ボクはカルデアで生き残りたい。 (LinoKa)
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プロローグ

転生、という言葉がある。

死んで別の世界で生まれ変わる、という事だ。

ボクはその転生者だ。学校から帰ってる最中で車に跳ねられて死亡し、気が付いたらカルデアにいた。最初はなんだかよく分からなかったが、どうやらデミ・サーヴァントの被験体として選ばれたようだ。

他にもう一人被験体はいて、そいつはマシュ・キリエライトという女の子だ。なんかボクの双子の姉らしい。最初は戸惑ったが、でも姉らしいので、とりあえず生まれ変わってからずっと姉として慕って来た。

で、魔術師としてとりあえず優秀な人材は今日から、初のレイシフト実験だ。そんなわけで、ボクはとりあえず一人で部屋でのんびりしている。

すると、ウィンっと部屋の扉が開いた。

 

「おかえりー」

「ただいま、マロ」

 

入って来たのは姉のマシュだ。双子なんだから当然だけど、ボクの外見はそっくりだ。………胸以外は。なんでボクの胸囲は成長しないんだろうなぁ。前世でも成長しなかったのに………。

マシュはベッドでゴロゴロしてるボクの隣に座って、ペットボトルを差し出した。

 

「どうぞ。ご注文のコーラです」

「ありがと」

 

さっき、じゃんけんで負けた方が飲み物を買って来るっていうゲームしてた。

買って来てもらった飲み物をもらい、一口飲んだ。すると、ふわっとふかふかした生き物がボクの肩に乗った。

 

「あ、フォウさん。いらっしゃったのですね」

「前々から思ってたけど、フォウさんって事は2と1はあるの?」

「………はい?」

「なんでもない」

「………マロはたまにわけのわからないことを言いますね」

 

というより、ギャグが周りに伝わりにくいだけです。前生きてた世界でもこんな事あったわ。

フォウがボクの頬を舐めてきた。ペットボトルのキャップにコーラを注いで、フォウの口元に差し出した。

 

「はい」

「フォウ!」

 

ペロペロとコーラを飲み始めた。ほんと可愛いなこの生き物。

 

「本当にフォウさんはコーラが好きなんですね」

「フォーウ」

「これ、動物が飲んでも平気なのかね」

「フォウ⁉︎」

「さぁ?でも大丈夫でしょう、多分」

「フォウ!フォーウ!」

「………フォウさんが何かを訴えていますが」

「いや俺からあげた覚えはないし」

 

そんな話をしてる時だ。ピクッとフォウが首を上げた。で、「フォウ」と鳴くと部屋を出て行った。

 

「ちょっ、フォウ?」

「何かあったのでしょうか………」

「追ってみる?」

「うん」

 

姉妹仲良く手を繋いで歩き始めた。とりあえずマシュの後ろに続いて歩いてると、途中で人が倒れてるのが見えた。赤い髪の女の子だ。

 

「………え、事件?」

「何かあったのでしょうか」

「ダイイングメッセージとかないかな」

「縁起でもないこと言わないで下さい」

 

そんな話をしてると、フォウが倒れてる女の人の頬をペロッと舐めた。

女の人は目を覚ましたようで身体を起こした。

 

「………今、頬を舐められたような………」

 

あ、起きた。すると、マシュは隣に膝をついて女の人に声をかけた。

 

「………あの、朝でも夜でもありませんから起きてください。先輩」

 

出た、謎の先輩呼び。ボクも最初会ったときは先輩呼びされたわ。まぁ、妹だからって事でやめてもらったけど。

 

「ここは……?」

 

女の人はボヤけた顔でマシュを見上げていた。

 

「はい。それは簡単な質問です。たいへん助かります。ここは正面ゲートから中央管制室に向かう通路です。より大雑把に言うと、カルデア正面ゲート前、です」

 

カルデア正面ゲートっていうと………ああ、この人もしかして最初のアレに引っかかったのか。

 

「アレでしょ、おねーさん入館する時のシミュレートを受けたんだ。霊子ダイブは慣れてないと脳に来るからね」

「………あれ?同じ人が、二人?」

「あ、ボクはこっちの双子の妹なんだ」

「へぇ、双子さんなんだ」

「初めまして、先輩。私はマシュ・キリエライトです」

「ボクはマロ・キリエライト」

「………マシュマロ?」

「「違います」」

 

言うと思ったよ。ボク達の母さん絶対ふざけてるよね。会ったことないからいるのかどうか知らんが。

 

「ああ、そこにいたのかマシュマロ姉妹」

 

後ろから声が聞こえた。振り向くと、レフ・ライノールがニコニコと微笑みながら立っていた。

 

「ダメだぞ。断りもなしに移動するなんて………おっと、先客がいたんだな」

「「マシュマロ姉妹はやめて下さい、レフ教授」」

 

いや本当にやめて。マシュはマシュマロかもしれないけど、ボクのはマシュマロにもならないから。

が、ボクとマシュの抗議をまるで無視して、レフ教授は自己紹介した。

 

「私はレフ・ライノール。ここで働かせてもらっている技師の一人だ。君の名前は?」

「あ、はい。私は藤丸立花と言います」

「藤丸さん、か。召集された48人の適正者の最後の一人というわけか」

 

ふーん、この人が?マヌケな顔してるなー。

 

「じき、所長の説明会が始まる。君も急いで出席しなさい」

「説明会………?」

「そうだ。ようは組織のボスから浮ついた新人たちへのはじめの躾って奴さ。所長は些細なミスでも許容できないタイプだからね、ここで遅刻でもしたら一年は睨まれるぞ」

「説明会まであと5分か………。ボク達が案内するよ。行こうマシュ、立花」

「はい」

「うん」

 

とりあえず走り始めた。

 

 

++++

 

 

説明会で、立花が全力の平手打ちを喰らい医務室に運ばれた。その間にボクとマシュはレイシフトの準備だ。

隣のマシュはAチームの中でも首席で超優等生、それに引き換え、ボクはそこまで成績は良くなかった。いや、それどころか下から数えた方が早い。

だから、マシュと同じチームでぶっちゃけ超助かる。その分、ボクは楽出来るから。

 

「いよいよですね、マロ」

「そうだね。早く終わらせて家で寝たい」

「まったく………。最近、ダラけ過ぎですよ」

「良いんだよ、仕事中はハキハキしてるし」

「そういう問題では………まぁ良いです、もう」

 

そういえば、マシュは随分と立花という女の子を気に入ってたなぁ。ハッキリと先輩、と呼んだのはボクの次に初めてじゃないだろうか。それに、ボクも今や先輩とは呼ばれなくなった。いや、ボクの方から呼ぶなって言ったんだけどね。

 

「ねぇ、マシュ」

「? なんですか?」

「立花のこと気に入ったの?」

「はい。………なんといいますか、かなり人間らしい方?でしたので」

「そうなの?」

 

あんま人を見る目とかないからそういうのわからないんだよな。

 

「まぁ、それならこれ終わった後で話しかけてみりゃ良いよ。良い人そうなら、多分友達になってくれるさ」

「そうですね。その時は、一緒にマロも来てくれますか?」

「良いよ」

 

まぁ、ボクも友達が出来るのは嬉しいしね。何となく、ボクとマシュは周りから浮いてるし。

そんなことを考えてる時だ。爆発音が聞こえた。そして、それと共に爆風が管制室を襲った。

 

「! マシュ!」

「えっ……?」

 

慌ててマシュの腕を引っ張り、庇うように抱き締めて覆い被さった。直後、ズシンと背中に大きな衝撃が響いた。それと共に、ズボッとお腹の方で何かを貫く音が聞こえた。

 

「ケホッ、ケホッ……!い、一体、何が………!」

 

マシュが咳き込みながら呟いた。その真上で、ボクも大きく咳き込んだ。直後、ビチャビチャっと口から血が吐き出され、それがマシュの顔の真横に落ちた。いや、飛沫が少しだけ頬に飛んでいる。

 

「ま、マロ………?」

「………ま、しゅ……」

 

ああ、さっきの後は何かと思ったらあれか。何かがボクの背中を貫いてるんだ。だから今、血を吐いた。

 

「マロ⁉︎だ、大丈夫ですか⁉︎」

「……だいじょうぶに、みえるのかよ………?」

 

すごく痛いし苦しい。これなんでボク生きてるんだろうか。身体を物が貫通するのってこんなに苦痛なものなんだな。これは死ぬし、何なら早く楽になりたいとすら思ってしまう。

だけど、目の前のマシュはそんなボクを見てとても辛そうな顔をしていた。目尻には涙なんか浮かべているしね。そんなマシュの姿を見ると、意地でも死にたくなくなる。

すると、ウィンっと扉の開く音がした。誰かが入ってきたのか?と思うと共に、出入り口は無事である事を察した。

 

「……マシュ、逃げて………。ボクはどの道助からない……」

「なっ、何をバカなことを言ってるんですか!そんな事出来るわけがありません!」

「………いいから。ボクは、もう死ぬ……。さっき、入口の開く音が聞こえた。……ケホッ、ケホッ!……まだ、出入り口は作動してるって事だよ。………そこから、逃げられる………」

「っ……で、ですが……!姉として妹を置いて逃げるわけにはいきません!」

「マシュ………!」

 

ていうか、瓦礫を支えてる状態もそろそろキツくなってきたし……!他に生存者はいないのか?その人にマシュを連れてってもらうしか………!

 

「マシュマロ………?」

 

声が聞こえ、振り返ると立花が立っていた。相変わらずの呼び方だったが、今は気にしてる余裕はない。それよりもマシュを連れて行く事を頼む事が先だ。

 

「立花、ちょうど良かった………!ボクの下、から……マシュを連れ出し」

「先輩!マロを助けて下さい!」

「分かった!」

 

えっ、そ、それはどっちの「分かった」なの………?

不安は的中し、立花はマシュをボクの下から引き摺り出すと、ボクの上の瓦礫を退かし始めた。

 

「なっ、何してんの………?」

「決まってるじゃん、助かるんだよ。マシュ、手伝って!」

「は、はい!」

 

こいつら話聞いてた?

 

「ボクの事は、良いから!……多分、脾臓のあたりに鉄骨が突き刺さってるんだよ!ボクを置いて先に」

「マシュ、せーので行くよ」

「はい」

「「せーのっ!」」

「いや、聞けよ話!」

 

なんで助けようとするんだよ!ボクはもう助からないのは見れば分かるだろ!ボクなんかのために………!

二人が力を入れて瓦礫をどかそうとした直後だ。機械音声が鳴り響き始めた。

 

『システム、レイシフト最終段階に移行します。座標、西暦2004年。1月30日、日本、冬木市』

 

! このままレイシフトするつもりか?明らかに異常事態だ。

さらに、異常事態は続いた。カルデアスが真っ赤に輝き出し、機械音声が再び声を発した。

 

『観測スタッフに警告。カルデアスの状態が変化しました。シバによる近未来観測データを観測します。近未来百年までの地球において、人類の痕跡は発見できません』

 

なんだって?どういう意味だ?

 

『人類の生存は確認できません。人類の未来は保証できません』

 

どういうことだ?何が起ころうとしてる?何も分からないまま、プシューッと扉の閉まる音がした。

 

『中央隔壁、封鎖します。館内洗浄開始まであと180秒です』

「! と、扉が………!」

 

だから逃げろって言ったのに………!

奥歯を噛み締めてると、マシュがボクの手を握るのを感じた。反対側の手は、立花が握っている。こんな時に何やってんだ?と、思ったが、とてもその手が暖かいような気がした。

 

「………二人とも?」

「大丈夫です、マロ」

「うん。もう、逃げられなくなっちゃったから」

「い、いやっ……それ、全然大丈夫じゃな」

「3人とも、これで一緒です」

 

いや、こんな事で一緒とか言われても………!だが、封鎖された以上は確かに諦めるしかない。まったくバカな姉と友達だ。いや、さっき出会ったばかりで友達ですらないかもしれない。ボクなんかを助けて、一緒に心中なんてバカげてる。心底呆れる。

………でも、死ぬ時まで一緒にいてくれるのは、少し嬉しかった。前に死んだ時は、たった一人で勝手に事故ったから。これから死ぬというのに、変に穏やかな気分だった。前の時とは違って。死ぬことに慣れたのかな。

すると、さらに機械音声が何か喋り始めたが、ボクはもう気に留めなかった。

 

『適応番号48、藤丸立花をマスターとして再設定します。アンサモンプログラムをスタート。霊子変換を開始します』

 

直後、ボク達は揃って意識を失った。

 

 



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プロローグ2

気が付くと、冬木市に立っていた。

なんだ?意識が朦朧とする。なのに、体調も精神面も万全だ。これまでになかった程にだ。ピンピンしている。さっきはお腹に穴が空いていたはずなのに。

……そういえば、意識が落ちる前に何かと夢の中で話していた気がする。お腹が痛くてよく覚えてないけど、なんか力を貸すだとか何とか………。まあ、それどころじゃなかったから、うんうんと生返事を続けてたけど。

そう思って、自分の服装を確認してみると、なんか真っ黒なタイツみたいな服に身を包んでいた。さらに、左手には半分に割れた黒い盾のようなものが握られている。あれ、ボク着替えなんてしたっけ……?てか何これ?盾?

 

「マロ………?」

 

震えたような声が聞こえた。ふとそっちを見ると、同じように全身タイツっぽい服で、右手に半分に割れた盾を持ってるマシュが涙目でボクを見ていた。

が、やがてぷくーっと頬を膨らませ、顔を赤く染めて睨み始めた。

 

「えっ、何」

「マロ!バカ!」

「なんで⁉︎」

 

ズケズケとボクの方に歩いて来て、胸ぐらを掴んで来た。

 

「もうっ!私なんかを庇って………!しかも『ボクはどの道助からない……!』だなんて……!私がマロを見捨てられるわけがないでしょう⁉︎」

「ご、ごめんね……。でもほら、どうせボク死ぬんだし、ボク的にはマシュには生きて欲しかったなーなんて……」

「あなたの事情なんて知りません!あなたは、あなたは残された者の気持ちを考えたことがないのですか⁉︎」

「っ……!」

 

そう言われると胸が痛い。いや、でも実際今、ボクが生きてること自体が奇跡なんだし、これから命を落とす最後の願いとしては逃げて欲しかったんだけど……。

まぁ、マシュは怒ると面倒臭いし、言ってることも間違ってはないので謝っておこう。

 

「………ごめんね」

「………いえ。でも、良かったです。生きていてくれて」

「それなんだけどさ」

 

夢の中での話をしようとした時だ。周りの炎からゆらりと人影が見えた。

 

「! マシュ」

「は、はい……!」

 

現れたのはスケルトンだ。マシュを庇うように盾を構えつつ立った。どうする?喧嘩は苦手ではないが、相手は未知のモンスターだ。せめてマシュだけでも逃してやりたいが……。

若干、焦りながら盾を構えてスケルトンから目を離さないでいると、マシュが「あっ」と声を漏らした。

 

「どうしたの?」

「私の足元に、先輩が………」

「はっ?」

 

ふと下を見ると、立花がその場で寝転んでいた。気絶してるのか、スヤスヤと寝息を立てている。

 

「マシュ、立花を起こしてあげて。ボクが奴らを食い止めてる間に」

「! またあなたはそうやって……!」

「いやいや、今にもあいつら襲いかかって来そうだから。そうするのがベストでしょ」

「……わかりました」

 

よし、上出来。アメコミヒーローにハマってるボクは、特にキャップのファンだから身体は鍛えてある。とはいえ、生身の身体だ。どこまで戦えるかは定かではない。ここは立花を起こし次第、さっさと撤退するのが得策だろう。

スケルトンは片手に握る剣を振り上げてボクに向かって来た。ボクも後ろの二人を巻き込まないようにスケルトンと距離を詰めた。スケルトンは正面から剣を振り下ろし、それを反射的に横に回避した。なんだ?敵の動きがよく見える。あの速さの攻撃を、余裕をもって回避出来てる。

振り下ろした剣を、さらに斜めに振り上げた。盾を頭上に構えながら、腰を低い位置にしてなるべく体制を崩さずに回避。すると今度は振り上げた剣をそのまま振り下ろしてきて、それも避けた。

………なるほど、剣を振ることしか能がないのか。どういうわけか知らないが相手の攻撃はボクによく見えているし、これなら逃げるどころか全滅させられるかもしれない。

 

「っ」

 

振り上げてきた剣を、左手の盾で押さえつけるようにガードし、右手でスケルトンのボディにアッパーを叩き込んだ。バギバギッと骨が折れる音が鳴り響き、スケルトンは後ろに殴り飛ばされた。

 

「…………」

 

あれ、ボクこんなに力強かったっけ?少し怯ませるだけのつもりだったんだけど………。

自分で何をしたのかわからずにボンヤリと拳を眺めていると、後ろから声が聞こえた。

 

「マロ、後ろ!」

「へっ?うおっ⁉︎」

 

2体目のスケルトンがいつの間にか背後を取って剣を振り抜いてきた。ボクは慌てて盾を振り回して剣をガードした。

 

「くっ………!」

 

危なかった。あと1秒遅かったらやられてた。スケルトンの猛攻を盾で防いでると、スケルトンの後ろからバギッと音がした。直後、ズルリと粉々になって倒れるスケルトン。マシュが盾で押し潰していた。

 

「ふぅ……ありがと、マシュ。助かったよ」

「いえ」

「立花は?無事?」

「はい、この通り」

 

さっきまで寝てたくせに、えらいピンピンした様子の立花が歩いてきた。

 

「で、なんだったの?てか二人のその格好は?」

「ああ、それボクも気になってた」

「えっ、マロ把握してないの?」

「お腹に鉄骨刺さってて痛くてそれどころじゃなかったんだよ。気が付いたらここにいて服装変わってた」

 

なんか、こう……ボディラインが強調される服で少し恥ずかしいんだけど。双子のマシュも同じ格好だから尚更。

さりげなく盾で身体を隠しながら話を進めた。

 

「マシュ、なんか知らない?」

「あ、はい。それなんですけど……」

 

マシュが説明しようとした時だ。何処からか声が聞こえてきた。

 

『ああ、やっと繋がった!もしもし、こちらカルデア管制室だ。聞こえるかい⁉︎』

 

あ、ボクと同じで所長から嫌われてるドクターの声だ。

 

「あ、はい。聞こえるよ」

「こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライトです。現在、特異点Fに到着しました。同伴者はマロ・キリエライト、藤丸立花の2名、心身共に問題ありません」

『マシュマロ姉妹⁉︎というよりマシュ!なんだい、その格好は⁉︎ハレンチ過ぎる!僕はそんな子に育てた覚えはないぞ⁉︎』

「おい、なんでボクは区切った」

「……これは変身したのです。カルデアの制服では先輩とマロを守れそうになかったので」

 

は?変身?仮面ライダー的な?

 

『変身?変身って、何を言ってるんだ?頭でも打ったのか?それとも、やっぱりさっきので……』

 

ボクと同じ感想を持ったドクターだった。どうでも良いけど、お前後でボクを区切った件は問い詰めるからな。

その言葉に答えるように、マシュは冷たい声で返した。

 

「Dr.ロマン、ちょっと黙って。私とマロの状態をチェックして下さい。それで状況は理解していただけると思います」

『君達の状態を……?お……おお、おぉおおおおお⁉︎身体能力、魔力回路、全てが向上している!これじゃあ人間というよりも……!』

「はい、サーヴァントそのものです。先ほど、マロが敵性モンスターと戦闘した結果、拳一撃で敵を戦闘不能にしました。経緯は覚えていませんが、サーヴァントと融合した事で一命を取り留めたようです」

 

ふむ、それでボクのお腹の穴は……。

 

「今回、特異点Fの調査、解決のためにカルデアでは事前にサーヴァントが用意されていました。そのサーヴァントは私に契約を持ちかけて来ました。英霊としての宝具と能力を譲り渡すに代わり、この特異点の原因を排除して欲しい、と」

 

なるほど、なんか朧げな記憶にあったのはそれか。でも、疑問も残る。ボクとマシュの手に持ってる宝具、おそらく盾はピッタリ半分に割れている。

もしかして、ボクとマシュに英霊は二つに分かれた、ということか?

 

『そうか。で、君達の中に英霊の意識はあるのか?』

「いえ、私達に戦闘能力を託して消滅しました。最後まで真名を告げずに……。マロは聞きませんでしたか?」

「ボクはお腹痛くてそれどころじゃなかったから」

「そう、ですか……」

『まぁ、不幸中の幸いだな。召喚したサーヴァントが協力的とは限らないからね。それに、二人がサーヴァントになってくれたのなら話は早い。全面的に協力できる』

 

まぁね。さっきボク、敵を殴り殺したし。……あ、そういえばさっきの奴、剣持ってたよな……。

ドクターと立花とマシュが何か話してる間に、殴り飛ばしたスケルトンの方へ歩いた。骨は粉々になっているが、剣は無事だ。よし、こいつを借りよう。納める鞘が見当たらないが、贅沢は言えない。

 

「マロ、行きましょう」

「あ、もう方針決まったの?」

「はい。こちら、先輩が私達のマスターとなり、霊力の高いポイントに移動することになりました」

「よろしくね、マロ」

「あ、うん。よろしくね、立花」

 

武器も調達したし、問題はないだろう。あ、いや一つだけ確認したいことがあった。

 

「その前にマシュ、一つ良い?」

「? なんですか?」

「マシュのその盾とボクの盾ってさ……」

「……はい。おそらく、同じものです」

「だよね」

 

こう言う時、何となく、こう……試してみたくなるよね。

 

「くっ付けてみようよ」

「マロ……。今はそんな事をしてる場合では」

「いやいや、性能チェックのついでにさ。もしかしたら、何か変化あるかもしれないし」

「……マスター?」

「いいんじゃない?こんな時だし、気楽にいこうよ」

「……まぁ、マスターがそう仰るなら」

 

そんなわけで、盾を断面に合わせてくっつけてみた。直後、バツンと音がした。何かと思って盾を見ると、くっ付いている。プラモデルのように接合されたのではなく、完全に一つになった。

 

「おお……おおお?」

「くっ、付いた………?」

 

すごい。でもこれどうやって離すんだ?と、思ったらグリップの部分にボタンがあった。それを押すとなんか離れた。

ふむ、つまり一つにしたら二つにしたり出来るわけか……。

 

「おおー、結構便利じゃない?」

「そうですね。まぁ、戦闘の役に立てば良いのですが……」

「そこはボクらの頭次第でしょ。もしくは立……マスターの頭次第だね」

「うっ、プレッシャーかかるような事を……!」

「冗談だよ。さ、行こう」

 

そういうわけで、ドクターに言われたポイントまで歩き始めた。

 

 



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オルレアン1

 

 

アレから、ボク達は冬木市で奮闘し、現地のキャスターの助けもあって何とか聖杯を回収して戻って来れた。が、その分失ったものは多かった。レフ・ライノールが敵だったり、オルガマリー所長が亡くなったりと、中々にハードな任務だった。

その結果、これからは7つの時代にレイシフトし、聖杯を回収して特異点の修復をすることになった。

で、今はその一つ目の特異点についてのブリーフィング中である。

 

「と、言うわけで、特異点の調査及び修復、そして聖杯の回収。これらが今回の作戦の目的だ。良いね?」

 

ドクターの確認に、ボクもマシュも立花……マスターも頷いた。

その返事に満足そうに頷くと、ドクターは続けて説明を始めた。

 

「さて、それからもう一つ。これから特異点を修復するわけだけど、おそらく戦闘は避けられない。だから、今から一体、サーヴァントを召喚しておこうと思うんだ」

 

ふむ、なるほど。戦力の補充か。それは確かに良いかもしれない。

 

「分かった」

「じゃ、レオナルド。後は頼むよ」

 

そう言われて現れたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチ。我らがカルデア技術士のトップでサーヴァントだ。

 

「よし、私に任せたまえ。では行こうか、藤丸立花ちゃん」

「えっ、ど、どこへ?」

「召喚をしにだよ。マシュマロ姉妹も来るだろう?」

「はい」

「いや、だから略すなって」

 

ダ・ヴィンチちゃんに連れられ、召喚しに行った。やり方を教わり、最初の召喚。正直、ちょっと楽しみだ。だって最初の英霊だもの。どんな人が出てくるのか気になるじゃない?

キィィィンと音を立ててサークルが回り始め、英霊が姿を現した。

 

やっほー!ボクの名前はアストルフォ!クラスはライダー!それからそれから……ええと、よろしく!」

 

髪がピンク色の人が出て来た。その子はマスター、マシュ、ボクを見比べた後、キョトンと首を傾げた。

 

「えっと、どの子がマスター?」

「私だよ。私は藤丸立花、よろしくね」

「あ、君か。ごめんごめん。サーヴァントの反応あるのにみんな普通の格好だから戸惑っちゃったよ」

 

ああ、なるほど。確かにマシュもボクも普通の格好だ。

召喚はこれで終わりだ。ダ・ヴィンチちゃんが小さく手を叩いた。

 

「へぇ、アストルフォか。確か、シャルルマーニュ十二勇士だったね」

「君もサーヴァント?」

「私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。カルデアの技術士をしている。気軽にダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれ」

「分かった」

 

おお、この軽いノリのダ・ヴィンチちゃんに動じない……。随分と自由な子なんだな、アストルフォ。

 

「私はマシュ・キリエライト、こちらのマロ・キリエライトと同一のデミ・サーヴァントです」

「へぇ、二人で一つって事?」

 

そういう事になる。宝具を使うにも、盾を合体させないと使えないし。

 

「面白いねー。ね、宝具とか見せてよ。どんなのなの?」

 

ボクの方に歩み寄って来て、顔を近づけて来た。い、いきなり距離近いな……。いや、まぁ良いんだけどさ。

そのアストルフォに、マスターが声をかけた。

 

「待って、アストルフォ。今は時間が無いんだ。早くレイシフトしなくちゃいけないから、それはまた後で良いかな?」

「えー、良いじゃん別に。少し見るくらい」

 

くっ、やはり自由なタイプか。マスターの言うことを聞かないとは。まぁ、こういう子供っぽい人はボクの領分だ。

 

「レイシフトしたら見せてあげるから。それで良い?それまで待てない?」

「んー、まぁ良いや。じゃあ、さっさとレイシフトしちゃおう」

 

待てない、と「そんなことも出来ないの?」みたいな煽るような聞き方をすれば子供は言うことを聞く。まぁ、教育にはあまり良くなさそうだが。

そんなわけで、三人に一人追加され、四人で管制室に戻ると、ドクターが声をかけて来た。

 

「あ、戻って来たね」

「マスター、この人は?」

「ドクターロマン、今のカルデアの司令代理みたいな人だよ」

「みたいな人って……まぁ良いや。じゃあレイシフトしようか」

 

ドクターの一言で、全員で準備を始めた。レイシフト直前、ドクターが思い出したように言った。

 

「あ、そうそう。藤丸立花ちゃん。レイシフトした後、一つだけ頼まれてくれないかな?」

「? 何?」

「霊脈を探し出し、召喚サークルを作って欲しいんだ」

「何それ」

「難しいことじゃ無いよ。霊脈を探し出してくれれば良いから。それで、こちらから補給物資を送ったり、現地で自由に召喚も出来るようになるからね」

 

ああ、冬木でやってたアレか。

 

「分かった」

 

マスターが頷くと「よしっ」とドクターは満足そうに頷いてレイシフトを開始した。

 

 

++++

 

 

気が付くと、広い草原の上に立っていた。さっさと変身を済ませたボクは、相変わらず半分に割れてる盾を手にしていた。

 

「おおー、なんか懐かしい感じがする……」

 

アストルフォが声を漏らした。で、ふとボクの盾を見た。直後、「おお……?」と困惑したような表情を浮かべた。

 

「……なんで割れてるの?」

「だからマシュと二人で一つなんだってば」

 

言うと、アストルフォはマシュの盾に目を向けた。

 

「あ〜……二人で一つってそういう……。君達もしかしてライダー?」

「いやいや、違うから。それより、さっさと仕事を済ませよう」

 

言いながら、ボクは腰のホルスターのピストルを抜いてリロードした。カルデアにあった余ってた奴だ。あまり銃の種類には詳しく無いからどんな銃なのか知らないけど。

そんなボクを見て、マシュが眉をひそめて言った。

 

「マロ……。そんなもの持って来たのですか?」

「前の冬木の時は武器が無くて、攻撃はほとんどキャスターメインになってたでしょ。攻撃力を少しでも上げるためにくすねてきた」

「くすねるのはダメです。後でちゃんと許可を取るように」

『いや、まぁ間違った判断じゃないから構わないよ』

 

空からドクターの声が聞こえた。今回も通信はあるようだ。

 

『聞こえる?みんな』

「ああ、聞こえるよ」

『良かった。時代は平気?』

「問題ありません。1431年、百年戦争の真っただ中ですね。ただ、現在は休止中のはずですが」

『よし、じゃあまずは霊脈を探してくれ』

 

言われて、ボク達は早速行動を開始した。まぁ、何にしてもまずは街を探すことだ。

四人で、とりあえず建物が見えないか辺りを見回しながら歩いた。すると、何人か人が歩いてるのが見えた。

 

「あ、誰かいるよ」

「ホントだ」

 

アストルフォに合わせて、ボクも相槌を打った。フランスの斥候部隊か?

 

「マスター、どうしますか?接触してみますか?」

「うーん……そうだね。話してみないことには何も分からないし」

「じゃあ、ボクが行ってくるよ!」

「あ、アストルフォさん!」

 

あ、これはダメなパターンだ、と思う間も無く、アストルフォは元気良く斥候部隊の人に声を掛けた。

 

「おーい、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ……」

「………」

「……あれ?もしもーし、聞いてる?」

「ひっ、敵襲!敵襲ー!」

「なんで⁉︎」

 

いやもう少し距離感とかあるでしょ……。せめて腰の剣は隠して行けよ……。

呆れてる間にも、気がつけば周りは取り囲まれていた。

 

「あれー?ボク何かしちゃった?」

「説教は後でするからな!マスター、指示を!」

「分かった。とにかく、流血沙汰はマズイからみんな、特にアストルフォは峰打ちで!マロも拳銃はしまって!」

「これはピストルだよ?」

「どっちでも良いから!マシュは私の防衛、アストルフォとマロで迎撃!」

 

その指示に従い、ボクとアストルフォは正反対の方向に走り出した。兵士の一人の剣撃をしゃがんで躱すと、両足を払って浮かせて、その脚を掴んで別の兵士に叩きつけた。

今度は背後から斬り掛かって来たので、姿勢を低く屈めて盾で突撃し、体当たりで吹っ飛ばした。

 

「グッ……⁉︎」

 

すると、ボクの横を抜けて兵士が三人、マシュの方へ向かった。そのうちの一人に足を掛けて転ばせて止めたが、残り二人は剣を構えてマスターに襲い掛かった。

 

「マシュ!」

 

ボクの盾を投げてマシュに手渡すと、マシュはそれを受け取りマスターの前に立ち、盾で二人からの攻撃をガードした。

 

「マスター、私の影にしゃがんで隠れて下さい!」

 

マシュはそう言うと、しゃがみながら両方の盾を合体させた。それによって体勢が崩れ、両サイドに転んだ兵士を盾を分離させてマシュは殴り飛ばした。

 

「! マロ!」

 

その様子を見てると、マシュがボクに向かって盾を投げ付けた。行動の意図を察したボクはしゃがんで回避、盾は頭上を通り過ぎ、後ろの兵士に直撃した。

その隙に跳ね返った盾を手に取りながら軽くジャンプし、空中で半回転しながら回し蹴りを顔面に放った。

 

「ふぅ」

 

着地しながら一息つくと、一人の兵士が声を張り上げた。

 

「撤退、撤退ー!」

 

それによって、倒れていた兵士達も逃げ始めた。そのうちの一人を捕まえて、ボクは馬乗りになった。

 

「待った」

「うぐっ……⁉︎な、なんだよ⁉︎殺すなら一思いに……!」

「いや、違くて。殺さないから落ち着いて」

「嘘つけ!あんなに派手に大暴れして……!」

「派手に大暴れしたのに誰も死んでないでしょ」

「………」

 

そう言うと少し落ち着いたようで、呼吸を整えた。やがて、アストルフォやマシュ、マスターが駆け寄って来た。

 

「どうしたの?マロ」

「一人捕まえたから。とりあえず今どうなってるか聞こうよ」

「なるほど」

「あの、それより降りてくれないか?その、お尻の感触が直に来て、その……」

「………?」

 

何か硬いものがボクの股下に当たっていた。………なるほど、そういうね。恥ずかしさで顔を真っ赤にして、ボクは拳を顔面に振り下ろした。

 

 

++++

 

 

何とかマシュとマスターが誤解を解いて、フランス軍の砦に向かった。

兵士の後に続き、ボクは未だに赤くなった顔を両手で隠しながら歩き、アストルフォが慰めてくれていた。

 

「ま、まぁまぁ、マロは良くやったよ」

「……まるで逆レイプしてるような構図……。マシュの前で痴女みたいなことを……。死にたい………」

「いやいや、逃さないためにはある意味では正しい行動だったと思うよ」

「服越しとはいえ、男性器を初めて触ってしまった……。しかも、股関節の辺りで………」

「落ち着いてってば。仕方ないよ、さっきのは」

「……変に硬くて温かかった」

「感想はいいから………」

 

そんな風にしょげてる時だ。ドクターの声が響いた。

 

『!魔力反応があるぞ、注意しろみんな!』

 

言われてそっちを見ると、竜牙兵の大群が砦に向かって来ていた。

 

 



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オルレアン2

 

 

竜牙兵の群れが襲い掛かってきた。それを見るなり、マスターは早速ボク達に指示を飛ばした。

 

「マシュは私と一定の距離を保って戦闘開始、マロとアストルフォは兵士の皆さんを守りながら迎撃!」

 

その指示に全員が返事をした。中々に妥当な判断だ。戦闘に関してはどちらかというと臆病なマシュを自分の近くに配置し、比較的に戦闘への恐怖が薄いボクや、英霊であるアストルフォを自由に戦わせるのは良いと思う。

それに追加して、兵士達を庇いながら、というのも悪くない。これから先、情報を得るのにこの兵士達からの情報は有益なものになるだろうし。

 

「よし、やろうか」

 

今回は手加減無しだ。ボッコボコにして追い返してやる。竜牙兵の群れに向かって、盾を構えながらホルスターから拳銃を抜いた。

3〜4発ほど狙撃したが、少し怯んだ程度で撃破には至っていない。だが、それで良い。隙を作るには十分だ。すぐに接近して、盾で殴り飛ばし、倒れた竜牙兵を上から盾で叩き潰した。

ふと顔を上げると、兵士達が竜牙兵に襲われているのが見えた。そっちに向かってたたき壊した竜牙兵の剣を拾って投げつけた。

投擲で竜牙兵をぶっ飛ばすと、好機と見た兵士は反撃し、何とか助かった。

直後、後ろからガギッと音がした。振り向くと、ボクの真後ろでマシュが竜牙兵を破壊していた。その後ろにはマスターも控えている。

 

「背中がガラ空きです、マロ」

「ご、ごめんね」

「お礼は後です。片付けましょう」

「りょ」

 

そんなわけで、周りの竜牙兵達を見回した。二人でマスターを挟んで、半分の盾を構える。

一匹の竜牙兵が剣を振り上げて襲いかかって来た。その剣を盾で受け止め、拳でボディを殴って退がらせた後に、縦の下の部分で顔面をブチ抜いた。

すると、後ろからマスターがボクの肩を叩いた。横から別の竜牙兵が襲いかかって来ていたので、右手でホルスターのピストルを抜いて怯ませ、顔面を盾で殴り飛ばした。

ふとマシュを見ると、ボクの後ろを眺めていた。そのマシュの後ろから敵が来ている。それだけで挟み撃ちされてるのをお互いに察し、マシュは盾の先端で姿勢を低くしながらボクの後ろに突きを入れ、ボクは盾を地面に突き刺し、身体を思いっきり上に振り上げて上から踵落としをお見舞いした。

ザッと辺りを見回し、残りは5体。右手のピストルをリロードしてると、マシュがボクの肩に手を置いて引き込みながら、横に回転しながら盾を振り回した。ボクの後ろの竜牙兵に盾による殴打を二発直撃させた。

 

「気を抜かない」

「ごめんね」

 

謝りながら、右から来た攻撃を盾で受け止めてピストルをぶっ放して怯ませると、武器を持つ竜牙兵の右手を蹴り飛ばした。ピストルをホルスターに引っ込め、宙に舞う剣を掴んで竜牙兵に振り下ろした。

お、これは伝説のあの技ができるのでは?そう思い、剣を構えると二人に叫んだ。

 

「マシュ、マスター!しゃがんで!」

「「えっ?」」

 

言われるがまま二人がしゃがんだ直後、剣と盾を360°に力付くで振り回した。残りの竜牙兵三体に直撃し、バギバギバギッと鈍い音を立てて粉砕した。

辺りを見回すと、竜牙兵の群れは粗方片付いていた。ようやく気が抜ける、そう思って剣を地面に突き刺して一息ついた。

 

「………ふぅ」

「ふぅ、じゃありません!危ないじゃないですか⁉︎」

 

マシュがボクの胸ぐらを掴んで来た。

 

「私は盾を持ってるからまだしも、もしマスターの反応が遅れたらどうするつもりだったんですか⁉︎」

「ま、まぁまぁ。勝てたんだし良いじゃん」

「良くありません!」

「お、落ち着いてよマシュ。私なら大丈夫だから」

 

マスターがそう言うと、マシュは渋々手を引っ込めた。

すると、横から聞き覚えのある声が割り込んで来た。

 

「二人とも息ぴったりだねぇ」

 

全部片付けて来たアストルフォが、少し感心したように言った。

 

「本当にサーヴァントになりたて?」

「まぁ、マロとはいつも一緒にいますから」

「ね、考えが分かるよね何となく。サーヴァントになって身体能力も上がって、なんか……こう、やりたい動きってのも出来るようになったし」

 

空中で半回転して跳び回し蹴りなんて普通の人には出来ないからね。

そんな話をしてる時だ。兵士達から「来たぞ!」と声が上がった。ふと振り向くと、ドラゴンの群れが飛んで来た。

 

「………は?何あれ」

「ドラゴン、だね」

「いえ、正しくはワイバーンです」

「なんであんなものが……」

 

間違いない、こんな時代にドラゴンがいるわけがない。いや、竜牙兵の時点で間違ってるけどね。

 

「あらー……どうすんのあれ?」

「ボクに任せてよ」

 

アストルフォはそう言うと、剣を鞘に収めて詠唱し始めた。

 

「キミの真の力を見せてみろ!『この世ならざる幻馬』!」

 

直後、何処からか鷲の頭と翼にライオンの身体の化け物、ヒポグリフが姿を現した。そういえば、この子ライダーだったな。

 

「すごい……」

「でしょでしょ?すごいでしょ?じゃあ、ボクはちょっと行ってくるから、二人はマスターを守ってて」

 

そう言いながら、ヒポグリフに跨るアストルフォ。マシュは仕方なさそうに引き下がったが、ボクはそうはいかなかった。

 

「待った、ボクも行くよ」

「えー、ヒポグリフ重たいから嫌だと思うよ」

「いやいや!ボク軽いからね⁉︎……マシュと違って余計な所に脂肪いかなかったし」

 

いや、まだ諦めてないけど。まだ十代だからね。まだ成長期はあるはず。

 

「アストルフォ一人じゃキツイでしょあの量は」

「そうでも無いよ?すぐ終わらせるから」

「いやいや!他の人への被害もあるしボクも乗った方が良いって!」

「変に食い下がってくるなぁ……。もしかして乗りたいの?」

「………」

 

そうとも言う。そんな答えが表情に出ていたのか、アストルフォはニマーッと意地悪そうな笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、乗せてあげたら何してくれる?」

「こ、交換条件⁉︎それはズルいんじゃないの⁉︎」

「関係ないもーん。ねぇ、何してくれるの?」

「〜〜〜ッ!マスター!」

「いや、どっちでも良いから早くして。もう兵隊さん達は襲われ始めてるし」

 

グッ……!意外とドライだな、立花は。仕方ないので、交換条件を飲むことにした。

 

「分かったよ。後でなんでも一つ言うこと聞いてあげるから……」

「言ったなー?よし、許可しよう」

 

覚えてろよチクショウ。内心悔やみながら、マシュにボクの盾を渡した。

 

「はい、これ持ってて」

「へっ?マロはどうするのですか?」

「剣とピストルがあるから平気。地上にいられるわけじゃないから、いざという時のために持っててよ」

「わ、分かりました」

 

地面に突き刺しておいた竜牙兵の剣を抜いて、ヒポグリフの上に跨った。ふわあ……フカフカしてる……心地良い……寝ちゃいそう……。

 

「よし、行こう!」

 

直後、ヒポグリフは飛び上がった。一頭目のドラゴンに向かい、早速と言う感じで突撃。

 

「ちょっ、はっ、早くない⁉︎」

「まず一匹目!」

「待って待って待って!」

 

手に持っていた剣を投げ捨てて、アストルフォの腰にしがみついた。は、速い!思ってたより全然!泣きそう!何これ、どういうことなのこれ⁉︎

ただただ、涙目でアストルフォの腰にしがみついてること数分後、「マロ、マロ?」と声が掛かった。

ふと顔を上げると、アストルフォが少し照れたような表情でボクを見下ろしていた。

 

「……さ、流石にそこまでくっつかれると照れるなーって……」

「へっ?」

「も、もう終わったから離れてくれると嬉しいんだけど……」

「っ、ご、ごめんねっ」

 

慌てて離れて、ヒポグリフから降りた。ふぅ、いくら女の子同士でもあまりくっ付くのは良くないよね。

あー、怖かった。にしても怖かった。寿命が10年縮んだよ。今だに早鐘のごとく鳴り響く鼓動を抑えてると、マシュがボクの肩を掴んだ。

 

「ただいまー……って、どうしたの?」

「マロ、さっき持っていった剣はどうしました?」

「へっ?あー、いつの間にかどっか行っちゃったね」

「アレを見なさい」

「?」

 

マシュの指差す先を見ると、脚を開いて座り込んでるマスターの脚の間に突き刺さっていた。

……あれ、もしかして途中で手放したのがマスターに紙一重で刺さりそうになった感じ?

 

「………」

「マロ、今日は晩御飯抜きです」

「すみませんでした!」

 

ていうかマスターは大丈夫なの?なんか白目剥いてるように見えるけど。

そんな話をしてる時だ。兵士達の方から大声が聞こえた。

 

「逃げろ!竜の魔女が出たぞ!」

 

竜の魔女?何それ?

 

「今回の特異点の原因と思われる方です。処刑されたはずの彼女は蘇り、先ほどの怪物たちを呼び出してるそうですよ」

 

ボクの考えてることを見透かしてか、マシュが説明してくれた。

 

「ですが、聞いていた感じの少し違うのが気になりますね……」

 

すると、兵士達に怯えられている金髪の女性はボク達の方に歩み寄って来た。魔女、と言うのなら交戦の可能性もある。ボクは盾を構えつつ、ホルスターのピストルに手を掛けてマスターを庇えるように退がった。

アストルフォも同じように腰の鞘に収まってる剣をいつでも抜けるように手を掛けて、マシュの横に移動した。

金髪の女性は、マシュの前に立つと頭を下げた。

 

「あの、ありがとうございます」

「………はっ?」

 

ボクから声が漏れた。急にお礼?どういうわけ?

二人の会話に耳を傾けてるときだ。後ろから起き上がったマスターがボクの首を締め上げた。

 

「マロー!よくもやってくれたなぁ!死にかけたっつーの⁉︎」

「ぐえっ……!い、いまはぞんなばあいじゃ……!」

「ごめんなさいは⁉︎」

「ごめんなざいごめんなざいごめんなざい!」

 

締まってる締まってる!死ぬっつーの!ボク、肺活量そんな多くないんだから………!

 

「次やったら『私は貧乳です』って看板を首から下げさせるからね」

「………自分も大差ない癖に」

「何か言った?」

「ぐえぇ!ごめんなざいなんでもないです!」

 

そんなバカやってると、マシュとアストルフォと金髪の女の人が歩いて来た。

 

「先輩、こちらサーヴァント・ルーラー、ジャンヌダルクさんてす」

「ちょっと待ってね。こいつ今やっつけるか……今なんて?」

 

手の力が緩んだ隙に、ボクは咳き込みながら抜け出した。ジャンヌダルクって、竜の魔女になったとかいう………?

 

「とりあえず、付いて来てもらえませんか?詳しい話はそれからします」

 

言われて、ボクがむせてる間について行くことになり、砦から離れる事にした。

 

 



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