感じられた。

そして、その人物は間も無い内に私の前に降り立ち、私に気づくと、まじまじと見つめてきた。

 

 

?「おおっ?見たことないヤツだなぁ!紫、コイツが例の?」

紫「そう、この人がみぃさんよ……挨拶しなさい」

 

 

白黒の服を着込み、魔女のような大きいとんがり帽子を被っている少女は、帽子をくいっと上げると、とびきりの笑顔でこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔理沙「よろしくな!私は霧雨 魔理沙(きりさめ まりさ)だぜ!普通の魔法使いだっ!」



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第62話 おてんば魔法使いと、ちょっとした探検譚

私が幻想郷に来て何日も経ったけど、案外普通の所だった。

妖怪がうようよいるって聞いてたけど、そんな怖くないじゃん!

 

 

魔理沙「よっ、みぃ!」

 

 

のどかな日々が続いていくのを感じていると、窓が突然ガラッと開いた。

邪魔するぜーって言って律儀に靴を脱いで勝手に入ってくる魔理沙は、失礼なのかそうじゃないのかたまに分からんくなる時がある……

 

そう、魔理沙はだいぶ元気のある魔法使いだ。

私が幻想郷に来て間もない頃、ていうか今もそんなに時間が経った訳じゃ無いけど、色々と幻想郷について教えてくれた子だ。

霊夢と同い年で、色々と騒がしいから迷惑だって言ってたけど……当の霊夢本人は満更でも無さそうだったな。

 

 

「いらっしゃい、今日はどうしたの?」

魔理沙「いやー、実はな?湖の方に変な建物ができたんだよ。突然だぜ?」

「異変、ってやつ?」

魔理沙「あ、いや、まだ何も起きてないからな?ちょーっと気になったからだぜ」

 

 

みぃも行くか?って聞いてきたけど、私は遠慮しておいた。

ここは外の世界じゃなくて、幻想郷だから。

力の無い私がホイホイ外に出てたら、多分簡単におっ死ぬ。

 

 

魔理沙「だからさぁ、ちいとばかし探検しに行こうか、ってところだ!」

 

 

ふふん、と魔理沙は自信ありげに語った。

まぁ良いんじゃない。気をつけてねーって言いながら毛布にくるまった。

エアコンガンガン付けまくってるからちょっと寒くなってきてね……(消せば良くね?)

そしたら魔理沙が、私のくるまっていた毛布を剥ぎ取ってきた。

なんか嫌な予感……_(:3」∠)_

 

 

魔理沙「何言ってんだ!みぃも行くんだぜ!」

「アー、ヨウカイコワイナー、ワタシナンカワンパンデヤラレチャウナー」

魔理沙「棒読みだから何言ってるか分かんないぞ!と・に・か・く!私の後ろにくっ付いてりゃ問題無いって!」

 

 

行くぞ!っと言い、靴やらなんやらをあっという間に履かせ、私を強引に箒の後ろに乗せたかと思うと、凄いスピードで発進した。

急発進急加速良くない!

 

 

「安全だっていう確証がどこにあるっていうんだよぉ〜〜〜!?」

魔理沙「そんなのひとつしか無いだろ!…………この魔理沙様が付いてるからだぜっ!」

「なんじゃそりゃあ!?」

 

 

私の頬を荒々しい風が横切っていく。

幻想郷も外の世界と同じく夏なので、暑いはずなんだけど、魔理沙が出すスピードのお陰でメッチャ涼しかった。

ただ、もうちょっとスピードを落として欲しい……((>_< ;))

 

そんなこんなであっという間に湖まで到着し、私たちは噂になっている建物を見つけた。

魔理沙は平気なのだろうか、私はその建物の"赤さ"に、思わず目が眩んだ。

 

 

「赤っ……何この建物……」

 

 

湖のほとりに住んでいる妖精たちは、突然現れた建物に興味津々のようで、群れて騒いでいた。

魔理沙と一緒に赤い建物を見ていると、薄い水色の髪の毛をした妖精が傍に来た。

そういえば、前、博麗神社で宴会した時にちょっと話したような……と思い出す。

 

 

「こんにちは、チルノ。貴女はあの赤い建物について何か知ってる?」

チルノ「こんにちはー!んー?アレのこと?」

 

 

と言って、チルノは赤い建物を指さした。

霧の湖と呼ばれている湖は確かに霧がかってはいるものの、それでも赤さが分かるくらいの赤色をしている。

 

 

チルノ「みぃたちはあそこに行くのかー?」

「私は誘われただけだよ」

魔理沙「なんだよ!つれないなぁ……ほら、さっさと行くぞ!」

 

 

私はチルノに別れを告げると、魔理沙に強引に連れられるまま赤い建物に向かった。

歩いたら湖に沿って歩かねばならないが、そこは魔理沙の箒で一瞬ですよねー。

まぁ、私はほぼ強制的に連れてかれたようなもんなんだけどねー。

 

そこまで時間はかからず、赤い建物のそばまで辿り着いた。

マトモに見たら目がチカチカしそうだけど、魔理沙はお構い無しに進んでいく。

門には門番らしき人はいなかった。

だけど、魔理沙は正面から入る気は無いようで、裏口?のようなところを見つけた。

 

 

魔理沙「こういうところにお宝があるんだなぁー♪」

 

 

魔理沙は、私の顔を見ると、とっても悪い顔をした。

まさか泥棒するつもりなのか!?……あ、魔理沙の性格上、それほど珍しいことでもなかったんだった。

 

 

「……」

魔理沙「……」ガチャガチャガチャガチャ

 

 

ドアノブを何度も回す音が虚しく響いている。

まさか、鍵がかかっているのか。

いや、他人ん家のドアをそもそも勝手に開けようとするな。なんて声がどっかしらから聞こえてきそうだが、魔理沙は諦めなかったようだった。

 

 

魔理沙「ふぅ……」

「……?」

 

 

魔理沙はじっとドアノブを見つめ、その次にドアの全体を見渡した。

開けられないので、別の入口を探すか諦めるのか。

なんて思っていると、その……なんだっけ、"ミニ八卦炉"なんて言うんだったか。白黒の物体を徐に取り出し、ドアに向けた。

……おい、まさか。

 

 

魔理沙「ちょっと離れてろ!」

 

 

やっぱそうですよねえええ!!?

いや、なんとなく分かってたよ!?

魔理沙の性格上、諦めるってことはしなさそうだなーなんて思ってたよ!?

予想の10°くらい斜め上の回答ありがとうございます!!!

 

 

「ちょ、ちょ、ちょ、魔理沙!流石にマズイって!怒られるよ!?」

魔理沙「大丈夫だって!何かあったら守ってやるから!…………マスタースパーク!!!」

 

 

私の制止も虚しく、魔理沙のミニ八卦炉から極太の光線が放たれた。

凄い爆音が響き、壁は破片となって崩れていった。

私は、こっちにまで広がってきた砂埃に思わず目を瞑った。

咳が出るレベルの砂埃、ヤバくない?建物内の広範囲に被害及んでない?

 

 

「はー……魔理沙?やり過ぎ……」

魔理沙「いや、わりぃ。力加減が」

 

 

てへぺろ、といって魔理沙は笑って見せた。

そうやってるうちは可愛いのに……( ≖_≖)

ていうか、何がてへぺろ、だ。他人の家壊しといて。

 

 

魔理沙「ほー……図書館か!」

 

 

魔理沙の後ろで怯えながら進んでいると、何やら本が沢山ある、だだっ広い空間に辿り着いた。

図書館って言っていい広さじゃないよなー……なんて思ってたら、魔理沙が本棚に敷き詰められてる本のうちの1つを手にした。

 

 

「……魔理沙?」

魔理沙「……:(´◉ᾥ◉`):ウグッ」

 

 

懐に本を忍ばせようとしている魔理沙の肩に手を置き、制止した。

私の家から色々盗むのは百歩譲っていいとして、他人の家から盗るのは本当にダメだぞ。

 

 

魔理沙「わーかったんだぜ……」

 

 

しょぼーんとしながら本を本棚に戻す魔理沙を見て、今度は周りを見渡した。

こんだけ本があったら、マジで1冊くらい盗ってもバレないんじゃね、とか思ったが。

ところで、感覚をよくよく研ぎ澄ましてみると、辺り1面からなんだか不思議な力が放たれているのを感じる。

私にもあるらしいが、魔力というものなんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「あら、随分と騒がしいと思ったらネズミが入り込んでいたのね」

魔理沙「おっ?」

 

 

なんだか綺麗な声がするな、と振り返ったそこには、紫色のゆったりした服を着ている女性がいた。

この図書館の主だろうか、この館の住民だろうか、と考えていると、その女性はため息をつき、こちらに近づいてきた。

 

 

?「美鈴(めいりん)は何をしていたのかしら?こんな人間を館内に入れてしまうなんてね」

魔理沙「誰なんだぜ、お前は?」

 

 

いや、名前を聞けるような立場じゃねぇだろ。と私は思った。

今、私たちはめっちゃ失礼なことをしてるって理解しような?

親切にも、その女性は名乗ってくれた…………既に戦闘状態に入っているようだったが。

 

 

パチュリー「私はパチュリー・ノーレッジ。この"ヴワル魔法図書館"の主よ……はぁ、もう。貴女たちのせいで修繕費がバカにならないわ!!!」

 

 

パチュリーと名乗った女性は、ブワッ、と魔力のようなものを放出しながら、空中に浮いた。

うん、やっぱり、壁を壊したことバレてましたね。

というか、バレない方がおかしいよね。

そして、私の命の危険が迫っていますねーーー!!?

 

 

「魔理沙!?私まだ死にたくないんだけど!!!」

魔理沙「分かってる!連れてきた手前、怪我なんてさせられるかなんだぜ!!!」

 

 

魔理沙は、サッと私を抱え、箒の後ろに私を乗っけた。

魔理沙が強いのは分かるけど、私を抱えながら、激おこプンプン丸な相手を鎮めることが出来るのか。

言っとくけど、私何も出来んからな!?

紫さんに私の前世のこととか、能力のこととか聞いたけど、今は力無き普通の人間なんでね!?期待しないでね!?

 

 

パチュリー「あら、後ろの人間は弱そうね……それから、金髪の人間、貴女だけは絶対許さないわよ。覚悟なさい!」

魔理沙「やーやー、すまんかった!入口が分からなかっただけなんだよー。お前も魔法使いなんだろ?同じ魔法使い同士、仲良くしようぜ?」

パチュリー「館を壊して入ってくるような人間とは仲良くなんて出来る訳ないでしょ!!!」

 

 

……うん、ごめん。魔理沙。私はパチュリーさんと同意見です。

といえども、魔理沙に着いていかなかったら私の命の保証は無い訳で。

 

 

パチュリー「それに、人間がちょいと齧った程度の魔法で私に敵おうだなんて、聞いて呆れるわね。今から本当の魔法を見せてあげるから、冥土の土産話にでもすると良いわ!」

 

 

パチュリーさんは、魔導書?のようなものを開き、詠唱を始めた。

私からしたら魔理沙でも充分強いが、このパチュリーとかいう魔法使いは、もっと強いのであろうことが素人でも分かるくらい、存在感がハンパない。

 

 

「魔理沙、お願いだから負けないでよ!!!」

魔理沙「分かってるんだぜ!」

 

 

魔理沙は、パチュリーさんと同じくらいの高さに浮かぶと、魔力を放出した。

これから本当に戦闘が始まるんだ……と、私は思わず身構えた。

いや、私が戦う訳じゃないけどね?

お願いだから、魔理沙、負けないでくれよ……私たちの命がかかってるんだよ、と魔理沙の腰につかまる腕の力が強くなった。



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第63話 私にも都合というものがあるのよ

今回は短めです。
魔理沙&主人公VSパチュリーの前に、紫たちの間で何が起こってたかだけすこーしですが 書きます。


紫side

 

 

「えっ?師匠が……?」

霊夢「そーなのよ。あの人が1人でどこかへ行っちゃうなんて、万が一にも有り得ないと思うわ。前世が龍神様だったとはいえ、あの人はまだ何の力も取り戻していないような人、云わば一般人よ?急いで探した方が良いと思うわ」

 

 

私はかなり焦っていた。いや、だいぶ。本当に。

私がこんな風に焦るなんて師匠が外の世界で電車に跳ね飛ばされそうになった時くらい……かしら?

いや、そんなことよりも師匠のことだ。

師匠の家には、師匠に害を与えようとする意思のある者が入れない結界を張ってあるはずなのに。

 

私は、師匠が幻想郷に来てからも献身的なサポートを続けていた。

食料やお小遣いは渡していたし、生活には何ら困らないようにしていた。

だから、今日も顔を出しに来た……はずだった。

 

のに、いない。失礼しまーす、と言って入らせてもらって、家中探してもいなかった。

争った後も無ければ、血痕も無い。

妖怪特有の、妖力の跡も無い。

これで、妖怪に連れ去られたという可能性は無くなった。

人間でも、害を与えようとすれば結界によって跳ね返されるので、人間の犯行である説も消えた。

 

 

「人里にいるのかもしれない」

霊夢「え?この距離を1人で行ったの?悪いけど、お世辞にも体力有りそうに見えないみぃさんが?」

「結構ズバッと言っちゃうのね、貴女……でもまぁ、可能性がありそうなのは人里でしょう。霊夢、空からみぃさんを探して」

霊夢「これでただ単にトイレ行ってただけ……とかだったら笑えるわね。はーい、気をつけてね」

 

 

私は、空から探すように霊夢に言い、自分は人里に移動した。勿論スキマで一瞬。

私の心配を他所に、人里は今日も賑わっていた。

まぁ、さっきも霊夢が言ってた通り、人里から博麗神社、師匠の家までは結構かかる。

山登りに慣れている人でさえ、冗談抜きで2時間はかかるだろう。

飛んだら一瞬だけど、師匠はまだ力を持っていない非力な人間だ。

 

 

幽香「紫、久し振りね」

 

 

私は、肩をトントンとされたので振り返ると、幽香がいた。

人里には、人間に対して友好的な妖怪ならば入ることが出来る。

ので、幽香が人里にいても何ら不思議では無いのだけど……今はそんなこと言ってる暇は無い。

 

 

「幽香、突然で悪いのだけど、師匠を知らないかしら?」

幽香「あぁ、あの子ね。闇……いえ、今は"みぃちゃん"だったかしら」

「そう。師匠が行方不明でね。家に行ってもいないし、博麗神社にも来てなかったの。だから、今の所1番確率が高そうな人里に来ているという訳なのよ」

 

 

幽香は、私の言葉を聞くと、ふぅ〜ん……と言いながら、日傘をくるくると回して何かを考えていた。

そして、辺りを見渡すと、少し残念そうな顔をして言った。

 

 

幽香「私は結構長い時間人里に来てるけど、みぃちゃんらしき人間は見てないわね」

「そう……」

 

 

私は、少しどころか、かなり焦りを覚えていた。

このまま見つからなかったらどうするのか。

人里にいないとなると、どこにいると言うのか。

魔理沙の家に行ったか?……いや、現実的に考えてそれは有り得ない。

人間の足で、無事に辿り着けるような場所にある訳じゃあない。

 

 

幽香「ま、あの子と戦うのが私の夢でもあるから、私にとってもあの子に死なれるのは嫌だしね。なんとなく探しておくわ」

「うん……ありがとう、幽香」

 

 

幽香はそう言うと、どこかへ行ってしまった。

私が知っている限りの妖怪には、師匠のことは紹介しているので、喰われる心配は無いんだけど。

私は、はぁ……と溜息をつき、師匠がいそうなところを虱潰しに探すことにした。

と、その時。上空から私を呼ぶ声がしたのでそちらを向くと、霊夢が焦ったような表情をしていて 、瞬く間に私の前に降り立った。

 

 

霊夢「紫、大変よ!」

「どうしたの!?師匠は!?」

 

 

霊夢が息を整え、落ち着いて聞いてねと私に言った。

もしかして、師匠が見つかったのだろうか。

もしそうなら、早く行かなければ……と思ったが、私は、次の霊夢の言葉に耳を疑った。

 

 

霊夢「みぃさんは、魔理沙と一緒に、霧の湖の方にいるらしいわ」

「ハァ!?」

 

 

私は、とりあえずは見つかって良かったという安心と、魔理沙と一緒にいるという心強さと、何故魔理沙は霧の湖の方に師匠を連れていったんだという困惑で、頭の中がこんがらがっていた。

 

 

霊夢「氷の妖精に聞いたのよ。霧の湖の方でみぃさんを見たって。後、そこにある赤い館の方に向かったって」

「赤い、館……」

 

 

私は、なんだ、紅魔館のことか、と瞬時に理解出来た。

だって、紅魔館の主である吸血鬼に、幻想郷に来ないかという打診をしたのも私なんだから。

それにしても、何故館の方へ……?と考えていた。

 

 

霊夢「……で、どうする?連れ戻す?どうせ魔理沙のことだから、興味本位で連れていったに違いないわ。魔理沙の実力でみぃさんを守り切れるか心配だから、私は連れ戻す方が良いと思うんだけど」

「当たり前でしょ。連れ戻すわよ」

 

 

私は即座に、紅魔館から師匠を連れ戻す為、霊夢と共に紅魔館へ向かおうとした。

だけど、そこで想定外のことが起きてしまった。

人里にいる人間が、空を見上げて騒いでいる。

何事か……と私も空を見上げると、空の端からこちら側までジワジワと侵食してきている、"真っ赤な霧"があった。

 

 

霊夢「こ、これは!?」

「赤い、霧……方角的には、霧の湖の方だわ!」

 

 

雲の流れと共に幻想郷上空を侵し始めている赤い霧は、紅魔館のある湖から流れてきているようだった。

吸血鬼が起こした異変だろう、と私は思ったけど、それなら私が介入する訳にはいかない。

外の世界で居場所を無くした吸血鬼たちを誘ったのは私だ。

そして、幻想郷での地位、知名度が欲しいなら、異変を起こして巫女を倒すのが1番手っ取り早い……と教えたのも私だ。

だから、直接介入する訳にはいかない。

私としては、"博麗の巫女が、異変の首謀者を倒し、異変を解決する"

といった形で、人間と妖怪のバランスを保ちたい……なので。

 

 

「……霊夢、今回の件、やっぱり貴女にお任せするわね」

霊夢「え!あんなに師匠、師匠ってウルサいくらいに言ってたあんたが?」

「私だって、師匠が危ないならそこに飛んでいきたいわよ?でも、これは異変。巫女の仕事よ」

 

 

霊夢は、私の言葉を聞いて、ハァ……と額に手を当てて溜息をついた。

しかし、諦めがついたかのように、背筋を伸ばし、シャンシャンと大幣を振るった。

 

 

霊夢「……まぁ、良いわ。そもそも、普段からあんたは、妖怪は自己中で自分勝手なんだから、今に始まった話じゃないわよね。それじゃあ行ってくるから、終わった後の宴会の準備しておきなさいよ!」

 

 

一瞬で飛び立った霊夢は、赤い霧の発生源の方へと向かっていった。

ごめんなさい、霊夢……異変には手を出さないのが私のスタンスなのよ。

でも、そうね……一言だけ言えるなら。

 

 

「……あそこは骨が折れる現場よ」

 

 

そもそも、貴女の制定した"スペルカードルール"は、相手を殺しちゃあいけないルール。

もしも殺してしまえば、私からキツイ仕置が待っていること、それをあの吸血鬼が破るはずも無いと考えると、護衛は魔理沙と霊夢だけでも充分なのよね。

 

 

「霊夢、信じているわよ」

 

 

私はただ、この異変に関わる全員の無事を祈るのだった……



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第64話 トラブル続きの館探索

いよいよ本格的に紅魔郷突入でございます。
皆様のご想像と異なる展開かもしれませんが、ご了承くださいm(_ _)m
パチュリー、小悪魔、レミリア、フラン、咲夜は出てきてるのに美鈴はどこ行ってんだって思いますが、館の中にいる設定でございます( ̄▽ ̄;)
グダグダ展開お許しください。


心七side

 

 

「うわっ……おっとと」

 

 

私は、激しく動く箒に揺られながら、必死に魔理沙にしがみついていた。

だって、落ちる=死。みたいなとこがあるんだもの。

魔理沙は魔理沙で、パチュリーさんの攻撃の回避に必死なので、チラッと私の方を見て無事なことを確認すると、また攻撃と、回避、に徹していた。

 

 

「これは三半規管が鍛えられるなぁ〜……じゃなくて!魔理沙、大丈夫!?」

魔理沙「勿論だ!弾幕は……パワーなんだぜっ!」

 

 

意味のわからない言葉を言いながら、弾幕を張っていた。

魔理沙の綺麗な色の弾幕は、中々目を見張る程の美しさがあるが……今はそんなこと言ってられねえ!

パチュリーさんも、魔法を詠唱しながら魔理沙の弾幕を避けるなど中々に器用なことをしていた。

 

 

パチュリー「人間の魔法使い!覚悟なさいッ!!!」

 

 

パチュリーさんがそう叫ぶと、水色の沢山の弾幕がパチュリーさんの背後から放出された。

そういえば、スペルカードだっけ?必殺技みたいなものがあることを紫さんや霊夢から聞いてたけど、2人ともそれっぽいものを使ってた雰囲気無いけど、使わないのかな?

 

 

魔理沙「やっべええ!?」

「えっ?うわぁ!!?」

 

 

魔理沙が、弾幕を避けて避けてとしている内に、いつの間にか箒の先っぽ部分とカスっていたようで、パチパチパチ……と燃え上がる音がしていた。

正に、私の後ろの超近くで。萌えているんだ!違う!燃えている!

 

 

魔理沙「クッソ……!みぃ、大丈夫か!?」

「わ、私は大丈夫……」

 

 

箒に揺られすぎて気持ち悪くなってきてるけど……( ̄▽ ̄;)

私の服まで燃えないか、と心配していたけど、そこは魔理沙。

私まで配慮は充分してくれてるみたい。

 

 

魔理沙「しゃーないな……みぃ!しっかり掴まってるんだぜ!」

「え!?うん……!」

 

 

魔理沙は私にそう言うと、懐からカードみたいなものを取り出し、パチュリーさんに向け叫んだ。

 

 

魔理沙「 魔符 スターダストレヴァリエ !!!」

 

 

魔理沙が叫んだ瞬間、私たちの周りから星が次々と現れ、パチュリーさんの方へと飛んで行った。

星は手のひらサイズくらいの大きさ。

こんなんでほんとにダメージ食らうの?と思ってたけど、でも、意外とパチュリーさんにとって大?ダメージっぽかった。

 

 

パチュリー「ヒュ……ヒュ……ゼェ…ハァ…」

 

 

さっきまで飛んでいたはずのパチュリーさんは、フラフラと力無く地上に降り、机を支えにして片手で胸を抑えていた。

……敵に情けをかけるなどやってはいけないこととは言われているけど、この状況は違うでしょ。

それに、パチュリーさんの今の状態に、外の世界にいた時に知っていた、とある症状に見覚えがあるんだ。

 

 

魔理沙「おいおい……大丈夫かよ、パチュリーとやらは?」

「……いや、私が見るにパチュリーさんの状態はちょっとマズイよ。魔理沙、下ろして!」

魔理沙「え!?わ、分かったんだぜ」

 

 

私は、魔理沙が箒を地上近くに下ろすと同時に走り、急いでパチュリーさんの近くに行こうとした。

……本棚の近くに隠れていた、もう1人に阻まれてしまったので出来なかったけど。

 

 

?「あっ……貴女たちは、こんなになってるパチュリー様にまだ追い討ちをかけるんですかッ!」

 

 

赤いロングヘアと頭に黒いコウモリのような羽を生やし、背中にこれまたコウモリのような羽を生やした少女が、私とパチュリーさんの間に立ちはだかった。

まぁ、傍から見たら私がトドメを刺そうとしてるようにも見えるのかも……

 

 

「貴女は?」

小悪魔「わ、私は小悪魔。パチュリー様の使い魔です……」

「小悪魔さん、貴女のご主人は今危ない状態になってます。貴女が傍で見てて良いから、私に任せてくれませんか?」

 

 

小悪魔と名乗る少女は、少し考えた後、私に引き渡してくれた。

パチュリーさんの手は繋いだまま、私に警戒心MAXの状態ではあるけど。

 

 

「小悪魔さん、今までにこのような症状が出たことは?」

小悪魔「……実は、パチュリー様は喘息持ちでして、時たまこのような症状が出てしまうのです」

「!では、薬などの服用は?」

小悪魔「……いえ、普段はここまで重くなることはありません。外にあまり出ない人ですから、久しぶりの活動で倒れてしまわれたのかもしれません」

 

 

パチュリーさんの目は少し半開きで、私たちの方を視認している為、意識はあると思われる。

しかし、この症状で声を出すのはしんどいのかもしれない。

だから、早くしないといずれは息が出来なくなり、最悪の場合、呼吸困難で亡くなってしまう可能性が出てきてしまう。

 

 

「たしかこれに……あ、あった」

 

 

魔理沙に連れられる前、飲んでいたルイボスティーを持ってきておいてよかった。

クッソ涼しい部屋で毛布をかぶって温かいルイボスティーを飲む。

これこそ夏最高の過ごし方ってもんだよねぇ!

 

いや、それは置いておいて。

タイミング良く喘息に効く飲み物を持ってきておいて良かった。

割とマジで温かいルイボスティー……ノンカフェインの飲み物って喘息に効くらしいので、凄く奇跡的だと思う。

多分小悪魔さんは毒が入っているのかもしれないと疑っていると思うので、一応私が試しに飲んでおく。

 

 

「……この通り、毒は入っていませんのでご安心ください」

小悪魔「は、はい……それはお薬なのですか?」

「いえ、これを飲んだら痰を吐きやすくなるだけなんですが……痰を吐いた後、安静にしていれば治りますから」

 

 

私は、パチュリーさんにルイボスティーを飲ませた後、痰を出なくなるまで吐いてもらった。

まさか、喘息の患者を幻想郷で見るとは思ってなかった。

僅かな知識だけど、知っておいてよかった。

 

 

小悪魔「……このまま、安静にしていれば治るのですね?」

「はい、薬がない今、最大限の出来ることはしました。冷たい飲み物は喘息には危ないですから、飲ませない方がよいかと」

小悪魔「ありがとうございます……貴女の名前を知っておきたいのですが、お聞きしても良いですか?」

「……皆星 心七(かいせい みな)、ただの人間ですよ」

 

 

私は、名前を告げると、この場から離れようと立ち上がり、魔理沙の方へと歩き出した時だった。

微かに、声がしたので振り返ると、パチュリーさんが私の方を見て少し微笑んでいるのが見えた。

 

 

パチュリー「……ありがとう」

「お礼なんていりませんよ」

 

 

マシになったようで良かった、とだけパチュリーさんに告げ、今度こそ魔理沙の元へ走っていった。

パチュリーさんのことでいっぱいで魔理沙のことなんて眼中に無かったと言ったら失礼だろうか。

いや、大丈夫だよね。ほら、私が来るまで本読んでたっぽいし。

 

 

「本盗んでないよね?」

魔理沙「なっ!失礼なんだぜ!?」

「なら良し。さて、行くあてはあるの?」

魔理沙「ん〜、とりあえず探索を……」

 

 

と、魔理沙が言いかけた時、凄く大きな爆発音が鳴り、図書館が少し揺れた。

ビビりな私はかなり驚いたけど魔理沙は平気なのか。

 

 

魔理沙「よし、行ってみよう」

「何でそうなる!?〜〜もう、どうなっても知らないからね!」

 

 

私は、魔理沙に言われるがままに、図書館を後にした。

置いてきたパチュリーさんが心配だけど、横にいた小悪魔さんとやらがどうにかしてくれるだろう。

 

 

魔理沙「ふー……やっと外に……って、え?」

 

 

魔理沙が空を見上げ、目を点にしていたので不思議に思い、私も同じく空を見上げてみる。

するとそこには、視界いっぱいに広がる赤い霧が空を覆い尽くしていた。

 

 

魔理沙「凄く赤いな……こりゃあ、ますます中に入るのが楽しみになってきたんだぜ!」

「いやいやいやいや、なんでこの状況で楽しみになってくるの!?ちょっとおかしいよ魔理沙……って、もう!」

 

 

魔理沙はそう言うと、図書館に通じる扉の方ではなく、玄関の方へ向かった。

私はもう半ば諦め状態である。ドウナッテモシーラナイ。

玄関と言ってもだいぶデカいが。私何人分だろうコレ。

見た目に反して結構簡単に開いた扉は、ギィ……と音を立てて私たちを中に招き入れた。

そこで、私たちはとんでもないものを目にする。

 

 

「!?」

魔理沙「な、なんかヤバいことになってるんだぜ!」

 

 

床には大穴が空き、天井のシャンデリアは落ち、タイルは剥がれ落ちていた。

一目で何かあったんだ、と分かるくらいの惨状。

もしかして、さっきの爆発音が何か関係しているのか?

そうしていると、すぐ近くから人の声がした。

……否、人ではない。私は、声の方向を見て、すぐに自分の考えを改めた。

 

 

?「アハ、人間だーーー!!!」

 

 

金髪に帽子をかぶり、赤い服をまとい、宝石のような羽を揺らした少女。

いや、幼女と言うべきだろうか……私よりちっちゃいし。

頭を無くしたクマのぬいぐるみを持ったまま、私に近づいてくるその子は、だいぶ私の恐怖を煽ってくる印象だった。

 

 

「えっと……貴女は?」

フラン「私はフラン!フランドール・スカーレット!」

「へ、へぇ……良い名前だね……」

フラン「えへへー!そうでしょー?」

 

 

無邪気に笑顔を見せるフランと名乗るその子は、もしかして普通の人間なのではないかと疑ってしまうが、背中に生えた羽と口から覗かせる牙が、私を現実へと引き戻す。

魔理沙に目配せするが、首を傾げるばかり。

なんだろう、この違和感……普通の女の子に見えるのに、何故かフランドールを見つめる度に恐怖がせり上がってくるというか……

感じたことは無いだろうか。例えようがない恐怖というものを。

 

 

「この、天井とか床とかはフランドールが空けたの?」

フラン「そうだよー!"お姉様"が私をずっと閉じ込めてくるから、退屈しちゃってたの……」

 

 

でも、とフランドールが続ける。

 

 

 

 

 

フラン「貴女たちが来てくれたお陰で、今とっても楽しいの!だって、貴女たちはずっと壊れずにあそんでくれそうだもの!」

 

 

 

 

 

あ、ヤバいと思った次の瞬間、私の後ろから魔法攻撃が飛んできた。

一瞬何が起こったのか分からなかったが、今攻撃出来る人間は1人しかいない。

そう、

 

 

魔理沙「みぃ!大丈夫か!?」

「う、うん!」

魔理沙「じゃあ、後ろに掴まってろ!」

 

 

魔理沙が間一髪でフランドールの攻撃から私を守ってくれた。

私に対して攻撃しようとしてきたフランドールは、自分の攻撃が当たらなかったことに心底驚いたと言った様子で、目を丸くして私たちを見つめていた。

 

 

フラン「え……?何であたらないの……?」

 

 

私は、魔理沙の後ろに掴まり、フランドールのことを見つめていた。

この子、どこかおかしい……まるで、生まれて初めて人に出会ったみたいな感じがする。

 

 

「ねぇフランドール。人にあったのは初めて?」

フラン「あ、え、私……その……」

 

 

フランドールは、さっきの威勢はどこへやらと言った様子で、急に悲しそうな表情を見せ、俯いた。

何か事情があるのだろうかと思い、少し話を聞くことにする。

私は命が惜しいけど、何か事情がありそうな子のことは放っておけない性分なんでね。

 

 

フラン「……ずっと、閉じ込められてたの。"お姉様"が、お部屋に閉じこもっていなさいって」

「その、さっきから言ってるお姉様って?」

フラン「お姉様はお姉様。"レミリア・スカーレット"のこと!」

 

 

初めて聞く名前だ。

フランドールと同じ苗字だから、血の繋がった姉妹なんだろうな、とは想像がつく。

それに、閉じこもっていなさいってどういうことだろう?

 

 

「そのレミリアさんは、どうしてフランドールのことを閉じ込めるの?」

フラン「私、すごーく危ない力を持っているから……その……人間に会ったのは"咲夜"以外にはじめてで……」

「ん?咲夜?」

 

 

またもや知らない名前だ。

てゆーか、さっきから"レミリア"やら"咲夜"やら、聞きなれない名前ばかりで頭が混乱しそう。

しかし、人間に会ったのが1人の人間以外にいない?

他の人間に会えないくらい長い期間閉じ込められていたのか?

 

 

フラン「咲夜はお姉様の専属メイド。ご飯をいつも運んできてくれるのよ!」

「へぇー!仲が良いんだね」

 

 

フランドールが話す咲夜という人物は、フランドールの姉の専属メイドで、この館の家事を全般担っているらしい。

階段はぶっ壊れているが大丈夫だろうか、咲夜さん。

 

 

「あのね、言い忘れていたけど……私は人間で何の力も持ってない弱者なの。だから、フランドールからちょっとつつかれただけで壊れちゃうの。遊ぶのは良いけど、人間も出来るような遊びにしてよね」

 

 

私は、かなり重要なことを言い忘れていたのでフランドールに伝えた。

勿論、フランドールとはいつか遊びたいと思っている。

だからこそ、フランドールには理解してもらわないと困るのだ。人間の脆さというものを。

私の四肢がもげたり、首が体とサヨナラしたりしかねないから。

 

 

フラン「ホント!?遊んでくれる!?」

「勿論、良いよ!」

フラン「〜〜〜、やったぁ!ありがと、"お姉様"!」

「へぇ!?……って、ひぎぃぃ!?」

 

 

フランドールが目を輝かせて私に飛びついてきたかと思うと、私を力強く抱き締めた。

それと同時に私の体は後ろに倒れ、全身に痛みが走った。

この子、手加減というものを知らないのか。

 

 

フラン「お姉様の目は黒曜石のように綺麗なのね!うふふ♪」

「あ、はは……ありがと……」

 

 

それはどういう意味だろうか。

後ろの方にいる魔理沙に困った顔で目配せすると、魔理沙も同じく困った顔で笑っていた。

 

 

魔理沙「そうだ、フランドールとやら。今度私とも遊ぼうぜ!綺麗な魔法を使って遊ぶんだ。お前の好きな遊び方だと思うぜ?」

フラン「ホント!?貴女も遊んでくれるのね!お名前は?」

魔理沙「私は霧雨 魔理沙。魔理沙って呼んでくれ!」

 

 

魔理沙とフランドールも仲良くなったようで良かった。

ところで、先程から気になっていることがある。

フランドールの姉、レミリアのことだ。

そこまでしてフランドールを閉じ込めないといけないほど、フランドールの能力は危険なのか。

フランドールは見たところかなり幼い精神を持っている。

ここまで幼くなってしまったのは、長い期間人と接してきてないからなのではないか。

 

 

「ねぇ、フランドール?私レミリアに会ってみたいなぁ。遊ぶにしてもレミリアの許可がいるし。ね、案内してくれない?」

 

 

私は、少しだけ嘘をついた。

フランドールは自分の能力についてあんまり触れてほしくないかもしれないから。

自分の嫌なところを突っつかれたら誰でも嫌でしょ?

ここまできちゃったら、乗りかかった船、後には引けないね!

 

 

フラン「うん!良いよー!」

 

 

フランドールは私の手を引いたまま飛び上がった為、私は思わずびっくりしてしまった。

私は飛べないことをフランドールに伝え、魔理沙に運んでもらおうとしたが、フランドールは私が魔理沙に頼む前に、私のことを横向きで抱えだした。

傍から見たらかなり異様な光景だろう。

 

 

「フランドール……力持ち…だね」

フラン「アハハ!お姉様かるーい!」

 

 

当の本人は何にも気にしていないようで、そのまま私を抱えて一気に最上階へと上っていった。

豪華な館内を空中から見るのは圧巻で、外の世界にこんなものがあったらどんなもんなんだろうと想像してしまう。

 

 

「フランドール、レミリアは怖くないの?」

フラン「っ…………怖い、凄く怖いわ」

 

 

ぐっと歯を噛み締めて、見た目相応の反応を見せるフランドール。

その様子はまるで、これから親に叱られるのが分かっているかのような子供のようだった。

 

 

フラン「でも、こっちのお姉様がいるから怖くないわ♪」

 

 

ぺかーと音が出そうなくらいニッコリと笑っているフランドール。

そうそう、子供は外で思いっきり遊んで、泣いて、笑うのが1番良いんだよ。

お部屋に篭っているだなんてそんなこと許されるはずがない!

 

 

「フランd「フラン!」え?」

 

 

私が、フランドールの名前を呼ぼうとした時、被せて言われてしまった。

話を聞くに、どうやらフランドールは普段フランと呼ばれているのだとか。

じゃあ、私もフランって呼ぶって言ったらこれまためちゃくちゃ可愛い反応をされた。

 

 

フラン「よいしょ……っと、ここがお姉様のお部屋だよ」

「ここが……」

 

 

他より豪勢な扉を前に、私たちは息を飲んだ。

ここに、フランの姉が。この館の主がいるのか。

と、私がドアノブに手をかけようとしたその時だった。

 

 

?「お待ち下さいませ、お客様。勝手に開けられては困ります」

 

 

突如、私の手首を掴む手があった。

私はぎょっとして、その手の方向を向いた。

するとそこには、銀髪の仮面を張りつけたような表情の女の人がいた。

その人の服装は見るからにメイドと言ったような感じで、私を突き刺すような目で見ている。

 

 

フラン「咲夜!」

魔理沙「このっ……!お前は誰なんだぜ!」

 

 

フランが、咲夜!と言ったので、この人がフランの言っていた咲夜さんなのだろう。

魔理沙が、咄嗟に八卦炉を取り出し、咲夜さんの方に向けた。

と、その時。魔理沙が八卦炉を向けたとほぼ同時に、魔理沙の腑抜けたような声が聞こえてきた。

 

 

魔理沙「は……え?」

 

 

魔理沙は、自分の手を見て、驚いたような声を出していた。

すると、咲夜さんは口に指を当て、静かにするようにジェスチャーをした。

 

 

咲夜「お静かに。この中におられるのはとても高貴なお方です…………心配しなくても、元の場所に戻しておきましたからご安心下さい」

 

 

魔理沙が疑問に思い、懐をガサゴソ探していると、まさかのさっきまで持っていた八卦炉が出てきたのだ。

これには私もとてもじゃないけど驚かされてしまった。

だって、私たちに見つからずに八卦炉を魔理沙の手から取って、元に戻すなんてこと出来るはずがないから。

そんなの、そんなの、"時を止めるくらいのことじゃなきゃ"……

 

 

「あの、貴女は……」

咲夜「じき、私のこともお分かりになるでしょう。それより、我が主が貴女がたのことをお待ちです」

フラン「!」

 

 

咲夜さんが扉をノックすると、中から少し幼い声が聞こえた。

フランも幼女の見た目だけど、レミリアさんも同じような感じなんだろうか。

咲夜さんが扉を開けてくれたので、私たちは恐る恐る中に入る。

そして、そこには、背の高い椅子に座り、私をじっと見つめる幼女が。

フランと同じ帽子を被り、青みがかった銀髪に、白いワンピース……それと、コウモリのような大きい羽。

 

 

?「ほう。ネズミが入り込んでいたという情報は本当だったようだな?……咲夜、もう下がって良い」

咲夜「畏まりました……失礼致します、お嬢様」

 

 

私は、咄嗟に振り返り、咲夜さんが出ていくところを見ようとした……んだけど。

そこには咲夜さんはいなくて、何故かさっきまで開けられていた扉が閉まっていて。

魔理沙は扉の方を見て何が起こったんだぜ!?って言ってるし、フランは俯きがちになっている。

 

……やっぱり、咲夜さんは"時を止める"能力を持っている。

だって、この一瞬で音も立てずにいなくなり、扉を閉められるなんて出来ないもの。

目の前にいる、少女は先程から、私に対する視線を離さない。

 

 

 

 

 

 

レミリア「まずはもてなそうじゃないか、人間……ようこそ、この私"レミリア・スカーレット"が支配する館へ」

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりに長めに書いたなぁ〜って感じです 
基本的に3000文字くらいなので、ホントに久々です(¬_¬)

霊夢は館にもうすぐ着くって感じです。
次回、多分レミリアVS主人公って感じですね。
あ、勿論戦闘はしませんよ笑 主人公死んじゃう 
話し合いです(*^^*)

レミリアは主人公のことを名前だけ紫から聞いてます。
なので、次回主人公に名乗らせて、

レミリア「ん……?お前はまさか……!」

みたいな展開にしようと思うておりますm(*_ _)m


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第65話 姉妹の事情

魔理沙「お前……妖怪だな?」

レミリア「あぁ、そうとも。こちらでは妖怪と呼ぶのかもしれないが、私は悪魔の王である"吸血鬼"。名はレミリア・スカーレットだ」

 

 

レミリアさんは、椅子に座ったまま、依然として物凄いプレッシャーをかけてきている。

魔理沙の顔が段々強ばっていってるし、何より、さっきから肌が凄いピリピリするんだよなぁ……

 

 

レミリア「ほぉ、人間?お前は中々度胸のある奴だ……」

 

 

私が放つ妖力の密度に耐えられた者はほぼいない、と言うレミリアさん。

何だろう、この感じ……今まで感じたことの無い雰囲気。

フランと同じ真っ赤な目を見ていると、何故だか視線だけで死んでしまいそうな……

 

 

レミリア「……まぁいいだろう。人間、フランをここまで連れてきてくれたこと、感謝する。後ほど褒美は与えよう」

「あ、いえ……お気になさらず」

レミリア「ははは、無欲な人間なんて聞いたことがないぞ?……さて、フランをこちらに渡して貰おうか」

フラン「!」

 

 

来た!フランのことを聞くチャンス!

フランは生まれてからずっと閉じ込められていたと聞いた。

何が原因で、フランを閉じ込めていたのか。

それなりの理由があったとしても、フランが自分の家をぶっ壊してしまうほど、フランにはストレスがたまっていたんだ。

 

 

「レミリアさんは、何故フランを閉じ込めていたのですか?」

レミリア「……何?」

「フランが壊した館、見ました。あれだけ暴れ回ってしまう程にストレスが溜まっていたんじゃないでしょうか?」

 

 

私がレミリアさんに質問を投げつけると、レミリアさんのかけるプレッシャーがめちゃくちゃ強くなったような気がした。

そりゃそうだ、家族の問題に他人が首を突っ込んできたんだから。

でも、関わりを持った人のことを方っておける程私は鬼じゃない。

 

 

「その、結果的に暴れ回るようなストレスを溜めてしまった原因は、長い期間閉じ込めておいたからですよね?」

レミリア「……確かに、フランにはこれまで、"495年"もの間、幽閉の命令を出している」

「なっ!?」

魔理沙「495年……!?」

 

 

私は耳を疑った。

こんなに幼い娘が、495年もの間閉じ込められていただと。

長い期間と聞いてはいたが、それほどまでだったとは知らなんだ。

そりゃ、フランも暴れ回りたくなるよな。

それに、フランが年齢相応の精神をしていないのにも頷ける。

495年もの間、外界と交流を絶ってしまっては、精神の成長も見込めないだろう。

 

 

「どうしてそこまで」

レミリア「そう……フランには、"全てのものを破壊する能力"がある」

「はっ、破壊……」

 

 

私は息を飲んだ。

そんなチート級の能力聞いたことがない。

アニメや漫画でも、そんな能力があってたまるか。

もしあったらインフレやばいぞ。

と思っていると、レミリアさんが続けた。

 

 

レミリア「そう、破壊する能力だ。危険なのは人間、お前も分かるだろう?」

「分かります……が、その……」

レミリア「そもそも、私たち姉妹の問題にお前のような人間が口を出すのが間違いなのだ」

 

 

私が瞬きをした瞬間、レミリアさんが椅子から私の目の前に移動していた。

私は驚いて1歩後ずさるが、レミリアさんは私の首から手を離さない。

レミリアさんが、グッと力を入れた瞬間、とてもじゃないけど生きていられなさそう。

 

 

レミリア「さぁどうする?このまま私たちに関わり続けて死ぬか?それとも今すぐ立ち去るか?選べ、人間!」

フラン「お姉様やめてッ!」

魔理沙「みぃ!おいレミリア、今すぐその手を離すんだぜ!さもないと……」

 

 

フランは涙目になりながら叫び、魔理沙は八卦炉を構え、今にもマスタースパークを放ちそうな勢いだ。

ここで私が関わり続けて命の保証はされないとしても、私は1度関わった人を見捨てることの出来ない性分でね。

 

 

レミリア「……待て」

「?」

 

 

レミリアさんが、魔理沙の言葉を聞いた途端、私の首にかけられていた手の力を緩めた。

そして、私の目を真っ直ぐに射抜くような目で、こう言った。

 

 

レミリア「お前は、例の外来人か?」

「例のって……まぁ、外から来ましたけど。それが?」

 

 

レミリアさんは少し考えるような仕草をした後、私の首から手を離し、スカートの裾を払いながら吐き捨てるように言った。

 

 

レミリア「どうやら、私にとってお前は、手を出すことが許されない人間らしい」

 

 

レミリアさんは、元いた椅子に座ると、私から目を逸らした。

何があったんだろう。私ってそんなに危険人物なのか?

 

 

「どういうことです?私は、危険なんでしょうか?」

レミリア「ふふ、人間単体なんて私の敵ではないわ。どちらかと言うと、貴女のバックにいる者よ」

「へ、へー……」

 

 

いきなり口調を変えたレミリアさんに驚きつつ、私のバックにいる者と聞き、頭にハテナが浮かんだ。

誰だ、知らんぞと思いつつレミリアさんに尋ねる。

 

 

「それって誰ですかね?レミリアさん強そうなのにそんなに怖がるなんて、その人はさぞお強い ̄ ̄ ̄」

レミリア「八雲 紫が幻想郷中に根回ししてるのよ。手を出した場合の制裁なんかも決められてる。貴女、当事者なのに何も知らないワケ?」

 

 

なんですとー!?と言いたくなったが、よくよく考えてみればそうとしか思えんよな。

この幻想郷で最も力を持つ人が私を守ってくれてる、と考えて良いのかな?

 

 

レミリア「……この会話も盗み聞きしてるんでしょうけど」

「え?」

レミリア「何でもないわ……さて、みぃ。フランのことだけど」

 

 

先程とは打って変わって、少し表情が柔らかくなった気がする。

私は、いつの間にか用意されていた椅子に腰掛けるよう言われ、レミリアさんの正面に来るように座る。

 

 

レミリア「私の妹、フランはとても危険な能力を持っている。だけど、ただ単純に危険だから、怖いからといった理由で閉じ込めている訳じゃないの」

 

 

レミリアさんは、私とフランに目線をやると、昔を思い出すように話し始めた。

フランを閉じ込めたのはレミリアさん自身じゃなく、2人の両親であること。

両親はもう亡くなっており、2人でずっと暮らしてきたこと。

……幽閉した本当の理由は、フランが自分で大切なものを壊してしまわないように、悲しまないようにしたこと。

 

 

レミリア「でも、だからと言って、貴女に嫌な思いをさせたのは事実。……ほんとに、ごめんなさい」

フラン「お姉様!?」

 

 

レミリアさんは、フランに向き直ると、そっと抱き締めた。

フランも少しびっくりしていたものの、少ししたらレミリアさんを抱き締め返し、泣いていた。

私は、レミリアさんの隠れた愛情を心底素敵だなと思った。

それを見て安心していると、魔理沙に肩を叩かれた。

 

 

魔理沙「……事情は分かったんだが、この赤い霧はどうするんだよ?」

「いや、知らんし……霊夢の仕事でしょ?それは……」

魔理沙「いや、そうなんだが」

霊夢「えぇ、そうよ。私の仕事よ」

 

 

なんか聞き覚えのある声がしたなー、と思ったら霊夢がそこにいた。

すっごく面倒くさそうな顔で、すっごく面倒くさそうな態度で、大幣を弄っていた。

 

 

霊夢「アンタ、みぃさんを返しなさい。あとあの赤い霧!なんなのあれは!」

レミリア「別に良いわよ?この人間に用は無いもの。いや、むしろ関わりたくない部類ね。それで、霧のことだけど」

 

 

貴女が博麗の巫女ね?と言い、カツ、カツ、カツと霊夢に近づくと、不敵な笑みを浮かべてこう言った。

 

 

 

 

 

レミリア「幻想郷を賭けて、勝負しない?」

 

 

 

 

 



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